根絶少女 (栗山飛鳥)
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1年生編
4月「滅びは、生まれた瞬間に始まる」


 地球によく似た惑星――クレイ。

 その星に異形の群れが近付いている。猛毒を想起させる紫色の外皮に、人の頭蓋骨を模した胴体を基調として、全身に無数の触手を生やした者。巨大な鋏を持つ者。口の中に納まらない牙を持つ者。形こそ様々だが、共通しているのは、捕らえ、傷つけ、喰らう。それだけに特化したような怪物であるということ。

 彼らは根絶者(デリーター)と呼ばれる侵略者であった。

 中でもとりわけ素早い数匹が、群れから抜け出してクレイへと迫る。その1匹1匹が、ひとたび星へと降り立てば、街一つを容易に根絶し得る災いの種子である。

 それらがクレイに取りつく寸前、白い光が奔り、先行していた群れを薙ぎ払った。悲鳴すらあげられずに焼かれた根絶者達が、流星となって惑星クレイへと落ちていく。

 一切の前触れも無く、白き異形が惑星クレイを守るように顕現していた。同じ異形でも、幾重にも翼を重ねた姿は、根絶者達とは一線を画す神々しさを感じさせた。

 それは惑星クレイを守護する存在、救世主(メサイア)であった。

 根絶者の本隊が蠢き、その中心からひと際巨大な根絶者が現れる。それは指揮者のように腕を振るうと、救世主に指を向けた。瞬間、根絶者の群れがそれ目がけて殺到し、救世主は冷徹にそれを迎え撃つ。全身から放たれる閃光が根絶者達を薙ぎ払い、その多くが先発隊と同じ運命を辿ってクレイに降り注いだ。

 中でも、最も弱く小さい根絶者は、一瞬で骨も残らないほど焼き尽くされ、後には魂だけが残された。理に縛られることのなくなった魂は、クレイと表裏一体になっている惑星――地球にも落ちた。肉体を失った根絶者はそれでも獲物を求め、生まれたばかりの赤子を見つけると、本能のままその魂に喰らいつき、一体化した。

 赤子の手の甲に侵略者(リンクジョーカー)の紋章が浮かび上がる。

 それはごく一部の者が知る憑依(ディフライド)と呼ばれる現象に似ていた。

 

 

 音無(おとなし)ミオは感情が希薄な少女だった。

 幼い頃から、皆が楽しんでいる時に笑えず、皆が悲しんでいる時に泣けず、やがて誰もが彼女を恐れて遠巻きになっても寂しいとすら感じなかった。

 中学生になり、自分が他人と違う事を自覚したミオは、人並みの感情を求めて部活動に入部する。だが、部活動に熱中する部員達と、何一つ熱くなれない自分との温度差を改めて突きつけられただけだった。

 部活を辞め、別の部活へ入部するが何も変わらず、そんなことを繰り返しているうちに、彼女の3年間は終わった。

 だから、高校生になったら部活動には一切関わらないと決めていた。人と違うという事に対する漠然とした焦りは、今や虚無にも似た諦観へと姿を変えていた。

 4月初頭、ミオの入学する響星(きょうせい)学園の入学式はつつがなく終了し、高校生活初のホームルームからも解放された新入生を待ち受けていたのは、上級生による部活動の勧誘だった。手当たり次第にチラシを配る者。これぞという新入生を熱心に口説く者。とにかく大声をあげて目立とうとする者。様々な上級生が新入生を取り囲んだ。

 新入生を歓迎するかのように舞い散っていた桜の花びらは、今や幾多の靴底に踏み荒らされ、青臭い匂いを発していた。

 同年代の女子よりも一回り小柄な体をさらに縮め、生まれついての白髪をなびかせ、ミオはするすると人混みをすり抜けていく。もっとも、運動部が活発な響星学園で、ミオのような小さな少女を相手にしたがる者は少なかったが。

 熱気のるつぼをくぐり抜け、一息ついた時、背後からかけられた「キミ、カードファイトしてみない?」という言葉に、ミオは妙に心がざわつくのを感じた。

 普段は気怠そう細められている目を、丸く見開いて振り返る。

 そこに立っていたのは、伸ばした前髪で左目を隠した女子生徒だった。

「カードファイト、ですか?」

 オウム返しに尋ねるミオに、女子生徒は快活な笑顔を見せた。

「そ、ヴァンガード。名前くらいは聞いたことがあるでしょ?」

「いいえ」

「そ、そうなんだ。テレビで大会の中継もしてるんだけどなあ。

 ね、カードゲームなんだけどさ、興味ある? あなたもやってみない?」

「……興味は無いですが、お話を聞くだけなら」

「わお、正直だね。好きよそういうの。じゃ、ここは騒がしいし部室へ行こっか」

 善は急げとばかりに上級生はミオの腕を引っ張った。

(ヴァンガード……カードゲーム……遊んだこともありませんし、話を聞くくらいなら構わないでしょう。それに……)

 せっかく抜けてきた人混みを、またかき分けて校舎まで引き返しながら、ミオは上級生に掴まれていない方の手で心臓を押さえていた。

(何故、私の胸はこんなにも高鳴っているのでしょうか)

 運命の出会いを前にして、少女は「期待」という感情すら知らなかった。

 

 

「自己紹介が遅れたね。あたしは2年の天道(てんどう)アリサ。アリサでいいよ」

「音無ミオです。よろしくお願いします、アリサさん」

 教室にもある勉強机を向かい合わせて布を敷いただけのテーブルで、改めて対面した2人は互いに名乗り合った。

 部室として案内された部屋は狭く閑散としており、息をするたびにインクのツンとした香りが鼻孔をくすぐる。部屋が乾燥しているように感じるのは、紙であるカードを傷めないため湿気を取り除いてるのだろう。

「それじゃ、さっそくヴァンガードを体験してみようか」

「いきなりですか?」

「まずはやってみた方が分かりやすいのよ。ルールは簡単だからね。ほら、こっちに来て。好きなデッキ……ええと、カードの束を選んで」

 アリサに手招きされた先、部屋の隅に古い教卓が置かれており、そこにカードが集められていた。隅にあるのは、窓から差し込む陽の光が当たって、紙が劣化しないようにするためか。所狭しと並べられているようで、見やすいように整頓もされている。

「ここに並べてあるのがトライアルデッキ。どれも使いやすいから、まずは気に入ったイラストで選んでいいよ」

 アリサの指す先には、8種類のデッキが並べられていた。白亜の騎士、深紅の竜、蒼海を往く海軍……どれも綺麗なイラストだとは思うが、それ以上の感情は抱けず、ミオは視線を移し替えていき、最後の一つに目が止まった。

「これ、この子たちがいいです」

 子供のように声を弾ませ、気が付けばそのデッキを手にしていた。多くの人が不気味に感じるであろう、異形の怪物が描かれたカードだが、昔からぬいぐるみの類にも興味を抱けなかったミオにとって、何故かその群れだけは狂おしいほど愛おしく思えた。

「根絶者? いい趣味してるねー。あ、褒め言葉だよ。あたしも好きなんだ。いかにも悪役っていう感じがカッコいいよね」

 そんな話をしながら、次にアリサは、ミオにカードの並べ方と用語を簡単に教えていく。

 それが終われば、山札とファーストヴァンガードを机に置いて、手札を引き、二人は向かい合って礼をする。

「イメージしろ。今のあたし達は惑星クレイに降り立った霊体だ――」

(惑星、クレイ?)

 アリサが突拍子も無く言い放ったセリフに、ミオの心はまたも騒いだ。何か大切なものを忘れているような焦燥が胸を突く。アリサの話はまだ続いているが(どうやらゲームの設定らしい)ミオは上の空になっていた。

「それじゃ、はじめよっか。本来ならじゃんけんで先行を決めるんだけど、今回はルール説明のため、あたしが先攻でいくね」

「あ、はい。お願いします」

 いよいよゲームが始まる段階になり、ミオはようやく我に返った。

「まずはスタンドアップ・ヴァンガードの掛け声で、ファーストヴァンガードを表にするの」

「はい」

「「スタンドアップ・ヴァンガード」」

 二人が同時にカードをめくる。

 ミオの先導者は《発芽する根絶者 ルチ》

 根絶者の中でも特に小型で最弱の個体。だがそれは、あらゆる形へ進化する可能性を孕んだ、災厄の芽でもある。

 その姿を見た瞬間、ミオの感じていた焦りが少しだけ和らぐのを感じた。まるで帰るべき場所に帰ってきたような安堵を覚える。

 対するアリサの先導者は《マシニング・ワーカーアント》

 犯罪結社メガコロニーの尖兵である。

「まずはより高いグレードのユニットにライドして、自分を強くさせていくの。

 ライド! グレード1、《マシニング・ホーネット》!」

「ライド。《発酵する根絶者 ガヰアン》」

 アリサに追従するように、ミオもガヰアンにライドする。ルチを一回り成長させたような根絶者で、まさに昇級したようだった。

 こうしてアリサのルール説明を交えながら、ゲームは進んでいく。

「ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》。イマジナリーギフト、フォースはヴァンガードサークルに置きます」

 後攻のミオがG3にライドする頃には、彼女はすっかりゲームに馴染んでいた。それは明らかに異常な習熟速度だったが、アリサは(うんうん、あたしの教え方が上手いからだねー)と勝手に満足していた。

「グレイヲンでアタックします。

 ツインドライブ……1枚目、トリガー無し。2枚目、(ドロー)トリガー。カードを1枚引いて、ターンエンドします」

「これであたしはダメージ4。なかなかやるわね。じゃあ、次のルールを教えようかな。

 あたしのターン、スタンド&ドロー! ユニットをコールして、《マシニング・スパークヘラクレス》のスキル発動! CB(カウンターブラスト)2!」

 スパークヘラクレスのツインアイが怪しく瞬くと、それの振りかざしたツメから電光が網の目を描くように奔り、根絶者達を次々に捕えていく。

「指定されたコストを支払うことで、あなたのユニット6体を-5000。あたしのリアガード全てを+5000よ。

 さあ、続けてスパークヘラクレスでアタック! ドライブチェックは……ざんねん、2枚ともトリガー無し」

 スパークヘラクレスが薄羽を広げてグレイヲンに飛来する。グレイヲンはそれよりも遥かに巨大だが、痺れて動けなくなっては、獰猛な蟲達のごちそうも同然だった。

 グレイヲンの頭上で、スパークヘラクレスがツメを振るう。高圧電流を纏ったその一閃は、グレイヲンの顔面を引き裂いたが、傷口からは一滴の血も流れず、代わりに肉が電流で焼かれる刺激臭が戦場に充満した。

 ミオのダメージゾーンに5枚目のカードが置かれる。

(……これ以上の攻撃に、私は耐えられない)

 いつしか、ゲームの盤面を俯瞰する現実のミオと、グレイヲンとなっているミオの思考は入り混じっていた。ゲームに集中しているという言葉では説明がつかないほどの一体感。

 今の自分に何ができるか。そして、何をすべきか。彼女はそれを鮮明に理解できていた。

「スタンド&ドロー。グレイヲンのスキル発動……」

「お、気付いたわね。グレイヲンにもスキルがあってね、その効果は……」

「CB2を支払い、スパークヘラクレスをデリートします」

 アリサが説明を終えるより早く、グレイヲンと一体化したミオの手が握りしめられる。

 それと同時、バチバチと電光で威嚇音を鳴らしていたスパークヘラクレスの姿が、一瞬でかき消えた。残されたのは霊体となったアリサのみ。

「デリートされたユニットのパワーはゼロ。ガタリヲとギヲをコールし、グレイヲンでアタックします」

「えっ、えっ、ミオちゃん、早いよ!? えっと、プロテクトで完全ガード!」

 目ざわりな虫けらを払うように、グレイヲンが無造作に腕を振るう。アリサの前に現れた翠緑に輝く盾が、ギリギリのところでそれを受け止めた。

 だが、これで終わりではないとばかりに、ミオはデッキに手をかける。

「ツインドライブ。

 1枚目、(クリティカル)トリガー。効果は全てギヲに。2枚目、★トリガー。これは全てガタリヲに。★+1のギヲでヴァンガードにアタック」

 アリサに、残る根絶者達の猛攻を防ぐ術は無かった。霊体となった無防備な少女に、ギヲが爪を突き立てる。

「ノーガード……ぎゃー、やられたー」

 6枚目のダメージを置き、棒読みの悲鳴をあげてアリサがテーブルに倒れ込んだ。ゲームに没頭していたミオが、ハッと我に返る。

「や、やるじゃない。はじめてなのにデリートを使いこなすなんて」

 むくりと復活したアリサが、額に浮かんだ冷や汗をぬぐいながら言う。

「はい。使い方が何となく分かったんです」

「へー。センスあるのよ、あなた。で、どうだった? はじめてのヴァンガードは」

「…………」

 ミオはしばらく手の中にあるグレイヲンのカードを見つめていた。

 人智を超えた強大な存在へと変貌する快感。異形の群れを率いる高揚。並み居る敵を消去する愉悦。

 ミオが経験した事の無かった非現実がそこにあり、その果てに発露した最も大きな感情。

 それは――

「ヴァンガード……楽しかったです」

「よかった!」

 アリサが満面の笑みを浮かべて喜んだ。

 この上級生は、顔の半分が髪で隠れているにも関わらず、表情がコロコロと変化し、感情が分かりやすい。

「……もう一度、お願いできますか?」

「お? いいよ。今度はさっきのようにはいかないからね」

 再戦を希望したミオに答えて、アリサが自分のデッキを切り直す。ミオも盤面に置かれた根絶者のカードをまとめ直したところで――

 カララと静かな音をたてて、部室の扉が開いた。そこから現れたのは、校内にも関わらず白い着物を着た女子生徒だった。生徒と判断できたのは、鞄が学校指定のものであったからで、年季の入った傷み方から上級生であると推測できた。

 漆を塗ったかのような艶のある黒髪をうなじのあたりまで伸ばしており、ピンと伸びた背筋からは大人びた雰囲気を感じさせる、清楚な女性だった。

「ごめんなさい。生徒会の仕事で遅れてしまったわ。……あら、新入生かしら」

 上品な手つきで扉を閉めながら、着物姿の女子生徒がミオに視線を向ける。そんな何でもない所作の一つ一つですら艶やかで美しい。

「あっ、ユキ! この子は音無ミオちゃん。初めてファイトして、いきなりあたしに勝ったのよ」

 椅子ごと女子生徒へと振り向き、アリサがミオを紹介してくれた。

「あら、そう」

 相槌を打ちながら、ユキと呼ばれた女子生徒は微笑みをたたえたままミオの前までしずしず寄ってきたので、ミオもカードを置いて立ち上がった。

「私は3年の白河(しらかわ)ミユキ。このカードファイト部の部長を任されているの。皆、ユキって呼んでくれるから、あなたもそう呼んでくれると嬉しいわ」

「音無ミオです。よろしくお願いします、ユキさん」

 着物を着た上級生の自己紹介に、ミオはぺこりと頭を下げる。

「ええ。よろしくね、ミオさん。

 さて、ヴァンガードの楽しさは既にアリサが伝えてくれたと信じているわ。

 ミオさん、ぶしつけで申し訳ないけれど、部活を決めていないなら、我が響星学園カードファイト部に入部して頂けないかしら?」

「…………」

 ユキの問いに、ミオは思わず沈黙してしまう。高校では部活に入らないと決めていたのだ。

 逡巡するミオに、ユキも訴えかけるように続ける。

「実は、カードファイト部には私とアリサの2人しか部員がいないの。部員が2人だと、色々と不都合があるし、ヴァンガード甲子園にも出場できないの。あなたのような有望な新人が入部してくれると、すごく助かるのだけれど」

「ヴァンガード甲子園、ですか?」

 聞いた事の無い単語が出てきたので、ミオは問い返した。

「ええ。日本全国の高等学校で3人1組のチームを組んで、ヴァンガードの最強校を決めるの」

「どうしてですか?」

「え? ど、どうしてかしら、ねえ?」

 これまでずっと穏やかな笑みを絶やさなかったユキの目がはじめて泳いだ。

「どうしてもこうしても無いわよ。その方が面白いってだけじゃない?」

 アリサが適当に助け船を出し、それに乗ったユキがポンと手のひらを重ね合わせる。

「そ、そう! 面白いからよ。ひとりより仲間と一緒の方が楽しいもの」

「そういうものですか」

 ミオは俯きがちになって言った。

「ええ、きっとそうよ」

「私には分かりません。私には、仲間なんていませんでしたから――」

「……そう」

「――ですから、それを知るためにもカードファイト部のお世話になろうと思います」

 ミオがおずおずと手を差し出した。

「……ええ、歓迎するわ」

 ユキの白くて細い手がぎゅっとミオの手を握りしめた。それはミオを深淵から引きずりあげるかのように力強く。

「やったあ! これからよろしくね!」

 後ろから抱きついてきたアリサの体温は、ずぶ濡れになった体を全身で包み込んでくれるかのように温かかった。

 

 これは少女達による、どこにでもあるような何でもない日常であり――

 

 1人の少女が世界を消去する物語である。




はじめまして。
栗山飛鳥と申します。

作品の事は作中で語るのが私の理想ではありますが、まだまだ未熟者で、今回が初めてという事もあり、あとがきの場を借りて、この「根絶少女」という作品の解説をさせて頂きたいと思います。
些細ではありますが、後の展開のネタバレが含まれております(作中で登場するクランについての話となります)。
それが嫌な方は、3つ目以降の項目は読み飛ばすことを推奨します。

●世界観について
お話の舞台はヴァンガードのアニメと同じ「今より少しだけ未来。カードゲームが普及した地球」が舞台となっております。
憑依が登場するので、「ヴァンガードG」完結よりも後の話というところまでは確定です。
さて、そこで問題になってくるのが、アニメの登場人物ですね。
例えばですが、プロリーグのチャンピオンなんて大仰なキャラを登場させた場合、私の描写が足りなければ「こいつは櫂より強いのか!?」と批判を受けるのは火を見るより明らかです。
ですので、「世界観はアニメだけど、アニメの登場人物は存在しないパラレルワールド」ぐらいの認識でいて頂ければと思います。
そのようなわけで、アニメの登場人物や、それとの関係を匂わせるキャラクターも、一切登場させる予定はありません。
その点はご了承くださいませ。

●「根絶少女」のシステムについて
「根絶少女」は「今より少しだけ未来の地球」の話ですが、私達の住む地球とリンクしている部分があります。
それは月日と、ヴァンガードの最新弾です。
6月に「My Glorious Justice」が発売されれば、「根絶少女」の世界でも「My Glorious Justice」が発売され、収録カードが作中でも登場します。
ただし、展開の都合上「最凶!根絶者」に相当するパックのみ、本編では5月発売となります。
「根絶少女」の連載ペースはだいたい月に2回。今回のような「本編」と、その月に発売する新弾をレビューする「えくすとら」を毎月書いていき、主人公が高校を卒業する3年後に完結予定です。
「本編」は月初の金曜日か土曜日に更新予定です。ただし、作中の展開によっては2月14日(バレンタイン)や、12月24日(クリスマス)等、特別な日に更新される可能性もあります。
「エクストラ」は新弾発売日か、その一週間後に更新予定です。

●ファイト描写について
まず、読者様がヴァンガードのルールを理解して頂いているのは前提となってしまいますが、ご了承ください。
綿密なファイト描写は基本的に行いません。
手札の枚数、内容、ダメージの表裏、デッキの枚数などは、普段は曖昧な状態で、必要な時のみ描写する形になります。
ファイトを最初から最後まで描写する事も、長くなるのでまずありません。
今回はファイト描写が短めだったのですが、次回は本格的にファイトが行われるので、それを見て面白いか否か、判断を下して頂ければ幸いです。

●登場人物が使うクランについて
今回登場した3名が、当作品の1年目におけるメインキャラクターになります。
使用クランは「リンクジョーカー(根絶者)」、「メガコロニー」、そして「むらくも」です。
白状してしまいますと、いずれも私が使用しているクランです。
言い訳にはなりますが、悩み抜いた結果、最初は自信をもって描写できるクランがいいという結論に至りました。

ただ、これらのクランばかりが活躍する話にはしません。
主人公である「根絶者」はさすがに出番が多くなりますし、「メガコロニー」も「むらくも」も見せ場は確実にありますが、そればかりには絶対にしません!
最終的には全クランが登場し、活躍させることを第一目標として掲げています。

長くなりましたが、解説は以上となります。
これから音無ミオの3年間にお付き合い頂ければ幸いです。


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5月「口内炎を力いっぱい噛むくらい不運だ」

※今回に限り「最凶!根絶者」に相当するパックは5月発売という設定です。


 私立響星(きょうせい)学園3階の隅に、カードファイト部の部室はある。

 かつては倉庫として使われていた一室を、どうにか人が過ごせるように整えただけの部屋である。

 20年前に行われた校内大改築で、廊下や教室のほとんどがリノリウムに張り変えられたが、この部屋の床は未だに木製であり、歩くたびにきしんだ音をたてる。

 時の流れに取り残されたかのようなこの部屋は、伝統として、部員数が5人以下の部活動に提供される。これまでも多くの部活がここに押し込まれては――あえて理由は語らないが――消えていった。

 カードファイト部の設立は5年前。この部屋の主としては長生きな方である。

 部活動として認められる条件である3人の部員が所属しており、今はその全員が揃っていた。

 部屋の中央に置かれた粗末なテーブルについて、表情に一切の感情を浮かべずカードを握る白髪の少女は、1年生の音無(おとなし)ミオ。

 新入生である事を考慮してなお小柄で、中学生くらいにしか見えない。ガラス玉のように光を反射する丸い瞳は、彼女をビスクドールのように愛らしく、そして、不愛想に見せていた。

 彼女と相対する席に座っているのは、部長を務める3年生の白河(しらかわ)ミユキ。通称ユキ。

 校内にあって着物を纏う彼女は、それでも似合いすぎていて違和感は皆無だった。正面から見れば上品な笑み。後から見れば黒髪から覗く白いうなじ。高校生ながら、既に大人の風格と色香を兼ね備えた女性だった。

 向かい合う2人を見守るように、前後逆にした椅子の背もたれによりかかる少女は、2年生の天道(てんどう)アリサ。

 伸ばした前髪で左目を隠した髪型こそ特徴的だが、中肉中背、美人すぎない美人といった風貌で、先の二人と比較すると没個性な印象があった。状況に応じてコロコロ変化する表情は年相応で、部員の中では一番女子高生らしい女子高生と言えた。

「《絆の根絶者 グレイヲン》のスキル発動。《隠密魔竜 マンダラロード》をデリートします」

 ミオが抑揚の無い声で宣言する。ユキは余裕の笑みを湛えたまま、ヴァンガードサークルに置かれたカードを静かに裏返した。

 異形の竜が消失し、魂となったユキの姿が露わになる。

「お互いにダメージ5。ここが正念場ね」

 対戦している両者よりも、よほど緊張した表情でアリサが唾を呑む。

「ギヲとガタリヲをコール。デリートされたマンダラロードにグレイヲンでアタックします」

 グレイヲンが巨木の如き腕を振り上げる。

「ふふ、《忍獣 リーブスミラージュ》で完全ガードよ」

 ユキが優雅に差し出したカードから無数の木の葉が溢れ出し、彼女の姿を覆い隠した。

「ドライブチェック」

 逃がさないとばかりに、ミオが山札に手をかける。

「1枚目、(クリティカル)トリガー。効果はすべてリアガードのギヲへ」

 引いたカードでギヲを指し示しながら、次のカードを引く。

「2枚目、★トリガー。効果はすべてリアガードのギアリへ」

 グレイヲンの拳が木の葉の群れへと叩きつけられた。その衝撃で木の葉は霧散し、先程までユキがいた場所には巨大なクレーターができあがっていた。

「あら、困ったわねえ」

 グレイヲンの背後に現れたユキが、微笑みは絶やさないまま、頬に手を当てて考え込む仕草をとる。

 こういったユキの所作は全く参考にならないと、このひと月でミオは思い知っていた。今のように「困った」と言っている割には手札がよかったり、はたまた言葉通りだったり。単なるポーカーフェイスよりタチが悪い。

「ガタリヲでブースト。ギヲでアタックします」

「ユキヒメとミダレエッジでガード」

「ガヰアンでブースト。ギアリでアタックします」

「ムーンエッジ、シジママルでガード。マガイマンダラでインターセプト」

 どうやら、手札がよいパターンのようだった。

 とは言え、これでユキの手札は1枚。ミオの手札は4枚。ヴァンガードがデリートされたままなら凌げる公算が大きい。

「スタンド&ドロー。マンダラロードにライドして、2つ目のアクセルサークルを置きます」

「……はい」

 ミオは覚悟を込めて頷いた。はじめから握っていたのか、今のドローで引けたのかすら、ユキの表情からは窺い知れなかった。

「マンダラロードの効果で、マンダラロードとソウコクザッパーをスペリオルコールします。手札からはブラッディミストをコール。そして、ブラッディミストの効果……」

 気が付けば、ユキの盤面が、新たなアクセルサークルも含めて完全に埋まってしまっている。

「ソウコクザッパーのブースト、ソウコクザッパーでアタック」

 同じ姿をした2体の小型の忍竜が、虚実を交え、音も無く根絶者の巨体を駆け上がる。双つの黒い影が、グレイヲンの喉元で交差すると、その頭部がズルリと嫌な音をたてて傾ぎ……ミオはそこでイメージを打ち切った。

「ダメージチェック……負けました」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置き、礼をしたのか落ち込んだのか、ミオの頭が深く垂れた。

「今日は10戦して2勝8敗だね」

 アリサが明るい声で言いながら、手元の「ミオちゃん成長の記録」と題されたノートに結果を記入した。

 ミオは部活で毎日10戦――ユキとアリサ相手に5戦ずつ――することを義務付けられていた。こうして統計を取ることで、自分の弱点が見えてくるらしいのだが、先週の結果はこうである。

 月曜日 1勝9敗

 火曜日 1勝9敗

 水曜日 4勝6敗

 木曜日 2勝8敗

 金曜日 1勝9敗

 見えてくるのは、自分の不甲斐なさだけだった。

 そして、まだ善戦したと言える水曜日は、ユキが生徒会の用事で部活に出られず、アリサとだけ10戦した日である。1勝しかできなかった日も、勝った相手は全てアリサのみ。

 そこから導き出される、もう一つの結論は。

 ミオは頭を上げて、それを告げる。

「ユキさん、強すぎないですか?」

「あら、ありがとう」

 褒めたわけではないのだが、何故かお礼を言われた。

「実際、ユキは全国レベルだよ。手加減も知らないし、今は勝てなくっても気にしちゃダメ」

 アリサがヒラヒラと手を振って、ミオを慰める。

 思えば、アリサがユキに勝ったところも、ミオはあまり見たことがなかった。

「私が全国で通用するかはさておくにしても、ミオのデッキの回し方に間違いは無いのよね。記憶力もいいし、はじめて1か月とは思えないくらい」

「正直、あたし達が口を出すところなんてもう無いよねー」

「やっぱり、ミオに問題があると言うよりも、デッキがミオについてこれていない感じかしら」

「待ってください」

 急遽開催された先輩会議に、ミオが口を挟んだ。

「デッキに問題があると言われても、私のトライアルデッキはこれ以上の改良しようがありません」

「ふふふ……」

「ふっふっふ」

 ミオの訴えを、ユキは穏やかに、アリサは不気味に笑って聞いていた。

「何がおかしいんですか?」

 訝しむミオに対して、アリサが芝居がかった口調でまくしたてる。

「そんなあなたに朗報! 今週の金曜日にヴァンガードの新パックが発売されるのよ! 今回のパックは根絶者(デリーター)が超強化!!」

「むらくももあるわよ」

「トップレアは『波動する根絶者 グレイドール』! ほら見て、デリートに、バインドに、★まで+1されるのよ」

 途中で雑音が紛れ込んだ気もするが、それはさらりと無視して、アリサがスマホの画面を見せてくる。

「……本当ですね。これはすごい、欲しいです」

「トライアルデッキは、トライアル(おためし)デッキでしかないからね。あたしやユキが使っているような完全ガードの(ドロー)トリガーも収録されるし、根絶者はここからが本番だよ」

「今日は月曜日。まだ先じゃないですか」

「わかるわー、その気持ち。パックの発売日まで1週間を切ってからが長いのよねー」

 カレンダーを見て肩を落とすミオに、アリサがうんうんと首を縦に振る。

「けど……根絶者の仲間が増える。根絶者デッキが強化できる」

「そうだよ。自分でデッキを考えるのって、すっっっごく楽しいんだから! ミオちゃんのヴァンガードもここからが本番だよ!」

「それは……楽しみですね」

 ミオの表情が僅かに緩んだ。

「あら? ミオ、笑った?」

 それを目ざとく見つけたユキが指摘する。

「私、笑ってましたか?」

 その時にはもう、ミオの表情はどこかきょとんとした無表情に戻っていたが。

「ええ、笑ったわよ。初めて見たわね。ミオが笑うところ」

「え、あたし見れなかったんだけど」

 ついさっきまで熱弁を振るっていたアリサが歯がみして悔しがる。

「そうですか。私、笑えてましたか。ええ、だって、楽しみで仕方ありませんから」

 自分の中に芽生えた感情を手離さないように、ミオは胸に両手を当てて、もう一度顔をほころばせた。

 

 

 その帰り道。

 時計は6時を指していたが、街灯の並んだ通学路は昼のように明るかった。

 部活帰りと思しき学生達がまばらに見られる通りを、ミオ達カードファイト部の3人も並んで帰宅していた。3人とも利用する駅は同じなので、そこまでは一緒に歩いて帰る。

 その途中、ファミレスの前で急に立ち止まったアリサが「ここ寄ってこーよ!」と言い出した。

「私は構いませんけど」

 ことのほかあっさりミオが同意する。一方のユキは渋い顔。

「生徒会副会長として、寄り道は看過できないわね……けど、いいわ。ミオには色々な経験をして欲しいし、多少ハメをはずすくらいは見ないフリをしましょう」

 そう言って、ユキは実際に目を閉じておどけてみせた。

 そんなやり取りを経て入った店内で。

「ミオちゃん……? それ、一人で全部食べるの?」

「そのつもりですけど」

 肉が10段以上は重ねられたハンバーガーと、顔が隠れるくらいに盛られたポテトの奥からミオが答えた。その手にはトレイに乗り切らなかった、映画館で売られているポップコーンのようなドリンクが、彼女の小さな手に危なっかしく握られている。

「もともと夕飯は外で済ませるつもりだったの?」

「いえ。今頃、お父さんが作ってくれているはずです」

「ふふ、ミオは小さいのに食欲旺盛なのね」

「はい。食べないと力も出ないし頭も回りませんズゴゴゴゴ」

 話のついでに口をつけられたドリンクが一瞬で、空になったと悲鳴をあげた。

「そう言えば、ユキさんは何で和服なんですか?」

 ミオははじめて会った時から抱いていた疑問を、ここでぶつけてみることにした。「校則違反ですよね?」の一言はポテトと共に飲み込んだ。

「私の家は呉服家の老舗なの」

「ふむふむ」

 しばらく話の続きを待っていたミオだったが、ユキはそれ以上の理由は無いとばかりに話を止めて静かに微笑んでいる。

「いや、理由になっていないかと」

「そうかしら? えーと、そうそう。この着物はカードファイト部の正装なの」

「えっ?」とミオはわずかに目を見開いて、アリサに視線で解説を求めた。

「あー、ユキが勝手に言ってるだけだよ。気にしなくていいから。そもそもユキが生徒会を掛け持ちしてるのも、服のためだからね」

 アリサが語るところによると、当時2年生のユキが生徒会に立候補した時、品行方正で生徒・教師からの信頼も厚いユキの会長当選は確実と思われていた。だが、校内演説でユキは、穏やかな笑みの裏に潜む、暴君としての本性を現した。

「私が会長に当選した暁には、全校生徒の制服を着物にします」

 と公約を掲げたのだ。

 それはごくごく一部の支持こそ得たものの、ユキはあえなく落選。それでも副会長に滑りこんだあたり、さすがの人望と言うべきか。彼女が野心を隠したまま会長に就任していれば、今頃ミオは、着物で登下校を繰り返していただろう。

 せめてもの抵抗として、カードファイト部としてのユキがユニフォームとして着物を申請し、生徒会としてのユキがそれを受理したため、ユキは部活中だけは着物で校内を歩く事が許されている。とんでもない職権乱用である。

「惜しかったわねえ、全生徒和服化公約。私の全人類和服統一計画の第一歩になるはずだったのに」

 さらりと恐ろしい野望を口にしたユキに、アリサが半眼になって告げる。

「いや、面倒すぎるでしょ。何で毎朝着付けしてもらわなきゃ学校にも行けないのよ」

「私が生徒会にいたおかげで、部員が2人になっても廃部を先送りにできたのだから感謝して欲しいものね。それに、日本人なら一人で着付けくらいできるようになりなさいな」

 憮然とした表情で2人の上級生がハンバーガーを齧りながら睨み合う。

(ユキさんは意外とあくどい人でした)

 注文した品をとっくに平らげ、デザートのソフトクリームを舐めながら、ミオはそう結論付けた。

(けど、そのくらいの人間味が私も欲しいものです)

 

 

 あっという間に時は過ぎ――ミオにとっては一日一日が牛歩の如く感じられたが――運命の金曜日がやってきた。

「今日は奮発してしまったわ」とファイトテーブルに並べた4箱の新弾を慈しむように眺めるユキを後目に、ミオは黙々とカートンのテープを剥がしていた。

「ミオちゃん……ファミレスの時も思ったけどお金持ちなんだね」

 新弾を買わなかったため、手持無沙汰になっているアリサが呟いた。

 幼い頃から何に対しても興味を示さないミオに、両親は結構な額の小遣いを与えていた。これで何か趣味に目覚めてくれればいいと。

 だが、どうしても使い道が思い当たらなかったミオはそれらを全て貯金していたため、彼女の預金通帳には学業そっちのけでバイトに明け暮れる大学生並の金額が刻まれている。それがこうして、ようやく趣味に役立てる事ができるのだから、両親も喜んでくれるだろう。たぶん。

 ミオがダンボールから箱を取り出している間に、ユキはパックの封を、ハサミを使って切り始める。

「ふふ。いくつになっても、この瞬間は心が躍るわねえ」

「ちょっと言い方が年寄りくさいけど、楽しいよね。

 あー、あたしも早くパック剥きたい。次のメガコロは9月かあ。長いなあ」

 アリサがため息をつきながら、遠い目をして言った。

 上級生2人が他愛ないやり取りをしている間に、ミオもいよいよパックの封に手をかける。

「んっ」

 意を決して腕に力を込めると、ぴっと軽い音をたてて封が解かれた。

 その瞬間、真新しいインクと紙の匂いが解放され、ミオの鼻孔にツンとした刺激を与えた。慣れない感覚に目をしばたたかせるが、悪い気はしない。

「《巻き込む根絶者 ジャヱーガ》さんですね。かわいいです」

 ミオが引き当てたカードを両手で掲げて、しげしげと眺める。机に置かれた他のカードを見に来たアリサが汗を垂らしながら声をあげた。

「いや、《ガスト・ブラスター・ドラゴン》さんにも目を向けてあげて。人生初のパックでSVRって、ちょっとした奇跡よ」

「え? けど、根絶者では使わないですよね?」

「そうだけど」

「使わないカードは、部に提供して頂けると助かるわ。全クランの基本形と、大会で活躍しているようなデッキは、共用のデッキとして部室に揃えておきたいから」

 ユキが言うには、共用デッキを組むのに足りないカードは部費で揃えてもいいそうだ。ただし、提供したカードも含めて学校の所有物となるので、持ち出しは厳禁となる。

「来週からミオは、他のクランとも戦ってみましょう。各クランの特性も覚えていかないとね」

「はい、お願いします」

 こうして開封式は終始和やかに進んでいた、はずだった。

 最初のパックを開封してから、ちょうど1時間が経過していた。ミオが最後のパックに手をかける。取り出したカードに目を通し、根絶者だけを選り分け、残りのカードを力無く机の上に置く。机の上に折り重なったカードが、誰もが無言になった部室に乾いた音を響かせた。

「ミオちゃんが、いつも無表情のミオちゃんが、さらに無表情になっとる」

「トリガーの引きはいいのに、パックの引きは悪かったのねぇ」

 アリサとユキがひそひそと囁きあう。

「カートン買いして、グレイドールが1枚も当たらないなんてあるの?」

「それどころか、根絶者のRRだって4枚揃っていないのがあるわよ」

 ミオの周囲だけ時が止まったようになっているのは、それが原因だった。

 ユキは一つ嘆息すると、机からはみ出して床に落ちそうになっていたカードを抜き取ると

「このグレンジシ、いらないのなら、もらっていくわね」

 とミオに声をかけた。ミオからの反応は無い。

「お礼にこれをあげるわ」

 強引に握らされた1枚のカードを虚ろな瞳が捉え、ミオは一瞬で我に返った。

「これ、グレイドール……」

「私のパックで当たっていたのよ」

「そんな、頂けません。これは今弾のトップレアで……」

「いいのよ。グレイドールを使っているミオを、私が見たいの」

「……ありがとうございます。大切にします」

 ミオはグレイドールを胸にそっと抱きしめる。ただ1枚の紙切れであるはずのそれは、確かな温もりをミオに伝えてきた。

「ひとりより皆の方が楽しい。その意味が、少し分かりました」

「ふふ、現金ねぇ」

 ユキは着物の袖で口元を押さえて上品に微笑み、つられたミオの表情も幾分か和らいだ。

 それから3人で、机いっぱいにカードを広げ、下校時間になるまでミオの新しいデッキを一緒に考えた。

「グレイドールが足りない分はヰギーを入れてみる?」

「G2を増やしてみてもいいのではないかしら?」

「では、ギヲを抜くのはやめましょうか。G3を8枚入れたデッキよりも防御力は上がりそうです」

「ね、どうせなら、色んな根絶者を入れてみない?」

 一人で帰宅するだけだった放課後が、今はミオにとって何よりもかけがえのない時間になっていた。

 

 

 1週間後――

「《夢幻の風花 シラユキ》にライド。シラユキの効果で、ミオの前列にいるユニットのパワーを-10000するわ。そして、シラユキでアタック!」

「ダメージチェック……負けました」

 ミオが拗ねたように宣言し、アリサへと首を振り仰いだ。

「アリサさん。ユキさんが私以上に強化されていて、もう勝てません」

「だから、ユキのは負けに入れちゃダメだってー」

 2枚のカードを真剣に見比べているアリサが適当に答えた。彼女は共用デッキを構築しているのだが、凝り性なのか、最後の1枚をどちらにするかで30分以上も悩んでいた。

「でも、これでは私も、私のデッキも、強くなったのかが実感できません」

「そうねえ。そろそろ頃合いとは思っていたけれど。ミオ、あなたショップ大会に出場してみるつもりは無いかしら」

「いいね!」

 ユキの提案に、カードファイト部の共用デッキ構築に集中しているはずのアリサが食い気味に答えた。右手に持っていたカードをデッキに差し込んで、さっさとそれを片付ける。

「ショップ大会ですか? カードをパチパチ鳴らす人が、いかに大きく美しくパチパチ鳴らせるかを競い合うという?」

「どこで仕入れてきたの、そんな偏った知識」

 冗談か本気か、真顔のミオからは伺い知れず、半眼になってユキがツッコんだ。

「私、パチパチは鳴らせないですし、鳴らす気もないので遠慮します」

「そうじゃなくて! カードショップで行われる、小規模なヴァンガード大会よ。これから行くのは客のマナーもいい店だから、パチパチ鳴らす人なんてまずいないわ」

「知らない人と対戦するんですよね?」

「緊張する?」

「いいえ。望むところです」

「いい返事ね。では、今日の大会は5時からよ。いつもより帰りが遅くなるから、親御さんには連絡しておくこと」

「わかりました」

 ミオはスマホを手早く操作し、両親にメールを送信する。

「ふふふ、ミオちゃんもついにショップデビューか。一緒に大会出るの楽しみだったのよね」

「もう全クランの特性は覚えたみたいだし。ヴァンガード甲子園も近いし、大会の雰囲気に早く慣れてもらわないとね」

「雰囲気に呑まれたりするミオちゃんは想像できないけどねー」

 アリサとユキはそんなことを話しながら笑いあった。

 

 

 カードショップ『エンペラー』

 ミオ達が通う響星学園から歩いて5分のカードショップである。

 帰宅する学生を主なターゲットにしたカードショップだが、駅とは逆方向なのが玉にキズ。

 だが、こじんまりとしている分、アットホームな雰囲気があり、贔屓にするファイターも多い。

「いらっしゃい! お、ユキちゃん、アリサちゃん! ひさしぶりだね」

 店に入るなり、小柄で小太りな全体的にまるっこい店員が明るい声で出迎えた。

「おひさしぶりです、店長」

「店長、おひさー」

 ユキが丁寧に腰を折ってお辞儀し、アリサは気安く手を振った。

「しばらく見ないからもしかしてと思ったけど、その子はもしかして……」

 めざとくミオを見つけた店長が目を輝かせる。

「ええ。我が響星学園カードファイト部に入部してくれた新入生です」

 ミオの両肩に手を置いたユキが、ミオを店長に紹介した。

「音無ミオです。よろしくお願いします」

 前に進み出たミオがぺこりと頭を下げる。

「よろしくね。僕はこのカードショップ『エンペラー』の店長をしている……まあ、みんな店長としか呼ばないから名前はいいか」

 そう言って、店長は恰幅の良い体を揺らして笑う。

「ミオちゃんは今日の大会に出場するのかい?」

「そのつもりです」

「そうかい。あんまり緊張していないようだけど、大会の経験はあるのかい?」

「いえ。ヴァンガード自体、はじめて1か月と少しです」

「ははっ! それでここまで堂々としていたら大したもんだ。今日は君達の先輩も来ている。胸を借りるつもりで挑むといいよ」

 店長の話を聞いていたアリサが「げっ」と呻くのが聞こえた。

「おっ、そろそろ時間だ。はじめようか。

 ヴァンガードのショップ大会をはじめます。参加者は集合してくださーい!」

 店長の呼びかけに、デュエルスペースで雑談していた人や、手持無沙汰にショーケースを覗いていた人が、ぞろぞろと集まってくる。その中から「おー、ユキに、アリサじゃないか!」とミオ達に近づいてくる人影があった。

 

 

「グレイヲンで、デリートされたヴァンガードにアタックします」

「ノーガード。ダメージチェック……負けました」

 トーナメント形式で行われている『エンペラー』のショップ大会。1回戦の対戦相手はむらくもだった。

《決闘竜 ZANBAKU》を軸としたデッキだったが、対戦相手には悪いがプレッシャーは圧倒的にユキの方が上だった。ユキがZANBAKUを使えば、今なら攻め切れると思ったところをきっちり凌がれ、そのままヴァンガードを絡め取られてしまい負けてしまう。

 アリサが「ユキは別格」と言っていたのを改めて思い知る。

「おめでとう、ミオ。ショップ大会初勝利ね」

 そのユキはと言うと、今日のショップ大会には参加していなかった。曰く「万が一、1回戦で私と当たってしまったら、練習にならないでしょう?」とのこと。

「ありがとうございます。けれど、2回戦はアリサさんと対戦になりそうですが」

 そう。トーナメント表によると、次の対戦相手はアリサになるのだが。

「その心配は無いわよ」

 ユキがコロコロと笑った。

 もちろんそれは、アリサが1回戦で勝利したらの話である。

「あーっ、負けた!」

 アリサの悲鳴が、テーブルを一つ挟んだこちらにまで聞こえてきた。

「どうした、アリサ! たるんでるぞー」

 その対戦相手が豪快に笑う声も。

「いやいや、スパークヘラクレスにライドできなかったんですって! 対戦相手のセンパイが一番よく分かってるっしょ!?」

「お、言い訳か? 情けないなー」

 笑いながら、アリサと対戦していた大柄な男が立ち上がる。そして、ミオに近づいてくると片手を挙げた。

「よお! 新入部員。ミオちゃんだったかな。さっきは大会前のゴタゴタでちゃんと自己紹介できてなかったな。

 俺は近藤(こんどう)ライガ。元響星学園カードファイト部で、ユキのひとつ上。つまりはOBってやつだ」

 OBを名乗る男は筋肉質で引き締まった体つきをしており、カードファイト部というよりは、格闘道場のOBと紹介された方がしっくりきそうな偉丈夫だった。

「音無ミオです。よろしくお願いします」

「小さい声だなー! ちゃんと食ってるかー?」

「それは私が保証します」

 ユキが苦笑しながら口を挟んだ。

「そうかー! 2回戦は俺とだ。よろしくな!」

 差し出された大きくてゴツゴツした手を、ミオの小さくてか細い手が握り返す。

「1回戦終了です! 続いて2回戦の組み合わせを発表します! 音無ミオさん、近藤ライガさん、こちらのテーブルへ!」

 店長の声が店内に響き渡った。

「さて、楽しむか!」

「はい」

 テーブルにつき、歯を見せて笑うライガに、ミオは小さく頷いた。

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

「《発芽する解放者 ルチ》」

「《スパークキッド・ドラグーン》!」

(ライガさんのクランはなるかみですか……)

 帝国(ドラゴンエンパイア)が誇る、雷竜の群れからなる曇天の覇者。

 雷光の如く、疾く攻め寄せ、立ちはだかる者は、容赦無き雷撃によって跡形も無く抹消される。

 ここ一週間の特訓を思い返すミオに、アリサが耳元で囁いた。

「気を付けてね、ミオちゃん。センパイはアホだけど強さは確かだよ」

「おいおい、アドバイスは反則だぞー!」

「センパイのデッキについては触れてませーん」

 ライガに注意され、アリサが口答えしながら離れていく。

「まあいい。はじめるぞ。ライド! 『レッドリバー・ドラグーン』!」

 ライガの先攻でゲームは始まった。ライガは終始ハイテンションだったが、ゲームは淡々と進んでいく。

 お互いにダメージを2点ずつ与えた状態で、ライガがG3にライドするターンがやってきた。

「ライド! 《グレートコンポウジャー・ドラゴン》!!」

 戦火で灼熱に染まる空が暗雲に覆われ、そこから一筋の稲妻が地に落ちる。

 そこから姿を現した、雷光を受けて銀色に輝く鎧を纏いし巨竜が、天をも貫く咆哮をあげた!

「ほーう。ミオちゃんの前列にはリアガードがいないなぁ」

 ライガが大袈裟に盤面を見渡しながら言う。

「よって、グレートコンポウジャーはパワー+10000! 《ライジング・フェニックス》のブーストでさらに+8000! コンポウジャーでアタックじゃー!!」

「ノーガードです」

 コンポウジャーは巨大な翼を広げ、口を大きく開くと、そこから雷のブレスを吐き出した。

 放たれた電撃の束は大地をえぐりながらミオが宿るギアリに迫り、その異形を焼き尽くす。

「ツインドライブ!!

 (フロント)トリガー! 前列全てにパワー+10000! 2枚目……これも前トリガー!」

 ダブル前トリガーからの猛攻を受け、ミオは瞬く間に5点まで追い詰められる。

「私のターンです。ドロー」

「さあ! 前列にユニットをコールしなければ、コンポウジャーはパワー18000の鉄壁だぞ!」

「では、グレイヲンにライドして、デリートします」

「むう」

 コンポウジャーにとって、根絶者は割と天敵だった。

「まあ、前列にユニットもコールするんですけどね」

 アルバとエルロを前列にコールし、後列にもユニットを並べたミオはバトルフェイズを開始する。

「グレイヲンでアタックします」

「ノーガードだっ!」

「ツインドライブ。

 1枚目……引トリガー。1枚引いて、パワーはアルバに。2枚目……★トリガー。★はグレイヲンに。パワーはエルロに」

 続くアルバの攻撃もヒット。エルロの攻撃は防がれるが、ダメージは5点で並んだ。

「俺のターン! うおおおおお! スタァンド&ドロォーッ! ……ライドッ! グレートコンポウジャー!! 見たか、これが俺のなるかみ愛だ!」

「手札にG3が無かったんですね」

「うむ! 割とマジで危なかった!」

 あまりにも明け透けなプレイングに、ミオは思わずふと吐息を漏らす。

「あれ、さっきミオちゃん笑わなかった?」

「ええ、噴き出したわね」

 2人の試合を観戦していたアリサとユキが互いに顔を見合わせた。

「ここまで予想できていたわけじゃないけれど、ショップ大会に来たのは正解だったわね」

 先輩と後輩が楽しそうにファイトする様子を見て、ユキも嬉しそうに微笑んだ。

「アクセルサークルもさらに増えた! そこに《レックレスネス・ドラゴン》をコール! アルバをバインド!」

 だが、楽しい時間にもいつか終わりがくるように、このファイトも佳境に入る。

「《ドラゴニック・デスサイズ》もコール! エルロをバインド! これでアルバとエルロのコンボは封じたぞ!」

 拳を握りしめ、ライガが勝ち誇る。

 アルバとエルロはドロップゾーンからスペリオルコールできる効果を持っている。

 しかし、骸も残らぬほど抹消されてしまえば、再生は不可能というわけだ。

「ゆけ、コンポウジャー! コンポウ・サンダー!!」

 ライガのコンポウジャーが必殺技(ねつ造)の特大雷撃ブレスを放つ。

「《真空に咲く花 コスモリース》……完全ガードです」

 グレイヲンを守るように白い鋼鉄の花が咲き、雷撃を受け止めた。

「ツインドライブ!!

 1枚目はトリガー無し。2枚目は……(ヒール)トリガーだ! パワーはレックレスネスに! 1枚ダメージ回復!」

(さっそく役に立ちましたね……引トリガーの完全ガード)

 ドロップゾーンにコスモリースを置きながら、ミオは心の中で呟いた。

「続けて行くぞ! 《ドラゴニック・デスサイズ》で、デスサイズパンチ!!」

 小柄な竜人が手にした大鎌を投げ捨て、素手で殴りかかる。

「ゴウガヰでガードします」

「ヘレナのブースト! 《レッドリバー・ドラグーン》で、レッドリバーキック!!」

 今度は真紅の騎士がランスを抱えたまま飛び蹴りを放つ。

「ギヲでガードします」

「アクセルサークルの《サンダーストーム・ドラグーン》で、サンダーストームバックドロップ!」

 さらに真紅の竜騎士がグレイヲンを投げんと果敢に迫る。

「★トリガーでガードします」

「これで終わりだ! レックレスネスは……ええと、レックレス・ビーム!!」

 しまいには青い竜人が手のひらからビビビと光線を撃ちだした。

「治トリガーでガードします」

 色々と珍妙なイメージが紛れこんだが、どうにか凌ぎきった。

「よくぞ耐えた! だが、お前の手札は0枚。俺はダメージ4だ。根絶者とは言え、倒しきれるかな?」

 4枚の手札を抱えたライガが不敵に笑う。

「……ドロー」

 カードを引いたミオが、思わず「あ」と声を漏らした。

「引いたわね」

 ミオより先にその可能性に気付いていたユキが静かに笑った。

「ライド……」

 それは有機的な異形を誇る根絶者の中にあって、異質であり、異端であった。

 その姿は無機質な鉄人形のようであり、しかし、関節や装甲の隙間からは、千切れた筋繊維のような触手がはみ出し、蠢いている。

 世界に悲劇の幕を下ろす機械仕掛けの邪神(デウスエクスマキナ)

 その名は……

「《波動する根絶者 グレイドール》」

「グレイドールだとっ!? しまった、もう発売していたか!」

 ライガの笑みが、みるみるうちに引きつっていく。

「イマジナリーギフト、フォースはヴァンガードサークルに。

 続けて、グレイドールのスキル発動……サンダーストームを裏でバインド(バニッシュデリート)

 グレイドールが手をかざすだけで、竜騎士の姿が消え失せる。

「グレートコンポウジャーをデリート」

 さらに、グレイドールの腕がコンポウジャーの胸を貫き、そこからライガの魂だけを、抉るように引きずり出す。

「そして、グレイドールに★+1です」

「何という効果だ……」

 中空に投げ出されたライガが呻く。

「ヴァンガードがデリートされたので、ドロヲンをソウルに置き、デスサイズも裏でバインド(バニッシュデリート)します」

「これでインターセプトができるユニットは全滅か……」

「行きます。ガノヱクのブースト。パワー31000のグレイドールでアタック」

 ミオが静かに宣言する。

「……ノーガードだ!!」

 ライガが胸を張ってそれに応えた。

 グレイドールが手刀を振るう。星、命、絆。全てを断ち切る一撃が、ライガの魂をも真っ二つに切り裂いた。

「ダメージチェック。1枚目……2枚目……トリガー無し……俺の負けだ」

 ダメージゾーンに6枚目のカードを置いたライガが晴れやかに笑う。

「いいデッキだな。お前の根絶者デッキ」

「ありがとうございます」

 不思議なもので、自分のデッキが褒められるのは、自分が褒められるのと同じか、それ以上に嬉しかった。

「ライガさんに勝つなんて凄いわね、ミオ」

 いつの間にか傍にいたユキが、ミオの肩に手を当てて言ってくる。

「はい。ライガさんは強かったです。けど、新しいカードと……ユキさんから頂いたグレイドールのおかげで勝てました」

「ええ。グレイドールをあなたに託して正解だったわね」

 ユキが満足そうに微笑んだ。

「ね、ミオちゃんは強くなってるでしょ?」

 ふたりの会話に割り込んだアリサも笑いかけた。

「はい。ようやく成長が実感できました」

 ミオもデッキを胸に抱いて答える。

 その後もミオは順調に勝ち進み、ショップ大会初出場にして、初優勝を飾った。

 それは何の変哲もない、ショップ大会の一結果にすぎない。

 だが、ミオにとっては忘れ得ぬ記念日となった。




栗山飛鳥です。
5月の「本編」公開となります。
4月より倍以上に長くなってしまいました。ここまで読んでくださった方には御礼を申し上げます。
5月でやりたいこと、やらなければならないことを詰め込んでしまった結果です。未熟。
以降は、4月と5月の間くらいの長さで、しばらくは落ち着くと思われます。

次回は5月17日~19日あたりに「えくすとら」の公開を予定しておりましたが、その日の更新が無理そうなので、予定を変更します。
まず10日~13日に「プレミアムコレクション2019」の「えくすとら」を公開。
次に24日~27日に「The Heroic Evolution」の「えくすとら」を公開する予定です。
先月にいきなり2本やってしまったので、やるならとことんまでやってしまえと。
ヤケクソですね、はい。

では、次回の「えくすとら」でお会いできれば幸いです。


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6月「ほら。よく、噛んで食べなさい」

 窓から差し込む赤々とした光が、部室のテーブルに置かれたカードを煌々と照らし出し、黄昏に滅びゆく世界の中では根絶者達が妖しく踊る。

 あとひと時もすれば夕闇に溶けて消えてしまう贅沢な時を味わいながら、ミオは対面している先輩に声をかけた。

「どうしました? アリサさんのターンですよ」

「わかってる。ちょっとタンマ……」

 目の前で巻き起こる光のスペクタクルに気付く余裕も無く、アリサは頭を抱えて唸っていた。

「アントリオンのソウルブラスト使う……? 《ファントム・ブラック》はいるけど、小隊長はいないし……けど、次にミオちゃんにターンを渡して生き残れる? たしかミオちゃんの手札は……」

 ブツブツと呟き続けるアリサのメインフェイズは、もうしばらくかかりそうだったので、ミオは離れたところで温かいお茶を飲んでいるユキに声をかけた。

「ユキさん、料理は得意ですか?」

 出し抜けの問いに、ユキは目を丸くしてミオを見た。質問の内容もそうだが、ミオから話を振ってくるという事がまず珍しい。

「え? そうねえ、和食ならそれなりの腕だと自負しているけれど、洋食は全くダメね。それで得意と言っていいのなら得意だけど」

 正直に答えてから、一切の音をたてず湯呑みを机に置き、ユキが質問を返す。

「急にどうしたの? お腹すいた?」

「そういうわけではないのですが……」

 すいているはすいている。何なら常にすいているが、話の意図はそこではなかったので、ミオは本題に入ることにした。

「ユキさん。ご迷惑でなければ、料理を教えて頂けますか?」

「それは構わないけれど、理由を教えてもらえるかしら?」

「はい。少し前、両親がふたりとも仕事で家に帰るのが遅くなるそうでしたので、いつもごはんを作って頂いているお礼にと、その日は私が夕食を作ったのです」

「あら、いい子ね」

「ありがとうございます。料理は家庭科の授業以外でした事はありませんでしたが、レシピはネットで調べて、我ながら上手く作れたと思います。実際、両親もおいしいと言って食べてくれました。

 ですが、その夜。私は両親の会話を聞いてしまったのです」

 ここからミオの声が僅かに低くなった。父親の声音を再現したのだろう。

「『今日ミオが作ってくれた夕飯な。我が娘ながら、ロボットが作ったような味だったなあ』と。

 その後、お父さんはお母さんに『娘の手料理にそんなこと言うもんじゃない』と叱られていたので、溜飲は下がったのですが、ショックでした」

 そんな事を淡々と告げる。

「あら。ミオでもショックを受ける事なんてあるのね」

「そうですね。自分でもそれに驚いていますが、あの時に感じた気持ちは、相手ヴァンガードの攻撃をダメージ3の状態でノーガードしたら、(クリティカル)トリガーを2枚引かれた時のものでした」

「結構頻繁よ、それ!?」

 アリサが口を挟むが、ミオは気にせず話を続ける。

「きっと、私はそれぐらい両親が好きだったのでしょう。両親においしい料理を作ってあげることすらできなかった、自分の不甲斐なさに傷ついたのです。

 こんな思いを二度としないために。そして、両親に今度こそおいしい夕飯を味わって頂くために。ユキさん、私に料理を教えてください」

「ミオ!!」

 一瞬で間合いを詰めてきたユキに頭から抱きしめられ、ミオは目を白黒させた。どうにか目だけを動かして上を見ると、ユキがぽろぽろと大粒の涙を流していた。

「そんなに切ない理由があったのね。ああ、かわいそうなミオ。

 けど、もう大丈夫よ。私の全身全霊と、生徒会の全権限を使って、あなたにお料理を教えてあげるわ!」

「いえ、そこまではして頂かなくとも……」

 ミオのか細い声が、ユキの胸の中へと消えていく。

「今度と言わず、明日にでも始めましょう! 明日の放課後は部室ではなく家庭科室に集合よ! いいわね?」

「はい……」

 何かを諦めたような心地で、ミオはただそう返事をするしか無かった。

 ちなみにファイトの結末は、アントリオンのスキルを使用して勝負を仕掛けたアリサが、あっさり(ヒール)トリガー2枚で止められて負けた。

 

 

「そのようなわけで、はい! 本日は家庭科室を貸し切りました!」

 制服の上から割烹着を着たユキが、家庭科室の真ん中で両手を広げた。その隣ではアリサが「こいつ、本当に生徒会権限を使いやがった」という目でユキを見ている。部屋の隅には調理部の女子部員が3名、審査員の如く並べられていた。

 なお、ユキがいつもの着物でない理由は「これはカードファイト部の活動ではないもの」とのこと。変なところで生真面目な先輩である。

「では、ミオ。まずは私もあなたの料理を食べてみたいわ。私達と調理部の方々に……そうねえ、アユの塩焼きと、ホウレンソウのおひたしに、なめこ汁を作ってもらおうかしら。そうそう、ご飯を炊くのも忘れないでね。家庭科室にある材料は自由に使って構いません」

「わかりました」

 ミオがこくんと頷く。彼女はエプロン姿で、まるで着せ替え人形のようである。

 実際、家庭科室を接収する際、ミオは駄賃とばかりに調理部員達に撫でまわされ、写真を撮られ、大変な目にあっていた。

「作り方が分からないので、参考にネットでレシピを見てもいいですか?」

「許可します」

 了承を得たミオは、カバンから愛用のタブレット端末を取り出し回線を開いた。

「ミオちゃんって機械の扱いが上手いよねー」

 慣れた手つきで、立てかけたタブレットを操るミオを見ながら、アリサが呟いた。

「? このくらい普通と思いますが」

 手は止めないまま、ミオが首を傾げた。

「スマホでネットするくらいはそうなんだけどさー。指さばきが詳しい人のそれなんだよね。今も画面見ずに文字打ってるしさ」

「まあ、機械いじりは嫌いではありませんね。人や動物と違って、決まった動作に決まった動作を返してくれるのは落ち着きます。家でもパソコンのセッティングや修理は私の担当です」

「へえー、かっこいいねー。それなら部室にもパソコン置けないかな? あたしもそんなに詳しくないし、ユキに至っては未だにガラケー使ってるレベルの機械音痴だからね。それも通話しかできないやつ。おばあちゃんじゃあるまいし」

「携帯電話に電話以外の機能なんていらないわ。部室に得体の知れない箱の設置も不要です」

 ユキがツンと顔を背けながら反論した。

「ええー? 皆の戦績とか、クラン毎の勝率とかエクセルにまとめれば便利だよー? そうだ、部のホームページも作ろうよ」

「え、えくせ? ほーむぺ? 何それ?」

「あんたマジで現代人か」

 そんなやり取りをしている間にも、ミオの料理は進む。ホウレンソウを寸分の狂いも無く人数分に切り分け、絹ごし豆腐を欠けさせることもなく鍋に入れ、アユはタイマーすら使わず5分ジャストでグリルから取り出した。

「い、逸材だわ……」

「ええ。我が調理部に欲しいくらい……」

 その様子を眺めていた調理部の面々が口々に囁き合う。

「けど……」

「このレベルになると、お人形と言うより、そういうロボットみたい……」

「人間でありながら、不気味の谷に片足突っ込んでいるわね……」

 そんな噂をされているとは露知らず、ミオは料理を完成させ、それに狙いすましたかのようなタイミングで、炊飯器も電子音を鳴らして炊きあがりを知らせた。

「どうぞ」

 実に不愛想な給仕で、ユキ、アリサ、調理部員の前に、料理の乗った皿が並べられていく。

「あら、おいしそうね」

「うん。まるで――」

 言いかけて、アリサは思わず出かかった言葉を飲み込んだ。だが、奇しくもその場にいるミオ以外の全員が同じ事を思っていた。

(――まるで食品サンプルみたい)

 盛り付けから、焼き目、ごはん粒一つ一つに至るまで、5人分の品が全て同じ見た目でできているという圧倒的違和感。それは料理の結果としてはおよそありえず、上手すぎるからこそ美味く見えないという悲劇的な矛盾を孕んでいた。

「と、とりあえず頂きましょう」

「う、うん。楽しみだなー、ある意味」

 余計な一言を付け足したアリサの脇腹に、ユキの肘が入る。

「いただきます!!」

 何かを誤魔化すようなユキの唱和の後、少女達は思い思いに箸をつけていく。

「……こ、これは!」

 アユを嚥下したユキの目がカッと見開かれた。

「これは?」

 ミオが先を促すが、ユキは口を半開きにしたまま――彼女にしては非常に行儀が悪い姿で――固まっている。

「ユキ……」

 アリサがユキを見据えて、静かに首を振った。

 ユキは箸を皿に置き、ミオの目をまっすぐ見つめる。

 ミオも普段は気だるげな瞳をできる限り開けて、ユキの言葉を待った。

「ミオ……非常に言いにくいのだけど、その……おいしくないわ」

 それを口にすることで、自分が死んでしまうのか、世界が滅びてしまうのか。それほどの切実さを含んだ苦渋の声音で、ユキは審判を下した。

 ミオの表情に変化は無い。ただ、一拍の間をおいて、彼女は一言だけ呟いた。

「そうですか」

 それは、ただ事実を率直に受け止めたようにも、じっと耐えているようにも見える。ユキの心臓が鷲掴みにされたように鈍く痛んだ。

 言葉を発せなくなっているユキの代わりというわけでもないだろうが、次に口を開いたのはアリサだった。

「けど、よくできてるのよ? ただ、何ていうか……手料理という感じが全くしなくて、そう、冷凍食品を食べているみたいなのよね。

 機械が作ったようだって、ミオちゃんのお父さんは言っていたようだけど、言い得て妙よね。むしろ、よくオブラートに包んだものだと思うよ」

「む」

 ミオの表情がほんの僅かにしかめられた。契機となった父親の話は、少しこたえたらしい。

「他の方も、同じ見解でしょうか?」

 ミオが全員を見渡して尋ね、調理部員達が遠慮がちに頷く。

「……私が上手く料理を作れないことは、分かっていたことです」

 微小なため息と共に結果を受け入れ。

「では、ユキさん。私は何をすれば、おいしい料理が作れるようになるのでしょうか?」

 ミオが改めてユキに尋ねた。

 割烹着姿の上級生は一拍の逡巡を挟んだ末に、隣の席に座る友人の肩をポンと叩いた。

「こういうのは直感で生きてるアリサの方が分かるんじゃないかしら。アリサ、この料理に足りないものは?」

「え? ええ!?」

 まさか自分に振られるとは思っていなかったのか、アリサは困ったように首を傾げたが、やがて一つのそれらしい言葉を当てずっぽうで口にする。

「……愛情?」

「意味が解りません」

 間髪を入れずミオが反論した。

「私はユキさんのこともアリサさんのことも好きですし、尊敬しています。少しでも皆さんにおいしいものを食べて頂きたいと思い、完璧に作りました。これは愛情では無いのでしょうか」

「いや、て、適当に言っただけだし、そんなこと真正面から言われたら照れるんだけど……」

 嘘の無いミオの瞳から、真っ赤になって目を逸らすアリサを押しのけ、ユキがミオと正面から向かい合った。

「いいえ、アリサが正解よ。ミオが言ったような事も大切だけど、それだけじゃ足りないの」

「意味が、解りません……」

 今度は、ミオがユキの視線から逃げるように俯いた。

「では、ミオが分かりやすいようにヴァンガードの話で例えましょうか。

 あなた、むらくもと対戦する時、何に気をつけてる? 例えばダメージ1の相手がブラッディミストにライドして、前列にブラッディミストの効果で同名カードをコールしてきたら?」

「……リアガードを先に攻撃します。残しておくとさらに分身されますし、相手がマンダラロードにライドしても効果は使えません。ZANBAKUにライドされた場合は、うかつに3点のダメージを与えないように注意します」

「そんなところね。では、かげろうが相手の場合は?」

「序盤は《バーサーク・ドラゴン》を警戒して展開しません」

「エンジェルフェザーなら?」

「長期戦は不利なので、序盤から無理してでも攻めます」

「料理もそれと同じよ。

 さあ、この事を念頭に入れて、もう一度同じ料理を作ってみて。あなたの作った料理なら、私もアリサも、いくらでも食べられるから」

 アリサが任せろと親指を立て、調理部の面々も、私達もいるぞとばかりに手を振った。

「約束が違います。おいしい料理の作り方を教えてくれる約束だったはずです。もっと具体的に教えてください」

「あなたに教えられる事なんて、これ以上に無いわ。あなた、技術だけなら、とっくに私より上なのだもの」

 食い下がるミオを突き放すように、ユキは言った。

 これ以上何を言っても無駄だと悟ったミオが、肩を落として調理台に戻る。

(約束をやぶるなんてひどいです。ユキさんのなめこ汁にだけ、塩を多めに入れてやりましょうか)

 心の中で陰湿な事を考えながら、ミオはコンロに火を灯す。

(けど、もしユキさんが塩辛い味が好きなら逆効果ですね。喜ばせる結果になりかねません。やっぱりレシピ通りに……ん? 喜ばせる?)

 自分の愚痴に引っかかるものを感じ、ミオはコンロに起こる青く透き通った炎をじっと見つめていた。

「あっ、ミオちゃーん!」

 自分の考えに集中していたミオに、アリサの声が飛ぶ。

「何ですか?」

 思考を中断され、いつもより心なし不愛想になった声音で、ミオはアリサへと振り向いた。

「さっきのお味噌汁作るなら、あたしのはなめこ抜きでお願い! さっきは我慢して食べたけど、実はきのこ苦手なの」

(あ……)

 それはミオにとって天啓だった。ユキのヒント、自分の愚痴。それらが全て、アリサの何気ない一言で繋がった。

 念のためユキへと目をやると、「答えを言うなバカ」と言いたげに眉間を押さえていた。

「アリサさん」

「んー?」

「ありがとうございます」

「何でお礼!? ま、いいや。どういたしましてーって、ちょっ、痛い! ユキ! 何で蹴るの!?」

 先輩からパワハラを受けているアリサは放っておいて、ミオは自分の作業を再開した。

 今なら面白いように体が動く。思考もだ。タブレットはもう必要ないので電源を切った。

(アリサさんはきのこ無し……いえ。それならいっそ、なめこ汁を作った鍋は使わず、もう一品、豚汁でも作りましょう。

 それに、ユキさんはあんなことを言っていましたが、あの人は小食です。次はたくさん食べられないはず。全体的に少な目にしましょう。

 調理部の真ん中の人も、実は野菜が苦手なのではないでしょうか……)

 元来の素質であり、ヴァンガードでさらに鍛えられたミオの観察眼が本領を発揮する。

(食べる人の事を想い、食べやすいように作る。それが愛情……)

 自分の心の中に芽生えた新たな感情を咀嚼し、白髪の妖精は調理場を舞った。

 

 

「ええ、おいしいわよ。というか、おいしいに決まってるじゃない。ミオが一生懸命に作った料理だもの。本当は一品目からおいしかったわよ、もう。

 はい、合格! おめでとう」

 再提出したミオの料理に箸をつけながら、ユキはどこか投げやりになって言った。

「アリサが余計な事を口走ったけど、ミオなら早かれ遅かれ気付けたわよね」

「厳しいのか甘いのか分からないわね、あんたは」

 肩をすくめるアリサの脇腹に、またも肘が入った。

「疲れました」

 エプロンを外しながら、ミオが呟く。

「けど、面白かったです。

 ヴァンガード以外で、こんな感情を抱けるなんて思いもよりませんでした。

 ……私はこれまで、自分は何でもできると思っていましたが、それは何も真剣にしてこなかっただけだったのでしょう。

 私がつまらないと思って切り捨ててきたものも、もっと本気で取り組めば楽しめたのかも知れません」

 ミオの独白を聞いていたユキとアリサが不安そうな表情をしている事に気付き、その表情が意味するところも察したミオが慌てて言い繕う。

「ヴァンガードはやめませんよ。私を一番本気にさせてくれるのは、根絶者とヴァンガード以外にありえませんから」

 断言するミオに、ほっと息をついたユキも、笑顔になって答える。

「色々な事に興味を持つのはいいことだと思うわ。

 どう? 今度、カードファイト部で旅行に行かない? 部活動の合宿というていで学校に申請すれば、旅費も浮くわよ」

 さらりととんでもないことを言い出したユキに、アリサも反対するどころか、諸手を挙げて賛成した。

「行こいこー! あたしはスノボがいいな!」

「すの……ぼ? ああ、鳥取砂丘ね」

「それはスナバでしょ!? スノーボードよ! 雪の上を板に乗って滑るあれよ!」

「ああ……あのハイカラな。却下します。そんなものより、寺社巡りに行きましょう」

「それの何が面白いのよ?」

 アリサをユキの間にバチッと青白い火花が散り、巻き込まれないように調理部員の面々が逃げていく。

「「ミオ(ちゃん)はどっちがいいの!?」」

 アリサとユキが同時にミオを睨み付ける。その怒気は意に返さず、ミオは二人の間に割り込むと、かすがいとなって腕を絡めた。

「どちらでも構いません。むしろ、どっちも行きましょう。おふたりと一緒なら、どこへでも行きたいです」

「まあ、ミオちゃんと……ユキとなら、お寺も悪くないかもね」

「そうね。私もスナバに挑戦してみようかしら」

「折れたフリして、鳥取砂丘に行くパターンでしょ、それ!?」

 結局、やいのやいのとケンカが始まってしまう。

 そんな様子ですら、ミオは楽しそうに交互に眺めていた。

(おふたりは何でも言い合える関係ですね。私もこのように感情を爆発させられる日が来るのでしょうか)

 さすがにふたりとケンカをしたいとまでは思わないが。

 それでも、羨ましそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けど、最初の小旅行で行く場所は決まっているのよね」

「ああ、そう言えばそうね」

 額がぶつかり合うほど接近して、怒鳴り合っていたユキとアリサだったが、ユキの思い出したような一言で、あっさり休戦した。

「どういう意味ですか?」

 どうしてそうなったかが分からず、ミオが問う。

「忘れちゃった? 来月は7月よ」

「あ……もしかして」

「ええ。ヴァンガード甲子園の地区予選が開催されるのよ」

 ヴァンガード甲子園。

 全国の高校からカードファイト部が一同に集い最強を決定する、学生最大規模の大会。

 はじめて聞いた時は何の興味も抱けなかった響きに、ミオの心臓が大きく跳ね、その右手の甲には侵略者(リンクジョーカー)の紋章が人知れず浮かび上がっていた。




今月も無事、こうして6月の『本編』をお送りすることができました。
栗山飛鳥です。

さて。先週、この『根絶少女』に感想を頂けまして、ようやく用意していた文章を貼ることができるようになりました。

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感想を頂けるのは非常に嬉しく励みにもなるのですが、基本的に返信は遅くなります。
というのも、仕事の関係で平日はPCがある実家を離れており、このサイトを覗けないのです。
仕事や遊びの予定によっては、2~3週間くらい実家に帰れないことすらあります。
(ちょうど再来週なんかは、偉大なる死霊術士の再誕祭を向こうで行う予定のため、実家に帰る予定はありません)

ですので、基本的に返信は一週間以内にあったら早い方。1カ月以内にあればいいやくらいの気持ちでいてくださいませ。
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さすがに一度も感想をもらえていない身で、こんな文章を貼るのは恥ずかしいなと思い温存していたのですが、いやいや貼れてよかったです。

実は毎回悩んでいるあとがきのネタもできました。
今日のところは、このあたりで。
最後になりましたが、ここまで読んで頂きありがとうございました。


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7月「一瞬にして、すべてが滅ぶ」

 まだ朝だと言うのに、照り付ける太陽は白く、雲ひとつない青空の真ん中で燦々と輝いている。

 巨大なドームの入り口近くに日陰を見つけ、響星(きょうせい)学園カードファイト部はそこに集合していた。

 暑いのが苦手なのか、日焼けするのが嫌なのか、ユキは特に隅の方へと逃げ、右手で扇を仰ぎ、左手で日傘を作って、穏やかな笑みに渋面を浮かべた複雑な表情をしている。

「ついにっ! この日がっ! やってきたあっ!」

 一方のアリサは、いつも以上に威勢がよく、全身を目いっぱいに広げて日の光を浴びながら叫んでいた。

「ヴァンガード甲子園!! ただし、予選大会っ!!」

「つまり、この大会で優勝できなければ、8月に開催されるヴァンガード甲子園の本戦には出場できないということですね」

 アリサの傍らでありながら日は当たらないという絶妙な立ち位置から、ミオが解説した。

 ちなみに、公式大会への参加は部活動扱いなので2人とも制服姿である。ユキは着物だが。

「おーい、天道。そんなところで騒いでないで、点呼取るから、こっちに来い」

 日陰から白衣の男が呼びかけると、アリサは素直に「はーい」と返事し、男の方へと歩き出した。ミオもその後をついて行き……

「?」

 首を傾げて、指をさす。

「この人、誰ですか?」

 白衣の男に向かって。

「あらやだ、ミオったら。顧問の先生を忘れちゃったの?」

「顧問?」

 ユキの説明を聞いて、ミオがさらに首を捻る。

「そんなものが、この部活にいたのですか?」

「いたのよ。少なくとも、入部届けを提出する際に、一度は会っているはずだけど? ここに来る時も一緒だったでしょう?」

「……描写されていません」

「描写!?」

 聞き捨てならない言葉を聞いて、ユキが目を剥いた。

「いいよ、白河。部活に顔を出さなかった僕が悪い」

 顧問らしき白衣の男が肩をすくめて言った。

 ユキは諦めたように溜息をひとつつくと、ミオに男を紹介する。

「まったく……改めて紹介するわね。こちら、カードファイト部の顧問、春日マナブ先生よ。科学部の顧問も兼任されているから、あまりカードファイト部には出られないの。

 ほら、科学部は実験で危険な薬品も扱うから、常に先生が見ていないとダメでしょう? けど、ヴァンガードを知っている先生も、春日先生しかいなかったらしくて」

「こっちは白河に任せておけば、問題無いしな」

 癖なのか、白衣の男が再び肩をすくめた。

「そうでしたか。大変失礼致しました。1年の音無ミオです。よろしくお願いします」

 今更、礼儀正しく頭を下げながら、ミオは顧問の男を観察した。

 まず若い。道ですれ違っても大学生くらいにしか思わないだろう。特徴的なのはよれよれの白衣と、分厚い丸メガネ。なるほど、いかにも科学部らしい。表情や態度からは熱意が感じられず、適当な印象が強かった。

「まあ、僕は君達の邪魔にならないように遠くで見ているよ。今日は楽しんでおいで」

 今もそんなことを言って、さっさと自分だけ建物の中へと入っていく。

「確かに、ちょっといい加減なところがある先生だけどね。自由にやらせて頂いて、助かっている面もあるのよ?」

 ミオの内心を読み取ったかのように、ユキが囁いた。

「ユニフォームを着物にしたりね」

 アリサが茶化すように言うが、それは無視してユキは続ける。

「それに、ファイターとしても一流よ。いつか機会があればファイトしてみるといいわ」

「ほほう。それは興味深いです」

 ユキがそこまで言うのならばと、ミオも無精な顧問の存在をあっさりと認めた。

「それじゃ、私達も行きましょうか」

 そう言って、ユキとアリサは早足で入り口をくぐり、ミオもその後を追う。

 狭くて薄暗い通路で、ユキとアリサは申し合わせたようにくるりと振り返り、ミオに手を差し出した。

「「ようこそ、ヴァンガード甲子園へ」」

 その奥では、熱気と歓声が渦を巻いて、ミオを待ち受けていた。

 

 

『ヴァンガード甲子園ッ!!

 ヴァンガード甲子園は、各校から選抜された3名の代表からなるトーナメント戦! このルールは地区予選も、決勝も変わらない!

 各試合では、先鋒は先鋒と。中堅は中堅と。大将は大将と順番にファイトし、先に2勝したチームが勝ち抜きとなる! そのため、先鋒と大将が続けて勝利した場合には……』

 壇上では、司会がテンション高く、大会のルール説明を行っているが、どれほどの人が真面目に聞いているだろうか。

 行き交う人は、そのいずれもが真剣な表情をしており、固い靴音からも緊張が伝わってくる。

 会場入りした時に感じた熱気は、渦中に寄ると凍てつく冷気に様変わりして鋭く肌を射貫く。

 用意されたテーブルで、デッキの最終調整を行いながら、ミオは表情も足取りも重たい人達を眺めていた。

「ショップ大会とは感じが違いますね……何というか、ピリピリしてます」

「全国大会ともなると、ガチの人も多いからね。あたし達は『毎日楽しくヴァンガード』がモットーだけど、この日で勝つことを目標にヴァンガードの練習をしてきた高校も多いからね」

「勝つこと、ですか」

 ヴァンガードをしていて、感情が動かされる瞬間は何度もあった。日常では全く動かない心が、ヴァンガードを前にした時だけは多感な少女になれたようで。それが嬉しくて、ミオはヴァンガードを続けている。

 負けてもその喜びが先にくるものだから、勝ちたいと乞うほど願ったことは、まだ無かった。

(1年に1度きりの1発勝負……ヴァンガード甲子園ならば、それも分かるのでしょうか)

「見つけたわよ、白河ミユキ!!」

 ミオの物思いは、突如として降って湧いた、キンキン響く怒声によって阻害された。

 声のした方へと振り向くと、豪奢な制服を着た、金髪巻き毛の女子高生が、大股ではしたなく歩み寄って来る。

 それを見たアリサは「げっ」と小さく呻き、ユキは普段通りの柔和な笑みで、金髪の少女を迎えた。

「あら、マリさん。お久しぶりね」

「マリじゃない! マリア! 人の名前を勝手に略すな!」

 顔を真っ赤にして怒る少女に、こっそり指を向けながら、ミオはアリサに耳打ちした。

「誰ですか、この人?」

「早乙女マリア。さっき言ったガチ勢の見本みたいな女よ」

 ひそひそ話すミオ達は眼中に無いらしく、マリだかマリアだか言う女は、ビッと立てた人差し指をユキに向けてまくしたてている。

「1年の先鋒戦ではわたくしの負け。2年の中堅戦ではわたくしの勝ち。今年はお互いに3年生。大将戦で長きに渡る決着をつけるわよ!」

「ええ、最後のヴァンガード甲子園ですからね。楽しみましょう」

「ふざけないでっ!」

 ユキが差し出した手を、マリアが勢いよく払う。

 その態度に、アリサのこめかみがビクンと跳ねた。当のユキは、その笑みを一片も崩しはしなかったが。

「わたくし達は貴方達みたいにヘラヘラしながらヴァンガードなんてしないんだから! わたくしが楽しいのは勝った時だけよ!」

 そうまくしたてると、来た時のように大股でマリアが去っていく。

「何であんなに偉そうなんですか、あの人」

「マリさんはね、私と自分が許せないのよ」

 尋ねるミオに、何か言おうとしたアリサを手で制し、ユキが訥々と語りはじめる。

 この地区の常勝校、(セント)ローゼ学園のホープとして、1年でレギュラーに選ばれた早乙女マリア。

 だが彼女は、地区予選の1回戦で、無名校だった響星学園の同じ1年生、白河ミユキに敗れてしまう。

 その負けが響いて、聖ローゼは1回戦敗退。それでも、響星学園が優勝したなら、まだよかったのかも知れない。

 しかし、響星も2回戦であっさり敗退。

 結果、弱小高校に負けたと見なされた聖ローゼ・カードファイト部は、本校で相当のバッシングを受けたらしい。特に1年生だったマリアは、本当にその実力があったのか。ひどいものでは、教師や先輩に媚びを売ったのではないかと陰口を囁かれた。

「聞いた話だけどね。けど、地区予選で負けた日を境に、マリが笑わなくなったことは事実よ」

 優雅で上品なプレイングから一転、妥協と容赦の無いプレイングで、3学期には学園最強のファイターとして聖ローゼ・カードファイト部に君臨するようになった。

 2年生になってからは、自分と同じ、勝利のみを追求するメンバーでチームを再編。地区予選では、白河ミユキと響星学園を一蹴して優勝。本戦でも準優勝の成績を収めたと言う。

「何よそれ。要するに逆恨みされてるだけじゃない」

 呆れたようにアリサが感想を漏らした。

「それは間違いないわ。けど、私に負けたことで、彼女が変わってしまったことも確かよ。

 勝負の世界だし、悪い事をしたとは思わないけど、彼女が私との決着を望むのなら、それを受けてあげたい」

「……事情はわかった。じゃあ、あんたは大将で。そして、あたしが一勝すればいいのね」

 真剣な表情で告げるユキに、アリサは笑みを浮かべながら、テーブルに1枚の紙を置いた。それは本日のトーナメント表で、一番左端に響星と聖ローゼの名前があった。

 

 

「《漆黒の乙女 マーハ》をコール。マーハのスキル発動。手札から《暗闇の騎士 ルゴス》をコール。1枚ドロー」

 砂塵の荒ぶ廃墟を、黒鎧の騎士が往く。

 抜き身の剣をぶら下げた彼らは、処刑人のようでいて、断罪を待つ囚人のようにも見える。

 大義を果たす為ならば、捨て駒にされることすら良しとする、狂気の契約で結ばれた背徳者達。

 王道では裁けぬ悪を、邪道にて断つ。

 聖域の影として生きるその騎士団を知る者は、彼らをこう称した。

 影の騎士団(シャドウパラディン)と。

ファントム・ブラスターのスキル発動(ダムド・チャージング・ランス)。後列のネヴァン、ジャベリン、ソードブレイカーをドロップゾーンに置く」

 それを操る男もまた、粛々と敵を追い詰める。

 その動きは、これまで何千回何万回と繰り返されてきたものであるかのように洗練されていた。

「後列に、アリアンロッド、カロン、デスフェザー・イーグルをコール。

 ファントム・ブラスターでアタック(シャドウ・イロージョン)

 愉悦の笑みを浮かべた黒き竜が、味方の血で紅に染まった双刃の槍を振りかざす。

「つっ! プロテクトで完全ガード!」

 アリサの差し出した翠緑の盾が、黒竜から染み出すように溢れ出した影の刃を受け止めた。

「ドライブチェック……1枚目、無し。2枚目、(ヒール)トリガー。ダメージ回復し、修正値はマーハへ」

「う……」

「これでプロテクトは無くなったな」

 男が呟く。確認したわけではない。ただ彼は、彼の中で描かれている勝利への道筋を、ただなぞっているだけのように見えた。

「ルゴスでアタック」

「……ノーガード」

 すでにアリサのダメージは5点。苦渋と共に吐き出したその言葉を聞いて、男の眉が微かに上がった。それは、この試合ではじめて見た、表情の変化かも知れなかった。

「もうこのアタックすら防げる札は無かったか」

(何よそれ!)

 アリサは心の中で毒づいた。

(あんたの想定より、あたしが弱かったってこと!?)

 怒りに任せて、アリサはデッキの上のカードをめくる。

「ダメージチェック!!

 ……っ。

 ……負けました。

 ありがとう……ございました……」

 男は無言で頭を下げると、踵を返して去っていった。

 アリサもデッキを片付けて、俯きながら壇上を降りる。

 仲間達の前に立つと顔を上げ、力無く笑った。

「ごめん、負けちゃった」

「お疲れ様です。あとは私に任せてください」

 アリサとすれ違うようにして、ミオが前に出る。

 アリサに責任を感じさせないためにも。ユキの望みを叶えるためにも。このファイトは負けるわけにいかなくなった。

「ミオ」

 気負う彼女を、ユキが優しさと厳しさの混じり合った口調で呼び止めた。

「なんでしょう?」

「楽しんできてね」

「……はい。絶対に勝ちます」

 返答として適切では無いと自覚しつつ、ミオは振り返らずに答えた。

 ミオは壇上に上がり、本格的なファイトテーブルの上にデッキを置いた。カード越しに感じる強化ガラスの感触は、勉強机にクロスを敷いただけの部室や、紙のプレイマットが置かれただけのショップとは、全く違った。

「よろしくお願いします!」

 先ほどの暗い男とは違う、爽やかな少年がミオの対戦相手だった。

「よろしくお願いします」

 だが、礼を終えると同時に、少年の表情が消え去っていく。

 審判の合図があり、両者は同時にファーストヴァンガードを表に向けた。

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《紅の小獅子 キルフ》!」

(ゴールドパラディン……)

 スペリオルライドを得意とする、アクセルクランの中でも最速のクラン。

 ユキやアリサが扱うゴールドパラディンとは何度もファイトしているし、ショップ大会でも何度か対戦したこともある(大抵の場合、ユキが扱う方が強かったが)。

 だが、ゴールドパラディンのスペシャリストとの対戦は、ミオの経験には無かった。

 そう。経験。

 ヴァンガードをはじめて3か月弱のミオに、最も不足している点はそこだろう。

(それならば、それなりの戦い方をするまでです)

 ミオはちらりと手札に目をやった。そのための札は、この手にある。

(見せてもらいましょうか。全国2位の高校と、そこに所属するゴールドパラディン使いの実力を)

「ライド。『発酵する根絶者 ガヰアン』」

 ミオのヴァンガード甲子園が始まった。

 

 

 先行プレイヤーの、G3へのライドフェイズ。

 お互いにダメージは2で、ゲームが中盤に差し掛かったところ。

「君は俺達の側じゃないのかい?」

 対戦相手の少年がミオに語りかけてきた。

「あなたは、さっき(シャドウパラディン)の人よりはおしゃべりなようですね。どういう意味ですか?」

 カードを引きながら、ミオもそれに付き合う、

「君のプレイングを見ての感想さ。勝負に感情を持ち込まない、淡々とした試合の組み立て方。響星には見ないタイプだと思ったんだ」

「……そうかも知れませんね。

 正直に言って、私はあなた達のスタンスの方が理解はできます。

 アリサさんは、実力はあるのに集中力が無くて、つまらないミスをしょっちゅうしてますし。

 ユキさんも、全国レベルのスペックがありながら、全くそれを生かそうとしません。

 勝負師としてなら、あなた達の方がよっぽど真っ当だと思いますよ」

 ミオの反応に好感触を得たのか、少年は僅かに身を乗り出す。

「響星の居心地が悪いのなら、放課後は聖ローゼに来るといい。響星からはそう遠くも無いし、君のような実力者なら、俺達は歓迎す――」

「ライド」

 その言葉を打ち消すように、ミオはそれにライドした。

「《絆の根絶者 グレイヲン》」

 虚無の申し子が、声なき声で吠え猛る。

「ですが、私はアリサさんや、ユキさんのようになりたいです。

 いつの日か、感情のまま、心から笑ってファイトをしたい。

 それを求めて、私は響星学園カードファイト部にいるんです」

 透明な瞳に晒されて、少年はふっと自嘲するように笑った。

「つまらないことを言ったね。忘れてくれ」

「いいえ。あなたの親切は忘れません。

 けれど、おしゃべりはここまでにしましょう……デリート」

 ミオと一体化したグレイヲンの、腕の一振りが、少年のライドする守護聖獣(ネメアライオン)を消し飛ばした。

「ギヲとヰギーをコール。グレイヲンでアタック」

 魂だけの存在となった少年に、根絶者が迫る。

「ドライブチェック……(ドロー)トリガー。ドロー。パワーはギアリへ。2枚目はトリガー無しです」

 グレイヲンの下半身、幾多の節と数多の脚で構成された蟲の如き胴体が蠢き、次の瞬間には霊体となった少年を薙ぎ払う。

 これで3点目……。

「やるね」

 不敵に微笑む少年がカードをかざす。

 治トリガー。

「あなたこそ」

 にこりともせず少女が応えた。

 

 

 そこからさらにターンは進む。

 お互いにダメージは4点。

「ライド! 『灼熱の獅子 ブロンドエイゼル』!」

 2度のデリートを耐えた少年が、再びブロンドエイゼルにライドした。

「新たなアクセルⅡサークルに『神技の騎士 ボーマン』をコール! バトルだ!」

 黄金に輝くたてがみの騎士が、剣を振りかざし鬨の声をあげる。

「アクセルⅡサークルのボーマンでアタック!」

「ノーガード……トリガー無し。ダメージは5です」

「《ウェイビング・オウル》のブースト! 《ウェイビング・オウル》でアタック!」

「ギヲでインターセプト」

「ガレスのブースト! ぺリノアでアタック!」

「ジャヱーガでガード」

「アクセルⅡサークルのヴィヴィアンでアタック!」

「ゴウガヰでガード」

 流星雨の如き猛攻を、ミオは無駄なく丁寧に捌いていく。

 だがこの程度、ゴールドパラディンにとっては序の口にすぎない。

「ディンドランのブースト! ブロンドエイゼルでアタック! ブロンドエイゼルのスキルで手札からサグラモールをアクセルⅡサークルへコール! さらにサグラモールのスキルでドロー! 手札のガレスをアクセルⅡサークルへスペリオルコール! ガレスのCBで+10000だ!」

「治トリガーでガード」

「2枚貫通か……ドライブチェック!

 1枚目、ノートリガー。2枚目、(クリティカル)トリガー! 効果はすべてサグラモールへ!」

「あと2回……」

「いいや、まだだ! 手札の『ロップ・イヤー・シューター』のCB! スペリオルコールしてパワー+5000! ロップ・イヤーでアタック!」

「エルロでガード」

「サグラモール!」

「★トリガーでガード」

「これが最後だ……パワー23000のガレスでアタック!」

「完全ガードです」

 

 ――おおっ!!

 

 流れるような連撃と、それを凌ぎきったミオのファインプレーに、会場がどっと沸く。

 必殺の連続攻撃を受けきられた少年は、それでも余裕を失わず、下級生の健闘をまずは讃えた。

「よく耐えたね。後列への展開を控え、ガードに必要な札を残した点もお見事。

 けど、君の手札は1枚。表向きのダメージは1枚で、グレイヲン軸の君のデッキでは、もはやデリートはできない。

 ギフトはフォースⅠで、リアガードに置いている。

 この状況、どうやってダメージ4の俺を倒しきる?」

「スタンド&ドロー……ここまでは私の想定通りです」

「何?」

「ライド。《波動する根絶者 グレイドール》」

 少年の目が、驚きに見開かれた。

「グレイドールはデッキに入っていないと思いましたか? 実は初手にあったんですよ」

 もっとも、そう思い込ませるように仕向けたのはミオだ。

 デッキにグレイドールは1枚しか無いのだから、そう見せかけるのは容易かった。

 初手にグレイドールがあったことこそ天祐だが、彼女はそれを迷わず戦略に組み込んだ。

 結果、少年は次のターンでデリートは無いと判断し、手札を投げ打って勝負を仕掛けてきたのだ。

(全国レベルのプレイヤーが、完全に油断していたとも思えませんが。それでも、分の良い賭けくらいには思ったのでしょう。結果、あなたは賭けに負けた)

「フォースはヴァンガードに。グレイドールのスキルで、ロップ・イヤーを裏でバインド(バニッシュデリート)。ブロンドエイゼルをデリート。そして、グレイドールの★に+1です」

 ひとつひとつ宣言していくたび、ミオの心は高揚していく。

(ユキさんから頂いたグレイドールで、ユキさんの望みを叶える。あの時の恩を返す時がきました)

 それはこれまでヴァンガードを続けていて、最も魂が躍る瞬間だった。

「グレイドールでアタックします」

「……ノーガード」

 4枚の手札を見やった少年が、静かに宣言する。

 鋼に覆われた根絶者の全身から迸る波動が、霊体となった少年を呑み込んでいく。彼の姿は粒子の単位まで分解され、跡には何も残らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――はずだった

 

 聞こえたのは、一滴の雫が滴り落ちる音。

 エルフの青年が捧げた蒼色に輝く霊薬が、時を遡らせるようにして、砕け散った魂を復元させていく。

「《エリクサー・ソムリエ》……! 治トリガーだ」

「え……」

 ミオは我が目を、そして我が耳を疑った。

 6点ヒール。

 それはヴァンガードにおいて、最も警戒すべき事象の一つ。

 だが、恍惚の中でミオは、その可能性を頭の中から完全に排除してしまっていた。

「あ……ま、まだ、私のアタックは残って……」

「無駄だよ。俺はさっきのダメージで2枚のトリガーを引いた。君のユニットの攻撃は通らない」

 もうミオにできることは無い。

 だが、対戦相手は、急かすでもなく、ミオがそれを自ら宣言するのを待ってくれていた。

「……ターン、エンド、です」

 やがて彼女は、前髪で表情を隠すように俯きながら、それだけを絞り出すように告げた。

「俺のターン、スタンド&ドロー。ライド。《大いなる銀狼 ガルモール》

 ボーマンをスペリオルコール。さらに6体のユニットにパワー+3000。

 ガルモールでアタック!」

 白銀の狼が咆哮する。それは星よりも眩く輝き、光をも超える疾さで、鋼の装甲を貫いた。

「ダメージ……チェック……」

 ミオが6枚目のカードをダメージゾーンに置く。

 すでに結果は決まっている。

 だが、ミオがそれを告げるのに、またも永遠にも似た数秒を要した。

「負け……まし……た……」

「ありがとうございました!」

 少年が拳を握りしめながら礼をする。

 ミオはそれに答えられたかどうか、もう定かではない。

 気がつけば、胸にデッキを抱えて、逃げるように走り出していた。

「おつかれさま」

 その先にユキが待っていた。

 彼女がもうヴァンガード甲子園でファイトをする事は無い。

 楽しみにしていたはずなのに。成すべきことがあったはずなのに。

 その機会は、ミオが奪ってしまった。

 永遠に。

 それなのに。

 なぜ彼女は、いつも通りの穏やかな笑顔で、ミオを出迎えてくれるのだろう。

「はじめてのヴァンガード甲子園はどうだった?」

 世間話をするような調子で、ユキが問いかける。

「はい……」

 彼女と目を合わせる勇気は無く、ミオは顔を背けながら答えた。

「とても強い人とファイトできました……」

「そう。いい経験になったわね」

「いいファイトでした……楽しかった、です……」

「それはよかったわ」

「全力を、尽くしました……」

「ええ。惜しかったわね」

「けど……」

 見開かれたミオの瞳から、彼女の知らない感情が零れ落ちる。

「勝ちたかったです! 勝ちたかった! 勝ちたかったっ!!」

 ミオが生まれてはじめて心から叫んだ。

「うあああああああっ!! ごめんなさいっ! ユキさんっ! アリサさんっ! ひぐっ ごめんなさいぃっ!」

 悲鳴が。言葉が。嗚咽が。次から次に溢れて止まらない。

 半狂乱になるミオを、ユキはそっと抱き寄せた。

「私達のために、一生懸命頑張ってくれたのね。あなたが背負う必要なんてなかったのに……私の方こそ、ごめんなさい」

「あああああああああああっ!!」

 ミオはユキに爪をたててすがりつき、顔をうずめて泣きじゃくった。白い着物に、みるみる染みが広がっていく。

 ユキは赤子をあやすようにして、ミオの背を何度も優しく叩いていた。

 ミオが泣き止むまで、いつまでも、いつまでも。

 

 その日、音無ミオは、この世界で二度目の産声をあげた。




栗山飛鳥です。
予定より少し早めの公開となりました、7月の本編です。
お楽しみ頂けたら幸いです。

本日は「根絶少女」の誕生秘話をお話したいと思います。

この小説は本来、月ブシで不定期に開催されている「ヴァンガードマンガ大賞・小説部門」に向けて準備していたものでした。

ところがまあ、第2回では小説部門が開催されず、第3回のアナウンスは未だにありません。
このままお蔵入りにするのもシャクだったので、物語を大幅に引き延ばして3部構成にしたものが、今の「根絶少女」となります。

そして、旧「根絶少女」は、この地区予選で完結する物語でした。
全力ファイトの末、ミオは敗北し、ディフライドが解け、感情を取り戻すという結末です。

ですが、今回の話ではディフライドが解けたという描写も無く、もちろん解けてはおりません。
「根絶少女」の物語は、これから未知の領域へと進んでいくことになるのです。
これからますます大変なことになるであろう登場人物達に、より一層の応援をよろしくお願い致します。

次回、『天馬解放』の『えくすとら』は、7月13日前後に公開予定です。


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8月「根絶するだけでは許さない」

 ヴァンガード甲子園、決勝大会。

 今年も無事、その舞台に立つ事ができた。

 早乙女マリアは人知れず安堵の溜息をつき、すぐにそれを止めて気を引き締める。

(いけませんわ。わたくし達は常勝軍団。決勝大会進出など通過点。当然の結果でなければなりません。そういう顔をしていなければ)

 地区予選に心残りが無いかと言えば嘘になる。彼女にとって、白河ミユキを倒さずして手に入れた全国大会の切符など、何の価値も感じられなかったが、そんな態度こそ、部員達の前で見せるわけにはいかない。自分はもう一介のファイターでは無く、30人以上の部員を抱える名門・(セント)ローゼ学園カードファイト部を率いる部長なのだから。

 心中で気合いを入れ直して、後ろに並ぶ部員達に手振りでついてくるように示す。

 しばらく進んだ先に見知った顔を見つけ、マリアは優雅に微笑みかけた。

「ごきげんよう。お久しぶりですわね、佐藤さん」

「ああ、早乙女さん。去年のヴァンガード甲子園ぶりだね」

 声をかけられた、好青年然とした若者が歩み寄ってくる。冴えない顔立ちだが、彼こそ去年のヴァンガード甲子園でマリアを破って優勝を決めた天海(あまみ)学園のエースである。今年は部長も任されていると聞いていた。

「今大会も決勝まで来ましたのね。そうでなくては面白くありませんわ。わたくしにも去年の雪辱がありますから」

 口元は扇で隠しながらも、剣呑に輝く瞳は隠そうとしない。そんなマリアに、若者は苦笑しながらかぶりを振った。

「ごめん。今年の僕は引率なんだ」

「引率? では、大会に出るのは2年ですの? 引退されて後輩に席を譲ったのでしょうか?」

「それだったら、まだ格好もついたんだろうけどね。僕は……いや、僕たち3年生は代表の座を奪われたんだよ……1年生にね」

 彼が示す先には、3人の少年がいた。

 朝日による逆光で顔の隠れた、未だ無名で無冠の彼らを一目見るや、あろうことか常勝校のエリートである早乙女マリアは、ひとつの確信を抱いてしまった。

 今年は勝てない、と。

 

 

(クリティカル)3の《不死竜 スカルドラゴン》で、ブロンドエイゼルにアタック!

 パワー100000(オーバー・ザ・クインテットナイン)!!!!』

 深淵の底から振るわれた一閃が、海を断ち割り、波打ち際に立つ黄金の騎士をも斬り裂いた。

 騎士が最期に見たものは、二つに割れた海の底。大剣を下ろした姿勢のまま動かない不死竜と、その奥の玉座でつまらなそうに頬杖をついた魔の海域の王(バスカーク)だった。

『ダメージチェック……トリガー無し。負けました……』

 ミオが持つ、けして大きくはないタブレット端末の画面を、3人の少女が頭で押し合いしながら食い入るように見つめていた。

 そのうちの一人はもちろん持ち主のミオで、彼女を挟むようにしてユキとアリサの頭がある。

 ヴァンガード甲子園の決勝大会はインターネット中継されているため、夏休み中だが部活動の一環として、ミオ達は部室に集まって観戦しているのだ。

「ミオちゃんに勝った人が負けちゃったね。ドライブチェックで引いた★トリガーを、2枚ともスカルドラゴンに振ったのは、どうしてだと思う?」

「完全ガードを持っていない事を見透かされていた感じね。ゴールドパラディンの彼も一流であることを踏まえた上で、あえて厳しい事を言わせてもらうと、格が違うわ」

 ミオの間でアリサとユキが言葉を交わし合う。

「先鋒も、すごく強かったよね。結局、この準決勝まで1度も大将が戦ってないじゃん。聖ローゼなら、勝負になると思ったのに」

 じりじり体を寄せてくるユキを頭で追いやりながらアリサ。

「天海学園は前大会の優勝校。順当と言えば順当なんだけど」

 頭突きをアリサに見舞いながら、ユキが顎に人差し指を当てる。壁にぶつかり跳ね返ってきたアリサの頭をかわしながら、ミオは迷惑そうに顔をしかめた。

「これは番狂わせと言った方がいいのかしら」

『決勝進出! 今年も天海学園が決勝戦への切符を手にしました! なんと、天海学園はチーム全員が1年生! このまま優勝となれば、ヴァンガード甲子園はじまって以来の快挙となります!』

「だそうよ。とんでもない世代と一緒になったものね。ミオ」

 実況に合いの手を入れるユキは、苦笑しながらも、どこか楽しそうだった。

 

 

「あー、終わったー。結局天海学園の圧勝かー」

 アリサが全身をだらんと机に投げ出しながら、大会の感想を短く述べた。

「結局、大将さんのファイトは見れなかったわねえ」

 ユキが夏だというのに熱々のお茶を淹れて一服し始める。

「何をダラダラしてるんですか、二人とも」

 中継が終わるなり部室でくつろぎ始めた二人の先輩をミオはねめつけた。

 これが呆れという感情かと、つまらなく自覚する。

「いやー、ヴァンガード甲子園が終わるとどうしても、ね」

 のろのろと体を起こしながらアリサが答える。

「9月から何かイベントは無いんですか。私、もっとヴァンガードがしたいんです」

「いいやる気ねぇ。けど、大きな大会は12月まで無いわねぇ」

 一切の音をたてることなく湯呑みを置き、今度はユキが答えた。

「12月にあるんじゃないですか。なら、その時まで練習しましょう……って、ユキさんは3年生ですよね。いつまで部にいるんですか?」

「あら、悲しいわ。ミオは私がいない方がいいと思っているのね」

「そうは言ってないです。ユキさんがいなくなると部員が2人になってしまいますから、残って頂けるならありがたいです」

「数合わせくらいにしか思われてない!?」

 悪戯めいた笑みから一転、ユキはおいおいと泣き出してしまった。

「心配しているんですよ。受験は大丈夫なんですか?」

「ユキはとっくに推薦が決まってるからね。優等生は気楽でいいよね」

「そういうこと。気楽なの。さすがに大きなイベントに参加するのは控えるけれど、部室には寄らせてもらうわ」

 アリサが口を挟むと、ユキはけろりと泣き止んで立ち上がり、着物を見せびらかすようにしてくるくると回った。要するに、学校で着物を着れなくなるのが嫌らしい。

「けどよかったです。ユキさんとの思い出が、あんな形で終わるのは嫌でしたから」

「……地区予選のことなら気にしなくていいのよ。どうせ、最後に笑って終われるのは全国で1校だけなのだから。因果なものよねぇ」

「そんな理屈じゃありません」

「私は後輩の成長が見届けられて満足な大会だったの。あなたがどう思おうと、それだけは絶対に変わりません」

 おどけた調子から一転、強い口調と揺るがぬ意志でユキは真っすぐに後輩を見据えた。

「あなたに心残りがあるのなら、それはあなた自身で晴らせばいいわ。まだ来年があるのだから」

「……はい」

 そう言ってユキに頭を撫でられると、もうミオは何も言えなくなる。

「よーし、話もまとまったところで、ショップに寄っていきますか!」

 パンッと手を打って、アリサが場を仕切り直そうとした。

「一番だらけていた人が何を……」

 もちろんミオはそれに反発する。

 冷たいツッコミを無視して、アリサは話を続けた。

「今日はちょっと遠出して、カードショップ『タワー』に行ってみよーよ!」

「『タワー』? 県内で一番大きなカードショップね」

「……ふむ」

 ユキの情報にミオも食いついた。獲物を見つけた猫のように、つぶらな瞳が怜悧に煌めく。

「とにかく対戦したいのなら『タワー』が一番だよ。ショップ大会でも、軽く50人は集まるってさ」

「スイスドロー形式でも、5、6回は対戦できそうですね。なるほど、魅力的です」

「計算早いねー。ま、ミオちゃんに異論は無いみたいだね。ユキはどう?」

「次期部長にお任せするわ」

「よーし! それじゃ、しゅっぱーつ!!」

「次期部長」の響きに気をよくしたか、いつも以上のテンションでアリサは部員達に号令をかけるのであった。

 

 

「おお、本当に塔みたいですね」

 カードショップ『タワー』に辿りついたミオの第一声がそれだった。

 ビルの中にカードショップが設営されているのは珍しくないが、『タワー』はビル全てがカードショップとなっており、そのうちの2階から3階でヴァンガードが取り扱われている。ちなみに4階から5階は他のカードゲームで、1階は何と全てがファイトスペースとなっていた。ショップ大会が行われるのも1階で、参加者はそこに集められていた。

「本日は参加者が60人を越えたので、トーナメント形式で大会を行わせて頂きます!」

 店員が手でメガホンを作って、参加者達に呼びかける。

(おや、トーナメントでしたか。まあ負けなければいいだけの話です。6回は対戦できますね)

 頭の中で皮算用しながら、ミオは対戦卓についた。

「よろしくお願いします」

 ヴァンガードをはじめて4か月とは思えない不敵な気配を放ちながら、対戦相手に一礼。そのあとは虐殺ショーのはじまりだ。

「グレイヲンでデリート。アタック。アタック。アタック。ギヴンの効果でグレイヲンをスタンド。さらにアタック」

「ダ、ダメージチェック……あ、ありがとうございました」

「はい、ありがとうございました」

 対戦相手が肩を落として去っていく。どうやら初心者だったようだが、よからぬ思い出を植え付けてしまったようだ。

(あの子が根絶者を嫌いにならなければいいのですが)

 見当違いの心配をしながら、ミオはまだ対戦している周囲の卓を思わず見渡してしまう。後に対戦する事になるかもしれないファイターのデッキを覗き見することになるのでマナーとしてはよくないのだが、ミオのような対戦経験の少ない者にとっては、どうしても気になってしまうところである。

(あ、アリサさんと同じメガコロニーです)

 見慣れたカードに、思わず視線が止まる。ちょうどメガコロニーを使っている少年がトリガーチェックを行うところだった。

「ファーストチェック、★トリガー」

(む?)

「セカンドチェック、★トリガー」

(むむ?)

「ダメージチェック、負けました」

 少年の対戦相手が6枚目のダメージを置いてテーブルから離れていく。少年は余裕の表情でカードを片付けようとして……

「待ってください」

 ミオにその手をで押さえつけられた。

「な、なにすんだよ!」

 少年――とは言えミオよりは体格の大きい男子高校生と思しき少年が悲鳴をあげる。

「あなた、袖からトリガーを出しましたよね? 今すぐジャッジにカードの枚数を数えてもらいます」

「は? 俺が不正したって言うのかよ? ……いいから離せよ!」

 少年が振り払うと、ミオは案外素直にその腕を離した。

「ミオちゃん!?」

「どうしたの、ジャッジを呼びましょうか?」

 騒ぎに気付いたアリサとユキが駆け寄ってくる。広すぎる店内が災いして、店員は気付いていないようだ。

「……いえ、私の勘違いです。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 ペコリと頭を下げるミオを、気味悪がるような目で見据えながら、少年は逃げるように席を立った。

「ミオちゃん、大丈夫!? 不正を見つけたんでしょ? やっぱりジャッジを……」

「いえ。あの男、私ともみ合っている最中、ギャラリーに……たぶんグルでしょうが、カードを渡していました。もう、デッキを調べても不正の証拠は出てこないでしょう。下手に追い詰めれば、不利になるのは私の方です」

 手品師にでもなればいいのにと、ミオは付け足すように吐き捨てた。

「では、泣き寝入りするの?」

 試すようなユキの問いに、ミオは「まさか」と首を横に振った。

「幸い、私の次の対戦相手は彼のようです。正々堂々、完膚無きまでに叩き潰してあげましょう」

「よしっ、あたしもあいつを見張ってるよ」

 意気込むアリサに、ミオはまたしても「いいえ」と首を振った。

「アリサさんもユキさんも自分の試合に集中してください。早く終わったとしても、彼の好きなようにさせてください」

「でも、それじゃ……」

「私、許せないんですよ。ヴァンガードを汚す行為もそうですが、よりにもよってメガコロニーで不正をしていることに。メガコロニーは悪の組織かも知れませんが、私の知っているメガコロニーは、あんな小細工で粋がる小悪党ではありません」

「ミ、ミオちゃーん!」

 感極まったアリサに泣いて抱きつかれながら、ミオは自分の中で沸々と起こる未知の感情に戸惑いを覚えていた。

(ああ、これが怒りですか。あまりいい気分ではありませんが……今日ばかりはこの感覚に酔わせてもらいましょうか)

 

 

 トーナメント2回戦――

「お前が次の対戦相手かよ」

 不正をしていた少年が、嫌悪感を露わにミオを睨み付けていた。対面に腰を下ろしたミオはどこ吹く風で、自分のデッキをシャッフルしている。

「どうも。お手柔らかにお願いします。ああ、不正はきちんとしてくださいね。ハンデが無いと物足りないですから」

 ミオの挑発に、少年の額に分かりやすく青筋が立った。しかし、何も言い返せず無言になって、彼も自らのデッキを切りはじめた。

「よろしくお願いします」

「…………」

 形だけは礼儀よく頭を下げるミオ。少年は無視。

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

 こうして、互いにドス黒い思惑を抱いた試合は始まった。

「《絆の根絶者 グレイヲン》にライドします。フォースⅠはアルバのいる右前列に」

 お互いにダメージは2点。先攻のミオがG3へとライドする。

「ヴァンガードの《ナスティ・スモッグ》をデリート。ドロヲンでブーストしたグレイヲンでアタックします」

「……完全ガード」

 序盤からデリートを仕掛けるミオに、少年も守護者(センチネル)で対抗する。

「ドライブチェック。1枚目、トリガー無し。2枚目、引トリガー。1枚引いて、+10000は左前列のギヲへ」

 続くリアガードの攻撃は全てヒットし、相手のダメージは4点。

「俺のターン。《マシニング・スターグビートル》にライド。プロテクトⅡを左前列に。ソウルから2体をレスト状態でコール。手札から《強毒怪人 ヘルデマイズ》をコールして、レストしている《ナスティ・スモッグ》をスタンド。

 ヴァンガードでアタックだ!」

「……ノーガード」

 ミオが宣言した瞬間、男が顔を歪ませた。あまりにも醜く、笑みを浮かべたのだと気付くのに数秒かかってしまった。

「ドライブチェック。1枚目、★トリガー! 2枚目、★トリガー!」

(そうでないと面白くありません)

 ミオは3枚のカードをダメージゾーンに置いていく。たった一撃でダメージは5点になり、追い詰められた形になる。

 もっとも、そんなものは数字の話で、地区予選でゴールドパラディン使いの少年から受けた5点目の方がよっぽど重かったが。

 残る2体のアタックは、トリガーを引けたのもあり、最低限の手札でガードする。

「私のターン、スタンド&ドロー」

「《ナスティ・スモッグ》と《強毒怪人 ヘルデマイズ》の効果で、左右後列のリアガードはスタンドできないぜ」

(知ってます)

 自分が毎日何回メガコロと戦っているか知っているのかと、心の中で毒づく。

「《波動する根絶者 グレイドール》にライドします。フォースは左前列へ。プロテクトサークルの《ナスティ・スモッグ》を裏でバインド(バニッシュデリート)。ヴァンガードをデリート」

 ブーストができなくとも、ギフトでパワーラインを確保する。

「ヰギーと、ギヴンをコール。ドロヲンでブーストしたグレイドールでアタックします」

 少年は再び守護者でそれを防ぐ。

「ツインドライブ。

 1枚目、(ヒール)トリガー。ダメージ回復し、効果は右前列のギヴンに。2枚目はトリガー無しです。

 ヰギーでヴァンガードにアタック」

「《シェルタービートル》と《ファントム・ブラック》でガード!」

「ギヴンでヴァンガードにアタック」

「ノーガード。5ダメージ。トリガーは無い」

 その瞬間、ギヴンの効果が発動する。莫大な代償を支払うことでグレイドールを覚醒(スタンド)させる、禁断の契約。

「コストはギヴンを除いたリアガード4体と、手札を2枚。スタンドしたグレイドールでアタックします」

「完全ガード! ギヴンを使ったのは早計だったな」

 既に3枚目の守護者を見せつけながら、少年が嗤う。

「計算のうちです。あなたの攻撃なんて、もう怖くありませんから」

 ミオは一切動じず、ターンエンドを宣言する。

「ちっ。俺のターン、ドロー…………!?」

 カードを引いた少年が、何かに気付いた様子で硬直する。

「どうしました? あなたのヴァンガードはデリートされたままですよ。早くG3にライドしないと」

 少年の歯噛みする音がこちらまで聞こえてくるのを感じながら、ミオはなおも言葉を続ける。

「できませんよね。調子に乗ってトリガーばかり引きすぎましたね。言ったでしょう? あなたの攻撃など怖くないと」

「……ライドスキップ。ユニットをコールし、ホーネットでブースト。ヴァンガードでアタック!」

「はい、治トリガーで20000ガードです」

「トリガーチェック! 1枚目、★トリガー! 効果は全てリアガードのスコルピオに! 2枚目、★トリガー! 効果はリアガードのヘルデマイズに! ホーネットのブーストを受けたスコルピオでアタック!」

「これも治トリガーでガードします」

「《ファントム・ブラック》のブースト! スキル発動! 手札を1枚捨てて、パワー+6000! お前はG1以上をコールできない! パワー36000のヘルデマイズでアタック!!」

「完全ガードです」

「……!!」

 愕然とする少年。力無く手を差し出したのをターンエンド宣言とみなして、ミオがカードを引く。

「《絆の根絶者 グレイヲン》にライド。フォースはヴァンガードに。グレイヲンのスキルでヴァンガードをデリート。3枚の手札を全てコール。ガタリヲでブーストしたギヲでアタックします」

「★トリガー2枚でガード……」

「ヴァンガードのグレイヲンでアタックです」

「完全ガード……!」

「ドライブチェック。2枚ともトリガーはありません。ガノヱクでブーストしたギヴンでアタック」

「完全ガ……」

「完全ガードですか? おかしいですね。守護者はもう4枚見えていますよ」

 固まった少年は自覚した。全ては彼女の掌の上。自分は怒らせてはいけない相手を怒らせたのだと。

「その様子だと、完全ガードも好きに手札に加えることができるのでしょうね。ですが、あなたがどれだけ器用にカードを操ろうと、守護者は4枚までのルールは覆せない。あなたが5枚目の守護者を出した時点で、あなたの負けです」

 それでも、少年は悪あがきするように、デッキへと手を伸ばす。

「……ノーガード……ダメージチェック……ヒールトリガー……!!」

「おや、ヒールも仕込んでいましたか? それとも、あなたのデッキが情けをかけてくれましたか。いずれにせよ、これで終わりです」

 ギヴンが手札、リアガード、自身すらも(ゼロ)にして、再びグレイヲンが蘇る。

「あなたの存在は真剣にヴァンガードをしている人達に対する侮辱です。あなたのような人を私は許さない。私はあなたを根絶します。グレイヲンでアタック」

「《シェルタービートル》でガード……」

「トリガー1枚で貫通ですね。では……ドライブチェック」

 少年が息を呑んだ。ミオは確信していた。

「★トリガー。効果は全てグレイヲンに」

 グレイヲンが拳を固く握りしめ、少年目掛けて鉄槌を振り下ろす。

 惑星そのものをも砕かんとする一撃が、汚れた魂を粉々に消し飛ばした。

「ダメージ……チェック……俺の負け、です……」

「あなたにヴァンガードファイターを名乗る資格はありません。理解できたなら、この場から消え去りなさい」

 頭一つ分くらいは違う小柄な少女に圧倒され、少年は何も言い返せず自分のデッキをひっつかむと店を出ていく。幾人かのギャラリーも、彼を追うようにして出ていった。

「ふう」

「ミオちゃーん!!」

 一息ついたところで。アリサが飛び込むようにして抱きついてきた。

「もう、心配したんだよ! 心配しすぎて、ファイトにも集中できなくて負けちゃったんだから!」

「それは責任転嫁な気もしますが、ご迷惑をおかけしました。けれど、心外ですね。私があのような輩に負けるとでも」

「思ってなかったけど、だからこそ心配になるじゃない! 万が一負けちゃったら、ミオちゃん立ち直れなくなるんじゃないかって」

「まあ、万が一にでも負けていたなら、食べては胃の中のものを吐き出す生活が1か月は続いたでしょうけど」

「うわ、本当に勝ってよかった。さあ、次はユキとだよ。頑張ってね」

「結局ユキさんとですか。あまり遠出した意味はありませんでしたね」

「ミオちゃんもユキも強いから、どうしても勝ち残っちゃうよねー。ま、今度は楽しんできてね!」

「はい」

 気を引き締め直して、ミオはユキの待つ対戦卓へと向かうのであった。

 

 

「30点ね」

 ファーストヴァンガードを置き、手札を引いたところで、ユキが藪から棒に点数を言い放った。

「む? 私はテストの点数で90点以下を取ったことはありませんが。ああ、ユキさんの英語の点数はそのくらいでしたね。それが何か?」

「今日のあなたの成績です。はじめて30点を取った感想は?」

「……私としては上手くやったつもりだったのですが」

「不正を犯した対戦相手に憤るのは分かります。けれど、傍から見ているとあなたが対戦相手を煽っているようにしか見えませんでした。それも重度のマナー違反です。違反に違反で報復してどうするの」

「む……」

 完全にぐうの音もでなかった。先の少年と同じ敗北感を、今まさに味わっている。

「正々堂々というのは、なにも試合の内容ばかりを指すものではありません。あなたの態度も正しくなければね」

「ごめんなさい……」

 ミオが深く深く頭を垂れた。落ち込んでいるのもあって額がテーブルにめりこみそうな勢いだ。

「その謝罪をすべき相手は別にいますが、この場にいないのでよしとしましょう。さて、説教はこれでおしまい。面白くないファイトは忘れて、ここからは楽しみましょう」

「……はい」

 ミオの表情に少しずつ生気が戻っていく。それを見て、厳しい顔をしていたユキもようやく微笑んだ。

「はじめましょう……スタンドアップ!」

「ヴァンガードっ」




栗山飛鳥です。

今回は『根絶少女・プロトタイプ』と言うべきお話です。
というのも、『根絶少女』の初期案は「根絶者にディフライドされた少女が、不正を行うファイターをデリート・エンドしていくダークヒーローモノ」という感じでした。
これだと対戦者のほとんどが悪人ばかりになってしまい、長く続けられそうになかったので、さらなる紆余曲折を経て、今の形に落ち着いたのですが。
その初期案を再構築して、今の『根絶少女』に落とし込んだのが、今回のお話というわけです。

今月は、10日に発売する『幻馬再臨』の『えくすとら』がありますが、発売から一週間空く17日前後に公開する予定です。
『えくすとら』初のむらくも回ですので、自分でもどれほどテンションが上がってしまうのか予想できませんが。

ともあれ、新たなヒャッキヴォーグを使えるのが、今から楽しみでたまりません!


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9月「つらい事は忘れるべきだ。そうだろう?」

 ミオは自分の両親に感謝している。

 ヴァンガードを通して感情と呼べるものが芽生えつつあると感じている今、はっきり両親が好きだと自覚できるようになった事は、特に嬉しいことだと思う。

 人よりも多く食べる、具体的に言うと両親が食べる分を足して2でかけただけのご飯を食べるミオに、毎日嫌な顔ひとつせず、満腹になるまで食べさせてくれる立派な両親だ。

 だからせめて、自分が食べる分を自分で買いに行くのは当たり前だと思っている。

 そんな彼女にとっておつかいは、よくある休日の過ごし方だった。

 無地の白いワンピースに、羽織った淡い色のカーディガンを心地良い秋風にそよがせながら。地面につきそうなほど大きなビニール袋を両手に持って、少女は平然と帰路を歩む。

 普段は近所のスーパーで買い物を済ますのだが、今日は隣町にあるデパートで米が特売だったので、遠出をしてしまった。

(む?)

 その途上、ミオはこじんまりとした店の前で不意に足を止めた。

(こんなところにカードショップが……)

『ラヴァーズ』と書かれた看板は色褪せており、カードショップとしてはかなりの老舗のようだ。この道を通るのは初めてではないが、ヴァンガードを始める前は気にも留まらなかったのだろう。

(掘り出し物の予感がします。良い店ならユキさんとアリサさんにも教えてあげなくては)

 光に誘われる蛾のように、フラフラと入り口に引き寄せられていくミオが扉の前に辿りついた瞬間、ドアが開き、手すりがミオの顔面に襲いかかった。

()た」

「あ、ごめん! 大丈夫だったかい?」

 後ずさるミオに、ドアを開けた犯人である高校生くらいの少年が慌てて駆け寄ってきた。

「いえ、私の不注意でした」

 感情が芽生えても人付き合いは得意でないミオは、適当に返事をして少年の脇をすりぬけようとする。だが、あろうことか少年は「待って!」とミオを呼び止めてきた。

「なんですか? ケガはありませんから……」

 なおも店の中に逃げ込もうとするミオを、少年の一声が完全に停止させた。

「キミ、ヴァンガード甲子園に出場していたよね!」

 足を止めたミオがゆっくりと振り返る。

「覚えてないかな。キミと対戦したのは俺だったと思うのだけれど」

 改めて見てみれば、忘れたくても忘れられない顔だった。

 美男子と形容するに相応しい整った顔立ちに、爽やかな笑顔と輝く金髪がよく似合う。大抵の少女なら虜にしてしまえそうな少年だが、ミオにとっての印象は最悪。

 それはヴァンガード甲子園の地区予選。第一回戦におけるミオの対戦相手。ユキの願いを叶えたいというミオの想いを粉々に打ち砕いた張本人がそこにいた。

「ああ。私の掌の上で踊らされた挙句、6点ヒールに命を救われたゴルパラ使いの方でしたか」

「間違ってないけど、ひどいね、キミ」

 少年の頬を一筋の汗が流れた。

「冗談ですよ。事実ですが。まあそれもヴァンガードです。根に持ったりはしていません」

「メチャ根に持ってるよね!?」

「正直なところ、あの対戦は苦い記憶なんです。多少の毒は多めに見てください。それでも無礼が過ぎるとあなたが判断したなら、私を殴って頂いても結構ですので」

「……いや、あの時の俺は確かに精彩を欠いていた。あれに負けて憤る気持ちは理解できなくもない」

 殊勝なことを言い出した少年に、ミオも言い過ぎたかと考えを改める。

 だが、ミオが謝罪を口にするよりも早く、少年が言葉を続けた。

「本番で力を出し切れなかったのも実力のうちだと理解はしている。それでも、あの日の俺が、俺の全力だと思われたままでいるのは我慢ならない。キミに時間があるなら、ここで一戦お願いできないか?」

 少年は手にしたデッキを挑戦状のようにしてミオに突きつける。

「リベンジマッチというわけですか。お互いに」

 ミオは買い物袋を落とすように地面に置いて、自由になった拳を、ぽきぽきと可愛らしい音をたてて鳴らす。

「いいでしょう。アイスが溶ける前に決着をつけてあげます」

「いや、それは先に帰れよ!」

 

 

 さっさとおつかいを片付け『ラヴァーズ』に舞い戻ったミオは、店の埃っぽいファイトスペースで少年と向かい合った。

「それじゃ、はじめようか……ええと、ミオちゃん、だっけ。ごめんね、下の名前でしか覚えていなくて」

「音無ミオ。ミオでいいです。両親からもらった大切な名前ですから、嫌いな人以外には名前で呼ばれても嫌な気はしません」

「キミの嫌いな人リストに載っていなくてよかったよ。俺は2年の小金井(こがねい)フウヤ。俺のこともフウヤでいい」

「恋人でもない人を名前で呼ぶのはちょっと」

「あ、そう……」

「冗談です。そういうこと興味無いですし」

「ったく、タチ悪い冗談は白河さんにそっくりだよ」

「ユキさんとお知り合いなのですか?」

「この界隈では何かと有名人だからね。PRカードにむらくもがある時だけ大会に現れては、圧倒的な強さで優勝してふらっと去っていく着物姿の女性がいるってね。

 向こうは覚えていないかも知れないけど、何回か対戦したこともある」

「なるほど。本人曰く、目立つのが嫌だから、あまり大会には出ないらしいのですが。思いきり悪目立ちしてますね」

 雑談を交わしながらも、ファイトの準備を進める手は止まらず。

 互いにデッキを交換し、カットを終えると、手慣れた調子でテーブルにカードを並べていく。

「始めようか」

「ええ。よろしくお願いします」

「スタンドアップ」「スタンドアップ!」

「ヴァンガード」「ヴァンガード!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《紅の小獅子 キルフ》!」

 かつて、聖域の表と裏を守護する2つの騎士団が同時に崩壊した、解放戦争という大戦があった。

 聖域最大の危機を救ったのは、生まれも育ちも違う、されど力無き者を守護する志だけは同じくする有志達だったと言う。

 募兵を母体とするその騎士団は、由緒ある聖騎士団や、存在すら定かでは無い影騎士団とは違い、門戸は常に開かれている。

 地位も身分も越えた彼らが再び結束する時、ひとりひとりが英雄となって、迅速に敵対者を討ち果たすのだ。

 王道ではない。邪道でもない。命の光を黄金色に輝かせ、ただ己の信ずる道を往く。

 人々は彼ら聖域の第二正規軍を、黄金騎士団(ゴールドパラディン)と呼び称える。

「ライド。《速攻する根絶者 ガタリヲ》」

「ライド! 《美技の騎士 ガレス》! そして、ガレスでアタック……ゲット、(クリティカル)トリガー!」

「ダメージチェック。1枚目……トリガー無し。2枚目……(ドロー)トリガー。1枚引いて、私のターン。ドロー」

 ギヲにライドしたミオのアタックでも★トリガーがめくれて、お互いにダメージは2点。

「序盤はお互いに互角と言ったところでしょうか」

「ああ、そうだね」

 ここまでの展開を評するミオに、フウヤも同意した。そして、心の中だけで続ける。

(俺のゴールドパラディンにとって、ここからはもう終盤だけどね)

 フウヤは自分の手札を見てフッと微笑むと、カードを引いた。

「ライド! 《神技の騎士 ボーマン》! さらに《美技の騎士 ガレス》をコール! 手札にあるブロンドエイゼルのスキル発動! 《灼熱の獅子 ブロンドエイゼル》にスペリオルライド! ギフトはアクセルⅡを選択し、ドロー!」

 速攻ライドから、アクセルサークルを含めた4か所からの攻撃を受け、(ヒール)トリガーでダメージは3点に抑えたものの、ミオのダメージゾーンにあるカードは既に5枚。

「知識として知っていても、実際に受けると驚くだろう? これがゴールドパラディンの(はや)さだ」

「……ライド。『絆の根絶者 グレイオン』 フォースⅠはヴァンガードに」

 草原を疾駆するような、勢いあるフウヤのプレイングとは対照的に、ガラスの床を歩くよりも慎重に、ミオはゆっくり時間をかけてカードを選択していく。

「コールするカードは、アルバ、エルロ……以上です。グレイヲンのCB(カウンターブラスト)でブロンドエイゼルをデリート」

 グレイヲンが腕を薙ぐように振るうと、黄金の獅子の姿は一瞬でかき消えた。

「グレイヲンでアタックします」

「ノーガードだ」

「ツインドライブ。

 1枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはアルバに。2枚目、これも引トリガーです」

 思いがけぬ2枚の引トリガーに、ミオがほっと微かな息を吐いた。

「安堵したね?」

 フウヤはそれを見逃さなかった。

「気を抜いた時点でキミの負けだ。教えてあげるよ。俺のゴールドパラディンに、そんなもの何の役にも立たないということをね」

「……まだ私のターンは終わっていません。グレイヲンのアタックがヒットしたので、ボーマンを裏でバインド(バニッシュデリート)。続けて、アルバでアタック」

 リアガードの攻撃も全て通り、ダメージが5-5で並んだ。

「俺のターン。スタンド&ドロー! まずはブロンドエイゼルにライドしてデリートを解除。続けてコール! ヴィヴィアン! そのスキルでボーマン! さらに手札からハウガン!」

 黄金色の鎧を纏った騎士達が戦場に集い、エイゼルを中心に、大きさも形も違うそれぞれの武器を重ね合わせていく。

 行くぞ、総攻撃だ!」

 黄金の獅子となったフウヤの号令一下、騎士は自分達より遥かに巨大なグレイヲンに突撃を仕掛けた!

 1回、2回、3回、4回。1撃1撃は軽いものの、それは確実にグレイヲンの巨体とミオの手札を削っていく。

「ハウガンのブースト! ブロンドエイゼルでアタック!」

 まさしく獅子の如き咆哮をあげて、エイゼルも迫る。その雄々しき姿に応えて、さらなる騎士も集う。

「ブロンドエイゼルのスキル! 手札からガレスをコール! ガレスはCBでパワー+10000!」

「完全ガード……捨てるカードも完全ガードです」

「……なるほど。ツインドライブ! ……トリガーは無し。だが、アタック終了時、手札にある《ロップイヤー・シューター》』のスキル! こいつをアクセルサークルにスペリオルコール!」

 さらに! もう1枚の『ロップイヤー・シューター』も同じくスペリオルコールだ!」

「まだ3回も攻撃が残されているということですか」

「その通りだよ。さあ、この攻撃が受けきれるかな? ガレスでアタック!」

「ガヰアンでガード」

「1体目の『ロップイヤー・シューター』でアタック!」

「ガタリヲでガード」

 この時点でミオの手札が尽きた。

「2体目の『ロップイヤー・シューター』でアタック!」

「アルバとエルロでインターセプト」

 耐え切った。

 激しい運動をしているわけでもないのに、気が付けば肩が上下するほどミオの息は荒くなっていた。

「よく耐えたね。完全ガードで完全ガードを切った判断も間違っていない。だが、手札もリアガードも0枚。その状況でどう戦う?」

「…………」

 ミオはまず息が整うのを待った。そして、フウヤの目を真っすぐに見据えて告げる。

「ここまでは計算通りです」

「そうだろうね」

 フウヤはそれを微動だにせず受け止めた。

「前にファイトした時、キミはフォースⅠをリアガードに置いていた。それが本来のキミのスタイルなんだろう。けど、今はフォースをヴァンガードサークルに置いている。この状況を想定していたということだ。ヴァンガード一人で戦う状況をね。あとはキミがあのカードを引けるかだ」

「引けますよ。あのカードはユキさんとの絆です。私が望めば、必ず来てくれます」

「俺はそういうのを信じてなくてね。

 けど、ここで引いてくれないと困るな。俺もあれに勝たなければ、キミに勝ったとは言えない」

「ええ。では、スタンド&ドロー……」

 ミオの細い指が、デッキの上から静かにカードをめくる。

「ほら、ね」

 引いた札を口元に当てて、彼女は顔をほころばせた。

 それは、この子が笑ったところを見るのは初めてだなとフウヤが場違いなことを考えてしまうほど可憐で魅力的な微笑みだった。

「ライド。《波動する根絶者 グレイドール》 イマジナリーギフト・フォースはヴァンガードに……」

 一瞬の微笑みも束の間、ミオの魂が分厚い鋼の装甲に覆われていく。

「ロップイヤーを裏でバインド(バニッシュデリート)。そして、ブロンドエイゼルをデリート。グレイドールでアタックします」

 鋼鉄の根絶者が、霊体となったフウヤに手をかざす。先導者の命だけは守らんと、黄金の騎士達も身を呈してその前に立ちはだかる。

「手札全てと、インターセプトできるユニット全員でガード! パワー合計値は35000! トリガーを引くことができればキミの勝ちだ!」

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目…………」

 これまで正確にカードをめくっていたミオの手が、デッキに触れるか触れないかのところで突然止まった。その指先はトリガーを引くことを拒むかのように、小さく震えている。

 自分の体に生じた変化に、ミオは軽く目を見開いて驚きつつも、歯を食いしばり、肩が抜けるほど力をこめて、刹那の距離を零へと届かせる。

 カードがめくられた。

「トリガー無しです」

 抑揚の抜け落ちた声でミオが告げた。

(ああ、これが……)

 ミオは心の中で認める。

(これが恐怖という感情だったのですね)

「もう、いいかい?」

 ずいぶんと長い間、呆けてしまっていたらしい。いつかと同じように辛抱強く待ってくれていたフウヤが、優しい口調で尋ねた。

 ミオはこくんと小さく頷く。

「ええ。失礼しました。ターンエンドです」

「俺のターン、スタンド&ドロー! ……俺も切り札を引けたようだ。

 ライド! 『レーブンヘアード・エイゼル』!!」

 エイゼルが誇る黄金のたてがみが、鳥羽(からすば)の黒髪へと色彩を変えてゆく。

「レーブンヘアードのスキル発動! パワー+15000! ★+1!

 これで終わりだ……レーブンヘアードでアタック!!」

 黒きエイゼルが銀の刃を一閃する。

 ただそれだけで、鋼鉄の巨体は真っ二つに分かたれ、地上へと沈むように落ちていく。

 鋼の塊となった骸を一瞥もせず、心すら闇に堕とした漆黒の獅子は、果てしない荒野だけを見据えていた。

「ダメージチェック…………負けました」

 ミオが6枚目のカードをダメージゾーンに置いた。

「よかった。これでキミに勝つことができた。ありがとう」

「ええ、私もあなたに負けることができました。ありがとうございました」

 

 

 2人が店を出る頃には、丸い月がくっきり浮かぶのが見えるほど、黒く夜の帳が落ちていた。

「今日はありがとうございました。やはり私は全国レベルに達していない事を自覚することができました」

 あれからミオはフウヤと4戦したが、その全てで勝つことはできなかった。

 それも、惜しかったのは最初の1戦だけで、そのファイト以外は完敗だったと言っていい散々な結果だ。

「キミなら努力を怠らなければすぐに追いつけるよ」

 フウヤが、慰めにしか聞こえないが、紛れもない本心を口にした。

「そうですか。けど、負けるのはやっぱり悔しいですね。あと何回こんな思いをしたら届くのでしょうか」

 ミオが黒く染まる天を仰いだ。月の淡い光がそうさせるのか、普段は超然としている彼女が、この時には涙をこらえる年相応の少女にしか見えなかった。

 今にも脆く崩れそうで、儚げな横顔を、フウヤは素直に美しいと思った。

「……キミがウチの部に、いや、何でもない。

 そうだ、キミの連絡先を教えてくれないかな」

「え、この状況でナンパですか?」

 月を背にするようにして振り向いたミオが、ふてぶてしい無表情に戻って言う。

「どうしてそうなるんだ!

 まあ、調子は元に戻ったみたいだね」

「おかげさまで」

「連絡先を知りたいのは、純粋にキミを認めたからだよ。キミとの対戦は糧になる。また、ファイトして欲しい」

 フウヤが朗らかに微笑み、握手を求めるように携帯電話を差し出す。

「……条件というわけでも無いですが、お願いがひとつ」

「何かな?」

「――――」

 風が吹き、もともと小さなミオの声が、かき消されるようにしてさらに小さくなった。

 それは月影が照らす闇の中で交わされた、2人にしか知りえない秘密の約束となった。

「わかった……俺にできることはするよ」

「ありがとうございます。では……」

 こうして2人は連絡先を交換し、その日は別れたのであった。

 

 

 ミオは弱々しい足取りで帰路についていた。履き慣れたスニーカーがいやに重い。

(私は怖い。負けることが。あの日のように、負けることが……)

 ファイトの旗色が悪くなると、ヴァンガード甲子園で負けた時の記憶がフラッシュバックするようになってしまった。そうなるとプレイングが雑になり、ミスまでしてしまう。本来のミオならば、ありえなかった話だ。

 ミオは感情が欲しいと願ってきた。

 ヴァンガードと出会い、少しずつそれは芽生えてきた。

 だがそれは彼女の強みとなっていた、冷静さという武器を奪い去っていこうとしている。

(私は弱くなってしまったのでしょうか)

 月に向けて吐く息は、いつの間にか白く濁っていた。




ゴールドパラディン使いのイケメン、小金井フウヤの正式な登場と相成りました。
これからも末長く活躍してもらう予定のキャラクターになりますので、何とぞ応援をよろしくお願いいたします。

次回は14日前後に「The Raging Tactics」の「えくすとら」を公開予定です。
つ い に ! メガコロ回です!
作者とアリサの暴走にお付き合い頂ければ幸いです。
もちろん、スパイクとたちかぜも手は抜きません!

できれば、ヴァンガードエクス発売直前の「えくすとら」も14日前後にやりたいのですが、さすがに大変なのでエクス発売直後となる21日前後に回すかも知れません。
実際にどうなるかは「The Raging Tactics」のあとがきにて報告します。

今月は何かと忙しく、感想への返信が14日前後。
次の更新と併せてとなってしまいますが、ご了承くださいませ。

では、次回!
「The Raging Tactics」のえくすとらでお会いしましょう!


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10月「すべてを撥ね退け、やがて自らをも拒絶する」

 昔からそうだったのか、今しがたそうなったのか。

 大地は黒く染まり、剥き出しになった土肌からは焦げ臭い灰色の煙が立ち昇っている。雷光が轟音を伴って落ち、もう奪うものの無くなった地面をさらに深く抉った。

 この世の果てとしか思えぬ漆黒の荒野を、白亜の昆虫怪人が駆ける。無秩序なようでいて、正確無比に降り注ぐ稲妻の嵐を、紙一重で避けながら。

 嵐の中心には皇帝と異名される深紅の雷竜。その名に恥じぬ威風堂々とした体躯の持ち主であるその竜は《ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン》と呼ばれる、帝国(ドラゴンエンパイア)が誇る英傑の一人だった。

 それに迫る白き怪人は未だ無名。気が付けば犯罪結社メガコロニーに居付いていたという。

 組織が生み出した最新鋭の改造超人であるという噂もあれば、改造が過ぎて重大な欠陥を抱えた失敗作であるとも噂されている。

 平時では黙して語らぬ彼からどうにか名前だけは聞きだした戦闘員Aによると、《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》と名乗ったという。

 そのガンニングコレオが地を蹴り、宙を舞い、人型の彼に比して、10倍以上の巨体を誇るヴァーミリオンの眼前へと躍り出る。無防備になったコレオを目掛けて、雷が束になって落ちるが、コレオは背中の羽を広げ、空中を滑るようにして回避。両手に携えた拳銃を、雷竜の側頭部に突きつける。

 斉射。

 1発1発がヒラ戦闘員の年収はするという特別性の弾丸が、惜しげもなく吐き出されていく。絶え間無く続く火薬の炸裂音は、皮肉にも鳴り止まぬ雷に似ていた。

 だが、それほどの弾幕ですら、ヴァーミリオンを仕留めるには至らない。弾丸は全て鎧の如き深紅の甲殻に阻まれ、数発は食い込んだものの、肉体に着弾したものは無かった。

 コレオは引鉄を引く指を休めず、ヴァーミリオンの周囲を羽虫のように飛び回った。直撃すれば消し炭すら残らないであろう雷光が幾度となく体を掠めるのも構わず、雷竜の全身に弾痕を刻んでいく。

 やがて、カチッと乾いた音をたてて両手の銃が弾切れを知らせた。さらに間の悪いことに、降り注ぐ稲妻の熱量に耐え切れず、薄羽に火が点いた。きりもみ状態で落ちていくコレオは、地面に激突する寸前で体勢を立て直し、片膝をついて地面に着地する。

 その一瞬の隙を逃すヴァーミリオンでは無かった。

 ほんの僅かな時間とは言え、自分を翻弄した無名の怪人に対する敬意を払い、最大熱量の雷撃を振るわんと、手にした刃に稲妻を落とす。

 ミシッ

 と致命的な音が響き、自らに力を与えるはずの雷が、ヴァーミリオンの体を引き裂いた。それは雷竜が初めて味わう、自らの肉体が雷に焼かれる感覚であった。

「古き英雄よ」

 ゆっくりと立ち上がりながらコレオが告げる。

「お前達の時代は終わった。せめて、自らの奥義で土へと還るがいい」

 それだけ言い捨てると、全身を崩壊させていく雷竜を一瞥もせずに、何処かへと去っていく。

 ヴァーミリオンの全身に撃ち込まれた無数の弾丸。それは楔となって、甲殻に無数の亀裂を走らせ、まるで毒で蝕むかのように弱らせていた。もはや己の放つ雷にすら耐えられないほどに。

 静かに朽ち果てながら、皇帝と呼ばれた雷竜は、怪人の背を見据えてフッと笑った。

 英雄が遺す最期の言葉が、灰を含んだ黒い風に吹かれて、誰にも届かずに消えていく。

「見事だ――」

 

 

「――見事だ」

 響星(きょうせい)学園OB、近藤(こんどう)ライガがデッキから50枚目のカードを引いてチェックゾーンに置いた。

 デッキアウト。

 ライガのアタックは途中だが、ヴァンガードのルールにおいて、山札が無くなったプレイヤーはその瞬間に敗北となる。

「勝負あり! カードショップ『エンペラー』、本日のショップ大会。優勝は天道(てんどう)アリサちゃんです! おめでとう!」

 響星学園から最も近い場所にあるカードショップ、『エンペラー』の店長が小太りな体を揺らして高らかに宣言した。

「よっしゃー!」

 片目を髪で隠した少女。響星学園2年、天道アリサが両拳を天井に掲げ、全身で喜びを露わにした。

「絶好調ね、アリサ」

 着物姿の少女。響星学園3年、白河(しらかわ)ミユキ(通称ユキ)が穏やかな笑みを浮かべ、後輩であり、良き友人でもあるアリサを称えた。

「それに引き換え……」

 笑みを少し困った調子に切り替え、ユキがショップの隅で佇んでいる少女に視線を向けた。

 白髪で小柄な少女。響星学園1年、音無(おとなし)ミオがホワイトボードに貼り出された成績表を無感情に眺めていた。

 成績表には、ミオの名前の隣に「2勝3敗」と記されていた。スイスドロー形式の大会において、決して良い成績とは言えない。ヴァンガードを初めて半年ながら、アリサより良い成績を収めることの方が多い彼女ともなればなおさらだ。

「……出ましょうか」

 ユキの提案に、アリサは「りょーかい」と立ち上がり、ミオも無言で動き出す。

「それではライガさん。お先に失礼します」

「センパイ、まったねー」

「失礼します」

 三者三様の挨拶をOBに告げ、「おう、またな!」という威勢のいい返事を聞きながら、3人はカードショップ『エンペラー』を後にした。

「絶不調ね」

 店を出るなり、店舗に併設された自販機の傍で、ユキはミオに告げた。

「はい……」

 頷いたのか俯いたのか、ミオは首をひとつ縦に振る。

 アリサは自販機でジュースを買い、さりげなくミオに手渡した。

 ミオが大会で振るわなかったのは、今日に限った話では無い。

 9月の下旬に何かあったのか、そこから現在、10月の中旬に至るまで、ミオは大会で勝ち越すことは無くなった。

 そればかりか……

「今日の大会、ずっと見ていたけれど。2回戦で間違いがあったわね」

「えっ、ミオちゃんがプレイングミス!?」

 アリサが聞き間違えたのではないかとばかりに、目を見開いて驚いた。

 ミオと言えば、スーパーコンピューターがカードをしていると形容されるほど、正確なプレイングが最大の持ち味だ。少なくともアリサは、ミオのミスなど見た覚えが無かった。

「はい」

 ミオは再び首を縦に振ってから、アリサに「いただきます」と、ユキに「失礼します」と一言ずつ告げて、ジュースで喉を潤すと、訥々と説明を始めた。

「6ターン目のグレイヲンのアタック時、1枚目のドライブチェックで引いたトリガーはヴァンガードに振るべきでした。相手の手札にプロテクトがあるのは分かっていたことですし。結果的にはダブルトリガーで、ヴァンガードに全て振っていればアタックが通っていました」

「そうね。気付いていたのなら、それについては、もう私から言うことは無いわ。

 けど、誤解しないで欲しいのだけれど、別に叱っているわけではないの。たかが失敗ひとつで叱っていたら、私はアリサをこの手で葬らなくてはならなくなるわ」

「ミス何回で死刑になるの!?」

 アリサが慌てて尋ねるが、それはさらりと無視して、ユキは話を続ける。

「けど、後輩の様子がおかしいのを黙って見てはいられないわ。

 ミオ。あなたは部に入った当初こそぎこちなかったけど、ファイトを続けていくうちに少しずつ感情を表に出すようになってくれたわね。

 あなたの抱えている重たい何かを、ヴァンガードが解き放ってくれたようで、嬉しかった。

 それなのに今、あなたはその感情を封印しようとしてファイトをしているように思えるの。感情的になろうとしているあなたと、機械的に戻ろうとしているあなたが対立して、結果的に精彩を欠いてしまっている。違うかしら?」

「……その通り、だと思います」

「教えて、ミオ。あなたは何に悩んでいるの?」

 全てを見透かしているかのようなユキの瞳に晒されて、ミオは全て吐き出してしまおうと決意した。

 一気にジュースを飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨て、ミオは口を開いた

「――――」

 口を開いたところで、ポケットから得体の知れない振動が発せられ、気勢を削がれた。

 何事かと、思わずミオはスカートのポケットに腕を突っ込み、振動の原因を摘まみ上げる。何のことは無い、ミオの携帯電話に着信があっただけだった。

 と、そこまで理解したところでミオは、今はユキが親身になって話を聞いてくれている最中であることに気が付いた。

「あ……失礼しました」

 非礼を詫びたが、ユキもアリサも目を見開いたまま固まっていた。

「ミオちゃんに……あたし達以外の人から着信だと……!?」

「あら、今晩はお赤飯ね」

 何やらアリサ達の方が失礼なことで驚いているようだったので、ミオは2人の前でこれ見よがしに、電話に出てやることにした。

「もしもし。ああ、フウヤさんですか。ええ。大丈夫です。取り込んでなんかいません」

「男の名前!?」

「あら、今晩はお赤飯ね」

 勝手に盛り上がる2人を後目に、電話越しの会話は進む。

「ええ。ありがとうございます。え、今からですか? わかりました。確認してみます」

 ミオが耳から携帯電話を離すと、好奇に輝く2つの視線と目が合った。

「ど、どういう事!? ミヲちゃんに彼氏が!? あ、ああ! 妄想でしょ!? 根絶高校のギヲ君、かっこいいもんねえ」

「ただの友人ですよ。それに、ギヲほどかっこよくはありません」

 フウヤを勝手にギヲより下に置いてアリサの詮索を流しつつ、ミオはユキに向き直る。

「ユキさん、これから暇ですか?」

「これから? もう遅いし、あまり長居はできないけれど……」

早乙女(さおとめ)マリアさんが、あなたとファイトしたいそうです」

 その名を聞いた瞬間、人生の9割くらいは笑みを浮かべているユキの表情が、晴れ間に陰が差すようにサッと引き締まった。

 

 

 響星の最寄り駅から電車に揺られて5駅のところに(セント)ローゼ学園はある。電車にはさほど待たずに乗れたものの、それでも時計の針は6時を回っていた。

 駅の出口では、ミオ達響星学園カードファイト部の3人を、爽やかな笑顔が印象的な、白い制服を着た金髪の男子生徒――小金井(こがねい)フウヤが出迎えた。

「お疲れ、ミオちゃん。白河さんも、お久しぶりです」

「あら、ミオの彼氏って小金井さんだったの」

 ユキの呟きに、フウヤがつんのめり、ミオは物凄く嫌そうに眉をひそめた。

「白河さんに何を言ったんだ、君は!」

「私はただの友人と伝えました」

 憮然としたミオの主張に、フウヤは(ああ、白河さんはこういう人だったな)と納得した。

「学園まで案内します。どうぞこちらへ」

 頭を抱えながら、フウヤはミオ達3人を先道した。駅を出てすぐのところに、純白の校舎が夕闇に浮かぶようにして屹立している。

 立派な校門をくぐり校舎に入るかと思いきや、フウヤが案内したのは別棟だった。

「別棟に部室があるの? 立派ねえ」

 羨むように尋ねるアリサに、フウヤは苦笑する。

「違うよ。これから向かうのは自習室だ。マリアさんは3年生だからね。もうカードファイト部も引退しているし、受験戦争の真っ只中だ」

 それを聞いた3年生のユキが、「そう言えばそんな時期だったわねえ」と他人事のように呟いた。推薦ですでに進学が内定している彼女にとって、実際に他人事ではあるのだが。

「マリアさんの前で、そんな話はしないでくださいよ。あの人、早くも受験ノイローゼ気味なんですから」

 とフウヤが釘を刺す。

 別棟に入ると、いくつもの扉が並んであり、そのうちのいくつかは「使用中」の札がかけられてあった。

「いずれにしろ立派ねえ」

 アリサがやっぱり羨むようにボソッと漏らした。響星は名門校だが、全体的に設備は古く、こんな気の利いた施設は無い。

 興味が無くアリサ達は知らなかったが、互いに近いのもあって、伝統の響星、設備の聖ローゼと、界隈ではよく比較されているらしかった。

 廊下を少し進むと、奥まった場所に「自習室(大)」と書かれた扉が見えてきた。恐らく複数人で利用するための部屋だろう。他の扉と同じように「使用中」の札がかけられたその扉を、フウヤがノックする。

「入れ」

 聞こえてきたのは男性の声だった。

「失礼します」

 まずフウヤが扉を開き、残るミオ達3名が促されて中に入る。

 自習室でまず目に入ったのは、フウヤと同じ制服を着て、黒髪をオールバックにした男子生徒だった。入り口近くに置いたパイプ椅子に腰を下ろし本を読みふけっている。恐らくは、先ほどの声の主だろう。

「あ、あいつは!」

 アリサが思わず声をあげた。

「どうしましたか?」

 ミオが尋ねる。

「ヴァンガード甲子園で、あたしが負けたシャドウパラディン使いだよ」

「あ、そういえば見た顔な気もします」

 アリサ達の会話が聞こえていないわけではないだろうが、男は無視するかのように本に集中している。

「ムドウさん、失礼ですよ」

 フウヤが本を読む男子生徒をたしなめる。だが、男――ムドウという名前らしいが――はどこ吹く風だ。

「ムドウ! わたくしの客に、無礼は許しませんわよ!」

 部屋の奥から厳しい叱責が放たれ、ようやく男はやれやれと言いたげに本を閉じた。本の表紙が露わになる。際どい水着姿の女性が扇情的なポーズを取っている。

 グラビア写真集だった。

 切れ長の瞳から放たれる鋭い眼光が、アリサを、続いてミオを冷たく見据える。

「3年の御厨(みくりや)ムドウだ」

 それだけ言うと、再び写真集を開き、真剣な表情で読み進める。

「ちょっと待って! 何かおかしくない!? あたし、こんなやつに負けたの!?」

「すみません。ムドウさんは不愛想な人で……」

「いや、不愛想とか、態度とかの問題じゃなくて! ユキも何か言って……よ?」

 話を振られたユキは、それこそムドウの存在を無視するように、凛とした表情で部屋の奥を睨んでいた。ムドウを叱責した声が飛んできた先。そこでは、豪奢な金髪巻き毛の女性が勉強机にノートと参考書をいっぱいに広げ、休むことなくペンを動かしていた。

「マリさん……」

「マリじゃない。マリア」

 ビッとノートに線を引き、参考書で挟むようにしてそれを閉じると、少女は立ち上がってユキを見据えた。

「ミユキさんをはじめ、響星学園カードファイト部の皆様。ようこそいらっしゃいました。改めまして、聖ローゼ学園元部長の早乙女マリアですわ」

 マリアが白い制服のスカートを、ドレスのようにつまんで優雅に一礼する。そして、視線をミオに移した。

「あなたが音無ミオさんね。驚いたわ。ミユキさんとファイトして欲しいだなんて頼んでくるのだもの」

 ミオがフウヤに頼んだ言伝がそれだ。自分が負けたために実現しなかった因縁の対決。その埋め合わせは、どうしてもしたかったのだ。

「はい。ご迷惑ではなかったでしょうか?」

「そうね。見ての通り、わたくしは受験生。それも8月までヴァンガードに集中していたおかげで色々とギリギリなの。けどね……」

 その後はユキが引き継ぐ。

「せっかく後輩が作ってくれた機会ですもの。決して無駄にはしないわ。大切にファイトすることを約束します。マリさんもそう思ったからこそ、涙を呑んでダンボール箱にしまっていたデッキをまた引っ張りだしてきたのでしょう?」

「なっ、わたくしは自制ができるから、そんなことしてないわよっ!」

「私は勉強ができるから、もう勉強なんてしていませんけどね」

「ぐっ。推薦が決まったという噂は本当だったのね。あんたはいつもわたくしの先を行く……。

 勝負よ、白河ミユキッ!! これだけは……ヴァンガードだけは私の前を行かせはしないわっ!!」

「ええ、受けて立ちましょう」

 ユキが一歩前に足を踏み出した。そして振り返り、ミオに微笑みかける。

「ミオ。これから行われる私のファイト。よく見ておきなさい」

「? はい」

 言われなくても、そのつもりだったのだが。

 曖昧に返事をして、毅然とした態度で宿敵に歩を進めるユキの凛々しい背中を見送った。

 

 

 フウヤが勉強机を動かして作った即席のファイトテーブルに、ユキとマリアがカードを並べていく。

 勉学に勤しむべき自習室でファイトするのは背徳的なものを感じなくもないが、そもそもグラビア誌を読んでいる男もいるので、どうでもよくなった。

 椅子が足りなかったのでミオ達は立ち見になる。ムドウをどかせば1つ席はできるのだが、関わりたくないのか誰も指摘しなかった。

「自習室が閉まるのは7時。1回勝負よ。ライド事故なんかしないでくださいませね」

「去年のヴァンガード甲子園第3回戦で、Gアシストの末に『ギガンテック・チャージャー』にライドして涙目になっていたあなたに言われたくないわねえ」

「うるさいっ! あの日の事は忘れろっ! 私は二度とギフトを持たないG3は入れないと誓ったのだか、ら……」

 マリアの言葉が尻すぼみになっていく。

 気付いたのだ。いつの間にかユキの表情が真剣なものに変化していることに。

「……ズルいわよ。いきなり真面目になるなんて」

「決着をつけましょう。ヴァンガードは楽しんだ者が勝つのよ」

「いいえ。勝った者だけが楽しめるの」

「スタンドアップ!」

「ヴァンガード!」

「《忍獣 キャットデビル》!」

「《ばーくがる》!」

 盛大なるファンファーレの嵐!

 其の白騎士達のあるところ、常に栄光あり。

 悪あらばそれを討ち、闇あらばそれを払う。

 絶対不変の正義を成す、王道を往く者達。

 正しき者は敬意を以て、悪しき者は畏れを以て、彼らをこう呼ぶ。

 新聖騎士団(ロイヤルパラディン)と。

「ライド! 《薔薇の騎士 モルガーナ》! 《雄剣の騎士 ルーシャス》をV後列にコール! ルーシャスのブーストで、ヴァンガードのスケロックにアタック!」

 後攻のマリアが、このファイト最初のアタックを仕掛ける。

「……ノーガード」

「ドライブチェック! (ドロー)トリガー! カードを1枚引かせて頂きますわ」

「ダメージチェック……引トリガー。私も1枚引くわね」

 マリアはターンエンドを宣言し、ユキがカードを引く。

「ライド。《忍獣 ブラッディミスト》 ブラッディミストの効果でブラッディミストをスペリオルコール。さらに《静寂の忍鬼 シジママル》を2体コールして、ヴァンガードのブラッディミストでアタック! シジママルの効果で2体のブラッディミストに+3000」

「ノーガード!」

「ドライブチェック。……(クリティカル)トリガー。★はヴァンガードに。パワーはリアガードのブラッディミストに」

「ダメージチェック! 1枚目、トリガー無し。2枚目、(ヒール)トリガー! ダメージを回復させて頂きますわね」

 続くユキのアタックは、《ブラスター・ジャベリン》にガードされる。

「……どう思う?」

 不意に写真集から顔を上げ、ムドウがアリサに問うた。

「えっ? い、今のところは互角に見えるけど、むらくもとしては2ダメージが欲しかった場面だし、最小限の被害で抑えたマリアさんが優勢かも……」

「何の話をしている? 俺が問うたのは、この16ページ目の女性の胸から腰にかけてのラインが美しいと……」

「紛らわしいわっ! ていうか、そんな話を女子に振るな! あと、その腕や腰の細さで、その胸の大きさはありえないから! 絶対、(むね)に何か入れてるよ、その人!」

「…………そうか」

 夢を砕かれた男子の悲哀に満ちた表情でムドウがうな垂れる。

 限りなく無駄な時間を取られたアリサが、慌てて盤面に目を向ける。

 ダメージ3のユキがG3にライドする場面だった。

「ライド、《隠密魔竜 マンダラロード》! イマジナリーギフトはアクセルⅠを選ぶわ。

 続けて、マンダラロードの効果でシジママルとマンダラロードをスペリオルコール」

 六臂を持つ異形の魔竜が、その腕を生かして常人には不可能な、複雑怪奇な印を切り結ぶ。自身と、その背後に控えるシジママルが分身するかのように2体に増え、それはけして残像では無く、確かな実体をもって地面を踏みしめた。

「そして、ブラッディミストの効果で、ブラッディミストをスペリオルコール」

「すごいな。前列にマンダラロードが2体。ブラッディミストが2体。後列にシジママルが3体。実にむらくもらしい盤面だ。

 これで手札もほとんど消費していないから、アクセルⅠを選択する余裕もある」

 フウヤが感服したように呟き、その隣でミオが誇らしげに胸を張った。

「マンダラロードの効果。手札をソウルに置き、マンダラロード2体のパワーを+3000するわね。

 では、シジママルのブースト、ブラッディミスト2体のパワーを+3000し、パワー18000のブラッディミストでヴァンガードの《ブラスター・レイピア》にアタック」

「《ブラスター・ダガー》でガード!」

「ヴァンガードのマンダラロードでアタック! シジママルのブーストでマンダラロード2体のパワーを+3000し、合計パワーは25000よ」

「ノーガード!」

「ツインドライブ。1枚目、トリガー無し。2枚目、★トリガー。★はヴァンガードに。パワーはブラッディミストへ」

 全ての腕にクナイを手にしたマンダラロードが、細剣型のブラスター兵装を手にした女性に襲いかかる。それを2本しか無い腕で防ぎきることなどできるはずもなく、ひとつ、またひとつと鎧や肌に傷が刻まれていく。

 マリアがダメージゾーンにカードを2枚置いた。

 残るアタックも防ぎきれず、マリアはダメージ5まで追い込まれた。

「ええ。さすがはミユキさん。相も変わらず速くて強い。それでこそですわ」

 だが、マリアに焦りは見られない。優雅な手つきで、ユニットをスタンドさせ、カードを引く。

「確信しておりましたわ。あなたがわたくしに4点以上のダメージを与えてくださることを。だからこそわたくしも、安心してこのカードを初手に残せました。

 ヴァンガードにレイピア、ドロップゾーンにジャベリンとダガーで、『ブラスター』が合計3種類! G4のこのカードはG3として扱われます!

 ライド! 《アークセイバー・ドラゴン》!!」

 城が動いた。

 そう錯覚するほどの巨体。

 白銀の装甲を纏った竜が、光の柱と共に顕現した。

「イマジナリーギフト! フォースⅠを右前列のリアガードサークルに!

 アークセイバーのスキル! 山札、ドロップゾーン、そして……ダメージゾーンからブラスターユニットをスペリオルコール!!」

 白銀の竜がゆっくりと翼を広げていく。

 巨体ながら威圧感は無く、世界すら包み込むような、慈愛に満ちた雄大な翼。

 それに守られるようにして、3体の騎士が新たに集う。

「パワー14000に、ダメージ回復! アクセルクランからしてみれば天敵じゃないの!」

「誤解しないでもらいたいが、マリアさんは昔からアークセイバーを愛用している。けっして白河さんに勝つためにデッキを変えたわけじゃない」

 アリサが不満を口にするが、フウヤがすかさずフォローを入れる。

「ルーシャスのスキル! このカードをソウルインして1枚ドローし、《ぽーんがる》をスペリオルコール! 《ぽーんがる》のスキルでソウルチャージ! さらにもう一体《ぽーんがる》をコールしてソウルチャージ!

 行きますわよ、白河ミユキ!」

「どうぞ、マリさん」

「ダガーのブースト! リアガードのレイピアでアタック!」

「《夢幻の風花 シラユキ》でガード!」

 ユキが宣言した瞬間、マンダラロードの周囲に白い霧が立ち込める。

 視界を奪われたレイピアが振るった細剣は、狙いが逸れて空を斬った。

「前列ユニット3体のパワーを-10000……厄介なスキルですわね」

 マリアが呟きながら、ヴァンガードでアタックを宣言する。アークセイバーのパワーは、ブーストを得て12000。

「『忍獣 ムーンエッジ』でガード」

 深い霧の中、僅かに感じた妖の気配に向けてアークセイバーは右手を掲げる。

「ツインドライブ!!

 1枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはリアガードの《ブラスター・アロー》へ!

 2枚目、★トリガー! 効果は全てアローへ!」

 アークセイバーの掌から閃光が迸った。それは霧を裂き、大地を薙ぎ、続く騎士に正しき道を示す。

 閃光によって白き闇は払われ、マンダラロードの異形が露わになっていた。

「パワー38000のアローでアタック!」

 霧が再び魔竜を覆い隠すより早く、美しき金髪の狙撃手がキリリと弓を引き絞り、渾身の矢を放つ。

「ノーガード。ダメージチェック。2枚ともトリガーは無いわ」

 鋭い矢がマンダラロードの胸を射貫き、風穴を空けた。

 マンダラロードは肩膝をつくと、口から血を溢れさせながらニタリと笑う。

 再び霧が立ち込め、不敵に笑うその姿が視界から消えていく。

「ターンエンド」

「私のターン。スタンド&ドロー」

 マリアの宣言に応え、ユキがまるで芸事をしているような鮮やかさでカードを引き、それをヴァンガードに重ねる。

「ライド! 《夢幻の風花 シラユキ》」

 一瞬にして、立ち込めていた霧が晴れた。

 その中心にいるのは、異形の魔竜では無い。純白の着物を纏った可憐な少女だ。

 衣服の隙間から見える肌は死人のようで、降り積もった新雪の如く。

 浮かべたたおやかな笑みは、見る者を安心させ、また一部の見る者を――

 圧倒した。

 歴戦の騎士達ならば、すぐに気付いただろう。

 決して触れてはならぬ存在が、この世界にはいる。

 彼女はそのうちの一つだと。

 幾万の戦士、幾千の竜より、ただ一人、目の前の少女の方が恐ろしい。

 帝国の山間部に隠れ住むと噂される伝説の大妖がそこにいた。

「シラユキの効果発動! 前列のユニットのパワーを-10000」

 シラユキがフッと吐息を吹きかけるだけで、騎士団の周囲の気温が氷点下まで落ちた。いや、そこからも留まることなく温度は落ちていく。人間(ヒューマン)である騎士達はもとより、規格外の巨体を誇るアークセイバーですら、成す術なく凍りつく。

「アクセルサークルに『忍竜 マガイマンダラ』をコール。行くわよ、マリさん」

「来なさい、白河ミユキ!」

「アクセルサークルのマンダラロードでアタック!」

「ノーガード」

 マリアが山札をめくり、ダメージチェックを行う。トリガーは無し。

(構いませんわ……)

 マリアはトリガーなどという不安定なものには頼らない。信じられるものは、目に見える手札とリアガードのみ。そして、1撃でもノーガードでやり過ごすことができれば、耐えきる自信がマリアにはあった。

「アクセルサークルのマガイマンダラでアタック!」

「アローでインターセプト! エポナでガード!」

「シジママルのブースト、ブラッディミストでアタック!」

「レイピアでインターセプト! ふろうがるでガード!」

「すごい……」

 ここまでの激しい攻防に、フウヤが感嘆の声を漏らす。

「インターセプトを駆使して、手札1枚の消費で白河さんの攻撃を全て凌いでいる。マリアさんの手札はまだ6枚。それに――」

 言いかけて、フウヤは口をつぐんだ。

 ユキに聞かれてはアドバイスになってしまうからだ。

 もっともユキほどのファイターが、それに気付いていないとは考えにくいが。

(ミユキさんのアタックは残り2回。わたくしの手札は6枚中、完全ガードが2枚。耐えきった――)

 マリアは内心で安堵していた。それと同時に不安も膨らんでいた。

(それなのに、何故、この人は)

 手札に隠れて、ユキの表情を盗み見る。

(何故、この人は、こんな状況でも笑っていられるの)

 ユキは笑っていた。この上なく楽しそうに。アタックするたび、そしてそれが防がれることすら面白くて仕方が無いと言いたげに、満面の笑みを浮かべていた。彼女が笑っていることは珍しくないが、ここまで感情を露わにするのも珍しい。

 実は追い詰められているのは自分なのではないかと、マリアが錯覚してしまうほどに。

「何をヘラヘラしているの……」

 無意識にマリアは問うた。

「え? ああ、ごめんなさい。マリさんとファイトできることが嬉しくて、つい。

 では、シジママルのブースト、シラユキでアタックします」

「ふざけないで!」

 マリアは叫んだ。

「わたくしの手札には完全ガードが2枚ある! あなたの記憶力ならご存知でしょう!? もうあなたに、このターン中の勝ち目は無いの!」

(そうですよ、ユキさん)

 奇しくも、ユキの背中を見ていたミオも同じことを思っていた。

(あなたは負けることが怖くないのですか?)

「それともまさか、わたくしが次の手を用意していないだなんて甘い考えを抱いているのではないでしょうね!?」

 マリアが手札を再びザッと確認する。

 完全ガードが2枚。10000ガードのG1が2枚。そして、切り札の《ソウルセイバー・ドラゴン》と《爆炎の剣士 バロミデス》

(問題無い。たとえミユキさんが治トリガーを引こうが押しきれますわ!)

「《閃光の盾 イゾルデ》で完全ガード! ドロップするカードはG1の《ピュアブライト・ユニコーン》!」

 シラユキが白く細い腕を掲げると、空気中の水分が凍りつき、無数の氷柱が空を埋め尽くす。続けて腕を振り下ろすと、氷柱は意思を持ったかの如く、鋭い切っ先を前に向けて、アークセイバーへと殺到した。

 その間に華奢な女性が割り込み、その体に似合わぬ巨大な手甲を前に掲げた。一瞬で構築された結界がアークセイバーの全身を覆い、全ての氷柱を弾き返す。

「……ふぅ」

 ユキが笑みを消し、小さく溜息をついた。

「よ、ようやく諦める気になったかしら」

 その殊勝な態度に、マリアも留飲を下げ、

「弱くなったわね、マリさん」

 次に放たれたユキの一言に激昂した。

「な、何ですって!? 聞き捨てならないわ! 今日という日のため鍛錬を重ねてきたわたくしのどこが弱くなったと言うの!?」

「あるでしょう。むらくもには。

 この状況を覆せる、まるで忍者のように摩訶不思議なカードが」

「え? …………まさか!?」

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し。

 ……そして、ドライブチェックでめくられた《忍妖 ヒャクメシャドウ》の効果発動!!

 ヒャクメシャドウをアクセルサークルにスペリオルコール!」

 ドライブチェックでめくられた忍が、すぐさま戦場に参上した。

 残るブラッディミストのガード要求値は20000で、ヒャクメシャドウも同じく20000。

 マリアの手札では防ぎきれない。

 過程の話をするならば、イゾルデのコストでG3のカードを切っていれば防げたのだが。

「あ、な……そ、そんな。わたくしのプレイングミスだと言うの?」

「いいえ。ヒャクメシャドウを意識して、イゾルデでソウルセイバーやバロミデスを切っていたとしても、私が治トリガーや引トリガーを引いたら、マリさんは攻めきれなかったでしょう。これはただの結果論」

 ソウルセイバーとバロミデスは非公開情報だったはずだが。ユキは完全に読みきっていたようだ。

「マリさん。あなたが弱くなったのはね。ヴァンガードじゃない。あなたの心よ」

 ユキが胸に手を当てながら告げ、その言葉はマリアのみならず、ミオにも深く突き刺さった。

(私の心が弱かった……)

 ミオも胸に手を当ててみる。とくんと小さな鼓動がそれに答えた。

「う……うるさいっ! 何が心よ! さっさとアタックして、勝ちを確定させなさいな!!」

 一方、マリアは頑なに叫び、デッキに手をかける。

 そんな彼女を見て、ユキは心底呆れたように、今度は深く溜息をついた。

「それよそれ。たかが負けそうになったくらいで、みっともなく取り乱して。情けないったらありゃしないわ。そんなあなたになんて、勝ちたいとも思わない」

「ちょ、ちょっと、ユキ?」

 らしからぬ暴言に、アリサが止めに入ろうか逡巡する。フウヤの顔を横目で見ると、今にもユキに詰め寄って行きそうな憤怒の表情だ。

「もとより、今のあなたに言葉が届くとは思っていないわ。だけど、このアタックで全てが伝わると、私は信じている」

 ユキがヒャクメシャドウに指を置いた。そして、祈るようにカードを傾ける。

「ヒャクメシャドウでアタック!!」

「……ノーガード」

 

 

 ――8年前。

 仲の良かった従兄に誘われたのが、マリアがヴァンガードを始めたきっかけである。

 当時発売されたばかりのトライアルデッキを使用した、お互いに初めてのファイトだったが、マリアは劣勢だった。

「《ドラゴニック・オーバーロード》でアタック!」

「うう……ノーガード」

 当時からプライドの高かったマリアは、もしこのファイトで負けていたら、自分は今頃ヴァンガードをしていなかったのではないかと思っている。

「6ダメージ……負けちゃったぁ」

「待って! この《世界樹の巫女 エレイン》ってカードに、何か書いてある」

 ぐずりそうになるマリアに、従兄が慌てて声をかけた。

「「治トリガー?」」

 二人して、それを読み上げる。

 結果としてマリアは生き残り、次のターンにダブルトリガーで逆転するのだった。

「お兄様、ヴァンガードって楽しいね!」

 我ながら現金だと思うが。

 カードをめくることが楽しくて仕方がなかった頃の、懐かしい思い出だった。

 

 

「…………ゲット、治トリガー」

 マリアがカードをめくって数秒の間があり、やがて彼女は静かに宣言した。同時にその瞳から、水晶のように透き通った涙がぽろりと零れ落ちる。

「エレイン……また、来てくれましたのね」

 常勝が義務付けられた部活に入部し、実際に勝ち続けること3年。6点ヒールなど、何年ぶりだろうか。

 盤石の安定を目指す上で、いつしかトリガーは不確定要素として忌み嫌うようになっていた。

 デッキはいつでも自分に応えようとしてくれていたというのに。

「高校1年生の時。ヴァンガード甲子園ではじめてあなたとファイトした時、私はとても楽しかったのよ」

 マリアが落ちついたのを見計らって、ユキが声をかける。

「ドライブチェックもいちいち楽しそうで。いいえ。ダメージチェックですら楽しんでいた。その日は笑顔で別れて、またファイトしたいと思っていた。

 けれど、2年生になって再会したあなたは変わっていた」

 語りながら、ユキは手元でファイトを続ける。

 シジママルのブースト、ブラッディミストでアタック。ジャベリンでガード。

「あなたが本気で勝ちを望んでいるのなら、私からできることは無いと思った。

 けど、違った。あなたは私に勝っても、全然嬉しそうじゃなかった」

 マリアのターン。スタンド&ドロー。《ソウルセイバー・ドラゴン》にライドし、フォースⅠは左前列のリアガードに。

「せめて、勝ちを望んでいるのなら、勝った時には笑ってほしかった。安堵したような溜息なんて、ついてほしくなかった」

《薔薇の騎士 モルガーナ》をコール。《爆炎の剣士 バロミデス》をコール。ソウルチャージ。

 ソウルセイバーのスキル発動。全ユニットのパワー+15000。バロミデスは自身の効果でさらに+25000。

「あなたのヴァンガードを思いだして欲しかった。ドライブチェックの楽しみを増やすヒャクメシャドウを投入したこのデッキは、あなたのために準備していたデッキよ」

「ヒャクメシャドウなんて運任せのカードじゃない。そんなものに、よく託すつもりになったわね」

 マリアが話に参加してきた。

「これでも調整は頑張ったのよ。ライガさん……覚えているかしら? 響星の先輩に強力してもらったりね。絶妙なタイミングでヒャクメシャドウがめくれるのは何枚がいいかとか。

 初手でめくれても興醒めでしょう?」

「それでも、結局は運でしょうに」

「そこはほら。私は自分のデッキを信じていますから」

 ユキが一点の曇りも無い声音で言い切った。

 その軽く反らされた背中が、ミオには何よりも大きく感じられた。

「バカみたい」

 マリアがふっと吐息を漏らした。つられてユキも顔をほころばせる。

「ようやく笑ってくれたわね」

「鼻で笑ったのよ」

「それも笑顔のうち。さあ、今度はあなたの番よ。あなたのカードを信じてあげて」

「……そうさせてもらうわ。わたくしの……ソウルセイバーでアタック!!!」

 聖域の守護竜が、天に光球を掲げる。

 全ての妖力を使い果たしたシラユキに、それを防ぐ術は無い。

 帝国を裏で支え続けた大妖は、滅びを受け入れるかのように軽く両手を広げた。

 光が彼女を呑み込んでいく。

 眩い輝きが止んだ跡には、まるで夢か幻でも見ていたかのように、何も残っていなかった。

「ダメージチェック……ふふっ、トリガーは無し。私の負けね」

 カードをめくったユキが思わず笑う。6枚目のダメージはヒャクメシャドウだった。

「勝った……勝ちましたわ。

 それに……」

 荒く息を吐きながらも、堪え切れない笑みがマリアの顔からこぼれる。

「楽しかった」

 それはアリサやミオはもちろん、フウヤすら見たことのないような、マリアが心から浮かべる笑顔だった。

「おめでとう。マリさん」

 ユキが声をかけると、マリアはすぐ不機嫌そうな顔に戻ってしまったが。

「あなたの目的は、わたくしに楽しいと言わせることだったのでしょう。なら、このファイトはあなたの勝ちよ」

「あら不思議。じゃあ、負けた人なんてどこにもいないわね」

 おどけるユキに、マリアは改まって正面から向き合った。

「ミユキさん。あなたのお気持ちはわかりましたわ。ずいぶんと、その、ご心配をおかけしてしまったようですわね。その点については謝罪いたしますわ。

 ですが、わたくしは3年間、部員達に強くあれと、負けに意味は無いと説いてきました。そして、その教えに救われた者もいる。わたくしだけが無責任に宗旨替えするわけにはいきません。

 もう、後戻りはできませんの。

 わたくしは、これからも勝つためのヴァンガードを究めますわ」

「そう……」

「けど、また疲れきってしまうことがあるかも知れません。その時は……また、わたくしとファイトしてくださるかしら?

 ……ユキ」

「ええ。あなたの頼みなら、いつでもどこでも駆けつけるわ。

 ……マリア」

「ありがとう」

 感極まったマリアがテーブル越しに、跳びかかるようにしてユキに抱擁する。ユキはそれを優しく抱きとめ、その金髪を撫でてあげるのだった。

 

 

「すっかり遅くなってしまったわね。つい、ファイトに熱中してしまって。時間の管理もできないだなんて、私は部長失格ね」

 聖ローゼからの帰り。帰宅するサラリーマンでいっぱいの電車の中で、ユキはそう言ってアリサとミオに謝罪した。

「何言ってんのよ。あんなすごいファイトの途中で帰れなんて言われたら、逆に怒るよ」

 呆れたように言うアリサに同意するように、ミオはこくこくと頷いた。

 それを見たユキが、さらに思い出したように言う。

「ああ、そう言えば、ミオの相談を聞いている途中だったわね。ミオ、あなたは何に悩んでいるのかしら?」

 顔を覗きこんでくるユキに、ミオは即答する。

「もう解決しました」

「え?」

 意外そうに声をあげる――わりには計算通りと言いたげな顔をしていた――ユキ。

「答えはでましたから」

「そう……なら、よかった」

 ユキが安堵の笑みを浮かべる。

(デッキを信じる心。私に足りなかったのは、それなのでしょう)

 ミオが頭の中で、自分なりの答えをまとめていく。

(恐怖に押し潰されることなくカードを引ける心の強さ。

 そう、それは、人が勇気と呼んでいるもの。

 私が次に知らなければならない感情は、きっとそれです)

「そうですよね、ユキさん」

 最後の一言は思わず声になってしまったが、ユキは何も聞かずに力強く頷いてくれた。




ロイヤルパラディン使い、早乙女マリアが3カ月のブランクを挟んで、ついに正式参戦です。
このクランの扱いは悩みました。その原因は《ブラスター・ブレード》の存在です。
原作中では主人公も1枚しか持っていないようなレアカード。そんなカードを現実のようにフル投入させてもよいものか。
すでに何から何まで原作と一緒というわけではないので、しれっとガンスロッド軸を使わせようか、いっそのことロイパラを出さないでおこうか悩みましたが、最終的にはブラスター・ブレード無しのコスモドラゴンメインというところで落ち着きました。
ただでさえソウル消費が激しいのに、イメージ重視でモルガーナまで投入されているため、ソウルの管理がえらいことになっています。
マリアさん、勝つ気あるんすか?

次回は10月18日前後、神羅創星の発売から一週間後に『えくすとら』の更新を予定しています。
また、その日にお会いできれば幸いです。


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11月「見境なく貫くのだ。誰一人生かしてはおかぬと」

 その日、少女は自分の運命と出会った。

 

 音無ミオは、今日も夜遅くまでネットの海へと漕ぎ出していた。

 昔はやることがなくて、夜の10時にはベッドに潜りこんでいることもしばしばだったが、ヴァンガードと出会ってからの彼女は、夜更かしが半ば日常化していた。

 空いた時間を見つけては、カード1枚単位でデッキの微調整を繰り返し、それが終わればPCと向かい合って、ヴァンガードの情報を貪欲にかき集める。ヴァンガードは歴史あるカードゲームだ。ミオが知らないことは山ほどあったし、それを知ることは楽しかった。

 時計は既に2時を回っており、闇の覗くカーテンの隙間からは虫の鳴き声がコロコロ聞こえ、酷使されたデスクトップPCは今にも壊れそうなガリガリという声をあげていた。

(『ヱファメスLOVE』さんの日替わり根絶者イラスト。今日はヲロロンでしたか。ヲロロンの最も可愛い部分である蜘蛛のような脚を、1本1本丁寧に描かれておりました。根絶者愛が伝わってきます。

 『ヲクシズЯ』さんが月イチで連載されている『根絶野郎』も面白かったです。根絶者に憑依された中年男性サラリーマンが主人公の小説なんて他にありませんからね。ヴァンガード甲子園・シニアの部で負けて、部長の胸の中で泣くシーンには、私としたことが感動してしまいました。

 ふふふ、これは私にも人並みの感情が芽生えてきているのではないでしょうか)

 お気に入りサイトの巡回も終え、そろそろ寝ようかとPCの電源を落としかけた時、『デリート』とミオの携帯から着信音がした。ちなみに、ミオの携帯はメールやSNSの更新を知らせる時は『デリート』と鳴り、電話の着信は『デリート・エンド』と連呼される。

 ミオはスマホを取り出した。SNSだ。お気に入りサイトの一つである、根絶者に関する情報のみいち早く発信する『根絶者速報』が緊急更新を行ったらしい。

 それ以上の情報は確認せず、ミオはPCから『根絶者速報』にアクセスした。新しい根絶者のニュースは大画面で見るに限る。

 

 1/1 《発芽する根絶者 ルチ》ぬいぐるみ 発売決定!!!

 

 ニューストップに躍る文字を見て、ミオは我が目を疑った。

 発売元は海外のドールやぬいぐるみ製作メーカー。更新が夜中だったのはそのためだろう。これまでも《ういんがる》や《ジオグラフ・ジャイアント》といった人気ユニットのぬいぐるみを発売してきた会社で、第3弾では根絶者というわけだ。

『ルチたんキターーーー!!!』

『さすが海外。独特のセンスだな』

『社長が根絶者に乗っ取られたとしか思えない』

『ナイス英断!』

『この企画が第3弾で打ち切りにならなければいいが』

『何をもって1/1なんだ?』

 サイトの性質上、コメントは根絶者寄りのものがほとんどだったが、それでも一抹の疑問や不安を抱いているファンは多いようだった。

「名も無き根絶者 ミヲ」さんは、すぐさま『根絶者の愛らしさは万国共通。この誕生は必然』と書き込むと、詳細情報をクリックする。

 大きさは全長1メートル(触手除く)で、ミオがちょうど胸に抱けそうなサイズだった。

(これは欲しい。欲しいです)

 子供の頃、親に「ぬいぐるみを買ってあげる」と言われて、「どれも可愛くないのでいらないです」と断った過去を持つミオが、今は童女のように目を輝かせてディスプレイを見つめている。

 続けてお値段を確認。完全受注生産で20000円。結構な額だ。

(ですが私の貯金は、まだまだ底を見せませんよ)

 棚を開けて、通帳を取り出し、そこに刻まれた金額を確認する。

 1003円。

 薄っぺらな数字が、これ以上無い底を透かして見せていた。

(そ、そんなバカな。私は所持金には不自由していないキャラではなかったのですか。確かに最近、出費は多くありましたが。ですが、カードファイルの1ページ全てを、アヲダヰヱンのSPや、グレイヱンドのSP、ヱヰゴヲグにするため9枚購入するのは必要な買い物だったはずです。他にも根絶者トライアルデッキのホロ加工カードを集めて、全カードホロ仕様のトライアルデッキを自作してみたり……)

 ツッコミ(ユキとアリサ)不在の状況で、ミオの思考は暴走するように加速してゆく。

(両親にお小遣いをねだるのは……今月分をもらったばかりで、さすがにそれはできません。

 こうなれば食費を削りましょうか。ですが、響星ラーメン特盛トッピング全部乗せがなければ、私の体が部活まで保ちません)

 されど妙案は思い浮かばず、ミオはPCの電源を切るのも忘れ、フラフラとベッドの上に落ちるように沈み込んだ。

 せめて一夜の夢が全てを解決してくれていることを祈って。

 

 

 ――翌朝。

 重たそうに鞄をぶら下げて、ミオは通学路を登校していた。

 どれほどの不摂生をしても、若さだけでは説明のつかないミオの優秀な代謝機能は、数時間も眠れば目の下にくまの一片も残さない。

 だが、今日のミオは明らかに体調が悪そうだった。

 目の色はどんよりと濁り、きめ細やかな肌にもつやが無い。毎日のシャンプーくらいしか手入れをしていないにも関わらず、常に最高のコンディションを保つ白い髪も、今はそこかしこからぴょんと寝ぐせが跳ねており、そこからは枝毛も見つかった。

「ミオちゃん、おっはよー!」

 背後から駆けてくる足音。続いて能天気なくらい明るい声が聞こえ、ミオは体を横へ逸らした。ガバッと抱きついてきた人影が、標的を見失ってつんのめる。

「おはようございます、アリサさん」

 早朝から現れた不審者に、ミオはあいさつの言葉をかけた。不審者もとい天道アリサはくるりと振り返ると、「おはよう」と言って微笑んだ。

「ミオちゃん、機嫌悪い?」

 そして、すぐさまミオの調子を看破する。

「いえ……」

 ミオは誤魔化そうとして、すぐに止めた。この親身な先輩に嘘はつきたくなかったし、どうせすぐバレる。

「そうですね。何で分かったんですか?」

「機嫌がいい時はハグさせてくれるもの」

 代わりに発した問いは、即答された。

 彼女が出会いがしらにスキンシップを求めてくるのは珍しくないが、なるほど。そうして機嫌を測っていたのか。確かに、前日の部活でアリサに負け越した翌日は、アリサを避けていたような覚えがある。

 この先輩は何も考えていないようで、他者の感情には敏感で、心配りは欠かさない。何も考えずにそれをやってのけているのかも知れないが。いずれにしろ、ミオには無い資質である。

 とは言え、そんなアリサで無くとも、今日のミオなら、大抵の人は何かがおかしいと感じただろうが。

「当ててあげようか?」

 彼女は大抵の上をいく。

「お金が無いんでしょ?」

「なぜそれを」

 目を軽く見開いて、ミオが尋ねる。

「根絶者のぬいぐるみの話なら、あたしも今朝知ったもの」

「私は昨晩に知りました」

「あっそ」

 ミオのいらない対抗心を、あっさり受け流す。

「最近のミオちゃんは色々と買っているみたいだし。業者に特注で純金製のズヰージェを作ってもらいましたって、部活に持ってきた時は、さすがに焦ったけど。そろそろお金が尽きる頃だと思ってたよ」

「む」

 ここまで一方的に言い当てられるのも癪だが、全て事実でもある。

「だからどうだと言うのですか? アリサさんが気前よく2万円を貸してくれるとでもいうのでしょうか?」

「今のミオちゃんだと、いつ返ってくるか分からないからイヤ。

 それより、もっといい方法があるよ」

 そこでアリサはキョロキョロと周囲を見渡し、ミオの耳元に顔を寄せると、悪魔のように囁いた。

「自分で稼げばいいのよ」

響星(うち)はアルバイト禁止のはずですが」

 それの意味するところをすぐさま理解し、ミオが反論する。

 厳密に言えば、学校に申請することでアルバイトが許可されることもある。だがそれは、学費の支払いが困難な苦学生にのみ許される特例であり、趣味に使うお金欲しさに申請しても、受理されるケースは無いという。

 だが、根絶者を愛でることは人類の義務であり、なるほど、それなら申請も通るような気もしてきた。

「分かりました。さっそく申請してきます」

「早まらないで。通るわけないでしょ、そんなの」

 俄然元気を取り戻し、どういう体質なのか、肌も髪もつやを蘇らせたミオが大股で学校へ向かおうとするのを、アリサが慌てて掴んで止めた。

「もちろん学校にはバレないように、よ」

 口元に人差し指をあて、秘密のサイン。

 他者の為なら邪道も厭わない。それがアリサという少女の本領だ。

「でも、学校以上に怖いのはユキね。厳格なあいつにバレたら、怒られるなんてものじゃ済まないから。

 そのくせ、あいつは呉服屋(おやのしごと)を手伝って、お駄賃と称したお給料をもらってるのよ。ずるいわ」

「それで。学校にもユキさんにも知られないアルバイトの用意がアリサさんにはあるのですよね?」

 愚痴を遮るように、核心を突いたミオの質問を受けて、アリサの瞳が怪しく輝く。

「話が早くて助かるわ。知り合いからバイトに来ないかって誘われてるんだけど、もう一人、仕事のできるスタッフが欲しいらしいの。

 ミオちゃん、引き受けてくれない?」

「ええ。引き受けましょう。それが根絶者のためならば」

 悪魔の契約が、握手の形でガッシリと結ばれる。

「それに、アルバイトというものは、私もしたことがありません。興味があります。どのようなことをするのでしょうか?」

「ああ、その説明がまだだったわね。はいこれ」

 アリサが手渡してきたのは、1枚の名刺だった。

「来週の土曜日は空いてる? 朝8時に、ここに書いてある店に来て欲しいんだけど」

 彼女の言う通り、名刺には住所が書かれてあった。

 その上には「店長:蒼樹(あおき)シアン」と女性の名前が。

 さらにその上には「Butterfly」と店の名前らしきものが。

 さらにさらにその上には、その店のジャンルが書かれており、ミオは思わずそれを声に出して読み上げた。

「メイド喫茶……?」

「大丈夫! ミオちゃんならきっと似合うよ!」

 どうでもいいフォローが、アリサから付け加えられた。

 

 

 約束の日がやってきた。

「みなさん。今日はお休みにも関わらず集まってくれてありがとう」

 メイド喫茶『Butterfly』店長、蒼樹シアンは、長い髪をアップにし、皺ひとつないスーツをパリッと着こなした20代前半の女性だった。

 アリサの話によると、響星学園のOGらしく、アリサの先輩を通して出会い、意気投合し、今も交流があるそうだ。カードファイト部でこそなかったが、ヴァンガードもたしなんでいるらしい。

「今日と明日、みなさんには研修を行っていただき、来週からオープンするこの『Butterfly』のメインスタッフとして活躍して欲しいと思っています」

 そんな彼女が、ミオとアリサを含む6人の少女の前で挨拶を行っている。

 が、すでにアリサから説明を受けた内容であり、ミオはそれを聞き流しながら、まったく別のことを考えていた。

(場所は若者向けの繁華街の中。最寄駅はユキさんの家から学校までのルートと反対方向。ユキさんならメイド喫茶の意味すら知らないでしょうし、知っていたとしても、あの人の性格なら入ろうとはしないでしょう)

 なるほど。これなら少なくともユキに知られる心配はあるまい。

 立地条件の良さに満足していると、店長の話もちょうど終わったところのようだった。

「では、ロッカーに名札を貼っているので、各自、自分のロッカーに入ってあるメイド服に着替えて、着替え終わった方からホールに出てきてください。全員が揃い次第、研修をはじめます」

 そう言って、店長がきびきびと控え室を出て行く。

「おっはよ~! はじめまして! あたしは天道アリサって言うの。あなたは?」

 さっそく同僚と交流を図りはじめたアリサを尻目に、ミオは自分のロッカーの前に立ち、衣服を脱ぐと、用意されていたメイド服に袖を通す。

「ふむ。見た目よりも動きやすいですね」

 ひとりでさっさと着替えを終えると、きゅっと足音を立てて一回転。フリルのついたスカートが花のようにふわりと広がった。

 そして、気がつくとアリサを含んだ5人の少女に囲まれていた。全員が全員、何者かに洗脳か魅了でもされたかのように、瞳から理性の色が抜け落ちている。

「どうしたんですか?」

 じりじりと距離を詰めてくる少女達から後ずさろうとするが、すぐロッカーに阻まれる。

「「「「「か……」」」」」

「か?」

「「「「「かわいいいいぃぃぃ~~~~!!!!!」」」」」

 少女達は一斉にミオへと襲いかかり、愛で回すわ、撫で回すわ、大変な騒ぎになった。

「あああ~!! 絶対に似合うとは思ってたけど、似合いすぎでしょ!?」

「何コレ!? 髪さらさら! 肌すべすべ! 本当に私達と同じ高校生なの!?」

「メイド服に白い髪が似合いすぎ! アニメの世界から飛び出してきたみたい!」

「こんな妹が欲しかった!!」

「天使!? この子はきっと天使の生まれ変わりだわ!」

 などというように、ミオがされるがままになっていると

「こらっ! 着替えに時間がかかりすぎていると思ったら、何を騒いでいるの? 遊びでは無いのよ?」

 控え室に戻ってきたシアン店長が少女達を順繰りに見渡しながらたしなめ、最後にもみくちゃになっているミオへと目をやると。

「……か」

「「「「「か?」」」」」

「かわいいいいぃぃぃ~~~~!」

 一瞬でポンコツと化したシアンが、ミオちゃんを愛でる会に参加し、結局、研修は予定より1時間遅れで開始されることになった。

 

 

 トラブルこそあったものの、その後の研修自体は滞りなく進んだ。

 物覚えの良いミオは、一度説明を受けただけで、接客の基本から、メイド喫茶独自のルールまで完璧にマスターし、アリサに関しては、ほとんど研修の必要が無いほど接客について心得ていた。恐らく、ユキに秘密でバイトをするのは、今回がはじめてではないのだろう。

 他3名の習熟度は、初日はまずまずと言ったところだったが、2日目以降はアリサも教える側に回ることで、十分な合格ラインに達することができた。

 来週のオープンに向けてメイド喫茶『Butterfly』は準備万端と言えた。

 ただひとつ、問題点があるとするならば。

「ミオちゃん、ミオちゃん」

「何でしょうか、店長」

「手順は問題無いんだけどね。接客業だから、もう少し笑顔になれないかな?」

「笑顔? こうですか?」

「表情筋が1ミリも動いてないんだけど!?」

 ミオの不愛想極まりない接客態度である。

「まあいいわ。レジの練習に戻ってちょうだい」

「はい」

 首を傾げながら(本人は笑えていたつもりだったらしい)持ち場に戻っていくミオを見送りながら、シアンはアリサをちょいちょいと手招きした。

 そのまま彼女を控え室まで連れ込み、扉を閉める。

「あんた、あの子がこういう仕事に向いていないと知っていて連れてきたでしょ?」

 開口一番にシアンはアリサを詰問した。

「まあねー」

 悪びれもせず、アリサは軽い調子で肩をすくめた。

「あんたね……」

 説教モードにシアンが移行する寸前、アリサは掌を突き出してそれを止める。

「ミオちゃんはね。ああ見えて、変わりたいと思ってるし、変わろうとしてるんだよ。

 だったら、あたしは先輩として、そのための場所を用意してあげなきゃでしょ?」

「そのためなら、先輩のお仕事も利用するのね」

「うん。ごめんね」

 またも悪びれずにアリサはあっさりと認めた。ただし、今度はシアンをまっすぐに見据えて。

「……ああもう!」

 シアンはアップにした髪をガシガシとかいて、折れた。

「そんなこと言われたら、私もあなたに先輩を見せつけてやらなきゃならなくなるでしょーが!

 この店はミオちゃんと一蓮托生よ! すべての責任は私が取る!」

「ヒュー! センパイ、かっこいー!!」

「その代わり、あんたもしっかりサポートしてあげなさいよ!」

「りょーかい!」

「はぁ……やれやれ。図々しい後輩を持つと大変だわ」

「シアンセンパイ」

「何よ?」

「ありがとね」

「いいわよ。ミオちゃん、仕事はできるし。接客も……あれはあれで人気出るかも知れないし」

「クール路線?」

「そうそれ」

「何させてもかわいいもんねぇ」

「うん。ぶっちゃけ、黙って突っ立っててもお金もらえるんじゃないかってレベル」

「言えてる」

 ミオのことが好きすぎるふたりは、そう言って笑い合った。

 

 

 1週間後――

 メイド喫茶『Butterfly』オープンの日がやってきた。

「おかえりなさいませ、ご主人様~♪」

 開店するなり、アリサは目覚ましく働いた。

「本日はいかがなさいますか? 今ならホットケーキがオープン記念価格でオススメですよ」

 コロコロと変化する明るい笑顔。

「あら! ご主人様も『マスクドポリス BRACK』を見ていらっしゃるんですか? あたしもですよー」

 巧みな話術に、アニメ・特撮から雑学まで、どんな話題を振られても対応できる守備範囲の広さとアドリブ力。

「いってらっしゃいませ、ご主人様~♪」

 彼女目当てのリピーターが今後は増えそうなほど、七面六臂の大活躍である。

 そんな彼女とシアンに鍛えられた3人のメイド達も、申し分ない働きを見せている。

 となると、やはり問題は……

「いってらっしゃいませ。ご主人様」

 分度器で測ったような、45度のお辞儀で客を見送るミオである。

 ピクリとも笑わず、無表情にテキパキと業務だけをこなすその姿は、日本の萌え文化が生んだメイドさんと言うよりは、英国のマナー文化が生んだ本物のメイドが如し。

 そんな彼女に対する客の評価は。

「人形かと思ったら、急に動くんだもん。ビビった」

 悪印象が4割。

「あのクールな感じがいいんだよ。罵られたい」

 好印象が2割。

「メイド服の妖精、ミオたん、マジきゃわ」

 ミオの愛らしさに頭をやられて正常な判断ができなくなっているのが2割。

「レジの調子が悪かったらしくてさ。お釣りが出なかったぽいんだけど。あの子、5000-(647+383+108)を一瞬で暗算してお釣りを返してきたぞ。何者だ?」

 ミオの底知れぬ何かに気付いた者が1割。

「あの女、この前カードショップ『テンパランス』でリンクジョーカーのストレージボックスを漁って、根絶者だけ抜き出していたやつか?」

 ヴァンガードファイターが1割。

 好評とは言い難いが、大きなトラブルにはならなさそうだ。

 もっとも、業務は完璧かそれ以上にこなしているので、客としてはクレームしにくいのだろうが。

 バックヤードからミオ達をはらはらした様子で見守っていたシアンは、ひとまず軌道に乗ったことを確信し、ほっと安堵の息をつくのであった。

 だが、トラブルは油断した瞬間にやってくる。

「おかえりなさいませ、ご主人さ――げ」

 3時間休み無しで働き、疲労も溜まっているだろうに、それでも笑顔は絶やさなかったアリサの表情がはじめて歪んだ。

「天道さん!?」

 アリサの出迎えたご主人様もとい客のひとり、金髪の美少年も驚きに目を見開いていた。そんな様すら絵になるイケメンの名は小金井フウヤ。響星学園カードファイト部のライバル高、聖ローゼ学園が誇る2年生レギュラーである。

 しかしアリサとて、知り合いが現れたぐらいでは、営業スマイルを崩しはしない。彼女は最悪クラスメイトが来店するところまでは想定していたし、それがフウヤに変わったところで動揺する理由にはならない。だが、フウヤの背後からゆらりと現れたもう一人の男を見て、彼女は激しく心を乱したのであった。

「ほう。この店はご主人様のことを『げ』などと呼ぶのか?」

 その男――漆黒の髪をオールバックにして撫でつけた男は、冷徹な表情で、しかし声音だけは面白がるように言った。

御厨(みくりや)、ムドウ……」

 アリサが男の名前を呼ぶ。聖ローゼの3年にして、フウヤと同じくレギュラーのひとり。御厨ムドウがそこにいた。

「今度は呼び捨てか?」

「ぐっ……大変失礼いたしました……ご、ご主人様……どうぞ、こちらへ」

 どうにか笑顔を取り繕いながら、アリサはギクシャクと、奥にあるテーブル席へ聖ローゼの2人を案内する。

 アリサは、この御厨ムドウという男が苦手だった。第一印象からして、ヴァンガード甲子園で大敗を喫した相手であり、再会した時には、何故かエロ本談義に付き合わされた(一応成人向けではなかったが、年頃の少女にとってはエロ本のようなものである。とアリサは思っている)。

 そして、実はそれ以降もふたりはたびたび会っていた。というのも、どうやら家も趣味も近かったらしく、近所のアニメショップで、しょっちゅう出くわすのだ。

 たまに特撮の話で盛り上がり、たまに今日のようにからかわれ、話しているうちに、悪いヤツではないと思いはじめている。何だったら苦手というのは取り消してもいい。

 だが!

 それも他校の先輩後輩という、後腐れの無い関係性だからこそ言えること。

 客と店員(しかもメイド)という、自分が圧倒的に下の立場で出会うには最悪の相手だった。

「ムドウさん、日を改めた方がよくないですか?」

 焦りと殺気がごちゃまぜになったアリサの背中を見ながら、フウヤがひそひそとムドウに耳打ちする。イケメンは気遣いもできるのだ。

「フッ。臆したか、フウヤよ」

「天道さんの仕事のジャマになりますよ。それに、知り合いにご主人様とか言われるのって気まずいでしょう。お互いに」

「やれやれ。まだ青いな」

「1学年しか違わないですよ」

「これほどの緊張感は他の店では味わえんぞ。先に噴き出した方が負けだな」

「はあ……」

 説得を諦めたフウヤが深々と溜息をつく。

 聞き耳を立てていたアリサは(もっと粘らんかい、小金井!)と心の中で叫んだ。

「あ、フウヤさんに、ムドウさん」

 一方、この店にいるもう一人の知り合いも、フウヤ達に気付いた。

 それがてくてくとメイド服の裾を揺らしながら寄ってくる。

「ミ、ミオちゃん!?」

 そのメイド――音無ミオに気付いたフウヤが、アリサの時とは明らかに違う、狼狽の声をあげた。

「ち、違うんだ! こ、これはムドウさんに誘われたからであって、けっして俺の趣味では……」

 それは弁解であり、事実でもあったが、それを聞いたミオの丸い瞳は、まるで月が陰るかのように細められていく。いわゆる半眼。俗に言うジト目である。

「別にこのような店を訪れる男性に偏見はありませんでしたが、必死で言い訳するフウヤさんはカッコ悪いと思います」

 そう言って、踵を返して去っていく。

「……ぐふっ」

 フウヤが吐血したような声をあげて崩れ落ちる。その首根っこをムドウは掴み、ソファへと雑に放り投げると、自分も椅子へと偉そうに足を組んで腰かけ、メニューをパラパラとめくりはじめる。

「『メイドさんのにゃんにゃんお絵かきハヤシライス』を頼む」

「かしこまりました、ご、ご主人様……」

「復唱は?」

「めっ、メイドさんの、にゃ、にゃんにゃんお絵かきハヤシライス1つお持ちいたします、ごっ、ご主人様……」

「よろしい」

 アリサはそそくさとバックヤードに逃げ込むと、休憩用に置いてあったソファをサンドバッグ代わりにして何度も殴りつける。

 ほどなくハヤシライスは完成し、それをまたムドウのテーブルへと給仕することにはなるのだが。

「お待たせいたしました、ご、ご主人様……」

「この店にはハヤシライスにソースで絵を書いてもらえるサービスがあるのだったな」

「は、はい。何にいたしましょう……」

「『幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム』で頼む」

「描けるかっ!!」

 あれは萩谷薫先生にしか無理だ。本当に。

「そろそろお前をいじるのにも飽きてきたな。チェンジだ」

「これだけ弄んでおいて!? ていうか、そういうお店じゃないんだけど!」

「まあそう言うな。あそこで暇そうにしている白髪の女に用がある」

「ミオちゃんに?」

 アリサの怒りが一瞬で本気のものに変化する。このモンスター客とミオだけは、何としてでも関わらせない覚悟のようだ。

 しかし、自分の名前が呼ばれていることに気付いたミオから、のこのこムドウへと近づいてきた。

「何かご用でしょうか、ご主人様」

「ああ。お前に礼を言いたくてな」

「何の話でしょうか?」

「早乙女マリアの件だ。君とフウヤが、白河ミユキと引きあわせてくれなければ、最悪、彼女は高校卒業を期にヴァンガードを辞めていたかも知れない」

「そういうことでしたら、ユキさんに直接どうぞ」

「そうだな。だが、きっかけとなったのは、やはり君だ。だから礼を言わせてもらう。ありがとう」

 言って、ムドウは深々と頭を下げた。

「はあ。どういたしまして」

 ミオも何となく頭を下げ返す。

「そして、礼代わりと言っては何だが、俺とファイトしてもらえないだろうか」

 ドンと、ムドウがテーブルにデッキを置いた。

「フウヤや白河ミユキが認める君の実力。俺も興味がある」

「そういうことでしたら」

 ミオも俄然やる気になって、どこからか取り出したデッキを構える。

 それに慌てたのはアリサだ。

「ちょっ、ちょっと! ここはそういうお店でも無いんだけど!? ミオちゃんも、何で仕事中にデッキなんか持ち歩いているの!?」

「いついかなる時もデッキを持ち歩いておくのは、ファイターとして当然の心構えかと」

「何そのアニメでよくありそうな心構えは!?」

 このままでは本当にメイド喫茶でヴァンガードファイトが始まってしまう。

 だが、その許可は意外な方向から降ってきた。

「面白いんじゃない?」

 スーツを着たシアンが、その言葉通り面白がっている表情で、3人の間に割り込んだ。

「この店はいずれファイトスペースも作る予定で、メイドさんとファイトできるサービスも考えていたの。だからアリサを誘ったし、カードファイト部にいい子がいないか聞いたのよ?」

「マジでか」

「そしてこんな仕掛けも……ねっ!」

 シアンが勢いよくテーブルクロスを引き抜くと、なんとその下からファイトテーブルが現れた。その上に乗っていたハヤシライスやデッキは、クロスを引きぬく前から1ミリもズレていない。

「こんな仕掛けが……」

 アリサが呆れて呟いた。

「フッ、面白い」

 ムドウがデッキからファーストヴァンガードを取り出し、ヴァンガードサークルに裏向きにして置くと

「困ります、ご主人様!」

 シアンが突如としてそれを止めた。

 彼女は銀のトレイをムドウの前に突き出すと、こうのたまったのだ。

「『メイドさんとファイト!』サービスは、別料金となっておりまして、1回1000円でございますが、今はサービス開始前のお試し価格として半額の500円をお支払い願えますでしょうか」

「シアンセンパイ……」

 アリサはシアンを店長と呼ぶのも忘れて、呆れを通り越し、尊敬と軽蔑が綯い交ぜになった視線を向ける。

「ふん……そういうことか」

 ムドウは黒皮の財布を取り出すと、トレイの上に1000円札をピッと投げ入れた。

「釣りはいらん。その代わり、1000円分は楽しませてくれるんだろうな。音無ミオ」

 金を払ったからというわけでは無いだろうが、ムドウのただでさえ鋭い目つきが、より鋭利に細められる。それと同時、重力が倍になったような圧力を感じた。この気配は、かつてアリサも一度だけ受けた覚えがある。ヴァンガード甲子園で、ムドウと相対した時に感じた気配だ。

「ええ。もちろんです」

 それを堂々と迎え討ち、ミオもデッキをテーブルに置いた。

 

 

「スタンドアップ」

「ヴァンガード」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《フルバウ》」

「ライド。《速攻する根絶者 ガタリヲ》」

「ライド。《グルルバウ》

《髑髏の魔女 ネヴァン》をコール。ネヴァンをレストして、もう1枚ネヴァンをコール。ネヴァンのブースト、ヴァンガードでアタック」

「ノーガード」

 2人の性格もあってか、ファイトは静かに淡々と進む。

「お、なんだ?」

「カードゲーム?」

「ヴァンガードか?」

「メイドさんが? 面白そう!」

 その分、物珍しさからか、店でゆっくりしていた客や、帰ろうとしていた客が、興味をもって集まってワイワイ騒ぎだした。

「はいはい! 熱いヴァンガードファイトが観れる! できる! メイドカフェはここだけですよー!」

 シアンはここぞとばかりに店のアピールをはじめている。

「ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》

 ギフトはフォースⅠを選択して、ヴァンガード右後列へ」

 まずはミオが先にG3へとライドした。続けて3枚のダメージのうち、2枚を裏返す。

「グレイヲンのスキル発動。ヴァンガードをデリートします」

「ふむ……」

 片手間にハヤシライスを食べながら、ムドウがヴァンガードを裏にする。

「フォースサークルに《驕慢の根絶者 ゴウガヰ》をコール。その後列に《発酵する根絶者 ガヰアン》をコール。左前列に《略奪する根絶者 ガノヱク》と《迅速な根絶者 ギアリ》をコール。

 バトルフェイズ。

 ゴウガヰでヴァンガードにアタック」

「なるほどな……ノーガードだ。

 ダメージチェック……(クリティカル)トリガー。パワーはすべてヴァンガードに与える」

「ゴウガヰのスキル発動。ガノヱクとギアリのパワーを共に+4000します。

 続けて、ジャヱーガのブースト。グレイヲンでアタック」

「これは防がせてもらおう。《アビス・ヒーラー》でガード。さらに《ブラスター・レイピア》でインターセプト」

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(ドロー)トリガーです。1枚引いて、パワーはギアリに。

 ガノヱクのブースト。パワー41000のギアリでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード。ダメージトリガー無し」

「ギアリのスキル発動。右後列のネヴァンを裏でバインド(バニッシュデリート)します。さらにガノヱクのスキル発動。ガヰアンを手札に戻してターンエンドです」

「ダメージは3対4! 今のところはミオちゃんが優勢ね」

 シアンが声を弾ませてアリサに声をかけるが、アリサは「うーん」と曖昧に頷くだけだった。

「どうしちゃったの。煮え切らない」

「ダメージは優勢なんだけどね。それだけでは測れないのがヴァンガードなの。それに、この形はすごくまずい。ううん。この戦況になるようにムドウが巧妙に誘導したのかも」

「それはどういう意味?」とシアンが問いかけた時、カランと鳴った大きな音がそれを遮った。

「……そうか。それがお前のデッキか」

 空になった皿にスプーンを置いたムドウが呟く。

「トリガーユニット以外はすべて根絶者で統一しているな。それもただ漠然と入れているだけでなく、高い水準で使いこなしている。ここまでは合格だ」

「……それはどうも」

「だが、それはもう飽きた。

 ライド。《ファントム・ブラスター・ドラゴン》」

 ムドウの影が世界を覆い尽くさんばかりに溢れだし、やがてそれは竜の形を成す。

 双刃の大槍を携えた漆黒の影竜。《ファントム・ブラスター・ドラゴン》が、グレイヲンの前に音も無く姿を現した。

「ギフトはフォースⅡを選択し、右後列に置く。

 さらにネヴァンをレストし、《黒翼のソードブレイカー》をコール。1枚ドロー。

 さて。邪魔者にはご退場願おうか。そして、新たなお前を俺に見せてみろ。

 ファントム・ブラスターのスキル発動(ダムド・チャージング・ランス)

 ネヴァン、ソードブレイカー2体を退却させ、君も3体のユニットを退却させろ」

「……ジャヱーガ、ガノヱク、ゴウガヰを選択します」

 影竜が、味方の血で紅に染まりし槍を振るう。その一振りで、選ばれた3体の根絶者達が真っ二つに斬り裂かれた。

 地面に転がった根絶者の骸は、竜が落とす暗き影に沈んでいく。

(お前が殺した(えらんだ)のだぞ?)

 力を増した影竜が、グレイヲンに宿る少女を嘲笑った。

「《漆黒の乙女 マーハ》をフォースⅡサークルにコール。マーハのスキルで《黒の賢者 カロン》をマーハの後列にコール。1枚ドロー。カロンのスキルでSB(ソウルブラスト)CC(カウンターチャージ)

 さらに《ブラスター・ジャベリン》をコールし、カードを1枚引く」

「わわわ。あれだけコールしてるのに、手札が全然減らないわよ?」

「これがシャドウパラディンの強みよ。味方を犠牲にするスキルが多い分、ユニットの補充も得意なの」

 すっかり賑やかしが板についてきたシアンが驚き、解説役が板についてきたアリサが説明する。客達もなるほどと頷いた。

「《悲壮の騎士 カスバド》をコールし、バトルフェイズに進行する。

ファントム・ブラスターでアタック(シャドウ・イロージョン)!」

「完全ガードです」

「悪くない判断だ。

 ツインドライブ。

 1枚目は★トリガー。効果はすべてマーハに。

 2枚目はトリガー無し。

 続けて、★3のマーハでアタック」

「★トリガー2枚でガードします」

「さらにカスバドでアタック。カスバドはヴァンガードに攻撃した時、パワーが上がるが……ここはリアガードに攻撃するとしよう」

 グレイヲンを選びかけていたムドウの指が、ビッとギアリに向けられる。

「どういうこと? ミオちゃんが可愛いから手加減してくれてるの?」

「やっぱりそうきたか……。その逆よ。一切の容赦無く勝ちにきてる」

「え? え?」

 頭の上に疑問符を浮かべるシアンを置いてきぼりにし、ゲームは進行する。

 ミオはノーガードを選択し、ギアリは退却した。

「私のターンです。スタンド&ドロー。ライドはせず、エルロ、ガヰアン、バルヲルをコールします」

「あれ? デリートは?」

 そこでようやくシアンも違和感に気付き始めた。

「ミオちゃんのダメージと、グレイヲンのコストをよく見て」

「えっと、ミオちゃんのダメージは3点で表のダメージが1枚。デリートのコストはCB2で……あっ!」

「わざとダメージを与えずに、相手にカウンターコストを与えないテクニックよ。コストの重い根絶者にとっては致命的だわ。ムドウは既に4点を受けているから治トリガーも期待できない」

「そ、そんなの、どうやって突破しろって言うのよ!?」

「一応、この状況を打開できるカードが根絶者にはある。けど、そのカードはミオちゃんのデッキには……」

「グレイドールは入れていないのか?」

 唐突にムドウがミオへと問うた。

「さて、どうでしょう」

 もちろんミオも、すぐに手の内は晒さない。

「少なくともヴァンガード甲子園では使っていたな。しかし、ジャエーガのスキルを使わずコストを温存していたということは、フル投入はしていないと見た」

「……そこまでばれているのなら、隠しても仕方ありませんね。確かに私はグレイドールを4枚は持っていません。定期的にパックは買っているのですが、何故か私のところへは来てくれませんし、最近は金銭的にも手に入れられなくなりました。

 それに、ユキさんから頂いた1枚を大切にしたいという想いもあります」

「くだらんな」

 ムドウはミオの言葉を一笑に付した。

「運や金銭の問題は、まあいいだろう。だが、感傷が何になる。それで強くなれるのか」

「私は勝つためだけにヴァンガードをしているのではありません。私がヴァンガードを通して知りたいのは、まさしくその感傷です。だから、自分の中で芽生えた想いは大切にしたいんです。

 それにあなたは、根絶者はグレイドールが全てのようにおっしゃっていますが、グレイドールが入れられない分、他に素敵なカードを入れられるんですよ?

 あなたにその一端をお見せします。そして、根絶者の奥深さを思い知るといいでしょう」

「ほう?」

「フォースサークルにコール。《突貫する根絶者 ヰギー》」

 現れたのは、背中から刃の如き鋭い触手を生やした根絶者。4本ある腕の先にも鋭利な爪が輝きを放っており、全身凶器と言うべき出で立ちである。

「さらにグレイヲンをヰギーの後列へコールし、バトルです。

 グレイヲンでアタックします」

「《滅却の魔女 ベーラ》で完全ガード」

「ツインドライブ。

 1枚目は★トリガー。効果はすべてヰギーに。

 2枚目は引トリガー。1枚引いて、こちらの効果もヰギーに。

 続けて、ヰギーでアタックします。アタック時、ヰギーのスキル発動。後列のグレイヲンを喰らい、パワー+12000します」

 刃の触手が次々とグレイヲンに突き刺さり、瞬く間に八つ裂きにする。すると、その力を奪い取ったかのように、ヰギーの右手が虚無を帯びはじめた。

「そして、マーハを裏でバインド(バニッシュデリート)。アタック続行です」

 ヰギーが右腕を振るうと、黒衣の少女が、その痕跡すら残さずにかき消える。遮るものは無くなったとばかりに、残る触手と腕が、影竜へと殺到した。

「《デスフェザー・イーグル》と《厳格なる撃退者》でガード」

 しかし、それらも他のユニット達に阻まれる。

 残るエルロの攻撃も防がれ、ミオはターンエンドを宣言する。

 次はムドウのターン。

「俺のターン。スタンド&ドロー。

 ライド! 《ガスト・ブラスター・ドラゴン》!」

 広げた翼が、光すら覆い隠す漆黒の帳となって世界を包み込む。

 暗きに沈んだ魂を、さらなる闇へと堕として深化を遂げた黒影竜。

 本能のまま、死と破壊を振り撒く滅びの権化。

 災厄にして最悪の存在がそこにいた。

「ギフトは左後列へ。

《カースド・ランサー》をカロンのいるサークルにコール。パワー+10000して、カウンターチャージ。前列へ移動させる。さらに、後列には《ブラスター・ダガー》と《グルルバウ》をコール」

 ムドウの盤面が黒騎士達で埋め尽くされる。それは世界の終末を思わせる絶望的な光景だった。

「バトルフェイズ。

 ガスト・ブラスターでアタック。ジャベリンとダガーを退却させ、スキル発動!

 1枚引き、パワー+10000。君も1体選択し、退却させろ」

「バルヲルを選択します」

「そして、もう一つの効果で★+2! このターン、カロンも退却しているので合計★4だ!」

 黒影竜が爪を閃かせ、無造作に振るった。その1本1本が、命を刈り取る死神の大鎌を想起させる、湾曲した巨大な爪だ。敵味方問わず、触れた者を惨殺する嵐となって、グレイヲンへと迫りくる。

「ガヰアン、ドロヲンでガード。エルロでインターセプトです」

 数多の根絶者達の命を盾にして、それはようやく動きを止めた。かのように思えた。

「ツインドライブ! 1枚目、★トリガー。効果はすべて《カースド・ランサー》に。2枚目、★トリガー。効果はすべてカスバドに」

「ダブル★トリガー!?」

 シアンが絶望的な悲鳴をあげた。観客達からも悲鳴とも歓声とも溜息ともつかない声が漏れる。

「《グルルバウ》のブースト、カスバドでアタック」

「★トリガーとギヴンでガードします」

「《カースド・ランサー》でアタック」

「完全ガードです」

「耐えたか。だが、君の手札は1枚。コストも足りないままだ。さあ、ここからどう足掻く?」

 ムドウが挑戦的な瞳でミオを見据えた。

「決まっています。自分のデッキを信じるだけです。あの日、ユキさんはそうしました」

 そう言って、ミオはカードを引く。

「……きました」

「ほう。グレイドールでも引けたか……」

「ライド。《突貫する根絶者 ヰギー》」

「!?」

「ええーっ!?」

 ムドウが目を見開き、アリサが叫んだ。シアンや観客に至っては、何が起こったのか分からずポカンとしている。

「いや、間違いではない」

 気を取り直したムドウが解説をはじめた。

「ヰギーはヴァンガードでは効果を持たないが、ギフトは所持している。3点止めされた状況においては、グレイヲンと大差無いということか」

「そういうことです。フォースはヴァンガードサークルに置きます。

 さらに、アルバをコールして、ドロップゾーンのエルロのスキル発動。エルロをリアガードのヰギーの後列に置きます。

 バトルフェイズ。まずは、アルバでカスバドにアタックします」

「ノーガード」

「では。ヴァンガードのヰギーで、ガスト・ブラスターにアタックします」

「《ダークサイド・トランペッター》と《暗闇の騎士 ルゴス》でガード。《カースド・ランサー》でインターセプト。2枚貫通だ」

「わかりました……では。

 ツインドライブ。

 1枚目……(ヒール)トリガー。回復はできませんが、効果は…………ヴァンガードへ」

 ほんのわずかだが、ムドウの眉がぴくりと動いた。

「い、いいの?」

 シアンが不安そうにアリサを見る。

「うん。ムドウの手札はまだ多いし、完全ガードを温存している可能性だってある。次はもうガスト・ブラスターのアタックを防ぐのも難しいし、ここしかない、と思う」

「だが、普通にトリガーを引くだけでは勝てんぞ? ★を引かなければ俺は倒せん。それでもヴァンガードでよいのだな?」

 試すような口調でムドウが忠告する。

「構いません。+10000はヴァンガードです」

 ミオは背筋をピンと伸ばして宣言した。

「いいだろう。では、2枚目を引け」

 ムドウに言われるまでもなく、ミオはデッキに手を置いた。

 実はデッキの中に、もう★トリガーは1枚しか残っていないことをミオは知っている。

 確率で言えば絶望的だろう。

 だが、そんな計算よりも、よっぽど信頼できるものが手元にはある。

(私の根絶者達。毎日、毎日、調整して、少しずつ強くしていった私のデッキ。みんなが私に応えてくれないなんて……よくよく考えてみたらありえませんよね)

 科学や理屈では決して証明できない心の繋がり。

 それを証明して見せてくれたのは、一人の少女の背中だ。

「セカンドチェック……」

 ……本当の事を言うと、まだ少し怖かった。

 実は「彼女」も内心ではドキドキしていたのではないかと思う。

 だがその胸の高鳴りも、少しずつ楽しく思えてきて――

「……★トリガー」

 アリサ、シアンに、観客、メイド達まで含めたギャラリーが一斉に歓声をあげた。

(ありがとうございます。私の根絶者達。これからは私も強くなります。あなた達に負けないように……)

 

「まだだ」

 

 観客の興奮を。ミオの余韻を。

 ムドウの冷たい声音が断ち切った。

「何を勝ったつもりでいる? 俺にはまだ2度のダメージチェックが残されているのだぞ」

「う……そうだった」

 アリサが渋い声で唸る。

 ダメージを止める利点は、相手にコストを使わせない以外にもうひとつある。相手の治トリガーを不発にし、自分だけ治トリガーの恩恵を受けられる状況を作りやすいのだ。

(ムドウはまだ治トリガーを1枚しか見せていない。最悪、デッキの中に3枚の治トリガーが残ってる。そうなると、けっして分の悪い賭けじゃない)

「どうぞ」

 アリサが頭の中で計算をしている中、ミオは平然とダメージチェックを促した。

「……ダメージチェック」

 ムドウがカードをめくる。

「1枚目、トリガー無し。

 2枚目……」

 まずはムドウだけが6枚目のダメージを見た。それをゆっくりとダメージゾーンに置いていく。

「……トリガー無し。……俺の負けだ。

 ……まあ、1000円の価値はあったようだな」

 先程とは倍以上の歓声が、メイド喫茶「Butterfly」に満ち渡った。

「う、ん? これは……」

 その騒ぎを受けて、ようやく目を覚ましたフウヤがファイトテーブルに気付き、対戦相手を見比べ、再び盤面を見渡して。

「驚いたな。ミオちゃん、ムドウさんに勝ったのかい?」

 感嘆の声をあげた。

「ええ」

 ミオは控えめな胸をえへんと張る。

「次はあなたですよ、フウヤさん」

 そう言って、いたずらっぽく微笑んだ。

「!!!!」

 アリサが、シアンが、フウヤが、メイド達が。そして、ミオの表情は変わらないものだと悟りきっていた観客達が目を見張り――

「「「「「かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」」」」」

 全員の心が一つになった。

「?」

 笑った自覚の無かったミオだけが、これまた可憐に小首を傾げた。

「アリサ! ミオちゃん! この『メイドさんとファイト!』サービスは来週からスタートするわよ! 詳細は業務後に詰めるから、できたら残ってちょうだい! 残業代は弾むわよ!

 みなさん! ウチのトップメイド、ミオちゃんとファイトできるのは当店だけです! 正式なサービス開始は来週からとなりますので、奮ってご参加ください! いいファイトをすれば、ミオちゃんの笑顔も見れるかも!?」

 商売のチャンスと見たシアンが、やおら張りきって宣伝をはじめた。

「うおー! 俺も対戦してー!!」

「ヴァンガードはじめるぞー!!」

「ミオちゃーん! 結婚してー!!」

 客も興奮して、メイド喫茶と言うよりかはアイドルのライブ会場のような雰囲気になっている。

「ああもう。来週から大変なことになりそうね」

 ミオを連れて、騒ぎの渦中かなら抜けだしたアリサが、やれやれと肩をすくめた。

「でも、本当にいいファイトだったわ。強くなったわね、ミオ」

 ユキが小さく拍手をしてミオを讃えた。

「あ、ユキさん。ありがとうございます」

「なんだ、ユキも見てたの?」

 あまりにも自然に登場したものなので、ミオもアリサも普通に答えて――

「って、ユキいぃっ!?」

 アリサは絶叫した。

「お疲れ様。では、そんな格好をして、ここで何をしているのか、生徒会役員として説明を求めます」

 目も口元も微笑んではいるが、心は全く笑っていないユキが2人を見渡した。

「こっ、これはボランティアで……」

「残業代とか聞こえたけれど?」

「ごめんなさい」

「どうしてユキさんがここにいるのですか? ここはユキさんの家から離れているはずですし、ユキさんの性格からして繁華街に用があるとは思えません」

「質問で質問に返すのは感心しないわね」

「すみません」

「けど、冥土の土産に教えてあげるわね。来年から私の通う大学が、この近くにあるのよ。今日はその下見の帰り道と言ったところかしら」

 ミオが冷たい目でアリサを見据える。

「くっ。あたしのリサーチ不足だったわ。大学かぁ……たしかに、そんなこと言っていたかも」

 アリサが指打ちして悔しがる。とりあえず、反省の色はあまり見えない。

「ですが、何故、この店に入ってみようかと思ったのですか? メイド喫茶なんてユキさんは知らないでしょうし、知っていたとしても入ろうとは思わないですよね」

「そうそう。そもそも店の名前だって読めないわよね」

「失礼ね。まあ、確かに読めなかったけれど。

 けど、店の中から『だむどちゃーじんぐらんす』とか『しゃどういろーじょん』とか聞こえてきたから……カードショップかと思って入っちゃった」

「ムドウのせいかよ!!」

 アリサが力任せに拳をテーブルに叩きつけ、拳を抱えてしばしうずくまる。

「さて。私は必要の無い説明責任まで果たしたけれど、あなた達は、いつ私に説明をしていただけるのかしら」

「……この喫茶店でアルバイトをしていました。ごめんなさい」

 ようやく、アリサが素直に頭を下げた。

「でっ、でもね! ミオちゃんを誘ったのはあたしなの! だから、ミオちゃんには寛大な措置を……」

「いいえ。誘いを断らなかった以上、私も同罪です。そして、アリサさんはもうすぐ受験が控えているはずです。私は内申なんてなくても進路はどうとでもなるので、アリサさんだけは内密にしてあげてください」

 庇い合う2人の後輩を見比べて(とんでもないことを言っているミオを見ている時間の方が若干長かった)、ユキは沙汰を下した。

「……あなた達には校則違反により、来週から1カ月、放課後に学内での奉仕活動を命じます」

「はい」

「わかりました」

 アリサもミオも殊勝に頷いた。

「そして1カ月が過ぎたら、シアンさんに頭を下げて、もう一度雇い直してもらいなさい」

「え?」

 アリサは目を点にして、ユキを見た。

「ウチの学校は、そもそも基本的にバイト禁止なんでしょ? だから、こうして怒られているわけで……。それなのに、雇い直してもらえって、おかしくない?」

「我が高のバイト規則は厳しくないかっていう意見は、昔から多かったの。

 そこで生徒会でも、簡単な申請さえすればアルバイトが認められるよう、先生方に働きかけて、今月、ようやくその校則案が通ったのよ。

 来週の全校集会で発表して、来月から施行する予定だったのだけれど。

 私としても学校外での体験は、貴重な経験になると思っているから、個人的にはアルバイト賛成派だったのよ」

「そ、そうだったの。

 シアンセンパイには迷惑かけちゃうけど、今のセンパイなら、1カ月空いたからってミオちゃんを手放すことは無いだろうし、ミオちゃんは仕事を続けられそうだね。よかったあ……」

 アリサがほっと安堵の息をつく。

「規則は守るものでも、破るものでも無いの。規則とは、人がよりよく生きやすくなるよう、作り変えていくものなのよ。よく覚えておきなさい」

 そう言って、ユキはようやく本当の笑顔を浮かべたのであった。




シャドウパラディン使い、御厨ムドウが初登場から4カ月。ついに正式参戦です。
原作では、シャドウパラディン使いや、かげろう使いは、格好いい役が多いので、根絶少女では、どちらかのクランはヘンなヤツに使わせると心に決めていました。
そのようなわけでヘンなヤツです。
心の赴くまま書いているので、キャラがブレたりもするかも知れませんが、このキャラクターについてはブレがデフォルトと認識して頂ければ。

シャドウパラディンについても、ブラスター・ブレードと同様の理由で、ブラスター・ダークは出さない方針です。本当はレンのイメージが強すぎるファントム・ブラスター・ドラゴンも出したくなかったのですが、えくすとらでもグチったように、シャドパラはVR以外、ロクなデッキが組めないんですよね。
イルドーナとか、個人的にも、この小説的にも、ほどよいヴァンガード向けの能力として出してくれたら嬉しいのですが。

次回の根絶少女は「The Mysterious Fortune」のえくすとらになります。
公開は発売日から1週間後の11月22日前後を予定しております。
次回もよろしくお願いいたします。


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12月「悲鳴すら根絶する脅威の速度」

「おーい! こっちこっち!」

「すまん、待たせた!」

「《オーロラスター コーラル》のスペック見たか?」

「おう。やばいね、あれ。かわいいし」

 

 今年一番の寒気が日本全土を包み込み、外では激しく雪が降り注いでいたとしても、少なくともこの場では関係の無い話だった。

 ドーム内に設営された会場は誰もが蒸し暑く感じるほどの熱気に溢れ、そこかしこでは頬を紅潮させたファイター達がヴァンガードの話題を語りあっている。

 ちょっと聞き耳を立てれば、それはさながらラジオのように雑多な情報をもたらし、ミオの耳を楽しませた。

 

「今年もこの日がやってきたね」

「ああ! ヴァンガード高校選手権!」

「どうせ天海(あまみ)学園の誰かが優勝だろう」

「そんなことより、ファイトしない? 新しく組んだグレネデッキ試させて」

「あ、はむすけ軸でやるって言ってたやつ?」

「ヴァンガード高校選手権とは!!」

 

 そんな中、ひときわ大きく張り上げられた声が耳朶を打つ。

 ミオは声のした方向を恨めしそうに見上げると、アリサが腰に手を当てて、聞いてもいない解説を始めていた。

「ヴァンガード高校選手権とは! 高校生限定の大規模な公式戦!

 ヴァンガード甲子園との最大の違いは、個人戦であること!」

「いきなりどうしたんですか?」

 アリサが呼吸を置いた刹那を見計らい、ミオは質問を投げ込んだ。

「いやね。12月に大きな大会があるとは言っていたけど、どんな大会が行われるかは説明してなかったなと思って」

「今さらですね。せめて1週間くらい前にお願いします。

 あと、これほど大きな大会の連絡が、前日に電話かけてきて『ミオちゃん、明日公式大会あるけど来れるよね?』なのはどうかと思います」

「わ、悪かったわよ」

「高校生限定の個人戦では最大規模の大会なのだけど、時期的に出場できない3年生も多いから、ヴァンガード界の新人戦とも言われているわね」

 ミオに責められしどろもどろになっているアリサに代わって、ユキが解説を引き継いだ。

「実際、ここで結果を残したファイターの多くが、次の年には活躍しているわ。

 未来のプロファイターを見つけたい企業も注目しているし、ヴァンガード甲子園の前哨戦と捉えている人も多いわよ」

「なるほど」

 

「天海学園は?」

「まだ来ていないんだってよ」

「大雪でフェリーが止まって来れないって聞いたよ?」

「マジかよ。天海はこれがあるからな……」

 

「天海学園? ずいぶんと噂になっているようですが」

 周囲の雑談から気になる単語を拾い集めたミオが、ふたりに尋ねる。

「あら、覚えてないかしら?」

「今年のヴァンガード甲子園の優勝チームだよ」

 彼女たちは口々に答えた。

「というか、出場さえしていれば、だいたい優勝は天海になっちゃうんだけどね」

「出場、さえ?」

 アリサの含みのある言い方に、ミオは小首を傾げる。

「うん。天海学園は本州から遠く離れた離島にあってね。少しでも天気が崩れると、島と本州を繋ぐ唯一の船が止まって大会にも出れなくなっちゃうの。

 ここ10年のうち、天海学園のヴァンガード甲子園優勝は6回。残りの4回は棄権。

 無敗にして常勝に非ず。まさしく全国大会の台風の目と言える高校ね」

「なるほど。その天海学園の人達が今日は来れなくなったということですね。残念です」

「あらあら。大抵の出場者は天海がいなければホッとするのよ?」

 肩を落とすミオに、ユキは苦笑しているとも、面白がっているともつかない笑みを浮かべた。

「そうなのですか? 強い人とファイトできる機会が失われるのはもったいないと思うのですが」

「そういうことが言えるのは、天海の強さを知らない人だけだよ。天海とファイトしてヴァンガードを辞めちゃう人までいるんだから。

 ほら、思い出してみて。次鋒のグランブルーとか凄かったでしょ?」

「次鋒……グランブルー……」

 首を捻ってミオは記憶の底を漁る。

「ミオちゃんって、記憶力はいいはずなのに偏りがあるよね」

「偏りがあるというよりも、興味の無いことはすぐ記憶から消去してしまう感じかしら。

 ヴァンガードは興味の対象になったけど、誰が強いとか、派閥はまた別みたいねえ」

 先輩2人がぼそぼそ囁きあっていると、ミオはようやく何かを思い出したのか、手のひらに拳をぽんと当てた。

「ああ、そう言えばフウヤさんがこっぱみじんに負けていましたね」

「誰がこっぱみじんだ」

 ミオの背後から鋭いツッコミが入る。

 振り向くと、そこにはフウヤがいた。その後ろには、御厨(みくりや)ムドウをはじめとした他の(セント)ローゼの生徒も並んでいる。

 フウヤは先ほどのトゲのある声音が嘘のような爽やかな笑みを浮かべると、「やあ」と片手を挙げた。

「おはようございます、フウヤさん」

 ミオが丁寧に頭を下げる。

「おはよう、ミオちゃん。

 俺も君と同じ気持ちだよ。天海が来れないと知って残念だ。グランブルー使いの彼とも再戦したかった」

 フウヤはそこで一度言葉を切ると、厳しい表情をしてミオを睨みつける。

「だが、天海がいないとなれば、俺の目標は優勝以外に無い」

 

「天海がいないんじゃ、今年のヴァンガード高校選手権に観る価値はないよな」

「天海がいない中で1番を決めてもねえ」

「井の中の蛙だよな」

 

「少なくとも、ああいう連中を黙らせる程度には圧勝できなければ意味は無いと思っている」

「それには私も同意します」

「そして、その最大の障害は君だと思っている」

「なっ!」

 その言葉に反応したのは、フウヤのすぐ後ろに控えていた長い黒髪の少女だった。

「私っ! ……いえ。私たち、聖ローゼカードファイト部の部員よりも、そこの女の方がフウヤ先輩の敵たりえると言うのですか!?」

「じゃあ聞くけど、この中でムドウさんに勝てる人はいるのかな?」

 フウヤが優しい声音のまま、厳しい質問を聖ローゼの部員に投げかけた。そのほとんどが目を逸らし、黒髪の少女も唇を悔しそうに引き結んで黙り込んだ。

「俺は勝てるぞ」

 ムドウがボケたが、誰も取り合わなかった。

「そういうことだよ。

 ミオちゃん、決勝で会おう」

 フウヤは堅い表情を僅かに崩して微笑むと、踵を返してミオ達の前から去っていく。聖ローゼの部員達もおずおずとそれに続いた。黒髪の少女だけは、去り際にオボロカートの如き形相でミオを睨みつけていったが。

「聖ローゼも小金井君も相変わらずね。強さが全てで、身内にも容赦無し」

 アリサが呆れたように呟いて、肩をすくめ、

「どうかしら」

 ユキは静かに疑問を呈した。

 アリサが驚いて、親友に目を向ける。

「あれで案外、発破をかけたつもりなのかも知れないわよ。

 ふふふ、部長は大変ねえ」

 着物の袖を口元に当て、ユキが楽しそうに笑う。

 言外に「あなたも頑張りなさいよ」と言われたような気がして、アリサはくしゃくしゃと髪をかいた。

「もちろん、あの言動にフウヤ君の本心がまったく含まれていないとも思わないわ。

 ミオ、覚悟はいいわね。きっと、今日のあの子は、今までで一番強いわよ?」

「望むところです」

 ミオは即答して頷いた。

「私が勝ちたいと、越えたいと思うのは、きっとそういうフウヤさんですから」

 そう言って、ミオは人ごみに紛れていくフウヤの背中をじっと追い続けていた。

 

 

 ダンッ!!

 ミオの目の前にあるテーブルにデッキが叩きつけられた。

 さすがにそれは錯覚だったが、それほどの怒りと気迫が、テーブル超しに目の前の少女から伝わってくる。

「お相手をお願いするわ」

 平静を装っているようでまったくできていない声音で、黒髪の少女が告げた。

 先ほどフウヤに食ってかかった聖ローゼのカードファイト部員で、何の因果か、ミオのトーナメント1回戦の相手は彼女のようだ。

「はい。よろしくお願いします」

 ミオが平常運転で頭を下げると、改めて目の前の少女を観察する。

 まず印象に残るのは、艶のある黒い長髪。

 彫りが深いわけではないが整った顔立ちは、ユキとはまた違ったタイプの大和撫子といった印象を受ける。もう少し表情を和らげて、なおかつ黙っていればだが。

「はっ。余裕でいられるのも今のうちよ。あなたがムドウ先輩に勝ったのは単なるマグレだって、フウヤ先輩に気づいてもらうんだから」

 少女がミオに指を突きつけて宣言すると、ちょうどファイト開始のアナウンスが会場に流れた。

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《ロゼンジ・メイガス》!」

 ミオの長い1日がはじまった。

 

 

 ファイトが始まったのは、ミオ達のテーブルだけではない。

 そこかしこで「スタンドアップ!」の掛け声が響き渡り、また決着もついていく。

 

 

「《無双剣鬼 サイクロマトゥース》でアタック! あなたのデッキトップをドロップして……ノーマルユニットだったので、サイクロマトゥースに(クリティカル)+1!」

 鬼の双角のごとく、額に虫の大顎を生やした昆虫怪人が大地を蹴る。艶消しの黒い甲殻が宵闇に溶け、次の瞬間には二条の剣閃が月明かりを浴びて弧を描き、哀れな犠牲者を斬り裂いていた。

「よしっ! ありがとうございました!」

 響星(きょうせい)学園2年、天道アリサ。1回戦突破。

 

 

ファントム・ブラスターのスキル発動(ダムド・チャージング・ランス)!!

 ファントム・ブラスターでアタック(シャドウ・イロージョン)!!

 さあ、終末を受け入れろ!!」

 影竜の放った黒炎が世界を呑み込んでいく。生けるものすべてに、無意味にして無価値なる終焉を。誰もいなくなった闇の中で、影竜は独り嗤う。

「ふっ、相手が悪かったと思え」

 聖ローゼ学園3年、御厨ムドウ。1回戦突破。

 

 

「ライド! 『煌天神 ウラヌス』のスキル発動! 5枚目のフォースをヴァンガードに! 星域となったV後列に『絶界巨神 ヴァルケリオン』をコール!」

 神の住まう領域に、天を衝く星の巨人が降臨する。それがひとたび拳を振るうと、敵対者は星ごと粉砕され、塵となって永遠にこの宇宙を彷徨うのだ。

「とどめです。ヴァルケリオンでアタック!」

 聖ローゼ学園1年、神薙(かんなぎ)ノリト。1回戦突破。

 

 

「スペリオルライド! 『レーブンヘアードエイゼル』!!」

 疾く。ただ疾く。もっと疾く。

 絶望に堕ちた漆黒の獅子が戦場を駆け抜ける。

 長きに渡る戦いは、優しき英雄の心に暗い影を落とした。それでも彼は、感情を殺して剣を振るい続ける。

 守れなかったものを守るために。

「……俺の勝ちだ」

 聖ローゼ学園2年、小金井(こがねい)フウヤ。1回戦突破。

 

 

「やっぱり聖ローゼが強いな! 3年の御厨ムドウに、2年で部長の小金井フウヤ!」

「天海がいないと、聖ローゼ一強だな」

「ベスト4……いや、ベスト8くらい聖ローゼが独占するんじゃないか?」

「ん? おい! あそこの24番テーブルを見てみろよ!」

 

 

「グレイヲンのスキル発動。《スカーレットウィッチ ココ》をデリート」

「くっ……」

 黒髪の少女が小さく呻きながらヴァンガードを裏返す。

「いきます。ガノヱクのブースト、ヴァンガードのグレイヲンでアタック」

「プロテクトで完全ガードよ!」

「ツインドライブ。

 1枚目はトリガー無し。

 2枚目は(ドロー)トリガーです。パワーはヴァンガードへ。

 続けて、ガタリヲでブーストしたギヲでアタックします」

「プロテクトで完全ガード!」

「ドロヲンでブースト。ギヴンでアタックします」

「プ、プロテクトッ!!」

「これでプロテクトは無くなりましたね。では、ギヴンのスキル発動です。私のリアガード3体と、手札を3枚をドロップして、グレイヲンをスタンドさせます。

 ドライブ-1のグレイヲンでヴァンガードにアタック」

「《オラクルガーディアン ニケ》と《サイキック・バード》でガード! ……1枚貫通よ!」

「では。ドライブチェック…………★トリガーです」

「そっ! そんな……私がっ! こんなところでっ!」

 少女が喚きながらカードをめくる。

「こんな……ところで……」

 ノートリガー。

 6枚目のカードが少女のダメージゾーンに置かれ、ミオは微かに安堵の吐息をついた。

「言うだけのことはありましたね。強かったです」

 そう言って手を差し出したミオだったが、当の少女は俯いたまま動かなかった。

「……ありがとうございました」

 他人の感情の機微には疎いミオだが、負けた悔しさだけはよく知っていた。

 礼だけ告げて立ち去ろうとしたその時、少女がガバッと顔を上げて「待ちなさい!」と叫んだ。

「どうやら、あなたの強さは本物だったようね。ごめんなさい」

 そう言う彼女の顔は険しいままで、目尻には涙さえ浮かべていたが、どこか憑き物が落ちたような感じもした。

「はあ、どうも」

 改めて差し出された手を握り返し、ミオは生返事をする。

「名前を教えてくれる?」

音無(おとなし)ミオです」

「私は神薙(かんなぎ)ミコト。いつか高校生最強のファイターになる予定なんだから。覚えてよね」

「はあ」

「いや、本当に覚えててよね!?」

 この時、ミオは目の前の少女に既視感を覚えており、その正体もすぐに思い当たった。

 居丈高で自信家。だがそれは自他問わず強さに誠実なだけ。そう。その姿は早乙女マリアによく似ていた。

 案外、1年の頃の彼女は、ちょうどこのような感じだったのかもしれない。

「私に勝ったんだから準優勝しなさいよ!」

「優勝ではないんですね」

「当たり前でしょ! 今年の優勝はフウヤ先輩に決まってるんだから!」

 そう言って、ミコトはペロリと舌をだして笑った。

 聖ローゼ学園1年、神薙ミコト。1回戦敗退。

 響星学園1年、音無ミオ。1回戦突破。

 

 

「聖ローゼが負けた!?」

「それも1年最強と言われてる神薙ミコトが!」

「ココのプロテクトをギヴンで強引に突破しやがった!」

「あの子、誰!?」

「響星学園? 音無ミオ?」

「どっちも知らねー!」

「でもかわいくない?」

 

 

 ヴァンガード高校選手権は続く。

 ミオの2回戦の対戦相手も聖ローゼの1年生。神薙ミコトによく似た顔立ちの少年だった。

 顔を合わせるなり、少年は頭を深々と下げてきた。

「姉が無礼ををまずは謝罪します。もうしわけありませんでした」

「いえ。結果的にあの人と友達になれたようですし」

 謝辞を適当に受け入れ、ミオはそれよりも気になっていた点を指摘する。

「ミコトさんとは姉弟でしたか」

「はい。神薙ミコトは双子の姉にあたります。僕は神薙ノリト」

 丁寧に自己紹介して、少年は柔和な笑みを浮かべる。姉弟でも性格はだいぶ違うようだ。あの姉の弟だからこそ、このような性格になってしまったのかも知れないが。

「音無さんが気を悪くされていないのでしたらよかったです。もう気づかれているかとは思いますが、姉はフウヤ先輩のことが大好きなものでして。もちろん異性として」

「そうなんですか」

 まったく気づいていなかった。

「同じ1年生の女子で、フウヤ先輩に認められたのがよっぽど悔しかったんだと思います。今後も何かと突っかかってくるかも知れませんが、適当に相手していただければ嬉しく思います。

 とまあ、お喋りはこのくらいにしてはじめましょうか。姉に勝ったからと言って、僕にも勝てるとは思わないでくださいよ」

「ええ」

「いきます! スタンドアップ!」

「ヴァンガード」

「《新風のパーン》!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

 

 

「小金井君。ミオちゃんと戦いたければ、まずはあたしを倒してみなさい!」

「天道さん……」

 一方、別のテーブルではアリサとフウヤが向かい合っていた。

「悪いけど、君に構っている暇は無い。

 スペリオルライド! 《レーブンヘアードエイゼル》!!

 ★+1のレーブンヘアードで《ブラッディ・ヘラクレス》にアタック!!」

「えっ、ちょっ、タンマ! こっちまだG2……」

「続けてホエルのブースト! カエダンでアタック! さらに、ガレス! ボーマン! ワンダーエイゼル!」

「ダメージチェック……負けちゃった。

 いやー、あはは、やっぱり強いね」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いたアリサが渇いた笑いを漏らした。

「ごめんね。今回だけはどうしても譲れないんだ」

「ううん。頑張ってね。あたしに勝ったんだから。まあ、ミオちゃんの次くらいには応援してるよ」

「ああ。ありがとう」

 響星学園2年、天道アリサ。2回戦敗退。

 聖ローゼ学園2年、小金井フウヤ。2回戦突破。

 

 

「Gアシスト!!!」

 ムドウの宣言が会場内に木霊する。

 ぺら ぺら ぺら ぺら ぺら

「バカなっ!!」

 そして、悲痛な叫びが響き渡った。

 聖ローゼ学園3年。御厨ムドウ、2回戦敗退。

 

 

 他の卓で決着がついていく中、ミオとノリトのファイトも終盤に差し掛かっていた。

「グレイヲンのスキル発動。《震天竜 アストライオス・ドラゴン》をデリートします」

「くっ……けどあなたのダメージは5枚とも裏です。このターンを凌げば、あなたはもうデリートはできない」

「なるほど。そういう想定でウラヌスも積極的に(リア)にコールしていたのですね……甘いです。

《噛み砕く根絶者 バルヲル》をコール」

「!?」

「バルヲルのスキル発動。これであなたは次のターン、デリートしたユニットを表にすることができません」

「くっ……僕の判断ミスというわけか」

 次のターン、ノリトはデリートを解除することができず、グレイヲンの追撃を受けて敗れた。

「さすがですね。姉さんやムドウ先輩を倒し、フウヤ先輩も認めるだけのことはあります」

「どうも」

「どうやら、先輩の予言も当たりそうだ。決勝はあなたとフウヤ先輩になるのでしょうね。

 ふふ、楽しみに見させてもらいますよ」

 そう言って微笑んだノリトは、静かに席を立った。

 聖ローゼ学園1年、神薙ノリト。2回戦敗退。

 響星学園1年、音無ミオ。2回戦突破。

 

 

「あの音無ミオって子、また聖ローゼに勝ったぞ!?」

「こうなると、まぐれじゃないのかも」

「俺、あの子、応援しようかなー。かわいいし」

「聖ローゼ一強を終わらせてくれるのなら、なんだっていいよ」

 

 

 その後もフウヤは順当に。ミオは大番狂わせを続けて、勝ち進む。

 そして、それはまるで導かれるかのように、2人は決勝の舞台で向かい合った。

 にも関わらず、2人は一言も言葉を交わさず、黙々とファイトの準備を進めている。

 気がつけば、ギャラリー達も固唾を呑んで、その様子を見守っていた。

「「よろしくお願いします」」

 ようやく発された、2人の言葉が重なる。

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《紅の小獅子 キルフ》!」

「私のターンです。ドロー。

 ライド。《速攻する根絶者 ガタリヲ》」

「俺のターン。ドロー。

 ライド! 《美技の騎士 ガレス》!

 ガレスでアタック!」

「ノーガード。

 ダメージチェック、トリガー無しで私のターンです。

 スタンド&ドロー。

 ライド。《剪断する根絶者 ヱヴォ》

 そして、左右のRに《慢心する根絶者 ギヲ》をコールします。

 バトル。まずは右列のギヲでアタックします」

「ノーガード。ダメージチェック、トリガーは無し」

「ヴァンガードのヱヴォでアタック」

「ノーガード」

「ドライブチェック。

 ★トリガー。パワーは左のギヲに。★は……ヴァンガードに」

「……ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(フロント)トリガー」

「ギヲでアタック」

「ノーガード。引トリガーで1枚ドロー」

 ミオの2ターン目にして4枚目のダメージ。多くのギャラリーは、決勝戦にしてはあっけない結末を予感して、小さく溜息をつく。

 だが、一部の者は違った。

 例えば、ユキとアリサ。

 アリサは小声でユキに「まずいんじゃない、これ?」と囁き、ユキはそれに小さく頷く。

 例えば、御厨ムドウ。

 フンと嘲笑うかのように鼻で息をつくと、「急ぎ過ぎだ。バカめ」と言葉を漏らす。

 そして、音無ミオ。

「……わざとダメージを受けましたね」

 確認するように、フウヤへと問いかける。

「それを分かって、君もアタックしたんじゃないのかい?」

 問いを返されて、ミオは覚悟をこめて頷いた。

「全力のあなたを倒さないと、意味がありませんから」

 それを聞いたフウヤはカードを引くと、冷たく告げる。

「敵に全力を出させないのも戦略のうちだ。そんな矜持に囚われているようでは、俺は倒せない。

 後悔させてあげるよ……ライド! 《風炎の獅子 ワンダーエイゼル》!!」

 風が舞い、炎が踊り、黄金の鎧を纏った銀髪の騎士が姿を現す。

「コール! 《紅の獅子獣 ハウエル》! そして、ワンダーエイゼルのスキル!

 ハウエルを退却させ、デッキから《灼熱の獅子 ブロンドエイゼル》にスペリオルライド!!」

 風と炎がワンダーエイゼルを包むと、それは獅子を模した鎧となって騎士を守護する。

「さらに! 手札の《レーブンヘアードエイゼル》のスキル!、レーブンヘアードにスペリオルライド!」

 エイゼルの眩いばかりに輝いていた黄金の鎧がくすみを帯び、その輝く銀髪が漆黒へと染まっていく。

 凶兆を告げる烏の如き濡れ羽色へと。

 運命に抗えず闇へと堕ちた、とある英雄の悲劇的結末がそこにあった。

「さらに《聖弓の奏者 ヴィヴィアン》をコール。ヴィヴィアンのスキルで……《黒鎖の堅陣 ホエル》をスペリオルコール。

 さらにアクセルサークルに《黒鎖の進撃 カエダン》をコール。カエダンのスキルでスペリオルコール。

 さらにコール……コール……コール……!!」

「ちょ、ちょっ、ちょっと」

 終わらないフウヤのコール宣言に、アリサがうわずった声をあげる。

 気がつけばフウヤのサークルは、追加された2つのアクセルⅡサークルを含め、全てが埋まっていた。

「言っておくが、レーブンヘアードにドライブ-1などという慈悲は無い。ただ眼前の敵を打ち倒すのみ。

《だんてがる》のブースト! レーブンヘアードでアタックし、スキル発動! CB1でパワー+15000! ★+1! 君は守護者でガードできない!!」

「2体のギヲでインターセプト。さらに★トリガーでガード。パワー合計値は45000。2枚貫通です」

「ドライブチェック! 1枚目、前トリガー!」

「げっ、次もトリガーだと貫通しちゃう……!!」

 焦るアリサに、ユキが「落ちつきなさいな」とたしなめる。

 フウヤが山札に手をかけた。

「2枚目、トリガー無し。まあそうだろうね。

 続けて、グンヒルトのブースト、ヴィヴィアンでアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック、治トリガー。効果はヴァンガードのギアリに」

「だが、ダメージ回復はできない」

「前トリガーを相殺できただけで十分です。さあ、続けてください」

「アクセルサークルのカエダンでアタック!」

「エルロでガード」

「アクセルサークルのガレスでアタック!」

「引トリガーでガード」

「ホエルのブースト、ボーマンでアタック!」

「それはノーガードです。ダメージチェック。トリガー無し」

「……ターンエンドだ。このターンのダメージを2点で凌ぐとはね」

 憮然としながらも感心したような口調で、フウヤがターンエンドを宣言する。

「私のターンです。スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》

 イマジナリーギフト、フォースⅠはヴァンガードへ。

 グレイヲンのスキル発動。レーブンヘアードをデリートします」

 襲い来るグレイヲンの掌を、黒きエイゼルの刃が受け止める。だが、グレイヲンは構わずそれごとエイゼルを握りつぶし虚空へ散らすと、無防備な魂となったフウヤの姿が露わになった。

「続けてアルバをコールし、ドロップゾーンのエルロのスキル発動。CB(カウンターブラスト)1でエルロをスペリオルコールします」

 グレイヲンとなったミヲを守護するかの如く、隻腕の根絶者が並び立つ。

「いきます。グレイヲンでアタック」

「《光輪の盾 マルク》で完全ガード!」

 フウヤめがけて振り下ろされた巨大な拳が、金色の盾を構えた少年に受け止められる。

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し。

 続けてアルバでアタックします」

「トロンでガード! ボーマンでインターセプト!」

「エルロでアタック」

「《だんてがる》でガード!」

「ターンエンドです」

 ミオのターンエンド宣言を受け、フウヤはカードを引く。

「ふっ」

 そして、小さな笑みをこぼした。

「ここでこいつを引くとはね……面白い。

 ライド!!」

 レーブンヘアードの全身が夜明けにも似た輝きに包まれる!

 宵闇を思わせる黒髪は、世界を照らす太陽の如き金髪に。鈍色の鎧は、黄金よりも眩い光を放つ白金へと再生を遂げる。

 絶望を越え、希望の象徴となった騎士が、新たなその名を吠え叫ぶ。

「《光輝の獅子 プラチナエイゼル》!!!」

 生まれ変わったエイゼルは刃を一振りすると、その後を追って鮮やかな虹が架かった。

「新たなアクセルサークルにワンダーエイゼルをコール! そのスキルでホエルの前列に《真実の聴き手 ディンドラン》をコール。ディンドランのスキルでCC! ホエルのスキルでパワー+10000!

 そして、プラチナエイゼルのスキル発動!

 さあ、バトルフェイズだ! アクセルサークルのガレスでアタック!」

「アルバでインターセプト」

「ディンドランでアタック!」

「エルロでインターセプト」

「ここからが本番だ! プラチナエイゼルでアタック!!」

「……ノーガードです」

「ドライブチェック時にプラチナエイゼルのスキル効果! 山札の上から2枚を見て、1枚をトリガーゾーンに。1枚をリアガードにコールする!

 リアガードにコールするのはブロンドエイゼル!

 ガレスのいるアクセルサークルへスペリオルコール!

 トリガーゾーンに置くカードは★トリガーの《フレイム・オブ・ビクトリー》!

 ★はプラチナエイゼル! パワーはブロンドエイゼルへ!

 セカンドチェックでも同様のスキル効果! トリガーゾーンにプラチナエイゼル! ディンドランのいるリアガードサークルにレーブンヘアードをスペリオルコールだ!

 ホエルの効果でレーブンヘアードに+10000!!」

 おおっ!!

 歓声があがり、誰かが叫んだ。

「フウヤの盤面に3体のエイゼルが揃った!!」

 灼熱の炎を纏いしブロンドエイゼル。

 絶望の闇を抱きしレーブンヘアードエイゼル。

 希望の光を背負いしプラチナエイゼル。

 3体の勇者が、今、時空を越えて侵略者の前に並び立つ。

「行くぞ、プラチナエイゼル!!」

 フウヤと一体になったプラチナエイゼルが雄叫びをあげ、グレイヲンめがけて跳んだ。

 空中で猫のように身を翻し、刃を横薙ぎに一閃。

 続けて、落下する勢いのまま刃を縦に振り下ろす。

 グオオオオオッ

 十字に斬り裂かれたグレイヲンが苦悶の雄叫びをあげた。

「ダメージチェック。1枚目、トリガー無し。2枚目、★トリガー。効果はすべてヴァンガードに」

「ならば! 続けてブロンドエイゼルでアタック!」

 体勢を立て直したグレイヲンに、今度は紅蓮の炎を纏った獅子が迫る。

「ギアリでガードします」

 グレイヲンを庇うように現れた根絶者を、ブロンドエイゼルは一刀のもとに斬り捨てる。真っ二つになったギアリは燃えあがり、灰となって崩れ落ちた。

「ホエルでブースト! レーブンヘアードでアタック!」

 ホエルの放った鎖がグレイヲンを絡め取り、レーブンヘアードが黒髪を風に踊らせ、グレイヲンの眉間めがけて突撃する。

「ギヲでガードします」

「!?」

 レーブンヘアードの凶刃がグレイヲンに届く寸前、ギヲがその前に立ち塞がった。刃がその体に埋まり、紫色の鮮血がパッと飛び散る。

 胸に刃を突き立てられながらも、ギヲは勝ち誇ったかのような不気味な笑みを浮かべると光の粒子となって消えていった。

「……ターンエンド。

 君はG2バニラを……ギヲを何枚デッキに入れているんだ?」

「私のターンですね。スタンド&ドロー」

「ああ、答えなくていい。だが、これだけは教えて欲しい。俺のゴールドパラディンに対抗するため、デッキの総ガード値を上げてきたというのか?」

「フウヤさんは自意識過剰ですね。私はただギヲがかっこいいから好きなだけですよ」

 本気とも冗談ともつかない返答をしながら、ミオは2枚の手札のうち1枚に指をかけた。初手から温存していた切り札に。

「ライド。《波動する根絶者 グレイドール》。イマジナリーギフト、フォースはヴァンガードへ」

「現れたか……!!」

「グレイドールのスキル発動。カエダンを裏でバインド(バニッシュデリート)。プラチナエイゼルをデリートします」

 鋼鉄の根絶者が放つ波動が、カエダンを虚空へ消し飛ばし、フウヤのプラチナエイゼルへの憑依をも引き剥がす。

「ここまでなら、フウヤさんと2回目に戦った時と変わりません。ですが、今の私は違います」

 そう言って、最後の1枚に指で触れた。

「これが、あの日の私に足りなかったもの。グレイドール後列に《速攻する根絶者 ガタリヲ》をコールします。

 ガタリヲのブースト、グレイドールでアタックです」

「なるほど。君も成長したというわけだね……」

 フウヤがほんの一瞬優しい顔に戻って、慈しむようにミオを見る。

 が、次の瞬間、厳しい形相で叫んだ。

「甘い! ビクトリーとディンドランでガード! ヴィヴィアンとワンダーエイゼルでインターセプト! 手札が1枚以下になったので後列のグンヒルトでインターセプト! 合計ガード値は50000!!

 君と同じように俺も成長している! だから、君は俺を越えることはできない! 越えさせはしない!!」

「結局、あの日と同じ1枚貫通というわけですか。いいでしょう。全てを私のデッキに委ねます……ドライブチェック」

 ミオの掌が、彼女の山札と重なり合う。

「1枚目……」

 気がつけば、あれほど熱気に包まれていた会場は、誰もが呼吸を止めてミオの引くカードを見守っており、今やどこか厳かささえ感じられる静謐な空気だけが場を満たしていた。

「トリガー無し」

 ミオがゆっくりとトリガーゾーンにカードを置き、次を引くためデッキに指をかける。その際、慈しむようにカードを撫でた。

「2枚目……」

 ミオが運命のカードをめくる。

「★トリガー」

 ――!!!!

 会場が爆発した。

 そう錯覚するほどの歓声が空気を震わせる。

「効果はすべてヴァンガードへ。

 まったく……気の早いギャラリーですね」

「本当にね。ダメージチェック。

 1枚目……前トリガー」

 ミオとフウヤが呆れたように言葉を交わしながら、ファイトを続ける。

 フウヤが5枚目のカードをダメージゾーンに置いた。

「2枚目……治トリガー」

 騒然としていた会場が一瞬で凍りついた。

 フウヤが1枚ダメージを取り除き、治トリガーをダメージゾーンに置く。

「ですが……」

「わかっている。グレイドールの★は3になっていたね」

 フウヤが最後のカードをめくる。

「3枚目…………トリガー無しだ」

 主を守護せんと立ち塞がる騎士達を波動で跳ね除け、グレイドールがフウヤの魂を握りしめる。

「ミオちゃん……」

 すさまじい圧力に苛まれながらも、フウヤは穏やかな笑みを浮かべ、鋼鉄の装甲の奥にいるミオへと語りかけた。

「どうしました? 命乞いなら聞けませんよ」

「このファイトが終わったら、君の笑顔が見たいな。……この俺に勝ったんだ。心から喜んでほしい」

「確約はできませんが分かりました。では、さようなら」

「ああ、さようなら。…………おめでとう」

 グレイドールが拳を握りしめる。

 英雄に宿るに相応しい高潔なる魂が、輝く粒子となって虚空へと散った。

 

 

「勝った……? 私が、フウヤさんに…………勝った! 勝ちました! やった! やったぁ!!」

 椅子から立ち上がったミオが満面の笑みを浮かべ、跳びあがらんばかりに喜んだ。

 その様子に会場全体が呆気に取られ、その中でも特にミオをよく知る者達は、両拳を握りしめて子供のようにはしゃぐ彼女を見て、唖然とした表情を浮かべている。

 唯一、ユキだけはいつも通りの微笑みを浮かべて頷いていた。

 パチ、パチ、パチ。

 ミオを讃えるように、フウヤが拍手を送る。その顔には充足した笑みが浮かんでいたが、頬には一筋の涙がつたっていた。

 続いて、ユキが、アリサが。ムドウが、ミコトが、ノリトが。次々と拍手を送り、やがてそれが会場全体に伝播していく。

 気がつけば、ミオの周囲を万雷の拍手が取り囲んでいた。

(ついに世界が音無ミオの名を知り始めた……)

 我に返ったのか、戸惑った表情を浮かべて周囲を見渡しているミオを見据えながら、フウヤは独りごちる。

(きっと君は全国区のファイターになるのだろう。だが、俺もすぐに追いついて見せる)

 小さなミオの背は、この日、彼にとって追うべき目標となった。




長きに渡ったフウヤとの戦いも、これでようやくひと段落です。
そして、オラクルシンクタンク使い『神薙ミコト』、ジェネシス使い『神薙ノリト』の姉弟も顔見せです。
これからの活躍に御期待いただければと思います。

次回は『Crystal Melody』の『えくすとら』となります。
バミューダばかりのこのパック。どう料理したものか……。

公開は発売から1週間後の12月28日前後を予定しておりますので、その時にまたお会いできれば幸いです。
栗山飛鳥でした。


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1月「ひた走るは死の荒野」

 ドラゴニック・オーバーロード。

 惑星クレイ最強の戦士は誰かという話題において真っ先に名前が挙がるであろう、「黙示録の風」とも讃えられる帝国(ドラゴンエンパイア)の将である。

 強襲爆撃部隊「かげろう」は彼の名を以って語られることが多いが、それは誤りだ。

 彼に認められた者しか入隊することは許されないかげろうは、詰まるところ精兵の集まりであり、その一兵卒ですら並の軍隊なら単騎で殲滅することができる戦闘力を誇る。

 最強の将に率いられし、最強の軍。

 それこそが帝国が誇る第一柱軍かげろうの実態である。

 

 

「《ドラゴニック・オーバーロード》でアタック!!」

 真紅の竜が炎を纏った大剣を振り下ろす。その先にいるのは、自身と全く同じ姿をした竜であった。

 だが、同じなのは見た目だけで、今まさに襲いかかられんとしている紅竜はおよび腰になり、戦場を後ずさっていた。

「ゴッ、ゴジョーとターでガードっ!」

「甘えよ! ゲット、(クリティカル)トリガー! 効果は全てオーバーロードに!!」

 雑兵を剣の一振りで吹き飛ばし、オーバーロードは自らの偽物に、その刃を突き立てる。

「《ドラゴニック・オーバーロード》のスキル発動! エターナル・フレイム!!

 手札を2枚捨て、《ドラゴニック・オーバーロード》をスタンドする!!

 再び、オーバーロードでアタック!!」

 大君主の名を騙った不届き者に、オーバーロードは幾度も粛清の刃を振り下ろした。

 真の王者は我をおいて他に無し。それを知らしめんがため、偽物には見せしめになってもらわねばならぬ。

「ドライブチェック! ゲット、★トリガー!」

 敵を完膚無きまでに八つ裂きにして焼き尽くし、ただひとり残った孤高の王者は紅蓮に染まる空へと咆哮をあげた。

 

 

 カードショップ『ジャスティス』は、年始となる今日も休まず営業していた。玩具店にとっては書き入れ時であるため、この時期に休む店などほとんど無いが。

 客層としては、お年玉を手にした買い物客がやはり多く、対してフリーファイトスペースは空いており、そこにいる客はまだ1つのペアしか見当たらない。

「負けました……やっぱりリュウジ君は強いね」

 そのうちの1人。かげろうを使っていた少年が6枚目のカードをダメージゾーンに置き、力無く笑った。

 その声はまだ声変わりもしていない。小柄で背も低く、実際には中学1年生なのだが、それよりもなお幼く見えた。

「…………」

 一方、リュウジと呼ばれた先のファイトに勝利した少年は、むっつりと口元を引き結び黙っている。

 目の前の少年とは対照的に、小太りで大柄。いかにもなガキ大将といった風貌の少年が、やがてゆっくりと口を開いた。

「なあ、タツミ。お前、もうかげろう使うのやめないか?」

「え?」

 タツミと呼ばれた小柄な少年は、その提案に肩をビクッと震わせ、視線を彷徨わせた。

 それに乗じて、リュウジは厳しい声音で畳みかける。

「いや。かげろうはまだいいよ。だけどもう金輪際《ドラゴニック・オーバーロード》は使うな。オーバーロードは惑星クレイ最強の戦士でなければならないんだ。お前みたいな弱いやつが使ったら、オーバーロードの名が汚れるんだよ」

 内容はともかく、その声の響きにタツミ少年を侮辱する意図は一切なく、オーバーロードは最強でなければならないと本気で信じているかのようだった。

「う、うん……そう、だね……」

 少なくともそれは伝わったのだろう。同意はするものの、了承までする気にはどうしてもなれず、タツミは曖昧に俯いたまま言葉を無くしてしまった。

「じゃあ……」

 はっきりしないタツミの態度に業を煮やしたリュウジは、彼からデッキを取り上げようと手を伸ばす。

 が、別方向から現れた小さな手が、先にタツミのデッキをひょいと奪い取ってしまった。

「聞き捨てなりませんね」

 手の中でデッキを広げて確認しながら、闖入者が言う。それは小柄な少女だった。

(僕と同じ年頃の子かな……?)

 今、店に来たばかりなのだろう。タツミと同じくらいの背丈を、暖かそうなファーコートで包んでいる。目鼻立ちは整っており、冷たさを感じさせるほどに無表情だったが、それ以上に幼さが勝っており、とても可愛らしい。何よりも印象的なのはその髪で、まるで雪のように真っ白であった。

「ヴァンガードはなりたい自分をイメージするカードゲームのはずです。誰が何を使おうと、口出しされる謂れはありませんよね」

 そう言って、白髪の少女はタツミの手元にデッキを置き直した。

「…………」

 てっきりリュウジが即座に反論するかと思いきや、彼は少女を凝視したまま固まっている。その表情からは強い驚きが見てとれた。

(たしかにきれいな女の子だけど……リュウジ君がこうもはっきり言われて黙ってるのも珍しいな)

 仕方無く、タツミは彼に代わって尋ねることにした。

「あの……君は?」

「名乗るほどのものではありません」

「あ、そう……」

 少なくとも、変わった子であることは確かなようだ。

「提案です。今から4日間、私がこちらの彼を一人前のヴァンガードファイターに鍛えてみせましょう。ですので、今週の日曜日。もう一度、彼とファイトしていただけませんか?」

 少女はタツミの肩に手を置きながら、リュウジにそんなことを言った。

 リュウジは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに少女から目を逸らすと「俺は別に構わねーけど」とぶっきらぼうに告げた。

「あなたはいかがですか?」

 肩に手を置いたまま、少女がタツミの顔を覗きこむようにして尋ねてくる。

 この少女が何者なのかは分かりかねた。その言によるとタツミを鍛えてくれるらしいが、年の近い少女に教えを請うことに抵抗もあった。

 けど。それでも。

 強くなるためなら、悪魔に魂を売っても構わない。

 タツミの脳裏に、何故かそのようなイメージが湧いて出た。

「きまりですね」

 タツミは知らぬうちに頷いてしまっていたらしい。

 不思議な少女との契約が、いつの間にか結ばれてしまっていた。

 

 

「あ、あの、僕、山崎(やまざき)タツミって言うんだ。よ、よろしくね」

 リュウジが去り、ふたりきりになった『ジャスティス』のファイトスペースで、タツミはしどろもどろになりながら自己紹介をした。

「はい。よろしくお願いします」

 白髪の少女はコートを脱いで椅子にかけながら、それに応じる。

 タツミは改めて目の前の少女を観察した。

 淡い色のセーターに包まれた小柄な体躯。赤子のようにきめ細やかな肌に、透き通るように艶めく白い髪。彼女を構成するパーツのひとつひとつが幼さにも似た若々しさを感じさせる。

(やっぱり同い年くらい……だよね。敬語使われてるし、ひょっとしたら僕が年上に思われているのかも)

 だが、何故だろう。たまに彼女から大人でも発しないような途轍もない圧を感じるのだ。

「さて。それでは特訓をはじめましょうか。

 まず、勢いで決めてしまいましたので確認しておきたいのですが、今日から4日間、毎日このショップに来れますか? 無理な日があれば教えてください」

「あ、大丈夫だよ。特に予定は無かったから……本当は、リュウジ君と毎日ヴァンガードをするつもりだったんだけど」

「リュウジさん。さっきの失礼なファイターですね」

「あ、うん。で、でも、乱暴なところもあるけれど、悪い人じゃないんだよ。僕のクラスではいつも中心人物だし、運動神経も抜群で……僕に無いものをたくさん持ってる」

「……あの人を尊敬しているんですね」

「うん。ヴァンガードもリュウジ君に憧れて始めたんだ。ルールを覚えて、今日、はじめて対戦できたのに……負けてばっかりで。僕が弱いから、リュウジ君を怒らせちゃった」

「ヴァンガードを楽しむのに強いも弱いも関係ありませんが……仲良くなりたい相手が、それを求めてくるのなら仕方ありませんね。これを機に強くなってしまいましょう。

 強くなること……それはとても簡単です」

 急に話が本題へと斬り込んできたため、タツミは思わず唾を呑んだ。

 少女はどこからともなく飾り気の無いデッキケースを取り出すと、その中身をファイトテーブルに広げて置いた。

「根絶者を使うことです。デリートしてしまえば、オーバーロードと言えども恐れるに足りません。

 ……む、どうしました? 椅子からずり落ちて」

「いや……僕はかげろうで勝ちたい、かな」

「むむ。そうでしたか。それは失礼しました」

 広げた根絶者デッキを丁寧に片付けながら、少女がさして残念でも無さそうに言う。

 こうなることは分かっていたようだが、ダメ元で提案してきたようだった。

「根絶者が使いたくなったら、いつでも言ってください」

「う、うん。そうさせてもらうよ……」

 そのくせ、諦めは悪かった。

「では、まずはあなたのかげろうデッキを強化しましょうか。お金はありますか?」

「う、うん。お年玉を持ってきてるよ」

「では、そのお金でパックを買えますか? さすがにそれを強制はできませんが。

 安心してください。タツミさんがお金を出すつもりが無くても、強くなれるプランは考えてありますので」

「い、いや。もともとパックを買うつもりで持ってきたお金だから大丈夫だよ。

 けど、どのパックを買ったらいいのかな?」

「『最凶! 根絶者』を」

「……それ、かげろう入ってないよね?」

「失礼。間違えました。

 先ほどタツミさんのデッキを見せて頂いたところ、エースユニットよりも、まずはデッキの基盤となるカードを揃えた方がいいように見受けられました。

 まずは第1弾のカードを揃えるのがいいのではないでしょうか。狙い目は、完全ガードの《ワイバーンガード バリィ》や、デッキの主軸となる《バーサーク・ドラゴン》あたりですね」

「わ、わかった! 買ってくるから待ってて」

 たまに話が根絶者に逸れるものの、アドバイス自体は的確で、納得もできるものだった。

 タツミは目的のパックを2箱買うと、少女の待つテーブルの上に優しく置いた。

「おや。奮発しましたね」

「うん。けど、まだ1箱を買えるくらいのお小遣いは余ってるよ」

「そうですか。それの使い道は、そのパックを空けてから考えましょう」

 そうして、タツミは購入したパックを開封していく。人の少ない店内に、インクのツンとした香りが広がった。

「やった! いきなり《バーサーク・ドラゴン》だ!」

「ええ。幸先がいいですね」

 目当てのレアカードというのは、宝石のように輝いて見えるものだ。

 大切なカードをスリーブに入れて選り分けながら、タツミは次のパックを開封していく。

「あ、VR(ヴァンガードレア)は《パーフェクトライザー》か。ノヴァグラップラーもかっこいいよね。かげろうのデッキが完成したら、試しに組んでみたいな」

「え。根絶者は……」

「あはは。機会があったらね」

 そんな他愛の無いやり取りも交えながら、タツミは2つ目の箱に手をかけた。

「……楽しいね。パックを空けるのって」

「そうですね。次はリュウジさんと一緒にできるといいですね」

 その一瞬、これまで無表情にタツミを見守っていた少女の表情が微笑みの形に変化した。

「!? う、うん。そうだね……」

 タツミが驚いて目をしばたたかせた時にはもう、少女はいつも通りに戻っていたが。

「ふむ。元々持っていたものを合わせて《ワイバーンガード バリィ》が3枚。《バーサーク・ドラゴン》が2枚。《希望の火 エルモ》が1枚。他のRRも2~3枚は揃いましたし、VRの《ドラゴニック・ウォーターフォウル》こそ当たりませんでしたが、上々の成果と言えるでしょう」

 かげろうのカードをテーブルに並べ、少女が満足そうに頷く。

「次はデッキ構築です。エルモの枚数が少ないので、CB(カウンターブラスト)を消費するカードの枚数には気を付けてください」

「うん! まずG3は……《ドラゴニック・オーバーロード》を4枚は確定として、残りは《クルーエル・ドラゴン》と《クレステッド・ドラゴン》を2枚ずつでいいのかな」

「いい選択ですね。《ボーテックス・ドラゴン》を狙っている余裕は無さそうですし。オーバーロードにライドできない可能性も考慮すると、ギフトを持っているその2枚が無難でしょう」

「G2は《バーサーク・ドラゴン》に《ベリコウスティドラゴン》に《ドラゴンナイト ネハーレン》かな。

 G1は《希望の火 エルモ》に《リザードソルジャー ラオピア》に《鎧の化身 バー》に……」

「《ガード・グリフォン》も忘れないでください」

「そっか。バリィは3枚しか無いもんね。

 ……《ドラゴニック・ガイアース》はどうしようか」

「ふむ。強力なカードではありますが、仮想敵がかげろうであることを考えると、除去が飛び交う消耗戦になりそうです。こちらからユニットを減らすのは得策では無いかも知れませんね」

「うーん。じゃあ、とりあえず《ドラゴンモンク ゴジョー》と《ダマナンス・ドラゴン》を入れておくよ。

 あとはトリガーだけど、★8枚、(ドロー)4枚、(ヒール)4枚でいいよね?」

「……トリガーに正解は無いので、口を挟むつもりはありませんでしたが。意見を求められたのなら答えましょう。

 先ほども言ったように、かげろう対かげろうで予想されるのは消耗戦です。減った戦力を先に補充できた方が優位に立つと言えます。かげろうはもともとアドバンテージ獲得能力に長けているわけでもありませんし、引トリガーを増やした方が安定するかも知れませんね」

「そ、そうか。なら引トリガーを6枚に……」

「もっとも。★トリガーを増やして、消耗戦に陥る前に敵を倒すのも作戦です。そこは好みで選んでいいかと思いますよ」

「うーん……じゃあ、★7枚、引5枚で試してみるよ」

「ええ。これからテストする時間はいっぱいありますし、それがいいでしょう。

 そんなわけで実戦です。さっそくそのデッキを回してみましょう」

 早く対戦をしたくて仕方が無かったのか、少女がいつの間にか取り出した自分のデッキをシャッフルし始めている。

「ちょっ、ちょっと待ってよ」

「ええ。新しく組んだデッキなので、よく混ぜてください」

 タツミもデッキのシャッフルを終え、ファーストヴァンガードをテーブルの中央に置く。

「では、はじめましょう」

「う、うん……」

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

 

 

「パワー27000のギヴンでアタック。さらにギヴンのスキルでヴァンガードのグレイヲンをスタンドします。パワー23000のグレイヲンで、デリートされたヴァンガードにアタック」

「ノ、ノーガード……」

 タツミのダメージゾーンに6枚目のダメージが置かれる。

 ダメージ3対6。少女の圧勝だった。

「…………」

「…………」

 どこか気まずい沈黙が、2人の間に流れる。

「すみません。手加減するのもされるのも慣れていなくて本気を出してしまいました」

 少女が小さく頭を下げる。

「この負けは気にしないでください。こう見えても私は……」

「すごいよっ!」

 少女の言い訳を遮り、タツミが瞳を輝かせてテーブル越しに少女へと詰め寄った。

「君、本当に強かったんだね!」

「ええ、まあ。……というか、疑っていたんですか?」

 少女の目が僅かに細められ、少し非難がましく見えた。

「えへへ。ごめんね。けど、君に特訓してもらえるなら、僕だってリュウジ君に勝てるくらい強くなれるかも」

「私は最初からそのつもりでしたよ。

 さあ、もういちどファイトしましょう。……とは言え、タツミさんがオーバーロードを使いこなせるようにするための特訓なのに、デリートしてしまっては都合が悪いですね。対戦相手をデリートしないやさしい根絶者は後日持ってくるとして、今日はかげろうのトライアルデッキで相手をしましょう」

 いつの間に買っていたのだろうか。トライアルデッキの封を開けながら、少女が言う。

「さ、さすがにトライアルデッキには負けないよ」

「さて、どうでしょう」

 安堵するタツミに、少女の鋭い視線が突き刺さる。

「デッキはともかくとして、私自身は一切手を抜くつもりはありませんよ?」

「……え?」

 

 

「《ドラゴニック・オーバーロード》でアタック。アタックがヒットしたので手札を2枚捨ててオーバーロードをスタンドします。パワー43000、★2のオーバーロードで、タツミさんのオーバーロードにアタック」

「ノ、ノーガード……」

 タツミのダメージゾーンに6枚目のダメージが置かれる。

 ダメージ4対6。やはり少女の圧勝だった。

「な、何で……」

「今のファイトは何故負けたかわかりますか?」

「……君が強いから?」

「それもあります」

「あるんだ」

「ですが、それを言い訳にしていては、いつまでたっても強くなれませんよ? 強いとはまずミスをしないということです。少なくとも先ほどのファイト、タツミさんはひとつ大きなミスを犯していました」

「えっ?」

「ミスに気付いて是正できるかが、強くなるための第一歩です。ファイトの経過をしっかり記憶して、ファイトが終われば振り返られるようにしておくといいでしょう」

「う、うん!」

「では、先ほどのミスの話ですが……………………

 おや、もうこんな時間ですか」

 タツミに一通りのフィードバックを終えた後、少女は壁にかけられた時計を仰いだ。短針は2時を過ぎている。2人とも朝早くから店にいたので、お腹もかなり空いていた。

「今日はここでおしまいにしましょうか。明日からは、午後1時に、この店で待ち合わせましょう」

「うん。わかった」

「では、お疲れ様です」

 少女はトライアルデッキを元のケースにしまってコートのポケットに入れると、会釈をして店から去って行った。

 タツミ少年のちょっと不思議で夢のような冬休みの1日目は、こうして過ぎていった。

 

 

 ――2日目

「お待たせしました。それでははじめましょうか」

 5分前にデュエルスペースに着席していたタツミに対し、少女は1時きっかりに姿を現した。

「ふう。今日は冷えますね」

 少女が昨日には無かった首元のマフラーを解くと、白い髪がふわりと宙を舞い、柔らかないい香りがタツミの鼻孔をくすぐった。

「どうしました?」

 その可憐な所作に見蕩れて硬直してしまっていたタツミだったが、少女に怪訝な声をかけられて、慌てて「な、なんでもないよ!」と取り繕った。

「? そうですか。では、まずはトライアルデッキとの対戦から再開しましょう」

 タツミの言動は明らかに挙動不審ではあったが、少女はさして気にするでもなく、てきぱきと対戦準備を整えていく。

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

 

「パワー51000の《ドラゴニック・オーバーロード》でアタックします」

「う……ノーガード。

 負けました……」

 そしてまた、一切の容赦無くタツミを打ち負かすのだ。

「なるほど。タツミさんはオーバーロードの攻撃への対処を考えた方がいいかも知れませんね」

「え、どういう意味?」

「先ほどファイトで、私のオーバーロードのアタックを防ぐのに、エルモ、ラオピア、ネハーレンを使って、ベリコウスティでインターセプトまでしましたよね?」

「う、うん。そうでもしないと防ぎきれなかったから」

「ですがいずれもあなたのデッキでは攻めの要だったはずです。結果的に展開ができなくなってしまい、あとは蹂躙されるがままになってしまいました。

 オーバーロードのスキルは確かに強力ですが、使う側にとっても最終的には手札1枚のディスアドバンテージを負う諸刃の剣です。

 受けきれないと判断したら、あえて受けてしまうのも作戦ですよ」

「な、なるほど」

「それはオーバーロードを使う立場になっても言えることです。攻撃が通ったからと言って、考えなしにスキルを使っていては、手札が少なくなって、返しのターンで敵の攻撃を防ぎきれなくなるかも知れません。

 オーバーロードをスタンドしても戦果が上げられそうにない場合は、スキルの発動を我慢するのも戦略です」

「…………」

「どうしました?」

 これまでは少女のアドバイスに、真面目に耳を傾けていたタツミだったが、この時は肩を落として俯いてしまっていた。

「いや。オーバーロードって思っていたよりも弱いんだなって」

「そんなことありません。ドライブチェック次第では、ダメージ2からでもゲームエンドまで持っていける、強力極まりないユニットです。

 ですが、そうですね。あなたやリュウジさんが求めているような最強とは、少し違うのかも知れません」

「……そうだよね」

「そもそも最強のユニットなんていないと私は思いますよ。いたら、みんなそれを使うでしょうし」

「……意外だよ。君のことだから、てっきり根絶者が最強ですとか言いだすと思ったけど」

「そんなことを思っていた時期もありました。

 ですが今の私から言わせてもらえば、グレイヲンもグレイドールも隙だらけですよ。グレイヲンは息切れも早いですし、CBを縛られたら何もできません。グレイドールだって、デリートできるのは一度きりですし、G2からライドしたらそれすらもできません。

 ですが、この2体は同じデッキに投入することで弱点を補い合うことができます。グレイドールの苦手な序盤をグレイヲンが担い、コストの重いグレイヲンに代わってグレイドールにライドし直すことで長期戦にも対応できる。

 どうです? 少し最強に近づいたと思いませんか?」

「……うん」

「ユニットにライドして力を借りるだけでなく、ライドするユニットを最強へと導いてあげるのが、先導者である私達の務めなのではないでしょうか。

 ヴァンガードを始めて10か月。私はようやくそれに気付きました」

(10か月なんだ……)

 始めて半年にも満たないタツミよりかはキャリアは長いが、ヴァンガードの歴史を考えれば短すぎるようにも思える。

 よくぞここまで自信満々に、そして実際、的確にティーチングできるものだと、タツミは改めて目の前の少女を尊敬の眼差しで見つめた。

「そのためには、私達がユニットのことを理解してあげる必要があります。オーバーロードのことをよく知って、あなたの手で最強にしてあげましょう」

 少女がオーバーロードのカードを手に取り、タツミの手に優しく置いた。

 タツミはそれを受け取ると、「うん!」と力強く頷いた。

 そんなやり取りのあとは、トライアルデッキとの対戦をひたすら続けて2日目は終わった。

 

 

 ――3日目

「パワー33000の《ドラゴニック・オーバーロード》でアタック!」

「ノーガード……私の負けですね」

「よしっ! また勝てた」

 タツミが両拳を握りしめて喜びを露わにする。

「トライアルデッキには安定して勝てるようになってきましたね」

 少女もどこか嬉しそうに頷きながら、かげろうのトライアルデッキを片付ける。

「では。次は私のヰギー軸根絶者が相手をしましょう」

「さすがにデリートもできない根絶者には負けないよ!」

「さて、どうでしょう」

 少女の瞳が妖しく輝く。

 タツミの体を外の冷気よりも冷たい悪寒が突き抜け、タツミは肌が激しく泡立つのを感じた。

 

 

「リアガードのヰギーでアタック。アルバを退却させ、パワー23000。さらに、ベリコウスティを裏でバインド(バニッシュデリート)します」

「う……ゴジョーでガード。ネハーレンでインターセプト」

「2体目のヰギーでアタック。エルロを退却させ、パワー23000。そして、ラオピアを裏でバインド(バニッシュデリート)します」

「ターでガード! 

 僕のターン! ……あああ、リアガードも手札もカラッポだ」

 タツミはヴァンガードのオーバーロードだけで攻撃し、ターンエンド。

「このデッキには、デリートでコストを使わない分、裏でバインド(バニッシュデリート)効果を持つ根絶者をたくさん入れてあります。仮想かげろうとしては申し分無いはずですよ」

 言いながら少女はエルロをコールし、アルバをドロップゾーンから蘇らせると、3体のヰギーで連続攻撃を仕掛けた。手札3枚のタツミが耐えきれるわけもなく、そこでゲームエンド。

「うーん……消耗戦になると言っていた意味が、やっと分かったよ」

「そうですね。リュウジさんがショップ大会で優勝できるクラスのかげろうと仮定するなら、この根絶者デッキにも安定して勝てないと、勝つのは厳しいでしょう」

「うん! 大丈夫。今のはオーバーロードに再ライドせず、ユニットを除去された時のため、手札に温存しておくべきだった。次は勝てるよ」

「……ええ。そうですね」

 その日、少女はほとんどアドバイスを口に出すことはなく、3日目を終えた。

 

 

 ――4日目

「《ドラゴニック・オーバーロード》でヰギーにアタック!」

「ノーガードです」

「ゲット! ★トリガー! 効果は全てオーバーロードに! さらに手札を2枚捨てて、スタンドしたオーバーロードでアタック!!」

「ノーガード。ダメージチェック……負けました」

「よしっ! 5連勝!」

 タツミが席から立ち上がり、拳を突き上げる。

「ふう」

 少女は小さく吐息をつき、壁掛け時計を見る。

「どうにか仕上がりました。ギリギリでしたね」

 時計の針は5時を回っていた。タツミの家の門限は6時らしく、この時間帯には、もうタツミは家に帰らなくてはならない。

「私から伝えられることはすべて伝えたつもりです。タツミさん、あとはあなた次第ですよ」

「う、うん! ありがと……」

 タツミが礼を言おうとした瞬間、その瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。

「あ、あれっ」

 タツミが慌てて涙をぬぐい、力無く笑う。

「恥ずかしいところ見せちゃったな。はは……」

「……恥ずかしくなんかありませんよ。あなたがそれだけ真剣だったということです。4日間、お疲れ様でした」

「…………うん」

「あなたは見事、私の根絶流かげろう術を究めました」

「そんな流派だったの?」

「皆伝の証として、このカードをあなたに託します」

 そう言って、少女はデッキケースから2枚のカードを取り出し、タツミに差し出した。

 どうせまた根絶者なんだろうと適当に受け取ったタツミは、それを見て驚愕した。

「……受け取れないよ。こんな高いカード」

 タツミがそれを丁寧に少女へ返却する。

「そうなのですか? 私、根絶者以外のレートには疎くて」

 本気なのか、とぼけているのか。少女の表情からは判断がつかない。

 そして、少女は突き出された2枚のカードをゆっくりと押し返した。

「根絶者しか使わない私にとって、そのカードは何の価値もありません。価値を知るあなたが使ってこそ、カードのためにもなる。そう思いませんか?」

「でも……」

 なおも渋るタツミの手を取り、少女は真っ直ぐに少年を見つめて言った。

「そのカードを使うあなたを、私が見たいんです」

「……わかった。使わせてもらうよ」

 タツミは2枚のカードを大切にデッキケースへとしまった。

「この2枚はデッキに入れておくよ。新しくなったデッキを一度も回さないままリュウジ君との対戦になるけど、大丈夫かな?」

「ええ」

 少女は無表情のまま、自信たっぷりに頷いた。

「そのカードの使い方は、あなたならもう分かるはずです」

 

 

 店を出てすぐ、2人は別れた。帰り道は別方向なのだ。

 タツミの頬を、涙の雫が再び伝う。

 タツミが泣きたくなったのは、特訓を終えた達成感だけではなかった。

 あの白髪の少女に特訓をしてもらえることは、もう二度と無いのだ。

 それを思うと、途端に自分ではどうしようもない感情が溢れてきた。

 今もこうして涙を止められずにいる。

(そんな理由で僕は泣いたんだ。これは、恥ずかしいだろう……)

 あの少女も、それを知れば呆れるに違いない。

 泣き顔のまま家に帰るわけにもいかず、少年はしばらく店の前でうずくまり、小さな嗚咽を何度も漏らした。

 4日目の終わりは、少し塩辛かった。

 

 

 そして、1月5日――

「ありがとう。来てくれて」

「……約束だからな」

 タツミとリュウジは『ジャスティス』のファイトスペースで再び向かい合った。

「ただし! ファイトするには条件がある。俺が勝ったら、お前は二度とかげろうを使うな。

 ……いや。だが、少なくとも俺とファイトする時にかげろうを使うのは止めてくれ。俺もかげろうを使うお前とはファイトしない。

 弱いオーバーロードなんて見たくないんだ、俺は」

 タツミの後ろに寄り添うように立つ白髪の少女を気にしてか、リュウジは慎重に言い直した。

「うん。それでいいよ」

 タツミが即座に頷く。

「僕だって、不甲斐ないかげろうを見るのは、もうたくさんだから」

 タツミの堂々とした態度に、普段とは違うものを感じたのだろう。リュウジはその原因と目される少女を見やるが、彼女がリュウジの方へと振り向くと、慌てて視線を逸らした。

「あ、あと、もう一つ確認だ。まさかファイト中にアドバイスをもらうわけじゃないよな」

「安心してください。ファイトに口出しするほど、私も野暮ではありません。何なら離れていましょうか?」

 少女は肩をすくめながら即答する。

「……いや。ファイトの邪魔をしないのなら」

 少女の立ち合いはリュウジも認め、2人のファイトの準備は整った。

「行くよ、リュウジ君」

「ああ。終わらせてやるよ、タツミ」

「スタンドアップ!」

「ヴァンガード!」

「《リザードランナー アンドゥー》!」

「《リザードソルジャー コンロー》!」

 

 

「ライド! 《バーサーク・ドラゴン》!」

 先行を取ったリュウジが先にG2へとライドする。

「ちっ。ユニットは展開してねえか。少しは賢くなったようだが、ドローだけはさせてもらうぞ」

《バーサーク・ドラゴン》のスキルで、リュウジがカードを1枚引く。本来ならユニットを退却させつつドローまで行う強力なスキルなのだが、ユニットがコールされていなければ退却の部分は不発になる。

 もちろんリュウジもユニットはコールせず、そのままヴァンガードで攻撃してターンを終えた。

「ライド! 《バーサーク・ドラゴン》!」

 タツミも《バーサーク・ドラゴン》にライドし、カードを引く。その後のアタックも終え、オーバーロード使いにとって、ファイトはここからが本番となる。

「ライド! 《ドラゴニック・オーバーロード》!!」

 黙示録の剣と呼ばれる大剣を携えた真紅の竜が戦場に立つと、炎は逆巻き、舞い踊る。主の降臨を祝福するかのように。

「イマジナリーギフト・フォースⅠはヴァンガードへ!

 コール! 《ドラゴンフルアーマード・バスター》! その後列に《魔竜導師 キンナラ》!

 そして、オーバーロードのスキル! オーバーロードにパワー10000だ!

 行くぜ。オーバーロードでヴァンガードにアタック!!」

 タツミは手札とダメージを交互に見比べると、リュウジを真っ直ぐに見据えて力強く宣言する。

「ノーガード!」

 炎を纏った大剣で斬りつけられ、《バーサーク・ドラゴン》は苦悶の呻きをあげる。

 ドライブチェックによるトリガーは無し。ダメージにもトリガーは無く、タツミのダメージは3点になった。

「エターナルフレイム!!

 手札を2枚捨て、オーバーロードをスタンドする!

 再び、オーバーロードでアタック!」

「ノーガード!」

 再度オーバーロードの剣戟に晒された双頭竜の巨体が、いくつかの建物を巻き込みながら倒れ込む。

「ダメージチェック……ゲット、引トリガー! カードを1枚引いて、パワーは《バーサーク・ドラゴン》へ!」

「まだ攻撃は通るぜ。相手のリアガードがいないなら、フルアーマードのパワーは+3000! キンナラのブーストでアタックだ!」

「《レッドジェム・カーバンクル》でガード!」

 タツミはダメージを4に抑え、彼にターンが回ってくる。

「ライド! 《ドラゴニック・オーバーロード》!!」

 そして、帝国に2体目のオーバーロードが降臨した。

 ――ガアアアアアアッ!!

 ――ゴオオオオオオッ!!

 2体のオーバーロードが互いに吠え猛る。

 真の大君主は自分だと主張するかのように。

「イマジナリーギフト・フォースⅠをヴァンガードに。

《ベリコウスティ・ドラゴン》をコール。《ドラゴンナイト ネハーレン》もコールして、キンナラを退却させるよ。これでネハーレンとベリコウスティのパワーは+5000!

 そして! ネハーレンの後列に《鎧の化身 バー》をコールしてフルアーマード・ナイトも退却! バーとベリコウスティに+5000!

 ベリコウスティの後列には《ダマナンス・ドラゴン》をコール!」

「ちっ。かげろうでぞろぞろ展開してきやがって……」

 リュウジが毒づくが、それは気に掛けずタツミは泰然とターンを進める。まだ未熟ながらも、その所作には王者の風格が備わりつつあった。

「《ドラゴニック・オーバーロード》のスキルでパワー+10000!

 行くよ! パワー33000のオーバーロードでアタック!」

「ガード! 《アングリーホーン・ドラゴン》、《レッドジェム・カーバンクル》、《バーニングホーン・ドラゴン》、《ドラゴニック・バーンアウト》、《メルトストリーム・ドラゴン》!」

 二振りの黙示録の剣がぶつかり合う。そこから灼熱の炎が火花となって散り、両者の闘気は火柱となって天を衝いた。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはネハーレンに!

 続けて、ベリコウスティでアタック!」

「ノーガード!」

「ネハーレンが行く!」

「ノーガード!」

 リアガードの攻撃はすべてヒットし、ダメージは4対4で並んだ。

「……ターンエンドだよ」

「……つっ、やるじゃねえか。してやったりって顔してるぜ?」

 荒い息を吐きながら、リュウジが言う。

「そうかな?」

「リアガードはすべて焼かれ、俺の手札はこのドローを含めて3枚。だが、お前を倒すのに、この3枚があれば十分なんだよ! 見せてやる、これが俺のオーバーロードだ!!

 ライド!! 《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》!!!」

 その呼び声と共に、帝国の空は暗雲に包まれた。

 白く輝く4枚の翼。強靭な肉体は、金と紅蓮で飾られた鎧で武装され、屈強な4本の腕には、それぞれ2振りの大剣と、2丁の重火器が握られている。

 邪法によって、自らの命と引き換えに禁断の力を得た。

 完成された強さを誇った暴竜が至りし更なる到達点。

 その名は終焉の称号を以って、惑星クレイの歴史書と、人々の記憶に残されている。

「イマジナリーギフトは当然ヴァンガードに!

 コール! 《カラミティタワー・ワイバーン》のスキル発動! カラミティタワーを退却! ジ・エンドのパワーに+15000!

 さらに2体目のカラミティタワー! こいつもスキル発動してジ・エンドにパワーを与える!」

 災厄の名を冠する竜の力を得たジ・エンドが、全身に炎を纏わせ、狂ったように吼え猛る。

「くらえ……パワー63000の《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》でアタック!!」

「2体の《ドラゴンモンク ゲンジョウ》、《槍の化身 ター》でガード! ネハーレンとベリコウスティでインターセプト! 2枚貫通だよ!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー!! 効果は全てジ・エンドに!」

 タツミの肩がビクッと大きく震える。リュウジは間髪いれず、次のカードを引く。

「2枚目! …………トリガーじゃねぇ」

 ジ・エンドが2刀を同時に振り下ろす。そのうちの1刀はオーバーロードが両手で構えた大剣で受け止め、もう一刀は彼の忠実な部下達が身を呈して防いだ。

「だが、まだ終わりじゃねえ! エターナル・アポカリプス!!

 手札が4枚以下の時、ジ・エンドはドライブ-1でスタンドする!!」

 そう。どちらかの命が燃え尽きるその時まで、もはやジ・エンドが闘いを止めることはない。

「パワー73000の《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》でアタック!!」

 ジ・エンドは重火器を構えると、弾丸を一斉に発射した。城壁すら一瞬で穴だらけにして粉砕する弾幕に晒され、オーバーロードは大剣を盾代わりにして耐え凌ぐ。

「《ワイバーンガード バリィ》で完全ガード!」

 さらにワイバーンによる護衛部隊も到着し、次々とオーバーロードを守護するように取り囲む。が、装甲を纏ったワイバーンですら、ジ・エンドの猛射の前に、次々と撃ち落とされていく。

「ドライブチェック! ゲット! ★トリガー! 効果はすべてジ・エンドに!」

 だが、多大な犠牲を払いながらも、ワイバーン達はオーバーロードを守りきった。

『ご武運を』

 護衛部隊の隊長であるバリィは、傷だらけになりながらも主君へと敬礼する。

『大義であった』

 オーバーロードもそれに礼を以って応えた。

「まだだ!!」

 リュウジの叫びがイメージを断ち切る。

「エターナル・アポカリプス!!

 手札を3枚ドロップすることで、ジ・エンドはパワー+10000、ドライブ-1してさらにスタンド!!

 コストとしてバーニングホーンをドロップしたので、お前の《ダマナンス・ドラゴン》を退却!」

 敵を完膚無きまでに滅ぼすまで、ジ・エンドは何度でも立ち上がる。自らをも含めた数多の命と引き換えに。

「見たか! 個にして、万の軍勢にも匹敵する!

 これが俺のオーバーロード! 孤高の大君主だ!!」

 リュウジが悲鳴にも似た声で叫ぶ。タツミのイメージを塗り替えんと吠え叫ぶ。

「終わりだ!! パワー93000の《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》でアタック!!!」

 ジ・エンドが4つの武器全てに炎熱を纏わせ、同時に解き放つ!!

「《ガード・グリフォン》で完全ガード!」

 黄金の羽根が舞い散った。

 ジ・エンド渾身の一撃を受け止めた《ガード・グリフォン》が崩れ落ちる。

 だが、オーバーロードは立っていた。

 ゆらめく炎の如く悠然と。

「リュウジ君」

 呆然とするリュウジに、タツミは静かに声をかけた。

 リュウジは答えない。もしくは、答えられなかったか。

 構わず、タツミは言葉を続ける。

「やっぱり格好いいね、オーバーロードは」

「あ?」

「孤高の大君主。リュウジ君がオーバーロードに抱いているイメージがはっきりと伝わったよ。

 だから次は、僕のイメージを君に見せたい」

「……バカが。手札0枚で何を見せられるんだよ」

「今の僕なら引けそうな気がするんだ。あの切り札を」

 言いながら、タツミがデッキに触れる。その一瞬、少女の方へと振り向いた。彼女はこくんと小さく頷いた。

「スタンド&ドロー……。

 行くよ、リュウジ君! これが僕の理想の大君主!

 ライド!! 《ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート》!!!」

 その呼び声と共に、帝国を再び太陽が照らしだした。

 巨大だった翼はさらに雄大に。強靭だった肉体はさらに分厚く。

 邪法に魅入られることなく、己が肉体をさらなる高みへと昇華させた。

 それは、ありえたかもしれない未来が紡いだ、暴竜の新たなる姿。

 偉大なる名を名乗り、異聞の果てにある帝国に君臨す。

「イマジナリーギフトはリアガードサークルに。

 そしてそこに蘇れ! 《ドラゴニック・ネオフレイム》!」

 タツミの声に応えて、煉獄の底から炎を纏いし竜が顕現し、伴星のようにグレートの側へと寄り添った。

「ネオフレイム? ……そうか。完全ガードのコストにして仕込んでいたか。タツミ、お前がこんな……」

 リュウジが低い声で唸る。

「うん。僕ひとりでは、ここまで強くなれなかった。きっと、グレートもネオフレイムも使いこなせなかった。

 けど、僕にはヴァンガードを教えてくれる親切な女の子が傍にいてくれた。

 僕は独りじゃない。それと同じように、オーバーロードだってきっと独りじゃない。

 だって、そうだろ! オーバーロードはかげろうを指揮する司令官なんだから!

 信頼する仲間と肩を並べて戦う! それが僕のイメージする大君主だ!!」

 タツミはそう宣言すると、まずは頼れる相棒に指で触れた。

「ネオフレイムでアタック!」

 手札の無いリュウジにそれを防ぐ術は無い。

 ネオフレイムの放った火球が、ジ・エンドに次々と着弾していく。

 5枚目のカードがリュウジのダメージゾーンに置かれた。

「《ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート》でアタック!!

 ドライブチェック! ……トリガーは2枚とも無し」

 グレートの両拳が固く握り絞められ、次の瞬間、ジ・エンドへと叩きつけられた。

 ジ・エンドの鎧が粉砕され、邪法で形作られていた肉体が崩れていく。

「ダ、ダメージチェック……治トリガー!!」

 だが、ジ・エンドは生き残った。

 全てを投げ打ったからこそ、彼に敗北だけは許されない。

 されど、グレートとネオフレイムも止まらない。

「エターナル・エクスプロージョン!!

 手札を2枚捨てて、グレートとネオフレイムをスタンドさせるよ。

 グレートよ。誇り高き大君主に、終焉の安らぎを!!

《ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート》で《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》にアタック!!」

 グレートが黙示録の剣を振り抜き、ジ・エンドの命脈を今度こそ断ち切った。

 その死の間際、ジ・エンドは笑った。

 それは正しき道を歩んだグレートに対する祝福だったのか。

 いずれグレートにも訪れるであろう破滅を嘲笑ったのか。

 それはきっと先導者達のイメージに委ねられている。

 

 

「俺が悪かった。ごめん!!」

 ファイトが終わるやいなや、リュウジは席を立ち、タツミに向かって土下座した。

「ちょっ、ちょっと! リュウジ君!?」

 意味がわからず、タツミはとにかくリュウジを立たせようとその腕を引っ張るが、リュウジの額に吸盤でもくっついているのではないかと思うくらい、その頭は床に貼りついていた。

「俺はタツミを侮辱した。タツミがこんな強いことを知らずに」

 タツミが慌てている間にも、リュウジの謝罪の言葉は続く。

「弱いのは俺の方だった。俺にはもうかげろうを使う資格なんてない。俺はかげろうを使うのを今日限りで止めにする……」

「それはダメだ!!」

 タツミが声を張り上げ、リュウジはそれに驚き、ようやく顔を上げた。

「僕はそんなことのためにファイトしたんじゃないよ。僕はただ、リュウジ君と一緒にヴァンガードがしたかっただけなんだ」

「タツミ……」

「リュウジ君。僕と一緒にかげろうを強くしていこう。きっと、僕にも君にも足りないところはいっぱいあるんだ。

 けど、2人でなら、それに気付ける。教え合える。僕達2人の手でかげろうを最強にするんだ」

「……俺に、ネオフレイムになれと言うのか?」

「うーん。どちらか言うと、僕達2人で《ドラゴニック・オーバーロード “The X”》のイメージかな」

「古いカード知ってんな。けど、いいぜ。それなら俺もジ・エンドだからな!」

 リュウジはようやく立ちあがると、手を差し出した。

「仲直りの。そして、誓いの握手だ。これなら受けてくれるな?」

「もちろん」

 二人の少年は、ガッチリと固く握手を交わした。

「これからどうする? さっきのファイトの問題点を指摘し合うか?

