IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ (風森斗真)
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設定
オリ主設定(DXキャラシ風)


月影勇人、詳細設定(キャラクターシート形式)

「ライフパス・技能」

キャラクター名「月影勇人」

コードネーム「サジタリウス」/「武御雷之一矢」

年齢:16歳

シンドローム:ブラックドッグ/ハヌマーン/モルフェウス(オプション)

ワークス/カヴァー:暗殺者/高校生

出自/経験/覚醒/衝動:天涯孤独/危険な仕事/忘却/闘争

技能:白兵/運転:疑似IS装甲/射撃/知識:電子機器/情報:裏社会

 

「エフェクト」

リザレクト/ワーディング/コンセントレイト:ブラックドッグ

<ブラックドッグ>

ミカヅチ/イオノクラフト/雷の加護/球電の盾/電磁誘導/雷光撃/雷の牙/解放の雷/加速装置/バリアクラッカー

<ハヌマーン>

電光石火/音速攻撃/疾風剣/残像/先手必勝

<モルフェウス>

インフィニティウェポン/カスタマイズ/ハンドレッドガンズ/アーマークリエイト/ダブルクリエイト

 

「イージーエフェクト」

セキュリティカット/彼方からの声/蝙蝠の耳/文書偽造

 

「武器」

《雷鳴》(ハンドレッドガンズにて作成)

《祓之梓弓》(ハンドレッドガンズにて作成)

《布津御霊》(インフィニティウェポンにて作成)

《十束》(インフィニティウェポン/ダブルクリエイトにて作成)

 

「防具」

《専用IS:識別名「蒼穹」》(ISコア以外の部品全てをアーマークリエイトにて作成)

 

----------------------------

 

「コンボ」

紫電一矢(しでんのいっし)》(「雷鳴」装備時)

コンセントレイト:ブラックドッグ+雷光撃+雷の牙+音速攻撃+バリアクラッカー

 

崩山之雷矢(ほうざんのらいし)》(「蒼穹」展開時、「祓之梓弓」装備時)

コンセントレイト:ブラックドッグ+ミカヅチ+電磁誘導+雷光撃+雷の牙+解放の雷+バリアクラッカー+電光石火+音速攻撃+カスタマイズ

 

連矢蒼雷撃(れんしそうらいげき)》(「蒼穹」展開時、「祓之梓弓」装備時)

加速装置+電光石火のあと、コンセントレイト:ブラックドッグ+電磁誘導+雷光撃+雷の牙+音速攻撃+バリアクラッカー+カスタマイズ

 

蒼電連爪(そうでんれんそう)》(「蒼穹」展開時、「布津御霊」「十拳」装備時)

加速装置+電光石火のあと、コンセントレイト:ブラックドッグ+雷光撃+雷の牙+バリアクラッカー+音速攻撃+疾風剣+カスタマイズ

 

----------------------------

 

「プロフィール」

一般家庭に生まれたが、幼少期に家族を火事で亡くしている。

現場検証の資料から、火元は勇人であったことが判明していることと、その火事で勇人だけ生き残っていたことが相まって、当時から化物と疎まれてきた。(実際、その時の火事はレネゲイドウィルス(RV)を暴走させた勇人が原因だが)

RVを研究していた更識家お抱えの研究機関が勇人を保護という名目で回収、世界初のRV発症者として、非人道的な実験の被験体として扱われるようになり、人間不信に陥りかけた。

だが、当時の"楯無"がそのことを知り、勇人を保護し、以降、刀奈と簪の遊び相手として養育した。

そのおかげで、人間不信に陥ることはなかったが、あまり他人に心を開かなくなってしまった。

 

能力が安定してからは、恩返しとして更識家の裏の仕事を手伝うようになり、その過程でハッキングの知識を身に付けた。

主に暗殺と物品の奪取を担当し、その成功率は100%。特に、IS乗りが戦力として存在していても、対象を確実に抹殺しているため、更識家の中でも一目置かれる存在となっている。



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オリ主詳細設定

キャラシver.とは別でオリ主の性格とか設定とかを



月影勇人

16歳、11/29生まれ、いて座

好きなもの:和菓子、読書、機械いじり

嫌いなもの:女性権利団体、利己的な大人、女尊男卑の思想

 

<人柄>

人間不信ぎみだが、お人好し

気を許した相手には友好的だが、そうではないかもしれない人間に対しては隙を見せない

目上の人間に対しての礼儀はある

 

<設定>

レネゲイド・ウィルスを発症が確認された、いわば検体第一号(実際には第二号。第一号は束なのだが、彼女の記録はすべて抹消されているため、事実上、一号として扱われることになった)。

発症したウィルスの影響で発電能力と原子レベルでの物体操作、超聴覚、高速移動の異能を身につけた。

 

発覚当初は心無い研究機関により非人道的な実験の被験体として扱われていたが、更識によって救助される。

幸い、精神が崩壊することはなかったものの、人間不信に陥ってしまい、保護されてからもしばらくの間は誰とも口を利かず、近づいてくる人間すべてに放電してくる始末だった。

 

年齢が近い簪と刀奈、二人の付き人である本音と虚のおかげで、あたりかまわず攻撃してくる癖は治ったが、人間不信までは治らなかったらしく、基本的に他人、特に大人にはあまり心を開かなくなってしまった。

だが、篠ノ之束というある意味で自分の同類との出会いとIS学園入学を機に、徐々に昔に戻り始める。

 

基本的に他人とは積極的に関わろうとせず、放課後は基本的に簪の開発を手伝うか、楯無の仕事を手伝うかのどちらか。

なお、人間不信ではあるが他人との関わりを一切断ち切るほどではなく、呼ばれれば返すし、普通に会話もすることはできる。

気に入った相手はあだ名で呼ぶが、本当に大切な人は名前で呼ぶ。

 

ちなみに、現在、名前呼びしているのは、刀奈(ただし、学園では楯無)と簪、本音と虚。

現在、あだ名呼びしているのは一夏、セシリア、シャルロット、箒、鈴音、ラウラ(今後、名前呼びになるかは不明。なお、セシリアとシャルロットはのちに名前で呼ぶようになるが、本人たっての希望によりあだ名呼びが基本となる)。

 

家事及び料理はそこそこできる、というレベル。

ちなみに刀奈の突拍子な思い付きと実行に対し、遠慮することなく文句を言うため、時折、口喧嘩となる。

その光景はのちにIS学園の名物になったとかならなかったとか。

 

<暗殺者として>

更識への恩返しとして、影の仕事を手伝うことになる。

理由としては、異能を十二分に発揮できるため。

 

弓を好んで使用し、その命中率はほぼ百発百中であるため、《魔弾の射手》、あるいは、彼の誕生日にあやかり《サジタリウス》と呼ばれている。(なお、後者の方で呼ばれることが多い)また、放つ矢に命中するとまるで雷に打たれたかのような衝撃と電流に襲われ、下手をすると焼死体となってしまうことから、《武御雷之一矢》とも呼ばれている。

 

彼が弓を使って仕事をするときは、なぜかISの絶対防御もすり抜けるため、IS操縦者が同行している場合や標的がIs操縦者だった場合に命令を下されることが多い。

 

<世界で二番目の男性操縦者>

織斑一夏に続き、IS適性検査で平均よりやや低めを意味するB-を出したため、IS学園の入学を余儀なくされる。

 

元々、ISに似た作りの強化装甲を装備して戦闘を行っていたこともあり、操縦テクニックは上位に入っている。

ひょんなことからISの生みの親である束と出会い、面白そうだから、という理由でISのコアだけを渡され、装甲や装備は自分の異能で作り上げた。

 

そのため、メンテナンス等はほとんど自分ひとりで行っている。時々、遊びに来た束が採点という名の魔改造を施していく。

なお、扱いは企業代表候補生であり、所属は『ラインフォルト社』となっている。



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0、動き出す物語~『背教者』と『天災』の邂逅~
その少年……


というわけで第1話
まぁ、ゆうても少し短いのですが
なお、予定としてはあと2~3話くらい入学前日譚を書いてから、晴れて本編第一話に入っていくことになるかと

まぁ、ひとまずどうぞ


インフィニット・ストラトス、通称IS。

史上最高の天才にして《天災》と呼ばれる、篠ノ之束によって開発された、宇宙での活動を目的として作られたマルチフォームスーツだ。

だが、なぜか女性にしか扱うことができず、さらにISそれ自体が一騎当千の戦力として扱うこともできるため、女性の権威が勢いづき、女尊男卑ともとれる風潮が浸透していった。

 

だが、世界はすでに変化していた。

 

有史以前より存在している、とされる謎のウィルス。通称、レネゲイド・ウィルス(R.V)

「背教者」と名付けられたウィルスの発症が確認した、一人の少年の誕生によって。

だが、世界はその事実を知ることはない。

表側にも裏側にも、彼がそのウィルスの唯一の発症者であることを、誰も認識できなかったのだから。

この少年とISが出会ったとき、世界に大きな波が訪れる。

その波に飲まれ、世界は消えるのか、それとも生き残り、さらなる変化を迎えるのか。

それこそ、誰も知ることはなかった。

 

----------------------------

 

――あぁ、いい加減にしてほしい……

 

蒼い光を放つ装甲をまとった少年、いや、青年といっても違和感がない人物は、目の前で宙に浮いている同じような装甲をまとった女性を前にして、陰鬱そうなため息をついた。

女性の方は、頬に冷や汗を伝わせながら、肩で息をしていた。

よくよく見れば、体のあちこちに小さな傷のようなものが見える。

 

「……くっ!まさか、ISに相当する攻撃力を持つ強化装甲(パワードスーツ)……まさか、貴様がサジタリウスだというのか?!」

「あぁ……浸透してるのな、その通り名……まぁ、どうでもいいんだが」

 

サジタリウス(いて座)とは、青年の呼び名らしい。

その呼び名の由来なのか、装甲をまとう彼の手には、装甲と同じく、蒼い光を反射している弓が握られていた。

だが、そこにはつがえられるべき矢がない。

矢がない弓など、ただの棒切れと同じ。

そう考えていた目の前のIS乗りは、すぐにその考えが間違いであることを認識させられることとなる。

 

「はっ!さっきまでの刀ならいざ知らず、矢のない弓なんざ……」

「……その認識が、そもそもの間違いなんだよ。IS乗り」

 

手にしたISの装備であるライフルの銃口を青年に向け、引き金を引こうとした瞬間、すでに青年の姿はなかった。

探す間もなく、青年の声が背後から聞こえてきたことに気づき、IS乗りは振り返り、そこにあった光景に目を疑った。

青白い光に、青年のまとう装甲と青年の顔が照らされている。

その光は、青年が手にしている弓から出ているものだ。

光は徐々に大きく、力強くなり、まるでいまにも飛び出してきそうな印象を受けた。

 

――どんなトリックかはわからないが、ISの絶対防御を……

 

突き抜けることができるはずはない。

IS乗りのその認識は誤りではない。

ISには操縦者の生命維持と安全のため、一定以上の衝撃から操縦者を守る、絶対防御が備わっている。

そのため、現代兵器のほとんどの攻撃では、IS操縦者はおろか、IS本体を傷つけることも難しい。

だが。

 

「ISの絶対防御を突き抜けるなんてことがあるわけない、お前はそう思ってるだろ?」

「なっ?!」

「教えといてやるよ。人間が造ったものに"絶対"なんてもんはない」

 

青年はそう言い放つと同時に、弦を引く指を離した。

その瞬間、青白い光はまっすぐにIS乗りに向かっていった。

IS乗りはその光を受け止めようと、反射的に両腕を胸の前で交差させた。

光の正体はおそらくは電気。それも、かなり高出力で放たれたもの。

そこまでわかれば、回避することが難しく、むしろ絶対防御を頼って受け止める方が無難であると、IS乗りは考えたのだろう。

だが。

 

「なっ?!ぜ、絶対防御が……ぐあぁぁぁぁああああっ!!」

 

絶対防御をすり抜け、青白い光はまっすぐにIS乗りの眉間に命中。電気エネルギーはこの場にある物体の中で最も伝導率が高いIS乗りの体をめぐり、黒焦げにしてしまった。

光が収まると、IS乗りが立っていた場所にISの装甲と、ぶすぶすと煙をあげている、炭のようなものがその場にあるだけだった。



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異能操る暗殺者

ISの絶対防御はバリアクラッキングで崩壊できる、ということにしてます、一応
SEを使って形成する不可視の障壁、みたいなものみたいですし、理論上、間違ってはいない……はず……


IS操縦者を射抜いた少年は、そっとため息をつき、耳に取り付けたインカムのスイッチを入れようとした。

だが、背後に誰かの気配を感じ、視線を向けた。

 

「いたならいたで手伝ってくれてもいいだろ?」

「あら?あなたならあの程度、余裕だと思ってたから手を出さないでいたのだけど?」

 

少年が視線を向けた方から、水色の髪をした赤い瞳の少女が姿をあらわした。

手にした扇子を開き、口元に寄せているため表情はわからないが、扇子に書かれた「余裕綽々」という文字とからかうような声色から、少なくとも、微笑んでいるのであろうということは、この少女との付き合いの長い少年でなくも推測できた。

 

「ほんと、いい性格してるよ、お前」

「ふふっ、ごめんあそばせ」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、少女は扇子を閉じた。

同時に、少年も装着していた強化装甲を外した。すると、装甲が一瞬、赤い光を放ち、一本のペンへと姿を変えた。

そのペンを胸ポケットにしまうと、少女は、いつも思うんだけど、と口を開いた。

 

「あなたのその"異能(ちから)"って異常よね」

「異常な能力だから、異能、なんだろ?」

「まぁそうなんだけど……ほんと、あなたがこちら側でよかったわ、勇人」

「更識には恩があるから敵対はしない」

「む!そこはかわいい刀奈ちゃんと簪ちゃんがいるからって言いなさいよ!!」

 

ぷくっとほおを膨らませ、不満そうな顔になり、少女が抗議してきた。

が、勇人はそんなことは知ったことではない、といった風に鼻を鳴らした。

 

「知らんな、そんなことは」

「ひっどーいっ!!」

「つか、刀奈。お前はそんなことを言いに来たわけじゃないだろ?」

「……ま、そうなんだけどね」

 

突然、刀奈と呼ばれた少女の表情と声色が変化した。

その目と顔には、先程までの笑みはなく、おふざけは一切ない、真剣なものへと変わった。

 

「任務、ご苦労様です。あとの処理は私の方でやっておきますので、帰投してください」

「了解した、十七代目……お前さんの護衛はいいのか?」

「虚がいますから、大丈夫です……けれど、そうね……」

 

その一言を聞いた刀奈は、にやり、と意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「せっかくだから、殿方にエスコートしてもらおうかしら?」

「冗談で言ったつもりだったんだが……帰投する」

 

言わなければよかった、とそっとため息ををついていると、勇人の携帯に着信が入ってきた。

ディスプレイには、簪、の一文字だけがあった。

それを見た刀奈は、あちゃー、と言いながら天を仰いだ。

 

「……そういえば、簪ちゃん、勇人の仕事が終わったらちょっと手伝ってほしいことがあるって言ってたわね」

「……それを先に言ってくれ……」

 

これで何度目かわからないため息をついて、勇人は携帯に出た。

 

「はい」

『勇人?終わったの?』

「あぁ、少し前にな」

『……手伝ってほしいことがあるんだけど、大丈夫?』

「構わんさ」

『それじゃあ……待ってる』

 

そう言って、簪は通話を切った。

勇人も携帯をしまうと、刀奈のほうへ向き直り、先に戻ることを伝えた。

刀奈はそれをあっさりと承諾してくれたため、さっさと戻ろうとした時だった。

 

「勇人」

「ん?」

「簪ちゃんのこと、お願いね?」

「……善処する」

 

どんな意図があってそう語りかけたのかはわからなかったが、勇人はそう返して、その場から立ち去って行った。

その背中を見送りながら、刀奈はそっとため息をついた。

 

「……簪ちゃんのこと、お願いね、か……我ながら、なんでこうヘタレなのかしらね」

 

刀奈は自嘲気味な笑みを浮かべ、そうつぶやいた。

しかし、すぐに気持ちを切り替え、勇人が仕留めたIS操縦者のほうへ視線を向けた。

だが、その行動にすぐ後悔することとなった。

 

「……うっ……」

 

そこにあったものは、ISの残骸と、操縦者と思われる、人物の焼死体だった。

ぶすぶす、と音を立てながら煙が上がり、異臭があたりを包んでいる。

絶対防御があるはずのISをまとっていてもこれなのだ。

勇人がその身に抱えている異能が、どれほど異常なものであるか、うかがい知るには十分だろう。

胃袋から湧き上がってくるものをどうにか堪え、刀奈は周辺の片付けと偽装を急ぐよう、指示を出した。

 

「……ほんと、あなたが味方であることに感謝するわ……」

 

めぐりあわせによっては、敵になっていた。それも、おそらく自分と戦うことになっていたかもしれない勇人が、少なくとも自分たちと対立する意思が、今のところないことに感謝するのだった。



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天才にして《天災》との邂逅

文字通り、束さん初登場回です
まぁ、若干、束さんの設定を独自解釈してしまってますが、そこはそれ、ということで


「……で?いつまで付いてくるんだ?」

「あっちゃ~……気づかれたかぁ。このステルス装置、結構自信ありだったんだけどなぁ」

 

刀奈に後片付けを任せ、帰路についていた勇人だったが、誰かの気配を、いや、何者かを探知(・・)した勇人は、ほかに人がいないことを確認して、問いかけてみた。

すると、意外にも素直に尾行していた人物は姿を見せた。

金属のような光沢を持っている兎耳のカチューシャに、『不思議の国のアリス』の主人公、アリスを思わせるデザインの服を来た女性。

その姿を知らない人間は、おそらくいないだろう。

彼女こそ、インフィニット・ストラトス、通称ISを開発し、世界を変質させた張本人。篠ノ之束だ。

 

「……で、博士が何の用で?聞けば、世界最強の戦姫(ブリュンヒルデ)とその弟、それとあなた自身の妹以外にはまったく興味がないはずでは?」

「そうだったんだけどね~……ちょっと気が変わったのさ」

「気が変わった?」

「うん♪なにしろ……束さんの同類かもしれないからね、君は」

 

自分と同類。つまり、異能を有している、ということか。

そう推測した勇人だったが、それを確認する暇もなく、束が質問をぶつけてきた。

 

「ところで、この天災である束さんの同類の君に聞きたいことがあるんだけどな~」

「……この世界をどう思うか、ですか?」

「ザッツ・ライ☆察しがいい子は大好きだよ~♪」

「ははは……そうですね……くだらないと思いますよ」

 

心のうちに秘めている、本当に思っていることを、勇人は束に伝えた。

発症条件や症状などが一切わからない謎のウィルス。発症したものは、様々な能力を身につけ、最後には己の欲望という衝動のままに行動するようになってしまう。

そんな人の身には過ぎた、危険なものを体に宿してしまったがために、人間の欲望に振り回されてきた。

更識に保護されてからはそういうことは少なくなったが、世界を、いや、人間という種がくだらないという想いに至るまで、さほど時間はかからなかった。

 

「へぇ~?」

「けどま、いますぐどうこうしようって気にはなりませんがね」

「ほぉほぉ?そりゃまたどうして??」

「恩義がある人たちがいますから」

 

言わずもがな、研究施設から救い出してくれた更識の人間である。

特に、ひどい人間不信に陥ってから親身になってフォローしてくれていた簪と刀奈、そして付き人二人には強い恩を感じている。

ゆえに、敵対するつもりはないし、どちらかといえば、庇護の対象となる。

世界がどうなろうと知ったことではないが、少なくとも彼女たちだけは守りたいというのが、勇人の本心のようだ。

どうやら、それは束も同じだったらしく。

 

「ぷっ…………ははっ…………あっはははははははっ!!まさか、ここまで束さんと同じ思考回路を持っているとはね!!」

「え?」

「やっぱり君は興味深い!同類(お仲間)かもしれないという点もそうだけれど、考えてることがほぼ一緒というのも気に入ったよ!!」

 

何が何だかわからないが、とりあえず、勇人は束に気に入られたらしい。

ひとしきり笑った後、束は静かに一つの結晶を勇人に差し出した。

 

「……これ、まさか?!なんで俺に??!!」

「ふっふふ!理由は君を気に入ったから、の一言に尽きるね!!ゆーくん!!」

「……あ、俺のあだ名ですか……コアだけってことは、機体(外側)は自分で作れってことで?」

「そゆこと♪見たところ、君が使ってた強化装甲はオリジナルみたいだからね」

 

やっぱりか、と勇人は苦笑を浮かべた。

もっとも、そろそろ新しい強化装甲を作ろうかと考えていたため、ちょうどいいかもしれない、とも思っていたのだが。

 

「それじゃ、君のISがどんな活躍を見せてくれるか、期待させてもらうよ♪たぶん、近いうちにまた会うことになるだろうけど」

 

それだけ告げて、もう用事は済んだとばかりに束はその場から立ち去って行った。

その背中を見送ることなく、勇人は再び更識の屋敷へむかった。

 

----------------------------

 

それから数か月という時間が流れた。

勇人は束から与えられたISのコアのための外装(装甲)を作り上げ、使いこなすことができるようになってきたころ。

ある情報が更識の耳に届いた。

 

本来、女性にしか起動することができないISを起動させた男性が現れた。

 

その情報が届いたとき、勇人の運命は大きく動き出した。



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1、クラス代表選出戦
IS学園、入学


――これは、さすがに気まずい

 

IS学園一年一組の教室で、織斑一夏は気まずそうにしていた。

その理由は、隣にいる男子以外、全員が女子でるため、物珍しさゆえの視線が突き刺さっているためだった。

それもそのはず。IS学園とは、文字通り、ISの操縦やISを扱う上での規則を学ぶ場所であり、実質的には女子校なのだから。

だが、なぜ男子禁制ともいえるこの学園に、男子である一夏がいるのか。

その理由はこの学園にいることからも簡単に推察できることだった。

 

すなわち、女性にしか動かすことのできないはずのISを、男性でありながら起動させることができたためである、と。

そして、それは、少し後ろの席に座っていた勇人にも言えることだった。

もっとも、勇人の場合、一夏とは少々、事情が異なる。

 

――ISのコアを受け取ってしまったことと、織斑一夏の護衛だからとはいえなぁ……

 

あまり人との交流を好まないというのに、ここに来てさらに好奇の視線に晒されるという苦行に耐えながら、勇人は心中でそう呟いていた。

あの日、天才であり天災である束と偶然(・・)遭遇した勇人は、ISのコアをプレゼントされた。

束に言われた通り、そのコアを使うための新たな装甲を作り上げ、コアを組み込んだうえで起動させてみた。

コアを組み込んだ時点でISとして機能するため、男性である勇人には扱うことが出来なくなるはずだった。

だが、どういうわけか、ISは起動し、勇人がユーザーとして登録されてしまった。

当然、更識家はその事実について動揺し、ひとまず、幹部と当主との会議が開かれることとなった。

その結果、一人目の例外である織斑一夏を護衛する、という任務が勇人に与えられることとなったのだ。

 

「あ、あの~……織斑くん?」

「へ?あ、はい」

「いまは自己紹介の時間で、五十音順だと、織斑くんからなんですけど……」

「あ、す、すみません」

 

メガネをかけた童顔の女性教師、山田真耶教諭にそう言われ、一夏は席から立ち上がり、自己紹介を始めた。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

「……」

「……」

「え、えぇと……以上です」

「って、おぉいっ??!!」

 

あまりにも簡単すぎる自己紹介に、クラス中の女子は椅子から滑り落ちそうになり、勇人は思わずツッコミを入れるのであった。

勇人のツッコミが響いた次の瞬間、スパーン、と気持ちのいい音が教室に鳴り響いた。

音源のほうへ視線を向けると、黒いキャリアスーツに身を包んだ、一人の女性が出席簿を手に、一夏の席の近くに立っていた。

どことなく、顔つきが一夏に似ているところから、勇人は、この女性が"ブリュンヒルデ(世界最強)"の称号を手にした女性、織斑千冬であることに気づくまで、それほど時間は必要なかった。

なお、千冬が登場してから教室が急に騒がしくなったことは、言うまでもない。

それだけ、「ブリュンヒルデ」の名は世の女性たちにとって魅力的、ということなのだろう。

もっとも。

 

――そのメッキの下がどうなってるのか、ちょっと気になるけどな

 

ブリュンヒルデという称号に飾られたその素顔、というものがどういうものなのか、ということのほうが、勇人にとっては重要なことだった。

その後、千冬の一喝で教室は落ち着きを取り戻し、自己紹介が再開された。

そして、ついに勇人に順番が回ってきた。

 

「月影勇人。ご覧の通り、二人目の男性適合者だ。ほんとは別の高校に進む予定だったんだが事情が事情になってしまったため、ここに入学することになった。現在進行形でISに関しては勉強中だから、わからんところがあったら聞くかもしれん。そのときは、よろしく頼む」

「織斑、自己紹介は最低限、これくらいはするべきだぞ……少しは月影を見習え」

「…………はい…………」

 

勇人の自己紹介が終わると、千冬が一夏にむかってそう告げた。

さすがに何も言い返せなかった一夏は、素直に頷くしかなかった。

 

----------------------------

 

S.H.Rが終了し、休み時間に入ると、勇人は四組の教室へとむかっていった。

後ろからのほほんとした顔見知りが一人、ついてきているが、それはまったく気にしていないようだ。

 

「すまない、更識さんはいるか?」

「へっ??!!……あ、う、うん、ちょっと待って!!」

 

突然、世界で二番目に確認された男性操縦者が教室を訪れたものだから、驚かないはずがなかった。

返事をしてくれた生徒は、そわそわしながら教室を見回したが。

 

「いない、みたい。たぶん、整備室じゃないかな?」

「そうか……ありがとう」

「ううん……あ、ねぇ、一つ聞いていいかな?」

「手短に頼む」

 

あまり休み時間が終わらないうちに戻らないと、どういう目に合うのか容易に想像できてしまった勇人は、女子にそう話すと、それじゃ、と一つだけ質問してきた。

 

「更識さんとは、いったい?」

「ちょっと世話になったことがあってな。これ同様、ちょっと長い付き合いだ」

「む!ゆーとん、いまわたしのこと『これ』って言わなかった?」

「言ったな」

「ひっどーい!仮にもレディを物扱いしないでよーっ!!」

 