 それとも、グレートとジ・エンドの混合デッキでも考えてみるか?」

「いいね、それ!

 あっ、けど、ちょっと待って。僕のことをコーチしてくれた女の子にもお礼を言わないと……」

 タツミは少女の事を思い出し、慌てて周囲を見渡した。

 しかし、タツミを見守ってくれていた少女の姿は、いつの間にか消えていた。

「あ、あれ? あの子、どこに行ったんだろう」

「……前から気になってたんだけどよ」

 リュウジが腕組みして、半眼になってタツミを睨みつける。

「お前、何であの人のことを『女の子』とか『あの子』とか呼んでんの?」

「え? だ、だってあの子、僕達と同じくらいか、少し下だろ? 名前は知らないし、間違いは無いんじゃ……」

 意味が分からないまま弁解するタツミに、リュウジは大きく溜息をついて尋ねる。

「お前、ヴァンガード高校選手権の中継見てた?」

「い、いや。天海(あまみ)学園は出場してなかったみたいだし。僕、基本的にプロリーグしか……」

「そうか。お前にコーチしてくれていたあの人な。先月のヴァンガード選手権の優勝者だぞ?」

「え、それって……」

「あの人の名前は音無(おとなし)ミオさん。ああ見えて俺達の3つ上で、高校1年生。

 それも、天海学園が出てなかったから実際はわかんねーけど、公式には高校ナンバーワンのヴァンガードファイターな」

「…………うそ」

 硬直するタツミ。

 それを見てリュウジは(ああ、今日のこいつはもう何も考えられないな)と頭を振るのであった。

 

 

「ふっふっふ~。見てたわよ、ミオちゃん」

 店を出た白髪の少女――音無ミオを、黒髪で片目を隠した女子高生、彼女の先輩にあたる天道アリサが待ち構えていた。

「いつからですか?」

 普通の人では分からない程度に目を見開き、ミオは驚きを表現する。

「んー、5日前からかな」

「ほぼ最初からじゃないですか。どんな冬休みの過ごし方してるんですか」

「うん。もっとファイトしたかったとは思ってる!」

 アリサは堂々と後悔の言葉を口にした。

「それなら一緒に、特訓に参加すればよかったのではないですか?」

「それはできないでしょ」

 アリサは即答した。

「ミオちゃんが初めて人に教える機会を邪魔しちゃ悪いもの」

「はあ。そういうものですか」

「もしもの場合はヘルプに入るつもりだったけど、不要な心配だったみたいね」

「もちろんです。私を誰だと思っているのですか」

 そう言って、ミオは薄っぺらい胸を張った。

「その自信がどこから来るのかは分からないけど。

 最後はあれでよかったの? 挨拶くらいしていけばよかったのに」

「彼はもう新しい相棒を見つけたようですので。

 それに……彼もヴァンガードファイターなら、またいずれどこかで会えるでしょう」

 都合よく北風が吹き、少女の白い髪をクールになびかせた。

「ちょっとカッコつけすぎな気もするけどね。いや、ミオちゃんの場合は天然か」

 見ていて気恥ずかしくなり、アリサは頬をかいた。

「まあけど、ミオちゃんももうすぐ先輩だもんね。これなら後輩の育成も任せて大丈夫かな」

「あ……」

 言われてはじめてその事実に気づいたかのように、ミオは小さく声をあげた。

「そうですね。もうすぐ3学期。それが終われば、私も高校2年生。

 そして……」

 そこから先は、彼女にしては珍しく口ごもった。

 まるでそれを口にすることで、それが現実となってしまうことを恐れてしまうかのような。

「そして……ユキさんは高校を卒業されます」

「…………そうだね」

 ようやく言葉として出てきたそれは、冷たいトゲとなって2人の心に突き刺さった。




あけましておめでとうございます!
今年最初の本編をお届けいたします。
今回はかげろう使い、山崎タツミの登場です。
なるかみ使いのOBと同じく、彼も高校生では無いので特別な状況でなければ話には絡ませにくいキャラクターなのですが、その分、今回は気合を入れて書かせて頂きました。
そのため、かなり長くなってしまいましたが、年始の時間を使ってゆっくりと読んで頂ければと思います(あとがきで書いても今更なのですが)。
お楽しみ頂ければ。特に、かげろう使いの方々に満足して頂ければ幸いです。

次回は「竜牙独尊」の「えくすとら」を1月25日前後に予定しております。
それでは、今年も根絶少女をどうかよろしくお願い致します。


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2月「馬が合うというよりは反りが合う」

 カードショップ『エンペラー』は、その日も多種多様な客で賑わっていた。

 試案顔でストレージボックスのカードを漁る男子高生。仲良くショーケースのカードを見て回るカップル。親に買ってもらったパックを大切そうに胸に抱える少女など。

 その奥にあるデュエルスペースもまた、大盛況であった。

 学校帰りのファイトに興じる学生達。今日発売のパックを剥き続ける男性。

 対戦する2人の少年と、それを取り囲み、わいわい騒いでいるランドセルを背負った少年少女の一団。その誰もが楽しそうで、溢れんばかりの笑顔が輝いていた。

 それを羨ましそうに眺める少女が、部屋の隅にいた。

 新品のデッキケースを机に置き、たまに中身を取り出してカードをパラパラ確認すると、溜息をついてしまいこむ。そしてまた、じっと小学生の一団を見つめるのだ。そのうちの1人と目が合いそうになった時には、思わずサッと目を逸らした。

 挙動不審な少女は、カードファイトの初心者だった。普段は家で弟と対戦していたが、やがて他の人とも対戦してみたくなり、カードショップに寄ってみた。

 そこで小学生の一団を見つけた。

 そこまではよかったが、女の子がいないでもなかったけど男の子が多いし、学年も小学校3年生の自分よりも上っぽいしと、すっかり萎縮してしまい、少女はこうして離れた場所に座って、物欲しそうにその一団を眺めているのであった。

(今日は帰ろうかな……)

 1時間ほどそうしていた少女は、諦めてデッキケースを手に取り、ランドセルにしまおうとした。

「あなたもヴァンガードするの?」

 不意に声をかけられ、少女は思わずケースを取り落としそうになった。

「わ、わわっ」

 小さな手の中で暴れるケースをどうにかテーブルの上に置き直し、少女は声のした方へと向き直った。

 そこには、一団の中でもっとも少女の目を引いていた女の子がいた。

 その理由としては、同性であり、年も近そうだったのもある。だがそれ以上に、その女の子は小学生とは思えぬほど完璧な顔立ちをしており、何故か着物を着ていて、それがまたよく似合っていた。要するに見惚れてしまっていたのだ。

「ふふ。驚かせてしまってごめんなさいね」

 着物姿の女の子が、子供とは思えぬ上品な仕草で微笑む。

「私の勘違いだったらごめんなさい。あなたがじっと私を見ていたものだから気になって……」

「ご、ごめんなさい! その、あまりにも綺麗だったから……」

「うふふ。ありがとう。

 別にいいのよ。そう言われるのは慣れているから」

 どんな小学生だとツッコめる人間は、残念ながらこの場にはいない。

「私の名前は白河(しらかわ)ミユキ。ユキと呼んでちょうだいな」

 着物姿の女の子は、優雅に胸元に手を当てて自己紹介をした。

「わ、私っ! 天道(てんどう)アリサ!」

 少女も精いっぱい声を張って名乗った。

「そう。いい名前ね。

 では、アリサ。ひとつ私とファイトして頂けないかしら?」

 そう言って、ユキと名乗る着物姿の少女は、アリサに白くて小さな掌を艶やかに差し出すのであった。

 

 

「これがねー、あたしとユキの馴れ初めってやつよ」

『エンペラー』とは似ても似つかない響星(きょうせい)学園の狭い部室で、8年後の天道アリサは腕を組みながら、昔を懐かしむようにうんうんと頷いた。

「…………」

 アリサの語る思い出話を黙って聞いていた音無(おとなし)ミオは、

「…………?」

 やがてかくんと大きく首を傾げると、素朴な疑問を口にした。

「今の話のどこにアリサさんが出てきましたか?」

「何でよっ!? 最後にちゃんと名乗ってたでしょ!?」

「私には、ユキさんと、内気で奥ゆかしい女の子しか登場していないように思えましたが」

「だから、その内気で奥ゆかしい女の子があたしなのっ!」

 自称・内気で奥ゆかしい女の子が叫ぶ。

「うふふ、無理も無いわねえ」

 白河ミユキが回想と何一つ変わらぬ優美さを以て微笑んだ。

「けど、昔のアリサは本当にそんな感じだったのよ。ああ……あの頃のアリサは可愛かったわねえ」

「今は可愛くないの!?」

 アリサのツッコミをスルーして、ユキは空気を引き締めるようにパンパンと手を打ち鳴らした。

「はい! 休憩はここまで。練習の続きをしましょう。次はアリサとミオの番よ」

「むー。ミオちゃん、やろやろー」

「はい。よろしくお願いします」

 不満げに頬を膨らませながら、アリサがミオの対面に腰かける。

「いくよ! スタンドアップ!」

「ヴァンガード」

「《マシニング・ワーカーアント》!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

 

 ――1時間後

 

「《波動する根絶者 グレイドール》で、《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》にアタックします」

「う……ノーガード…………トリガー無し。負けたかー」

 手札を机に置いて、アリサがテーブルに突っ伏した。

「はい、そこまで! アリサが1勝、ミオが4勝で、今日もミオの勝ち越しね」

「うーん。ミオちゃんも強くなったよね。ヴァンガード高校選手権も優勝しちゃうし。いやー、先輩として鼻が高いわ」

「何を呑気なことを言っているの。先輩なら、もう少し善戦しなさいな」

 負けても偉そうなアリサの頭を、ユキが肘で小突く。

「あ、時間になりました。今日は両親に夕食を作る日ですので、お先に失礼します」

 ミオが立ち上がり、ペコリと一礼する。

 6月の一件以来、ミオは1か月に1度、両親に夕食を振る舞っているのだ。

 今では父も母も、心から「おいしい」と言って料理を食べてくれる。それがまた嬉しいらしい。

「はいはーい。また明日ねー」

「お疲れ様。気をつけて帰ってね」

 手を振る先輩達に、ミオは「お疲れ様でした」と小さく会釈をして部室を出ていく。

 扉が閉じられ、窓越しにミオの影が遠ざかっていくのを見送って。

「ミオちゃん、いい子になったよね」

 アリサがしみじみと呟いた。

「何を言っているの。ミオは初めて会った時からいい子だったわよ」

「そりゃそうなんだけどさ! そういう意味じゃなくて、その、もっといい子になったというか……成長したというか」

「ええ。そうね。どこへ出しても恥ずかしくない、自慢の後輩だわ」

「うん……」

 アリサが俯くように頷いた。窓から西日が差し込み、彼女の影に深い闇を落とす。

 ユキは小さな溜息をひとつつくと、先程までミオが座っていた、アリサの正面にある席に腰かけた。

「話があるんでしょう? 聞くわよ」

「ん……」

 アリサは静かに顔をあげ、まっすぐにユキの目を見据えて自分の考えを告げた。

「来年のカードファイト部の部長なんだけどさ。あたしじゃなくて、ミオちゃんじゃダメかな?」

 何も答えないユキに向かって、アリサはさらに言葉を重ねていく。

「真面目だし。何でもテキパキとこなしちゃうし。物怖じもしないし。ヴァンガードもあたしより強いし。

 この前なんてさ、知ってる? 中学生にヴァンガードを教えてたんだよ?

 あの子なら、きっと部長に向いていると思うんだよね」

「……ええ。ミオならきっと素敵な部長になれるでしょうね」

 ユキがようやく、納得したように深く頷く。

「じゃあ!」

「それを踏まえた上で言わせてもらうわ。来年のカードファイト部の部長は、あなたしかいないわ。アリサ」

 そして、アリサの提案を、静かだが断固たる口調で却下する。

「……え?」

 戸惑いを見せるアリサに、今度はユキが主張を続ける。

「もっと自分に自信を持ちなさいな。私はもちろん、ミオだって、あなたが部長として不足だとは考えてもいないわよ」

「でも……」

「これ以上は口で言っても無駄なようね」

 諦めたように肩をすくめると、ユキは着物の袖からデッキを取り出し、テーブルの上に置いた。

「では、ファイトをしましょう。

 いつだって、私達はカードで語り合い、分かりあってきた。そうでしょう?」

「……うん。そうだね」

「全力で。いいえ。私に勝つつもりでかかってきなさい」

「ん。わかった」

 アリサはミオとの対戦で使っていたデッキをしまうと、通学カバンから新たなデッキを取り出した。

 お互いにデッキをシャッフルし、テーブルに置き直す。

 ほんの一瞬、視線の交錯を合図に、二人は同時に宣言した。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!」」

「《マシニング・ワーカーアント》!」

「《忍獣 キャットデビル》」

 先行ターンはアリサ。

 カードを1枚引き、手札から1枚のカードをファーストヴァンガードに重ねる。

「《マシニング・ホーネット》にライド! 1枚引いて、ターンエンドよ」

「私は《口寄せの忍鬼 ジライヤ》にライド。まずはキャットデビルの効果で1枚引き、次にジライヤの効果で1枚引いて、手札を1枚山札の下に置くわね」

 カードを繰るユキの所作に一切の無駄は無く、その洗練された動きは芸事に興じているかのようである。長い付き合いのアリサですら、油断すると見惚れてしまいそうになるほど美しい。

「さあ。ジライヤでヴァンガードにアタックよ」

「ノーガード!」

「ドライブチェック。……トリガーは無し。

 私はこれでターン終了。アリサのターンよ」

「スタンド&ドロー。

 ライド! 《ブラッディ・ヘラクレス》! その後列に《巨砲怪人 タワーホーン》をコールして手札交換。ユキのユニットが全てレストしているので、パワー+5000!

 続けて《マシニング・マンティス》をコール! スキルで山札の上から6枚見て……《マシニング・スパークヘラクレス》を手札に加える!」

「あら。ガンニングコレオじゃないのね」

「バトル! 《ブラッディ・ヘラクレス》でアタック!」

「ノーガード……ふふっ、懐かしいわね」

 突然、ユキが口元を押さえて笑い出す。

「何がよ?」

「今日、アリサが話していた、初めてあなたと出会ったあの日も、あなたは《ブラッディ・ヘラクレス》にライドしていたわね」

「いや、8年前に何のG2にライドしたかなんて、あたしは覚えてないんだけど!?」

「あらそう? ダメージチェック……(フロント)トリガーよ」

「それに、《ブラッディ・ヘラクレス》も、あの頃の《ブラッディ・ヘラクレス》とは違うのよ!

 アタックがヒット時、スキル発動! CC(カウンターチャージ)して、マンティスにパワー+6000! これでまだマンティスのアタックは届く!

 パワー21000のマンティスでアタック!」

「ノーガードよ。ダメージチェック……トリガーは無し。

 私のターンね。スタンド&ドロー。

 ……ライド」

 その瞬間、アリサの首筋に強烈な怖気が走った。

 迷い込んだ深い森の中で、殺気を感じて顔を上げる。木の枝に佇む、一頭の獣と目があった。

 それは小動物と呼べるほど小さな生き物ではあったが、月明かりを反射して金色に輝く眼光は鋭く、肉食獣のように剣呑な気配を漂わせている。

 忍びが敵の前に姿を晒す時。それは既に勝利を確信した時に他ならない。

「《特務忍獣 ウィーズルレッド》」

 特務。G2にして30000台のパワーを容易に叩き出す『特務』ユニットを主力に据えた速攻デッキ。相手がG3にライドする前に敵を仕留めることも多々ある、むらくもの奥の手。

 コンボが決まればワンサイドゲームになってしまい練習にならないため、ユキも部活では禁じ手にしているほどである。

(なんてものを使うのよ、ユキは……)

 アリサは冷や汗をかきながら、心の中で呟いた。

 ファイトを通して自分を励ましてくれるのかと思いきや、甘かった。理由はわからないが、彼女は自分を完膚無きまでに叩き潰すつもりだ。

「ウィーズルレッドの効果……」

 特務が誇る脅威のスキルが宣告される。

「手札を5枚捨てて、山札から《特務忍獣 ウィーズルブルー》を2体、《特務忍獣 ウィーズルホワイト》3体をスペリオルコール」

『集!』

 ウィーズルレッドの号令一下、静かだった森が俄然騒がしくなる。周囲の茂みがひっきりなしに揺れているところを見ると、アリサは一瞬で忍獣に取り囲まれてしまったようだ。

 だが、気配はすれども姿は見えない。

「さて。行くわよ。

 リアガードのウィーズルブルーでアタック。パワーは36000よ」

 茂みから白刃が閃いた。

 忍獣の姿を捉えることができないまま、《ブラッディ・ヘラクレス》の背中が斬りつけられる。

「ダメージチェック……トリガー無し」

「続けてウィーズルレッドでアタック。こちらもパワーは36000」

「ノーガード」

「ドライブチェック……(クリティカル)トリガー。★はレッドに。パワーはスタンドしている方のブルーに」

 ウィーズルレッドが、背負った巨大手裏剣を口に咥えて、器用に投げ放つ。

 直撃を受けたヘラクレスは、堅い甲殻のおかげで両断されることこそなかったものの、吹き飛び、木々に叩きつけられた。

「ダメージチェック……1枚目、トリガー無し。2枚目、★トリガー。パワーはヘラクレスに」

「あらあら。今日も私の勝ちかしら。パワー46000のブルーでアタックよ」

 起き上がるヘラクレスの首筋めがけて、青い忍獣が跳び掛かる。

「ガード! 《強酸怪人 ゲルドスラッグ》!」

 次の瞬間、忍獣の咥えた小刀が瞬く間に溶けだした。

 木の幹に貼りついたカタツムリの怪人が、紫色の液体を口元から垂らしながら不気味な笑みを浮かべている。

「さらにマンティスでインターセプト!」

 機械化された蟷螂も立ちはだかり、青い忍獣は追撃を諦め、闇の中へと消えていった。

「ゲルドスラッグ……レストしたユニットの数に応じてガード値を上げていくユニット。

 なるほど。むらくもの展開力を逆手に取ったのね」

 ユキが感心したように頷く。

「さあ、次はあなたのターンよ」

 言われるまでもなく、アリサはデッキからカードを引く。

「ライド! 《マシニング・スパークヘラクレス》!!」

 闇を引き裂き、森に稲光が落ちる。

 そう錯覚してしまうほどの輝きと共に、鋼鉄の重甲虫が戦場へと降り立った。

 科学の雷電を全身から迸らせ、メガコロニー最凶の殺戮兵器(マシニング)が起動する!

「コール! 《マシニング・スターグビートル》!!

 スターグビートルのスキルで、ソウルの《マシニング・ワーカーアント》と《マシニング・ホーネット》を射出(スペリオルコール)

《槍撃怪人 メガララランサー》もコール!

 そして、スパークヘラクレスのスキル発動!! あたしのリアガードをすべてスタンドさせ、パワー+5000! ユキのユニットすべてをレストさせ、パワー-5000よ!」

 スパークヘラクレスは瞳を強く瞬かせると、鋏状の腕を地面に突き立てる。そこから電流が枝分かれしながら地面を奔り、周囲の茂みに飛び込んだ。

 そこかしこから悲鳴があがり、電撃に焼かれた忍獣達が茂みの奥から追い立てられるようにして姿を現す。

「これで特務ユニットのパワーは激減。ブースト込みでもパワーは26000にしかならないから、15000ガード1枚で防がれるようになった。……やるわね」

 アリサの狙いを丁寧に読み解きながら、ユキは嬉しそうに微笑んだ。

「バトル! ワーカーアントのブースト! スターグビートルでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック……トリガーは無しよ」

「タワーホーンのブースト! スパークヘラクレスでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

 スパークヘラクレスが金色に輝く薄羽を広げて飛び立つ。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目……★トリガー! パワーはメガララランサーに、★はヴァンガードに! いっけええええ!!」

 アリサの雄叫びと共に、電光を纏ったツノを突き出したスパークヘラクレスが標的めがけて急降下。

 ウィーズルレッドは危ういところでそれをかわしたが、稲妻の槍となったスパークヘラクレスが地面に突き立った瞬間、そこから大爆発が巻き起こり、眩い閃光が小さな忍獣を呑み込んだ。

「ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目は治トリガー。ダメージ回復よ」

「まだよっ! メガララランサーはレストしている相手リアガードの数だけパワー+2000! ホーネットのブーストで合計パワー47000! ヴァンガードにアタック!」

「ノーガード……トリガー無し」

 ユキのダメージゾーン――几帳面な彼女らしく等間隔に並んだその場所に、5枚目のカードが丁寧に置かれる。

(いける。あたしの手札は6枚。ダメージも4点。弱体化したユキのユニットの攻撃ならしのぎきれる――なあんて思っているのかしらね)

 ユキは心の中で舌を出しながらカードを引いた。

「ライド。《夢幻の風花 シラユキ》!」

 ユキが荘厳な声音でその名を呼ぶと、木々の合間を縫うように銀色の風が吹いた。

 月光を浴びて夜の闇に浮かび上がるのは、一瞬にして雪化粧を施された純白の森。

 世界を自分の色に塗り替えて、か細い枝の上に、麗しき大妖が音も無く降り立った。

「イマジナリーギフトはアクセルⅠを選択。

 そして、シラユキ登場時の効果。前列にいるアリサのユニット3体のパワーを-10000するわ」

「ん」

 ここまでは想定内という顔でアリサが頷く。

「アクセルサークルに《忍妖 クロバネテング》をコール」

「う」

 アリサの顔が分かりやすく歪んだ。

「クロバネテングの効果。パワーに+5000して、名称を《特務忍獣 ウィーズルホワイト》に変更するわ。ウィーズルブルーとホワイトの効果を受けられるようになって、さらにパワー+10000。

 さあ、いきましょうか。シラユキでスパークヘラクレスにアタック」

「プロテクトで完全ガード!」

「ドライブチェック。1枚目……前トリガー。前列のユニットすべてにパワー+10000」

「つっ!?」

「2枚目は……トリガー無しよ」

 シラユキがスパークヘラクレスに手を差し向けると、そこから嵐が吹き荒れた。彼女の儚げな外見からは想像もつかないような、魂すら凍てつかせる絶対零度の猛吹雪。

 スパークヘラクレスの前に顕現した翠緑の盾が、それをどうにか押し留める。

 だが、吹雪という新たな隠れ蓑を得た忍獣達が、再び獲物を取り囲み始めた。

「ウィーズルブルーでアタック」

「ノーガード。ダメージチェック……トリガーは無しよ」

「2体目のブルーでアタック」

「……ノーガード」

 白き闇に紛れた忍獣がスパークヘラクレスの胸に刃を突き立てる。傷口から火花が散り、瞳からは光が落ちた。そうして全機能を停止したスパークヘラクレスは、雪を舞い散らすようにして倒れこむ。

 吹雪はいまだ止まず、物言わぬ鉄の塊となったそれを、降り積もる雪の結晶が覆い隠していった。

「ダメージチェック……あー、負けたっ!!」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いたアリサが悲鳴をあげるように叫んだ。

「んー……デッキのコンセプトは間違ってなかったはずなんだけどなぁ。1体はリアガードにアタックしておくべきだったかな? むらくもにはメガララランサーより、《ナスティ・スモッグ》の方が有効だったかも」

 そして、すぐさまプレイングとデッキの改善点を洗い出そうとするアリサに、ユキが問いを投げかけた。

「私が強かったとか、自分の運が悪かっただけとは思わないの?」

「ん? ぜんぜん」

「そう言えるあなただからこそ、部長に相応しいのよ」

「え?」

 デッキをいじる手を止めて、アリサが顔を上げる。

「負けても、何かのせいにするでもなく、ひたむきに努力を続けながらヴァンガードを楽しんでいる。そんなあなたしか部長はいないと言ったのよ」

「ちょっ、待ってよ! そんなの当然のことでしょ?」

「それを当然と考えて、当然のようにできていることがすごいのよ。ましてあなたは、あたしを追い続け、ミオには追い抜かれ、その努力は報われてもいないというのに……」

「報われてるよ!」

 アリサは即座に反論した。そして、胸を張って言う。

「今日はいつもよりユキを追い詰めた」

「……やっぱりあなたは部長に相応しいわ。あなたは努力のしかたも、努力の意味も、努力の価値だって知っている。

 それをミオや新しい後輩達に伝えてあげて。それができれば、響星学園カードファイト部はきっと歴代最強になれるはずよ」

「…………わかった」

 黙考したのち、アリサは力強く頷いた。

「ユキがそこまで言ってくれるのなら、やるよ。あたしにどこまでできるかわからないけどさ」

「ええ。あとは頼んだわよ」

 そう言って、ユキはすべてを託すように、掌をアリサの手の甲に重ね合わせる。

 窓の外では夕暮れの時間が終わり、部室を静かな闇が満たしていった。

 

 

「もう、ヴァンガードやめる」

 10度目の対戦を終えた、近所にある中学校の制服を着た少女が、別の中学校の制服を着たユキへと、おずおずとした声音で告げた。

「……そう。どうしてかしら?」

 理由は半ば解っていながら、ユキが問うた。

「だって、白河さんには何度やっても勝てないから。私なりにこれまで頑張ってきたけど……もう、疲れちゃった」

「……わかったわ。今まで、付き合ってくれてありがとう」

「うん。さようなら。白河さん」

 少女が席を立ち、振り返ることなく去っていく。

 デュエルスペースの片隅で、ぽつんと独りきりになったユキは、デッキの調整をし始めた。

 またひとり対戦相手(ともだち)がいなくなった。

 ヴァンガードを始める前から、ずっとそうだった。

 芸事でも、運動でも、遊戯でも、彼女と対戦した者は皆、それを止めて逃げるように去っていく。

 彼女の周囲には、いつも人がいなかった。

 聡い子供だった彼女は、孤独であることは才能を与えられた者として当然の代償だと、そのことを受け入れていた。

 もしくはその考え方こそが、彼女を子供たらしめる強がりだったのかも知れないが。

(……潮時かしら)

『夢幻の風花 シラユキ』を手に取って、ユキが独りごちる。

 ヴァンガードは、無趣味な彼女が初めて熱中できるほど、面白いと感じた遊戯だった。

 だがそれも対戦相手がいなければ成り立たず。何より、彼女と対戦してヴァンガードの楽しさを知ることなく辞めていく人が現れるのは、これ以上、耐えられなかった。

「あっ、ユキ! いたいた!」

 カードを片付けようとしたユキに、声がかけられる。

 自分でも気づかないうちに沈んでいた顔を上げると、そこには真新しい中学校の制服を着たアリサが立っていた。

「ファイトしよーよ、ファイト! ギラファデッキを調整し直してきたの!」

 初めて会った時には内気だった彼女も、今ではすっかり明るい性格になっていた。もともとそういう素養もあったのだろうが、ファイトを通して人付き合いを覚えた彼女は、誰とも友達になれる人気者だ。

「……あっ、もしかして、帰るところだった?」

 ケースにしまわれたデッキを見て、アリサが気をつかう。

「いいえ」

 ユキは嘘をつきながら、首を振った。

「けど、私でいいの? あなたとなら対戦したがっている人なんていっぱいいると思うけど?」

 自嘲するように。それを顔に貼りつけた微笑みで巧妙に覆い隠してユキは問うた。

「うん! あたしはユキがいーの」

 屈託のない笑顔で頷いたアリサは、ユキの手前にするりと座り込んだ。

「だって、この店の常連さんで、あたしが勝ち越せていないのはユキだけだもの。勝ち越すまでやるよ」

「あら。それだと、一生を賭けて私とファイトしなければならなくなるわよ?」

「じゃ、これからもずっとファイトできるんだね」

 それの何が嬉しいのか、アリサが満面の笑みを浮かべた。

「こう前髪で片目を隠せば、それってすっごくカッコいいんじゃない!?」とか意味不明なことを言い出して伸ばしはじめた前髪越しにでも分かる、素敵な笑顔だった。

「……そう。しかたないわね」

 ユキが観念したように呟いた。

 もしかしたら、孤高を気取っていた自分にも、親友ができてしまったのかも知れない。

 もしくは腐れ縁か。

「それじゃ、ファイトしましょうか」

 ユキがケースから再びデッキを取り出す。

「オッケー!」

 アリサもテーブルにデッキを置いた。

 呼吸を重ね合わせて、2人同時に宣言する。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!」」

 

 

「これからもずっと友達でいてね」

 穏やかな宵闇に包まれた薄暗い部室の中。手と手を重ね合わせながら、ユキはアリサに聞こえないように呟いた。

 返事は聞かなくてもいい。

 答えはもうとっくにわかっているから。




アリサがまともにファイトするのはじめてかも知れない。

色々と目立っているキャラクターなので、全然そういう印象はなかったのですが、これが紛れもないアリサの初ファイトです。
メガコロニーは自分の使っているクランだからこそ、遠慮して、あえてアリサにファイトさせていなかった部分もあるのですが、ここまで遅くなってしまうとは。

ちなみに8年前は「双剣覚醒」の時代。メガコロもむらくももデッキを組むことができるようにはなっています。
当時の小学3年生が、今年は高校3年生という、時の流れの速さにも驚きます。

次回はいよいよ1年生編のラストになります。
その前に「The Astral Force」のえくすとらもありますので、まずはそちらでお会いできれば幸いです。


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3月「美人は骨格から美しい」

「《ラナンキュラスの花乙女 アーシャ》で、《クロノジェット・ドラゴン》にアタックします」

「ダ、ダメージチェック! ……ああー! また負けたー!!」

 浴衣姿のアリサが悲鳴をあげて畳の上に倒れこんだ。

 ここはユキの家。周囲には障子や襖。床一面に敷かれているのは畳。ファイトテーブルはこたつ。古きよき香りのする木造建築の一室で、ミオ達、響星カードファイト部の面々が、発売したばかりのトライアルデッキによる対戦に明け暮れていた。

 部活でトライアルデッキに触れる機会がないユキのため、彼女の家で遊ばないかと提案したのはアリサで、それならばと泊まっていくことを勧めたのがユキである。

 この日の3人は、デッキを買いに行っては昼食を食べ。カードの考察をしては夕食を食べ。風呂に入って寝間着代わりの浴衣を借りてはファイトをして。ヴァンガード三昧の1日を送っていた。

「あら、いけない。もうこんな時間だわ」

 壁にかけられた古時計を見上げて、ユキがとぼけたように言う。時計の針は午前の1時を回っていた。

「名残惜しいけれど、今日はここまでにしましょうか」

 長年カードファイト部の部長を務めてきたユキに時間の管理ができないわけはないので、意図的に夜更かしをさせてくれたのだろう。

「はい。お疲れ様でした」

「おつかれー。思ったよりクイックシールドは厄介だったね」

「はい。最序盤に5000要求でアタックしても、確実に5000ガードで捌かれてしまうので、リアガードを1体だけ出すのはリスクが高くなりました」

「2体以上並べるのでなければ、先行は展開を控えるのが安定かなー」

 ファイトが終わってもヴァンガードの話をしながら、アリサとミオがこたつを部屋の隅へ移動させ、ユキがそこに布団を敷いていく。

 我先にと布団へ飛び込んだアリサが、妖しい笑みを浮かべてミオを手招く。

「ほら、ミオちゃん。隣に来なよ。せっかくのお泊り会なんだからさ。好みのタイプとかいろいろ聞きだしちゃうよ。まだまだ夜は長いわよー」

「? 私の好みはギヲやヲクシズですが」

「早いし、何か聞きたかったことと違う!」

「ふふ。けど、たしかにヲクシズやヱヰゴヲグのイラストは綺麗よね」

「あ、わかる! DaisukeIzuka先生、もっとメガコロのカードも描いてくれないかなあ?」

 恋話(コイバナ)はあっさりヴァンガードの話題へとすり替えられ、その5分後には、アリサが早々に寝息をたてはじめるのであった。

 

 

 時計の針が3時を回った頃。

 ミオは布団の中から這い出ると、アリサの穏やかな寝息を背中で聞きながら、障子を開けて部屋を出た。

 すぐ近くに縁側があり、庭を一望できるようになっている。ミオはそこに腰かけると、真っ暗な空を見上げた。

 冬の気配が残る冷たくも透明な空気の中で、金色の月がぽっかりと浮かんでいる。

 いずれ月へと帰る、御伽噺に出てくる姫のように、その横顔は寂しげな憂いに満ちていた。

「風邪ひくわよ」

 ミオの細い肩に半纏がかけられる。

「眠れないの?」

 いつの間にかミオの傍らに立ち、同じ月を見上げながら、ユキが尋ねた。

「ええ」

 半纏の前を閉じながら、ミオが答える。

「今日はとても楽しかったです。ですが、何かやり残したことがあるような気がして、これで1日を終えるわけにはいかないという焦燥、とでも言うのでしょうか……」

「では、ファイトをしましょうか」

「え?」

 唐突な提案だったが、ミオの中で欠けていたパズルのピースが、かちりと音をたててはまった気がした。

「考えてみれば、今日は自分のデッキでファイトしていないもの。不完全燃焼になるのも当然だわ」

「そうですね。1日1根絶者の自分ルールを忘れていました」

「そんなものが……」

 肌寒いというのに、何故かユキが一筋の汗を垂らした。

「アリサを起こしてしまうといけないわ。離れた部屋へ行きましょう」

 気を取り直したユキが、ミオを先道するように歩き出す。

「後で『あたし抜きでファイトなんてずるい』とか怒られそうな気もしますが」

 とは言え、デッキを取りに部屋へと戻ったところ、アリサがあまりにも気持ちよさそうに寝ていたので、結局、起こすことはしないままユキへとついていく。

 彼女に案内されたのは、ミオ達が寝ていた部屋を1人用にしたような、こじんまりとした部屋だった。

 畳が敷かれた部屋の真ん中にはこたつがあるのは同じで、壁際には2台の大きな箪笥。その隣では布団が丁寧に畳まれている。

 部屋の隅に配置された作業机の上に、いかにもカードが入っていそうな化粧箱が山積みになっているのを見て、ここがユキの私室なのだと思い至った。

「そこに座って待っていて」

 垂らされた紐を引いて蛍光灯の明かりをつけると、ユキはこたつの前に敷かれた座布団を指し示した。ミオは言われるがまま座布団の上で正座し、デッキを置いて待つ。

 ユキは作業机の引き出しから自分のデッキを取り出すと、ミオの対面に同じようにして正座した。

「これがきっと、高校生最後のファイトね」

 何気なくぽつりと漏らされたユキの呟きに、ミオは心臓が小さく跳ねるのを感じた。

 明日の朝は1日1根絶者の掟に従い、カードショップに赴く予定で、ユキとアリサも誘うつもりだったが、卒業式を控えたユキは忙しく、きっと付き合ってはくれないのだろう。

 得体の知れなかった焦燥の正体も、それで知れた。

 高校生のユキに勝つ機会は、今日こそが最後だったのだ。

「はじめましょうか」

 ミオの心情を知ってか知らずか、普段とまったく同じ調子でユキが尋ねる。

「ええ。よろしくお願いします」

 ミオも平静を装って答えた。

 ファーストヴァンガードを手に取り、同時に宣言する。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《忍獣 キャットデビル》」

 響星学園1年、音無ミオ。

 響星学園3年、白河ミユキ。

 ある時は師弟のように。ある時は好敵手のように。ある時は姉妹のように。

 この1年間、競い続けてきた2人のファイトがひとつの終わりを迎えようとしていた。

 

 

「私のターン。ライド! 《忍妖 ジャコツガール》!」

 集いしは、忍びと呼ぶには面妖なる傾奇者。

 されど、忍ぶばかりが忍びに非ず。

 陽動もまた、忍びが使命と心得よ

 隈取りの鬼が戦場にて見栄を切る時、必殺の刃は首筋に迫っているものと知るがいい。

 我らむらくも忍軍。

 帝国を覆う光となりて、仇なす者を惑わさん。

「《忍妖 ミッドナイトクロウ》をコール。その効果でジャコツガールを分身(スペリオルコール)させます。

 さあ、ヴァンガードのジャコツガールでアタックよ」

「ノーガードです」

「ドライブチェック……トリガーは無しね」

 ミオのダメージゾーンに1枚目のカードが置かれる。こちらもトリガーは無し。

「続けて、ミッドナイトクロウでアタックするわね」

「ノーガード。ダメージチェック……(クリティカル)トリガーです。効果はすべてヴァンガードのガノヱクへ」

「あら、困ったわねえ」

 ユキが笑顔のまま白々しく思案顔をする。

「でも、リアガードのジャコツガールでアタック。攻撃は通らないけれど、影縫が発動。山札の上から7枚見て……《夢幻の風花 シラユキ》を手札に加えるわ。

 私はこれでターン終了よ」

 ユキの2ターン目が終了した時点で、ミオのダメージゾーンに置かれたカードは2枚。ユキのダメージゾーンには1枚。

「私のターンです。《迅速な根絶者 ギアリ》にライド。

 ドロヲンのブースト。ギアリでアタックします」

「ノーガードします」

「ドライブチェック……★トリガー。効果はすべてギアリへ」

「あらあら。ダメージチェック……2枚ともトリガーはありません」

「ギアリのスキルを発動。ジャコツガールを裏でバインド(バニッシュデリート)します」

「ふふ。やるわね」

 逆転され、主力のジャコツガールを除去されたにも関わらず、ユキは嬉しそうに微笑んだ。

「私を強くしてくださったのはユキさんです」

「ありがとう。

 では、これはどうかしら?

 ライド! 《隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ》!」

 百の鬼を従えし、謎多き忍竜。

 その研ぎ澄まされし刃は、帝国へも向けられていたことを、この時はまだ誰も知らなかった。

 後の世に、大いなる災いを招く諸刃の剣。

 稀代の叛逆者、ヒャッキヴォーグ。

 ここに見参。

「イマジナリーギフトはアクセルⅡを選択して、1枚引くわ。

《窮迫の忍鬼 ベニジシ》と《忍妖 レイニィマダム》を後列にコール。

 ミッドナイトクロウの後列に《忍獣 メタモルフォックス》をコール。登場時の効果で、名称を《隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ》に変更します。

 そして、ヒャッキヴォーグの起動効果発動よ。手札を1枚捨てて、山札からアクセルサークルにヒャッキヴォーグをスペリオルコール。すべての《隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ》にパワー+10000するわ。

 さらに、リアガードのヒャッキヴォーグも同じ効果を発動。ヒャッキヴォーグをベニジシの前列にスペリオルコールして、すべてのヒャッキヴォーグにパワー+10000!」

 夢か現か幻か。

 ヒャッキヴォーグの姿が1体、また1体と増えていき、そのたびに、忍竜が纏う禍々しい気配が強くなっていくのを感じる。

「戦闘開始よ。レイニィマダムのブースト、ヴァンガードのヒャッキヴォーグでアタック」

「ノーガードです」

 ヒャッキヴォーグが素早く印を切り結ぶと、その姿が先ほどとは比較にならないほど。途轍もない勢いで増えていく。

 千、万、億、兆。それはやがて亜双義を越え、那由他の果てを数えるに至る。

 幻影でも無ければ残像でも無い。その全てが明確な殺意と刃を携えた実体として、根絶者を斬り刻んだ。

「ツインドライブ。

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……前トリガー。前列ユニットのパワー+10000よ」

 ミオのダメージゾーンに置かれる3枚目のカード。

「ベニジシのブースト。合計パワー40000のヒャッキヴォーグでアタック」

「これもノーガードです」

 続けて4枚目。

「ヒャッキヴォーグの名を持つメタモルフォックスでブースト。合計パワー47000のミッドナイトクロウでアタック」

「ノーガードです。ダメージチェック……(ドロー)トリガー。1枚引いて、効果はすべてヴァンガードへ」

 早くも5枚目のカードがダメージゾーンに置かれてしまうが、この程度でミオは動じない。

 ユキと対戦していれば、このようなことは日常茶飯事だからだ。

「パワー47000、アクセルサークルのヒャッキヴォーグでアタックするわ」

「完全ガードです」

「ユニットのアタックが通らなかったので、レイニィマダムの影縫が発動。レイニィマダムをソウルに置き、ドロップゾーンから《夢幻の風花 シラユキ》を手札に戻すわ。

 私はこれでターン終了します」

(シラユキをヒャッキヴォーグのコストとして、ドロップゾーンに置いていたんですね)

 やること成すことに無駄が無さすぎる。

 ミオは改めて、目の前の越えるべき目標の偉大さに戦慄した。

(ですが。ユキさんに勝てるのは……もう、今日しかないんです)

 決意を込めて、切り札を振りかざす。

「ライド――《絆の根絶者 グレイヲン》」

 彼女の意志に応えるかのように、この1年間、共に戦ってきた相棒が闇に吼える。

(行きましょう、グレイヲン。私達の成長をユキさんに見てもらうんです)

 グレイヲンがぶっきらぼうにだが頷くのを感じた。

 彼にとってもユキは、苦渋を舐めさせられ続けた因縁の相手に違いない。

 ミオとグレイヲン。2人の意志は、今、真に一つだった。

『「グレイヲンのスキル発動」』

 静かなミオの声に、不気味だが力強いもうひとつの声が重なるのを、ユキは確かに聞いた。

『「ヒャッキヴォーグをデリート」』

 グレイヲンが拳を叩きつけ、ヒャッキヴォーグの肉体を虚無へと散らす。

「《呼応する根絶者 エルロ》をコール。ドロップゾーンから《呼応する根絶者 アルバ》もスペリオルコール。

 その後列に《発酵する根絶者 ガヰアン》と《速攻する根絶者 ガタリヲ》をコール。

 ……行きますよ、ユキさん」

「ええ。あなたのすべてを私に見せて」

『「グレイヲンでユキさんにアタック」』

 グレイヲンが両腕に虚無を纏い、ユキの魂に掴みかかる。

「《忍獣 リーブスミラージュ》!」

 ユキの呼び声と共に無数の木の葉が舞い、彼女の姿を覆い隠す。

「ツインドライブ。1枚目……★トリガー。効果は全てアルバへ。2枚目……(ヒール)トリガー。ダメージ回復し、パワーはエルロへ。

 フォースⅠサークルにいるエルロ。ガタリヲのブーストで合計パワー38000。アタックします」

「《狐使い イヅナ》と《忍妖 ユキヒメ》でガード。ミッドナイトクロウでインターセプト」

「……ガヰアンのブースト。アルバでアタックします」

「ノーガードよ」

 ユキのダメージゾーンに5枚目のカードが置かれる。

 しかし、仕留め切れなかった。

「……ターンエンドです」

 一方、ミオのダメージゾーンにあるカードは4枚。

「強くなったわね、ミオ」

「そうでしょうか。まだまだ全然足りません」

「それでも、あなたは諦めていない。あなたに敬意を表して、あえてこの言葉を使わせていただくわ。

 ……ファイナルターン!!」

 それはふたりの時間を終わらせるという冷酷な宣言だった。

「まだ、終わらせません」

 ミオは自らを守るように手札を掲げた。

 ユキも切り札を手札から抜き放ち、高らかにその名を叫ぶ。

「ライド! 《夢幻の風花 シラユキ》!!」

 どこからともなく三味線の音が木霊する。

 それは噺の終わりを告げる音。

 大妖の到来を告げる音。

「シラユキの効果! ミオの前列にいるユニットのパワーを-10000!」

 シラユキが艶やかな仕草で、根絶者に吐息を吹きかける。

 たったそれだけで周囲の大気が凍てつき、根絶者達は氷の棺に封じ込められた。

「ヒャッキヴォーグの効果。手札を1枚捨て、デッキからヒャッキヴォーグをスペリオルコール。3体のヒャッキヴォーグのパワー+10000!

 もう1体のヒャッキヴォーグのCB。手札を1枚捨て、3体のパワーはさらに+10000!

 アクセルサークルには《忍獣 ブラッディミスト》をコール。

 ミオ。覚悟はいいわね?」

 ミオは無言で頷く。

「《夢幻の風花 シラユキ》でアタック!」

 シラユキの掌の中で、舞い散る六花が渦を成し、嵐と化してグレイヲンに襲いかかる。

「★トリガーでガード。アルバとエルロでインターセプト。2枚貫通です」

「ツインドライブ! 1枚目……前トリガー。前列ユニットのパワーに+10000するわ。2枚目……これも前トリガーよ」

「あ……」

 突風が容易く守りを吹き飛ばし、身動きの取れないグレイヲンを引き裂いていく。

「……ダメージチェック。……引トリガー。カードを引いて、パワー+10000をグレイヲンに」

 ダメージ5。されど力を増したグレイヲンは、氷の拘束を内側から打ち破る。

「続けて《忍獣 ブラッディミスト》でアタック」

「治トリガーと引トリガーでガードします」

「アクセルサークルのヒャッキヴォーグでヴァンガードにアタック。パワーは57000よ」

「……ノーガード」

 第壱のヒャッキヴォーグが手にした小刀が閃き、グレイヲンの首を斬り落とした。

「ダメージチェック……治トリガー」

 だが、致命傷を与えたはずの首はすぐに繋がり、その傷跡も再生する。

「ベニジシのブースト。パワー60000のヒャッキヴォーグでアタック」

 ユキはそれすらも予想していたかのように、よどみなくゲームを続ける。

(そうですよね、グレイヲン……)

 ミオは心の中で相棒に呼びかける。

「私達はまだ、終われないんです。《宇宙に咲く花 コスモリース》で完全ガード」

 第弐のヒャッキヴォーグの刃は、突如として中空に咲いた、白き鋼鉄の華が受け止める。

 完全ガードのコストを支払い、ミオの手札は残り1枚。

「ミオ……」

「褒められたばかりですからね。無様な姿は見せられません。

 さあ、最後のアタックをどうぞ。私のデッキには、まだ治トリガーが残っていますよ」

「……ええ。メタモルフォックスのブースト。パワー60000のヒャッキヴォーグで……気高くも美しき根絶少女(ヴァンガード)にアタック!!」

「ノーガード」

 息を吸い。背筋を伸ばし。ユキの目を見据えて、ミオは堂々と宣言した。

 第参のヒャッキヴォーグが、グレイヲンの心臓めがけて呪のこもった小刀を投擲。刃の突き立った部分が、再生するよりも早く灰と化していく。

「ダメージチェック」

 6枚目のダメージゾーンにグレイドールのカードが置かれると同時、グレイヲンは塵となって消滅した。

 万感の想いを込めて、ミオは深々と頭を下げる。

「ありがとうございました」

 

 ――異変はその瞬間に起きた

 

「痛っ」

 焼けつくような痛みを感じて、ミオがとっさに右手の甲を押さえる。

「どうしたの?」

 首を傾げてユキが尋ねた。

「いえ。急に手の甲に痛みが」

「虫刺されかも知れないわ。見せてみて」

 何せ古い木造建築である。害虫もよく現れるのだ。

 言われるがまま、ミオが右手をユキに差し出す。ユキは顔を近づけてそれを確認した。

「大変。あざができているわ……あら? でも、このあざの形ってどこかで」

 よく分からないことを言い出して首を捻るユキが気になり、ミオも差し出した自分の手の甲を覗き込んだ。

「……これは」

「リンクジョーカーの紋章、かしら?」

 ミオの手の甲には幾重にも重なり合う輪を模した紋章が、薄ぼんやりとした部屋の中で輝いているようにも見えた。

 二人がまじまじと凝視する中、紋章はゆっくりと光を失っていき、やがて――

「消えました」

 完全に輝きを失うと、あざも消えて無くなっていた。

「何だったのでしょうか」

「もしかしたら、惑星クレイのお友達が、ミオに力を貸してくれていたのかも知れないわね」

 ミオの疑問に、ユキがロマンチストな意見を口にする。

 リアリストなミオは「まさか」と言おうとしたが、何故か否定する気にはなれなかった。

 根絶者を身近に感じることは何度もあったし、今日はグレイヲンと一体になれた気すらした。

 それはイメージを越え、現実として実感できるほどに。

「不思議な夜だったわね」

 カードを片付けながら、ユキは結論付けるように言った。

「そう……ですね」

 不思議な夜。そんな言葉で片付けていいものかは分からないが、長く生きていれば人生に1度くらいは、そんなこともあるかも知れない。たまたま今日がその日だったのだ。

 ミオはそう納得することにして、このことはデリート(きにしない)と決めた。

 この日を境に、運命の歯車が動きだしていたことなど知る由も無く。

 

 

 卒業式の日は、一昨日の夜とは打って変わって、春を感じさせる暖かな陽気だった

 生徒会として長く学園に貢献してきたユキの人気は凄まじく、卒業式を終えて体育館を出るなり、彼女はたくさんの生徒に囲まれた。

 ユキは彼らのひとりひとりに声をかけ、彼女に名前を呼ばれた者は、ひとりの例外もなく、その別れを惜しんで涙を流した。

 ただ、白河ミユキその人だけが、いつもと変わらぬ微笑みを湛え、慈しみ深く、皆を見渡していた。

 歩いて1分もあれば辿り着ける距離を、たっぷり1時間かけて、ユキはようやく校内から外に出ることができた。

「……ふう」

 校門の前では、桜の花びらがちらちらと雪のように降っている。

 生徒の数も少なくなり、誰も見ていないところでユキは小さく溜息をついた。

「卒業おめでとうございます。ユキさん」

 ようやく人心地をついた彼女に、またひとりの生徒が声をかけた。

「……あら。去りゆく人のことなんか忘れて、カードショップにでも遊びに行っちゃったのかと思ったわ」

 拗ねたように唇を尖らせながら、ユキは声のした方を振り返った。

「ねえ、ミオ?」

 声をかけてきた生徒――音無ミオ――に微笑みかける。

「そんなわけないでしょう。ここで待っていた方が、落ち着いて話ができると思っただけです」

 そう言って、ミオは小さく肩をすくめた。

「うふふ。冗談よ」

 わかりきったことを言って、悪戯っぽくまた笑う。

 いつもの着物より豪華な晴れ着を纏い、薄く化粧をした頬は、周囲で咲き誇る花のように桜色。

 同性のミオから見ても、今のユキは魅惑的で、恋に落ちてしまいそうだった。

 それはミオが生まれてはじめて抱く、憧れの感情だった。

「そ、そんなことよりアリサさんはどうしたのでしょう」

 気恥ずかしさを誤魔化すように、ミオはもうひとりの先輩へと話題を逸らした。

「ごった返していた体育館の前にもいないようでしたが。あの人こそ、恩知らずにもどこかへ行ってしまったのではないですか?」

「あの子は、私以上に人付き合いがいいから」

 ユキが遠い目をして言う。

「こういう日には、私以外にも声をかけないとならない人がごまんといるの。許してあげて。

 それに――あの子とは先月に、もうそういうのは済ませてきたから」

 その瞳には、この場にいない親友の姿が映っているようにも見えた。

「ユキさんがいいのなら、それでいいですが」

 正直、意味はよく分からなかったが、ミオは納得したフリをして頷いた。

 話題が無くなり、ふたりの間に静寂が訪れる。

 これまでもユキとミオがふたりきりの時は、互いに無言になることも少なくなかったが、それはふたりともが落ち着いた性格であり、信頼関係で結ばれていたが故の心地よい静寂だったはずだ。

 だが、今の静寂は違うとミオは感じていた。

 何かを話さなければならないのに。話したいことはいっぱいあったはずなのに。まったく言葉が出てこない。

 一緒にいられる残り僅かな時間だけが、春風のように過ぎてゆく。

 焦りにまかせて、ミオはスカートの裾を握りしめた。

「ミオ」

 いつの間にか俯いてしまっていた顔をあげると、ユキが腕を広げて、全てを受け入れんばかりの神々しい笑みを浮かべていた。

「取り繕おうとなんてしなくていいの。あなたが感じていることを、思うがままに聞かせてちょうだい」

 心の中で何かが決壊し、気が付けばミオはユキの胸の中へと飛び込んでいた。

「行かないでくださいっ! 卒業なんて、しないでください! 3学期から、ずっと覚悟をしてたつもりでいました。

 ……でもっ! いまだにユキさんがいなくなるなんて信じられないっ! 耐えられないっ!」

「よしよし。大丈夫よ。ファイトがしたかったら、いつでも呼んでちょうだい。駆けつけるから」

 ユキがミオの白い髪を優しく撫でる。

 だが、ミオは止まらない。

「それでもっ! もう、ユキさんと新しいカードについて、部室でお話することはできません! 学校の帰りにショップに寄って対戦することも! パックの発売日に、一緒にパックを開封することも! 響星学園カードファイト部として大会に出場することもです!

 それだけじゃありません! もう、学校の前でユキさんと挨拶することはありません。ユキさんに料理を教えてもらうこともありません。買い食いがばれて叱られることも、寄り道がばれて叱られることも、バイトがばれて叱られることも……」

「ちょっと待って。私、そんなにうるさかったかしら」

「けど、それ以上に、どんな些細なことでも褒めてくれたこと。ずっと私のことを見守ってくれていたこと。それらがもう、終わってしまうんです……。ユキさんが卒業するということは、私にとっては、そういうことなんです」

「……そうね。ミオの言う通りだわ」

「だったら!」

 ミオが勢いよく顔を上げた。

 強い意志を宿した、ユキの黒い瞳と目が合う。

「けど、私は大学生になれるわ」

「……え?」

「大学生は、高校生よりもずっと自由よ。今の立場ではやらせてもらえなかったことが、大学生になったらできるようになるわ。

 高校生を卒業することで、できなくなってしまうことは確かに多いし、寂しいと思うわ。

 けどね、ミオ。今の私は、大学生になってできることの方が楽しみで仕方がないの」

「ユキさん……」

 そう語るユキの顔は、まだ見ぬ未来への希望に満ちていた。

 ミオですら、もう止めようが無いのだと確信してしまうほどに。

「だからね、ミオ。あと1年か、2年、待ってちょうだい。白河ミユキが大学生になってよかったと思えるような、今の私ではとても用意できない、とびきりの贈り物をあなたのために準備しておくわ」

「……わかりました」

 ミオがゆっくりと、名残惜しそうに、ユキの体から離れていく。

「ふふ。あなたは昔から現金ね。

 ほら、涙を拭いて。綺麗なお顔が台無しよ」

「別に泣いてません」

 ミオは白々しい嘘をついた。

 涙が引いていたのは本当だったが、それはすべてユキの着物になすりつけたせいである。

 ユキの着物を汚すのは、これで2度目になる。ユキは気にしてもいないだろうが、いずれさりげない形で弁償しようとミオは心に決めた。

「それにね、ミオ。あなたも高校2年生になるの。私がいなくなる代わりに、あなたには後輩ができるのよ」

「……そうでした。それは、何というか、楽しみです」

 未知の出会いを想像し、ミオが思わずはにかんだ。

「ふふふ。ようやく笑ってくれたわね」

 ユキも嬉しそうに微笑んだ。いつも微笑んでいるユキではあるが、安心しきったようなその笑顔は、その日ユキが見せた中でもとびきりの美しさを感じさせる、心からの笑顔だった。

「ミオも立ち直ったことだし……そろそろ行くわね」

 ユキのその言葉に、ミオの心臓がまた大きく跳ねた。

「はい。お疲れ様でした」

 ミオは精いっぱいの虚勢を張って、いつもそうしているように、小さくぺこりと頭を下げる。

「また会いましょう」

 ユキが背を向けた瞬間、一迅の強い風が吹き、吹雪のように舞い上がった無数の花びらが彼女の姿を覆い隠す。ミオも目を開けていられなくなり、思わずその目を閉じた。

 ミオが再び目を開けた時、風花の如く桜が漂う中、ユキの姿はまるで夢か幻であったかのように、跡形もなく消え去っていた。

 取り残されたミオは乱暴に目元を制服の袖で拭うと、ユキとは違う道を歩き出す。

 それは新たな始まりを予感させる、ひとつの物語の幕切れであった。

 

 根絶少女 1年生編

 

 完




これにて根絶少女1年生編は完結となります。
ここまでお付き合い頂きました皆様、ありがとうございます。
続く2年生編につきましても、どうかよろしくお願いいたします。

根絶少女もひとつの区切りということで、根絶少女の誕生秘話をあとがきに代えて、ここに記したいと思います。

この小説は本来、月ブシで不定期に開催されている「ヴァンガードマンガ大賞・小説部門」に向けて準備していたものというお話は、7月のあとがきで書きました。

第1回で準入選というありがたい賞を頂いた私は、ブシロの読者層的に、もっと女の子が登場した方がいいのではないかと(短絡的に)考え、女子高生が部活でわいわいヴァンガードを楽しむ物語を作りはじめました。
(※余談ですが、第1回で入賞した作品は、登場人物に女の子がいません)

メインとなる登場人物のうち、知的で茶目っ気もあるシラユキ使いの上級生というイメージは、ミオよりも先に浮かんできたものでした。
もっとも、それでは主人公向きの性格ではないので、彼女に導かれる主人公としてミオが設定されることになります。
言わば「根絶少女」は、はじめはユキのために作られた舞台であり、彼女は真の主人公と言っても、過言ではない立ち位置だったのです。

そんなユキも、今回のお話をもって卒業します。
登場しなくなるわけではありませんが、出番は減り、「えくすとら」のレギュラーでもなくなります。
原点とも言える登場人物を失う「根絶少女」ですが、その穴は新キャラが埋めてくれると、私は確信しています。
それほどまでに、2年生編は私が自信をもって提供できる面白い作品に仕上がったという自負があります。
どうか、根絶少女2年生編をお楽しみいただければ幸いです。

その前に、次の更新は、3月28日前後に公開予定、トライアルデッキ3種のえくすとらとなります。


なお、仕事の関係で、感想やメッセージに対する返信は2週間後になってしまう予定です。
ご了承くださいませ。


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2年生編
4月「13の階段を登った、その先に待つ者」


 その日は何の変哲もない朝だったが、特別な朝のようにも感じられた。

 空気はまだ少し冷たいが、陽の光は暖かく、春休み明けでなまった体に突き刺さる。

 舞い散る桜が歩道を彩り、大きく息を吸うと、新鮮な空気と甘い香気が肺腑を満たした。

 音無ミオは久しぶりの通学路を、五感を駆使して楽しみながら歩いていた。

 ずっしりと肩に重い手ごたえを感じさせる通学カバンには、カードしか入っていない。今日は始業式なのだから当然だ。

 午後からは、アリサと一日中ファイトするか、一緒にショップ大会に参加するか。考えるだけでも心が躍った。

 我ながら感情豊かになったものだと自画自賛しながら、今度は耳を澄ませてみる。

 桜の上で羽を休める、名も知らぬ小鳥のさえずりが――

「カネ出せ、カネ! コラァ!!」

 路地裏から聞こえてきた、いかにも頭の悪い怒号にかき消された。

 感情豊かと自負する割には、これまでピクリとも動かなかったミオの表情が僅かに険しくなった。

 つかつかと学校指定の靴で歩道を踏みしめながら、通学ルートをはずれて、声のした路地裏を覗き込む。

 まずはツンとした得体の知れない腐臭のような匂いが鼻をついた。

 続いてミオの視界に飛び込んできたものは、薄暗闇に浮かび上がる3人の少年達だった。

 ひとりは、線の細い少年。

 響星とは違う高校の制服に包まれた体つきは小柄で、薄暗い中でもわかるほど肌は真っ白。

 もっともそれは、目の前の少年に胸倉を掴まれて、顔面蒼白になっているのもあるのだろう。

 もうひとりは、大柄な少年。

 小柄な少年を宙吊りにせんばかりの勢いで胸倉を掴んでいる。

 制服を着ていないことから大学生のようにも見えるが、路地裏で「カネ! カネ!」と自分より小さな相手にすごむような高校生が、大真面目に制服を着るものかは疑問である。

 最後のひとりは、ぶかぶかのパーカーを羽織っていて体格はよく分からないが、背は高め。

 フードを被っており、顔すらよく見えないが、大柄な少年の斜め後ろにぴったりと控えていることから、子分のようなものだと推測できた。腰ぎんちゃくとはよく言ったものである。

 要するに音無ミオは、俗にいうカツアゲの現場に遭遇――首をつっこんだとも言えるが――してしまったのである。

(やれやれ。新学期早々、気分の悪いものを見せつけてくれますね)

 鬱憤は、その原因で晴らすに限る。

 政治家が同じ考えで行動したら戦争が起きそうな思考を、ミオはすぐさま行動に移した。

 足元に落ちていた汚い空き缶を拾い上げ、「えい」と少年の胸倉を掴んでいる男めがけて投げつける。コンと小気味よい音をたてて、空き缶は男の頭に命中。

「誰だ!?」

 大柄な少年が怒号を発すると同時、ミオは自身の小柄な体を、大柄な少年と小柄な少年の間に強引に割り込ませ、胸倉を掴んでいる腕を引き離す。

「まったく。カッコ悪い人達ですね。そんなにケンカがしたいなら私が――」

 大柄な少年が何か言い出すよりも早く、ミオは言葉を並べ立てると

「あ、あれは何でしょう」

 不意に適当な方向を指さした。男の注意がそちらへ向いた瞬間、ミオは逆方向へ小柄な少年を突き飛ばす。

「走ってください」

 小柄な少年は目まぐるしく変わる出来事に言葉も発せず、一目散に逃げ出した。

「では、私もこのへんで」

 ミオも少年の後を追って立ち去ろうとするが、もちろんそう上手くはいかなかった。大柄な少年に襟を掴まれる。

「離してくれませんか?」

 クリーニングしたばかりの制服が皺になることに嫌悪感を抱き、ミオは顔をしかめた。それが怯えているように見られたのか、男がまくしたててくる。

「おい、ガキ! 何してくれてんだ! 正義の味方気取りか!? ああ!?」

「違いますよ。私は弱いものいじめしかできない弱いものを見ると、弱いものいじめしかできない弱いものいじめをしたくなるだけです」

「わけわからねえこと言ってんじゃねえ!?」

 怒鳴りながら、大柄な少年が襟を掴む手に力を込める。それをミオの細く冷たい手が掴み返した。

「やる気ですか? こう見えて私、ケンカ強いですよ?」

 目の前の小さな少女から発せられる得体の知れない気迫と自信に、大柄な少年は僅かに身を引いたが、すぐに見栄が勝ったのか、威嚇するように拳を振り上げた。

「ちょっと待ちな」

 一触即発の空気に割って入ったのは、男の後ろに控えていたフードの少年だった。

「面白い事があるって聞いてついてきてみたら、カツアゲに、しまいにゃ女の子とケンカだ? ちょっと見てらんねーわ」

「おい、オウガ。裏切るつもりか?」

 手を振り上げたまま、大柄な少年がパーカーの少年を睨みつける。

「まだ仲間になった覚えはねーよ。3秒以内にその手を放してやれ。さもないとブッとばす」

 そう言って、オウガと呼ばれた少年が腰だめに構えた。

「やってみろよ!」

 大柄な少年がミオから手を放し、オウガめがけて殴りかかる。

「レディー・フォー・プレー! ゴー!」

 瞬間、少年の体が加速し、頭から男のみぞおちにぶつかった。男の体が人形のように吹き飛んで、ミオの横を通り過ぎると、放置されていたゴミ袋へ墜落した。

 袋が破れ、生ゴミが四散し、ついでにネズミも数匹逃げ出した。

「はっ。ゴミにはお似合いの場所に落ちたな」

 まさしくゴミ掃除でも終えたかのように、オウガがパンパンと手をはたく。

 体当たりの衝撃でフードが脱げたのか、目つきの悪い顔と、脱色のしすぎで白く見える尖った髪が露わになっていた。

「お前も入学早々災難だったな」

 オウガがポンとミオの肩を叩く。

「だけど、お前の言葉、効いたぜ。いっそワルになっちまうのも悪くないかと思ったが、やっぱカッコ悪いわ。気付かせてくれてありがとな」

 そう言って、後ろ手に手を振りながらオウガが去っていく。

「待ってください」

 近くで見るとがっしりしているとわかる背中を、ミオは思わず呼び止めた。

 オウガがゆっくりと振り返る。羽織ったパーカーが風になびき、下に着ている制服が露わになった。

「その新品で少し大きめの制服。ウチの学校の新入生ですよね。あなた、私のことを同じ新入生だとか思ってませんか?」

「そうだけど」とオウガが言うよりも早く、ミオが生徒手帳を取り出して、入学年月日の欄を指さした。

「私の名前は音無ミオ。響星学園の2年生で、あなたの先輩です」

「……すいませんした」

 薄い胸を張る少女に頭を下げるオウガの顔には、「え、マジで?」という失礼な感情がありありと宿っていた。

 

 

「助けてもらったお礼と、先輩からのおごりです」

 行き先が同じなので、少女と少年は自然と並んで同じ道を行く。ミオは途中の自販機でミネラルウォーターを買い、オウガに手渡した。

「ありがとござーす。つっても、助けなんていらない様子でしたけどね」

 オウガはペットボトルの封を開けながら、路地裏でミオが放った殺気を思い出して身震いした。

「いえ。あの時の啖呵はブラフでしたから助かりました」

「ブラフ? あんな刺すような気がハッタリだってことっすか?」

「最悪の事態を想定して、保険は仕込んでいましたけどね」

 そう言って、ミオは空き缶と一緒に拾い上げていたガラス片を袖から抜き出した。もう必要の無くなったそれを、ビン用のゴミ箱に投げ捨てる。

 女の子が二回りも大きい男性に立ち向かうのだから、自衛手段にとやかく言うつもりはないが。凶器を平然と隠し持っていたことに、オウガは戦慄するほどの畏怖を感じた。

「それにウチの部活なら、あのくらいの気はみんな出せますよ」

 オウガの無遠慮な視線に気づかず、ミオは会話を続ける。

「ちなみにあの気は、ダメージ5で、手札にG3しかなく、相手のアタックが1回残されてる時に発する、私は完ガを持ってるぞー。リアガードを攻撃した方がいいぞーの気です」

「はあ。よくわかんねーっすけど、殺伐とした部活動すね」

「そうですね。幸い、命はかかっていませんが、その次に大切な誇りを賭けた、魂と魂のぶつかり合いです」

「誇り……魂……」

「けど、それがとても楽しいんです」

「……そっすね。部活なんて、どこもそういうもんっすね」

 少年は納得して、深く息をついた。

「オウガさん、でいいんですよね?」

「鬼塚オウガっす」

「オウガさんも何か部活をされていたんですか?」

「……はい。中学はアメフト部でした。アメリカンフットボール部」

「ああ、なるほど。ウチの高校、運動部は強いですからね。当然、高校でもアメフトするんですよね?」

「…………いえ」

 若者らしい緩さはあれど、常に威勢のよかったオウガの声から覇気が抜け、俯いた顔には深い影が差した。

「あ。そういえば……タックルの時に脚をかばっていたような」

 思い出したように呟くと、ミオは深く頭を下げた。

「すみません。私、無神経な事を口走りました」

「いいっすよ。むしろ、察しがよすぎて驚いてます。

 スポーツ推薦が決まって1週間後の試合で脚をケガしました。生活に支障は無いけど、もうスポーツはできないって……医者に言われました」

 語る少年の声からは無念が滲み出していた。「それでも響星に入れてもらえたのは、不幸中の幸いっすね」と力無く笑う様子も痛々しかった。

「……」

 ミオはかける言葉が見つからないでいると、不意にオウガが立ち止まった。

「ついたっすね」

 気が付けば正門の前だった。

「それじゃ、ここでお別れっすね。俺ら新入生は入学式で体育館っすから。

 今日は本当にありがとうございました。あのままヤケになって不良やってたら、今度こそ退学になっていたかも知れないし、昔のアメフト仲間にも顔向けできなかったところっす。

 今日絡んじまったヤツにも、高校は分かってるんで頭下げにいくっす」

「はい。それがいいと思います。……さようなら」

「おつかれーっす!」

 手を振り去っていく少年の寂しい後姿から、ミオはしばらくの間、目を離せずにいた。

 やがて予鈴の音で我に返り、慌てて校舎へと駆け出した。

 

 

「進級おめでとー、ミオちゃん!」

「アリサさんも、おめでとうございます」

 始業式が終わり、部室に立ち寄ると、待ち受けていたアリサにいきなり抱きしめられた。

「……ユキさん、本当にいなくなったんですね」

 適当に抱擁し返してからアリサをゆっくり押しのけると、ミオは狭い部室を見渡しながら言った。

「まあねー」

 アリサはあっさりと答えた。

「何か悩み事? あたしじゃ足りないかな」

 そして、ミオの胸中をすべて見抜いているかのように尋ねる。

「あ、そういうわけでは…………いえ。聞いて頂けますか?」

「何でも聞くよ」

 ユキのものとはまた違う、頼り甲斐のある笑顔になって、アリサは窓際に腰を据えた。

「悩みや相談と言うよりも質問なのですが。もしヴァンガードができなくなったら……その、手をケガしたりしてカードが引けなくなったりとか。そうなったらどうしますか?」

「足でも舌でも使ってカード引いてやるけど、そういうことじゃないみたいだね。

 ヴァンガードができなくなったら? 死ぬかな」

 アリサは涼しい顔で、恐ろしい事をしれっと言ってのけた。

「ゲーム如きで何を大げさなって大人は言うかも知れないけどさ。あたしは10年間ずっとヴァンガードしてきたの。人生の半分以上よ。そんなの半身みたいなものじゃない。それを奪われたら生きていけないでしょうよ」

「そう、ですよね……」

 ヴァンガードをはじめて1年のミオにも、その気持ちは理解できた。そして、彼女達にとってのヴァンガードが、オウガにとってのアメフトだったのだろう。

「けどね」

 オウガの苦しみを思い、顔を伏せたミオに、アリサが優しく言葉を続けた。

「死ぬほど泣いて、死ぬほど吐いて、死ぬほど喚いた後にね。あたしはまた次の楽しいことを探しにいくと思うな。だって、ヴァンガードが教えてくれたのは、人生……生きていることの楽しさだから。

 カードを通して世間話してさ。皆でバカやって、笑って。ファイトだけじゃない、そんな他愛の無いやり取りが、あたしは楽しかった。ヴァンガードができなくなっても、その思い出まで消えて無くなるわけじゃない。

 だから、あたしはまたきっと前に進める」

「……そうですか。ありがとうございます」

「答えになった?」

「はい。申しわけ無いですけれど、今日はこれで失礼します。部室のデッキ、一つ借りていっていいですか?」

「んー、本当は持ち出し厳禁なんだけどね。部室のカギは預けておくから、今日中に返しておくのなら許す!」

 アリサがポケットから投げ渡した鍵を、ミオは空中で掴み取る。

「ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げ、ミオは部室のデッキをひとつ抜き取ると、部屋を飛び出したのであった。

 

 

 ミオは高校の正門にもたれかけ、人を待っていた。

 ミオの高校ではない。警備員の視線がそろそろ厳しくなってきたが、もう少し待たせて欲しいと心の中で念じた。

 やがて、待ち人は来た。

「音無先輩!?」

「オウガさん。ここにいればあなたに会えると思って待っていました」

「何なんすか。俺がちゃんと謝罪するかどうか確認しにきたんすか?」

 待ち人――オウガが少し憮然とした表情になって尋ねた。そして、ミオが待っていたのは、オウガが脅していた少年の高校であり、場所は件の生徒の制服から割り出した。

「そうですね。それもあったかも知れません。あなたが口先だけの人なら、私も用はありませんでしたし」

「話が見えねーっすけど。ちゃんと謝ったっすよ。どうにか許してもらえたっす。嘘だと思うなら、まだ校舎にいるんで確認してもらっても……」

「そこまで疑ってませんよ。それより、オウガさん。あなた、部活はどうするつもりですか? スポーツ推薦で入学するからには、部活には所属しなければならないはずです」

 ミオの指摘に、オウガの顔がいよいよ不機嫌なものになる。

「アメフト部の、幽霊部員になるつもりっす。先生方は事情を知ってるんで……。苦手っすけど、勉強さえ頑張れば、退学にはならないと思うっす……」

 オウガが言葉を発するたび、その表情が少しずつ歪んでいく。まだ癒えきっていない傷口に、現実が一つ一つ突き刺さっているのだ。

「そうですか。辛いことを言わせてしまいましたね。けど、それを聞いて確信しました。あなたはカードファイト部に入って、ヴァンガードを始めるべきです」

 ピッと細い指でオウガを指さし、ミオが堂々と提案した。

「は? カードファイト? ヴァンガ……?」

 オウガは意味が分からず目を何度もしばたたかせる。

「ヴァンガード。先導者という意味のカードゲームです」

「カードゲーム? 子供らがよくやってるアレっすか?」

「そうです。子供に人気ですが大人もやっています。プロリーグもありますよ。そういう意味では、スポーツと何ら変わりありません」

「マジっすか? けど、せっかくお誘いですけど、俺、そういう頭使うゲームは苦手で……」

「ルールは簡単です。それだけでも聞いてみませんか?」

 おねだりでもするように――本人にその自覚は無いだろうが――ミオは軽く首を傾けた。

 その可憐な仕草に少しどぎまぎもしながら、オウガは腕を組んで考える。

「先輩には借りがあります。だから、聞くだけは聞いてみるっす。ですが……」

「ええ、そこから先はあなたが決めてください。強制はしません」

 そう言うミオの表情は、すでに勝ちを確信した……具体的に言えば、ダメージ5の相手にグレイドールのアタックが★トリガー付きで入った時の顔になっていた。

 

 

 近くにカードショップがあったので、ミオはそこに入ることに決めた。

 ショップの名は『ホイールオブフォーチュン』と言い、円形の店内の約半分を占める、広めのデュエルスペースが特徴の店のようだった。

「ふむ、なるほど。学校から帰宅する層を狙った店のようですね。近くに競争相手がいない分、シングル価格は高めですが、品揃えもいいですし。75点と言ったところでしょうか」

「はあ。こんな店もあるんすね……げっ、10万円!?」

「ああ。さすがに万の値がつくカードなんてごく一部で、普通にプレイする分には縁は無いので気にしないでください。このくらいの値段でも買う人がいるくらい人気のあるゲームだと、好意的に捉えてくださったら結構です」

 そんな会話をしながら、デュエルスペースの奥に座り、2人で向かい合う。

「さて、オウガさん。あなたにオススメのクランはこれ」

 ミオはカバンから、持ち出したデッキを取り出してオウガに手渡した。

「スパイクブラザーズです」

 デッキの前面に置かれたカードはもちろん(?)《ジャガーノート・マキシマム》である。

「そこの読者さん。『やっぱり』とか思いましたね?」

「誰に話しかけてるんすか?」

 異次元の壁に向かって指をさすミオに、オウガは怪訝な表情を浮かべた。

「それで、クランってなんなんすか?」

「氏族・一族といった意味合いです。あまり一般的なものではない言葉かも知れませんね」

「チームみたいなものと思えばいいんすかね」

「そうですね。オウガさんもゆくゆくは根絶者使いになって頂く予定ですが、オウガさんがヴァンガードを覚えるにあたって、スパイクブラザーズほど相応しいクランはないでしょう」

「はあ」

 気の無い返事のオウガは一旦置いておいて、ミオは1年前にアリサがヴァンガードを教えてくれた時の事を思い出す。確か彼女はこう言っていたはずだ。

「イメージしてください。今の私達は地球によく似た惑星、クレイに現れた霊体です」

「何でっすか?」

「……へ?」

 まさかルール以前で質問されることになるとは思わなかったミオは、無表情のまま口をぽかんとさせて固まった。

「何で、その惑星クレイに現れることになったんすか?」

「え、えーと……観光とかじゃないでしょうか」

 その答えは台本には無かったため、適当にでっちあげる。

「霊体で? 大変っすね」

「そうです。大変なんです。私達は霊体のままでは長くは生きられません。そこで惑星クレイの生物にライドして戦うことになります」

「観光に来たのに!?」

 せっかく軌道修正できたと思いきや、またもや派手にポイントを切り替えられた。

「……ヤンキーのくせに細かいこと気にしますね」

「ヤンキーになる前に止めてくれた人がいるんで」

「……とにかく」

 声のトーンを一段階下げてオウガを黙らせてから、説明を続ける。

「あなたがライドするのは惑星クレイのアメフトによく似たスポーツ、ギャロウズボールの最強チーム・スパイクブラザーズです」

「地球とよく似たもの多いっすね」

「スパイクブラザーズは悪質タックルから凶器攻撃までルール無用の残虐チームですからね。観光客に襲いかかるのもそのためでしょう」 

「悪役じゃないすか」

「ええ、悪役です」

 ミオはいたずらっぽく口の端を上げた。

「いいじゃないですか。イメージの中でくらい(ワル)になっても」

「……そっすね」

「ちなみに私のクランはリンクジョーカー。惑星クレイの侵略者です」

「悪役じゃないすか」

「私の先輩が使うクランはメガコロニー。惑星クレイの闇で暗躍する秘密結社です」

「悪役しかいないじゃないすか」

 そんなやり取りを交えつつ、カードや用語の説明を一通り終えた頃には、ミオの呼吸は荒くなっていた。これをずっと笑顔で続けてくれたアリサは凄いと改めて感じていた。

「ふう。では、実際にファイトしてみましょうか。まずはデッキからグレード0のカードを1枚選んでください。スパイクブラザーズの場合は《メカ・トレーナー》が適任です」

「これっすね……っと」

 オウガが自分のヴァンガードサークルにカードを置き、ミオもその正面にカードを置く。

「次にデッキからカードを5枚引きます。一度だけ、任意のカードをデッキに戻して、その分だけ引き直しができます。グレード1から3のカードが揃うようにするのがコツです」

「グレード1、2、3……揃ってます」

「なら引き直す必要は無いですね。私は3枚引き直します。そして、『スタンドアップ ヴァンガード』の掛け声で、選んだカードを同時に表にします。

 いきますよ。スタンドアップ……」

「ヴァンガード!」

 名だたる選手達を育て上げてきた伝説のサイボーグ、《メカ・トレーナー》として、オウガは惑星クレイに初めて降り立った。

 周囲からワッと歓声が沸き起こる。ここは何処かのスタジアムらしく、緑の芝に覆われたフィールドを照らし出す照明が眩しい。

 目の前には、名状しがたき姿にライドしたミオもいた。

「よくできました。本来ならじゃんけんで先行を決めなければならないのですが、今回はルール説明のために、私が先行を取らせて頂きます。

 まず、ターンが始まったらデッキからカードを1枚ドローします。

 そして、今のグレードより高いグレードのユニットにライドします。

 ライド。《発酵する根絶者 ガヰアン》

 こうして自分を強くしていくんですよ」

「いきなり腐ってますけど」

「発酵って言ってるじゃないですか、このスットコドッコイ」

「スットコ……?」

「手札から自分のグレード以下のユニットをコールする事もできます。

 コール。《速攻する根絶者 ガタリヲ》

 このままガヰアン達でアタック……としたいところですが、先攻の1ターン目は攻撃できません。オウガさんのターンです」

「えーと、まずは1枚引くだったな。ド、ドロー! えと……《ワンダー・ボーイ》にライド!」

(うんうん。私にもこんな時期がありました)

 オウガの初々しい手つきに、ミオは胸が熱くなるのを感じた。

 ちなみに彼女は都合よく記憶を改ざんしている。ミオは初ヴァンガードの時から、アリサの動きを完全にトレースしていたため、彼女がたどたどしくプレイした事実など一度もない。

「《ジャイロスリンガー》をコール。で、アタックしたい場合はどうしたらいいんすか?」

「こうやってユニットを横に傾けることをレストと言います。アタックさせたいユニットをレストさせてアタックの宣言をしてください。あなたのユニットのパワーが相手のユニットのパワーを越えていたらアタック成功です」

「よっしゃ! 《ジャイロスリンガー》でアタック!」

「アタックされたプレイヤーはガードすることができます。手札からこのようにガーディアンサークルにカードを置きます。

《呼応する根絶者 エルロ》でガード。

 ガーディアンサークルに登場したユニットのガード値が、私のユニットのパワーに加算されます。ガヰアンの8000にエルロの5000が加算され13000になったので、オウガさんのアタックは失敗です」

「くそっ、ややこしくなってきやがったぜ!」

「小学校2年生レベルの算数くらい頑張ってください」

「なら、《ワンダー・ボーイ》でもアタックだ!」

「この攻撃はガードしません。

 そして、ヴァンガードがアタックした時、ドライブチェックが発動します。山札の上からカードを1枚めくってください」

「うっす」

 オウガがめくったカードは《陽気なリンクス》

「おめでとうございます。右上にマークのあるカードはトリガーと言って、ドライブチェックでめくられた時に効果を発揮します。このカードは(ドロー)トリガー。カードを1枚引いて、好きなユニットにパワーを+10000することができます」

「了解っす。ドロー!」

「ドライブチェックでめくったカードも手札に加わるので、忘れないでくださいね。

 次に、ダメージを受けた私はダメージチェックを行います。ダメージチェック……私も引トリガーです。

 ダメージチェックでめくったカードも、ドライブチェックと同じように効果を発揮しますが、めくられたカードは手札ではなくダメージゾーンに置かれます。

 このダメージゾーンに置かれたカードが6枚になったプレイヤーは敗北となります」

「あと5回攻撃を当てれば俺の勝ちってことっすね。

 よし、ターンエンド」

「私のターン。スタンド&ドロー。

 ライド。《迅速な根絶者 ギアリ》

 次はブーストを説明しましょう。グレード1以下のユニットは、前列のユニットをブーストできます。さっき私が出した、かわいいガタリヲの前に《慢心する根絶者 ギヲ》をコールします」

「かわいくはないっすけど」

「そんなことはありえません。むしろ兄弟分のギヲと並んで、かわいさ3倍増しです。

 ブーストさせる時は、前列のユニットをアタックさせる時、一緒にレストしてください。

 ガタリヲのブーストを受けたギヲでアタックします。この場合のパワーは、ギヲのパワーにガタリヲのパワーを足したものになります」

「ということは、10000+8000だから、18000!?」

「はい。《ワンダー・ボーイ》のパワーは8000。さっきの《陽気なリンクス》ではガードできませんよ」

「くっ、ノーガード。ダメージチェック……(クリティカル)トリガー?」

「はい。ダメージチェックでは★に意味はありませんが、+10000の効果は共通です」

「そうか! なら、《ワンダー・ボーイ》に+10000!」

「困りましたね。ギアリの攻撃が届かなくなりました。では、ギアリはリアガードの《ジャイロスリンガー》にアタックしましょうか」

「そんなこともできるんすか!?」

「はい。アタック対象は状況に応じて臨機応変に選んでください。ガードしますか?」

「いや、いいっす」

「では、アタックを受けたリアガードは退却します。ドロップゾーンに置いてください。

 ドライブチェックのトリガーは無し。これで私はターンエンドです」

「俺のターン!」

「ターン開始時に、レストしているユニットを全てスタンドさせてください」

「了解! スタンド&ドロー!

 ライド! 《ハイスピード・ブラッキー》! 《スパイクバウンサー》をコール!」

(ふふ。オウガさんの声に熱が帯びてきています)

 してやったりとばかりに、ミオはテーブルの下で拳を握る。

「《スパイクバウンサー》でアタック!」

「次に説明するのはインターセプトです。グレード2のユニットはインターセプトが可能です。前列のリアガードであるなら、ガーディアンサークルに移動できます。ギヲを移動させ、これで+10000ガードですね」

「時に攻めに加わり、時にブロックする。タイトエンドの立ち位置っすね」

「私はアメフトに詳しくないですが、オウガさんが理解できているようなのでいいでしょう。続けてください」

「うす! 《ハイスピード・ブラッキー》でアタック!」

 ミオはノーガードを選択し、ドライブチェックでトリガーは無し。

 ダメージは1対2でオウガがリード。

「では、いよいよこのゲームの花形。G3の登場です。

 ライド。《突貫する根絶者 ヰギー》

 イマジナリーギフトはフォースⅠを獲得します」

「イマジナリーギフト!?」

「はい、G3の多くはギフトという何だかよくわからないパワーを持っていて、ライド時にその力を与えてくれます。リンクジョーカーのギフトはフォース。フォースⅠのギフトマーカーが置かれたサークルにいるユニットは、自分のターン中、パワー+10000されます」

「+10000!? 何だかよくわからないパワーすげーっ!!」

 ユキに聞かれたら叱られそうなくらい雑な説明を繰り広げながらファイトは続く。

「リアガードにギアリ、アルバ、ジャヱーガをコール。

 ヰギーでアタック。フォースで+10000されているので、パワー23000です」

「それはガードできないっすね。ノーガードっす」

「G3の強みはまだまだあります……ツインドライブ」

「ツインドライブ!?」

「ええ。G3はドライブチェックを2度行うことができるのです。

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……★トリガー。★はヴァンガードに。+10000はギアリに」

「★トリガー?」

「ええ。ユニットの★を+1します。つまり、オウガさんに2点のダメージを与えます」

「マジで!? これで3対2、逆転されちまった……」

「続けて、アルバでアタックします」

「ノーガードでダメージチェック……★トリガーだけど4点目」

「ギアリは+10000されているので、まだ届きますよ。ヴァンガードにアタックします」

「《陽気なリンクス》でガード!」

「無駄の無いガードですね。ヰギー先輩もびっくりです。ターンエンド」

 この先輩、いつの間にか身も心もヰギーに憑依(ライド)してしまっている。

「スタンド&ドロー! 俺もG3にライドするぜ!

 ライド! 《バッドエンド・ドラッガー》!! こいつはカッコイイぜ!」

「ヰギーほどではありませんけどね。ほら、イマジナリーギフトを忘れていますよ」

 よくわからない対抗心を燃やしながら、ミオが指摘する。

「そうだった! よくわからないパワー! イマジナリーギフト、フォースⅠをヴァンガードサークルに! リアガードに《至宝 ブラックパンサー》、《ワンダー・ボーイ》をコール!

 いくぜ! 《ワンダー・ボーイ》のブースト、《至宝 ブラックパンサー》でアタック!」

「アルバとギアリでインターセプトです」

「《バッドエンド・ドラッガー》でアタック!!」

「ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目……★トリガー! ★はヴァンガードに。+10000は《スパイクバウンサー》』に。

 2枚目……何だ? 将軍? ま、いいや。トリガーじゃ無いっす」

「ダメージチェック。

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……引トリガー。ヰギーに+10000して、1枚引きます」

「《スパイクバウンサー》でアタック!!」

「待ってください。よくパワーを確認してください」

「え? バウンサーは+10000されてるから20000で、ヰギーも+10000されてるから23000……届かねえ! 先輩の場に攻撃できるリアガードもいねえ!」

「ふふ。攻撃順を間違えましたね。よく考えればわかる問題でしたよ」

「ぐっ。ターンエンドっす」

 これでダメージは互いに4点。

「スタンド&ドロー……ふう、楽しい時間もこれで終わりになりそうですね。最後にスキルの説明をしましょう。

 ライド。《絆の根絶者 グレイオン》」

「うおおお、何か強そう!」

「ええ、それはもう。フォースⅠはヴァンガードサークルに。ガタリヲをコールし、そしてグレイオンのスキル発動。

 デリート」

 ピッと細い指で、オウガのヴァンガードを指さす。

「え?」

「ダメージゾーンのカードを裏向きにすることをコストに発動できる効果があり、これをカウンターブラストと呼びます。グレイオンのカウンターブラストはデリート。オウガさんのヴァンガードを消去します。これであなたは霊体に戻りました」

「そうなると、どうなるんすか?」

「パワー0として扱われます」

「げっ!?」

「さらにエルロをコール。ドロップゾーンにいるアルバのスキル発動。ライドするたびヴァンガードの下に溜まっていくカード……ソウルと呼ぶのですが、これをドロップに置くことで発動できる効果もあり、こちらはソウルブラストと呼びます。アルバのソウルブラストは、エルロの登場に合わせてドロップゾーンから蘇ります」

「くっ。せっかく倒したのに!」

「いきます。パワー33000のグレイオンでアタック」

「俺のパワーは0だから……35000ガードが必要!? 足りねえ……ノーガード」

「ツインドライブ。

 1枚目、引トリガー。

 2枚目、★トリガー。おや、これで6点目ですね」

「……うす。俺の負けっすね。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目……」

「諦めないでください」

「!?」

 それはケガをしてからと言うもの、オウガが聞き飽きていた言葉だった。教師、先輩、両親、クラスメイト。ありとあらゆる人に言われてきた。それだけ期待されていたという事でもあるし、オウガもはじめはその気になっていたが、医師だけは頑なに「もう諦めろ」と否定した。

 そして、オウガの脚が見た目だけは治り、練習を再開した時に、医師の言葉が正しかったと思い知った。ほんの5分、軽く流しただけで脚が痛む。10分動けば立っていられなくなった。

「無理なもんはあるんすよ……それとも、まだ何かあるんすか? このヴァンガードに」

「諦めたらそこで試合終了ですよ。そんな事を言っていたアメフト漫画があるそうですね」

「……バスケ漫画っす」

「似たようなものです。それはさておき、まだ一度も登場していないトリガーがあるんですよね。長年(大嘘)ヴァンガードを続けている私の勘だと、そろそろめくれそうな気がしています。だから、諦めないでください」

 その「諦めるな」は、励ましでも、気休めでもない、オウガが聞いたことのない響きだった。そして音の響きだけで言えば医師の、確信を持った「諦めろ」にも似ていた

「もう一度、言ってくれますか?」

「諦めないでください」

「信じて、いいんすね」

 ミオは無言で力強く頷いた。

 オウガはひとつ決意した。

 もし、彼女の言うことが正しければ俺は――。

「ダメージチェック…………治、トリガー?」

(ヒール)トリガーです。ダメージを1枚ドロップに置いてください。勝敗が決まる前に解決されるので、あなたはまだ5点。生き残ったんですよ、あなたは。私のグレイオンに呑まれてなお」

「……………………」

「何を泣いているのですか?」

 オウガが瞳から零した涙の意味が分からず、ミオは目を丸くして尋ねた。

「何でもないっす!」

 オウガは汗を拭うように、乱暴に目尻を袖でこすった。

「……そうですか。では、アルバでアタック」

「ガード!」

「エルロでアタック」

「ガード! 《スパイクバウンサー》でインターセプト! 凌ぎきったぜ!

 俺のターン、スタンド&ドロー!」

「教えるべきことは、だいたい教えました。あとはあなたの好きなようにやってみてください」

「うっす!」

 オウガは改めて自分の手札を確認する。

(このカード……ルールとコストを理解してみたら、とんでもないことを書いてやがる)

 そして、一際強い輝きを放つカードを抜き放つと、一度はデリートされたヴァンガード(しぶん)に重ね合わせた。

「ライド! 《将軍 ザイフリート》!!

 これでデリートも解除っすね?」

「はい、そうですよ」

「イマジナリーギフト! フォースⅠをヴァンガードへ」

 オウガは次に盤面を確認した。かつて、フィールドにいながらにして全体を俯瞰していた時のように、今はテーブルの上を見渡している。

「メインフェイズ開始時! ドロップゾーンの《ワンダー・ボーイ》をデッキに戻し、スキル発動! 《ワンダー・ボーイ》をデッキからコールし、ドロップゾーンの《サイレンス・ジョーカー》をデッキに戻してパワー+5000だ!

 続けて、《ジャガーノート・マキシマム》をコール! 登場時にパワー+10000!

 そして、《将軍 ザイフリート》のカウンターブラスト! ブラックパンサーをソウルに置き、デッキから新たなブラックパンサーをコール! パワー+10000!

《指揮官 ゲイリー・ギャノン》もコールして、もう一度ザイフリートのスキル発動だぜ!」

(楽しそうにファイトしてますね)

 ミオは感情を全開にしてファイトするオウガを羨ましく思った。ヴァンガードは楽しい。大好きだ。それは心から思えるようになったが、それを表に出すのはまだ苦手なのだ。

「行くぜ、野郎ども!

《ジャガーノート・マキシマム》でヴァンガードにアタック!!」

 オウガが雄叫びをあげ、トゲだらけのプロテクターを纏った大巨人が、大地を抉りながらグレイヲンに突撃する。

(……あとは、完全ガードのルールを教えておしまいですね)

 ミオの手札は6枚。そのうちの3枚はすでに完全ガードだった。

 

 

 ファイトが終わり、完全燃焼した様子でしばらく呆けていたオウガだったが、やがてカバンから取り出したペットボトルの水を一気に飲み干すと、ミオを睨みつけた。

 ……もっとも、目つきが悪いから睨んでいるように見えるだけで、本人は真摯な瞳で見つめているつもりだったのだが。

「改めて、先輩に頼みがあります」

「はい。このミオ先輩が何でも聞いてあげましょう」

 そんなオウガの形相に臆することなく、ミオが請け合った。

「先輩。俺……ヴァンガードがしたいです」

 ミオは(計画通り)と下衆なことを考えながら微笑み、オウガに手を差し伸べた。

「ようこそ、カードファイト部へ」




スパイクブラザーズ使い(見習い)の、鬼塚オウガが登場です!

そして、カードファイト部に男子生徒が入部することになりました。
根絶少女の初期コンセプトは女の子がカードファイトしたり、雑談したりしているのを愛でて楽しむ小説だったはずですが、いつの間にか(初期から?)ノリがどんどん少年漫画と化してしまったというのが、男子起用の理由の一つです、が。

女の子をかわいく書くのなら、それと関わる男の子の存在も必要不可欠だと思うのですよ、私は!

そのようなわけで少女達の青春譚から、少年少女の青春譚となる根絶少女、第2幕。
頼れる(?)先輩となったミオの活躍に、ご期待頂ければ幸いです。


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5月「隠れていても無駄になる」

 ――時は5月より少し遡る。

鬼塚(おにづか)オウガっす! 本日よりカードファイト部に入部させて頂くことになりました! よろしくお願いしゃーす!!」

 目つきが悪く髪は脱色までしている、一見して近寄りがたい雰囲気のオウガに、アリサは平然と微笑みながら歩み寄った。

「ミオちゃんから話は聞いてるよ。あたしは部長で3年の天道(てんどう)アリサ。よろしくね、鬼塚君」

「うっす!」

 そう言って、アリサとオウガが堅く握手を交わす。

「ミオちゃんもお手柄ね」

「どうということはありません。

 ですが、これで部員は3人。響星(きょうせい)では部員が3名いれば部活動として認められるので、廃部の危機は回避されましたね」

 謙遜している割には仰け反るほど胸を張っているミオだったが、アリサは「そういうわけにはいかないんだよね」と水を差した。

「どういうことでしょうか?」

「あたしはユキのように推薦なんて取れないもの。9月には受験で引退することになると思う。そうなると……」

「部員が2人に戻りますね。廃部の危機です」

「そういうこと。部員探しは未だ急務よ。タイムリミットは9月だけど、5月までに新入部員が入らなければ、都合のいい転校生でも現れない限り、部員が増えることは無いと思いなさい」

「フラグですか?」

「だといいけどね! 今日の部活も、どうすれば新入部員が入ってくるかの会議に充てようと思うけど、何か案のある人!」

 少しの間を置いて、オウガがゆっくり手を挙げる。

「はい、鬼塚君!」

「ありきたりっすけど、ポスターとか貼ったらどうっすか? 正門前とかで配ることもできますし、あれば便利かと」

「なるほどね。いい案だけど、鬼塚君、絵は描けるの? あたしは無理よ」

「俺も下手くそですよ。人任せになっちまうから、あんまり出したい案では無かったんすけど」

 オウガが申しわけなさそうに頭をかいた。明朗快活なオウガが挙手を渋った理由がそれなのだろう。

「パソコン使って、それっぽいものは作れる? あたしは無理よ」

「パソコンとか超苦手分野っす」

「マジか。機械音痴がまたひとり」

 不毛なやり取りを黙って眺めていたミオが、静かに手を挙げる。

「要するに目立つイラストを描ければいいんですよね? 私、できると思いますけど」

「マジで!? ミオちゃん、イラストまで描けるの? 2年目にして、まだ隠し持っている特技があっただなんて」

「この音無(おとなし)ミオにできないことは、基本的には無いと思っていてくださって結構です」

「料理はできなかったけどね」

「昔の事は忘れました。アリサさん、カラフルなマーカーか色鉛筆は持っていませんか? 私、筆記具はシャープペンシルしか無いんです」

「いっぱいあるよー」

 アリサが筆箱を開くと、10本以上はある色とりどりのペンが机にばら撒かれる。

「……クラスメイトの机を見ていてもたまに思うのですが、これだけのペンをどこで使うのですか?」

「え? 授業でノート取る時に使うじゃん。ノートが綺麗な方が絶対にテンション上がるでしょ」

「絶対授業に集中できてませんよ、それ。チョークだって、多くて3、4色でしょう?」

 そんな雑談を交わしながら、ミオは鞄から適当なプリントを取り出し、その裏にイラストを描いていく。

 真ん中には、カードを手にしたお兄さんとお姉さんが「楽しいよ!」と言いながら優しく微笑んでおり、その横ではデフォルメされた男の子と女の子が楽しそうにカードファイトをしていた。

 みるみるうちにポスターらしく仕上がっていくプリントを見て、オウガとアリサから「おおおお」と感嘆の声があがった。

「こんなところでしょうか。これで問題なければ、家で清書して100枚ほど刷ってきますが」

「うん! うんうんうん! いいと思う!」

 一も二も無いアリサの同意を得て。

 ミオは無表情の仮面の裏で、ニタリと不気味な笑みを浮かべた。

 

 

 ――時は5月に戻る。

「何がいけなかったのでしょうか……」

 依然として3人しかいない部室で。ミオは腕組みをして、こてんと首を傾げた。彼女の前にある机には、大量に余ったポスターが無造作に置かれている。

 オウガが嘆息しながら口を開いた。

「……キャラ選としか思えねーっすけど」

「そんなバカな」

 ミオはポスターを1枚手に取って、改めて確認した。

 ポスターの真ん中には、カードを手にしたギヲとガタリヲが「楽しいよ!」と言いながら優しく微笑んでおり、その横ではデフォルメされたアルバとエルロが楽しそうにカードファイトをしていた。

「この人選のどこにミスが」

「全部、根絶者じゃないすか!!」

 オウガがポスターごと机を思い切り叩いた。

「下書きの段階では、全員人間でしたよね!? どうしてこうなったんすか!?」

「彼らは根絶者にデリートされました」

「怖っ!!」

 オウガは思わずポスターから飛び退いた。入れ替わりに、アリサが諭すように語り掛ける。

「正直に言いなさい。下書きの段階で根絶者のイラストを描いても反対されるだけと思ったんでしょ?」

「はい」

 悪びれもせず認める。

「ミオちゃんが感情の機微に聡くなったのは素直に嬉しいんだけど、それを悪用する日がくるなんて……」

 アリサは諦めたように息をついた。

「やっぱりミオちゃんには甘くなっちゃうなあ。清書を確認した段階でストップかけてもよかったんだけど、ミオちゃんの貴重な笑顔とともに見せられたら、もう何も言えなくなっちゃって」

「それは俺も同じっす」

 アリサの呟きに、オウガは心から同意した。

 普段は無表情なミオに「ふふん」と反り返りながら微笑まれると、大抵の事は許せてしまうのだ。初孫を前にした祖父母のような心境である。たぶん。

「やっぱり、《デスワーデン・アントリオン》も描かせるべきだったわ」

「部長も大概ズレてた!!」

 アリサのどうでもいい後悔にズッコケながら、次からは心を鬼にしようとオウガは固く誓うのであった。

「どうしたー? 何かあったかー?」

 そこに部室の扉が開き、白衣を羽織ったメガネの教師が入ってくる。

 顧問の春日(かすが)マナブ教師である。

 科学部の顧問を兼任しているため、滅多にカードファイト部には姿を現さない彼だったが、新学期に入ってからは1、2週間に1度くらいの頻度で部室を覗きに来ていた。

 理由としては、ユキがいなくなったのが大きいのだろう。

 アリサが部長として不足があると言うよりも、全てを委任されていたユキが特別だったのだ。

「何だお前ら。まだ3人しかいないのか?」

 マナブは部室を見渡すと呆れたように言った。

「ここ2、3週間、その味のあるポスターを抱えた女子生徒が部室の前をウロウロしてたから、てっきり入部してるものと思っていたんだがなあ」

 マナブの何気ない言葉を聞いて、部員達は揃って顔を見合わせた。

 

 

「鬼塚君は4階と5階! ミオちゃんは2階と1階! あたしは部室周辺をくまなく探す! それじゃあ、散開っ!」

「はい」

「うす!」

 アリサの号令の下、部員が校舎中に散らばっていく。顧問は、その間だけ部室を見ていてくれることになった。

(あのポスターを抱えた女子生徒か。ミオ先輩には悪いけど、あのポスターを一般人が欲しがるとは思えねーし、少なくともヴァンガードファイターである可能性は高いわな)

 廊下を見回るように歩きながら、オウガは頭の中で状況を整理していく。

(この時期の新入部員なんて、1年生がほとんどだろ。まずは5階を見てみるか)

 オウガは1年生の教室が集まる5階に上がり、改めて周囲を見渡した。放課後なだけあって、もう生徒の姿はほとんど見られない。この時間に残っている可能性があるとするなら、日直担当くらいだろうか。

 今もメガネをかけた小柄でおとなしそうな少女が教室から現れ、鞄からA3サイズの紙を取り出すと、ふうと小さい溜息をついて、またそれをすぐに鞄へとしまった。その拍子に見えたのは「楽しいよ!」とのたまうガタリヲ。

「って、いきなりかよっ!!」

 思わずオウガは叫んでしまい、すれ違いかけていたメガネの女子生徒が「ひっ」と悲鳴をあげた。

「おい、お前!」

 オウガは女子生徒に声をかけようとするが、女子生徒は踵を返して一目散に逃げ出した。

「あっ、待ちやがれ!!」

 本能的にオウガは女子生徒を追いかける。

「たっ、助けてええええ!!」

「お、おい! 誤解されそうなこと言うな!」

 身体能力的にはすぐオウガが追いつけそうなものだが、オウガは後遺症の残る脚を庇いながら走っているので、なかなか距離が縮まらない。加えて、女子生徒は本気になって逃げていた。追いつかれたら何をされるとでも思っているのだろう。

(そんなに俺って怖いか?)

 オウガは何だか傷ついた。

「ちくしょう! 逃がさねえぞっ!!」

「ひいいいいいっ!!」

 そうして、自分から誤解を大きくしていく。もはや世紀末に大量発生すると言われているモヒカンと言動が大差無かった。

 女子生徒は階段を駆け下りていく。

「ヒャッハー!!」

 オウガは意を決して階段を飛び降りた。脚に負担こそかかるが、これなら衝撃は一瞬で済む。

 4階、3階、2階と降りていくにつれて、二人の距離が縮まってきた。

 そしてついに1階の下駄箱前で――

「追いついたぜっ!!」

 オウガの手が女子生徒の肩にかかる寸前、オウガは自分の体がフワリと浮かび上がるのを感じた。オウガと女子生徒の間に、別の女子生徒が割り込み、オウガの腕を掴んでいる。

(投げられた!?)

 オウガはとっさに受け身を取った。廊下に叩きつけられる瞬間、体を持ち上げられる感覚があったので、無防備に叩きつけられても擦り傷ひとつ負わなかっただろうが。

 学校の授業では絶対に習わないような、見事な一本背負いを自分に決められる女子生徒など、オウガにはひとりしか思い当たるフシが無い。

「ミオ……先輩」

「はい。何でもできるミオ先輩です」

 もうもうと立ち込める砂埃が少しずつ晴れてゆき、ミオの冷たい瞳が自分を見下ろしているのが見えた。

「白昼堂々女子生徒を追い回すとは。ヤンキーは卒業したのではなかったのですか? 自分の中の荒ぶる獣が抑えられませんでしたか?」

 どっと周囲から歓声があがる。放課後とは言え、下駄箱近くにはまだ多くの生徒が残っていた。

「どうしたどうした?」

「鬼塚が女の子を追い回していたらしいぜ?」

「それを2年の音無さんが投げ飛ばしたって」

 勝手な噂が生徒達に伝播し、飛び交っていく。その中からおずおずと、オウガに追われていた女子生徒が進み出た。

 オウガはここでようやく彼女の容姿を正面に捉えることができた。

 染髪など考えたことも無いのだろう艶のある黒髪を、几帳面に肩口でまっすぐ切り揃えている。

 黒縁のメガネをかけているが、それがよく似合っており、地味な印象はあまり無い。

 ここまでなら生真面目な委員長タイプにも見えるが、凛としたイメージからは程遠く、ポスターを抱えて震えている様子はどこか小動物的であった。

「た、助けて頂きまして、ありがとうございました

 あ、あの、カードファイト部の方ですよね?」

「はい。どうかしましたか?」

 機械的に応対するミオに、少女は一瞬ひるみかけたが、意を決したように大きく息を吸うと、

「あっ、あの、そのっ! し、新入部員募集の件でお話を伺いたくっ!!」

 手にしたポスターを差し出し、というよりはポスターを盾にしながら、噛み噛みになって言った。

「……ここは騒がしくなってきましたし、続きは部室で話しましょうか」

 おどおどして今にも逃げ出しそうな少女を怖がらせないよう、ミオは全身全霊の優しい声音で(あまり変化は無かったが)少女を手招くのであった。

 

 

「まずはお名前をお伺いしましょうか。私はカードファイト部に所属している、2年の音無ミオと言います」

 教室の机に布をかけただけの簡素なファイトテーブルを挟んで、メガネの女子生徒と向かい合ったミオは簡単に自己紹介をした。

 ちなみに顧問は、ミオ達が戻るなり退室し、アリサはまだ帰ってきていない。

「隣にいるヤンキーぽい人は、1年の鬼塚オウガさんです。ヤンキーぽいですが、実はいい人ですよ」

 そして、隣に座っているオウガを肘で小突く。オウガは軽く頭を下げて謝罪を口にした。

「さっきは悪かったな。怖がらせちまって」

「い、いえ。私の方こそ、大げさに驚いてしまって……騒ぎにまでしてしまって、申しわけありませんでした」

 メガネがずり落ちんばかりに頭を下げる少女に、オウガは軽く肩をすくめた。

「気にすんなよ。一度はグレて、こんなナリになった自分にも責任が無いわけじゃねーから」

 そう言って、脱色に失敗して白くなった髪をいじる。

「いえ。私も小心者で。直したいとは思っているのですが……」

「あの、お名前を」

 放っておけば、いつまでも頭を下げていそうだったので、ミオは改めて少女に問うた。

「あっ、失礼致しました! 私、1年の藤村(ふじむら)サキと申します」

 そう言いながらメガネの位置を直して、サキと名乗った少女はまた頭を下げた。

「ここしばらく部室の周りをウロウロしていたようですが、何か理由があったのでしょうか?」

「す、すみません」

「いえ、怒ってはいないですけど」

「すみません。あの、私、カードファイトには昔から興味があって、2年前から自分でデッキも組んでいたのですが。一緒に遊んでくれるきょうだいもおらず、ヴァンガードをしている友達もおらず、対戦相手が見つからなくて……」

「ショップに行けば、ファイトに飢えた獣が腐るほどいますよ?」

「そうかも知れませんが、私の近所にあるショップは男の子ばっかりで、対戦を申し込む勇気が無くて……」

「?」

 本気で意味が分からないと言いたげに、ミオが首をひねる。

「世の中、先輩みたいに図太い女の子ばかりじゃないんすよ」

 オウガが茶々を入れたのか、助け船を出したのか、微妙なラインで口を挟む。あるいは、女子に囲まれてファイトをしているオウガは(そのことでクラスメイトにからかわれることもある)、サキに共感を覚えたのかも知れない。

「はあ」

 あまり納得はしていない様子だったが、とりあえずミオの首の位置が元に戻った。それを合図に、サキが話を続ける。

「けど、ここのカードファイト部は女性ばかりみたいで、ここならファイトを始められるかも知れないと思ったのですが、入学式の日には誰もいなくて……」

「そう言えば、その日はすぐに解散しましたね」

「次の日には怖そうな男子生徒が入部していて……」

「俺じゃねーか!!」

「ポスターは何だか不気味だし……」

「かわいい系を目指したのですが」

「やっていける自信がなくて。けどファイトはしてみたくて。気が付けば1か月もの間、部室の様子をうかがってました……すみません」

 サキが今までより深々と頭を下げた刹那――

「話は聞かせてもらったわ!!」

 バァンと勢いよく音をたてて扉が開かれ、アリサが部室に飛び込んできた。そして、サキを熱烈に抱きしめる。

「わかる! わかるわよ、サキちゃん! はじめは誰だって緊張するわよね! あたしだって昔はファイトスペースの隅で他人のファイトをじっと見ているだけだったもの! けど、もう大丈夫よ! 今日からあたし達が対戦相手になってあげるからね!」

「あ、あの、この人は……」

 アリサに抱擁という名のヘッドロックをかけられながら、サキが目線でミオに助けを求める。

「彼女はカードファイト部の部長で、3年の天道(てんどう)アリサさんです」

 ミオの説明を聞いて、サキが目を丸くした。言外に「この人が?」と言いたげに。

「サキちゃん、ファイトしましょう!

 そうね……カードファイト部に入りたければ、あたしを倒してみなさい!」

「え、私、まだ入部するとは……」

「こういうセリフを言ってみたかっただけと思うので、気にしないで結構です」

 ひとりで盛り上がるアリサに、ミオが補足した。

「ですが、アリサさんとはファイトをしてみるといいですよ。こんな人ですけど、ヴァンガードには誰よりも誠実な人ですから」

 さらに付け加えるミオは、どこか昔を懐かしむように遠い目をしていた。

 

 

「2年前からデッキは組んでいたって言ってたけど、ルールは大丈夫?」

「は、はいっ! ヴァンガード甲子園や、プロリーグの試合もよくテレビで見るので、大丈夫……と思います」

 ファイトの準備を進めるアリサとサキのやり取りを眺めながら、ミオとオウガも囁き合う。

「アリサさん、どこから聞き耳をたてていたのでしょうか?」

「藤村の名前まで知ってましたしね」

 そうこうしているうちに、ファイトの準備は完了したようだ。

「それじゃ、はじめましょ。スタンドアップ!」

「ヴァ、ヴァンガードっ!」

「《マシニング・ワーカーアント》!」

「《ドラゴンエッグ》です!」

 サキのファーストヴァンガードを見たアリサが軽く目を見張った。

「へえー。サキちゃんのクランはたちかぜなんだ」

「うおっ! カッケェ! 恐竜じゃねーか!! こんなクランもあるんだな!」

 サキの手札を覗き込んだオウガが歓声をあげ、アリサが「こら、手札がバレるでしょ」とたしなめた。

「根絶者もカッコいいですよ?」

 ミオが対抗して何か言っていたが、誰も聞いていなかった。

「私、弱い自分を変えたくて。恐竜さんのように強くなりたくて。それでたちかぜを選んだのですが、やっぱり似合わないでしょうか……?」

 サキが俯きがちになって、誰とはなしに尋ねる。アリサはそれを全力で否定した。

「そんなことない。ヴァンガードってなりたい自分をイメージするゲームでしょ? なら、あなたの使いたいクランが、一番似合ってるクランだよ」

「そ、そうですか! ありがとうございます……少し勇気が湧いてきたかも知れません。

 ライド! 《ソニックノア》!

 私はこれでターンエンドですっ」

「私のターンね。

 ライド! 《フラワリィ・ティアラー》!

 ワーカーアントの効果で1枚引いて……さらに、『クイックシールド』チケットをゲット!」

「あ、4月から実装された新しいシステムですね」

 サキがメガネ越しに目を輝かせながら言った。

「そうだよー。それじゃこのターン、あたしはユニットはコールせず……ヴァンガードのティアラーでアタック!」

「ノ、ノーガードです」

「ドライブチェック!

 トリガーは……残念、トリガーなし」

「ダ、ダメージチェックです……(ドロー)トリガー! え、えっと……」

「順番はどちらでもいいけど、1枚引いて、+10000するユニットを選んでね」

「は、はい! カードを引いて、+10000はもちろんヴァンガードの《ソニックノア》に」

「それでオッケー。じゃ、あたしはターンエンド」

「私のターンです。ドロー。

 ライド。《餓竜 メガレックス》! そして、コール。《烈爪竜 ラサレイトレックス》!」

「お。さっそくやる気ね」

「はい! まずはラサレイトレックスの登場時スキルを使います。山札の上から1枚、ラサレイトレックスに武装ゲージとして置きます」

「武装ゲージ?」

 聴きなれない単語を耳にし、オウガが首を傾げる。その視線の先にはミオがいた。

「はい。主に山札の上にあるカードを武装する、たちかぜ固有の能力です。それだけでは何の意味も成しませんが、たちかぜはその武装ゲージを利用する術に長けています。

 まあ、後は見ていれば分かりますよ」

 ミオが解説をしている間に、サキはバトルフェイズに突入していた。

 ラサレイトレックスのアタックはクイックシールドで防がれる。

「メガレックスのアタック時にスキル発動します! ラサレイトレックスを退却させて、1枚引きます!

 さらに、退却したラサレイトレックスのスキルも発動! SB(ソウルブラスト)1で……武装ゲージを1枚手札に戻します!」

「お、おおお? ラサレイトレックスは退却したけど1枚引いているから1:1交換ってやつで……?」

 オウガが指折り数えながら、今の状況を確認していく。そこにミオも助け舟を出した。

「武装ゲージだったカードも手札に加えているので2:1交換ですね。それも、ラサレイトレックスはアタックしてから退却しているので、実質的なアドバンテージはそれ以上と言えるでしょう」

「と、とにかく、スゴいんすね!」

 わかっているような、いないような調子でオウガが頷いた。

「じゃ、今度はメガコロニーのスゴさを見せちゃおうかな」

 ダメージを受けて、ターンの回ってきたアリサが、カードを引きながら言う。

「ライド! 《ブラッディ・ヘラクレス》!

 コール! 《マシニング・マンティス》! マンティスのスキル! CB(カウンターブラスト)1で山札から6枚見て……《無双剣鬼 サイクロマトゥース》を手札に加えるよ! さらにパワーも+6000!

 続けて、《スパイトフル・ホッパー》もコール! この子はSB1することで、ヴァンガードのヘラクレスに+6000! さらにCC(カウンターチャージ)してくれるの。

 おまけに、《ハイディング・キラーリーフ》もコール!

 さあ、バトルよ!」

「は、はい!」

 気合の入ったアリサのバトル宣言に、サキが身構える。

「キラーリーフでアタック! アタック時にスキル発動! CB1&SB1でパワー+10000!

 さらに、サキちゃんの山札の上から1枚、ドロップゾーンに置いてもらおうかな」

「え? は、はい……」

「ドロップしたカードがノーマルユニットだった場合、カードを引かせてもらうわ。

 サキちゃんがドロップしたカードは《掃討竜 スイーパーアクロカント》! 1枚ドローして、アタック続行!」

「ノ、ノーガードです。ダメージチェック……トリガー無し、です」

「続けて、ホッパーでブースト、ヴァンガードのヘラクレスでアタックよ! 合計パワーは23000!

 このアタックはヒットすると、他のユニットに+6000して、CCまでするから注意してね」

 ヒット時のスキルも、よほど慣れた相手で無い限り、アリサは丁寧に伝えてくれる。

「け、けどそんなパワー、防ぎきれませんよ。ノーガードです……」

 アリサのドライブチェックでトリガーは無し。続くサキのダメージチェックでは……

「フ、(フロント)トリガー! これで《マシニング・マンティス》のアタックは……」

「甘いわね。言ったでしょ。

 ヘラクレスのスキル発動! CC1して、マンティスに+6000! これでマンティスの合計パワーは21000! パワー19000のメガレックスに、まだアタックは通る!

 マンティスでアタックよ!」

「防ぐには……5000ガードが必要ですか? うう……」

(手札で5000ガードできるのは《突撃竜 ブライトプス》しかいないけど、たちかぜのキーカードだし。もったいないけど15000ガードを使っちゃっていいのかな……)

「ゆっくり考えていいからね」

 ぐるぐると頭を悩ませているサキに、アリサが優しく声をかける。

「はっ、はいっ! けど、決めました! (クリティカル)トリガー、《小角竜 ベビートプス》でガードします!」

「ん。オッケー。それじゃ、ターンエンドね」

 アリサが手を差し出して、ターンを渡す。

「や、やべー。このターン、ダメージゾーンに1枚しかカードは無かったのに、部長は手札を2枚増やして、それも最終的にダメージは表のままって……」

「アタックはしっかり3回届かせてますし、さすがはアリサさんです。

 オウガさんも、これがすごいと分かるのなら、成長していると言えるでしょう。

 ほら、そろそろサキさんがG3にライドするようですよ」

 ミオが盤面を指さす。

 サキがカードを引き、手札から大切そうに1枚のカードを抜きだした。

「ライドっ! 《餓竜 ギガレックス》!!」

 地響きが鳴り、あらゆる生命が呼吸を止めた。

 その瞳に映る全ては餌。

 食物連鎖の頂点に立つ、生きとし生ける者の天敵。

 野生が生んだ山の如き巨体に、科学が生んだ超兵器を満載した、傲岸不遜の暴君――ギガレックスが木々を薙ぎ倒しながら、その姿を現した。

「か、かっけええええええっ!!!」

 そのカードイラストを見たオウガが、雄叫びのような感想をあげた。その瞳は少年のように輝いている。

「そうですよね!? 私、このカードをずっと使ってみたくて……。その夢が、ようやく叶いました」

 サキの細い指が、愛おしそうにギガレックスのカードを撫でた。

「ふふ。まだライドしただけでしょ。実際に使ってみると、もっと好きになれるよ。その子も、ヴァンガードも、ね」

「は、はいっ!」

 アリサの言葉を受けて、サキは力強く頷くと、手札を一気に放出する。

「コール! 《突撃竜 ブライトプス》! その後列に《ソニックノア》! ヴァンガードの後列に《サベイジ・アカデミアン》です!

 そして、《烈光竜 オプティカルケラト》をコール! アカデミアンに武装ゲージを置きます。アカデミアンをレストさせて、武装ゲージのカードをスペリオルコール……」

 シャーマンの女性が、手にした卵に(まじな)いをかける。すると、みるみるうちに卵にヒビが走り、赤い翼の翼竜が勢いよく誕生した。

「《翼竜 スカイプテラ》!

 あとは、アクセルⅡサークルに《暴君 デスレックス》をコール!」

「やるわね。ヴァンガードを今日はじめたとは思えないくらい」

 ユニットで埋まったサキの盤面を見渡し、アリサが称賛した。

「ありがとうございます! たちかぜの戦い方は、テレビを見たり、本で読んだり、色々と研究してましたから!」

「けど、《サベイジ・アカデミアン》はレストしたままじゃねーすか? それもG2だし、ブーストできないんじゃ……」

 疑問の声をあげたのはオウガだ。

「たちかぜのパワーを甘く見てはいけません」

 ミオは意味深に、それだけを告げた。

「行きます!

 ギガレックスでアタック!!」

 餓竜が咆哮すると、全身の武装を全方位に展開した。狙いもつけず、敵も味方もお構い無しとばかりに。

『穿て! ニードル・エクスプロージョン!』

 そして文字通り、全身の武装が爆発した。

 戦場の全域に雨あられと降り注ぐ鉄片は、ギガレックスの巨体にとっては確かに針のようなものかも知れない。

 だが、それ以外の生物にとっては、掠めるだけで全身が砕け散ることは想像に難くない、死と破滅を凝縮した巨塊以外の何物でもなかった。

「ギガレックスはアタックした時、すべてのリアガードに武装ゲージを置くことができます。さらに、私のリアガードの数だけ、パワー+5000!」

「マジか!? ということは……?」

「サキさんのリアガードは6体。パワー+30000ですね。合計パワーは42000になります」

 オウガが指折り数えて計算するより早く、ミオがさっさと答えを言ってしまった。

「うーん。これはさすがにノーガードかな」

 アリサが苦笑しながら宣言する。

「ツインドライブです!!

 1枚目……前トリガー! 前列にパワー+10000します。

 2枚目……トリガーではありません」

「ダメージチェック……引トリガー! 1枚引いて、パワーは《ブラッディ・ヘラクレス》に!」

 戦場を蹂躙したギガレックスの「針」を、たちかぜの戦士達は思い思いに拾い集める。

 デスレックスは巨大な鉄片をそのまま背負い、オプティカルケラトは熱線で鉄板を加工して、即席の鎧とするなど、それぞれが武装を強化したのだ。

 そして、その進軍は留まることを知らず、悪の結社を追い詰めていく。

「ソニックノアのブースト! そのスキルでブライトプスに武装ゲージを乗せて……ブライトプスでヴァンガードにアタックです!」

「マンティスと、キラーリーフでインターセプト!」

「スカイプテラのブースト! オプティカルケラトでアタック! アタック時、武装ゲージをアカデミアンに置きます」

「《シャープネル・スコルピオ》でガード!」

「デスレックスでアタック! アタック時、ブライトプスを退却させます」

 鋼鉄でできた顎を開き、デスレックスが手始めに跳びかかったのは、味方のブライトプスだった。強靭な脚で押さえつけ、貪り食い、命を己の血肉とする。

「これでデスレックスのパワー+20000です!

 さらに、ブライトプス退却時のスキル。置かれていた武装ゲージ2枚を手札に加え、アタック続行です」

 血に塗れた牙で、デスレックスが今度こそ怪人に襲いかかる。

「これはノーガードよ」

 アリサのダメージチェックはノートリガー。

 これでダメージも3対3と並んだ。

「あたしのターンね。スタンド&ドロー。

 ライド! 《無双剣鬼 サイクロマトゥース》!!」

 漆黒にして古傷だらけの甲殻。

 一目で歴戦と分かる昆虫剣士が、血と硝煙の匂いに誘われるようにしてふらりと現れた。

 組織を抜け、強敵との死合いを求めて彷徨う怪人は、今宵、絶好の獲物を見つけたとばかりに、ガチガチと大顎を鳴らした。

 対するギガレックスは――いや、本人に対峙しているという自覚すらあるまい。

 新たに現れた一息に踏み潰せそうな虫けらを、無関心に見下ろしていた。

「イマジナリーギフト、プロテクトⅠ!

 コール! 《ブローニィ・ジャーク》! 登場時のスキル! パワー+6000して、またサキちゃんの山札の上から1枚、ドロップゾーンに置いて……G1以上だったので、SC(ソウルチャージ)

 コール! 《マシニング・マンティス》! パワー+6000、山札の上から6枚を見て……《デスワーデン・アントリオン》を手札に加えるよ。

 そのアントリオンもジャークの前列にコールして……バトル開始!

 サイクロマトゥースのアタック時、スキル発動! サキちゃんの山札の上から1枚……」

「ドロップに置けばいいんですね? ……あ、治トリガーが落とされちゃいました」

「その代わり、サイクロマトゥースも+10000されるだけね。ホッパーのブースト込みで、合計パワーは30000! ガードはどうする?」

「……ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目……★トリガー! ★はマトゥースに。+10000は、アントリオンに。

 2枚目は……トリガー無し」

 サイクロマトゥースの手にした、反り返った刀が閃く。その一瞬後に、ギガレックスの纏う武装が2つに割れ、地響きと土煙を猛烈に巻き起こしながら地面に落ちた。そればかりか、ギガレックスの赤みがかった黄金色の甲殻にも一筋の傷が走り、そこから鮮血が噴き出した。

「ダ、ダメージチェック!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……★トリガー! 効果は全てギガレックスに」

 ただ剣の一振りで、武装の半数を破壊し、手傷まで負わせたその妙技に、ギガレックスは感心するでもなく、目の前の怪人を敵として認めるでもなく、ただ虫けらに傷つけられた怒りのまま唸り声をあげた。

「ジャークのブースト、アントリオンでアタック! ブースト時にスキル発動! 手札から《無双剣鬼 サイクロマトゥース》を捨てて、サキちゃんも手札を1枚捨ててもらおうかしら」

「う……私が捨てるのは、《怒号竜 ロアーバリオ》です。そのアタックは《群竜 タイニィレックス》でガードします」

「マンティスはデスレックスにアタックよ!」

「デ、デスレックスをやらせるわけにはいきません。手札のメガレックスでガードです」

「あたしはこれでターンエンド。サキちゃんのターンよ」

「はいっ! スタンド&ドロー!

 ライド! 《餓竜 ギガレックス》! イマジナリーギフト・アクセルⅡ! 1枚引きます!

 アカデミアンをレストして2枚の武装ゲージの中から……《破壊竜 ダークレックス》をアクセルⅡサークルにスペリオルコール! 手札から《掃討竜 スイーパー・アクロカント》もコール!

 そして……ギガレックスのスキル発動! 武装ゲージを5つドロップゾーンに置くことで、デスレックス、ダークレックス、オプティカルケラトに+5000! さらに、先輩に1ダメージを与えますっ!!」

 ギガレックスがサイクロマトゥースに向かってあぎとを開いた。

 そこから放たれたのは、何よりも原始的で、現存するいかなる兵器よりも破壊力のある――単なる咆哮だった。

 ギガレックス渾身の雄叫びが、空気を爆発させるように振るわせ、形あるものを粉々に打ち砕いていく。

「スキルでダメージ!? マジかよ!?」

 驚愕のスキルを前に、オウガは悲鳴をあげるが、当のアリサは涼しい顔で4枚目のダメージをダメージゾーンに置く。トリガーは無し。

「いきますっ! ギガレックスでヴァンガードにアタック! 前列全てのリアガードとアカデミアンに武装ゲージを置いて、パワーは47000ですっ!」

「プロテクトで完全ガード!」

 ギガレックスがとどめとばかりに放った砲撃を、サイクロマトゥースの前面に展開した翠緑の盾が防いだ。

「ドライブチェックです! 1枚目……トリガー無し。2枚目……治トリガー! ダメージ1点回復して、効果はすべてデスレックスに!

 続けて、スカイプテラのブースト! オプティカルケラトでアタックします! アタック時、武装ゲージをアクロカントに」

「《ジュエル・フラッシャー》でガード!」

「デスレックスでアタック! パワー32000です!」

「《治療戦闘員 ランプリ》、《幼生怪人 ラバドラフ》でガード!」

「ソニックノアのブースト、アクロカントでアタック! ソニックノアとアクロカントのスキルで、アクロカントに武装ゲージを乗せて……そのパワーは自身に装備されている武装ゲージの数につき+5000されます。その合計値は……37000です!」

「ノーガードよ」

 アリサが5枚目のカードをダメージゾーンに置く。トリガーは無し。

「ダークレックスでヴァンガードにアタックします。ダークレックスのパワーは、武装ゲージ1枚につきパワー+2000され、私の場には武装ゲージが8枚。よって、パワー+16000。アクセルⅡサークルの強化と、ギガレックスの強化も合わせて、合計値は38000です」

「《強酸怪人 ゲルドスラッグ》でガード! レストしているサキちゃんの後列ユニットは3体なのでガード値は25000! そして、マンティスでインターセプト!」

「!?」

 予想外のカードの登場に、サキが鋭く息を呑んだ。

「あれで倒しきれないなんて…………あっ、すみません。ターンエンドです」

 先程の展開によっぽど自信があったのだろう。宣言を終えたサキは、がっくりと肩を落としてしまった。

「諦めるのは早いぜーっ!!」

 そこにオウガの声援がとんだ。サキがはっと顔を上げ、目を丸くしてオウガを見上げる。

「まだ手札も残ってる! このターンを凌いだら勝てるぜっ!!」

「……あなたはどっちの味方なんですか?」

 ミオが手で耳を押さえながら、呆れたように言った。

「どっちの味方も無いっすよ。頑張ってるやつの応援をするのは当然っす。それに……」

 スポーツマンらしい爽やかな笑みを浮かべて、オウガはサキに向かって親指を立てた。

「驚かせちまった詫びもあるしな」

 サキは少し目を潤ませると、力強くオウガに頷き返す。

「うんっ! 私、頑張ります!

 まだ、諦めません!」

 最後は、アリサに向かって堂々と宣言する。

「えー……何だかあたしが悪役みたいじゃない?」

 不満そうに言いながら――それでも表情はどこか嬉しそうな笑みを浮かべていたが――アリサはユニットをスタンドさせて、カードを引く。

「ま、いいか。悪役は悪役らしく……ね。

 ライド! 《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》!!」

 漆黒の昆虫剣士と入れ替わるようにして現れたのは、白亜の昆虫銃士だった。

 その全てがサイクロマトゥースと対を成しているかのような怪人は性格も正反対らしく、強敵を前にしても手にした銃を淡々とそれに向けるのみ。

 ただ結社がため……障害を排除する。

「サイクロマトゥースのスキル発動! ライドされた時、サキちゃんの手札を1枚捨てさせるよ! 捨てたカードのグレードに応じてパワーも上がるから、よく考えてね」

「は、はい! 私が捨てるのは、G3のギガレックスです」

「オッケー。じゃ、コレオのパワーに+15000ね。

 続けて、コレオの登場時スキル発動! サキちゃんのデッキの一番上から一枚、ドロップゾーンに置いて……ドライブ+1、パワー+5000よ」

「はい……。あ、山札が……!」

 気がつけばサキのデッキ枚数は残り4枚。

「ふふふ。まだまだいくわよ。コレオの起動スキル発動! ソウルのG3をSBして、さらにサキちゃんのデッキの上から1枚、ドロップゾーンへ!」

「はい……これで3枚……」

「それだけじゃないわよ。このターン、サキちゃんはドロップしたカードと同じグレードのユニットではガードできない!」

「えっ? 私のドロップしたカードは引トリガー……グレード0。このターン、グレード0ではガードできない!?」

「そうよ。悪いけど、勝たせてもらうわ。パワー40000のガンニングコレオで、ギガレックスにアタック!!」

 手札にあった完全ガードは封じられ、仮に生き残れたとしても、山札が残り少ないのでギガレックスで武装ゲージを撒くことはおろか、アタックすることもできない。

 完敗だった。

「……ノーガード、ですっ」

 悔しさを噛みしめるようにして、サキが宣言する。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……トリガー無し。

 3枚目……★トリガー! ★はコレオに。パワーはアントリオンに」

 コレオの放った1発の銃弾が、ギガレックスの武装を射抜いた。

 ただそれだけで、任務は成し遂げたと言わんばかりに、コレオは戦場を去っていく。

 一度敵意を向けた者に、ギガレックスはけして容赦しない。その無防備な背中に全武装を向け、引き金を引いた。

 次の瞬間、銃弾を撃ち込まれた武装が赤く赤熱し、大爆発を起こす。その爆風が他の武装を傷つけ、またも爆発。誘爆が誘爆を連鎖させ、ギガレックスは自らの武装が起こす破壊のるつぼに呑み込まれた。

 ――オオオオオオオオオオッ!!

 怒号と爆音が空を裂き、それは燃え盛る火柱となって天にまで届いた。

「ダメージチェック……負けました」

 サキがダメージゾーンに6枚目のカードを置く。

「ナイスファイト!!」

 オウガが健闘を讃えるように手を叩き、ミオもそれに釣られるようにして、小さく拍手した。

「ふう。思ったよりもサキちゃんが強かったから、あたしも本気だしちゃった。

 どうだった? はじめてのヴァンガード」

 アリサが汗をぬぐいながら尋ねる。

「はい。負けちゃったのは悔しいけれど、とても楽しかったです。これがファイトなんですね……」

 晴々とした笑顔で、サキが答えた。

「けど……」

 だがその表情に、すぐ陰りが差す。

「これって、入部試験だったんですよね」

「うん。そうだよ」

「私、もっとヴァンガードがしたいです。今度はギガレックスを……たちかぜを、ちゃんと勝たせてあげたい。

 私はもう、カードファイト部に入部できないのでしょうか?」

「……そうだね」

「部長!」

 オウガが何か言うよりも先に、

「ここで諦めたら、もう入部はできないね」

 アリサが優しく微笑みながら言う。

「……え?」

「入部試験に合格する条件は、あたしを倒すこと。けど、挑戦は1回限りだなんて、一言も言ってないよ?」

 そして、悪い顔をして舌をぺロリと出した。

「さっきのファイトでどこが悪かったか、考え直してみよっか。デッキの改造がしたかったら、カードも貸してあげるよ」

「……は、はいっ!」

「私もお手伝いしますよ。ほら、オウガさんもお勉強です」

「……へーい」

 いつの間にかサキの背後に寄ってきたミオが言い、彼女に手招きされて、オウガも頭をかきながらやってくる。

 それから1時間後。3度の挑戦を経て、カードファイト部に新たな仲間が加わることとなった。




たちかぜ使いのメガネっ娘、藤村サキの登場です。
彼女はユキと並んで早い段階から構想が固まっていたキャラで、根絶少女を書くと決める前から、ヴァンガードで小説書くなら、たちかぜ使いは気弱なメガネっ娘だなと漠然と考えていたほどです。ギャップは正義。
たちかぜ使いの方にも、そうでない方にも、気にいって頂ければ幸いです。

たちかぜは、私が使っていないけど大好きなクランのひとつで、描写するのが特に楽しみなクランの一つでした。
恐竜さん達のド迫力ファイトを完璧に描写できているとは言い難いですが(まだ足りんな……)引き続き精進していきたいと思いますので、お付き合いくださいませ。
正直、DaisukeIzuka先生の描く、ギガレックスの荒々しい格好よさを表現するには、万の言葉を以てしても足りない心境です。

次回の更新は、5月6日までに「スペシャルデッキセット マジェスティ・ロードブラスター」の「えくすとら」を公開予定です。
本来「えくすとら」は発売後に公開ですが、せっかくのゴールデンウィークですし、22日に一斉更新は読むのも書くのも大変だと思うので、振り分けたいと思います。

そんなわけで、次回のえくすとらでまたお会いしましょう!


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6月「奪い取られる。 別の世界の住人に」

 はじまりはひとりの女性だったという。

 ヴァンガードにおいて無類の強さを誇ったというその女は、とあるカードショップを根城にしていた。

 その女の噂を聞きつけた数多の強豪ファイターが、その店を訪れファイトを申し込んだが、勝利できた者はいなかったと言う。

 時は流れ、いつしか女はプロファイターになりショップを去っていったが、彼女とファイトするため――そして、いつの日か勝利するため――店の常連となっていた強豪達の多くは、そのまま店に残った。

 彼らは既に気づいていた。ここに残る方が強くなれることを。

 やがて、ひとりの女の噂は、別の噂にすり替わっていく。

 途轍もない強さのファイター達が、ただただその強さを究めることのみを追及しているカードショップがあると。

 君が力を欲するファイターなら、その店を探すといい。

 強者が強者を求めて集う場所。

 カードショップ『ストレングス』を。

 そんな話を耳にした少年が、アスファルトの地面を踏みしめ、その店の前に立った。

 引き締まった体躯をラフなパーカーに包み、フードを目深に被った少年。鬼塚(おにづか)オウガは、休日を利用して、武者修行のため『ストレングス』を訪れていた。

(ここに来れば強いファイターに会えるって聞くぜ)

 オウガは『ストレングス』へのアクセスをメモした紙を握り潰してポケットにねじ込むと、フードを乱暴に脱ぐ。限りなく白に近い色をした、逆立った金髪が露わになった。

 店の外観はコンクリートむき出しで、なおかつ人通りの少ない、商店街の裏路地に建っているものだから、普通の人ならば近寄りたいとも思わないだろう。だが、だからこそヴァンガードファイターの虎ノ門みたいな感じがして、オウガはわくわくしていた。

(ここなら、本当に強くなれそうな気がするぜ!)

 一切の躊躇無くドアを押し開け、『ストレングス』の店内へと足を踏み入れると、肌を刺す熱気が彼を出迎えた。

(おっ、やってるじゃねーか)

 ファイトを重視しているショップらしく、店の半分以上がファイトスペースで、それも昼時にも関わらず満員だった。

 和気あいあいとした雰囲気は皆無で、淡々とした宣言や、カードを繰る音だけがそこかしこから聞こえてくる光景は、単なる静寂よりも静謐に感じられる。

 カードゲームは遊びだと考えていたオウガの世界は数か月前に覆されたが、ここに来て、自分の視野がいかに狭かったかを改めて思い知った。

 周囲から立ち昇る殺気にも似た真剣さに圧倒されていると、「おおっ!」という歓声が部屋の隅から聞こえてきた。見やると、そこには立ち見のファイターで人だかりができている。

(すげえファイターでもいんのか?)

 好奇心を刺激されたオウガは、そちらに向かって歩いていく。人だかりにとりついたオウガは、背伸びしてその中心を覗き込んだ。

「へっ、俺の勝ちだな」

 まず目に入ったのは、嵐の海を思わせる、濃紺の髪をボサボサに伸ばした少年だった。オウガとは同い年くらいだろうか。椅子の上で勝ち誇ってふんぞり返っているが、背は低い。その傍らには、デッキとは別に様々なクランのカードが置かれていた。

「くっ、ありがとうございました……」

 少年に負けたと思しきファイターが席を立ち、肩を落として人だかりに紛れていく。

「どうしたぁ? 次のチャレンジャーは? いねえのか?」

 少年が悪戯っぽく笑って周囲を見渡すが、人だかりは僅かにざわついただけだった。これほど挑発的な態度を取られたら、このような場所に来るファイターならすぐに動きそうなものだが。

(なら、俺が!)

 不自然さは感じたものの、考えるより先に行動が体に染みついているオウガは、人だかりをかきわけて飛び出そうとした。

「俺が相手をしよう!」

 それよりも早く、遠くから男の声がして、人だかりが真っ二つに割れた。何が起こったか理解できなかったオウガだけが取り残されたが、周囲のファイターに引っぱられて人だかりへと埋没させられる。

 そうしてできた花道を、声の主である大人びた顔立ちをした金髪の少年が「ありがとう」と礼を述べながら通っていく。

「フウヤだ」

小金井(こがねい)フウヤが来た」

「ヴァンガード甲子園のリベンジマッチか」

 人だかりがにわかに囁き合う。

 金髪の少年――フウヤは、小柄な少年の手前に腰かけると、取り出したデッキをテーブルに置いた。

「久しぶりだね、アラシ君。君とはもう一度戦いたいと思っていた。受けてくれるかな」

 確認の体裁は取っているが、有無を言わさぬ口調でフウヤが言った。にこやかだが目は笑っておらず、普段のフウヤをよく知る人物なら、その剣呑な態度に息を呑んだだろう。

「ああ。(セント)ローゼの小金井フウヤ君か。いいぜ。

 ただし、俺の流儀は知った上で言ってるんだよな?」

 アラシと呼ばれた小柄な少年は、試すような視線をフウヤに投げた。

「もちろんだ」

 フウヤが頷き、アラシは至福の笑みを浮かべながら告げた。

「賭けろ。お前の大切なモノ(おたから)を」

 フウヤは嘆息しながら、シャツの胸ポケットから手帳を取り出すと、そこから1枚のカードを抜きだした。スリーブで厳重に包まれたそれを、テーブルの上へと丁寧に差し出す。

「旧スタンダード、ブロンドエイゼルのSPだ。俺が初めて当てたSPで、ゴールドパラディンを始めるきっかけにもなった」

「……いいお宝だ。じゃ、俺は何を賭ければいい?」

「今は君とファイトできればそれでいい。勝った後で考えるさ」

「オーケー。ベット成立だ」

 二人は申し合わせを終えると、何事も無かったかのようにファイトの準備を始める。

(な? な!?)

 それを傍から見ていたオウガは、激しく混乱していた。手近にいた立ち見のファイターの肩を掴むと、勢いこんで尋ねる。

「おい! 今、何が行われてる!?」

「何って……賭けファイトだよ」

 ファイターの男は、鬱陶しそうにオウガの手を払いながら答えた。

「賭けファイト……?」

「アラシは、対戦を希望してきたヤツに賭けを要求してくんのさ。大切なモノを一つ差し出せってな」

「そんなヤツと、どうしてファイトするんだよ!?」

 瞬間、男の目がオウガを軽蔑するように細まった。まるでオウガが致命的な過ちを口にしてしまったかのように。

「お前、アラシのこと知らねーの? ここに来るほどのファイターなのに?」

「し、知らねーよ」

「去年のヴァンガード甲子園優勝校、天海(あまみ)学園のレギュラーだよ。天海学園は本州と遠く離れた離島にある田舎の高校だから、ヴァンガード甲子園のような全国大会か、こうして気まぐれに街に出てきた時でなければ対戦できないんだよ」

「だ、だからって……」

「もういいかな? 俺もアラシのファイトは見ておきたいんだよ」

「……すまねえ。悪かった」

 これ以上反論しても仕方がないと悟ったオウガは、頭を下げて男を解放した。

 ――おおっ!!

 そして、店内が再びざわついた。

「ヴァンガードの《魔の海域の王 バスカーク》で、《レーブンヘアード・エイゼル》にアタック!!」

「《エリクサー・ソムリエ》! 《フレイム・オブ・ビクトリー》でガード! ボーマンでインターセプト! 2枚貫通だ!」

「ツインドライブ!!

 1枚目は(ドロー)トリガー! カードを1枚引いてパワーは……バスカークに。

 2枚目、(ヒール)トリガー! ダメージ回復! パワーはバスカークに!」

「……ダメージチェック。1枚目、トリガー無し。2枚目…………トリガー無し。俺の負けだ」

 6枚目のダメージを置いたフウヤが力尽きたように項垂れる。

 まるで全国大会が決したかのような歓声が、静かだった店内に響いた。

「ゴルパラに速攻し返しやがった!」

「あのタイミングでヴァンガードにトリガー集中させるとか、マジかよ!?」

「バカ! それを躊躇なくできるのが、アラシの強さだろ」

「これまでアラシはトリガー引いてなかったし、フウヤのガードが甘かったな」

 ギャラリー達の勝手な批評が始まる中、オウガはただただ無情な結果を晒すファイトテーブルを注視していた。

「悪いな。だが、ルールはルールだ。カードはもらっていくぜ」

「……好きにしてくれ」

 アラシはフウヤの手元に置かれていたブロンドエイゼルを取り上げると、傍らに積まれていたカードの上に重ねて置いた。なるほど、これらのカードはアラシの「戦利品」らしかった。

「……勉強になったよ」

 カードを片付けたフウヤは、それだけアラシに告げると席を離れた。そのまま肩を落としてオウガの横を通りすぎる。その目尻に光るものを見つけたオウガは思わず叫んでいた。

「ふっざけんな!!」

 ギャラリー達が会話を中断して、オウガに注目する。

「初心者の俺でも分かるぜ! こんなのはヴァンガードじゃねえ!

 俺の先輩が教えてくれたヴァンガードは、ヘコんでた俺を笑顔にしてくれた! 悲しませるものじゃなかった!」

 誰もがオウガに奇異の視線を向ける中、怒りの矛先を向けられているアラシだけは楽しそうに笑っていた。

「だったら、どうするよ?」

「俺とファイトしろ。俺が勝ったら、そこにあるカードは全て持ち主に返せ!」

「よすんだ!」

 フウヤが慌てて止めに入る。

「さっき賭けは合意の上だ。君の気持ちは嬉しいが、俺に責任がある。関係の無い君が被害に合うのは見過ごせない」

「俺が負ける前提で話すなよ!」

 立ちはだかるフウヤを突き飛ばしたくなる衝動を抑え、その脇をすり抜けると、オウガはアラシの前に立った。

「俺は響星(きょうせい)学園1年の鬼塚オウガだ! 覚えとけ!」

 親指で自分を指しながら名乗りを挙げる。何故かフウヤが微妙な表情をして固まっていたが。

「天海学園2年の(あおい)アラシだ。まあ、座れよ」

 促されるまま、というのは癪だが、アラシの前に腰かける。

「俺が今日の戦利品を賭けるのは分かった。で、お前は何を賭ける?」

「…………え?」

 アラシの問いに、これまでの気迫はどこへやら、オウガの口から間の抜けた声が漏れた。

「おいおい、まさか何も考えてなかったのかよ。俺は何も賭けないヤツとはファイトしねーぞ。

 まあ、別にレアカードを要求しているわけじゃねえんだ。勘違いされがちなんだけどな。

 それがお前にとって大切なカードなら、世間的に何の価値も無いコモンカードでも構わねえ」

(……俺の、大切なカード?)

 ヴァンガードを始めて間もないオウガには、ピンとこなかった。

 オウガが初めてライドしたG3で、今もデッキに入れている《バッドエンド・ドラッガー》は、確かに愛着も湧いてきているが、フウヤのように、失った時に泣けるほどかというと、そうでは無い気がする。これがまた、1年、2年と続けば違うのかも知れないが。

「……これも勘違いされがちなんだが、別にカードじゃなくてもいいんだ。ギザギザのついた10円でもいいし、コーラ瓶の王冠でもいい。それがお前にとってのお宝なら、俺は喜んでそれを奪い取ろう」

(……宝?)

 オウガは思わず自分の脚を見た。それこそ愚問だった。

 そんなもの、とっくに失って久しい。

「ふん」

 これまで楽しそうに笑い続けていたアラシが、はじめてつまらなさそうに鼻で息をついた。

「宝のひとつも持っていないようなやつ、相手してやる価値も無い。消えろ」

 侮蔑するように告げて、アラシは虫でも払うように手を振った。

(俺には、何も無い……)

 アラシの言い分は乱暴にしても、それは一つの真理となってオウガの胸に突き刺さっていた。

 持たざる者に価値などないと。

「私を賭けてください、オウガさん」

 その声は、天から降ってきた。

 そう思えたのは、オウガがいつの間にか深く俯いていたからであって、顔をあげると、その声の主とばっちり目があった。

「ミオ、先輩……」

「はい。いつでもどこでもあなたの傍にいるミオ先輩です」

 消え入りそうな純白のワンピースに、儚く淡い色のカーディガン。

 私服姿の音無(おとなし)ミオが、傍らにしれっと立っていた。

「どうして、ここに……?」

「『ストレングス』にはよく来るんです。強いファイターとファイトできますし、知った顔とも会えますから」

 そう言って、ミオはフウヤに視線を向けた。それに気づいたフウヤも、片手を挙げて応える。

「むしろ、ここはオウガさんのような初心者が来ちゃダメですよ。大方、強い人が集まるという噂だけ聞いて、武者修行のつもりだったのでしょうけど。容赦の無い方々しかいないので、自信を失うのがオチです」

「そうっすか……いや、そうじゃなくて! 『私を賭けてください』ってどういう意味っすか!?」

「そのままの意味です。そちらのアラシさんは、大切なものを要求しているのでしょう? でしたら、私を賭ければ解決です。

 それとも……」

 限りなく透明な瞳がオウガの顔を覗きこむ。

「私では不足でしょうか」

「全然っ! そんなことはありません!!」

 オウガは思わず断言してから、いかんいかんと首を振る。

「そういう問題じゃなくて!! それは色々といかんでしょう!! 倫理的に!!」

「倫理で言うなら、賭博行為の時点でアウトですよ」

 半眼になってミオが告げる。

「要は負けなければいいんです。私が売られることもありませんし、奪われたものも返ってくる。めでたしめでたし」

「くく……はっはっはっはっ!!」

 豪快な笑い声をあげたのはアラシだった。

「オウガとか言ったな? いいお宝があるじゃねーか」

「俺の持ち物じゃねーよ!」

 オウガが慌てて反論する。

「関係無いな。お前に守りたいものがあるなら、それがお前の宝だ。その子を賭けるなら、お前とのファイトを受けてやるぜ」

「俺の一存で決められるわけねーだろ!」

「私はとっくに同意していますが」

「先輩は黙っててください! そもそも、俺が負けたらテメーは先輩をどうするつもりだ?」

「そうさなあ……さすがに人を賭けてファイトをした事は無かったし、適当にからかってお茶を濁すつもりだったが……そちらの嬢ちゃんは」

「音無ミオです」

「――ミオちゃんは、本気のようだ」

「当然です。何であれ、それがファイトの結果であるなら、私は受け入れます」

「顔立ちは文句無し。度胸もある。俺より背も低い。理想の女じゃねーか。

 是が非でも俺のものにしてえが、まずはファイトで勝ってからだ。

 なぁ、早くはじめようぜ、オウガ!」

「……ああもう! どうなっても知らねーからな!!」

 ヤケクソ気味にオウガが叫び、ファーストヴァンガードを裏向きにしてヴァンガードサークルに置く。

「だが、みすみすお前の好きにはさせねえ! 先輩は俺が守るぜ!」

 瞳に決意を滾らせて、オウガが宣言した。

 まさか完全無欠にして絶対無敵と思えたミオ先輩に、こんなセリフを使う日が来るとは夢にも思わなかったが。

 無敵以上に無防備すぎる。 

「そうだ。その意気だ。潰し甲斐のある顔になってきたじゃねーか!

 いくぜ! スタンドアップ!」

「ヴァンガード!」

「《キャプテン・ナイトキッド》!」

「《メカ・トレーナー》!」

 ファーストヴァンガードがめくられ、その場にいたすべての人が、晴れの日に嵐のイメージを見た。

 

 

 駅の改札口前に、ひとりの少女が佇んでいた。

 几帳面に切り揃えられた黒髪に、小ぶりなメガネ。小柄な体躯を清楚なブラウスとフレアスカートに包んでいる。

 時折、何かを探すかのように、落ち着きなく小さな顔を巡らせるたび、曇りひとつないレンズがきらりと光を反射した。

「ごめんねー、サキちゃん! 待ったー?」

 やがて改札口の奥から、他の客に紛れて、別の少女が手を振りながら現れた。

 メガネの少女、藤村(ふじむら)サキはひかえめに手を振り返し、改札口から出てきた彼女の先輩、天道(てんどう)アリサに自分の居場所を示す。

「いいえ。アリサさん。私も今来たところです」

 サキは嘘をついた。

 本当は、初めて来る場所だったので念を押して早めに家を出たら、待ち合わせ時間の30分前にはここに着いてしまったのだ。

 アリサも待ち合わせ時間のきっかり5分前には姿を現したのだから、待ったのは自分に責任がある。

「すいません、アリサさん。お休みの日に、わざわざ……」

「ううん。いーの、いーの。あたしはいつも、休みの日にはどこかのカードショップには出歩いてるから、そのついでだよ」

 そう言うアリサも、今日はもちろん私服だった。

 黒皮のパンツスタイルに、同じく黒皮のライダージャケットを合わせたコーディネートは活動的な彼女に似合っていたが、それ以上に、悪の組織の女幹部というイメージがサキの頭をよぎった。

「初心者でも対戦しやすい雰囲気のカードショップを教えてほしい、だったよね?」

 サキの勝手な想像などつゆ知らず、アリサがさっそく今日の本題に入る。

「は、はい。あと、初めての店にひとりで入るのははどうしても緊張してしまうので。お手数ですが、付き添って頂けると助かります……」

「おっけー。アリサおねえさんにまかせなさい! とりあえず案内するから、あとは歩きながら話そっか」

 そう言って、サキを先導して歩を進める。

「これから行くお店はね。《ムーン》って言って、店内は明るくて清潔だし、常連さんも気さくで熱意のある人が多いから、サキちゃんもたくさん対戦ができると思うよ」

「あ! お店の明るさって大事ですよね。たまにものすごく暗い店とかありますもんね」

「そうそう。そういう店って、それだけで入りにくかったりするよねー。

 ただ、品ぞろえはあんまりよくないから、ミオちゃんのカードショップ評価では45点のC評価らしいけど」

「何ですかそれは?」

「ミオちゃんが勝手につけてるの。あの子、カードが買えて対戦できればそれでいいってタイプだからねー。いいカードが安く売っていて、強い人と対戦できれば、裏路地にポツンと建ってる怪しいカードショップにだってA評価つけちゃいそう」

「うわあ。それは、今回の参考にはならないですね……」

「そうだよねー。ま、いずれミオちゃんに聞いてみるといいよ。近隣22件のカードショップについて、詳しく教えてくれるから……あ、ついたよ」

 アリサが足を止める。

 駅から徒歩3分。大通りに面したお洒落なショッピングモールに併設されているため、良くも悪くもマニアックな雰囲気が無く、意識していなければカードショップとは気付かずに素通りしてしまいそうでもある。

 外から店内が容易に見通せるガラスの自動ドアには「Moon」と、店名を示す蛍光シールが地味すぎず派手すぎず主張していた。

「私のような人見知りや、お子さんを連れた大人の方でも入りやすそうな店ですね!」

 ミオちゃん評価では一片も考慮されなさそうな感想をサキが口にする。

「でしょ? 実際、親の買い物のついでに立ち寄ったのがきっかけでヴァンガードを知って、そのまま常連になる子も多いみたいだよ」

 アリサが答え、店から少し離れたところでピタリと立ち止まる。

 後をついてきていたサキも、その背にぶつかりそうになった。

「あ、あの、アリサさん……?」

「先に入りなよ。これも慣れだよー」

「あ! そ、そうですね! …………では、行かせていただきます!」

 意を決するように深呼吸して、大股で「ムーン」の入り口までサキが歩いていく。だが、彼女が自動ドアの前に立つ直前、ドアが先に開き、そこから現れた大柄な人影に頭からぶつかってしまった。

「きゃっ」

 まるで壁にでもぶつかったかのような衝撃を受けて、サキが尻もちをつく。

「! サキちゃん、大丈夫!? ごめんなさい! ケガはなかっ……た?」

 慌てて駆け寄ってきたアリサがサキを気遣い、彼女がぶつかった相手に頭を下げようとして、息を呑んだ。

(でっかい……)

 店から現れた男は、それほどまでに巨大だった。

 アリサの知り合いのうち、最も背の高い男子学生はカードファイト部OBの近藤(こんどう)ライガで、たしか身長は180センチ台と聞いていたが、目の前の男はそれより確実に大きいだろう。

 近隣ではあまり見ない高校の制服越しにでも分かる程度には鍛えられており、横幅もある。何より、ピンと背筋を伸ばした姿勢が、彼を壁の如き巨人に見せていた。

「失礼! 小さくて見えなかった」

 男が、屋外にも関わらず非常によく響く声で告げた。

(なっ!?)

 一瞬、侮辱されたのかと思ったが、すぐに違うとアリサは思い至った。小柄なサキなど、男が正面を向いていれば本当に見えないのだ。

 今も、男は紳士的に手を差し出して、サキを助け起こそうとまでしている。少なくとも、根っから無礼な人間では無いように思えた。

「あ、ありがとうございます。大変失礼しました」

 男の手を取って立ちあがったサキが、顔を真っ赤にして頭を下げる。

「いや。私の不注意だった。ファイトの後で気が昂っていたようだ。ケガはないかな?」

「は、はい……」

「よかった。では、これにて失礼する!」

 男はサキ達に背を向けると、ザッザッザッと足音をたてて去っていく。

「あの人もファイターなんだね。ま、カードショップから出てきたから当然か」

 まったく小さくならない背中を見送りながら、アリサが何とはなしに呟いた。

「…………」

 サキはぼんやりと、男の方とも虚空ともつかない方向をぼんやりと見上げている。

「どうしたの、サキちゃん? まさか恋に落ちちゃった?」

「い、いえ! ただ……あの人の顔、どこかで見たことがあるような」

「え? あたしは大きさに圧倒されて、顔に意識がいかなかったかな。知り合い?」

「いえ。テレビで見たような」

「じゃあ、芸能人とか?」

「そういうのとも違うような。私、芸能人とか詳しくありませんし」

「うーん。ま、考えていても仕方がないし、とりあえずお店に入ろっか」

「そ、そうですね!」

 そう言って、2人は店内に入っていく。

 アリサは練習のことなどすっかり忘れていたし、サキはサキで緊張など吹き飛んでしまっていた。

「あ、『銀華竜炎』のシングル出てるよ!」

「本当ですね! やっぱりオーバーロードは格好いいですね」

「サキちゃん、恐竜に限らず、ドラゴンも好きなんだね」

「はい。やっぱり、大きくて強くてカッコいいものには憧れちゃいます」

 ショーケース越しにしばし歓談した後、2人は店の奥にあるデュエルスペースまで進んでいく。

 そこでは、アリサ曰く気さくで熱意あるファイター達が、今日もファイトで盛り上がっている――はずだった。

 デュエルスペースに足を踏み入れたアリサ達が見たものは、盛り上がりとはかけ離れた倦怠感。

 ある者は、背もたれにだらんと力無くもたれかかり。

 ある者は、ファイトテーブルに突っ伏したまま動かず。

 ある者は、自らの両肩を抱いて、震えているようにも、泣いているようにも見えた。

「ちょっ、ちょっと! どうしちゃったの!?」

 ただごとでは無い様子に目を見張ったアリサが、手近な知り合いの肩を揺さぶって尋ねる。

「あ、ああ……アリサ、か」

 背もたれに全身を預けていた男が、力無くのろのろと顔を向ける。

「ついさっき、このあたりでは見かけないファイターが現れたんだ……」

「……? それってもしかして、ものすごく背の高い?」

「そうだ。俺達も知らない人とファイトするのは久々だったから、常連全員がファイトを申し込んだんだ。その結果が、この有様さ……」

「この有様って……」

「俺達だって全国大会で好成績を残すようなファイターってわけじゃない。トッププレイヤーに勝てるなんて自惚れてるつもりはなかった。けど、毎週ここで鍛えて、そこそこやれるって自負はあった。ファイトで負けても、いい勝負だったなって笑って握手できる余裕くらいはあると思ってた。

 それが、こんな……」

 語る男の顔が燃え尽きたように真っ白になり、唇は青ざめていく。震えるその瞳には、ありありと恐怖の色が浮かんでいた。

(ヴァンガードの話、だよね?)

 ファイトをしていて、悔しいと感じることや、自分の不甲斐なさに憤りを感じること。マナーの悪いファイターにイラつくことだって、アリサにもある。

 だが、恐れを感じたことなど、いまだかつてあっただろうか。

 しかし、目の前の男は、まさしくそれを体験してきたかのように、パニックになって声を荒げた。

「あれはファイトじゃない! 一方的な蹂躙だ!」

「落ちついて! もっと具体的に教えてくれない? あいつに煽られでもしたの?」

「いや……彼は俺達を侮辱するような言動など一切していない」

「じゃあ……」

「ただ、ここにいる10人全員が彼とファイトして、誰ひとり彼に5点以上のダメージを与えることなく、5分以内に敗北した。それだけだ。

 ……けど、そんなの、俺達のヴァンガードを否定されたも同然だろう」

 あまりにも現実感の無い内容にアリサは押し黙った。

 昼過ぎのカードショップとは思えない静寂の中、サキが小さく声をあげる。

「あ……」

「サキちゃん?」

「思い、だしました……」

 その顔は、他のファイター達と同様、蒼白になっていた。

「店に入る前に私とぶつかったあの人……去年のヴァンガード甲子園の生中継で見たことがあります。

 去年の優勝校、天海学園で先鋒を務めていた方です。

 名前はたしか…………清水(しみず)セイジさん、です」

 それを聞いたからというわけでも無いだろうが、うつろな目をした男がぽつりと呟いた。

「もう俺、ヴァンガードやめようかな……」

 

 

 スタジアムの半分が黒い海に浸食された異常な光景で。

 芝のフィールドには、惑星クレイにおいて最も危険なスポーツとされるギャロウズボールの強豪チーム、スパイクブラザーズの選手が立ち、海上にはグランブルー海賊団の海賊船であり幽霊戦でもある帆船が数隻浮かんでいる。

 アリサ達が対戦相手のいないカードショップ『ムーン』で途方に暮れている頃、カードショップ『ストレングス』では、オウガとアラシのファイトが続いていた。

「ライド! 《バッドエンド・ドラッガー》!!

 イマジナリーギフト、フォースⅠをヴァンガードに!」

 お互いにダメージは2点。

 先行のオウガが、まずはG3にライドする。

「コール! 《パワーバック・レナルド》! 手札の『陽気なリンクス』をソウルに置いて、山札の上から3枚確認…………《サイレンス・ジョーカー》、《ソニック・ブレイカー》、《ジャガーノート・マキシマム》をコール! ジャガーノートは登場時に+10000だぜ!

 バトルだ! まずは《サイレンス・ジョーカー》のブースト、《パワーバック・レナルド》でアタック!」

「ガード! 《ダンシング・カットラス》だぁ」

(これでアラシさんのドロップゾーンは6枚。その中には既にカットラスが2枚。さすがにソツがありませんね……)

 ミオが頭の中で状況を分析する。

 アラシの扱うグランブルーは、ドロップゾーンの扱いに長けたクランである。時にドロップの状態は、盤面よりも重視されるのだ。

 とは言え、まだまだ初心者のオウガがそれを意識できているとは言い難く、もちろんミオもそれを助言することは無かったが。

「続けていくぜ! ヴァンガードの《バッドエンド・ドラッガー》でアタック! アタック時に《サイレンス・ジョーカー》を山札の下に置いて、パワー+5000、(クリティカル)+1! 合計パワー28000で、ヴァンガードの《ストームライド・ゴーストシップ》にアタックだ!」

「ふーん……ま、《お化けのりっく》でガードかな。1枚貫通だ」

「なっ!?」

 それを聞いてオウガが目を見張る。

「聞こえてなかったのなら、もう一度言ってやるぜ。俺のバッドエンドは★+1だ」

「あ? だからちゃんとガードしてるじゃねーか」

「そんなの、ツインドライブのトリガー1枚で貫通するだろうが!」

「んー。けど、今回はトリガー引けないんじゃねーか?」

 口調こそいい加減だが、まるで確信しているかのように、アラシはそう予言した。

 それが侮られているように感じられたのだろう。オウガが苛立ちを込めて山札に手をかける。

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目…………くそっ、トリガー無しだ」

「これが彼、葵アラシの恐ろしさだ」

 これまで黙ってファイトを観戦していたフウヤが、ミオの傍まで寄ってきて囁いた。

「一見、不利な状況でなくとも、1枚貫通のガードや、2枚貫通でガードされた時にトリガーを集中させるなんてことを平然と仕掛けてくる。そしてそれが悉く成功する」

「……まさかイカサマですか?」

 似たプレイングに心当たりがあったミオはそう問うたが、フウヤは即座に首を振って否定した。

「今もこれだけ注目されているし、全国放送のヴァンガード甲子園でも彼は同じことをしている。さすがにそれは不可能だろう」

「……そうですね」

 確認はしてみたものの、実のところ、本気で不正が行われているとはミオも考えていなかった。

 何故なら、今もファイトを続けているアラシは心からヴァンガードを楽しんでいるように思えたからだ。

 褒められた人間でも無いのだろうが、少なくともファイトに対してまで不誠実には見えなかった。

「彼のプレイングを見たマリアさんは、こう仮説を立てていたよ。

 彼の頭の中には、これまでのファイトで得られた膨大なデータが蓄積されている。ファイトの流れで、いつトリガーがめくれるか、ある程度分かってしまうのだろう、と。

 さながら、波を読み、風を読み、嵐を予見する航海士のようにね」

「ふむ……」

「そして、こうも言っていた。

 一般のファイターにも、不利な状況に陥れば1枚貫通のガードだってせざるを得ない時がある。その判断が、彼は異常に早いのだと」

「……つまり、あの人の中では、スタンドアップの時点で、ファイトの終わりまでの筋道が見えているということでしょうか」

「さすがに察しがいいね。その通りだ。

 自分の手札と相手のクランを確認した時点で、彼の中では、どこで・どこまでトリガーを引かれたら勝てないかが完全にイメージできているんだ。

 その後、ドローするカードや、相手から公開されるカードで、そのイメージに修正を加えていく。

 どれだけファイトをすればそれほどの境地に至れるものなのか……俺には想像もつかないよ」

 練習量では全国随一であろう聖ローゼの部長を以てそう言わしめるのだから、相当のものなのだろう。

「ですが……」

「ああ。キミが言いたいこともわかる。

 それでもなお運任せのプレイングであることに違いは無い。仮に俺が彼の持つ経験を全て手に入れたとしても、同じことはできない。恥ずかしい話、そんな勇気も無いし、盤石の勝利を求める聖ローゼの理念ともかけ離れている。

 豪快なプレイングの裏には、膨大な経験と知識に裏打ちされた勝負勘があり、それを実行に移せるだけの度胸がある。

 葵アラシ。彼は間違い無く、ファイターとしてひとつの理想形を体現しているのだろうね……」

 物腰は丁寧だが、自分の強さを信じて疑わないフウヤが、他人をここまで評価することなど滅多に無いことだった。

「《ナイトスピリット》でガード! 《グリード・シェイド》でインターセプト!」

 その間もファイトは続き、《ジャガーノート・マキシマム》によるアタックも、アラシによって防がれたところだった。

「くっ。1点もダメージを与えられなかっただと……?」

「へっへっ。スパイクが怖いのはこの後だからなぁ。簡単にダメージをもらってやるつもりはねーよ。

 さあ、今度は俺様のターンだ!

 スタンド&ドロー!

 ライド! 《魔の海域の王 バスカーク》!!」

 ギャロウズボールのスタジアムを侵食する仄暗き海の底から、一隻の幽霊戦が姿を現した。

 その舳先に立つは、異形の人影。

 頭から伸びた触手を風に遊ばせ、手にした鞭をひとたび鳴らせば、無数の亡霊が彼を讃える唄を歌う。

 魔海の王、バスカーク。

 宝を略奪せし者よ。

 魔海の王、バスカーク。

 命を略奪せし者よ。

 魔海の王、バスカーク。

 嗚呼、哀れな犠牲者がまたひとり。闇に沈みて蘇る。

「バスカークのスキル発動! ドロップゾーンから《剣剛 ナイトストーム》を蘇らせるぜ! G3を蘇らせたので、バスカークに+15000!」

 バスカークが鞭で甲板を打ち鳴らすと、その船の横に新たな幽霊戦が浮上した。

 その舳先に立つのは、眉目秀麗の海賊剣士。

「ナイトストームのスキルも発動だぁ! 山札から2枚ドロップして、パワー+5000! これで俺様のドロップゾーンにあるカードは10枚! この意味が分かるよなぁ?」

「?」

「わかんねーのかよ!!」

 ぽかんとしているオウガに、アラシがツッコミを入れる。

(まだ初心者ですからね)

 ミオが心の中でフォローした。

「まあいい。教えてやる。

 バスカークはドロップゾーンにカードが10枚以上ある場合、パワー+5000、★+1されるんだよ!

 まだまだいくぜ! 《キャプテン・ナイトミスト》をコール! ナイトミストのCB(カウンターブラスト)発動だぁ! バスカークの後列に蘇れ、《悲痛なる銃弾 ナイトゲベール》!

 ナイトゲベールのスキルも発動! 山札から1枚ドロップ! ドロップゾーンにカードが10枚あるので、パワー+10000!」

「まずい。バスカークにパワーを集中させてきた。たぶん、彼が完全ガードを握っていないことを見抜かれている」

 フウヤが小声で唸る。

「なるほど。相手の手札も『読み』の対象ですか」

 確かにこれまでトリガーとしてオウガが完全ガードをめくったことは無かったし、ダメージゾーンに1枚完全ガードも公開されている。まだ完全ガードを所持していない公算も高いだろう。

「それだけじゃないよ」

 ミオの思考を読んだかのようにフウヤが補足する。

「アラシがバスカークに★+1されると宣言した時、オウガ君の肩が動揺したように動いた。あの瞬間だ。彼が完全ガードを持っていないと確信したのは」

「ああ、なるほど。オウガさんは考えていることが、態度や顔に出るタイプですからね」

 とは言え、人の思考を予測するのはミオの苦手分野だ。オウガとファイトしている時も、彼のそういう性質は理解しつつも、それをプレイングの指標にした事は一度も無い。

 論理的に未来を予測することは得意なので、自分もアラシのプレイングを再現できるのではないかと考えていたのだが、もう一段階上を行かれていたようだ。

「おしゃべりな人だとは思っていましたが、あの挑発的な言動のひとつひとつが、対戦相手を揺さぶり情報を引き出す撒き餌となっているわけですね」

「ああ。そして、気がついた時には全てを奪われている。本当に恐ろしいファイターだ」

 フウヤは改めて畏怖の念を込めて、楽しそうにカードを操るアラシを見つめた。

「仕上げだ! ドロップゾーンから蘇れ、《ダンシング・カットラス》! そのスキルによってCC(カウンターチャージ)

 (ソウル)とナイトミストを生贄に捧げ蘇れ、《サムライ・スピリット》!

 さあて、バトルだ!

 ナイトゲベールのブースト! バスカークでヴァンガードにアタック!」

「ご、合計パワーは?」

「あ? 50000だろーが。1枚貫通なら40000ガード。2枚貫通なら50000ガード支払いな! 確実に防ぎたかったら60000ガードだ!

 別に完全ガードでもいいんだぜ? 持っていたらの話だがなぁ!」

「ぐっ……くそ。無理だ。ノーガード……」

「なら遠慮無く……ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……治トリガー! ダメージ回復! パワーはナイトストームに与えるぜ!」

 バスカークが鞭を振るい、バッドエンドを激しく打ち据える。

 達人の操る鞭は音速を越え、刃よりも苛烈に肉を引き裂き、決して癒えない醜い傷跡を残す。

「くっ、ダメージチェック……。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー。効果は全て、バッドエンドに」

「サムライでブースト! 《ルイン・シェイド》でアタック! アタック時、山札からドロップゾーンに2枚ドロップ! 合計パワーは29000だぁ!」

「《陽気なリンクス》でガード! レナルドでインターセプト!」

「カットラスのブースト! パワー33000のナイトストームでアタック! ドロップゾーンにカードが10枚以上あるので、CB1して1枚ドローだぁ!」

「ノーガード……トリガー無し」

「……ターンエンドだぜぇ」

 余裕の笑みを浮かべてアラシが宣言する。

「ダメージ5対1……。いくら初心者とは言え、ここまでの差が開くものなのか」

 フウヤが見ていられないとばかりに顔を覆いながら呟いた。

「……確かにオウガさんは初心者ですが」

 ミオが表情を僅かに憮然とさせて言う。

「私の可愛い後輩を、あまり甘く見ない方がいいと思いますよ」

「スタンド&ドロー!

 スパイクのパワーをナメんじゃねえ! このターンで逆転してやらぁ!

 ライド! 《デッドヒート・ブルスパイク》!!」

 遥か彼方から地鳴りと共に、途方も無く巨大な男が駆けてくる。

 鋭いトゲが肩から幾本も突き出したプロテクターを纏った、山の如き巨漢だ。

 それは群がる死霊を吹き飛ばしながら、フィールドの真ん中で砂埃を巻き上げて急停止する。

 チーム(スパイク)の名を冠する頼れる兄貴の入場に、スタジアムが万雷の拍手と歓声をもって応えた。

「イマジナリーギフト、フォースⅠはヴァンガードに!

 ライドされた時、《バッドエンド・ドラッガー》のスキル発動! バッドエンドをスペリオルコールし、同じ縦列の相手リアガードを全て退却させる!

 吹き飛べ! ナイトストーム! カットラス!」

「くくく……ほらよ」

 アラシが余裕の笑みを浮かべながら、2枚のリアガードをドロップゾーンに置く。

「メインフェイズ開始時! 《ジャガーノート・マキシマム》のスキル発動! ジャガーノートをソウルに置いて、新たなジャガーノートを山札からスペリオルコール! パワー+10000!

 さらに、《ワンダー・ボーイ》をバッドエンドの後列にコール! ドロップの《陽気なリンクス》をデッキボトムに戻し、パワー+5000!

 バトルだ! 《デッドヒート・ブルスパイク》でバスカークにアタック!!」

「……ノーガードだぜぇ」

「ツインドライブ!!

 1枚目……引トリガー! それも完全ガードだ! 1枚引いて、パワーはバッドエンドに!

 2枚目……治トリガー! ダメージ回復! パワーはジャガーノートに!」

 掌の中で凝縮された闘気が楕円形のボールを形作り、跳躍したブルスパイクはそれを無造作にバスカークへと叩きつけた。

 ブルスパイクより遥かに巨大な幽霊戦が大きく傾き、弾け飛んだ甲板の破片が水面へと落ちて水しぶきをあげる。

「ダメージチェック……トリガー無し」

「続けていくぜ! 《ソニック・ブレイカー》のブースト! 《ジャガーノート・マキシマム》のアタック時に、ブルスパイクのスキル発動! フォースを全てジャガーノートに移動させる! これでパワーは48000!」

「……ノーガードだ」

 ブルスパイクが雄叫びをあげると、手にしたボールを背後に放り投げた。

 それをジャガーノートが乱暴に受け取ると、幽霊船の側面に抉りこむ。

「ダメージチェック……トリガー無し」

「《ワンダー・ボーイ》のブースト! 《バッドエンド・ドラッガー》でアタック時、ブルスパイクのスキル! フォースを全てバッドエンドに! さらにバッドエンドのスキルで《ソニック・ブレイカー》をデッキに戻し、パワー+5000、★+1!

 合計パワーは61000だあああっ!!」

「……ノーガード」

 今度はジャガーノートが、手にしたボールを空高く放り上げる。

 それを空中で受け取ったバッドエンドが、バスカークの船へと急降下した。

 その衝撃で真っ二つに折れた幽霊船が、巨大な泡をたてながら漆黒の海へと呑み込まれていく。

「ダメージチェック……1枚目、トリガー無し。2枚目、トリガー無し」

「どうだ! これでダメージ4対5! 逆転してやったぜ!」

「あ?」

 勝ち誇るオウガを、アラシは冷たい視線で睨みつけた。

 腕っ節には自信があるオウガすらも怯ませるほどの殺気がその瞳には込められており、周囲でひそひそと話をしていたギャラリーをも凍りつかせた。

「この程度で勝ち誇ってんじゃねーよ。

 このターン、お前がツインドライブで引かないとならなかったトリガーは★トリガーだろ? 俺に手札を使わせて、ブルスパイクのスキルを発動させるのが、お前に残された唯一の勝ち筋だったはずだ」

「そ、それは……」

「形だけの逆転で調子乗ってんじゃねえぞ! ライド! 《魔の海域の王 バスカーク》!!」

 船と運命を共にしたかのように思えたバスカークだったが、彼はまだ生きていた。

 海に浮かんだ破片の上で優雅に立ち、埃を被った真紅のコートを手で叩き、襟を正す。

 その所作こそ冷静ではあるが、頭の触手は船を沈められた怒りを抑えきれず、今にも暴れ出しそうな様子で蠢いていた。

「バスカークのスキル発動! 蘇れ、《不死竜 スカルドラゴン》!!」

 バスカークが鞭を振るい海面を叩くと、紫苑に燃ゆる憎悪の炎を纏った骨の竜が姿を現す。

 荒れ狂う風ががらんどうの体を通り、慟哭にも似た音が海上に響き渡った。

「ドロップゾーンの《サムライ・スピリット》のスキル! (ソウル)とルインを生贄に捧げ、スカルドラゴンの後列へと蘇れ!

 さらに、《グリード・シェイド》をコール! グリードのスキルで手札1枚と山札の上から2枚をドロップし、ドロップゾーンから《キャプテン・ナイトミスト》を手札に加え、そのナイトミストをグリードの上にコール!

 ナイトミストのスキル……ナイトミストを喰らい蘇れ! 2体目の《不死竜 スカルドラゴン》!!」

(何を回りくどいことをやってんだ……)

「どうせスカルドラゴンのスキルも知らないだろうから、教えておいてやる。スカルドラゴンはドロップゾーンのカード1枚につき、パワーを2000上げる。

 俺のドロップゾーンは19枚! よって、スカルドラゴンのパワーは50000だぁ!!」

「なっ! それ単体で50000!?」

「スパイクのパワーをナメんなとかほざいたなぁ。だが、俺様のグランブルーの方がパワーも上だ!

 バトルだ! 沈めてやるよ、鬼塚オウガァ!!

 ナイトゲベールのブースト! バスカークでブルスパイクにアタックだぁ!!」

(バスカークは★+1されている。これは通すわけにいかねえ。バスカークのパワーは……今回は40000か。なら!)

 手札と盤面を何度も見比べて、オウガは一つの答えに辿りつく。

「ガード! 《チアガール・ティアラ》! 《ジャイロスリンガー》! 30000ガードで、1枚貫通だ!」

「それは悪くねぇ判断だ。バスカークさえ通さなければ、後は完全ガードとノーガードで対処できるからな。

 面白ぇ。いくぜ……勝負だ!!」

 アラシが山札に手をかける。オウガは息を呑んで、カードがめくられるのを待つ。

「1枚目……」

「アラシッ!! こんなところにいたのか!!」

 突如として、店内に怒号が響き渡り、アラシはびくっと肩を震わせて山札から手を離した。

 店の入り口から、このあたりでは見ない学生服を着た、短く刈り込んだ短髪の男がズカズカと迫ってくる。背筋をピンと伸ばし、歩幅も一定で、まるで軍事パレードのような歩き方だ。

 気難しそうな顔をさらにしかめ、肩をいからせている様子から、怒りに満ちているのは一目でわかる。

「清水セイジ……。天海学園の、レギュラーのひとり」

 フウヤがポツリと呟いた。

「アラシ! 勝手な行動をするなと言っただろう。帰りの船に間に合わなくなったらどうする!」

 怒る男、セイジはアラシの前まで辿り着くと、その細い腕を武骨な手でガッシリ掴んだ。

「痛ててっ! そりゃ明日の学校サボれてラッキーじゃねえか」

「それがよくないと言っているのだ! さあ、帰るぞ!」

 悲鳴をあげるアラシを、セイジはむりやり引っ張って立たせようとする。

「待て待て! せめて、このドライブチェックだけでも!」

「駄目だ! どうせまた、ろくでもない賭けファイトをしているのだろう。ならば、それを成立させるわけにはいかん」

「痛い痛い! わかった! わかったから! 放せって!」

 アラシは暴れるようにしてどうにかセイジを振り払うと、全ての手札をドロップゾーンに置いた。

「そういうわけだ。うるさいのに見つかったから、このファイトはお流れだ。悪いな」

「あ、ああ……」

 突然の出来事に、オウガはそう言って頷くことしかできなかった。

 アラシは盤面のカードもドロップゾーンとひとまとめにすると、山札に手をかけ……

「おらっ」

 上から素早く2枚のカードをめくってテーブルに置いた。

 そのうちの1枚は治トリガーだった。

 オウガの顔がサッと青ざめる。

「へっ。命拾いしたなあ、オウガぁ」

 アラシが顔を歪めて笑うと同時、横から伸びてきた細くて白い手が、サッとオウガの山札を2枚めくった。

「治トリガー。命拾いしましたね、アラシさん」

 宣言して、ミオがカードを見せつける。

「ひっ、ひゃっ、ひゃははははは! 面白ぇ! 最高に面白いぜ、お前ら!」

 アラシは腹を抱えて狂ったように笑った。

「この続きはヴァンガード甲子園でだ! 今年は全国に来いよ、響星学園!」

「もちろん。そのつもりですよ」

 ミオの答えに満足したように頷くと、アラシは今度こそデッキを片付けた。そして、戦利品に手をつけようとして

「それは置いていけ」

 セイジに釘を刺され、アラシは「へいへい」と肩をすくめた。

「悪かったな。今日のところは返すぜ、これ」

 アラシが人だかりを睥睨して宣言するのを見届けると、セイジは「では、失礼する!」と言って踵を返す。アラシもポケットに手を突っ込んだ、だらしない態度でそれに続いた。

「お騒がせして申し訳ない!」

 出口でまた一礼すると、セイジ達は『ストレングス』から去っていった。

「……名前に恥じない、嵐のようなヤツでしたね」

 ゆっくりと閉まっていくドアを見つめ、立ち上がる気になれないオウガがポツリと呟いた。

「そうですね。啖呵は切ってみたものの、あのままファイトが続いても勝てる見込みは限りなく低かったでしょう。

 次のスカルドラゴンのアタックでも治トリガーを引かなければならなかったうえ、オウガさんにターンが回ってきたとしても、アラシさんはすでに完全ガードを3枚手にしていたので、そのターン中に仕留めきるのは不可能でした」

 ミオが先のファイトを冷静に分析する。

 その真剣な横顔を見ながら、オウガはどうしても気になっていたことを尋ねた。

「先輩は……もし俺が負けたら、どうするつもりだったんすか?」

「私の自由を賭けて、彼にファイトを挑むつもりでした」

 ミオはしれっと答えた。

「けど、危なかったですね。私がファイトして、勝率は2割いくかどうかといったところでしょうか」

「先輩でもですか!?」

「ええ。ヴァンガード甲子園優勝校の名はダテでは無いようです」

「……俺ももっと強くならねーとな。先輩の足を引っ張らないぐらいには」

 バッドエンドのカードを取り上げ、決意を新たに呟く。

「そうですね。ヴァンガード甲子園までなら、それを目標にしてもいいですが。いずれは私を越えてもらわなくては困りますけどね」

「先輩を?」

「それが後輩の務めですよ」

「うす」

 今のオウガにしてみれば、途轍もなく遠い目標に思えたが、それでも彼は神妙に頷いた。

「まあ、私が言っても説得力はありませんが」

「先輩にも勝てない先輩がいたんすか?」

「さて、どうでしょう」

 だれが見てもそうと分かる調子でとぼけながら。

 そう言えば、今頃は何をしているのでしょうかと。

 ミオは、3月の卒業式で別れてから、新生活が忙しくて会えていない先輩に想いを馳せた。

 

 

「ダメージチェック……トリガーは無し。私の負けね」

 白河(しらかわ)ミユキのか細い指が、たおやかに6枚目のカードをダメージゾーンに置く。

「ふふ、こんなに負け続けたのは久しぶり」

 ユキは着物の袖で口元を押さえながら、楽しそうに苦笑した。

「ですが、ボクも素晴らしい体験をさせて頂きました」

 ユキと向かい合ってファイトをしていた少年が、整った眉目を柔らかく崩して、優雅に微笑む。

「僕にとって、強者とのファイトは何にも代えがたい悦びなのです。白河ミユキさん。あなたは、噂に違わぬ素晴らしい腕前でした。ええ、遠くまで来た甲斐がありましたとも」

 少年は自らの白いタキシードに包まれた細い肩を抱きながら、感動に打ち震えているように見えた。

「褒めすぎよ。あなたほどの人にそこまで言われたら面映ゆいわ。ねえ、天海学園大将。綺羅(きら)ヒビキさん」

「ふっ」

 ヒビキと呼ばれた少年がわざとらしく銀色の長髪をかきあげると、薔薇の香気が周囲に漂った。

「そんなもの、何の誇りにもなりませんよ。僕はまだヴァンガード甲子園で1勝もしていないのですから」

(1敗もしていませんけどね)

 ユキが心の中で付け加える。

 清水セイジ。

 葵アラシ。

 先鋒と中堅の1年生を、決勝大会に出場するような猛者達ですら誰ひとりとして攻略できず、結局、大将であるヒビキの出る幕はなかった。

 1年前のこととは言え、あまりにも鮮烈な光景だったため、記憶には新しい。

「けど、安心して」

 ユキが優しく微笑んだ。その裏に不敵な気配もにじませて。

「今年はきっとあなたにもファイトの機会が巡ってくるわ。今の響星学園は過去最高のチームになっているはずだから」

「響星学園……ユキさんが所属していた高校ですね。心に留めておきましょう。

 では、名残惜しいですが、僕はこのあたりでおいとまさせて頂きます」

 ヒビキが長い脚をすらりと伸ばして立ち上がった。

「まだ3時前なのに? お茶でも出そうと思っていたのだけれど」

「すみません。船の時間が限られているものですから」

「そうだったわね。けど、そんなに遠くから、わざわざ訪ねて頂いたのは光栄だわ」

「こちらこそ休日に。それも女子寮に押しかけて申しわけありませんでした」

 ふたりが対戦していたのは、ユキが住み込んでいる寮の共用スペースだった。普段は数人の女子大生がテレビを見たり、雑談に花を咲かせたりしているのだが、今は寮生総出で甘いマスクの美少年を遠巻きに見つめていた。

「本当は男子禁制なのだけれどね。皆が、あなたなら構わないって言うものだから」

「そうでしたか。皆さん、ありがとうございました!」

 ヒビキが手を振ると、周囲から黄色い喚声があがった。

「では、ごきげんよう。また会いに行きます。そうですね……」

 ヒビキが懐から白い薔薇を取り出すと、そっとユキの手に握らせた。

「また、この花が枯れる頃に」

「は、はあ……」

 これにはさすがのユキも、頬から一筋の汗が伝って落ちた。

 渡された純白の生花は、すぐ花瓶に生けたとしても1週間保ちそうにない。

(また、三日後に来るつもりかしら……)

 なお、去っていこうとしたヒビキは、寮の出口で女子大生に囲まれて身動きが取れなくなっている。彼は嫌な顔ひとつせず、タキシードから無限に現れる赤い薔薇をひとりひとりに手渡していた。

(ふふっ。それにしても……)

 ユキがファイトの勝敗を記録した紙を手に取り、独りごちる。

(1勝9敗……私がここまで負けたのは、ひさしぶりどころかはじめてね)

 そして……

(さて、あなた達はどう立ち向かってくれるのかしら?)

 この場にいない後輩を試すように。されど優しく語りかけた。

 

 

 結局、ヒビキが寮を出たのは4時を過ぎ、ふたりの同級生と共にネットカフェで一夜を過ごしたという話を、ユキは後になって聞いた。




グランブルー使い、葵アラシが正式に登場。
そして、根絶少女における最強チーム、天海学園の残り2人も顔見せです。
「バスカークはもっとかっこいい! スカルドラゴンはもっとかっこいい!」とか唸りながら書いてました。
自分の中の理想のイメージを文章にするのは楽しいですが、本当に難しいですね。
いやでも本当にバスカークは、私の描写よりずっとかっこいいはずです。
イカメンもといイケメンすぎるから!

次回、7月はいよいよミオにとって2度目のヴァンガード甲子園となります。
その前には「えくすとら」の「銀華竜炎」編を6月20日前後に予定しております。
どちらも楽しみにして頂ければ幸いです。




ちなみに「ストレングス」のミオちゃん評価はA評価の80点。
カードの品揃えがよく、環境デッキのパーツは高いものの、少しでも環境に届いていないと判断されたカードは叩き値で売られることも多く、実はカジュアルなデッキを組むのに向いている。
常連のファイターに強い人は多いが、すぐ満席になってしまうため、質より量を求めるファイターには向かない。
駅から遠く、アクセスが悪いのも玉にキズ。

カードショップの設定を考えるのが、何気に楽しいです。
これまで登場したショップは、ほとんどモデルがあったりもします。


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7月「当然の権利は、簡単には手に入らない」

「本日は諸君に大切な話がある」

 7月の初頭。

 部員が全員集まるやいなや、響星学園カードファイト部部長の天道(てんどう)アリサはそう切り出した。何故か置かれてある教卓を前にして、演説でもするかのように。

「もうすぐ夏休み。そして、夏休みにはヴァンガード甲子園が開催される」

「それって、ヴァンガードの大きな大会っすよね!」

「緊張します……けど、楽しみです!」

「静粛に!」

 色めき立つ1年生たちを、アリサが一喝した。ミオはぼんやりと(何ですかそのキャラ?)と脳内でツッコミを入れていた。

「ヴァンガード甲子園は各校から3名を選出する団体戦。これまで我が校は部員が3名しかいなかったので、自然とその3名が代表となっていた……しかし!!」

 部員達が顔を見合わせる。アリサの言わんとしている事が自ずと知れてしまったからだ。

「今年のカードファイト部員は4名! その中から代表を3名選出しなければならないのだ!

 いや、厳しい言い方をさせてもらおう。4名のうち、1名だけがヴァンガード甲子園に出場できないのだ!」

「そんな……皆で頑張ってきたのに」

 サキが悲しそうに目を伏せた。

「で、その1名なんだけどさ。あたしでいいよね?」

 突然いつもの調子に戻ったアリサがあっけらかんと言った。一同があっけにとられているうちに、続ける。

「あたしは受験勉強を本格的に始めなきゃだし、これまでの2年間でヴァンガード甲子園は楽しんだからさ。今年は皆が楽しんできてよ」

 そう言って、曇りひとつ無く笑った。強がりではなく、純粋無垢に部員を想う彼女は、昼下がりの太陽より眩しく輝いていた。

「はい、異論は無いよね。それじゃ、今日も部活を始めよっか。あたしは今日からしばらく環境デッキを使うから皆は……」

「異議あり!」

 さっさと話を打ち切ろうとするアリサを遮るように、オウガが手を挙げた。

「ウチで一番強いのは部長かミオ先輩でしょ? 最も強い3人でレギュラーを組むのが、響星学園カードファイト部というチームにとって最善と思うんすよ。

 部長は俺達の事を思って言ってくれてるんだと思いますし、それはメッチャ嬉しいんすけど。それってチームの事は考えてるんすかね?」

 オウガはアリサをまっすぐ見据え、アリサもそれに応えるように、瞬きすらせず見つめ返した。

「何が言いたいの?」

 穏やかに尋ねる。

「この中で誰が一番強いのか、決め直しましょうよ。上位3名がレギュラーになれる。それでいいじゃないすか。部長はこういう解りやすい方が好きでしょ?」

 オウガはデッキを構えて不敵に微笑んだ。

「それはそうだけど……経験の浅い自分が一番不利なのは分かって言ってるのね?」

「覚悟の上っす!」

「……鬼塚君の意見を採用します。ややこしくなるから異論は認めないけど、ふたりともそれでいいわね?」

 ミオとサキがほぼ同時に頷いた。

「部長、生意気言ってすみませんした」

「いいのよ。これからもあたしが間違ってると思ったら、遠慮なく意見してね」

 頭を下げるオウガの胸をアリサは拳でドンと叩いた。

 続いて、オウガはサキにも声をかける。

「悪いな。せっかくとんとん拍子でレギュラーになれそうだったのに」

「ううん。私も気持ちは鬼塚君と一緒だったよ」

「よーし! 今日の部活は部員対抗リーグ戦に変更! 上位3名がヴァンガード甲子園出場権の獲得よ!」

 アリサの号令の下、臨時の大会が開催される。

(あれ、私、主人公なのに一言も喋ってません?)

 会話に混ざり損ねたミオが、心の中でどうでもいいことを呟いていた。

 

 

 始まる前のテンションとは裏腹に、リーグ戦は淡々と進んだ。

 ミオとアリサがあっけなく2勝して早々に代表権を勝ち取り、残る1枠を2敗したオウガとサキで争うことになった。

「《餓竜 ギガレックス》でアタックします! 6体のユニットに武装ゲージを乗せて、パワーは42000です!」

「《チアガール・ティアラ》、《指揮官 ゲイリー・ギャノン》でガード! 1枚貫通だぜ!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、…………すみません。★トリガーです」

「ダメージチェック…………ノートリガー。これで6点目、だな」

 オウガが6枚目のダメージを、静かにダメージゾーンに置く。

「……ごめんなさい」

 勝ったはずのサキが、泣きそうな顔をして俯いた。

「そんな顔すんなって! こんなの前の部活じゃ当たり前だったからさ。……俺の分も頼んだぜ!」

 豪快に笑いながらサキを慰めるオウガをしばらく見つめていたアリサが、やがて静かに口を開く。

「鬼塚君。後悔はしてないわね」

「そんなカッコ悪いこと、死んでもしねーっすよ」

 白い歯を見せてオウガが言った。

「オッケー。代表はサキちゃん、ミオちゃん、あたしに決定! この決定は基本的には覆らないけど、病欠者が出たときなんかは鬼塚君を起用するからね。気は抜かないこと!」

「うっす!」

「鬼塚君はしばらく部室のデッキを使ってね。他の皆はオウガ君に使って欲しいクランをリクエストして、自分の不得意を洗い出して改善していくように! 相談があれば、いつでも聞くからね!

 それじゃ、少しでもいい結果を残せるように……ううん。ヴァンガード甲子園、優勝を目指してがんばろー!!」

「おうっ!」

「は、はいっ!」

 部長が板についてきた天道アリサのもと、響星学園カードファイト部は真に結束し始めていた。

 

 

 外の蒸し暑さとはまた違う、地獄の業火の如く渦巻く熱気。

 広い会場を埋め尽くす人の足音が起こす地響き。

 周囲から感じる、ピリピリと肌を刺す視線。

「あ、あわ、あわわわ……」

 ショップ大会には無い、大規模な大会独特の雰囲気に、サキはさっそく呑み込まれていた。

 一方のオウガは、会場に入るなり「ヒュー」と陽気に口笛を吹いた後は、キョロキョロと子どものように周囲を見渡している。アメフト部で場慣れしていたのもあるだろうが、生来の気質が祭り好きなのだろう。

 もちろんアリサも平然とこの雰囲気を楽しんでいるし、心臓に触手の生えた女を自称する(言葉の意味はよく分からないがとにかくすごい自信だ)ミオも平常運転でボーっとしているように見える。

 要するに緊張しているのはサキだけなのである。

「な、な、何で皆さんは、いつも通りなんですか?」

「え? そんなことないよ。いつも以上にワクワクしてるよ?」

「周囲が皆、知らないファイターで、俺より強いんだぜ!? そりゃ燃えるだろ! 大会終わった後、フリー対戦なら受けてくれるかなあ?」

 尋ねてみると、全く参考にならない答えが約2名から返ってきた。ちなみにミオは小首を傾げただけだった。

「なら代わってよ」とオウガに言いそうになったが、さすがに失礼だと思って、言葉を呑み込む。だが、ファイトの実力はともかく、本番慣れしているという点においては、代表は自分よりオウガの方が適任だったのではないかと考えずにはいられなかった。

 そんな響星カードファイト部一同だが、そこには珍しく、顧問の春日マナブ教師の姿もあった。

 いつもなら会場に到着次第、ふらふらと姿を消すのだが、今回はアリサが白衣の端を引っ張ってそれを止めた。

「先生もいてください」

「いや。僕はいいよ。皆で楽しんできな」

「そういう理由なら、なおさらここにいてください。あたしは先生とも思い出を作りたいの」

「……わかったよ」

 面倒くさそうに。されどまんざらではなさそうに、マナブはボサボサの頭をかいた。

「あ」

 そんな折、これまでほとんど言葉を発さなかったミオが、小さく声をあげた。

 視線は一点を見据え、何かを誘うように小さく手を挙げる。

「やあ、ミオちゃん。そして、響星カードファイト部のみんな」

 今年も優勝候補筆頭と名高い聖ローゼ学園の部長、小金井フウヤが白い歯を見せて微笑みかけた。彼も当然の如く、緊張とは無縁のようだ。

 左右に神薙(かんなぎ)ミコト、神薙(かんなぎ)ノリトの姉弟を従え、その背後にも響星の10倍近い部員を連れていた。

「今日はよろしく」

「うん。よろしくね」

 まずは両校の部長どうしで握手が交わされる。表面的には仲の良い感じだが、両者とも必要以上に掌には力がこもっていた。

「ミオちゃん。今日は俺にとって、最後のヴァンガード甲子園だ。今度こそ君に負けるつもりはない」

 次にフウヤはミオへと振り返って宣言した。

「私も勝ちは譲りませんよ」

 ミオが即答する。

「まあ、私とノリトで2連勝しちゃって、先輩はファイトできないかも知れませんけどね!」

 高飛車に言い放ったのは、フウヤの傍らに控える神薙ミコトだ。黒く艶のある髪を腰まで伸ばした、言動を除けば大和撫子的な美少女だ。

「それならそれでいいさ。チームの勝利が最優先だからね。俺もミオちゃんとのファイトに固執するつもりはないから、遠慮せずにやるといい」

 フウヤが相槌を打つ。

 自分達を軽んじる発言に、普段のアリサなら激怒しそうなものだが、今はニコニコと穏やかな笑みを浮かべて黙っていた。

 内心はどうあれ、こういうところはユキに似てきたようにミオは思う。

「ミコトさん、代表になれたんですね」

 ミオは代わりに全く別のことを口にした。

「あ、あったりまえでしょ!? 私は聖ローゼ最強のファイターになるんだから! 2年生になってレギュラーを勝ち取れないようじゃおしまいよ!」

「ですがひと月ほど前、『ああー、最後のヴァンガード甲子園代表選抜戦で負け越しちゃったよー』とか『いや、1敗しか負け越してないけどね』とか『これまでの貯金があるから大丈夫だとは思うけど不安だよー』とか、私に愚痴を言っていたような」

「いやああああっ! 何で覚えてるの、そんなことっ!?」

「私、自分が興味をもった話は忘れませんので」

「興味もたないでよ、そんな話っ!!」

「あはは。2人はあれからよく会っているんだね」

 フウヤが嬉しそうに笑った。「あれ」とは、ミオとミコトが初めて出会った、ヴァンガード高校選手権のことである。

「はい。あれからミコトさんからしょっちゅう電話がかかってきますので」

「しょ、しょっちゅうじゃないし! 1か月に1、2回くらいだし!

 だいたいアンタが世間に疎すぎるから、私が親切にも教えてあげてるんじゃない!」

「私としてはカフェに寄ったり、アクセサリー売り場に寄ったりするより、カードショップに直行したいのですが」

「そ、そんなんじゃ、大学生になってから絶対に苦労するんだからね!」

「姉さんのわがままに付き合って頂いてありがとうございます」

 喚く姉を遮るように前に出た双子の弟、神薙ノリトが深々と頭を下げた。

「いえ。それでもミコトさんとのファイトは楽しいですから」

 ミオも小さく会釈を返す。

 その時、間もなく大会が開催されるという放送が、会場全体にアナウンスされた。

「いよいよだね。トーナメント表は見たかな? 今年、響星と聖ローゼがぶつかるとしたら決勝だ」

 とフウヤが告げる。

「決勝で待っているよ」

 そう言って、フウヤは踵を返す。神薙姉弟をはじめとする、他の部員達もそれに続いた。

「それって負けフラグよー?」

 アリサがその背に向かって、からかうように言う。

「悪いが、そんなくだらないジンクスは信じていなくてね」

 フウヤは背を向けたまま冷たく言い放つと、そのまま去っていった。

「……何よ、あいつら! あたしはともかく、サキちゃんまでバカにして! こうなったら、意地でも勝つわよ! 小金井君も、ミコトちゃんも、絶対にギャフンと言わせてやるんだから!」

 フウヤ達の姿が見えなくなるなり、アリサが足を踏み鳴らして喚いた。

 やはり、そのはらわたは煮えくり返っていたようだった。

 

 

 こうしてヴァンガード甲子園地区予選が始まった。

 ジャッジに名前を呼ばれたアリサが、ゆっくりと足を踏み出す。響星学園の先鋒はアリサだった。

「頼んだぜ、部長!」

「が、頑張ってください!」

 後輩の声援を受け、振り返って手を振る余裕を見せながら、アリサは部室のものとは全く違う、立派な強化ガラス性のファイトテーブルまで辿り着く。

(また、ヴァンガード甲子園に出場できるなんてね)

 デッキをシャッフルし、ファイトの準備を進めながら、アリサは心の中で独りごちた。

 部員が4人になった時点で、自分が身を引くことは決めていた。だが、ヴァンガード甲子園に心残りが無かったかと言えば嘘になる。

(1年生の時も、2年生の時も、あたしは1度も勝てていない。それだけじゃない。2年生のあの日の事は今でも覚えてる)

 感情を表に出さないミオが、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。ユキは、ミオがはじめて感情を見せてくれたと喜んでいたが、アリサはそこまで楽観できなかった。

 そもそも自分が負けなければ、ミオがチームの命運という重荷を背負うことは無かったはずなのだ。

(後輩にあんな顔をさせて、何が先輩よ! あたしはもう絶対にあの子達を泣かせない! このステージに立つ以上、もう二度と負けない!)

「《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》でアタック!

 クアドラプルドライブ!!!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(クリティカル)トリガー! 効果は全てヴァンガードに!

 3枚目、★トリガー! 効果は全てヴァンガードに! この時点でシールド貫通!

 4枚目、★トリガー! この効果も全てヴァンガードに!」

 気迫のこもったプレイングで、まずはアリサが1勝を挙げた。

「お疲れ様です。絶好調ですね、アリサさん」

 部員のもとに帰ってきたアリサを、ミオが労う。

「まあね。誰のおかげかなー?」

「?」

 首を傾げるミオの肩を叩き、アリサはオウガに歩み寄る。

「オウガ君、何してるの?」

「あ、部長。大会の記録を取っておこうと思って。将棋で言う棋譜みたいなもんですかね」

 答えながらオウガはクリップボードの上に置いた紙にペンを走らせ続ける。そこには先ほどのファイトの記録が事細やかに記録されていた。オウガ自身が感じた事の注釈もある。字が汚くて読みにくいが、後で清書することが前提だろう。

「今の俺にできることはこれくらいっすから。アメフト部の時にいたマネージャーのマネっすけどね」

 記録がひと段落したのかペンを置き、オウガがはにかむように微笑んだ。

「いいと思うよ。やっぱりパソコンは必要よね。うん、決めた。部室に置こう。

 ……さすがにキーボードは打てるよね?」

「まあ、記録を写すくらいなら。必要なら勉強もしますよ」

「よかった。そんなことすらできないやつがOGにいるのよ。あいつ、社会に出たらどうするんだろ」

「アリサさん、オウガさん。サキさんのファイトが始まりますよ」

 ミオの呼びかけに、アリサもオウガも雑談をやめてファイトに注目する。オウガはペンを握り直した。

「ノ、ノーガードです。ダ、ダメージチェック……負けました」

 しかし、緊張が取れないのか、サキは終始精細を欠いたまま敗北した。

「いつものサキさんは、もっと冷静なのですが」

「ミオちゃん」

 首を傾げながら大将戦に出ていこうとするミオに、アリサは声をかけた。

「負けちゃダメだよ」

「? 珍しいですね、アリサさんがそういうことを言うなんて。いつもなら『楽しんできてね』とか言いそうなものですけど。

 ですが、言われるまでもありません。私が負けたらサキさんが悲しみますから」

「……わかってるじゃない。けど、楽しむことも忘れちゃダメよ」

「注文が多いですね。まあ、大将(エース)の宿命としておきましょう」

 こうして、ミオの熱い夏が今年も始まった。

 

 

「《模作する根絶者 バヲン》にライドします。 続けて《緊縮の根絶者 ヰゲルマ》をコール」

 淡々とファイトを進めるミオを、6つの瞳が揃って監視していた。

 第1回戦が行われたのは全校同時だが、早々に2連勝して試合を終えた聖ローゼが響星学園を偵察しているのだ。

 それ以外の高校のチェックは他の部員に行わせているため、この場にいるのはフウヤ達代表メンバーのみになる。

「さっそく新しい根絶者を使っているようだね、あの子は」

 フウヤが面白がっているような口調で感心した。

「それにしたって、バヲンだって? ギフトも無ければ、デリートもできない、この大一番で使うデッキじゃないでしょう?」

 ノリトが不機嫌そうに言った。自分達、ひいては大会そのものを甘く見られたように感じたのだろう。

「けど、君の星詠軸のジェネシスにとっては嫌な相手だろう?」

 もしくはそれが理由か。フウヤに指摘されて、ノリトは押し黙った。

 彼らは入念なリサーチによって、大会で使われるデッキをある程度絞って対策を講じている。土台、全てのデッキを対策するのは不可能だからだ。だからこそ、流行からはずれたデッキと遭遇することを好まない者も多い。

「あなたのバトルフェイズ開始時、バヲンのスキル発動です。バヲンのパワーを、ヴァンガードの《氷獄の死霊術師 コキュートス》と同じ32000に変動させます」

 牡牛の骨に似た根絶者が、全身に纏わせたドス黒い瘴気を変じさせ、目の前にいる死霊術師の姿へと成り替わる。ただし、頭部は牡牛の頭骨のままで、体色もおぞましい紫色をしているため、判別は容易だ。呪術を行使できるようになったわけでもない。

 だが、コキュートスの力の源たる、死者の憎悪を己の(パワー)へと変換する術は完璧に模倣していた。

 周囲に無数の死霊を侍らせた骨の牡牛が、カラカラと乾いた音をたてて嗤う。

「……ダメですね。あのグランブルーじゃ相性が悪すぎる」

 ノリトが残念そうに言った。いっそここでミオが負ければいいと考えていたのだろう。

「ライド。《波動する根絶者 グレイドール》」

 と、ここでミオがグレイドールにライドし、目の前の死霊術師を消し飛ばす。

「なるほど。堅牢なバヲンを盾に、隙あらばグレイドールの剣でトドメを刺す、か。好きなカードを漠然と使うだけじゃない。きちんと考えられている」

 あごに手を当て、納得したようにフウヤが頷く。

「……いえ。それだけじゃありません」

 ミコトが信じられないものを見たと言いたげに、細い指を一点に向けた。

 それはミオのダメージゾーン。そこには、既にグレイドールが置かれていた。

「音無ミオはグレイドールを1枚しか持っていないはずでは!?」

 ノリトが悲鳴のような声をあげる。それはミオを警戒するファイターにとっては周知の事実であり、最大のウィークポイントであったはずだったのだ。

「あの子も、弱点をいつまでもそのままにしておくほど甘くないということだね。

 ここから先、ふたりとも必ず勝ってくれ。残り試合で彼女の新しいデッキを丸裸にする」

「当然です!」

「わかりました」

 フウヤの頼み。もしくは指令に、姉弟が即答する。

(卑怯だと思うなら思うがいい。俺には部長として聖ローゼを日本一に導く義務がある。そのためには、君に確実に勝てるようでなくてはならないんだ)

 

 

 危なげなくミオは勝利し、響星学園は第2回戦にコマを進める。

 その第2回戦。続く第3回戦、第4回戦もアリサとミオが勝つことで響星学園は準決勝進出を決めた。

 もちろん、聖ローゼも勝ち進んで来ている。

 ――そして、準決勝。

「《掃討竜 スイーパーアクロカント》でアタックします!」

「《暗黒の盾 マクリール》で完全ガード」

「あ……」

「《クラレットソード・ドラゴン》でアタック!」

「ダメージチェック……負けました」

 中堅戦でサキはまたもや負けてしまった。

 アリサとミオが好調故の弊害とでも言うべきか。サキが敗北してもチームが勝ち進んでしまい、負けても負けても大会から降りることもできず、自分の弱さを公衆の面前に晒され続ける。

 自分のレベルが全国どころか地区予選にも達していないことはよくわかった。だから、もう、終わらせてほしい。

 サキはいつしか、心からそう願っていた。

「あ、あの……」

 ミオの大将戦が行われているさなか、サキはおずおずとアリサに声をかけた。

「どうしたの?」

 アリサが気遣うような笑顔で振り向く。

「……すみません。喉が渇いたので、ジュースを買いに行ってもいいですか」

 その言葉を発した瞬間、会場がどっと盛り上がった。

 ミオがそろそろ対戦相手をデリートした頃合いだろうか。それともまさか追い詰められでもしているのだろうか。

 今のサキには、あまり興味が湧かなかった。

「うん、いいよ。リラックスしておいで」

 存外、あっさりと許しは下された。

「失礼します……」

 会釈して、逃げるように会場を出ていく。

 その一部始終を見ていたオウガが、記録を取りながらもサキの出ていった扉をちらちらと気にしだした。

「あー、ノドが渇いたなー」

 突然、まるで台本を読み上げるような口調で、アリサが声をあげる。

「サキちゃんにお願いするの忘れちゃった。オウガ君、あたしの分も飲み物を買ってきてくれない? 記録はあたしがとっておくからさ」

「え? でも……」

 オウガはミオの方へと目を向けた。ファイトはまだ続いている。今のところはミオが優勢だが、対戦相手もさすがに準決勝まで進出したチームの大将である。まだ予断を許さない状況ではあった。

「いいのよ。してる側としては複雑だけど、応援のあるなしを気にするような子じゃないから。

 はい、お駄賃。釣りはいらねーぜ」

 アリサはそう言って、オウガの掌に数枚の硬貨を握らせる。

「部長……ありがとうございます!」

 小銭を握りしめ、クリップボードをアリサに手渡すと、オウガは猛然と駆けだした。

 サキの消えた後を追って。

 

 

 スタジアムの廊下に併設されたベンチで、サキはひとり項垂れていた。

 ここにいれば、もう試合に出なくてもいいだろうかと考える。

 第1回戦が始まった時点で控え選手との交代は許されないが、先鋒と大将だけでも試合をすることは可能なはずである。決勝の相手は強豪校の聖ローゼだが、だったらなおさら自分の力など必要ないだろう。戦って負けるのも、棄権で不戦敗となるのも、結果の上では変わらないのだから。

 ひねくれた負け犬の発想だと自覚し、サキはさらに深く俯いた。

 大きな瞳からぼろぼろと涙がこぼれ、メガネの淵に溜まっていく。

(私、もうファイトなんて――)

 そこまで考えそうになったところで、頬に冷たい刺激が奔り、サキは思わずベンチから飛び跳ねた。

「ひゃあ!?」

 すぐ横を振り向くと、水滴にまみれたペットボトルをぶら下げたオウガがそこにいた。どうやらそれを頬に押し当てられたらしい。

「ジュース買いに行ったはずなのに、こんなとこで何してんの?」

「何するの!?」だの「どうしてここに?」だの、サキが口を開く前に、オウガがからかうような笑みを浮かべて尋ねた。

「代わりに買っておいたぜ。ほら」

 そう言って、つい先ほどサキの頬を急襲したスポーツドリンクを差し出す。

「あっ、ありがとう。お金出すね」

「いらねーよ。俺の代わりに頑張ってくれてるお礼だよ」

 まさかそのお金がアリサから出ていることなど露知らず、財布を取り出そうとするサキに、オウガもおくびにも出さないものの慌てて断った。

 ペットボトルを受け取ったサキは――正直、気分ではなかったものの――栓を開けて口をつける。瞬間、爽やかな甘みが口内から喉へと突き抜けていく。

 自分でも気づかないうちに、そうとう喉が渇いていたらしい。ペットボトルの半分を一気に飲み干したところで一息ついたサキが、ぽつりと呟いた。

「代わりだなんて……」

 平時に戻りかけていた表情がまた暗くなり、首も自然と下がっていく。

「私、オウガ君の代わりなんて何もできてないよ。ただ、負けてただけ……」

「俺の代わりか……少し、誤解させちまったかな」

 オウガがバツの悪そうに頭をぐしゃぐしゃとかいた。

「昔の話をしていいか?」

 言いながら、サキの隣に腰かける。

「ちょうど3年前かな。中学1年生だった俺は、アメフトの試合で始めて使ってもらえたんだ。そりゃあもう、すっげー嬉しかったね。

 だが、いざ試合に出てみたら、全く歯が立たねーんだ。そりゃ1年の俺と、相手の主力の3年じゃ、体格も経験も違いすぎるからな。

 悔しかった。けど、何度も転がされ、泥まみれになって気づいたんだ。俺より2年早く生まれて、俺より2年先の練習をしてる。すげー立派な人と、今、俺は試合させてもらえてるんだなって。

 そう思えた瞬間、芝生の緑とか、観客の歓声とか、今まで見えてなかった景色がバーッて開けてさ。アメフトが楽しくなった……いや。アメフトの楽しさを思い出したんだ」

「……楽しさ?」

「ああ! 正直、藤村がこの大会で勝てるなんて思ってなかった。勝てるわけがないし、勝てちゃいけないとすら思う。もちろん俺も同じさ。

 もし俺がヴァンガード甲子園に出場できたら、勝ち負けはいいから思いっきり楽しんでやろうと思ってた。チームの勝敗なら、幸い、頼りになる先輩がいるしな。

 だからさ……俺の代わりに勝つだなんて考えなくていいんだよ。俺の分もヴァンガードを楽しんできてくれよ!

 まだ好きなんだろ? ヴァンガードも、ファイトも、たちかぜも」

 オウガの真摯な訴えに、サキの瞳から一粒の雫が転がり落ちた。

「そう……だね……。私、何でそんなことも忘れてたんだろう……」

「誰だって初めての大会はそんなもんさ。落ち着いたら戻ろうぜ。ミオ先輩はきっと勝ってる」

「うん……!」

 オウガの差し出した手を、サキはそっと掴んで立ち上がる。

 力加減が下手なのか、オウガに握られた手は少し痛かったが、確かなぬくもりも掌に残していった。

 

 

 そして、決勝戦が始まった。

 ミオが大将戦を制し、決勝進出を決めた響星学園に対するは、もちろん聖ローゼ学園である。

「じゃ、行ってくるね」

 いつになく真剣な表情を僅かに崩して、アリサが部員達に微笑みかける。

 彼女の対戦相手、聖ローゼの先鋒はジェネシス使い、2年の神薙ノリトだ。

「《絶界巨神 ヴァルケリオン》でアタック!」

「プロテクトで完全ガード!」

 星をも砕く拳を、世界すら覆う翠緑の盾が受け止める。

「《創天光神 ウラヌス》でアタック!」

「《パラライズ・マドンナ』》で完全ガード!」

 星の力を宿した剣は、惑いの鱗粉で受け流す。

「……ターンエンド。エンド時にヴァルケリオンは退却します」

 ノリトが静かに宣言した。

 アリサの手札は0枚。

(ヴァルケリオンのクインテットドライブで完全にペースを握らせちゃったな……)

 対するノリトの手札は6枚で、ダメージは4。

 アリサの盤面にユニットは揃っているものの、押し切るのは難しい。

(なら、あれしかないか。お願い……)

 祈りを込めてカードを引く。

「スタンド&ドロー! …………ライド! 《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》!!」

 今度はノリトの表情が大きく引きつった。

「コレオの登場時スキル! デッキの1番上にあるカードをドロップ!」

「……G0です」

「続けて、コレオの起動スキル! さらにデッキのカードをドロップ!」

「……G1」

「バトルよ! リアガードの《無双剣鬼 サイクロマトゥース》でアタック! アタック時、サイクロマトゥースのスキル発動! もう1枚、デッキをドロップしなさい!」

「……ノーマルユニット。ガードに使うのは《大鍋の魔女 ローリエ》。……ですが、ここまでですね」

「ええ。最後までファイトを続けたあなたに敬意を表するわ。……ターンエンド」

「……スタンド&ドロー」

 ノリトがカードを引く。

 山札に残った最後のカードを。

「……負けました」

 ノリトは礼儀正しく頭を垂れて、それを認めた。

「ありがとうございました!」

 アリサも丁寧に一礼すると、部員達に全力のVサインを送るのだった。

 

 

「すみません。油断していたつもりはなかったのですが」

 聖ローゼ側に戻ったノリトが悔しさを滲ませた声音で言った。

「気にするな。プレイングにミスは無かった。強いて言うならヴァルケリオンでクインテットドライブを選んだ場面だけど、あそこでツインドライブを選んだら、さっきのようにリードはできていなかったしね」

 フウヤが淡々と先のファイトを振り返る。

「はい」

「俺も天道さんのことを安く見積もっているつもりはないが、このファイトにおいては、全て君が勝っていたように思う。……ただひとつ、運を除いてね」

「……はい」

「仕方ないなぁ。私が挽回してきてあげるから、よーく見ときなさい!」

 重苦しくなってきた雰囲気を吹き飛ばすように、ミコトが明るく言った。

「頼みます、姉さん」

 ノリトが託すように一礼する。

 ふたりは年の近い双子の姉弟だが、気の弱いノリトは小学生の頃はよくいじめられ、ミコトによく助けを求めていた。

 それでも、その思慮深い性格がカードゲームには合っていたのだろう。ミコトに誘われてヴァンガードを初めてからは、その才能が開花した。

 姉弟ゲンカではミコトに勝ったことのないノリトが、ヴァンガードでは互角以上の戦いを演じ、姉以外に負けることはほとんど無かった。

 それで自信がついたのか、堂々とした態度も取れるようになり、中学生になってからいじめられることはなくなった。むしろ、そうした行為を仲裁する側だ。

 そんな形で姉離れをして久しいノリトが、久しぶりに自分を頼ってくれている。

 チームの危機に不謹慎だが、嬉しくないと言えば嘘になった。

「まっかせといて!」

 姉の威厳たっぷりに――本人はそのつもりだ――言い放ち、ミコトは意気揚々と中堅戦へと挑んでいった。

 

 

「で。そんな私の相手があなたってわけね?」

「は、はい。よろしくお願いします!」

 どんな私かは知らないが、サキはテーブルを挟んで向かい合うミコトに、深々と頭を下げた。

(ふーん。さっきまでと感じが違うわね)

 ミコトはそう彼女を分析する。

 準決勝までは雰囲気に呑まれていて、動きはガチガチ、プレイングはグダグダ。偵察をしていて、正直、見るに堪えなかった。

 だが今は、完全ではないものの緊張が抜けているようにも見える。むしろ、ほどよい緊張を残してリラックスした絶好調の状態か。

(それでも初心者には違いないわ)

 不安定な人の心など、数分あれば変わることもあるだろう。だが、地道な研鑽と検証を重ねることによって形にできる、技術とデッキだけはそうもいかない。

(弟の名誉を傷つけないため。そして、フウヤさんに繋ぐため。勝たせてもらうわ!)

 ミコトが心の中で叫び、いよいよファイトがはじまった。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《太陽の巫女 ウズメ》!」

「《ドラゴンエッグ》!」

「私の先行よ! ライド! 《寛容の女神 オオミヤノメ》!」

(ミコトさんのデッキは……オラクルシンクタンク!)

 過去、現在、そして未来。

 あらゆる情報を一手にまとめて、商品として取り扱う巨大企業こそがオラクルシンクタンクである。

 平時においてはビジネスライクな集団だが、国家規模の危機を察知しては、在籍するエージェントの手により未然に防ぎ。世界規模の災厄を予言しては、各国に協力を促し、自らも前線に立つ。

 そんな惑星クレイの守護神としての顔も併せ持つ。

 聖域が幾多の内乱や大戦で勝利してこられたのは、一重に彼らの惜しみない助力があってこそと言われている。

 興味をお持ちの方は、是非とも一度、会社説明会にお越しください。

 仕事の絶えないアットホームな職場です。

(ドローや、予知。デッキ操作を得意とするクラン……たちかぜもドローは得意だけど、相手はそれを犠牲無しに行える。勝てるの? 私のデッキで……)

「どうしたの。あなたのターンよ? 長考するのは構わないけど、せめてドローくらいはしたら?」

 思考が空回るサキに、半眼になったミコトが声をかける。

「あっ! す、すみません」

 サキが慌ててカードを引く。

(そうだ。まずは落ちつこう。私が負けても、ミオさんならきっと勝ってくれる。だから私はこのファイトを精一杯楽しむ! オウガ君の分まで!)

 深呼吸をして、高らかに宣言する。

「ライド! 《サベイジ・オーガー》!

 ヴァンガードの後列に《光刃竜 ザンディロフォ》をコール! ザンディロフォをレストして、自身に武装ゲージを置きます。

 バトルフェイズ、ヴァンガードでアタックします!」

「ノーガードよ」

 サキはドライブチェックで★トリガーを引き、ミコトに2ダメージ。

「私のターンね。ライド! 《プロミス・ドーター》!

 ヴァンガードにアタック! 私の手札は4枚以上なので、パワー+6000よ」

「……ノーガードです」

「ドライブチェック……★トリガー! 効果はすべてヴァンガードに」

「ダメージチェック……2枚ともトリガーはありません」

 これでダメージは2対2で並んだ。

「私のターンです。スタンド&ドロー。

 ライド! 《餓竜 メガレックス》!

 コール! 《突撃竜 ブライトプス》! その後列に《ソニックノア》! 

 ザンディロフォをレストして、ブライトプスに武装ゲージを与えます。

 バトルです! 《ソニックノア》のブースト、ブライトプスでアタック! ソニックノアのブースト時、ブライトプスに武装ゲージを与えます!」

「ノーガード。ダメージチェック。★トリガー。効果はすべてヴァンガードに」

「ソニックノアがブーストしたアタックのヒット時! ブライトプスを退却させて1枚引きます! さらに、ブライトプス退却時のスキル! 武装ゲージを2枚手札に加えます」

「よっしゃ! これだけで3枚も手札が増えたぜ!」

 オウガの歓声が遠くから聞こえてくる。

「続けて、メガレックスでアタックします!」

「ノーガード」

 このアタックは、サキがドライブチェックでトリガーを引けず通らなかった。

 現時点で、サキのダメージは2。ミコトのダメージは3。

 そしてこの後、事件が起こる。

「私のターン。スタンド&ドロー……Gアシストよ」

 パサッと乾いた音をたてて、ミコトの手札がテーブルの上に公開された。

 予想だにしなかったまたとない機会に、サキの瞳が見開かれ、その背にはオウガの檄がとぶ。

「よしっ! チャンスだ!」

「……まったく。うるさいギャラリーね」

「あ、すみません。声の大きい人で……」

「気にもしていないわ。むしろ、私が気にしているのは……あなたまでこのGアシストがチャンスだなんて勘違いしているんじゃないでしょうね?」

「え?」

「教えてあげるわ。私のオラクルにとって、手札1枚のディスアドバンテージなんて、ハンデにもならないってことをね!」

 ミコトがGアシストで選んだ1枚に指をかける。

「ライド! 《豊熟の女神、オトゴサヒメ》!!」

 聖域の中心にある神殿に、和装に身を包んだ黒髪の少女が降臨した。

 可憐な見た目で侮るなかれ。彼女も悠久の時を生きる、豊穣を司る女神の一柱である。

 今もまた、慈愛と包容力に溢れた、気品ある微笑みで世界を睥睨した。

「イマジナリー・ギフト、プロテクトⅠ!

 オトゴサヒメの登場時スキル発動! 山札からカードを2枚ドロー!

《ラック・バード》をコール! SB2で1枚ドロー、パワー+6000! 《神剣 アメノムラクモ》をコール! 山札の上から5枚見て……オトゴサヒメを手札に加えて、《ディバイナー・エンジェル》を捨てるわ。ディバイナーが捨てられた時、CB1して1枚ドロー。

 ほら、コールされてる枚数は同じなのに、もうあなたの手札枚数に並んじゃった」

 ミコトが9枚の手札を見せつけながら言う。

「まだまだ行くわよ! 《ディレクター・エンジェル》をコール!」

(カードを引いた後は、デッキトップのコントロール……)

 オラクルシンクタンクのお手本のような洗練された動きに、サキが内心で唸る。

「山札の上から2枚見て……★トリガーを山札の上に置かせてもらうわ。《セイピアント・エンジェル》もコール! 山札の上から3枚見て……ふっ」

 3枚のカードを見たミコトが不敵な笑みを浮かべた。

「失礼。好きな順番に入れ替えさせてもらうわ。

《オラクルガーディアン・ジェミニ》をコールして、バトルよ!

 オトゴサヒメのアタック時にスキル発動!!」

(このタイミングで!?)

 サキが戦慄する。

「オトゴサヒメのスキルはご存知のようね! 手札を3枚捨てることで、前列のユニットすべてに+20000! このユニットの★+1!

 さあ、受けるか防ぐか選びなさい!」

(私の手札に守護者は無い……けど、ミコトさんがデッキトップに置いたカードが2枚とも★だった場合、ノーガードを宣言した時点で、4点のダメージを受けて負ける。

 かと言って、防ぐにもトリガー2枚を見越したガードが必要。どうしたら……)

 助けを求めるように響星学園サイドを振り仰ぐ。

 だが、彼女の視線が真っ先に見つけたのは、経験豊富なアリサやミオではなく、オウガであった。

 目と目が合い、普段から声の大きいオウガが、こんな時に限って無言で力強く頷いた。

 それなのに、何故だろう。

 どんな言葉をもらうよりも力が湧いてきた。

(そうだ。また忘れてた。私は、このファイトは全力で楽しむって決めたんだ。……なら!)

「ガード! 《サベイジ・シャーマン》! 《小角竜 ベビートプス》! 《群竜 タイニィレックス》! そして、クイックシールドも使います!

 これで合計パワーは64000です!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! 効果は全てセイピアントへ!

 2枚目も★トリガー! 効果は全てディレクターへ!」

 オトゴサヒメが小さな手をかざすと、陽の光を思わせる真っ白な閃光がたちかぜの戦士達を呑み込み、一瞬にして消し去った。

「《ラック・バード》でブースト! 《セイピアント・エンジェル》でヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです!

 ダメージチェック!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(フロント)トリガー! 前列のユニットにパワー+10000します」

「アマノムラクモのブースト! 《ディレクター・エンジェル》でヴァンガードにアタック!」

「《ソニックノア》、《サベイジ・トルーパー》、《掃討竜 スイーパー・アクロカント》でガード!」

「やだ。どのユニットも、たちかぜの主力じゃないの。ずいぶんと手札がよかったみたいだけど残念ね」

「構いません。私は私のデッキを信じていますから」

「……あっそ。私はこれでターンエンド」

 サキの手札は2枚。だが、その中には決定的に足りないパーツが、まだ2つある。

「私のターンです。スタンド&ドロー!」

 恐る恐るカードを確認する。

(……来てくれた!)

 小躍りしたくなる衝動を抑え、ファイトを続ける。

 まだ足りないパーツはもう1枚あるし、揃ったとて勝てるとは限らないのだ。

「ライド! 《餓竜 ギガレックス》!!」

 建造物を無造作に踏みつけながら、聖域の真っ只中に、重武装したディノドラゴンが姿を現した。

 それは手にした刃を乱暴に振るって神殿の屋根を破壊すると、その裂け目から鋭い瞳を覗かせる。

 その奥で悠然と立つオトゴサヒメと目が合うと、ギガレックスは(エモノ)を見つけたとばかりに咆哮し、石膏の壁を紙のように易々と引き裂いて、神殿へと乗り込んだ。

「イマジナリーギフトは、アクセルⅡを選択します!」

 サキは高らかに宣言する。

 このドローにすべてがかかっている。だが、もはや不安は無かった。

 自分の傍にはギガレックスがいてくれる。恐れ知らずのたちかぜは、彼女にとって勇気の象徴だった。

 さらに、彼女の後ろには頼れる先輩。そして……

「ドロー!!」

 引いたカードを確認する。

「…………ありがとう」

 サキは目を閉じて、静かに礼を述べた。

「行きます! まずは《烈爪竜 ラサレイトレックス》をコール! このユニットに武装ゲージを乗せます!

 さらに、《怒号竜 ロアーバリオ》をコール! ラサレイトレックスに武装ゲージを与えてパワー+10000!

 そして、最後の1枚……《烈光竜 オプティカルケラト》をアクセルサークルにコール! 武装ゲージをロアーバリオに与えます!」

「あなたは……!!」

 ここで、ミコトもようやく気付いた。

「あなたはガードで主力を切ったんじゃない……。武装ゲージを乗せられるユニットを残したのね?」

 だがそれも、その後のドローで他に武装ゲージを乗せることのできるユニットを引くことができなければ意味は無い、一種の賭けであった。

 それでもサキはそちらを選んだ。その方が面白そうだったから。そして、ヴァンガード甲子園の舞台で、一度くらい「あの」スキルを使いたかったから。

「はい! 最後にザンディロフォをレストして、ロアーバリオに武装ゲージを! カウンターコストも消費してパワー+5000!

 これで武装ゲージは5枚! ギガレックスのスキル発動です!!」

 すべてを塵に還し、あるべき原始の姿に戻す。

 破壊の咆哮(デストラクティブロアー)とも呼ばれるギガレックスの雄叫びが、豊穣の神殿ごと聖域の街並みを蹂躙した。

「ダメージチェック……トリガー無しよ」

 これでミコトのダメージは4点。

「バトルに入ります! ギガレックスでヴァンガードにアタック!!」

「プロテクトで完全ガード!」

 ギガレックスが真っ白な塵の降り積もる大地を踏みしめ、全身の武装を掃射する。

 オトゴサヒメが両手を掲げると、その前面に現れた若草色に輝く盾が、怒涛の如く押し寄せる金属片を遮った。

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……前トリガー! 前列のユニットすべてにパワー+10000します!」

「つっ!?」

「パワー23000のロアーバリオでアタックします!」

「ノーガード! ……トリガー無し」

 5枚目のカードが、ミコトのダメージゾーンに置かれる。

「……何てこと」

 血が滲むのも構わず、ミコトは唇を噛みしめた。

「パワー27000のオプティカルケラトでアタックします!」

「…………」

 既に計算は終えていたが、ミコトは改めて手札を見返した。何度見ても、手札があと1枚足りなかった。

(あと手札が1枚でもあれば耐え切れた)

 恨みがましく、ゲームから除外された2枚のカードを睨みつける。

(あのGアシストが無ければ勝てていたのに。何がハンデにもならない、よ。くそっ……)

「…………ノーガード」

 重苦しい沈黙の後、ミコトが絞り出すように宣言した。

「ダメージチェックっ!!

 私は聖ローゼ最強のファイターになるんだ……! そして、フウヤさんをヴァンガード甲子園決勝まで導くんだ……! 私が、私が……!!」

 祈るように、あるいは呪うように言葉を吐きながら、ミコトがデッキに手を伸ばす。

「ダメですね」

 その様子を離れて見ていたミオがポツリとこぼした。

「えっ?」

 隣にいたアリサが疑問の声をあげる。

「ミコトさんは自分のデッキを信頼することを忘れてしまっています。きっと(ヒール)トリガーは引けません。

 安心してください。サキさんの勝ちですよ」

 予言するように告げてから

(……本当は、あんな子では無いのですけどね)

 ミオは心の中で残念そうに呟いた。

「私が負けるもんか……。こんなところでっ……! こんな、やつにっ……!!」

 ミコトがデッキの上からカードをめくる。

 ★トリガー。

 今、6枚目のカードがミコトのダメージゾーンに置かれた。

「……勝てた?」

 しばしの沈黙の後、サキの唇から間の抜けた声が漏れる。

「当たり前でしょう。あなた、ヴァンガードのルールも知らないの?」

 俯いていた顔をゆっくりと起こしながら、ミコトが吐き捨てた。

「あなたは私に勝ったんだからね。もっと堂々としなさい!

 あと……さっきは言いすぎたわ。ごめんなさい」

「え? えっ? 何の話ですか?」

「あなたのこと、こんなやつって言った……」

「えっ? あっ! き、気にしてませんよ!」

 というより、ファイトに集中していて、ミコトの言葉など聞いていなかったというのが真実ではあるが。

「それに、私が格下なのは事実ですし……」

「優しいのね。けど、自信を持ちなさい! あなたは強い子よ! 絶対不利な状況で勝ち筋を見出し、この私に勝ったんだから!

 これ以上自分を卑下した言葉を吐くことは、私が許さないからね!」

「は、はいっ!」

「……それでよし。じゃ、せいぜい決勝大会も頑張りなさいよ」

 デッキを握りしめるように手に持つと、ミコトはさっさと戻ってしまった。

 取り残されたサキはしばらく席に座ったまま放心していたが、自分が置かれた状況――いや、自分が勝ち取った成果をはっきり理解すると、デッキを手早くまとめ、仲間達のもとへと駆けだした。

 

 

「勝った! 勝てたよ!」

 満面の笑みで出迎えようとしたアリサの脇をすり抜け、小さく拍手をするミオを通り過ぎ、サキはオウガの胸へと真っ先に飛び込んだ。

「ありがとう! オウガ君のおかげだよ!」

 思わずそれを抱き留めながらも面食らっていた様子のオウガだったが、すぐにいつものガラは悪いが人の好い笑みを浮かべてサキの肩を叩く。

「俺は何もしてねえよ。サキが諦めずに頑張って、楽しもうとした結果だ。

 次は俺の番だ。負けねえからな!」

「うん! オウガ君ならすぐに勝てるよ。待ってるからね」

「こいつ! 急に上から目線になりやがって」

 抱き合ったまま仲良く会話を続けるふたりを、口元に手を当てたアリサが、顔を真っ赤にして凝視している。

 一方のミオはと言うと、聖ローゼ陣営に目を向けていた。

 そこでは泣き崩れるミコトを、フウヤとノリトが必至に慰めていた。

 そんなミオの視線に気づいたのか、フウヤが顔を上げて苦笑する。

 彼は今年で3年生だ。悔しい気持ちも強いだろうに、彼は最後まで紳士だった。

(去年とは立場が逆になってしまいましたね)

 ミオは彼らに小さく会釈して、視線をサキ達に戻す。

「い、いえ! これは違うんです! つい……というか! 思わず……というか!」

 顔から色んな汗を垂らしたサキが、アリサに弁解にならない弁解をしている最中だった。

「何も違わねーよ! 俺だって、初めてアメフトの試合で点を取った時はこんな感じだったぜ!」

 オウガがまるで男友達にするように、サキの肩に腕を回した。

 スポーツ中継でも、ゴールを決めるなどして感極まった選手達が抱き合う様子がよく放映されているが、要するにそんなものだとオウガの中では自己完結したのだろう。

 それを理解したサキが、ほっとしたような、がっかりしたような、微妙な表情を浮かべたのをアリサは見逃さなかった。ちなみにミオは見逃した。

「はい、注目!」

 収拾のつかなくなってきた場を収めたのは、これまで静かに生徒を静かに見守っていたマナブ教師だった。

 彼らしからぬ大きな声と、よく響いた柏手に、生徒達が一斉に視線を向ける。

「その、なんだ。ほとんど部活に出ていない僕が言えた義理じゃないが、よくやったな」

 すぐいつもの調子に戻ったマナブが、頭をかきながら言う。

「これからすぐ表彰式が始まるそうだ。みんなで胸を張って行くといい。この大会、誰ひとり欠けても優勝は無かった。僕は本当にそう思うよ」

「「「はいっ!」」」

 部員達が威勢よく返事をする。約1名の小さな声は、それにかき消されてしまったが。

「決勝大会も付き添いくらいはするからさ」

「決勝大会……」

 サキが夢見心地で呟く。

「そこにはアラシも来る……」

 オウガが真剣な表情をして言った。

「ええ。優勝を目指すなら、天海学園とはいずれぶつかることになるでしょうね」

 アリサも難しい顔をして腕を組んだ。

「誰が相手であろうと、私達がやることは変わりません。全力でヴァンガードを楽しむだけです」

 ミオの言葉に、全員が確信を込めて頷く。

「はい! その先に優勝という栄光もあるのだと、私は信じます」

 今日、そのことを何よりも体現した少女が、はにかむように微笑んだ。

 

 

 ヴァンガード甲子園 地区予選 関東Aブロック

 優勝 響星学園




オラクル使い、神薙ミコトが改めて正式参戦です!
ジェネシスの活躍はもう少々お待ちください。
できればマイスガードが登場してから……(無理そう

その分、オトゴサヒメの登場はタイムリーでした。
ドローとパンプで圧倒的な強さを演出すると同時、自ら手札を減らして負けやすい状況も作ってくれるという、非常にファイト構成を考えやすいユニットです。
ビジュアルも黒髪の女の子でミコトにイメージに合ってますね。

主人公の新デッキも顔見せとなりました。
話の都合で、正式なファイトは次回以降に持ち越しとなりますが。

次回は「BanG Dream! FILM LIVE」の「えくすとら」となります。
公開は18日前後を予定しておりますが、ちょっと今月の予定が不明瞭なため、25日前後になる可能性もございます。

それでは、「えくすとら」ももちろんですが、次回はいよいよヴァンガード甲子園本戦となる本編も併せてご期待頂ければ幸いです。


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8月「蹂躙せよ。世界を」

『麺々亭』は、首都圏に店を構えるラーメン店の新鋭である。

 ラーメンの味もなかなかだが、カラッと炒められたチャーハンの評判がよく、平日は昼時になると常連だけでこじんまりとした店は満員になってしまう。一方、休日も「とある建物」が店の近くあるため、特定の日に限っては客が集まり繁盛する。

 普段、休日は店を閉めているが、今日はその日なので店を開けていた。

 とは言え、今はまだ朝方である。仕込みの後、店を閉めておくのも退屈なのでのれんを掲げてはいるが、客はまだまだ来そうにもなかった。油をたっぷり使ったラーメンやチャーハンは、作り手の店主とて朝に食べたいものではない。

「ふあぁ……」

 休日に早起きした弊害か、中年の店主が生あくびを噛み殺しきれずに大口を開ける。

 ガラッ

 間の悪いことに、その瞬間、店の扉が開かれた。

「……らっしゃい」

 しばしの間をおいて、店主が突然の客に声をかける。遅れた理由はあくびだけではない。

 その客は、数秒間見惚れるには十分なほど、狭く小汚い店内には似つかわしくない絶世の美少女だった。

 このあたりでは見ない学生服を着ており、幼い容貌からは中学生のように見えるが、時期を考えると高校生だろう。

 端正な顔立ちからは感情を伺えるような表情は浮かんでおらず、それが少女をより神秘的に見せていた。

 そして最も目を引くのが、異国の血が混ざっているのか、それとももっと別の理由か、真っ白でくせの無い髪。

「すみません」

 背が低いためか、カウンター席に飛び乗るように座った少女が、抑揚の無い声で店主を呼んだ。

「あれをひとつお願いします」

 細い指で、壁にかけられたメニューを指し示す。それはメニューの最も端にあり、最も大きい札に書き記されている品だった。

「『チャーハン超特盛。30分以内に全部食べ切れたらタダ!!』……でいいのかな?」

 店主がそれを読み上げる。少女はこくんと頷いた。

 店主は不躾な視線で少女の頭から腹までじっくりと観察する。

 小さい。

 とてもではないが、30分以内どころか、出された料理を食べ切ることすら不可能に思えた。

 最近はインスタ映えするとか何とかで、目立つ食べ物を注文するだけして、写真を撮ったらほとんど食べずに店を出る輩もいると聞くが、そういった手合いなのだろうか。

「……時間内に食べ切れなかった場合は全額。残した場合は、倍額を払ってもらうことになるけど大丈夫かな?」

 店の外にも貼っていた注意書きを読み返すように確認するが、少女は「かまいません」と即答した。

 そこまで言われれば、店主も調理に移らざるをえない。

 ガッツリ効かせた油の香ばしさが、この店が誇るチャーハンの味の決め手だが、挑戦に使うチャーハンはさらに多く油を使用している。飽きを促すのが店主の狙いだった。それによって、多くの早食い・大食い自慢が、この店のチャーハンを食べ切れずに終わっている。中には、それでも時間内に食べ切る猛者もいたが、彼らはもれなく体を壊したと聞いていた。

「はい。まだ手はつけないでね」

 店主が皿の上に山と盛られたチャーハンを少女の前に置く。この時点で、どう見ても少女の腹よりもチャーハンの方が大きかった。

「それじゃ始めるよ。よーい、スタート!」

 手にしたストップウォッチが30分にセットされているのを見せつけながら、店主はボタンを押した。

 少女が気負った様子も無く「いただきます」と唱和して、普通に昼食でも頂くようにチャーハンを食べ始める。

 ――それから5分が経過した。

(早いな……)

 店主は内心で舌を巻いた。

 チャーハンはぴったり6分の1が消化されていた。これだけで大盛1杯分はある。

(だが、これでは間に合わない……)

 このままのペースで行けば、ギリギリ30分で食べ終わるものと素人は思うだろう。

 しかし、チャーハンは時間がたつほど急激に冷めていき、味が悪くなる。大量に使われた油も効いてくるのはここからだ。時間が経てば経つほどペースは落ちてくるものなのだ。

 そんな店主の予想とは裏腹に、10分、15分、20分と時間が進むにつれて、チャーハンも6分の2、6分の3、6分の4と、比例するように量を減らしていく。

 少女は今も涼しい無表情でレンゲを操り、ひょいパク、ひょいパクと、油でベトベトになった米を、まるで機械のような一定のリズムで口に運んでいた。

 そして――

「ごちそうさまでした」

 カランと音をたてて、米粒ひとつ残っていない皿の上にレンゲを置き、少女が手を合わせて完食を宣言する。

 ストップウォッチはジャスト1分を示していた。

 少女が最後にペースを速めた理由は、終わりが見えたからスパートをかけたとか、そんな可愛らしいものではないだろう。

 もし完食されそうになった場合、1分早くストップウォッチを止めようとした店主の思惑を見抜かれたのだ。

「あ、ああ。おめでとう。タダでいいよ……」

 少女の見透かすような視線に耐え切れず、店主が目を逸らしながらそれだけを告げた。

 少女は席を立つと、店の出口で立ち止まった。

「これだけの量をタダで食べさせてくれるなんていい店ですね」

 言いながら、上半身だけ僅かに振り返る。

「来年に、また来ます」

 そう言い残すと、少女は店を出た。

 その日以来、店主は「チャーハン超特盛。30分以内に全部食べ切れたらタダ!!」で不正をやらなくなった。

 むしろ、大量のチャーハンを最後までおいしく食べてもらえるよう、工夫に工夫を重ねた。

 その言葉通りに少女が店を訪れた時、今度こそ胸を張ってチャーハンを出せるように。そして、願わくば彼女のおいしいと笑う顔が見たいと思ったのだ。

 その少女――音無(おとなし)ミオは遅めの朝食を終えたあと、仲間達との待ち合わせ場所へと向かった。

「おはよー、ミオちゃん! 今日も時間ぴったりだね!」

 大きく手を振るアリサに向かって、ミオも控えめに手を振り返す。

「おはようございます。皆さん、今日もがんばりましょう」

 アリサ達、響星(きょうせい)学園のカードファイト部員と合流すると、ミオは小さく頭を下げる。

 彼女達の向かう先には、店主の言う「とある建物」。コロシアムを想起させるような、巨大なスタジアムが横たわっていた。

 

 

「あ、あ、あああああああ、何ですか、この雰囲気は」

 地区予選の会場より一回り大きいドーム型の建物を前に、サキは全身を震わせていた。

 地区予選で使われた会場は、スポーツの大会など、他の催し物も行われているが、今、響星学園の面々を見下ろしているスタジアムは、ヴァンガードのためだけに建設された特別な建物である。

 ヴァンガード甲子園の決勝大会の他、プロの試合が日本で行われる場合、ほぼ例外なくこのスタジアムが使われる。12月に開催されている「ヴァンガード高校選手権」も行われていた。

 そのため、アリサとミオも訪れたことはあるのだが。

「何だか高校選手権で来た時と、全然違う感じがするわね」

 渇いた唇を舐め、夏だと言うのに冷たい汗をこめかみに浮かばせながら、アリサがサキに同意するように呟いた。

 それもそのはず。高校生ならだれもが参加できる選手権とは違い、今、この会場に集っているのは厳しい地区予選を勝ち抜いた全国有数の精鋭である。

 会場の外からでも感じられる熱気は、地区予選の時に感じた誰彼構わず刺すような余裕の無い殺気とは違う。近づくものを包み込むような――あるいは呑み込むような雄大にして圧倒的な気配だ。

 大会慣れしているとは言え、優勝経験と言えばショップ大会がせいぜいのアリサが気圧されるのも当然であった。

「そうですか?」

 会場から発せられる異質な気配を感じながら言っているのか、そもそも感じてすらいないのか、ミオが不思議そうに小首を傾げた。

「いつも通りで心強いわよ。ほんと」

 少し気の抜けた溜息をつきながら、アリサが言う。

「あそこには『いつも以上』の人もいますけどね」

「おおーっ! ここが全国大会の会場か! 見てみろよ、サキ! テレビが来てるぜ! あっちは雑誌の取材かな? カードショップが露店も作ってんじゃねーか! まるでお祭りだな! せっかくだし、記念にスパイクブラザーズロゴのシャツでも買っとくか!」

 ミオが指さす先には、子供のようにはしゃぐオウガの姿があり、「テレビ」だの「取材」だの、平凡な高校生活を送る分には無縁の単語が聞こえるたび、サキの肩が気の毒なくらいビクッと跳ねた。

「おーい、鬼塚。あんまり離れるな。点呼取るぞー」

 この蒸し暑い季節に白衣を羽織ったマナブ教師が気だるげに声をあげる。

「4人しかいないんだから、必要ねーっしょ?」

「そういうわけにもいかんだろ。1、2、3、4、全員いるな。いくぞー」

 茶化すオウガを諫める割には、極めて適当に人数を数えたあと、だらけた手つきで部員達を先道する。

「ほら。行こっか、サキちゃん。大丈夫?」

 自分の緊張はおくびにも出さず、アリサがサキの背中を優しく叩いて気遣った。

「は、はい! 大丈夫です。き、緊張はどうしてもしてしまいそうですけど……もう私は、私の本分を見失ったりしませんから!」

「おう! 頼んだぜ、サキ!」

「うん! 任せて、オウガ君!」

 オウガがいる限り、サキに問題は無さそうだ。

 アリサは自分にできることはもうないと判断すると、そっと最後尾についた。

(……あたしはちゃんとやれるのかしら)

 そして、誰の目も届かない場所で、小さく溜息をつくのであった。

 

 

 ヴァンガードに関わる偉い人の挨拶(残念ながらミオを筆頭に、響星の中では興味のある人がいなかった)の後、前大会準優勝だった高校の選手宣誓(前回優勝校の天海(あまみ)学園は、交通網の関係で開会式を欠席していた)を終え、いよいよトーナメントが始まった。

 第1回戦の相手は平陽高校。サキの情報によると、3年前のヴァンガード甲子園ではベスト4に名を連ねた強豪校らしい。

 

 

「ライド! 《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》!!」

 先鋒を務めるアリサは、今日も好調だった。

「《無双剣鬼 サイクロマトゥース》のブレイクライド! 手札を1枚捨てなさい! ……G1の場合、コレオにパワー+5000!」

 むしろ、彼女らしからぬ気迫に満ちたプレイングを見せていた。

「ガンニングコレオの起動スキル発動! デッキの上から1枚ドロップして……このターン、あなたはG0でガードできない!

 バトルよ! ガンニングコレオでヴァンガードにアタック!」

 トリプルドライブで(クリティカル)トリガーを引き、対戦相手を5点まで追い詰める。

「これでトドメよ! 《ハイディング・キラーリーフ》でアタック! アタック時にスキル発動! デッキの上から1枚……(ヒール)トリガーをドロップ! パワー+10000して、アタック続行!!」

 腐葉土の下から、葉に擬態した鋭利な刃が閃き、獲物へと喰らいついた。

 6枚目のカードが対戦相手のダメージゾーンに置かれる。

「勝者! 響星学園、天道アリサ!!」

 ジャッジの宣言を受け、アリサは拳を握りしめた。

(やれる……ヴァンガード甲子園でも、あたしは戦える!)

 

 

「武装ゲージを5つ取り除き、《餓竜 ギガレックス》のスキルを発動します! 1ダメージを受けてください!」

 緊張した面持ちで中堅戦に挑んだサキだったが、ファイトそのものは落ち着いていた。

「続けて、武装ゲージを2つ取り除き、ドロップゾーンから《破壊竜 ダークレックス》をスペリオルコールします!」

 折り重なる骨をかきわけて、地の底から漆黒のディノドラゴンが蘇り、天に唾吐くかの如き咆哮をあげた。

「バトルフェイズに入ります! ギガレックスのアタック時、スキル発動! 全てのリアガードに武装ゲージを乗せてパワー42000ですっ!

 続けて、ダークレックスでアタック! 武装ゲージは全部で8つ! アクセルⅡサークルと、トリガーの効果を合計して、パワーは53000っ!」

 しかし、サキの猛攻は惜しくも届かず敗北する。

「ふーっ……緊張しましたぁ。けど、全力は出し切りました! はい、楽しかったです!」

 ファイトテーブルから戻ってきたサキは、そう言って笑った。

 

 

「あなたのバトルフェイズ時、《模作する根絶者 バヲン》のスキルが発動します」

 骨の牡牛が影を操り姿を変化させる。瘴気の炎纏いし二刀を携えた竜剣士へと。

 それは鏡のように敵の姿を完璧に模倣し、そこに映る虚像の如くあらゆる攻撃を届かせない。不確かだからこそ強固なる幻影の壁。

「《招き入れる根絶者 ファルヲン》でガードします。……さて、私のターンですね」

 大将戦でもミオはいつも通りに冷静だった。バヲンで敵の猛攻を防ぎきった後は、手札に残したカードに指をかける。

「ライド。《波動する根絶者 グレイドール》」

 鉄の心臓に鋼の肉体を携えた、最強の根絶者が降臨する。その衝撃波だけで、対戦相手がライドしていたユニットが吹き飛ばされてかき消えた。

「ヴァンガードがデリートされたので、ドロップゾーンから4体の《招き入れる根絶者 ファルヲン》をスペリオルコールします」

 無数の触手に覆われた頭蓋骨達が、幽鬼のようにグレイドールの周囲を飛び回る。

 そして、バトルフェイズ開始の宣言とともに、グレイドールの手刀が無防備な魂を貫いた。

「ありがとうございました」

 的確にして容赦のないプレイングとは裏腹に、ぺこりとお人形のように可愛らしくお辞儀をして、仲間のもとへと戻っていく。

 

 

 この場を野球の球場に例えるなら、ダグアウトのように奥まった部屋があり、そこでファイトをしている選手以外のチームメイトが待機している。不正防止のため、スタジアムの中心にあるファイトテーブルからは一定の距離が離されており、待機している選手は備え付けられてあるテレビからファイトの様子を観戦できるようになっていた。

 そこに戻ったミオは、感極まったサキに抱きつかれ、アリサには頭を撫でまわされた。

「おおげさですね。まだ1回戦ですよ?」

「だって、ヴァンガード甲子園ですよ!? 初出場の私達が1回戦を突破したんですよ!? ああ、もう夢みたいです……」

 両手を組んで恍惚の表情を浮かべるサキは、実際、どこかに飛んでいきそうだった。

「そもそも、私達が予選で破った(セント)ローゼ学園は、ヴァンガード甲子園常連の優勝候補ですよ? 私達が本戦で勝負にならない理由がありません」

「理屈ではそうだけどね……」

 アリサが苦笑する。

「とは言え、対戦相手の方から感じたプレッシャーは、ミコトさんやフウヤさんとファイトしている時と変わりませんでした。参加者全員が、最低でも聖ローゼと同レベルの強さと見るべきですね。これを勝ち続けるのは、なかなかの綱渡りになりそうです」

 ミオは自信家なように見られることも多いが、それは彼女が自身のスペックを完璧に理解した上で客観視しているので、そう見えるだけである。

 ヴァンガード甲子園の第1回戦は、その俯瞰の天才にそこまで言わしめるものだった。

「まして、次の相手は……」

 オウガが会場に掲げられた巨大な電光掲示板に表示されているトーナメント表を見上げる。

 そこには「響星学園」と「平陽高校」の名が記されており、今は「平陽高校」の名前が暗転している。

 その隣には「天海学園」の名があった。

 参加高が一斉にファイトをしていた地区予選と違い、本戦では一試合ずつファイトが行われる。

 つまり、いよいよ天海学園のファイトが始まるのであり――順当に試合が進むのであれば、響星学園の次なる対戦相手は彼らであった。

 

 

「な、何なのこれは。早すぎる……」

 高校ごとに用意されたファイターの控室で。

 備え付けのテレビで天海学園のファイトを観戦していたアリサが愕然と声をあげる。

 天海学園の先鋒、清水セイジのファイトは非常に速かった。カードを引いてからノータイムでユニットを繰り出し、瞬く間にバトルフェイズに移行する。そのバトルフェイズも、あらかじめ攻撃順を考えていたかのように迷いがない。それでいて選択は的確。

 対戦相手も負けじとプレイングの速度を上げていき、今は互いのやり取りが光芒の如く交錯している。

 ファイトが始まって僅か2分足らず。先鋒戦は早くも終盤の様相を呈していた。

「さ、さすがここまで勝ち抜いてきたファイターです……」

 目まぐるしく変わる盤面の様子を、マイペースなサキは目で追うのが精いっぱいのようだ。

「……そんな単純な話でも無さそうだぜ」

 オウガが重々しく呟き、

「オウガさんも気づきましたか」

 ミオが小さく頷く。

「ど、どういうこと? ですか?」

 サキがオウガとミオの顔を交互に見渡して尋ねる。

 オウガの目配せを受けて、まずはミオが口を開く。

「天海の清水(しみず)セイジさん。彼のプレイングは確かに驚くべき速さで、なおかつ機械のように精密です」

「ミオさんがそれを言いますか?」

「オウガさんがファイトしたアラシさんと同じく、相手のファーストヴァンガードと、自分の初手を見た時点で、ファイトの始まりから終わりまでイメージできているとみてよさそうです。

 アラシさんは、あえてセオリーを破ることで自分が負ける未来を強引に勝ちへと切り替えている印象でした。

 あの人、セイジさんの場合は、ただひたすら勝ちに向かうルートをトレースしている感じですね。

 答えの知っている詰将棋を解き続けている感じでしょうか」

「な、なるほど。プレイングが早くなるわけです。けど、それだと常勝は難しくないですか? オウガ君の言っていたアラシさんのように、負けを勝ちに変えているわけではないですよね?」

「そうでしょうか? 自らは決して揺らぐことなく最前手を打ち続け、運が絡む場面も、より勝率が高くなる選択肢を確実に選び取る。本当にそれができるなら、私は同じことをできる人が対戦相手でない限り90%以上の確率で勝てる自身がありますよ」

「う……それほどですか?」

「はい。それほど私達は細かいミスをしているということです。結果論と片付けられてしまうようなものも含めて」

「そこまで分かっているのならミオさんも……」

「ミスは無くせませんよ。分かっていても。だからヴァンガードは面白いんです」

 そう言って、ミオは微笑を浮かべた。

「話を戻しましょうか」

 その言葉に合わせて、ミオの顔もすぐにいつもの無表情に戻る。

「彼の速さの秘密はそんな感じだと思います。それも相当に厄介ですが、本当の問題は……」

「対戦相手もその速さの影響を受けていることっすね?」

 これまで黙って話を聞いていたオウガが口を挟んだ。

「はい。ファイトが始まった直後、対戦相手の方は普通の速度でした。

 ですが、ファイトが進むにつれて彼のスピードが加速度的に上昇していき、今はセイジさんと遜色ない速さでプレイを続けています」

「ど、どうして?」

「あいつの速さに引っ張られてるからだよ」

 サキの疑問にオウガが答えた。

「対戦相手も全国クラスのファイターだ。それなりにプライドもあるんだろうさ。

 いや。そうでなくても、目の前でそんな見透かされたようなプレイングを何度もされたらたまんねーよ。

 あいつの速さに追いつこうと躍起になって、自分のペースがどんどん乱れて……今頃あの人の心はズタズタで、先輩の言う細かいミスが積み重なってる状態じゃないすかね」

 オウガが気遣うように、セイジの対戦相手を見た。

 プレイングの速さは同じでも、涼しい顔をしているセイジとは対照的に、顔は真っ赤で、目は血走っており、激しい運動でもしているかのように呼吸が荒い。

「すばらしい考察ですね」

 ミオが感心したように腕組みしながら頷いたところで――

『勝者! 天海学園、清水セイジ!!』

 ファイトが終了した。

 試合時間4分弱。ダメージ3対6。セイジの圧勝だった。

「どうですか? 彼が次の対戦相手ですよ」

 話には参加していなかったが、聞いていなかったことはないだろう。

 セイジのファイトをじっと観察していたアリサに、ミオは声をかける。

「で、対抗策は?」

 アリサはくるりと振り返ると、すがるようにミオを見た。

 白髪の少女は小さく両手を上げる。お手上げ。

「ありません。気合と根性で乗り切ってください」

 ミオらしからぬ感情論だが、彼女も俗世に染まってきたのか、もしくは本当にそれしかなかったのか。

 今回に限っては後者な気がして、アリサはげんなりと肩を落とした。

 中堅戦では、(あおい)アラシが8枚以上の手札差をつけて圧勝し、天海学園の勝利も確定させた。

 そしてその瞬間、次の響星の対戦相手も天海学園に決定した。

 

 

 ――響星学園の第2回戦が始まった。

「響星学園先鋒、天道(てんどう)アリサ選手! ファイトテーブルへ!」

 ジャッジに呼ばれ、アリサがベンチから立ちあがる。

「アリサさん、お願いします!」

「頼んます、部長!」

 サキとオウガの声援を背中で聞きながら、彼女は一段高い舞台にある席についた。

 地区予選会場の倍以上はあるスタジアムを埋め尽くす観客達は、今はしんと静まり返っていた。ファイト前の集中を乱さぬようという配慮もあるが、これから起こる光景を他愛のない雑談で見逃さないようという打算がほとんどだ。それを証明するかのように、優勝候補の試合前は物音一つ立たなくなる。

 5万人を数える人が生み出す静寂の中、アリサは自分の鼓動の音をはっきりと聞き取っていた。

(さすがに緊張するわね……)

 毎週何らかのショップ大会には出場しているアリサだが、今回はいつもと規模が違う。1回戦は勢いでどうにか勝てたが、次の対戦相手は間違いなく超高校生級のファイターだ。その道を目指すのならプロにもなれるだろう。

(大丈夫。ユキほどのファイターなんて、そうそういるわけない。でなきゃ――)

「天海学園先鋒、清水セイジ選手! ファイトテーブルへ!」

 アリサの物思いを断ち切るように、ジャッジが声をあげ、名を呼ばれた背の高い男が、天海学園サイドから立ち上がる。

 まるで壁が立ち上がったかのような威圧感。その巨体に似合わず動作はキビキビとしていて素早く、ふとまばたきした瞬間には、もう男は対面の席についていた。

「よろしくお願いする」

 セイジが礼儀正しく一礼して、手を差し出してくる。

「え、ええ、よろしく。……お久しぶりね」

 その手を軽く握り返しながら、念のためアリサはこう答えてみた。案の定、セイジは首を45度傾げて疑問を示した。

「……失礼。どこかでお会いしたかな? 1度でもファイトした相手なら、忘れることはまず無いのだが」

「ファイトはしてないわ。カードショップの前で友達がぶつかっただけ。……2か月くらい前かな」

 合点がいったとばかりにセイジが大きく頷いた。

「ああ。あの時は失礼した。そうか。あなたも全国レベルの腕利きだったということか。

 ……だが、あなたは私を楽しませるに足るかどうか」

 その言葉が合図だった。

 セイジの目がスッと細まり、背の高さと天海という看板から、アリサが勝手に感じていた偽の威圧感が消え、激流の如き覇気が放たれる。

 セイジは流れるような手つきデッキをシャッフルし、カードを5枚引く。その5枚を一瞥しただけで、2枚のカードを山札に戻し、また2枚引いてシャッフル。

 毎日どれだけ対戦していれば、ここまで無駄を削ぎ落とすことができるのだろうか。アリサはまだカードを5枚引いている最中である。

「……お待たせ」

 たっぷり30秒かけて、カードの引き直しまで終えたアリサが告げる。

「では、はじめるか」

 セイジは気にした様子もなく、ファーストヴァンガードに手をかける。

 ジャッジがファイト開始を宣言し、ふたりは同時にカードを開いた。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!」」

「《マシニング・ワーカーアント》!」

「《士官候補生 エリック》!」

(……アクアフォース!)

 この世界の7割は海だと言われている。

 惑星クレイにおいてもそれは同様であり、その広大な海そのものを支配域としている軍隊こそがアクアフォースである。

 大海という名の監視網から世界を見張り、蔓延る悪を水平線の果てまで追い詰める。

 そこには一切の容赦も無ければ、慈悲も無い。

 元帥の指揮の下、これより最強の艦隊が絶対正義を執行する!

 

 

 アリサの手札は6枚で、ダメージは1。セイジの手札も6枚で、ダメージは2。

 後攻のセイジがG2のユニットにライドする。

「ライド! 《頑迷の蒼翼 シメオン》!」

(蒼翼……! 治トリガーを起点に連続攻撃を行うアクアフォースの……)

「コール! 《信念の蒼翼 バジリア》! バジリアのスキル発動! デッキの上から3枚を確認。《共鳴の蒼翼 マクシオス》を手札に加える。

 コール! 《共鳴の蒼翼 マクシオス》! 《共感の蒼翼 マカリオス》! 《大義の蒼翼 ファウロス》!

 バトルフェイズに進行する! ファウロス単体でヴァンガードにアタック!」

 アリサの考えがまとまるよりも早く、選択権が突きつけられる。

「つっ! 《マシニング・マンティス》でインターセプト!」

「ファウロスのスキル発動! 青翼が4体いるので、ファウロスをスタンド!

 続けてバジリアのブースト、ヴァンガードのシメオンでアタック!」

「ノーガード!」

「ドライブチェック、ノートリガー!」

「ダメージチェック! ……トリガー無しよ」

「マクシオスのブースト、ファウロスでアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック……トリガー無し」

「ターンエンド」

「あたしのターン! スタンド&ドロー! ……!?」

 ドローしたカードを見て、アリサの脳裏に天啓が閃いた。

 熟考もせず、そのままそれをヴァンガードに重ねる。

「ライド! 《マシニング・スパークヘラクレス》!」

(これでユニットを弱体化すれば、アクアフォースの連続攻撃は止められるはずよね……)

 内心でほくそ笑みながらユニットを展開し、アリサはスキルの起動を宣言する。

「スパークヘラクレスのスキル発動! これであなたの全ユニットは……」

「-5000されるのは、私のヴァンガードだけだが?」

 セイジが《共感の蒼翼 マカリオス》のカードを指しながら口を挟む。

「あ……」

 アリサもそこで気付いた。そのカードがある限り、『蒼翼』のリアガードはカードの効果で選ばれない。

(ミスった……! こんな大事なファイトで!)

 爪で頭を引っ掻き回したくなったが、どうにか自制し、ミスを気取られないよう強気に叫ぶ。

「ヴァ、ヴァンガードさえ-5000されていれば問題無いわ! スパークヘラクレスでアタック!!」

「ガード、《虹色秘薬の医療士官》!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目……トリガー無し。

 くっ。まだまだ! 《巨砲怪人 タワーホーン》のブースト! 《マシニング・マンティス》でアタック!」

「ノーガード、ダメージチェック、ノートリガー」

「《小隊長 バタフライ・オフィサー》のブースト! 《七色怪人 スタッガーセブン》でアタック!」

「ノーガード、ダメージチェック、★トリガー、パワーはシメオンに」

「……ターンエンド。バタフライ・オフィサーのスキルで、スタッガーセブンをソウルインしてCC(カウンターチャージ)

「私のターン。スタンド&ドロー」

(さっきから判断が早すぎる。あたしの……ううん。メガコロニーの戦い方が完全に把握されてる)

 さながら大瀑布に巻き込まれた木の葉の気分だった。

 ただただ翻弄され、成すがままにカードを出すことしかできない。

(こんなのファイトじゃな……)

「ライド! 《終末の切り札 レヴォン》!!」

 アリサの思考を断ち斬って、切り札が放たれた。

 荒ぶる波間が真っ二つに斬り裂かれ、そこから蒼翠に輝く大剣を片手に携えた海竜剣士が飛翔した。

 蒼い鱗と甲殻を鎧の如く纏い、双角は飾り兜の如く天を衝く。

 海兵というよりは騎士の如き風格の竜人が、今、正義の名の下にこの海域を制圧する!

「レヴォンのスキル発動! バジリアをレストし、スパークヘラクレスのパワーを-5000!」

 レヴォンが大剣を振るうと、飛沫にも似た衝撃波が放たれ、岩場にとまっていたスパークヘラクレスの全身を呑み込んだ。

 装甲の隙間からバチバチと火花と煙をあげて、スパークヘラクレスが片膝をつく。

「コール! アクセルⅡサークルに《蒼波水将 ガレアス》! マカリオスの前列に《蒼波水将 フォイヴォス》!

 バトルフェイズに進行する!

 マカリオスのブースト、フォイヴォスでヴァンガードにアタック!」

「《マシニング・ホーネット》でガード!」

「ファウロス単体でヴァンガードにアタック!」

「マンティスでインターセプト!」

「コストを支払い、ファウロスはスタンドする。マクシオスのブースト! 再び、ファウロスでアタック!」

「ノーガード!

 ダメージチェック……★トリガー! トリガー効果はすべてスパークヘラクレスに!」

 ダメージトリガーに、思わず安堵の吐息がこぼれるが、セイジの怒涛の如きアタック宣言は止まらない。

「ガレアスでヴァンガードにアタック! 我が軍のレストしているユニットは4体! よって、ガレアスのパワーに+5000! パワー合計値はアクセルサークルの強化も含めて19000!」

「ガード! 《ブラッディ・ヘラクレス》!」

「ヴァンガードのレヴォンでアタック! アタック時、レストしているユニットが5体以上なので、パワー+15000! ドライブ+1!

 さらに! CB1でガレアスをスタンド! 手札を1枚捨て、フォイヴォスもスタンド!

 バトル続行! レヴォンのパワーは27000! 受けるか、防ぐか、選ぶがいい!」

「ダメージ4だもの! 防ぐわよ! プロテクトで完全ガード!」

 レヴォンが上段に振り下ろした剣を、スパークヘラクレスの前面に展開した、クモの巣を模した深緑の網が受け止める。

「トリプルドライブ!

 ファーストチェック、ノートリガー。

 セカンドチェック、(ドロー)トリガー! カードを1枚引いて、パワーはフォイヴォスに!

 サードチェック、治トリガー!」

「あ……」

 アリサが小さく悲鳴をあげ、観客席からは絶望の溜息がもれた。

 セイジだけが、ただただ冷淡にファイトを進めていく。

「まずは治トリガーの処理を行う。ダメージを回復し、パワーはガレアスに。

 そして、治トリガーが出たので、我が蒼翼はすべてスタンドする!!」

「う、ウソでしょ……」

 既にアタックを終えた全リアガードがスタンド。

 悪夢のような光景に、アリサの全身から力が抜けていく。

「これは現実だ。マクシオスのブースト、ファウロスでアタック!」

「ガ、ガード! 《シャープネル・スコルピオ》!」

「マカリオスのブースト! フォイヴォスでアタック!」

「ノーガード! ダメージチェック! ……トリガー無しよ」

 ついに5枚目のカードが、アリサのダメージゾーンに置かれた。

「ガレアスでアタック!」

「ガードっ! 《シェルター・ビートル》!」

 ヤケクソ気味に叫んで、カードを叩きつけるように繰り出す。

「私はこれでターンエンドだ」

 長かったセイジのターンが終わった。

 アリサの手札はもはや1枚。

 ダメージは、アリサの5に対して、セイジは3。

(圧倒的すぎる……こんなの、勝てるわけがない)

 しおしおと戦意が萎えていくのが、自分で理解できた。

 後輩達のため、けっして負けないと誓い出場した最後のヴァンガード甲子園。

 だが、セイジの言う通り、この無惨な光景が現実だ。

 今にして思えば、ヴァンガード甲子園の強豪達を相手に、何と大それた誓いだっただろうか。

(ごめんね、みんな……)

 アリサが部員達へと振り返る。

 涙で滲む瞳に、不安そうなオウガとサキ。そして、いつも通りに無表情なミオの姿が映った。

「アリサさん」

 その時、ミオの声が聞こえた。

 地区予選とは比較にならない大きさを誇る会場である。オウガならいざ知らず、小さなミオの声など届くはずも無い。

 だが、ミオとこの1年半、時に笑い、時に泣き、ファイトを通じて濃密な時間を過ごしてきたのだ。

 その口の動きだけで、彼女が何を訴えかけてきているのか心で聞くことができた。

「私は、楽しそうにファイトをしているアリサさんが好きです」

 言葉だけでは足りないと思ったのか、口の両端をつまんで、むりやり笑顔を作って見せる。

(ミオ、ちゃん……)

 その光景に、思わず笑みがこぼれた。

 このファイトで――いや。7月からヴァンガード甲子園におけるファイトで、一度も笑えていなかったことに思い至る。

(……先輩になって、部長になって、少し自惚れていたのかもね。

 ユキから託されたこと、すっかり忘れてた。

 あたしがやるべきことは勝つことじゃない。あたしがあたしらしく、みんなを導くことだ!)

 アリサは手札をいったんテーブルに置くと、大きく息を吸い込んで、溺れかけていた肺に空気を送り込む。

 そして、右拳を握りしめると、自分の頬を全力で殴りつけた。

 ごしゃっ

 よりにもよってその音をマイクが拾い、生々しい激突音が会場全体に響いた。

「ごめんね。ちょっと自分を見失ってたみたい……」

 しんと硬直したように静寂する会場に、アリサの清涼な声が広がっていく。彼女は口元に滲んだ血を指で拭うと、太陽よりも明るい笑顔で高らかに宣言した。

「ここからは楽しいファイトにしましょう!」

「……ふっ」

 これまでずっと堅い表情をしていたセイジが、その相好を崩す。

「そんな顔もできるではないか!」

 そして、年相応とも言える爽やかな笑顔で応えた。

(ああ、そうか)

 それを見て、アリサは全てを理解した。

(この子もヴァンガードが大好きなんだ)

 ただ、偉大すぎる看板を背負うが故に。それに恥じぬ圧倒的な強さを誇っていたが故に。彼には真剣勝負しか許されなかった。

 誰もが当たり前のように享受している普通のファイトこそ、彼はきっと欲していたのだ。

(もうあたしは勝つことだけを考えない。まずは、このファイトを最高の思い出にする!)

「そのために……あたしに力を貸して、相棒!!

 ライド! 《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》!!」

 鮮やかな翅を広げ、白亜の昆虫怪人が絶海に浮かぶ岩の上に降り立った。

 目の前には、絶対正義を体現した蒼き剣豪。

 その佇まいに英雄の気配を感じた銃士は、口元に静かな笑みを浮かべた。

「コレオの登場時スキル! 山札の上から1枚をドロップしなさい!」

「……くっ、G3か」

 これまでの鉄面皮が嘘のように、セイジが顔を歪めて悔しがる。

「これでコレオはドライブ+2、パワー+15000!

 この調子で、コレオの起動スキルもいってみよう! もう一度、山札の上からドロップしなさい!」

「……残念だったな。今度もG3だ」

 今度はドロップするカードを見せつけるようにして勝ち誇る。

「構わないわ。あたしの本命はこっちだもの。

 コール! 《デスワーデン・アントリオン》!!」

 海の一部が不自然に干上がり、砂の底からアリジゴクの怪人が姿を現した。キシャアアアッと乾いた鳴き声をあげて、正義の軍勢を威嚇する。

「バトルよ! 《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》でヴァンガードにアタック!」

「《翠玉の盾 パスカリス》にて完全ガード! 手札からレヴォンをドロップする!」

 2丁の拳銃から放たれる銃弾が、驟雨の如くレヴォンめがけて降り注ぐ。

 その全てを、若き水兵が掲げる翡翠色に輝く盾が、一つ残らず弾き落とした。

(ここまでは分かってる!)

 バトルフェイズ開始時点でのセイジの手札は4枚。そのうちの3枚、完全ガード、レヴォン、治トリガーは、トリプルドライブで公開されている。

 未知のカードは、引トリガーで手札に加わった1枚のみ。

「クアドラプルドライブ!!!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し。

 3枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはアントリオンに!

 4枚目……よしっ! ★トリガー!! 効果は全てアントリオンに!!」

(これでアントリオンの★は3になった! あとは、パワーだけど……)

 セイジの前列は全てG2だ。手札の治トリガーと合わせて、最低でも35000ガードできるので、それだけでヴァンガードのパワーは合計47000。

「《巨砲怪人 タワーホーン》のブースト! 《デスワーデン・アントリオン》でアタック!」

 対するアントリオンのパワーは、ブーストを含めて50000。

 即ち、未知の1枚が+5000でもガード値を持っていれば、アタックは通らない。

「アントリオンのスキル発動! 手札を2枚捨てて、G3をSB(ソウルブラスト)! パワー+10000、★+1、このアタックは守護者(センチネル)ではガードできない!!」

「ノーガード!!」

 セイジはそれすらも即座に、堂々と宣言した。

「天海以外の人間に、ここまで追い詰められたのは初めてだよ」

 微笑を浮かべながら、セイジは山札に手をかける。

「ダメージチェック!」

 アントリオンがその力を解放する。母なる海を力の源とするアクアフォースにとっては天敵とも言える魔力を。

 怪人の掌で砂塵が渦を巻き、渇きの嵐が最強の軍隊を呑み込んでいく。見渡すばかりの海が一瞬で枯れ果て、どこまでも続く砂漠と化した。

「1枚目、★トリガー」

 色を失った世界の中心で、レヴォンはまだ生きていた。

 全身がひび割れ、鱗は輝きを失いながらも、その瞳から戦意は一切失われておらず、正義を成さんと剣を振り上げる。

「2枚目、★トリガー」

 その刃がコレオに届く寸前、遂にレヴォンの全身が砂と化し、脆くも崩れ去った。

「3枚目、トリガー無し」

 砂漠に墓標の如く突き立った蒼翠の大剣を一瞥し、コレオは次の獲物を探して何処かへと飛び去った。

「勝者! 響星学園、天道アリサ!!」

「――!!」

 声にならない歓声をあげて、思わず立ち上がったアリサが両拳を握りしめた。

「最高のファイトだった。ありがとう」

 全力を出し切った人間特有の清々しい笑顔に一片の悔しさを滲ませて、セイジがアリサに手を差し出す。

「こちらこそ。あなたとは、またちゃんとファイトしたいわね」

 そう言ってアリサはセイジの手を握り返し、ふと表向きで無造作に置かれたセイジの手札に気付く。

「……引トリガーで引いていたカードもレヴォンだったのね」

「ああ。私にミスは無かったはずだが。ままならんものだな」

 セイジは憮然として呟いたかと思うと、

「これだから、ヴァンガードはやめられんのだ」

 口の端を上げて、それを笑い飛ばした。

「またやろう。天道先輩」

 それだけを言い残し、セイジは席を立つ。

 去り行く少年の後ろ姿は、敗者とは思えないほどに堂々としていた。

 

 

「まさか君が負けるなんてね」

 天海サイドのベンチの奥で、銀髪の少年が驚きを多分に含んだ口調でセイジを出迎えた。

「すまん。……だがお前も、チームメイトが負けた割に嬉しそうな顔をする」

 そう指摘され、暗がりの中、銀髪の少年は自らの顔に手を当てた。

「顔に出ていたかい? ごめんよ」

「構わん。私もお前の立場なら、笑いをこらえきれずにいたさ。……待たせたな」

「ま、ここで俺様が負けたら、結局こいつはファイトできなくなるんだけどな!」

 天海学園の中堅――葵アラシがだらしなく立ち上がり、笑いながら笑えない冗談を口にする。

「戯言はいいから、さっさと勝ってこい」

 セイジがしっしっと犬でも追い払うかのように手を振った。

「おいおい。励ましも無しかよ。マジで負けちゃうぜ?」

「貴様に頑張れなどと言う方が無粋だろう」

「……わかってるね、親友。じゃ、行ってくんぜ」

 アラシはひらひらと後ろ手を振りながらベンチを出ていく。

 その背中を、銀髪の少年が祈るようにじっと見つめていた。

 

 

「アリサさん! アリサさーん! すごいです! すごすぎます! 天海の人に勝っちゃうなんて!!」

「くーっ! マジでシビれたぜ、最後のトリガー! 何だか泣けてきやがった!」

 響星ベンチに戻ったアリサを出迎えたのは、感極まったとしか言いようのない泣き顔のサキとオウガだった。

「あっはっはー。さっすがあたし……と言いたいところだけど、何から何までできすぎだったかなー。一生分の運を使い果たしちゃったんじゃないかしら」

「その代わり、一生自慢できる偉業ですよ! 今の天海に土をつけたのはアリサさんが全国で初なんですから!」

 アリサがいなくなった今も、鳴りやむことのない万雷の拍手と声援が会場を包み込んでいる。

 両者の熱戦を称えてというのもあるだろうが、やはり無名選手が天海に勝利したという大金星に対してのものがほとんどだろう。

「……どうせなら、これをあたしだけじゃなく響星学園の偉業にしちゃいましょう」

 ふと思いついたようにそう言って、アリサは軽く手を掲げる。

「……は、はい! そうですよね! まかされました!」

 その意図を汲んだサキが、アリサとハイタッチを交わし、胸を張って中堅戦に挑んでいく。

 いつも自分に自信が無いサキらしからぬ言動だが、アリサのファイトがその勇気の源になったのなら。

(あたしはあたしの役目を果たせたってことよね。ユキ……)

 心の中で親友に語りかける。

 そして、ベンチの隅の方で、アリサの勝利をさも当然という風を吹かせて腕組みをしている白髪の後輩に声をかけた。

「ミオちゃん」

「なんでしょう」

 いつも通りの声音で、いつも通りの返答が返ってきた。

「ありがとね」

「どういたしまして」

 ミオはそれだけ言って、礼を言われるようなことはしていないのにとばかりに、小さく肩をすくめた。

 

 

「何だ。オウガのやつ、偉そうなこと言って補欠なのかよ」

 ファイトテーブルでサキと向かい合ったアラシは、響星ベンチを覗き込む仕草をしながら、開口一番にそう言った。

「オウガ君のこと、あなたに何が分かるんですか」

 さすがにむっとして、サキが咎める口調で言い返す。

「おっと。気を悪くしたんなら謝るぜ。口が悪いってよく言われる。直すつもりはねーけどな」

「それはどうかと……」

「あと、誤解してほしくないんだが。俺はオウガのこと、けっこう認めてるんだぜ?」

「……え?」

「むしろ俺が気にしているのは、アンタが本当にオウガより強いのかってことだな。え? どうなんだ?」

 軽薄な口調の裏で、静かな怒気の炎が燃える。

 逆恨みにもほどがあるが、彼は本気でオウガとヴァンガード甲子園でファイトすることを楽しみにしていたのだろう。

「そ、それは……」

「ま、やってみたら分かるこったな。せいぜい楽しませてくれよ?」

 気分屋なのか、その怒りもあっという間に霧散し、今度は鋭い目つきでサキを見据える。

 目の前の敵に集中していると言うよりかは、獲物を品定めするかのような無遠慮な視線だった。

「は、はい。よろしくお願いします」

 両者の準備が整ったのを見てとったジャッジがファイト開始を宣言する。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

 そして、嵐のような中堅戦が始まった。

 

 

「んー……《七海剣豪 スラッシュ・シェイド》で、リアガードの《餓竜 メガレックス》にアタック」

「ノ、ノーガードです」

「へへっ。『七海』のアタックがヒットしたので、6つ目の財宝を頂くぜ!

 ヴァンガードの《七海覇王 ナイトミスト》でアタック!」

 一方的なファイトだった。

 先の敗戦など、奇跡が偶然積み重なっただけにすぎなかったと観客に知らしめるには十分すぎるほど。

 サキもそれに対して落ち着いてファイトができている。ひと月前の彼女を知る者が見たなら、その成長に舌を巻いたことだろう。

 だが、そんな彼女の頑張りをも真っ向から否定する、どうしようもないほどの実力差。

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……★トリガー! ★はヴァンガードのナイトミストに!」

 全団船長(ナイトミスト)の指揮する一際大きな帆船が、ギガレックスの横腹に衝角をぶつける。巨獣が怯んだその隙に、船長はすかさず次の合図を送ると、死を恐れぬゾンビやスケルトンの船員たちが火のついた砲弾を抱えて、次々と船から飛び降りた。

 轟音と爆風が巻き起こる中、怒り狂うギガレックスの瞳が最期に捉えたのは、コートを翻し、優雅かつ猛然とカットラスを構えて迫るナイトミストの姿だった。

「ダメージチェック……負けました」

 サキのダメージゾーンに6枚目のカードが置かれる。

 歓声は無かった。

 誰もが夢から覚めた直後のように言葉を無くしていた。

「ま、まあ、その何だ。相手が悪かっただけだ。気にすんな」

 さすがにやり過ぎたと感じたのか、アラシが下手な慰めを口にする。

「バ、バカにしないでください!」

 思わずサキが言い返すと、アラシは冷たい目でサキを見据えた。

「……そうかい」

 だがその時、サキは初めて自分がアラシにちゃんと見られているのだと感じた。自分と1学年しか違わない少年が放つものとは思えないプレッシャーに、肌が泡立つ。

「ここまで実力差を見せつけられて、まだ悔しいと思えているのなら。……確かに、アンタはオウガと同じくらいには強いのかもな。名前は?」

 ジャッジが何度も名前を呼んでいたはずなのだが、それは全く聞いていなかったらしい。

 軽く嘆息しつつ、サキは胸を張って名乗った。

「響星学園1年。藤村(ふじむら)サキです」

「サキちゃんか。覚えておくぜ」

 アラシは勢いよく立ち上がると、友人と別れる時のようにひらひらと手を振って天海サイドへと戻っていった。

(……私なんて、まだまだだよ)

 しばらく立ち上がる気力も無く、サキは心の中で独りごちた。

(もし本当に私が強くなれたのなら。その強さをくれたのは、きっとオウガ君なんだから……)

 

 

「勝ってきたぜー」

 対戦中の気迫はどこへやら。おつかいから戻ったかのような軽い口調で、オウガが天海ベンチへと帰ってきた。

「いよいよだな」

 セイジがベンチの隅に控える銀髪の少年に声をかける。

「うん。あの人の予言した通りになったね」

 暗闇の奥で少年が立ち上がる気配がした。

「あの人? ……ああ、白河(しらかわ)ミユキか」

「そうだよ。響星学園……これまで名前も聞いたことのない無名高校が、本当にボク達を追い詰めるとはね。ファイトには勝ったが、人としては彼女に勝てる気がしないな」

「ほう? ナルシストのお前にそこまで言わしめるとはな。私も会ってみたいものだ」

「誤解しないでくれ。ボクはナルシストなんかじゃない。天に選ばれた人間として、使命を果たそうと足掻いているだけの、ただの凡人さ」

「そういうことを億面も無く言えるのが……まあ、いい。楽しんでこい」

「そうさせてもらうよ」

 そう言って、銀髪の少年がゆっくりと出ていった。

「へへっ。いよいよだな」

 入れ違いで、アラシがベンチに寝転ぶように腰かけて言う。

「ああ。世界が綺羅ヒビキを知る時が来たのだ」

 重々しく呟き、セイジは少年の後ろ姿を静かに見守った。

 

 

「天海学園大将、綺羅(きら)ヒビキ選手! ファイトテーブルへ!」

 ミオがファイトテーブルにつくと、続けてジャッジが天海学園大将の名を呼ぶ。

 公式戦出場記録無し。天海そのものが強すぎるが故、これまで謎のベールに包まれていた天海学園大将「綺羅ヒビキ」を見逃さんと、観客達は静まり返って天海サイドを見守っていた。

 だが、天海ベンチの奥からすらりと背の高い人影が姿を現したその瞬間、会場全体が感嘆の溜息に包まれた。

 天の川のように煌めく銀の長髪。目鼻立ちは芸術の神が掘り起こしたかのように整っており、彼が瞬きするたびに星が輝いて見えた。

 それはまさしく、幻想詩の世界から飛び出してきたかのような、人智を超越した美少年であった。

 彼は制服の胸ポケットに挿していた赤いバラを、ピッ指に挟んで抜き取ると口にくわえてみせる。それだけの仕草で、会場から女性のものと思われる黄色い歓声がそこかしこからあがった。

 綺羅ヒビキは、まるで赤い絨毯の上を進むかのような優雅な足取りで、ファイトテーブルへとたどり着いた。そして、ミオの傍に片膝をついて跪くと、口にしていた薔薇を手に持ち、スッと差し出す。

「ボクの公式大会での初ファイトが、貴方のような美しい女性とは光栄だ。今日という奇跡を記念して、この薔薇を受け取ってもらえないだろうか」

「え? それ、さっきまで口にくわえていたやつですよね?」

 ミオはすっぱりさっくり断った。

 彼女だけはヒビキの異様な雰囲気に呑まれることなく、いつも通り冷静だった。

 周囲の観客、特に女性からは刺すような敵意の視線が向けられたが、彼女はどこ吹く風だ。むしろ、気づいてすらいないだろう。

 そんな状況をヒビキは気にした様子もなく、いつの間にかファイトテーブルに置かれていた一輪挿しの花瓶にその薔薇を生けた。

「では、こうしよう。この薔薇が枯れるまでに、僕は彼女とのファイトを終わらせると宣言する!」

 美少年がオペラ歌手のように両手を広げて、観客席に向かって高らかと告げた。

「どれだけ長考するつもりなんですかあなたは」

 ミオのツッコミは誰の耳にも届かず、彼女以外の誰もがヒビキのパフォーマンスに熱狂的な声援を送っていた。

 いや、他にもただふたり。冷静に状況を見つめている者たちがいた。

「……恥さらしめ」

「ぎゃはは! 来月の月刊ブイロードの見出しは決まりだな。『天海学園の大将は薔薇の貴公子だった!?』ってな」

 こめかみを指で押さえているセイジと、腹を抱えて笑い転げているアラシである。

 そんなチームメイトの反応など知る由もなく、ヒビキは席について、細い指でミオを手招きした。その仕草だけは華やかで美しい。

「さあ、おいで。僕たちふたりでファイトという名の壮大なタピストリーを創り上げよう!」

 言葉が伴うとまったくの奇行に変じてしまうのだが。

(なるほど――)

 ファイトの準備を始めながら。ミオが心の中で、目の前の美少年を分析する。

(言動は意味不明。行動は予測不能。つまり――)

 彼女は最終的に、こう結論付けた。

(この人は手ごわいファイターですね)

「き、響星学園大将、音無ミオ選手! 天海学園大将、綺羅ヒビキ選手! ファイト開始!」

 その仕事に対する誇りの賜物か。いち早く気を取り直したジャッジが、ファイト開始を宣言する。

 それに応じて、両者が同時にカードを表にした。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《バミューダ△候補生 リヴィエール》!」

(……バミューダ△)

「――!!」

 ミオが心の中で呟き、ヒビキが姿を現した時と同じか、それ以上に会場が騒然となる。

 これまで謎に包まれていた天海学園大将のクランを撮り逃さんと、そこかしこでマスコミによるカメラのシャッターが切られる音がした。

 ――バミューダ△

 それは戦乱の絶えない惑星クレイに咲いた大輪の水中花。

 世界的なアイドルである彼女達は、あらゆる戦場に現れては、祈りを込めて歌を唄う。

 その時ばかりは、荒ぶる竜も怒りを鎮め、戦を誇りとする騎士も剣を置き、音楽に聴き惚れた。

 侵略者の侵攻すら、ライブ演奏で止めたという逸話すら残されている。

 人魚の歌声には魔力が秘められていると人は言うが、彼女達の成功はそれだけではないだろう。

 真心を込めた歌は、誰の心にだって届くのだ。

 可憐なアイドル達は、今日も戦場を舞い、鎮静の音色を響かせる。

 いつか、誰もが平和な世界で好きな音楽に耳を傾けていられる。

 そんな日が来ることを願いながら。

 

 

「ライド。《一世一代の告白 アウロラ》」

 コロコロと鈴を鳴らすような透き通る声音で、後攻のヒビキがG1にライドする。

「まずはリヴィエールのスキルで1枚ドロー。クイックシールドも手札に加えさせてもらうよ。

 さらに、アウロラのスキル。カードを1枚引いて……うん。クイックシールドを捨てようか。

 さあ、バトルフェイズだ!」

(いきなり連携ライドに失敗してますけど)

「アウロラでヴァンガードにアタック!」

 ヒビキはことさら気にした様子もなく、楽しそうにゲームを進めている。

「ノーガードです」

「ドライブチェック……ノートリガーだよ」

「ダメージチェック……引トリガー。カードを1枚引きます。

 私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《難渋の根絶者 ガーヱ》。

《略奪する根絶者 ガノヱク》をガーヱの後列にコール。《発酵する根絶者 ガヰアン》、《迅速な根絶者 ギアリ》もコールします。リアガードの数で上回っているので、ギアリは+4000されます。

 バトルです。ガノヱクのブースト、ヴァンガードのガーヱでアタック」

「ふふふ……なるほど」

 ヒビキが目を細めて微笑み、

「ガーヱのアタックを通した場合、僕は次のターンに手札を捨てなければならなくなる。

 一方、ギアリのアタックを通した場合、君にドローを許してしまう。

 そして、どちらかでも通せば、ソウルのファルヲンはソウルブラストでドロップゾーンに置かれてしまう。うん。素敵な盤面だね」

 自分の置かれた不利な状況を、楽しそうに解説し、称賛した。

「それはどうも。で、ガードはどうしますか?」

「そうだね……仕方ない。ガーヱのアタックはノーガードとさせてもらうよ」

「わかりました。ドライブチェック……トリガーはありません」

「ダメージチェック……ボクもノートリガーだ」

「では、まずはガーヱのスキル発動。手札からカードを1枚捨てて、次のターン、ライド時に手札を1枚捨ててください」

「ふっ。承知したよ」

「ガノヱクのスキルも発動。SBして、このカードを手札に戻します。

 続けて、ガヰアンのブースト、ギアリでアタックします」

「それは防がせてもらうよ。《恋への憧れ リーナ》でガード。

 これでボクのターンだね。スタンド&ドロー!」

 ヒビキが優雅な仕草でカードを引くたび、周囲から黄色い歓声があがる。

「手札を1枚捨ててライド! 《甘美なる愛 リーゼロッテ》!

 リーゼロッテのスキル発動! 山札の上から1枚……《From CP セレナ》をスペリオルコール!

 ならばキミの出番だ! 手札から《From CP ソナタ》をコール!

《マーメイドアイドル リヴィエール》もセレナの後列にコールだ!」

「……なるほど」

 今度はミオが小さく唸った。

「意趣返しというわけですか」

「わかるかい?

 バトルだ! リヴィエールのブースト、セレナでアタック! ソナタの旋律スキルでパワー+5000! 合計パワーは25000!

 そして……」

「アタックがヒットした時、手札が4枚以下の場合、1枚ドロー。ですね?」

「そうさ。キミがボクの手札を減らしてくれたおかげだよ」

「……ノーガードです。ダメージチェック、トリガーはありません。ドローをどうぞ」

「ありがとう。ドロー。

 続けて、ヴァンガードのリーゼロッテでもアタックするよ」

「ギアリでインターセプト。それにガノヱクでガードします」

「ドライブチェック……治トリガー! 回復はしないがパワーをソナタに! ソナタでヴァンガードにアタック! こちらもパワーは25000!」

「ノーガードです。ダメージチェック、トリガーはありません」

「ボクはこれでターンエンドだよ」

 現時点でミオのダメージは3。ヒビキのダメージは1。手札差もミオの4枚に対して、ヒビキが6枚

(ここまではさすがと言ったところでしょうか。ですが、根絶者の本領はここからです)

「スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》」

 ミオの呼びかけに、虚無を体現する巨影が姿を現す。

 デッキの主力はバヲンとグレイドールになったが、序盤からリードを受けた時のため、グレイヲンも投入していたのだ。

「イマジナリーギフト、フォースⅡはグレイヲンへ。

 グレイヲンのスキル発動。リーゼロッテをデリートします」

 根絶者の容赦無い一撃が、少女の存在をこの世から消し去り、それに憑依していたヒビキの魂をいぶりだす。

「ふふっ。ひどいな」

「ヴァンガードがデリートされたので、ドロップゾーンのファルヲンをグレイヲン後列にスペリオルコールします。

 手札から《呼応する根絶者 エルロ》をコール。ドロップゾーンから《呼応する根絶者 アルバ》をスペリオルコールします」

「アルバ? ああ、そう言えばガーヱのコストとして捨てていたね」

「はい。バトルです。

 ファルヲンのブースト、グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

「ふむ……」

 ヒビキがあごに手を当てて考える仕草をとる。

 同じ天海の大将とは言え、セイジほどプレイングは速くないらしい。

「ノーガードだよ」

 やがてヒビキは諦めたように小さく苦笑して、そう宣言した

「ツインドライブ。

 1枚目、★トリガー。★はグレイヲン。パワーはアルバに。

 2枚目、★トリガー」

 2枚目の★がめくられた瞬間、会場が悲鳴に似た歓声に包まれた。観客はヒビキを応援している人が多いようだ。ミオにとってはどうでもいいことではあったが。

「★はグレイヲンに。パワーはアルバに」

 巨大な爪に虚無を纏わせ、グレイヲンがヒビキの魂を斬り裂いた。

「ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し。

 3枚目、よかった! 引トリガー! 1枚引いて、効果は全てヴァンガードに!」

 ヒビキが無邪気にトリガーを見せつける。

「4枚目、はトリガー無しだね」

「では、グレイヲンのスキル発動。セレナを裏でバインド(バニッシュデリート)します。

 続けて、ガヰアンのブースト、合計パワー42000のアルバでヴァンガードにアタックします」

「《煌めきのお姫様 レネ》で完全ガード!」

 ヒビキの前に立ち塞がった人魚の少女が、聞く者を安らぎへと誘う穏やかな歌声を響かせる。

 それは根絶者にとってすら例外ではなく、拳を振りかざしていたアルバも戦意を失い、両腕をだらんと垂らしてその音色に聞き惚れた。

(……さっきの引トリガーで引かれましたか?)

 最初から完全ガードを持っていたなら、グレイヲンのアタック時に使うという選択肢もあったはずだ。それとも、さすがにダブル★は予測できなかったか。

「……エルロでソナタにアタックします」

「ノーガード。ソナタを退却させるよ」

「私はこれでターンエンドです」

 ミオは静かに宣言した。

 自分が優勢だ。引きもいい。それは間違い無い。それなのに……

(私が勝てるイメージがまったく見えてこないのは何故でしょう)

 ファイトが始まって、一瞬たりとも笑みを絶やさないヒビキを見据え、不安を覚えると同時、その感覚にどこか一抹の懐かしさをミオは感じていた。

 

 

「ア、アリサさん! ミオさんが優勢ですよ! これは本当の本当に! ひょっとして、勝てるんじゃないでしょうか!」

 響星サイドのベンチで、サキが興奮を抑えきれずと言った様子で、アリサの肩を掴んで揺する。

「セイジ先輩のような判断力も無ければ、アラシのような予測も無い。これが天海の大将なのか? もしかして最弱だから大将に押し込められたとか?」

 オウガは拍子抜けしたように、そう分析した。

 だがアリサだけは難しい表情をして、首を傾げている。

「そうよね。そう見えるんだけど……」

 自分はこの光景を知っている。

 どれだけダメージを与えても、どれだけ手札を削っても。とある少女は決して余裕の笑みを絶やさず、華麗に逆転勝利を飾っては、それすらも予測の範囲内だったと嘯く。

 それは1年前の部室で、何十回、何百回と繰り返されていた光景。

 最後まで手が届く気を起こさせなかった、究極の心理戦術(ポーカーフェイス)

「あの子、似てるんだ」

「え?」

 アリサの呟きに、サキが疑問符を浮かべる。

「あのヒビキっていう子のプレイングがね。そっくりなの。響星学園カードファイト部最強のOG、白河ミユキに」

「それがどうかしたんすか?」

「彼女が使う本気のデッキに、ミオちゃんは1年間、1度も勝てなかったのよ」

 オウガ達は困惑した様子で顔を見合わせた。

 ユキの強さを知らない後輩2人に、その脅威を伝えるのは難しい。

 だがアリサは、ヒビキの人の好い笑顔に、底知れぬ絶望を思い出していた。

 

 

「ふふ。ふふふふふ……素晴らしいよ!」

 ターンが回ってきたヒビキは、カードも引かず楽しそうに笑うと、手札をテーブルに置いて、ミオに拍手を送った。

「ユニット1体1体の特性を把握した、愛に溢れた戦略。キミの根絶者に対する想いが伝わってきたよ」

「ありがとうございます」

 根絶者との絆を褒められたのは素直に嬉しかったので、ミオは小さく頭を下げた。

「キミがボクの初めてで本当によかった。

 ファイト前はキミの華憐な美しさを見て思わず同じことを言ってしまったが、今は改めて心からそう思うよ」

「はあ」

「こんな楽しい時間を、もう終わりにしなければならないなんて……悲しいね」

「……え?」

 その呟きを境に、ヒビキの気配が変わった。

「ファイナルターン!!」

 力強く宣言すると、カードを引く。

 そして、詩を読み上げるかの如く流麗に言の葉を紡ぎ、デリートされたユニットに新たなカードを重ねた。

「終わり無き伝説よ。永劫不滅の歌声を以て、大海原から世界を繋げ!

 ライド! 《トップアイドル リヴィエール》!!」

 漆黒の水面から、黄金色の髪をした美しきマーメイドが姿を現す。

 水しぶきが月明かりを浴びて真珠のように輝き、その純真な笑顔を彩った。

「イマジナリーギフトはフォースⅡをヴァンガードに!

 リヴィエールの登場時スキル発動! 手札を1枚捨て、カードを2枚引く!

 ……ふっ。ボクの手札に運命的な邂逅があったようだよ」

「はい?」

「コール! 《パールシスターズ ペルル》! 《パールシスターズ ペルラ》!」

 その名の通り、真珠をモチーフにした艶のある純白の衣装で着飾ったマーメイドの姉妹がリヴィエールの両隣で舞う。

(そんなカードを……)

「コール! 《新米アイドル ピエーナ》! 《愛され天然 フォル》!

 さあ、バトルだ! フォルのブースト! リヴィエールでヴァンガードにアタック! 合計パワーは28000だよ!」

(私の手札は5枚。そのうち完全ガードは1枚。★トリガーを引かれると仮定するなら、これはパールシスターズのどちらかに残しておかなければなりませんね)

「2枚の★トリガーでガードします」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! 効果はすべてペルルに。

 そして、リヴィエールのスキル発動!!

 手札を2枚捨て、《トップアイドル リヴィエール》にスペリオルライド(アンコール)

 リヴィエールの登場時スキルで、1枚捨てて、2枚引かせてもらうよ。

 伝説は終わらない……再び、リヴィエールでヴァンガードにアタック!」

「これも★トリガーでガードします」

「ドライブチェック! …………★トリガー! 効果はすべてペルラに! これでボクのパールシスターズは2人とも★3になったよ!」

 リヴィエールの歌声が世界を震わせる。

 周囲を飛び回っては生物を蹂躙していた根絶者達が、次々と戦意を失い地上に落ちていく。

 心無き者の心すら揺さぶる音楽(メロディ)が流れる中、グレイヲンはそれに最後まで抵抗していた。

『我に平穏などいらぬっ! 我が求めるのは虚無のみ! 永遠に続く終焉こそが我が望み!』

「ピエーナのブースト! ペルルでヴァンガードにアタック!」

『そんな人生、面白くないでしょ!』

 気の強そうな人魚の少女が、歌いながらグレイヲンを叱りつける。

『そうだよ! 一緒に歌おう! そうしたら、きっと分かり合えるから!』

 純粋な瞳をした人魚の少女が、グレイヲンに手を差し伸べる。

『分かり合う、だと? 惑星クレイに生まれた生命ですらない我が? 貴様らと?』

『『関係ないっ!!』』

 姉妹は同時に言い放った。ふたつの言葉がぶつかり合い、波紋となって、どこまでも広がっていく。

 その時、グレイヲンはイメージしてしまった。

 惑星クレイに受け入れられ、砂浜で目の前にいる少女達の歌を静かに聴いている、そんな自分を。

『グッ! オオオオオオオオオッ――!!』

 グレイヲンは絶叫すると、自らの胸に腕を突き立てた。そして、芽生えた感情を否定するかのように、その心を掴んで握り潰す。

『そのような未来は来ない……』

 核を失い、グレイヲンの体が崩れていく。

 人魚の少女達が必死に手を伸ばすが、彼女達が触れようとした部分から、逃げるように塵となって消えていく。

『この世界を虚無で満たすことが叶わぬなら。せめて虚無と一つになろう……』

『――!!』

『――!!』

 少女達が何かを叫んでいるが、もはや何も聞こえない。

『さらばだ。惑星クレイの歌姫よ』

 最期に言葉を発した時、グレイヲンは自分が微笑んでいることに気付き、やがてその意識ごと全てが虚無に沈んでいった。

「ダメージチェック……トリガーはありません。負けました」

 ペルルのアタックをノーガードで受け、治トリガーを引けなかったミオが頭を下げた。

「勝者! 綺羅ヒビキ!!」

 ジャッジがヒビキの勝利を宣言すると、観客席が爆発したかのような歓声と拍手がスタジアムを支配した。終わってみればヒビキの圧勝だったと、彼らのほとんどはそう感じていた。

 一時のピンチも、すべて勝利を引き立てるための演出でしかなく、全ては彼の手の内、台本(シナリオ)通りであったと。

「ありがとう。楽しいファイトだったよ」

 ヒビキが白い歯を光らせて、ミオに握手を求めてきた。

「ええ。負けはしましたが、悪くないファイトでした」

 ミオも小さい掌でそれを握り返す。

「キミとはまたファイトをしたいな。ヴァンガード選手権でまた会えるだろうか?」

「確約はできませんが、エントリーはするつもりですよ」

「そう。よかった。キミとはきっとまたファイトができる。そんな運命を感じるよ」

「そんなものは感じていませんが、その時はぜひ」

 その言葉を契機に、ヒビキは名残惜しそうにミオから手を離すと、律儀に四方の観客席に一礼してから悠々と天海サイドへと引き上げていく。

 ミオもゆっくりとした足取りで、響星サイドへと戻った。

「すみません。負けてしまいました」

 淡々と報告する。

「どうだった?」

 端的にアリサが尋ねた。

「はい。とても楽しかったです」

 悔しくないと言えば嘘になる。

 それでも、ミオは晴れやかに微笑んだ。

「よかった。お疲れ様」

 アリサはそう言って、隣に腰かけたミオの頭を優しく撫でた。

 ミオは一瞬、気難しい猫のように身をよじってそれをかわそうとしたが、やがて諦めたようにされるがままになり、いつしかその頬をアリサの肩へと寄せていた。

 彼女達のヴァンガード甲子園は終わったのだ。

 

 

 真っ赤な夕日が、スタジアムの白い天井を燃えるような紅に染め上げている。

 既に多くの高校がこの地を去り、露店もほとんどが店を畳んでいるため、朝の賑わいが嘘のように会場全体が静まり返っていた。

 今頃は飲食店――特に食べ応えのあるラーメン店などは繁盛しているかも知れない。

「兵どもが夢の跡って感じね」

 アリサがポツリと呟く。

 甲子園と銘打ってはいるが、一試合が短い都合上、その全日程は2日で終了する。

 ベスト8まで残った高校には無償で宿泊施設が提供されるほか、敗退した高校でも、部活に力を入れているところであればホテルの一室と2日目の観戦チケットを部費で購入しているところもある。

 もっとも、倉庫まがいの部室に押し込められていることからも分かる通り、響星学園カードファイト部はそこまで期待されていないので関係の無い話ではあった。明日は部室に新たに設置されたパソコン「デリート1号」で観戦することになるだろう。ミオが自作したPCであるそれは、スペックはすこぶる良いが、いかにもデータが消えてしまいそうな名前は部員から不興を買っている。

「前々から話はしていたけどね。あたしは受験もあるから、これでカードファイト部を引退するからね」

 アリサはスタジアムを見据え、後輩達に背を向けたまま大事な話を切り出した。

「次の部長はミオちゃんに任せるから。引き継ぎで来月はたまに部室に顔を出すけど、その時はよろしくね」

「はい」

 ミオが小さく頷いた。

「あとは……あとは……サキちゃんや、ミオちゃんが気にするから、こんなことは絶対に言っちゃダメなんだけど。……ごめん、ムリ!」

 アリサは勢いよく振り返ると、ミオ達をまとめて抱き寄せた。

「みんなと同じ目標に向かって頑張ったこの数か月、本当に楽しかった! ヴァンガード甲子園の本戦にまで出場できて! 天海にまで勝てて! あたしは一生の思い出が作れた!