ぷくぅっ、と頬を膨らませながら、これ、と呼んだ知り合いの女子が抗議してきた。

割とのんびりとした口調ではあるが、ご立腹であることは顔を見ればすぐにわかるだろう。

もっとも、本音と呼ばれた少女は、態度こそ怒ってはいたが、目はどこか楽しそうにしていたのだが。

そうこうしているうちに、休憩時間終了まで時間が無くなってしまっているため、勇人はそのまま、女子をからかいながら教室へ戻っていくのだった。



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背教者、怒りを爆発させる

念のため
作者に一夏アンチの意図は、「あまり」ありません
「まったくない」とも言いませんが


四組の教室から戻ってきた勇人と本音は、そのまま授業の準備に入り、授業を受けていた。

座学担当は真耶だったのだが、彼女の説明はかなりまとめられており、控えめに言わずともわかりやすいものになっていた。

なっていたのだが、一夏が事前配布されたはずの参考書を誤って破棄してしまったため、まったく授業についてこれなず、千冬の拳骨をくらっていた。

 

「月影、すまないが面倒を見てやってくれ。同性なら多少は気が楽だろう」

「……拒否権は?」

「あると思うか?」

 

勇人の質問に、千冬が素早く返してきた。とはいえ、予想通りの返答だったため、早々にあきらめはついたのだが。

 

「なんか、すまない」

「ほんとだよ、阿呆。これ以上ないくらいの大阿呆が」

「うぐ……反論の余地がない……」

 

勇人の辛辣な言葉に、一夏はあえなく撃沈していた。

なお、一夏のテキストは千冬が再発行の手続きをしておくことになり、一週間で覚えるように、と通告された。

むろん、広辞苑ほどの厚さがある内容を一週間で覚えきれるわけもなく、文句を言おうとした一夏に対し、千冬は容赦ない冷たい瞳を向けて黙らせていた。

 

----------------------------

 

休み時間になり、勇人はさっそく一夏に基本的な部分をまとめたノートを見せて、せめて今まで授業で扱った部分だけは徹底的に叩き込むことにした。

なお、一夏は勇人を名前で呼ぶのだが、勇人は一夏を名前で呼ぶことはしなかった。

単に阿呆、あるいは第一例外(ファースト)と呼ぶだけだった。

現に今も。

 

「阿呆、なんで概要の一割すらも覚えられない」

「そ、そうはいうけどよ……」

「お前の頭は飾りか?それとも空っぽなのか?だからあんないい音がなるんだな、そうなんだな?」

 

と、散々な言われようである。

実際問題、勇人はあまり人づきあいが好きな方ではない。むしろ放っておいてくれるなら放っておいてほしい人間だ。

それを抑えてこうして付き合っているのだ。これくらいの口の悪さは許容範囲のうち、ということをわかっている同級生は、簪と本音くらいなのだろうが。

 

閑話休題(それはともかく)

 

勇人が一夏を(なじ)りながら授業をしていると、一人の女子が声をかけてきた。

 

「ちょっとよろしくて?」

「うん?」

「すまんが、いまこの馬鹿に授業しているところだ。あとにしてくれ、オルコット」

 

どうにか苛立ちを抑えながら、勇人は声をかけてきた女子、セシリア・オルコットにそう話した。

抑えていたとはいえ、やはりそれなりに迫力はあるらしく、セシリアは冷や汗をつたわせながら、そういうことなら、と退散した。

なお、セシリアのその行動が幸いして一夏は、「代表候補生」というものがどういうものなのか、そんな基本的なことすらわからない、という事実を周知されずにすんだのだった。

もっとも、勇人の授業であっさり露見し。

 

「お前やっぱ馬鹿じゃないの?これからは阿呆じゃなく馬鹿って呼ぶことにしようか?」

 

とさらに詰られることになるのだった。

 

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終業前のS.H.Rの時間になると、千冬が一つ決めなければならないことがある、と前置きをして連絡事項を告げた。

 

「再来週に行われるクラス対抗戦に出場する生徒――まぁ、言ってみればクラス代表だな。それを決めたいと思う。自薦、他薦は問わないぞ」

「それなら、織斑くんを推薦しまーす」

「あ、わたしも!」

「うえぇぇっ??!!」

 

千冬のその言葉から、いきなりクラスの女子たちが一夏を推薦する意思を口にした。

物珍しさ、というものもそうなのだろうが、やはり男子だから、という点が大きいのだろう。

その証拠に。

 

「なら、わたしは月影くん!」

「わたしもわたしも!」

 

勇人にも推薦の声が上がっていた。

なお、辞退しようかと手を挙げた瞬間、千冬から。

 

「推薦された以上、辞退は許さんぞ」

 

と一刀両断された。

辞退することが許されないというのだったら、とため息をついて。

 

「なら、俺はオルコットを推薦する。学年首席なんだ、妥当な判断と思うが?」

 

と、セシリアに視線を向けながら口にした。いや、しようとした、が正しいだろう。

なにしろ、最初の一言目口にしようとした瞬間、バン、という大きな音が教室に響き、セシリアの席から抗議の声が聞こえてきたのだから。

 

「納得いきませんわ!そのような選出は断固、認めません!!だいたい、男がクラス代表だなんて、いい恥さらしです!!」

 

どうやら、物珍しさからクラス代表に一夏と勇人が選ばれることにかなりに不満を持っているようだ。

それだけならまだかわいいのだが、問題はその先のセリフにあった。

 

「実力から行けば、イギリス代表候補であるわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!!だいたい、文化的にも後進的な国で過ごすこと自体――」

「……イギリスだって大したお国自慢、ないだろう。世界のメシマズ国、何年覇者だよ」

 

売り言葉に買い言葉。

日本を侮辱された一夏が我慢できずにそう口にした。

その言葉に、先に日本を侮辱したことを忘れてセシリアが反論し、あわや喧嘩へと発展しかねない状況になった、その時だった。

 

 

(じゃあ)しい、黙れっ!!この大バカ者どもがっっ!!』

 

 

教室どころか、廊下や天井を超えて、学園中に響いたのではないか、と思うほどの声が教室に響いた。

必然的に全員の視線はその音源、勇人のほうへむいた。

ゴゴゴゴゴゴ、とか、ドドドドド、という音が聞こえるのではないかとすら思わせるほどの威圧感を垂れ流しながら、勇人は静かに口を開いた。

 

「おい、代表候補生……一つ問うぞ。目の前にいるブリュンヒルデ(織斑千冬)IS開発者(篠ノ之束)の出身国は?」

「……に、日本、ですわ……」

「そうだなぁ?お前がいう極東の文化的後進国だよなぁ?お前は間接的に世界の重大人物二名を侮辱したことになるよなぁ??」

「うぐっ……」

「あと、そこの阿呆っ!」

「お、俺かよ?!」

「お前、イギリスの料理がまずく(あぁ)なった理由を知ってて言ってるのか?」

「え?……い、いや……」

「産業革命の影響で働き手として幼い子供まで都会へどんどん流れてしまったせいで、伝統料理のレシピのほとんどが喪失したことが主な原因なんだよ!イギリスにだって本来、うまい料理はあるんだ!それをわからねぇで知ったようなこと言ってんじゃねぇぞ!この大うつけが!!」

 

勇人の言う通り、イギリスにもミートパイや英国式カレーなど、まずい、というイメージにそぐわない料理が多数存在している。

だが、産業革命で働き手として多くの若者、特に子供が都会へと流れてしまった影響でレシピが受け継がれることなく喪失してしまったことに加え、衛生面の問題も加わり、火をしっかりと通せば問題ないだろう、という雑な考えに至り、黒焦げになるまで焼いたり揚げたり、原型がわからなくなるまで煮込むようになったことや、基本的な風習として自分好みの味付けにするため、料理そのものにもともとの味が少ないなどの理由もある。

 

それはともかくとして。

 

一通り、叫び終わった勇人は肩で大きく息をしながら静かに席に着いた。

だが、それ以降、勇人の逆鱗に触れるのではないか、という恐怖心からか、誰からも推薦の声が上がることはなかった。



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決闘前の静けさ

決闘の前、なのですが、束さんのこととか専用機のこととかはキングクリムゾンで消し飛びました(オイ


「落ち着いたか?月影」

「えぇ、まぁ……失礼しました」

 

いまだ殺気をダダ漏れにしながら、勇人は千冬の問いかけにそう返した。

おそらく、急なIS学園入学や慣れない環境だけでなく、ただでさえ人と関わり合いになることを避けているというのに、織斑一夏という世界を変えかねない存在と関わらなければならない状況と環境に問答無用で放り込まれたことがストレスとなっていたのだろう。

そして、今回の大喧嘩でたまりにたまったストレスが大爆発を起こした、といったところか。

それが、千冬と本音の見解であり、少し後になって報告を聞いた楯無と虚が導き出した結論だった。

もっとも、時間もないのでひとまず、それ以上、追求することはなく。

 

「オルコットの言い分としては、実力を示してもらわなければ、ということだな?」

「その通りです」

「ならば一週間後、織斑、月影の両名と模擬戦をしろ。そこで実力を見ればいい。織斑、月影、構わないな?」

「俺はいいぜ」

「……俺はごめんこうむりたいんですが?」

 

勇人はいかにも嫌そうな顔をして千冬に反論した。

だが、千冬は問答無用とばかりにその反論を却下した。

 

「却下だ。貴様も推薦されているだろう?なら、実力を示す義務がある」

「……ですよね……はぁ……」

 

返ってきた答えに、勇人は陰鬱そうなため息をついた。

もともと、クラス代表になるつもりは毛頭ないため、勇人はこの戦い自体を棄権したいと考えていた。

が、この教室の最高権力者である織斑千冬(元世界最強)がそれを許すはずもない。

潔くはないが、勇人はひとまず、戦わないという選択肢にこだわることを諦めた。

 

「で?ハンデはどうする?」

「元凶、お前、まさかと思うが『男だからハンデを背負う』なんて思っちゃないだろうな?」

「え?そうだけど」

「……素で馬鹿だ、お前は……」

「なんで馬鹿なんだよ?!」

 

勇人の言葉に、一夏は反論してきた。

ISだけに限った話ではなく、何事にも経験者と非経験者の壁というものは存在する。

竹刀を握ったことのない人間が、いきなり有段者に挑んで勝てるはずがない。まして、ハンデをつける側が前者だというのならなおのことだ。

そのことを説明しても一夏は引き下がる気はないようだ。

どうやら、男に二言はない、ということらしい。

もはや頑固を通り越して馬鹿な態度ではあったのだが、セシリアが一夏にハンデを背負わせることをよしとしなかった。

 

「どうやら、あなたよりも二番目の彼のほうが道理をわきまえているようですわね。ハンデを背負った素人に勝ったところで、プロであるわたくしの矜持(プライド)に傷が付くだけですわ」

「……なら、ハンデはいい」

 

セシリアからのその言葉に、一夏はようやく折れたらしい。

結局、千冬の鶴の一声で、一週間後に決闘が行われることとなり、その場は解散となった。

 

なお、その後、真耶から急きょ寮に入ることが決まったことを伝えられ、一夏と勇人はそれぞれの割り当てられた部屋へと向かい、その先でまた一波乱あったのだが、それはまた別の話。

 

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それから一週間。

勇人と一夏はピットにいた。

だが、まだ一夏の専用機が来ていないらしい。

 

「遅いな」

「試合開始まで一時間もないな……パーソナライズにフォーマット、一次移行(ファーストシフト)は間に合わないな」

「げっ……てことは試合しながらそれをやれってのか?!まともに動かないだろ!!」

「知らんな。お前の専用機を受け持つことになった企業に文句言え」

 

なお、勇人はすでに自身の専用機を持っている。

というよりも、自分の異能で作った、というほうが正確だろう。

なお、ISコアのナンバリング登録が世界をまたにかける大企業「ラインフォルト社」となっていたため、勇人の扱いはラインフォルト社の専属操縦者という扱いになっている。

 

「月影。織斑の専用機がまだ到着していないようだ。すまないが」

「わかりました。俺が先に出ればいいんですね?」

「そういうことだ……すまないな、急なことで」

「いえ……ピットに行きます」

 

千冬からの謝罪を受けとり、勇人はそのままピットへ向かった。

ピットに入り、勇人は首に下げている蒼い翼を模したペンダントに触れた。

その瞬間、ペンダントは青白い粒子へ変わり、勇人の体にまとわりついた。

光が収まると、勇人は翼を思わせる形状をした蒼いスラスターを備えた、青と白にカラーリングされた装甲をまとっていた。

ISをまとった瞬間、ISのハイパーセンサ―が自分以外の人間の存在を探知したため、人がいる方へと視線を向けると、こちらに背を向けるようにして立っている刀奈の姿があった。

 

「……なんだ、いたのか。楯無(・・)

「ついさっき、来たところよ……管制室には簪ちゃんがいるわ。せめて、手伝いたいんだって……というか、わたしと君しかいないんだから、本当の名前で大丈夫よ?」

「そうはいかんだろ……で?お前は何の用だ??」

「見届けに来ただけよ」

「そうかい」

「けど……」

 

楯無。自分が背負っているもう一つの名前を呼ばれたことに若干、不機嫌になった刀奈だったが、迫りながらじっと見つめてきた。

体が密着するほどの近距離まで近づいてくると、さすがに気恥ずかしくなり、勇人は視線だけを刀奈からそらしつつ、刀奈の言葉を待っていた。

 

「負けることは許さないわよ?特に、織斑一夏くんには、ね」

「なんでそこまで……もしかして、簪の専用機開発がストップしたことと関係あるのか?」

「えぇ……詳しくはあとで話すわ」

 

刀奈はそういうと、扇子を広げ、乞うご期待、と書かれた面を勇人に見せてきた。

その瞬間、スピーカーから簪の声が聞こえてきた。

 

《勇人、そろそろ時間だよ》

「了解。オペレート頼むぞ、簪」

《任せて》

 

簪の案内に、勇人はカタパルトまで移動し、発射姿勢に入った。

 

《システム、オールグリーン。射出口、異常なし……発射タイミングをパイロットに移行します》

「了解……月影勇人、蒼穹、出る!!」

 

その言葉と同時に、勇人が乗ったカタパルトが作動し、勇人をアリーナへと飛ばした。



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語られなかった話~1、相部屋~

タイトルのとおり
書いてなかったおまけ回みたいなものです
時間軸は第8話「決闘前の静けさ」のあたり、クラス代表戦を行うことが決定したのちの話になります
まぁ、たぶんだいたいの人は察しがついてると思いますが


~これは、一夏と勇人、セシリアがクラス代表をかけて勝負をすることが決定したその日の話である~

 

クラス代表戦を行うことが決まったその日の放課後。

勇人は千冬からの頼みで一夏にIS関連の知識を教えていた。

が、やはり事前知識が少ないため、どうしても悪戦苦闘していた。

 

「だから、ここは……」

「え?……あ、あぁ、なるほ、ど?」

「ほんとにわかってんのか?おめぇ」

 

ただでさえ自分のことで手一杯だというのに、不慣れなことをさせられているこの状況。

胃がどうにかなりそうになるのをこらえながら、勇人は根気強く一夏に事前配布教本の知識を叩き込んできた。

そんな時だった。

頬にうっすらと汗をたらしながら、真耶が教室のドアを開け、勇人と一夏に声をかけてきた。

 

「織斑くん、月影くん!よかった、まだいたんですね」

「先生?」

「なんすか?」

「少し急なことなんですが、お二人に過ごしてもらう寮の部屋が決定したので、鍵を届けに」

 

そう話す真耶の手には、二本の鍵があった。

どうやら、それが二人に割り当てられた部屋の鍵らしいということは、すぐに察しがついた。

だが、いくらなんでも急すぎるような気がした。

 

「部屋割りの調整とかで数日かかるって聞いてたんですが……」

「お前たち二人の立場を考慮しての結果だ。荷物はすでに寮の部屋に運んである。着替えと携帯の充電器、それから下着類があれば当面は大丈夫だろう?月影はある程度まとめられていたから、それを持ってきた」

「なるほど……お手数かけました」

「え?どういうことだよ??」

 

一夏はわかっていないようだが、勇人は千冬の「二人の立場」という言葉で大体の事情を察した。

二人、というのが勇人と一夏の二人を指すことは言うまでもない。

一夏は、自分はただの高校生という認識でしかないが、周囲は「ISを動かすことができる男子高校生の一人」として見ている。

そして、「ISを動かせる」という部分が特に重要になる。

 

なにしろ、今まで女性しか動かせなかったはずの超兵器を、男性が動かすことができるようになった初めてのケースなのだ。

ISの恩恵によりその地位を高めた過激な女性はもとより、男性の復権を目指す過激派や純粋にISを研究し、男性が使用できない理由を探ろうとしている技術者たちからすれば、是が非でも手元に置いておきたい、あるいは消し去りたい存在。

それが世間の二人に対する見方だ。

 

勇人は更識の仕事を手伝っている都合上、そのことを理解しているが、一夏はまだ理解できていないらしい。

平和ボケしている、といえばそれまでなのだが、さすがに危機感がなさすぎる気がして、ため息をついてから勇人は一夏に告げた。

 

「お前な、女性しか使えなかった超兵器を男が突然使えるようになったんだぞ?研究機関だけじゃない、政府や権利団体は俺らを手元に置く機会を虎視眈々と狙ってるはずだ。それはわかるな?」

「あ、あぁ……そもそも、ここに入学することになったのはそれが原因だしな」

「なら、自宅は安全か?ジャーナリストの嗅覚はすげぇぞ?ジャーナリストだけじゃない、各政府の諜報機関だって俺らの行動を気にしているはずだ」

「な、なるほど……あぁ、だからか」

 

ここまで言って、ようやく理解したらしい。

本当に頭がからっぽなのではないか、と疑いたくなり、勇人は陰鬱なため息をついた。

 

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その後、鍵を受け取り、勇人は一夏とともに学園の寮に来ていた。

荷物については、どうやら布仏家の誰かがまとめてくれていたらしい。

あるいは、使用人の鏡ともいうほど気が利く、刀奈の専属である虚が隙を見てやってくれていたのか。

それはどうでもいい。

どのみち、私物と呼べる私物はほとんど持っていないのだから。

 

「……で、俺の部屋はここか」

 

手渡されたカギにつけられたナンバータグと、ドアの部屋番号を見比べてそうつぶやいた。

と同時に、再び陰鬱なため息が漏れ出てきた。

誰と同室になるかはわからないが、異性と同室、というのが精神的に大きな負担になっていた。

ただでさえ、あまり人と交流したくないのに、誰かと同居、というのは勇人にとって負担以外の何物でもない。

だが、これに従わなければ任務失敗という不名誉を背負うことになる。

それはごめんなので、勇人はいよいよ覚悟を決め、ドアノブに手をかけようとした。

 

「……あ、そうか。IS学園は実質女子校……」

 

だが、重要な事実を思い出し、勇人はその手を止めた。

仮に、このままドアを開けてしまった場合、その数秒後にどうなるか。

そんなことはすぐに想像がついた。

これがもし一夏だったら、ついうっかり、ノックや確認もせずに開けてしまうだろう。

だが、勇人はそんなへまはしなかった。

 

軽くこぶしを握り、コンコン、と二度ほどドアをたたいた。

すると、がちゃり、とドアノブが動き、かすかにドアが開いた。

ドアの隙間から覗き込んでくる赤い瞳と水色の髪の毛には見覚えがあった。

 

「勇人?どうしたの??」

「やっぱり簪か……急きょ、寮に住むことになってな。ここ、俺に割り当てられた部屋らしい」

「そうなんだ?ちょっとまってて」

 

そういって、簪は一度ドアを閉めたが、一分としないうちに、入っても大丈夫、という声が聞こえてきたため、勇人はドアノブをつかみ、ドアを開けた。

それと同時に、何かが勢い良くぶつかる音が一夏がむかった部屋のほうから響いてきた。

 

「な、なんだぁっ?!」

「な、なんか大きな音したけど、どうしたの?!」

 

突然の音に、目を丸くした勇人と、慌てた様子で部屋から顔をだした簪は音がした方へ視線を向けた。

廊下から聞こえてくる喧騒から察するに、どうやら一夏が確認もせずにドアを開けた結果、ラッキースケベを発動してしまったらしい。

それを知った簪は、まるでごみを見るように半眼になり。

 

「……わたしのIS、あんな奴のために製造凍結されたの……?」

「……はぁ……あのバカは……」

 

簪のご機嫌が一気に氷点下になったことと、モラルがなっていない元凶に、勇人はこの一時間足らずで何度目かわからないため息をついた。



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決闘~1.蒼き雫との射撃戦~

今回は、サンデーGX連載中のコミカライズを基にしています
それから、勇人のIS(というか防具)ですが、『機動戦士ガンダムSEED』シリーズのフリーダムの顔面と胸部を取り外したもの、をイメージしていただければ……うん、アナログでも自分で描いたほうが分かりやすいってのはあるんですけどね……

まぁ、ひとまず、本編どうぞ


カタパルトから射出され、勇人はアリーナへと飛び立った。

ある程度の距離を飛んだ後、空中で静止すると、勇人は視線を上へ向けた。

そこには、青いISをまとったセシリアの姿があった。

 

「逃げずによく来ましたわね」

「まぁ、挑まれた以上は、な……俺個人としては君を推したかったんだがな」

 

そもそもの発端であったクラス代表の推薦で、勇人はセシリアを推薦するつもりだったことを伝えると、セシリアは目を丸くした。

 

「あら?そうでしたの??」

「結局、あのあと止める間もなく大喧嘩始まったからうやむやになったけどな」

「そ、それは……申し訳ございませんでした」

「構わんさ。気持ちはわからんでもないから……こっちこそ、申し訳なかった」

「え?」

「売り言葉に買い言葉とはいえ、あのバカが君の国を侮辱したからな」

 

それは勇人が抱いている本音だった。

いくら頭に血が上っていたとはいえ、やっていいことと悪いことがある。

あの場は一夏が少し大人の対応をするべきだったのだが、若さゆえの過ち、というのか、侮辱に対し侮辱で返してしまい、それが原因でこんな面倒なことになってしまった。

たしかに、先に手を出したのはセシリアのほうだが、第三者から見れば一夏も悪いということもわかるため、勇人は謝罪することを選んだ。

その態度に、セシリアはさらに目を丸くし。

 

「い、いえ……わたくしも頭に血が上っていたとはいえ、あなた方の祖国を貶めたこと、謝罪いたしますわ」

 

そう言いながら、セシリアは頭を下げた。

どうやら、一週間という冷却期間がセシリアを冷静にさせてくれたらしい。

自分に非があったことを認め、謝罪するという選択肢を見つけ、迷わずそれを選択したようだ。

だが。

 

「ですが、始まってしまった以上、試合はしていただきますわ……正直、あの人もそうですが、あなたの今の実力に興味がありますし」

「うへぇ……まぁ、しゃあないか。お手柔らかに頼むよ」

「うふふ……」

 

セシリアがそう宣言し、勇人が苦笑しながら返す様子に微笑みを浮かべた瞬間、試合開始のブザーが鳴り響いた。

それと同時に、勇人は蒼穹の武装の一つであるボウガン型のレールガン(祓之梓弓)を展開し、身構え、セシリアを観察し始めた。

だが、勇人の予想よりもセシリアの方が攻撃に転じるまでは早かった。

 

「さぁ、踊りなさい!わたくしが奏でる円舞(ワルツ)を!!」

「あいにくだが、俺は盆踊りがせいぜいでね!!」

 

軽口を返しながら、勇人はブルーティアーズの武装であるBT兵器から放たれるレーザー光線を回避し続けた。

 

「くっ!ちょこまかと!!」

「それが俺の取り柄なんでな……しかしさすがだな」

「……へ?」

「四基のBT兵器をほぼ同時に、しかも効果的な場所に配置しての一斉射撃。そうそうできるものじゃない」

 

まして、ビットの操作は脳で行っている。

空間掌握と空間把握、さらにはどのタイミングで発射するかのコントロールまで、たった一人の人間の脳で演算しなければならない。

それも、全方向を頑強なシェルターで囲われた状態ではなく、自分も攻撃される可能性がある戦場で行うのだ。

言うだけならば簡単に見えるが、実のところはかなりの集中力が要求されることだ。

 

その意味で、第三世代ISであるブルーティアーズは、一握りの人間にしか扱えないISと言えるだろう。

だからこそ、勇人はセシリアの腕前を称賛していた。

だが、欠点を見抜いていないわけではなかった。

 

「だが、そいつを使う間は動けない。それが大きな欠点だ」

「なっ?!」

 

いつの間にか背後に回っていた勇人に気づかず、セシリアは驚愕に目を丸くした。

だが、勇人は容赦なく、手にした祓之梓弓の引き金を引いた。

銃口から、青白い光とともに梓弓に込められた弾丸がセシリアにむかって無慈悲に向かっていった。

 

センサーを駆使してそれを察知していたセシリアは、どうにかそれを回避することができたが、一発だけで銃撃を終わらせるほど、勇人は甘くはない。

背後だけでなく、下から、上から、あるいは正面から。

次々に、まるでビットで攻撃しているのかと錯覚するほど、様々な角度からの銃撃がセシリアに襲いかかってきた。

 

「くっ!!……この……」

 

だが、セシリアも黙っているつもりはない。

ビットによる多角攻撃をやめて、主力武装である狙撃ライフル(スターライトMkⅡ)での射撃にシフトし、移動する勇人を撃った。

だが、セシリアが対応できる以上の速度で移動しているため、なかなか命中しない。

 

「当たらない……早すぎる……」

「貴族令嬢、悪いがそろそろ決めさせてもらうぞ」

 

勇人の声が聞こえたと同時に、パリパリ、と乾いた音がセシリアの耳に届いた。

音がする方向へ目を向けると、青白い雷光をまといながらライフルを構えている勇人の姿があった。

 

あれを受けたらまずい。

それを見た瞬間、セシリアの本能が警鐘を鳴らした。

同時に理性が死を直感した。

確かに、ISには操縦者の生命を守る、絶対防御システムが存在する。だが、許容以上のダメージが発生した場合、操縦者は傷を負ってしまう。

そして、最悪の場合、死が待っている。

 

「……い……や……」

 

その現実に耐えらえるほど、セシリアの心は強くはなかった。

 

「いやぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 

混乱したように叫びながら、セシリアはライフルとビットも銃口を勇人に向け、発射した。

さらに、隠し玉として残していたビットを展開し、追撃してきた。

 

「落ちなさい!!…………落ちてぇっ!!!」

 

レーザーとミサイルの波状攻撃に、さすがにその場にとどまることは危険だと判断した勇人は、チャージを続けながら回避を始めた。

だが。

 

――IS化させてからの扱いにまだ慣れてないってのに……くっそ!勝ち負けはともかく、早く試合を終わらせないと会場が危険か

 

試合については、どのみち適当に抵抗して終わらせるつもりだったため、勝ち負けにこだわりはない。

が、さすがに自分の試合中に選手以外の負傷者が出ることは、許容できなかった。

 

「……ちっ、しゃあない……」

 

そう呟き、勇人は何もない上空に向かってチャージしていたエネルギーを放ち、祓之梓弓をしまい、腰に備えている二振りの刀の一つ、十束(とつか)を引き抜き、飛んでくるミサイルとレーザーを受け止め、あるいは切り裂きながら、セシリアに接近していった。