 でも……それでも! みんなと一緒にもっとファイトがしたかったっ! みんなと一緒にもっと遊びたかったよ!!」

 すでにアリサのは涙でベトベトに濡れていた。

「そんな……私も楽しかったですっ!」

「うおおっ! アリサ部長! いえ、アリサ先輩いぃぃっ!!」

 サキもオウガも涙を流し、アリサを抱き返す。

「…………」

 ミオはと言うと、らしからぬ顔で泣きじゃくるアリサの横顔を無表情に見つめ返していた。

 正直に言って、実感がわかなかったのだ。

 この1年半、常にミオの隣にいて微笑みかけてくれた優しい先輩が、この夏を境にいなくなってしまうことが。

 夕日はどこまでも赤くアリサの背中を照らし、セミの鳴き声がどこか遠くから聞こえていた。

 

 

 

 

 ――次の日、天海学園はこれ以上ヒビキを出すことはなく、圧倒的な強さでヴァンガード甲子園の連覇を果たした。

 だが、テレビや雑誌といった各メディアはこぞって綺羅ヒビキの名を採り上げ、業界は新たなヒーローの登場に沸き立った。




ここまでお疲れ様でした。
話の都合上、1話にファイトシーンが2つ挿入されてしまったため、過去最長になってしまいました。
ここまで読んでくださった方々に、まずは感謝を。

今回は、アクアフォース使い、清水セイジ。
バミューダ△使い、綺羅ヒビキが正式に登場です。

私がアントリオンをよく使っていた時期、もっともよく対戦していた人がアクアフォース使いだったので、アクアフォースVSメガコロは絶対に書きたい場面のひとつでした。
絶対正義と絶対悪。尽きぬ水流と渇きの砂塵。決して相容れない者同士の対決は非常に絵になります。
今回は話の都合により負け戦になりましたが、今後も活躍してもらう予定なので、アクアフォースファンは楽しみにして頂けたらと思います。

そして、ついにバミューダ△です。
根絶少女の基本コンセプトは「アニメで活躍の少ないクランに光を」なので、バミューダ△をボス格に使わせることは、早い段階から決めていたような気がします。
圧倒的なパワークランなので、実際、動きはボス向きなんですよね
問題は、その戦闘イメージをどのように描写するかですが、私の独自解釈を交えて、いわゆる「戦争なんてくだらねえぜ! 俺の歌を聞けぇ!」路線になりました。
私個人としては、バミューダ△ユニットのパワー=ファンの数で、アタック時にはそれらが大挙して襲い掛かってくるイメージで楽しんでいます。
アニメではヒレでどついたり、魔法少女みたいなビームを出したりしているので、意外と武闘派なのかも知れませんが。
かなりの自信をもって送り出したキャラクターなのですが、友人には6月の顔見せ時点でバミューダ△使いだと見破られていました。
何がいけなかったの?(たぶん名前

何だかあとがきも長くなってしまいました。
来週は「蝶魔月影」の「えくすとら」でお会いできれば幸いです。


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9月「仲間を呼ぶのは、正義だけじゃない」

 雑草すら枯れ果てた土と砂の世界に空風が吹き荒ぶ。渇いた川が地平の先まで伸び、周囲に反り立つ灰色の岩山は今にも崩れそうで、それはこの世界の行く末を暗示しているようも思えた。

「ふはははは! 世界から緑も蒼も消し去ってしまえい! この星を死の星へと変えてしまうのだ!」

 その中心で異形の男が高笑いをしていた。カゲロウの幼生、アリジゴクと人を融合させた怪人だ。

「そうはさせるものか!!」

 勇ましい声がどこからともなく荒野に響き渡り、赤いスーツの男がバク転をしながら現れた。その男に続くように、青、緑、黄、ピンク。色とりどりなスーツの男女がアクロバティックな動きで登場する。

「見つけたぞ! 悪の組織メガロダークの幹部、アリ地獄大帝!!」

「この地球をお前たちの好きにはさせない!!」

 スーツの男女が口々に説明口調で怪人を非難する。

 アリ地獄大帝と呼ばれた怪人は、鬱陶しそうに腕を振るうと、忌々しげに口を開いた。

「ええい! マスクドポリスめ! またも俺の邪魔をしに現れたか! バッタ戦闘員よ、やってしまえい!」

 アリ地獄大帝が手にした杖を地面に打ち付けると、スーツの男女を取り囲むようにしてバッタの怪人が現れ、彼らに跳びかかった。

「がんばれー!!」

「負けるなー! マスクドポリス!!」

「メガロダークをやっつけろー!!」

 渦中から少し離れた場所で固まってそれを見物していた子どもたちが、熱狂的な声援を送る。

 そこは荒野とは似ても似つかぬ平和な遊園地の一角で、彼らの頭上には『マスクドポリス ヒーローショー』という横断幕が大きく張られていた。

 今年で小学1年生になる天道アリサもそこに混じっていた。その中では年長となる彼女は、声こそあげなかったが、スカートをぎゅっと握りしめ、真剣な瞳をまっすぐ舞台に向けている。

「やっちゃえ、マスクドポリスー!!」

 その隣では、彼女の弟が無邪気に声を張り上げている。アリサは弟の付き添いで、このショーを見にきていたのだが、弟よりも大人になっていた分、彼女はより深いところでそれに没頭していた。

「ギィー!!」

 舞台の上では、最後の1匹となっていたバッタ戦闘員が、赤いヒーローの蹴りを受けて吹き飛ぶように退場していくところだった。

「やるな、マスクドポリス! 次はこの俺が相手だ!!」

 アリ地獄大帝が子ども達の方を向き、杖を高く掲げた。先端についている髑髏の装飾が妖しく光り、吹き荒れる風の効果音が大きさを増していく。

「ううっ!」

 赤いヒーローが喉を押さえて膝をつき、他のヒーロー達も次々と苦しみもがいて倒れていく。

「ふははは! この杖は生物の体から水分を奪う力があるのだ! このまま乾いて死んでいくがよい! ふははは! ふははははは!」

「大変! マスクドポリスが負けそうよ! みんな、マスクドポリスを応援してあげて!!」

 ショーの司会進行を務めていたお姉さんが舞台の上に現れ、子供たちに呼びかける。

「マスクドポリスー!!」

 子供たちが一丸となってヒーロー達を応援する。

「まだ足りないわ! もっともっと大きな声で!」

「マスクドポリスー!!!」

 子供たちの絶叫が遊園地の一角で爆発する。

「ありがとう、みんな!」

 赤いヒーローが立ち上がり、拳を握りしめる。

「バカな! 何故、立ち上がれるのだ!?」

 アリ地獄大帝が叫んだ。

「みんなの勇気が奇跡を起こしたんだ!」

「あ、ありえん! ありえんぞおおお!!」

 他のヒーロー達も立ち上がり、アリ地獄大帝の悲鳴にも似た怒号が舞台にこだまする。

 それは正義の味方にとっては当然の奇跡であり、これまで綿密かつ周到に計画を進めていた悪の手先にとっては理不尽極まりない結末でもあった。

「マスクドポリス!」

「マスクドポリス!」

「マスクドポリス!」

「がんばってぇ! アリ地獄大帝!!」

 ヒーローに向けられた声援を押しのけるようにして大きな声があがり、周囲の子供たちが一斉にそちらを振り向く。

 アリサがぽろぽろと涙をこぼしながらアリジゴク大帝を応援し、弟もそんな姉をあ然とした顔で見上げていた。

「負けないで、アリ地獄大帝! あたしは、あたしだけは応援してるからっ……!!」

 舞台の上では、彼女の応援むなしく、アリ地獄大帝がヒーロー達の力を合わせた必殺技で倒されていくところだった。

 

 

「だって、だって……マスクドポリスはあんなに応援してくれている仲間がいるのに……アリ地獄大帝はひとりぼっちで。あたしだけでも応援してあげなきゃって……」

 ヒーローショーの帰り道、どうして悪者を応援したのか母親に問われ、アリサは涙ながらに釈明した。

「……アリサは優しい子だねえ」

 そう言って、母はアリサの頭を撫でてくれたが、それ以上は何も言わなかった。

 きっと彼女自身も迷っていたのだろう。ともすれば異端となり得る、アリサの危うい優しさを肯定してあげるべきかを。

 ――天道アリサ 7歳の出来事であった。

 

 

 ――天道アリサ 18歳。

「――で、部費でカードを買った場合は、この台帳に記入するの。領収書はここに貼ってね。

 もちろん部費も無限というわけじゃなくて、こっちに残額を記録したファイルが別にあるから……」

 2学期になってカードファイト部を引退した彼女だが、まだ少しだけ部室に出入りしていた。

 その主な理由が、ヴァンガード甲子園に向けた練習で先送りになっていた、部長業務の引継ぎである。

 その相手は、もちろん2年生の音無ミオだ。

 時間は放課後。オウガとサキはすでに帰宅しており、窓からは眩い西日が差し込んでいた。

「なるほど」

 アリサの丁寧な説明に対し、ミオはメモも取らず、たまに首を縦に振るだけだったが、こういう時の彼女は信用できるとアリサも理解している。

「念のために言っておくけど、部費で根絶者のカードばっかり買っちゃダメよ?」

「はい」

 ミオが虚空を見ながら、こくんと機械のように頷いた。

「いや! フリじゃないからね!? 本当にダメよ!?」

 こういう場合の彼女は信用ならないともアリサは理解している。

 始めは何を考えているのか全く分からなかったが、今は以心伝心とも言える関係を築いていた。

 これが慣れというものか。

(いや、違うわね……)

 浮かんできた考えをバッサリ否定する。

 きっと、ミオが成長しただけなのだ。彼女自身がかつて望んだように、感情のまま笑い、喜び、泣き、怒り、たまに冗談を言ったりしている。ただそれだけ。

「引き継ぎはこんな感じかな。んー、1週間はかかると思ったけど、やっぱりミオちゃんが相手だと早いねー」

「はい。ありがとうございました」

「どういたしまして。月末にも仕事があるから、その時にはまた部室に寄るね。それが終わったら……あー、あたしもいよいよ受験戦争に本格参戦かー」

 アリサが脱力して、だらんと椅子に倒れこむ。

「ま、今回は適当にやらせてもらうわ。響星の名前があれば、それなりのところには行けるでしょ」

「そういえば。前々から不思議だったのですが、アリサさんはどうして響星に入学されたのですか? はっきり言って、響星の授業についていくのも難しい学力だと思っていましたが」

「本当にはっきり言うわね、あんたは……」

 アリサが半眼になってミオを睨む。

「けど、ミオちゃんの言う通りよ。あたしはかなり無理して響星に入学したから」

「何故ですか? やっぱりユキさんがいたからでしょうか」

「ううん。当時のあたしはユキが響星にいることすら知らなかったよ。だって、カードショップで顔を合わせてはヴァンガードの話ばっかしてる間柄だったからねー。どこの高校を目指してるだの、入学しただの、そんな話は一切しなかったよ。

 正直、年の差も意識してなかったし、あたしより1年早く中学校の制服を着てショップに現れたのを見て、(ああ一つ年上だったんだなー)って思ったくらいだもん」

「私も人のことは言えませんが、ヴァンガード以外のことにはなかなか無関心ですね」

「うん。その話をユキにしたら……」

『あら。私はあなたのことを3つくらい年下だと思ってたから、私が中学生になって1年後に、制服を着たあなたがショップに現れたのを見て腰を抜かしたわよ』

「とか言いやがるのよ!? ムカつくー!!」

 アリサがバンバンと机を叩いて、遺憾の意を示す。

「それで、ユキさんが理由ではないとしたら、アリサさんが響星を目指した理由は何だったのですか?」

「あたしが響星を目指した理由は簡単よ。中学校で進路指導の面談があった時、特に行きたい高校も決まってなかったから、冗談で難関校の名前ばっかり書いて進路希望を提出したのね。そしたら、その時の教師に『お前じゃ無理だ』って頭ごなしに否定されてさ。さすがのあたしもそれにはカチンときて、『絶対に響星に合格してやるから、後で吠え面かくなよ!』って啖呵切って進路指導室を飛び出したの」

「ロックですね」

「で、その日から猛勉強に猛勉強を重ねて、奇跡的に響星学園に合格したのでした。すごくない?」

(中の上レベルの生徒がちょっと発破をかけるだけで響星に合格したことを考えると、教師としては吠え面どころか万々歳な気がしなくもないですが)

 その教師は、今頃さぞ出世して大きな顔をしているに違いない。

「で、響星に入学して、カードファイト部を覗いてみたら、ユキの姿があるじゃないの! あれはお互い本当に驚いたわねー。ユキは、あたしが響星に入学できたことの方に驚いてたみたいだけど」

「そもそも、ユキさんが響星に入学できたことも不思議なのですが。あの人の英語の成績だと、他が満点でも足切りの対象ですよね。

 昔、ユキさんの英語のテストの答案をちらりと見てしまったことがあるのですが、『犬』を『bog』と英訳していたのを見た時は、さすがに我が目を疑いました」

「ボッグ!?」

「教師もサービス問題のつもりだったのでしょうが」

 サービスどころか、後進に語り継がれるほどの赤恥になってしまっている。

「まあ、あいつなら英語ができないのは恥とも思っていないでしょうけど。

 あいつが響星に入学できた理由も知ってるよ。

 入試が終わったあとの面接で、あいつは面接官の教師にこう言ってのけたの」

『私の英語の成績は、きっとあなた方の理想には届いていないと思います。ですが、たったそれだけの理由で。英語ができないなどというくだらない理由で、この私を採らないつもりでしょうか?

 その場合、この学園は後の世に『白河ミユキを入学させなかった愚かな高校』として名を残すことになるでしょうね。……永遠に』

「ってさ」

「自己アピール通り越して、もはや脅迫ですね」

「当時から、何だかスゴくてメチャヤバい着物姿の女子中学生がいるって噂は、高校教師の情報網に流れてたらしいしね。

 その後、採用担当が緊急会議を開いて、ユキを入学させるべきかで一晩中議論したらしいよ。

 もはや英語の成績とか関係無く、人としてどうなんだって議題で」

「扱いが三国志の呂布や曹操みたいになってますね」

 それでも、100%落とされるだけだった状況を、入学させるか否か、2択の議論にまで好転――すり替えたと言うべきか――させただけでも凄まじい。アリサの伝聞だけでは伝わらない、よほど巧妙な舌先三寸で面接担当者を煙に巻いたのだろう。

「けどまあ実際、ユキを入学させないのは、永遠に汚名を残すのかは知んないけども、もったいないよ。

 ユキが来て、伝統ばっか重んじて生徒に窮屈な思いばかりさせてきた響星が、僅か3年でのびのびとした校風になったって、世間では評判らしいし」

 古風な見た目に反して、ユキは革新を重んじる。

 生徒のバイトを認めさせたのはアリサ達の記憶にも新しく、過去には、学園の重役を兼任していて誰も口出しできなかった、日常的に体罰を振るっていた暴力教師を、ここにはとても書けないありとあらゆる手段を講じて懲戒に追い込んだという伝説も残っている。

(その柔軟な思考を、どうして英語に向けられないのかが謎ですが)

 ミオは心の中で首を傾げた。

「話を戻すけどさ……」

「何の話をしてました?」

「あたしよ! あたしが頑張って響星に入学したって話!!」

 アリサ一世一代の逆転劇も、ユキの壮絶な入学秘話の後だと、凡人にはよくある人生のひとつに思えてしまう。

「実際、あたしは無理がたたって、響星の授業には全くついていけてないわけなんだけど。

 ここの先生、受験勉強で覚えた知識を全て記憶してる前提で進めてない!? そんなの、受験が終わった時点でパーッとどこかに飛んでいったわよ!」

「進学校ですからね」

「おかげでテストも散々だし。先生にも目をつけられるし。

 だから、大学は身の丈にあったところを選ぶの。遊んでばっかの有意義なキャンバスライフを過ごすのよ!」

「それはそれで大学を舐めていると思いますが」

「……ふふふ。思えば、ミオちゃんとヴァンガード以外の話をするのも珍しいよね」

 そう言って、アリサが顔をほころばせる。

「そうですね」

「そんなわけで、ここらでそろそろヴァンガードしない?」

「何でそうなるんですか。日常パートの流れだったでしょう」

 口ではツッコミながらも体は正直で、ミオの右手は条件反射的にカバンからデッキを取り出してはいたが。

「いいじゃない。新しいメガコロのデッキ、試させてよ」

「1回だけですよ? もうすぐ下校時間ですし、アリサさんは受験生なんですから」

「それよ! 何でこの時期にメガコロ強化なの!? メガコロ受験生の人生を歪ませにかかってない?」

「どれだけ強引な被害妄想なんですか」

 ブツクサと文句を言うアリサと、半眼になっていちいち受け答えするミオだったが、手はしっかり動かしており、いつの間にかテーブルの上にはファイトの準備ができあがっていた。

「それじゃ、はじめましょ」

「はい」

「スタンドアップ!」

「ヴァンガード」

「《年少怪人 ワーレクタス》!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

 

 

 ――天道アリサ 9歳

「はい、お誕生日おめでとう」

 そう言ってぶっきらぼうに、飾り気のない紙袋を弟に押し付ける。

「ヴァンガード……『虚影神蝕』っていうの? あんた、欲しがってたでしょ」

「マジで!? 2箱も!? ありがとう、姉ちゃん!」

 普段は可愛げの無い弟だが、この時ばかりは満面の笑みで素直にお礼を告げた。

 鼻歌交じりでパックの封を開け、当たったカードに一喜一憂している様子を、椅子にだらしなく腰かけながら眺める。

 それは本当に楽しそうで、プレゼントを買った本人も少し羨ましくなってしまうほどだった。

「おっ! 《イニグマン・ストーム》じゃん! やっぱヴァンガード始めるならディメンジョンポリスだなー」

「おー、よかったね。

 ……ねえ、お姉ちゃんにも少し分けてよ? カードゲーム始めるなら、対戦相手も必要でしょ?」

「うん! いいぜ! どれがいい?」

 ダメ元で提案してみたが、彼も誰かと対戦してみたくて仕方がなかったのだろう。おやつならひとかけらも姉に譲らないケチな弟が、二つ返事でクランごとに大別されたカードの束を惜しみなく差し出す。

 どのカードも格好良くて目移りしてしまうが、やがて1枚のカードに目が留まった。

「……お姉ちゃんは、これかな」

「メガコロニー? 悪の怪人かよ。ロイヤルパラディンとかの方が初心者向きだぜ?」

「うん。あたしはこれで……。ううん。これがいいの!」

 どこか懐かしさを感じさせるアリジゴクの怪人を手に、アリサは力強く笑みを浮かべた。

 それから2人でデッキを組んだ姉弟は、心ゆくまでヴァンガードで対戦した。今日に限らず、明日も、明後日も、明々後日も。

「《ステルス・ミリピード》のブースト! 《デスワーデン・アントリオン》でアタック!」

「ノーガード! ダメージチェック……くー、また負けたー! 姉ちゃんは強いし、容赦ねーな!」

 そう言って、弟は負けても楽しそうに笑っていた。

 もちろんアリサも勝っても負けても楽しかったが、心の中では別のことも考えていた。

(この世界では、悪の怪人が勝ってもいいんだ……)

 漫画やアニメの世界では決して赦されない禁忌が、天道家のテーブルの上では日常だった。

 悪人が本当に世界を支配していいとは、子どものアリサでも思わない。

 しかし――

 悪役が自分のイメージの中で報われるくらいならいいではないか。

(もっともっと、この子達を勝たせてあげたいな……)

 やがて、弟とのファイトだけでは満足できなくなったアリサは外の世界(カードショップ)へと飛び出し、とある少女と運命的な出会いを果たすのだが。

 それはまた別のお話である。

 

 

 ――時は再び現代に戻り、

「ライド! 《ブラッディ・ヘラクレス》!」

 2点のダメージを受けた先行のアリサが、G2ユニットにライドする。

「コール! 《鹵獲怪人 スティッキーボーラス》!

 ボーラスのスキル発動! CB(カウンターブラスト)1して、山札の上から6枚確認……《百害女王 ダークフェイス・グレドーラ》と《威圧怪人 ダークフェイス》を手札に加えるよ。

 さらに《強酸怪人 ゲルドスラッグ》! 《ブローニィ・ジャーク》をコール!

 ジャークのソウルブラスト! デッキの上から1枚ドロップして……ノーマルユニットだったのでソウルチャージ! ……よしっ、G3が入った。

 さあ、バトルよ!

 ジャークのブースト! ヘラクレスでアタック!」

「……なるほど」

 盤面を俯瞰したミオが小さく唸る。

(ヘラクレスの攻撃を通してしまうとCC(カウンターチャージ)されてしまうのはもちろん、+6000のパンプでボーラスのドローまで許してしまうというわけですか)

 かと言って防ごうにも、トリガーを引かれることを想定するなら25000ガードが必要になってくる。

(相変わらず丁寧で、嫌らしい盤面です――が)

「治トリガーでガード。加えて、クイックシールドを使用します」

「ぐっ!?」

 いい気になっていたアリサが、今度は低く唸る番だった。

「もちろんそう簡単には通しませんよ。ドライブチェックをどうぞ」

 普段より僅かに饒舌になって、ミオが小さく胸を逸らしながら続きを促す。

「ドライブチェック……(クリティカル)トリガー! 効果は全てボーラスに!」

「相変わらず、転んでもタダでは起きない人ですね」

 再びドヤ顔に戻ったアリサに、ミオは呆れたように呟いた。

「ゲルドスラッグでブースト! スティッキーボーラスでアタック! ボーラスのパワーは20000以上なので、1枚ドロー!」

「これは受けましょう。ダメージチェック。1枚目、2枚目、ともにトリガーはありません」

「あたしはこれでターンエンドよ」

「はい。私のターンです。スタンド&ドロー。

 ライド。《迅速な根絶者 ギアリ》。

《速攻する根絶者 ガタリヲ》、《慢心する根絶者 ギヲ》もコールして、バトルです。

 ガタリヲのブースト、ギアリでヘラクレスにアタックします」

「アタックがヒットしたら、あたしのユニットがバインドされちゃう、か。目には目を。ヒット時能力には、ヒット時能力を。というわけね。

 あんたも、クールなようでいて負けず嫌いよねー」

「私は常に最善手を選んでいるだけですよ」

 ミオが澄ました顔で答えた。

(それはそうなんだろうけど、ミオちゃんの場合、この子の感情にデッキが応えているような気がするのよね)

 ふと浮かんできた突拍子もない考えを心の中で呟きながら、アリサは手札と盤面を見比べ、沙汰を下す。

「いいわ。これはノーガードよ」

「では、ドライブチェック……★トリガー。★はヴァンガードに。パワーはギヲに」

「ダメージチェック!

 1枚目、★トリガー! パワーをヴァンガードに!

 2枚目は、トリガー無し!」

「ギアリのアタックがヒットしたので、スキル発動します。《ブローニィ・ジャーク》を裏でバインド(バニッシュデリート)

 続けて、ギヲでアタックします」

「ボーラスでインターセプト!」

「ターンエンドです」

「あたしのターンね。スタンド&ドロー!

 ライド! 《百害女王 ダークフェイス・グレドーラ》!!」

 機械化された8本のツメで大地を抉り穿つように、巨大な蜘蛛が森林の奥からゆっくりと姿を現した。

 重厚な大蜘蛛の胴体には、蠱惑的な魅力を湛えた妙齢の女性が繋がっている。

 異形の女性は慈愛と憂いに満ちた潤む瞳で怪人達を見渡すと、続けて根絶者達に目を向けた。瞬間、彼女の目が獲物を見つけた肉食獣のように、されど気品は一切損なわず、スッと細まった。

 蜘蛛の胴体が七色に光る糸を噴出し、女性が細い指でそれを手繰ると、深い森が一瞬にして巨大な蜘蛛の巣へと変貌する。身の毛もよだつ不気味な光景だが、整然と等間隔で張り巡らされた輝く糸は、どこか芸術的で幻想的な景色も生み出していた。

 蜘蛛が跳躍し、できたばかりの巣にぶら下がる。絹よりもか細い糸は、その巨体を微動だにせず支えた。そして、女性が根絶者を高みから睥睨して告げる。

『無粋なる侵略者どもよ。我が領域に足を踏み入れ、我が愛し子を手にかけたこと。死よりも重き罰をもって償うがよい』

 彼女の名はダークフェイス・グレドーラ。

 惑星クレイのあらゆる森に潜む、昆虫たちの犯罪結社。メガコロニーを束ねる母にして女王である。

「イマジナリーギフトはプロテクトⅠ! そして、グレドーラのスキル発動!」

 アリサが宣言すると同時、グレドーラの糸が生き物のように蠢きながら根絶者達へと襲い掛かると、瞬く間にガタリヲとギヲを包み込んだ。その中央には、蜘蛛を模した紋章が不気味に浮かぶ。まるで棺桶のような佇まいだが、女王を含めたメガコロニーの怪人達はこれを暗黒繭(クレイドル)と呼ぶ。

 すなわち、揺り籠と。

「コール! 《新星怪人 リトルドルカス》! 山札の上から5枚見て……手札交換はしないよ。

 さらにコール! 《無双剣鬼 サイクロマトゥース》! 《威圧怪人 ダークフェイス》!

 さあて、バトルよ!

 サイクロマトゥースでヴァンガードにアタック! スキル発動! 山札の上から1枚ドロップしなさい!」

「……ノーマルユニットです」

「じゃあ、サイクロマトゥースに+10000、★+1! 合計パワーは22000!」

「★トリガーでガードします」

「続けて、ダークフェイスでアタック! ダークフェイスのスキル発動! 暗黒繭の置かれているギヲを退却!」

 女王(ダークフェイス)の名を継ぐメガコロニー最強の戦士が『ヒャッハア!』と、母とは似ても似つかない野蛮な声をあげて虫の大顎に似たツメを振るい、暗黒繭を両断する。その中から転がり落ちてきたのは根絶者の骸ではない。それに寄生していた怪人の幼虫が高らかに産声をあげる。

「これでダークフェイスのパワーは+10000! さらに暗黒繭の置かれたユニットが退却したので、あたしは山札からスティッキーボーラスを手札に加えるよ」

 ダークフェイスはツメから滴り落ちる体液を舐めとると、今度こそギアリめがけて突撃する。

「ノーガードです」

 粗野な言動はともかく、ダークフェイスが女王の力を色濃く受け継いでいることに違いはない。ひと振りで山をも切断する斬撃が根絶者に襲いかかる。

「つっ。ダメージチェック……トリガー無しです」

 流れ込んできた暴力的なイメージに、ミオは僅かに顔をしかめながらカードをめくる。

「リトルドルカスのブースト、グレドーラでヴァンガードにアタック! アタック時にダークフェイスを退却させてスキル発動!」

『ヒャーハハハ! 俺様の活躍、見てくれていましたか!? 陛下! 陛下ァ!?』

 女王を見上げて喚声をあげるダークフェイスに、優しくグレドーラの糸が巻きついていく。

『うむ。褒めてつかわそう』

 するするとダークフェイスの巨体がグレドーラの傍まで持ち上げられる。

『だが、おぬしの戦い方は野蛮が過ぎる』

 そして、グレドーラが冷たい声音で囁いた。眼下にはダークフェイスに薙ぎ払われ、荒れ地と化した森が広がっている。

『へ?』

『後は離れて見ておれ』

 グレドーラは糸を振り回し、ダークフェイスを投げ捨てた。

『陛下!? 陛下ァーッ!?』

 ダークフェイスは悲鳴をあげながら、森の遥か彼方へと飛ばされて消えていった。厳しさも愛のうちなのである。

『侵略者どもよ。見苦しいものを見せたことを謝罪しよう。これはその詫びだ。とくと味わうがよい』

 グレドーラが手を掲げて合図をすると、ダークフェイスの立っていた地面から、腐葉土を押しのけて伏兵が現れた。

「スペリオルコール! 《デスワーデン・アントリオン》! そして、グレドーラとアントリオンにパワー+10000!

 さあ、まずはグレドーラのアタックを受けるか防ぐか決めてもらおうじゃないの! オーホッホッホ!」

(何だか腹立つくらいに楽しそうですね)

 ミオは半眼になって、変な笑い声をあげるアリサを見据えた。

「……ノーガードです」

 ミオが宣言すると同時、アリサがすかさず山札に手をかける。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! ★はグレドーラ! パワーはアントリオンに!」

 無数の蜘蛛糸がギアリを絡めとると、残りの糸が鞭のようにしなり、その全身を斬り裂いていく。

「ダメージチェック……。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー。パワーはヴァンガードに」

「ゲルドスラッグのブースト! アントリオンでヴァンガードにアタック時、スキル発動! 手札を2枚捨ててアントリオンのパワー+10000! ★+1! このアタックは守護者ではガードできない!」

「引トリガー、★トリガー2枚でガードします」

「ヒュー♪ やるわね」

 へたくそな口笛を吹き、アリサがターンエンドを宣言する。

 気が付けば、ミオの手札は1枚。ダメージは5にまで追い詰められていた。

(これは久しぶりに負けるかも知れませんね)

 ミオは現状を冷静に分析した。

 アリサはヴァンガード甲子園で大金星をあげた勢いのまま、当時の主力に最新のカードを混ぜ合わせ、違和感なく使いこなしている。

 今の彼女を見れば、先の勝利をまぐれだと言う者は誰もいないだろう。

(ですが、私もただで終わるつもりはありません)

「ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》

 イマジナリーギフトは、フォースⅠを右前列に置きます。

 そこに《波動する根絶者 グレイドール》をコール」

 もはやフィニッシャーを温存している余裕は無い。

「グレイヲンのスキル発動。グレドーラをデリートします」

 グレイヲンが虚無を纏った右手でメガコロニーの女王を薙ぎ払う。その掌の中では王も神も無い。全てを等しく零へと還すのだ。森を覆う蜘蛛糸も主を失い、力無く地面に垂れた。

「ヴァンガードがデリートされたので、ドロップゾーンにいるファルヲンのスキルを発動します。このユニットをグレイドール後列にスペリオルコール」

(私の勝ち筋はダブル★のみと考えていいでしょう)

 効果処理と並行して、頭の中では次の戦略を組み立てていく。

(アリサさんがヴァンガードの攻撃を2枚貫通と言うなら、トリガー効果はすべてヴァンガードに与える。それしかありませんね)

 ミオはそう結論づけると、ターンをバトルフェイズに移行させる。

「グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

「《綿雪怪人 スノートリック》! 《ジュエル・フラッシャー》でガード!」

(合計パワー35000……トリガー効果をすべてグレイヲンに与えても届きませんね)

 そして、アリサの手札にはまだプロテクトが握られている。このターン中の勝ちは無くなったということだ。

「ツインドライブ。

 1枚目、(ドロー)トリガー。カードを引いて、パワーはグレイドールに」

 だが、ミオは諦めるということはしない。これまで積み重ねてきたものを放棄することは、何よりも非合理的だからだ。

 だから今も、自分ができる精一杯を淡々と実行する。

「2枚目、(ヒール)トリガー。ダメージ回復します」

(これで多少は持ち直しましたが、グレドーラにライドされて耐えられる状態ではないですね)

 だが、それ以外ならチャンスはある。ノーガードと完全ガードで2度のアタックは凌げるし、もう1枚の手札も治トリガーだ。

「グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「ノーガードよ。ダメージチェック、トリガーは無し」

「ターンエンドです」

「あたしのターン! スタンド&ドロー!!

 …………ライドフェイズをスキップ!!」

 ファイト終盤特有の、ひりつくような感覚の中、アリサがあっけらかんと宣言した。

「……はい?」

 ダークフェイスにライドされたパターン、サイクロマトゥースにライドされたパターンを、それぞれ頭の中で検証を繰り返していたミオは、どこか水を差された気分になって、思った以上に冷たい声が出た。

「だって、ライドできるG3が無いんだもん。手札見る?」

「いりません。ダークフェイスもサイクロマトゥースもあれだけコールしていたじゃないですか。そもそも、それなら何でリトルドルカスでG3を取れなかった時点でどちらかを温存しなかったんですか? 次のターンにデリートされるのは分かっていましたよね?」

 ミオの口調が説教じみてきている。もはやどちらが先輩か分からない。

「だってダークフェイスとサイクロマトゥースが揃ったら出したくなるじゃない! うーん。G3引けると思ったんだけどなー」

 結局、アリサは何も変わっていなかったのかも知れない。

 その場のノリで行動し、根拠のない自信を口にして――

(そして、いつでも楽しそうで――)

 ミオの口から「ふっ」と微笑にも似た溜息が漏れた。

「いいですよ、もう。ファイトを止めてすみませんでした。再開してください」

「はーい。《ファントム・ブラック》をコール!

 バトルよ! いよいよあたしの真の力を見せる時が来たようね」

 そう言ってアリサは、拳をゴキゴキと鳴らす仕草をした。実際に音は鳴らなかったが。

「リトルドルカスのブースト! ヴァンガード(あたし)でグレイヲンにアターック!!」

 霊体となったアリサが、拳を突き出しグレイヲンの巨体へと突撃する。

「治トリガーでガードします。パワー合計値は33000で、2枚貫通です」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! 効果はすべてあたしに!」

「?」

 まだアリサは賭けにでなければならないような場面ではない。ミオは目を見開いてアリサを見た。そして、真剣な表情をしているアリサと目が合った。

「あたしはこれと言った目標も無ければ、夢も無い。皆が行ってるからって理由で大学に行こうとして、それすらも適当に選ぼうとしているいい加減な女よ」

「まあ、基本いい加減なのは知っていますけど」

「けど、これだけは約束する。あたしは前に進むことだけはやめない! いつでもあたしが一番楽しいと思ったことをやる! その道がたとえどれだけ険しくてもやり遂げる!

 2枚目っ! ……★トリガー!! 効果はすべてあたしにっ!!」

 アリサの拳が、魂が、眩い光を放ち、あろうことかグレイヲンを守護するバリアがひび割れ、打ち砕かれていく。

「このファイトは! このトリガーは! あたしの決意表明だっ!」

 己を細く鋭い毒針と化して、グレイヲンの胸を一筋の閃光が貫いた。

 

 

「ふ、ふふっ、あはははっ。何ですか、それ?」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いたミオが、こらえきれずに笑い出した。

「新しいカードを試したくてファイトしたのに、デリートが解除できないからそのまま殴ってガード貫通って。

 ふふふっ、部活での最後のファイトなのに、何でそんなに締まらないんですか。

 ……む? どうしました?」

 口元を押さえて笑い続けるミオを、アリサはぽかんとだらしなく口を開けたままじっと見つめていた。

「いや。ミオちゃんが声をあげて笑うのって、はじめて見たから」

「……そう言えばそうですね」

 指摘されて始めて気づいたかのように、ミオもきょとんとした。

「たぶん、生まれて初めての経験だと思います」

「マジで!?」

「はい。やっぱり、アリサさんとのファイトは楽しいです」

「あ、ありがと。いやー、ユキに自慢できちゃうなー。ミオちゃんの笑い声を聞いたって……」

 顔を赤らめながらアリサ話題を逸らそうとする。

 だが、ミオはまっすぐにアリサを見据えて言葉を続けた。

「私、たまに思うんです。私とはじめてファイトしてくれた人がアリサさんでなかったら、ここまでヴァンガードを好きにならなかったんじゃないかって」

「んー。さすがにそれはないと思うよ」

「はい。私もそう信じたいです。

 けど、アリサさんとの初めてのファイトが、私にとっては今も特別なファイトで。私がヴァンガードをしていて一番楽しいと感じる瞬間は、やっぱり、あなたとファイトしている時です」

 照れや恥ずかしさなどといった感情とは無縁なミオの物言いは、常に直球だ。好きなものを好きと言い、愛しているものに不器用だが渾身の愛を叫ぶ。

「大好きです、アリサさん。私の目標はユキさんですが、きっと私は、本当は、あなたのような人になりたかった……」

「ミオちゃんならなれるよ」などと、アリサも気休めは言わなかった。アリサとミオとでは歩んできた道が違いすぎる。

 彼女のような生まれながらの天才には、孤高の道を凛と往く、ユキのような生き方がたしかに似合っている。

 そして、そんな天才達の支えになりたいと願い、がむしゃらに努力を続けるのが天道アリサの生き方だ。

「私、少し不安だったんですよ。アリサさんとお別れしなくてはならなくなったら、またみっともなく泣いてしまうのではないかと」

「泣くのがみっともないとは思わないけどねー」

「けど、そんな心配はなさそうです。たとえ別れの時であっても、アリサさんに相応しいのは笑顔ですから。私も笑ってお別れしたいと思います。

 ……さようなら、アリサさん。受験が終わったら、またファイトしましょう」

 軽く首を傾けて白い髪を揺らしながら、ミオは少女のような明るい笑みを浮かべた。

「うん。また来年ね。約束だよ」

 もちろんアリサも満面の笑みでそれに応えるのであった。

 

 

 誰もが正義の旗を掲げ相争う世界において、堂々と悪を名乗る組織がある。

 仄暗き地の底で蠢く、昆虫怪人達の秘密組織。

 その名は犯罪結社メガコロニー。

 慈愛に溢れた女王による庇護の下、今日も彼らは我が道を暗躍する(ゆく)




三国志では徐晃と夏侯淵が好きです。

アリサ引退回をお届けいたしました。
せっかくの機会ですので、女王陛下も使わせてみました。

次回「虚幻竜刻」のえくすとらは、紹介したいカードが多く、いつ公開できるか未定となっております。
お楽しみにしてくださっている方には申し訳ございませんが、今しばらくお待ちくださいませ。

【今月のデッキログ】
ヴァンガード公式サイトの「DECK LOG」で下記のコードを入力すると、今回登場したデッキが確認できます!

ミオデッキ_グレイヲン軸:GW2S
アリサデッキ_グレドーラ軸:JC66


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10月「これは、終わりに向かう過程に過ぎない」

 それはまるで神の生贄に捧げられたかのような少女だった。

 血の気を感じさせない白い肌。ぴったりと閉じられたまま微動だにしないまぶた。色素の抜け落ちた髪はシーツの上にまっすぐ均一にひろがっており、小さな掌は染みひとつない布がかけられた腹の上に重ね合わされている。

 とその時、白いカーテンの隙間から光が差し込み、少女の顔に重なると。

 死んだように眠っていた少女は、ぱっちりと瞳を開き、上体を直角になるまで起こした。

 時計が7時ちょうどを指していることを僅かに首を動かして確認すると、少女はまだ心地よい暖かさの残るベッドから躊躇無く抜けだし、大きく伸びをする。

 そして――

「おはようございます」

 だれもいない空間に挨拶をした。

 いや。視線の先には、シンプルな木製の勉強机があり、その上にはカードの束が置かれている。それは彼女が昨日の夜中まで調整を続けていたヴァンガード――この世界で最も流行しているカードゲームである――に使うデッキであった。

「今日もがんばりましょう」

 少女はデッキにもう一声かけると、丁寧にケースに収納し、通学カバンにしまい込んだ。

 誰に起こされるでもなく、目覚まし時計をかけるでもなく、予定していた時刻に目を覚まし、根絶者と朝の挨拶を交わす。

 それが少女――音無(おとなし)ミオの日常の始まりであった。

 

 

 ジャージはこの世界において完璧な衣類だと思う。

 冬は暖かく、吸水性が抜群なため夏でも着心地がよい。全身をくまなく覆っている割には生地がよく伸びるため動きやすい。

 これひとつで一日を過ごすのに、何の問題もためらいも無い。

 というのがミオの主張なのだが、アパレル会社に勤める母が泣いて止めるので、ミオはジャージを着て外に出たことはほとんど無かった。

 大学生か社会人にでもなってひとり暮らしをするようになったら、自由時間はずっとジャージでいようとミオは固く心に誓っている。

 ちなみに、ミオの私服はすべてその母が見立てて用意したものである。

 とは言え、今日は平日なのでジャージも私服も関係無い。

 ミオは寝巻代わりにしていた愛用の白いジャージを脱衣所の洗濯かごへ放り込むと、浴室に入り、きゅっと蛇口を大きく捻った。

 シャワーヘッドから勢いよく水が吐きだされ――それは結構な冷たさだっが、ミオは小さな悲鳴ひとつあげなかった――、一糸まとわぬミオの全身を濡らしていく。

 白磁のような肌が水を弾き、いくつもの水滴が手足に浮かんでは、滑らかな曲線をつたって肘や足先からこぼれていった。

 そうして寝起きの汗を流した後は、シャンプーを小量手に取り、髪に馴染ませ、泡立てていく。

 朝からここまでする必要があるのかミオは疑問だったが、これも母からの指令である。養ってもらっている立場上、彼女はそれに逆らうことはできなかった。

 丁寧に髪についた汚れを落としたところで、ようやく温かくなってきたシャワーの水を頭から被ってシャンプーを洗い流す。

 いい香りのする白い泡が排水溝へと流れていき、ごぼごぼと音をたてた。

 ミオは適当に髪の水を切って浴室を出ると、用意されていたふわふわのタオルで体を拭き、次いで髪の湿気を存分に吸わせる。あとはドライヤーをさっとかけると、ミオの白くて細い髪の1本1本が、さらさらと音をたてて流れていった。

 仕上げとして髪に櫛を軽く通すと、脱衣所にあらかじめかけてあった制服を手に取り、手早く身につけていく。

 一切の無駄を排した手際の良さで身だしなみを整えると、ミオは脱衣所を出てリビングに入り、口を開いた。

「おはようございます」

 そこには父も母もいなかった。

 ふたりともミオより早い時間に仕事に出かけることがほとんどである。だが、テーブルの上には食パン一斤を贅沢に使用した6枚重ねのフレンチトーストが用意されており、上にはアイスが乗っかっていた。

「いただきます」

 席につき、両親と大地の恵みに感謝の祈りを捧げると、ミオはナイフとフォークを手に取り、朝食とするには重たそうなそれを僅か2分で平らげた。

 両親が共働きで、なおかつ高給取りだからいいものの、そうでなければ、間違い無くミオは餓死しているか、一家がミオの食費で破綻しているだろう。

「ごちそうさまでした」

 ミオは両手を合わせて再びこの場にいない両親に感謝を告げると、食器を洗って、既に稼働している乾燥機に放りこむ。

 ここで一度時計を確認。

 7時30分ジャスト。

 計算通り。

 ミオは当然のように頷くと、椅子の隣に置いていた通学カバンを手に取り、肩にかける。

「いってきます」

 学校指定のローファーを履き、誰もいない家の中へと律義に告げると、ミオは朝日眩しい外の世界へと飛び出した。

 

 

 ミオの家から駅は近く、1分ほど歩けば駅に着く。そこから電車に揺られて約15分。さらに通学路を15分歩けば、ミオの通う「響星(きょうせい)学園」に辿りつく。

「む」

 その通学路で、見知った後ろ姿を見かけて、小さく声をあげる。

 ミオより頭ひとつ高い上背に、制服越しにでも分かる、細身に見えてがっしりとした肩幅。脱色に失敗して白くなった髪はツンツンに逆立っており、遠目からでもすぐにそれと分かる。

「おはようございます。オウガさん」

 ミオは小走りになってその背中に追いつくと、上半身から覗きこむようにして、その男子生徒に声をかけた。

「ちぃーっす、ミオ先輩!」

 それに威勢よく答えたのは、ミオの1学年後輩にあたる鬼塚(おにづか)オウガだった。

 ミオと同じ響星学園カードファイト部の一員で、色々あってグレかけていたところをミオに救われ、それ以来、彼女に忠誠を抱いていると言っても過言ではないほど慕っている男子生徒だ。

 通学ルートも通学時間も近いらしく、以前から登校時に会うことが多く、互いに驚きは無い。

 思えば、初めて出会ったのもこの通学路――正確には、そこから少し離れた裏路地――であった。

 歩幅の大きいオウガが歩くペースを少し落として、ふたりは並んで秋色の並木道を歩く。

「アリサさんのことは部長と呼んでいたのに、私のことは先輩のままなんですね」

 ミオがカードファイト部の部長になって2カ月、問い質しておきたかったことを、いい機会なので尋ねてみた。いつも無表情な彼女だが、その時はやや憮然とした表情をしているようにも見えた。

「ああ。やっぱり部長って言うと、アリサ先輩の顔が浮かんできてしまって違和感があるんすよ。……まさか、部長って呼ばれたかったんすか?」

「いいえ。むしろ、いつまで私のことを先輩だの何だの他人行儀な呼び方をしているのかが気になっていました。他の方のように、『ミオさん』なり『ミオちゃん』なり好きに呼んでください。

 何なら、私とオウガさんの仲ですし、呼び捨てにしてくださっても構いませんよ」

「それは……」

 オウガは苦笑して口ごもった。

 彼はただでさえ、美人で可愛いミオ(せんぱい)と同じ部活で共に過ごし、たまに登下校までしていると友人からはイジられているのだ。これ以上、誤解されるような行動は慎まねばならなかった。

 あと、後輩にも敬語で接するミオの方がよっぽど他人行儀な気がしたが、そこは触れないことにした。

「俺は中学時代のアメフト部で、あそこは上下関係が厳しかったんで、どうしても先輩呼びが慣れてるんすよ。好きに呼んでいいと言うなら、このまま先輩と呼ばせてほしいっす」

 結局、オウガは一番の本音を素直に口にした。

「そうですか。そういうことなら、しかたありませんね」

 しかたないと言う割には、ミオはふふんと偉そうに鼻息をついてあっさりとそれを了承した。

「そんなことより、デッキを新しく組み直したんすよ! また部活で手合わせお願いしまっす!」

 軽く頷いて感謝の意を示したオウガが、それよりヴァンガードの話をしたくてしかたがなかったという風に声を弾ませながら言った。

「ほう。いいでしょう。具体的にはどんな感じにですか?」

 ミオも同じように興味津々な様子で尋ねる。

「それはっすね……まずライジング・ノヴァがようやく4枚揃ったのと、G3の配分も変えてみました。先輩のアドバイス通りジギスヴァルトを1枚入れて、あとはG1に……って、話したらファイト前に戦略がバレるじゃないすか!!」

「おや、気付かれましたか」

 ミオが悪びれもせずに言った。

「ファイトの前から戦いは始まっているんですよ。大会でも対戦前にデッキを知られないように注意してください」

「……うっす」

 オウガが小さくなって項垂れていると、その背に自転車のベルの音と、少女の声がかかった。

「オウガ君!? ミオさんも!」

 オウガとミオが同時に振り向くと、折り畳み式のマウンテンバイクに跨り――今はそれを足で止めている――ミオほどではないが小柄な少女がそこにいた。

 艶のある黒髪を肩口でまっすぐ切り揃え、よく磨かれたメガネをかけた少女だ。

「サキさん、おはようございます」

「ちぃーっす!」

 ミオとオウガが同時にメガネの少女へと挨拶する。

「あ、お、おはようございます! オウガ君もおはよう!」

 メガネの少女が慌てて2回頭を下げた。

 彼女の名は藤村(ふじむら)サキ。ミオ達と同じく、響星学園カードファイト部の一員だ。

 サキは自転車から降り、それを押しながらミオ達と並行して歩き出す。

「珍しいですね。サキさんと一緒に登校するのは」

「はい。いつもはもう少し早く登校しているんですけど、昨日は夜遅くまで新しいデッキを組んでいて、そしたら寝坊しちゃいました」

「新しいデッキ!? どんなデッキなんだ?」

 オウガが話題に食いついた……ように見せかけて底意地の悪い笑みを浮かべながら尋ねた。

「え? 言えるわけないじゃない。また部活でファイトするのに手の内は明かせないでしょ」

「あ、ああ、そうだな……悪い」

 オウガはしどろもどろになって謝りながら、ちらりとミオの顔をみた。白髪の少女は「そら見たことか」と言いたげに、小さく胸を逸らせていた。

 この3名が、現在の響星学園カードファイト部の全部員である。

 部員数こそ、公式のチーム戦に出場できる定数ギリギリで、ファイト歴も約1年半のミオが最長だが、個々の実力は高く、部員仲も良好。

 それこそが響星学園カードファイト部であった。

 

 

 ミオは基本的に、授業はまじめに受けている。

 とは言え、1を聞いて10を知るを地でいくミオは、はじめの10分を受けただけであらかた概要を理解してしまうことがほとんどで、基本的には退屈な時間であった。

 ノートを取るフリをして、根絶者の落書きをしていることも多い。

 今日は化学の授業にちなんで、白衣姿のグレイヲンが「水兵リーベ 僕の船!」などとのたまっていた。

 昼休み。

 4限目終了のチャイムが鳴ると、ミオの姿は忽然と教室から消えている。

「響星ラーメン特盛り。トッピング全部乗せでお願いします」

 その姿は学食にあった。

 通常の倍以上はある椀の上に、卵、唐揚げ、チャーシュー、ありとあらゆる具材が盛りつけられ、肝心の麺が外から見えないラーメンが提供され、ミオはそれにお金を払う。

 忙しい両親はお弁当まで作る余裕が無いため、ミオはしばらくお小遣いをもらって購買や学食で昼食を買っていたが、アルバイトを始めてからは昼食は自分で買うようにしていた。

「いただきます」

 ミオは席につくと、いつもの祈りを学食のおばちゃんに捧げ、ラーメンを食べはじめた。

 昼食時のミオはいつもひとりである。

 入学当初は数人の女子に囲まれて一緒に食事したこともあったが、ミオがあまりにも話に入ってこれず、また話も続かないため、いつしか誰にも誘われなくなった。

 ミオとしても、誰々がイケメンだの、何とかのアイドルがカワイイだの、どこぞの彼が好きだの、そんな話題にはまったく興味が無いため清々している。

(バヲンがイケメンだの、ファルヲンがかわいいだの、ヲクシズが好きだのといった会話であれば、喜んで参加するのですが)

 麺をすすりながら、ミオはそんなことを考えていた。

(ひとりでいることが、そんなに寂しいことや、悪いことであるとは思えないのですが)

 むしろ、食事くらいひとりでゆっくりとらせてほしいと思う。

 そう主張する割には、僅か3分で特盛りラーメンを完食し、「ごちそうさまでした」と添えて食器を返却口に戻す。

 教室にある自分の席に戻ったミオは、しばらくボーッとしていた。正確には頭の中は常にヴァンガード(もしくは根絶者)のことでいっぱいなのだが、傍から見るとやることがないようにしか見えない。

「おーい、音無! バスケしよーぜ」

 そんなミオに数人の男子生徒が声をかけてきた。

 ミオはちらりと上目づかいになって男子生徒達を見上げた。そして、即答する。

「いいでしょう」

 女子からおしゃべりのお誘いにはまったく呼ばれなくなったミオだったが、男子からはよく勝負を挑まれるようになっていた。

 ミオとしても、おしゃべりよりもよっぽど気が楽なので、他の用事が無い限りは受けるようにしている。

 他人の顔色を伺いながら興味の無い話をするのは難易度は高いが、スポーツならば単純明快で、大抵の場合、玉をゴールに多く入れた者が偉いのである。実に簡単だ。

「着替えてくるので、先に体育館で待っていてください」

 急な状況においてもすぐに着替えられる。やはりジャージは素晴らしい衣類だと女子トイレで着替えながら再認識し、ミオは体育館に向かった。

 はてさて、小柄で可憐な容姿とは裏腹に、ミオの運動能力は非常に高い。

 筋力こそ見た目相応だが、ひと回り大きい男子が相手でも物怖じしない精神力。軟体動物に匹敵する体の柔軟性。未経験のスポーツにもすぐ対応する適応力に技術力。どこで培われたのかはまったく不明だが、驚異的な反射神経まで兼ね備えており、同年代の女子では相手にならない。

 そのため、たまに体育の時間も男子に交じってプレイさせてもらえることがあった。

 男子生徒達が休み時間にミオを気兼ねなく誘うようになったのも、そんなことがあってからである。

 そして今もミオは、身長の低さを最大限に生かした超低空ドリブルでライン際を駆け抜け、キュッと足音をたてた鋭いターンで2人の男子生徒を抜き去ると、シュートブロックに入った最後のひとりを鮮やかなフェイントで手玉に取り、機械の如く正確無比な3ポイントシュートでネットだけを静かに揺らした。

 男子と共にスポーツに興じ、男子を圧倒する少女の姿は、ミオが所属するクラスのみならず、全学年の男子にもはや戦乙女の如く崇拝されていた。

(さて、そろそろトドメを刺しましょうか)

 昼休みのレクリエーションであるが故、誰も正確な点数はカウントしていなかったが、ミオの頭の中は別である。体内時計が正しければ、そろそろ予鈴のチャイムも鳴るはずだ。

(現在の点数は18対2……最後に2点を奪って20倍の点差をつければ、勝ちと言えるでしょう)

 20倍どころか、2倍だろうと、1点差だろうと、リードさえしていれば勝ちは勝ちなのだが。

 彼女は勝負事になると一切の手は抜かず、理想も高くなる。

「山田さん。少し屈んでください」

 ミオは自陣に侵攻してきた敵からあっさりボールを取り返すと、相手ゴール前に手持無沙汰でいた――ミオが大抵のことはひとりでしてしまうからだ――チームメイトに指示を与えた。

「……え?」

 バスケらしからぬ不可解な指示だったが、ミオのどこか有無を言わさぬ静かな声音に、山田少年は素直に体を屈めた。

「失礼します」

 ミオはその背に足をかけると、小柄な体躯がふわりと宙を舞った。

 次の瞬間、鮮やかなダンクシュートがミオの手によってゴールに叩きこまれ、リングが大きく揺れた。

 バスケの参加者のみならず、体育館にいた誰もが唖然として、リングにぶら下がったミオを見上げたまま。

 キンコンカンコンと予鈴の音が鳴り、ミオは「いい腹ごなしになりました」と言って床に降り立つと、先に教室へと帰っていった。

 その後、山田少年は音無ミオに踏み台にされた男として、一部の男子生徒に羨望と嫉妬の眼差しを向けられることになるのだが、それはまた別のどうでもいいお話である。

 

 

 放課後は多くの生徒が待ちわびていた時間だが、ミオももちろん例外ではなかった。

 小走り気味に廊下を歩き、奥まった場所にある部室の扉を勢いよく開ける。

「全員揃っていますね。お待たせしました。それでは今日の部活をはじめましょう」

 談笑していたふたりの部員を見渡しながら――見渡すほどの数がいないのはさておき――ミオが宣言した。

「おふたりともデッキを新しくしたそうなので、今日は私達でデッキを回してみましょうか」

 部長に任命されて2カ月。ミオは慣れた様子で部員に今日の方針を提案する。

 とはいえ、このくらいの指示はアリサがいた頃からやらされていたが。

 ミオが部長になった時のため練習をさせてくれていたのか、単にアリサが楽をしたかったのか。真相は闇の中である。

「それでいいっすよ」

「はい。よろしくお願いします」

 部員の了承を得たので、ミオは通学カバンからデッキを取り出した。

 ちなみに、部員以外のファイターと戦いたい場合は、カードショップに移動し、ショップ大会に出場することもあった。

 学校の近所にある、部員にとってのホームとも言える『エンペラー』の他にも、とにかく数多くのファイターが集まる『タワー』や、実力者の巣窟である『ストレングス』など、この地域には多種多様なカードショップがあるため、選択肢には困らない。

「では、まずはサキさんから。私とファイトしましょうか」

「はいっ!」

 呼ばれたサキがデッキを抱えて前へと進み出る。

 学校で使われている机を向かい合わせにしてシーツを敷いただけの簡素なファイトテーブルを挟んで、ふたりは向かい合った。

 互いに手なれた様子で準備を整えると、一瞬だけ視線を交わらせて目礼する。

 そして、ふたりは同時にカードをめくった。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

 

 

 ファイトが動いたのは、後攻のサキがG2にライドした場面であった。

「ライド! 《真古代竜 ヘフトスティラコ》!」

「おおっ!?」

「ふむ。古代竜、ですか」

 オウガが驚きの声をあげ、ミオはどこか楽しそうに思案しながら顎に指をあてる。

「けど、サキがギガレックス以外のユニットを使うなんて……」

「うん。でも、私もたちかぜ使いとして色んなたちかぜを使わなくちゃって。ううん。色んなたちかぜも使ってみたいって思ったの。

 たちかぜの理解を深めることが、きっとギガレックスを強くすることにも繋がると思うから!」

「なるほど。では、サキさんの新しいたちかぜを見せてもらうとしましょうか」

「はい!

 コール! 《真古代竜 アロネロス》! アロネロスのスキル発動! 山札の上から3枚見て……《真古代竜 バレルトプス》をスペリオルコール!

 さらにバレルトプスのスキル発動で、1枚引いて、パワー+5000です」

「おお! 古代竜になってもたちかぜのアドバンテージ獲得能力は健在か!」

「あとは《真古代竜 プテラフィード》をコールしてバトルです!

 プテラフィードのブースト! ヘフトスティラコでヴァンガードのギアリにアタックします!」

「ノーガードです」

「ドライブチェック……やった! (フロント)トリガー! 前列ユニットにパワー+10000して、古代竜すべての(クリティカル)が+1されます!」

「ダメージチェック。1枚目、トリガー無し。2枚目、(ドロー)トリガー。1枚引いて、パワーはギアリに」

「ブーストしたアタックがヒットしたので、プテラフィードのスキル発動! デッキの上から7枚見て……《真古代竜 アルバートテイル》をスペリオルコールします!」

 残り2体のアタックは、ミオがソツ無く防いでサキはターンエンドを宣言する。

 この時点で、サキのダメージ2に対し、ミオのダメージは3。

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》。イマジナリーギフトはフォースⅠを選択し、右前列に置きます。そこに《慢心する根絶者 ギヲ》をコール。左前列には《突貫する根絶者 ヰギー》、その後列に《模作の根絶者 バヲン》をコール。

 そして、グレイヲンのスキル発動。ヘフトスティラコをデリートします。

 ヴァンガードがデリートされたので、ドロップゾーンから《招き入れる根絶者 ファルヲン》もスペリオルコールします。

 バトルフェイズです。ファルヲンのブースト。グレイヲンでヴァンガードにアタック」

「う……ノーガードです」

「ツインドライブ。

 1枚目、★トリガー。パワーはギヲに。★はグレイヲンに。

 2枚目は、トリガー無しです」

「ダメージチェック……。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、前トリガー! 前列ユニットすべてにパワー+10000します!」

「グレイヲンのアタックがヒットしたので、アルバートテイルを裏でバインド(バニッシュデリート)します。

 続けてギヲでヴァンガードにアタック時、スキル発動。後列のバヲンを退却させ、パワー+12000。さらに、アロネロスを裏でバインド(バニッシュデリート)。」

「つっ。展開した古代竜達が消されていく……。《群竜 タイニィレックス》と《真古代竜 ヘフトスティラコ》でガード!」

「ギヲでヴァンガードにアタックします」

「《草食竜 ブルートザウルス》! 《サベイジ・ラウディー》でガード!」

「4点の維持を選びましたか。ターンエンドです」

「わ、私のターンです! スタンド&ドロー!

 ライド! 《真古代竜 ブレドロメウス》!!」

 その背に長大な2本の刃を背負った二足の古代竜が大地を踏みしめ、岩山の陰から姿を現した。

 より巨大な存在であるグレイヲンをその眼に捉えると、威嚇するように咆哮する。

「イマジナリーギフトはアクセルⅡを選択! 1枚引きます!

《烈爪竜 ラサレイトレックス》をコール! このユニットに武装ゲージを置きます。

 そして、ブレドロメウスのスキル発動! ラサレイトレックスを退却させて、ミオさんのギヲも退却! 《真古代竜 バレルトプス》をスペリオルコールして+5000!

 バレルトプスのスキルも発動して1枚ドロー! さらに+5000!」

 ブレドロメウスが牙を剥き、敵味方問わず無差別に喰らう。さらにその呼び声に応えて、新たなる古代竜も地底から姿を現した。

「ラサレイトレックスの犠牲も無駄にはしません! SB(ソウルブラスト)で、武装ゲージだったカードを手札に加えます!

 あとは《真古代竜 ヘフトスティラコ》、《真古代竜 アルバートテイル》、《翼竜 スカイプテラ》をコールしてバトルです!

 ブレドロメウスでヴァンガードにアタック!!」

「ふむ。ノーガードです」

 僅かな思案の後、ミオはそう宣言した。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、前トリガーです! 前列ユニット+10000! さらに、★+1!」

 ブレドロメウスが背中の刃を水平に広げると大きく跳躍し、電磁を纏った刃で縦横無尽にグレイヲンの巨体を斬り裂いていく。そのたびに電光が青白く瞬いた。

「ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー。パワーはヴァンガードに」

「すげえ! もうダメージ6まで射程内だぜ!」

「アクセルサークルのヘフトスティラコでヴァンガードにアタック!」

「《招き入れる根絶者 ファルヲン》でガードします」

「アルバートテイルのブースト、バレルトプスでアタック!」

「★トリガーでガードします」

「スカイプテラのブースト、バレルトプスでアタック!」

「完全ガードです」

「タ、ターンエンドです」

「私のターン。スタンド&ドロー。

《波動する根絶者 グレイドール》にライドします。フォースⅠはヴァンガードへ」

「うっ……」

「グレイドールのスキル発動。ヘフトスティラコを裏でバインド(バニッシュデリート)します。そして、ヴァンガードをデリート。ドロップゾーンからファルヲンもスペリオルコール。

《呼応する根絶者 アルバ》をコール。ドロップゾーンから《呼応する根絶者 エルロ》もスペリオルコールします」

「あ……あ……」

 どうやらサキは悟ってしまったようだ。

 これはいつもの負けパターンだと。

「グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「タイニィレックス! プテラフィードでガード! クイックシールドも加えて、1枚貫通です!」

「では、ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、治トリガー。ダメージ回復し、パワーはグレイドールに」

「ダ、ダメージチェック!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目……治トリガーではありません。負けました」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いて、サキがしょんぼりと項垂れる。

「なるほど。攻めっ気は強いですが、守りはいま一つですね。もちろん完全ガードを引けていなかったのもありますが、そもそもそれを引いてくる引トリガーも多くは入れられないわけですし」

「そうなんですよね。さっきのターンを生き残れたとしても、前トリガーを引けなければノーガードで抜けられた可能性もありますし、ムラもありそうです。

 けど、使っていてワクワクしますし、気に入りました。私、しばらく古代竜を使います!」

「ええ。それがいいと思いますよ」

 デッキを胸に抱いて表情を輝かせるサキに、ミオが優しく頷いた。

「それじゃ、次は俺の番だな!」

 肩をぐるぐる回しながら、今度はオウガがミオの前にデッキをドンと力強く置いた。

「よろしくお願いしゃーす! 今日こそ負けませんよ!」

「はい。今日も返り討ちにしてあげましょう」

 オウガは豪快に、ミオは静かに笑い合いながら、ファイトの準備を整える。

「スタンドアップ!」

「ヴァンガード」

「《メカ・トレーナー》!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

 

 

 ここはダークゾーンの中心部にある、スパイクブラザーズのホームスタジアム。

 惑星クレイを強くイメージするふたりには、実際にその光景が見えていた。

 漆黒に塗りつぶされた空より来たる侵略者。それを新興チームの乱入と勘違いして迎え撃つ選手達に、異常事態にも関わらず誰ひとりとして逃げようとしない命知らずの観客達。

「ライド! 《バッドエンド・ドラッガー》!! フォースⅠをヴァンガードサークルに。

 メインフェイズ開始時に《前線司令 ジギスヴァルト》のスキル発動! ドロップゾーンの《ワンダー・ボーイ》を山札に戻し、このカードをソウルインして1枚ドロー! さらに、CC!

《ワンダー・ボーイ》もスキル発動! このカードをソウルインして新たな《ワンダー・ボーイ》をスペリオルコール! 登場時、★トリガーをデッキに戻して+5000!」

 2点のダメージを受けた先行のオウガが、まずはG3にライドする。

「《パワーバック・レナルド》をコール! CB1と、手札1枚をソウルに置いてスキル発動! デッキの上から3枚見て……それらをすべてスペリオルコール! 《スパイキング・サイクロン》! 《アクロバット・ベルディ》! 《ソニック・ブレイカー》!

 バトルだぜ! 《ソニック・ブレイカー》のブースト! レナルドでリアガードのギヲにアタック!」

「ノーガード。ギヲは退却します」

「俺の本気はここからだぜ! 《ワンダー・ボーイ》のブースト! 《バッドエンド・ドラッガー》でヴァンガードにアタック!

 アタック時、バッドエンドのスキル発動! 《ソニック・ブレイカー》をデッキに戻し、パワー+5000、★+1! 合計パワーは41000!」

「治トリガーと★トリガーでガードします」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、トリガー無し!

 続けて、ベルディでブーストしたサイクロンでアタック!」

「これはノーガードです。

 ダメージチェック、引トリガー。カードを1枚引いて、パワーはヴァンガードに」

「これで3ダメージか……ターンエンドだぜ!」

「それでは私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《模作の根絶者 バヲン》」

 それは無数の足を持つ骨の牡牛。血の如く染まりし赤と、毒の如く煙る紫の瘴気を纏いて、亡者の悲鳴にも似た雄叫びをあげる。

「《呼応する根絶者 エルロ》をコール。ドロップゾーンから《呼応する根絶者 アルバ》もスペリオルコールします。

《速攻する根絶者 ガタリヲ》もコールして、バトルフェイズへ。

 バトルフェイズ開始時、バヲンは《バッドエンド・ドラッガー》の姿(パワー)を模倣します」

 ミオの声に応え、バヲンの姿が瘴気とともに変貌していく。

 はじめは子どもが粘土をこねるかのように、潰れては起きあがりを繰り返し、その中で少しずつ人の姿を成していく。牡牛の頭骨はそのまま、《バッドエンド・ドラッガー》の姿へと。

「アルバでレナルドにアタックします」

「ノーガード。レナルドは退却だぜ」

「では、ガヰアンのブースト、バヲンでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード!」

「ツインドライブ。

 1枚目、★トリガー。★はバヲンへ。パワーはエルロに。

 2枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはエルロへ」

「ダメージチェック。2枚ともトリガー無し……」

「おや。今日も私が勝ってしまいそうですね。ガタリヲのブースト、エルロでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード。引トリガー。1枚引いて……きたぜ!!」

「ほう? とりあえず、エルロのスキルで《スパイキング・サイクロン》を裏でバインド(バニッシュデリート)。私はこれでターンエンドです」

「俺のターン。スタンド&ドロー!!

 ここからが俺の本気だぜ!!」

「前のターンも同じこと言っていたような気がしますが」

「なら、ここからが本気の本気だ!!

 ライドッ!! 《逸材 ライジング・ノヴァ》!!」

 それは長い白髪を逆立てた何の変哲も無いオーガであった。

 だが、彼の立っている場所がギャロウズボールのスタジアムであることを考慮すると、それは異常な光景であった。

 ドーピングや武装、肉体改造(そのままの意味で)が当たり前のギャロウズボールにおいて、例え身体能力に優れたオーガであっても生身でのプレイは自殺行為に等しい。

 弛まぬ鍛錬で天性の肉体を鍛え上げ、その不可能を可能にした数少ない男こそが、このライジング・ノヴァなのだ。

『へっ。今日の対戦相手は、ずいぶん個性的な連中だな。構うことはねぇ。いつも通りブッ潰すぜ、野郎ども!!』 

 彼の号令に、無頼の荒くれ達が一丸となって鬨の声をあげる。

 スパイクブラザーズを制するのは正義でも悪でもなければ、もちろん反則の技術などであるはずもない。

 ただ圧倒的な力こそがチームを率いる最たる資格となるのである。

「ライジングノヴァはイマジナリー・ギフトをフォースⅠ・Ⅱ、両方得ることができる! こいつを《アクロバット・ベルディ》に預けるぜ!」

「懸命な判断です。フォースⅠをヴァンガードに渡せば、バヲンも強化させてしまいますからね」

「バッドエンドのスキル発動! ライドされたこのユニットをスペリオルコール! さらに、同列の相手リアガードをすべて退却させるぜ!!

 吹き飛べ、ガタリヲ! エルロ!」

 ミオが2枚のカードを静かにドロップゾーンに置く。

「メインフェイズ開始時、《ワンダー・ボーイ》のスキルも発動するぜ!

 手札から《アドルブスパーム・ローナ》をコールして、山札から《デッドヒート・ブルスパイク》をスペリオルコール!

 そして、ライジング・ノヴァのスキル発動!! フィールドにいるG3の能力を得る!!

 俺に力を貸せっ!! ブルスパイクッ! バッドエンドッ!」

 3人の、たった3人の男達の怒号が、スタジアムを埋め尽くす数万の観客の歓声をかき消し、フィールドを震わせる。

「これで準備完了だぜ! バトルフェイズ!!」

「バトルフェイズ開始時、私のバヲンもスキルが発動します。ライジング・ノヴァと同じ、パワー23000に」

 オウガの前に立ちはだかるように、小さな掌を突き出してミオも宣言する。

「まずはベルディでブーストしたブルスパイクで、アルバにアタックするぜ!」

「ノーガード。アルバは退却します」

「《ワンダー・ボーイ》のブースト! 《逸材 ライジング・ノヴァ》でヴァンガードにアタック! ライジング・ノヴァのスキルで、すべてのフォース・マーカーをヴァンガードに移動させる! さらに、ブルスパイクをデッキに戻し、パワー+5000、★+1!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

 ライジング・ノヴァが跳躍し、手にしたボールをバヲンに叩きつける。その刹那、何もなかったはずの空間から鋼鉄の花がバヲンを守るように咲き、それを受け止めた。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはすべてバッドエンドに!!

 アタックがヒットしなかったので、ライジング・ノヴァのスキルでガヰアンを退却! 1枚ドロー!

 続けて、ローナのブースト! バッドエンドでヴァンガードにアタック!! ベルディをデッキに戻し、パワー+5000、★+1!

 そして、フォース・マーカーをすべてバッドエンドに移動させるぜっ!! 合計パワー58000、★3だっ!!」

 勝利を確信したような不敵な笑みを浮かべて、ライジング・ノヴァが背後へとボールを放り上げ、それを空中でキャッチしたバッドエンドが雄叫びをあげて畳みかけるようにバヲンへと突貫する。

「……ノーガードです」

 それを阻む者は、もはやいなかった。

 ミオが静かに山札のカードをめくる。

「ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、治トリガー」

「げ!?」

「……は発動しませんね。

 3枚目……トリガー無しです」

 ボールを叩きつけられたバヲンの面がひび割れ、粉々に砕け散る。その瞬間、ライジング・ノヴァを模倣していた体もドロリと溶け、僅かな瘴気を漂わせる黒い水たまりとなって消えた。

「おめでとうございます。オウガさんの勝ちですよ」

「……勝った、のか? 俺が? ミオ先輩の根絶者に……」

「そうだよ! すごいよ、オウガ君!!」

 呆然としたままのオウガに、サキがまるで自分のことのように喜んで、声をかけた。

 それでようやく実感が湧いたのか、オウガは開いていた拳をじわじわと。最後はぎゅっと握りしめ、雄叫びをあげた。

「っしゃあああああああーーーーっ!!!!」

 それはまさしく獣の咆哮の如く、狭く老朽化した部室を震わせた。

(ついに負けてしまいましたか。悔しいのに、どこか嬉しくもある。複雑で、それでも悪くはない感情ですね、これは)

 椅子の背もたれに体を預けながら、ミオはそんなことを考えていた。

「よく頑張りましたね、オウガさん」

「うす!」

 オウガが落ちついたのを見計らい、ミオが静かな口調でオウガに語りかけた。

「ご褒美に頭をなでなでしてあげましょう」

「ぶっ!!」

 そして、藪から棒に言い放った言葉に、オウガが噴き出し、サキが目を見開いて両者を交互に見やった。

「な、なでなでって……この歳になって、さすがにそれは」

 しどろもどろになって、オウガが断ろうとする。

「ほう? 現役女子高生の先輩に頭をなでてもらえる機会など、今後一生あるかないかですよ?」

 すかさず、働いているメイド喫茶の常連である御厨ムドウの物言いを真似てみてミオが言う。

 さすがシャドウパラディンと萌えに造詣の深いムドウの言葉なだけはあり、効果は覿面だった。オウガが「う……」と悩ましげに小さく唸る。

「断言しましょう。ここでなでなでを断れば、あなたは一生後悔をします」

 ミオがすかさず追い打ちをかけると、オウガは観念したように、素直に頭を差し出してきた。

 ミオは小さな手を差し出し、それに優しく触れる。オウガの逆立った白い髪は、ミオのものとは比べ物にならないほど固く、ごわごわしていた。

(負けた腹いせに、ちょっぴりからかいたかったのもありますが……)

 わしわしと遠慮無く撫でながら、ミオは心の中で語りかける。

(あなたを褒めてあげたかったのも本心なんですよ)

 その様子はどこまでも無垢で、慈愛に満ちており、1枚の絵画を思わせる光景であった。

 

 

 午後8時。

「ただいま」

 ミオが帰宅すると、父親が夕飯を作って待ってくれていた。母親は帰宅時間が不安定なので、夕飯を作るのは基本的に父親の仕事だ。今もまだ母親は帰っていないらしい。

 ミオはパンケーキサイズのハンバーグを3分で平らげると、湯船に浸かり、寝巻(ジャージ)に着替えた。

 脱衣所から出ると母親が帰宅していたので、「おかえりなさい」と声をかけ、2階にある自分の部屋に上がる。

 最近は冷えるので毛糸のカーディガンを肩がけにしてから、PCの電源をつけ、ヴァンガードと根絶者の情報を収集。その後は、通学カバンからデッキを取り出し、今日の部活動の結果を踏まえて調整する。

(思えば、オウガさんがはじめにフォースをヴァンガードに置いたのは、私にバヲンへのライドを誘導するためだったんですね。グレイヲンにデリートされては、バッドエンドをスペリオルコールできなくなってしまいますから。バヲンのパワーが上がっても、それを貫けるだけの自信もあった。

 ふふ、今回はしてやられました)

 悔しいはずなのに、また笑みがこぼれる。

(ですが、あの要求値のアタックを防ぎきれなかった私の構築にも不備があったのも事実でしょう。手札にG3が多かったのと、そもそも手札の枚数が少なかった。となると、G3を減らすか、引トリガーを増やすかですが。戦い方も、G1のコールは控えたほうがよかったのかも知れません……)

 反省点を洗い出し、デッキを微調整していく。だからと言って、それが確実に強化に繋がるか分からないのがカードゲームの難しいところであり面白いところだ。

 新しく入れたカードが思い通りに引けないこともあるし、そもそも今日負けたことが、たまたま運が悪かっただけの可能性もある。実際、あの後オウガと4戦ファイトし、それらはすべてミオの勝利で終わっていた。偶然の敗北を意識しすぎて、デッキを弱くさせてしまったのでは笑えない。

(……む。もうこんな時間ですか)

 ふと時計を見ると、時計は午前の1時を指していた。

 ヴァンガードの事を考えていると、時が経つのを忘れてしまう。ミオの優秀な体内時計も、この時ばかりは機能不全だ。

(ヴァンガードのためなら、まだまだ起きていられるのですが……)

 そんなことを思っていると、「ふわあ」と大きなあくびが自然と漏れた。

(……いえ。もう寝ましょうか。今日は脳を酷使しすぎてしまったようです。サキさんも、オウガさんも、もう楽には勝たせてくれなくなりましたから)

 ミオはひとまずの調整を終えたデッキを机に置くと、ふらふらとベッドに転がり込む。

「おやすみなさい。また明日」

 軽く体を起こしてデッキに声をかけ、遊び疲れたお人形のようにぱたんと倒れると、ミオは静かに目を閉じた。

 彼女の一日はこうして終わる。

 明日もまたいつも通りの。そして、充実した新しい日常が始まるのだ。




今回は音無ミオの華麗なる日常回をお送りさせて頂きました。
ちなみに休日は、朝からカードショップに行って、一日中ファイトしているようです。
幸せか。

次回は「蒼騎天嵐」のえくすとらとなりますが、発売延期された10月15日あたりの更新を予定しております。
こちらも楽しみにして頂ければ幸いです。

【デッキログ】
藤村サキ:3TGG
鬼塚オウガ:GDVC


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11月「後には生々しい傷跡だけが残った」

綺羅(きら)ヒビキさん! こっちに目線お願いしまーす!」

「ヒビキさーん! 次は《トップアイドル リヴィエール》のカードを手にして笑顔で!」

「ヒビキさん! こちらの衣装に着替えてきていただけますか!」

「ヒビキさん! その後はインタビューにもお答えください! テーマはヴァンガード高校選手権に向けての抱負です!」

 天海(あまみ)学園の本拠地である天海島。

 本来なら島民以外の人が寄りつくことのない絶海の孤島には、今日も多くの人がカメラやレコーダーを手に訪れていた。

 8月のヴァンガード甲子園で鮮烈なデビューを飾って以来、ヒビキは一躍時の人となり、8月、9月はヴァンガードに関係の無いマスコミまで島を訪れ、彼は質問責めにあっていた。

 10月になってから多少は落ち着いたが、カードゲーム雑誌の取材は今も定期的に行われており、特に最もメジャーなヴァンガード情報誌《月刊ブイロード》では、3号連続でヒビキを表紙に採用し、10月号に至っては総ページ数の約半分にあたる120ページをぶち抜いてヒビキ特集が組まれた。

 各ページの見出しにしても『天海学園の貴公子、綺羅ヒビキの謎に迫る!』や『綺羅ヒビキが語る、ヴァンガード論!』みたいなものはまだいいとして、『綺羅ヒビキ、華麗なる秋の装い』だの『ヒビキ様に見つめられて』だの、ファッション誌や女性誌かと見紛うようなものもあった。

「くくくっ。『今年の抱かれたいヴァンガードファイターランキング! 綺羅ヒビキが並み居るプロファイターを押さえ、堂々の1位!』だってよ。

 ……おいおい。水着撮影までしてんのか? これ撮ったのって9月だろ? よくやるわ」

 そんな雑誌のひとつをパラパラとめくりながら、野外に設置されたパイプ椅子に腰かけた小柄な少年、(あおい)アラシが鼻で笑ったり、本気で呆れたり、表情豊かに楽しんでいた。

「静かにしろ。撮影の邪魔になるだろう」

 その隣でやはりパイプ椅子に腰かけてはいるが、明らかにはみ出していて居心地悪そうにしている大柄で背の高い少年、清水(しみず)セイジがアラシを嗜めた。

 ふたりはヒビキの付き添いで、雑誌撮影の見学に来ていた。とはいえ、付き添いとは名ばかりの、単なる暇つぶしである。

 ろくなレジャー施設の無い天海島では、少年達は常に娯楽に飢えている。ヴァンガードの対戦相手であるヒビキが拘束されているとなればなおさらだ。

「8月は俺達にもインタビューとか結構あったんだけどなー。どこで差がついたんだろうねぇ」

 黙っていられない性分なのか、カメラの指示に合わせて動くマネキンと化している同級生を眺めながら、アラシがまたすぐに口を開いた。

「ヒビキの方がヴァンガードが強い。それだけのことだ」

 腕を組みながら、セイジが小声で言葉を返す。

「いや、顔じゃねえかな」

「わかっているなら聞くな」

「うーん。けど、俺ってそんなヒビキと差がつくほどイケてねぇかな? 比較対象がお前とヒビキくらいしかいねぇから、わかんねぇや」

 自分の顔をぺたぺた触れながら、誰とはなしに尋ねる。

 世間では、惑星クレイの荒野に舞い降りた麗しき聖天使の如き超絶イケメン(月刊ブイロード10月号より抜粋)とされているヒビキだが、幼い頃から毎日顔を合わしているアラシ達には実感が湧かなかった。

「あとは人当たりの良さだろうな」

 実際、目の前のマネキンは、何を頼まれても嫌な顔ひとつせず、笑顔で対応していた。取材が始まってから2時間は経っており、よく顔の筋肉がもつものだと素直に感心する。

「お前はすぐにふざけるから、インタビューが進まなくて担当者が大変そうにされていたぞ」

「ああ、そうだな。『笑ってください』って言われても、お前は常に真顔だから、カメラの人が困ってたなぁ」

 しばらくは小声で言い争っていた少年達だったが、やがて肩や肘を使っての小突き合いに発展し、小柄なアラシがすぐ地面に転がっていた。

「終了です! お疲れ様でしたー!!」

「ええ、お疲れ様でした」

 そうこうしている間に取材が終わったらしい。

 ヒビキが爽やかな笑顔を浮かべながら、スタッフのひとりひとりと握手を交わしている。

「どうです? せっかくですから、この天海島の取材をしていきませんか? 海と港と……ええと、海と港と海がある、とにかく素敵な島なんですよ!」

 さらに島を積極的にアピールしていたが、スタッフ達は

「急げ急げ、船が出るぞ!」

「忘れ物はないか? 忘れたら、取りに戻れるのは1月後だぞ!」

「それでは、綺羅ヒビキさん、我々は撤収します! ありがとうございました!」

 半ばヒビキを無視する形で速やかに島を去っていった。皆、3ヵ月目ともなると、慣れたものである。

「おつー」

「ご苦労だったな」

 ポツンとひとり残される形になったヒビキを、アラシが適当に労い、セイジがペットボトルに入った水を手渡す。

「ありがとう。それにしても、なかなかわかってもらえないものだね。外の人にも、この島のよさを知ってほしいのだけれど」

 ペットボトルを受け取りながら、ヒビキは悲しそうに苦笑して首を横に振った。

「いや、住人の俺からしてもいいところじゃねえぞ? 狭いし、殺風景だし、遊ぶ場所はねぇし」

 天海島は徒歩10分で端から端まで歩けるほどの小さな島だ。

 かろうじて村の体裁を保っている集落と、船の出入りに使われる港で島面積のほとんどが埋まっており、田舎というイメージに反して自然も少ない。

 ヒビキに関わるものは何にでも興味を示す取材班にすら、取材初日に見るもの無しと判断され、以降、見向きされないのも当然のことであった。

「ボクには貴族としてこの島を存続させる責務があるんだよ」

 どこからか薔薇の花を取り出し、ヒビキが自分に言い聞かせるように告げる。

「何が貴族だか。てめえは村長の一人息子なだけじゃねぇか」

 アラシは呆れたように肩をすくめた。

「貴族とは生まれだけに依るものではない。高貴に生きようとする意思そのものが貴族を貴族たらしめるんだよ」

 ピッと薔薇をアラシに向け、ヒビキは断言した。

 言葉だけなら世間を勘違いした子どもの戯言にしか聞こえなかったが、少年の瞳は絶対の希望と自信に煌めいており、人の上に立つ者の素質を感じさせた。優秀な盟友さえいれば、荒唐無稽な理想すら実現させてしまいそうなほどの、時代が時代なら英雄と呼ばれる人間の素質だ。

「どうやら島興しのためには、ボク達はもっと有名にならなくてはならないようだ。そのためにはまず、来月のヴァンガード高校選手権で、1位から3位を天海で独占する。アラシ、セイジ、どうかボクに力を貸してくれるかい?」

「その程度でどうにかなるプロジェクトとは思えねぇが」

「勝つことに異存は無い」

「ありがとう」

 心から浮かべたヒビキの笑顔は、極上の美しさで孤島に咲き誇り、アラシ達の肺腑を得も言われぬ感情で満たした。

(ああ、なるほどな……)

 心の中でアラシは素直に認める。

(やっぱこいつは、俺達とは少し違うんだろうな)

 同じことを考えていたのであろうセイジと目が合い、ふたりは無言で小さく頷き合うのであった。

 

 

 一方、響星(きょうせい)学園では今日もミオ達が部活に明け暮れていた。

「ファルヲンのブースト。グレイドールでデリートされたヴァンガードにアタックします」

「……ノーガード。ダメージチェック……俺の負けっす」

「ありがとうございました。次、サキさん。お願いします」

「は、はいっ!」

 ――5分後

「ガタリヲのブースト。グレイヲンでデリートされたヴァンガードにアタックします」

「うう……ノーガード。ダメージチェック。……負けました」

「ありがとうございました。……ふう。今日はここまでですね」

 壁にかけられた時計を見上げて、小さく息をつきながら、ミオは部活の終了を宣言した。

「お疲れーっす。ミオ先輩、最近気合入ってるっすね」

「お疲れ様です! やっぱり、もうすぐヴァンガード高校選手権があるからですよね!? 私も……まだちょっとドキドキはするけど、楽しみです!」

「ああ! 先輩にとっちゃ、綺羅ヒビキにリベンジする絶好のチャンスだしな。俺だってアラシに借りを返してやんねーと」

 口々に盛り上がるオウガとサキを交互に眺めていたミオだったが、やがて彼女はこてんと小首を傾げた。

「気合が入っている? 私がですか?」

「え? そ、そりゃまあ、いつも以上にファイトに貪欲で容赦もないですし」

 まさかそこに反論がくるとは想定していなかったのだろう。困惑しながら、オウガが返答する。

「ふむ。高校選手権が近くなっていることは把握していましたが、それを意識していたつもりはありませんでした。

 対戦相手もヒビキさんであろうと、他の誰であろうと、私は私のやるべきことをやるだけですし。

 あ、私は仕事を残してましたので、お二人は先に帰宅してください。お疲れ様でした」

 

 

「――とは言ってたけど。ミオ先輩、明らかに気合入ってるよな」

 等間隔に並べられた街灯の下、オウガは隣で自転車を押して歩くサキにこう切り出した。

「うん。先月、私達もようやくミオさんに勝てるようになってきたと思ったら、今月に入ってまた勝てなくなっちゃった」

「ああ。やっぱり、あの人は俺達と格が違うぜ!」

 越えるべき目標であり、自分の尊敬する先輩が強いことが誇らしくて仕方がないと言いたげな調子でオウガがぐっとサキに向かって拳を握りしめた。

 そのポジティブさは、実に普段のオウガらしかったが、直後、彼の表情にらしからぬ暗い影が差した。

「でも、俺達は……ウチの部活は、このままでいいのかな?」

「え?」、

「俺達とミオ先輩の間には、まだまだ大きな実力の隔たりがある。悔しいけど、それは事実だ。そんな俺達とファイトして、俺達はともかく、先輩の練習にはなってるのかよ」

「それは……」

「あの人はちゃんとした環境で練習すれば、世界一になれるファイターのはずなんだ。(セント)ローゼだって、天海だって、きっと最高の環境で練習してる。それなのに響星(ウチ)は、俺達が足を引っ張って……」

 焦燥をそのまま吐露するかのように早口でまくしたてていたオウガだったが、サキの視線に気づいて、慌てて口をつぐんだ。

「……悪い。サキのことをバカにしたわけじゃ」

「ううん。オウガ君は間違ってないと思う。

 きっとミオさんはそんなこと微塵も思っていないとは思うけど。だからこそ私も、そんな優しいあの人の努力が高校選手権で報われてほしい」

「サキ……」

 メガネ越しに輝くサキの黒い瞳には、オウガのような焦燥ではなく、強い意志が宿っていた。それに加えて、悪戯を思いついた子どもの様に煌めいてもいた。

「それでね。さっきのオウガ君の話を聞いて、思いついたことがあるの。きっと私ひとりじゃ実現できない。オウガ君の助けが必要なの。協力してくれる?」

「当たり前だろ! 響星のために俺にできることがあるなら、何でもするぜ!」

 概要を聞くまでもなく、オウガは即座に同意した。彼の即断即決の性格もあるだろうが、オウガからの信頼が感じられて、サキは嬉しかった。

「じゃあ、あそこのお店で説明するね。時間は大丈夫?」

「おう! けど、あんまり時間はかけないようにな。遅くなると、サキの親御さんも心配するぜ」

「うん。ありがとう」

 そう言ってふたりは、響星の学生がよく利用するファーストフード店に入って行った。

 

 

 ――それから一週間後

「さて、いよいよヴァンガード高校選手権までひと月を切りましたね。今日は環境デッキとの対戦や、優勝候補の高校が使ってくると予測されるデッキの対策を……」

「それなら!」

 ミオの言葉を遮って、オウガが挙手しながら発言した。

「実際に優勝候補と対戦してみた方がよくないすか?」

 ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべ、オウガが尋ねる。

「? どういう意味でしょうか」

 意図が読めず、ミオは首を傾げた。

「こういうことです。どうぞ、お入りください、聖ローゼの皆さん!」

 席から立ちあがったサキが恭しく扉を開けると、そこから数人の少年少女が姿を現した。

 先頭に立つのは、整った顔立ちをした金髪の少年。高校ヴァンガード界屈指の強豪校、聖ローゼの主将を務める3年の小金井(こがねい)フウヤだ。

 その後に続くのは、次期主将と目される2年の神薙(かんなぎ)ミコトに、その双子の弟、ノリトの姉弟。

 さらにその後ろには、響星の部員達にとって初顔となる少年もいた。

「フウヤさん?」

「やあ、ミオちゃん。今日は合同練習会にお招き頂いて感謝するよ。……とは言え、その様子だと鬼塚君達から話は聞いていなかったようだね」

「どういうことですか?」と説明を求めるミオの視線がオウガに突き刺さる。

「あ、いや。俺達だけで練習するより、聖ローゼの方々とファイトした方が練習になるかなと思って」

「私に相談もなしにですか?」

「サ、サプライズにした方が面白いかと……」

「私がこの日、部活に出れなかったら、どうするつもりだったんですか?」

「うぐ! そ、それは……」

「ご、ごめんなさい! でも発案者は私なんです! オウガ君を責めないでください」

 言葉に詰まったオウガを庇うようにして、サキが前に出る。それを見たミオは、ふっと小さく息をついた。

「……まあいいでしょう。いい練習になりそうなのは確かです。ありがとうございます。

 ですが、次からは私に相談してくださいね」

「うす」

「はい……」

 しょぼくれるふたりを尻目に、ミオは改めてフウヤと向かい合って手を差し出した。身長差があるので、向かい合うというよりは、見上げる形になってしまうが。

「お見苦しいところをお見せしました。本日はよろしくお願いします」

「うん、よろしくね」

 フウヤは何も気にしていない様子で、ミオの手を優しく握り返した。

「ですが、よく合同練習なんて受けてくれましたね。聖ローゼ(あなたたち)にとって、見返りは少ないでしょう?

「頭下げてまで頼まれたらね」

 フウヤが苦笑しながら、合同練習に至った経緯を説明してくれた。

 休日に聖ローゼ本校で練習をしていたところ、ミコトを経由してフウヤに「今から会って相談したいことがある」と、サキから連絡があった。

 ヴァンガード甲子園以来、ミコトとサキには交流があったのだ。

 驚きつつも了承し、フウヤはサキとオウガに会った。そして、合同練習の話を持ち掛けられたのだ。

「とは言え、はじめは断ったよ。俺達にメリットが無いと思ったからね。だけど、その後の彼らの主張は見事だった」

 曰く、今年のヴァンガード高校選手権は個人戦ではない。天海学園と、それ以外の高校からなる団体戦なのだと。

 個人の実力で、天海を上回っている者はいないし、この短期間で追いつくのも不可能に近いだろう。

 ならば、自分の高校だけでなく、他校の実力も底上げして、天海を消耗させなければならない。

 高校選手権で優勝したいのならば、まず天海を楽に勝ちあがらせてはならないのだ。

「その考え方には一理ある。そして、それほど明確なビジョンを持っている彼らなら、対天海の戦力にもなると判断した。それだけだよ。

 君はいい後輩を持ったね。考え方がしっかりしているし、行動力もある」

「ええ。自慢の後輩です」

 ミオが視線を軽く向けると、落ち込んでいたふたりの後輩がパアッと顔を輝かせた。

「ですが、その作戦には穴があります。大きな大きな落とし穴が」

「承知の上だ。最悪、強くなった君達に俺達が足をすくわれる可能性も高くなる。けど、俺は君達に負ける以上に、天海に負けたくない。いや、勝たせたくないんだ。

 考えてもみろ。彼らは離島の出身で、俺達とはまったく別の環境で練習をしている。それなのに、あれほどまでに強い。

 彼らに負けることは、俺達のヴァンガードが否定されているも同然なんだ。

 これ以上は負けられない。負けてたまるか……!!」

 拳を固く握りしめるフウヤの瞳に、濁った色をした炎が灯る。

「そういうことでしたら、これ以上は時間がもったいないですね。今すぐ合同練習をはじめましょう」

 ミオはくるりと背を向けて、オウガとサキに机と椅子を人数分集めてくるよう指示を出す。

「あ、最後にひとつ。聖ローゼからも、次期一軍候補の1年生をひとりつれてきた。彼も鍛えてやってくれないか。

 ヒカル、響星のみなさんに挨拶をするんだ」

 好青年然とした表情に戻ったフウヤが、一番後ろに立っていた少年に合図を送ると、ヒカルと呼ばれた少年が数歩前に進み出た。

 軽く癖のかかった茶髪が印象的な、フウヤに負けず劣らずの顔立ちを誇る美少年だったが、その表情は紳士的なフウヤとは似つかない不機嫌顔だった。例えるなら、親の里帰りにムリヤリ付き合わされて田舎まで連れてこられた都会っ子のような。

「1年の十村(とむら)ヒカルと言います。本日はよろしくお願いします」

 少年は慇懃に頭を下げると、すぐに顔をあげて、人を小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

「しかしながら、音無ミオ先輩を除いたあなた方に、僕達の練習相手が務まるとは到底思えませんねえ……」

「あ!?」

 その挑発に、オウガが食ってかかろうとするよりも早く。

 垂直に落ちた手刀が、ヒカルの後頭部を殴打した。

「いたっ! ……ミコト先輩」

 頭を抱えて、ヒカルが恨めしそうに振り返る。そこには、手刀を落とした張本人であるミコトが鬼の形相をして立っていた。

「礼儀正しくしてなさいと言ったでしょう? いきなり喧嘩を売ってどうすんの! ほら、あやまりなさい!」

「しかしですね、ミコト先輩。僕達に、遊びに付き合っている時間は……」

「あ や ま り な さ い!!」

「……大変失礼いたしました」

「お、おう……」

 深々と頭を下げるヒカルの謝罪を、オウガは素直に受け入れた……というよりは、ミコトの剣幕にヒカルと一緒になって気圧されていたというのが正しい。

「ごめんなさい、失礼な子で。ヴァンガードが強い人が、リアルでも偉いと思いこんじゃってるのよ」

「いえ。気にしてませんよ。はじめて会った頃のミコトさんもこんな感じでしたので」

「うぐっ!」

 ミオの何の悪気もなかった一言に、ミコトが胸を抑えて膝をつく。

「それでは、今度こそはじめましょう。響星学園、聖ローゼの合同練習を」

 そんなミコトに気付くことなく、ミオは今度こそ合同練習開始の音頭を取るのであった。

 

 

「《招き入れる根絶者 ファルヲン》のブースト、《模作する根絶者 バヲン》で、《旭光の騎士 グルグウィント》にアタックします」

「グルグウィントのスキル発動! 山札から5枚見て、2枚をガーディアンサークルにスペリオルコール! 《フレイム・オブ・ビクトリー》! 《曙光の騎士 コルボドゥク》!」

「ツインドライブ。

 1枚目、(ヒール)トリガー。ダメージ回復して、パワーはリアガードのアルバに。

 2枚目、(ドロー)トリガー。1枚引いて、パワーはリアガードのエルロに。

 続けて、アルバでグルグウィントにアタックします」

「ノーガード。ダメージチェック……俺の負けだね」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いて、フウヤが敗北を認める。

「うおーっ! これで3勝3敗! やっぱミオ先輩も、フウヤ先輩も、すげえぜ!!」

 観戦していたオウガが両拳を握りしめて歓声をあげる。

「はい。フウヤさんとのファイトは、楽しさとは少し違った、真剣勝負のスリルを私に与えてくれます」

「それは俺も同じだよ。次、やろうか」

 ミオとフウヤが一瞬だけ視線を交錯させ、再びファイトに没頭する。

 その隣では、サキとヒカルがファイトを行っていた。

「《特装天機 マルクトメレク》のスキル発動! ドロップゾーンから《救装天機 ザイン》、《救装天機 ラメド》、《フリージング・グランター》をスペリオルコール! 前列ユニット3体にパワー+5000! さらに、1ダメージを受け……引トリガー! 1枚引いて、バトルに入ります。

 ラメドのブースト、マルクトメレクでヴァンガードの《真古代竜 ブレドロメウス》にアタック! ラメドのスキルも発動。あなたは守護者を発動できない!」

「う……ノーガード、かな」

「ツインドライブ! ……2枚ともトリガーは無し」

「ダメージチェック……負けました。十村君、言うだけあって強いね」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置きながら、サキが苦笑した。

「これで僕の5連勝。……やはり、時間の無駄です。あなたとは力の差が歴然としている。せめて、音無先輩とファイトさせて頂きたい!」

「ところで十村君。さっき、プレイングミスしていたよ?」

 静かに声を荒げるヒカルの態度もどこ吹く風といった様子で、マイペースにサキが指摘した。

「……何?」

「ほら、前のターン、私の手札はこれとこれとこれが公開情報だったでしょう? 十村君はメタトロンにライドしていたけど、この時点でマルクトメレクもあったよね? このターンでマルクトメレクにライドして、《フリージング・グランター』2体と、《救装天使 ラメド》をスペリオルコールしていたら……ほら、仮に他の手札が完全ガードだったとしても防ぎきれない」

「……本当ですね。これは失礼」

 存外、素直にヒカルはミスを認めた。

「私の方にミスはあったかな?」

「……いえ。ミスはなかったかと」

「よかった! こうしてお互いのよくなかったところを指摘し合えれば、もっと強くなれるよね」

「……そうですね」

 ヒカルは不承不承頷いたが、どことなく毒気が抜かれたようにも見えた。

 そんなふたりのやり取りを見ていたミコトが、サキに囁く。

「あんた、しばらく見ないうちに図太くなったわね……」

「ええっ!? そ、そうですか?」

 赤面するサキの隣で、ミオとフウヤのファイトも、また大詰めを迎えていた。

「グルグウィントでバヲンにアタック! アタック時にスキル発動! 山札から5枚見て……《ろーんがる》、《誓いの解放者 アグロヴァル》をアクセルサークルにそれぞれスペリオルコール!!」

「《発酵する根絶者 ガヰアン》でガード。1枚貫通です」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(フロント)トリガー!!」

「ダメージチェック……私の負けですね」

「これで俺の4勝3敗だね。……そろそろ休憩しようか?」

「いえ。続けてもう1戦お願いします」

「やれやれ。君が勝ち越すまでやる気かい?」

「それなら、私が2勝1敗の時点で終わってもよかったんですよ?」

 普段は冷静な両者の間で激しい火花が散る。

「はあ。ふたりとも負けず嫌いですね」

 傍から深いため息をついたのは神薙ノリトだ。

「せっかくなので音無さんともファイトしたかったけど。鬼塚君、もう一度、僕とファイトしませんか?」

「おう! よろしくお願いしゃーす!」

 ノリトの誘いに、オウガが威勢よく応える。

 ミオも次のファイトの準備をしながら「それにしても……」と小さく呟いた。

「このままでは《ストレングス》でフウヤさんとファイトしているのと変わりませんね。いえ、もちろんわざわざ響星まで来て頂いたのは嬉しいのですが」

「そう言うと思ったからね。特別ゲストも呼んでおいたよ。そろそろ来る頃だと思うんだけどね」

「特別ゲスト?」

「改めて助言しておく。俺とのファイトはここまでにしておいた方がいい。その人が来たら、君はすぐにでもファイトしたくなるだろうから」

「すぐにでも……」

 ミオの脳裏に浮かんだのは白い着物姿の少女だが、フウヤの伝手で彼女が来るのは考えにくい。

 そこまで思考したところで、コンコンと扉がノックされた。

「――」

 ミオがそれに誰何するより早く。

「お邪魔いたしますわ!」

 ガラッと勢いよく扉が開かれ、豪奢な金髪巻き毛の女性が姿を現した。

「あなたは――」

 ミオが息を止めて、何故か学内でドレスなど纏っているその女を見据える。

 彼女は不敵に微笑むと、スカートをつまんで優雅に一礼して見せた。

「……早乙女(さおとめ)マリアさん」

 ミオが女性の名を呼ぶ。

 女性――早乙女マリアは優雅に顔を上げ、ミオの記憶よりも遥かに大人びた笑みを浮かべた。

「お久しぶりね。音無(おとなし)ミオさん。1年ぶりくらいになるのかしら」

「俺もいるぞ」

 開けっ放しになっていた扉の影から、黒髪をオールバックに撫でつけた男がひょっこりと顔を出す。

「……ムドウさんまで」

 御厨(みくりや)ムドウ。ミオがバイトをしているメイド喫茶の常連客。

 聖ローゼの卒業生――それも昨年のナンバーワンとナンバーツーが揃い踏みだった。

「来てくださってありがとうございます。マリアさん、ムドウさん」

 いつもの人の好い笑みとは少し違う、心から嬉しそうな笑みを浮かべて、フウヤがふたりに歩み寄った。

「他ならぬあなたの頼みですもの」

 マリアは優しく頷きながらもツカツカとその横を通り過ぎ、さきほどまでフウヤが座っていた椅子に音も無く腰かけた。即ち、ミオの真正面に。

「音無さん。話はフウヤから聞いておりますわ。この早乙女マリアと、御厨ムドウ。今日1日、あなた達に胸を貸して差し上げます」

「はい。よろしくお願いします」

 偉そうに胸を張るマリアに、ミオはぺこりと頭を下げた。

「わたくしも、あなたとは一度ファイトしてみたいと思っていたの。ユキが認めたあなたの実力。まずは見定めさせて頂きますわ」

 そう言ってデッキを取り出した瞬間、彼女の纏っていた穏やかな空気が一変した。愛する者を優しく包み込み、敵対する者は容赦なく呑み込む、慈悲と無慈悲を併せ持った王者の如き巨大な重圧。フウヤの全てを貫くような殺気とは異にして同種の、真の強者にしか放つことのできない達人の気配だ。

 それを真正面から受けたミオは、自然と口元が緩んでいくのを感じた。

(――この人と、やりたい)

 フウヤと対戦するために並べていたカードを即座にまとめて切りなおすと、テーブルの上にドンと置き直した。

「ユキさんが唯一ライバルとして認めたあなたの実力、確かめさせてもらいます」

 マリアの言葉を返すように言い放つと、ミオはデッキから5枚のカードを引き抜いた。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《ばーくがる》」

 

 

「《ういんがる・ぶれいぶ》のブースト。《ソウルセイバー・ドラゴン》でヴァンガードにアタックですわ」

「……ノーガードです。ダメージチェック。……負けました」

 いつも以上に無表情になったミオが、残り少ない手札を取り落とすようにテーブルに置いた。

「これで3連勝。まあ、力の差を思い知らせるのは、このくらいで十分かしら」

 対するマリアは、ふんぞり返って満足げに鼻息をついていた。潤沢な手札を扇代わりにして、ファイトで火照った頬をあおいでいる。

「……どこがいけなかったのでしょうか。プレイング? それともデッキの構築が……」

「あなた、ユキにもほとんど勝てていないんでしょう?」

 ブツブツ呟きながらデッキをいじりはじめたミオに、マリアが追い打ちをかけるかのように告げる。

「わたくしは同年代で唯一、ユキと互角の勝負ができるファイターですのよ。まさか、わたくしになら勝てるとでも思っていましたの? もしそうだとしたら、本気で心外ですわ」

 カードの扇を閉じ、言葉と共にミオへと突きつける。

 怒気を孕んだマリアの瞳をしばらく見つめていたミオだったが、やがて諦めたように小さく息をついた。

「そう、でしたね。失礼しました。ですがこの時期に、あなたのような人に教えを受けられることは幸運なのでしょうね」

「わかればよろしい。今日1日、わたくしのことは師匠(せんせい)と呼ぶように」

「それはいやです」

「……強情ですわね。まあ、呼び方はどうでもいいですわ。

 次はこれを使ってファイトいたしますわよ」

 マリアが自分のデッキを片付け、新たなデッキを取り出した。

「何ですか、それは?」

「見て頂けたら分かりますわ」

 そう言って押し付けてきたカードの束を、ミオは受け取った。これから対戦するデッキの中身を見てもいいものか迷うが、そうしなければ始まらないようなので、手の中でカードを広げて確認する。

「これは……バミューダ△のデッキですね」

「ええ。あなたが綺羅ヒビキと対戦した記録をもとに、私が再現した彼のデッキですわ。実際に対戦したあなたにも中身を確認していただきたいの」

「なるほど。そういうことでしたら」

 ミオが頷き、1枚1枚デッキの中身を確認している間にも、マリアは言葉を続ける。

「天海の中でも、やはり綺羅ヒビキが図抜けて強い。彼に勝たない限り、あなた方に優勝はありえませんわ。わたくしがこのコピーデッキを使いますから、皆はバミューダ△の動きに慣れてくださいませ」

「本職でなくとも、マリアさんの使うバミューダ△なら、そこらのバミューダ△使いが使うデッキよりは、よっぽど強いだろうね」

 とフウヤも補足した。

「わたくしのバミューダ△はどうでした? 直すところはありまして?」

 マリアがミオに尋ねる。

「……オーソドックスなリヴィエール軸ですね」

 ミオはデッキをマリアに返却しながら、あえて遠回しに答えた。

「奇をてらった部分と言えば、パールシスターズくらいでしょうか」

「本来のわたくしなら、こんな不安定なカードは絶対に入れないのですけど」

「私もです」

「……リンクジョーカーを使って、根絶者以外をデッキに入れないあなたが言いますの?」

「根絶者は特別です」

「清々しいほどにダブルスタンダードですわね。

 で、わたくしはこのデッキに直すところがあるのか問うたのですけれど?」

「……若干の違和感がありました」

「あら。どこかしら?」

「それが……うまく言えません」

 機械のように正確に答えを算出する。むしろそうしなければ気が済まないミオが、結論を曖昧にしたまま言葉にするのは非常に珍しいことであった。

「うまく言って頂かなければ直しようがありませんわ」

「ですが、この違和感だけは解消しておかなければいけない。そんな気がするんです」

「……まあ、わたくしも完璧にデッキをコピーできたとは思っていませんわ。あなたが瞬殺されなければ、もう少し構築を絞ることができたのですけど」

「すみません」

「いえ。綺羅ヒビキを引きずりだしただけでも、響星(あなたがた)は大殊勲ですわ」

「ふふん」

「偉いのは天道(てんどう)アリサさんですわよ?

 まあ、あなたの言う違和感は、ファイトをしているうちに見つかるかも知れませんわ。替えのカードは一通り持ってきてますから、とりあえずファイトしてみましょう」

「そうですね」

 同意したものの、ミオはファイトの準備を始めるでもなく、じっとマリアの目を見つめていた。

「どうされましたの?」

「いえ。どうしてマリアさんが私に親身になってくれているかが理解できないので」

「まあ! 何か裏があると思ってますの?」

 マリアが心外だと言いたげに目を見開いた。

「いえ。そこまでは」

「あなたはユキが育てた後輩ですもの。わたくしにとっても他人とは思えませんの……というのは建前ですわね。

 本当の理由は、綺羅ヒビキに勝てる可能性が一番高いのはあなただと思っているからですわ」

「聖ローゼの皆さんではなく?」

「ええ。彼の使っているバミューダ△はリヴィエール軸。同名カードのスペリオルライドを得意とするデッキ。デリートの解除に余計なカードを割かなければならない根絶者は天敵ですのよ」

「単なるデッキ相性の話ですか」

「わたくしは情で動かなくてよ。もっとも勝てる可能性が高くなる手段を徹底する。そうしてわたくしは強くなってきましたの。

 ……とは言え、理想を言わせてもらうなら、綺羅ヒビキを破ったあなたを、わたくしの可愛い聖ローゼの後輩達が喰らって優勝してくれることなのですけど」

 マリアに視線を向けられたフウヤは、腕組みをしたまま面白くなさそうに無言で肩をすくめた。

 彼の本音は、マリアの方針に異論は無いが、漁夫の利を狙うようなやり方はどうしてもプライドが傷つくと言ったところか。

「納得していただけました?」

「はい」

「では、はじめますわよ」

 ミオは無言で頷き、ファーストヴァンガードに手をかけた。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

 

 

 ミオとマリアが一手ごとにああでもないこうでもないと議論を交わしながらファイトを進め、多くの者がそちらに気を取られている時。

 部屋の隅でひっそりと、別のファイトが終盤を迎えていた。

「《ファントム・ブラスター・オーバーロード》のアタック時に、我がしもべ5体の命を喰らいスキル発動。貴様も5体の贄を選べ」

「くっ。要するに全ユニット退却ってことじゃねーか」

「そして並び立て、《ファントム・ブラスター・ドラゴン》

 さあ、オーバーロードのアタックはどう受ける?」

 ムドウが試すような口調で、オウガに判断を促す。

「《チアガール マリリン》で完全ガードだぜ!」

「ツインドライブ。

 ファーストチェック……トリガー無し。

 セカンドチェック……★トリガー。効果はすべてファントム・ブラスターに」

「ぐっ……!」

「昏き絶望の闇へと沈め。ファントム・ブラスターでアタック(シャドウイロージョン)

「……ノーガードだぜ。ダメージチェック。1枚目、2枚目……俺の負けだ」

 オウガが悔しさを滲ませながらダメージゾーンに6枚目のカードを置く。

「くあーっ!! 強えなあ、ムドウ先輩!!」

 そして、次の瞬間には清々しい笑顔になって、対戦相手――御厨ムドウを称えた。

「当然だ」

 ムドウが当たり前のように頷く。

 ミオとマリアが最初にファイトを始めた時、オウガは手持無沙汰になっていたムドウにすぐさまファイトを申し込んだ。

 初対面の実力者が相手だろうと、物怖じせず向かっていけるのがオウガの最大の強みであり魅力だ。

 ふたりはすぐに打ち解け(ほとんどオウガが一方的に喋っているだけだったが)、こうしてファイトを続けている。

 今のところオウガの連戦連敗だが、ファイトのたびにプレイングが洗練されていき、目に見えて強くなっていた。

「ムドウ先輩! もう1回お願いしゃーす!」

「いいだろう」

 ムドウも目の前の少年の成長が楽しいのか、嫌な顔ひとつせず(いつも仏頂面だが)付き合っている。弱いファイターとのファイトを好まないと公言している彼にしては非常に珍しいことだ。

「お前は自分の無力を自覚している。だからこそ、マリアの講義に参加せず、自らの地力を高める選択肢――俺とのファイトを選んだ。

 自分が今すべきことを理解できている人間は嫌いではない」

 山札をシャッフルしながら、ムドウはオウガに語り掛けた。それはぽつりぽつりと呟くようで、オウガは一瞬自分のこととは気づかなかった。

「え? あー……別にそんな難しいこと微塵も考えちゃいねーっすよ」

「無意識にでもできているなら大したものだ。

 ……何も考えていないようで、頭の回転は速い。盤面もよく俯瞰できている。フィールドスポーツの経験が生きているのか。いずれにしろ俺好みの素質だ……」

「へ? 何の話……」

「……来月のヴァンガード高校選手権な。あれにはいい思い出が無い」

「だから何の話……」

「聞け」

 有無を言わさぬムドウの低い口調に、オウガは思わず押し黙る。

「去年。俺にとって最後のヴァンガード高校選手権のことだ。俺はライド事故を起こした」

「……あー」

 オウガは思わず苦笑した。ムドウほどの実力者であっても、そればかりはどうしようもない。

「俺の代にはマリアがいたからな。俺は常に2番手で、大した実績は残せなかった。マリアが受験で引退したその時が、実績を残す最後のチャンスだったのだ。

 しかし結果はライド事故で2回戦敗退……実績が無ければプロにはなれん」

「プロ……」

 その単語を聞いたオウガの心臓が激しく跳ねた。ヴァンガードのプロと言えば、オウガにはまだまだ縁遠い世界だが。

 アメリカンフットボールのプロ選手と言えば、ほんのひと昔前のオウガにとっては大きな目標のひとつだったのだ。好きなこと(アメフト)で生きていけるのなら、どれほど幸せなのだろうと夢想しない日は無かったほどに。

 ヴァンガードと出会ってからは、それに熱中することができ、必要以上に苛まれることは無かったものの、それでも心の奥底にずっと引っかかっていた、思い出と呼ぶにはまだ生々しい傷跡。

「おかげで俺はプロになれず、張り合いの無いアマチュアファイトで昇格を目指す毎日だ。

 とは言え、それはそれでいいんだ。ライド事故もヴァンガードの一部で、それをひっくるめて俺はヴァンガードが好きだと分かったし。大学にあるヴァンガードサークルでのファイトも、それなりに楽しませてもらっているしな」

「ムドウ先輩……」

 陰気な男が、この時ばかりは少し眩しく思えた。

 傷を受け入れ、今を楽しみ、新たな目標に向かって邁進している彼は、オウガにとって年齢とは別の意味で『先輩』だった。

「だが、時折想像してしまうことがある。あの時のライド事故が無ければ、俺の実力は優勝に届いていたのだろうかと。

 結果を変えたいとは思わんが、それだけは確かめたい……」

 上を向いて過去を見ていたムドウが、ゆっくりと視線をオウガに戻した。

「オウガと言ったな。これより残りの時間で俺のすべてをお前に伝授する。来月のヴァンガード高校選手権、それでお前は行けるところまで行ってみせろ」

 託すというよりは、脅迫するような鋭い眼光だった。

「うす! まかせてください!」

 オウガはそれを真っ向から力強く受け止めた。そればかりか不敵に笑い、告げる。

「けど、さすがに先輩の3年間が今日1日じゃ足りんでしょ。これから毎週、休みの日には特訓をお願いできませんかね」

「ふ……自ら地獄を望むか。

 いいだろう。今週からお前には、休日も祝日も無いと思え」

「うす! よろしくおねがいしまっす!」

 オウガとムドウ。対照的なふたりの男が、固く手を握り合った。

 

 

「《波動する根絶者 グレイドール》でヴァンガードにアタックします」

「……ノーガード。……わたくしの負けですわね」

 震える指でバミューダ△のカードをダメージゾーンに置き、努めて冷静さを保とうとしている声音でマリアが告げる。これは練習であり、自分の得意とするクランで無いにも関わらず、全身から悔しさが溢れだしていた。

 負けず嫌いの度合いで言えば、ミオやフウヤより上かもしれなかった。

「……ふう。やはり、リヴィエールの連続アタックを1度こらえることさえできれば、根絶者の勝ちは揺るぎませんわね」

 自分の心を落ち着かせるように大きく息をついて、マリアがファイトを振り返る。

「10戦して音無さんが8勝。これを10勝に近づけるようにしないとなりませんけど、さすがに時間が足りませんわね」

「最終調整は、私達の方でするつもりです。デッキの内容は覚えていますし」

「ええ、そうしてちょうだい。

 ……それにしても、まったくパールシスターズは揃いませんわね」

「揃わない前提でプレイして、片方をさっさとガードに使ってしまうマリアさんにも原因があると思いますが」

「それにしてもよ! ヴァンガード選手権の大一番で、ここしかないというタイミングで揃うものですの? 綺羅ヒビキもヴァンガードの神様に愛された『選ばれた人間』なのかも知れませんわね」

「……」

「どうしました?」

「少し以外でした。マリアさんが神様のような非合理の極致とも言うべき概念を信じているというのが」

 宗教家に聞かれたら目を剥いて説教されそうなことを、さらりと口にする。

「わたくしも基本的には信じていませんわ。けど、理屈だけでは説明のつかない、神様の存在を疑う方が非合理的に思える傑物が存在することは事実。あのユキと付き合っていると、特にそう感じますわね」

「ああ、なるほど」

 そう言えば、マリアはユキと同じ大学に進学し、同じヴァンガードサークルに所属していると聞いていた。

 たしかに彼女を見ていると、特定の人間を贔屓したがる不公平な神の存在を信じたくなるかも知れない。

「まあ、わたくしとしては『選ばれた人間』がいることは、まったく構いませんの。そういった特別な人間を、運否天賦の介在しようのない圧倒的な実力でねじ伏せるのが楽しいのではなくて?」

「はあ」

『選ばれた人間』かは知らないが、常識から外れた異端者と見られることが多く、その自覚もあったミオには、あまりピンとこなかった。

 そもそも、そのようなことを臆面も無く言ってのけられるマリアも、ひとかどの人物であることには間違いは無かった。

 そんなことを考えていると、ノックも無しに部室の扉がきしんだ音をたてて開いた。

「……ん、やってるね」

 やる気の感じられないだらけた声が、雑音にかき消されながらもミオの耳に届いた。

 ノックが無いのも当然。現れたのは、この部屋の責任者。ミオ達の教師にして、カードファイト部の顧問、春日(かすが)マナブ教諭であった。

「おつかれーっす!」

 オウガが率先して挨拶し、他の面々も揃って会釈する。

 聖ローゼ勢も、校内と部室に立ち入る許可を彼から得ているためすでに面識があるらしかった。

「音無。調子はどうかな?」

 事務的な口調でマナブが尋ねてきた。

「まずまずと言ったところです」

 答えるミオも淡々としているため、このふたりは仲が悪いのではないかと、マリアは不安そうに、両者の顔を交互に見比べた。

 実際に仲がいいわけではなかった。互いに協力して部を管理する義務があるからそうしているだけのドライな関係。少なくともミオはそう思っていた。

「じゃあ、次は僕とファイトしようか」

 だからこそ、その後のマナブから告げられた提案に、ミオは思わず目を丸くしてしまうほどの驚きを覚えた。

「……はい?」

 思わず聞き返す。

 離れた場所で話を聞いていたオウガとサキも同様らしく、目を見開いたり、口をぽかんと開けたり、驚きの反応を示していた。

「部員がこれだけやる気を出しているんだ。顧問が我関せずじゃ、体裁も立たんでしょ」

 あくまでこれも義務の一環であるという態度で、マリアが譲った席に腰かけ、羽織った白衣のポケットからデッキケースを取り出した。

「失礼ですが、先生は強いのですか?」

「さあ、どうだろうね?」

 ミオの質問に、マナブは肩をすくめてはぐらかした。

「ちょっと待ちなさいな。何でカードファイト部の顧問が、生徒と一度もファイトしたことがありませんの?」

 さすがに聞き捨てならなかったのか、マリアがツッコんだ。

「面倒だったからだよ」

 マナブが臆面もなく答えた。

 ミオですら、ファイトどころか、彼がカードを手にしたところを初めて見るが、マリアと話しながらでも、デッキをシャッフルする手つきによどみは無い。

 少なくとも、カードの扱いには慣れているようだった。

「わかりました。よろしくお願いします」

 ミオが一礼し、マナブに遅れる形でファイトの準備を整える。

「ん、はじめようか」

 マナブがブリッジに触れてメガネの位置を調整し、ぼりぼりと寝ぐせの残る髪をかきながら告げた。

 そして、ふたりが同時に裏向きに伏せてあったファーストヴァンガードをめくる。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《ブラックボード・オーム》」

 

 

 グレートネイチャー総合大学。

 惑星クレイにおいて、もっとも自然豊かな国家、ズーの中心にその大学は存在する。

 在籍するのは、独自の環境で人間を越える知性を得た動物(ハイビースト)達。

 生活を支える日用品から、戦争の在り方すら変える兵器の開発まで。本能のままに発明品を生み出す彼らは、学び舎という性質上、率先して戦に加担することは少ないものの、その戦闘能力は一国の軍隊を凌駕すると噂されている。

 大学の敷地を侵す不届き者に対してのみ、彼らは牙を剥き、獣の如く勇猛に戦うのだ。

 今日も賢者の号令が、森の最奥にて木霊する。

 皆の者、筆を取れ! これより特別課外授業を実施する!!

「ライド……」

 お互いにダメージは2点。

 先攻のマナブ教師が、まずはG3のユニットにライドした。

「《鉛筆英雄 はむすけ』」

 鋼鉄のマシーンが軋んだ唸り声をあげて大地を踏みしめる。

 それに搭乗しているのは、1匹の小さなハムスターだった。

 よって、マシーンも手のひらサイズであり、砲弾の代わりには、鉛筆をふんだんに搭載していた。

 だが、その容姿で侮るなかれ。

 彼もまた、惑星クレイに名を轟かせる英雄のひとりなのだから。

「イマジナリーギフトは……んー。まあ、ここはアクセルⅠかな」

(きちんとしてますわね、この方)

 ここまでマナブのプレイングを観察していたマリアが、内心では舌を巻いていた。

 ことあるごとに長考し、はっきり言ってそのプレイングには鈍重さすら感じられる。

 だが、ファイトにおいてプレイングの速さなど何の意味も成さないのである。天海学園の清水セイジのような、プレイング速度が盤外戦術の域に達しているのは例外にしても。

 マナブは長考の甲斐あってか、今のところ難しい判断が求められる場面でも一切の失策は見られなかった。

 何より彼は、多くのファイターが決め打ちでアクセルⅡを選択してしまう場面ですら、熟考してアクセルⅠを選択した。

 思考停止でアクセルⅡを選び、実は勝機を逃しているファイターの何と多いことか。

 常に思考を巡らせ、最前手を打ち続けられる判断力こそ、強いファイターの条件なのである。

 それを体現している目の前の教師に、マリアは初対面ながら好感を覚えた。

「はむすけのスキル発動。追加でアクセルサークルを得て、《鉛筆騎士 はむすけ》と《鉛筆従士 はむすけ》をスペリオルコールさせてもらうよ」

「はむすけデッキですか」

「昔からこいつが好きでね。デッキには欠かさず入れているんだ」

 ミオの独白に、マナブは律儀に答え。

「いいと思います」

 ミオもまた律儀に返した。

「《はむすけの学友 赤青鉛筆のはむひこ》をコール。コストを支払い、山札の上から2枚見て……うーん。《メジャード・フォッサ》を手札に加えようかな。《ディクショナリー・ゴート》はドロップへ。

《はむすけの学友 ロケット鉛筆のはむどん》もコール。手札を1枚ソウルに置いて、鉛筆騎士とはむどんにパワー+10000。1枚ドロー……ん、いいカードだ。《アンバーズ・トライアングラー》をコール。

 バトルに入るよ……」

 宣言した瞬間、マナブのだらけた気配が一変――することもなく、億劫な手つきでカードを傾ける。

「鉛筆従士のブースト。鉛筆英雄でヴァンガードのアルバにアタック」

「ノーガードです」

「ツインドライブ。1枚目……トリガー無し。2枚目……引トリガー。1枚引いて……うん。パワーはトライアングラーに、だね」

 マシーンに内蔵された火薬が弾け、装填された鉛筆(ミサイル)が発射される。

 鉛筆は白煙をたなびかせふらふらと蛇行しながらも侵略者に突き刺さり、大爆発を起こした。

「ダメージチェック。

 引トリガーです。1枚引いて、パワーはヴァンガードのアルバに」

「面倒だな。……じゃあ、はむひこでリアガードのギヲにアタックだ」

「ノーガード。ギヲは退却します」

「アクセルサークルのトライアングラーでヴァンガードにアタック。同じ縦列にユニットがいないので、パワー+10000だよ」

「合計パワーは42000ですか。ガタリヲと(クリティカル)トリガーでガードです」

「鉛筆騎士でヴァンガードにアタック」

「ノーガード。ダメージチェック……★トリガー。パワーはヴァンガードのエルロに」

「アクセルサークルのはむどんでヴァンガードにアタック」

「クイックシールドを使用します」

「2点しか与えられなかったか。やるね。ターンエンドだ」

「私からすれば、もう4点かという感じですが」

 そう言って、互いに肩をすくめ合う。

「スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》

 イマジナリーギフトはフォースⅠをリアガードサークルに。

《噛み砕く根絶者 バルヲル》をコールし、ソウルブラストしてスキル発動。次のターン、先生はエンドフェイズ中にカードを表にできません」

「了解。けど、本当の狙いはそちらではないね?」

「はい。《呼応する根絶者 エルロ》をコールします。ドロップゾーンにいるアルバのソウルブラスト。アルバをドロップゾーンからスペリオルコールします」

「ソウルのアルバをドロップゾーンに置くのが、彼女の狙いだった」

「ええ。けど、それだけではありませんわ。アルバのソウルブラストで、あのカードもドロップゾーンに置いてますわよ」

 試合を観戦していたフウヤとマリアが囁き合う。

「グレイヲンのスキル発動。《鉛筆英雄 はむすけ》をデリートします。ドロップゾーンにいるファルヲンをスペリオルコール」

「根絶者だけでここまで無駄無く展開できるとはね」

 マナブが感心したように呟いた。

「他人事みたいに。一応、あなたの教え子でしょう?」

「僕は生徒の自主性を尊重しているんでね」

 マリアが指摘するが、マナブは悪びれもなく返した。

「おかげで私は気楽にいられます。

 バトルフェイズ」

 皮肉か本心か判断のつきにくい口調で顧問をフォローしながら、ミオが宣言する。

「フォルヲンのブースト。グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

「《ケーブル・シープ》で完全ガード」

「ツインドライブ。

 1枚目、★トリガー。効果すべてエルロに。

 2枚目、治トリガー。ダメージを1枚回復して、これもパワーはエルロへ。

 フォースサークルのエルロでヴァンガードにアタックします」

「……しかたない。これはノーガードだ。

 ダメージチェック。

 引トリガー。1枚引いて、パワーはヴァンガードに。

 2枚目はトリガー無しだ」

「引トリガーが多いですね」

「ええ。恐らく8枚以上積んでますわね。アクセルⅠを選んだからには、それをするだけの自信があるということね」

 フウヤとマリアがまたもや囁き合う。

「ですが、エルロのスキルも発動します。《アンバーズ・トライアングラー》を裏でバインド(バニッシュデリート)。

 続けて、アルバでアタックします」

「悪くない判断だ。なら、そのアタックは《スリップ・パンゴリン》でガード。はむひことはむすけでインターセプトさせてもらうよ」

「ターンエンドです」

「僕のターンだね。ドロー」

 その時、マナブのメガネの奥にある気だるげな瞳が鋭く細められ――ることもなく、適当な調子で切り札を切る。

「ライド。《名物博士 ビッグベリー》」

 森の奥からのしのしと足音をたてて、周囲の木々に匹敵するほど巨大なパンダが姿を現した。

 彼は異形の侵略者を前にしても一切動ずることなく、どっかりと愛用の切り株に腰を下ろす。

「《メジャード・フォッサ》をコール。スキル発動。山札の上から2枚見て……《鉛筆英雄 はむすけ》をスペリオルコール。

 さらに《アンバーズ・トライアングラー》、《スプール・メリー》をコール」

「これで先生の手札はゼロになった……!」

「ですけど、前列サークルも埋まりましたわ。さあ、音無さん。グレートネイチャーの猛攻に耐えられまして?」

 マナブが盛り上がらない分、何故かギャラリーが盛り上がりはじめている。

「バトルだ。トライアングラーでヴァンガードにアタック」

「アルバとエルロでインターセプトです」

「アクセルサークルの《メジャード・フォッサ》でヴァンガードにアタック。フォッサのスキルではむすけのパワーに+10000」

「ノーガード。ダメージチェック。トリガーはありません」

「はむすけでヴァンガードにアタック」

 根絶者を取り囲んだ獣達が、少しずつグレイヲンとミオを追い詰めていく。

「ノーガード。ダメージチェック……★トリガー。パワーはすべてグレイヲンに」

「ふむ。困った。これではむどんのアタックは通らなくなった。やっぱりフォース相手は厳しいな。

 ……まあいいか。とりあえず、アクセルサークルの《スプール・メリー》でヴァンガードにアタック。アタック時、メリーとビッグベリーのパワーに+10000」

「ガヰアンでガードします」

「はむすけでブースト。ビッグベリーでヴァンガードのグレイヲンにアタック。

 アタック時、ビッグベリーのスキル発動。パワー20000以上のユニットはすべてスタンドする」

 ビッグベリーがひとたび教鞭を振るうと、疲れ倒れていた生徒達がみるみるうちにやる気を取り戻し、再び立ち上がる。

「治トリガーでガードします」

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、前トリガー。前列ユニットのパワーに+10000だ」

「ここで前トリガーか! これでスタンドしている4体のアタックがすべて通るようになった」

「対する音無さんの手札も4枚。決まりかしら。

 ……いえ。このくらいじゃ、この子は諦めないわね」

 フウヤが呻き、マリアが楽しそうに微笑む。

「トライアングラーでヴァンガードにアタック」

「★トリガーでガードします」

「《鉛筆英雄 はむすけ》でヴァンガードにアタック」

「ノーガードです」

 撃ち出された鉛筆がふらふらと飛び、グレイヲンの眼前で炸裂する。

「ダメージチェック……トリガーではありません」

 グレイヲンの巨体がゆっくりと崩れ落ち、その足元で小さな勇者は鉛筆を掲げて勝鬨を挙げた。

 

 

「ありがとうございました」

 6枚目のカードを丁寧にダメージゾーンに置き、ミオが頭を下げる。

「うん。お疲れ」

 軽く頷いて、マナブもそれに答えた。

「つ、強い……」

 人当たりはいいが、ヴァンガードに関しては滅多に人を褒めないフウヤが、素直な感想を口にした。

「素晴らしい腕前ですわ」

 マリアも上品に拍手を送り、マナブを称えた。

「運がよかっただけだよ」

 マナブがボサボサ髪をかきながら苦笑する。

「この場にそんな謙遜が通じる人はいませんわ。ね、今度はわたくしとファイトしてくださらない?」

「いや。君とファイトしてどうするんだ? ここに来た目的を忘れてないかい?」

 いてもたってもいられなくなった様子でファイトを申し込むマリアに、マナブが半眼になってツッコミを入れる。

「そ、そうでしたわね。わたくしとしたことが……。

 それにしても、それほどの実力をどこで身につけられたのでしょう?」

 マリアが赤面し、誤魔化すように言葉を続ける。

「もしかして……!!」

 それに答えたのはマナブではなく、少し離れた場所で話を聞いていたサキだった。

「マナブというお名前に、はむすけを軸にしたグレートネイチャー……。先生は10年前のヴァンガード甲子園や、ヴァンガード高校選手権で活躍されていた、森野(もりの)マナブさんではありませんか!?」

「……まあ、隠す必要も無いか。君の言う森野マナブは僕のことで間違いは無いと思うよ」

 サキの問いを、マナブ適当に肯定した。

「森野マナブ……覚えていますわ! 当時新興勢力だったとは言え、すでに最強だった天海学園と互角に戦うことのできた唯一のファイター!

 プロ入りは確実と噂されながらも、高校卒業を機にヴァンガード界からぱったりと姿を消した!」

 追従するマリアの言葉に、ムドウやフウヤなど、ベテランのファイターが次々と頷いた。

 新参のミオにはピンとこなかったが、有名な話らしい。

「ど、どうしてこんな部活の顧問に納まってますの!? 名前まで変えて!」

「こんな部活ですみませんでした」

 ミオがポツリとツッコんだが、興奮しているマリアには届いていなかった。

「名前については単純な話だよ。5年前に結婚していてね。妻の姓を名乗ることになっただけだ。身分を隠していたつもりはない」

「あ、ああ、なるほど……。

 では、ヴァンガードを辞めた理由は!? 見たところ腕は落ちてないようですし、デッキも最新のカードで強化されてるのに!」

 ここまでまくしたてたところで、マナブの冷たい瞳と、己の無礼に気付いたのだろう。一転、しおらしくなって深々と頭を下げる。

「ごめんなさい。誰にでも詮索されたくない過去はございますわね。謝罪を受け入れてくださるかしら」

「いいよ。元より気にしていない。

 ただ、早乙女マリアさん。君のことは白河(しらかわ)や音無から聞いていてね。君なら言わずとも、僕がヴァンガードの大会から離れた理由に気付けるんじゃないかと思っただけだ」

「わたくしなら? …………あ」

 マリアは何かに気付いたかのように小さく声をあげると、みるみるうちにその顔面が蒼白になっていく。

「わたくし……本当に失礼なことを」

「気にしていないと言ったよ。

 そうさ。昔の僕はファイトが大好きだった。恐らく君のように。

 平日休日問わずヴァンガードに明け暮れ、気が付けば高校生最強と呼ばれるほどにまで強くなっていた。

 けど、そこからは地獄だった。気が付けば、皆が僕を見ていた。天海に勝てるのはお前しかいない。他の高校には勝てて当然。様々な重圧が僕にのしかかってきた。

 いつしかカードをめくることすら怖くなっていた。僕はただ、みんなとファイトするのが好きだっただけなのに……。

 プロのスカウトはすべて断って、大学で教員免許を取って、逃げるようになりたくもない教師になった。本当はカードファイト部の顧問にもなるつもりはなかったけど、他にファイト経験者の教師がいなくて、仕方なくね」

 気だるげなマナブの横顔に、初めて表情らしい表情が浮かんだ。苦悩。後悔。悲哀。あらゆる負の感情が眉間の皺となって刻まれていた。

 まだ20代の若い教師だが、この時ばかりはそれの倍以上に老けて見えた。

「けど、音無」

 虚ろな目で天井とマリアを見上げていたマナブが、不意にミオへと視線を戻した。

「君とのファイトは楽しかったな」

 そして、笑い方を忘れてしまったかのようなうっすらとした笑顔で微笑みかける。

「ありがとうございます。最高の褒め言葉です」

 ミオも微笑み返しながらぺこりと一礼した。

「今度はオウガさんやサキさんともファイトしてあげてください。それもきっと楽しいですから」

「そうだぜ、先生! 今度は俺とファイトしようぜ!」

「はい! 伝説のグレートネイチャーと、私もファイトしてみたいです」

「はは。そのうちにな」

 オウガとサキの言葉に渇いた笑い声をあげながら、マナブは席を立つ。

「けど、今日はこのあたりで席をはずさせてもらうよ。科学部の連中も見てやらにゃならんのでね。

 一部の者には説明したと思うけど、今日は22時まで学校に残っていい。帰りは他の先生にも協力してもらって、全員を車で家まで送り届けるから、絶対にひとりで勝手に帰らないこと。いいね?」

 それに対して、快活な返事もあれば、適当な返事もあった。

「いい返事だ」

 それらを一様にひっくるめて、マナブ教師はそう評し、部室を後にした。

 

 

 それからも生徒達は練習を続けた。

 マリアとミオは、対バミューダ△との特訓を続け、そこにフウヤも加わった。

 ミコトとノリトは、マリアのバミューダ△をさらにコピーし、姉弟で独自に研究を重ねていた。

 オウガはマンツーマンでムドウに鍛えられ、それを応援するようにサキが静かに見守っていた。もちろん、彼女も取り込める技術や知識はちゃっかり取り込んでいたが。

 ヒカルはそれらの卓を順繰りに巡りながら自主練習をしていたが、最後に少し時間が空いたのでミオとも対戦することができた。結果はミオの3連勝で、かなり憮然とした表情になっていた。

「今日はお疲れ様。

 皆……聖ローゼの皆も聞いてほしい」

 時計の針が10時を指した頃、マナブ教師がひょっこりと現れ、生徒達を集めて締めの挨拶を行った。

「今日の努力が来月の大会で報われるのは、ひとりだけになるだろう。ひとりも報われない可能性だってある。

 けどそれは、勝敗で見た結果の話だ。

 ひとつの目標に向かって努力することは何も悪いことじゃない。努力した成果は目標以外のところでも必ず還ってくるんだ。

 僕のような夢も希望も無いつまらない大人が言っても説得力が無いかも知れない。だから、あえてこう言おう。

 僕のようにはなるな」

 全員が神妙な面持ちで、その言葉を聞いていた。

 とは言え内心は様々で、マリアのように自らの経験を顧みる者もいれば、ヒカルはどこか反論したそうでもあった。

「珍しいっすね。先生が先生みたいなこと言うのって」

「反面教師だけどな」

 重くなりかけた空気をオウガが茶化して和らげ、マナブが自嘲気味に口の端をあげた。

「とにかく、来月は精いっぱい楽しんでくるといい。

 勝ちに拘るのはいいが、君たちはヴァンガードが好きだから、ヴァンガードで勝ちたいんだろう? その気持ちまで忘れちゃいけないよ」

「ご忠告ありがとうございます。聖ローゼ一同、肝に銘じておきます」

 聖ローゼ代表として、フウヤが一歩前に進み出て慇懃に礼を述べた。

「うん。じゃあ、帰ろうか」

 車のキーをちゃらりと鳴らして、マナブが生徒達を先道する。

 猫背によれよれの白衣を引っ掛けたその後ろ姿は、今日も少し寂しそうだった。




グレートネイチャー使い、春日マナブが正式に参戦です。
登場こそ早かったキャラクターですが、使用クランは不明、そもそもファイトするのかも不明の時期が続きました。
グレネ回のついでに掘り下げてみたら、色々とすごいキャラになった気がします。

そして、エンジェルフェザー使い、十村ヒカルも顔見せとなりました。
新しいマルクトメレクの登場が予告されたのはグッドタイミングですが、名前からタツヤの情念が溢れすぎていて使いにくい……。

それでは、次回は「天輝神雷」のえくすとらでお会いできれば幸いです。
公開は11月7日前後を予定しておりますが、14日前後になる可能性もございます。

【デッキログ】
春日マナブデッキ:NXBE


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12月「あれが正真正銘の「怪物」だ」

「それでこの前の『月刊ブイロード』でさ……」

「しっ! 響星(きょうせい)学園が会場入りしたぞ!」

「響星って?」

「知らないのか!? 前回のヴァンガード高校選手権の優勝者、人呼んで“白妙の根絶姫”音無(おとなし)ミオを擁する高校だよ!」

 

 ヴァンガード高校選手権の会場に入るなり、他愛のない話で盛り上がっていた観客や他のファイターが一斉にミオ達を見た。

 喧噪に包まれていた会場が静まり返ったように見えて、そこかしこから浮かんでは消える囁き声のおかげで、むしろ賑やかになったようにも思える。

 

「後ろの2人は誰だ?」

「さあ?」

「知らねー」

天海(あまみ)に勝った“シンデレラ・インセクトガール”天道(てんどう)アリサは?」

「3年生だから引退したって聞いたけど」

 

「くそー! 今日こそは響星に鬼塚(おにづか)オウガありって、知らしめてやるからな!」

 周囲の声に聴き耳を立てていたオウガが、掌に拳を叩きつけて悔しがる。

「その意気です。が、雑音をいちいち気にしていたら身がもちませんよ」

 ミオが無感情にぴしゃりと告げる。

 

「おい! 東口から(セント)ローゼも入場したんだってよ!」

「それは見に行かなきゃ!」

「“黄金のプリンス”3年の小金井(こがねい)フウヤだ!」

「今年が最後のヴァンガード高校選手権だからな! きっと燃えてるぜ!」

「“黙っていれば大和撫子”神薙(かんなぎ)ミコトに、“神薙ミコトの弟”神薙ノリトもいるぞ!」

「最近頭角を現してきた1年生、“穢れし十字架”十村(とむら)ヒカルにも注目だぜ!」

 

 それぞれ別々の入り口から入場した聖ローゼと響星学園は、互いに惹かれ合うようにして、スタジアムの中心で出会った。

「おはよう。合同練習ぶりだね」

「おはようございます。あの時はどうも」

 両校の部長が互いに会釈をする。

「あの……私はさっきから有名なファイターにつけられている二つ名のようなものが気になるんですけど」

「わかる! ていうか、私の二つ名を考えたヤツは誰よ!? 見つけたら、八つ裂きにしてやる!」

「そ、そういうところなんじゃ……」

「あはは。僕なんて、姉さんの付属物扱いですよ……」

「俺もいつかカッコいい二つ名が欲しいぜ!」

「どうでもいいですよ。そんなもの」

「君、自分のだけ強そうだからって……」

 他の部員は珍しくヴァンガードとは関係の無い雑談に花を咲かせていた。聖ローゼにしてみれば、手の内を明かさないための自衛策を兼ねているのだろう。

「今日はお互いに全力を尽くしましょう。“黄金のプリンス”さん」

「やかましいよ」

 ミオが正々堂々と差し出した手を、フウヤがぺしんとはたき落とした。

 

「来たぞ! 天海学園だ!」

「“略奪者”(あおい)アラシだ!」

「“最速の将”清水(しみず)セイジもいるぞ!」

「そして、“薔薇の貴公子” “幻想の詩人(トルバドール)” “バミューダ・プロデューサー”綺羅ヒビキ!!」

「キャーッ! ヒビキ様ーッ!!

「ああ、今日もなんてお美しいの……」

 

 一際大きな歓声が爆発し、会場の熱気が一瞬でピークに達した。

「天海学園……今年は来たようだね」

 異様な雰囲気の中から、達人の気配を鋭敏に感じ取ってフウヤが呟く。

 

「ヒビキさん! 私のコーラルにサインください!」

「あ、私も! パシフィカにサインお願いします!」

「僕のアネシュカにも!」

 

 ミオは目と耳がとてもいい。離れていても、観客席の下段に人が集まり、彼らの手にしたカードが、次々とヒビキに向かって伸ばされていく光景がはっきりと見えた。

 ヒビキは嫌な顔ひとつせず、カードを受け取っては、どこからか取り出した油性ペンでサインを描き、持ち主に返していった。

「君、お名前は? ……いい名前だね。はい、どうぞ」

 彼はひとりひとりから名前を聞き出し、名前を添えるのも忘れなかった。カードを受け取った人は皆、満面の笑みでお礼を述べ、自分の席へと帰っていく。

「バミューダ△のカードを持ってなくて……ダークイレギュラーズのカードでもいいですか?」

「もちろんさ」

「ヒビキさん! 俺にもサインーッ!!」

「おっと。サインは必ずしてあげるから、順番に並んでくれたまえ。皆も警備員さんの指示には従うようにね!」

 即席のサイン会場と化したスタジアムの一角は、喧噪に満ちていたが、彼に関わる誰もが楽しそうだった。

「な、何なの? あれは……」

 ミオほど目がよくなくとも、何が起こっているのかは想像がつくのだろう。普段はつり目気味の目を丸くして、ミコトが呆れと驚きのこもった声をあげた。

「ようよう。聖ローゼに、響星の皆さんもお揃いで」

 他の者もヒビキが生み出した異常な光景に目を奪われていると、別の方向から声がかかった。皆が一斉に振り向くと、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべた葵アラシと、堅い顔をした清水セイジがいた。

「天海学園……これはご丁寧に。優勝候補の君達が、わざわざ俺達なんかに挨拶頂けるとは」

 フウヤが聖ローゼを代表して頭を下げた。爽やかな彼にしては慇懃すぎるきらいがあり、アラシに対する敵対心が伝わってくる。

「謙遜すんじゃねーよ。前回大会の優勝者と準優勝者が揃い踏みしてんだ。挑戦者の俺らが挨拶に出向くのが筋ってもんだろ?」

 アラシはくっくっと笑いながら、心にもないことを口にして、それに応えた。

 両者の間でバチバチと見えない火花が弾け飛ぶ。

「本日はよろしくお願いする!」

「はい。よろしくお願いします」

 一方、響星の代表であるミオは無表情を少し緩ませ、セイジは鉄面皮を僅かに崩し、和やかな雰囲気で握手を交わしていた。ふたりはこうして顔を合わせるのは初めてだが、互いに無駄を好まない性格のため、気が合うのかも知れなかった。

「よう、オウガ! 久しぶりじゃねーか」

 不意にフウヤから興味を無くしたように視線をはずし、アラシはオウガの肩に馴れ馴れしく手を回した。身長差があるため、必然、背の高いオウガが屈まされることになる。

「アラシ……」

 オウガは敵意を隠そうともせず、オウガを睨みつけた。

「てめえには、絶対に負けねえからな」

「ククク……その意気だぜ。そんなこと言って、俺以外に負けるんじゃねーぞ。俺もそろそろあの日の決着をつけてえからなあ!」

 初めてアラシとオウガが出会った日、セイジの乱入でその日のファイトは流れてしまった。手札と盤面は誰の目から見てもアラシの圧勝だったが、彼はそれを勝ちとは微塵も考えていないようだった。

『ヴァンガード高校選手権に出場される選手の皆さま。間もなくファイトが始まります。事前に配布された番号に従い、所定のテーブルについてください。繰り返します――』

「お、始まるようだな」

 会場全体に響くアナウンスを聞いて、アラシがようやくオウガを解放した。

「では失礼する!」

 セイジが一礼して去っていき、アラシもそれに続いた。

「……ふう」

 フウヤは気を落ち着かせるように溜息をつくと、残った全員を見渡した。

「皆……今日ばかりは響星の皆も、健闘を祈っている。目標は、打倒天海学園だ!」

「おうっ!!」

 オウガが威勢のよい声をあげて応え、各々も力強く頷いた。

「ごめんよ。時間がきてしまったようだ……」

 一方、離れた場所ではヒビキが観客達に頭を下げていた。

「この続きは表彰式の後で必ずするからね。それまで、ボクの活躍を目に焼き付けていてくれたまえ!」

 少なくとも彼は、自分が敗退する可能性など露ほどにも考えていないようだった。

 

 

「ライド! 《逸材 ライジング・ノヴァ》!!」

 ライドされた《バッドエンド・ドラッガー》もスペリオルコールするぜ!!」

 白髪を逆立てた鬼と、武骨な巨漢がフィールドに腕組みして並び立つ。

「ライジング・ノヴァのスキル発動! 《スパイキング・サイクロン》と《バッドエンド・ドラッガー》のスキルを得るぜ!

 バトルだ!

 バッドエンドでアタック! スキル発動で(クリティカル)+1!

 ライジング・ノヴァでアタック! スキル発動で★+1! バッドエンドもスタンド!」

 両選手は巧みなフットワークで敵を翻弄すると

「トドメだ! バッドエンドでアタック!! スキル発動して★+1!!」

 最後はバッドエンドの巨体が、相手チームの主将(ヴァンガード)を完膚なきまでに圧し潰した。

「っしゃあ! 絶好調! んでもって、公式戦初勝利ぃ!!」

 オウガは思わず席を立ち上がり、拳を突き上げてガッツポーズ。対戦相手は「その強さで……? マジかよ」と言いたげに、それをぽかんと見上げていた。

 響星学園1年、鬼塚オウガ。1回戦突破。

 

 

「《真古代竜 ブレドロメウス》でヴァンガードにアタックです! ツインドライブ!!」

 サキが普段の彼女らしからぬ気迫のこもった声をあげて、細い指をデッキにかける。

「1枚目……トリガー無し。2枚目……(フロント)トリガー! 前列の古代竜すべてのパワー+10000! そして、★も+1です!」

 巨大な電磁ブレードを背負ったディノドラゴンが咆哮をあげ、その興奮が他の竜にも伝播していく。

「続けて、アルバートテイルでアタック! プテラフィードでアタック! アロネロスでアタック!」

 猛竜の群れに、一斉に襲い掛かられた犠牲者は喰らい尽くされ、哀れ、骨も残らないであろう。

「か、勝てたぁ……。あ、ありがとうございましたっ!」

 ファイト中の勢いはどこへやら。サキはほっと溜息をつくと、メガネの位置を直しながらたおやかに微笑むのであった。

 響星学園1年、藤村サキ。1回戦突破。

 

 

「《絆の根絶者 グレイヲン》のスキル発動。ヴァンガードをデリートします」

 ミオは大舞台でも普段通り、淡々としたプレイングで対戦相手を追い詰める。

「ドロップゾーンから《招き入れる根絶者 ファルヲン》をスペリオルコール。さらに、《呼応する根絶者 エルロ》をコールして、ドロップゾーンから《呼応する根絶者 アルバ》もスペリオルコールします」

 幾度となく焼かれても、彼女の根絶者は何度でも蘇る。

「グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

 そして、無造作に振るわれたグレイヲンの爪が対戦相手を斬り裂き、その魂を虚無へと散らした。

 響星学園2年、音無ミオ。1回戦突破。

 

 

「《旭光の騎士 グルグウィント》のスキル発動! 山札から5枚見て、ベリーモールとジェフリーをガーディアンサークルにコール! 両者のガード値は共に+5000!」

 フウヤの憑依(ライド)するグルグウィントの前に黄金の騎士が立ちはだかり、身を挺して敵の攻撃を防ぎきる。

「続くアタックは《スカーフェイス・ライオン》でガードする!」

「た、倒せねえ……。これがアクセルクランの守備力かよ」

 フウヤの対戦相手が戦意を喪失したかのように呟いた。

「じゃあ終わらせよう。《青き炎の解放者 パーシヴァル》をコール。そのスキルで《誓いの解放者 アグロヴァル》もスペリオルコール」

 蒼炎を纏った騎士が剣を交差させ、双闘の誓いを立てる。

「パーシヴァルでアタック! 続けて、アグロヴァルでアタック! アタック時、パーシヴァルをソウルに置いて、パワー+10000!」

 青き火柱が聖域に立ち昇り、粛清の完遂を誰もが知った。

「ありがとうございました。いい勝負だった……とは言えないかな」

 フウヤは苦笑しながら手を差し出したが、対戦相手はそれを掴み返す気力も無いようだった。

 聖ローゼ学園3年、小金井フウヤ。1回戦突破。

 

 

「《セイピアント・エンジェル》のスキル発動。山札の上から3枚を見て、好きな順番に入れ替えさせてもらうわ」

 ミコトが山札をめくり未来を占う。フッと一瞬だけ勝利を確信したような笑みを浮かべると、素早くカードを入れ替えて山札の上に戻した。

「《豊熟の女神 オトゴサヒメ》のスキル発動! 手札を3枚捨てて、前列ユニットに+20000! オトゴサヒメに★+1!

 バトルよ! オトゴサヒメでアタック!!」

 豊穣を司る女神の放つ陽光が熱線と化し、神に仇名す不届き者を焼き尽くす。

「ガード! 2枚貫通だ!」

「……私も舐められたものね。ブラフだと思った? 1枚目、★トリガー。2枚目、★トリガー。効果はすべてヴァンガードに」

 熱線が輝きを増し、すべてを呑み込んでいく。跡に残った灰は、いい肥料になるだろう。

「はい、お疲れ様」

 ミコトは最後に対戦相手を見下すように一瞥すると、それきり興味を失って席を離れた。

 聖ローゼ学園2年、神薙ミコト。1回戦突破。

 

 

「不用意ですね。このデッキを相手にリアガードサークルを埋めてしまうとは。

 見るがいい、生まれ変わりし魔女の力を!

 ライド! 《白虹の魔女 ピレスラ》!!」

 対戦相手の速攻を受け、3ターン目でダメージ5に追い詰められたにも関わらず、ノリトは勝利を確信した笑みを浮かべていた。

「コール! 《隕星の魔術師 ヴァーイン》! ヴァーインのスキルで手札を1枚捨て、ソウルのカードを1枚手札に加える。

 コール! 《源泉の魔女 フィクシス》! 山札の上から4枚見て……『魔女』を1枚手札に加える。

《気魂の魔術師 クルート》を2回コールして、ソウルチャージ12。

 さて、これで準備は整った。

 コール! 《蛙の魔女 メリッサ》! 山札から5枚、デッキからスペリオルコールしてもらいましょうか!

 ピレスラのスキル発動! メリッサを手札に戻し、再びメリッサをコール! 同じスキルをもう一度!」

 わけのわからぬまま、対戦相手の盤面が次々と入れ替えられていく。

 しかし、ノリトの目的は攪乱などという生易しいものではなかった。

 最も婉曲に、されどある意味誰よりも直接的に勝利を狙っていた。

「手札から《猫の魔女 クミン》をコール! メリッサを手札に戻し、再びメリッサをコール! メリッサのスキルを発動!

 手札にはまだメリッサが2枚……それらもすべてコールし、スキル発動!

 ……僕はこれでターンエンドだ」

 アタック宣言すらせず、ノリトがターンの終了を宣言する。

 しかし、その時点で誰の目にもノリトの勝利は明らかであった。

「さあ、最後のカードを引くといい」

 ノリトがドローを促す。

 25枚ものスペリオルコールを強制され、残り1枚となった山札からの。

 デッキとは惑星クレイにおける霊体が持つユニットの記憶である。

 それを失った瞬間、霊体は惑星クレイに存在する資格をも失い、消滅するのだ。

 本の1ページ1ページが破れていくようにして、対戦相手の霊体が崩れていく。

「トリガーなどという不確定要素の介在を許さぬ盤石の勝利。それがデッキアウトだ……!」

 永遠の二番手と揶揄された男が、新たな戦術を手にして、今、大舞台に覇を唱える。

 聖ローゼ学園2年、神薙ノリト。1回戦突破。

 

 

「ライド。《特装天機 マルクトメレク》。プロテクトⅠを手札に加えさせて頂きます。さらに、CB(カウンターブラスト)2でダメージを1点回復させて頂きましょう」

 他の卓で次々とファイトが決していく中、その卓は最も決着が遅かった。

「マルクトメレクのもうひとつのスキル……は、まだ使いませんよ。そんなことをしなくても勝てますからねえ」

 十村ヒカルはマルクトメレクとメタトロンへのライドを繰り返し、毎ターンダメージの回復を図っていた。

「代わりに、こちらを使わせていただきましょうか。ダメージゾーンから《団結の守護天使 ザラキエル》にスペリオルライド。さらにプロテクトⅠを手札に……」

(やれやれ。この戦い方は時間がかかるのが難点ですねえ。ですが、これが最も確実なのですから仕方ありません)

 潤沢な守護者を盾に、ヒカルは相手ターンをあっさり防ぎきると、再び、白き装甲を纏った機械天使が降臨し、僅かな傷跡すら埋めてしまう。

「投了はいつでも受け付けておりますよ。お互いに無駄な時間は使いたくないでしょう?」

 ヒカルが至福の笑みを浮かべながら、手詰まりになって半泣きの対戦相手に提案する。

 ……このファイトはまだまだ長引きそうだった。

 聖ローゼ学園1年、十村ヒカル。1回戦突破。

 

 

「《終末の切り札 レヴォン》でアタック!」

 一方、3分足らずという驚異の速度でファイトを終えた対戦卓もあった。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し。

 3枚目、(ヒール)トリガー!

 よって、我が『蒼翼』はすべてスタンドする!!」

 清水セイジの卓である。

 対戦相手はまだG2であるにも関わらず、既に5回のアタックを行い、まださらに4回のアタックが続くという。

「終わらせる。《共鳴の蒼翼 マクシオス》のブースト! 《頑迷の蒼翼 シメオン》でヴァンガードにアタック!」

 アクアロイドの若者が振るう蒼翠に輝く長剣が、正義に仇名す者を一刀両断に斬り捨てた。

「どうも私が天海で最弱だと誤解している輩がいるようなのでな。所詮は小鳥の囀りを気にかけるつもりはないが、誤りは正しておかねばならん」

 雪辱に燃える静かな男が、満ち潮の如く大会を呑み込まんとしていた。

 天海学園2年、清水セイジ。1回戦突破。

 

 

 優勝候補と呼ばれる者達が非凡なプレイングの華を咲かせ、次々と勝ち上がる中、実のところそれらのファイトはほとんど誰の目にも留まっていなかった。

 観客の視線は、とあるファイトに釘付けになっていたからだ。

 

「おいおい、1回戦から何だよこの対戦カードは」

「実質、決勝戦じゃないか!?」

「他の試合なんてどうでもいい! こっち見ろ、こっち!」

「天海の選手同士がぶつかってる! 綺羅ヒビキと、葵アラシの対戦だぞ!」

 

「『七海呪術師 レイスチューター』で、リアガードの『甘美なる愛 リーゼロッテ』にアタックだぁ!」

「……ノーガードだよ」

「5つ目の財宝ゲットォ! 続けて、『七海操舵手 ナイトクロウ』で、リアガードの『From CP セレナ』にアタックだぁ!」

「『パールシスターズ ぺルル』でガード!」

 今大会優勝の最有力候補、天海学園の綺羅ヒビキと葵アラシが早くも激突していた。

 ヒビキはその見目と人当たりの良さもあって人気こそ凄まじいが、公式戦でのファイトは一度しかなく、その実力は未だ未知数と言われており、疑問視する声も少なからずあった。

 一方、アラシは天海学園の次鋒として、ヴァンガード甲子園を全戦全勝で終えたこともあり、その実力は既に万人に認められていた。

 その2名の対戦とあっては、注目されすぎるのも無理はなかった。

 ヒビキの強さは本物か否か。アラシとの対戦は、これ以上無いほどの試金石なのである。

「俺様はしつこいぜぇ! もう一体のナイトクロウでセレナにアタック」

「知っているさ。《赤面紅潮 アイレイン》でガード!」

 そんなギャラリーの無遠慮な視線をよそに、ふたりはショップでフリー対戦でも興じているかように、実に楽しそうなファイトを繰り広げている。

 気迫だけで言えば、他の優勝候補の方が遥かに気合が入っていた。

「《七海暴掠 ナイトスピネル》でセレナにアタック!」

「《鮮やかなる夢幻 アクティアナ》でガード!」

「《七海剣豪 スラッシュシェイド》でセレナにアタック!」

「《煌めきのお姫様 レネ》で完全ガード!」

「……ならばぁっ! ヴァンガードの《七海覇王 ナイトミスト》で、ヴァンガードの《トップアイドル リヴィエール》にアタックッ!」

「《手作りの愛情 エレナ》でガード! セレナでインターセプト! これでアタックは貫通しない!」

「……チッ。

 1枚目、(ドロー)トリガー! 1枚引いて、効果はすべてヴァンガードに。2枚目、引トリガー! もう1枚引いて、効果はすべてヴァンガードに。

 ターンエンドだぜ」

 ダブル引トリガーで8枚に増えた手札を見せびらかすようにしながら、アラシが宣言する。

「フッ。完全ガードでも無い引トリガーで水増しした手札など、所詮は泡沫の幻だよ」

「ハッ! 手札0枚のヤツが言っていいセリフじゃねーぜ」

「ボクには、この1枚があれば十分さ。スタンド&ドロー!

 コール! 《From CP キャロ》!

 キャロのスキルで《トップアイドル リヴィエール》を手札に加える!」

 ここで展開しながらリヴィエールを手札に加えられるカードを引くとは。

 やはり、綺羅ヒビキはヴァンガードに愛されているのか。

 ファイトを見ていた誰もがそう思った次の瞬間。

「そして、手札に加えたリヴィエールをコール!」

 その奇行に会場全体が騒然となった。

 リヴィエールのスキルは、手札にリヴィエールを含めた3枚のカードが無ければ発動すらできないのだ。

「ふふ。こうでもしないとキミには勝てないからね。

 バトルだよ!

《レイニーティア ステッツァ》のブースト! 《トップアイドル リヴィエール》でヴァンガードにアタック!!」

「《突風のジン》で完全ガード!!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー。効果はすべてリアガードのリヴィエールに。

 2枚目、★トリガー。効果はすべてキャロに……」

 ――ああ……

 会場全体が溜息に包まれた。

 ――トリガーの引きはよかったのに

 ――リヴィエールをコールしなければ

 ――ヒビキ様がプレイングミスをされるだなんて

 そんな諦めに満ちた囁きが聞こえてくる。

 だが、アラシだけは油断なく、汗のにじむ指で手札を握りしめていた。

「……早く続けろよ」

「ああ、そうだね。

 リヴィエールをブーストしたステッツァのスキル発動! このユニットを退却させ……1枚ドロー!」

 ヒビキがカードを引く。その軌跡に、人々は虹を見た。

「リヴィエールのスキル発動!! 手札を2枚捨て、手札にある《トップアイドル リヴィエール》にスペリオルライド(アンコール)!!」

 会場全体が沸き立つような歓声に包まれた。

 絶望から一転、大逆転へ。

 か細い奇跡を紡ぎ合わせて、綺羅ヒビキは希望への架け橋を描き出した。

「勝負だ、アラシ!!

 ヴァンガードのリヴィエールで、ナイトミストにアタック!!」

 アラシはちらりと手札を見た。

 トリガーを引かれると仮定して、すべてのアタックを受けきるのに、あと10000ガードが足りなかった。

 その10000ガードを余計に支払わされた原因は、言うまでもなくリアガードにコールされたリヴィエールである。

 ならば、自分にできることはひとつ。

「ノーガードだっ! 俺様はまだ4ダメージ! ★トリガー、引けるものなら引いてみろっ!!」

 観客の歓声を黙らせるように、アラシは怒声をあげた。

 ヒビキが運命のカードをめくる。

「ドライブチェック……★トリガー!」

 大歓声が天井を震わせ、万雷の拍手が地を揺らした。

「まだだっ! ダメージチェック……1枚目、トリガー無し」

 黒く染まった魔の海域で、飛沫をあげて跳ねたリヴィエールが、鎮魂歌を絶唱する。

 死者を見送る生者の切なる想いを、儚くも哀しい調べに乗せて。

 死霊の憎悪や無念が浄化され、ひとつ、またひとつ、天へと昇っていく。

「2枚目、……トリガー無しだ」

 数多の船を沈めてきた魔の海域から嵐が静まり、グランブルーの旗艦とも言うべき幽霊戦が魔力を失い沈んでいく。

 その舳先に立つナイトミストも、船と運命を共にした。一時の敗北を受け入れ、己の不死なる肉体に再起を誓いながら。

 常夜の海域に朝焼けが差し、不死の海賊に支配されていた海は青さを取り戻した。

「……ボクの勝ちだ」

 ヒビキが勝負を決めた★トリガーを高々と掲げる。

 この時点で優勝が決まったかのような盛り上がりで、会場全体がヒビキの名を称えた。

「はっ! やっぱ敵わねーな、お前には」

「フッ。だが、どちらが勝ってもおかしくない勝負だったよ」

「いや。俺が9割がた勝ってた勝負だったはずなんだがな。

 ま、しょーがねえ。俺様に勝ったんだ。絶対に負けんじゃねーぞ。特にセイジにはな!」

「もちろんさ!」

 アラシが手を高く挙げる。ヒビキは彼の流儀に応え、あまり似合わない荒々しいハイタッチを交わした。

 天海学園2年、綺羅ヒビキ。1回戦突破。

 天海学園2年、葵アラシ。1回戦敗退。

 

 

 後にヴァンガード高校選手権史に残される世紀の一戦はこうして幕を下ろした。

 だが、これはまだ第1回戦である。慌ただしいもので、すぐに第2回戦が始まった。

 そして、第2回戦では優勝候補が潰し合う大荒れの展開となった。

 

 

「これで終わりだ! マクシオスのブースト! シメオンでヴァンガードのブレドロメウスにアタック!」

「ノーガードっ! まだです、まだ、諦めません……治トリガー!!」

 6点ヒール。

 傷だらけになりながらも立ち上がる古代の竜は、大人しそうに見えて不屈の気概を秘めた少女(サキ)に重なって見えた。

「なるほど……」

 珍しいことに、セイジがファイトの手を止めて小さく唸る。

「天道先輩の後輩なだけはある。いや、序盤はグダグダだった彼女より、ずっと堂々としている」

「はい! それでもアリサさんは諦めなかった。だからあの人はあなたに勝った!」

「そうだな。では、私も最後まで油断せずに仕留めさせてもらうとしよう。レヴォンでブレドロメウスにアタック!」

「ガード! 《群竜 タイニィレックス》! 《草食竜 ブルートザウルス》! 2枚貫通です!」

「トリプルドライブ!!!

 ファーストチェック、引トリガー! 1枚引いて、パワーはレヴォンに!

 セカンドチェック、トリガー無し。

 サードチェック、★トリガー! 効果はすべてレヴォンに!」

 レヴォンの携える大剣の一振りが突風を生み出し、地上に嵐を巻き起こす。

「ダメージチェック! 1枚目……治トリガー! ダメージを回復します」

 レヴォンは大剣を斬り返すと、嵐は激しさを増し竜巻となって、再び立ち上がったブレドロメウスを完膚なきまでに斬り刻んだ。

「2枚目……トリガーではありません。ありがとうございました。……ああ、負けちゃいましたあ」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いた瞬間、張り詰めた表情を崩したサキが、柔和な――されど一抹の悔しさを湛えた笑みを浮かべた。

「治トリガーが重なっているとは。さすがにゾッとしたよ。次にターンを渡したら、さすがの私も耐え切れなかっただろう。いいファイトだった」

 多少はお世辞も含まれているだろうが、セイジはサキのファイトをそう評した。

「あ、あのっ!」

 そのまま足早に去っていきそうなセイジを呼び止めるようにして、サキが上ずった声をあげる。

「握手をお願いできませんか!? その、私、セイジさんのような強いファイターとファイトするのがずっと夢だったんです」

「ああ。もちろん構わない。ただし、ファンサービスではない。お互いファイターとして、健闘を称え合うような握手が、君とはしたいな」

「は、はいっ!」

 差し出された小さな掌を包み込むように、ふたりのファイターが固く握手を交わした。

 天海学園2年、清水セイジ。2回戦突破。

 響星学園1年、藤村サキ。2回戦敗退。

 

 

「ライド! 《特装天機 マルクトメレク》! ダメージを回復させてもらいますよ」

「まいったな。せっかく与えたダメージを、また回復されてしまったよ」

 ヒビキが頭を軽く抱えながら言うが、言葉の調子は悩んでいるというよりは、楽しそうであった。

「すみませんねえ。このような戦い方しかできないもので。

《黒衣の解析 サラフィエル》をコール。サラフィエルのスキル。ダメージ回復し、1ダメージ。トリガーは無し」

 対するヒカルは、自虐するような笑みを浮かべながらファイトを続けている。

「いや、素敵な戦い方だよ。キミの誰にも負けたくないという想いが伝わってくる」

「素敵な戦い方……そんなことを言われたのは初めてですよ。

《スケーリング・エンジェル》をコールして、ダメージゾーンのカードをソウルイン。先ほどソウルからドロップゾーンに落としたザラキエルをダメージゾーンに置きます。

 そして、ザラキエルのスキル発動。ダメージゾーンからスペリオルライド!」

「ここだよ。ダメージゾーンと手札を調整し、毎ターン、マルクトメレクかメタトロンへのライドと、ザラキエルへのスペリオルライドを繰り返せるようにデザインされている。

 これほど美しいデッキを称えずにはいられないよ!」

「……変わった人だ。

 バトルに入ります」

 ヒカルのバトルフェイズで、ヒビキは5点目のダメージを受けた。対するヒカルのダメージは4。

「それだけではありませんよ。あなたの《トップアイドル リヴィエール》は、ヴァンガードに1枚、ソウルに2枚、ダメージに1枚。すべて見えている。もうあなたはリヴィエールにスペリオルライドすることはできない!

 リヴィエールの弱点は長期戦にある!」

 癖のある茶髪をくしゃくしゃにかきながら、ヒカルが勝ち誇った。

「フッ。それはどうかな?」

 それに対してヒビキは、ヒカルのものとはまったく種類の違う、爽やかに勝ち誇った笑みを浮かべた。

「スタンド&ドロー! ボクは《From CP キャロ》をコール!」

「キャロ? もうデッキにリヴィエールは……いや!」

「キャロのソウルブラスト! キミの言う通り、もうデッキにリヴィエールは残されていないので、このスキルは不発となる。

 だけど! 手札から《心震わす声援 マリヤン》のスキル発動! このカードを捨て、1枚引き、ドロップゾーンからカードを1枚ソウルに置いて……そのカードがリヴィエールなら、手札に加える! ボクはキャロがソウルから落としてくれた《トップアイドル リヴィエール》を手札に加えるよ!

 バトルだ!

《トップアイドル リヴィエール》でヴァンガードにアタック!」

「プロテクトで完全ガード!」

「ツインドライブ! 1枚目、トリガー無し。2枚目、★トリガー! 効果はすべてリアガードの《赤面高潮 アイレイン》に!

 そして、リヴィエールのスキル発動! 手札を2枚捨て、リヴィエールにスペリオルライド!

 フォースⅠをアイレインのサークルに置き、手札を1枚捨て、カードを2枚引かせてもらうよ。

 さあ、再びリヴィエールでアタックだ!」

(……くっ。いずれにしろ★トリガーを引かれたら防ぎきれないか)

「……ノーガードです」

「ドライブチェック! ……★トリガー! 効果はすべてリヴィエールに!」 

「ダメージチェック……1枚目、トリガー無し。2枚目、トリガー無し。

 ……僕の負けですね」

「楽しいファイトだったよ。キミとは、またやりたいな」

 白い歯を見せて、ヒビキが美しい形をした手を差し出してくる。

「……やれやれ。対戦相手を限界まで追い詰めるようなデッキを組んだつもりだったのですが。そんなことを言われてしまっては、むしろ屈辱ですよ。

 あなたにはまだまだ敵いそうにありません。ファイターとしても、人としても」

 ヒカルは諦めた心地で、その手をおざなりに握り返した。

(ですが、いつか……あなたを心から悔しがらせてみせますよ)

 心の中で妖しい笑みを浮かべながら。

 天海学園2年、綺羅ヒビキ。2回戦突破。

 聖ローゼ学園1年、十村ヒカル。2回戦敗退。

 

 

「コール! 《源泉の魔女 フィクシス》! SB1でデッキの上から4枚見て……フィクシスを手札に加える。

 ピレスラのスキル発動! フィクシスを手札に戻し、再びフィクシスをコール! ……《白燐の魔術師 レヴォルタ》を手札に。

 そのレヴォルタもコール! 山札の上から3枚見て、《蛙の魔女 メリッサ》を手札に加え、残りをソウルチャージ」

(あ、あんだけコールしているのに、手札がまったく減らねぇ~。さすがノリト先輩だぜ!)

 オウガはノリトの『魔女』デッキのアドバンテージ獲得能力に圧倒されながらも、好奇心旺盛な瞳で、その動きを凝視していた。

「《気魂の魔術師 クルート》をコールして、ソウルチャージ6!

 このターン、僕は6体の『魔女』と『魔術師』をコールしたので、SB7でピレスラのスキル発動!!

 すべての『魔女』と『魔術師』に+10000! ピレスラに★+1!」

 若き魔女が箒を模した杖を掲げると、6つの魔法陣が空に浮かび、他の魔女や魔術師達に(ソウル)から抽出した魔力を分け与える。

「バトルだ!

 フィクシスのブースト、ピレスラでヴァンガードにアタック!!」

「《チアガール マリリン》で完全ガード!」

 魔女の放った巨大な火球をチアガールが蹴り飛ばす。明後日の方向へと吹き飛んだ火球はスパイク側の観客席に着弾し大爆発を起こしたが、犠牲(そんなこと)をいちいち気にするようなギャロウズボールのファンはいない。流れ弾に当たって死ぬヤツがマヌケなのだ。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! 効果はすべてクルートに!

 フィクシスのブースト、クルートでヴァンガードにアタック!」

「これを受けたら負けちまう! 《チアガール ティアラ》! 《チアガール アダレード》でガード! 《パワーバック・レナルド》でインターセプト!」

「フィクシスのブースト、レヴォルタでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック……トリガー無しだぜ」

「僕はこれでターンエンドです」

 大量のソウルを消費する大技を捌かれたにも関わらず、ノリトは余裕の笑みを浮かべながらターンエンドを宣言した。

 それもそのはず、その手札枚数は盤石の10枚で、ダメージも3点しか受けていない。

(さっきのドライブチェックで、ノリト先輩の手札にはクルートが加わった。

 デッキアウトにビビってアドバンテージの獲得を渋ると、再びピレスラの大技が飛んでくる。

 かと言って下手に展開してしまうと、メリッサにデッキを削られる……)

 そして、まったく違う戦型を状況に応じて切り替えるテクニカルなデッキを、涼しい顔で操るノリトのバランス感覚にも驚愕させられる。

 だが、そんな強敵が相手だからこそ、オウガの心は熱く燃え上がる!

(そうだ! こんなすげえ人と熱いファイトがしたくて、俺はヴァンガードを続けてるんだぜ!!)

 己の誇りを賭けた、知性と知性がぶつかり合う、ひりつくような卓上の一騎打ち。チームスポーツを好んでプレイしてきたオウガにとっては、カードゲームのすべてが極上の新体験だった。

「ライド! 《逸材 ライジング・ノヴァ》! フォースⅠ・Ⅱは、もともとフォースⅠのあったリアガードサークルに!

 ライドされた《バッドエンド・ドラッガー》もスペリオルコール! レヴォルタとフィクシスを退却!」

「来るか!?」

「……いや。このターンにノリト先輩を倒しきるのは難しいっすわ。だからせめて……このターンにノリト先輩の手札をすべて削りきるぜ!!」

「何だって? 面白い。やれるものならやってみるといい」

「おう! 《アンブッシュ・デクスター》をコール! バッドエンドをソウルイン! 山札からG3を2体スペリオルコール……!!」

(バッドエンドを使わないか。問題ない。ザイフリートも、ブルスパイクも、サイクロンも想定の範囲内だ……)

「俺が山札からコールするのは、《デッドヒート・ブルスパイク》!

 そして……《ガンワイルド・ウルフ》だ!!」

「なっ!?」

 ノリトの顔面が初めて驚愕の色に染まった。

(よっしゃ! 先輩の予測を越えたぜ! あとはブッちぎる!)

「ライジング・ノヴァのスキル発動! ブルスパイクとウルフのスキルを得るぜ!

 あとは《ガンバースト・ラインバッカー》をコールして、バトルだ!

 まずはフォースサークルのブルスパイクでアタック!」

「《杭の戒め スヴィティ》でガード!」

「ライジング・ノヴァのスキル発動! 1枚ドロー! クルートを退却!

 デクスターのブースト! ウルフでヴァンガードにアタック! ライジング・ノヴァのスキルでフォースを移動!」

「《純白の魔女 ソルティ》で完全ガード!」

「ラインバッカーは後列からアタックできる! さらにスキル発動で、パワー+15000! ライジング・ノヴァでフォースも乗っけるぜ!」

「ソルティで完全ガードっ!」

「《ワンダー・ボーイ》のブースト! ライジング・ノヴァでアタック! アタック時、ライジング・ノヴァのスキル発動!!

 ソウルから3枚のG3をソウルブラスト!! さらに俺のリアガードをすべて山札の下に戻す!! その効果は……」

「そのくらい知ってるさ。僕はこのアタックをガードする場合、5枚以上コールしなければならない。つまり、このアタックを防ぐことで、君の予告通り、僕の手札は0枚になる。

 ……そう思い通りに行くと思うなよ! ノーガードだ!!」

「ならば! ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! 効果は全てライジング・ノヴァだ!!

 いっけええええっ!!」

 ライジング・ノヴァが吠え叫び、フィールドを疾走する。

 手にしたボールが狼の如きオーラを纏い、魔女の眼前へと迫る。

 激突の瞬間、スパイクスタジアムのボルテージは最高潮に達した。

「ダメージチェック…………僕の、負けです」

 3枚のカードをダメージゾーンに置いて、ノリトが目を伏せながら告げた。

「よっしゃあああああっ!! ノリト先輩に勝ったぜっ!!」

 両拳を握りしめて、オウガが喜びを爆発させる。

「まったく、響星(あなたがた)にはいつも驚かされる……」

 顔を上げたノリトの目には涙が滲んでいたが、同時に晴れやかな笑顔も浮かべていた。

「合同練習の時は僕が圧倒していたのにね」

「すんません。いいとこだけ勝たせて頂きました」

「いや、いいんだ。強いファイターに負けるのは構わない。

 君のラストターンは、ムドウさんを彷彿とさせたよ」

 それだけ告げると、ノリトはデッキを片付けてテーブルを離れていった。

(ムドウ師匠……)

 取り残されたオウガが独りごちる。

(アラシが敗退したって聞いた時、実はモチベーションが落ちかけてたんだ。

 けど、すぐに思い直した。この大会は、アンタの無念を晴らすための大会でもあるんだってな。

 そして、ノリト先輩と戦うことで、強い人と戦いたいっていう、俺の目的も思い出せた。

 そう、強敵はアラシだけじゃねえ。

 師匠のため、自分のため、俺はこの大会をいけるとこまで勝ち抜いてやるぜ!)

 響星学園1年、鬼塚オウガ。2回戦突破。

 聖ローゼ学園2年、神薙ノリト。2回戦敗退。

 

 

「グルグウィントのスキル発動! 山札から《ろーんがる》と《曙光の騎士 ゴルボドゥク》をスペリオルコールして、オトゴサヒメにアタック!!」

(くっ……! こんなにも早く、フウヤさんと当たってしまうだなんて……)

 一切の容赦無く、刺すような殺気を全開にして攻め立ててくるフウヤを前にして、ミコトは心の中で己のくじ運を呪っていた。

「《神剣 クサナギ》でガード! 2枚貫通です!」

「ツインドライブ……2枚とも、トリガーは無い。

 続けて、ろーんがるでアタック!」

「《スフィア・メイガス》《神剣 アメノムラクモ》でガード!」

「コルボドゥクでアタック!」

「《サイキック・バード》でガード! 《セイピアント・エンジェル》でインターセプト!」

「……俺はこれでターンエンドだ」

(……凌いだ。凌げはした、けど)

 ミコトの手札は既に0枚。前列のユニットもすべてインターセプトで退却している。

(やっぱり強い。強すぎるよ……)

 フウヤとは部活でもプライベートでもよく対戦するが、その中でも勝てたことはほとんどない。その上、今のフウヤからは、紳士然とした普段の彼とは別人のような気迫が感じられる。

(……そうだよね。3年生のフウヤさんは、この大会に賭けてるんだ。私が勝てるわけない……。勝っちゃいけない……)

「スタンド&ドロー……」

 諦めの境地でカードを引く。

「……つっ!? 《豊熟の女神 オトゴサヒメ》にライド。

 プロテクトを手札に加えて、登場時のスキルで2枚引きます」

 しかし、デッキは彼女の意に反して、逆転の札を与えてくれていた。

 寝る間を惜しんで調整に調整を重ねた彼女のデッキは、どんな窮地においても勝ちの可能性が残るようにデザインされている。

 その本領がまさに今だった。

「《メイデン・オブ・ライブラ》、《セイピアント・エンジェル》をコール。山札の上から3枚見ます……」

(……ノーマルユニットが2枚に、治トリガーが1枚。ここで治トリガーをドライブチェックで引くことができれば、私のダメージは3にまで回復する。それなら、次のターンも耐え切れるかも知れない)

 フウヤの手札は万全に違いないし、グルグウィントのスキルも残されている。ここで無理に攻めても死期を早めるだけだろう。

 ミコトは治トリガーが一番上に来るようにカードを入れ替えて、山札の上に戻した。

「バトルフェ……」

「ちょっといいかな」

 ミコトが宣言を行う直前、これまで必要最低限のやり取りを機械的に行っていたフウヤが静かな、されど厳しい口調で口を開いた。

「君はいつも『聖ローゼ最強のファイターになる』と言っていたね」

「は、はい……」

「それはいったいいつの話なんだい?

 まさか、俺がいなくなってから聖ローゼの頂点に立つとか、そんな小さな志で口にしていたのか?」

「そ、それは……」

 ミコトが小さく俯く。

「そうだと言うのなら、他の部員に悪影響だ。君に部長は任せられない。この大会が終わり次第、カードファイト部を去れ」

「!? そんな、フウヤ先輩、わ、私は……」

「違うと言うのなら、このファイトで証明してみせろ!

 君が俺に勝てる機会は、もう今しかないんだぞ、神薙ミコト!」

「わ、私は、私は、あなたのことを……」

 これまで言えなかった、秘めていた想いが喉の奥まで出かかっていた。

 だが、実際に吐き出されたのは、胸を焼き尽くす激情だった。

 ここまで言われて黙っていられるほど、神薙ミコトは恋に生きる乙女じゃない。

「私はァ!! リアガードの《寛容の女神 オオミヤノメ》のスキル発動ッ!! このユニットを退却させ、カードを3枚ドローッ!!

 空いたサークルに《バトルシスター かっさーた》をコールッ!

 そして、残りの手札をすべて捨ててオトゴサヒメのスキル発動ッ! 前列のユニットにパワー+20000! オトゴサヒメに★+1!

 行きます、フウヤさんッ!!」

「来い、ミコトッ!!」

「かっさーたのブースト! オトゴサヒメでヴァンガードにアタック!!」

「グルグウィントのスキル発動! 山札から5枚見て……《スカーフェイス・ライオン》と《日華の騎士 ジェフリー》をガーディアンサークルにスペリオルコール!!

 合計パワーは57000……1枚貫通だ!!」

「ツインドライブッ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、★トリガーッ!! かっさーたのパワー+10000!

 そして……トリガー効果をすべてヴァンガードにッ!!」

 宣言するミコトの瞳から一筋の涙がこぼれた。

 彼女と深く繋がったオトゴサヒメも頬を涙で濡らしながら、日輪の如き火球を黄金の騎士に叩きつける。

 視界を白く焼き尽くす光に呑み込まれながら、グルグウィントは剣を地面に突き立て、祈るように目を閉じた。

 恐れなど無い。

 何故なら、自分は太陽の騎士。

 これは終わりではなく、還る場所へと還るだけなのだから。

「ダメージチェック。……俺の負けだ。強くなったな、ミコト」

 フウヤがダメージゾーンに6枚目のカードを静かに置いた。

「ごめんなさい……っ! フウヤさん、私、とんでもないことを、してしまった……っ!

 今日が、フウヤさんにとって、最後の公認大会だったのに……」

 ミコトが泣きじゃくりながら、フウヤに向かって幾度も頭を下げた。

「……勝者が泣くんじゃない。敗者を惨めにするだけだ」

 その言葉に、ミコトが涙でべとべとになった顔を勢いよく上げる。清々しい、いつも通りの紳士的な笑みを浮かべたフウヤと目が合った。

「それに、小金井フウヤを甘く見てもらっては困るな。たった一度の敗北など、俺の夢にとって障害にもならない。俺は必ずプロになる」

「私も……きっと追いつきます。いつか追いついて、追い越してみせます」

「待ってるよ。今日から俺達はライバルだ。

 ……だがまずは、この大会と、来年の聖ローゼを頼んだよ」

「はいっ!!」

 力強く応えるミコトの肩に手を置くと、フウヤは席を立った。

 去りゆくその背は王者の如く堂々としており、彼の未来を暗示しているようにも思えた。

 

 

「らしくないことをしたな」

 外の空気が吸いたくなって、会場を出たところで、フウヤは不意に背後から声をかけられた。

「……ムドウさん。来ていたんですか?」

「後輩の成長を見に、な」

 観客席から追ってきたのだろう。

 彼の1年先輩にあたる御厨ムドウが、ゆっくりとした足取りでフウヤと横並びになる。

「嫌味ですか? トーナメントで2回戦敗退なんて、高校生になって初めての経験ですよ」

 ムドウの視線を避けるようにして、フウヤが目を逸らす。

「本心だ。お前は立派だったと思うぞ。聖ローゼの理念からは逸脱していたがな。

 敵にミスや動揺があればつけ込むべきで、あんな助言まがいの激励などするべきではなかったはずだ」

「本当に。何であんなことを言ったんでしょうね、俺は……」

 フウヤが片手で自分の頭を抱えた。

 後悔など、していないわけがなかった。ミコトの前ではどうにか取り繕えたが、自分は上っ面ほど大人でもない。

「ただ、彼女はいつも俺に対して遠慮しているところがあって、俺はそれが我慢がならなかった。

 俺はあの子と対等でいたいと、そう思っただけです」

「……もう、さっさとくっつけよ、お前ら」

「? 何か言いました?」

「いや。ともかく今日は呑み明かすか」

「俺達、まだ未成年ですよね!?」

「じゃあ2年後の約束だ。その時にはきっと、この日の苦い思い出も、いい酒の肴になるだろうさ」

「そんな日が……本当に来るんですかね」

 フウヤの瞳から涙が溢れだす。それが止まるまで、ムドウはフウヤの背中を支えるようにして、ぶっきらぼうに手を当てていた。

 

 

 天海学園を除けば優勝の最有力候補であった小金井フウヤの敗退。

 大波乱とも言える結末をもって、第2回戦は全行程を終了した。

 ちなみにもう一方の優勝候補、音無ミオは、特筆するようなファイターと当たることなく、ちゃっかりと第2回戦を突破していた。

「え。私のファイトだけ雑じゃないですか?」

 主人公が虚空に向かって何か言っていたが、誰も聞いてはいなかった。

 そこからの大会は無難な展開が続き、ヒビキ、セイジ、ミオ、ミコトと言った優勝候補が順調に勝ち進む。

 それに紛れて、とあるファイターが頭角を現してきているのに観客達が気付いたのは、ベスト8、準々決勝に進出したファイターが出揃った時であった。

 

「やっぱりベスト8にもなると有名どころばっかりだなー」

「ああ! 大注目の綺羅ヒビキと当たるのは、“現代の死霊術師”鈴木シンゾウ!」

「神薙ミコトと、“紅蓮焔”田中リョーマの対戦にも注目だな!」

「音無ミオは“ダークネス・プリンセス”山田ミカとの対戦かー」

「もうひとりは……鬼塚オウガ? 誰だ?」

「さあ? でも待って! 神薙ノリトに勝ってるみたいだよ」

「てことは強いのか?」

「ビギナーズラックじゃないのか? 何にしろ、ここで終わりだろうな。なんたって……」

「対戦相手は、あの清水セイジなんだから」

 

「君も響星のファイターか」

「うす! 鬼塚オウガっす!」

「フッ。威勢がいいな。清水セイジだ。

 今日は様々なファイターと戦えた。皆、いいファイターだったが、藤村サキとのファイトは特に楽しかった。

 君も私を楽しませてくれることを期待する」

「へっ! ご期待に応えてやりますよ!」

 もともと謙遜するようなタイプでも無いが、ここまで積み重ねてきた勝ちの経験が、彼に確かな自信を植え付けたようだ。

 そんな風になごやかな感じで始まったオウガとセイジの対戦だったが、いざ始まったファイトは苛烈で、セイジのワンサイドゲームとなった。

「レヴォンでヴァンガードにアタック!!」

「《チアガール マリリン》で完全ガード!!」

「トリプルドライブ!!!

 ファーストチェック、★トリガー! 効果はすべてシメオンに。

 セカンドチェック、★トリガー! 効果はすべてファウロスに。

 サードチェック、トリガー無し!

 私はこれにてターンエンド!」

「やっぱ凄ぇ……! クッソ早ぇ……! 桁違いに強ぇ……!」

 手札が0枚になったオウガは、セイジのファイトをそう評した。

(アリサ先輩はこんな人に勝って、サキは一歩も引かずに戦い抜いたのか。やっぱ偉いなあ、みんな……)

「どうした? 私が戦った他のファイターのように、君も諦めるのか?」

「へっ! あいにく、そんなことはアリサ先輩にもミオ先輩にも教えてもらってなくてな」

 折れそうになった心をどうにか立て直す。仲間に顔向けできないファイトはしたくなかった。

「カードが引ける限り、俺は諦めねえ! スタンド&ドロー!!

 ……来てくれたか、相棒!

 ライド! 《逸材 ライジング・ノヴァ》!!」

 フィールドに着地したライジング・ノヴァが、オウガとシンクロし、フィールドを震撼させる雄叫びをあげる。

「ほう。この状況からライジング・ノヴァを引くか」

「それだけじゃねーぜ! ソウルからバッドエンドもスペリオルコール! 同列にいるファウロスとマクシオスは退却だ!

 そして、ライジング・ノヴァのスキル発動! バッドエンドのスキルを得るぜ!」

 オウガのリアガードに、バッドエンド以外のG3はすでにいない。だが、それすらもオウガの諦める理由にはならない。

「バトルだ! 《アクロバット・ベルディ》のブースト! ライジング・ノヴァでヴァンガードのレヴォンにアタック!!

《陽気なリンクス》を山札の下に置き、パワー+5000 ★+1!!」

「《翠玉の盾 パスカリス》で完全ガード!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー!! 効果はすべてバッドエンドに!

 2枚目、★トリガー!! これも効果はすべてバッドエンドに!!

 いくぜ!! 《ソニック・ブレイカー》のブースト! バッドエンドでヴァンガードにアタック!! ベルディをデッキに戻し、パワー+5000! ★+1だ!!」

「《ケルピーライダー・ペトロス》、《蒼波兵長 ベラギオス》でガード! シメオンでインターセプト」

「くぅーっ! 俺はこれでターンエンドだぜ!」

 ひとしきり悔しがった後、オウガは堂々とターン終了を宣言した。

「私のターン! スタンド&ドロー!!

 ……まだ目は死んでいないようだな」

「ああ! まだ俺は負けてねーからな!」

「よかろう。ならば決定的な敗北を与えるまで! ライド! 《終末の切り札 レヴォン》!!」

 海竜の剣士が油断なく大剣を構える。

 最期の瞬間まで不敵な笑みを絶やさなかった、誇り高き戦士(アスリート)に向けて。

 

 

「よう、オウガ。おつかれー」

 オウガのヴァンガード選手権は終わり、一緒にミオの応援でもしようかとサキの姿を探していたところ、彼の前に立ちはだかり、真っ先に声をかけてきたのは葵アラシだった。

「何の用だよ?」

 負けた悔しさも多少はあって、ドスの効いた低い声音でオウガが尋ねる。

 アラシは気にした様子もなく、苦笑しながらオウガと並んで歩く。

「つれねぇなあ。仲のいい知り合いがいなくて退屈してたんだよ。一緒に観戦しようぜえ」

「別に俺もお前と仲よくなんてねーよ」

「そう言うなって。

 それにしたってベスト8かよ。半年前にはプレイングもおぼつかなかったやつがたいしたもんだ。

 それも勝つたびに目に見えて強くなりやがる。準決勝や決勝で当たっていたら、セイジも危なかったかもなぁ」

 そう言って、アラシは楽しそうに笑った。どうやらオウガの試合はずっと観察されていたようだ。

「ま、何にしろ今回は俺様の負けだな」

「直接対決で勝たない限り、勝ったとは言えねーよ」

「そうか。そうだな……それについては俺様が全面的に悪かった。まさか1回戦で負けちまうたぁな」

 アラシがさすがに力無く「たはは」と笑う。

「だからこれは俺様の詫びだ。受け取ってくれねぇか?」

 そして、雑に折り畳まれた小さな紙片を差し出した。

 オウガはアラシのいつになく真摯な様子に負け、しぶしぶ受け取った紙を開いた。そこには汚い文字で書かれた電話番号と、分かりにくい地図が描かれていた。

「これは?」

「俺様の連絡先と、島にある唯一のカードショップの場所だ」

「!?」

「もし、自分が完璧に仕上がったと感じたなら、ここに連絡してこい。いつだって相手してやる。

 ま、その時には何か賭けてもらうが、今のお前なら賭けるものが何も無いとか、腑抜けたことは言わんだろ」

「……そう、だな」

 オウガの首が自然に縦へと動いた。賭けファイトに諸手を挙げて賛同できるわけではないが、少なくとも今の自分には、賭けるに値するものが心の奥底で輝きを放っているのを感じていた。

「くくく。連絡待ってるぜ。

 ほら、向こうでサキちゃんが手を振ってる。行こうぜ。俺もあの子とひさしぶりに話をしてぇからよ」

「お前みたいな野蛮なやつと、あんまり関わらせたくないんだが……」

「自分を棚に上げて何をほざいてやがる」

 そう言って、アラシがオウガの腕を乱暴に掴んで引っ張った。

 互いに悪態をつきあいながら歩くふたりは、それを遠目で見ていたサキからも、なんだか仲の良い友人同士のように見えた。

 天海学園2年、清水セイジ。準決勝進出。

 響星学園1年、鬼塚オウガ。準々決勝敗退。

 

 

 他の優勝候補も揃って勝利し、準決勝の対戦カードが決定した。

 フウヤに下克上を果たして勢いに乗るミコトはセイジと。

 ここまで抜群の安定感で勝ち抜いてきたミオはヒビキと当たることになった。

 

 

「私はこれでターンエンドよ」

 先行2ターン目のドライブチェックで★トリガーを引いて、3点のダメージを与えたミコトがターンエンドを宣言する。

 悲嘆に濡れていたその瞳も今は、己が勝利することでフウヤの強さも証明すると、固い決意の光を宿していた。

「スタンド&ドロー! ライド! 《頑迷の蒼翼 シメオン》!

 なるほど。今の君からは決死の覚悟を感じる。再び君にターンを渡せば、その時点で私の負けだろう」

「だから何?」

 冷静に状況を見据えるセイジに、ミコトは冷たい口調で尋ねた。

「このターンで君を倒す。悪く思うな」

「っ!? そんなことできるわけ――」

「コール! 《信念の蒼翼 バジリア》! スキル発動! デッキから3枚見て、《共鳴の蒼翼 マクシオス》2枚を手札に!

 その2枚を後列にコール! さらに《大義の蒼翼 ファウロス》2枚を前列にコール!」

 ミコトの反論は聞かず、セイジの『蒼翼』が展開されていく。

「バトルフェイズに進行する!

 ファウロスでヴァンガードの《メイデン・オブ・ライブラ》にアタック! ファウロスはスタンドする!」

「ノーガード……ダメージチェック、トリガー無し」

 3枚目のカードがミコトのダメージゾーンに置かれる。

「もう一体のファウロスでもアタック&スタンド!」

「《セイピアント・エンジェル》でインターセプト!」

「マクシオスのブースト! ファウロスでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード! ダメージチェック、トリガー無し」

 震える指が4枚目のカードをダメージゾーンに置く。

「マクシオスのブースト! ファウロスでヴァンガードにアタック!」

「ガード! 《サイキック・バード》! 《神凪 クロイカヅチ》でインターセプト!」

「バジリアのブースト! シメオンでヴァンガードにアタック!」

「ガード! 《オラクルガーディアン ニケ》! 《セイピアント・エンジェル》! これでアタックは通らない!」

(悔しいけど、こいつの言う通りだわ。次のターンで勝てる手札は揃ってた。

 ……だからこそ、手札のガード値が低い! もし、ここであのトリガーを引かれたら……)

「ドライブチェック! 治トリガー! シメオンにパワー+10000し、我が『蒼翼』はすべてスタンドする!」

「つっ!?」

「再びシメオンでヴァンガードにアタック!」

「……ノーガード」

(ここでダメージトリガーを引ければまだ……)

「ドライブチェック! ★トリガー! パワーはファウロスに! ★はヴァンガードのシメオンに!」

「あ……」

「さあ、君のダメージチェックだ」

 緊張の糸が切れ、呆けてしまったミコトに、セイジがデッキからカードをめくるように促す。

「わ、わかってるわよ!

 1枚目! ★トリガー。パワーはヴァンガードに。

 に、2枚目……★、トリガー。負け、ました……」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置きながら、ミコトが敗北を認める。

 天海の選手が勝った時には、いつも一際大きな歓声が巻き起こるものだが、この時ばかりはセイジの迫力に圧倒されたのか、それとも何が起こったのかすら理解が追いつかないのか、誰もが言葉を発することができずにいた。

 ファイト時間にして、僅か1分18秒。

 この記録はヴァンガード高校選手権において、誰にも破られることなく、遥か先まで残り続けることだろう。

 天海学園2年、清水セイジ。決勝進出。

 聖ローゼ学園2年、神薙ミコト。準決勝敗退。

 

 

(ミコトさん……)

 ファイトの決着を感じたミオが、横目で隣席を見やる。

 口元を押さえて嗚咽を堪えているミコトの姿がそこにあった。

「フッ。よそ見をしている暇があるのかな?」

 対戦相手のヒビキが声をかける。

「失礼しました」

 素直に謝罪して、ミオがヒビキに向き直る。

「いいさ。友達のファイトは気になるよね。ましてセイジは対戦相手が強いほど容赦がないからね。

 けどここからは、ボクのファイトで君を夢中にさせてあげるよ!」

 そう言い放ち、ヒビキは手札にある1枚のカードに手をかけ、詠うように言葉を紡ぐ。

「終わり無き伝説よ。永劫不滅の歌声を以て、大海原から世界を繋げ!

 ライド! 《トップアイドル リヴィエール》!!」

 エースユニットの登場に、ミオが身構えた。ここからが正念場だと、マリアとの度重なる検証を経て全身で理解できている。

「イマジナリー・ギフトはフォースⅠをヴァンガードに。

 さらに、リヴィエールが登場したので《赤面紅潮 アイレイン》のパワー+10000! 《新米アイドル ピエーナ》のパワー+5000!

 リヴィエールのスキル発動! 手札を1枚捨てて、カードを2枚引くよ。

 リアガードに《心震わす声援 マリヤン》、《要の品格 エヴィ》』、《マーメイドアイドル リヴィエール》をコール!」

 今、ヒビキ指揮(プロデュース)の下、侵略者迫る大海原に人魚の歌姫達が集った。

「バトルだ!

 リヴィエールのブースト! マリヤンでヴァンガードのアルバにアタックするよ!」

「★トリガーでガードします」

「エヴィのブースト! リヴィエールでヴァンガードにアタック!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! 効果は全てリアガードのアイレインに!

 2枚目、トリガー無し。

 バトル終了時! 手札から2枚捨てて、手札のリヴィエールにスペリオルライド(アンコール)

 フォースはアイレインに!

 リヴィエールが登場したことで、各スキルも発動!

 まず、アイレインに+10000、ピエーナに+5000!

 エヴィをソウルインして1枚引き、カウンターチャージ!

 そして、リヴィエールのスキルで手札を1枚捨てて、2枚ドローだ!

 待たせたね……再び、リヴィエールでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです」

「ドライブチェック! ……トリガーは無し」

「ダメージチェック。こちらもトリガー無しです」

「ピエーナのブースト、アイレインでヴァンガードにアタックだ!」

「完全ガードです」

 ――おおっ!

 ★の乗ったアタックを上手く凌いだミオのファインプレーに観客席が湧きたった。

 現在、ミオのダメージは3。ヒビキのダメージは2。

 

 

「……おかしい」

 聖ローゼの部員達と集まって試合を見ていたフウヤが考え込むようにして低く唸った。

「いかがしました?」

 隣にいたヒカルが他の部員を代表して尋ねる。

「《スーパーアイドル リヴィエール》はどうした? あれが出ていれば、防ぐのはもっと困難になっていたはずだ……」

「それは、いくら綺羅ヒビキとは言え、引けないことだってあるでしょう。ほら、ダメージゾーンにも1枚落ちていますし」

「……俺は今日、負けてからずっと綺羅ヒビキのファイトを見ていた。そのうちG2リヴィエールを2枚以上出した試合を一度も見ていないんだ。

 それだけじゃない。G1やG2のリヴィエールにスキルでライドした試合もほとんど無い。

 あれは本当にリヴィエール軸なのか?

 俺達もミオちゃんもマリアさんも、とんでもない思い違いをしていたんじゃないのか!?」

 

 

「《絆の根絶者 グレイヲン》のスキル発動。ヴァンガードをデリートします。

 ドロップゾーンから2体のファルヲンをスペリオルコール」

 グレイヲンの爪がリヴィエールを貫き、ヒビキの魂を抉りだす。饗宴を彩るように、淀んだ海底からは2匹の根絶者が現れた。

「《噛み砕く根絶者 バルヲル》をコール。ソウルブラストして、あなたのターンエンド時にデリート解除できない呪いを。

 そして《呼応する根絶者 エルロ》をコールすることで、ドロップゾーンから《呼応する根絶者 アルバ》もスペリオルコール。

 バトルです。グレイヲンでヴァンガードにアタック」

「ノーガードだよ」

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー。★はグレイヲンに。パワーはエルロに」

「ダメージチェック……」

 ヒビキがダメージゾーンに置いた2枚のカードを見て、ある者は息を呑み、ある者は小さく悲鳴をあげた。

 ダメージゾーンに置かれたカードは、2枚ともが《トップアイドル リヴィエール》だった。

 それは即ち、ヒビキが次のターン、リヴィエールにライドできなくなったことを示していた。それどころか、デリートを解除できるかも怪しい。

「グレイヲンのアタックがヒットしたので、アイレインを裏でバインド(バニッシュデリート)します。

 続けて、アルバでヴァンガードにアタック」

 大きく優勢に傾いた状況にも関わらず、ミオは相変わらず淡々とヒビキを追い詰めていく。

「ノーガードだよ。

 ダメージチェック、★トリガー。効果はすべてヴァンガードに」

 絶体絶命の状況に追い込まれたヒビキも、変わらず楽しそうな笑みを浮かべてファイトを続けていた。

「フォースサークルのエルロでヴァンガードにアタックします」

「《ドッキンシューター ペレーア》、《あなたに届け パーシュ》でガード!」

「私はこれでターンエンドです」

「ふ、ふふ、ふふふ。やはりキミとのファイトは楽しいな。ボクがここまで追い詰められてしまうとは……」

「そうですね。私もあなたとの対戦が楽しいことは否定しません」

「それはよかった。ならば、もっと君を楽しませてあげるよ!

 今こそ見せよう! ボクのヴァンガードの原点となったカードを!!」

 ヒビキが手札に隠していた真の切り札に手をかけ、詠う。

「深き闇に眠りし静かなる才能よ。深海より音を震わせ、響け!

 ライド! 《ベルベットボイス・レインディア》!!」

「……え?」

 滅多なことでは動じないミオが、ありえない光景を前にしたかのように目を丸くした。

 

 

「綺羅ヒビキのデッキはリヴィエール軸なんかじゃない。G3のリヴィエール以外はすべて1枚しか入れていない、レジェンドアイドルデッキだ……!!」

 血を吐くような心地でフウヤが叫んだ。

 

 

「バトルだ!」

 手札を全て使ってユニットを展開したヒビキが宣言する。

「リヴィエールのブースト、マリヤンでヴァンガードのグレイヲンにアタック!」

「引トリガーでガード。アルバとエルロでインターセプト」

「ピエーナのブースト、《トップアイドル アクア》でヴァンガードにアタック!」

「治トリガーでガードします」

「さあ、奏でよう! 《マーメイドアイドル セドナ》のブースト! 《ベルベットボイス・レインディア》でヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! ★はレインディア! パワーはアクアに!」

 海面から突き立った、尖塔のような岩場に腰かけていた銀髪のマーメイドがゆっくりと口を開く。

 その瞬間、レインディアから発せられた透き通った声がグレイヲンの心臓(ハート)を貫いた。

 モデル顔負けの美貌こそ備えているが、常に物憂げな表情を崩さない彼女は、歌って踊れるアイドルのイメージとは大きく異なる。

 それでも彼女をアイドルたらしめている最大の武器は、海溝からでも地上に届くと称される圧倒的な歌唱力である。

「レインディアのスキル発動! 手札を2枚捨て、デッキの上から10枚公開する!

《大切なフレーズ レイナ》

《高邁なる白銀 クティーレ》

《From CP キャロ》

《パールシスターズ ぺルル》

《恋への憧れ リーナ》」

 ヒビキが愛おしそうに、ユニットの名前をひとつひとつ読み上げていく。

「《手作りの愛情 エレナ》

《タイドコンダクター イーコス》

《煌きのお姫様 レネ》

《学園の綺羅星 オリヴィア》

《鮮やかなる夢幻 アクティアナ》

 ふふ。みんな綺麗だね。

 さて、キミがリヴィエールをすべてダメージゾーンに置いてくれたおかげだ。公開されたノーマルユニットは、すべて別名! ボクは公開されたユニットの中から1枚選んでスペリオルライドできる!

 ここは貴女に賭けよう……」

 レインディアの歌声に誘われて、新たなる伝説のアイドルが彼女の背後でコーラスを唄いあげる。

 その名も――

「水面に煌めく綺羅星よ。銀河へと続く階段を駆け昇り、闇夜を照らす一等星となれ!

 ライド! 《学園の綺羅星 オリヴィア》!!」

 銀糸が織りなすようなレインディアの美しい旋律が、黄金の如く燦然と輝くオリヴィアの声と響き合う。

 祈りの歌声が波に乗って、どこまでも果てしなく広がっていき――

 世界は平和になった。

 

 

「ダメージチェック……負けました。完敗ですね」

 オリヴィアのアタックこそ完全ガードで防いだものの、オリヴィアのスキルでスタンドしたリアガードの追撃は耐えきれず、ミオは6枚目のカードをダメージゾーンに置いた。

「そんなことはない。いいファイトだった。再びキミと戦えた運命に感謝を」

 ヒビキは肩膝を立ててミオの前に跪くと、彼女の手を取り、その細い指に口づけをした。

「いや、何してるんですか?」

「キミのファイトに敬意を表したのさ」

「蹴られたいんですか?」

 ミオが低い声音で脅すと、ヒビキは慌てて飛び退きながらもポーズをキメた。

「ふふふ。照れ屋さんなんだね」

「どうもお互いの認識に致命的な隔たりがあるようですね」

「困ったね。どうしたらキミに喜んでもらえるのかな」

「なら今すぐにでも再戦してください。

 ……いえ、ダメですね。今、ファイトしても勝率は低いでしょう。まずは戦術からデッキまで洗い直さなければ。地力もあなたにまだまだ届いている気がしません」

 ミオは顎に手を当て、冷静に現状を分析した。

「なら、約束だ。来年のヴァンガード甲子園で、また会おう。必ずそこでボクはキミと再戦する」

「来年の8月、ですか。それが妥当かも知れませんね。わかりました、約束ですよ」

「ああ、約束だ」

 そう言って、ヒビキは細長い綺麗な形をした小指を差し出した。

「これなら受けてくれるかな?」

「……しかたありませんね」

 ミオは小さく溜息をついて、ちいさな小指をそれに絡めるとぎゅっと軽く力を込めた。

「フッ。これで僕達だけの契りが結ばれたわけだね」

「いちいち不快な表現を使わないで頂けますか?」

 乱暴に小指を切り離すと、ミオはデッキをまとめて立ちあがる。

「また会いましょう、ヒビキさん」

「次の逢瀬を楽しみにしているよ、ミオちゃん」

 ミオはまた一瞬だけ眉をひそめたが、それ以上は何も言わずにヒビキに背を向けて去っていった。

 天海学園2年、綺羅ヒビキ。決勝進出。

 響星学園2年、音無ミオ。準決勝敗退。

 

 

「《学園の綺羅星 オリヴィア》でヴァンガードにアタックだ!」

「クッ! ノーガード!」

 決勝戦は綺羅ヒビキと清水セイジのファイトとなり、セイジの烈風の如き猛攻をヒビキは耐え抜き、ミオ戦で披露したものと同じ、レインディアとオリヴィアの連携で逆転勝利を果たした。

 かくして、今年のヴァンガード高校選手権は大方の予想通り、綺羅ヒビキの優勝で幕を閉じた。

 

 

「ヴァンガード高校選手権はこれでおしまいです」

 表彰式も終わり、2名しかいない響星の部員を集めて、ミオが部長として大会を締めくくろうとする。少し離れてマナブ教師も腕組みしながら部員達を見守っていたが。

「みなさん、楽しめましたか?」

「おうっ!!」

「はいっ!!」

 ふたりの即答を聞いて、ミオは満足そうにこくんと首を縦に振った。

「それならば問題ありません。帰りましょう」

 余韻などという感傷とは無縁なミオは、さっさとスタジアムの外へと歩を進める。

 その時、ぽつりと冷たい感覚がミオの頬に当たった。

「おや?」

 ミオが軽く両手を掲げる。

「雪ですね」

 漆黒の空に白い氷の粒が散る。

 ミオに当たった最初の雪が溶け、その頬を水滴となって零れていった。




圧倒的青春戦乱絵巻。
それが高校生達にとっての大会です。
青春の華が咲いては儚く散っていくひとつの戦場をご堪能頂ければ幸いです。

ヒビキがレジェンドアイドル使いというのは初登場時点からあった構想ですが、それよりもさらに初期、ヴァンガードがスタンダードに移行する前から、バミューダ使いの最強キャラという構想はありました。
その時はレインディアかオリヴィアがエースユニットかなと漠然と考えていたものですが(髪色や名前にその名残が)、まさかどっちもレジェンドアイドルに関わってくるとは。
そんな経緯とタイミングのよさもあって、根絶少女では初となる、発売前ユニットの先行登場と相成りました。

初期案にあった、ミオ戦でユニットを除去されてからのラウラ。セイジ戦で大幅リードされてからのイリーナ。
の方が構成としては綺麗だったと思うので、そこはギリギリまで悩みました。
最新カードを取るか、ファイト構成を取るか。
贅沢な悩みです。

そんなヒビキの使用カードが収録される「Twinkle Melody」の「えくすとら」は、発売日前後に公開できると思います。
ヴァンガード候補が多すぎて、文章量がえらいことになりそうですが、お楽しみにして頂ければと思います。


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1月「こうなったのは、一体誰のせいだ?」

 気がついた時には、鬼塚(おにづか)オウガは見知らぬ場所に立っていた。

 どこか建物の中らしい。金の丁度品が並べられ、床にはふかふかの赤いカーペットが真っ直ぐ敷かれている。天井には豪華なシャンデリア。

 ここまでなら古風な金持ちの家に迷い込んだようにも思えるが、壁や床はほのかに青白く輝く見知らぬ材質で加工されており、現実味の無い近未来的な雰囲気をも醸し出していた。

(何よりも……こいつらは誰だ?)

 オウガはキツい目つきをさらに険しくして、周囲を見渡した。

 鈍色の鎧を着て、玩具には見えない鋭い穂先の槍を手にした男達が長いカーペットに沿うように並んでいる。そして、そのカーペットの先には、やたらと縦にとんがった鎧姿の男が、本人よりも大きい椅子に泰然と腰かけており……オウガはその男に見覚えがあった。

(騎士王、アルフレッド?)

 それはロイヤルパラディンを象徴するユニットの一人であり、オウガはあまりユニット設定に詳しくはないのだが、たしか騎士団の統率者だったはずである。

 いや。問題はそんな惑星クレイのユニットが、何故オウガの目の前にいるのかということだ。

「よくぞ来た、異界の者」

 アルフレッドらしき王が、口を開いた。

 威厳溢れる低い声音だが、同時に深い慈愛をも感じさせる不思議な声だった。

「この国は根絶者から攻撃を受けており、危機的状況に陥っている。

 だが、聖域の預言者によると、異界から来た勇者がその闇を払ってくれるという。

 私は君こそがその勇者と見込んだ。どうか、この国を救ってはくれぬか?」

 そしてそんな偉大なる声で、まるでRPGのようなことを言いだした。

(……おいおい。つまりは俺が生身で根絶者と戦えってか?)

 彼が冗談を言っているようにも見えないが、だからこそ状況の見えない現状では手に余る。

 騎士王の頼みを断ろうと足を踏み出した時、ガシャリと金属の擦れ合う音が聞こえて、オウガは自分の足元を見下ろした。カーペットを踏みしめる足が鋼鉄製だった。

 首の曲がる範囲で自分の姿を確認すると、自分も鎧を着ているようだった。それも、兵士達が着ているものより格の違う、装飾の施された青い鎧だ。首を動かしてみて気付いたが、兜まで被っている。

 これまで気付かなかった自分はどれほど鈍感なんだとも思うが、着心地に違和感が無く、動くのにも支障は無さそうだった。

(俺は夢でも見てるのか?)

 だとすれば、目の前に騎士王アルフレッドがいて、魔王退治の依頼を受けている現状も納得がいく。

 そして夢ならば、自分は現実より強くなっているのかも知れないし、根絶者と戦っても死ぬことはないだろう。

 となると、夢が覚めるまでこそこそ逃げ回るより、戦う方が楽しそうだ。

「いいぜ! その依頼、受けてやる!」

「おお! ありがとう、異界の勇者よ」

 オウガの雑な物言いを気にした様子もなく、騎士王はオウガの勇気を称えた。器でっかい。

「だが、根絶者を率いる魔王は、特別な剣でなければ倒せぬのだ」

「魔王? 特別な剣?」

 オウガが思わず聞き返す。いよいよ話がゲームじみてきた。

「うむ。魔王を倒せば、この国から根絶者どもは撤退するはずなのだ。だが、魔王がどこにいるのかは誰にも分らぬ。

 そして、魔王を倒すことができる剣の名こそ、聖剣シューティング・スパイク・スティンガー。

 異界の者にしか扱えぬと伝承されるその剣がどこにあるのかは、やはり誰にも分からぬ」

「分からないことばっかじゃねーか」

「すまぬ」

 軽めにツッコんだつもりだったが、騎士王は神妙な表情で頭を下げた。冗談が通じない。

「シューティング・スパイク・スティンガーには及ばぬが、異界の勇者のため、こちらで剣を用意した。冒険に役立ててほしい」

「おう! それじゃ、行ってくんぜ!」

 騎士王の配下が恭しく差しだしてきた剣を受け取ると、オウガはそれを腰のベルトに差して旅に出た。

 それは惑星クレイを巡る壮大な冒険の幕開けであった。

 

 

 城を一歩出ると、そこには広大な世界が広がっていた。

 人の手が加えられていない緑の草原が眼前には広がっており、右を向けば不気味な森があり、左を向けば別の大陸に繋がる長大な橋がかかっている。

 時に一迅の風が吹き、草原に波の紋様を描きながら、オウガの頬を軽く撫でた。

 それはオウガが訪れたことのない、されど毎日のように感じていた、惑星クレイの空気に近いように思えた。

「さて、どこへ行こうかね」

 独り言を呟きながら、オウガが世界に初めての足跡を刻む。

 その瞬間、目の前の草むらがガサガサと揺れる。

(うおっ! いきなり敵か!?)

 草むらから黒く小柄な影が跳びかかってきた。

 オウガは持ち前の反射神経でそれを避け、現れた魔物を凝視する。その正体は……。

「……ミオ、先輩」

「はい。いつでもあなたの前に現れる、ミオ先輩です」

 正確には、それはオウガのよく知る先輩とは違った。

 顔こそはミオそのものなのだが、その頭だけでフワフワと宙を浮いていた。特徴的だった美しい白髪は、今や無数の触手に変貌を遂げ、口元からは小さな牙が覗いている。

「何やってんすか?」

 オウガは混乱する思考を抑えながら、どうにかそれだけを尋ねることができた。

「よくぞ聞いてくださいました。私、念願だった根絶者になれたのです。見てください。この牙。この触手。

 脆弱な人間の肉体から解放された私は、もはやあなたの知るミオ先輩ではありません。どうかミヲと呼んでください」

 生首がふよふよと躍るように宙を舞う。本人は嬉しそうだが、有体に言ってグロかった。

「新入りの私は、この地方のザコキャラを任されました。さあ、オウガさん。その剣で私を倒してください」

「先輩はそれでいいんすか!?」

「もちろんです。駆けだし冒険者の経験値となるのが、ザコキャラの本懐です。ほら、遠慮せず。スパッといってください」

 生首がぐいぐいオウガに迫る。怖い。

「本当に、いいんすね?」

 念を押しながら、オウガは鞘から剣を抜く。地球には無い金属で打たれた剣が、陽光を浴びて青白く輝いた。

「うおおおおおおっ!!」

 魔物と化したとは言え、愛らしかった先輩に剣を向けるのは勇気がいった。悲鳴にも似た気迫をあげて、オウガは剣を縦に振り抜く。

「ギャー」

 真っ二つになったミヲが、彼女にしては名演と言える絶叫をあげて、次の瞬間には黒い霧となって消失する。死骸が残りでもしたらトラウマものだったが、さすがにその心配は無かったようだ。

(まさかミオ先輩が魔物になっているなんてな。まさか、他のやつらも……?)

 剣を鞘に納めながら、オウガは頭をよぎった想像に思考を巡らせる。

(カードファイト部の皆も魔物になっているのか? アリサ部長はありえそうだな。サキはどうだ? 恐竜にでもなっているのか? その場合、俺は斬れるのか?)

 ミオと違って、ふたりはか弱い女子高生である。

 悩みながら、オウガは無意識に一歩を踏み出すと、目の前の草むらが、再びガサガサと揺れた。

「エンカウント率、高ぇ!」

 オウガは毒づきながら剣を抜く。草むらから飛び出したのは

「ミオ先輩……」

「はい。何度でもあなたの前に立ちはだかる、ミオ先輩です」

 先ほどと同じ根絶者スタイルのミオが現れた。

「さっき倒したじゃないですか」

「私はザコキャラですからね。無限湧きしますよ」

「……斬っていいすか?」

「どうぞ。私はこの為に生まれてきました」

 ミヲが、あらゆる理不尽を赦し、全てを受け入れる聖母のように触手を広げる。

 定められた滅びの運命に、誇りを抱いたまま殉じるその姿は美しく、そして哀しかった。

 せめて苦しませぬよう、介錯する心地でオウガは剣を振るった。

 

 

 それから十数体のミヲを屠ったところで、オウガは洞窟を発見した。

 どうやったら、草原の真ん中にこんな形の洞窟ができるのか。半円状の入り口は地下へと続いているようだった。

「ま、とりあえず入ってみるか」

 躊躇なく洞窟へと侵入したオウガに、暗がりから不気味な影が忍び寄る。

「魔物かっ!?」

 オウガが剣を抜き放つ。これもミヲのおかげか、その姿もだいぶ板についてきた。

(まさか、またミオ先輩じゃねーよな)

 草原のザコキャラだったミヲが、洞窟にまで現れるとは考えにくいが。

 光が届く範囲まで、魔物が近づいてきた。

「ミオ先輩」

 それこそミオのような感情の無い声で、オウガが呟いた。

 現れたのは、相変わらず触手をたなびかせて宙に浮く、ミオの生首だった。

「いいえ、私はミオ先輩ではありません」

 器用に触手でチッチッと指を振って、ミオ(?)が告げる。オウガはイラッときた。

「見てください。触手が赤いでしょう。私はレッドミヲです」

「ただの色違いじゃねーか!!」

 叫びながら、オウガが剣を振るう。しかし、レッドミヲはひらりと身をかわした。

「かわすのかよっ!」

「私をミヲと同じに思ってもらっては困りますね。こんなことだって、できるんですよ?」

 触手をくねらせるミヲの眼前に、赤い魔法陣が浮かぶ。オウガは悪寒を感じ、その場から飛び退いた。

「燃えよ」

 ミヲが端的に命じると、魔法陣から火球が放たれた。それは洞窟を赤い光で満たしながら、数瞬前までオウガのいた地面に突き刺さって爆発する。

 跡に残ったものは、赤黒く抉れた地面と、土の焦げる匂い。そして、鎧越しでもちりちりと肌をつく熱気である。

「驚きましたか? レッドミヲは魔法が使えるのです」

 漂う火の粉と共に、ふよふよ得意げに浮かびながら、レッドミヲが言ってくる。皮肉なことだが、首だけになったおかげで、感情の表現は上手くなっているようにも思えた。

(冗談じゃねえ! 食らったら即死だぞ、こんなもん)

 ひょっとすると、オウガの耐久力も現実より増しているのかも知れないが、試す気にはなれなかった。

(くっ、これじゃ近づけねえ……)

 ミヲが迫る。オウガが一歩下がる。ミヲがさらに迫る。オウガもさらに下がる。

 そんなことを繰り返しているうちに、オウガは背に壁の感触を感じた。

(まずいっ!?)

 オウガはとっさに身構えるが、ミヲは動かない。普段の彼女なら逃すはずも無い絶好の機だ。

「……ミオ先輩?」

「いいえ。私はレッドミヲです」

「何で攻撃してこないんすか?」

「ふっ」

 鼻で笑って、ミヲは触手で触手をかきあげる。

「魔力が切れたからに決まってるじゃないですか」

「…………」

 オウガが無言で剣を振るう。

「ギャー」

 ミヲと変わらない悲鳴をあげて、レッドミヲが消滅した。

 

 

 レッドミヲを蹴散らしながら、オウガは洞窟を進む。

 やがて、ダンジョンの突き当りに、ひとり佇む影を見つけて、オウガは足を止めた。

 それは黒い全身鎧を着て、オウガに背を向けていた。鎧のせいで体型は分かりづらいが、背は高く、男性のようである。少なくともミオではないだけで安堵できる。

「来たか……」

 オウガが誰何の声をあげようとした寸前、くぐもった低い声をあげて、黒鎧の男が振り返る。

 フルフェイスの兜を被っており、顔は分からない。

「ふ。これも我が宿命か。よかろう。この黒騎士が汝の命を散らしてやろう……」

 意味深で、特に意味は無いセリフを吐きながら、黒騎士と名乗った男が、禍々しい装飾の施された剣を構える。

(聞いた事があるような無いような声だが。知り合いか?)

 狭い洞窟内に反響するボソボソした声を、どうにか聴きとろうと努めながら、オウガも剣を構える。

「暗黒魔淵濁竜烈覇!」

 黒騎士が必殺技らしき名前を叫びながら剣を振るうと、そこから衝撃波が放たれ、それは地面を斬り裂きながらオウガに迫る。オウガは横っ飛びでそれを回避するが

「暗黒魔淵濁竜烈覇!」

 黒騎士は間髪入れず2発目の衝撃波を、体勢の崩れたオウガに放った。

「うおおおっ!?」

 無理な体勢で剣を振って、どうにか衝撃波をはじき返す。だが、その衝撃で、剣がオウガの手からすっぽ抜けた。

「暗黒魔淵濁竜烈覇! 暗黒魔淵濁竜烈覇! 暗黒魔淵濁竜烈覇ぁ!」

「だああああっ!!」

 黒騎士が調子に乗って連発してくる衝撃波を、オウガは転がって避け続けた。だが、それも長くは続かず、オウガの肩が壁際についてしまう。

「とどめだ……恨むなら、貴様如きを勇者と見込んだ、騎士王を恨むがよい。暗黒魔淵濁竜烈づ!!!!」

 黒騎士が剣を振り上げた状態のまま固まった。その兜の隙間から、つ……と赤い液体が垂れていく。

「もしかして……」

 その隙に立ち上がり、油断無く、取り落とした剣が落ちているところまで歩みながら、オウガが呟く。

「舌を噛んだのか?」

「ふ。笑うがいい。力を求めた修羅の末路がこれよ……」

「技の名前を盛りすぎた末路じゃね!?」

 フェアプレー精神には欠けるが、この好機を逃すわけにはいかなかった。オウガは剣を拾い上げると、未だ動けないでいる黒騎士に、一息で距離を詰める。

 致命的な攻撃を人間に仕掛けるのはやはり抵抗があったので、剣のみねで兜を殴打する。これで気絶すれば御の字と放った一撃は、思いもよらず、黒騎士の兜をガラスのように、粉々に打ち砕いた。

 破片の奥から現れた、口元から血を垂らした精悍な顔つきは、オウガのよく知る人物だった。

「ムドウ師匠……?」

「ふ。見られてしまったな……」

 自嘲気味に笑いながら崩れ落ちる黒騎士――ムドウの体を、オウガは剣を放り出して支えた。

「まさか、あんただったなんて……」

 思い返してみれば、つくづく彼以外にありえない言動だった気もするが。

「ふ。魔王は俺に力を与えると言ってくれた。俺が小学校4年生の頃から思い描いていた必殺技を、現実のものにしてくれると……」

「ムドウ師匠、小学生時代からキレキレっすね」

「俺はその誘惑に抗えなかった。そうして得た力など、幻想に過ぎないと分かっていたはずなのに……」

 ムドウの瞳から一筋の涙が零れ落ちる。修羅が死した後には、一人の泣き虫な少年だけが取り残されていた。

「オウガ。俺はここまでのようだ。だが、最後に……お前に伝えておかなければ……ならない……」

 舌の傷が深いのか、オウガの言葉が途切れ途切れになっていく。

「世界樹の……麓に行け……。そこに……今のお前にとって……必要なものが……眠っている……」

「!? もしかして、シューティング・スパイク・スティンガーか!?」

 オウガの問いかけに、ムドウはふっと微笑んだ。かつて時折見せた、優しい笑み。

「行け……お前なら、俺が本当になりたかったものになれる……!! ……ぐふっ」

 オウガの体から力が抜ける。

「師匠おおおぉぉぉっ!!」

 オウガは叫んだ。ムドウはもう何も答えなかった。ただ、オウガの腕の中で、安らかに眠っていた。

 

 

 それからもオウガは旅を続けた。

 ムドウの言う世界樹がどこか分からなかったので聞き込みを行い、どうやら隣の大陸にある事が判明する。

 船が必要なので、船を持っている富豪「マダム・マリア」とやらの頼みを聞いて船を貸してもらい、大海原へと漕ぎ出した。

 隣の大陸へ着いてからは、密林を抜け、砂漠を抜け、雪原を抜け、大冒険の果てに、オウガはようやく世界樹へと辿り着いた。

 ミヲの言う通り、彼女は下っ端だったのか、そこから彼女はほとんど敵として登場せず、代わりにG1~G2帯の根絶者が、オウガの前に立ちはだかった。

 唯一、密林でポイズンミヲという紫色の触手を持ったミヲが現れたのだが、ミヲが毒を吐いてくるだけだったので割愛する。あとなんかいつもより毒舌だった。

「ここが世界樹……」

 どこか逞しく成長したオウガが呟いた。

 目の前には壁のように木の幹がそびえ立っており、見上げると無数の枝葉が空を覆い隠すかのように生い茂っている。

 現実には決してありえないほどの巨木である。

 ムドウが遺した言葉に従い、その麓を、鞘に収めたままの剣で掘り返す。

 慣れない土木作業を1時間ほど続けていると、ガツンと土とも根とも違う感触に突き当たった。

 オウガは唾を呑みながら、さらに時間をかけて慎重に周囲の土をどけていき、ついにはゲームの中でしか見かけないような、巨大な宝箱を掘り出した。

(ムドウ師匠が俺に託してくれたもの……)

 期待を込めて、オウガが宝箱に手をかける。

 バサバサッと音をたてて、箱からグラビア雑誌が溢れ出した。

「…………」

 それに紛れて足元に落ちた紙片を、オウガは拾い上げる。

『お前がこれを読んでいるということは、俺はもうこの世にいないのだろう。俺のコレクションから、お前の好きそうな本をセレクトしておいた。これにより、君がさらなる高みに至らんことを願う』

 オウガはペッと紙片を放ると、それを思い切り踏みつけた。

 あらん限りの力を振り絞り、絶叫する。

「あんの、バカ師匠おおおぉぉぉ!!!!」

 こうして、オウガの旅は振り出しへと戻ってしまうのであった。

 

 

 とりあえず、何冊か雑誌をピックアップして道具袋にしまいこんだオウガは旅を再開した。

 とは言え、どこへ向かえばいいのか分からない。あても無くぶらぶらして辿り着いた村で、オウガは運命の出会いを果たす。

「デリデリ。私、悪い根絶者じゃないです」

 ミヲだった。

 彼女らしからぬ上目遣いで、地面をコロコロ転がりながら、オウガに慈悲を求めるように言ってくる。

「友達のヰゴールさんに会いに来ただけです。見逃してください」

「…………」

 オウガは剣をしまうと、とりあえず一番気になっている事を尋ねた。

「『デリデリ』って何なんすか?」

「根絶者の鳴き声です」

「マジすか」

「見逃してくれるのなら、いいことを教えましょう。魔王は、この先にある『魔の森』を越えた『魔王城』にいます」

「そんな近くに? けど、シューティング・スパイク・スティンガーがまだ……」

「シューティング・スパイク・スティンガーは魔王城にあります。唯一、魔王を傷つける可能性を持つ剣は、魔王が隠し持っているのです」

「!!」

 オウガは絶句した。確かに理に適っている話だが、それは同時に絶望でもあった。魔王を倒せる剣は、魔王を倒さなければ手に入らないなど、これほどの矛盾も無い。

「諦めないでください。シューティング・スパイク・スティンガーは破壊されたわけではありません。破壊できないからこそ、魔王は手元に置いておかざるを得なかったのです。魔王を出し抜いて、シューティング・スパイク・スティンガーを手に入れる事さえできれば……」

「そのまま魔王に突き刺してやればいいってことっすね。すんません、先輩。俺、弱気になってました」

「まったく。オウガさんにはまだまだ私が必要みたいですね」

 厳しい口調とは裏腹に、まんざらでもない微笑を浮かべながら、ミヲが触手をすくめた。

「面目ない」

 オウガも釣られて笑った。

 思えば、この世界で彼女が味方になってくれたのは、これが初めてのことだった。

 彼女の叱咤が無ければ、すぐ挫けてしまう自分が恥ずかしいが、それでも本当に頼りになる先輩を持ったものだと思う。

 その頼れるミヲ先輩は、いつの間やら無断でオウガの道具袋をごそごそ漁っていたが。

「おや、何ですか、この本は?」

「ぎゃああああ!! 何やってんすか、先輩!?」

「先輩の抜き打ち持ち物チェックです。後輩の性癖を把握しておくのも先輩の務めですから。

 なるほど。オウガさんは、こういう女性がタイプなんですね」

 触手で次々とグラビア雑誌を取り上げながら勝手に納得している歴代最悪最凶のミヲに、オウガがこれらの本を手に入れるに至った経緯を説明する。

「……本当に興味が無いのなら、持ち出さなかったらいいだけじゃないですか」

「墓穴掘ったあああっ!!」

 ミヲの指摘に、オウガは真っ赤になった顔を押さえてうずくまる。

「おや、この本に写っている女の子は私に似てませんか? じとー」

 その隙に持ち物検査を再開したミヲが、一冊の本を取り上げ、いつも眠そうな目をさらに細めてジト目を作る。

「いやっ、それはっ……!!」

 本気で焦るオウガの手に、ポンと雑誌が手渡される。

「冗談はここまでにしておきましょうか」

「思春期の男子高校生にトラウマ植え付けておいて冗談もクソもねーっすよ!?」

「こう見えて私は喜んでいるんですよ? 私の大切な人が、私の事を悪しからず思ってくれていると分かったことが」

 曇り一つ無い瞳で見つめながら告げられ、オウガはこれ以上の文句は言えなくなった。

「……ま、まあ、先輩のこと、かわいいとは思ってるっすよ」

 髪を乱暴にかきながら、オウガは正直に告白した。ここが夢の中だと自覚しているからこそ言えたセリフではあるが。

「ふふ、ありがとうございます。今度は、ミヲではなくミオにも言ってあげてくださいね」

 そして、それは見透かされていたようだ。

「……うす」

 決まり悪くミヲから目を逸らしながら、それでもオウガは約束する。

「楽しみに待っています。では、私はこのあたりで。ヰゴールさんとの約束がありますので」

「そう言えば、そんな話してたっすね」

「はい。ここでお別れですが、私はいつだってオウガさんの事は見守っているつもりです」

「身に染みてるっす」

「では、頑張ってください。ご武運を」

 そう言って、ミヲは村の奥へと上機嫌で飛んで行った。

「……行くか」

 心の中にじんわりと残る、温かくて甘酸っぱい気持ちを抱いて、オウガは魔の森の方角を見据えた。

 旅の終わりは近い。

 

 

「よくきたな、勇者オウガよ!」

 魔の森を抜け、魔王城の最奥まで辿りついたオウガを待ち受けていたのは、オウガもよく知る《絆の根絶者 グレイヲン》だった。

 そして、その傍らには鋼鉄製の檻があり、その中には少女が閉じ込められている。

「このサキとか言う娘を助けたければ、この我を倒すのだな! フハハハハ!」

「たーすけてー、オウガくーん」

 檻の中では、北欧の民族衣装のような可愛らしいワンピースを着たサキが棒読みで手を振っていた。

「くっ! 何でこんなところにサキが! 待ってろ、必ず助けてやるからな!」

 オウガが剣を構えて宣言する。サキは顔を赤らめてどぎまぎした。

「いくぜ、魔王グレイヲン!」

 すっかり板についてきた動きで、オウガが剣を突き出し突撃する。それをめがけて魔王は、人差し指を突き出すと、ぽつりと呟くように呪文を唱えた。

「デリート」

「!?」

 その言葉の響きに不穏なものを感じたオウガが、急制動をかけて横に跳んだ。

 瞬間、オウガの足下にあった大理石の床が跡形も無く消滅する。

「マジかよ!」

 ぽっかりと空いた穴に、己の末路を重ね合わせ、オウガは悲鳴をあげて、そこいらに立っている悪魔を模した石像の影に隠れた。

「デリート」

 だが、魔王の魔法はそれを容易く貫通した。石像をごっそりと抉り取り、その奥にある壁にまで大穴を空ける。

 オウガは石像の裏でしゃがんでいたため、逆立った髪の毛の先が少し失われただけで済んだが、もし立ったままでいたならば、今頃上半身が消し去られていただろう。

(反則だろ、これは!!)

 心の中で悲鳴をあげながら、オウガは次の石像へと転がりこむ。

 だが、グレイヲンの指は、今度こそ石像の裏へと隠れたオウガにぴったりと向けられていた。

「デリー……」

「バーストバスター!!」

 その時、呪文を断ち切るかのように、勇ましい声が魔王城に轟き、どこからともなく放たれた衝撃波がグレイヲンの腕を斬り飛ばした。

「なに?」

 グレイヲンが困惑の声をあげ、オウガが石像の影から恐る恐る顔を出す。

 ギィンと甲高い音と共に鋼鉄製の檻が切断され、そこから白い人影がサキをお姫様抱っこで救出し、オウガの目の前に降り立った。

「あ、あんたは……」

 その人影を指さし、思わず誰何するが、オウガはその男をよく知っていた。

「我が名は……ブラスター・ブレード!!」

 やたら横にとんがった純白の鎧を纏った剣士が高らかに名乗りをあげた。

「ブラスター・ブレードきたーっ!!!」

 思わずオウガが歓声をあげる。

「ああ! キミのことを助けてやってくれと、騎士王から頼まれたのだ!」

 ブラスター・ブレードはサキを優しく床へと降ろしながら、ここに来た経緯を説明してくれた。

「すげー! 本物のブラスター・ブレードだぜ! なあ、サキ!!」

「あ、う、うん……。そうだね」

 不満げに「オウガ君に助けてもらえると思ったのに……」と、ブツブツ小声で呟いていたサキが無愛想に答える。

「おっと、そうだ! サイン頂けますか!?」

「いいとも!」

 オウガが差しだした《メカ・トレーナー》に、ブラスター・ブレードがさらさらとペンを走らせる。

「っしゃー!! ブラスター・ブレードにサインもらっちまったぜ!」

「オウガ君って、そんなにブラスター・ブレード好きだったっけ?」

 子どもの様にはしゃぎながら、どう見ても「ブラスター・ブレード」とラクガキされたようにしか見えない《メカ・トレーナー》を自慢げに見せつけてくるオウガに、サキが苦笑しながら尋ねた。

「そういうわけじゃねーけど、やっぱテンションあがるだろ!

 応援してるチームの選手じゃなくても、有名な選手のサインがもらえたら、やっぱ嬉しいみたいな!」

「それはよくわからないけど……」

 サキが首を傾げていると、「おい……」と低い声が、ふたりの会話を遮った。

「我を無視するとは、いい度胸ではないか」

 腕を斬り落とされたグレイヲンが、憤怒の気配を迸らせながら迫っていた。

「ヤベッ! まだ、グレイヲンを倒したわけじゃなかった!」

 オウガが慌てて剣を構え直そうとするが、それより早くブラスター・ブレードが動いた。

「ここは私にまかせろ! バーストバスター!!」

 ブラスター・ブレードが突き出した剣から、青白い衝撃波が迸り、グレイヲンの胸を貫いた。

「グオオオオッ!!」

 グレイヲンが断末魔の悲鳴をあげて、水に溶けた粘土のようにドロドロと崩れ落ちていく。

「つ、強ぇ……」

 オウガが思わず剣を取り落としそうになりながら呟いた。勇者も肩無しである。

(ん? でも、魔王は勇者にしか扱えない武器でなけりゃ倒せないんじゃ……)

 旅立ちの前に聞いた騎士王の言葉をふと思い出し、オウガが首を傾げた。その目の前で、粘土状のグレイヲンが変形し、新たな姿を形作った。

 銀と青の装甲を纏った、鋼鉄の根絶者。その名も……

「これこそが我の真の姿! グレイドール!!」

 グレイヲン改めグレイドールが高らかに名乗りをあげる。

「バーストバスター!!」

 間髪を入れず、ブラスター・ブレードが衝撃波を放つが、それはグレイドールの装甲に弾かれて霧散した。

「ブラスター・ブレードのアタックが通らない!?」

 オウガが悲鳴じみた声をあげる。

「オウガ君、あれを見るんだ!」

 ブラスター・ブレードがグレイドールを指し示す。いや、彼が差しているのは、その背に隠されているものだ。

 グレイヲンが腰かけていた玉座の裏に、黒曜石の台座が据えられており、そこに一振りの剣が突き刺さっていた。

 いたるところにトゲを生やした刀身に、楕円形のボールを模した柄を備えた、ちょっぴり残念なデザインの剣だ。

「あれは!?」

「あれこそがシューティング・スパイク・スティンガー! 魔王を倒すことができる唯一の武器にして、キミだけにしか扱えない伝説の剣だ!」

「俺にしか……」

 オウガの心臓がドクンと高鳴る。

「グレイドールの攻撃は私が引き受ける! キミはあの剣を奪取するんだ! できるな?」

「おう! まかせろよ!」

 ブラスター・ブレードの真っ直ぐな視線を受けて、オウガは力強く頷いた。

「わ、私には応援することしかできないけど、がんばってね、オウガ君!」

「ああ! その言葉だけで、百人力だぜ!」

 サキの励ましに、オウガは片手を挙げて応える。

「ブラスター・ブレード! サキを頼む!」

「もちろんだとも!」

「よしっ、行くぜっ!」

 手にしていた剣を放りだし、オウガがスタートを切って駆けだした。

「させるものか!」

 グレイドールが装甲の隙間から触手を伸ばし、オウガの行く手を遮ろうとする。

「やらせんっ!」

 ブラスター・ブレードが剣を一閃し、それらを断ち切った。

 だが、グレイドールの触手は無数にある。ブラスター・ブレードの剣を逃れた触手が一斉にオウガへと襲いかかった。

「オウガ君っ!」

 サキが悲鳴をあげるが、オウガは紙一重でそれらをすべて避けてみせた。

「へっ! 攻撃を避けながら駆け抜けるなんて、アメフトじゃ基本中の基本だぜ!」

 アメフト選手の中では小柄なオウガは、相手選手のタックルを避ける技術をずっと磨いていた。もう必要の無くなった技術だと思ったが、世の中、何が役に立つか分からないものである。

 そう言えば、ここに至るまでずいぶん長旅をしてきたが、痛めた足に響くことはなかった。迫りくる触手を切り抜けながら、全力で走っている今もそうだ。

 気付くのが遅すぎて自分でも呆れるが、ひょっとすると、この夢の中では、足のケガは無く、自由に走りまわることができるのかも知れない。

 久々に味わう風を切って疾走する喜びに、オウガの表情は自然とほころんでいた。

「タッチ、ダウーン!!」

 オウガの指がシューティング・スパイク・スティンガーに触れようとするその瞬間――

 感電したような衝撃が全身に奔り、オウガは剣に弾かれるようにして尻もちをついた。

「な? な!?」

 目を白黒させるオウガに、グレイドールの勝ち誇った声が降り注ぐ。

「残念だったな、勇者よ。この剣には結界を張っておいたのだ。我ら、根絶者の眷属にしか触れられぬ結界をな!」

「くそっ! ここまできて!」

 諦めずオウガがシューティング・スパイク・スティンガーに手を伸ばそうとするが、やはり目に見えない力に弾かれる。

「ぐわっ!」

「ブラスター・ブレードさん!」

 一方では、触手の一撃を受けたブラスター・ブレードが倒れ、サキが思わずその傍へと駆け寄った。

「終わりだ。聖域の英雄よ」

 グレイドールがふたりまとめて握りつぶさんと、ゆっくりとした動作で腕を伸ばす。

「くそおおおおっ!!」

 オウガが力任せに拳を床に叩きつけ、その衝撃で大理石がひび割れた。

「おや、もう諦めてしまうのですか?」

 そして、そのひび割れから声が聞こえた。

 抑揚の無い、試すような声。

 それはオウガのよく知る、今日も幾度となく聞いた声だった。

 ネズミならどうにか通れるかというひび割れから、にゅるんと声の主が姿を現す。

「……ミオ、先輩」

「はい。あなたのピンチには必ず駆けつけるミオ先輩です」

 相も変わらず根絶者姿のミオがふよふよ浮いて、オウガを見下ろした。

「私としては、ブラスター・ブレードがグレイドールに握りつぶされるのは構わないというか、むしろ歓迎なのですが、サキさんをその巻き添えにするわけにはいきません。特別に私の力をお貸ししましょう」

「けど、今はザコキャラの先輩が何の役立つんすか!?」

「その結界――」

 ミオが触手でシューティング・スパイク・スティンガーを指す。正確には、それの周囲を覆う、目には見えない結界を。

「根絶者にしか触れられないんですよね。今の私は根絶者ですよ。触れることなど、造作もありません」

 そう言って、ミヲは伝説の剣に触手を絡みつけると、何の感慨も無く、きゅぽんと軽い音をたてて引き抜いた。

「どうぞ。……やはりこれはあなたにしか扱えないようですね」

 剣に触れた触手をドロドロと溶かしながら、ミヲがシューティング・スパイク・スティンガーを手渡してくる。

「ありがとうございます、先輩!」

「どういたしまして。あなたはやっぱり私がいないとダメみたいですね」

 ミヲが部活でオウガを叱る時の調子で言い、首を振った。

「返す言葉も無いっす。けどここからは、せめて勇者らしく――」

 オウガは大きく息を吸うと、グレイドールに剣を突きつけて宣言する。

「魔王グレイドール!! この剣でお前を倒すぜっ!!」

 ゆっくりと振り向いたグレイドールが、驚愕に身じろいだ。

「シューティング・スパイク・スティンガーを!? おのれっ!!」

 グレイドールの放つ触手をかわしながら、そのうちの一本に飛び乗り、駆け上がる。そこからグレイドールの頭部まで跳躍すると、真っ直ぐシューティング・スパイク・スティンガーを突き出した。

「グアアアアアッ!!!」

 剣はまるで吸いこまれるようにしてグレイドールの額に突き刺さり、魔王がこの世のものとは思えぬ絶叫をあげた。

 魔王の肉体を構成していた鋼鉄の装甲にヒビが入り、そこから幾条もの光が溢れだすと、オウガの視界を白く染め上げ――

 そのまま、ぶつんと電源を落としたかのように、彼の意識はそこで途切れた。

 

 

 ぱちり。

 そんな音をたてるようにして、音無(おとなし)ミオの大きな瞳が開かれた。

 その眼に映るのは、染みひとつ無い白い天井。

 音無家の2階にある、ミオの私室の見慣れた天井であった。

(……夢でしたか)

 まるでロボットが起動するかのように、ミオはベッドから直角に体を起こした。

「ふ、ふふ、ふふふ……」

 そして、不気味に笑いだす。

(夢の中とは言え、根絶者になりたいという私の夢が叶ってしまいました。まるで夢のような夢でしたね)

 ややこしいことを考えながら、壁にかけてある無地のカレンダーを見上げる。

(新しい根絶者をお迎えするこの日に、これほど縁起のよい初夢も無いでしょう)

 今日はヴァンガード年始購入キャンペーンの日だ。公認店舗で根絶者関連商品500円分購入するごとに《層累の根絶者 ジャルヱル》がもらえるという素敵な企画だったと記憶している。

(せっかくですからオウガさんも誘いましょうか。それに、サキさんも。

 おふたりにはさっそく新しい根絶者のテストに付き合ってもらうとしましょう)

 思いつくや、枕元に置いていた携帯電話をひっつかむ。

「あ、読者のみなさんも。あけましておめでとうございます」

 そして彼方を見上げ、ぺこりと頭を下げるのであった。




あけましておめでとうございます。
ジャルヱルは朝イチに4枚揃えに行きました。栗山飛鳥です。
今回は、レアカードという設定上、これまで登場させられなかったアイツがついに登場です。

次回は「クランセレクションvol.1」の「えくすとら」を予定しておりますが、発売日から1週間後に公開を予定しております。
それに伴い、2月の本編は2月中旬にずれ込む予定です。
ご了承くださいませ。

そのようなわけで次回、メガコロ、むらくも、グランブルー、シャドウパラディン、リンクジョーカーが一堂に会する神パック「クランセレクションvol.1」の「えくすとら」でお会いできれば幸いです。


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2月「食べる前に喰らう」

 ダークゾーンの中心部に存在するスパイクブラザーズの本拠地、ギャロウズボールスタジアムは、影の騎士団(シャドウパラディン)の侵攻により、崩壊の危機に瀕していた。

 黄金の鎧を纏った、影の如き竜が双刃の槍を掲げると、その周囲にいた生命が一瞬にして失われていく。

 一瞬前まで騎士団と大乱闘を繰り広げていたギャロウズボールの選手から、影竜に忠誠を誓っていたはずの黒騎士。野蛮だが戦闘力を持たない観客に至るまで無差別に。彼らは皆、糸の切れた人形のように崩れ落ち、その魂を影竜に捧げていた。

 鈍く輝く黒鋼の刃が命を喰らい、血を思わせる朱に染まる。影竜はその切っ先を、死が蔓延る中、平然と腕組みして立っている白髪のオーガに向けた。

「絶望せよ! 貴様の仲間はすべて死に絶えた!」

「まだ俺様がいるぜ?」

 オーガ――ライジング・ノヴァが不敵に笑う。

「ギャロウズボールのルールを知らねえのか? 戦える選手が一人でも残っている限り、チームは負けにならんのよ」

「くだらぬ!」

 状況にそぐわぬ大真面目な解説を、影竜は一笑に付した。

「ならば残されたその命、刈り取ってくれよう!」

 死神が鎌を振るうが如く、紅に輝く槍がライジング・ノヴァの首筋目掛けて迫る。

 オーガはそれを手にした楕円形のボールで難なく受け止めた。

「なんだと?」

 驚愕する影竜の眼前で、さらに予想外の事態が勃発した。

 ボールが爆発したのだ。

 彼は知る由も無かっただろうが、ギャロウズボールで使用されるボールには、惑星クレイで最も堅くて重い金属や、爆発物が仕込まれたりしていることなど日常茶飯事なのだ。彼らの反則にかける執念は、時に最新の科学技術すら凌駕する。

 だが、命を奪う術に長けた影竜は、変転する状況の中でも冷酷に、爆風に紛れて高く跳んだオーガの気配を鋭敏に嗅ぎ取り、そこに目掛けて鋭く槍を突き出した。

 爆煙の中、パッと鮮血が散り、影竜の顔を朱に濡らす。

 槍はライジング・ノヴァの眉間を抉っていた。

 だがそれまでで、金剛石より堅いオーガの頭蓋を貫くには至らなかった。

「てめえに隙は見せたくなかったから、こうしてヘラヘラしてるがよ……」

 額で槍をへし折ると、ライジング・ノヴァは大きな掌で、影竜の顔面をボール代わりに掴み取る。

「仲間をブチ殺されて、本当は怒り狂ってんだぜ!!」

 そして、血に染まった怒りの形相で、影竜の頭部をエンドゾーンへと叩きつけた。確かな手ごたえの後、その感触が影のように消え去り、そこから黒い煙が立ち昇る。

『オノレ……』

 影竜の体が瘴気となって怨嗟の声をあげる。

『ダガ、オボエテオケ。“心ノ闇”アルカギリ、ワレハカナラズヨミガエル……』

「はっ! だったら他を当たりな。

 俺達はスパイクブラザーズ。勝つためなら反則するヤツもいるし、敵は死ぬまで痛めつけるが……その心には一点の曇りもねえ!」

 心臓のあたりを親指で指し示し、ライジング・ノヴァは堂々と宣言した。

 その啖呵に気圧されたわけでもないだろうが、瘴気は天に昇り、断末魔を思わせる絶叫をあげて霧散していった。

 影竜の生み出した闇は払われたが、ダークゾーンの空は今日も分厚い雲に覆われたままだ。

 だが、それを貫くようにして輝く巨星がただひとつ、英雄と呼ばれるに相応しいハートを持ったアスリートを照らし出していた。

 

 

「ふん。俺の負けだ」

 憮然とした面持ちで――いつもこんな調子ではあるが――ムドウが6枚目のカードをダメージゾーンに置く。

「っしゃああ! ついにムドウ先輩に勝ち越したぜ!」

 オウガが立ちあがり、カードショップ「エンペラー」の低い天井に届きそうなくらい高々と拳を突き上げた。

「もう俺が教えられることはなさそうだな」

「うす! ありがとうございました! 高校選手権は終わったのにこうして鍛えて頂いて感謝してます! その高校選手権も勝ちきれなかったのに……」

「構わん。ヴァンガードを始めて1年にも満たないやつが、あそこまでやれれば上出来だ。

 それに、お前にヴァンガードを教えたことは、俺の糧にもなった。聖ローゼにいた頃は、自分の技術を他人に与えることが嫌で、後輩にも必要以上のアドバイスをすることはなかったが。……他人にモノを教えるというのは、自分の見つめ直すきっかけにもなるものだな」

「そんなもんすか」

「ああ。もうすぐしたら、お前にも後輩ができるだろう。試してみるといい」

「……そうっすね」

 ストンと椅子に座りこんだオウガが、僅かに俯きがちになって答えた。

 その様子に、ムドウが怪訝な顔をして尋ねる。

「どうした? ああ、お前のところのカードファイト部は小さいからな。そもそも新入部員が入るか不安なのか」

「なっ! そんなんじゃねーっすよ! 今年は先輩方も大活躍してましたから、絶対に新入部員は来ます!」

「そういうことにしておこう。

 さて。俺から教えることはないと言ったが、最終試験として俺以外とファイトしているところも見ておきたいところだが……」

 ムドウの冷淡な瞳がファイトスペースをざっと見渡す。彼と目が合いそうになったファイター達が、慌てて目を逸らした。

「ふん。ここには俺の弟子に相応しい対戦相手はいないようだ」

「あんまり他の人を脅かさないでくださいよ。俺がこの店に出入りしにくくなるじゃないっすか」

 オウガが目つきの悪い瞳をさらに半眼にして注意する。ただでさえ見た目で驚かれて、対戦相手を探すのは一苦労なのだ。響星のホームである『エンペラー』で悪評が立つのは勘弁して欲しい。

「フウヤか神薙(かんなぎ)姉弟でも呼ぶか。しかし、やつらがわざわざこの店まで来てくれるか……?」

 3人とも、家は『エンペラー』から離れているし、3人が好んで出入りするカードショップ『ストレングス』も然りである。

 スマホを取り出したままムドウが悩んでいると、ファイトスペースに新たな客が入ってきた。

 何とはなしにオウガはその客に目をやり、驚愕のあまり、ぽかんと口を開けたまま固まった。

(でけえ……)

 アメフト部で大男は見慣れていたオウガすら唸らせるほど、その男は巨大だった。

 一瞬、セイジとも見紛えたが、それよりはほんの少し背が低い。ただし、横幅はそれ以上だった。それも脂肪ではなく引き締まった筋肉のためそうなっている。はちきれんばかりのワイシャツから覗く大胸筋は、山籠りから帰ってきたばかりの格闘家を連想させた。

 というかこの真冬に、何故ワイシャツ1枚なのだ、この男は。

「お! お前は……」

 大男が声をあげる。

 無遠慮に観察していたことがばれたと思い、オウガが首をすくめ、慌てて謝罪しようとした。

「お前! どこかで会ったことなかったか?」

 が、大男の興味はオウガではなく、ムドウにあったようだ。大きな歩幅で詰め寄って来ると、彼の肩を無遠慮にバシバシ叩きながら尋ねてきた。

 ムドウもヴァンガードファイターの中では背が高い方だが、それでも大男に叩かれるたび、衝撃でグラグラ揺れており、滅多なことでは形を変えない鉄面皮を痛そうにしかめていた。

「俺はお前を知っているぞ。近藤(こんどう)ライガ」

 ムドウが口を開くと、ライガと呼ばれた大男の手がピタリと止まる。

「俺は聖ローゼの卒業生、御厨(みくりや)ムドウだ。直接対戦したことはないが、ヴァンガード甲子園や、高校選手権で何度かすれ違ったことはある」

「近藤、ライガさん? 有名な人なんすか?」

 オウガが口を挟んだ。

「むしろ、お前の関係者だ。こいつは響星(きょうせい)学園カードファイト部の卒業生だぞ」

「えっ!?」

 オウガが慌ててライガに視線を向け、彼もようやくムドウの連れに気付いたようだった。

「ほう! ということは、こいつが響星カードファイト部の新入生……ミオちゃんの後輩ってわけだな!」

「ミオ先輩をご存知なんすか?」

「ああ! 前年度には、何度かファイトしたぞ! 今年度は俺が忙しくてショップに寄れていなかったからご無沙汰だけどな!」

 どうでもいいがこの男、体だけでなく、声も大きい。

「4年前の話になるか。ヴァンガード甲子園の1回戦で(セント)ローゼと響星がぶつかったことがある」

 そして、ムドウがやおら解説を始めた。

「当時1年だった白河(しらかわ)ミユキが、同じく1年だった早乙女(さおとめ)マリアを退け、当時2年だった近藤ライガは、聖ローゼのナンバー2だった3年生を破った。

 響星の大金星にして、聖ローゼの悲劇とよばれた事件。その一端を担った男だ」

「すげえ!」

「だが、この近藤ライガは2回戦で当たった無名高校の1年にあっさり負けた!」

「……ええー」

「続く12月の高校選手権でも、今ではプロとして活躍している優勝候補の一角を破りながらも、次の試合でやはり負けた!

 それ以来、こいつは一部のファイターからはこう呼ばれ恐れられている。“むら気の雷神”と」

「まさかその変な異名を言いふらしてるの、ムドウ師匠じゃないっすよね!?」

「それはともかく、いいところで会った。お前の卒業試験に、これほど相応しい相手もあるまい?」

 指摘をさらりと流したムドウが僅かに口の端を上げ、オウガの表情がサッと引き締まる。

「お、何の話だー?」

「近藤ライガ。響星学園カードファイト部のOBとして、響星学園カードファイト部の1年生にして俺の弟子、鬼塚(おにづか)オウガとファイトしてみないか?」

「おう! よくわからんが、売られたファイトは買う主義でな!」

 そう言うと、ライガはムドウの譲った席にどっかりと腰かけた。店の備品である椅子が、危うい悲鳴をあげて軋む。

「いいか? ちゃんとやれよ? くだらん引きはやめろよ? ライド事故とかするなよ?」

「そればっかりはカードをめくってみなければわからんなあ!」

 ムドウの心配をライガは豪快に笑い飛ばす。

「だが……全力でファイトすることだけは約束しよう!」

 そして、真剣な笑顔でオウガと向かい合った。

「上等っす!」

 オウガもそれに威勢よく応えた。

「いい返事だ! では、はじめるか! いくぞ! スタンドアップ!!」

「ヴァンガード!!」

「《バリット・ドラコキッド》!」

「《メカ・トレーナー》!」

 

 

「ミオさん! カードファイト部でチョコレートを作りませんか?」

 同じ頃、サキがよく利用しているという小綺麗な雰囲気のカードショップ『ムーン』にて。

 彼女とファイトするため向かい合う席についたミオに、サキは藪から棒にそんな話を切り出した。

 まるで一世一代の告白でも行われたかのように、客もまばらな早朝のファイトスペースがしんと静まり返る。

 拳の中にじわりと汗が滲む音を聞きながら、サキは辛抱強くミオの返事を待っていた。

 チョコレートを作ろうかという話をしているというのに、緊張感は早くも渡す時のそれだった。

「……どうしてですか?」

 さんざん待たせた割には、何の変哲もない疑問とともに、ミオはこてんと小首を傾げた。

「やっぱり説明が必要ですか」

 予想通りだが信じられないと言いたげな、複雑な面持ちで嘆息し、サキは続ける。

「あと一週間でバレンタインデーですよ」

 それを聞いたミオが目をぱちくりさせるのを見て、まさかバレンタインすら知らないのかと本気で疑いかけたサキだったが、今度のミオの返答は早かった。

「その必要性は?」

 意味は理解できなかったが。

「え?」

 と思わず聞き返す。

「さすがの私も、女が男とチョコレートを舐め合うバレンタインと呼ばれる儀式が、この国で行われている事は知っています。ですが、それをわざわざカードファイト部で行う必要性はあるのですか?」

 真顔で尋ね返され、サキも思わず言葉に窮した。本人にそのつもりは無いのだろうが、興味の無い事柄に対してのミオは冷淡すぎて恐怖すら感じる。

 だが、こんなところでくじけてはならないと、サキは再度口を開いた。

「ミオさんは……オウガさんのこと、好きではないんですか?」

 言ってから、少し恨みがましい口調になってしまったと後悔する。

「大好きですよ?」

 ミオは何の躊躇も無く答えた。

「そのっ、恋愛感情とかじゃなく、後輩とか、友達とか、そういう意味で!」

「そのつもりで言いましたが?」

 急に顔を真っ赤にして、わたわたしながら言い直すサキに、ミオはあくまで平静だった。

「こほん」

 わざとらしい咳払いをして気を落ち着かせたサキは、改めてミオの瞳をまっすぐ見据えて言う。

「では、その気持ちをたまには形にして伝えてみませんか? 確かにバレンタインデーは、お菓子会社がでっちあげたイベントで、ミオさんのような現実的で賢い人からすれば、それに踊らされている人は愚かで滑稽に映るのかも知れません」

「そこまでは言ってませんが」

「ですけど! 何事もきっかけです。いつもお世話になっている人に、これからもよろしくねという他愛のない感情を、甘いチョコレートに託して送る。それだけの事がいけない事ですか? 私は素敵な事だと思います」

「ふむ」

 顎に手を当てるミオの瞳に、小さな興味の火が灯った。

「確かに。オウガさんにプレゼントを贈るのはやぶさかではありませんが、何でもない日にそれをするのは少し不自然ですね。そこでバレンタインデーがいい口実になってくれるというわけですか」

「ええと、まあ、そういうことです」

 何故この先輩を通すと、ここまでロマンが減じてしまうのか気にはなったが、機嫌を損ねてはならないと、サキはとにかく頷いた。

「わかりました。作りましょう、チョコレート」

 ミオが頷き、サキは何も始まっていないにも関わらず、一仕事終えた心地でホッと息を吐いた。

「では、行きましょうか」

 そう言って、テーブルに置いていたデッキケースをしまい、ミオが立ちあがる。

「え、どこへですか?」

 突然の展開に、サキがぽかんと問い返す。

「チョコレートを作るのでしょう? では、それを作れる場所に移動しましょう。それとも、サキさんにはすでに用意があるのですか?」

「いえ……」

 次にその事を相談しようと考えていたのだが、ミオには既にアテがあるらしかった。

 ついさっきまでバレンタインとは無縁という態度をしていたくせに、いざ行動となると、この先輩は常に二手三手先を行く。

「幸い、調理部の方々とは交流があります。頼めば、部室の一角くらいは貸してもらえるでしょう」

「そ、そうですか。それは助かりました」

 何故カードファイト部と調理部に交流があるのかは疑問だったが、ここから先は彼女に任せようとサキは思うのであった。

 

 

「できました」

「早すぎですっ!!」

 家庭科室に到着して2時間。包装まで終えたチョコレートをテーブルに置いて勝ち誇るミオに、サキはツッコミという名の咆哮をあげた。

「こう、もっと、風情というものは無いんですか!? 一緒にきゃっきゃっしながらチョコ作りするのを楽しみにしていたのに……包丁で指を切ったりとかトラブルにも見舞われながら、下校時間になってようやく完成した不格好なチョコレートを、二人で『おいしいよ』と言いながら舐め合うんです」

「失礼な。私が、そんなそそっかしい女に見えますか?」

「見えませんけど。メッセージカードがガタリヲなのはどうかと思います」

「確かに。メッセージカードは、オウガさん宛てであることを考えたら、《メカ・トレーナー》の方がよかったかも知れませんね」

「いえ。もう、ミオさんはそれでいいと思います。

 私はまだ湯煎の段階なんですけど、やり方を教えて頂けませんか? これが結構難しくて……」

「まかせてください」

 ミオに渡すと一瞬で完成させられてしまうので、できる限り手は借りないようにしながら、サキはアドバイスに従って、ゆっくり調理を進めていく。

 ちなみにこの家庭科室だが、ミオが調理部に事情を説明すると、一角どころか、部屋を丸々明け渡してくれた。

 この時期にもなると、チョコ作りの道具や材料は一通り揃っており、それも含めてである。

 その調理部員達は、一部が管理責任者という名目で残っていた。今も部屋の隅でミオの手際を食い入るように見つめており

「あの子、何て鮮やかなテンパリングなの……?」

「音無ミオ……やはり彼女は調理部に必要な人材だったのよ」

「エプロン姿がカワイイしね」

 などと噂していた。

 余談ではあるが、バレンタイン期間は調理部は休日にも活動していることがほとんどで、なおかつ男子はたとえ部員であろうと立ち入り禁止になる。

 なら、ホワイトデーの期間には女人禁制になるかと言うとそうでもなく、女子生徒のダメ出しやら注文やらをひっきり無しに受けながらクッキーやらマカロンやらを作らされるようだ。

 とは言え、女子部員全員からチョコは貰えたも同然なので、この年頃の男子高生としては不遇とも言い切れないのだが。

 閑話休題。

「ミオさんの作ったチョコレート、ホワイトが多めでしたよね? オウガ君、ホワイトが好きなんですか?」

 溶かした白いチョコレートを型に入れながら、サキはミオに尋ねた。

「確証はありませんが、恐らくは。

 大会に遠征する時とか、部員で遠出した時、オウガさんの買ってくるおやつのチョコレートにはホワイトが多かったように思います」

「……そんなにずっとオウガ君の事を見てるんですか?」

「まさか。さすがの私も、そこまで過保護ではありません。記憶から掘り起こしてきただけですよ」

(私はずっと見てたのに……)

 チクリと胸が痛むのを感じて、サキはミオから目を逸らした。

 オウガがおやつに何を口にしていたかなど、覚えていなかった。

 ミオの超人的記憶力に嫉妬するが、それをしてどうにかなるものでもない。得られるものでもないし、ましてや勝てるわけなどないのだから。

「ふふ、オウガさんったら、ああ見えて甘党ですね」

 ボウルの底に残ったチョコを指につけて味見したミオが顔を小さくほころばせた。

 サキも真似をしてみるが、苦いものが口に広がっては溶けていくだけだった。

 

 

 暗雲立ち込めるスタジアムにて、ギャロウズボールの選手に憑依したオウガと、雷竜に憑依したライガが睨み合う。

 お互いにダメージは2点。

 先行のオウガが、更なるユニットにライドする。

「ライド! 《逸材 ライジング・ノヴァ》!! ギフトⅠ・Ⅱは両方とも右前列のリアガードサークルへ! 先輩がまだG2だからって遠慮はしませんよ!」

「おう! 来い!」

「うす! ライジング・ノヴァをコールして、さらに《アンブッシュ・デクスター》をコール!

 デクスターのスキル発動! ライジング・ノヴァをソウルインして、デッキから《デッドヒート・ブルスパイク》! 《スパイキング・サイクロン》をスペリオルコール!

 そして、ライジング・ノヴァのスキル発動! その2体のスキルを全て得るぜ!!」

 スパイクブラザーズ鉄板の布陣を組み立てたオウガが、さらに後列にもリアガードをコールして、バトルフェイズを宣言する。

「デクスターのブースト! ブルスパイクでヴァンガードにアタック! フォースの効果で合計パワーは31000! (クリティカル)2だぜ!」

「《スパークエッジ・ドラコキッド》! 《ライジング・フェニックス》でガード!」

「ライジング・ノヴァでヴァンガードにアタック! アタック時にフォースをすべてヴァンガードサークルに移動させ、フォースの数だけパワーもアップだ!

 合計パワーは33000で、さらにブルスパイクをスタンド!」

「ノーガードだ!」

「ツインドライブ!!」

 1枚目はノートリガー。2枚目は(ドロー)トリガーを引き当て、オウガがカードを1枚引く。パワーはブルスパイクに与えた。

 ライガのダメージゾーンにも3枚目、4枚目のカードが置かれるが、こちらも4枚目のダメージで引トリガー。

「やるぅ! だが、まだまだアタックは通るぜ! ブルスパイクでヴァンガードにアタック! フォースも移動!」

「《ドラゴンダンサー・カタリナ》でガード!」

「《アクロバット・ベルディ》のブースト! 《スパイキング・サイクロン》でアタック!」

 眉目秀麗の悪魔(デーモン)がトゲだらけのボールを蹴り飛ばす。それは渦巻く突風を纏いながら、ライガの憑依する《ボルテージホーン・ドラゴン》に飛来するが、小柄な飛竜が割って入り、雷の障壁でボールを弾き返した。

「バリアー!! 《ワイバーンガード・ガルド》で完全ガードだ!」

「くーっ、おしい! だが、次のターンでキメるぜ。俺はこれでターンエンドっす」

「ハハッ! いいアタックだった」

 追い詰められたライガが楽しそうに笑う。

「だが、なるかみを相手に、次も同じことができると思うなよ?」

 自信に満ちた笑みと共に言い放ち、雷を想起させる怒号と共にカードを引く。

「スタンド&ドロオオオォォォ!!

 ライドォ! 《ドラゴニック・ヴァンキッシャー》!!」

 曇天に包まれた空が割れ、霹靂に雷竜の影が浮かび上がった。

 雄々しき4枚の翼に、捻じれた蒼の双角。銀のたてがみを嵐になびかせた紅竜が雷鳴の如く吠え叫ぶ。

「ヴァンキッシャーのスキル発動! 前列の《スパイキング・サイクロン》をバインドさせるぞ!」

 ライガの宣言と共に、ヴァンキッシャーが両掌から生み出した巨大な雷球を叩きつける。その一瞬で悪魔の肉体が消し飛び、黒い灰となって虚空に散った。

「まだまだ行くぞ! 《妖剣の抹消者 チョウオウ》をコール! そのスキルで《デッドヒート・ブルスパイク》もバインド! さらに、後列の《アクロバット・ベルディ》も前列へと移動させる!」

 粗野な笑みを浮かべた剣士が、妖気を漂わせた剣をかざすと、落雷がブルスパイクを穿ち、彼もまた灰となって消えた。

「トドメだ! 《ドラゴニック・デスサイズ》をコール! 《アクロバット・ベルディ》をバインド!」

 細身の竜が、その体躯に似合わぬ大鎌を一閃し、選手がまたひとり灰と化す。

「これで俺がこのターンにバインドしたカードは3枚! ヴァンキッシャーのスキルが適用され、前列のユニットは+10000される!」

 ヴァンキッシャーが吠え、雷を伴った嵐がなるかみの戦士を鼓舞するかのように吹き荒れる。

「《ロッククライム・ドラグーン》をコール! 《ヴァイブロクラッシャー・ドラゴン》もコールして、1枚ドロー! お前のデクスターを前列へ移動させる!

 待たせたな! バトルだ!

 まずは、チョウオウでヴァンガードにアタック! チョウオウ・ソード!」

「ノーガード……トリガーは無し」

「続けて、ヴァンキッシャーでヴァンガードにアタック!」

(パワーは22000……なら!)

「《チアガール アダレード》でガードだぜ!」

『ハーイ!』

 オウガの呼び声に応えて、見目麗しい(ゴブリン基準)チアガール達が、ライジングノヴァの前で壁を作るようにして立ちはだかった。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、トリガー無し!

 くらえ! ヴァンキッシャー・ライトニング!!」

『ワーオ!』

 ヴァンキッシャーの落とした稲妻の衝撃で、壁が容易く瓦解する。それでもその甲斐あってか、ライジング・ノヴァには焦げ跡ひとつついていなかった。

「続けて、アクセルⅡサークルにいるロッククライムでヴァンガードにアタック! ロッククライム・アクセル・スラッシュ!」

「ノーガード! ダメージチェック……」

 オウガのダメージゾーンに4枚目のカードが置かれる。トリガー表示は無し。

「ロッククライムのスキル発動!

 このユニットを退却させ、1枚ドロー!

 さらにぃ! 俺の手札を1枚バインドすることで、デクスターをバインドする!」

「くそっ! これで俺のリアガードは全滅か……」

「それだけじゃないぞ! 俺が手札からバインドするのはこのカード!

 手札からバインドされた時、手札を1枚捨てることで、このユニットにライドできる!

 スペリオォルライドォッ! 《ドラゴニック・ヴァンキッシャー“FULLBRONTO(ふるぶろんと)”》!!!」

 突如、ヴァンキッシャーに一筋の稲妻が落ちた。

 たてがみと鎧を雷光の如き金色に染めて。新たなる力を手にしたヴァンキッシャーが全身から放電すると、轟音と共に空が引き裂かれた。

「おっと! ユニットがバインドされたので、こいつも忘れちゃいかんなあ! ドロップゾーンから《ライジング・フェニックス》をスペリオルコール!

 そして、ふるぶろんとのスキル発動! 前列ユニットすべてにパワー+10000!

 ふるぶろんとでヴァンガードにアタック!!

 くらえい! ヴァンキッシャー・スパーク!!」

雷光(ライトニング)から火花(スパーク)だと、弱くなっていないか?」

 どうでもいいことを横からツッコんだのはムドウだ。

「《ソニック・ブレイカー》、《陽気なリンクス》でガード!」

「ドラーイブチェーック!

 ……(フロント)トリガーッ!! 前列のユニットすべてにパワー+10000だ!」

「げっ!?」

「そしてヴァンガードのアタック終了時、チョウオウはスタンドする!

 さあ、俺のアタックはまだまだ続くぞ?」

 雷竜達を従えたヴァンキッシャー(ライガ)がニヤリと口角を釣り上げた。

 

 

「で、できました……」

「はい、上手くできましたね」

 下校時間ギリギリに、ようやく固まったチョコレートを前にし、サキは感動に打ち震え、ミオは小さな拍手で祝福してくれた。

「あ、ミオさん……ありがとうございました」

「? どういたしまして」

 大げさなくらい深々と頭を下げるサキに、ミオは疑問を抱いたようだったが、これは謝罪の意味も含まれていた。

(何であれ、こんな優しい先輩に嫉妬なんかしてたらダメだよね……)

 はじめは乗り気でなかったチョコ作りに付き合ってくれて、自分のチョコが完成した後も、丁寧に作り方を教えてくれた。今も下校時間まで嫌な顔ひとつせず残ってくれている。

 チョコレートと一緒に頭も冷えたかのようだった。

 妬心の炎は消え、今は黒々とした罪悪感が心の中でザラついている。

「さあ。手早く包装してしまいましょう」

 ミオに促されるまま、サキは出来上がったチョコレートを箱に入れ、その箱をさらに包装紙とリボンで包んでいく。

 後は名刺サイズのカードに、メッセージを書き込んで完成なのだが……

「…………」

 サキは手にしていたペンを置き、自分の鞄からデッキケースを取り出すと、その中から1枚のカードを抜き出して手に取った。

《ドラゴンエッグ》

 勇ましいディノドラゴンになる事を夢見る雛竜。まるで自分の分身。

 サキはデッキに入っていたそれを、躊躇無くリボンと包装紙の間に挟み込んだ。

「む。人の事は批判したくせに、マネするんですね」

 それを目敏く見つけたミオが言ってくる。サキはそれには答えず、不敵に笑って言い返した。

「ミオさん。私、負けませんから」

「むむ。勝負ですか? そうですね。オウガさんに、どっちがおいしかったか、渡した次の日に聞いてみましょうか」

 やはり見当違いの答えが返ってきて。

 サキはおかしくなって、口元に手を当てて笑った。

「『どっちもおいしかった』としか答えませんよ。オウガ君、優しいから」

「そうですね。あの人は、そういう人です」

 2人でひとしきり笑い合って、目と目を合わせて、また笑った。

 夕暮れを背にしたサキの影だけが、泣いているように肩を震わせていた。

 

 

「デスサイズでヴァンガードにアタック! デスサイズ・右ストレート!」

「ノーガード! ……★トリガー! 効果はすべてヴァンガードに!」

 大鎌を投げ捨てた雷竜の拳が、ライジング・ノヴァの顔面に突き刺さる。

「フェニックスでヴァンガードにアタック! ライジング・アクセル・くちばし!」

「《サイレンス・ジョーカー》でガード!」

 不死鳥の執拗なつっつきが、今度は別の選手のこめかみを抉る。

「ヴァイブロクラッシャーのブースト! チョウオウでヴァンガードにアタック! チョウオウ・ジャイアントスイングゥ!!」

「ちくしょう! 《アンブッシュ・デクスター》! 《ガンバースト・ラインバッカー》でガードだ!」

 妖剣を放りだしたチョウオウがデクスターの両脚を掴んでブン回し、最後はラインバッカーに投げつける。

(くそー。デクスターをガードに使わされちまった。あいつさえいれば、盤面を構築し直せたのに……)

 そして手札はデクスターのコストにするはずだったライジング・ノヴァのみ。

「エンドフェイズ、俺のふるぶろんとはヴァンキッシャーに戻る。

 ふっふっふ。俺はこれでターンエンドだ」

 腕組みして勝ち誇ったように宣言するライガの手札は6枚。ダメージ4にしては心許ない枚数ではあるが、それはスパイク側が万全であったならの話だ。ライジング・ノヴァ単体で突破できるほど少なくもない。

(師匠が認めるだけあって、すげー強ぇ。言ってることはバカらしいのに、マジでチョウオウがジャイアントスイング仕掛けてくるところをイメージできちまう)

 追い詰められている。

 にも関わらず、オウガの顔には自然と笑みが浮かぶ。

「だが! そういう相手だからこそ面白ぇ! あんたを喰らって、俺はさらに強くなるぜ!」

「おう! よくわからんが、来い!」

「スタンド&ドロー!! ……!?」

 引いたカードを見て、オウガの脳裏にふたつのアイデアが浮かぶ。

 ひとつは既に手札にあるライジング・ノヴァにライドして、ヴァンガードにフォースを与え、もう1枚もフォースサークルにコールしての2回アタック。

 もうひとつは……。

「ライドフェイズをスキップ。

 手札から『パワーバック・レナルド』をコール! 手札のライジング・ノヴァをソウルに置いて、デッキの上から3枚をスペリオルコールだ!」

「確実にフォースを得られるライジング・ノヴァへのライドより、未知の3枚を選んだというわけか! おもしろい!」

 その言葉通り、ライガが楽しそうに笑う。

(これでG3を引けなきゃ、確実にパワー不足だ。頼むぜ、レナルド……!!)

 オウガが山札の上から3枚をめくり、恐る恐る目を通す。

「……きたぜ! 《ソニック・ブレイカー》! 《チアガール ティアラ》! そして、《将軍 ザイフリート》をスペリオルコールだ!!」

「むっ! ザイフリートだと!?」

 ライガの笑みがわずかだが引きつった。

「ライジング・ノヴァのスキル発動! ザイフリートのスキルを得るぜ!!」

 ライジングノヴァとザイフリートが拳と拳をぶつけ合う。

 その衝撃だけでスタジアムが揺れ、芝のフィールドが割れる。

「ライジング・ノヴァが新たに得たスキルを発動! ザイフリートをソウルに置いて、新たなザイフリートをスペリオルコール! ライジング・ノヴァとザイフリートのパワー+10000!

 このスキルに回数制限は無え! ティアラも対象に同様のスキルを発動!」

「デッキから治トリガーを減らすのか!?」

「★トリガーを引く確率は上がるっしょ?」

 オウガが勝負師のような笑みを浮かべてライガを見据えた。

「不退転というわけか! お前は本当におもしろいやつだなあ! こんなにみなぎってきたファイトはひさしぶりだ!

 さあ来いっ!!」

「うっすっ! まずはレナルドでチョウオウにアタック!」

「ノーガード! チョウオウは退却!」

「ティアラのブースト! ザイフリートでヴァンガードにアタック!」

「《ドラゴンダンサー カタリナ》、《チェインボルト・ドラグーン》でガード! デスサイズでインターセプト!」

「ソニック・ブレイカーのブースト! ライジング・ノヴァでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガードッ!!」

 ライガが胸を張り、堂々と宣言する。

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……★トリガーッ!!

 パワーはザイフリート! ★はライジング・ノヴァに!

 ライジング・ノヴァ・スープレックス!!」

「おい。お前までこいつのマネをするな」

 ムドウが半眼になって告げる。

 ダメージ4点のライガは、絶体絶命の状況にも関わらず、ニッと微笑み、デッキに手をかけた。

「ダメージチェック!!

 1枚目……(ヒール)トリガー!! ……だが、回復はできないな。

 2枚目……」

 ライジング・ノヴァがヴァンキッシャーの胴体に掴みかかると、美しく弧を描くバックドロップで、その脳天をフィールドに叩きつけた。

「きゅう」と見た目の割に可愛らしい声をあげてヴァンキッシャー(に憑依したライガ)が昏倒し、ライジング・ノヴァが高々と拳を掲げる。

 ギャロウズボールのスタジアムに紙吹雪が舞い、何故か高らかにゴングが鳴り響いた。

「がっはっは! 俺の完敗だ!!」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いたライガが豪快に笑う。

「ふん。ヒヤヒヤさせる場面もあったが、合格としておくか」 

 ムドウがいつもと同じ調子の仏頂面で肩をすくめた。

「あ~~~~っ! 強っえー!! そんでもってすっげー楽しかった!!」

「おう! 楽しんでもらえたのなら何よりだ!」

 忌憚のないオウガの感想に、ライガも豪快に笑って応える。

 よいファイトができれば勝っても負けてもヴァンガードは楽しいものだが、ここまで勝ち負けに頓着しないファイターも、オウガの周囲では珍しかった。

 根っからの趣味人で、競技者には向いていないのだろう。十分な実力を持ちあわせているにも関わらず、大会で中途半端な結果しか残せなかったのもそのためか。

「ライガ先輩! もう一回ファイトしませんか!?」

「おう! 受けて立つぞ!」

 ファイトの興奮が収まらず、すぐさま再戦を申し込むオウガに、ライガも快く応じた。

 ――そして

「ふるぶろんとでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガード……くっそー、トリガー無しだ!」

「はっはー! 今度は俺の勝ちだな!」

 ふたりが楽しそうにファイトをしているものだから、周囲のファイターも集まってくる。

「な、なあ! あんた、今度は俺とファイトしてくれないか!?」

「次は俺と頼む!」

「その次は俺とだ!」

 次々と挑まれるファイトに、オウガもはじめは困惑していたものの。

「おう! 全員まとめて相手してやるからかかってきやがれ!!」

 その申し出を、オウガは全て断ることなく受けることを約束した。

「じゃあ、待っているやつらは俺とファイトだな!」

 そこにライガも参加し、和気あいあいとした乱戦が始まった。

 その喧騒に紛れるようにして、ムドウが静かに席を立つ。

「あ、ムドウ師匠?」

 それに気付いたオウガが声をかける。

「こういう雰囲気は好かん」

「師匠……」

「もう俺が教えられることはないと言ったはずだ。あとはお前のやり方で強くなってみせろ」

「……うす! 今までありがとうございました!」

 ファイト中にも関わらず、オウガは席を立ち、去りゆくムドウの背に深々と頭を下げた。

 一瞬、ムドウが振り返り――その表情には笑みが浮かんでいるようにも見えたが。

 それは恐らく気のせいだろう。

 

 

 ――それから一週間後。

「オ、オウガ君……」

 毎日会話を交わしている男友達に、この日に限っては声をかける事すら緊張した。心臓が激しく鼓動し、肋骨に痛みすら覚える。たっぷり湿らしたはずの唇はカラカラに乾き、言葉も上手く紡げない。

「ん?」

 熱心にデッキを調整していたオウガが、強面に似合わぬ優しい笑みを浮かべて顔をあげる。声をかけたサキとばっちり目が合った。

 この日は何故か響星カードファイト部に緊急招集がかけられ、休日にも関わらず部員が部室に集められていた。と言っても、その理由を知らないのはオウガだけだったが。

「あ、邪魔してごめんね。えと……今日って何の日だか分かるかな?」

「ああ、ふんどしの日だろ?」

「何よそれ!?」

「なんでも日本ふんどし協会が制定してるらしいぜ」

「え? その豆知識って、バレンタインデーよりオウガ君の中で上位なわけ?」

「ああ、そっちかー。ん? バレンタインってもしかして……」

「そのもしかしてだよ!」

 いつに無く声を荒げながら、サキが両手で抱えていたチョコレートを突き出した。

 いつの間にか緊張は何処かへと消え去っていた。それがふんどしのおかげかと思うと複雑だが。

「マジで!? いやー、嬉しいなー! チョコなんて中一の時に、アメフト部のマネージャーに貰って以来だぜ。それも五円のやつ」

「こ、これは、ちゃんと手作りだから……」

「マジで!?」

「ボキャブラリー少ないね」

「いや、でも、マジ嬉しいわ。ありがとな、サキ」

「う、うん。お口に合えばいいんだけど……」

「ふっふっふっ……」

 不気味に笑いながら、いい雰囲気に割り込んできたのは、その様子をじっと眺めていたミオである。本人におじゃま虫の自覚は無いだろうが、タイミングが悪すぎる。

 なお、セリフこそ笑っているが、表情はいつものぼんやりとした無表情のままである。

「実は私からもチョコレートがあります」

「なっ!?」

 ミオがチョコレートを差し出すと、オウガは反射的に跳び退いた。

 廊下でゴキブリと鉢合わせたような反応を見せたオウガに、ミオの冷酷にして冷徹な視線が突き刺さる。視線だけで人をデリートしてしまえそうな禍々しさだ。

「どんな反応をしても、私なら傷つかないと思ったら大間違いですよ」

「すんませんした。本当にすんませんした。けど、先輩がそんな甘いイベントに興味を持つなんて思わないじゃないすか。何らかの陰謀を警戒して然るべき……いや、本当にすいませんでした」

 平謝りしながらも言い訳するオウガに、さらに冷厳な視線を浴びせると、彼はただ謝るだけの存在になった。

「ですが、バレンタインに興味など無かったのは事実です。そういう意味では、オウガさんは私を理解してくれていると好意的に解釈して赦しましょう」

「聖者っすね」

「いいえ、根絶者です」

 本人同士でしか通じ合わない珍妙なやり取りの後、ミオからオウガにチョコレートが手渡される。

「オウガさん。あなたがカードファイト部に入部してくれて、私はものすごく感謝しているんですよ」

 嘘偽りもごまかしも無い、率直な想いと共に。

「ユキさんがいなくなって、アリサさんも9月に引退して、また退屈な日々に戻るのではないかと……少し不安だったんです。

 ですが、そんな事はありませんでした。オウガさんと出会ってもう少しで1年になりますが、この1年、本当に楽しかったです。退屈なんて何一つ無い毎日でした。これからもよろしくお願いします」

 照れているのか、オウガはばつの悪そうに頭をかいた。

「サキさん。もちろん、あなたにも」

 ミオは鞄からもう一つチョコレートを取り出すと、サキに差し出した。

「えっ? 私にも、ですか? いつの間にこんなものまで……」

 サキがおずおずとチョコレートを受け取る。メッセージカードがガヰアンなのは激しくツッコミを入れたかったが、どうにか堪えた。

「私の手際を見ていたでしょう? あなたに作り方を教えつつ、密かにもうひとつチョコレートを作るなんて造作も無いことです。この世界には、友チョコとか言う儀式もあるようですし、ね」

 そう言って、ミオが下手糞なウインクをした。

「ありがとう、ございます……」

 やっぱりこの人には敵わないな。

 そう思わせるには十分すぎる不意打ちに、とんでもない相手に宣戦布告してしまったことを、サキは改めて自覚するのであった。

 

 

 その日の夜。

 勉強机の真ん中に置いたデッキを前にして、椅子に腰かけていたオウガが、意を決した表情でスマホを手に取り、電話をかける。

 程無くして、その相手は電話に出た。

「……よう。

 ああ、そうだ。待たせたな……そろそろ決着をつけようぜ」

 来月は、季節外れの嵐になりそうな予感がした。




根絶少女バレンタイン回をお送りさせて頂きました。
えくすとら等との兼ね合いで投稿が遅れるというのもウソで、本当は14日に投稿したかっただけでした。
作品のためとは言え、楽しみにされていた方には、ウソついてごめんなさい。

作中では、なるかみ使い「近藤ライガ」が久しぶりに登場です。
ほとんど第2話に登場したきりのキャラクターなので、忘れられている方も多そうですが。

第2話で主人公とファイトする相手は、初期案ではモブのつもりだったのですが、ちょうどいいからここでなるかみを出そうと急きょ変更し、即興で生まれたキャラクターが、この近藤ライガでした。
名前もインスピレーションだけで決めたので、オウガと若干被ってしまったりもしています。
そんな経緯もあり、今まで出しあぐねていたのですが、今回ようやく正式に再登場させることができ、キャラクターを掘り下げることもできました。
よりにもよって対戦相手がオウガなのは、なんの因果か。
けど、チョコ作ってるより、この人の方が書いていて楽しかったです。

次回はクラセレ2のえくすとらを、発売日の19日前後にはお届けできる予定です。

そして! いよいよ2年生編ラストとなる3月の本編は、こちらもホワイトデーとなる14日に公開予定です。

お楽しみにお待ちして頂ければ幸いです。


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3月「夢は叶う。ほら、魚だって泳げるのだ」

 それは地球とは異なる理を持つ惑星クレイにおいてなお異常な光景であった。

 幾隻もの帆船が艦隊とも呼べる群れを成して宙に浮かび、なおかつそれらのどれもが帆が破れていたり、底が抜けていたりして、宙どころか海に浮かぶかも怪しいほどボロボロで、まさしく幽霊船団と呼ぶに相応しい様相であった。

 それらが今、紫色の霧の上を滑るように航海し、スパイクブラザーズのホームスタジアム上空に停泊していた。

 選手も観客も皆、唖然と船底で覆われた空を見上げる中、白髪のオーガが他の選手からトゲだらけのボールを無造作に取り上げると、艦隊の中でも一際巨大な帆船の横腹にそれを蹴り込んだ。

 帆船からしてみれば豆粒ほどでしかない大きさのボールだが、それは船の側面にめり込み、その巨体を大きく傾がせた。

「聞きしに勝る野蛮さだな、ライジング・ノヴァ!」

 その船の舳先から、頭の欠けた女神像を足蹴にするように。夜色のコートを羽織った長髪の男が、大振りのカットラスを肩に担いで顔を覗かせた。今もなお激しく揺れる船の上で、その男は不安定な体勢のままいささかも揺らいでいない。一見すると長身痩躯の優男だが、見た目通りの体幹では無いようだ。

「ハッ! 海賊に野蛮とか言われたくねぇな! グランブルーの海賊団長、ナイトミストさんよ!」

 ライジング・ノヴァと呼ばれた白髪のオーガが怒気を込めて叫ぶ。

「こんな陸のど真ん中になんの用だ? そのボールならくれてやるから、とっとと帰んな!」

 余談だが、スパイクブラザーズでも屈指の人気選手であるライジング・ノヴァのウイニングボールともなれば、ダイヤに匹敵する額がつけられることもある。

「そうはいかないな。俺達の目的は、今日の試合で勝利したチームに渡されるというトロフィーだ! 何でも純金製で宝石が散りばめられた芸術品だという話じゃあないか!」

 ナイトミストと呼ばれた海賊が大仰に両腕を広げながら言った。

「たかだかいちスポーツの景品を欲しがるたぁ、海賊の頭領も落ちぶれたものだな!」

「価値や出自は関係無いな。俺達は欲しい時に欲しいものを奪う!」

「あれは俺達の誇りだ。やるわけにはいかねえな」

「それだ! その誇りこそ、俺は欲しい!」

 ナイトミストはカットラスを突き出すと、それを合図に亡者の船員達が船から飛び降り、次々とスタジアムへ乗り込んでいく。中には着地の衝撃で潰れるゾンビや、バラバラになるスケルトンもいたが。

「いや、あのトロフィーはまだスパイクブラザーズ(おまえたち)のものと決まったわけじゃ……」

 スパイクブラザーズと対戦していたチームの主将が背後から主張してきたのを裏拳の一撃で黙らせ、ライジング・ノヴァはチームメイトに発破をかける。

「野郎ども、迎え討て! ポップコーンのひとかけらも渡すんじゃねえぞ!」

 かくして、スタジアムのいたるところで大乱闘が勃発した。

 巨体のディフェンシブタックルが数体のゾンビをまとめて押し潰し、真紅の髪も鮮やかなチアガールが長い脚を振り上げてスケルトンの頭を彼方へ蹴り飛ばす。

 観客もナイフや火炎瓶を投げては選手達を援護していた。何故、観客席にそんな物騒なものがあるのかは不明だが。

 個々の戦闘能力だけ見れば、スパイクブラザーズの選手が圧倒している。だが、グランブルーの水兵は単純に数が多く、倒したとしてもすぐにケタケタと笑いながら蘇るのだ。

(こうなると長期戦は不利だな)

 フィールドにいながら腕組みをして全体を俯瞰していたライジング・ノヴァは、ひとつ跳躍すると、遥か上空にあるナイトミストの船に容易く飛び乗った。

 群がってきたスケルトンの剣士達を、腕の一振りで蹴散らすと、ライジング・ノヴァは拳をゴキゴキと鳴らして、ナイトミストと対峙する。

「要は主将(キャプテン)をブッ潰せば、それで終わりだろ?」

「フッ。お前にそれができるかな?」

 ナイトミストが一足飛びで間合いを詰めて斬りかかり、ライジング・ノヴァが迎え撃つように拳を突き上げる。

 互いの武器がぶつかり合い、鈍い音を響かせたかと思うと、両者は同時に飛び退いた。

 これまで余裕の笑みを浮かべていたナイトミストの目がスッと冷酷に細まり、不敵な笑みを浮かべていたライジング・ノヴァの瞳が真剣に敵を見据える。

 交錯した瞬間に、ふたりは理解した。

 本気で闘らなければ、殺られるのは自分だと。

「ナイトミストオオォォ!!」

「ライジング・ノヴァッ!!」

 もはや余計な言葉も無く、互いに倒すべき敵の名を叫びながら、ふたりは拳と刃を突き出した。

 

 

「アラシイイイィィィッ!!」

「オウガアアアァァァッ!!」

 そして、ふたりの少年も、同じようにして互いの名を叫びあっていた。

 額と額がぶつかりそうになるくらいに顔を突き合わせ、鬼のような形相で正面のライバルを睨みつけている。

 

 力のみを信念(ルール)とする最凶チーム、スパイクブラザーズ。

 

 魔海を彷徨う生命(いのち)の略奪者、グランブルー。

 

 誇りを賭けた両雄の激突は、間もなく決着の時を迎える――

 

 

 今年もだいぶ暖かくなってきたものの、高いところに登るとまだまだ肌寒い。

 今日は風も強く、響星学園の屋上は凍てつくような冬を否応なしにも思い起こさせた。

「ふむ。こんなところに呼びだして、何の御用でしょうか?」

 柵の隙間から何とはなしに豆粒のような学生達を見下ろしながら、音無(おとなし)ミオが呼びだした張本人に問うた。

「まあ、たぶん先輩は忘れていると思ったのでまず補足しておきますと、今日はホワイトデーっす」

 その張本人、鬼塚(おにづか)オウガが少し顔を赤らめながら言う。

「……ほわいとでー?」

 振り返ったミオの首がジャスト45度にこてんと傾げられた。

「あ、忘れてる以前に知りませんでしたか。その、バレンタインデーのお返しをするイベントっすよ」

 さらに補足するオウガの表情は信じられないという感情がありありと浮かんでおり、それはちょうど一月前にバレンタインデーの話を持ちかけたサキの表情と瓜二つだった。

「ああ。そんな儀式の話も聞いたことがあるような気もしますね。……ということは、オウガさんが私にお返しをしてくれるということでしょうか。ついにヲクシズをVスタンダードに登場させていただけますか?」

「いや、神じゃないのでそこまでは無理っすけど」

 お返しのハードルが3倍返しどころじゃないレベルで高い。

 まあ、家に帰ったらその神に投書くらいはしておいてあげようと思った。

「お返しはマシュマロやクッキーが一般的らしかったので、それらの詰め合わせっす」

 オウガが片手でぶらさげていた巨大なビニール袋を照れ隠しか無造作に差し出す。

「手作りのお返しが市販品で申し訳無いっすけど、俺が作ってもロクなものになりそうになかったし、先輩は質より量だと思ったので」

「なるほど。懸命な判断です。むしろ、私達のチョコレートは原価がタダ同然だったので、なんだか申し訳無く思えてきますね」

「そこらへんは適当でいいんじゃないんすかね」

 差し出されたずっしりと重たいビニール袋をミオは両手で受け取った。

 腕力の差をまったく考慮に入れていない点は、気は優しいが気の利かないオウガらしいミスと言えた。

「あと、もうひとつ、大切なお話が……」

 オウガにしては歯切れの悪い切りだし方で、その後もなかなか言葉が続かない。

「なんでしょう?」

 不自然に感じながら、ミオはオウガの目をまっすぐ見据えてその続きを促した。

 意を決したようにオウガはひとつ深呼吸すると、ミオを見つめ返して告げた。

 

「今学期いっぱいで、カードファイト部を辞めさせて頂きたいと思ってます」

 

「…………え?」

 めったなことでは動じないミオの手から力が抜け、ビニール袋がするりと地面に滑り落ち、中身をこぼした。

「理由をお聞きしても、よろしいでしょうか?」

 状況の半分も呑み込めていない混乱の渦中にありながらも、さすがと言うべきか彼女はいつも以上に事務的な口調で尋ね返した。

「はい。俺は中学生までずっとアメフトをしてきました。物心ついた頃からアメフトは俺の傍にあって。いつ頃そうなったのか分からないくらい当たり前に、アメフト選手になることが俺の夢だったんです。

 だから、その夢を断たれた時は本気でグレちまって……そこを先輩に救われたことは知っての通りですが」

「はい」

 面倒事に首を突っ込んでしまったミオを颯爽と助け出してくれた路地裏での出会い。

 ケガの話を聞いて、その傷ついた心を救ってあげたいと思い、ヴァンガードに誘ったこと。

 微妙に噛み合わないルール説明を経て入部に至り、それからは教導すべき後輩として。最近は共に切磋琢磨する友人として、この1年を共に過ごしてきた。

 それらのすべてが今も鮮明に思いだせる。

「けど、ヴァンガードを通してスパイクブラザーズというひとつのチームを指揮しているうちに、ふと思ったんす。

 アメフトに携わっているのは、何もフィールドで活躍している選手だけじゃない。その活躍を裏で支えるトレーナーやコーチもいるんだって。そういったものになら、今の俺でもなれるんじゃないかって。

 そのことをアメフト部の顧問に相談したら、できる限りの協力はすると約束して頂きました。

 だから……2年生からはトレーナー見習いとしてアメフト部に復帰したいと思います」

「では、ヴァンガードは……」

「あ、ヴァンガードを辞めるつもりはないっすよ。アメフトは俺の夢っすけど、ヴァンガードも今や大切な趣味ですから。大きな大会に出場するのは難しくなるかも知れませんけど、ショップ大会とかにはたまに顔を出そうと思います」

「……なるほど」

 俯きがちに話を聞いていたミオだったが、話を咀嚼し終えるとパッと顔をあげた。

「そういうことでしたら、私が止める権利はありませんし、むしろ喜ばしいことです。どうぞ気兼ねなく新天地へと――この場合は古巣と言った方がいいのでしょうか――旅立ってください」

「……うす。ありがとうございます」

「それにしても、誇るべきはやはりヴァンガードですね。遊んでいて楽しいだけに留まらず、道に迷っていた少年の心まで導いてしまうとは。もはやこのカードゲームそのものが先導者と言えるでしょう。いや、めでたいです。実にめでたい」

 いつになく饒舌になって喋り続けていたかと思うと。

「けど、何故でしょう。めでたいはずなのに、心からオウガさんを祝福してあげたいはずなのに。心の中では何としてでもあなたを引き留めたいという、醜くて自分勝手な気持ちが渦巻いています」

 癖ひとつない白い髪を片手でくしゃくしゃにして、ミオは頭を抱えた。

「この感情は、私には、難しすぎます……」

「先輩……」

 かける言葉が見つからず、慰めようにも触れることは憚られ、オウガはただただ途方に暮れて虚空に手を伸ばした。

「誤解しないでください。オウガさんが新たな夢を見つけたことは、本当に嬉しく思っているんです。その証拠に、誰よりも笑うことが苦手なこの音無ミオが、最高の笑顔であなたを送り出そうと思います」

 そう言うと、小さくひとつ深呼吸をし、これまで誰にも見せたことのないような表情をオウガに向けた。

「……どうですか? うまく、笑えてますか?」

「……はい。とても綺麗っす」

 それからどちらともなくふたりは距離を詰め寄ると、互いの体を強く抱きしめ合った。

 ミオは分厚い胸板に顔を埋めるようにして腰に手を回し。オウガはいい香りのする髪に頬を寄せながら肩を掴み。互いが互いを離したくない、離れたくないとばかりに、腕に力を込めた。

「どうかお元気で。あなたの夢が叶うことを祈っています」

「先輩も。今年はヴァンガード甲子園で優勝できると信じてます」

 とめどなく零れ落ちる雫が互いを濡らしていく。

 いつまでそうしていただろうか。

 やがて、とんと優しく胸を押してオウガから離れたミオが、ついさっきまで号泣していたとは思えないけろりとした表情で口を開いた。

「けど、オウガさんにはまだやり残していることがありますよね」

「ええ。もちろん忘れてなんかいませんよ。来週、天海島に乗り込んで、アラシの野郎と決着をつけてきます。勝っても負けても、それで俺のヴァンガードは一区切りっす」

 それを聞いて、ミオは安心したように小さく頷くと。

「楽しんできてください」

 と、いつもの調子で優しく微笑んだ。

「うす!」

 その言葉だけで、どんな困難にも打ち勝てる気がした。

 

 

 噂には聞いていたが、天海島は本当に何も無い島だ。

 船を降りたところで待っていた(あおい)アラシに「よう」と一言だけ出迎えられて、彼の後をついていきながらオウガが思ったことがそれだった。

 年季の入った民家がまばらに建っている他、八百屋と大差無いスーパーを一件見かけただけで、オウガが昔の仲間やクラスメイトと一緒に行くようなカラオケやスポーツ施設などは、どこにも見当たらない(島そのものが狭いうえに、障害物も少ないため、容易に全体を見渡せてしまうのがまた悲しかった)。

 どうやらコンビニすら無いようで、オウガがここに暮らし始めたら3日で発狂しそうな島であった。

「ひでえところだろ?」

 オウガの内心を見透かしたように、アラシが自虐的に笑った。

 そんな中、ある建物だけは少々異端であった。

 それは島の中では比較的新しい建造物で、何かの小売店のようだ。

 壁にはカラフルなポスターがところ狭しと貼られており、やや混沌が感じられたが、それらはすべてカードゲームのポスターで、そこは間違いなくカードショップだった。この島で初めて見つけた娯楽である。

「ここが島唯一のカードショップ、『アルカナ』だ」

 立ち止まったアラシが店を顎で指し示すと、ガラスの扉を重たそうに押し開き入っていった。オウガもそれに続く。

 店内は意外にも……と言っては失礼だが、普通のカードショップだった。見る限り、品揃えもよさそうだが、どれも値段は相場より高かった。競争相手がいないので、多少高くても買ってもらえるのだろう。その買ってくれる人が、この島にどれだけいるのかは疑問だったが。

「ここの店長は変わり者でね。わざわざこの島くんだりまで来て、採算度外視でカードショップを開いたんだぜ」

 またもやオウガ内心の疑問に答えながら、アラシは自分の家であるかのようにズカズカと店の奥へと進んでいく。

 その変わり者の店長は、スキンヘッドで強面の中年男性で、客の動向はまったく気にせず新聞を読みふけっていた。

 店の奥にあるファイトスペースは、不揃いなテーブルとイスが2セット並べられただけの、有り合わせで作られたような質素なものだった。

 トライアルデッキの付属物と思しき紙製のプレイマットが敷かれただけのファイトテーブルに、アラシがドンとデッキを置く。

「んじゃ、始めるか……と言いたいところだが、俺様の流儀は覚えてるよな?」

 そして、初めて会った時さながら、ニヤリと不気味に笑いながら言った。

「賭けろ。お前の大切なモノ(おたから)を」

「俺が賭けるのは……」

 オウガはアラシの目をじっと見据えながら、立てた親指で己の心臓を指し示す。

「俺の魂だ」

「…………は?」

 たっぷり10秒は待った後、アラシから否定とも肯定とも取れない間の抜けた答えが返ってきて、オウガは焦った。

「え、ええと、だから、俺は俺の魂を賭けるというか、そう! 俺達ヴァンガードファイターはとっくに誇りを賭けて戦っているようなものなんだ! だから俺はそれ以上に大切なものは知らねえし、賭けるものなんてねえ!」

 顔を真っ赤に染め、しどろもどろになりながら、必死に取り繕う。

(や、やべえ。カッコつけすぎたか? こ、これは恥ずかしいぜ~)

 もしこれでダメならば、念のため持ってきていた、ムドウから譲り受けたグラビアアイドル(髪色を除けばミオに似ている)の写真集を賭けざるを得ない。

「……ぷっ。くっ、くはははっ! ぎゃっはっはっは!!」

「お、おい! そんなに笑うなよ!」

「いや、悪ぃ悪ぃ。まさか本当にお前がその境地にまで至っていたのが意外でな。いいぜ、合格だ」

「へ?」

 今度はオウガが間の抜けた声をあげる番だった。

「そう。真剣勝負って言うのはそういうもんだ。俺達はすでに誇りを賭けて戦ってる。そんなことも解らねえヤツには、大切なモノ(おたから)を賭けてもらった。それならどんなフヌケも、多少はマジになるからな!」

「そんな理由で賭けファイトなんて続けていたのか?」

「そんな理由? このクソみたいな島から抜け出して都会でファイトしてみりゃ、天海とのファイトは記念になるとかぬかして、ザコとファイトさせられる側の気持ちにもなってみろよ。

 ああ、別に弱いのはいいんだ。俺様より強いやつなんて、どうせ島の外にはいねぇんだからな。

 だが! 弱いなりにも、真剣にファイトしようともしねぇヤツには我慢がならねえ! てめぇはそこで毎日ファイトできるのかも知れねえが、俺が外でファイトできる時間は限られてる! 俺はセイジやヒビキのように、誰とでもファイトできれば楽しいだなんて思わねえ!

 俺がヴァンガードで味わいたいのは、ひりつくような命賭けの決闘だけだ!」

 これまで楽しそうに笑っていたアラシが激昂しながら、テーブルに掌を叩きつけた。

「……悪ぃ。ヒートアップしちまったな」

 荒げた息を落ち着かせると、ストンと椅子に座る。

 熱く燃え盛ったその少年は、今は冷えきった炭のように冷たい気配を漂わせていた。

「じゃ、お前が魂を賭けるなら、俺も魂を賭けるぜ。互いの誇りと誇りを賭けた真剣勝負といくか」

「いや、お前にはもうひとつ賭けてもらう」

「あ?」

 アラシが不愉快そうに顔をしかめた。

「このファイトで俺が勝ったら、お前は二度と賭けファイトをするな」

「……ちっ。わがままな野郎だな。

 じゃ、それで受けてやる代わりに、こっちもひとつ追加だ。このファイトで俺が勝ったら、俺は二度とその条件でお前とのファイトを受けない。勝つまでやるとか言われたら、めんどくせーからな」

「わかった」

 オウガが覚悟を決めたように頷いた。

「ひとつだけ教えておいてやる。これまでその条件でファイトを申し込んできたやつが2人いた。

 ひとりはセイジ。もうひとりはヒビキだ。

 そして、そのどちらにも俺は勝った!

 わかるか? その条件でファイトした俺はヒビキよりも強い!!」

 脅かすようにアラシが言うが。

「へえ?」

 オウガは眉を軽く上げるだけだった。

「意外だな。お前がそんなジンクスに頼るなんてよ」

 言いながら、オウガも席につく。

「……ちっ。さっさと始めるぞ」

「ああ」

(始めるぜ……カードファイト部としてのラストファイト)

 それだけは声に出さずに呟いた。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

 ふたりがファーストヴァンガードをめくる。

「《キャプテン・ナイトキッド》!」

「《メカ・トレーナー》!」

「先攻いただくぜ! スタンド&ドロー!」

 アラシが子どものようにはしゃぎながらカードを引いた。

「ライド! 《七海操舵手 ナイトクロウ》!」

 ヴァンガードにおける先攻1ターン目は、多くの場合、ライドしてそのままターンエンドとなる。

 だが、彼は違った。

「コール! 《七海見習い ナイトランナー》! 《スケルトンの航海士》!

 航海士のスキル発動! ナイトランナーと航海士をレストして5枚のカードを墓地(ドロップ)に落とすぜ!

 俺はこれでターンエンドだ」

「スタンド&ドロー!

 ライド! 《アクロバット・ベルディ》!

 コール! 《指揮官 ゲイリー・ギャノン》!

 バトルだ! ゲイリー・ギャノンのブースト! ベルディでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

「ドライブチェック! ……(クリティカル)トリガー! 効果はすべてベルディに!」

「くくく……いいのかぁ? 俺のグランブルーにさっそく2点も与えてよ」

 いきなりの★に、アラシは動じた様子もなく、むしろオウガを挑発するように笑う。

「たりめーだ! お前が何を企んでいようが、俺は止まらねーぜ!」

「じゃあ、ありがたく2ダメージ頂くぜ。……トリガーは2枚とも無しだ」

 ゲイリー・ギャノンのスキルも発動して、ソウルと手札を補充し、オウガはターンエンドを宣言する。

「俺のターン! スタンド&ドロー!

 ライド! 《七海剣豪 スラッシュ・シェイド》!

 航海士のスキル発動! ナイトランナーと航海士をレストして5枚のカードを墓地へ!

 ナイトランナーのスキル発動! さらに2枚のカードを墓地へ送り、このカードをバインド! 墓地から《七海暴掠 ナイトスピネル》を手札に戻す!」

(たった2ターンで、アラシのドロップゾーンが11枚に……)

「ボサッとしてんじゃねえ! 俺様の展開はここからだぜ!」

 プレイングに見惚れていたオウガの目を覚まさせるように声を張り上げ、アラシがプレイを続行する。

「ナイトスピネルをコール! CB1して2枚のカードを墓地へ送り、《七海呪術師 レイスチューター》を蘇らせる(スペリオルコール)

 さらに《海賊剣士 コロンバール》をコール! CB1で山札からナイトクロウを墓地に送り、スラッシュ・シェイドを蘇らせる!

 墓地のナイトクロウのスキル発動! (ソウル)と航海士を生贄に、墓地から蘇れ! さっきのソウルブラストで墓地に送ったナイトクロウも蘇れ! こっちはコロンバールを生贄にだ!」

(2ターンで……七海で盤面を埋めやがった)

「後悔しても遅ぇ! そら、バトルいくぜ!

 ナイトクロウのブースト! ナイトスピネルでヴァンガードにアタック!」

 このアタックと、ヴァンガードのアタックをオウガはガードし、最後のリアガードによるアタックだけノーガードを宣言した。

「財宝マーカーひとつめゲット! こいつはレイスチューターの上に置いてターンエンドだ」

「スタンド&ドロー!

 ライド! 《ガンバースト・ラインバッカー》!

 コール! 《アドルブスパーム・ローナ》! ローナのスキル発動! 山札から《前線司令 ジギスヴァルト》をスペリオルコール!