シールドエネルギー(SE)が残り二割を切ったところで、ようやくセシリアの前に到着した。

 

「落ち着け!落ち着くんだ、セシリア・オルコット!!」

 

セシリアの肩をつかみ、勇人はセシリアに語りかけた。

 

「あ、あぁ……い、いや……やめて……」

「……落ち着け、大丈夫だ……もう怖いことは起きないから」

 

肩をつかんだまま、落ち着いた声で勇人はセシリアに語り掛け続けた。

徐々に落ち着きを取り戻したのか、セシリアの瞳から徐々に怯えの色は消えていった。

やがて、試合終了を告げるけたたましいブザー音が鳴り響いた。

結果は、どうやらタイムアップによる引き分けのようだ。

 

「引き分けか……いや、もしかしたら俺のほうが負けていたかもしれんな」

「……いえ……負けていたのはわたくしのほうですわ……」

 

つかんでいた肩から手を離し、そうつぶやいた勇人の言葉に、セシリアはそう返した。

たしかに、勇人がエネルギーをチャージしていたレーザーを撃ち放てば、セシリアは大ダメージを受けることになっていただろう。

それをしなかったのは、彼女の本能が死の恐怖を感じ取り、錯乱してしまい、周辺に危険が及ぶ可能性があったからに他ならない。

もし、セシリアが錯乱しなければ、あるいは、勇人に周囲の危険を省みない冷酷さがあったなら、勝負はどちらに転んだかはわからない。

いずれにしても。

 

「それはわからんさ……けど、次は勝ってみせるから覚悟しとけよ、セシリィ(・・・・)

「あら……うふふ、えぇ。その時はわたくしも負けませんわよ?勇人さん(・・・・)

 

勇人はあだ名、セシリアは名前で互いを呼び合い、再戦を誓うと、アナウンスに従い、それぞれのピットへと戻っていった。



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決闘~2.休憩時間―例外第一号への感情―~

何度も言いますが、作者個人に一夏へのヘイト感情は"ほんの少ししか"ありません


セシリアとの試合を終えた勇人はピットに戻り、SEの補給を行っていた。

本来ならば、SEは勇人の異能の一つである《発電能力》を使って充電が可能であるため、必要はないのだが、今回はそれをしなかった。

理由としては、一夏のISが一次移行(ファーストシフト)にもう少し時間がかかるということが一つ。

もう一つは、勇人の体質にあった。

ピットの隅の方で、勇人はうずくまるようにして座っていた。

彼の耳には、ドクンドクン、と激しい動悸のような音が響いていた。

その音に、いや、自分の心に侵食してくるような何かに耐えるように、目を固く閉じていた。

三分ほど経過しただろうか。勇人はゆっくりと目を開け、ほう、とため息をついた。

 

「…………やっと収まったか…………今回はやけに長かったな…………」

 

いや、ここしばらく聞いていなかったから、長く感じただけか。

 

心の内でそう独白し、勇人はため息をついた。

一週間という短い期間で、ISでの戦闘でセシリアを圧倒できた理由。

それは、勇人のISである『蒼穹』にあった。

蒼穹は、ISコアを接続しているとはいえ、元々は勇人が異能で作り上げた強化装甲であり、いわば、疑似IS装甲とでも呼ぶべきものだ。

ゆえに、使う武器のエネルギーや超高速での移動は勇人の異能に大きく依存しており、使い勝手や操作方法、機体の癖は熟知していた。

 

だが、勇人の異能に大きく依存している、という点、それ自体が蒼穹の大きな欠点となっている。

発電能力や超高速での移動、そして様々なものを作り上げる原子操作能力。これらは確かに便利なものだ。

だが、あまり使い過ぎると、さきほどのように不気味な動悸が勇人に襲い掛かるのだ。

その動悸が聞こえてくると勇人は、自分が自分でなくなるような感覚に襲われるらしい。

今まではどうにか抗ってこれたため、何かしらの障害を負ったことはないが、仮に異能を過度に使用した場合、勇人の精神が崩壊する危険性がある、と更識お抱えの研究所は結論を出していた。

もっとも確かなことは何もわからないのだが。

 

閑話休題(それはともかく)

 

「なぜおまえもいるんだ?簪」

 

いつの間にか隣に座っていた簪に、そう問いかけた。

 

「暇だから」

「暇って……管制室の仕事はどうした?」

「わたしは勇人専属。織斑一夏(あいつ)のオペレートなんてやりたくない」

 

むすっとした様子で簪はそう返してきた。

どうやら、一夏のオペレーションは行いたくないらしい。

理由はわからないでもない。いや、むしろ心当たりしかない。

現在進行形で手伝っているとはいえ、簪の専用機《打鉄・弐式》はまだ完成には至っていない。

それというのも、製造を担当するはずだった倉持技研が一夏の専用機《白式》の製造へ人員を割いてしまい、結果、簪の専用機製造が後回しになり、永久凍結されてしまったのだから、簪としてはいい気分はしない。

 

むろん、そのことは姉である刀奈も怒っていたし、勇人もそれなりに怒りを覚えている。

加えて、一夏自身が事実上、女子校に在籍している、ということを忘れているのか、マナーがまったくなっていないために引き起こされた光景を目にしたばかりだ。

開発が後回しになってしまうのは仕方ないにしても、操縦者の非常識さから、簪は一夏を認めたくないし、勇人もまた一夏を簡単に認めるつもりはなかった。

 

「セシリアはしかたなかったけど、あんなやつに負けたら許さないから」

「負けねぇさ、あのバカには……たとえ、セシリアのように錯乱したとしても、あいつにだけは手心を加えるつもりはない」

 

瞳に物騒な光を宿しながら、勇人は簪に答えた。

実際のところ、勇人は一夏に憎悪にも近い感情を抱いている。

自分が恵まれた状態にあることも知らず、その上で努力することを怠りかけており、加えて、自身がISを動かしてしまったことで巻き込まれた自分に対し、謝罪の一つもないのだ。

いや、謝罪をする必要はないが、少なくとも、罪悪感くらいは抱いてほしいものだが、それすらもなく、悠々と学生生活を謳歌しようとしているのだ。

もはや、怒りを通り越している。

ここはひとつ、痛い目を見てもらう必要がある、と勇人は感じていた。



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決闘~3.vs例外第一号:開幕~

インターバルが終了し、いよいよ、勇人と一夏の一騎打ちが始まろうとしていた。

 

『そろそろ時間だ。月影、発進の準備を』

「了解」

 

千冬からの通信に勇人が応えると、勇人は蒼穹を展開し、カタパルトへ移動しようとした。

だが、蒼穹をまとった瞬間、個別通信(プライベートチャンネル)で勇人に通信が入ってきた。

送ってきた相手は、千冬だった。

 

『突然すまないな、月影。ひとつ、頼まれてくれないか?』

「わざと負けろってんならごめんですよ?セシリィはともかく、あいつにゃ拳骨の十発も食らわせないと腹の虫がおさまらないんで」

『馬鹿者。そんなことを頼むと思うか?』

「てことは、スパルタでいいんですね?」

『むしろこっちから頼みたいところだ。あいつには世界の広さを知ってもらわないとな』

 

このタイミングで通信してきた理由は、一夏に対して一切の手心を加えるな、ということを伝えたかったためのようだ。

手心を一切加えるつもりがない勇人にとって、その要請はむしろ、こちらから許可を得たい、とすら思っていたことなので、勇人は二つ返事でそれを了承した。

その答えを聞くと、千冬は安心したように笑みを浮かべ、以上だ、と言って通信を終わらせた。

千冬からの通信が終わると、今度は簪の声がピット内に響いた。

 

《勇人、発射準備できたよ》

「了解」

 

準備が整ったことを簪のアナウンスで知ると、勇人はカタパルトまで移動し、発射姿勢に入った。

それと同時に、簪はセシリアの時と同じアナウンスを流した。

 

《システム、オールグリーン。進路、良好……発進、どうぞ!》

「月影勇人。蒼穹、出る!!」

 

簪のアナウンスに従い、勇人が発進の合図を出すと、カタパルトが動き、勇人をアリーナへと射出した。

アリーナに出ると、すでに待機していた一夏が白式をまとい、空中で待機していた。

 

「よぉ、第一例外。こっぴどくやられたって?」

「聞いてたのかよ……まぁ、そうだな。もうちょっとやれると思ったんだけど」

「終了間際だったとはいえ、最適化(パーソナライズ)一次移行(ファーストシフト)も終わってない、初期(デフォルト)の状態でやりあっても瞬殺されなかっただけ上々じゃないか?」

 

勇人の素直な感想を聞いた瞬間、一夏は目を丸くした。

いままで自分のこと散々けなしてきた勇人が、はじめて自分に称賛の言葉を送ったのだ。

驚くな、というほうが無理な話だろう。

 

「まぁ、だが」

 

ちゃきり、と鍔鳴りの音が聞こえてきた。

見れば、勇人の手には一振りの刀が握られており、その切っ先は一夏に向いていた。

 

「勝負とあっちゃそんなことはどうでもいいことだ。全力でぶっ潰してやるから、抗って見せろ、すべての元凶」

 

殺気を解き放ち、勇人は一夏にそう告げた。

ぞわり、と体中の毛が泡立つ感覚を覚えた一夏だったが、目をそらすことはしなかった。

 

――さっき誓ったばかりなんだ。千冬姉ぇの名前を守るって!こんなところで引いてられるか!!

 

白式唯一の武装、《雪片弐型》を構えながら、目の前に立ちはだかる敵と戦うことに集中し始めた。

その闘志を、悪くない、と感じた勇人は、もう片方の刀を抜いた。

 

その瞬間、試合開始のブザーが鳴り響いた。



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決闘~4.vs例外第一号:激突~

試合開始のブザーが鳴り響いた瞬間、一夏から仕掛けてきた。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ただ突っ込むだけが戦闘じゃないぞ」

 

そう言いながら、勇人は突っ込んでくる一夏の攻撃をいなし続けた。

実際、一夏の攻撃は実に単調でまっすぐだ。

もっとも、それは一夏の人柄が剣に表れているということでもあるのだが。

しかし、まっすぐなだけでは、単調なだけでは、勝つことはできない。なにより、これは模擬とはいえ、ISでの試合だ。

特定の既定の範囲内であれば、ルール無用の喧嘩と同じ。

ゆえに。

 

「ほらよっと!」

「くっ!」

 

一夏の手首に打撃を与え、武器を落とさせるようにしたり。

 

「そこっ!」

「がっ?!」

 

柄頭で一夏の顎を殴ることも、許される。

もっとも、印象がいいか悪いかと言われれば、悪いとしか言えないため。

 

「あいつ……剣士としての誇りはないのかっ?!」

「落ち着け、篠ノ之。これは剣道の試合じゃないんだぞ」

「ですが、織斑先生!!」

「気持ちはわからんでもない……月影の動きは試合のそれというよりも、実戦のものに近いからな」

 

当然、箒をはじめとする女子数名からは非難の声が上がっていた。

だが、多少でも試合を経験した、あるいは実際に見たことがある生徒たちは、勇人の戦い方には文句を言わなかった。

むしろ、先ほどのセシリアとの試合もあって、どうしてそこまでISを動かすことが出来るのか、疑問の声すら上がってきているほどだ。

だが、問題はそこではない。

 

「心配なのはわかるし、月影が気に入らないという理由もわからんでもない。だがな、篠ノ之。惚れた男を信じて待つ、というのも女の甲斐性だと思うが?」

「……………っ??!!」

 

そこまで言われると、箒は黙るしかなかった。

一方で、千冬の目は冷ややかだった。

目で追っているのは、弟である一夏ではない。対戦相手である勇人のほうだった。

彼の経歴はある程度まで知っているが、裏社会に身を投じたり、軍部に身を置いていたという記録はなかった。

まして、あの性格からして自分から面倒ごとに首を突っ込むようなことはしないし、荒事を起こすことも巻き込まれることもないだろうことは、容易に想像できる。

そんな彼が、なぜあそこまで実戦的な動きをすることができるのか。

 

――まさか、あいつにもお前が絡んでいるのか?束

 

ISの開発者であり、稀代の天才(ジーニアス)にして《天災(ディザスター)》の名を心中で呟き、千冬は試合の動向を見守ることに徹した。

 

「ちっくしょぉ、全然当たらねぇ……」

「お前の攻撃はまっすぐすぎて単調、はっきり言って大味だからな。回避できない方がおかしい」

「くっ……」

「まぁ、剣は心の鏡、だったか?それがお前の心ってことなんだろうが……そんなんじゃ戦場じゃ生きていけないぞ?」

 

ざわり、とアリーナに寒気が広がった。

それが勇人の殺気が原因であることは、すぐに理解できた。

が、一夏は一つだけわからないことがあった。

 

戦場では生き残れない。

 

なぜ、勇人はその言葉を使ったのか。

ISはアラスカ条約で兵器としての利用を禁止されているし、そもそもスポーツ競技だ。

試合ならばわからないでもないが、戦場という言葉には程遠い。

一夏だけではない。千冬と真耶、そして国家代表候補生であるセシリアを除くこの場にいる全員がそう思っているはずだ。

だが、それは裏側を知らないがゆえのこと。

 

「というか、こんな超兵器、軍事目的で利用しないなんて考えるのはよほどの戦争嫌いか、あるいは能無し国家がすることだ……いや、日本は例外か?一応、軍事力じゃなくて自衛力だし。まぁ、兵器であることに変わりはないな」

「な……」

「てか、お前はそのことを一番よく知ってるはずだがな?……初代最強(ブリュンヒルデ)向こう脛(弱点)として」

 

勇人のどの言葉に、一夏は過去の記憶が呼び起された。

第二回モンドグロッソ大会で、一夏は謎の組織に拉致された。その目的は、第一回モンドグロッソで優勝した千冬の連覇を防ぐため。

組織のもくろみ通り、千冬は大会を棄権し、連覇という栄光を逃した。

さらには、拉致された一夏の発見に貢献したから、という理由でドイツ軍が抱えるIS部隊の教官として赴任することとなってしまった。

 

と、そこまでは更識でなくとも、日本政府に関係する人間ならば誰でも掴んでいる情報だ。

だが、そこには隠された事実が存在する。

犯行グループにIS操縦者が存在していた、という、事実が。

確かに、アラスカ条約で「表立って」兵器利用することは禁じられている。だが、ばれなければ犯罪ではないし、条約の規定を破ったことにはならない。

つまり、政府にばれなければISを兵器として利用してもまったく問題ないということだ。

そしてそれは、平和主義を掲げる日本でも同じことだ。

ゆえに。

 

「さぁ、示して見せろ、世界最強の弟……お前が戦場に立つ覚悟のある人間か、それとも戦場を知らずに文句を言うだけの愚か者か」

 

ざわり、と再び全身の毛が泡立つ感覚がアリーナを覆った。

先ほどよりも濃厚な殺気。もし、その場に千冬か刀奈がいれば、これ以上、勇人に戦闘を続行させることは危険だという判断を下すことができただろう。

だが、この場には勇人を止めることができる人間は存在しない。

ゆえに、そう呼ばれることを覚悟しているかのように、勇人は一夏にむかって叫んだ。

 

「お前に巻き込まれて、このくだらない世界の表舞台に立たなければならなくなった化け物によぉ!!」



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決闘~5.vs例外第一号:決着~

「化け物、ね……」

 

刀奈はアリーナに響いた勇人の声に、そっとため息をついた。

確かに、勇人の異能は化け物と言わざるを得ないだろうが、彼がそう発言した理由は、もう一つある。

「女性権利団体」。

元々は女性の人権について言及する団体だったが、ISが搭乗して以降、女尊男卑の風潮を広めた原因となっている組織であり、過激な活動にすら手を染めることもいとわない、危険な集団。

 

彼女たちから見れば、確かに、月影勇人という男性は化け物だ。

一夏はまだ、世界最強の女性(織斑千冬)の弟だから、という理由で納得できているのだが、勇人はこの世界に生まれた異分子(イレギュラー)だ。

異分子は、化け物は、排除しなければならない。自分たちの身を守るために。

人間ならば、誰もが抱く思考であり、当然、行きつく答えだ。

 

「ある意味、宣戦布告ね、これ……」

 

刀奈はそっとため息をつきつつ、勇人の意図を読み取った。

あえて、自分を化け物と、討伐の対象だと宣言し、向かってくるものに対して抵抗することを表明している。

だが、と刀奈は同時に思う。

はたして、彼は誰と、何と戦うつもりで宣戦布告をしたのだろうか。

そこだけは、刀奈でもわかることはなかった。

 

------------------

 

一方、アリーナで勇人と対峙している一夏は、内心、かなりびくついていた。

自分自身を化け物と呼び、それを証明するかのような威圧感と、それらを裏付けするような、粗いが的確な戦い方。

正直に言って、勝てる見込みが見当たらなかった。

だが、退くわけにはいかないし、退くつもりもない。

 

――千冬姉ぇの名前を守るって決めたんだ……こんなところで逃げることなんてできるか!!

 

ようやく、守るための力を手にすることが出来た。

その事実が、一夏の闘志をより燃え上がらせていた。

 

「だったら示してやるよ!俺の覚悟を!!《零落白夜》!!」

 

ブースターにエネルギーを集中させながら、一夏は青白い光を放つ雪片弐型を構えた。

その構えを見た勇人は、次に一夏が何を仕掛けてくるのか、簡単に予測できた。

だが、勇人はまったくぶれなかった。

これから出そうとしている速度が、勇人の本気(・・・・・)と比べれば、まだまだ遅い方であることに加えて、一夏はフェイントを仕掛けるような技巧を持ち合わせていないし、そもそも一夏自身が対応しきれないと踏んでいたがゆえだ。

それは、ある意味で余裕とも、油断ともとられるものだ。

だが、勇人は甘くはない。

 

「零落白夜、たしかブリュンヒルデが使っていた単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)だったな……なるほど、確かにお前はあの人の弟だよ」

 

だからこそ。

 

そうつぶやいた瞬間、振りかざした一夏の刃が、勇人に向かって振り下ろされた。

だが、その刃が勇人を捉える前に、勇人の姿が消えた。

突然、目の前から敵がいなくなったことに、一夏は驚愕し、慌てて周囲を見回したが、勇人の姿は見当たらなかった。

SEの残量を考えてか、零落白夜を解除し、一夏は周囲を警戒し始めた。

 

「だが、お前はまだまだ、戦乙女の泣き所のままだ」

「え?」

 

突然、勇人の声が聞こえたかと思うと、一夏は様々な個所から攻撃を受けた。

胸や胴体はもちろん、腕、足、肩、背中に衝撃が走った。

絶対防御があるため、実際に斬られたということはないが、まるで電流でも走ったかのような痛みは感じられた。

 

「ぐぅ……い、いったい、何が?」

「考える暇があるなら感じ取れ、余計な思考は人間本来の闘争本能をかき乱す」

「がっ?!」

「ほらほら、どうした?きりきり舞えよ?」

 

跳躍の名前がついている某少年漫画雑誌にかつて連載されていた、明治時代を舞台にした剣客浪漫譚の主人公のような速度で動いているため、一夏は対応しきれていなかった。

 

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

頭に血が上った、ということもあるのだろうが、まもなく白式のSEが底をついてしまう。その前に、せめて一太刀浴びせたい、という思いがあったのだろう。

一夏は「零落白夜」を発動させ、身構えた。

カウンターを狙っている。

それがわからない勇人ではない。

 

「…………ほぉ?まだやるか」

「当たり前だ!せめて一矢報いてやる!!」

 

その言葉に偽りはなく、何より本気であることは、目を見ればわかった。

ゆえに、勇人も。

 

「ならば、お前のその本気に敬意を表し、俺も全()力で相手しよう」

 

手にした二振りの刀を鞘に納め、居合の構えを取った。

 

「……行くぞ」

 

そう宣言した瞬間、勇人の姿が消えた。

一夏は、使い慣れていないハイパーセンサ―だけでなく、その耳で、肌で、どこから攻撃が来るのか身構えた。

ぞくり、と背中に冷たいものが走った瞬間、一夏は振り向きながら雪片弐型を振るった。

その瞬間、アリーナ中にけたたましいブザーの音が鳴り響いた。

 

「……ほう?ちょっとはやるな」

「く、そっ!!取り切れなかった……」

 

ブザー音の中、勇人が感心したようにつぶやくと、一夏は悔しそうに顔をゆがめた。

結果は、SEが同時にゼロとなったために、引き分け(ドロー)

内容的には常時攻められていた一夏の敗北になるのだろう。

だが、それでも高速移動中の自分に一太刀浴びせたことに素直に感心した勇人は。

 

「ふっ……今後が楽しみだな、イチ(・・)

 

アリーナを去りながら、一夏に笑みを向け、そう呟いていた。



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決闘~6.戦いの後……~

全ての試合が終了し、セシリアは自室でシャワーを浴びていた。

だが、その心中は穏やかではなかった。

ずっと、試合中のことが引っかかっていた。

 

今まで、自分の周囲にいる男は、女の顔を見てこびへつらう、弱いものしかいなかった。

特に、父親がそうだった。

むろん、母親がかなり気が強い上に、父親は婿養子。気を使っていた、ということが大きいのだろうということは、最近になって推測できるようになっていた。

だが、それでも父は母を愛していたし、自分にも愛情を注いでくれていた。

 

そんな両親が列車事故で亡くなってから、自分の育った屋敷を、両親が遺してくれたものを守るために必死に戦ってきた。

特に、力のない小娘、と思っていたのか、これ見よがしに男たちは自分の気持ちも知らずに、自分の聖域に土足で踏み込んできていた。

そんな彼らも、自分がイギリスの代表となることで手のひらを返すようにこびへつらってきた。

 

男なんてそんなもの。卑怯で汚くて、取るに足らないほど弱いもの。

 

そのころから、セシリアは男に対してそんな印象を抱くようになっていた。

だが、それはこの試合で覆された。

 

――月影、勇人……私が錯乱したことが原因とはいえ、勝利を捨ててまで私を落ち着かせることを選んだ人……なぜ、彼はそんなことを……

 

今まで、セシリアが接したきた男性は、すべて、自分の利益を優先し、大きな力に媚びを売り、自分の脅威になりえるものや、自分よりも力のないものを徹底的に蹴落とすことだけに執着している低俗な連中だけだった。

だが、今日の試合で戦った勇人は相手の実力を認めた上で戦っていたし、一夏はかなわないとわかっていても諦めない根性を見せていた。

 

だが、セシリアの心に強く残っていたのは、勇人のほうだった。

 

「……月影勇人、勇人さん……」

 

シャワーを浴びながら、壁によりかかるセシリアは、ぽつりと勇人の名を呟いた。

その顔が、恋する乙女のそれになっていることなど、セシリア本人はまったく気づいていなかった。

 

------------

 

一方、一夏と箒は寮までの通路を並んで歩いていた。

箒はどこか納得のいかないような表情だったが、一夏はどこか少しばかり悔しそうな表情を浮かべていた。

 

「あぁ~……わかってたけど、やっぱ負けたなぁ……」

「……悔しい、のか?」

「そりゃな。俺だって男だし、勝負には負けたくないさ」

 

そこは本音の部分だ。

だからこそ、一夏は次こそ負けたくはない、という想いが強く出ていた。

 

「だから箒、これからもよろしくな」

「……は?」

「あ、いや……箒が良ければ、これからもISとか剣道の練習に付き合ってほしいなぁ、と」

 

若干、顔を赤くしながら一夏は箒にそう頼んできた。

 

「……それは、わたしでいいのか?千冬さ……織斑先生に頼るとか、方法があると思うが」

「千冬姉ぇには頼れない。いや、頼りたくない、かな……だから、箒を頼ろうかなって」

 

だめか、と困り顔で一夏は箒に問いかけた。

これは、言ってみれば一夏の個人的な意地なのだろう。

姉の名を守ると誓った手前、姉を頼るようなことはしたくないようだ。

逆を言えば、それだけ自分は頼りにされている、ということでもある。

そして、好意を寄せている異性に頼られて、悪い気になる人間はほとんどいない。

必然的に。

 

「そ、そうか!それなら仕方ないな!!」

 

と、箒はどこか嬉しそうに一夏の頼みを承諾していた。

 

--------------

 

そして一方、こちらはIS学園の整備室。

その一角を陣取って二人の生徒が作業をしていた。

一人は、本日の試合を総なめした例外第二号(勇人)。そしてもう一人は日本国代表候補生である更識簪だった。

 

「機体のベースだけでも完成していたのは幸いだな」

「うん……けど、未完成もいいとこ。中身(ソフト)が全然」

「まったく、これで日本を代表する企業だってんだから、笑える」

 

キーボードをたたきながら、勇人と簪はそんな会話を繰り広げていた。

二人の目の前には、簪の専用機となる予定のIS『打鉄弐式』があった。

簪の専用機は倉持技研が開発を担当しているのだが、急きょ、開発が打ち切りとなってしまった。

その原因は一夏にあった。

男性がなぜISを動かせるのか、その謎を解明するための測定機代わりとして、一夏の専用機を与えることにした。

その専用機の製作を倉持技研が行うことになり、それまで携わっていた打鉄弐式の開発を中断、凍結。白式の開発へと移行したのだ。

 

「なぁ、なんだったら、会社に頼んでみるか?」

「……できれば、自分の手で作りたい」

「……そっか。なら、参考になりそうなものを借りてくるだけにしとく」

「……うん」

 

専用機を自分の手で、というこだわりがなぜ出てくるのか。

それを知っているからこそ、あえてそれ以上は何も言わなかった。

そうこうしているうちに、寮の門限が近づいてしまったため、勇人と簪はこの日の作業を打ち切り、急いで寮へと戻っていった。



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クラス代表、決定

一応、これにて第一章は終了
この時点でのロイスをあとがきに公開しますが、本作はあくまでもISを主軸にした話ですし、ロイスの人数制限はキャラクターデータ管理上の問題という部分があると思うのでDX本来のルールである、ロイスの取得制限、取得上限は無視しています
タイタス化についても、主要メンバー以外のロイスのみ、と考えています
ご了承ください


代表決定戦の翌日。一夏は凍り付いていた。

その理由は。

 

「というわけで、一組のクラス代表は織斑くんに決定です!あ、一続きで縁起がいいですね」

 

という、真耶からの爆弾発言だった。

クラス代表決定戦の成績は、自分が全負けの最下位であったはず。

それなのになぜ自分が代表なのか。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 

悲鳴に近い一夏の声が教室に響いた。

自分は代表戦で黒星二つ、つまりは全敗だったのだ。それなのになぜ、自分がクラス代表になっているのか。

わけがわからず、困惑しているようだ。

 

「わたくしは辞退しましたので」

「同じく」

「はぁっ??!!」

 

当初の話では、この試合に勝利したものがクラス代表になることで話が通っていたはずなのだが、いきなりそれが反故にされてしまったことに、一夏は目を丸くした。

 

「ちょ、ど、どういうことだよ?!」

「生徒会からスカウトされた。忙しくなるから辞退した。以上」

「今回の件で、わたくし、自分がまだまだ未熟であることを悟りました。このような体たらくでは、クラス代表になったとしても皆さんの足を引っ張るだけ。そう思い、一夏さん(・・・・)のサポートに回ることにしましたの」

 

いつの間にか、呼び方が「貴方」から「一夏さん」になっていることを気にすることなく、一夏は反論しようとした。

が、それを許すほど、甘くない人間がこの場に一人。

 

「あきらめろ、織斑。それとも、せっかく寄せられている期待を裏切るのか?」

「そ、それは……け、けど、だったら勇人が生徒会を辞退すれば」

「生徒会の人材は万年不足気味でな、こちらとしてもなんとかしてやりたいものがあったから、こればかりはゆずれんぞ」

「……ぐっ……あぁ、もうわかったよ!」

 

千冬に諭される形で、一夏はクラス代表になることを了承した。

不承不承、というわけではないらしいことは、誰の目で見てもわかる。

結局、満場一致で一夏が一組のクラス代表になることが決定し、その場は幕となった。

 

------------

 

放課後になると、勇人を除く一組の全員が食堂に集まっていた。

曰く、一夏のクラス代表就任のお祝いパーティーらしい。

もっとも、勇人はそんなものに興味はないし、人が多く集まるところが好きではないため、いつものように簪が詰めている整備室にいた。

 

「行かなくて、よかったの?」

「パーティーなんぞよか、こっちのほうがずっと大事だ」

 

やや不機嫌になりながら、勇人は簪の質問に答えた。

何事にも優先順位があるように、勇人には優先すべき人物というものがあった。

その筆頭が更識姉妹と布仏姉妹だ。

正直に言って、この四人さえ無事であれば、たとえクラスメイト全員が生死の境をさまよおうと何も思わない。

それだけ、勇人にとって彼女たち以外の存在はどうでもいい存在ということだ。

 

「そ、そっか……こっちのほうが大事、なんだ」

「嫌だったら、出ていくが?」

「そ、そそそそんなことないよ!!むしろいてくれた方がいいよ!」

 

顔を若干赤くしながら、慌てた様子で勇人を引き留めた。

簪にとっても、勇人との時間は大事なものだった。

そして、それはおそらく勇人も同じこと。

 

「なら、ここにいてもいいよな?」

「うん!」

 

勇人のその問いかけに、満面の笑みで頷いた簪だったが、そぐにその表情は引き締まり、視線はディスプレイのほうへと向いた。

それを横目に見ていた勇人も、ディスプレイへ視線と意識を戻した。

しばらくは、カタカタとキーボードをたたく音が響いていたが、しばらくするとその音も徐々に小さくなっていった。

 

「……やっぱりちょっと難しい……」

「防犯カメラの顔認証システムを応用してもダメ、か……」

「そもそも、複数人の顔から個人を特定するためのものでしょ?なんでそれにしたの??」

「なんとなく」

「……なんとなく、で選んで成功してたらわたしだって苦労しないよ……」

 

それこそ、なんとなく、で選んだプログラムを応用してまったく別のものを完成させることができるのは、天才と呼ばれるものたちだけだろう。

それこそ、更識の現当主や"天才な天災(ジーニアス・ディザスター)"くらいなものだろう。

 

「……なぁ、やっぱりRFに頼んでプログラムのサンプルだけでも借りてくるか?」

「……けど……」

「……俺に迷惑かける、とか考えてるなら、それは違うぞ。俺が勝手にやってることだからな」

 

頭の後ろで手を組み、背もたれに寄りかかりながら、勇人は反論しようとする簪に返した。

簪は姉である刀奈が自身の専用機《霧纏の淑女(ミステリアス・レディ)》を、ロシアの第三世代ISのデータをもとにして自身の手でフルスクラッチしたことにコンプレックスを抱いていることは知っている。

そもそも、簪が刀奈にコンプレックスを抱くようになった要因の一つがそれである。

そのため、自分もやればできることを、姉の付属品や劣化版ではないことを証明するための第一歩として、自分も同じことをしたい、しなければならない、という執着から、できる限り一人で仕上げたいという想いが強いのだ。

 

勇人もそれはわかっているので、あえて安易に誰かを頼れ、とは言わないし、言うつもりもない。

だが、さすがに行き詰まればそうも言っていられない。

自分たちが思いつく限りの手はすべて試した。

だが、自分たちは稀代の大天才である篠ノ之束ではない。

経験豊富なプログラマーでも、発明家でもない。

いきなり、ポン、とアイデアが出てくることはない。

だからこそ、借りることが出来るのならば、企業から知恵を借りることも厭う必要はない。他人の力を借りることを「恥」と思う必要もない。

それが勇人の考えだった。

 

そして、これが自分の力だけでできる限界ということも、簪は察していたらしい。

以前は、まだまだ頑張る、と意気込んでいたが、クラス対抗戦に間に合わなくなることを考慮したのか、今回は素直に勇人を頼ってきた。

 

「……わかった。お願い」

「オーケー、頼まれた」

 

簪の言葉に、勇人ははっきりと返し、携帯電話を取り出した。

 

------------

 

そのころ、IS学園の校門に、一人の小柄な少女が仁王立ちしていた。

 

「ここがIS学園ね……」

 

校舎を見上げながら少女はそう呟き、口角を吊り上げ、にやりと笑みを浮かべた。

そして、この校舎の中のどこかにいるはずの幼馴染(・・・)の名をつぶやいた。

 

「待ってなさいよ、一夏!」




月影勇人のロイス(本章終了時点)
(P/N、○は表側)

・ミカズチ(Eロイス)
・更識簪:○好意/恐怖
・更識刀奈:○恩義/恐怖
・布仏本音:○友情/無関心
・布仏虚:○恩義/無関心
・篠ノ之束:○興味/憤慨
・織斑一夏:庇護/○無関心
・織斑千冬:○尊敬/食傷
・篠ノ之箒:興味/○無関心
・セシリア・オルコット:○感心/憐憫


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2、クラス代表対抗戦
初めての実技授業


てなわけで、新章突入です
オリジナルと若干の相違があるとは思いますが、そこはご容赦ください


クラス代表が決定した翌日。

一組の面々はISスーツを着用してアリーナに集合していた。

 

「よし、今日からISの実技授業を行うことになるが、まずは実際にISの動きを見てもらう。月影、織斑、オルコット。前に出ろ」

 

千冬にそう命じられ、専用機持ちである三人が前に出た。

どうやら、最初の授業であるため、訓練機を使う前に実際どこまで動けるのか、実演させるつもりのようだ。

 

「ではまず、ISを展開してみろ。文句は受け付けん、さっさとやれ」

 

横暴、ともとれる命令ではあるが、授業時間という時間制限がある以上、一分一秒も無駄にはできない。

なにより、ここでごたごた言っても出席簿が脳天に降ってくるだけだ。

そんなことはごめんこうむりたい三人は、指示通り、自分のISを展開した。

 

なお、展開時間は早い順番にセシリア、勇人、一夏であり、弟には特に厳しい千冬は、その遅さを指摘し精進するよう 責してきた。

ISに関しては全くと言っていいほど触れたことがなく、搭乗時間が一時間にも満たない一夏に対してあまりといえばあまりなのだが、そこは触れないでおくのが無難である。

 

その後、千冬の合図で三人は一斉に上空へと飛んだ。

操縦時間が最も長いセシリアを先頭に、勇人、一夏の順で飛んでいると、地上にいる千冬から一夏に対して、通信機越しに再び叱責が飛んできた。

 

『何をしている、織斑!スペック上、白式は月影の蒼穹と大して差はないぞ!』

「す、すみません!!」

 

いきなり叱られて慌てて返した一夏だったが、そんなこと言ってもなぁ、と文句をつぶやいた。

生物の構造上、人間は空を飛ぶことはできない。

飛行機やヘリコプター、あるいはグライダーなどで飛ぶことはできるが、それらはすべて機械や風などの力を借りて初めて可能となるものだ。

人の姿のまま、何の補助もなく飛ぶことに対して、まったくイメージがわかないのだから、手こずるのも無理はない。

 

「えぇっと……前方に角錐をイメージするんだっけ?どうイメージすりゃいいんだよ……」

「イメージはしょせんイメージ。教科書通りにするより、自分が一番やりやすいイメージを模索することが建設的でしてよ?」

 

一夏に合わせてくれているのか、それとも一夏が追い付いたからなのか、隣を飛んでいるセシリアからそんなアドバイスが飛んできた。

そのアドバイスに、なるほど、とうなずきながら一夏は勇人に問いかけた。

 

「なぁ、勇人。参考までに聞きたいんだけど、お前はどんなイメージで飛んでるんだ?」

「ん?あ~……あれだ、モビルスーツとかアトムとかをイメージしながらかな」

「……思いっきりアニメじゃねぇか……てか意外だな、お前がアニメ見るなんて」

「作品ごとに好き嫌いはあるけどな」

 

なお、勇人が見ているアニメはだいたいがロボットものなどの熱血系だ。

そうなってしまったのは、簪に付き合わされて、ということは言うまでもない。

とはいえ、その中に勇人も好きな作品もあるため、簪とのアニメ鑑賞は嫌いではないことは確かだ。

 

「ですが、困りましたわね……どうしましょうか、勇人さん?」

「セシリィが教えるのがいいんじゃないか?操縦時間から言えば、俺とイチはどっこいだから」

「それなら……あ、あの勇人さんもぜひご一緒に……」

「すまん、こいつと一緒にってのはちとごめんだわ。個人的に思うところがあるから」

「お、おいおい……てか、俺、お前に何かしたか?いや、IS動かしちゃったこと以外で」

 

セシリアが顔を少し赤らめながらそう提案してきたが、勇人は即座にその提案を蹴った。

その返答に断られたセシリアは少しばかり残念そうに俯き、一夏は苦笑を浮かべ、自分が何をしたのか問いかけたことは言うまでもない。

むろん、勇人はその質問に返答することはなかったが。

 

たしかに、勇人は一夏を認めている。

第一例外や例外第一号からイチと呼び方を変えているのがその証拠だ。

が、認めることと許すことはまた別の話だ。

なにより、勇人の中ではまだ、一夏の専用機が倉持技研により製造されているということが許せずにいた。

むろん、一夏が悪いというわけではないが、それでも理解することと納得することは別物である。

 

『三人とも、聞こえるか?オルコット、月影、織斑の順に急降下と急停止の実演をしてもらう。目標停止地点は地上から十センチだ。ただし、月影と織斑は三十センチを目安にしろ』

 

不意に、三人のISに千冬からの指示が飛んできた。

一番手に指名されたセシリアは表情を引き締め、了解、と返答したのち、二人に微笑みかけた。

 

「それでは、お先に失礼いたしますわ」

 

そう告げた次の瞬間、セシリアは地面に向かって急降下し、言われた通り、地上十センチの地点で急停止した。

その様子をハイパーセンサーで確認した勇人は、降下姿勢に入り、地面に向かっていった。

センサーで指定された目標地点が近づいた瞬間、勇人は身をひるがえし、停止した。

が、ブレーキをかける地点を若干間違えてしまったようで、指示された地点よりも低い位置で止ってしまった。

 

「十五センチ……ブレーキが少し遅かったか?」

「わかっているならいい。慣れないうちはもう少し高く止まれるよう……」

 

目標地点に停止できなかった理由を自分なりに考察しつぶやくと、千冬が答え合わせをし、さらにアドバイスをくれようとした。

その瞬間、一夏が停止する予定の地点で、突如、轟音が響いた。

振り向いてみると、土煙を上げるクレーターと、その中に頭をグラウンドに突き刺した一夏の姿があった。

どうやら、急停止することができず、地面に激突。クレーターを作ってそのまま突き刺さってしまったらしい。

 

「……あの大馬鹿者が……」

「……これからあいつはイチじゃなしに猪と呼んだ方がいいのか?」

 

心配し、駆け寄っている箒とセシリアをよそに、千冬はあきれ顔で頭を抱え、勇人はジト目を向けながら、本気であだ名の改名を検討していた。

なお、その後、一夏は千冬の指示で一人、クレーターの処理に追われた。

ちなみに、勇人に助けを求めたが、にべもなく断られたことは言うまでもない。



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中国からの転校生

一夏がグラウンドにクレーターを作り、一人でそれを処理し、へとへとになって教室に戻ると、クラスメイトたちは間近に迫ってきているクラス対抗試合の話題で持ちきりになっていた。

 

「頑張ってね、織斑くん!!」

「期待してるよ!!」

『学食スイーツ半年無料パスのために!!』

「……あぁ、うん……頑張るよ」

 

クラスメイトのほとんどが一夏の優勝を望んでいる理由。

それは、優勝クラスに渡される学食スイーツを半年間無料で楽しめるフリーパスにあった。

女子は甘いもの好きが多いからこれを賞品にすれば、学校行事も面倒くさがることはないだろう、という思惑が見え隠れしているが、女子にとってそんな思惑は些細なものだ。

三ツ星級のスイーツを無料で、一年間食べ放題。

それこそがいまの彼女たちにとっての正義であるのだから。

 

「最善は尽くすけど、負けても文句言わないでくれよ?」

「大丈夫大丈夫!専用機持ってるの、一組のほかは四組だけだし!」

「四組の子も、今は事情があるとかで出場できないみたいだし、楽勝だよ!!」

 

何も知らないから言えることなのだが、クラスメイトのその言葉に勇人の額にうっすらと青筋が浮かんできた。

同時に、何がなんでもクラス対抗戦に間に合わせてやる、という意気込みも生まれたわけなのだが。

そんな話をしていると、突然、教室のドアが開き、その向こうから活発な声が響いてきた。

 

「その情報、古いわよ!!」

 

声がした方へ視線を向けると、小柄なツインテールの女子が仁王立ちしていた。

 

「そう簡単に勝てるとは思わないことね?なんせ、二組にも専用機持ちが転入してきたんだからね!!」

 

その少女を見た瞬間、一夏は目を丸くした。

 

「鈴?お前、鈴か?!」

「そうよ!久しぶりね、一夏」

 

どうやら、二人は知り合いらしい。

それも、名前で呼び合っていることからそれなりに親しい間柄のようだ。

 

「聞いたわよ、一夏。あんた、一組のクラス代表になったんだってね?」

「あ、あぁ……まぁ、成り行きでな。けど、それがどうかしたか?」

「別に?これから対戦する相手に宣戦布告をしておこうかと思っただけよ」

――ほぉ?ということは、こいつが二組の専用機持ち、というわけか

 

二人の会話を聞きながら、勇人はちらりと時計を見た。

間もなく授業開始五分前。

もうそろそろ、千冬がやってくる時刻だ。

となれば、最初に千冬の出席簿が振り下ろされる対象は、いつまでもほかのクラスの教室にいる人間であろうことは、簡単に予測できた。

久方ぶりの友人同士の再会に水を差すような無粋なことは、勇人もしたくはないのだが、一応(・・)、友人と認めた人間の知り合いにこれから降り注ぐであろう災厄について、忠告してやることにした。

 

「……元気娘、そろそろ自分の教室に戻った方がいいぞ」

「ん?……あぁ、あんたが二人目ね」

「それはどうでもいいから、さっさと戻った方がいいぞ。ここの担任、戦乙女(ブリュンヒルデ)だからな」

 

その単語に、鈴と呼ばれた少女は全身の毛を逆立て、またあとで来るから、と言い残し、そそくさと自分の教室へ戻っていった。

それと入れ替わるように、出席簿を手にした千冬が廊下から姿を現したことは言うまでもない。

 

------------

 

授業を終えて昼休みに入ったが、勇人は食堂へ行かず、整備室にいた。

当然のように、隣には簪がいて、一緒になってキーボードをたたいていた。

だが、その音もしばらくすると止まった。

 

「これで、いけるかな?」

「あとはテストあるのみ、か……アリーナの予約、確かめてみる」

「ありがとう」

 

どうやら、ひとまず満足いくところまではできたらしい。

学校支給の端末を操作し、勇人は放課後に空いているアリーナがないか、検索した。

 

「よし、残ってた残ってた」

「クラス対抗戦前なのに?」

「あぁ。まぁだから一枠だけしか残ってなかったんだろ」

 

簪は首を傾げながらの問いかけに、勇人は苦笑を浮かべながら返し、予約を入れた。

 

「予約完了だ」

「ありがとう。それじゃ、放課後にテストするけど……手伝って、くれる?」

「はっ、ここで投げ出すようなことはしねぇって。どうせなら本音も呼んで徹底的にやってやろうぜ」

 

もともと、更識姉妹と布仏姉妹以外の人間とあまり関わらないようにするための緊急処置のようなところもあったのだが、倉持技研に苛立ちを覚えてしまい、自分たちが後回しにした操縦者がどれほどの逸材であったか、そのISを完全に作り上げることができなかったことを技術者として後悔させてやりたい、と思ったから、こうして力を貸すことにしたのだ。

ついでに一夏も完成された簪の専用機と対戦してフルボッコにされてしまえばいいと思っているのは秘密である。

 

だが、そんな勇人の個人的な思惑はともかく、簪は勇人が刀奈に言われたわけでもなく手伝ってくれたことと何より好きな人を独占できることが嬉しかった。

時々、本音が一緒に手伝いに来るので正確には独占とは言いがいたのだが、そこはご愛嬌というものだろう。

 

「んじゃ、放課後な」

「うん!」

 

珍しく元気のいい返事をした簪に少し驚きながら、勇人は立ち上がり、教室へと戻っていった。



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稼働テスト、開始

少しばかりのオリジナル展開です
あくまで個人的に思うことなんですが、簪はもうちょっと一夏に対して怒ってもいいと思う
理不尽だろうけど、自分の専用機が凍結されたのは一夏が原因なわけだし
とうの一夏はあとからいろいろと知ることになるけど、自分がどれだけ世界に影響を与えてるのかまったくの無自覚状態なわけだし


終礼が終わり、勇人は予約時間になる前にアリーナへ向かおうとした。

 

「あら?勇人さん、どちらへ??」

「……セシリィか……アリーナにな」

「クラス対抗戦には出場しないのに、ですの?」

「ちょっと稼働テストの付き合いを頼まれててな……ってなんだよ、妖精でも見たようなその眼は」

「い、いえ……勇人さんはあまり人と関わるのがお好きではないと思っていましたので、その……稼働テストに付き合うなんて想像できなかったので」

 

セシリアの意見はもっともなものだ。

なにしろ、興味がない、行きたくない、意味が分からないの三言で一夏のクラス代表就任お祝いに出席しなかったほど、協調性がないのだ。

そんな勇人から、誰かの稼働テストに付き合うという姿が想像できるはずもない。

 

「まぁ、だろうな。人間が好きじゃないのは事実だし」

「……その割に、わたくしや本音さんとは普通に接してくれていますわね?」

「本音は世話になってる家の関係で昔から知ってるからな。お前と一夏(イチ)は……まぁ、気に入ったから、ってのがある」

 

実際、幼少期の経験から勇人はあまり人間が好きではない。そのため、一夏のように誰彼構わず接するようなことはしないし、馴れ馴れしくすることもない。

だが、気に入った人間であればそれなりに心を開くし、親身にもなる。

そうなる人間は幼いころから付き合いのある更識姉妹と布仏姉妹、そして彼女らの両親だけだったのだが、ここ最近では一夏とセシリアがそこに加わっていた。

 

「……まぁ、あ、あの、もしよろしければなのですが、その稼働テスト、わたくしもお付き合いしてもよろしいでしょうか?」

「俺は別に構わんが……あいつが許すかな」

「あいつ、とは?」

 

セシリアが首を傾げながら、稼働テストを行う生徒のことを聞いてきた。

隠すことでもないし、こじれさせるのも面倒なので、勇人はその問いかけに正直に答えることにした。

 

「四組の更識簪だ」

「ほ、他のクラスの方でしたの?!」

 

本音がよく話しかけてきていることは知っていたが、まさか他クラスに知り合いがいたとは思わなかったのだろう。

セシリアの驚愕の声に、勇人は若干、不機嫌そうに眉をひそめた。

 

「んだよ、その驚き方は」

「い、いえ……まさか他のクラスの方とは思わなかったので……」

「まぁ、普通に考えれば敵に塩を送るようなことはしないだろうが……今回に限ってイチは俺の敵だからな」

 

明らかな敵意と怒りを瞳に宿しながら、勇人はセシリアにそう返した。

その瞳に、勇人と一夏の間に、何か複雑な因縁があるような気がしたセシリアだったが、今この場でそれを問いただすことはやめることにした。

 

------------

 

アリーナに到着し、ISスーツを着用したセシリアはブルーティアーズを展開せずに勇人を待っていた。

ちなみにすぐ隣にはなぜかこの場にいた本音と、メガネをかけた水色の髪の女子がいた。

おそらく彼女が稼働テストを行う更識簪なのだろう。

そう予測したセシリアは、ひとまず、自己紹介と急に押し掛けたことを謝罪した。

 

「初めまして、ですわね?一組のセシリア・オルコットですわ。急に押し掛けてしまい、申し訳ございません」

「……いい。勇人から聞いてた……わたしは四組の更識簪。簪でいい」

「それなら、わたくしもセシリアで構いませんわ。よろしくね、簪」

「……うん」

 

少しばかり恥ずかしそうに、簪はセシリアにうなずいて返した。

そうしているうちに、ISスーツ姿の勇人がアリーナに入ってきた。

なぜか、その背後に一夏と箒を引き連れて。

 

「……本音とセシリアはともかく、その二人はどういうこと?」

「俺だって反対したんだが、こいつが半分強引に割り込んできやがった」

「うっ……いや、悪いとは思うけど、ちょっとくらい協力してくれても……」

 

一夏が若干うろたえながらも反論してきたが、背筋に何か感じたらしく、びくりと体を震わせた。

ギギギ、と壊れたブリキ人形のような音が聞こえるのではないかというほどゆっくりと、気配を感じた方へ視線を向けると、そこにはいかにも不機嫌そうな目をしている簪の姿があった。

彼女が一組の生徒ではないことはすぐにわかったが、なぜ自分がこんな殺気じみた視線を浴びせられなければならないのかわからない一夏は、困惑しながら簪に問いかけた。

 

「え、えぇと……俺、君に何かした?」

「した。あなたが直接というわけじゃないけど、した。おかげでものすごく迷惑している」

「そういうわけだ。イチ、アリーナを使う分には構わないが、俺とこいつの邪魔をするなよ?したら黒焦げにするぞ」

 

クラス代表戦の時に感じた、押しつぶされそうな殺気を覚えながら、一夏はうなずいて返した。

その瞬間、殺気は収まり、勇人と簪は一夏に背を向けた。

その背中を見送りながら一夏は、自分が覚えていないところで彼女に何かしてしまったのではないか、という疑問を抱いた。

だが、その疑問に答えを出すには、情報があまりにも少なすぎるため、一夏はこのことについて考えるのは一度やめることにして、トレーニングに集中することにした。



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出てきた課題と和解の始まり

あけましておめでとうございます
新年を迎えようとしているというのにまだヒロインが出そろっていないというこの状況……
まぁ、ハーメルンで注力しているのが別の作品だし、某なろうにもオリジナルを執筆してるし、仕方ない、のか?