 バトルだ! ラインバッカーでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード!」

「ドライブチェック! ……ノートリガー」

「ダメージチェック……こっちもトリガー無しだ」

 続くアタックは、ナイトスピネルとレイスチューターのインターセプトに阻まれ通らずターンエンド。

「俺のターンだ! スタンド&ドロー!

 ライド! 《七海覇王 ナイトミスト》!! イマジナリー・ギフトでプロテクトⅠを手札に加えるぜ!

 ナイトスピネルをコール! 蘇れ、スラッシュ・シェイド!

 バトルだぁ! ナイトクロウのブースト! ナイトミストでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード!」

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……★トリガー! ★はナイトミスト! パワーはナイトスピネルに!」

「ダメージチェック……くっ、トリガーじゃねえ」

「くくく……ここでトリガー引けないのは痛かったなぁ。

 だが遠慮はしねえ! ふたつめの財宝は前列のスラッシュ・シェイドに与え、ナイトスピネルでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード……★トリガー! 効果はすべてヴァンガードに!」

「財宝ゲット! こいつは前列のナイトスピネルに! 財宝がみっつになったので、七海のパワー+5000だ!

 そら! パワー13000のナイトクロウでジギスヴァルトにアタック!」

「……ノーガード」

「財宝よっつめぇ! スラッシュ・シェイドでヴァンガードにアタック!」

 残る2体のスラッシュ・シェイドのアタックは、オウガのガードに阻まれた。

 ここまでで、オウガのダメージは4、アラシのダメージは3。

「俺のターン! スタンド&ドロー!

 ライド! 《バッドエンド・ドラッガー》!! イマジナリー・ギフト! フォースⅠをヴァンガードに!

 コール! 《パワーバック・レナルド》!

 レナルドのスキル発動! 手札を1枚ソウルに置いて、山札の上から3枚をスペリオルコール! 《ワンダー・ボーイ》、《チアガール・マリリン》、《指揮官 ゲイリー・ギャノン》!

 バトルだ! マリリンのブースト! ローナでヴァンガードにアタック!」

「ナイトスピネルでインターセプトだぁ!」

「《ワンダー・ボーイ》のブースト! バッドエンドでヴァンガードにアタック! バッドエンドのスキル発動! マリリンをデッキに戻し、パワー+5000、★+1!

 合計パワーは41000だぜ!!」

「ふぅん……」

 これまでほとんどノータイムでファイトを進めていたアラシが、あごに手を当て考える仕草を取って手を止めた。

「どうした? さっさとプロテクトを使いやがれ」

(ふむ。こいつは俺に早くプロテクトを切って欲しいわけか)

 途轍もないスピードで、アラシの思考が加速していく。

 まず無いとは思うが、オウガの発言がブラフでないか、これまでオウガが公開したカードから検証。問題無し。

 次に、脳内にある自身の膨大な経験にアクセス。今と似た状況を記憶から引っ張り出す。スパイクブラザーズとファイトしたものから優先的に、他のクランとのファイトも念のため確認。

 15件が該当。中でも、3年前にスパイク使いの先輩とショップでファイトした時のもの。1年前にヒビキと部活でファイトした時のものと状況が酷似している。

 それぞれ勝ったファイトと負けたファイトだ。どうして勝ったか。どうして負けたか。どうしたら勝てていたかを改めて洗い出す。

「……ノーガードだ」

 僅か5秒で10年分のファイトをやり直したアラシが結論を告げた。

「また、俺は★を引けないとか言い出すんじゃねーんだろうな?」

「いんや。ぬか喜びさせても悪いから先に言っておくが、お前は★トリガーを引く。ただし、俺も(ヒール)トリガーを引いてゲーム続行だ。……たぶんだけど、お前の★トリガーは1回目のドライブチェック。俺の治トリガーは2回目のドライブチェックじゃねーかな」

「っ!? ツインドライブ!!」

 アラシの予測を振り払うように、オウガが山札に手をかける。

「1枚目、ク、★トリガー!! パワーはレナルドに! ★はバッドエンドに!

 2枚目、トリガーじゃない……」

「ダメージチェック!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、治トリガー。ダメージ回復させてもらうぜ。パワーはヴァンガードに」

「!?」

 アラシが平然とダメージゾーンのカードをドロップゾーンに置き、入れ替わりに治トリガーをダメージゾーンに置く。

「3枚目、おっと! こいつも治トリガーか。悪いな。もう1枚回復だ。パワーはスラッシュ・シェイドに」

「くっ! まだアタックは通るぜ! ゲイリーのブースト! レナルドでヴァンガードにアタック!」

「レイスチューターでガード」

「……ターンエンドだ。……超能力者かよ、お前は」

 オウガが呆れたように言う。

「違うな! 俺は人間だ! たったひとつのことを突き詰めた人間の行きつく果てだ! そんな胡散臭いもんと一緒にすんじゃねえ!」

 アラシは誇らしげに叫ぶと。

「もうお前は『詰み』だ! ファイナルターン!!」

 勝利を確信した者特有の、自信に満ちた表情で宣告した。

「スタンド&ドロー!

 コロンバールをコール! そしてコロンバールのスキル発動! 山札から《不死竜 スカルドラゴン》を墓地へ送り……そのままコロンバールを踏み潰して蘇れ!!」

 オオオオオオオオオオオオッ

 アラシの呼び声に応え、紫苑の炎を纏った骨竜が、がらんどうの体から断末魔にも似た怨嗟の咆哮を響かせる。

(なっ!? し、七海にスカルドラゴンだと!?)

「バトルだぁ!」

 咄嗟のことで思考が追い付かないオウガをよそに、アラシが宣言する。

「1体目のナイトクロウでローナにアタック!」

(……くっ! ダメだ……6枚目の財宝マーカーを阻止できねえ)

 オウガは改めて手札を確認し、唇を噛みながら結論付けた。

 アラシが『詰み』と言った理由が今なら理解できる。アラシはオウガの手札をオウガ以上に把握しているのだ。

「レナルドでインターセプト!」

「2体目のナイトクロウでローナにアタック!」

「クイックシールド!」

「1体目のスラッシュ・シェイドでローナにアタック!」

「ノーガード。ローナは退却する」

「財宝5つめぇ! 2体目のスラッシュ・シェイドでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード……★トリガー! パワーはヴァンガードに!」

「財宝6つ目。決まりだな」

 最後の財宝マーカーがヴァンガードサークルに置かれる。

「お前はよくやったよ。まあまあ楽しめたぜ」

「まだファイトは終わってねーよ」

「なんだ。まだ諦めていないのか? ニブいやつだな」

「俺は一度諦めちまった人間だ。その無意味さを誰よりも知ってる。だから俺はもう二度と諦めねえ! このターン、俺は治トリガーに賭けるぜ!!」

「……いいだろう。なら、抗いようのない敗北をその身に刻んでやる。

 ナイトミストでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガード!!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(ドロー)トリガー! 1枚引いて、パワーはナイトミストに!」

「……ダメージチェック」

 オウガが震える手で山札に手を伸ばす。上から1枚を恐る恐るめくり、アラシにも見えるように公開する。

「……っ! 治トリガー!!」

 

「だろうな」

 

 歓喜の叫びを、アラシの冷たい声音が遮った。

「引くと思ったよ。

 ナイトミストのアタック終了時、俺の七海はすべてスタンドする。

 とは言え、俺の七海のアタックは、スラッシュ・シェイドすら通らねえ。

 だが……! スカルドラゴンなら話は別だ!!

 俺の墓地は22枚! ナイトクロウのブースト! パワー69000のスカルドラゴンでヴァンガードにアタック!!!」

 ギシギシと骨を軋ませる音を響かせながら、異形の大剣がゆっくりとオウガめがけて振り下ろされる。

「……ノーガード!!」

 オウガはそれを胸を張って受け止めた。

「ダメージチェック……」

 山札の上からゆっくりとカードをめくる。

「…………!? 治トリガー!!」

 トリガーの処理を行うよりも、アラシの反応が気になり、オウガは勢いよく顔を上げた。

「……っ、あー、引かれちまったかー!!」

 アラシは楽しそうに笑っていた。

「あるとは思ったんだよなー。これまで1枚も治トリガーを引かれてなかったわけだし。やっぱ重なってたかー。

 ま、諦めなかったお前が正解だったってわけだ。ほら、ゲームを続けろよ」

「あ、ああ……」

 オウガが5枚目のダメージをドロップゾーンに置き、治トリガーをダメージゾーンに置きなおす。

「アタックを終えたスカルドラゴンは退却する。……俺はこれでターンエンドだ」

「俺のターン……」

「だが!!」

 オウガがカードを引く直前、アラシが叫んだ。

「これで勝ったと思うなよ! 俺の手札は7枚! そう簡単には崩せねえ! 崩させねえ!」

「……ああ。あんたは本当にすごいよ。認めたくなかったが、認めざるを得ねえ。あんたは俺よりずっと強い」

「お、おう? 何だ急に。気色悪ぃ……」

「そんなあんただからこそ、俺はあんたに勝ちたい! いや、勝つ!!

 ファイナルターン!!」

 拳を突き出して宣言し、間髪入れずにカードを引く。

「スタンド&ドロー!!

 ライド!!

 キメるぜ、相棒! 《逸材 ライジング・ノヴァ》!!」

 そう。夜霧を晴らすのはいつだって、闇を貫くようにして輝く新星だ。

「イマジナリー・ギフトはすべてライジング・ノヴァに!

 バッドエンドのスキル発動! このユニットをスペリオルコールし、同じ列にいるスラッシュ・シェイド2体を退却させるぜ!

 メインフェイズ!

 コール! 《アンブッシュ・デクスター》!

 デクスターのスキル発動! バッドエンドをソウルに置き、デッキから2体のG3をスペリオルコール!!

 並び立て! 《デッドヒート・ブルスパイク》! 《将軍 ザイフリート》!」

「はっ! スパイクの3大VRが揃い踏みか。悪くない光景だ」

「ライジング・ノヴァのスキル発動! ブルスパイクとザイフリートのスキルを得る!

 野郎ども、俺に力を貸せ!!」

 オウガが拳を高々と掲げる。

「ライジング・ノヴァのスキル発動! ブルスパイクをソウルに置き、新たにコールしたブルスパイクと自身のパワー+10000!」

 さらに同様のスキルで、ザイフリート、デクスターのパワーを、それぞれ+10000していく。

「アラシイイイィィィッ!!」

「オウガアアアァァァッ!!」

 雄叫びがバトルフェイズ突入の合図だった。

「デクスターのブースト! ザイフリートでナイトミストにアタック!

 アタック時、ライジング・ノヴァのスキル発動!

 フォース・マーカーをすべてブルスパイクへ! 合計パワーは61000!」

「《突風のジン》で完全ガード!」

「さらにスキル発動! 1枚引いて、ナイトクロウを退却!

 続けて、《ワンダー・ボーイ》のブースト! ライジング・ノヴァでヴァンガードにアタック!

 フォース・マーカーをすべて移動させ、合計パワーは76000!」

「プロテクトで完全ガード!」

「ツインドライブ!!

 1枚目! ★トリガー! 効果はすべてザイフリートに!!

 2枚目! ★トリガー! この効果もすべてザイフリートに!!」

「!?」

 アラシの表情が大きく引きつる。だが、次の瞬間にはどこか嬉しそうな笑みを浮かべて告げた。

「……やったなぁ、オウガ」

「ああ。デクスターのブースト。ザイフリートでヴァンガードにアタック。

 フォースを移動させ、合計パワーは71000だ」

「……ノーガード」

「あんたの治トリガーはもう2枚見えてる。俺の勝ちだ」

「ああ、そうだな」

 それでもアラシは微笑みながらファイトを続けた。5枚目、そして6枚目のカードをゆっくりとダメージゾーンに置いていく。まるでファイトが終わることを惜しむかのように。

 たっぷり時計の秒針が半周するほどの時間をかけて、ついに6枚目のカードがダメージゾーンに置かれた。

「――っしゃああああああああああああっ!!!!」

 両拳を握りしめたオウガが咆哮をあげる。

 幸い客はいなかったので、強面の店長が顔をしかめるだけで済んだ。

 

 

 ライジング・ノヴァは追い詰められていた。

 一撃必殺を誇る自慢の拳打は、踊るような足さばきと、変幻自在に煌めく剣筋に捌かれ、そのほとんどがナイトミストに届かずにいた。

 唯一、一発だけいいのが入って確かに頸椎をへし折ったはずなのだが、その吸血鬼はまるで肩こりでもほぐすかのように首の骨を鳴らすと、何事もなかったかのように治癒してしまった。

 一方、古傷だらけのライジング・ノヴァの全身には、新たな傷が幾重にも刻まれ、そこからゆっくりと、されどとめどなく血が流れ出していた。

 ナイトミストの膂力では、ライジング・ノヴァの強靭な肉体を一刀で斬り捨てることはできない。だが、こうしてゆっくりとダメージを蓄積させていけば、ライジング・ノヴァが先に倒れるのは明白だ。彼は反則じみた再生能力など持ち合わせてはいないのだから。

「降伏しろ、ライジング・ノヴァ。何だったら眷属にしてやろうか? お前ならいい吸血鬼になれるぞ」

 勝利を確信したナイトミストが、カットラスを突きつけて勧告する。

「お断りだ! そんなくだらねえもんになったら、お天道様の下で試合ができなくなるからな!」

「では、ここで死ぬんだな! お前の死体からは頑丈なゾンビができそうだ!」

 楽しそうに言って、ナイトミストが左手を掲げる。それを合図に、虚空から巨大な骨の竜が召喚された。

「うおおっ!?」

 骨竜が振るう紫炎の大剣を、ライジング・ノヴァは大きくのけぞって回避した。だが、体勢の崩れた首筋に、今度はナイトミストのカットラスが迫る。

(ここしかねえっ!)

 ライジング・ノヴァは持ち前の体幹と運動神経で、今にも倒れそうな姿勢のまま体を固定すると、両拳を使い白刃取りの要領でカットラスを挟み込んだ。

「うおおおおおっ!!」

 雄叫びをあげ、全身全霊の力を拳にこめる。やがて、よく磨かれたカットラスの表面にひびが走り、不快な音をたててその刀身がへし折れた。

 これまで一切の隙を見せなかったナイトミストが、はじめて驚愕と動揺に目を見開いた。

 かの吸血鬼がいかに不死身であろうと、武器までもそうはいかない。数百年の長きに渡って使い込んできた愛用のカットラスが破壊されたという精神的衝撃は計り知れなかった。

「へへっ、どうよ!」

 ライジング・ノヴァが勝ち誇る。たとえ殺すことができなくとも、腕力に劣る素手の相手を制圧する方法などいくらでもある。

 だが、ナイトミストは即座に正気を取り戻すと、鋭い蹴りを放った。体勢を崩したままのライジング・ノヴァは派手に吹き飛び。船の欄干を突き破ると、フィールドへと転落した。

「今日のところは俺の負けにしておいてやる!」

 芝生に大の字になって倒れ込んだライジング・ノヴァを見下ろして、ナイトミストが尊大に宣言する。

「また来るぜ。それまでせいぜいボール遊びを楽しんでいるんだな」

 言い捨てると、手ぶりで引き揚げの合図を出す。ただそれだけで、スタジアムの隅々に渡って大暴れを繰り広げていた無頼の海賊達が、手近な船に乗り込んでは潮が引くかのように撤収していった。

「もう来んな!」

 ライジング・ノヴァが、倒れたまま手元にあったボールを投げつけるが、もう船には届かなかった。

「ミスタータフガイ」と異名される彼も、もはや立ち上がる気力はなく、血塗れのままぼんやりと空を見上げていた。

 その時、どんよりとしたダークゾーンの空に、惑星Eと呼ばれる星が新星の如く輝いていることに気付き。

 彼は口の端をニッと上げ、相棒と拳をぶつけ合うように、その惑星へと拳を伸ばした。

 

 

「ぎゃーっはっはっはぁ! すっげー楽しかった! やっぱヴァンガードはこうでなきゃな!」

 負けたにも関わらず、アラシはこれまでで一番楽しそうに大笑いしていた。

「島の外のやつらともたくさんファイトしてきたが、これはとびきりだった! 礼を言うぜ! これこそが俺の求めていた真剣勝負だ!

 約束も守る! もう金輪際、賭けファイトはやらねえ! このファイトに誓うぜ!」

「あ、ああ……」

 できすぎな展開が未だに信じられず、オウガは半ば放心状態で答えた。

「またファイトしようぜ! 次にやれるのはヴァンガード甲子園か? それとも高校選手権か?」

「あ、悪い。それは……」

 さすがにそれに関しては生返事ではいられなかった。

 カードファイト部を引退すること。ヴァンガードは辞めないが、大きな大会に出場するつもりはないことを、オウガは素直に告白した。

「そうか。残念だな」

 アラシは静かに肩を落として言った。

「それだけか? 『ヴァンガード意外のことにうつつを抜かすなんてとんでもねえ!』なんて怒られることを覚悟してたぜ」

「さすがの俺もそこまで傲慢じゃねーよ。……ま、ヴァンガードを辞めることについては、俺達も人に言えた義理じゃねえしな」

「え?」

「なんでもねーよ。とにかく、俺はお前がヴァンガードを続けてくれるだけでも嬉しいぜ」

 そう言って、オウガの肩を慣れ慣れしくバンバン叩く。オウガもいつの間にか、それに悪い気がしなくなっていたが。

「当たり前だろ! こんな楽しいもん、そう簡単に辞められるかよ」

「ああ、そうだな。……本当にそうだ」

 常に尊大な彼にしては珍しく、俯きがちになってアラシは答えた。

 その時の言葉の意味を。表情の意味を。

 オウガは大人になって知ることになるのである。

 

 

「卒業おめでとうございます、アリサさん」

 今日は響星学園の卒業式。

 桜が舞い散る中、ミオがカードファイト部を代表して小さく頭を下げた。

「ありがとー」

 卒業証書の入った筒を雑に振って、本日、響星学園を卒業する天道(てんどう)アリサがそれに応えた。

 友人の多い彼女は、つい先ほどまで多くの人に囲まれていたのだが、彼ら彼女らは皆、手短に挨拶を済ますと「あとはカードファイト部水入らずでどうぞ」とばかりに、ミオ達にアリサを譲ってくれたのだ。

 その人柄がそうさせたのだろうが、彼女は気の利いた友人に恵まれているようだ。

「聞いたよ、オウガくーん。カードファイト部、辞めるんだって?」

 そんな人柄の彼女が、底意地の悪い笑みを浮かべながらオウガに詰め寄った。

 もっとも目は優しく細められており、本心ではオウガの選択を祝福しているのだろう。

「はい、申し訳ありませんした」

「あたしはいいんだけどさー。サキちゃんにはちゃんと謝ったのー?」

「ちょっ! なんでそこで私が出てくるんですか!?」

 サキが顔を真っ赤にしながら、慌ててアリサの口を塞ごうとする。

「たしかに、この話をした時はサキにボロ泣きされましたけど……」

「ふーん。サキちゃんはそれでいいの?」

「はい! いいんです。これはひとつ貸しにしましたから。ね、オウガ君!」

「ああ。ひとつ貸し、な」

 当時、泣きじゃくるサキを落ち着かせるため、オウガからとっさに出た一言が

「お前が本当に困った時、何でもひとつだけ言うことを聞く!」

 だった。

 それを聞いたサキはピタリと泣き止み、それどころか急に上機嫌になって、オウガの夢を応援してくれたのだ。

 彼女がその権利をいつ行使するのか気にはなったが、案外、なあなあで済ますのではないかとアリサは想像している。

 ふたりの行く末がどのような結末に至るのか、傍で見届けられないのは少し残念だった。

「さて。これからどうしましょうか。私はサキさんと『エンペラー』に寄って、少しファイトをしてから帰るつもりですが」

 ひとり蚊帳の外にいたミオが、存在を主張するように声をあげた。相変わらずおじゃま虫である。

「あたしはまっすぐ家に帰るよ。今日は弟も中学の卒業式だから、一緒に帰ろうって約束してるんだ」

「俺はアメフトのことで顧問と相談があるんで、一度校舎に戻ります」

「では、ここでお別れですね」

 ミオが淡々と告げ、しばらくの間、4人は無言で見つめ合った。

 やがてミオがへらりと微笑み、アリサが吹き出し、オウガも頷き、サキは目元を静かに拭った。

「さようなら。ですが、また会いましょう」

「うん、またね」

「うす! お世話になりました!」

「お疲れ様でした。オウガ君も、元気でね」

 四通りの挨拶を交えて、4人はそれぞれの道を歩き出す。

 校門をくぐってから、オウガはふと後ろを振り返った。

 もうそこに仲間の姿は無い。

(アメフトで生きていく。たったそれだけの事を決めるため、ずいぶんと遠回りをしてきたもんだ……)

 独りごちながら、ゆっくりと目を閉じる。

 ミオが突拍子もない発言でボケて、アリサがツッコみ、サキが笑い。自分はそんな3人を見ているのが大好きで。

 当たり前になっていた光景が、ありありとまぶたの裏に映り込んだ。

(けど、悪くない寄り道だった)

 オウガは目を見開くと、自分が選んだ道をしっかりと踏みしめて、また歩き出した。

 

 根絶少女 2年生編

 

 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サキと他愛のない雑談を交わしながら歩くミオを、小柄な白髪の少女が電柱越しに覗き込んでいる。

「見つけた……お姉ちゃん」

 そう言って微笑む少女の小さな手の甲には、侵略者(リンクジョーカー)の紋章が浮かび上がっていた。

 

 根絶少女 3年生編に続く――




根絶少女2年生編の最終章をお届けすることができました!
作者としては完全燃焼と誇れる作品に仕上がったと自負しておりますが、いかがでしょうか。
お楽しみ頂けたのであれば幸いです。

主人公もいよいよ3年生。
3年かけてひとつの作品を作ると決めた時は、本当にできるのかという不安でいっぱいでした。
3年ともなると非常に長く、周囲の環境が様変わりしてもおかしくない時間です。
私の心が折れるかも知れないし(メガコロが3年間強化されないとかで)、病気になってしまうかも知れない。
そもそもヴァンガード自体が大きく変化してしまうかもしれない(実際にこれはありましたが!)。
それでもどうにか、ここにきてようやく完成の目途が立ったという実感が湧いてきました。
それもすべて月並みではありますが、応援してくださる皆さまのおかげです。
あと1年、どうかお付き合いくださいませ。

そして、最初は全クラン出すなんて不可能だろうと諦めていた登場クランについても、どうにか全クラン出演させることができそうです。

残るクランは
ぬばたま
ノヴァグラップラー
ディメンジョンポリス
ダークイレギュラーズ
ペイルムーン
ギアクロニクル
ネオネクタール
の7クラン!

お待たせした分、見せ場は用意するつもりなので、各クランを愛用している方は楽しみにして頂ければ幸いです。

そんな次回の本編は、通常通りのペースに戻りまして、4月の3日前後に公開致します。
えくすとらに関しては、オーバードレスのスタートデッキは全国家が揃ってからやりたいと思いますので、4月の初旬から中旬にかけて公開とさせて頂きたく思います。

それではまた、次回の本編でお会いできればと思います。
皆さまの夢が叶いますように。

【デッキログ】
アラシデッキ:5FZF
オウガデッキ:F5NX


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3年生編
4月「終わりの始まりが、音もなく芽吹く」


「おい、見ろよ! あの人が噂の……」

「ああ……聞いていた話よりもずっと可憐だ」

「無理してでも響星(きょうせい)に入学してよかった……」

 その姿を見るや、1年生は囁き合い。

「ああ、今日もなんてお美しいの……」

「おい! 道を開けろ! あの方の邪魔になるぞ!」

 2年生は畏怖を以て、彼女を称え。

「あの白河ミユキの後継者!」

「ただ歩いているだけで、どうしてここまで目立てるんだ!?」

 3年生の羨望と嫉妬の眼差しを一身に集め。

 まるで誂えたかのような桜の絨毯の上を、花道を渡るが如く優雅に歩む。

 小柄で背も低いが背筋はピンと伸びており、堂々たる威風を感じさせる。

 特徴的な白い髪は、舞い散る花弁と陽光を浴びて今は薄紅色に輝いていた。

 響星学園において、もはや彼女を知らぬ者はいない。

 完璧な美貌。絶対の知性。生命力にも溢れる、知勇兼備、全知全能の才媛。

 その名は――

「「「響星学園3年!! 音無(おとなし)ミオ!!!」」」

 偶然重なった生徒達の声に反応したわけではないだろうが、ミオが1年の頃と比べて伸びてきた髪を鬱陶しそうに払う仕草をしただけで、校内から歓声があがった。

 

 

「お疲れ様です。進級おめでとうございます、サキさん」

「あ、ミオさん。ありがとうございます!」

 少しくたびれた様子のミオが部室に入ると、組み直していたデッキをまとめて、藤村(ふじむら)サキがそれを出迎えた。

 肩口で綺麗に切り揃えられた黒髪と、よく似合っている黒縁のメガネはいつも通りだが、顔立ちは少し大人びてきたようにも思える。

「遅かったですね。何かあったんですか?」

 時計を見ながらサキが問う。今日は始業式とホームルームだけで、10時には全行程が終わったはずだが、今はもう正午を過ぎていた。

「これです」

 ミオが鞄を開き、中に入っているものをぶちまけた。封を開けられた大量の便箋が机の上にばら撒かれ、そのうちの何通かが机に乗り切らなくなり床に落ちる。

「これって……ラブレターですか!?」

 そのうちの一通を拾い上げたサキが、目を輝かせる。

「そうです。計23通の恋文です。過去にも同じような手紙をもらったことはありましたが、下駄箱からこれらが一斉に溢れ出してきた時は、間違って郵便ポストを開けてしまったのではないかと思いました。

 曰く、10時5分に体育館の裏で待っています。10時7分に屋上で待ってるぜ。10時9分に廃校舎の裏に来てください。10時11分に屋上にて愛を囁き合いましょう。10時13分に伝説の樹の下で会いましょう(中略)11時55分に屋上で大切な話があります。

 これらの約束を全て果たして――伝説の樹の下は場所が分からなかったので無視しましたが――ようやく部室に辿りつけました。私に1階と屋上を何往復させるつもりですか」

 言い切って、ミオはふーと長い溜息をついた。

「約束の数、23より多くないですか?」

 話を指折りながら聞いていたサキが首を傾げる。

「恋文に想いを託すようなロマンチックな人が23人いたというだけです。面と向かって『何時何分に何処何処へ来てくれ』と言われたパターンがさらに24です。いっそ、その場で言ってくれないですかね」

「人の目がありますからねえ……」

「そもそも、告白は人の目の無いところでやらなければならない決まりがあるんですか。屋上とか、廃校舎とか。カツアゲされるんじゃないかと思いました」

 去年も人気の無いところで不良に絡まれたことをふと思いだす。

 いや、あれは自分から絡みにいったのだったか。重要なのはかけがえのない後輩と出会えた一点のみなので、細かいことは忘れてしまった。

「よかったのは、1階に降りるたびに、新天地で頑張っているオウガさんを見れたことでしょうか。私が校舎全体を使った踏み台昇降をやらされているのに全く気付いてくれないのは複雑でしたが」

「あ、そうだ! 私、オウガ君と同じクラスになったんですよ」

「それは朗報です。5分に1回は後ろを向け。私はいつも見ているぞ。と伝えておいてください」

「激励と恨み言が混じって軽くホラーになってますよ。

 それより、今日は何でこんな一斉に告白されたんでしょうか。ミオさんが告白されるのは珍しくないですけど……」

 そう。ミオが告白されるのは初めてではない。その様子をサキは何度か目にしたことがあった。そのすべてがにべもなく断られ、玉砕していく瞬間も。

 ミオは丁重にお断りしていたつもりかも知れないが、ありありと伝わってくる無関心さは、傍から見ていたサキですら凍り付きそうになった。それに直接さらされた男子生徒の胸中はいかばかりか。

 基本的には無表情なミオだが、本当に興味が向いた時には目が爛々と輝くのだ。

「年下の私が言うのも変ですけれど、ミオさん、この1年でますます綺麗になった気がします。背も、はじめて会った時は私より低かったのに、今は私と同じくらいまで伸びましたし」

「そうでしょうそうでしょう。目指すは身長170センチ。クールビューティー・音無ミオです」

「それは難しいのではないかと。ていうか、私の身長も女子の平均以下ですよ」

「む。残念です」

 ミオが僅かに肩を落とした。

「冗談は置いといて、サキさんの質問に答えましょうか。このラブレターの8割は1年生のものなんです。つまり――」

「つまり、ミオさん目当てに入学してきた男の子が一斉にミオさんを奪い合ったというわけですか」

 残りの2割はそれに危機感を覚えた、彼女に気のある2、3年生か。

「女の子もいましたが」

「さいですか。

 その、それで……ミオさんは、どれか一つにでもOKしたのでしょうか?」

「いいえ」

「ですよねえ」

「私が恋人にするのはギヲのような人と決めています」

「理想が歪んでる!」

 サキがテーブルに掌を叩きつけてツッコんだ。

 一通りの雑談を終えた後、いつもならここでファイトが始まるのだが、ミオは「さて」と言いながら席を立った。

「今からファイトという気分でもありませんし、お腹もすいたので、ひとまずファミレスへ行きましょうか。これからのことで大事な話もありますので」

「? はい、行きましょう」

 律儀にラブレターを鞄にしまい直してからミオが部室を出ていこうとする。なんだろうと首を傾げながら、サキもそれに続いた。

 

 

「それだけしか食べなくて、よく動けますね」

「それだけ食べて、よく動けますね」

 お互いのトレイ――ハンバーガーが1個乗っているだけのサキと、ハンバーガーが10個乗っているミオ――を見比べ、互いに感想を述べあうと、向かい合って席につく。

「さて、大事な話と言うのは他でもありません」

 サキがハンバーガーを一口かじる間に、ミオはハンバーガー5つを平らげ、話を始める。

 この店にはスタンド使いでもいるのかと、サキは真剣に周囲を見渡した。

「何をよそ見しているんですか?」

「いえ、失礼しました。続けてください」

「はい。単刀直入に言います。我がカードファイト部は存続の危機に瀕しています」

 サキがポロリとハンバーガーを取り落とす。ミオは空中のそれを目にも止まらぬ速さで受け止めると、一口で頬張った。

「もぐもぐ。何をしているんですか、もったいない」

「すみません。けど、食べる必要は無かったですよね」

「失礼しました。つい本能で」

 お詫びとばかりに、ミオが自分のハンバーガーをひとつ代わりに差し出した。小食のサキにとって得をしたかは微妙なところだが、彼女としては食事どころではなかった。

「存続の危機とはどういうことですか?」

「サキさんは知らないのも無理はありませんが、我が校では部員が3人いなければ部活としては認められません」

「ああ、そういうことですか」

 1年前、やたら歓迎ムードで迎えられたのをサキは思い出す。

「本来なら新入生が集まっている今日に勧誘をしなければならなかったのですが……」

 ミオは暗い目で隣の席に置いてある鞄を見た。捨てるに捨てられない大量のラブレターが詰まった鞄を。

「すみません。私が動くべきでした」

 俯いて謝罪するサキにミオは首を振った。

「いえ。それを言うなら指示を出さなかった私の責任です。ですが、積極性に欠けるメンバーが残ってしまったのは事実かも知れませんね」

 ユキのカリスマ性や、アリサのリーダーシップ。オウガの行動力にどれほど助けられていたか。改めて感謝の念を覚えると同時に、少し羨ましくも思えた。

「この出遅れは明日の放課後に挽回しましょう。私は卒業まで部に残るつもりなので、1人でも入部してくれる人が見つかれば目標は達成です」

「え、推薦が決まっているんですか?」

 この先輩ならありえない話では無いと思いながらサキは尋ねたが、ミオはゆっくりと首を振った。

「進学はしません。私は高校卒業と同時にヴァンガードのプロリーグを目指します」

 サキは目を丸くしてミオを見つめた。それを否定ととったわけではないだろうが、ミオはより真剣な声音で繰り返した。

「私はヴァンガードのプロリーグを目指します。だって、私にはそれしかありませんから」

 名門の響星学園を過去最高の成績で卒業しようとしている、望めば何にでもなれそうな彼女が言うと嫌味にしか聞こえないが、サキには妙に合点がいった。

 思い出すのは天海学園の3人だ。他とは一線を画す強さを誇る彼らは皆、サキのような常人には理解し難い行動原理で動いていた。

 結局のところ、競技の世界でプロになれるのは。まして結果まで残せるのは、どこか狂気に侵されたような人間でしかありえないのかも知れない。

「……応援、してます」

 近くて遠すぎる先輩に、サキはそれだけ絞り出すのが精いっぱいだった。

 

 

 ――翌日。

「よいしょ」

 放課後の部室で、ミオはカバンから紙の束を取り出した。

「とりあえず、ポスターは描いてきました。我ながらよくできたと思いますが、いかがでしょう?」

 サキが束から1枚抜き取って確認する。A3サイズの用紙にはグレイドールのカードを手にしたグレイヲンが、あろうことか笑顔(?)で「僕と一緒にヴァンガードをしよう!」と呼びかけている。

 隅っこで小さなメガレックスが火を吐いているのは、「たちかぜも描いてくれてありがとうございます」と喜ぶべきか、「たちかぜ忘れてましたよね?」と責めるべきか微妙なところだ。

 あと、メガレックス火は吐かない。

「……かわいいと思いますよ」

 悩んだ末に、サキはあたりさわりの無い感想を口にした。

「かっこよく描いたつもりなのですが」

 ミオがすねたように、半眼になってサキを見据える。

(わかるかーっ!!)

 サキは脳内で頭を抱えた。

 この先輩、扱いが難しすぎる。

「前回がかわいい系だったので、趣向を変えてみました」

「同じシュール系にしかなっていないと思いますけど」

「サキさんも言うようになりましたね。

 では、このポスターを学校中に貼る者と、正門前で配る者に分けようと思います。どちらがいいですか?」

「正門前で配るのは……その、声を出さなければダメですよね?」

「もちろんです」

「えと……言いにくいんですが、私やミオさんの声では、周囲の声に負けてしまいそうで」

「ふむ。一理ありま……」

 ミオが何かを答えようとしたが。

「アメフト部新入部員募集してまーっす!! そこのガタイのいいお兄さん! 興味ねーっすか!?」

 外から聞こえてきたオウガの声に、彼女の声はあっさりかき消された。

「3階分の距離があって、すでに負けてますからね。正門前で直接対決しても勝ち目は無いでしょう」

 冷静に状況を分析しながら、ミオは窓から正門前で声を張り上げるオウガを「この裏切り者め」と言いたげに見降ろしていた。

 声だけではなく、器まで小さい。

「そういえば。あれほど私に言い寄ってきた連中はどうしたのでしょうか? 私目当てに1人2人くらい入部してきてもよさそうなものですが」

 ミオが名案とばかりにポンと掌に拳を打ち合わせて言った。

「ヴァンガード目当てじゃない人に入部されても困りますけど。振られた人が、振った人が所属している部活に入部するのも気まずいですし、ストーカー一歩手前ですよ」

 少し呆れてサキが答える。

「そういうものですか。

 私目当ての入部も望めないのであれば、とりあえず2人で手分けして校内にポスターを貼るところから始めましょうか。時間が経ったら、正門前の状況も変化しているかもしれません。オウガさんとの勝負から逃げるようで癪ですが……」

 ミオがブツブツと状況を整理し始めた時だった。

 ガララッと音をたてて部室の扉が勢いよく開き、そこからミオが入ってきた。

「あれ……ミオ、さん?」

 さっきまで話していたミオから視線を外し、部屋に入ってきたミオを見て……サキはメガネがずり落ちるほどに首を傾けた。

 部屋に入ってきた人物は確かにミオだった。ただし、その上背は現在のミオよりも低く、言うならば2年前のミオに近い。だが、リボンで二つ括り(ツインテール)にした白い髪は、髪をヘアゴムでまとめる事はたまにあれど「邪魔だから」という理由で装飾品の類は使わないミオらしくなかったし、何より、花が咲き誇るかのような満面の笑みはミオではありえなかった。

「あなたは一体……」

 部長としての責任感か、単純な興味か。もしくは恐怖も含んでか。ミオが闖入者の少女を誰何しようとした。

「会いたかった、お姉ちゃん!!」

 だが、それよりも早く少女がミオに抱きついてきて、言葉は遮られた。

「お、お姉ちゃん……?」

 いや、別の言葉が先にでてきてしまったという方が正解か。

 成り行きを見守っていたサキのメガネが、理解の範疇を越えたとばかりにパリンと割れた。

「うん。そうだよ、お姉ちゃん」

 細い腰に腕を回したまま上目使いになってじっと見つめてくる少女に、ミオは悪い気こそしなかったが、焦りの方が勝った。

(まさかお父さんに隠し子が? それともお母さん? 音無家は平凡だけど幸せな家庭と思っていたのに、ここにきて家庭崩壊の危機でしょうか)

「あはは、そうじゃないよ」

 いつもに増して無表情になったミオを察したのか、ミオに似た少女は、腰に回していた腕を首に巻き替え、耳元で囁いた。

「アタシのお姉ちゃんは、あなたの中にいるもう一人のあなただよ」

「!?」

 反射的にミオは少女を抱きしめた。その姿を覆い隠すように。もしくは逃がさないように。

「サキさん」

「ひゃっ、ひゃい!?」

 努めて冷静にサキに呼びかけ、呼ばれた少女は我に返ったように新しいメガネをかけ直して答えた。

「この子のことは後で紹介します。今はポスターを貼ってきていただけませんか?」

「は、はいっ!」

 ただならぬ空気は感じていたのかも知れない。気になることも多いだろうに、サキは持てる限りのポスターを抱えて、逃げるように部室を後にした。

 サキの気配が遠くなったのを感じて、ミオがゆっくりと少女を引き離す。そして、改めて問うた。

「あなたは、誰ですか?」

「アタシは時任(ときとう)レイ」

 少女が胸に手を当て自己紹介をする。

「けどこれは今のお父さんとお母さんからもらった名前。その正体は……」

 レイと名乗った少女は、ゆっくりと右手の甲をかざす。そこには輪っかを重ねて花を形作ったようなリンクジョーカーの紋章が浮かんでいた。

「惑星クレイの侵略者、根絶者のディフライダーだよ」

「ディフ、ライダー……?」

 聞いたことも無い単語をそのまま問い返す。

「うん。知らなかったかな? まず、地球では空想の世界と思われてる『惑星クレイ』って実在するの。ディフライドって言うのは、惑星クレイの住人が生み出した技術で、魂を地球の住人に憑依させちゃうの。そうして地球の文化を学ぶのが本来の目的だったらしいんだけど……」

 レイが笑顔のまま顔を伏せた。

「アタシ達の場合は、少し違っててね。ヴァンガードで語られているような戦いも実際にあるんだけど、アタシ達は救世主(メサイア)との戦いで負けちゃった根絶者なの」

「負けた? この私が? あんなカカシに?」

 ミオが不快感を露わに顔をしかめた。

「そう。骨も残らないほど焼き尽くされて。けど、魂だけは焼け残った個体が僅かにいたの。それがアタシであり、お姉ちゃん。宇宙を彷徨った末、地球に辿りつき、生まれたばかりの赤子に憑りついた。こうしてディフライドに限りなく近い形で生まれたのが、今のアタシ達だよ。

 ここまで突拍子の無い話をしちゃったけど、信じてくれるかな?」

 相変わらず笑みは浮かべたまま、レイはミオを真摯に見据えながら尋ねた。

「……私は自分の身に、他の子とは違う不可解な現象が起きていることは薄々と自覚していました。あなたの話を総合すれば、腑に落ちることは多々あります。ですので、鵜呑みにするつもりはありませんが、現状は信じざるを得ないと言ったところでしょうか」

「よかったあ! ありがと、お姉ちゃん!」

 ぴょんと飛び跳ねるようにして、再びレイはミオに抱きついた。自分より小さな少女をおずおずと抱き返しながら、ミオが口を開く。

「……いくつか質問があるのですが」

「どうぞ。アタシに答えられることなら、何だって」

 またまたぴょんと離れたレイが、偉そうに椅子に腰かけて、ミオに似て平坦な胸を張る。

「私の中にいる根絶者はどなたでしょうか? ヱファメス? ズヰージェ? それともファルヲンのようなグレード1でしょうか?」

「一番気になったのがそこ!?」

 恋する乙女のように目を煌めかせて尋ねるミオに、レイは呆れながらツッコんだ。

「それにお姉ちゃん、理想が高いよ。アタシ達は根絶者の中でも雑兵の中の雑兵。幾億にのぼる群れの中での最下層。カード化なんてするわけないじゃん」

「ええ……?」

「ルチさんだって、アタシ達からしてみれば大先輩だよ。むしろ様付けで呼ばなきゃ。ほら、言ってみて」

「ル、ルチ、様……」

 根絶者におけるマスコットキャラクター的な扱いに思っていたルチを敬称で呼ぶ屈辱に耐えながら、ミオは次の質問を口にした。

「あなたは何を契機に自分がディフライダーであることを知ったのですか? ディフライダーやディフライドと言った固有名詞まで、自分で考えたわけでは無いのでしょう?」

「そういう質問を先にしなよ!

 えっと、アタシも中学生くらいの時に、自分は他と違うなって思いはじめたの。その時、自分もディフライダーだって言う人が現れて、アタシの正体を教えてくれたの」

「それは胡散臭い話ですね。単なる不審者ではないのですか?」

「あはは、そうだよね。けど、さっきのお姉ちゃんと同じで、自分の状況と当てはめて納得せざるを得なかった感じかな。思い出そうとすれば、惑星クレイでの記憶も少し思い出せるようになったし。生まれたと思ったら戦いに次ぐ戦いで、最後は救世主に蒸発させられて終わりだから、あんまりいい記憶じゃないんだけどね」

「ちっ。あのカカシが全ての元凶じゃないですか。いつか私達の手で滅ぼしてあげましょうか」

「いや、アタシも思うところはあるけれど、救世主がいなくなったら惑星クレイも地球も滅びるからね」

 冷や汗をかきながら、レイが救世主をフォローする。

「まあいいでしょう。次の質問です。

 私達に血の繋がりは無いようなのですが、どうしてこんなにも容姿が似ているのでしょうか」

「うーん。よく分からないけど、やっぱり似た境遇で育つと、似た顔になってくるのかも。

 あとはあれかな。真っ白な髪ってだけで珍しいから、それで似て見えちゃうのかも」

「そう言えば、どうして私達の髪は白いのでしょう。両親の髪の色は黒なのですが」

「アタシの両親もだよ。それについては、強制的な憑依のショックで髪が白くなったんじゃないかって推測してる。まあ、いきなり乗っ取られたらそうもなるよねー」

「業の深い存在ですね、私達は」

「うん。他に質問はないかな?」

「では、これが最後の質問です。

 あなたはどこで私を知ったのですか? 正確には、私がディフライダーであったことをどこで?」

「お姉ちゃん、テレビに出てたよね?」

「そうなんですか?」

「出てたよ! ヴァンガード甲子園の決勝大会は全国ネットで生中継だよ!

 アタシもファイターの端くれとして、もちろんチェックしてた。そこでヒビキ様とファイトするお姉ちゃんを見て、すぐにピンときた」

「ヒビキ、様?」

 聞き捨てならない敬称が聞こえた気もするが、レイは気にせず話を続ける。

「根絶者使ってるし、ディフライダーがディフライダーを見るとなんとなく分かるんだ。共鳴するって感覚が近いかな」

 レイが再び手の甲をかざし、リンクジョーカーの紋章を浮かび上がらせる。ミオも右手の甲に違和感を覚え、見ると、同じような紋章が浮かんでいた。

「お姉ちゃんに会いに行かなくちゃと思って。住所までは分からないから、お姉ちゃんの高校を目指すしかなくて、それはもう勉強したよ。何でこんな難関校にいるの?」

「む? 私の記憶能力や身体能力が同年代と比較して異常に高かったりするのも、そのディフライドとやらのおかげと納得していたのですが」

「え? そんな特殊能力、アタシにはないけど? 運動も勉強も中の下レベルだよ」

「まじですか」

「まじだよ」

 どうやらミオがやたらハイスペックなのは素だったようだ。

「では、私が感情の機微に乏しいのも、ディフライドの影響かと思っていましたが、どうやらそれも違うようですね。……少なくとも、あなたは笑えています」

「あはは。それならアタシも本質的にはお姉ちゃん同じだよ。ただ人に紛れるため、笑顔を取り繕って、クラスメイトの口調を真似て、人に化けてるだけ。

 正直に言って、人の感情ほど理解に苦しむものはないかな」

 そう言うレイの瞳はガラス玉越しに虚空を覗いているかのように何も映してはいなかった。こういうのを「目が笑っていない」とでも言うのだろうか。ミオだからこそ気付かなかっただけで、ユキやアリサなら彼女の本質など一目で看破してしまったかもしれない。

「あっ! けど、お姉ちゃんと会えて嬉しいのは本当だからね!」

 レイが慌てて補足するが、部屋の空気が気まずい沈黙に落ちる。

「……これが最後の質問です」

「さっきのは!?」

「やり直しです。レイさん。あなたはこれからどうするつもりですか?」

「もちろん、お姉ちゃんと同じ部活に! カードファイト部に入りたい! お姉ちゃんが迷惑じゃなければ、だけど」

「迷惑ではありません。むしろ助かります。ですが、カードファイト部には入部試験ファイトという伝統が去年からできたのです」

「去年にできたばかりなのに伝統!?」

「レイさん。私とファイトしましょう」

 ミオが鞄からデッキケースを取り出した。

「うん! アタシ、お姉ちゃんとファイトしてみたかった!」

 レイもすぐさま自分の鞄からケースを取り出して答える。

「私もです。不思議なものですね。生まれた頃から、この日が来るのをずっと待ち望んでいたような気がしています」

 きっと、ミオの中にいた根絶者がずっと呼び求めていたのだろう。数奇な運命に引き裂かれたきょうだいの姿を。

 

 

「スタンドアップ ヴァンガード」「スタンドアップ ヴァンガード!」

 お馴染みの掛け声と共に、ミオとレイがテーブルの上に置かれた1枚のカード(ファーストヴァンガード)を同時にめくる。

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《プライモディアル・ドラコキッド》!」

「……ギアクロニクル? 根絶者ではないのですか?」

「えへへ。だって同じクランじゃ、お姉ちゃんと一緒にヴァンガード甲子園に出場できないでしょ?」

 目を丸くして驚くミオに、レイが悪戯っぽく微笑んだ。

「けど、アタシのギアクロニクルは根絶者の代わりなんかじゃないからね。24ものクランの中から選んだ、アタシの相棒なんだから!」

「……いいでしょう。あなたのデッキとの絆、見せていただきましょう」

「うん! いくよ、お姉ちゃん!

 ライド! 《メーザーギア・ドラゴン》! アタシはこれでターンエンドだよ」

「スタンド&ドロー。

 ライド。《発酵する根絶者 ガヰアン》

 コール。《速攻する根絶者 ガタリヲ》

 バトル。ガヰアンでヴァンガードにアタックします」

 このアタックはヒットし、互いにトリガー無し。

 続くガタリヲのアタックはガードされ、ミオはターンエンドを宣言する。

「スタンド&ドロー!

 ライド! 《スモークギア・ドラゴン》!

 コール! 《スチームブレス・ドラゴン》!

 スチームブレスのスキル発動! 山札の上から5枚見て……G3の《リノベイトウイング・ドラゴン》を手札に加えて、手札の《時空竜 イディアライズ・ドラゴン》をドロップするよ。

 さらに《テキパキ・ワーカー》をコール! ドロップゾーンのイディアライズをデッキに戻してSB2、1枚ドロー!」

「ふむ……」

 言うだけあって、そのプレイングに迷いは見られない。ミオは素直に感心した。

「バトルだよ! スチームブレスで、ヴァンガードにアタック!」

(クリティカル)トリガーでガードします」

「《テキパキ・ワーカー》のブースト! 《スモークギア・ドラゴン》でヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです」

「ドライブチェック! ……引トリガー! カードを1枚引くよ」

「ダメージチェック。トリガーはありません」

「ターンエンドだよ」

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《迅速な根絶者 ギアリ》

 コール。《慢心する根絶者 ギヲ》、《悪運の根絶者 ドロヲン》

 バトルです。ドロヲンのブースト。ギアリでヴァンガードにアタックします」

「《スチームメイデン ウルル》でガード!」

 ミオの憑依した根絶者が虚無を纏った腕を振るう。

 その眼前にいつの間にか現れた黒髪の少女が、自分の上背より巨大な砂時計をひっくり返す。たったそれだけで根絶者の攻撃は巻き戻され、「なかったこと」になった。

 まさしく、時間を操るギアクロニクルのみが成せる妙技である。

「いい判断です。

 ドライブチェック……引トリガー。1枚引いて、パワーはギヲに。

 続けて、ガタリヲでヴァンガードにアタックします」

「そっか。アタシのリアガードが2枚以下だから、ガタリヲのパワーが+4000されるんだ。

《コロコロ・ワーカー》でガード!」

「ギヲでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード……トリガーじゃないね」

「……なるほど。私はこれでターンエンドです」

 自分から根絶者と名乗るだけあって、根絶者の造詣も深いようである。

 ここまでお互いにダメージは2点。

 ミオがふと手札から顔を上げると、レイとぱっちり目が合った。

「ふふふ。楽しいね、お姉ちゃん」

「ええ。そうですね」

 レイは満面の笑みで。ミオは微笑して言葉を交わし合う。

「こうしてお姉ちゃんとファイトできる日を、半年前からずっと楽しみにしてた。

 ううん。ひょっとしたら、お姉ちゃんのことを知る前から、この日を待ち侘びてたのかも知れない。

 時空を越えて出会えた、アタシのお姉ちゃんに見せてあげる! これがアタシのパートナー!

 ライド!! 《時空竜騎 ロストレジェンド》!!」

 レイの呼びかけに応え、黄銅色の鎧を纏った竜人が姿を現す。

 特徴的なのは、その手に携えた複雑な機構の機械剣で、剥き出しの歯車が時を刻むように一定の間隔で回転を続けている。

「イマジナリーギフト! フォースⅠを右前列のリアガードサークルに!

 行くよ、ロストレジェンド! スキル発動! 手札から《スチームスカラー イルカブ》をG3扱いとして捨てて……時空超越(ストライドジェネレーション)!!」

 竜人が機械剣を高々と掲げると、時を早送りにするかのように歯車の回転が速くなっていき、真っ白い閃光が世界を包み込んだ。

「《時空竜 タイムリーパー・ドラゴン》!!」

 光の中から現れたのは、未知なる輝きを放つ純白の金属と、古めかしい真鍮で構成された機械竜人。2丁の拳銃を隙無く構え、吐息するように口元から蒸気を吐き出す。

「ロストレジェンドのスキル発動! CB2でカードを1枚ドロー!

 コール! 《リノベイトウイング・ドラゴン》! 《時空獣 アイソレイト・ライオン》!

 リノベイトのスキル発動! このユニットとアイソレイト・ライオンをバインド! デッキの上から3枚見て……うん、いい引き!

《スチームガンナー ザイード》、《スチームメイデン リッブル》をスペリオルコール! ロストレジェンドをバインド!

 おまけに《思い出を守るギアパピィ》もコール!

 ふふん。どう? お姉ちゃん」

 流れるようにユニットを展開してみせたレイが、自慢げに鼻で息をする。

「バトルだよ!

 ギアパピィのブースト、ザイードでヴァンガードにアタック! アタック時、ザイードのスキルでソウルチャージ!」

「《噛み砕く根絶者 バルヲル》でガードします」

「バトル終了時、ギアパピィのスキル発動! この子をバインドして1枚ドロー!

 スチームブレスのブースト! リッブルでヴァンガードにアタック!」

「フォースⅠがあるので、合計パワーは36000。30000要求ですね。

 ノーガードです。ダメージチェック……トリガーはありません」

「《テキパキ・ワーカー》のブースト! タイムリーパーでヴァンガードにアタック!

 アタック時、タイムリーパーのスキル発動! リッブルを時翔(タイムリープ)!!」

 機械竜が銃を味方へと向けると、何の躊躇いも無くその引き金を引いた。弾丸を受けたギアクロニクルの少女は、魔法陣に包まれ、その姿を変えていく。より強く、成長を遂げた未来の姿へと!

「スペリオルコール! 《スモークギア・ドラゴン》!」

「未来の姿と言うか、まったく別の種族に変貌してませんか?」

「細かいことは気にしない! さあ、タイムリーパーのアタックはどうする? 受ける? 守る?」

「受けましょう。ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! ★はタイムリーパーに、パワーは変わり果てた姿のスモークギア(リッブル)に!

 2枚目、(ドロー)トリガー! カードを1枚引いて、パワーはスモークギアに!」

 機械竜が巨大な金属の翼を広げ、空を翔ける。根絶者の眼前に急接近したかと思いきや、今度は時を翔け、その背後へ一瞬で回り込むと、無防備な背中に無数の弾丸を叩き込んだ。

 その弾丸の一発一発が、射抜いた対象の時間を奪う特別性だ。穴だらけになった根絶者は、そのダメージというだけでは説明がつかないほど、風化して崩れそうになっていた。

「ダメージチェック。

 1枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはギアリに。

 2枚目、(ヒール)トリガー。ダメージを回復。パワーはギアリに」

「ああ、よかったあ」

 トリガーを2枚引き当て、体勢を立て直したミオに、レイは安堵の吐息をついた。

「もう勝負が決まっちゃうんじゃないかってドキドキしたよ。お姉ちゃんとは、もう少しファイトを続けたいからね」

「ええ。ですが、勝てるチャンスをフイにしましたね」

「口の減らないお姉ちゃんだなあ。アタシの有利には変わりないんだからね!

 スモークギアでヴァンガードにアタック! パワー+5000! ソウルブラストして1枚ドロー!」

「ギヲでインターセプト。エルロでガードし、さらにクイックシールドも使用します」

「アタシはこれでターンエンド。ターン終了時、タイムリーパーはロストレジェンドに戻るよ。フォースは左前列のサークルに」

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》」

 死に体の根絶者が生まれ変わるようにして巨大な根絶者へと変貌を遂げていく。

 全身に虚無を纏った怪物が、時すらも根絶せんと彼方へ轟く雄叫びをあげた。

 ミオがちらりとダメージゾーンに目を向けた。自分のダメージ3に対し、レイのダメージはまだ2だ。

「イマジナリーギフトはフォースⅡを選択。ヴァンガードサークルに置きます」

「お。ダメージ差を詰めにきたね」

「《略奪する根絶者 ガノヱク》、《呼応する根絶者 アルバ》をコール。CB1してドロップゾーンから《呼応する根絶者 エルロ》をスペリオルコール。

 グレイヲンのスキル発動。CB2してヴァンガードをデリートします」

 グレイヲンが巨大な腕を一振りすると、騎士竜を時の彼方よりも遥かに遠い場所へと消し飛ばす。

「バトルフェイズに入ります。

 ドロヲンのブースト。グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

「それだけは通さないよ! 《スチームガード カシュテリア》で完全ガード!」

 無防備な霊体となったレイの前に、ゴーグルを額にかけたエンジニアの少女が颯爽と立ちはだかる。彼女は精巧だが小ぶりな機械盾を掲げると、人ひとりなど簡単に握り潰せるグレイヲンの掌を容易く弾き返した。今は失われた太古の技術すら接収できるギアクロニクルの兵装に、見た目通りのものなどひとつたりとて無い。

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはエルロに。

 ガタリヲのブースト。アルバでヴァンガードにアタックします」

「それも通さない! 《スチームボンバー ジグル》でガード! ザイードとスモークギアでインターセプト!」

「ガノヱクのブースト。エルロでヴァンガードにアタックします」

「それはノーガードだよ」

 レイがダメージゾーンに3枚目のカードを置く。トリガーは無し。

「ガノヱクを手札に戻して、私はこれでターンエンドです」

「アタシのターン! スタンド&ドロー!

 まずはロストレジェンドにライド!」

 恭しく跪いた真鍮の騎士竜に、再びレイが憑依する。

「スチームブレスをコール! スキル発動! 山札の上から5枚見て……ロストレジェンドを手札に。《ラッキーポット・ドラコキッド》を捨てるよ。

 そして、リッブルが捨てられた時、このユニットをスペリオルコール! タイムリーパーをデッキに戻して1枚ドロー!

 《睨みつけるギアベアー》をコールして……行くよ、お姉ちゃん!」

 先ほど手札に加えたロストレジェンドを、器用に指の上で回転させてから、ドロップゾーンに置く。

「ストライドジェネレーション!! 《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》!!」

 ロストレジェンドが再び剣を掲げ、眩い閃光に包まれる。その中から現れたのは、二門の巨大な砲を両腕に携えた機械竜。

「バインドゾーンのグレード合計は14! 19には足りなかったけど、じゅーぶん!

 ミステリーフレアのドライブ+1! ★+1! アタシのユニット6体のパワー+10000!

 バトルだよ!

《テキパキ・ワーカー》のブースト! ミステリーフレアでヴァンガードにアタック!!」

 機械巨竜が重々しく砲を構えると、古風な外観には似つかわしくない、翠緑に輝く二条の光線が迸った。

「アルバとエルロでインターセプト。ガノヱク、★トリガー、治トリガーでガード。2枚貫通です」

 グレイヲンを守らんと集まってきた有象無象を、超熱の輝きが焼き払う。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、はトリガー無し!

 2枚目、★トリガー! 効果はすべてリッブルに!

 3枚目、★トリガー! この効果もリッブルに!

 スチームブレスのブースト! リッブルでヴァンガードにアタック! フォース1つ、トリガー2つで、合計パワーは66000!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

「……むー。決めきれると思ったのにー。お姉ちゃんが守護者を使ったので、ギアベアーのスキルでドロヲンを退却させるよ。

 スチームブレスのブースト、ギアベアーでヴァンガードにアタック」

 大きな瞳をさらに見開いて驚いたかと思ったら、拗ねたようにむくれてファイトを続ける。

 このレイという少女。ミオと容姿こそ瓜二つだが、表情はコロコロと変化し、常に無表情のミオとは対照的ですらある。

「ノーガードです」

 そのミオは、いつもの如く淡々とファイトを進め、4枚目のカード――引トリガーをダメージゾーンに置く。

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

《波動する根絶者 グレイドール》にライドします」

 有機的かつグロテスクな外観のグレイヲンが、鋼鉄の鎧を纏うように無機質な姿へと変化していく。

 それは挨拶代わりとばかりに鋭くとがった指を向けると、そこから波動を放ちロストレジェンドを跡形も無く消し飛ばした。

「《欺く根絶者 ギヴン》をフォースⅡサークルの上にコールします」

「ギヴン!? ……けど、お姉ちゃんの手札は1枚。ギヴンを含めてもリアガードは2枚。グレイドールをスタンドはできないね」

「本当にそうでしょうか? あなたがギアクロニクルに通じているのはよく理解できました。しかし、根絶者のお勉強が少しおろそかになっているのではないですか?」

「え……? ……あっ!」

「コール。《層累の根絶者 ジャルヱル》」

 レイが何かに気付いた声をあげると同時、ミオがそのユニットをコールする。それは数ある根絶者の中でも最新のカード。

 根絶者にしては珍しくカエルのような四肢を持つ、異形の怪物が飛び跳ねながら現れた。

「バトルフェイズです。

 ジャルヱルのブースト。グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「カシュテリアで完全ガードだよ!」

「ツインドライブ。

 1枚目、★トリガー。効果はすべてギヴンに

 2枚目はトリガーではありません。

 続けて、ファルヲンのブースト。ギヴンでヴァンガードにアタックします」

「ウルルとスチームブレスでガード!」

「アタック終了時、ギヴンのスキルが発動します。手札とリアガードから合計6枚のカードをドロップゾーンに置くことでグレイドールをスタンドさせることができますが、おっしゃる通り、私の手札とリアガードは合計しても5枚しかありません。

 ですが、この愛らしいジャルヱルはコストとする時、3体分として扱える愛らしいスキルがあります」

「さすがに愛しすぎだと思うよ!?」

「私の根絶者への愛に限界はありません。

 ジャルヱル、ファルヲン、ギヴン、手札のアルバをドロップゾーンに置き、グレイドールはドライブ-1でスタンドします。

 グレイドールでヴァンガードにアタック」

「《リクレイムキー・ドラコキッド》でガード!」

「1枚貫通ですね。では、ドライブチェック……」

 運命を分かつ1枚のカードをふたりの少女が息を呑んで注視する。その様子に限って言えば、ふたりともそっくりだった。

「……治トリガー。ダメージ回復し、パワーはグレイドールへ」

 宙に浮かび、大地を睥睨するグレイドールの全身から黒い波動が放たれる。

《あ、あ……きゃあああああっ!!》

 それに呑み込まれたレイの全身が少しずつ崩れていき、その魂を虚空へと還した。

 

 

 6枚目のカードがレイのダメージゾーンに置かれた。

「私の勝ちですね」

 薄氷の勝利に、小さく安堵の吐息を漏らしながらミオが言う。

「うん! 悔しいけど、すっごく楽しかった! ね、お姉ちゃん! もう1回やろ!」

「はい。ですがその前に……」

「あ、そう言えば、これって入部試験だっけ?

 あれ? 負けちゃったから、もしかしてアタシ、入部できない……?」

 レイの顔が今にも泣きだしそうに歪んでいく。

「いえいえ。合格。合格です」

 ミオが慌てて言った。

「え……?」

「入部試験はファイトの実力を測るものではありません。あなたがファイトを楽しんでいるかを知りたかったのです。

 それに、客観的に見て不審者であるあなたを、部を預かる身としては、おいそれと受け入れるわけにはいきませんでした」

「不審者って。ひどいなあ」

 レイが口を尖らせる。

「ですから、ファイトをして見極めたかったのです。ファイトの中では誰も嘘はつけませんから。

 そして、あなたのファイトから偽りは何一つとして感じられませんでした。あなたは一人前のファイターであることを、私に示してくれたのです。

 だから合格です。カードファイト部への入部を認めましょう」

「やったあ! これで毎日一緒にファイトができるね、お姉ちゃん!」

 椅子から跳び上がって喜び、レイはテーブルを越えてミオに抱きついた。

「その、お姉ちゃんと言うのは……」

「あ、ごめん。もしかして嫌だった?」

 ミオからパッと離れ、困ったような顔をする。

「いえ。ですが他の人にはディフライダーなどという荒唐無稽な説明はできません。そうなると、姉と呼ばれる必然が……」

 ここまで言って、ミオは言葉を止めた。レイの瞳がみるみるうちに潤んできたのだ。

「……お姉ちゃんがいいですか?」

「うんっ!!」

 レイは力いっぱい頷いた。

「仕方ありませんね。私達は従姉妹どうしという設定で通しましょうか。

 私も、その、悪い気はしませんし……」

 急に顔が熱を帯びてきたのを感じ、ミオはそれを隠すように顔を背けた。そんな姉の気持ちなど露知らず、妹は再び抱きついてくるのであった。

「ありがとう! お姉ちゃん、だーい好きっ!!」

 一見すればほのぼのとした平和な光景。

 しかし、誰にも見えないところで運命の歯車は静かに動き出していた。

 

 そう、これは――

 

 1人の少女が世界を消去する物語である。




根絶少女ラストシーズン。
3年生編の第一幕をお届けすることができました。
今回は異色のギアクロニクル使い、根絶者のディフライダーでもある時任レイがカードファイト部に加わるお話でした。
彼女はえくすとらでもレギュラーとして活躍してもらう予定なので、残り1年どうぞよろしくお願い致します。


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5月「誰にとっても、最大の敵は自分自身なのだ」

 その日はいつもと同じような放課後だった。

 カードファイト部の部室に集まり、少しファイトをして――もしくは最新パックについて他愛の無いお喋りをしてから――学校から最寄りのカードショップである「エンペラー」へと向かう。新入部員である時任(ときとう)レイに実戦経験を積ませるため、最近は部室でファイトするよりも、ショップで大会に参加することの方が多かった。

 今日も「エンペラー」では小太りで人のいい店長がミオ達を優しく出迎えてくれる……はずだった。

「いらっしゃいまっせー!!」

 しかし、本日響星(きょうせい)学園カードファイト部の面々を出迎えたのは、店長の野太い男声とは似ても似つかぬ、少女の明るい声だった。それもその声は、ミオとサキがよく知る声であった。

「あらっ! ミオちゃんにサキちゃんじゃない! いらっしゃーい!」

 その声の主、『エンペラー』の制服であるエプロンをかけ、黒髪で左目を隠した特徴的な髪型の少女が小走りに駆け寄ってきた。

「……アリサさん」

 ミオがその少女の名を呼ぶ。

「店の備品でふざけてはいけませんよ。店長や他のお客さんのご迷惑になります」

「なんでそうなるのっ!?」

 続けて出た説教に、片目を隠した少女――天道(てんどう)アリサは抗議の声をあげた。

「あたしはれっきとしたカードショップ『エンペラー』のスタッフよ!? 今月からアルバイトとして採用されたの!」

「本当ですか?」

 必死に名札を指し示して抗議を続けるアリサに、ミオはなおも疑いの眼差しを向ける。

「ははは、本当だよ」

 カウンターから重たそうに身を乗り出して、『エンペラー』の店長が助け舟を出した。

「僕も先月にアリサちゃんから雇ってもらえないかって相談を受けた時は驚いたけどね。これまで僕と妻のふたりで回してきたショップだったし。

 けど、こう見えて真面目だし、意外と呑み込みも早いし、実はカードの知識もあるから、役に立ってくれてるよ」

「あたしが仕事できるのって、そんなに意外ですか!?」

 アリサが抗議の矛先を店長に向ける。

(いつも隣にいたユキさんの影に隠れていただけで、アリサさんも優秀なんですけどね)

 いつもアリサの隣にいて、彼女の影を薄くしていたハイスペックな少女はもうひとりいたのだが、当人はそのことに気付かずうんうんと頷いていた。

「まあ、冗談はここまでにしておいて。おめでとうございます、アリサさん。受験を機にメイド喫茶を辞めたと思ったら、こんなところに再就職していたとは意外でしたが、似合っていると思います」

「はい! 好きなことを仕事にできるなんて、すごいです!」

 ようやくミオとサキが口々に祝福する。

「ありがとね。けど、あたしはこれで満足してないよ」

 ミオとサキの耳元に顔を寄せて、囁くようにアリサが言う。

「あたしはね。いつか自分のお店を持つのが夢なんだ」

「わあ!」

「なるほど。だから経営学部や商学部の強い大学に進んだのですね」

 サキが目を輝かせ、ミオが納得したように頷いた。

 アリサが受かった大学の名前を聞いた時、文系のアリサらしからぬ理系の大学で、内心疑問に思っていたのだが、それが今解決した。

「うん。やっぱりあたしはヴァンガードが好きだし。けど、プロとしてやっていけるほど上手くもないし。そもそもあたしがヴァンガードで好きなのは勝ち負けを競うことじゃなくて、ファイトを通して人と繋がれることだったから。

 その場所をあたしが作ることができたならって、去年、進路を考えている時にふと思ったの」

「素敵です! 私、アリサさんのお店ができたら、遊びに行きますね!」

「ふふふ、その時はカッコいい彼氏と一緒にね」

「ちょっ! アリサさん!」

 顔を真っ赤にしたサキが、含みのある言い方をしたアリサのエプロンをパンパンと叩く。

「ね、お姉ちゃん。そろそろそちらのカッコいいおねーさんを、アタシにも紹介してくれないかな」

 ミオが空いた隙を見計らって、レイがミオの制服を引っ張りながら言った。白髪を二つ括り(ツインテール)にした少女はミオと瓜二つだが、彼女と違って空気は読めるのだ。

 だが、ミオが「そうですね」と紹介をはじめるよりも早く、アリサが先にレイに気付いた。

「何、その子!? 新入生!? めっっっちゃかわいくない!? 1年生の頃のミオちゃんみたい!!」

「はい! アタシは響星学園カードファイト部の1年生、時任レイです! ミオお姉ちゃんの従妹にあたります!」

「どうりで似てると思った! あたしは響星学園カードファイト部を去年卒業した天道アリサよ。よろしくね!」

「よろしくお願いします、アリサさん!」

 レイが礼儀正しくぺこりと一礼する。

「うーん。見れば見るほどミオちゃんそっくりね。ね、レイちゃん。ほっぺた触っていい?」

「いいですよ。なんなら、ぎゅーっとしていただいても構いません」

「いいの!? ……うわ! 柔らかい! 本当にミオちゃんみたい!」

 ミオもそうだったが、レイもその容姿からお人形扱いされやすいのだろう。基本的にされるがままのミオと違って、それを交流に利用してしまうのは、ミオに無いしたたかさだが。

「アリサちゃーん。ウチのエプロンつけてそういうことするのはやめてほしいなー」

 少女を愛でる変態と化したアリサを、店長がやんわりと注意する。

「はっ! いけない! まだ仕事中だった!

 じゃ、あたしはバックヤードで品出ししないといけないから。3人ともごゆっくりー」

「あ、ちょっと待って。アリサちゃん」

 何事もなかったかのように颯爽と去っていこうとするアリサを、店長が呼び止める。

「裏に行くなら、例のポスターを持ってきてくれないかな。後回しになっていたけど、響星のみんなには早く教えておかないと」

「あ、アレですね。りょーかいでーす」

 アリサは手をひらひらと振って、カードゲーマーなら誰もが一度は気になったであろう『STAFF ONLY』と記された扉をくぐり、すぐに筒状に丸められた巨大な紙を両手で抱えて戻ってきた。

「それは何ですか?」

 サキが尋ねる。

「今月末に開催される大会の告知だよ、っと」

 そう言って、アリサが巨大な紙を広げた。

「……ショップ対抗戦?」

 レイがそれを声に出して読みあげる。

「そ。毎月に1度、近隣22件のカードショップで店長会議っていうのが開かれるんだけど、先月はみんなお酒が入りすぎちゃって、自分のショップの常連が一番強いんだーって論争に……」

「アリサちゃん!? 今、その話はいいからね」

「そですかー? ま、そんなショップ対抗の大会が開催されるわけだから、響星のみんなも『エンペラー』代表としてエントリーしてほしいなっていうお願いなんだけど」

「もちろん! ね、お姉ちゃん!」

 ここに引っ越してきてから日が浅く、『エンペラー』以外のショップをほとんど知らないレイが一も二も無く同意し。

「ふむ。私個人としては、強いファイターの集まる『ストレングス』や、家から近くてシングル価格も安い『テンパランス』をよく利用するのですが。響星学園カードファイト部として『エンペラー』にお世話になっているのも事実です。ここはアリサさんの顔を立てる意味でも、『エンペラー』代表としてエントリーしましょうか」

 ミオもやや危ういながら『エンペラー』についた。

「サキちゃんも、もちろん『エンペラー』だよね!?」

 レイがサキへと振り向いて尋ねる。この小柄な少女は、何故か先輩(サキ)のことをちゃん付けで呼ぶ。

 話を振られた黒髪の少女は熟考するように、顎に手をあてている。俯いた顔にかかった眼鏡に照明が反射して白く輝いており、その表情も伺い知れない。

「……サキちゃん?」

 レイが不安げな声をあげる。

「アリサさん、店長さん。レイちゃんも、すみません。そのお話、考えさせてください」

 サキが何かを決心したように顔を上げる。ようやく見えるようになった瞳が、強い決意に輝いていた。

「私は……一度ミオさんと本気でファイトしてみたいです」

 そして、その瞳をミオへと真っ直ぐ向ける。

「む? 私はサキさんと毎日本気でファイトをしていますが」

 それにさらされたミオは、なんら臆することなく首を傾げた。

「そうかも知れません。けど、慣れた場所でする勝ち負けを気にしなくていいファイトと、負けが許されない大会でのファイトは、やっぱりどこか違いますよ。

 確かにミオさんは、そういうムラが少ない方だとは思いますが、それでも違います」

「ふむ。この1年間、私を客観的に見ていたサキさんが言うのでしたら、そうなのでしょう」

 ミオは存外素直にそれを認めた。

「ですが、何故、私と?」

「去年、部活でオウガ君がはじめてミオさんに勝った時。私、少し悔しかったんです。

 ヴァンガードを始めた時期は実質同じで、最初は私の方が強かったのに、いつの間にか追い越されちゃった気がして。最終的には天海のアラシさんにまで勝っちゃいますし。

 でも、オウガ君はもう部活にいない。だから、私が代わりに強くならなきゃいけないんです! 響星学園カードファイト部のためにも、自分自身のためにも!

 そして、オウガ君がカードファイト部で果たせなかったことはただ一つ……」

「大会でミオちゃんに勝つこと、ね」

 アリサが頷きながら答えた。

「はい。ですので私はプライベートでよく行くショップの『ムーン』代表として参加させて頂きたいと思います。すみません……」

「いいのよ! そういう理由なら大歓迎! ね、店長!」

 深々と頭を下げようとしたサキの両肩を押さえながらアリサが言った。

「もちろん。そもそも僕達には止める権利もないしね」

 そう言って店長も笑った。

「アリサさん、店長さん……ありがとうございます」

 サキが安心したような笑顔を見せたその時だった。

「ハッ! 弱小ショップの連中がウダウダやってやがんなァ!!」

 明後日の方向から品の無い声があがり、全員がそちらを振り向いた。アリサなどは「はい?」と言いながら思い切り顔をしかめ、ミオに至っては視線だけで人を凍死させかねないくらいに冷たく瞳を細めていた。

 彼女達の視線の先には、赤い髪を見事なモヒカンに仕上げた男が、行儀悪くファイトテーブルに腰かけている。黒皮の衣装のあらゆる場所に鋲が輝いており、その周囲だけ世紀末な雰囲気を漂わせていた。

「ちょっと! 誰よ、アンタ! 失礼ね!」

 体格も年齢も差がありそうなその男に、まずはレイが食ってかかろうとした。

「お客様。そこはファイトのためのテーブルですので、座るのはご遠慮頂けますか?」

 それを片手で制しながら、アリサが平静を装って注意する。

「おっと悪ィ悪ィ。甘タレなショップのルールではそうなってたな」

 男は意外にも素直にテーブルから降りた。

「で、俺が誰かって? カードショップ『デビル』と言えばわかるかァ?」

 それを聞けば誰もが怯えて当然という風に男が言い、ミオが「なんのこっちゃ」と言いたげに首を傾げた。

「『デビル』……!! 気をつけて、ミオちゃん。彼らはファイトに勝つためなら手段を選ばないならず者よ。聞くところによると、凶器攻撃から毒ギリ攻撃まで何でもアリという話よ……」

「それはまず競技を間違っているような気もしますが」

 アリサが囁き、ミオが半眼になってツッコんだ。

「毒ギリだァ!? カードを汚すようなマネ、俺達がするわけねェだろうが!!」

「凶器攻撃はするんですね」

「おうよ!」

「そんなことはどうだっていいの!」

 レイが声を張り上げて、どうでもいいやり取りを遮る。

「アタシが許せないのは、『エンペラー』を弱小だの甘タレだのシングル価格が微妙に高いだのバカにしたことだよ!」

「シングル価格には触れてませんよ」

「興奮しすぎて本音がでちゃいましたね」

 ミオとサキがこそこそと囁き合う。店員ふたりは少し落ち込んでいた。

「ハッ! 許さないならどうする?」

「ショップ対抗戦を待つまでもないわ! この場でアタシが『エンペラー』の強さを思い知らせてあげる!」

 レイが学校指定のカバンからデッキケースを取り出して、『デビル』の男に突きつけた。

「面白ェ! 『デビル』の恐ろしさを骨の髄まで味わわせてやろうじゃねえか!」

 男も、どこで売っているのか不明な、黒皮に鋲を打ち込んだデッキケースを取り出して構えた。

「そこまでにしておけ、『デビル』」

 一触即発の雰囲気に水を差すかのように、男の背後から声がかかった。

 男の後ろに、フードを目深に被った黒いローブ姿の男がいつの間にか立っていた。前々からそこにいたというよりか、急に現れたとしか思えない登場の仕方だった。

 鷹の目とまで称されるミオの空間認識能力ですら、そこに人がいることなど、実際に男が声をあげるまで気がつかなかった。

「だ、誰だテメェは!?」

 不意に背後を取られて焦っているのか、うわずった声で『デビル』の男が誰何する。

「カードショップ『ハーミット』」

 黒フードの男がそれだけ告げると、いよいよ『デビル』の表情が青ざめた。

 ミオはやはり首を傾げた。

「『ハーミット』……!! 会員制のファイトスペースがあり、その会員は、外の大会には滅多に姿を現さないと言うわ。けど、その実力は『ストレングス』以上とも噂されている……」

「はあ」

 アリサの解説にミオが気の無い声をあげた。(そんなことより、そろそろファイトがしたいです)とか思っていそうだ。

「そ、その『ハーミット』が何の用だ!?」

『デビル』の男が虚勢を張って叫ぶ。

音無(おとなし)ミオを擁する『エンペラー』の偵察に来たのだが、無粋な先客がいたものでな。まずは私が相手になってやろうか? 小学生を相手にするよりは練習になるぞ」

「アタシ、高校生なんだけど!?」

 レイが抗議の声をあげる。

「へ、へへ……大事な大会の前にアンタとやりあうほどバカじゃねえよ」

『デビル』の男は愛想笑いを浮かべると、一目散に出口まで駆けていった。

「覚えてやがれ!」

 そして扉の前でそれだけ言い捨てると、男は店から出ていった。

「うーん。やれるだけの三流ムーブやって退場していった感じね」

 アリサが妙なところで感心する。

 一方、『ハーミット』の男も静かに動きだすと、ミオの横をゆっくりと通りすぎる。

「音無ミオ。君とはショップ対抗戦の決勝で当たることになるだろう」

 と言い添えて。

「すみません。先約があるので、それは少し難しいかと」

 ミオはきっぱりと言い切った。『ハーミット』の足が止まり、サキが嬉しそうに口元に手を当てる。

「決勝の相手は決まっているので、できれば準決勝あたりでお願いします」

 ミオがなおも言い直す。サキの瞳が潤んでいた。

「……ふん」

『ハーミット』の男は鼻で息をつくと、それ以上は何も言わず、店を出て行った。

「これでいいんですよね、サキさん」

 ミオが確認しながら、サキに手を差し出した。

「はい……はい! 決勝でファイトしましょう! 絶対に!」

 サキは涙をこぼしながら笑顔を浮かべ、その手を強く握り返した。

 

 

 ショップ対抗戦当日――

 特定のショップで開催するのは不公平だという話になり、対抗戦は500人以上が収容可能な会場を貸し切って行われることになった。

 事の発端を思えば、信じられないくらいに大規模な大会になったと言えよう。

 あてがわれた控室で、私服である清楚な春色ワンピース姿のミオは、自身とレイを含めた総勢10人からなる『エンペラー』のファイターを見渡していた。

 ちなみにレイの私服は、ミオとは正反対の活動的なショートパンツルックである。

(オウガさんも誘ってみましたが、アメフトの試合があるので無理とのことでした。まあ、引退して1ヵ月で再登場していたらさすがに格好がつかないので仕方ありませんね)

「……その代わり、頼りになる助っ人が来てくれましたし」

「ほほーう。そんなヤツがいるのか。楽しみだなあ」

「あなたのことですよ、ライガさん」

 ミオが見上げるようにして、合いの手を入れてきた声の主に視線を向ける。はちきれんばかりのTシャツを着た大男が、大袈裟な身振りで周囲を見渡す仕草をしていた。『エンペラー』常連のひとりにして、響星学園のOB。今は大学3年生の近藤(こんどう)ライガだ。

「なんだと!? まあ期待に応えられるかはわからんが、全力でやるだけだ。はっはっは!」

 そう言って、豪快に笑う。

 どうやらとぼけているわけでもなく、本当に自分が頼りになるとは認識していなかったようだ。

 ちなみに他のメンバーも、もちろん全員が『エンペラー』の常連で、ミオとは面識がある。皆、ファイトの腕前は悪くないのだが、アットホームな『エンペラー』の宿命か、いずれも大きな大会の出場経験は乏しい。そのため、全国大会の優勝者であり、冷静かつ客観的に物事を捉えることのできるミオをリーダーとするのに、誰からも異論は上がらなかった。

「では、大会のルールをおさらいしておきましょう。

 大会形式は22のショップによるトーナメント。1試合ごとに各ショップから1名代表者を選出し、勝利したファイターのショップが勝ち上がりです。

 重要なのは、1度選出されたファイターはこの大会中、もう1度選出することができないという点ですね」

「強いファイターをひとり擁していればいいってわけじゃないんだね」

「まさしくショップの総合力が問われるわけだな!」

 レイとライガが補足する。

 要するに、この中ではミオが頭ひとつ抜けて強いからと言って、彼女ばかり代表に選出することはできないということである。

「そして、本日のトーナメント表がこちらになります」

 言いながら、ミオがホワイトボード貼られた巨大なトーナメント表を指さした。

「……何なの? このヘンテコなトーナメント表は」

 シードばかりの歪な形をしたトーナメント表を見て、レイが一筋の汗を垂らした。

「22チームでトーナメントをやろうとするとこうなります。

 おろかな作者は、最初はここにトーナメント表を書く予定だったのですが、あまりにも複雑すぎて断念しました」

 詳細は「22人 トーナメント」あたりで検索してほしい。

「とりあえずあたし達はシードだから、4回勝てれば優勝だね。ラッキー!」

「いえ。この大会では何回戦うかではなく、どこと戦うかの方が重要でしょう」

「あ、そっか。ファイトを重視してるショップとそうでないショップで、強さに差があるはずだもんね」

「はい。私が知る中で、強敵となるのが予想されるショップは、非常に多くの常連を抱えており、取れる選択肢の幅が広い『タワー』

 近隣ショップ屈指の老舗であり、場馴れしたベテランファイターを多く擁する『マジシャン』

 そして、何よりも……強者の巣窟であり、ヴァンガード甲子園の優勝候補に数えられる聖ローゼ学園のファイターほとんどが通い詰めているという『ストレングス』ですね」

「うわ。このままだと、サキちゃんのいる『ムーン』と、『ストレングス』が準決勝でぶつかっちゃうよ? サキちゃん大丈夫かな……」

 トーナメント表を改めて確認したレイが不安そうな声をあげる。ミオとサキが逆のブロックになったまではよかったが、その前には巨大な壁が立ちはだかっていた。

「正直に言って、厳しいでしょうね」

 サキから聞いた話だが、『ムーン』も『エンペラー』同様カジュアルなショップで、ショップ大会より上の大会を経験した者はほとんどいないそうだ。サキなら甘く見積もって互角に戦えるかも知れないが、彼女はミオとの約束を果たすため決勝まで出てこないだろうし、そんなことを知らない『ストレングス』は、サキを警戒して本気で潰しにくるだろう。聖ローゼのファイターは、彼女の底力が侮れないことをよく知っている。

 もちろんこの世界は大会がすべてではない。ユキのような隠れた実力者が『ムーン』に所属している可能性もゼロではないが、奇しくも彼女がそうであったように、そのようなファイターがいるのであれば、何らかの噂にはなっているものなのである。

「ですが、私達が他のチームのことを気にしても仕方がありません。私達は私達で決勝に進めるよう全力を尽くすだけです」

 このあたりの割り切りは音無ミオの真骨頂と言える。

「うん、それもそうだね」

 そして、本質的には彼女に近いレイもあっさりとそれに同意した。

「では、そろそろ時間ですね。行きましょうか」

 ミオが時計も見ずに指示を出す。だが壁にかけられた時計は、集合時間の5分前をきっかり指していた。

 

 

「逆シードの試合が終わって、いよいよ16のチームが出揃いました!

 ショップ対抗戦はここからが本番! 

 それじゃー、さっそくいってみましょう!

 第1テーブルでは『タワー』VS『ジャスティス』!!

 第2テーブルでは『エンペラー』VS『デビル』!!

 第3テーブルでは――」

 会場こそ中立のスタジアムが手配されているが、スタッフのほとんどは22のショップで働く店員達である(ただしジャッジは対戦しているショップ以外の店員が行う)。

 その中から司会に抜擢されたアリサが、マイクを片手にファイトを盛り上げていた。

「『デビル』!? お姉ちゃん! アタシに行かせて!」

 対戦相手の名を聞いたレイが、手を挙げて代表に立候補する。

「……いいでしょう。この間の借りを返してきてください」

 レイの瞳を覗き込み、冷静さは失われていないことを確認すると、ミオは小さく頷いてそれを認めた。

「ですが、凶器攻撃には注意してください」

「どう注意しろと!?」

 レイが悲鳴じみた声をあげた。

『デビル』の代表は、この前の赤いモヒカンの男だった。ちなみに他の『デビル』のメンバーには、青いモヒカンと、黄色いモヒカンと、黄色のモヒカンと、ピンクのモヒカンがいた。

(わあ、きれい)

 レイが心の中で投げやりにツッコむ。

「へっへっへ。テメェが対戦相手か! 俺のデッキで吠え面かかせてやるぜェ!!」

 そんなことより、男のデッキケースからちらりと見えた栓抜きの方が気になった。

「俺とファイトするなら、『デビル』のルールに従ってもらう! お互いにメンチを切りながらデッキをシャッフルして、先に目を逸らした方が後攻だ!」

「知らないし、そんなオモシロルール! 普通にじゃんけんしようよ!?」

 だが、男はすでに中指を立ててデッキをシャッフルしながらレイに迫ってきている。ジャッジが止めないところを見ると、彼も『デビル』の案を採用したようだ。ジャッジもプロで無い分、アドリブが効くというか、ノリがいい。

 仕方なく、レイも半眼になって男を睨み返す。こう見えて根絶者を自称する少女である。睨まれたくらいで乱すような心など、もとより持ち合わせていない。

「……プッ」

 そして、彼女は1秒足らずで男から目を逸らした。

 目をギョロつかせ、口をピクピクさせながら迫る男の顔が、あまりにも面白すぎたのだ。

「先攻、『デビル』!」

 ポンコツのジャッジが宣言する。

「シャアッ! この程度でビビるとは、やっぱガキんちょだな!」

「違うし! アンタの顔が反則すぎるだけだし!」

「俺のターン! スタンド&ドロー!!」

 男が中指を立てながらカードを引き、『エンペラー』のショップ対抗戦が始まった。

 

 ――3分後

 

「……《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》でアタック」

「ノーガードだぜッ!!」

「トリプルドライブ。1枚、2枚、3枚……あ、(クリティカル)トリガー」

「ダメージチェック! 1枚目! 2枚目! ……3枚目ェ!!」

 あっけなく6枚目のカードが男のダメージゾーンに置かれた。

「よわっ」

 レイが思わず素直な感想を口にする。

「くそっ! (ヒール)トリガーを引いていれば勝っていたのに!」

「ヴァンガードファイターが一番したらダメな言い訳だよ、それ!?」

「ガッデム! ……覚えてやがれッ!」

 男がデッキをケースに片付け、捨て台詞を吐いて去っていく。

「え!? 凶器攻撃は? 栓抜き、使わないの?」

 別に使って欲しかったわけではないが、何も無いのも拍子抜けである。もし本当に襲い掛かってきたのなら、姉に押し付けようと考えていたのだ。

「ハッ! 見損なうんじゃねェ! 『デビル』以外のファイターに、俺達が凶器を使うわけねェだろ!」

 振り返りながらニヤリと笑って、男が今度こそ去っていく。

 他のモヒカン達に迎えられた彼は、「負けちまったけど、ロックだったぜ!」などと、わけのわからない慰めを受けていた。

 彼らは彼らなりにヴァンガードを楽しんでいるのだろう。たぶん。

「お疲れさまでした」

『エンペラー』陣営に戻ったレイも、ミオから労いを受けた。

「本当に疲れたよ……」

 レイが渇いた笑いを漏らす。

「アタシのファイト、今日はこれで終わりなのー? 物足りないよー」

「ですが、あなたが早くファイトを終わらせてくれたおかげで、他のファイトを見学する余裕ができました。ここは『ストレングス』の偵察でもしておきましょうか」

「あ、さんせーい!」

 レイが諸手を挙げて同意し、『エンペラー』一行は『ストレングス』のファイトが見える位置へと移動する。

「お、やってるな!」

 さすがに優勝候補筆頭である『ストレングス』のファイトともなると周囲に見学者で溢れていたが、背の高いライガは誰よりも早くファイトの様子を知ることができたようだ。

「え? 見えないよー」

 一方、背の低いレイは、背伸びをしてファイトの様子を伺おうとしている。

 同様に背の低いミオはと言うと、人混みの間をするすると抜け、ちゃっかり最前列に移動していた。

「《バトルシスター ふろまーじゅ》でヴァンガードにアタック!」

 ミオが立ち会ったのは、艶のある黒髪を上品に伸ばした……されど性格はキツそうな吊り目の少女がアタック宣言を行うところであった。

(1回戦で早くもミコトさんですか)

 その少女はミオもよく知る少女、神薙(かんなぎ)ミコトだった。

 聖ローゼの3年生で、今年は晴れてカードファイト部の部長に任命されたと聞いている。普通に考えれば初手に切るような札ではないが、それもそのはず、『ストレングス』には小金井(こがねい)フウヤをはじめとした聖ローゼのOBやOGもゴロゴロいるのである。1回戦など現役の部長で十分ということか。

(む? ですがこの状況、少しまずくないですか?)

 ミコトの手札は5枚。彼女の愛用するオラクルシンクタンクにしては、やや少ない。それも対戦相手は……。

「《ダイヤモンド・エース》で完全ガード」

(ディメンジョンポリス……)

 中学生――いや、高校生になったばかりだろうか。あどけなさを多分に残した黒髪の少年が丁寧な手つきでカードを切る。

「ツインドライブ!!

 1枚目! ★トリガー! パワーは《バトルシスター まかろん》に!

 2枚目! ★トリガー! パワーは《バトルシスター ぷらりーぬ》に!」

 事前にふろまーじゅのスキルでデッキトップを操作していたのだろう。ミコトが迷いなくトリガーを割り振っていく。だが、彼女の表情は険しかった。このターンでは勝ちきれないことを、既に自覚しているのだろう。

 それを裏付けるかのように、残るバトルシスターのアタックも防がれてしまう。

「ライド……!! 《黒装傑神 ブラドブラック》……!!」

 そして、少年が切り札にライドした。

 その瞬間、ミオの眼前に厳かな夜景が広がった。

 血を零したかのような紅い月に無数の蝙蝠が群がり、ひとつの巨影を形成していく。

 宵闇に溶け込む漆黒の装甲に、頭部には仮面舞踏会の意匠。

 巨大な鉄の塊にありながら、どこか紳士的ですらある佇まいは伝説の吸血鬼を想起させる。

 ミオだけではない。

 この場にいる誰もが月下に舞う黒鋼の吸血機を幻視(イメージ)した。

「バトル……! 《ツイン・オーダー》のブースト、《プラチナム・エース》でヴァンガードにアタック。

《ツイン・オーダー》のスキルで、ブラドに+15000」

 皆が見惚れている間にも、少年は粛々とファイトを続けていた。

「プロテクトで完全ガード!」

「《宇宙勇機 グランザイル》でヴァンガードにアタック」

「《バトルシスター ぶりおっしゅ》でガード! まかろんでインターセプト!」

「ブラドでヴァンガードにアタック……!」

「ノーガード!」

「ツインドライブ……!! 1枚目、2枚目、どちらもトリガーは無い」

 ブラドブラックが紅の翼を広げると、手にした大鎌で地上を薙ぎ払った。

 超高熱のビームで形成された刃が大地を舐め尽くし、仇名す者の命を根こそぎにして刈り取っていく。

「ダメージチェック。治トリガー!」

 これも予定調和ではあるのだろう。躊躇なく受けた6点目のダメージを回復し、ミコトのダメージは依然として5点のまま。

(ですが……)

「ブラドのスキル発動……!! デッキの上から7枚めくり……《鋼鉄機 シンバスター》を手札に加える。

 さらに手札を2枚捨て、手札のシンバスターにスペリオルライド……!! シンバスターのスキルで《鋼鉄機 ウルバスター》もスペリオルコール……!!」

 ブラドブラックの巨体が無数の蝙蝠と化して散っていく。

 その中から新たに現れたのは、それぞれ獅子と狼を模した鋼鉄の機兵達。

「シンバスターでヴァンガードにアタック!」

「《神剣 クサナギ》、《バトルシスター てぃらみす》でガード!」

「ドライブチェック……! 引トリガー……!!」

「!?」

「パワーはウルバスターに。ウルバスターでヴァンガードにアタック……!!」

 少年は何故か左手で片目を隠しながら、これで終焉だとばかりに宣言する。

「……ノーガード」

 動揺を隠せないミコトの声音からして、次にめくるカードは未知の領域か。もしくは、次のターンに引くカードとしてノーマルユニットを置いていたのかも知れない。

「ダメージチェック、トリガーじゃないわ」

 投げ捨てるようにダメージゾーンへと置かれた6枚目のカードは、《バトルシスター とらいふる》だった。

「『ストレングス』が負けた!!」

「これでこの大会はわからなくなってきたぞ!」

「そんなことよりも誰だアイツは!!」

 ギャラリー達が一斉にワッと沸き立つ。

「ち、違うのよ! ちょっと引きが悪かっただけで! ていうか、前のターンに治トリガーを引けていれば勝ってたし!」

 レイ曰く「ヴァンガードファイターが一番したらダメ」な弁解を並べるミコトの肩に、フウヤが優しく手を置いた。

「わかってる。君のプレイングにミスは無かった。単純にあの子が強かった。それだけだよ」

 ミコトが押し黙って唇を噛みしめる。

 それはそれで――各ショップの権威がかかっているとはいえ、彼女達にとってはお遊びのような大会で――自分に勝てるほどのファイターがいたということが許せないのだろう。

(対戦相手の名前は……)

 今のミコトの相手は面倒くさそうなので、声をかけることを諦め、ミオは対戦表に目をやる。

(カードショップ『チャリオット』……)

 かつて訪れた時はよくも悪くも凡庸なカードショップだったと記憶している。

 首を傾げるミオは気づかなかった。

 ディメンジョンポリス使いの少年が、『チャリオット』の仲間達からもみくちゃに祝福されながらも、ミオにじっと視線を向けていたことを。

 

 

 波乱の第1回戦が終了し、残るショップは8つに絞られた。

「フッ。『エンペラー』は勝ち残ったか」

「当然だ。『デビル』ごときでは相手にもなるまい」

巨星(ストレングス)も堕ちたことだ。我々『ハーミット』にとって最大の障害となりうるのは、やはり奴等か」

 会場の片隅で黒フード黒ローブの男達が囁き合っている。

「だが、次の『エンペラー』の対戦相手は油断ならぬぞ」

「『ジャスティス』か。新進気鋭のファイターが頭角を現していると聞く」

「フフフ……お手並み拝見といこうではないか」

「そうだな。どちらが『ハーミット』の敵となるか。この決着を見届けてからでも遅くはない」

「いや! アンタ達、1回戦で敗退してるよね!?」

 対戦表の隅を指さしながら、レイがしなくてもいいツッコミを入れた。そこでは『ハーミット』の名が消され、対戦相手である『ワールド』が勝ち上がっている。

「笑止」

「笑えないわよ! この小説の前半パート、まるまる無駄になってるじゃない!」

 アリサが聞いたら落ち込みそうなことを言う。

「おーい! 次の作戦会議をはじめるぞー!」

 なおも『ハーミット』と言い争うレイを、ライガが『エンペラー』陣営に引きずり戻した。

「……次の対戦相手は『ジャスティス』ですか」

 あごに指を当てたミオは、何故かほんの少し顔をほころばせているが、それと同じくらい悩んでいるようにも見えた。

「知ってるの?」

「はい。かつて4日間だけ入り浸っていたことがあります。

 向こうは十中八九、油断ならないファイターに成長しているであろう男の子を出してくるでしょう」

「何その回りくどい言い方」

「私が直々に相手をして差し上げたいところですが、サキさんの『ムーン』も勝ち残っていますし、出るわけにはいきません」

 ミオは物憂げに溜息をひとつつくと、ライガへと視線を向けた。

「ライガさん。私の代わりにお願いできますか?」

「お! 出番か!」

「ええ。あなたとのファイトなら、きっとあの子も喜んでくれるでしょう」

 ミオがいつになく優しい視線を『ジャスティス』陣営へと向ける。そこには大柄な少年と熱心に話し合う小柄な少年の姿があった。

 

 

 カードショップ『ジャスティス』の山崎(やまざき)タツミは落ち込んでいた。いや、それを通り越して、憤っていたと言ってもいい。

(ミオさんが出てきてくれないだなんて……)

 かつてミオに教えを受けたその少年は、彼女とファイトする絶好の機会が訪れたと思い、ショップ対抗戦に参加した。

 2回戦で運よく彼女の所属する『エンペラー』と当たったと喜んだのも束の間、『エンペラー』の代表として現れたのは、妙にテンションの高い、ミオとは似ても似つかない大男だった。

(ミオさん……僕のこと、忘れちゃったのかな)

『エンペラー』陣営をちらりと見やる。背の低い彼女は人混みに埋没しているのか、見当たらなかった。

(それなら……思いださせてやる!)

 少年の心に闘志の炎が燃える。

「ライド! 《ドラゴニック・オーバーロード“The X”》!!」

「お! お前のデッキはオーバーロードかぁ!」

 目の前のおっさん(?)が楽しそうに声をあげる。

「“The X”のスキル発動!! デッキから《ドラゴニック・オーバーロード “The TurnAbout”》をソウルイン! “The X”は“The TurnAbout”のスキルを得る!

 コール! 《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》! 《ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート》!」

「おお! オーバーロード総出演か! やるなぁ!」

 おっさんがいちいち楽しそうに、タツミのプレイングを褒めそやす。

「バトルだ!!」

 ジ・エンドが炎と弾丸の豪雨を降らし、ザ・グレートが炎を纏った拳を叩きつける。

 さらに、その中心に立つ、黄金の鎧に身を包んだオーバーロードが雄々しく剣を掲げると、戦いを終えた2体のオーバーロードも再び立ち上がり、その剣に自らの剣を交差させた。

 それは虚無をも屈服せしめし、最強最後の大君主。

 運命の交錯(クロス)が生んだ自らの幻影を率い、今、新たな伝説を築かん!

「“The X”のスキル発動! 2体のオーバーロードと自身をスタンド! パワー+10000!」

 3体のオーバーロードそれぞれが、携えた黙示録の剣を振り下ろす。たったひと薙ぎで山脈をも断絶する剣閃が三条、対峙する雷竜を情け容赦無く呑み込んだ。

「お、お、おおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 6点目のダメージを受けたおっさんが、情けない悲鳴をあげ――

「おおおおおおおおお――っと、危ない! 治トリガーだぁ!」

 満面の笑みで《ドラゴンダンサー イルジーナ》のカードを見せつける。

 肩透かしをくらったタツミは、思わず椅子からずり落ちそうになった。

(大丈夫。次のターンで決着だ)

 気を取り直してターンエンドを宣言する。

「やるなあ、坊主! さすが、ミオちゃんが認めるだけのことはある!」

「……え?」

 盤面から顔を上げ、タツミはおっさんの顔を見上げた。

「俺のタアァァン!! スタァンド! アンドォ! ドローオォォ! ライドオォォ!!」

 タツミが聞き返そうとするよりも早く、おっさんはゲームをさっさと進めてしまった。

 だが、タツミが言葉を失った理由はそれだけでは無い。彼のライドしたユニットに、思わず見惚れてしまったからだ。

「わあ、ディセンダントだ! カッコイイ!」

「おお! 《抹消者 ドラゴニック・ディセンダント》!!

 このディセンダントは《抹消者 ガントレッドバスター・ドラゴン》のスキルを得ているぞ!」

 この世に二振りしか存在しない『黙示録の剣』

 そのうちの一振りを時の皇帝より賜ったのが、大君主、ドラゴニック・オーバーロードであり。

 もう一振りを賜ったのが、ドラゴニック・ディセンダントと呼ばれる真紅の雷竜である。

 史実では剣を交えること無き帝国の双璧が、此度、少年達のイメージの中で対峙する!

「ディセンダントのスキル発動! 前列のリアガードすべてをバインド!」

 ディセンダントが黙示録の剣を振るうと、稲妻が空を斬り裂くようにして降り注ぎ、オーバーロードの幻影を跡形も無く消滅させた。

「ううっ……僕のオーバーロードが」

「バトルだ!! ディセンダントで“The X”にアタック!!」

 天雷を纏った黙示録の剣を、獄炎を纏った黙示録の剣が受け止めた。強大な力と力がぶつかり合う渦中で、炎は稲妻に引き裂かれ、雷は烈火に焼かれて灰となる。

「ディセンダントのアタックを防いだな!? ディセンダントのスキル発動!! 手札を1枚捨て、ディセンダントはスタンドする!! 再びディセンダントでアタックだ!!」

「くっ……ノーガードです」

「ディセンダント・ドラゴニック・パイルドライバー!!」

「…………は?」

 ディセンダントは黙示録の剣をぽーんと空高く放り投げると、オーバーロードの腰に腕を回し、逆さにして持ち上げ、その脳天を地面へと叩きつけた。

『ディセンダント、貴様っ! 気でも触れたか!』

 無論、その程度で倒れるオーバーロードではない。だが、すぐさま起き上がろうとしたところに落ちてきたディセンダントの剣が、運悪くオーバーロードの胸を貫いた。

『バカ、なっ……!!』

 血を吐き、オーバーロードが力尽きる。

 悪いものに憑かれたとしか思えないディセンダントが両拳を天に突き上げガッツポーズする姿を、この場にいる誰もが見たとか見なかったとか。

「……僕の負けです。ありがとうございました」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いたタツミは丁寧に頭を下げると、肩を落として席を離れる。

「強くなりましたね、タツミさん」

 その時、どこからともなく優しい少女の声が聞こえ、タツミは勢いよく顔をあげた。視線を巡らせ、声の主を探す。

 いつの間にやら人混みの中からひょっこりと、白髪の小柄な少女が姿を現していた。

 少女は満足げに頷くと、白い髪を翻してまた人混みの中へと消えていく。

「ミオさん……ありがとう」

 タツミは少女を追わなかった。

 自分はまだ彼女に敵うファイターではないことは、この一戦で痛感できた。

 ならばいつか胸を張って彼女の前に立てるその時まで。

 それまでは、その背を目標にして見据えるくらいがちょうどいい。

 

 

「もー! 6点ヒールとか、ヒヤヒヤさせないでよ、ライガちゃん!」

「ははっ! 悪い悪い!」

 レイにぺしぺしと叩かれながら、ライガが笑う。

「お疲れ様です、ライガさん」

 どこからか戻ってきたミオもライガをねぎらった。

「おっ、ミオちゃん。お前の言っていた少年とのファイト、楽しかったぞ」

「そうでしょう、そうでしょう」

 まるで我がことのように、ミオが自慢げに胸を張る。

「それで、『ムーン』の試合と、『チャリオット』の試合はどうなりましたか?」

 そして、すぐさま表情を引き締めて尋ねた。

「『ムーン』はともかくとして、『チャリオット』? あ、メチャ強いディメンジョンポリス使ってた男の子のいたお店だね」

「どれ……『ムーン』は勝ち上がっているな。『チャリオット』は……敗退したみたいだぞ?」

 背の高いライガがいち早くトーナメントボードを確認して答える。

「ふむ。ということは、あのディメンジョンポリス使いの少年が特別強かったのでしょうか。彼はまだ会場にいますか?」

「……いや。『チャリオット』の連中は帰っているみたいだなあ」

 所詮はショップ店長達の悪ノリで開催された大会である。負けた後は、早々に自らのショップへと引き揚げてしまうチームも多かった。

「そうですか。それは残念です」

「お姉ちゃん、何でそんなにあの子のことを気にしてるの?」

 不思議に思ったレイが尋ねる。

「彼が高校生だった場合、ヴァンガード甲子園や、高校選手権における障害になりますよ?」

「あ、そっか! 強いファイターは今のうちにチェックしておかなきゃだね」

「……まあ、それだけではないのですが」

「え?」

「観戦できたのはほんの少しだけでしたが、彼のファイトはどこかで……いえ。私は人を見る目がありませんからね。おそらく気のせいでしょう」

 そう言って、さっさとこの話題を打ち切ってしまう。

「『ムーン』が勝ち残ったのは何よりです。次の試合に勝てば決勝戦。皆さん、がんばりましょう」

 だが、次の試合で『エンペラー』がファイトすることは無かった。

 対戦相手である『フール』が昼休憩に出かけたまま帰って来ず、失格となったからだ。

「さすが、ものぐさなファイターが多いことで有名な『フール』だね!」

「それでよくここまで勝ち残ってこれましたね」

 レイは単純に嬉しそうにしていたが、ミオはしきりに首を傾げていた。

『ムーン』も準決勝を勝ち上がり、いよいよ『エンペラー』と『ムーン』の――ミオとサキのファイトが始まろうとしていた。

「約束は守りましたよ、ミオさん」

 激戦を勝ち抜いてきたチームメイトを背にして、サキが誇らしげに告げる。

「ええ。学校や『エンペラー』の外でも、仲間に恵まれたようで。少し妬けてしまいますね」

 ミオはいつも通り無表情のため、それが本気なのか冗談で言っているのかは判断がつかなかった。

 それからふたりは無言でファイトの準備を進めた。

 放課後の部室と変わらない手慣れたやり取り。互いに手の内は知り尽くしている。

 だが、それが負けられない戦いになると、知らない相手と対戦する時とは別種の緊張がのしかかる。

 同じような緊張をミオも感じているのだろうかと、サキは手札越しにミオの様子を窺った。そんな程度で推し量れるほど単純な心の持ち主では無いと知りながら。

「はじめましょうか、サキさん」

「はい。よろしくお願いします、ミオさん」

 涼しい顔でミオが言い、サキは平静を装って答えた。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

 声が合わさり、ふたりのファーストヴァンガードがめくられる。

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《ドラゴンエッグ》!」

 

 

「ライド! 《光戦竜 ギガノブレイザー》!!」

 それは血に濡れたような真紅の装甲で覆われた機械恐竜。特徴的なのは、両腰に装着された長大な巨砲。万里先にいる獲物の気配すら嗅ぎあてるその竜に任された帝国の最新兵器である。

 狙撃手と呼ぶには荒々しすぎる彼方の狩人が、今、遥か地平へと轟く雄叫びをあげて出撃する。

「古代竜からデッキを変えたの? あの子は」

 観戦していた『ストレングス』陣営、中でも現役の聖ローゼカードファイト部員達がざわめく。やはりサキはそれなりに警戒されていたようだ。

(サキちゃんがデッキを変えたことは、アタシ達はもちろん知ってる……)

 それを聞いていたレイが独りごちる。

(本来なら、こんなところで手の内を晒すべきじゃないのに……)

 ヴァンガード甲子園の予選において、聖ローゼが最大の関門となることは、幼い頃からプロアマ問わずファイトを観戦してきたレイは知っている。

(そうまでしてお姉ちゃんに勝ちたいの? やっぱり人間の考えることは、非合理的でよくわかんないや)

「ギガノブレイザーのスキル発動!! カードを2枚ドロー! 手札から《掃討竜 スイーパーアクロカント》! 《恐喝竜 スピノイクストート》をスペリオルコール! この2体に武装ゲージを置きます!

 さらに《サベイジ・シューター》をレストして、アクロカントに武装ゲージを置きます!

 このターン、武装ゲージが3回以上置かれているので、前列ユニットすべてにパワー+5000です!」

 レイの内心など露知らず、サキは生き生きと楽しそうにファイトを続けていた。

「バトルフェイズに入ります!!」

(けど、お姉ちゃんのヴァンガードは……)

 レイが心の中が重々しく呟く。

「《模作の根絶者 バヲン》のスキル発動。このユニットのパワーを、ギガノブレイザーと同じ17000に変化させます」

 瘴気纏いし骨の牡牛がその姿を変貌させる。頭部はバヲンそのまま。胴体より下は紫苑の装甲で覆われたギガノブレイザーへと。

 誇りである巨砲まで模倣され、本物のギガノブレイザーは憤怒の唸り声をあげた。

「ギガノブレイザーでヴァンガードにアタックです!」

 サキの宣言によって、ギガノブレイザーは檻から解き放たれた猛獣の如く飛び出すと、巨砲の照準を不届きな根絶者に向けた。

 それに合わせて、紫苑のギガノブレイザーも鏡に映る虚像の如く巨砲を動かす。

 二条の光線が同時に放たれ、その中心で閃光が爆発した。

「★トリガーでガードします」

「ツインドライブ!! ……2枚とも、トリガーではありません」

 爆風が晴れ、煙の中から無傷のバヲンが姿を現し、頭蓋を上下にカラカラと揺らして嘲笑う動きを見せた。

「アクセルⅡサークルの《烈光竜 オプティカルケラト》でヴァンガードにアタック! アタック時、武装ゲージをオプティカルケラトに置きます!」

「アルバとエルロでインターセプトします」

「《プリズムバード》のブースト、イクストートでヴァンガードにアタックします!」

「《招き入れる根絶者 ファルヲン》でガードします」

「イクストートのスキルは使わなかったか」

「オプティカルケラトに、いい武装ゲージが乗らなかったのかも知れませんね。それに相手がバヲン(アレ)では……」

 と『ストレングス』陣営が囁き合う。

 結局、このターンはアクロカントのアタックのみがヒットし、ミオのダメージは3点に留まった。

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 アルバをコールし、ドロップゾーンからエルロをスペリオルコールさせます。

 そのままバトルフェイズへ」

 必要最低限のユニットだけコールし、ミオはバトルフェイズへと進行する。

(うわ、お姉ちゃん、えげつな……)

 レイは心の中で舌を巻いた。ミオの狙いが読めてしまったからだ。

 サキはこれまでのターン、ドローと武装ゲージで大量のデッキを消費してしまっており、山札は残り10枚前後と言ったところだろう。

 ミオはその山札が切れるまで。たちかぜの性質から言えば、次のターンさえ凌げば、勝ちが転がりこんでくるのである。彼女はサキとの約束通り、本気で、非情なまでに、勝ちに来ていた。

「バヲンでスピノイクストートにアタックします」

「《ヤンガーパラサウンド》でガードです!」

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはエルロに。

 続いて、アルバでイクストートにアタックします」

 消極的なユニットのコールに続いて、執拗なリアガード潰し。サキとしても、ここで主力をやらせるわけにはいかない。

「《激走竜 ブルースプリント》でガードします!」

「《略奪する根絶者 ガタリヲ》のブースト、エルロでヴァンガードにアタックします」

「…………」

 サキはメガネに指で触れながら熟考する。

 現在、サキのダメージは3。そのうち表のダメージは1枚。このアタックを受けた場合、カウンターコストは1枚稼げるが、恐らくスピノイクストートがバインドされ、ガタリヲは手札に戻り守備を固められてしまう。

 まさしく、精神をじわじわと削ってくるようなファイトだった。

(コストがあってもイクストートがやられたら意味はない……)

「《アークバード》で完全ガードです!」

「私はこれでターンエンドです。

 サキさん。部活で言いましたが、そのデッキ、ギガノブレイザーだけでは決定力が足りません。そこを改善しなければ、私はおろか、ヴァンガード甲子園では……」

 ミオの説教を、掌を差し出すことで制し、サキは温存していた1枚のカードに優しい手つきで触れた。

「決定力ならありますよ。初手から……いいえ、私がヴァンガードを始めた時から、ずっと! いつだって!

 スタンド&ドロー!!

 ライド! 吠え猛ろ! 《餓竜 ギガレックス》!!」

 それが現れただけで、天が怯え、地が震えた。

 灼熱色の装甲を武装で飾り立てた、(レックス)の中の(レックス)

 荒れ狂う暴力の権化が、破滅の咆哮を轟かせ、天地を蹂躙する。

「《サベイジ・シューター》をレストして、アクロカントに武装ゲージを置きます。

 シューターの上に《点灯竜 パラサランプ》をコールして、武装ゲージをさらに3枚!

 《烈爪竜 ラサレイトレックス》をコールして、武装ゲージをこのユニットに。

 新たなアクセルⅡサークルに《サベイジ・マーセナリー》をコール。

 これで私の手札は0枚。けれど、準備は整いました。

 行きます! アクロカントの武装ゲージを5つ取り除き、ギガレックスのスキル発動!!

 ミオさんに1ダメージ! アクロカント、オプティカルケラト、イクストートにパワー+5000!」

 鋼鉄をも破壊する王の咆哮がバヲンを圧し潰し、牡牛の骨に似たその全身に無数のヒビをいれた。

「ダメージチェック……トリガーではありません」

「もう一度! 残りの武装ゲージもすべて取り除き、ギガレックスのスキル発動!!

 ミオさんに1ダメージ!! マーセナリー、アクロカント、オプティカルケラトにパワー+5000!」

 再度放たれた咆哮に、世界そのものが耐えきれず、山は崩れ、地面が割れ、空気すら歪み、バヲンを粉々に打ち砕いていく。

(そっか。ギガレックスのスキルには1ターンに1回の制限なんて無いんだ……)

 レイがもともと大きな瞳を更に見開いて驚いた。

 それはレイが部室で見たデッキとは全くの別物だった。すべてがギガレックスの為に組まれたデッキで、ギガノブレイザーですら補助でしか無い。

(こんなの……聖ローゼの人に、絶対に見せちゃダメなのに)

 心臓が踊るように脈打ち、拳の中で汗が滲むのを感じる。

(それなのに、何でアタシの心はこんなにも高揚しているの……?)

 レイが自問している間にもファイトは進む。

「ダメージチェック……★トリガー。パワーはアルバに」

 ここでバヲンの脆さも露呈する。メインフェイズの時点でバヲンにパワーを与えたとしても、そのパワーはバトルフェイズ開始時に変動してしてしまうのである。

「バトルフェイズ!」

「バトルフェイズ時、バヲンのパワーは12000に変化します」

「ギガレックスでバヲンにアタック!! アタック時、マーセナリーとアクロカントに武装ゲージを乗せ、ギガレックスにパワー+35000! 合計パワーは47000です!!」

「…………ふふっ」

 これまでいつも以上に無表情でファイトを続けていたミオが、思わずと言った感じで相好を崩した。

「立派になりましたね、サキさん。……ノーガードです」

 満面の祝福の中に、一抹の悔しさを滲ませてミオが宣言した。

「ツインドライブ!!

 1枚目、2枚目、トリガーはありません」

「思えば、あなたと私が出会ってちょうど1年になりますか。気が弱くてオドオドしていたあなたは、もういないのですね」

 懐かしむように、ミオがデッキの上からカードをめくり――

「む」

 小さく声をあげた。

「治トリガーです。ダメージ回復ですね」

 そして、何事も無かったかのようにいそいそとダメージを回復する。

「ええええええええええっ!?」

 それを見ていたレイが悲鳴にも似た叫びをあげた。

「ちょっ! お姉ちゃん! 今の、完全にサキちゃんがお姉ちゃんに勝つ流れだったじゃん! 空気読みなよ!」

「そう言われましても」

 ミオが困ったように首を傾げる。

「ふふふ。いいんです、レイちゃん」

 だが、当のサキは楽しそうに笑っていた。

「ミオさんは、常に私と同じダメージになるよう調整して、治トリガーを狙ってましたから。

 ですよね、ミオさん?」

「さあ、どうでしょう」

 ミオは肩を小さく竦めた。

「私はアラシさんではありませんからね。確率論的には正しいとしても、治トリガーが前提のプレイングはしませんよ。ですので、そうせざるを得ない状況まで私を追いこんだことは誇ってもいいのではないでしょうか」

「はい、そうします」

 会話をしながら、ふたりはファイトを続けていた。だが、バヲンがトリガーでパワー増加しているのもあって、残りのアタックはことごとくがガードされてしまう。

「ターンエンドです」

 全てのアタックを終え、サキが宣言した。

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド、《波動する根絶者 グレイドール》

 イマジナリー・ギフト、フォースⅠをヴァンガードサークルに置きます。

 グレイドールのスキルでギガレックスをデリート。イクストートを裏でバインド(バニッシュデリート)

 そして、グレイドールの後列に《速攻する根絶者 ガタリヲ》をコールします。」

 サキの山札はすでに1枚。

 ミオがターンエンドを宣言すれば、それで勝利は確定する。しかし、彼女はそれをしなかった。今の時間が終わらないことを願うようにゆっくりとプレイを続け、サキも穏やかな表情で、それを見つめていた。

「バトルです。

 ガタリヲのブースト。グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「はいっ! ノーガードです!」

 グレイドールから放たれる波動を、サキは両腕を広げて受け止める。

「次こそ負けませんからね、ミオさん」

「ええ。いつでも受けて立ちましょう」

 真っ白な虚無に呑み込まれながら、サキは目元に涙を滲ませ、ミオは胸を張ってそれに微笑み返した。

 

 

 ショップ対抗戦

 優勝 エンペラー

 準優勝 ムーン

 特別賞 チャリオット




5月の本編をお送りさせて頂きました。
今回は謎のディメンジョンポリス使いが顔見せです。正式な登場はもう少しお待ち頂ください。
そして、ひさびさ登場した『あの子』にも注目です。
ディセの暴走にマジレスするオバロかわいい。

書いていて楽しかったのは『デビル』のファイター。
中指立ててシャッフルするのは「ファックシャッフル」、中指立ててドローするのは「ファックドロー」と、それぞれ名前もついています。
一応、元ネタもあるのですが、分かる方だけ分かって頂ければ。
愉快なヤンキーは大好物です。

それでは、次回、5月15日前後、フェスティバルコレクション2021のえくすとらでお会いしましょう!


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6月「何かが、いや、全てが異端だ」

「《餓竜 ギガレックス》で、《時空竜騎 ロストレジェンド》にアタック!」

「むー……ノーガード、かな」

 カードショップ『エンペラー』のファイトスペースで、響星学園カードファイト部の面々は、日曜日である今日も練習を続けていた。

「ダメージチェック……アタシの負けだね」

「ふむ。サキさんのデッキは、だいぶ仕上がってきましたね」

「はい! 来月にはヴァンガード甲子園の予選が始まりますからね! 去年のようなカッコ悪いファイトはできません!」

 外は生憎の雨模様だが、『エンペラー』は盛況で、ファイトスペースの席はほとんどが埋まっており、アルバイト店員の天道(てんどう)アリサなどは、せわしなく店内を動き回っていた。

「去年って?」

「そこは気にしなくていいから! そんなことより、レイちゃんのデッキは大丈夫?」

「うーん……勝率悪いし、少しデッキに手を加えてみようかな」

「超越先のユニットを少し欲張りすぎている感じはありますね。相手や状況に応じて、柔軟に対応できるのもギアクロニクルの強みではありますが、一度、G4のユニットを2~3種類に絞ってみるのはいかがでしょう」

「うん。その方向で調整してみるよ」

「ではその間、サキさんは私とやりましょうか」

「はい! よろしくお願いします」

 席を入れ替え、先輩ふたりがファイトをしている隣で、レイはデッキのカードをテーブルに並べ、不必要と判断したカードを抜き取り、そこに新たなカードを加えていく。

「《餓竜 メガレックス》で《迅速な根絶者 ギアリ》にアタックです!」

「ノーガードです」

 入れ替えるカードはほんの数枚だったため、調整自体はものの数分で終わったものの、ミオ達はまだファイトの途中である。

(あー! 早く新しいデッキを回したいよー)

 奇数、それも3名という少なすぎる部員数の弊害である。誰かが対戦していると、必ずひとりが余ってしまうのだ。

 本来なら先輩の対戦を観戦して勉強しなければならないところだが、今は改良したデッキを試したい気持ちの方が強かった。

 どこかに対戦相手はいないものかと視線を巡らせていると、トントンと指で肩を叩かれる感触があり、振り向くと、そこにはいつの間にかアリサが立っていた。

「対戦相手を探してるんでしょ? ファイトスペースの隅に、1時間ぐらいじっとしてる女の子がいるから、声かけてあげたら?」

(お客さんの応対しながら、そんなとこにまで気を配ってたの、この人!?)

 1時間ぐらいじっとしている女の子とやらはともかく、自分が暇になったのはほんの数分前である。レイが記憶している限り、アリサは品出しや客対応などで忙しく、よそ見している余裕などほとんど無かったはずである。ミオが「アリサさんは地味にすごい人ですよ」とか彼女を評価していたが、なるほど。気遣いと、俗に言うコミュ力が半端ない。人に紛れて生きるため磨き上げた自分のコミュ力も、恵まれた容姿を含めて自信はあったが、本物には敵う気がしなかった。

「ほんと!? ありがとね、アリサさん!」

 内心の畏怖はおくびにも出さず、レイはアリサがさりげなく視線で示した先へとてくてく移動する。

 そこには小柄な体躯をさらに縮こませた少女が、俯きがちになって実に居心地悪そうに席についていた。手前のテーブルには、ケースから出した状態のデッキが置かれており、どことなく「ファイトしたいんですけど、誰か声をかけてくれませんか」という控えめな主張が感じられる。

(ファイトしたいなら、自分から声をかけたらいいのにね)

 そんなことをしていても、おそらく事態は好転しない。2時間でも3時間でもファイトスペースに座り続けたまま時間を無駄にしていただろう。今回は、アリサのようなよく気が付く人間と、今の自分のようなファイトに飢えた者が揃ったが故の奇跡である。

「ねっ! よかったら、アタシとファイトしない?」

「ひっ!?」

 レイが気さくに声をかけると、小柄な少女は小動物のように肩をビクッと震わせた。もちろん正面から話しかけたので、レイの接近に気付いていなかったこともないだろうに。

「は、はい……。あの……何かご用でしょうか?」

 少女が怯えたような上目遣いで尋ねてくる。

「いや、だからファイトしようって」

 レイが頬に一筋の汗をたらしながら繰り返した。

「あ、ファ、ファイトですか……。私なんかとファイトしても面白くもなんともないと思いますけど、それでも構いませんか?」

「何それ!? ヴァンガードなら、誰としても楽しいから、大丈夫だよ!」

「そ、それもそうですね……。ふふふ……私なんかがファイトしても楽しんで頂けるヴァンガードって本当に素敵ですね」

 そう言って、少女は卑屈に笑う。

 レイは「正面、座るね」と断って、席についた。

 近くに窓があるためか、ファイトスペースの喧噪に紛れて雨音がしとしと聞こえ、湿度がじわりと増した気がした。

「……はっ! もし、それでもなおファイトを楽しんで頂けなかったら、それはヴァンガードでは無く、私自身の欠陥ということに?」

 そんなことを言って、少女がまた勝手に落ち込む。

「えっと、アタシの名前は時任(ときとう)レイだよ。アナタは?」

 それはもう無視して、レイは話を進めた。

「あ、私は(ひいらぎ)マナです。よろしくお願い致します。ですが、私の存在なんて記憶して頂かなくても結構ですので……」

「もう致命的なくらいに印象に残っちゃってるよ!?」

 自己紹介を経て、ようやくレイはマナと名乗った少女をじっくりと観察することができた。

 顔立ちは整っており、ミオとはまた違ったお人形感がある。白い肌と無表情からミオをビスクドールと喩えるなら、マナは大きな瞳が印象的な美少女フィギュアか。声もアニメ声だ。

 髪は見事なソバージュで、どこか絡まり合う蔦を連想させた。

「とにかくよろしくね、マナちゃん!」

 そう言って、レイが手を差し出すが、肝心のマナは大きな瞳をさらに見開いて固まった。

「マナ、ちゃん……?」

 やがてポツリと確認するように呟く。

「あ、ごめん。いきなり名前で呼んじゃって、気に障ったかな? 年も近そうだし、いいかなって思ったんだけど」

「……私、こう見えて高校1年生なのですが」

「アタシも高校1年生だよ!?」

「えっ!? し、失礼致しました。私、てっきり小学生かと……」

「せめて中学生と間違えてくんないかな!?」

 恵まれた容姿でも、子ども扱いされるのはイヤなのだ。

「ああ……これはもう死んで詫びるしか……」

「死ななくていいから! その性格で、いちいち命を以て償ってたら、命がいくらあっても足りないし! ていうか、よく15、6年生き残ってこれたよね!?」

「ここが私の死に場所かと」

 マナが悲壮な決意で頷いた。

「気にしてない! 小学生扱いされたことなんて、アタシはぜーんぜん気にしてないからね!」

 レイがヤケになって心にもないことを喚いた。お世話になっているカードショップで、万が一にでも舌を噛み切られたらたまらない。

「で、話がまた逸れたけど、マナちゃん、でいいんだよね?」

「あ、はい。気に障ったわけではないんです。私には女の子の知り合いがいなかったもので……。ちゃん付けで呼ばれたことなんて無く、むしろ新鮮で驚いてしまったんです」

「ふーん、そうなんだ」

 確かに友達はいなさそうだなと、失礼なことを心の中で思う。

「私は地元の高校のカードファイト部に所属しているのですが、先輩は男の人ばかりで、いつも名前を呼び捨てにされてますし。まあ、私みたいな根暗な女に、かわいらしい呼ばれ方はおこがましいので、仕方ありませんね。ふふふ……」

「そんなことない! マナちゃんはかわいいよ! アタシがアナタのことをマナちゃんって呼んであげるし、今日からアタシがマナちゃんのお友達だよ!」

「いいんです……気を遣って頂かなくても。私のことなんて、どうかゴミクズとお呼びください」

「呼べるかっ!」

「先輩も、私のことをたまにワカメとか呼びますし……」

 マナが緩やかに波打つ髪に触れながら言った。

「え、ひどっ」

「ええ、ひどいんです。今日も『お前には度胸が足りないから、修行が必要だ』とか言い出して、こんなにも人が多いカードショップに連れて来られた挙句、私を放置してどこかへ行ってしまったんです。

 ですが、これも私の至らなさが招いた罰。ぼっちの憂き目にひたすら耐えていたところを、時任さんに声をかけて頂いた次第です」

「えー。どっちかって言うと先輩のパワハラじゃないかな? その先輩が帰ってきたら、アタシが文句言ってあげるよ」

「いえ、いいんです。あの人はきっとのらりくらりとかわしますから……」

「それに、アタシのことも名前で呼んでくれていいよ。何なら、アタシのこともちゃん付けで呼んでみる?」

「そんな畏れ多い! むしろレイ様とお呼びすべきところでは……」

「そんな呼び方したら絶交だかんね!?」

 ツッコミの連続で、レイの息はいつの間にかハァハァとあがっていた。

「で、では……レイ、ちゃん、で」

 マナが初対面の人間に対する子猫のように、上目遣いで怯えながら確認してくる。

「うん、改めてよろしくね、マナちゃん」

 レイが満面の笑みでそれに答えた。

「は、はい! よろしくお願いします……レイ、ちゃん」

 それだけ言うと、マナは顔をほころばせ。

「……うれしい」

 そう小さくつぶやいた。

(あ、かわいい)

 初めて見るマナの笑顔に、レイは素直にそう感じた。

「それじゃ、そろそろファイトしよっか」

「は、はい! でも、あの……私、本当にファイトが弱くて。部の先輩にも、勝てたことが無いんです。きっと退屈させてしまうと思いますけど……」

「あはは! 先輩に勝てないだなんて、そんなのアタシも同じだよ。ほら、あそこでファイトしてるのが、アタシの先輩。ふたりともすっごく強くてまいっちゃうよ」

 ちなみにレイは、ミオはおろか、サキにもあまり勝てていないのが現状である。だからこそ練習を重ねて、もっと強くなりたいのだ。

 そんな話をしながらファイトの準備を整えた両者が、ファーストヴァンガードに手を添える。

「いくよ、マナちゃん!

 スタンドアップ!」

「あ、ヴァ、ヴァンガードっ」

「《プライモディアル・ドラコキッド》!」

「は、《春待ちの乙女 オズ》!」

 

 

 ネオネクタール。

 農作物の生産と流通を管理し、実に全世界の食料の40%以上を掌握する巨大商社。

 惑星クレイの胃袋を支える台所であり、それは実質的に支配者であることを意味する。

 そう。彼らの『要望』に逆らえる国家など、この世界には存在しないのだ。

「《メイデン・オブ・スタンドピオニー》にライド」

 先攻のマナが、まずはG3にライドする。

 純白の花吹雪が視界いっぱいに広がり、それが晴れると、ホワイトドレスを纏った花乙女が、気高き笑みを浮かべて花畑に佇んでいた。

「イマジナリーギフト、フォースⅠは左前列のリアガードサークルに置きます。

 そして、スタンドピオニーのスキル発動。プラントトークンを2体、スペリオルコールします」

 白き花乙女が、魔法をかけるように指を振るう。

 それだけで大地に新たな命が芽吹き、美しく咲き誇る――はずだった。

(……うっ!)

 突如として眼前に飛び込んできたイメージに、レイが心の中で悲鳴をあげる。

 それもそのはず、乙女の呼び声に応え現れたのは、小さな花の精霊などではなく、ジメジメとした気配を漂わせ、大地をびっしりと覆い尽くす苔の群れだった。

「ふふふ……何が見えているんですか?」

 マナが妖しげな笑みを浮かべながら尋ねてくる。

「え!? い、いやー……かわいいお花かなー」

「……そうですか。私の先輩はいつもこうおっしゃいます。『お前とファイトしてると、プラントが辛気臭い苔に見えてくるんだよな』と」

「そ、そうなんだー。ひどいねー」

 内心びっしりと冷や汗をかきながら相槌を打つ。レイの白々しい嘘など、とっくに見抜かれているのではないかという想像が頭をよぎった。

 そんなレイの焦りを知ってか知らずか、マナは淡々とゲームを進めていた。

「《矢車菊の花乙女 イーネス》をコール。山札の上から5枚見て……《共栄の騎士 クレイグ》をスペリオルコール。

《霊木の賢者 イルミンスール》をコール。1枚引いて、同じ縦列のユニットのパワー+5000」

 ファイト前の弱気な言動とは裏腹に、マナのプレイングに淀みは無く、むしろ手慣れた動きのひとつひとつからは相当の練習量を感じさせた。

(それでも勝てないって言うんじゃ、多少ネガティブになっちゃうのは仕方がない……のかな?)

 強すぎる先輩に勝てないのは自分も一緒である。レイは目の前の少女に、改めて同情と共感を覚えた。

「バトルフェイズです。

 ブラントでブーストしたイルミンスールでヴァンガードにアタックします」

「えっと……イルミンスールのスキルでパワー+5000ずつされてるから……合計パワー25000でいいのかな?」

「いえ……クレイグがいるので、プラントのパワーはさらに+5000されています」

「あ、そっか!」

「ややこしくてごめんなさい。死にます」

「死ななくていいから! 《スチームメイデン ウルル》でガード! 《ロストブレイク・ドラゴン》でインターセプト!」

「プラントのブースト。イーネスでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード。ダメージチェック……引トリガー!! 1枚引いて、パワーはヴァンガードのイルカブに!」

 レイのダメージゾーンに3枚目のカードが置かれる。これでお互いのダメージは3点で並んだ。

「クレイグのブースト、スタンドピオニーでヴァンガードにアタック時、クレイグ以外の4体を退却させてスキル発動」

 スタンドピオニーの両脇を固めていたバイオロイドやドリアードが土へと還っていく。

「咲き誇れ、私の花たちよ!

 4体のプラントをスペリオルコール!」

 そして、スタンドピオニーが腕を掲げると、土塊が盛り上がり新たな苔がじゅるじゅると誕生した。何も咲き誇っていない。

「スタンドピオニーのアタックは《リクレイムキー・ドラコキッド》でガードだよ!」

「2枚貫通ですね。

 どうせダメだろうけど、ドライブチェック。

 1枚目……2枚目……やっぱりどちらもトリガーではありませんでした」

 勝手にネガティブな予想をして、勝手に落ち込むのはやめてほしいとレイは思った。

「けど、フォースサークルにいるプラントのアタックは、まだ通ります。ヴァンガードにアタックします」

 ずるずると這いずるようにして苔がにじり寄る。

 これだけは止めなければならないと、レイは直観した。

「クイックシールドを使うよ!」

 レイの眼前に展開された半透明に輝く盾が、苔の侵蝕を食い止める。

「やっぱり防がれてしまいました。

 前列のプラントを2体退却させ、ドロップゾーンの《メイデン・オブ・フラワーカーペット》を手札に戻してターンエンドです」

「アタシのターン! スタンド&ドロー!!

 ライド! 《時空竜騎 ロストレジェンド》!!」

 フォースⅠを獲得しながら、レイはバインドゾーンに目をやる。そこには《ロストブレイク・ドラゴン》のスキルでバインドしたG4のカードが1枚。

「ロストレジェンドのスキル発動! 手札から《ロストギアドッグ エイト》を捨てて、時空超越(ストライドジェネレーション)!! 《時空獣 アイソレイト・ライオン》!!」

 竜人の騎士が剣を高々と掲げると、遥かなる時を遡り、随所に錆の浮いた金属でできた獅子が、鋼鉄を裂くような咆哮をあげて姿を現した。

「ロストレジェンドのスキルで1枚ドロー!

 アイソレイト・ライオンのスキル発動! デッキの上から1枚見て、スペリオルコール! 《時空竜 タイムリーパー・ドラゴン》!

 手札から《スチームハンター リピット》をコール! リピットのスキルでドロップゾーンのロストブレイクをバインド!」

 この時点で、バインドゾーンの合計グレードは5。これではまだ足りない。

「アイソレイト・ライオンのもうひとつのスキル! リピットを退却させ、デッキから《リノベイトウイング・ドラゴン》をスペリオルコール!

 リノベイトウイングのスキル発動! このユニットとタイムリーパーをバインド! 山札の上から3枚見て……《思い出を守るギアパピィ》、《スチームガード カシュテリア》をスペリオルコール! 《テキパキ・ワーカー》をバインド!

 そして……《スチームメカニック・ナブー》をコール!」

「お見事です」

 突然、手札を丁寧にテーブルに置いて、マナが拍手した。

「これでターンエンド時には、バインドゾーンの合計グレードがぴったり19枚になるというわけですね。完璧なプレイングです。お見それしました」

(かなり早口で進めちゃったのに、この子はそれについてきた……?)

 実のところ、レイもそこまで計算していたわけではない。手札にはまだユニットをバインドできるカードがあったので、これだけあれば足りるだろうという雑な計算でファイトを進めていたのだ。

「ふ、ふふん! まーね! すごいでしょ!」

 本心を悟られぬよう、反り返るくらい胸を張ってごまかす。

「はい。これはもう私の負けでいいかと……」

「いや、ミステリーフレア出す前に投了とかしないでよ!?」

 ツッコミで調子を取り戻したレイは、改めてユニットをコールし、バトルフェイズへと移行する。

「カシュテリアのブースト! ナブーでヴァンガードにアタック! ナブーのスキルで、ドロップゾーンのリピットをバインド! そして……」

「私はグレード1以上をコールできない。5000要求にも関わらず、トリガーユニットを切らされる、的確なプレイングですね。それは★トリガーの《ダンガン・マロン》でガードします」

「バトル終了時、ナブーはソウルインして1枚ドロー!

 続いて、ギアパピィのブースト! アイソレイト・ライオンでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはロストブレイクに! 2枚目はトリガー無しだよ!」

 マナが置いた4枚目のダメージもトリガーでは無い。

「ギアパピィをバインド! 1枚ドロー! これでバインドゾーンのグレード合計は19!

 リッブルのブースト、ロストブレイクでヴァンガードにアタック!」

「《ウォータリング・エルフ》でガードです」

「アタシはこれでターンエンドだよ」

「……このターンで勝てなければ、きっと私はおしまいですね」

 マナ呟き、レイは手札と盤面を見比べる。自分のダメージはまだ3。手札は潤沢。このターン中に負ける要素は無いように思えた。

「スタンド&ドロー。

《メイデン・オブ・スタンドピオニー》へ再ライド。

 ギフトは右前列へ。プラントを2体スペリオルコール。

《メイデン・オブ・フォールヴァイン》をプラントの上にコール。1枚ドロー。……さらにフォールヴァインをもう1枚。ドロー。

 ……バトルです」

 だが、ジットリとした目で宣言するマナと目が合い、レイの全身に怖気が奔った。

「プラントのブースト、フォールヴァインでヴァンガードにアタックです」

「《リンリン・ワーカー》、《クロノトゥース・ティガー》でガード!」

「もう一度……プラントのブースト、フォールヴァインでヴァンガードにアタック」

「《リクレイムキー・ドラコキッド》と《ラッキーポット・ドラコキッド》でガード! ロストブレイクでインターセプト!」

 これでレイの手札は3枚。うち1枚は完全ガードで、もう1枚は超越のために温存しておかなくてはならないG3のカードだ。

「クレイグのブースト、スタンドピオニーでヴァンガードにアタック。4体のリアガードを退却させ、スキル発動」

 マナが、そしてスタンドピオニーが、優雅に腕を振り上げる。

「狂い咲け、私の花たちよ!

 4体のプラントをスペリオルコール! そして、すべてのトークンと、スタンドピオニーのパワーに+10000!」

 周囲の土が盛り上がり、再び苔状の植物が誕生する。だが、それだけではなかった。それぞれの苔からしゅるしゅると蔦が伸び、小さな花を咲かせたのだ。

 けして存在を主張するわけではないが、深緑の台座の上で華憐に佇む、かわいらしい薄桃色の花だった。

「きれい……」

 レイが思わず声を漏らした。

「あの……どうしました?」

 イメージと呼ぶには現実感がありすぎる、まざまざと眼前に広がる美しい光景に目を奪われていると、マナが怪訝そうに声をかけてきた。

「あ、ごめん! アタシのガードステップだったね。えっと……ノーガードだよ」

「では、ツインドライブ……!!

 1枚目、治トリガー。ダメージ回復して、パワーは右列のプラントへ。

 2枚目、★トリガー。★はスタンドピオニーへ。パワーは左列のプラントへ」

「……あ」

 花乙女が、純白の手袋に包まれた細い指を指揮者のように振るうと、それに合わせて無数の白い花びらが生物のように波打ち、騎士竜に襲い掛かった。

 魔力の込められた花びらの1枚1枚が、金属の鎧を容易く斬り裂き、同等の堅さを誇る鱗をも深くえぐっていく。

「ダ、ダメージチェック……2枚ともトリガーじゃない……」

 震える声でレイが告げる。

「では、プラントのブースト。ブラントでヴァンガードにアタック!」

「ノ、ノーガード……」

 そして、薄桃色の花弁が妖しく輝いたかと思うと、苔が全身を大きく広げ、怪物の如く騎士竜を呑み込んだ。

「ダメージチェック……アタシの負けだよ」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置き、半ば放心状態になってレイが告げた。

「……え? 私、勝てたんですか?」

「勝てたよ! むしろ圧勝で、アタシの完敗だよ!」

 信じられないと言いたげな様子で小首を傾げるマナに、ひとしきり声を荒げてから。

「強すぎる……。マナちゃん、アナタはいったい……? ……ううん。そんなアナタでも勝てないような先輩達って、いったい何者なの?」

 真剣な眼差しと、震える声音で、マナに問いかけた。

 

 

 マナが口を開くよりも早く、ぱちぱちと軽い拍手が鳴り、音のした方へと振り向くと、ミオが小さな掌を打ち合わせていた。その隣にはサキもいる。

「おふたりとも、いいファイトでした」

「あ、お姉ちゃん! 紹介するね! さっきお友達になった柊マナちゃんだよ!」

 レイに紹介されたマナが深々と頭を垂れる。

「柊マナと申します。どうかムシケラとお呼びください」

「音無ミオです。よろしくお願いします、マナさん。妹とのファイトに付き合って頂いてありがとうございます」

 ミオはマナの卑屈な自己紹介をバッサリ無視した。そのスルー力が自分にも欲しいとレイは思った。

「そんな……お見苦しいファイトをお見せしてしまいました。私が勝てたのも運がよかっただけです」

「そんなことない! マナちゃん、めちゃくちゃ強かったよ!?」

「ほう。では、次は私とファイトしませんか? 私は妹より強いですよ」

 興味津々な様子のミオにファイトを申し込まれたマナだったが、少女は困ったように壁にかけられた時計と、ショップの出口がある方向を交互に見た。

「その、すみません。そろそろ時間が……」

 マナが何かを言いかけた、その時だった。

「いらっしゃーい! ……ん? セイジ君!? ひっさしぶりー!!」

「お久しぶりです。天道先輩!」

 アリサの素っ頓狂な声と、堅苦しいがよく通る声が、出口あたりから聞こえてきた。ミオとサキが思わず顔を見合わせる。

「ミオちゃん達なら奥にいるよ。会ってくでしょ?」

「はい。失礼します!」

 そんなやり取りが聞こえた後、髪を短く刈り込んだ、異常に背の高い男がファイトスペースにぬっと現れた。

「おっ、いたいた!」

 続けて、ボサボサな長髪の、背の低い男が、背の高い男の背後からひょっこりと顔を出した。

「セイジさん!? アラシさん!?」

「おー! サキちゃん、おっひさー!」

 小さな男がぶんぶんと手を振って、メガネが割れんばかりに驚くサキに答えた。

 背の高い男、清水(しみず)セイジ。

 背の低い男、(あおい)アラシ。

 ふたりはヴァンガード甲子園常勝の強豪高、天海(あまみ)学園の3年生である。

「おひさしぶりです。わざわざこちらまでファイトしに来たのですか?」

「いーや。忘れ物を取りに来ただけだぜ」

 尋ねるミオに、アラシがにやにや笑いながら答える。

 その間に、セイジは大股でミオの横を通りすぎると、マナの前に立って口を開いた。

「そろそろ船が出る。帰るぞ、マナ」

「ひどいです、セイジさん。知らないショップに私を置き去りにするだなんて」

 立ち上がったマナが、セイジの袖を子供のように掴み、上目遣いになって彼を責めた。

「……え? もしかしてその子って……」

 サキがぽかんと口を開きながら質問になってない質問をし、その意図を汲んだセイジが、マナの肩に手を添え、答えた。

「紹介しよう。彼女は我が天海学園カードファイト部の1年。柊マナだ」

「なるほど。どうりで強いわけです」

 ミオが納得したように頷く。

「その様子だと、誰かマナと対戦してくれたようだな」

「くっくっく、作戦通りじゃねえか」

 ここで何故かセイジが苦笑し、アラシが楽しそうに笑う。

「どういうことですか?」

 とミオが尋ねた。

「ああ。コイツはな。実力はあるんだが、対戦相手が俺様やヒビキみたいなトッププレイヤーばかりだろ? まったく勝てなくて、すっかり自信を無くしちまってな。

 だから、自分の強さを自覚してもらうため。ついでに度胸もつけてもらうため。島の外にいる連中とファイトさせてやろうって話になって、このカードショップに放置してやったのさ。ここなら響星の連中とファイトできるってオウガから聞いてたしな」

「それはそうかも知れませんが、何故、私たちと?」

「私達の知る限り、君達が島の外で最もヴァンガードを楽しんでいるファイターだからだ」

 セイジがアラシの後を継いで答えた。

「ふむ。理由になっていない気もしますが、悪い気はしない評価ですね」

「『ストレングス』に放り込んで、フウヤ君あたりに万が一でも負けたら逆効果だしな」

 さらに余計な一言をアラシが付け足す。

(万が一フウヤさんに遭遇することではなく、万が一フウヤさんに負けることを心配するような言い方ですね)

 つまり、アラシの評価では、ヴァンガード高校選手権準優勝の実績を持ち、ミオと同等の実力者である小金井フウヤより、1年生の柊マナを上に見ているということだ。

「では、名残惜しいが、船の時間もあるので、これにて失礼する!」

「はい。次はヴァンガード甲子園で会いましょう。今日はいらっしゃらないようですが、ヒビキさんにも伝えておいてください」

「ああ、伝えとくぜ。だから予選敗退なんてすんじゃねーぞ。けけけっ」

 そう言って、セイジとアラシはマナを伴って店を出ていった。

「またのお越しをー」

 アリサの声が遠く聞こえてくる。

「……ふうっ。気さくな方々とは言え、やっぱりあの人達の前に立つのは緊張しますねー。独特の雰囲気があるというか……」

 サキが大きな息をつき、額の汗を拭いながら言った。

「……え? さっきの人たちって、天海学園? あの? 去年のヴァンガード甲子園で優勝した?」

 そして、セイジ達が現れてから、何故か一切の声を発さなかったレイがようやく口を開いた。

「そうですよ」

 ミオが肯定する。

「ちっさい人が葵アラシさんで、おっきい人が清水セイジさん? 本物の!?」

「あ、そうか。レイちゃんはテレビでよくファイトを観戦してるんだっけ」

 サキも子供の頃から、高校生のファイトを観ていたので、レイの気持ちがよくわかった。これまでテレビの中の存在だった人物が、急に目の前に現れて興奮しているのだ。それも……

「え!? なかよくお話してなかった!? お姉ちゃん、サキちゃん、あのふたりと知り合いなの!?」

「はい。私は何度か言葉を交わしただけですが」

「私はセイジさんとファイトしたことあるよ」

 ミオが淡々と言い、サキは少し自慢げに胸を張る。

「えーっ!! 羨ましい!! アタシのことも紹介してよ! あー、サインももらいそこねたよーっ!!」

 カードショップ『エンペラー』では、しばらくレイの叫びが木霊することになった。

 

 

「で、どうだったよ?」

 雨はいつの間にかやんでいた。

 ばしゃばしゃと水たまりを蹴とばすように歩きながら。アラシがマナへと振り向いて尋ねた。マナはセイジの大きな背にさっと隠れながら、おずおずと口を開く。

「勝てたのは私の運がよかっただけですし、対戦相手の方はきっと手加減をされていたので、自分の未熟さをつくづく実感したファイトだったと……」

「そんなことを聞いてんじゃねえ」

 レイが聞いたら「アタシ超本気だったんだけど!?」とツッコミが返ってきたであろう感想を、アラシはぴしゃりと遮った。

「え?」

「楽しかったかって聞いてるんだ」

「それは、その……」

 ファイトの一部始終を。特に大逆転に成功したラストターンを思い出し。

「はいっ!」

 やがて力強く頷いた。

「ならよかった」

 セイジが堅い相好を僅かに崩して微笑むと、マナの頭にその大きな掌を優しく押し当てた。

 彼らの行く手には七色の橋が薄くかかり、まるで少女の成長を祝福しているかのようだった。




ネオネクタール使い、柊マナの登場です!
何、この子。
書いてて、メチャ楽しいんだけど。

次の本編はミオにとって、そして根絶少女という作品にとっても、最後のヴァンガード甲子園。
いつも以上に、お楽しみにして頂ければ幸いです。

では、次回は『伝説との邂逅』のえくすとらでお会いしましょう!


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7月「嗚呼、心にぽっかりと穴が開く」

 ヴァンガード甲子園予選・関東Bブロック。

 その会場は騒然としていた。

 ここ10年以内で、出場さえできれば、優勝以外の結果を残したことの無い常勝校、天海(あまみ)学園も含まれるそのブロックが色々と話題になることは、毎年恒例のようなものではあったが、今年は少し違った。

 ただ、騒ぎの渦中にいるのは、もちろん天海学園である。

 天海学園が負けた。

 などということは、当然ながらありえない。

 むしろ、天海のファイトが始まる前から事件は起きていた。

「ひ、ひどい……」

「舐めやがって……」

「誰なんだ、アイツは!?」

 非難や憎悪の視線が、天海学園の生徒達を取り囲んでいる。

「ど、どどど、どういうことなんですか、このオーダーはぁ!?」

 その中で、天海学園の1年生、蔦が絡まったようなソバージュの髪が印象的な少女、(ひいらぎ)マナが半泣きになって悲鳴じみた声をあげながら、1枚の紙をアラシに突き付ける。

 その紙には、天海学園の代表メンバーと、対戦順が記されていた。

 

 先鋒 柊マナ

 中堅 清水(しみず)セイジ

 大将 (あおい)アラシ

 

 1年生のマナが代表に選出されているばかりか、部長である綺羅(きら)ヒビキを温存するという余裕。

 そのオーダーが公開されるや、天海学園が会場に現れた時点で諦めムードだった他校が怒りに燃えた。そしてその怒りの矛先は、ほとんどが無名の1年生であるマナに向けられた。

 あの子は本当に天海の先鋒を務められるほどの資格があるのか。あわよくば1勝くらいできるのではないか。天海に土をつけたというステータスは、どのファイターにとっても魅力的だ。

 アラシなどは「腑抜けどもにもプライドのひとかけらくらいは残っていたか。くけけっ」などと嬉しそうに笑っていたが、奇異と打算の只中に晒されたマナはたまったものではない。オーダー表を片手に撤回を求めていたのだが。

「何で俺様に言うんだよ。このオーダーを考えたのは、ヒビキだぜ?」

 アラシが肩をすくめながら、10年来の親友へと視線を向けた。銀髪碧眼の美少年は、その視線も、周囲の喧噪も意に返さず、薔薇の香りを優雅に堪能していたが。

「え? てっきり私は、またアラシさんが私にいじわるをしているものだとばかり……」

「何でそうなるんだよ!?」

 アラシが怒声を発し、マナは「ひっ」と悲鳴をあげながら、セイジの巨大な背に隠れた。

「日頃の行いだ」

 セイジがきっぱり断じると、マナをなだめるように、優しくその背を撫でる。

「マナ。私から説明しよう。

 来年、再来年と、我が天海学園には新入生の見込みが無いことは知っているな?」

「あ……はい」

 天海学園は本州から遠く離れた離島にある小さな村に存在する。人口の少なさに比例するように子どもも少なく、毎年の新入生は1、2人いればいい方。いないこともざらにあり、来年、再来年は、運悪くそれが連続するのだ。

「つまり、今年のヴァンガード甲子園が、君にとって最後のヴァンガード甲子園になる。それなのに補欠では気の毒だと思って、ヒビキが君に席を譲ったのだ」

「そんな。それでは、ヒビキさんは……」

「心配はしなくていい。決勝大会では、私がヒビキと代わる」

「はっ! みんな大人だねえ」

 アラシが大仰に肩をすくめて、鼻で笑った。

「つっても、補欠も大将も、ファイトできないって意味じゃ、そんな変わんねーがな。俺も今日はファイトできるとは思ってねーよ」

「え? どういう意味でしょうか」

「セイジはもちろん、お前も、そんじょそこらのファイターに負けるわけねーだろ」

「そんな……。私でまず1敗は覚悟していたのですが」

「ありえねえ。ちょうどいいから、お前は外のレベルを知ってこい。そして、自分の実力を自覚しろ。自分がどれほどとんでもない連中と毎日ファイトしていたのかもな」

 マナを安心させるように。はたまた誇るように、アラシがニヤリと口の端を曲げた。

 なお、後にマナが知った話ではあるが、ヒビキが大将を降りると決めた時、真っ先に大将に立候補したのはアラシだったと言う。

「話はまとまったようだね」

 手にしていた薔薇を胸のポケットに挿し直し、これまで無言だったヒビキがようやく口を開いた。

「決勝大会もボクが補欠でよかったのだけれど、生憎と約束があってね。マナにプレッシャーをかけるつもりはないが、皆、この大会は勝ち抜いてほしい」

 アラシとセイジが頷いた。マナは首を傾げた。

「もっとも、ボクもアラシと同じで、キミ達が負けるところは、まったく想像できないのだけどね」

 そう言うヒビキの表情は、揺らぐことのない絶対的な信頼に満ち溢れていた。

 

 

「約束?」

 レイがこてんと首を傾けた。

 ヴァンガード甲子園予選・関東Aブロック、第1回戦。

 先鋒のサキが「勝ってきますよ! ミオさんには約束もありますしね」と、自信満々で出ていった直後の話である。

「ええ。天海学園はご存じですよね」

「そりゃあもう!」

 小学生の頃からテレビでヴァンガード甲子園を見て育ったレイにとっては、憧れのヒーローのような存在である。

「去年のヴァンガード高校選手権で、そこの大将、綺羅ヒビキさんに負けた後、約束をしたんです。全国大会で再戦をすると」

「ヒビキ様!?」

「様て」

 そう言えば、はじめて会った時も、そんな敬称をつけていたような気もする。

「あれから半年、私なりにできることはやってきたつもりです。ですが、彼と再戦するには、まずこの予選を勝ち抜かなければなりません」

「そういうことなら任せて! アタシ、頑張っちゃうよ! あわよくば、ヒビキ様にサインをもらえるかも知れないし!」

「学年が違うとはいえ、あなたもヒビキさんとファイトする可能性はあるんですよ? ライバル相手にみっともない行動は控えてください」

「むー……そっかぁ。アタシがヒビキ様とファイトするなんて想像もつかないけど、その可能性もあるんだよね」

 レイが項垂れながらも納得したあたりで。

「《餓竜 ギガレックス》で、ヴァンガードにアタック!」

 サキの、試合を決定づけるアタック宣言が聞こえてきた。

「さすが早いですね」

 ミオが満足そうに頷く。

「じゃ、次はアタシだね。見ててね。アタシがお姉ちゃんを全国に連れていくんだから!」

「ええ。期待していますよ」

 サキと入れ替わりに、レイが出ていく。

「《時空竜 タイムリーパー・ドラゴン》で、ヴァンガードにアタック!!」

 そして、危なげなく1回戦を突破するのであった。

 

 

「レイさんも、ぎりぎり仕上がりましたね」

 2回戦を前にして、1回戦のファイトを総括していたミオがそう締めくくった。

 5月までは伸び悩んでいたレイだが、6月に天海学園の柊マナとファイトしてから、同学年の実力者とファイトして火がついたのか、めきめきと上達し始めた。

 今なら、1年前のサキやオウガよりは強いはずである。十分に優勝は狙える布陣だ。

「して、次の対戦相手は……金城(きんじょう)高校、ですか」

 ミオはサキとレイに目を向けた。高校のデータについては、このふたりの方がミオよりもよっぽど詳しい。

「……ヴァンガードでは、そこまで有名な高校では無かったと思いますね」

 サキが記憶を探るようにしながら答えた。

「うん。確かサッカーの強豪じゃなかったかな。響星(ウチ)と同じで、運動部が強い高校だよ」

 レイもそれに追従した。

「なるほど。だからと言って、油断をしていい理由にはなりません」

 ふたりは承知しているとばかりに頷いた。

 結局はこの結論に至るので、ミオはあまり他校や他者の情報を収集しないのではあるが。

『第2回戦が始まります。先鋒のファイターは所定の位置へ―――』

 広い会場にアナウンスが響き渡る。

「あ、行ってきますねー」

 去年、ガチガチに緊張していたのが嘘のように、近くのコンビニへお菓子が切れたので買いに行くような気安さで、サキがファイトテーブルへと向かう。

「頼もしくなったものですね」

 ミオが昔を懐かしみながら、うんうんと頷いていると。

「……!! お姉ちゃん、あれ!」

 レイが突如として大きな声をあげ、サキの対戦相手を指さした。

 人としてマナー違反ではあるが、レイの指さす方向を見て、それを嗜める余裕は吹き飛んだ。

「あの人は……」

 そこには、あどけなさを残した黒髪の少年が席についていた。

「ショップ対抗戦で、ミコトさんを破ったディメンジョンポリス使い」

 それを言葉にした直後、少年がこちらを振り向き、フッと微笑んだような気がした。

 

 

 夜空に鮮烈な輝きを放つ紅の月。

 それを仰ぐようにして吼え猛るのは、血塗られた装甲の武装恐竜――ギガレックス。

 月に群がるようにして無数の蝙蝠が集まると、大鎌を携えた吸血鬼――否、それを模した機人であるブラドブラックが姿を現した。

 ここぞとばかりに、ギガレックスが全身に装備した武装をブラドブラックに解き放つ。次々と飛来する、自身とそう変わらない大きさの鉄片を、ブラドブラックは霧へと姿を変えてやり過ごす。

 さらに、ブラドブラックは恐竜の背後で再び実体化すると、大鎌を無造作に振るった。野性的な勘でそれを察知したギガレックスが僅かに身をよじる。斬り落とされた武装が地面に落ち、その数瞬後に爆発した。反応が僅かに遅れていれば、落とされていたのはその首だっただろう。

 怒れるギガレックスが尾を振るうが、ブラドブラックは夜空へと跳躍して回避すると、その姿を無数の蝙蝠へと再び変じた。

 蝙蝠達が、ギガレックスの眼前で集まり、新たな姿を成していく。

 その隙を逃すギガレックスでは無い。腕に装着した武装を鈍器のように振るい、群れの中心めがけて叩きつける。

 それを群れの中から現れた細い腕が受け止めた。細い腕、とは言っても目の前の巨竜に比肩する長大な腕だ。さらに、同じような腕が3本、蝙蝠の中から生え、続いて、その腕の持ち主が全貌を現した。

 それは二面四臂を持つ、双頭の怪物だった。その背に巨大な翼を生やしてはいるものの、太い両足は大地を踏みしめ、宵闇の中、赤黒い体色の巨体を不気味に聳え立たせている。

 それはかつてスターゲートを壊滅寸前まで追い込み、数多のヒーローを葬ってきた、生ける絶望。

 名は《銀河超獣 ズィール》と記録されている。

 ズィールの全身に埋め込まれたクリスタルが青、赤、黄。様々な色に発光する。次の瞬間、クリスタルから幾条もの熱光線が放たれた。色こそ様々だが、その全てが一兆度を誇る、触れるもの全てを蒸発させる死の光線である。

 夜の闇と静寂は、一瞬にして七色の灼熱地獄へと変じた。

 その中で、ギガレックスは嗤うように吼え続けていた。武装のほとんどは熱量に耐え切れず誘爆し、全身の傷口を業火が焙っても。地獄こそが我が住処であるとばかりに、狂ったように叫び続けた。

 その背後に新たな蝙蝠が群れ集い、恐竜の首筋に大鎌が添えられる。

 そして、再び宵闇に静寂が訪れた。

 

 

「ごめんなさい。負けちゃいましたー」

「その割には楽しそうですね」

「え?」

 戻ってきたサキが、ミオに指摘され、顔に手を当てる。その顔がほころんでいることに、自分でも気づいていなかったらしい。

「ごめんなさい。さっきのファイトが面白くて、つい……」

「いえ。私達の目的は、カードファイトを楽しむことです。勝ち負けは二の次でいいのですが」

「そうだよサキちゃん! あとはアタシとお姉ちゃんにまかせて!」

 そう言って、レイが意気揚々とファイトテーブルへと向かう。

「5月のショップ対抗戦で、『ストレングス』に勝った少年をご存じですか?」

 レイがファイトの準備をしている間に、ミオが尋ねる。

「はい。私がさっき負けた男の子ですよね。対『ストレングス』は、私が所属していた『ムーン』最大の課題だったので、あの結果は印象に残ってます」

「実際にファイトしてみて、いかがでしたか?」

「え? うーん……」

 ミオがここまで身内でもない他人を気にするのは珍しいと思い、サキは一瞬、言葉に詰まった。

「スタンドアップ! ヴァンガード!! 《プライモディアル・ドラコキッド》!!」

 そうしている間にレイのファイトが始まり、しばらくふたりは無言になって、視線でレイにエールを送る。

「アタシのバインドゾーンのグレード合計は14! フォースⅡと合わせて、★3の《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》でアタック!!」

 そして、レイは見事に勝利を収めた。

「へっへー。相手に完ガが無いと思って、思い切っちゃった」

「はい。いい判断でした。9月にヒールガーディアンが登場したら、難しくなる戦い方ですけどね」

 ミオがステマをしながらレイを労い、入れ替わりにファイトテーブルへと向かう。

 思わぬ伏兵がいたものだが、ミオは内心嬉しくて仕方がなかった。サキもレイも強くなったがため、大将だとファイトの機会がほとんど無いのではないかと、正直、やきもきしていたのである。

「ギヴンでヴァンガードにアタック。リアガードのジャルヱルと手札3枚をドロップし、★3のグレイドールをスタンド。再び、グレイドールでアタックします」

 そして、容赦無く勝利した。2回戦突破である。

「さっすがお姉ちゃん!」

「ありがとうございます、ミオさん!」

 戻ったミオを、ふたりの後輩が満面の笑みで出迎える。

「ふむ。楽しいファイトでしたが、特別強いファイターのようには思えませんでしたね。サキさんに勝ったあの人だけが、図抜けていたのでしょうか」

「あ、そのことなんですけど……」

 ミオが首を傾げ、サキが控えめに手を挙げる。

「負けた私が言うのも何ですけど、あの子も……その、強いファイターだとは感じませんでした。

 なんというか、ミオさんや、天海、(セント)ローゼの方が発するような、相対しただけで圧し潰されそうになるプレッシャーみたいなものは、ぜんぜん感じられなかったんです。

 ただ、物凄く楽しそうにファイトされていて……私もそれに乗せられて、夢中になってファイトしているうちに、気がついたら負けていた。

 そんな感じなんです」

「ふむ……」

「なんだか少し前に、よくそんなファイトをしていたような。ふふ、どうしてでしょう。少し懐かしくなりました」

「奇遇ですね。私も似たファイトスタイルに覚えがあるような気がしてきました」

「ねーねー。こんなところで話し込んでるよりもさ。今日の対戦表を見たら、名前くらいは分かるんじゃないの?」

 腕を組みながら、仲良く首を傾げ合うミオとサキの間に、レイが1枚の紙を差し入れた。

 それは参加者に渡されるパンフレットで、表にはトーナメント表が。裏には各校の代表選手の名が細かい文字で記されている。

「そうだね。見てみようか」

 レイからパンフレットを受け取ったサキが、メガネの位置を直しながら金城高校の名を探す。

「えーと、金城、金城……ありました! えっと、先鋒は……1年生の天道(てんどう)ミサダという方ですね。 ――天道!?」

 いつも大人しいサキが、らしからぬ素っ頓狂な声をあげ。

 こちらも珍しく、目を全開に見開いて驚きを表現したミオが、他のふたりと顔を見合わせた。

 

 

「《メイデン・オブ・スタンドピオニー》でヴァンガードにアタックします。アタック時、4体のトークンをスペリオルコール!」

「ノーガード……くそっ! 俺の負けだ……」

「ご、ごめんなさい。私の運がよかったみたいです。ありがとうございました」

 テーブルを叩いて悔しがる対戦相手を後目に、マナはそそくさとその場を離れ、セイジ達の下へと戻ると、一礼して報告する。

「対戦相手の方が手加減してくださったおかげで、今回も勝ちを拾うことができました」

「いや、対戦相手の彼も本気だったと思うがな……」

 セイジが苦笑しながら答えた。

「え? ですが、前のターンにユニットをコールしなければ、次のターンの私のアタックは高確率で凌げましたよね? それに、あの方の手札なら、先行を取ったスタンドピオニーのアタックは防いだ方が……」

「そういうのは手加減じゃなく、プレイングミスって言うんだよ」

 にやにや笑いながら、アラシが会話に割り込む。

「くくくっ。ネガティブも過ぎると、ただの煽りだぜ?」

「あっ、そんなつもりでは……。気をつけます……」

「いいっていいって。1年になら勝てると勘違いしたザコには、いい薬だろうよ。けっけっけ」

「……では、行ってくる」

 アラシの物言いに若干顔をしかめながらも、結局は何も言わず、セイジがファイトテーブルへと一歩を踏み出す。彼もマナが侮られていることに、内心では憤りを感じているのかも知れない。

「おう。できれば負けて、俺様にもファイトさせてくんねーかな」

「断る」

 この日、天海学園はいつも通り全勝して、全国行きの切符を手にすることになる。

 

 

 それから、ミオ達も危なげなく勝ち進み、いよいよ準決勝まで駒を進めた。途中でレイが一度負けたものの、ミオがしっかりフォローしている。

 安定感の出てきたサキに、むらはあるものの勢いもあるレイ。そして、絶対的な抑えとしてミオを大将に据えた響星(きょうせい)学園は、全国出場を果たした1年前に負けず劣らずいいチームに育っていた。

 そんな彼女達の次なる対戦相手は――

(ショップ対抗戦ではかませ犬みたいな扱いでしたが。この大一番で私達の前に立ち塞がるのは、やはりあなた達ですか)

 ミオがパンフレットから目を離し、ちらりと視線を向ける。

 その方向には、もともと険しい瞳をさらに鋭く尖らせてこちらを睨みつける神薙ミコトが。そして、彼女の率いる聖ローゼ学園の面々がいた。

「わー。すっごい気迫だねー。ショップ対抗戦の時とは、全然ちがうよ。これが本気になった聖ローゼ学園かぁ」

 レイが聖ローゼ陣営に聞こえないように囁く。驚いてはいるが、緊張はしていないようだ。何事にも物怖じしないのは、実力以上に彼女の強みと言える。

「ショップ対抗戦など、彼女達にとっては遊びのようなものですからね。わざわざ『ストレングス』として参加していたのも、今にして思えば、私や、他の実力者の偵察ができればよしという考えだったのでしょう」

「それなのに、お姉ちゃんも、サキちゃんも、本気でファイトしちゃうんだもんなー」

「私達の目的は、まさしくその遊びですからね」

 非難がましいレイの視線を、ミオがしれっと答えてかわした。

「今日、ミコトさんとすれ違ったんですけど、挨拶すらしてくれませんでした」

 サキが悲しそうに目を伏せながら言う。

「フウヤさんはマメですから、毎回、挨拶に来てくれたんですけどね。ミコトさんは、大きな大会ではそんな感じですよ」

 同じ聖ローゼの部長でも、スタンスは結構違うらしい。ミコトは敵との馴れ合いをよしとしないようだ。

 2年前、フウヤの前の部長、早乙女(さおとめ)マリアは、挨拶どころか宣戦布告に来た事を思い出し、ミオは僅かに頬を緩ませる。

「安心してください、サキさん。大会が終われば、ミコトさんは何事も無かったかのように遊びに誘ってくれますよ。届くメッセージの量も、何故か2割増しです」

 ありえそうな話だ。とサキは苦笑した。

 きっとつっけんどんな態度を取ったことを気にしているのだろう。ミコトは責任感が強すぎるだけで、本質的には寂しがりな少女なのである。

「では、行きましょうか。せっかくの1年に1度の大会です。今回ばかりは彼女達の流儀に倣って、勝ちを目指すとしましょうか。それがヴァンガードを余すことなく楽しむということです」

 ミオはスッと目を細めて、冷徹な視線をミコトに向けた。

 ミコトは一瞬、びくっと肩を震わせたものの、すぐに剣呑な笑みを浮かべ応えて見せた。

 決戦の火ぶたは切られたのだ。

 

 

 先鋒戦は、サキと、聖ローゼ学園2年の十村(とむら)ヒカルの対戦となった。

「あなたが相手ですか。我々の1勝は決まったも同然ですね」

 先に席についていたヒカルがくっくっくと大袈裟に笑う。

「あ、十村君! 代表に選ばれたんだね! おめでとー」

 見下した相手に何故か祝福され、ヒカルは少し椅子からずり落ちながら頭を抱えた。

「やれやれ。あなたに安い挑発は通じませんね」

「ううん。私と十村君の間に実力差があるのは事実だもん」

 言いながら、サキも席につく。

「けど、今日だけは負けないから」

 そして、メガネの奥にある瞳を精一杯に鋭くして宣言する。

「……面白い! ショップ対抗戦では音無(おとなし)先輩を相手に善戦したようですが、強くなったのは自分だけだと思うなよ!」

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《ドラゴンエッグ》!」

「《救装天機 レーシュ》!」

 ――このファイトが、ここまで一方的なものになるとは、誰が予想しただろうか。

「ギガレックスのスキル発動! ヴァンガードに1ダメージ!」

《特装天機 マルクトメレク》のスキルで回復したダメージを、またすぐに詰められ。

「スイーパーアクロカントでマルクトメレクにアタック!」

「ちっ。《恋の守護者 ノキエル》で完全ガード!」

 手札に温存していたマルクトメレクも切らされ。

「私はこれでターンエンドです」

 サキからターンを渡された時には、ヒカルはダメージ5、手札0の状態にまで追い詰められていた。リアガードすらインターセプトで全滅している。

「くっ……こんなはずでは。スタンド&ドロー……」

 引いたカードは(ヒール)トリガー。

(負けるのか、この僕が。こんなところで……)

 皮膚が裂けかねない強さで、自身の額や頬をかきむしる。

「そうだ……負けるわけにはいかない……少なくとも僕は、あなたには負けない……!!

《特装天機 マルクトメレク》のスキル発動!!!」

(自滅!?)

 マルクトメレクのスキルは、ドロップゾーンからユニットをスペリオルコールする代償に、自らに1ダメージを与える。すでに5ダメージを受けているヒカルがスキルを発動した場合、ダメージチェックで治トリガーを引けなければ、その時点で負けが確定する。

 もっともサキの手札には完全ガードが1枚握られており、ヒカルもそれを承知している。マルクトメレクのスキルでユニットを展開する以外に勝ち筋が無いのも事実である。

 だが、ヒカルが逆転のためにマルクトメレクのスキルを発動したようには、サキには見えなかった。

「待って、十村く……」

「ドロップゾーンから《救装天機 ラメド》を2体、《救装天機 ザイン》をスペリオルコール。これでこの茶番はおしまいだ。ダメージチェック……」

 マルクトメレクが6枚あった翼の、最後の1枚を乱暴に掴み、むしり取る。

 同じようにして、ヒカルがデッキの上からカードをめくる。

「…………ありえない」

 そのカードを見て、ヒカルがポツリと呟いた。それから数瞬の沈黙の後、吐血するように叫ぶ。

「ダメージチェックで出た《神装天機 シン・マルクトメレク》のスキル発動!!

 手札を1枚捨て、このカードにスペリオルライド!!」

 傷だらけだったマルクトメレクの装甲が輝きに包まれ、新たな純白の装甲を纏ったマルクトメレクへと再誕した。背負いし(シン)を翼に変えて、蒼穹をどこまでも高く翔ぶ。

「すごい! この状況でシン・マルクトメレクを引くなんて!」

 一転して追い詰められた状況にも関わらず、サキが嬉しそうに歓声をあげた。

「……引けるはずはなかったんだ。デッキの中にシン・マルクトメレクは、もう1枚しか残っていなかった。こんなの、運がよかっただけだ……」

「なら、きっとデッキが十村君に応えてくれたんだね」

「夢見がちなことを……!! 僕はエンジェルフェザーの戦い方が自分に合っているから、その力を利用しているだけだ! カードに信頼など、微塵も無い! そんなもので確率という絶対的な存在は揺らがない!

 これがフリー対戦なら投了していたところだが、チームのため、勝たせてもらう!

 ラメドのブースト! シン・マルクトメレクでギガレックスにアタック!! ラメドのスキルで、このアタックは守護者でガードできない!!」

「……ノーガードだよ」

 6枚の手札と、4枚のダメージを見比べ、サキが宣言した。

「ツインドライブ!!

 1枚目、ノートリガー。

 2枚目…………(クリティカル)トリガー」

 マルクトメレクが、手にした剣を高く掲げる。それは太陽の光を浴びて山吹色に輝き、ギガレックスを断罪するかの如く振り下ろされた。

 黄金の一閃が大地ごと敵を裁き、マルクトメレクは再び天に昇る。白い羽根の軌跡を残しながら。

「ダメージチェック……負けました」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いたサキが、残念そうに告げる。

「……見苦しいファイトをお見せしてしまったことを謝罪します」

 ヒカルは慇懃に頭を下げると、逃げるようにファイトテーブルから離れていった。

(十村君……)

 その寂しげな後ろ姿から、サキはしばらく目を離すことができなかった。

 

 

「見てられないファイトだったわね」

 自陣営に戻ったヒカルを出迎えたのは、聖ローゼ学園の部長、神薙(かんなぎ)ミコトだ。

 腕組みをしながら、ヒカルと目を合わせようともせず、素っ気なく言い放つ。

「返す言葉もございません。今回の件は猛省致します。ですが、勝ちはしましたよ。文句は無いでしょう?」

 いつも以上に皮肉めいたヒカルの言い草に、ミコトは顔をしかめたが、彼女が何か言い出すよりも早く、弟の神薙ノリトが割って入った。

「もちろんだよ。ゆっくり休むといい」

「お言葉に甘えさせて頂きますよ」

 そう答えて、ヒカルはふらふらと他の部員達の下へと埋没していった。

「次は僕の番だね。勝っていいんでしょ、姉さん」

 一歩踏み出そうとしたところで、姉の方を振り返り、ノリトが確認する。

「当たり前よ。ファイトして負けるつもりはないけれど、わざわざミオとファイトするリスクを冒す必要は無い。勝てる相手に、確実に2勝する。それが響星の攻略法よ」

「勝てる相手、ね」

 ノリトが苦笑する。

「その勝てる相手に去年負けたのは、誰と誰なんだろうね」

「あんたね……!!」

 鬼の形相になって睨みつけてくるミコトの視線を軽やかにかわし、ノリトは今度こそファイトテーブルに向けて一歩を踏み出した。

「油断はしないって意味だよ。それじゃ、行ってきます」

 

 

「お疲れ、サキちゃん!」

 戻ってきたサキが何か言い出すよりも早く、レイがペットボトルに入った水を差し出して出迎えた。

「うん。ありがと。……ごめんね、負けちゃった」

 水を一気に飲み干して、サキが力無く項垂れる。

「気にすることはありません。いいファイトでした」

「そうだよ! 後はアタシが頑張るからさ!」

 ミオとレイが口々にサキを労う。サキは目頭が熱くなったが、どうにか泣くことだけは堪えた。

「次の相手は、ノリトさんのようですね」

 ミオが聖ローゼ陣営に目を向けて呟く。

「そうみたいですね……。あれ? でも、どこか……」

 ファイトテーブルまでゆっくり歩いてくるノリトの様子に違和感を覚え、サキは何度もメガネをかけ直した。

「ええ。私にもわかります」

 ミオやサキの知るノリトは、勝負に対して厳しいところはあれど、基本的には温和な人柄だった。

 だが、今のノリトは悪鬼や修羅に喩えても足りないほど、憤怒の形相を浮かべていた。

「今のノリトさんは、怒りに燃えています。これは厳しい戦いになりそうですね」

 

 

 実力はあるが勝負弱い。

 それが神薙姉弟に対する世間の評価だった。

 2年前のヴァンガード高校選手権で、当時まだ無名だったミオに姉弟揃って負けたのを皮切りに、去年のヴァンガード甲子園では、ノリトがアリサに、ミコトがサキに。ヴァンガード高校選手権では、ノリトがオウガに。いずれも圧倒的有利という下馬評を覆されて敗北している。

 ここぞという場面で無名のファイターに負ける姉弟は、誰からも期待されず、今年のヴァンガード甲子園優勝はおろか、全国出場も危ういのではないかと噂されていた。

(そしてまた、この重大な局面で僕と対戦するのが、響星の1年と言うわけか……)

 対面に座した、2年前のミオによく似た少女を観察する。

 ショップ対抗戦や、今日の試合で、何度もファイトは偵察させてもらったが、素養は見え隠れすれど凡庸な少女だった。聖ローゼのような環境で徹底的に鍛えれば、今頃はひとかどのファイターに育ったかも知れないが、現時点では経験が不足している。普通に考えて、自分が負ける相手ではない。

 そして、そういう相手に、自分はいつも足をすくわれてきた。

「? よろしくお願いしますね!」

 こちらの視線に気づいたのか、小首を傾げて二つ括りにした髪を揺らしながら、あざとく挨拶をしてくる。こういうところはミオに似ていない。

「……ああ、よろしく」

 デッキをシャッフルする手は止めず、ノリトは平静を装って淡泊に答えた。どれほど内心で昂っていても紳士的な態度は崩さなかったフウヤは、改めて偉大だと感じる。

「僕はもう二度と君達には負けない……」

「え?」

 相手に聞こえるか聞こえないかの声で宣言し、デッキを叩きつけるように置いてカードを5枚引く。

「何でもない。はじめようか」

「う、うん!」

「「スタンドアップ ヴァンガード!!」」

「《プライモディアル・ドラコキッド》!」

「《インシピアント・ロングテイル》!」

 

 

「行くよ、相棒!

 ライド! 《時空竜騎 ロストレジェンド》!」

 先行を取ったレイが、まずはG3ユニットにライドする。

 真鍮の鎧を纏った騎士竜が、機械仕掛けの剣を振るい、姿を現した。

「手札から《時空竜 タイムリーパー・ドラゴン》を捨てて、時空超越(ストライドジェネレーション)!! 《時空獣 アイソレイト・ライオン》!!

 まずはロストレジェンドのスキルで1枚ドロー! さらにアイソレイト・ライオンの登場時スキルで、山札の上から1枚をスペリオルコール! 《スチームメイデン・ウルル》!

 アイソレイト・ライオンの起動スキルでウルルを退却、山札から《リノベイトウイング・ドラゴン》をスペリオルコール!」

 そしてレイはリノベイトウイングのスキルで、バインドゾーンのグレード合計を6にする。

「《スチームメカニック ナブー》をコール!

 バトルだよ!

 ナブーでヴァンガードにアタック! アタック時、ドロップゾーンのタイムリーパーをバインド!」

「《白燐の魔術師 レヴォルタ》でインターセプト」

「ナブーをソウルインして1ドロー!

《思い出を守るギアパピィ》のブースト、アイソレイト・ライオンでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

「ツインドライブ!!

 1枚目、(ドロー)トリガー! 1枚引いて、パワーはロストブレイクに!

 2枚目はトリガー無し!」

「ダメージチェック……トリガーじゃないよ」

 ノリトのダメージゾーンに置かれたカードは、これで2枚。

「ギアパピィをバインドして1ドロー!

《スチームブレス・ドラゴン》のブースト! 《ロストブレイク・ドラゴン》でヴァンガードにアタック!」

「……ノーガード」

 さらに3枚目のカードがダメージゾーンに置かれ、レイはターンエンドを宣言する。アイソレイト・ライオンも、ロストレジェンドに戻った。

「スタンド&ドロー。

 ライド。《白虹の魔女 ピレスラ》

 イマジナリー・ギフトはフォースⅡを左前列のリアガードサークルに」

 桃色の髪をした童顔の魔女が、箒を模した杖をくるんと回転させてから地面に突き立てた。

 彼女を中心に巨大な魔法陣が広がり、戦場が輝きに包まれる。

「ふむ……」

 いったん手札を置き、ノリトは睨みつけるようにして対戦相手の盤面を確認する。リアガードが2体で、バインドゾーンのグレード合計は14。ダメージは3。

「魔女相手に迂闊な展開はしない、か。まるきり初心者というわけでもなさそうだ」

「当然でしょ! これでも小学3年生の頃からヴァンガードやってるんだから! ヴァンガード歴8年のベテランだよ!」

「小3から始めたのなら、ヴァンガード歴7年じゃないかな」

 冷淡に指摘し、再び手札に目をやる。

「コール。《源泉の魔女 フィクシス》

 ヴァンガードとグレードが同じなので、スキルのコストはソウルで支払う。

 山札の上から4枚見て、フィクシスを手札に加える。残りのカードは山札の下に。

 さらにそのフィクシスをコール。山札の上から4枚見て、今度は《猫の魔女 クミン》を手札に加える。

 ピレスラのスキル発動。フィクシスを手札に戻し、フィクシスを再びコール。4枚見て、《純白の魔女 ソルティ》を手札に。

 クミンをコール。クミンのスキルで、フィクシスを手札に戻し、フィクシスをコール。《蛙の魔女 メリッサ》を手札に」

(す、すごい、この人……)

 みるみるうちに増えていくノリトの手札に、レイは内心で圧倒されていた。

「クルートを2体コール。それぞれソウルチャージ5、ソウルチャージ6。

 さて……このターンに僕がコールした魔女、魔術師は7体。よってソウルブラスト7でピレスラのスキル発動!

 魔女、魔術師のパワーを+10000! ピレスラに★+1!」

 魔女が杖を掲げ、天空に次々と魔法陣を描き出す。魔法陣は魔術師達の手にする杖や使い魔に宿り、更なる力を与えた。

「バトルだ!

 フィクシスのブースト、ピレスラでヴァンガードにアタック!」

 魔女が杖を向けると、無数の光球が宙に浮かび、一斉にロストレジェンドめがけて襲い掛かった。

「《スチームガード・カシュテリア》で完全ガード!」

 ロストレジェンドの前に立ちはだかったエンジニアの少女が、機械仕掛けの盾を展開し、すべての光球を叩き落とす。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー!! 効果はすべて右前列のクルートに! そのクルートでアタック!」

「ウルルでガード! ロストブレイクでインターセプト!」

「フィクシスのブースト、クルートでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード! ダメージチェック……1枚目、2枚目、どっちもトリガー無し!」

「……僕はこれでターンエンドだ」

「ふーっ、耐え切ったぁ!」

 レイが大袈裟な仕草で汗をぬぐう。

「アタシのターン! スタンド&ドロー!!

《時空竜騎 ロストレジェンド》にライド! イマジナリーギフト・フォースⅠを左前列のリアガードに!」

 これで全ての前列にフォースⅠが配置された。

「《ロストブレイク・ドラゴン》をコール! ロストブレイクのスキル発動! アタシが手札からバインドするカードは……」

 手札から1枚のカードを見せつける。

 ノリトの表情が僅かに歪んだ。それは、このファイトでノリトが初めて見せた感情らしい感情だった。

「《絶界巨神 ヴァルケリオン》……」

 そのカードの名を苦々しく呟く。

「そーだよ! ヴァルケリオンのグレードは5! これでバインドゾーンのグレード合計19達成だよ!!」

「ジェネシス使いの前で、やってくれるじゃないか……」

 一度崩れた鉄面皮は元には戻せず、怒りと楽しさがないまぜになったような笑みをノリトは浮かべた。

「ふふん! あとはユニットをコールして……時空超越!! 《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》!!」

 ロストレジェンドが地面に剣を突き立てる。たったそれだけで大地が二つに割れたかと思うと、そこから閃光と共に黄銅色に輝く機械巨竜が、ロストレジェンドと入れ替わるようにして姿を現した。

 巨竜はまるで吐息するかのように、その口元から蒸気を噴き出し、鉄の翼を広げて天に翔ぶ。

「ミステリーフレアのスキル発動!!

 ミステリーフレアにドライブ、★+1!

 アタシのユニットすべてにパワー+10000!

 そして……。

 バトルだよ!!

《ロストギアドッグ エイト》のブースト! ミステリーフレアでヴァンガードにアタック!!」

 天を衝くほどに長大な、巨竜の携えた2問の砲が、地上にいる魔女めがけて、遥か上空から放たれる。

「《純白の魔女 ソルティ》で完全ガード!」

 翠緑の光線がピレスラに届く直前、白い法衣の魔女が間に立ち、障壁を張って光線を受け止める。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、★トリガー! 効果はすべて《スモークギア・ドラゴン》に!

 2枚目、治トリガー! ダメージ回復! パワーはスモークギアに!

 3枚目はトリガー無し!

《テキパキ・ワーカー》のブースト! ロストブレイクでヴァンガードにアタック!」

「《戦巫女 ククリヒメ》、《謹厳のマーキュリー》、《隕星の魔術師 ヴァーイン》でガード! クイックシールドも使用する!」

 10枚あったノリトの手札が、みるみるうちのその数を減らしていく。

「スチームブレスのブースト! スモークギアでヴァンガードにアタック!!」

「ダメージチェック……1枚目、2枚目、どちらもトリガー無しだ」

 ノリトがふーっと吐息して、目を閉じ、天井を仰いだ。

(……いける! アタシは勝つ! 勝って、お姉ちゃんに繋ぐんだ!!)

 勝利を目前にしたレイは、ノリトが漏らした小さな呟きを聞き逃していた。

「……届いたか」

 と。

「アタシはこれでターンエンド。エンド時に、ミステリーフレアはロストレジェンドに戻るよ。フォースⅠは右前列に。

 ……そして!!

 手札をすべて捨てることで、アタシは追加のターンを得る!!」

 ミステリーフレアの姿がかき消え、ロストレジェンドが再び姿を現す。ミステリーフレアが消失する際に残した、巨大な時計の文字盤を背にして。

 その時計の針がゆっくりと動き出す。それはやがて凄まじい勢いで回転し、魔女達の時間(ターン)を消し飛ばしたところで動きを止めた。

「アタシのエクストラターン! スタンド&ドロー!!

 スチームブレスを《テキパキ・ワーカー》の上にコール! スチームブレスのスキル発動! 山札の上から5枚見て、ロストレジェンドを手札に加えて、そのままロストレジェンドを捨てるよ。これでこのターン手札を捨てたので、スチームブレス2体のパワーは+5000!

 いくよ! バトル!

 エイトのブースト! ロストレジェンドでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガード……」

「ツインドライブ!!

 1枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはロストブレイクに!

 2枚目、治トリガー! パワーはスモークギアに!」

 ロストレジェンドが駆け、時を早送りして加速し、一瞬で肉薄した魔女めがけて剣を振り下ろす。

(やった! 勝ったよ、お姉ちゃん……)

 勝利を確信して、ミオのいる方向へと振り向く。

 姉はいつも通り無表情で。

 その視線が「気を抜くな」と雄弁に語っていた。

「!?」

 レイが慌てて盤面へと目を戻す。

「治トリガー。ダメージ回復」

 袈裟懸けに斬り裂かれたはずの魔女が、傷跡ひとつ残さず、平然と立っていた。

「……つっ! まだ、リアガードのパワーは、ギフトとトリガーで十分なんだから! スチームブレスのブースト! ロストブレイクでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガード。ダメージチェック。治トリガー」

 喜ぶでも驚くでもなく。それがまるで規定事項であるかのように、ノリトは淡々と処理を進めた。

「な、なんで……?」

 レイが手札を取り落としそうになる。

「無駄だよ。もう君のアタックは、僕に6点目のダメージを与えることはない。けっして」

「!! そ、そんなこと、なんでわかるのよ!?」

「よく考えればわかることだ。ベテランなんだろう?」

「ぐっ……」

 揚げ足を取られ、レイが歯噛みする。だが、そのおかげで冷静さを取り戻し、今の状況を把握できた。

「フィクシスで……カードをずっと山札の下に戻してた」

「ご名答。フィクシスのスキルで、治トリガーを3枚並べた。嘘だと思うなら、ヴァンガードにアタックしてみるといい。僕はリアガードにアタックすることを勧めるけどね」

「……スチームブレスのブースト。スモークギアでヴァンガードにアタック」

「敵の口車には乗らないか。いいファイターだよ、君は。

 ノーガード。ダメージチェック。治トリガー」

「…………」

「ターンエンドでいいかな?」

 唇を噛み切らんばかりの強さで噛みしめて悔しがるレイに、ノリトが優しく声をかけた。

「……どうぞ」

 レイが絞り出すように答える。

「スタンド&ドロー。

 君は強かったよ。ここまで追い詰められるとは予想もしていなかった。やはり響星(きみたち)は侮れない。ファイトの途中でも、見違えるように強くなっていく。

 だからもう君にターンは渡さない。魔術師デッキの奥義で、確実に終わらせる。

 ピレスラのスキル発動。クルートを手札に戻し、コール。ソウルチャージ6。これで準備は整った。

《蛙の魔女 メリッサ》をコール。スキル発動。さあ、デッキから5体のユニットをスペリオルコールするんだ」

 レイがしぶしぶ言われた通りに、デッキの上から5枚をめくりユニットを上書きしていく。

「クミンをコール。スキル発動。メリッサを手札に戻し、再びメリッサをコール。もう一度、デッキから5体のユニットをスペリオルコールしてもらおうか」

 人を呪わば穴ふたつ。一度は時間を奪われた魔女の呪いによって、今度はギアクロニクルの未来が消失していく。

「僕はこれでターンエンドだ」

「……アタシのターン。……スタンド&ドロー」

 レイの手の中で、今、最後の時のひとひらが消えていった。

 山札が0枚になったのだ。

「よしっ!!」

 普段は冷静沈着なノリトが、拳を握りしめて喜びを露わにし。

 レイは自分の掌を、虚ろな瞳でぼんやりと見つめていた。

 

 

「……ごめんね。負けちゃった」

 ふらふらと危なっかしい足取りで戻ってきたレイは、瞳の焦点は定まっておらず、口元には渇いた笑みを貼り付けていた。

「あはは。ダメだね、アタシ。みんなと一緒に、あんなに練習したのにさ……」

 ぐしゃぐしゃとよく手入れされた髪をかきむしる少女を、ミオは優しく抱きしめた。

「いいんです。今のあなたの感情は、私がよく知っています。お疲れさまでした」

「……うん。ごめんね、お姉ちゃん。……本当にごめんなさい」

 レイがぽすんとミオの肩に顔をうずめた。それを見守るようにして、サキが大粒の涙を流している。

(あの日のユキさんの想いが、ようやく私にも理解できました)

 ミオは心の中で、2年前の同じ日に、自分の中で爆発する感情を受け止めてくれた女性に語り掛けた。

 そして今、心から溢れ出す本心をゆっくりと言葉に変えていく。

「あなたたちは私の誇りです。今年のヴァンガード甲子園は、私にとって一切の悔いの残らない、最高の大会でしたよ」

 ミオはレイを抱く腕にぎゅっと力を込めた。

 今日、少しだけ大人になった少女の気がすむまで、ずっと。




根絶少女3年生編のヴァンガード甲子園・地区予選回をお送りさせて頂きました。

ジェネシス使い、神薙ノリト。ようやくの初ファイトです。

そして、謎のディメンジョンポリス使いも名前が判明です。
今回はここまでですが、次回の登場をお楽しみにして頂ければと思います。

それでは、次回は8月の本編でお会いしましょう!

●追記
ヴァンガファンサークル(https://cf-vanguard.com/vg_fan_circle/list/)にて、
「ヴァンガード文芸部」というサークルを作りました⇒https://twitter.com/abZa3WIRLEb7ugy

ヴァンガードの創作好きが助け合えるコミュニティにしていきたいと思いますので、ご興味のある方は、メッセージくださいませ。


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8月「希望・信念・友情 貴様ノ全テガ零ニナル」

「《メイデン・オブ・スタンドピオニー》で《神装天機 シン・マルクトメレク》にアタックです。

 アタック時に、スタンドピオニーのスキル発動。4体のユニットを退却させ、新たに4体のプラント・トークンをスペリオルコールします」

「プロテクトⅡサークルの《セクシオ・エンジェル》2体でインターセプト!!」

 白き花乙女が放つ花吹雪を、2体の天使が身を呈して防ぎ切る。

「では……プラントでアタックです」

 しかし、地を這う(プラント)の群れが、続けざまに白き機械天使へと襲いかかった。まず、生身に近い翼を浸食され地面に落ち、次に関節部分、眼にあたるバイザー部分と、脆い箇所から順にゆっくりと喰われていく。

 生命力の強い植物は、石や金属にすら根を張り、苗床とすることができる。

 苔むした姿となった機械天使は、剣を地面に突き立て片膝をつくと、緩慢にその機能を停止した。

「ダメージチェック……僕の負けです」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いた聖ローゼ学園の2年、先鋒を務める十村(とむら)ヒカルが告げた。敗北を認めざるを得ない、圧倒的な差だった。

「あなたは……いったい?」

 それだけを絞りだすようにして尋ねる。その対戦相手、天海学園の1年、先鋒を務める(ひいらぎ)マナは――

「名乗るほどの者ではありません。どうしても呼びたければ、ウスノロとでもお呼びください」

 別に名前を聞いたわけではなかったのだが(対戦表を見て、知っている)、マナは見当違いの答えを返した後、一礼して、逃げるようにヒカルの前から去って行った。

 

 

「ちっ。相性が悪ぃなあ!」

 言葉とは裏腹に、一際楽しそうな笑みを浮かべると、天海学園の3年、中堅を務める(あおい)アラシは、手札をすべて使ってユニットを展開する。

「1体目の《七海剣豪 スラッシュ・シェイド》で《白虹の魔女 ピレスラ》にアタック! さらに2体目のスラッシュ・シェイドでアタック! 3体目もアタック!」

 影の剣士達が、研ぎ澄まされた刃と剣技を以て、魔女の全身を少しずつ斬り刻んでいく。

「ラストだ! 《七海覇王 ナイトミスト》でアタック!!」

「くっ……《蛙の魔女 メリッサ》でガード!」

「1枚貫通だな。ツインドライブ!!

 1枚目、引トリガー!! 1枚引いて、パワーはナイトクロウに!

 2枚目、こいつも引トリガーだ!!」

「!?」

 海賊船長の放つ、カットラスの一振りが、魔女の展開した障壁を斬り裂き、杖をも真っ二つに叩き斬った。

「これで財宝6つ目ぇ! 俺様の七海のリアガードはすべてスタンドするぜ!!

 ナイトクロウでヴァンガードにアタックだぁ!」

「ダメージチェック……僕の負けですね。……完敗です」

 聖ローゼ学園の3年、中堅を務める神薙(かんなぎ)ノリトが6枚目のカードをダメージゾーンに置いた。

「いやぁ? 他人からはそう見えるかも知れねぇが、紙一重だったぜ? 次にお前にターンを渡したら、俺は間違いなくデッキを枯らされてた」

 自分から山札を削り、ユニットを展開しなくてはならない七海デッキは、相手のリアガード数に応じてデッキ破壊を仕掛けることのできる魔女デッキと相性が悪かった。しかも、フォースユニットのピレスラはパワーが13000あり、一部アタックの通りが悪くなる。

「それを嫌って、あなたは序盤からスラッシュ・シェイドを展開して攻めてきた。倒しきれなくても、手札さえ切らせれば、デッキ破壊は難しくなる。それに対応できなかった僕が、やはり未熟だっただけですよ」

「まあ、そういうことにしといてやっか。それでも楽しかったぜ。あんたとは、またやりてぇな。神薙ノリト」

「ええ、こちらこそ」

 ふたりはしばし握手を交わすと、やがて同時にゆっくりと離れ、自らの陣営に帰っていった。

 

 

「いやぁー。聖ローゼは、フウヤ君のワンマンだと思ってたが、なかなかどうして、他に強ぇやつもいるじゃねえか」

 天海のカードファイト部員が集うベンチに戻ると、開口一番、アラシが嬉しそうに言った。

「けどよ……本当によかったのか?」

 そして、彼にしては非常に珍しく、気遣うような口調で、奥のベンチに座り込む綺羅(きら)ヒビキに話しかけた。

「何がだい?」

 ヒビキは薔薇の香気を楽しみながら、尋ね返す。

「トボけんなよ。今回もまた、お前が補欠にいるってことだよ!」

 アラシが今大会のパンフレットを指し示す。本来、ヒビキの名が記されるべき大将の欄には、清水(しみず)セイジの名があった。

「決勝大会であれば、マナやアラシが負ける可能性もあったはずだ」

「そうです。私ごときに、伝統ある天海学園の先鋒は荷が重すぎます」

 セイジとマナが口々に言う。ちなみにマナはそんなことを言いつつ、準決勝を終えた今に至るまで、勝ち続けているのだが。

 あと、余談にはなるが、天海学園カードファイト部は比較的最近できた部活で、伝統など無い。

「いいんだ。あの子が予選で敗退した今、ボクがこの大会に出場する義務は消失した。

 ならば、いずれヴァンガードを辞めなければならない日のことを思えば、思い出など少ないに越したことはない。未練になってしまうからね」

 その言葉に、マナが、セイジが、アラシですら、押し黙ってしまった。

「おっと。場を暗くしてしまったようだね。ともかく、去年は多くの人にボクのファイトを楽しんでもらえた。ボクにとって、ヴァンガード甲子園の思い出は、それだけで十分なんだ。

 さ、決勝戦も頑張ってくれたまえ。応援しているよ」

 こういう時だけは部長らしく、手を叩いて部員達を取りまとめる。

 この日、天海学園は決勝戦でも2連勝し、無傷でヴァンガード甲子園3連覇を飾った。

 

 

「皆は先に帰っていてくれたまえ」

 ヴァンガード甲子園の会場から出てすぐ、ヒビキは開口一番にそう言い放った。

「次の船が最終便だぞ?」

 セイジが確認する。

「構わない」

「くくく。んじゃ、ごゆっくりー、ってな」

 アラシが雑に手を振って、さっさとヒビキから離れて歩きだす。船の時間に余裕は無く、無駄な議論に費やす時間は無かった。

「? ? ?」

 何度も首を傾げながら、その場でオロオロするマナの背中を、セイジが優しく押した。

「行こう。ヒビキには約束があるんだ」

「やく、そく……?」

「そうだ。そして……」

 気の弱いマナからしたら怖いくらいに声が大きく明朗なセイジが、珍しく言葉を濁した。

 何事かと思ってマナが顔をあげると、これまた珍しく、常に威厳ある表情を崩さない、頼れる兄のように思っていたセイジの顔が、今にも泣きだしそうに歪んでいた。

「これが島の外でする、ヒビキのラストファイトになるのだろうな」

 涙の代わりに零した言葉は、まるで夕立のように湿っていた。

 

 

 ヴァンガード甲子園の全日程が終了する頃、一人の少女がその界隈を彷徨っていた。

 白髪をさらりと若々しくなびかせた、小柄で童顔な少女である。

 くりっとした大きな瞳を半開きにした表情からは一切の感情が伺えず、どこかミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

 界隈で人気のラーメン店にて、超特盛チャーハンと、おかずに具材全部乗せ大盛りラーメンで腹ごしらえをした後は、付近のカードショップを片っ端から訪れ、ファイトスペースと、リンクジョーカーのカードの入ったショーケースやストレージボックスに目を通すと、溜息をひとつついて去っていく。

 そんな行動を5件ほどのカードショップで繰り返し、次の6件目――

 少女、音無ミオは、ようやく目当ての人物を探し当てた。

「そう。まずはヴァンガードからアタックするんだ。そうすれば、トリガーをリアガードに乗せることもできるからね。ふふ、君は素質があるよ」

 その少年は、場末のカードショップの片隅で、数人の子ども達を相手に、丁寧にティーチングを行っていた。

 あらゆる女性を恋に、あらゆる男性を嫉妬に陥らせてしまいそうな、銀髪碧眼の危険すぎる美少年だったが、そんなことはまだ幼い子ども達には関係無く、ただただ純粋に懐かれていた。

「お兄ちゃん、こういう時はどうすればいいの?」

「さっきギフトで手札に加えたプロテクトがあるだろう? パワーの高いヴァンガードのアタックは、これで防ぐといい」

「俺、このカードが当たったから、使いたいんだけど!」

「《獣神 エシックス・バスター》か。すてきなカードだね。獣神はだいたい『救世の光 破滅の理』というパックで揃うから、まずはそれを買ってごらん」

 そしてまた、独自の美意識を持つミオも、美少年に特別な感情を抱かない例外のひとりだった。

「捜しましたよ、綺羅ヒビキさん」

 一切の感情がこもらない声音で美少年に声をかける。

 美少年、つい先程、ヴァンガード甲子園の3連覇を成し遂げたばかりの綺羅ヒビキが、そこにいた。

 ヒビキはそれだけで絵画の題材になってしまいそうなほど優雅に顔をあげると、少し安心したように微笑む。

「待っていたよ、ミオちゃん」

「このあたりはカードショップが多いですね。さすがヴァンガード甲子園の御膝元と言ったところでしょうか。その中でも、一番小さな店にいるとは思いませんでしたが。より大きく、より派手なショップにいるものとばかり思っていました」

「フッ。ボクは人気者だからね。メジャーなショップに顔を出してしまうと、ファイトにならないと思ってね」

 ここでも十分な人気者のように思えたが、こうしてヒビキに近づいて話しかけられただけでもマシな方なのだろう。

「なるほど。人の考えを読み解くのは、やっぱり私は下手ですね。

 ともあれ、ヴァンガード甲子園の決勝大会の日に再戦するという約束、果たしに来ましたよ」

「たしかにヴァンガード甲子園で再戦するとまでは約束していなかったけど……。まるで屁理屈だね」

「その屁理屈を信じて、こうして待っていて頂けたのは、正直に言って、少し嬉しかったですよ。3件目を回ったあたりで、諦めかけてましたから」

「それは失礼した。お詫びとして、全身全霊でファイトすることを約束しよう」

 そう言うと、ヒビキは子ども達のファイトがひと段落したのを見計らって立ち上がる。

「ごめんね、皆。ボクはこれから、こちらのお姉ちゃんとファイトしなければならないんだ」

「えー!? そんなー!!」

「じゃああたし、ヒビキお兄ちゃんのファイト見る!」

「あ、俺も俺もー!!」

 こうして多くの子ども達がヒビキにつき従う。

「やれやれ、しょうがないね。ミオちゃん、ギャラリーが増えてしまったけど、構わないかい?」

「はい。むしろ、あなたが敗北した時の証人ができて、ちょうどいいです」

「フッ。相変わらず、チャーミングなお顔に似合わず強気だね」

 戯言をほざくヒビキの対面に、ミオも腰かける。

「がんばってね、ヒビキお兄ちゃん!」

「絶対に勝てよ!」

「じゃ、あたしはこっちのお姉ちゃんを応援するー!」

「お姉ちゃん、がんばれー!」

 同性のよしみか、何人かの女の子がミオ側についてくれた。

「それでは、はじめようか。ボク達の物語(ファイト)を」

 5枚のカードを引き終えたヒビキが確認する。手札交換はしなかったようだ。即ち、現状が既に最高の手札ということである。

「ええ。はじめましょう」

 3枚のカードを入れ替えたため、少し遅れてミオが答える。

 ふたりの少年少女が裏向きのカードに手をかけた。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

「《バミューダ△候補生 シズク》」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「なにあれー?」

「きもちわるーい」

 ファーストヴァンガードをめくった瞬間、ミオに味方していた少女達にドン引きされた。

 ミオが大人をも凍りつかせそうな無表情で、少女達を睨みつける。大人げない。

(根絶者のよさがわからないとは。まだまだお子様ですね)

 心の中で肩をすくめてから、改めてヒビキのカードに向き直る。

「リヴィエール軸では無いんですね」

「あのタクティクスは、もう手の内を明かしてしまったからね。これこそがボクの、真のデッキさ」

「……上等です」

「それでは、ボクの先攻だ! スタンド&ドロー!!」

 美しい弧を描くようにして、ヒビキが山札からカードを引く。

 そしてふたりは地球を飛び出し、惑星クレイへと――深いイメージの世界へと落ちていった。

 

 

「さあ、ここからがボクのショータイムだ!」

 ヒビキが細い指で1枚のカードを慈しむように撫で、高らかに声をあげる。

「深き闇に眠りし静かなる才能よ。深海より音を震わせ、響け!

 ライド! 《ベルベットボイス・レインディア》!!」

 海面から弧を描くようにして銀髪の人魚が跳ね、岩礁の上へと音も無く降り立った。潮風に薄布のヴェールを遊ばせ、異形の侵略者に憂いを帯びた視線を投げかける。

 彼女の使命はただひとつ。

 歌う。

 たとえ観客が心無き存在だったとしても。

「リアガードをコールして……バトルフェイズだよ!

《天真爛漫 メルニル》のブースト、《鮮やかなる夢幻 アクティアナ》でアタックするよ」

(ヒール)トリガーでガードします」

「《マーメイドアイドル セドナ》のブースト、《トップアイドル アクア》でヴァンガードにアタック! フォースⅠサークルがあるので合計パワーは38000だ!」

「ノーガード。ダメージチェック……(ドロー)トリガー。カードを1枚引いて、パワーはヴァンガードのギアリに」

 ミオはダメージゾーンに2枚目のカードを置く。

「《陰の主役 ヒルダ》のブースト! 《ベルベットボイス レインディア》でヴァンガードにアタック!」

「《招き入れる根絶者 ファルヲン》でガード。《呼応する根絶者 アルバ》でインターセプトです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、残念、こちらもトリガー無し」

 レインディアが祈るような歌声を響かせ、浄化された根絶者が次々と落ちては動かなくなった。

 それは彼女を中心に波紋のように広がり、やがては世界をも覆い尽くす。

「バトル終了時にレインディアのスキルが発動するよ!

 手札を2枚捨て、山札の上から10枚公開――。

 公開されたカードがすべて別名だったので、その中から1枚を選び、スペリオルライドする!!

 どの子も捨てがたいけれど、ここはキミに決めた!」

 10枚のカードの中から1枚を抜き出し、それを高々と掲げる。

 もとよりオーバーリアクションな少年だが、子ども達の前だからだろうか。今日はいつもに増して大仰なようにも思えた。

「キミの笑顔は完全無欠! 天賦の才にて、栄光への道を切り拓け! 

 スペリオルライド! 《パーフェクトパフォーマンス アンジュ》!!」

 レインディアの歌声に導かれ、彼女と入れ替わるようにして海面から飛び出した、蒼海に映える鮮やかな紅の髪を持つマーメイドが、完璧な笑顔で世界を魅了した。

「メルニルのスキルでアンジュにパワー+10000! ヒルダもスタンド!

 ヒルダでブーストしたアンジュのアタック時にスキル発動!

 ヒルダ以外の4体のリアガードを手札に戻し、アンジュにパワー+10000! フォースⅠを右前列に! デッキから《Chouchou 初舞台 ティルア》をスペリオルコール!」

「アンジュのアタックはノーガードです」

「ドライブチェック! ……ゲット、引トリガー!! 1枚引いて、パワーはティルアに捧げよう!」

 アンジュの放った投げキッスに心臓(ハート)を抉られ、侵略者(ギアリ)はひれ伏すように、地面に手をついた。

「ダメージチェック。トリガーはありません」

「ティルアでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガード。ダメージチェック……(クリティカル)トリガー。パワーはヴァンガードに」

「ティルアのスキル発動! 手札を1枚捨て、ティルアをスタンドさせる!

 再び、ティルアでヴァンガードにアタックだ!」

「★トリガーでガードします」

「フッ。ダメージを4点に抑えたか。そうこなくてはね。

 アンジュを山札の下に置き、ソウルからレインディアにライドする。フォースはヴァンガードサークルに。

 ボクはこれでターンエンドだよ」

「私のターンです。スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》」

 跪いていたギアリが、殻を破るようにして進化する。

 より強大に。より禍々しく。より深き虚無を纏って。

「イマジナリー・ギフトは、フォースⅡをヴァンガードへ。

《呼応する根絶者 エルロ》をコール。ドロップゾーンからアルバもスペリオルコール。

 グレイヲンのスキル発動。レインディアをデリートします。

 ヴァンガードがデリートされたことで、ドロップゾーンから2体のファルヲンをスペリオルコール」

 グレイヲンが巨大な腕を一振りすると、レインディアの姿が一瞬にしてかき消える。

 虚無の瘴気が深まったためか、一度は浄化された根絶者も次々と蘇り、カタカタと渇いた笑い声をあげた。

「ガタリヲのブースト。グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

「ノーガードだよ」

「ツインドライブ。

 1枚目、治トリガー。ダメージ回復し、パワーはエルロに。

 2枚目、こちらはトリガーではありません」

 大きく振り上げられたグレイヲンの拳が、勢いよくヒビキの魂に叩きつけられた。

 その一撃で砂浜が陥没し、海面が激しく波打つ。

「ダメージチェック。トリガーじゃないよ」

「アタックがヒットしたので、グレイヲンのスキル発動。ティルアを裏でバインド(バニッシュデリート)します。

 ファルヲンのブースト、エルロでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード。ダメージチェック。引トリガー。1枚引いて、パワーはヴァンガードに与えるよ」

「エルロのスキルで、ヒルダも裏でバインド(バニッシュデリート)

 ファルヲンのブースト、アルバでヴァンガードにアタックします」

「治トリガーでガードだよ」

「私はこれでターンエンドです」

「…………」

 ターンを渡されたヒビキは、しかしまっすぐ真剣な瞳でミオを見つめたまま動かない。

「どうしたんですか? あなたのターンですよ」

「フッ。いや、失礼。キミのあまりにも美しいプレイングに見惚れてしまっていたよ」

「そういうのはいいので、さっさとゲームを進めていただけませんか?」

「ねえ、ミオちゃん。ヴァンガードの強さは何で決まると思う?」

 ミオを口説く時と変わらない真剣さで、まったく別のことをヒビキは問うた。

「……デッキの構築、プレイング、運、それらの総合力でしょう」

 わずかに眉をひそめながら、ミオがとりあえずといった調子で答える。

「なるほど。では、それらがまったく同じ人どうしがファイトした場合はどうなるのかな?」

「プレイングや運を数値化して証明することが不可能であるように、それらがまったく同じということはありえないと思います。

 であるならば、勝つことで、それらが相手より上回っていたと証明する行為こそがファイトだと言えるのではないでしょうか」

「フッ。キミらしい論理的な答えだね。

 ボクの答えはこうだ。実力が拮抗している者どうしの対戦で、最後に勝敗を分けるのは『愛』だとね」

「はい?」

「ボクは誰よりもヴァンガードを愛している!! ボクよりもヴァンガードを愛している人間など存在しない!!

 だからボクは誰にも負けない!! キミの言う通り、ボクは勝つことで、この愛を証明しよう!!」

 両腕を高く掲げて、少年は叫ぶ。

 大好きな玩具を独り占めにするかのような、あまりにも傲慢で、幼稚で、純粋な。

 それは狂おしいほどの愛に溢れた告白であった。

「見せてあげよう、ボクの愛を!!

 スタンド&ドロー!!

 水面に煌めく綺羅星よ。銀河へと続く階段を駆け昇り、闇夜を照らす一等星となれ!

 ライド! 《学園の綺羅星 オリヴィア》!!」

(さすが根絶者です。これでレインディアは封じました)

 ミオの繰り出す一手が効いていないわけではない。少しずつだが、その爪はヒビキの首筋に迫っている。

「コール! 《パールシスターズ ペルル》! 《パールシスターズ ペルラ》!」

 そんなミオの自信が希望へと変わる前に、ヒビキが絶望を突きつけた。

「キミと初めてファイトした時、決め手となってくれたのもこの子達だったね。ふふ、これも運命か……」

「そうですね。これであの日の借りを返す機会ができました」

 だが、ミオは冷静にそう切り返す。

 これも愛の成せる業か、常に最善を越えた最高の手を打ってくる。そうでなければ、綺羅ヒビキではない。

「この子達をブーストするユニットをコールして……バトルだ!!

 セドナのブースト! ペルルでヴァンガードにアタック!!」

「《略奪する根絶者 ガノヱク》、《層累の根絶者 ジャルヱル》、《慢心する根絶者 ギヲ》でガード。アルバとエルロでインターセプトです」

「《ふんわり不可思議 プルーネ》のブースト、ペルラでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです。ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、治トリガー。ダメージ回復して、パワーはヴァンガードに。

 これで私のダメージは4点ですね」

「フッ。これでこの子達の★が、なおさら輝くというものだよ!

《レイニーティア ステッツァ》のブースト! オリヴィアでヴァンガードにアタック!!

 アタック時、ボクのリアガードはすべてスタンドし、オリヴィアに★+1!!」

「治トリガーでガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、引トリガー! パワーはペルルに!!」

 オリヴィアが蜂蜜色の髪をなびかせ、他のマーメイド達とハーモニーを奏でる。

 それは共に歌う仲間の勇気を奮わせ、侵略者からは戦意を奪い去る。

(これでヒビキさんの手札に、完全ガードは少なくとも2枚……)

 ミオは心中で顔をしかめた。

「ステッツァのスキル発動! このユニットを退却させ、カードを2枚引かせてもらうよ」

 さらにヒビキの手札が補充される。

 ミオは2枚の完全ガードを含めた5枚の手札を一瞥し、覚悟を決めたように唾を呑み込んだ。

「さて! パールシスターズのアンコールだ!

 セドナのブースト! ペルルでヴァンガードにアタック!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

「プルーネのブースト! ペルラでヴァンガードにアタック!

 さあ、これも完全ガードで防ぎたまえ!」

「ノーガードです」

 ミオが堂々と宣言し、ヒビキの瞳にはじめて動揺が走った。

「……ボクの記憶違いかな? キミは最低でも完全ガードを2枚手にしていたはずだけど」

「ええ。ですが、完全ガードでこの子たちを切ってしまっては、あなたに勝てませんので」

 手札を優しくひと撫でしてからテーブルに置き、両腕を軽く広げ、胸を張り。

「このターン、私は、私の命で根絶者を守ります」

 ひとりの少女が、根絶者を庇うようにして立ちはだかる。

「フッ……アハハハハッ!! 実に美しい、愛に溢れた言の葉だ! キミは本当に面白い子だよ!

 では、ボクに魅せてくれ! キミの命を賭けた、選択の結果を!」

「はい。ダメージチェック」

 ミオの小さな手が、ゆっくりと山札に触れ、細い指がカードをめくる。

「1枚目、トリガーではありません」

 そのカードをダメージゾーンに置き、ミオが再び山札に手をかける。

 誰もが息を止めて彼女と、彼女がめくるカードを見守っていた。

「2枚目……」

 山札の一番上に置かれたカードが表に返される。

「……すばらしい」

 ヒビキが感嘆の声をあげた。

「治トリガー。ダメージを回復させて頂きます」

 ミオがほうと息をつきながら、治トリガーを見せつけるようにして宣言する。

 これでミオはダメージ5点で踏みとどまった。

「ボクにできることは、もう何も無い。これでターンエンドだ」

「はい。スタンド&ドロー」

 ヒビキからターンを渡されたミオがカードを引く。

 ミオはそれを即座にヴァンガードへと重ねた。

「ライド……」

 このカードが引けると。いや、来てくれると確信しているかのようだった。

「《波動する根絶者 グレイドール》」

 鋼鉄の根絶者が、掌から波動を放つ。たったそれだけでオリヴィアとペルラの姿が消失し、憑依が解除されたヒビキの魂が投げ出される。

「《欺く根絶者 ギヴン》をコール。さらにもう1枚、ギヴンをコール」

 これでミオの手札は完全ガード1枚のみ。

「なるほど。キミが命を賭して守り抜いたのは2枚のギヴンか。

 だが、無粋を承知で言わせてもらおう!

 2体分のギヴンのスキルを使うには、キミには手札が足りない!

 可能性があるとするならば……」

 ミオが承知しているとばかりに頷く。

「ならばこれ以上の野暮は言うまい! 今こそ、キミの愛が試される時だ!」

「はい。バトルフェイズ。

 ガタリヲのブースト。グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「《煌きのお姫様 レネ》で完全ガードだ!」

 グレイドールの放つ波動を、鎮静の歌声が抑え込む。

「ツインドライブ。

 1枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはグレイドールに。

 2枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはフォースⅡサークルのギヴンに。

 それとは別のギヴンでペルルにアタックします」

「ノーガードだよ」

「ギヴンのスキル発動。リアガードのギヴン、ファルヲン、ガタリヲ。手札3枚をドロップゾーンに置いて、グレイドールをドライブ-1してスタンドさせます」

 これでミオの手札は2枚。

 次にギヴンのスキルを使うには、もう1度引トリガーを引き当てなければならない。

「グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「《インタクトパラソル エニス》で完全ガード!」

 今度はパッと開いた日傘が、グレイドールの波動を受け止めた。

「ドライブチェック……」

 ミオが運命を分かつカードに手をかけたところで口を開く。

「ようやく理解できましたよ、ヒビキさん。

 たしかにあなたは強いです。あなたがヴァンガードを愛しているからとしか説明がつかないほどに。

 結局のところ、私もあなたほどにはヴァンガードを愛せていなかったのかも知れません」

「フッ。キミもようやく理解してくれたかい。理すら支配するボクのヴァンガード愛を……」

「ですが」

 感情がどろりと溶けだしたような、濁った瞳がヒビキを見据える。

「私は根絶者を愛しています。

 その愛は宇宙規模で、どこまでも果てしなく限りがありません。

 寝ても覚めても根絶者のことを考え、死んでも根絶者のことを想い続けます。

 ルチを、ヱヴォを、ガタリヲを、ガヰアンを、ギヲを、ギアリを、ギヴンを、ジャヱーガを、ゴウガヰを、ガノヱクを、ドロヲンを、ヰギーを、アルバを、エルロを、ギヴンを、ヰゲルマを、ゼグラヲを、ガーヱを、ヰドガを、ジャルヱルを、バルヲルを、ファルヲンを、バヲンを、グレイヲンを、グレイドールを。

 今は使うことのできない根絶者達も、これから先に登場するであろう根絶者達も、等しく全身全霊を賭けて愛し続けることを誓います。

 あなたがヴァンガードを愛している以上に、私は根絶者を愛しています。

 だから、このファイト。勝つのは私です」

「……っ!!」

 ヒビキから反論があるかと思いきや(その場合、根絶者に捧げる愛の誓いは第2章に移行せざるを得なかった)、少年はどこか悲しそうに端正な顔を歪めただけだった。

 そんなヒビキの微妙な感情の変化に、鈍感なミオが気付くわけもなく、彼女は躊躇なく山札をめくり、勝ち誇ったように微笑んだ。

「引トリガー。1枚引いて、パワーはグレイドールに。

 ファルヲンのブースト。ギヴンでヴァンガードにアタックします」

「レネで完全ガードするよ」

「……?

 では、ギヴンのスキル発動。ギヴン、ファルヲン、4枚の手札をドロップゾーンに置きます」

 すべての同胞を零へと還して、グレイドールが再起動(スタンド)する。

「さあ、イメージしてください。

 この世界から消え去る、あなたの姿を。

 グレイドールでヴァンガードにアタックします」

 ヒビキは残った手札をテーブルに優しく置くと、両腕を大きく広げて宣言する。

「ノーガード!!」

 グレイドールの全身から波動が放たれ、澄み渡る青い空が、白く輝く砂浜が、深みを湛えた藍色の海が。鮮やかな色彩に彩られていた海岸が無色へと塗り潰されていく。

 滅亡する世界の中で、少年は全てを受け入れるかのように両腕を広げ、恍惚の表情を浮かべていた。

 破滅も、消失も、すべてはヴァンガードの一側面にすぎない。

 誰よりもヴァンガードを愛していると豪語した少年は、敗北すら等しく愛していた。

「ああ、なんて美し……」

 根絶者はその言葉すら無慈悲に消し去り。

「デリート、エンド」

 ミオが抑揚の無い声で宣言し、ぎゅっと小さな拳を握りしめた。

 

 

 椅子から立ち上がったヒビキが、両腕を大きく広げたまま硬直していた。

 まるで何かを受け止めようとしているかのように。

 もしくは、ちょっと変わったガッツポーズのようにも見えなくもなかったが、少年のダメージゾーンにはすでに6枚目のカードが置かれている。

 誰の目から見ても、ヒビキの負けである。

「ひとつ、聞かせてください」

 ヒビキの奇行が見えていないかのように、淡々とカードを片付けながら、ミオがぽつりと尋ねる。

「何かな?」

 ヒビキがポーズを崩さないまま、顔だけをミオへと向ける。

「結果的に変わらなかったとは言え、手札に完全ガードがあるのなら、★3のグレイドールではなく、★2のギヴンのアタックを受けた方が生存率は上がったはずです。何故、そうしなかったのですか?」

「フッ。この物語(ファイト)は、グレイドールのアタックによって幕を下ろすことで完成する。そう思ったのさ」

「……?」

 ミオがこてんと小首を傾げる。

 問い返そうとした矢先、服を引っ張られる感触があり、ミオはそちらへと振り向いた。

「あ、あの……! お姉ちゃんの使っていたカード、すごくかっこいいと思いました……!! なんていうカードなんですか?」

 そこでは、ついさっき根絶者にドン引きしていた女の子がきらきらと目を輝かせていた。その隣にいる女の子も、同意するように激しく首を縦に振っている。

 ミオは一瞬、驚いたように目を見開いた後、おずおずと手を伸ばし、少女の髪に触れ、「ありがとうございます」と微笑んだ。現金。

「この子たちの名前は根絶者。とってもかっこよくて、とってもかわいい、惑星クレイの愉快な侵略者です」

 答えながら、ミオはようやくヒビキの行為が理解できた。

 ヒビキは最後の最後で、自分の勝利よりも、子ども達にヴァンガードを面白く魅せることを選んだのだ。

 ミオは素直に敗北を認めた。

 ヴァンガードを愛する心だけはこの人に敵わない、と。

 

 

 ショップが閉店し、子ども達を親が迎えにきて、それを見送った後、ミオとヒビキは近くにあった公園のベンチに、自販機から購入した飲み物を片手に腰を降ろしていた。

 日もすっかり暮れて、今は金色の月がぽっかりと闇の中に浮かび、おぼろげな輝きが小さな公園をダンスフロアのように照らしている。

「すっかり夜になってしまったね。家まで送っていこうか?」

「結構です。こう見えて、か弱くはありませんので。

 ヒビキさんこそ、帰りはどうするのですか? 確か、遠くからいらしていたのではないですか?」

「心配してくれてありがとう。今日はネットカフェに泊まる予定だよ」

「そうですか」

 言って、手にしたブラック缶コーヒーに口をつける。舌を刺すような苦みが、今は心地よかった。

「今日は本当にありがとう。ボクの最後を飾るに相応しい、最高の物語(ファイト)が完成したよ」

 いちごミルクをちびちび飲みながら、さらりとヒビキが口にする。

「そうですか」

 ミオが適当に頷き。

「……最後?」

 顔をしかめて問い返す。驚きのあまり力んだせいで、スチール缶が少しへこんでいた。本当にか弱くない。

「ああ。ボクは今日この日をもって、ファイターを引退する。本当はもう少しヴァンガードを続けるつもりだったが、ボクはあのファイトこそを締めくくりとしたい」

「差し支えなければ、理由をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」

「もちろんさ。ラストファイトを共に演じてくれたキミには、その権利がある。

 まず、ボク達の住んでいる島は、ものすごく田舎なことは知っているかな?」

「はい。オウガさんから聞きました」

「ボク達の村は……いや、そこは村とも呼べないような集落で。ちっぽけで、何にも無くて、皆で力を合わせて、どうにか生活していけているような場所さ。

 生活に必要の無いゲームで遊んでいるような余裕が無いんだよ。

 大人達の御厚意で、高校を卒業するまでは自由に遊ばせてもらっているけれど、高校卒業を機に、ボク達も働かなくてはならない。

 知っているかい? 天海学園は、高校の大会で圧倒的な結果を残しながらも、天海出身のプロファイターは一人もいないということを」

「そう言えば、サキさんがそのようなことを言って、不思議がっていましたね」

 他者の事情には詳しくないミオには答えようがなく、その時は一緒に首を傾げるだけで話が終わったが。

「高校を卒業したら、ボク達はそれぞれ家業を継ぐ。

 セイジは漁師。アラシは島と本土を唯一繋ぐ船の船乗り。いずれも島を支える大切な仕事さ。

 そしてボクは村長の息子だ。今にも滅びてしまいそうな村を、方々に声をかけ、あらゆる手を尽くして、どうにか存続させる。大変な、そして貴族たるボクに相応しい仕事さ。

 ボクは祖父や父が365日休まずに働いてきたことを知っている。きっとボクは、高校を卒業したら、カードに触れる余裕すらなくなるだろうね」

「そんな……」

 ミオが思わず声を漏らす。

「ボクのために泣いてくれるのかい。キミは優しい子だね」

「そこまでしてあげる義理はありません。寝ぼけるには、まだ早い時間ですよ?」

 何か勘違いしたヒビキに、辛辣に言い返す。

「ですが、もったいないですね。あなたほどのファイターなら、プロになって結果も残せたでしょうし。ヴァンガード界にとっては、大きな損失となるのは間違いありません」

「引退を止めようとはしてくれないのかい?」

 ふとヒビキが漏らした言葉は、常に完璧な人間を演じようとしてきた彼らしからぬものだった。年相応の少年がつい口をついた本音なのか、それとも単にからかわれているのか、ミオには判断のつきようがなかった。

「すみませんね。薄情だとはよく言われます」

 そう前置きして。

「ですが、ヒビキさんの決意は理解したつもりですし、家庭の事情に首を突っ込むつもりもありません。

 それに……」

「それに、なんだい?」

「それをするのは、私ではないような気がしています」

 ファイトを通して心を通わせたとは言え、ミオとヒビキはほんの数回、会話を交わしただけの他人である。ただでさえ口下手な自分が、ヒビキの決意を変えることができるとは思えなかった。

「では、私はこのあたりで失礼します」

 コーヒーを飲み干したミオが、空き缶を百発百中の精度でゴミ籠に投げ入れると、ベンチから立ち上がる。

「うん。さようなら、ミオちゃん」

「最後にひとつだけ。私はプロになるつもりですよ」

「……そうか。キミなら、きっとプロになれるよ。がんばってね」

「ですが、あなたがヴァンガードを辞めると言うのなら、もうあなたと会うことはないでしょう。

 さようなら、ヒビキさん」

「!!」

 ヒビキが傷ついたような表情をしたのが、踵を返す瞬間に見えた。

(やっぱり私は薄情者のようですね)

 だが、ヒビキと会うのがこれで最後になるとは思えなかったのだ。

 誰よりもヴァンガードを愛していると世界の片隅で叫んだ少年が。

 こんなところで終わるなど、どうしても思えなかった。




8月の本編をお送りさせて頂きました。
1年に渡るヒビキとの因縁も、これにていったんの幕引きとなります。

次回はリリカルモナステリオ関連のえくすとらを予定しておりますが、どのような形式、いつごろ公開するかは未定です。
トライアルデッキとブースターを分けるか一緒にするかとかー。
とにかく絶対にやるので、お楽しみ頂ければ幸いです。

【デッキログ】
ミオデッキ最終決戦仕様:4G5R


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9月「零。なんと美しい数字だろうか」

 葉がうっすらと黄に染まってきた樹の幹で、死にかけの蝉が最後の力を振り絞って鳴き叫び、渇いた草原の中では、成熟したばかりの若い鈴虫が甘い恋の唄を歌う。

 命が環のように巡っていることを否が応でも認識させられるこの季節になると、時任(ときとう)レイは思い出す。

 季節の狭間にたゆたう、ひと時の思い出を。

 

 

 ――夏休みが明けて、初の休日。

 中学3年生のレイは、アテもなく近所の街並みをぶらぶらと歩いていた。

 受験生である彼女にとって、そろそろ勉強に本腰を入れなくてはならない季節であるが、もちろんその息抜きというわけでもない。むしろ、勉強などしている余裕は無かった。彼女の頭の中は、夏休みに見たテレビの事で頭がいっぱいだったのである。

 それは、ヴァンガード甲子園決勝大会の生中継を観戦していた最中の出来事である。

 ヴァンガード甲子園が終われば夏休みの終わりも間近だという現実に少しうんざりしながら、それでも目の前で次々と繰り広げられる、あっと驚かされるプレイングや、感動の大逆転劇に、現実逃避でもするように夢中になっていると、ひとりの女子選手に目が留まった。

 高校2年生という若さにありながら総白髪であり、そうは見えない程に幼い容姿。使っているデッキは根絶者。レイもヴァンガードを始めたばかりの頃から、ずっと愛用しているデッキである。ふたつ学年が離れているにも関わらず、彼女はレイとまるで双子の姉妹のように瓜二つだった。

(もしかして……)

 レイが左手の甲を目の前に向けて念じると、そこには輪っかを3つ重ねたようなリンクジョーカーの紋章が浮かび上がる。

(あの人もアタシと同じで、ディフライダーなのかも知れない)

 とある人物に、自分はディフライダーという惑星クレイのユニットが憑依した存在であることを告げられ。自分が他人に感じていたギャップの正体が腑に落ちたような気がして、その途方も無い話を信じるようにしたあの日から。その人物以外で、はじめて見つけた同胞かも知れない存在である。

(会いに行かなくちゃ……!!)

 ひょっとすると、彼女も自分と同じように、他者の感情が理解できず苦しんでいるかも知れない。そもそも自分は人とは違うのだということを教えてあげれば、きっとその苦しみも和らぐだろう。

 逸る気持ちを抑えながら、テレビに映る少女の高校を確認する。

「……うげ」

 思わず品の無い声が漏れたのを自覚する。

 響星(きょうせい)学園。全国でも有数の名門校であり、入学には学力もそれ相応のものが必要な難関校だ。自分の学力では、イチから勉強をし直さねばどうしようもないだろう。惑星クレイの知識など、勉強には何の役にも立たないし、そもそも自分は、自我も無く本能で戦いに明け暮れていた侵略者の末端である。

 仮に響星学園で常に学年1位の成績をキープしているディフライダーの少女がいたとして、そんなやつがいるならディフライダー関係無く、ただの天才だ。

 響星学園は実家からも遠い。幸い、近くに親戚の家があったはずなので、入学したらそこから通うことはできるかも知れないが、そもそも受験させてもらえるかも含めて両親の許可は必須だ。

(それに……)

 少女の使っているデッキはリンクジョーカー。自分と同じだ。同じ高校から3人1組でチームを組むヴァンガード甲子園には、2人以上が同じクランを使ってはならないというルールがある。今のままでは、せっかく見つけた同胞と共に、ヴァンガード甲子園に出場することもできない。

 そんなこともあってレイは、受験生にとって貴重な休日を、山積みとなっている問題から逃げるように、家の周辺を彷徨うことで浪費しているのであった。

 響星学園を受験したいという意思すら、まだ親にも伝えていない。

 リンクジョーカー以外のデッキもとりあえず組んでみたが、普段の対戦相手であるクラスメイトも受験生であり、2学期に入ってからはさすがに付き合いが悪くなっていた。

(本格的に勉強を始める前に、新しいデッキは形にしておきたかったんだけどな……)

 言い訳じみた論法ではあるが、最も困難なことに挑戦する前に、些細な憂いは残しておきたくなかった。

(……暑っつ。まだ9月だもんね)

 刺すような日差しの中、1時間ほど意味も無く歩き続けていたため、レイはすぐヘトヘトになった。

 レイは見た目相応に腕力も体力も無かった。ディフライダーとは言え、身体能力が向上するわけではない。

 仮に同学年の男子生徒をスポーツで圧倒できるディフライダーの少女がいたとして、そんなやつがいるならディフライダー関係無く、ただの超人だ。

(仕方ないか。休憩がてら、カードショップにでも行こうかな……)

 未完成のデッキでショップ大会に出場しても結果は見えているので、あまり気は乗らなかったが、何かのヒントは得られるかも知れない。

 ようやく指針を定めて、レイはその足をカードショップへと向けた。

 これまでアテも無く歩いていたので、普段は通らない道を辿って大通りへと――

 向かう途中に特徴的な建物があり、レイは思わず足を止めた。

 それは大きな和風のお屋敷だった。どれほどの大富豪が住んでいるのだろうか、塀の奥に豪華な庭園が見える。

 だが、レイが足を止めた理由は、その屋敷には無かった。庭園の奥にある縁側。そこに腰かける黒い羽織を纏った和装の老爺が手にしているモノに目が釘付けになった。

(ヴァンガードだ……)

 老爺はカードを1枚1枚手に取り、縁側に並べていた。どうやらデッキを作成しているようである。縁側将棋ならぬ縁側ヴァンガードというわけか。

(いいなあ……。おばあちゃんになったら、アタシもああやって静かに余生を過ごしたいなぁ……)

 塀越しに老爺の様子を覗き込みながら、幼い容姿に似合わない、老人くさいことを考える。

 ちりん

 その時、縁側の屋根にかけられていた、やや季節外れと言えなくもない風鈴が涼しげな音を鳴らした。その音で老爺が顔を上げ、レイとばっちり目が合ってしまう。

(やばっ!!)

 塀越しに屋敷の様子を覗いていた自分は完全に不審者である。泥棒と間違えられてもおかしくない。しかし、慌てて隠れるのも逆効果と思い、レイは顔の筋肉に全身全霊を込めて愛想笑いを浮かべようとした。

 が、それよりも早く、老爺が人好きのする穏やかな笑みを浮かべると、レイに向かっておいでとばかり手招きをした。

(……え?)

 さらに老人が指さす先には、小さな通用門があった。

(入ってもいいの?)

 鍵のかかっていない扉を開き、レイは庭に置かれた敷石を辿って、一歩ずつ老爺の待つ縁側へと近づいた。

 ちりん

 と風鈴がまた、レイを誘うように音を奏でる。

「いらっしゃい」

 縁側に腰かけたまま、老人が好々爺然とした笑みを浮かべてレイを出迎えた。

「は、はじめまして」

 レイがどうにか調子を合わせる。

「お嬢ちゃんもヴァンガードをやるのかい?」

「うん……」

 答えながら、レイは老爺を観察する。

 髪や髭は見事な総白髪だが量は多く、それらを無造作に伸ばしている。

 年の頃は……たぶん、70代後半くらいだろう。レイはあまりお年寄りと接する機会に恵まれなかったので、自信は無い。

「わしの名は黒澤(くろさわ)ミカゲ。お嬢ちゃんは?」

「あ……時任レイだよ」

 老人をまじまじと観察していたため、少し遅れてレイが答える。

「では、レイちゃん。わしとファイトせんか? 対戦相手がおらず、退屈しておったのよ」

「いいの!?」

 一転して、食い気味にレイが答えた。

「アタシもデッキを組んだばっかりで対戦相手を探してたの!」

「ほほう。それはよかった。それじゃあ、そこに座りなさい」

 促されるまま、レイが縁側に腰かけ、上半身だけ横に曲げてミカゲと名乗った老爺と向かい合う。腰にぶら下げたポーチから新しく組んだばかりのデッキを取り出し、老人がカードを並べていたプレイマットの上にドンと置く。

「それでは、始めようかの?」

「うん!」

 準備を終え、ミカゲが確認し、レイも頷く。

「「スタンドアップ ヴァンガード!!」」

「《ホワイトネス・ラビット》!」

「《妖魔忍竜 ウシミツマル》!」

(おじいちゃんのデッキは……ぬばたま!!)

 まだ昼過ぎだと言うのに、暗夜のイメージがレイの中で膨れ上がった。

 

 

 レイが最初に選んだデッキはオラクルシンクタンクだった。彼女もカードゲーマーの端くれ。アドとドローは大好物だ。

「ライド! 《スカーレットウィッチ ココ》!!

 ココのスキルで1枚ドロー! 《トパーズウィッチ ピピ》のスキルで、さらにもう1枚ドロー!!」

(見よ、この手札! 手札さえあれば何でもできる!)

「《スカーレットウイッチ ココ》で、ヴァンガードの《忍竜 ボイドマスター》にアタック!」

 赤衣の魔女が紅玉の杖を天高く掲げると、緋色の彗星が無数に降り注ぎ、黒き忍竜を撃ち貫く。

「ダメージチェック……これで5点目じゃなあ」

「あたしはこれでターンエンドだよ!」

 潤沢な8枚の手札に気をよくして、意気揚々とレイが宣言する。

「ほい。《修羅忍竜 ジャミョウコンゴウ》にライド」

 ――ザクゥッ!!

 瞬間、脳を鉈で真っ二つにするかのような不快な音と共に、手札の半分が削ぎ落とされた。

 ココ(レイ)が気配を感じて宵の空を見上げると、天守閣の上に、それを足蹴にするかのように居座る細身の忍竜が、苦無を片手に残忍な笑みを浮かべていた。

 手札とは、ヴァンガードファイターにとってユニットの記憶である。

 数千年に渡る修練を経て、それを刈り取る外法を極めた老竜。

 其の名をジャミョウコンゴウと言う。

「《修羅忍竜 フゼンコンゴウ》をコールして、バトルじゃ。

《月下の忍鬼 サクラフブキ》のブースト、ジャミョウコンゴウで、ココにアタック」

「プ、プロテクトで完全ガード!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガーではないのう。

 2枚目、(クリティカル)トリガー!! 効果はすべてフゼンコンゴウに」

 ジャミョウコンゴウの投げ放った苦無を、紅に輝く魔法の盾が受け止める。

 だがそれは囮にすぎなかった。

「《忍獣 モウカギツネ》のブースト、フゼンコンゴウでヴァンガードにアタック!

 アタック時、フゼンコンゴウの効果発動。ドロップゾーンのカード8枚をバインドし、パワー+40000、レイちゃんは守護者をコールできない」

「ノ、ノーガード……」

 ジャミョウコンゴウとは対照的な、筋骨隆々とした忍竜が絵巻物を広げて印を結ぶと、そこに描かれていた龍が実体化し、魔女へと喰らいついた。

「ダメージチェック、1枚目、2枚目、どっちもトリガーじゃないよ……」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置き、レイはがっくりと肩を落とした。

 

 

「お、おじいちゃん、強いよー!!」

 こんな調子で早々に5連敗し、レイは悲鳴じみた叫びをあげながら頭を抱えた。その拍子に、散らばったカードがばらばらとプレイマットの上に落ちる。

「ほっほっほ。ダテに60年生きておらんわ」

 ミカゲは長い髭をしごきながら、45歳年下の少女に勝ち誇る。大人げない。

「レイちゃんは、そのデッキを使うのははじめてかな?」

「う、うん。ちょっと新しいクランを使いたくて……」

 たまにテキストを確認していたのを気付かれたのだろう。さすがにディフライダー云々の話をするわけにはいかないので、多少の脚色を加えて、新しいクランを使うことになった経緯を説明する。

「なるほど。行きたい高校に憧れの先輩がいて、その先輩もリンクジョーカーを使っているから、別のクランを使いたい、と」

「うん。けど、オラクルは合わなかったかなぁ。引けるのは楽しいんだけど、なんだかパワー不足なんだよねー」

「それはレイちゃんがフォースのパワーに慣れているからではないかな? 新しいクランを使うなら、まずは同じギフトを持っているクランを使うといいかも知れんよ」

「あ、そっか!」

「レイちゃんがよければ、明日も来るといい。わしでよければ、いつでも対戦相手になってあげよう」

「いいの!? じゃあ、来週も来てもいい!?」

「もちろんだとも」

「わあ! ありがとう、おじいちゃん!」

 レイは無邪気に歓声をあげ、ミカゲに飛びついた。

 

 

 それからと言うもの、レイは毎週の土日にはミカゲの屋敷を訪れて、ヴァンガードをすることになった。

 次にレイが選んだデッキはスパイクブラザーズだった。高いパワーでガンガン攻め立てるところが、根絶者に近いと思ったのだ。

「《将軍 ザイフリート》のスキル発動! 《ブレイキング・グランモービル》をソウルに入れて、山札から同名カードをスペリオルコール! ザイフリートとグランモービルにパワー+10000! 同じスキルを《デトネイト・バーレル》を対象にもう一度!」

(やっぱり最終的には攻撃力がものを言うよね! 力こそパワー!)

 などと調子に乗りながらバトルフェイズへと進行する。

「ザイフリートのアタック時、グランモービルのスキル発動! 同名カードをソウルブラストして、カウンターブラスト……あ、あれ? カウンターコストがもう無い!?」

 スパイクブラザーズは、豪快な見た目とは裏腹に、非常にテクニカルなクランだ。多くのユニットが細かなコストを要求し、カウンターコストはすべてグレイヲンにつぎ込むくらいの感覚で運用できる根絶者とは真逆の性質を持つ。

(な、なにこれ? 難しいー!!)

「タ、ターンエンド、だよ……」

 いまいちパッとしないレイのターンが終わり、ミカゲにターンが回る。

「ライド。《修羅忍竜 クジキリコンゴウ》!」

 6枚の翼を持つ漆黒の忍竜が、ザイフリートの巨大な影の中から音も無く現れた。

「クジキリコンゴウの効果発動! 手札を1枚捨ててもらおうかの」

 言われて、レイはしぶしぶ手札からカードを捨てる。

「《忍竜 ドレッドマスター》をコール。《デトネイト・バーレル》を手札に戻し、手札を1枚捨ててもらおうか。

《忍獣 タマハガネ》もコール。今度は《ワンダー・ボーイ》を手札に戻し、手札を1枚捨ててもらおう。

 ……そして、《禁戒の忍鬼 ミズカゼ》をコール」

「うっ」

 レイの口から小さな悲鳴が漏れる。

「G3をソウルブラストして、ミズカゼの効果発動! さらにわしの場にはクジキリコンゴウがいるので……」

「アタシはこのターン、G3とG0をそれぞれ1枚しかコールできない、だね……」

 G3はガーディアンとしては何の役にも立たないので、実質G0を1度しかコールできなくなったようなものである。

「バトルフェイズじゃ!

《忍竜 コクジョウ》のブースト、クジキリコンゴウでザイフリートにアタック!」

「ノーガードだよ……」

「ツインドライブ!!

 1枚目、(ドロー)トリガー! 1枚引いて、パワーはタマハガネに。

 2枚目、(ヒール)トリガー! ダメージ回復、パワーはミズカゼに!」

 クジキリコンゴウが巨体に似合わぬ無駄の無い動きで、その名の如く九字を切ると、周囲の影が触手のように蠢き、ザイフリートの巨体を拘束した。

「とどめじゃあ! ドレッドマスターのブースト、タマハガネでザイフリートにアタック!」

 クジキリコンゴウの呪詛により身動きが取れなくなっているザイフリートに、巨熊が疾風の如く襲いかかる。その両腕に装着した鉤爪が、スタジアムのライトを受けて鈍く輝くと――。

 閃光が交錯し、緑のフィールドが朱に染まった。

 そんな感じで、この日もレイは5連敗した。

 

 

 それからレイはロイヤルパラディン、かげろう、ジェネシス、シャドウパラディンと、様々なデッキを試したが、どれもしっくりこなかった。

 それだけレイも負け続けたが、不思議と不快感は無かった。

 勝ち負け以前に、ミカゲとファイトしているのが。そして、ファイトしながらお話をしているだけで楽しかったのだ。

 人生経験豊富なミカゲは、様々な話題でレイを楽しませてくれたし、レイも学校であったことを話すと、ミカゲは楽しそうにゆっくりと頷きながら話を聞いてくれた。

 こんな話もした。

「アタシのおじいちゃんとおばあちゃんは、遠くに住んでるから、ほとんど会ったことが無いんだよね。おじいちゃんが、本当のおじいちゃんになってくれたみたい!」

「そうかそうか。わしもレイちゃんのことを本当の孫のように思っているよ。

 わしにも孫娘がいるんだが、大学が忙しいらしくてな。今は、なかなか遊びに来てくれんのだよ」

「えー、ひどーい」

「いやいや。元気でやってくれているのが何よりじゃよ。それに、今はレイちゃんがいてくれるしな。

 ほい、ジャミョウコンゴウでアタック」

「う……また負けたー!!」

 また、レイから悩みを打ち明けることもあった。

「前に行きたい大学があるって話したよね?」

「ああ」

「お父さんや、お母さん。先生にそこに行きたいって相談したんだけど、やっぱり反対されちゃってさ。どうしたらいいんだろう」

「むう。それはいかんなあ。

 よしっ! わしが直々にレイちゃんのご両親を説得してやろう!」

 膝をパァンと掌で叩くと、その勢いとは裏腹に、ゆっくり立ちあがりながら宣言する。

「ええっ!?」

「レイちゃんはひたむきに努力のできるいい子だから、どんな大学にも行けますとわしが保証してやるんだ!」

「そ、そこまでしてくれなくていいよ!」

 レイは慌てて止めた。普段の語調が強くて年を感じさせないため、勘違いしそうになっていたが、ミカゲはもうずいぶんな老齢なのだ。縁側に座ってばかりいたこの老人が立ち上がるところは初めて見たが、足がプルプルと震えており、説得以前に、レイの家まで辿り着けるかも怪しい。

「むう? そうか……」

「うん! アタシは大丈夫だから! とにかく座って! 座って!!」

 レイの剣幕に押され、ミカゲが渋々と腰を下ろすが、それにも一苦労といったような感じだった。

「けど、おじいちゃん……。さっき言ってくれたことは、本当なの?」

「うん? 何の話かな」

「アタシが、その、ひたむきに努力のできるいい子だってこと……」

「おうとも!」

 さっきまで足を震わせていた老人が、それはもう力強く頷いた。

「レイちゃんは、こうして毎週カードファイトの練習をしてるじゃないか。

 それだけじゃない。家でも毎日、カードを見ながらデッキを研究しとるのだろう? その手を見ればわかるよ」

「手……?」

 言われて、レイは自分の手をまじまじと見た。その細い指にはいくつものあかぎれや切り傷があった。保存状態のいいカードとは、乾燥した鋭い紙片である。長く触れていると、そういった傷は簡単にできる。

「一応、寝る前にハンドクリームでケアはしてるんだけどね」

 レイはてへへと笑った。

「女の子はこういう手を恥ずかしいと思うのかも知れんが、何よりも美しい手だとわしは思うよ」

 ミカゲもそんなレイをいたわるように優しく微笑んだ。

「あとはその熱意を勉強に向ければ、どんな難関大学だろうと、お前さんならちょちょいのちょい、じゃよ」

「うん。ありがとう! アタシにはその言葉だけで十分だよ! アタシ、おじいちゃんの信頼だけは、絶対に裏切りたくないから!

 まずは中間テストでいい点取って、アタシの本気を両親や先生にもう一度伝えるんだ!」

「その意気だよ。だが、そのためにはまず新しいデッキを完成させんとなぁ。

 ほら、ミズカゼのスキル発動じゃ」

「あ……ガードできないー!!」

 

 

 そんな、充実はしているが進展の無い日々が3週間続いたが、ここで重大な問題が発生した。

 お小遣いが底をつきかけていたのだ。

 デッキを変えるたび、足りないカードをショップで補充していたためだ。受験生という都合上、お小遣いを前借りする理由も説明しにくい(毎週、週末は図書館で勉強してくると嘘をついて出かけていた)。どうやら、新しいクランでデッキを組めるのは、次で最後になりそうだった。

(あとフォースで組んでないデッキは……ギアクロニクルかぁ。……難しそうだなぁ。アクセルクランでもデッキを組んでみたほうがいいのかも)

 勉強机に広げたノートの上で、パラパラとギアクロニクルのカードをめくりながら考える。とそこで、1枚のカードに目が留まった。

(あ、そうだ。たしかロストレジェンドはOR(オリジンレア)で当たったんだっけ)

《時空竜騎 ロストレジェンド》のカードが、蛍光灯の光を受けて、箔押しカード特有の厚みある輝きを放っていた。

 レイはカードイラストを眺めているのも好きなので、リンクジョーカーに関係無いパックも、だいたいのカードが1枚ずつ揃うまで買い続ける。VR(ヴァンガードレア)には、さすがに諦めたカードが何枚かあるが。根絶者のディフライダーだからと言って、根絶者以外のカードを集めないわけではない。

 仮に根絶者のカードばかりお小遣いが尽きるまで買い続けるディフライダーの少女がいたとして、そんなやつがいるならディフライダー関係なく、ただの変態だ。

(ま、これも何かの縁か。キミを入れて、ギアクロニクルのデッキを組んであげよう)

 まずはロストレジェンドのカードを抜きだし、次に必要そうなカードをピックアップしていく。足りないカードは、数学のノートに書き綴った。

(週末が楽しみだな……)

 意外といいデッキになりそうだと自画自賛しながら独りごちる。

 年の離れた友人とのファイトが、今の彼女にとって一番の楽しみだった。

 

 

「今日こそ勝つよ、おじいちゃん!」

 ポーチから取り出したギアクロニクルのデッキをプレイマットの上に置いて、レイが宣言する。

「スタンド&ドロー! ライド! 《時空竜騎 ロストレジェンド》!!

 そして……時空超越(ストライドジェネレーション)!! 《時空竜 イディアライズ・ドラゴン》!!」

 黄銅色の軽鎧を纏った騎士竜が、手にした機械剣を暗夜に高く掲げる。すると、空を覆い尽くす叢雲を貫くようにして巨大な槍が地面に突き立ち、続けて、それの持ち主が降臨する。半身が未知の金属で構成された機械竜は長槍を引き抜くと、影に潜む忍竜へと、寸分の狂いも無くその切っ先をピタリと向けた。

「まずはロストレジェンドのスキルで1枚ドロー! そして、イディアライズのスキル発動!!

 アタシのバインドゾーンは11枚なので……えっと、《忍獣 タマハガネ》をデッキに戻し、山札の上から1枚……《ロストブレイク・ドラゴン》をスペリオルコール! ドロップゾーンから《スチームハンター リピット》、《テキパキ・ワーカー》もコールして、その3体のパワーに+3000!」

「おお、ギアクロニクルを使いこなしとるのぉ」

 ミカゲが嬉しそうに頷く。

「イディアライズでヴァンガードにアタック!!」

「プロテクトで完全ガードじゃ」

 イディアライズの突き出した巨大な長槍を、宵闇よりも暗い純黒の結界が押し留める。

「まだまだ! ロストブレイクでアタック!」

「《忍竜 ガンバク》、《忍竜 トガジュウジ》でガード!」

「リピットでアタック!!」

「《忍獣 トビヒコ》、《暴挙の忍鬼 スオウ》でガードじゃあ!」

「あーっ! おしい! あと手札1枚だったのに……」

 そして、ミカゲの残り1枚の手札は、先ほどドライブチェックでめくれたガード値を持たない《禁戒の忍鬼 ミズカゼ》だ。イディアライズのアタックでダブルトリガーを引けたのもあったが、本当に紙一重だった。

(ん? けど、今のファイト……アタシ、勝ててなかった?)

 そんな違和感を覚え、先のターンを振り返る。一瞬、プレイングミスをしたのかとも思ったが、実際は手札にあったどのカードを使っても勝てないという結論に至った。

(……ううん、待って? もし、あの状況で、あのカードに超越できていたら……?)

「ほれ、何を余所見しておる? ジャミョウコンゴウでアタック!」

「……ノーガード、……ダメージチェック、……アタシの負けだね」

 ぼんやりとした調子でファイトを終えると、レイは勢いよく立ち上がった。

「ごめん、おじいちゃん! 今日はアタシ、もう帰るね!」

「ああ。いいとも」

 ミカゲが鷹揚に頷いた。

「明日、また来るから! それじゃね、おじいちゃん!」

 レイは大慌てで屋敷を出ると、家に飛びこむように帰宅し、自分の部屋へと駆け込んだ。

 ギアクロニクルのカードをまとめたストレージボックスを棚から取り出すと、1枚のカードを探し当てる。

(……うん。これならきっと、おじいちゃんに勝てる!)

 確信に満ちた表情で、レイはひとり頷いた。

 

 

「今日こそ勝つよ、おじいちゃん!」

「そのセリフは昨日も聞いたなあ」

 老人に記憶力の無さを指摘され、少し赤面しながらも

「き、昨日のアタシよりさらに強くなったって言いたかったんだよ!」

 と言い返す。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《プライモディアル・ドラコキッド》!」

「《妖魔忍竜 ウシミツマル》!

 ……ほほう。今日もギアクロニクルかい」

 驚いているようで、どこかこうなることを確信していたような口調でミカゲが呟いた。

「このギアクロニクルも、昨日とは違うんだから! はじめるよ!

 スタンド&ドロー!

 ライド! 《スチームブレス・ドラゴン》!」

 まずはレイがG1にライドし、ターンエンド。

 ミカゲもG1にライドし、アタック。

 それからもファイトは流れるように進み、大きな動きがあったのは、ミカゲがG2にライドした直後だった。

「《千本太刀の忍鬼 オボロザクラ》をコール。パワー+6000し、ソウルチャージ……おっ!」

 ソウルに入ったカードを見て、ミカゲが歓声をあげる。

「フゼンコンゴウ……G3が入ったのう。これは次のターンが楽しみじゃ」

 ソウルにG3があることで、もしくはG3をソウルブラストすることで本領を発揮するカードがぬばたまには多くいる。先のフゼンコンゴウもそうであるし、ミカゲが愛用するジャミョウコンゴウやミズカゼもその類だ。

(早めに仕掛けていかないと……)

 レイは決意を新たにターンを迎える。

「スタンド&ドロー!!

 ライド! 《時空竜騎 ロストレジェンド》!!」

 手札から、一際強い輝きを放つORのロストレジェンドにライドする。縁側で陽光を浴びたそれは、より強く光を反射させ、勇ましい騎士竜が本当にこの場に顕現したかのようだった。

「手札から2枚目のロストレジェンドを捨てて、超越(ストライド)!!

《時空獣 アイソレイトライオン》!!

 ロストレジェンドのスキルで1枚ドロー!

 さらにアイソレイトライオンのスキルでデッキの上から1枚を見て、そのカードをスペリオルコール!

 アイソレイトライオンのもうひとつのスキルで、そのカードをさらにG3へと変換する!

 スペリオルコール!! 《リノベイトウイング・ドラゴン》!!」

 レイは《リノベイトウイング・ドラゴン》のスキルも発動し、ユニットを展開しながらバインドゾーンのグレードを8まで伸ばした。

「さらに手札からユニットをコール!!

 バトルだよ!!

《スチームメイデン ウルル》のブースト! 《スチームメカニック ナブー》でヴァンガードにアタック!!

 アタック時、ドロップゾーンのロストレジェンドをバインド! これでおじいちゃんは手札からグレード1以上をコールできない!」

「ならば《忍獣 トビヒコ》でガードじゃ」

(これでアタシのバインドゾーンのグレードは11になった。イディアライズ・ドラゴンのスキルはすべて適用される……)

 だが、それでは昨日と何も変わらない。

「バトル終了時、ナブーをソウルインして1枚ドロー!

《ウェッジムーブ・ドラゴン》のブースト! アイソレイトライオンでヴァンガードにアタック!!」

「それはノーガード」

「ツインドライブ!!

 1枚目、引トリガー!! 1枚引いて、パワーは《ストロボスコープドラゴン》に!

 2枚目、★トリガー!! ★はヴァンガードに! パワーはロストブレイクに!」

 ミカゲのダメージゾーンに3枚目、4枚目のカードが一気に置かれる。どちらもトリガーは無し。

「よしっ! 《テキパキ・ワーカー》のブースト! ストロボスコープでヴァンガードにアターック!!」

「……ノーガード。これで5点目じゃな」

 追い詰められたにも関わらず、ミカゲは余裕の表情でダメージゾーンに5枚目のカードを置いた。

「バトル終了時。ストロボスコープのスキルで手札を1枚捨てて、オボロザクラを退却させるよ。ヴァンガードがG4なのでさらに1ドロー!

 アタシはこれでターンエンド!」

「わしのターンじゃな。スタンド&ドロー。

 ライド! 《修羅忍竜 ジャミョウコンゴウ》!!」

 月が雲に隠れた瞬間、ロストレジェンドの背後から巨大な蝙蝠が飛来した。それは騎士竜の兜をチッと掠めて、手近な木の枝にぶら下がる。同時に雲間から月が再び姿を現し、蝙蝠の正体が露わとなった。

 痩身の老忍竜、ジャミョウコンゴウ。

 その手に握られた苦無には、先ほど騎士竜から掠め取った記憶が、青白い霊気となって突き刺さっていた。

「ジャミョウコンゴウのスキル発動! レイちゃんの手札を4枚にする!」

 ジャミョウコンゴウが、苦無から抜き取った記憶を握り潰し、酷薄な笑みを浮かべる。

 レイは6枚あった手札のうち、2枚を選んでドロップゾーンに置いた。

「《忍獣 タマハガネ》をコール。スキル発動。ロストブレイクを手札に戻し、手札を1枚捨ててもらおうか」

「アタシは……そのままロストブレイクドラゴンを捨てるよ」

「《暴挙の忍鬼 スオウ》をコール。スキル発動。パワー+5000。

《嵐の忍鬼 フウキ》もコールして、バトルじゃ!

 スオウでヴァンガードにアタック! このアタックは2枚以上でしかガーディアンをコールできん!」

「つっ……ノーガード。ダメージチェック。トリガーは無いよ」

 これでレイのダメージも5点。

「サクラフブキのブースト、ジャミョウコンゴウでヴァンガードにアタック!」

「《スチームガード カシュテリア》で完全ガード!!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! 効果はすべてタマハガネに!

 2枚目、こちらはトリガー無し!」

 ジャミョウコンゴウが苦無を投げつけ、ロストレジェンドがそれを盾で防いでいる隙に、ジャミョウコンゴウは一瞬にしてロストレジェンドの背後へと回り込むと、背負った刀を音も無く抜き放ち、無防備な背中へと突き立てる。

 瞬間、両者の間に割り込むように、未来から現れた少女が小型の盾でそれを受け止める。老獪な忍竜の動きを見切ることは不可能に近いが、そこに現れる事をギアクロニクルは察知していた。

 必殺の一撃を阻まれたジャミョウコンゴウは、深追いはせず、不気味な笑みと共に闇に紛れて姿を隠す。

「フウキのブースト、タマハガネでヴァンガードにアタック!」

 カシュテリアが元の時代へと還った一瞬の隙をついて、今度は巨熊が死角から疾風の如く迫る。

「《スチームメイデン ウルル》! そして、《ウェッジムーブ・ドラゴン》でガード!!」

 その速度を時乙女の巨大な砂時計が落とし、小柄な竜剣士が機械剣でカギ爪を受け止める。

「わしはこれでターンエンドじゃよ」

 ミカゲが飄々とした余裕の笑みを浮かべながら宣言する。もとよりこのターンで勝負を決めるつもりは無かったのだろう。狙いはレイを消耗させること。

(そしてアタシは《ウェッジムーブ・ドラゴン》を切らされた……)

 本来なら、G3として捨てることのできる《ウェッジムーブ・ドラゴン》で、このターンに超越するつもりだったのだ。

 レイの手札はすでに0枚。すべてはターン開始時のドローにかかっている。

(お願い……!!)

 レイは祈りながらカードを引いた。

 いつしか閉じていた目を恐る恐る開いて、ドローしたカードを確認する。

「……っ!! アタシはロストレジェンドのスキル発動!! 手札から《時空竜 イディアライズ・ドラゴン》を捨て、時空超越!!!」

「……ほう。イディアライズを捨てるのかい」

 いつの間にか、ロストレジェンドの背後には巨大な円形の(ゲート)が宙に浮かんでいた。

 宵闇よりも深い黒々とした闇が渦巻く、時空と時空を隔てる関門だ。

 ロストレジェンドはそれに鍵を差し込むようにして剣を突き立て、ゆっくりと捻る。

 異なる世界同士が繋がり、ただならぬ気配がこちらの世界へとなだれ込む。

「門よ開け……《クロノタイガー・リベリオン》!!!」

 少女の呼び声に応え、獣の咆哮が闇の奥より響き、狭い門を内側から引き裂くようにして紅の機械虎がその全貌を露わにした。

 本体よりも巨大な左腕を筆頭に、全身を砲と装甲、推進器で武装した、人型の虎という元の姿《クロノファング・タイガー》とはかけ離れたその威容は、猛虎の姿をした要塞と呼ぶに相応しかった。

「ロストレジェンドのスキルで1枚ドロー!! ……ドローしたロストレジェンドをコール! 《テキパキ・ワーカー》を前列へ移動させて、バトルだよ!!

《クロノタイガー・リベリオン》でヴァンガードにアタック!!

 アタック時、アタシの手札は1枚以下なので、リベリオンのスキルはすべて発動する!!

 スオウとタマハガネを退却!

 アタシの前列ユニットすべてのパワー+10000!!

 そして、ダメージゾーンのカードをすべて裏返して、このターン、ガーディアンのガード値を-5000!!!

 おじいちゃん、アタシの手札を減らしてくれてありがとね」

「……ぬばたまのハンデスを逆手に取ったってわけかい」

 ミカゲがはじめて驚愕に目を見開く。

 だが、その表情は、いつかこのような日が来ることを予想していたかのように、口元にはうっすらと笑みすら浮かんでいた。

「そうだよ! 別に《クロノファング・タイガー》じゃなくたって、《クロノタイガー・リベリオン》に超越してもよかったんだ!!

 対戦相手の動きに応じて、柔軟に戦い方を変えていく。それがギアクロニクルだよっ!!」

「なるほどのう。だが、せっかくのリベリオンのスキルも、このカードの前には無力じゃ。

 プロテクトで完全ガード!!」

 紅の機械虎が全身の武装を開放し、辺り一帯を焦土へと変える。渦巻く爆煙の中、何処かに身を隠していたジャミョウコンゴウの姿が露わにになると、クロノタイガーはそこめがけて巨大な爪を振り下ろした。

 ジャミョウコンゴウは素早く印を切り結ぶと、漆黒の結界を張ってそれを受け止める。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、治トリガー!! ダメージ回復して、効果はすべて《テキパキ・ワーカー》に!!」

「……むっ」

 ミカゲの表情がほんの僅かしかめられた。

「ウルルのブースト!! ロストレジェンドでヴァンガードにアタック!! いっけーっ!!!」

「……ノーガードじゃ!」

 ミカゲが胸を張って宣言した。

 ジャミョウコンゴウを護る結界が解けた瞬間を見計らって、ロストレジェンドが飛び出し、ジャミョウコンゴウは奇怪な足捌きでロストレジェンドを翻弄する。

 ロストレジェンドは目を閉じ、時を司るギアクロニクルの中枢にアクセスする。知るべきは僅か1秒先の未来。

 ロストレジェンドがあらぬ方向へと剣を突き出した。その先には、ロストレジェンドの背後へと回り込もうとしていたジャミョウコンゴウがいた。剣が心臓を貫き、ジャミョウコンゴウが吐血する。

 だが、ジャミョウコンゴウは血に塗れた顔面に不敵な笑みを貼り付けたまま、手にしていた爆弾を掲げた。

『!?』

 それが爆発するのと、ロストレジェンドが剣を手放し盾を構えるのは、ほぼ同時。

 爆音が鼓膜を裂き、爆光が瞼を貫いて網膜に突き刺さる。

 一時的に五感を奪われたロストレジェンドが、ようやく盾を降ろせるほど回復した時には、老竜の姿は何処にも無かった。

 ただ、地面にできた真っ黒な焦げ跡が、まるで影のようにぽっかりと横たわっていた。

 

 

 闇に生まれ、闇に死す。

 其れこそが忍びの定め也。

 刃の下に心を隠し、人知れず命を屠る戦場の黒子達。

 我らぬばたま忍軍。

 帝国を覆う影となりて、仇なす者を葬らん。

 

 

「ダメージチェック……わしの負けじゃなあ」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置き、ミカゲが告げた。

「おめでとう、レイちゃん」

 負けたにも関わらず、これまでで一番嬉しそうに笑う。

「うん! おじいちゃん、今までありがとう。アタシ、決めたよ。これからはこの子達を。ギアクロニクルを使ってく!」

「そうかそうか」

「それでね、おじいちゃん。アタシ、明日から勉強に専念しようと思うの。だから、その、しばらくここには来れないと思う」

 一言一言を噛みしめるようにしてレイが言う。本当なら毎週ずっとここでヴァンガードをしていたかった。だが、自分の学力では、相当勉学に集中しなければ響星学園には受からないだろう。

「そうかそうか。それじゃあ、餞別をあげなければならんのう」

 ミカゲはよっこらせと立ち上がると、ふらつきながら家の奥へと引っ込んでいく。

「お、おじいちゃん?」

 思わず、支えてあげなければと立ち上がったが、庭と縁側くらいしかお邪魔したことのない家の奥に入り込むのは憚られた。

 幸い、ほどなくしてミカゲは戻ってきた。その手に2枚のカードを携えて。

「レイちゃんに、これをプレゼントしよう」

「え? 何これ……」

 裏向きに渡されたカードを、表に向ける。

「!? これって! 《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》!? それも2枚!?」

「そうとも。レイちゃんは、このカードを持っていないんだろう? 持っていれば、このカードの方が有効な場面もあったものなぁ」

「そうだけど……。いいの? こんな貴重なカードを」

「もちろん。わしが持っていても使い道が無いからなぁ。レイちゃんが使ってくれた方が、カードも喜ぶだろうて」

「……うん! ありがとう、おじいちゃん! 大切にするね!」

 言いながら、レイはミカゲに抱きついた。

「また高校に進学できたらここに来るね! その時はまたファイトしよ! ミステリーフレアを入れて、さらに強くなった、アタシのギアクロニクルを見せてあげる!」

「……おう。そうさなぁ」

「アタシの『憧れの人』も紹介するよ! まだ会ったことはないけど、きっと素敵な人に違いないんだ!」

「……うん。楽しみにしているよ」

 ミカゲはしわがれた手で、レイの頭を優しく撫でた。幾多の年月を経てかさかさに乾ききった手は、それでも確かなぬくもりをレイに伝えてくれた。

 その日は、いつもより大きく手を振ってミカゲと別れた。

 しばしの別れ。だけど半年もすればまた会える。だからできるだけいつも通りに。「またね」と言って屋敷を後にした。

 普段は縁側に腰かけたままのミカゲも、今日は珍しく玄関まで出てきてレイを見送ってくれた。

 

 

 それからひと月が経過した。

 家の用事で久々に外出したレイは、気が付けばミカゲの屋敷のすぐ近くを通っていることに気付いた。

(少し寄り道すれば、おじいちゃんの家だよね)

 しばらく会わないと宣言して、わずかひと月で会いに行くのはやや気恥ずかしいが、自分とミカゲの仲で、ここまで来て会いにいかないのも変だろうと自分自身をむりやり納得させる。顔を見せるだけだ。デッキも持ってきていないし、ファイトはしない。

 それに、報告したいこともあった。中間テストでいい点を取って、両親や先生が響星学園を受験することを許してくれたのだ。

 逸る気持ちが抑えられず、早足になって屋敷のある角を曲がる。

(……あれ?)

 塀から縁側を覗くが、そこには誰もいなかった。

(……まあ、約束していたわけじゃないし。おじいちゃんも四六時中あそこにいるわけじゃないよね)

 少しがっかりしながら、レイは屋敷を後にする。

 季節外れの風鈴は、いつしか片付けられており、ちりんという優しい音は、もう聞こえなかった。

 代わりに遠くで救急車のサイレンが鳴っているような気がした。

 

 

 次の日、胸騒ぎを覚えて、レイは家を飛び出した。

(ダメ! やっぱりおじいちゃんに会いたい!)

 意思が弱いと笑われても構わない。嫌われたっていい。今はただ、とにかくミカゲの顔が見たかった。

 屋敷に辿り着いた時、レイは激しく息を切らしていた。呼吸を整え、俯いていた顔をあげると、ちょうどいつもレイが出入りしていた通用口から、人が出てくるところだった。

「!! おじいちゃ――」

 思わず声をあげて、それをすぐに抑え込む。小さな門から出てきたのは、ミカゲとはまったく別人で、40代くらいの女性だった。

 だが、その声でレイに気付いたのだろう。女性がこちらへと振り向くと、驚いたような顔をして、サンダルでパタパタと駆け寄ってくる。

「ああ! あんた、レイちゃんだね。ここ最近、お父さん――ミカゲおじいちゃんとカードゲームで遊んでくれていた子だろう?」

「あ、はい! そうです!」

 その言葉からすると、この女性はミカゲの娘なのだろう。

「あの、おじいちゃんは――」

 レイが尋ねるよりも早く、女性はレイの両肩をがっしり掴むと、目線をレイの高さまで合わせた。

 こうして顔を合わせてみると分かるが、その女性の頬は痩せこけ、憔悴しきっているようにも見えた。まるで一晩中泣き明かした後のように。

「落ち着いて聞いてね。ミカゲおじいちゃんは昨晩に意識を失ってね……今朝に亡くなったんだよ」

「…………」

 その言葉は自分でも驚くほどすんなりと受け入れることができた。

 分かってはいたことだ。

 あれほどまで眼窩の落ち窪んだ人間が。歩くだけで難儀しているような人間が。あんな骨のような手をしている人間が。もう長くは生きられないことなど、自明の理だった。

(……? あれ? じゃあ、何でアタシは「またね」なんて言ったんだろう?)

 半年もすれば会えない公算の方が高かったはずだ。

(……ああ、そっか。アタシは人の死を知らなかったんだ)

 レイはまだ身近で人を亡くしたことはない。人が死ぬということを知識として理解はしていても、実感できていなかったのだ。

 ミカゲの体調が悪そうだとわかってはいても、それを死と繋げるようなことはせず、楽観的な妄想に逃げ込んだ。

「あ、あはは……冗談、だよね?」

 だから、現実から目を背けるような言葉も平気で出てくる。愛想笑いで誤魔化していれば、ミカゲがひょっこり現れるのではないかという淡い希望に、今もすがりついている。

「本当よ」

 それを断ち切るように女性はぴしゃりと告げた。

「明日にお葬式を予定しているのだけど、あなたにも出席してほしいの。予定は空けられるかしら?」

「……親に聞いてみます」

 それだけ答えるのが精一杯で、レイは逃げるようにその場を去った。

 

 

 受験生の身の上で、まさか学校を休む許可は下りないだろうと考えていたのだが、事情を説明すると、両親はいともあっさり葬式に出席することを許してくれた。

 自分の倍以上生きている両親は、死というものの重みをレイ以上に知っているのだろう。今後、どれだけ遅刻の言い訳が必要であっても「親戚の葬式」だけは使わないでおこうと心に決めた。

 両親は葬式のルールを簡単に教えてくれて、お金も持たせてくれた。

 そして今、レイは黒い縁取りに覆われたミカゲと対面していた。

 遺影に選ばれた写真は、ミカゲがヴァンガードをしているところで、とても楽しそうだった。

 レイも見慣れた笑顔だが、記憶よりも若々しく感じる。レイの知る頃より、もう少しだけ元気だった頃に撮られた写真なのだろう。

 ミカゲの遺体とは、先ほど最後のお別れを済ませてきたところだ。穏やかな表情で、まるで居眠りでもしているかのようだった。棺桶には、彼が生前に愛用していた黒い羽織や、ぬばたまのデッキが入れられていた。

(アタシ、やっぱり泣けなかったな……)

 優しく微笑むミカゲの前で、レイはそんなことを考えた。

 自分には感情が欠落している。笑いたい時に笑えず、怒りたい時に怒れず、泣きたい時に泣けない。仕方がないので、常日頃から笑顔を作ることで、周囲を誤魔化してきた。とりあえず笑ってさえいれば、大抵の人は「レイちゃんは、いつもニコニコして偉いねえ」と褒めてくれる。そこには何の因果関係も無いというのに。

 唯一の例外はヴァンガードをしている時で、ファイト中だけは心から笑うことができた。

 自分がこのような歪な性格になった原因は分かっている。

 レイは自分の胸に手を当てた。

 自分の中にいる根絶者の存在だ。すべてを無に帰さんとする根絶者の本能が、自らの感情すらも消去し続けているのだ。

 根絶者のディフライダーであることは自分の誇りだったが、たまに思うことがある。自分は根絶者などではなく、化け物に魂を喰われかけているだけの、普通の少女なのではないかと。

「あなたがレイちゃんね?」

 それこそ鼻で笑い飛ばしたくなるような無意味な思考を断ち切ってくれたのは、凛とした若い女性の声だった。

 レイがいつの間にか俯いていた顔をあげると、そこには濡れ羽色の髪を肩まで伸ばした艶やかな女性が立っていた。まだうら若いにも関わらず、喪服を完璧に着こなしている。ただ、何となくではあるが、彼女には白い着物の方が似合いそうな気がした。

「はい。あ、あの、あなたは……?」

 問い返して、すぐにピンとくる。

「もしかして、ミカゲおじいちゃんのお孫さん……?」

「ええ。ミカゲおじいちゃんの孫です。おじいちゃんと、最後にたくさんファイトをしてくれたそうね。彼に代わって礼を言います。ありがとうございました」

 ミカゲの孫は丁寧に膝を折ると、指先を畳につけて頭を下げた。生まれて初めて見た完璧な形式のお辞儀に、レイは思わず見惚れそうになる。

「い、いえ! アタシの方こそおじいちゃんに世話になりっぱなしで、その……」

「楽しかった?」

 慣れない雰囲気に戸惑っていると、ミカゲの孫は突然そんなことを訪ねてきた。

「え?」

「おじいちゃんとのファイトは楽しかった?」

「はい! あんなに楽しいファイトは初めてだった! おじいちゃんとのファイトは、アタシの一生の思い出です!」

「それはよかったわ。ちゃんと両想いだったのね。

 私はたまにおじいちゃんと手紙のやり取りをしていたのだけれど。半年に1度手紙が来ればいい方だったのが、だいたい2ヵ月前からかしら。1週間に1度の頻度で手紙が来るようになったの」

「え、それって?」

「最初の手紙には『面白い女の子に会った。将来有望なファイターだ』って。それからは、あなたとのファイトの内容や、ファイト中にどんな話をしたかとか、とにかくあなたのことばっかり。実の孫に送るような内容じゃないわよね。少し妬けちゃったわ」

「あ、あはは……」

 目の前の女性がおどけた調子で笑う。顔の筋肉をその形に動かしているだけの、自分の笑みとは違う。本物の笑みだった。そして人を安心させるようなその笑顔は、どこかミカゲの面影を感じさせた。

「そして一週間前。おじいちゃんから最後の手紙が届きました。もし自分が死んだら、この手紙をあなたに渡してくれって」

 女性が喪服の袖から1枚の封筒を取り出し、畳の上にスッと差し出した。

 いちいち行動がサマになる人だなと思いつつ、レイは封筒を受け取り、糊付けされていた封を剥がす。そこから出てきた1枚の便箋には、筆を握るのも重労働だったのだろう、震える文字で、ぶっきらぼうに3つの言葉だけが記されていた。

 

 約束、守れなくてごめんな。

 楽しかったよ。

 ありがとう。

 

 たったそれだけの言葉に、無念と、思い出と、感謝の、すべてが込められているのが、レイにもはっきりと伝わった。

「あなたと初めて会った日のおじいちゃんはね。余命1週間を宣告されて、実家に帰ってきたばかりだったの」

「……え?」

 そして、女性の告げた言葉に目を丸くする。

「病気がひどくて、病院でももう手の打ちようが無いから、最期は家族に囲まれて過ごしなさいっていうお達しだったのね」

(え? それじゃあ……)

 レイはミカゲと初めて会った時のことを思い出す。その時のミカゲは、縁側にカードを並べていたが、あれはデッキを作成していたのでは無かったのではないか。自分のデッキを構成するカードの1枚1枚にお別れを告げていたのではないか。少なくとも、レイが余命1週間を宣告されたら、同じようなことをする気がした。

「でも、おじいちゃんは……」

「ええ。それからふた月も生きたわ。初めのひと月はあなたとのファイトが楽しかったのね。あなたの成長を見届けるまで、死ねなかったのではないかしら。

 残りのひと月はあなたとの約束を守るため。高校生になったあなたとファイトするために、頑張って生きようとしたのよ。

 最期まで足掻き続けたあの人を、私は孫として誇りに思うわ」

「そん、な……おじい、ちゃん……」

 両手の指を髪の毛に突っ込んでくしゃくしゃに頭をかく。可能なら、そのまま指を脳みそに突き刺してかき回してやりたかった。

「ごめん、ね……。アタシが無理させちゃったんだね……」

「そんなことないわ。あなたがいたから、あの人は最期の瞬間まで幸せだったのよ」

「う、わ、あ、あああああああああっ!!!」

 涙の代わりに悲鳴が溢れでてきて止まらなかった。

 ミカゲの遺影へと手を伸ばし、遺体が入った棺桶に駆け寄ろうとするのを、女性が優しく抱き止めた。

「あああああああああっ!! おじいちゃんっ! そんなのっ、優しすぎるよ!

 イヤだっ! また会いたいっ! 謝るからっ! だから、出てきてよぉっ!!!」

 静かな式場に、レイの悲鳴がこだまする。何事かと周囲の大人が立ち上がりかけたが、レイを抱いたままの女性が視線だけでそれを押し留めた。たかが故人の孫にしては、権限と影響力がありすぎる。

 レイはそんな女性に抵抗するかのように爪を立てて引っ搔いた。女性の首筋にじわりと血が滲む。

「大丈夫よ。あなたの気持ちは、おじいちゃんに届いているから。だから大丈夫」

 獣のように暴れるレイを、女性は赤ん坊に対してするようにあやし続けた。

「まったく……見た目だけじゃなく、不器用で世話の焼けるところまで、あの子にそっくりね」

 やがて、レイが疲れ果てた頃、女性が苦笑するように呟くのが聞こえた。

 その意味は掴めないまま、レイの意識はゆっくり闇の中へと沈んでいった。

 

 

 力尽き地面に落ちた蝉を、蟻がせっせと巣に運んでいた。これから訪れる冬に備えるのだろう。

 響星学園の1年生、時任レイはそれを踏み潰さないように気を付けながら、いつしか暗くなっていた夜道を歩いて帰路につく。

 無数の生と死が入り混じるこの季節になると、時任レイは思い出す。

 優しい温もりを与えてくれたしわがれた手と、もう動くことはない冷たくなった手のことを。




3年生編9月の本編をお送り致しました。

そして!!
ついに、ぬばたま使い「黒澤ミカゲ」が登場と相成りました。

いや、登場と言っていいのか。
なにせ、現在の時間軸ではすでに故人。
だからこそ、ミカゲの描写も、ジャミョウコンゴウをはじめとするユニットの描写も、魂を込めて書かせて頂きました。
お楽しみ頂けたなら、何か感じ入るものがあったのなら、幸いです。

それでは次回、9月3日前後に公開予定、Vクランコレクションのえくすとらでお会いしましょう!
ダイホウザンも書きたかったー!!(時間軸が合わない……


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10月「残念だが、君は強すぎたようだ」

 プロファイター世界ランキングにおいて、10年もの間、2位の座を守り抜いた男がいた。

 その間、1位は4度も入れ替わったにも関わらず、である。

 だが、その男は1度も1位にはなれなかった。

 不断の努力を続ける真摯な姿勢と、それに裏打ちされた安定感に定評のあるプレイング。頂点に相応しい品格と実力を兼ね備えていながら、たびたび現れる天才から王座を奪取することはついぞできなかった“最強の凡人”

 彼は2位の座を保ったまま、10年と少し前、35歳の若さでプロを引退する。

「自分の限界を悟った」

 と言葉を残して。

 その後、彼の行方を知る者はいなかった。

 風の噂によると、片田舎で小さなカードショップを開いたらしいが。その真偽を確かめようとする者も、もういなかった。

 

 

 天海島。

 日本列島の果てにポツンと浮かぶ小さな島。

 100人あまりの島民が暮らすだけの、何も無い島である。

 10年と少し前、その島に1軒のカードショップがオープンした。

 娯楽に飢えていた、島に住む24人の少年少女にとって、初めてプレイするカードゲームは脳髄を稲妻が突き抜けたかのように衝撃的だったことだろう。

 無口で不愛想だが面倒見のいい店主は、はじめは投げ売りも同然の価格でカードを子ども達に配り、懇切丁寧にルールを説明した。

 それにより確かな下地を身につけた子ども達は、互いに競い合うようにして、そのセンスを更に研ぎ澄ませていく。

 絶海の孤島に存在するカードショップであるが故、一切の不純物が混ざることもなく、実力者どうしが切磋琢磨を繰り返すことで生まれた最強のファイター達。

 ヴァンガード甲子園において、常勝軍団と畏怖され崇拝される天海学園カードファイト部はこうして生まれた。

 そして、はじまりの24人の中で最年少だった――残りの21人や店主に最もかわいがられた――3人の少年こそ、天海学園史上最強と称される、現在の3年生達である。

 

 

「プラントのブースト、プラントでヴァンガードにアタックします」

「《ケルピーライダー ペトロス》でガードだ」

「うう……私はこれでターンエンドです」

 25人目の少女――島にカードショップができた当時は幼すぎてファイトに参加できなかった――(ひいらぎ)マナが俯きがちに宣言する。

「私のターン。スタンド&ドロー。

 手札からヴァンガードと同名のカードを捨て、《蒼波元帥 ヴァレオス》のスキルを発動する!

 究極超越(アルティメットストライド)!!!」

 マナの対戦相手、2年先輩にあたる長身の男、清水(しみず)セイジが高らかに叫ぶ。

 それに応じて、片目に深い傷を負った初老の男が、手にした巨大な銛を掲げると、背後に長大な影が姿を現した。それは絶海まで震わせるかのような雄叫びをあげると、志半ばに倒れ、海へと還っていったはずの兵士達が、ひとり、またひとりと渦巻く海中から蘇る。

 その咆哮もじきに小さくなっていき、やがてはすべてが幻であったかのように、影とともに消えた。

「バトルフェイズに移行する!!

《頑迷の蒼翼 シメオン》で《メイデン・オブ・スタンドピオニー》にアタック!

 アタック終了時、ヴァレオスのスキルによって、シメオンとファウロスの位置を入れ替える!」

 そして元帥(セイジ)指揮の下、蒼翼の名を冠する兵士達が、花乙女(マナ)を追い詰めていく。

「ヴァレオスでヴァンガードにアタック!

 ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(ヒール)トリガー!! 我が蒼翼は全員スタンドする!!」

 手札1枚のマナに対し、残り5回のアタックが確定し、この戦争(ファイト)は終局を見た。

 

 

「ああ……私の負けですね」

 ファイトと同時にイメージを終えたマナは、荒れ狂う海上ではなく、天海学園3年生の教室にいた。

 天海学園カードファイト部に部室などというものはない。もっとも、学園の生徒はこの場にいる4人だけで、その全員がカードファイト部なので、放課後は1年か3年の教室に集まれば事足りるのである。

 大抵の場合はマナが「先輩方に1年生の教室までご足労頂くなど滅相もございません」などと言って3年生の教室に来る。

「ふふふ……これで100連敗です。こうなってくると、もはや笑うしかないですねえ、うふふ……」

 自虐などというありきたりな感情などとうに超越した彼女にしか至れない境地で、マナが不気味な笑みを浮かべる。

「いや。43戦前、アラシとのファイトでは君が勝ったはずだが」

 セイジが冷静に指摘する。

「あれはアラシさんが盛大に事故をして、G1のままファイトしていましたので。あれを勝ちに勘定するほど、私も恥知らずではありません。むしろ、G1相手に3点を受けた私の負けに数えてもいいぐらいかと……」

「変なところでストイックだな、君は」

 鉄面皮を僅かに崩して、セイジは複雑な表情を浮かべた。

「こうやって毎日毎日負かしてやってる俺が言うのもなんだけどよー」

 口を挟んできたのは、だらしなく椅子にもたれてファイトを観戦していた小柄な少年、(あおい)アラシだ。

「お前、そんなんでよくヴァンガード続けてられるよな」

「それは……その、私は、ネオネクタールのユニット達がイメージできるだけで幸せですから」

《メイデン・オブ・スタンドピオニー》を手に取り、マナが困ったようにはにかんだ。

「ふむ。前向きな姿勢を褒めるべきか、向上心の無さを叱るべきか。難しいところだな」

 大真面目にセイジが首を傾げて悩みはじめる。

「それに私は10年前、おふたりが他の先輩方を相手に20連敗くらいしていたのを後ろで見ていましたから。この程度でへこたれてはいられません」

 昔の話を思い出したようにマナが言い、セイジとアラシが目を逸らす。21人の先輩に()()()()()()()()()過去は、ふたりにとっては思い出したくない負の歴史なのである。

「内心では(ちいさいおにいちゃんたち、よわいなあ)って思いながら見ていたんですけどね。まさか、その時の感想が、今の私にブーメランとなって返ってくるとは。

 アラシさんだって、100連敗まではしていませんでしたし。持って生まれた素質の差に恐れ入るばかりです」

「それはしゃーねぇだろ。10年前の先輩と、今の俺達じゃ、実力に天地の差があるしな。

 当時の先輩達の強さって、今の聖ローゼの連中と同じくらいだったと思うぜ?」

「聖ローゼ? ああ、最近島によくいらっしゃる……。確かにそのくらいだったのでしょうか。幼い頃の記憶なので曖昧なのですが、私にとってお姉ちゃんやお兄ちゃんは、果てしないくらいに大きくて、強くて、格好いい、憧れの存在でした」

 デッキを何枚かめくりながら、マナが昔を懐かしむように呟く。彼女がネオネクタールを選んだのも、はじまりの24人の中でもっとも年長だった少女が使っていて、それに憧れたからだ。

「それは私も変わらないよ」

 セイジが答え、珍しいことに、アラシも神妙に頷いている。

「先輩方が全てを余すことなく授けてくれたからこそ、私達はあの人達を越えることができた。先輩方より強くなっても、畏敬の念が消えて無くなることはないさ」

 そう言って、マナをまっすぐ見据える。

「そして次は、私が私の全てを君に授ける番だと思っている。さあ、そろそろ練習を再開しよう」

「はい。よろしくお願いします」

 マナがぺこりと一礼した。

「次はアラシがファイトをするか?」

 セイジが問いかけ、アラシは「うーん……」とわざとらしく悩むような仕草で腕を組み。

「なあ、ヒビキ! 息抜きにマナと一戦くらいしねえか?」

 部屋の隅にいる少年に声をかけた。

 その息を呑むほどに美しい銀髪碧眼の少年は、机の上に分厚い参考書を開き、その内容をノートに書き写したり、注釈を加えたり、とにかく勉強をしていた。

 何の勉強をしているのかは、学が無いと自覚するアラシにはさっぱり分からないが、その美少年――綺羅(きら)ヒビキは、来年の4月から村長である父の補佐のため、そしてゆくゆくは父の跡を継ぐため、覚えなければならないことが山ほどあるのであった。

 そんな大切な勉強をしている最中にも関わらず、ヒビキは丁寧に顔を上げ、アラシの目を見ながら言う。

「ごめんよ。見ての通り、ボクは忙しいんだ」

 そして、また参考書に視線を落としてしまう。

「チッ。それなら、教室なんかで勉強すんなっつーの」

「いや。教室は勉強する場所だが」

 アラシが毒づき、セイジが生真面目に指摘した。

「そういう意味じゃねーよ! 勉強したけりゃ、家に帰ってしろっつってんだ」

「ファイトの音を聞いている方が落ち着くんだよ。マナが成長していく様子を見るのは、ボクにとっても励みになる」

 再び参考書から顔を上げ、ヒビキが答えた。

「そんな。私なんて先輩方からどれだけ教えを受けても、その場で足踏みをしてばかりの無能です。私ごときがいても、ヒビキさんの悪影響になるだけで……」

「てめーは黙ってろ。ややこしくなる」

「すみません。死にます」

「生きろ」

 舌を嚙み切ろうとしたマナは、セイジの制止によって命を救われた。

「はっきり言うぜ! お前は居心地いいのかも知れねーが、ファイトする気の無いやつがいたんじゃ、こっちの邪魔になるんだよ!」

「……ごめんよ」

 今にも泣きだしそうな表情で、ヒビキが微笑んだ。

「たしかにアラシの言う通りだ。ボクはこれにて失礼するよ」

 ヒビキが参考書を閉じ、カバンに片付ける。

「待て、ヒビキ!」

 それを慌てて止めたのはセイジだ。

「アラシが言いたかったのはそうじゃない。1回でもいいから、ファイトをしていけと言ったんだ。

 お前は、このまま一生ファイトをしないつもりなのか?」

「その覚悟だよ」

 決意を込めてヒビキが頷いた。その開き直った態度が、セイジをさらに苛立たせる。

「私は、お前ならプロになれると思っていた」

「なれただろうね。ボクの才能なら」

「その自意識過剰な発言も、今のお前が言うなら、ただの戯言だ。行動で証明して見せろ。

 お前はこんな島で終わっていいようなファイターじゃないんだ……!!」

「できない理由があるんだよ。知っているだろう? ボクは父の跡を継がなければならない。そういう星の下に生まれたんだ」

「格好をつけた台詞で誤魔化すな!!」

 怒号を発し、今にもヒビキに掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出したセイジを止めたのは――

「あのー……」

 どこか間の抜けたマナの声だった。

「要するに、ヒビキさんがファイトできなくて、プロにもなれない理由は、お父さんの跡を継がないと……つまりは村長にならないといけないから、なんですよね?」

 一触即発の雰囲気の中、いつも通りのおずおずとした口調で喋る。図太いのか臆病なのかよく分からない少女である。

 そんな少女は、次にとんでもなく図々しい発言をして、少年達を絶句させた。

「なら、私が村長になってしまえばいいんじゃないでしょうか」

 先ほどの緊張状態より遥かに気まずい沈黙が教室中に満たされていく。

 さすがにその空気には耐えられなかったらしく、マナはしどろもどろになって弁解に努めた。

「ほ、ほら、私の両親は村役場の職員ですし。私もゆくゆくは、ヒビキさんと同じ職場で働くことになると思うので。そ、それなら職員も村長も同じかな、と……」

「……キミは本気で言っているのかい?」

 やがてヒビキは、珍しいことに笑みを消し、悪戯をした子どもをたしなめるような声音で問いかけた。

「……いえ。私としたことが、出過ぎたことを申し上げました。先ほどの発言は撤回致しますので、どうかお忘れ頂きたく……」

「待て!!」

 我に返ってあっさり引き下がろうとしたマナの肩を、アラシが掴んで止める。

「その言葉、続けてくれねえか?

 ひょっとしたら、俺はお前にとんでもないモノを押し付けようとしているのかも知れねえ……。

 けど、あのバカ野郎の考えを改めさせるには、もうお前の思いつきに頼るしかねえんだ。

 だから、頼む……」

 マナの肩を掴んで離さないまま、アラシが項垂れるように頭を下げた。

「私からも頼む」

 空いている肩に、今度はゴツゴツした大きな手が乗せられ、セイジが腰を直角に折り曲げて頭を下げた。

「アラシさん……セイジさん……」

 今までさんざん人に嫌がらせをしてきて、謝ったことすらないアラシが。

 誰にも頼らず、実際ひとりで何でもできてしまうセイジが。

 今は揃ってマナに頭を下げている。

 マナの細い肩には、あまりにも重たい宿命を背負わせようとしている。

 それでもいいと思った。

 アラシとセイジにはそれだけの恩がある。具体的にはアラシ1割、セイジ9割。いや。よくよく考えてみれば、アラシの頼みなど聞いてやる義理など無いのだが、セイジへの義理はそれを補って余りある。

「……ヒビキさん」

 アラシの手を払いのけ、セイジの手を優しく握ってそっとはずし、マナは改めてヒビキと向かい合った。

「もう一度、言います。私がヒビキさんに代わって村長になります。ですので、ヒビキさんはプロファイターとなって、世界に羽ばたいてください」

「……マナ。キミには無理だよ。村長の仕事はね、とても激務なんだ。キミのような小さな体じゃ、すぐに体を壊してしまうよ」

「いや、それならヒビキも無理じゃね?」

 からかうように、されど冷静に指摘したのはアラシだ。

「お前、そうとう体弱いよな? 1ヵ月に1度は熱出して学校休んでるじゃねーか」

 それにセイジも追従する。

「むしろ、こう見えてマナは頑丈だぞ。彼女が学校を休んでいるところや、体調が優れなさそうにしているところなど、私は見たことがない」

「馬鹿は風邪をひかないと言いますので」

 威張れないことに限って、マナは何故か自慢げに胸を張った。

「……仮にマナが村長になったとして、村役場の職員に空きができるじゃないか。それはどうするんだい?」

「私の両親は生涯現役を公言していますし、3つ下の妹もいます。あの子は私に似ずしっかり者で、すでに村役場で務める意思を固めています」

(まあ、こんな姉がいたらしっかり者になるよなぁ……)

 そんなことを言ってもマナが不利になるだけなので、アラシは誰にも聞こえない心の中で呟いた。

「……本気、なのかい?」

「本気ですし、正気です。何なら勢いに任せて、今からヒビキさんのお父様に直談判しにいってもいいくらいですけれど……私が如何に本気かを確かめたいのなら、もっと適した手段があるのではないでしょうか」

「……カードファイトかい?」

「はい。受けて、頂けますか?」

 今度はマナの方から、試すような視線をヒビキへと向けた。

「……フッ」

 ヒビキがようやく相好を崩し、彼らしい人好きのする笑みを浮かべた。

「そうだったね。ボクらは何かあれば常に、カードで語り、カードで悩み、カードで答えを出してきた。

 いいよ。今日だけは乗せられてあげよう」

 そう言って、ヒビキはカバンからデッキケースを取り出した。

(しっかりデッキは持ってきてんじゃねーかよ)

 ヒビキに聞こえて気を悪くされても困るので、これもまた心の中でアラシがツッコんだ。

「とは言え、ようやくここまで辿りついた」

 アラシと同じことを思っていたのだろうセイジが、口の端を小さく上げた。

「ああ、後はマナにすべてを託すだけだ。頼んだぜ……」

 祈るようなアラシの視線の先で、マナは先ほどまで使っていたデッキを片付けると、別のデッキケースをカバンから取り出した。

(デッキを変えるのか?)

 アラシが眉をしかめて訝しむ。

「それでは、はじめようか」

「はい。よろしくお願い致します」

 さすが天海学園というべきか、ファイトの準備が整うのは一瞬だ。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《バミューダ△候補生 シズク》!」

「《菜の花の銃士 キーラ》!」

 

 

「《睡蓮の銃士 ルース》にライドします。

 ルースのスキルで、プラント・トークン2体をスペリオルコール。

 さらに、《鈴蘭の銃士 レベッカ》をコール。プラントトークンのパワーを+5000……」

「マナのやつ、いつの間に銃士を……」

 後攻のマナがG1にライドしたところで、アラシが呟く。

「マナは……たしか銃士は使わないと言っていたな」

 それにセイジも答えた。

 マナがネオネクタールを使い始めた理由は、元々それを使っていた先輩に憧れたからである。その女性は、特に銃士デッキを愛用していたのだが、マナはその遠慮がちな性格のため「私ごときが、あの方と同じ銃士を使うなど恐れ多くて……」などと理由をつけて、銃士以外のネオネクタールを使用していたのである。

「あれも彼女なりの決意の表れというわけか」

 セイジが改めて盤面に目を向けると、ヒビキはすでに3点のダメージを受けていた。

「私はこれでターン終了です。ターン終了時、レベッカのスキルでプラントを退却。このカードを手札に戻します」

「くくく……しっかりと銃士を使いこなしてるじゃねーか」

 アラシが楽しそうに笑う。

 銃士を操るマナの動きは淀みなくスムーズで、部活や大会で使っていなかっただけで、家では繰り返し動きを研究していたのだろう。

「ボクのターンだね。スタンド&ドロー!

 ライド! 《ジュエリィライト クラシーナ》!

 クラシーナのスキルで山札の上から3枚を見て……《レイニーティア ステッツァ》をコール。1枚を手札に加え、もう1枚は山札の下へ。

《甘美なる愛 リーゼロッテ》をコール。山札の上から1枚見て……《トップアイドル アクア》をコール。

 アクアのスキルでリーゼロッテを手札に戻し、1枚ドロー。手札から《類稀なる才覚 ラウラ》を捨てるよ」

(すげえな……毎度のことながら、デッキがガン回りしてやがる)

 2ヵ月のブランクなど無きに等しいとばかりに、ヒビキはヒビキで絶好調だった。

 気が付けば、3ターン目にも関わらず、ヒビキの盤面に6体のユニットが揃っていた。

「ステッツァのブースト! クラシーナでルースにアタック!」

「ノーガードです……」

「ドライブチェック! トリガーは無いね。

 ステッツァのスキルで、このカードを退却させ、1ドロー。さらに、ドロップゾーンのラウラをデッキに戻し、1ドロー」

「ダメージチェック……私もトリガーはありません」

「《確信的自信 ルサロス》のブースト、《鮮やかなる夢幻 アクティアナ》でヴァンガードにアタック!」

「《ダンガン・マロン》でガードします」

「《マーメイドアイドル セドナ》のブースト! 《トップアイドル アクア》でヴァンガードにアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック……トリガーではありません」

 だがまだダメージは2点。マナがリードしている。

「私のターンです。スタンド&ドロー。

《パンジーの銃士 シルヴィア》にライドします。

《リコリスの銃士 サウル》をコール。サウルのスキルでヴァンガード後列のプラントを退却させ、山札の上から3枚確認……《月下美人の銃士 ダニエル》をスペリオルコールします。

 トリガーユニットをコールしたので、トリガー効果も発動します。パワーと(クリティカル)はすべてヴァンガードに!

 レベッカをコールして、プラントにパワー+5000!

 バトルです! パワー10000になったプラントでアクアにアタック!」

「アクティアナでインターセプトだよ」

「ダニエルのブースト! 合計パワー25000、★2のシルヴィアでヴァンガードにアタックです!」

「フッ。ヴァンガードにパワーと★を集中させての速攻など、もうボクには通じないよ!

 あまねく治癒の歌声よ、守護者となりて我らを護りたまえ!

 ガード!! 《世界を包め愛の歌 ベネデッタ》!!

 そのスキルで、シルヴィアの★を-2する!」

「……治ガーディアン」

 マナが小さく呻いた。

「いや、ルサロスもそうだが、何で8月に引退宣言したやつが、堂々と最新カード使ってんだよ」

 アラシは呆れながら、ヒビキに聞こえないよう小声でツッコミを入れた。

「ふっ。ヒビキがヴァンガードを忘れられるわけもあるまい。あいつはそういう男だ」

 一方のセイジは嬉しそうに笑っていた。

「そうなんだろうけど、やっぱ釈然としねぇー」

 これでマナに大勝して、「ボクの意思は変わらない。ヴァンガードを辞めるよ」とか言い出しても、説得力が無さすぎる。

「うう、どうせダメだろうけど、ドライブチェック……トリガーではありません。

 レベッカのブースト、サウルでヴァンガードにアタックします」

「《凛々しき瞬き ラトカ》でガードだよ」

 続くアタックもあっさり防がれ、マナはターンエンドを宣言する。

「ボクのターンだね! スタンド&ドロー!!

 深き闇に眠りし静かなる才能よ。深海より音を震わせ、響け!

 ライド! 《ベルベットボイス・レインディア》!!」

 迷いの森の奥深く。銀髪の人魚が湖に腰かけ、透き通った水面に尾びれを遊ばせていた。

 それはこの湖に住まう妖精かと見紛うほどの美しさだったが、彼女はまごうことなき余所者であり、ここにいるのは仕事のためである。

 メガラニカの歌姫、レインディア。ズーにおける特別出張ライブ、間もなく開演の時。

「フォースⅠを右前列のリアガードサークルに。

 その上にリーゼロッテをコール! 山札の上から1枚見て……《陰の主役 ヒルダ》をヴァンガードの後列にスペリオルコール!

 バトルフェイズだよ!

 ルサロスのブースト! リーゼロッテでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック……トリガーではありません」

 これでマナのダメージも3点。

「セドナのブースト! アクアでヴァンガードにアタック!」

「《ダンガン・マロン》でガード! サウルでインターセプトです!」

「ヒルダのブースト! レインディアでヴァンガードにアタック!」

「《清心の花乙女 フィオレンサ》! レインディアの★を-2します!」

 シルヴィアを守るようにして大輪の白蓮が咲き、戦いの意思を奪う歌声を遮断した。

「おっ! マナも治ガーディアンか」

「当然だ。治ガーディアンは、ヒビキだけの専売特許ではない」

 アラシとセイジが楽しそうに話し合う。

「フッ。やるね。

 ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー。……★はレインディア。パワーはヒルダに。

 2枚目、こちらはトリガーではないね。

 そして、バトル終了時! 手札を2枚捨てることで、レインディアのスキル発動!!

 山札の上から10枚を公開するよ。

《ドッキンシューター ペレーア》

《天真爛漫 メルニル》

《包み込む心 リリー》

《泡立つ激励 ピピレア》

《学園の綺羅星 オリヴィア》

《繋がる絆 ファネッサ》

《ハートを独り占め アネシュカ》

《あなたに届け パーシュ》

《孤立の静淑 レフィアレード》

《煌きのお姫様 レネ》

 ふふ、どの子も皆、かわいいね。

 さて! 公開されたカードがすべて別名だったので、ボクはこの中から1枚を選び、ライドできる!

 この舞台には、キミこそが相応しい!」

 10枚のうちから1枚のカードをピッと抜き出し、それをヴァンガードへと優しく重ねる。

「掌握せよ! 世のすべてを手中に収めるがいい!!

 スペリオルライド! 《ハートを独り占め アネシュカ》!!」

 物静かで大人びた雰囲気を漂わせるレインディアとは対照的な幼い容姿のマーメイドが、桃色の短いツインテールをぴょこんと跳ねさせ、水面からレインディアと入れ替わるようにして飛び出した。

「フォースⅠはヴァンガードサークルに!

 そして、アネシュカのスキル発動! 山札の上から10枚を公開! ……すべてが別名だったので、ボクはフォース、アクセル、プロテクトを得る!」

 惑星クレイからも愛される無垢で裏表の無いマーメイドの少女は、その祝福(ギフト)を最大限に受け取ることができた。

「フォースⅠを左前列のリアガードサークルに! アクセルⅡサークルを置いて、1枚ドロー! プロテクトⅠを手札に加える!

 さあ! ヒルダのブースト! アネシュカでヴァンガードにアタックだ!!」

(レフィアレードまでデッキに入れてる……じゃなくて、オリヴィアもあったのに、アネシュカを選んだ?)

 ヒビキの意図が読めず、マナは首を傾げた。手札の完全ガードに指で触れ、脳をフル回転させる。

「……ノーガード、です」

「ドライブチェック……残念。トリガーは引けなかったね」

「ダメージチェック……私もトリガーは無いです」

「アネシュカはレインディアに戻り、フォースⅠはアクセルサークルへ。

 ボクはこれでターンエンドだ」

「私のターンです。スタンド&ドロー」

 マナは初手から温存していた切り札を掴むと、意を決して引き抜いた。

「ライド! 《リコリスの銃士 ヴェラ》!!」

 一迅の風が吹き、彼岸花の意匠を凝らした軍服と、それを纏った女性の黒髪を優しく揺らす。

 女性はこちらに気付いたかのように振り向くと、整った顔立ちを僅かに動かして苦笑したような表情を形作る。

『ようやく銃士(わたしたち)を使ってくれたな、我が主よ(マイ ヴァンガード)。光栄の至りだ』

 その声は、イメージを越えて、マナにもはっきりと聞こえてきた。

(はい。お待たせして申し訳ございません。どうか貴方達の力をお貸しください。ヒビキさんに私の覚悟を伝えなければならないんです)

『心得た。この刃は貴女の為に』

 黒髪の銃士は引き抜いた刀を縦に構えると、マナに向けて一礼した。

「フォースⅡを右前列のリアガードサークルへ!

 プラントとダニエルを退却させ、ヴェラのスキルを発動します!

 ドロップゾーンの★トリガーを2枚山札に戻し、デッキの上から5枚見て……《牡丹の銃士 トゥーレ》と《パンジーの銃士 シルヴィア》をスペリオルコールします! 銃士を2体コールしたので、このユニットのドライブ+1!

 さらにシルヴィアのスキルでプラントをコール! シルヴィアを退却させ、トゥーレのスキルも発動! 山札の上から3枚を見て……きました! 《紅団扇の銃士 ガストーネ》と《リコリスの銃士 サウル》をスペリオルコール!

 ガストーネは自身のスキルでパワー+10000!

 プラントを退却させ、サウルのスキルも発動! 山札の上から3枚を見て……トリガーユニット《月下美人の銃士 ダニエル》をスペリオルコール! そのトリガー効果をすべてヴェラに与え、ヴェラが得たパワーは前列リアガードすべてにも与えられます!」

「すばらしい……」

 ヒビキは手札をテーブルに置き、マナに惜しみない拍手を送った。

「はじめてで銃士をここまで使いこなせるなんて。本当に成長したんだね、マナ」

「いいえ。私などまだまだです。前列にはサウルとマルティナを並べたかったところですし、後列にはガストーネを3体並べることが理想でした」

「それは腕の問題じゃなく、運の問題じゃねえか?」

 アラシが今日何度目かのツッコミを入れた。

「ですので、私の成長はあなたに勝つことで証明します!

 バトルです!

 ダニエルのブースト! ヴェラでヴァンガードにアタック!」

「《大切なフレーズ レイナ》、《手作りの愛情 エレナ》でガード! そのアタックは通らないよ」

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、★トリガー! ★はサウルに! パワーはヴェラに与え、前列リアガードにも同じだけのパワーを!

 2枚目、★トリガー! ★はトゥーレに! パワーはヴェラに!

 3枚目、★トリガー! ★はトゥーレに! このパワーも、もちろんヴェラに!」

「3連続★!? いや、サウルも含めりゃ、4連続★か!」

 アラシが歓声をあげて喜ぶ。

「だが、ヒビキはそれも予想していたようだ……」

 一方のセイジは、鉄面皮に渋面を滲ませていた。

「レベッカのブースト! ★3のトゥーレでヴァンガードにアタック!」

「《恋への憧れ リーナ》と《沸き立つ共感 ベッティ》でガード! アクアとリーゼロッテでインターセプト! ……さらにルサロスも後列からインターセプト!」

「……っ! ガストーネのブースト、サウルでアタック」

「プロテクトで完全ガードだよ」

「……ターンエンド、です」

 マナが弱々しくターンエンドを宣言し、アラシ達は先のターンを振り返る。

「そうか。ヒビキのやつ、完全ガードを握ってなかったのか」

「ああ。だからこそアネシュカでプロテクトを取得したのだ。マナが3枚の★トリガーを引くことを前提にな」

「どんな予想だよ」

「だがまだマナは4点だ。手札の質もいい。ヒビキのターンを耐えることができればまだ……」

「《めくるめく夢物語 ぺリシア》をコール。手札から《巡り巡る奇跡 アトロキア》をドロップに置き、1枚ドロー。このユニットのパワー+10000、★+1。

 ……ありがとう。ボクのピンチに駆けつけてくれたんだね」

 ヒビキの優しい声音に、不穏な空気と悪寒を感じ、アラシ達はおしゃべりを止めて、盤面に目を向けた。

「《パールシスターズ ペルル》、《パールシスターズ ペルラ》をコール」

「!?」

「……っ」

「……」

 その場にいる誰もが二の句を告げられなかった。

「これでボクの手札は0枚になった。しかし、ボクの前列リアガードは、どの子も★2だ。」

 ヒビキだけが、それがさも当然のことであるかのようにファイトを続けている。

「バトルだよ!