いずれにしても、本年も拙作をよろしくお願いします


セシリアの電撃参戦と一夏のアリーナ乱入という多少のハプニングはあったものの、簪はようやくこぎつけた打鉄弐式の稼働テストに気合が入っていた。

途中、気まぐれに勇人にプログラミングを手伝ってもらったり、勇人が所属する企業「ラインフォルト」からデータを借りるということはあったものの、打鉄弐式は間違いなく自分の力で作り上げたものだ。

早く動かしてみたい、そう思うのも無理はなかった。

 

《かんちゃん、準備オーケー?》

「大丈夫、いけるよ。本音」

「こちらも準備完了。いつでもいける」

《観測と記録はお任せください。ばっちり記録しますわ》

 

ISの通信でオペレートを担当してくれることになった本音の問いかけが聞こえ、それに答えるとすぐに勇人の声とセシリアの声が聞こえてきた。

通信機能に問題はない。

後は、駆動に問題があるかないか。

自分が姉のお飾りではないことを証明できるかどうか。

それだけだ。

 

「……行きます!」

 

簪がテスト開始を宣言した瞬間、待機状態の姿である右手中指のクリスタルの指輪が光を放った。

その光がおさまると、打鉄に似たISをまとった簪の姿がそこに現れた。

どうやら、起動自体は問題がないらしい。

次に、腕と足、手の動きに問題がないか操作したが、こちらも問題ないようだ。

 

そして、いよいよ。

 

「準備運動は終わったか?」

「うん……いつでも」

「オーライ」

 

勇人が通信で返した瞬間、キン、と小さく金属音が響いた。

どうやらセシリアがコイントスをしたらしい。

コインが地面に落ちたら、本格的な稼働テストのスタート、ということのようだ。

 

コインが地面に落ちるまでの時間が長い。

いや、本来なら十秒もかから落ちるのだろうが、なぜかその間が長く感じられた。

それだけ集中しているということなのか、それとも高ぶっているということなのか。

その答えを見出すことができないまま、簪の耳に再び、チリン、という金属音が聞こえてきた。

 

「……っ!!」

 

それと同時に、簪はブースターを起動し、勇人との間合いを一気に詰めた。

間合いを詰めながら、近接武器である超振動薙刀《夢現》を呼び出し、勇人に斬りかかった。

勇人も二振りある刀のうちの一振り、《布津御霊》でその斬撃を受け止めた。

 

「ブースターと武装の呼び出しは問題ない」

「夢現の取り回しはどうだ?連続攻撃を試してみてくれ」

「わかった」

 

簪はそう答えながら勇人を押しのけ、薙刀の石突を思い切り振りあげてきた。

紙一重でそれを回避した勇人は、逆手でもう一振りの刀《十束》を引き抜いた。

だが、簪はひるむことなく、石突を槍のように何度も突き出してきた。

勇人はその一撃一撃を受け流し、回避し続けた。

 

「連続運動も問題なし……近接武器とその駆動については問題ないみたい」

「オーケー。なら今度は《春雷》と《山嵐》だな」

 

鍔迫り合いから間合いを離れ、遠距離装備のテストに移行するため、簪は《夢現》を量子変換で拡張領域に収納し、背中に搭載されている荷電粒子砲《春雷》を展開した。

 

「展開までは問題なし……エネルギーの充填にも誤作動なし……勇人、いくよ!」

「あぁ、来い!」

 

勇人の答えに数秒遅れて、簪は勇人にむかって《春雷》を放った。

青白い光線がまっすぐに勇人へと向かっていったが、勇人のほうから放たれた紫電の矢に相殺されてしまった。

ハイパーセンサーで勇人を注視すると、いつの間に構えたのか、蒼穹に搭載されている遠距離用武装《祓之梓弓》があった。

 

「《春雷》も問題ない。欲を言うならもうちょっと充填(チャージ)を早くしたいかな」

「十分、早いと思うがな」

 

確かに、エネルギー充填という点で《春雷》は《祓之梓弓》に劣る。

だが、それは偏に勇人が"人を超えた化け物(オーヴァード)"であり、異能で発電した電力もエネルギー充填にも使用しているからであって、一般的なISに搭載されている荷電粒子砲とひかくしても《春雷》の充填時間は早い方だ。

要するに比較対象が間違っているのだ。

だが、そのことを伝えたとしても、簪が諦めるとは到底思えなかった。

なので、ひとまず、改良の余地あり、ということにとどめさせた。

 

その後、最大武装である《山嵐》のテストも行ったのだが、マルチロックオンシステムがうまく起動せず、エラーを起こしてしまい、発射することができなかった。

 

------------

 

「うぅ~……」

「まぁまぁ、かんちゃん。他のところはうまくいってたんだから」

「そうはいうけど……せっかく勇人にも協力してもらったのに……」

 

アリーナ使用時間終了間近。

せっかく来たのだから、という理由でセシリアが勇人と模擬戦闘を行っている間、簪は一番力を入れていた《山嵐》が使えなかったことに落ち込み、うなだれていた。

その簪を、本音が隣で慰めていた。

 

「でも他は全部かんちゃん一人で作れたじゃない。荷電粒子砲を使えるところまで一人でできたのってすごいことだと思うけどな~」

「けど、そこは勇人のデータを借りたし……」

 

実のところ、マルチロックオンシステムを搭載したミサイルポッドは、簪が好きなロボットアニメから構想を得ていたので、再現したい、という欲望と浪漫を詰めたものだった。

それだけにその部分だけでもしっかり実用化できてほしかったのだが、結果はご存知の通りというわけで。

こんな体たらくでは、姉に認めてもらうなんてことは夢のまた夢か、そんな考えが頭をよぎった時だった。

 

「データを借りて、ある程度の部分を企業が造ったものだとしても、たった一人で完成に近い状態まで仕上げたことは十分誇ってもいいと思うぞ?なぁ、セシリィ」

「えぇ。少なくとも、わたくしにはできない芸当ですわ」

 

そもそも、簪は勘違いをしている。

ISに限らず、機械というのは、本来、複数の企業が様々なパーツを作り、組み合わせ、ようやく完成するものだ。

特に、外側(ハード面)よりもプログラム(ソフト面)は多くのシステムエンジニアが様々な試行錯誤の末に作り上げるものであり、たとえ、どこかからデータを流用したとしても、すぐに仕上がるものではない。

 

だというのに、簪は打鉄弐式の、特にソフト面の大部分をたった一人で作り上げてしまったのだ。

むろん、マルチロックオンシステムは企業のデータを借りたが、それ以外のプログラムはすべて簪一人で作り上げたものだ。

その部分において、簪はすでに刀奈に追い付いているのだ。

 

「……でも……」

「お前はその点、どう思うんだ?サボり魔の生徒会長さん」

「……え?!」

 

突然、勇人がアリーナの出入り口の方へ視線を向け、そう呼びかけた。

生徒会長、という単語に反応し、簪は思わず勇人が見ている場所へ視線を向けた。

そこには、少し気まずそうに物陰からこっそりとこちらを見ている更識生徒会長の姿が、更識楯無()の姿があった。



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埋まる、姉妹の溝

簪の様子が気になったのか、刀奈がアリーナののぞき見をしていたことに気づいた勇人は、影でこそこそしていた刀奈に声をかけた。

隠れている意味がなくなってしまった刀奈は、気恥ずかしそうに壁の影から出てきた。

 

「あ、あはは……ばれちゃってたわね……」

「たく、仕事サボるなよ会長……また虚に文句言われっぞ」

「うっ……し、仕方ないじゃない!!簪ちゃんが一人でISを完成させたんだもの!見てみたいって思うのは人情でしょ?!」

 

なんだかんだ、簪のことが大切な刀奈は少しばかり過保護気味というか、過干渉になりがちな面があった。

だが、彼女が楯無の名を襲名し、簪を突き放すようなことを言ってしまってから、互いに距離感をつかめずにいるらしく、姉妹間の会話がなくなっていたことに付き人である布仏姉妹と、二人の幼なじみである勇人は気づいていた。

どうにかきっかけがつかめれば、とは思っていたが、きっかけというものはなかなか見つけることができないもので。

 

刀奈は刀奈で、きっかけをつかみたくても亀裂を生んだ原因が自分の出した言葉にあることをわかっている手前、気まずさのほうが勝ってしまい、動くに動けず、簪は自分が無能ではないことを証明するために打鉄弐式をくみ上げることに夢中だった。

すぐ近くで見ていた布仏姉妹と勇人も、さりげなく二人を和解させようと動いていたのだが、なかなか動くことができず、結局、ずるずると今までろくな会話をすることなく過ごしてきた。

だが、打鉄弐式の完成が長く続いた冷戦を終わらせるきっかけになってくれそうだった。

 

「お姉ちゃん……見てみたいって、わたしが造った、ISを?」

「えぇ……だって、倉持が途中で放棄したのを簪ちゃん一人で頑張って仕上げたんだもの!」

「……」

 

その言葉に嘘がないか、簪は少しばかり警戒してしまった。

が、距離を置いてしまっていたとはいえ、血のつながった姉妹だ。その言葉に嘘がないことは、なんとなく察しがついた。

だが、その沈黙は刀奈には耐えがたいものだったらしく、まっさきに口を開いた。

 

「……簪ちゃん、頑張ったわね。ほんとうに」

「……お姉ちゃん……」

「それから、ごめんね。あなたにあんなこと言ってしまって」

 

あんなこと、とは、二人の間に溝ができるきっかけになってしまった言葉のことだ。

本来ならばもうしばらく先になるはずだった楯無襲名、そこに付随する血にまみれた仕事。それらの出来事は多感な思春期の少女を変えるには十分すぎた。

そんなものを、大切な妹には背負わせたくない。

そう思ってしまったから出てきた言葉が。

 

「あなたは、そのままで、無能なままでいなさい。お姉ちゃんが全部やってあげるから」

 

だった。

少なくとも、自分よりも能力がないことがわかれば、自分に万が一があったときに次の楯無として指名されることはないし、そうでなくとも、政治的な動きに巻き込まれることはない。

そう思っての言葉だったのだが、彼女のその思いとは別に、簪は自分は無能ではないことを証明するために、胸を張って更識楯無の妹だと言うために努力してきた。

自分の思惑が外れてしまったこともそうだが、何よりも妹を追い詰めてしまっていたことを、刀奈は後悔していていた。

 

「……お姉ちゃん。わたし、怒ってるから」

「……うん……」

「無能だって言ったこともだけど、心配だからって本音をつけたこととか。苦労が倍になったんだけど」

「う……ん~??本音ちゃんがついてたのは本音ちゃんが簪ちゃん専属の使用人だからだと思うんだけど」

 

的外れなことを怒られ、さすがの刀奈も困惑してしまったようだ。

そのおろおろとした様子に、簪はくすくすと意地悪な笑みを浮かべていた。

わかっていたわざとそういった、ということに気付いた刀奈は、顔を真っ赤にした。

その光景は、立場こそ逆だが、かつての更識姉妹が見せていた光景であることを知っている本音と勇人は、ひとまず、わだかまりはなくなったと判断した。

 

「……連れ戻しに来たのはわかるが、もうちっと姉妹だけにしといてやってくれねぇか?生徒会書記さんよ」

「やはり、わたしにも気づいていたわね」

「え?……あ、お姉ちゃん」

「へ?……い、いつの間に……」

 

気配に気づいた勇人が声をかけると、刀奈が出てきたときと同じように、入口の影からそっと顔をのぞかせているヘアバンドとメガネが特徴的な少女、布仏虚がいた。

虚さすがに空気を読んでいるらしく、ため息交じりに承諾した。

 

「わかっています……ですので、勇人さん。代わりに手伝ってください」

「おっと、藪蛇だったか……」

 

普段から勇人は自分に割り振られた生徒会の仕事はきっちりとこなしている。

そのため、比較的余裕があり、基本ぐーたらな本音の仕事も手伝っている。

いまさらもう一人分の仕事が増えるくらい、大差ないと、虚は考えているのだろう。

 

基本的に他人には薄情だが、更識と布仏には育ててもらった恩と助けられた恩がある。

これが一夏やほかの生徒、あるいは千冬であれば、何が何でも断ろうとするが、今回は虚からの頼みであることと、刀奈の手伝いという二つのことから、藪蛇と口では言いつつも手伝うことにした。

 

「本音、セシリィ連れて戻っててくれ。俺はこのまま生徒会室に行くから」

「ん~、りょ~かい」

「何を勝手なことを……あなたも来るのよ、本音」

「うぇ~っ?!」

 

せっかく逃げられると思ったのに、と心中で叫びながら、本音は虚に襟をつかまれ、まるで猫のように持ち上げられるとそのまま生徒会室へ連行された。

その光景を見ていたセシリアは、あまりの早業に呆然としていた。



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密かに育まれた友情

簪と刀奈の仲直りを見届け、その代償として刀奈がさぼった仕事を片付けて、ようやく寮に戻ってきた勇人はセシリアとともに自販機の前にいた。

あのあと、その場にいたセシリアも生徒会室までついていき、勇人と本音の仕事を手伝ったのだ。

 

本来、生徒会に所属していないセシリアがそんなことをする必要はなかったのだが、あの場に一人だけでとどまることに抵抗があったらしい。

何より、本人が。

 

『困っているものに手を差し伸べること、それは貴族として当然の義務ですわ!』

 

と言って譲らなかったので、諦めて手伝ってもらうことにした。

"貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)"から手伝いを申し出てきたとはいえ、結果的に早く終わったので、そのお礼として、自販機の飲み物をおごることにしたのだ。

 

「ほい。ミルクティーでよかったか?」

「えぇ。ありがとうございます」

 

差し出されたミルクティーの缶を受け取り、セシリアはお礼を言って近くにあったベンチに腰掛けた。

勇人も何か買おうと自販機の前に立った時、自販機の影から何かがすすり泣く声が聞こえてきた。

無視しようかとも思ったが、さすがに耳障りになってきたので、文句の一つも言ってやろうと思い、自販機の影を覗き込んでみると、見覚えのあるツインテールのちび……。

 

「誰がドチビよっ!!」

「俺は何も言ってないぞ」

 

……あの、地の文(ナレーション)に文句言われても困るんですが……

 

何かの声が聞こえたらしく、叫ぶ少女に、勇人はため息をつきながら言い返した。

その声に、先ほどまで泣いていたツインテールの少女は勇人の存在に気づいたらしく、じとっとした目を向けてきた。

それにひるむことなく、勇人は睨み返していた。

だが、いつまでもにらみ合っていては埒が明かないので、勇人のほうが折れることにした。

 

「はぁ……ったく、いつまでもそこにいるつもりだ、娘娘(にゃんにゃん)

「むっ……なによ、文句あんの?」

「あるから言ってる」

 

少女の言葉に言い返し、勇人はウーロン茶を選び、少女に差し出した。

さすがに面食らったのか、少女は目を丸くして勇人のほうを見ていた。

 

「いらねぇなら俺がもらうが、なんか飲んだ方が落ち着くだろ」

「……ありがと……」

「よければ、何があったのか聞かせていただけません?鳳鈴音(フォン・リンイン)さん」

 

鈴音というのが彼女の名前らしい。

その名前に聞き覚えがあった勇人は、転入してきた中国人の情報を思い出した。

 

「あぁ、なるほど。中国の代表候補か」

「えぇ……そういえば初めましてだったわね。二人目の、月影勇人だったかしら?」

「あぁ」

 

ぶっきらぼうに返し、勇人は本来の目当てである炭酸水を購入し、鈴音の隣に座った。

一方の鈴音は、勇人から受け取ったウーロン茶を手の中でいじりながら、沈黙を保っていた。

勇人はそもそもあまり他人と関わる気がないため、話しかけるようなことはしなかったし、セシリアはセシリアで、どう切り出したらいいのかわからず、おろおろとしていた。

その沈黙に耐えられなかったのは、見た目の通り活発な鈴音だった。

 

「だぁぁぁぁぁぁっ!!もう!!なんであんたらだんまり決め込んでんのよ??!!」

「決め込んでいるといわれましても、何を聞けというのです?」

「面倒だから話したくない」

「って、イギリスのあんたはともかく、二番目のあんたは何なのよ!!」

 

どうやら、積もる話のせいで一夏から勇人のことを聞いていなかったらしい。

自分で説明するのも億劫だが、気に入った人間以外はどうでもいいと考えていても、礼節を欠くような愚行はしないのが月影勇人という男だ。

そっとため息をついてから、鈴音の言葉に返した。

 

「俺はできる限り他人と関わり合いたくないからな。さっきお前さんに話しかけたのはすすり泣きがうっとおしかったからだ」

「なっ?!」

 

さすがに絶句した。

一応、中学に上がってからの数か月までは日本に滞在していた鈴音は、その間に一夏だけでなく、一夏の二人の親友とも友好関係を築いていたし、友人とまでは行かなくとも、交流を持った男子はいる。

だが、その中で勇人のような人間は少なくとも見たことがない。

 

「あ、あ、あんたね!女の子が泣いてんだから、もうちょっと気に掛けるとか……」

「……悪いが、俺はこれが精いっぱいだ」

「……まぁ、いいわ。あんたも色々あったんだろうし……で、そっちのあんたはイギリス代表候補だっけ?」

「えぇ。改めて、セシリア・オルコットですわ」

「そ。よろしく……ねぇ、そういえば二人とも、一夏と同じクラスだったわよね?」

 

勇人のぶっきらぼうさに納得し、セシリアと改めて自己紹介をすると、唐突に一夏のことを聞いてきた。

 

「えぇ……もしかして、一夏さんのことでなにか?」

「……まぁ、そんなとこね……ねぇ、月影。もし女の子に『わたしが毎日、お味噌汁作ってあげる』って言ったらどうとらえる?」

「……唐突だな、おい。何の意味がある?」

「いいから」

「……そりゃプロポーズだろ、普通に考えりゃ」

 

普通なら、男のほうから「毎日味噌汁を作ってほしい」と頼むところを、女の口から、ということは、鈴音のほうから切り出したのだろう。

その相手も、大方検討はついていた。

 

「……まさか、イチの奴、味噌汁おごってくれる、とか勘違いしたのか?」

「味噌汁じゃなくて酢豚だけどね……ほんと、あいつの思考回路、どうなってんのよ……」

「そうですわね……日本人は奥ゆかしいとは聞いていますが、一夏さんのそれは奥ゆかしいというよりも……」

 

鈍感。朴念仁。

三人の意見が一致した瞬間、誰からとなく笑みがこぼれていた。

と同時に、その笑みは時代劇の一幕でも見ているかのような悪いものへと変わっていき。

 

「ねぇ、あいつもうぼこぼこにしてもいいかしら?」

「えぇ。わたくしは特に何も思いませんわ」

「同意。むしろぼこぼこにしたほうが頭の回線がつながってちょうどよくなるんじゃないか?」

「それは同感ね……ふっふっふ、覚悟してなさいよ、一夏……乙女の心を踏みにじった罰は重いんだからね!!」

 

どうやら今度のクラス代表対抗戦で一夏を打ち倒すことでうっぷんを晴らすことにしたらしい。

もともと一夏がどうでもいいセシリアと、むしろ彼に巻き込まれてストレスを抱えている勇人は全面的にそれを応援するのだった。

 

なお、その後、鈴音は二人に自分を「鈴」と呼ぶことを許したそうな。



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部屋に戻ると……

まぁ、何が起こるかはお察しの通り
てか、楯無さんの"あれ"ってデフォルトなのかはともかくとして、かなりきわどいことしてるって自覚……あるんだよな、たぶん

そうでなかったら薄い本が厚くなりそうな気がするんだけど……


鈴音とセシリア、そして勇人の三人が密かに友情を育んだその日の夜。

三人はそれぞれの部屋に戻っていったのだが、勇人だけはドアの前で動きを止めていた。

なんとなく、嫌な予感がしたのだ。

もっと言えば、このドアを開けたら一夏がやらかしそうな展開が待っている、そんな予感が。

 

――どうすっかな……開けなかったら野宿ってことになりそうだし、開けたら開けたで精神的に疲れるような気がする……

 

こういう時に感じる予感というものは、だいたい、楯無、もとい刀奈が自分に悪戯を仕掛けてくる時だということは経験的に知っている。

だが、いまは慣れないことをしたために精神的に疲弊しているため、普段なら笑って流せるのだが、そんな余裕はない。

最悪、苛立ちのあまり異能を使ってしまう可能性もある。

 

――まぁ、そうなったらそん時はそん時か……むしろそうさせたあいつが悪い。うん、俺は悪くねぇ

 

自分の中でそう結論付けて、勇人はドアを開いた。

すると、案の定。

 

「おかえりなさい!ごはんにする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?」

「ご……ごはんにする?お風呂に、する?そ、それとも……わ、わた、しに……」

「……」

 

羞恥心で頬を赤く染めながら、裸エプロンでそんなことを言う簪の姿があった。

最後まで聞かずに、勇人は静かにドアを閉めた。

目頭を押さえ、長くため息をつき、爆発しそうになる怒りを抑えながら、再びドアノブに手をかけ、ドアを開けた。

だが、やはり。

 

「ご、ごはんにする?お風呂にする?そ、それとも……わ、わ、わたし?」

「ここは簪ちゃん一択よね?」

「……簪、楯無、とりあえず正座」

「え?」

「あぅぅ……」

「い、い、か、ら、せ、い、ざ、し、ろ!!」

 

背後に青白い火花をばちばちと鳴らし、さながら風神雷神図屏風に描かれる鬼神のような顔で二人をしかりつけた。

比喩でもなんでもなく、実際に勇人の周囲には青白く細い光がまるで蛇のように踊っていた。

この状態になった時の勇人は、いくら言い訳をしたところで聞く耳を持たない。

それを経験的に知っている刀奈と簪は、静かに従うことにした。

 

「お前ら馬鹿なの?特に刀奈!仲直り出来て舞い上がってんのはわかってるが、ちっとは節度を持て。つか痴女か?痴女なんだな?お前のことだからその下は水着なんだろうが、よく男がいる部屋で裸エプロンなんぞやろうと思うな?襲われたいのか?襲われたいんだな?だったら今すぐその格好のままどっかの国のスラム街に放り込んでやるか?」

「え、ちょ、ま、待って待って!!」

「……うん、お姉ちゃんはやっぱり一度痛い目を見た方がいいと思う」

「簪ちゃんまでひどい!!」

「てか、簪、お前もお前だ。なんでこいつの馬鹿に付き合う?」

「え、えと……ごめんなさい」

 

と、いつもならばしないはずの説教が数分間続いた。

もっとも、簪に対しては巻き込まれたというよりも、刀奈に押し負けたという側面のほうが強いということは、長い付き合いでわかっていたため、あまり長くはならなかったが。

それはともかくとして、忠告程度に収まった簪に対し、みっちり絞られてしまった刀奈は口や耳から靄を出しながら呆けていた。

が、そんなことは自業自得であり、自分の知ったことではないと言いたそうな態度で、勇人は簪の方へ視線を向けた。

 

「で?なんで刀奈がここにいんだ?」

「え?……あぁ、さっき簪ちゃんが言ってたけど、仲直りできたからお礼を言いに……」

「……で、お礼ついでに男なら喜ぶだろうとはだ――もとい水着エプロンでお出迎え、と?」

「新婚さんみたいでドキッとしたでしょ?」

 

その一言と悪戯に成功した子供のような笑みに、勇人は再び背後に電流を流し、小規模な帯電現象を引き起こした。

それを見た刀奈は慌てふためきながら謝罪した。

 

「まぁ、用事の半分はそれなんだけど」

「半分ってことはまだあるのか?」

「えぇ……ちょっと簪ちゃんにも協力して欲しいことがね……まぁ、ダメ元なんだけど」

 

ダメ元、という単語で、勇人と簪はだいたい予想が出来た。

 

「織斑くんにIS操作の練習……」

「ごめんこうむる」

「やだ」

「……だと思ったわぁ」

 

まだ途中までしか言っていないというのに、即座に返ってきた答えに刀奈は苦笑を浮かべた。

最初にダメ元と言っていたように、実のところ、刀奈は二人から色よい返事が来ることなど期待していなかった。

勇人は元々、一夏に対してあまりいい感情を抱いていないし、言ってみれば人生設計を狂わせた張本人だ。

簪も、一夏が悪いわけではないことはわかっていても、専用機の開発にストップがかかった一番大きな理由が彼であることに変わりないため、割り切ることが出来ず、やはりいい感情を抱いていない。

 

そんなわけで、たとえ、千冬から命じられたとしても、絶対に一夏の練習に付き合うことはないと刀奈は予想していた。

だが、まさか、練習の単語が出てきただけで、事態を察するとは思わなかったらしく、どれだけ一夏はこの二人に嫌われているのやら、と苦笑を禁じえなかった。

 

「ま、いまはまだいいわ。けど、忘れないでね?彼と勇人、二人が置かれている環境の中で一番危険なのは彼の方だってこと」

世界最強(織斑先生)ISを作った天災(篠ノ之博士)って後ろ盾があるのに?」

「俺とあいつじゃ、どっちに手出ししたら深刻なやけどすっかは目に見えると思うが?」

「政治的には、ね?けど、政治を度外視したら」

「……なるほどな」

「お姉ちゃんが言いたいのって、もしかして女権団がらみのこと?」

 

簪の問いかけに、刀奈は神妙な面持ちでうなずいた。

女権団、正式には女性権力団体。

ISが開発され、その有用性が証明されてから台頭した権利団体ではあるが、女尊男卑の風潮を生み出した、いわば張本人である。

勇人がISを使えるようになってからしばらくの間、謎の集団からの襲撃を受けたことがあったが、そのほとんどが彼女たちだった。

 

「なるほど……そのうち亡国機業にイチを排除するよう依頼してもおかしくない、か」

「えぇ。もちろん、あなたも危険であることに変わりはないわ。けれど、戦闘能力からいけばあなたは確実にわたしとタメを張れるから、むしろ織斑くんのほうが危ないのよね」

 

試合、という枠組みからいけば、たしかに一夏は目を見張る成長力を持っている。

だが、試合ではなく実戦となれば、おそらく、いやほぼ確実に大怪我では済まなくなるだろう。

これはIS学園に通う一般生徒にも言えることだ。

だからこそ、いざという時のために実戦慣れをしておいてもらいたい、というのが刀奈の思惑なのだろう。

それを察した勇人は、そっとため息をつきつつ。

 

「……必要な時が来たら、な」

 

と、しぶしぶといった具合に了承した。

もっとも、その必要な時、というのがすぐそこまで近づいていることなど、ここにいる三人はまったく知ることはなかった。



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クラス代表対抗戦~謎のIS、乱入~

例によって、一夏と鈴音の戦闘描写、それから無人ISとの戦闘は削ります
なお、オリジナル展開として、セシリアと簪の間にPロイス友情が芽生えとります
Nロイスは……考えます(汗



鈴音の一夏へのプロポーズが、なぜか「酢豚をおごる」という約束に変換されていたことを愚痴られてから数日。

IS学園はクラス代表対抗戦の日を迎えた。

 

本来は簪も出場する予定だったのだが、刀奈からのアドバイスを受けて、システムの調整を行っていた結果、結局、弐式の完成を間に合わせることができず、出場を見合わせることになった。

そのため、当初の予定通り、簪は不参加、ということになり、現在、本音とともに勇人の隣にいた。

 

ちなみに三人のすぐ近くには箒とセシリアの姿もあった。

セシリアはどうやら簪が位置を教えたらしい。

打鉄弐式の稼働テストの時から、二人ともそれなりに打ち解けたようだ。

軽く挨拶を交わした二人だったが、アリーナのほうを見て、少しばかり顔をひきつらせた。

 

「な、なぜか険悪な雰囲気がしますわ……鈴さん、以前お会いした時よりも雰囲気がとげとげしてません?」

「うん……なんで、始まる前からすごく険悪なムードなんだろう……?」

「どうせ、イチのせいだろ。あいつ、かなり鈍いから」

「鈍いんだ?」

「えぇ。もはや朴念仁の神、『朴念神』ってレベルですわ」

「……まったくだ……」

「うんうん……しののん苦労してるもんね~」

 

ひどい言われようではあるが、一夏に惚れている箒はそっとため息をつき、本音は苦笑を浮かべながら二人にそう返した。

そうこうしているうちに試合が始まり、一夏は先手必勝とばかりに鈴音にむかって突進を仕掛けた。

だが。

 

「甘いっ!」

「なっ??!!」

 

突然、一夏の横を見えない何かがかすめた。

紙一重でその何かを回避した一夏だったが、鈴音の攻撃は止まらない。

謎の攻撃を前に、一夏はきりきり舞いさせられるという光景をアリーナ席で見学する観客全員に目撃されることとなった。

 

「ん~?あの攻撃はいったい……??」

「おそらく、衝撃砲ですわね」

「空気を空間ごと圧縮してって、あれか?」

「うん……いわゆる空気砲みたいなものって思ってくれれば十分。けど、ここまで高い完成度のものを作れたんだ」

 

セシリアも簪も驚愕で目を丸くながら、鈴音のIS《甲龍》のスペックの高さと中国の技術力、なによりそれを自由自在に使いこなしている鈴音の力量を純粋に称賛していた。

唯一、一夏の勝利を祈っている箒だけは、心配そうなつぶやきを漏らしていた。

 

「弾丸はおろか砲身すら見えない攻撃……いったいどう対処すればいいんだ?」

「……攻略法がないわけじゃないようだな」

「「え?」」

「うん~?」

「そうですの?」

 

勇人の言葉に、簪と箒、本音は首を傾げた。普通、目に見えない銃身と、そこから発射される弾丸を回避するなどという芸当は、おそらく地上最強と謳われる織斑千冬(ブリュンヒルデ)か、無手を以って最強と言わしめる流派を受け継ぐ伝説の一族くらいにしかこなせない。

だが、それは初見では、という話だ。

現に、初撃こそ命中したかけたものの、一夏は先天的に持ち合わせているのであろう危険回避能力で残りの砲撃をすべて、紙一重のギリギリで回避してのけている。

 

「参考までにうかがいますが……その攻略法というのは?」

「視線」

「……まさか、標的を視線で追っている、と?そこから狙いを見極める、ということですの??」

「そういうこと」

 