 ペルルでヴァンガードにアタック!」

「《ダンガン・マロン》と《清心の花乙女 フィオレンサ》でガードです!」

「アクセルサークルのぺリシアでアタック!」

「《花園の乙女 マイリス》でガード!」

「セドナのブースト! ペルラでヴァンガードにアタック!」

「マイリスでガード! サウルとトゥーレでインターセプト!」

 しかし、マナも諦めていない。怒涛のようなヒビキのアタックを、丁寧なガードで捌いていく。

「……銃士を使いこなしていることなどよりも、今のマナの方がずっと立派だと、私は思うよ」

 セイジがぽつりと呟き。

「……だな」

 アラシも同意した。

「ヒルダのブースト! レインディアでヴァンガードにアタック!!」

「……ノーガード、ですっ」

 マナは意を決して宣言した。

 唯一の★1であるこのアタックをノーガードで凌ぐしかない。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、……★トリガーだよ。★はレインディアに。パワーはペルルに」

「……そう、ですよね。

 ダメージチェック。

 1枚目、トリガーではありません。

 2枚目、……っ!! 治トリガーです!! ダメージ回復して、パワーはヴェラに!」

「おめでとう。それはきっと、頑張ったキミへのごほうびだよ。

 それでは、ボクは手札を2枚捨てて、レインディアのスキルを発動する! 山札の上から10枚を確認……」

 マナはまだ手札に完全ガードを残している。スペリオルライドするユニット次第では、逆転の目はあった。

「水面に煌めく綺羅星よ。銀河へと続く階段を駆け昇り、闇夜を照らす一等星となれ!

 スペリオルライド!! 《学園の綺羅星 オリヴィア》!!」

 そしてヒビキは、そんな希望をいとも容易く打ち砕く。

「ヒルダのブースト! オリヴィアのアタック時にスキル発動!

 それぞれ別名のリアガードをスタンドさせ、3体以上スタンドさせたのでオリヴィアの★+1!!」

「……オリヴィアのアタックを防いだとして、残り3回のアタック。それらの★はすべて2か」

 セイジが無念そうに呟いた。

 それらを防ぎきることのできるカードはマナの手札に残っておらず、治トリガーも3枚が公開されている。

 終わりを迎えてみれば、実にヒビキらしいパーフェクトゲームだった。

 一時は対戦相手に花を持たせ、自らのピンチを演出しつつも、最後は必ず華麗な逆転劇へと繋がるよう計算し尽くされたファイト。

 それは、上質な推理小説のように巧妙で、甘い恋愛小説のように人を魅了し、美しい幻想小説のように心を昂らせる。

 綺羅ヒビキのファイトは、まさしく壮大な物語であり、ひとつの芸術だった。

 それを理解した瞬間、マナの大きな瞳から、ぽろぽろと涙が零れた

「!? マ、マナ!? 泣いてはいけないよ! ヴァンガードは楽しくファイトしなくちゃ! ……ごめんよ、久しぶりのファイトで手加減ができなくて」

 大慌てで慰めようとするヒビキに、アラシが茶々を入れる。

「バカか。100連敗してヘラヘラしてるような女が、たかが1回ボコボコにされたくらいで泣くかよ」

「え? じゃ、じゃあ、何で?」

「ちがうんです……負けるのが嫌なんじゃなくて……ヒビキさんの盤面が、あまりにも綺麗で……」

 ぬぐってもぬぐっても溢れ出す涙でびしょびしょに頬を濡らしながら、マナが途切れ途切れに言葉を紡いでいく。

「このファイトを見れなくなるのが……嫌だなって、思ったんです……」

「マナ……」

 普段は饒舌な美少年が、この時ばかりは言葉を失っていた。

「お願いです、ヒビキさん。ヴァンガードを辞めるなんて言わないでください。私は、ヒビキさんのファイトをもっと見ていたいです。私なんかよりもずっと強い人とファイトして、さらに輝くヒビキさんを見たいんです。それさえ叶うのなら、私はどんな地獄に落ちようと、必ず笑顔でいられます!

 ファイトで証明することはできなかったけど……それが、私の率直な想いです!!」

「そしてそれは我々の総意でもある」

 セイジとアラシが、マナの隣に並び立ち、ヒビキと向かい合う。

「セイジ……アラシ……マナ……」

 ヒビキの頬を一筋の涙がつたった。

「いいのかい? キミ達はヴァンガードを辞めることになるのに。すべてをキミ達に押し付けて、ボクだけが島を出てヴァンガードを続けても、本当にいいのかい?」

「チッ。やっぱりそんなことを気にしてやがったのか」

 アラシがボサボサの頭をバリバリとかき乱し、「お人好しが」と吐き捨てた。

「俺はな、お前と違って要領がいいからよ。親父の船を継ぐことになっても、ヴァンガードを辞めるつもりはないぜ。たとえ海の上だろうと、俺はカードを触り続けてやる。

 けど、ヒビキ。お前は違うだろ? 不器用で、ヴァンガード以外はからきしで、それでもファイトだけは腹立つほどに強ぇ。

 そんなお前が村長になったとしても、村の寿命が縮むだけだ。さっさとプロになって、島から出ていきやがれ」

「……ひどいな」

 ヒビキが泣き笑いのような複雑な表情を浮かべた。

「私もアラシと同じだ。漁がどれだけ忙しくなろうと、ヴァンガードを辞めるつもりはない。何とか両立の道を探していくさ」

「というか、ヒビキさんより上の先輩方も、皆、こっそりヴァンガードを続けてますよね? 去年の年末も、集まれる人で集まって『1年ぶりのファイトだー』って騒いでましたよ。お酒飲みながら」

「え? そ、そうなのかい?」

 アラシ、セイジ、マナから次々と明かされる驚愕の事実に、ヒビキは目を丸くする。大真面目に引退しようとしていたのが、自分だけだったとは。

「こんな楽しいもん、そう簡単に辞められるかよ……ってこったな。

 くくく……その集会に参加するのが、今から楽しみだぜ」

「酒は20歳になってからだがな。

 そういうことだ、ヒビキ。我々は我々で上手くヴァンガードと付き合っていく。お前は何も気にすることなく、お前の……いや、天海の強さを世界に知らしめてくれ」

「お前が世界一になれば、お前と互角の戦いを繰り広げた俺も、世界で2番目に強いことが証明されるんだ。けけっ、戦わずして世界2位になれるとは、楽な話だな」

「ヒビキに10回に1回勝てればいい方のお前が何を言うか」

「あ? お前の勝率もそのくらいだろうが」

 そんなことを言い合いながらケンカを始めるアラシとセイジを見て、ヒビキとマナが同時に「ふふっ」と微笑んだ。

「マナ。キミ達の気持ちは伝わったよ。今度、一緒に父さんのところへ相談に行こう。簡単には許してくれないだろうけど、言葉を尽くして説得してみせるさ」

「はい。どれほどお役に立てるか分かりませんが、私も助力は惜しみません」

 ヒビキの差し出した手を、マナはそっと包み込むように握りしめた。

 

 

「さあ、セイジ。今日はボクのレフィアレードとファイトしてくれたまえ」

「いいだろう。私の蒼翼テトラドライブで返り討ちにしてやろう」

「いや、それって強いのか? 最初のツインドライブで治トリガー引けないとテトラドライブも止まるだろうが」

「私はそれに5連敗しましたけどね。ふふふ……」

 天海島唯一のカードショップ『アルカナ』では、常連である3人の少年と1人の少女が騒いでいる。

 そのいずれもが、途轍もない才能を有した子ども達だ。

 それは自分が唯一持ち得なかったものである。

 と『アルカナ』の店主は自嘲した。

 現代のカードゲーム知識に染まっていない無垢な原石を求めて、ヴァンガード未開の地である天海島に店を開いた。

 男の読み通り、その島には才気溢れる24人の少年少女がいた。彼らに自らの技術を与え、才能と技巧を兼ね備えた究極のファイターを生み出す。そこまでは計画通りだったが、島民の結束が強すぎて、島を出ていこうする子どもがいないのは誤算であった。

 男は新聞を読むフリをしながら、少年少女の話し声に聞き耳を立てる。

「レフィアレードのスキル発動! このユニットをレストし、3枚を公開するよ……おや、3枚とも★トリガーだね」

「おい、なんだその引きは」

「ヒビキさん、島を出てプロになることが許されてから絶好調ですね」

「いや。こいつはいつもこんな感じじゃねえかな」

 だが、子ども達の中でも最も才能に恵まれた、男のもっとも目をかけていた少年が、ついに島を出ることになったらしい。

(俺の頭を飛び越えていった天才どもよ。俺はついに、お前たちに勝るとも劣らない才覚を見出したぞ。5年後……いや、2年後には、ヒビキが証明してくれるだろう。真に強かったのは俺だったと言うことを……)

 男は子ども達のファイトを横目で見守りながら、新聞紙の裏でほくそ笑んだ。




3年生編10月の本編をお送り致しました。

なんと2話連続で主人公不在。
全24クランを登場させると決めた時点で群像劇になることは覚悟していましたが、ミオが好きで根絶少女を応援してくださっている皆さま方には申し訳ないです。
次回はしっかり登場するので、お楽しみにして頂ければ幸いです。

そして、もうひとつ謝罪を。
『共進する双星』のえくすとらを発売日前後に公開すると予告しておりましたが、
公開日を来週の月曜日とさせて頂くことになりました。
えくすとらでネタにする前に、どうしてもルールを確認しておきたいカードがありまして、事務局に問い合わせをしていたというのが理由になります。
本編と同時公開するのも、読者様が大変だと思うので、公開日を分けさせて頂きました。

そのようなわけで、次回は10月4日!
『共進する双星』のえくすとらでお会いできれば幸いです。


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11月「世界の半分が、むなしく闇に沈んだ」

 音無(おとなし)ミオはスマホと向かい合っていた。

 就寝前のちょっとした空き時間をスマホと過ごすこと自体、今時の若者としては珍しいことではないが、その表情は真剣かつ鬼気迫るものがあり、それは単なる暇つぶしのようには到底見えず、常に無表情で何事もソツ無くこなす彼女がそのように感情を表に出すことは、非常に珍しいことであった。

 そんな彼女の手元で、スマホが大きく振動する。間の悪いことに、着信があったようである。

 ミオは着信を拒否しようとスマホの画面に指を伸ばすが、そこに表示された名前を見て、さすがにそれを無視することもできず、彼女はしぶしぶその電話に出た。

「もしもし、ユキさん?」

「あら? 何で私だと分かったのかしら?」

 聞き慣れた――今となっては少し懐かしくもある――少しとぼけたような声が、薄いスピーカーを通して聞こえてくる。

 たったそれだけで、白い着物を纏った凛とした佇まいが、鮮明にイメージされた。

 白河(しらかわ)ミユキ。

 ミオの先輩にして、恩人にして、いずれ越えるべき目標でもある。

「スマホに名前が表示されていましたので」

「あらそう。最近の電話ってすごいのね」

 まさか未だに黒電話を使っているのかと、ミオは口に出さず訝しむ。

「改めましてこんばんは。白河ミユキです。夜分遅くにごめんなさいね」

「まだ20時ですが」

「今、お時間は大丈夫かしら?」

「手短にお願いします。私はヴァンガードZEROのデッキ掲示板で、根絶者デッキにイイネするので忙しいので」

「どうやら暇そうね。

 もうすぐ文化祭の季節だけれど――」

「相変わらず人の話を聞いてくれませんね」

「文化祭の季節だけれど、今年のカードファイト部では何をやるのか決まっているのかしら?」

「いいえ。たしかにカードファイト部は、分類で言えば文化部なのでしょうが、何かしら形として残るものを作っているわけでもない私たちが、文化祭で何かを発表する必要性が感じらませんので」

「けど、文化部は何か一つ催し物を企画するのが規則でしょう?」

「それはそうですが」

「そこでね。私からひとつ提案があるの。実は私、すごい人とお知り合いになってね。

 もしあなたが望むのなら、その人をあなたの文化祭に招待してあげてもいいわ。きっと盛り上がること間違いなしよ」

「話が見えません。いったい誰の話をしているのでしょうか」

「プロファイター世界ランキング1位。ダルク・ヴァーグナー」

「……ほう」

 その名前は、世情に疎いミオですら知っていた。

 いや、世界でその名を知らぬ者の方が珍しいだろう。

 カードゲームは今や世界中に普及しており、その中でもっとも遊ばれているのがヴァンガードである。

 それのプロ選手、ましてトップランカーともなれば、野球やサッカーのスター選手に匹敵する人気と知名度を誇る。

 ヴァンガードを始める前、中学生時代のミオですら、名前だけなら聞いたことがあった。

「それは興味深いですね」

「でしょう? 失礼さえなければ、彼の扱いはカードファイト部に一任するわ。サイン会を開くにしろ、インタビューをするにしろ、好きにしてちょうだい。

 ……もちろん、カードファイト部と生ファイトなんてのも面白いかも知れないわね」

「わかりました。明日、部員と相談してみます。大まかな計画は明後日まで。具体的な計画は1週間以内でユキさんに共有させて頂きます」

「ええ。相変わらず話が早くて助かるわ」

「ありがとうございます。楽しみにしています」

「うふふ。どういたしまして。けど、文化祭の出し物なのだから、自分本位の計画を立てちゃダメよ?

 去年の根絶者喫茶みたいな、ね」

「む。どうしてそれを」

「私は響星の卒業生よ? 可愛い後輩の出し物を見に行くのは当然のことでしょう? ……まあ、入口に立てられた、やたら不気味な《発酵する根絶者 ガヰアン》の看板を見て、他人のフリをしながら、その場を離れたのだけれど」

「かわいい系を目指したのですが」

「だからと言って、ガヰアンにフリフリのお洋服を着せて、パンケーキを持たせて『いい感じに発酵してるよ!』と言わせることはなかったと思うわ」

「それは部員にも指摘されましたが、部長権限で押し通しました」

「暴君ねぇ。いったい誰に似たのかしら」

「あなたです」

 そんな時間を忘れるほどに楽しい(?)会話は、日付が変わるまで続き、やがてユキが名残惜しそうな声をあげた。

「あら? もうこんな時間ね。すっかり夜更かししてしまったわ」

「まだ0時半ですが」

「それを夜更かしと言わず何と言うの? 早く寝なさい」

「わかりました」

 いつも以上に無感情で気の無い返事である。

「おやすみなさい、ミオ」

「おやすみなさい、ユキさん」

 名残惜しそうに、互いに別れを告げると、ガチャンという聞き慣れない音と共に通話が途切れ(やはり黒電話だったらしい)、静寂が部屋を支配する。

 ミオは小さな吐息をひとつついてその余韻を吹き消すと、根絶者デッキにイイネする、己の使命を再開するのであった。

 

 

 そして、文化祭当日――

 冬服の上にセーターを着込んでなお少し肌寒くなってきた早朝。響星学園の校門前で、音無ミオ、藤村(ふじむら)サキ、そして時任(ときとう)レイら、カードファイト部の3名は、世界一のプロファイターを出迎えるため、その到着を待っていた。

「あばばばば、あ、あ、あ、あのダルクさばがうちの学校にににににに」

 サキが声とメガネと全身を震わせながら、何かうわごとのような声をあげている。目の下には大きなクマができており、昨晩はまったく眠れなかったのであろうことが、容易に想像できた。ミーハー気質な彼女にとって、世界でもっとも有名なヴァンガードファイターの到来は、刺激が強すぎたようだ。

 今日の彼女は使い物にならないですねと、ミオは内心でシビアに評価する。

「無理もないよー。ダルク・ヴァーグナーと言えば、1年すら維持の難しい世界ランキング1位の座を4年も守り続けてるすごい人なんだよ! それもまだ28歳と若くて、ルックスもイケメン!! サキちゃんじゃなくても緊張しちゃうよ」

 サキと同様にプロファイトの観戦が趣味のレイがフォローする。

「ヒビキさんがブームになっていた頃も思いましたが、ヴァンガードファイターにルックスは関係あるのでしょうか」

 ミオがもっともな疑問を口にし、首を傾げた。

「アタシも本音ではそう思うけど、世の中そう簡単に見た目と中身を割り切れるものじゃないんだよ」

 レイもまたもっともな意見を返す。

「それに、自覚ないかもだけど、お姉ちゃんも期待の超美少女高校生ファイターだって、男の人から絶大な人気なんだよ?」

「そうなんですか?」

「やっぱり自覚ないー。身の回りには気をつけてよ? ストーカーされたり、大切なものを盗まれても知らないからね」

「私から根絶者コレクションを盗もうものなら、地獄の果てまで追い詰めて、八つ裂きにしたあげく、溶岩にばら撒いてあげますが」

「怖っ!! じゃなくて、そんなの盗まれる心配はしてないよ!?」

 姉妹が会話に花を咲かせていると、サキが「あべばっ!(あれはっ!)」と叫んで震える指をさす。ほとんど照準の合っていないその先には、こちらに向かってゆっくりと走ってくる豪華な黒塗りのリムジンがあった。

 それはミオ達の待つ校門前に停車すると、助手席から出てきた黒服の男が、手慣れた様子で後部座席のドアを開ける。

 そこから現れたのは、腰まで届くプラチナブロンドの長髪が印象的な、黒いコートを羽織った痩身長躯の美青年だった。

「グーテンモルゲン! 響星学園カードファイト部の皆さん! お会いできて光栄です!」

 美青年が人好きのする笑顔を浮かべて、ミオ達に歩み寄る。

「あばば!

 わ、わばし、ふびぶらばきとぼぼしばす!(わ、私、藤村サキと申します!)

 ぶしつけべぼうしばけぼざいばせんが、ばびんぼ……(ぶしつけで申し訳ございませんがサインを……)」

 のんびり屋な普段の彼女らしからぬ俊敏さで、カードを差し出そうとしたサキを押しのけ、ミオが一礼した。

「はじめまして、ダルク・ヴァーグナーさん。私は響星学園カードファイト部の部長を務めております、音無ミオと申します」

「これはご丁寧に、音無ミオさん。お噂はユキさんからかねがね伺っております。

 僕はダルク・ヴァーグナー。プロファイターです。本日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。日本語、お上手ですね」

 ダルクの差し出してきた綺麗な手を握り返しながら、ミオが言う。この日のためにドイツ語も習得してきたのだが、必要は無さそうだった。

「ヤー! 日本と言えばヴァンガード発祥の地! とても興味あります! このような機会を頂けて、とても嬉しく思います!」

 そう言って、少年のような笑みを浮かべるダルクに、世界で一番強いファイターだと言う印象は、あまり感じられなかった。

 ミオの知るファイターの中では、ヒビキが近いか。圧倒的強者であるからこそ、誰よりも余裕があるのだ。

「そこのあなた! サインなら今すぐしてあげられますよ?」

「え? いいんですか!?」

 ミオに突き飛ばされて正気に戻ったサキが、急に声をかけられて、驚きのあまり目を見開いた。

「もちろんです! ですが、そのクランのカードでいいですか? たちかぜのカードにもサインしてあげますよ?」

「あ、ありがとうございます!!!」

 サキが最初に差し出したのは、ダルクに気をつかってか、彼のクランに属するカードだったのだが。

(サキさんの使っているクランを見抜いた?)

 ミオはそのことの方が気になった。

「わ、私の《ドラゴンエッグ》に神が宿りました……」

 サキがサインカードを太陽に掲げて喜んでいる。

「あ! アタシもサインお願いしていいですか!?」

 それを羨ましく思ったのか、レイもすかさず手をあげておねだりする。

「いいですとも! キミのクランはリンクジョーカー……いや、ギアクロニクルですね?」

「はい! 時任レイです! よろしくお願いしまーす!」

(サキさんは全国大会の出場経験がありますが、レイさんにはなかったはず……)

 サキの場合はヴァンガード甲子園の放送を見ていたとして、まだ説明がつくが(国籍すら違う、いち高校生のファイトを、世界で活躍するプロが観戦していたとも考えにくいが)、レイの場合はいよいよ説明がつかない。

 つまりこの青年は、本当にファイターの顔を見ただけで、その人の使っているクランを言い当てているのだ。

(なるほど。これが世界一のファイターですか。たしかに底知れないものがありますね)

 ヒビキと相対した時にも感じたものと同質の、そして、それ以上の脅威をミオは覚えた。

 プレイングや、デッキ構築論だけなら、ミオは自分も相当のものであると自負している。だが、だからこそ、そういった計算や理屈とは無縁な、人とは違うものが見えている異能のファイターが一番恐ろしい。

 ……まあ、小金井フウヤや、早乙女マリアに言わせれば、自分もその分類らしいが。根絶者以外のカードを入れないリンクジョーカーでここまで勝てるなど、本来ならありえないらしい。意味がわからない。根絶者は最強なのだから、根絶者だけ入れるのが強いに決まっている。

「ミオさんのクランはリンクジョーカーかな? サインはいかがですか?」

「いえ。せっかくの申し出ですが、辞退させて頂きます。校門前をサイン会場にするわけにもいきませんので」

 ただでさえ人通りの多い場所で、世界的な有名人がたむろしているものだから、いよいよ学生達の視線が無視できないレベルになってきた。今は文化祭の準備があるので自制しているようだが、いつ彼らがダルクに殺到するかわからない。

「ふふ。ユキさんから聞いていた通りの人ですね。人と馴れ合わず、相容れることもない孤高の少女。にも拘わらず、人のことを思いやれる、とってもいい子だと」

「そんな女の子は知りません。私が思いやるのは根絶者だけです」

「あと、ツンデレだと」

「…………」

 まるでその場にユキがいて、からかわれているかのようだった。ダルクがユキの言葉を借りているからか、性格が似ているのか。恐らくは後者だからこそ、ユキとダルクは知り合い、呼べば日本にまで来てくれるほどに親交を深めることができたのだろう。

「……とりあえず部室へ行きましょう。最終確認もしておきたいですし。その後は、何も無い場所ですが、しばしお寛ぎください」

「オー、ダンケシェーン。これが日本人のケンソンというやつですね?」

「うーん。申し訳ないけど、本当に何も無い部屋なんだよね」

 レイが困ったように口を挟む。世界的なプロファイターを迎えるにあたって、あの部室ほど失礼も無いだろうが、こればかりはどうしようもない。ミオ達にできたことは、学園の応接室から、やたら豪華なソファを拝借してきたことぐらいである。

「なるほど。ワビサビというやつですね!」

「それも少し違うんだけど、そういうことにしておいた方がいいのかな?」

 レイがそう言って首を傾げた。ダルクに聞こえているのでまったく意味は無かったが。

 なお、実際に部室を訪れたダルクは、少ないながらもカードが丁寧に並べられた環境に好印象を抱いてくれたようだった。

 

 

 ここはダークゾーンと呼ばれる無法地帯。

 紫色の濃霧がたちこめ、草木も枯れ果てる不毛の地で、二人の英雄が、その地を支配する魔王と対峙していた。

 いや、追い詰められていたと言っていい。

 太陽の如き黄金の鎧を纏った、まだあどけなさを残した顔立ちの青年騎士、グルグウィント。

 宝石の飾られた軽鎧を纏った、凛々しい顔立ちの女騎士、アシュレイ。

 単騎で千の魔物を討ち果たせる、文字通り一騎当千の英雄達が、ただ一体の悪魔に。

 その悪魔の名はブルブファス。

 ダークゾーンのみならず、惑星クレイに悪名を轟かせるアモンやアスタロトと比べれば若いが、一片の慈悲を感じさせない非情さと、生まれ持った強大な魔力を武器に、怒涛の勢いで版図を広げる新鋭の魔王である。

 ブルブファスの胸部に埋め込まれたオーブのような器官が生物のように蠢き、そこから一条の光線が放たれた。

 グルグウィントとアシュレイが二手に分かれるようにして跳び、その間を紫色に輝く閃光が奔り抜ける。魔力の焦熱に焼かれた大地はマグマとなって噴出し、地上に一生消えない傷跡を残す。

 ダークゾーンが荒廃しているのは、立地の関係もあるが、この地の支配権を巡って相争う、魔王達の権力闘争による影響が大きかった。

 グルグウィントは何かを決意した表情で、アシュレイに視線を向ける。その意図に気付いたアシュレイは、ほんの一瞬、逡巡した様子を見せるも、すぐさま覚悟を込めて頷いた。

 グルグウィントが微笑み、即座にその表情を引き締めると、自らの数倍はあるブルブファスの巨体に特攻する。そして、真正面から放たれたブルブファスの熱光線を前に構えた剣で真っ二つに斬り裂いた。

 小賢しいとばかりに、ブルブファスが熱光線の出力を高めていく。瞬間、太陽が爆発したかのような輝きが暗黒の地に炸裂し、黄金色の燐光がちらちらと降り注いだ。

 アシュレイは振り返らず、雄叫びをあげて跳躍し、虹色の軌跡を描く一閃によって、ブルブファスの右腕と右翼を斬り落とした。頭部を狙った一撃だったが、ブルブファスが僅かに身をよじらせたため、必殺には至らなかった。だが、ブルブファスが全力で魔力を放出した後、しばらく光線を放てなくなることは、これまでの戦いで把握している。

 グルグウィントの犠牲に報いるため、アシュレイはブルブファスに引導を渡すべく剣を構え直す。

 ――その刹那。

 斬り落としたはずのブルブファスの右腕が、まるで別の生物のようにアシュレイへと飛び掛かった。それに薙ぎ倒されたアシュレイは、地面に深く爪を突き立てた右腕に、あえなく拘束されてしまう。

 右腕があった箇所からとめどなく紫色の血液を垂れ流しながら、ブルブファスがゆっくりとアシュレイに迫る。その胸部に埋め込まれたオーブに魔力が充填されていく。中央に光を灯したそれは、まるで瞳のようで。

 自分は死に魅入られた哀れな囚人だと自嘲する間も無く、アシュレイの視界を紫色の光が埋め尽くした。

 

 

「《深魔幻皇 ブルブファス》でヴァンガードにアタックです!!」

「つっ……ノーガード。ダメージチェック……わたくしの負けですわ」

「ダンケシェーン。素晴らしいファイトでした」

 ダルクのファイトが終わると同時、大歓声が響星学園のグラウンドから巻き起こった。

 ミオ達が文化祭で企画したイベントとは、ダルクと一般の参加者がファイトできるというものだった。

 最初はダルクの疲労を考慮し、5人のファイターを抽選で選ぶ予定だったが、本人は時間の許す限り挑戦者とのファイトを受け続けることを希望した。

 曰く「僕はどれだけファイトしても疲れないんです」とのこと。

 それについてはミオも同意だったので、途中で何度か休憩を挟むことを条件に加え、ダルクの案を採用させてもらった。必然、人が多く集まることが予測されるため、会場はグラウンドを使うことになった。

「す、すごい……。聖ローゼが手も足も出なかった……」

 観客の誰かが信じられないと言いたげに呟く。

 そして今は、トップランカーと対戦できるという噂を聞きつけた聖ローゼ学園カードファイト部の面々が、次々とダルクに挑み、あえなく返り討ちにあったところであった。

 それどころか、今は聖ローゼ学園を卒業し、大学生限定の大会や、アマチュア大会で華々しい結果を残している、早乙女(さおとめ)マリアと小金井(こがねい)フウヤも成すすべなく敗れている。

 中でも早乙女マリアは、1年前の話にはなるが、ミオが何度も挑戦して、一度も勝てなかったほどの強豪ファイターである。

「まったく。世界は広いですね」

 ミオは観客に同意するように頷いた。

「これが世界最強のファイターの操る、世界最強のダークイレギュラーズですか」

 

 

 ダークイレギュラーズ。

 惑星クレイのどこにも居場所を無くした、寄る辺なき異能者達の行きつく果て。そして、彼らの利用価値を唯一知る悪魔達からなる集合体である。

 ある時は異能者同士で肩を寄せ合い、ある時は悪魔が互いに互いを利用し合い、ある時は魔王が他者を一方的に支配する。

 今にも壊れそうなほど儚く、だからこそ美しい。奇妙で背徳的な協力関係がそこにはあった。

 

 

「やあ、ミオちゃん。今日は素晴らしいイベントを開催してくれてありがとう」

 後ろから声をかけられ、ミオが振り仰ぐと、そこには髪を金に染めた美少年がいた。いや、少年と呼ぶにはもう、顔つきが大人びすぎているか。

「む、さきほどこっぱみじんにされていたフウヤさん。おひさしぶりです」

「誰がこっぱみじんだ」

 半眼でツッコミを入れてから。

「とは言え、あの内容では善戦したとも言えないな」

 魅力的に苦笑する男の名は小金井フウヤ。ミオよりひとつ年上の大学一年生であり、ある時はエースとして、ある時は部長として聖ローゼ学園を率い、ミオと幾度も激戦を繰り広げたライバルである。

「ええ、見ていましたよ」

 ミオが制服のポケットからスマホを出して答える。

 ダルクはグラウンドの中心に建てられた、簡易なステージの上に設置されたファイトテーブル(いつもの勉強机ではなく、公式戦で使われているファイトテーブルで、ダルクの私物である。さすがプロ)でファイトしており、群衆に囲まれているため普通に観戦することは困難だが、テーブルにはカメラが設置されており、盤面なら手元の端末で確認することができた。

 ミオは主催者なので、本来なら不審者がいないか見回らなければならない立場なのだが、自分と同程度の実力者であるフウヤとのファイトはどうしても気になったため、その時ばかりは監視をサキに任せていたのだ。

「完敗ではあったけど、いい経験にはなったよ。ここまで清々しい負け方はひさしぶりだ。

 ミオちゃんは、ダルクさんとファイトをしたのかな?」

「いえ。さすがに準備が忙しく、そんな余裕はありませんでした。今もありがたいことに盛況で、とてもではないですが、主催者が手を挙げていい雰囲気ではありませんしね」

「うおー!! ボーイングソード・ラリアットー!!」

「なんの! ブルブファス・フライングプレス!!」

 今もテーブル上では聞き覚えのある声がダルクと熱戦を繰り広げており、その周囲をダルクとのファイトを希望するファイターが取り囲んでいる。

「それならしかたないな。

 けど、ミオちゃんはどうやってダルクさんを招待したんだい? トップランカーなんて、学生がアポイントメントを取ることすら簡単ではないだろう?」

「ああ、それならユキさんが……」

 ミオは、ダルクを文化祭に呼ぶことができた経緯をかいつまんで説明する。

「白河さん……あの人はいったい何者なんだ?」

「さあ?」

 ミオが首を傾げる。

 その白河ミユキは、この文化祭に姿を見せていない。裏方――もしくは黒幕――を好む彼女の性格もあるかも知れないが、スケジュールを1日空けることすら困難な人気プロファイターを拘束したことで生じる、方々への影響の後始末に追われているのかも知れなかった。

 彼女が何者であれ、頭の下がる思いである。

「ブルブファスで、ボーイングソードにアタックです! ブルブファス・サイクロン・パンチ!」

「ぐおー! 負けたー!!」

「ダンケシェーン。楽しいファイトでした」

 そんな話をしているうちに、聞き覚えのある声のファイトが終わったようだった。

「ありがとうございましたー! さあ、次にトップランカーに挑戦する命知らずのファイターはいったい誰だー!?」

 マイクを片手に司会進行を務めるレイが、人だかりに向かって呼びかけ、数多のファイターがこぞって手を挙げようとしたその時。

「次は俺達とやらせてもらおうか!!」

 有無を言わさぬ声が校門のある方角から放たれ、その動きを制止した。横暴とも言えるその声は、それだけの迫力と、確かな知名度を兼ね備えていた。

「天海だ……」

「天海が来た!」

 群衆が口々に叫ぶ。

 声の主、背の低いボサボサ髪の少年、葵アラシを先頭に、背の高い短髪の少年、清水セイジ。それに隠れるようにして、蔦のような髪が印象的な少女、柊マナが次々に入場し。そしてその最後尾には、銀髪碧眼の美少年、綺羅ヒビキの姿もあった。

 高校生最強のファイター達が集う、天海学園カードファイト部の入場である。

「いやー、悪いね、悪いね」

 ちっともそうは思っていなさそうな口調で、二手に割れた人垣の間をアラシが進む。そして、唯一その場を動かなかったミオの前で、ピタリと足を止めた。

「……ミオちゃん」

 声をあげたのは、最後尾のヒビキだ。彼らしからぬ、どこか遠慮した声音だった。

「こうしてキミに会うのは気恥ずかしいのだけれど……」

「ヴァンガードを続けることにしたそうですね」

 ミオが躊躇無く話の核心に触れる。その顛末はアラシやマナから(正確には、彼らと仲のいいオウガやレイから)聞いていた。

「うん。何もかもキミの言う通りだったよ。ボクは最高の仲間に恵まれた」

「よかったです」

 無表情に頷いて、ミオは心から祝福した。

「私達の文化祭、楽しんできてください」

「うん。そうさせてもらうよ」

 ヒビキはいつぞやのように片膝を立てて跪き、恭しくミオの手を取ると、その細い指に優しく口づけをした。

「これはボクの感謝の気持ちだよ。受け取って欲しい」

「いやまったく嬉しくもなんともないのですが」

 むしろ学校にいるヒビキファンの視線が怖い。帰り道に刺されそうだ。

「まあ、昔ほど嫌な気もしません」

「ありがとう」

 ヒビキは素直に礼を言うと(はじめからそうすればいいのにとミオは思った)、先に進んでいたアラシ達の後を小走りになって追いかける。

「ミオちゃん。あの綺羅ヒビキに勝ったって聞いたんだけど、本当かい?」

 ヒビキが離れてからすぐ、フウヤがそんなことを小声で聞いてきた。

「ええ、まあ」

 特に言いふらしたつもりもなく、最低限、カードファイト部に関わる人間に報告しただけなのだが、音無ミオが綺羅ヒビキに勝利したという話は全国のファイターに噂となって届いていた。確たる証拠は無いため、デマだと疑う者も多かったが。

「すごいな、君は。俺よりどんどん先に行ってしまう」

「星の巡り合わせがよかっただけですよ。あそこまで運がよければ、フウヤさんも十分勝てるだけの実力は備えています」

「……そうか。君がそう言うのなら、そうなんだろう」

 ミオはお世辞や気休めは言わない。それをするだけのデリカシーが無い。そして、その評価は公平にして公正であり、反論は無意味である。そのくらいにはミオを信頼しているフウヤは、それ以上は何も言わなかった。

「せっかくですので、じっくりと見せてもらいましょうか。そのヒビキさんたち、天海学園がプロを相手にどこまで善戦できるのかを」

 

 

「なるほど。君は面白いファイトをしますね」

「はっ! トップランカー様にお褒めに預かり光栄だな! 《七海覇王 ナイトミスト》でブルブファスにアタック! ヒットすりゃ、財宝6枚目だ!」

「それはこうするのかな? 《悪夢の国のダークナイト》でガード。1枚貫通です」

「つっ……てめぇ。ツインドライブ!! 1枚目、2枚目、どっちもトリガー無しだ」

「では、私のターンですね。

 ブルブファスでヴァンガードにアタック!! プロテクトサークルの上にいるスラッシュ・シェイドを退却! パワー+14000、★+1!!」

 意気揚々と先陣を切ったアラシがまずは敗れ。

 

 

「レヴォンでヴァンガードにアタック!!

 トリプルドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し。

 3枚目、(ヒール)トリガー! 我が蒼翼はすべてスタンドする!!」

(だが、ダルクプロの手札は6枚。倒しきれんか……)

「《ヒステリック・シャーリー》でガード!

 僕のターン! 《ノーライフキング・デスアンカー》にライド。

 デスアンカーでヴァンガードにアタック!!」

「くっ。ノーガード!!」

 続くセイジの速攻すら届かず。

 

 

「いや、私ごときがプロ……それも世界ランキング1位の方とファイトだなんて、分不相応すぎるのですが。

 どうせダメだろうけど、ヴェラでヴァンガードにアタックします」

「そんなことありません。君はさっきの二人にも劣らないファイターですよ。

 プロテクトで完全ガード!」

「ああ……お気を遣わせてしまって申しわけございません。

 サウルでヴァンガードにアタックです」

「うーん、奥ゆかしい。これが日本が誇る大和撫子というやつですか?

 プロテクトで完全ガード!」

「いや、この子の言うことは真に受けないでね!?」

 途中で司会(レイ)のツッコミが入ったりもしたが、マナも敗北した。

 

 

 高校生の大会では無敵を誇った天海学園のファイターが、成す術もなく敗北していく。

 高校生最強と世界最強の差をまざまざと見せつける結果となったが、天海学園も全員が敗れたわけではない。

 彼ならもしかしたら、何かやらかしてくれるかも知れない。

 そんなギャラリーの期待を一身に集め、“ミラクルメーカー”綺羅ヒビキが頂点に挑む。

「よろしくお願いします。あなたとファイトできるなど、これほどの名誉はありません」

 ダルクと向かい合ったヒビキは、彼にしては珍しく丁寧に腰を曲げ、普通に挨拶をする。

「はい。よろしくお願いしま――」

 ダルクも頭を下げようとして、途中でその動きが止まり。

「レイちゃん。僕はデッキを変えてもいいですか?」

 とレイに問いかけた。

「え? そ、それはもうご自由にどうぞ」

 特にダルクが使うデッキのことなど考えてはいなかったのだが、レイは適当に許可を出す。

「ありがとう」

 ダルクはこれまで使っていたデッキを、腰のベルトに装着しているデッキケースにしまうと、別のケースから新たなデッキを取り出した。

「この子達が、どうやら君と戦いたがっているようです」

「フッ。それは楽しみですね」

「それでは、はじめましょうか。

 ……スタンドアップ!」

「ヴァンガード!!」

「《ヴァーミリオン・ゲートキーパー》!!」

「《バミューダ△候補生 シズク》!!」

 

 

「ライド!! 《ブレイドウイング・レジー》!!」

 ダルクがそのユニットにライドした時、会場が騒然とした。

「《ブレイドウイング・レジー》だって!?」

 ミオの隣に立っていたフウヤも、思わず大声をあげてしまい、ミオの顔をしかめさせる。

「どうしたんですか、急に?」

「《ブレイドウイング・レジー》は、ダルクプロが現環境で、もっとも愛用しているユニットだ。

 ダルクプロにレジーを使わせた綺羅ヒビキもすごいが、何より、プロがこんな文化祭のイベントなんかで、本気でファイトしてくれるだなんて……」

「こんな文化祭のイベントなんかで悪かったですね」

 そんなことを言いあっている間に、ファイトも佳境に突入する。

「《パールシスターズ ペルル》でヴァンガードにアタック!」

「プロテクトで完全ガード!」

「《パールシスターズ ペルラ》でヴァンガードにアタック!」

「《独眼のサキュバス》でガード!」

 ヒビキの猛攻を凌ぎ切ったダルクだったが、手札は0枚。山札の枚数も2枚。

 もはや誰もがヒビキの勝利を疑っていなかった。

 当人達を除いて。

「フッ。ボクはこれでターンエンドです」

 覚悟を決めたように目を閉じながら宣言するヒビキ。

「うん。スタンド&ドロー!!」

 勝利を確信したように頷き、カードを引くダルク。

「僕がドローしたカードは……《エンブレム・マスター》!!

《エンブレム・マスター》をコールし、スキル発動! ドロップゾーンの《ブレイドウイング・レジー》3枚をソウルに!

 レジーのスキルを2回発動! バインドゾーンの裏向きカード15枚達成!!」

 この瞬間、会場の熱気――いや、怖気が最高潮に達した。

 ヒビキの十八番である仕組まれた大逆転劇を、そのヒビキ相手の猛攻に晒されながら、より高い精度で容易くやってのけたのだ。

「バトルです!!

 レジーでヴァンガードにアタック!! アタック時、レジーのスキル発動!

 バインドゾーンにある裏向きのカードが15枚以上なら、ヴァンガードに2ダメージを与えます!!」

 異能者の背中から鋼鉄の翼が大きく広がった。

 1枚、2枚、3枚、4枚――やがてそれは14枚を数え、中央からさらにもう1枚、一際巨大な翼が太陽を覆い隠すように伸びると、人魚達の楽園を闇に閉ざしていく。

「ダメージチェック。1枚目、2枚目……ボクの負けだね」

 膨張し、暴走した15枚の滅びの翼がすべてを包み込み、世界に破滅をもたらした。

 

 

「ダンケシェーン。ありがとうございました。あなたはきっとプロとしてやっていけるでしょう」

「ありがとうございます。あなたのような人から、それほどの賛辞を頂けるとは」

 ダルクとヒビキが微笑み合い、ファイトテーブルを挟んで固い握手を交わす。

 それは非常に美しい光景だったが、周囲から拍手は起きなかった。

 誰もがダルクの強さに惹かれ、呑まれてしまっていた。

 何者も寄せ付けないような、圧倒的すぎる孤高の強さに。

「……あっ、ヒ、ヒビキ様、ありがとうございましたー。さ、さーて、次の挑戦者は誰かなー?」

 それは司会進行のレイも同様だったが、どうにか一足先に我に返って、自らの務めを果たそうとする。しかし、それに応えようとするものはいなかった。

 聖ローゼや、天海のファイターにとってはちょうどいい壁になるのかも知れないが、一般のファイターにとってすれば、ダルクは全貌すら窺うことのできない、果てしない存在でしかなく、この場にいる誰もが、彼に近づくことすら憚られるほどの畏怖を抱いてしまっていた。

(……ふむ。これはチャンスですね)

 人並はずれて鈍感な、白髪の少女以外は。

(主催者が率先して彼とファイトするわけにはいきませんでしたが、誰も手を挙げる人がいないのであれば仕方がありませんね。ここは私がファイトして、少しでも場を繋ぐべきでしょう。ええ、これは仕方のないことです。けっして私がファイトしたいわけではありません)

 心の中で論理的に言い訳しながら、ミオはゆっくりと挙手をする。

「次は私が――」

 バラバラバラバラッ!!

 ただでさえミオの小さな声は、突如として上空から降り注いできた爆音に虚しくかき消された。ミオが恨めしそうに頭上を見上げると、巨大なヘリコプターが浮かんでいるのが見えた。

「何だあれは?」

 同じように上空を見上げていたフウヤが訝しむ。

 すると突然、そのヘリから人影がばっと飛び降りた。

 群衆のそこかしこから悲鳴があがる。

 だが、人影はすぐさまパラシュートを広げると、人のいないグラウンドの隅に着地し、ごろごろと転がって受け身を取った。

「面白そうなファイトしてるじゃあないか!! 次はあたしにやらせな!!!」

 人影はそこからすっくと立ちあがり、パラシュートをはずしながら、グラウンドどころか学校中に響き渡りそうな大音声をあげた。それはしわがれた女の声だった。

「あ、あれは!?」

 大股で近づいてくる人影がはっきり認識できるようになった距離で、フウヤが叫んだ。

 その人影はライダースーツのような皮のツナギに身を包んだ老婆だった。老婆と言っても、背筋はピンと伸びており、足取りはまったく危なげがない。体つきも細身のアスリートのようにしっかりしているが、深い皺の刻まれた顔と、癖のある短い総白髪は、間違いなく老婆のそれであった。

「世界ランキング第3位……星見(ほしみ)トウコ」

 フウヤがぽつりと呟く。

「現在のプロファイターランキングにおいて日本人最高位であり、現役最年長。プロとして活躍している期間は歴代最長であり、他にも公式戦の優勝数、勝利数、ファイト数。様々な記録で1位の座を獲得している、生きる伝説だ」

 聞いてもいないのに、フウヤがすべて解説してくれた。便利なイケメンである。

「ま、まさかの星見プロが電撃参戦!! ど、どうぞこちらへー!!」

 彼女にとっても想定外の事態だろうに、司会のレイはアドリブを効かせて星見トウコを迎え入れる。さすがの胆力である。

「あばばばばば……星見さんが、あばばばばばばば」

 一方、サキがまたポンコツ化しているのも、遠目に見えた。

「おら! どきな腑抜けども。あんたらがダルクの相手だなんて、百億年早いんだよ!」

 すでに二手に割れた人垣を、わざわざ蹴散らすようにして歩きながら、トウコがファイトテーブルに到達する。

「……ちなみに、粗野で過激な言動から、一部の熱狂的な者を除いてファンは少ない」

 引き続きフウヤが解説してくれる。

「あ、あのー。星見さんは、どうしてこんなボロくて古臭い高校なんかに?」

 ステージでは、レイがトウコにマイクを向けてインタビューをしていた。へりくだるあまり、愛校心の無さが透けて見えてしまっている。

「あたしのダチが、母校の文化祭にダルクを呼んだって言うからさ! あたしも特別大サービスで来てやったのさ。サプライズってやつだよ、ありがたく思いな!」

「は、はあ……」

 さすがのレイも困惑している。その表情には「いや、呼んでないし。急に来られても困るんだけど?」という不満がありありと浮かんでいた。

 そんなレイに気付いてないのか、無視しているのか、トウコは剣呑な笑みをダルクへと向けた。

「そんなわけでファイトだよ、ダルク!!」

「……やれやれ、あなたは相変わらずですね。構わないかな、レイさん?」

 ダルクがレイに確認し、レイはミオに目配せして許可を求めた。ミオも当然とばかりに頷く。

「こ、ここでまさかのサプラーイズ!! 世界ランキング3位の星見トウコと、世界ランキング1位のダルク・ヴァーグナーが、この響星学園でエキシビジョンマッチ!! こんな対戦カード、本来ならメチャ高いチケット予約しなきゃ見れないよー!?」

 レイがぴょんぴょん飛び跳ねながら、声を張り上げた。これを機に、さらに客を集めようという算段らしい。したたかな少女である。

「それじゃ、始めるよ! ほら、グズグズしてんじゃないよ!」

「はい。お待たせしました」

 一瞬で手札交換まで準備を終えたトウコがダルクを急かし、ダルクはのんびりとカードを引き直す。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

 そして、ふたりが同時に、裏向きに置かれたファーストヴァンガードをめくる。

「《ヴァーミリオン・ゲートキーパー》!」

「《バトルライザー》!!」

 

 

 ノヴァグラップル。

 宇宙をリングに、ヒューマンからバトロイドにエイリアンまで、多種多様な種族がしのぎを削るバーリ・トゥード(なんでもアリ)の総合格闘技。

 そのチャンピオンの座を目指して日夜闘いに明け暮れる闘士達を、人はノヴァグラップラーと呼んだ。

 今日も宇宙にゴングが鳴り響く。

 戦いの刻は今。

 

 

「あたしの先行だよ!

 ライド! 《ライザーカスタム》!

 手札を1枚ソウルに置いて、ヴァンガードにアタック!」

「先行1ターン目からのアタック。

 ……さすが、攻めに関してはプロ随一と称される星見トウコですね」

「おだてても何もでないよ! さっさと受けるか守るか選びな!」

「うん。ノーガードです」

 ダルクがダメージゾーンにカードを置く。トリガーは無し。

 続くダルクのターン、ダルクは《ディメンジョン・クリーパー》にライドし、トウコに1ダメージを与えた。

「はっ! ぬるいねぇ!

 ライド! 《スタイリッシュ・ハスラー》!

 コール! 《ジェノサイド・ジャック》! 《アンノウン・アダムスキー》!

 アダムスキーのスキル発動! 《ジェノサイド・ジャック》でエクストラアタック!!」

 戦端が開かれるより先に、漆黒の装甲で武装した殺人マシンが暴走し、鋭い爪を振り上げ、クリーパー(ダルク)へと襲い掛かる。

「今度はエクストラアタックですか。ノーガードです。

 ダメージチェック。トリガーは無し」

「《ライザーカスタム》をコール。ジャックのスキルで《ライザーカスタム》と《アンノウン・アダムスキー》をレストし、ジャックをスタンド! 前列のジャックがスタンドしたので、《ライザーカスタム》もスタンド!」

 ユニットがレストとスタンドを繰り返す、流れるような連携に、観客からは感動の溜息が漏れた。

 言動こそ粗雑だが、星見トウコは紛れも無いトップランカーのひとりなのだ。

「バトルだよ! 《スタイリッシュ・ハスラー》でヴァンガードにアタック!」

「《悪夢の国のダークナイト》でガードです」

「ドライブチェック! (クリティカル)トリガー!

 効果はすべてジャックだ!

《ライザーカスタム》でブーストして、ジャックでアタックだ!」

「ノーガードです」

 再起動した《ジェノサイド・ジャック》が、クリーパーを地面に叩き伏せ、踏みつけ、口から発する熱光線で焼き払う。

 それはまさしく虐殺(ジェノサイド)の名に相応しい一方的な暴力だった。

「ダメージチェック。

 1枚目、トリガーではありません。

 2枚目、引トリガー。1枚引かせてもらいます」

 ダルクのダメージゾーンに、早くも4枚目のカードが置かれる。

「あたしはこれでターンエンドだよ」

「それでは、僕のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《デモンテッド・エクスキューショナー》!

 エクスキューショナーのスキルで、ソウルチャージ3。トリガーがソウルに置かれたので、1枚ドローさせてもらいます。

《ブラッドサクリファイス・ルスベン》をコール。ダメージゾーンから《オースティア・ヒーター》をソウルに置きます。

《ヴァリアンツ・キラーテイル》をコール。このユニットをレストして、ダメージゾーンのダークナイトをソウルへ」

 ダルクも負けじとソウルを増やしていく。序盤にどれほどリードされようとも、ソウルさえあれば一発逆転を見込めるのがダークイレギュラーズだ。

「バトルです!

 エクスキューショナーでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードだよ!」

「ドライブチェック! ……治トリガー! ダメージゾーンの《ベスティアル・スクイーザー》をドロップに置き、ダメージ回復です!」

「ダメージチェック! ……トリガーは無いよ!」

「ルスベンでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード!  (ドロー)トリガーだ。1枚引かせてもらうよ」

 ここまでで、お互いにダメージは3点。

「今度はあたしのターンだ! スタンド&ドロー!!

 ライド!!! 《アシュラ・カイザー》!!!」

 6本の腕を持つ機械巨人が、今、リングに降り立った!

 特徴的な蛇腹状の腕にはそれぞれ、刀や金棒など種類の違う武器が握られている。

 百の武器を振るい、百の勝利を歴史に刻む永劫不敗の闘神。

 アシュラ・カイザーは、この宇宙で最も有名なグラップラーである。

「イマジナリー・ギフトはアクセルⅠを選ぶよ!

《ドグー・メカニック》をコールして、《ライザーカスタム》と共にレスト! 《ジェノサイド・ジャック》をスタンドする! ジャック後列の《ライザーカスタム》もスタンドだ!

 アクセルサークルに《ホワイト・ハンク》! 《超獣神 イルミナル・ドラゴン》もコールだ!」

 アシュラ・カイザーの隣に並び立つように、黄龍を模した機神が並び立つ。

 彼もまた、古き時代からノヴァグラップルの人気を支えてきたリング上の英雄である。

「バトルだ!!

《ホワイト・ハンク》でヴァンガードにアタック!」

「《キューティクルディフェンダー フラヴィア》でガード! スキルでヴァンガードに+10000です!」

「はっ! (ヒール)ガーディアンなんかで守ったつもりかい!?

 手札を1枚捨てて、《ホワイト・ハンク》をスタンドするよ!

 もう一度、《ホワイト・ハンク》でアタックだ!」

「ルスベンでインターセプト!」

「《ライザーカスタム》のブースト! 《ジェノサイド・ジャック》でヴァンガードにアタック!!」

「《ヴェアヴォルフ・ケッツァー》でガード! このカードはソウルインされます」

「《アンノウン・アダムスキー》のブースト! 《アシュラ・カイザー》でヴァンガードにアタックだ!!」

「《ディメンジョン・クリーパー》と《ベスティアル・スクイーザー》でガード!」

「ツインドライブだ!! 1枚目……」

 カードをめくったトウコが、しかめ面を緩ませ、ふっと小さく笑みを浮かべる。

「あたしも治ガーディアンを使わせてもらおうか。……ただし、攻撃にだ!

 あたしが引いたカードは《鋼拳竜 フリオール・ドラゴン》! 治トリガー! ダメージ回復し、パワーは《アシュラ・カイザー》に!

 そして!! フリオール・ドラゴンはG3でもある!!

《アシュラ・カイザー》のスキル発動!! ジャックをスタンド! CB(カウンターブラスト)1してパワー+10000!

 ツインドライブ、2枚目……こいつも治ガーディアン!!」

「!?」

 これまで常に穏やかな笑みを絶やさずプレイしていたダルクの表情が、はじめて驚愕に歪んだ。

「パワーは《アシュラ・カイザー》に! 《ホワイト・ハンク》もスタンドさせて、パワー+10000!!」

 アシュラ・カイザーは、6本の腕を振り上げると、それぞれを時間差で振り下ろした。

 まずは短剣と刀で牽制。両刃剣と斧がガーディアンを薙ぎ払い、無防備になった異能者に剣と金棒が襲いかかる。

 一見、無秩序な連撃に見えて、そのひとつひとつが達人級の一撃に等しい。それはまさしくアシュラ・カイザーをチャンピオンたらしめる怒涛の妙技であった。

「ダメージチェック……トリガーはありません」

「ダメージを与えたので、イルミナル・ドラゴンにパワー+15000!

 イルミナルで、ヴァンガードにアタック!」

「《ヴェアヴォルフ・ケッツァー》でガード! ケッツァーはソウルイン!」

「《ホワイト・ハンク》でヴァンガードにアタックだ!」

「ノーガード。ダメージチェック……トリガーではありません」

 5枚目のカードがダメージゾーンに置かれ、観客達から悲鳴があがる。

「《ジェノサイド・ジャック》でヴァンガードにアタック!」

「《ヴェアヴォルフ・フライビリガー》でガード! クイックシールドも使います!」

「防ぎきったー!!」

 司会のレイが実況だか歓声だか分からない声をあげる。

「でも、ダルクさんの手札は残り1枚! これは恐らくダルクさんのエースユニット《ブレイドウイング・レジー》でしょう!

 それにライドしたところで、ダルクさんのソウルは10枚! 果たして15枚の翼に手は届くのかー!? 運命はこのドローにかかっている! ……ん?」

 実況と解説を続けるレイに、ダルクがちょいちょいと何かを欲しがるように手を差し向けてきた。

「え? マイク?」

 レイが手渡せるものと言えば、司会に使っているマイクしかない。

 レイからマイクを受け取ったダルクは、よく通る声で宣言する。

「ここから逆転するのに15枚の翼は必要ありません。10枚で十分です!

 ファイナルターン!!」

「……言ってくれるじゃないか」

 トウコがひくひくと顔を歪ませる。彼女は手札こそ2枚だが、ダメージはまだ2点だ。

「このターンで裏バインドを10枚にするにしても、このターン中に10枚のソウルチャージが必須! 果たして手札1枚から、そんなことが可能なのかー!?」

 ダルクからマイクを返してもらったレイが解説を続ける。

「スタンド&ドロー!!

 (くろがね)の翼で光を斬り裂け、我が魂! ライド!! 《ブレイドウイング・レジー》!!」

 アシュラ・カイザーと対峙するようにリングに降り立ったのは、長身痩躯の異能者だった。

「そして、コール! 《ドリーン・ザ・スラスター》!!」

 その背後に、小柄なエルフの少女も艶のある黒髪を指で弄びながら現れる。

「ダ、ダルクさんが引いたのは、ソウルチャージできるカードではなかったー!! これは万事休すかー!?」

「心配ご無用。すでに仕込みは終わっています。さあ、皆さん、僕と一緒にカウントしましょう!

 レジーのスキル発動! SB1して、ソウルのカード1枚を裏でバインド!」

 1!

 と観客達が数字を唱和する。

「レジーのスキルを続けて発動! さらにもう1回!」

 2! 3!

「ここでソウルの《ディメンジョン・クリーパー》のスキル発動! このカードを山札の下に戻し、ソウルチャージ3! レジーのスキル発動!」

 4!

「《ヴァリアンツ・キラーテイル》のスキル! ドロップゾーンの《ディメンジョン・クリーパー》をソウルへ。クリーパーのスキルで、さらにソウルチャージ3! レジーのスキルを2度発動!」

 5! 6!

「ソウルの《オースティア・ヒーター》のスキル発動! 手札のプロテクトを捨て、このカードを手札に戻し、ドロップゾーンから2枚をソウルイン。この2枚でレジーのスキル!」

 7!

「《オースティア・ヒーター》をコール。ドロップゾーンの《ベスティアル・スクイーザー》のスキル発動。このカードをバインドし、ヒーターをソウルへ。もう1枚のスクイーザーのスキルで、キラーテイルもソウルへ。この2枚でレジーのスキルを発動!」

 8!

「残る僕のソウルは2枚ですが……ソウルに残したカードは、すべて《ヴェアヴォルフ・ケッツァー》! ケッツァーはバインドすることでソウルチャージ2できる! ケッツァーのスキルを2回発動! レジーのスキルも発動!」

 9!

「これが最後です。レジーのスキル発動!!」

 10!!

「これで裏でバインドされたカードは10枚! レジーのパワー+25000! ★+2! ドライブ+1!

 それだけではありません! このターンにソウルに置かれたカードは15枚! ドリーンのパワー+75000!!

 バトルです!!

 ドリーンのブースト!! レジーでヴァンガードにアタック!! 合計パワーは112000!!!」

「……ちっ。ノーガードだよ!」

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、トリガー無しです!

 2枚目、★トリガー!! 効果はすべてレジーに!!

 3枚目、★トリガー!! 効果はすべてレジーに!!

 合計5点のダメージ、受けてもらいます!!!」

 黒髪の少女――ドリーンの周囲に無数の光刃が生まれ、アシュラ・カイザーめがけて降り注ぐ。アシュラ・カイザーは6本の腕を振るってそれらを弾き返すも、すべては防ぎきれず、古傷だらけの装甲にいくつもの新たな傷が刻まれていく。

 そこに異能者の青年――レジーが、アシュラ・カイザーの懐へと飛び込み、その背から1枚だけ生えた鋼鉄の翼でアシュラ・カイザーの装甲を大きく斬り裂いた。

 レジーが翼を振るうごとに、その翼が1枚、また1枚と増えていき、アシュラ・カイザーの象徴たる6本の腕も落とされていく。

『終わりだ。これが10枚目の滅びの翼――いや、ここはお前達に敬意を払い、その流儀に倣おう』

 やがて、その翼が10枚に達した時、レジーが大きく跳躍する。

『これが滅びの……テンカウントだ!!』

 10枚の翼が触手のように蠢いて伸び、すべての腕を失い満身創痍になりながらもなお、威風堂々とリングに屹立するアシュラ・カイザーの全身を貫いた。

 この日、爆光と共にひとつの無敗伝説が幕を下ろした。

「ぐっ……があああああっ!!」

 獣のように吠えながら、トウコが山札の上からカードをめくる。1枚は治トリガーがめくれたものの、5ダメージを覆すには至らず、6枚目のカードが放り投げられるようにしてダメージゾーンに置かれた。

「ふん。あたしの負けだよ」

 不機嫌そうに肩をすくめながらも、微かに笑みを浮かべながらトウコが言った。

「ダンケシェーン。いいファイトでした」

 ダルクが手を差し出し、トウコがそれを乱暴に握り返す。その瞬間、ダルクはすっとトウコの耳元に顔を寄せると、レイや観客達に聞こえないように囁いた。

「でも、ずるいです。本気でファイトしてくれないなんて。あなたの実力は、こんなものではないでしょう?」

「はっ。ガキどもは気づいちゃいないさ。デッキは即興で組んだが、あたし自身は手を抜いていたつもりもないしね。

 こんなところで、学生相手に本気を出すあんたがおかしいのさ。プロが全力を出していいのは、然るべき場所で、然るべき者を相手にした時だけだよ。実際、あんた強すぎてドン引かれてたじゃないか」

「うっ……心に留めておきましょう」

「さあさ、ガキんちょども! プロの、それもランキング1位のファイターと対戦できる機会なんて、そうそうないよ! それでも負けるのが嫌で、この機会を逃すってんならファイターなんてやめちまいな!」

 最後の言葉は、観客達に向けられたものだ。発破をかけられたファイター達から、ひとつ、またひとつと手が上がる。

「ダ、ダルクさん! 次は僕とファイトを!」

「そ、その次は私と!」

「……もう大丈夫そうだね」

 その様子を見て、トウコがステージを降りようとする。

「あんたがやりすぎてないか見にいってくれとユキに頼まれて来たけど、来てよかったよ」

「はい。あの人に、ダルクが感謝していたと伝えておいてください」

「あいよ」

 トウコはダルクに背を向けたまま手を振ると、来た時とは対照的に、誰にも気付かれず学園を去っていった。

 

 

 ダルクのステージは盛況のまま幕を閉じ、響星学園の文化祭もつつがなく終了した。

 夕日も落ちかけ、夜も迫ろうとする中、それに急かされるかのように生徒達が慌ただしく後片付けに奔走していた。

「今日はありがとうございました」

 そんな喧噪を背中で聞きながら、正門の前で、ミオが部員を代表して礼を述べて頭を下げた。レイとサキはグラウンドでステージを撤収しているため、この場にはいない。

「こちらこそ。フレッシュな学生さん達とのファイトは、僕にとってもいい刺激になりました」

 わざわざ補足するまでもないことだが、ダルクは全勝で今日のステージを終えている。

「ですが、あなた達とファイトできなかったのは少し残念です」

「そうですね。それは私もです」

 ミオもダルクに同意する。ひょっとしたら今日この日は、ミオがプロとファイトできるよう、ユキが与えてくれたチャンスだったかも知れないのだ。

 だが、プロのファイトを間近にしたことで、ミオの中にもひとつの指針ができた。

「ですが、数年のうちにあなたとはファイトするつもりですよ」

「……それはどういう意味ですか?」

 ミオから放たれた不敵な言葉に、穏やかな笑みを浮かべていたダルクの表情がすっと引き締まる。

「私もプロを目指していますから」

 それに臆さず、ミオは堂々と答えた。

「……簡単な道ではないですよ?」

 世界ランキング1位のダルクとは、ただプロになるだけではファイトできない。トーナメントの1回戦で運よく(もしくは運悪く)当たるなどの偶然も無くは無いが、プロになって10年以上、トップランカーとファイトしたことのない者もざらにいるのである。

「承知のうえです」

 ミオは迷いなく頷いた。

 その覚悟を見てとったダルクはふっと表情を緩めると、手を差し出した。

「では、その時を楽しみにしています」

「はい。その時はよろしくお願いします」

 短く握手を交わすと、ダルクはコートを翻して待たせていた車に乗り込んだ。

「お疲れ様でした」

 ミオがもう一度頭を下げると、ダルクは窓越しに軽く手を振り返した。

 車が出発する。

 ミオはそれが見えなくなるまで見送ると、踵を返して校門をくぐった。

 グラウンドに向かう途中の自販機で、片付けを進めてくれている後輩達への差し入れにジュースを2本余分に購入する。

(片付けが終わったら、部室で打ち上げでもしましょうか)

 ミオはそんなことを考えながら、ジュースを大切そうに抱え、軽くステップでも踏むように小走りになって仲間達のもとへ向かうのだった。




根絶少女3年生編11月の本編、文化祭回にして、ダクイレ回をお送りさせて頂きました。
ダークイレギュラーズ。
大ボスになってもおかしくない設定と風格を備えながら、アニメではテツ、江西さん、ガスティール猊下と、何故か二番手や前座にされがちなクランですが、この根絶少女においてはブッちぎりの最強キャラクター、ダルク・ヴァーグナーが使用するクランとなっております。
これが書きたかったー!!!
この小説、根絶少女というタイトルながら、ダクイレ使いに是非とも見て欲しい作品だったのですが、まさかこのことをネタバレするわけにもいかず。
2年間出番のなかった鬱憤が晴れるような。ダクイレ使いの方々にとって、そんな回になっていれば幸いです。
ギリギリでレジーも登場してくれてよかったです。
(それまでずっとブルブファスで考えてきていたので、もったいないからブルブも使わせましたが)

そして、今回はもうひとり重要なキャラクターが登場します。
ノヴァグラップラー使いの星見トウコです。
初期は妙齢の女性を想定していたのですが、かっこいいババァが書きたいという欲求が抑えきれず、ババァになりました。
名前が確定するまでの仮ネームはノヴァバァでした。
色々とクセの強いキャラクターですが、こちらもどうぞよろしくお願い致します。

この回をもって、全24クランのうち、23クランの使い手が登場したことになります。
残り1クランがどのクランか、そのクランを愛用している方であればご存じかと思います。
本当にお待たせして申し訳ございません。
ここまで来たらネタバレも何もないので予告させて頂きます。
ペイルムーンは来年1月に登場します!!!
もう少しだけお待ち頂ければ幸いです。

次回は、来週の土曜日あたりにスタートデッキ「御薬袋ミレイ」のえくすとらを予定しております。
本編と被りそうだったので、発売日から1週間ずらしました。
またそちらの方でお会いいたしましょう!


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12月「厳かな秩序は「持たざる者」によって破壊される」

「グレイヲンのスキル発動。ヴァンガードをデリートします」

 異形の巨体が蠢き、高く掲げた腕が無造作に振り下ろされる。太く捻じれた爪に晒された哀れな犠牲者の肉体が虚無へと還り、それに憑依していた魂がそこから逃げ出すように離れたが、逃がさぬとばかりにもう1本の腕が伸び、その魂を鷲掴みにして捕らえる。

「ファルヲンのブースト。グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

 異形の巨体――根絶者が掌に力を込めると、それに捕らわれた魂が歪み、潰れていく。

「……デリート、エンド」

 魂が小さな花火のように儚く弾け飛ぶと同時、白髪の少女がぽつりと呟いた。

「私の勝ちですね。ありがとうございました」

 圧倒されたような表情の対戦相手に、少女が小さく一礼する。

 その卓ではかなり早くファイトが終わったらしく、周囲ではまだスキルの宣言や紙の擦れる音などが、そこかしこから聞こえてきた。

 今年もまた、全国で最強の高校生ファイターを決定する最大規模の個人戦、ヴァンガード高校選手権が開催されていた。

 それは少女――音無(おとなし)ミオにとって、高校生最後の公式戦でもあった。

 

 

 強者同士は引かれ合う。

 というわけでもないだろうが、ヴァンガード高校選手権の舞台となるスタジアムの入り口前で、響星(きょうせい)学園と、(セント)ローゼ学園はばったりと出会った。

「おひさしぶりです、ミコトさん」

 響星学園を代表して、音無ミオがぺこりと会釈をする。

 対する聖ローゼを代表する部長の神薙(かんなぎ)ミコトは、不愉快そうに眉をひそめるだけだった。

「はい。ひさしぶりですね、音無さん。藤村(ふじむら)さんに、時任(ときとう)さんも」

 ミコトに代わって礼儀正しく挨拶をしたのは、彼女の弟である神薙ノリトだ。

「……馴れ合いはやめましょう。今の私達は敵同士なのよ?」

 仕方なくといった調子で、ミコトも口を開く。内容はだいぶにべもなかったが。

「えー? いいじゃないですか。大会も始まっていないですし、まだ会場の外なんですから。お友達同士、仲良くしましょうよ」

 それに反論したのは、響星の藤村サキだ。

「理由になってない……」

 と反発しかけたミコトだったが。

「あんた、本当に変わったわね」

 ふっと表情を和らげ、意地悪く言った。

「え? そうですかあ?」

 当のサキは、まったく気にしていないようだったが。

「ノリトさん! アタシ、今日は負けないよ! この日のために鍛えてきたんだから!」

「僕もですよ、時任さん」

 過去に対戦経験のある時任レイも、ノリトに宣戦布告する。

「……あら? そう言えば、十村(とむら)君はどちらに?」

 思い出したように言い、サキがきょろきょろと視線を彷徨わせる。

 聖ローゼにおいては、ナンバー3の実力を持つであろう少年、十村ヒカルが、この場にはいなかった。

 ミコトとノリトは困ったように顔を向かい合わせる。

「……あいつね。最近、部活に来ないのよ」

 代表して、ミコトが話し始めた。

「8月のヴァンガード甲子園が終わってからかしら。

 今日も集合場所にはいたんだけど、ここに着いたらいつの間にかいなくなっていて。

 協調性が無いのはいつものことだけど、さすがに度が過ぎるわね」

「8月のヴァンガード甲子園と言ったら、ヒカルさんは天海(あまみ)と当たって、負けていましたよね。

 天海の強さに圧倒されて、やる気を無くしてしまったんでしょうか?」

「そんな殊勝なタマには見えなかったんだけどね。いずれにしろ、部長である私の管理不足だわ。情けない」

 ミコトが自戒するように、拳を強く握りしめた、その時だった。

「よーう! 俺達の名前が聞こえたような気がしたけど、気のせいかぁ?」

 遠くから、そんな声が聞こえた。

 ミコトやサキ達が声のした方へと振り向くと、そこでは小さな人影が大きく手を振っていた。

「……天海学園」

 ミコトが敵意を込めて呟く。

「おうおう。そう怖い顔すんなって」

 小走りに駆け寄ってきたのは、悪戯めいた笑みを浮かべた、ボサボサ髪の小柄な少年、(あおい)アラシだった。

 彼に遅れるようにして、清水(しみず)セイジ、(ひいらぎ)マナ、綺羅(きら)ヒビキも合流する。

「天海学園の名前は挙がりましたが、話の主題ではありませんね」

 ミオが生真面目に説明する。

「そうかい」

 アラシが急に興味を失ったようにして肩をすくめた。

「天海学園。聞いたわよ? 今年の高校選手権、3年生のあなた達は出場しないそうね?」

 トゲだらけの声音でミコトが確認――もしくは尋問か――するように尋ねる。

「キミの言う通りだよ、美しい人。撤回したとは言え、ボクは一度引退宣言をした身だ。このような晴れ舞台には相応しくない。これはボクなりのケジメみたいなものさ」

 ヒビキがミコトに薔薇を差し出しながら答える。ミコトはそれを無言ではたき落とした。

「主将が出場しないのに、我々だけファイトを楽しむわけにもいくまい。よって天海学園の3年生は全員、高校選手権出場を辞退した」

 セイジが堅い表情で続けた。

「フッ。ボクの矜持に付き合う必要は無いと言ったのだけどね」

「その矜持に、我々も賛同したまでだ」

 何があったのか、初めて会った頃よりも、彼らの絆はさらに強固になっているようだった。

「ま、俺とセイジはプロを目指してるわけでもないしな。高校選手権はプロの登竜門なんだろ? なら、プロ候補同士でせいぜい頑張ってくれや」

「そうやって勝ちを譲られても嬉しくないんだけど?」

 ミコトが鋭い目つきをさらに尖らせてアラシを睨みつける。彼女がいつも以上に敵意を露わにしている最大の理由はそれだろう。

「別に勝ちを譲ったわけじゃねえよ」

 アラシはそれをせせら笑った。

「こっちは1年生ひとりで勝てると踏んでのオーダーだ。そうだろ、マナ?」

 そう言って、セイジの背にこそこそ隠れていたマナをミコトの前に引っ張り出す。

「ひいっ!? わ、私を巻き込まないでくださいぃ……」

 ミコトの鬼の形相に睨まれたマナは、悲鳴をあげて縮こまった。

「……ま、ウチの刺客はマナだけじゃねえし。せいぜい足をすくわれないように気をつけるんだな」

「? それってどういう……」

「そう言えば、ヒビキさんはプロを目指して引退を撤回したんですよね。高校選手権に出場しなくていいのですか?」

 ぽつりと呟かれたアラシの言葉に、ミコトが問い返そうとした時、ふと思いだしたようにミオがヒビキに尋ねた。

「ボクはもうプロ入りが決定しているからね」

 その発言に、聖ローゼのファイター全員が獣のように目を剥いてヒビキを見据えた。

「わあ! おめでとうございます!」

 羨望と嫉妬が渦巻く中、サキだけが和やかに拍手を送った。

「……おめでとうございます。先を越されてしまいましたね」

 少し遅れて、ミオも少し憮然とした態度で祝福した。

「ありがとう。

 オファー自体は去年の高校選手権で優勝したあたりから来ていたんだけどね。その時は家業を継ぐつもりだったから、断り続けていたんだ。1年経った今でも、受け入れてもらえてよかったよ」

 実際のところ、実力は十分、ルックスも抜群で、幅広い層から人気を集めるヒビキを諦めるスポンサーなど、そうそういないだろうが。

「あ、お姉ちゃん。そろそろ受付が始まるよ」

 スマホの時計を見ながらレイが声をあげた。

「そうですね。それでは、次はファイトテーブルでお会いしましょう」

「まったく。会場の中では、今度こそ敵同士だからね。話しかけないでよ?」

 ミオの差し出した手をおざなりに握り返し、ミコトが念を押した。

 本来ならそこにマナも加わるべきだったかも知れないが、ミコトを恐れる彼女は断固辞退した。

 

 

 早々に1回戦の決着をつけたミオだったが、他のテーブルでも優勝候補達が次々と勝ちを決めていく。

 

 

「《豊熟の女神 オトゴサヒメ》のアタック時、スキル発動!

 手札を3枚捨てて、前列ユニットのパワー+20000! オトゴサヒメの(クリティカル)+1!」

 ミコトが潤沢な手札を惜しみなく消費し、ユニットを強化する。

「……あら、ノーガードでいいの?

 ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! パワーはクロイカヅチ、★はオトゴサヒメに!

 2枚目、《月弓の斎王 ツクミオリ》! このカードはトリガーゾーンではトリガーとして扱われ、ヴァンガードのパワー+10000、★+1!

 4点のダメージ、受けてもらうわ!」

 豊熟の女神が放つ太陽の如き閃光。その陰で、月を司る巫が黄金の軌跡を描く矢を放つ。それは神に仇名す者の額を狙い違わず貫いた。

(悪いけど、準備運動にもならないわね。高校選手権にも予選を設けた方がいいんじゃないかしら)

 そんなことを思いながら、ミコトは茫然としている対戦相手に無言で頭を下げた。

 聖ローゼ学園3年、神薙ミコト。1回戦突破。

 

 

「ガード! 《敬白の魔術師 ベラトルム》」

 ダメージ5点の状況で、ノリトは一切の焦りを見せず、手札に温存していた守りの要を切る。

「ベラトルムのスキルで、あなたの山札の上から1枚、このユニットの上にコールしてください」

 魔女を庇うように現れた、白いローブの魔術師が、魔導書を広げ口早に呪文を唱える。すると、敵の姿がみるみるうちに小さく弱い姿へと変化していく。

「おや、代わりにコールされたユニットはG0。それでは僕のヴァンガードにアタックは通らない」

 攻めの起点となるユニットを潰された対戦相手は、悔しそうにターンエンドを宣言する。

(そして、僕にターンが回ってきた時点で、勝ちは揺るがない……)

「《蛙の魔女 メリッサ》をコール! さあ、ここからあなたの山札20枚を一気に削らせてもらう!」

 その宣言通り、ノリトは対戦相手の山札を削り切りデッキアウトで勝利した。

「僕の目標は優勝以外に無い。こんなところで立ち止まっていられないんだ」

 聖ローゼ学園3年、神薙ノリト。1回戦突破。

 

 

「《特装天機 マルクトメレク》のスキル発動! ドロップゾーンから《救装天使 ザイン》、《救装天使 ラメド》、《アンプテイション・エンジェル》をスペリオルコール」

 いつの間にか会場にふらりと現れた十村ヒカルは、いつも以上に淡々とファイトを進めていた。

「前列のユニットにパワー+5000。さらに自分は1ダメージを受ける」

 何処からか雷が落ち、天機の翼を焼き払う。だが、舞い散った白い羽根が戦いに倒れた天使達に触れると同時、彼らは新たな生命を得て息を吹き返す。

「ラメドのブースト。マルクトメレクでヴァンガードにアタック。このアタックは守護者でガードできない」

 他者を救った代償に、マルクトメレクは傷つき汚れていく。それでも前に進むことをやめない天機が、剣のようなメスを振るい、障害を切除した。

(……やれやれ。無駄な時間だ)

 試合が始まってから対戦相手には一瞥もくれず、ヒカルは気だるげにひとつ吐息をついた。

 聖ローゼ学園2年、十村ヒカル。1回戦突破。

 

 

「プラントを1体退却させ、《牡丹の銃士 マルティナ》のスキルを発動します。

 山札の上から5枚を見て……《牡丹の銃士 トゥーレ》をスペリオルコール」

 今大会、唯一の天海学園代表ということで、他の参加者や観客から最も注目を集めている柊マナは、どこか肩身の狭そうにファイトを続けていた。

「トゥーレのスキルで、さらにプラントを退却。山札の上から3枚見て……《紅団扇の銃士 ガストーネ》と《鈴蘭の銃士 レベッカ》をスペリオルコール。

 ガストーネはパワー+10000。レベッカのスキルでさらに+5000です。

 では、レベッカのブースト。マルティナでヴァンガードにアタック」

 帽子に真紅の牡丹をあしらった、不敵な笑みを浮かべた銃士の少女が、赤く燃える剣で豪快に戦場を薙ぎ払う。

「ツインドライブ……1枚目、トリガーはありません。2枚目、★トリガー。効果はすべてトゥーレへ。

 ガストーネのブースト。トゥーレでヴァンガードにアタックです」

 盛大に舞い踊る紅の花弁と火の粉の中、帽子に純白の牡丹をあしらった、微笑を浮かべた銃士の少女が、山吹色に燃える剣を、敵の心臓に躊躇無く突き立てた。

 弔うように白の花弁と火の粉がはらはらと舞い散る。

 百華の王――牡丹は、戦場でこそ気高く輝くのだ。

「あ……すみません。私のような、下賤な者が勝ってしまいました」

 そんな王者の風格をイメージさせるプレイングとは裏腹に、マナは一方的に負かした相手に平謝りするのであった。

 天海学園1年、柊マナ。1回戦突破。

 

 

 会場で目立っていたのは、何も優勝候補ばかりではない。

 ミオが率いる響星学園の部員も、思い思いに実力を発揮していた。

 

 

「《餓竜 ギガレックス》でヴァンガードにアタックします!」

 勝機が見えたのか、メガネを光らせたサキが、胸を張り、堂々と宣言する。

「ギガレックスのスキル発動! 私のリアガードすべてに武装ゲージを置き、パワー+30000!!」

 赤銅色の恐竜が纏う武装が、火山の如く炎を噴き上げ、降り注ぐ金属片が敵味方関係無く戦場を蹂躙する。

「これで武装ゲージを得た《サベイジ・マーセナリー》もアタックできるようになりました! パワー42000のマーセナリーでアタック!」

 回転しながら落ちてきた、人ひとり分の身長はゆうに超える()()()鉄板を、素手で受け止めた部族随一の勇者は、それを大鉈代わりに振りかぶる。

 巨竜の剛爪にも劣らぬ、武を極めた人間の振るう超質量の斬撃が山をも両断した。

「やった。ありがとうございました!」

 豪快なプレイングとは裏腹に、サキは控えめなガッツポーズで喜びを表現した。

 響星学園2年、藤村サキ。1回戦突破。

 

 

「うーん……リアガードを全部除去されちゃったかぁ。けど、今のアタシには、もうそんなものは通じない!

 G3を1枚捨てて、時空超越(ストライドジェネレーション)!!」

 手札からカードをドロップゾーンに置き、レイが高々と左手を掲げる。

「《時空竜 クロノスコマンド・ドラゴン》!!」

 歯車を模した錫杖を手にした機械竜が、ロストレジェンドの掲げた剣に導かれ、異界の神の如くあぐらをかいた姿で降臨した。

「クロノスコマンドのスキル発動! 山札の上から5枚を見て、そのすべてをスペリオルコール!!」

 機械竜が頭上で印を結ぶと、誰もいなくなった戦場に、ギアクロニクルの戦士達が時を越えて再び集結する。

「これはお返しだよ! クロノスコマンドでヴァンガードにアタック!

 アタックがヒットしたので、クロノスコマンドのスキル発動! 相手リアガードをすべて山札の下へと吹き飛ばす!」

 ゆっくりと立ち上がった機械竜が、差し出した手で時空を歪め、敵の軍勢すべてを時の彼方へと消し去った。

「これでとどめ! リアガードのロストレジェンドでアタック!」

 後は、傍らに控えていたロストレジェンドが孤立した敵の大将を討ち取るだけだった。

「アタシの勝ちだね、ありがとうございました!」

 レイは挨拶もそこそこ、敬愛する姉にVサインを送って勝利を知らせた。

 響星学園1年、時任レイ。1回戦突破。

 

 

(みなさん、好調なようですね)

 ミオが満足そうに無表情でうんうんと頷いていると。

「《黒装傑神 ブラドブラック》でヴァンガードにアタック!」

 背後から少年の声が聞こえた瞬間、彼女の視界に宇宙が広がった。

 真空の闇の中、漆黒の吸血機が翼を広げてミオのすぐ傍を飛び去っていく。

「ブラドブラックのスキル発動! 山札の上から7枚を見て……《究極次元ロボ グレートダイユーシャ》を手札に加える!

 さらに……! 手札からグレートダイユーシャに究極次元合体(スペリオルコール)!!

 そのスキルで、前列のユニットにパワー+10000!!」

 吸血機の全身がひび割れたかと思うと、その中から大勇者の名を冠する青い装甲の巨大ロボットが現れる。

『究極次元ロボ!! グレートダイユーシャ!!!』

 それは銀河に轟く名乗りをあげると、自身の全長に匹敵する巨大剣を高々と振りかざした。

「これで終わりだ! グレートダイユーシャでアタック……!!」

『グレートジャスティスソード!!!』

 ゆっくりと振り下ろされた巨大剣が、何故か避けようとしない悪を真っ二つに斬り裂いていく。次の瞬間、巨大な爆発がミオの視界を埋め尽くし、気が付くと彼女の意識は会場へと戻っていた。

 ミオは背後を振り返る。同じように振り返っていた、ついさっきまでディメンジョンポリスを使ってファイトをしていた少年と目が合った。

「ようやく会えた。次は俺とのファイトですよ、音無ミオ先輩。姉が色々とお世話にようで」

「ええ。私も会いたかったですよ、天道(てんどう)ミサダさん。……アリサさんの弟さん」

 金城(きんじょう)高校1年、天道ミサダ。1回戦突破。

 

 

 去年のような波乱も無く、1回戦は粛々と進んだ。

「いえ。私が勝ってしまったのは、大盤狂わせではないかと」

 マナが何か言っていたが、取り合うものはいなかった。

 続く2回戦でもこれと言った対戦カードは無く、誰もが優勝候補の勝ち抜きを疑わなかった。

 唯一、ミオだけがその試合を最大限に警戒していた。

 いち早く、次のファイトが行われる席につき、目を閉じてその時を待っていた。

「お待たせしました」

 快活そうな少年の声がして、ミオがゆっくりと目を開く。

「はじめまして! 俺の名前はご存知のようでしたが、改めて自己紹介を。天道アリサの弟、天道ミサダです。よろしくお願いします」

 はきはきと自己紹介して、ミオに手を差し出してくる。

「こちらこそはじめまして。音無ミオです」

 ミオも立ち上がり、それを握り返しながら丁寧に自己紹介をする。

「あなたのお姉さんには、大変お世話になりました。どうかミオと呼んでください。話し方も敬語でなくて構いませんよ」

 自分の事は棚に上げて、ミオは寛容な提案を申し出た。

「お!? ミオさんは話がわかるね!」

 少年がさっそく気さくな口調になる。

 その間に、ミオはじっくりと天道ミサダと名乗る少年を観察した。

 まず、首からかけたロケットペンダントが存在を主張しているが、他に特徴らしい特徴は無い。艶のある黒髪は姉の面影を感じさせるが、髪型に特徴が無いため、どうしても没個性な印象を受ける。体型も中肉中背。身長も男子高校生の平均と同じくらいだろう。髪型を除けば平凡な女子高生だったアリサの弟らしいと言えばらしい。

「とりあえず座りましょうか」

 立ったままだったふたりは、自分の席にすとんと腰を下ろす。

「ミオさん。俺はあなたに会いたかったんだ」

 そして、ミオとテーブルを挟んで向かい合う形になったミサダが突如として熱っぽい声になって、そんなことを言ってきた。

「……はい?」

「あなたのことを姉から聞いたその日から、あなたのことを想わない日はなかった。あなたの話を響星の生徒さんから聞きこんで、その気持ちはさらに大きくなった」

「……はあ」

 これはまずい。

 そんなものが自分の中に存在していたことが自分でも不思議だが、自分の女としての本能が心臓の高鳴りとなって最大限の警告を発している。この男は間違い無く自分のことを……

「あなたが、俺がこの世界で誰よりも愛する女性、白河ミユキさんの右腕だと知ってから!!」

「……は?」

 彼女の本能は、やっぱりポンコツであった。

「あなたは口が堅いと姉から聞いてるんで打ち明けてしまおうと思うんだけどさ。俺はユキさんのことが、その、恥ずかしながら一目惚れしてしまって。

 あの方のことで色々と相談したいこともあり、是非ともミオさんからもアドバイスを頂きたいな、と」

「……それは構いませんが、何ですか、右腕って?」

「響星学園の生徒がそう言ってたけど。あとは、後継者だとかなんとか」

「…………」

 熟考。

 確かにユキに信頼されていたという自覚はある。ハイスペックすぎる彼女のハイスペックな要求についていける者は、それこそ自分くらいのものだろう。親友のアリサですら、自分はユキが本当に求めているものには応えられないと悲観(もしくは達観か)している節があった。

「……まあ、そうなのかも知れません」

「よかった! 俺もあの方に心身共に相応しい男性になるため、サッカー部とカードファイト部を掛け持ちしているわけだけど、ひとりではどうしても限界があってな」

「掛け持ち、ですか?」

「ああ! あの方の傍にいるには肉体的にも強くならないといけないからな! ただ、ウチの高校はサッカーの方が盛んで、なかなかカードファイト部に参加できなかったんだけど、今日は無理を言ってヴァンガードを優先したんだぜ?」

 なるほど。大きな大会でしか彼の姿を見かけることが無かったのは、それが理由だったのだろう。

「素晴らしい心がけだと思いますが、それだけではまだ足りませんね」

「そうなのか?」

「ユキさんに相応しい男性になるためには、まず外国語は厳禁です。彼女に通じませんから。サッカーも、サッカーではなく、蹴球と伝えましょう」

「外来語禁止ゲーム!? って、カードファイトはいいのか?」

「ヴァンガードに関する言葉は、用語として頭に叩きこんだそうです」

「さすが。ユキさんは聡明だな」

「本当に聡明な人は、外国語も喋れると思いますが。

 あと、平成以降の技術が使われた機械の使用も禁止です。あの人の技術レベルは、昭和で止まっていますので」

「ユキさん、平成生まれだよな!?」

「あれほど何でもできる人が、外国語と機械だけは操れないことが不思議です。

 それとも、現代人が外国語と機械に使っている脳の容量をすべて他のことに回せば、誰でも彼女のようになるのでしょうか」

「……思うんだけど、ユキさんの弱点に付き合ってもしょうがなくないか? あの方にできないことがあるのなら、その助けになってあげるのが正しい夫のあるべき姿かと!」

「さりげなく結婚しないでください。

 確かに正論ですが。あの人、好きな男性のタイプは、日本語以外は喋らない人と、機械ができない人。と公言していますよ?」

「恋人に欠点を求めてどうするんだよ!?」

「気難しい人なんですよ。

 さて、そろそろファイトをしませんか? ジャッジの視線も痛くなってきましたし」

「……そうだな」

 何処よりも早く席に対戦相手が揃ったにも関わらず、気がつけば準備ができていないのはミオ達のテーブルのみとなっている。ミサダに至っては、デッキすら出していない。

 だが、ひとたび準備を始めると早かった。それだけでもミサダの経験値が伺えた。アリサほどのファイターと、毎日練習ができる環境にいるのだから、当たり前と言えば当たり前か。実力もアリサと同等以上と見た方がよさそうだ。それならば、一切の油断は許されない。

「はじめましょうか」

「ああ!」

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《黒闘機 ブラックボーイ》!!」

 

 

「リアガードの《突貫する根絶者 ヰギー》で、ヴァンガードにアタックします。ヰギーのスキルで、ヱルロを退却させ、パワー+8000。リアガードの《ツイン・オーダー》を裏でバインド(バニッシュデリート)します」

「……ふっ。《宇宙勇機 グランビート》と《コスモビーク》でガード……!」

「私はこれでターンエンドです」

「……さすがだ。愛するユキさんと、愚姉が認めるだけのことはある」

「それはどうも。というか、ミサダさん。口調が変わっていませんか?」

「ユキさんに似合う男性になるためには、ファイト中はクールに振る舞わねばと思ってな……」

 などと言いながら、ミサダがスポーツマンらしい短い髪をかきあげる。

(クールとはそういう意味なのでしょうか。私はまだまだ人の心を理解できていませんね)

 ミオは殊勝なことを考えているが、彼女でなくとも理解はできなかっただろう。

「とりあえず、追い詰めましたよ。お互いにダメージは5点ですが、ミサダさんの手札は0枚。前列のユニットはインターセプトで消費し、後列のユニットは、私がすべて裏でバインド(バニッシュデリート)しました」

「この程度、追い詰められたうちに入らぬ。俺のディメンジョンポリスは、奇跡の大逆転こそが真骨頂……!!」

 ミサダが堅く握りしめた拳を開き、自らのデッキに触れる。

「終焉の刻は来たれり!!」

「……はい?」

「ファイナルターンという意味だ」

「なるほど」

 まったくよくわかってない感じに、ミオが頷いた。

「スタンド&ドローッ!!

 ……やはり、お前も諦めてはいなかったようだな、我が分身よ。

 ライド!! 《黒装傑神 ブラドブラック》!!」

 根絶(デリート)され尽くされ、夜すらも失われた無の世界に、再び紅の月が昇る。それを背にして、不死身の吸血機もまた蘇った。

「この状況でエースユニットを引くとは大したものです。ですが、私の4枚の手札の中に完全ガードが2枚あることを、まさか忘れてはいませんよね?」

「それでも俺は諦めない。俺が諦めるのは、このアタックが届かず、6点目のダメージを受けて、治トリガーを引けず、涙を堪えながら家に帰って、風呂に入って気を落ちつかせ、ぐっすりと眠りについてからだ!」

「もう少し早くに諦めるタイミングはあると思いますが」

「ブラドブラックのスキル発動……!! ブラドブラックのパワー+10000!!

 バトルだ……!! フォースⅠふたつ分のパワーを合計した、パワー43000のブラドブラックでヴァンガードにアタック……!!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

 空白だった世界に、真っ白い花が咲く。それはその中心に立つ無機質な少年が生み出した不可侵の結界であり、ブラドブラックの振り下ろした大鎌を容易く受け止めた。

「ツインドライブ……!!

 1枚目、G3だ。トリガーではない。

 2枚目、★トリガー!! 効果はすべてブラドブラックに……!!」

「ですが、届きません」

 ブラドブラックの大鎌に更なる力が宿るが、それでもコスモリースの結界を貫くには至らない。

「まだだ……!! ブラドブラックのスキル発動……!!

 山札の上から7枚見て……」

 常にクールな(本人談)笑みを浮かべていたミサダが、不意に年相応の無邪気な歓声をあげた。

「来たぜ!! 俺は《超次元ロボ ダイカイザー》を手札に加える!! そして、スペリオルライド!!

 超次元ロボ! ダイッ! カイッ! ザーッ!!!」

 熱く、楽しそうに叫びながら、ブラドブラックの上に新たなカードを重ね合わせる。

「バトル終了時、守護者が1枚だけコールされ、ドライブチェックでG3が公開されているので、ダイカイザーのスキル発動!! ミオさんに1ダメージを与える!! いっけええええええっ!!!」

 ミサダが拳を前に突き出す。

 それに応えるように、ブラドブラックの機影が霧のように溶け、代わりに大皇帝の名を冠する真紅の巨大ロボットが姿を現した。

 ダイカイザーは再びコスモリースの結界に剣を突き立てる。その箇所からピキッと致命的な音がして、結界に亀裂が生じ始めた。

『!?』

 感情に乏しいコスモリースの表情に驚愕が浮かぶ。

 結界が硝子のように砕け散り、その勢いのままダイカイザーの剣がグレイヲンの胸を貫いた。

『グヲヲヲヲヲヲッ!!』

 グレイヲンが怨嗟の雄叫びをあげながら、塵となって崩れ落ちていく。

 その最期を見届けた皇帝は、紅の月へと還るように昇っていく蝙蝠の群れに敬礼した。

「……私の負けですね。お見事でした」

 ダメージゾーンに6枚目のカードを置いてから、ミオがぱちぱちと小さく拍手を送る。

「っしゃあ!! ありがとござーっした!!」

「いつの間にか素に戻ってますよ」

「おっといけねえ! ま、これからもよろしくな、ミオさん!」

「はい。惚れた腫れたの話は詳しくないですが、お力になれれば幸いです」

 お互いの健闘を称え。そして今後の友情を約束し、ふたりは再度、固く握手を交わしたのであった。

 金城高校1年、天道ミサダ。2回戦突破。

 響星学園3年、音無ミオ。2回戦敗退。

 

 

 音無ミオの敗退という大波乱で幕を閉じた第2回戦。

 彼女を破った天道ミサダについて、他のファイターや、マスコミが調べていたが、彼が参加した大会と言えば、ショップ大会が数度と、非公式で行われたショップ対抗戦である。情報は皆無だった。

 そして、続く第3回戦でも、会場を騒然とさせる事件が起きた。

 

 

 ミコトは次の対戦相手、先に席について腕組みしていた少年に、感情的な彼女らしからぬ事務的な口調で声をかけた。

「……ヒカル。あんた、部活に参加せず、どこで何をしていたの?」

「ああ、次の対戦相手はミコトさんですか。ようやく歯ごたえのある相手と対戦できて嬉しいですよ」

 彼女の問いには答えず、ヒカルは人を小馬鹿にするような笑みを浮かべていた。

「答えたくないんなら、別にいいわ。けどね。私は練習をサボるような、意識の低いやつには、絶対に負けないから」

 ミコトがテーブルにカードを置き、乱暴な音をたてながら席についた。

「意識の低い……ですか。それは見解の相違というやつですね」

「弁解があるなら、ファイトで証明してみせなさい」

「……承知しました。練習の成果、あなたになら存分に発揮できそうですので!」

 広角を大きく吊り上げて笑うヒカルの姿に、ミコトはほんの一瞬悪寒を感じたが、気のせいだと自分に言い聞かせるかのように、勢いよくカードを引いた。

 

 ――5分後

 

「《救装天使 ラメド》のブースト。《特装天機 マルクトメレク》でヴァンガードにアタック。このアタックは守護者でガードできない」

「……っ。ノーガード」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! 効果はすべて《アンプテイション・エンジェル》に!

 2枚目はトリガーではありません」

「……くっ。ダメージチェック……トリガーは無いわ」

「《黒衣の通告 ナキール》のブースト! 《アンプテイション・エンジェル》でヴァンガードにアタック! プロテクトⅡが3つあるので、このアタックも守護者でガードできない!」

「ガード! 《水龍の女神 トヨタマヒメ》、《オラクルガーディアン ニケ》、《サイキック・バード》!」

「では、これで終わらせましょう。

《セクシオ・エンジェル》のブースト! 《機動病棟 フェザーパレス》でヴァンガードにアタック!

 G3を2枚ソウルブラスト! ダメージゾーンのカードをすべて裏にすることで、パワー+20000! ★+1! このアタックも守護者でガードできない!」

「……ノーガードよ」

 手札に残った2枚の守護者をぎゅっと握りしめながら、ミコトが苦々しく宣言する。

「ダメージチェック……私の負けよ」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置き、ミコトは額がテーブルにつきそうなほど項垂れた。

「……ありがとうございました。さすがミコトさんだ。僕の守護者封じを警戒して、序盤から守護者を切っていくプレイングはお見事。ですが、僕が布陣を完成させるのが、僅かに速かったようです」

 珍しく、手放しに対戦相手を評価し、席を立とうとするヒカルを、ミコトが勢いよく顔をあげて「待ちなさい!」と呼び止めた。

「……何でしょう?」

「それほどの技術を何処で習得したの? あんたのプレイングは聖ローゼの手堅いファイトとはまったく違った。昔は慎重すぎるくらい慎重なファイターだったのに。今は攻め時を逃さず大胆に動けて、けど、それもすべて計算のうち。まるで……」

 そこまで呟いて、ミコトが何かに気付いたかのように目を見開く。その瞳は驚愕と恐怖に揺れていた。

「あんた、まさか……天海学園に?」

「気付かれましたか。さすがに勘がいい。

 そうです! 僕はヴァンガード甲子園で敗北してから、たびたび天海学園にお邪魔していたんですよ!

 幸い、綺羅さんや、柊さんとは、対戦したことがありましたからねぇ! 僕のことも覚えてくださっていて、快く迎えてくれました! ……余所者に無警戒すぎる気はしないでもないですが、おかげで助かりましたよ。聖ローゼやストレングスでファイトするよりも、ずっと濃密な経験ができました!」

「そんな……」

「僕に言わせれば、意識が低いのは聖ローゼの連中すべてだ!

 ちょっと船で渡った先によりよい環境があるというのに、何故、誰もそこへ行こうとしなかった!?

 聖ローゼや『ストレングス』が最高の環境だと信じて疑わない、その盲信には反吐がでる!」

「そんなこと、できるわけないじゃない……。私達は打倒天海を掲げる聖ローゼなのよ?」

「その強情が貴方の敗因だ。

 どうしても倒したい敵がいるなら、懐に入り込んで内側から食い破ればいい。

 安心してください。僕は柊マナを破って、優勝して見せますよ。それでも聖ローゼが天海を破ったことに変わりは無い」

 ヒカルはそれだけ言い捨てると、未だ立ち上がれないミコトを残して去っていった。

 

 

「くくく。ま、そーいうこった」

 観客席の最前列で、その様子を見ていたアラシが笑う。

「フッ。島に来た久々のお客様に嬉しくなって、ついつい色々と教えてしまったからね」

 その隣で、ヒビキも薔薇の香りを楽しみながら、優雅に微笑んだ。

「結果、十村ヒカルは、我々と大差無い実力を得た。彼はもうひとりの天海学園代表と言っても過言では無い」

 セイジだけが一切の笑みを浮かべず、淡々と呟いた。

「だが、同胞に対して、あの態度はよろしくないな。あとで説教しておかねば」

「あー……そういうのはお前にまかせた」

 聖ローゼ学園2年、十村ヒカル。3回戦突破。

 聖ローゼ学園3年、神薙ミコト。3回戦敗退。

 

 

 音無ミオと神薙ミコト。去年の高校選手権でベスト4まで勝ち残った優勝候補2名の脱落。

 無名のダークホース、天道ミサダの出現。

 第2の天海と言うべき存在となった、十村ヒカルの反乱。

 混沌とした状況の中で4回戦が始まった。

 

 

「天海学園……柊マナ」

 ノリトが向かったテーブルには、すでにマナが肩身狭そうに腰かけていた。

「あ、ど、どうもよろしくお願い致します」

 ノリトに気付いたマナが、ぎくしゃくとお辞儀する。

 まるで出場者全員が知り合いどうしのショップ大会に、ひとりだけ初参加してしまったみたいなぎこちなさだ。

(プロの登竜門、ヴァンガード高校選手権で、そんなことを気にする余裕があるなんてね……)

 緊張するのは当たり前だが、緊張の仕方がずれている。

 こんな場違いな少女だが、ヴァンガード甲子園の予選と本戦を共に無敗で勝ち進み、天海学園連覇の立役者となったことは記憶に新しい。

「胸を借りるつもりで挑ませてもらいます」

 ノリトはマナと向かい合うと、堂々と宣言した。

「え? そ、そんな。私なんて、むしろ色々と教えて頂く側で……」

「謙遜の必要はありませんよ。僕はそんなことで油断はしませんから」

「そ、そんなつもりじゃないんですけどぉ……」

 聖ローゼで最もマジメな男と、天海で最もとぼけた女のファイトが始まろうとしていた。

 

 

 誰もが優勝候補であるノリトとマナのファイトに注目する中、会場の片隅でひっそりと別の物語が生まれようとしていた。

「サキ、ちゃん……?」

「レイちゃん……」

 指定されたテーブルに向かったレイは、そこでサキと鉢合わせた。

 スマホに表示された番号を、念のためもう一度確認するが、場所に間違いは無い。

「当たっちゃったね……」

 サキもスマホの画面を見せながら、困ったように笑う。

「うん。けど、こうなったからには負けないよ!」

 レイがいち早く頭を切り替えて、宣戦布告する。

「そうだね……私も全力でファイトするよ」

 サキも彼女らしからぬ真剣な表情を浮かべてそれに応えた。

 

 

「《リコリスの銃士 ヴェラ》のスキル発動。山札の上から5枚見て……《牡丹の銃士 マルティナ》と《リコリスの銃士 サウル》をスペリオルコールします。

 サウルのスキルで、さらに山札の上から3枚見て……《月下美人の銃士 ダニエル》をスペリオルコール。

 ダニエルのトリガー効果も発動。★はサウルに。パワーはヴェラに。ヴェラの得たパワーは、前列リアガードすべてに与えられます。

 ダニエルのブースト。ヴェラで《白虹の魔女 ピレスラ》にアタックです」

「そう。ヴェラからアタックせざるを得ない。それがそのデッキの弱点だ!

《敬白の魔術師 ベラトルム》でガード! ベラトルムのスキルで、あなたの山札の上から1枚、サウルの上にコールしてもらいます!」

「……《花園の乙女 マイリス》です」

「これでヴェラのスキルも封じた!

《大鍋の魔女 ローリエ》でガード! 《白燐の魔術師 レヴォルタ》でインターセプト! 2枚貫通!」

「トリプルドライブです。

 1枚目、トリガーはありません。

 2枚目、(ヒール)トリガー。ダメージ回復し、パワーはマイリスに。

 3枚目、★トリガー。効果はすべてマイリスに」

「……っ」

 ノリトの目元が、誰にも気付かれないほど小さく動いた。

「《鈴蘭の銃士 レベッカ》のブースト。マイリスでヴァンガードにアタックします。フォースⅠがあるので、合計パワーは43000です」

「……ノーガード」

 ノリトのダメージは既に4点だ。治トリガーを引けなければ、敗北が決定する。

「ダメージチェック……1枚目、★トリガー。パワーはピレスラに。

 2枚目…………」

 ノリトは震える手でカードをめくり、勇気を振り絞ってそれに目を通す。

「…………」

 そして、大きく息をついて天を仰いだ。無機質なドームの天井が視界を遮るように広がっていた。

「気が利かないな」

 こういう時は寒空でもいい。どこまでも続く青い空を見たかった。

「トリガー無し。僕の負けですね」

 ノリトが手にしたカードを晒し、ダメージゾーンに置こうとして、途中で取り落とした。

「あ、あの……ごめんなさい」

 勝利したマナの方が泣きそうな表情で、ノリトを見ている。

「謝る必要なんてないですよ。

 さすがですね。マルティナにパワーを集中させていたら、まだ耐えられていたのですが」

 ノリトが苦笑しながら手札を公開した。そこには1枚の完全ガードが残されていた。

「はい。そう感じたので、マイリスにパワーと★を集中させるしか無いと思っていました。私の山勘が当たっただけで……」

「すべて読まれていたいうわけか。完敗ですね。あなたのような強い人とヒカルはファイトしていたのか。姉さんを倒せるほど、強くなるはずだ」

「あ、そのことについても申し訳ございません。私の先輩達が、妙に張り切ってしまって。

 私も十村さんとのファイトが楽しくてつい……。まあ、私とのファイトは何の経験にもならなかったと思いますけど」

「楽しかった? ヒカルとのファイトが?」

 十村ヒカルの持ち味は、徹底的に相手を追い詰める実戦特化のファイトだ。彼が簡単にマナに勝てるとも思えず、彼女に連敗を重ねながら「運がよかったです」だの「楽しかったです」だの日和った感想で締められる日々は、彼にとって屈辱以外の何でも無かっただろう。

(ヒカルはヒカルなりに努力を続けた。それがあの結果というわけだ……)

「今度、僕も天海にお邪魔していいかな?」

 その言葉は、自然と口をついて出た。

「はい、歓迎します」

 昼過ぎに咲いた寝坊助な朝顔のように、マナがふにゃりと笑った。

(姉さんは強情だから、この選択は取れないだろう。けど、僕達は姉弟だ。姉さんに足りない部分は僕が補えばいい。僕が得た天海の技術を、姉さんにも共有する。そして僕達は……姉弟ふたりでプロになるんだ)

 決意を新たにし、ノリトは背筋を正して立ち上がると、聖ローゼの関係者が多くいる観客席に一礼した。

 その堂々とした態度に、周囲からは惜しみない拍手が送られた。

 天海学園2年、柊マナ。4回戦突破。

 聖ローゼ学園3年、神薙ノリト。4回戦敗退。

 

 

「ギガレックスでヴァンガードにアタック!!

 ツインドライブ!!

 1枚目、(フロント)トリガー! 前列にパワー+10000!

 2枚目、前トリガー! さらに前列にパワー+10000!

 続けて、アクセルⅡサークルの《連隊竜 レジオドン》でアタック!」

 いつも優しくて穏やかなサキが、この日ばかりは別人に見えた。

 猛り狂う恐竜のような苛烈な攻め。

「ガード! 《リクレイムキー・ドラコキッド》! 《スチームブレス・ドラゴン》!」

 必死で防ぐレイの手札が、貪り食われるように削り取られていく。

「《餓竜 メガレックス》でヴァンガードにアタック! レジオドンを退却させて1枚ドロー! レジオドンの武装ゲージだった《サベイジ・トルーパー》をスペリオルコール!」

 それでいて、自分は貪欲にアドバンテージを稼いでいく。

(これが本気になったサキちゃん……)

 部室でのほんわかとした雰囲気からは想像もできない真剣な表情に、レイは気圧されていた。

「《掃討竜 スイーパーアクロカント》でヴァンガードにアタック!」

「ノ、ノーガード!!」

 6ターン目にして、早くも5枚目のカードがレイのダメージゾーンに置かれた。

「私はこれでターンエンドだよ」

 メガネの奥にある怜悧な瞳がレイを見据える。あれだけ攻めたにも関わらず、手札は7枚がキープされていた。ダメージも3と余裕がある。

「アタシのターン! スタンド&ドロー!!」

 対するレイの手札はこれで3枚。

(アタシのバインドゾーンにあるカードは10枚……届くかギリギリだけど、やるしかない!)

「《時空竜騎 ロストレジェンド》と《リノベイトウイング・ドラゴン》をコール!

 リノベイトウイングのスキルで、ロストレジェンドとリノベイトウイングをバインド!

 山札の上から3枚を見て……《ラッキーポット・ドラコキッド》と《クロノトゥース・ティガー》をコール!

 そして……G3の《タイムトラッキング・ドラゴン》をバインド!」

「うーん……治ガーディアンに助けられたね」

「これでアタシのバインドゾーンは19枚! 手札から《ロストギアドッグ エイト》を捨てて、時空超越!!

《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》!!

 ミステリーフレアのスキルで、このユニットのドライブ+1、★+1!

 ユニット5体のパワー+10000!

 そして、ロストレジェンドのスキルで1枚ドロー! 《時空竜 タイムリーパー・ドラゴン》をコールして、バトルだよ!

 ティガーのブースト! ミステリーフレアでヴァンガードにアタック!」

「《アークバード》で完全ガード!」

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはラッキーポットに!

 2枚目、治トリガー! ダメージ回復、パワーはタイムリーパーに!

 3枚目はトリガー無し!

 続いて、《スチームスカラー ジジ》のブースト! タイムリーパーでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードだよ。

 ダメージチェック……トリガーは無し」

「スチームブレスのブースト! ラッキーポットでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード。

 ダメージチェック……引トリガー! 1枚引いて、パワーはヴァンガードに!」

(★を引けなかったから、ミステリーフレアのターンを、ほとんどノーガードで凌がれちゃった。手札も1枚しか減らせてない。けど、もう後戻りはできない! 時計は前にしか進まないんだ!)

「ターンエンド! ……その瞬間、ミストリーフレアはロストレジェンドに戻り、フォースⅠをヴァンガードサークルに!

 ミステリーフレアのスキルも発動!! 手札をすべて捨てて、追加ターンを得る!!」

 ロストレジェンドが、ミステリーフレアの力が宿った翠緑色に輝く機械剣を振るい、時の概念を斬り捨てた。たちかぜの時間は失われ、ロストレジェンドの率いるギアクロニクルは、再び陣形を整える。

「アタシのエクストラターン!! スタンド&ドロー!!

 ラッキーポットの上に《スチームハンター リピット》をコールして、バトル!!

 ジジのブースト! タイムリーパーでヴァンガードにアタック!」

「《草食竜 ブルートザウルス》と《激走竜 ブルースプリント》でガード!」

「ティガーのブースト! ロストレジェンドでヴァンガードにアタック! ジジを退却させて、さらにパワー+5000! 合計パワーは36000!」

「《群竜 タイニィレックス》と《プリズムバード》、《恐渇竜 スピノイクストート》でガード! ……1枚貫通だよ」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目……やった! ★トリガーッ!! 効果はすべてロストレジェンドに!!

 いっけぇー、相棒!!」

『オオオオオッ!!』

 ロストレジェンドがレイに応え、まるで人間のように吠えると、時を翔えてギガレックスの頭上に瞬間移動する。ギガレックスも本能でそれを察知して顔を上げるが、ロストレジェンドが剣を突き出すのが僅かに早かった。

 剣がギガレックスの眉間を貫き、その巨体がゆっくりと横倒しになる。

 地面に着地したロストレジェンドは剣についた血を払うと、太古から生き続けてきた偉大なる生命の最期に短く黙祷を捧げた。

「……負けちゃった、か」

 ダメージゾーンに6枚目のカードを置いたサキは、仄かに悔しさを滲ませながらもふんわりと笑う。

「おめでとう、レイちゃん。いいファイトだったね」

 そう言って祝福してくれる彼女は、いつものサキに戻っていた。

「……やったーっ!!! サキちゃんに大会ではじめて勝てたーっ!!!」

 拳を握りしめながら立ち上がり、レイは全身で喜びを表現する。

「あれ? そうだったっけ」

 本気で心当たりが無い風に、サキは小首を傾げた。

「そうだよー! アタシ、結構、気にしてたんだからね!

 アタシの実力はお姉ちゃんにもサキちゃんにも到底及んでいないんじゃないかって。響星の足手まといになってるんじゃないかって……」

「そんなことないよ」

 テーブル越しに身を乗り出して、サキがレイをぎゅっと抱きしめた。

「私だって、みるみる強くなっていくレイちゃんに追い越されないよう必死で頑張ってたんだよ。態度には出さないけど、きっとミオさんだってそう。私達はレイちゃんのおかげで強くなれた。レイちゃんはいるだけで、私達にずっと力を与えていてくれていたの。

 そして、今日……レイちゃんはついに私よりも強くなった」

「そんな……さっきのファイトは偶然みたいなものだよ」

「そっか……。なら、これからはライバルだね。あと半年ほどだけど、よろしくね」

 サキがレイを抱きしめる腕に力がこもった。

「サキちゃん……? もしかして、泣いてるの?」

 サキは答えなかった。それが雄弁な答えだった。

 勝ち負けに無頓着なサキが、大会で負けて泣くなど、今までに無いことだった。

(あ、ちがう。そうじゃない。サキちゃんにとって、これが最後の高校選手権だったんだ)

 ヴァンガードを趣味として楽しむサキに、プロになろうなどという野心はあるまい。となれば、彼女は進学を選ぶだろう。12月に開催される高校選手権に出場する余裕は無い。どころか、9月には部を引退するつもりなのだ。

「サキちゃん。……ごめんね。……ありがとう。……アタシの方こそよろしくね」

 久しく失っていたはずの感情が胸に押し寄せ、言葉となって口から溢れだす。

 どこかで大きなファイトが決まったのか、遠くから拍手が聞こえてきた。このファイトに注目していた者など、ほとんどいないだろう。

 それでいい。

 このファイトは誰にも触れられることはない。姉にも秘密の、ふたりだけの思い出だ。

 響星学園1年、時任レイ。4回戦突破。

 響星学園2年、藤村サキ。4回戦敗退。

 

 

 それからもトーナメントは順調に進み、いよいよ準決勝。ベスト4が出揃った。

 そこには優勝候補の大本命である柊マナと、対抗の十村ヒカルはもちろん。天道ミサダと、時任レイも、大穴としてそこに名を連ねていた。

「ベスト4に1年生が3名。2年生が1名。大波乱と言っても差し支えのない大会になりましたね」

 観客席の隅、離れたところでひとりになって会場を見下ろしていたミコトに声をかけたのは、ミオだった。

「何か用?」

 ついさっきまで泣いていたのだろう。未だ赤く腫れた目で、ミコトはミオを睨みつけた。

「ごあいさつに」

「後にしてくれない? 今の私は機嫌が悪いの」

「それは見ればわかります。私にでも」

 だからと言って、放っておいてくれるつもりはないらしい。ミオはその場から離れようとはしなかった。

 ミコトは嘆息しながら、前の言葉に答えた。

「情けない話だわ。3年生の有力候補は、4回戦までに揃って脱落。威厳も何もあったもんじゃないわよ。特に後輩の反乱にあって負けた誰かさんはね」

「そうですね。私も敬愛していた先輩の弟さんに足をすくわれてしまいました。けど、この状況を少し嬉しく思っている自分もいます」

「はい?」

 ミコトが眉間に皺を寄せて、抗議の意を示す。

「私達より下の世代が、私達を越え。来年にはまた彼らを越えるさらに下の世代が現れる。

 こういうふうにして、ヴァンガードはいつまでもどこまでも続いていくのでしょう」

 その『さらに下の世代』とやらに心当たりがあるのか、確信めいた口調だった。

「2年前、このヴァンガード高校選手権であなたと出会ってから、私達はずっと凌ぎを削ってきました。

 ですが、もう高校生として、あなたと競い合うことはありません。この2年間、本当に楽しかったです。今までありがとうございました」

「私達からしたら、あなた達は邪魔者でしかなかったわ。大した実績も無いくせに、私達を相手にした時だけ、実力以上の力を発揮する。やりにくいったら、ありゃしなかった」

「それは失礼しました。これからプロになっても、よきライバル関係でいられることを願います」

「……あんた、まだ私がプロになれると思ってるの?」

「ならないんですか?」

 意外そうに、ミオが小首を傾げた。

 なんでこの少女は、人一倍鈍感なくせして、たまに人の急所を的確についてくるのだろう。

「なるわよ! なってやるわよ!! 高校選手権で結果を残せなかったくらいが何よ! プロになる道はいくらだってあるわ! 私のヴァンガードはここから始まるんだから!」

「はい。その意気です。今度は、私達がプロの世界に殴りこんで、新しい世代の力を見せつける番です」

 伝えたいことは伝えたとばかりに、ミオは踵を返して去っていこうとする。

「待って!!」

 ミコトはそれを思わず呼び止めてしまった。

「なんでしょう」

 ご丁寧に全身で振り返って、ミオが尋ねる。

「そ、その……一緒に残りのファイトを観戦しない? 私はまだ部員のところに戻りづらいし。けどひとりでいるのは寂しい……わけじゃないけど! ほら! なんとなくよ! 気が向いたから!」

「はい、喜んで」

 しどろもどろで支離滅裂な誘いにあっさりと答え、ミコトと肩が触れ合うくらいの距離にミオが腰を下ろす。

 いかにも低血圧そうなミオの肩はやっぱり冷たかったが、どんよりとしていた気分はいつのまにか晴れやかに温かくなっていた。

 

 

「準決勝の相手はマナちゃんかぁー。けど、ここまできたら、負けるつもりはないからね!」

「は、はい! お手柔らかにお願いします」

 レイとマナは半年ぶり、はじめて出会って以来の対戦となる。その時はレイの完敗だったが、今の彼女はあの時と違う。

 マナもそれを感じ取ったのか、彼女にしては幾分か真剣味を増した表情でレイを見据えた。

 そのマナの後ろ姿をじっと観察し続ける視線があった。

(柊マナ……ヴァンガード高校選手権における最大の障害。僕が毎週、天美学園に通っていた頃、彼女のネオネクタールとの勝率は約1割)

 十村ヒカルである。

(だが、直近20戦で言えば、16勝4敗と、2割近い勝率で勝てるようになってきている。だが、1回勝負のトーナメントで2割はあまりにも心許無い数字。

 そこで、僕はデッキを徹底的に柊マナ対策で固めた。このデッキなら、8割の確率で柊マナに勝つことができるはずだ。

 その分、他の対戦相手、特に神薙ミコトと音無ミオとの対戦が不安要素だったが、神薙ミコトは引きに恵まれて勝つことができ、音無ミオは勝手に脱落してくれた。

 もはや僕の勝利は揺るぎない状況だ。柊マナとの8割さえ制することができれば……)

「おい」

 ヒカルの思考を断ち切ったのは、正面の対戦相手からかけられた陽気な声だった。

「あんた、どこ見てんだよ。対戦相手は俺だぜ?」

 口調こそ明るいが、目は笑っていない。

「これは失礼。あなたなど眼中に無かったもので」

 ヒカルは正直に答える。

「ふーん。よくわかった。あんたムカツクやつだな」

 目の前の少年は、怒り狂うでもなく、口角を上げてみせた。

「姉貴が言ってたぜ。ヴァンガードで最も楽しい瞬間のひとつは、他人を舐めきった対戦相手にひと泡吹かせてやれる瞬間だってな」

(そう言えば、彼は音無ミオを破ったファイターか。たしか名前は天道ミサダと言った。天道……。そうか。彼は天道アリサの身内か)

 アリサが天海学園の清水セイジを破ったことはヒカルも知っている。セイジのアクアフォースに1勝もできなかったヒカルにとって、どんな奇跡を起こせばそれが実現できるのか想像もつかない。

「なるほど。あなたの警戒レベルを引き上げた方がよさそうだ。

 そして、知るがいい。僕を油断させておいたままの方が、まだ勝てる可能性があったということを……!!」

「勝てる可能性とかどうでもいいさ。俺はただ全力の相手とファイトを楽しみたいだけだ!」

 そこで準決勝開始の合図が鳴り、全員がファーストヴァンガードをめくる。

「「「「スタンドアップ ヴァンガード!!!!」」」」

「《菜の花の従士 キーラ》!」

「《プライモディアル・ドラコキッド》!」

「《鋼闘機 ブラックボーイ》!」

「《救装天機 レーシュ》!」

 

 

「手札を1枚捨てて、《時空竜 クロノスコマンド・ドラゴン》のスキル発動! 山札の上から5枚見て……《時空竜騎 ロストレジェンド》、《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》、《テキパキ・ワーカー》、《スチームブレス・ドラゴン》をスペリオルコール! 残りは山札の下へ……」

「5枚中、4枚がノーマルユニットですか……」

「それだけじゃないよ! アタシが捨てたのはこの子! 《スチームメイデン・リッブル》をスペリオルコールして1枚ドロー! 《テキパキ・ワーカー》のスキルでも1枚ドロー!

 バトルだよ! 《テキパキ・ワーカー》のブースト! クロノスコマンドで《リコリスの銃士 ヴェラ》にアタック!!」

「《花園の乙女 マイリス》でガード! シルヴィアでインターセプト! そのアタックは通りません」

「なら! ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー!! 効果はすべてミステリーフレアに!

 2枚目、★トリガー!! 効果はすべてロストレジェンドに!

 スチームブレスのブースト! ミステリーフレアでヴェラにアタック!!」

「ノーガード。ダメージチェック……2枚とも、トリガーはありません。これで5点目ですね」

「リッブルのブースト! ロストレジェンドでヴェラにアタック!!」

「2枚の《ダンガン・マロン》でガード! サウルでインターセプト!」

「アタシはこれでターンエンドだよ」

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 再びヴェラにライドして、フォースⅡを右側のリアガードサークルに」

 これでヴァンガードとリアガードサークルひとつにフォースⅡが置かれた。ダメージ3点のレイにとっては、嫌な布陣だ。

「まずは後列の《タンポポの銃士 ミルッカ》を前列に移動させます。

 ★トリガー2枚をデッキに戻し、リアガードのマイリスを退却させ、ヴェラのスキル発動します!

 山札の上から5枚を見て……《リコリスの銃士 サウル》と《牡丹の銃士 トゥーレ》をスペリオルコール!

 トゥーレを退却させてサウルのスキル! 山札の上から3見て……《月下美人の銃士 ダニエル》をスペリオルコールし、トリガー効果発動! ★はサウルへ。パワーはヴェラに与えて、前列リアガードにも波及させます!

 ダニエルを退却させて、トゥーレのスキルも発動! 《牡丹の銃士 マルティナ》と《紅団扇の銃士 ガストーネ》をスペリオルコールします! マルティナは永続効果でパワー+5000、★+1。ガストーネもパワー+10000です」

「ぐむむ……」

 あまりにも隙の無い展開に、レイは低い声で唸る。

「ミルッカとマルティナの位置を入れ替えて、バトルです!

 ガストーネのブースト。ヴェラでヴァンガードにアタックします」

「《スチームガード カシュテリア》で完全ガード!」

 常人なら数歩で足を取られそうな彼岸花の花園を、黒髪をなびかせた銃士が目にも止まらぬ速さで疾駆する。それを待ち受ける騎士竜の目の前に、未来から翔んできた少女が現れ、盾をかざして銃士の刀を受け止めた。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、トリガーはありません。

 2枚目、こちらもトリガーではありません。

 3枚目……★トリガー! パワーはヴェラ、そして前列リアガードに! ★はマルティナに!」

「レベッカのブースト! サウルでヴァンガードにアタックです!」

「……ノーガードだよ」

 カシュテリアがヴェラの刀を受け止めている隙を突いて、花園の中から飛び出した白髪の年若い銃士が騎士竜に奇襲をかける。騎士竜もすぐさま反応し剣を振るうが、白髪の銃士は軽やかなバックステップで間合いを離すと、すぐさま距離を詰め直して刀を突き出した。それは騎士竜の盾をすり抜け、喉元に吸いこまれるようにして突き刺さる。

『……見事』

 騎士竜は血を吐きながら、自らを討ち取った少年を称え、仰向けになって倒れた。

「…………」

「あ、ありがとうございました……。その……レイ、ちゃん?」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いた体制で、深く俯いたままのレイに、マナがおずおずと声をかける。

「あーーっ!! 負けちゃったーー!! ここまで来たら、やっぱり悔しいなあ!」

 バッと勢いよく顔をあげたレイの顔には、言葉とは裏腹に晴れやかな表情が浮かんでいた。

「けど、半年前よりはマナちゃんを追いついたよね? あの時は3点しか与えられなかったけど、今回は5点まで追い詰めたし!」

「は、はい……。これが本気になったレイちゃんの実力なんですね。……いや、私が勝ててしまったので、まだ70%くらいに力を抑えていたのでしょうけど」

「昔も今も全力だったからね!? あー! やっぱりマナちゃんは強いなぁ」

「いえ。私なんてまだまだです。ヒビキさんはおろか、アラシさんやセイジさんの足下にも及びませんから……」

「マナちゃんは理想が高すぎるんだよなぁ……。ネガティブなんだか、ストイックすぎるんだか」

 

 

(柊マナが勝利したか。まあ、順当でしょう)

 横目で隣席の様子を伺いながら、ヒカルは心中でひとりごちた。

「……また手元がお留守になってるぞ」

「ああ、失礼。あなたのファイトが退屈なものでして」

(とは言え……教本通りのプレイングはできている。1年前の僕となら、いいファイトができたかも知れないな)

 ミサダを挑発しながらも、ヒカルは対戦相手の力量を正確に分析した。

(だからこそ退屈だ。この程度のファイター、聖ローゼにはありふれていたよ!)

「ライド! 《神装天機 マルクトメレク》! プロテクトⅡを右後列に! さらにダメージを受けてもらう!」

 6枚の白き翼を広げ大都市に降臨した天機が、手にした銃をすぐさま掃射する。

「くっ!?」

 ダメージを1点に抑えていたミサダに、2点目のダメージが入る。トリガーも無し。

「《黒衣の解析 サラフィエル》をコール。ダメージ回復し、1ダメージを受ける。

 ダメージチェック、★トリガー。

 ★はヴァンガードに。パワーはサラフィエルに。

 これでカウンターコストが使えるようになった。《黒衣の薬針 ヤフキエル》をコール。CB(カウンターブラスト)1して、ダメージゾーンから《セクシオ・エンジェル》を手札に加え、1ダメージ。

 ダメージチェック、★トリガー。

 効果はすべてサラフィエルに。

《セクシオ・エンジェル》をプロテクトサークルにコールして、バトルだ。

 ヤフキエルでリアガードの《次元ロボ カイザード》にアタック」

「ノーガード……」

「ラメドのブースト。マルクトメレクでヴァンガードにアタック!」

「顕現せよ、治ガーディアン……! 《救極合体 エイドアンビュリオン》!! マルクトメレクの★-2!!」

 純白の巨大ロボットが、自らの巨体に匹敵する大盾を掲げ、天機の振るうメスを受け止める。

「無駄なことを……ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー!! ★はヴァンガードに」

 だが鋭いメスは盾の硬度をも上回り、盾をも容易く両断した。

「……っ。ダメージチェック。トリガー無し」

「セクシオのブースト! ★2、パワー72000のサラフィエルで、ヴァンガードにアタック!」

「……ノーガード。ダメージチェック。

 1枚目、(ドロー)トリガー。1枚引いて、パワーはヴァンガードに。

 2枚目、トリガー無し」

 早くも5点目のダメージがミサダのダメージゾーンに置かれ、ヒカルはいかにもつまらなそうな表情でターンエンドを宣言する。

 対するミサダも「ふっ」と、不敵に笑みを浮かべていた。

 

 

(ま、まずい! こいつ、言うだけあってメチャクチャ強い! マルクトメレクの起動効果すら使わず、4ダメージとかマジかよ!

 こっちは治ガーディアンまで使ったんだぞ!?)

 内心でミサダは非常に焦っていた。

(だ、大丈夫だ。落ちつけ。俺の懐にはユキさんがいる。そうだ。ユキさんならこの状況もなんとかしてくれるはずだ)

 ミサダは首からかけたロケットペンダントを握りしめた。

 そこには、かつてユキから誕生日プレゼントにもらった《大宇宙勇機 グランギャロップ》のSPカードを入れて、首から下げていた。

 このカードは、ユキが自分の誕生日を覚えてくれていたという証明だ。触れるだけで勇気が湧いてくる。

 とは言え、さすがのユキもこの状況を見たら、「うーん。ちょっと厳しいわねぇ」と苦笑するだろうが。

「ここまでは俺の計算通りだ。スタンド&ドロー……!!」

 それでもミサダは、最大限の虚勢を張りながらカードを引いた。

「ライド! 《黒装傑神 ブラドブラック》!!」

 大都市に夜が訪れ、紅に染まる月が昇る。何処かから蝙蝠が集まり、それは吸血鬼を模した巨大人型兵器へと姿を変えた。

 純白の天機と、漆黒の吸血機が互いに武器を構えて睨み合う。

「フォースⅠをヴァンガードサークルに……!

《星を喰う者 ズィール》のスキルも発動……! マルクトメレクのパワー-5000!

《次元ロボ ダイザウラス》と《プラチナム・エース》をコールして、ブラドブラックのスキル発動!

 前列のユニットすべてにパワー+10000!!」

 吸血機が腰の翼を広げ、赤く輝く燐光を撒き散らすと、その力を分け与えられた他のヒーロー達も真紅の輝きに包まれた。

「《次元ロボ ダイブレイブ》のスキルも発動! ブラドブラックにパワー+5000!

 これで終わらせる……!! バトルだ……!!

 ダイザウラスでヴァンガードにアタック!」

「ヤフキエル、サラフィエル。セクシオでもインターセプト」

「ブラドブラックでヴァンガードにアタック……!!

 アタック時にダイザウラスのスキル発動……! このカードをソウルに置き、ブラドのパワー+10000! ドライブ+1!」

「ノーガードです」

「トリプルドライブ……!!

 1枚目、トリガーでは無い。

 2枚目、こちらもトリガーでは無い。

 3枚目、引トリガー!! 1枚引いて、パワーはプラチナムに」

 ブラドブラックが断罪の大鎌を振り下ろす。マルクトメレクを象徴する6枚の翼のうち、1枚が斬り落とされて地面に落ちた。

「ダメージチェック。★トリガー。パワーはヴァンガードに」

「ブラドのスキル発動……!! デッキの上から7枚見て……《黒装傑神 ブラドブラック》を手札に加える。

 そして手札を2枚捨て、手札の《鋼闘機 シンバスター》にスペリオルライド……!!」

 ブラドブラックの姿が闇に溶け、そこから獅子の咆哮が夜の街に響き渡る。

 獅子を模した巨大人型兵器が、ブラドブラックの影から飛び出した。

「フォースⅠはダイザウラスのいた右前列のリアガードサークルに。

 そこに、シンバスターのスキルで《鋼闘機 ウルバスター》もスペリオルコール……!

 ウルバスターのスキルで、ラメドには退却してもらおう!」

 遠くから狼の遠吠えが聞こえてきたかと思うと、灰色の影がビルの谷間を駆け抜け、小型の天機に喰らいつくようにして、一撃で仕留めた。

 その狼を模した巨大人型兵器は、獅子の隣へと並び立つ。

「ウルバスターでヴァンガードにアタック……!」

「ラメドでガード」

「シンバスターでヴァンガードにアタック……!!」

「ノーガード」

「ドライブチェック……!

 引トリガー! 1枚引いて、パワーはプラチナムに……!」

 獅子と狼の連携攻撃が牙を剥き、マルクトメレクの翼を、もう1枚斬り落とす。

「ダメージチェック……トリガーはありませんよ」

 ダイブレイブのブースト! プラチナムでヴァンガードにアタック時、スキル発動! ヴァンガードのパワーが30000以上なので、パワー+10000、★+1! 合計パワーは、えーと……」

「《恋の守護者 ノキエル》で完全ガード」

「くっ! 完全ガードを持っていたか! ……じゃなくて、最後まで言わせろよ!

 と、とにかくターンエンドだ。

 すべて俺の手の内。次のターンで、確実にお前は死ぬ……!!」

「ターン開始時に『これで終わらせる』とか言ってませんでしたか?」

 適当に指摘しながら、ヒカルはカードを引く。

「マルクトメレクにライド。プロテクトⅡは左前列へ。マルクトメレクのスキルでダメージも回復」

 これでヒカルのダメージは3点に戻った。

「サラフィエルをコール。ダメージ回復し、1ダメージを受ける。トリガーは無し。

《パーシステンス・エンジェル》をコール。手札交換を行い、ドロップゾーンから《神装天機 シン・マルクトメレク》を山札の上に置く。

 そして、マルクトメレクのスキル発動!! ドロップゾーンからラメド2体と《アンプテイション・エンジェル》をスペリオルコール!! 前列のユニットにパワー+5000!!」

 マルクトメレクが自らの翼をもぎ取り、握り潰した。ひらひらと舞い散る羽根の1枚1枚が神の御業に匹敵する奇跡である。

「さらに1ダメージを受けるのですが……ダメージチェックで公開されたカードはシン・マルクトメレク!!

 シン・マルクトメレクのスキルで、手札を1枚捨てて、このユニットにスペリオルライド!!」

 マルクトメレクの落とした羽根は、天使達を蘇らせ、自らをも包み込んだ。

 自らを傷つけ、他者を救い続けた無私と慈悲の天機が、痛みの果てに新たなマルクトメレクへと(シン)化する。

 夜明けが訪れ、煌々と輝く黄金の太陽の輝きが、(シン)なるマルクトメレクの背後から差し込んだ。

「プロテクトⅡは左前列へ。

 さあ、バトルです!! あなたの手札には完全ガードが2枚あるが!!」

「な、何故、それを!?」

「さきほどドライブチェックで公開したばかりでしょう。

 とにかく、私の場にはラメドが2体、アンプテイションが1体。守護者封じの布陣は完成している!

 これで終わりだ!!

 ラメドのブースト!! シン・マルクトメレクでヴァンガードにアタック!! パワー35000で、ラメドのスキルも発動! このアタックは守護者でガードできない!」

 復活した6枚の翼を広げ、全身から蒼白い炎を噴き出して飛翔したマルクトメレクが、高々度から黄金の剣を振り下ろす。

「……それはどうかな?」

 常にふざけた調子の少年が、この時、はじめて本気で目を光らせたように、ヒカルは思えた。

「じゃじゃーん!! 《汚泥怪獣 ドロヘッド》でガード!!」

「……なん、だ、と?」

「カウンターコストを支払って、ドロヘッドのスキル発動!! このターン、あんたはブーストできなくなる!!

 これであんたの、もう1枚のラメドは封じた!!

 ……おっと、まだガード値が足りないな。《ジャスティス・コバルト》と《熱源怪獣 ジェネレーザ》でもガード!! 2枚貫通だ!!」

「……何だ、そのデッキは。……まとまりがなさすぎる。

 そう言えば、さっきからトリガーとブラドブラック以外で、同名カードを見ていない……まさか、そのデッキは」

「ああ! ブラドとトリガー以外はピン挿しのハイランダーデッキだ!」

 ミサダは胸を張って自分のデッキの中身を明かした。

「それに……何の意味が」

「え? だって、いろんなカードを引けた方が楽しいだろ? こうやってたまに意表を突くこともできるしな!」

「…………」

 ヒカルは空いた口が塞がらなかった。

 何故、こんなやつがベスト4まで勝ち残っている? そもそも、どうやって音無ミオに勝利した? いや、思い返してみれば、あの女のデッキもノーマルユニットを根絶者で縛っている異常なデッキだったか。

「……そんな考察は後だ!! 僕はまだ負けたわけではない!!

 ツインドライブ!!

 1枚目! ……2枚目!! ……どちらもトリガーは無しだ。

 ラメドは退却。

 ……アンプテイションでアタック。パワーは34000だ。このアタックも守護者ではガードできない」

「《次元ロボ ダイレーサー》と《次元ロボ ダイジャッカー》でガード!」

「……サラフィエルでアタック」

「《ダイヤモンド・エース》で完全ガード!! 捨てるカードも《ダイヤモンド・エース》だ!!」

「……ターンエンドだ。

 だが、これで勝ったと思うなよ? 僕のダメージはまだ3点だ!!

 その手札1枚で、何ができる!!」

「ああ! だが、俺はこのドローを信じるぜ!」

「あと、喋り方が素に戻っていますよ?」

「おっと! 拙者のターンでござる。スタンド&ドロー!!」

「そんな喋り方でもなかったですがね」

「……来てくれたか。それでこそだ!

 ライド!! 《黒装傑神 ブラドブラック》!!」

 世界に再び夜が訪れる。

 だが、マルクトメレクが呼び戻した夜明けは闇に落ちず、世界は太陽と月の狭間でせめぎ合う。

「フォースⅠはヴァンガードへ……!!

 そして、この1枚が……勝利という名のパズルを紐解くための、最後のピース!!

 コール……!! 《コマンダーローレル》……!!」

「!?」

 ブラドのスキル発動! 前列のパワー+10000!

 ダイブレイブのスキル発動! ブラドのパワー+5000!

 このターン。俺はブラドブラックにすべてのチップを賭けよう!!

《コマンダー・ローレル》のスキル発動……!! 俺のリアガード4枚すべてをレストし、ブラドのパワーを倍に! ★+1!

 ブラドでヴァンガードにアタック……!! 合計パワーは……96000!!!」

 ブラドブラックが紅の月に舞い、マルクトメレクが黄金の太陽に飛翔した。

 薙ぎ払われた大鎌と、振り下ろされた剣が交錯し、互いの頭部が激突しそうなぐらいに接近する。

「ノキエルで完全ガード!!」

「むっ? 完全ガードを手にしていたか。……面白い!

 ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し」

(柊マナの銃士対策に入れていた完全ガードが、こんなところで役に立つとは。だが……)

「ブラドのスキル発動……!! 山札の上から7枚を見て……俺は《銀河超獣 ズィール》を手札に加えよう……!!」

「銀河超獣……」

「手札を2枚捨てて、《銀河超獣 ズィール》にスペリオルライド……!!」

 ブラドブラックが鋭い爪の生えた掌でマルクトメレクの頭部を鷲掴みにすると、地面に引き倒した。

 その瞬間、ブラドブラックの全身が無数の蝙蝠となって散り、その中から双頭の怪獣が現れた。

「フォースⅠは右前列のリアガードサークルへ……!!」

 ズィールのスキルも発動……!!

 山札の上から1枚をスペリオルコール……! 俺がコールするのは……こいつだ!!

 我が分身……《黒装傑神 ブラドブラック》!!」

 蝙蝠が怪獣の隣に集まり、再びブラドブラックの姿を形作る。

「ズィールが生み出す地獄は終わらん……!! さらに、相手のサークルにあるマーカー1枚につき、シン・マルクトメレクのパワーを-5000する……!!」

 マルクトメレクを地面に押さえつけた体勢のまま、ズィールは全身のクリスタルから1兆度の熱光線を無数に撃ち出した。

 世界が、朝も昼も夜も無い。ただの地獄へと落ちていく。

「これで、シン・マルクトメレクのパワーは-3000までダウンした。

 チェック・メイトだ!!

 パワー43000のズィールで、ヴァンガードにアタック」

「そのアタックでは、どうしたって決まりませんがねぇ! ノーガードです!!」

「ドライブチェック! ……★トリガー!! ★はズィール!! パワーはブラドに!!」

 ズィールがマルクトメレクを抱え上げ、至近距離から熱光線を浴びせた。

 曇り無き純白の装甲が、熱に溶かされ、醜く歪んでゆく。

「ダメージチェック……。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し……」

「これでフィナーレだ!!

 挺身の天使に鎮魂曲(レクイエム)を捧げよ、ブラドブラック!!

 パワー43000で、ヴァンガードにアタック!!」

 ミサダは片目を隠しながら、大仰に手を突き出しながら宣言した。

「……ノーガード」

 マルクトメレクはズィールを蹴り飛ばし、拘束から脱出すると、地獄の焦熱が届かない上空へと退避する。

 そこに死神が待ち受けていた。

 漆黒の影が振り下ろす大鎌を首筋に受け、マルクトメレクの視界は永遠の(やみ)に閉ざされた。

「ダメージチェック……僕の負け、ですね」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置き、ヒカルが淡々と言う。

 ミサダは固く握りしめた拳を高々と突き上げた。

「この勝利を我が愛する人、白河ミユキに捧げる……」

 そんなもの捧げられても、ユキは困るだろうが。

「くっ……ふっ、ふははははは!!」

 ヒカルはダメージゾーンにカードを置いた体制のまま。ミサダは拳を突き上げたまま。しばらく動かなかった両者だったが、ジャッジがそろそろ移動を促すため声をかけようとしたところで、ヒカルが顔を片手で覆い、狂ったように笑いだした。

「ああ! 楽しいファイトだったな!」

 何を勘違いしたのか、ミサダがヒカルに手を差し出す。

「ははははっ! 楽しいものか! けど、笑うしかないでしょう、こんなの!

 すべてに背を向けて、どれだけ強くなったつもりでいても、この程度の奇策に翻弄されるほどの、うわべだけの実力しか身についていなかったというわけだ、僕は!! なんて滑稽な道化者だ!!

 ははははははっ! 笑えよ! 笑え! 笑ってくれ……」

「……よくわかんねぇけど。それだけはできねえよ。あんたは強かった。

 対戦相手と笑いはしても、嗤いだなんてしたらユキさんに嫌われちまう。姉貴にも、殺されるだろうな……」

「……好きにするといいでしょう。それが勝者の特権です。ですが、貴方の名前は覚えましたよ、天道ミサダ!!

 来年のヴァンガード高校選手権には、必ず出場しろ!! その時には、貴様にも地獄を見せてやる!!」

 それだけ言い捨てると、危なっかしく立ち上がり、ふらふらと聖ローゼでもなく、天海でもない、何処かへと去って行く。

「ああ、またファイトしようぜ。その時は、あんたと仲良くなりたいな」

 その寄る辺無き亡霊のような後ろ姿に、ミサダは届かないと分かりきった声をかけた。

 そして、気持ちを切り替えるかのように、掌で頬をパンッと叩く。

「よっし! 残すはあと1戦! ここまで来たら、優勝だ!!」

 

 

 ――そして、決勝戦

「え? 待って? この子、強すぎない? ちょっ、ちょっとタンマ!! ぎゃあああああああっ!!!」

 決勝戦とは思えないくらいにあっさりと、6ターン目にマナが2枚の★を引き当てて優勝を決めた。

 

 

「終わっちゃいましたね……」

 高校選手権の帰り道。サキが黒い風景に白い吐息を溶かしながら感慨深く呟いた。

「そうだねー。まあ、優勝した感想を求められたマナちゃんの『え、これドッキリですか?』は、高校選手権史に迷言として記録されるだろうけどねー……」

 部員の中で最も好成績だったためか、声に疲れは見られるものの、機嫌よさそうにレイが答えた。

「ずいぶんと遅くなってしまいましたね。早く帰りましょう」

 ミオが部長らしく、早足になって部員を先導する。

 もうすっかり夜も更けて、冬らしい透明な空には無数の星が瞬いていた。

「はーい……ん? あれ?」

 レイがそれに答えながら、何とはなしに北の方角を向いた時。

「……痛っ」

 小さく悲鳴をあげて、右手の甲を押さえながら膝をついた。

「レイちゃん!?」

 サキが慌ててレイに駆け寄り、ミオもそれに続こうとしたが、その前にレイが何かに気付いていたことを思い出し、その方角へと振り向いた。

「……何ですか、あれは?」

 ミオは天体に関しては詳しくない。だが、さすがに北を向けば北極星があることくらいは知っている。しかし、北極星の傍でそれに喰らいつくように存在を主張する、禍々しいほどに赤く輝く星があることなど知らなかった。

 いや、そんな星などあるはずが無かった。

「……っ」

 ミオも右手の甲に痛みを感じて、小さく声をあげる。サキに気付かれないように、そっと手の甲を確認すると、輪っかを3つ重ねて花を模したようなリンクジョーカーの紋章が、仄かに光を放ちながら浮かびあがっていた。

 レイが言うには、これは自分が憑依者(ディフライダー)などという存在であることを示す証らしいが。

 咄嗟にレイに目配せすると、レイは人差し指を立てて口元に持っていった。黙っていろ、ということらしい。少なくとも、サキの前では。

「だ、大丈夫だよ! 木の枝に引っ掛けちゃったみたい!」

 レイがすっくと立ち上がり、手の甲を押さえながらも大丈夫だとアピールする。

「そう……何ともないならよかったけど。もう暗いんだから、気をつけてね」

「はーい!」

 レイが快活な声をあげ、何事も無かったかのように先頭を歩き出す。

 ミオもそれに続いたが。

「…………」

 極点に輝く赤い星がどうしても気になって、なかなか目を離すことができなかった。




ディメンジョンポリス使いの恋する少年。あやつの弟。天道ミサダが正式に登場です!
この子は難産でした。
キャラが決まったのは、11月28日。公開日の3日前です。
はじめは厨二病なだけのキャラだったのですが、それだと原作にもいるよなぁというわけで。色々と案が浮かんではしっくりこなくて考え直しを繰り返し。
最終的には、小学生くらいの男の子がユキみたいな完璧少女に出会ったら恋に落ちるに違い無い!
という理論を展開して、こんなキャラクターになりました。
そう言えば、アリサがキャラが定まるのも公開3日前くらいでした。
なんだこの難産姉弟。

そして、これまで目立ったファイトの無かったエンジェルフェザー使いのガチ勢、十村ヒカルも実質的な初陣です。

今回は、高校選手権をベースに、このふたりにスポットを当てて書かせて頂きました。

時期的に他の登場人物のエピローグも兼ねているので、過去最長の長さとなってしまいました(高校選手権はいつも長くなる!)
ここまでお付き合い頂いた読者の皆様に感謝を。

次回は『覚醒する天輪』のえくすとらで、またお会いしましょう。


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1月「悪いことは重なるものだ」

 常に濃い瘴気と深い闇に覆われた死の大地、ダークゾーン。

 その一角に、暗黒の世界には不釣り合いな、鮮やかな色に彩られた、ドラゴンすらすっぽり収まりそうなほど巨大なテントが屹立していた。

 テントの入り口では、道化のメイクを施した小鬼がジャグリングをしながら呼び込みを行っており、恰幅のいい支配人が自らカラフルなチラシを配っている。そして、ひとたびテントをくぐると、そこには夢のような世界が広がっていた。

「ペイルムーン・サーカスへようこそ! 一夜限りの驚きと興奮を、どうぞお楽しみください!」

 バニーの衣装を着たバニーの獣人(ややこしい)がショーの開幕を告げると、マンティコアやヒポグリフと言った名だたる怪物達がコミカルな仕草で玉乗りをして観客を沸かせ、ドラゴンさえも花火のような炎を吐いて、それを彩る。美貌のビーストテイマーがひとたび鞭を鳴らすと、グリフォンが火の輪をくぐり、満員のテントは大喝采に包まれた。

 ここは、暴力と策謀が渦巻くダークゾーンにおいて、唯一笑顔が溢れる場所。ペイルムーン・サーカス団の本拠地である。このテントが現れた地域では、決まって要人が不審な死を遂げると言うが、その程度はダークゾーンにおいて些末な問題にすぎない。

 そんな巨大なテントと繋がるようにして、団員の控室を兼ねた小さなテントがある。見た目は人が数人入れば満員になってしまうようなテントだが、魔力で中身が拡張されており、サーカス団の全団員を収容することが可能である。そのさらに地下には、サーカス団の要人が待機する部屋があり、そこに足を踏み入れることを許されるのは、その要人に招待されたものか、ある密約を結ぶために莫大な金額を支払った者だけである。

 地下へと続く階段を下る、サーカス団に所属する男は前者だったが、華やかだった外観とは裏腹に、ひたすら殺風景な石造りの壁が続く階段に、早くも嫌気がさしていた。狭い通路に自分の足音ばかりが不気味に響き、さらに陰鬱な気分にさせてくれる。男は派手好きで、だからこそペイルムーン・サーカス団に入団したのだ。こんなカビ臭い階段を延々と歩き続けるためではない。

 下りではあるが、まるで処刑台へと続く階段を上っているかのようだった。

 降って涌いてきた想像に、自嘲するように笑う。あながち間違いでは無い。これから男が会おうとしている要人は、このペイルムーンにおいて。いや、裏の世界でもっとも有名な女性だった。けっして狭量な人物では無いが、ひとたび機嫌を損ねれば、自分の首など気付かぬうちに刎ね飛ばされるだろう。

 悪い方向へと傾いていく想像に身震いすると、しばし立ち止まって、身なりを確認する。問題無し。たぶん失礼は無いはずだ。

 もうしばらく階段を下りると、巨大な扉が男を出迎えた。ダークゾーンという立地もあり、サーカス団の本部というより、魔王の居城を連想させる。

「入れ」

 男が扉をノックするよりも早く、横柄だが気品のある声が奥から聞こえてきた。たった一言にも関わらず、人を力づくで魅了してしまうような蠱惑的な声音だった。

 声に聞き惚れていた男がぼーっとしていると、中から扉が開かれた。床には赤い絨毯が一直線に敷かれており、その先にある玉座で、長い黒髪の女性が、まさしく女王の如く尊大に腰かけていた。

「どうした? 早く来い」

 座したまま、女が再び声をあげる。続いて、扉を開けてくれたのであろう、入口に控えていた小柄な竜が「早く行け」と促すように低く唸った。

「あ、ああ……! 悪い」

 男はようやく我に返ると、番竜に軽く礼を述べ、「失礼します!」と部屋に足を踏み入れた。近づくにつれて、壁にかけられた松明の光に照らされた女性の姿が鮮明に浮かび上がる。ぴったりとした黒革のパンツが、脚から尻にかけて引き締まっていながらも肉感的なラインを浮かびあがらせ、そこから繋がる露出した腰は、一切の脂肪を感じさせないほど細かった。そのくせ、パンツと同じ材質の黒革で覆っただけの胸は豊満に飛び出ており、世の男性を虜にしてしまうであろう絶世のプロポーションが、そこにはあった。

 そしてまた、その美貌も奇跡の賜物。薄暗い闇の中でくっきりと見えるほど艶のある長い黒髪に、しっとりとした唇。ピンと尖った耳はエルフの象徴であり、それがまた、人には無いフェティシズムを感じさせる。黒曜石のような左目と、モノクルの奥にある紅玉のような右目からなるオッドアイは、彼女をよりミステリアスに際立たせていた。

「ただいま参りました、ルキエ様」

 男が女性に自然と頭を垂れる。これほど完璧な女を前にして、そうならない男など、滅多にいない。

「畏まらなくていい。お前は私の従僕ではない。であるならば、我々は同じペイルムーンの団員であり、立場も対等のはずだ。違うか?」

 ルキエと呼ばれた女性が、潤いのある唇を開いて寛容に言った。その割には尊大な口調だが。

「は……」

 そんなことを考えていたのだろう男が、曖昧に頷く。

「お前をわざわざここまで呼び立てたのは他でもない。暗殺の依頼だ」

 暗殺。

 それこそがペイルムーンサーカス団における裏の仕事だった。彼女らが『悪夢のサーカス団』と畏れられる所以となっている。

 だが、それを聞いた男は狼狽したように首を振った。

「……オレに暗殺が向いているとは思えませんが」

 男はペイルムーンにおける表向きの仕事。要するにサーカスに憧れて、ペイルムーンに入団した。腕っぷしには自信があるため、かつて黒輪を操る侵略者が飛来してきた時などは武器を取って戦ったが、裏の仕事に手をつけたことは一度も無い。自慢の図体も、隠密行動が要求される暗殺となっては宝の持ち腐れだ。

「知っている。だが、今回の仕事はお前こそが適任なのだ」

 そう言いながら、ルキエは形のいい足を組み直した。その拍子に豊かな胸もたぷんと揺れる。

 そんな何気ない仕草のひとつひとつが、男の煩悩をいちいち刺激する。平時なら眼福だが、真剣な話をしている時は気が散って仕方がない。彼女はそれを無意識に行っているだけなのか、わざと見せつけてからかっているのか、それすらも彼女を覆う微笑の仮面からは判断がつかなかった。

「話が見えませんが」

「そうだな。順番に説明しよう。まず、お前は地球という惑星に住む人間のひとりにディフライドしてもらう」

「ディフライド……?」

 その言葉は聞いたことがあった。たしか自分達が住む惑星クレイと表裏一体の関係にある、地球とかいう惑星に住む人間に、魂だけを憑依させる技術だったか。

「見た目の割に博識だな。話が早くて助かる。そのディフライドとやらは、地球に己と深い繋がりを持つ人間がいなくてはできないらしい。お前と繋がりを持った人間ならすぐに見つかったとメサイアから報告があってな」

(メサイア? 何故、そこで奴等が出てくる?)

 たしかディフライドはメサイアの持つ技術だったと聞いたことがある。今回の仕事にディフライドが必要なら、名前が出てくることに違和感は無いが、奴等は秩序を重んじる面白味の無い集団である。暗殺に手を貸してくれることなど、本来ならばありえないだろう。

(となると、今回の仕事自体が、何か巨大な秩序を守ることに繋がっている……?)

 そこまで予測して、男は怜悧に目を細めた。

 それを見てとったルキエも、ふっと頼もしそうに笑みを浮かべる。

「話を続けるぞ。ディフライドして地球に降り立った後は、このふたりを始末してもらいたい」

 ヒュッと空を切る音と共に、ルキエが腕を振る。ダーツを投げたのだと男が気付いたのは、壁に貼ってあるコルクボードに2本のダーツが突き刺さっているのを確認してからで、そのコルクボードには2枚の写真が貼ってあった。

「女の子……?」

 その写真には、それぞれ10代前半と思しき白髪の少女が映っていた。ふたりは瓜二つで、片方が髪を二つ括りにしているのでどうにか見分けがつくが、片方も同じ髪型にするか、片方が髪をおろせば、もう区別はできなくなるだろう。男は人間の顔を覚えるのが苦手だった。

 いや、そんなことよりも。

 男から目を離すことなく投擲されたにも関わらず、ダーツは正確に少女の眉間を貫いていた。それを見て、男が唸るように声をあげる。

「こんな小さなガキを殺せ、と?」

 ペイルムーンは暗殺組織だが、ダークゾーンという地域の性質上、始末するのは後ろ暗い者が大半だった(依頼してくるのも後ろ暗い者が大半だが)。何の罪も無い子どもを殺すなどという話は聞いたことがない。サーカスの本懐は子どもを笑顔にすることなのだから。

「どうした? 年端もいかぬ子どもは殺せないか?」

 ルキエが試すように、漆黒の瞳と、深紅の瞳、二色の眼を揃えて男に向ける。

「…………いえ」

 男は項垂れながら言った。

 自分は表の存在だ。裏のことなど、本当は何もわかっていなかったに違いない。ダークゾーンで生き残るには、綺麗事が通じないことなどままある。裏がこれまで手を汚してくれていたからこそ、表の自分はこれまでのうのうと生きてこられたのだ。それに報いるには、自らも手を汚すしか無いではないか。

「……ふっ。相変わらず義理堅いな」

 ルキエが表情を和らげ、再び笑みを浮かべた。

「だが、安心しろ。この少女の命脈を断てと言っているわけではない。この少女の中に潜む侵略者の魂を始末して欲しいのだ」

「……は?」

「それにはある遊戯の力を借りる必要がある。

 お前に改めて命じよう。

 この少女達。音無(おとなし)ミオ、時任(ときとう)レイの両名をヴァンガードで抹殺せよ」

 今も上で行われているサーカスの喧噪をかき消すように、ダークゾーンの空に雷鳴が鳴り響いた。

 

 

「これでトドメだよ、お姉ちゃん! 《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》で《絆の根絶者 グレイヲン》にアタック!!」

 大仰に手を突き出し、時任レイが宣言する。

「ノーガードです……私の負けですね」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置きながら、音無ミオはいつも通り無表情ながらも、少し憮然とした声音で告げた。

「やったぁ! はじめてお姉ちゃんに連勝できた!」

 ミオからふたつの勝ち星をあげたレイは、姉とは対照的に全身で喜びを表現する。

「レイさんもだいぶ強くなりましたね。特に先月の高校選手権からは見違えるほどです……」

「ふふん! 春休みにはマナちゃんが遊びにくるからね。もっともっと強くなって、今度はマナちゃんをびっくりさせるんだ!」

「それとも、空にあの赤い星が現れてから、と言い換えた方がいいでしょうか」

 ミオが声のトーンを僅かに落として、子どもを注意する大人のようにまっすぐとレイの瞳を見つめた。

「……そう言えば、珍しいよね。お姉ちゃんが、家に招いてくれるなんてさ」

 レイは姉の視線から目を逸らしながら、話も逸らすように言った。

 今、ふたりがいるのはミオの家であり、驚くほどに何も無い彼女の私室である。白いカーテンが開け放たれた窓からは、ヴァンガード高校選手権の夜に見た赤い星が、まだ昼時にも関わらず、当時よりも大きく鮮明に黒々と輝いていた。

 突如として全国で観測されたその星は、テレビやインターネット上で、今も大きな話題の種となっている。

 巨大隕石説から、他国の衛星兵器説。生物の集合体ではないかという荒唐無稽な説も見られた。

 唯一分かっていることは、現代の技術をもってしてもすぐには観測できないほど遠くに存在し、それにも関わらず肉眼で確認できていることから、途方も無く巨大な存在であるということだけである。

「サキさんや、他の人の耳が無い方が、話しやすそうな話題だと思ったので」

「お姉ちゃんも直感……というよりは、本能で、あれの重要性が認識できてるみたいだね。いいよ、教えてあげる。もとより隠すつもりもなかったし。あれから期末テストやら、年末年始やらで、お姉ちゃんとゆっくり話す機会も無かったもんね。人間も大変だ」

 レイは言いながら肩をすくめ、ミオに向き直った。

「あの星は、アタシ達、根絶者の生まれ故郷にして、根絶者そのもの。

 その名は……遊星ブラント」

「遊星、ブラント……」

 その名を聞いた瞬間、ミオの心にぎゅっと掴まれる感覚があった。

 郷愁とでも言うのか。行動範囲の狭いミオにとっては、特に縁の無い感情だったが、とにかくむしょうに「懐かしい」「帰りたい」「遭いたい」と思った。

「と言っても、アタシの知ってるブラントはメサイアに浄化されちゃったから。あの星は、メサイアの魔の手から逃れた根絶者の残党が寄り集まって作り上げた、新しいブラントみたいだね。それでも、当時と同じくらいの大きさに育ってる。みんな、頑張ったんだねー」

 レイがテーブルに置かれたままになっている根絶者のカードを見渡しながら、うんうんと頷いた。

「なるほど。では、もうひとつの質問ですが、あれの危険性は? 地球に害を与える可能性はありませんか?」

「あはは! ないない!」

 真剣な声音で詰問するミオを、レイは手を振って笑い飛ばした。

「たしかに根絶者は本能的に存在を消去しようとする、人間にとっては危険な存在だけど、ブラントからしてみれば地球なんて砂粒みたいなものだからねー。こっちからは観測できても、ブラント側はまだ気付いてすらいないと思うよ。よっぽど運悪く、ブラントの移動ルートに地球がカチ合うか、何かブラント側が地球に気付くきっかけでも無い限りは大丈夫。同じ地球が滅びるなら、巨大隕石が偶然地球に落下する方が、まだ可能性高いんじゃないかな。

 今は距離が近くなってるようだけど、いずれ通り過ぎて行く思うよー」

「……それならいいのですが」

 それでも心臓の高鳴りは未だに止まず、焦燥にも似た郷愁はミオの心の中で蠢いていた。

 

 

 はじめてのファイトと言うのは、誰しもがドキドキするものである。だが時に、心無い人物の手によって、その思い出が汚されてしまうこともある。

「《ドラゴニック・ブレードマスター》でヴァンガードにアタックだ!!」

「うう……ノーガード、ですっ」

 小さな手にデッキケースを抱えてカードショップ『ハングドマン』にやってきた、まだ伸びきっていない黒髪を二つ括りにしている、小学校高学年と思しき女の子のデッキに、中学生男子のデッキが襲い掛かる。

「とどめだ! 《ワイバーンストライク ギャラン》のブースト! 《ワイバーンストライク ドーハ》でヴァンガードにアタック!!」

「ダメージチェック……負けました」

 女の子がおぼつかない手つきで山札の上からカードをめくり、6枚目のカードをダメージゾーンに置いた。だが、その指が小刻みに震えているのは、ゲームに慣れていないことだけが理由では無いだろう。

「これで5連勝! お話にならないなぁ!」

 対戦相手だった少年が、女の子を嘲るように笑う。

「オレ達は次の大会の練習で忙しいんだ!」

「この程度のレベルのファイターとファイトしてる暇なんてないんだよ!」

「これに懲りたら、二度と『ハングドマン』に出入りすんなよな!」

「そうだそうだ!」

 対戦相手の少年よりわずかに年下らしい、取り巻きの少年達が口々に女の子を罵る。

「……ごめん、なさい」

 少女が消え入りそうな声で謝りながら、デッキを片付けようとする。

「…………うっ?」

 すると突然、女の子が小さな悲鳴をあげてカードを取り落とし、深く俯いた。

「おっ、おい!」

 それに気付いた取り巻きの一人がうわずった声をあげる。

 はじめはついに泣き出したのかと思ったが、どうやら女の子は気絶しているようだった。

「……どうする?」

「気味悪いな。他の店に行こうぜ……」

 ファイトしていた少年が立ち上がり、取り巻きを引き連れて店から出ようとした、その時。

「おい、待てよ!」

 その背に、女の子から怒声を浴びせられた。

 少年が慌てて振り向くと、いつの間にか起き上がった少女が、手慣れた手つきでデッキをシャッフルしている。

「さっきから聞いてりゃ、よくもオレの宿主様に好き勝手なこと言ってくれたなぁ!」

 その声は、先ほどまで対戦していた女の子とまったく同じものだった。しかし口調がまったく違う。あたかも別の魂がとり憑いたかのように。

「オレは子どもは大好きだが、生意気なガキにはお仕置きしてやらんとな。もう一度かかってこいガキども。お前らに蹂躙される恐怖というものを刻み込んでやる」

「な、なんだよ、お前は……」

 少年が怯えたように誰何する。

「オレか? オレは《祝砲竜 エンド・オブ・ステージ》!!

 ショーの終焉を彩る、滅びの大筒だ」

 名乗りをあげた女の子がかざした右手の甲には、ペイルムーンの紋章が紫色に輝いていた。

「さあこい。お前ら全員、花火に変えて散らしてやんよ」

「ひ……ぎゃああああああああああっ!!!」

 その後、少年達の悲鳴がファイトスペースに響き渡り、彼らが『ハングドマン』に出入りすることはなくなったと言う。

 

 

 誰もいなくなった『ハングドマン』のファイトスペースで、エンド・オブ・ステージと名乗った女の子は悠々とファイトテーブルにカードを並べ直していた。

『あ、あの……助けてくれて、ありがとう』

 その女の子に、女の子の声が礼を告げる。しかし、この場から見渡せる範囲にその女の子以外の人影は無い。それもそのはず、その声は女の子の頭の中に、直接聞こえていたからだ。

「なあに。性根の腐ったガキにお灸を据えるのも、大人の義務ってやつだ。それに、あんたはオレの大切な宿主様だしな」

『その……宿主って?』

「あァ? ……うーむ。本当のところ、オレもよくわかっていないんだが。オレはあんた達の言葉で言う、惑星クレイのユニットってやつだ。

 さっきもガキどもに名乗ったが、オレの名は《祝砲竜 エンド・オブ・ステージ》。あんたがデッキに入れてくれている、このカードだな」

 女の子が細い指で、テーブルに並べてあるカードから、カラフルなタッチで描かれたドラゴンのカードを指し示す。

「そこまではオーケー?」

『う、うん。惑星クレイのユニット……ほんとにいたんだ』

 まだまだ夢見がちなお年頃なのか、女の子はそれを素直に受け入れた。

「オレはさる高貴な女性から密命を受け、この地球で仕事せなけりゃならなくなった。だが、地球人の魂が惑星クレイでは長く存在できないように、オレ達の魂も地球上では生きられない。だからオレ達も人間にディフライドする必要がある。それに選ばれたのが、あんたってわけだ」

『な、なんであたしなの?』

「オレ達がディフライドする地球人は、誰でもいいってわけじゃない。ディフライドされるユニットと深い繋がりを持った地球人でなければならないらしい。

 つまり、あんたがオレを大切に使ってくれていたおかげで、オレはあんたにディフライドすることができたってわけだ!」

 そう言って、エンド・オブ・ステージが歯を見せて笑った。残念ながら、それは女の子には見えなかったが。女の子には、エンド・オブ・ステージと同じ視界しか共有されていないのだ。

『……うん。あたしはエンド・オブ・ステージが使いたくて、ヴァンガードをはじめたんだ。

 ヴァンガードのドラゴンって、どこか怖くって。けど、この子だけは、愛嬌があって……その、こんなこと言うと怒るかもだけど、かわいいなって思ったの』

「かわいい?」

 エンド・オブ・ステージの、声のトーンが一段階下がる。

「はっ! そりゃあ、オレ達にとっちゃ最高の褒め言葉だ! 怖がられるだけじゃ、サーカス団は務まらねぇよ」

 かと思うと豪快に笑い飛ばした。

『そ、そうなんだ。よかった……』

「……しっかしまあ、なんだ。さっきのガキどもじゃねえが、あえてはっきり言わせてもらうぞ?」

『……?』

「ひどいデッキだな、こりゃあ。コンセプトはバラバラ。グレードのバランスもなってない。これじゃ勝てないのも無理ねーわ」

『う……ごめんなさい。デッキを組むのってはじめてで、どんなカードを入れていいかわかんなかったの』

「ははあ。さては、好きなイラストのカードを上から順に入れてっただけだな。

 なーに、気にすんな。オレ様が直々にデッキを組み直してやろう。お前はそれを見て、デッキの組み方を覚えればいい」

『あ、ありがとう!』

 かく言うエンド・オブ・ステージもヴァンガードは初心者なはずだが、ディフライダーは本能的にヴァンガードのルールを理解することができた。

「まずG1が少なすぎだな。替えのカードは……おっ! ちゃんと持って来てんじゃん」

 エンド・オブ・ステージが布製の可愛らしいカバンを勝手にごそごそして、小さめのストレージボックスを取り出す。

『ちょ、ちょっと……』

「ブーストできるG1が少ないと肝心な時に火力が出せないし、10000ガードはガード値の調整に役に立つ。この枚数だとライド事故すら多いだろ?」

 女の子の控えめな非難を無視して、エンド・オブ・ステージはテキパキとカードを入れ替えていく。

「その分、G2は減らして……と。ああ、この《フェスブライト・エスケイパー》はオレと相性が抜群なので、入れておいた方がいい。

 トリガーも……おいおい、(フロント)はいらねーだろ? オレがアタックするのは最後だぞ?

 G3は……悪くないな。この組み合わせは、自分で考えたのか?」

「う、うん」

「ふぅん。やっぱ素質あるぜ、お前」

『さっきまで酷評されてたんだけど……』

「だけど、枚数が足りないな。オレは2枚しか無いのか?」

『う、うん……それだけしか持ってなくて』

「まあ、ガキにとっちゃカードも高い買い物だしな。気にすんな! そこは運とノリと腕でカバーする!」

 そして完成したカードの束、デッキをシャッフルし、ドンと自慢げにテーブルへと置く。

「ふぅん。仕事の前に、新しいデッキの試運転がしたいな。どこかにいい獲物は……い・な・い・か・な、と」

 言いながら視線を彷徨わせた時、ちょうどいいタイミングでひとりの少年がファイトスペースに顔を覗かせた。

 高校生くらいだろうか。細身に見えてがっしりとして体つきはスポーツマンらしく、カードゲームとは縁遠そうに見える。ツンツンに尖った髪は白……というよりは、脱色に失敗して白く見えるようになった金髪で、そんな目立つ頭を左右に巡らせて「へえー。こんなところにもカードショップがあったのかぁ」と独り言を呟いている。

「くっくっく。見るからにアホ面が迷い込んできやがったぜ。カモがデッキしょって何とやらってやつだな」

『ちょ、ちょっと……。失礼だよ……』

「おい、そこの兄ちゃん! よかったらオレとファイトしていかないか!?」

 ツンツン頭の少年は、小さな女の子に急に声をかけられ、一瞬だけ面食らったように目を見開いたが、すぐに気のよさそうな笑顔を浮かべると、エンド・オブ・ステージの対面に腰かけた。

「いいぜ! 誰が相手だろうと、俺は売られたケンカは買うと決めてんだ」

「いい返事だ。気に入った! アンタ、名前は?」

「俺か? 俺は鬼塚(おにづか)オウガだ。よろしくな!」

「オウガか。いい名前だ。オレの名は《祝砲竜 エンド・オ……」

『遠藤モモカ! それがあたしの名前! それで名乗って!』

 本名を名乗りかけたエンド・オブ・ステージを、女の子が心の中で慌てて制する。

「……ちっ。オレの名は遠藤モモカ、だそうだ」

「だそうだ? それに、さっきは祝砲竜とかなんとか……」

 オウガと名乗った少年が、意外と細かいことを言う。

「気にすんな! さあ、はじめようぜ!」

「おう!」

 それでも、エンド・オブ・ステージがファーストヴァンガードをデッキから取り出すと、オウガもあっさりとノせられ、自らのデッキを取り出した。

「いくぜ! スタンドアップ!」

「ヴァンガード!」

「《ハピネス・コレクター》!」

「《メカ・トレーナー》!」

 

 

「ライド!! 《祝砲竜 エンド・オブ・ステージ》!!」

 ライトがフラッシュすると、火薬の弾ける音と共に紙吹雪が視界を埋め尽くすように舞い散る。そんな派手な演出を経て舞台の幕が上がると、そこには背中に巨大な砲を背負った、ビビッドなカラーリングの赤いドラゴンがいた。ドラゴンは長い首を大砲に巻きつけると、爆音の咆哮でテントを震わせる。

「グレード3からライドした時、オレ……エンド・オブ・ステージはソウルをすべてソウルブラストすることで、パワー+5000され、このアタックは守護者でガードされなくなる!!」

「ぐっ……こいつはまずいぜ!」

 エンド・オブ・ステージが脅すように言うと、オウガもどこか大袈裟に驚いて見せる。

「いくぜ! エンド・オブ・ステージでヴァンガードにアタック!!」

 ドラゴンが背中の砲を観客席で腕組みをして座る白髪のオーガ、ライジング・ノヴァに向ける。

「発射ァ!!!」

 合図と共に、大砲からその砲身に見合った巨大な弾が打ち出された!

「ノーガード!!」

「ツインドライブ!!

 1枚目……ゲット! (ヒール)トリガー! これでオレのダメージは3点に回復! パワーはエンド・オブ・ステージに!

 2枚目……ゲット! (クリティカル)トリガー! この効果もすべてエンド・オブ・ステージに!!」

 放たれた砲弾はライジング・ノヴァの顔面に直撃すると、花火のように色とりどりの炎をあげて大爆発を起こした。見た目こそ鮮やかだが、威力は大砲相応である。その爆風で観客席も吹き飛んだが、ライジング・ノヴァは首を僅かに仰け反らせただけで、微動だにしていない。その鋼の肉体が盾になったのか、彼の席だけは無事なようだ。

「これで俺のダメージは5点だな……」

 オウガが焦りを滲ませながらダメージゾーンにカードを置いていく。

「くっ! ダメージトリガーは無いぜ!」

「おっと! オレのターンは、まだ終わっちゃあいないぞ!!

 エンド・オブ・ステージのスキル発動!! リアガードすべてと手札2枚をソウルに置き、スタンドする!!」

 どこからかアンコールの声が鳴り響き、大砲の反動でひっくり返っていたドラゴンが再び起き上がる。

「さらに《フェスブライト・エスケイパー》がソウルに置かれたので、スキル発動!

 このカード以外のソウルをすべてソウルブラストすることで、アクセルⅡサークルにスペリオルコール!! パワー+15000!!

 エンド・オブ・ステージで、ライジング・ノヴァにアタック!!」

「《チアガール アダレード》と《プレシャスチアガール キャメロン》でガード! 2枚貫通だぜ!」

「ツインドライブ!!

 1枚目……ノートリガー!

 2枚目……ゲット! 引トリガー! 1枚引いて、パワーはエスケイパーに!

 これで幕引きだ! エスケイパーでヴァンガードにアタック!!」

「《チアガール マリリン》で完全ガード!!

 ふーっ。アダレードも入れておいたおかげで命拾いしたぜ」

「……ふん。オレのアタックで腐っていた完全ガードがあったか。だが、お前の手札は0枚! もう逆転する手段はあるまい」

「そいつはまだ分からねぇぜ」

 そう言って、オウガは不敵に笑い、その姿が一瞬だけライジング・ノヴァと重なって見えた。

「悪いけど、俺は今以上に絶望的な状況を知ってる。この程度、逆境のうちにも入らねえぜ!

 スタンド&ドロー!!

《アンブッシュ・デクスター》をコール! デクスターのスキルで《バッドエンド・ドラッガー》を退却!

 来い! 《デッドヒート・ブルスパイク》! 《魔王 ダッドリー・ルシファー》」

 ライジング・ノヴァが観客席から立ち上がり、地面を踏み抜かんばかりに足を踏み鳴らす。それを合図に、トゲだらけの巨漢が天井を突き破って落下してきたかと思うと、今度はテントの壁が引き裂かれ、ガラの悪い笑みを浮かべた長髪の美青年が姿を現した。

「ライジング・ノヴァのスキル発動! ブルスパイクとルシファーのスキルを得る!!

 さあ、お前ら! 俺に力を貸せ!!」

 そう言って、オウガが天井高く拳を突き上げる。

「バトルだ! ブルスパイクでヴァンガードにアタック! ライジング・ノヴァのスキルで、すべてのフォースをブルスパイクへ! 合計パワーは23000!」

「《マスカレード・バニー》でガード! エスケイパーでインターセプト!」

「ライジング・ノヴァのスキルで1枚ドロー!

 お次はルシファーでヴァンガードにアタック! フォースを移動して、パワー23000!」

「《ダイナマイト・ジャグラー》でガード!」

「《ダッドリー・ウィリアム》のブースト! ライジング・ノヴァでヴァンガードにアタック!

 アタック時、ルシファーをソウルに置くことで、1枚ドローッ!! ……そしてッ! 手札から《ダッドリー・デーヴィー》をスペリオルコールだ!!」

「バカな! 手札0枚からここまで……」

「言ったろ? 逆境には程遠いってな!

 さらにデーヴィーのスキル発動!! 山札から《ダッドリー・デイジー》をスペリオルコール! デイジーのスキルで、山札からルシファーもスペリオルコール!

 もちろんフォースもライジング・ノヴァに移動させるぜ!」

「グッ……!! ライジング・ノヴァのアタックは《冥界の催眠術師》で完全ガード!!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはデーヴィーに!

 2枚目、治トリガー! ダメージ回復して、パワーはルシファーに!」

「……ひっ!!」

 エンド・オブ・ステージが小さく悲鳴をあげる。

「デクスターのブースト! すべてのフォースを移動させ、デーヴィーでヴァンガードにアタック!!」

「ノ、ノーガード!! ……やべぇ、トリガーがでねぇ」

「い・く・ぜぇ!! デイジーのブースト! フォースを移動させ、ルシファーでヴァンガードにアタック!!」

「……ノーガード」

 ライジング・ノヴァのキャプテンシーに導かれ、魔王の名を冠する無頼の男が、その指示に従い、翼を広げて高く跳躍する。

『へッ。まぁまぁ面白い見世物だったぜ』

 ライジング・ノヴァが指で形作った銃を赤いドラゴンに向けて告げる。それがゲームセットの合図だった。

 ルシファーが拳に真紅の炎を纏わせると、手にしていたボールに叩きつける。

 上空から隕石の如く降ってきたボールは、ドラゴンの背負う大砲の口に吸いこまれると、内部の火薬に引火し、大爆発を起こした。

 紅蓮の炎に包まれたテントで、紙吹雪が火の粉となって舞い散る中、ライジング・ノヴァは平然と、空から降りてきたルシファーとハイタッチを交わした。

 

 

「負けた……? オレが……?」

 ダメージゾーンに6枚目のカードを置いたまま、エンド・オブ・ステージが呆然と呟いた。

「っしゃあ! 俺の勝ちだな! まだまだ腕は落ちてねぇぜ!」

 オウガは両拳を握りしめてガッツポーズ。

「いやー、しかし、モモカちゃんも強かったぜ」

 そう言って、オウガがスポーツマンらしく爽やかに手を差し出した瞬間。

「グッ、アアアアアアアアアッ!!」

 エンド・オブ・ステージが右手の甲を押さえながら、まるでドラゴンのような咆哮(ひめい)をあげた。

「そ、そんなに悔しかったのか!? 大丈夫だって、モモカちゃんもこれからもっと強くなれる……」

 見当違いなオウガの慰めを左手で制し、エンド・オブ・ステージはカードをかき集め、雑にカバンに突っ込むと、逃げ出すようにして店を出る。曲がり角を曲がって、ショップが見えなくなる場所で立ち止まると、右手の甲を押さえながらゼェハァと荒い息をついた。

『ど、どうしちゃったの!? あのお兄ちゃん、ビックリしてたよ?』

 慌ててモモカが尋ねる。

「くそっ……話には聞いていたが、これほど痛いとは……」

 それには答えず、うわごとのように呟くエンド・オブ・ステージが押さえる手の甲からは、黒い煙が漏れ出していた。

『え? な、なにこれ!?』

「ああ……。ディフライダーがファイトで負けると、ユニットと地球との繋がりが薄れちまう、らしい」

 顔から滝のように汗を垂らしながら、ようやくエンド・オブ・ステージが説明をしてくれる。

「ヴァンガードで言うダメージのようなものだな。負けが累積すると、オレは惑星クレイに強制送還されちまうんだ」

『ええっ!? やだよ、そんなの……。せっかく会えたのに……』

 モモカが泣き声になってぐずる。

 この唐突で強引だった奇跡のような出会いをそこまで思ってくれていることを、エンド・オブ・ステージは嬉しく思った。

「心配すんな。これ以上は負けない!」

 モモカを安心させるように、掌で自身の胸のあたりをポンと叩く。

「今日は出直しだ! モモカ! 家まで案内してくれ! 帰って、ふたりでじっくりデッキを練り直すぞ!」

『う、うん!』

 少女が巡り合った不思議な日々の1日目は、こうして終わった。

 

 

 次の日――

 エンド・オブ・ステージとモモカは、『エンペラー』というカードショップにいた。

 調べによると、標的である音無ミオと時任レイが最もよく出入りするカードショップらしい。

 エンド・オブ・ステージは、そのファイトスペースで堂々と腕を組み、哀れな標的達が来店するのを待ち受けていた。

『音無ミオさん……っていうのは、名前だけなら聞いたことがあるよ。確か高校生で物凄く強いファイターって聞いたかな』

「ふむ。だが、昨日の男ほどではあるまい。でなければオレがああまで一方的に負けるわけないからな!」

『と、ところでさ。地球には仕事で来たって言ってたけど、ペイルムーンの仕事って……』

「暗殺だな」

『そ、その……それはさすがに止めて欲しいと言うか。惑星クレイの法律は知らないけど、日本で人を殺したら犯罪になっちゃうんだよ?』

 というか、仕事を果たした場合、エンド・オブ・ステージは惑星クレイに帰るのだろう。そうなればモモカだけが無実の罪で捕まることになる。とんだ冤罪だ。

「ははっ! 心配すんな。暗殺は暗殺でも、そのふたりを直接殺すわけじゃない。何でも、そのふたりには悪い魂がとり憑いているらしい。俺が殺すのは、その悪い魂だ」

 そう言って、エンド・オブ・ステージが窓から空を見上げた。赤黒い不気味な星が今日も空に瞬いている。

「俺がファイトで勝てば、その魂は少女達から追い出される。昨日、俺がそうなりかけたみたいにな」

『あ、だからこうしてデッキを準備してるわけなんだね!』

「そういうことだ! ま、大船に乗った気分でいるといい。俺とモモカで組んだデッキは、無敵だからな!」

『う、うん! ……ただ、音無さんが来るのを待つのはいいんだけどね。あんまり脚を開かないでほしいかな。ほら、あたしって今、スカートだから』

「ああん? 面倒くせえな。……そもそも、何で人間ってのは服ってのを着るんだ? 裸でいいじゃねえか、裸で」

 などとブツクサいいながらも、きちんと脚を閉じてくれるエンド・オブ・ステージ。

 かと思ったら、誰の真似なのか、妙にセクシーな仕草で足を組み始めた。もちろん小学6年生であるモモカの体では似合わなかったが。

「あ、あとね……」

「まだ何かあるのかぁ?」

『ご、ごめん。その、喋り方なんだけど、もう少し丁寧にしてくれないかな? あたしのキャラが誤解されちゃうよ……』

 オレだの何だの喚いているところを、クラスメイトに見られたりしたら何を言われるか。想像しただけで恐ろしい。

「ああん? つまりはこの祝砲竜様に、お前みたいなナヨナヨした喋り方をして欲しいってか?」

『う、うん……。ナヨナヨって……』

「お前は、そんなオレを見たいのか?」

『う……それは、ちょっとイヤかも』

「じゃ、喋り方についてはナシな!」

『う、うん! たまにはこんな喋り方も、悪くないと思えてきた! 強くなった気がする!』

 そんな感じに、雑談を交わながら待っていたが、目標である音無ミオも、時任レイも姿を現さなかった。

「ふむ……ここに音無ミオが現れるのはガセネタだったか?」

『うーん……音無さんも、よく来るってだけで、毎日来てるってわけじゃないんじゃないかな?』

「マジでか。となると長期戦になりそうだな。それとも、他の客に聞きこみでもしてみるか……」

 そんなことをひとりで相談し始めた時、頭上から話しかけて来る女の声があった。

「ねえ! 2時間くらいずっとここにいるけど、誰かを待ってるの?」

 エンド・オブ・ステージは顔を上げ、声をかけてきた女の顔を確認する。

 前髪を伸ばして左目を隠した女だ。この店のエプロンをつけているので、ここの従業員か。

 まさか殺しの標的を待っていると言うわけにもいかず、エンド・オブ・ステージが返答に迷っていると、女が言葉を続けてきた。

「それとも対戦相手を探してるのかな? あたし、これから休憩だから、1回くらいならファイトできるよ」

 言いながら、女がしゅるりと絹擦れの音をたててエプロンをはずす。

「あ? これから休憩なんじゃ……?」

「え? 休憩だからファイトするんでしょ?」

 噛み合わない会話を交わしながら、女がエンド・オブ・ステージの対面に座る。彼女の中では、もうファイトするのが確定しているようで、いそいそとデッキを取り出したりもしていた。

「変な女だな……。まあいい! 退屈していたところだ! その勝負、受けてやろう!」

「ふふっ。そうこなくっちゃ!」

『ちょっ、ちょっと! もし負けちゃったら、惑星クレイに強制送還されちゃうかも知れないんでしょ!?』

 それを慌てて止めたのはモモカだ。

「オレとモモカが2度も負けるものか! それに、昨日の男じゃないが、売られたケンカは買わなきゃな!」

『もう……。どうなっても知らないからね!』

 心の中でモモカがそっぽを向く。

「あたしの名前は天道アリサよ。よろしくね」

「オレの名はエンド……ウ! 遠藤モモカだ!」

 準備を終えたエンド・オブ・ステージと、アリサと名乗った女が同時に準備を終え、ファーストヴァンガードに手をかける。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《年少怪人 ワーレクタス》!」

「《ハピネス・コレクター》!」

 

 

「ブレイクライド! 《蟲毒怪人 ヴェノムスティンガー》!!」

 広い砂漠の中、日陰となる数少ない岩場の隙間からガサガサと音をたてて、黒光りする甲殻で全身を覆った蠍の怪人が現れた。

 それは獲物を見つけると『ギィッ』と声をあげ、威嚇するように尾を持ち上げる。その先端で輝く針から、血よりも赤く禍々しい毒が砂の上に滴り落ちた。

「まずはライドされたサイクロマトゥースのスキルで、手札を1枚捨ててもらうわよ!」

「くっ、オレが捨てるのは《ダブルヘッド・ユニコーン》……G2だ」

「なら、ヴェノムスティンガーのパワー+10000ね!

《無双剣鬼 サイクロマトゥース》と《小隊長 バタフライ・オフィサー》をコール! 小隊長をレストして、サイクロマトゥースにパワー+10000!

 さらに、《鋏撃怪人 イントルードシザー》をコール! イントルードシザーのスキルで、小隊長をスタンド! パワー+10000!

 バトルよ! 小隊長のブースト! イントルードシザーでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード! ダメージチェック……トリガーは無しだ」

 エンド・オブ・ステージに4点目のダメージが入る。

「ダメージを与えたので、ヴェノムスティンガーのパワー+10000!

 リトルドルカスのブースト! サイクロマトゥースでヴァンガードにアタック! アタック時、デッキの上から1枚をドロップ!」

「……ノーマルユニットだ」

「なら、サイクロマトゥースのパワー+10000! ★+1! さあ、どうする?」

「もちろんガードだ! 《ポイゾン・ジャグラー》と《ダイナマイト・ジャグラー》でガード! エスケイパーでインターセプト!」

「さぁて、ここからがメインディッシュよ! ヴェノムスティンガーでヴァンガードにアタック!

 アタック時、ヴェノムスティンガーのスキル発動!

 イントルードシザーをソウルに置いて、このバトル中、モモカちゃんのトリガー効果は発動せず、その効果はあたしのものになるわ!

 さらに! イントルードシザーをソウルブラスト! まずはダメージを2点、回復してもらおうかしら」

「なにぃ? 敵に塩を送るとは、マヌケなやつ……」

「ヴェノムスティンガーの本領はここからよ! お次は2点のダメージを受けてもらうわ!」

「それに何の意味が……?

 1枚目、ノートリガー。

 2枚目、引トリガー! ははは! やっぱりマヌケだったなぁ! カードを1枚引かせてもらうぜ!」

「ふっふっふっー。残念でした! 言ったでしょ? このバトル中、あなたのトリガーはすべてあたしのもの。カードを引くのはあたしよ! パワーもヴェノムスティンガーに!」

「なっ! 卑怯な!」

「ありがとう。

 2点のダメージを与えたので、ヴェノムスティンガーのパワーはさらに+20000ね。これで合計パワーは62000!!」

「くっ! ……ノーガードだ」

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……★トリガー!! 効果はすべてヴェノムスティンガーに!」

「ぐぬぬ……。だが、まだトリガー次第では……。

 ダメージチェック!!

 1枚目……ノートリガー。

 2枚目……ヒ、治トリガー! 治トリガーだ!!」

「そ。じゃあ、その効果も頂くわね」

「……へ?」

「まだ気づかない? ★を引き当てた時点で、あたしの勝ちは確定したのよ」

 ヴェノムスティンガーの尾が、ぐっと先端をもたげさせたかと思うと、目にも留まらぬ速さで伸び、赤いドラゴン(エンド・オブ・ステージ)の長い首筋に突き刺さる。そこから数滴の毒を注入されるだけで、怪人より数十倍の大きさを誇るドラゴンが血泡を吹き、砂漠に横倒しになって倒れた。それから、その巨体を何度か痙攣させ、それきり動かなくなった。

 蠍の毒は、異界の神話では英雄を殺す。

 蠍怪人の毒ともなれば、竜神(ヌーベルバーグ)の力すら凌駕するのだ。

 

 

「ギャアアアアアアアッ!!」

 ファイトに負けたエンド・オブ・ステージが悲鳴をあげて店を飛び出す。

「ええっ!? モモカちゃん!? ……ちょっと本気でやりすぎちゃったかなー」

 アリサの間の抜けた声を背中で聞きながら。

『ああ、もう……。言わんこっちゃない』

 呆れたように呟くモモカの不思議な日々。その二日目はこうして過ぎていった。

 

 

 その次の日――

 ふたりは『エンペラー』を再訪していた。店にはアリサという店員が今日もおり、別の女性と楽しそうに話をしていたが、エンド・オブ・ステージに気付くと、すぐに駆け寄ってきた。

「あっ、モモカちゃん! 昨日は大丈夫だった? 急に店を飛び出すから、びっくりしたんだよー」 

「あ、ああ! すまん! ちょっと持病の腰痛が悪化してな……」

小学生(あたし)を変な病気持ちにしないでくれるかな!?』

「そうなんだ。若いのに大変だね……」

 案の定、変な同情をされてしまった。

「あら、アリサ。かわいらしいお友達ね」

 モモカが内心で赤面していると、穏やかな声と共に、さっきまでアリサと話していた女性が、しずしずと上品な足取りでこちらに近づいてきた。

『ふわぁ。このひと、すっごくきれい……』

 それを見たモモカがため息の混じった、感嘆の声をあげる。

 無理もない。白い着物を着たその女性は、新雪のように輝く透明な肌に、漆のように艶やかな黒髪をうなじにかかるくらいまで伸ばした大和撫子だった。

「あ、ユキ! 紹介するね。昨日、友達になった遠藤モモカちゃんだよ」

「モモカちゃん? はじめまして。私は白河ミユキと申します。どうか気軽にユキと呼んでちょうだいな」

「おう、よろしくな!」

『よよよよろしくお願い致します……』

 声が届かないことも忘れて、モモカも震える声で挨拶をする。

「あっ、そうだ! オレ達はちょっと人を探してるんだけどさー」

「オレ、達……?」

 口を滑らしたエンド・オブ・ステージに、アリサが訝しむが、当人は気にせずゴリ押しするように続ける。

「音無ミオと、時任レイって女の子なんだけど、何か知らないか?」

「ミオちゃんに、レイちゃん? 知ってる知ってる! だってふたりとも、あたしの後輩だもの」

 アリサが軽く胸を逸らしながら言った。

「本当か!? ならふたりがどこにいるかもわかるか!? この店によく顔を出すって聞いたんだが、会えなくてさー」

「あの子達、休みの日はあんまりウチに来ないよ。学校からは近いけど、家からはちょっと遠いのよね」

「そうか……。ん? じゃあ、アリサはふたりの家も知ってるってことだよな! 場所を聞いてもいいか!?」

 勢いこんで尋ねるエンド・オブ・ステージだが、これまで人当たりのいい笑みを絶やさなかったアリサが、はじめて困ったような顔をして「うーん」と唸った。

「教えてあげたいのはやまやまだけど、さすがに客の個人情報は漏らせないかな」

「そういうもんなのか。オレの故郷では、個人情報なんてそこらの物乞いにコインを握らせれば、簡単に教えてくれるんだがなぁ」

「ず、ずいぶんと荒れた故郷なんだね」

「まあな」

『だから、あたしを勝手に世紀末の住人にしないでくれるかな!?』

「ミオちゃんはそこそこ有名だし、人気もあるしねー。これまでも何度、あの子に近づこうとする男どもを追い払ったか……。

 モモカちゃんは純粋にミオちゃんのファンなんだろうけど、これだけは教えてあげられないかな。ごめんね」

 アリサが両手を合わせて謝罪する。

「いいって。平日にまた来るよ」

 そう言って、エンド・オブ・ステージが店を出ようとした、その時だった。

「ミオの家、私が教えてあげてもいいわよ?」

 これまで静かに成り行きを見守っていたユキが、唐突に提案した。

「ちょっと、ユキ!?」

「何かしら? 私が勝手に住所を教えるだけなら、店側としては何も問題無いでしょう?」

「それはそうだけど……いや、そうなのかな?」

 うーんと悩みはじめたアリサだったが、他の客から「すいませーん。ショーケースのカードをお願いしまーす」と声をかけられてしまう。

「あ、はーい! 少々お待ちをー!

 ……ああもう! あとはふたりで勝手にして!

 ユキ! 信じてはいるけど、ミオちゃんやモモカちゃんに害が及ぶようなことになったら承知しないからね!」

 そう言い捨てて去っていくアリサに、ユキは「はいはい」と適当に返す。

「なあ、ユキ! 音無ミオの居場所を教えてくれるんだよな? それじゃ、さっそく……」

 ドラゴンと言うよりかは、おあずけされた犬のように、エンド・オブ・ステージはユキの答えを待った。

「ええ。教えてあげてもいいわよ」

 そんなエンド・オブ・ステージの態度は気にも留めずに、ユキはおだやかにもったいぶって言の葉を紡ぐ。

「あなたが私にファイトで勝てたら、だけど」

 着物の袖からデッキケースをたおやかに取り出し、着物姿の女性は凛と宣言した。

「……おもしれえ!」

 一瞬、言葉を失ったエンド・オブ・ステージだったが、すぐ牙を剥くように歯を見せて笑うと、布製のカバンからデッキケースを取り出す。

『だ、ダメだよ! 今度負けたら、本当に強制送還されちゃうよ!?』

 モモカが慌てて制止しようとする。

「話は聞いてただろ? この女に勝たねえと、音無ミオの居場所は分からねえ」

『いや! 雰囲気にノせられちゃってるよ!? 平日まで待つって選択肢があるからね!?』

「オレは目の前の勝負からは逃げたくないんだ。心配すんな。今度こそ、オレは負けねえ」

『何でそんなにファイトに拘るの……? 意味わかんないよ……』

「オレはお前にみっともなく困難から逃げ回る姿を見せたくないんだ。お前の憧れでいたいんだよ、オレは」

 エンド・オブ・ステージは真剣な声音でそう言った。それは間違い無く遠藤モモカという少女の声なのだが、果たして自分にこれほどの声は出せるのだろうか。

『……ズルいよ。そんなこと言われたら、止められないじゃない』

「ま、すでにみっともなく負け続けてるオレが言っても、説得力ないけどな!」

『そんなことない。あなたはあたしのイメージ通り。ううん……あたしのイメージを越えて、とってもカッコいいドラゴンだった!』

「……ありがとよ」

『その代わり、絶対に勝ってね!』

「ああ、まかせとけ!」

「覚悟は決まったかしら?」

 心の中で行われていた会話が終わった瞬間を見計らったかのように、ユキが尋ねてきた。

「おう! その勝負、受けてやるぜ!」

「では、はじめましょう」

 ユキが席につき、1枚のカードを裏向きにしてヴァンガードサークルに置く。エンド・オブ・ステージもそれに倣い、続けてカードを5枚引く。

「いくぜ! スタンドアップ!」

「ヴァンガード」

「《ハピネス・コレクター》!」

「《忍獣 キャットデビル》」

 

 

「ライド! 《ダブルヘッド・ユニコーン》! さっそくユニコーンでアタックだ!」

 先行のエンド・オブ・ステージが、G2にライドし、待ちきれなかったとばかりにアタックを宣言する。

「ふふふ……。ノーガードよ」

 ユキは妹を見守る姉のような優しい――それでいて何かを企んでいるような不気味さも感じさせる――笑みを浮かべながらそれを受ける。

「ドライブチェック! ……っしゃあ! ★トリガーだ! 効果はすべてヴァンガードに!」

「あらあら。ダメージチェック……うーん、トリガーはありません」

 几帳面なのか、ユキのダメージゾーンに1ミリのズレも無く2枚のカードが置かれる。対するエンド・オブ・ステージのダメージゾーンには、雑に1枚のカードが置かれていた。

「私のターンね。スタンド&ドロー。

《俄然の忍鬼 アリオウ》にライドします。その効果で、山札からアリオウを分身させます。同名カードがいるので、リアガードのアリオウはパワー+10000。

《関門の忍鬼 アタカ》をコール。アタカの効果で山札の上から5枚を見て……《幻夢の六花 シラユキ》を手札に加え、そのままドロップに置きます。

 バトルよ。

 レイニィマダムのブースト。アリオウでヴァンガードにアタック」

「ノーガードだぜ!」

「ドライブチェック……あら、お返しね。★トリガー! ★はヴァンガードへ。パワーはリアガードのアリオウに」

「ダメージチェック!j

 1枚目、治トリガー! ダメージ回復はしないが、パワーはヴァンガードに!

 2枚目、(ドロー)トリガー! 1枚引いて、パワーはヴァンガードに!」

「では、アタカのブースト。アリオウでヴァンガードにアタックします。合計パワーは42000ね」

「まだ通るのかよぉ! 《ダイナマイト・ジャグラー》でガードだ!」

「アタックが通らなかったので、レイニィマダムの影縫発動。このカードをソウルに置いて、ドロップゾーンの《幻夢の六花 シラユキ》を手札に加えるわ。

 私はこれでターン終了。

 ふふ。あなたって、本当に楽しそうにファイトするのね」

 アリサからファイトの様子を聞いていたのか、そんなことをユキが言う。

「? ああ。俺の故郷にはこんな娯楽は無かったからな。トランプならあったけど、あいつらすぐイカサマするし……」

「そう。ファイトを止めてごめんなさい。続けてちょうだいな」

「おう! スタンド&ドロー!!

 ……ん? このカード」

『……あ』

 エンド・オブ・ステージが、引いたカードを見てほんの少し目を見開き、モモカが小さく弾んだ声をあげた。

「……なあ、モモカ」

 それに気付いたエンド・オブ・ステージが、モモカに声をかける。

『えっ!? なっ、何かな!?』

「お前も本当はファイトしたいんだろう?」

『ええっ!? そ、そんなこと無いよ。あたしがファイトしたら負けちゃうし……』

 その言葉とは裏腹に、モモカの心臓が、まるでサーカスの幕開けを今か今かと待っている子どものように高鳴っているのがエンド・オブ・ステージには分かった。今のふたりは一心同体なのだから。

「自分の心に正直になれ! このカードはお前が最初から入れていたカードだ! 自分で使ってみたいに決まっているだろ!」

『けど、エンド・オブ・ステージにはお仕事があるんでしょ? このファイトに負けちゃったら果たせなくなるんじゃ……』

「構わん! お前の笑顔が最優先だ!」

 エンド・オブ・ステージが吠えた。

 その覚悟が届いたのか、モモカも小さく頷く。

『……ごめん。あたし、ウソついてた。

 あたし、やっぱりファイトがしたいよ……!』

「ああ、まかせたぜ! オレにライドするまで交代だ……」

 目を閉じるエンド・オブ・ステージの意識が薄れていき、それと入れ替わるようにしてモモカの意識が覚醒していく。

「……い、いきます! あたしのペイルムーン・サーカス、とくとお楽しみください!」

 目を見開いたモモカは、正面にいる着物姿の女性に精一杯堂々と宣言した。

「ええ、楽しみだわ」

 目の前にいる女の子の口調が変わったことなど気にも留めず、ユキは目を細めて微笑む。

「ライド! 《ミラクルポップ・エヴァ》!」

 突如として、ステージの中央に巨大な箱が現れた。無数の鎖と錠前で固く封じられたその箱は、誰も触れていないにも関わらず、まるでプレゼントのリボンをほどくかのように紐解かれ、開かれた蓋からエルフの女性が跳び出した。

 その女性は音も無くステージへと着地し、優雅に一礼すると、観客席から大喝采が巻き起こる。

 眼前で繰り広げられた華麗なる脱出ショーに、2体のアリオウも思わず金棒を取り落としてスタンディングオベーションである。

「イ、イマジナリーギフトはアクセルⅡを選択します!

《アマランス・ビーストテイマー》をアクセルサークルにコール!

《夜空の舞姫》をコールして、舞姫のスキルでソウルから《ダブルヘッド・ユニコーン》をスペリオルコールです!

《レインボー・マジシャン》もコールして、バトルフェイズ!

《レインボー・マジシャン》のブースト! エヴァでヴァンガードにアタックします!」

「ノーガードよ」

「ツインドライブ!!

 1枚目……★トリガー! ★はヴァンガード! パワーはアマランスに!

 2枚目……やった! これも★トリガー! パワーはすべて舞姫に!」

「ダメージチェック……あらあらあら。3枚ともトリガー無しねぇ」

 少し予想外だと言いたげに、ユキが軽く首を傾げる。

「ユニコーンでリアガードのアリオウにアタックです!」

「ノーガードよ」

「舞姫でヴァンガードにアタックです!」

「《狐使い イヅナ》でガードよ」

「アマランスでヴァンガードにアタック!」

「《忍妖 ユキヒメ》でガード」

「や、やった! 3点もダメージを与えた!

 あっ、あたしはこれでターンエンドです」

 小さくガッツポーズをしてから、モモカがターンエンドを宣言する。

「では、私のターンね。スタンド&ドロー。

 ライド……」

 華やかだった舞台が、突如として陰の気に包まれた。

 ライトの灯が落ち、代わりに青白い鬼火が舞台を仄かに照らし出す。その中央に幽鬼の如く立っていたのは、烏帽子を被り太刀を帯びた銀髪の忍鬼。

「《看破の忍鬼 ヤスイエ》!」

 ユキがその名を宣言すると、忍鬼の瞳が凶兆を告げる星の如く紅に輝いた。

「イマジナリーギフトはアクセルⅡを選択します。

《忍妖 ダンガンニュードー》、《藤花の忍鬼 タケヒメ》、《俄然の忍鬼 アリオウ》をコール。ヤスイエの効果で、ダンガンニュードーとアリオウを分身させます」

「……っ!」

 一瞬で盤面を埋め尽くしたユキの手際に、モモカが目を見開いて驚く。

「いくわよ。ヤスイエでヴァンガードにアタック!」

 ヤスイエが太刀に手をかけると、鞘からわずかに刀身を覗かせただけで、墨を水で溶かしたかのような黒い瘴気が溢れ出す。その刀には持ち主を乗っ取る悪鬼の魂が宿っており、強靭な意思を持つヤスイエにしか扱えぬ妖刀であった。

 ヤスイエは妖刀を居合の型で振り抜き、瘴気が黒い剣閃となって後を追う。

「ダ、《ダイナマイト・ジャグラー》でガード!」

 ゴブリンの蹴りだした爆薬の詰まった樽がまっぷたつに斬り落とされ、大爆発を起こした。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、前トリガー! 前列のユニットすべてにパワー+10000!

 そして、ヤスイエの更なるスキルが発動!

 手札を2枚捨て、ドロップゾーンから《伏魔忍鬼 ヤスイエ・テンマ》にスペリオルライド!!」

 爆炎の中心に、青白い炎が灯る。それは完全に抜き放たれたヤスイエの太刀が放つ妖気であった。

 妖刀に合わせてか、ヤスイエの姿も変化しており、全身から骨が歪に変化したかのような角を生やし、その背には禍々しき漆黒の翼と、神々しき黄金色の天輪を背負う。

 悪鬼に呑まれる寸前まで力を開放した代償か、常に冷静沈着なその面持ちに、今は悦楽の笑みを浮かべていた。

「ヤスイエ・テンマにライドしたので、アクセルサークルを置きます。タケヒメのスキルも発動し、そこにアリオウをスペリオルコール。

 ダンガンニュードーのブースト。ヤスイエ・テンマでヴァンガードにアタック」

 ヤスイエが妖刀を上段に構えて振り下ろす。先の美しい居合とは裏腹に、眼前の敵すべてを薙ぎ倒す力任せの一太刀だった。

「ノ、ノーガード……」

「ドライブチェック。……前トリガーね。前列すべてにパワー+10000」

「!?」

(な、なんなの、この人? 強すぎる……)

 オウガやアリサも、モモカからしてみれば計り知れないような強さだったが、目の前にいる着物姿の女性はさらに桁が違う。

「ダメージチェック……トリガーはありません」

(ど、どうしよう。ダメージはまだ4点で、手札だって温存したのに。これじゃ耐えられないよ……)

「アクセルサークルのアリオウでアタック」

 焦るモモカに、更なる追撃が迫る。

「……ノーガード。ダメージチェック。……トリガーはありません」

 いよいよ5枚目のカードが、モモカのダメージゾーンに置かれた。

「アクセルサークルのダンガンニュードーでヴァンガードにアタック」

「……ノーガードです」

 宣言はしたものの、モモカはなかなか山札からカードをめくることができなかった。このカードをめくったら最後、自分はファイトに負け、エンド・オブ・ステージは惑星クレイに強制送還されてしまう。

(……ごめんね、エンド・オブ・ステージ。やっぱり、あたしなんかがでしゃばっちゃいけなかったんだよ……)

『そんなことはないッ!!』

 モモカの懺悔を吹き飛ばすかのように、エンド・オブ・ステージが叫んだ。

『お前に後悔して欲しくて、オレはお前にファイトを譲ったんじゃない。最後まで楽しくファイトしようぜ!

 それに、オレ達はまだ負けたわけじゃねえ。耳をすませてみろよ。デッキの声が聞こえないか?』

(デッキの、声……?)

『ああ! 惑星クレイから声が聞こえるぜ! 「ショーはまだまだ続きます!」ってな!』

 その瞬間、モモカの手の甲に浮かぶペイルムーンの紋章が輝き、モモカの瞳に紫色の光が差し込んだ。

 眼前にサーカスの舞台が広がり、脳裏に浮かんだのは箱いっぱいのカラフルなお菓子。

(……聞こえた! あたしにも聞こえたよ! 惑星クレイの声!)

『よーし! それなら何も怖いものなんてねえ! 勇気を出してカードを引こうぜ!』

「うん!!

 ……お待たせしました。ダメージチェック!!」

 ユキに頭を下げてから、山札に手をかける。

 単眼の妖僧が拳を振りかざして舞台に乱入し、エヴァは手近にあった箱に隠れる。振り下ろされた巨大な拳は、箱ごとエヴァを叩き潰した。

 ポン!

 と明るい音がして、ぺしゃんこになった箱からお菓子が弾け飛び、別の箱からエヴァが三日月の弧を描きながら飛び出した。

「……治トリガーですっ! ダメージ回復して、パワーはエヴァに!」

『世紀の大脱出ショー、大成功でございます!』

 ポカンとしている妖僧を置き去りに、エヴァは観客席に向かって大仰に一礼した。

「そうこなくっちゃ」

 ユキも楽しそうに笑う。彼女の目には、本当にサーカスの舞台が見えているかのようだった。

「けど、私のアタックはまだまだ続くわよ。

 タケヒメのブースト。アリオウでヴァンガードにアタック」

「《マスカレード・バニー》、《パープル・トラピージスト》、《テンプティング・フープスター》でガード!」

「アタカのブースト。アリオウでヴァンガードにアタック」

「《ポイゾン・ジャグラー》と《フェスブライト・エスケイパー》でガード! アマランス、ユニコーン、舞姫でインターセプト!」

「ターン終了。ダンガンニュードーをソウルに置き、1枚引くわ。

 さあ、あなたのターンよ」

『よっしゃあ! よくやったぞ、モモカ!』

 エンド・オブ・ステージが大喜びでモモカの頭を撫でまわす。……これが心の中でなければ、きっとそんなことをされているような気がした。

「え、えへへ……。最後の1枚、ちゃんと残したよ」

 モモカが手札に残った1枚のカードを小さく掲げる。

『ああ! よくやった! 本当に、よくやった……』

 エンド・オブ・ステージの声には、少し涙が混じっていた。

『後はオレに任せろ! ド派手にキメてやる!』

「うん。お願いね。楽しかったけど、少し疲れちゃった……」

 モモカが心の中でカードを手渡す。エンド・オブ・ステージはそれを確かに受け取った。

「行くぜ! オレのターン!! スタンド&ドローッ!!」

(よしっ! 引きも悪くねえ!)

 引いたカードを一瞥し、エンド・オブ・ステージはモモカが残してくれたカードに指をかける。そして、まさしくドラゴンを思わせる大音声で居丈高に宣言した。

「これより我らがペイルムーンサーカスは終幕を迎える! 瞬きひとつ許さん! 最後まで見逃すな!

 ブレイクライドッ!! 我が分身! 《祝砲竜 エンド・オブ・ステージ》!!!

 すべてのソウルをソウルブラストし、エンド・オブ・ステージのスキル発動! パワー+5000! このユニットとのバトルでは守護者は発動されない!」

 大砲を背負った首の長いドラゴンが、号砲の如き咆哮で観客席の度肝を抜いた。

「《ミラクルポップ・エヴァ》のスキルも発動!! 1枚引いて、ヴァンガードのパワー+10000! モモカ、お前の想いも受け取ったぜ!」

 舞台袖へと退場していくエヴァが大砲を背負うドラゴンに向かってウインクし、ドラゴンも観客に気取られないほど小さく頷いた。

「《フェスブライト・エスケイパー》! 《ダークメタル・バイコーン》! 《冥界の催眠術師》をコール!

 バトルだ!

 まずは《冥界の催眠術師》でアクセルサークルのアリオウにアタック!」

「ノーガードです」

「バイコーンのブースト! エスケイパーでヴァンガードにアタック!!」

 ユキのダメージはすでに5点。1回でもアタックが通れば勝ちだ。

「《関門の忍鬼 アタカ》でガードします」

「トラピージストのブースト! エンド・オブ・ステージでヴァンガードにアタック!!」

「《狐使い イヅナ》、《趨勢の忍鬼 キューイチ》、《隠密魔竜 クマドリドープ》でガード。このアタックは通らないわ」

「しゃらくせえ! ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー!! 効果はすべてエンド・オブ・ステージに!

 2枚目、★トリガー!! この効果もすべてエンド・オブ・ステージに!」

 ドラゴンの放った砲弾から、忍び達が身を呈してヤスイエを庇う。彼らは皆、任務を遂行するためならば、命すら嬉々として投げだすのだ。

「手札2枚とリアガードすべてをソウルにブチ込んで、エンド・オブ・ステージのスキル発動!!

 エンド・オブ・ステージをスタンドする!!」

 だが、ドラゴンの背負う大砲に、アシスタントの手によって、すかさず次弾が装填される。

「それだけじゃねえ!

 エスケイパーのスキルも発動! ソウルをすべてソウルブラストし、このユニットをアクセルサークルにスペリオルコール! パワー+15000!!

 これでフィナーレだ!!

 エンド・オブ・ステージでヴァンガードにアタック!!」

『いっけえええええっ!!!』

 モモカも小さい声を振り絞って声援を送った。

「《忍妖 ユキヒメ》でガード……」

「そんなもんじゃ足りねえっ!!」

 ドラゴンの放った2発目の砲弾がヤスイエに届く――

 その寸前で、白く細い指が砲弾に触れ、大爆発を起こした。ただし、撒き散らしたのは盛大な花火ではなく、残酷なまでに純白な雪の結晶。

 すべてが静止した世界で、六花だけがライトの光を反射させて宝石のように舞い踊っていた。

「……な、何が起きた?」

 真っ白に塗り替えられた勝利のイメージの中、エンド・オブ・ステージが呆然と呟く。

「《幻夢の六花 シラユキ》でガード。エンド・オブ・ステージのパワーを-30000します」

「ま、まだだっ!! ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー!! 効果はすべてエンド・オブ・ステージに!

 2枚目、……ノートリガー。

 エスケイパーでヴァンガードにアタック……」

「《妖刀の忍鬼 マサムラ》でガード」

「……ターンエンド」

 エンド・オブ・ステージが俯きながら宣言するも、すぐに顔をあげ虚勢を張った。

「さあ来い! オレはまだ負けてねぇぞ!」

「ふふっ。まだ心は折れていないようね。嬉しいわ。私とファイトした人は、皆、すぐに諦めてしまうのだもの」

 ユキが少し寂しそうに言った。

「恥ずかしい姿を見せちゃならんやつがここにいるんでね」

 エンド・オブ・ステージが自らの心臓を親指で指し示す。

『エンド・オブ・ステージ……』

 モモカが熱っぽい声でその名を呼んだ。

「そう。では、私も心おきなく本気でいかせてもらいましょう! スタンド&ドロー!

 ライド! 《幻夢の六花 シラユキ》!!」

 ヤスイエの姿が雪景色に浮かぶ黒い影法師に溶け込むように消え、その場で巻き起こった吹雪の中から、ドラゴンの砲弾を無力化した張本人が姿を現した。

 それは純白の着物を纏った無垢な少女であり、後の竜の帝国(ドラゴンエンパイア)を裏から統べる大妖でもあった。

「《能面の忍鬼 アワズ》をコール。その効果で《夢幻の風花 シラユキ》をドロップゾーンに置いて、バトルよ。

《幻夢の六花 シラユキ》でエンド・オブ・ステージにアタック!」

 シラユキの両掌に吹雪が収束し、ドラゴンめがけて解き放たれる。

「エスケイパーでインターセプト!」

「ツインドライブ!! ……2枚ともトリガーでは無かったわねぇ」

「よ、よしっ……」

「安心するのは、まだ早いわよ?

 シラユキのアタックが通らなかったので、影縫が発動! ヴァンガードのパワーを-10000!

 さらに、ドロップゾーンから《夢幻の風花 シラユキ》をスペリオルコール! その効果でヴァンガードのパワーをさらに-5000!」

「なっ、なっ!?」

 シラユキの隣で風が逆巻き、彼女と瓜二つの雪像を作り上げる。それはシラユキと同様に優美な仕草で手を掲げると、そこから新たな吹雪が生まれ、ドラゴンを包み込み氷漬けにした。

「仮にあなたが残り2枚の治トリガーを引いたとしても、まだアタックは通るわ。さあ、これでも諦めないでいられるかしら?」

「……いや。ゲームはオレの負けだな。完敗だ」

 エンド・オブ・ステージが観念したように最後の手札をテーブルに置いた。

「だが、オレは負けるわけにはいかない。最後まで足掻かせてもらう。取引をしよう、白河ミユキ」

「?」

『エンド・オブ・ステージ……?』

 ユキが小首を傾げ、モモカが不安げにその名を呼ぶ。

「オレはある使命を帯びて、このショップにやってきた」

「……その使命というのは、ミオやレイに関係あることなのね?」

「そうだ。オレはそのふたりとファイトして、彼女達に取り憑いている悪い魂を取り除かなければならん。

 勘のよさそうなアンタなら、何となく気付いていると思う。アレが災いをもたらす凶兆だって」

 エンド・オブ・ステージが、窓から空を見やった。外ではいつしか雪が降っていたが、去年の末に現れた赤黒い星が曇天の中、不気味に瞬いていた。

「この紋章に誓って、ふたりに悪いようにはしない! だからこのファイトを無効試合にしてくれないか? それだけでオレはまだこの星で活動できるんだ!」

 エンド・オブ・ステージが手の甲にぼんやり輝くペイルムーンの紋章を掲げ、ユキの目をまっすぐに見据えながら言った。

(情けない申し出だと笑えばいい。オレにできることは、これだけだ……)

『……ううん。笑わないよ』

 自嘲するエンド・オブ・ステージに、モモカは声だけで寄り添った。

「……言い分はわかりました。あなたのことを全面的に信じましょう」

 目を閉じて黙考していたユキが、審判を下す。

「本当か!?」

「その上で宣言しましょう。私はあなたを全力で討ち果たします」

 ユキは断固たる口調でそう言い放った。

「!?」

「それはミオとレイが抱えている問題でしょう? そうであるならば、すべてはあのふたりで解決すべき話であって、第三者が関わるべきでは無いわ。この私が関わらせません」

「何を悠長な。この星が滅びる瀬戸際なんだぞ?」

「ありえないとは思うけれど、もし彼女達が悩み抜いた末にその結果に至ったのなら、私はそれを受け入れます」

「……それほどまでに信頼できる人間なのか? そのふたりは」

「もちろん。私が認めた女の子と、私のおじいちゃんが認めた女の子だもの」

 今度はユキの黒い瞳がエンド・オブ・ステージを見据える番だった。

「……そうまで言われちゃあ、確かに第三者の出る幕はねぇな! ファイト続行だ! ひと思いにやってくれ!」

 エンド・オブ・ステージは豪快に笑うと、テーブルに置いていたカードを再び手に持った。小さく「すまん、モモカ」と呟きながら。

「ええ。《夢幻の風花 シラユキ》でヴァンガードにアタック!」

「だが! この星が滅びるということは、モモカが巻きこまれるということだ! そうなったら、貴様の魂を八つ裂きにして、大砲に詰め込み、銀河の彼方へ吹き飛ばしてやるからな! 覚悟しておけよ!」

 渦巻く吹雪のイメージに呑み込まれながら、エンド・オブ・ステージが声を張り上げる。

「心に留めておきましょう」

 ユキが神妙に応えると、室内だというのに冷たい風が吹き、エンド・オブ・ステージの山札をめくりあげる。そして《祝砲竜 エンド・オブ・ステージ》のカードがダメージゾーンにひらりと落ちた。

 

 

「ウ、グ、オオオオオオオオッ!!!」

 エンド・オブ・ステージの右手に浮かんでいた紋章が、まるでろうそくが消える瞬間のように一際強く輝くと、やがてゆっくりと色を失い、薄れていく。

「モモカ……。どうやら、ここでお別れだ……」

『やだ! やだよ! 行かないで!』

 自分の体の中から何かが抜けていくのを感じたモモカは、それを必死に繋ぎ止めようと手を伸ばし、叫ぶ。

『せっかく会えたのに! もうお別れだなんてやだ! あなたがいなくなったら、あたしはまた弱い自分に戻っちゃう! まだあたしには、あなたが必要なの!!』

「そんなに自分を卑下するなよ。モモカは強い子だ。今日だって、立派に戦えたじゃないか」

『それは、あなたが傍にいてくれたからで……』

「心配すんな。オレはこれからもいつだってお前の傍にいる」

『…………え?』

「お前がそのカードを使い続けてくれる限り、オレ達はずっと一緒だ』

 モモカの前に現れたエンド・オブ・ステージの霊体が、巨大なツメでファイトテーブルを指さす。そこには《祝砲竜 エンド・オブ・ステージ》のカードがあった。

『……うん。あたし、ヴァンガードを続けるよ。それで、いつかきっとあなたを勝たせてみせるから」

 頷いたモモカの頬を、一筋の雫が伝った。

『ありがとな……』

 エンド・オブ・ステージが長い首を伸ばしてモモカを抱きしめるように巻きつき、モモカはその首にそっと手を添えた。

『さよなら、モモカ。オレの相棒……』

「さよなら、エンド・オブ・ステージ。あたしの先導者……」

 手の中にあったゴツゴツとした鱗の感触がゆっくりと薄れていき、モモカは3日ぶりに肉体の主導権を取り戻すと、そのままふっと意識を失った。

「あー、今日は冷えるわねー。

 ユキー? そっちはどうなったー? って、モモカちゃん!?」

 ファイトテーブルに突っ伏すように倒れたモモカを見て、様子を見に来たらしいアリサが血相を変えた。

「ふふっ。ファイトに疲れて眠ってしまったようね」

 ユキは人差し指を自分の唇に当てて、アリサに静かにするよう促すと、モモカの小さい体躯を優しく抱きかかえた。

「ええー? そんなことあるー?」

 アリサが小声で訝しむが、ユキはそれを華麗に無視して、「そこの椅子借りるわね」と使われていない椅子を並べて簡易のベッドを作ると、自身の膝を枕にしてモモカの体を横たえた。

「お疲れ様。今はゆっくりとお休みなさい」

 そう言って、モモカの頬に残る涙の跡を、着物の袖で優しく拭う。

 そして、厳しい顔で窓から凶星を見上げた。

(さて、ミオ。あとはあなた達次第よ。邪魔者は排除してあげたから、うまくやってちょうだいな。言われるまでも無く、この子が不幸になるような結末は許しませんからね)

 彼女の感情に呼応するかのように雪が舞い上がり、家から同じように赤黒い星を見上げていたミオは小さく「へくしっ」とくしゃみをした。




まずは明けましておめでとうございます。
あと少しとはなりますが、今年も「根絶少女」をよろしくお願い致します。

ペイルムーン使いの皆様。
大変長らくお待たせ致しました。
ペイルムーン回&旧レギュラー総出演回をお送りさせて頂きました。
コンセプトの都合上、勝たせてあげることはできなかったのですが、そこはシナリオでカバーということで、今回は3年間温めていた(もともとペイルは終盤に刺客として登場させるつもりでした)とっておきのお話です。
ルキエ様の描写も頑張りました。
お楽しみ頂けたなら幸いです。

次回はVクランコレクションのえくすとらになる予定ですが、相変わらずとんでもない量になることが想定されるので、掲載日は未定です。
2月の本編よりは前に公開できればと思います。

それでは、次回もよろしくお願い致します。


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2月「誰にでも分かるさ。「ああ、もうお終いなんだ」と」

 その少女は、赤く染まりゆく空を見上げていた。

 未知の世界に焦がれる令嬢のように。あるいは故郷を想う旅人のように。

 今にも落ちてきそうな赤黒い凶星が、その頭上では禍々しく輝いており、彼女の瞳もそれに共鳴するかのように煌いている。

「……何をしているのですか、レイさん」

 その背に声をかけたのは、少女と瓜二つな容姿を持つ少女、音無(おとなし)ミオだ。その表情はいつも以上に、悲壮なほど無表情だった。

「ああ、見られちゃったかぁ」

 レイと呼ばれた少女が首だけでゆっくりと振り向く。ミオとは対照的に満面の笑みを浮かべていた。アリをいたぶって遊ぶ子どものように、無垢で残酷な笑顔。彼女をよく知る者が見たなら、彼女がレイだと気付けただろうか。

「本当は何もかも分かって、ここまで来たんでしょ? メサイアの入れ知恵かな?」

 レイの問いかけに、ミオが小さく頷く。

「ちっ。本当に余計なことをする。

 けど仕方ないか。じゃあ、お姉ちゃんには改めて教えてあげるね」

 レイは完全にミオへと向き直ると、両腕を大きく広げた。背にした凶星をミオに――いや、世界に紹介するかのように。

「間もなく地球はデリートされるよ。この遊星ブラントの力によってね」

 少女がブラントと呼ぶ凶星に髑髏の模様が浮かび、不吉な笑みを浮かべたような気がした。

 

 

 その日、音無ミオは就職活動の真っ最中だった。

 とは言え、一般的な就職活動とは、意味合いも内容も異なる。彼女が目指すのはヴァンガードファイターのプロ、ただ一点のみである。

 よって、彼女は今日もヴァンガードの大会に出場し、優勝を飾ってきた帰りであった。

 本来ならばそこで企業などのスポンサーにスカウトされるのが最良ではあるのだが、世の中そう上手くはいかないようである。

 他にもネット上でスポンサーを募集するなど涙ぐましい努力は続けているのだが、成果は実らなかった。

 というのも、ミオは高校生活の3年間において、大きな大会でこれといった実績を残せたわけではない。

 高校選手権で優勝したのは2年前の1年生だった頃であるし、その時には天海(あまみ)学園が棄権していたというのも彼女の評価を下げている。もっとも、当時の自分が天海に勝てていたとも思えないので、その評価については妥当だという自覚はある。

 その可憐な容姿から知名度は抜群に高いものの、ファイターの実力としては、安定しない中堅どころと言うのが世間の評価であった。

(フウヤさんと同じように、アルバイトをしながらアマチュアのファイトで結果を残していくしかありませんね)

 そのフウヤはアマチュアで華々しい結果をいくつも残しており、いくつかの企業が彼に目をつけているらしく、プロ入りは時間の問題だと言われている。恐らく自分とは入れ違いになるだろう。

 となると、当面のライバルは神薙(かんなぎ)ミコトや、その弟の神薙ノリトになるか。勝率こそ自分の方が上だが、けっして安定して勝てる相手でもない。

 高校に入学した当初には想像もしなかった先行き不安な将来設計だ。自分の学力と機転なら、何にだってなれると思っていた。なりたいと願うような目標も無かったので、それはそれで今の自分は幸せなのかも知れないが

「すみません。音無ミオさんでしょうか?」

 そんな少し荒んだミオの背に声がかけられた。透き通った女性の声だ。

「何でしょう?」

 仏頂面にも似た無表情でミオが振り向く。新品と思しきパリッとしたレディーススーツに身を包んだ若い女性が視界に入った。就職活動中の女子大生か、どこぞの企業の新入社員か、そのどちらかだろう。少なくとも、ミオが求める、企業のスカウトには見えなかった。

「あなたとファイトをしたいと思いまして。今、お時間よろしいでしょうか」

「お断りします。今、忙しいので」

 ミオは即答した。

 先にも述べたように、ミオの知名度は高く、ファンも多い。こうして道を歩いていると、ファンを名乗る知らない人から声をかけられることが稀にあった。

 握手くらいなら受けているが、サインはすべて断っている。そんなもの練習していない。ではファイトの誘いはどうかと言うと、常にファイトに餓えているミオは、100%受けていた。

 そんな彼女がファイトを拒んだ。

 不透明な未来にナーバスになっているからとか、そんな理由では無い。

 目の前の女性を見た瞬間、ミオの本能が恐怖を覚えたのだ。

 この場から一刻も早く逃げ出さなければと、全身の細胞が強く警告を発していた。

「ああ、申し遅れました」

 ミオの塩対応に気分を害した様子もなく、女性は穏やかな笑み――大抵の人には魅力的に映るのだろうが、ミオにとっては何かを企んでいるようにしか見えなかった――を浮かべ、女性が右手の甲をミオへと向ける。

「私の名は久世(くぜ)メアと申します。もっとも、あなたにはこう名乗った方がよいでしょう。

 私はメサイアのディフライダーである、と」

 女性の右手の甲に輪っかをみっつ重ねたようなリンクジョーカーの紋章が浮かび上がる。それは仄かに浮かびあがるミオのものとは違い、神々しく、ミオからみれば偉そうに、純白の輝きを発していた。

「まさか私から逃げたりしませんよね、根絶者のディフライダー」

「もちろんです。その名を名乗ったからには、無事に生きて帰れるとは思わないでください」

 あっさり前言を撤回して、ミオが物騒な物言いで女性の挑戦を受ける。

 だが、その心臓は今も本能的な恐怖に激しく脈打っていた。

 

 

「いらっしゃい、マナちゃん!」

 バスからふらふらとした足取りで降りてきた柊マナを、レイの無駄に元気な声が出迎えた。

「あ……。レイちゃん。この度はどうもお招き頂きありがとうございます」

 それに気付いたマナが、儚げな表情を崩して微笑み、深々と頭を下げた。

 天海島という離島で暮らす彼女だが、今日はレイに誘われ、本土まで遊びに来ていた。都会のショッピングモールやらカフェやらを案内してもらう約束になっている。締めはもちろん、天海島にある唯一のカードショップ「アルカナ」より、広さも品揃えも5倍以上の差があるカードショップでヴァンガードだ。

 ……その割には、レイから指定され、到着したバス亭には延々と道路が続くばかりで、何も無いのが気にかかった。都会とは言え、中央から離れればそんなものなのだろうか。それなら、もう少し都心に近い場所で待ち合わせてもよかったのではないか。

「ね、マナちゃん! さっそくだけど、ファイトしようよ!」

 レイから突然の提案に、マナの疑問は吹き飛び、彼女は丸い目をさらに丸くする。

「今ここで、ですか……?」

「うん! 新しいデッキを組んだんだけど、我慢できなくなっちゃって!」

 言いながらレイは新しいデッキとやらを取り出し、いそいそとバス亭のベンチに広げる。いくら待っても人など来そうになかったし、たしかに1戦くらいならできそうではあった。

「わかりました」

 気の弱いマナが、押しの強いレイからの提案を断れるはずもなく、ふわりとコートをなびかせてレイの対面に腰かける。マナも新しいデッキを組んできたし、ファイトすること自体はやぶさかではないのだが。

「……ですが、後で都会のお店にも案内してくださいね。お土産を買ってくる約束をアラシさんとしてしまっているので、それを反故にしてしまっては何を言われるか……」

 せめてもの抵抗で念を押す。

「大丈夫、大丈夫! 1戦だけだから!」

 女性をホテルに連れ込むチャラい男のような、何も信用できない「大丈夫」をレイは連呼した。

「そ、それならいいのですが……」

 そしてまた、騙されるチョロい女のような、曖昧な表情をマナが浮かべる。

「準備できた? 今日のアタシはいつもと違うんだからね。本気で来ないと、マナちゃんだって負けちゃうから」

「そんな……。私のような未熟な者が、手加減などできるはずもありません」

 いよいよファイトが始まる直前になって、マナの気配が変わっていく。

 彼女の最大の強みはここだ。高校生屈指の実力を持ちながら、その低い自己評価から、誰が相手であれ一切の驕りも油断も彼女のプレイングを歪めることは無い。既に王でありながら、常に挑戦者であり続けられることこそ、彼女の異能であった。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《菜の花の銃士 キーラ》!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「……え?」

 そんな稀代の集中力を誇る彼女の表情が、レイのめくったカードを見て、困惑に変化した。

「そのクラン……いえ、そのユニットは」

「言ったでしょ? 今日のアタシはいつもとは違うって」

 レイがいつものように笑い、別人のように嗤う。

 獲物を捕らえた肉食獣の如く、綺麗な舌が薄桃色の唇をなぞった。

 

 

 星の光すら届かぬ昏き宇宙の果てで、自らが星であるとばかりに燦然と輝く救世の竜と、宇宙すら闇に呑み込まんとする青き鋼鉄の根絶者が対峙していた。

 根絶者が装甲の隙間から無数の触手を伸ばし、救世竜は全身から放つ閃光で、それらをまとめて焼き払う。

 牽制では埒が開かぬと見た根絶者は、なおも光を放ち続ける救世竜に突撃を開始した。根絶者の纏う装甲が一瞬にして溶け、光に晒された肉体が浄化させられていく。左腕が落ち、両脚も崩れ、頭部を吹き飛ばされてなお、それは残った右腕を救世竜の額に突き刺した。

 だが、脳天を抉るには至らず、その右腕も灰と化して消えていく――が、その傷跡から再び触手が溢れ出すと、額の傷口から救世竜の体内に侵入し、ありったけの虚無を打ち込んだ。

 救世竜の全身がひび割れ、内部から砕け散る。

 その破片にこびりついていた根絶者の肉片が、ひとつ、またひとつと集まり、新たな根絶者を生み出すと、それは勝鬨とも産声ともつかぬ嬌声を、誰の声も届かぬ世界であげた。

「ダメージチェック……私の負けですね」

 近くにあったカードショップ《サン》にて。

 メアと名乗った女性が、ダメージゾーンに6枚目のカードを置く。

「なんなんですか、あなたは? ずいぶんと強敵感を醸し出して現れた割には、素人丸出しのプレイングでしたが」

 あっさりファイトに勝利したミオがらしからぬ辛辣な口調で尋ねた。

「私の宿主はカードのコレクションが趣味で、あまりファイトをしていなかったので。一応、デッキは改良してきたのですが、あなたほどのファイター相手には付け焼刃だったようですね」

 それを気にした様子もなく、右手の甲を押さえながらメアが語る。

「ですが、実際にファイトして分かりました。あなたから邪な気は感じられません。あなたに宿る根絶者の魂は、実にいい形であなたと共存しているようです」

「はい? 私を試していたとでも言うのですか? あなたはいったい何様ですか?」

「となると、やはり問題はもうひとりのディフライダーでしょうか」

「もうひとり? レイさんのことですか? あなたに私のかわいい後輩のことが何かわかるとでも?」

「……あの、いちいち喧嘩腰になるのはやめて頂けませんか? 天敵たるメサイアを前にして、あなたが強がりたくなる気持ちは分からなくもないですか」

 これまで穏やかな笑みを絶やさなかったメアが、はじめてその整った顔立ちに渋面を浮かべた。

「つ、強がる? わ、私があなたを恐れているとでも? 先程のファイトで、根絶者がメサイアよりも優れていることは証明されたはずです。私があなたを恐れるる道理などあるるはずもありませむ」

「呂律が回っていませんが、まあいいでしょう。

 2か月ほど前から、この星に現れた奇妙な星のことはご存知ですね?」

 メアが窓から空を、正確にはそこに浮かぶ赤黒い星を見上げながら尋ねた。それは1カ月前と比較して、益々大きくなっており、まだ正午にも関わらず空を夕暮れのように、赤く染めあげていた。

「はい。たしか遊星ブラントと、レイさんは紹介してくれました」

「そうですね。ですがブラント本星は我々が過去の戦いで浄化したので、あれはブラントの亜種のようなもの。我々はそれをブラント・オルタと名付けました」

「はい? 何を格好つけているんですか? 普通にブラントその2では駄目だったのですか?」

「……とにかく、あの星は地球にとって非常に危険な存在です。これ以上地球に近づくと、地球を呑み込んで、そのままデリートしてしまうでしょう」

「レイさんは、ブラントが地球によっぽど近付かない限りは安全だと言っていましたが。その確率もよっぽど低いものだと」

「それも間違いではありません。実際、ブラント・オルタは――」

「あくまでそれで通すんですね」

「ブラント・オルタは、地球に気付かず通り過ぎるコースを進んでいました。ですが、そのブラント・オルタを地球から呼ぶ者の存在が観測されたのです。ブラント・オルタは、それに惹かれるようにして、ゆっくりと地球に近づいてきている。

 それは根絶者のディフライダーとして生まれたあなた達ではないかと目星をつけ、まずはあなた達を暗殺するための刺客を放ったのですが、想定外のトラブルによって頓挫しました」

「知らないところで、何を物騒なことしてくれているんですか」

「次に計画されたのが、もともと地球の監視のため、この星にディフライドしていた私があなた達を抹消する作戦です。

 先程あなたは物騒と言いましたが、言うほど危険なことではないんですよ?

 ほら、見てください」

 言いながら、メアは押さえていた右手の甲をミオに見せる。そこに浮かぶリンクジョーカーの紋章からは黒い煙があがっており、煌々と輝いていた白い光も、今は少し陰りを見せていた。

「ディフライダー同士でファイトした場合に限って、あなた達のディフライドを解除することができるようなのです。今回は返り討ちにあってしまったので、私のディフライドが解除されてかかっていますが。

 本来なら一般のファイターに負けてもディフライドは解除されるのですが、あなた達は事故で生まれた特殊なディフライダー。人間の魂と根絶者の魂が入り混じっており、一般のファイターが、そのディフライドを解除することは困難なようですね。

 もっとも、あなたの感情がユニットと深くリンクした状態で負けた場合のみ、ディフライドが解除されることがあるようですが。心当たりはありませんか?」

 ミオは言われるまでもなく、メアの手の甲から燻る煙を見た時点で、今からちょうど2年前に行われた、ユキとのファイトを思いだしていた。

 あの時は確かに、ファイト中にグレイヲンの声が聞こえた気がしたのだ。そしてファイトに敗北した時、ちょうど今のメアと同じように、右手の甲にリンクジョーカーの紋章が浮かびあがった。

「話が逸れてしまいましたね。

 重要なのは、私が根絶者のディフライダーに勝利して、そのディフライドを解除しなければならないこと。あなたには負けたものの、安全性は確認できました。となると、もうひとりのディフライダーが、間違いなくブラント・オルタを呼んでいる。

 私は彼女にファイトで勝利し、その魂を再び虚無へと還さなければなりません」

「その証拠は? 私の後輩を、地球を滅ぼす害悪認定までして、勘違いだったとかでは済まされませんよ?」

「それは間違いありません。疑うのでしたら、このあたりで最も高い場所……薄暮山(はくぼやま)の頂上にでも行ってみるといいでしょう。きっとそこで、今も彼女はブラント・オルタを呼んでいます。

 あなただって、本当は薄々と感じているのでしょう? その子が、人にとっての善のみで動いているのではないことに」

「どうでしょう。私は人の感情には疎いので」

 ミオはとぼけるようにして堂々と嘯いた。

「それに、あなたの実力でレイさんにファイトで勝利するというのも無理があるように思われますが。今の彼女は、私に勝るとも劣らないファイターですよ」

「そうですね。わかってはいたものの、ここまで実力に開きがあるとは思いませんでした。計画に修正が必要です。我々メサイアは最終手段を行使します」

「最終手段?」

 その響きに不穏なものを感じ、ミオがオウム返しに尋ねる。

「はい。今、地球に我らが眷属の1体である、エクセリクスが向かっています。その力によって時任レイを直接浄化します」

「……それはどういう意味ですか?」

「エクセリクスの浄化の光に焼かれた存在は、その魂ごと骨も残さず消滅するでしょう。彼女のいる付近にも多少の被害が想定されますが、人的被害はなるべく抑えます」

「……レイさんの中に潜む根絶者だけではなく、レイさんという人物が消えてなくなるということで認識に間違いはないでしょうか」

「はい」

「何をほざいているんですか、あなたは?」

 心底から侮蔑の言葉と感情が湧きだしてきた。

「レイさんにも家族が。友人がいるんですよ?」

「これも秩序を守るためです。些細な犠牲など気にしてはいられません」

 メアの笑顔はいつの間にか失せ、そこには機械的な無表情が浮かんでいた。

「私の妹の命が、彼女を愛する人たちの悲しみが、些細ですか? 前からろくでもない連中とは思っていましたが、あなた達は正真正銘の外道だったようですね」

「これも秩序を守るためです」

 壊れたテープレコーダーのように、メアは同じ言葉を繰り返した。

「……提案があります」

 そんなメアに向けて、ミオは深く俯きながら、言葉を紡ぐ。それは頭を下げているようでもあり、宿敵にそのようなことをしなくてはならない屈辱に耐え忍んでいるようでもあった。

「何でしょう?」

「要はレイさんのディフライドを解除すればよいのでしょう? であれば、私がレイさんにファイトで勝利することでも、それは可能なはずです」

「理論上は可能ですね」

「それを私にやらせてください。私も地球をデリートされて嬉しいわけではありません。どうしてもレイさんに、あの子の中の根絶者に引導を渡すことが必要なのであれば、それは私の使命です」

「……いいでしょう。ですが、エクセリクスも間もなく地球へと到達します。あなたが敗北した時点で、それはあなたごと時任レイを焼き尽くすでしょう。それでもよろしければ」

「かまいません」

 ミオは即答した。

「私は彼女の姉ですよ。姉が妹に負けるはずありませんので」

 誰よりも理論的な彼女が、何の根拠も無い言葉を口にする。

「ただ、いくつか確認しておきたいことがあります。

 これまでも私はレイさんと幾たびもファイトしてきました。ですが、どちらかのディフライドが解かれるなどということはありませんでした。今回もそうなっては意味がありません。

 ディフライダー同士が戦う以外に、何かディフライドを解除する方法があるのではないですか?」

「ああ、そうですね。それはきっと時任レイがリンクジョーカー、根絶者を使っていなかったからでしょう。ディフライダーは自らと深い繋がりを持つユニットを使わなければ、ディフライドが解除されることもありません。ただカードゲームで遊んでいるだけです。

 ですので、時任レイとファイトする場合は、必ずリンクジョーカーを使わせてください」

「なるほど。彼女がギアクロニクルを使い続けてきたのは、私とファイトしてどちらかが消失することを避けるためでもあったのですね。

 では、次の質問です。

 もしもディフライドが解除された場合、彼女はどうなるのですか?」

「それは……わかりません」

 メアは悩ましげに首を傾げて答えた。

「役に立ちませんね」

「申し訳ありません。ですが、あなた達のディフライドは特殊なのです。

 通常のディフライドは、地球人の魂の上に、ユニットの魂が乗っかっている状態と考えてください。そこからユニットの魂を取り除いても、地球人の魂に影響はありません。

 しかしあなた達は、地球人の魂と根絶者の魂が混じり合っている。そこから根絶者の魂を取り除いてしまった場合、どのような形で魂が残されるのかわからないのです。ディフライド自体が新しい技術であり、今回の件は前例もありませんので。

 ただ、何らかの記憶を失ってしまうことは避けられないと考えています。最悪のケースを想定するなら、物言わぬ植物人間になってしまう可能性すらあります。すべてはあなた達の魂の持ちよう。人として生きてきたか、根絶者として生きてきたかにかかっているでしょう」

「……わかりました。ありがとうございます」

 形だけの礼を述べて、ミオは席を立つ。

「あ、待ってください」

 それをメアが呼び止めた。

「まだなにか?」

 いつも以上に無感情になってミオが尋ねる。

「最後にひとつだけ、お願いがあります――」

 

 

 メアが口にしていた薄暮山の麓へとバスで向かい、降り立ったところで、ミオは意外な人物と再会した。

「……マナさん?」

 レイの友人である柊マナが、バス停のベンチにぐったりとうつ伏せになって横たわっていたのだ。その周囲には彼女のものと思しきネオネクタールのカードが散乱している。

 今日はマナが島から遊びに来るのだと、1ヵ月ほど前から何度も嬉しそうにレイが話していた。なので、彼女がここにいること自体に不思議は無い。では何故、そのレイの姿がどこにも無いだろうか。

 ミオの心臓がどくんと跳ねた。

「マナさん、大丈夫ですか?」

 今すぐレイの名を叫びたい衝動にかられながらも、まずは倒れているマナの体を抱き起こし、その体調を手短に確かめる。気を失っているようだが、命に別状は無いようだったので、彼女をベンチにもたれかけさせたまま、散らばったカードが風に流される前に片付けようとする。

「む?」

 そのうちの1枚を見て、ミオは軽く形のよい眉をひそめた。

「茨百合の銃士、セシリア……“Я”?」

 これまでマナのデッキでは見たことのないカードが、その中に紛れ込んでいた。

「……ん」

 とそこでマナが小さく呻き声をあげ、ミオの注意はそちらへと向けられる。

「マナさん?」

 もう一度声をかけると、マナがゆっくりと目を開き、虚ろな瞳がミオを捉えた。

「……マナさん? その、顔は?」

 光の消えたマナの瞳の下、その目元には、一筋の血涙にも似た赤い痣が浮かんでいた。

「……んー?」

 マナがいつも以上にぼんやりとした声をあげると、顔にぺたぺたと触れる。続いて、ポケットから手鏡を取り出して自らの顔を確認すると、「あら」と小さく声をあげた。

「変な体勢で寝ていたので痣になってしまったようですね。お見苦しいものをお見せしてしまい、申し訳ございません」

 そう言って深々と頭を下げてから。

「あ、音無さんですか? おはようございます」

 ようやくミオに気付いたように、再び頭を下げた。もともとどこかずれている少女ではあるが、寝起きのためかそれに拍車がかかっているように思えた。

「もう昼過ぎですが。体調は大丈夫ですか?」

 対するミオは、ツッコミと確認をテキパキ同時にこなす。

「あ、はい。私、体は丈夫なんですけど、乗り物には弱くって。船も苦手なんですが、バスは島に無いのもあり、猶更乗り慣れていなくて、乗り物酔いしてしまいました。そんな状態でファイトまでしたものですから、気を失ってしまったようですね」

「対戦相手はレイさんですか?」

 マナは「はい」と小さく頷いた。

 ミオは嘆息すると、マナにデッキを返しながら「デッキの中に見慣れないカードもありましたが」と続けて尋ねた。

「え? ああ、セシリア“Я”のことでしょうか。せっかく4枚揃ったのでデッキに入れてみたのですが、慣れないカードは使うものではないですね。負けてしまいました」

「……そうですか」

 レイとのファイトに負けたマナが、変貌したデッキを手に襲い掛かってくるという想像が何故かずっと頭から離れなかったのだが、まったくそんなことは無かったようである。本当に何でそんなことを考えてしまったのか。

「私が不甲斐ないファイトをしたものですから、レイちゃんは私に愛想を尽かしてどこかへ行ってしまわれたようですね」

 マナが寂しそうに俯いた。彼女が落ち込むのは、付き合いの浅いミオからしても珍しくないことではあったが、この時のマナは心の底から悲しんでいるように見えた。

 そうだ。いつものレイなら、目の前でマナが倒れて何もしないわけがない。

 だが、事実としてレイはこの場にいない。

「……ファイトしていたレイさんの様子に、何か変わったところはありませんでしたか?」

「え? ……そう言えば、デッキがいつもと違いました」

「何を使っていましたか?」

「リンクジョーカー……根絶者です。最初はびっくりしましたけど、音無さんの影響かと思って、あまり気にはなりませんでした。中学生の頃は根絶者を使っていたという話も聞いていましたし」

「……そうですか」

 嫌な予感が、またひとつ現実のものとなる。

 だが、マナはまだ言葉を続けた。

「けど、そんなことよりも。今日のレイちゃんはいつもよりよく笑っていましたけど……まったく楽しそうではありませんでした。そちらの方が気になって……。

 やっぱり私とのファイトがつまらないから、レイちゃんは私のことが嫌いになってしまったのでしょうかぁ……」

 ぽろぽろと涙を零しながら、マナはミオにすがりつく。

「……大丈夫ですよ」

 ミオは絞り出すようにして声をあげた。それは自分に言い聞かせているようでもあった。

「あの子はあなたのことが嫌いになったわけではありません。ただ、今日はちょっと情緒不安定になっていたようですね。

 船の時間もあるでしょうし、あの子のことは私にまかせてください。この日の埋め合わせは、必ずさせますので。次に会う時は、きっといつも通りのレイさんですよ」

 自身の不安な感情は力ずくで抑え込み、マナを安心させるようできる限りの不器用な笑顔で取り繕った。

「……わかりました。よろしくお願いします」

 ミオの拙い言葉が、どれほど信用されたのかは分からない。だが少なくとも真剣な想いは伝わったらしく、マナはすんと鼻をすすり小さく頷きながら、ゆっくりと立ち上がった。

 その拍子に、彼女のコートの下から、カードの束が現れる。

「む。マナさん、デッキを忘れてますよ」

「え? セシリア“Я”デッキなら、もうしまいましたけど。今日はこれ以外のデッキも持ってきていないですし……」

 訝しげにカードの束を拾い上げ、中身を確認する。その瞬間、マナのハッと息を呑む声が無人のバス停に鋭く奔った。

「どうしました?」

 ミオもマナの手元で広げられたカードを覗き込み、金棒で頭を殴られたような衝撃を受ける。

 それはギアクロニクルのデッキだった。

「……これ、レイさんのデッキです」

 そのうちの1枚、特殊加工(オリジンレア)の《時空竜騎 ロストレジェンド》を抜き取り、マナが声を震わせながらミオへと振り返る。

 それはギアクロニクルのカードの束というだけで、レイのデッキであるという確証はどこにも無い。

 だがこの1年間、レイが悩みに悩みぬいて1枚1枚カードを選定してきた、文字通り心血を注いで完成させたデッキを、このふたりが見間違えるはずもなかった。

「レイさん、ギアクロニクルを辞めてしまったのでしょうか。あんなに楽しそうに使っていたのに……」

 マナがまた泣きだしそうに目を伏せた。

「そのことも、すべてこれから彼女に確かめてきます」

 ミオは宣言するように告げると、睨みつけるように空を仰いだ。今もそこに浮かぶ凶星は、こうしている間にもまた大きくなっているかのように見えた。

 

 

 そしてミオは、薄暮山の頂上でレイと出逢った。

 愛しい母を見上げる赤子のように無垢な瞳で、黄昏にも似た赤い空を仰ぐレイと。

「ブラントに危険は無いと、レイさんはおっしゃっていましたが」

 責めるような口調で、ミオが確認する。

「嘘は言ってないよ。ブラントが地球に気付くきっかけでも無い限りは大丈夫って言ったでしょ。だからアタシがきっかけになってあげたんだ」

 そう言うレイの瞳は、空に浮かぶ凶星のように赤黒く濁っていた。

「ブラントは仲間――根絶者であるアタシのことだね――の気配を感じて、少しずつ地球に近づいてきている。あと30分もすれば地球にいる生命体の存在を認識して、急速に地球へと接近してくるよ。そうなれば誰にも止められない。地球はブラントにデリートされる。

 けど安心して!!」

 パッと明るく口調を変えて、レイが無邪気に笑う。

「別に痛いとか苦しいとかは一切感じないから! 老いも若きも、富める者も病める者も、誰もが平等に。電源を落とした機械のように、ある日突然ブツリとデリートされる。これってとっても素敵なことだと思わない!?」

「思いません。どれだけ言い方を変えようと、それは単なる人の死です。デリートでも何でもありません」

「……やっぱりわかってくれないかぁ。この1年間、お姉ちゃんと一緒にいて、なんとなくそんな気はしていたんだけど。残念だなぁ」

 拗ねた子どものように、レイが足元の石ころを蹴りつけた。

「わからないのは私の方です。人が消えるということは、あなたがヴァンガードを通じて出会い、あなたを愛し、あなたを愛してくれた人達も失われるということですよ? あなたの御両親が、サキさんが、マナさんが、アリサさんが、聖ローゼの皆が、死んでしまうということなのですよ?」

「さすがのアタシも皆が苦しみもがきながら死んでいくのを見るのはイヤだよ? けど、さっきも言ったようにこのデリートは平等で例外も順番も無い。アタシも含めて漏れなく全員が同時にデリートされる。取り残される者のいない死は、死じゃないよ。

 一寸先は闇とは言うけれど、これからの未来が輝かしいものとは限らないじゃない? なら全員が等しく終わりを迎えるのは、ひとつの幸福だと思うけどな」

「……サキさんが。この前、私に話してくれたんです」

「?」

 急に話を変えられて、レイは訝しげに小首を傾げた。

「将来は先生になりたいと。そのための勉強を始めているのだと。レイさんが入部するより前、聖ローゼの方々と合同で練習をしたのですが、その時にマナブ先生が色々と話をしてくれて。そのことがとても印象に残ったそうです」

「……へえ? あのいるんだかいないんだかわからない顧問の先生がねぇ。それがどうかしたの?」

「アリサさんはカードショップの店員になるため、『エンペラー』でアルバイトをしながら勉強を続けています。一度は夢を見失ったオウガさんも、今はアメフトのトレーナーになるため努力をしている。ミコトさんとノリトさんとムドウさんはプロを目指して頑張っていますし、フウヤさんはもう少しで念願だったプロになれる。ヒビキさんに至っては、今年度からプロになることが決まっていますし、アラシさんとセイジさん、そしてマナさんは家業を継ぐのだと。それに一切の不満も後悔もないと笑っておっしゃっていました。ユキさんは……ろくでもないことしか考えてなさそうなので、夢が叶わない方が人類にとって幸せなのかも知れませんが」

 ミオの口から、これまで出会ってきた人の名と、彼らが抱く夢や野望がとめどなく流れ落ちてきた。

「私もプロになりたい。ヴァンガードと共に生きて、もっといろんな人と出会いたい。そして、ダルクさんと交わしたファイトの約束を果たします。

 レイさん。あなたのやろうとしていることは、私達の夢、未来に対する冒涜です。私はそれを看過できません」

「……なら、どうするのかな?」

 レイが試すようにミオを見据えた。

「私があなたを止めます。レイさん、ファイトをしましょう。あなたもリンクジョーカーのデッキを使ってください」

 ミオはカバンからデッキを取り出すと、剣のようにしてそれを突きつけた。

「……敗れた側がどうなるかは、メサイアに聞いてるんだよね?」

「承知の上です」

「アタシにはそれを受けるメリットがないんだけど?」

 レイが意地悪く笑う。

「そうですね。ですが、あなたは私からのファイトの誘いは断らないはずです」

「……悔しいけど、そうだね。どうしてもファイトが恋しくなってマナちゃんともファイトしたけど、やっぱり最期にファイトするのならお姉ちゃんがいいや」

「あなたはそういう人です。あなたもヴァンガードファイターなのですから」

「けど、ひとつだけ条件を聞いてくれる? Pスタンダードでファイトしようよ。お姉ちゃんのことだから、Pスタンのデッキも持ち歩いてるんでしょ?」

「それはもちろんですが……」

 何故でしょうかと言外で問いかける。

「せっかく最期にファイトをするんだから派手にやりたいと思っただけだよ。カードプールは聖域の光戦士からVコレまでね」

「……私はこのファイトを最期にするつもりはありませんが、わかりました。少しだけ構築を変えてもよいでしょうか」

「替えのカードも持ち歩いてるの? 相変わらず熱心だねー。いいけど、時間が無いのはそっちだからね。

 あ、時間を稼ごうとしても無駄だよ? 性格の悪いメサイアのことだから、アタシを直接狙おうとかしてるんだろうけど、今のブラントは過去に敗れた経験から、メサイアを察知する能力が高くなってる。今頃は足止めを喰らってるんじゃないかな? メサイアがアタシを焼き尽くすより、ブラントが地球を消し去る方が間違いなく早いよ」

「失礼な。私がメサイアごときの力をアテにするとでも思いましたか?」

「そうだよね。ごめん」

 そんな話をしている間にも、ミオは新しく取り出したデッキから複数枚のカードを入れ替える。

「ファイトは……あそこでしよっか」

 レイが指さしたのは、昔は何かの銅像が立っていたのであろう台座だった。立ちながらのファイトにはなるが、形はファイトテーブルによく似ていた。表面はざらざらし汚れていたので、ミオは白いハンカチを広げて置いて、その上にデッキを静かに乗せた。レイもそれに倣ってデッキを置く。

「……何故、私たちはすれ違ってしまったのでしょうか」

 山札からカードを引きながら、ミオは問いかけた。それはレイに対する問いかけであり、自問自答しているようでもあった。

「しょうがないよ。根絶者として生きてきた年数が違うんだから」

 レイもカードを引きながら、独り言のように虚ろに答える。

「……? どういう意味ですか」

「お姉ちゃんは疑問に思わなかった? アタシ達はメサイアに敗れた根絶者の魂が、無垢で脆い赤子の魂に取り憑くことで生まれた存在。なのに、なんで2年も歳が開いたのかな?」

「……あ」

「そう。お姉ちゃんは根絶者として生まれてすぐに死んだけど、アタシは2年間生き残った。ただ目に映る存在を本能のままに斬り裂き、喰らい、消去する。終わりの無い戦いを2年もの間、続けてきたの。

 その時の記憶が悪夢となって、今もアタシを苛んでいる。目に映るものを消し去りたいとふと思うことがあるの。それは嫌いなものや気に食わないものだけじゃない。お姉ちゃんや、サキちゃん。マナちゃんだって。大切なものを本能的に消してしまいたくなるの。地獄だよね。

 すべてを消し去るきっかけを求めていたのはブラントじゃなく、きっとアタシだ……」

「何故それを……」

 相談してくれなかったのか責めようとして、ミオは口をつぐんだ。

「うん。お姉ちゃんには何もできなかったよね。気休めとかも言えない人だし」

「そうですね。私にできることは、あなたが姉と呼んでくれた者の責任として、ただひとつ……」

 ミオは大きく息を吸い、静かに宣言した。

「あなたの中にいる根絶者をデリートします。たとえあなたを失うことになろうとも」

 彼女の意思に応えるように、右手の甲でリンクジョーカーの紋章が気高く純白に輝く。

「やってみなよ! マナちゃんにも言ったけど、いつものアタシとは思わないでね?」

 対するレイの紋章が、混沌の紅に輝いた。

「アタシは根絶者として生きるよ、お姉ちゃん」

「私は少女(ひと)として生きます。そして、あなたを止めてみせます」

 ふたつの紋章が、互いのファーストヴァンガードに重なり合う。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

「《享受する根絶者 ヰゴール》」

 後に最凶の根絶者へと成長する悪夢の落とし子が、レイの魂を宿して産声を上げ――

「《翻る根絶者 ズヰージェ》」

 滅亡の予兆とされる異形の翼が、ミオの魂を宿して宙を舞った。

 

 

「先行はもらうよ。スタンド&ドロー。

 ライド。《速攻する根絶者 ガタリヲ(G)》

 ヰゴールを先駆でヴァンガード後列に移動させ、あたしはこれでターンエンド」※Gスタンダードのカードで、Vスタンダードに同名が存在するカードは末尾に(G)と表記

 レイの宿るヰゴールがひとつ成長する。破滅への階段を上るように。

「私のターン。スタンド&ドロー。

 ライド。《発酵する根絶者 ガヰアン》

 先駆でズヰージェをヴァンガード後列に移動させ、ブースト。ガヰアンでアタックします」

「ノーガード」

「ドライブチェック……トリガーはありません」

「ダメージチェック……(ドロー)トリガー。1枚引いて、ターンをもらうよ。

 スタンド&ドロー。

 ライド。《慢心する根絶者 ギヲ》」

 またひとつガタリヲが大きくなり、何かがどくんと脈動する音が聞こえた。

 それはその中で蠢く何かが胎動する音か。それとも本能的に戦慄を覚えたミオの鼓動か。

「《追撃する根絶者 ヱゴット》と《心酔する根絶者 グヰム》をコール。

 ヰゴールのブースト。ギヲでヴァンガードにアタック」

「ノーガードです」

「ドライブチェック……(クリティカル)トリガー。★はギヲ。パワーはヱゴットに」

「ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(ヒール)トリガー。ダメージを回復します」

「ヱゴットのアタックは、まだまだ通るよ。グヰムのブースト。ヱゴットでヴァンガードにアタック」

「★トリガーでガードします。

 私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《迅速な根絶者 ギアリ》。

 コール。《走破する根絶者 バヰルド》。

 バトルです。

 バヰルドでヱゴットにアタックします」

「ノーガード。ヱゴットは退却だね」

「ズヰージェのブースト。ギアリでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード」

「ドライブチェック……★トリガーです。効果はすべてギアリに」

「ダメージチェック。

 1枚目、引トリガー。1枚引かせてもらうよ。

 2枚目、こっちはトリガー無し」

「ギアリのスキルで、グヰムを裏でバインド(バニッシュデリート)します。

 私はこれでターンエンドです」

 ここまでで、ミオのダメージ1に対し、レイのダメージは3。ミオがやや優勢と言える。

「スタンド&ドロー

 ふふふ。ようやくターンが回ってきた。これでようやくお姉ちゃんに見せてあげられるよ。……アタシの新しい相棒をね!!

 ライド!! 《威圧する根絶者 ヲクシズ》!!!」

 レイの背後にあるブラントに髑髏が浮かぶ。

 いや、髑髏と同じ顔をした禍々しき存在がブラントの中からゆっくりと這い出してきていた。

 凶星と同じ、赤黒い体色の根絶者だ。

 霊体となったレイがそれに宿ると、その根絶者は長大な躰をくねらせミオを睥睨した。

 かつて世界の根絶に最も近づいた伝説が、今再び地球へと牙を剥く。

「《略奪する根絶者 ガノヱク(G)》をコールして1枚ドロー。

 そして、ヲクシズのスキル発動!! ガノヱクをソウルに吸収し、ヴァンガードをデリート!!」

 ヲクシズはその両腕に、小型のブラントとも言える虚無の光を生成し、ミオの宿る根絶者へと叩きつける。光に呑み込まれたギアリの姿が跡形も無く消え去り、後には無防備なミオの霊体だけが残された。

「さらにヲクシズのパワー+10000!

 ヴァンガードがデリートされたので、ヰゴールをソウルインして1枚ドロー。カウンターチャージ。

《呼応する根絶者 アルバ(G)》をコール。そのスキルで、山札から《呼応する根絶者 エルロ(G)》をスペリオルコール。お姉ちゃんも山札の上から1枚、スペリオルコールしていいよ」

「私は……《禁ずる根絶者 ザクヱラド》を前列にコールします」

「お姉ちゃんがスペリオルコールしたので、カウンターチャージ!

 ザクヱラド……厄介なカードが出てきたけど、前列に置いたのは間違いだったかな。《並列する根絶者 ゲヰール》をコール! ザクヱラドを呪縛(ロック)

 さらに《噛み砕く根絶者 バルヲル》をコールしてΩ呪縛!」

 ミオの根絶者が黒輪に包まれるようにして呪縛され、その上からかけられた赤と黒の鎖がそれをさらに堅く封印する。

「《悪運の根絶者 ドロヲン(G)》もコールして……さあ、バトルだよ!!

 バルヲルのブースト! ヲクシズでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはアルバに!

 2枚目、トリガー無し!」

 ヲクシズが右腕を大きく掲げ、その巨大かつ鋭利な爪で霊体となったミオを容赦なく引き裂く。その余波で大地にも幾条もの傷跡が刻みつけられた。

「ダメージチェック……トリガーはありません」

「ドロヲン(G)をソウルイン。手札を捨ててスキル発動。2枚引いて、お姉ちゃんのドロップゾーンにあるカードを1枚裏でバインド。

 バルヲルのブースト。エルロ(G)でヴァンガードにアタック」

「ノーガード。ダメージチェック……★トリガー。パワーはヴァンガードに」

「アルバ(G)でヴァンガードにアタック」

「《層累の根絶者 ジャルヱル》でガード。バヰルドでインターセプトです」

 これでお互いのダメージは3点で並んだ。

「私のターンですね。スタンド&ドロー……」

「おっと! ライドしたかったら、手札を1枚捨ててね。これが私の相棒――ヲクシズの力だよ」

「わかっています。手札から引トリガーを捨て……《黒闇の根絶者 グレイヱンド》にライドします」

 ミオの声に応え、途方も無く長い尾を持つ根絶者が霊体となった彼女の影から姿を現した。その尾の先には、鋭い刃が剣の如く輝く。

 グレイヲンの系譜を受け継ぎ、終焉(ヱンド)を名乗る根絶者が、伝説の前に立ちはだかる。

 世界を終わらせる者を終わらせるために。

(グレイヱンド……あなたにとっては不本意かも知れませんが、どうか私に力を貸してください。皆の夢を守るために。私自身が前へと進むために)

『構わぬ、我が先導者よ。もとよりこのようなちっぽけな惑星に興味は無い。同じ消すのであれば、より巨大なブラントの方が興が乗るというもの』

 グレイヱンドの声が彼方よりはっきりと聞こえ、ミオは小さく頷いた。

「手札からG3……《突貫する根絶者 ヰギー》(G)を捨て、《終末根絶者 アヲダヰヱン》に超越します」

 グレイヱンドの長大な体躯が天へと昇り、そこに開いた時空の門へと吸い込まれるようにして消えていく。

 そこから新たに現れたのは、かつてはちっぽけな根絶者であったヲロロンが永劫とも思える長き年月を経て進化した姿、その果て。蜘蛛を思わせる八つの脚を生やした、異形を誇る根絶者の中でも、一際の異彩を放つ根絶者。

 それは蜘蛛の胴体から六枚の輝く薄羽を広げ、滅びの迫る赤き空に怪しく舞い上がった。

「グレイヱンドの超越スキル。山札の上から1枚公開し、それが根絶者であるならスペリオルコールします。

 私が公開するカードは……《嘲笑する根絶者 アヰーダ》。

 アヰーダを右後列のリアガードサークルにスペリオルコールし、その前列に……」

 ミオは初手から大切に握っていたカードを、祈りを込めて掴み取る。

「《時空竜騎 ロストレジェンド》をコールします」

「……え?」

 これまで飄々とした、人を嘲るような笑みを絶やさなかったレイの顔色がはじめて変わった。

「何で、そのカードを……」

 震える声で問いかけるレイを無視し、ミオはゲームを続ける。

「あなたの相棒はそれではありません。ズヰージェを退却させ、アヲダヰヱンのスキル発動。ヲクシズよ、消え去りなさい」

 アヲダヰヱンの全身から噴き出す虚無の霧が、ヲクシズの全身を包み込み、その巨体を溶かすように消し去っていく。

「……何やってるの、お姉ちゃん。ルール違反だよ」

 霊体となったレイが、忌々しげに言う。

「む? ロストレジェンドのことでしたら、カードプールは聖域の光戦士からVクランコレクションまでと聞いたものですから」

「それじゃエクストリームファイトだよ。まあいいけど。どうせお姉ちゃんのデッキじゃ、ロストレジェンドなんて生かせないでしょ。続けなよ」

「……あなたはこのカードを見て、何も感じないのですか?」

「感じないよ! アタシがギアクロニクルを使ってたのは、お姉ちゃんと一緒にファイトするためで、根絶者としての素性を隠すため! そんなカードに思い入れなんて無い!」

「ようやく確信が持てました。あなたはレイさんではありません。あなたがレイさんであれば、そのようなことを言うはずがありません。あなたはレイさんの中に巣食っていた根絶者です。

 レイさん。どうかあなたの意思を強く持ってください。でなければ、あなたは本当に消えてしまいます」

「うるさい! はやくファイトを続けろ! ファイトが終わる前に、地球がブラントに呑み込まれても知らないよ!」

「……わかりました。アヲダヰヱンの効果処理で、前列のユニットにパワー+2000。

 ズヰージェのスキルで山札の上から1枚見て……《悪運の根絶者 ドロヲン(G)》をスペリオルコール。ズヰージェはドロップゾーンからソウルへ。

 バトルです。

 アヰーダのブースト。ロストレジェンドでヴァンガードにアタック」

「通すもんか! 治トリガーを捨てて時空超越(ストライドジェネレーション)!!

 治ガーディアン《滅星輝兵 デモンマクスウェル》! さらに、アルバとエルロでインターセプト!」

 白亜の機兵が盾を掲げ、双子の根絶者もレイの前に並び立つことで、騎士竜の剣を拒絶する。

「ドロヲン(G)のブースト。アヲダヰヱンで、ヴァンガードにアタック」

「ノーガード」

「トリプルドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはロストレジェンドに。

 3枚目……(スタンド)トリガー」

「!? ……そっか。そりゃ醒トリガーだって入ってるよね」

「そういうことです。ロストレジェンドをスタンドさせ、パワー+5000」

 アヲダヰヱンが、両掌から無数の虚無の光球を生み出し、それらが霊体となったレイへと降り注ぐ。

「ダメージチェック……トリガーは無いよ」

「ドロヲン(G)をソウルイン。2枚ドロー。

 再度、ロストレジェンドでアタックします」

「……ノーガード」

 ロストレジェンドが、すり抜けざまにレイを斬り裂き、その刹那、互いの視線が交錯する。

「……何なのよ、その目は」

 ダメージゾーンに5枚目のカード――引トリガー――を叩きつけながら、レイはロストレジェンドを睨みつけた。

「なんでアンタがアタシを攻撃するのよ! そんな顔をしてまで!!」

 ミオを守るようにして盾を構えるロストレジェンドは辛そうに、憐れむようにしてレイを見ていた。それでいて、その瞳の奥には、彼女を必ず救い出すという強い意志も見て取れた。

「ああもう! 不愉快! 不愉快!! 不愉快!!!

 アンタも今すぐ虚無の彼方へと消し去ってやる!!」

 二つ括りにした髪を振り乱して、足を踏み鳴らしながらレイが叫ぶ。

「スタンド&ドロー!!

 手札から《対峙する根絶者 ジャグヲック》を捨て、ジェネレーションゾーン、解放!

 時空超越!! 《始源根絶者 ヱヰゴヲグ》!!!」

 その憤怒に呼応するかのように、彼女の背後にある凶星が、さらに迫り来る。その中から、ブラントの力を得た――いや、ブラントそのものとなったヲクシズが顕現し、怒れるレイの魂を宿す。

「ヱヰゴヲグのスキル発動!! バルヲルを退却!

 そして、グレイヱンドをデリート! アヰーダを呪縛!! ドロップゾーンのカードを裏でバインド!!!」

 ヱヰゴヲグが胸にあるもうひとつの口が開き、そこから絶叫にも似た虚無の奔流が放たれる。

 それはグレイヱンドばかりか、この世界をも削り取り、すべてを零へと還していく。

「ゲヰールをコール! ロストレジェンドッ! アタシの前から消え去れェ!!」

 レイが騎士竜を指さすと、その体が幾重にも黒い輪に囚われて小さくなっていく。だが、その姿が完全に消えゆくその瞬間まで、騎士竜はレイから目を離さなかった。

「あっはっは! いい気味だ! せっかく使ってあげていたのに、アタシに楯突いた罰だよ!」

「レイさん」

「何よ?」

「あなた、泣いていますよ?」

「!?」

 レイが思わず頬に手を当てる。そこには確かに塩辛くべたべたする液体の感触があった。

「何で……今まで泣けなかったのに。

 っ! そうじゃない! 悲しいことなんて何もないのに、何で泣かなくちゃならないの!」

 袖で乱暴に涙を拭うと、レイはファイトを続行する。

「ゲヰールを前列に移動! 《咀嚼する根絶者 ボロヲ》、《搾取する根絶者 ヰド》をコール!

 バトルだよ!!

 ヱヰゴヲグでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガードです……」

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、トリガー無しっ!

 2枚目、引トリガーッ!! 1枚引いて、パワーは左のゲヰールへ!

 3枚目、★トリガーッ!! パワーは右のゲヰール! ★はヴァンガードにっ!」

 ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!!

 ヱヰゴヲグが、怨嗟と絶望の混じり合った唸り声をあげ、両腕に纏った虚無ごと、拳を何度も何度もミオの霊体に叩きつける。

 根絶者でありながら、どこか首魁としての気品と矜持すら垣間見えたヲクシズとは似ても似つかぬ原始的な連撃。

 その拳が大地を穿つたびに、世界が悲鳴をあげる。

「ダメージチェック。

 1枚目、治トリガー。回復はしませんが、パワーはヴァンガードに。

 2枚目、こちらはトリガーではありません。

 これで気が済みましたか?」

 だが、ミオは淡々と澄ました顔で5枚目のカードをダメージゾーンに置く。ヱヰゴヲグの攻撃など効いてもいない風に。ただ、その瞳は先のロストレジェンドと同じく、憐憫に揺らいでいた。

「そんな目でぇ……アタシを見るなッ!!

 ヰドのブーストッ! ゲヰールでヴァンガードにアタック!!」

「★トリガーでガードします」

「ボロヲのブーストッ! ゲヰールでヴァンガードにアタック!」

「《招き入れる根絶者 ファルヲン》、《奏でる根絶者 ヱファメス》でガード」

「アタシはこれでターンエンドだよ。さあ、足掻いて見せてよ、お姉ちゃん。前列が呪縛された、この状況でさぁ!」

「そうして見せます。

 スタンド&ドロー。手札から《招き入れる根絶者 ファルヲン(G)》を捨て、アヲダヰヱンに超越。

 超越コストして捨てられたファルヲン(G)は、ドロップゾーンからスペリオルコールされます。

 そのファルヲン(G)をコストに、アヲダヰヱンのスキルでヲクシズをデリート。

 ヴァンガードがデリートされたことで、ドロップゾーンからもう1体のファルヲンをスペリオルコール。

 バトルです。

 ファルヲンのブースト。アヲダヰヱンでヴァンガードにアタック」

「はい、《染み渡る根絶者 ヱンダー》で完全ガード。

 これでお姉ちゃんのアタックは通らないよ……と言いたいけれど、それだけではアタシの気が済まない。

 治トリガーを捨てて、Gガーディアン《創世機神 デストハーケン》も追加でガード。呪縛カードが2枚あるので1枚ドロー」

(? 手札を交換したかったのでしょうか)

 レイの意図が図りかねて、ミオは心の中で首を傾げる。

「トリプルドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し。

 3枚目、もトリガー無しです。

 私はこれでターンエンド。ロストレジェンド、ザクヱラド、アヰーダは解呪されます」

「あははっ! トリガーにも嫌われたね!

 それじゃ、アタシのターン……いや。

 アタシの……ファイナルターン!!

 スタンド&ドロー!!」

 山札から引き抜いたカードを一瞥したかと思うと、レイは突如として笑い声をあげた。

「アッハッハッハッ! 絶対に来てくれると思ってたんだぁ! アッハッハッ!」

 この1年、レイが笑うところはたくさん見てきたが、こんな声は聞いたことがなかった。

 この世のすべてを蔑む、誰も幸せにしない哀れで寂しい笑い声。

 ミオは――たとえそれが希薄な感情を隠すための演技であれ――いつも楽しそうに笑っているレイを羨ましく思っていたが、これだけは真似したいと思わなかった。

「やっぱりこの世界も消えたがっているんだよ!

 お姉ちゃん、諦めなよ。ここから先は世界の意思だ。

 ライド! 《混じり合う根絶者 ケヰヲス》!!」

 人の髑髏と、竜の頭骨。双頭の根絶者が、不安定な己を呪うかのように猛り狂う。

「ケヰヲスのスキル発動!! 手札を2枚捨て、ロストレジェンドとザクヱラドを呪縛! グレイヱンドをデリート!!」

(これがレイさんの切り札? ……いえ。たしかに強力なカードですが、このカードを使うからには続きがある)

「ようやく気付いた? お姉ちゃん。もう詰んでるってことにさぁ!

 手札からもう1枚のケヰヲスを捨て、我が未来を根絶し顕現せよ!! 究極超越(アルティメットストライド)!!!」

 レイが右手の紋章を天高く掲げる。

 

「《星葬のゼロスドラゴン スターク》!!」

 

 赤い空がひび割れ、そこから黒鋼の機械竜が舞い降りた。重々しい足取りで大地を踏みしめたそれは、全身を明滅させゆっくりと起動を開始する。

 ――世界ヲ無ニ帰ス

 動力(ハーツ)に根絶者を宿した終末兵器は、一切の咆哮すらあげることなく、ただ一つの指令を遂行するため行動を開始した。

「《謳歌する根絶者 マヱストル》をコール!

 そして、スタークのスキル発動!! このターン、スタークはアタックしてもレストせず、3回までアタックできる!!

 さあ、バトルだよ!!

 スタークでヴァンガードにアタック!」

「手札から治トリガーを捨て、Gガーディアン《非難する根絶者 ヰビヲルヱス》をコールします。

 ヰビヲルヱスのスキルで、ヴァンガード、リアガード、Gゾーン、すべての根絶者1枚につき、前列のパワーを-1000します。該当の根絶者は7枚。よって、前列にいるユニットのパワーは-7000。これでスタークのパワーは29000です。

 さらにファルヲンとギヴンでガードして1枚貫通です」

「なるほど。ヰビヲルヱスなら、スタークに有効だね。

 ドライブチェック……トリガー無し」

 スタークが虚無を纏った爪を無造作に振るう。たった一振りで、ミオを守る無数の根絶者達が虚空へと散っていった。

「続けて、スタークでヴァンガードにアタック!」

「もう一度《非難する根絶者 ヰビヲルヱス》です。今度はGゾーンに先ほどのヰビヲルヱスがいるので、パワー-8000。これでスタークのパワーも21000。

 さらにジャルヱルでガード。1枚貫通です」

「!? ドライブチェック……トリガー無し」

 スタークが今度は長い尾を振るい、群がる根絶者を次々と叩き落とす。だが、根絶者は尽きることなく現れ、スタークにまとわりつき、その機能を少しずつ低下させていく。

「…………ふっ。あはははは! 脅かさないでよ、お姉ちゃん!」

 一時は表情に焦りを滲ませたレイだったが、改めてミオの手札と盤面を見渡し、ケラケラと笑った。

「お姉ちゃんは自分から追い詰められたことを告白しちゃったようなものだよ! だって、これでお姉ちゃんの治トリガーは4枚すべてが見えた! もうお姉ちゃんに6点ヒールは無い。

 しかも、お姉ちゃんの手札は残り1枚! ブースト込みでパワー26000になるスタークのアタックを防ぐ術なんて、根絶者には残されてない! とんだ悪足掻きだったね!」

「…………」

 状況を看破されたミオは、最後の手札を握りしめたまま、無表情に立ち竦んでいるように見えた。

「さあ、スターク! この世界に終焉をもたらせ!

 マヱストルのブースト! スタークでヴァンガード(おねえちゃん)にアタック!!」

 スタークは輝く翼を広げ、追いすがる有象無象を振り払い一瞬で大気圏外へと離脱すると、凶星を背にして、その口腔に強大なエネルギーを収束させていく。それは最大出力で放てば惑星すら破壊するスタークの(ブレス)であり、今は虚無の光までもが宿っている。地球を消し去るには十分すぎるほどの、星葬の名に相応しい切り札だった。

「さよなら、お姉ちゃん……」

 レイの瞳から涙が零れ落ち、スタークから滅びの光弾が地球めがけて放たれる。

 それが地表に激突した瞬間、まっしろな闇が視界を埋め尽く                            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3月「まだ、終わらない」

 世界はたしかに消滅したはずだった。

 だが、レイのイメージは瞬きの間に覆され、地球はまだ悠然とこの宇宙に存在していた。

「《ブリンクメサイア》でガードします」

 ミオが露骨に嫌そうな顔をしながら宣言する。

「ブリンク……メサイア……? 何で? 何でお姉ちゃんがメサイアのカードをデッキに入れてるの!?」

 裏切り者を糾弾するように、レイが半狂乱になって問い詰める。

「託されてしまったんですよ」

 言いながら、ミオはメサイアのディフライダーを名乗る女性との、別れ際を思い出していた。

 

 

「最後にひとつだけ、お願いがあります」

 そう言ってメサイアを名乗る女性――久世メアが、ファイトスペースの席を立ったミオをわたわたと追ってきた。

「同じ世界の存続を望む者として、せめて私も一緒に戦わせてください」

 そう言って、メアが1枚のカードを差し出す。

「このカードなら、あなたのデッキにも無理なく投入できるはずです」

「嫌です」

 ミオが即答すると、メアは「そうですかー」と、しゅんとして項垂れてしまった。

 融通の利かないロボットのようだった彼女は、いつの間にか別人のように感情豊かになっていた。

「あなたは?」

 気になったミオが、改めて問いかける。

「あっ、私は久世メアと申しますー」

 女性も改めて名乗る。

「それはメサイアではなく、久世メアというひとりの人間である認識で間違いありませんか?」

「はいっ! そうですそうですー!

 私の中のメサイアさんは、私の中に引っ込んでしまったのでー。

 メサイアさん、普段はこうやって私に主導権を戻してくれるんです。地球を知ることは、自分の使命ではないと言って」

「知ろうともしない世界を守りたいとは、メサイアも歪な存在ですね」

 根絶者とよく似ている。

 とミオは思った。

 根絶者が本能的に世界を『消滅』させる存在なら、救世主は本能的に世界を『守護』する存在で。両者の違いと言えば、たったその2文字分の違いしか無いのだろう。

 ミオは、依然として差し出されたまま行き場を無くしていた《ブリンクメサイア》をひょいと取り上げた。

「おあずかりします。私の大切な根絶者デッキに入れるつもりはありませんが、お守りぐらいにはなるでしょう」

「あ、ありがとうございます!」

 スーツを着こなした大人の女性が、まるで子どものように笑う。

「メサイアさんはともかく、私は音無さんのこと応援してますから! 誰だってお友達と別れるなんて、絶対に嫌ですよね!」

 そう言って、メアは胸の前で両拳を握りしめてミオを励ましてくれたのだ。

 

 

「レイさん。消滅は世界の意思だと言いましたね?

 このデッキは、ロストレジェンド、メアさん、そして私。この世界と共に生き、この世界の消滅を望まない者達の意思です」

「……っ! これで助かったと思うのはまだ早いよ!

 ブリンクメサイアのガード値は30000! スタークのパワーは26000! トリガー1枚で貫通するんだから!」

「そうですね。では、ドライブチェックをどうぞ」

「これが最後の審判……ドライブチェック!」

 レイが山札からカードをめくる。

 まずはレイがそのカードを確認し、それをゆっくりとトリガーゾーンに置く。

「ノートリガー」

 かつてのミオを彷彿とさせる無感情な声で、レイが言葉をもらした。

 

 

 スタークの放った光弾を、小さな救世竜が受け止める。

 スタークから見れば羽虫のように微小な存在が、地球を覆うほどの障壁を広げて世界を守っていた。

 スタークは背後にいるブラントの力を受け止めるかのように翼を広げ、光弾の出力をさらに高めていく。救世竜も己の生命力すべてを障壁へと注ぎ込む。

 破滅の光弾と、生命の光壁。永遠に続くかとも思われたそのぶつかり合いは、呆気なく終わりを迎えた。

 スタークが突如としてすべての機能を停止し、明滅させていた全身とその瞳から、光がブツンと途絶えるように失われた。

 ゼロスドラゴンであるスタークの機動は、莫大な精霊力を消費する。だが、根絶者はその精霊力を無制限に喰らう。ブラントから虚無の力を得たスタークは、その代償として精霊力を得られなくなっていたのである。

 動かなくなったスタークが、重力に引かれ地球へと落ちていく。

 その体がすでに崩壊しかけていることを見届けると、救世竜も結界を解除し、すべての力を使い果たしたそれは銀の粒子となって消えていった。

 

 

「アタシのリアガードのアタックは……ヰビヲルヱスにパワーを下げられているから通らないね。

 アタシはこれでターンエンド。

 スタークの超越は解除され、究極超越の代償として、アタシはGゾーンのカードをすべて失う」

 Gゾーンに置かれたスタークのカードが黒い炎を発すると、周囲のカードをすべて焼き尽くし、先の炎と同じ色をした灰を残して消えた。

 レイはしばらくぼんやりと、灰から燻る黒い煙を眺めていたが、やがてその灰を握り潰すと、強がるように大声を張り上げた。

「けど! アタシはまだ負けたわけじゃない! お姉ちゃんの手札は0枚! 前列のユニットは呪縛されたまま! 大したアタックはできないはず……」

「本当にそうでしょうか?」

「っ!?」

 ミオの冷たい声音がレイを再び黙らせる。

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》

 イマジナリーギフトは、フォースⅠをヴァンガードに」

 根絶者であるグレイヲンに、世界が祝福(ギフト)を与える。新たな生命の誕生を祝うかのように。

「ここでグレイヲンを引くなんて……。さすがの引きだね、お姉ちゃん。

 けど、超越しなくてもよかったの? 今さらグレイヲンなんかじゃ、アタシの手札は……」

「ふう」

 レイの言葉を遮るように、ミオが大袈裟に溜息をついた。

「根絶者でもないスタークにうつつを抜かすから忘れてしまうんですよ。根絶者はたとえ手札が0枚でも超越できるカードがあるでしょう」

「え? ……あ!!」

「根絶者を含むヴァンガードがいて、手札が1枚以下なら、このカードは超越コストを支払うことなく超越ができます。

 私は《始源根絶者 ガヲヰヱルド》に超越します」

 ミオが宣言すると同時、空間が斬り裂かれ、剣のように変化した右腕を持つ青き根絶者が時空の狭間から姿を現す。

 それは騎士の如き威風堂々とした佇まいで、金色に輝く刃の切っ先を双頭の根絶者(ケイヲス)に向けた。

「アヰーダ、ファルヲンを退却させ、ガヲヰヱルドのスキル発動。ケヰヲスをデリートします」

 ガヲヰヱルドが右腕と一体化した剣を一閃する。それだけでケヰヲスの胴体が両断され、レイの魂を残して消え去った。

「ヴァンガードがデリートされたので、ファルヲンは再びガヲヰヱルドの後列にスペリオルコールされます。

 ファルヲンのブースト。ガヲヰヱルドでヴァンガードにアタックします。

 合計パワーは46000です」

「ガノヱク(G)、ギヴン、2枚の(クリティカル)トリガーでガード! 2体のゲヰールでインターセプト! 合計シールド値は50000ッ!」

「1枚貫通ですね。

 では、ドライブチェック……」

 ミオが山札に手をかける。

 レイは血走った瞳でそれを凝視する。

「1枚目、トリガーはありません」

 レイがぐっと拳を握りしめる。

「2枚目、こちらもトリガーではありませんね」

「よしっ……!」

 レイの口から思わず歓声がこぼれた。

「3枚目……」

 ミオが見た目は平然と、最後のドライブチェックでカードをめくる。

「あ……」

 絶望の声をあげるレイに、ミオがめくったカードを掲げて見せた。

「★トリガー。効果はすべてガヲヰヱルドに」

 ガヲヰヱルドが剣を振り上げ、敵対する根絶者達を薙ぎ払うと、残されたレイに降伏を勧告するかのように剣を突きつけた。

「……ひと思いにやっちゃってよ。時間が無いよ」

 ガヲヰヱルドが、そのハーツとなっているグレイヲンが、それに憑依するミオが小さく頷き、突き出された巨大な剣がレイを貫いた。

「ダメージチェック……アタシの負けだね。……楽し、かったよ。お姉、ちゃ――」

 その言葉は最後まで続かず、惑星クレイと地球の狭間へ溶けるように消えていった。

 

 

「ああ……!! ああああああアアアアアアアアァァァァッ!!!」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いた瞬間、レイが右手を押さえながら絶叫した。

「レイさん」

 テーブルを回り込み、ミオが崩れかけたその体を支える。

「これで、よかったんだよね、お姉ちゃん」

 今にも泣きだしそうな表情でレイが微笑んだ。

「どういう意味ですか?」

「アタシもね、本音では地球が消えてほしくなんてなかったよ。

 けど、どうしようもなかった。ブラントを見たあの日から、自分の中にいる自分じゃない自分が、世界を消せ、すべてを消せと叫んでる。それは日に日に大きくなってきて……もう止められなかった。

 それならせめて、大切な人にアタシをデリートしてもらいたかった。

 はじめは何も知らないマナちゃんにそれをしてもらうつもりだったのに、こんな時に限って勝っちゃうんだもんなぁ。これまで一度も勝てなかったのに」

 右手が痛むのか、顔をしかめながらも、レイがくすくすと笑う。

「お姉ちゃんが来てくれて、本当は嬉しかった。けど、お姉ちゃんの覚悟が鈍らないように悪役を演じて……いや、少し違うな。

 あのアタシもアタシだった。世界が消えて欲しいと望むアタシも確実にアタシの中にもいた。どっちが本当のアタシなんだろ。ま、どっちでもいいか。もう、なんにもわからないや」

 まどろむようにレイがゆっくりと目を閉じる。

「アタシはどうなるんだろう。このまま死ぬのかな? それともまったくの別人として目が覚めるの? 案外、何も変わらなかったり?

 ……やだ……怖いよ……! 助けて、お姉ちゃんっ……!」

「大丈夫です。私が傍にいますから」

 目を閉じたまま彷徨うように伸ばされたレイの小さな手を、ミオがしっかりと掴んだ。

「あ……お姉ちゃん……」

 レイは安心したように大きく息をつくと、ふっと気を失った。

 レイが息をしていることを確認して、ミオは空を見上げる。今にも落ちてきそうな凶星は、変わらずその大きさを増していき、世界を落日のように赤く染め上げていた。

(間に合わなかったのでしょうか)

 ミオが思わずレイの手を握りしめた。その柔らかな感触でミオは思い出す。

(いえ。レイさんが私に嘘をつくことはありません。彼女に勝てば、ブラントは止まるはずです)

 妹を信じ、ミオは凶星をまっすぐに睨みつけた。

 

 

 惑星クレイ側の存在であるブラントが、地球に最も近づいたその瞬間は、惑星クレイと地球がブラントを通じて最も近くなった瞬間でもあった。

 それは地球に住まうファイター達に、ひとつの奇跡をもたらした。

 彼らの前に、彼らと深い繋がりを持つユニット達の幻影を生み出したのだ。

 

 

「エイゼル……? それに、パーシヴァル?」

 小道を歩いていた小金井(こがねい)フウヤは、突然現れた黄金の騎士達を前にして面食らった。

「何だこれは……? 疲れているのか、俺は? いくらここのところファイト続きだからって……」

 目をこすっては、開きを何度も繰り返すが、一向に黄金の騎士達は消えることはない。

 その様子を見て、ブロンドエイゼルが苦笑し、パーシヴァルはさもありなんと頷いていた。

「本当に、お前達なのか……?」

 これが現実の光景と認めざるを得なくなったフウヤが、ゆっくりと彼らへ歩み寄る。

 黄金の騎士達はさっと二手に分かれると、その奥からさらなる黄金の騎士が白いマントを風に揺らして姿を現した。

「……グルグウィント」

 まだあどけなさを残した年若い騎士が、熟練の騎士達に導かれるようにして、フウヤの前に恭しく片膝をついて跪くと、両手で剣を差し出してきた。

 もはやフウヤに迷いは無かった。

 フウヤは剣を受け取ると、その刃をグルグウィントの肩に押し当てる。

「グルグウィント……俺はまだ未熟だ。だがこの世界で、いつか必ず俺は王になってみせる。だからそれまで……いや。これからもずっと、俺に力を貸してくれないか?」

 グルグウィントは力強く頷くと、金色の瞳でフウヤをまっすぐ見上げた。

 その曇りなき瞳に恥じぬ人間でいようと、フウヤは改めて心に誓った。

 

 

「え? えええっ? ええええええええっ!?」

 藤村(ふじむら)サキは素っ頓狂な声をあげた。

 気が付けば彼女は密林の奥深くに立っており、その眼前には縦に瞳孔の走った巨大な瞳があったからだ。

 瞳孔の長さだけで、サキの身長くらいはあるだろう。だが、サキはどこかその瞳に安心感を覚えていた。

「もしかして……デスレックスなの?」

 その瞳の主は、同意するように低く唸るとサキの服の襟をくわえあげた。

「わきゃあああああっ!?」

 急上昇していく感覚に悲鳴をあげながら、必死にメガネがとばされないように両手で押さえる。

 気が付くと、サキの眼下には密林が広がっていた。どうやらデスレックスの背に乗せられてしまったようだ。

「きれい……」

 高いところは苦手なサキだが、この時ばかりはどこまでも広がる緑色の海に感嘆の声をあげる他なかった。

 それに気をよくしたのか、デスレックスが密林をかきわけ前進し、サキの脇すれすれを機械化された翼竜が飛んでいく。

「あ、あのね……」

 サキはおずおずとデスレックスの背に声をかけた。

「私はずっと臆病で……あなた達みたいに強くなりたかった。高校生になってからヴァンガードをはじめて……まだまだ全然足りないんだけど、少しはマシになったと自分では思う。

 あなた達の獰猛さが、私にとっての勇気だった。だから……これから、も……」

 一定のリズムを刻むデスレックスの足音に、遥かに巨大な別の足音が重なりだしたことを感じて、サキは恐る恐る顔をあげる。

 デスレックスより一回りは大きい、赤銅色の甲殻と鎧で武装した巨竜が猛スピードで迫るのが見えた。

「ギ……ギガレックス!?」

 その赤銅色の巨竜は、問答無用とばかりに全身でデスレックスにぶつかると、その背にいたサキはいとも容易くデスレックスの背から吹き飛ばされた。

「ひゃああああああっ!?」

 悲鳴をあげて宙を舞うサキは、ギガレックスの背に受け止められるようにしてすっぽりとそこに収まった。

 ギガレックスが勝ち誇るように雄叫びをあげる。まるで彼女を頂いている者が一番偉いのだと主張しているかのようだった。

 だが、デスレックスもサキを諦めようとはしない。威嚇するように大きく唸ると、太い尾を苛立たしげに何度も地面に叩きつける。

 さらにはどこからかブレドロメウスまで現れ、ギガレックスの首筋に嚙みついた。その隙を逃さず、デスレックスも両者に跳びかかる。

「わ、私のために争わないでえええええええっ!!」

 ギガレックスの背で目を回しながら、急にモテ期の到来したサキは咆哮のような悲鳴をあげるのであった。

 

 

「ここは……?」

 父親に連れられて漁に出ていた清水セイジは、いつの間にか漁船とはまったく違う鋼鉄の軍艦の舳先に佇んでいた。

「ふむ?」

 そこから甲板を見下ろすと、白い軍服を着たアクアロイド達が等間隔で列を成している。

「我が蒼翼の兵か」

 いとも容易く現状を受け入れると、セイジはビシッと音がしそうなきびきびした動作で敬礼をする。アクアロイド達もそれに倣って、全員が同時に返礼した。

「諸君! 私はもうすぐヴァンガードを辞めることになる」

 何のごまかしも無い言葉にも、アクアフォースの兵士達は誰一人動揺することなく黙ってセイジを見つめている。

「諸君と共に戦った時間は、私にとって大切な経験となった! それを糧とし、私は新たな人生を歩んでいきたいと思う!」

 そこから先の言葉は、彼にしては珍しく僅かな逡巡を経て、されど銃弾の如く鋭い覚悟をもって放たれた。

「だがっ! 私は必ず帰ってくる! 数年に1度となるかも知れぬ! 1回だけのファイトとなるかも知れぬ! それでも私は、君達ともう一度戦いたいっ!!」

 オオオオオオオオッ――!!!

 蒼翼の兵士達が雄々しくあげる鬨の声を全身で受け止め、セイジは再び敬礼した。

「諸君の忠誠に、感謝を……!」

 

 

 春日(かすが)マナブは次の授業で使う資料を自室でまとめていたが、視界の端に動くものが目に入り、緩慢な動作でそちらに目を向けた。

 筆立ての陰に隠れるようにして、そこには鉛筆を手にした1匹のはむすけがマナブを見上げていた。

「……なんだ、君か」

 マナブはたったそれだけ呟くと、そこからは興味を無くしたように作業を再開し、はむすけが怒ったようにマナブの袖を鉛筆でつっついた。

「そう怒るなよ。君達のことが嫌いになったわけじゃない。ただ、ファイトをするのが嫌になった。それだけなんだ……」

 言いながら、マナブははむすけを無視するように資料をめくる。そこにはマナブの担当する理科の授業とはまったく関係の無い、カードファイト部の部員名簿が挟まっていた。

 自分のずさんな管理を棚にあげて、苛立たしげに舌打ちすると、マナブは部員名簿を抜き取った。

(そう言えば、もうすぐ音無も卒業か……)

 名簿の一番上に書かれた名前を目にして、マナブの動きが止まる。

 白河ミユキに劣らず優秀なミオが部長を務めている間は、ずいぶんと楽をさせてもらった。

(残りのメンバーは……藤村と、時任か。……なんだ、頼りないな)

 僕に言われたくはないだろうけど。と自嘲気味に付け足す。

「……今夜、少しデッキを組み直す。この子らは少し鍛えてやらにゃ、僕は楽できそうもない」

 袖をつっつくのを止めたはむすけが、きらきらした小さな瞳をマナブに向ける。

「こんなどうしようもない僕に、それでもまだ付き合ってくれるか……?」

 背もたれに深くもたれながら言葉を吐き出したマナブに、はむすけはまかせろとばかりに胸を張った。

 

 

 空からちらちらと雪のように白い羽根が舞い散るのに気づいて、十村(とむら)ヒカルはゆっくりと顔を上げた。

「マルクト……メレク……?」

 いつの間にか、純白の天機が感情の見えない鉄仮面でこちらを見下ろしていた。

「……ああ、わかっていますよ」

 癖のある髪をかきあげ、歪んだ笑みを浮かべながらヒカルが言う。

「僕達の関係は、他の連中が言うような絆などという甘いものではない。

 これは契約だ!!

 お前の力で僕を勝たせて見せろ!!

 その代償として……お前も僕を利用していい」

 承知したとばかりにマルクトメレクは瞳を輝かせると、6枚の翼を羽ばたかせ飛び去って行く。

 ヒカルの手元に、契約の証とばかりに一際大きな1枚の羽根を残して。

 

 

 荒野に雷鳴が鳴り響き、曇天を斬り裂くようなフラッシュをバックに1体の雷竜が地上へと降り立った。

「おお! ヴァンキッシャー!!」

 それを迎え入れたのは筋骨隆々の大男、近藤(こんどう)ライガだ。

「……1戦やるか?」

 ライガが曇りなき笑顔を浮かべて指を1本立てると、雷竜――ヴァンキッシャーも頷き、その身を人と同じサイズへと縮ませる。

「うおっ!」

 先に動いたのはライガだった。雄叫びをあげて、ヴァンキッシャーの首筋にラリアットをぶち当てる。

 しかし、その程度ではヴァンキッシャーは微動だにしない。お返しとばかりに強烈な掌打を放った。ライガの巨体が軽々と吹き飛び、岩に叩きつけられる。

「やるな……だが!!」

 ライガは楽しそうに口元に滲んだ血を拭うと、巨体に似合わぬ軽快な身のこなしで、ヴァンキッシャーの背後に回り込み、その腰に太い両腕を回した。

「うおおおおおっ!! どっこいしょおおおおおおおっ!!!」

 豪快な掛け声をあげて、自分より一回りは大きいヴァンキッシャーを背後に投げ飛ばす。ヴァンキッシャーは地面に叩きつけられるより早く、翼を広げて地面に着地すると、すかさず拳を突き出した。それに素早く反応したライガも、振り向きざまに拳を繰り出す。

 拳が交差し、同時に互いの顔面へと突き刺さった。

 大の字になって倒れるライガと、ヴァンキッシャー。

「ははっ! ははははっ! お前と殴り合いできる日がくるとは思わなかったぞ!」

 もはや立ち上がれないほどのダメージを負いながらもライガは楽しそうに笑い、ヴァンキッシャーも倒れたまま親指を立てた拳を掲げた。

 

 

 鋼鉄のコックピットの中で、星見(ほしみ)トウコは目を閉じていた。

 それは揺り籠でうたた寝する老婆のようであり、心静かに瞑想する武道家のようでもあった。

「ああ。あたしは決めたよ」

 目を閉じたまま、静かに呟く。普段の粗野な言動からは想像もつかない、厳粛な声音だった。

「あたしの後継者となるファイターは見つけた。あとはその力を試すだけさね。

 さあ、あんたの力を借りるよ。その子にプロになる資格があるか、このあたしが見極めてやろうじゃないか!」

 トウコが目を見開くと同時、コックピットが激しく明滅し、正面のモニターに文字を映し出す。

 ――Ready Go!!

 

 

「うそ……エンド・オブ・ステージ、なの?」

「ああ。オレだよ、モモカ」

 遠藤(えんどう)モモカは短い腕を精一杯広げて、眼前にいきなり現れたドラゴンのゴツゴツとした爪に躊躇なく抱き着いた。

「うれしい! こうして、また会えるなんて!」

「オレもだよ、モモカ」

 エンド・オブ・ステージも、長い首を伸ばして、額を少女の体にすりつける。

「ねえ、聞いて! この前、はじめてショップ大会に出場したんだ! そこで1勝できたんだよ!」

 顔をあげてドラゴンの巨大な瞳と目を合わせながら、モモカが声を弾ませて報告する。

「そうか、やったな! なら、次の目標は優勝だな!」

「うん!」

「その次はヴァンガード甲子園出場! そして、優勝! ゆくゆくはプロに……」

「えっと……。そこまでは考えてなかった、かな?」

「そうか? まあいい。モモカはモモカの思うがままに生きろ。オレはずっと傍にいるから」

「うん。あなたがいてくれるなら、あたしはきっと無敵だ」

 少女とドラゴン。

 ふたりの奇妙な友情は、これからも続いていく。

 

 

 木漏れ日の差す穏やかな森の中で、大輪の白椿を咲かせたドレスを纏った女性がくるくると回るように踊りながら、(ひいらぎ)マナを導くように手招きする。

「え? スタンドピオニーさん? いきなりどうしたんですかぁ?」

 マナもふらふらと危なっかしい足取りでそれを追う。

 やがて森が途切れたかと思うと、視界に強い光が差し込み、眼前に色とりどりの花が咲き誇った。

 そこはそれほどまでに美しく、手入れの行き届いた花畑であった。

 その奥にある大樹の傍で、彼岸花を模した軍服を着こなした銃士の姉弟がマナを待ち受けていた。

「えっと、ヴェラさん? サウルさん?」

 マナがおずおずと近寄ると、姉弟は片膝を立てて跪く。

「ああっ! 私ごときのためにそんなことをしないでください!」

 慌ててマナも姿勢を低くした。跪いている姉弟よりも下になろうとしたため、もはや土下座に近い体勢になっている。

 忠義に厚い銃士達からすれば、主であるマナにそのような格好をさせるわけにはいかない。慌てて、ふたりがかりでマナを強引に引っ張り上げて立たせた。

「えへへ……」

 姉弟と目線が合ったマナはふにゃりと相好を崩す。

「私はあなた達にかしずかれるよりも、あなた達と遊びたいです。せっかくこうして会えたんですから」

 姉弟は困ったように顔を見合わせたが、やがて姉が咳払いして恭しくマナに手を差し出す。

「それでは……一曲ご一緒頂けますか? 我が主よ」

「はい、喜んで!」

 その手を取りながら、マナは大輪の花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。

 

 

「……あら?」

 自宅の庭で優雅にうたた寝していた早乙女(さおとめ)マリアは、ふと目を覚ますと、まったく違う場所に腰かけていることに気が付いた。

 天井には豪奢なシャンデリア。足元には赤い絨毯が敷かれており、それはまっすぐ自分の腰かける玉座へと伸びている。傍らには、本来ならば騎士王に仕える高名な剣士が控えているのが気配でわかった。

「……これはこれは」

 マリアは楽しそうに玉座から身を起こすと、絨毯を辿って外に出た。そこはバルコニーになっており、眼下ではロイヤルパラディンの精鋭達が一糸として乱れぬ隊列を組み、王の言葉を待っている。

「我がロイヤルパラディンの兵達よ!」

 よく通る凛々しい声で、マリアが言葉を発する。人の上に立つことが当然と自覚しているかのように、その声音に淀みは無かった。

「わたくしはプロのスカウトを断り、あえて大学への進学を選びました。それはすべてユキとお友達になるため……じゃなくて!

 ユキと同じ大学で、彼女と4年間ファイトする方が、最終的に強くなれると判断したからですわ!

 あなた達に遠回りをさせて申し訳ございませんけど、着々と成果が実りつつあることを感じております。どうか、もう少しだけお付き合いくださいませ。

 いずれわたくしは、必ずこの世界に覇を唱えてみせますわ!」

 女王たる者の檄を受け、騎士達が整然と武器を掲げて応える。マリアはそれを満足げに見渡した後、ふわりと傍に舞い降りてきた少女に年相応の笑みを向けた。

「エレイン。こんなものでよろしくて?」

 10年前から彼女を知るエルフの巫女が、「よくできました」とばかりに優しく微笑みを返した。

 

 

 御厨(みくりや)ムドウはひとり闇の中に佇みながら、物思いに耽っていた。

(フウヤはもうすぐプロになる。マリアもなろうと思えばすぐになれるだろうし、神薙姉弟もすぐ俺に追いつくだろう。鬼塚オウガも、もしヴァンガードを続けていたら今頃は――。俺だけがこんなところで燻っている……)

 ムドウは焦っていた。同級生には引き離され、目をかけていた後輩からは追い抜かれていく現実に。

 自分は幼い頃から何でもそつなくこなすことができた。たまたま始めたヴァンガードも、半月もすればショップ大会で敵無しとなり、界隈では神童と呼ばれたものだ。

 それ故に、彼は努力を知らなかった。

(俺の強さなど、神童時代からさして変わっていないのだろう)

 生まれ持った才能が、今は彼を苦しめている。努力が必要なのだと理解していても、何を成せばそれにあたるのかが分からないのだ。

 まるで果ての無い闇に溺れているかのようだった。もがいても足掻いてもそこから出ることは叶わない。

「だが、絶望の闇でこそ俺達の力は増すものだ。違うか?」

 ムドウが己の影を振り返る。

 そこには漆黒の竜が、影の如くムドウの背後に控えていた。

「ここから先はなりふり構わずだ。共に地獄まで堕ちてもらうぞ、ファントム・ブラスター」

 その竜はムドウに応えるように、断末魔にも似た雄叫びをあげた。

 

 

 天道(てんどう)ミサダは自分磨きに余念が無かった。それもすべては白河ミユキに相応しい男となるため。彼は今日も自室で腕立て伏せをして体を鍛えていた。

 不意に外で突風が吹き、窓が割れるのではないかと心配になるほどガタガタと揺れる。

 今日の天気は悪くなかったはずだがと訝しみながら、ミサダは窓を開けた。

 そこで漆黒の吸血機と目が合った。

「ブラドブラック……?」

 全貌が掴めないほど至近距離にそれがいたにも関わらず、それは彼が愛用するユニットのものだと一目でわかった。ここはマンションの8階だが、ちょうどブラドブラックの巨体と目線が合うらしい。などとくだらないことを思う。

 そんなミサダをよそに、吸血機は人ひとりが乗れそうなサイズの掌を差し出してきた。

「おいおい、マジかよ……!」

 これが夢なのか、自分の気が狂ったのかは分からないが、ミサダは面白そうなことから逃げたりはしない。小さな窓から身を乗り出して、どうにかブラドブラックの掌に飛び乗った。

 ブラドブラックが巨体をふわりと浮かせて、赤い月が煌々と光を落とす夜空に舞う。今はまだ昼時のはずだったが、それは些細なことであった。

「ははっ! すげー!!」

 はるか上空から夜風を切る感覚に、ミサダは歓声をあげる。

 しばらく子どものようにはしゃいでいたミサダだったが、やがてブラドブラックの掌の上でどっかりと胡坐をかく。

「なあ、ブラド。お前なら知ってくれていると思うが、俺はユキさんの力になりたいんだ」

 ブラドブラックは答えない。そもそも言葉を介するのかも不明だが、ミサダは聞いてくれていると確信して言葉を続ける。

「別に恋人になりたいとか、大それたことは考えちゃいない。

 あの人は凄すぎるから、ひとりで何でもできちまう。仲間や友人……ましてや恋人なんて必要ないんだ。

 けど! そんなのって寂しすぎるだろ!