本来ならばロックオンシステムを使うところなのだろう。だが、ISの機体の問題なのか、それとも衝撃砲の武器としての特性上の問題なのか、いずれにしても、対象を目視する、というアナログ対応をするしか、照準をあわせることができないようだ。

そうなると、必然的に相手が見ている先に注意していれば、いくら不可視の攻撃であるとはいえ、回避することも可能、ということになる。

なお、それをできるレベルになるまでには相応の鍛錬が必要になる。それができる、ということは、かなりの実力を有している、ということの裏付けでもある。

そうこうしているうちに、アリーナの二人が本気でぶつかり合いを始めようとした。

 

「……っ?!伏せろ!!」

 

その瞬間だった。

突如、アリーナに何かが乱入し、アリーナにいた一夏と鈴音を攻撃し始めた。

突然の乱入者に、観客席にいた生徒たちは混乱し、避難のために入口へと殺到したのだが。

 

「あ、開かないっ?!」

「なんで?!どうなってるのよ!!」

 

避難口として指定されているゲートが完全に閉ざされ、生徒たちはパニックに陥っていた。

 

「……ちっ、どこのどいつか知らんがはた迷惑なことを……簪!!」

「わかってる!やってる!!」

 

勇人に声をかけられる前に、簪は持ってきていたデバイスを使い、学園のシステムに侵入し、ゲートをロックしているプログラムの解除に取り掛かっていた。

数分もするとロックが解除され、ゲートが開くと、我先に、とばかりに生徒たちはアリーナを脱出し始めた。

だが、まだパニック状態にある以上、二次災害が起こる可能性は否定できなかった。

 

「セシリィ、妹!お前さんらはゲートの外に出ようとしてる連中の避難誘導を!!本音と簪は俺と一緒に移動できない重傷者がいないか確認!」

「「「は、はいっ!」」」

「わ、わかった!」

 

周囲がパニックにある中で、勇人の厳しい声に四人が返すと、行動を開始した。

そんな中、《蒼穹》に個別通信が入ってきた。

 

『勇人くん、いまどこ?!』

「楯無か……アリーナだ。簪と本音と一緒に避難しそびれたやつがいないか確認に向かっている」

『三人とも無事なのね?』

「いまのところは……で?どこの馬鹿だ、ありゃ」

『わからないわ。こっちも調べてるし、先生たちもどうにか通信を試みてるけど、まったく答える様子がないの』

 

どうやら、更識の情報網にも引っかからなかった存在が、IS学園に襲撃してきたようだ。

ひとまず、アリーナにいる謎のISは一夏と鈴音に任せることにして、勇人は生徒の避難と安全確保を優先することを楯無に伝え、通信を切り、簪と本音とともに行動を再開した。

 

「どうだ?」

「こっちは誰もいなかった」

「こっちも大丈夫~」

「こっちにもいなかった。そんじゃ、俺らもここを離れよう!」

 

数分して、合流した簪と本音が避難完了を伝えると、勇人は二人とともにアリーナを後にした。

三人がアリーナを離れてから数分後。

一夏と鈴音のコンビはSEの大半を犠牲にして敵性ISに大きな損害を与え、セシリアの狙撃により、ISは沈黙。

一連の襲撃事件は幕を閉じるのだった。



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クラス代表対抗戦~後始末~

てなわけで一気に後日談
理由はそこまで書くこともなかったってだけです
さっさとシャルロットとラウラも出したかったし


謎のISの襲撃により、パニックに襲われたアリーナの観客席だったが、勇人の咄嗟の判断とそれに協力した専用機持ちたちと生徒一名の的確な行動と指示により、数名の重軽傷者は出たものの、死亡者はゼロという数字だった。

だが、事件がすべて解決したわけではない。

 

まず、襲撃してきたISだが、驚くべきことに、このISは製造不可能と言われている無人機だった。

さらに言えば、コアナンバーも不明。

ここまでくると、調査を行っていた千冬には誰がこの事件に関与しているのか、すぐに察することができた。

 

――まったく、お前は何を考えているんだ?束……

 

彼女の脳裏に浮かんでいたもの。それは、ISの開発者であり、箒の実の姉、そして自分と一夏の幼馴染でもある天災的な天才、篠ノ之束のことだ。

おおかた、お気に入りである一夏の成長を促すためにこんなことをしでかしたのだろう。

はた迷惑もいいところだ、とため息をつきながら、ここ最近、何を考えているのかまったくわからなくなってきた束の想い、千冬はため息をつくのだった。

 

――お前のことだ、一夏のISデビューを華々しいものにしてやろうと画策してのことだろうが……そうはいかんし、わたしも構ってやることはできんぞ

 

心中で、ここにはいない幼馴染に告げながら、千冬は付近のデスクの上に置かれている二枚の転入届に視線を向けた。

そこに添付されている金髪の美少年(・・・)と銀髪の美少女の顔写真に、千冬は眉を顰め、再びため息をついた。

これからしばらく、また学園が荒れることになるのだろう。

そんな予感を覚えながら、缶コーヒーのふたを開けた。

 

------------

 

その後、結局、クラス対抗戦は中止となり、一夏と鈴音は観客の避難のための時間を稼いだとはいえ、命令無視をしてしまったため、三日間の奉仕活動と反省文十枚が罰則として課せられることになった。

千冬曰く、これでも軽くなった方、とのことだ。

 

一方、きつい処罰が下されたのは箒のほうだった。

さすがに、避難中の人間がいる可能性がある中で、攻撃が管制塔へ向かうような危険行動を咎めないわけにはいかなかった。

とはいえ、結果論ではあるが、一夏と鈴音が敵性ISを沈黙させるための一手を手助けしたことに変わりはない。

そのため、一週間の奉仕活動と反省文五十枚の罰則が科せられることになった。

 

なお、簪が学園のシステムにハッキングした件については、目的が避難のためであったことと、そもそも学園のドアシステムがハッキングされなければ行う必要がなかった行為であったことから不問ということになった。

さらに、生徒の一部では勇人に対する評価を改めるものも現れた。

その主だった生徒は、転倒したりパニックで動けなくなったりして避難が遅れてしまった生徒たちだったことは言うまでもない。

また、教師たちの間でも、緊急時に冷静に動けるその胆力と行動力を評価するものもいた。

もっとも、そんなことは本人は全く知るところではなかったのだが。

 

それはともかく。

 

事件から数日して、箒も無事に罰則から解放されたとある日の食堂に一夏と鈴音、箒だけでなく、勇人と簪、本音、セシリアもいた。

簪はともかく、勇人が食堂に顔を出すことは本当に珍しいことであったため、一夏はここぞとばかりに一緒に食べることを提案してきた。

一夏に思うところがあるため、遠慮しようとしていた勇人と簪だったが、本音とセシリアに連行される形でずるずると一緒の食卓を囲むことになった。

 

「にしても、意外だな。勇人が食堂に来るなんてさ」

「そういえば、そうだな……あまり人が多いところは嫌いだと思っていたが」

「……空腹に負けた」

 

生物の三大欲求に負けたことを素直に認め、そう返すと、簪以外の面々は腹を抱えて笑い出した。

笑われている当の本人は、その態度に苛立ちはするものの、どんな印象を抱かれているか自覚があったため、口に出せずにいた。

 

「い、いや、悪い……お前もちゃんと人間なんだなって思ったら、ついさ」

「まったくだ……正直、霞でも食べているのかと思っていた」

「……さすがにそれは失礼」

「まったくだ」

 

簪がむくれながら返す言葉に、勇人はため息をつきながら返し、食券を購入した。

ちなみに勇人が購入したのは牛丼、簪が購入したのはかき揚げうどん、セシリアは卵サンド、本音はナポリタンである。

本当は四人だけで食べたかったのだが、当然、一夏と一夏につられるようにしてやってきた箒と鈴音も一緒に食べることになり、その日の昼食は少しばかり賑やかなものになった。

 

だが、この時の七人はそのにぎやかで穏やかな時間が、更なる騒動が巻き起こる前の一時の平穏であることなど、気づく由もなかった。




月影勇人のロイス(本章終了時点)
(P/N、○は表側)

・ミカズチ(Eロイス)
・更識簪:○好意/恐怖
・更識刀奈:○恩義/恐怖
・布仏本音:○友情/無関心
・布仏虚:○恩義/無関心
・篠ノ之束:○興味/憤慨
・織斑一夏:庇護/○無関心→庇護/○食傷
・織斑千冬:○尊敬/食傷
・篠ノ之箒:興味/○無関心
・セシリア・オルコット:○感心/憐憫
・鳳鈴音:感心/○憐憫


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3、金と銀の狂騒曲
二人の転入生


新章突入です
いよいよ、最後のオリ主ヒロイン登場です
なお、展開は少しばかりいじってますので悪しからず


謎の敵性IS――学園では、今後、ゴーレムと呼称することに決定したISの襲撃から数日。

一時の平穏を取り戻した一組は、いつも以上に浮足立っていた。

先日の襲撃による反動なのだろうが、勇人にとって、その姦しさは苦痛でしかなかった。

 

「だ、大丈夫ですか?勇人さん……」

「あんまし大丈夫じゃない……うるさすぎて頭痛い……」

 

机に突っ伏している勇人に、セシリアが心配そうに声をかけてきた。

ここ数か月で慣れてきたし、ほんの少し、髪の毛一筋分程度には警戒心も薄れてきていたのだが、まだ騒がしい空間には慣れていないらしい。

そもそも、ウィルスを発症させてから研究機関に囚われていたため、本来なら教育機関で受けるはずの義務教育を受けることができず、更識家に救出されてからは簪や刀奈たちから一般常識や義務教育課程の知識を教えてもらっていたこともあり、にぎやかな教室、というものにまったく縁がなかった。

 

それだけでもにぎやかな空間を騒がしいと感じてしまうのだが、その異能のせいか、勇人の聴覚は異常なほど鋭く、意識すれば遠くからでもしっかりと相手の声を聞き取ることができるほどだ。

便利ではあるのだが、そのせいで、余計に喧しいと思ってしまっているのだろう。

それを察した本音は、どこから取り出したのかイヤーマフと呼ばれる、耳を騒音から保護する器具を差し出してきた。

 

「ゆーとん、使う?」

「使ったところで意味がないが……もらう……ありがとう……」

 

本音の気遣いは正直なところありがたいのだが、少しばかり耳がいいため、完全に音をふさぐことはできない。

むしろ耳に感じる違和感のせいで余計にストレスがたまりそうなのだが、やらないよりまし、と考えたのか、受け取っていた。

それも、普段はめったに口にしないお礼つきで。

 

「あちゃ~……ゆーとん、こりゃかなりダメージ入ってるね~」

「そうなんですの?」

「そだよ~?」

 

勇人がお礼を言うことが珍しいということを知っている本音がそうつぶやくと、セシリアは首をかしげながら、本音にあれこれと聞いていた。

そうしているうちに、真耶が教室に入ってきた。

にこやかな顔をしているところから察するに、何かいいことでもあったのだろうか。

そんな推察をしていると、真耶が衝撃の発言をしてきた。

 

「今日はうれしいお知らせです!なんと、このクラスに転入生が来ることになりました!!しかも二人です!!」

 

2組の鈴音に続き、今度はこのクラスに転入生。

一体全体、何がどうなっているのやら、と思いながら、勇人は早く終わってほしいとばかりにため息をついた。

そんな勇人をよそに、教室前方に並んだ二人の転入生は自己紹介を始めていた。

 

「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。こちらいん、僕と同じ境遇の人が二人いると聞き、転入してきました。日本では不慣れなことが多いと思いますので、いろいろ教えてください」

 

同じ境遇、という言葉に反応し、勇人は顔を上げた。

視線の先には、金色の長髪を一本に束ねた紫水晶(アメジスト)のような瞳をした男子(・・)と、黒い眼帯をつけた銀髪の小柄な少女がいた。

 

――……やべっ!!

 

本音から受け取ったイアーマフを素早く身に着け、そのうえで手のひらでぐっと力を込めて耳をふさいだ。

その瞬間、教室に窓ガラスが割れるのではないかと思うほどの衝撃が走った。

 

「三人目の男子!」

「守ってあげたくなる系の王子様タイプ!!」

「日本に生まれてよかった!!」

「静かにしろ!騒ぐな!!」

「み、みなさん、静かにしてください!まだ自己紹介は終わってませんから!!」

 

ざわめきだす女子たちを、千冬と真耶が諫めた。

二人の、というより千冬の一言に教室中はしんと静まり返った。

ようやく騒音が収まったことに、ほっと安堵した勇人はイアーマフを外し、正面を見た。

すると、いつの間にやってきたのか、もう一人の転校生が勇人の前に立っていた。

 

「ん?」

「貴様が織斑一夏か?」

「俺はそいつに巻き込まれた被害者。主犯はあっち」

「そ、そうか……すまない、感謝する」

 

そう言って、転校生は勇人の前から立ち去ると一夏のほうへまっすぐに向かっていき、いきなりその顔に平手打ちを食らわせた。

いや、食らわせようとした。

 

「はい、ストップ」

「なっ?!い、いつの間に……離せ!!わたしはこいつに一発お見舞いしないと気が済まん!!」

「だったら実技の授業の時に有無を言わさないほどコテンパンにすりゃいいだろ?今面倒ごと起こすと、戦乙女――織斑先生に何言われっかわからんぞ?」

「ぐっ……わかった。ひとまず今は殴らないことにする。離してくれ」

 

千冬の名を出した瞬間、転校生はそう告げた。

どうやら、この銀髪の転校生は、一夏に何か因縁があるらしい。

そう察した勇人だが、別に興味がないので掘り下げることはしなかった。

この姉弟はどこまで他人の人生に干渉するのか、と半ばあきれたようにため息をつきながら、勇人は転校生の手を離した。

が、手を離した瞬間、転校生は一夏の前に向かっていき、静かに告げた。

 

「わたしは認めない!お前があの人の弟などと……認めてなるものか!!」

 

そうはっきりと宣告すると、銀髪の転校生は割り当てられた席に向かっていった。

一方的に認めないと言われた一夏は、何が何だかさっぱりわからない、という様子で困惑していたが、勇人は更識家が調べ上げた千冬の経歴を思い出し、どこか納得したらしく、呆れた、と言わんばかりのため息をついた。



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真耶の実力、その一端

S.H.Rが終了し、二組と合同で模擬戦闘があるため、すぐに着替えてグラウンドに集合するよう、千冬から指示が出ると、勇人は再びイアーマフを耳につけ、一人そそくさと教室を出ようとした。

だが、教室を出る前に、金髪の転校生シャルルが声をかけてきた。

 

「えっと、君が月影くん、だよね?よろしく」

「……あんまりよろしくしたくないな、俺は」

「え?!」

 

同性だからという理由で友好を深めようと思ったのだろうが、基本的に人間が嫌いな勇人は悪気もなくそう返してきた。

当然、シャルルは驚き、おろおろとし始めた。

それに助け舟を出したのは一夏だった。

 

「おい、勇人、シャルル。早く行こうぜ?」

「……だな。ほれ、行くぞ。例外第三号(三番目)

「えっ?!ちょ??!!」

 

勇人はシャルルの腕をつかみ、足早に廊下に出て更衣室へと向かっていった。

その背中には三人目の男性操縦者を一目見ようと追いかけてくる女子の群れがあった。

むろん、一夏もそれに巻き込まれて遅刻するのはごめんなので、二人と並ぶ速さで歩いていた。

 

どうにか追ってくる女子たちを振り切った三人は更衣室に入った。

突然、女子たちに追いかけられたことに驚くシャルルと、普段はこの比ではないことを話している一夏をよそに、勇人は手早く着替えを終わらせて、グラウンドへとむかった。

更衣室までの道中もそうだが、更衣室に入ってからも一言も話さなかったし、話しかけてもことごとく無視されたことに対し、何か疑問を覚えたのか、シャルルは一夏に問いかけた。

 

「ね、ねぇ一夏……僕、彼に何かしたかな?」

「勇人のことか?」

「うん……なんか、すごく警戒されてるような気がして……あいさつしたときも、よろしくしたくない、って言われちゃったし……」

「あ~……うん、たぶんそのうち打ち解けると思うぞ?何があったか知らないけど、あいつ、人と話すのがあんまり好きじゃないみたいだし」

「そ、そうなんだ?」

「あぁ。だから、逆に打ち解ければけっこう話してくれるぞ?って言っても、俺、あいつの人生狂わせちゃったからすっげぇ辛辣みたいだけど」

 

一応、他人の人生を狂わせた自覚はあるらしく、苦笑を浮かべながら一夏はシャルルにそう話した。

 

------------

 

着替えを済ませた一夏とシャルルがグラウンドに向かうと、千冬が点呼を始めようとしているところだった。

慌てて列に並ぶ二人だったが、案の定、千冬からお叱りが飛んできた。

 

「遅い!!」

「す、すみません!!」

「ご、ごめんなさい!!」

 

あまりに威圧に反射的に謝罪した一夏とシャルルだったが、出席簿が頭に振り下ろされることはなかった。

恐る恐る、といった様子で千冬のほうを見てみると、仕方がない、と言いたそうなため息をついていた。

 

「月影から大体の事情は聞いているから、今回は大目に見てやる。だが、そうなる事態を予測して行動しろ。次は許さん。さっさと列に並べ」

「「は、はい!」」

 

勇人が弁明してくれていたことに感謝しつつ、一夏とシャルルは列に並んだ。

その瞬間、鈴音が近くまで寄ってきて、話しかけてきた。

 

「聞いたわよ、一夏。あんた、転校生にひっぱたかれたんだって?何したのよ?」

「何もしてねぇよ、いきなり殴られたんだって」

「はーっ?!あんたが何かしでかしたに決まってんじゃない!相変わらず馬鹿なんだから……」

「相変わらずの馬鹿だな、そこの二人」

 

いつまでも静かにならないことにいい加減、千冬も苛立っていたらしく、背後から殺気とも思えるほどの威圧感を漂わせ、鈴音と一夏の頭に出席簿を振り下ろした。

相当な威力であることを知っている一組の面々は同情の視線を叩かれた二人に向けていた。

一方、初めて出席簿で殴られた鈴音は頭を抑えながら、人の頭をぽんぽんよく殴る千冬に小声で文句を言っていた。

聞こえているのだろうが、そんなものにいちいち付き合っていられないため、千冬は腕を組んで指示を出した。

 

「それでは、本日より射撃及び格闘を含む実戦訓練を開始する!ちょうど、活力があふれんばかりの十代女子もいることだしな……鳳!オルコット!!」

 

最初の見本を二人にやらせるつもりだったのか、千冬が突然、二人を呼び出した。

当然、二人は疑問をぶつけてきたが、専用機持ちならすぐに授業に入れることと、それぞれの相手にいいところを見せるチャンス、と言われて急にやる気を見せた。

 

「それで、お相手はどちらで?わたくしは鈴さんでも構いませんが」

「こっちのセリフ!返り討ちにしてやるわよ」

「ふっ……やる気十分なのはいいが、慌てるな。お前たちの相手は――」

 

と、千冬が対戦相手を呼び出そうとした瞬間、上空から何かが飛んでくる音が聞こえてきた。

勇人と一夏は自然と音がする方へ視線を向けていた。

そこには、ISをまとった状態の真耶が突っ込んでくる姿があった。

 

「ど、どいてくださーーーーーいっ!!!」

 

男二人に見られていたことに気付いたためか、年齢の割に男慣れしていない真耶は涙目になりながらそう叫び、突進してきた。

その進行方向に一夏がいることに気付いた勇人は、蒼穹の腕を展開し、飛んできた真耶の腕をつかみ、後ろに倒れこみながら、つかんだ腕をひねりあげ、抑え込むように地面にたたきつけた。

その鮮やかな手際に、周囲からは拍手が飛んできたのは言うまでもない。

が、やられた本人は涙目になりながら。

 

「あ、ありがとうございます、月影くん……ですが、もうちょっとやり方があったと思いますがぁ……」

 

とお礼と文句を言ってきた。

だが、そんなことは知らん、とばかりに勇人は冷たい態度で反論した。

 

「知りません、操縦不能になって生徒に突っ込んでくる先生がいけない。交通事故も真っ青な大惨事を引き起こすつもりですか、そうですか」

 

抑えていた手を離し、真耶を開放しながらそう話す勇人に、真耶は反論できず、うなってしまった。

その様子を見ながら、千冬はため息をついていた。

 

「……まったく、山田先生の言う通り、もう少しやり方があっただろうが、月影……山田先生、あなたもだ。いくら男慣れしていないくてあがり症だからと言っても、生徒に激突することはないのではないか?」

「す、すみませぇん……」

 

謝罪しながら真耶はずれてしまったメガネをかけ直した。

その瞬間、自然と勇人はその視線を明後日のほうへとむけていた。

理由は言わずもがな、真耶に取り付けられた分厚い胸部装甲にある。

体形がわかるほど密着するISスーツを着ているせいか、普段着よりもさらに強調されているように思われるそれに、一夏もそれにあわせて顔を若干、赤らめながら顔をそらした。

その態度が気に入らないのか、鈴音は突然、ISを展開し、一夏に斬りかかってきた。

 

「一夏!あんた、どこ見てんのよ!!」

「お、おいおい!!いくらなんでもまずいだろ!!」

 

生身の人間にISで斬りかかるということがどういうことか。

頭に血が上っている鈴音は忘れていたようだ。

だが、一夏はおろか、他の生徒たちが傷つくことはなかった。

 

「……え?」

「なっ……?」

 

ISを展開していた真耶が、鈴音が振り下ろした青龍刀に向けて発砲。

その軌道を一夏からそらし、空振りさせたのだ。

あまりの早業、そして正確な射撃に勇人以外の生徒たちはぽかんとしていた。

 

「山田先生はあぁ見えて元代表候補だからな。これくらいは造作もない」

「む、昔のことですよ。それに、候補止まりでしたし……」

 

さも当然だ、と言わんばかりに千冬がそう語ると、真耶は謙遜したように返した。

だが、謙遜はしているが真耶の実力は確かなものだ、と勇人とセシリアは感じていた。

そしてセシリアは同時に、気を引き締めてかからなければ、と警戒もした。



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軽くいなされる二人

ちょっとしたハプニングはあったものの、千冬の指示通り、セシリアと鈴音のタッグで真耶との模擬戦が始まった。

その間、真耶が使用しているISについて説明するよう、千冬がシャルルに指示した。

 

「山田先生が使用しているのは『ラファール・リヴァイヴ』。デュノア社製の第二世代ISであり、射撃と機動性に特化した機体です。最後期の機体ではありますが、安定した性能と高い汎用性、後付武装(イコライザ)の豊富さが特色で、第三世代ISにも引けを取らないスペックを持っています」

 

デュノア社、ということはシャルルの実家が製造しているということになる。

その程度の概要を説明するくらいの知識はあるのだろう。

だが、そこまでは少しISのことを調べれば誰でも行きつくところだ。

シャルルはさらに付け加えるように、世界三位のシェアを誇り七か国でライセンス生産され、十二か国で正式配備されていることと、使い手を選ばない操作の簡易性とそれによる多様的な役割切り替えが可能となっていること、装備によって射撃、格闘、防御といったすべての役割を担うことが可能であることをあげた。

 

その説明をしている間にも、セシリアと鈴音はたった一機の機体相手に翻弄されていた。

それもそのはず、セシリアが狙撃を狙ってくれば鈴音を射線上にうまく誘導したり、鈴音の攻撃が大振りになった瞬間を狙って射撃を行ったりと、とにかく二人の連携を崩すような動きに徹していた。

そして最終的に、距離を取らせたところで二人を正面衝突させ、集中砲火。

これにより、二人のISのSEはゼロとなった。

 

「うぅ……」

「こ、こんなのって……」

「ふぅ……状況終了、です」

 

代表候補生だというのに、一撃も与えることが出来ないまま撃沈させられてしまったことに、セシリアと鈴音は落ち込んでしまっている一方で、真耶は満足そうな顔でずれた眼鏡を直していた。

 

「よし、そこまで……さて、月影、わかる範囲でいい。二人の敗因を説明してみろ」

「……聞いても無駄なのはわかってますが、あえて聞きます。なぜ?」

「少なくとも、戦闘に関してはお前が群を抜いている。入学したてだというのに生徒会長直々に生徒会にスカウトされるくらいだからな」

 

にやり、と好戦的な笑みを浮かべながら千冬は勇人にそう告げた。

納得できたようなできないような、そんな感覚を覚えながら、勇人はため息をつき、見た限りの自分の見解を話した。

 

「連携らしい連携がなっていなかったこと、でしょうか?少なくとも、接近戦が主軸となっていた鈴はセシリィの位置を理解してさえいれば、射線に入ることはなかったはずです」

「いい着眼点だ。少なくとも、連携に関しては最低限、互いの位置を把握しておく必要がある。そうすれば、同士討ちは避けられたはずだ。互いの位置と動きを把握していれば、優位となることも容易い」

 

一口に連携と言っても、最低限、互いの位置と動きはしっかりと把握しておくものだ。

習熟された連携ならば、臨機応変に役割を切り替え、互いの負担を軽減することもできる。

そう千冬から説明されたとき、セシリアは先日の無人機襲撃事件の際、自分が出動しようとしたときに連携訓練の未熟さから止められたことを思い出した。

 

「異なる意思を持つ者同士で一つのことをなそうとするのは、存外難しいものだ。お前たちのポテンシャルは高い。これから少しずつ学んでいけばいい」

 

千冬の口からようやく出てきた教師らしい言葉にセシリアと鈴音はしっかりとした声で答え、一夏は自分も早く成長しなければ、と意思を固めていた。

が、勇人はそんなことはどうでもいいからさっさと茶番を終わらせたい、とでも言いたいのか、ため息をついていた。

 

その後、専用機持ち指導の下、ISを実際に動かすことになったのだが、当然、一夏とシャルルのほうに集中していた。

なお、本音と本音と仲のいい相川清香と谷本癒子の三人だけは勇人の前に並んでいた。

 

「つっきー、よろしく~」

「「よ、よろしく~」」

「あ~、まぁ、よろしく……てか、見事にイチと三番目に集中してんなぁ……セシリィの奴、涙目だぞ」

「セッシー、さっきまゆまゆ先生にぼっこぼこにされてたからね~」

「……あだ名で呼ぶのはやめてあげなさい」

 

真耶がかなりの実力者であることは見て理解したが、それでも真耶をあだ名で呼ぶことをやめないあたり、本音はぶれていなかった。

なお、男子の前ばかりに集合していたために、千冬から出席番号順に並ぶよう叱責され、従わなければISを担いでグラウンドを100周させるといわれてしまい、女子たちは大人しく出席番号順で各グループに分かれたのだった。

 

------------

 