 だから俺はあの人の力になりたい。それこそがおこがましくて大それた考えなのかも知れないけど。

 些細でもいい。重たい荷物を運んでほしいとか、手が離せないから買い物に出て欲しいとか、疲れたのでお茶を入れて欲しいとか。どんなくだらないことでも、俺はあの人に呼ばれれば飛んでいくぜ。そう。俺はあの人専属のヒーローなんだ!」

 少し大人びた凛々しい顔つきで、少年は赤い月を指さして宣言した。

「……そりゃまあ、あんな綺麗な人と恋人にでもなれたらぁ、最高に幸せなんだけどよぉー」

 かと思うと、何を想像しているのか急にだらしない顔になってげへへと不気味に笑う。

 ブラドブラックは黙ってそれを見守っていた。

 普通の少年が普通に恋をする。

 そんな世界を守ることこそが、彼らの使命なのだから。

 

 

 自国で公式戦の真っ最中だったダルク・ヴァーグナーは、気が付けば現実とは思えない世界に立っていた。

 枯れ木がぽつりぽつりと立つだけの不毛の大地に、荒廃した中世風の城がそびえ立ち、瘴気に燻る空には蒼月が浮かんでいる。それを背にするは、刃の翼(ブレイドウイング)を生やした痩身の男。

「やあ、レジー。どうしたんだい?」

 その男に、ダルクは古くからの友人にするように気安く声をかける。レジーはダルクの傍に降り立つと、短く言葉を囁いた。

「ああ、そうだね。僕がプロになって早4年。たしかに少し退屈だ」

 世界ランキングトップ10のメンバーは、この4年であまり代わり映えしなかった。

 世界ランキング2位は、堅実すぎる戦い方をする男だ。格下にはめっぽう強いが、それではダルクに届かない。本人もそれを分かって、ただ2位の座を堅持するためだけに戦っているようにも見える。

 3位の星見トウコとのファイトはエキサイティングだが、4位以下ともなるとダルクとの実力差が大きすぎた。

「けどね。あと数年で、このランキングは大きく様変わりするよ。日本の文化祭でファイトしてから、そんな予感がするんだ。トウコさんも何か企んでいるようだしね。

 だから僕はその日まで、この(ケーニヒ)の座を譲るわけにはいかない。けして驕ることなく勝ち続ける。

 そのためには君の力が必要なんだ、レジー」

 レジーはフンと鼻で息をつき、肩をすくめながらも頷くと、翼を広げて、暗黒の空へと飛び去っていった。

 それと同時、公式戦の会場へと帰ってきたダルクは、何事も無かったかのように、手を掲げながら宣言する。

「《ブレイドウイング・レジー》でヴァンガードにアタック! 滅びの翼は15枚! 2点のダメージを受けてもらいます!」

 プロの世界に君臨する魔王は、簒奪者が現れる日を焦がれ、待ち続ける。

 

 

 1軒の古い邸宅に、ひとつの仏壇が置かれていた。

 広い邸宅の一室に、それはぽつんと寂しげに佇んでいたが、射干玉の影が音も無くその前に現れたかと思うと、すっと1本の線香を捧げた。

「……あら?」

 邸宅に雇われている家政婦が、たまたまその仏壇の傍を通りすぎる。既にそこには誰もいなかった。

 ただ、小柄な竜のものと思しき足跡が縁側まで続いており、それも誰の目に触れることなく、墨が水に溶けるようにして消えた。

 

 

 空には鬱々とした暗雲が立ち込め嵐を起こし、黒い海はすべてを呑み込まんとする怪物の如く暴威を振るう。

 帆船の舳先に立ち、風雨に晒されながら、まるで自分の行く末みたいだと(あおい)アラシは自嘲する。

「物思いとは、らしくないな」

 不意に白い霧が立ち込めたかと思うと、その中から夜色のコートを羽織った長髪の男が姿を現し、アラシの背に声をかけた。それは決して声を張り上げているわけでもなかったが、不思議と嵐の中でもよく通る声だった。

「ナイトミストかよ。何の用だ?」

 振り返ろうとすらせず、不機嫌そうにアラシが言った。

「ご挨拶だな。この俺様が、せっかく尋ねてきてやったと言うのに」

 ナイトミストが飄々と肩をすくめたが、目は笑っていない。

「悪いな。だが、俺はもうすぐヴァンガードができなくなる。お前も俺のことなんざ、早く忘れた方がいいぜ」

「何だ。そんなことで拗ねていたのか。意外と……いや、見た目通りのガキだな、お前は」

「うるせえ。俺はヴァンガードと出逢ってから10年以上、ファイトをしなかった日は無かった。ヴァンガードができなくなるなんてどうしても想像ができねえよ……」

 降りしきる雨と、高波からの水しぶきを浴びてびしょ濡れになったアラシの顔面は、まるで泣きじゃくる子供のような顔になっていた。

「そうか。だが、俺はお前をずっと待つぜ。10年でも、100年でも、1000年でも。何といっても、俺は不死だからな。待つのには慣れている」

「そんなの俺が死んでるわ」

「ならば、俺はお前を蘇らせる。死んでもお前にはヴァンガードを続けてもらう」

「なんでもありだな、お前は……」

 苦笑交じりではあるが、アラシがはじめて笑顔を見せた。

「なあ。どうしてお前はそんなにしてまで、俺にヴァンガードをさせたがる?」

「お前なら俺達を一番上手く使ってくれる。俺達が先導者と認めてやってもいい数少ない男だからだ」

「当たり前だろ! 俺ほどのグランブルー使いなんているわけがねえ!」 

 アラシが振り返って叫ぶと同時、雲間が裂け、日の光が鋭く差し込んだ。船が嵐を抜けたのだ。

「ちっ。日が出てきやがった」

 ナイトミストは不愉快そうに手を掲げて日光を遮る。

「ま、そういうことだ。あとは自分で考えな。俺は夜になるまでひと眠りさせてもらうぜ。

 ったく。死んでもないのに、腐ってんじゃねぇよ」

 それだけ言い残すと、ナイトミストはアラシに踵を返して立ち去ろうとする。

「待てよ!」

 それをアラシが呼び止める。

「いつになるかはわからねえ。だが、俺はまた必ずファイトする! そん時は……また遊ぼうぜ」

 ナイトミストはアラシに背を向けたまま手を振ると、現れた時と同じように霧に包まれて消えていった。

 

 

 天道(てんどう)アリサは感じていた。自分の後ろに憧れの怪人がいることを。理由はわからないが、自分は今、相棒と背中合わせに立っている。そんな確信があった。

「コレオ……?」

 アリサがゆっくりとその名を呼びかける。返答は無い。だが、振り向けば確実にガンニングコレオと出逢うことができるはずだった。彼と視線を交わすことができればどれほど幸せだろう。彼と言葉を交わすことができればどれほど満たされるだろう。

「……あたし、もう行くね」

 しかし、アリサはそれをせず、前を向いたままゆっくりと歩を進めた。

(あたしのイメージするあなたはきっと孤高の怪人。馴れ合いなんて嫌うはずだから)

 自分の欲求よりも、他人を気持ちを第一に考えるのが天道アリサという人間だった。

 これでいいのだと自分に言い聞かせ、アリサは唇を噛みしめながら背後の気配から離れていく。

「人の子よ……」

 不意に頭上から女の声が聞こえ、アリサは思わず立ち止まった。

「そのまま聞くがよい」

 その声は、若い女性のようにも聞こえるが、長い年月を生きてきた者にしか発することのできない尊大さと、それに見合った威厳が感じられた。

「気難しい我が子の想いを慮ってくれて礼を言う。もし、お主が惑星クレイに来ることあらば、我が居城を頼るといい。お主だけは特別に家族として歓迎しよう」

 それだけ告げると、頭上から降り注ぐ声も、背後の気配もフッと消え去った。

 アリサは思わず振り返る。その視線の先には、七色に輝く蜘蛛の糸が柔らかい風に吹かれて漂っていた。

 

 

「な、なんなのここは!?」

 自宅でくつろいでいたはずの神薙(かんなぎ)ミコトは、気が付けばオトゴサヒメによく似た少女(いや、本人なのか?)に腕を掴まれ、日本ではまず見ない石畳の上を小走りになって歩かされていた。彼女の行く手には巨大な神殿が大きく口を開いて待ち構えている。

 その中に入ると、青白い炎を灯した松明に照らされた薄暗い回廊があり、その奥にはミコトのよく見知った顔があった。

「ノリト!?」

「やあ、姉さん」

 驚きの声をあげるミコトに、彼女の双子の弟である神薙ノリトが苦笑しながら片手を挙げた。

「こ、これはいったいどういう状況なの?」

「僕にもよくわからない。けど、彼女が僕達の運命を占ってくれるらしいよ」

 ノリトが視線で指し示す先、回廊の突き当りには赤いクロスに覆われたテーブルがあり、その上にはいかにもな水晶玉が置かれている。その傍で豪奢な椅子の上に腰かけているのはピレスラによく似た(いや、まさか本当に本人なのか?)少女だった。

「運命……? 私達の未来を教えてくれるということ?」

「どうやらそうらしいね」

 それを聞いたミコトは顎に手を当てて「うむむ」と唸ったかと思うと、すぐに顔をあげノリトと視線を交わす。

「ノリト……。わかっていると思うけど」

「うん。僕の答えも姉さんと同じだと思うよ」

 ノリトの返答に頷くと、ミコトが代表してピレスラに向き合った。

「せっかくの申し出だけど、遠慮させていただくわ」

 ピレスラと、その隣に立っていたオトゴサヒメが目を丸くする。

「私達の未来は、私達で決める。定められた運命を歩いていくだけの人生だなんてまっぴらだわ」

「それに、僕達の未来は占ってもらうまでもなく確定している」

 ノリトが続けた。

「僕達は姉弟でプロになる。君達と一緒にね。そうだろう?」

 ノリトに微笑みかけられたピレスラとオトゴサヒメは一瞬だけ顔を見合わせたが、やがてそれぞれの先導者に向かって力強く頷き微笑んだ。

 

 

 周囲から熱狂的な声が聞こえ、鬼塚(おにづか)オウガはゆっくりと目を開けた。

 まず目に映ったのは緑の芝生。そして、周囲を取り囲む観客席と、それらを埋め尽くして怒号もとい歓声をあげる観客達。

 オウガは二度と立てないと思っていた、アメリカンフットボールのスタジアムに立っていた。それも、オウガがかつて経験した中学生時代の大会と、会場の規模は桁違いだ。

(いや、アメフトとは少し違うな。この会場は……まさか、ギャロウズボールなのか?)

 そこに考えが至ると、観客の歓声も自分に向けられたものではないことに気付く。観客が声援を送るその先を目で追うと、白髪を雑に伸ばした大男がこちらにゆっくりと歩いてくるのが見えた。

「……ライジング・ノヴァ?」

 オウガがその名を呼ぶと、男は「よう」と気さくに片手を挙げた。

 オウガはその雄姿を直視できなかった。自分の憧れを体現しているかのようなその男は、あまりにも尊く、眩しすぎた。

「おう、どうした?」

 目を逸らしたオウガの顔を、目の前まで来たライジング・ノヴァが覗き込む。

「わ、悪い。とっくに諦めたつもりだったんだが。あんたを見ていたら、選手になりたいって夢がまた、な……」

「無理もねえ。俺様はスターだからな」

 ライジング・ノヴァが腕組みをして胸を張る。

「その俺様が保証するぜ。お前は俺達スパイクブラザーズにとって最高のヴァンガードであり、コーチだった! お前には人を束ね、育てる才能がある!

 お前は夢を諦めたんじゃねえ! 新しい夢を見つけたんだ!」

「……そうだな、すまねえ」

 オウガが頷くが、ライジング・ノヴァは「まだ腑抜けてやがるな」と舌打ちする。そしてオウガに踵を返して数歩離れると、再び振り返り、自らの分厚い胸板を親指で指し示した。

「胸を貸してやる。全力でぶつかってこい」

「でも、俺の脚は……」

「1回くらいなら本気のタックルはできるだろ? 俺の知っている鬼塚オウガは、目の前の困難と、絶好の機会からは決して逃げねえ」

 ライジング・ノヴァの確信に満ちた視線に晒されたオウガは、覚悟を決めて頷いた。

「……わかった。見てろよ」

 オウガは上着を脱ぐと、姿勢を低くしてタックルの構えを取る。集中力が研ぎ澄まされてゆき、観客席から巻き起こる歓声が遠くなっていく。それともライジング・ノヴァの気迫に、自然と言葉を失ったのか。それすらも、もはやオウガにはわからなかった。

「うおおおおおおおおおっ!!!」

 集中がピークに達した瞬間、バネが弾かれるようにしてオウガが飛び出し、全身でライジング・ノヴァにぶつかった。

「……いいタックルだ」

 それをライジング・ノヴァは微動だにせずに胸で受け止め、オウガが死なないギリギリの力で吹き飛ばす。

「どわああああああっ!?」

 自分の身長の5倍くらい高く空に舞い上がったオウガは、非現実的なその状況を認識する間も無く、背中から地面に激突する。

 半ば気を失いかけながら、しばらくぽかんと空を見あげていたオウガの視界に、「大丈夫か?」と覗き込む白髪のオーガが映り込んだ。

「……やっぱ強ぇ。それに、カッケェなぁ、ライジング・ノヴァ」

「だろう?」

「ああ。俺はあんたに憧れて……幸せだった」

「俺もお前に憧れてもらって、光栄だった」

 ライジング・ノヴァから差し出された手を掴んで、オウガが立ち上がる。

 そのまま固く握手を交わした両者を、観客の歓声と拍手が包み込んだ。

 

 

 受験シーズン真っただ中。中学3年生の山崎(やまざき)タツミは、シャープペンシルを握りしめ、一心不乱に参考書やノートと睨み合っていた。

 それ故、彼は気付かなかった。

 いつの間にか彼の小さな自室が、どこまでも続く蒼穹に変化し、その中を飛竜が数匹、列を成して飛び去っていくのを。

 崖上に建てられた闘技場で、武装した竜人達が模擬戦に火花を散らしているのを。

 飾り気の無い神殿で、僧や踊り子が竜神に祈りを捧げているのを。

 大君主と称えられる真紅の竜が、地面に突き立てた大剣に両手を添え、タツミを見守るように屹立しているのを。

 それから何時間が経過しただろうか。

「う、うーん…………」

 ガチガチに凝り固まった肩をほぐそうと、タツミがようやく上体を起こした時。

「……ん?」

 真紅の竜と目が合った。

「……うわああああああああああっ!?」

 悲鳴をあげ、シャープペンシルを取り落とす。椅子から転げ落ちなかったのが奇跡と思えるほど全身を仰け反らせ驚いた。

「オ、オ、オ、オーバーロードッ!? ドラゴニック・オーバーロード!!」

「いかにも」

 真紅の竜――ドラゴニック・オーバーロードが頷く。

「な、な、な、何でここに!? いや、どうしてオーバーロードが実在してるんだ!?」

「気にすることはない。貴様は貴様の戦いを続けよ」

「き、気にするなと言われても……」

 戦いとは、まさか受験勉強のことなのだろうか。たしかに受験戦争とも言うが、かの大君主が口にするには、ずいぶんと平和な戦いである。

「未来を勝ち取るために行動すること。それを戦いと呼ばずして何と呼ぶ」

 タツミの思考を先読みしたかのように、オーバーロードが口を開いた。

「それは貴様の将来とって必要なことなのだろう?」

 オーバーロードの巨大な爪が、小さな参考書を指し示す。

「う、うん……。けど、せっかくオーバーロードに会えたんだから、もっとお話したいな……」

「貴様の戦いを我が見届けてやろうと言うのだ。それに不服でも?」

 その言葉を受けて、タツミの顔つきが変わった。

 荒野に落ちたシャープペンシルを拾い上げ、椅子に座り直すと、黙々と勉強を再開する。

 それから2、3ページ、ノートをめくったあたりで、タツミが再び声をあげた。

「ドラゴニック・オーバーロード。返事はしなくていいから、聞いて欲しい。これは雑談じゃなくて、宣言だ」

「…………」

 タツミはノートに視線を落としたままだが、オーバーロードが頷くのが気配で分かった。

「僕は憧れの人と同じ高校に行く。僕が入学する頃には、その人はもう卒業してるんだけど。あの人が見たものを、感じたものを、少しでも知りたいんだ。これはそのための勉強……いや、戦いだ」

 宣言を終えると、タツミは再びペンを動かしはじめた。

 それをしばらく静かに見守っていたオーバーロードだったが。

「我の先導者にならんとする者は、皆、何かと戦っていた」

 ふと懐かしむように、ぽつりと呟いた。

「え?」

「独り言だ。邪魔をした」

 それきりオーバーロードは何も語らなかった。

 だが、オーバーロードに見守られている間、タツミは何にも増して集中することができた。

 

 

 深海の底に造られたコンサート会場で、綺羅(きら)ヒビキは目を閉じて美しい歌声に聞き入っていた。

 ステージに立つのは、銀色の髪を左右に分けて束ねたマーメイドの女性だった。憂いを帯びた表情に真剣さを滲ませ、透き通る歌声を朗々と響かせている。それは深海をまっすぐ貫き、海面で波紋となってどこまでも広がっていくような、世界を愛で満たすような歌声だった。

 地球の言語ではない言葉で奏でられるそれは、ヒビキには意味が分かりかねたが、きっと切ない恋の歌なのだろうと思った。

「素晴らしい。本当に素晴らしいよ。ありがとう」

 歌が終わると同時、ヒビキは夢中になって拍手を送った。銀髪のマーメイドが一礼して舞台から去り、今度はオリヴィアを先頭にしたマーメイド達が圧巻のハーモニーを奏で始める。

 再びヒビキがそれに耳を傾けていると、コツンと肩に優しく当たる感触があった。ヒビキは横目でそちらを見ると、舞台袖から退場したはずの、銀髪のマーメイドが小さな頭をヒビキの肩に乗せていた。

「……レインディア?」

 ヒビキがその名を呼ぶと、銀髪のマーメイドはヒビキを見上げ、悪戯っぽく微笑むと人差し指を口元に当てた。

「フッ。わかったよ……」

 ヒビキは気づかなかったフリをして、舞台に目を戻した。さりげなくレインディアの手を握りしめながら。

 そっと寄り添い合うふたりを、人魚姫達の歌声が祝福するように包み込んでいた。

 

 

 書斎でカードを並べてデッキを組み直していた白河(しらかわ)ミユキは、ふと空気に冷えを感じ、縁側に出た。

「あら? こんな季節に雪だなんて」

 ちらちらと舞い散る六華が、春の日差しを浴びて宝石のように煌めいている。縁側から覗く庭には、うっすらと雪化粧が施されていた。

 その庭の奥から、新雪をさくさくと踏みしめて、降りしきる雪の中、傘もささずにゆっくりと歩いてくる人影があった。それは純白の着物から透き通るような肌を覗かせた、紅の差した白髪の見目麗しい少女だった。

「まあ。珍しいお客様」

 それを見たユキが、僅かに目を見張る。

「あんまり驚いてくれないのね」

 手を伸ばせばユキに触れられる距離で立ち止まった少女が、半分拗ねたように、もう半分はからかうように言った。

「これでも十分驚いていますとも。けど、あなたの存在はいつも近くに感じていたから」

「変わった人……」

 少女が着物の袖で口元を押さえてくすくすと笑い。

「妖怪さんに言われたらおしまいねえ」

 つられるようにしてユキもころころと微笑んだ。

「あなたと私は本当によく似ている」

 どちらかがふと呟くと、ふたりの少女は互いの両手を重ね合わせた。こうしていると、着物姿の少女達は鏡映しのように瓜二つであった。

「世界は救われたのね?」

 ユキが唐突に尋ねる。

「ええ。世界の消滅を望む根絶者と、世界の存続を望む少女の戦いは、少女の勝利で終わった。私がここに来れたのは、その余波のようなもの。けど、それももうすぐ終わる。この美しい奇跡は、いずれ淡雪のように儚く溶けて消えてしまうのよ」

「けれど、私達はこの奇跡を忘れないわ。子どもの頃にはじめて見た雪景色が、いつまでも網膜に焼き付いて離れないように」

「そう。なら、ここに来た甲斐はあったというものね」

 言いながら、少女がゆっくりとユキから離れていく。

「名残惜しいけど、これでお別れね」

「ええ。またいつか会いましょう。シラユキ――偉大なる大妖よ」

 少女――シラユキは妖しく微笑むと、突如として吹雪が舞い上がり、彼女の姿を覆い隠す。

 渦巻く吹雪が消えた後には、シラユキの姿は既に無く、いつしか雪も止み、雪に覆われていた庭すらも元通りになっていた。

 まるですべてが夢幻であったかのように。

 ただ、空から零れた雪のひとひらが、差し出されたユキの手のひらの上に乗り、またすぐに溶けて消えていった。

 

 

 空を覆い尽くすほどに巨大になったブラントだったが、そこをピークに少しずつ小さくなっていった。「あれ? 仲間の気配がしたような気がしたけど、気のせいだったのかな?」みたいな感じで地球を通りすぎ、遠ざかっていくかのようだった。

(さようなら、ブラント。根絶者達の故郷。

 あなた達と会いたくなかったと言えば嘘になります。けれども、私達が出会うのはまだ早すぎるのでしょう。

 いつかあなた達が、遭遇したものすべてを本能的に消さずにいられるよう進化するその時まで……どうか、お元気で)

 ミオは心の中で、遠ざかるブラントに別れを告げた。

 世間ではまた、急に姿を消した赤い星の話題で持ちきりになるだろうが、そんなことはミオの知ったことではない。

「ん……」

 そんなことを考えていると、膝の上で寝かしていたレイが小さく身じろぎした。

「……レイさん?」

 ここからが本番と気を引き締め直し、レイにおそるおそる声をかける。

「ん……お姉ちゃん……」

 うっすらと目を開いたレイの第一声を聞いて、ミオはほっと安堵の吐息を漏らし。

「……誰?」

 続く言葉に息を詰まらせ、肋骨が軋むほど心臓の高鳴る音を聞いた。

 その「姉」という言葉の響きからは姉妹に対する親愛の情が抜け落ち、まだ開ききっていない瞳は、怯えを色濃く映しだして震えていた。

「……私は響星学園3年生。カードファイト部の部長を務める音無ミオです」

 ミオは息を吐き直して呼吸を整えると、丁寧に名乗った。

「あなたは響星学園1年生。カードファイト部の時任レイです。

 あなたは不注意にも階段で足をすべらせ、頭を打って意識を失っていたのですよ。思いだせますか?」

 レイが記憶を失っていた場合の対処法はメサイアから聞いていた。事実と嘘を重ね合わせてでも、現在の状況を認識させ、確定させる。

 でなければ、レイの体から出て行く根絶者の魂に引っ張られるようにして、どんどん記憶が失われてしまうのだそうだ。

「音無、ミオ……ちゃん? ……ああ、思いだしてきた。ごめんね。あたし、頭がぼーっとしてて」

「……いいえ、かまいませんよ。他の部員は思いだせますか?」

「……サキ、ちゃん? 藤村、サキちゃん。メガネをかけた、優しい先輩……」

「はい。正解です。……他には?」

「……他にはいなかったと思うけど」

「それも正解です」

 それからもミオは質問を続けた。

 今日離島から訪れた友人。両親。担任の教師。カードファイト部の顧問。懇意にしているカードショップ。そこで働くアルバイト店員。

 レイがすべての名前を言い当てたところで、ミオは今度こそ一息ついた。

(私に対する呼び方が変わった以外は、おおむね大丈夫そうですね。おいおいボロが出てくる可能性はありますが、ごまかせる範囲でしょう)

 ミオは自分のデッキからロストレジェンドのカードを抜きだすと、もうひとつ大切に持ち歩いていたデッキの上に重ねてレイに手渡す。

「これはあなたのデッキです。あなたが転んだ拍子に散らばったのを集めておきました」

「あ。あたしのギアクロニクルだ。ありがとう、ミオちゃん」

 レイはデッキを受け取ると、ロストレジェンドやミステリーフレアなど数枚のカードを慈しむように眺めてから、よっこいしょと体を起こす。

「もう動いても大丈夫なのですか?」

「うん! 転んだっていうけど、どこも痛くないし、たぶん大丈夫だと思う」

 そう言って、レイは急に何かに惹かれるようにして小走りで駆けだし、即席のファイトテーブルへと向かっていく。

(あそこにはレイさんが使っていた根絶者デッキがそのままにしてあったはず)

 今のレイが彼女の根絶者デッキを見たら、どんな反応を起こすか想像もつかない。ミオも慌てて後を追った。

 ミオが追いつくと、レイはテーブルに両手をつき、1枚1枚根絶者のカードを眺めていた。

「根絶者……? ミオちゃんのデッキだよね?」

「……はい。根絶者は私がよく使うデッキです」

 ミオは慎重に言葉を返した。

 レイはそこから1枚のカードを取り上げ、訝しげに凝視する。

「そうだよね。私とは何の関係もないはずなのに……。何でだろう。この子たちを見ていると、何故か悲しくなってくるんだ……」

 ぽつ、ぽつと、にわか雨のようにヲクシズのカードに水滴が落ちた。

「何か大切なものを忘れてしまった気がする……何かかけがえのないものと別れてしまった気がする……けど、それが何なのか思いだせないの……!!」

「……大丈夫です。それはきっと正常な反応です。私にはそれを証明することも、説明することもできませんが、それでもあなたは、きっと、正しい」

「う……あ……あ……ああああああああああああああっ!!」

 やがて天気はどしゃぶりへと変化し、根絶者のカードとレイの頬をびしょびしょに濡らし、落雷がミオの耳朶を打った。

 ミオはそれに構わず、背後からレイを強く抱きしめた。けっして彼女を離さないように。彼女までデリートされてしまわないように。

 レイの右手の甲からは、いつしか赤く輝く紋章が消え去っていた。

 

 

(アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!)

 ひとつの矮小な魂が天に昇っていく。大気圏で焼け落ちる流星のように、ボロボロと姿形を崩しながら。

(アタシがッ! 消えるッ! 消えてしまうッ!)

 それはかつてレイだったものであり、レイにディフライドしていた根絶者の魂、その残滓であった。

 惑星クレイの存在は、地球圏では長く生きられない。レイとして活動していた僅かな記憶を抱いたまま、それは消滅を迎えようとしていた。

(イヤだッ! アタシだけが、そんなッ! 怖いよッ! 誰かッ! 助けてッ! 助けてよッ! お姉ちゃんッ!! お姉ちゃんッ……!!)

 敬愛する姉は、いくら呼んでも助けには来なかった。彼女は人間であることを選び、人間であるレイの味方であることを選んだのだ。

 この根絶者の不幸は、人として生きる過程で感情を得てしまったことだ。本来の根絶者ならば、消滅を前にしても感じる恐怖など持ちあわせていなかっただろうに。

 自分が消えていく。呼んでも答えてもらえず、呼ばれても聞こえない、永遠の闇へと。

(これが消えるってことなんだ。死ぬってことなんだね。アタシはこんな恐怖をみんなに押しつけようとしてたんだ)

 それを思うと、泣きたくなった。涙を流す機能を持った肉体は、とうに失われているというのに。

(ごめんなさいッ! ごめんなさいッ! 謝りますッ! 心から反省してますッ!

 ……謝るからッ! ……だからッ! 誰か、助けてッ! 助けてよおぉぉッ!)

 恐怖に抗いきれず絶叫を続けるその消え逝く魂を、ひとりの戦士が受け止めた。

(……え?)

 真鍮の鎧を纏った竜の騎士が、根絶者の魂を優しく胸に抱いていた。

(ロスト、レジェンド……? 助けて、くれるの……? 何で? アタシ、あんなにひどいことを言ったのに……)

 騎士竜は静かに首を振ると、その魂の周囲の時間を止めた。これでその魂は活動できなくなるが、消滅がこれ以上進行することもない。

 騎士竜はそれを堅く胸に抱き直すと、剣を一振りして時空の門を開き、それをくぐって何処かへと消えた。滅ぶべき魂さえもが救われる、誰も知らぬ楽園を求めて。

 その日を境に、現在、過去、未来。すべての時代において、騎士竜の名は歴史から失われた。

 万の民を救う力を持ちあわせていながら、ただひとつの孤独なる魂を救うため、果て無き旅に出た放浪者。

 それ故、ギアクロニクルは彼を失われた伝説(ロストレジェンド)と呼ぶのだ。

 

 

 音無ミオに日常が戻ってきた。

 あれから時任レイにも大きな変化は無く、ブラントも地球からは完全に見えなくなり、順風満帆であると言える。

 就職先(スポンサー)が決まらない以外は。

 人知れず世界を救った少女は、皮肉にもせかい(社会)の荒波に揉まれていた。

(やはりアルバイトをしながら地道に実績を重ねていくしかなさそうですね。もしくは、いっそのこと就職してしまいましょうか。帰ったら、プロファイターのスポンサーをしている企業の中途採用を洗い出して……)

 そんなことを考えながら、全身に山でも背負っているかのような重たい足取りで、ミオが道路沿いを歩いていると

「ちょっと、あんた! あんたが音無ミオだね!?」

 どこかで聞いた覚えのある、キンキンした女の声に呼びとめられた。

「何でしょう? 私は今、」

 忙しいのですがと続けようとして絶句した。

「……プロファイターランキング第3位、星見トウコ」

 数瞬の間を置いて、ようやく声をかけてきた女の名を呟く。

 ライダースーツ姿の老婆が、ピンと背筋を立てて腕組みしたままミオを睨みつけていた。その素性は、ミオの言う通りである。

「トウコさんと呼びな! 大先輩だよ! 人生においても、ファイターとしてもね!」

「失礼しました」

 がなるトウコに、ミオは素直に謝罪した。

「よろしい。さっそくだけど、ちょっとツラ貸しな」

 それに気をよくしたわけでもないだろうが、悪戯小僧のような笑顔になって、親指で後ろを指し示した。そこには1台の大型バイク。

「すみません。私はこれから大会があるのですが」

「ほほう? 場末の大会に出場してミジンコ程度のポイントを稼ぐか、現役プロの誘いに乗るか。どっちがあんたの将来にとってプラスになるか、よーく考えてみな」

 ミオは迷わずスマホを取り出すと、3、4回すばやく操作してポケットに戻した。

「大会への出場はキャンセルしました」

「……ふん。判断力と速度は及第点ってところかね。

 乗りな。イイところに連れてってやるよ」

 そう言って、トウコがミオにヘルメットを投げ渡す。

 良い子は甘い言葉を囁く知らない人についていってはいけません。

 

 

 トウコのバイクに揺られてもといカッとばされて5分。ミオは巨大なビルに連れてこられた。

 その中層階にある一室の扉を、トウコがカードキーを使って開くと。

「……おお」

 無感動でならしたミオですら思わず歓声をあげる。

 そこはプロ仕様のファイトテーブルが30台ほどズラリと並んだ、圧巻とも言うべき部屋だった。

「ここはアタシのプライベートファイトルームだよ。普段はここでめぼしいファイターを集めてファイトしてるんだけど、今日は誰も呼んでないから、邪魔は入らない」

「ふむ。では、そろそろ私をそんな重要な場所に呼んで頂けた理由をお聞かせ頂きたいのですが」

 尋ねながらも、ミオは周囲に目を向ける。

 床に敷き詰められたカーペットは踏み固められており、頻繁に人が出入りしていることが伺える。壁紙はところどころ破れており、休憩できそうな場所と言えば、部屋の隅に置かれた小さなベンチと1台の自動販売機ぐらいのものである。

 世界ランキング3位の財力ならば、もう少し内装に力を入れることもできただろうに。それをしないのは部屋の主が徹頭徹尾ファイト以外に興味が無いからだろう。ここまでいくと、ファイトのための部屋と言うよりは、ファイトに狂った者の隔離所である。もしくは墓場か。

 いずれにしろ、この狂気的なまでにファイトを重視した雰囲気は、ミオがよく行くカードショップ『ストレングス』に近いものがあり、どこか落ちつくのだ。

 気の弱いサキなどは、回れ右して逃げ出しそうではあるが。

「回りくどいのは嫌いだから、単刀直入に言うよ。

 あたしはそろそろプロを引退しようと思ってる。そこで後継者を探していたところ、あんたの名前を知った。

 つまり、あたしの代わりにプロにならないかって話だ」

「……」

 気になる情報が多すぎる。

 世界ランキング3位のファイターが引退するというのも、新聞の1面記事になるレベルのニュースだが。

「何故、私を?

 去年の響星学園の文化祭では、トウコさんと話す機会はなかったはずですが。私の実績も、正直に言ってトウコさんの耳に入るようなものでも、トウコさんに気に入られるレベルでも無かったと思います」

 ミオが最も気になったのはそこだった。

「文化祭……? ああ、あんたあそこにいたのかい。

 もちろん、そんなことも、あんたの名前も、つい最近まで知らなかったさ。

 ただ、あたしが後継者を探してるって言ったら、ユキがあんたを強く推すんでね」

「ユキさんが?」

 思いもよらぬ名前が出てきて、ミオは大きな瞳をさらに丸くした。

「ああ。あの子とはひょんなことから仲良くなってね。4年くらい前だったかな。

 あの子とダルクを引きあわせたのもあたしだよ」

「なるほど。道理で」

 ユキがドイツ在住のダルクとどうやって知り合ったのかずっと気になっていたのだが、同じ日本人のトウコが間を取り持っていたのだ。

 プロの中でも図抜けて気難しそうなトウコに一目置かれていることが、まずとんでもないのだが。

 何があったのだろうと、また新たな疑問が生じてしまっただけな気もする。

「ユキ曰く、今のあんたは、またひとつ成長した頃合いだろうから、胸を張って推薦できる。だそうだよ。

 意味は分からないけど、あんたに伝えておくべきと思ったから伝えておくよ」

「成長……したのでしょうか。私は」

 今でもレイに「ミオちゃん」と呼ばれるたびに、罪悪感に心が軋む。自分は、自分を姉と慕ってくれた存在を、確かにこの手で葬ったのだと。

 精神的には弱くなったようにしか思えない。

 ミオが物思いに耽っていると、トウコが急に話を変えてきた。

「プロになる条件って何だと思う?」

「それは、スポ――」

「正解は、どこぞの企業がスポンサーがついていることだ」

 ミオが即答するより早く、トウコが答えを言った。

 何故、質問形式にしたのか。

「だけど、それは厳密にルールとして規定されているわけじゃない。スポンサーがいなくても、プロになろうと思えばなれる。言ってしまえば、賞金の出る大会でカネを稼いで、生活さえできていればそいつはプロさ。

 けど、そんな奇跡みたいなやつは、プロファイターの長い歴史上ひと握りしかいない。それは何故か?」

「お金がひ――」

「答えはカネが足りないからだ。

 カード代はもちろん、賞金が出る大会は参加するのにも馬鹿にならないカネがいるし、勝てなきゃ1円ももらえない。大会は世界中で開催されるから遠征費もとんでもない。

 個人で賄うには限界があるのさ」

 トウコの説明は早口だが分かりやすい。無駄を嫌うからこそ、要点を抜きだすのが上手いのだろう。このあたりはミオと相性がよさそうだ。

「じゃあまっとうに働いてカネを稼ぎながら大会に出場すればいいと思うかい? 甘いね。

 1週間の約半分を他の仕事に拘束されてちゃ、練習なんていつできる? 片手間でファイトしてる人間が勝てるほど、プロの世界はヤワじゃないよ。

 ついでに言っておくと、そいつは仕事でも役立たずになるよ。一般のサラリーマンも、何かのプロフェッショナルであることに違いはないんだ。趣味でファイトする分には構わないが、プロファイターにうつつを抜かしながらこなせるものとは思わない」

「む……」

 まさしくそのプランを考えていたミオは、少し憮然とした表情になったが、反論の余地も無かった。

「現実的な問題として、大会は平日に開催されるものが多いというのもあるしね。

 反面、スポンサーさえいれば必要経費はすべて払ってくれるし、いいところであれば練習施設も提供してくれる。

 1カ月のうち半日ほどCMの撮影やらなんやらで奪われることもあるが、まあ安いものさね。

 結果を残せなかった場合は、スポンサー契約を打ち切られて路頭に迷うリスクもあるわけだが。

 さて。プロになるにはスポンサーが必須ということを理解してもらったところで、あたしからの提案だ。

 あんたがあたしと契約するなら、あたしがスポンサーになってやる。

 あたしは企業経営者じゃないが、カネなら腐るほどあるから心配しなくていい。

 遠征費から、大会への出場費まで、ヴァンガードに必要なカネなら、すべてあたしが出してやる。

 もちろんカードだって好きなだけ買ってやるよ」

「ふむ。……例えば、カードショップで『この店の根絶者をすべてください』と注文したいという、私の長年の夢も叶えて頂けるということですね」

「あん? それがあんたにとって必要であるなら構わないよ」

 トウコの物事を深く考えない性格が、絶対に締結してはならない契約を結んでしまった。

「それは魅力的……いえ、破格の条件ですね」

「だろう? もちろんCM撮影なんて要求しないし、この部屋も自由に使わせてやる。……ただ」

「ただ?」

「この星見トウコ様が、他人に推薦されただけの人間を、ほいほい信用すると思ったかい?」

 トウコが意地悪くにんまりと笑う。こういう時の彼女は老婆どころか、少女のように可憐で魅力的で残酷だ。

「あたしとファイトして、勝てればそれらの条件で契約してやる!」

 ドン! と音をたててトウコがテーブルにデッキを置いた。

 負ければ?

 とは聞かなかった。

 そんなことを口にした時点で、この話はご破算になるであろう予感があった。

「わかりました。よろしくお願いします」

 ミオがそっとテーブルにデッキを置く。

 長くても30分。文化祭でのトウコの手際を思い起こせば、恐らくは10分もかからず、自分の人生はこのファイトの結果で大きく変わるのだろう。

「間違っても事故なんてするんじゃないよ。やり直しなんて許さないからね。

 ただし、あたしが事故った場合はやり直しだ」

「ずいぶんと理不尽な条件ですね」

「人生なんてそんなもんさね。

 さ、はじめようか」

 喋りながらも手は止めなかったトウコがあっという間に準備を終え、少し遅れてミオもカードの引き直しまでを終えた。

「スタンドアップ ヴァンガード」

「スタンドアップ! ヴァンガード!!」

 そして、ふたりが同時にファーストヴァンガードをめくる。

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《ブラウユンガー》!!」

 

 

「先行はもらうよ! スタンド&ドロー!」

 勝手に先行をもらわれた。これも人生なのだろうか。

「ライド! 《ブラウパンツァー》!

 山札の上から5枚見て……《シュテルン・ブラウクリューガー》を手札に加えるよ!」

「ブラウ、ですか。それがトウコさんの本気というわけですね」

「ふうん。文化祭の時、あたしが本気でなかったことは見抜いていたか。

 そうさ。これがあたしのデッキ、ブラウクリューガーさね!

 あんたが戦っているのは、正真正銘世界ランキング第3位、星見トウコだよ!」

 トウコが威嚇するように声を張り上げるが、ミオは相手がどのような強者であろうと動揺などしない。

「そうでなくては面白くありません。

 私のターンですね。スタンド&ドロー」

 と言いながら、淡々とカードを引く。

「《速攻する根絶者 ガタリヲ》にライド。1枚引いて、クイックシールドも手札に加えます。

 ガタリヲでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード」

「ドライブチェック……トリガーはありません」

「ダメージチェック……こっちもトリガーは無いよ。

 あたしのターン! スタンド&ドロー!

 ライド! 《ブラウクリューガー》!!

 山札の上から7枚見て……《ギャラクシー・ブラウクリューガー》を手札に加える!

《ジェノサイド・ジャック》と《ライザーカスタム》をコールして、バトルだよ!

《ブラウクリューガー》でヴァンガードにアタック!」

「★トリガーでガードします」

「ドライブチェック! ……★トリガーだ」

 トウコがにやりと笑ってカードを見せつける。

「効果はすべてジャックに!

《ライザーカスタム》のブースト! 《ジェノサイド・ジャック》でヴァンガードにアタック!

 合計パワーは37000だ!」

「ノーガード。ダメージチェック……2枚ともトリガーではありません」

 ここまでのダメージは、トウコが1点に対し、ミオが2点。

「私のターン。スタンド&ドロー。

 ライド。《煩悶する根絶者 ヱグバス》

 ヱグバスのスキルで手札を1枚捨て、山札から《招き入れる根絶者 ファルヲン》2枚をドロップゾーンに置き、1枚引きます。

《呼応する根絶者 アルバ》もコールして、バトルです。

 ヱグバスでヴァンガードにアタックします」

「《キャノン・ボール》でガード!」

「ドライブチェック……★トリガー。効果はすべてアルバに。

 続けて、アルバでアタックします」

「《ターボライザー》でガードだ!」

「あたしのターンだね。スタンド&ドロー。

 換装(ライド)! 《シュテルン・ブラウクリューガー》!!」

 紺碧の機体が暗黒の宇宙へと飛翔し、母艦から射出された兵装ユニットに換装する。

 全身のいたる所に砲身を装備し、背中に無数の羽を生やしたブラウクリューガーの射撃戦特化形態。

 それがシュテルン・ブラウクリューガーである。

「イマジナリーギフトはアクセルⅡを選択して、1枚ドロー!

《トランスライザー》、《ブラウクリューガー》、《モルゲンロート》、《ギャラクシー・ブラウクリューガー》もコールだ!

《ターボライザー》と《モルゲンロート》をレストして、《ジェノサイド・ジャック》をスタンド! 《ターボライザー》もスタンドだ!

 バトル!!

《ギャラクシー・ブラウクリューガー》でヴァンガードにアタック!」

(ヒール)ガーディアン《オブリビオンクェーサー・ドラゴン》でガードします。そのスキルで、ヴァンガードのパワーを+10000します」

「はっ! そんなものであたしの攻めを防げるとでも思うのかい!

《トランスライザー》のブースト! 《シュテルン・ブラウクリューガー》でヴァンガードにアタック!! トランスのスキルでカウンターチャージ!」

「ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、こっちもトリガー無しだ」

 シュテルンが全身の砲から一斉に弾を撃ち出した。それだけに終わらず、背負った羽の装甲を次々とスライドさせ数多の砲門を煌かせたかと思うと、そこから誘導レーザーを絶え間なく発射し、群がる根絶者達を次々と撃ち落としていく。それは(シュテルン)の名に相応しい、空を駆ける無数の流星を思わせる一斉射だった。

「ダメージチェック……(ドロー)トリガー。1枚引いて、パワーはヴァンガードに」

 これでヴァンガードのパワーは30000。このターンは余裕をもって凌げる、はずだった。

「ブラウクリューガーのアタックは、まだまだ終わらないよ!

 手札を2枚捨て、シュテルンのスキル発動!

 リアガードのギャラクシーに緊急換装(スペリオルライド)!!」

 シュテルン・ブラウクリューガーが、射撃戦特化兵装をパージすると、すぐさま母艦から新たな換装パーツが射出される。

 左腕には長大なレーザーカノンを装着され、右腕からは巨大なレーザーブレードが電光を放つ。

 宇宙の闇に瞬く銀河(ギャラクシー)となった蒼き闘士は、6枚のウイングを広げ、星々の間をすり抜けるように加速した。

「さあ! 《ギャラクシー・ブラウクリューガー》でアタックだよ! アタック時、ソウルから《シュテルン・ブラウクリューガー》をスペリオルコール!」

「ノーガードです」

「ドライブチェック! ……(フロント)トリガーだ!!」

 これでパワーは上回った! ダメージを受けてもらうよ!」

 ギャラクシーのカノン砲から、その名に相応しい光の奔流が解き放たれる。

 それはミオのライドする根絶者をデブリごと呑み込み、星が砕けたかのような輝きを炸裂させた。

「ダメージチェック。……トリガーはありません」

「《ブラウクリューガー》でリアガードのアルバにアタック!」

「ノーガード。アルバは退却します」

「バトル終了時、《ブラウクリューガー》をソウルに置いて1枚ドロー。

 残るあたしのリアガードのパワーはどれも30000オーバーだ。まだまだアタックは通るねえ。

 おら! 《シュテルン・ブラウクリューガー》でもアタックだよ!」

「《招き入れる根絶者 ファルヲン》でガードします」

「《ライザーカスタム》のブースト! 《ジェノサイド・ジャック》でヴァンガードにアタック!」

「《悪運の根絶者 ドロヲン》でガードします」

「ふん。ダメージ4点で抑えたか。ここまでは合格にしておいてやるよ。

《モルゲンロート》のスキルでシュテルンを手札に戻し、ターンエンドだ」

「…………」

 今までに体験したことの無いような攻めだった。

 治ガーディアンが無ければ、このターンでゲームが終わっていただろう。

(これがプロの実力ですか……)

 物事を常に客観視できるミオは、この1ターンで途方も無い実力差に気付いてしまった。

「どうした? もう諦めるのかい!?」

 トウコが苛々したように叫ぶ。

「まさか」

 ミオは虚勢だけでそれを返した。

「ならさっさとカードを引きな! このあたしが時間をくれてやってんだ! 1秒たりとも無駄にするんじゃないよ!」

 トウコの尊大な物言いも、今なら納得できる。彼女にはそれに相応しい実力がある。

「……そうですね。あなたのような人とファイトできることが、まずは幸運なのでしょう」

 今は勝つことを考えない。このファイトを楽しみ、得られるものはすべて吸収する。勝機があるとすれば、きっとその先だ。

 ミオは覚悟を新たにして、カードを引いた。

「スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》」

 ブラウクリューガーの眼前に暗黒物質(ダークマター)が出現し、それを引き裂くようにして、中から巨大な根絶者が姿を現す。

「イマジナリーギフトはフォースⅡをヴァンガードに。

 グレイヲンのスキル発動。《ギャラクシー・ブラウクリューガー》をデリートします」

 グレイヲンが禍々しく捻じれた爪を振るうと、青い機体が一瞬にして消え去り、コックピットのトウコが宇宙に投げ出される。本人は余裕の表情で腕組みしていたが。

「ヴァンガードがデリートされたので、ドロップゾーンから3体のファルヲンをスペリオルコール。

《呼応する根絶者 エルロ》もコールして、ドロップゾーンからアルバもスペリオルコールします」

 最低限の手札消費で盤面を埋めたが、トウコは眉ひとつ動かさない。この程度はできて当然とか思われていそうだ。

「バトルです。

 ファルヲンのブースト。グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

「《メチャバトラー ブチヌーク》でガード! 《ジェノサイド・ジャック》でインターセプト! 2枚貫通だ!」

「ツインドライブ。

 1枚目……トリガーはありません。

 2枚目……引トリガー。1枚引いて、パワーはエルロに。

 ファルヲンのブースト。エルロでヴァンガードにアタックします」

「もう1枚、ブチヌークでガードだ」

「ファルヲンのブースト。アルバでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード。ダメージチェック……治トリガーだが、回復はしないよ」

 これでようやくトウコに2点目が入る。

 ここまででダメージは4対2。

「あたしのターンだね。スタンド&ドロー。

 ライド! 《シュテルン・ブラウクリューガー》!!

 本来ならギャラクシーをスペリオルコールできるんだが、デリートされてちゃそれも叶わないね。

 けど、そんなものであたしのブラウクリューガーを封じたつもりかい!?

《ブラウパンツァー》をコール! 手札からトリガーユニットを捨て、《ギャラクシー・ブラウクリューガー》を手札に加えさせてもらうよ! そのままこいつをコール! 《ブラウクリューガー》、《超獣神 イルミナル・ドラゴン》、《スタイリッシュ・ハスラー》もコール!」

 まるで魔法のように、次々と厄介なアタッカーばかりがコールされていく。

「バトルだよ!

 アクセルサークルのギャラクシーでグレイヲンにアタック!」

「★トリガーでガードします」

「ヴァンガードのシュテルンでグレイヲンにアタック!」

「ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……前トリガーだ! 前列すべてのユニットにパワー+10000!」

「ダメージチェック……トリガーはありません」

 これでミオのダメージは5。後がなくなった。

「手札を2枚捨て、ギャラクシーに緊急換装!

 さあ、これで決着かねえ? 《トランスライザー》のブースト! 《ギャラクシー・ブラウクリューガー》でヴァンガードにアタック!! シュテルンもスペリオルコール!」

「……ノーガードです」

 ミオは静かに目を閉じながら宣言した。

「ドライブチェックのトリガーは無しだ。さあ、6点目のダメージチェックを行ってもらおうか! いくつになっても、ヴァンガードはこの瞬間が一番ドキドキするねえ!」

 右手のレーザーブレードを最大出力にして振り抜いたギャラクシー・ブラウクリューガーが、グレイヲンが防御に掲げた両腕ごと、袈裟懸けに斬り裂いた。

 底知れない宇宙の闇に、グレイヲンの巨体がゆっくりと沈んでいく。

「どうやらここまでのようですね。ダメージチェック……」

 ミオが山札の上からカードをめくる。

「おや。もう諦めちまうのかい? 情けないねぇ。ユキのやつも、とんだ見込み違いだった――」

「何を勘違いしているのですか?」

 心外とばかりに、ミオがトウコの言葉を遮った。

「私が諦めたのは、治トリガー無しであなたに勝つことです。

 私がダメージチェックで引いたのは、治トリガー。ダメージ回復して、パワーはグレイヲンに」

 瞬間、グレイヲンの両腕も再生し、闇の中から這い上がるようにして浮上する。

「ゲーム続行です。残りのアタックをどうぞ」

「このあたしを相手に、そんなことを考えていたのかい……!!

 不遜だが、嫌いじゃないよ! 若いうちはそうじゃないとねぇ!!

 アクセルサークルの《ブラウクリューガー》でグレイヲンにアタック!」

「エルロでインターセプトします」

「《ブラウクリューガー》をソウルに置いて、1枚引かせてもらうよ!

 アクセルサークルの《ブラウパンツァー》でグレイヲンにアタック!」

「アルバでインターセプトします」

「アクセルサークルのシュテルンでグレイヲンにアタック!」

「★トリガーでガードします」

「《ライザーカスタム》のブースト! 《スタイリッシュ・ハスラー》でグレイヲンにアタック!」

「《迅速な根絶者 ギアリ》、《欺く根絶者 ギヴン》、引トリガーでガードします」

「《超獣神 イルミナル・ドラゴン》でグレイヲンにアタックだ!!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

 これでミオの手札は0枚。

 だが、トウコがアタックできるユニットもいない。流星雨の如き猛攻を耐えきったのだ。

「あたしはこれでターンエンドだ。けど、あんたの手札は0枚。リアガードはG1のファルヲンのみ。そんな状態で何ができるものか」

「このような絶体絶命の状況。あなたほど生きていない私でも、何度も経験してきましたよ。

 スタンド&ドロー。

 ライド……」

 ミオがライドするのはもちろん、彼女の愛する人から託された魂のカード。

「《波動する根絶者 グレイドール》」

 満身創痍だったグレイヲンの肉体が、鋼鉄の鎧に包まれていく。

 ミオやグレイヲンと共にこの3年間を戦い抜いてきた切り札が、地球を背にするようにして降臨した。

「グレイドールのスキル発動。ハスラーを裏でバインド(バニッシュデリート)。ギャラクシーをデリート。★に+1です」

 グレイドールが腕を一振りするだけで、銀河がこの世界から消え去った。

 残された虚無の暗闇に、トウコの魂だけが強い輝きを放ちながら浮かんでいる。

「この程度であたしまで消し去れるだなんて思ってないだろうね!」

「はい。すべてはこの一撃で決まります。

 ファルヲンのブースト。グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「《ジェノサイドジャック》! 《ブラウクリューガー》! さらに《メチャバトラー ブチヌーク》でガードだ! これで2枚貫通! そればかりか★トリガーを引かなきゃ、あんたは勝ちきれない!」

「そのようですね。では、すべてを私のデッキに委ねます。

 ツインドライブ」

 ミオは祈るように宣言して、自らが信じたカードの束、デッキに手をかける。

 1枚目……引トリガー。1枚引いて、パワーはグレイドールに。

 2枚目…………む?」

 2度目のドライブチェックでカードをめくると同時、ミオは眉をひそめた。

「よりにもよって、このカードですか」

「あ?」

「こちらの話です。

 私が引いたカードは《ブリンクメサイア》――★トリガーです」

 ミオはめくったカードをトウコに見せつけた。

「やるねぇ! だが、あたしのデッキには、まだ治トリガーが3枚残ってるんだ!

 ダメージチェック!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、治トリガー……。

 3枚目、治トリガー……おいおい」

 トウコが焦ったような声をあげる。実力では彼女が圧倒していたはずだ。だが、ミオが治トリガーを引いたあたりから、空気が変わりはじめた。何か特別な力が作用して、彼女を勝たせようとしているとしか思えない。

(世界がこの子を求めているとでも言うのかい? 今のプロリーグには、新しい風が必要だとずっと感じていた。それがこの音無ミオだと……)

「4枚目……」

 グレイドールとメサイアの幼竜が並び立ち、虚無の波動と再生の波動を同時に放つ。

 それはふたつの螺旋を描きながら交差し、混じり合い、誰も見たことの無い輝きへと昇華していく。

(……ちっ。綺麗じゃあないか)

 新生した無垢なる波動に呑み込まれながら、トウコは静かにそれを認めた。

 

 

「……ふん。あたしの負けさね」

 6枚目のカードをダメージゾーンに放り投げるように置いて、トウコは溜息混じりに言った。

「……勝てました。楽しいファイトでした」

 安堵したようにほうと吐息をついて、ミオが手を差し出すが。

「あ? 負けたファイトが楽しかったわけないだろ?」

 不機嫌そうに睨みつけられて握手を拒否された。

「…………」

 自分より、フウヤやマリアと気が合いそうだなと思いながら手を降ろす。いや、どちらが勝ったとしても修羅場になるだけだから、むしろ相性が悪いのか。

「ともあれ、これであんたはめでたくプロの一員ってわけだ。おめでとさん」

 かと思うと、今度はトウコの方から手を差し出してきた。とは言え、これは健闘を称える握手というよりは、契約の証だろう。彼女は既に次のパートに進んでいるのだ。

 まるでジェットコースターのような気性の彼女に付き合えるのは、他人に頓着しない自分くらいのものかもしれない。

 きっとこれから長い付き合いになる。

 ミオはそう確信して、トウコの骨ばってはいるが繊細な職人のような手を握り返した。

「ま、あんたが不甲斐ないファイトをするようなら、すぐにでも契約を打ち切ってやるけどね」

 ……長い付き合いに、なるはずだ。

「ここからプロになるために色々と踏まなければいけない手続きもある。あんたに会わせておきたい人も何人かいるし。負けたあたしが言うのも何だけど、あんたのファイトは荒削りだ。もう少しあたしとファイトして、プロに相応しい実力を身につけてもらうよ。

 これからしばらく、休みの日は顔を貸してもらううことになるけど、構わないね」

「はい。望むところです」

 言葉こそ乱暴だが、意外と福利厚生がしっかりしている。彼女の性格からすると、プロの世界に身一つで放り出されてもおかしくなかった。

「あたしの後継者としてデビューしてもらうんだ。恥ずかしいファイトをしてもらっちゃ困るんだよ」

 ミオがそのことを指摘すると、トウコはぶっきらぼうにそう返した。

「私がプロとして無事に巣立ったら、トウコさんはどうするのですか?」

 続けて、ミオは気になったことを聞いてみた。

「まさか、この星見トウコが大人しく隠居するとでも思ったのかい?」

「いいえ」

 だから聞きました。と言外で補足する。

「あたしはヴァンガードの腕が衰えたから引退するんじゃない。このままプロとして死ぬまで勝ち続ける自信はあるが、それじゃ永遠に叶えられない夢があるんだよ」

「夢、ですか?」

「あたしはね。世界中を旅して、もっとヴァンガードを広めたいんだ」

 少女のように瞳を煌めかせながら、トウコは夢を語った。

「あたしは世界ランキング3位と呼ばれちゃいるが、本当にそうなのかい?

 世界には、貧困だったり、治安が悪かったりで、ファイトどころじゃない国もごまんとある。あたしはそんな貧しい国にヴァンガードを配って、ファイトを広めたい。何か問題があればファイトで決める。この世界を、そんな楽園にしたいのさ!

 そんな世界で、誰もに一流のファイターとして認められる。それでこそ胸を張ってトップランカーを名乗れるってものじゃないのかい!?

 ああ。あたしが野たれ死んだとしても、カネはあんたのところに自動で振り込まれるようにしておくから、安心しな」

 誰もそんな心配などしていないのだが。本当にどこへ行くつもりなのだろうか。

「ですが、素敵な夢だと思います」

 ミオは素直に称賛を口にした。この人の夢も守れて、本当によかったと思いながら。

「はっ! よせやい」

 老婆は若者のように照れくさそうに笑って、鬱陶しそうに手を振った。

 

 

 それから2週間が経過し、ミオが響星学園を卒業する日がやってきた。

「ご、ご卒業、おめでとうございますう、ミオさあああああん!!」

 メガネが濡れるほどだばだばと涙を流して、校門前でサキがミオを祝福する。もはやメガネが泣いているかのようだった。

「ありがとうございます。サキさん」

 ミオはぺこりとサキに向かってお辞儀をする。思えば、ミオの学生生活で、もっとも付き合いが長くなったのは彼女だった。

「サキさんは感情の機微を読み取るのが苦手な私のフォローをいつもしてくれました。あなたなら、きっと部長としても上手くやっていけます。カードファイト部をよろしくお願いします。サキ部長」

「は、はいいいいいいいっ!! まかされましたあああっ!!」

 まだ出るかと思うほどさらに涙を垂れ流して、サキが力強く頷く。

 はじめて会った頃の彼女なら、自分に部長なんてできるはずもありませんと首を振っていただろう。

 彼女は本当に強くなった。涙でぐちゃぐちゃになった今の顔はともかく、

「ミオちゃんが新学期からいなくなるなんて、あたしも信じられないよ。それでも、卒業おめでとう! あたしのこと、忘れないでね!」

 レイも目尻に涙を浮かべ、ミオに抱きついた。

「もちろんです、レイさん」

「最後に『エンペラー』に寄ってファイトしていかない? って言いたいところなんだけど……」

「はい。私もそうしたいのはやまやまですが、今日も色々としなければならないことがありますので」

「やっぱりそうだよね……。大変なんだね、プロになるって」

 残念そうにレイがミオから体を離す。

「私の場合は大変なスポンサーに当たってしまったとも言えるのですが」

「けど、同じ学校の先輩がプロになるなんて、皆に自慢できちゃうよ! あたし、応援してるから! ミオちゃんが出場する試合は、絶対に見逃さないからね!」

「はい。応援よろしくお願いします」

「あー。けど、ミオちゃんはプロファイターかー。あたしは将来、何をしてるんだろ?」

 レイは遠い目をしながら呟いた。

「プロになれるほどの実力は無いだろうし。あったとしてもガラじゃないし。ヴァンガードに関わりたいなーとは思うけど、何か違うこともやってみたい……」

「ふふふ。ゆっくり考えればいいんだよ」

 ミオが何かを言うより先に、サキが悩めるレイの肩に優しく手を置きながら言った。

 このふたりなら、きっと上手くやれるだろう。

「では、私はそろそろ」

 そう確信しながら、ミオは小さく会釈する。

「はい。本当にお世話になりました。お元気で、ミオさん」

 レイの肩に手を置いたまま、サキがようやくまともに微笑んだ。

「ばいばーい! まったねー!」

 大きく手を振るレイに、小さく手を振り返し、ミオはふたりに背を向けた。

「ねえ、サキ部長! これからどうする!?」

「あはは……いつも通りサキちゃんでいいよ。

 とりあえず『エンペラー』に寄ろっか。ミオさんの晴れ姿を、アリサさんにも報告してあげたいし」

「りょーかい!」

 ふたりの弾んだ声が、少しずつ遠ざかっていく。

 一抹の寂しさを覚えながら、ミオはひとり、雪のように桜が降りしきる並木道を歩いていた。

「――っ」

 突如としてふわりと春風が吹き、桜の花びらが舞いあがる。ミオは目を開けていられなくなり、思わず目を閉じる。

 風が止み、ミオが目を開くと、降り注ぐ桜の先によく見知った顔がいた。

「……ユキさん?」

 ミオがその名を呼ぶ。

 白い着物を完璧に着こなした女性が、桜をかき分けるようにしてしずしずとこちらに近づいてきた。艶のある黒髪の上にはいくつか桜の花びらが貼りついていたが、それすら髪飾りのように似合っている。

「卒業おめでとう。こうして面と向かって会うのは2年ぶりね」

 ユキが記憶そのままの優しい笑みを浮かべて言った。

「ありがとうございます。もう、そんなになりますか」

 あれから色んなことがあって、あっという間に過ぎていった2年間だったように思う。それでいて、ユキと最後に会った時のことは忘れ得ぬ記憶であったため、時間の感覚が曖昧になっていた。

「トウコさんのところへ行くのでしょう? 私も一緒に行くわ。ひさしぶりに歩きながらお話しましょう」

「はい。私もユキさんにお話ししたいことがいっぱいあります」

 粗雑だが義理堅い後輩と出会ったこと。

 臆病だが心優しい後輩と出会ったこと。

 ヴァンガード甲子園の全国大会に出場したこと。

 天海学園と戦ったこと。

 夕暮れの部室でアリサと最後にファイトしたこと。

 後輩が新たな夢を見つけたこと。

 妹ができたこと。

 ヒビキに勝ったこと。

 文化祭でプロファイターと話したこと。

 世界を救ったこと。

 そして、妹との別れ。

 ユキならば、すべて微笑みながら聞いてくれるに違いない。

 この日、少しだけ饒舌になったミオは、ユキと肩を並べて、桜の絨毯の上をゆっくりと歩きだした。

 

 

 根絶少女 3年生編

 

 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――それから3年の月日が過ぎた

 この日、日本が誇るヴァンガードスタジアムは、熱狂する観客で埋め尽くされていた。

 それもそのはず、ヴァンガード甲子園の会場であり、高校生ファイターにとっての聖地として親しまれるここは今、プロの大会の中でも最も規模の大きな大会のひとつであるヴァンガードチャンピオンシップ、その決勝戦が開幕しようとしているのだ。

『さあ! いよいよやって参りました! ヴァンガードチャンピオンシップ、決勝戦!!』

 さらにMCが軽快な実況で場を盛り上げていく。

『いよいよ選手の入場です! まずはお馴染み、ヴァンガードファイターなら誰もが知っている生きる伝説! ことヴァンガードチャンピオンシップにおいては前人未到の7連勝を成し遂げている不動のチャンピオン!!

 世界ランキング1位!! ダルク・ヴァーグナー!!』

 入場口から黒いコートを羽織った銀髪の青年が姿を現し、広い会場の中心にたった一台、スポットライトに照らし出されたファイトテーブルへとゆっくり歩み寄る。

 その表情には、余裕からか、それともまったく別の理由か、楽しげな笑顔が浮かんでいた。

『ダルク・ヴァーグナーに対する挑戦者は!! 元世界ランキング3位、星見トウコと入れ替わりに現れたかと思うと、並み居るランキング上位を相手に破竹の快進撃を続ける新鋭!!

 このチャンピオンシップでも、高校時代からのライバルである綺羅ヒビキを準決勝で下し、決勝まで駒を進めました!!

 去年に20歳の誕生日を迎えたにも関わらず少女の面影を残した可憐な容姿と、それとは裏腹に根絶者を駆使した苛烈な攻めから、いつしか彼女はこう呼ばれるようになった!!

 根絶少女、音無ミオ!!!』

 テーブルを挟んでダルクと対峙したミオは、僅かに身を乗り出してダルクに囁く。

「お待たせしました、ダルクさん。いつかの約束を果たしにきましたよ」

 そして体勢を戻すと、揺れる白髪を押さえながら薄桃色の唇を僅かに上げると、ごく自然に微笑んだ。

「楽しいファイトにしましょうね」

 

 

 根絶少女

 

 完

 

 

 されど彼女達の物語は続いていく――




ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
これにて根絶少女本編は完結となります!!


今後の根絶少女の展開としては、4月に「えくすとら」扱いで、作者から見た根絶少女の総まとめを行う予定です。
登場人物の誕生秘話や、各ストーリーの裏話などが盛りだくさんになる予定なので、お楽しみにして頂ければ幸いです。
パックレビューも、次のクランセレクションが発売するまでは続けようかと思います。
そこで全キャラクターを登場させて、根絶少女は完全に締め! とさせて頂きます。

本当は全キャラが登場する外伝として「温泉旅行編」なども最後に考えていたのですが、今回の話がエピローグとして思った以上に相応しくなったため、蛇足かなぁという気がしています。
見たいという声があった場合は考えるかも知れません。

そして、5月からはDスタンをベースにした、まったくの新作を予定しております。
詳細は4月の「えくすとら」で公開予定です。

最後に……
根絶少女完結記念のアンケートをこちらに設置しております。
気が向いたらでいいので、回答頂ければ幸いです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=276527&uid=269407

まだほんの少しだけしぶとく続きますが、根絶少女を応援いただきありがとうございました!!


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えくすとら
Ex.1「救世の光 破滅の理」


●ごあいさつ~リンクジョーカー

 

ユキ「読者の皆さん、ごきげんよう。まずは改めて自己紹介を申し上げます。私は私立響星(きょうせい)学園カードファイト部で部長を任されております、3年生の白河(しらかわ)ミユキと申します。気軽にユキと呼んでください。

使用クランはむらくも。以後、お見知り置きを」

 

アリサ「あたしは響星学園カードファイト部の副部長、2年の天道(てんどう)アリサ!

使用クランはメガコロニー! よろしくねー」

 

ミオ「響星学園カードファイト部、1年の音無(おとなし)ミオです。

使用クランはリンクジョーカー(根絶者)です。よろしくお願いします」

 

ユキ「あら、ミオったら。主人公なのに硬いわねえ」

 

ミオ「え? ここってメタ的な話もしていく感じですか?」

 

アリサ「もちろん! この『えくすとら』では、私達が部室で最新パックについて話す様子を書く事で、『根絶少女』の登場人物を身近に感じてもらおうという企画よ」

 

ユキ「そのようなわけで、基本的にお喋りをしているだけで動きに乏しいので、対話形式でお送りさせて頂きます」

 

アリサ「では、今日のテーマは『救世の光 破滅の理』!! 収録クランは、ロイヤルパラディン、かげろう、ノヴァグラップラー、リンクジョーカーね」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「何か喋りなさいな」

 

アリサ「あんたこそ」

 

ユキ「……こほん。実は、この『えくすとら』を見て頂く方に、一つ注意点があるの。それは、話題が偏ること!」

 

ミオ「どういうことですか?」

 

ユキ「私やアリサは、設定上は上級者で、全クランに造詣が深いわ」

 

ミオ「はい」

 

ユキ「けど、実際の私達は作者以上の知識は持てないの」

 

ミオ「それはまあ、そうですね」

 

ユキ「そして、今回のロイヤルパラディン、かげろう、ノヴァグラップラーは、作者が詳しくない3強と言えるのよ」

 

ミオ「え? 私も少し調べましたけど、どれもメジャーなクランですよね」

 

ユキ「それ故よ。作者はひねくれものなの」

 

アリサ「けど、作者ってメガコロ使いよね? スタンド封じなんて、敵の特性理解してナンボでしょ? 特にダークフェイスなんてマストカウンターを理解してないと、力を発揮できないはずだけど」

 

ユキ「……とある日、作者は叫んだらしいわ」

 

 

作者「ショップ大会で、3回に2回は『このカード何ですか?』って聞かれるのに、何でこっちは相手のカードを全て把握してやらなダメなんじゃー!!」

 

 

アリサ「あー。メガコロあるあるねー」

 

ユキ「けど、そんなわだかまりも捨てて、今は『根絶少女』を少しでもよくしようと、全クランの勉強をしているわ。ここだけの話、ロイパラは本編で年内に登場する予定だから、それはもう必死に」

 

アリサ「おお、さらりと予告まで。『えくすとら』お得!」

 

ユキ「そのようなわけだから、もう少し長い目で見守って頂けると嬉しいわ。いきなりこの3クランというのは、さすがに荷が重かったみたい」

 

ミオ「調べたところ、5月のパックもかげろう、ノヴァグラップラー、リンクジョーカーのようですが」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「……今日はどうする?」

 

ユキ「とりあえず、リンクジョーカーの話から始めましょうか。今回のパックに根絶者は収録されていないけれど、ミオは根絶者以外のリンクジョーカーを使う予定はあるのかしら?」

 

ミオ「いいえ」

 

アリサ「それなら、あたしに任せて! リンクジョーカーなら詳しいから」

 

ユキ「悪役ならメガコロニー以外も好きなのよね、アリサは」

 

アリサ「うん。G環境の『遊星骸王者 ブラント』だって、ちゃんと使ってたよ。強いとか弱いとかじゃなくて、大変だったっていう印象が強かったかなあ」

 

ミオ「大変、ですか?」

 

アリサ「当時のリンクジョーカーは、星輝兵、根絶者、メサイアで派閥が分かれていたの。そのどれにも属していないブラントは、大半のカードがバニラも同然だったわけ。それどころか、ブラントが毎ターンCB(カウンターブラスト)2も消費するから、CBを使うユニットも軽々しく使えない。

最終的に完成したデッキたるや、『輪転華 ダークチャクラム』が不動のエースとして君臨し、脇を固めるのはクレイエレメンタルという鉄壁の布陣」

 

ユキ「それで、肝心のブラントは?」

 

アリサ「それが、意外と悪くなかったのよね。ダメージ4からでも安心してノーガード宣言できるし、相手の(ヒール)トリガーをダメージに変換して勝った時は思わずガッツポーズよ。楽しかったし、部下(G2以下)上司(G4)に恵まれなかっただけで、ブラント自体は強かったんじゃないかって思うわ」

 

ミオ「では、今回のブラントも?」

 

アリサ「それがね、当時とは結構環境が違うのよ。まず、当時はトリプルドライブだった」

 

ミオ「あ……」

 

アリサ「そして、今回のブラントは(ドロー)トリガーに反応しない。当時はもう引トリガーがあんまり採用されていない環境だったけど、それに比べて今の環境は……」

 

ユキ「引トリガーは、どんなデッキでも最低4枚は採用されてるわね」

 

アリサ「そう。ブラントが強かったのは、『トリプルドライブがあって』なおかつ『(クリティカル)12枚デッキも多かった』からかも知れないのよ」

 

ミオ「では……」

 

アリサ「おおっと! だからと言って、今回のブラントが弱いと結論付けるのは早計よ。当時のブラントがやらなかった事が、今回はできるんだもの」

 

ミオ「やらなかった? できなかったではなくですか?」

 

アリサ「そう。それは、攻撃時のトリガー反転。一応、G環境のブラントもできたのだけど、超越環境では、さすがのあたしもやらなかったよ」

 

ミオ「ああ、なるほどです」

 

アリサ「アニメのように2ダメージから6ダメージは滅多に無いだろうけど、3ダメージから6ダメージは結構あると思うのよね。それどころか、今回は4ダメージからリアガードの攻撃をノーガード宣言しても殺される可能性があるのよ? プレッシャーは全リアガード(クリティカル)+1に近いものがあるんじゃないかしら。

むしろ、過去の環境で使ってた人ほど誤解してしまいそうだけど、今回のブラントは超攻撃的よ」

 

ユキ「では、この調子で『遊星骸神 ブラントリンガー』も見ていきましょうか」

 

アリサ「ほーい。G4になった分、弱点が克服されてる感じね。(ドロー)トリガー、(フロント)トリガーにも反応するようになり、コストもCB1ならお得。ブラントデッキならブラントに乗った次のターンには乗り直したいわね。

さらに! 引トリガーの反転効果が昔とは違うのよ!」

 

ユキ「どれどれ……あら、昔はリアガードを1体退却させたのね」

 

アリサ「そうよ。相手としては攻撃した後のユニットを退却させればいいだけだったから、影響力が低かったの。G環境末期の展開力は異常だったしね。

今回はハンデスになったことで、相手が活用する前のカードを捨てさせられるし、何よりカードが引けるはずだった場面で発生するハンデスは、精神的ダメージも計り知れないと思うわ。

ああ、こんな素敵な効果を及ぼすトリガーが相手のデッキに最低4枚は入っているなんて」

 

ユキ「まさしく、ブラントの欠点が長所に反転されたわけね」

 

アリサ「そして、今回はそんなブラントをサポートするカードがいっぱい! もうひとりじゃない! 昔のあたしにあげたかった!」

 

ミオ「星骸以外のリンクジョーカーは、ガードの制限がテーマみたいですね」

 

アリサ「そうそう。今回は根絶者の収録は無いけれど、根絶者で使えそうなリンクジョーカーはちゃんと収録されているわよ。1枚挙げるとしたら『絶命の衝撃 ジェットシャフト』かしら。ミオみたいな『根絶者だけで構築したい』というこだわりが無い人は試してみてねー」

 

●ノヴァグラップラー

 

ユキ「この調子で、他のクランも見ていきましょうか」

 

アリサ「あたし、今回の『獣神』は興味あるな」

 

ミオ「エクストラアタックですね」

 

アリサ「うん。新しい環境になってから、ルールを壊してくるカード増えたのは面白いよね。同じノヴァで言えば『ライザーカスタム』とか」

 

ユキ「先攻1ターン目アタックね。あれは確かに、初めて見た時は衝撃だったわね」

 

アリサ「ラフファイトって感じで。どちらもゴング前に仕掛けてるようなイメージがちゃんと浮かぶっていうか。あとは……懐かしいヤツらの復活かな」

 

ユキ「『ドグー・メカニック』、『叫んで踊れる実況 シャウト』、『ジェノサイド・ジャック』あたりかしら?」

 

アリサ「そうそれ! 特に『ジェノサイド・ジャック』は、ノヴァ使いじゃないあたしでも嬉しいわね。今回の能力も強いんだろうけど、もっと盛られてても『ジェノサイド・ジャック』なら許せた!」

 

ユキ「ふふ。何だかんだ言って、思い入れはあるのね」

 

アリサ「まあ、ノヴァはヒール要素もあるからね。あたしは好きよ?」

 

ユキ「実は、私も『ヒロイック・ハニー』の復活を願っているわ」

 

アリサ「するかなあ!?」

 

●かげろう

 

ユキ「さて、残り2クランもVR(ヴァンガードレア)くらいには触れておきたいところだけど……」

 

アリサ「正直、その2つは、強い、以上。で終わっちゃうのよね。わざわざ、あたし達が付け足すところも無いというか」

 

ユキ「んー、私としては『ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート』は双闘(レギオン)らしくて好きなのよね」

 

アリサ「そうか! 双闘ユニットがスタンダードに再登場するのは、今回が初めてだよね」

 

ユキ「ええ。この性能なら、今後の双闘ユニットの復活にも期待できないかしら?」

 

アリサ「タランチュラmkⅡ&ホーネットmkⅡも!」

 

ミオ「ゼヰールゲヰールも」

 

ユキ「あら、ミオ。もうそんな昔のカードも勉強してるのね」

 

ミオ「はい。根絶者は古いカードも全て覚えました。まるで、昔から知っていたかのように、自然と頭に入ってきます」

 

アリサ「あたしと初めてファイトした時もそうだけど、根絶者に対する理解力がすごいよねー。これも愛の成せる業かな?」

 

ミオ「というか、古いカードは通信販売で4枚ずつ購入しましたが」

 

アリサ「愛が重い!」

 

ミオ「ファルヲンが特にかわいいです」

 

●ロイヤルパラディン

 

ユキ「さて、名残惜しいですが『えくすとら』第1回はこれにて……」

 

アリサ「待ちなさい! さらりと『メサイアニック・ロード・ブラスター』をスルーしようとしたでしょ!」

 

ユキ「もう下校時間よ。生徒会副会長として、居残りは許しません」

 

アリサ「帰り道でも話せるでしょ!? とにかく、第1回でそれはダメよ!」

 

ユキ「そうねえ……危険な香りはするけど、ロイパラが(作者が)どれだけブラスターを並べられるかが分からないので未知、と言ったところかしら」

 

アリサ「けど、ダメージを与えてこないプレイングもしてくるだろうし、ブラスターなんて今後いくらでも増えるだろうし……」

 

ユキ「……危険ねぇ」

 

アリサ「危険なのよ」

 

ユキ「……帰りましょうか」

 

アリサ「はーい」

 

●おわりのごあいさつ

 

ユキ「はい。そのようなわけで、いきなりグダグダだった『えくすとら』だったわけですが」

 

アリサ「次回は『プレミアムコレクション2019』もあるわけだし、話すネタには困らないかな。むしろ、取捨選択が大変そう」

 

ユキ「それに関しては、作者が今の(プレミアム)スタンダード環境がどうなっているのか全く知らないという懸念があるのだけどね」

 

アリサ「無知すぎるでしょ!?」

 

ユキ「Pスタンの勉強をしても、スタンダード環境である『根絶少女』に生かせる部分が少ないので、悩んでいるらしいわ」

 

アリサ「ああもう、行き当たりばったりなわけね」

 

ユキ「イラストだけで100000文字は語れそうなパックになる可能性もあるけど」

 

アリサ「コンセプトは、G環境で活躍したユニットのG4化なのよね。もともとG4だったヤツもいるみたいだけど。

そうなると、メガコロなら、パラスピアー、オブティランドス、マシニング・デストロイヤーあたりかな? グレドーラ登場前は、一際目立つリアガードって思い浮かばないし、グレドーラ登場後はどれも強すぎて、逆にピンと来ないのよね」

 

ユキ「むらくもなら、オニフンドウ、ルーンスター、オオボシかしら。Gユニットは……活躍してるのって、ほとんどがヤスイエなのよねえ」

 

アリサ「カガミジシも強かったけどね」

 

ユキ「シバラックバスターもいるけど、あれははっちゃけたことしてしまっているせいで、リデザインのハードルは高そうよね。って、いけない。シメに入ろうとしていたのに、新しい話が始まっているじゃないの」

 

アリサ「えー、もっと話そうよー」

 

ユキ「はいはい、帰り道でね」

 

アリサ「こんなことなら、はじめから『プレミアムコレクション2019』大予想! の方が盛り上がったかもねー」

 

ユキ「そうねえ。パックに拘らない方向性を模索してみるのもいいかもね」

 

アリサ「ミオちゃん、今日はごめんねー。古いカードの話はわからないよね?」

 

ミオ「いえ。私もアヲダヰヱンの登場を楽しみに待っています」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ミオ「どうしました?」

 

ユキ(言えない……)

 

アリサ(リンクジョーカーはすでにグルーボールで決定しているなんて……)

 

ミオ「?」

 

ユキ「はい! そんなわけで『えくすとら』第1回は、これにてお開き!」

 

アリサ(ごまかした!)

 

ユキ「次回はいったいどうなってしまうのか!? 『えくすとら』第2回をお楽しみにして頂ければ幸いです」

 

ミオ「本編もよろしくお願いします」

 

アリサ「それでは皆さん……」

 

アリサ&ユキ「さようならーー!!」 ミオ「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユキ「大ヴァンガ祭潜入レポートとかどうかしら?」

 

アリサ「いいねそれ」




栗山飛鳥です。
はい、作中で語った通りではございますが。
私はクラン知識が偏っております。

実際のところ、かげろう、ノヴァグラップラーについては、友人が使ってくれるため無知ではなく、今回は大袈裟に書いたきらいもあるのですが。
ロイヤルパラディンは対戦相手にもいないため、本当に詳しくありません。

ただこれは、あくまで「ヴァンガードの新弾を題材にお喋りしている女の子たち」を書いた小説であり、カードの考察では無いということはご理解ください。
その割にはトークが少なかった事は、今後の課題です。

本編以上に手探り感が強い「えくすとら」ですが、いかがでしたでしょうか。
作中でも示唆していた通り、パックに拘らず、大ヴァンガ祭のレポートとか、その月にあったイベントに触れられたら、もっとよくなるのかなと考えています。さすがに急なので、5月のは行けませんが。

『プレミアムコレクション2019』は5月2日に先行販売されますが、次回の「えくすとら」は一般販売が予定されている5月17日前後に公開予定です。
その前に「本編」が5月上旬に公開予定ですので、そちらもよろしくお願い致します。


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Ex.2「登場! イマジナリーギフトⅡ」

●はじめに

 

 

アリサ「新システム『イマジナリーギフトⅡ』登場ッ!!」

 

ユキ「はい、そのようなわけで、この『えくすとら』も緊急掲載と相成りました。パックの話に限らず、新しい情報にも積極的に触れていこうかと」

 

ミオ「実は『根絶少女』的には大打撃なんですよね。もう10話分くらいはストックがあるんですけど、どんな新ユニットが登場してもいいように、ファイト中はセリフだけ書いて、ファイトの詳細はほとんどカットしてあるのですが……」

 

アリサ「システムそのものが変わってしまうと、それでも齟齬が発生するみたいな?」

 

ミオ「はい。根絶者で言うと、グレイドールでないと決めきれなかった場面も、グレイヲンに再ライドからのフォースⅡで解決してしまうんです」

 

ユキ「幸い、フォースⅠを選んだら、次はフォースⅡは選べないようなので、今まで通りフォースⅠを選んでいれば解決するのだけど」

 

アリサ「せっかくのリアルタイムノベルなのに、新システムを使わないのも味気ないしね。そんなわけで、全編見直しで作者は大忙し!」

 

ミオ「今までは、フォースと言えばフォースⅠだったので、そこの描写を省略していたのも多いのですが、それもしにくくなりました」

 

ユキ「そんな新しく導入される『イマジナリーギフトⅡ』。さっそく見て行きましょうか……」

 

ユキ「まずはアクセルⅡを……」 アリサ「まずはプロテクトⅡを……」 ミオ「まずはフォースⅡを……」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ミオ「…………」

 

ユキ「じゃーんけーん……」

 

アリサ「ぽん!」 ミオ「ぽん」

 

 

●フォースⅡ

 

 

ミオ「勝ちました」

 

アリサ「バカな……無敗を誇った我がチョキが」

 

ユキ「チョキにどれだけの信頼をおいているの……」

 

ミオ「では、まずはフォースⅡの説明を。効果は『置かれているサークルの元々の(クリティカル)を2にする』ですね」

 

ユキ「★+1ではないから、そこは間違いの無いようにしないとね」

 

ミオ「何枚重ねても★が増えるわけでは無いんですね」

 

ユキ「今回のフォースⅡ、根絶者(デリーター)としては嬉しいんじゃないかしら?」

 

ミオ「そうですね。グレイドールに頼らず、グレイヲンの時点でプレッシャーをかけていけるようになったのは大きいです」

 

ユキ「根絶者やスパイクブラザーズのようなフォースⅠ無しでも攻撃力が高いクランや、かげろうのような連続攻撃ができるクランでは重宝しそうね。

★増加を得意とするシャドウパラディンでも、『ザ・ダーク・ディクテイター』を経由するなら選択肢に入りそうだわ。

ギアクロニクルなら、簡単に3列すべて★2にできそうだし、それも面白そうよね」

 

アリサ「けど、相手は選びそうよね。当てなきゃ意味の無い効果だから、当てさせないことが得意なプロテクトとは、やっぱり相性が悪い」

 

ユキ「使い分けが大事そうね。相手がアクセルなら、フォースⅡで一点突破。相手がプロテクトなら、フォースⅠで全体を満遍なく強化という動きもできるようになるわけだし」

 

アリサ「ただ、ディメンジョンポリスとは相性が最悪ね。フォースⅠでヴァンガードに+10000されている事が前提のクランだから」

 

ユキ「幸い、フォースⅡ実装の1カ月後には強化されるから、フォースⅡと相性の良いカードが来るものと思いたいわね。★が増えること自体は、ディメンジョンポリスの方向性としてはありがたいわけだし」

 

ミオ「まとめると、フォースⅠとフォースⅡで性質が大きく違うので、フォースクランは、相手に合わせて戦い方を変えられるという強みができたということですね」

 

 

●アクセルⅡ

 

 

アリサ「じゃーんけーん」

 

ユキ「ぽん」

 

アリサ「……また負けた」

 

ミオ「アリサさん、ここぞと言う時にチョキを出すクセありますよね」

 

アリサ「入部して1カ月の新入部員に見透かされてる!?」

 

ユキ「あら、教えたらダメじゃない。これのおかげで、これまでずっと、アリサに勝ちたい時に勝ててきたのに」

 

アリサ「ずっと手のひらの上で踊らされてたの、あたし!?

ん? でも、それなら、何ではじめのじゃんけんではチョキを出したの?」

 

ユキ「そうなのよ。ミオは初手でパーを出す傾向があったから、まずはチョキでミオを脱落させようと思ったのだけど……」

 

ミオ「こんな時のため、そう思わせるように、あえてパーばかり出していました」

 

ユキ「……あなたの脅威度を1段階上げる必要がありそうね」

 

ミオ「光栄です」

 

アリサ「え? 何で、たかがじゃんけんで、こんな心理戦が行われてるの?」

 

ユキ「では、アクセルⅡの説明に参りましょう。効果は『+5000のアクセルサークルを設置し、1枚ドロー』。リアガードサークルが増えたはいいけど、置けるカードが無いなんて事態も、これで解決ね」

 

アリサ「アクセルクランでも展開力に欠ける、ノヴァやアクアフォース垂涎のギフトね」

 

ユキ「肝心のむらくもでは悩ましい選択肢になりそうね。展開力はもともと足りているので、アクセルⅠでいいのだけど、むらくもは手数さえ稼げるのなら、届けばいいっていう側面もあるし。

攻撃力は十分だけど、他と比べて展開力の低かったシラユキ軸ではアクセルⅡの方が安定しそうだわ」

 

アリサ「アクセルクランはユニットをスタンドさせたり移動させたりするクランも多いから、+5000になったことで総合的な要求ガード値は結構落ちそうな気もするけどね」

 

ユキ「上で挙げた3クランが典型よね。加えてペイルムーンやゴールドパラディンかしら。元々苦手だったダメージトリガーにも更に弱くなるし、そこのところは色々試して、自分にあった戦い方を模索してみるしかなさそうね」

 

アリサ「けど、アクセルⅡ安定でしょって言えるクランもあるわよね」

 

ユキ「ええ。たちかぜとグレートネイチャーね」

 

アリサ「たちかぜはアクセルでも随一のパワータイプで、5000の差なんて誤差レベル。コンボデッキだから1枚ドローが増えるだけでも嬉しいわ。

積極的に再ライドしていくタイプのクランでは無かったけど、ドローがついてくるなら、今後はガンガンアクセルサークルを増やしてくる可能性だってある。要注意ね」

 

ユキ「グレートネイチャーは、何と言っても『鉛筆英雄 はむすけ』の存在ね。コストとして手札を2枚捨ててるのに、2枚ドローが加わったら意味が無いんじゃなくて?」

 

ミオ「まとめると、アクセルⅡは総じて優秀。どのアクセルクランでも一度は試してみた方がよさそうですね」

 

 

●プロテクトⅡ

 

 

アリサ「ようやくプロテクトⅡね!! ……けど、これって微妙じゃない?」

 

ミオ「そうなんですか? 効果は確か、『パワー+5000、インターセプト+10000』でしたね」

 

アリサ「そう。インターセプトっていうのが安定しないのよね。そもそもインターセプトできるカードなんて、デッキに12枚も入っていればいい方だし、今は半数のクランが除去やインターセプト封じを使ってくるわよ。

加えて、プロテクトは再ライドしても手札が減らないのが強みだったから、再ライドが前提の能力も多いのよね」

 

ユキ「インターセプト+10000の部分を生かすなら、毎ターンG2を準備できる『魔の海域の王 バスカーク』擁するグランブルーかしら。昔からインターセプトを得意としていたクランだったわね」

 

アリサ「それでも、除去クラン相手には使い分けが必要よね。フォースの時と違って、ネガティブな使い分けだけど。プロテクトサークルと言うからには、『抵抗』くらいくれてもよかったんじゃない!?」

 

ユキ「一番の魅力は、プロテクトクランでもフォースⅠまがいのプレイングができるようになった事じゃないかしら」

 

アリサ「まあね。実際、メガコロニーだと『ブラッディ・ヘラクレス』や『デスワーデン・アントリオン』に+5000があるか無いかで勝敗が分かれる場面はありそうだけれど」

 

ユキ「攻撃を当てた時に発動する能力や、★増加の能力が多いと使えそうよね。あとは、プロテクトクランには少ないけど、連続攻撃とか。今後はこういうのも増えてくるのかしら」

 

アリサ「けど、フォースⅡなんてものが登場した以上、完全ガードの価値は上がっているのよね。そういう意味じゃ、プロテクトクラン自体は相対的に強化されたのかも知れないわね」

 

ミオ「まとめると、その力は未知数。今後に期待。というところでしょうか」

 

 

●終わりに?

 

 

アリサ「イマジナリーギフトⅡの1番の魅力はさぁ。

強化がいつになるかまだ分からない『The Answer of Truth』勢とかでも、新しい戦略をすぐ試せるところだと思うのよね。

メガコロとか、いつも大変だったもの。『ブレイクライド』が実装されても、いざ『ブレイクライド』で遊べたのは1年後だったりしたのよ!」

 

ユキ「その後、2カ月足らずで『双闘(レギオン)』が登場したりもしていたわね(笑)」

 

アリサ「笑いごとじゃないよー!! その『双闘』も半年待ったんだからね! それもプロモーションカードという中途半端な展開で」

 

ユキ「それについては、むらくもや、一部のクランも同じだったけどね」

 

アリサ「とにかく、そういう不公平が無いだけでも、今回のシステムは当たりよね。24もクランがある以上、実装にズレが発生するのは仕方の無い事だけど、やっぱり無いに越したことはないよ」

 

ミオ「ヴァンガードがまた一段と面白くなりそうですね」

 

アリサ「おっと! シメに入ろうとしているところで申し訳ないけれど、もうひとつ特筆すべきニュースがあるのよ」

 

ミオ「?」

 

ユキ「ふふふ……新規のミオには分からないかもね。昨日の今日のカードで凄いカードが紹介されたのだけど」

 

ミオ「??」

 

アリサ「あんた、わざと分かりにくい言い方してない?」

 

ユキ「そう、『ドラゴニック・ブレードマスター』がスタンダード環境に復活!」

 

アリサ「俗に言う『ストライダー』は、スタンダード環境初登場よ!」

 

ミオ「それって凄いことなんですか?」

 

アリサ「そうね。今回のブレードマスターや、メガコロニーの『威圧怪人 ダークフェイス』、むらくもの『看破の忍鬼 ヤスイエ』等、『ストライダー』は、名を変え、手を変え、品を変え、各クランの主力であり続けた、まさしくG環境の先導者!

思い入れのあるファイターは沢山いるし、待ち望んでいた人も多いんじゃないかしら」

 

ユキ「ミオにも分かるように言うと、グレイヱンドが今後登場する可能性が出てきたということ」

 

ミオ「なるほど。それは楽しみです」

 

アリサ「効果も超越(ストライド)をイメージしたのかな。面白い能力で、次も期待が持てるよね」

 

ユキ「というか、これは本来むらくもが持つべき能力ではなくて?」

 

アリサ「ま、まあ分身だし、そうよね」

 

ユキ「というか、そのままシバラックバスターではなくて?」

 

アリサ「えーと、自分の手札を捨てて、分身が出てきて、その分身がツインドライブで、エンド時にいなくなって……ホントだ」

 

ユキ「まあ、私はヤスイエが2体なり3体なりトークンで分身してくれれば、それで満足だけれども」

 

アリサ「プラント以外のトークンが許されるなら、ゴウマみたいな能力は期待しちゃうよねー」

 

ユキ「むらくもは、ZANBAKUも、マンダラロードも、シラユキも、マガツも、みんな登場してしまったから、もうVR(ヴァンガードレア)の候補が少ないのよね。Я(リバース)ユニットが出せるのならば、ヒャッキヴォーグがあるけれど、それ以外ではもうカグラブルームくらいしか残っていないの。

ヤスイエの登場は案外早いんじゃないかって思ってるわ」

 

作者「カスミローグ! 『隠密魔竜 カスミローグ』を!!」

 

ミオ「? 何か聞こえませんでしたか?」

 

ユキ「気のせいでしょう」

 

アリサ「イマジナリーギフトⅡに、G環境ユニットの登場で、ますます盛り上がるヴァンガード!!」

 

ユキ「この『根絶少女』も、皆さんのヴァンガード生活に、些細な彩りを添えることができたのなら、これ以上嬉しい事はありません」

 

ミオ「次こそは5月上旬の本編をよろしくお願い致します。

それでは皆さん……」

 

ユキ&アリサ「さようならー!!」




栗山飛鳥です。
冒頭でも書いたように、イマジナリーギフトⅡ、ドラゴニック・ブレードマスター登場と、特筆すべきニュースが次々と舞い込んできたため、思わず書いてしまいました。
『えくすとら』第2弾です。
学生生活をリアルタイムで進行させる仕様上、仕方のないことではあるのですが、システムの変わり目である4月スタートというのは、結構無謀でした。

さて、私が全24クランで、一番使っていて楽しいと感じるのはむらくもなのですが、その中でも『隠密魔竜 カスミローグ』が特に好きです。
マイナーなカードなので、効果の説明を致しますと、ガーディアンサークルのユニットを分身させて、実質ガード値を2倍にすることができるユニットです。
受けで効果を発揮する性質上、超越環境でも実用に耐え、長きに渡って共に戦ってきた、むらくもにおける「我が分身」とも言えるカード。
しかし、ファイターズコレクションに収録されていたカードのため、今後の収録は厳しいと言わざるをえません。
いつか、こうした布教活動が巡り巡って花を咲かせてくれればいいなと願うばかりです。

今週は、もう一つ嬉しいニュースがあったのですが、それについては「プレミアムコレクション2019」の「えくすとら」で取り上げる予定です。
今度こそ、5月上旬に公開予定の本編でお会いしましょう。


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Ex.3「プレミアムコレクション2019」

●はじめに

 

ユキ「皆様、ごきげんよう。響星高校カードファイト部、部長のユキです」

 

アリサ「副部長のアリサでーす! 今日のテーマは『プレミアムコレクション2019』!」

 

ユキ「一般販売は5月17日だけれど、『大ヴァンガ祭×大バディ祭2019+しろくろフェス2019』で先行販売され、もうカードリストは公開されているので、『えくすとら』でも取り上げます」

 

アリサ「もう一方の『The Heroic Evolution』の『えくすとら』は一般販売から一週間後の5月24日前後に公開予定だよ」

 

ユキ「……ところで、ミオはどこへ消えたのかしら?」

 

アリサ「ああ、ミオちゃんなら、今日は両親が仕事が遅くなるから、早退して夕飯を作りたいって言ってたから、許可したよ」

 

ユキ「あら、親孝行ね」

 

アリサ「ちなみにこれは、6月『本編』の伏線ね」

 

ユキ「余計な事は言わなくていいの」

 

アリサ「今回の『プレミアムコレクション2019』は、G環境からプレイしていたユーザー向けのパックだし、ちょうどいいんじゃない?」

 

ユキ「では、今日はRRRの各カードを取り上げつつ、G環境の思い出話をしていきましょうか」

 

アリサ「そんな感じの『えくすとら』はじまりまーす!」

 

 

●穢れなき聖女 グリンカトリーナ

 

アリサ「記念すべき1発目はカトリーナ! G環境ネオネクの超パワーを支えた1枚! G1からG4に大出世を果たしての登場となりました!」

 

ユキ「G環境でのネオネクタールの躍進は目覚ましかったわねえ」

 

アリサ「それまではどこぞの昆虫軍団と同じく、1年に1回強化されればいい方だったのにね! 羨ましくない! 羨ましくないったら!」

 

ユキ「ふふ。けど、ネオネクタールの活躍が、他のそういったクランに希望を与えたのは確かだと思うわ」

 

作者「メガコロヒロインの登場は、いつでも待ってます!」

 

ユキ「そう言えば、トコハはドラエン繋がりでむらくも使いになるかもしれなかったって、何かで読んだ覚えがあるわねぇ」

 

アリサ「マジでか」

 

 

●極智竜 マーナガルム・アウルム

 

アリサ「グレートネイチャーからは、もふもふドラゴン・マーナガルムが、よりもふもふになって登場!

効果は何とスタンダード環境ではおなじみのギャンブル効果! 1度のアタックでドライブチェック7回はヴァンガード史上最高記録……よね?」

 

ユキ「ドライブチェックが増えれば、それがまた達成(サクセス)達成(たっせい)に繋がるし(ややこしい)、新旧グレートネイチャーが綺麗に噛み合っているわね」

 

アリサ「ちなみに、6回のドライブは『セクスタプルドライブ』

7回は『セプタプルドライブ』と言えばいいらしいよ。

セブンスチェック! とか、一度は言ってみたいよね」

 

ユキ「山札は切れないようにね」

 

 

●罪魅女帝 ダークフェイス・グレドーラ

 

アリサ「キタアアアアアアアアアアアッ!!」

 

作者「キタアアアアアアアアアアアッ!!」

 

アリサ「女王陛下 万歳! 万歳! 万歳!」

 

作者「万歳! 万歳! 万歳! 万歳!」

 

ユキ「……次に行っていいかしら?」

 

アリサ「なんでよ!? 遂に女王陛下がG4に成らせられたのよ!? これは全メガコロ国民総出でお祝いしなくてはならんでしょ!?」

 

ユキ「いや、私はメガコロ国民でも何でもないのだけれど。というか何それ?」

 

アリサ「ヴァレオスやダムジットがしれっと改心している中、常にブレない悪のカリスマ!」

 

ユキ「猊下も改心してないわよ」

 

アリサ「慈愛に満ちたフレーバーテキストも最高! この女王陛下の為に戦える幸せ! メガコロ使いでよかった! 本当によかった! もう一生ついていく!」

 

ユキ「……まじめにカードの話をするのなら、Pスタンってここまでやっても許されるの? と普通に驚いたわね。

G3グレドーラとの相性が抜群で、CCは帳消しにしつつ、対戦相手は1列コールできず、手札以外からコールできず、ヴァンガードを含めた全ユニットがスタンドできずのがんじがらめ。

しかも、プレミアムコレクション2019では数少ない名称持ち(他はお化けと星輝兵)で、まして、ストライダー名称となればダークフェイスのみ。

ダークフェイス以外のメガコロニー……特にギラファでもダークフェイスサポートを扱いやすくなったのは嬉しいわね。

……ふう、何で私がメガコロニーの解説をしなくてはならないのかしら?」

 

 

●決意の激流 ヴァレオス・リヴァイブ

 

ユキ「その、しれっと改心している人だけれど……」

 

アリサ「うらぎりものー」

 

ユキ「それを言うなら、ギーゼに忠誠を誓ってなかったグレドーラもそうじゃない!?」

 

アリサ「違うの。彼は悪であることを裏切ったのよ」

 

ユキ「要するに、改心したってことでしょ」

 

アリサ「改心する描写なんて無かったような気がするけどねー。どさくさでメサイアに浄化されちゃったのかな? かわいそう」

 

ユキ「改心したついでに蒼波でもなくなったけれど、G3ヴァレオスの、蒼波ユニットに超越した時に発動するパワー固定はリヴァイブが引き継いでいるので、ヴァレオスデッキでもそのまま使えるのが面白いわね」

 

アリサ「ナイスデザイン!」

 

 

●念願の晴れ舞台 シャンディー

 

アリサ「がんばる才能でおなじみのシャンディーがまさかの大抜擢! これもG1からG4の大出世ね」

 

ユキ「G0からG4まで登りつめたアイドルもいるバミューダ界隈では珍しいことでは無い気もするけれど」

 

アリサ「G4からG0に転落したアイドルもいるしね。アイドル業界は非情!」

 

ユキ「このカードで特筆すべきは、全クランに配られているアタカ互換から唯一選ばれたということね」

 

アリサ「リトルドルカス互換でしょ」

 

ユキ「何だっていいのよ。

なまじ最初の方に公開されただけあって、他のクランでも、何枚かはそうなるのかと思っていたのだけれど」

 

アリサ「バミューダなんて、他にも候補はいくらでもあったろうにねー」

 

ユキ「だからこそかもね。不公平が無いように、何を軸にしてもデッキに投入されるシャンディーが選ばれたのかも」

 

アリサ「いつか、『巨星怪神 ダークフェイス・ドルカス』も見たいなあ」

 

ユキ「『伏魔忍鬼 アタカ・オウマ』もね」

 

 

●お化け大皇帝 びっぐおばだいあ

 

アリサ「お前かよっ!!!」

 

ユキ「これはまあ、確かに予想外だったわねえ」

 

アリサ「他のプレミアムコレクション2019のカードと並べた際の浮き方がすっごい」

 

ユキ「こんな見た目だけど、グランブルーの一手目を支えた良作よ」

 

アリサ「効果はおばだいあと、夜薔薇ナイトローゼのいいとこどり! グランブルーらしい堅実な仕上がりね」

 

 

●時空竜 ヒストリービルド・ドラゴン

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「何か喋りなさいよ」

 

ユキ「あなたこそ」

 

アリサ「いやだって、選ばれたのも納得だし、効果も普通に強いだけだし、コメントのしようがないでしょ!?」

 

ユキ「これが『普通に強いだけ』の一言で済んでしまうのも、感覚が麻痺してきている証ねえ」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………次に行きましょうか」

 

アリサ「はーい」

 

 

●怪夢の大奇術 ダークロード・プリンセス

 

ユキ「そんな……」

 

アリサ「どしたの?」

 

ユキ「むらくもの特権が……」

 

アリサ「ああ、Gユニットのスペリオルコールね。

シバラックバスターからのアルフレッド・ホーリーセイバーもそうだけど、試金石みたいな扱い多いよねー、むらくもは」

 

ユキ「むらくもは常に最先端を走っていると言ってちょうだい。新しい規則は常にむらくもから始まるのよ」

 

アリサ「はいはい」

 

 

●邪神法王 ガスティール・デモナス

 

アリサ「ブレない人、その2」

 

ユキ「そんな雑談している時間がもったいないくらい、とんでもないカードねえ。真面目に考察しようと思ったら、この『えくすとら』まるまる必要なんじゃないかしら」

 

アリサ「Q&Aからして、とんでもないこと書いてあるしね。シークメイトできるだとか、先駆を得たら、Gゾーン経由して、スペリオルコールされるだとか」

 

ユキ「書いてあることはG3の頃と変わらないのにねえ。ヴァンガードになっただけで世界が違うわね」

 

 

●撃墜帝王 ヴァイオレンス・エース

 

アリサ「決まれば勝ちのいつものスパイク」

 

ユキ「ドローがあるから、いつも以上じゃないかしら」

 

アリサ「完全ガードで意外とあっさり凌がれそうな気もするし、プロテクトを相手にする場合は注意かな」

 

 

●滅星輝兵 グルーボール・アヴァランチ

 

アリサ「注目すべきはGゾーンの永続能力ね。もふもふの時はスルーしちゃったけど、今回は原初竜をはじめとして、Gゾーンで発動する能力がいっぱい!

これがGゾーンに2枚あるだけで、各種呪縛は大幅パワーアップ!」

 

ユキ「カオスブレイカー以外のリンクジョーカーも、メサイアへの対抗策を得たことになるのかしら」

 

アリサ「フリーズレイ・ドラゴンと組み合わせても面白そうだよね」

 

 

●最強司令長官 ファイナルダイマックスDX

 

アリサ「司令長官強すぎ!」

 

ユキ「『最強』司令長官ですからね」

 

アリサ「最強なら仕方がないか」

 

ユキ「仕方がないのよ」

 

アリサ「おかげで次元ロボじゃなくなってるけどね」

 

 

●ユニバースエース バスタード

 

アリサ「セプタプルドライブ越えちゃった!」

 

作者「全カードに目を通してから書きはじめるべきだった……」

 

アリサ「え、えーと、8回は『オクタプルドライブ』、9回は『ノナプルドライブ』、10回は『ディカプルドライブ』だってさ!」

 

ユキ「本当にそこまで達成できるかは疑問だけど、Gゾーンのカードを3枚以上めくれる点も優秀ね。Gガーディアンも併用すれば、『ユニバースエース バスタード』からの『牙龍王拳 ドライガー』くらい夢ではないのかも」

 

アリサ「テンスチェック!」

 

 

●征天覇竜 コンクエスト・ファルグレイト

 

アリサ「なるかみからはコンクエスト・ドラゴンが……」

 

ライガ「オース! アリサ! ユキ! 元気かぁ?」

 

アリサ「ひゃあ!! ライガセンパイ!? どうしてここに?」

 

ライガ「いやあ、なるかみの話が聞こえたものでな!」

 

ユキ「ちょうどよかったわ。せっかくだから、なるかみの使い手に話をお伺いしましょう」

 

アリサ「センパイ、このコンクエスト・ファルグレイトどう?」

 

ライガ「おう、強いな!!」

 

ユキ「……あの、もう少し具体的に」

 

ライガ「とても強いな!!」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ライガ「それにカッコイイ!!」

 

ユキ「……ありがとうございました」

 

アリサ「お帰りはあちらからですよー」

 

ライガ「おいおい、OBの扱いがぞんざいだな!」

 

 

●伏魔忍竜 シバラックヴィクター

 

ユキ「むらくもからはシバラックバスターね」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「何よ。人の顔を見てニヤニヤして」

 

アリサ「いやー、別に。もっとはしゃいでもいいのよー?」

 

ユキ「もちろん嬉しいわよ。けれど、もう高校3年生なんだから、いちいち好きなカードが登場したくらいで騒ぎたてたりしないの」

 

作者「シバラック! ワッショイ! シバラック! ワッショイ!」

 

アリサ「あれを見習いなさいよ!」

 

ユキ「むしろ、ああはなりたくないわね」

 

 

●無双王者 グラトニーネビロス

 

アリサ「武装ゲージ!」

 

ユキ「マーナガルム・アウルムもそうだったけれど、スタンダードのカードとの兼ね合いも考えられているわね」

 

アリサ「武装ゲージ消費してのスタンドは、スタンダードでもやりたかった事だと思うけど、次のたちかぜはどうなるのかな?」

 

ユキ「順番で言えば、次はラプトル・カーネルの可能性が高いけれど、あれは展開力重視だし、しばらくは無いんじゃないかしら」

 

アリサ「むしろダークレックスが、武装ゲージ消費して、バインドゾーンから再ライドしてきそうな予感」

 

 

●閻魔忍王 ムジンロード “堕獄”

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「違うのよ。これは話題が無いわけじゃなくて」

 

アリサ「唖然としてただけだから」

 

ユキ「これも真面目に考察したら日が暮れそうではあるけれど」

 

アリサ「自動能力限定で、相手依存だし、猊下ほどの悪さはできなさそうだけどね」

 

 

●炎熱竜将 ダムジッド・ヴァラー

 

アリサ「そんなわけで、立派に成長したダムジット君でーす」

 

ユキ「守護者に関係した2つの能力に、ズィーゲンブルクにも似たヴァンガードのスタンド。ダムジットを応援していた人にはたまらないわね」

 

アリサ「そりゃまあ、アニメでは納得いく退場の仕方じゃなかったしね。本当なら、こうなるまでの経緯を見たかったところだけど」

 

ユキ「ヴァレオスと違って、こっちは肯定的なのね」

 

アリサ「改心した理由がフレーバーではっきりしてるからね。悪の組織は裏切っても、子供の憧れは裏切っちゃダメよ」

 

 

●神域の美麗神 アマルーダ・アフロス

 

アリサ「こんぷりーと・びゅーてぃー……」

 

ユキ「ま、まあ、さすがに自称では無いとは思うけれど……」

 

アリサ「ともあれ、ダムジットに続いてアマルーダもG4に! この頃のアニメは特に面白かったよねー」

 

ユキ「ディフライダーの設定が良かったわねえ」

 

アリサ「実はあたし達の近くにもいたりしてねー」

 

ユキ「ふふふ、まさか」

 

アリサ「あはは、そだよねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミオ「へくしっ」

 

 

●黄金竜 スピアエクス・ドラゴン

 

アリサ「ゴールドパラディンからは、スピアクロス・ドラゴンが登場! 正直な感想を言わせてもらえれば、こっちなんだーって感じ」

 

ユキ「ゴールドパラディンで活躍したG4のドラゴンと言えば、グロリアスレイニング・ドラゴンの印象が強いかもね」

 

アリサ「ただ、スピアクロスがカッコイイのは確かだし、今でも活躍できるカードがリメイクされるよりも、イラストアドは高いのに活躍できなかったカードが、強くなってリメイクされる方が、実は嬉しいのかも」

 

ユキ「最近で言うと、スタンダードのギガレックスかしらね?」

 

アリサ「そうそれ! あれは盛り上がるよねー」

 

ユキ「キヨヒメの再登場は、いつでもお待ち申し上げております」

 

アリサ「スコルピオ mkⅡもだ!」

 

 

●征服する竜 モルフェッサ

 

アリサ「モル姐キター!!」

 

ユキ「設定上はルアードの上司。G2なのが違和感あったほど格好いいお姉さんね」

 

アリサ「再録された時のフレーバーテキストも素敵! いつかG3でも登場して欲しいよね」

 

 

●福音熾天使 ラファエル・ミトラ

 

アリサ「単純明快。他のカードと比べても、圧倒的に小さいテキストボックス。大量のテキストに読み疲れた人へ贈る、一服の清涼剤!」

 

ユキ「さすがは癒しのエンジェルフェザーと言ったところかしら」

 

アリサ「実際に使われたらストレスフルかも知れないけどねー。シンプルなテキストは強いっていうのは、カードゲーム界の常識よ!

けど、これまでの化け物を見ていると、2ダメージ回復なんかで足りるの? なんてことも思っちゃう」

 

ユキ「Pスタンダードは魔境ねえ……」

 

 

●豊水尊神 イチキシマ

 

アリサ「インチキ効果も大概にしろ!」

 

ユキ「それが言いたいだけでしょう、あなたは」

 

アリサ「いや、実際インチキでしょ!?」

 

ユキ「神託の条件も、これさえあれば、あってないようなもの。旧イチキシマとは逆のガード制限で、対戦相手に合わせて攻め方を変えられるようになったわね」

 

アリサ「ほら、いつものインチキシマだ!」

 

 

●双絶の聖騎士 セイント・オブ・ツインソード

 

アリサ「全てはここから始まった! 『GB1でブーストされてアタックした時、爆アド』サイクルの開祖!

効果もしっかり再現されつつ、呼び出す数は倍になってるね」

 

ユキ「ツインソードもそうだけど、これ系のカードは最初期に登場して、最後まで一線で活躍していたカードも多いわね。むらくものルーンスターだって、強かったわ」

 

アリサ「忘れちゃいけないのが、グレートネイチャーのクレヨン・タイガーよね。

各クランで一番人気ユニットを決める『ファイターズグッズフェスティバル』のアンケートにおいて、グレネ部門で1位に選ばれるほど!」

 

ユキ「シラユキがグッズ化した、夢のような企画だったわね」

 

アリサ「ああいうの、またやってほしいよねー」

 

 

●原初竜

 

ユキ「せっかくだから、原初竜にも軽く触れておきましょうか」

 

アリサ「いいよー」

 

ユキ「超越コストは、ゼロスドラゴンと同じ。けど、究極超越ではないし、あちらにあったデメリットも無いわね」

 

アリサ「もうひとつのGゾーンで発動する共通能力は、超越コストの踏み倒し。フィニッシャーだったゼロスドラゴンとは違って、こちらは初手で超越したいカードになるのかな?」

 

ユキ「そうなると、序盤向きの効果を持っている原初竜の方が使いやすいのかしら? ユナイテッドサンクチュアリのアグノスは、いかにも初手用よね」

 

アリサ「相手の展開によっては、ドラゴンエンパイアのギルガルや、ダークゾーンのフォルミードも有効よね。特にフォルミードは、SC5が好印象かな」

 

ユキ「ダークゾーンに所属しているクランの多くは、ソウルありきですからね。本来なら、余計なGユニットに超越している余裕は無いのだけれど、SCがあるなら話は別ね」

 

アリサ「だけど、ファイト終盤で活躍しそうな原初竜ほど、すごいこと書いてない? 特に、ズーのメガローマ!! 蘇生! 再生! 転生! ゾンビー!!」

 

ユキ「共通効果も、他の原初竜とは意味合いが違ってくるわね。メガローマの効果で手札は0枚になってしまうけれど、次の超越は担保される効果と見るべきかしら」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「それはそうと、私はギルガルが許せないのだけれども」

 

アリサ「ゾゾ? なんで?」

 

ユキ「『炎雷』の原初竜って、何? ドラゴンエンパイアには、かげろうとなるかみしかいませんと言わんばかりの名前は」

 

アリサ「いや、このビジュアルでニンニン言ってたら、キャラ盛りすぎになるでしょ!?」

 

ユキ「そもそも、ドラクマは分身すべきだったと、今でも思っているわ」

 

アリサ「あれを3枚買わせる気!?」

 

 

●メガコロニー戦闘員F

 

ユキ「え、何で最後にこれが? 作者がメガコロ使いとは言え、さすがに贔屓しすぎではないかしら」

 

アリサ「いいえ。このカードはとても重要なカードなの。これこそメガコロニーに欠けていた最後のピース」

 

ユキ「…………?」

 

アリサ「ほら、わけわからないと言いたげな顔するー。

よく聞きなさいよ! メガコロニー戦闘員はA~Eまではアルファベット順に出ていたの」

 

ユキ「まあ、それくらいは知っているけど」

 

アリサ「ところが! その次のFを飛ばして、Gが先に『The AWAKENING ZOO』に登場してしまったの!」

 

ユキ「へえ」

 

アリサ「ほら、気のない返事するー。

この戦闘員Fが登場したことで、メガコロニーのGシリーズは、ようやく終わりを迎えたと言っても過言では無いのよ!

さようなら、超越。さようなら、中学生時代のあたし……」

 

ユキ「アリサの中学校3年間は、まるまるG環境だったのよね」

 

アリサ「それにしても、戦闘員Gはゴキブリになると予想していたんだけどなー」

 

ユキ「それだけはやめてちょうだい」

 

 

●おわりに

 

アリサ「あー、終わったー! 懐かしいカードも多くて、楽しかったね」

 

ユキ「Pスタンダードをしていない人も、Gスタンダードのデッキが残っているなら、これらのカードを混ぜて、久々に超越を楽しんでみてもいいかも知れないわね」

 

アリサ「それいいね! あたしもやりたくなってきた」

 

ユキ「そう言うと思って、ほら。今日はGスタンのデッキを持ってきているのよ」

 

アリサ「マジで!? ……まあ、実はあたしもなんだけどさ」

 

ユキ「ふふ、さすがアリサね。それでは、さっそく始めましょうか」

 

アリサ「おっけー!」

 

ユキ「スタンドアップ!」

 

アリサ「ヴァンガード!」




メガコロ二ー戦闘員Hはスズメバチになると予想している栗山飛鳥です(挨拶)。
『プレミアムコレクション2019』の『えくすとら』いかがでしたでしょうか。

以前、あとがきで『世界観はアニメだけど、アニメの登場人物は存在しないパラレルワールド』と書きましたが、今回は登場人物が、あろうことかアニメの話をしれっとはじめています。
見ての通り『えくすとら』は何でもありになってきているので、『本編』とはまた別次元のお話と考えて頂ければ幸いです。

そして、作中に書けなかったネタが一つ。
メガローマの能力はグランブルーに与えるべきだったと思います!
せっかくコキュートスなんて、いかにもなカードも復活するのに。

では、5月下旬に公開予定をしている『The Heroic Evolution』編でお会いできれば幸いです。


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Ex.4「The Heroic Evolution」

ユキ「ごきげんよう。響星(きょうせい)学園カードファイト部、部長のユキです」

 

アリサ「副部長のアリサでーす! 今日はミオちゃんもいるよー」

 

ミオ「ミオです。この前は早退してすみませんでした」

 

アリサ「いいのよー」

 

ユキ「さて、今日のお題は『The Heroic Evolution』! 収録クランは、リンクジョーカー、かげろう、ノヴァグラップラーね」

 

アリサ「先月のパックからロイパラ抜いただけじゃない!」

 

ユキ「……思うところは色々とあるけれど、ここは愚痴を言う場所ではないので本題に行きましょう」

 

アリサ「そうそう。運試しに5パック買って見たんだけどさ。『ハーモニクス・メサイア』当たっちゃった」

 

ユキ「あら、運がいいわね」

 

アリサ「ほら、見てー。せっかくだから、ミオちゃん使ってみる?」

 

ミオ「ひっ」

 

ユキ「?」

 

アリサ「え、ミオちゃん、怯えてる?」

 

ミオ「な、ななな何を言ってるるのですか。わ、わわ私が、こんなカカシみたいなやつに、お、怯えてるるるわけがないじゃないですか」

 

アリサ「カカシて」

 

ミオ「わ、わわわ私は根絶者(デリーター)がいれば十分なので、そ、そそそのカードは、わ、わわわ私の見えないところにしまっておいてくだささい」

 

ユキ(これは本気で怖がってるわねえ。メサイアに嫌な思い出でもあるのかしら)

 

アリサ(はじめて1か月なのに?)

 

ミオ「さ、さあ、今日の『えくすとら』を始めてしまいましょう。輩のいるリンクジョーカーはとばして、かげろうから」

 

アリサ「輩て」

 

 

●かげろう

 

アリサ「本当にとばしちゃった」

 

ユキ「最後には取り上げるので、リンクジョーカーファンの方は安心してくださいね」

 

アリサ「かげろうと言えば、ドラゴニック・オーバーロード! 今回はついにジ・エンドが登場ね!」

 

ユキ「強いわね」

 

アリサ「うん、強いね」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ミオ「それだけですか?」

 

アリサ「それ以上、何を語れと言うの!? もう、オーバーロード嫌い! 強いことしか書いてないんだもん!」

 

ユキ「まあまあ。ここは落ち着いて、もう一度まじめに考察してみましょう」

 

アリサ「アタック終了後、手札を3枚捨てるだけで、パワー+10000してスタンドできるから強い!」

 

ユキ「アタック終了後、手札が4枚以下というだけでスタンドできるから強いわね」

 

ミオ「…………」

 

アリサ「あ、ミオちゃんの視線が冷たい」

 

ユキ「この前、えくすとらで『ドラゴニック・ブレードマスター』に触れてしまったのは失敗だったわね」

 

アリサ「それね。まあ、こっちはこっちでトンデモなんだけど。

ああ、そうだ。アニメのOPで出てたわね、マモルさん」

 

ユキ「そうねえ。唐突なブレードマスターの登場にも納得ね」

 

アリサ「マモルさんの名セリフと言えば『ヴァンガードを始めるならかげろうがおすすめだよ。ドラゴンが強くて格好いい』だけれど……」

 

ユキ「そうなの!?」

 

アリサ「いいよね。自分のクラン愛に溢れてるキャラクターって。私達も見習わなくちゃ」

 

ユキ「ヴァンガードを始めるならむらくもがおすすめよ。忍者が強くて格好いい」

 

アリサ「ヴァンガードを始めるならメガコロニーがおすすめだよ。昆虫が強くて格好いい」

 

ミオ「ヴァンガードを始めるなら根絶者がおすすめですよ。どの子も可愛くて格好いい」

 

アリサ「まあ、このセリフでヴァンガードを勧められた(トコハ)は、ネオネクタールでヴァンガードを始めるわけだけど」

 

ミオ「ダメじゃないですか」

 

 

●ノヴァグラップラー

 

ユキ「ノヴァの注目カードはもちろんスピニン……」

 

アリサ「『ファームド・ガイアス』ね!!」

 

ユキ「そっち!?」

 

アリサ「はい、こちらに実物を用意しております。さあ、ミオちゃん。このカードの凄いところを当ててみて? 制限時間は3分!」

 

ミオ「え? パワー3000の……バニラですか?? ノヴァグラップラーにネヴァンのようなカードってありました?」

 

アリサ「ふふふ。悩んでる悩んでる」

 

ユキ「ちなみに3分というのは、作者が気付くのにかかった時間らしいわ」

 

ミオ「……あ、(クリティカル)がさりげなく2ですね」

 

アリサ「早い! やっぱり先入観が無いのかな。

そう、8年間不動だった★値が、ついに変動したのよ! これはヴァンガードに起こった大革命!

G環境になって、フレームのデザインが少し変わった時は、もうこの欄いらないんじゃない? なんてことも思ったものだけど」

 

ユキ「第1弾からヴァンガードを続けてきた身としては感動するのも分かるけれど、VRより優先するほどかしら」

 

アリサ「ユキにとっては他人事じゃないわよ? これがアクセルの全クランに配られる可能性もあるんだから」

 

ユキ「そうねえ……実際、むらくもでなら活躍できそうなのよね」

 

アリサ「でしょ?」

 

ユキ「むらくもはガード強要と相性がいいし、分身させて並べることで、価値はさらに跳ね上がるもの。ええ、リアガードとしてなら、とても優秀よ」

 

アリサ「でしょでしょ!?」

 

ユキ「ライドしてしまったらどうするの?」

 

アリサ「…………」

 

ミオ「そこまで考えていなかったみたいですね」

 

アリサ「アクセルクランに与えられたブシロードからの挑戦状! ノヴァ使いの皆も、他のアクセルクラン使いの皆も、真剣に向き合ってみて! きっと活躍の場は見つかるはず!」

 

ユキ「ごまかした!?」

 

アリサ「この調子で★0のカードも出て欲しいね!」

 

ユキ「何に使うの、それは」

 

 

●リンクジョーカー

 

ユキ「リンクジョーカーもきちんとやるわよ。好き嫌いはダメですからね」

 

ミオ「はい……」

 

アリサ「ついにメサイア登場! ついに呪縛(ロック)登場!! が今回のテーマかな」

 

ユキ「けれど、敵を呪縛するカードは無いのね。引っぱるわねえ」

 

アリサ「遅かれ早かれ、星輝兵なりカオスブレイカーなりが登場して、対戦相手を呪縛するカードは登場するんだろうけどね。フヒャハハハ」

 

ユキ「今回はメサイアだらけになると思いきや、『ネオンメサイア』と、『ハーモニクス・メサイア』のみ。これもまた引っぱるわねえ」

 

アリサ「『アローザル・メサイア』や、『アレスター・メサイア』くらいは来るかと思ったけどね」

 

ミオ「あのカカシ、そんなに種類がいるんですか?」

 

アリサ「根絶者には言われたくないと思うけど、いっぱいいるよー」

 

ユキ「全部が登場していたら、ミオは卒倒していたかもね」

 

ミオ「そ、そそそそんなわけないじゃないですか。べ、べべべ別にメサイアなんて怖くないって、言っているじゃないでですか」

 

アリサ「メサイアの代わりに収録されたのは、『重力井戸のレディバトラー』や、『デスティニー・ディーラー』と言った、お馴染みの面々!」

 

ユキ「戦い方も変わらず。呪縛を絡めて展開し、呪縛を交えて連続攻撃。相手を呪縛できない以外は、昔と同じ感覚で使えそうね」

 

アリサ「……ここでいきなり大喜利大会」

 

ミオ「?」

 

ユキ「お題をどうぞ」

 

アリサ「こんなダスクブレードは嫌だ!」

 

ユキ「笑い声が『フヒャハハハ!』」

 

ミオ「パワー3000で、★2」

 

ユキ「フレーバーテキストが『3分だ! 3分で貴様を倒す!』」

 

ミオ「グレード1」

 

アリサ「そうそれ! せっかくイラストが強くて格好いいのにー!!」

 

ユキ「言葉の意味はよく分からないけれど、アリサには愛着のあるユニットだったのね」

 

アリサ「ボーボが登場するまでは、ブラントデッキにも入ってたもん!」

 

 

●おわりに

 

アリサ「次回の『えくすとら』はどうするー? 順番で言うと、『スタートデッキ』よね。再録ばっかだけど、やる必要ある?」

 

ユキ「やります」

 

アリサ「おお、即答」

 

ユキ「私達はともかく、作者がね。シャドウパラディンのスタートデッキを、結構楽しみにしているらしいわ」

 

ミオ「『シャドパラは安く組む』がモットーらしいです」

 

ユキ「そんな作者は『呪札の魔女 エーディン』と、魔界城が大好きよ」

 

アリサ「じゃあ、おさらい!

6月は、1日前後に『本編』、8日前後に『スタートデッキ』の『えくすとら』、22日前後に『My Glorious Justice』の『えくすとら』を公開予定でーす!」

 

ミオ「『My Glorious Justice』は発売から一週間後なんですね」

 

ユキ「15日、16日は偉大なる死霊術師(コキュートス)の復活を祝して、再誕祭(ファイト)が執り行われるから、作者が忙しいんですって」

 

アリサ「何よそれ!?」

 

ミオ「では、6月の本編で……」

 

アリサ「え、もうシメ!? ちょっと待って!」

 

ユキ「また、お会いしましょう」

 

アリサ「しょーう!」




栗山飛鳥です。
今回の『えくすとら』はいかがでしたでしょうか?

私の、今回のお気に入りカードは『ディープスコルピウス』です。
これとガストリィネイルは、初期のリンクジョーカーっぽくて好みです。
古いカードでは、『連星のツインガンナー』とか大好きでした。

ちなみに、知っている人もいるかとは思いますが、★0のユニットは月ブシで連載されている「星導のアスカ」で登場していたりもします。
単行本の付録カードになってくれることを期待していたのですが、まさかの電子書籍。
それでも、ヴァンガードマンガ大賞から連載を勝ち取った漫画として、心より尊敬し、応援しています。

では、6月の『本編』で、またお会いしましょう。

『シェルタービートル』の「ノープロブレム」が聞けて、テンション上がっている栗山飛鳥でした。


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Ex.5「何でもない夜の話」

2019年5月28日 夜

 

 

プルルルル プルルルル……

 

ピッ

 

ユキ「……はい、白河ですけど」

 

アリサ「ねえ、ユキ! 見た? 見た!?」

 

ユキ「アリサ? ……今、何時だと思ってるの?」

 

アリサ「え、まだ11時だよ?」

 

ユキ「私はいつも9時に寝ているのだけど?」

 

アリサ「はい!? 今時、そんな時間に寝ている高校生なんているわけないでしょ!?」

 

ユキ「いや、だからここにいるのだけれど」

 

アリサ「そんなんじゃ、週刊ヴァンガ情報局が見れないじゃない!」

 

ユキ「ああ、その話ね。

どうせ、明日になれば、あなたが部活でその話をするでしょう」

 

アリサ「そうだけど! 今すぐにでも知りたくならない?」

 

ユキ「いいえ。いずれ分かることだもの。

まあいいわ。今日は何なの? コキュートスの効果でも判明した?」

 

アリサ「ううん! まさかのグローリーだったよ。絶対正義(りふじん)な効果だった。

今日でコキュートスの効果が判明すると思い込んでた作者は、禁断症状起こして身悶えしてるけど」

 

ユキ「1日や1週間も我慢できない人が多いのねえ……」

 

アリサ「そんなことはどうだっていいのよ! 9月! 9月に発売するパックの情報が出たのよ!!」

 

ユキ「ああ、メガコロが収録されるやつね」

 

アリサ「VR(ヴァンガードレア)は新ユニットッ!! もうメチャクチャカッコいいの!! カラーリングはトリコロールでヒロイックなのに、顔つきはワルっぽくて、二丁拳銃で、見るからにダークヒーローって感じが、もう最高!!」

 

ユキ「ふぅん」

 

アリサ「それでね! それでね! 驚かないでよ!? 『無双剣鬼 サイクロマトゥース』がついに復ッ活ッ!!!!」

 

ユキ「……そう」

 

アリサ「イラストも、もうスッゴイの!! 満月の下でサイクロマトゥースが、バッと翅を広げててね! 金色の燐光が散っててね! これはもう! うひょー! と言うしか!!」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「新ユニットの名前は『真魔銃鬼 ガンニングコレオ』って言うんだけど、銃の鬼と、剣の鬼で、サイクロマトゥースと対になってる感じなのよね! これはもう同じデッキに入れて使うしか!!」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「やっぱり、メガコロ使いにとってサイクロマトゥースは特別よねー。

パラライズの上位互換とも言える呪縛が登場して、新カードも1年以上待たされて、メガコロニーが一番苦しかった時期。

ヴァンガードのパラライズという、メガコロニーならではの新境地をサイクロマトゥースは切り開いたの!!」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「そして、『英雄だから特別だと思ったか?』の一文! 誰からも憎まれる英雄殺し(アンチヒーロー)だけが、あたしの心を救ってくれたの!」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「あっ! ユキ! あんた寝てるでしょ!?」

 

ユキ「寝てないわよ」

 

アリサ「じゃあ、メガコロの新しいVRユニットの名前を言ってみなさい!」

 

ユキ「『真魔銃鬼 ガンニングコレオ』」

 

アリサ「くっ……この天才少女(コンプリート・ビューティー)め!」

 

ユキ「今度はぼくが世界を照らす」

 

アリサ「ま、詳しくは明日、学校でね!」

 

ユキ「今より、まだ詳しい話があるのね……」

 

アリサ「じゃあ、切るね。ばいばーい!」

 

ユキ「あ、言い忘れていたわ」

 

アリサ「ん、どしたの?」

 

ユキ「よかったわね。おめでとう」

 

アリサ「……うん、ありがと。8月も楽しみだね」

 

ユキ「ええ」

 

アリサ「寝てたところ、ごめんね。おやすみ」

 

ユキ「いいのよ。楽しかったから。おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

プッ

 

 

 

 

ツー ツー……



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Ex.6「スタートデッキ ブラスター・ブレード VS ブラスター・ダーク」

●はじめに

 

――カードショップ「エンペラー」にて

 

 

ミオ「こんにちは。主人公のミオです」

 

ユキ「準主人公のユキです」

 

アリサ「準主人公のアリサでーす!」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「……アリサが何を言っているのだかよくわからないのだけど。このお話の準主人公は私よねえ」

 

アリサ「あれー? この小説で最初にファイトしたのって誰と誰だっけー?」

 

ユキ「むしろ、あなたはそれ以外に何かしたのかしら? ミオに負けたり、ライガさんに負けたり、ゾンビになったりしていただけの賑やかしでしょう?」

 

ミオ「こんなお二人のようになかよしな、2大ユニットが今日のテーマです。その名も……」

 

ユキ「スタートデッキ ブラスター・ブレード!!」

 

アリサ「スタートデッキ ブラスター・ダーク!!」

 

ユキ「勝利を我が手に!」

 

アリサ「敗北を汝に!」

 

ミオ「かっこいいこと言いながら、お互いに頬をつねりあってます」

 

 

●ブラスター・ブレード VS ブラスター・ダーク

 

アリサ「いたた……改めて、スタートデッキの『えくすとら』はじまりまーす」

 

ユキ「……お見苦しい点をお見せしてしまいました」

 

ミオ「スタートデッキの注目点は、やっぱりVR(ヴァンガードレア)である『騎士王 アルフレッド』と『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の収録ですね」

 

アリサ「それなんだけどさー。どっちかっていうと、シャドパラの方がお得な感じがするよねー」

 

ミオ「そうですか?」

 

アリサ「『騎士王 アルフレッド』より『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の方が新しいし」

 

ユキ「たった3か月の差じゃないの」

 

アリサ「それに、『騎士王 アルフレッド』が無くてもロイヤルパラディンはデッキが組めるほどカードプールがあるけれど、シャドウパラディンは『ファントム・ブラスター・ドラゴン』か『ガスト・ブラスター・ドラゴン』かってレベルでしょ?

ガスト・ブラスターを軸にするにしたって、ファントム・ブラスターは必須だし」

 

ミオ「作者はひねくれものですから、ディクテイターのままで戦ってますけど」

 

アリサ「話題性もシャドウパラディンの方が上じゃない? ★トリガーが新規で追加されるけれど、ロイヤルパラディンの『ふろうがる』に対して、シャドウパラディンは……」

 

ミオ「?」

 

ユキ「撃退者(リベンジャー)ね」

 

アリサ「そう! ミオちゃんは分からなくても仕方がないけど、8月のパックにモルドレッドが描かれていることからも、撃退者の登場が期待できそうなの!」

 

ユキ「むらくももでるしね」

 

アリサ「スタンダード1年目は、不自然なくらい名称指定を避けていたものだけど。実はマシニングも根絶者(デリーター)も、それを指定するカードは1枚も無いのよね」

 

ユキ「けど、6月のアクアフォースには『蒼翼』という新名称が登場するわね」

 

アリサ「うん。これはもう撃退者を出すしかない!!」

 

ユキ「実際、初期のシャドウパラディンって、1年目にあんまりカードプールが増えないまま、2年目には封印されちゃって、3年目の撃退者で、ようやく花開いたイメージがあるのよね。撃退者に愛着を持っているシャドパラ使いは多いんじゃないかしら?」

 

ミオ「作者はひねくれものですから、ずっと『ダークメタル・ドラゴン』で戦っていたらしいですけど」

 

ユキ「こんな感じで、アリサは『ブラスター・ダーク』推しのようだけれど、あくまで話題が多いというだけで、デッキのスペックで見れば『ブラスター・ブレード』が劣っている点は何一つ無いわ。スタートデッキを買う予定の皆様は、好きな方を買ってくださいね」

 

アリサ「ミオちゃんはどっち派?」

 

ミオ「…………私には根絶者があれば十分ですけど。どちらかと言えば、『ブラスター・ダーク』です」

 

ユキ「あら、どうして?」

 

ミオ「『ブラスター・ブレード』は根絶者をいじめそうな顔してます」

 

アリサ「侵略者が被害者面しないの!」

 

 

●スタートデッキ VS トライアルデッキ

 

アリサ「ミオちゃん、ミオちゃん。これ読んでみて」

 

ミオ「? 500円スタートデッキつってもよー ロイパラもシャドパラもトライアルデッキがあるじゃねーかー こっちの方が値段も高いし強いんじゃねーの? あーん?」

 

ユキ「棒読み!」

 

アリサ「そんな輩のために、これだけはアドバイス! トライアルデッキより、スタートデッキの方が絶対お得!」

 

ミオ「やっぱりVRの収録は大きいですか?」

 

アリサ「それだけじゃない! トライアルデッキ限定のカードは全てスタートデッキにも入ってるの。

特に『ブラスター・ブレード』に『ナイトスクワイヤ アレン』、『ブラスター・ダーク』に『ブラスター・ジャベリン』が4枚収録されているのはトドメになったわね。

この2枚は、ガチデッキにだって入る強力カード。ある意味、トライアルデッキの肝と言えるほどの重要カードよ。正直、スタートデッキに入れてくれるなんて思わなかった。太っ腹!

はっきり言って、トライアルデッキ買うくらいなら、スタートデッキ2個買い安定!」

 

ミオ「それだとトライアルデッキが売れなくなるのでは……」

 

ユキ「ふふふ、大丈夫よ」

 

アリサ「あ、けど、トライアルデッキの『ブラスター・ブレード』と『ブラスター・ダーク』ってイラスト違いなのよね……え、しかも一部カードはホロ加工!? やっぱり主力ユニットは光ってる方がカッコいいよね……うーん、悩むよう!」

 

ユキ「ね?」

 

ミオ「アリサさん、そういうの拘るタイプですしね。スターグビートルのOR(オリジンレア)も、スパークヘラクレスのSVR(スーパーヴァンガードレア)も、わざわざ通常加工のものと半々でデッキに入れたりしてますし。

私も……根絶者のスタートデッキが出たとしても、ギアリやガヰアンはホロ加工されている方が嬉しいです」

 

ユキ「そういう人が一定数いるから、トライアルデッキの需要が無くなることなんて無いわ。デッキもお洒落させてあげたいものね」

 

アリサ「決めた! スタートデッキとトライアルデッキ1個ずつで! これくださーい!」

 

ミオ「いつの間にか、アリサさんが買う話になってますが」

 

ユキ「メガコロ以外、ロクに使わないのにね」

 

 

●おわりに

 

アリサ「撃退者の登場かー。楽しみだねー。レイジングフォームと、ドラグルーラー・ファントム、どっちが登場するんだろ?」

 

ミオ「作者は『呪槍の撃退者 ダーマッド』の登場を声高に訴えているらしいです」

 

アリサ「ていうか作者、PRカード好きじゃない? 『遊星骸王者 ブラント』といい、『隠密魔竜 カスミローグ』といい、『連星のツインガンナー』といい」

 

作者「思えば、初めて組んだリンクジョーカーのデッキも『星輝兵 ダークバンド・ドラゴン』軸だった!」

 

ユキ「手に入り易い割に特別感があって、強すぎず弱すぎず絶妙なバランス、と言ったところに惹かれるのかしら」

 

作者「レイジングフォームか、ドラグルーラー・ファントムかという話なら、ドラグルーラーが好き。ダメージを与える効果は当時、衝撃だった」

 

ユキ「そうやって作中の会話に乱入するから、あとがきのネタが無くなるのよ」

 

作者「はい……」

 

アリサ「よーし! それじゃ、ミオちゃん。スタートデッキで対戦しよっか? はい、ミオちゃんは『ブラスター・ダーク』ね」

 

ミオ「え、そのためにスタートデッキを?」

 

アリサ「うん! たまには違うデッキを使ってみるのも楽しいよ?」

 

ミオ「……し、仕方ありませんね。お付き合いしましょう」

 

ユキ「ふふ。読者の皆様とは、今日はここでお別れみたいですね。ごきげんよう」

 

ミオ「スタンドアップ」

 

アリサ「ヴァンガード!」




スタートデッキ売ってなかった!!(挨拶)

思いのほか、はじめたい人が多かったのか。
ファントム・ブラスターや、アルフレッド欲しい人が多かったのか。

急ぎ欲しいカードは収録されていないから、いいんですけどね。

ここまで読んで頂きまして、ありがとうございました。
栗山飛鳥でした。


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Ex.7「My Glorious Justice」

ミオ「マイ」

 

ユキ「ぐろりあす」

 

アリサ「ジャースティース!!」

 

ミオ「本日の『えくすとら』のテーマは『My Glorious Justice』です」

 

アリサ「約1名、英語の発音がヘタクソだったけど、気にせず行きまっしょい!」

 

ユキ「うるさいわね。人間、日本語さえ話せれば生きていけるのよ」

 

ミオ「収録クランはアクアフォース、ディメンジョンポリス、グランブルーです」

 

作者「グランブルー!!」

 

ミオ「?」

 

アリサ「グランブルーは作者の使用する5大クランの1つ。テンションも上がるってものよね」

 

ミオ「そうなんですか」

 

アリサ「そんな『My Glorious Justice』回に相応しいゲストを、今日はお呼びしております!

いでよっ! 『氷獄の死霊術師 コキュートス』!!」

 

ユキ「なっ!?」

 

コキュートス「愚かなる人間よ……我が眠りを覚ましたるは汝らか」

 

アリサ「紹介しましょう! 彼こそ、グランブルーの愛されエース、コキュートス!!」

 

コキュートス「娘達よ……褒美をくれてやろう。死という名の褒美をな」

 

ミオ「紹介している間に殺されそうなんですけど、私達」

 

アリサ「かつて、RRRとして大々的に登場した割にはスリーブは『キャプテン・ナイトキッド』に乗っ取られたり、アニメでの作画がイマイチなうえに攻撃方法がパンチだったり、微妙に不遇なおじいちゃん!

そんな彼は『こっきゅん』の愛称で、作者の間では慕われているわ」

 

こっきゅん「ほう……貴様から死にたいようだな」

 

アリサ「そんなこっきゅんの見せ場は、何といってもリンクジョーカー編! ユニット設定にて、ナイトミストの全団招集に『しぶしぶ』応じるという、ツンデレっぷりを発揮!」

 

こっきゅん「ツンデレではない」

 

ミオ「ツンデレという言葉は知っているんですね」

 

アリサ「その途上でリンクジョーカーの部隊と交戦、それを撃退する!」

 

こっきゅん「それこそが我が実力。死に勝る無などあろうはずがない」

 

アリサ「そこまではよかった!」

 

こっきゅん「なんだと?」

 

アリサ「その後、いらない好奇心を発揮してリンクジョーカーの死骸をつっついたせいで、触れてはいけない部分に触れてしまい、うっかりЯ(リバース)してしまうの!」

 

こっきゅん「むう」

 

ミオ「あなたもいちいち反応していないで、早く口封じした方がいいのでは?」

 

アリサ「数あるЯユニットの中でも、こんな情けない理由でЯしたのは、こっきゅんくらいよ! この出来事は作者の間でも『うっかЯ(リバース)事件』として語り草に……」

 

こっきゅん「ゾンビーム!!」

 

ビーーーーー

 

アリサ「ぎゃあああああ!!」

 

ユキ「ああ! こっきゅんの手から放たれた光線を浴びたアリサが……」

 

ミオ「地の文が無いと大変ですね」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「ゾンビになってしまったわ!」

 

こっきゅん「これぞ古代より伝承せし禁断の呪法なり」

 

ミオ「その割には近代的かつ壊滅的なネーミングセンスでしたが」

 

ユキ「ゾンビになってしまったものは仕方がないわ。今回の『えくすとら』はアリサ抜きで始めましょう」

 

ミオ「ドライですね」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「自業自得だもの。その代わり、こっきゅんにも手伝ってもらいますからね」

 

こっきゅん「よかろう」

 

ミオ「よいんですか」

 

 

●アクアフォース

 

ユキ「まずはアクアフォースからはじめましょう」

 

こっきゅん「グランブルーは?」

 

ユキ「お楽しみは最後までとっておかなくてはね」

 

こっきゅん「よかろう」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「今回のアクアフォースは2つに大別されるわ。ひとつは(ヒール)トリガーに焦点を置いた新テーマ『蒼翼』!」

 

こっきゅん「もうひとつは?」

 

ミオ「圧倒的なパワーと、理不尽なガード制限を押し付ける『グローリー・メイルストローム』でしょうか」

 

ユキ「その通り。勉強してるわね。もうアリサはいらないわね」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「グローリーが嫌らしいのは、インターセプトまで封じているところよね。インターセプトさえできれば、これ以上ないほどプロテクトⅡの見せ場だったのだけれど。まあ、プロテクトⅡの不甲斐なさは、この後にも、じいっくりと語る予定だけれども」

 

こっきゅん「むしろ、完全ガードのプロテクトⅠの方が打開策になっているのではないか?」

 

ユキ「そうね。対グローリーに限定して言えば、フォースよりもプロテクトの方が戦いやすいかも知れないわね」

 

ミオ「アクアフォースのテーマである攻撃順や攻撃回数とは無関係だったり、再ライドせずとも肝となる効果は生きていたり、これまでとは規格外です」

 

こっきゅん「些細な除去では止まらず、安定性も抜群というわけか。恐るべし」

 

ユキ「こっきゅんのシングル価格は安くなりそうよ。よかったわね」

 

こっきゅん「僥倖なり」

 

ミオ(それは、こっきゅんさんの価値がグローリーより劣っているということでは……)

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「そうそう、蒼翼にも触れなくちゃダメね」

 

ミオ「何を言っているのか、わかるんですか?」

 

ユキ「長い付き合いだもの」

 

こっきゅん「死とは別れを意味するのではないぞ。死とは永遠を意味するのだ」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ミオ「蒼翼は治トリガーにフィーチャーした異色テーマです」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「アクセルクランはダメージを与えることが得意な分、治トリガーが不発に終わってしまいがちだけれど、蒼翼デッキなら、治トリガーは半ば(スタンド)トリガーとしても扱えるわ。ドライブチェックがより楽しくなりそうな、面白いカテゴリね」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

こっきゅん「だが、治トリガーを引きやすくするギミックは無い」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「それどころ蒼翼名称を冠したG3すら無いのよねえ。治トリガーをデッキトップに置くG3でも、最後に公開されるものと思ったのだけど」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

こっきゅん「蒼嵐艦隊(メイルストローム)の両翼を支える故に蒼翼と言ったところか」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「全体的にレアリティは低いので、コーラル・アサルトや、ホイール・アサルトまで集めている余裕が無いファイターには、心強い味方になってくれそうね」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「ああもう、うるさい!」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ミオ「ゾンビ化した古い付き合いの友人を、もう少し大切にしてあげてください」

 

 

●ディメンジョンポリス

 

アリサ「ゾ……ゾゾゾ……」

 

ミオ「?」

 

アリサ「ゾ……ゾ…………復ッ活ッ!!」

 

こっきゅん「ありえぬ! 我が呪法が破られたというのか!」

 

アリサ「ここからはディメポだからね! 腐ってなんかいられないわよ!」

 

ミオ「? アリサさんがディメンジョンポリスですか? 悪役好きなアリサさんのイメージではありませんが」

 

アリサ「ふふん。勉強不足ね。まだまだあたしが必要みたい」

 

ユキ「根に持つわねえ」

 

アリサ「今回のディメポはヒーローだけじゃない! ヒーロー永遠のライバル、怪獣&怪人が登場よ!」

 

ミオ「あ、なるほど」

 

アリサ「ていうかディメポもズルいわよね。正義の味方なんて興味無いからってスルーしたら、突然そーいうの出してくるんだもん」

 

こっきゅん「では、ディメンジョンポリスは使わぬのか?」

 

アリサ「それがねー。ディメポのカードは、全部弟にあげちゃったのよね」

 

ミオ「弟さんですか?」

 

アリサ「言ってなかったっけ? あたしには3つ下の弟がいるのよ。今は中学2年生」

 

ミオ「アリサさんの弟という事は、やっぱり使うデッキも怪獣デッキでしょうか?」

 

アリサ「それならよかったんだけどねー。アイツは、ヒーローの方がカッコイイとか言って、次元ロボとか使ってるよ」

 

ユキ「本編1話のあとがきで語られていた、『使うキャラクターは決まっているが、どこで活躍させるかは未定』のディメンジョンポリス使いって、実はアリサの弟のことなのよね」

 

アリサ「そうそう。設定上は存在しているんだけど、本編のどこで出せるかメドが立ってないの。このままだと、ファイトどころか、裏設定のまま終わってしまう可能性だってあるわ」

 

ユキ「いい子なのにねえ」

 

アリサ「ユキの前だと、いい子ぶるだけよ」

 

こっきゅん「弟の名は?」

 

アリサ「未定」

 

ミオ「そのくらい決めてあげられなかったのでしょうか」

 

アリサ「そんな弟の分まで、あたしはディメンジョンポリスを解説しなくてはならないの!」

 

こっきゅん「くくく……麗しき姉弟愛よ」

 

アリサ「……と勢い込んではみたものの、今回の怪人は正直、大切なパーツが欠けているのよね」

 

こっきゅん「ほう」

 

ユキ「私はだいたい分かっているけれど、言ってごらんなさい」

 

アリサ「何でズィールがいないのよーーーーーーっ!!!!」

 

ミオ「?」

 

アリサ「あれだけ怪人怪獣怪人怪獣言ってたら、誰だって期待するでしょ!?

ただでさえG環境の最後は、ヒーローどもの肉壁(Gガーディアン)にまで堕とされて、腹に据えかねていたのに!!」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「何よ? 何か言いたそうな顔して」

 

ユキ「いや、その、ね。非常に言いにくい事なのだけれども、ズィールが出せなかった理由って……」

 

アリサ「うん」

 

ユキ「スパークヘラクレスが、本来ズィールでやるべき弱体化(こと)を奪ってしまったせいではないかしら?」

 

アリサ「…………すまん」

 

ミオ「アリサさんは悪くないですけどね」

 

ユキ「アリサが放心している間に、カードの解説といきましょうか」

 

こっきゅん「よかろう」

 

ユキ「怪獣デッキのメインヴァンガードは『戦闘団長 グレギオ』と『爆音超獣 オーディオン』になるのかしら。ヴァンガード特化なのは変わらないけれど、味方を犠牲にしてパワーを上げていくわ。従来のディメンジョンポリスをロイヤルパラディンとするならば、怪獣はまさしくシャドウパラディンの立ち位置ね」

 

こっきゅん「パワーと(クリティカル)を上げやすく、パワーを参照する能力が無いことから、フォースⅡとも相性が良さそうではあるな」

 

ミオ「リアガードにも怪人・怪獣は多いですが、ディメンジョンポリスの汎用ユニットも多いですね」

 

ユキ「その中でも『熱源怪獣 ジェネレーザ』は、怪獣でも次元ロボでも便利な優良怪獣。今のディメンジョンポリスなら、使い道に困る場面は少ないわ」

 

こっきゅん「従来のディメンジョンポリスでは『プラチナム・エース』が強力だな。ヴァンガードのパワー条件を満たせばヴァンガードに追随するパワーを発揮する。ヴァンガード一点強化というテーマを、いい意味で脱却できたカードと言えるだろう」

 

アリサ「あたしのせいなのか……」

 

ミオ「まだ言ってます」

 

ユキ「次、行くわよー」

 

 

●グランブルー

 

こっきゅん「盟約の刻は来たれり」

 

ユキ「はいはい。いよいよグランブルーね。まずは能力を見ていきましょうか」

 

アリサ「ドロップ10枚以上で+10000。これが20枚以上になるとパワー+20000、★+1」

 

ミオ「起動能力は、CB(カウンターブラスト)1と山札4枚のドロップで、ドロップゾーンのユニットを2体+ソウルのG3の数だけ蘇生ですね」

 

アリサ「すごい! バスカークの上位互換と言ってもいいくらいじゃない」

 

こっきゅん「バスカークごときに、我が劣るはずがあるまい」

 

アリサ「昔は押され気味だったくせに……」

 

こっきゅん「あれはバスカークが強いのではない。『デッドリースピリット』と『ダンシング・カットラス』が強いのだ」

 

ミオ「今回は、バスカークが勝っている点を探す方が大変そうですね」

 

ユキ「一番はっきりしているのは★+1の適用タイミングね。『グリード・シェイド』らの登場で、バスカークがライド直後にドロップ10枚を達成するのは、かなり安定するようになったわ。

一方のこっきゅんは、4枚の補助があるとは言え、いきなり20枚は難しいんじゃないかしら」

 

アリサ「★は早ければ早いほどいいしね。相手がG2の間に★+1で殴れるのは、フォースⅡを見ていても、やっぱり違うよ」

 

ユキ「バスカークの優位点はもうひとつ。それはソウルを使うこと」

 

こっきゅん「バカな! 起動能力にソウルを必要としないことはメリットではないのか!」

 

ユキ「普通はそうなんだけどね。グランブルーにおいては、SB(ソウルブラスト)はソウルのユニットをドロップに落とす手段となりえるのよ。バスカークなら『ルイン・シェイド』のようなキーカードにも安心してライドできたけど、こっきゅんならどうかしら?」

 

アリサ「こっきゅんでSBを使うとなると、『細波のバンシー』が筆頭でしょ? そうなると、ソウルのカードをドロップに落として蘇生させるのは、どうしてもワンテンポ遅れちゃう」

 

こっきゅん「むむむ」

 

ユキ「もちろん、こっきゅんはソウルを使わないからこそ『細波のバンシー』との親和性が高いわけだし、基本的にはこっきゅんが有利だけどね」

 

アリサ「一番の問題は、こっきゅんのお家芸とも言えるデッキアウトよね」

 

ユキ「こっきゅんは、『細波のバンシー』や『ストームライド・ゴーストシップ』を使って、沢山ドローしていくつもりなんでしょう?」

 

こっきゅん「知れたこと。ドローこそ、死に並ぶ永遠不滅の理なり」

 

アリサ「そこまで!?」

 

ユキ「ダメよ、それじゃあ。すぐにデッキが切れてしまうわ」

 

こっきゅん「なんと」

 

アリサ「そう言えば、バスカークってあんまりデッキ切れなかったよね。たちかぜや、グレートネイチャーとファイトしてると、向こうの方が危ないくらい」

 

ユキ「最近はグランブルーの攻撃力も高くなっているからね。大抵は、デッキ切れする前に、どちらかが力尽きるのだけれど。

けれど、毎ターン4枚のドロップに加えて、1~2枚ドローなんてしていたら、さすがに危険よ」

 

アリサ「デッキ切れの敗率を含めたら、案外バスカークと勝率は変わんなかったりして」

 

ミオ「バスカークが完全に劣っているということはなさそうですね。よかったです」

 

こっきゅん「あ、ありえぬ! ……というか貴様ら、いつの間にかバスカークの話になってきてはおらぬか?」

 

ミオ「では、他のグランブルーのカードも見ていきましょうか」

 

こっきゅん「話を聞かぬというか!」

 

アリサ「どんなグランブルーを組むにしても必須になるのは『グリード・シェイド』よね」

 

ユキ「前回のロマリオもそうだけど、最近のグランブルーは、盤面のみならず、手札も安定させようとしてきているわね」

 

アリサ「ドロップゾーンから好きなカードを選べるのはマジでヤバいよ。ダメージゾーンのような限られた領域でカードを選んでるエンジェルフェザーでさえ、あれだけ強いんだからね。これのせいで、他のカードのパワーを落とされてる感じすらするし。

こいつひとりだけ、ドロップ増やすわ、パワーも上がるわのやりたい放題」

 

ミオ「もう1枚のRRRは『細波のバンシー』ですね」

 

アリサ「細波なんだけど、効果はどう見ても海中散歩のリメイクというね」

 

ユキ「海中散歩の効果を出すのなら、海中散歩でもよかったのにねえ」

 

アリサ「グランブルーだけ、妙に登場順に忠実よね? もうブレイクライド世代のユニットを登場させているクランも多いのに」

 

ユキ「作者はダークイレギュラーズでダンタリアンがVR(ヴァンガードレア)になった時点で、次のグランブルーは『七海覇王 ナイトミスト』がVRだなと、半ばこっきゅんの登場を諦めていたらしいわ。

その分、こっきゅんのVRとスリーブ化が確定した時は、ガッツポーズして喜んだらしいけれど」

 

こっきゅん「無礼な。ナイトミストのような若造を相手に、我が遅れを取るはずがあるまい」

 

アリサ「『ファイターズグッズフェスティバル』での人気投票結果を、ここで晒してあげよっか?」

 

こっきゅん「すまぬ」

 

ミオ「おお。ナイトミストさんが1位ですね。おや、こっきゅんさんの名前が見当たりませんが? まだ登場していなかったのでしょうか?」

 

こっきゅん「そ、それをどこから見つけてきたのだ! やめぬかー!!」

 

ユキ「ナイトローゼが登場する前から、この体たらくですからねえ」

 

アリサ「今はもっと人気落ちてるんだろうねー」

 

こっきゅん「真に賢き者は孤独なのだ」

 

アリサ「RRは『ストームライド・ゴーストシップ』『剣豪 ナイトストーム』『吟遊死人 アルフィオ』だね……誰よ、最後の(ゾンビ)

 

ユキ「『ストームライド・ゴーストシップ』はあれよね? プロテクトⅡは忘れてくださいという、公式からのお達しよね?」

 

アリサ「コキュートスだけ見ればプロテクトⅡ向きの能力してたのにね。プロテクトサークル2つ作って、毎ターン両サイドにG2を蘇生させてって動きも十分可能だと思うけど」

 

ユキ「インターセプトが崩されなければ、強力な布陣でしょうけどねえ」

 

アリサ「アニメでは2話連続で崩されてたけどね!」

 

ユキ「あれは失笑ものだったわねえ」

 

こっきゅん「ふはは」

 

ミオ「それは哄笑ですね」

 

アリサ「新システムがこれでもかと優遇されるヴァンガードにおいて、ありえないくらい不遇!」

 

ユキ「基本的にはプロテクトⅠが安定するでしょうけど、プロテクトⅡも視野に入れたデッキを組むのなら、前回の『伊達男 アルヴァーロ』がオススメよ」

 

アリサ「プロテクトサークル上なら、パワーはゴーストシップと変わらないしね」

 

ユキ「他にR以下で注目しているカードはあるかしら?」

 

こっきゅん「『お化けのどるふ』」

 

アリサ「何よ。全クランに配られているような完全ガードじゃないの」

 

こっきゅん「グランブルーは引トリガーを入れない構築も多い。デッキアウトの危険性もあり、展開力は我の能力で足りているからだ。★トリガー12枚構築も、我が★を持つことから、当然相性がよいな」

 

ミオ「守護者(センチネル)と言うより、引トリガーの守護者が入らないわけですね」

 

こっきゅん「そして、『お化けのどるふ』は手札交換の効果を持つ。腐ってもドロップゾーンを増やす効果が、グランブルーで使えぬわけがあるまい」

 

アリサ「やだ。ちゃんと考えてる」

 

こっきゅん「ちなみに『腐っても~』の部分はゾンビとかけている」

 

アリサ「台無し!!」

 

ミオ「お化けですし、うまくもないですね」

 

 

●おわりに

 

こっきゅん「なかなか楽しませてもらったぞ、娘達よ」

 

ユキ「あら、もうお帰りですか?」

 

こっきゅん「うむ。我も『My Glorious Zombie』を買いにいかなくてはな」

 

アリサ「そんなの売ってないよ!?」

 

こっきゅん「デッキを組んで思い切り遊んだのち、我は欺瞞に満ちたこの地上を滅ぼす。愚昧なる人間共への復讐を成就する時がきた」

 

アリサ「その程度の優先順位なら、復讐は諦めてくれないかな!?」

 

こっきゅん「貴様の骸は氷の棺に入れて飾ってやろう、アリサよ」

 

アリサ「名指し!?」

 

こっきゅん「その中の上レベルの美しさを、永遠のものとするのだ」

 

アリサ「いっそ砕いて!!」

 

こっきゅん「もう二度と会うこともあるまい。さらばだ」

 

ミオ「……行ってしまいました」

 

ユキ「よかったわねえ。伝説の死霊術師に名前を憶えてもらって」

 

アリサ「嬉しくなーい!!」

 

ユキ「では、私達もそろそろ帰りましょうか」

 

ミオ「次回は7月の本編でお会いしましょう」

 

アリサ「いよいよヴァンガード甲子園 地区予選編だね!」

 

ミオ「はい。楽しみです」

 

ユキ「ふふふ。では、また来週」

 

アリサ「さよなゾンビー!!」

 

ミオ「まだ呪いが少し残っているみたいです」

 

ユキ「ヴァンガード甲子園までに治るかしらねえ……」




3箱で、コキュートスどころか、ゴーストシップやナイトストームすら当たらなかった栗山飛鳥です(挨拶)。
吟遊死人だけ、何故か手元に3枚あります。
ゾンビー!!

今回の『えくすとら』は、いつもと趣向を変えてみました。
お楽しみ頂けたでしょうか。

今回の『えくすとら』で大活躍だったコキュートス(以下こっきゅん)ですが、何と彼は、あのカオスブレイカーに勝った(かも知れない)実力者なのです。

カオスブレイカーはズー、メガラニカ方面の指揮官。
ユニット設定で語られている、コキュートスが奇襲されたリンクジョーカーとは、カオスブレイカーである可能性が高いのです。
それだけではカオスブレイカーに勝ったどころか、戦った証拠にすらならないのですが、レオパルやエシックス・バスターを自ずからЯしてきたカオスブレイカーが、こっきゅんの時だけいないのも変な話。
まあ、戦ってるうちに「こいつなら、ほっといても勝手にЯするな。フヒャハハハ」と思われた説が濃厚ではありますが。

ユニット設定とフレーバー。
たったそれだけの短いテキストから読み取れる「ツンデレ厨二病ドジっ子おじいちゃん」という、
明らかに盛りすぎでありながら、一分の隙も無く完璧に調和したキャラデザイン。

私にとってコキュートスとは、バスカークと並ぶグランブルーの先導者であり、キャラ作りのお手本なのかも知れません。


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Ex.8「天馬解放」

●序幕

 

ユキ「皆様、ごきげんよう。毎度おなじみのユキどすぅ。本日はまだアリサもミオも来とりまへんけど、じきに来るのとちゃいますやろか」

 

ガラッ

 

ユキ「ほら、噂をすれば」

 

ミオ「あ、ユキさん? ……珍しいですね。黒の着物だなんて」

 

ユキ「あら、ミオ。ようこそおこしやす」

 

ミオ「…………ユキさん、頭でも打ったんですか?」

 

ユキ「いややわ。ウチはいつも通りどすえ」

 

ミオ「いえ、誰がどう見てもタチの悪い偽物ですが」

 

ガラッ!

 

アリサ「ミオちゃん! そいつから離れて!」

 

ミオ「アリサさん?」

 

アリサ「そいつはユキであってユキじゃないの! くっ、この時期になったら現れるとは思っていたけど……」

 

ユキ?「アリサまで何ですのん。カードファイト部のために尽くしてきたうちを偽物やとか、しまいにはユキやないとか。玄関にぶぶ漬け撒いときますえ?」

 

ミオ「? 話が呑み込めませんが。アリサさん、説明を求めます」

 

アリサ「うん。一言で言うと、ユキは二重人格で……彼女はユキの裏の人格なのよ!」

 

ミオ「二言ですね」

 

アリサ「気にしない!」

 

ミオ「どうしてそんなことに?」

 

アリサ「事の始まりは去年の12月……」

 

ミオ「けっこう最近ですね」

 

アリサ「その日は冬だというのに、太陽がやけに眩しい朝だった……」

 

ミオ「そういうのはいいです」

 

アリサ「その日はぬばたまのVRが公開されたんだけどね。そこにいたのは何と! シラユキと双璧を成すユキの相棒、マガツストームだったの!」

 

ミオ「そういえば聞いたことがあります。マガツストームは、かつてはむらくものユニットだったと」

 

アリサ「ユキは悩んだ。マガツストームは手放すわけにはいかない。けど、むらくも使いとしてのプライドが、ぬばたまを手に取ることも許さない。

苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで。

狂うほど苦しみ抜いた末に出した結論が、己を二つに分かつこと。

もう一人の自分を生み出して、その子にマガツストーム(ぬばたま)を使わせる事が、ユキがギリギリで出した落としどころだった」

 

ユキ?「ふふふ……」

 

アリサ「けど、ユキみたいに生真面目な意思力の権化(コンプリート・ビューティー)が生み出したのは、別人格だなんて生易しいものじゃなかった。

それはもはや、もう一つの魂!

ぬばたまが強化される時期になると、ユキの意識を乗っ取って姿を現すの!

その名も……!!」

 

ユキノ「黒澤ユキノいいます。よろしゅう」

 

アリサ「あたしのセリフとった!

ほら、腹黒なユキの深層心理から生まれたコイツは、表も裏も真っ黒なの!

この前も、あたしが部室に隠してたマンガを没収するし! スマホ見ながら弁当食べてたら、行儀悪いって叱られるし! たった1分遅刻しただけなのに、あたしの目の前で校門を閉めるし!」

 

ミオ「おおむねいつものユキさんでは? 悪いのはアリサさんですし」

 

アリサ「根絶者使いのくせに、正義の味方をするの!?」

 

ミオ「根絶者は正義の味方ですが?」

 

アリサ「新解釈!!」

 

ユキノ「まあまあ。アリサはぶぶ漬けでも食べて落ち着きやす」

 

アリサ「わーい! いただきまーす」

 

ユキノ「そろそろ本題に入りましょか。今日のテーマは『天馬解放』どすなぁ」

 

ミオ「でも、ユキさんが……」

 

ユキノ「おらんもんは仕方ありまへん。今日はうちが代わります。少なくとも、ぬばたまに関しては、あの子より詳しいどすえ?」

 

ミオ「わかりました。ぬばたまの解説まではお願いします、ユキノさん」

 

ユキノ「お任せやす。けど、ウチも『ユキ』やさかい、気安くユキと呼んでおくれやす」

 

ミオ「では、お願いします。黒ユキさん」

 

黒ユキ「ああん。いけずやわ」

 

ミオ「本日のテーマは、黒ユキさんがおっしゃったように『天馬解放』です。収録クランは、ロイヤルパラディン、なるかみ、ゴールドパラディン、オラクルシンクタンク、そして……」

 

黒ユキ「ぬばたまどすなぁ」

 

アリサ「ごちそうさまー!」

 

ミオ「まだ食べてたんですか」

 

 

 

●ロイヤルパラディン

 

黒ユキ「まずはパッケージにもなっている、ロイヤルパラディンからはじめましょか」

 

ミオ「ぬばたまは?」

 

黒ユキ「最後どす。ウチの仕事は『ぬばたまの解説まで』でしたなぁ?」

 

ミオ「……わかりました」

 

アリサ「今回の目玉は、もちろん『孤高の騎士 ガンスロッド』!」

ひねくれものの作者ですら、ここだけは奇をてらおうともしないくらい。古参のファイターなら何らかの思い入れは持っている、ヴァンガード界のレジェンド!

 

ミオ「そのようなわけで、ガンスロッドの解説に入る前に特別企画。歴代ガンスロッドを振り返ります」

 

 

『孤高の騎士 ガンスロッド』

 

アリサ「全てはここから始まった! レアカードという名の悪夢! 初代ガンスロッド!」

 

ミオ「悪夢ですか?」

 

アリサ「うん。今でこそ強カードの代名詞となっているガンスロッドだけど、登場当初はハズレ扱いされていたの」

 

ミオ「そうなんですか?」

 

アリサ「記念すべきヴァンガード第一弾『騎士王降臨』に、ガンスロッドはRRで収録されていたのね」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「その2週間前に発売されていたトライアルデッキにも2枚収録されてた」

 

ミオ「……はい?」

 

アリサ「最新のカードゲームの中にありながら、誰もが持っているレアカードの烙印を押されたガンスロッドは、ひとりショーケースをはみ出し、ストレージボックス(1枚20円)の中へ。

トライアルデッキに収録されてたのは『ブラスター・ブレード』も同じだけど、1枚だけだったし、イラスト違いだったし、そのイラストもカッコよかったし。

想像してみて? 『ジャガーノート・マキシマム』が欲しくてパックを剥いても剥いても、出てくるのはすでに4枚持っているガンスロッドばかり……」

 

ミオ「その想像は少し難しいです」

 

アリサ「あのDAIGOですら、ガンスロッドを当ててしまった時は『何すか、このカード!?』と叫んでしまうほど!

パックを剥いたらひょっこり現れる、光るハズレくじは、今はまだ初々しいヴァンガードファイター達の心に大きな爪痕を残したの」

 

黒ユキ「ふふ。アリサもえげつないどすなぁ。それだけだと、ガンスロッドの魅力は半分しか説明できてません」

 

アリサ「そう。ガンスロッドは、ただのハズレアじゃなかったの。何がって?

このガンスロッド、メチャクチャ強かったのよ」

 

ミオ「そう言えば……安い理由は集まりやすいからであって、弱い理由にはなりませんね」

 

アリサ「これで弱ければ、正真正銘のカスレアとして、別の伝説は残せたのかも知れないけどね。

ちなみにその効果は、手札からデッキに戻すだけで、当時の切り札『ブラスター・ブレード』をサーチできる。この簡単さは、最近のヴァンガードでも(だからこそ?)なかなか見られないわ。

そのくせ、本体はパワー9000と貧弱だから、なかなか盤面には出てこないし」

 

黒ユキ「パワー9000は、当時のぬばたまも同じでしたなぁ」

 

アリサ「結果、当たった時には舌打ちする人もデッキには入れているという、ヘンテコなカードが誕生したの!

手札からポイ捨てされるだけという微妙な大活躍っぷりから、魔法カードと揶揄されることもあり、それがまたカルト的な人気を呼んで、巡り巡った末にアルフレッドと双璧を成す看板ユニットに落ち着いたのよ」

 

ミオ「なるほど。勉強になりました」

 

アリサ「それだけじゃない!」

 

ミオ「まだあるんですか」

 

アリサ「ガンスロッドの不遇は、アニメにすら飛び火したの。

まず、主人公が初めて手に入れたG3のカードとして、華々しく登場する」

 

ミオ「そこまではよかった、と」

 

アリサ「オチが読めるようになってきたわね。ガンスロッドを手に入れてからの主人公は、何故か勝てなくなり、そのくせアルフレッドを手に入れてからは嫌味なくらい勝てるようになり。

久々にガンスロッドにライドしてみたら、味方から『どうしてアルフレッドにライドしないんだ』と、遠回しにディスられる始末!

そんなの、アルフレッド引けなかったからに決まってんでしょーが!!」

 

ミオ「ガンスロッドさん……」

 

アリサ「まあ、他にもレジェンドエピソードには事欠かないんだけど、マジでキリが無いから、ここまでにしておくわ」

 

黒ユキ「これが僕の神聖騎士団です!」

 

アリサ「蒸し返そうとするな!

まったく。あたしがメガコロ以外でここまで熱を入れて語るなんて、ガンスロッドだからこそだわ……」

 

ミオ「というか、作者が自分で書いてて、自分で引いてます」

 

 

『孤高の解放者 ガンスロッド』

 

アリサ「はい、ここからのガンスロッドはオチ無いよー」

 

ミオ「急にテンション下がりましたね」

 

アリサ「これはゴールドパラディンに移籍したガンスロッドね。『解放者』の名称をもらい、最新システムのブレイクライドをもらい、後にクロスライドまでもらう、まさにガンスロッドの絶頂期」

 

黒ユキ「登場当初はプラチナエイゼルとのコンボが注目されとりましたなぁ」

 

アリサ「ほぼ全てのユニットに+10000する、当時としては破格のコンボね」

 

黒ユキ「その後も解放者のサブヴァンガードとして末永く活躍してはりましたなぁ」

 

アリサ「ブレイクライドにはそういう側面があったけど、サブヴァンガードに悩んだら、とりあえずコイツって感じ」

 

 

『絆の解放者 ガンスロッド・ゼニス』

 

アリサ「ガンスロッドの中では地味な方、かな?」

 

ミオ「作者がガンスロッドのイラストで一番好きなのは、このゼニスだそうですが」

 

アリサ「そうそう。これまで触れる機会が無かったけど、ガンスロッドはどれもイラストが至高!!

萩谷薫氏がもはや担当になっているけど、綿密に描かれた鎧の装飾がどれも綺麗なの!

同じガンスロッドで、よくもここまで描き分けられるなと思うほど」

 

黒ユキ「ガンスロッドはムッツリ顔が基本で、表情で描き分けもできへんのに、ようやりはりますなぁ」

 

アリサ「1回くらい、微笑んでいるガンスロッドも描いて欲しいよね」

 

ミオ「その隣には、バナナの皮ですっ転ぶブラスター・ブレードが……」

 

アリサ「ガンスロッドはそんな理由で笑わないからね!?」

 

 

『笑う解放者 ガンスロッド・スマイル』

 

アリサ「作者も悪ノリすな!!」

 

 

『神聖騎士 ガンスロッド・ピースメーカー』

 

アリサ「最強のガンスロッドとの呼び声高い、ガンスロッドのGユニットね。

何故かノーコストでカウンターチャージし、ドライブ+1し、★まで増える問題作!

……改めて見てみると女王陛下(グレドーラ)から超越したオーバーウェルムの動きにそっくりね、コイツ」

 

ミオ「強いユニットの動きは似通ってしまうのでしょうか」

 

アリサ「これがオーバーウェルムの半年前に登場していたと言うのも驚きよねー」

 

 

『孤高の騎士 ガンスロッド』

 

アリサ「そして、ガンスロッドは原点に還る」

 

ミオ「いよいよ、今弾のガンスロッドの登場ですね」

 

アリサ「その効果は、これまでに無いレベルでルールブレイク! 『ブラスター・ブレード』のいるリアガードをヴァンガードサークルとして扱うだってさ!

アルフレッド・ホーリーセイバーを発展させた感じね」

 

ユキ「まあ、ホーリーセイバーの原点はシバラックバスターですけどね」

 

アリサ「ん?」

 

黒ユキ「どないしはりましたん?」

 

アリサ「いや、幻聴が聞こえたような……」

 

黒ユキ「そないなことより、Q&Aがえらいことになってはりますなぁ」

 

ミオ「あと、やっていることが全然孤高では無い気がするのですが」

 

アリサ「それは昔からだけどねー」

 

黒ユキ「ガンスロッド以外にも、懐かしいユニットがいっぱいいてはりますなぁ」

 

アリサ「めぼしいカードはだいたい登場した後だから、どこか二軍くさいけどね。

ボールスまだー?」

 

 

●なるかみ

 

アリサ「今回のなるかみはスゴいわよ! まずは『サンダーブレイク・ドラゴン』! ノーコストの前列全体攻撃!!」

 

ミオ「まさにアクセル殺しのアクセルですね」

 

アリサ「何らかの手段で前列のユニットを処理しても安心はできない。今度はCB1で後列のユニットが引きずりだされるだけ。

『斜めでもいいよ』とか言ってくれる、なるかみらしからぬ融通も、地味に型破り!」

 

ミオ「どうせ除去されるからといって『不死竜 スカルドラゴン』のようなユニットをコールしたら逆効果というわけですね」

 

アリサ「単体で自己完結するパーフェクトデザイン。これがVRでも、全然違和感が無いくらい! ていうか、これがヴァーミリオンでよくなかった!?」

 

黒ユキ「VRは『抹消者 ガントレッドバスター・ドラゴン』! 相手に空き前列Rがあるほど強化される能力に、前列全除去。これまたえらいアクセル殺しどすけど、噛み合っておりますなぁ」

 

アリサ「それだけじゃない! なるかみは除去が前列に偏っている分、他の除去ユニットが腐りやすくて、サンダーブレイクのような前列を全除去するカードならなおさらなんだけど。ガントレッドバスターなら、他のユニットの獲物も引き寄せてくれるの。

自己完結のみならず、仲間ともシナジーしたアルティメットデザイン! ここまでできてVR!!」

 

黒ユキ「前回のVRだったデトニクスドリルとの対比も、よくできてはりますなぁ」

 

ミオ「連続攻撃で突き崩すデトニクスドリル。一撃必殺のガントレッドバスターですね」

 

アリサ「技の1号、力の2号って感じね!」

 

黒ユキ「?」

 

ミオ「?」

 

アリサ「通じない……だと?」

 

 

●ゴールドパラディン

 

アリサ「5枚て」

 

黒ユキ「アニメの展開から言っても、またすぐ強化されはるんやろうなぁ」

 

アリサ「ウルトラレアパックが、またくるのかな?」

 

ミオ「レアリティはVR1枚、RRR2枚、トリガー2枚と、無駄に少数精鋭ですが」

 

黒ユキ「ぬばたまにも分けたげてえな」

 

アリサ「やたらイケメンになって帰ってきたプラチナエイゼルは、ゴルパラ流スペリオルコールに、トリガー操作を加えた新機軸!」

 

黒ユキ「残るRRRのお二人は、黒馬団の面々どすなぁ」

 

アリサ「ついにスペクトラルなアイツが帰ってくるのか!? 心して待て!」

 

 

●オラクルシンクタンク

 

アリサ「オラクルからはツクヨミが復活!

ツクヨミと言えば、今も語り草になっているのが、その圧倒的レアリティ。

各グレードが4枚必須な連携ライドであるにも関わらず、G2とG3が共にRRRという、嫌がらせにしか思えないレアリティ配分。

可愛らしいビジュアルから人気も高く、それでも4枚集めるファイターが続出したという、これもまた一つの伝説を生み出したカード。

さあ、今回のレアリティは!?」

 

ミオ「三日月(グレード1)RRR、半月(グレード2)RRR、満月(グレード3)VR です」

 

アリサ「悪化しとる」

 

黒ユキ「そんなところまで再現せんでもええのにねえ」

 

アリサ「ツ、ツクヨミ組む人は頑張ってね!」

 

ミオ「他人事ですね」

 

アリサ「他人事だもん! むしろ、他人事でよかったと思うわ、こんなもん!」

 

黒ユキ「伝説がまた1ページ」

 

アリサ「ツクヨミだけにRRR総取りされた、他のオラクルだって気の毒よね。エウリュアレーだって、ライブラだって、RRRになる資格くらいあったと思うけど」

 

 

●ぬばたま

 

黒ユキ「ようやくぬばたまやなぁ。長かったわぁ」

 

ミオ「この順番を希望したのは、黒ユキさんですけどね」

 

アリサ「どこからいくー?」

 

黒ユキ「まずは脇を固めるカードから」

 

アリサ「じゃあこれね! 『忍竜 ダイドク』に『修羅忍竜 テンドウコンゴウ』! 待ちに待ったマガツのサポートカードよ!」

 

黒ユキ「これが場にいれば、マガツのヒットされない効果も、あんじょう使いやすくなりますなぁ」

 

アリサ「なるかみのような無差別除去や、シャドパラの相手に選択権を渡す除去も牽制できるし、マガツもまだまだやれそうね!

あと、どっちもイラストがカッコよすぎてヤバい。特にダイドク」

 

ミオ「作者が、こういうのむらくもに欲しいとほざいています」

 

黒ユキ「腹に邪眼らしきものが埋め込まれとりますし、シラヌイとの関係性も気になりますなぁ」

 

アリサ「お次は、懐かしのカードがリメイク枠! 『忍獣 タマハガネ』と『忍竜 コクジョウ』!」

 

黒ユキ「クマさんは、相変わらずニヒルどすなぁ」

 

アリサ「腐りにくい能力で固められた仕事人と言ったところかしら」

 

ミオ「コクジョウは、ガードに使ってもCC(カウンターチャージ)ができる、利便性の高いユニットです」

 

黒ユキ「ぬばたまはサクラフブキのおかげで表のダメージを確保しやすいので、注意どす」

 

アリサ「相手ターンでもCBを使うマガツ向きのカードかもね」

 

ミオ「次はむらくもの隠し玉……」

 

黒ユキ「『忍獣 アラクレギツネ』……!!」

 

アリサ「そっち!? いやいや! もう★2バニラはやらないよ!? 何でプロテクトになるとG1になるのかはよく分からないけども!」

 

黒ユキ「あらくれなのに……」

 

ミオ「『忍妖 ツムジバショウ』です」

 

アリサ「そうそれ! ブースト要員ながらパワー+40000の可能性すら秘めた注目の1枚!」

 

黒ユキ「グレード0を捨てさせても、またグレード0を引かれる可能性もあり、こればっかりは使ってみんことには強さがわかりまへんなぁ」

 

アリサ「ドローは強制なので、これを使うだけでコキュートス(こっきゅん)は死ぬ」

 

こっきゅん「やめれ」

 

ミオ「では、そろそろ本命にいきましょう」

 

黒ユキ「むらくものVR、『修羅忍竜 ジャミョウコンゴウ』! その動きを強力にサポートする『暴挙の忍鬼 スオウ』と『禁戒の忍鬼 ミズカゼ』!」

 

ミオ「ジャミョウコンゴウは、条件を満たせば毎ターン相手の手札を4枚にする、ぬばたまらしい凶悪カードです」

 

アリサ「オラクルのような手札を稼ぐことに長けたデッキには大暴落! 性質上、相手ターンに手札を抱えがちな、たちかぜやシャドパラにも効果大!」

 

ミオ「一方で、アクセルクランをはじめとした、手札をすぐに使い果たすデッキには、あまり意味が無い効果かも知れません」

 

アリサ「ある程度はプレイングでも対処できそうよね。ギフトだって、手札が増えないプロテクトⅡやアクセルⅠを選べば、盤面を強化しつつ被害は軽減できるし。

……もっともこれは、相手がジャミョウコンゴウと分かっていればの話だけど」

 

黒ユキ「ふふふ……ジャミョウコンゴウを警戒して手札を捨てていたら、マガツの連続攻撃がとんできたなんてこともあるかもやねぇ。マガツにはまだまだがんばってもらわんと」

 

アリサ「それに、ジャミョウコンゴウの効果であれ、自発的に減らすのであれ、手札が少ないという状況自体がぬばたまの思うつぼというのもあるのよね」

 

黒ユキ「その通りやね。ぬばたまは手札を減らすだけやなく、手札が減った相手を追い詰める手段にも長けとるよって。その代表格が、今回のスオウとミズカゼどす」

 

アリサ「スオウはスタンダード環境ではありふれてきた、手札2枚のガード制限……なんだけど、これが現れる状況を考えたら、同型のカードの中では過去最凶よね」

 

黒ユキ「ぬばたまに与えてはいけない効果であり、最もぬばたまに似合う効果がついに来はりましたなぁ」

 

アリサ「ミズカゼもガード制限なんだけど、こちらは過去に例を見ない、一度ガードに使ったグレードは、そのターン使えなくなるというもの」

 

ミオ「手札が4枚の状態で、そんな制限をかけられたらおしまいですね」

 

アリサ「ジャミョウコンゴウが出てきた時点では、ミズカゼが出てくるか分からないのが嫌らしいよね。

4枚を選ぶ時、ガード値の高いG0を残したいけど、ミズカゼが怖くてそれもできない。その存在だけでジャミョウコンゴウの強化に貢献してる」

 

アリサ「ただ、ぬばたま側もミズカゼを4枚入れることは難しいんよ。ジャミョウコンゴウは最速で再ライドしたいところやけど、ギフトの無いミズカゼを経由するのは、たいそう厳しおす」

 

ミオ「そう考えると、ジャミョウコンゴウデッキのG3は悩ましいですね。ミズカゼを何枚入れるかにはじまって、展開力をカバーできるテンドウコンゴウに、マガツとの混合デッキまで」

 

アリサ「プロテクトⅡを誘いやすいことを考慮すると、インターセプトを封じるボイドマスターでもいいかもね。プロテクトⅡ対策はタマちゃんのバウンスで足りてるかもだけど」

 

黒ユキ「突破する手段だけは事欠かへんなぁ、プロテクトⅡは」

 

 

●終幕

 

黒ユキ「ふう。一仕事終えた後のぶぶ漬けは至福どすなあ」

 

ミオ「ユキさんには戻らないんですか?」

 

黒ユキ「いややわぁ。またいけずなこと言うて。そんなにうちのこと嫌い?」

 

ミオ「そんなことはないですけど……」

 

黒ユキ「ウチが表に出られるのは、ぬばたまの発売日だけよって、次は何年先になるか分かりません。今日一日くらいはヴァンガードさせておくれやす」

 

アリサ「ぬばたま使いが言うと冗談に聞こえないわね」

 

ミオ「……それにしても不思議ですね」

 

アリサ「どしたの?」

 

ミオ「むらくもが好きな人なら、ぬばたまも好きそうなものですが。どうして人格を分けなければ、ユキさんはぬばたまを使えなかったのでしょうか」

 

アリサ「それはね……。これはあくまで、むらくも使ってて、ぬばたま使ってない作者自身の見解と想像だけど」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「むらくもは妨害手段がほとんど無いの。その分、自分は好き勝手するけど、相手にも好き勝手させる、言うならばプロレス的魅力に溢れたクラン。(作者注・決闘龍は除く)

一方、ぬばたまは妨害クランの代表格。相手の手札をコントロールして、何もさせないのが基本戦術。

むらくも好きほど、ぬばたまの戦い方とは相容れないのよ」

 

ミオ「なるほど」

 

アリサ「注釈にもあったけど、むらくもにも妨害手段は増えてきているし、イラストが好きで使っている分には、両刀のファイターもいそうなものだけどね。けど、作者はまだ出会ったことは無いらしいわ」

 

作者「そもそも、自分以外のむらくも使いに遭遇したことがほとんど無いよ!」

 

アリサ「ちなみに作者は、イラストだけ言えばぬばたまの方を好きになることが多いらしいわ」

 

作者「クジキリコンゴウは至高」

 

黒ユキ「よしできた。どちらか、うちのぬばたまとファイトしておくれやす」

 

ミオ「……私がお相手しましょう」

 

黒ユキ「あら。急に優しくなって。どないしはったん?」

 

ミオ「別に。時計の針が12時を過ぎるまでは付き合いますよ」

 

黒ユキ「ふふ、おおきに。

けど、下校時間までで十分どす。ミオを夜中まで居残らせたと知られたら、表のユキに殺されますよって」

 

ミオ「そうですか。では、はじめましょう」

 

黒ユキ「ええ。スタンドアップ!」

 

ミオ「ヴァンガード」




京言葉ムズカシイ(挨拶)
栗山飛鳥です。
「天馬解放」編、お楽しみ頂けましたでしょうか。

ぬばたま使い、黒澤ユキノの登場です。
このキャラクターは本編1話のあとがきで触れた「使うキャラクターは決まっているが、どこで活躍させるかは未定」のぬばたま枠となります。

彼女の本編への登場にはいくつかの障害がありまして。

まず、バーリトゥードな『えくすとら』の世界観だからこそ出せるキャラクターであって、ユキが二重人格という設定を本編公式のものとしてしまってもいいものか。
例えるなら、ゾンビアリサが本編に登場して、グランブルー使うくらいの違和感です。

出すからにはマガツ使いになるのですが、それは果たしてぬばたま使いに喜ばれるものなのか。
マガツがぬばたまに移籍した事が、むらくも使いの私にとって甚だ不愉快であったように、ぬばたま使いにもマガツは歓迎されていないと思っています。
ぬばたま一筋の知り合いがいないので、想像でしか無いのですが。
私はクジキリもシラヌイも大好きですけれど、むらくもに移籍してきたらどう思うのか。自分でも想像がつきません。

京言葉に関しても問題がありまして、原作アニメに方言を使うキャラがいないんですよね。
いかにもありそうな関西弁キャラすらいない。強いて挙げるなら、イタリア弁くらいしかありません。アミーゴ。
根絶少女は、そんな些細な原作らしさを大事にしていきたいと思っている作品でして。

本編への登場は、それらの落としどころを見つけてからになりそうです。

次回の更新は、7月18日に戦略発表会があるので、場合によっては『えくすとら』でイジるかも知れません。
その時は7月20日前後に更新を行います。
そうならなければ、8月3日前後に本編8月分の公開となります。

少し先の話になりますが「ヴァンガードエクス」の『えくすとら』は必ずやります。
できれば、発売前と発売後の2回に分けて行いたいくらいです。
メガコロの滑り込み収録を祝して。

では、次の更新でまたお会いしましょう。


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Ex.9「ブシロード戦略発表会2019 後期」

●序幕

 

アリサ「夏だーーーーっ!!」

 

ユキ「夏ねえ」

 

ミオ「夏ですね」

 

アリサ「そんなわけで、今日の『えくすとら』は浴衣姿でお送り致します! 挿絵はもちろん、『えくすとら』だから描写も無いけどね!」

 

ユキ「ああ……浴衣姿のミオの可愛らしいこと。あなたなら絶対に和服が似合うと思っていたわ。これを読者の皆様にお見せすることができないだなんて、なんてもったいない」

 

ミオ「はあ」

 

アリサ「そういうユキは全く代わり映えがしないんだけど」

 

コキュートス(こっきゅん)「我も浴衣なり」

 

アリサ「誰に向けたサービスよ!?」

 

ミオ「そんなことより、こっきゅんさんがレギュラーになりかけているのですが」

 

アリサ「さて! そんな暑い夏にぴったりな、熱いニュースが舞い込んできました!」

 

ミオ「ブシロード戦略発表会ですね」

 

アリサ「うん! さっそく見ていきましょう!」

 

 

●カードファイト!!ヴァンガード 新右衛門編

 

アリサ「今度のアニメは、シンさんこと新田新衛門が主人公!! 当然使用クランは…………」

 

ユキ(わくわく そわそわ)

 

アリサ「……………………ジェ、ジェネシス」

 

ユキ「…………は?」

 

アリサ「待って! お願い! 落ちついて! 穏便に! 何とぞ、えくすとら(この場)では穏便に!」

 

ミオ「作者は携帯電話を地面に叩きつけてましたが」

 

アリサ「な ん で? シンさんと言えば、むらくもでしょう? ヤスイエでしょう?」

 

アリサ「だ、大丈夫! ライブさんの使用クランもノヴァになってるから!」

 

ユキ「余計に悪いわ。ヴァンガードGファンに媚を売りたいのか、喧嘩を売りたいのか、はっきりしたらどうなの?

皆がむらくものことを嫌いなのは、ようく伝わったけど」

 

黒ユキ「マーク先生はぬばたまやけどねえ」

 

アリサ「火に油を注ぐな! この話題はここまで! ユキも作者もちょっとヤバい!」

 

 

●カード展開

 

アリサ「次は今後のカード展開よ!」

 

ユキ「……ふう」

 

アリサ「落ちついた?」

 

ユキ「ええ。怒りが収まったわけではないけれど」

 

ミオ「何で私を凝視しながら言うんですか」

 

ユキ「ごめんなさい。浴衣ミオを見て心を静めてるの」

 

ミオ「はあ。それでしたら、好きなだけどうぞ」

 

ユキ「まず、2018、2019シーズンのテーマなのだけど。わざわざ24クラン収録って書かれているのが怖いわね」

 

アリサ「うん……」

 

ユキ「これが2020シーズンでは23クラン収録に……」

 

アリサ「自虐ネタはやめて! むらくもを消さないで!」

 

ユキ「え? 消したのはメガコロだけど」

 

アリサ「この野郎!!!」

 

ミオ「続けて、新ユニット『煌天神 ウラヌス』の紹介ですが」

 

アリサ「どうする? とばす?」

 

ユキ「続けてちょうだい。私は参加しませんけど」

 

アリサ「おっけー。効果は単純明快。フォースがVサークルに5つあれば、V後列にパワー70000のユニットをコールできるようになる!」

 

ユキ「つまり、『セントラル・アレスター』ね!」

 

アリサ「いきなり参加してきた!」

 

ミオ「それも最新カードです」

 

アリサ「パワー70000の『絶界巨神 ヴァルケリオン』は、さらに効果を持っているようね。それどころか、『星域』にも何らかの効果がありそう」

 

ミオ「もっとも、ウラヌスに3連続でライドしなければなりませんが」

 

アリサ「今の環境、G3にライドしてから3ターン生き残るのも厳しいのにね」

 

ミオ「加えてヴァルケリオンも手札に残したままでなければ……」

 

アリサ「もうヴァルケリオンの効果、『ファイトに勝利する』でいいんじゃない!?」

 

ミオ「あ、ヴァルケリオンってクレイエレメンタルなんですね」

 

アリサ「いいところに気付いたわね。他のクランでも星域に準じたマーカーを置けるようにするつもりかしら。ギアクロとかやりそうだけど」

 

ユキ「ハートを独り占め……」

 

アリサ「またアイドルか!!」

 

ユキ「オチもついたところで、本番に行きましょうか」

 

アリサ「そだね。ヴァンガードファイターなら、ここを一番楽しみにしている人も多いんじゃないかしら」

 

ミオ「2020年2月までの商品展開スケジュールです」

 

アリサ「ここからは1つずつ見ていくよ!」

 

 

●9月 トライアルデッキ:ジェネシス

 

ミオ「ここはあらかた話しましたね」

 

アリサ「ついに『Ex.12「新田新衛門」』という珍妙なタイトルの『えくすとら』が爆誕するのね!」

 

ユキ「厨二病タイトルって大事ねえ」

 

 

●10月 ブースターパック:ジェネシス ぬばたま エンジェルフェザー ノヴァグラップラー

 

アリサ「ジェネシスは、ウラヌスを手厚くサポートしてあげないとだし、ミネルヴァとかフェンリルとか人気ユニットを出してる余裕は無さそう」

 

黒ユキ「ぬばたまは、これまたえらいイケてはる忍竜どすなぁ」

 

アリサ「エンジェルフェザーからはエルゴディエル! 使うキャラクターは男の子! 非常に珍しい組み合わせ!

エンジェルフェザー使いの男子は初……よね?」

 

ミオ「作者が先にやられたーとか言って悔しがってます」

 

アリサ「男性キャラのエースユニットが女性なのもアニメでは初めてよね? コミック版では美和君のMISSスプレンダー事件があるけど」

 

ユキ「逆は意外と多いのよね。エイゼルとか、ハリーとか」

 

アリサ「ノヴァは全く新しいユニットが登場! 『闘争竜 ゴッドハンド・ドラゴン』!」

 

ミオ「公式ページによるとフロントトリガーを超強化らしいです」

 

アリサ「★トリガーの方がクセが無くて使いやすい印象だったし、いい調整ね!」

 

ミオ「ぬばたまはトークンを生み出す」

 

黒ユキ「ちょっ、マガツ全否定……」

 

ミオ「エンジェルフェザーは既存のデッキと相性がいい」

 

アリサ「エンフェだけ適当!!」

 

ミオ「スタイリッシュ・ハスラーやアラバキなど、再録も豪華ですよ」

 

 

●11月 エクストラブースター:グレートネイチャー ネオネクタール ゴールドパラディン

 

アリサ「グレートネイチャーは妖艶なキツネの先生! 使い手もボス候補のお姉さんで期待が持てそう!

グレートネイチャーがボス格になるのは久しぶりだし、女性ファイターがラスボスになったら、アニメ史上初の快挙よ!」

 

ユキ「今回も中ボスくらいで終わりそうですけどね。後ろに神埼さんも控えているわけだし。

その神埼さんもスパイクあたりに宗旨替えしているかも知れないけど」

 

アリサ「ネオネクタールからはアルボロスドラゴンが再誕! 当時としては珍しいグレートネイチャーのドラゴンで、アドバンテージ獲得能力に長けた連携ライドを持つ、人気の高い1枚! 納得の復活ね」

 

ユキ「一方、意外なのはゴールドパラディン。メガブラスト要員のアグラヴェイルがまさかの下剋上」

 

アリサ「アグラヴェイルと言えば、騎士らしからぬイタいフレーバーも魅力よね。つけ上がるのはそれ位にしとけや……」

 

ユキ「借りは一兆倍にして返すぜっ!」

 

アリサ「今回はどんなフレーバーで私達を楽しませてくれるのか! SVRの箔押しフレーバーにも超期待!」

 

 

●12月 エクストラブースター:バミューダ△

 

アリサ「ここできた、バミューダ△! 年内でバミューダパックが2度発売されるのは、とっても珍しいわね。発売時期的に、テーマは『聖夜の歌姫』かしら」

 

ユキ「聖夜?」

 

ミオ「クリスマスです」

 

ユキ「くりすま……?」

 

アリサ「ユキは気にしないでいいよ。洋モノのイベントには、一切の興味を示さないから」

 

ユキ「そんなワケのわからないものより、『正月の歌姫』を出しましょう。SPはみんな着物姿よ」

 

アリサ「それはそれで人気が出そうだから、安易に否定できないけど!」

 

ユキ「当然、歌うのは演歌」

 

アリサ「それはどうかと!」

 

ユキ「コブシの歌姫」

 

アリサ「ユキの妄想はともかく、メインビジュアルはリヴィエール! 他にもパシフィカ、コーラル、カラフルパストラーレの登場が示唆されているわね」

 

ユキ「レインディアは?」

 

アリサ「そうよねー。リヴィエール、パシフィカときたら、レインディアも期待したいところだけど。あの子が人気出た経緯を考えると、安く組めるコモンヴァンガードとしての復活も面白いと思うけどね」

 

 

●1月 エクストラブースター:シャドウパラディン なるかみ アクアフォース

 

アリサ「神埼さん、支部長(神埼もだけど)、ヴァレオスの外の人がアニメに登場するらしいので、その3人のデッキはほぼ確定かしら」

 

ユキ「チッ」

 

アリサ「舌打ちすな」

 

ユキ「そうなると、クラレットソード、ヴァンキッシャー、ヴァレオスの登場も堅いかしらねえ」

 

アリサ「その中でも、注目は海津ルウガ&ヴァレオスよね。このシリーズでは難しいけど、後のアニメではゲイリ・クートの登場も期待できるかも」

 

ミオ「どちらさまですか?」

 

アリサ「女王陛下(グレドーラ)にディフライドされていた女の子よ。メガコロ使いな香港の女子高生! この子とは友達になれそうな気がする!」

 

 

●2月 エクストラブースター:ギアクロニクル ?????? ??????

 

アリサ「戦略発表会で隠してどうするのよ!? 発表しなさいよ!」

 

ユキ「流れからして、ロイヤルパラディン、ネオネクタールが妥当なところでしょうけどね」

 

アリサ「トライスリーだよねえ。仮に、メガコロとむらくもだったとしたら、隠す理由は無いもんね。つまりここから半年……」

 

ユキ「むらくもは無いわね」

 

アリサ「メガコロは無いわね」

 

ミオ「根絶者は無いですね」

 

こっきゅん「グランブルーもだ」

 

アリサ「はあ……。

けど、こうして半年先を教えてくれるだけでも、だいぶマシになったんだよ?」

 

ユキ「昔は本当に先が見えなかったものねえ。終わりの無いトンネルにいるみたいだったわ」

 

こっきゅん「今のうちにお小遣いを溜めねばな」

 

アリサ「地上を滅ぼすのはどうしたのよ!? いや、されても困るけど!」

 

こっきゅん「ブラスター・ブレードとか言う、やたら尖った輩に阻止された」

 

ミオ「ああ。あのトンガリ、人のこと、すぐ邪魔してきますね」

 

こっきゅん「うむ。いっぱいビームとか出してきた。我も深海へ戦略的撤退よ。

海底はいいぞ。愚鈍な人間は追ってこれぬからな。

『くっ、逃がしたか!』とか悔しがっているあやつの惨めな姿を、水底から眺めるのも乙なものよ」

 

ミオ「尊敬します」

 

アリサ「復讐者と侵略者で気があってる!」

 

 

●終幕

 

ユキ「……むらくも使いには得るものがなかった発表会だったわね」

 

アリサ「メガコロもだけどね。まあ、ユキにとっては、むしろマイナスだったわけだけど」

 

ミオ「それでも、気を取り直していきましょう。気落ちしているお二人は、あまり見たくありません」

 

ユキ「ミオの言う通りね。今のむらくもでも10年は遊べるもの」

 

アリサ「そうだね! 次回の更新は8月3日前後に本編8月分の公開となりまーす! よろしくねー」

 

ミオ「それでは、皆さん……」

 

こっきゅん「さらばだ」

 

アリサ「あんたがシメるな!!」




栗山飛鳥です。

今日はBCF2019へメオーマルをもらいに行ってきましたが(住んでるところバレそう)、『えくすとら』でイベントレポートを書くのも面白そうですね。
ミオ達に中継させる形にするとか。
WGP2019では一考してみます。

では、8月の本編もよろしくお願い致します。


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EX.10「幻馬再臨」

アリサ「夏だっ! 海だっ! 水着だっ!! ヴァンガードっ!!

そんなわけで、今月の『えくすとら』は水着回! もちろん挿絵も描写も無し! 妄想でカバー!

みんな、ミオちゃんにかわいい水着を着せてあげてね!」

 

ミオ「遠慮します」

 

アリサ「で、ユキは何で浴衣のままなの?」

 

ユキ「私にそんなはしたない格好をしろと?」

 

アリサ「はしたなくないっ! いつの時代の人間よ!?」

 

コキュートス(こっきゅん)「無論、我も水着なり」

 

アリサ「だから誰にむけたサービスよ!? 気になるから、そこは論じてよ!」

 

ユキ「そんなことより、早くはじめましょう」

 

アリサ「おやー、何をそわそわしているのかなー?」

 

ユキ「うるさい。ほら、早くするわよ」

 

アリサ「はーい」

 

 

●シャドウパラディン

 

アリサ「今回もパックパッケージとなっているシャドパラから!

今弾のシャドパラを語るにおいて欠かせないのは、ツクヨミに負けじとばかりに上げてきたレアリティ!

モルドレッドVR!! マスカレードVR!!

エースはもちろん、そのサポートカードまでVRに設定するという鬼畜の所業!」

 

ミオ「モルドレッドなら多少奮発してもいいかなと考えていた作者が、レアリティ設定を見た瞬間に諦めていました」

 

ユキ「百年の恋も冷めるというやつねえ」

 

ミオ「次にクラレットソードが来る可能性が高いというのもあるらしいですが」

 

アリサ「マスカレードが、どんなシャドパラにでも入るような必須カードではないのが救いかなぁ」

 

ユキ「では、効果も見ていきましょうか。

モルドレッドは『ブラスター・ダーク』のコール時にギフトを与える効果」

 

アリサ「これすごいよねえ。フォースⅠを選べば、パワー30000や40000になってるブラスター・ダークがスタンドするし、フォースⅡを選べば、あっという間に3列クリティカル!

どっちのフォースとの相性も100点満点!」

 

ミオ「相手によって使い分けるのもそうですが、自分の手札と相談してもよさそうですね」

 

ユキ「フォースⅡは4つ目以降が無駄になってしまいますからね。

『ブラスター・ダーク』が2枚以下しかコールできそうにない場合は無難にフォースⅡを選んで、『ブラスター・ダーク』を毎ターン立て続けにコールできそうなら、フォースⅠを重ねて波状攻撃なんてことができるわね」

 

アリサ「シャドウパラディンにしては珍しく、生贄を必要としないのも魅力なんだけど……」

 

ユキ「アクアフォースのグローリーもそうなのだけど、クラン特有のコストや要件を排除してしまうのは、強いのでしょうけど面白みには欠けるわねえ」

 

ミオ「一応、マスカレードが申しわけ程度に生贄を要求していますが」

 

アリサ「払えなくても、『しょうがないなあ』って感じで許してくれる、ゆるい生贄だけどね!」

 

ユキ「RRRのG3である『デンジャーランジ・ドラゴン』も、そんなやさしいシャドウパラディンのひとりね」

 

アリサ「メインヴァンガードとして戦えなくもないけど、基本的にはモルドレッドのサブヴァンガードよね」

 

ユキ「書いてあることは弱くないんだけど、モルドレッドを使うなら前列は常に『ブラスター・ダーク』であって欲しいのもあって中途半端な印象ねえ」

 

アリサ「『これをヴァンガードにして遊びたい!』『モルドレッド軸は高すぎる!』という作者みたいな人は、『シャドウブレイズ・ドラゴン』のようなアドを稼げるG3を経由してみてね!」

 

ユキ「シャドパラは、頑なにVR以外でデッキを組ませようとしないわねえ」

 

ミオ「シャドパラと同時収録されている他のクラン、むらくもも、ダークイレギュラーズも、ペイルムーンも、デッキタイプが多いクランなのですが」

 

アリサ「何でシャドパラだけって感じよね。おかげで、エ―ディンとか、ダーマッドとか、イルドーナとか、作者の好きなG3が全然リメイクされないじゃないの!」

 

ユキ「さて。他に注目しているカードはあるかしら」

 

作者「『魔界城 エンデフォルト』!」

 

アリサ「そう! 魔界城がついにスタンダードに登場!! かつては魔界城デッキなんてのも組めたものだけど、人気が無かったもんで、しれっとリストラされたのかと思ったわよ」

 

ミオ「ちなみに魔界城は、エーディン軸の魔女と並んで作者が愛用していたシャドウパラディンでした」

 

ユキ「前回の魔界城はイロモノが多かったけれど、今回の魔界城は実戦級よ」

 

アリサ「魔界城は見た目の割にパワーが低かったけれど、今回は見てくれ通りのパワー+20000!!」

 

ミオ「要件は相手のダメージが5点であること。フォースⅡで4点止めをしていると難しいかもしれませんね」

 

アリサ「反面、フォースⅠでガンガン攻めるデッキには相性抜群! モルドレッドはもちろん、効果でダメージを与えるファントム・ブラスターだって!

ちなみに、エンデフォルトの意味は『終の砦』! そのまんま!」

 

作者「はっ! 次にクラレットソードが来るのなら、サブヴァンガードはトートヴェヒターになるのでは……?」

 

アリサ「夢を見るだけならタダだよね」

 

 

●ペイルムーン

 

アリサ「人気クランのシャドパラは、それが収録されるパックのシングル価格に大きな影響を与える。シャドパラのカードばかりが高くなって、他が安くなる一極化を引き起こすの。前回はグレイドールが頑張ったから二極化したけれど……」

 

ミオ「ふふん」

 

ユキ「なんでミオが偉そうなの……」

 

アリサ「けど、今回はそうはならない! 何故ならペイルムーンには、シャドウパラディンだろうと、モルドレッドだろうと対抗できる、大人気の花形スターが存在するから!!

その名も『銀の茨の竜使い ルキエ』!! スタンダードの舞台にて、華麗に再演(アンコール)!!!」

 

ユキ「むしろシャドウパラディンがいなければ、一極化の原因になっていたユニットよね」

 

アリサ「というか、かつてそうなったからね。彼女がいなければ、獣王は爆死じゃすまなかったわよ」

 

ミオ「効果は文句無しのフィニッシャーですね」

 

ユキ「この効果が更に、他の『銀の茨』と密接に関わってくるのだけれど……いちいち解説していたらキリが無いので割愛させて頂くわね」

 

アリサ「ここでやらずとも、他でいくらでもやってるだろうしねー」

 

ユキ「『銀の茨』は『銀の茨』でなければ使えないカードが多いから、ペイルムーンの汎用カードはどうしても少なくなるのだけれど……」

 

アリサ「その分、粒揃いな印象よねー」

 

ユキ「『ミラクルポップ・エヴァ』は、どんなデッキのサブヴァンガードにもなるし、メインとしても運用できる、受けの広い良作ね」

 

アリサ「ブレイクライド風のデザインも評価高いよねー」

 

ユキ「『銀の茨 ライジング・ドラゴン』は、『銀の茨』でありながら、『銀の茨』以外でも使える貴重なカードよ」

 

アリサ「『ゴールデン・ビーストテイマー』なら、条件は自然に満たせるわね。アクセルで+10000はでっかい! この後に+10000じゃすまないアクセルクランが控えてるけどね!」

 

ユキ「ふふふ……何のことかしらねえ」

 

ミオ「ナイトメアドールも強化されていますね」

 

アリサ「うん! ありすこそいたものの、メインヴァンガードが欠けていた状態だったからね。いよいよ本領発揮よ」

 

ユキ「そのヴァンガードとなる『ナイトメアドール きゃろる』は、相応のコストと条件を満たしての疑似スタンド。普通ねえ」

 

アリサ「ヴァンガードがスタンドすることを普通と言えるようになったのね、あたし達」

 

ユキ「年はとりたくないわねえ」

 

ミオ「本題に戻ってください」

 

ユキ「はいはい。そんな至って普通なヴァンガードのスタンド……なのだけれど、そこはペイルムーン。各種ナイトメアドールの効果が絡み合って、そこからの攻撃回数は書いてあること以上よ」

 

アリサ「アクセルサークルも増やせるから、次に繋がるフィニッシャーなのよね。アクセルⅡを選べば手札コストもタダ同然」

 

ミオ「対戦相手にとっては、まさしく終わらない悪夢ですね」

 

 

●ダークイレギュラーズ

 

ミオ「ダークイレギュラーズのVRは『深魔幻皇 ブルブファス』です。同名カードをソウルインすることに特化したヴァンガードですね。ダークイレギュラーズが毎ターンアドを取れるだけでも……」

 

アリサ「ちょっと待った!」

 

ミオ「どうしました?」

 

アリサ「コイツのビーム、細すぎない?」

 

ミオ「……はい?」

 

アリサ「いや、図体とビームの太さが明らかに釣り合ってないでしょ!

ブルブファスが10体くらい並んで一斉発射してる方が似合うくらいなんだけど!

『貴様は城ごと滅ぶがいい』とか言ってるけど、こんなんじゃ城なんて滅ぼせないよ!?」

 

ミオ「……相手を攻撃するビームじゃなく、ソウルチャージ光線なんじゃないですか」

 

アリサ「なるほど」

 

ミオ「もしくはアドビーム」

 

アリサ「納得した! ミオちゃん、天才!」

 

ミオ「自分で言っておいて無責任ですけど、あれで納得するんですね」

 

ユキ「もうアリサは無視して続けなさい」

 

ミオ「はい。ソウルにG3が2枚以上なら、リアガード1体のパワーと★を吸収できます。通常のクランなら厳しい条件ですが、ダークイレギュラーズなら、ましてやブルブファスなら造作もありませんね。とりあえず、魔王ですら手懐けられないとか嘯いている輩でも、ソウルチャージ光線の贄にしてしまいましょう」

 

アリサ「吸収したい相手リアガードって、どんなのがいるかなあ? そう都合よくアラクレギツネとは遭遇しないと思うけど」

 

ユキ「筆頭はフォースⅡサークル上のユニットかしら。それだけで★+2よ」

 

アリサ「フォースⅡに対するカウンターか! いいね!」

 

ユキ「あとは……プロテクトⅡサークル上のユニットね。パワー+5000がおまけでついてくるわ」

 

アリサ「また、プロⅡが何かのついでにいじめられてる!」

 

ミオ「フォースⅡサークル上の『魔界城 エンデフォルト』を吸収すれば、パワー+28000、★+2になりますね」

 

アリサ「城ごと滅ぼされる!!」

 

ユキ「絶妙なフラグ回収ねえ」

 

アリサ「え、ここまで狙ってフレーバーテキスト考えたのかしら? それならすごいけど、偶然ならもっとすごい!」

 

ユキ「相手ターンでもパワーを維持できるリアガードも増えているし、今後も思わぬ強化が見込めるかもしれないわね」

 

アリサ「★が増やせる味方が登場するだけで、さらに化けるはずだしね」

 

ミオ「ブルブファス以外のカードも、これまでのダークイレギュラーズを強化できるカードが目白押しです」

 

ユキ「RRRはどちらもダークイレギュラーズを支えた続けた往年の名ユニットよ。今回も末永い活躍が期待できそうね」

 

アリサ「デスアンカーや、ダンタリアン等のVR勢はもちろん、キューティクルだって強化できるよ!」

 

ミオ「ブルブファス自体がサブヴァンガード適正も高いですし」

 

ユキ「今のダークイレギュラーズは、人によってデッキの形が大きく変わってきそう。デッキを組むのが楽しそうなクランね」

 

 

●むらくも 「侍大将 HYU-GA」

 

アリサ「……え? クラン名の隣にユニット名があるんだけど、これって?」

 

ユキ「もちろん、むらくもは各カード考察していくのよ」

 

アリサ「ず、ズルい!!」

 

ユキ「ふふ。まあ、気になるカードだけよ」

 

アリサ「それ、ほとんどやるパターンでしょ!? グランブルーの時ですら作者は自重したのに!」

 

ミオ「コキュートス(ゲスト)は自重していませんでしたが」

 

アリサ「ええい! こうなりゃヤケよ!

むらくものVRは『侍大将 HYU-GA』!! って、誰よコイツ!! あんたは忍者でしょ!?」

 

ユキ「大将首討ち取ったり」

 

アリサ「大将はあんたでしょ!? 何よ、このツッコミどころ満載のカードは!!」

 

ユキ「名前もフレーバーテキストもツッコミどころしか無いけれど、これは今後のむらくもを1年は支える逸材よ」

 

ミオ「CB1で相手のグレードと同じグレードのカードを、山札から1枚スペリオルコールできます」

 

アリサ「基本的にはG3を山札から呼び放題ってことよね……この時点でとんでもないわ」

 

ミオ「そして、敵味方全員の名前が『侍大将 HYU-GA』になります」

 

アリサ「スキルまでツッコミどころ満載だった!!」

 

ユキ「大将首討ち取ったり」

 

アリサ「そりゃ、敵も侍大将だからね!?」

 

ユキ「『侍大将 HYU-GA』でブーストした『侍大将 HYU-GA』で『侍大将 HYU-GA』にアタック! 『侍大将 HYU-GA』の効果で『侍大将 HYU-GA』と『侍大将 HYU-GA』のパワーを+3000!

『侍大将 HYU-GA』のアタックが『侍大将 HYU-GA』の効果によりヒットしなかったので、CB1で『侍大将 HYU-GA』の効果を発動します。『侍大将 HYU-GA』をデッキから手札に加えます。

とか、やってみたいわ」

 

アリサ「ちょっと待てい! 何が起こったのかさっぱり分からん!」

 

ミオ「盤面が完全に把握できた人は作者と同類です。きっといい友人になれるでしょう」

 

ユキ「むらくも内では基本的なカードを使っているから、まだまだ初級よ」

 

アリサ「で、それはオモシロ盤面を作り出す以外に、何の役に立つの?」

 

ユキ「あらあら、勉強不足ねえ。さっき例に挙げたように、シジママルの+3000を好きなユニットに振れるようになっているじゃない」

 

アリサ「その例が分からんのよ!!」

 

ユキ「特に相性がいいのは『隠密魔竜 ダンゼツアナーク』ね。

ヴァンガードと同名のリアガードすべてに+5000! 山札からスペリオルコールされた時に自身を+5000する能力もあるG3で、全てが侍大将と噛み合っているわ。

もともと化ける素養はあったから注目していたユニットではあったのだけど、早い開花だったわね」

 

ミオ「つまり、全リアガードを+5000できるユニットを毎ターン山札から呼んでこられるわけですね」

 

アリサ「えっ、強っ」

 

ユキ「さっきから言っているじゃないの」

 

アリサ「あんたは『侍大将 HYU-GA』としか言ってないからね!?」

 

アリサ「……で、味方が侍大将になるメリットは分かったけどさ。敵を侍大将にしてどうすんのよ」

 

ユキ「『ブラスター・アロー』を含む『ブラスター』が6体いても、相手ユニットを指定できるようになるわね」

 

アリサ「そうそう。相手が『ブラスター』じゃなくなるからね……って、御大将しょぼっ!」

 

ミオ「疑問の答えは、侍大将のもう一つのスキルに隠されています」

 

アリサ「え、こいつまだスキルあるの?」

 

ミオ「G3のSB(ソウルブラスト)で、相手の同名がいるリアガードを全て山札に戻します」

 

アリサ「それって……」

 

ミオ「敵が全て『侍大将 HYU-GA』になっているなら、全体除去です」

 

アリサ「マジで?」

 

ミオ「マジです」

 

ユキ「むらくも使いとして本音を言わせてもらえるのならば、むらくむは除去する側でなく、除去に抗する側でいてほしかったのだけれど……」

 

アリサ「うわ、メオーマルのシングル価格がとんでもないことになってる」

 

 

●むらくも 「隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ」

 

アリサ「稀代の叛逆者、ヒャッキヴォーグЯが! ついに! Яする以前の姿となってカード化!!」

 

ユキ「か、かっこいい……」

 

アリサ「ユキですら浮かれるレベルのイケ(メン)!!」

 

ミオ「その効果は、CB(カウンターブラスト)1と手札1枚のコストで、デッキからヒャッキヴォーグをスペリオルコール。ユニットが5枚以上いるなら、このユニットと同名ユニット全員に+10000ですね」

 

ユキ「特筆すべきは、リアガードでも効果が使える……つまり、分身も同じ効果が使えるのよ。分身が分身を呼ぶ、むらくものお家芸が、ついにスタンダード環境に戻ってきたわ」

 

ミオ「コストさえあれば、ヒャッキヴォーグにライドした時点で、前列にヒャッキヴォーグが4体並ぶこともあるわけですね」

 

ユキ「パワーもそれぞれ22000、32000、42000、42000よ」

 

アリサ「展開力と攻撃力を兼ね備えたデザインは、まさしくヒャッキヴォーグ!」

 

ユキ「『忍獣 メタモルフォックス』と相性がいいのも、ファンにとっては嬉しい点ね」

 

アリサ「ん? そう言えばパンプするのは『隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ』じゃなくて『このユニットと同名』の味方なのよね」

 

ユキ「『侍大将 HYU-GA』の後に使えば、新たなヒャッキヴォーグ以外、全員+10000ねえ」

 

アリサ「おおう」

 

ミオ「新しいヒャッキヴォーグは出さないことも選べるので、盤面が整っているのなら、パンプ目当てでも使えますね」

 

ユキ「けれど、満を持して登場したヒャッキヴォーグが、侍大将の部下……足軽大将として終わるだなんて思って欲しくないわね」

 

ミオ「ヒャッキヴォーグをメインとして使うなら、シラユキとの組み合わせが強そうですね」

 

ユキ「どちらもコストが重くて息切れが早いけれど、コストを払う領域が別々なので共存できるのね。ヒャッキからシラユキにライドしても、シラユキからヒャッキにライドしても、高い攻撃力が持続できるわ」

 

ミオ「どちらもリアガードで効果を発揮する点もポイントです。両者のスキルを同時に使えば、アクセルクラン屈指のパワーでアタックすることができますよ」

 

 

●むらくも 「忍獣 スペルハウンド」

 

アリサ「意外と言えば意外。妥当と言えば妥当。ヒャッキヴォーグЯと相性のよかったお犬様がRRRに大出世!」

 

ユキ「今回もヒャッキヴォーグとの相性は抜群ね。SB2で分身して、分身と本体のパワーをヴァンガードと同じにするわ」

 

アリサ「けど、ヒャッキヴォーグは前列をヒャッキヴォーグで埋めちゃうことが多そうだけど」

 

ユキ「むしろ、そうしてしまわないためのカードかもね。ヒャッキヴォーグにライドしたとして、その効果で1体分身させて22000が2体。スペルハウンドをコールして、22000がさらに2体。前列に22000が4体並べば、中盤の攻撃力としては十分だし、デッキの中のヒャッキも、CBも温存できるでしょう」

 

ミオ「息切れの早いヒャッキヴォーグの持続力を、シラユキとは異なる方向性で高められるというわけですね」

 

アリサ「侍大将との相性はどうなのかなあ」

 

ユキ「実はメオーマルもダンゼツアナークもヴァンガードは+5000してくれないのよね。ヒャッキヴォーグはおいそれと使えるカードでは無いし、侍大将のパワーは基本12000と思っておけばいいわ」

 

アリサ「御大将弱っ!」

 

ユキ「細かいことは考えず、SB2で12000が2体展開できるというだけでも相当のものよ。ブラッディミストがCB1で9000と5000なんだから」

 

アリサ「あ、そっかあ」

 

ユキ「除去相手だと御大将だけじゃ展開が追いつかない可能性も高いし、入れない理由は無いと思うわよ」

 

ミオ「ヴァンガードのパワーは今後も上がっていくでしょうし、将来性があるのも魅力ですね」

 

アリサ「20枚くらい集めとかなきゃ!」

 

ユキ「もちろんよ」

 

アリサ「冗談で言ったのに!」

 

 

●むらくも 「セントラル・アレスター」

 

ユキ「これは作者の要注目カードよ」

 

アリサ「決闘龍のサポートカードなのに? 決闘龍でしか使えないんじゃないの?」

 

ユキ「V後列から攻撃できる効果は、決闘龍でなくとも適用されるのよ。V後列から攻撃してくるパワー9000の恐ろしさは……アリサならヤシャバヤシと言えば分かるでしょう?」

 

アリサ「ああ、そりゃ強いわね」

 

ユキ「ヤシャバヤシは登場時効果以外には、トリガーを祈るくらいしかできなかったけれど、今のむらくもはパンプや弱体化には困っていないわ。

侍大将デッキや、シラユキデッキなら、問題なく後列から攻撃を届かせることができるわね。

変わったところでは、MUSASHIデッキかしら。MUSASHIは性質上あまりブーストをつける意味が無いので、代わりにこれを置いておけば無駄が無くなるわ」

 

ミオ「決闘龍は言うまでもないですし、現状組めるむらくもデッキの多くと相性がいいわけですね」

 

ユキ「もう一つの魅力は、サーチのし易さね。

例えば、侍大将で先攻を取った場合、最初にデッキから呼べるカードはG2になるわけだけど、そんな時に呼んでくるG2の筆頭は、メオーマルかコレになると思うわ」

 

アリサ「御大将強い!!」

 

ユキ「ZANBAKUを決闘龍以外のデッキで、サブヴァンガードとして採用する意味もでてきたわ。例えば、シラユキデッキで先にZANBAKUにライドして、その効果で後列に『セントラル・アレスター』を配置。次のターンにシラユキにライドして連続攻撃とかね」

 

ミオ「盤面に1枚あれば十分なカードですから、サーチ手段が多いのはいいですね」

 

アリサ「ヴァンガードのパワーがインフレすればするほど、V後列っていうのは持て余しがちなポジション! そこを生かせるセントラルも将来性はなかなか高そうね」

 

 

●むらくも 「特務忍獣 ウィーズルレッド」「特務忍獣 ウィーズルイエロー」「特務忍獣 ウィーズルブルー」「特務忍獣 ウィーズルホワイト」

 

ユキ「さすがに『特務』はまとめていくわよ」

 

アリサ「むらくもに突如として現れた正義のニンジャヒーロー! その名も特務忍獣!!

聖域の魔の手から帝国を守るため、今日も隠密を続けるのだ!!」

 

ミオ「アリサさんのテンションがここだけ違うのですが」

 

ユキ「やらせておいてあげなさい」

 

ミオ「わかりました」

 

ユキ「『特務』はG1~G2で成る、むらくもの新名称ね。全体的に低レアリティな点もアクアフォースの『蒼翼』に似ているわね」

 

ミオ「G3が何であれ、デッキを乗っ取りかねない影響力も『蒼翼』に近いです」

 

ユキ「そんな『特務』に与えられた使命はG2速攻。

ウィーズルレッドにライドしてCB1と手札を5枚捨てるだけで、盤面が『特務』で埋め尽くされるわ。

前列に、ブルー、レッド、ブルー。

後列に、ホワイト、ホワイト、ホワイトと並べれば、パワー36000のラインが3つ!!!」

 

ミオ「次のターンにシラユキにでもライドできれば、ゲームが終わりそうですね」

 

ユキ「『特務』を後から補充できるマンダラロードも面白いわよ」

 

ミオ「ところでイエローは」

 

ユキ「忘れてあげてちょうだい」

 

ミオ「はい。『特務』の弱点は、レッドを引けない状況でしょうか」

 

ユキ「『特務』以外のカードは、手札交換に特化した構成にしてみるといいかも知れないわね」

 

ミオ「最速からは1ターン遅れますが、先攻なら確実にレッドを連れて来れる侍大将はどうでしょう?」

 

ユキ「いいわね。けど、レッドを出したターンはいいけれど、次のターンからは『特務』の名前が侍大将に消されてしまうので、何らかの対策が必須になるわね」

 

ミオ「次のターンにシラユキにライドするのが理想ですが」

 

ユキ「侍大将で『特務』デッキを組む場合なら、イエローを混ぜてもいいかも知れないわね。

前列に、ホワイト、レッド、侍大将、ホワイト。

後列に、ホワイト、イエロー、ホワイトと並べるの」

 

ミオ「相手ターンなら『特務』に戻りますし、速攻を終えた『特務』をインターセプトで処理していくわけですね」

 

ユキ「あと、ウィーズルホワイトは単体10000ブースト、ライドしてもパワー8000。『特務』以外のデッキでも、単体で採用価値のあるユニットよ。

上下に並べたら24000というパワーも、ソウコクザッパーの18000、シジママルの20000より高く、今弾に登場したサンジーと同じ数値よ」

 

ミオ「こうして見ると、わかりやすくインフレしていますね」

 

ユキ「ホワイトとブルーのみ採用した、準『特務』と言うべき構築も面白いのではないかしら。

総じて、無限の可能性を秘めた、面白いカテゴリに仕上がっているわね」

 

アリサ「今日も帝国の平和は守られた! ありがとう、僕らの特務忍獣!

だが、戦いはこれで終わりではない。

帝国がクレイを制するその日まで、彼らの孤独な戦いは続くのだ!

忍べ、特務忍獣! 隠れろ、特務忍獣!

グリーンはどうした!?」

 

 

●むらくも「口寄せの忍鬼 ジライヤ」

 

ユキ「ギガントード! ギガントードは!?」

 

アリサ「ジライヤのスキルはCB1でヴァンガードに+10000! パンプ値は大きいけど、ヴァンガード限定なのがネック!」

 

ミオ「ヴァンガードのパワーが上がっても、完全ガードされがちですしね」

 

アリサ「それをベニジシで牽制したりするのかな」

 

ミオ「他に思いつくのはスペルハウンドとのコンボですが」

 

アリサ「『セントラル・アレスター』をV後列に置く場合、ヴァンガードの攻撃力が下がりがちだから、それの補助に使えるのかも知れないけど」

 

ミオ「どうしてもコンボ寄りになってしまいますね」

 

アリサ「一応、手札交換もついてるから、カードを揃えるのは得意だけど……G1でV限定なのよねえ。

パンプはいらないから、どの領域でも手札交換できるようにして欲しかったかな」

 

ミオ「どっちつかずで損しているカードですね」

 

ユキ「ギガントードー!!」

 

 

●むらくも「忍妖 ダンガンニュードー」

 

アリサ「ブーストできるG3。ソウルに入ってドローもできるG3」

 

ユキ「書いてあることは悪くないのだけれど、サブヴァンガードとして扱いやすい強力なG3が多いむらくもでは物足りないかしら」

 

アリサ「ヒャッキ、シラユキ、マンダラロード……確かに充実してるわね」

 

ユキ「自らソウルになれるG3というのが一番の魅力かしら。今は侍大将くらいしかいないけれど、G3のSBを必要とするヴァンガードが増えれば活躍の場もあるかもね。理想はプラチナエイゼルのような『G3がソウルに2枚』という条件だけど」

 

アリサ「ダンゼツアナークも、1弾とんで出番が回ってきたわけだしね」

 

 

●むらくも「忍妖 キリフブキ」

 

ユキ「あら、完全ガードもやらせてくれるの?」

 

アリサ「いや。これを機に物申したいことが。

今回の完ガ全員、イラストアド高くない?」

 

ユキ「みんな女の子ですしねえ」

 

アリサ「コレクション性が高くて嬉しいような、デッキに入れられなくて悔しいような」

 

ユキ「むらくもは優秀なG1が多いので、G1の枠を増やしたいという意味で、引完ガが優先されるかしら」

 

アリサ「くっ!」

 

ユキ「『特務』デッキなら可能性はあるかも知れないわね。引トリガーが欲しいデッキではあるけども、★と(フロント)を12枚投入した前のめり構築もなくはないし、どうせレッドにライドするまでの手札は全て捨てることになるのだから、ライドして手札交換するのも悪くはないわ」

 

ミオ「ジライヤと合わせれば、ライド時に手札交換できるG1が8枚になりますね」

 

アリサ「キューティクルデッキに『アポーリング・スレッド』は絶対に入れたいんだけど……」

 

ユキ「諦めなさい。あれから引トリガーは絶対に抜けないわ」

 

アリサ「シャドウパラディンのは『魔女』だし、いずれ使える日が来るかもね」

 

 

●むらくも「忍妖 オーガスパイダー」

 

アリサ「オーガでスパイダーだけど種族はゴースト」

 

ユキ「ダートスパイダーはインセクト」

 

アリサ「それはともかく、メチャ楽しそうなんだけど、使えるのコレ?」

 

ユキ「むらくもはヴァンガードもリアガードもコストをガンガン使っていくから、大技は狙いにくいのよねえ。そのくせ、どこかのオオカミさんのせいで、まだまだカウンターチャージはもらえそうにないし」

 

ライト・アレスター「すまん」

 

アリサ「『特務』との相性はどうかな? 使うCBは1だけだし、G2の段階で大量展開しておいて、オーガスパイダーですぐ取り戻すの」

 

ユキ「『特務』を相手にした場合は、リアガードを潰してくる人も多そうだけど……」

 

ミオ「どこかのウルフのせいで、むらくもに3点以上の表ダメージを与える事を嫌う人もいますしね」

 

ライト・アレスター「すまん」

 

ユキ「けれど、面白そうというのは否定しないわ。しっかり考察してみましょう。

可能性があるとすれば、特務レッド→シラユキ→オーガスパイダーかしら。何らかでソウルチャージしていることが条件だけど。

一番良さそうなのはマンダラロードね。ギリギリオーガスパイダーのコストを阻害せず、事前に展開もできることから、7~8枚ドローも夢ではないかも」

 

ミオ「マンダラロードと相性のいいカードは、コストを使用しないものも多いですしね」

 

 

●むらくも「砕破の忍鬼 ミヤコ」

 

アリサ「ついに来た! むらくもの★2バニラ!!」

 

ユキ「アラクレダヌキではなかった……」

 

アリサ「そんな期待してたの!?」

 

ミオ「むしろ、ぬばたまの★2バニラ(G2)がアラクレダヌキになりそうです」

 

ユキ「まあ、これはこれで可愛らしいのでよしとしましょう」

 

アリサ「それはそれとして、実際にどうなの? 使えそう?」

 

ユキ「まず、侍大将との相性が抜群ね」

 

ミオ「ああ、なるほど」

 

アリサ「え、今ので理解できたの!?」

 

ミオ「はい。侍大将は先攻を取った場合はG2までしか呼べないパターンがあるのは説明した通りですが、そのタイミングでミヤコを持ってくるわけですね」

 

ユキ「正解よ。序盤に出したい、大量投入したくない、終盤に引きたくない、強力なブーストやパンプが欲しい。★2バニラのわがままが、侍大将デッキにピン挿しするだけで、全て解決してしまうのよ」

 

アリサ「すごいけど、これは御大将がすごいと言い換えたほうがいいかも知れないわね……」

 

ユキ「マンダラロードでばら撒くのも楽しそうよ。死にやすいのは気になるけれど、オーガスパイダーとの相性だって悪くは無いわね」

 

アリサ「本当にどんなデッキでも組めるわね、むらくもは!」

 

ミオ「まさしく変幻自在ですね」

 

ユキ「侍大将、マンダラ、ヒャッキ、シラユキの汎用性が途轍もないのよねえ」

 

 

●むらくも「忍獣 ブレイズンエイプ」

 

アリサ「さすがにアクセルクランに15000ガードのG1は入らないんじゃない?」

 

ユキ「『特務』なら入るわよ」

 

アリサ「えっ」

 

ミオ「後列はホワイト以外に無いと割り切るわけですね。場に出すことが無いのなら、ガード値が高い方が得という考え方です」

 

ユキ「その通り。除去にますます弱くなるから必須と言うわけではないけれど、選択肢としては十分ね」

 

 

●むらくも「万余の忍鬼 サンジー」

 

ユキ「最後の最後で隠し玉。パワーは7000だけれど、同名カードが1枚いれば+5000、2枚以上いれば+10000のブースト要員よ」

 

ミオ「侍大将なら、ほぼ無条件で17000として運用できますね」

 

アリサ「優秀なブースト要員まで揃っているのね、御大将は」

 

ユキ「侍大将以外では、マンダラロードでも使えそうね。この子はまだまだやれるわよ」

 

ミオ「むらくものG1は優秀なユニットが多いですが、素のパワーが7000のユニットも多い点には注意です」

 

ユキ「リグルバイターやウィーズルホワイトのような、パワー8000のユニットもバランスよく採用しましょうね」

 

 

●終幕

 

アリサ「結局、G0以外考察してるじゃないの!!!」

 

ユキ「うふふ……」

 

アリサ「誤魔化すな! メガコロの時も、絶対に同じことするからね!?」

 

ユキ「ふふふ、ご自由に……」

 

ミオ「成すべきことを成し遂げた人の顔をしていますね」

 

アリサ「なんかムカつくけど、まあいいや! ……ところでこっきゅんは?」

 

ミオ「この暑さで溶けてます」

 

アリサ「氷属性!!」

 

ミオ「別にこっきゅんさん本体が氷でできているわけでは無いと思いますが……」

 

アリサ「では、次回は9月の本編でお会いしましょー!!」

 

こっきゅん(溶)「さーらーばーだー」




『幻馬再臨』の発売から一週間空いておりますが、この文章は発売日前に書いています。
見当違いのことが書いてあっても、笑って許してくださいませ(挨拶)

そしてここからは実際にプレイした感想ですが、オーガスパイダーは割とガチでした。
マンダラロードと想像以上に相性がよかったです。
7枚ドローの快感はクセになりそう。
むらくもはデッキ構築からファイトまで全く飽きないですね。
無人島にデッキを1つ持っていくなら、むらくも一択です。

次回、9月の本編は9月1日前後に掲載する予定です。
9月からは、セリフが多かった割には名前も出なかった「彼ら」が、本格的に物語へと関わってきます。
さらに9月はメガコロあり、ヴァンガードエクスありと、盛り沢山の内容になりそうです。
楽しみにして頂ければ幸いです。
栗山飛鳥でした。




次回のメガコロはまさかのデッキデス!?


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Ex.11「The Raging Tactics」

●序幕

 

アリサ「2019年9月6日。

約束の地が悦びに包まれる。

花は踊り、鳥は歌い、風はそよぎ、月は輝く。

誰もが幸福になれる、奇跡の日。

祝福せよ!、世界はこれほどまでに美しい!!

1年2ヵ月と7日ぶりにメガコロニー強化ぁっ!!!

ひゃっほーーう! おーめーでーとー!!!」

 

ミオ「おめでとうございます」

 

ユキ「はいはい。おめでとう」

 

アリサ「長かった! 永かったよう! やっぱり1年越えると、もうダメ。

手足は震えてくるし、頭は痛くなるし、幻聴は聞こえてくるし」

 

ミオ「それはメガコロニーに悪い成分が含まれているのでは」

 

ユキ「ダメ、ゼッタイ!」

 

アリサ「けど、もう大丈夫! ああ、空気ってこんなにも美味しかったのね! 生きててよかった!」

 

ユキ「アリサはもちろんご機嫌だけど、作者もかなり機嫌がいいので、今回の『The Raging Tactics』回では、たちかぜとスパイクブラザーズでも、気になるカードを個別で解説していくとのお達しよ」

 

アリサ「ハレルヤ! たちかぜに愛を。スパイクに祝福を」

 

ミオ「とてつもなく都合のいい聖女がここにいます」

 

 

●たちかぜ 『轟剣竜 アンガーブレーダー』

 

ミオ「まずはたちかぜからですね」

 

ユキ「今回のたちかぜは武装ゲージ方面を大きく強化。たちかぜお得意の『共食い』無しでも戦えるようになっているわね」

 

アリサ「その分、アドバンテージ獲得能力はブライトプスやメガレックスをフル活用した型より劣る印象ね。

強化して連続攻撃で攻め落とす、たちかぜらしいというよりかは、アクセルらしい戦い方になったのかな」

 

ミオ「それでは一緒に注目カードを見ていきましょう。まずはVRの『轟剣竜 アンガーブレーダー』です」

 

ユキ「無制限に使用可能な1:1の除去+武装ゲージに、攻撃時にCB1で武装ゲージが3枚乗っているユニットをスタンドさせる能力ね」

 

ミオ「ギガレックスより武装ゲージの生産効率は劣るものの、起動能力で足りない武装ゲージを即時用意できる点は勝っていますね」

 

アリサ「好きな武装ゲージを生産できるのもポイントよ。アンガーブレーダーが生産した武装ゲージをブライトプスに乗せて、それを処理することで、アンガーブレーダーのコストにしたユニットを手札に戻すことができるわ。

登場時能力で武装ゲージを生産できるユニットも多いから、そこで武装アドも取り返せるわね」

 

ミオ「また新しいアドが誕生しました」

 

ユキ「3体をスタンドさせる能力はどうかしらねえ」

 

アリサ「最大効率を求めるなら盤面に武装ゲージが9枚必要なわけでしょ? ギガレックスの5枚も大変だったのに。武装ゲージを扱うユニットが増えたとは言え、アンガーブレーダーの武装ゲージ生産効率を考えたら難しそうよね」

 

ユキ「まあ、スタンドするユニットが2体でも、相当強力ではあるのだけれども」

 

アリサ「だよねえ」

 

ユキ「そして、こんな見た目だけど単体パワーは最大で17000」

 

アリサ「かわいい!」

 

 

●『破壊竜 ダークレックス』

 

アリサ「暴 君 復 活 ! !」

 

ユキ「武装ゲージがある限り、何度でも蘇る。『除去に強いたちかぜ』を決定付けるカードね」

 

アリサ「攻撃力もなかなかの異次元。アンガーブレーダーの条件を満たせているなら、最低でも単体30000! ギガレックスの攻撃後なら、武装ゲージ0からでも平気で20000は越えちゃう!」

 

ミオ「アンガー特化、ギガレックス特化、どちらでも投入できそうな、優秀なカードですね」

 

 

●『掃討竜 スイーパーアクロカント』

 

アリサ「預けて安心、武装ゲージ銀行」

 

ユキ「武装ゲージ1枚につきパワー+5000。武装ゲージが3枚以上なら、相手の効果で選ばれない。パワー増加は相手ターンでも適用されるから、3枚あれば24000受け。これを除去するのは至難の業ね」

 

ミオ「アンガーブレーダー軸での主力になるのは間違いありませんね」

 

 

●『鋭棘竜 ポラカンスパイン』

 

アリサ「コツコツ貯めよう、武装ゲージの貯金箱」

 

ユキ「せっかく武装ゲージを積んだユニットを除去されるのは、たちかぜでは嫌な展開だけれど、このユニットに預けておけば安心ね」

 

ミオ「たちかぜなら必要に応じて自分から割れますしね」

 

アリサ「しかも利子までついてくる!」

 

 

●『サベイジ・アカデミアン』

 

アリサ「ギガレックスの後列にでも置いておけば、毎ターン卵を孵してアドを稼いでくれるお姉さん」

 

ミオ「アンガーブレーダーでも、登場時能力持ちのユニットをアカデミアンの武装ゲージにすることで、すぐにコールし直すことができますね」

 

アリサ「実質、SB1で1体除去+武装ゲージね」

 

ミオ「その後、お姉さんももれなくアンガーブレーダーの餌ですが」

 

アリサ「ひどい!!」

 

ユキ「まあ、パワー8000のG2でレスト能力持ち。スカイプテラのような直接的な能力では無いけれど、限りなく餌に近いデザインよねえ」

 

 

●『サベイジ・マーセナリー』

 

アリサ「パワー27000 コモン」

 

ユキ「…………」

 

ミオ「…………」

 

アリサ「って、何よコイツ! アンガーブレーダーより強いじゃないの!」

 

ユキ「人間の可能性を垣間見たわね」

 

アリサ「制限はたちかぜならあって無いようなもの。特にギガレックスならタダも同然。御し難くない!」

 

ユキ「デスレックスと比較しても、最大パワーでは劣るものの、安定感はこちらの方が上。リアガードとしてなら遜色無いわ」

 

アリサ「手札にこれしか無い場合、ライドできず、Gアシストすらさせてもらえない、呪いのカードと成り果てるわけだけど」

 

 

●『アーマードマンモス』

 

ユキ「前回登場した『アテンプトマンモス』の豪華版ね。アンガーブレーダーなら、リアガードと手札を全て武装ゲージにしてしまうことで、途轍もないガード制限をかけることができるわ」

 

アリサ「というか相手のダメージ5の場合、自分のリアガードと手札を足した数が、相手の手札総数を上回っている時点で勝ち確定なのよね。治トリガーは考慮せず、だけど」

 

ミオ「グランブルーで言う『バイオレンス・フランガー』に近いポジションでしょうか。その存在自体が対戦相手にプレッシャーをかけるカードと言えますね」

 

アリサ「こんな時に輝くのがプロテクトⅡ!!」

 

ユキ「そんなの、とっくにアンガーブレーダーに除去されてるわよ」

 

アリサ「ちくしょう!!」

 

 

●スパイクブラザーズ 『デッドヒート・ブルスパイク』

 

アリサ「スパイクの新戦術は、フォースをパスしながら戦うチームプレイ!

フォースはトモダチ、怖くない!」

 

ミオ「その戦術を支えるのがVRの『デッドヒート・ブルスパイク』です。自ユニットがアタックした時、フォースサークルをそのユニットに付け替えます」

 

アリサ「ブルスパイクの力をもってすれば、フォース効果は常に3倍も同然。フォースⅡは一度のライドで全ライン★+2だし、フォースⅠなら乗り直すたびに6倍、9倍とステップアップ!

モルドレッドもこれにはびっくり!」

 

ユキ「もうひとつの効果も凄いわよ。フォース付きのアタックがヒットしなかった場合、1枚引いて、敵を1体退却させるの」

 

ミオ「フォースⅡを選べば、毎ターンの発動は決定的ですね」

 

 

●『バッドエンド・ドラッガー』

 

ミオ「スパイクのRRR、『バッドエンド・ドラッガー』は、CB1とリアガードを1枚山札の下に置くことでパワー+5000、★+1。この効果はVでもRでも使えます。

もう一つの効果は、ライドされたらRにコールして、同列の相手リアガードを全て退却させます。

安定したサブヴァンガードですね」

 

アリサ「えっ?」

 

ユキ「え……?」

 

ミオ「どうしました?」

 

アリサ「いや、てっきりパワー+50000くらいして、★+5くらい言うものかと」

 

ユキ「私は、ライドされたらRにコールして、相手リアガードを全て退却させた後、フォースを5つ得るものかと思ったわ」

 

ミオ「お二人とも、バッドエンドに何か嫌な思い出でもあるんですか?」

 

 

●『パワーバック・レナルド』

 

アリサ「愛してるぜ……!!」

 

ユキ「変なアテレコしないの」

 

ミオ「能力はスパイクバウンサーをよりピーキーにした感じですね。手札コストは必要なものの、一気に3体のユニットをコールできます」

 

ユキ「トリガーがめくれても、バッドエンドのコストにできるわね」

 

アリサ「今のシャドパラよりシャドパラらしいことやってる!」

 

 

●『ガンワイルド・ウルフ』

 

アリサ「強い。強いんだけれども」

 

ユキ「これを見ていると、アンガーブレーダーの補助があるとは言え、『アーマードマンモス』がいかに常識はずれのことをしているか分かるわね」

 

アリサ「とは言え、こっちも相当のトンデモフィニッシャーよ。何といってもフォース所属。ダメージ4からの一撃必殺だって狙えるんだから」

 

ミオ「投入するなら、構築難易度はやや高くなりそうですね。このカードも含めて、G3は多めになりそうです」

 

アリサ「細かいこと考えている間に、ブルスパイクで押し潰せそうだけどね」

 

 

●『デトネイト・バーレル』『ブレイキング・グランモービル』

 

アリサ「ブルスパイクだけじゃない! ザイフリートをサポートするカードも登場!」

 

ユキ「同名カードをSBすることで、強力なカードを発揮するカード達ね。ザイフリートなら容易に条件が満たせるわ」

 

アリサ「武装ゲージを消費するカードはギガレックスと相性がいいし、後で嫌と言うほど語るけどスパーク・ヘラクレスも今回のパックでかなり強化されてるのよね」

 

ユキ「2018年の強化という看板に偽り無しね」

 

アリサ「そのおかげか、3クラン全部、VR以外じゃロクにデッキが組めないのよね。シャドパラ並に」

 

ユキ「幸いと言うべきか、新VRでデッキを組むにしても、旧VRでデッキを組むにしても色んなパターンで組めそうなのは救いよね。デッキ構築は存分に楽しめそう」

 

ミオ「どのクランでも、折衷型のデッキも組めそうですしね」

 

 

●『イントリーグ・センター』

 

アリサ「そのスペックじゃ、ビッグプレイは難しいと思うな!?」

 

 

●メガコロニー 『真魔銃鬼 ガンニングコレオ』

 

アリサ「ついにメガコロのターン!!

メガコロの新戦術はまさかのデッキデス……の皮を被ったギャンブル効果!

グレートネイチャーのような、ハズレ無しの一番くじなんかじゃない!

スキルのひとつひとつが伸るか反るかの大博打! ひゃっほい!」

 

ミオ「VRの『真魔銃鬼 ガンニングコレオ』は、まさしくその象徴とも言えるカードです」

 

アリサ「Vに登場時、パワー+5000、ドライブ+1! ここまではいい!

相手のデッキトップをドロップして、それがG3以上なら、さらにパワー+10000! ドライブ+1!

相手のデッキからG3がポロリするのもかなりの幸運なのに、得られる恩恵はドライブチェックという更なるギャンブル!!

競馬で儲けたカネでパチンコに行くおっさんか、あんたは!!」

 

ユキ「それを使うアリサは、ダメ亭主に金を貢ぐダメ女房……」

 

アリサ「やめて! 違うから!

結局、ドライブで恩恵が得られなければ、カードが1~2枚増えるだけ。

それが弱いとは言わないけど、最近のバケモノVRと渡り合うのはちょっと厳しいかも」

 

ミオ「もう一つの効果はどうでしょうか」

 

アリサ「G3のSBで相手のデッキトップをドロップ。相手はドロップしたカードと同じグレードをコールできない!

要はG0が落ちれば大アタリね。概ね守護者もコールできなくなるし、総ガード値もガクッと落ちる。『ファントム・ブラック』とコンボすれば、相手はガードそのものができなくなるわ」

 

ミオ「おお」

 

アリサ「ただし、G3がポロリしたら実質何も起きない」

 

ミオ「え、ええ……?」

 

アリサ「ゲームエンド級のフィニッシャーが当たり前のG3SBでハズレがあるって、相当のぼったくりよ!?

上の効果でG0が落ちて、下の効果でG3が落ちたら、その日はもう立ち直れないかも!」

 

ユキ「さて。そんなガンニングコレオだけど、アリサはどう組むの?」

 

アリサ「うん。まず、引トリガーは多めでも大丈夫かと思ってる。調整は必要だろうけど、最初は8枚で試してみようかと考えてるよ」

 

ユキ「それはまた思い切ったわねえ」

 

アリサ「毎ターン、ガンニングコレオにライドするのは大前提と思うのよね。せっかくドライブも増やせるんだし、ガンガン引いて、コレオを手札に加えるチャンスを増やさなくちゃ。

何せ、こっちがデッキ切れで負ける心配は無いんだから」

 

ミオ「ああ、なるほど。

デッキデスを、遠回りかつ究極的なデッキ切れ対策と見ているわけですね」

 

アリサ「デッキデスギャンブルの成功報酬にはドローやソウルチャージが多いから、過信は禁物だけどね。

けど、相手がドローやソウルチャージを全くしないなんてことは無いと思うし、ギャンブルには失敗もあるし。引トリガー8枚程度じゃ、デッキ切れはまず間違いなく対戦相手が先だよ」

 

ユキ「よく考えてるわね。それで?」

 

アリサ「なんだか答えを知った上で聞いてる感じなのが腹立つけど。

たぶん、スパークヘラクレスも採用することになるかな」

 

ユキ「サイクロマトゥースではなく?」

 

アリサ「マトゥースも使うよ。マンティス、ホーネットはフル投入だから、G3はたくさん入れなきゃだし。

まず、コレオはコストを使わずアドは稼げるけど、フィニッシャーとしては不安定。

一方、スパークヘラクレスはコストはかかるけどフィニッシャーとしては最強クラス。

コレオでアドを稼いだ後、シメにライドするのはスパークヘラクレスが理想なのよ」

 

ミオ「互いの弱点を補い合う関係になっているわけですね」

 

アリサ「うん。だから、スパークヘラクレス軸でもコレオは入れたいと思ってるよ。

スパークヘラクレスの弱点は、小隊長が引けなかったり、相手にダメージを止められたりで、効果を使えないターンができること。

そんな時、ガンニングコレオにライドできれば、攻めの勢いを殺すことなくアドも稼げる。

ダメージが溜まったら、またスパークヘラクレスにライドし直せばいいだけよ」

 

ミオ「再ライドにディスアドが生じないプロテクトかつ、G3を集めるのが上手いメガコロならではの戦い方ですね」

 

アリサ「G2とG1は……ここで考察する必要は無いわね。この後に紹介するカードと一緒に考えていきましょう。

……ぷはーっ、なんだか疲れたぁ」

 

ユキ(この子、根がマジメだから、本気で考えだすとボケられないのよね……)

 

 

●『無双剣鬼 サイクロマトゥース』

 

アリサ「ついにっ! ついにっ! ついについについについについにっ!!

サイクロマトゥースが帰ってきたあああああっ!!!」

 

ミオ「そんなにすごいカードなんですか?」

 

アリサ「そりゃあもう! メガコロが最も辛くて苦しかった時期に、ヴァンガードのスタンド封じという新たな地平を切り拓いた悪の救世主!

ヴァンガードスタンド封じの脅威が認知されるのは、そこから1年先。マトゥース自体が活躍できるようになるのはさらに時間がかかるのだけど、彼が遺した功績は、全メガコロ使いが忘れることは無いと思うわ!

その証拠に、ほら。ファイターズグッズフェスティバルの人気投票では、メガコロ部門で堂々の1位よ」

 

ミオ「ああ、コキュートス(こっきゅん)さんがランク外だったやつですね」

 

ユキ「掘り返さないであげて……」

 

アリサ「ちなみに作者が一番好きなユニットもサイクロマトゥースよ」

 

ミオ「アリサさんは?」

 

アリサ「え?」

 

ミオ「アリサさんの一番好きなユニットはなんですか?」

 

アリサ「デ、『デスワーデン・アントリオン』……」

 

ユキ「うらぎりものー」

 

アリサ「う、うるさいわね! 最初に組んだデッキのメインヴァンガードなんだから、愛着があるんだもの! 仕方がないでしょ!

それでも、サイクロマトゥースが繋いだ未来があるからこそ、今のメガコロがあり、あたし達がいる! その感謝の念を忘れたことは片時も無いわ」

 

ユキ「そんなありがたい『英雄殺しの英雄(アンチヒーロー)』の効果を見ていきましょうか」

 

ミオ「はい。まず、VとR兼用の効果です。アタック時、CB1とSB1でパワー+10000。デッキトップをドロップし、それがG1以上なら、さらに★+1ですね」

 

アリサ「今までギャンブルギャンブルと言ってきたけれど、これはマジでギャンブルよ。

というのも、★+1というのはタイミングが超重要だから!」

 

ユキ「詳しく説明してくれるかしら」

 

アリサ「例えば、相手のダメージが4の状態で、サイクロマトゥースがギャンブルをはずすのは致命的なのよ。

次のターンには相手のダメージが5になっているかも知れない。タイミングを逃した★+1には意味が無いわけ。

後で紹介する『ハイディング・キラーリーフ』なんかはギャンブル報酬がドローだから、いつ成功しても腐りにくいんだけどね」

 

ミオ「欲しい状況が限られている効果だからこそ、確実性が何よりも求められているわけですね」

 

アリサ「もっと極端な例を出せば、相手のダメージは4。コレオの下の効果でG0が落ちた。リアガードにはサイクロマトゥースとファントム・ブラックが並んでる。これは勝ったと思ってマトゥースで斬りかかったら★+1不発。なんて、さすがに笑えないでしょ」

 

ミオ「それを笑い飛ばせるのがアリサさんだと信じています」

 

アリサ「あ、ありがと……」

 

ユキ「ふふ。デッキデスとして見れば優秀よね」

 

アリサ「そうね。ギャンブルが成功しても自分のデッキを削らない効果はとっても貴重よ。これを1~2回仕掛けておくだけで、デッキレースは制したも同然ね」

 

ユキ「もうひとつの効果も見てみましょうか」

 

ミオ「はい。ライドされた時に1枚ハンデスして、そのグレードに応じてパワーを上げるシンプルな効果ですね」

 

アリサ「えっ?」

 

ユキ「え……?」

 

ミオ「おや、既視感が」

 

アリサ「てっきり相手の手札をすべて捨てさせるものかと」

 

ユキ「私は、山札を5枚くらいドロップに落とすかと思ったわよ」

 

アリサ「邪道で勝つのが、やっぱりサイクロマトゥースらしいよねー」

 

ユキ「とは言え、これもなかなか邪悪じゃないかしら」

 

アリサ「そうね。コレオにライドできなくても、これなら悪くないかな。★+1は成功が前提だけど。

次のターンでコレオに乗れた時の、ハンデス+トリプルドライブは魅力十分」

 

ユキ「ハンデスが入る時点では、コレオの下の効果で何のグレードを制限されるか分からないのも嫌らしいわね」

 

ミオ「G0を捨てたら、G1を制限されて、結局ガード値が足りなくなったなんてことはありそうですね」

 

アリサ「相手にもギャンブルを押し付ける効果と言えるかしら。お前も汚泥を味わえ ってね」

 

ユキ「悠長にアドを稼ぐコレオが苦手なアクセル系のデッキに強いのも魅力よ。★+1もハンデスも、アクセル系のデッキに引導を渡すには十分。

引きに身を任せるだけじゃなく、相手によってコレオにライドするか、マトゥースにライドするか、使い分けていきたいわね」

 

 

●『槍撃怪人 メガララランサー』

 

アリサ「バカっぽい名前とは裏腹に、メチャカッコいいRRRのG2ね!」

 

ミオ「アタック時、レストしているユニットの数だけパワー+2000です。安定こそしませんが、そこそこ高い攻撃力は期待できそうです」

 

アリサ「3体の+6000が安定するなら、今のメガコロとしては採用圏内かな。メガコロにはCBの消費が激しいユニットが多いから、採用せざるをえないデッキも多そうだけど。

インターセプトされると攻撃力が下がってしまうから、基本的には初手で殴ること」

 

ミオ「インターセプト封じもありますしね」

 

アリサ「そうそう。けど、コストが控えめに言って意味不明なんだけど。

初手に攻撃することを推奨しているデザインなのに、リアガードのソウルインって。何なの、その無駄だらけの動きは」

 

ユキ「インターセプトされるのは諦めて、好きなカードをソウルに入れられるカードとして見たらどうかしら?」

 

アリサ「メガコロはG3SBも多いしね。効果を使い終わったスターグビートルや、その弾として筆頭候補の『ウォーター・ギャング』をコストにできると面白そうかも」

 

 

●『マシニング・オーナメンタル』

 

アリサ「出た! マシニング兵器局がたまにやらかすポンコツ枠!

まずは登場した瞬間、自分以外のリアガードをすべてレストする!

いきなりデメリットから書き出す根性は、ある意味、尊敬に値するわ。

こいつのパワー27000だったっけ?」

 

ユキ「プロテクトを持っているけれど、絶対にライドしたくないわねえ」

 

アリサ「次に、2つの効果からひとつを選ぶ!

ひとつ、レストしているリアガードをすべて選び+5000!!」

 

ミオ「それって……」

 

アリサ「察しがいいわね。もちろん相手リアガードも+5000よ。

ヴァンガードに攻撃を集中させればいいだけの話なんだけど、この期に及んでデメリットを書き連ねる神経が理解できないわ」

 

ミオ「そもそもレストしているユニットを+5000させても、こちらは意味ありませんしね。

いえ、解決策は知っているのですが」

 

アリサ「ちなみに、この+5000。ヴァンガードはもちろん、本人にも乗らないわ。ことごとくポンコツ!」

 

ユキ「もうひとつの効果は何かしら?」

 

アリサ「ふたつ、次の相手スタンドフェイズに、相手は2体までしかユニットをスタンドできない!

ヴァンガードも含めてるから、実質相手はリアガードを1体しかスタンドできなくなるわね」

 

ユキ「今の環境、ヴァンガードは再ライドしてくるから、2体スタンドされることも多いでしょうけど」

 

アリサ「知らない人が未だに多いんだけど、レストしているヴァンガードも、ライドする時にはスタンド状態でライドされるからね!」

 

ユキ「この子にはもう一つ効果があるのよね」

 

アリサ「みっつ、マシニングのG3をSBすることで、両方の効果を適用できる!

仕上げに、ミオちゃんが示唆していたスパークヘラクレスの効果を使って全員をスタンドするの!

めでたく、既に+5000されている(ポンコツ除く)ユニットに+5000され、既にスタンドできなくなっている相手をさらに-5000するわ!

って、スパークヘラクレスと仕事が被りまくってるじゃないの!!」

 

ミオ「オーバーキルもいいとこですね」

 

アリサ「コレオの項でも言ったけど、スパークヘラクレスで欲しかったのは、スパークヘラクレスの効果が使えないターンに継戦してくれるユニットだったの。

スパークヘラクレスがいなければ機能しない効果なんて、真逆もいいとこじゃない!

フィニッシャーなら、スパークヘラクレスと相性がよく、スパークヘラクレスができない★+1と守護者封じを同時にやってくれるアントリオンで足りてるの!

マシニング兵器局の連中は、現場を分かってないのよ! テキストだけ見て、相性よさげなこと書いときました感が見え見えよ!」

 

ミオ「荒れてますね」

 

ユキ「そうねえ」

 

アリサ「とまあポンコツポンコツと言い連ねてきたけど、その攻撃力だけは本物よ。

相手ターンに対する保険もあるし、トドメを刺せるか分からない状況からでも思い切って使っていけるのは、アントリオンには無い強みね。

だからと言ってアントリオンを越えるのか、ましてやコレオに勝てるのかは疑問だけれどね」

 

 

●『七色怪人 スタッガーセブン』

 

ミオ「うーん うーん」

 

ユキ「どうしたの、ミオ? 台本を抱えて、棒読みで唸ったりして」

 

ミオ「うーん 私はサイクロマトゥースでデッキを組みたいよう。せっかくのサイクロマトゥースなのに、コレオのサブヴァンガードなんてイヤだよう」

 

アリサ「そんなアナタには、これがオススメ! 『七色怪人 スタッガーセブン』!!」

 

ミオ「それはどんなユニットなのアリサおねえさん」

 

アリサ「CB1で全ユニットがレストしているなら+20000!! さらにG3を2枚SBすることで相手に手札を捨てさせる。相手は捨てた手札と同じグレードでしかガードできない!」

 

ミオ「コレオはライドするたびにG3SBを使うから、サイクロマトゥース向けのカードということなんだね」

 

アリサ「ううん。同じクワガタムシだから」

 

ミオ「…………」

 

アリサ「り、理想の展開は『サイクロマトゥース→サイクロマトゥース→任意のG3』とブレイクライドを繋いで2ハンデス。さらにスタッガーセブンをコールしてもう1ハンデス+ガード制限!」

 

ミオ「すごーい。これなら私でもサイクロマトゥースデッキが作れそう」

 

アリサ「スタッガーセブンの凄い点は、単なるフィニッシャーに留まらない点ね。ソウルのG3が足りなくてもパワー+20000は機能するから、序盤からガンガン殴って相手をダメージ5に追い込むことができるの。

弱点は、対策され易い点かな。相手が本気でスタッガーセブンを嫌うなら、適当なユニットを立たせておくだけで効果が封じられちゃう。

それでもノーコストでスタンド封じが入ってるわけだから悪くはないんだけど、存在を悟られないように手札に温存しておくプレイングも必要かもね」

 

ミオ「私、やっぱり根絶者を使おっと」

 

アリサ「変なアドリブ入れないで!」

 

ユキ(……何なのこの茶番は)

 

 

●『ブローニィ・ジャーク』

 

アリサ「今回のメガコロで何が一番優秀かって聞かれたら、あたしは迷わずコイツを推すわね。

まずはギャンブル効果。SB1でパワー+6000し、相手のデッキトップをドロップ。それがG1以上ならソウルチャージ!」

 

ミオ「ギャンブルに成功したら、消費した分がキャッシュバックされるわけですね」

 

アリサ「この効果で評価できる点は絶妙なバランスかな。

コレオを除いて、メガコロのギャンブル失敗は、相手のトリガーをカットしたという副次効果があるの」

 

ミオ「落とした相手のカードがG0以下なら失敗ですからね」

 

アリサ「高いコストを払って★+1を得られないマトゥースは、その程度のオマケじゃ満足できないでしょ。

けどコイツなら実質ノーコストで+6000か、SB1で+6000しつつトリガー操作の2択になるの。

どっちに転んでも、悪くない取引だと思わない?」

 

ミオ「落としたのが治や引なら、SB1では安いくらいですね」

 

アリサ「でしょ? これだけでも採用したくなるような面白いカードなんだけど……もう一つの効果が割とヤバめ」

 

ミオ「ふむ」

 

アリサ「G3以上に攻撃しているユニットをブーストした時、手札を1枚捨てることで相手にもハンデス! ダメージもソウルも使わない、問答無用の1:1交換! 自分にとって都合のいい時だけ要求されるであろう理不尽な取引は、これぞまさしくメガコロニー!!

コレオとの相性は抜群で、稼いだ手札が一転、相手の手札を削る凶器となるわ。

スパークヘラクレスの攻撃力なら、1枚のハンデスが決定打になりかねないし、サイクロマトゥースのハンデスに、さらなるハンデスを重ねるのも面白いわね」

 

ミオ「現状のメガコロと全てが噛み合っているわけですね」

 

アリサ「1体だけでも厄介だけど、2体以上並べばVR級のフィニッシャーにだってなりえるわ。

何かと不安定だったり、パッとしなかったり、ポンコツだったりする今回のメガコロの中で、圧倒的存在感を放つ良作!!」

 

 

●『マシニング・センチピード』

 

アリサ「ポンコツ2号」

 

ミオ「ミもフタもないですね」

 

アリサ「というか、なんでマシニングに2体もG3がいるのよ。スパークヘラクレスとスターグビートルで既に8枠埋まってる激戦区でしょーが」

 

ユキ「……ところでミオ」

 

ミオ「はい」

 

ユキ「ツインドライブを失ったヴァンガードが攻撃したら、どうなるか知ってるかしら?」

 

ミオ「シングルドライブになります」

 

アリサ「正解! って、何で正解しちゃうのよ! そこはドライブチェックできなくなりますって間違うところでしょ!?」

 

ミオ「すみません」

 

アリサ「ちなみに作者は勘違いしていたからね! 工夫と環境と今後のカード次第では化けると思ってたのが哀れだわ!」

 

ユキ「ヴァンガードはじめて半年の初心者に知識で負ける、最初期からやっている大古参……」

 

アリサ「最初期からやってるなら、初代オーバーロードも知ってるでしょ!?

そんな作者の記憶力並にポンコツなカードだけど、今後のカード次第で化けるという部分だけは意識しておいてもいいかもね」

 

ユキ「安定してユニットをレスト・スタンドできる環境さえ整えば、書いてあることは決して弱いカードでは無いものね」

 

アリサ「今は大切にアルバムイン! イラストもヤバカッコいいしね」

 

 

●『ハイディング・キラーリーフ』

 

アリサ「アタック時、CB1とSB1でパワー+10000。デッキトップをドロップし、それがG1以上なら1枚引く!」

 

ミオ「ギャンブルの入門用と言えるカードですね」

 

アリサ「弱くは無いんだけど、ちょっと物足りない感じかな。引いたカードをすぐに使えないのもマイナス点かも。

このコストなら、普通にドローさせてくれるG2も他クランにはいるし……」

 

ユキ「うちはうち。よそはよそ」

 

アリサ「不安定の代償がパワー+10000とデッキデスじゃねえ」

 

ミオ「ギャンブルは身を滅ぼすということを教えてくれるカードでしたか」

 

 

●『マシニング・レディボンバー』

 

アリサ「ポンコツ3号」

 

ミオ「ポンコツしかいませんね」

 

アリサ「マシニング兵器局は、リーサルウェポンとポンコツを交互に生産する傾向があるのよね。前回が高性能すぎたのよ」

 

ミオ「スパークヘラクレスも、マンティスも、ホーネットも現役というか、評価が上がっているくらいですしね」

 

アリサ「スパークヘラクレスで消費したCBを回復させようってデザインなのに、スパークヘラクレスを先に使うとパンプもされないしレストされたままなのは、ポンコツ通り越して欠陥品なんじゃないかって思うわ」

 

 

●『フラワリィ・ティアラー』

 

アリサ「かーわいいー!!」

 

ユキ「R加工があつらえたように似合っていて綺麗ねえ」

 

アリサ「コレオデッキやマトゥースデッキならほぼほぼ13000ブースト! G1は優秀なカードが多くて悩ましい部分だけど、迷ったらこれで問題無し!」

 

 

●『ヘイタブル・スポット』

 

アリサ「え。これVRよね?」

 

ミオ「バニラコモンです」

 

アリサ「いやいやいやいや! それにしてはカッコよすぎるからね!? パッケージのセンター飾ってても違和感無いからね!?

全人類はカミキリムシの美しさをもう一度見直す段階が来ていると思うわ。

そして、その美しさを余すところなく描き切ったイラストレーターさん! 名前は覚えた!

いつか、絶対にメガコロのVRを描いてよね!!」

 

 

●『盛装怪人 アルゴビルバグ』

 

アリサ「サイクロマトゥース向けのカードがここにも」

 

ミオ「ガード制限は、ハンデスとの相性が抜群ですね」

 

アリサ「こうして見ると、サイクロマトゥース軸のデッキは意外と推奨されているのかもね」

 

ユキ「『ブローニィ・ジャーク』でブーストしてあげると、より嫌らしいわよ」

 

 

●『赤光怪人 フラットレイ』

 

アリサ「パワーだけなら『城ごと滅びーむ』でおなじみブルブファスの倍を狙えるトンデモコモン! エンデフォルトが並んでいる盤面にでくわそうものなら、CB1でパワー+56000!!」

 

ユキ「そんな奇跡的な盤面を想定しなくてもパワー+20000くらいなら手堅く狙えそうね」

 

アリサ「G2がここまで桁違いのパワーを出せるのは、案外バカにできないかもね」

 

ミオ「今弾ではエンデフォルトとのパワー差が1000しか無い『サベイジ・マーセナリー』も登場しています」

 

アリサ「扱いがまだまだ不明瞭だけど、パワー70000のヴァルケリオンも吸収できるかも!

夢が広がるメガコロの最終兵器! あなたのデッキにも1枚いかが?」

 

 

●『巨砲怪人 タワーホーン』

 

ユキ「今のメガコロニーでは何かと便利な手札交換よ。手札に増えすぎたG3やプロテクトを処理しつつ、ガンニングコレオを引き込みましょう」

 

アリサ「『マシニング・ローカスト』に慣れたメガコロユーザーにとっては、G1ライドの時点でも効果を発揮してくれるのは大助かり!

相手が全員レストしていればパワー+5000というメガコロらしいギミックもあって、採用したくなる1枚!」

 

ミオ「デッキデスで得たデッキ差を縮めてしまう点には注意でしょうか」

 

アリサ「そうね。手札交換くらいでは、簡単にデッキ切れで負けはしないと思うけれど、注意しておくに越したことは無いわね」

 

 

●『ブルブル・バンブル』

 

アリサ「こっちよりも★2バニラが欲しかったなあ」

 

ユキ「アラクレバッタ?」

 

アリサ「名前は知らんけども。

スパークヘラクレスでパワーは簡単に上げられるから、相性よかったはずなのよね。★2によるガード強要も、今のマシニングのテーマと合致してるし。

ポンコツ3人衆よりかは、よっぽど戦力になったのになあ」

 

ユキ「夢見るアラクレバタフライ!」

 

アリサ「アムちゃんみたいに言わないで!?」

 

 

●『強酸怪人 ゲルドスラッグ』

 

アリサ「いや、あんたカタツムリでしょ!?」

 

ミオ「カタツムリの鎧を着たナメクジでは?」

 

アリサ「納得した!」

 

ミオ「納得するんですか」

 

ユキ「レストしている相手の後列リアガード1体につきガード値+5000する、守りのカードね」

 

アリサ「地味だけどあなどれないカードといった印象かしら。性質上、最後の攻撃をガードすることになるだろうけど、それはトリガーの乗った攻撃であることも多いでしょ? 25000というガード値は、それを1枚で捌ける可能性を秘めているわ」

 

ミオ「要件と役割が噛み合っているわけですね」

 

アリサ「Gガーディアンのスカラベガスやモルフォシアンを彷彿とさせるナイスデザイン。それらに勝るとも劣らない活躍は期待できるんじゃないかしら。

懸念点としては、メガコロはG3が多めになりがちで、G1の枠がカツカツなんだけど、優秀なG1はソウルに逃げちゃうことも多いのよね」

 

ミオ「『マシニング・ホーネット』や『ステルス・ミリピード』ですね」

 

アリサ「うん。だからメガコロはブースト不足に悩まされがち。スターグビートルでソウルから追い出すこともできるんだけど、レストしたままだし」

 

ミオ「ヘルデマイズまで採用するとゲルドスラッグの枠が無くなってしまいそうですね」

 

アリサ「結局、ゲルドスラッグをリアに出さないと立ち行かなくなる状況も多くなりそう。それでも1~2枚採用しておく価値は十分にある、玄人好みの面白いカードだと思うよ」

 

ユキ「最後を飾るに相応しいカードになったわね」

 

アリサ「うん! って、もう最後!?」

 

ユキ「楽しい時間はあっという間に過ぎていくものなのよ」

 

 

●終幕

 

アリサ「…………」

 

ミオ「アリサさんが燃え尽きています」

 

ユキ「今はそっとしておいてあげましょう」

 

ミオ「作者も疲れきっているので、今日はここで切り上げましょうか」

 

ユキ「そうね。それではみなさん」

 

ミオ「さようならー」




まだまだ相手のデッキをめくりたりない栗山飛鳥です。
皆様もデッキをめくってますか?
それともフォースをパスしてますか?
武装チャージとか言ってますか?

今回も実際にカードを手に取る前に書いています。
トンチンカンなことを書いていても、笑って許してくださいませ。

実際に使ってみた感じ、『ハイディング・キラーリーフ』の評価は大きく上がりました。
メガコロはもともと『ブラッディ・ヘラクレス』のおかげでG2にライドした時点での攻撃の組み立てが上手いクランなのですが、単体でも攻撃を通しやすいキラーリーフのおかげで、さらに攻撃を当てやすくなりました。
高速化している今の環境、G2段階でどう立ち回るかは、かなり重要になってきていると、前回の『特務』に引き続き感じましたね。

次回の『えくすとら』につきましては、ヴァンガードエクスの発売前記念特集を掲載する予定です。
掲載日時は発売日前日の水曜日を予定しております。
その日は仕事の関係で家には帰れないので、投稿日付設定機能を使ってみることにしました。
うまく投稿されますように。

では、設定がうまくいっていれば、来週の水曜日にお会いしましょう。


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Ex.12「ヴァンガードエクス発売直前スペシャル!」

アリサ「明日はいよいよヴァンガードエクスの発売日よ!!」

 

ユキ「楽しみねえ」

 

ミオ「楽しみですが、ユキさんもプレイするのですか? アリサさんと違って、あまりゲームをしそうなイメージがありませんが」

 

ユキ「そうねえ。ゲーム機すら持っていないわ」

 

アリサ「ウチは両親もたまにゲームやるし、弟もいるから、ハードが多くなるのよね。そうなると一台くらいは余るから、そういったものをアリサに貸してるのよ」

 

ユキ「ふふふ。今回もよろしくね。エクスは買うから」

 

アリサ「はいはい。あたしはSwitch Liteを買うつもりだし、古い方のSwitchを貸すよ」

 

ミオ「Liteは携帯に特化したSwitchですね」

 

アリサ「うん。これで、いつでもどこでもヴァンガードが楽しめるね。どちらもいい時期に発売してくれたものだわ」

 

ユキ「ところでミオはゲームをするのかしら?」

 

ミオ「していた時期もありました。すぐやめてしまいましたが。

最新ハードも持っていないのですが、ヴァンガードのゲームが出るならPS4ごと買うつもりです」

 

アリサ「ミオちゃんはPS4派なんだね」

 

ミオ「しかし、ゲームでヴァンガードをプレイするメリットとは、いったいどのようなものがあるのでしょうか」

 

アリサ「ミオちゃんは毎日対戦ができるからイメージが湧かないかも知れないけどね。休日しかヴァンガードできない人とか普通なのよ」

 

ミオ「なるほど」

 

ユキ「そもそもミオちゃんなら、部活でヴァンガードしたあと、家でもヴァンガードできるというだけで嬉しいのではないかしら」

 

ミオ「それもそうですね」

 

アリサ「それに休日はヴァンガードができるなら、まだマシよ。

世の中には、アニメが好きで、対戦もしてみたいけど相手がいないって人はかなりいるんだから! そういう人にとって、ゲームの存在はものすごーく助かるの」

 

ユキ「もちろん、初心者だけでなく、上級者にとっても魅力は十分よ」

 

アリサ「うん。まずはデッキシミュレーターとして使える点ね。

自分のデッキの動きを確かめたい時、特にキーカードを引き込める確率を体感で知りたいとか、グレードのバランスを調整したい時とか、ゲームなら公平に結果を出してくれるので便利よね。

最新弾のメガコロを例にするなら、タワーホーンや引トリガーの投入数でガンニングコレオへの再ライド率がどこまで変化するかは知っておきたいわね。

デッキの微調整も、現実ならいちいちスリーブから取り外したり大変だけど、ゲームなら数秒でできるわ」

 

ミオ「それはいいですね」

 

ユキ「現実ではとても組めないようなデッキも、ゲームなら組めてしまうのがいいわよね」

 

アリサ「そうね。ゲームならモルドレッドだろうとツクヨミだろうと時間をかければ組めるからね。

俗な話になるけれど、モルドレッドを4枚買うよりも、ヴァンガードエクスを1つ買う方が安い!」

 

ユキ「ゲームで試してみて、性に合うようなら、実際に組んでみるのもいいかも知れないわね」

 

アリサ「やっぱりシミュレーターとして強いよねー。

あとは使ったことの無いクランを使ってみるのもオススメよ。

メガコロ、むらくも、グランブルーしかほとんど使わないような作者も、ゲームではネオネクを愛用していたわ」

 

ユキ「私もゲームでくらいぬばたまを使ってみようかしら……」

 

ミオ「私もヰギー軸の根絶者をゲームで試してみます」

 

アリサ「根絶者なのは変わらないのね」

 

ユキ「では、これまでのゲーム作品を振り返ってみましょう。ネタバレも含まれてるから、プレイを考えている人は注意してくださいね」

 

 

●ライドトゥビクトリー

 

アリサ「記念すべき第1作目! この頃から基本的なシステムは完成されてるわ。

ただし、CPUにはまだまだ難アリ! ギリギリまでガードしてこないうえに、ヒット時能力も素通ししてくるから、ものすごく楽に勝てるわ。

その分、難易度が低くて、カードプールも少なく、シンプルでとっつきやすいのが魅力でもあるわ」

 

ミオ「初心者の入門用にはぴったりというわけですね」

 

アリサ「もちろん、上級者が息抜きにプレイするのも悪くないわよ。メガコロはアントリオンフロード全盛期。懐かしー!」

 

ユキ「楽に勝てると言えば、ゲーム開始時、最初にファイトする相手は、あの森川君よ」

 

アリサ「そうそう! 使うデッキはもちろんG3山盛りの最強デッキ。大抵の場合、ライド事故してサンドバッグにできるのよね。

原作の再現とチュートリアルを兼ねた、理想的な配役」

 

ユキ「けど、たまに上手くライドしてくることもあってね」

 

アリサ「そうなると、毎ターン安定して高いパワーで殴ってくるから、初期デッキにとってはかなりの強敵に化けるのよね。

作者以外にも、いきなり森川君にボコボコにされた人は、絶対にいると思うわ」

 

●ロックオンビクトリー

 

ミオ「これは第2作目ですね。リンクジョーカー編をベースにしたこの作品は、作者の評価が最も高いようです」

 

アリサ「そうね。評価点のひとつとしては、ゲーム開始時に選択できるトライアルデッキに、オリジナルデッキが追加! 好きなクランで始められるのは地味に嬉しい点よ」

 

ユキ「このシステムは、次回作にも継承されているわね」

 

アリサ「そして特筆すべきは、そのストーリー!!

まず、ルートが宮地、福原、後江、と3つあって、プレイヤーが所属する高校ごとに分かれているから、ボリュームがあるの」

 

ミオ「それなら、複数のクランを試したい人も、クランを切り替えるタイミングが決めやすくなっていいですね」

 

ユキ「それに、どのルートも個性的で飽きにくいのよね」

 

アリサ「王道展開の宮地学園。覇を突き進む福原高校。コメディ色の強い後江高校。

中でも作者のオススメは後江で、主人公を女の子にすると、念願の女子部員の入部に沸き立つ男どもからはじまって、軽いノリで進んでいくんだけど、櫂君がシメるところはシメてくれるし、ギャグとシリアスのバランスが綺麗に取れているの」

 

ユキ「最終的な展開が一番原作と近くなるのも、ファンとしては嬉しいところかも知れないわね」

 

アリサ「そして、ロックオンビクトリーのストーリーにおいて最大の評価点は、原作で最も見たかった展開を実現してくれたこと!!」

 

ミオ「ふむ。どういうことですか?」

 

アリサ「原作のリンクジョーカー編は、主人公がヴァンガード甲子園の予選で負けて、すぐリンクジョーカーとの戦いにシフトしてしまうから、あまりヴァンガード甲子園にはスポットが当たらないの。青春ストーリーを期待してた人には消化不良だった部分もあるのよね。

けど、ロックオンビクトリーは、どのルートでも甲子園決勝まで楽しめる! 1年に1度の大会に全てを賭ける、ファイター達の青春活劇を堪能できるのよ! それも3度!」

 

ユキ「もちろん、甲子園の開催中もリンクジョーカーは暗躍していて、甲子園終了後に侵攻が本格化するという展開になるから、世界の存亡を賭けたドキドキの物語も楽しめるわよ」

 

アリサ「全てが終わった後、ラスボスとのファイトは、どのルートでも完全燃焼すること間違い無し!

原作あってのゲームだから、アニメより面白いだなんて言うつもりは無いけれど、ファンの理想をゲームとして昇華してくれた傑作よ!」

 

ミオ「作者は主人公の名前を『長代マキ』にし、ファイト中のアニメーションをオフにして、宮地学園でスタート。マキさんがカードファイト部に入部したらというIF展開を楽しんでいたとか」

 

アリサ「なんというひねくれた遊び方……」

 

ミオ「意外とそれっぽくなったようですよ」

 

アリサ「ん? それだとストーリー中に、自分のドッペルゲンガーとファイトすることにならない?」

 

ミオ「レオンも通った道だと開き直ったらしいです」

 

アリサ「そうだった!」

 

ミオ「その場合、ビーナストラップЯは使えず、ビーナストラップ・ミューズがエースとなるので、かなり大変だったようですね」

 

アリサ「いらんこだわり!」

 

ユキ「ねえ。私達の名前を主人公にしてみるのも面白そうじゃないかしら?」

 

アリサ「後江に入学するミオちゃん! やってみたい!」

 

ミオ「根絶者がいないので遠慮します」

 

アリサ「ミもフタもない!」

 

 

●ストライドトゥビクトリー

 

アリサ「第3作目! 現状、超越と双闘が使える唯一の作品よ」

 

ユキ「こちらも物語が秀逸ね。2作目とは違う意味で」

 

アリサ「そう! ヴァンガードG原作のストーリーをなぞっていくだけと思いきや……終盤で大いなる罠が!!」

 

ユキ「選択肢なんてどれを選んでも変わらないと、適当に選んでいるとえらい目に遭うわね」

 

アリサ「えらい目に遭うルートの方が好きという人もいそうだけどね。作者とか」

 

ミオ「根絶者もようやく登場ですね」

 

アリサ「エクスが出てもカードプールはこちらの方が広いし、登場するカードもルールも違うから、今後も楽しめそうな作品と言えるわね。CPUが強いから結構歯ごたえもあるわよ。

いや、CPUが強いというよりは、カードが強いのと、超越というギミックが強いのだけれど」

 

ユキ「歯ごたえがあると言えば、チャレンジファイトもシリーズ通しての魅力ね」

 

ミオ「チャレンジファイトですか?」

 

ユキ「簡単に言うと詰将棋のようなものね。盤面があらかじめ用意されていて、1ターンで相手を倒せばクリアとなるわ。

難しいものでは、相手はノーダメージかつ、山札に治が4枚積まれていて、10点与えなければ勝てないような状況もあるわ。

変わったものでは、グレートネイチャーで10枚以上ドローするのが勝利条件になっているものもあったわね」

 

アリサ「ストライドトゥビクトリーには過去作のチャレンジファイトが全て収録されているので、それだけでもやりがいがあるわね」

 

ミオ「作者がもっとも長くプレイした……というか、今でも時々プレイしている良作です」

 

 

●ヴァンガードエクス

 

アリサ「そして19日発売のヴァンガードエクス!! どうなるかな?」

 

ユキ「やはり注目点は物語ではないかしら?」

 

アリサ「そうよね。これまでのストーリーは原作の再現だったけれど、今回は完全オリジナルストーリー! 主人公も含めてオリジナルキャラクターも多数登場! これまでとは違った感じで楽しめそう」

 

ユキ「それなんだけれど、主人公が選べなくなったのは残念ねえ。女性プレイヤーも多くいるゲームなんだし、男女くらい選べて欲しかったわね」

 

アリサ「あー、アリサはあんまりゲームしないから分からないかもだけど、男主人公でプレイする女の子は結構多いよ? 逆も然り」

 

ユキ「そ、そういうものなの?」

 

アリサ「うん。ミオちゃんは主人公が女の子の方がよかった?」

 

ミオ「私は根絶者の方がよかったです」

 

アリサ「人間ですらない!!」

 

ミオ「作者は性別よりも性格の方を問題視しているようですね」

 

アリサ「たしかに。士導イズル君だっけ? あんまりバミューダ△とかが似合いそうなキャラでは無いわよね」

 

ミオ「作者はひねくれているので、むしろ使わせたがっているようですが。ただ、バミューダはみんな使わせそうなので、作者は名前を『キューティクル・イズル』に変更して、キューティクルデッキを使わせるつもりです」

 

アリサ「名前変えられるかもわからないけどね!」

 

ユキ「エクスでは、登場人物も魅力のひとつよ。高校生編メインキャラの総ナメは当たり前。鬼丸カズミやベルノさんの若かりし頃が登場するわ」

 

アリサ「使用クランはもちろんぬばたまとジェネシス! 間違ってもジェネシスとノヴァじゃないからね! 無印ファンだけじゃなく、Gファンも喜ばせてくれるなんて、これこそ正しくファンサービス!」

 

ユキ「では、明日の発売日を楽しみに、今日はお開きとしましょうか」

 

アリサ「明日は授業が終わったら、部室でもなく、カードショップでもなく、ゲーム屋さんにダッシュね!」

 

ユキ「はいはい」

 

ミオ「それでは、みなさん」

 

全員「「「さようならー」」」




うまく投稿されているか心配な栗山飛鳥です。
基本的に機械音痴なもので、自動投稿とか全く信用していません。

このあとがきを見ている人がいるなら、きっと明日はエクスの発売日なはずです。
今回は発売記念特集ということで、過去のヴァンガードゲームを振りかえってみました。
というか、本音を言えば2作目のロックオンビクトリーを少しでも多くの人に知って欲しかっただけだったりします。
それぐらい名作。
もちろん、他も素晴らしい作品ではありますが。

では、次の更新は27日発売の「新田新衛門」の『えくすとら』になると思われます。
エクスをクリアするか、満足いくまで楽しんだらエクスの『えくすとら』も書く予定ですが、さすがに明日から27日までに書きあげるのは無理でしょう。

そのようなわけで、次回は26日前後に掲載予定の『えくすとら』でお会い致しましょう。


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Ex.13「新田新右衛門」

●序幕

 

アリサ「心してかかってこい!

ジェネシスのトライアルデッキが久しぶりに登場!!

……ところで、ユキはー?」

 

ミオ「このタイトルでむらくもじゃないなんて納得できないと言ってボイコットしてます」

 

アリサ「はぁ……。

あいつも意外と子供よねえ。

それじゃ、2人で始めましょ!

『えくすとら』! トライアルデッキ『新田新右衛門』編!」

 

ミオ「今回のテーマは、新ギミックとなる『星域』です」

 

アリサ「軽くおさらいすると、ウラヌスがヴァンガードの時、Vにフォースマーカーが5つあるとV裏が『星域』になる」

 

ミオ「『星域』は星神しかコールできず、星神は現時点ではパワー70000のヴァルケリオンのみとなります。

『星域』自体にも効果はあり、

 

・ドライブチェックを行う

・ドライブチェックで出たカードはソウルに置かれる

・ターン終了時、星域のユニットは山札の一番下に置かれる

 

この3点は特に重要ですね」

 

アリサ「トライアルデッキ全体で見ると、Vにフォースを置くことに特化した構成で、誰でも手軽にヴァルケリオン降臨の流れまで楽しめる構築になってるわ」

 

ミオ「ジェネシスは本来、ソウルチャージするカードと、ソウルブラストするカードのバランスを取るのが難しい、デッキ構築難度高めのクランですが、これなら初心者でも扱えますね」

 

アリサ「実際に星域デッキを自分で組むとなると、大変そうだけどねー。

G5を入れることでグレードのバランスが崩れるから、そこも気を使わないといけなくなるし」

 

ミオ「今回のトライアルデッキはG3が8枚、G2が9枚、G1が12枚となっています。G1がやや少なめの構築になっているようですね」

 

アリサ「『神羅創星』に収録されるRRRは2枚とも強力だけど、直接的には聖域作りに貢献してくれないし。まずは、どれだけフォースを得られるカードを入れれば、安定して『星域』が構築できるようになるのかを探っていかないといけないわね。デッキ構築のセンスが問われそう!」

 

ミオ「では、次からは注目カードをピックアップしていきましょう」

 

 

●「煌天神 ウラヌス」

 

ミオ「これはEx.9『ブシロード戦略発表会2019 後期』でも紹介したので問題無いかと」

 

アリサ「ミオちゃんがウラヌスの効果はV限定だと勘違いしていたやつね!」

 

ミオ「……あれは作者が私に言わせたんです。私のせいではありません」

 

アリサ(あ、ちょっと怒ってる)

 

ミオ「ちなみにこの件は感想でもご指摘を頂きました。ありがとうございます。

ご指摘自体は『根絶少女』では大歓迎です」

 

アリサ「正直、作者は自分のクランと、友人の使ってる一部クラン以外は詳しくないしね!」

 

 

●「絶界巨神 ヴァルケリオン」

 

アリサ「『星域』を構築することで降臨するパワー70000!!

それだけでもインパクトは抜群なんだけど、ドライブチェックを5回にできるラッキーチャンスまで! ギャンブルでちまちまドライブを増やしてるガンニングコレオがアホらしく思えるレベル! いや、まぁ、手軽さが段違いだし、コレオはコレオで強いんだけどね」

 

ミオ「ドライブチェックで得られたカードは、残念ながら『星域』の効果でソウルへ送られます。ですが、ジェネシスなら利用価値は十分あるでしょう」

 

アリサ「意外とリアガードで大量にソウルを消費するカードは少ないんだけどね。そもそもヴァルケリオンが降臨する段階までゲームが進んで、そのソウルを利用できる次の自分のターンが回ってくるかも、今の環境は怪しい」

 

ミオ「となると、欲しいのはアタック時に使えるSB3くらいのフィニッシャーでしょうか」

 

アリサ「そうなるねー」

 

ミオ「あとは……登場すれば強いのは確かですが、サーチする手段に乏しい点は注意が必要ですね」

 

アリサ「『神羅創星』を含めても、安定性に欠ける『デビュタイズ・ベア』止まりだし。かと言って、初手にあっても使えるようになるまでが長くて困るという。

デッキ消費も激しいから山札切れも怖いね。槍玉にあげはしたけど、プロテクトなうえ、デッキまで削ってくるコレオは割と天敵かも」

 

 

●「舞灯のプロメテウス」

 

アリサ「トライアルデッキによくある、何だか1枚だけズバ抜けて強いリアガード枠? RRR仕様確定だし」

 

ミオ「根絶者で言うとギアリですね」

 

アリサ「シャドパラで言うとジャベリン」

 

ミオ「ノーコストのソウルチャージに、デッキトップ操作。パワーも高い。安定性は申し分ありませんね」

 

アリサ「ジェネシスのカードとして見れば即フル投入クラスだけど、星域達成には直接の役には立たないので、星域デッキでは枚数調整必須かなー」

 

 

●「詩聖のパルテノス」

 

アリサ「一方、こちらは安定した星域向けカード! アタック時にフォースを獲得できるので、生き残っている限りフォースが増えていくわ。ただし、そのアタック時というのが問題で、フォース獲得したあとヴァルケリオン降臨までの流れに相手ターンを挟むのは地味に痛い」

 

ミオ「ヴァンガードが『星詠』であることも指定していますし、初動もやや遅めですね。パワーもフォースとしては低めの9000です」

 

アリサ「だからって、さすがにバニラよりはこっちが3枚収録でよかったと思うけどね!」

 

 

●「月光のダイアナ」

 

アリサ「『ブーストしたアタックがヒットした時』が発動条件なのでV裏に置きたくなるけど、そうすると最終的には星域に潰されちゃう、可愛そうな子!」

 

ミオ「幸薄いですね」

 

アリサ「だけどこれは強いよ。『星詠』指定が無いから、パルテノスより初動がずっと早い!

星域デッキではもちろん主力だけど、従来のジェネシスでフォースⅡを、相手がG1、G2の段階で獲得することだってできちゃう!

これがRRR仕様でもよかったんじゃない? ていうか4枚収録してよ!」

 

ミオ「トライアルデッキ発売記念大会の参加賞にもなっているみたいですが」

 

アリサ「4枚目は大会で手に入れろと!?」

 

 

●「天球のアトラス」

 

アリサ「これもかなりのやり手。起動能力でいつでもフォースを置けるので、フォース5枚目のひと押しにぴったり!

そして、聖域登場前にしれっとソウルへ逃げ込む腹黒さ。

引かぬ媚びぬの省みぬを地でいくダイアナを、少しは見習ってほしいわね」

 

ミオ「むしろダイアナさんは、もう少しずる賢く生きてもよかったかと」

 

 

●「アンブロジアル・スネーク」

 

アリサ「つぶらな瞳がかわいい!!」

 

ミオ「一応、ヴァルケリオンで得た大量のソウルを利用できるカードではありますね」

 

アリサ「そしてパワー63000のウラヌスが73000になるのであった! オーバーキル!!」

 

 

●「挺身の女神 クシナダ」

 

アリサ「ついにきた! 引完ガの再録&トライアルデッキ収録!!」

 

ミオ「根絶者のトライアルデッキも、生まれてくるのがあと1年遅ければ……」

 

アリサ「生まれてきてるだけ根絶者はまだマシよ! メガコロのトライアルデッキもいつか! いつの日か!!」

 

ユキ「むらくももー」

 

アリサ「? 何か聞こえなかった?」

 

ミオ「いえ」

 

 

●終幕

 

アリサ「そんなわけで、『新田新右衛門』買ってきたよー。結構、売り切れてる店も多いみたい。

さっそく、対戦してみよっか」

 

ミオ「受けて立ちましょう」

 

 

 

 

 

アリサ「『絶界巨神 ヴァルケリオン』でアタック!」

 

ミオ「『挺身の女神 クシナダ』で完全ガードです。

私のターン。スタンド&ドロー。ウラヌスに再ライドして、5枚目のフォースをヴァンガードに。これで私のヴァンガード後列も『星域』になりました。

もともと後列にいたダイアナは、『星域』の圧倒的超重力に耐えきれず、銀河の藻屑となって退却します」

 

アリサ「イメージがえげつなくない!?」

 

ミオ「そして『星域』に『絶界巨神 ヴァルケリオン』をコール。

なるほど。スムーズに星域の展開からヴァルケリオンのコールまで楽しめますね」

 

アリサ「よほど運が悪くない限り、そこに失敗することは無さそうね。ストレスレスで遊べる、いいトライアルデッキだわ」

 

ミオ「こうしていると、はじめてアリサさんとヴァンガードした時のことを思い出します」

 

アリサ「そだねー。懐かしいねー」

 

ミオ「はい。たった半年前のことなのに、ずいぶん昔のことのような気がします。

そして、当時の私は知る由もありませんでしたが、根絶者のトライアルデッキにスパーク・ヘラクレスをぶつけてくるアリサさんは、今にして思うとかなり鬼畜でした」

 

アリサ「い、いやいや! 一応、あれは対トライアル用に調整したメガコロデッキっていう設定だったんだよ!」

 

ミオ「ヴァンガードがスパーク・ヘラクレスの時点でアウトかと」

 

ユキ「……………………」

 

ミオ「ところで、部屋の隅から視線を感じるのですが」

 

アリサ「もう少しほっときましょ。どうせあと30分もしたら、『私も混ぜてー』とか言って、泣きついてくるから」

 

ミオ「わかりました。

では、ヴァルケリオンのスキル……ヴァルケリオンをドロップして、ドライブ5です」

 

アリサ「うげ、マジか」

 

ミオ「そろそろ『えくすとら』はこのあたりでお開きにしましょうか」

 

アリサ「うん。まーたねー!」

 

ミオ「さようならー」




トライアルデッキを借りて『星域』体験をしてきた栗山飛鳥です(挨拶)

今回は終幕のみ、発売後、実際にプレイしてから書いています。
60000だの70000だの、大雑把なパワーで繰り返しアタックできるのは、新鮮で楽しかったです。
トライアルデッキ同士の対戦でも非常に盛り上がったので、よければ皆様も試してみてください。

メガコロもむらくもも、トライアルデッキはまだ登場したことがありません。
いつか皆で、メガコロトライアルで遊べる日が来ればいいなと思います。
昔は一生無いだろうなと諦めていたグランブルーのトライアルデッキだって実現したので、本当にいつか! いつの日か!

次回、10月の本編は10月5日前後に更新予定です。
よろしくお願い致します。


・余談
『アンブロジアル・スネーク』は、爬虫類好きの私にとって、かなりツボなデザインです。
祀られて、ちょっと自慢げ(けど、たぶん何も考えてない)な表情がとてもカワイイ。


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Ex.14「神羅創星」

●序幕

 

ミオ「ミオです」

 

アリサ「アリサでーすっ!」

 

黒ユキ「そして、毎度おなじみユキどすぅ」

 

アリサ「なじんでないっ! あんたが登場するのは2回目!」

 

黒ユキ「まあまあ、そんなこと言わんと」

 

ミオ「というか、次の出番は1年後かそれより先と言っていた人が、どうして3カ月足らずで再登場しているんですか?」

 

黒ユキ「うふふ……ウチも、ぬばたまがこう立て続けに強化されるとは思わんかったわぁ」

 

アリサ「『天馬解放』の不自然な収録枚数を鑑みれば、予想はついたけどね」

 

黒ユキ「虐げられるのが当然と思ってしまうところが、ぬばたま使いのあかんとこですなぁ。

第1弾から登場して、2年以上放置された実績はダテやありまへんえ」

 

アリサ「今の状況がわからない読者の皆に解説しておくと、彼女の名前は『黒澤 ユキノ』

どうしてもマガツを使いたいユキが生み出した、ユキの第2人格よ」

 

黒ユキ「そろそろはじめましょか。えくすとら『神羅創星』編!」

 

アリサ「スタートぉ!」

 

 

●ジェネシス

 

アリサ「まずはパッケージのジェネシスから!」

 

ミオ「パッケージとなっているのは『震天竜 アストライオス・ドラゴン』です。

ウラヌスと同様の星域生成効果に、CB1でヴァンガードがフォースを得る効果、SB1で1ドローする効果を持っています」

 

黒ユキ「VRにしては手堅くまとまっとりますなぁ」

 

アリサ「けど、この前にトライアルデッキで戦った感想だけれど、星域デッキが欲しい点はしっかり捉えている印象よ。

毎ターン、安定してフォースを得られるのももちろんだけど、ドローは特に嬉しいわね。

というのも、攻撃力の高さに目をうばわれがちだけど、ヴァルケリオンの降臨ってディスアドなのよね」

 

ミオ「ターンエンド時にヴァルケリオンはデッキへ帰ってしまいますからね」

 

アリサ「ヴァルケリオンをコールすることで潜在的に発生するディスアドを即座に補ってくれるのは頼もしい!

欲を言うならSB3くらいで2枚ドローとかして欲しかったところだけど。

他のカードもソウルを使うし、ジェネシスとは言え、意外と厳しいのかな」

 

ミオ「星詠が増えることで、単純に安定性もアップしています。

新生ジェネシスも、いよいよ本領発揮ですね」

 

アリサ「脇を支えるのが『瑞光のポースポロス』に『戦巫女 ムツキ』! それぞれ星詠&ヴァルケリオンのサーチや、聖域の構築を安定させてくれるけど、困ったことに、どちらもヴァンガード専用。

ならばいっそのこと、この2種類だけ採用してみるのもアリじゃない?」

 

黒ユキ「最悪、Gアシストすることになってでも、どちらかにはライドできる寸法どすな」

 

アリサ「G5を投入する以上、どこかは歪めないとダメだしね」

 

ミオ「ヴァルケリオンをサーチできる『デピュタイズ・ベア』にも注目です」

 

アリサ「フォースを生成できるカードも、さらに増えたわね。ここまで増えたら、ライド時のフォースはリアガードに渡すのもいいんじゃないかな」

 

 

●エンジェルフェザー

 

ミオ「今回のエンジェルフェザーは、相手のダメージに着目しています。相手にダメージを与えることで強くなり、相手の表のダメージを参照し、相手リアガードをダメージゾーン送りにして除去します」

 

アリサ「ふーん。相手のダメージねえ……」

 

ミオ「?」

 

アリサ「『エンジェルフェザーは既存のカードと相性がいい!』」

 

ミオ「そんなこと書いてましたね」

 

アリサ「これ、真逆じゃない?」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「コンプライアンス違反だー」

 

ミオ「そうですね」

 

アリサ「というか、相手の表ダメージを増やすって、とんでもないデメリットなんだけど!?」

 

ミオ「…………」

 

アリサ「と、とりあえず『フリージング・グランター』は優秀よね。腐っても除去だし、攻撃力も高い。

CB1消費するとは言え、メタトロン軸なら余裕で払えるコスト。

むしろ、これが優秀すぎて、わざわざエルゴディエルを軸に据える意味が無い!」

 

ミオ「やっていることは、ほとんど変わりありませんからね」

 

黒ユキ「『フリージング・グランター』以外には?」

 

アリサ「えっと、ライドされるだけでアドになる『ヘルスフル・インテンダント』とか、火力に特化した『ハイジーニスト・エンジェル』とか……」

 

黒ユキ「他には?」

 

アリサ「え、えーと……『機動病棟 フェザーパレス』とか『刻印の守護天使 アラバキ』とか」

 

ミオ「それ、再録ですよ」

 

 

●ノヴァグラップラー

 

アリサ「異常なまでの前トリガーの信奉者! それが今回のノヴァグラップラー!!

VRの『闘拳竜 ゴッドハンド・ドラゴン』からして、一文目に前トリガーの効果に+10000とか書いてるほど。

前列全員に+20000は、それだけでゲームエンド級! ……なんだけど」

 

ミオ「RRRの『フュージング・ストライカー』『光星戦士 シルバーフィスト』も前トリガーに+5000を上乗せします」

 

アリサ「これらが並べば、前トリガー1枚で前列が+30000とか+40000とか言いだしちゃう!

そして、ゴッドハンドのもうひとつの能力が、手札を1枚捨ててのトリプルドライブ! めくる数が多ければ前トリガーも引けるだろうという頭の悪さもとい潔さ! 嫌いじゃない! おまけに★までついてくる!」

 

黒ユキ「★まであるとなると、これはガードに神経使いそうやねえ」

 

アリサ「ゴッドハンド自体の攻撃力は大したこと無いんだけどね。前トリガー1枚で+20000のトリプルドライブとなると、最悪+60000もありえる。それも前トリガーだから2枚貫通や3枚貫通だって偶然に起こりえるのよ」

 

ミオ「ゴッドハンドのサポートは、これだけではありません。『ガントルーパー クレフテス』『パワードトルーパー シング』は、さらにドライブチェック数を増やしてくれます」

 

アリサ「この期に及んでドライブまかせ!」

 

黒ユキ「『敏腕整備士 スペカニック』まで再録されてはるし、引守護者も前トリガーに代えて、あとはめくれと言わんばかりやねえ」

 

ミオ「どうしてもギャンブルが嫌な人には『グリット・ベンガル』がオススメです。手札から前トリガーを直接デッキトップに置けますよ」

 

黒ユキ「手札が減るのも嫌やわぁ」

 

アリサ「わがまま言わないの!」

 

ミオ「他に注目しているカードはありますか?」

 

アリサ「そうねえ。あたしは『ソードトルーパー エクィ……うっ!」

 

黒ユキ「アリサはん?」

 

ミオ「どうしました?」

 

アリサ「ワレワレノオススメハ『アンノウン・アダムスキー』ダ」

 

ミオ「なるほど」

 

アリサ「ジグンノ サイキョウユニットデ エクストラアタックガデキル。コレハアズール・ドラゴンガ リアガードニ ナッタヨウナモノデアル。

スデニ エクストラアタックヲオエテ レストシタユニットデ サラニエクストラアタックヲ オコナウコトモデキル」

 

黒ユキ「アリサらしからぬ、冷静で的確な解説やわぁ」

 

アリサ「コレハ マチガイナク コンゴノ ヴァンガードニ エイキョウヲアタエル サイキョウカードデアル。ワレワレヲ タタエヨ カトウナ チキュウジン」

 

 

●ぬばたま

 

黒ユキ「さて、いよいよやね。まずは超絶イケ(メン)、暁・ハンゾウから! 解説よろしゅうに」

 

ミオ「はい。ぬばたまのVR『妖魔忍竜 暁・ハンゾウ』は、自分のG0を2体退却させることで、敵味方全てのリアガードを手札に戻します。

さらに相手は手札に戻したカードの数だけ手札を捨てなければなりません。

これは実質的に全体除去と……」

 

アリサ「……うっ!

そうねえ。あたしは『ソードトルーパー エクィテス』推しね。ゴッドハンドとは、また違ったアプローチで前トリガー強化に繋がってるわ。

今回のRRR勢と並べれば、VRとだって渡り合える可能性を秘めた良作。イラストも強くてカッコい……」

 

ミオ「……いつの話をしてるんですか?」

 

アリサ「えっ?」

 

黒ユキ「もうとっくにぬばたまの話ですえ」

 

アリサ「えっ、えっ!?」

 

ミオ「話を戻します。

主にゴールドパラディンのような手札を投げうって盤面を埋めるタイプのデッキにはめっぽう強く、デスアンカーを使うダークイレギュラーズのような盤面を空にしてターンを返すタイプのデッキは苦手な、有利不利がはっきりしているタイプのヴァンガードですね」

 

アリサ「うーん……けど、それって」

 

黒ユキ「お察しの通り。ゴルパラのようなタイプを苦手とし、ダクイレのようなタイプを得意とするジャミョウコンゴウとは、互いの弱点をカバーしあえる関係になっとるんどす」

 

アリサ「あのジャミョウコンゴウすら、ハンゾウのサブだったと言うの!?」

 

ミオ「味方をすべて手札に戻せる点も優秀です。ぬばたまには、実質コールするだけでソウルチャージできるツナマサや、非常に緩い条件でカウンターチャージできるサクラフブキが存在します。これらのユニットを使い回すだけで、次に紹介するトークンを生み出すユニットの使い勝手も上がり、ひいてはトークンを主なコストとするハンゾウも、さらに使いやすくなるでしょう」

 

黒ユキ「では、そのトークンと、それを生み出すユニットも紹介したらんとねえ」

 

ミオ「はい。RRRの『妖魔忍竜 ザンゲツ』『妖魔忍竜 クロギリ』、RRの『妖魔怪僧 ガミギョーブ』ですね」

 

黒ユキ「今弾のぬばたま、真の主役と言えますなぁ」

 

ミオ「これらが生成する『妖魔変幻』トークンは、アタックもブーストもできませんが、ガード値5000を持ち、後列からインターセプトできます。ハンゾウのコストになるのはもちろんですが、ガードの微調整にも役立ちます」

 

アリサ「支援に攻撃に万能なプラントトークンと比較すると、いかにもプロテクトのトークンって感じね」

 

ミオ「『妖魔忍竜 ザンゲツ』は、CB1でトークンを1体生みだし、ブーストを与え、パワーも+5000できます。

トークンを生成しつつ、そのトークンを戦力に変える。妖魔忍竜デッキのエンジンとなるカードです」

 

アリサ「さりげに1ターン1回の制限も無いのよね、こいつ」

 

黒ユキ「カウンターコストが続く限り、好きなだけトークンを生成しつつ強化できるわけやね。コストも重いように見えて、ミオが言うてたサクラフブキがおるさかい、見た目以上に回数は稼げるんよ」

 

アリサ「アタックされた時、トークンを身代わりにして手札に戻す効果まで持ってる!」

 

黒ユキ「キーカードだけに除去されたら嫌やし、相手としても狙いたいやろうけど、そうは問屋がおろしません。

さすがにスキルによる除去にはお手上げやけど、その場合はハンゾウで手札に戻してからコールしないのも手ぇどすな」

 

アリサ「で、でも、それだけのキーカード、引けなかったらマズいんじゃないの?」

 

黒ユキ「ぬばたまには手札交換のユニットが3種類ありおす」

 

アリサ「マジか」

 

黒ユキ「マジどす」

 

ミオ「サクラフブキ、ドレッドマスター、そして今弾で登場した『忍妖 ドドドメ』ですね」

 

黒ユキ「サクラフブキは半ば必須やけど、他のカードも組み合わせて、ザンゲツは確保できるようにしておきたいところどすな」

 

ミオ「続いて『妖魔忍竜 クロギリ』の解説をしていきましょう。

こちらはトークン生成に特化したカードで、SB2でトークン2体を生成します。自身は手札に戻るので、上書きになりにくい点が非常に優秀です」

 

黒ユキ「ソウルを補充する手段も、ツナマサを筆頭に、オボロザクラ、アオギタと、豊富どす」

 

アリサ「プロテクトだから再ライドもしやすいしね」

 

ミオ「『妖魔怪僧 ガミギョーブ』は、SB1と、このカードを手札に戻すことでトークンを1体生成。クロギリよりもさらに小回りが利きます」

 

アリサ「ジャミョウとハンゾウでG3はカツカツだけど、これなら1枚あれば使い回せるし、便利そうね」

 

黒ユキ「ぬばたま……というか、プロテクトらしからぬ連続攻撃を実現する『忍妖 ゴイノヒ』や『蛮行の忍鬼 アクラオー』にも要注目やね」

 

アリサ「何だかむらくもじみてきてるよねー。ユキがいたらヘソ曲げそう」

 

ミオ「目の前にいるんですけどね」

 

 

●終幕

 

アリサ「さすがにエンジェルフェザーはこれで終わらないわよね」

 

黒ユキ「さあ、どうやろね」

 

アリサ「相手のカウンターコストで支払えるスキルとか、登場する伏線よね?」

 

黒ユキ「作者はエンフェ使いやありはらへんし、使い手から見たら、ものすごく強いカードとか紛れているのかも知れまへんえ」

 

ミオ「対戦相手にはエンフェ使いがいるので、よくファイトはしているんですけどね」

 

アリサ「けど、どれだけ贔屓目で見ても、『スキャニング・オペレーター』だけは、RRとして何か書き間違ってるレベルでヒドイでしょ!?」

 

ミオ「ちょっと前には、味方リアガード全員をレストして、敵リアガード全員を+5000するRRもいましたけど」

 

アリサ「デメリットが無いだけマシだった!!」

 

黒ユキ「オチもついたところで、おひらきにしましょか」

 

ミオ「それではみなさん……」

 

アリサ「サラバダー」




むらくもやメガコロでやったような1枚1枚解説していく形式の方が書きやすいかも知れない。
栗山飛鳥です。

1枚ごとにオチを考えないといけないので、それはそれで大変なのですが。
オトせてないのもありますけど。
さすがにメガコロやむらくものような全カード解説も難しいので、スパイクやたちかぜでやったような、作者視点での注目カードのみとなりますが。

そんな未だに手探りな『えくすとら』ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

次回は11月2日前後に本編の更新としたいところではありますが、11月の第一週はプライベートが非常に忙しく、ひょっとすると9日前後の更新になってしまうかも知れません。


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Ex.15「The Mysterious Fortune」

●序幕

 

アリサ「ザ!」

 

ミオ「ミステリアス」

 

ユキ「ふぉ、ふぉーちゅん?」

 

アリサ「今月のえくすとらは『The Mysterious Fortune』!! 収録クランはグレートネイチャー、ネオネクタール、ゴールドパラディン!」

 

ミオ「本日はそれに相応しいゲストもお呼びしています。『根絶少女』作中におけるゴールドパラディンのエキスパート、小金井フウヤさんです」

 

フウヤ「どうも! 小金井フウヤです。本日はよろしくお願いいたします!」

 

ユキ「…………」

 

アリサ「どうしたの、ユキ?」

 

ユキ「いえ。生真面目で常識人なフウヤ君が、このえくすとらの雰囲気に耐えられるかが、少し不安でね」

 

ミオ「?」

 

ユキ「例えばね。ここにコキュートス(こっきゅん)から頂いたゾンビパウダーがあるのだけど。これをアリサにふりかけると……」

 

アリサ「うっ! …………ゾ、ゾ、……ゾンビー!!」

 

フウヤ「うわああ!! 天道がゾンビになった!?」

 

ミオ「あ。本気で驚いていますね」

 

ユキ「ね、不安でしょ?」

 

フウヤ「な、な、何をふたりとも平然としているんだ!? 人がゾンビになったんだぞ!?」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ミオ「気にしなくていいですよ。えくすとらではよくあることです」

 

フウヤ「よくあるの!?」

 

ミオ「では、そろそろはじめましょうか。ユキさん、アリサさんを人間に戻してください」

 

ユキ「あ」

 

ミオ「?」

 

ユキ「アリサをゾンビにする道具は頂いたけれど、アリサを人間に戻す道具は頂いていないわね」

 

フウヤ「おおい!?」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「それでは。本日のえくすとら、はじまりまーす」

 

フウヤ「ごまかした!?」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

 

●グレートネイチャー 『黒影の大賢聖 イザベル』

 

ミオ「む。この形式は」

 

ユキ「ええ。今回からメガコロ、むらくも以外のクランも、各カード解説の形式を取るようにしたのよ」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「ほら、あなたもいつまでもゾンビになっていないで、人間に戻りなさい」

 

アリサ「ゾ、ゾ、ゾ……ニ、ニ、ニ、ニンゲンー!!」

 

ミオ「それは無理があるかと」

 

アリサ「ユキ! 人を勝手にゾンビにしておいて、その言い草はないでしょ!?」

 

フウヤ「い、いや、天道さん、それより体は大丈夫なの?」

 

アリサ「ああ、気にしないで。よくあることだから」

 

フウヤ「やっぱり、よくあるんだ!」

 

ミオ「『黒衣の大賢聖 イザベル』はグレートネイチャーの抽選スキルをサポートします」

 

フウヤ「ミオちゃんはさっさと考察をはじめてるし……」

 

ミオ「イザベルがいる限り、グレートネイチャーの抽選スキルは両方が発動します」

 

アリサ「サポートというか、もはや抽選じゃなくなってる!?」

 

ユキ「『バイナキュラス・タイガー』はとんでもないことになるわね。CB1で1枚ドローしつつ、相手リアガードを1枚退却、前列3体に+5000よ」

 

フウヤ「もともとがランダム性を考慮されて、強めに作られているスキルですからね」

 

ユキ「昔は公式で『ギャンブル要素が超楽しい!!』とか言われていたのにねえ」

 

アリサ「ま、どっちも当たりの効果でギャンブルを名乗るなんておこがましいのよね。こっちはこの2カ月で、サイクロマトゥースにもう何回泣かされてきたか!」

 

ミオ「もちろん、イザベル本人にも抽選スキルは設定されています。登場時SB1で、ノーマルユニットがめくれたらパワー+15000、トリガーがめくれたらそのカードを手札に加えます」

 

アリサ「永続スキルが強いからか、こっちは控えめね。めくれるカードに違いはあれど、パワー+15000なんてレオパルの下位互換じゃない」

 

ミオ「この効果はV/R兼用です」

 

アリサ「マジでか」

 

ミオ「マジです」

 

ユキ「イザベル下なら、SB1でパワー27000の1枚公開ドロー。リアガードとしても一級品ね」

 

フウヤ「でも、アクセルは積極的に再ライドもしていきたいし、悩ましいよね」

 

ミオ「永続スキルは相手がG3でないと適用されないので、先行を取った時とかはレオパルドにライドするなどして温存しておきたいところですね」

 

 

●『黒曜の科学者 マチルダ』

 

アリサ「メガネが似合うキツネのお姉さんは超攻撃的!