その後、それなりに姦しくはあっても特に大きな問題はなく授業は進んだ。

あまり人と関わりを持ちたくない勇人ではあったが、この時ばかりは授業ということもあり、丁寧にどうすればいいかを教えていた。

 

「おいおい、ほんとに初めてか?うまく歩けてるじゃんか」

「そうかな?」

「もう少し安定して歩けるようになったら、今度は走ってみるのもいいかもしれんな」

「あ、飛ぶのはまだなんだ?」

「そこまで時間が取れん」

 

などとやり取りをしながら教えていた。

その結果、シャルルほどではないが、基本的な動作をマスターできた生徒が多かったことは言うまでもない。

人間嫌いを豪語しているにもかかわらず、懇切丁寧に教えていたのだから、元来は面倒見がよく、いい人なのではないか、と同じグループに入っていたメンバーは勇人の評価を改めるのだった。

 

なお、男だから力仕事は任せた、と言ってISを保管庫まで片付ける作業を押し付けようと思ったのだが、それを口にしようとした瞬間、セシリアと一夏が口喧嘩したときに漂わせていた殺気にも似た雰囲気を感じ取り、三人ほどが自主的に(・・・・)手伝ってくれたのだった。




男だろうが女だろうが、みんなでやれば早く済むことを押し付けるなんて、いじめを疑いたくなりますよね


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転入生への疑惑

今回は原作より少しずらしてます
具体的には屋上のランチタイム、セシリアだけいません
まぁ、オリ主ヒロインにセシリアがいるからね、仕方ないね


昼休みになり、一夏と箒、シャルルは屋上へ、勇人とセシリア、本音は食堂へ向かった。

一夏は 勇人たちも誘おうとしたが、勇人があまり大勢と一緒にいることが嫌いで、下手をすると不機嫌になってしまうことを思い出し、やめることにした。

 

理由は二つあった。

一つは、勇人と本音、セシリアの三人はここ最近、四組の生徒と交流していることが多く、ISの練習や昼食はたいてい彼女と一緒にいることが多いからだ。

先日の無人機襲撃事件の少し前に会ったことがあるが、その時になぜか強い敵意を向けられたため、一夏は距離を置くことにしたのだ。

 

そしてもう一つ、ある意味ではこれが最大であり最も深刻な理由なのだが、セシリアが手作り弁当を持っていたためだ。

こう言ってはなんだが、セシリアの料理は不味い、非常にまずい。

口に合わない、というレベルではない。一口食べた瞬間、記憶が飛び、気が付いたら時刻は放課後で、保健室のベッドに横になっていたくらいだ。

 

――で、できれば、しばらくセシリアの料理は食べたくない……

 

そんなわけで、一夏は箒と鈴音、シャルルを誘って屋上で一緒に昼食をとることになった。

一方、勇人と本音、セシリアは食堂で簪と合流して談笑しながら昼食をとっていた。

その中で不意に、簪からシャルルについての話題が出てきた。

 

「そういえば、シャルルくん、だっけ?転校生」

「あぁ……フランスの代表候補生な。あいつがどうかしたか?」

「うん、本音は知ってると思うけど……」

 

と言って、簪はセシリアのほうへ視線を向けた。

本音と簪は知っていてセシリアは知らない、ということは更識から何か伝えられたらしい。

 

「……あ~、セシリア、そういやこの間、生徒会の仕事手伝ってくれたお礼、してなかったよな?」

「え?……あぁ、そういえば……ですが、気になさらなくても」

「俺の気が済まん。デザート一品で申し訳ないがごちそうさせてくれ」

 

そう言って、勇人はセシリアにお金を手渡した。

急にそんなことを言ってきたことの意味を察したセシリアは、にっこりと笑みを浮かべながら、お言葉に甘えます、と返し、その場から離れていった。

 

「……で、シャルルのことだが、何かあったのか?」

「うん……不確定なんだけど、デュノア社にシャルルって名前の息子はいないらしい。シャルロットって名前の娘はいるらしいんだけど、彼女の消息は不明なんだって」

「……まさか男装させて転入させたのか?」

 

デュノア社長に子供が一人だけいることは、更識の調べでわかっているようだが、娘であり、息子ではない。

となれば、考えられるのは男装させてIS学園に入れた、ということだろう。

なぜわざわざ男装させた理由は、同性ならば例外二名に近づくのもたやすいため、と推察するまで、さほど時間はかからなかった。

そこまでくれば、デュノア社の目的もわかる。

 

「白式と蒼穹の運用データか……いや、おそらく白式のほうだろうな。蒼穹は便宜上、ラインフォルトのものってことになってるし」

「ラインフォルトに喧嘩を売るような真似、欧州国家はしないと思うけど……」

 

勇人が所属していることになっている企業、ラインフォルトグループは機械類のメーカーであり、家電製品から作業用機械まで幅広い分野で関与しており、そのシェアも世界規模のものであり、特に欧州においては絶対的なものだ。

最近では、ISを参考に人命救助または介護補佐を目的としたパワードスーツの製造に力を入れており、勇人はそこを専門に扱う部署の世話になっている。

そんな会社を敵に回せば、デュノア社といえど無傷では済まない。

 

「……どうする?ぼろを出すまで待つか?」

「そこはお姉ちゃんから指示があると思う。それまではあいつの護衛に徹してて大丈夫じゃないかな?」

「要は普段通りでいいってことか。いや、かt……楯無のことだから、なんかやってくるな」

 

護衛においてもっとも重要なのは、護衛対象に危険が及ぶ可能性を少しでも下げることだ。

となれば、シャルルもといシャルロットを一夏から引き離し、勇人と同室にさせる。あるいは一夏と勇人を同室にさせる可能性がなくはない。

急な転入生が二人も来ているのだから、今頃、生徒会も巻き込んで部屋割りの変更でてんやわんやのお祭り騒ぎになっているはずだ。

そのどさくさに紛れて、一夏と勇人の部屋割り変更をしてくる可能性が高い。

 

「まぁ、ひとまず沙汰を待つさ」

「それがいいと思う……個人的にはあいつがラッキースケベやらかして顔が変形するまでぼこぼこに殴られればいいって思うけど」

「……同居人に事あるごとに木刀で追いかけまわされて、小学校以来の幼馴染にはIS武装で追いかけまわされてるんだ。さすがにこれ以上はかわいそうだから想像するだけにしとけ」

 

まだ八つ当たりを続けている簪に、勇人は苦笑を浮かべながらそう返した。

人間嫌いで一夏に自分の人生設計を崩された勇人ではあるが、それでも周囲は女子しかいないという異質な環境の中に放り込まれれば、嫌でも一夏に友情を感じるものだ。

そのお情け程度の友情が、一夏の現状を、たとえ自業自得ではあっても、かわいそうと感じさせていた。

 

「あ、あのぉ~、そろそろよろしくて?」

「ん?あぁ、おかえり、セシリ……おい、そのトレイに乗ってるデザートの数はなんだ?」

 

タイミングを見計らっていたのだろう、ゆっくりとデザートを吟味していたセシリアが戻ってきた。

その手に、食べきれるのかどうか心配になるほどのデザートが乗っているプレートを持って。

 

「主に本音さんのせいですわ……こんなに食べられますの?」

「え~?大丈夫だよ~!かんちゃんもセッシーもいるし、何より甘いものは別腹なんだよ~!」

「……俺はセシリィにはおごってもお前にはおごるつもりなかったんだが?」

 

どうやら、主な原因は本音にあったらしい。

勇人のおごりであることをいいことに、あれこれと注文したのだろう。

その量を見た勇人は、今月はしばらく自炊だな、と頭を抱えたことは言うまでもない。



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疑惑を転入生にぶつけた結果

少し駆け足な感じはありますが、シャルロットの追求です
次回にはシャルロットの抱える事情を聞くことになります


昼休みが終わり、午後の授業がすべて終わった放課後。

勇人と簪はアリーナで弐式の動作試験を行っていた。

が、まだやはりマルチロックオンシステムで不具合が生じてしまい、《山嵐》だけが思ったような動きをしてくれなかった。

 

「……通常のロックオンシステムだったら動くんじゃね?」

「ロマンは捨てたくない……あぁ、でも早く動かしたいし……」

「……まぁ、クラス対抗戦もあるしな」

「……うん……」

 

実のところ、簪は少しばかり焦っていた。

理由としては、勇人が口にした通り、校内クラス対抗戦の開催が告知されたことにある。

先日のクラス代表対抗戦は出場できなかったため、今回の試合を弐式の初陣にしたいと考えているようだ。

が、なかなか理想の形まで仕上げることが出来ず、難儀していた。

 

「やっぱり、通常のロックオンシステムにしたほうがいいのかな……いや、もうここまで来たらやっぱり……」

 

理想形に少しでも近づけてから出陣させるか、それとも現状で妥協するか。

二つに一つしかない選択肢に悩んでいると、廊下から一夏とシャルルの声が聞こえてきた。

どうやら、あちらは別のアリーナで練習をしていたらしい。

会話の内容を聞くに、一夏がシャルルが一緒に更衣室に来てくれないことに文句を言っているようだったが、一歩違えば、一夏が着替えるシャルルの肉体を見てみたいという欲求をぶつけてきていると思われても仕方のない状況になっていた。

 

「……あのバカ……ちと止めてくる」

「いってらっしゃい」

 

自分の我を押し通すことは決して悪いことではない。

だが、それが他人に迷惑を与えることになれば、悪事以外の何物でもなくなる。

特に、シャルルのように押しに弱い節がある人間に対しては。

半ば暴走気味になっているのではないかとすら思える一夏のその状態に、いい加減、腹が立っていた勇人は一夏を止めに向かった。

 

「おい、イチ。お前ほんとに馬鹿か?いや、バカだったな、すまん」

「いきなり辛辣じゃないか、勇人?なんだよ、たまには一緒に着替えようってだけじゃないか」

「傍から見たらお前が男に迫ってるだけにしか見えんぞ……てか、いい加減、やめてやれって。そいつにも事情があるんだろ?見せたくない古傷とか、痣とか」

「俺は気にしないけど」

「こいつが気にするんだよ。俺だったら気にする。つかいい加減にしないとお前、そういう趣味の男だって思われるぞ?」

 

そういう趣味、というのがいわゆる同性愛者であることを察するまで、一夏もシャルルも時間はかからなかった。

シャルルに至っては顔を真っ赤に染め上げて、何かをぶつぶつとつぶやいている始末だ。

一夏は必死になってそれを否定するが、勇人はさらに畳み掛けるように否定に返してきた。

 

「お前がそうじゃなくても、周囲がそうは思わん……てか、お前、本当に男色の気が」

「ねぇからっ!」

 

一夏が大声で否定したが、その反応がかえって一夏の男色疑惑を深めることとなり、勇人とシャルルはじりじりと一夏から離れていった。

この事態を収拾するには、自分がシャルルに謝罪しなければならないと考えた一夏は、ひとまず、シャルルに謝罪することにした。

 

「いや、悪かったよ、シャルル。もう無理言わないから」

「……信じていいのかなぁ?」

「知らん。あ、イチ、言っとくが疑い晴れるまで俺はお前から半径三メートルの範囲には近づかないようにするから、そのつもりでな」

「だから違うって言ってるだろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

勇人の一言に、一夏は過剰な反応を示していた。

その結果、しばらくの間、一夏はホモ疑惑をかけられてしまい、女を腐らせた生徒たちからは、薄い本(薄=異本)のネタとして扱われることになるのだが、そこはまた別の話。

 

------------

 

それから少しして、勇人は簪とシャルルとともに部屋に戻ろうと、廊下を歩いていた。

楯無の采配なのか、それとも千冬の采配なのかは不明だが、勇人とシャルルが同室になり、簪は別室へ移ることとなった。

簪の引っ越しを手伝うため、勇人はシャルルに先にシャワーを浴びててほしい、と伝え、簪とともに部屋から出ていった。

自分のISである「蒼穹」を机の上に置きっぱなしにしたまま。

 

「…………」

 

蒼穹をじっと見つめていたシャルルは、ゆっくりとその手を蒼穹に向かって伸ばした。

が、指が触れるその前に、シャルルは動きを止め、ぐっと伸ばした手を握りしめた。

 

「……は、はは……やっぱり、僕には無理だよ……」

「『スパイの真似事なんて』、か?」

「……っ!!??つ、月影くん……い、いつから?」

「いまさっき。お前が蒼穹に手を伸ばしたあたりから。いやもうびっくり。まさかそのまま俺のISを盗もうとするなんてな」

 

わざとなのだろう、ふざけた様子で話している勇人だったが、一切の隙がない。

どうにか逃げ出したいが、それができない。

もはや自分に逃げ場がないことを察したシャルルは、ぺたん、とその場に座り込んだ。

 

「なんだ。がむしゃらになって逃げると思ったから色々準備したのに、もうギブアップか」

「ははは、だって、君、まったく隙がないんだもん。ISを展開したとしても、織斑先生に制圧されて終わりだろうし」

「なるほどな……ま、ひとまずそこに座れ。安心しろ、手は出さんよ。シャルロット・デュノア」

 

勇人に名前がばれている。

その事実を知ったシャルル、いや、シャルロットは目の前が真っ暗になっていくような感覚を覚えた。



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シャルロットの本心

簡単なシャルロットの事情説明と救済です
まぁ、原作とはだいぶ違いますが、そこはそれということで


シャルル・デュノア。

デュノア、の苗字(ファミリーネーム)からわかる通り、デュノア社社長、アルベール・デュノアの息子。

だが、それは仮の姿。

彼、いや、彼女の本当の名前はシャルロット・デュノア。アルベール氏が愛人に産ませた妾の子だ。

 

母の死をきっかけに、アルベール氏のもとに引き取られた彼女は、様々な検査を経て、IS適性があることがわかり、以降、デュノア社のISパイロットとして、生きてきた。

が、その生活が一変する出来事があった。

織斑一夏の登場と、月影勇人の発見。そして、二人のIS学園入学だった。

 

第二世代IS《ラファール》の世界シェアこそ世界第三位という高い地位にあるものの、第三世代ISの開発が難航しており、欧州各国共同での統合防衛計画『イグニッション計画(プラン)』から外されていることもあり、第三世代ISの開発は急務だった。

そこで、シャルロットを男装させ、IS学園入学。第一例外(織斑一夏)第二例外(月影勇人)、どちらかのISのデータを取得し、フランスに持ち帰るよう指示を受けていた。

 

それが、シャルル――シャルロットが話してくれた、自身の身の上だった。

全てを聞いた勇人は、そっとため息をついた。

 

「……まぁ、デュノア社のことはともかく、お前の男装については、もしかしたらっては思ってたけどな」

「え?なんで??」

「理由は三つ。一つ、一夏や俺の上半身を見て顔を赤くしたりそらしたりしていた。二つ、時々うっかり女子トイレに入りそうになっていた。三つ、勘」

「って、最後は勘なのっ?!」

 

シャルル――シャルロットのツッコミが響いたが、勇人はそれを無視して、問いかけた。

 

「で?お前はどうしたいんだ?」

「どうしたいって……たぶん、デュノア社から帰還命令が出るだろうし……そしたら、一生牢屋行きかな」

「それは今後起こりうる可能性の話だろ?俺が聞いてるのは、今現在(・・・)お前自身が(・・・・・)どうしたいか、『メイビー』じゃなく、『アイウォント』だ」

「僕は……」

 

勇人の問いかけに、シャルロットは、うつむいた。

自分の本当の気持ちはわかっている。だが、現実がそれを許してはくれない。それもわかっている。

けれど、そうだとしても。

 

「僕は……自由を望んでいいのかな……?」

「……人間だったら『自由を望む権利』があるだろうが。それはよほどのことがない限り、どんな立場であろうとそれは絶対の権利だ」

 

シャルロットの言葉に、勇人は呆れたようにため息をつきながら、そう返した。

勇人はそこからさらに追い打ちをかけるように、シャルロットに問いかけた。

 

「シャルル……いや、シャルロット・デュノア。君は人間か?それとも単に直立二足歩行して言葉を喋るだけの獣か?どっちだ?」

「ぼ、僕は……」

 

勇人の問いかけに、シャルロットはうつむき、押し黙った。

だが、最初から、彼女の中に答えはあったようだ。

まるで、今まで様々なことを押し付けられてきたことに対する不満を爆発させるように、シャルロットは思いのたけを叫んだ。

 

「……わたしは人間だ!普通の女の子として暮らしたい!普通の女の子として、買い物したり街を歩いたりしたいし、誰かを好きになってその人とデートだってしたい!!何もかもを無理強いされて、押し付けられるのなんて、もうまっぴらなんだ!!」

「……ふっ……やっと本音を出したな」

 

その言葉を待っていた、とでも言いたそうに、にやり、と笑みを浮かべ、勇人は天井を見た。

 

「そういうわけだ、生徒会長」

「あら、やっぱり気づいてたのね?」

「え?」

 

勇人の呼びかけに、どこからか刀奈が姿を現した。

あまりに一瞬の出来事に、シャルロットは目を丸くして、固まってしまったのだが。

 

「あいえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ??!!せ、生徒会長?!生徒会長ナンデ??!!」

「……いや、どこのニンジャリアリティショック(N.R.S)だよ……」

「失礼ね!こんなかわいいくの一を見てR.S発症するなんて」

「自分で言うな、自分で」

 

いつものことながら、呆れたようにため息をつき、勇人は刀奈に突っ込んだ。

だが、すぐに表情は引き締まり、仕事の顔つきへスイッチを入れ替え、問いかけた。

 

「ちょっとあら捜しするが、かまわないか?企業の独断とはいえ、せっかくの代表候補生をフランスだって失いたくはないだろ。それに、大企業がこんなギャンブルをするのは何か裏があると思うしな」

「えぇ、大丈夫よ。むしろ、それをネタにフランス政府にちょっと優遇してもらわないといけないしねぇ」

「そういうわけだ、シャル。ひとまず、この件は俺に預けてくれ」

「う、うん……ね、ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、勇人って何者なの?」

 

シャルル、いや、シャルロットの純粋な好奇心からの問いかけに、勇人と刀奈は黒い笑みを浮かべた。

 

「ふっふふふ……世の中には知らなくてもいいことってのがあるんだぜ?お嬢様(フロイライン)

「それとも、あなたも影の世界に連れて行こうかしら?あなたなら大歓迎よ?シャルロットちゃん」

「え、遠慮します」

 

地雷を踏み抜いてしまったことに気づいたシャルロットは、内心ではびくびくしながらそう返すのに精一杯だった。

なお、シャルロットは無事に解放され、刀奈から事情を聴いた簪が勇人と一緒になってデュノア社にハッキングを行い、そこに隠された黒い事実を知ることとなったのは、その後のことである。

 

------------

 

翌日。

勇人は簪とともにデュノア社をハッキングして得た情報をまとめ、刀奈となぜか同席している千冬に手渡した。

なぜここに織斑先生が、というツッコミをいれたくなった勇人だったが、おそらく、何か動いていることを察知し、刀奈を尋問、もとい問い詰めた結果なのだろう。

シャルロットに火の粉が降りかからないようにするための処置を行うにしても、やったことは犯罪だ。

が、日本の対暗部任務を担う更識家の当主からの許可は得ているため、事実上、「任務」として扱い、黙認するつもりのようだ。

その代わりに、得た情報を自分に開示するよう要求したのではないか、と勇人は読んでいた。

 

それは横に置いておいて。

勇人から手渡された資料を目で追い、千冬は呆れたとばかりにため息をついた。

それは刀奈も同じことで、こめかみを抑えながら渋い顔をしていた。

 

「……念のために確認するけど、これほんとう?」

「俺がハッキングでこの手の情報の素っ破抜きにミスしたこと、あったか?」

「ないわね……気を悪くしないで、あまりにもあまりなことだったから」

 

念のために言っておくと、刀奈は勇人と簪のハッキングの技術にはかなりの信頼を置いている。

だが、明かされた内容があまりにもショッキングだったため、思わず聞き返してしまった。

そこに記された内容とは。

 

「アルベール社長はお飾りであり、実質的に権力を握っているのは社内重役の女性社員。しかも女権団に所属するあるいは傾倒する人間をまとめて派閥を作り上げている、か……」

 

状況は最悪と言えた。

おそらく、アルベール氏はシャルロットを守るためにいままでその存在を隠していたのだろう。

だが、シャルロットの存在が知られたため、世界でも最優先で保護を求められる存在であるIS搭乗者とさせ、さらに足取りを追わせないようにするためか、シャルロットとしてではなく、シャルルとしてIS学園に入学させたのだろう。

 

となれば、本当の意味でシャルロットがシャルロット・デュノアとして太陽の下を歩けるようにするには、二つの作戦を同時進行しなければならないことになる。

むろん、その場にいた全員がそれがどれほど困難なことかを理解していた。

 

「どうする?デュノア夫妻の救出と重役とその一派の追放、二つの作戦を同時進行することなど可能なのか?」

「そこについては……一つ、俺に当てが」

「「「え?」」」

「なに?」

 

勇人からのその言葉に、その場にいた全員が驚愕した。

できる限り人間と関係を築かず、傷つけないよう、あるいは傷つかないように過ごしていた勇人に、このような事態に対応できる人間とのコネクションがあるとは思えない。

だが、実際にはそのコネクションが存在するらしい。

それも。

 

「そのうえで、アルベール氏とご令嬢には一つ、覚悟していただかなければならないことがある」

「え?」

「デュノア社が別の大手企業の傘下に入ることを容認する、その覚悟をな」

 

西欧のみならず、アジアやアフリカにも通じるほどの経済的な力を持った企業とのコネクションが。



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勇人の策とそれまでの対策

というわけで、ようやく勇人が所属する企業とその企業にかかわる人たちの設定を出せます
それと、本編中に出ている二つ名ですが、まぁ、知ってる人ならだいたい想像は付くと思います
なお今後、『彼ら』を出すタイミングは未定ですので、あしからず


勇人が持つ、更識家以外の唯一のコネクション。

それは、彼が所属している企業だった。

その企業の名は、ラインフォルト(R.F)グループ。

アメリカ、ヨーロッパはおろか、アジアにもその勢力を伸ばす大企業だ。

 

それだけならばまだよかった。

ただの大企業というのならば、世界中にいくつも存在している。

だが、このR.Fグループには、より正確には、R.Fグループに所属する士官学校出身の社員二名には特筆すべきものがあった。

 

曰く、学生時代に紛争ぼっ発につながりかねない、いくつもの事件を未然に防いだ。

曰く、教官を含めても十人に届かない人数でテロリスト全員を鎮圧した。

曰く、ISではないがISに非常に近い強化装甲を開発した。

 

などなど、様々な噂が流れているその二人は、現在、R.FグループでISおよび強化装甲の開発担当部の所長とテストパイロットとして働いている。

当然、勇人はその二人の部下、という扱いとなり、あまり他人とのつながりを作りたくない勇人が、つながりを作らざるをえない二人、ということになる。

だが珍しいことに勇人はこの上司二人と、二人の仲間を気に入っており、敬意を払っている。

そのため、もしかするとIS学園よりも居心地がいい場所、ということになるかもしれない。

 

「別の大手企業の傘下に入るって……もしかして、デュノア社を買収するってこと?」

「だが、そんなことができる企業……まさか、《灰の騎士》が身を寄せているあそこか?」

「さすが、戦乙女。その通りですよ」

「え?《灰の騎士》が身を寄せてる企業??《灰の騎士》なんて二つ名の操縦者、聞いたことが……」

 

二人だけで納得している勇人と千冬に、シャルロットは首をかしげ疑問を挟んだ。

もっとも、シャルロットの反応は、表の世界を生きている人間としては当然と言えた。

戦乙女(ブリュンヒルデ)》や《銃央矛塵(キリング・シールド)》といった有名な二つ名は、現在ではIS操縦者のものがメジャーになっている。

そのため、二つ名持ちは基本的に女性であり、IS操縦者であるというのが表の世界の認識だ。

 

が、それはあくまで表の話。

裏の世界には、それこそIS操縦者にも引けを取らない、ともすれば、彼女たちすら片手でひねることができるのではないかという実力者がごまんといる。

その中の一人が、《灰の騎士》だ。

 

「それはそうだ。『彼』はIS操縦者ではないからな」

「え??!!」

 

彼、という代名詞に、シャルロットはさらに驚いた。

 

「ついでに言えば、あの人に勝てるのは織斑先生かあの人の嫁さん、あとはお師匠さんや兄弟子くらいだろうな……」

「そ、そんなに強いの?」

「あぁ。兄弟子の人も含めて、あの人たちはもう半分人間辞めてるじゃないかって思うときあるぞ」

 

勇人のその言葉に、シャルロットはただただ唖然としていた。

だが、シャルロットが呆然としている間に、トントンと話は進んでいった。

 

「それで?具体的にどうするんだ?お前の計画(プラン)を聞かせてもらおう」

「なら、まずは最終目標の確認を……個人的に最終目標として、シャルロット・デュノアの解放とデュノア社の正常化の二つを定めています」

 

シャルロット・デュノアの解放、というのはつまり、シャルルとしてではなく、シャルロットとしていられるように邪魔となるものを排除または不干渉を約束させること。

デュノア社の正常化はその通り、会社の経営権をお飾りとなっているアルベール氏に返し、巣くっている女権団を排除すること。

だが、そのためには、まずデュノア社の動きを抑え、アルベール氏と社長夫人の安全を確保する必要がある。

 

「まぁ、デュノア社の動きを封じるのは交渉次第と思います。どのみち、そこが始まらなければ、シャルロット・デュノアの解放もできないでしょうし」

「なら、そこについては教員側……いや、私と山田くんで行おう」

「その心は?」

「そう警戒するな……お前たちはそろそろ学年別トーナメントがあるんだから、それに集中しろ」

 

どうやら、千冬なりの気遣いらしい。

たしかに、勇人は企業代表、シャルロット、いや、シャルルもフランスの国家代表候補であるため、学年別トーナメントへの参加が義務付けられている。

おまけに、千冬の話では、先日から立て続けに起きているIS学園の襲撃事件を鑑み、生徒たちに様々な事態(ケース)を想定した訓練を兼ねるとのことで、今回はタッグトーナメントにすることが急きょ決まったらしい。

となれば、誰と組むかが問題となる。

 

「変なところでぼろが出るのはあれだから、俺か簪と組んだ方がいいんじゃないか?」

「あら?お姉さんじゃなくて??」

「会長でもいいだろうけど……そもそも、学年がなぁ……」

「……それもそうね」

 

タッグトーナメントは学年別で行われるため、違う学年同士でタッグを組むことはできない。

そのため、必然的に刀奈と組むという選択肢は除外されてしまうのだ。

加えて、勇人は『一夏の護衛』という任務があるため、会場にいることになるのだが、刀奈は主催側であるため、運営のほうへ回らなければならない。

 