登場時にCB1の抽選スキルで、ノーマルユニットの場合はガード制限、トリガーの場合は★+1。

はっきり言って、これ単体で見るとちょい使いづらいかも?」

 

ミオ「ガード制限は相手のダメージが5以上と追い詰めた時に有効な効果。一方の★+1は相手のダメージが4以下で生きる効果。どちらが発動するか分からない抽選スキルの組み合わせとしては、ややギャンブルになるわけですね」

 

アリサ「ところが!! イザベルの効果が適用されていると世界が変わる! ガード強要力が強い★+1にガード制限の組み合わせは相性抜群! 状況を選ばず、相手に手札を2枚切らせる優秀なユニットに早変わり! イザベルすごい!」

 

ユキ「おまけで『モノキュラス・タイガー』もつけてあげると、防ぐには守護者以外のトリガーユニット2枚を切らないとならなくなるわねえ」

 

アリサ「イザベルひどい!」

 

 

●『黒玉の研究者 セシル』

 

ミオ「G1の抽選スキル枠ですね。登場時にSB1で、ノーマルユニットの場合はSCとパワー+5000。トリガーの場合は2枚引いてから2枚捨てる強力な手札交換です」

 

フウヤ「目玉は2枚の手札交換だけど、はずれてもコストは返ってくるから、使いやすそうな抽選スキルだね」

 

アリサ「若干『ブローニィ・ジャーク』チック」

 

ユキ「イザベル下では実質ノーコストで手札交換しつつパワーも上げる、これまた優秀なユニットに」

 

アリサ「難点はこれ1枚でデッキが4枚も削れること! 4枚と言えばこっきゅん1回分! ただでさえデッキの切れやすいグレートネイチャーだし、使いやすいからと言って乱用には注意かな」

 

こっきゅん「呼んだか?」

 

アリサ「呼んでない!」

 

フウヤ「うわあ! 誰だこいつは!?」

 

ミオ「コキュートスさんです」

 

フウヤ「え? コキュートス? グランブルーの?」

 

ミオ「えくすとらの常連さんですよ」

 

フウヤ「そうなんだ……って、何でヴァンガードのユニットが現実にいるんだよ!?」

 

こっきゅん「死は常に人の隣にある。我は死あるところに現れる。それだけのことよ」

 

フウヤ「理由になってないからな!?」

 

ミオ「まあまあ。ちょっと生きとし生けるものすべてを滅ぼそうとか考えているだけで、悪い人ではありませんよ?」

 

フウヤ「悪い人だろ、それ!?」

 

●『はむすけの級友 パステルマーカーのはむな』 『はむすけの学友 ロケット鉛筆のはむどん』 『はむすけの学友 赤青鉛筆のはむひこ』

 

ミオ「グレートネイチャーの人気ユニット、はむすけも強化されました」

 

アリサ「二つの色を同時に活かす最優秀生徒とか調子乗ってるやつの隣に、あらゆる色を使いこなしている女の子がいるんだけど……」

 

フウヤ「どうでもいいよ!」

 

アリサ「はむな、はむどんは、はむすけが本当にやりたい動きとはちょっとズレてるというか手遅れな感じかな。いつぞやのマシニングほどトンチンカンなことをしているわけではないけどね」

 

ユキ「一方のはむひこは、はむすけ関係無しにグレネの主力になるカードね。CB1SB1で2枚から1枚を選べるのがまず便利よ」

 

ミオ「RRRのマガツゲイルで1ドローですし」

 

アリサ「キラーリーフなんてドローできるかすら分からないからね!」

 

ユキ「そしてもう一方の効果は、毎ターン発動の機会があるのはすごいわ。

自分のドロー効果で、登場時はまず発動確定だし、それ以降も抽選軸のグレートネイチャーなら発動しないことの方が珍しいのではないかしら」

 

アリサ「ドローするだけの一発屋で終わらないのは、CB1SB1でドローする系統の中では革命的! これはまさしく最優秀生徒!」

 

 

●『美術部員 ペルノワーレ』

 

アリサ「グレネの地味なるキーカード! ドロップゾーン自身をバインドすることで、ドロップのノーマルユニットをデッキに戻すことができるのよ。

ビジュアルやフレーバーは先生みたいだけど、実はただの部員だったり。何の権限があって退学した生徒を復学させてるのかな?」

 

ミオ「グレネの弱点であるデッキ切れの防止や、デッキから無くなりやすいはむすけの補充。やれる仕事には事欠きません」

 

フウヤ「ドロップゾーンからスキル発動できるのもいいよね。効果が発動できないことはまず無いし、使うタイミングもコントロールできる」

 

ユキ「え、これむらくもにも欲しいのだけれど……」

 

こっきゅん「グランブルーもだ」

 

 

●『老境教授 マーコール・メーダー』

 

アリサ「ああ、テキストを食べちゃったからバニラなのね」

 

ユキ「上のペルノワーレもそうだけれど、グレートネイチャーは毎回、フレーバーも含めたカードデザインが凝っているものが多いわね」

 

 

●ネオネクタール 『アルボロス』

 

アリサ「グレートネイチャーからはアルボロス・ドラゴンが復活!! 前回のセシリアと言い、ネオネクの古参ファンにとってはたまらないところをついてくるわね!」

 

ユキ「効果は今風にトークンの強化となっているわ。

”聖樹”はコールするトークンをパワー10000、ガード値10000、インターセプト可能に強化してくれるのよ。もちろん今まで通りにブーストもできるし、グレードも0のままだから、引き続きイルミンスールやカイヴァントを使えるのも嬉しいわね」

 

アリサ「もうひとつの能力はユニットを1体退却させることで、トークンを2体コールする効果。強化トークンは大抵のユニットより強力なので、コストには困らないはず」

 

フウヤ「”聖樹”にライドする前にコールした、強化前のトークンをコストにするのも面白いね」

 

アリサ「しかも、この能力もV/R兼用なのよね。これが今後のVRの基本形になるのかな?」

 

フウヤ「…………」

 

アリサ「あれ? どうしたの、小金井君。急に顔を背けたりして」

 

ミオ「アグラヴェイルはV限定です」

 

アリサ「あ。何かごめん」

 

フウヤ「いいよ。続けて」

 

ミオ「本体のパワーも上がるので、クレイグもV裏に置きやすくなりましたね。トークン戦術には是非とも採用したいカードです」

 

ユキ「続くG2の”樹”は、”聖樹”のお試し版といった印象ね。ヴァンガードの場合、次にコールするトークンを一度だけ強化してくれるわ。

『アルボロスの陣風 オリヴェル』のような、ソウルのアルボロスを参照するカードもあるから、トークンをコールできなくても積極的にライドしていきたいわね」

 

ミオ「リアガードとしてもトークンを1体コールできる能力があるので、無駄がありませんね」

 

ユキ「G1の”若枝”はそれらのアルボロスを集めるためのカードよ。アタックのヒット時か、ブーストしたアタックのヒット時に山札を4枚見て、アルボロスを1枚手札に加えることができるの」

 

アリサ「『マシニング・ホーネット』と比較しても、アドを稼げる確率は低くないのに、使い減りしないってのが凄いわよね。フォースⅠサークル上のユニットをブーストして、積極的に効果発動を狙っていきたいわね」

 

ユキ「総じて、攻防に優れたフォースらしい戦い方のデッキになりそうね」

 

アリサ「どっちかって言うと『防』寄りだけどね。毎ターン20000ガードを工面できるのは、プロテクトⅠよりしぶとく戦える場面も少なくなさそう。

プロテクトⅡは論外」

 

フウヤ「ここまでの動きに一切CBを消費しないっていうのも凄いよね。もともとトークンを生み出すカードも、ほとんどがコストを消費しないし」

 

ミオ「CBを使わないということは、他のカードにカウンターコストが裂けるということ。

そして、あえてダメージを受けないとならない場面が無いということですね」

 

フウヤ「トークンですぐ盤面が埋まってしまうという弱点もインターセプトで自己解決できるようになったし。

コストを気にせずトークンをガードに使って、空いた盤面をまたノーコストのトークンで埋めてという動きが半永久的にできるようになってる。

これは単純に強力だし、カードデザインも綺麗だ」

 

アリサ「小金井君大絶賛のアルボロス・ドラゴン! 皆も使ってみてね!」

 

ミオ「実のところ一番使いたがっているのは作者だったりするのですが」

 

 

●『牡丹の銃士 マルティナ』 『牡丹の銃士 トゥーレ』

 

アリサ「貴方が見る最後の景色、大輪の華で埋めてあげる!」

 

ユキ「赤と白、好みの剣でお逝きなさい」

 

フウヤ「……仲いいね、このふたり」

 

ミオ「ええ、まったくです」

 

アリサ「いやー、懐かしいわね、マルティナ&トゥーレごっこ」

 

ユキ「子供の頃、よくやったわねえ」

 

アリサ「そんなわけで!

戦場に咲く、美しき二輪の花! マルティナとトゥーレがスタンダード環境へと華々しく返り咲き!!

この2人の加入で、セシリア率いる銃士デッキも大幅強化! ネオネクはアルボロスだけじゃない!」

 

ユキ「マルティナはヴァンガードにおいては1体しかコールできなくなったセシリアといったところね。

そう言ってしまうと地味に見えるかも知れないけれど、ソウルにG3がいることで本領を発揮するセシリアにとって、事前にライドするG3の存在はとても重要なの。マルティナなら、戦略を大きく崩すことなくライドできるわね」

 

アリサ「凄いのはリアガードでのスキル! 山札からコールされるだけで、パワー+5000、★+1!

ユニットを退却させて、少しずつよりよくしていくのが銃士のやり方だけど、これはその終着点にぴったり!

効果が切れたら、またの再会を信じてセシリアのコストにしてあげましょ」

 

ユキ「トゥーレは『銃士』でデッキを統一する最大の理由となるカード。マルティナをさらに小型化したスキルだけど、銃士なら2枚をコールできるの。

セシリアからトゥーレに繋げば、1体を退却させているとは思えないくらい、盤面がすぐに埋まるわ」

 

アリサ「そこからマルティナまで繋がれば燃えるよね」

 

ユキ「銃士の戦い方は昔から変わらないし、楽しいわね」

 

アリサ「昔と違って、銃士で統一はできないから、ハズレも覚悟しておかないといけないけどね」

 

ユキ「ではもう一度……」

 

アリサ「牡丹の花言葉は、「王者の風格」。照れるわね!」

 

ユキ「あら、「恥じらい」の花言葉も、たまーに思い出したら?」

 

 

●『アミメロ・メーロン』

 

アリサ「完全ガードできてないんだけど!?」

 

 

●ゴールドパラディン 『憤怒の騎士 アグラヴェイル』

 

アリサ「ゴールドパラディンからは、アグラヴェイルがまさかのVR化! その性能は! そして、そのフレーバーテキストは如何に!? 小金井君、お願いします!」

 

フウヤ「フレーバーはどうでもいいけどね!?

アグラヴェイルはアタックした時、リアガードをすべてソウルインすることで、そのターンにコールしたリアガードの数だけデッキをめくり、その中から好きなだけスペリオルコールできる。

毎ターン、盤面をリセットしながら連続攻撃を行う大迫力のスキルだね。

攻撃力は低く、安定性にも欠けるけれど、攻撃回数だけならアクセルクラン中でも最高じゃないかな」

 

アリサ「……オチは?」

 

フウヤ「無いよそんなの!」

 

アリサ「そんなこと言ってー。そもそも、アグラヴェイルにはもう一つスキルがあるでしょー。存在自体がオチみたいなスキルが」

 

フウヤ「もう自分でオチにしてるけどね!?

まあとにかく、アグラヴェイルはソウルブラスト12で、対戦相手にゲーム終了までノーマルユニットしかコールできなくなるという制限をかけることができる。

ただまあ、いくらアグラヴェイルが毎ターン大量にソウルチャージできるとは言え、有効に使える場面は稀じゃないかと……」

 

ミオ「たぶん、使う前にどちらかが負けてますよね」

 

ユキ「よくて、使えたけど勝敗には関係無かったってところかしら」

 

フウヤ「ゴールドパラディンはソウルがあればドローからスペリオルコールまでできるからね。無理をして狙う価値は無いと思うよ」

 

アリサ「なんたって、多少不自然な状況もムリヤリ作れちゃうアニメですらスルーされたほどのスキルだもんね」

 

ミオ「手札を全投入しての連続攻撃はたちかぜでは成功し、環境でも大暴れしている戦術です。ゴールドパラディンもそれに続くことができるか、要注目ですね」

 

 

●『横笛の解放者 エスクラド』

 

アリサ「え!? 何でアグラヴェイル(と本人)限定!?」

 

フウヤ「昔も解放者縛りの効果だったし、ある程度制限がつくのは分かるけど、何で解放者とまったく関係の無いアグラヴェイルと……」

 

アリサ「色々と納得いかない部分はあれど、できることは非常に優秀! ノーコストでユニットをコールできるし、コールしたユニットのパワーに不安があるならCB1で上乗せもできる。

ゴルパラの欲しい点はしっかり押さえている秀作!」

 

 

●『ろーんがる』

 

アリサ「え!? この『ライドできない』G3シリーズ、続いてたの!?」

 

ミオ「『サベイジ・マーシナリー』のように二重の枷がついていない分、パワーは少し落ちていますが、そこまで大きな差にもならないでしょう」

 

ユキ「他のカードとコンボしにくく、満足にブーストを付けてあげられるかも怪しいアグラヴェイルでコールする分には、単体で機能するこのカードは便利なのではないかしら?」

 

アリサ「これ系、全クランに欲しいよねー」

 

 

●終幕

 

アリサ「ふーっ、今月のえくすとらは終了ー! 小金井君、今日はありが……うっ!」

 

フウヤ「天道さん?」

 

アリサ「ムチモウマイナル チキュウジンドモ マタキタゾ」

 

フウヤ「し、白河さん! ミオちゃん! 天道さんが、何かおかしく!」

 

アリサ「ワレワレ『アンノウン・アダムスキー』ハ ツカッテイルダロウナ?」

 

ミオ「? アリサさんはいつもこんな感じですが」

 

ユキ「言われてみれば、いつもより理知的に見える気もするけれど」

 

フウヤ「いやいや!? どう見ても別人だろ! というか別人を名乗ってるし!」

 

こっきゅん「ふむ。地球では不思議なことが起こるものだな」

 

フウヤ「お前が言うなよ!!」

 

ユキ「フウヤ君は疲れているみたいね。今日のえくすとらは、ここでお開きにしましょうか」

 

ミオ「そうですね」

 

アリサ「デハ オロカナル チキュウジンヨ」

 

こっきゅん「さらばだ」

 

フウヤ「何でこの2人がシメるんだよ!!」




ガンニングコレオが落としたカードをタンクマウスに拾われる毎日。
栗山飛鳥です(挨拶)

今回の個人的な注目はマルティナ&トゥーレですね。
もともとイラストがカッコイイ&カワイイで好きだったのですが、相変わらずのフレーバーテキストには、思わず「おかえり!」と言ってあげたくなりました。

では、次回は12月の本編でお会いできれば幸いです。
更新は1日を予定しておりますが、6日~8日になる可能性もございます。


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Ex.16「Crystal Melody」

●序

 

アリサ「ヴァンガードファン1年に1度の夢の祭典! バミューダパックの発売よ!!」

 

ユキ「とはいえ、今年は2月にも発売しているから2度目ですけどね」

 

アリサ「ブシロードからの粋なクリスマスプレゼントってところかしら。そんなわけで、今日のあたし達もサンタコスでーす!」

 

ミオ「ユキさん以外」

 

アリサ「…………」

 

ミオ「どうしました?」

 

アリサ「こんな時、いつもならコキュートス(こっきゅん)が『我もサンタコスなり』とか需要の無いこと言って割り込んでくるのに……」

 

ミオ「あ。こっきゅんさんなら、『今日はリヴィエールのライブなり』と伝言を残して惑星クレイに帰りましたよ」

 

ユキ「こっきゅんは惑星クレイの住人だから、バミューダ△の演奏も実際に見に行けるのね」

 

アリサ「う、羨ましい……」

 

ミオ「代わりにトナカイコスの『腐蝕竜 コラプトドラゴン』さんを置いていくので『えくすとら』で使ってあげてほしいとのことです」

 

コラプト「フシュルルルルル……」

 

アリサ「何に使うのよ、こんなやつ!!」

 

ミオ「では、本日はこの4人で『えくすとら』『Crystal Melody』編、はじまります」

 

コラプト「フシャアアア……!」

 

アリサ「痛い痛い! かじらないで!」

 

 

●『輝きの新星 イヴ』

 

アリサ「バミューダパックにのみ許された特別なレアリティ、LIR(レジェンドアイドルレア)の新たな1枚、それがこの『輝きの新星 イヴ』!

山札の上から1枚見るというコストでも何でもないコストを支払うことで、山札の上から1枚、ユニットのいないリアガードにスペリオルコールできるの。

見たカードをそのままコールしてもよし。トリガーだったらコールせずデッキトップに置いておくもよし。

1ターンに1度の制限も無いから、デッキトップはチラ見し放題! スペリオルコールができないだけで、リアガードが埋まっていても使えるよ」

 

ミオ「オラクルシンクタンクのようなトリガー予知も兼ねているわけですね」

 

アリサ「そう! そして、そのトリガー予知が生きるのが、もうひとつの効果! トリガーによるパワーと★の上昇を倍にする! これ単体で見ると運任せの効果だけど、ある程度トリガーはコントロールできるので、トリガーがめくれる可能性は高いわよ」

 

ユキ「むしろ起動効果の方が運任せ感があるのよねぇ。

例えば、リアガードがガラ空きで盤面を埋めたいのに1枚目でさっそくトリガーがめくれてしまったら、展開するか諦めるか迷ってしまいそう」

 

アリサ「公式HPでは“同名ユニット1枚だけ”構築の新たなエースとして数えられているけれど、本人にそんな要素は一切ナシ!

イヴを4枚投入したイヴデッキを組んでもいいし、“同名ユニット1枚だけ”構築とは関係無いデッキに挿してもよし。

そんな受けの広さは、さすがレジェンド!」

 

ミオ「コラプトドラゴンさんはどう思われますか?」

 

コラプト「フシュウウウウウウ……」

 

ミオ「なるほど」

 

アリサ「通じてる!?」

 

 

●『高邁なる白銀 クティーレ』

 

アリサ「こちらはまごうことなき“同名ユニット1枚だけ”構築のサポートカード!

対応力の高さが魅力のハイランダーデッキにとって、サーチカードはまさしく命綱。けど、このカードを引いてこれるかも運次第というジレンマが。

引けたら、絶対に強いんだけどね」

 

ユキ「いっそのこと、この子だけ複数投入もありかも知れないわね。クティーレ自身は宣言できないけれど、デッキの中に入っていないカードを宣言することで、擬似的にクティーレを手札に加えることができるわ。

あとはそのクティーレをコールしていくだけで、最終的に欲しいカードを手に入れつつデッキのクティーレも1枚だけにすることができるのよ」

 

ミオ「では、『速攻する根絶者 ガタリヲ』を宣言します」

 

アリサ「せめてバミューダのカードにしてあげて!?」

 

ユキ「難点はクティーレが引けないままG4にライドしてしまうことだけれど。

G3はクティーレ4枚だけにしておくのが無難かしらねえ」

 

アリサ「『めくるめく夢物語 ぺリシア』も強いから悩むよねえ」

 

ミオ「“同名ユニット1枚だけ”構築に一石を投じたことは間違いのないカードです。

ヴァンガード界の白銀の弾丸(シルバーバレット)として活躍してくれることを期待したいですね」

 

 

●From CP

 

アリサ「カワイイ顔した殺人兵器、カラフル・パストラーレも大幅強化!

今回はカラフル・パストラーレの各メンバーがG2になって仲間入り! もちろん全員が旋律持ちよ」

 

ミオ「リーダー格のソナタは、唯一他のユニットに波及できる旋律効果を持っています」

 

アリサ「裏を返せば、他のG2メンバーの固有効果は旋律効果じゃない点には注意が必要ね。あくまで旋律を受け取れるだけ」

 

ミオ「ソナタの効果はアタック時にパワー+5000するというものです。ブースト役も強化できるG3には劣りますが、旋律効果であることを考えれば、十分と言えるでしょう」

 

ユキ「続くフィナの効果は、旋律持ちがヴァンガードなら、ガード値に+10000というものよ。

旋律持ちとは言え、できる限り盤面は強力なG3で固めたいカラフル・パストラーレにとって、ガーディアンサークルで活躍するG2は特に相性がいいわね」

 

アリサ「G3フィナはカラフル・パストラーレの中でも守りの要として評価が高かったけど、こっちもかなり強そうだね」

 

ミオ「セレナの効果は、G3の頃とほとんど変わらず、旋律効果が無くなっただけです」

 

アリサ「G2にライドした段階で使えるのが肝かなー。

序盤からガンガン展開して、速攻しつつノーコストドローが狙えれば理想かも。

旋律関係無しに使えるし、G3が多めで速攻しにくいカラフル・パストラーレより、他の軸で活躍してくれそう」

 

ユキ「他の軸で活躍してくれそうと言えば、キャロは凄いわ。SB2で自身のグレード3と同名カードをサーチという、むらくももビックリの能力よ」

 

ミオ「カラフル・パストラーレで運用しても強力なのですが、今回の新たなメインヴァンガードとなるコーラル、パシフィカ、リヴィエールは、全て同名カードを揃えることで力を発揮します」

 

アリサ「汎用カードとしても、カラフル・パストラーレの一員としても超優秀! G2になってもキャロは強かった!」

 

ミオ「一方のカノンは……」

 

アリサ「……攻撃的な姿勢を一切崩さない、ブレなさは評価するけどね!」

 

ユキ「とは言え、フォースⅡの上に置くだけで、お手軽にガード制限と★2のコンボもできるし、侮るのは危険よ」

 

 

●『際立つ個性 テルミーナ』

 

アリサ「その個性はキワモノすぎてない!?」

 

ユキ「G4を投入したり、G3を10枚以上積んだり、グレードのバランスが歪みがちなバミューダにとって、たしかにGアシストは珍しくないけれど……」

 

ミオ「特定のグレードが無く、このカードがあるという、極めて限定的な状況でようやく活躍できるカードです。G4デッキの場合、このカードも1枚しか入れられませんが。

その条件を満たせた場合も、Gアシストの手札コストは軽減してくれますが、ソウルもけして安いコストではないのですけど……」

 

アリサ「G1のGアシストにはもちろん使えないどころか、パワー6000にライドするハメになっちゃう。せめてパワー8000でしょ、そこは!?」

 

ユキ「色々と実験的な趣が強いカードね」

 

アリサ「Gアシストは『罰則』であり、『お情け』だから、あんまり緩くすることはできないんだろうけどね」

 

 

●『トラブルバラドル プレシブ』

 

ミオ「作者が好きそうなイロモノヴァンガードです」

 

アリサ「手札に6枚くらい揃えばそこそこ堅そうだけど……いや、それは1年前の話かな。

ちょっとインフレに追いつけなかった!

パワーが12000なのもアレだけど、せめてフォースくらいはちょうだいよ!」

 

 

●『オーロラスター コーラル』

 

アリサ「コーラル。何の変哲も無い連携ライドとして登場した彼女は、数多あるカードと同じようにヴァンガードの歴史の闇へと消えていくはずの存在だった。

しかし! 他のアイドルと比較すると、ちょっぴりふくよかな体型から大食いキャラと言われるようになり、イラストレーターさんもそれにノッてしまったことから、人気が爆発!!

当時行われていたバミューダ人気投票で堂々の2位を獲得し、以降続々と追加されていった強化カードから、デッキタイプの一角を占めるようになるのであった……。

そんなリアル・シンデレラストーリーを展開したコーラルが、リヴィエール、パシフィカと言った初期メンバーと一緒にVR化!」

 

ミオ「ちなみに作者はレインディアを期待していたとか。コーラルも好きらしいので複雑だったようですが」

 

ユキ「そんな『オーロラスター コーラル』の性能は、このターンにSB4しているなら全コーラルの★を2にするわ。元々の★数値を変更するから、残念ながらフォース2とは相性が悪いわね」

 

アリサ「起動能力でSB2は担保されているから、残りはSB2ね。『シャイニースター コーラル』はSCもできて、もちろん相性抜群だけれど、同名カードを集めるG2キャロも、狙ったかのように噛み合ってるわね」

 

ユキ「ちなみに起動能力はドロップゾーンとリアガードからノーマルユニットを手札に戻すというもの。アドバンテージを取りつつ、バウンスで盤面を整える、昔ながらのバミューダらしい戦い方が楽しめそうね」

 

ミオ「完全ガードも回収できるようにしておきたいですし、引完ガの採用枚数も考えた方がよさそうですね」

 

 

●『トップアイドル パシフィカ』

 

アリサ「その愛らしさから、常にバミューダ△の中心人物として活躍してきたパシフィカ!

SB1の起動能力は、パシフィカを含むリアガードの枚数によって効果が増えていくわ」

 

ミオ「リアガードにパシフィカが1枚あれば、パワー+10000、ドライブ+1です」

 

アリサ「さっそく、コレオとは何だったのか!」

 

ユキ「これだけトリプルドライブが増えてくると、そろそろ星骸や『ディケイダール・オートマタ』の評価も変わってきそうねえ」

 

ミオ「パシフィカが2枚で、フォースを2つ得ます」

 

アリサ「フォースⅡをいきなり全ラインに付与することも可能なわけね」

 

ユキ「フォースⅠを選べば、全ユニットの攻撃力が凄い勢いで上がっていくわ」

 

ミオ「パシフィカが3枚で、3枚のガード制限がつきます」

 

ユキ「『スピニング・ヴァリアント』……」

 

アリサ「つまり理想を言えば、相手がG2の段階で、トリプルドライブしつつ、全ラインが★2になって、3枚のガード制限をかけた状態でアタックできるわけね!? アホか!!」

 

ユキ「問題は3枚という条件がどれほど難しいかだけれど、デッキ、ダメージ、ドロップ、全てにおいて手に入れる手段が用意されているし。

さすがに相手がG2の段階というのはよほど運がよくないとできないでしょうけれど、その次のターンには十分達成できそうね」

 

アリサ「3体並ぶと1体はブーストできないけれど、『静閑なる情熱 ソルダ』のようなサポートカードもあるし、そもそもガード制限がかかってるから、相手に届くだけのパワーがあればいいのよね」

 

ユキ「いっそのこと、ソルダのあるなしに関わらず、パシフィカはすべて後列に置いておく。くらいの気概でいいのかも知れないわね」

 

ミオ「相手が盤面を整える前にカタをつけられる速攻性は、現環境のトップデッキとしては必須の要件と言ってもいいほどです。そういう意味では、実戦的なデザインのカードですね」

 

 

●『トップアイドル リヴィエール』

 

アリサ「終わらない伝説、リヴィエール!! スキルはその名に相応しく、手札にリヴィエールがある限り続く、連続擬似スタンド!」

 

ユキ「最終的にはG2のリヴィエールにライドしてしまうのも面白そうね。事前にフォースⅠをばら撒いて、『スーパーアイドル リヴィエール』をコールしておけば、ドライブチェックが無くともトドメには十分な攻撃力が見込めるわ。

相手にターンを渡してしまうことになっても『相手ヴァンガードがG3の時』系の能力を不発にさせることができるのよ」

 

アリサ「ハンゾウやモルドレッドのスキルをまともに受けるよりかは、手札3枚の消費の方がマシかもね」

 

ミオ「強力なスキルですが、他のVRと違ってサポートカード、特にサーチ・サルベージ系はやや少なめになっています」

 

アリサ「スキルが満足に使えない恐れもあるわけね。まあ、Vスタンドが安定して2回も3回もできたらダメなんだけど」

 

 

●終

 

コラプト「シュウウウウウウ……」

 

アリサ「こいつ、結局何もしなかったわね……痛い痛い! だから、かじるのやめてってば!」

 

ユキ「ふふふ。すっかり懐かれてしまったわね」

 

アリサ「これが!?」

 

ユキ「では、そろそろお開きにしましょうか」

 

アリサ「皆も推しメンと素敵な冬を過ごしてねー!」

 

ミオ「さようならー」

 

コラプト「シャアアアアア……!」




『えくすとら』初のバミューダ△パックとなる「Crystal Melody」編はいかがでしたでしょうか。
この「Crystal Melody」編が、今年最後の「根絶少女」となります。
次回は、来年の1月1日に本編の公開を予定しております。
ふとした思いつきで始まったこのシリーズですが、来年も「根絶少女」をよろしくお願いいたします。
皆様も良いお年をお過ごしくださいませ。

来年は「根絶少女」誕生秘話でもあとがきで書けたらいいなと思っています。


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Ex.17「竜牙独尊」

ユキ「読者の皆様。新年あけましておめでとうございます。

本年も根絶少女登場人物一同、読者の皆様に楽しんで頂けるよう努めて参りますので……」

 

アリサ「はいはーい、あけましておめでとうございまーす! 今年もよろしくお願いしまーす!」

 

ミオ「あけましておめでとうございます」

 

アリサ「じゃ、今年1発目のえくすとらはじめるよー!」

 

ユキ「ちょっと。新年のあいさつくらい、きちんとしなさいな」

 

アリサ「ユキのは長すぎるのよ。

そもそも20日も過ぎて新年の挨拶も何も無いでしょうに。

そんなわけで、えくすとら『Team 竜牙独尊!』編、はじまりまーす!」

 

ミオ「収録クランはシャドウパラディン、アクアフォース、なるかみですね」

 

アリサ「今日はシャドウパラディンに造詣の深いアイツをゲストとして呼んでいるんだけど……うう、呼びたくないなあ」

 

ユキ「わがまま言わないの」

 

アリサ「はいはい。『根絶少女』作中のシャドパラ使い、御厨(みくりや)ムドウでーす!!」

 

ムドウ「……ただいま紹介に預かった、呼びたくないゲストの御厨ムドウだ。よろしく頼む」

 

ユキ「ほらヘソ曲げちゃったじゃない」

 

アリサ「知らないから! むしろいい年して、この程度でスネないでよ!」

 

ムドウ「好きなユニットは『漆黒の乙女 マーハ』と『髑髏の魔女 ネヴァン』と『黒翼のソードブレイカー』と……」

 

ミオ「本能に忠実なラインナップですね」

 

アリサ「もうあんたバミューダ△使いなさいよ!」

 

ムドウ「ふっ。未熟なり、天道アリサ」

 

アリサ「何がよ!?」

 

ムドウ「花畑に咲き誇る花ばかりが美しいわけではあるまい。荒野にただ一輪、砂塵の中で咲いているからこそ美しい花もあろう」

 

アリサ「うっ……」

 

ミオ「アリサさんが言い負かされたところで、本日のえくすとらはじまります」

 

アリサ「ま、負けてないから!」

 

 

●なるかみ 『ドラゴニック・ヴァンキッシャー』

 

アリサ「一点突破型の多いなるかみのヴァンガードに新戦力! 『ドラゴニック・ヴァンキッシャー』が前列強化能力を携えて帰還!

なるかみにはすでに絶対的エースのガントレッド・バスターがいるけれど、その牙城を崩せるかが注目ね」

 

ミオ「フィニッシャーであることを考えれば、ガントレッドとの混合デッキもありえるような気がしますが」

 

ムドウ「ガントレッド・デトニクス混合型の、デトニクスの枠になるわけだな」

 

ユキ「けど、ガントレッドとヴァンキッシャーだけだと、リアガードを残さず戦えるクランと戦いにくくないかしら。

そう考えると、ヴァンキッシャー・デトニクス混合型の方が隙が無さそうよ」

 

アリサ「なるかみのVRはどれも強いから悩むよねえ」

 

ムドウ「ヴァンキッシャーが他より優位な点は、相手にトリガーが乗った場合の立ち回りだな。

前列除去を得意とするなるかみは、リアガードでリアガードを攻撃できることがまず無いので、相手ヴァンガードにトリガーが乗ってしまった場合、他のアタックが通らなくなることも多い。

だが、+10000の強化ができるヴァンキッシャーなら、トリガーを相殺できるので、安定性は高いだろうな」

 

ユキ「他と比べて不利な点を挙げるなら、ユニットの展開が必須な点かしら。

展開力やアドバンテージ獲得能力にも欠けるなるかみで前列を揃えるのは結構大変よ」

 

ムドウ「だが裏を返せば、誰が前列だろうと、ユニットの質を問わず一定のパワーを担保できる能力であるとも言える。

ここまで触れなかったが、ハンデス能力もあることを考慮すると、なるかみをさらなる高みに押し上げる原動力となるのは間違いなかろう」

 

アリサ「……意外と真面目に考察するじゃない」

 

ムドウ「俺はいつだって大真面目だ」

 

 

●『ドラゴンダンサー アナスタシア』

 

ムドウ「美人だ」

 

アリサ「いきなり不真面目になりやがった!」

 

ミオ「なるかみには珍しい守りのカードです」

 

ユキ「本来負けてしまうターンにこのカードのおかげで生き残ることができれば、それは追加ターンを得られたのと同じこと。

強力な守備は、時に強力な攻撃へと変じるのよ」

 

ミオ「守りの要として、是非とも入れておきたいカードになりそうですね」

 

ムドウ「かわいいしな」

 

 

●『ブリッツキャリバー・ドラゴン』

 

アリサ「ほらまたシャドパラ以外でこういうの出してくるー」

 

ユキ「要するに、VR以外のヴァンガード専用ユニットね」

 

ミオ「ものすごく簡単な要件でパワー+20000。けして弱くはありませんが、単体で除去と高パワーを実現するガントレッド・バスターと比較すると、明らかに色々と足りていません」

 

アリサ「要件もヴァンキッシャーの全体強化と似ているし、ヴァンキッシャーデッキの一点突破型サブヴァンガードとしてデザインされた感じかしら? ガントレッドを持っているなら、必要無さそうなのは確かだけど」

 

ユキ「作者の求める『レアリティは低いけど、他がマネできない光るものは持っている』系のG3とは少し違う感じねえ」

 

ムドウ「要するに旧環境で言う『呪札の魔女 エーディン』や『魔界城 トートツィーゲル』のようなカードを待っているわけだな」

 

 

●アクアフォース 『終末の切り札 レヴォン』

 

アリサ「何でヴァレオスじゃないのよ!!」

 

ユキ「クラレットソード、ヴァンキッシャーときて、これですからねえ」

 

アリサ「アニメの設定を考えれば、こここそヴァレオスであるべきじゃないの? ルウガはヴァレオスと深い繋がりがあったからこそ、ヴァレオスにディフライドされたわけでしょ?」

 

ムドウ「そして、その代わりとなったのが、まさかのレヴォン」

 

アリサ「蒼波ですらない!」

 

ユキ「ゴールドパラディンのアグラヴェイルといい、たまに意表をついてくるわよねえ。

レヴォンはまだ最高レアリティのカードだったから、まさかというほどではないけれど」

 

アリサ「そのスペックは、ヴァレオスとレヴォンを踏襲しつつ、両者を大幅強化した感じに!

おかげで妙に盛られている感じがするわね」

 

ユキ「ユニットを1体レストしての弱体化はヴァレオスのイメージかしら。前みたいに固定はできないけれど、単純に弱体数値が大きくなって強力ね。

攻撃数を稼ぐことに長けたアクアフォースにとっては、強化よりも相性がいいわ」

 

アリサ「攻撃回数ではなくレストしたユニットを数えるのはレヴォンの特性ね。スタンド封じされても要件を満たすのに支障が出ない、貴重なユニットよ。

ま、今のメガコロはほとんどスタンド封じしないんだけどね。

他にも、★+1なんかもちゃっかり引き継いでいるわ」

 

ユキ「アリサが言った通り、明らかに効果が盛られているから、その強さを語るのは不要な気がするわね。

あえて弱点を指摘するなら、アクアフォースでレストしているユニットを5体集めるのはなかなか大変なことかしら。

アクアフォースも、なるかみと同じようにアドバンテージを稼ぐのは苦手なクラン。レヴォンが登場した段階で盤面を埋めるには、ほぼすべての手札を消費することになりそう」

 

ムドウ「ソウルにG3がいる時の効果もあるにはあるが、2枚目の自身は後列にコールされて、コストとして寝かされることも多くなりそうだな」

 

 

●『ブレスストリーム・ドラゴン』 『アナライズ・シューター』

 

アリサ「蒼嵐艦隊だって、まだまだ現役! メイルストロームのサポートカードよ」

 

ミオ「『ブレスストリーム・ドラゴン』は、手札のメイルストロームをコストに、メイルストロームのドライブ数を増やします」

 

ムドウ「1枚の前トリガーで勝負を決することができるグローリーにとって、ドライブ数が増えるのは悪くない」

 

アリサ「『アナライズ・シューター』はブーストしたアタックがヒットするたび、メイルストロームを荒稼ぎ! クロスライドのサポートはもちろん、ブレスストリームのコストだって確保できちゃう」

 

ミオ「蒼嵐と蒼波。どちらがアクアフォースを制するか、注目ですね」

 

 

●『フォートヴェセル・ドラゴン』

 

アリサ「レヴォンの不在を埋める副官ポジション」

 

ムドウ「V登場時にギフトを取得し、相手ヴァンガードに-5000の弱体化をかけることもできる。

レヴォンの方が数段強力ではあるが、レヴォンデッキで最低限しておきたいことはしてくれる有能なサブヴァンガードだ

もちろんリアガードとしても、高パワーに耐性に隙が無い」

 

ユキ「レヴォンの弱体化と違って、自動効果なのが隠れた利点よね」

 

ムドウ「そうだな。今はそれを生かせるカードは無いが、タイミングの違いは後に大きな差となって現れることもある。

分かりやすい例が超越だな」

 

アリサ「仮にスタンダードでも超越が実装されたとして、レヴォンは弱体化させる前に超越しちゃうけど、フォートヴェセルなら超越前に弱体化できるわけね」

 

ミオ「わかりやすく言うと、ヲクシズとケヰヲスの関係ですね」

 

アリサ「根絶者使い以外、わかりやすくないからね!?」

 

 

●『戦場の歌姫 ステファナ』

 

ムドウ「美人だ」

 

アリサ「それしか言えんのか、あんたは!」

 

ミオ「コモンでたまに登場する、ギフト無しヴァンガード専用G3です。安くデッキを組むのに向いている、入門用カードと言えるでしょう」

 

アリサ「スペックを補うために、リアガードには高レアリティを揃える必要がでてくるんだけどね!」

 

ミオ「そんなステファナの効果は、同名カードに後列からアタックできる効果を与えます」

 

アリサ「けど、アタック回数を増やすだけなら、アクセルサークルでもできるのよね。ステファナを1体コールするだけなら、リアガード用の能力しか持たないけど、ギフトは持っているG3の方がまだ優秀」

 

ミオ「差別化をするなら、最低でも後列に2枚はステファナを揃えなければならないということですね」

 

アリサ「うん。けど、むらくもやバミューダと違って、同名カードを揃える基盤がアクアフォースには無いからね。現状、活躍させてあげるのは、かなり厳しそう」

 

ムドウ「戦場の歌姫では初のG3なのだがな。もったいない」

 

ユキ「あら、そうなの?」

 

アリサ「うん。せっかくだから戦場の歌姫サポートとかにして、もっと強くして欲しかったよねー」

 

 

●シャドウパラディン 『クラレットソード・ドラゴン』

 

ムドウ「弱い! 弱すぎる……!!」

 

アリサ「こいつ、いきなりディスりやがった!」

 

ムドウ「というのが単体で見た感想だな。

ドロップゾーンからグレード1を7枚バインドという条件は、はっきり言って気が遠くなる。

山札をドロップしながら攻撃力を上げる効果もあるが、こちらがまたクラレットソードの特性と絶妙に噛み合っていない」

 

ミオ「ふむ」

 

ムドウ「まず、G3に初ライドした段階では、ドロップゾーンのG1が7枚という条件を満たすことが難しいということだな。せっかく強化されたところで、それで2回攻撃ができなければ宝の持ち腐れもいいところだ。

そして、ギフト取得より後に解決されるという点も地味に不便だ。フォースⅡを選んだところでパワーが上がらなければ効果は薄く、フォースⅠを選んだところで、さらにパワーが上がってしまったら、やはり意味が無い。

ルール上仕方の無いことではあるが、効果を発動してからギフトを選択できるか、ギフトを選択してから効果を発動できるかだけでも、使い勝手はだいぶ変わったはずなのだが」

 

ユキ「では、クラレットソードはガッカリVRになるのかしら?」

 

ムドウ「超越もできないクラレットソードなど、この程度のものだろう。

と言いたいところだが、フォローできなくも無い点もある。

クラレットソードは、全体で見ても数少ない、手札コストを消費せずスタンドするヴァンガードという点だ。

もし、サポートカードが充実して毎ターン安定してスタンドができるようになれば、化ける可能性もある。

とは言え、よほど運がよく、よほど構築を歪めでもしない限り、1ゲームに2度が限界だろうがな。

それで仕留め切れなければ、漏れなくデッキ切れで敗北だ」

 

こっきゅん「呼んだか?」

 

アリサ「呼んでない! デッキ切れに反応すな!」

 

ムドウ「こいつは……」

 

ユキ「あ、紹介するわね。彼は惑星クレイから来てくださった『氷獄の死霊術士 コキュートス』よ。何故か地球に居着いちゃっているの」

 

ムドウ(…………)

 

こっきゅん(…………)

 

ムドウ(……こいつ)

 

こっきゅん(……似ている)

 

ミオ「何かシンパシーを感じ合っているみたいです」

 

ユキ「そう言えば、言動は格好よさげだけど中身がまったく無い点は、2人ともそっくりね」

 

ムドウ「なっ、笑止!」

 

こっきゅん「無礼なり、小娘!」

 

アリサ「そういうところよ!?」

 

 

●『モリオンスピア・ドラゴン』『ダークプライド・ドラゴン』『ブルーエスパーダ・ドラゴン』

 

ユキ「では、クラレットソードの命運を占うサポートカード達も見ていきましょうか」

 

アリサ「これはまた……作者好みのイケ(メン)揃いね」

 

ミオ「作者が過去にクラレットソードを使っていた理由は、クラレットソードというよりかは、ダークプライドやダーククォーツが使いたかったかららしいですしね」

 

ムドウ「モリオンスピアは、手札とソウルのG1をドロップする役割のカードだな。他と違い枚数は稼げないが、確実にG1を落とせるのが魅力だ。やっていることの割にはコストが重く、1度使ってソウルを吐けば役目は果たしたようなものなので、採用枚数は少なくてもいいだろうが、ブルーエスパーダに指定されているのが悩みどころだ。

ダークプライドは3枚のカードをドロップ送りにできるので、運がよければ2枚以上のG1を稼ぐことができる。最低でもパワーの上昇は担保されているし、G1が落ちればコストを支払うことでドローも可能だ。安定性に加え、ロマンもある。クラレットソード軸以外の採用も一考の余地がある。

ブルーエスパーダも同じく3枚のカードをドロップ送りにできるカードだ。こちらはノーコストでアドを取ることすらできる。指定のカードが落ちれば当たり、G1が落ちても当たりと考えれば、はずれを落とす可能性は低い。G1であることも相まって必須カードと言えるだろう」

 

アリサ「トリガーが3枚落ちた場合は?」

 

ムドウ「その日はヴァンガードをやめて、家で布団にくるまって寝ていた方がいい」

 

ミオ「では、この3枚を考慮したうえで、クラレットソードの評価はどうなりますか?」

 

ムドウ「……微妙じゃないか?」

 

ミオ「むう」

 

ムドウ「『グリード・シェイド』、『ルイン・シェイド』、『伊達男 ロマリオ』、『悲哀の銃弾 ナイトゲベール』をフル投入したバスカーク軸のグランブルーが、先行でG3にライドした際に墓地10枚達成できている確率が、作者体感で約8割。

これらよりドロップする枚数こそ多いものの、継続して効果を使用できるルインや、そのルインをドロップから回収できるグリードより安定してドロップを増やせるとは到底思えん。

まして、クラレットソードは数だけでなく質も要求してきている。デッキにG1を20枚入れたとて、山札を15~17枚はドロップ送りにしなければ、G1を7枚は達成できんだろう」

 

こっきゅん「ふん。我の率いるグランブルーが、生死を操る業で劣るはずもあるまい」

 

アリサ「いや、あんたが率いてるわけじゃないでしょ」

 

ムドウ「もっとも、作者はプロキシを使って実際に試したわけでもなく、計算式を立てたわけでもない。

グランブルーを使っている体感から適当に割り出しただけだ。モリオンスピア等、ピンポイントでG1を落とせるカードのおかげで意外と楽に達成できるのかも知れん。

その場合は、俺ではなく、作者を嘲笑(わら)え」

 

アリサ「責任転嫁!」

 

ムドウ「あと、これまではあくまでクラレットソードを軸にしたパターンを想定したが、ファイト終盤にライドし直すフィニッシャーとしての起用であれば、間違い無く強力な部類だ」

 

ユキ「終盤なら、ドロップゾーンにG1が7枚は自然に満たせる条件だものね」

 

ムドウ「そうだ。序盤から無理をして条件を満たそうとするから、構築や戦法が歪み、弱く見える。

ディクテイター軸にクラレットソードを2~3枚挿しておくのが、単純に強そうな気もするな」

 

 

●『哀慕の騎士 ブランウェン』

 

ムドウ「これはひどい」

 

アリサ「え? そこは『美人だ』じゃないの」

 

ムドウ「美人は美人だ」

 

アリサ「あ、そう」

 

ミオ「今弾のG1RRRは、3クランとも能力が共通しています」

 

ユキ「クラン特性に見合った+5000の強化と、山札の上から5枚見て、G3と手札交換する共通能力の2つね」

 

ムドウ「要するに手抜きだ」

 

アリサ「オブラート!」

 

ムドウ「その手抜きの煽りを最も受けたのがシャドウパラディンなのだ。

まず、共通能力がクラレットソードと相性が悪すぎる。G3の数を切り詰めてでもG1を増やさなければならないのがクラレットソードだと言うのに、山札の上から5枚見るだけの不確定サーチで当てられると思っているのか」

 

アリサ「G3を10枚以上入れてるデッキで6枚めくれる『マシニング・マンティス』ですら、しょっちゅうハズすしね」

 

ムドウ「G3がめくれなければ、手札からG1を落とすこともできない。クラレットソード軸では入れたくならないのが分かるだろう」

 

ミオ「G1がドロップに3枚あれば+5000の方はどうですか?」

 

ムドウ「ドロップのカードを7枚バインドするクラレットソードと相性がいいわけないだろう。

確かにドロップを増やす術に長けたクラレットソード軸とは相性がよく見えるかも知れんが、G1を3枚落とすくらい、従来のシャドウパラディンでもわけはない。なんなら、まとめて3枚を落とせる『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の方がよっぽど相性がいい。

そもそもブランウェンと相性がいいのは、ダークプライドやブルーエスパーダであって、ブランウェンとクラレットソードだけを見比べたらアンチシナジーもいいところだ。

誰よりもクラレットソードを支えなければならないG1のRRR枠が、クラレットソードのコンセプトと真逆のことを書いている。これをひどいと言わず、何と言えばいい」

 

アリサ「う、うーん。まあ、そう、かな……?」

 

ムドウ「もっともこれは、あくまでクラレットソード軸を想定した場合の話だ。それ以外のシャドウパラディンならば、戦闘面とライド面の両方で貢献してくれる心強いカードとなるだろう」

 

ユキ「それにしても……このG1のRRRは他のクランにも実装されるのかしら?」

 

アリサ「RRR枠が準互換カードになると、楽しみが減っちゃうよね。

かと言って強いのは確かだから、もらえなければもらえないで不公平だし」

 

 

●『オニキスダスト・ドラゴン』『忘我の騎士 ケイラウト』『一徹の矢 ムオルダ』

 

ミオ「『ブラスター・ダーク』のサポート。即ちモルドレッドのサポートカードですね」

 

ムドウ「そうだ。『オニキスダスト・ドラゴン』は、山札から『ブラスター・ダーク』をサーチし、自身はブーストに回る。前列はすべて『ブラスター・ダーク』にしたいモルドレッド軸にとって、これ以上無いG3だな。

パワーラインも狙いすましたかのように23000だ。

『忘我の騎士 ケイラウト』は、高いガード値に目が行く。アタックで狙われた『ブラスター・ダーク』をこのカードで守るのが理想だろう。

『一徹の矢 ムオルダ』は、スタンドする『ブラスター・ダーク』を2度ブーストすることが可能だ。ネヴァンで呼んでこれるパワーは魅力だが、もともとモルドレッド軸の『ブラスター・ダーク』は2撃目の方がパワーが高い。ややオーバーキル感はあるな。使うならギフトはフォースⅡを選ぶべきか」

 

ユキ「これでモルドレッド軸はさらに強くなりそうね」

 

ムドウ「ああ。ブランウェンもいるしな。

もともと大会でも活躍しているデッキだったが、今回の強化で更なるステージに進んだと言っても過言では無いだろう。

……モルドレッドと比べられなければならないという点だけ言えば、クラレットソードは哀れではあるな」

 

 

●『滅却の魔女 ベーラ』

 

アリサ「え? 完全ガード? それも再録の?」

 

ムドウ「過去には使えなかったカードも、状況の変化によって使えるようになる可能性がある。このカードもそのひとつだ。

まず、クラレットソードは多少無理にガードをしてでもG1を落としたい。それはわかるな?」

 

アリサ「うん。あ、そっか! ベーラはG1だから……」

 

ムドウ「そうだ。『完全ガードを使う』という行為で、G1を2枚落とせるようになる」

 

ミオ「登場時の手札交換も、クラレットソードとは相性がよさそうですしね」

 

ムドウ「ああ。クラレットソード軸で、守護者にしかライドできない状況も稀だろうが、ネヴァンやソードブレイカーにライドするよりはマシな状況もあるだろうし、あって困る能力ではない。

シャドウパラディンは引トリガーを減らしても戦える地力(ドロー)もあるしな」

 

 

●了

 

ユキ「今日はわざわざ『えくすとら』に来てくださってありがとうございました」

 

こっきゅん「構わぬ。またいつでも呼ぶがいい」

 

アリサ「あんたは呼んでないからね!?」

 

ムドウ「ふん。思いのほか楽しめた。とでも言っておこう」

 

アリサ「こっちはこっちでそういうこと言う!」

 

ミオ「次は2月の本編。そして『The Astral Force』のえくすとらでお会いしましょう」

 

ユキ「それでは、皆さん……」

 

ムドウ「さらばだ」 こっきゅん「さらばだ」

 

アリサ「格好よさげだけど中身がまったく無い挨拶が被った!」




安さは罪!!(挨拶)
いやまあ正義なんですが。
5000円くらいで組めました、クラレットソード軸。

実際にクラレットソード軸を使ってみた感想ですが、意外と最速のタイミング(G3ライド時)でドロップ7枚の条件は満たせました。
それこそ私のバスカーク軸と同じか少し低いくらいの7~8割くらいの成功率だったと思います。
そうなればさすがに強く、けっして弱くはなかったです。
G1はやや少なめの19枚構築で試してみたので、もう少し尖らせれば、成功率はさらに上がるのではないでしょうか。

ただ、ブルーエスパーダやダークプライドが引けないとバニラ同然なので、やっぱり安定性には欠ける印象です。
そして、デッキの減りがグランブルーと同じかそれ以上なので、相手に治を2回引かれたらほぼ負けです。
手札はガンガン貯まるので守備力も高いのですが、それを全く生かせないあたりもグランブルーに近いものを感じます。
特にこっきゅん。

ちなみに『えくすとら』自体は例の如くプレイ前に書いているので……まあ、さすがに想像していたよりはずっと強かった感じですね。

さて、今週はブシロード戦略発表会がありました。
半年以内にメガコロが無いと分かった時点でテンションはガタ落ちなのですが、面白い情報もいっぱいあったので、今日明日中に臨時えくすとらは書き上げたいと思います。

それでは、またすぐにお会いできれば幸いです。


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Ex.18「ブシロード戦略発表会2020 前期」

●序

ユキ「ヴァンガード戦略発表会2020冬!」

 

アリサ「…………」

 

ミオ「はじまります」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「……やっぱり、最初はアリサからはじめてくれないかしら? 私もミオも声を張り上げるのは苦手なのだけれど」

 

アリサ「…………」

 

ミオ「だめですね。完全に放心状態です」

 

???「我にまかせよ」

 

ミオ「?」

 

こっきゅん「ヴァンガード戦略発表会2020冬!! 今ここに『えくすとら』の開催を宣言せん!!!!」

 

アリサ「…………な」

 

ミオ「な?」

 

アリサ「何であんたが開始の音頭をとってるのよ!!」

 

ミオ「アリサさんが復活しました」

 

アリサ「……はあ。分かってるわよ。7月ではまだ前回の強化から10カ月だからヘコむほどじゃないって。ひどい時は、2年近く待ったんだから、まだマシな方だって。ギアクロだって去年は相当待たされてたことだって知ってるし。

でもね! 今のメガコロって物凄く面白いの! 今の勢いのままもっと! もっとカードが増えたらって思うと……!」

 

ユキ「はいはい。よしよし。わかってる。わかってるわよ」

 

ミオ「アリサさんも正気に戻ったところで、改めて『えくすとら』はじまります」

 

 

●シーズンスケジュール

 

ユキ「アニメ展開に関しては不明瞭な部分が多いからとばしましょうか」

 

アリサ「うん。いいよ」

 

ミオ「では、シーズンスケジュールからですね」

 

アリサ「今年度、2020シーズンのテーマは……」

 

ミオ「クランタイプ継続/既存カード強化/24クラン収録 です」

 

アリサ「2019シーズンと何も変わってないじゃない!」

 

ユキ「とりあえず、今シーズンも無事24クランが収録されることが判明したのは収穫よね」

 

アリサ「遅くても来年の3月にはメガコロが収録されるということね! ……うっ、思ったより遠い」

 

ミオ「実際にそうなれば、作者の気力面で『根絶少女』が続いているかも怪しいですけどね」

 

ユキ「メガコロニーの動向に左右される、根絶者が主人公のヴァンガード小説って……」

 

アリサ「前にも言ったけれど、わざわざ24クラン収録って書いてるのも怖いのよね。いつこれが『厳選した12クランを収録!』に変わるかと思うと」

 

 

●商品展開スケジュール 3月 トライアルデッキ:ロイヤルパラディン ギアクロニクル ネオネクタール

 

アリサ「ここからは楽しみと緊張の瞬間! 商品展開スケジュールよ」

 

ミオ「3月はトライアルデッキ。ロイヤルパラディン、ギアクロニクル、ネオネクタールです」

 

アリサ「アニメの情報こそ無かったけど、これでだいたいアニメの展開は分かるよね」

 

ユキ「ヴァンガードGの再展開ね」

 

アリサ「カードの方でもいよいよ超越が再実装されるのか、超越無しでヴァンガードGの物語がはじまるのか」

 

ユキ「後で詳しく取り上げる予定だけど、超越が実装されるなら後攻サポートを実装する必要はなくて?」

 

アリサ「それもそうかー」

 

ミオ「ちなみに3クランともクランタイプはフォースです」

 

アリサ「トライアルデッキとして適切なのか不適切なのか微妙なラインね」

 

 

●4月 エクストラブースター:ロイヤルパラディン ギアクロニクル ネオネクタール

 

ミオ「そして、トライアルデッキ3クランの強化です」

 

アリサ「まず気になるのがパッケージ3体のグレードよねー。グレード4のノーマルユニットなのか。無難にグレード3にするのか。それともやっぱりグレード4のGユニットなのか」

 

ユキ「ネクステージだけはグレード4でも問題無いけれどもね」

 

アリサ「リベリオンもグレード4だったしね」

 

 

●5月 プレミアムコレクション:全クラン スペシャルデッキセット:ロイヤルパラディン

 

アリサ「5月には恒例のプレミアムコレクション!」

 

ユキ「今回もPスタンダード向けなのかしら」

 

アリサ「見た目の派手さはGユニットっぽいけど、スタンダードにGユニットが来てもおかしくない状況だし。どうなるんだろうね」

 

ミオ「加えて、『マジェスティ・ロードブラスター』のデッキセットも発売されます。私は知らないユニットですが、実は作者もちょっぴり使ってた時期があるそうです。作者曰く『若気の至り』だとか」

 

アリサ「やっぱり光と闇の融合は手堅く王道でアツいよねえ」

 

ユキ「かつて、このカードの登場後、ロイヤルパラディンデッキには、シャドウパラディンを10枚混ぜていいというルールが施行されたのだけど、それが後に悪用されることになるのよ……」

 

アリサ「あたしは好きだったけどねー、あの発想は」

 

ユキ「さらに大ヴァンガ祭限定で『フェスティバルコレクション』なるパックが発売されるわ」

 

ミオ「1パック1枚、引守護者確定。新テキストFV封入、他再録48枚の豪華パックです」

 

アリサ「うっ、ほしい……」

 

ユキ「収録数は130枚以上と、目当てのカードを当てるのは大変そう。皆でトレードするのに向いているパックね」

 

アリサ「各1BOXずつ買うだけでも、15200円の出費かあ。大ヴァンガ祭に遠征することも考えたら、5月は大変ね……ていうかマジェスティ・ロードブラスター高すぎない!?

デッキとスリーブなんてたかが知れていること考えると、プレミアムデッキホルダーとやらは、どれほどプレミアムなのよ!?」

 

ユキ「純金製よ」

 

アリサ「うそっ!?」

 

 

●6月 ブースターパック:オラクルシンクタンク かげろう ディメンジョンポリス リンクジョーカー

 

ミオ「怒涛の5月を終え、6月にはブースターパックが発売です」

 

アリサ「これはまた手堅いラインナップね」

 

ユキ「アニメで言うと、オラクル=クミちゃん&ツネト、かげろう=マモルさん、リンクジョーカー=伊吹あたりかしら」

 

アリサ「ディメポは謎だけど、新キャラクターが登場しててもおかしくないしね。ヴァンガードGが新しく始まるにしても、全く同じキャストではやらないでしょ」

 

ユキ「ブレードマスターは既に登場しているけれど、早くも“紅焔”の収録かしら」

 

アリサ「案外、“The Legend”とかだったりして。他はバトルシスター&スサノオ、グランギャロップ、オルターエゴ・メサイアあたりかな」

 

ユキ「そして『根絶少女』として見逃せないのが、リンクジョーカーの収録ね」

 

ミオ「はい。根絶者が出ると決まったわけではありませんが、楽しみです」

 

アリサ「6月に主人公のデッキが強化されるのは非常にタイミング的によいので、是非とも収録して欲しいところ。

根絶者が収録されなかった場合のことも、作者はちゃんと考えているらしいけどね」

 

ミオ「作者は最近星骸も使いはじめたので、そちらの収録も期待しているようですね。とりあえず、G2星骸はあと1種類欲しいそうです」

 

 

●7月 むらくも ペイルムーン ダークイレギュラーズ グランブルー

 

ユキ「7月にはついにむらくもが登場よ!」

 

アリサ「とは言え、アニメ的に気になるのは残りの3クランなのよね。この並びはどう見ても、ラミーラビリンス&江西さんしか……」

 

ユキ「猊下もいるわよ?」

 

アリサ「そうだけど!」

 

ユキ「むしろ、使い手が想像つく3クランより、使い手がピンとこないむらくもの方が気になるわ」

 

アリサ「え? 普通にシンさんじゃないの?」

 

ユキ「彼はもうジェネシス使いになりました」

 

アリサ「でも……」

 

ユキ「戻ってこなくて結構です」

 

アリサ「き、厳しい……」

 

ユキ「まあ、アニメでの使い手が誰になろうと、私としても作者としてもヤスイエが収録してくれればそれで満足なのだけれど」

 

アリサ「カッコいいもんねー。あれはユキが惚れても仕方ないわ。

シャルハロートやハリーまで収録されることになったら、いまだかつてないほどのイケメンパックになりそう」

 

こっきゅん「そこにグランブルーである我も含まれるのだ」

 

アリサ「それはない! 何の自信があって、ナイトローゼや七海覇王を押しのけて、自分が収録されると思ってるのよ!?」

 

こっきゅん「知れたこと。我には『氷獄の冥海神 コキュートス・ネガティブ』なる真の姿がある。ナイトローゼやナイトミストのような若造に劣るはずがあるまい」

 

アリサ「こいつ……コキュートス・ポジティブすぎる……」

 

ユキ「まあ、クラレットソード、ヴァンキッシャーときてレヴォンの例もあったから、どのクランも油断できないけれどね」

 

アリサ「そうね。ハリー、ナイトローゼ、シャルハロートときて『足軽大将 HYO-TA』になる可能性だってあるもんね」

 

ユキ「誰よそれ!? せめて既存のユニットにして!」

 

アリサ「真の足軽はただ一人。俺様を措いて他にいない!」

 

ユキ「なんという謙虚な自惚れ……」

 

ミオ「お楽しみのところ失礼します」

 

ユキ「あら、何かしら?」

 

ミオ「このパックの発売日は7月なんですよね?」

 

ユキ「そうだけれど……」

 

ミオ「3年生のユキさんは、とっくに卒業しているのでは?」

 

ユキ「!?!?」

 

アリサ「し、7月の『えくすとら』には呼んであげるから……」

 

ミオ「むらくも、グランブルーは、作者が特に愛用する2クランです。メガコロニーはいないにしても、作者にとっては熱い夏のはじまりになりそうですね」

 

アリサ「ユキを傷つけておいて、勝手にシメに入らないの!」

 

 

●オーダーカード

 

ミオ「ヴァンガードの新たな可能性。オーダーカードの登場です」

 

アリサ「他のカードゲームで言うソーサリー/インスタント、魔法/罠にあたるポジションのカードね!」

 

アリサ「とはいえ、ヴァンガードにはライド事故の危険性があるから、オーダーはあんまり多く入れられなさそうだよねえ」

 

ユキ「通常のデッキでも4枚前後が限界かしら。G4やG5を入れなければならないギアクロニクルや、星詠軸のジェネシスはもっと厳しいかも知れないわね」

 

アリサ「今こそ際立つ個性が輝く時!」

 

ユキ「そうなるといいわねえ」

 

ミオ「他には、デッキトップからのスペリオルコールを得意とするゴールドパラディンは、オーダーを入れにくいクランの代表格かも知れませんね」

 

アリサ「そういうクランには、そういうクランに向いたオーダーが収録されるだろうから、心配無いとは思うけどね」

 

ミオ「一方で、グレードを指定したサーチカードなんかは選択肢が広がりますね」

 

アリサ「メガコロの『マシニング・ホーネット』や『マシニング・マンティス』なんかがそうよね♪

エースユニットだけじゃなく、戦局をひっくり返すG3オーダーもサーチできるとなると、ますます夢が広がるわ」

 

こっきゅん「極めつけは、グランブルーよ。我がしもべたる『グリード・シェイド』は、ドロップゾーンから好きなカードを回収できる」

 

アリサ「『グリード・シェイド』を蘇生できるバスカークやこっきゅんなら、毎ターン、オーダーを使い放題なわけね。うわ、ますます強くなりそう」

 

こっきゅん「また買いに行かねばな」

 

 

●クイックシールド

 

ユキ「さらに、現存するスタンダードの全ファーストヴァンガードがエラッタされるわ。

ライドされた時に1枚引く能力はそのまま、相手がすでにG1の時には『クイックシールド』のチケットを手札に加えることができるの」

 

ミオ「チケットとは、オーダーの擬似カードですね。プロテクトⅠ同様、使用するとゲームからは消失します」

 

アリサ「『クイックシールド』のスペックは、ガード値5000。カードの質としては最低クラスよね。現環境の後攻の厳しさを考えれば、少し物足りないんじゃない?」

 

ユキ「では、有効な利用法を考えていきましょう。

真っ先に思いつくのは手札コストね。手札交換を使えば、貧弱なクイックシールドも、デッキ内の強力カードに早変わり……するかも知れないし」

 

ミオ「完全ガードのコストにしてもいいですね。ヴァンガードをスタンドさせる効果も、手札コストを要求されることが多いので狙い目です」

 

アリサ「相手ヴァンガードがG3で本領を発揮する=先行後攻でスペックに差ができにくい系のユニットも相性がよさそうね。プロテクトの暁・ハンゾウなんかは特に。ぬばたまなら手札交換も豊富だし、どうとでも利用できちゃいそう」

 

ユキ「『クイックシールド』としての活用法も考えていきましょうか。まず、ガーディアンでは無いのでガード制限にはことごとく強いわ」

 

アリサ「『盛装怪人 アルゴビルバグ』のような、2枚以上でしかガーディアンをコールできない効果や、『真魔銃鬼 ガンニングコレオ』のような、特定グレードのガーディアンのコールを封じる効果ね」

 

ミオ「グローリー・メイルストロームも、このカードとガーディアンで、擬似的にですが2枚のカードで防ぐことができるようになりますね」

 

 

●了

 

アリサ「先行有利にメスが入り、オーダーという新たなルールも追加され、今後のヴァンガードが楽しみになる発表会だったわね! メガコロがいないこと以外は!」

 

ユキ「G3に強力なオーダーが追加されるようなことがあれば、ますます先行有利が加速することになるけれどね」

 

アリサ「それもそうだけど!」

 

ユキ「今にして思えば、オーダーのプレイ条件は『グレードがヴァンガードのグレード以下であること』ではなく『グレードが相手ヴァンガードのグレード以下であること』の方がよくなかったかしら。

またG2止めみたいなゲームを停滞させるプレイングが発生してしまう懸念があるのはわかるけれど、ギフトがある以上、先にG3にライドするメリットも今はあるわけだし」

 

アリサ「ま、まあ! 公式も今は先行が強いって理解しているみたいだし、悪いようにはならないと……」

 

ユキ「レヴォンも、ヴァンキッシャーも、クラレットソードも、先行取り得なユニットでしたけどね」

 

アリサ「…………」

 

ユキ「とはいえ、私達もヴァンガードファイターである以上、規則には従うしかないわ。これからヴァンガードがよりよくなることを信じて、今楽しめることを楽しみましょう」

 

アリサ「……そだね」

 

ミオ「カードファイト部の方針もまとまったところで、今日はここまでにしましょうか」

 

こっきゅん「うむ」

 

アリサ「あんたは部員じゃないでしょ!」

 

ユキ「それではみなさん」

 

アリサ「さよーならー!」




ヴァンガードに新たな可能性が示されましたね!
オーダーの描写を今からどう書こうか悩んでいます。
栗山飛鳥です。

オーダーはもちろん楽しみなのですが、それ以上に、ヤスイエやダークフェイス等、G環境で愛着のあったユニットの再登場が、いよいよ現実的なものになってきたのが嬉しくてたまりません。

それでは次回は2月の本編でお会いしましょう。
できる限り2月1日には公開する予定ですが、2日になってしまう可能性もございます。
ご了承くださいませ。


※2月2日 追記
色々と感違いがあったので、一部書き直しました。お恥ずかしい……


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Ex.19「The Astral Force」

●序

 

ユキ「ざ」

 

ミオ「アストラル」

 

アリサ「フォース!!」

 

ミオ「……ユキさん」

 

ユキ「何かしら?」

 

ミオ「『The』の読みは『ザ』ではなく『ジ』です」

 

ユキ「あらそう。

今回の収録はジェネシス、エンジェルフェザー、ギアクロニクルね」

 

アリサ「英語に対する圧倒的無関心!」

 

ユキ「それでは、さっそくはじめましょう」

 

 

●ジェネシス 『創天光神 ウラヌス』

 

アリサ「星域をフォース3枚で開ける驚きの星詠ユニットが登場よ!

これもう、ライド時のフォースはリアガードに置く余裕もあるんじゃない?」

 

ミオ「その速さと強さは言うまでもありませんが、グレードを参照した特殊なSBが必要な点は注意が必要です。

もちろんフォースが5枚になったからと言って自動で星域を開いてくれるわけでもないので、創天光神をメインで扱う場合、ソウルの管理は必須になります」

 

ユキ「順当にライドした時点での、ソウルのグレードは3。残り2は、何らかでソウルチャージしてあげないとダメね」

 

アリサ「本来のジェネシスらしい動きになった感じね。フォースサークルを生成するユニットと、ソウルチャージするユニットのバランスを取らないとならなくなったから、デッキ構築難易度はメチャクチャ高そうだけど」

 

ユキ「一度回りはじめたら、ヴァルケリオンがソウルを補充してくれるから、2度目、3度目は楽になりそうね。

ヴァルケリオンのソウルチャージも、ようやく生かせるようになったわ。とは言え、ソウルチャージの量も質も安定しているわけではないから不安は残るけれど」

 

アリサ「ソウルチャージ2しかできず、グレードも1と0だったなんてことはよくありそうだしね。

何にせよ、せっかくフォース3枚で星域を開けるようになったのに、ソウルで遅れをとったなんて事態は避けたいわね」

 

ユキ「そして、このウラヌスにはさらなる驚きの効果が!」

 

ミオ「星詠を2体レストすることで、星神をスタンドする効果ですね」

 

アリサ「70000の2回攻撃だけでも凄いけど、前列に単体でも攻撃の通るユニットを置くことができれば5回攻撃! 強さの質としてはモルドレッドが近そう」

 

ミオ「リアガードに星詠が揃わなかった場合の最終手段として、ヴァンガードの創天光神をレストすることも可能です」

 

アリサ「ツインドライブを放棄しないとならないから、本当にいちかばちかだね」

 

ミオ「創天光神のパワー43000も低くないとは言え、十分に数値受けは可能であることを考えると、相手に完全ガードが無いと分かっている状況や、それに賭けないとならない状況等で使えるので、常に意識はしておきたいプレイングですね」

 

アリサ「けどこれ、マトモに運用しようとしたらどうなるの? デッキにG3の星詠を12枚入れて、ヴァルケリオンを4枚入れて、ソウルチャージできるユニットと、フォースを置けるユニットを分け合って、みたいな感じ?」

 

ミオ「作者は、星詠デッキのG2は『戦巫女 ムツキ』4枚だけでいいのではと昔から友人に主張していたらしいですが」

 

ユキ「先入観ができてしまうといけないから、作者はあまり他人のデッキレシピを見ないのだけれど――根絶少女(これ)を書き始めてからは特に――今回は気になるので、公式のデッキレシピを確認してみたわ」

 

ミオ「ふむ。星詠は創天光神が4枚で、他は3枚ずつ。G2は9枚、G1が10枚ですね」

 

アリサ「作者の主張通りにアレンジするなら、ムツキ以外のG2を2枚減らして、星詠を12枚に。さらにG2を2枚減らして、『デピュタイズ・ベア』を2枚追加。残り1枚のG2はライド事故回避のお守りに残しておくか、G1をさらに増やすかってところかな」

 

ユキ「ちなみに作者はトライアルデッキで遊んだ体験と、友人のジェネシスと戦った感想だけで書いているから、良い子のジェネシス使いは参考にしちゃダメよ」

 

 

●『星宿のファイノメナス』

 

アリサ「フォースマーカー1つにつき+5000! 強いんだけど、今回のウラヌスとは微妙にアンチシナジー!」

 

ミオ「それでも、星詠を後列に置きたい創天光神デッキにとって、単独でヴァンガードにアタックできるユニットは嬉しいです。ドロー効果もあり、強さは申し分ありません」

 

ユキ「最大の難点は、フォースサークル生成にも、ソウルチャージにも貢献するユニットでは無いということ。あくまで完成された状況で強いのであって、その下準備には何一つ貢献してくれないわ」

 

 

●『恒道のディケイ』

 

アリサ「ソウルとフォース、創天光神に必要なリソースを同時に確保しつつ、星詠も集めてくれる、デッキのエンジン! 必須カードと呼ぶに相応しいキーカード!」

 

ミオ「手札から好きなカードをソウルに置けるので、ソウルの質も担保してくれます。これで手札にダブついた星詠を置きつつ、新たな星詠をサーチしてくるのが理想でしょうか」

 

アリサ「これがあるから、星詠はやっぱり12枚にしたいよね」

 

ユキ「……この小説(?)は、もちろん作者の考えていることを私達が代弁しているわけなのだけれど、ファイノメナスとディケイの評価の差を見ていると、作者の性格が見えてくるわね」

 

ミオ「デッキの潤滑油となるカードの評価が高く、盤面が完成した状態で強いカードの評価は低く、ですね」

 

アリサ「ファイノメナスも低評価ってわけじゃないけどねー。パワーはもう少し控えめでもいいから、SC1くらいはして欲しかったっていうのが本音らしいよ」

 

 

●『葬送のリビティーナ』

 

アリサ「ヴァルケリオンを見せれば30000ガード!」

 

ミオ「インターセプトでも効果を発揮してくれるのはいいですね。ガード制限に対する切り札になってくれそうです」

 

アリサ「ただ、この子もソウルチャージやフォース生成には貢献してくれないユニットなのよね」

 

ユキ「G3を見せた場合の20000ガードでも十分に強力だし、実は従来のジェネシスで活躍してくれるカードかも知れないわね」

 

アリサ「いっそのこと、ヒミコ軸にヴァルケリオンを……」

 

 

●『回天の魔術師 エストラ』

 

アリサ「今日の大技大賞」

 

ユキ「ある日、大化けする可能性を秘めたカードであることは間違い無いわね。開発がその存在を忘れるのを待ちましょう」

 

アリサ「目指せ、第2の『エンジェリック・ワイズマン』!」

 

 

●『コンシート・ボア』

 

アリサ「突如として現れた、ぼっちカード。 って、何よこれ!? キャラは立ってるけど弱すぎない!?」

 

ミオ「重すぎるデメリットに、明らかに釣り合っていないメリットですね」

 

ユキ「ヴァンガード史上最弱すらあるかも知れないわねえ」

 

アリサ「話のタネにはなる分、ある意味、恵まれてるカードなのかも」

 

 

●エンジェルフェザー『特装天機 マルクトメレク』

 

アリサ「突如としてエンジェルフェザーに降臨したイケメカ、マルクトメレク! 機動病棟もこれには戦々恐々」

 

ミオ「敵味方のダメージゾーンを操るエンジェルフェザーの極致とも言えるユニットです。G2限定とは言え、登場時の1ダメージはインパクト大です」

 

ユキ「手数で劣りがちなプロテクトにとっては恵みの1ダメージね」

 

ミオ「相手がG3になれば、登場時効果は回復に切り替わります。ここからは従来のエンジェルフェザーのように粘り強く戦えますね」

 

アリサ「もう一つの効果は、ドロップゾーンから3体ものユニットをスペリオルコール! その代償として1ダメージ受けてしまうけれど、回復効果と併せて見れば、CB1SB1でユニットを展開する効果にも解釈できるわね」

 

ミオ「RRRの『救装天機 ザイン』、『救装天機 ラメド』は強力な効果と引き換えに、自身を退却させる効果を持っています」

 

アリサ「それらを退却させては蘇らせ、繰り返し利用しろってカードデザインなわけね。

ん? でも、それって……」

 

こっきゅん「呼んだか?」

 

アリサ「それどころか丸パクリされてるのよ、グランブルー(あんたら)!!」

 

ユキ「グランブルーに似ているのもそうだけれど、要素をそれぞれ切り離して考えると、できることはほとんどメタトロンと変わらないのよね」

 

ミオ「回復、展開、パンプ、自分にダメージ。確かにそうですね」

 

アリサ「エンジェルフェザーの特性を極めていくと、どうしてもそうなっちゃうのかもね。

1年以上前のRRRで、最新のVRにほとんど劣っているところが無いというメタトロンのスペックにも驚きだけど」

 

ミオ「ですが、似ているのは悪いことではないですよね。同じデッキに無理なく組み込めるということですから」

 

ユキ「そうね。メタトロンも積んで、回復に特化したデッキを組んでもいいし、バトルフェイズにできることは無いから、ザラキエルに乗り換えてもいい。

今弾にもプロテクト2サポートの『冠絶の総裁 ヨムヤエル』や、マルクトメレク専用に『快癒の天撃 ベルケエール』だっているわ。

もちろんフェザーパレスだって現役ですし、層の厚さもあって、G3だけで様々なデッキパターンが考えられるわね」

 

 

●『冠絶の総裁 ヨムヤエル』 『更生研削 トマエル』 『アンプテイション・エンジェル』 『セクシオ・エンジェル』

 

ミオ「事前に告知されていたプロテクトⅡの強化ですね」

 

アリサ「……いや、おかしくない?

肝心のVRやRRRで全くプロテクトⅡに触れてないんだけど」

 

ユキ「それどころか、再ライドを繰り返す都合上、マルクトメレク軸はいつも通りプロテクトⅠの方が相性よさそうよねえ」

 

アリサ「プロテクトⅡの強化って!?」

 

ミオ「一応、全カードRRではありますが」

 

アリサ「中途半端に豪華!」

 

ユキ「それでは、各カードを見ていきましょうか」

 

ミオ「『冠絶の総裁 ヨムヤエル』はプロテクトⅡ軸のリーダー的立ち位置です。登場時、山札の上から7枚見て、プロテクト・マーカーの数だけ、指定のカードを手札に加えることができます」

 

アリサ「高速化した今の環境、プロテクトⅡひとつで長生きできるとは思えないから、ザラキエルを駆使して倍々でマーカーを増やしていきたいところね」

 

ミオ「『更生研削 トマエル』はダメージゾーンから1体スペリオルコールして+5000します」

 

アリサ「プロテクトⅡ関係無いじゃないの!!」

 

ミオ「コールされたユニットがG3ならブーストを与えます」

 

アリサ「せめてインターセプトも与えなさいよ!?」

 

ミオ「『アンプテイション・エンジェル』は、同じ縦列にプロテクト・マーカーがあるなら、パワー+15000されます。マーカーが3つあるなら、守護者封じの効果も強力ですね」

 

アリサ「ここまで盛られて、ようやく、プロテクトⅡでもいいかもと思えなくもないわね」

 

ミオ「『セクシオ・エンジェル』は、同じ縦列にプロテクト・マーカーがあるなら、相手の効果で選ばれず、後列からインターセプトできるようになります。

プロテクトⅡの弱点だった、リアガード潰しに耐性のある、プロテクトⅡ軸のデッキでは主力となるユニットでしょう」

 

アリサ「なるほど。優秀ね」

 

ユキ「これなら、マルクトメレクとの相性も悪くないわね。毎ターン、『セクシオ・エンジェル』を蘇生させてはインターセプトを繰り返せば、プロテクトⅠに勝るとも劣らない堅牢な布陣が期待できるのではないかしら」

 

アリサ「けど、その戦い方って……」

 

こっきゅん「呼んだか?」

 

アリサ「だから、グランブルー(あんたら)の存在意義が怪しくなるレベルでパクられてるのよ!」

 

ミオ「プロテクトⅡ強化の看板に偽りはありませんでしたが、数値受けが困難な攻撃を連発できる星詠軸のジェネシスや、エースがインターセプト封じを持つ蒼嵐軸のアクアフォースのように、プロテクトⅠを選ばざるをえない対戦相手というものは、どうしても存在します。

そういった相手にどう立ち回るか、構築段階から意識しておく必要はあるでしょう」

 

 

●『サニタイズ・レイザー』

 

ユキ「?」

 

ミオ「?」

 

アリサ「?」

 

ユキ「……次にいきましょうか?」

 

アリサ「う、うん。

……あたし達が気付いていないだけで、何かトンデモコンボとかないよね? ガッカリRでいいんだよね?」

 

 

●『銀彩の斬刃 タルエル』

 

ミオ「『サベイジ・マーセナリー』、『ろーんがる』に続く、ライドできないG3シリーズ第3弾です。

今回もエンジェルフェザーならアタックの条件を満たすのは容易。特にメタトロンなら、毎ターン確定で条件を満たせます」

 

アリサ「それぞれ微妙にパワーが違うのは何でかな? デメリットがひとつ少ない『ろーんがる』が、一番パワーが低いのは分かるんだけど」

 

ユキ「デメリットとしては、一度武装ゲージを置くだけで条件を維持できるパワー27000のマーセナリーより、毎ターン条件を満たさなければならないパワー25000のタルエルの方が重く見えるのよね」

 

ミオ「マーセナリーは、2体並べた場合は武装ゲージを2箇所に置かなければなりませんが、タルエルは一度の効果で2体の枷をはずすことができるからではないでしょうか。

プロテクトなので単体パワーを低めに設定されただけかも知れませんが」

 

アリサ「いずれにしろ、20000越えのパワーで攻めも受けもできる安定感は、このシリーズにしか無い魅力。壮絶なG3枠の争奪戦にしっかり食い込める逸材よ」

 

 

●『ケアマイン・ナース』 『バンテージ・ドレッサー』

 

アリサ「今弾の隠れテーマである自分のダメージゾーンが5枚なら超強化シリーズ! 逆魔界城!」

 

ミオ「自分のダメージをコントロールできるマルクトメレクとの相性は抜群ですね」

 

アリサ「これを採用する場合、メタトロンの採用は見送った方がいいかもね。どっちも強いから悩ましい!」

 

ミオ「この2枚を比較すると、最終的にブーストを得て、パワーも高い『ケアマイン・ナース』の方が優秀そうですね。基礎値も標準的な9000に対し、『バンテージ・ドレッサー』はG1としては低めの7000しかありません」

 

アリサ「実際はG2とG1で採用枠が違うから、一概にどちらが強いとは言えないのが、ヴァンガードの面白いところだよね」

 

 

●ギアクロニクル 『クロノファング・タイガー』 『クロノタイガー・リベリオン』

 

アリサ「ギアクロニクルからは、『クロノファング・タイガー』が過去(Gスタン)から現在(スタンダード)へとタイムシフト!

カードとしての骨格はロストレジェンドと同じ。ただし、『クロノタイガー・リベリオン』へ超越した場合のボーナスが、手札を1枚捨ててのドライブと★に+1と、非常に豪華!」

 

ミオ「その、VRである『クロノタイガー・リベリオン』は、自分の手札の枚数が少ないほど、より多くのスキルを発動できます。

手札が5枚以下の場合、相手ユニットを2体を退却させます」

 

アリサ「いきなり強力だし、5枚以下なら狙わなくても条件は達成できそう。ロストレジェンド軸でも、除去の選択肢兼切り札として挿しておくのはアリかも」

 

ミオ「3枚以下の場合、前列ユニットのパワーに+10000します」

 

アリサ「クロノタイガー軸は、トリガーユニットもコールしなくてはならない状況も多くなりそうだから、パンプは噛み合ってるわね」

 

ミオ「1枚以下の場合、ダメージゾーンをすべて裏にすることで、相手ガーディアンのガード値を-5000する効果を得ます」

 

アリサ「マジで!? これまでの効果を総合すると、インターセプトは潰され、本体だけでもパワーは25000のトリプルドライブと、数値受けはかなり厳しそう!」

 

ユキ「裏を返すと、完全ガードには簡単に止められてしまうので、プロテクト相手には手札1枚以下の効果を温存しておく必要もありそうね。

フォースを毎ターン倍々に増やせるギアクロニクルは、本来、長期戦向けのクラン。じっくり盤面を固めて、プロテクトの壁を切り崩していきましょう」

 

 

●『リノベイトウイング・ドラゴン』

 

アリサ「従来のミステリーフレア軸にも心強い味方が! 盤面を整えつつ3枚もバインドできる驚きのカードよ。

自分もバインドできるから、グレード3はとりあえず確定で稼げるし、ランダムスペリオルコールとは言え、3枚もめくれるから、自分の効果が連鎖する可能性だってある。

ミステリーフレアの追加ターンも、もはや夢じゃない!」

 

ミオ「ぜひとも4枚投入したいカードですが、肝心のG4との枚数調整が難しいですね」

 

 

●『スチームスカラー イルカブ』

 

アリサ「ヴァンガードにドライブを+1するリアガードは昨今珍しくないけれど、それがヴァンガードでも使えるG2となれば史上初!

『ブラスター・ダーク』としても、『プレスストリーム・ドラゴン』としても運用できる、新時代のユニットよ!」

 

ミオ「最悪、CB1で手札交換に落ち付いてしまう可能性はありますが、リターンは十分です」

 

アリサ「疑似超越のサポートもあるし、至れり尽くせりのユニットだよね」

 

 

●『ノヴェルアラウンド・ドラゴン』

 

アリサ「貧乏人の心強い味方! RのG4ユニットよ」

 

ユキ「肝心の疑似超越ができるロストレジェンドも、タイガーも、RRRですけどね」

 

アリサ「くっ! 学生にとっては、それらもお高い……」

 

ミオ「登場時能力にクセがないので、いっそのことパワー15000のユニットとしてライドしても遊べるかと」

 

アリサ「やっぱり貧乏人の味方だった!」

 

ユキ「手札の枚数やバインドのような要件も無いので、主力にする場合、デッキ構築の幅が広がるという利点もあるわね。こうして見ると、意外と受けの広い良カードなのかも」

 

アリサ「ルックスもイケ(メン)だ!」

 

 

●『スチームレポーター アブム』

 

アリサ「コモンに隠された特大の地雷。インターセプトで発動する完全ガード!」

 

ミオ「前例は『フォールンダイブ・イーグル』がいますが、最低限のパワーを持っているのが魅力ですね」

 

アリサ「このカードの怖いところはそれよ。パワー5000で前列に出てくる、いかにも怪しいフォールンダイブとは違って、アブムは見た目普通のユニット。これが完全ガードできるという知識をしっかり身につけておかないと、思わぬところで計算を崩されかねないわよ」

 

ミオ「知識も技術のうちというわけですね」

 

ユキ「フォールンダイブのようにリアガードしか防げないということもなく、5000ガードとは言え、普通のインターセプトももちろん可能だから、取れる選択肢も幅広いわ」

 

アリサ「まさしくインターセプト界のダムジッド!」

 

ミオ「手札コストはバインドされるので、ミステリーフレア軸では通常の完全ガードよりも利点がありますし、受けの手札が少なくなりがちなクロノタイガー軸では生命線になる可能性も秘めています。

要注目の1枚と言えるでしょう」

 

 

●『スチームファイター ザバイア』

 

アリサ「起動能力で! 手札1枚のコストで! ターン1回の制限もない! 除去能力!

こいつもかなりの革命児なんじゃない?」

 

ミオ「どれほど強力なリアガードも、このカードの前では1ターンの命というわけですね」

 

アリサ「設置しておくだけで厄介なユニットを次々と葬ってくれる固定砲台。手札を稼ぐのが得意でないギアクロニクルで生かしきるのは難しそうだけど、書かれてある素質はRRR級!」

 

 

●了

 

ユキ「今年度を締めくくる精鋭揃いのパックだったわねえ」

 

アリサ「次からはチケットやオーダーの導入で、ヴァンガードがさらなるインフレもとい盛り上がりを見せてくれるといいね!」

 

ミオ「でも次回のえくすとらは……」

 

ユキ「……そうね。次回のえくすとらが、私がレギュラー出演する最後のえくすとらになります」

 

アリサ「何となく、えくすとらはあたし達3人で続けるもんだと思ってたよー」

 

ユキ「ふふふ。今はまだ詳細は話せないけれど、4月からは、響星学園の新入生が新しくレギュラーになってくれるのよ」

 

ミオ「む。ということは、私に後輩ができるということですね」

 

ユキ「ええ。だから悲しむ必要なんてないのよ。別れがあれば、きっと新しい出会いも待っているものなのだから」

 

アリサ「ユキ……」

 

ユキ「あ、でも7月には呼んでちょうだいね」

 

アリサ「はいはい」

 

ユキ「予約も取れたところで、今日はお開きにしましょうか。

それではみなさん……」

 

ミオ「さよーなら-」




あとがきを書き忘れていました。
例の如く、この記事は発売前に書いているので、変なことが書いてあっても許してくださいませ。
次回はいよいよ1年生編のラストとなる、3月1日の本編でお会いしましょう。


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Ex.20「おたんじょうび」

アリサ「……せーの」

 

アリサ&ユキ「おたんじょうび、おめでとう! ミオ(ちゃん)!!」

 

ミオ「…………?」

 

アリサ「……ミオちゃん?」

 

ミオ「……ああ。今日がうるう日でしたか。ありがとうございます。

作者が私の誕生日を決めたのは1か月くらい前のことなので、全然実感が湧きませんでした。

ケーキ、いただきます」

 

ユキ「どうぞめしあがれ」

 

ミオ「もぐもぐ。しかも、今年がうるう年だったから思いついたわけでもなく、思いついたら、その年がたまたまうるう年だったから、慌ててこれを書き始めたという経緯ですからね。もぐもぐ」

 

ユキ「今年を逃せば、誕生日ネタを書く機会がなくなってしまうものね」

 

アリサ「何で、2月29日のうるう日なんかを誕生日にしたんだろうね?」

 

ユキ「普段は根絶されている日だからではないかしら」

 

アリサ「ああ、なるほど」

 

ミオ「ごちそうさまでした」

 

アリサ「早っ!」

 

ミオ「私の誕生日のついでに、お二人の誕生日も設定されたそうですよ?」

 

アリサ「何それ? 知りたい!」

 

ミオ「アリサさんは6月4日です」

 

アリサ「ろくがつ、よっか? ……何か意味があるのかな?」

 

ユキ「64(ムシ)の日じゃないかしら?」

 

アリサ「あっ! そうか」

 

ミオ「ユキさんは4月6日です」

 

アリサ「しがつ、むいか? ……どう語呂合わせしても、ユキの日とかにはならないよね?」

 

ユキ「46(シロ)の日ね」

 

アリサ「そっちか!」

 

ミオ「こんな調子なので、他の人たちの誕生日はまだ決まっていないそうです」

 

アリサ「そりゃ、いちいち意味を持たせてたら大変でしょ!

ムドウとかなら()()日でいけそうだけど、小金井君とか、マリアさんとかどうするのよ」

 

ミオ「アリサさんの無責任な発言によって、たった今、ムドウさんの誕生日は9月6日に決まりました」

 

アリサ「おちおち予想も立てられない!」

 

ミオ「はじめは使用クラン単一でデッキが組めるようになった日を、各登場人物の誕生日にすることも考えていたようですが」

 

ユキ「それだと結構被ってしまいそうね」

 

アリサ「あたし(メガコロ)ムドウ(シャドパラ)からして、同じ10月29日だしね」

 

ミオ「他にも誕生日以外に色々と考えているそうなので、1年生編の登場人物のプロフィールは、4月の本編までにえくすとらで公開する予定だそうですよ」

 

ユキ「もう時間がないけれど、間に合うのかしら……?」

 

ミオ「間に合わないと思います」

 

アリサ「バッサリ!」

 

ミオ「こんな調子なので、期待せずお待ち頂ければと思います。仮に4月を過ぎてしまっても、いずれ何らかの形で公開することは考えているらしいので。

そんな根絶少女ですが、これからもよろしくお願いいたします」

 

アリサ「よろしくお願いしまーす!」

 

ユキ「よろしくお願いいたします」



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Ex.21「Chronojet & Altmile & Ahsha」

●序

 

アリサ「クロノジェット! アルトマイル! アーシャ!

あの英雄達がトライアルデッキになって帰ってきた!!

ちなみに今日は、ユキの家からお送りしております!」

 

ミオ「つまり、ここから3月の本編に繋がるわけですね」

 

アリサ「メタなこと言ってる時点で、完全に繋がっているかは怪しいけどね!」

 

ユキ「ふふふ。今日は響星カードファイト部3人、水入らずで楽しみましょう」

 

コキュートス(こっきゅん)「うむ」

 

ミオ「4人になりましたけど」

 

ユキ「というか、人の家にまで無断で上がり込むの?」

 

こっきゅん「我とて友との最後の語らいに割り込むような無粋な真似はせぬ。

だが、我にも『えくすとら』の準レギュラーとして、別れの挨拶を告げる権利はあると思うが?」

 

ユキ「あら。そういうことだったのなら」

 

アリサ(しれっと準レギュラーとか言いだしやがった……)

 

こっきゅん「これまで世話になったな。身近に死を感じた時、いつでも我のことを思いだすがいい。汝も死霊の群れに加えてやろうぞ」

 

ユキ「これはこれはご丁寧に」

 

アリサ「丁寧かなあ?」

 

こっきゅん「達者でな。さらばだ……」

 

ミオ「……やっぱり、悪い人ではなかったみたいですね」

 

アリサ「えー?」

 

こっきゅん「そういえば」

 

アリサ「まだいた!!」

 

こっきゅん「アニメで、タツヤは両親を蘇らせるため、マルクトメレクの力を利用しようとしたが、何故、我の力を借りようとはしなかったのだ?」

 

アリサ「あんたの力を借りたらゾンビになっちゃうでしょーが!」

 

こっきゅん「ダメか?」

 

アリサ「ダメに決まってんでしょ! ほら、さっさと帰りなさい!」

 

こっきゅん「うむ。さらばだ……」

 

ユキ「ふふふ。こっきゅんのおかげで賑やかになってよかったわ」

 

アリサ「ユキがいいならいいけどね。

それじゃ改めて、1年生編最後の『えくすとら』! はじまりまーす!!」

 

 

●ギアクロニクル 『クロノジェット・ドラゴン』

 

アリサ「スタンダードでは、もはやおなじみの擬似超越に、V/R兼用になったクロノジェットらしい守護者封じ! 手堅く強い!」

 

ユキ「疑似超越ユニットは、これまでRRRにしかいなかったので、手に入りやすくなっただけでも嬉しいわねえ」

 

ミオ「疑似超越のコストにG3は残しておきたいシチュエーションは多いと思われますが、実際はどれほどRに出せるのでしょうか」

 

アリサ「前回は『スチームスカラー イルカブ』。今回も『ベアリング・ローバー』のようなG3として扱えるユニットも増えているし、余裕はあると思うけどね」

 

ユキ「ネクステージの登場は確定しているし、むしろVでも使えるというのが重要かも知れないわね」

 

アリサ「またネクステージからクロノジェットに再ライドしてきそうよね!

……なんてこと書いていたら、先にネクステージの効果が公開されちゃったけどね!

やっぱりネクステージ⇒クロノジェットだったけど、ここで考察したら来月のネタが無くなるからここまで!」

 

ユキ「……私は別に構わないけれど?」

 

アリサ「卒業するからって!」

 

 

●『時空獣 メタリカ・フェニックス』

 

アリサ「…………15000バニラ?」

 

ミオ「よく見るとトリプルドライブになっています。トライアルデッキらしい、シンプルなG4ですね」

 

アリサ「シンプルすぎて、逆に分かりづらくない!?」

 

ユキ「これと『ノヴェルアラウンド・ドラゴン』だけでも、それなりの擬似超越デッキは組めそうになったわね」

 

アリサ「トライアルデッキに『ノヴェルアラウンド・ドラゴン』を挿すだけでも、ギアクロニクルの強みである、状況に応じてユニットを選べる柔軟性は楽しめそうだよね。

低価格ギアクロデッキ、ここに完成!!

ギアクロに興味があるって人は、試してみてねー」

 

 

●ロイヤルパラディン 『晴天の騎士 アルトマイル』

 

アリサ「アルトマイルの代名詞とも言える『勇敢(ブレイブ)』は、手札の枚数が少ないと発動する能力で、窮地に強いアルトマイルというキャラクターを決定づけたスキルよ。

今回は別の方向性で勇敢を再現。ダメージゾーンのカードが全て裏だと、アルトマイルのパワーは+15000されるわ!!」

 

ミオ「V/R兼用で、この攻撃力はかなり破格ですね」

 

ユキ「デッキを調整すれば比較的容易に達成できるでしょうし、そもそもダメージゾーンが全て裏というのは、CBをしっかり使えている有利な状況とも取れるわ」

 

アリサ「ダメージゾーンが全て表の状況の方が、よっぽど勇敢だよねー」

 

ユキ「ただ、ダメージのコントロールはガードに気を配らなくてはならないし、それなりに技術が必要よ。トライアルデッキではじめてヴァンガードに触れる初心者が扱う分には、難易度に見合った能力なのではないかしら」

 

アリサ「中級者以上が使えば鬼強だけどね」

 

ミオ「もうひとつのスキルも凄いですよ。手札1枚をドロップして、山札から好きなG2を2枚、手札に加えます」

 

アリサ「柔軟性の高さはもちろん、CBを消費できるG2をしっかり入れておけば、ダメージを全て裏にするのも難しくないってわけね。これは強いわ」

 

ミオ「次の弾で解決策は提示されているのですが、トライアルデッキのみで遊ぶ場合は、前列がすぐG2で埋まってしまう点に注意が必要ですね。アルトマイルはリアガードでも強力ですが、意外と盤面には出しにくいのかも知れません」

 

 

●『絶剣の騎士 リヴァーロ』

 

ミオ「新・勇敢戦術の心強い味方です」

 

アリサ「CB1でG2を山札からリクルート。ただし、ダメージが全裏の場合はSB1でもコストを払える! 強すぎ! アルトマイル優遇されてない!?」

 

ユキ「アルトマイルのスキルを使った時点でダメージが全て裏になってしまっても、これがあれば安心ね。もちろん、そのような状況の場合は、アルトマイルの効果でしっかりリヴァーロを取ってくること」

 

アリサ「山札のG2がとんでもない勢いで減っていきそうだし、自分でアルトマイルデッキを組む場合は、G2を14枚とか16枚とかでも全く問題無さそうね」

 

 

●『壮麗の騎士 ルークス』

 

アリサ「ただのバニラと侮るなかれ、アルトマイルデッキでは大活躍間違い無し!」

 

ミオ「アルトマイルのスキルはG2を手札に加える効果。けどそれも前列にユニットが埋まってしまっているなら、場に出すことはできない。かといってアルトマイルはコストを温存することもできない。

そんな時、このカードを2枚手札に加えることで、相手ターンに備えることができるわけですね」

 

アリサ「うん。そもそもリヴァーロが手札にある時点で、G2が前列に並ぶことはほぼ確定しているから、トライアルデッキにおいてアルトマイルがサーチしてくるセットはリヴァーロ+ルークスか、ルークス+ルークスが基本になるのかも」

 

ユキ「ロイヤルパラディンのG2枠は激戦区だけど、構築でも活躍できるかも知れないわね」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

ミオ「ギャラティンさんも、居場所ができたと喜んでいます」

 

アリサ「この期に及んで新キャラ出さないでくれるかな!?」

 

 

●ネオネクタール 『ラナンキュラスの花乙女 アーシャ』

 

アリサ「アーシャは今回もパワフル! 自分のパワーと★をコピーする『アーシャの花妖精』トークンをコールするスキルが最大の見どころよ!」

 

ミオ「イマジナリーギフトと非常に相性が良く、フォースⅠをアーシャに乗せたら、全花妖精のパワーが+10000。フォースⅡをアーシャに乗せたら、全花妖精の★が+1です。

実に悩ましい選択肢ですが、いずれにしろ左右の前列は常に花妖精にしておきたいところですね」

 

アリサ「タイプとしては、『デッドヒート・ブルスパイク』が近いのかな」

 

ミオ「…………」

 

アーシャ『押してダメでも押し通す! それでダメなら押し潰す!』

 

アリサ「変なイメージしないの!」

 

ユキ「花妖精をコールするには、ユニットを3体も退却させる必要があるのね。本来のネオネクタールなら余裕でしょうけれど、トライアルデッキだと難しそうねえ」

 

アリサ「トークンを生み出すカードを始めとした、アドバンテージを取れるカードが以外と少ないのよね」

 

ミオ「アーシャのプラント・トークンを2体を生み出す方の効果はV/R兼用なので、Rにコールしたアーシャはトークンごと花妖精に変えてしまうことができますね」

 

ユキ「前列要員を残しておく必要はあまり無いし、それが基本になるのかしら」

 

アリサ「花妖精を2体並べることができたら、本当に楽しそうだけどね。

ギフトはもちろん、トリガーもコピーできるから、★トリガーを1枚引くだけで、前列全員パワー+10000、★+1よ」

 

ミオ「トリガーはVに乗せられることが確定しているので、ガードする側は2枚貫通でガードするのも一定のリスクが生じてしまいます。

総じて、常に一発逆転の可能性を秘めたユニットと言えるでしょう」

 

 

●『メイデン・オブ・ブルーレース』『開花の乙女 ケラ』

 

ミオ「これまでにはあまりなかった、起動能力でトークンを生成するリアガード達です」

 

アリサ「他は聖樹くらいだもんねー」

 

ミオ「一方、アーシャもそうですが、他のトークン生成カードと違ってコストがかかるのが難点ですね。

また、トライアルデッキでは、貴重なトークン生成ユニットでもあります。これをどのタイミングで引けるかによって、花妖精を並べる難易度も大きく変わってくるでしょう」

 

 

●オーダー 『パワーライズ・エリクサー』

 

アリサ「最後はこれにも触れておかなくちゃ! はじめましてのオーダーカードは怪しいクスリ!」

 

ユキ「ダメ、ゼッタイ!」

 

ミオ「CB2で好きなユニットのパワーを+20000します。コストは重く感じますが、どういったデッキなら採用の余地があるのでしょう」

 

アリサ「今回のトライアルデッキの中では、アーシャとの相性が抜群ね。アーシャにドーピングしてあげるだけで、何故か左右の花妖精もパワーアップ! フォースⅡを選択していれば、それだけで33000、★+2の布陣が3ライン完成! 他のパンプやトリガーの引きによっては、一瞬でゲームエンドに持ち込みかねない必殺技に!」

 

ユキ「アーシャに関しては、構築でも採用の余地があるかも知れないわねえ」

 

ミオ「ややCBがかさみますが、クロノジェットとの守護者封じとの相性もなかなかです。トライアルデッキで遊ぶ分には、切り札として活躍してくれるでしょう」

 

アリサ「アルトマイルとの相性だけはイマイチかな。カウンターコストが常に裏であるべきハリキリボーイで、CB2なんて払ってる余裕なんかない! もちろんダメージを2枚裏にできるカードとして見ることもできるけど、これで裏にするのはさすがにもったいない」

 

ユキ「では、構築ではアーシャ以外に、どのようなデッキで採用できるのかしら」

 

アリサ「トライアルデッキで相性のよい面子を見てる限り、やっぱりガード制限や、★と組み合わせたいよね」

 

ミオ「『デスワーデン・アントリオン』や『機動病棟 フェザーパレス』といった、両方を兼ね備えたユニットとは相性が良さそうですね」

 

アリサ「あとはノヴァやアクアフォースにいる、スタンドできるユニットかなあ。特にアクアフォースは、CBを使用せずスタンドできるユニットもちらほらいるし、さらに前のめりなアクアフォースを組むなら選択肢になるかも。

皆も、自分のデッキに合った使い方を探してみてね!」

 

ユキ「よく見ると、フレーバーテキストもトライアルデッキによって違うのね」

 

 

●終

 

ユキ「ふう。考察はこんなところね。さっそくファイトを始めましょうか」

 

ミオ「…………」

 

ユキ「あら、ミオ。どうかしたの?」

 

ミオ「いえ。ユキさんとの『えくすとら』は、これで終わりなんですね」

 

ユキ「ええ。ミオはこれからも頑張ってね」

 

アリサ「7月にはまた来るけどね」

 

ユキ「うるさいわね。

そうそう。読者の皆様にもご挨拶しなくてはね。

読者の皆様。1年間、ありがとうございました。

新しいカードの魅力が少しでも伝わればいいとの一心で努力して参りましたが、如何でしたでしょうか。

私はこれにてお別れとなりますが、益々の……」

 

アリサ「もー! いいから早くはじめようよー。

あたし、クロノジェットね」

 

ミオ「私はアーシャを」

 

ユキ「あっ、こら!

……ふふっ。しょうがないわね。

では、さようなら。また会いましょう」




あとがきを書き忘れていました。
とはいえ、ネタもないので告知だけ。
2年生編最初の本編は、4月4日に公開予定です!
新キャラ、新クランが続々登場します!
お楽しみ頂ければ幸いです。


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Ex.22「The Next Stage」

オウガ「ちーっす!!

響星学園1年! カードファイト所属、鬼塚オウガだぜ!!

使用クランはスパイクブラザーズ! よろしくな!」

 

アリサ「はい! そんなわけで、えくすとらに新レギュラー、鬼塚オウガ君が加わりました!

後はおなじみ、響星学園3年、天道アリサと!」

 

ミオ「響星学園2年、音無ミオでお送りさせて頂きます」

 

こっきゅん「我もいるぞ」

 

オウガ「? 何か聞こえねーっすか?」

 

アリサ「気のせい、気のせい! さっそくえくすとらを始めましょ!」

 

ミオ「今月のテーマは、4月に相応しいフレッシュなパック。The Next Stageです。

収録クランは、ロイヤルパラディン、ギアクロニクル、ネオネクタールですね」

 

アリサ「VRは5年前のカードのリメイクだから、フレッシュどころか懐かしいの分類なんだけどね!」

 

オウガ「んじゃ、さっそく始めるぜ!」

 

 

●ギアクロニクル 「クロノドラゴン・ネクステージ」

 

アリサ「帰ってきたネクステージ! 効果は割とそのまんま! クロノジェットもそのまんまなので、本当にそのまんま!」

 

ミオ「Gレギュレーションと、スタンダードの違いこそあれど、現環境でも活躍できるカードが、5年前から使えていたと考えると恐ろしいですね」

 

アリサ「ある意味、ギアクロらしいけどね。

5年前のカードが現代にタイムスリップしてきたとも考えられるし、本来5年後に登場するはずのカードが5年前から使えていたと考えてもロマンチック」

 

オウガ「で、その効果は具体的にはどんなんなんすか?」

 

アリサ「そうね。知らない人のために軽く説明しておきましょ。

アタック終了時に、ソウルから『クロノジェット・ドラゴン』に再ライド! ヴァンガードで2回攻撃できるうえに、2発目はクロノジェットのスキルのおかげで守護者すら使えないのよ」

 

オウガ「ヴァンガードで2回!? 守護者が使えない? マジすか、それ!?」

 

アリサ「ザイフリートとグレイヲンしか知らない鬼塚君には刺激が強すぎたみたいね」

 

ミオ「この後の反応も楽しみです」

 

アリサ「5年前との最大の違いは、クロノジェットがイマジナリーギフトを持っていることかな。

バトルフェイズ中に2枚目のフォースを獲得できるので、スタンダードでのギアクロの長所は踏襲しつつ、動きだしの遅さが改善されてるの」

 

ミオ「基本的に、これだけに超越していれば勝てる系のカードですが、相手がG3でなければ効果を発揮できないので、他のG4も入れておくべきでしょうか」

 

アリサ「そうね。クセの無いメタリカ・フェニックスか、展開力をカバーできる今弾収録の『時空獣 アイソレイト・ライオン』が候補かしら。除去で相手の速攻を牽制できて、ネクステージとは違う方向性でフィニッシャーにもなれるリベリオンも面白そう」

 

ミオ「自在にユニットを選べるのがギアクロニクルの長所ですから、ワンパターンにならない構築と戦い方を心がけたいですね」

 

 

●「アップクラッチ・ドラゴン」「アップストリーム・ドラゴン」「スチームメイデン メラム」

 

アリサ「過去に活躍したアイツらも帰ってきた! と思ったら、知らないヤツが混じってる!!」

 

ミオ「?」

 

オウガ「?」

 

アリサ「ああっ! 今のメンバーだと、このツッコミどころを分かち合えない! ユキー!! 帰ってきてー!!」

 

ミオ「思ったよりもユキさんロスが早かったですね。

では、私達だけで考察を続けましょうか」

 

オウガ「うす」

 

ミオ「この3ユニットは、アタックした時にCB1で、デッキの上から7枚見て、自分を除く他の2体のいずれか1体をレスト状態でスペリオルコールできます。運要素があるとは言え、ギアクロニクルの展開力をカバーできる優秀な効果です」

 

オウガ「けど、他にも色々書いてるっすね」

 

ミオ「はい。リアガードにこの3体が揃っている場合、レスト状態でコールされたユニットをスタンドさせることができます。展開したユニットをアタックに参加させることができるようになるので、速攻性も向上します。

アタックし終えたユニットを上書きすることで、3回以上の連続攻撃も狙えるようになります。アドバンテージは得られないため、積極的に狙っていけるプレイングではありませんが、このゲームでは、アドよりも攻撃回数が重要な状況も多々あります。覚えておいて損はありませんよ」

 

オウガ「了解っす!」

 

ミオ「試行回数が重要なので、『アップクラッチ・ドラゴン』をメインヴァンガードにしたギアクロニクルデッキも十分に組めそうですね。

もちろん従来のギアクロニクルに混ぜて、展開要員兼フィニッシャーとしても活躍してくれそうです。

ギャンブル要素さえ許容できれば、受けの広いカードなのではないでしょうか。

はっきり言って、作者は大好きなタイプのカードです」

 

 

●「スチームメイデン エンギルサ」

 

アリサ「使い捨て超越!!」

 

ミオ「要約すると、手札を1枚捨てることで擬似超越できるユニットですね。捨てるカードのグレード指定こそ無くなりましたが、エンド時のライド先にはG2を指定されています」

 

オウガ「クロノジェットとかと違って、2回目のフォースを得られなくなるってことっすね?」

 

ミオ「はい。相手ターンの受けも弱くなってしまいますし、次のターンにG3へライドできなければ、負けへ一直線です」

 

アリサ「だけど! G2にライドするメリットもちゃんとあるのよ。

モルドレッドや、ガンスロッド。暁・ハンゾウと言った、相手がG3なら本気出す系のユニットを相手にした時!」

 

オウガ「あ! さっきの『クロノドラゴン・ネクステージ』も、相手がG3でなければスキルが使えないとか言ってましたね!」

 

アリサ「そ。マッチング次第だけど、上手くいけば相手のデッキコンセプトは崩壊間違い無し。

他に使い方があるとしたらー……ソウルにクロノジェットさえいれば、クロノドラゴンに超越することで、G2にライドするデメリットを踏み倒しつつクロノジェットに戻れる!」

 

ミオ「む。根絶者相手には有効なプレイングかも知れませんね」

 

アリサ「総じて、特定の相手をメタった、クロノジェットデッキのサブヴァンガード候補ってところかな?」

 

 

●ロイヤルパラディン 「飛天の聖騎士 アルトマイル」

 

アリサ「ただでさえ強かったアルトマイルが更なる高みへ!

表のダメージゾーンが無いなら、G2のパワー……だけでなく、シールド値までパワーアップ!

ソウルにアルトマイルがいるなら、★までついてくる!

憎たらしいレベルで攻防一体のユニットね」

 

ミオ「前回のアルトマイルは、ダメージゾーンが全裏『だったらいいな』程度の重要度でしたが、今回はダメージゾーンが全裏『でなければ』というくらい、ダメージゾーンの管理が重要になっています。

また、ガード値の上昇は相手ターンで生きる効果なのですが、相手のアタックを受けた時点で効果が失われてしまいますので、ガードのタイミングもよく考えなければなりません」

 

アリサ「3点止めには強そうだね。自分は3点止め得意そうなクセして。

あとはダメージ5からもしぶとく戦えるし、逆境に強いというコンセプトがしっかり維持されているのは好感触かな」

 

オウガ「あの……もうひとつの起動能力もヤバいこと書いてる気がしてるんすけど」

 

アリサ「お。やっぱり昨今のVRの迫力にビビってるな」

 

ミオ「そうですね。G2の枯渇が早い前回のアルトマイルと違って、デッキとドロップゾーン、半々からG2を連れて来られる点は強化と言って差し支えは無いでしょう。

ですが、直接スペリオルコールする効果になったことで、リヴァーロを始めとする、手札からコールされた時に発動できる効果が使えなくなった。バニラG2を手札にストックしておくことができなくなった等の弊害もあります」

 

アリサ「あとは起動にソウルが必要になったのも難点かな。アルトマイルでは常にCBを消費できる体制が求められるけど、ソウルが無ければCBの消費も併せてできなくなっちゃう。

やっぱり、旧アルトマイルで必要なカードを手札とドロップに揃えつつ、飛天に再ライドが理想かな」

 

オウガ「うええー。考えることが多そうだぜ」

 

ミオ「そうですね。強そうなことは書いていますが、プレイ難度はロイヤルパラディンらしからぬ、かなり高い方だと思います。

その分、上級者が使えば驚異的な強さを発揮することも、容易に想像がつきます。

今後の環境において、台風の目になりそうなユニットですね」

 

 

●「スターライト・ヴァイオリニスト」

 

アリサ「アルトマイル軸の超最重要カード!! はっきり言って、これがなければ始まらない!

全G2にブーストと、後列インターセプトを与えるよ!

手札で飽和していたG2の使い道も、これで万事解決。むしろ、いくらあっても足りないくらい!」

 

ミオ「条件はもはやおなじみとなった、ダメージゾーンの全裏です。

アルトマイル軸は、もはやダメージが全裏でなければ機能しないとも言えるでしょう」

 

アリサ「そんな絶対必須なキーカードなんだけど、リアガードに1枚あればいいカードなので、投入枚数は少なめでオッケー! アルトマイルが、必要とあらばすぐに取ってきてくれるしね」

 

ミオ「基本2枚。なるかみやリンクジョーカーのようなバインド系の除去クランが環境で流行っている場合や、よっぽどの心配症でも、3枚あれば十分でしょう」

 

アリサ「それなのに、そんなヴァイオリニストを名指しでサーチするカードまで」

 

オウガ「『ホープソング・エンジェル』っすね」

 

アリサ「うん。大抵の場合、アルトマイルやリヴァーロで事足りるだろうから、デッキに入れる必要性は薄いだろうけど、ヴァイオリニストがアルトマイルにとってどれほど重要かを初心者に印象付けるためには必要な枠なのかもね」

 

 

●「奔流の騎士 エグフリス」

 

アリサ「唐突に登場したアルフレッドサポート!」

 

ミオ「めくる枚数こそ少ないものの、アルフレッドはデッキにスタンダードだけでも3種類入るので、ある程度はずれにくくはできそうですが」

 

アリサ「悪くはないけど、せっかく古いカードを強化してくれるのなら、もっと盛ってあげてよと言いたくなる微妙なカード!

いや、ノーコストでアド稼げるし、ライド事故も緩和できるし、優秀なんだけどね!?」

 

 

 

●ネオネクタール 『夢紡ぐラナンキュラス アーシャ』

 

アリサ「アーシャという名称で、自己強化できるようになったのが、まず偉い!

フォースⅠを選択して、花妖精が2体並べば、パワー33000の★2が3体!!」

 

ミオ「条件は『アーシャ』名称が3体いるだけでいいので、花妖精が1体しかいない盤面でも、適当なアーシャをリアガードに置くだけで、本体と花妖精の強化は可能です。

あえてフォースⅡをリアガードに置き、そこにアーシャを配置。あとはもう片方の列に花妖精を置くことで、★2を3ライン作ることもできますね」

 

オウガ「…………」

 

アリサ「お。もう言葉も出ないって感じね」

 

オウガ「アルトマイルの時も思ったんすけど、★ってこんな簡単に増やしていいもんなんすか?」

 

アリサ「ダメよ! ダメだったはずなんだけどね!? 今はもう色々としょうがないの!

あと、増やすわけじゃないけど、簡単な★は、スパイクも人のこと言えないわよ」

 

オウガ「マジすか」

 

ミオ「マジです」

 

アリサ「鬼塚君には、後でじっくりスパイクのお勉強をしてもらうとして、アーシャに話を戻しましょ。

こっちのアーシャにも、花妖精を増やせる手段はしっかり用意されているわね」

 

ミオ「生贄に捧げるユニットが1体減った代わりに、ソウルを1つ要求するようになりましたね」

 

アリサ「生贄とか言わないで!? シャドパラじゃないんだから!」

 

ミオ「むしろ、前回のアーシャはモロにダムド・チャージング・ランスでしたけど」

 

オウガ「まあ、命や魂を捧げて自分の分身を生み出すのなんて、黒魔術そのものっすけどね」

 

アリサ「鬼塚君まで!?」

 

ミオ「ネオネクタールにとっては3体も2体もさして難度は変わりませんので、実はソウルの方が重たいコストになるのかも知れません。よくて、相互互換と言ったところでしょうか」

 

アリサ「急に話を戻さないで!」

 

ミオ「1ターンに1回しか花妖精を生み出せない点も変わっていないので、除去に弱いという弱点もそのままです。短所を補強せず、ただただ長所を尖らせたという点は脳筋もといアーシャらしいと言えるのではないでしょうか」

 

アリサ「言い方!!」

 

 

●『メイデン・オブ・ホワイトカラー』

 

アリサ「……何か考えついた?」

 

ミオ「いいえ」

 

オウガ「俺にわかるわけないっす」

 

アリサ「……じゃ、次に行きましょうか」

 

オウガ「うす」

 

アリサ「ブシロードから送られてきた、ヴァンガードファイターへの挑戦状!!

誰もがまだ見ぬコンボを思いつき、彼女を禁止カード送りへするのはキミかも知れない!!

求む、天才のひらめき!!」

 

ミオ「それっぽいこと言って、ごまかすパターンですね」

 

 

●『桂花の乙女 アネルマ』

 

アリサ「えっと……花妖精はブーストされても、パワーはアーシャと同じになっちゃうわよね?」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「花妖精でブーストしても、13000ブーストにしかならないわよね?」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「え? 何のためにあるの、このカード? これも挑戦状?」

 

ミオ「1ドローしつつトークンを生み出す効果だけで、これまでのトークン生成カードを過去にするには十分なスペックかと」

 

アリサ「それもそうか!」

 

ミオ「アーシャと一緒に紹介されたというのが紛らわしかっただけで、件の効果もネオネクタールなら嬉しい効果ではないでしょうか。

例えば、アルボロスデッキなら、トークンを聖樹でブーストしてあげることもできますよね」

 

アリサ「そう考えると、盛りに盛られてるカードよね。要注目!!」

 

 

●オーダーカード 『知略の兵法 剛腕の章』

 

アリサ「今回のオーダーカードは怪しい雑誌!

CB3、SC3という重いコストを支払って、得られる対価は3枚ドローと、前列3体に+10000!

さて。このオーダーカード、どう使う?」

 

ミオ「まず2つの効果が噛み合っていませんよね。3枚ドローは序盤から中盤にかけて特に嬉しい効果ですが、パンプは相手を追い詰めた段階でより効果を発揮します。

3枚ドローして、即+10000されてしまうので、ドローする前からある程度展開ができていないとならない点も、デッキを選びます」

 

アリサ「うーん、そうよね。

それを踏まえて、使えそうなデッキはあるのかな?」

 

ミオ「真っ先に思いつくのはネオネクタールでしょうか。ネオネクタールは比較的コストを消費しなくても回せるデッキなので。

例えば、『メイデン・オブ・ピュアスプラッシュ』をフィニッシャーとしているデッキは、そのまま入れ替えられるのではないでしょうか。

トークンのパワーを補うという点では、序盤からのパンプもありがたいクランなはずです」

 

アリサ「なるほどね。他には?」

 

ミオ「全部私まかせですか?

……これもネオネクタールになってしまいますが、今弾の夢紡ぐアーシャとも相性はよさそうです。

花妖精とは微妙に噛み合っていないものの、夢紡ぐアーシャの項で説明した配置で、比較的容易に素早く全ライン★2にすることができるので……」

 

アリサ「あ! ガード強要ができれば、+10000のパンプも序盤から生きてくるわけね」

 

ミオ「はい。今回の例の場合は、パワー33000、★2を3ライン揃えつつ3ドローです。花妖精以外のアーシャはブーストもしてあげられますし、パワーはもっと伸ばせます。

ソウルチャージする手段があれば、これを相手がG2の間に組み立てることも可能です」

 

アリサ「じゃ、アーシャ以外にも、★を素早く全体に配ることのできるデッキなら採用できるかもね」

 

ミオ「モルドレッドや、ブルスパイクあたりでしょうか。特にスパイクもCBを使わない構築は難しくないですし、むしろスパイクでは稼ぎにくいアドバンテージをしっかり稼いでくれます」

 

アリサ「……まあ、3ドローと言えば聞こえはいいけど、剛腕の章を失っているから、アドで言えば+2止まりなんだけどね」

 

ミオ「盤面に居残るユニットがスキルを使うのとは、わけが違いますよね」

 

アリサ「新しいルールまでいっぱい作って、大々的に宣伝していた割には、ごく一部のデッキで採用できるかな?レベルのカードが続くわね、オーダーカードは。

このままクレイエレメンタル的な立ち位置に収まるのかしら」

 

 

●『夢の運び手 ベレヌス』 『ドキドキ・ワーカー』 『花園の乙女 マイリス』

 

アリサ「最後に取り上げるのは、もちろんこのカード達!」

 

ミオ「シールド値+30000の★守護者達ですね」

 

アリサ「デッキ構築論に一石を投じるカードなのは間違いないわね。VR勢よりもNext Stageの名に相応しいんじゃないかしら。

そんなわけで、各カード解説するより、★守護者が登場することによる環境への影響をここではお話したいと思いまーす!

まず、どんなデッキなら完全ガードを押しのけて採用できそう?」

 

ミオ「まず思いつくのは、プロテクトクランとのシナジーですね」

 

アリサ「完全ガードをゲーム外から手に入れる手段があるし、すでに完全ガードが飽和状態になってるクランも多いものね」

 

ミオ「特に、ダークイレギュラーズや、エンジェルフェザーと言った、1ターンに2度プロテクトを取得できるデッキとは相性がいいと思います。

あとは……すでに引トリガーを採用する意義の薄くなっているグランブルーでしょうか」

 

こっきゅん「呼んだか?」

 

アリサ「呼んでない!」

 

オウガ「……どちらさますか?」

 

アリサ「思ったよりリアクションが薄い!」

 

ミオ「こっきゅんさんの設定をよく知らないのもあるかも知れませんね」

 

アリサ「そう言う問題!?」

 

こっきゅん「我が名は『氷獄の死霊術士 コキュートス』。万物の死を司り、支配する、絶海の魔王なり」

 

オウガ「俺は鬼塚オウガ! 何だかよくわかんねーけど、よろしくな!」

 

こっきゅん「くくく。威勢のよい若造よ。その肉体が滅びた時には、汝の魂も我がコレクションに加えてやろうぞ」

 

オウガ「? おうよ!」

 

アリサ「よくわからない契約に、ホイホイ同意しちゃダメでしょ!」

 

ミオ「アリサさんの面倒見がよすぎて、お母さんみたいになってます」

 

こっきゅん「して、★守護者の話であったな。

確かに、引トリガーを採用しない構築が増え、プロテクトでもあるグランブルーとの相性は抜群よ」

 

アリサ「逆に言えば、守護者=引トリガーでもあるから、引トリガーを採用したいデッキでは、★守護者が採用しにくいのよね」

 

ミオ「現状のプロテクトクランは、ほとんどがアドバンテージを稼ぐ手段に長けているので、やはりプロテクト向きなカードではないでしょうか」

 

アリサ「そういう意味では、プロテクトの強化に繋げたいのかしらね」

 

こっきゅん「プロテクトⅡの強化には全く繋がっておらぬがな」

 

アリサ「もう完全に諦めたか、この前のエンジェルフェザーで、最低限の強化は果たしたと思いこんでるかのどちらかよね。

どうでもいいけど、この前のアニメのタツヤ君。ちゃんと計算したわけじゃないけど、プロテクトⅠの方が絶対に戦いやすかったわよね」

 

こっきゅん「対戦相手がよりにもよってクロノファングと、ヴァルケリオンであるからな」

 

アリサ「そりゃ、リューズも『プロテクトⅡでいいのだね?』とか親切に聞き返してくれるわ!」

 

ミオ「ちなみに作者も、あのセリフはいつかリアルで使ってやろうと企んでいるのですが、対戦相手が誰もプロテクトⅡを使ってくれないため、いまだに言えていないそうですよ」

 

アリサ「哀しいわね、それ!」

 

オウガ「で、★守護者の話はどうなったんすか?」

 

アリサ「そうだった! えっと、★守護者の登場には、もうひとつ環境を一変させるファクターがあってね……」

 

ミオ「★トリガーを16積みできるようになったことでしょうか」

 

アリサ「そう! ★守護者は4種類目のトリガーでもあるの。アクセルの速攻や、フォースⅡに★16積みは、割と環境にダメな方向で影響を与えるんじゃないかと心配していたんだけど……」

 

オウガ「だけど?」

 

アリサ「★16積み構築には、2つの重い枷がかけられてしまっているの。

ひとつは、治トリガーを採用できないこと。

ま、これは当たり前よね。トリガーが全部★になっているのだもの」

 

オウガ「うす」

 

アリサ「それに加えて、★16積みデッキでは完全ガードも採用できなくなるの!

★を16枚積むには、現状、★守護者が必須なわけだから」

 

オウガ「あ、なるほど!」

 

アリサ「治トリガーは20000ガードだし、20000ガードが30000ガードになっただけじゃ、さすがに大して変わんないでしょ?

まとめると、

・治トリガーによる回復の放棄

・完全ガード不採用

・総ガード値の減少

★トリガー16枚構築は上記の理由によって3段階防御力が落ちるわけ。★トリガーを増やして1段階攻撃力が上がったとしても、さすがに割に合わないんじゃないかしら。

たしかにアクセルもフォースⅡも速くて強いけど、完全ガードや治トリガーという保険があってこその強さだと思うわよ」

 

ミオ「ユキさんも、本来負けるべき場面で生き残ることができれば、それは追加ターンを得たと同じことだとおっしゃってましたね」

 

アリサ「ま、作者の論理でもあるわけなんだけどね。時に防御が最大の攻撃に化けるのも、ヴァンガードの面白いところね」

 

オウガ「じゃあ、★16枚構築でなくアクセルやフォースに採用する場合はどうなるんすか?」

 

アリサ「そうね。まず、完全ガードを切るっていうのは、今の環境なかなか難しいと思うのよね。

ちょうどさっきのアニメの話題でも出たように、クロノファングとか、ヴァルケリオンとか、完全ガードでなければ防ぐのが困難なアタックが一定数あるから。だからこそ、プロテクトと相性がいいという話にも繋がるわけだけど。

フォースやアクセルに★守護者を入れるにしても、1~2枚が限度じゃないかしらね」

 

オウガ「なるほど」

 

アリサ「完全ガードには、数値受けが厳しいアタックを防ぐ以外にも、もう一つ仕事があってね。

それは不要札を処理すること。

例えば、30000要求のアタックを完全ガードでG3を切って防いだ場合は2枚の消費。

もちろん、★守護者なら1枚で防ぐことができるから、この時点では圧倒的に★守護者の方がお得よね」

 

オウガ「そうっすね」

 

アリサ「けどゲームが進んで、手札に余ったG3を消費すること無くゲームが終わってしまったら? 実質、完全ガードで防いでいても結果は変わらないの。

結果論ではあるけどね。

けど、ギアクロみたいなG4を採用するデッキもあるし、オーダーなんてカードも登場したから、今後もガードに使えない不要札は増えていくと予想できるわ。

それらにコストという居場所を与えてあげられる完全ガードは、現時点でも見た目以上に効率がいいの。

だから、★守護者を多めに採用する場合は、不要札を処理できる手段が完全ガード以外にあるか、しっかり確認しておくこと!

具体的に言うと、手札交換ができるユニットを多めに採用するとかね」

 

オウガ「了解っす! 勉強になりました!」

 

ミオ「…………」

 

アリサ「ん? どうしたの、ミオちゃん」

 

ミオ「……その考え方でいくと、プロテクトクランの中では、メガコロニーは相性悪くありませんか?」

 

アリサ「そうなのよー!! G3を必要以上にかき集めて、それらを完全ガードで消費していくデザインだからね! プロテクトクランの中では、一番★守護者を生かしにくいクランじゃないかって思ってるくらいよ!」

 

オウガ「まあ、まとめると、プロテクトクランはまず試せ! 他のクランはデッキと相談! こんな感じっすね」

 

こっきゅん「うむ」

 

アリサ「何であんたが答えるのよ! 

ま、あと怖いのはインフレくらいね。

今でこそ+30000は、大抵のヴァンガードのアタックは凌げる数値だけど、超越のような、どんなクランでも超火力を叩きだせるシステムが登場してしまったら?

立ち位置はクインテットウォールに近いのかも知れないわね。期待値も似たような数値だし」

 

ミオ「ともあれ、非常に考察しがいのある面白いカードであることは間違いないようです」

 

オウガ「自分のクランで使えるようになるのが待ち遠しいぜ!」

 

 

●終

 

アリサ「鬼塚君、はじめてのえくすとらはどうだった?」

 

オウガ「いやー、面白いっすね! 俺も早く議論に参加できるようになりたいっす」

 

アリサ「緊張したとかじゃなく、面白いって言えるのは大物よねー。

大丈夫。鬼塚君なら、すぐ詳しくなれるよ」

 

オウガ「うす!」

 

こっきゅん「では、今宵はこのあたりで終幕と参ろうか」

 

アリサ「はいはい。それじゃ、まったねー!」

 

ミオ「さよな……オウガ「じゃあな!!」

 

アリサ「鬼塚君の声に、ミオちゃんの小さな声がかき消されてる!!」




今回はいいお知らせがあります。
本当は4月の本編のあとがきで書くべきで、すっかり忘れていただけなのですが。

根絶少女に全クランを登場させられるメドが立ちました。

実際は2クラン、まだどこで出すかは決まっていないものもあるのですが、そのクランだけ登場しないのも不自然なので、必ずどこかで出します。
出すからには、それなりに見せ場も用意するつもりです。
まだ登場していない、あんなクランや、こんなクランの登場を心待ちにしてくださっている方も、その時まで、どうか根絶少女をよろしくお願い致します。

次回、5月の本編は5月2日の公開を予定しております。
次もまた、スパイクに続き、根絶少女初登場のクランが顔見せします。
お楽しみにして頂ければ幸いです。


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Ex.23「スペシャルデッキセット マジェスティ・ロードブラスター」


●登場人物

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」

・天道アリサ
いつでも元気いっぱい。明るく楽しいカードファイト部の部長。高校3年生。
使用クランは「メガコロニー」

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
初心者だが、熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」

・藤村サキ
臆病で気の弱いメガネっ娘。ファイトは初心者だが知識は深い高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」

・沈黙の騎士 ギャラティン
常に黙して多くを語らない、神聖騎士団が誇る剣の達人。
口癖は「ノープロブレム」


●序

 

アリサ「はい! えくすとらに更なる新レギュラーが加わりました!

ほら、サキちゃん。皆に御挨拶して」

 

サキ「は、はひっ! え、えーと……藤村サキと申します。こ、これからどうぞよろしくお願いもうしあげます。

あ、し、使用クランはたちかぜですっ! ……これでいいですか?」

 

アリサ「うん。いいんじゃない」

 

サキ「ふうー。終わったぁー」

 

アリサ「いや、えくすとらはこれからだからね!?」

 

ミオ「あとは私、音無ミオと」

 

オウガ「この俺、鬼塚オウガに、天道部長を含めた4人で、今後のえくすとらは進めていくぜ!」

 

ミオ「本日のテーマは『スペシャルデッキセット マジェスティ・ロードブラスター』です。収録クランはロイヤルパラディンと、一応シャドウパラディンになります」

 

オウガ「さっそく、各カードを見ていくぜっ!」

 

 

●『マジェスティ・ロードブラスター』

 

アリサ「光と影はひとつとなり、そして真の力が生まれる!

マジェスティ・ロードブラスター、スタンダードに堂々帰還!!

コストや要件はほぼそのままに、スキルだけ現代風にアレンジしたというナイスデザイン!

はい、サキちゃん。そんなマジェのスキル詳細よろしく!」

 

サキ「ひゃっ、ひゃいっ!?

え、えと……『マジェスティ・ロードブラスター』は、ソウルに『ブラスター・ブレード』と『ブラスター・ダーク』があるならV/R両方で★+1。さらにVにいるならパワー+5000、ドライブ+1します」

 

アリサ「よくできました!

そしてついに永続でトリプルドライブのユニットが登場しちゃった! これでコレオの立場がますます危うく……」

 

ミオ「パワー+5000は相手ターンでも適用されるので、攻撃面だけでなく、防御面でも高い成果が得られそうですね」

 

アリサ「ただでさえ元のパワーが1000高いフォースだからねー。18000は、アタックを届かせることが重要なアクセルだと苦戦は必至かも。

1つでもトリガーが乗ったら28000とか、大抵のクランじゃ通らなくなるし」

 

オウガ「けど、ソウルに『ブラスター・ブレード』と『ブラスター・ダーク』って難しくないっすか? 2回G2に乗らないと達成できないような気がするんすけど」

 

サキ「あ、それを可能にするのがもう一つの効果だね。

アタックした時、リアガードを2枚ソウルに置くことで、フォースを2つ得ることができるんだよ」

 

アリサ「そうね。旧マジェと違って、ソウルに入れるユニットに融通が効くのがポイントで、例えば事前に『ブラスター・ダーク』にライドできていたら、『ブラスター・ブレード』と、それを呼んできた『絶剣の騎士 リヴァーロ』をいただきますすることだってできちゃう。

そのおまけでついてくるのがギフト2つって言うんだから、たまったもんじゃないわ!」

 

サキ「フォースⅠを選べば毎ターン加速度的にパワーが上昇していき、フォースⅡを選べば1ターンで全ライン★+1することができるわけですね」

 

アリサ「あらゆるフォースクランが、成功例(モルドレッド)のマネをし始めている気がする……」

 

ミオ「どちらのパターンを選ぶかで、攻撃順や布陣が大きく変化するので、事前にしっかりとプランは立てておいた方がよさそうですね」

 

アリサ「単体でも主力として大活躍は間違い無しのマジェだけど、2種類目のG3『ブラスター』という地味な加点も!」

 

サキ「あ、『メサイアニック・ロード・ブラスター』も強化できるわけですね!」

 

アリサ「そ! 今回収録の新規カードは『ブラスター』を指定している都合上、メサイアニックとの相性も抜群! 堅い守りのマジェばっかり意識していると、超火力の伏兵にバッサリやられちゃうかも!」

 

 

●『ブラスター・ダーク』

 

アリサ「『ブラスター・ダーク』が新能力で収録されると聞いて期待していたら、ロイヤルパラディンとしても扱う能力が追加されただけだった!

そんな微妙に肩透かしな『ブラスタ・ダーク』だけど、マジェでは入れざるを得ないからいいとして、他のロイヤルパラディンで投入する余地はあるのかしら?」

 

ミオ「やはり、手札をドロップゾーンに無駄なく送りこめるという点を生かしたいですね。となると現状は、ドロップゾーンからG2をスペリオルコールできる『飛天の聖騎士 アルトマイル』でしょうか。

手札からG2を捨ててツインドライブしつつ、次のターン、飛天にライドしてそのG2を取り返す動きができそうです」

 

サキ「アルトマイルなら、G2をたくさん入れる余裕がありますしね」

 

ミオ「『ブラスター・ブレード』と『ブラスター・ダーク』を併用することで、除去の役割分担ができる点も魅力です」

 

アリサ「『光と影、交わる刻』もG2だし、マジェとアルトマイルの混合デッキだってできちゃうかも! 腕に自信のあるファイターは試してみてね!」

 

ミオ「あとはやはり『メサイ○ニック・ロード・ブラスター』ですね。G2ブラスターは既に飽和状態ではありますが、種類が増えることは悪い話ではないはずです」

 

アリサ「苦手だからって、メサイアを伏字にしないであげてね!?」

 

 

●『光と影、交わる刻』

 

アリサ「オーダー初! 特定のクランに所属するオーダーカード!

その効果は、ブレード、ダーク、マジェのいずれかになれる(条件あり)ワイルドカード!」

 

サキ「手札に1枚ある分には強力ですが、2枚以上来てしまうと展開が遅れてしまう可能性もあり、採用枚数が難しそうなカードですね……」

 

アリサ「手に入れるのが大変なカードだから3枚収録にしてくれてるんだろうけど、2枚が安全という気がするかな。もちろん、何としてでもマジェを確保したいのなら4枚投入もありなんだけど」

 

ミオ「『正解が無い』という答えが正解というわけですね」

 

オウガ「何すか? その上手いこと言ってやったぞ的な無表情のドヤ顔は」

 

サキ「その場にいない『ブラスター』に化けられるカードという性質上、『メサイアニック・ロード・ブラスター』との相性は特によさそうですね」

 

ミオ「オーダーカードは場に残らないので、後腐れもありませんね」

 

アリサ「あとは、先にも挙げたアルトマイルとの混合デッキかな。『晴天の騎士 アルトマイル』で、これと『ブラスター・ブレード』か『ブラスター・ダーク』を山札からサーチすれば、マジェを呼んで来る準備もほぼほぼ整うはず」

 

オウガ「マジェと混合にしても、『光と影、交わる刻』は1枚でいいし、マジェも1~2枚に抑えられるわけっすね」

 

サキ「『スターライト・ヴァイオリニスト』がいれば、『スターコール・トランペッター』はどちらがヴァンガードになってもブーストできますしね」

 

アリサ「話は変わるけど、新システムとしてオーダーが発表された時、このくらいのレベルのカードがRかRRくらいのレアリティで全クランに配られると思ったのよね」

 

ミオ「特定のクランに所属して、デッキに2~3枚は入れたくなるような、潤滑油となるカードですね」

 

アリサ「そうそう。やっぱり新しいコンボやデッキを考える楽しみもでてくるし、クラン所属のオーダーは今後も出して欲しいかな」

 

 

●『沈黙の騎士 ギャラティン』

 

アリサ「8000円の豪華セットの名に恥じぬ、優秀な新規カードや、高レアリティのカード、人気のPRカードが並ぶ中、とんでもなく浮いてるおなじみバニラ! 何であんたが!?」

 

サキ「ほ、ほら、やっぱりアイチ君をイメージしたデッキセットでは欠かせないというか……」

 

アリサ「だったらG1にマロンを入れるとか、もっとファンサービスに徹底してよ!?

この2枚がリヴァーロやゴードンになるだけで、より完璧なセットになったのに!」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

アリサ「問題あるから、こうして槍玉に挙げてるんだけど!?」

 

 

●終

 

アリサ「さて……。重要なのはこのセット、8000円の価値はあるのかしら?」

 

オウガ「そこっすか?」

 

アリサ「そこに決まってるでしょ!? 8000円って言ったら、高校生にとっちゃ大金よ!?

ユキから聞いた話だけど、大学生になったマリアさんだって……」

 

マリア『え? わたくし、これをマジェ用とメサイアニック用に2箱買わないとなりませんの? バイトもまだ決まってませんのに!?』

 

アリサ「……とか騒いでたらしいわよ」

 

ミオ「マリアさん、ユキさんと同じ大学に進学したらしいですね」

 

アリサ「うん。せっかくユキと友達になれたんだから、もっと一緒にいたいんだってさ。ユキが推薦で受かった大学って、相当の難関大だったはずなんだけどね」

 

サキ「あの……もしかして、マリアさんって、あのマリアさんですか!? 長きに渡って名門・聖ローゼ学園の主将を務め、2年連続で聖ローゼをヴァンガード甲子園決勝大会に導いた、あの!?」

 

アリサ「あー、う、うん。そうだよー」

 

ミオ(設定上では、結構すごい人なんですよね、あの人)

 

サキ「すごいですっ! さすが、アリサさん! そんな人ともお知り合いなんですねっ!」

 

アリサ「ま、まあねー」

 

ミオ(アリサさんとマリアさんって、ほとんど接点は無かったような……)

 

オウガ「けど、やっぱり欲しいモンはいくらかけても欲しいと思うものなんじゃ無いすかね? そのマリアさんって人も、16000円の価値はあると感じているから騒ぎながらも買うわけでしょ?」

 

アリサ「むう。それもそうよね……マジェ好きなら欲しくなる良デザインには違いないし」

 

ミオ「ロイヤルパラディンを使用しない私達にとっては8000円ですが、ロイヤルパラディンが好きな人にとってはプライスレスというわけですね」

 

オウガ「よくわからんけど、そういうことっす」

 

アリサ「……あたしが間違っていたわ。確かに、あたしだって、同じ形態でギラファでも発売されようものなら4箱くらい買っちゃうもの。

そんなわけで、ロイパラ好きのみなさんに、昔からマジェを使い続けてきたファンのみなさん! そして、今回でマジェに興味を持ったみなさんに、強いからマジェを使おうと考えているみなさんまで!

これはきっといいものです! あたしに言われるまでも無いかも知れないけれど、ぜひとも使ってあげてねー!」

 

ミオ「今回も綺麗にごまかしたところで」

 

アリサ「ごまかしたんじゃない! まとめたの!」

 

オウガ「今日はお開きとしますか!」

 

サキ「そ、それではみなさん……」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

アリサ「何であんたがシメるのよ!!」




えくすとらでは地の文が無く情報量が少なくなってしまうので、今回より、えくすとらに限り登場人物欄も追加してみました。
えくすとらでは、誰が登場して何を使うとかのネタバレの心配もありませんし。
ただ、こっきゅんに関しては不意打ちで登場した方が面白いと考えているので、基本的に登場人物欄では触れません。
過去のえくすとらにも、登場人物欄を追加していく予定です。

次回の更新は、5月23日前後に「プレミアムコレクション2020」のえくすとらを予定しております。
「フェスティバルコレクション」の収録カードも公開されましたが、再録ですし、ツッコミどころもあまり無かったので今のところ書く予定はありません。
せめてフレーバーテキストが一新されているなり、ギャラティンが再録されているなりしていれば……。

それではまた、「プレミアムコレクション2020」のえくすとらでお会いできれば幸いです。


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Ex.24「プレミアムコレクション2020」


●登場人物

・天道アリサ
いつでも元気いっぱい。明るく楽しいミオの先輩。
使用クランは「メガコロニー」

・御厨ムドウ
容赦の無いファイトで対戦相手を打ち負かす、謎多き強豪ファイター。
使用クランは「シャドウパラディン」


●序

 

ムドウ「……珍しいな。お前から俺を誘うとは」

 

アリサ「おはよ。ちょっとねー。

ほら、最近プレミアムコレクション2020が発売したじゃない?」

 

ムドウ「そうだな」

 

アリサ「それで『えくすとら』をやりたいんだけど、今ウチの部活って、G環境のことを知らない人しかいないのよね。

かと言って、カッコつけて去っていったユキをいきなり呼び戻すのもかわいそうでしょ?

やっぱり、再登場は7月のむらくも編でなきゃ」

 

ムドウ「ヤスイエだしな」

 

アリサ「ヤスイエだしね」

 

ムドウ「……今のは作者に言わされた感があったな。ステルスマーケティングというやつか」

 

アリサ「そんなわけで、いかにもベテランぽいムドウを呼んでみたの。G環境わかるよね?」

 

ムドウ「無論だ。『竜魔道の儀式』からヴァンガードをはじめた、俺の知識を見せてやろう」

 

アリサ「結構最近だった! G環境だけれども!」

 

ムドウ「冗談だ。もちろん俺は『虚栄神蝕』からのファイターだ」

 

アリサ「やっぱりシャドパラなのね」

 

ムドウ「マーハがかわいかったからな」

 

アリサ「あっそ。

そんなわけで、今月の『えくすとら』は、あたしとムドウの2人でお送りしまーす!」

 

ムドウ「ネヴァンもいいぞ」

 

アリサ「前回は人気ユニットのリメイクだったけど、今回は全クラン完全新規のGユニット!

古くからのファンならイラストを見てるだけでも楽しめるって感じじゃなくなったけど、まったく新しい出会いがそこにはある!」

 

ムドウ「能力は、すべてがそうというわけでは無いが、Gスタンのカードより現スタン環境のユニットと相性がよくなるように作られているようだな」

 

アリサ「中には驚きのバニラサポートなんかも!?

そんなプレミアムパック2020! 今日はじっくりと見ていきましょ」

 

ムドウ「例の如く、作者は既にPスタンは門外漢だ。見当違いのことが書いてあっても笑って許してやってくれ」

 

 

●『ストームエレメント サイクロンド』

 

アリサ「一応、今弾の目玉カード? VRで収録のクレイエレメンタルGユニット!!

永続、起動、自動、いずれの効果を持たないユニットのサポートカード! 要するにバニラのサポートってこと?」

 

ムドウ「そうだな。中には『デフィトバウ』のような例外もいるが。……あれは効果テキストというよりは、注釈という扱いなのだろうが」

 

アリサ「VやGゾーンにあってはバニラを+5000し、アタック時にはドライブチェックでバニラがめくれるたびにユニットをスタンドさせる……バニラ構築とか半端ない縛りを強制される割には、やってること地味じゃない?

少なくとも、ノヴァやアクアフォースなら、これより効率的に強化もスタンドもできるよね?

表のGゾーンも追加で増やせないし……」

 

ムドウ「積極的に超越していくユニットと言うよりは、各クラン自前のGユニットに超越しつつ、そのコストとしてめくっていくのが肝要なカードなのかも知れんな」

 

アリサ「それでいいの、ヴァンガードレア!?」

 

ムドウ「さて。では、どのような構築ならこのユニットを生かせるか……」

 

アリサ「やっぱりカードプールの多いクランが有利なんじゃないかな? ロイヤルパラディンとかかげろうなら、フォース持ちのG3バニラもあるし」

 

ムドウ「G3までバニラにする必要があるのかはわからんがな」

 

アリサ「ロイヤルパラディンなら、バニラな『ブラスター・ブレード』なんかもあるのよね。『ブラスター・ブレード』なら豊富なサポートカードでどこからでも取ってこれるし。何なら『ブラスター・ブレード』4枚だけでも回りそう」

 

ムドウ「ガンスロッドをハーツにして、『神聖竜 クリスタルラスター・ドラゴン』に超越。そのコストや『テンペスト・スフィア』でサイクロンドを表にしていくわけだな。

最終的には単体パワー20000や30000になったブラスター・ブレードをV扱いにできるわけだ」

 

アリサ「そうだけど、あんまり先のカードの名前出さないでね!? ネタが無くなるから!」

 

ムドウ「あとは、元々バニラで戦うことを目的としたクランなら使えるかもな」

 

アリサ「え? そんなデッキあったっけ?」

 

ムドウ「プラント・トークンはバニラだろう?」

 

アリサ「あっ、そうか!」

 

ムドウ「とは言え、プラントを地道に+5000していくのは、さすがに悠長かもな。アルボロスと超越の相性は悪いし、今回新たに登場した『優艶の花乙姫 サンドリーヌ 』とも噛み合っているとは言い難い。

いずれ化ける可能性はあるが、プラント・サイクロンドが活躍するのは、もう少し先の話となりそうだ」

 

 

●『サンダーエレメンタル バリギラン』 『クラウドエレメンタル モワーク』『レインエレメンタル ザーザン』『テンペスト・スフィア』『ライトエレメンタル メキラ』

 

ムドウ「他のバニラサポートはまとめていくぞ」

 

アリサ「うん。

基本的にはこれらのカードをフル投入して、あとはバニラで固める。

ザーザン、モワークとライドしてアドバンテージを稼ぎつつ、サイクロンドも表にしつつ、バリギランにスペリオルライド。

さらに、バリギランからサイクロンドに超越して速攻するってデザインかな」

 

ムドウ「それを防ぎに現れる『アースエレメンタル ロロック』」

 

アリサ「うらぎりものー」

 

ムドウ「凄まじい勢いでGゾーンのカードがめくられていくので、サイクロンドデッキはGB8が強力なクランにするとよいかもな」

 

アリサ「サイクロンドに超越した次のターンにはGB8に到達することだってありそうよね」

 

ムドウ「注目は『テンペスト・スフィア』だな。Gゾーンを1枚表にできるオーダーカードという時点で、まず強い。

これのためデッキにバニラを入れるもあるし、入れなくともGゾーンを表にする行為に、カードを1枚消費する価値はある。

特に相性が良いのが、むらくもの『伏魔忍竜 シバラック・ヴィクター』だ。

『テンペスト・スフィア』で1枚表にしておくだけで、以降は影縫が発動するたびヴィクターが、自分がG2だろうが、相手がまだG1だろうが飛び出してくる。

速攻というコンセプトはサイクロンドとも合致しているし、バニラ層の薄さという問題こそあれど、むらくもはサイクロンドデッキの筆頭候補になるかも知れんな」

 

アリサ「『ライトエレメンタル メキラ』は、旧バニラのパワーに、プロテクトバニラのガード値を合わせた、両者のいいとこどりな上位互換。G1バニラを入れるなら、まずはこれ!」

 

 

●『アースエレメンタル ロロック』 『エアーエレメンタル ブフー』 『ヒートエレメンタル ホワン』

 

アリサ「残りのクレイエレメンタルは、はっきり言っちゃえば、不快な行為に繋がりやすいプレイングに対するメタカードかな」

 

ムドウ「それぞれ、

ロロック=速攻

ブフー=速攻

ホワン=ギーゼのようなヴァンガードに攻撃しなくても勝てるデッキや、あえてヴァンガードにアタックせずカウンターコストを与えないプレイング

だろうな」

 

アリサ「タイプの違う速攻対策が2種類も収録されてるあたり、速攻は、Pスタンでも問題視されてるのね……。

ていうか、こういうのスタンダードにもくれないかな!?」

 

 

●『神聖竜 クリスタルラスター・ドラゴン』 『暗黒竜 チェインランカー・ドラゴン』

 

ムドウ「まとめるな」

 

アリサ「だって同じじゃん!?」

 

ムドウ「……まあいい。

ロイヤルパラディンとシャドウパラディンのGユニットだが、前半の効果はアリサが言うように全く同じで、ハーツの能力を全て得るというものだ。

性質上、超越されることで効果を発動するルアード等のストライダーとは相性が悪く、既存カードや、スタンのカードとの相性がよくなっている」

 

アリサ「ガンスロッドから超越すれば、『ブラスター・ブレード』をVとしても扱えて、モルドレッドから超越すれば、大量にギフトを得ながら『ブラスター・ダーク』をスタンドできる!」

 

ムドウ「クラレットソードから超越すれば、トリプルドライブの2回攻撃だ。やはり、最新のカードとは相性が良くなるように作られているようだな」

 

アリサ「ドラグルーラー・ファントムから超越して、効果ダメージで一気に相手を5点まで追い詰めるのも面白いかも」

 

ムドウ「効果は今見ても優秀だが、超越ができないために決定力が足りなかった古いユニットを生かせるのは悪くない」

 

アリサ「この効果って、全クランにあげてもいいくらいの面白い効果だよね」

 

ムドウ「そうだな。もっとも、俺達が気付いていないようなトンデモコンボがあって、全クランに配るのは不可能だったりするのかも知れないが」

 

アリサ「これだけでも満足できるユニットなのに、両者にはさらなる効果が! それぞれグレード2以上が3枚以上、グレード1以下が3枚以上で、3枚以上でなければコールできないガード制限が! 鬼か!」

 

ムドウ「どちらのクランも、展開や連続攻撃が得意なクランだ。超越された時点でファイトが終わることも珍しくないだろうな」

 

 

●『スターリングウィッチ モモ』

 

アリサ「ついに来た! オラクルのVスタンド!」

 

ムドウ「今回のパックでは、これまでヴァンガードがスタンドできなかったクランにVスタンドが与えられているパターンも多いな」

 

アリサ「そう思って楽しみにしていたら、メガコロは違ったけどね!!」

 

ムドウ「……すまん」

 

アリサ「ちゃんと調べたわけじゃないけど、もうヴァンガードが2回攻撃できないクランってメガコロぐらいじゃない!?」

 

ムドウ「そんなモモのコストは手札3枚。ドライブチェック前に支払う必要があるので、使いにくい部類だな。オラクルなので、使えない状況に陥ることこそ少ないだろうが。

最終的な手札の収益も大赤字なので、基本的には、これで仕留め切れなければ負け。一発逆転の切り札になるだろう。

慣れないことはするものではないな」

 

 

●『聖霊熾天使 バササエル』

 

アリサ「今弾屈指の、ルールのちゃぶ台返し! 敗北条件がダメージ7枚に! GB6を満たせば8枚にまで!

ただし、山札が0枚になったら負けなのは変わらずなので、救援のしすぎには注意!」

 

ムドウ「そんなデッキ切れ対策がもう一つの効果だ。自分のダメージゾーンの数だけ、相手にカード枚数制限が入る。

要するに、デッキが切れる前に殺してしまえばいいわけだな」

 

アリサ「ていうか、ガード枚数制限多くない?」

 

ムドウ「PスタンにはGガーディアンがあるからな。強力だが対処の術が既にあるというのは、ほどよいバランスにし易いのだろう」

 

 

●『黄金竜 ブランベント・ドラゴン』

 

アリサ「何だか物凄く普通でクセの無いGユニット」

 

ムドウ「Pスタンでゴルパラはトップクラスの強さを誇るらしいので、あまり派手に強くさせることができなかった感が透けて見えるな。

逆に言えば、この程度の後押しさえあれば、ゴルパラは十分速攻しきれるのだろう」

 

 

●『極点の英雄神 マルドゥーク』

 

アリサ「わかりにくくてわかりやすい、スタンダード環境のVRと相性のいいGユニット!

ヒミコの効果を使った後に超越もできるし、星詠ならヴァルケリオンでアタックした後に超越ができる! そうして得たトリガーも無駄にならない!」

 

ムドウ「超越のタイミングが遅いので、『アタックした時~』の効果を持つユニットとも組み合わせられるのが魅力だな。

『マイスガード プロキオン』で全マイスガードをスタンドさせてから超越することも可能だ」

 

アリサ「まさかのマイスガード強化!!??」

 

ムドウ「もともと受けの能力を持っていて超越との相性は悪くなかった、アタック時にユニットをスタンドさせる『陽光の女神 ヤタガラス』なども狙い目だろう。

『全知の神器 ミネルヴァ』も、2回目のアタックで超越できるようになる。

超越のタイミングは、少しズレるだけで世界が変わるな」

 

アリサ「実用的か、実戦でどこまで通用するかはともかく、これまで超越と噛み合わなかった古いカードが日の目を見るのは、やっぱり嬉しいよね!」

 

 

●『覇天皇竜 ザンバスト・ドラゴン』

 

ムドウ「全体除去。以上」

 

アリサ「そうだけど! かげろうに今までそんなGユニットいなかったっけ!?」

 

ムドウ「いなかったらしいな。ドラクマや、GB8のブレイジングバースト・ドラゴンを例外とするのなら、だが」

 

アリサ「ああ、そういうのがあったから初めてって感じがしなかったのね

究極超越やGB8でやっていたことの一端を実質ノーコストでこなせるようになったのには時代を感じるけどね。

それらにとっては、全体除去はついでだったけど」

 

ムドウ「別に全体除去などなくとも、ブレードマスターの超越時スキルや、優秀なリアガードのスキルで全サークル焼ききるのが普通だったからな。

むしろ、全体除去などされては、そう言ったカードが使いにくくなる。

とは言え、アクセルのおかげでサークルが増えることもある現環境、全体除去はGゾーンに仕込んでおくに越したことはない」

 

 

●『六道魔竜 ジャクーメッソウ』

 

アリサ「妖魔変幻トークンを扱う、妖魔忍竜のサポートカード!?

ハンゾウは特にトークンと関係ありそうで無いので必要無し!」

 

ムドウ「アタック回数を増やすくらいなら、輪廻がよりえげつない形でできるしな。バウンスは悪くないが、わざわざザンゲツなりクロギリなりを突っ込んで、なおかつそのトークンを消費してまで使うかと聞かれると」

 

アリサ「先人が強すぎた!!」

 

 

●『破壊暴君 ギャンチュラプター』

 

アリサ「アタックした時にー、武装ゲージがたくさん乗ってるユニットをスタンドさせてー、その数だけ相手を退却ー……やってること、アンガーブレーダーと変わらないじゃないの!!」

 

ムドウ「スタンダードでは許されなかったアンガーブレーダーも、Gスタンでは問題無いということだな」

 

アリサ「武装ゲージの生成効率こそアンガーブレーダー以上だけど、ドロップゾーンが肥えてないと使えないので速攻しにくくなってるしね。やっぱり、完全再現は問題あったのかも」

 

 

●『伏魔忍獣 ヌエダイオー』

 

アリサ「え? これだけ他のカードと、強さのケタが違わない?

プレミアムパック2020のカードが公式で公開された時、一番はじめに公開されたカードだけど、作者観では、これを越えるカードは最後まで現れなかった。

そんなカードよ」

 

ムドウ「条件の同名カード5枚だが、侍大将なら労せずして満たせるな」

 

アリサ「マンダラロードでも、余裕で満たせるよ。

ま、作者のようにマンダラに特別なこだわりでも無い限り、御大将でいいとは思うけどね。

とにかく、リアガードを4体並べて御大将の効果を使うか、マンダラロードを5体揃えるという簡単な条件を満たしてSB1するだけで……

相手がG2の間に起動効果で超越でき!!

このユニットのアタックは5枚以上でしかガードできず!!

頼みの綱のGガーディアンさえも封じられ!!

アタック後は同名リアガードが全員スタンドし!!

Gゾーンにはシバラックヴィクターが1体スタンバーイ!!

ファイトどころか、ヴァンガードを終わらせにいってるわよ、こんなの!!」

 

ムドウ「ヌエダイオーがインチキなのでヴァンガード辞めました」

 

アリサ「最悪の未来!!」

 

ムドウ「むしろ、ここまで盛らなければならないほど、今までのPスタンにおけるむらくもはどうしようもなかったのか?」

 

アリサ「アクセルクランの時点で勝ち組くらいに思っていたんだけどね」

 

ムドウ「侍大将はスタンでも大暴れしていたわけだが、開発チームが何を以て侍大将だけをここまで強くしたい情念に駆られているのかも謎だな」

 

アリサ「……それにしても、厳つい顔に騙されそうになるけど、胴体部分は普通に猫だよね」

 

ムドウ「もふもふだな」

 

アリサ「肉級も完備!」

 

 

●『征天覇竜 スタンバース・ドラゴン』

 

アリサ「とは言え、こっちも十分にヤバい!

新ヴァンキッシャーのような全体強化こそ無いものの、ハンデス能力はそれ以上!

痛み分けだったヴァンキッシャーに対し、こちらは何故かドローするという至れり尽くせり」

 

ムドウ「起動効果の発動後はハーツで戦うことになる、変わり種のGユニットだ。新ヴァンキッシャーにチェンジして、さらにもう1ハンデスしてもよし。デトニクスドリルでトドメを刺しに行ってもよし。

……このあたりが強力すぎて、なるかみには遊べる古いカードがあまり無いな」

 

アリサ「その2体がトリプルドライブじゃなくたって十分すぎるのよねー」

 

 

●『異形竜王 アズダバルク』

 

アリサ「これノヴァ!?」

 

ムドウ「リンクジョーカーか、100歩譲って、ディメンジョンポリスの怪獣枠だな」

 

アリサ「効果はシンプルな前列リアガードの全員スタンド。前トリガー。ひいてはシルバーフィストやフュージング・ストライカーと相性よくした感じなのかな」

 

ムドウ「まあ、2つ前に紹介した、相手がG2でも起動効果のタイミングで超越でき、全リアガードをスタンドさせた揚句、本体のアタックにはガード制限がかかり、Gゾーンからも追加でアタックしてくるヤツの後だと、どうしても霞んでしまうが」

 

アリサ「だからヌエダイオーが別格すぎるんだって!」

 

 

●『熱波超獣 ジオマグラス』

 

アリサ「今度はかげろうに見える!」

 

ムドウ「GゾーンにいるだけでG3のパワーとガード値に+5000。

……この時点でサイクロンドの立場が無いな」

 

アリサ「まあ、バニラでデッキ組むよりはG3でデッキ組む方が強くなりそうだよね。

わざわざディメポでサイクロンドデッキ作る必要性はあんまり無さそうだから、住み分けはできてそうだけど」

 

ムドウ「ディメンジョンポリスのGユニットはVのパワーを参照するものが多く、ズィールデッキは肩身が狭かったが、これがあればようやくまともに超越ができるようになるな。

同じ怪獣で、イメージも合致している」

 

アリサ「もう少し早く欲しかったかな!! 具体的には、作者がG環境でズィール使ってた頃に!!」

 

 

●『星雲竜 バリオエンド・ドラゴン』

 

アリサ「こういうの、スタンダードにちょうだい!?」

 

ムドウ「とは言え、ギフト対策としては有効なようで微妙かも知れんぞ?

相手がプロテクトなら、バリオエンドを警戒して優先的にプロテクトを消費してくるだろう。

……まあ、プロテクトⅡには強いかも知れんが」

 

アリサ「またプロテクトⅡが何かのついででイジメられてる!」

 

ムドウ「アクセル、フォースに関しては、一度はアクセル、フォースの乗ったアタックを受けなければならない。

破壊したギフトの数だけパワーや★を得ることもできるが、アクセルやフォースが2個以上並んだ状態でアタックを受ければバリオエンドを使う前に負けかねん。

結果、相手にアクセルやフォースを作られるたび、バリオエンドに超越して破壊するだけのイタチごっこにしかならん」

 

アリサ「そうなるよねえ」

 

ムドウ「そもそもリンクジョーカーなら、フォースサークルやアクセルサークル上のユニットを呪縛してしまえばギフト封じになるのではないか?」

 

アリサ「ミもフタもない!!」

 

ムドウ「まあ、モルドレッドやマジェスティが大量に生成したギフトをまとめて破壊できれば楽しいだろうが」

 

アリサ「やっぱりスタンダードに欲しーいー!!」

 

 

●『大豪傑 ヴィラン・ヴァーミナス』

 

アリサ「スパイクの新戦術、マーカーパスのサポート!

とは言え、超越のタイミング的にブルスパイクは使えないし、コストも地味に重いし、相手を追い詰めた状況では強いんだけど、基本的には使いにくそう」

 

ムドウ「スパイクは、相手を追い詰める前に殺すがデフォだしな。

むしろ、スパイクの本命はサイクロンドだろう」

 

アリサ「サイクロンド型のGB8スパイクは強そうだよねー」

 

 

●『動乱の首魁 ガルヴァンス』

 

アリサ「ダクイレでは貴重なドロー&ガード枚数制限!」

 

ムドウ「よくありそうなのは

1.『2枚ドロー、3制限』

2.『3枚ドロー、2制限』

3.『1枚ドロー、4制限』

あたりだな。

ドローしつつ、ガード制限で速やかにダクイレの間合いである4点以上のダメージに持ちこむのが仕事か。

5枚のソウルチャージに加えて、ドロー数が不確定なので、ガード制限があるからといって間違っても終盤のフィニッシャーにはしないほうがいい。

山札が10枚あっても死ねるぞ」

 

アリサ「ダクイレはフィニッシャーには困ってないしね」

 

 

●『軽業の大奇術 イヴェット』

 

アリサ「クラン固有の能力がほとんど採用されない中、唯一の奇術持ち!

アクセルサークルを新たに生成して、そのサークルにソウルのユニットをスペリオルコール!

現在だけでなく未来にも目を向けた、手堅く強い効果!」

 

ムドウ「かわいいしな」

 

 

●『時空竜 グロッグロック・ドラゴン』

 

アリサ「Gユニットから新時代のG4へと繋ぐ夢の架け橋!

4枚のカードを一気にバインドできるので、イディアライズや新ミステリー・フレアにも繋げられるよ!」

 

ムドウ「バトルフェイズにライドできるので、イディアライズの効果は単なる展開だけでなく追撃になるな。

ミステリーフレアの追加ターンは言うまでも無く強力だ。専用の構築にする価値はある」

 

アリサ「バインドのグレードとか面倒くさいことを考えるのが苦手な人は、ネクステージでも十分!

トリプルドライブ→シングルドライブ→ツインドライブのヴァンガード3回攻撃は迫力満点!」

 

 

●『魍魎帆船 バッド・バウンティ』

 

こっきゅん(コキュートス)「呼んだか?」

 

アリサ「呼んでない!」

 

こっきゅん「ほう。グランブルーも、ついにヴァンガードによる連続アタックができるようになったようだな。

これで全クラン、ヴァンガードが2回以上アタックできるようになったのではないか?

む、何故、叩く」

 

アリサ「うわあーーーーん!! 羨ましくなんかないもん!! グランブルーなんて、クアドラプルドライブももらえてないくせにー!!」

 

ムドウ「そう言えば、スパイクもまだヴァンガードのスタンドは無かったはずだな」

 

こっきゅん「あれがヴァンガードまで連続攻撃してしまったら収集がつかなくなる気はするな」

 

ムドウ「で、スパイクやメガコロニーはともかく、このカードはどうだ?」

 

こっきゅん「ふむ。ドライブチェックで得た手札をそのままコストにできる、Vスタンドとしては無難な部類だな。

ならば、ライド時の能力でさらなる追撃を行いたいところではあるが、グランブルーにはライド時にユニットをコールできるユニットは僅か2体しかおらぬ」

 

ムドウ「ほう。意外だな」

 

アリサ(……ん?)

 

こっきゅん「1体は『深淵の呪術師 ネグロマール』。

まあ、こやつはリアガード用のユニットなので、ライドするのは現実的では無いな。古いカードなので、コストも重い」

 

ムドウ「たしかに」

 

こっきゅん「もう1体は、『氷獄の死霊術師 コキュートス』! この我よ! 我ならユニットをさらに1体展開しつつ、リミットブレイクで単体でもヴァンガードに届かせることのできるパワーを持つ!

たかが1体と侮るなかれ、その1体が『一鬼当千 ナイトストーム』のようなカードなら、さらなる連続攻撃に繋がるのだからな!」

 

アリサ「え? 『七海賢者 プレゲトーン』なら、登場時にノーコストで1体スペリオルコールできるでしょ?」

 

こっきゅん「…………」

 

アリサ「そもそも、確かにライド時にユニットを展開できるのはプレゲトーンを含めて3体かも知れないけど、ハーツが『七海覇王 ナイトミスト』なら、誰にライドしてもノーコストで2体展開できるよね?」

 

こっきゅん「……プレゲトーン? ナイトミスト? 知らんな、そんな若造」

 

アリサ「この野郎!!」

 

こっきゅん「愚民どもに我を使わせるチャンスであったというのに、余計なことを……」

 

アリサ「『えくすとら』を本気で参考にしてる人なんていないわよ!

てゆーか、ネグロマールのコストにもケチつけてたけど、あんたとおんなじコストでしょーが!」

 

ムドウ「やれやれ。騒がしくなってきたな。

まとめると、七海なら七海覇王やプレゲトーンと相性がよく、そのスペックを最大限に生かすことができるだろう。

それ以外の軸の場合は、他のユニットに超越した方が攻撃回数は多くなるパターンが多いので、ケースバイケースと言ったところか。

俺から追加でアドバイスしておくと、ライドするのはプレゲトーンでもいいのだが、フィニッシュを狙うなら規格外のパワーを持つスカルドラゴンも悪くない。

リアガードのスカルドラゴンで先にアタックすれば、バッド・バウンティのアタック前にドロップゾーンに送りこめるので、1枚を使い回すこともできる」

 

 

●『稀代の天稟 フェデリーカ』

 

アリサ「バミューダからはハイランダー構築専用のGユニットが!

しかし、ここで思わぬ落とし穴!

10枚めくって同名がいないところを探すのは一緒なんだけど、レジェンドアイドル達と違って、このフェデリーカはトリガーの名前が被っているのも許してはくれない!

スタンになってトリガーの性能が飛躍的にパワーアップしたのは知っての通りだけど、現在のバミューダにおけるスタントリガーの種類はと言うと……」

 

★トリガー:5種類 ※プレミアムコレクション収録分含む

引トリガー:2種類

治トリガー:1種類

 

ムドウ「16枚に全然足りんな」

 

アリサ「そうなのよ! ガード値について引と治はごまかせるにしても、★はどうにもならないし……」

 

ムドウ「バミューダは★を増やす構築になりやすいだろうしな」

 

アリサ「トリガーゲットした時の修正値に+5000が混ざるのは本当に辛い! スペック面ではもちろんだけど、計算も面倒くさそう!」

 

ムドウ「何故、スタンのG4と同じにしなかったのだ……」

 

アリサ「ただでさえ扱いが難しく、究極超越もできないハイランダーで、さらなるデメリットまで背負いこんで、このフェデリーカちゃんは何をしてくれるのか!

その答えは!!」

 

ムドウ「Gゾーンのマーメイドを5体展開&+15000&後列から攻撃、だ」

 

アリサ「ぐ、オチなかった。

確かに、それならやってみる価値はあるかもね」

 

ムドウ「さすがにトリガーのうち半分が+5000のデメリットに見合ったものかは怪しいがな。

とは言え、それは時間が解決してくれるだろうし、Gゾーンを一気に5枚表にできるメリットもある」

 

アリサ「GB8まで1枚足りない!」

 

ムドウ「そこはGガーディアンで何とかしろ。

フェデリーカの効果は、Gガーディアンを4枚入れていると仮定して、もう1体もギリギリ使える。

これ専用の構築にしたのなら、2度目もフェデリーカにライドするのがよいかも知れんな」

 

アリサ「思いきってGガーディアンを3枚にして、3度目の超越に使えるラスト1枚を残しておくのも面白いかもね」

 

ムドウ「ちなみにレジェンドアイドルとの相性も比較的よい。アネシュカはフェデリーカで展開したユニットを強化することができ、ラウラはフェデリーカでガラ空きになった盤面を埋めることができる。

イリーナは知らん」

 

アリサ「そもそも、ひとりだけ超越と相性が悪すぎる!」

 

 

●『蒼嵐剛竜 ジャンボルド・ドラゴン』

 

アリサ「これだけ、何で蒼嵐!? 特定のカテゴリに属してるのって、こいつだけよね?」

 

ムドウ「展開し、ドローする。アクアフォースの中でもアドバンテージの獲得に特化した変わり種だ」

 

アリサ「『ここで仕留めよ!』とか言ってるけど、一手目に使うタイプのGユニットよね!?」

 

ムドウ「6体以上リアガードをレストしている状況でなければ効果は最大限に生かせん。ギフトを持つスタンダードのユニットと組み合わせたいな」

 

アリサ「いよいよフォートヴェセルが本領発揮かな!?」

 

 

●『奪略怪神 ディプレノール』

 

アリサ「デッキデスに手を出したメガコロが新たに得たGユニット。それは……Gゾーンデス!!

相手のデッキを3枚くらいドロップするユニットが来るかと思ったんだけど、そっちかー」

 

ムドウ「アタックした時に、相手はGゾーンのカードを3枚選び表にしなければならない……これってメリットじゃないか?」

 

アリサ「そうよね!? GB8には大きく近付くし、サイクロンドやジオマグラスみたいなカードをまとめてめくられたら目も当てられないわよ!」

 

ムドウ「前作にも、シバラックヴィクターやマーナガルム・アウルムがいるしな」

 

アリサ「極めつけは、原初竜は選べるけどめくられないというあんまりな裁定! いや、めくられたらめくられたらで困るんだけど! 素直に原初竜は選べませんでよかったんじゃない!?」

 

ムドウ「これだけのデメリットを背負っているのだから、まさかめくって終わりというわけではあるまいな」

 

アリサ「う、うん。表にされたパワーを持つカード1枚につき、前列のユニット3枚のパワー+15000。強化値だけならGB8のタイランティス並なんだけど……」

 

ムドウ「けど?」

 

アリサ「さっきも言ったように、原初竜を選ばれたらその分は不発だし。Gガーディアンを選ばれても、もちろんパワーは上がらない。

Gガーディアンの場合は、潜在的な防御力は落とせてるから意味が無くはないんだけど、やっぱり相手に選択肢を与えているのが辛いかな」

 

ムドウ「メガコロニーではよくある話だな」

 

アリサ「基本的には相手のGゾーンが尽きかけ、ダメージも5点とかの状況で繰り出すフィニッシャーだから、対戦相手としてはファイナルターンに必要なGユニットを残して、Gガーディアンをめくってしまえばいいだけなのよね。

むしろ、Gガーディアンを1枚めくるだけで、相手の前列ユニット3体を-15000させてるようなものだから、Gガーディアンとしての役目は結局果たせてるというか……」

 

ムドウ「要するに使えないというわけだな」

 

アリサ「オブラート!

まあ今のメガコロは、Pスタンの素人目に見ても、女王陛下(グレドーラ)以外のGユニットに超越するなんて、自殺行為だからね。

正直、今回はロクなGユニットはもらえないと思ってたよ。女王陛下より強いカードを出すなんて、まだまだ早すぎる! むしろ、女王陛下に無いフィニッシャー性能の高いカードをもらえただけ、まだマシ」

 

ムドウ「そうか」

 

アリサ「ま、攻撃力はともかく、攻撃回数なら女王陛下がメガコロ内ではトップだから、結局のところ女王陛下がフィニッシャーも兼任しちゃうんだけどね」

 

ムドウ「先人が偉大なクランは大変だな」

 

 

●『全智竜 チピトカーム』

 

アリサ「退却させるだけさせて補填は何もしてくれないタイプのグレネ。Gゾーンカードをたくさんめくれるのは嬉しいけど、序盤に使いたいカードじゃないかな」

 

ムドウ「マーナガルム・アウルムとも、コストが被っているおかげで、相性が良いようであまりよくないな」

 

アリサ「フィニッシャーとしては優秀かも知れないけど、退却のタイミングがバトル終了後と、通常のグレネより早い! 『クレヨン・タイガー』が使いにくいのは、フィニッシャーとして致命的じゃないかしら」

 

 

●『優艶の花乙姫 サンドリーヌ』

 

ムドウ「見るからにアーシャで使ってくださいというスペックだな」

 

アリサ「花妖精トークン生成して、プラント生贄にして超越してください、よね。

せっかくの起動型超越なのに、トークンを生贄にする都合上、アルボロスとの相性が微妙によくない!

アルボロスも登場してまだ半年しか経ってない最新のカードなんだし、もう少し気を遣ってあげて!」

 

ムドウ「Pスタンはスタンダード以上に除去が多いので、花妖精にとっては辛い環境だろうな」

 

アリサ「そうよねー。メガコロだってガンガンスタンド封じしてくるし。スタンでは除去の無いグランブルーだって、Pスタンなら『スケルトンの砲撃手』が使えるし。

Gユニットに除去が使えるユニットが1種類でもいるなら、引きに関わらず、除去したい時に100%除去してくるような環境だもんね」

 

ムドウ「それも含めて、除去に強いアルボロスを強化してよかったのではないかと」

 

 

●終

 

アリサ「ふー、終わったー。さすがに24クラン+αを2人で捌くのは疲れるわね」

 

こっきゅん「我もいたぞ」

 

アリサ「グランブルーの時だけでしゃばってきただけでしょーが!」

 

ムドウ「新規★トリガーはやらないのか?」

 

アリサ「んー……さすがにいいんじゃないかな? トリガーになったリトルドルカス互換なわけだし」

 

ムドウ「ブランウェン互換だな」

 

こっきゅん「お化けのとみー兄弟互換なり」

 

アリサ「ま、考察はここまで。後は実践かな。今日はGスタン環境で遊ぼっか」

 

こっきゅん「よかろう」

 

アリサ「え? こっきゅんが? いいけど……そう言えば、こっきゅんとファイトするのは初めてね」

 

こっきゅん「ククク……小娘に我の真の力を見せてやろうぞ」

 

アリサ「はいはい。行くわよ。

スタンドアップ……」

 

こっきゅん「ゾ」

 

アリサ「ヴァンガード!!

いや、待って! 『ゾ』って何!?」

 

こっきゅん「無論、ゾンビの略なり」

 

アリサ「それは何となく分かるけど、何で『ザ』みたいに言った!?」

 

ムドウ「ふん。ファイトが始まるまでが長そうだな。

悪いが、キリが無いので今月の『えくすとら』はここまでだ。またな」

 

こっきゅん「さらばだ」

 

アリサ「あ、まったねー!」




えくすとらのプレミアムコレクション2020回をお送りしました。
お楽しみ頂けたら幸いです。
次回の更新は6月の本編になります。
従来のパターンであれば6月6日に前後に更新の予定ですが、ひょっとしたら5月31日にするかも知れません。
次回もよろしくお願いします。
7月のヤスイエもよろしくお願いします。


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Ex.25「根絶者の帰還」

――6月8日 放課後

 

アリサ「おっ待たせー! 進路面談で遅れちゃった。皆は元気にヴァンガードやってるかな?」

 

オウガ「おっ、部長! ちーっす!」

 

サキ「お疲れ様です。受験生は大変ですね」

 

アリサ「まーね。あれ? ミオちゃんは?」

 

サキ「スマホで『今日のカード』を見た瞬間、鼻血を吹きだして倒れて、保健室に運ばれました」

 

アリサ「『今日のカード』……?

あっ、『招き入れる根絶者 ファルヲン』か! 根絶者の中でも特別かわいいって言ってたもんね。

ていうか、あの超健康優良児のミオちゃんが、そんなくだらない理由で!?」

 

サキ「あの人の恍惚とした表情なんて初めて見ました……」

 

アリサ「それはあたしも見たかったな。あとでお見舞いには行くとして……それはミオちゃんのデッキ?」

 

サキ「はい。私とファイトする直前に倒れたので」

 

アリサ「ふんふん。どれどれ……」

 

オウガ「いいんすか? 勝手に覗いて」

 

アリサ「いいのいいの。……あの子、いまだにグレイドールは1枚しか入れてないのね」

 

サキ「そうなんですよね。引きが強いから、必要な時にはすでに手札にあったり、ここぞという場面で引いてくることも多いんですけど。

2回以上グレイドールにライドしたい場面なんかは、どうしても対応できませんし。あの人の構築なら、複数枚グレイドールを入れない理由は無いと思うんですけど」

 

オウガ「やっぱグレイドールが出てくると、プレッシャーが違うからな。

何か、グレイドールを1枚しか入れてない理由とかあるんすか?」

 

アリサ「いろんな根絶者を入れたいとか、そもそもグレイドールが当たらないとか、ミオちゃんの場合はあると思うけど……。

やっぱり一番の理由は、あのグレイドールが特別な1枚だからじゃないかな」

 

サキ「特別、ですか?」

 

アリサ「うん。あのグレイドールは、ミオちゃんがものすごく懐いてた先輩からもらった、大切なカードなのよ。

……あの子、合理的なようで義理堅いから、あんまり他のグレイドールを入れるつもりは無いんじゃないかな」

 

サキ「そうだったんですか。

でも、ミオさんがグレイドールを2枚以上投入したデッキを使ったら、どれほど強くなるのか興味深いですね。一度は見てみたいです」

 

アリサ「そうだよねー……」

 

オウガ「……それってつまり、今のグレイドールと同価値のグレイドールがあれば、ミオ先輩もグレイドールを使うってことっすよね?」

 

アリサ「? 理屈はそうだけど……」

 

オウガ「部長。藤村。2人がよければ、部活の後、カードショップ『エンペラー』に寄りませんか?」

 

 

 

 

――6月9日 放課後

 

ミオ「昨日はお騒がせしました」

 

アリサ「やっほー。すっかり元気になったみたいだね」

 

ミオ「はい。いつも通りの音無ミオです。

今でも、ファルヲンの事を思い出すと動悸が激しくなって、そのことしか考えられなくなりますが」

 

アリサ「恋の病!?」

 

オウガ「そんなことより」

 

ミオ「ファルヲンはそんなことではありません」

 

オウガ「すんません。

……そんなことより! 今日は、ミオ先輩の快気祝いにプレゼントがあります!」

 

ミオ「快気祝い? たかが貧血で大げさですね」

 

サキ「ほら、これです!」

 

ミオ「これは……グレイドール? それも3枚……」

 

サキ「私達がそれぞれ1枚ずつ、パックを買って当てたんですよ!」

 

ミオ「グレイドールはVRですよ? どれだけパックを買ったのですか?」

 

オウガ「いんや? すぐ当たりましたよ」

 

アリサ「全員、10パック以内で出てきたよねー」

 

ミオ「え、ええ? 私が1カートン以上買っても出なかったのにですか?」

 

オウガ「ちなみにデリートレアのが、俺の当てたグレイドールっす」

 

ミオ「ずいぶんと引きがいいですね。

……ありがとうございます。ちょうどグレイドールを4枚使った構築を試したいと思っていたところでした。大切に使わせて頂きます」

 

アリサ「よしっ! これでミオちゃんのデッキもますます強化されて、次のヴァンガード甲子園は万全ね!」

 

オウガ「うす! 楽しみだぜ」

 

サキ「はいっ!」

 

 

 

 

――6月11日 放課後

 

ブシャーッ!!

 

サキ「ああっ! ミオさんがまた鼻血を出して倒れました!」

 

ミオ「『不磨の根絶者 ゼグラヲ』……か、かわ、かわいすぎ……ます」

 

アリサ「恋多きお年頃ねー」




フ ァ ル ヲ ン 再 誕 !!

銀華竜炎の根絶者は、ファルヲンをはじめとして、ウネウネキチキチした、根絶者らしい根絶者が多くていいですね!

そして、根絶少女も2年目に入って、ミオのデッキも強化されます!
2年目になってもリアルで根絶者の種類が増えなかった場合、考えていた強化案がグレイドールのフル投入でした。
1年目であえて1枚しかグレイドールを使わせなかったのは、最悪の状況に備えてだったのです。

実際はその備えも徒労に終わったわけなのですが、せっかくそのために用意していたエピソードをお蔵入りにするのももったいないので、ファルヲン再登場のお祝いも兼ねて公開させて頂きました。

そしてそんな『銀華竜炎』のえくすとらですが、20日前後に公開と予告しておりましたが、その日は予定があったので、発売から1週間後の27日前後となります。
急な変更となってしまい恐縮ですが、楽しみにして頂ければ幸いです。
もちろん、根絶者は全カードを紹介します!!


それにしてもゼグラヲかわいい


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Ex.26「銀華竜炎」

●登場人物

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
根絶者としての本能からか、メサイアが苦手かつライバル視している。

・天道アリサ
いつでも元気いっぱい。明るく楽しいミオの先輩。高校3年生。
使用クランは「メガコロニー」
悪役のみならず、ダークヒーローも大好物。

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
初心者だが、熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」

・藤村サキ
臆病で気の弱いメガネっ娘。ファイトは初心者だが、知識は深い高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」

・山崎タツミ
かつてミオにヴァンガードの教えを受けた中学2年生。
使用クランは「かげろう」で、オーバーロードの強さに憧れを抱く。


●序

 

アリサ「やってきました! 『銀華竜炎』の『えくすとら』!!」

 

ミオ「根絶少女では初となる、根絶者収録パックの『えくすとら』ですね」

 

オウガ「先輩も心なしか気合が入ってるっすね!」

 

ミオ「当然です。もちろん根絶者は全カードにコメントしていきますよ。

そんな根絶者が率いるリンクジョーカー以外の収録クランは……」

 

サキ「さらりとウソつかないでください!」

 

ミオ「そんなかわいい根絶者様が率いるリンクジョーカー以外の収録クランは、オラクルシンクタンク、ディメンジョンポリス、かげろう、となります」

 

アリサ「かげろう収録ということで、根絶少女作中のかげろう使いを、本日はゲストとしてお呼びしております!」

 

ミオ「む。それはもしかして……」

 

アリサ「1年生編の1月に登場! かげろう使いの少年ファイター! 山崎タツミ君でーす!」

 

タツミ「あ、その、はじめまして。1回しか登場していない僕が、こんなところにいてもいいのでしょうか?」

 

アリサ「当たり前でしょ! オーバーロードも収録されてるし、むしろタツミ君を呼ばずして誰を呼ぶのよ」

 

タツミ「それはそれとして、何でこの人、僕の名前を知っているんですか?」

 

ミオ「私達の練習風景を、ずっとストーキングしていたからですよ」

 

タツミ「何それこわい」

 

アリサ「ちょっと! 人聞きの悪いこと言わないでよ!」

 

ミオ「人聞きも何も事実だと思いますが」

 

タツミ「あ……ミオ、さん、は久しぶり、ですね」

 

ミオ「む。以前と話し方が違いますね。どうして敬語なのですか?」

 

タツミ「だ、だって! あの時は年上だなんて思わなかったから!」

 

ミオ「私はあなたのことを大切なお友達だと思っています。構わず、この前と同じように呼んでください」

 

タツミ「う、うん……! ありがとう」

 

オウガ「よくわかんねーけど、綺麗にまとまったところで、今日の『えくすとら』をはじめるぜ!」

 

 

●オラクルシンクタンク 『覇天戦神 スサノオ』

 

アリサ「オラクルが誇る破天荒男(はてんボーイ)、スサノオがついにスタンダードへと降臨!!

その効果は、まさに異常レベルのドロー! カードゲーマーの本能のままに引きまくれ!!」

 

サキ「擬似的にツインドライブを行う効果とでも言うのでしょうか。ソウルにG3があれば、その効果はトリプルドライブへとさらに強化されます」

 

ミオ「単なるクアドラプルドライブ、クインテットドライブとの違いは、1度目のチェック後に行動の機会があることですね」

 

タツミ「スサノオの効果で引いたカードをすぐさま展開できるし、引いたトリガー効果を考慮して戦略を立て直すこともできるよね」

 

ミオ「一方で欠点もあります。対戦相手からしてみれば、トリガーが途中で止まるので、3枚貫通や4枚貫通を考慮してガードをする必要は無いという点ですね。

そのため、プレッシャーにはやや欠ける印象です」

 

タツミ「とは言えオラクルだし、2度目のチェック前にまたデッキトップ操作もできるから、メリットの方が多そうだけどね」

 

ミオ「そうですね。他のクランの勉強もしているようで、精進は怠っていないようですね」

 

タツミ「へへ。まあね」

 

アリサ「こいつも割とコレオの立場を奪ってる系のカードなんだけど、そのコレオが大の天敵という不思議なカードなのよね」

 

サキ「山札の消費が激しいですからね。1枚でもデッキを減らされるのは嫌ですよ」

 

アリサ「意外とコレオって星骸に近いカードなのよね。周囲がインフレするほど自分も強くなるって言うか。

登場当初はそうでもなかったのに、1年もたたずして、コレオで軽く後押ししてあげるだけでデッキアウトするようなデッキが増えたような気がするわ」

 

 

●『流水の女神 イチキシマ』

 

アリサ「まさかのG2イチキシマ!! これは驚きのサプライズだわ」

 

サキ「イチキシマは、G環境で活躍していたGユニットですよね」

 

アリサ「そうよ。そのインチキ臭さから、作者の周囲ではインチキシマとまで呼ばれているわ。世間でも呼ばれてそうだけど。

あまりのインチキぶりから、『豊水尊神 イチキシマ』はヴァンガード史上初の使用禁止カードにまで指定されてしまったほどよ」

 

ミオ「では、今回のイチキシマは、今回もインチキシマなのか。注目の効果は……」

 

タツミ「カードの効果で公開された時、ヴァンガードに+10000する効果と、登場時、デッキの上を見て、ノーマルユニットなら+10000する効果、だね」

 

アリサ「……強いけど、イチキシマにしては地味じゃない?」

 

オウガ「ハードルが高い!」

 

アリサ「インチキシマなら、デッキの上がノーマルユニットなら+10000して、G0でガードできないくらい言ってた」

 

サキ「ま、まあ、若かりし(?)頃の姿ですし」

 

アリサ「こんなもんかー」

 

オウガ「このカードがあれば、スサノオの擬似ドライブでアタリを引く確率は大幅アップ! ノーマルユニットなので引いて即戦力になるのも嬉しいよな。

『日輪の女神 アマテラス』も似た効果を持っているので、フル投入すれば、デッキの中のアタリはトリガーを含めて最高24枚だぜ!」

 

アリサ「やっぱり、ちょっとインチキくさい!」

 

 

●『豊熟の女神 オトゴサヒメ』

 

アリサ「スタンダード環境になってから、『ソウルにG3がある時』を条件とするヴァンガードが多く登場したわ。

最近はちょっと落ち目だけど、そういったカードをサポートするために、本命ライドする前に経由し易い、ライドしてもアドバンテージを失わない『繋ぎ』となるユニットは重宝されがち。

このオトゴサヒメは、そんな繋ぎG3の中でも最高峰と言える良作よ!」

 

サキ「まずは重要なライド時の効果。CB1で2枚ドローです。プロテクトⅠを選択することで、手札はさらに1枚増えますね。

シンプルな効果に見えますが、ライド時に安定してアドバンテージを2枚稼げるユニットは、VRを含めても非常に限られています」

 

アリサ「とは言え、ここまでならオトゴサヒメは無難なG3止まり。オトゴサヒメを単なる繋ぎに終わらせないのが、もう一つの効果」

 

オウガ「手札を3枚捨てることで、前列ユニットに+20000して、本体には★+1するぜ!」

 

アリサ「そう! このオトゴサヒメはフィニッシャーも兼ねるのよ! メインヴァンガード以外でG3に求められる役割をギュギュッと凝縮した新世代のカードなの!

スサノオが凄すぎる上に性質も近いから、スサノオを押しのけての活躍は難しいけど、一昔前ならVRとだって渡りあえたカードじゃないかしら。

インフレによって誕生し、インフレに負けた悲運のカード!」

 

タツミ「スサノオデッキで、スサノオにライドできなかった場合のサブヴァンガードとしての採用はできるかも知れませんよ。どうしても運が絡むスサノオと違って、確実にユニットを強化できる点から、フィニッシャーとして運用できるシチュエーションもありそうです。

RRRの『日輪の女神 アマテラス』とは採用枠を十分に争える、面白いRRだと思います」

 

ミオ「ちなみに手札を3枚捨てる効果は、手札3枚以外の条件は無いので、相手がG2の序盤から使用できます。速攻デッキのメインヴァンガードとしての使い道もあるかも知れませんね」

 

アリサ「手札3枚捨ててるとは言え、さすがに+20000は大きいよねー」

 

 

●『神剣 クサナギ』

 

アリサ「オラクルの★守護者なんだけど、スサノオとの相性が抜群ね」

 

オウガ「引トリガーなんか必要としない圧倒的ドロー力に、毎ターンの再ライドが容易なプロテクトクラン! 使ってくれと言わんばかりっすね」

 

サキ「現状の★守護者の中では1歩抜きん出ている感じですね」

 

 

●『バトルシスター ぷらりーぬ』

 

アリサ「毎回1枚はあるデメリット付きのハイパワーコモン枠! 今回のパワーは23000! 登場するたびに下がっていくのは何で!?」

 

ミオ「そのくせ、今回は同型カードと比較してデメリットも大きいです。登場した時にデッキトップを見て、トリガーユニットでなければ退却します」

 

アリサ「盤面にすら出てくれない!」

 

ミオ「デッキトップ操作が得意なオラクルとは言え、常にデッキトップがトリガーというわけではありません。

一度登場さえすれば、退却することもなく、アタックも自由にできるとは言え、パワーの低さも相まって、『サベイジ・マーセナリー』や『銀彩の斬刃 タルエル』と比較すると、採用はやや躊躇うレベルかも知れませんね」

 

 

●ディメンジョンポリス 『黒装傑神 ブラドブラック』

 

アリサ「紅に染まる月の下、颯爽と現れたオオバリズム溢れる漆黒のヒーロー!!

え? 何コレ? カッコよすぎるんだけど? そんなに作者にディメポ使わせたいの?」

 

タツミ「ダークヒーロー好きには、名前から見た目までたまりませんよね!」

 

オウガ「CB1で前列全てのユニットに+10000! シンプルだけど効率はいいし、リアガードも含めた全体強化は、ディメポでは貴重だぜ」

 

サキ「注目はもう一つの効果ですね。アタックしたバトルの終了時、山札の上から7枚見て、G3を1枚手札に加えます。ここまでなら単なるアドバンテージですが……」

 

アリサ「相手がG3の場合は世界が変わる! 手札を2枚捨てることで、手札からG3を1枚選んでスペリオルライド! アドバンテージ獲得能力が、途端にアドを放棄した連続攻撃に早変わり!」

 

サキ「山札から公開したG3にライドする必要もないですし、公開できなくてもスペリオルライド自体は行える。そんな融通も魅力ですよね」

 

アリサ「ダイライナーの後だし、公開しなければスペリオルライドもできないと思いこんじゃいそうだよねー」

 

サキ「次にライドするブラドブラックを確保しつつ、本命にライドする動きは強そうですよね」

 

オウガ「そのライドするカードは何がいいんだろうな?」

 

アリサ「まず、ダークな見た目に違わず怪人・怪獣との相性が抜群ね!

反面、これまでに登場したヒーロー達は起動能力でしっかりお膳立てしてあげてナンボのユニットが多いから、相性はあんまりよくないのよね」

 

サキ「『爆音超獣 オーディオン』は、アタック時に2枚以上でしかガードできない制限を与えます。3枚ものソウルブラストが必要ですが、ブラドブラックは性質上ソウルが増えやすいです」

 

アリサ「特にオススメが『戦闘団長 グレギオ』ね。

登場時、相手がCB1を消費するか、自分が2体デッキトップから展開するかを相手に選ばせる効果なんだけど……その相手に選ばせる部分が曲者で使いにくかったのよね」

 

サキ「相手はされたくない方を選べばいいだけですからね」

 

アリサ「ライドフェイズにこの効果だと、どうしてもそうなっちゃう。ところがバトルフェイズとなると話が違う。バトルフェイズのスペリオルコールは連続攻撃と同義。それも2体。ブラドブラックならフォースⅠをリアガードに置いてることだってある。

そんな状況、9割以上の人がスペリオルコールなんて選ばないわ

つまり……」

 

オウガ「ブラドブラックでグレギオにスペリオルライドする=相手のダメージを1枚裏にする ってワケっすね」

 

アリサ「その通りよ! ダメージ裏だって嫌なものは嫌なもの。相手は表のダメージを欲しがって、本来ガードできる攻撃だってわざと受けにくる副次効果も期待できるわ。

もちろん、相手のダメージがすでに全裏なら連続攻撃は確定するし、グレギオは後列のユニットをガードに使える受けの能力も持ってるの。相手ターンに備えてライドしておく価値は十分にあるわ。

ほんと、ギフトが無くてもお釣りがくるぐらい」

 

サキ「今弾には怪人・怪獣以外にも相性のいいカードはあるんですけど……」

 

アリサ「それは次にとっておきましょ」

 

サキ「そうですね。あ、単純にパワーを追及するなら『次元ロボ ダイザウラス』も選択肢に入りますね」

 

オウガ「いやー、かっこいいだけじゃなく、面白いユニットだな。

さっきフォースⅠの話も出てたけど、イマジナリーギフトは何がいいんだろうな?」

 

アリサ「それよねー。はっきり言って、考察の放棄じゃなく『どっちでもいい』だと思うわよ。

ヴァンガードがスタンドするからVにフォースⅡを乗せても強いのは間違いないし、VにフォースⅠを乗せるなら、ヴァンガードのパワーを参照する効果にも手が届く。

グレギオのようにリアガードを主力にするなら、フォースⅠをリアガードにバラ撒けばいい。

ファイターの好み、デッキの構築、ファイトの状況。それらを考慮して好きに選べばいいと思うわ。

なんてったって、この自由さが、ブラドブラック最大の強みであり、面白さなんだから!」

 

サキ「どんなヴァンガードでも擬似的に2回攻撃ユニットにしてしまえる効果は、ダークイレギュラーズのデスアンカーを彷彿とさせますね。

あちらも、メインヴァンガードがどれだけインフレしても使われ続けそうなカードですが、ブラドブラックもそれに続くカードになりそうです」

 

オウガ「ブラドブラックと相性の悪いユニットは、基本的にはグレートダイユーシャとは相性がいいはずだしな!」

 

アリサ「そうよね。ディメポらしくディメポの穴を埋めてきた、今弾きっての怪作だわ。

イラストがカッコよすぎるとか、そんな作者の贔屓目抜きに強くて面白いカードだと思うから、みんなも使ってみてねー!」

 

 

●『鋼闘機 シンバスター』 『鋼闘機 ウルバスター』 『鋼闘機 ブラックボーイ』

 

アリサ「超越環境のカードが取りざたされる中、短い双闘環境を駆け抜けた鋼闘機達がまさかの復活!

何故だかFVまでブラックボーイ!」

 

ミオ「サキさんの言っていた、ブラドブラックと相性のいいカードがこちらですね」

 

サキ「はい! シンバスターは登場時にデッキからウルバスターをスペリオルコールすることができます。

そのウルバスターは登場時に相手リアガードを1体退却させ、このユニットのパワーを+10000させます」

 

アリサ「ディメンジョンポリスとしては、ライドするだけでアドを稼げる貴重なユニットね。コールしてくるユニットのパワーも文句無し。

メインを張るにはちょっぴり刹那的すぎるきらいがあるけれど、まさにその刹那を求めていたのがブラドブラック!」

 

サキ「ブラドブラックからスペリオルライドすれば、23000のヴァンガードと、20000のリアガードで追撃が可能です。もちろんフォースも生成されるので、実のところランダムで2体展開するグレギオよりも強いパターンも多くなりそうな気がします」

 

ミオ「一応、起動能力でガード制限もついていますが、制限としては弱い部類です。基本的にはブラドブラックとのコンボカードか、アドを失わないフォース持ちであることを生かしたサブヴァンガードとしての運用になるでしょう。

サブヴァンガードにする場合、ウルバスターはバニラになりがちな上、少数採用だとシンバスターにライドした時にはデッキにいない可能性があることには注意してください」

 

 

●『大宇宙勇機 グランギャロップ』

 

アリサ「ディメポとフォースⅡの相性が悪いと誰が言った! とばかりに登場した、フォースⅡ専用のディメンジョンポリスよ」

 

サキ「★の数だけグランギャロップは強力な効果を発揮していきます。

★2の場合は前列リアガードに+5000

★3の場合は前列リアガードにさらに+10000

★4の場合は前列リアガードに★+1

されます」

 

ミオ「フォースⅡと、起動能力で★3までなら難なく満たせますね。最後のひとつは、基本的に専用サポートの『宇宙勇機 グランボルバー』を利用することになります。」

 

サキ「『コマンダーローレル』や『次元ロボ ダイジャッカー』でも★は付与できますが、色々と相性が悪いんですよね」

 

アリサ「大量の★を集めて殴りかかるド迫力のグランギャロップだけど、なんと本体のパワーは13000からピクリとも動かない!」

 

オウガ「無迫力!!」

 

アリサ「幸い、ディメポはヴァンガードにパンプする手段には事欠かないから、それで強化しろっていうデザインなんだとは思うけどね。

グランボルバー引いてこい、ダイドラゴンも引いてこいって、ドローが苦手なディメポには、結構ムチャな要求なのよね。

アドの素であるCBは、グランギャロップが毎ターン消費してるのに。

いっそのことフォースⅠを選んで、ちゃんとした下地を用意してあげるもアリなのかも」

 

ミオ「★2の23000の時点で十分な脅威ですからね。少なくとも、★3の13000よりは強そうです」

 

アリサ「スキルの発動タイミング上、★トリガーは反映されない。

相手をダメージ5まで追い詰めても、パンプのためにCB1を消費して★を増やし続けなければならない。

サポートカードのグランボルバーすら、貧弱なグランギャロップでなく、すでにパンプをもらってる自分を強化する。

ムズムズするというか、融通が効かないというか、無駄が多すぎるというか、ツッコミどころ満載というか……あれだけ洗練されたデザインの、ブラドブラックの後にこれを出す!?

どう見ても、一発屋RR枠でしょ!」

 

サキ「インドラ扱い!?」

 

タツミ「だからって紹介順までRR枠にしなくても……」

 

アリサ「カード単体で見たら強くない。サポートありきっていう点は、クラレットソードにも通じるわね。強さも立ち位置もそんな感じになりそうな気がするわ」

 

ミオ「リアガードを安定して強化できるディメンジョンポリスが、ブラドブラックに続いて増えたのはいい傾向ですね」

 

アリサ「そうね。『ミラクル・ビューティー』のリアガードで30000という要求が、これで一気に現実的な数値になったものね」

 

サキ「『ミラクル・ビューティー』!?」

 

アリサ「ここで触れようと思ってたから、ブラドではあえて触れなかったけど、どっちも『ミラクル・ビューティー』と相性がいいのよ。怒涛の連続攻撃が楽しめるミラクル・ブラドや、★2のユニットをさらにスタンドできるミラクル・ギャロップ!

『ミラクル・ビューティー』は専用サポートもあって、今も面白いカードだから、色々と試して欲しいな

 

サキ「それにしても……パワーは低いのに当たれば一撃必殺って、いったいどんな攻撃なんでしょう?」

 

アリサ「剣に毒でも塗ってるんじゃないの?」

 

オウガ「卑怯!」

 

 

●『次元ロボ ダイアーム』 『次元ロボ ゴーファイヤー』

 

ミオ「今弾のディメポにおける隠れテーマ、『相手の手札が10枚以上なら~』勢です」

 

アリサ「いや、無理でしょ!?」

 

ミオ「言うと思いました」

 

アリサ「まず、そうならないように立ちまわるのが大前提でしょ」

 

オウガ「そもそも、舐めプでもしない限り、そうそう10枚とかいかない気もするんすけどね」

 

アリサ「さすがにスサノオなら油断すると達成されそうだけどね。

じゃあ、スサノオの手札が10枚になったとして、このカードは打開策になってくれるのかな?」

 

ミオ「ゴーファイヤーは、アタックした時に自身を+20000、★を+1します」

 

アリサ「いや、無理でしょ!?」

 

ミオ「ちなみにアタック時なので、アタック順を誤ると、ゴーファイヤーの攻撃時には相手の手札が9枚になっていることもあるでしょう」

 

オウガ「救えねえ……」

 

アリサ「そもそも、これだけ厳しい条件を満たして、条件を満たした『プラチナム・エース』とスペックがパワー4000しか違わないって言うのが悲惨なのよね」

 

オウガ「ダイアームはどうなんすか?」

 

ミオ「登場時に前列ユニットのパワー+30000です」

 

オウガ「割とマトモだった!」

 

アリサ「実際に打開策となるかは怪しいけど、何とかしてくれるかもと思わせる数値ではあるわね。いっそのこと、こっちもポンコツだったらオチにして綺麗にシメれたのに」

 

 

●オーダーカード 『水神護符 “呪浄渦洗”』

 

ミオ「ここで小休止。オーダーカードの考察です」

 

アリサ「誰でも使えるオーダーカード第3弾は怪しいお守り!」

 

オウガ「これを身につけるようになってから、お金も貯まって、綺麗な彼女もできて、人生ウハウハです!」

 

アリサ「そう、そんな感じ。

けど、見た目こそインチキ臭いけど、これの効果は本物よ!」

 

ミオ「その効果は、ユニット1体を解呪するか、スタンドさせる。それに成功すれば1ドローというものですね」

 

タツミ「やっぱりリンクジョーカーに呪縛された時や、メガコロニーにスタンド封じされた時に使えばいいんですか?」

 

アリサ「ふふふ。タツミ君、小学生のクセに考え方が古いわね」

 

タツミ「中学生です」

 

アリサ「今、対戦相手のユニットを呪縛する手段はリンクジョーカーには無いし、メガコロもスタンド封じをできるユニットはほんの僅か。その中でも使用率の高そうな『ステルス・ミリピード』には効果が無いという体たらく」

 

タツミ「じゃあ、何に使えばいいんですか?」

 

アリサ「簡単よ。自分で呪縛したりレストしたユニットを復活させればいいの」

 

タツミ「マッチポンプ!」

 

オウガ「やっぱインチキじゃね?」

 

アリサ「けど、この使い方は超便利なのよ。

本来は今弾に収録されているリンクジョーカーのユニットが呪縛状態で展開するユニットを解呪するオーダーとしてデザインされたんでしょうけど、リンクジョーカーはだいたいメサイアがまとめて解呪しちゃうのよね。

けど、根絶者や星骸がアド稼ぎのために『デスティ二-・ディーラー』なんかを採用している場合は? そんな時に役立つのが、この護符というわけ」

 

タクミ「な、なるほど」

 

アリサ「我らがメガコロとの相性も凄いわよ。スターグビートルで射出したユニットを、即座にスタンドさせることができるんだから。

『ウォーター・ギャング』に使ってやれば、その場で3枚ドロー!!」

 

オウガ「すげえ!」

 

アリサ「護符が加わったことで、スターグビートルもマシニング以外のデッキにグッと入れ易くなったわ。

おあつらえ向きにG3だから『マシニング・マンティス』や『マシニング・ホーネット』でも拾ってこれるのよ。

これまで同じ役割で採用されていた『強毒怪人 ヘルデマイズ』はG3であるが故に、スターグビートルと並べる場合は前列が空でなければならなかったけど、オーダーならその心配も無し!」

 

ミオ「オーダーの『場に残らない』という特性が、今回は生きたというわけですね」

 

サキ「メガコロニー以外では、獣神も面白そうですよね」

 

アリサ「エクストラアタックしたユニットをスタンドさせるのね。『獣神 ヴァーミリオンバード』でも似たことができるけど、あっちは融通が効かない場面もあるし、併用してみるのもいいかもね」

 

ミオ「今回紹介したカード以外にも、ユニットのレストを介したスキルは意外に多いものです。探してみると、自分のクランでも思わぬコンボが発見できるかも知れませんね」

 

 

●かげろう 「ドラゴニック・オーバーロード “The X”」

 

アリサ「ここからは後半戦!

今回のオーバーロードは “The X”が登場!! “The Яe-birth”はー?」

 

サキ「とばされちゃいましたね」

 

アリサ「ま、とりあえずここからはタツミ君がお願いね」

 

タツミ「は、はい!

“The X”はデッキに眠る全てのオーバーロードに成り変わることができる、驚異のワイルドカードです!」

 

アリサ「『過去の「ドラゴニック・オーバーロード」シリーズ『全ての能力が使用できる』強力カード』って、公式ページにも書いてたわね」

 

タツミ「けど、実際はジ・エンド一択だと思います!」

 

オウガ「なんだってー!?」

 

タツミ「その理由が、ジ・エンドの効果を強力にサポートするふたつのスキル!

ひとつは手札を数える際、手札を擬似的に0枚として扱えるスキルです」

 

サキ「手札4枚以下でないと発動できないジ・エンドのスキルが、いつでも発動できてしまうわけですね」

 

タツミ「ふたつめが、相手のヴァンガードがG3以上なら、ドライブが0以下にならないというスキルです」

 

オウガ「ジ・エンドがスキルを2回使ってもドライブ+1のままってことだな」

 

タツミ「ちなみに、ソウルにオーバーロード必要という条件も、コストの名目でソウルにオーバーロードが置かれるので達成されます。

オーバーロード系統最大の弱点であった初動の遅さが、これで解決されました」

 

オウガ「とんでもねーな」

 

タツミ「最終的に“The X”は、ツインドライブ→シングルドライブ→シングルドライブのアタックを毎ターン行える脅威のユニットになります。

一方でザ・グレートは、魅力の一つであったネオフレイムをドロップゾーンから復活させる効果が、タイミングの関係上使えません。アドバンテージを得られないばかりか、安定してネオフレイムを並べることも厳しくなりました。

ジ・エンドと併用する場合、ジ・エンドを選んだらバニラになってしまうネオフレイムを採用しなければならない点も難しいですね」

 

アリサ「どうしても“The X”でザ・グレートを使いたい場合は、ザ・グレートに特化した方がよさそうね」

 

タツミ「はい。先に“The X”にライドすれば、ソウルにG3が無くともザ・グレートのスキルを即時使えるようになるので、一応、ザ・グレートとしても強化になるとは思います。

もちろん、自前でネオフレイムは引いておく必要がありますが」

 

サキ「もともと“The X”はジ・エンドと双闘するカードだったので、多少ジ・エンド寄りになるのは仕方ないのかも知れませんけど……」

 

アリサ「何よー! 公式ページの宣伝文句は嘘っぱちじゃないの」

 

ミオ「あくまで『シリーズ全ての能力が使用できる』としか書いていないので、嘘ではないかと」

 

オウガ「『全ての能力で戦える』とは言ってないすね」

 

アリサ「サギくせー」

 

サキ「けどこれって、『過去の』オーバーロードどころか、『未来の』オーバーロードまで使えちゃいますよね」

 

アリサ「そうよね。今後登場するオーバーロードは、ソウルにオーバーロード云々の制限は無意味になるし、実質どんなオーバーロードも8枚体制にできるから、ライド事故の危険性も大幅に緩和されるわね。

これからのオーバーロードは“The X”ありきで調整されるのか、あえて“The X”では使いにくいデザインにされるのか……」

 

タツミ「次の “The Legend”にも注目ですね!」

 

アリサ「“The Яe-birth”は!?」

 

 

●『ドラゴニック・ブレードマスター “双焔”』

 

アリサ「かげろうからはVRが2体も! ズルい!」

 

ミオ「G2をVRにしたシャドウパラディンよりはマシかと」

 

アリサ「それもそうね!」

 

サキ「よく見ると、“紅焔”ではなく“双焔”なんですよね」

 

アリサ「そう! 今後、スタンダードで2種類目のストライダーを出す時は名前を変えてくれるのかも。やっぱり、前と何もかもが同じじゃ味気ないし。些細なことだけど、粋な計らいよね」

 

タツミ「そんな“双焔”のスキルですけど、基本的にはスタンダードのブレードマスターを踏襲しています。

まず、手札を2枚捨てることで幻焔・トークンをスペリオルコールします。

トークン生成の条件にドーハとギャランを必要としなくなったので、最低限やりたい動きを確実に行えるようになりました。

ソウルにG3も必要なくなったので、速攻性も上がり、複数ターンに渡った使用も簡単になってますね」

 

アリサ「この時点で、前のブレードマスターを軽く追い抜いてる印象よねー」

 

タツミ「もちろん、ドーハとギャランとのコンビネーションも健在です!

ドーハとギャランがいるなら、相手ユニットを全て退却!

そして、相手リアガードがいないならこのユニットと幻焔・トークンを+10000させる永続能力が適用されて完成です!」

 

アリサ「うわあ。もはや、旧ブレードマスターが上回ってる部分が、★+1しかないじゃない」

 

タツミ「できることは同じなのに、やり方に差がありすぎるので、わざわざブレードマスター8枚で組む必要は無いのかも知れないですね。

今弾で相性がいいG3は『オッドネスアーダー・ドラゴン』ですが、必須というほどでもないので、好みのカードを入れればいいと思います。」

 

オウガ「今弾にはブレードマスターのサポートカードも収録されているよな?」

 

タツミ「はい! ブレードマスター……というか、厳密にはドーハとギャランのサポートですけど。

『ドラゴンダンサー ファージャ』は、単純にドーハとギャランが揃いやすくなるので必須カードですが、『ドラゴンダンサー ソージャ』は、コストもかかり、トリガー率を下げてしまう副作用もあるので、使いどころが難しそうです。

……かげろうのVRはこんな感じだけど、参考になったかな?」

 

ミオ「はい。とても分かりやすかったです。成長しましたね、タツミさん」

 

タツミ「……へへへっ」

 

 

●『ドラゴンナイト ジャンナット』

 

アリサ「かげろうの★守護者ね。

意外とこれ、かげろう……というかオバロでは入ってくる気がするのよね」

 

サキ「かげろうはカードを引けるユニットが少ないので、引トリガーが欲しいイメージですけど」

 

アリサ「たしかにかげろうはアドを得るのが苦手よ。けど、オーバーロードの場合はたとえ展開ができなくても……」

 

タツミ「単騎で敵を撃滅できる攻撃力がある!」

 

アリサ「そう! そして、そういうユニットには★12構成がよく似合う!」

 

ミオ「そもそもアドが取れないということは、完全ガードのコストを捻出するのも難しいということですしね」

 

アリサ「うん。だから、対戦相手によって多少ムラがあっても、1枚で大半のアタックを捌ける★守護者の方が、引守護者よりも潜在的にはアドになる気がするのよね。

完ガ必須な、ヴァルケリオンやクロノファングなんかと当たっても、動き出す前に倒せるのはまさしくオバロの特権!」

 

ミオ「同じことはグランギャロップにも言えそうですね」

 

アリサ「そうだね。まとめると『★守護者は前のめりなヴァンガード特化デッキでも使えそう』かな?

★守護者、今も色々と考察できる面白いカードよねー」

 

 

●リンクジョーカー 『オルターエゴ・メサイア』

 

サキ「いよいよリンクジョーカーですよ、ミオさんっ! って、あれ、いない?」

 

アリサ「あー、ミオちゃんはメサイアが嫌い……っていうか、苦手?

何かメサイアが怖いみたいで、メサイアの話題になると隠れちゃうのよねー」

 

オウガ「かっこいいのになー」

 

サキ「とりあえず『オルターエゴ・メサイア』ですね。

ええと、まずはSB1でドロップゾーンから別名ユニットを2体呪縛カードとして置きます」

 

アリサ「いきなりどこぞの死霊術師の立場が危ういこと書いてあるわねー」

 

こっきゅん「そんなわけがあるか」

 

アリサ「来ると思ったわ!」

 

サキ「きゃああああっ!?」

 

タツミ「わああああっ!!」

 

アリサ「あ、初対面が2人も。

……えーと、この人は近所のコスプレ大好きおじさんよ。 オーケー?」

 

オウガ「説明が適当になってるっすね」

 

サキ「よ、よかったです。本物のコキュートスかと思いました……」

 

タツミ「す、すごいクオリティですね」

 

アリサ「どうにか誤魔化せたわね」

 

オウガ「そもそも近所のおじさんが学校に入り込んでる状況もよくないと思うんすけど」

 

こっきゅん「我が誰であるかなど些細なことよ。近いうちに全ての人類が、滅びという名の罰を以って我が名を知ることになるのだからな。

だが、我がメサイアごときに劣っているなどとは無知蒙昧が過ぎて片腹痛いぞ、天道アリサよ」

 

アリサ「むっ。だってSB1でドロップゾーンから2体、メサイアにとっては実質スペリオルコールできるのよ?」

 

こっきゅん「では、メサイアはどうやってそのドロップゾーンにカードを用意する?」

 

アリサ「あっ……」

 

サキ「SBで1枚は確保できるとは言え、もう1枚はドロップに無い可能性すらありますね……」

 

こっきゅん「その点、我はドロップゾーンに4枚ものカードを事前に準備することができる。蘇生するユニットの数ばかりが、死霊術の本質ではないぞ?」

 

アリサ「くっ。それのせいで、しょっちゅうデッキ切れしてるくせに」

 

サキ「メ、メサイアに話を戻しましょう。

もう一つの効果はメサイアらしいアタック時の解呪です。『ハーモニクス・メサイア』と比較して、ドロー効果が無く、パンプ値もやや低めですが、コストも無く、何よりソウルにG3という制限が無くなっているので、取り回しや速攻性は大幅にアップしています」

 

アリサ「ブレードマスターと言い、そんなのばっかしねー」

 

サキ「手札を増やせるのは、相手ターンの守りにも大きく関わってくるので、オルターエゴで盤面を整えたら、ハーモニクスにライドし直すのは有効だと思います」

 

アリサ「メサイア8枚構成はアリってことね」

 

 

●『創世機神 ヴォルコゲーデ』

 

ミオ「『創世機神 ヴォルコゲーデ』はG4 パワー30000の規格外ユニットです」

 

アリサ「ミオちゃん!? いつの間に!」

 

オウガ「どこに行ってたんすか?」

 

ミオ「突然雷に打たれたと思ったら、私は異世界に転生していました。けっしてメサイアが怖くて、隠れていたわけではありませんよ」

 

アリサ「言い訳が苦しい!」

 

ミオ「私は異世界では貴族の令嬢で、6人の根絶者から同時に求婚されるというユートピアでした」

 

アリサ「ディストピア!!」

 

ミオ「私は悩み抜いた末にヲクシズを選んだところで、地球に戻されてしまったというだけの話です」

 

アリサ「残り5匹が気になるけど! とりあえず、ヴォルコゲーデに話を戻そうか!?」

 

ミオ「はい。まずはあえてデメリットから説明しましょう。

このカードはライドできない。G4ですし、これは当然ですね」

 

アリサ「ライドできたら、ギーゼと同レベルになっちゃう!」

 

ミオ「もうひとつは、登場時に退却してしまう効果です」

 

アリサ「見た目の割に虚弱体質!?」

 

サキ「フレーバー的には、存在しない扱いになっているだけだとは思いますけど……」

 

ミオ「つまり、G4だからと言って、ブラントリンガーや、超越環境でもコールはできないということです」

 

アリサ「その2つなら許してあげてもいいんじゃないって気はするけどねー。特に星骸は、直接的な強化はもらえなかったわけだし」

 

オウガ「そんなユニットを、どうやってリアガードサークルに出せばいいんすか?」

 

ミオ「呪縛カードとして置いてしまえばいいだけです。呪縛カードとして置かれた時はもちろん、解呪時もコールしたとはみなされません」

 

オウガ「あっ、なるほど!」

 

ミオ「ドロップゾーンからは『酷白斬激 ジャクト』。手札からは『弑逆の猛撃 ガストーラ』。山札からは『非業の連刃 アクリート』。

これらは一例ですが、一通りの領域からユニットを呪縛カードとして置くことのできるユニットは揃っているので、特化すればヴォルコゲーデを出すことは容易でしょう」

 

アリサ「ミオちゃんはあえてスルーしてるんだろうけど、メサイアももちろんOKだからねー」

 

サキ「オルターエゴを使う場合は、スカルドラゴンよろしくガードに使って、ドロップゾーンにあらかじめ送りこんでおくのがいいかも知れませんね!」

 

アリサ「そんな回りくどいやり方で、ようやく出てきたヴォルコゲーデ! もちろんパワー30000ってだけで十分な戦力なんだけど、さらなるスキルが!」

 

ミオ「はい。アタック時に自身を呪縛して、他のユニットを+10000できます。もちろんターン終了時には解呪されるので、次のターンに攻撃できないというデメリットにはならないので安心してください」

 

アリサ「メサイアの場合、この呪縛が連続攻撃の布石にもなってくれるのよ。

ヴォルコゲーデでアタック→メサイアで解呪→ヴォルコゲーデで再アタック

のコンボは、シンプルかつ非常に強力なので、呪縛状態で出したヴォルコゲーデは、『水神護符 “呪浄渦洗”』で即解呪してしまってもいいんじゃないかな。

うーん。護符、本当に便利!」

 

 

●根絶者 『選考の根絶者 ヰドガ』

 

アリサ「いよいよ根絶者の考察よ! ささ、ミオちゃん! 心ゆくまでどうぞ!

まずは『選考の根絶者 ヰドガ』から!」

 

ミオ「かっこいいです」

 

アリサ「…………え?」

 

タツミ「…………それだけ?」

 

ミオ「それ以上、何を語るべきことがあるのですか? 強くて、かわいくて、かっこいい。それが根絶者です」

 

アリサ「あ、う、うん。そうだね……」

 

タツミ(この人、根絶者が関わると割とポンコツだよね……)

 

アリサ「え、えーと! ヰドガは簡単に言うと簡易グレイドールみたいな感じね。手札コストは必要だし、裏でバインド(バニッシュデリート)もできないけれど、G3からライドせずともデリートできるのが最大の強みね。

繋ぎからフィニッシャーまで、総じてサブヴァンガード適正にすぐれた根絶者……かな?」

 

ミオ「……それだけでは50点ですね。ヰドガの真の魅力はリアガード時の能力と言えるでしょう」

 

タツミ(人の解説にはケチつけるのかよ!)

 

オウガ(め、めんどくせえ……)

 

ミオ「まず根絶者が現環境で置かれている状況を簡単にまとめましょうか。

根絶者の特徴は、CB1~2の消費でヴァンガードをデリートできることです。それは言い換えれば、相手ヴァンガードのパワーを0にしてしまえるということ。さらに言えば、前列ユニットを+12000~13000しているのと、ほぼ同意と言えるでしょう」

 

アリサ「まあ、ガード要求値だけで言えばそうよね」

 

ミオ「その数値は、根絶者の登場当時は非常に強力でした。ですが、今の環境はどうでしょう。その程度のパンプはありふれているんですよね。今弾で言えば、CB1で前列を+10000できるブラドブラックがいい例でしょうか」

 

アリサ「つまり、根絶者をパワー目的で使うのは時代遅れということ?」

 

ミオ「そうです。ですが、それだけがデリートではありません。

デリートは相手ターンまで持続するので、相手がライドできなければパワー0、スキル無しのヴァンガードで1ターンを過ごさなければならなくなります。

今の環境においては、これこそが根絶者の価値と言えるでしょう」

 

アリサ「けど、だいたい再ライドされちゃうよね」

 

ミオ「それはそうですね。ですが、最近のユニットは『ソウルにG3がある時』や『G3からライドした時』などの条件が省かれる傾向にあります」

 

タツミ「今弾の“The X”とかがそうだよね!」

 

ミオ「はい。乗り切りのユニットが増えた分、今の環境は、ほんの少しだけ再ライドが軽視されがちな環境と言えるでしょう。これは根絶者にとっては追い風です。

ただ、私が今回主題として取り上げたいのは、『再ライドされてしまった時』ではなく『再ライドされなかった時』に、いかに相手を追い詰めるか、です」

 

アリサ「え? そんなの再ライドされなかった時点で勝ち確じゃないの?」

 

ミオ「まったくちがいますね。

デリートした後、相手が再ライドできなかったと仮定して、想像してみてください。

相手のヴァンガードのパワーは0。スキルも使えないので、リアガードのパワーも伸びない公算が高いです。つまり、そのターンのアタックは少ない手札でガードできる絶好のチャンスなのです。

ですが、実際にガードできるシチュエーションは多くありません。

何故だか分かりますか? タツミさん」

 

タツミ「え? えっと…………あ! デリートにはカウンターコストが必要だから、だよね?」

 

ミオ「大正解です。グレイドールやヰドガでもCB1。グレイヲンの場合、CB2も必要とします。

自分のダメージが全て裏の場合、相手はリアガードを攻撃してコストを与えないプレイングも可能です。

その場合、次のターンのデリートができなくなってしまい、みすみす反撃のチャンスを与えることになってしまいます。

そんな状況に予防線を張ることのできるユニットこそ『選考の根絶者 ヰドガ』であり、そのスキルなのです」

 

タツミ「ヰドガのリアガードでのスキルは、相手ターンのエンドフェイズ時にデリートを解除させなくするスキルだね」

 

ミオ「はい。ある意味、次のデリートをSB1で予約するスキルと言えます。これがあれば安心してデリートされた相手のアタックを防ぐことができ、次のターンも高パワーによるアタックが継続できます。ここまで決まって、アリサさんの言う勝ち確となるのではないでしょうか。

総じて『選考の根絶者 ヰドガ』とは、根絶者が根絶者として戦い抜くために必須のスキルを備えつつ、グレイドールの役割も兼任できる、時流に合致した新時代の根絶者と言えるでしょう。

ちなみに、似たスキルは『噛み砕く根絶者 バルヲル』も使えますが、同時採用も一考の余地があります。

再ライドされるのが確定している状況でもない限り、常にスキルを仕掛けておいて、相手が立ち行かなくなる状況を待ち構える。

それが根絶者……特に根絶者単で組む場合における理想の戦い方と言えるのではないでしょうか」

 

アリサ「ありがとう、ミオちゃん! 次からもその調子でお願いね!?」

 

 

●『模作の根絶者 バヲン』

 

オウガ「パワー0!?」

 

ミオ「はい。G3のギフト無しでパワー0。私達の常識を覆すユニットですが、それにはもちろん納得のできる理由があります。

『模作の根絶者 バヲン』は、バトルフェイズの開始時、相手ヴァンガードのパワーを模倣します」

 

オウガ「え? それって……」

 

ミオ「『将軍 ザイフリート』のスキルが3度使われていようと、バヲンもパワー43000で迎えうてるということです」

 

オウガ「どっひゃー!!」

 

ミオ「ヴァンガードにパワーを集中させることが前提の、星詠や次元ロボにとっては天敵とも言えるユニットです。

『妖魔忍竜・暁 ハンゾウ』のような、主力となるスキルのついでにパンプされてしまうユニットや、『銀の茨の竜使い ルキエ』のような、永続能力や自動能力で勝手にパワーが上がってしまうユニットなどにも有利ですね。

『クロノタイガー・リベリオン』などの前列強化や、『夢幻の風花 シラユキ』などの弱体化も、無効化したも同然です。

他にも一撃目のパワーが高くなりがちな『ノーライフキング・デスアンカー』など、ユニット単位で言えば、存在意義が否定されるような例は枚挙に暇がありません」

 

サキ「あれ、でも……」

 

ミオ「そうです。その一方で、サキさんの『餓竜 ギガレックス』のようなバトルフェイズ中にパワーを上げるユニットや、トリガーによる強化に対しては、完全に無力です。

どんな相手に有効で、どんな相手に無意味なのか、VRに絞ってリスト化してみました」

 

アリサ「根絶者だけ手厚いわね!?」

 

 

・とても有効(ライド~メインフェイズ中にVがパンプされがちなユニット):21種類

ブレードマスター、星詠、クラレットソード、コーラル、パシフィカ、イザベル

アルボロス、ガンニングコレオ、ブルブファス、ルキエ、ガントレッド、次元ロボ

こっきゅん、メサイアニック・ロード・ブラスター、決闘竜、ヌーベルバーグ

エンド・オブ・ステージ、レオパルド、デスアンカー、バスカーク、インペリアル・ドーター

 

・やや有効(ライド~メインフェイズ中に自分も含めた前列パンプされがちなユニット):11種類

アーシャ、クロノタイガー、ヴァンキッシャー、メイルストローム、アルフレッド

セシリア、ザラキエル、ファントム・ブラスター

ゴールデン・ビーストテイマー、ザイフリート、スパークヘラクレス

 

・無意味、苦手(Vがパンプされない。バトルフェイズ中にVがパンプされる。パンプ先をコントロールし易いユニット):32種類

“The X”、グランギャロップ、アルトマイル、ネクステージ、レヴォン、アグラヴェイル、エルゴディエル、ゴッドハンド

アンガーブレーダー、ブルスパイク、モルドレッド、侍大将、ガンスロッド、ツクヨミ、エイゼル、ジャミョウ

スピニング・ヴァリアント、獣神、ブラントリンガー、CP、ガスト・ブラスター、根絶者、ダンタリアン、メイガス

マガツ、デトニクス、ヒミコ、ミステリーフレア、エクスカルペイト、ギガレックス、ウォーターフォウル、パーフェクトライザー

 

 

ミオ「ちなみに、このリストはあくまでVRのスキルのみを参照しています。例えば、『深魔幻皇 ブルブファス』に対しては有利としていますが、『ドリーン・ザ・スラスター』にブーストされた場合、結局、莫大なガード要求をされてしまう可能性は残されています。

また、パンプ値に焦点を当てているので、『抹消者 ガントレッドバスター・ドラゴン』の永続スキルにはバヲンが有効でも、前列除去の起動スキルは、アドを稼げないバヲンにとって、かなり苦手なスキルでしょう。

実際、バヲンが徹頭徹尾有利に戦える相手というのは、全体の3分の1にちょっと満たないイメージですね」

 

アリサ「うーん。ちょっと微妙なラインかしら。一介のRとしては破格の扱いではあるんだけど」

 

オウガ「そんなバヲンすけど、どうやって使えばいいんすか?」

 

ミオ「まず想定されるのが、本命への繋ぎですね。

リンクジョーカーには『波動する根絶者 グレイドール』をはじめとして、『シュヴァルツシルト・ドラゴン』や『遊星骸王者 ブラントリンガー』など、G3を経由しなければ本領を発揮できないユニットが多くいます」

 

アリサ「『ハーモニクス・メサイア』もね!?」

 

ミオ「ギフトを所持していないのは、繋ぎとしては致命的ですが、その分、一部の敵には特効とも言える効き目を発揮します」

 

アリサ「時には、ただの繋ぎが相手を制圧してしまうことすらあるわけね」

 

ミオ「はい。環境にバヲンで有利に戦えるデッキが増えるようなら、一考の余地があるかと」

 

オウガ「上の66種類が大会で均等に使われているわけではないっすからね」

 

ミオ「もしくは、ブレイクライドや超越など、どのクランも一定以上のパワー上昇が約束されるシステムが導入されれば大チャンスです」

 

アリサ「かと言ってPスタンで使ったら、こっちのパワーも15000+0になっちゃうから気をつけてね!」

 

ミオ「ちなみに、ノヴァのエクストラアタックはパワー0で受けなければなりません」

 

オウガ「致命的!!」

 

アリサ「初のパワー0だけに、色々とオモシロ現象が起きるわね!?」

 

ミオ「デッキ構築に話を戻しますが、バヲンを軸にしたデッキも組めると思います。その場合、左右に『創世機神 ヴォルコゲーデ』は配置したいところです」

 

アリサ「バヲンはもちろん堅い。リアガードも堅い。相手は誰にもアタックできなくなるというわけね」

 

ミオ「はい。バヲンのパワー不足も解消できますし、バヲンにとって他に欲しいカードも無いので、ヴォルコゲーデに特化したデッキとするのがよいでしょうね」

 

アリサ「それにしても……このユニットって、根絶者に属してるけど、ぶっちゃけ、根絶者と相性悪いよね?」

 

ミオ「そこに気づいてしまいましたか。

そうです。普通のデッキであれば、バヲンはリアにコールしても、12000~13000のパワーは担保されるのですが、根絶者でデリートしてしまった場合、パワーは0のままです」

 

オウガ「また致命的!!」

 

アリサ「相手が強いほど強いというのは、どちらか言うと星骸の特性よねー」

 

ミオ「トリガーで攻めてくる相手に強い星骸と、パワーで押してくる相手に強いバヲン。互いに得意とする範囲が分かれているので、星骸に混ぜてみるのも悪くないと思いますね」

 

 

●『難渋の根絶者 ガーヱ』

 

ミオ「アタックがヒットした時、CB1と手札1枚をコストに、相手に手札を1枚捨てなければノーマルライドできなくする制限を与えます」

 

サキ「対戦相手としては、デリート解除のためにライドしようと思ったら手札1枚の消費がかさんでしまうわけですね」

 

ミオ「そうですね。とは言え、こちらも手札を捨てているので結果としては痛み分け。根絶者にとって、CB1も手札1枚も貴重なので、正直、こちらが損な取引になる可能性が大です。

ただ、別にデリートされていなくとも今は再ライドが当たり前の環境です。根絶者より手札アドを稼ぎ易い、他のリンクジョーカーで使われる分には、嫌らしいカードになるのではないでしょうか」

 

アリサ「メサイアとかね」

 

ミオ「……あくまでメサイアが根絶者よりアドバンテージを稼ぎやすいだけであって、根絶者がメサイアに劣っているわけではありませんので、それだけは誤解しないでくださいね?」

 

アリサ「わかってる! わかってるから!」

 

ミオ「このカード最大の強みは、G1→G2、G2→G3への、ゲーム上せざるを得ないライドにも制限がかかることです。序盤に展開することができれば、対戦相手は防ごうが受けようが手札を1枚失うことになる、脅威のユニットになります。

総じて、根絶者サポートに見せかけた、序盤で相手の出鼻を挫くためのユニットと言えるでしょう」

 

アリサ(ミオちゃんが嫌がるから口には出さないけど、手札をドロップゾーンに落とせるから『オルターエゴ・メサイア』とは特に相性がいいのよね。相手に手札消費を押しつけつつ、自分はヴォルコゲーデをドロップに送り込む、なんてプレイングはなかなか意地が悪そう……)

 

ミオ「なお、根絶者でヒット時能力が欲しいなら、『迅速な根絶者 ギアリ』や『驕慢の根絶者 ゴウガヰ』がオススメです。特にゴウガヰはあまり使われている印象の無いカードですが、使ってみると根絶者ではなかなか便利なカードですよ」

 

タツミ「他の根絶者のマーケティングまでしだした!」

 

 

●『招き入れる根絶者 ファルヲン』

 

アリサ「今弾の根絶者の中で、唯一の復帰ユニット! 『招き入れる根絶者 ファルヲン』がスタンダードに復活!!

決して以外な人(?)選ではないけれど、ヲクシズやグレイヱンドに先んじての登場は意外よね」

 

ミオ「これもファルヲンのかわいさの賜物です。その愛らしさは、もはやワールドワイドと言っても過言ではありません」

 

アリサ「それは過言じゃないかな!?」

 

ミオ「そんな根絶者使いにとって永遠のアイドル。ファルヲンのスキルですが、ヴァンガードがデリートされた時、ノーコストで蘇るという、シンプルにして非常に強力な能力です」

 

アリサ「デザインとしては、ヰドガやガーヱのコストにしてねって感じなのかな」

 

ミオ「そうですね。ですが、どちらも手札コストが帳消しになったところで、さして使いやすくなるわけではありません。

できる限り、ライドしてSBとして消費するか、ガードに使うなど、自然な動きでドロップに送り込みたいところです」

 

タツミ「かげろうのような除去クランにとっては厄介な効果だよね」

 

ミオ「そうですね。ブレードマスターがどれだけヤンチャしようと、次のターンにはドロップのファルヲンがまとめて帰ってくるのは、なかなか楽しい光景になるでしょう。

除去と言えば、バインドや、裏でバインド(バニッシュデリート)や、デッキに戻すなども多いので、過信は禁物ですが。

いずれにしろ、アド稼ぎが致命的に苦手な根絶者にとって、ノーコストでアドバンテージを稼ぎつつ、保険にもなってくれる、必須ユニットであることは間違いありません。

さあ、ファルヲンを称える祈りを皆で捧げましょう」

 

アリサ「変な宗教みたいになってきた!」

 

ミオ「根絶せよー」

 

 

●『不磨の根絶者 ゼグラヲ』

 

アリサ「こちらもドロップゾーンから蘇る系のユニットよ。ゼグラヲはリアから退却したら、ドロップのG0を2枚バインドすることで即時復活!

コストの都合上、序盤の蘇生は難しいし、何度も除去されるとコストが追い付かないことがあるかも」

 

ミオ「基本的にはファルヲンの方が使いやすいですが、ファルヲンと一緒に採用して除去にメタを張るのも一興かと。

ともあれ、前回からいるアルバとエルロに加え、このカードとファルヲンの登場で、根絶者の方向性が完全に定まったと言えるでしょう」

 

アリサ「旧スタンダードでは、ランダム要素のあるスペリオルコールでワラワラわいてくるイメージだったけど、今回は何度除去されても再生する生命力がテーマみたいね。

前ほど大量展開はできないけれど、いざ展開されたらなかなか盤面を離れない! 今回もエイリアンらしい特性をもらったんじゃない?」

 

ミオ「そうですね。あとはなるかみ(バインド)がもう少しおとなしくなってくれれば、言うことはないのですが」

 

こっきゅん「うむ」

 

 

●『緊縮の根絶者 ヰゲルマ』

 

アリサ「いずれかのファイターが山札からカードを探した時、ソウルブラストを強制する妨害効果! CBの妨害は女王陛下(グレドーラ)をはじめとしていくつかあったけど、ソウルの妨害はこれが初! ……よね?」

 

オウガ「山札から探すカードって、どんなのがあるんすかね?」

 

ミオ「今弾で言うと『白色矮星のレディバトラー』などの、G1のRRRサイクルですね。G3を山札から探す効果を共通して持っており、採用率も非常に高い傾向にあるユニットなので、今後、全クラン最低でも4枚は、山札からカードを探すユニットが投入される環境になることが予想されます」

 

サキ「最低限の活躍は保証されているわけですね!」

 

ミオ「ソウルを重要視するクランやユニットにとっては、この1体が致命的になり得ます。

特にダークイレギュラーズやペイルムーンは、採用率の高い強力なユニットほど、山札からカードを探してソウルに送る傾向がありますので……」

 

オウガ「ソウルチャージした端からソウルブラストさせられる無限ループ!」

 

アリサ「座布団が一転して賽の河原に……」

 

ミオ「1体でも強力ですが、2体、3体と並べるほど、その効果は増していきます。並のデッキなら一瞬でソウルは枯渇。前述した2デッキは、もはや立ち行かなくなることでしょう。

効く相手にはとにかく効く効果ですが、反面、ソウルを必要としなかったり、山札からカードを探すユニットがあまり採用されていなかったりするデッキには、ほとんど何もしてくれません。その点は、バヲンに通じるものがある根絶者ですね」

 

アリサ「遊●戯●王みたいに、誰もがみんな山札からサーチしてくれるわけじゃないもんねー」

 

サキ「伏字の意味がないですよ!?」

 

アリサ「●★●★●みたいに、誰もがみんな山札からサーチしてくれるわけじゃないもんねー」

 

サキ「今度は何がなんだかわからなくなった!」

 

ミオ「そして、弱点がもうひとつ。それはパワーが低すぎることです」

 

オウガ「けど、そこはデリートでカバーできるんじゃないすか?」

 

ミオ「甘いですね。敵のパワーを減らせる根絶者だからこそ、パワーラインに妥協は許されません。せっかく相手を弱体化させたのに、こちらも大した布陣を組めないのであれば、何の意味もありませんから。

パワーは低いが、しっかり展開できる系のデッキを使った方がマシです。

これは根絶者に限らず、全体強化にCBを使うデッキすべてに言えることなのですが、コストを使うなら最低でも20000要求、できれば25000要求を意識してパワーラインを組んでください」

 

オウガ「? どういうことっすか?」

 

アリサ「相手にガードさせる場合、カードを2枚使わせたいってことね」

 

ミオ「そうです。自分がアドを稼げない分、相手にディスアドを押し付けてこそというわけです。

20000要求であれば1枚で防げるカードは治トリガーのみ。25000要求であればほぼ確実に2枚の消費を強要させることができます」

 

サキ「最近は30000ガードの★守護者も登場してしまいましたけどね……」

 

ミオ「そうですね。今のところは、4枚しかない守護者を使わせたのなら、それはそれでよしと前向きに考えるしかありません」

 

アリサ「やっぱ強いよねー、アレ」

 

ミオ「さて、オウガさん。

それを踏まえた上で、デリートされた相手に、ヰゲルマがブーストして25000要求のラインを作ることはできるでしょうか。ひとまずスキルは無視して、元々の値だけで考えてくださって構いません」

 

オウガ「えーっと……相手のパワーはデリートされて0だから、20000のパワーラインが作れたらOKってことだよな。

ヰゲルマのパワーは6000で、G3のパワーは13000だから……げっ、19000にしかならねえ!」

 

ミオ「そうです。こちらにヰゲルマがいるだけで、25000要求が難しくなるのです。

一応、根絶者にも14000でアタックできるギヴンやアルバがいますが、決して安定するスキルではありませんしね。

根絶者に限定しなければ、選択肢は増えるのですが、そこは割愛させて頂きます。ここはあくまで本格的な考察なんてものではなく、根絶コメディの娯楽小説ですから」

 

サキ「根絶コメディ……?」

 

ミオ「結論としてヰゲルマは、特定の相手にはめっぽう強いものの、根絶者のスタンスとは対極にあるパワーがネックとなるユニットです。

よって、根絶者における採用はよく考える必要があるものの、パワーに寄らずじっくり戦えるデッキには向いています。

そして、リンクジョーカーは元来、そういうクランです。厄介なサーチやソウルブラストが環境に増えたと感じてきたら、シュヴァルツシルトや星骸に加えてみるのもいいかも知れませんね」

 

アリサ「もちろんメサイアにもね!」

 

 

●終

 

アリサ「いやー、ともあれ根絶者が収録されてよかったわね!」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「正直なところ、1年経っても主人公のデッキがまったく強化されなかったらどうしようかと思ってたわよ。作者が」

 

オウガ「ギリギリセーフっすね」

 

サキ「次回の根絶少女本編は、いよいよヴァンガード甲子園地区予選編となります! ミオさんのデッキがどのように強化されるのか、読者の皆様はお楽しみにしていて頂ければ幸いです」

 

アリサ「じゃ、今日はそろそろお開きにしましょうか! タツミ君、今日は来てくれてありがとうね」

 

タツミ「いえ。僕の方こそ、呼んで頂いてありがとうございました。ただ……」

 

ミオ「なんでしょう?」

 

タツミ「今後、本編で僕の出番ってあるのかな?」

 

ミオ「…………」

 

タツミ「何で目を逸らすの!?」

 

ミオ「冗談です。ネタバレにもなりますし、確約もできませんが、今後一切出番が無いということにだけはしないつもりだそうですよ」

 

アリサ「かげろうファンの皆は、楽しみに待っててねー」

 

オウガ「んじゃ、今日はこのへんで!」

 

タツミ「またねー!」




スサノオは強かったです。
むらくもやクラレットソードでもなかなか落としきれず、勝てたのは明らかに有利なコレオや星骸くらいでした。
さすがにあそこまでドローされるとアクセルでもキツイですね。
というか、コレオも楽というわけではなかったです。

次回は7月4日前後に7月本編の更新を予定しており、えくすとらでも示唆したように、銀華竜炎のカードを加えた、主人公の新デッキがお披露目となります。
お楽しみにして頂ければ幸いです。


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Ex.27「BanG Dream! FILM LIVE」

●登場人物

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」

・天道アリサ
いつでも元気いっぱい。明るく楽しいミオの先輩。高校3年生。
使用クランは「メガコロニー」

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
初心者だが、熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」

・藤村サキ
臆病で気の弱いメガネっ娘。ファイトは初心者だが、知識は深い高校1年生。
こっきゅんが惑星クレイからやってきた本物のコキュートスであることは、改めて教えてもらった。
その時、彼女のメガネは割れた。
使用クランは「たちかぜ」


●はじめに

 

アリサ「Hey! よく来たな、生贄(ヤロー)ども! 今宵も狂った儀式(えくすとら)が始まるぜ!

まずはゴキゲンなメンバーの紹介だ!

カスタネットォ! 藤村サキいぃぃぃっ!!」

 

サキ「は、はいっ!」 カチ カチ

 

アリサ「トライアングルゥ! 音無ミオおぉぉぉっ!!」

 

ミオ「……」 チーン

 

アリサ「カスタネットォ! 鬼塚オウガあぁぁぁっ!!」

 

オウガ「おう!」 カチカチカチカチカチ

 

アリサ「マラカスぅ! 氷獄の死霊術師 コキュートスうぅぅぅっ!!」

 

こっきゅん「ククク……くだらぬ余興よ」 シャカシャカ

 

アリサ「そして、ギター&ボーカルはアタシ! 天道アリサあぁぁぁっ!!」 ギュワアァンン!

 

ミオ「5人揃って」

 

アリサ「根絶少女(デリートガールズ)!! Oh! Yehe!!

って、そんな楽器でバンドができるかぁっ!!」 ギャアアアアン!

 

ミオ「……」 チーン

 

アリサ「そもそも、何でカスタネットが2人もいるのよっ!?」

 

オウガ「俺にできそうな楽器が、これくらいしか音楽室に無かったんで」 カチカチ

 

ミオ「ちゃんとしたカスタネット奏者に聞かれたら、叱られそうな理由ですね」

 

サキ(カスタネット持ってきた理由がオウガ君と被っちゃった。どうしよう、嬉しい……)

 

アリサ「そこ! ひとりでラブコメモードに入るなぁ!」

 

サキ「なっ! ラ、ラブコメなんてしてませんよ! 私は今日も根絶コメディの一員です!」

 

オウガ「そう言う部長は、ギター弾けるんすか?」

 

アリサ「いんや」 ギュワーン

 

ミオ「さっきからかき鳴らしてるだけですからね」

 

アリサ「そんなバンドガールズ達の熱いひと時が今回のテーマ! 『BanG Dream! FILM LIVE』のえくすとらでーす!」

 

ミオ「そういう方向性のバンドではないと思いますが」

 

こっきゅん「作者がB〇Yを読んで育った世代なのだから、仕方があるまい」

 

アリサ「破壊(デストローイ)――!!」

 

 

 

●Poppin’Party

 

ミオ「今回は各バンドごとに考察していきましょうか」

 

アリサ「そうね。まずはPoppin’Partyからだけど、最初だから各バンド共通の動きを解説していきましょう」

 

サキ「はい。『BanG Dream!』は、楽曲というオーダーを軸とした、コラボから生まれた新クランです」

 

オウガ「プレイした楽曲はターン終了時までV後列に置かれるぜ。これまでのオーダーには無い永続能力もあるから、戦略に広がりができた反面、Vをブーストできない点は注意しておくべきだな」

 

サキ「オーダーは各バンドG1、G2、G3と1種類ずつあり、ヴァンガードのグレードアップに合わせて、より強力なオーダーが使えるようになっていくデザインです。

特にG3のオーダーは、発動条件に厳しい制約が課せられているものが多い反面、第2のヴァンガードとも言うべき強力な効果が備わっています!」

 

オウガ「各バンド、メインヴァンガードとなるボーカルキャラが3種類、リアガード用となる他のメンバーが1種類ずつ収録されてるらしいから、各4枚ずつデッキに入れるとして、そこにトリガーとファーストヴァンガードを合わせて45枚。オーダーは5枚入れられるってことだな。

うーん……オーダーの配分はどうすりゃいいんだ?」

 

アリサ「これまでにないタイプだから悩むよねえ」

 

サキ「VRユニットは、全バンド共通してCB1で山札かドロップゾーンからオーダーをプレイできるスキルを持っています(一部例外あり)。G3のオーダーは1枚でも問題無いんじゃないでしょうか」

 

アリサ「ダメージゾーンに落ちたら取り返しがつかないから、作者みたいな心配性は2枚にしておくと安心ね」

 

ミオ「G3楽曲を1枚にする場合は、序盤はダメージを抑えるプレイングを心がけて、できる限りリスクを抑えるといいでしょう」

 

アリサ「G3にライドしたらG3楽曲を連発したいことを考えると、G2楽曲って、自分がG2の時くらいしか出番が無いのよね。

自分がG2でもG1楽曲は使えるし、小は大を兼ねるって感じでG1楽曲が多めでもいいのかも」

 

オウガ「あとは……いっそのことバンドメンバーを減らしてみるとか」

 

アリサ「クビ!?」

 

オウガ「そうじゃねえ!

特定のメンバーを指定したスキルの少ないバンドなら1~2枚は削れるんじゃないすか?」

 

サキ「その1~2枚が空けば、十分な数の楽曲は入れられそうだしね。楽曲をプレイできないターンはできる限り作りたくないし、G1楽曲4枚体制にできるのは強そうだよ」

 

アリサ「それじゃ、そろそろ各バンドに目を向けていきましょうか! まずは改めて『Poppin’Party』から!」

 

サキ「はい! VRユニット『キラキラなステージ 戸山 香澄』は、ドライブチェックで得たトリガー効果を前列リアガードすべてに波及させます。

どんなトリガーでも前トリガー相当にしてしまえるだけでも強力ですが、その効果はやっぱり★トリガーと組み合わせてこそ真価を発揮します!」

 

オウガ「G3楽曲『Returns』を演奏すれば、★トリガーを山札の上に仕込むことだってできるぜ!」

 

アリサ「他にも、『Poppin’Party』には★トリガーに関連した効果がいっぱい!

『ドキドキな夢』も『最高のステージ』もいらない! 『キラキラな思い出』だけを抱えて突っ走れ!」

 

サキ「デッキから★トリガーを抜きだすカードや、★トリガーをコストとして公開しなければならないカードも多いので、★は12枚にしたいデッキですが思わぬ障害が……」

 

アリサ「G1守護者や、★守護者がいないので、それをすると守護者そのものが入れられない!」

 

サキ「はい。★を12枚にして速攻に振り切るか、引守護者を入れて安定性を犠牲に防御力を高めるか、悩ましい選択です」

 

オウガ「同じ防御力を下げるなら、治トリガーを減らすのもアリかもな」

 

アリサ「★10、引3、治3とか、変則的なトリガー配分を試してみるのも楽しそうね」

 

ミオ「なお、『キラキラなステージ 戸山 香澄』のスキルも、『Returns』も、バンドメンバーが全員そろっていることを条件としています。

サーチやサルベージは充実しているのですが、特定の4枚を常に揃えた状態にできるかは微妙なラインです。

『Returns』に拘り過ぎず、G2楽曲の『キズナミュージック♪』で妥協しつつ盤面を整えるのも大事かも知れませんね」

 

アリサ「総じて、安定性には難ありだけど、爆発力に関しては『BanG Dream!』内どころか、ヴァンガード全体でも屈指! ★トリガー集めて轢キコロセ! もとい弾キコロセ!!」

 

 

●Afterglow

 

ミオ「AfterglowのVR『大切な仲間達 美竹 蘭』は、ユニットを2枚までレストし、ユニットをレストした数だけ+10000します」

 

アリサ「VRにしては地味? ていうか普通に弱くない?」

 

ミオ「むしろ、Afterglowの本領はG3楽曲『ON YOUR MARK』にあると言えるでしょう。

『美竹 蘭』を含むヴァンガードがアタックした時、バンドメンバーを1種類ずつスタンドさせます。

これだけで、+10000させた前列ユニットを2回ずつ攻撃させることができます。

『ON YOUR MARK』が無ければアリサさんのおっしゃる通り、心許ないヴァンガードが残るのみですので、このバンドは特にG3楽曲を2毎以上積んでおくことを推奨します。

ダメージゾーン落ちに対する保険にもなりますが、2枚目を手札に抱えておけば、楽曲をプレイするスキルのコストを払えなくても、いざという時には手札から発動できます」

 

サキ「これだけで環境上位は間違い無しの強力なスキルですが、バンドメンバーが揃うことで更なる力を発揮するんですよね」

 

ミオ「はい。他のバンドメンバーは、ユニットをレストすることでスキルを発動するG2と、レストされることでスキルが発動するG1で構成されており、メンバーが全員揃うことで、全ユニットのスキルを無駄なく発動させることができるようにデザインされています。

『ON YOUR MARK』も更に強化され、バンドメンバー4体をスタンドさせることに成功した場合、フォースを2つ獲得することができるようになります」

 

アリサ「特定のユニットを揃えることで、フォースを大量獲得しつつ、高パワーのリアガード2体とヴァンガードによる5回攻撃が可能…………モロにモルドレッドじゃないの!?」

 

ミオ「はい」

 

サキ「環境上位は間違い無しです!」

 

アリサ「そりゃモルドレッドだからね!?」

 

オウガ「モルドレッドとの最大の違いは、5回攻撃だけなら『特定のユニット』すら必要としないことかな。相手がG2でも構わないわけだし、ヤベー匂いがプンプンするぜ」

 

アリサ「安定性と爆発力を兼ね備えた、『BanG Dream!』最強候補! 弱点は、Poppin’Partyより、ややアド取りに欠ける点かな。メンバーを完璧に揃えるのは、なかなか大変そう」

 

ミオ「G2楽曲『Scarlet Sky』はその弱点をカバーできる、強力なオーダーです。

一方、G1楽曲『Y.O.L.O!!!!!』は小さくまとまりすぎている感があるので、AfterglowはG2楽曲を多く積んで、G2ライド時に演奏できる可能性を高めておくといいでしょう」

 

 

●Pastel*Palettes

 

サキ「Pastel*Palettesはソウルの数や種類を参照するバンドで、使用感はダークイレギュラーズやペイルムーンに近そうですね」

 

ミオ「VRユニット『積み重ねた想い 丸山 彩』は、ソウルのPastel*Palettesが5種類なら全てのPastel*Palettesに+5000。8種類あれば代わりに+10000します」

 

サキ「まさしく想いを積み重ねるほど強くなっていくわけですね」

 

ミオ「Pastel*Palettesの主力となるオーダーは、他と違いG2の『ゆら・ゆらRing-Dong-Dance』です。この楽曲を演奏することで『ストイックアイドル 白鷺 千聖』をスペリオルコールし、なおかつそのユニットがいるサークルをヴァンガードサークルにします」

 

アリサ「今度はガンスロッドじゃないの!」

 

ミオ「全然ちがいます」

 

アリサ「え?」

 

ミオ「このオーダーの強みは、G2なので、自分がG2の段階で発動できる点にあります。即ち、相手がG1の段階からダブルヴァンガードでアタックすることも可能なのです。

ガンスロッド最大の弱点であった動きだしの遅さが改善されているどころか、強化されている。

ここまで違えば、やっていることは同じでも、まったくの別物と言えるでしょう」

 

アリサ「う、うーん。たしかに……」

 

オウガ「G2楽曲も強力だけど、G3楽曲だって負けてないぜ! ソウルのPastel*Palettesが8種類あるなら、相手ユニットに全体攻撃だ!」

 

サキ「アクセルに対するカウンターとして使えるのはもちろんですが、特定のユニットを揃えることで真価を発揮する『BanG Dream!』勢にも軒並み刺さりそうです!」

 

アリサ「破壊(デストローイ)――!!」

 

サキ「使用感はダクイレとペイルを合わせた感じですけど、スキルはロイヤルパラディンの集大成みたいな感じですね。ガンスロッドとエクスカルペイトの動きを単体で使い分けできるのは脅威の一言です」

 

ミオ「バンドメンバーはもちろんソウルチャージに関するユニットが中心です。5種類、8種類という厳しい条件を達成できるように、ある程度狙ったユニットをソウルに送りこめるようにデザインされていますが、より安定してソウルの種類を増やしたい場合は、★トリガーを8積みするのではなく、引トリガーの『ドキドキな夢!』を1~2枚挿してもいいでしょう」

 

 

●Roselia

 

ミオ「RoseliaのVR、『青薔薇の歌姫 湊 友希那』は、G3ボーカルの共通効果以外には、アタック時に相手ヴァンガードのグレード分、パワーを+5000するスキルしか持っていません。

それ単体で見るならコモンG3レベルのユニットですが……」

 

アリサ「G3楽曲『FIRE BIRD』を見れば納得! 手札1枚とSB4でヴァンガードがスタンド!

相手がG3なら28000の2回攻撃よ!!」

 

サキ「『BanG Dream!』のヴァンガードは基本的にはブーストを受けられないのでパワーが低くなりがちですが、このユニットなら安心してフォースⅡを選べそうですね」

 

ミオ「Roselia全体で見れば、ジェネシスに近いです。ほとんどのバンドメンバーがソウルチャージに関する効果を持っているので、一見コストの重い『FIRE BIRD』も毎ターン使えるようにデザインされています」

 

アリサ「他には、ヒット時に関するスキルも多いから、メガコロにも通じるものがあるかも……」

 

ミオ「『FIRE BIRD』がシンプルに強力な反面、G1、G2楽曲は使いどころが難しいため、基本的には『FIRE BIRD』を連発していくことになるでしょう。

そのため、『FIRE BIRD』も複数枚投入しておくことをオススメします」

 

オウガ「動かし方も単純で、楽曲の選択も『FIRE BIRD』を複数枚入れておけば、後は自由。

『BanG Dream! FILM LIVE』からヴァンガードを始める初心者には、一番オススメできるバンドかもな!」

 

アリサ「それにしてもさー。この人達、ヴァンガードのアニメで『Legendary』とか『HEROIC ADVENT』を歌ってたバンドでしょ?

作者の知らない様々な事情はあるんでしょうけど、それを楽曲にするわけにはいかなかったの?

せっかくのコラボなんだし、そういうところヴァンガードに寄せてあげてもよかったんじゃない!?」

 

ミオ「作者はかなり『Legendary』を気に入っていたらしいですからね」

 

 

●ハロー、ハッピーワールド!

 

ミオ「ハロー、ハッピーワールド!のVR、『オンステージ! 弦巻 こころ』は少し特殊です。

このユニットのみ、山札やドロップゾーンからオーダーをプレイするスキルを所持していません。

代わりに、『笑顔を届ける DJ ミッシェル』を登場時に山札やドロップゾーンからスペリオルコールするスキルを所持しています」

 

こっきゅん「ククク……この小娘も死霊術師であったか」

 

アリサ「いや、違うでしょ!」

 

ミオ「ミッシェルがオーダーをプレイするスキルを所持しているので、ハロー、ハッピーワールド!は、それを使ってオーダーを選曲していくことになります。

メリットとしては、ミッシェルはG2なので、あらかじめ引いていれば、自分がG2の段階で選曲が可能。

デメリットとしては、ミッシェルが除去された場合、選曲ができなくなることです。

相手が除去を得意とするクランの場合は、バウンス系のスキルで手札に逃がしてあげるか、手札に来た楽曲を完全ガードなどのコストにせず温存するなど、プレイング段階での対策が必要です」

 

サキ「『オンステージ! 弦巻 こころ』のもうひとつのスキルは、アタックした時に手札からユニットをコールするというものです。

ハロー、ハッピーワールド!のバンドメンバーは、バウンス系のスキルや、登場時スキルが充実しており、昔のバミューダを彷彿とさせる、手札と盤面を入れ替えての連続攻撃を得意としています」

 

ミオ「メンバーが揃わなければ本領を発揮できないのが『BanG Dream!』全体の弱点ですが、このバンドだけは少し例外ですね」

 

アリサ「バウンスでいくらでも盤面を再調整できるからね。むしろ手札が悪い時こそが真骨頂。

適当なユニットをコールして場を繋いだ後は、全部手札に戻しちゃおう!」

 

サキ「G3楽曲『えがお・シング・あ・ソング』は、バウンスを絡めた連続攻撃をさらに強化します!

バトルフェイズに登場したユニットに+10000するスキルと、ユニットのアタック後にCB1で手札から1枚スペリオルコールするスキルの合わせ技です!」

 

アリサ「最近の大技にしては珍しく、相手がG3云々の制限がついているわね。それほど危険な楽曲ってことなんだけど」

 

オウガ「G2楽曲を使う場面も多くなりそうっすね」

 

アリサ「んー、けどG1楽曲『えがおのオーケストラっ!』が、他のG1楽曲と比較してもとびきり便利なのよね。G2楽曲はG2楽曲で、相手がG2云々の制限がついてるし、G1楽曲を演奏しまくってソウルとコンボパーツを補充していく方が強そうかも」

 

ミオ「アドバンテージを失わずにアタックしたいなら、バンドメンバーが揃った状態が理想ですが、アドバンテージを度外視してでもアタック回数を稼ぎたい場合は、G2ボーカルの『笑顔のハリケーン! 弦巻 こころ』がキーカードになります。

そういった点でも異質なバンドと言えるでしょう。

ちなみに、コンボパーツが揃った場合の最大攻撃回数は、フォースクランでありながら7回にも達します」

 

アリサ「優秀なG1オーダーとバウンスからなる安定性。バンドメンバーに拘らずフレキシブルに動けるし、連続攻撃による手数は『BanG Dream!』屈指。どこを取っても死角なし!

これまたヤバそうな気配がするわー」

 

 

●RAISE A SUILEN

 

アリサ「このバンドは少し特殊! 1カートンに4つくらい入ってるとかいう噂のシークレットパックにまとめて封入されてるカード群よ」

 

サキ「1カートンに4つと言うと、だいたい目当てのVRを当てるのと同じくらいの確率でしょうか」

 

ミオ「ちなみにG2楽曲は月刊ブシロードの付録です」

 

アリサ「入手方法が特殊なら、動きも特殊!

『“至高の歌姫”レイヤ』も、楽曲をサーチするスキルを持たないG3ユニットだし、ハロー、ハッピーワールド!のように、他のユニットがその役目を担っているわけでもない。

楽曲は常に手札から!」

 

サキ「その代わり……と言っては何ですが、『RAISE A SUILEN』に属するG1以上のユニットは5種類しかおらず、全てをフル投入しても20枚にしかなりません。楽曲を大量投入する余地があるわけですね」

 

アリサ「そしてRAISE A SUILENは、ドロップゾーンに楽曲があるほど力を増していくの!」

 

こっきゅん「まさしく楽曲版グランブルーと言えよう」

 

オウガ「それじゃ、改めてカードを見て行くぜ!

『“至高の歌姫”レイヤ』はドロップゾーンの楽曲が5枚以上なら自身に+15000! CB1でドローしながらリアガードも+10000できるぜ!」

 

アリサ「アドを稼ぎつつ、自己強化も他者強化もできるシンプルな効果ね。トライアルデッキに入ってそう」

 

ミオ「RAISE A SUILENの核は、『“最強の音楽”チュチュ』にあります。

バトルフェイズ開始時、パワー30000以上のユニットの、元々の★に+1します

レストするだけでアドバンテージを稼ぐことのできる能力も持ちあわせているため、RAISE A SUILENの中心人物と言えるでしょう」

 

オウガ「『EXPOSE ‘Burn out!!!’』は、ドロップゾーンにRAISE A SUILENの楽曲が7枚以上なら、前列にパワー+10000! さらにトリガーのパワー増加を無効にするぜ!」

 

アリサ「フォースとスキルと楽曲でユニットを強化して、全ライン★2でパワー30000オーバーの布陣を組み立てるのが最終的な目標ってわけね。

ここらへんはディメポや、昔のグレネ的でもあるかしら」

 

サキ「ちなみに、前述したようにRAISE A SUILENに属するユニットは20枚ですが。楽曲は12枚で、トリガーとFVを合わせても39枚にしかなりません」

 

オウガ「1枚足りねえ!」

 

アリサ「つまり、どこかのバンドから1名派遣してこなくちゃならないってことね……」

 

ミオ「はい。筆頭候補は『いつも自然体 花園たえ』でしょうか。

ドロップゾーンの楽曲回収は、楽曲を選べないRAISE A SUILENにとって心強いサポートとなります。

手札コストがあるので、いらない楽曲を捨てればドロップゾーンの楽曲を減らしてしまう心配もありません。

タイミングこそバトルフェイズ後ですが、バンドを選ばずパンプができるというだけでもBanG Dream!内では貴重な人材です」

 

アリサ「楽曲を増やすという点では、『溢れる行動力 戸山 香澄』も面白そうかな。Poppin’Partyで使うよりも成功率は高くなるだろうし、うまいことライドできれば手札のRAISE A SUILENも温存できるしね。

あとは、シンプルに強い登場時+10000の『はじける笑顔 北沢 はぐみ』とか」

 

オウガ「ここらへんは普通に強いから、楽曲11枚にして、2枚くらい積みたくなるよなー」

 

ミオ「G1では、ブーストした時のヒット時能力を持つ『流麗なる調べ 白金 燐子』もよさそうです。

チュチュを2体並べる意味はありませんし、もう片方のラインにおけるブースト要員としては、登場時能力しか持たない『“狂犬の慟哭”マスキング』以上にうってつけかも知れません」

 

アリサ「FVの『“伝説の始まり”RAISE A SUILEN』を2枚入れてみるのも面白いかもね。しっかりRAISE A SUILENに属しているから、『R・I・O・T』の成功率をほんの少し上げられるのが強みね。

他にもRAISE A SUILENを指定しているカードはちらほらあるし、デッキイメージを損ないたくないこだわり派にもオススメよ!」

 

 

●おわりに

 

アリサ「いやー、どのバンドも面白そうね。食わず嫌いはするもんじゃないわ」

 

サキ「食わず嫌いだったんですか?」

 

アリサ「あたしじゃなくて、作者がね。

ヴァンガードに限らずコラボが大嫌いな、融通の効かない人なのよ。

特に前のコラボでは、他のクランがまだまだ超越に対応していない中にぶっこんでくるわ、それの発売月は他のパックが発売されないわで、『そんなことより、他にすることがあるでしょ!?』って、あたしですらツッコミたくなったもの。

けど今回は、比較的全クランに強化が行き届いた後だし、同月に別のパックも発売されるし、タイミング的には悪くないんじゃない?」

 

ミオ「いつもなら無関心で済ませられるところだったのですが、今は『えくすとら』がありますからね。(さすがにスルーするのも感じが悪いな)と思って、カードを調べはじめたらしいです。

むらくももメガコロも次に収録が確定していますから、作者が寛容になっていたのも大きいと思いますが。

相変わらず、メガコロの動向に左右される、根絶者が主人公の小説です」

 

アリサ「そしたら、どれも面白そうのなんのって。特に楽曲はバミューダ△にも逆輸入してほしいくらい」

 

オウガ「そんなわけで、今日はここまでだぜ!」

 

ミオ「次はちゃんとしたパックでお会いしましょう」

 

アリサ「今回もちゃんとしてるの!」

 

こっきゅん「さらばだ……」 シャカシャカ



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Ex.28「ヴァンガードZERO」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
ゲームはほとんどしない。

・天道アリサ
いつでも元気いっぱい。明るく楽しいミオの先輩。高校3年生。
使用クランは「メガコロニー」
ゲーム好きで、ジャンル問わず色んなゲームに手を出すタイプ。

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
初心者だが、熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
スポーツゲームはたまにする。

・藤村サキ
臆病で気の弱いメガネっ娘。ファイトは初心者だが、知識は深い高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」
ゲームにも詳しく、RPGが特に好物。


●はじめに

 

アリサ「ZERO……何と美しい数字だろうか」

 

ミオ「軽々しくゼヰール様のマネをしないでください。それとも根絶教に入りたいんですか?」

 

アリサ「意外と使用権が厳しい!?」

 

オウガ「そんなことより、急になんすか? えくすとらやるから全員集合って?」

 

アリサ「今日はね、ヴァンガードZEROを採り上げるわよ!!」

 

サキ「ヴァンガードZEROっていうと……ヴァンガードのアプリゲームですよね?」

 

アリサ「そう! スマホやPCでもヴァンガードができるようになったの! いい時代になったものよね」

 

サキ「その割には採り上げるのが遅くないですか? サービス開始したのって、去年の12月ですよね?」

 

アリサ「ぎくっ」

 

ミオ「どうせ、メガコロニーが実装されるとかそういうのでしょう」

 

アリサ「……そうよ!! 7月22日、ついにメガコロ参戦!! ひゃっほー! おめでとー!!」

 

オウガ「開き直った!!」

 

アリサ「メガコロもむらくももいない。作者にとっては何の価値も無いアプリだったけど、これで真のサービス開始!!

これを機に、えくすとらでも宣伝しておかなくちゃと」

 

サキ「そういえば、たちかぜも最近実装されたんですよね!?」

 

アリサ「そうだよー。どう? サキちゃんも。スパイクだっているわよー?」

 

オウガ「むう。ちょっと惹かれるっすね」

 

ミオ「根絶者は」

 

アリサ「ごめん。いない」

 

ミオ「帰宅します。お疲れ様でした」

 

アリサ「ちょーい!! 待って! 行かないで!」

 

サキ「メガコロ出るまでスルーしてたアリサさんに止める権利は無いですよー」

 

アリサ「どうせ根絶者なんていずれ登場するんだから! 今のうちに始めて、ジェム(※ゲーム内通貨)を貯めておくのだってアリよ!?

ていうか、作者だってそうしてたから!!」

 

ミオ「根絶者が登場したら、その時にヲクシズのSPが4枚揃うまで課金するので大丈夫です」

 

アリサ「大丈夫じゃない!! そんな生き方だから、お金が貯まらないのよ!?」

 

 

●よいところ1 「あんなカードや、こんなカードに思わぬ強化が!」

 

アリサ「ヴァンガードZEROの最大の魅力は、懐かしいカードを使ってファイトできることなんだけど、一部のカードにはスキルにメスが入れられているわ。

アプリの仕様に合わせて仕方なくって感じのもあるけど、その多くは当時微妙だったユニットの上方修正!

一例が作者都合でグランブルーばっかりになって申し訳ないんだけど……」

 

こっきゅん「よかろう。では、この後の説明は我が引き受けた」

 

アリサ「いたの!? ていうか、やってたの!?」

 

こっきゅん「無論。ヴァンガードZEROには、我も実装済みだからな」

 

アリサ「そう言えばそうだったわね」

 

こっきゅん「グランブルーで強化されたユニットの紹介だったな。

まずは『モンスター・フランク』。

説明するのも億劫な、どうしようもなく愚かなスキルはそのままだが、その下に、とある一文が追加されている。

このカードを手札から捨てる。『チャイルド・フランク』を手札に加える。とな」

 

アリサ「便利!!」

 

こっきゅん「次に『スピリット・イクシード』だ。

『サムライ・スピリット』と『ナイト・スピリット』をソウルに置くことで、ドロップゾーンからG2のユニットにスペリオルライドができるユニットだが、その後はバニラという、当時は哀れなユニットの1体であった」

 

アリサ「あんたはいちいち仲間に対してトゲがあるわね……」

 

こっきゅん「だが、ZEROでは、スペリオルライド時に1ドローがあり、ソウルにサムライがいればパワー+1000、ソウルにナイトがいれば自分ターンパワー+3000の永続スキルを得た」

 

サキ「自分ターンに14000、相手ターン11000は、当時の感覚だと強いですよ!?」

 

こっきゅん「しかも、ナイトスピリットはファーストヴァンガードになっているので、手札にサムライ、ドロップゾーンにイクシードがいれば、コンボが成立する。

実質、サムライと『お化けのちゃっぴー』が手札にあればいいわけだな」

 

サキ「すごい、これなら本当に強そうです!」

 

こっきゅん「ちなみに、このアプリでソウルブラストするカードは選べないので、カットラスを出したら、ナイトとサムライがまとめて引っこ抜かれた」 

 

アリサ「よりによって、グランブルーのキーカードとアンチシナジー!?」

 

こっきゅん「所詮、あやつも志半ばに果てた亡者に過ぎぬよ。

だが、我を揃える金も運も無き、持たざる者には心強い味方となることだろう。

まあ、我を4積みしたデッキの足元にも及ばぬがな」

 

アリサ(今が全盛期だから、メチャ調子のってる……)

 

こっきゅん「ちなみに作者は『スピリット・イクシード』を4枚当てたにも関わらず、『お化けのちゃっぴー』が1枚も当たらなかったので、一度もスペリオルライドできたことがない」 ※レアリティは同じR

 

アリサ「悲惨!!」

 

こっきゅん「『神喰いのゾンビシャーク』と『剣豪ナイトストーム』でチクチク殴る毎日であった」

 

アリサ「もはやグランブルーである必要性が無いメンツ!!」

 

こっきゅん「そして、極めつけは『キャプテン・ナイトミスト』の若造よ。

ヴァンガードの時、ドロップゾーンにナイトミストがあれば+3000などという意味不明なスキルで醜態を晒していた小僧だが、そのスキルがリアでも適用されるようになった」

 

サキ「え? それって……」

 

こっきゅん「ドロップゾーンから蘇る効果はそのままなので、CB1で毎ターン蘇っては、単体11000でアタックできる優秀な下僕となった」

 

アリサ「もともとが印刷ミスを疑うレベルの謎スキルだったからね。

ちなみにこのアプリ、インターセプトがメチャクチャ優秀(インターセプトできるユニットがいる限り、相手はヴァンガードにアタックできない)だから、G2を常に用意できるっていうだけでも圧倒的アドバンテージなのよ。

まさしく、キャプテンの面目躍如!!」

 

こっきゅん「ちなみに作者は当たったRRR3枚すべてが『ルイン・シェイド』だったので、ナイトミストを使ったことはない」 ※ZEROではナイトミストもRRR

 

サキ「さっきから運悪くないですか!?

……というか、『ルイン・シェイド』がハズレになるんですね」

 

アリサ「もちろんルインも強いし、4枚揃えておくべきカードではあるんだけどね。ただ、まずはナイトミスト。あれがあってこそのグランブルー」

 

こっきゅん「そして、我あってのグランブルーよ」

 

アリサ「グランブルー以外では、結構パワー11000に上方修正されてるユニットは多いわね。

ブロンドエイゼルとか、ルキエとか、ポラリスとか、アジアサーキット編で活躍したユニットは、だいたいパワー11000になってると思って間違いないわ。

エイゼルなんてリミットブレイクで4枚めくれるようにもなってるし」

 

サキ「へー、そうなんですねー」

 

アリサ「あっ、ギガレックスもパワー11000になってるわよ」

 

サキ「本当ですか!?!?」

 

アリサ「食いつきが違う!」

 

サキ「まあ、パワー11000になったところで、どうにかなるスキルでもないんですけどね……」

 

アリサ「うん。変えるべきはそっちだと思うんだけどね。

かげろうが敵を除去してパワー+3000がデフォなのに、どうして味方を除去してパワー+1000になるのよ!?

どういう計算式で出した査定なの!? 算数できてる!?」

 

サキ「9年越しの恨み節!!」

 

 

●よいところ2 「アニメファン垂涎の高い再現率!!」

 

アリサ「キャラクターがとにかくよく動く! しゃべる!

原作に好きなキャラクターがいるなら、見ているだけでも飽きないと思うわ。

そしてストーリーモードでは、非常に高い再現率で原作の追体験ができるのよ。

これまで出たヴァンガードのゲームは、オリジナル展開が多かったから、意外と無かったポジションなのよね。

アニメファンは、きっと懐かしい気持ちで楽しめると思うわ」

 

サキ「私、闇に囚われたアイチ君を、櫂君が救い出すファイト! あそこが大好きなんですよ!

あとはもちろんジュラシック・アーミー! 脇役なのにカッコよすぎません!?」

 

アリサ「わかるー! 無駄に印象強かったよね、あの人達!

あたしはミサキさんの過去回が好きだわー。テレビの前でボロ泣きしたもん」

 

オウガ「あのー。俺は見たこと無いんすけど」

 

アリサ「そんな人には、なおさらオススメするわ! 初期のアニメは万人が楽しめる名作よ! 絶対に損はさせないから!」

 

オウガ「ふーん。まあ、確かに興味はあったんすよね。

けど、アニメを全部見てると時間も取られるし。アプリゲームなら、自分のペースで見ていけそうすね」

 

アリサ「作者のデータでは、アイチと櫂の感動の激戦も、アイチとレンの因縁の決戦も、ファイトが始まったら何故かゴウキが乱入して対戦相手をボコボコに倒しちゃうんだけどね」

 

サキ「台無し!!」

 

アリサ「みんなも使うキャラは十分に注意して、ストーリーを楽しんでねー」

 

 

●わるいところ 「ファイトの再現度はいまひとつ」

 

オウガ「悪いところもやるんすか!?」

 

アリサ「もちろんよ。そこは公平にね。

表題にも挙げた通り、ファイトの再現度はもはや別物と言ってもいいくらい、非常に低いわ。

ファイトシミュレーターにはならない……以前の問題ね。まずもってルールが違いすぎる。

具体的にどんな点が違うのか、ざっとリストアップしてみたよ」

 

・デッキは40枚、G1、G2、G3が13枚ずつ固定で、1枚がFV

・G3がトリガーになっており、どのカードを何のトリガーにするかはプレイヤーが設定可能。もちろん治は4枚まで。

・ガードはできない

・守護者は致死ダメージの攻撃を受けた時、自動で発動

・相手の場にG2がいる限り、ヴァンガードにアタックできない=インターセプト

・アタックによるダメージを受けた時、トリガーの有無に関わらずパワーが+5000される。

 

オウガ「もはや何を言っているのかわからねえ……!!」

 

アリサ「でしょ? そうでしょ!? ここまで来ると、もはやヴァンガードらしき何かよね。

けど、この大胆な簡略化のおかげで、思わぬ強化を受けたカードがあるのも面白いところよ。

とにかくG2が強いゲームシステムだから、自己再生できるナイトミストが強いのは前述した通りだけど。

例えば、『アシュラ・カイザー』!

G3=トリガーのおかげで、能力は原作そのままなのに、トリガーがめくれたらリアガードを1体スタンドさせるという超強力ユニットに大化けしてるわよ。

アルフレッド、オーバーロード、アマテラスと十分張り合える、爆発力なら随一のカードに!」

 

サキ「それはアツいですね!」

 

アリサ「ガードされないシステムのおかげで、ヒット時能力も軒並み使いやすくなってるわね。

一方で、ダメージを受けたらパワー+5000システムのおかげで、スタンドは少し使いにくいかな。

だからこそ、トリガー強化とスタンドを同時に行える『アシュラ・カイザー』の強さが際立つんだけどね。

とまあ、こんな風にオモシロ現象もあるにはあるんだけど、熟練ファイターなら物足りないというか、普通にファイトしたいっていうのが正直なところね。

せっかく久しぶりに『デスワーデン・アントリオン』や『マスター・フロード』が使えるわけなんだし」

 

オウガ「そうっすよねー」

 

アリサ「けどね! ヴァンガードらしきものだからこそのメリットもあるの。

そうね……『いいところ2』では、アニメファンなら楽しめるって挙げたけど、そのアニメファンってどんな人がいると思う?」

 

オウガ「へ? そりゃヴァンガードが好きなやつ……は当然として」

 

サキ「ファイトはしたことが無いけど、アニメは好きっていう人も多いですよね。対戦相手がいなかったり、カードゲームは敷居が高いと感じていたり、理由は様々ですけど」

 

アリサ「サキちゃん、正解! 明け透けに言ってしまえば、キャラはカッコいいから好きだけど、カードはそんな興味無いなんて層もいるわけよ。

極限まで簡略化されたファイトは、カードに触れたことのない初心者でもそれっぽいことができて、原作のストーリーに程よい没入感を与えてくれること間違い無し!

熟練ファイターが物足りないのは当たり前。このアプリのメインターゲットは、アニメファンでファイト初心者の方々よ!!」

 

サキ「言いきった!!」

 

オウガ「まあ本格派のファイターなら、最初からスマホでファイトせず、リアルでファイトしてるっすね」

 

アリサ「そんなわけで、この『わるいところ』は、『よいところ2』に繋がってるの!

アニメファンには、改めて超オススメ! 手に取ってもらえたら嬉しいな!」

 

 

●おわりに

 

アリサ「で、ミオちゃんのセリフがさっきから無いんだけど、まさか本当に帰っちゃった?」

 

ミオ「ここにいますよ。少しデリートされていただけです」

 

アリサ「大事件が発生してた!!」

 

ミオ「貴重な体験でした」

 

サキ「本人は満足そうですけど……」

 

オウガ「おっ、アプリのダウンロードが終わったぜ」

 

アリサ「こっちはもう始めてるし!」

 

ミオ「オウガさんは即断即決の人ですからね」

 

サキ「……オウガ君が始めるなら、私も始めてみようかな」

 

オウガ「おっ、いいね!」

 

サキ「だ、だから、この後、私とフレンド登ろ……」

 

こっきゅん「我とフレンド登録する栄誉を与えよう!!」

 

アリサ「馬に蹴られて死んじまえ!!!」

 

ミオ「どうしたんですか急に? こっきゅんさんは、もう死んでますよ」

 

アリサ「いや、そういうことじゃなくてね……」

 

オウガ「おう! よろしくな、こっきゅん!」

 

アリサ「こっちはこっちで鈍感だし! 主人公か!? 主人公なの!?」

 

サキ「…………」

 

ミオ「サキさんが部屋の隅で、どこか寂しそうにアプリをダウンロードしています」

 

アリサ「ああもう! こっきゅんとオウガ君は後で説教ね!」

 

オウガ「何で!?」

 

ミオ「それでは、今日はこのあたりで」

 

こっきゅん「さらばだ……」




まずは補足を。

・作中で触れていた、たちかぜ、スパイク、グランブルーは、現在入手不可能です。
 いずれまた手に入るようにはなると思いますが。

・ソウルブラストするカードは、最近のアップデートで、選べるように改善されたそうです。

ヴァンガードZEROが面白くなってきたので、今更ながらZEROの「えくすとら」でした。
やっぱりメガコロニーを通すと、世界が輝いて見えますね。


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Ex.29「ブシロードTCG戦略発表会絆」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」

・天道アリサ
いつでも元気いっぱい。明るく楽しいミオの先輩。高校3年生。
使用クランは「メガコロニー」

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
初心者だが、熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」

・藤村サキ
臆病で気の弱いメガネっ娘。ファイトは初心者だが、知識は深い高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」


アリサ「TCG戦略発表会!!」

 

オウガ「絆!!!」

 

アリサ「ま、絆とか銘打つんなら、当然、全クラン収録パックとか予告してくれるんでしょーね」

 

ミオ「いきなりハードル上げていきますね」

 

アリサ「だってー。我ら『The Destructive Roar』勢は8月に収録が決まっちゃってるんだもん。さすがにここから半年じゃ、新しいカードは出ないでしょー」

 

サキ「どことなく消化試合感ありますよねー」

 

アリサ「ま、今年に限って言えば、出してくれただけでも感謝! ではあるんだけどね。

そんなわけで戦略発表会絆! どんな情報があったのか、さっそく順番に見ていきましょ!」

 

 

●10月 ゴールドパラディン、なるかみ、ジェネシス、エンジェルフェザー

 

アリサ「新右衛門編でピックアップされていたクランの残りがメインね。

これでバミューダ△以外の全クランに、リトルドルカス互換や★守護者は配られることになるのかな」

 

サキ「まだリトルドルカスと決まったわけじゃないですよ!?」

 

アリサ「まあ、確かにメガコロだけVRの方向性が他のクランと違うから、そこもズラされる可能性はあるのよねー。代わりのユニットも思いつかないし、リトルドルカスだとは思うけど」

 

ミオ「ゴールドパラディンからは『旭光の騎士 グルグウィント』が登場です」

 

アリサ「あー、ようやくかー」

 

ミオ「どうしました?」

 

アリサ「いや、この小説の話なんだけどね。ミオちゃんもよく知ってる、ゴルパラ使いの彼。本当はグルグウィントを使わせるつもりで、キャラデザされてたのよね」

 

ミオ「はあ」

 

アリサ「完全に旬を逃したわよね」

 

ミオ「そうですね」

 

サキ「き、きっと、まだ出番はありますよ!」

 

アリサ「もちろん出番はあるんだけどね。本当にもうファイトする機会が無いのなら、こんなとこでネタバレなんてしないし。

3年生編は、スタートとゴール以外は、あえて決めてないから、誰があと何回ファイトできるかなんて、作者ですら分からないし。

けど、まあ……旬を逃したのは確かよね」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「ヴァンガード原作22話を過ぎたゴウキみたいな立ち位置だわ」

 

サキ「序盤の強敵ポジション!?」

 

アリサ「完璧なタイミングで七海覇王が登場したグランブルー使いの彼や、完璧なタイミングでライジングノヴァが登場したスパイク使いの彼は、小金井君に謝った方がいいと思う」

 

オウガ「俺じゃねーすか!!」

 

サキ「さらりと名前出してますし……」

 

ミオ「今回のえくすとらは、この小説の予告が多いですね」

 

アリサ「えくすとらも戦略発表会らしくね。

さて、なるかみはヴァンキッシャーが、双炎に続き、新規ユニット化して再登場! その名も……何て読むの、これ?」

 

オウガ「ふるぶろんと?」

 

アリサ「……新しいヴァンキッシャーを、よろしくお願いしまーす!!」

 

オウガ「逃げた!!」

 

アリサ「ジェネシスからは『神界獣 フェンリル』が登場! フェンリル使ってた作者の友人が、ミネルヴァやアマルーダにVR枠を取られるんじゃないかと戦々恐々としてたけど、もちろんそんなことはなかった! フェンリル強し!」

 

サキ「メガコロニーの前例があるから、どのユニットも油断はできないんですよねー」

 

アリサ「ジェネシスからはもう1体! ミネルヴァでもアマルーダでもなく、完全新規の星詠! 『聖天竜 エオスアネシス・ドラゴン』!」

 

サキ「ミネルヴァとか本当にそうなんですけど、アニメとかコンセプトとかとの兼ね合いで、人気はあるのに登場する機会に恵まれないユニットが、まだ結構残ってますよね」

 

アリサ「なまじ人気がありすぎるばかりに、VRで出したいけどタイミングが合わない、逃したっていうのは透けて見えるよねー。

個人的には、ギラファもそうなんだけど。

七海覇王とかシラユキあたり、VRと遜色ないスキルを与えつつRRRで出したのは大英断であり、大成功だったと思うわ」

 

ミオ「ヲクシズもよろしくお願いします」

 

アリサ「最後はエンジェルフェザー! こちらもド安定のガウリール!

他にも、ディセンダントや、ノキエルの登場が確定してるみたいね。

ディセンダントなんかも、アニメとの兼ね合いで登場タイミングを逃した人気ユニットのひとつ! 七海覇王に続く、良RRRになれるかな?」

 

 

●11月 ロイヤルパラディン

 

アリサ「DAIGO、スタンダード参戦!!!

その名も『DAIGOスペシャルエキスパンションセットV』!!」

 

オウガ「名前長ぇ!」

 

サキ「収録ユニットは、もちろん『サンクチュアリガード・ドラゴン』です!」

 

アリサ「前回はG1をコキ使うお山の大将みたいな感じだったけど、そういうポジションは、今はもうシャドパラに取られてる!

それどころか、今のロイパラはG2にベッタリ依存中!

どうなる!? サンクチュアリガード!!」

 

 

●12月 バミューダ△

 

アリサ「12月に満を持してバミューダが登場!! 今年のテーマもまた、クリスマスイルミネーションでいくのかな?」

 

ミオ「12月には、2日に『安全かみそりの日』や、20日に『シーラカンスの日』がありますね」

 

アリサ「古代魚の歌姫!?」

 

サキ「収録ユニットはどうなるんでしょうか? ローリスはさすがに入ると思いますけど」

 

アリサ「そうねえ。レインディアとか、ラブラドルとか、アルクとか、リィトとか、オリヴィアとか、理想の妹とか、誰がVRになってもおかしくなさそう。

枠はいっぱいもらえているはずなのに、何でこんなに後がつっかえてるの!?」

 

オウガ「ともかく。これで全クランに『The Next Stage』から続く、超越環境をイメージした強化が行き渡るわけっすね」

 

アリサ「そうね。そして……」

 

 

●完全新作アニメ「カードファイト!! ヴァンガード OverDress」2021年放送決定!

 

アリサ「(恐らく)(たぶん)1月から、アニメの新シリーズが放映開始よ!」

 

サキ「1月からは、新アニメに登場するユニットのカードが続々と登場しそうです!」

 

アリサ「そうなってくれると嬉しいわね。ていうか、お願いだから、次はちゃんとファイトして!!」

 

サキ「アニメで主人公やライバル、その他登場人物の使用するクランによって、2021年に発売されるパックの収録クランは大きく変わってきますからね」

 

アリサ「うん。地球のファイトで運命を捻じ曲げられるユニット達の気持ちが今なら分かるわ」

 

サキ「シラヌイさん!?」

 

ミオ「クランだけではありません。新アニメに合わせて、現況がひっくり返るような新システムが導入されてもおかしくはありませんよ」

 

アリサ「たしかに! スタンダードも、もう4年目だしねえ。馬鹿の一つ覚えみたいに『2020年の強化!』とか言ってられない時期だわ」

 

ミオ「24クランを収録……」

 

アリサ「それは馬鹿の一つ覚えでいいのよ!?」

 

オウガ「新クランとかはどうなんすかねー?」

 

アリサ「あー。けど、来年もコラボやるみたいだし、可能性は低いんじゃないかな?」

 

サキ「主要クランはあくまで24のまま、新しい風はコラボで入れていく感じになるのでしょうか」

 

アリサ「コラボ頼みになるのはよくない傾向なんだけどねー。ま、あたしというよりは、作者の愚痴として受け取っておいて」

 

ミオ「そんなヴァンガードも、来年で10周年だそうです」

 

サキ「そうでした!」

 

オウガ「マジっすか!」

 

アリサ「当時のあたしは8歳かー。うわー」

 

ミオ「冒頭では冗談めかして言いましたが、来年こそ全クラン収録パックが登場してもおかしくは無いと思いますよ」

 

アリサ「そうよね! きっと、全クランに新システム対応した新規ユニット配ったりとか、各クランで人気投票して、1~3位のユニットをリメイクとかしてくれるわよね!」

 

オウガ「またハードルが上がっていく!」

 

サキ「そのハードルを越えてこなかった時、傷つくのは自分だけなのに……」

 

アリサ「ま、正直なところ、期待半分と言ったところかしら。

実際、5周年の時は、記念スリーブが5枚くらいBOXに入ってただけだったし」

 

オウガ「しょぼっ!」

 

アリサ「そのくせ、まったく何でもない時に『ファイターズグッズフェスティバル』みたいな神企画を仕掛けてくるから、読めないし、憎めないのよね」

 

サキ「わかります! あれ、私もギガレックスに投票しましたよ!

その時のギガレックススリーブとデッキケースは、今でも宝物です!」

 

アリサ「そんなわけで! これからも、何が起こるか分からないヴァンガードを!」

 

ミオ「ひいては根絶少女を」

 

オウガ&サキ「よろしくお願いしまーす!!」




本日2度目の投稿となります。

次回は8月1日前後に8月分の「本編」、8月8日前後に「蝶魔月影」の「えくすとら」を予定しておりますが、ちょっと私の8月の予定が不明瞭なため、1週間ずつ後ろにずれる可能性もございます。
8月も中旬になって「蝶魔月影」はかなり間が空いてしまうので、できれば避けたいところではありますが。

ともあれ、次回、いよいよヴァンガード甲子園本戦の8月本編をお楽しみにして頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。


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Ex.30「蝶魔月影」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
ゾンビに興味は無いが、発酵はしてみたいと思ってる。

・天道アリサ
いつでも元気いっぱい。明るく楽しいミオの先輩。高校3年生。
使用クランは「メガコロニー」
ゾンビは嫌いではないが、なるのは嫌。

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
初心者だが、熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
ホラー系は苦手なので、ゾンビも嫌い。

・藤村サキ
臆病で気の弱いメガネっ娘。ファイトは初心者だが、知識は深い高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」
ホラー映画が好きなので、ゾンビも嫌いではない。

・葵アラシ
賭けファイトを楽しむ、背は低いが豪快で危険なファイター。
天性の勘を持つ高校2年生。
使用クランは「グランブルー」
もちろんゾンビは大好き。


●はじめに

 

???「ククク……ようやくこの時が来よったか。

永きに渡りし我が宿願、ついに成就せり!

グランブルー、1年と47日ぶりに強化なり!!

司会進行は、この『氷獄の死霊術師 コキュートス』が特別に務めてやろう。

光栄に思うがいい、命などという枷に縛られたる哀れな愚民ども……」

 

アリサ「やかましいわっ!!」

 

こっきゅん「むう? アリサごときが何用だ」

 

アリサ「あんたの宿願は復讐でしょ!?

それに、頼まなくてもいつもグランブルー関係の話題には顔突っ込んでくるでしょうが、あんたは!」

 

ミオ「それどころか『デッキ切れ』や『ドロップゾーンからスペリオルコール』といったキーワードにも反応してきますけど」

 

アリサ「あと、1年1か月なんて短い方だからね!? こちとら1年と9か月放置も経験しとんのじゃあ!!」

 

サキ「これが噂に聞くメガコロ冬の時代……」

 

オウガ「そんなわけで、『蝶魔月影』の『えくすとら』をはじめるぜー」

 

ミオ「収録クランはペイルムーン、ダークイレギュラーズ、むらくも……」

 

こっきゅん「そして、グランブルーなり!!」

 

アリサ「はいはい。そんなわけで、今回も『蝶魔月影』に相応しいゲストを呼んでるよー。

2年生編に入って大活躍! 根絶少女が誇るグランブルー使い!」

 

オウガ「!?」

 

アリサ「最強チーム、天海学園の2年生! 葵アラシ君でーす!!」

 

アラシ「よぉよぉ、お招きありがとう。今日はよろしくなぁ」

 

オウガ「……てめー、何しに来やがった」

 

アラシ「あ? 話、聞いてなかったのか? 俺は呼ばれたから来たんだよ。安心しな。仕事はちゃんとするぜ」

 

オウガ「ぐぐぐ……」

 

アラシ「おー! コキュートスじゃねーか」

 

こっきゅん「む?」

 

サキ「え? おふたりは知り合いだったんですか?」

 

アラシ「いんや。初対面だぜ?」

 

サキ「じゃ、じゃあ、何でもっと驚かないんですか!? 本物のコキュートスなんですよ!?」

 

アラシ「え? そりゃ実在してるだろ。コキュートスくらい。何なら惑星クレイだってあると信じてるぜ、俺は」

 

サキ「さ、さすがに超高校生級の人は感性からして違いますね……。でも、素敵な考え方だと思います」

 

アラシ「なぁ、コキュートスよぉ。ここではこっきゅんだっけ? 人類滅ぼすのは構わねーけど、グランブルー使いのよしみで、俺だけ見逃してくんねーかな?」

 

サキ「と思ったらゲスかった!!」

 

こっきゅん「よかろう。この世界から生命を駆逐したのち、貴様はゾンビにしてやろう」

 

アラシ「そっちかー。ま、いいけどよ」

 

オウガ「いいのかよ!?」

 

アラシ「いや、グランブルー使いは、誰もが一度は憧れるだろ、ゾンビ」

 

サキ「そうかなあ……?」

 

アリサ「何だかとんでもないゲストを呼んじゃった気がするけど、そろそろ『えくすとら』を始めましょ!」

 

ミオ「もちろん根絶者も、この世界には実在していますよ」

 

アリサ「対抗しなくていいからね!?」

 

 

●ペイルムーン 「仮面の奇術師 ハリー」

 

アリサ「ショタコンの心を鷲掴み! 年下好きのお姉さんにはたまらない、ヤンチャボーイな若きマジシャン! ハリーがスタンダードでも堂々開演!」

 

ミオ「ハリー最大の特徴は、アクセルサークルをステージという特別なサークルにしてしまう点です。

これまでに追加されたアクセルサークルや、新たに得られるアクセルサークルもすべてステージとして統合され、ステージにいるユニットは置かれているすべてのアクセルに応じたパワーを得ます」

 

オウガ「……それって損じゃないすか? たしかにパワーは一点に集中できるかも知れませんけど、攻撃回数が減っちまいますよね?」

 

アラシ「はっ! まだまだ甘ぇなあ、鬼塚オウガぁ!」

 

オウガ「あ!?」

 

アラシ「ペイルムーンはリアガードとソウルのユニットを入れ替えてのアタックを得意とするクラン。もともとアクセルサークルなんか無くても、連続攻撃はできてたんだよ。

むしろ欲しかったのはフォースサークル。フォースを一点に集中させて、そこを起点にユニットを入れ替えていく方が効率的っつー話だ」

 

オウガ「ぐ。な、なるほど……」

 

ミオ「アラシさんのおっしゃる通り、アクセルサークルをいわば追加のフォースサークルとして扱うハリーのスキルは、ペイルムーンの動きに合致しています。

既存のカードを例に挙げるなら、『ナイトメアドール ありす』をステージに置いてアタック。パワー9000のユニットをコールして再アタック。この動きは、たとえアクセルⅡサークルが4つあっても17000→14000の2回攻撃にしかなりませんが、アクセルⅡサークル4つで構成されたステージがあれば32000→29000で2回攻撃ができるというわけです」

 

オウガ「すげえ!」

 

アリサ「同じことはリアガードをその場でスタンドさせるノヴァにも言えるのよねー。ノヴァにもステージ作ってあげられないかしら」

 

ミオ「副次効果として、サークルが際限無く増えないので手札が減りにくいのもメリットと言えるでしょう」

 

アリサ「サークルが増えたからって全部埋めてたら、アクセルⅡでもすぐ手札が尽きちゃうもんね」

 

ミオ「ハリーのスキルはこれだけでは終わりません。CB1と手札1枚のコストで、『奇術人形』を2体、または4体までスペリオルコールして、+5000します」

 

オウガ「まぎあどーる?」

 

アラシ「はっ! お前、何も知らねぇんだな?」

 

オウガ「う、うるせえ! 俺みたいな賑やかしが『えくすとら』には必要なんだよ!」

 

ミオ「『奇術人形』はハリー専用のユニットです。ガーディアンサークルから退却した時、ソウルに置かれる共通効果と、ハリーのスキルでコールされた時に発動する固有の登場時効果で構成されています」

 

サキ「総数が少ないのでまとめてました。こんな感じです」

 

・G2

『奇術人形 プラーナ』⇒自身とヴァンガードに+10000

『奇術人形 ルナテック・ドラゴン』⇒相手のリアガードをソウルに置く

 

・G1

『奇術人形 ダークサイド・ミラーマスター』⇒カウンターチャージ

『奇術人形 フライング・ペリュトン』⇒1ドロー

 

アリサ「厄介なのはG2の2体よねえ。インターセプトでもソウルに逃げるから、何度でも使いまわされちゃう。毎ターン累計20000のパンプと除去喰らってちゃたまんないし、相手にした場合はリアガードを先に潰すべきかな。特に、この2体がいる状況で5000~10000要求のアタックはやるだけ損よ!」

 

サキ「ちなみにこれらのユニットは、ハリーと同時期に活躍した往年の名ユニットが元になっています」

 

アリサ「これって当時のペイルムーンファンはどう感じてるんだろうね? 単純に復活して嬉しいものなのか、哀れな姿に涙してるのか」

 

ミオ「とりあえず『ワーカロイド』になったことで、一部ナイトメアドールとシナジーはするようになりました」

 

アリサ「そうだけど!」

 

 

●「伝承鳩 ポップ」「スターリーポップ・ドラゴン」

 

アリサ「ここまでで十分強そうなハリーなんだけど、まだまだ全力の50%よ。残り50%を支えるユニットが、このポップ君!」

 

ミオ「『伝承鳩 ポップ』は、登場時にドロップゾーンから『奇術人形』をソウルに戻します」

 

オウガ「相手に『奇術人形』を除去されても、これで回収ができるわけだな!」

 

アリサ「本当にすごいのはここからよ。このユニットがステージでアタックしたバトル終了時! ポップを手札に戻してCB1することで、ドラゴンにどどーんと大変身!!」

 

オウガ「おおっ!! ……って、パワー0じゃねーか!!」

 

アリサ「あんた、本当に賑やかしが板についてきてるわね……」

 

ミオ「この『スターリーポップ・ドラゴン』ですが、もちろん単なるパワー0ではありません。

まず、登場時にイマジナリーギフト・アクセルを1つ得ることができます」

 

オウガ「そうか。そもそもステージの上だから、その分だけパワーは上がるよな」

 

ミオ「そして、リアガードの『奇術人形』の種類の数だけパワー+5000されます。現存する奇術人形は4種類なので、最高+20000ですね」

 

オウガ「これならパワー20000くらいは安定して狙えそうだな!」

 

アラシ「それだけじゃねえぜ! パワーが40000以上になったら★+1と守護者封じも発動だ!

アタック終了時、このユニットは退却しちまうが、ポップは手札に戻ってるので損はねえ。やむにやまれずポップをガードに使ったとかでもしない限り、毎ターンこのムーブが楽しめるぜ」

 

オウガ「すげーな。……これまでアクセルⅡ前提で話してたけど、これってアクセルⅠ選んじゃダメなのか?」

 

アラシ「お、初めてイイコト言ったな」

 

オウガ「うるせー」

 

アリサ「アクセルⅡでパワー+40000を目指すのは、初期段階だと、よっぽど運がよくないと難しいわね。

けど、ステージをアクセルⅠで構成すれば、ステージの強化効率は単純に倍! スターリーポップ初登場時点で、ステージだけでパワー20000は担保されるから、あと20000! 『奇術人形』4体か、『奇術人形』4体+トリガーで達成よ!」

 

オウガ「それなら十分狙えそうだぜ!」

 

アラシ「脳死でアクセルⅡばっか選ぶんじゃなく、アクセルⅠという選択肢も頭の片隅に置いておくべきだな。『奇術人形』4種とポップが揃ってんのにアクセルⅠを選ばないのは、勝ちをみすみす捨ててるようなもんだぜ」

 

アリサ「ハリーの考察はここまで! なんだけど、ステージにはまだまだ利用価値があるのよねー」

 

ミオ「はい。ハリーから他のユニットにライドしても、ステージはそのまま残ります。つまり、ハリー以外のヴァンガードでステージを利用することもできるわけです」

 

オウガ「マジかよ、おもしれー!」

 

ミオ「ポップのギミックも、ハリーではなくステージに依存しているので、そのまま楽しむことができます」

 

アリサ「シンプルに行くなら、元祖VRの『ゴールデン・ビーストテイマー』ね。アタック時にソウルからスペリオルコールできるから、スターリーポップのアタック後に、もう1回ソウルからポップを呼び出すことだってできちゃう!」

 

ミオ「作者のオススメは『ヴィジブル・ソングスター』です。リアガードさえ並べば、ステージ上での4回を含めた7回攻撃を単体で行うことができます。コストも重く、最後には退却してしまうポップとの相性はよくありませんが、最後の締めくくりとしてポップを出すだけでも。そもそもポップを利用せずとも、ステージさえ育っていれば十分すぎるほど強力でしょう」

 

アリサ「イラストも綺麗だし、スキルも独自性があるし、作者が密かに注目していたカードのうちのひとつだけど、いよいよ花開く時が来たかな?」

 

アラシ「何の変哲も無かったカードが、新たなカードで輝きだす。こういうのを見つけた瞬間がたまんねぇよな!」

 

 

●『マスカレード・バニー』

 

アリサ「で! こいつだけ何で人形化してないの!?」

 

 

●『銀の茨の竜女皇 ヴィーナス・ルキエ』

 

アリサ「世の男性諸君のM心をくすぐる女王様! 『銀の茨の竜女皇 ヴィーナス・ルキエ』、無印ルキエに続いて、スタンダードにて再演!」

 

サキ「前回のルキエは『銀の茨の獣使い ドリアーヌ』とのコンボが強力すぎたために、ドリアーヌが制限されてしまいました」

 

アリサ「ならばとばかりに生まれ変わったヴィーナス・ルキエは、ドリアーヌのスキルを内蔵しちゃった! それって、制限した意味あるの!?」

 

ミオ「パンプ能力は旧ルキエを踏襲していて、前列すべてにユニットがいるなら、前列ユニット+5000されます」

 

アリサ「リアガードへの強化値は上がってるけど、ヴァンガードの強化値は落ちてるわね。やや前トリガー向きのスペックになったかしら」

 

サキ「ヴィーナス・ルキエのスキルは、ここからが本番です! CB1と手札を1枚捨てることで、前列にソウルから好きなだけ『銀の茨』ユニットをスペリオルコールできます。

ルキエと比較して、コストこそ落ちましたが、相応に単体で盤面を埋めることもできなくなりました」

 

アリサ「しかし! このスキルには続きが!」

 

サキ「はい! ターン終了時、リアガードを4枚以上すべてソウルに置くことで、イマジナリーギフト・アクセルを得ることができます!」

 

アリサ「ドリアーヌは手札にG3を加えさせることで、次への布石を打つことができたけど、こちらはアクセルの現物支給!