「かといって、事情を知ってるのはこの場にいるものと更識妹、布仏姉妹以外……いや、さすがに学園長はご存じだろうな。だからこうして私が出張っているのだが」

「でも、簪ちゃん、あなたと組むのを楽しみにしてたわよ?いいの?あの子のこと後回しにしても」

「……それはそれであとがきつい……」

 

約束を反故にされれば、簪がへそを曲げてしまうことは、嫌でも想像ができた。

そんな面倒なことはごめんこうむりたいというのが本音なのだが、状況がそれを許してくれそうになかった。

 

「あ、あの……僕、辞退するよ?」

「いや、その必要はない……はぁ~……どっかで埋め合わせしないとかぁ……」

「あるいは、簪ちゃんとシャルロットちゃんで組ませて、あなたと織斑くんが組むとか、ね?」

「……あぁ、そっちのほうが面倒が少ないか?」

「まぁ、事情を理解している人間同士で組んだ方が余計なことが起きる心配は少ないだろうな」

 

楯無の提案に、勇人は頭痛を覚えながら返し、千冬は腕を組んで同意した。

確かに、簪にへそを曲げられるのは困る。非常に困るが、それはあとで埋め合わせをすれば済むことだ。

むしろ、事情を知らない一夏とシャルロットが組んで万が一、シャルロットの正体が一夏にばれて大騒ぎになる方が好ましくない。

 

「まぁ、簪ちゃんにはちゃんと事情を説明するから、今回は我慢してもらいましょ」

「それしかないか……」

 

楯無の提案に、そっとため息をつきながら、勇人はそう返した。

果たして、埋め合わせとして何をさせられることになるのか。

それを考えると、頭痛がしてくるようで、勇人はこめかみを抑えながらうなだれていた。

話がまとまったと見たのか、千冬はシャルロットのほうへ視線を向けた。

 

「今は我慢しろ、月影。というわけだデュノア。お前の意思を聞かないで進んで申し訳ないが、こちらのほうが面倒が少ない」

「い、いえ……強制送還されなかっただけでもありがたいので、文句は言えないですよ」

 

かえって申し訳なさそうに返しながら、シャルロットはこの提案に乗ることにした。

だが、まさかこの提案が無駄になってしまう事態が起きるとは、この場にいた全員、予想することもできなかった。



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《黒い雨―シュバルツェア・レーゲン―》の襲撃

《黒い雨》で《シュバルツェア・レーゲン》……まぁ、これだけで今回の内容の八割がわかってしまいますな(苦笑


千冬と楯無、そして勇人とシャルロットが今後の対策を練っている間。

アリーナではセシリアと鈴音が鉢合わせていた。

 

「あら……奇遇ですわね、鈴さん」

「ほんとね。あたし、これからトーナメントに向けての特訓なんだけど」

「わたくしも同じですわ」

 

にこやかな、しかしその実、重苦しい雰囲気が二人の間に漂っていた。

国は違えど、二人は代表候補生。いつかは世界大会で戦う可能性もあるライバル同士であるため、無理もないことだ。

もっとも、同じ男を取り合うような関係ではないことが幸いしてか、重苦しくはあっても、どろどろとした雰囲気は一切感じられなかった。

 

「どうせなら、この間の実習のことも含めて、どっちが上か白黒つけない?」

「名案ですわね。どちらがより優雅でより強いか……」

 

セシリアがそう言いかけた瞬間、二人は同時に振り向いた。

その視線の先には、黒い機体をまとったラウラの姿があった。

 

「ラウラ・ヴォーデヴィッヒ……」

「どういうつもり?背後から近づくなんていい度胸してるじゃない!」

 

そう問い詰める鈴音だったが、まったく意に介さず、ラウラは鼻で笑っていた。

 

「中国の《甲龍》にイギリスの《ブルーティアーズ》か……データで見た時の方が強そうに見えたがな」

 

その言葉を挑発と受け取った鈴音は、額に青筋を浮かべた。

 

「何?喧嘩なら買うわよ?わざわざドイツから来てぼこられに来るなんて、とんだマゾっぷりね」

「あらあら、鈴さん。あちらは言語を持ち合わせていないのですから、あまりいじめるのはかわいそうでしてよ?」

「はっ、二人がかりで量産機に負けるような実力しかないというのに専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数しか能がない国と古いだけが取り柄の国は」

「……スクラップがお望みのようね……セシリア、どっちが先にやるかじゃんけんしよ?」

「そうですわね」

 

さすがに自分の祖国を馬鹿にされて黙っていられるほど、セシリアも鈴音も大人ではなかった。

どちらが先にラウラと戦うか決めようとしたその時、ラウラはさらなる爆弾を投下してきた。

 

「二人同時にかかってきたらどうだ?下らん種馬を取り合ってはいないようだが、尻を振るメスに負けはせんがな」

 

種馬ども、というのが勇人と一夏であることは間違いないだろう。

転校初日の態度から察するに、一夏にはいい感情を持っていないことはわかっていたため、一夏を貶すようなことを言うのは仕方がないにしても、蔑んだその言い方にはさすがに二人とも堪忍袋の緒が切れた。

 

「……ねぇ、セシリア。あいつ今なんて言った?あたしには「どうぞ好きにぶん殴ってください」って聞こえたんだけど?」

「言っていたことは違いますが、そういう意味であることは間違いないですわね。この場にいない人を侮辱するなど、同じ欧州連合として恥ずかしい限りですわ……その軽口、二度と叩けないようにして差し上げます」

「とっととかかってこい」

「「上等っ!!」」

 

ラウラの挑発にまんまと乗ってしまった二人は、ラウラに向かっていった。

 

--------------

 

話し合いが終わり、一夏にIS訓練の監督を頼まれていたシャルロットは、再びシャルルに変装して一夏と合流し、一緒にアリーナに向かっていた。

その傍らには、勇人の姿もあった。

変なところでぼろが出ないか、少しばかり心配したというのもそうだが、一夏に頼み込まれて訓練に付き合うことになったということもある。

人間嫌いを豪語していても、なんだかんだとお人好しなのである。

 

「悪いな、シャルル、勇人。ISは駆動時間によって実力が比例するから、少しでも経験を積んでおきたくって」

「ううん、僕の方こそよろしく」

「……ま、たまにはな」

 

そんな話をしながらアリーナに向かっていると、爆発音が聞こえてきた。

いくらほかに使っている生徒がいるとしても、訓練で出るような音量ではないことに嫌な予感を覚えた勇人と一夏はアリーナまで走り出した。

アリーナに突入した二人の視界には、ISをまとった状態で倒れているセシリアと鈴音、その二人にとどめを刺そうとしているラウラの姿があった。

 

「うおぉぉぉっ!!」

 

一夏は思わず、白式を展開し、雪片を引き抜いてラウラに突撃していった。

だが、ラウラは雪片を片手で受け止めた。

いや、受け止めただけではない。一夏の動きそのものを封じ込めていた。

 

「ふっ。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」

「そいつが愚図というか、馬鹿であることは否定しないが。お前も大概視野が狭いな、軍人」

 

ラウラが一夏にそう語り掛けた瞬間、ラウラの頭上から青白い光が落ちてきた。

ラウラがその一撃を回避したことで、一夏は謎の拘束から解放された。

二人が頭上に視線を向けると、そこには《祓之梓弓》を構え、蒼穹をまとった勇人の姿があった。

 

「イチ、ひとまず二人を頼む。近接武器しかないお前じゃ分が悪い」

「うぐっ……わ、わかったよ」

 

勇人の一言に、一夏はおとなしく引き下がり、セシリアと鈴音の介護に向かった。

一方、勇人はゆっくりと一夏が立っていた場所に降り立ち、近接装備である《十拳》を引き抜いた。

 

「さて、選手交代だ」

「おもしろい。少なくともあそこの愚図よりは手ごたえがありそうだ」

 

一触即発。

勇人とラウラの間にそんな空気が流れていたが、実際に衝突することはなかった。

衝突する前に、それを停める声が響いてきたのだ。

 

「両者、すぐにISを解除しろ!これは命令だ!!」

 

声がした方へ視線を向ければ、そこには千冬が腕を組んで仁王立ちしていた。

だが、腰には打鉄に装備されている近接装備があることから、止まらなければ武力行使も辞さないと暗に告げていた。

 

「やれやれ……これだからガキの相手は疲れる。模擬戦をやるのはかまわん。だが、アリーナを破壊する事態は教師として黙認できん。各々、この決着は学年別トーナメントでつけろ。いいな?」

 

千冬の言葉に、ラウラは二つ返事でしたがった。

勇人と一夏、シャルルもそれに従い、その場は解散した。

その後、勇人は一夏、シャルルと一緒にセシリアと鈴音を保健室まで運んでいくのだった。



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予定は変更されるもの

まぁ、奇数ってなって余りが一人出ればこうなるよね、という場面です
ちなみにラッキースケベはありません


ラウラに必要以上の攻撃を加えられたために気絶したセシリアと鈴音だったが、勇人たちに保健室に運ばれ、応急手当てを受けた。

結果、大事には至らず、数分で目を覚まし、現在、不機嫌そうにしていた。

 

「別に助けなくてもよかったのに!!」

「あのまま続けていれば勝っていましたわ!」

「お前らなぁ……」

 

一夏も勇人も、シャルルもそれが強がりであることはすぐにわかった。

それでもプライドの高さゆえか、それとも鈴音は一夏、セシリアは勇人にあまりカッコ悪い姿を見せたくないためか、無理にでも起き上がろうとしていた。

 

「こんなの怪我の内に……いったたたたたっ!!」

「だいだい、寝ていること自体無意味……っつうぅぅぅぅっ!!」

「……無理しないで寝ておけ。治るものも治らなくなるぞ」

「まぁまぁ。好きな人にカッコ悪いところ見られたくないもんね?」

 

呆れたようにため息をつきながら、勇人が忠告した。

その背後から意地の悪い笑みを浮かべたシャルルの言葉に、鈴音もセシリアも顔を真っ赤にして、あきらかに動揺しながら否定してきた。

そんな二人をなだめるように、シャルルは鈴音にウーロン茶を、セシリアに紅茶を手渡した。

 

「まぁ、先生もしばらく休んだら帰って大丈夫って言ってたし、しばらくは……」

 

一夏がそう言いかけると、保健室の廊下から何十人もの足音が聞こえてきた。

足音は保健室の前で止まり、勢いよく、ドアが開かれ、その向こうから、何かの用紙を持った女子が押し寄せてきていた。

 

「織斑くん!デュノアくん!月影くん!!」

「……保健室では静かに」

「……あ……ご、ごめん」

 

勇人の静かな指摘に、女子たちは少しばかりおとなしくなった。

指摘されて落ち着いたのか、女子たちが一斉に手にしている用紙を差し出してきた。

そこには、タッグエントリー申請書、という文字があった。

どうやら、自分たちとタッグを組んでほしいというつもりだったらしい。

 

「え、えっと……」

 

シャルルは困惑しながら勇人の方へ視線を向けた。

先ほどの話し合いで、勇人は一夏、シャルルは簪と組む方向でまとまっていたのだが、それは当日、抽選による組み合わせでそうなるよう、調整することが前提であった。

そもそも、タッグ申請を事前に行う必要があるなど、楯無からは何も説明されていなかった。

 

「……すまん、さっきこいつと組むことを約束しててな」

「……っ?!ゆ、勇人?!」

 

勇人はシャルルの頭に手を置きながらそう告げた。

どうするべきか困惑していた手前、シャルルはそう提案してきたことに驚きはしなかったが、まさか勇人のほうから言い出してくるとは思わなかったため、驚いていた。

一方、もう一人、驚いていた人物がこの場に。

 

「なっ?!いつの間に……」

 

同じ男なのに、なぜ俺が誘われなかったのか。

そう言いたそうな表情をしていたが、すぐにその理由を思い出したらしい。

だが、こうなると一夏に女子の視線が集中することは当然であり。

 

「……わ、悪ぃ、勇人!シャルル!ここ、頼むわ!!」

「あ、逃げた!!」

「追いかけるよ!!」

「逮捕だ~っ!」

 

まるで世界をまたにかける大泥棒の三代目を追い続ける警部のようなセリフを口にしながら、女子たちは一斉に一夏を追いかけた。

それを見送りながら、勇人とシャルルはそっとため息をついた。

 

「あ、あの、勇人さん!」

「ん?」

「わ、わたくしと!わたくしとは組んでいただけないんですか?!」

 

今にも泣きそうな表情でセシリアは勇人に問いかけてきた。

だが、勇人がその質問に答える前に、どこから現れたのか真耶が口をはさんできた。

 

「だめですよ!オルコットさん!あなたの怪我もそうですが、ISのダメージランクがCに達しています!!これ以上はISの駆動に悪影響が出ますので、一度、修理する必要があります!!」

 

ISはマルチフォームスーツとしての側面が強いが、戦闘時を含めた操縦経験を蓄積し、より進化した状態へと移行することができるという側面を持っている。

だが、それはISが破損した状況での経験も含まれるため、下手に破損したままで操縦するとその時の経験を蓄積する結果、進化に支障をきたす可能性があるのだ。

大怪我がもとで怪我した部分をかばいながら行動すると変な癖がつくのと同じようなものだ。

それをわかっていたからか、セシリアは残念そうにその場を引いた。

もっとも、万全の状態であっても、簪と組むという先約があるため、どのみちセシリアとは組めないのだが。

 

――それ話したらなんか収拾つかなくなりそうだから話すのはやめておこう

 

混乱を呼びそうな気がしたため、そのことはうっかり口に出さないよう、心に誓う勇人であった。

 

--------------

 

部屋に戻ると、開口一番、シャルロットが勇人にお礼を言ってきた。

 

「ありがとう、勇人」

「ん?」

「さっき、かばってくれたよね?」

「あぁするのが一番面倒がなくて済むからな」

 

そっけない態度で勇人はシャルロットに返した。

だが、シャルロットは、それでも、と続けた。

 

「ううん、それでもとっさにあんなこと言ってくれたのは、勇人が優しいからだよ」

「ただ楽な方を選んでるだけだ」

「もう、偏屈なんだから……」

 

自分のその優しさを否定するような返し方に、シャルロットは苦笑した。

そういえば、とシャルロットは一つ思い出したように問いかけた。

 

「このこと、織斑先生は知ってるのかな?」

「……知らんだろうな。これから話してくる」

「え?いまから??」

「早い方がいいだろ?その間に、お前さんも着替えられるだろうし」

 

どうやら、勇人なりに気を使ってのことのようだ。

もっとも、それを口にしたところで勇人はそれを認めないだろうが。

 

「別に気を使わないでもいいのに……」

「気にすんな。てか、会長にも話さないといけないからな」

 

面倒くさい、と言わんばかりのため息をついて、勇人は部屋から出ていった。

シャルロットはその背中を見送り、苦笑を浮かべながら、着替え始めた。



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タッグトーナメント開幕!

女子は三人集まれば姦しく、なんてことばを聞いたことがあるようなないような……
ならそれ以上集まったらどうなるんでしょうね?(-▽-;


急なタッグ変更を余儀なくされはしたが、おおむね予定通り、学年別トーナメントの当日を迎えることとなった。

むろん、そのことを説明したときに、千冬は渋い顔をして腹をさすり、楯無は扇で口元を隠してため息をついていたことは言うまでもない。

 

とはいえ、もう過ぎてしまったことなのでどうしようもない。

楯無としては、簪と一夏を組ませるなど言語道断であるため、本音を急きょエントリーさせて挑ませようかとも思っていた。

だが、簪から『あいつと組むくらいなら出ない。というか《弐式》の改善点をまとめるのに時間を使いたいから今回は出ない』と連絡が入ったため、勇人とシャルロットで組むことに問題がなくなった。

そうこうしているうちに、タッグトーナメント当日をむかえ、会場は多くの来賓でにぎわっていた。

 

「金の卵を探すのに躍起になっている連中がわらわらと……」

「ははは、上位入賞者はどこの企業も注目するからね」

 

うんざりした様子で呟く勇人に、シャルロットは苦笑を浮かべながら返していた。

 

「となれば、お前も気合入れないとだな、シャーリー(・・・・)?」

「え?」

「これからどう転ぶにしても、お前の実力を見せつけるチャンスだからな」

 

デュノア社がどうなろうともシャルロットという一人のISパイロットの実力を、他者に評価してもらうことができる。実力が認められれば、あるいはデュノア社が潰れて再生不可能になったとしても、少なくともシャルロットの居場所は確保されるということだ。

勇人からのその言葉に、シャルロットは照れたような笑みを浮かべた。

 

「……どした?」

「う、ううん!なんでもないよ!!」

「そうか」

 

慌てた様子で返すと、勇人はそのまま何も聞かなかった。

だが、シャルロットは一夏から、勇人は人間嫌いで他人を名前やあだ名で呼ぶことはめったにない、という話は聞いていた。

だが、いま勇人は自分のことを『シャーリー』と呼んだ。

『三番目』という、IS学園で認識されている男性操縦者の順番でも、『お前』という二人称でもなく、あだ名で呼ばれた。

つまり、勇人にとってそれだけの価値がある、と認められたということだ。

 

――いきなり女の子をあだ名で呼ぶなんて……ちょっとずるいよ……

 

頬を赤く染めながら、シャルロットは心中でそう呟いていた。

だが、そんなシャルロットの心中など知ったことではないように、勇人は背を向けながら問いかけた。

 

「で?初戦からイチとドイツ軍人が相手だが、いけそうか?」

「正直、手の内を見てからにしたかったけど、大丈夫。勇人は?」

「イチはともかく、ドイツ軍人の手の内が読めればよかったが、まぁ、どうにかなるだろ」

 

敵を知り己を知らば、ということわざがある通り、シャルロットは相手への対抗策を講じて、できる限りリスクを抑えて戦いたいというスタイルのようだ。

社会の裏側で暗殺者として活動している勇人もそれは同じで、できる限り相手の情報を集め、対策を講じ、確実に仕留めることを基本としている。

ある意味、この二人は似ているのだ。

 

「ふふ、さすが。頼りにしてるよ、勇人?」

「なら、背中は預かるかな」

「せめて、背中は預けた、とか言ってほしいな」

「俺は誰かに背中を預けるのは滅多にしないんでな」

「え~?」

 

勇人のそっけない一言に、シャルロットはニコニコとしながら返していた。

冗談ではないこともわかっているが、なんだかんだ言って背中を預けてくれることは、短い付き合いではあるが理解しているようだ。

そんな二人の対戦相手は、まさかの一夏とラウラである。

もっとも、この組み合わせは二人にとっては最もやりやすいものだった。

一夏が猪突猛進の単純な戦法しかとらない、ということもそうだが、ラウラが連携を考えない可能性が高いことは、普段の授業や生活態度を見ればわかる。

実質的に、一対一対二の奇妙な三すくみになるのは目に見えていた。

そして、その三すくみの状態にこそ、付け入るスキがある。

 

「じゃ、いっちょやったるか」

「うん!」

 

入場のアナウンスが入り、勇人とシャルロットはアリーナへと入っていった。

入場と同時に、二人は自身のISを展開し、対戦相手である一夏とラウラに視線を向けた。

 

「よぉ、イチ。顔色悪いな?さっさと降参(リタイア)したらどうだ?」

『冗談!降参なんてカッコ悪いまね、誰がするかよ』

『ふっ、ずいぶんと強気だな。時代遅れの旧式機風情、わたし一人で十分だ』

「へぇ?ドイツの人ってもう少し慎み深いと思ってたけど、ずいぶん傲慢なんだね?」

 

互いが互いにヒールをぶつけ合っていると、試合開始のカウントダウンが始まった。

カウントダウンがゼロになった瞬間、一夏が《瞬時加速(イグニッション・ブースト)》で接近してきた。

が、同時に勇人も《十束》と《布津御霊》を抜いて迎え撃った。

 

「開幕と同時の先制攻撃、やっぱわかりやすいな、お前は」

「あいにくと、これしか能がなくてな!けど、シンプルなのがわかりやすくていいだろ!!」

「あぁ、おかげさんで心置きなく……」

 

ざわり、と一夏の背中に冷たいものが走った。

以前にも一度、クラス代表戦で感じたことがある感覚――殺気だ。

自分の人生設計を狂わせた張本人である自分を許すつもりがない、そう公言しているため、いつもことあるごとに堂々と殺気をぶつけてきているため、よく理解していた。

こういうときのパターンは大体覚えている。一夏は背後を振り返り、《雪片弐型》を構えた。

同時に、がきん、と音が響き、勇人の《十束》と《雪片弐型》が交差した。

 

「お前を!心置きなく!!ぼこぼこにできるってもんだ!!!」

 

牙をむき、どう猛な笑みを浮かべながら、勇人は一夏にそう宣言した。

クラス代表を決める試合のときに、一方的に殴っていたが、あれで足りるほど勇人の怒りは甘くはない。

そこに加えて、シャルロットがシャルルとして編入してきたときから、勇人以外の同性ということで暗に拒否されているにも関わらず、お節介を焼き続けている行為によって、女を腐らせた生徒たちが薄=異本(うすいほん)のネタにされていたこともあった。

自身の性癖に関して誤解を生むようなその設定が作られる原因を作った一夏を許せないと感じているのは無理からんことであろう。

かくして、公式の場で、誰に咎められることもなく、勇人は一夏に思う存分ストレスをぶつける場を得たのであった。



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黒と白vs蒼と風

いかん、ストックが……


試合開始のサイレンが鳴り響くと、一夏がいの一番に突っ込んできた。

勇人は一夏の攻撃を受け止め、切り結んだ。

だが、二人のISから同時に警報が鳴り響いた。

いち早くそれを察知した勇人は回避行動をとったが、一夏は一瞬、反応が遅れてしまい、背後からの攻撃を受けてしまった。

 

その攻撃を放った人物は言わずもがな、ラウラである。

もともと、一夏のことをよく思っていなかったことに加え、IS学園に通っている生徒たちを「腑抜け」と称していたことから、最初から一人で戦うつもりだったらしい。

 

「フレンドリィファイアか、感心しないな、女軍人」

「はっ!私は最初から一人で戦うつもりだ!」

「だそうだ、残念だな、イチ。振られたぞ、お前」

「うぇっ??!!……がはっ?!」

 

勇人が冗談めかして言った言葉に、一夏は思わず顔を赤くなり、動揺した。

その結果生まれた隙を見逃すほど、勇人が組んでいる相棒(バディ)は甘くはない。

いつの間にか一夏の横に回っていたシャルルが手にした機関銃で一夏を銃撃したのだ。

 

「僕のことも忘れないでよ?一夏!」

「くっそ!!これじゃ一対三じゃないか!!」

「いや、一対一対二だ。間違えてやるなそこんとこ」

 

一夏が口にした文句に対して、勇人は呆れ顔で冷静に返した。

確かに、一夏からすれば一対三の構図になっているが、実際にはラウラがスタンドプレイをする上で一夏が邪魔であると判断しているいうだけだ。

ラウラにとって勇人とシャルルは倒すべき相手であることに変わりはない。

現に、同じチームであるはずの一夏が巻き込まれることなどおかまいなしにワイヤーブレードやレールカノンで勇人とシャルルを執拗に攻撃していた。

 

「ちっ……さすがに厄介だな。シャル!ロングだ!!」

「了解!」

 

勇人の指示に、シャルルが応えると、シャルルは距離を置き、遠距離用に用意していたライフルに武装を持ち替えた。

むろん、遠距離戦が苦手な一夏はシャルルとの距離を詰めようとするが、急所をいくつか打ち抜かれたこともそうだが、ラウラの攻撃に巻き込まれたこともあり、SEが底を尽きてしまい、リタイアとなった。

 

--------------

 

一方、その試合の様子をモニタールームで観戦していた二人の影があった。

四人の担任教師である千冬と副担任の真耶だ。

 

「え、えっと……お、おしかったですね、織斑くん」

「ふん、おしくもなんともない。単なる訓練不足だ」

 

もう少しもつかと思った一夏が一番最初にリタイアしてしまったことで、真耶は千冬を気遣うようにそんなことを言ってきたが、千冬はそれを冷たく一蹴した。

訓練が足りない、ということもそうだが、実質的に、一人で三人を相手にしている状況はさすがに不利に働いたということがわからないでもない。

だが、数の不利をはねのけるほどの力を身につけなければ、これから先、一夏を中心に起きるであろう波乱に立ち向かうなど、できるはずもないと考えていた。

だからこそ、いままで千冬はとにかく厳しく一夏に接してきたのだ。

もっとも、なぜ自分を頼らないのか、と思わないでもなかったのだが。

そんな千冬の想いを知ってか知らずか、真耶は無理やり話題をラウラに変えた。

 

「それにしても、ボーデヴィッヒさん、強いですね。ニ対一なのに互角に渡り合ってますよ」

「ふん、変わらんな、あいつは……強さを攻撃力と勘違いしている。このままでは……」

 

そう口にした瞬間、戦況が動いた。

勇人の十八番ともいえる超高速移動による連続攻撃と、シャルルの遠距離攻撃に翻弄され、得意の慣性停止能力(AIC)を発動することができずにいた。

 

「すごい……シャルルくん、ほんの二週間程度しか一緒に練習してないはずなのに」

「自分の立ち位置を見極め、その状況に応じて戦略を変えているのだろう。そうでなければボーデヴィッヒのように一人で戦うことを好む月影に合わせることなどそうそうできるものではない」

「やっぱり織斑先生でも難しいですか?」

「奴の性格が気難しいからな……まぁ、一応、心を許しているよう生徒はいるだがな」

 

入学当初の勇人は、本音以外のクラスメイトにはまったくなじもうとする素振りすらなかった。

が、この数か月でようやく、セシリア、鈴音、一夏、箒を筆頭にあいさつを交わす程度には心を開き始めていた。

とはいえ、その四人と更識姉妹、布仏姉妹の六人以外、千冬と人当たりがよく面倒見もいい真耶でさえも、それ以上の関係になってはいない。

 

「あいつの心を開かせることは、容易ではないな……」

 

そうつぶやきながら千冬は、自分もまだまだだな、と心中でため息をついた。

そんな様子を知ってか知らずか、真耶は、あ、と何かに気づいたように悲鳴を上げた。

画面を見ると、二振りの刀を振るいラウラを奔走する勇人と、ラウラの死角で「盾殺し」と呼ばれる六十口径のパイルバンカーを装備したシャルルが映っていた。

勇人がこのままラウラの動きを止めれば、シャルルが至近距離でパイルバンカーを発射。

たとえ、SEに余裕があっても、あの攻撃を耐えることができようはずがない。

 

勝負あった。

 

モニタールームにいた二人がそう確信した瞬間、二人は驚愕で目を見開いた。

画面には、コールタールのような黒い粘膜に包まれた装甲をまとい、一振りの刀を構えているラウラの姿があった。

その姿は、かつての織斑千冬の姿そのものだった。



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