アクセルⅡを選べば当然ドローもついてくるので、ドリアーヌほど派手じゃないけど守りを固めることもできるわね」

 

サキ「守りで手札を使い切ったとしても、盤面を揃えて反撃できる点はルキエと同じですしね。コストが低下したおかげで3点止めにも対応し易くなりました」

 

アリサ「ルキエはより美しく! より攻撃的に進化した!

ハリーをアクセルの異端児とするならば、ヴィーナス・ルキエは実にアクセルらしいアクセル! 横にズラリと並べて、手数で圧倒しちゃおう!」

 

アラシ「ちなみにドリアーヌは『銀の茨』をほとんど指定していないから、ハリーとも相性がいいんだぜ、と」

 

 

●『フェスブライト・エスケイパー』 『テンプティング・フープスター』

 

アリサ「祝! 祝砲竜強化!」

 

ミオ「『フェスブライト・エスケイパー』は、リアガードからソウルインした際、ソウルをすべて吐き出したうえでスペリオルコールされます。

高パワーで追撃できるようになるうえ、ソウルが0枚になるので祝砲竜に再ライドできずとも、次のターンも確実に連続攻撃を行うことができます」

 

アラシ「『フェスブライト・エスケイパー』が生き残ってりゃ、コンボも再び成立するし、いい強化だよな」

 

サキ「難点は2枚以上展開していても、コールできる『フェスブライト・エスケイパー』は1体のみになるという点ですね。祝砲竜でアタックする前には絶対に引いておきたいカードですが、4枚採用するか、採用枚数を削るかは悩ましいです」

 

ミオ「『テンプティング・フープスター』は、登場時に1枚以上、すべてソウルブラストして、ヴァンガードのパワーを+10000します。」

 

アリサ「祝砲竜がしっかり回ってる場合、基本的にソウルは0枚のはずだから、こっちは少し使いにくいかもね。

+10000自体は祝砲竜が物凄く欲しい要素ではあるんだけど。他にソウルチャージできるユニットと組み合わせる余裕はあるかしら?」

 

サキ「どちらも祝砲竜を指定しているわけではないので、他のデッキにも採用できるかも知れませんよ。

ヴァンガードのパワーが控えめなペイルムーンにとって、+10000は勝負を決めたい場面では必要になるかも知れませんし」

 

ミオ「『フェスブライト・エスケイパー』は、先に挙げた『ヴィジブル・ソングスター』との相性も抜群です。CB5あれば最大10回攻撃が可能になりますし。CB4で9回攻撃、CB3で8回攻撃でも十分な脅威となるでしょう」

 

アリサ「リアガードからソウルインなんてペイルムーンでは日常茶飯事だから、今後も思わぬところで活躍しそうよね、こっちは」

 

 

●ダークイレギュラーズ 『シャルハロート・ヴァンピーア』

 

アリサ「妖しくも美しき邪悪なるヴァンパイア! その退廃的な魅力に惹かれて、血を吸われたい女子多数! 『シャルハロート・ヴァンピーア』、スタンダードの大地に再臨!」

 

オウガ「さっきから何なんすか、そのノリは」

 

アリサ「いやー、せっかく美男美女で揃ったパックだし。VRにメカやドラゴンがいないパックって、とても貴重よ?」

 

ミオ「『シャルハロート・ヴァンピーア』は、ソウルに応じた前列パンプ能力を持ちます。

ソウル1枚につき+1000と、効率は悪くありませんが、永続スキルではなく、バトルフェイズ開始時に発動する自動スキルのため、バトルフェイズ中のソウルチャージは数えない他、デスアンカーとの兼ね合いも悪いので注意が必要です」

 

サキ「もうひとつのスキルはリアガードのスタンドです。アタック時にCB1で1体スタンド! ソウルが13枚以上ならさらにもう1体!」

 

アリサ「え!? シャルハロートなのにソウルチャージも無ければ、誰も犠牲にしないの!? 罪、灌ぎ済み!?」

 

アラシ「とっくに夜明けへと進んでんじゃね?」

 

オウガ「ヴァンガードがソウルチャージできないデッキで、ソウルを13枚揃えるのは大変そうだなあ……」

 

ミオ「そう感じる場合は『深魔幻皇 ブルブファス』と一緒にデッキに入れてみるといいでしょう。ブルブファスは序盤に強く、ソウルチャージができ、手札まで増やせるので、安定してシャルハロートに繋ぐことができます」

 

アラシ「ブルブファスも決定打が足りなかったところだし、互いにとってメリットになるわな」

 

こっきゅん「手札を10枚近く抱えながらデッキ切れする哀れな魔王であったな」

 

アラシ「お前が言うなよ!?」

 

アリサ「うーん。でもさー。強いのは分かるんだけど、ソウルチャージや、犠牲を払わない点も含めて、あまりにもシャルハロートらしくなくない?

シャルハロートなら、敵味方問わず全体除去しつつ、パワー+30000、★+1して、守護者ではガードできないとか言い出しても許される枠だったと思うのよ。

せっかく一点突破型で強く設定できるキャラクターなのに、アクセル連中やフォース連中と同じ連パンになっちゃったのは、正直残念かなぁ」

 

ミオ「作者はダクイレに押しつぶされてきた側ですが、だからこその拘りもあるみたいですね」

 

 

●『忌まわしき者 ジル・ド・レイ』

 

アリサ「こっちもあんまり忌まわしくない!」

 

アラシ「昔と比べると丸くなったよなあ」

 

ミオ「アタック時に除去ができるので、シャルハロートならそのスキルを2回発動させることができます。

ユニットの展開もできるため、手堅くシャルハロートをサポートしてくれている印象ですね」

 

アラシ「似た役割なら『ナンバー・オブ・テラー』もいるぜ。アタック時に1捨ての2ドローができるから、シャルハロートなら2捨て4ドローだな」

 

ミオ「これらのカードを採用する場合、どちらもソウル10枚という制限があるうえに、ソウルチャージする能力を持たないのが難点です。シャルハロートのソウル13枚はもちろん、両者のソウル10枚すら満たせないということにならないよう、注意してデッキ構築してください」

 

 

●『インフリクト・スタンパー』『ブレミッシュ・スパイア』

 

アリサ「ブルブファスで吸収できる★2のダークイレギュラーズがついに登場!! さあ、あなたはどっちを選ぶ?」

 

アラシ「いや、どっちも選ばねえだろ」

 

アリサ「そんな!?」

 

サキ「『インフリクト・スタンパー』は、ブルブファスとは言え、安定してソウルに3枚送りこめるわけでもないですし、ブルブファスデッキのG3は激戦区です。

『ブレミッシュ・スパイア』はパワーが低すぎて。パワー15000の★3は除去を捨ててでも狙うほどでは……」

 

アラシ「G2で、安定してパワー20000、★2を達成できるユニットが登場したら考えてやるよ」

 

アリサ「そんなの普通に殴らせるわよ!」

 

 

●『プログノス・ドライ』

 

サキ「これ面白いですよね? これまでトリガー予知と言えばオラクルやジェネシスでしたけど、超能力者を擁するダークイレギュラーズができてもおかしくないですし」

 

アリサ「どこぞの引トリガーが、フレーバーでバリバリ予知してるしねー」

 

サキ「デッキトップかソウルかを選べるのも、ダークイレギュラーズらしくて好印象です。使い減りもしないので、残しておくと危険なユニットになるかも知れませんね」

 

アラシ「天啓とは何だったのかと思えるくらいには高性能だよな」

 

 

●オーダーカード 『ソウルバレット・ルーレット』

 

ミオ「ここで小休止。オーダーカードの紹介です」

 

アリサ「ペイル、ダクイレ収録パックに相応しい、ソウルに関するオーダーね」

 

サキ「CB1してSC1、SCされたカードと同名のカードが2枚以上あるなら1枚ドローですね」

 

アリサ「……弱くない?」

 

アラシ「もともとソウルチャージが得意なダクイレやペイルで使うようなカードじゃねーわな。ソウルチャージが苦手なクランで、どうしてもソウルが欲しい場合か。

つっても、どんなクランにもだいたい1枚は使いにくいソウルチャージくらいあるもんなんだけどな」

 

アリサ「再ライドでもソウルは増やせるしね。

ドローの条件を満たせそうなのが、ダクイレとペイルくらいというのがまた……。あとはデッキトップ操作のできるオラクルくらい?」

 

アラシ「オーダーで1枚消費してるの忘れてるコスト設定だよな。3枚くらいドローしてくれねえと、割に合わねえよ」

 

ミオ「ところで、クイックシールド以外のブリッツオーダーは、いつ登場するのでしょうか」

 

アリサ「こっちはもう未来に目を向けてる!」

 

 

●グランブルー 『夜霧の吸血姫 ナイトローゼ』

 

こっきゅん「もう待てぬ。グランブルーを始めよ」

 

アリサ「えー。ゲストがいるから最後にしたいんだけど」

 

オウガ「俺はいつでも構わねえぜ」

 

アリサ「しょうがないなあ。

ちょっと抜けてる頼れる姉御! 永遠不滅の黒髪美少女! 『夜霧の吸血姫 ナイトローゼ』、スタンダードの夜に舞う!」

 

サキ「そのスキルは……何というか、ものすごく豪快です。

アタックかブーストしたユニットのパワーを+5000し、バトル終了時にそれらのユニットを退却させちゃいます!」

 

アリサ「大虐殺!!」

 

アラシ「ギャハハ! おもしれぇな、オイ!」

 

オウガ「大ウケ!?」

 

サキ「もうひとつのスキルは、アタック時、縦一列にドロップゾーンからユニットをスペリオルコールします。

……まあ、その復活したユニットも、すぐナイトローゼに消されてしまうのですが」

 

アリサ「上の効果で亡霊を再現して、下の効果で『霧幻の海賊王 ナイトローゼ』を再現してるわけね。なかなか粋なデザインじゃない」

 

アラシ「こんなスキルでも、グランブルーの展開力は半端ねぇからな。毎ターン盤面を埋めながらアタックもできるんだぜ。

……とは言え、さすがに防御力は落ちるし、初心者にオススメはできねえな。

そんな時に便利なのは、過去のVRである『魔の海域の王 バスカーク』や『氷獄の死霊術師 コキュートス(こっきゅん)』だ。

展開力のあるそれらのカードで、手札、盤面、ドロップを整えつつ、機を見てナイトローゼにライドする。

バスカークやこっきゅんには決定力が不足していたから、ちょうどいい。

ま、さっきのブルブファスとシャルハロートの関係みたいなモンだわな」

 

サキ「単体でも強い、過去のカードも生かせるってデザインは、どちらもよくできてますよね」

 

アラシ「ナイトローゼの最終目標は、基本的にはスカルドラゴンの4連続アタックだ。

それをするには、ドロップゾーンにスカルドラゴン2、ネグロボーン2、コロンバール1が最低限必要になる。

それらを揃えるのにナイトローゼじゃ間に合わねぇ可能性もあるが、本気で守備に徹すればスサノオ並みにしぶとく、デッキを削るのも得意なこっきゅんなら余裕だ。

もちろん、スカルドラゴンのパワーもナイトローゼ単体で使うよりさらに上がるしな。

こっきゅんとナイトローゼの混合デッキはマジにアリだと思うぜ」

 

アリサ「よかったわね、こっきゅん! あんたも強化されたみたいよ」

 

こっきゅん「……断る!」

 

アリサ「え?」

 

こっきゅん「何故、この偉大なる死霊術師である我が、ナイトローゼごとき小娘の力を借りねばならぬのだ?」

 

アリサ「め、めんどい……」

 

アラシ「ま、それもひとつの愛さな」

 

アリサ「自己愛だけどね!?」

 

 

●『七海覇王 ナイトミスト』

 

アリサ「元祖イケメンユニットと言えば、彼をおいて他にない! 死霊と悪党を率いるカリスマ船長! 『七海覇王 ナイトミスト』! スタンダードに黄泉帰り!」

 

アラシ「今回の『七海』は、新たに作られた『財宝』マーカーを利用したギミックが用意されているぜ。

見ようによっちゃ、強力だがシンプルなスキルで構成されているナイトローゼよりも凝って作られてるのかもな」

 

ミオ「『七海』ユニットは共通能力として、アタックがヒットしたら『財宝』マーカーを得る能力を持っています。

『財宝』自体に特別な効果はありませんが、七海覇王は『財宝』マーカーの数に応じてスキルを獲得していくことができます」

 

サキ「財宝マーカー1つで、『七海』のリアガードは後列からアタックとインターセプトができるようになります。いきなり強力ですね!」

 

アラシ「よっぽど運が悪くねぇ限り、七海覇王にライド時点でこれは達成されているだろうからな。ある意味これが七海覇王のメイン能力と言ってもいい。

ただし、『七海』はデッキの全ノーマルユニットを『七海』で構成できるほど数がいるわけじゃねえ。十分起こり得るレベルの『運が悪い』ではあるし、『七海』に展開力のあるユニットも少ないので、リアガード5体すべてを即『七海』で埋めることができるのは、逆に『運がいい』レベルだ。

いきなり6体アタックなんて夢見ず、まずは他のユニットでブーストしながらコツコツと財宝を稼いでいくべきじゃねえかな」

 

オウガ「財宝マーカー3つで、全『七海』に+5000だぜ!」

 

アラシ「ここまで来りゃリアガードも揃ってるだろうし、七海覇王も単体17000、G1ユニットも単体13000でアタックできるようになる。折り返し地点に見えるが、実際は最終目標の財宝6枚まで待ったなしの状況だぜ」

 

ミオ「その財宝6つで、七海覇王のアタック時に全『七海』リアガードがスタンドします」

 

アラシ「こうなりゃ、おおむね勝ちだな。相手も財宝を渡さないため手札を消費してるだろうし、多少トリガーが乗ったところで、+5000されている『七海』ユニットで今度はブーストしてやれば、大抵の攻撃はまだまだ通る」

 

ミオ「つまり、『七海』は6点ダメージを目指すのではなく、財宝6つを目指すファイトを心がければいいということですね」

 

アラシ「理解が早くて助かるね。ま、見ての通りヴァンガードへのアタックだけで財宝6つを狙おうとすると、財宝が6つ貯まった時点で、そもそも相手は死んでるからな。リアガードを積極的に潰して、相手の手を止めつつ財宝稼ぎが基本になるだろうぜ。特にインターセプトできるユニットや、ガード要求値が変わってくるユニットは積極的に狙うといいぜ」

 

 

●『七海暴掠 ナイトスピネル』

 

アリサ「ここからはまず、他の『七海』ユニットに焦点を当てて、『七海』の戦い方をもう少し詳しく掘り下げていきましょう」

 

アラシ「『七海暴掠 ナイトスピネル』は、ボードアドバンテージを取れる唯一の『七海』だ。事前に山札を削ることもできるが、さっきも言ったように『七海』は数が少ない。これで『七海』を落とすなんて夢見ず、ちゃんと『七海』がドロップゾーンにいる時に使いてえな。

そこさえ気をつければ、基本は七海版『キャプテン・ナイトミスト』だ。盤面を『七海』で埋める助けになってくれるだろうよ」

 

 

●『七海剣豪 スラッシュ・シェイド』

 

アラシ「『七海』のメインアタッカーだな。『財宝』マーカーがあれば単体24000でアタックができる。特にパワー9000のリアガードを狙えば25000要求だ。七海屈指の稼ぎ頭となってくれそうだぜ」

 

ミオ「ちなみにマーカーであれば何でもいいので、プロテクトⅡマーカーでもパンプされます」

 

サキ「では、ギフトはプロテクトⅡを選んだ方がいいのでしょうか?」

 

アラシ「相手にもよるが、七海覇王はプロテクトⅠでも再ライドしている余裕はあんまねえし、それがいいかもな。特にスラッシュ・シェイドが複数枚あるのに財宝が1つしか無いなんて場合は、プロテクトⅡを選ぶべきだろうな」

 

 

●『七海操舵手 ナイトクロウ』

 

アラシ「七海の超貴重なアドバンテージ源だ。こいつは七海のキーカードだと断言してやるぜ」

 

サキ「? けど、スキルはサムライスピリットと変わらないですよね? アドバンテージにはならないんじゃないですか?」

 

アラシ「何度も言ってるが、『七海』にはアドバンテージを稼げるユニットがほとんどいねえ。『七海』自体の数も少ねえ。

つまり、『七海』以外のカードでアドバンテージを取っていくことになるんだが、『七海』で『七海』以外のユニットは大して役に立たねえ。

『ダンシング・カットラス』や、『キャプテン・ナイトミスト』が蘇生させたユニットをナイトクロウに変えて、はじめて『七海』ではアドバンテージと呼べるんだぜ」

 

ミオ「となると『七海』では、ソウルやドロップゾーンにも気を使わなければなりませんね」

 

アラシ「先行取れたら『伊達男 ロマリオ』なんかは、意地でもライドしたいユニットだな」

 

 

●『七海呪術師 レイスチューター』

 

アラシ「『七海』の守りの要だな。財宝があれば後列からインターセプトできるし、プロテクトサークルにいれば20000インターセプトだ。

とは言え、攻めを重視した『七海』のコンセプトからは若干ズレてるし、『スラッシュ・シェイド』がいるならマーカーはそちらに譲った方がいい」

 

アリサ「ちょっぴり『七海』の数合わせ感」

 

アラシ「プロテクトⅡをメインにするなら、『七海』以外のデッキでもワンチャンあるかもな」

 

 

●『七海見習い ナイトランナー』

 

アラシ「蘇生が自身をバインドしての墓地回収になっただけで、注意点はほとんどナイトスピネルと変わらねえ。

単体ではG0なのもあってやや微妙だが、一部のカードとのシナジーが非常に強ぇ。特に『スケルトンの航海士』との相性は抜群だ」

 

アリサ「『スケルトンの航海士』のスキルで、航海士とナイトランナーをレストして5枚ドロップ。

さらに、ナイトランナーをバインドして2枚ドロップ。ドロップゾーンに7枚のカードを送りつつ、そこから1枚回収できるというわけね」

 

ミオ「その中でナイトクロウも落ちれば、航海士をナイトクロウにすることも可能ですね」

 

アラシ「ああ。漠然と投入するのでなく、構築段階でコンボを意識して入れるカードだな」

 

 

●『海賊剣士 コロンバール』

 

アリサ「初見では誰もが度肝を抜かれる、ただ強ユニット!! CB1でデッキからドロップゾーンにカードを置き、ドロップから1体をスペリオルコール!」

 

オウガ「それって、デッキから好きなユニットをスペリオルコールしてんのと変わらねーじゃねーか!!」

 

アリサ「わざわざドロップを経由してくれるから、『細波のバンシー』を落として蘇生して1ドローとかできるし」

 

アラシ「蘇生させたいユニットが既にドロップにいる状況なら、もっとすげえぜ。

カットラスを落として、さらにカットラスも自身のスキルで蘇生させたりな。

『七海』でだって、ナイトクロウを落としつつ他の『七海』を蘇生。あとはコロンバールをナイトクロウにすれば、『七海』が一気に2体並ぶぜ」

 

オウガ「おー。ナイトクロウがキーカードだって意味が分かってきたぜ」

 

アリサ「このままだと『キャプテン・ナイトミスト』の上位互換になっちゃうから、同名スキル1ターンの1回の制限がついてるわ。ほぼほぼ上位互換なのに、キャプテンとの併用を考えないとならないのは面白い調整ね」

 

オウガ「グランブルーは展開力には困ってねえし、サークルも増えないから、何も考えずに4投でも大抵は問題無いんだけどな。1ターンに1回ずつ使えるだけで十分だわ、こんなモン」

 

 

●『お化けのとみー兄弟』

 

アリサ「どうせドロップ10枚で+5000でしょと思ってたら、まさかの5枚。+5000の時点でリアガードではロマリオの上位互換だったのに、そこまでする!?」

 

アラシ「今回で選択肢は増えたものの、永続的に高い数値でブーストできるユニットが少なく、ドロップゾーンのカードを増やすことに意義のあるグランブルーにとって、このサイクル自体が相性いいしな」

 

サキ「比較対象は、やっぱり役割の近いロマリオでしょうか」

 

アラシ「だな。プロテクトのグランブルーにとって、+4000と+5000の差はデカい。戦力としてならとみー兄弟の圧勝だが」

 

こっきゅん「ロマリオはソウルを増やすことができる。特にG3ユニットをソウルに投入できるユニットは貴重なり。『バイオレント・フランガー』こそ、けして贖えぬ罪を背負いし咎人のみが送られる牢獄へと封印されてしまったが……」

 

アリサ「アイツは罪を犯す前に牢獄入りさせられたんだけどね!?」

 

こっきゅん「我の、ソウルのG3の数に応じてユニットを蘇生させるスキルは健在よ」

 

アラシ「実際、初手で2体蘇生できるか、3体蘇生できるかは違うわな」

 

アリサ「こっきゅん軸なら、ロマリオもアリってことかあ」

 

アラシ「前にも言ったが、『七海』もソウルとドロップは重要だからな。とみー兄弟よりは、こっちだと思うぜ」

 

アリサ「なるほどね。って、……だんだんロマリオの考察になってきてるし!」

 

アラシ「基本的にはとみー兄弟でおk」

 

 

●『狭霧のバンシー』

 

アリサ「圧倒的『洒落男 アルヴァーロ』の上位互換!! アルヴァーロだって悪いカードじゃないのに!」

 

アラシ「ナイトローゼで戦う場合、特にナイトローゼに即ライドするタイプの速攻デッキには必須だな。他にも『サムライスピリット』のコストにすることでドローできたり、なかなかの芸達者だぜ」

 

こっきゅん「そして、バンシー初のG2でもある」

 

アリサ「あ、本当だ!」

 

ミオ「バンシー=G0~G1が染みついていた作者は、はじめG1だと勘違いしていたくらいですからね」

 

サキ「むしろ、結構初期からいるシリーズなのに、未だにG2すらいなかったことが驚きですけど」

 

アリサ「このままG3バンシーも欲しいよね。作者も含めて、バンシー単でデッキを組みたい人は結構いそうなんだけど」

 

 

●『スケルトンの海賊船長』

 

アリサ「そんなこと言ってたら、出た! スケルトン初のG3!!

種族的な意味の『スケルトン』じゃなく、あくまで『スケルトンの~』名称ね。

基本的には下働きだったスケルトンから、船長にまで出世する者が現れるなんて……なんだか泣けてきた」

 

サキ「派手に着飾っているようで、バスカークとかと比べると質素なんですよね。たぶん、船長のなかでは下っ端なのではないかと思います」

 

アリサ「こうなると、威張り腐ってるのも可愛く見えてくるよね。

さて、そんな海賊船長だけど、能力はほぼほぼ劣化版こっきゅん。バスカークにも遠く及ばない感じがまた……」

 

アラシ「とは言え、バスカークやこっきゅんのように、取り急ぎドロップ10枚を目指す必要も無いし、蘇らせたユニットを強化できるのは両者に無い利点だぜ。最序盤からダメージを稼ぎ易い点は、ナイトローゼへの繋ぎとして合格だ。

単体34000の『ストームライド・ゴーストシップ』や、単体22000の『細波のバンシー』を毎ターン呼べるのは楽しそうだし、今後、グランブルーに強力なヒット時能力が増えるようなら、さらに評価は上がるぜ」

 

アリサ「目指せ、スケルトンの海賊王!!」

 

 

●『倦怠の呪術師 ネグロレイジー』

 

アリサ「あ、これ強そう!

ドロップゾーンからノーコストでグレード0を1体スペリオルコール!」

 

アラシ「ユニットの質より量を優先したいナイトローゼじゃ必須だし、バスカークやこっきゅんでも、ライド直後から展開するには結構手札を吐かないとならねえ。それが嫌な時、空きサークルをとりあえず埋めといてくれるユニットだな。どうせタダで出てきたユニットだから、最終的に潰すのも惜しくねえ」

 

サキ「蘇生させたい筆頭はファーストヴァンガードでしょうか。トリガーよりパワーが1000高いですから、12000のヴァンガードをブーストして、ぴったりフォースに届くパワーが出せるようになります!」

 

アリサ「またグルナッシュがこき使われそうな予感!!」

 

オウガ「ソウルにいるファーストヴァンガードを落とす方法を考えておいた方がよさそうだな」

 

ミオ「G2の段階で落としたいのなら『海賊剣士 コロンバール』と『細波のバンシー』のコンボが、どんなデッキでも安定して投入できそうですね」

 

サキ「『サムライ・スピリット』ならドロップゾーンにいるだけでソウルを使えますし、ネグロレイジーとの相性も抜群です」

 

アラシ「グランブルーは優秀なG0も多いから、そっちにも注目だな。

『お化けのちゃっぴー』は登場時にパワーとガードを+10000するG0だ。20000ガードしながらドロップに送りつつ、ネグロレイジーで蘇生させる動きは単純に強ぇぜ。レイジーを多めに採用する場合は、併せての採用を考えてみるといい。

あとは『七海見習い ナイトランナー』か。バインドされちまう点は相性は悪いが、『スケルトンの航海士』を採用するなら巻き添えになって落ちるナイトランナーも1~2枚はあるだろうさ」

 

 

●『粉骨の呪術師 ネグロボーン』

 

アラシ「ドロップゾーンにある限り、手札1枚を墓地の1枚に変換してスペリオルコールできるぜ。

序盤に『細波のバンシー』を蘇生させてアドを稼いでもいいし、状況に応じたユニットをスペリオルコールしてももちろん強いんだが、スカルドラゴンを手札からポンと出せるという点が強すぎるんで、基本はそればっかになりそうだな。

スカルドラゴン2パン→ナイトローゼアタック時、スカルドラゴンとコロンバール蘇生→コロンバールでスカルドラゴン蘇生→スカルドラゴン2パン

の流れはマジでヤベえぜ!」

 

ミオ「山札も2枚増えるので、ギリギリまでデッキを消費していても、コンボが成立する点も魅力ですね」

 

アリサ「ドロップゾーンに2枚は確保しておいて、余った分を他のユニットで消費する感じになるのかなぁ」

 

 

●『パーラメント・シェイド』

 

アリサ「ナイトローゼを持ってない人へ贈る大技枠! G3を3枚ソウルブラストすると、とんでもないことが!!」

 

サキ「ロマリオでG3をソウルインしてショートカットするのは大前提になりそうですね。あとは2ターン再ライドしながら耐えればいいだけので、こっきゅんならギリギリ達成できそうです!」

 

アラシ「『グリード・シェイド』がいるので、再ライドの難易度も高くはないだろうが、バスカークや海賊船長をサブヴァンガードにしたり、ドロップゾーンから再ライドできる『逆心の呪術師 ネグロブリーチ』を採用しておくと安心だな」

 

アリサ「G3を3枚ソウルブラストしたアタック時、『パーラメント・シェイド』は敵味方問わず全リアガードを退却! さらにドロップゾーンから好きなユニットを5枚スペリオルコールして、全ユニットのパワー+10000!

もちろんこっちでも、スカルドラゴン4パンはできるわよ」

 

オウガ「総パワーはナイトローゼより高くなりそうだし、相手のユニットは全滅、こっちのユニットは居残るので、継戦能力も高そうだな!」

 

アリサ「コストをとにかく重くすることで、カタログスペックだけならVRをも越えてきた最強のコモン!!

今後、ソウルにG3を仕込めるカードが増えるならチャンスあるかもね」

 

 

●むらくも 『看破の忍鬼 ヤスイエ』

 

アリサ「クールでストイックな和服男子! 一転、戦闘時は鬼の力で苛烈になる二面性も大きな魅力! 『看破の忍鬼 ヤスイエ』、スタンダードの舞台に只今参上……」

 

???「ちょっと待ったぁ!!」

 

アリサ「へ!?」

 

ユキ「ちょっとアリサ! なんでむらくも回なのに私を呼んでくれないの!? 7月の『えくすとら』には呼んでくれるって約束したでしょう!?」

 

アリサ「ユ、ユキ!? あ、あー……本編で初登場したばっかりのクランが、パックですぐ強化されるって珍しいから、嬉しくてついアラシ君を呼んじゃったと言うか……」

 

アラシ「人のせいにすんなよ」

 

ユキ「ミオもよ!? アリサはともかく、あなたが約束を忘れることなんてないでしょう!?」

 

ミオ「むらくもの番になれば、勝手に現れると思っていたので」

 

ユキ「薄情!?」

 

ミオ「信頼していたと言ってください」

 

アリサ「ごめんね、ユキ。お詫びに、むらくもは全カード解説させてあげるから。ね?」

 

ユキ「許す」

 

ミオ「現金ですね」

 

サキ「あの、ミオさん……こちらの着物の方は?」

 

ユキ「あら、響星の新入生かしら? 私は響星学園の卒業生、元カードファイト部所属の白河ミユキよ。ユキと呼んでちょうだいな」

 

アリサ「今更、カッコつけたところで……」

 

オウガ「ユキ先輩! よろしくお願いしゃーす!!」

 

ユキ「あらあら、元気がいいわねえ。よろしくね」

 

アリサ「じゃ、改めてヤスイエの解説からお願いねー」

 

ユキ「はいはい。

ヤスイエ第一の効果は、いきなりマンダラロードの上位互換とも言うべき効果よ。

コストと分身できる数こそ同じだけれど、起動能力となったことで毎ターン使えるようになっているし、ユニットを展開してから増やせるようにもなっているわ。

さらに分身先のユニットをデッキだけでなく、ドロップゾーンからも選べるようになったの。単体除去を受けても分身元が生き残っていれば弾切れは無いし、分身させたいユニットを必ずしも4積みする必要がなくなったから、デッキ構築にも幅が出たわね」

 

アリサ「『特務』のおかげもあるけど、マンダラロードもまだまだ現役だったのにねー」

 

サキ「マンダラロードと見た目に大きな違いは無いのに、影響力は段違いなんですね」

 

ユキ「第二の効果は、ヴァンガードの連続攻撃よ。アタック終了後、手札2枚をコストに、ドロップゾーンから『伏魔忍鬼 ヤスイエ・テンマ』にドライブ-1してスペリオルライドできるわ。

テンマもギフトを持っているからアクセルサークルも増えるし、アクセルⅡを選べば手札コストもドライブチェックと併せて帳消しに。

無駄を削ぎ落としたことで、カウンターコストもソウルも必要としない点が大きな魅力となっているわね。

一方で、それによる弊害も多く発生しているわ。まず致命的とも言える点が、ヤスイエもテンマもパワーが12000しかないので、相手がフォースの時点で、ブーストしなかった方のアタックが通らなくなるの」

 

アリサ「コストくらい払うから、+5000してよって感じよねー」

 

ユキ「それだけじゃないわ。スペリオルライド先のヤスイエ・テンマなんだけど、はっきり言ってヤスイエの下位互換なのよね……」

 

アリサ「テンマなのに!?」

 

ユキ「一応、テンマならではの良さはあるし、それは後から解説したいのだけれど……少なくとも分身効果だけで見るなら、1体しか指定できなくなっていて弱体化が著しいのよ。

破格のコスト設定に見えるヤスイエの連続攻撃は、つまるところ弱体化しながら放つ諸刃の剣なの」

 

オウガ「せめて、どうにかしてヤスイエのアタックを2回通す方法は無いんすかね?」

 

ユキ「使い勝手で言えば『口寄せの忍鬼 ジライヤ』がいいかしら。CB1は重たいけれども、強化値も+10000と大きくて、アタックをしっかり通してくれるわよ。

後は、むらくもなら欠かすことのできない『夢幻の風花 シラユキ』ね。強化ではなく、相手を弱体化させるという都合上、ヤスイエ単体でもアタックを2度通せるようになる点から相性は抜群よ。ヤスイエはソウルも増えやすいし、ここでも攻めに守りに大活躍してくれそうなカードよね」

 

アラシ「1枚制限の名はダテじゃねえな!」

 

ユキ「他にもヤスイエと相性のよい既存カードを紹介しておきましょう。

それは先に名前も出た『特務』の面々よ。マンダラロードと相性のよかった『特務』が、ヤスイエとの相性も悪いわけがないわね。

特にヤスイエでは『特務忍獣 ウィーズルイエロー』も有効活用できるわよ」

 

アリサ「あの『特務』にインターセプトを与えるという、『特務』の方向性と真っ向から対立していたあの子が!?」

 

ユキ「解説ありがとう。まず、レッドで以下のように布陣するわね」

 

ホワイト ヤスイエ ホワイト

ホワイト イエロー ホワイト

 

アリサ「ふむふむ」

 

ユキ「前列のホワイトをインターセプトで退却させた次のターン、ヤスイエで後列の2体を分身させると……」

 

アリサ「あっ! ヤスイエのスキルはドロップゾーンからでもスペリオルコールできるから!」

 

ユキ「ええ。10000インターセプトができるホワイトが無限に呼べるのよ」

 

こっきゅん「このコンボを『特務ゾンビの術』と名付けよう」

 

ユキ「お好きなように」

 

 

●『伏魔忍鬼 ヤスイエ・テンマ』

 

オウガ「ヤスイエのスペリオルライド先にもなっているユニットすね」

 

ユキ「ええ。ヤスイエの効果でスペリオルライドする分には不足だけれども、単体で見たらとても面白い動きのできるユニットなの。

まず、むらくもの基本的な戦術として、あえてリアガード用のユニットにライドするというものがあるわ」

 

オウガ「へ?」

 

アリサ「そのユニットを何度も分身させて、強力なリアガード用のG3による波状攻撃で攻めていく戦い方ね」

 

ユキ「ええ。その動きを単体で完結させてしまったのが、このヤスイエ・テンマよ。

まず、リアガード時の能力からあえて解説するわね。アタック時に、パワー+10000。バトル終了時、このユニットを退却させ、相手リアガードも1体山札の下へと除去するの」

 

オウガ「強力とは思いますけど、あまり好き好んで手札から出したいユニットというほどでは無いっすね」

 

アリサ「スカルドラゴンに近いデメリットを抱えている割にはって思っちゃうよね」

 

アラシ「ヤスイエの連続攻撃は、手札かドロップにテンマが1枚ありゃ成立するし、ヤスイエはサーチも豊富だから、『いかにしてテンマを手札に加えるか』よりは『どこまでテンマを削れるか』に焦点を置いてデッキ構築した方がいいかも知れねえなぁ」

 

ユキ「じゃあ、次はヴァンガードでの能力よ。とは言え、さっきも言ったように1体しか指定できなくなったヤスイエなのだけれど。

ただ、この能力で毎ターン、テンマ自身を分身させてあげれば……」

 

オウガ「毎ターン、22000のリアガードで殴りつつ除去ができる!」

 

ユキ「そうよ。この動きだけは、リアガードでは単体12000でしかないヤスイエにはマネのできない芸当なの。

せめて除去はいらないから、1体指定したユニットを2体まで分身させてくれたらと思わざるを得ないわ……」

 

アリサ「毎ターン、22000で殴れるユニットを2体スペコして、ターンエンド時には帰っていく。ゴウマみたいな動きができたのにねえ。テンマだけど」

 

 

●『魔爪の忍鬼 ヨイトギ』

 

ユキ「……何これ?」

 

アリサ「コロンバールが実質山札から誰でもスペリオルコールとか言ってるのに……」

 

ユキ「ウチはウチ、よそはよそ! と、いつもの私なら言っているところだけれど、さすがにこれは庇いきれないわねえ。

コストは重い。強化も限定的なうえ、その数値も半端。

極めつけは『手札から登場した時、~』の一文。

むらくもの強みって、ユニット単体では他のクランに劣っていても、数で押せる点にあると思うのよね。

これまでの分身ユニットは、自身をスペリオルコールした後、その分身先も同じスキルを使えるから、コストと同名ユニットが尽きない限り、延々と同じユニットをスペリオルコールし続けることができたの。細部や手段に違いはあれど、むらくもの分身ユニットは、ほとんどがそういう風にデザインされているわ。

でも、このユニットはむらくもの伝統を真っ向から否定している。その代価が『山札かドロップゾーンから~』の一文では、あまりにも割に合わないわ。

正直に言って、スペルハウンド、ミッドナイトクロウはおろか、ブラッディミストにすら劣ってるわよ」

 

アリサ「一番ツメが甘いのは本人だよねー」

 

ユキ「詰めの段階に届いているかも怪しいですけどね」

 

 

●『関門の忍鬼 アタカ』

 

アリサ「もはやお馴染み、G1RRRサイクルのむらくも版! さて、むらくもでの評価は!?」

 

ユキ「G3サーチの効果については、言うことはないわね。

何と言ってもむらくもは、1枚制限がかけられるほどのシラユキがいるのだから。

それが手札に加えやすくなった点は、単なるライド安定化以上の意味を持つわね」

 

アリサ「じゃあパンプの方はー?」

 

ユキ「他の同系ユニットと比較すると、やや厳しい条件という印象かしら。

確かにむらくもなら容易に満たせる条件ではあるけれど、それには何らかのコストは伴うし、例えば決闘龍のような条件の達成が難しいようなデッキもあるわ。

けど、速攻性はあるし、そういう点ではむらくもらしいわね。

惜しむらくは、むらくもは既に10000以上のブーストも多いから、数値面ではあまり魅力を感じない点かしら」

 

サキ「最大値17000のサンジーを筆頭に、特務も3体いれば14000ですからね」

 

アリサ「『忍竜 リグルバイター』に関しては、完全下位互換にされちゃってるのよね。これまでも普通に使えるカードだったのにね」

 

サキ「最近、既存カードの上位互換が多いですよね。昔はほとんどそんなカードは出さなかったのに……」

 

 

●『決闘龍 ZANTETHU』『バックワード・アレスター』

 

アリサ「なんだかんだむらくもが強化されるたびに登場する決闘龍サポート!」

 

ユキ「今回のはすごいわよ。まずは自らダメージを受けることで、山札から『アレスター』2体をスペリオルコールする効果!」

 

アリサ「ハラキリ!」

 

ユキ「この効果は、ヴァンガードが決闘龍である指定こそあれど、リアガードでも発動できるわ。ダメージが2でも、手札に『アレスター』が無くとも、このカードがあれば、速やかにダメージを3まで運びつつ、『アレスター』を用意することで、ZANBAKUのライド&スタンド封じが完成するわ」

 

アリサ「うわー。そんな簡単に実現できていいコンボだったっけ?」

 

ユキ「ふふふ。もちろん今でも効く相手には決定的に効くスキルではあるわ。攻撃時に効果を発動できるメサイアや、そもそも本体が攻撃することに意義があるオーバーロードにとっては致命的な損害を与えることができるわね。

ただ、この効果は相手がツインドライブできない前提で設定されている効果。例えば、スサノオなんかは本体がアタックせずともツインドライブ相当の手札を得ることができるので、スタンド封じされているターンも堪えることができるわ。そういったヴァンガードが相手だと、こちらが手札、カウンターコスト、ダメージと、消費が激しい分、厳しい戦いになるでしょうね」

 

アリサ「有利不利がはっきりしてきているから、大会みたいな長期戦じゃ勝ちきれなくなっている可能性はあるわけね」

 

ユキ「とは言え、ZANTETHUも、単なるスタンド封じのサポートでは終わらないわ。ヴァンガードにおいては、全『アレスター』に+5000する効果もあるの。

ZANBAKUデッキにおいては、スタンド封じ後、速やかにトドメを刺すフィニッシャーとして運用できる他、ZANGEKIの繋ぎにしてもピッタリよ」

 

アリサ「けど、『アレスター』にG1はいないんじゃ……」

 

ユキ「そのために新しく登場したのが『バックワード・アレスター』よ。『アレスター』初となるG1で、レフトかライトの『アレスター』をブーストすることで、+10000とソウルチャージをしてくれるわ。

ZANTETHU、レフト、バックワード、すべての強化値を合計すれば、そのパワーは42000にまで達するわ」

 

アリサ「もうZANTETHUだけで勝てるんじゃない!?」

 

ユキ「そうね。決闘龍サポートとしてデザインされているユニットだけど、わざわざZANBAKUだけを狙う必要は無いわ。ダメージとソウルを効率よく稼ぐことができるので『忍妖 オーガスパイダー』や『知略の兵法 剛腕の書』みたいな大技も自然に使うことができるわよ。

『オーガスパイダー』は決闘龍では無いけれど、ライトやセントラルは決闘龍に依らず効果を使えるので、大量ドローした後も、しっかりと場を繋ぐことができるわ。

『知略の兵法 剛腕の書』はZANTETHUのまま発動できるオーダーカードなのが魅力ね。ドロー枚数こそオーガスパイダーには劣るけれど、パワーの低いZANTETHUにとって、+10000の強化は序盤から終盤まで役立つわ。

今後、『知略の兵法 剛腕の書』以上に重いオーダーが登場しても、ZANTETHUなら扱えそうね」

 

ミオ「ここまで強力なら、他のむらくものサブヴァンガードとしても運用できそうですね」

 

ユキ「そうね。むらくもはCBやソウルがあればあるほどパワーは伸びるし、連続攻撃もできるようになるわ。

ZANTETHUは3点止めに強いから、そういった動きが得意なデッキが流行るようであれば、ZANTETHUを経由してダメージとソウルを稼ぎつつ、本命にライドして一気にコスト消費して攻める。なんて動きもできるわね。

ライトとバックワードが数枚あれば機能するから、デッキもそこまで圧迫しないわよ」

 

ミオ「むしろ、もともとセントラルと相性のいい侍大将デッキなら、セントラルをサーチする手段としても使えそうですね」

 

アリサ「総じて無限の可能性を秘めた、決闘龍サポートに留まらないむらくもの傑物! あなたならどう使う?」

 

 

●『藤花の忍鬼 タケヒメ』

 

ユキ「ヤスイエのサポートカードね。……なんでこういうカードをオニバヤシとかにしてくれなかったのかしら」

 

アリサ「他のクランは、過去に活躍したカードが続々とリメイクされてるのにねー」

 

ユキ「そんなイマイチ釈然としないタケヒメのスキルは、ライド時、リアガード時、両方でヤスイエを手厚くサポート。

まずライド時は、デッキの上から7枚を見て、ヤスイエ名称のカードを1枚手札に加えるわ。

単純にアドバンテージを得られるので、先行で『特務忍獣 ウィーズルレッド』を使う場合でも、手札を2枚残せるようになったのが強みね」

 

サキ「こういう細かいところでも『特務』とは相性がよくなっているんですね」

 

ユキ「リアガードでは『ヤスイエ』のヴァンガード登場時に、CB1でユニットを1体分身させることができるわ。テンマがバトルフェイズ中に生み出したアクセルサークルを、即座に有効活用ができるわね。

ただし、この分身はドロップゾーンからしか分身先を指定できない、特殊な分身である点は注意してね」

 

オウガ「ややこしっ!」

 

ユキ「分身させたいユニットの筆頭候補であるテンマは、ドロップゾーンに2枚なければ分身させてあげることができないわ。コストも重いし、活躍させてあげられるのは終盤になりがちかしら」

 

 

●『妖刀の忍鬼 マサムラ』

 

サキ「むらくもの★守護者ですね」

 

ユキ「むらくもは引トリガーに頼らずともアドバンテージを稼ぐことができるし、攻撃的なクランでもあるから、比較的★守護者を採用し易いクランではあるわね。けど、分身には元手が必要な以上、引トリガーも捨て難い。このあたりはファイターの好みで決めて構わないと思うわ。

けど、個人的に『特務』では★守護者の採用をオススメするわ」

 

サキ「手札消費の激しい『特務』でこそ、引トリガーが欲しい気もしますけど」

 

ユキ「けれど、引トリガーでアドバンテージが取れるかは運次第。また、レッドを使えば手札が1~2枚になってしまう『特務』では、完全ガードのコストすら支払えない状況が出てくるわ。その点、1枚で機能する★守護者は『特務』と相性がいいの。

『特務』は攻撃的なデッキなので、★12枚構築も、前と★を混ぜ合わせた構築もしっくりくるわ」

 

 

●『荒技の忍鬼 マスナリ』

 

アリサ「荒技すぎる!!」

 

ユキ「さすがに現状のむらくもで、これを実現するのは難しいかしら。実現したとしても最大4体しかスタンドできないのでは、割に合わないわね。

実現の可能性が一番高いのも、割に合うのも、侍大将かしら」

 

アラシ「侍大将で『忍妖 ダンガンニュードー』をできる限りソウルに送って、次のターン、侍大将のスキルでマスナリを呼びつつ、全ユニットの名称を『侍大将 HYU-GA』に変更するって感じか」

 

アリサ「御大将って、そこまで頑張らないと勝てないデッキだったっけ!?」

 

アラシ「いんや」

 

 

●『忍竜 プランブレイム』

 

アリサ「こっちも御大将サポートね。しかも、メオーマル持ってない人向けっぽい」

 

ユキ「けれど、効率は圧倒的に劣っているし、侍大将とコストも被っているわね。せめて、メオーマルの弱点であったアタック時というタイミングを改善してくれていればよかったのだけど、それすら同じ。

メオーマルを持っていないにしても、もう少しマシが選択肢はあるはずよ……」

 

 

●『能面の忍鬼 アワズ』

 

ユキ「デッキを圧縮しつつ、他のユニットに成り代われるユニットね。テンマをドロップゾーンに落とすことで、ヤスイエやタケヒメのサポートもできるわよ。

シラユキをドロップゾーンに落として、レイニィマダムで疑似的にサーチしたり、特務の名を得ることで強化してあげたり、工夫次第できることはいくらでもある、面白いユニットよ」

 

アリサ「何よりも同名カードが欲しかったヒャッキヴォーグとは、ヒャッキヴォーグをデッキから落とさないとならない都合上、相性最悪なのが残念ね」

 

 

●『吹笛の忍鬼 カドツグ』

 

ユキ「方向性はタケヒメとほとんど同じ。バトルフェイズ中にできたアクセルサークルを有効活用できるユニットね。

こちらはブーストしたユニットをデッキから分身させることができるので、ドロップゾーンの状態に依らない反面、上書きもできず、手札コストが必要なのも難点ね。

前トリガーとも少し噛み合わないし、ライド時の効果も無いし、基本的には5枚目以降のタケヒメになるかしら。

状況さえ整えば、

タケヒメでテンマをスペリオルコール→テンマでアタック→テンマ退却→空いたサークルにカドツグのブーストしたユニットをスペリオルコール

なんていう、更なる連続攻撃の布石にもなってくれるわよ」

 

アリサ「ここまで連続攻撃推奨してるなら、最初っからテンマの方に、登場時効果としてユニットをスペリオルコールするスキルを与えてくれたらよかったのにね」

 

 

●『隠密魔竜 ヴィアメルフドウ』

 

アリサ「不動どころか、1ターンすら場に残らない!!」

 

 

●『忍竜 アドバスパイク』 『忍竜 シュラトグロ』

 

ユキ「よく見ると、シュラトグロはアドバスパイクが成長した姿なのね」

 

アリサ「あ、ほんとだ。何でFVとバニラにこんな小ネタを……」

 

 

●『不触の忍鬼 クニナガ』

 

アリサ「同名ユニットがいるなら云々を一番有効活用できるのは御大将なのに、相手ターンに有効なスキル出されても!」

 

 

●『毬歌の忍鬼 ミヤギク』

 

アリサ「ものすごく今更感溢れる、レストして手札交換できるユニット……」

 

ユキ「ドローが先だし、2枚以上必要の無い本人を捨てることでオマケがついてくる点は理に適っているわ。それにしても今更ですけどね」

 

アラシ「今のむらくもで捨てたいのは、どっちか言うとG3だしな。速攻が主体のむらくもで、悠長にユニットをレストさせて手札交換する機会もそんなねぇだろ」

 

 

●『無尽の忍鬼 トキツネ』

 

アリサ「一見、悪くないように見えるわね」

 

ユキ「では、他の同系カードと、同名ユニットが並んだ場合のパワーを比較してみましょう」

 

・1枚のみ

トキツネ→5000

サンジー→7000

ホワイト→10000

 

・2枚

トキツネ→10000

サンジー→12000

ホワイト→12000

 

・3枚

トキツネ→15000

サンジー→17000

ホワイト→14000

 

・4枚

トキツネ→20000

サンジー→17000

ホワイト→16000

 

アリサ「ああっ! 何だか微妙にどこにも届かない感!」

 

ユキ「4体いて、はじめて同系ユニットと差別化ができる感じね。極み付けに「無尽の忍鬼 トキツネ」の数を指定しているから、侍大将でも強化してあげられないわ」

 

 

●おわりに

 

アリサ「ふーっ、終わったぁ。アラシ君、今日はお疲れ様。ユキもありがとね」

 

アラシ「おう。また呼んでくれて構わねえぜ」

 

ユキ「まったくもう。次ははじめから呼んでよね」

 

アリサ「だって、人が多すぎるんだもん。ただでさえレギュラーが4人なのに、何故かこっきゅんまでいるし。さすがに7人は回しきれないわよ。作者が」

 

こっきゅん「ふむ……。少し間引くか」

 

アリサ「……へ?」

 

こっきゅん「ゾンビーム!!」

 

アリサ「ギャアアアア!!」

 

ユキ「ああっ、アリサが!」

 

アリサ「ソンビー!!」

 

ユキ「ゾンビになってしまったわ! ……この流れも久しぶりねえ」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

オウガ&サキ「…………!!」

 

ミオ「お二人とも大丈夫ですよ。これはアリサさんの持ちネタみたいなものですので」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

オウガ「あ、そうなんすか」

 

サキ「それなら安心ですね」

 

ユキ「あらあら。若い子は、受け入れるのが早いわねえ」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

アラシ「…………」

 

オウガ「お前は、少し羨ましそうな目で見てんじゃねーよ!」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

こっきゅん「これで人が減って回しやすくなったであろう」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ミオ「むしろ、アリサさんのセリフ数が無駄に増えて、うっとうしくなっていますが」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

ユキ「さて。次回の本編は、いよいよアリサの引退回よ」

 

ミオ「この流れでそれを言いますか」

 

アリサ「ゾンビー!!」

 

サキ「それでは次回も!」

 

オウガ「よろしくお願いしゃーす!」

 

こっきゅん「さらばだ……」

 

アリサ「ゾンビー!!」




・白河ミユキ
大人びており、ミステリアスな雰囲気を漂わせる大学1年生。
使用クランは「むらくも」
ゾンビに興味は無いが、妖怪は好き。


ようやく「蝶魔月影」の「えくすとら」をお届けすることができました。
久しぶりにユキも出せて、個人的には楽しく書けましたが、いかがでしたでしょうか。

本文でツッコむタイミングを逃しましたが、ヤスイエのフレーバーテキストが別人すぎると思います。

それでは、次回は9月の本編でお会いしましょう。
「虚幻竜刻」発売の方が早いですが、えくすとらはその一週間後になると思われますので。


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Ex.31「DECK LOG」

アリサ「はいはーい、緊急更新よ!

今日のテーマはこれ! 『DECK LOG(デッキログ)』!!」

 

サキ「あっ! 公式で新しく公開された、デッキ作成支援ツールですね!」

 

アリサ「サキちゃん、解説ありがとう!」

 

オウガ「よっしゃ! デリート1号(部室にあるPCの名前。ミオの自作)を起動してっと……。

おおっ! 見やすいカードリストからカードを選択するだけで、スイスイデッキが組めるぜ!」

 

アリサ「オウガ君も、宣伝ありがとう」

 

ミオ「……? それほど必要なツールでしょうか。

ヴァンガードのカードなら全て記憶できていますし、実際のカードでもデッキを組むのに10分もかかりません。

いちど崩したデッキを組み直すだけなら、それこそ5分もあれば十分でしょう」

 

アリサ「うんうん。ミオちゃんならそう言うと思ったし、あたしも気持ちは分かる。

ヴァンガードはカードプールも狭いし、クラン単位で言うなら総数は100枚にも満たないのがほとんど」

 

サキ「ましてミオさんは根絶者限定構築ですからね……」

 

アリサ「作者だって、ヴァンガードなら1つのデッキを組むのに1時間以上かけることはまずないわ。

たまーに、40枚目のカードをどっち入れようか一晩中悩んでることはあるけれど」

 

サキ「カードゲーマーあるあるですねー」

 

アリサ「だからぶっちゃけ、作者も最初はナメてたの! ヴァンガードでデッキ組むのに、わざわざ使うことはないだろうなって。

けど、実物を見て閃いた。

『根絶少女の登場人物が使っているデッキを公開するのに使えるんじゃないの?』と」

 

サキ「!!」

 

オウガ「!!」

 

アリサ「これまでも作者は、あとがきで登場人物デッキを公開しようかって考えていたことはあったらしいのよ。

けど、文字だけじゃ味気ないし、そのくせデッキ考えたり、それを書き起こしたりが、また面倒くさいからボツにしていたわけ。

『DECK LOG』があれば違う! デッキを考える部分はともかく、公開はデッキコードをコピペするだけ!

それどころか、読者様もイラストとテキスト付きでそれらを確認できるので、馴染みの無いカードでもグッとイメージしやすくなるはずなの!」

 

サキ「それは楽しそうですね!」

 

オウガ「俺も、スパイクと先輩方が使ってるデッキ以外はまだまだ詳しくないから助かるぜ!」

 

ミオ「これで『このカード何ですか?』と言われることもなくなりますね」

 

アリサ「それは、作者がたまーに気が向いてショップ大会に出場した時、対戦相手からよく言われるセリフだから!」

 

サキ「メガコロあるあるですねー」

 

アリサ「小説とデッキログの融合! それこそが新時代のヴァンガードノベルとなってくれると、あたしは確信しているわ!!

……くっ。何で、1年と半年早くサービス開始してくれなかったの」

 

ミオ「もしくは『根絶少女』の生まれてくるのが早すぎたかですね」

 

アリサ「けどまだ遅くない! さっそく試験運用よ!

2年生編8月の本編でミオちゃんが使用した【根絶者】と、あたしの【メガコロニー】を、この後のあとがきで公開します!」

 

サキ「おおー!」

 

アリサ「どっちも作者がリアルで使ってるデッキタイプではあるけれど、作者の構築とはまた別という点は注意してね」

 

ミオ「小説では展開に変化を出すために、様々なカードを1~2枚採用することが望まれます。

引きたい時に引きたいカードを引ける、小説の登場人物だからこそ扱えるデッキとなっている点はご了承ください」

 

アリサ「まさに主人公特権!」

 

サキ「ですが、ある程度の説得力を持たせるために、できる限り強さもキープしなければなりませんし、本編で登場させたカードとの整合性も取らなければなりません。

うう……やっぱり大変そうですね」

 

ミオ「9月の本編に登場するデッキも公開を予定していますが、10月以降の予定は未定となっています」

 

アリサ「作者が詳しくないクランとかは、さすがにデッキとして形にできるかが不安というわけよねー」

 

ミオ「えくすとらでは、作者が実際に使用しているデッキを晒すことも考えているみたいです。需要があるかは不明ですが」

 

アリサ「『根絶少女』の思わぬ天啓となったデッキログ!

みんなもデッキ構築に、創作の助けに、自分なりの使い方を模索してみてねー!」




そんなわけで緊急更新です!

【根絶者】音無ミオ:L92E
【メガコロニー】天道アリサ:HD7A

上記のコードをブシロ公式HPのデッキログに入力してみてください!
きっと根絶少女が今以上に楽しめるようになるはずです。






おまけ:95WS

デッキログのテスト運用で入力してみた、私が愛用していたデッキです。
何が出てくるかはお楽しみ。
7枚ドロー!!


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Ex.32「虚幻竜刻」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
虫に興味は無いと嘯きつつ、ムカデやゲジは根絶者っぽいので気になってる。

・天道アリサ
いつでも元気いっぱい。明るく楽しいミオの先輩。高校3年生。
使用クランは「メガコロニー」
虫はもちろん大好き。部室でタランチュラを買おうとして、ユキに本気で止められた。

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
初心者だが、熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
カブトやクワガタは好き。

・藤村サキ
臆病で気の弱いメガネっ娘。ファイトは初心者だが、知識は深い高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」
虫は苦手だが、三葉虫にはロマンを感じるタイプ。

・御厨ムドウ
容赦の無いファイトで対戦相手を打ち負かす、謎多き強豪ファイター。
使用クランは「シャドウパラディン」
Gが現れると何処かへと姿を隠す。


●序

 

アリサ「メッガコロ! メッガコロ!」

 

サキ「め、メッガコロ! メッガコロ!」

 

ミオ「メッガコロ。メッガコロ」

 

オウガ「……スーパイク。スーパイク」

 

アリサ「そんなわけで、今年も無事にやって参りました!!

メガコロ収録パック『虚幻竜刻』!! メガコロ収録パックとしては2度目のえくすとら!!

約1名、裏切り者がいたような気もするけど、気にせず始めまっしょい!」

 

オウガ「いや、そりゃ当然でしょ!? 今回は部長のメガコロだけじゃなく、俺のスパイクや、サキのたちかぜもいるんすよ」

 

アリサ「……そうよね。あたしが間違っていたわ。もはやこれは『The Destructive Roar』勢にとってのお祭りだもんね!

テコ入れとばかりにシャドパラまでついてきてるけど!

とりあえず、不公平感を無くすために、ゲストにムドウも呼んでおいたよ」

 

ムドウ「紹介が適当だな」

 

アリサ「……何かあんたのゲスト率高くない?」

 

ムドウ「プレミアムコレクションも担当したしな。あとは単純にシャドパラの収録機会が多いだけだろう」

 

アリサ「ズルいなー」

 

ミオ「それでは、さっそく収録カードを見ていきましょう」

 

 

●『覚醒を待つ竜 ルアード』 『天空を舞う竜 ルアード』

 

オウガ「食らいつけ! 求める世界を掴むまで!

ルアードがスタンダードにも登場だぜ! 俺はよく知らんけど!」

 

アリサ「正直ねー」

 

ムドウ「ルアードは超越環境の後期に登場したユニットだな。G1の扱いに優れ、本家であるギアクロニクル以上に超越を使いこなす魔導士だ。今回も、その特徴が生かされたデザインになっている」

 

オウガ「……ところで、あんた誰だ?」

 

アリサ「そう言えば、初対面だった!!」

 

サキ「わ、私は知ってます! 聖ローゼの御厨(みくりや)ムドウさんですよね!? 早乙女マリアさんと共に、聖ローゼのエースとして活躍し、ヴァンガード甲子園の本戦にも2度出場していたのをテレビで見ています!」

 

オウガ「へー。すごい人なんだな」

 

ムドウ「そういうことだ」

 

ミオ「ルアードに話を戻しましょう。

まずはシンプルな除去能力。グレード1のリアガードを2枚退却させることで、1枚引き、相手リアガードを1枚退却させます。

効率はあまりよくありませんが、スタンダードのシャドウパラディンとしては珍しく、こちらから除去するユニットを指定することができます。

また、コストとしてドロップゾーンに送ったカードは、下の効果の布石にもなっています」

 

サキ「もう一つのスキルは、ギアクロニクルでお馴染みの疑似超越です!

コストはCB3と重いですが、ドロップゾーンのG1のカード1枚につきコストが1ずつ軽くなります!」

 

アリサ「儀式(リチュアル)!!」

 

ミオ「構築やプレイングを意識して、上のスキルも駆使すれば、毎ターンノーコストで超越することも難しくありません」

 

ムドウ「効果処理でドロップゾーンから2枚山札に戻す必要があるが、それはG1である必要はない。FVやG2以上を戻すといいだろう。

ただし、シャドウパラディンのユニットの多くは、山札からしかユニットをスペリオルコールできない。山札から尽きたG1があるなら、それを戻すのもありだ」

 

アリサ「そんなこんなで超越するユニットは『天空を舞う竜 ルアード』!!

まずは登場時に、ソウルの『ルアード』+1枚、山札からG1をスペリオルコール!

普通にライドしても使えるけど、ルアードからスペリオルライドした方が実入りが多くなるというわけね」

 

ミオ「最後のスキルは永続能力です。グレード1のリアガード1枚につき、このユニットのパワーを+5000し、ソウルにG3が2枚以上あるなら、G1の元々の★が2になります。

こちらもルアードからスペリオルコールすることで、達成を早めることができますね」

 

アリサ「ルアードで特筆すべきは、そのフォースの展開速度! ギアクロニクルと違って、疑似超越先もフォースを所持しているから

ルアードライド⇒ルアード超越⇒超越解除

のタイミングで、毎ターン2~3枚ずつフォースが増えていく!!

フォースⅡも意味が無いわけじゃないけど、これはさすがにフォースⅠを選ぶべき!」

 

サキ「G1を扱う都合上、リアガードのパワーはそこまで高いわけじゃないですしね」

 

アリサ「攻撃回数の少なさは気になるけれど、毎ターン倍々以上のペースで高まっていくパワーとアドバンテージ獲得能力はまさに規格外!

力で環境を掴み取ることはできるのか!? 乞うご期待!」

 

 

●『竜刻魔導士 モルフェッサ』

 

サキ「ルアードの弱点をカバーしてくれる、今回も素敵なお姉さんです!」

 

ムドウ「まずはリアガードと山札でG1として扱う能力。

ルアードの各能力に対応するのはもちろんだが、G2としてライドもできるので、G1を増やしても、ライド事故の可能性を軽減してくれるのも嬉しいところだ」

 

ミオ「もうひとつが、アタックしたバトルの終了時、このユニットを退却させることでドロップゾーンからG1をスペリオルコールします。

元々のグレードが1のユニットが、4体以上いる必要があるため、2体並べて使うことはできませんが、それでもシャドウパラディンのリアガードとしては貴重な連続攻撃です。

このユニットが隣にあって、はじめてルアードは完成すると言ってよいでしょう」

 

アリサ「本当、『いつまでも世話の焼ける未熟者』よねー」

 

 

●『ファントム・ブラスター・オーバーロード』

 

オウガ「『ファントム・ブラスター・ドラゴン』がパワーアップして復活!! 各部に追加された金の装飾がカッコいいぜ!」

 

ムドウ「ソウルにファントムブラスターがあれば、パワー+10000、元々の★を2にする。

最近のVRにしては珍しく、本格始動に1クッション挟むタイプのカードだが……」

 

アリサ「当然、抜け道が用意されてるのよねー。併せて紹介しちゃいましょ」

 

サキ「はい! G1でパワー5000の『結氷の魔女 ベンデ』は、ヴァンガードが『ブラスター・ダーク』なら、このユニットを退却させることで、山札からファントムブラスターへとスペリオルライドさせることができます!

起動能力こそ失われますが、高いパワーに加えて、ギフトとツインドライブは健在ですので、オーバーロードへの布石としては十分すぎますね!」

 

ムドウ「それだけではない。G2でパワー5000のダンプフッド・ドラゴンは、このユニットを退却させることで山札から『ブラスター・ダーク』をサーチすることができる」

 

アリサ「つまり、1ターン目でネヴァンをコールして、ダンプフッド、ベンデと繋ぐことで、確実に『ファントム・ブラスター・オーバーロード』のパワーアップに繋ぐことができるのよ!!」

 

オウガ「結局ネヴァンかよ!!!」

 

アリサ「ほんとそれ!!! この前のフェスティバルコレクションで再録したつもりになってるのかしら。まだまだ全然足りてないっての!」

 

ムドウ「ちなみに、このコンボはルアードでも応用することができる」

 

アリサ「あ、前もってファントムブラスターにスペリオルライドしておけば、改めて『天空を舞う竜 ルアード』にスペリオルライドする頃には、ソウルのG3が2枚という条件が達成されているわけね。って、ルアードにもネヴァン入ってくるわけ……?」

 

ムドウ「ルアードデッキの主砲となる『厳達の騎士 スーエルス』もパワー5000だしな。

……600円くらいのうちに、あと4枚揃えておくべきだったか」

 

アリサ「あんたは、ちゃんと揃えときなさいよ!?」

 

サキ「このコンボは本家『ファントム・ブラスター・ドラゴン』のスキルの補助にもなりそうですね。オーバーロードとパワーや★は変わりませんし、相手のリアガードがぴったり3体いる場合などは、狙ってみるのも面白そうです」

 

ムドウ「『ガスト・ブラスター・ドラゴン』も忘れてもらっては困るな。特化すれば、相手がG2の間にゲームを終わらせることも難しくない」

 

ミオ「それでは、そろそろオーバーロードの方にも話を戻しましょうか。

『ファントム・ブラスター・オーバーロード』は、アタック時に好きな数だけユニットを退却させて、対戦相手にも同じ数の退却を要求します」

 

ムドウ「シャドウパラディンより展開力のあるクランなど、せいぜいネオネクタールくらいのものだ。ここは強気に、毎ターン相手を全滅させられるようにコストを払えばいい」

 

ミオ「さらに『ブラスター』をスペリオルコールして、そのユニットに+10000します。

ベンデのコンボパーツが両方とも『ブラスター』名称を持っているので、呼び出すユニットはそれらが基本になるでしょう。パワーの高い『ファントム・ブラスター・ドラゴン』か、インターセプトのできる『ブラスター・ダーク』か。それらのカードが山札から尽きていても、最悪オーバロード本人もコールできるので、弾切れの心配はまずありません」

 

アリサ「こっちも強いけど、ネヴァンを引けるかでややムラは出てきそうよねー」

 

 

●『竜刻魔導士 リア・ファル』

 

アリサ「ありそうでなかった、G1のリクルート!」

 

サキ「カロンをコールすれば、消費したカウンターコストも即回復できますね。ルアードに限らず、様々なシャドウパラディンデッキで採用できそうです」

 

アリサ「逆にルアードには、リア・ファルの代わりに『ダークプライド・ドラゴン』を採用してみるのもアリかな。ルアードで重要な序盤のドロップゾーンを確保しつつ、1枚ドロー!」

 

サキ「クラレットソードもG1テーマですから、組み合わせてみるのも面白そうですね」

 

 

●『ベリアルオウル』

 

アリサ「カ、カファーさーん!?」

 

ムドウ「まあ、分からなくもない人選もとい鳥選ではあるが……」

 

ミオ「シャドウパラディンの★守護者ですね。採用の余地はあるのでしょうか」

 

ムドウ「ルアードは手札に来た『天空を舞う竜 ルアード』を処理する手段が欲しいので、完全ガードが優先されるだろうか。それどころかG2も盤面に出す機会は少ないだろうしな」

 

アリサ「やっぱり採用するならクラレットソードかな。もともとG3は4枚、★12枚になりがちなデッキだから、無理なく投入できそう。G1守護者のベーラも相性がいいから悩ましいんだけど。半々ずつ採用してもいいかも」

 

ムドウ「それ以外のシャドウパラディンでも、リアガードでアド稼ぎもドローもできるので、わざわざ引トリガーを採用する必要は無くなっている。完ガより★守護者が好きなら入れる、でいいだろう」

 

 

●『群像の魔女 アンネリン』

 

ムドウ「スーパー無敵な、スーパー美人だ。

しかも、リアガードにG1が4枚以上あれば+20000される」

 

サキ(自ターンだけ+20000じゃ、無敵とは言わないような……)

 

ムドウ「ルアードのリアガード要員に見えるが、実はヴァンガード適正も高い。

リアガードとして運用するなら、アンネリンはどう足掻いても1体しか+20000できないが、ヴァンガードとしても採用するなら……」

 

オウガ「VとR含めて、2体のアンネリンが33000で運用できる!!」

 

ムドウ「そうだ。この時点で『ザ・ダーク・ディクテイター』を軽く二回りは越えている。だからと言って今の環境に太刀打ちできるかは疑問だが、遊べることには遊べるので、かつて魔女を愛用していたファイターはメインヴァンガードとして使ってみるのも一興か」

 

アリサ「これもインフレによって誕生し、インフレに泣かされた系のカードよねー」

 

 

●『険難の賢者 デクロン』

 

ムドウ「ルアードデッキ、影の主役と言っていいだろう。

ルアードデッキは必ずと言っていいほど、前列にG1が並んだ状態でターンを終える。

それらがインターセプトを得ることができれば、毎ターン20000ガードを工面できると同義だ。

展開力が高すぎて、すぐ盤面が埋まってしまうルアードのスキルも若干無駄が無くなるし、サーチも容易なので採用枚数自体は少なくて済む。

除去だけはどうしようもないが、そもそもシャドウパラディン自体が除去には強いデッキだ。大抵の除去デッキには、ルアードの地力で勝てるだろう」

 

アリサ「そんなことより、どこぞのイエローが哀れすぎる……!!」

 

 

●たちかぜ 『帝竜 ガイアエンペラー』

 

サキ「たちかぜからは『帝竜 ガイアエンペラー』が復活です!

武装ゲージ持つユニットのパワー+5000! 相手がG3以上なら代わりに+10000します!」

 

アリサ「前回がやりすぎたからか、今回は連続攻撃じゃなくパンプに寄せてるわねー。『相手がG3以上なら~』とか安全弁まで付けられてるし」

 

サキ「さらに、アタック時に味方を1体退却させて、そのパワーを、相手がG3以上なら★まで得ます!」

 

オウガ「……味方しか食えなくなったブルブファス?」

 

サキ「う、うるさいな!」

 

アリサ「そこはブルブファスがどれだけ異次元なこと書いていたかって話にも通じるんだけどねー」

 

サキ「それにたちかぜは、犠牲になることで力を発揮するユニットもいるんだから!

特に、味方を退却させることのできるVRユニットは今回が初です!」

 

オウガ「それって凄いのか?」

 

サキ「もちろん! これまでは例えば捕食者(デスレックス)被捕食者(ブライトプス)が2枚揃わなくちゃブライトプスのスキルは使えなかったけど、ガイアエンペラーがヴァンガードにいれば、ブライトプスを引くだけで、そのスキルが使えるようになるんだよ」

 

オウガ「なるほど! デッキ全体の安定性が大きく底上げできるわけだな」

 

サキ「けど、ガイアエンペラーで最優先に食べたいのはブライトプスじゃないの。

今回追加された『連隊竜 レジオドン』に『激走竜 ブルースプリント』! この2体は、食べられたら武装ゲージのユニットをそのままスペリオルコールしてくれるの!

バトルフェイズ中に捕食すれば、そのまま連続アタックだよ!」

 

オウガ「武装ゲージのユニットは調整しにくいけど、誰が出てきても+5000~10000のパンプがかかってるから戦力にはなってくれるな」

 

ムドウ「捕食者はガイアエンペラー1体に対し、被捕食者は2体。最大アタック数を狙うなら、まだまだ『暴君 デスレックス』や『餓竜 メガレックス』は必要になってくるだろうな」

 

サキ「はい。これまでとは違って、ガイアエンペラー側に武装ゲージを乗せる能力が無いので、自身に武装ゲージを乗せつつ捕食もできるメガレックスは必須カードになると思います。

新しいカードでは『斬裂竜 テラーテリジーノ』が、デスレックスとメガレックスを併せた感じのスキルになっていて使いやすそうですよ」

 

アリサ「そっかー。ヴァンガードが武装ゲージが置けないのかー。これまでとは構築も戦い方も、まったく違った形になりそうね」

 

サキ「これまでは武装ゲージを数か所に集中させていましたけど、今回は各ユニットに満遍なく置いていくことになると思いますね。登場時やアタック時に武装ゲージを置けるユニットや、武装ゲージを毎ターン配布できる『光刃竜 ザンディロフォ』が活躍してくれそうです」

 

 

●『古代竜』

 

アリサ「たちかぜに続き、古代竜も復活……って、真!?」

 

サキ「武装がこれまでの古代竜より控えめな印象があるので、地中で眠りについて武装が強化される前の古代竜かも知れませんね」

 

アリサ「そこらへんの補完のためにもユニット設定が欲しいよねー」

 

ムドウ「むしろユニット設定が無いのなら、思わせぶりな名前にするなという話だな」

 

サキ「今回の古代竜ももちろんかっこいいんですけど、やっぱりスピノドライバーやティラノレジェンドを使ってみたかったという思いはありますね」

 

アリサ「そんな真古代竜には『ドライブチェックで前トリガーが出た時、★+1』という共通効果が。……やってることはバンドリの『Poppin'Party』とほとんど一緒!

あっちは★トリガーを前トリガー化してたけど、こっちは前トリガーを★トリガーにしてるだけ!」

 

ムドウ「ついでに『オッドパンチャー ゼルノイン』とも同じだな」

 

アリサ「真古代竜のリーダーは、一番デカい武器(自己申告)を背負っている『真古代竜 ブレドロメウス』君!

リアガードを1体退却させることで、相手を1体退却させ、山札から古代竜をリクルート!

古代竜はデッキのノーマルユニットすべてを古代竜にできるほど数がいないので、このスキルで非古代竜と古代竜を入れ替えていくことになるかな」

 

オウガ「となると、退却した時に発動するスキルを持ったユニットが相性いいってことだな」

 

サキ「そうだね。『烈爪竜 ラサレイトレックス』なら、そのままアドバンテージに繋がるし、『翼竜 スカイプテラ』はそれ1枚を延々と使いまわせるよ。ユニット3体を+3000できる『翼竜 ビームプテラ』も、アタックを当てたい古代竜では面白い選択肢かな」

 

ムドウ「前列はすべて古代竜が基本になるので、重要なのはブーストを担当するノーマルユニットのG1だろうな。G2は古代竜の8枚のみに留めておいて、G1を多めに採用すべきか。

ああ、あと前トリガーは当然12積みになるから、★守護者や引守護者を採用している余裕は無い。G1完ガも忘れずにな」

 

アリサ「他の古代竜は、サーチだのドローだのパンプだのシンプルな能力が多いから割愛するわね。

それでも全体的にアドバンテージを取れるユニットが多くて、かなりやり手な印象よ」

 

ムドウ「弱点は、ドライブ数を増やすことはできず、前トリガーをデッキトップに仕込むこともできない点だ。前トリガーがめくれるか否かは完全に運任せになる。『蒼翼』よりはマシにしても、安定性には難があるな」

 

アリサ「……ところで、ブレドロメウスよりプテラフィードの方が武装山盛りな気がするんだけど」

 

サキ「あくまで大きさを競ってるんじゃないでしょうか……」

 

 

●プリズムバード

 

アリサ「G1RRRいつものサイクルのたちかぜ版!

武装ゲージが新しく置かれていたら+5000!

簡単そうに見えるけど、それは大きなミステイク!」

 

オウガ「たちかぜなら余裕なんじゃないすか? ギガレックスはもちろん、ガイアエンペラーだって、リアガードはほとんど武装ゲージを置けるユニットになるんすよね?」

 

アリサ「じゃあ、その『プリズムバード』には、どうやって武装ゲージを置くの?」

 

オウガ「…………あ!」

 

アリサ「気付いたわね。ガイアエンペラーは武装ゲージが乗っているユニットに+10000してくれる。+5000するけど武装ゲージが置けない『プリズムバード』より、登場時に武装ゲージを置ける『烈爪竜 ラサレイトレックス』の方がよっぽど強いのよ!

それどころか、古代竜とも何一つ噛み合っていないから、今弾収録のたちかぜとはことごとく相性が悪いわ」

 

サキ「むしろ相性がいいのはギガレックスやアンガーブレーダーですね。特に制限カードであるアンガーブレーダーを不確定ながらサーチできるのは嬉しいです!」

 

 

●スパイクブラザーズ 『逸材 ライジング・ノヴァ』

 

オウガ「何だこれ!? 超カッケェ!!」

 

アリサ「ふふふ……そうでしょう、そうでしょう。

これぞスパイクが誇るカリスマ! 『逸材 ライジング・ノヴァ』よ!!

さ、そろそろオウガ君もスパイクの解説くらいできるでしょ。やってみて」

 

オウガ「うす!!

まずは登場時にフォースⅠ・Ⅱの両方を得る効果!

『デッドヒート・ブルスパイク』は、フォースを手渡すことでフォースの効率を3倍にしていたけど、今回は効果の違うフォースを組み合わせることで、単なる2倍以上の可能性を得ることができる!

スポーツにおいては、1+1=2じゃねえぜ!」

 

ムドウ「ここまででも十分常識はずれな効果だが、ライジングノヴァにとっては序の口にすぎない」

 

オウガ「もうひとつの効果は、さらに規格外!!

グレード3のリアガードを2体選び、ライジングノヴァはその能力をすべて得るぜ!!!」

 

アリサ「な、なんだってえー」

 

ムドウ「白々しいぞ」

 

オウガ「例えば『デッドヒート・ブルスパイク』のスキルを得ることで、ライジングノヴァが得たフォースⅠ・Ⅱを他のユニットに受け渡しすることができる!

ただ、それだとライジングノヴァとブルスパイクのスキルですぐにソウルが枯渇しちまうので、『将軍 ザイフリート』のスキルを併せて得れば……」

 

サキ「ソウルを補充しつつ、リアガードとしては平凡なブルスパイクやザイフリートのパワーも補うことができるわけだね!」

 

オウガ「ああ!」

 

アリサ「さすがにどのカードもVRなだけあって、組み合わせるとさらに迫力満点! 基本的にコピーするのは、その2体で決まりかな?」

 

オウガ「今弾で新たに追加されたG3も強いっすよ!

『スパイキング・サイクロン』はフォースマーカー1つにつき、パワーが5000ずつアップ! ライドするたび、フォースマーカーを2つ置くライジングノヴァとの相性は言わずもがな。

さらにアタック時にCB1でユニットを1体スタンドさせるぜ!

他のカードでソウルが十分に足りているなら、ザイフリートよりこっちでアタック回数を増やす方が有利な場面も多くなるはずだぜ!」

 

アリサ「他にはー?」

 

オウガ「『ビッグバック・ウォーロード』は、おなじみ2枚以上でしかコールできないガード制限!

スパイクの重たい一撃は、相手としても完全ガードで止めたいところなので、噛み合わせはバッチリだぜ!

インターセプトとガード値を得るスキルも持ってるので、守りに貢献してくれる点も見逃せねーな!」

 

アリサ「他にはー?」

 

オウガ「既存カードでは『バッドエンド・ドラッガー』!

スパイクのヴァンガードで★を増やすことができるのはコイツだけ! 3点から一気にフィニッシュも狙えるし、V/R兼用なのでリアガードとしても強力だぜ! ブルスパイクもいれば、ヴァンガードを含めた2ラインが実質パワー33000、★3に!

『ガンワイルド・ウルフ』は最大5枚のガード制限を狙える大技枠! G3をソウルに入れられるカードも今回で増えたし、他のスキルと併せて使えるので破壊力も増してるぜ!」

 

アリサ「他にはー?」

 

オウガ「ブ、『ブレットライナー』は、ヴァンガードもリアガードもほどよくパンプされるし、『ユナイト・アタッカー』は、何かすっげー展開できる……」

 

ムドウ「無理するな」

 

オウガ「とにかく! 今は使い道が見当たらないユニットも、今後出るカードの組み合わせ次第では思わぬ使い道ができる可能性もある!!

無限の可能性を秘めたチームの中心人物! それが『逸材 ライジング・ノヴァ』だぜ!!」

 

アリサ「はい、よくできましたー。もうあたしがいなくても大丈夫そうだね。

オウガ君はこのカードをイメージしてキャラデザされてるんだから、大切に使ってあげてね」

 

オウガ「うす!」

 

アリサ「ところで、こんなカードが出てきてしまった以上、今後登場するスパイクのVRは皆、ライジング・ノヴァに統合されちゃうわけなんだけど大丈夫かな?

絵的にも最新VRがリアガードでしか活躍しないのはマズいと思うし」

 

サキ「G4にするとか、ソウルの消費を激しくするとか、むりやり解決する手段はありますけど……」

 

アリサ「いよいよ、超越みたいにヴァンガードの上に重ねるカードが登場するのかも知れないわね。

オーバードレスとか言うタイトルも、いかにもそれっぽいし」

 

 

●『アウトサイド・ラビット』

 

アリサ「オーガやサイボーグが駆け巡るギャロウズボールの世界に突如として乱入してきたウサギさん!! マジか!?」

 

サキ「だけど、こう見えて結構なやり手です。カードの効果で登場した時、SB1することでパワー+5000しつつ後列からアタックできますよ」

 

オウガ「ザイフリートでスペリオルコールして、条件を達成しつつパワーの低さを補うのが基本っすね。

ブルスパイクも組み合わせる場合、フォースを渡すサークルがひとつ増えるのでソウルの消費も半端ないすけど、『スパイキング・サイクロン』に頼らずアタック回数を増やせるのは魅力っす」

 

アリサ「総じて、ブルスパイク・ザイフリート型における小さなフィニッシャーって感じね。

ヴァンガードのウサギって、どいつもこいつも強いよねー」

 

ムドウ「『稲葉の白兎』、『悪夢の国のマーチラビット』、『マスカレード・バニー』……」

 

アリサ「ちょっと待て! 最後のはウサギじゃない!」

 

 

●『チアガール アダレード』

 

ムドウ「美人だ」

 

アリサ「見境無しか!!」

 

ムドウ「馬鹿を言うな。女は皆美人。それだけだ」

 

アリサ「あ、ありがと……」

 

ムドウ「お前は例外だ」

 

アリサ「何でよ!?」

 

オウガ「いやー、でも面白いし、俺は好きっすよ。このカード」

 

アリサ「おお。意外な反応」

 

 

●オーダーカード『絆の光輪 ソリダルバングル』

 

アリサ「いよいよメガコロ……!!」

 

ミオ「その前にオーダーカードです」

 

アリサ「ええー!?」

 

サキ「『絆の光輪 ソリダルバングル』は、手札からG2以下をソウルに置き、山札から3枚見て、1枚を手札に加えます。

ディスアドを負うのは相変わらずですが、任意のカードでソウルを増やしつつ、手札の質をよくすることができます。

グレードが低いので、序盤から使えるのも魅力ですね」

 

ムドウ「『ソウルバレット・ルーレット』とは何だったのか……」

 

アリサ「G3も入れられたら古いカードの救済になったのにねー。ルアードやファントム・ブラスターの強化にもなっちゃうから難しいのかも知れないけど」

 

ミオ「ディスアドが重い点から、ソウルでアドを稼ぐデッキには向いていませんが、ソウル1枚でアタック回数が増えるようなデッキには向いていると言えるでしょう。

他には、特定のユニットにライドしたいデッキ、特定のユニットを序盤からコールしたいデッキですね。

特にシャドウパラディンでは、1ターン目にネヴァンをコールできる可能性を高めつつ、ドロップゾーンのG1を増やすことができます。

ネヴァンさえコールできるのであれば、1枚の損失も気になりませんからね」

 

アリサ「またネヴァンか!!!」

 

 

●メガコロニー 『百害女王 ダークフェイス・グレドーラ』

 

アリサ「メガコロニーを統べる女王陛下が、早くもスタンダードに御光来!!

こんな時くらい息子に順番を譲ってあげて、陛下!!」

 

ムドウ「意外だな。てっきり『女王陛下万歳!』とか騒ぎ立てるかと思ったが」

 

アリサ「いやー、そりゃもちろん嬉しいけどね。

超越環境の約4年間ずっと使い続けた無印ダークフェイスの方がやっぱり愛着があると言うか、皆がヤスイエだのシャルハロートだの言ってる中、自分だけグレドーラなのは何か違う! ぶっちゃけ、皆が羨ましい!

もちろん女王陛下も好きよ? 大好きなのよ? 自分の全てを捧げてもいいほどには忠誠を誓ってるのよ?

けど、単純な『好き』と『敬愛』って、どこか違うのよ!」

 

ムドウ「わかるようでわからん」

 

アリサ「いいの。ダークフェイスを使い続けたメガコロ使いの皆にだけ分かってもらえれば。

おかげでまたダークフェイスはスリーブ化を逃すし。女王陛下スリーブは、もう持ってるの!」

 

ミオ「そんなグレドーラ率いるメガコロニーは、新たなマーカーを扱います」

 

アリサ「その名も『暗黒繭』マーカー!!

これまでのマーカーは味方に乗せるものばかりだったけど、このマーカーは相手に乗せるの!

暗黒繭を乗せられたユニットは、

元々のパワーが0になり! 全ての能力を失い! ブーストもインターセプトもできなくなる!

さらに暗黒繭を乗せられたユニットが退却した時、同じグレードのユニットを山札から1枚手札に加えることができる!

死体の腹を食い破って、愛しき我が子が『ピギーッ!』って誕生するイメージね」

 

オウガ「ギャーッ!!」

 

アリサ「死体も残さず焼き尽くすなるかみすら裸足で逃げ出す、ヴァンガード屈指のグロスキルだけど、バミューダ△やバンドリ勢に使って怒られないかしら、これ?」

 

ムドウ「オーダーカードも取ってこれるが?」

 

オウガ「繭から本が!!」

 

アリサ「そんな妨害とアド取りを兼ね備えた暗黒繭を、CB1で2つも配布するのが女王陛下!!

爆アドは約束されたようもの……なんだけど、それも相手依存なのがいつものメガコロニー。

ここからは、あえて暗黒繭の弱点を解説していくよ」

 

オウガ「こんなスキルに弱点なんてあるんすか?」

 

アリサ「それが結構あるのよねー。まず、繭に包まれたユニットは、スタンドはもちろん、移動やアタックは普通にできる!」

 

オウガ「意外とフットワークが軽い!?」

 

アリサ「繭に包まれたままで、一番できない行動だと思うんだけどねー。まあ、そこはルールなので仕方ない!」

 

ムドウ「マユルドのたいあたり」

 

アリサ「例えばガイアエンペラーがグレドーラと対戦していたとして、ガイア側は前列だけにユニットを展開して総アタック。

次のグレドーラは前列ユニット全てに暗黒繭を置くとする。

次のガイアは全ての繭を後列に下げて、再び前列全てにユニットを展開。

唯一、繭の乗ったアクセルサークルは移動こそできないけど、アクセルサークルとガイアのパンプでパワー15000はあるから、普通にアタックは届くのよね。

こうなったら、グレドーラ側はまず耐えられないよ。何故なら、グレドーラはアド取りを繭の破壊に依存してるから!」

 

サキ「アクセル側が多少加減することになっても、繭さえ割らないように気を付ければ、十分射程圏内というわけですね」

 

オウガ「ふーむ。移動とアタックができるだけで、結構、打てる手はあるんすねー」

 

アリサ「そ。だから、基本的に繭を繭のまま放置しておくのはナンセーンス! 繭に包んで無力化したと過信せずに、こっちから積極的に割っていきましょ。

とは言え、さすがにアタックで割るのはもったいないからスキルを活用してね。繭を割るスキルについては後で紹介するから、次はグレドーラ第2のスキルを見ていくわよ」

 

サキ「アタック時、ユニット1体退却をコストに、山札からG3をスペリオルコールして、そのユニットと自身のパワーを+10000するスキルですね。罪魁女帝のスキルを、より洗練させた感じです!」

 

アリサ「さて、このユニットで呼んでくるG3は何がいいでしょう?」

 

オウガ「当然、パワーの高いユニットだぜ! 『無双剣鬼 サイクロマトゥース』とかどうっすか?」

 

アリサ「ブッブー。まだまだスパイク以外は甘いわね。このスキルで連れてくるユニットは『強毒怪人 ヘルデマイズ』ほぼ一択よ!

登場時にユニットをスタンドさせる地味な能力の持ち主だけど、そのタイミングがバトルフェイズになると話は違う!

もう片方のリアガードもスタンドさせて、メガコロらしからぬ5連続アタック!!」

 

ムドウ「手札に来ても『小隊長 バタフライ・オフィサー』の補助になり、相手を強制的にレストさせるスキルは『新星怪人 リトルドルカス』らの補助になる。

後列のスタンド封じは、暗黒繭に包めなかったユニットを無力化する保険の役割を果たしてくれる。

小粒なはずのスキルが、何かとグレドーラの動きと噛み合っているな」

 

アリサ「本当、何なのかしら、このおっさん。息子よりよっぽど女王陛下に愛されてるんだけど」

 

サキ「ダークフェイスのスキルを、ヘルデマイズの発展形にして欲しかったですよねー」

 

アリサ「ヘルデマイズ以外に呼ぶ価値があるとすれば、スタンダードに入ってから不動のフィニッシャーとなった『デスワーデン・アントリオン』ね。

女王陛下のスキルで+10000されるから、最低でも32000の守護者封じ。

それどころかコンボパーツが暗黒繭で揃えやすくなってるから、『ファントム・ブラック』もピン挿しでOK!

★2+守護者封じ+ノーマルユニット封じによる一点突破は、さすがにヘルデマイズではマネできない!!」

 

サキ「アントリオンはまだまだ現役ですか」

 

アリサ「ちなみに、オウガ君の挙げた『無双剣鬼 サイクロマトゥース』は、ヘルデマイズでスタンドさせる側として、既存カードでは筆頭候補よ。

サイクロマトゥースのスキルはパンプも★もターン中持続するわ。それどころかターン1回の制限すら無いから、パワー22000、★2でアタック。スタンドさせて、パワー32000、★3で再アタックなんて夢まで見れちゃう!」

 

ムドウ「とんだロマンチストだな」

 

アリサ「それ以外では、どうしても次善策にはなってしまうけれども、メガコロはヒット時能力持ちが多いから、それらをスタンドさせればプレッシャーになるわ。

特に『ブラッディ・ヘラクレス』は、自身をスタンドさせてもよし。スタンドさせたいユニットをパンプさせてもよしの芸達者!」

 

ミオ「では、そろそろまとめに入りましょう」

 

アリサ「妨害というメガコロらしい武器を軸に、アド+連続攻撃という、現環境での必須要素を備えた安定のエース!!

1年後、これを越えるメガコロって出てくるの? インフレに潰される女王陛下も嫌だけど!

次こそはアルキデスがVRになって欲しいなあと思いつつ、コレオのような抜群にカッコいい新規VRもそろそろ見たい。

あーもう、やっぱりメガコロは最っ高っ!!!」

 

 

●『威圧怪人 ダークフェイス』

 

ムドウ「そして、母親にVRの座を奪われた哀れな息子だ」

 

アリサ「それどころかRRRですらない!」

 

ムドウ「できることは2つ。

1つは手札を1枚捨てての暗黒繭の付与。

1つはアタック時に暗黒繭を破壊し、そのグレードに応じたパンプだ。それぞれコストも重く、繭を破壊して得たカードを使えるのは相手ターンを経由してからになるため、効率面には欠ける印象だが」

 

アリサ「繭を作れるユニットも、繭を破壊できるユニットもたくさんいるけど、その動きを単体で完結させているのはコイツだけ! その点は、陛下すら上回ってるわね」

 

ムドウ「グレドーラで使う場合は、ヘルデマイズでスタンドさせるポジションになるだろう。

サイクロマトゥースのようにパンプが持続しない点は惜しいが、1ターン1回制限は無いので、コストに余裕があればグレドーラの暗黒繭をすべて処理しつつ、高パワーで連続攻撃することができる」

 

アリサ「陛下と相性がいいのはもちろんだけど、他の軸のサブヴァンガードとしても優秀よ。

特にコレオなら、相手のリアガードにG3がいればという条件付きではあるけど、次のコレオをサーチする手段としても使えちゃう!

あと、暗黒繭を使う場合はデッキにG1完ガを入れておいた方がいいよ」

 

ムドウ「相手ターンを経由しないと使えないのなら、相手ターンで使えるカードを仕込んでおけばいいという理屈だな」

 

アリサ「それもあるけど、相手からG1暗黒繭を壊す時っていうのは『相手に10000ガードを取られても問題無い』と判断した時が多くなるはずなの。

その計算を崩すのが完全ガードというわけ。要は計算を崩せればいいわけだから、引トリガーを減らしたくない場合は、『強酸怪人 ゲルドスラッグ』や『カルマ・クイーン』でも十分よ」

 

ムドウ「完全ガードは基本すぎて、相手としても想定しやすいだろうしな」

 

●『マシニング・メテオバレット』

 

アリサ「あまりにもあんまりなポンコツマシニング『マシニング・オーナメンタル』から1年、マシニング開発局がRRRの開発予算を得て送る新型マシニング!!

汚名挽回(誤用)なるか!?」

 

サキ「まずはリアガードが5枚以上なら、全マシニングにブーストを与える能力です」

 

アリサ「スターグビートルさえ引いて入れば、マシニングは盤面を埋めること自体は簡単。むしろ、本体がG3なうえ、展開力がありすぎるせいで、G2以上が盤面に3体以上いるとか無駄の多い盤面にもなりやすかったから、この能力はマシニングに噛み合っている印象ね。やるじゃん!」

 

サキ「もうひとつはマシニングを1体レストすることで、そのターンこのユニットのパワー+10000する能力です」

 

アリサ「問題はこっちよねー。相変わらずスパークヘラクレスのスキルが使える前提でデザインされてるけど、スパークヘラクレスは相手を弱体化させる都合上、自分のCBが貯まらないことがあるし、フォースⅡや乱発されてる★持ちのヴァンガードのおかげで3点、4点止めも怖い。

決して、毎ターン安定して使えるスキルじゃないから、その隙をどうにかしてくれるユニットが欲しかったっていうのは前に言ったんだけど」

 

ムドウ「だが、この1年で環境はより高速化してきている。スパークヘラクレスと言えど、ライドしてから3ターン以上生き残ることは稀ではないか?

4点止めはどうにもならんが、ライド時に1度、次のターンに1度、何らかでCCしてさらに次のターンでもう1度使えれば、十分という気もするがな。

そして、その3ターンの間に相手を仕留めきるパワーはメテオバレットでもらえている」

 

アリサ「確かにねー。マシニングの地力を考えれば、リアガードは毎ターンスカルドラゴン級のパワーで殴ることはできるようになったのよ。ようやく旋律には追いついた感じかな。★無いけど。

とまあ、マシニングにとってはぼちぼち強化止まりのメテオバレットだけど、その魅力はむしろマシニング外で発揮されるわ。

このユニット最大の注目点は、マンティス&ホーネット&リトルドルカスでサーチできるブースト要員という点よ!」

 

ムドウ「なるほどな。ただでさえメガコロニーは採用できるG1の枚数が少なくなるうえに、ホーネットやミリピードなど、盤面から消えるG1も多かったのでブースト要員に悩まされていたが、これを投入すればG3とブースト要員を併せて増やせるというわけか」

 

アリサ「そう! マンティスもブースト要員にできたり、マンティスやホーネットをレストして22000にできたり、今なお現役の初期マシニングと自然に連携できる点も大きな魅力よ。

CBやSBを使わず単体22000で殴れる点は、グレドーラ軸のヘルデマイズでスタンドさせるユニットとしてもベターな選択肢!

マシニングのみならず、コレオ軸や、グレドーラ軸にだって採用できる汎用決戦兵器!

それが『マシニング・メテオバレット』よ」

 

 

●『鹵獲怪人 スティッキーボーラス』

 

アリサ「ダークフェイスと暗黒繭を強力にサポートする1枚よ!

まずはCB1で山札から6枚見て、『ダークフェイス』を含む別名カードを2枚までサーチ!」

 

オウガ「『ダークフェイス』限定になった代わりに、2アドを稼げるようになったマンティスだな!」

 

アリサ「そうね。単体ではちょっと頼りないダークフェイスだけど、こんなカードがあるなら話は別! 爆発力に特化したサイクロマトゥースか、アド稼ぎに長けたダークフェイスか悩ましいわね。

もちろん『ダークフェイス』は今後も増え続ける可能性があるので、将来性もあるわ。まずはアルキデスに期待かな」

 

オウガ「もうひとつの能力は、アタック時にSB1することで、暗黒繭の数だけ+6000! パワーが20000を越えたら1枚ドローもできるぜ!」

 

アリサ「グレドーラとはもちろん相性抜群! 単体でパワー21000は簡単に狙えるから、ヘルデマイズでスタンドさせればドローも2倍!

パワーはちょっと物足りないから、何らかであと+6000はしてあげたいところね」

 

サキ「暗黒繭を足してもいいですけど、メガコロニーにはリアガードをパンプしてあげられるユニットも多いですね」

 

アリサ「グレドーラと一緒に紹介した『小隊長 バタフライ・オフィサー』や『ブラッディ・ヘラクレス』はもちろん、CCと6000パンプを同時にこなせる『スパイトフル・ホッパー』も相性は抜群!

ホッパーを採用する場合、ソウルの消費が激しくなるので、別途ソウルチャージの手段を用意しておくか、ソウルを全消費する1発きりの大技と割り切って考える必要はあるかもね」

 

サキ「暗黒繭が無くても、11000以上のブーストをしてあげるか、6000パンプをして5000以上のブーストしてあげるかさえすればドローはできるので、グレドーラ軸以外でも採用できそうですね」

 

アリサ「そうよねー。サーチ能力は最悪無視してもいいし、ダークフェイスならどんなデッキにも採用できる汎用性があるから、それを入れてもいい。

パンプは前述した通りだけど、高パワーのブーストは、今弾にはメテオバレットや、リトルドルカス。過去弾にも『ブローニィ・ジャーク』やら『砲塔怪人 タワーホーン』やら『フラワリィ・ティアラー』やら粒揃い

特にマシニングで採用する場合は、適当にブーストしてあげるだけで20000は余裕で越えるので相性がよさそうね」

 

 

●『新生怪人 リトルドルカス』

 

アリサ「G1RRRサイクルのメガコロ版! おかえり、リトルドルカス!! ……なんだけど、正直微妙」

 

ムドウ「ほう? 何故だ」

 

アリサ「まず、G3サーチはメガコロでは飽和状態っていう点。同じG1にも、ライドしたらアドになり、ソウルインもできるホーネットがいるし、アドも稼がずにデッキ内のG3を減らしちゃうリトルドルカスは、マンティスやスティッキーボーラスからしたらジャマなのよね。

ただ、メガコロにG3サーチが多いってことは、それだけメガコロには重要なG3が多いってことだから、こっちはまだいいのよ。

問題は、+5000のほう」

 

サキ「相手ユニットがすべてレストしていたら+5000。メガコロニーではおなじみの、大抵の場合は満たされている簡単な条件ですよね?」

 

アリサ「大抵の場合は条件が満たされている? 本当にそうかしら。

ちょっと暗黒繭を置かれた時のことを想像してみて。特にグレドーラの項で説明した、暗黒繭の対処の仕方を踏まえてね」

 

サキ「えっと……暗黒繭を自分から割ってしまうとアド損なので、ひとまず暗黒繭は後ろへ移動させて……あっ!?」

 

アリサ「気付いた? アタックしてもパワー0、ブーストもできない暗黒繭はスタンドしたまま放置される可能性が高いのよ!

リトルドルカスなのに、暗黒繭を操る『ダークフェイス』と相性最悪なのはどういうこと!?

それを差し引いても、13000ブーストは強力すぎるから、これが2体も3体も並んでいると、相手としてはユニットを1体スタンドで置いておきたくなっちゃう。最近は単体で十分なパワーを出せるユニットも多いしね。

『ドロップゾーン5枚』とか『G3がいる時』とか、どんなデッキでも当たり前のように条件を満たせるユニットが多いこのサイクルで、相手のさじ加減ひとつで条件が達成できなくなるのは正直辛い!

せめて、暗躍と同じ条件にしてくれたり、相手のドロップが5枚以上とか言ってくれればよかったのに……」

 

サキ「プリズムバードといい、デスロア勢の同サイクルは使いにくかったり、VRと相性悪かったりするの多いですよね」

 

オウガ「そう言えば『アクロバット・ベルディ』も、ライジング・ノヴァ単体では満たせない条件だよな」

 

アリサ「そもそもこのサイクル自体が、前にも言ったけど、クランによって差が出やすいのよね。

G3サーチの手段が少なく、永続的に高パワーでブーストできるユニットもいなかったシャドパラやなるかみにとっては、そりゃあRRRでしょうけど、どっちも足りてるメガコロじゃせいぜいRRレベルなのよ。

とまあ、色々ケチはつけたけど、サーチと高いパワーでデッキの安定性を高めてくれるカードであることはおおむね間違いないわ。

手放しにフル投入できるカードでは無いけれど、空いたスペースに1~2枚滑り込ませるには十分じゃないかしら。

ただ、相手を強制的にレストさせられるマシニングなら、迷うことなく全力投入よ!」

 

 

●『マシニング・スキャッターホーン』

 

アリサ「3世代型マシニングの2号機! RRRのメテオバレットは良機体と呼ぶに相応しいマシンだったけど、RRのコイツはいかに?」

 

サキ「手札から登場した時――」

 

アリサ「待って。マシニングなのに、何で手札からとか言ってんの?」

 

サキ「第一声でケチつけられた!?」

 

アリサ「マシニングなら、ライドして1回、スターグビートルで射出して1回、合計2回スキル使わせてこそでしょ? おいそれと2回使わせるわけにはいかない強力なスキルなんでしょうね。

続けて」

 

サキ「は、はい。手札から登場した時、山札の上から6枚見て、その中からグレード2以外の『マシニング』を手札に加え、手札に加えたら、手札から1枚ソウルに置きます」

 

アリサ「……別に2回使わせてもよくない? グレード2以外とか書いて、明らかに連続使用を警戒してるけど、むしろ数撃ってナンボでしょ、この程度のスキル!」

 

ムドウ「奇しくも本人が同じことを言っているな」

 

サキ「ソウルブラストと、マシニングを1体レストすることでスタンド封じもできますが……」

 

アリサ「これまで頑なにスタンダードで起動能力のスタンド封じを出してこなかったのに、いきなり!?

マシニングはスタンド封じ。ノーマルのメガコロはそれ以外での妨害と住み分けするつもりかな?

ま、ギガパラライズでもない、インターセプト封じすらない、単なるスタンド封じにソウルを使う価値はあまり無いわね。

マシニングでソウルを使うなら、スティッキーボーラスで1枚引いた方がよっぽど有意義な気がするわ」

 

ムドウ「ドローは正義だからな」

 

アリサ「メガコロは悪だけどね」

 

ミオ「比較的容易にソウルチャージできるユニットなので、他のマシニングと一緒にソウルチャージ要員として、コレオ軸やグレドーラ軸に入れてみるのは面白いかも知れません。

特にメテオバレットやスターグビートルと共に採用すれば、G3をソウルチャージすることもできます」

 

サキ「コレオとアントリオンのコンボを手軽に狙うことができるようになるわけですね」

 

 

●『鋏弾怪人 ボムシザー』

 

ミオ「メガコロニーの★守護者です。

プロテクトという点は相性がいいものの、手札にG3が飽和しやすいメガコロニーでは相性が悪いというのが、★守護者登場時の、アリサさんの評価でした」

 

アリサ「そこらへん、メテオバレットの登場で少し変わった感じかなー。前列にも後列にもG3を置けるようになった分、手札にG3が余りにくくなったのよ。

メテオバレットを投入したマシニングやコレオ軸なら採用する価値はあるかな。むしろボムシザーを採用するために、メテオバレットを入れたいぐらい」

 

サキ「★守護者、強いですもんね」

 

アリサ「グレドーラ軸だけは微妙かな。スティッキーボーラスのおかげでG3は増えやすいし、特にヘルデマイズは、引いてしまったら特別な状況を除いてリアガードにも出したくない貧弱ユニット。

これらのG3はプロテクトだけじゃ処理しきれない可能性があるし、引守護者を優先したいかも」

 

 

●『滅槍怪人 ドヴェスピード』

 

アリサ「1年前とは比較にならないほど高速化する環境に適応するかのようにして現れた、新たなるデッキデスの刺客!

消費はCB1にして、削れるデッキは2枚!」

 

サキ「肝心の効果は、相手の山札から2枚ドロップゾーンに置き、1枚でもグレード1以上のカードが置かれたらドヴェスピードのアタックは2枚以上のカードでしかガードできない制限がつきます」

 

アリサ「このガード制限もコレオと相性抜群! 相手をダメージ4~5まで追い詰めればコレオは強かったけど、全体的にパワーが低めだから、そこまで辿りつくのも一苦労。

その点、ドヴェスピードなら相手がガードを嫌がるので、ダメージをしっかり与えていける。

いざコレオの起動スキルを使用した段階でも相性がよくて、例えG3がドロップされても無駄にはならない!」

 

サキ「メガコロニーにはG2にも同様のガード制限が可能な『盛装怪人 アルゴビルバグ』もいるので、併用するのも面白そうですね」

 

ムドウ「これまでデッキデスにはソウルを消費するカードが多く、ソウルの数までしかデッキを削れない傾向にあったが、これならばその心配も無いな。実際は書いてある数値以上に、相手のデッキを削れるようになったのだろう」

 

オウガ「けど確率が低いとは言え、この効果はギャンブル効果っしょ? 肝心な時にハズしたら……」

 

アリサ「それって、相手のデッキからトリガーを2枚抜きだしたってことでしょ? そんな効果があるなら、そっちの方が欲しいわ」

 

オウガ「ああー、なるほど」

 

アリサ「じわじわとデッキを破壊するにしても、ガード制限で相手を封殺するにしても、コレオのやりたい動きをやらせてくれる良質サポート!

これからもよろしくね、『真魔銃鬼 ガンニングコレオ(あいぼう)』!!」

 

 

●『旋律怪人 ネルニムファ』

 

サキ「暗黒繭がある時にパワー+6000されるシンプルな効果と、味方のスキルで退却した際に暗黒繭を生成するユニットです」

 

アリサ「ちなみに、味方を退却できるメガコロのユニットは、現状グレドーラのみ! 実質、グレドーラ専用カードかな。

グレドーラなら安いコストで暗黒繭を追加することができるわよ」

 

ミオ「採用するかどうかは、3枚目の暗黒繭にどれほどの価値を見出すかですね。

相手が展開力の高いデッキであれば、暗黒繭はいくらあっても困りませんが、ナイトローゼのように全くユニットを残さないデッキもありますし」

 

オウガ「対戦相手によってムラが出てきちまうってことっすね」

 

アリサ「グレドーラが2枚も暗黒繭を生成してくれるのはもちろんだけど、ヘルデマイズもリアガードを1体抑えてくれることを考えると、オーバーキル感が少しあるかな。

相手がグレドーラと見るだけで展開を控えてくる人もいるだろうし。

メガコロのG2は粒揃いだし、大会で使うなら、採用は環境をよく見てってところかな。

ネオネクやロイパラみたいな、盤面を埋めることが大前提みたいなデッキにはかなり効くはずだしね」

 

 

●『擾乱怪人 モルシロロ』

 

アリサ「自分を退却させるだけで、暗黒繭の乗ったユニットを退却させ、暗黒繭の効果とは別に、破壊したユニットと同じグレードのユニットをスペリオルコール!! マジか!?」

 

オウガ「その場でスペリオルコールするという違いはあるものの、暗黒繭の破壊報酬が倍になる効果と見てよさそうだな!」

 

アリサ「ダークフェイスと違って、繭でサーチしたカードを即使えるのも偉いわね。G1を破壊すれば、次のモルシロロも持ってこれるし。同名含めて1ターン1回制限はついているけれど、毎ターン安定して使えるだけで十分すぎるわ」

 

サキ「『ブローニィ・ジャーク』を2枚サーチして、2枚ハンデスするのも強そうです」

 

アリサ「相手依存だろうと万能サーチがヤバいのは、どこぞのウルフな御大将が証明済み! グレドーラ軸なら採用しない理由が無い!」

 

 

●『クリヤード・ブリーズ』

 

アリサ「シンプルな手札交換ユニット……なんだけど、G3を捨てるだけで何故か暗黒繭が!」

 

サキ「メガコロニーなら捨てるG3には困りませんしね」

 

アリサ「グレドーラ以外で暗黒繭を使いたい場合は筆頭候補かな?」

 

ムドウ「コストを払わない除去という点にも注目だな。手札にG3さえあれば、先行ネヴァンすら止められるぞ」

 

 

●『寸断怪人 キルトラーシュ』

 

アリサ「ヴァンガード限定のスキルで! ギフトすら無く! CB2使って! ヴァンガードである自身をレストして!!

ここまでやって、できることが相手リアガード全員のスタンド封じだけて!

せめて相手のヴァンガードもスタンド封じできてトントンでしょ!?

ヴァンガード史上最弱のヴァンガードすらあるわよ!?」

 

ムドウ「しかしメガコロニーには『マシニング・オーナメンタル』という、さらなる最弱候補が」

 

アリサ「そうだった!!」

 

ムドウ「スキルが弱ければ、使わなければいいだけの話だしな。

ギフト無しの実質バニラなキルトラーシュ。ギフトはあるがすべてのリアガードを強制でレストするオーナメンタル。

お前はどちらを選ぶ?」

 

アリサ「どっちも嫌ぁ!!」

 

 

●『乱打怪人 オルドジュエル』

 

アリサ「なんでまた12000バニラ!? ★2バニラや、15000ガードG2とかなら、普通に欲しかったのに!」

 

 

●『断頭怪人 クリムゾンカッター』

 

アリサ「何でその見た目と名前とフレーバーで、上がるのはガード値なの!?」

 

ムドウ「暗黒繭は、相手のバトルフェイズまで残っている保証は無いしな。ガード値の高くなるG2は欲しかったところだが、これはさすがに使いにくすぎる」

 

アリサ「コストまで払うなら、せめて選択したユニットを退却させて欲しかったなー。そしたら、守りの要として活躍してくれただろうにねー」

 

 

●『クラッグアーム・クラッシャー』

 

アリサ「コンセプトは分かるけど、モルシロロと比較すると悲しくなるわね」

 

ムドウ「そのモルシロロをなりふり構わずサーチするためのカードとも取れなくもないが。厳しいか」

 

 

●『タービュラント・シグナル』

 

アリサ「前回のテーマであるデッキデスと、今回のテーマである暗黒繭を混ぜたらこうなった!!」

 

サキ「CB1と自身の退却をコストに、相手の山札の上から1枚をドロップゾーンに置き、そのグレードの数だけ暗黒繭を生成します!

運が悪ければアド損しただけ。運がよければグレドーラすら凌駕する効率で暗黒繭をばらまくのは、まさしくギャンブルと言えるかも知れません」

 

アリサ「ああー! 使ってみたいー! 絶対に楽しそうー!」

 

ムドウ「そして、使ってみて後悔するタイプのカードだな」

 

オウガ「けど、G2が落ちるだけでもほぼグレドーラ相当! 悪くないカードなんじゃないかと俺は見てるぜ!

パワーは及第点の8000あるし、スキルは起動能力でいつでも発動できる。本当に賭け(ギャンブル)が必要な時まで、通常のG1ユニットとして仕事してくれるのは好印象だぜ」

 

 

●終

 

ミオ「本日は皆さんにお知らせがあります。アリサさんがカードファイト部を引退されるとともに、今回をもって『えくすとら』も卒業します」

 

サキ「お疲れ様でした、アリサさん! これ、皆で買った花束です」

 

アリサ「えっ? あ、ありがと。ユキの時はこんなことしなかったのに……」

 

ミオ「あの時は私もこういうことには慣れていませんでしたから。これはオウガさんの発案ですよ」

 

オウガ「部長! いえ、アリサ先輩!! これまでお世話になりました!!」

 

アリサ「オウガ君……。もう、泣かせないでよ……」

 

ムドウ(じーっ……)

 

こっきゅん(じーっ……)

 

アリサ「あいつらが見てるんだから!!」

 

オウガ「すんません!」

 

アリサ「くっ。こいつらにだけは、こんな顔、見られたくなかったのに……」

 

オウガ「ていうか、こっきゅんいつの間に……」

 

こっきゅん「別れと死は同義。死あるところに我あり。別れあるところに我あり。さらばだ、天道アリサ」

 

アリサ「不吉なこと言うな!」

 

ミオ「では、読者のみなさんにも最後の挨拶をどうぞ」

 

アリサ「この流れで!?

……えっとぉ。1年半もの間、あたしのメガコロウンチクに付き合ってくれてありがとうございました。

あたしはここで卒業だけど、根絶少女はまだまだ折り返し地点。

これからも応援よろしくお願いします。

なんて、らしくなかったかな?

それじゃ、まったねー。

今度は皆とカードショップで会えたらいいな」




えくすとら、2度目のメガコロ回です。
今回もメガコロマシマシでお送りさせて頂きました。

デッキログでは、私の全メガコロデッキを公開してみたいと思います。
まだまだ調整途上で恥ずかしいですが、メガコロに興味ある方は参考にして頂ければ幸いです。

【デッキログ】
グレドーラ軸:QAWG
コレオ軸:5QKY
マシニング:6ZUJ


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Ex.33「蒼騎天嵐」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
ロボットに興味は無いが、機械いじりは得意。

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
スーパーロボット派。そもそもアニメはあまり見ないが、熱いストーリーならだいたい気に入りそう。

・藤村サキ
臆病で気の弱いメガネっ娘。深い知識を持つ高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」
スーパーロボット派……と言うより、敵方の巨大怪獣とかに惹かれる。

・清水セイジ
驚異的なプレイング速度で対戦相手を翻弄する、最速のファイター。高校2年生。
使用クランは「アクアフォース」
リアルロボット派。宇宙空間における艦隊戦を大真面目に研究している。


●序

 

オウガ「発売延期の荒波を乗り越えて! ついに発売『蒼騎天嵐』!!」

 

サキ「本編とえくすとらが並ぶ状況は地味に大変だったので、作者は助かったらしいけどね!」

 

ミオ「そんな『蒼騎天嵐』の収録クランは、アクアフォース、ノヴァグラップラー、グレートネイチャー、ぬばたまです」

 

オウガ「今回も収録クランに相応しいゲストを呼んでるぜ!」

 

ミオ「根絶少女本編におけるアクアフォース使い。最強チーム、天海学園の先鋒を務め、アリサさんと激戦を繰り広げた、清水セイジさんです」

 

セイジ「紹介に預かった清水セイジである! 本日はよろしくお願いする!!」

 

サキ「はわわ……アラシさんに続いて、セイジさんまでえくすとらに。緊張するよ……」

 

セイジ「そう固くなる必要はない。この場においては、お互いヴァンガードを愛するいちファイターにすぎないのだから」

 

サキ「セイジさん……」

 

オウガ「おお。アラシと違って、礼儀正しいし、紳士だ」

 

セイジ「あいつは一足先にえくすとらに出演していたのだったな。迷惑をかけた」

 

ミオ「それでは、そろそろカード解説をはじめましょうか」

 

セイジ「心得た」

 

 

●アクアフォース 『嵐を越える者 サヴァス』 『天羅水将 ランブロス』

 

サキ「それでは、さっそくアクアフォースから! セイジさん、お願いします!」

 

セイジ「サヴァスとランブロスは共に超越環境初期から登場し、末期まで活躍した強力な人気ユニットだ。今回も再登場にあたって、当時の活躍を再現できるような調整が成されている。

まず、サヴァスはレストしているリアガードが3枚以上いる場合、手札を1枚捨てることで、山札からランブロスにライドすることができる。その際、パワー+10000、ドライブ+1されるので、当時の超越と全く同じパラメータになるのがにくい演出だな。

サヴァスは自身がリアガードを1体レストしつつ、1体を除去できるスキルを持つので、他に用意すべきレスト要員は2体でいい。

今弾では、リアガードでもスキルを使えるサヴァスの他、『ケルピーライダー ニッキー』、『ケルピーライダー デニス』、『勇戦の水将 アギアス』がいる。

これだけいれば、3体レストの条件を満たせないことは少ないだろうが、1ターンに1回しかスキルを使えないデニスや、コストの重いアギアスなど、クセのあるユニットも多い。

このメンバーで不安な場合は、過去の弾から『逆浪の水将 タナシス』や『発光信号のペンギン兵』を採用してみるといいだろう。

そうしてめでたく超越することのできたランブロスは、登場時にレストしたユニットをすべてスタンドし、アタックした時、同じ縦列のユニット2体をスタンドさせ、相手がG3以上ならさらにパワー+5000する!

……元祖と比較すると、2段階くらい迫力が落ちているような気もするが、さすがに今の環境で完全再現は不可能だったのだろうな。

ターンエンド時には、ランブロスはサヴァスに戻り、サヴァスのギフトを再びゲットできる。

総じて、一度追いつめられると立て直しの効かない弱点はあるが、ひとたび波に乗れば相手を圧倒できる、実にアクアフォースらしいユニットと言えるだろう!

以上!!

参考になったかな?」

 

オウガ「ひとりで全部解説するなよ!?」

 

セイジ「すまぬ!!」

 

 

●『ドリフティング・フローフェンサー』 『翠緑の宝杖 エルビダ』 『バブルボール・コーパラル』 『ラジエート・アサルト』

 

ミオ「他の人にも解説を譲ってあげてくださいね」

 

セイジ「承知した!」

 

サキ(高校生ナンバーワンファイターが叱られてる……)

 

ミオ「気を取り直して次のカードにいきましょう」

 

サキ「は、はい! 前回に引き続き、今回もメイルストロームは強化をもらえています。名指ししているカードだけでも、充実の4枚!」

 

オウガ「今回はグローリーではないメイルストロームに焦点を当てているみたいだな」

 

セイジ「メイルストロームの弱点は、初動の遅さにあったからな。『蒼嵐覇竜 グローリー・メイルストローム』は、ソウルに『メイルストローム』が無ければフィニッシャーとしての力を発揮しないし、『蒼嵐竜 メイルストローム』は、相手からしてみれば比較的対処のし易いユニットでもあった。

だが、そのメイルストロームさえ対処のしようがないほど強くなれば、メイルストローム⇒グローリーと、自然に繋ぎ易くなる。グローリーのフィニッシャー適正は今でもトップクラスだからな。

理にかなった強化と言えるだろう」

 

サキ「一番の注目は何と言っても『翠緑の宝杖 エルビダ』と『ラジエート・アサルト』ですね!

それぞれの持つ『ヒットした時の効果はヒットしていないくても発動する』効果のおかげで、3、4回目のアタックやブーストに参加させるだけで、メイルストロームが確定でスタンドします!」

 

オウガ「かなりヤケクソな強化だな!?」

 

セイジ「『ブレスストリーム・ドラゴン』であらかじめドライブ数を増やしておけば、トリプルドライブによる2回攻撃が可能になる。

もちろんブレスストリームが複数体いれば、ダブルクアドラプルドライブ、ダブルクインテットドライブも不可能ではない」

 

サキ「そこまでできれば、グローリーより強そうです……」

 

セイジ「これらのカードはメイルストローム本体のサポートのようにも見えるが、メイルストロームのサポートユニットにも、ヒット時に発動するスキルが多い。今弾の『バブルボール・コーパラル』や、前弾の『アナライズ・シューター』がそれにあたるな。

メイルストロームのついでに、それらのスキルも発動できるように動くのがベストだ」

 

ミオ「残る『ドリフティング・フローフェンサー』は、登場時の不確定サーチと、4回目以降のアタックでに高いパワーを発揮する、シンプルに強力なユニットです。蒼嵐デッキの総合力を底上げしてくれるカードとなるでしょう」

 

 

●ノヴァグラップラー 『メッチャバトラー ビクトール』

 

サキ「ノヴァグラップラーからはもちろん『メッチャバトラー ビクトール』が再登場です!」

 

ミオ「まずは登場時に山札の上から7枚見て、『メチャバトラー』を1枚スペリオルコールします」

 

サキ「もうひとつのスキルは、アタックした時にSB1&SB1でリアガードを1体スタンドさせ、そのリアガードが2回以上スタンドしているなら、ドライブ+1されます!」

 

オウガ「……うーん。何体もスタンドさせたり、大量展開したりしてる他のアクセル産VRと比べると地味じゃないか?」

 

セイジ「そうとも言い切れんぞ。ノヴァはリアガード重視のクラン。強力なリアガードを何度もアタックさせることで真価を発揮する。つまり、強力なリアガードさえいれば、ヴァンガードは最低限ユニットをスタンドさせて、ノヴァに足りないアドを稼いでくれればいい。

そう考えれば、リアガード1体をスタンドさせる能力を持ち、アクセルⅡを選んでいればライドするたびに2アドを稼げる可能性のあるビクトールはノヴァのコンセプトに十分合致していると言えよう」

 

サキ「つまり、ノヴァの強さを測りたければリアガードを見ろということですね」

 

セイジ「その通り。今回スタンドさせるべき筆頭のユニットは『メチャバトラー ドスレッジ』になるだろう。アタックするたび、以下のスキルが付与されていく」

 

1回・そのターン中、パワー+10000

2回・ソウルチャージ1

3回・そのターン中、パワー+10000、守護者封じ

 

セイジ「パワーは持続されるので以降も29000で殴り続けることができる。実際はトリプルドライブを経由しているはずなので、もっとパワーは伸びていることも多いだろう。『メチャバトラー』名称を持つので、ビクトールでも不確定ながらサーチもできるし、実質、こいつがビクトールの本体と言えるだろうな」

 

ミオ「スタンドさせるユニットについても、今弾で『メチャバトラー ガンバルガン』や『ホワイト・ハンク』が追加されています。いずれも非常に緩いコストでスタンドできるため、実際の攻撃回数は他のアクセルクランにひけは取らないでしょう」

 

サキ「過去弾にもお馴染みの『キックキック・タイフーン』がいますね。CBこそ消費しますが、パンプ能力まで持つ安定のユニットです」

 

 

●『ブラウ』

 

サキ「ノヴァが誇る人気ユニット! 蒼き装甲を纏いし銀河の闘士、ブラウクリューガーがついにスタンダード参戦です!!」

 

オウガ「うおおお! かっけえ!!」

 

サキ「『ブラウユンガー』⇒『ブラウパンツァー』⇒『ブラウクリューガー』とライドを重ね、ブラウをサーチしていくことで連携ライドを再現しているよ」

 

セイジ「到達点となる『シュテルン・ブラウクリューガー』のスキルも順に見ていこう。

まず、ソウルに『ブラウクリューガー』があれば、『ブラウ』を含むG3のパワーは+10000される。自身も含まれるので、単体22000でアタックできるな。

そして、できることならリアガードに『ギャラクシー・ブラウクリューガー』は出しておきたい」

 

オウガ「ギャラクシーもG3だから+10000されるんだな!」

 

ミオ「それだけではありません。シュテルンはアタック後に手札を2枚捨てることで、リアガードの『ギャラクシー・ブラウクリューガー』に換装(ライド)することができます」

 

オウガ「変形ッ! 合体ッ! ギャラクシイイ・ブラウクリュウウガアアッ!!!」

 

ミオ「そんな感じです」

 

セイジ「そうなのか?」

 

ミオ「ギャラクシーは、G3の『ブラウ』に+10000のパンプ能力はそのまま、アタック時にソウルからシュテルンを分離(コール)することができます。

つまり、シュテルンとギャラクシーの並びだけで、ギャラクシー(R)⇒シュテルン(V)⇒ギャラクシー(V)⇒シュテルン(R)の、ツインドライブ2回を含めた4回アタックが可能になるわけですね。

次のターン、シュテルンに再換装(ライド)することで、ギャラクシーは再びリアガードに分離(コール)されるので、毎ターンこのコンボを繰り返すことも容易です」

 

サキ「専用サポートの『モルゲンロート』を使えば、リアガードのシュテルンを手札に戻しておくこともできますよ!」

 

ミオ「アドバンテージ獲得能力にこそ差はあるものの、攻撃力とコンボの安定性は、あのヤスイエの上位互換とさえ言えるクオリティです」

 

オウガ「え? これってビクトールより強くね?」

 

ミオ「一概に強い弱いは言えませんが、ブラドブラックとグランギャロップのように、使用率ではRRR(ブラウ)の下剋上が発生してもおかしくないですね」

 

サキ「それにしても、ビクトールにしろ、ブラウにしろ、やっぱりノヴァは単なるアクセルよりもステージとの相性が良さそうですよね。

以前、アリサさんが言っていたように、ノヴァにステージをあげたかったです……」

 

オウガ「ペイルが舞台(ステージ)なら、ノヴァは舞台(リング)だな!」

 

 

●『気功闘仙 マスター・トルガ』

 

セイジ「ノヴァはビクトールとブラウだけではない! 今弾では『闘拳竜 ゴッドハンド・ドラゴン』も強化されている。その代表と言えるのが、この『気功闘仙 マスター・トルガ』だ」

 

オウガ「カメ!?」

 

セイジ「このカメは、G3版の『フュージング・ストライカー』や『光星戦士 シルバーフィスト』と言える、前トリガーの効果を+5000するスキルを持つ」

 

サキ「バトロイドだったりエイリアンだったり、相変わらず、ゴッドハンドのサポートカードは見た目に統一感が無いですね……」

 

セイジ「前トリガーがめくれた時にスタンドする能力も持つが、基本的に1度目のアタックは前トリガー適用前になるはずなので、そこまでパワーは高くない。強力なリアガードでブーストしてあげるか、リアガード潰しに終始することも多いだろう。

このスキルの真価は、ヴァンガードでも適用されることだ!」

 

サキ「サブヴァンガードとしても活躍できるということですね!」

 

セイジ「ただし、ツインドライブの1枚目で前トリガーがめくれてしまったら、その時点でドライブ-1が適用される。

理想は、

 

1度目のアタックは2回目のドライブチェックで前トリガー⇒2度目のアタックでも前トリガー

 

となるだろう。

かなり運任せになるうえに、『グリット・ベンガル』も利用しにくいな。

同じG3のゴッドハンドサポートである『パワードトルーパー シング』も優秀なユニットなので、どのような配分で採用するかはファイターの好みにも依るだろう」

 

オウガ「んー? それを聞いている限りだと、そこまでゴッドハンドは強化されていないような……」

 

セイジ「そうだな。だが、今弾のG2RRRである『ホワイト・ハンク』は、実のところビクトールやブラウ以上に、ゴッドハンドと相性がいい」

 

ミオ「ゴッドハンドは本体やサポートカードが軒並みCBを消費するので、『キックキック・タイフーン』と相性がいいにも関わらず共存が難しかったですが、手札1枚でユニットをスタンドできる『ホワイト・ハンク』なら、コスト配分に悩まされる心配はありませんね」

 

セイジ「せいぜい20000~30000前後を推移するであろうビクトールやブラウのリアガードと違って、ゴッドハンドのリアガードは、時に容易にパワー50000を越える。パワーの高さはスタンドの価値に直結する。

カメに『ホワイト・ハンク』を加えたゴッドハンドは、第三勢力と呼ぶに相応しい存在感を放っているぞ」

 

 

●『ブルート・ザ・ビースト』

 

オウガ「CB2で好きなG3を山札からスペリオルコールできるぜ!」

 

サキ「フレーバーに反して、意外と小細工寄り!」

 

オウガ「何でもサーチできるのは魅力っちゃあ魅力だけど、さすがにコストが重すぎるかな。

今弾なら、ブラウでギャラクシーをサーチする手段として使えそうなのに、肝心のギャラクシーのコストが払えなくなりそうだぜ」

 

セイジ「小細工ができないというフレーバーではなく、小細工をしても大したことないというフレーバーなのかも知れないな」

 

 

●グレートネイチャー 『名物博士 ビッグベリー』

 

セイジ「登場するたびに見た目とイラストレーターが変わることに定評のある名物博士が、今回も装いを新たに登場だ!

見た目こそ変化したが、能力はこれぞグレートネイチャーと言うべきものに仕上がっている」

 

オウガ「え? 見た感じグレネらしい抽選効果は無いっすけど」

 

サキ「甘いなぁー、オウガ君。今でこそ抽選とかギャンブル要素が超楽しいとか言っているグレートネイチャーだけど、昔は退却デメリットを伴うパンプと、退却した時に発動するスキルを組み合わせるテクニカルなクランだったんだよ」

 

オウガ「へえー……ていうか、お前、だんだん口調がアリサ先輩に似てきてないか!?」

 

サキ「え!? そ、そうかな?」

 

ミオ「ベテランなのを鼻にかけた感じはそっくりですね」

 

サキ「うっ……。レギュラーメンバーの中で、古参ファイター視点で語れるのは私だけになっちゃったし、代わりが必要かなって頑張りすぎちゃったのはあります……。

まあそもそも、ビッグベリーが活躍していた頃の私は、ファイターですらなかったんですけどね……」

 

オウガ「いや。いいと思うぜ!」

 

サキ「そ、そうかな? オウガ君がそう言うなら……」

 

セイジ「話をビッグベリーに戻すぞ!」

 

サキ(空気読め、最速ファイター!!)

 

セイジ「まずは上のスキル! 各バトルフェイズかエンドフェイズに、カードの能力でリアガードが退却した時にドローできる。

これ単体では何の意味も成さず、もうひとつの能力も退却に関連したものでは無いが……」

 

ミオ「今弾には、パンプと退却デメリットを付与するユニットと、退却時に発動するスキルを持ったユニットが多数収録されています。これらのユニットを組み合わせて、高パワーでアタックしつつ、デメリットをビッグベリーで補填して相手ターンに備えるわけですね」

 

セイジ「もうひとつのスキルは、アタック時にパワー20000のユニットを1体スタンドさせる」

 

サキ「達成(サクセス)!!」

 

セイジ「そして、ソウルにG3があれば、パワー20000以上のユニットすべてがスタンドする」

 

オウガ「!?」

 

セイジ「今弾のグレネのスペックなら、前列の全ユニットがスタンドしてもおかしくない。必然、パワーは20000を越えているわけで、ガード要求値も高い」

 

オウガ「そ、そんなのどうやって防げって言うんすか!?」

 

セイジ「正直に言おう。ビッグベリーに2ターン目を渡したら負けだ!」

 

サキ「ですが、ビッグベリーは相手ターンに備えてカードをため込むタイプのユニット。速攻し返すのも至難ですね……」

 

オウガ「打つ手なし!?」

 

セイジ「とは言え、相手の手札さえ削れば、その分だけビッグベリー側も思うように展開とパンプができなくなる。速攻し返すというのは、悪い選択肢ではない。

もっとも、こちらの守備を手薄にしてしまっては意味が無いので、手札を減らさずに速攻できるゴールドパラディンや、むらくもなど、限られたデッキに許された対抗策だが」

 

ミオ「シラユキは割と天敵ですしね」

 

サキ「ほんとだ!」

 

セイジ「ビッグベリー単体で使っても強いことには違い無いが、ソウルにG3が入るまでは、やや凡庸な印象がある。

デッキビルドに自信のあるファイターは、はむすけデッキとの混合デッキを試してみてもいいかも知れないな」

 

サキ「『鉛筆英雄 はむすけ』を経由して、ビッグベリーにライドするわけですね」

 

オウガ「アクセルサークル3つから始動するビッグベリーは、危険な香りしかしないぜ!!」

 

セイジ「他にも『はむすけの学友 ロケット鉛筆のはむどん』を使えば、最速でソウルにG3を置くこともできる。アドと高いパワーを両立する『はむすけの学友 赤青鉛筆のはむひこ』など、総じてはむすけ関連のカードとは相性がいいぞ」

 

ミオ「ともあれ、『ソードトルーパー エクィテス』は強いという作者の主張が、斜め上の方向性で証明されそうですね」

 

 

●『黒漆の聖賢師 イザベル』

 

サキ「抽選スキルの究極系、イザベルが早くもリメイクです!

代名詞と言える、『両方の可能性を掴み取る』スキルはそのまま、さらにとんでもないスキルが追加されていますよ!」

 

ミオ「まずは、登場時に山札の上から3枚見て、望む順番でデッキトップに置きます。

オラクルのようなトリガー操作としてはもちろん、相手がG2で『両方を行う』スキルが適用されていない段階でも、ある程度狙った抽選スキルを発動することが可能になります。

今弾に収録されている『ラブラブ・ドッター』や、旧イザベルは、めくるカードの質も要求されるので、最後まで無駄にならないスキルですね」

 

サキ「この効果はV/R兼用です。基本的に再ライドしていきたいユニットなので、リアガードで使う機会はあまり無いかも知れませんが、3枚めくって1枚もトリガーが無かった場合は、抽選スキルで山札を掘り進めてリアガードで再チャレンジ! という使い方はできそうです」

 

オウガ「大本命はもうひとつの効果だ! CB1することで『登場時』を含むスキルをひとつ、もう一度発動することができるぜ!!」

 

サキ「本命はアドと高打点を兼ね備えた旧イザベルだけど、『ラブラブ・ドッター』もそれによく似たスキルを持ってるよ」

 

セイジ「さらに相手のヴァンガードがG3なら、前列のユニットが+10000される!

旧イザベルの弱点だった動き出しの遅さがまったく改善されていない点は気になるところだが、それを補って余りあるスペックは与えられている」

 

サキ「パワー、アドバンテージ獲得、連続攻撃、トリガー操作。何でもできて、それらがすべてにおいて高水準。ピークだけ見れば、最強のユニットと言っても過言ではないのかも知れませんね!」

 

 

●『ひたむき助手 ミニベリー』

 

サキ「ひたむきどころか、フレーバーがいいわけがましいんですけど!?」

 

セイジ「こちらもイラストが変わっているな……」

 

 

●『ブラシャー・インコ』

 

オウガ「ブ、ブラジャー!?」

 

サキ「……ブラシャーだよ」

 

オウガ「なにい!?」

 

セイジ「なんという煩悩チェッカー」

 

サキ「……うん。オウガ君も男の子だもんね」

 

ミオ「はい。オウガさんはいたって正常です」

 

オウガ「女性陣のやさしさが目にしみるぜ、チキショウ!」

 

セイジ「鬼塚君が勇み足を踏んでくれたところで、解説といこうか」

 

ミオ「はい。登場時、CB1することで山札から7枚めくって、G3を1枚手札に加えます。さらにパワーも+3000されます」

 

サキ「めくる枚数が1枚増えて、パンプ値が3000減った『マシニング・マンティス』!?」

 

ミオ「有り体に言えばそうですね。アリサさんがいたら大騒ぎしていたところですが、最後にしっかり『ターン終了時、このユニットを退却させる』のデメリットが」

 

セイジ「とは言え、ビッグベリーならその一文もメリットに転ずる。総じて、マンティスのようにどんなデッキでも採用できるカードではないが、ビッグベリー軸ならマンティス以上の働きをしてくれるだろう」

 

サキ「ビッグベリー軸なら『メジャード・フォッサ』と『スプール・メリー』4投はほぼ確定だろうけど、残り1枠を取れるかな?」

 

 

●『バキューミング・トータス』

 

ミオ「登場時、手札をすべて捨てて」

 

オウガ「お?」

 

ミオ「CB1支払って」

 

オウガ「おお!?」

 

ミオ「トリガー率まで下げて」

 

オウガ「おおお!!!」

 

ミオ「パワー+20000」

 

オウガ「それで!?」

 

ミオ「以上です」

 

オウガ「なんでだよ!!」

 

サキ「仮に守護者封じがあったとしても足りないスペックですよねー」

 

セイジ「そしてイラストの右隅では、はむひこが吸われかけているぞ」

 

サキ「ホントだ!!」

 

 

 

●オーダーカード 『幻霊写本 ファンサイクロペディア』

 

ミオ「グレートネイチャーと相性がいいと噂のオーダーカードです。このタイミングで紹介しておきましょう」

 

オウガ「本、2冊目!」

 

セイジ「早くもネタ切れか?」

 

サキ「CB1とSB1でリアガードを+5000して、ターン終了時に強化したユニットを退却。1枚引きます。確かに動きはグレートネイチャー的ですね」

 

オウガ「ビッグベリーで使えばエンド時に2枚ドローか!」

 

ミオ「このカードと、対象になったリアガードとで、ディスアドバンテージも2枚ですが」

 

オウガ「ぐっ……」

 

セイジ「グレートネイチャーと相性がいいというか、せいぜいグレートネイチャーでしか使えないと言った方が正しいな。

それもグレートネイチャーなら、もっと上手くパンプも退却もできるはずだ。わざわざこんな割高な怪しい本に頼る必要は無いだろう」

 

サキ「ペイル、ダクイレと同時期に出た『ソウルバレット・ルーレット』に近いものを感じますよねー」

 

 

●ぬばたま 『魔忍竜 シラヌイ“朧”』『忍竜 シラヌイ』

 

サキ「ヴァンガードの歴史を通して見てもトップクラスに異質なスキル、対戦相手のユニットを操る『支配』の使い手、『魔忍竜 シラヌイ“朧”』がスタンダードにも登場です!

果たして、どのように『支配』を再現しているのでしょうか!」

 

セイジ「ふふ。逸る気持ちも分かるが、まずは順序立てて『忍竜 シラヌイ』から見ていこうか」

 

ミオ「はい。シラヌイは手札を1枚捨てることで、山札から『魔忍竜 シラヌイ“朧”』にライドし直すことができます」

 

オウガ「いきなり退場するのかよ!」

 

ミオ「ライド事故軽減に貢献してくれるのはもちろんですが、これは魔忍竜のスキルの布石にもなっているんですよ。

手札は1枚消費されますが、プロテクトⅠを選んでいれば魔忍竜のギフトで即座に補填されますね。完全ガードが2枚確保できるので、守備も厚くできます。そこまで完全ガードが必要ない状況であれば、最初のプロテクトをコストにすればいいでしょう。

変わったところでは、『忍獣 コクシガラス』のコストを1ターンで賄うこともできます」

 

セイジ「そして、いよいよ“朧”の出番だ。“朧”は手札を1枚捨て、CB1することで、相手のリアガードかドロップゾーンのカードをバインドし、『支配の仮面』トークンをコールする」

 

オウガ「しはいのかめん?」

 

セイジ「『支配の仮面』は、バインドしたユニットのグレード、パワー、★、能力、すべてをコピーし、中央後列からアタックできる!」

 

オウガ「マジかよ!!」

 

セイジ「特筆すべきは、『支配』ではごく一部の自動能力しか使えなかったのに対し、『支配の仮面』ならあらゆる能力を、条件やコストを満たしている限り自由に使えるということだな」

 

サキ「ルール的には『支配』よりずっとシンプルなんですけどね。何だか不思議です」

 

セイジ「この『支配の仮面』と朧には、まだ秘密が隠されている。ソウルの『シラヌイ』が2枚以上なら、魔忍竜のパワーは+15000され、『支配の仮面』のアタック時にドライブチェックが適用されるようになる。G3を支配すれば、ツインドライブだ」

 

オウガ「マ ジ か よ!!!!」

 

サキ「だから『忍竜 シラヌイ』を経由して朧にライドした方が得なんですね!」

 

セイジ「その通り。ちなみに『忍竜 シラヌイ』はリアガードからソウルインできるスキルも所持している。G3にライドする段階で、手札にシラヌイが2枚あれば最速で条件が満たされるわけだな。『忍獣 カタリギツネ』や、ぬばたま得意の手札交換でデッキを回していくといい」

 

ミオ「しかし、最速で条件を達成できたとしても悩ましいスキルですね、これは。リアガードをバインドした方が得には違いないのですが、中盤以降はドロップゾーンの方が選択肢が増えてそうで……」

 

セイジ「なお、ドライブチェックを得るという都合上、連続攻撃できるリアガードを支配するととんでもないことになる。G3でスタンドできるディアマンテスなどを支配できたなら祭りだな。

一方で、条件やコストがクラン特性に紐づいているユニットは旨味が少ない」

 

ミオ「ダークイレギュラーズの条件に多いソウル10枚などは、ぬばたまではほぼ達成不可能ですからね」

 

 

●『忍獣 カタリギツネ』

 

オウガ「しれっとパドミニの上位互換じゃねーか」

 

サキ「ぬばたまなら、相手の手札枚数を参照したり、いくらでも独自効果にできたのにね……」

 

 

●『忍竜 ゲンカイ』

 

サキ「シラヌイと、暁・ハンゾウ。トークンを扱うぬばたまの2台VRを手厚くサポートしてくれるユニットです!」

 

オウガ「まずは全てのトークンのパワーを+5000する効果!

後列にズラッとトークンを並べるハンゾウはもちろん、G2以下をコピーする場合、ヴァンガードにアタックが届かなくなる懸念のある『支配の仮面』を強化してくれるのも嬉しいな!」

 

サキ「もうひとつのスキルは、登場時、リアガード1体にブーストを与えるよ!

『妖魔変幻』トークンにブーストを与えてもいいし、G3にブーストを与えても強い。

自分を対象にしなかったら、何故かソウルチャージ!」

 

オウガ「なんで!?」

 

 

●『忍獣 ギュウマドー』

 

セイジ「手札のユニット引きずり出し、支配する。かつてのシラヌイの戦い方を彷彿とさせるユニットだな」

 

サキ「はい! CB1で相手に手札から1枚コールさせ、その自動能力の発動も禁じます!」

 

セイジ「対戦相手からすれば、非常に悩ましい選択だ。シラヌイに利用されやすいユニットはコールしたくないが、登場時能力持ちをコールするのももったいない。トリガーをコールすれば、ガード値は激減するし、後に持て余してしまう可能性も高い」

 

サキ「暁・ハンゾウとの相性も抜群ですし、ジャミョウで手札4枚にしてから追い打ちできる貴重なハンデスでもありますね」

 

セイジ「そもそも、コールさせているとは言え、手札を消費させていることには違い無いからな。ぬばたまのムーブとは根本的に相性がいい。

相手の盤面が埋まっていればディスアドを押し付けることもできるし、ファイナルターンを狙うのであれば、相手のガード値を削るという目的は完遂されている」

 

オウガ「これだけで十分すぎるくらい強いのに、簡単にパワーも+5000されるぜ!」

 

ミオ「ちなみにレアリティはコモンです」

 

オウガ「RRRだと思ってた!!」

 

サキ「うん。そのくらいの地力はあるよね……」

 

 

●『忍獣 ヤミヤマネコ』

 

サキ「手札から捨てるだけでソウルチャージて……」

 

オウガ「さっきからぬばたまのソウルチャージが緩すぎる!!」

 

セイジ「ぬばたまは優秀な手札交換ユニットを多く抱えるクランだ。カタリギツネも追加されたし、2体のシラヌイも手札コストを必要とするスキルを持つ。発動機会には困らないだろう」

 

サキ「コストとしても優秀ですが、リアガードでも無条件で11000ブーストです!」

 

オウガ「捨てるのがもったいない!!」

 

ミオ「ちなみにレアリティはコモンです」

 

オウガ「ぬばたまのコモンすごくね!?」

 

セイジ「あえて難点を挙げるなら、ソウルチャージ要員は『忍竜 ゲンカイ』という安定択があることだが」

 

オウガ「いっそのこと、ゲンカイと一緒にソウルチャージしまくれば、ジェネシスのスキル1~2発や、ダクイレのソウル5~6枚程度を条件とするスキルなら賄えるんじゃないすかね」

 

セイジ「ふむ。なるほどな。先に挙げた弱点をソウルチャージを充実させることで補う、か」

 

ミオ「デッキ構築段階では何を支配できるか分からない以上、ソウルチャージは充実しておくに越したことはないでしょうね」

 

 

●『忍獣 ゾクヒヒ』

 

サキ「これ、何気にすごいですよ!? コモンのG3でギフトすらありませんが、できることは敵味方2枚までの暁・ハンゾウです!」

 

セイジ「ハンゾウのような、相手がG3という縛りが無いので、ハンゾウの前座に向いているな。ギフトが無い点も、プロテクトならば許容範囲だ」

 

オウガ「トークンを利用する必要も無いので、デッキ構築の自由度も高いし、そのままでも十分デッキを組めるスペックじゃね?」

 

サキ「敵味方合計4枚バウンスできなければハンデスできないんだけど、その弱点も『忍獣 ギュウマドー』が補ってくれるんだよね。

そのギュウマドーをバウンスすることで、コストが続く限りコンボが成立するし。もう一体戻すユニットはサクラフブキが安定かな」

 

 

●終

 

サキ「セイジさん、今日はありがとうございました! ……って、もういない!?」

 

ミオ「最後の解説が終わったと同時に帰りましたよ」

 

オウガ「とことん無駄の無い人だなぁ……」

 

サキ「今日は私達も帰りますか」

 

ミオ「そうですね。お疲れ様でした」

 

サキ「読者の皆様も、またお会いしましょう!」

 

オウガ「またなー!」




分離・合体機構は機械に生まれた者の永遠の憧れだ。
              ――マシニング・ビートアトラス

ブラウクリューガーは、やっぱりかっこいいですね。
次は11月の本編でお会いできれば幸いです!


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Ex.34「クランセレクションプラス 収録ユニット大予想!!」

・綺羅ヒビキ
天すら羨む美貌を誇る、銀髪碧眼の麗しきファイター。高校2年生。
その完成されたプレイングは、芸術にも喩えられる。
使用クランは「バミューダ△」

・葵アラシ
賭けファイトを楽しむ、背は低いが豪快で危険なファイター。
天性の勝負勘を持つ高校2年生。
使用クランは「グランブルー」

・清水セイジ
驚異的なプレイング速度で対戦相手を翻弄する、最速のファイター。
生真面目すぎる高校2年生。
使用クランは「アクアフォース」


●序

 

セイジ「祝! 全クラン収録パック『クランセレクションプラス Vol.1&Vol.2』発売決定!!」

 

アラシ「ヒュー!!」

 

ヒビキ「フッ。美しいパックだね」

 

セイジ「そのようなわけで、今日の『えくすとら』は、我々天海学園カードファイト部が取り仕切らせて頂く!」

 

アラシ「それは別にいいんだけどよ。何で俺達なんだ?」

 

セイジ「響星学園から天道アリサが抜けて、古いカードの話をできる人間がいなくなったかららしい」

 

ヒビキ「作者も『少し配分間違ったなー』とか思っているらしいよ」

 

セイジ「あと、本当は9月か10月の本編でも我々に出番があったはずなのだが、出し損ねたので、その埋め合わせという意味もあるらしい」

 

アラシ「作者、ミスりすぎじゃね?」

 

ヒビキ「ボク達も生みの親を選べないのは悲しいね。

で、今日は何をやるんだい?」

 

セイジ「タイトルの通り、クランセレクションに収録されるG3ユニットの予想で楽しもうという企画だ!

もちろん該当パックの『えくすとら』では、答え合わせもするぞ。

正解しても何も出ない、作者の自己満企画であるがな!」

 

ヒビキ「フッ。それは面白そうだけど時間がかかりそうだ」

 

アラシ「じゃ、さっさとはじめようぜ!」

 

 

●ロイヤルパラディン⇒『純真の宝石騎士 アシュレイ』(確定)

 

セイジ「このようにクランと、その(みぎ)に予想を書いていく形だな」

 

ヒビキ「このアシュレイは公開済みカードのひとつだね」

 

アラシ「ヴァンガードZEROに登場した書き下ろしイラストらしいな」

 

ヒビキ「ということは、他にもZEROのイラストから逆輸入されるカードもあるのかもね」

 

アラシ「ま、他にどんなカードがあるのかは、さっぱり知らねぇんだけどな!」

 

 

●オラクルシンクタンク⇒『新規ばとるしすたー』

 

アラシ「この予想は『お化けのリーダー べあとりす』と同じ形式ってことだな」

 

ヒビキ「ばとるしすたーでメジャーどころと言えば、ふろまーじゅ、ぱるふぇ、もなか、じゅれ、まどれーぬ、ふろらんたん、あたりかな」

 

アラシ「多いな、オイ」

 

セイジ「ばとるしすたーは古くからいるカテゴリで、強化も頻繁に行われていたことから、ファイターによって愛着のあるユニットが違うと思われる」

 

アラシ「作者はふろまーじゅが一番印象的だったらしいしな」

 

セイジ「うむ。ならば、新規ばとるしすたーを出した方が不公平感が少ないだろうという予想らしい」

 

アラシ「既にいるメイガスやウィッチが強化されてもおかしくはないけど、どうなるやら」

 

 

●エンジェルフェザー⇒『神託の守護天使 レミエル』

 

セイジ「……まぁ、無難だな」

 

アラシ「むしろ、何でザラキエルと一緒に来なかったのかってレベルだしな」

 

セイジ「だが、作者周りで人気が高いのは何故かレミエル“Я”」

 

アラシ「あれはかっこいいよなー」

 

 

●シャドウパラディン⇒『新規魔女』

 

セイジ「シャドウパラディンの魔女が最も活躍したのは双闘環境。従って、既存カードで魔女が登場するならフィアナかリアスあたりだが……」

 

ヒビキ「双闘は相方ありきだからね。基本的には単体で出しにくいと予想して、新規らしいよ。実際、これまでで双闘はほとんどリメイクされていないしね」

 

アラシ「つっても、今回は他に新規カードが2枚あるらしいから、双闘も出しやすいパックだけどな」

 

セイジ「一足早くジェネシスでも魔女が登場したことだし、少なくともこちらでも魔女は登場しそうであるな」

 

ヒビキ「リアガードをG0にしてしまう独特のスキルは、過去の環境ではスキル持ちのG0が多くて使いにくかったけど、スタンダードでのトリガーは全てバニラ。かなり使いやすくなっていそうだ。是非とも再現してもらいたいね」

 

アラシ「ぱんにゃらら~ ってな」

 

 

●ゴールドパラディン⇒『救国の獅子 グランドエイゼル・シザーズ』

 

セイジ「スタンダードにおける、エイゼル第4形態予想か」

 

ヒビキ「だが、エイゼルはまだ変身を残している……」

 

アラシ「ミスリルエイゼルという名のな……!」

 

セイジ「だが、今回は呪縛もありそうだし、グランドエイゼルが妥当なところだろう」

 

 

●ジェネシス⇒『新規魔女』

 

セイジ「シャドウパラディンを新規魔女予想するなら、当然こちらも新規魔女になるという理屈だな」

 

アラシ「さすがに、天輝神雷の魔女で終わりじゃ、魔女ファンは納得しねぇよなぁ」

 

ヒビキ「ミネルヴァやアマルーダも怪しいんだけどね」

 

アラシ「ミネルヴァ出すなら、今頃パックのセンター飾ってるわ! というのがミネルヴァを除外した理由らしいぜ」

 

 

●かげろう⇒『ドーントレスドライブ・ドラゴン』(確定)

 

アラシ「ジエンド4回アタックとかやらせるつもりじゃね!?」

 

 

●ぬばたま⇒『妖魔忍竜・黄昏 ハンゾウ』(確定)

 

アラシ「かっけぇー!!」

 

セイジ「新右衛門やエスカのカードが強化されているのだから、当然ハンゾウも強化されて然るべきだな」

 

ヒビキ「これとべあとりすのおかげで、予想が難しく、面白くなっているのだけどね」

 

アラシ「マルクトメレク2号機や、ゴッドハンド2号機もありえるわけだもんな」

 

セイジ「ハンゾウ+邪眼と言うべきイラストにも注目だな。ハンゾウが支配の仮面を使う可能性も無くは無いぞ」

 

 

●たちかぜ⇒『軍竜 ラプトル・カーネル』

 

セイジ「恐らく最も難しい枠だな」

 

アラシ「真古代竜なんてものを出した以上、古代竜は無さそうなんだけどな」

 

ヒビキ「そうなると、ラプトル以外に選択肢が無いんだよね。超越環境、それもG4も含めれば、魅力的なユニットが多すぎて、今度は絞りきれない」

 

アラシ「『破壊暴君 ヘルレックス・マキシマ』とか『絶対王者 グラトニードグマ』とかな!」

 

ヒビキ「今なら部下と一緒に出せるし、ラプトル出すならここしかないと思うんだけどね」

 

アラシ「正直、作者の願望もちょっぴり入ってる!」

 

 

●むらくも⇒『幻夢の六花 シラユキ』

 

セイジ「夢幻の風花が制限になった埋め合わせは必要だしな」

 

アラシ「むらくも使いの作者からすれば、むしろ出して当然レベル」

 

 

●なるかみ⇒『ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン“THE BLOOD”』(確定)

 

アラシ「今更“THE BLOOD”」

 

ヒビキ「現行のヴァーミリオンとは、どう合わせてくるんだろうね」

 

アラシ「いっそのこと完全無視した方が強くなりそうだけどな。

よくて、山札からソウルに突っ込むことを条件にして、デッキに入れといたらOK的なスキルだろ」

 

 

●ノヴァグラップラー⇒『獣神 エシックス・バスター』

 

セイジ「これまた難しいな! 作者はこれか『永劫不敗 アシュラ・カイザー』かで10分くらい悩んでいたぞ!」

 

ヒビキ「双闘に目を向ければ、魅力的なライザーもいっぱいだよ」

 

アラシ「ノヴァは選択肢がありすぎて難しいな!」

 

 

●ディメンジョンポリス⇒『超次元ロボ ダイカイザー』

 

セイジ「これもまた妥当だが……」

 

アラシ「作者の本心はズィールかゼロだ!!!」

 

 

●リンクジョーカー⇒『星輝兵 カオスブレイカー・ドラゴン』(確定)

 

アラシ「ついに登場! 星輝兵! カオスブレイカー!!」

 

セイジ「いよいよ相手リアガードの呪縛が解禁されるのか……」

 

アラシ「5回アタックは当たり前な現環境にウンザリしていたファイターには朗報かもな!」

 

セイジ「もっとも、困るのは2つしかない前列サークルをやりくりしていたフォースやプロテクトであって、サークル数がそもそも多い肝心のアクセルには効果が薄かったりしてな」

 

アラシ「いっそのこと、バリオエンドのスキルもプラスしてくれたっていいんだぜ!?」

 

ヒビキ「カオスブレイカーなら、そのくらいやりかねないね……!!」

 

セイジ「ところで、SNSでは『名も無き根絶者 ミヲ』さんが、

『はい? なんでヲクシズじゃないんですか? リンクジョーカーのユニットで最も偉大な存在と言えばヲクシズでしょう?』

とかうるさいのだが」

 

アラシ「ほっとけ、そんなやつ」

 

 

●スパイクブラザーズ⇒『暴走凶鬼 ヘルハード・エイト』

 

セイジ「まず難しいのが、普通のG3だと『逸材 ライジング・ノヴァ』のパーツにしかならないことだな」

 

ヒビキ「いっそのことライジング・ノヴァに使わせること前提でデザインするか」

 

アラシ「G4にするか、登場時能力にすれば、ライジング・ノヴァに利用されないな」

 

セイジ「作者の予想はG4案だ。登場させたらゲームエンドを地で行く、ヴァンガード史上最強のユニット。たしかに並み居るGユニットの中でもインパクトは強かった」

 

アラシ「『フォースが8枚あれば~』とか、バカな条件を見てみたいね」

 

 

●ダークイレギュラーズ⇒『邪神司教 ガスティール』

 

ヒビキ「作者曰く、この予想はアクアフォースと連動しているらしいよ」

 

セイジ「ほう?」

 

アラシ「ダクイレにガスティールがくるなら、アクフォもヴァレオスだろうし」

 

セイジ「なるほど。アクアフォースがヴァレオスになるなら、ダークイレギュラーズもガスティールになるということか」

 

ヒビキ「グレドーラも登場したし、出すなら今だろうね」

 

セイジ「ダークイレギュラーズには、人気ユニット『ブレイドウイング・レジー』も残っている。ガスティールにならないなら、こちらが安牌だろうな」

 

 

●ペイルムーン⇒『ナイトメアドール きゃさりん』

 

アラシ「ぶっちゃけ、ペイルってもうこんくらいしか残ってねーよ」

 

ヒビキ「ナイトメアドールの大きな強化はご無沙汰だし、妥当だとは思うけどね」

 

セイジ「新規ナイトメアドールの可能性もありそうだが……」

 

アラシ「ちなみに作者は『妖剣の奇術師 サーラ』が好きだぜ!」

 

 

●ギアクロニクル⇒『時空竜 クロノスコマンド・ドラゴン』

 

アラシ「さんざん強化されてるクセして、選択肢少ねぇなー」

 

ヒビキ「登場したカードのほとんどがクロノジェット関連だからね……」

 

セイジ「クロノタイガーもすでにいるしな」

 

ヒビキ「現状のクロノジェットは、ネクステージ一択で強いけど、一応先行では使えないデメリットがあるからね。その枠を埋めるG4になってくれればいいかな」

 

アラシ「もしくは、ミステリーフレアら、バインド軸の強化とかな!」

 

 

●ぐらんぶるー⇒『お化けのリーダー べあとりす』(確定)

 

アラシ「そして、まさかのお化けだよ!!

お化け強化自体は早かれ遅かれ来るとは思ってたけど、でめとりあではない新規で、このタイミングとは、予想外すぎるぜ!!」

 

セイジ「たぶん残り2枚に相性のよいお化けも収録されるのだろうが、現状のお化けにはろくなユニットがいないな。とみー兄弟は別格としても」

 

アラシ「でめとりあの時もそんな感じだったけどな!!」

 

セイジ「それもPRカードが多い……」

 

 

●バミューダ△⇒『ベルベットボイス レインディア』

 

セイジ「選択肢が多すぎて絞りきれん……!!」

 

アラシ「12月にいっぱい増えるはずなんだけどな!」

 

ヒビキ「そんなわけで、これは予想というより、作者の願望みたいなものかな?」

 

 

●アクアフォース⇒『蒼波元帥 ヴァレオス』

 

アラシ「まあ、ガスティールの項で書いた通りだが」

 

セイジ「アクアフォースには、テトラドライブ・ドラゴンや、ジノビオスも残っているから、悩ましいな」

 

 

●メガコロニー⇒『邪甲将軍 ギラファ』

 

???「やっぱり、メガコロと言えばコレ! だよね!!

『ヘル・スパイダー』やら『マスター・フロード』みたいな、1話でやられそうなG3が続いたところで登場した、圧倒的ラスボス感!!

唯一のRRRだったこともあり、当時は別格に思ったものよ~。

よくよく使ってみると、圧倒的にアントリオンの方が使いやすかったわけなんだけど!!

そんな当時の屈辱を今こそ晴らす時がきた!! 女王陛下の立ち位置すら脅かす、最高のギラファを今度こそよろしくね!!

てなわけで。それじゃ、また来年!」

 

セイジ「……なんだったんだ?」

 

アラシ「どこぞの受験生の生霊じゃね?」

 

 

●グレートネイチャー⇒『特別名誉博士 シャノアール』

 

アラシ「倍率1.1倍の鉄板予想ってな」

 

セイジ「もふもふだしな!」

 

 

●ネオネクタール⇒『新規銃士』

 

セイジ「銃士ならヴェラが安定と思うが、思い切った予想だな」

 

ヒビキ「ハンゾウ枠で『アルボロス・ドラゴン“創聖樹”』もありそうなんだけどね」

 

セイジ「そうなると、アグラヴェイルも強化されないと不公平だが、あっちはどのように強化されるか想像もできん」

 

アラシ「作者的には、ヒャッキヴォーグと同じように、“Я”でもミューズでもないビーナストラップが見たいらしいんだけどな!」

 

 

●終

 

セイジ「さて、この予想がどうなるか……来年が楽しみだな」

 

アラシ「そもそも、このパック自体が楽しみで仕方がねぇぜ! 久々のお化けは燃えるぜぇ!!」

 

ヒビキ「フッ。その前に12月のバミューダも忘れないでくれたまえよ」

 

アラシ「じゃ、今日はこのへんで!」

 

ヒビキ「感想と一緒に、みんなの予想も聞かせてもらえたら嬉しいね」

 

セイジ「では、さらば!!」




そんなわけで緊急更新です!
メガコロ、むらくも、グランブルー、シャドパラ、リンクジョーカーがすべて同じパックに収録された奇跡。
半分でも当たっていればすごいと思います。


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Ex.35「天輝神雷」

●登場人物

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
好きなライド口上は「穢れし愚者の魂を消去せよ」

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
好きなライド口上は「終わりなき探求の果て、辿り着きし最終進化。荒ぶる魂を昇華させ、今こそ真の姿を現せ!」

・藤村サキ
マイペースなメガネっ娘。深い知識を持つミーハー気質な高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」
好きなライド口上は「荒ぶる竜よ、今こそ目覚め、暁に進軍せよ!」

・小金井フウヤ
高い実力を誇るイケメンファイター。
人当たりのよい青少年だが、マジメすぎるのが玉にキズ。
使用クランは「ゴールドパラディン」
好きなライド口上は「立ち上がれ、僕の分身!」


●序

 

オウガ「ついに『光輝神雷』が発売されたぜ!!」

 

サキ「ち、違うよ、オウガ君! 『天輝迅雷』だよ!」

 

ミオ「おふたりとも勉強不足ですね。正しくは『光輝迅雷』です」

 

サキ「そう! それです!」

 

オウガ「さすがミオ先輩だぜ!」

 

フウヤ「『天輝神雷』だよ!!!!」

 

オウガ「ボケにマジレス……」

 

ミオ「そのようなわけで、今日のゲストは生真面目で常識人で冗談の通じない、旬を逃したゴルパラ使い、アニメで言うところのゴウキポジションの小金井フウヤさんです」

 

フウヤ「面白味の無い人間なのは認めるけど、最後のふたつは断固抗議する!!」

 

ミオ「収録クランは、エンジェルフェザー、なるかみ、ジェネシス、ゴールドパラディンです」

 

オウガ「このパック最大の特徴は、組めるデッキの幅が非常に広いことだな!」

 

サキ「VRをエースとした5デッキはもちろん、エンジェルフェザーからは『ノキエル』、ジェネシスからは『神器』『魔女』、なるかみからは『抹消者』が新たにカテゴリ化!

いずれも今弾だけで組めるようにデザインされていますが、過去弾のカードがあれば、より楽しめるようにもなっています!」

 

ミオ「そんな『光輝迅雷』のカードをさっそく見ていきましょう」

 

フウヤ「だから『天輝神雷』だって!!」

 

 

●エンジェルフェザー『黒衣の戦慄 ガウリール』

 

オウガ「まずはパッケージのエンジェルフェザーからいくぜ!」

 

サキ「エンジェルフェザーからは、『黒衣の戦慄 ガウリール』が華麗に再臨です!」

 

ミオ「ひとつめの永続スキルは、自分のターン中、ダメージゾーンに新たなカードが3枚以上置かれているなら、前列ユニットのパワーを+10000するものです」

 

サキ「ふたつめの起動スキルで2ダメージ受けることができるので、他のカードでもう1枚ダメージゾーンに置くことができれば、条件は達成ですね」

 

ミオ「その他のカードについては、あまりにも数が多いので割愛させていただきます」

 

オウガ「徹底すれば、トリガー以外はすべてそれで統一できる程度には数があるよなー。ランブロスで言う『レストできるユニット』の比じゃねえぜ」

 

サキ「エンジェルフェザー自体が手札の調整が得意なクランというのもあるし、条件を満たすのは問題無さそうだね」

 

ミオ「『黒衣の通告 ナキール』のような、ダメージゾーンに置く能力を持たない強力なカードとのバランスがデッキ構築の焦点になりそうです」

 

オウガ「で、このガウリールはどんくらい強いのかな……」

 

フウヤ「ぱっと見た感じはスサノオに近いかな。ガウリール単体でも、ドライブチェック数はスサノオの初動と同等。

他のカードでもう1回ダメージチェックを行った時点で、ソウルにG3の入ったスサノオに並び、スサノオには無い前列+10000のパンプが付与される。

さすがにアドバンテージ獲得数はスサノオが上だけど、攻撃力で言えばガウリールが二回りは上だろうね」

 

ミオ「弱点は、現環境と真っ向から対立するようなアタック回数の少なさです。果たしてドライブチェックの数は手数を補うに足るのでしょうか。要注目のカードですね」

 

サキ「惜しむらくは、せっかくのガウリールなのに相手ターンに堅くならないことかなあ……」

 

 

●『黒衣の考究 ハミエル』

 

オウガ「これまでG3のソウルブラストや手札の消費が普通だった★+1と守護者封じをカウンターコストだけで支払ったらこうなった!」

 

サキ「カウンターチャージは得意なのに、コストの消費先がイマイチ見つからなかったエンジェルフェザーにとっては朗報だよね!」

 

ミオ「はい。CB3は通常のクランでは莫大なコストですが、エンジェルフェザーでは大した消費となり得ません。

ガウリール軸であれば、2~3回の使用も見込めるでしょう」

 

フウヤ「バトルの終了時にはソウルインしてしまうけれど、ハミエルはG3なので、同じ守護者封じのスキルを持つ『救装天使 ラメド』の条件を満たし、『起動病棟 フェザーパレス』のコストにもなる。このユニットを中心に、徹底した守護者封じの布陣を築き上げるのが、ガウリールデッキの勝ち筋になるかな」

 

オウガ「プロテクト殺しのプロテクト……!!」

 

ミオ「ダメージゾーンからスペリオルコールしつつダメージを受けられるスキルも完備されており、ガウリール軸のエースアタッカーとなることは疑いないでしょう」

 

 

●『ノキエル』

 

オウガ「アタック回数の少ないガウリールじゃ嫌だ! エンジェルフェザーだって殴りたい!!」

 

サキ「そんなオウガ君には、このノキエルデッキがオススメだよ!」

 

ミオ「まずはベースとなる『愛の狙撃手 ノキエル』から見ていきましょう」

 

サキ「ひとつめの起動能力は、CB1で山札の上からダメージゾーンに置き、ダメージゾーンから1枚を手札に戻す、エンジェルフェザーらしいシンプルな手札補充です」

 

フウヤ「本命は、アタック終了時に発動する自動能力だね。SB1と手札を1枚捨てることで、手札からノキエルにドライブ-1してスペリオルライドすることができる。『愛の狙撃手』に再ライドするだけでも、もちろん強力だけど……」

 

ミオ「狙いたいのは『聖霊熾天使 ノキエル』へのスペリオルライドです。

まず、登場時にSB1で山札から『ノキエル』をダメージゾーンに置きます。一時的にダメージは増えますが、エンド時に回復しますので安心してください」

 

フウヤ「置きたいカードはG0の『幸せの鐘 ノキエル』だね。ダメージゾーンにあって、ヴァンガードが『ノキエル』なら、前列のユニットすべてを+5000する破格のユニットだ。もちろん効果は重複するので、2枚、3枚と置かれていれば、その分だけパワーはさらに上がる」

 

サキ「そして『聖霊熾天使』のアタック時! SB1することで、ダメージゾーンにノキエルが3枚あるならリアガードを1体スタンド! ノキエルが5枚あるならリアガードを2体スタンド!!」

 

オウガ「えーと、つまり……」

 

ミオ「ヴァンガードの2回を含めた、6連続アタックが可能ということです」

 

オウガ「アクセルもびっくり!!」

 

フウヤ「過程でプロテクトも増えるので、こう見えて守りも堅い。引守護者がノキエルなので、★守護者が入れにくいのは惜しいけどね」

 

サキ「さすがにノキエルの総数を減らすのは難しいですよね……」

 

オウガ「ダメージゾーンにノキエル5枚の条件は、どれほど難しいんだろうな」

 

フウヤ「デッキに入るノキエルの最大数は20枚ある」

 

オウガ「トリガーより多い!」

 

フウヤ「『聖霊熾天使』の登場時スキルはリアガードでも使えるし、G2の『愛天使 ノキエル』も同様のスキルを持つ。未知の領域なので断言はできないけど、そう厳しい条件でも無さそうだ」

 

ミオ「むしろ、不意の治トリガーでダメージゾーンのノキエルを崩されるのが怖いですね」

 

フウヤ「攻撃的なデッキだし、いっそのこと治トリガーを入れずに、★トリガーを増やすのもいいだろうね」

 

サキ「コストにも問題が多いですよね。CBは使わないけど、その分、ソウルの負担が尋常じゃありません」

 

ミオ「あからさまなサポートカードに『スケーリング・エンジェル』もありますね。

実質、タダでソウルを増やしつつ、ドロップゾーンの好きなカードをダメージに置けるカードなので、ノキエル以外でも普通に採用されそうな優秀なユニットですが。

これでも足りない場合は『絆の光輪 ソリダルバングル』に頼ってみるのもいいでしょう」

 

オウガ「出た! オーダーカード!」

 

フウヤ「総じて、ノキエルをただ積むだけでは安定しない、トリガーから微調整が必要な構築難度の高いデッキになっていそうだね。その分、他のエンジェルフェザーには無いスピーディなゲームが楽しめる、面白いデッキだと思うよ」

 

オウガ「放て、ラブマシンガン!!」

 

 

●『黒衣の稲妻 ムンカル』

 

フウヤ「エンジェルフェザーの★守護者だね。プロテクトであるエンジェルフェザーとは、もちろん相性が抜群だ」

 

サキ「やっぱり完全ガードを1ターンで2枚増やせるノキエルに、このカードを入れないのはもったいない気もするんですよね……」

 

フウヤ「いっそのこと★16枚構築もあるかもしれないね、ノキエルは」

 

オウガ「そして、1ターンで完全ガードを2枚増やすと言えば、『団結の守護天使 ザラキエル』も忘れてもらっちゃ困るぜ!」

 

フウヤ「うん。実質ザラキエルのサポートカードと言えるくらいに相性はよさそうだね。ザラキエルが自然に投入できる、メタトロン軸や、マルクトメレク軸にとっては追い風になりそうだ」

 

 

●なるかみ 『ドラゴニック・ヴァンキッシャー“FULLBRONTO”』

 

オウガ「ヴァンキッシャーはまだまだ強くなるぜ!! 言葉の意味はよくわからんが“FULLBRONTO”轟臨!!」

 

サキ「“FULLBRONTO”は手札からバインドされた時、ヴァンキッシャーにスペリオルライドすることができます。

バトルフェイズ中にバインドできれば、ヴァンガードの連続攻撃です!」

 

フウヤ「『ドラゴニック・ヴァンキッシャー』として扱う能力を持っていて、登場時に前列ユニットのパワーを+10000することができるので、ヴァンキッシャーのサポートカード、ヴァンキッシャーのパンプはすべて引き継ぐことができるね」

 

サキ「エンド時に“FULLBRONTO”はソウルのG3にライドされます。基本的にはヴァンキッシャーに戻ることになるでしょう。新たにアクセルは得られませんが、もう十分すぎます!」

 

ミオ「ドライブを-1する苦肉の策ではありますが、ヴァンキッシャーのスキルで“FULLBRONTO”をバインドすることで、メインフェイズ中にアクセルサークルを増やすことも可能です。消耗戦に陥った場合のあと一押しが必要な場面もあるかも知れません。頭の片隅に入れておくといいでしょう」

 

 

●『抹消者 ドラゴニック・ディセンダント』

 

サキ「ついに! 櫂君の主力ユニットのひとつ、ディセンダントがスタンダードに参戦です!」

 

フウヤ「カオスブレイカーも登場するし、有名どころはあらかた網羅しそうな勢いだね」

 

ミオ「ディセンダントの登場に伴い、ガントレッドバスターやチョウオウで先んじて登場していた『抹消者』名称が正式にカテゴリ化されました」

 

オウガ「そんなディセンダントのスキルは超ド派手だぜ! 抹消者にライドしたら、それらが持つ能力を全て得た状態で登場する!

『支配の仮面』や『逸材 ライジング・ノヴァ』でも実現できなかった登場時能力のコピーがついに!」

 

フウヤ「コピーしたい筆頭は、何と言っても『抹消者 ガントレッドバスター・ドラゴン』だね。

ディセンダントはアタックがヒットしなかった場合にスタンドできるから、★3でアタックできるガントレッドバスターとの相性は抜群だ。

低コストの除去スキルも併せ持つから、状況によっては、コストの重たいガントレッドバスターの除去スキルも温存できる」

 

オウガ「ガントレッドバスターとの組み合わせがシンプルに最強なんだろうけど、正直、ディセンダントはそれだけで終わってほしくない、可能性の塊なんだよな」

 

サキ「そうだね。ディセンダント単体の魅力は、G2抹消者のスキルもコピーできること!

お馴染みチョウオウからライドすればさらに除去ができるし、今弾で登場した『抹消者 プラズマカタパルト・ドラゴン』や『雷鞭の抹消者 スハイル』なら、ドローまでついてくる!」

 

オウガ「『雷砲の抹消者 コーソン』をコピーすれば、『雷銃の抹消者 オウバン』とも仲良くなれるぜ! 目指せ2枚ドロー!!」

 

ミオ「ただし、ディセンダントはコーソンとして扱われるわけではないので、オウバン側のスキルが発動しない点は注意してください」

 

サキ「なんて悲しい片想い……!」

 

オウガ「そして、ディセンダントはディセンダントに再ライドすることにより、ディセンダント自身のスキルを2度ずつ使用することができる!! 除去しまくって、アタックがヒットするまでスタンドしまくれ!」

 

サキ「引きによって変化するディセンダントのスキルは、まさしくカードゲームの醍醐味を凝縮した珠玉の逸品と言えます!

これからヴァンガードを始めるファイターや、なるかみに触れてみたいファイターには、まずディセンダントをオススメしたいですね!」

 

 

●『抹消者 スパークレイズ・ドラゴン』

 

サキ「ディセンダントの登場に併せて、スパークレインも……って、違う!?」

 

フウヤ「スパークレイズだね……」

 

ミオ「抹消者を手札に揃えつつ、アタックがヒットすればドローできるユニットです。

ディセンダントでコピーすれば、Vスタンドかドローの二者択一を強いることもできます」

 

 

●『エレキネシス・ドラゴン』

 

オウガ「その能力で手柄を立てるのは難しいんじゃねえかな!?」

 

サキ「妙に自信たっぷりなバニラって多いよね……」

 

ミオ「アグラヴェイルにソウルブラスト12でもされたのではないでしょうか」

 

フウヤ「それはもう手遅れだよ!?」

 

 

●オーダーカード 『求められし果てなき力』

 

ミオ「折り返し地点ということで、オーダーカードの紹介です」

 

オウガ「これまでにない大仰な名前のオーダーカードは、怪しいランタン!」

 

サキ「ドロップゾーンからノーマルユニットを山札の下に置いて、それがG3以上なら1枚ドロー! ……なかなか便利そう?」

 

フウヤ「ギアクロニクルや、ルアード、サヴァスのような、山札の中に特定のカードが必要なデッキなら、採用に一考の余地があるだろうね」

 

ミオ「今弾でデッキに戻したいカードは、エオスアネシス・ドラゴンでサーチできるヴァルケリオンですね」

 

サキ「過去弾ではグレドーラ軸のメガコロニーが面白そうです! 山札の中からヘルデマイズが尽きてしまうとパワーダウンしてしまうデッキですが、ヘルデマイズは大量投入もしたくないカードでした。これさえあれば、枚数が調整できるかも知れませんね。

このオーダー自体もG3なので、メガコロニーならサーチも容易ですし、マンティスのサーチを通常ドローに変換できるというだけでも価値があります!」

 

オウガ「『隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ』を山札に戻すこともできるな! ヒャッキヴォーグを軸としたデッキの安定性も上がりそうだぜ!」

 

フウヤ「他にも有効な利用方法が見つかりそうだ。一度カードプールを洗いなおしてみる必要がありそうだね」

 

 

●ゴールドパラディン 『旭日の騎士 グルグウィント』

 

サキ「太陽の騎士、グルグウィント! スタンダードの戦場に堂々凱旋!!」

 

フウヤ「グルグウィントはゴールドパラディンらしい高い展開力に加えて、ガーディアンのスペリオルコールや後列からのインターセプトを駆使した防御的なスキルが特徴的なユニットだった。

今回もその特徴が再現されている他、現在のゴールドパラディンらしい速攻力も兼ね備えている」

 

サキ「そんなグルグウィントのスキルをひとつずつ見ていきましょう。

ひとつめの永続スキルは、追加されたリアガードサークルひとつにつき、スペリオルコールされたユニットと自身のパワーを+5000します!」

 

フウヤ「相手のヴァンガードがG3という条件こそあるが、効率は抜群だ。

どのユニットがそのターンにスペリオルコールしたユニットか忘れないようにだけは注意が必要だね」

 

オウガ「もうひとつのスキルは、アタックした時か、された時、山札の上から5枚見て、2体のユニットをリアガードサークルにスペリオルコールするぜ!

アタックされた場合に発動した場合はガーディアンサークルにスペリオルコールだ!」

 

フウヤ「永続能力のパンプが乗ったアタックが2回増えるだけでも単純に強力だけど、特徴的なのはやっぱり守りにも使えるという点だろう。

相手のアクセルやフォースⅡのアタックに速攻され返して負けるという状況が少なくなる。

スタンダードのゴールドパラディンは捨て身で速攻をしかけるユニットが多かっただけに、この守備力の高さは革新的だ」

 

サキ「このあたりは、さすがグルグウィントですね!」

 

 

●『青き炎の解放者 パーシヴァル』『誓いの解放者 アグロヴァル』

 

オウガ「あれ? グルグウィントの解説はこんだけっすか?」

 

フウヤ「グルグウィントをこれ以上掘り下げる前に、どうしても紹介しておかないといけないユニットがあってね」

 

サキ「はい! 紹介しましょう! グルグウィントに続いて参戦を果たした、青き炎を纏いし解放者達です!!」

 

フウヤ「『青き炎の解放者 パーシヴァル』は登場時に手札を1枚捨てることで、アクセルを得て、アグロヴァルをスペリオルコールすることができる」

 

オウガ「しれっとアクセルサークル増やした!!」

 

フウヤ「リアガードでも使える点も含めて、現状、最も簡単にアクセルサークルを増やす手段のひとつだろうね。

グルグウィントの隣に並べることで、グルグウィントの永続パンプを+10000からスタートすることができる」

 

オウガ「おおっ!」

 

フウヤ「デッキ構築の難易度は上がるが、エイゼルとの相性もいい。

理想を言えば、相手がG1の間に、こちらはアクセルサークルを3つ並べることもエイゼルにおいては可能だ」

 

オウガ「うげげっ!」

 

フウヤ「パーシヴァルでスペリオルコールする『誓いの解放者 アグロヴァル』だが、こちらはアタックした時にリアガード1体をソウルインし、パワー+10000。バトル終了時にこのユニットを手札に戻す。アド損ではあるものの、サークルを2つ空けることができるので……」

 

オウガ「グルグウィントのスペリオルコールを上書きすることなく行える!!」

 

フウヤ「そうだ。分かってきたようだね。

ちなみにこちらは『憤怒の騎士 アグラヴェイル』との相性もいい。アグラヴェイルはアタック時に味方を全てソウルインしてしまうが、このユニットなら事前に手札に逃がすことができる。

今弾には、同じスキルをG3の『飛輪の騎士 エドマンド』も所持しているので、アグラヴェイル軸を組む場合は併せて採用するといい」

 

オウガ「なるほど。グルグウィントとパーシヴァルの相性はたしかに抜群っすね」

 

フウヤ「個人的には、パーシヴァルがグルグウィントのサブヴァンガードに収まっているのは複雑だけどね……」

 

サキ「そこはプロミネンスコアや、プロミネンスグレアに期待、でしょうか?」

 

ミオ「申し分の無い相性を誇るグルグウィントとパーシヴァルですが、CBの消費がかさむ点は注意が必要です。

パーシヴァルのスキルに、攻めと受けでグルグウィントのスキルを使うだけで、CB3を消費してしまいます。

『真実の聞き手 ディンドラン』のようなコスト回復できるユニットを多めに入れる必要がある他、展開にはソウルを消費する『戦場の嵐 サグラモール』や『フルキャバリアー・ドラゴン』を使うといいでしょう」

 

フウヤ「アタック回数を増やすだけなら、ノーコストで展開できる『風炎の騎士 ワンダーエイゼル』もいるね」

 

オウガ「アクセルでも屈指の攻撃回数はそのままに、防御力まで兼ね備えた、ヤバイ気配しかしないユニット達だぜ!!」

 

 

●『スカーフェイス・ライオン』

 

ミオ「ゴールドパラディンの★守護者ですね」

 

フウヤ「まず、これもグルグウィントとの相性は抜群だ。アタックされた時のスペリオルコールで、完全ガードがめくれたら追加で手札を1枚捨てなくてはならないが、このカードなら余計な消費は不要だ。

もう1枚のカードも含めて、ガード値40000以上は見込めることを考慮すれば、結果は完全ガードと変わらない場面が大半だろうしね」

 

サキ「それ以外でもゴールドパラディンは攻撃的なデッキが多く、反面、手札の消費が激しいことが多いです。

攻撃力をさらに水増しでき、1枚で相手のアタックを捌ける★守護者は、ゴールドパラディン全体と相性がよさそうですね!」

 

 

●『恩威の騎士 ベレンガリア』

 

ムドウ「美人だ」

 

オウガ「なんか呼んでない人がきた!!」

 

ミオ「フウヤさん。先輩の管理くらいちゃんとしておいていただけませんか?」

 

フウヤ「もう先輩じゃないよ!」

 

サキ「それはそれで薄情な気もしますけど……」

 

フウヤ「そもそも後輩が先輩を管理しないといけないルールもないからね!?」

 

ムドウ「ベレンガリアはスペリオルコール時に、

・カウンターブラスト1でソウルチャージ1

・ソウルブラスト1でカウンターチャージ1

のいずれかを行う。

前述した通り、グルグウィントはカウンターコストを消費しがちなので、今弾ではカウンターチャージ要員としての運用が主になる。

一方、アグラヴェイルのソウルブラストを積極的に狙いに行く場合はソウルチャージが有効に働く。

今後、カウンターコストを重視するヴァンガードが登場しても、ソウルを重視するヴァンガードが登場しても活躍が見込める、末永く愛されるリアガードとなるだろう。

こんなところか。

では、さらばだ」

 

オウガ「解説だけ真面目にやって帰っていった!」

 

 

●ジェネシス 『神界獣 フェンリル』『破壊神獣 ヴァナルガンド』

 

オウガ「解き放て! 滅びを告げる狼の顎!!」

 

サキ「神をも喰らう美しき獣、フェンリルもスタンダードに解放されました!」

 

オウガ「いやー、それにしてもこのライド口上はかっこいいよな!」

 

ミオ「作者の好きな口上、ベスト5に入る口上らしいですしね」

 

オウガ「一番ではないんだ!?」

 

フウヤ「そんなフェンリルは、それぞれが密接に絡み合った3つのスキルを持つ。

深い関わりを持つ『破壊神獣 ヴァナルガンド』と一緒に見ていこう」

 

サキ「はい! 効果をひとつひとつ解説していくとこんがらがりそうなので、動きの解説もしていきますね!

まず、ひとつめの能力はソウルブラストしたグレードに応じた万能サーチです!

状況に応じて柔軟にカードを持ってこれるのが魅力のスキルですが、手札に『破壊神獣 ヴァナルガンド』が無い場合、よほどのことが無い限りはヴァナルガンドを確保するようにしてください」

 

オウガ「ヴァナルガンドをコールしたら、さっそくヴァナルガンドのスキル発動だ! 相手ユニットを1体退却させるぜ!」

 

サキ「バトルフェイズに入ったら、まずはヴァナルガンドでアタック!

バトル終了時、ヴァナルガンドソウルインすることで、山札の上から3枚見て、1枚を山札の上、1枚を山札の下、1枚をソウルに置きます。

これで、続くフェンリルのアタックでは、高確率でトリガーが引けますね」

 

サキ「いよいよフェンリルでアタック! みっつめのスキルでアタック時にSB1することでパワー+10000することができます。これ単体だと地味なスキルですが……」

 

オウガ「それに応じてふたつめのスキルも発動だぜ! ソウルブラストしたカードをCB1でスペリオルコールすることができる! このスキルで再度ヴァナルガンドをコールして1体退却だぜ!」

 

サキ「最後にもう一度ヴァナルガンドでアタックして、ヴァナルガンドをソウルインしつつ山札の上にトリガーを置きましょう。引トリガーや治トリガーを置くことができれば、対戦相手にとっては、かなり苦しい展開になりますよ!」

 

フウヤ「自分のターンが返ってきたら、ヴァナルガンドをソウルブラストすることで、山札からヴァナルガンドを手札に加え、同じ動きを繰り返すことができる。

2つのユニットと3つのスキルが綿密に絡み合い、フェンリルらしさも失っていない、とてもよくできているカードデザインだと思うよ」

 

サキ「面白いのは、決まった動きをするだけでなく、応用も効くことですよね。

ひとつめ万能サーチは、例えば相手がヴァルケリオンなど大技を狙っている場合は、完全ガードをサーチして機先を制する動きもできますし」

 

オウガ「ふたつめとみっつめのスキルでは、『星夜の強弓 ウリクセス』でもヴァナルガンドと同じように連続アタックができるぜ!

除去やデッキトップ操作こそ無くなるが、こちらの方が単純に手札が増えるので、相手に除去が効きにくい場合は、こちらを中心に回してみてもいいかもな!」

 

フウヤ「ヴァナルガンドにも、別の使い道が用意されているよ。

ヴァナルガンドにライドした場合、発動する除去スキルは相手リアガードすべてを選択することができるようになる」

 

オウガ「相手がアクセルで、速攻をしかけられた場合なんかは、いいカウンターパンチになってくれそうだぜ!」

 

サキ「フェンリルとしてはクレバーに戦い、ヴァナルガンドに変貌しては大暴れという、惑星クレイ物語におけるフェンリルの活躍も再現されてますね!

開発スタッフのフェンリル愛がひしひしと伝わる超大作と言えるでしょう!」

 

 

●『聖天竜 エオスアネシス・ドラゴン』

 

サキ「星詠もVRのユニットをもらって強化されています! 星詠の欲しかった要素が凝縮された全部盛りです!」

 

フウヤ「ヴァンガードでは、ヴァンガードサークルにフォースマーカーが5つあれば、V裏が星域になるいつものスキルだ。ここには特に目新しい点はないが」

 

サキ「登場時、CB1で星神をサーチしつつ、フォースをヴァンガードサークルに置くことができます! リアガードでもこのスキルは発動するので、ヴァンガードとして、アストライオス・ドラゴンや、創天ウラヌスより優先される要素はほとんどありません。リアガード専用のユニットと見てよさそうです」

 

オウガ「RR(リアガードレア)……?」

 

サキ「さらに! ガーディアンサークルでは、手札から星詠か星神を捨てることで、完全ガードと同じ効果を発揮します!」

 

オウガ「GR(ガーディアンレア)……!?」

 

ミオ「手札がG3やG5でかさむ星詠デッキでは嬉しい効果ですね」

 

フウヤ「効果こそ完全ガードだけど、守護者属性は当然ながら無い。守護者封じに耐性があるという、独自の強みも持ち合わせるようになったね」

 

サキ「G3なので、『神界獣 スコル』で不確定ながらサーチまでできちゃいます!」

 

 

●『宇宙の神器 CEO ユグドラシル』『運命の神器 ノルン』

 

サキ「ついに登場、神器!

ひさびさに登場、神装ゲージ!」

 

ミオ「ひとつめのスキルは、神装ゲージを持つユニットすべてにブーストを与え、ユグドラシルがヴァンガードなら神装ゲージを持つユニットは、相手のカードの影響を受けなくなります」

 

オウガ「影響を受けないって!? それって完全無敵なんすか!? 例外とかは!?」

 

ミオ「…………」

 

サキ「…………」

 

フウヤ「…………」

 

オウガ「へ? みんな、どうしたんすか?」

 

ミオ「オウガさん。それをきちんと説明するとなると、今日これまでに行った解説の倍以上の文字数を必要としますが、それでもよろしいですか?」

 

オウガ「マジかよ!! 簡単そうな効果なのに!!」

 

サキ「うーん。ざっくりと説明するなら、ルールに干渉するスキル以外はおおむね大丈夫って感じかな。

例としては、『インターセプトできない』『後列からアタックできる』みたいなやつね。

神装ゲージがあっても、インターセプトはできないままだし、後列からは普通にアタックされちゃう」

 

オウガ「ん? んんん、なる、ほど?」

 

ミオ「詳しくは公式ホームページのQ&Aを読んでください」

 

オウガ「15件!?」

 

フウヤ「細かいルールの穴はあれど、神装ゲージを持つユニットはかなり安定して維持できるものと見て間違いは無い。

妨害や除去に特化したメガコロニーやなるかみに対しては、絶対的な解答となるだろうね」

 

ミオ「ユグドラシルふたつめのスキルは、山札から『運命の神器 ノルン』をスペリオルコールし、リアガード2体にソウルから神装ゲージを付与します。

この系統のスキルにしては珍しく、起動能力で、リアガードでも使うことができます。

盤面はすぐに『運命の神器 ノルン』で埋め尽くされることでしょう」

 

オウガ「なんかやだな!?」

 

ミオ「その『運命の神器 ノルン』は、CB1でドローしつつ、リアガードに神装ゲージを置くことができます。アドを稼ぎつつソウルチャージ2までしてくれる便利なユニットですが、本領はもうひとつのスキルにあります」

 

フウヤ「神器をブーストしたバトル中、手札1枚とこのユニットの神装ゲージを1枚捨てることで、ブーストしたユニットをパワー+10000、ドライブ-1した状態でスタンドさせることができる。

ドライブ-1としてある点からも分かる通り、この能力にヴァンガード、リアガードの制限はない」

 

オウガ「ヴァンガードをスタンドもできるし、アドを顧みなければリアガードもスタンドさせて神器を総攻撃させることもできるってことすね!」

 

サキ「過去弾に出たアルテミスも、神器名称は持たないものの、神装ゲージに関わるスキルを持っています。

神器内でギミックが完結しており、除去に強い分、代用ユニットもあまり必要はありませんが、神装ゲージを利用した除去や、パンプ能力を所持しているので、採用すると戦略に広がりが生まれます。

特に『黄昏の狩人 アルテミス』は神装ゲージ1枚につきパワーが+10000されるので、神器デッキなら破格のパワーに上昇する可能性だってあります。

アタック回数より、アタックの質を重視するなら面白い選択肢になってくれそうですよ!」

 

フウヤ「2月に発売するクランセレクションには『叡智の神器 アンジェリカ』の収録が確定している。これらのカードと、どのようにシナジーしていくのか楽しみだね」

 

 

●『杭の戒め スヴィティ』

 

ミオ「ジェネシスの★守護者ですね」

 

オウガ「エオスアネシス・ドラゴンは完全ガードの役目を果たしてくれるってんなら、星詠はこっちのがいいんじゃね?」

 

サキ「けど、エオスアネシスじゃ足りないくらい手札にガード値0がたまりそうなデッキなんだよね、星詠は。

エオスアネシスはできる限りコールしたいユニットであることも考慮すると、引守護者も十分選択肢に残りそうかも」

 

フウヤ「ジェネシスはそこそこドローもできるけど、現環境は完全ガードが無いと受けきれないアタックも増えてきた。★守護者を採用する場合は、環境もよく見ておくべきだろうね」

 

ミオ「『永久の女神 イワナガヒメ』がパワー73000でアタックできるようにもなりましたね」

 

オウガ「ほんとだ!!」

 

 

●『白虹の魔女 ピレスラ』

 

サキ「シャドウパラディンに先んじて、ジェネシスの『魔女』が、『魔術師』も巻き込み、ついにスタンダード参戦です!!」

 

ミオ「ひとつめのスキルは、ソウルブラスト13で『魔術師』『魔女』すべてのパワーを+10000し、ピレスラ自身の★に+1します」

 

オウガ「いきなりの大技!!」

 

ミオ「このスキルは『魔術師』『魔女』をコールした回数だけ安くなります。実際はソウルブラスト6~7くらいの感覚で使えるでしょう」

 

オウガ「それでも重い!」

 

ミオ「もうひとつのスキルはCB1で、ユニットを1枚手札に戻します。『魔女』『魔術師』は登場時能力を持つものが多いため、それらのスキルを再利用できますし、ひとつめのスキルの補助にもなります」

 

オウガ「……え? これだけっすか?」

 

ミオ「はい」

 

オウガ「そこそこパワーが出せるとは言え、さすがにこれだけだと厳しくないすか?」

 

ミオ「そうですね。これだけだと厳しいですね」

 

オウガ「お、何だか含みのある言い方」

 

ミオ「あくまでこれはメインヴァンガードを務めるG3ユニットというだけで、『魔術師』『魔女』の本命とも言えるユニットは別にあります。次はそのユニットを見ていきましょう」

 

 

●『源泉の魔女 フィクシス』

 

ミオ「登場時にCB1で山札の上から4枚を見て、『魔術師』『魔女』を手札に加え、残りは望む順番で山札の下に置きます。

一部のトリガー以外のユニットは『魔術師』『魔女』で統一できるので、めくる枚数は4枚と言えど、失敗する可能性は低いでしょう。

そして、このスキルは自分と相手のヴァンガードのグレードが同じなら、SB1で支払うことができます」

 

オウガ「アビサルオウル!!」

 

ミオ「シャドウパラディンにおいてはソウルも限りあるコストのひとつでしたが、ジェネシスにおいてはSB1などタダ同然です。

フィクシスをコールしてアドを稼ぎ、フィクシスを手札に戻し、またフィクシスでアドを稼ぎ、そうして拾ってきたフィクシスでまたまたアドを稼ぐ。

これが新たな『魔女』の戦い方となるでしょう」

 

オウガ「爆アド!!」

 

ミオ「それだけではありません。フィクシスは4枚のうちからノーマルユニットを1枚抜き出し、残りをデッキの一番下に戻しています。これがどういうことかわかりますか?」

 

オウガ「?」

 

サキ「あっ! ツクヨミ!!」

 

ミオ「正解です。山札の下に置いたカードを記憶しておけば、ゲーム終盤にはドローするカードやトリガーを自在にコントロールすることが可能になります。

ソウルチャージを得意とするジェネシスならば、デッキを掘り進めることも難しくはありません。

フィクシスで得た手札アドバンテージと、フィクシスで得た情報アドバンテージの有効活用こそ、魔女の真骨頂です」

 

オウガ「フィクシス以外、何もしてねえ!」

 

ミオ「では、フィクシス以外で使えそうな『魔術師』や『魔女』も、過去弾のものも含めてチェックしていきましょうか」

 

サキ「過去弾も!? な、なんだか妙に『魔術師』『魔女』だけ手厚いですね……」

 

ミオ「作者の趣味です」

 

 

●『白憐の魔術師 レヴォルタ』

 

ミオ「これは今弾に収録されている『魔術師』ですね。

CB1で山札の上から3枚見て、1枚を手札に加え、残りをソウルに置きます」

 

オウガ「ず、ずいぶんと盛られたスキルっすね。別に『魔術師』軸じゃなくても使えそうな」

 

ミオ「はい。その影響か、ヴァンガードで使えてもルール的には問題の無いスキルですが、リアガード限定のスキルになっています。

ソウルはフィクシスに。カウンターコストはこのカードに使っていくのが理想でしょうか」

 

サキ「キーカードであるフィクシスを手札に引き込むのにも使えそうですね!」

 

 

●『白筆の魔女 アーティク』

 

ミオ「こちらはPRカードの魔女ですね。

登場時、山札の上から2枚見て、1枚をソウルに、1枚を山札の上に置くことができます。

トリガーの安定化はもとより、トリガー位置が把握できているゾーンに入ってからも微調整に役立ちます。

自身とヴァンガードを+5000するパンプ能力も、素の状態ではパワーが低いピレスラの補助となってくれるでしょう」

 

サキ「パンプはターン1回ですけど、+5000はターン終了まで継続するので、2回アタックできるユグドラシルとも相性がよさそうですね!」

 

 

●『猫の魔女 クミン』

 

ミオ「CB1と自身のレストで、ユニットをバウンスできるカードです。

バウンスするカードの筆頭はもちろんフィクシスですが、ピレスラとコストやできることが被っているのがネックです。

レストを必要とする点も、全体を強化できるピレスラとやや噛み合いません」

 

 

●『蛙の魔女 メリッサ』

 

ミオ「『魔女』の切り札とも言うべき、相手リアガードをめちゃくちゃにしてしまうカードです。

デッキに1枚挿しておくと思わぬところで活躍してくれるかも知れませんね。

変わったところでは、相手のデッキ切れを加速させることもできますが、そもそも『魔術師』『魔女』自体がデッキ切れし易いデッキなので、その使い方ができる場面は少ないでしょう」

 

こっきゅん「呼んだか?」

 

ミオ「呼んでません」

 

こっきゅん「……そうか」

 

ミオ「ピレスラでメリッサを使いまわす、デッキデスに特化したデッキを組んでみるのも一興かも知れません」

 

 

●『純白の魔女 ソルティ』

 

ミオ「『魔女』の完全ガードです。

フィクシスで完全ガードを手札に加えることができるようになるので、採用しておきたいカードですね」

 

 

●『気魂の魔術師 クルート』

 

ミオ「ピレスラのSB13を狙う場合は必須カードとなります。

ユニットの数に応じてソウルチャージしてくれるユニットで、アドバンテージ獲得能力に優れた『魔術師』『魔女』ならば、ソウルチャージ6は容易です。

ピレスラのコスト軽減は、盤面が埋まってしまう後半になるほど使いにくくなるので、ピレスラにライドした時点でこのユニットを含めて6回以上コールし、まずはSB13を使っておきたいところですね」

 

オウガ「そうなると、イマジナリーギフトはガード強要できるフォースⅡの方がよさそうっすね」

 

ミオ「そうですね。

弱点はやはりデッキ切れでしょうか。『魔術師』や『魔女』がドローやソウルチャージを頻繁に行うので、状況によっては2度目の使用すら危ぶまれます」

 

こっきゅん「呼んだか?」

 

ミオ「呼んでません」

 

こっきゅん「…………」

 

サキ「ひ、ひさしぶりの登場ですし、少しくらい構ってあげても」

 

オウガ「いちいち対応してたアリサ先輩は、人が好いんだか、スルー能力が無かったんだか」

 

ミオ「いずれにしろ、これを活用する場合は、★とパンプとトリガー予知を最大限に駆使して、ピレスラにライドしてから2ターンでゲームを終わらせることを意識した構築・プレイングで臨むべきでしょう」

 

 

●『黎明の魔術師 アシュワ』『晩熟の魔術師 パルメット』

 

ミオ「本来は星詠のサポートカードですね。

『魔術師』にはそう言ったカードも多いですが、この2枚はピレスラ軸にも転用できる優秀なユニットです」

 

サキ「パルメットでアシュワをブーストしてあげると、パルメットで1ドロー、アシュワはソウルインしてフォースをヴァンガードに置くことができるんですね」

 

ミオ「はい。再ライドを繰り返している余裕の無いピレスラ軸でギフトを獲得できるのは、この上ない助けとなります。

カードを集めることに特化した『魔術師』『魔女』であれば、2枚を揃えるのは星詠より容易ですしね」

 

 

●『白妙の魔術師 コルツ』

 

ミオ「『魔術師』の10000バニラです。

『魔女』や『魔術師』で必須と呼べるG2はレヴォルタしかありません。

フィクシスは『魔女』や『魔術師』を手札に加えるので、こういったガード値が高いだけのユニットも採用に値するでしょう」

 

オウガ「来たぞ、手柄を立てる絶好の機会が!」

 

 

●『大鍋の魔女 ローリエ』

 

ミオ「『魔女』の治トリガーです。基本的にフィクシスのスキルでトリガーを抜くのは悪手ですが、手札に20000ガードを確保することで生存できるゲームもあるかも知れません。

選択肢を増やすという意味でも、トリガーを『魔女』にしておいて損はありません」

 

 

●『白帝の魔女 プレゼモ』

 

ミオ「今弾で登場した『魔女』の引トリガーです。

アドバンテージ獲得能力に優れ、デッキ切れが深刻な『魔術師』『魔女』において、残念ながら引トリガーを採用する余地はありません」

 

 

●終

 

ミオ「『天輝神雷』のえくすとらはここまでとなります」

 

フウヤ「だから『光輝迅雷』だって!!」

 

ミオ「今月発売されたのは『天輝神雷』で正しいはずですが?」

 

フウヤ「……図ったな、ミオちゃん!!」

 

ミオ「実のところ、書いてる作者がこんがらがってきているので、本日はこれにて終了としましょうか」

 

サキ「それではまた次回のえくすとらでお会いしましょう」

 

オウガ「またなー!!」




光輝迅雷もとい天輝神雷のえくすとらをお送りいたしました。
私の好きなライド口上はズィールの
「天頂に恐怖、天底に絶望。宇宙に仇なす双頭の悪魔よ、その二つの狂気をもって銀河を喰らい尽くせ!」
です。
基本的にシンプルな口上の方が好きなのですが、ズィールはカッコいい要素しかない。

次に好きなのは、バスカークの
「七つの海に君臨せよ、暴虐の王!」
です。
ZEROで久々に聞いて、めっちゃ燃えました。

次回は「DAIGO スペシャルエキスパンションセットV」のえくすとらを予定しております。
こちらは11月28日前後にお送りできる見込みです。
お楽しみにして頂ければ幸いです。

【おまけのデッキログ】
???:C5QL


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Ex.36「DAIGO スペシャルエキスパンションセットV」

●登場人物

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
歌はド下手(音楽の教師曰く「彼女の歌声はCDプレイヤーで曲を聴いているようだった」)

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
友人とカラオケに行くことが多く、歌は意外と上手い。

・藤村サキ
マイペースなメガネっ娘。深い知識を持つミーハー気質な高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」
歌は下手でもないが、上手くもない。

・早乙女マリア
居丈高な性格だがそれに見合った実力も併せ持つ、大学1年生のツンデレ金髪お嬢様。
英国人のクォーターらしい。
使用クランは「ロイヤルパラディン」
歌はとても上手く、賛美歌も歌えるとか。

・沈黙の騎士 ギャラティン
常に黙して多くを語らない、神聖騎士団が誇る剣の達人。
口癖は「ノープロブレム」
その歌声は、騎士王すら聞き惚れたと噂される。


マリア「ふーふふふふん♪ ふーふふふふん♪ ふふふふーん♪

みなさまごきげんよう!

いよいよこの日がやって参りましたわ!

『DAIGO スペシャルエキスパンションセットV』の発売日!

このわたくしが『えくすとら』にゲストとして出演する日が!!」

 

ミオ「だからと言って、ゲストが紹介もなしに登場しないでください」

 

マリア「いいではありませんの。

『Chronojet & Altmile & Ahsha』の時も、『The Next Stage』の時も、『スペシャルデッキセット マジェスティ・ロードブラスター』の時も、わたくしが呼ばれる機会はいくらでもあったのに、呼んで頂けなかった意趣返しですわ」

 

ミオ「あの頃はレギュラー登場人物の出入りが激しくて、ゲストを呼んでいる余裕が無かったんです。

『Chronojet & Altmile & Ahsha』はユキさんがレギュラーとして登場する最後の回でしたし、他の2つはそれぞれオウガさんとサキさんの初登場回でした」

 

マリア「ユキの最終回こそ、わたくしをゲストとして呼ぶべきだったのではなくて!?」

 

ミオ「ああ、それが本音ですか」

 

マリア「まあ過ぎた話ですし、それはもういいですわ。

そんなわけで、今回のゲストはロイヤルパラディンを華麗に指揮する美しくも聡明なお姫様(プリンセス)、早乙女マリアが特別に担当して差し上げますわ!!」

 

オウガ「自分で自分を紹介までしだした!」

 

サキ「自分で言っていて恥ずかしくないんでしょうか……」

 

マリア「本日のテーマは『DAIGO スペシャルエキスパンションセットV』ですわね」

 

サキ「は、はい! カードに、スリーブに、デッキホルダー、ストレージボックスと、はじめようセットに似た販売形態を取っていますが、カードは特典とクイックシールドを含めた15枚しか収録されておらず、デッキではないという点には注意が必要ですね」

 

オウガ「はじめられないセット!?」

 

サキ「スリーブまでついてるのにね……」

 

マリア「商品の性質上、ここからはじめたいファイターもいそうなものですけど。

ギャラティンでもいいから、入れておいて欲しかったものですわね」

 

サキ「あ、そんなこと言うと……」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

サキ「来たあ!!」

 

マリア「あら、ギャラティンですのね。ごきげんよう」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

サキ「え、それだけ? この前のアラシさんと言い、ファイトで強い人は、どこかヴァンガードに対して達観しているというか、ネジが飛んでいるというか……」

 

オウガ(サキはサキで、結構毒吐くようになったよな……)

 

マリア「いい加減そろそろ解説を始めますわよ。

このセットの見どころと言えば、何と言っても『サンクチュアリガード・ドラゴン』ですわね」

 

サキ「はい! グレード1の扱いに長けたスキルは今回も健在です!」

 

オウガ「相手のヴァンガードがグレード3で、自分の盤面にG1がいるだけで、元々の★が+1されるぜ! って、その条件必要か!?」

 

サキ「G1なんて、普通は1体くらいいるよね……」

 

マリア「もうひとつのスキルは、ブーストされずアタックした時、『CB1』、『後列のG1を3体レスト』、『手札を1枚捨てる』ことで、サンクチュアリガードをスタンドして、前列のパワー+10000しますわ」

 

ミオ「Vスタンドの良心であった『ドライブ-1』のデメリットがどこにも書かれていない点が最大の特徴と言えるでしょう」

 

サキ「捨てている手札は1枚なので、★2のVがスタンドしながら1アド稼ぎ続ける異常事態に!」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

サキ「ええ……!? そうかなあ……? 問題だらけだと思うけど……」

 

オウガ「デッキ(いのち)を削って、ようやくアドを稼げるVスタンド(ただしドライブ-1)を実現したクラレットソードが割と立場無いぜ!?」

 

マリア「もはや強さに関する解説は不要のようですわね。

では、あえて欠点を申し上げますと、現状のロイヤルパラディンでは、G1を後列に3体という条件は、決して安定して実現できる条件では無いという点が挙げられますわね」

 

サキ「そうなんですか?」

 

マリア「ええ。スタンダードが導入されてからのロイヤルパラディンは、これまでヴァンガードが何らかの展開能力を所持していたので容易に展開ができていたのですが、サンクチュアリガードは展開能力を持ち合わせておりません。

それどころか、アルトマイルの影響でしばらくクラン全体のコンセプトがG2に傾倒してしまっていたので、G1を展開できるカードは極端に少ないんですの。

このような状況で、後列にG1が安定して3体揃うかと聞かれると、はっきり言いまして未知の領域ですわ」

 

サキ「な、なるほど……」

 

ミオ「ちなみに、G1を山札から展開できる既存カードは『ハイドッグブリーダー アカネ』のみです」

 

マリア「サンクチュアリガードが毎ターンアドバンテージを稼げるのは、あくまでスタンドできた場合の話。

条件がひとたび満たせなかった場合、そのままカードが揃わずズルズル負けてしまうシチュエーションは想像に難くありませんわ。

そのような事態を避けるためにも、デッキはしっかりG1に寄せた構築にしなければなりませんわね。

G3はサンクチュアリガード4枚、G2は新規カードの『制覇の騎士 ウィグスタン』と、『ハイドッグブリーダー アカネ』4枚ずつにすることで、G1を21枚投入できるようになります。

ひとまずそれで試してみて、そこから微調整していくのがいいと思いますわ」

 

サキ「デッキを回してみたら、そこまで極端にしなくてよかったとか、もっとG1を増やさないと安定しないとか、見えてきますからね」

 

マリア「ええ。ヴァンガードは、そうしてデッキを強くしていくのが楽しいんですのよ」

 

オウガ「あとは、そのG1の枠に何を入れるかっすね」

 

マリア「そうですわね。サンクチュアリガードのG1に求められる要素は主に2つ。

『ブーストやレストしなくても仕事ができること』

そして

『前列でも戦えるパワーがあること』」

 

サキ「前者は当然として、後者はG3やG2を減らした構築になりがちなので、G1もある程度前列を担当してもらわなくてはならないからですね」

 

ミオ「新規カードのG1である『厳然の騎士 ベイザール』は前者ですので、後者は特に重要ですね」

 

マリア「まず前者の代表として挙げられるのは『小さな賢者 マロン』。ドローソースとして見るなら今でも一級品ですわね。

サンクチュアリガードはソウルを使わないので、SB2でドローできる『清爽の騎士 グルヒル』も使いやすそうですわね」

 

ミオ「……ドローばかりで普通ですね。せっかくロイヤルパラディンのエキスパートとしてゲストにお招きしたのですから、もう少し面白いカードはないのですか?」

 

マリア「ぐっ……! 注文が多いですわね。というか、わたくしのヴァンガードに面白さを要求しないでくださいまし。

……強いて言うなら『希望の剣 リシャール』かしら。同列のユニットにインターセプトを与えるので、前列のG1もインターセプトができるようになります。

まあ、このユニットが除去されたらそれまでですので、わたくしはオススメしませんわ」

 

オウガ(なんだかんだリクエストに応えてるあたり、人が好いよな……)

 

マリア「後者のユニットに関しては、フォース相手にトリガーを引かれても、アタックが止まらない単体パワー13000が目標値になりますわ。

まずは安定の『月桂の騎士 シシルス』! G3の不確定サーチで前者の仕事も兼ねる、説明不要の必須カード!

カウンターコストはアカネとマロンとサンクチュアリガードが消費してくれますので、ほぼほぼダメージも全裏になっていることでしょう。

アカネが呼んでくる『ぽーんがる』も、不確定とは言え、13000でアタックできる可能性がありますわ。

この2体が優秀なので、他にアタッカーを投入する場合は、パワー13000を越えたいところですわね。

アタック時にSB1で+10000される『奮発の騎士 キュネイルス』なら、毎ターン安定して18000でアタックできますわ」

 

サキ「なるほど! よくわかりました」

 

マリア「こんなものでよろしくて?」

 

サキ「はい! さすが、1年から聖ローゼのレギュラーとして活躍を続けた早乙女マリアさんです!

大学生の大会でも次々と結果を残していると聞きますし!

もう、そんな凄い人から教えを受けられたというだけでも感激ですよ!」

 

マリア「うふふ……もっと褒めてくれてもよろしくてよ」

 

ミオ「では、今日はこのあたりで終わりとしましょうか」

 

オウガ「それじゃ、また次回も……」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

マリア「ですわー」




冒頭のマリアの鼻歌はYAIBAの最後のところです。
DAIGOの歌うヴァンガード主題歌は、どれもアニメ映えしていて、トップクラスに好きです。

次回は12月の本編でお会いできれば幸いです。


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Ex.37「Twinkle Melody」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校2年生。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
新たにつけられた二つ名は「虚無の落とし子」

・鬼塚オウガ
ケガが原因でアメフト部を引退。ミオに誘われカードファイト部に入部した高校1年生。
熱いハートの持ち主。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
新たにつけられた二つ名は「アスリート・ファイター」

・藤村サキ
マイペースなメガネっ娘。深い知識を持つミーハー気質な高校1年生。
使用クランは「たちかぜ」
新たにつけられた二つ名は「牙を持つ文学少女」
なお、彼女はあまり本を読まない。

・綺羅ヒビキ
天すら羨む美貌を誇る、銀髪碧眼の麗しきファイター。高校2年生。
その完成されたプレイングは、芸術にも喩えられる。
使用クランは「バミューダ△」
新たにつけられた二つ名は「若き伝説」「ミラクル★トリックスター」「栄光の一番星」など。


●序

 

ヒビキ「(おおむね)1年に1度のヴァンガードファン夢の祭典!

バミューダ△収録パック『Twinkle Melody』がついに発売!!

本日のゲストは、この美しきバミューダ△使い、綺羅ヒビキが担当させてもらうよ!!」

 

ミオ「まあ、あなたもこういう登場の仕方をするとは思っていましたので、もう何も言いません」

 

サキ「ひゃわわ……アラシさん、セイジさんに続いて、ついにヒビキさんまで」

 

ヒビキ「フッ。キミとは初対面だったね。メガネの似合う響星学園のチャーミングなお嬢さん。

お近づきの印に、どうかこの純白のバラを受け取って欲しい」

 

サキ「あ、あっ、ありがとうございます! か、家宝にしますっ!!」

 

ミオ「3日もすれば枯れますよ?」

 

オウガ「俺とも初対面なはずなんだけどなー」

 

ヒビキ「おっと。これは失礼した。キミにはこの情熱的な真っ赤なバラが似合いそうだ。受け取ってくれたまえ」

 

オウガ「いや、バラが欲しいわけでも無かったんだけどな!?」

 

ミオ「今回のパック『Twinkle Melody』に収録されているのは、当然バミューダ△のみです」

 

サキ「傾向として、環境の変わり目に登場するバミューダ△は、次の環境でも強さを維持させるためか、非常に強力であることが多いです!」

 

ミオ「オーバードレスで環境が大きく変化することが予想される今は、まさにその時ということですね」

 

ヒビキ「強さだけでなく、イラストにも注目だよ!

お約束の水着イラストはもちろん、今回はOCR、オリジナルコスチュームレアとして、旧環境で活躍したユニット達が、おなじみの衣装で収録されているのさ!」

 

オウガ「ところで、ユニットが手に持っている小瓶は何なんすか? 危ないクスリ?」

 

サキ「ダメ! ゼッタイ!!」

 

ヒビキ「これはトゥインクルパウダーさ。これを使用することで、マーメイドは陸上でも活動できるようになるんだよ。

SP水着イラストのマーメイド達は、この粉で足を生やしたという設定なのさ」

 

オウガ「なるほど!」

 

ヒビキ「声を失ったり、たまに幼女になってしまう副作用もあるみたいだけどね」

 

オウガ「やっぱり危ないクスリじゃね!?」

 

ミオ「『楽しい気持ちが、小瓶の中から溢れそう!』と言っているユニットもいますしね」

 

サキ「ダメ! ゼッタイ!!」

 

 

●『みんなが大好き ルピナ』

 

サキ「まずはVRにしてパッケージにもなっている『みんな大好き ルピナ』から! ヒビキさん、お願いします!」

 

ヒビキ「とってもキュートなユニットだね」

 

ミオ「……それだけですか?」

 

ヒビキ「それ以上に何か必要かな?」

 

ミオ「まったく。何の役にも立たないゲストですね」

 

サキ「根絶者回のミオさんも同じことしてましたよー」

 

オウガ「『みんなが大好き ルピナ』は、SB2でデッキの上から7枚見て、ノーマルユニットを1枚コールしつつ、フォースを獲得できるぜ!

さらにアタックした時、CB1でフォース・サークルのユニットをスタンド!

ライド時と自身の効果でフォースは2つ獲得できるから、いきなり5連続アタックだぜ!!」

 

サキ「フォースをバラ撒いてスタンドという動きは、かなりモルドレッドに近いよね」

 

ミオ「モロドレッドですね」 ※モロにモルドレッドの略

 

オウガ「あれほど派手にフォースは配布できないけど、自分で展開もできるし、スタンドさせるユニットは限定されてないし、サポートカードも凶悪だし、何より相手がG3でなければならないという縛りもない!

2~3段階くらい強化されたモルドレッドと見ていいのかもな!」

 

 

●『スター on ステージ プロン』

 

サキ「旋律軸のVRは驚きのスキル! なんとソウルにいる旋律ユニットの能力を得ることができます!」

 

オウガ「得るスキルは旋律スキルに限定されない点がポイントだな!

そのユニットが旋律持ちであれば、旋律スキルと直接関係の無いソナタの起動スキルと、カノンの起動スキルをプロンが同一ターンに使用することもできるぜ!」

 

サキ「ソナタが2枚ソウルにあれば、起動スキルを2回使うこともできちゃうよね!」

 

ヒビキ「フッ。つまりは……

毎ターン旋律ユニットを4枚サーチして、ドロップゾーンから12枚の旋律ユニットを手札に戻し、他の旋律ユニットが登場した時ソウルチャージ4され、相手はガーディアンをコールする時に2枚以上でしかコールできず、アタックがヒットした時手札が4枚になるまで引いて、ヒットした時の効果はヒットしなくても発動するようになって、旋律ユニットはパワー+20000され、ブーストとインターセプトできるようになって、アタック時に+20000、ブースト時に+20000、インターセプト時に+40000

される究極のユニットが爆誕するわけだね!」

 

オウガ「おおーっ! 究極合体! スーパープロンだぜ!!」

 

ミオ「もう色々と足りていませんよ」

 

サキ「と、ともかく、スキル自体は強力にも関わらず、アド稼ぎが不得手だったため敬遠されがちだったカノンの評価は、これで一変するかも知れませんね」

 

ヒビキ「もうひとつの能力もさらりととんでもないことが書いてあるね。

ソウルに旋律ユニットを送りこみつつ、好きなイマジナリーギフトを1つゲット!!

アクセルⅡに目が行きがちだけど、旋律軸でいち早くフォースⅡを全体に配布できるのは大きいし、対戦相手が星詠軸のような大振りなデッキの場合は、プロテクトⅠを確保することで出鼻を挫くこともできる。

使い分ける価値はあるスキルだよ」

 

オウガ「さあ、キミだけの最強アイドルを創り出せ!」

 

 

●『パーフェクトパフォーマンス アンジュ』

 

ヒビキ「ヴァンガード界の完璧超人、アンジュもスタンダードにGo Fight!!」

 

オウガ「アンジュのスキルは、ヴァンガードにアタックした時、CB1でリアガードのノーマルユニットを好きな数だけ手札に戻すぜ!

さらに、戻した枚数に応じて更なるスキルも適用されていくぜ!」

 

サキ「2枚の自身に+10000、3枚のフォースを1つ得る効果は、バミューダにとっては普通ですが、4枚以上戻した場合が非常に強力です!

なんと、山札から何でも好きなユニットをスペリオルコール!」

 

ミオ「『甘美なる愛 リーゼロッテ』をコールすることで、さらにもう一体スペリオルコールすることが可能な他、今弾に収録されている『Chouchou 初舞台 ティルア』ならスタンド条件を満たした状態でコールできます」

 

ヒビキ「バミューダ△には、単体でパワー30000を越えられるリアガードや、強力なガード制限をかけられるリアガードが、現状存在しない。一点突破は難しいだろうから、手数を選ぶのが妥当だろうね」

 

ミオ「リーゼロッテのパワーは10000で、スペリオルコールできるユニットもランダム要素が強いので、フォースⅠによる補助は必須と言えるでしょう」

 

サキ「リアガードは4体バウンスできればいいので、1体はブースト用に残しておいてもいいかも知れませんね」

 

ヒビキ「スペリオルコールも魅力だけど、全体バウンス自体が、相手ターンに向けて生存率を高めることができ、妨害系のスキルをスカすこともできる強力な効果だ。

バウンスとデッキからのスペリオルコールを絡めた、昔からのバミューダらしい動きでファイトしたければ、この子を選ぶべきだね」

 

 

●『PR♥ISM-I ヴェール』

 

ヒビキ「『PR♥ISM』からはヴェールがアゲインだよ!」

 

サキ「ラブラドルじゃないんですねー。ちょっと意外かも」

 

ミオ「ヴェールはSB1と、手札かドロップゾーンから『PR♥ISM』を1枚バインドすることで、ドライブ+1されます。

SB1でトリプルドライブという点は、パシフィカに近いですね」

 

オウガ「バインドはコストだけでなく、もうひとつのスキルの布石にもなってるぜ!

アタック時、前列ユニットをすべて手札に戻し、バインドゾーンから『PR♥ISM』1体をスペリオルコール! 相手がG3なら、さらにもう1体!」

 

ミオ「他の『PR♥ISM』もバインドに関するスキルを所持しているので、一度回り始めたら、バインドゾーンのカードには困らないでしょう。

むしろ『PR♥ISM』で重要なのは、バインドゾーンではなく、ドロップゾーンのカードと言えます」

 

サキ「ヴェールはもちろん、クリアもドロップゾーンの『PR♥ISM』をバインドすることができます。

ドロップゾーンにカードが無ければ、バインドゾーンへの供給も断たれてしまうというわけですね。

ですが、『PR♥ISM』をドロップゾーンに送ることのできる『PR♥ISM』は存在しません」

 

オウガ「『トップアイドル アクア』や『一世一代の告白 アウロラ』でデッキを回していくとよさそうだな!」

 

ミオ「ヴェールにライドする前に、1~2枚『PR♥ISM』がドロップゾーンにあることが理想でしょうか」

 

ヒビキ「バウンススキルもコーラルやアンジュには無い魅力を秘めているんだよ。

なんと! ヴェールはトリガーユニットも手札に戻すことができるんだ!」

 

サキ「あ、ほんとです!」

 

ヒビキ「手札にアタッカーがいなくても、とりあえずトリガーをコールして場を繋ぐことが、ヴェールにならばできる。

トリガーユニットでも、『マーメイドアイドル セドナ』でブーストすれば、パワー18000は出せるからね」

 

サキ「リーゼロッテがトリガーをめくってしまっても、安心してコールできますね!」

 

 

●『学園の綺羅星 オリヴィア』

 

サキ「続いてはレジェンドアイドルレアの『学園の綺羅星 オリヴィア』です!

これまでのレジェンドアイドルとは違い、新規ユニットではなく、かつてのGユニットがレジェンドアイドルとして抜擢されています!」

 

ヒビキ「オリヴィアはハイランダー構築の始祖にして元祖と言えるユニットだ。これほどレジェンドアイドルに相応しいユニットもいないだろう」

 

ミオ「スキルもレジェンドアイドルらしくハイランダー構築を意識しながらも、ハイランダー構築ではなくても使えるようデザインされています」

 

オウガ「ヴァンガードにアタックした時、リアガードを5枚まで選び、それらが別名ならすべてスタンドするぜ!

3枚以上スタンドしたら、このユニットの★も+1だ!」

 

サキ「つまり、リアガード5体のうち同名ユニットのペアが1つあったとしても、他の3体を選べば★+1まで適用できるわけだね」

 

ヒビキ「従来のレジェンドアイドル軸はもちろん、例えば旋律デッキなんかは、同名カードを複数積むことはあっても、盤面はすべて別名ユニットであることも多いし、そのような盤面を組み立てることも容易なデッキだ。そういったデッキのアクセントになるかも知れないね」

 

サキ「旋律のパワーはバミューダ△でも随一ですし、スタンドとの相性は抜群で、実用性も高そうです!

プロンでアクセルサークルを増やせているなら、攻撃回数も倍増ですよ!」

 

 

●オーダーカード 『夢に漂う星雲』

 

オウガ「『Twinkle Melody』収録のオーダーカードは怪しいふんどし!」

 

サキ「えっ、ふんどしだったの……?」

 

ヒビキ「バミューダパック収録のオーダーだけど、このカードはどんなクランでも使用可能になっているね。それも、可能性を感じる面白いカードだ」

 

こっきゅん「うむ。ここからは、この『氷獄の死霊術師 コキュートス』が特別に解説してくれよう」

 

ヒビキ「フッ。よろしくお願いするよ」

 

サキ「こっきゅんをごく自然に受け入れてる!?」

 

オウガ「それはいいけど、何でこっきゅんが?」

 

こっきゅん「ククク……何故ならこのふんどしこそ、太古の呪術師達が求めてやまなかった秘宝だからよ」

 

サキ「あ、本当にふんどしだったんですねー」

 

こっきゅん「この秘宝があれば、誰でも手軽に死者を蘇らせることができる。死霊術の媒体となるわけだな。

もう1枚の『夢に漂う星雲』と、哀れなる子羊の(ソウル)を2つ捧げることで、『夢に漂う星雲』は発動する。

冥府(ドロップ)からグレード2以下の傀儡(ユニット)を2体蘇らせること(スペリオルコール)ができるのだ」

 

オウガ「いちいち用語の翻訳が面倒だな!?」

 

こっきゅん「さらに互いのユニットを好きな枚数選び、相手ターン終了までインターセプトと、後列からインターセプトできる能力を得る。

人魚の小娘どもから自我を奪い、主の命令ひとつでいつでも盾とすることができるというわけだな」

 

オウガ「えぐい!」

 

ミオ「G2の段階で使用することができ、アドバンテージを失わず、実質ソウルとドロップゾーンという広い範囲からG2以下のスペリオルコール+αができる、発動することさえできれば、速攻から守備固めまでこなせる優秀なカードです。

最大のネックは、やはり同名カードが2枚必要という点でしょうか」

 

ヒビキ「バミューダ以外で使うとなると、筆頭候補は『グリード・シェイド』を擁するグランブルーかな。事前にスペリオルコールの選択肢を増やしつつ、『夢に漂う星雲』を揃える手助けをしてくれるよ」

 

オウガ「ドロップゾーンからスペリオルコールすることで効果が発動できるカードが多いのも魅力だな! 『細波のバンシー』や『ストームライド・ゴーストシップ』を蘇生させてアドだぜ!」

 

サキ「ドロップゾーンからユニットを蘇生させて、インターセプトで処理するという動きが、そもそもグランブルーの昔からある基本戦術だからね。

『夢に漂う星雲』で指定したユニットをインターセプトで処理して、空いた穴をこっきゅんのスキルで埋め直す動きはかなり強そうだね」

 

ヒビキ「オラクルシンクタンクも面白そうだね。ドローやデッキトップ操作でカードを揃えやすいし、こちらは本来、ドロップゾーンのカードに触れられないクランだ。だからこそ、ユニットの使い回しができるこのカードは戦略に広がりを持たせてくれる」

 

ミオ「それ以外のクランでも、一定の採用価値はあるカードのように思えます。自分のクランで採用の余地はあるか、じっくりと検証してみるといいでしょう」

 

 

●『ガーリッシュアイドル リリクル』

 

こっきゅん「偶像(アイドル)に扮した死霊術師。それがこやつの正体よ」

 

オウガ「マジで!?」

 

サキ「ユニット設定が無いから、こうやって好き勝手言いだす人が増えるんですよ! ユニット設定の復活を熱望します!」

 

こっきゅん「この小娘は登場時にドロップゾーンからオーダーカードを2枚選び、手札に戻すことができる。その最有力候補は当然、今弾収録の『夢に漂う星雲』だ。これで傀儡を蘇生させ、ボード・アドバンテージに変換することができるというわけだな」

 

オウガ「ん……? けど、登場時スキルなんだろ? ドロップゾーンにいきなり『夢に漂う星雲』が2枚ある状況って難しくないか?」

 

こっきゅん「この小娘は、その点も抜かりない。こやつの忠実なる配下(サポートカード)は、『夢に漂う星雲』のサーチに特化している。

『愛あるご奉仕 マクシーネ』は、ヴァンガード登場時、手札を1枚捨てることで、『夢に漂う星雲』2枚を手札に加えることができる。

『マルチプルシャイン ミラーダ』は、ヴァンガード登場時、山札の上から7枚見て、別のG2に再ライドすることができる。

この2枚を採用しておけば、G2の段階で安定して『夢に漂う星雲』を使用することができるであろう」

 

オウガ「ミラーダはZEROとのコラボで先行登場したカードだったな! このためのカードだったとは!」

 

ミオ「難点は、2枚ともリアガードではバニラ同然という点ですね。せっかく好きなG2を蘇生できるのに、選択肢に幅が無いのはいただけません」

 

サキ「残りの枠には、できる限り強力なG2を採用しておきたいところですね。展開かソウルかを選ぶことができる『甘美なる愛 リーゼロッテ』なんかは相性が良さそうです」

 

オウガ「リーゼロッテなら、手札にマクシーネがなくても、G1の時点でコールしておくことで、Gアシストでムリヤリマクシーネを引いてくるなんて荒技もできるな!」

 

ミオ「パワーを重視するなら『鮮やかなる夢幻 アクティアナ』も候補に挙がります。退却デメリットのため場持ちが悪いですが、『夢に漂う星雲』があれば再利用も容易です」

 

サキ「『パールシスターズ ぺルル』と『パールシスターズ ぺルラ』も面白いですよ。両者がひとたび揃えば延々と使い回すことができるようになりますし、僅かなG2枠も圧迫しません!」

 

ヒビキ「マクシーネは『ガーリッシュアイドル リリクル』を指定しているわけではないという点にも注目だね。このカードを採用することで、例えば、コーラル軸やリヴィエール軸に、無理なく『夢に漂う星雲』も採用することができる。

コーラルなら『夢に漂う星雲』でソウルを消費できる点からも相性がいいし、両者ともにG1、G2にキーカードが集中しているのもポイントだよ」

 

サキ「倒しても倒しても蘇る『スーパーアイドル リヴィエール』はイヤですね。色々な意味で……」

 

ミオ「マクシーネが良カードすぎて、少し話が逸れてしまいましたね」

 

こっきゅん「うむ。ここいらで『ガーリッシュアイドル リリクル』の小娘に話を戻そうか。

多大なるアドバンテージを稼げる登場時能力も小娘にしてはなかなかのものだが、こやつの真価は、むしろもうひとつのスキルにある。

いずれかのユニットがインターセプトした時、そのバトル中、こやつのパワーは+10000されるのだ」

 

オウガ「つまり、前列のG2がインターセプトするだけで、実質15000ガード相当になるってことか!」

 

ミオ「『夢に漂う星雲』で後列もインターセプトできるようにしていれば、さらに守りは固くなります。本気で守備に徹するのであれば、『夢に漂う星雲』で治トリガーや★守護者をスペリオルコールしておくことで、難攻不落となるでしょう」

 

ヒビキ「このスキルは相手のインターセプトに反応するのもポイントだね。相手からすれば、インターセプトしているはずが、そのたびにパワー+10000されていくので、実質インターセプトを封じられたも同然の形になるんだよ」

 

こっきゅん「その仕組みを生かしたのが第3のスキルとなる。

このユニットがアタックした時、CB1することで、相手にインターセプトを強制する。敵すら傀儡として操る悪趣味な能力よな」

 

ヒビキ「そして、『夢に漂う星雲』は相手ユニットにもインターセプトを付与することができる」

 

サキ「……あっ! ということは!」

 

オウガ「全体除去(デストローイ)――!?」

 

ヒビキ「その通りさ! それもインターセプトされたらされた分だけパワーも上がるので、よほどG0をコールされていない限り、何故かガード要求値も上がるんだ!」

 

オウガ「た、たしかに悪趣味だぜ……」

 

ヒビキ「3つのスキルとオーダーカード。そのすべてが独創的かつ美しく絡み合う、とっても素敵なユニットだけど、除去にはまったく無力という点には注意が必要だね」

 

ミオ「はい。抹消者やブレードマスターような、毎ターンユニットを全滅させてくる相手に対しては絶望的なのは当然として、ルアードやランブロスのように、ついでのようにキーカードを除去してくる相手すら、かなり厳しいファイトを強いられるでしょう。

除去を受けた後の立て直しが得意なのは、まだ救いですが」

 

サキ「抵抗(レジスト)系のサポートカードがあればとは思っちゃいますよね」

 

こっきゅん「それが小娘の限界ということだな」

 

ヒビキ「とは言え、この『ガーリッシュアイドル リリクル』の将来性は結構高い。登場時に回収できるオーダーカードは『夢に漂う星雲』に限定されていないからね。

今後新たなオーダーカードが登場するたび、特に相手ターンで使用できるブリッツオーダーが登場すれば、再評価される機会はいくらでもあるよ!」

 

ミオ「今回のデッキログでは、作者が机上の空論でデザインしたリリクルデッキを掲載しています。参考にしてあげると作者が喜びます」

 

 

●『愛すべき妹 メーア』

 

ヒビキ「理想にして永遠。驚天動地にして空前絶後の愛すべき妹が……えへへ、スタンダードにも来ちゃった、お兄ちゃん!」

 

オウガ「誰だよ!?」

 

ヒビキ「今回のメーアは『メーアの贈り物』という特殊なマーカーを使用する。これはサークルに置くのではなく、手札に加えるんだ!」

 

オウガ「おおっ! まったく新しいスキルの予感!」

 

ヒビキ「メーアにライドしたら、まずはメインフェイズ開始時に『メーアの贈り物』が手札に1枚加わる。これ単体では何の効果もないけれど……」

 

ミオ「なるほど。アウロラや完全ガードのコストとして捨てればアドバンテージに繋がるわけですね」

 

ヒビキ「やめたげて!? いや、できるけども、やめたげて!!」

 

サキ「ミオさんが危険なので早めに解説しておくと、バトルフェイズ開始時、手札から『メーアの贈り物』を公開することで、1枚につきパワー+5000されます!

さらに、2枚以上公開した場合は1ダメージ回復することができます。

今の環境、G3にライドして2ターンもたずに負けることもザラにあり、1ダメージ回復したとしても焼石に水にしかならないことも多いですが!」

 

ミオ「とってつけたような展開兼デッキトップ操作の起動能力もあり、むしろこちらが普通に強いですね」

 

 

●『透き通る魅力 セレディ』

 

サキ「ハイランダー構築とは対を成す、同名カードを集めることで強さを増すユニットです!」

 

ヒビキ「コンセプトとしては、旧環境にあった『Duo』に似ているね」

 

サキ「はい! セレディのスキルはCB1でユニットを1枚選び、山札かドロップゾーンから同名カードを1枚手札に加えます!」

 

オウガ「そして、リアガードがアタックした時、手札からアタックしたユニットと同名カードを公開することで、公開した枚数1枚につきパワー+10000するぜ! 2枚見せれば+20000! 3枚見せれば+30000だ!」

 

サキ「これらのスキルでカードを集め、強化する筆頭が『紺碧の名宝 ファシーヴ』と『目指すは完璧 レレンカ』です!

両者の違いはグレードと名前だけ。いずれもアタックのヒット時に同名カードを手札に加える効果と、アタック時に同名カードを2枚捨てることでスタンドし、2枚引く効果を持ちます。

セレディのスキルはターン中永続なので、各自のスキルで同名カードを回収していたり、新たな同名カードを引くことができていれば、2回目のアタックはさらにパワーを増加させることも可能ですよ!」

 

ヒビキ「うん。そこまでが普通の使い方だね」

 

オウガ「?」

 

サキ「?」

 

ヒビキ「このカードには、とっておきの裏技があるのさ。その裏技の核を成すカードこそ、『トラブルバラドル プレシブ』!

このカードはデッキに16枚まで入れられる!!」

 

オウガ「!?」

 

サキ「!?」

 

ヒビキ「4積みしかできないカードでは、セレディのスキルで1回+30000しかすることができない。しかし、このプレシブなら手札に5枚以上加わる可能性がある! +40000でも、+50000でも夢を見ることができるんだ!」

 

オウガ「!!」

 

サキ「!!」

 

ヒビキ「それだけじゃない! 手札にプレシブが5枚あるとして、2枚をコールするとする。セレディは、残った3枚で2体とも+30000できるんだ! G3が多くなってガードが大変そうに見えるが、手札の管理はこちらの方が遥かに楽なんだよ!」

 

サキ「なるほど……確かに裏技ですね」

 

ヒビキ「連続してアタックできるレレンカ、ファシーヴより強いかは難しいところだけど、少なくともファシーヴとは共存できるし、何よりも面白そうだろう? ヴァンガードは勝つだけがすべてじゃない。自分が一番楽しいと思うデッキを組むのもひとつの遊び方だよ」

 

サキ「はい!」

 

ヒビキ「ま、そんなつもりでデッキを組んでも、ボクは勝ててしまうんだけどね!」

 

サキ「台無しです!!」

 

 

●『ベルベットボイス・レインディア』

 

ムドウ「美人だ」

 

オウガ「また呼んでない人が出てきた!!」

 

ムドウ「バミューダ△をやるなら、この俺も呼んでくれなくては困るな」

 

オウガ「あんたはシャドパラ使いだろ!?」

 

ヒビキ「フッ。あなたは話の分かる人間のようだな。御厨ムドウ先輩?」

 

ムドウ「フッ。貴様に名前を知られているとは、俺も捨てたものではないな。綺羅ヒビキ?」

 

ヒビキ「フッ。最強を志すファイターで、あなたの名を知らぬ者はいないさ」

 

ムドウ「フッ。世事として受け取っておこう」

 

ミオ「鼻でも詰まっているんですか? あなたたちは」

 

ムドウ「レインディアとは、今から9年前、初のバミューダ△単独パックである『歌姫の饗宴』に収録されていたコモンカードだ」

 

オウガ「何か昔語りが始まった!!」

 

ムドウ「かわいい女の子だけが収録された『歌姫の饗宴』の注目度は非常に高く、発売からすぐ品薄に陥った。そのため高レアリティのカードはいずれも高額であった。

そこで注目を浴びたのが、コモンでヴァンガード専用の能力を所持していたレインディアだ。

バミューダ△をとりあえず使ってみたい既存ファイターから、バミューダ△からヴァンガードを始めたい新規ファイターが飛びついたのだ」

 

ヒビキ「幸運だったのは、レインディアのスキルは、ドライブチェックの楽しみを増やす面白いカードだったことだね。

ヴァンガードの楽しさを伝えるには最適なユニットだったんだ。

実際、ここからヴァンガードを始めたというファイターは多く、イラストの美しさも相まって、コモンとしては破格の人気を得た」

 

ムドウ「案外、今、大会で活躍しているファイターも、始まりはここからだったのかも知れんな」

 

ヒビキ「かく言うボクも、そのひとりなんだけどね」

 

ミオ(ああ。だからあの時「原点」と……)

 

ヒビキ「そんなヴァンガード史に残る名作、レインディアが、ついにスタンダードでもオンステージ!

そのスキルはなんと! レジェンドアイドルのハイランダー構築を超強化するメインヴァンガード!

公開された時にトリガーとして扱われるから、レジェンドアイドルデッキでも4積みできるんだ!」

 

サキ「ヴァンガード時のスキルは、アタックしたバトル終了時、手札を2枚捨てて、公開されたノーマルユニットがそれぞれ別名なら、その中からレインディア以外にドライブ-1でスペリオルライドできます!」

 

ムドウ「めくる楽しみにレインディアの面影があるとは言え、どちらか言うとローリスやアルクに与えるべきだったスキルな気もするな……」

 

ヒビキ「スペリオルライドしたいユニットは『学園の綺羅星 オリヴィア』と『類稀なる才覚 ラウラ』が候補になるだろうね。盤面が整っているならオリヴィア、整っていないならラウラと使い分けたいところだけど……」

 

ミオ「基本的にデッキに1枚しか入っていないカードを10枚めくって引き当てなければならないため、状況に応じてスペリオルコールできるユニットを選べるスキルではありません」

 

ムドウ「レジェンドアイドルに拘らず、他のカードも積極的に採用すべきだろうな。そもそも『みんなが大好き ルピナ』や『パーフェクトパフォーマンス アンジュ』なら、条件を満たせばアタック回数は先述の2枚となんら変わらん」

 

オウガ「さすがVR……!!」

 

ヒビキ「他のカードも負けてはいないよ。『Chouchou 初舞台 ティルア』なら、ドライブ0になってしまうものの、ヴァンガードによる更なる追撃が可能だ」

 

ミオ「コモンの『艶めく独創 ゲアリンデ』は、劣化ラウラと言うべき性能ですが、それでも選択肢と成功率を増やすという意味では採用しておくべきカードになるでしょうね」

 

ムドウ「『ハートを独り占め アネシュカ』も、先を見据えるなら採用圏内だが、『アトランティアの歌姫 イリーナ』だけはどうしようもないほど相性が悪いな」

 

ヒビキ「それらのカードで追撃を終えたら、ターン終了時、スペリオルライドしたユニットを山札の下に戻し、ソウルからG3にライドできるよ」

 

ムドウ「スペリオルライドしたユニットを山札に戻す点は、ルアード等と違いソウルを増やすことはできないが、デッキをシャッフルするか、デッキ枚数が10枚以下になれば、再利用ができるということだ。ハイランダー構築なら十分なメリットだろう」

 

ヒビキ「ライドするG3はレインディアに戻るのが基本だけど、手札にすでにレインディアがあって再ライドが保証されている場合や、相手ターンに備えて手札を増やしたい場合は、アドバンテージを稼げる登場時能力を持ったユニットにライドしてもいいね」

 

ミオ「『高邁なる白銀 クティーレ』は、レジェンドアイドル軸であれば好きなカードを手札に加えることができます。『Chouchou 初舞台 ティルア』ならリアガードを3枚バウンスして守りを固めることができますね。

これらのカードは事前にソウルにあることが前提ですが、バミューダはソウルチャージできるカードも多いので、偶然ソウルに入ってくれる可能性は十分にあるでしょう」

 

ヒビキ「総じて、文頭から文末まで面白いことしか書いていない、これぞレインディアと言える素敵なカードに仕上がっているようだね! 皆にもぜひ使ってみてほしいな!」

 

 

●『Chouchou 初舞台 ティルア』

 

ヒビキ「Chouchouからはティルアが2度目の初舞台!」

 

オウガ「どっちだよ!?」

 

サキ「これまでの解説でも、何度か名前が挙がりましたね」

 

オウガ「おう。レインディアからの再ライドや、アンジュでスペリオルコールしてやるといいんだったな!」

 

ヒビキ「スーパーサブとして優秀な彼女だけど、メインだって張れる実力は十分にある。

まず、Vへの登場時、ノーマルユニットを3枚まで戻し、3枚以上戻したら、このユニットのパワーを+15000する」

 

ミオ「そして、アタックしたバトル終了時、リアガードが3枚手札に戻されているなら、CB1と手札を1枚捨てることで、このユニットをスタンドさせます。

Vスタンドにしては手札を捨てる枚数が少なく、クセの少ない部類ですね」

 

サキ「ユニットを手札に3枚戻すのは、ティルアとアンジュ以外のカードでも不可能ではありませんが、なかなか難しい条件です。基本的には、毎ターン、ティルアへ再ライドしていくことになるでしょう」

 

ヒビキ「レジェンドアイドルへの繋ぎとしての採用もいいかもね。ティルアデッキにどうしても4枚入れたいようなカードは無いし、レインディアと相性の悪い『アトランティアの歌姫 イリーナ』は、このカードと方向性が同じだから、とっても相性がいいよ。イリーナ2、ティルア2、他1枚ずつといった、変則的な構築も試してみるといいね。

『輝きの新星 イヴ』なら、デッキをハイランダーにする必要が無いから、安心してティルアも4枚入れられるんだ」

 

サキ「レインディアと相性の悪いレジェンドアイドル達の受け皿にもなってくれるわけですね! いい子!」

 

オウガ「ひとつ注意しておきたいのが、G2からG3にライドする段階で、リアガードに3体のノーマルユニットがいなければパワー15000は得られないし、最悪Vスタンドすら不発になる点だな。

ユニットをコールしておくことや、前列ユニットを守ることを忘れないにするのはもちろんのこと、除去を受けたり、手札がトリガーばっかりでスタンドができなくなる状況は常に意識しておくべきだぜ」

 

 

●『エレクトリックエッセンス システィコ』

 

オウガ「バミューダがスタンド封じだとお!?」

 

ミオ「この場にアリサさんがいたら発狂していましたね」

 

 

●終

 

オウガ「……ちょっと思ったこと言っていいか?」

 

ミオ「どうぞ」

 

オウガ「同じような戦い方するユニット多すぎじゃね?」

 

サキ「ヴァンガードがアタックした時に、スペリオルコールするなり、スタンドするなりで5回攻撃! っていうユニットが確かに多いよね……」

 

ミオ「バミューダ△に限らず、フォース・プロテクトのVRは、ほとんどがそのような感じですけどね。

この風潮を生みだした原因であろうモルドレッドは、最高傑作にして失敗作だったような気がします」

 

オウガ「となると、5回攻撃に加えて、ヴァンガードの攻撃が1つ多いレインディア軸が環境では一歩リードかもな!」

 

サキ「気持ちとしては、独自の方向性を貫いている、プロン、メーア、リリクルを応援したくなっちゃいますね」

 

オウガ「アイドル大戦国時代を勝ち抜くのはいったい誰か!?」

 

ヒビキ「もちろんイラストを愛でるのも忘れちゃいけないよ」

 

ムドウ「ところでオウガはどれが好みだ?」

 

サキ(!?)

 

オウガ「あー、俺はプロンっすかね」

 

サキ「……へー。ふーん。オウガ君、ああいうのがタイプなんだ」

 

オウガ「合体ロボみたいでカッコいいからな!」

 

サキ「スキルの方!?」

 

ムドウ(ふん。こっちはこっちで前途多難だな)

 

ミオ「私はヲクシズが好きです」

 

サキ「バミューダですらない!」

 

ヒビキ「ふふ。みんなも健康には気を付けて、推しメンと一緒にファイトを楽しんでくれたまえ!」

 

ミオ「それではみなさん……」

 

こっきゅん「さらばだ」 ムドウ「さらばだ」




根絶少女2度目となる、バミューダ回のえくすとらをお送り致しました。
イラスト面ではレインディア推しですが、デッキログでは本文中でも予告していた通り、リリクルデッキを掲載してみました。
本当はプレシブ型のセレディも掲載したかったのですが、あれは実際に回してみないと絶対に事故るだけなので諦めました。
どこまで役に立つかは不明ですが、参考にして頂ければ幸いです。

次回は1月の本編でお会いできれば幸いです。


【デッキログ】
リリクルサンプル:RLDF


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Ex.38「ヴァンガードプロジェクト2.0発表会」

ユキ「根絶少女読者の皆様。新年あけましておめでとうございます。御挨拶が大変遅くなってしまいまい恐縮の至りではございますが、今年も根絶少女登場人物一同……」

 

アリサ「はいはい、あっけおめー!」

 

アラシ「あけおめあけおめ……って、おい」

 

ユキ「あら、どうしたのかしら、アラシ君?」

 

アラシ「何だよ、この脈絡の無いメンバーは」

 

アリサ「とんでもない! このメンバーにはとてつもなく重要な共通点があるんだから!」

 

ユキ「私達の使用クランはそれぞれ、むらくも、メガコロニー、グランブルーよね」

 

アリサ「そう! 作者がメインで使用しているクランの使い手を集めたの!」

 

ユキ「今回の速報はさすがにどうしたって作者の感情が多分に含まれてしまいそうだから、いっそのこと思いのたけをぶつけやすい人員を揃えたのね」

 

アラシ「ああ、そういうことかよ。

つか俺、あんたらと面識すら無ぇんだが」

 

アリサ「細かいことは気にしない! さっそく『ヴァンガードプロジェクト2.0発表会』を見ていこうか!」

 

アラシ「まずその発表会のタイトルからツッコミたいんだが。まだ2.0だったってとこに驚きだよ」

 

アリサ「そうよねー。

『騎士王降臨』を1.0とするなら、『竜魂乱舞』で1.0.1、『極限突破』で1.1。

『時空超越』の時点で一度2.0にアップデートされたイメージよね」

 

アラシ「百歩譲っても、『結成!チームQ4』からは2.0だったろうと。スタン落ちまでしたんだからよ」

 

アリサ「そんなタイトルからして認識のズレが気になる『ヴァンガードプロジェクト2.0発表会』! 今度こそ順番に見ていきましょ!」

 

 

●世界観

 

ユキ「私達の知っている惑星クレイの時代から……3000年後!」

 

アリサ「3000年!?」

 

ユキ「国家とクランは大きく様変わりしたらしいわ。

ユナイテッドサンクチュアリはケテルサンクチュアリ。ダークゾーンはダークステイツ。スターゲートはブラントゲートと名を変え……」

 

アラシ「ズーとメガラニカは、バミューダ△を除いてストイケイアに統一された、と……」

 

アリサ「え、それってつまり?」

 

アラシ「グランブルーとメガコロニーが統合されたってこったな! ギャヒャハハハ!」

 

アリサ「マ ジ で か ! ?」

 

ユキ「よりにもよって作者の原点とも言える2大クランがねえ……」

 

アリサ「絶対正義の海軍と、無頼の海賊団と、悪の秘密結社を一つにまとめた賢者って何者よ!?」

 

アラシ「賢者というか、途轍もないペテン師じゃねーかな、そいつ」

 

アリサ「ともかく、作者の国家はこれで決定したようなものよね」

 

ユキ「えっ、ドラゴンエンパイア(むらくも)は……?」

 

アリサ「ドラゴンエンパイアだけ名前そのまんまなのよねー」

 

アラシ「まあ、もうドラゴンエンパイアはやらねーんじゃねぇかな?」

 

ユキ「!?」

 

アラシ「むらくもなんて、たちかぜやなるかみと混ぜたいもんじゃねーだろ」

 

ユキ「隠密してない!?」

 

アリサ「ま、それを言うならあたしたちもなのよねー。

昆虫怪人の秘密結社で戦うからこそ燃えるのであって、いくら好きでも、そこにゾンビやスケルトンが混ざってくるのは少し違うと言うか。ましてや、自分達こそ正義だなんて臆面もなく言ってのけるような海軍連中と手を組むなんて、頼まれたってゴメンだわ」

 

アラシ「どう考えても、俺らとアクアフォースは相性悪いよなー」

 

※アクアフォースを批判しているのではなく、あくまでメガコロやグランブルーのイメージと合わないという話です。念のため。

 

アリサ「とりあえず、世界観に話を戻しましょ」

 

ユキ「ここから先は朗報よ。惑星クレイ物語や、ユニット設定にあたる小説やコラムが再開されるそうなの」

 

アリサ「マジで!? やった!」

 

アラシ「ユニットの背景設定が無い点は、V環境最大の不満点として作者は挙げているからな」

 

アリサ「そうそう! ガンニングコレオとか、イラストもフレーバーも素敵なのに! 何でユニット設定が無いの!? 絶対深い背景があるでしょアイツは! サイクロマトゥースとの関係とか!」

 

アラシ「ま、そのおかげで根絶少女では好き勝手に描写できたけどな」

 

アリサ「コレオだけ、やたら気合入ってたよねー」

 

ユキ「そもそも根絶少女を書き始めた理由の一端が、そういった設定の補完――というか鬱憤晴らしのようなものだったらしいわよ」

 

アラシ「あーあ。ということは、この小説もいよいよお役御免か」

 

ユキ「あと1年と少し続くからね!?」

 

アリサ「もうちっとだけ続くんじゃ」

 

アラシ「それにしてもよ、たった3000年後の話なんだろ?」

 

アリサ「たった!?」

 

アラシ「ナイトミストやコキュートスとか、普通に存在してんじゃね?」

 

アリサ「……それもそうよね」

 

こっきゅん「うむ」

 

アリサ「あ、生き証人」

 

ユキ「死に証人じゃなくて?」

 

アリサ「女王陛下(グレドーラ)なんかも、妙に長生きなのよね。数百年前から女王やってたらしいし。虫なのに」

 

アラシ「他にも……Gユニットなんかは、ちょうどその時代に生まれたやつとかいるだろ?」

 

ユキ「あ、ヒャッキヴォーグ・ナユタなんかは、ユニット設定によると『数千年』後のユニットよ」

 

アラシ「V環境みたいに、右も左も知った顔なんてのは困るけど、そういったユニットがたまに登場する分には面白いかもな!」

 

アリサ「はっ! ひょっとしたら、立派な王に成長したアルキデスが見れるかも!? 激アツ! ビバ、3000年!!」

 

 

●レギュレーション

 

ユキ「世界観の変遷に合わせて、レギュレーションも変更されるわ。

さっきも少しアリサ達が示唆していたけど、今後はクランではなく国家でデッキを組むことになります」

 

アリサ「……うーん」

 

ユキ「こうしたことをするに至った経緯が発表されているから読み上げるわね。

『これまでのクラン制では“24クランすべてを年に1回以上強化する”がヴァンガードの方針……』」

 

アラシ「嘘つけっ!!」 アリサ「嘘つけっ!!」

 

ユキ「あら?」

 

アラシ「『煉獄焔舞』と『刃華超克』だけでも1年半空いただろーが! ヴァンガードG1期をまるっとスルーされたんだぞ、グランブルーは!」

 

アリサ「メガコロなんて最長1年9か月も強化されなかったのよ!? その間に呪縛なんてパラライズの上位互換が登場して、どれほど肩身が狭かったか!」

 

こっきゅん「『煉獄焔舞』と『刃華超克』の間には我のGユニットたるコキュートス・ネガティヴが……」

 

アラシ「てめーは黙ってろ」

 

ユキ「まあ、私も思うところはあるけれど、ふたりほどあからさまな放置はされなかったから、そこは触れないでおくわね」

 

アリサ「むらくもは意外とコンスタントに強化されるよねー」

 

ユキ「むしろ私が許せないのは、マガツがぬばたまにされたり、新田シンをジェネシス使いにされたことだけど」

 

アリサ「永遠に残り続ける改悪!」

 

ユキ「話が逸れたわね。

“24クランすべてを年に1回以上強化する”が公式の言い分だったけれど、24クランあっては、1度強化されたクランの再強化まで日が空いてしまう……」

 

アラシ「今さらだな、オイ」

 

ユキ「国家制にした場合、1つのブースターパックに全国家を収録することができるため、デッキを強化する楽しみが増大! ……するらしいわ」

 

アリサ「そこよねー。あくまでメガコロが好きでヴァンガード続けてるような作者からしてみれば、種族で言うとインセクト以外のユニットを入れたくないというか……やっぱり微妙に認識がズレてんのよ」

 

アラシ「それどころか、ネオネク、グレネ、アクアフォース由来のユニットばっかり出し続けて、グランブルー、メガコロ由来のユニットは2年放置なんてこともありえるかも知れないぜ?」

 

アリサ「『ストイケイアはちゃんと強化してますー』って免罪符にされるわけね」

 

アラシ「もっと最悪のパターンが、例えば、メインG3がアクアフォースやネオネクタールになって、そいつ用のリアガードG3がグランブルーやメガコロニーにされることだな」

 

アリサ「現スタンで言う、御大将とヒャッキヴォーグ、グルグウィントとパーシヴァルみたいな釈然としない関係性が、クランをまたいで行われる可能性もあるってことね。それは確かに最悪だわ」

 

ユキ「何とは言わないけれど、作者は他のカードゲームでも緑黒をよく使ってるから、それと思えば違和感は小さくなるかしらねぇ」

 

アリサ「国家数が5~6なことを考えても、MT〇Gや、デュ〇エマみたいなカードゲームを目指したいのかしら?」

 

アラシ「もう少し伏字を頑張れよ……」

 

アリサ「明らかに多すぎたとは言え、他に無かった魅力であり、評価できた点でもあるのよね、クラン制は。本当に今さらというか、ずれているというか、何というか」

 

ユキ「けど、メガコロニーやグランブルーはまだいい方よ? ミオちゃんなんて大変なんだから」

 

アリサ「え?」

 

アラシ「ああ、リンクジョーカーがブラントゲートを構成する三分の一になって、根絶者はさらにそれの派生になるわけだな」

 

アリサ「そっか! クラン内の特定名称を応援していたファイターにとっては、さらに厳しい環境になるわけね! ミオちゃんを呼べないわけだわ」

 

アラシ「根絶者もそうだが、銃士とか、マシニングとかは見た目が特徴的で、個別にファンも多そうだしな」

 

ユキ「根絶者に関しては『ブラント』ゲートという国家名に期待するしかないわねえ」

 

アリサ「根絶者が登場するまで、ミオちゃんはどうするんだろ?」

 

ユキ「それなら心配ないわ。現スタンダードも、Vスタンダードとして存続が決定しているの!」

 

アリサ「おおー!」

 

ユキ「今後も半年に1回、全クランを強化していく方針らしいわ」

 

アラシ「Gスタンは移行期間って感じですぐ終わっちまったけど、それなら安心だな!」

 

アリサ「メガコロからすると、強化頻度だけならこれまでより多くなるんじゃない!? やったぁ!」

 

ユキ「作者の方針としては、Gスタンはとりあえず続けつつ、ストイケイアのスターターを買って新スタンダード環境を様子見……みたいな感じになるかしらねえ」

 

 

●新仕様

 

ユキ「新スタンダードで採用される新しい試みも発表されているわ」

 

アラシ「まずはレアリティの話だな。VRの廃止。最高レアリティはRRRまで!」

 

アリサ「んー、カードを集めやすくなって嬉しいけれど、それで儲かるのかな?」

 

アラシ「とみー兄弟のような、強力汎用カードをRRRに設定すれば余裕だぜ!」

 

アリサ「それはそうだけど!」

 

ユキ「他にも、R、Cのカードを(ホロ)として収録したり、DSR(ドレスシークレットレア)という最高レアリティを用意しているらしいわ」

 

アリサ「なるほど。最近は人気カードのSPが値段を吸い上げて、エースユニットのVRでも安いことが多かったもんね。1枚そういうカードを作っとけば大丈夫なのかぁ」

 

ユキ「そして、ここからがお楽しみのゲーム内に関する仕様よ」

 

アラシ「まずは『確定ライド』! デッキから山札とは別にG0~G3のカードを1枚ずつ分けて置く。ライドフェイズ時、手札を1枚捨てることでライドデッキのユニットにライドすることができるんだぜ!」

 

アリサ「え、すっご! ……でも、うーん?」

 

ユキ「あら? アリサは不満かしら」

 

アリサ「いや。好きなユニットにライドできるのは嬉しいのよ? けど、それって運要素が無くなる分、地力の差が出やすくなるのよね。単純に強い人、強いデッキだけが勝てる環境になってしまわないか、少し不安だわ」

 

アラシ「制限カードを乱発してる最近の開発陣に、そんなデリケートな調整ができるのかよって話な!」

 

アリサ「オブラート! いや、今日もあたしはあんまり包んでないけどさ!」

 

ユキ「エースユニットのG3も1枚あればよくなるのよねぇ。揃えるのは楽でいいけれど、商売的に大丈夫なのかしら」

 

アラシ「ペルソナブラストでもさせるんじゃね?」

 

アリサ「G3の左上(ギフトマークのあったところ)をよく見てみたら、ペルソナライドというアイコンが……!!」

 

アラシ「やっぱりかよ!」

 

アリサ「けど、偶然当たった1枚のSPにも確実にライドできるのは地味に嬉しいよね」

 

ユキ「新しい仕様はまだあるわよ。その名も『オーバートリガー』!!」

 

アラシ「ほう?」

 

ユキ「めくれたらパワー+1億よ」

 

アリサ「どインフレ!?」

 

アラシ「ギャハハハハ! バカらしー!!」

 

ユキ「デッキに1枚しか入れられないけれど、これこそまさしく誰しもに与えられた一発逆転の可能性よ!

D環境では、迂闊なガードは常に貫通の恐れがつきまとうし、どれだけ手札があっても完全ガードが無ければ即死もありえるわ」

 

アラシ「確定ライドで下がった運要素を、オーバートリガーで取り返したわけだな」

 

ユキ「ダメージトリガーとしてめくれたら、そのダメージは無効。ドライブチェックでめくれたら、さらなる追加効果も発動するわ。

公開されている『決意の精霊王 オルバリア』は、さらにもう一体のパワーを+1億よ」

 

アリサ「え? それってむしろ、一度押し込まれたら治トリガー1枚じゃどうにもならないVスタンダードで欲しくない? 完全ガードの価値も上がるから、プロテクトの価値も相対的に上がるし」

 

アラシ「だな! D環境にも逆輸入を希望する!」

 

ユキ「作者的にはかなりの好感触なカードみたいねぇ」

 

 

●アニメ情報

 

アリサ「ここはさらっと流したいところだけど……」

 

アラシ「とりあえず……」

 

アリサ「根絶少女の登場人物と誰も名前被らなくてよかったーーーー!!!!」

 

ユキ「そこまで珍しい名前を使っているわけでもないから、ずっとビクビクしていたのよねぇ、作者は」

 

アリサ「実際、『音無』姓はゲームで被ったし、『ユキ』はニアミス起こしたもんね」

 

ユキ「私の本名は『ミユキ』ですからね」

 

アリサ「主人公の姓が『天導』とか、いつかありそうなのよねー。あたしは『天道』ではあるけども」

 

ユキ「皆、忘れているでしょうけど、根絶少女におけるなるかみ使いは『近藤』ライガさんよ。そして、今回の主人公は『近導』ユウユらしいのだけど」

 

アラシ「被ってるじゃねーか!!」

 

アリサ「漢字が違えばセーフ! 苗字は名前ほど重要じゃないからセーフ! メインキャラじゃないからセーフ!」

 

ユキ「ライガさん……」

 

アラシ「そんなところで、アニメ情報はここまで! つっても期待していないわけでは無ぇからな!」

 

アリサ「むしろ、アニメのデキがゲームの面白さも左右する超重大要素くらいに作者は考えてるからね! アニメあってのカード! カードあってのアニメ!」

 

 

●商品情報

 

ユキ「いよいよ商品情報よ! まずはスタートデッキ!

3月25日にドラゴンエンパイア、ダークステイツ、ケテルサンクチュアリ!

4月3日にストイケイア、ブラントゲート!

お値段なんと333円!!!」

 

アリサ「安っ!!」

 

ユキ「まずは、いろんな国家を試してみるには最適な価格ねえ」

 

アラシ「すぐ売り切れて、転売価格になったりしてな。けけけっ」

 

アリサ「ドラゴンエンパイアは、まあそうだよねな赤いドラゴン! 炎の要素も雷の要素もあるから、かげろう+なるかみのイメージかな」

 

ユキ「……どうしてこれに手裏剣のひとつやふたつ持たせることができなかったのかしら」

 

アリサ「キャラ盛り過ぎになるから! 原初竜の時みたいなやり取りやめれ!」

 

アラシ「ダークステイツは要注目! 要素としてはスパイクが最も近い。その名も……ディアブロス“暴虐”ブルース!!」

 

ユキ「むしろスパイク要素しかないわよ!?」

 

アリサ「願った形とはやや違えど、ついにスパイクがメインキャラに昇格したと言っても過言ではないのではないかしら!? 長かった。本当に長かった……」

 

ユキ「10年越しの悲願ですものねえ」

 

アラシ「こいつはもう期待しかないな!」

 

アリサ「ケテルサンクチュアリはロイパラ。以上」

 

ユキ「終わらせないの」

 

アラシ「ま、既存ファンに媚び売る枠も必要ってこったな」

 

ユキ「ストイケイアは……グレートネイチャー要素しか無いわね。あと、ほんの少しだけネオネクタール」

 

アリサ「ぐふっ」

 

アラシ「死ぬなよ」

 

ユキ「もふもふしていて、とってもかわいいワンちゃんよ」

 

アラシ「作者的には『期待していたものではないけど、これはこれでよし。緑として見たらいける。うん、いける』らしいぜ」

 

ユキ「ちょっぴり自分に言い聞かせてる感はあるわね」

 

アラシ「ブラントゲートは、巨大な手錠を持ったおねーさんだ。ディメポ要素が強いが、背中の何でもアリな兵器はノヴァ要素も感じさせるな」

 

ユキ「『女性ユニットを多数収録』という文言からすると、立ち位置は初期のオラクルに近いのかも知れないわね」

 

アリサ「女の子枠!」

 

ユキ「ブースターパックも、間を置かず4月17日に発売されるわ。以降も5月にフェスティバルコレクション。6月にブースター2弾と続いていくわ」

 

アリサ「そして、作者がせこせこえくすとらを書いている間に、第6のクランも公開よ! バミューダ△メインのリリカルモナステリオ!」

 

ユキ「途中にこらぼ?も色々とあるのだけれど、作者都合で割愛させて頂きます」

 

アリサ「今回はえくすとらもやるか怪しいよねー」

 

アラシ「グランブルーやメガコロの扱いがどうなるかもわからないのに、ヴァンガードに関係無いクランを気にしてる余裕なんてねーよな、悪いけど」

 

 

●根絶少女

 

アリサ「最後は誰も気にしてないだろうけど、根絶少女の今後についてよ!」

 

ユキ「皆様、もう少しだけお付き合いくださいませ」

 

アリサ「まず! 世間はD環境になっても、根絶少女は引き続きVスタンダードの環境で進行させて頂きます」

 

アラシ「まあ、根絶者がいないんじゃコンセプト崩壊だもんな。くくくっ」

 

ユキ「幸い、今年の夏に強化があるのなら、最終回間際にも強化があるはずですしね。二度強化があるのなら、まだリアルタイムカードゲーム小説としての体裁も立つかしら」

 

アリサ「最後の最後でヲクシズやグレイヱンドが登場となったら胸熱だよね!」

 

ユキ「そして、根絶少女もうひとつの要、えくすとらはD環境になっても継続させて頂きます!」

 

アリサ「おおー! ということは、V環境の登場人物であるあたし達がD環境にやいのやいの言うわけね!」

 

ユキ「まあ、えくすとらですしねえ」

 

アリサ「なんでもあり!」

 

ユキ「そして、根絶少女の後の話ですけれど……」

 

アリサ「お、そこに触れちゃう?」

 

ユキ「本当はシャドウパラディンを主人公に、根絶少女とは別の物語も考えていたのよねえ。けど、こうなってはさすがにお蔵入りかしら」

 

アリサ「けど! 新しく話を始めるにあたって最大のネックだった、また24の登場人物を考えなければならないという点は大幅に緩和されたのよね。最低6つあればよし!」

 

ユキ「ええ。D環境の小説は書きやすくなったと見て間違いないわ。あとはD環境の盛り上がりと、作者のやる気次第ね」

 

 

●おわりに

 

アリサ「いやー、よくも悪くも盛り上がったわね! 体感、よいの方が少し勝った感じかしら」

 

アラシ「盛り上がりすぎて、ついでに紹介されたべあとりすが哀れだったくらいにはな!」

 

ユキ「作者としては珍しく、メガコロより楽しみにしていた枠だったらしいけれど」

 

アラシ「ああ。でめとりあの頃から、お化けは使いまくっていたからな。さすがに晴れた日に砂漠の真ん中で控えめなポーズ取ってるだけの怪人よりかは……」

 

アリサ「結果的には面白そうなユニットだったじゃない!!」

 

アラシ「それに今、一番使っていて楽しいクランはグランブルーらしいぜ?」

 

アリサ「なっ!?」

 

アラシ「今の環境でしっかり長期戦できるのはグランブルーとスサノオくらいだってな。序盤からガード値を整えられるグリード・シェイドはマジ偉大」

 

こっきゅん「ククク……この我のありがたみを、あの無能もようやく理解しよったか」

 

アラシ「いや、バスカークの話だが」

 

こっきゅん「何 故 だ ! ?」

 

アラシ「作者にとってはヴァンガードで初めてライドしたユニットだからな。言ってしまえば原点の原点だ。実際、ヴァンガードと駆け抜けた10年を振り返るにはちょうどいいユニットなのかも知れねぇな」

 

こっきゅん「むう……」

 

アラシ「安心しなって。こっきゅんも同じくらいには使ってるから」

 

こっきゅん「ほほう」

 

アラシ「勝率は何故かバスカークの方が高いだけで」

 

こっきゅん「何 故 だ ! !」

 

アラシ「愛の差じゃね?」

 

アリサ「やっぱり序盤からパワー30000オーバー、★+1で殴るのは、3回しかアタックできないプロテクトクランでは最低限必須って感じだよね。スケルトンの航海士のおかげで、ドロップゾーン10枚は、ほぼ確実に達成できるようになったし。それと比べると、こっきゅんは序盤のパワーが低すぎ。エンジンかかる前に、相手に手札貯められてるから」

 

こっきゅん「ぐむむ……」

 

アラシ「ま、どっちもファイナルターンにはナイトローゼにライドすんだ。そんな変わんねーって」

 

こっきゅん「結 局 小 娘 か ! !」

 

アラシ「あれがないとムリだって」

 

ユキ「グランブルーと言えば、ヴァンガードZEROでグランブルーとむらくもに新しいスキンが設定できる点も、飛び上がらんばかりに喜んでいたわね」

 

アラシ「どんだけゴウキとシンゴが嫌いなんだよ……」

 

アリサ「嫌いってわけじゃないけどね。持ちキャラにするのはちょっと違う……って感じかな。メガコロも変えられるけど、こっちはもちろん岸田オサム続投! メガコロ使いにハズレ無し!」

 

ユキ「では、今日はこのあたりでお開きにしましょうか」

 

アラシ「おう! なんだかんだ楽しかったぜ。いいタイミングで呼んでくれてありがとよ」

 

ユキ「うふふ。どういたしまして」

 

アリサ「それじゃ、今夜は“暴虐”の活躍を夢見て!」

 

こっきゅん「さらばだ」




疲れました。


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Ex.39「クランセレクションプラス Vol.1」

●序

 

騎士王アルフレッド「誰か! 誰かおらぬか! 今日は『クランセレクションvol.1』の発売日ぞ!」

 

ブラスター・ブレード「はっ。クラセレならここに……」

 

アルフレッド「フッ。知ってるさ。カードが欲しい時には、必ずお前が買ってきてくれる」

 

ブラブレ「イエス マイ ヴァンガード」

 

アルフレッド「ふむ……して、これらのカードはどのように使うのだ? ロイヤルパラディン以外のクランは明るくないのだ」

 

小さな賢者 マロン「では、本日は僕とブラスター・ブレードが、騎士王のため、カードを解説して差し上げましょう」

 

沈黙の騎士 ギャラティン「…………」

 

マロン「おっと、ギャラティンもいたね」

 

アルフレッド「うむ。よろしく頼む」

 

 

●《スペクトラル・デューク・ドラゴン》

 

マロン「まずは騎士王も一時期所属していたゴールドパラディンのカードからですね」

 

アルフレッド「ああ。今はもう懐かしく感じるな」

 

ブラブレ「イエス マイ ヴァンガード」

 

マロン「かつては連携ライドであり、シャドウパラディンと関連深いユニットである《スペクトラル・デューク・ドラゴン》には、それに相応しい能力が与えられているよ。

ソウルに《黒竜の騎士 ヴォーティマー》あるなら、パワー+1000!

アクセルクランでありながら、フォースクランと同じ数値で受けることができるんだ!

相手がG3なら★も+1されるね」

 

ブラブレ「今の環境は、アクセル・プロテクトクランのパンプが+5000刻みである多く、13000と12000の差が顕著に出るようになっている。たった+1000と侮らないことだ」

 

アルフレッド「なるほど」

 

マロン「もうひとつのスキルは、CB1とリアガード3枚の退却をコストに、ドライブ-1でスタンドする!

ここまでならシンプルなVスタンドだけど……」

 

ブラブレ「ダメージ4以上で発動した場合、ドライブ-1するかわりにドライブ+1だ!」

 

アルフレッド「リミットブレイクか!!」

 

マロン「シングルドライブがトリプルドライブって、代わりじゃないよね。もはや別物の何かだよ」

 

ブラブレ「弱点は自らの治トリガーだな。1度目のアタックで治トリガーが発動してしまうと、リミットブレイクが解除されてしまう可能性がある」

 

マロン「テトラドライブがそんなことをよくやらかしてたね!」

 

アルフレッド「ゴールドパラディンは攻撃的なクラン。治トリガーも★トリガーや前トリガーにしてしまう構築もありやも知れぬな」

 

ブラブレ「御意」

 

 

●《幻惑の魔女 フィアナ》 《現の魔女 ファム》

 

マロン「我らがライバル、シャドウパラディンからは魔女が参戦だよ!」

 

アルフレッド「楽しみだ」

 

マロン「まずはG3のフィアナと深い関係にある、G2のファムから見ていきましょう」

 

ブラブレ「スキルはG2ながらV限定のスキルのみ。SB1で相手は自分のドロップゾーンからG0を2枚選び、G1以上のユニットの上にスペリオルコールしなければならない」

 

アルフレッド「ぱんにゃらら~か!!」

 

ブラブレ「1枚もコールできない場合、このユニットはドライブ+1を得る。

序盤からリアガードが展開され、なおかつドロップゾーンにG0が落ちている展開は稀だろう。ライド時は大抵の場合、このユニットはツインドライブとして扱えるはずだ。

同じツインドライブを得ることのできるブラスター・ダークのアホと比較しても……」

 

マロン「今、さらりと暴言吐かなかった?」

 

ブラブレ「ブラスター・ダークと比較して、手札コストを支払わなくてもよい点は非常に優秀だ」

 

マロン「そして、フィアナのスキルは、CB1とリアガード2枚の退却で、手札か山札からファムをスペリオルコール!

さらに、そのコールされたサークルはヴァンガードサークルになる!」

 

アルフレッド「再びぱんにゃることができるわけだな」

 

マロン「相手がドロップにG0を落とせなかったり、盤面のG0を処理できなければ、再びツインドライブできる可能性もありますよ」

 

アルフレッド「ふむ。何だか、そちらの方が強そうだな」

 

マロン「シャドパラの魔女としては複雑ですよねー」

 

アルフレッド「それで他には?」

 

マロン「フィアナの解説は以上ですね」

 

アルフレッド「……なんだこれは! 別に魔女で統一する必要がないではないか!」

 

ブラブレ「わざわざフォドラを4枚揃えて待っていた作者が哀れだな」

 

 

●《神装天機 シン・マルクトメレク》

 

アルフレッド「プロテクト・マーカーのリアガードは退却しない?

つまりマルクトメレクとヴァルケリオンを同じデッキに入れることができるというわけか!

素晴らしいファンサービスではないか!」

 

マロン「そうだったらよかったんですけどねー」

 

ブラブレ「ヴァルケリオンがエラッタされ、ヴァルケリオンの退却が優先されるようになった」

 

アルフレッド「なんということだ……」

 

マロン「そもそも、シン・マルクトメレクの『退却しない』と、旧ヴァルケリオンの『退却する』が無限ループを起こしていたらしいですよ」

 

ブラブレ「そのようなわけで、このカードはテキスト通り、マルクトメレクの自爆コストと、ラメド・ザインの退却をまとめて踏み倒せるだけのカードだ」

 

マロン「別にヴァンルケリオンを呼べたからと言って強すぎるわけでもないし、マルクトメレクとヴァルケリオンを並び立たせる方向性で調整してあげて欲しかったよね」

 

ブラブレ「ヴァルケリオンを差し引いても面白い動きをしているはずなのだが、ジェネシス以外でヴァルケリオンが使える(しかもタツヤのカードで!)という初見のインパクトが強すぎて、作者の評価が微妙になっている気の毒なカードと言える」

 

 

●《光戦竜 ギガノブレイザー》

 

マロン「たちかぜからはシンプルなアドの権化が登場だよ!

引く! 出す! 武装!

原始的とも言える単純明快さ!」

 

ブラブレ「これまでのたちかぜは、リアガードでアドバンテージを稼ぎ、ヴァンガードがパンプするのがデザインの根底にあった。

ヴァンガードでもアドバンテージを稼げるようになった点は、たちかぜに見た目以上の強さを与えている」

 

マロン「特化すれば、全クラン中、もっとも手札を稼げるクランになったかも知れないね」

 

ブラブレ「もっとも、ほとんどのユニットがアドバンテージの獲得に武装ゲージを経由する関係上、通常のドローより山札の減りも早い。デッキアウトには注意を払わなければならないだろう」

 

マロン「ギガノブレイザーのスキル1回で山札が4枚減るもんね。コキュートスじゃないんだから……」

 

こっきゅん「呼んだか?」

 

ブラブレ「誰だお前は!」

 

アルフレッド「曲者だ、捕らえよ!」

 

こっきゅん「ククク……お主らのような若造どもに、我は捕らえられぬよ。さらばだ」

 

ブラブレ「くっ、逃がしたか!」

 

アルフレッド「よい。ギガノブレイザーの解説を続けよ」

 

ブラブレ「イエス マイ ヴァンガード」

 

マロン「アドバンテージ獲得能力と引き換えにパンプ効率はあまりよくないね。

特に前後列を+10000するガイアエンペラーと比較すると、効率は実に4分の1!」

 

アルフレッド「むしろガイアエンペラーが強すぎるのではないか、それは」

 

ブラブレ「新たに追加されたG2である《恐渇竜 スピノイクストート》は、そのガイアエンペラーとの相性も抜群だ。レジオドンやブルースプリントを退却させつつ、さらに攻撃回数を増やすことができる。コストがある限りアタックが続くなどということにもなりかねない、非常に危険なG2と言えるだろう」

 

マロン「G1の《サベイジ・シューター》も、ザンディロフォの上位互換と言っても過言ではないほど強いよね。アンガーブレーダーがまた禁止とかされないよね? 問題ないのかな?」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

アルフレッド「ギャラティンが言うのであれば、そうなのであろう」

 

 

●《幻夢の六花 シラユキ》

 

マロン「制限から解放され、絶賛大暴れ中のシラユキにさらなる強化が!」

 

ブラブレ「シラユキの代名詞となったガーディアンサークルで発動するスキルも健在だ。今回は前回と同じくSB2で、前列ユニット1体のパワーを、そのバトル中-30000することができる」

 

アルフレッド「実質★守護者として扱えるわけか! 『夢幻の風花』とはどちらが優秀かな?」

 

マロン「難しい問題ですね。最近の環境では-10000では雀の涙にしかならない状況も多いので、そういう点では『幻夢の六花』が優勢かも知れませんが……」

 

ブラブレ「『夢幻の六花』は弱体化が永続しないという欠点がある。ユニットをスタンドさせるタイプのスキルに対しては、『夢幻の風花』は単なる-10000以上の効果を発揮する」

 

アルフレッド「ふむ。何事も使い分けが大切というわけだな」

 

マロン「大会などに出場する場合は、環境を見ておくのも大事ですよ」

 

アルフレッド「なるほど。聖域のカードショップではどのようなデッキが流行しているか、配下の騎士に探らせよう」

 

ブラブレ「もうひとつのスキルは、前回のシラユキと同じく影縫を再現したものになっている」

 

マロン「アタックがヒットしなかった場合、CB1で相手前列のユニット1体のパワーを-10000するよ。

むらくものアタックをすべてノーガードで凌ぐのは難しいだろうし、すぐに-10000されることになるだろうね」

 

ブラブレ「なんと欺瞞に満ちたスキルか」

 

マロン「このスキルがヴァンガードで発動した場合、ドロップゾーンから空きサークルにシラユキをスペリオルコールすることができるよ。

『空きサークル』という点がネックで、攻撃回数の増加に繋げるには、同じ条件でリアガードサークルを離れる《忍妖 レイニィマダム》が必須となるね。

その場合、ドロップゾーンにシラユキが2体必要になることから、有効活用できるのは終盤になるだろうね」

 

ブラブレ「ややタイミングはずれるが、ヤスイエ・テンマ、ヴィアメルフドウ、レイコウスラッグあたりもバトル終了時に空きサークルを作ることができる。より確実にアタック回数を増やしたいのなら、採用してみるといい」

 

 

●《ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン“THE BLOOD”》

 

マロン「なるかみからは“THE BLOOD”が登場!

CB1と手札1枚のソウルインで、パワー+5000、ドライブ+1、前列同時アタック。

ヴァーミリオンをソウルに置いたら、さらに+10000と★+1!

ここまでなら、ヴァーミリオンらしい手堅く強いスキルなんだけど……」

 

ブラブレ「『カイザー』をソウルブラストすることでドライブ+1!

だがその代償として、ターン終了時、このユニットに1ダメージを与える。

そして、このスキルに1ターンに1回の制限は無いため……」

 

アルフレッド「セクスタプルドライブやセプタプルドライブ! 果てはディカプルドライブも不可能ではないということだな!」

 

ブラブレ「このスキルが使われた時点で、勝とうが負けようが対戦相手にもうターンは回ってこない。独りよがりな、ゲームを完全放棄するスキルとも言える」

 

 

●《星輝兵 カオスブレイカー・ドラゴン》

 

ブラブレ「出たな、カオスブレイカー!」

 

マロン「ついに相手ユニットの呪縛が解禁されたね! その代償として、カオスブレイカーはギフトを持たないけど……」

 

ブラブレ「ここからは順番にスキルを見ていこう。

まずは、CB1で相手にフォースを与えつつ、リアガード1体を呪縛する」

 

アルフレッド「ふむ。あの道化師が我々に施しを与えてくれるとは。……何かあるな?」

 

マロン「ご明察です。ユニットの呪縛が解呪される時、そのユニットを退却させ、1枚ドロー。

さらに、サークルのマーカーや手札のプロテクトを2枚除外され、それらが除外された数だけカオスブレイカーがフォースを得ちゃうんです!」

 

アルフレッド「なんということだ! 我々に希望は無いのか……」

 

マロン「ご安心ください。比較的容易な対処手段として、プロテクトⅠがあります。プロテクトⅠなら手札にあるので、処理は簡単。手札交換などで捨ててしまえば、被害を最小限に抑えることができます」

 

アルフレッド「……それはに我々(フォース)とっての希望になってはおらぬな」

 

ブラブレ「盤面を埋めることが得意な我々は、もともと呪縛が苦手だからな。

だが案ずることはない。我々に勇気があれば、必ずや希望は生まれよう! 私がその礎になってみせる!」

 

アルフレット「フッ。よくぞ言った。やはり私には、まだまだお前が必要なようだ」

 

???「《噛み砕く根絶者 バルヲル》を採用することで、手軽にΩ呪縛を仕掛けることもできます。

下手に前列サークルを空けるより、呪縛カードを置いたままの方がよっぽど有効な場面も多いでしょう。

バルヲルはクランセレクションに再録されているので、持っていない人も安心。既に持っている人もRRR仕様なのでコレクション性も十分です。

それにしても、星輝兵の中でも活躍するとは、さすがは根絶者。その強さと魅力はまさしく世界規模……いえ、宇宙規模と言っても過言ではないでしょう」

 

 

●《邪神司教 ガスティール》

 

マロン「カオスブレイカーと並ぶもうひとつの黒幕、ガスティールも動きだしたよ!」

 

アルフレッド「ふむ。ガスティールもギフトを持たないようだが」

 

ブラブレ「ガスティールはバトル開始時、CB1することで1枚引き、自身のソウル5枚につき、相手に以下の選択肢を突きつける」

 

①前列ユニットの★+1

②ヴァンガードのパワーを1にする

③自動能力はすべて発動しない

④手札1枚をダメージゾーンに裏で置く

 

マロン「ガスティールと聞いて、てっきりソウルの能力を吸収するかと思いきや、かのゼロスドラゴン、ダストを彷彿とさせるラインナップだなんて!」

 

アルフレッド「この中では④が一際強力だな……!!」

 

マロン「はい。かつて『非常に不快な効果』と言われ、発売前にエラッタまでされたような効果ですからね」

 

ブラブレ「基本的にソウル20枚を達成できなければ、④は発動しないものと考えていいだろう。とは言え、ソウル15枚から①②③をすべて適用されるのも、非常に強力な組み合わせだ」

 

マロン「ところがソウルが14枚以下になると、プレッシャーは大きく落ちるね。例えば、すべてノーガードでスルーできるのなら②と③を選べばいいし、手札のガード値が高ければ①と③を選んで、すべてガードしてしまえばいい」

 

アルフレッド「つまり、ヴァンガードとして脅威を発揮するのはソウル15枚からか……」

 

マロン「はい。ガスティールはソウルチャージする能力を持たないので、序盤はブルブファスを運用し、ソウルが15枚を越えたらガスティールに再ライドするといいでしょう」

 

ブラブレ「ソウル20枚の能力は非常に強力だが、その状況ではデッキも残り少ないだろう。二度目はまず無いだろうし、最悪、1ドローが自らに引導を渡しかねない点には注意が必要だな」

 

マロン「完全無欠に見える④にも弱点があってね。プロテクトやクイックシールドは、ダメージゾーンに置いても消えちゃうんだよ!」

 

アルフレッド「なんと!」

 

マロン「情報局でガスティールが『そううまくいきますかねえ』とか言っていたけど、うまくいくでしょ!? プロテクトはともかく、クイックシールドは後攻取るだけで誰でも手に入るんだよ!?」

 

アルフレッド「ふむ……こうして見ると、弱点だらけではないか?」

 

マロン「そうなんですよね。デザインだけなら良作揃いのクランセレクションの中でもトップクラスだと思うんですけど」

 

 

●《時空竜 タイムリーパー・ドラゴン》

 

アルフレッド「ふむ。これはかっこいいな」

 

マロン「作者も、ヴェノムスティンガーと並んでお気に入りのイラストらしいですよ。

曰く、白と金の色合いがすばらしい。白の割合がもう少し多ければ完璧だった、と」

 

ブラブレ「そのスキルは、名の通り、細部こそ違うがタイムリープを再現している。アタック時にユニットを1体、ひとつ上のグレードにタイムリープさせて連続アタックだ」

 

マロン「コストを消費しないので、クロノジェットで先行を取った時の一手目に相応しいね。

超越時能力のコストが重いロストレジェンドなら主力としても運用できそうだ。

ライバルはアドを稼げるトリプルドライブのメタリカ・フェニックスかな」

 

アルフレッド「登場時のスキルではないので、手札からライドしてもスキルを使い続けることができる点も面白そうだ」

 

 

●《メイデン・オブ・スタンドピオニー》

 

マロン「ネオネクタールも単純明快! アタック時にリアガードを4体退却させ、盤面を+10000されたプラントで埋め尽くし連続アタック!」

 

ブラブレ「悪く言えば面白みのない。よく言えば抜群の安定感を誇る、作者が最も好むタイプのカードだ」

 

マロン「除去にはもちろん、プラントは呪縛されると消滅するので、カオスブレイカーにすら強いよ。相手が誰であろうと動きがブレない、安定性に関しては本当に随一かもね」

 

ブラブレ「比較的構築自由度の高いデッキになるだろうが、《共栄の騎士 クレイグ》だけは投入し、V裏に置いておくことを勧める」

 

マロン「治トリガー1枚で捌かれる30000アタックと、35000アタックには天地の差があるからね」

 

 

●《お化けのリーダー べあとりす》

 

マロン「グランブルーからは、お化けがついにカテゴリ化だね!」

 

こっきゅん「くくく……我の深淵なる知識が必要なようだな」

 

ブラブレ「またでたか! 悪に借りる知恵などない!」

 

こっきゅん「我を悪と断じるとは。程度が知れるな、小僧。

我は『死』そのものであり、死は『悪』に非ず。やがては誰もに訪れる、還るべき場所よ。

我はその時計を少し早めてやるだけの存在にすぎぬ」

 

マロン「やれやれ。君とは解り合えそうにないね」

 

こっきゅん「最期の瞬間、貴様らにも我の正しさが自ずと理解できよう。

して、下位の怨霊を引きつれてお山の大将を気取っている小娘の話であったな」

 

ブラブレ「貴様! 仲間すら侮辱するか!」

 

こっきゅん「我に仲間などおらぬよ。我の命令に従うだけの意志無き傀儡をそう呼ぶのなら、話は別だが。

さて、この小娘はライド時にSB1でドロップゾーンからユニットをスペリオルコールすることができる。

この程度は、グランブルーを名乗るのであればできてもらわねば困るな。

そして、ここからが『お化け』を従えるお山の大将の本領よ。

リアガードサークルと、ガーディアンサークルの『お化け』にインターセプトを与え、パワーとガードに+5000する」

 

アルフレッド「なるほど。お化けは守備的なデッキなようだな」

 

こっきゅん「王を名乗るだけあって、多少は賢いようだ。

『お化け』はもともと守備的な能力が多かった。治トリガーの《お化けのりっく》を25000ガードとして扱えるのを筆頭として、《お化けのしりる》《お化けのちゃっぴー》も条件を満たせば25000ガードになり、ドロップゾーンからガーディアンサークルにスペリオルコールできる《お化けのぱっと》も20000ガードとなるため、俄然使いやすいカードとなろう」

 

マロン「ぱっとは、ヴァンガードのアタックしか防げない割にガード値が中途半端で使いにくかったからね」

 

こっきゅん「あとは完全ガードである《お化けのどるふ》も、5000ガードとして扱える点は念のため覚えておくとよかろう」

 

ブラブレ「だが、今の環境は守ってばかりで勝てるほど甘くはないぞ!」

 

こっきゅん「その通り。現環境に必須なアタック回数を増加する術も、この小娘は心得ておる」

 

マロン「3回しかアタックできない君よりはよっぽど仕事できてない!?」

 

こっきゅん「我はナイトローゼの小娘を利用してやればそれができるので、大した問題にはならぬ。

カードの能力でリアガードが退却した時、CB1でグレードが低いお化けをスペリオルコールすることができる。

このスキルには1ターンに1回の制限は無く、さらには、今回追加されたお化けである《お化けのじぇしー》、《お化けのだみあん》は、アタックしたバトル終了時、自身を退却させ、さらにカウンターチャージを行う能力を持つ」

 

ブラブレ「ということは、

だみあんでアタック→じぇしーでアタック→りっくでアタック

の動きを毎ターンノーコストで行うことができるのか!?」

 

マロン「それも最終的に残ったりっくは25000でインターセプトが可能だなんて!」

 

こっきゅん「くくく……他のカードと組み合わせれば、より面白きことが可能ぞ?

例えば《ストームライド・ゴーストシップ》ならば、退却時に1ドローができるので、上記の動きに1枚のカード・アドバンテージが加わる。

《不死竜 スカルドラゴン》であれば、G3なので、上記の動きにアタック回数がさらに1回加わることとなる。

もちろんこの動きは左右のラインで可能なので、コストある限り、リアガードだけでも8回のアタックが可能となる」

 

マロン「な!? そんなの……勝てるはずがない!」

 

ギャラティン「ノープロブレム」

 

こっきゅん「くくく……貴様は小娘の虚構に惑わされなんだか。

+5000の補助があるとは言え、お化けは全体的にパワーが低い。

ダメージトリガー1枚でも引かれれば、アタックの効率が大きく低下するのだ。

ゴーストシップやスカルドラゴンなどでは初撃のパワーが高くなりがちなので、それはより顕著なものとなろう。

特にべあとりす本体は、ブースト無しではフォース相手にアタックすら通せぬ、非力極まりない小娘よ」

 

マロン「なるほど。全体的なパワーが低くなりがちなのか」

 

こっきゅん「もっとも、プレイングや構築で何とかする術も無いではないがな。

イマジナリー・ギフトはプロテクトⅡを選択すれば、火力の低さは大きく改善する上、りっくのインターセプトは35000にまで達する。

マルクトメレクのように除去耐性があるわけではないので、どうしても相手は選ぶがな。

べあとりす自体も、我のような安定してユニットをスペリオルコールできるヴァンガードではないので、スカルドラゴンやゴーストシップに頼りすぎると、ユニットを安定して展開できなくなる。コロンバールやネグロボーンは最低限入れておきたいものよな。

トリガーのお化けはりっくだけなので、序盤はドロップゾーンに落ちないこともあり、さりとてコロンバールなどで落とすには惜しい。G0のお化けとして、ちゃっぴーも1枚だけ入れておくとよかろう。

我からの助言はこのくらいか」

 

アルフレッド「御知恵を感謝する。グランブルーの死霊術師よ」

 

こっきゅん「くくく……貴様の配下も、それくらい礼儀正しければよいのだがな」

 

マロン「くっ! 何故、僕達に協力する? お前は何を考えているんだ!」

 

こっきゅん「我としても、小娘ばかりに手柄を立てさせるわけにはいかんのでな。

では、さらばだ。せいぜい足掻くがよい、生きとし生けるものよ。

我は汝らが死に抗う様子を、せいぜい楽しませてもらうとしよう」

 

 

●《蠱毒怪人 ヴェノムスティンガー》 《挟撃怪人 イントルードシザー》

 

???「お前のトリガーは俺のもの。俺のトリガーも俺のもの。

メガコロニーに登場した新たなG3は、ジャイアニズム溢れるサソリの怪人!

サソリのパーツを余すところなく使用して人型に仕上げたデザインは、まさしくイラストレーター様の職人芸!

シンプルに見えるのは、それだけ完成されてるって証よね!」

 

アルフレッド「?」

 

???「そんな《蠱毒怪人 ヴェノムスティンガー》のスキルは、相手のダメージトリガー効果を奪う、驚きの効果!

まず序の口として、自分ターンに相手のダメージゾーンにカードが置かれた時、このユニットのパワー+10000!

どれだけダメージトリガーを引かれようとも、じわじわと相手のパワーに追いつき、決して離されることはない。もちろんダメージトリガーが引かれなかった場合は、圧倒的パワー差をつけてくれることになるわ。

地味ながら、優秀な効果ね」

 

マロン「?」

 

???「そして、ここからが本番! ちょっとややこしいので、関わりの深い《挟撃怪人 イントルードシザー》と一緒に動きを解説していくわよ」

 

まず、大前提としてイントルードシザーは必ずコールしておくこと! その際、イントルードシザーはユニット1体をスタンドすることができるけれど、ソウルに余裕が無ければ使わなくてもいいわ。

余裕があるなら、《怪人紳士 ハイクラスモス》や、《マシニング・メテオバレット》でレストしたユニットをスタンドさせてあげましょ。

 

バトルフェイズ! まずはイントルードシザーを含めたリアガード2体でアタック!

その後はいよいよヴェノムスティンガーでアタック! CB1とリアガード1体のソウルインでスキル発動! その際、ソウルインするユニットは必ずイントルードシザーにすること!

するとまず、そのバトル中、ダメージチェックでめくれたダメージトリガーは発動せず! 自分のトリガー効果として発動する! 相手のダメージトリガーを丸パクリよ!

さらに! G3をソウルブラストすることで、相手のダメージゾーンから2枚まで選び、ドロップゾーンに置き、置いた数だけ相手にダメージ!

相手がヴェノムスティンガーのアタックを受けてくれなくても、最低限、2回は追加でダメージチェックが行われるって寸法ね。

コストは、さっきソウルに入れたイントルードシザーがいるから、問題無く支払えるわね。

 

ヴェノムスティンガーのアタック続行!

大抵の場合、2枚のカードがダメージゾーンに置かれているはずだから、パワー+20000されていて、単体32000でアタックができる、メガコロ屈指の大火力!

このアタックがヒットすれば、さらに相手のダメージトリガーを奪えるわ。

少しでも実入りを多くするため、デッキには★トリガーを多めに入れておきましょ。

 

実はここからが本番!

ヴェノムスティンガーのアタック終了時、ソウルブラストされてドロップゾーンに置かれたイントルードシザーのスキルが発動!

このターン、相手のダメージゾーンにカードが置かれているなら、イントルードシザーはCB1でドロップゾーンからスペリオルコールされる!

そして、スペリオルコールされたイントルードシザーのスキルも発動! アタックを終えたもう1体のリアガードもスタンドさせちゃいましょ。

 

次のターン、イントルードシザーが生き残っていればそのまま。

イントルードシザーが退却していれば、適当なG3をコールすることで②から繰り返すことができるわよ。

 

???「どう!? 相手のトリガーを奪うという妙ちきりんなスキルの裏に潜む、高パワーかつガード強要までできるヴァンガードに、安定して4回アタックできるリアガード!

イロモノに見えて、押さえるべきところはしっかり押さえた傑作よ!

イントルードシザーがソウルインするや、ドロップゾーンに転がり落ちて、そこからすぐリアガードに這い上がってくるあたりは、芸術的というか、もはやギャグの域に達しちゃってるわね」

 

ブラブレ「?」

 

???「とまあ、そんなかわいいヴェノちゃんなんだけど、弱点もあるの。

相手にダメージを与える過程で、裏のダメージを表にしてしまう可能性があるってこと!

ギャンブルばっかして誰も傷つけないメガコロの次は、相手を癒す優しいメガコロ!!

かつては相手のダメージを裏にする禁忌にまで触れたメガコロが何やってんの!?」

 

アルフレッド「この少女は?」

 

マロン「さあ?」

 

 

●《挟撃怪人 イントルードシザー》

 

マロン「よくわからないけど、続いた!?」

 

???「イントルードシザー単体でも考察の価値は十分すぎるほどあるからね。イントルードシザーを傑作とする最大の理由は、ヴェノムスティンガーの動きに合わせただけのデザインというだけでなく、既存のメガコロともことごとく噛み合っているからよ!」

 

アルフレッド「ふむ。とりあえず話を聞いてみよう」

 

???「まずは女王陛下(グレドーラ)! 女王陛下のスキルでバトルフェイズ中にイントルードシザーをスペリオルコールすることで、ユニットをスタンドさせることができる。要するに、ヘルデマイズ枠ね!

ヘルデマイズと比較すると、自身をパンプできる反面、スタンドさせるのにソウルが必要になった点が大きな違いね。

ただ、女王陛下のソウルコストは、あればあるだけスティッキー・ボーラスでドローできる、重要なリソースでもある点は注意が必要ね。

ヘルデマイズのスタンド封じも便利だし、ヘルデマイズをまるっと入れ替えるよりかは、使い分けするためのカードと言えるかしら」

 

アルフレッド「なるほど」

 

???「コレオやマシニングでも採用の余地はありそうよ。どちらも3回のアタックが限界だったデッキだけれど、イントルードシザーを投入することで5回アタックできるようになるわ!

事前にダメージを与えておかないとならない点も、コレオはG0封じが成功したターンならダメージも与えやすく、G0封じがかかったまま2回追撃ができるという理想的な噛み合い!」

 

 

●《怪人紳士 ハイクラスモス》

 

???「しれっと登場したトンデモカード!!

こてんと寝かして、ドロップゾーンからノーマルユニットを1枚山札に戻すだけで、何故かカウンターチャージ!! インターセプト封じまでついてくる!

毎ターンCB2を消費するヴェノムスティンガー一連の動きも、この方さえいれば大丈夫!

ヴェノムスティンガーは単体でも十分なパワーが出せるので、V裏に置いておくのが基本かな?」

 

マロン「ヴェノムスティンガーは少しでもガード要求値を上げていきたいから悩ましいよね」

 

???「女王陛下軸では、カウンターチャージはもちろん嬉しいけれど、デッキから尽きたヘルデマイズやイントルードシザーをデッキに戻す役目も担うわ。

ただ、全体的にパワーが低めな女王陛下軸でブースト要員を寝かしてる余裕はあんまり無いし。手札のヘルデマイズで起こしてあげたり、ここぞと言う時には上書きする勇気も必要かな。

そしてマシニングであれば、そんなレストのデメリットなんて無いも同然! 念願だった、毎ターンの安定したカウンターチャージを実現!」

 

アルフレッド「ふむ」

 

???「さらに! 山札やソウルではG3として扱う永続スキルまで!

マンティスやホーネットで手札に加えることもできるし、アントリオンやレインボースタッグのコストにもなってくれる!

スパークヘラクレスのスキルで、G3を実質ソウルインできるようになった点からも、マシニングとは特に相性がいいように見えるわね!」

 

 

●《マシニング・ブラックサターン》

 

マロン「月ブシの付録まで!?」

 

???「だってー。あまりにもカッコいいんだもん!

クレセレ発売記念のカードらしいし、問題無し!」

 

ギャラティン「…………」

 

???「こういう時こそノープロブレム言ってよ!?」

 

ギャラティン「…………」

 

???「まあいいわ。今のあたしなら、何でも許せちゃう。

月ブシって、たまにメガコロにものすごく優しいよねー」

 

マロン「アベェクトロゼウスもフラッフィー・ビーフライも良作だったよね」

 

???「蚊トンボも忘れないであげてねー。

それはともかく、《マシニング・ブラックサターン》もそれらに勝るとも劣らぬ超良作!!

付録としては珍しいヴァンガード専用のG3で、スキルはたったひとつ!

CB1&SB1で、リアガードを全員スタンドさせつつパワー+5000!

そして……自身のドライブ+1して、相手ヴァンガードのドライブ-1!!」

 

ブラブレ「ドライブを吸収しただと!?」

 

???「あー、その反応いいわー。やっぱりメガコロはこうでなくちゃ!

もっとも、再ライドが当たり前の現環境じゃ、ドライブ-1はオマケ程度に考えておいた方がよさそうね。

アニメや小説で悪役が使ってこそ映えるスキルだわ」

 

アルフレッド「スパークヘラクレスと比較してどうであろうか?」

 

???「難しい問題ね。まず全ユニットをスタンドさせて+5000という点はスパーク・ヘラクレスとまったく一緒。

マシニングで最低限押さえておいて欲しかった部分だから、そこについては合格だけど、相手を-5000できなくなっている分、パワーはさすがにスパークヘラクレスが上ね。

細かい部分だけど、相手をレストできなくなってしまったから、リトルドルカスが安定しなくなった点も地味に痛いわね」

 

マロン「ブラックサターンが勝っている部分は、カウンターコストが安くなった点かな」

 

???「それはそうなんだけど、カウンターコストが浮いたからと言って、メガコロがそれを使ってアドを取る手段って限られているのよね。

むしろ、マシニングでアドバンテージに絡んでくるのはソウルなのよ。

ソウルから2体スペリオルコールできるスターグビートルをはじめ、スティッキー・ボーラスもマシニングでなら、女王陛下以上の容易さでドローが可能なの。

今はハイクラスモスもいるし、正直言って、『CB2』より『CB1&SB1』の方が重く感じるわ」

 

アルフレッド「となるとブラックサターンの強みは、ドライブ吸収に集約されそうだな」

 

???「そうなるわね。

けど、強い弱いを語る以前に、ドライブを増やしたり減らしたりするエンターテイメント性こそがブラックサターン最大の魅力だと思うわ。

運がよければ大物食い(ジャイアントキリング)も可能! それでいいじゃない!

雑誌付録であることを考慮すれば、それでも破格の待遇だと思うわよ。

まさしくアベェクトロゼウスの遺伝子を受け継いだ超良作! 月刊ブシロード様、今回も面白いカードをありがとう!」

 

アルフレッド「で、君は誰なのかな?」

 

???「通りすがりのメガコロ使いよ。

それじゃ、まったねー」

 

 

●終

 

アルフレッド「皆の者。大儀であった」

 

ブレブレ「イエス マイ ヴァンガード」

 

ドーンッ!!

 

ブラブレ「何事だ!?」

 

兵士A「帝国軍(かげろう)の襲撃です! ドラゴニック・オーバーロードが、『ブラスター・ブレードを出せ』と!」

 

ブラブレ「オーバーロード!? おのれ、性懲りもなく!」

 

兵士B「あと、門の破壊に巻き込まれて、死霊術師殿が粉々になっておりました!」

 

マロン「カッコつけて去っていったばかりなのに!?」

 

ドドーンッ!!!

 

ドラゴニック・オーバーロード「ブラスター・ブレード!! 今こそ我らの決着をつける時!!」

 

ブラブレ「ヴァンガードファイトでなら受けてたとう!」

 

オバロ「……よかろう!」

 

マロン「いいんだ!?」

 

ブラブレ&オバロ「「スタンドアップ ヴァンガード!!」」

 

オバロ「《純朴な贈り物 アリーチェ》!」

 

ブラブレ「《バミューダ△候補生 シズク》!」

 

オバロ「……やるな!」

 

ブラブレ「フッ、お前こそ」

 

マロン「いや、せめて自分のクラン使いなよ!?」

 

アルフレッド「惑星クレイの住民であれば、バミューダ△が嫌いなものなどおらぬ」

 

マロン「それはそうですが!」

 

オバロ「ライド。《マーメイドアイドル セドナ》

山札から5枚見て、《ベルベットボイス レインディア》を手札に加える」

 

マロン「あ、しかもレインディア推しだ、この人」

 

ブラブレ「私はルピナ推しだ」

 

マロン「聞いてないし、知りたくもなかったかな!」

 

アルフレッド「マロンよ。我がPR♥ISMデッキと対戦せぬか?」

 

マロン「我が主まで!?

……仕方ありませんね。

本日の『えくすとら』は、このあたりでお開きということで!」

 

アルフレッド「では、我が親愛なる民よ……」

 

オバロ「さらばだ」

 

マロン「何で乱入してきたやつがシメるんだよ!?」




えくすとら in 惑星クレイ。
本当は次のロイヤルパラディン収録時にとっておいたネタなのですが、世情がロイヤルパラディンどころじゃなくなってきたので、慌てて今回のパックで採用しました。

こっきゅんの扱いからもだだ漏れてますが、
『本来なら絶対にカードゲームをやらないようなキャラクターが、普段のノリで大真面目にカードゲームをやっている』
というギャップが大好物なものでして。
趣味全開で書けたので、私は楽しかったですが、読者の皆様にも楽しんで頂けましたら幸いです。

次回「クランセレクションプラス Vol.2」においても、別のクランで『えくすとら in 惑星クレイ』を行う予定です。

併せて、次回以降の根絶少女の予定ですが。
私の予定と、パック発売ペースの兼ね合いで、本編は2月中旬。クラセレ2のえくすとらは2月下旬となる予定です。
これまで月初の土日にはアップしてきた本編の掲載ペースがずれてしまうのは心苦しいですが、引き続きお付き合い頂けますと幸いです。

【デッキログ】
ヴェノムスティンガー軸:LDTV


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Ex.40「クランセレクションプラス Vol.2」

●序

 

ファントム・ブラスター・ドラゴン「我に……捧げよ……」

 

漆黒の乙女 マーハ「は……」

 

黒の賢者 カロン「はいはい。今度は何を御所望ですか」

 

ファントム「我に絶望を捧げよ……」

 

カロン「あー、すいません。最近は平和で、ちょっとすぐには用意できないんですよね」

 

ファントム「ならば、クランセレクションを我に捧げよ……!!」

 

マーハ「……vol.2ならここに」

 

ファントム「褒めてつかわす」

 

マーハ「……光栄です(くっ、私が朝早くカードショップに並んで買ってきたのに!)」

 

カロン「まあ、我らがシャドウパラディンは収録されてないんだけどね」

 

ファントム「!? オオオオオオオオオッ!!」

 

カロン「あ、絶望した」

 

マーハ「自分が絶望してどうする!?」

 

カロン「では、今宵はシャドウパラディンきっての知将である僕とマーハが、我が主の為、各カードの使い方をご説明致しましょう」

 

マーハ「何で私まで……」

 

カロン「……そこの部屋の隅でカッコつけて腕組みしている男と一緒にね」

 

ブラスター・ダーク「…………」

 

マーハ「ブラスター・ダーク!?」

 

ブラダ「……いいだろう」

 

マーハ「いいのか!?」

 

ブラダ「黙ってえくすとらを見ているつもりはない。それだけの事だ」

 

 

●『純真の宝石騎士 アシュレイ』

 

ファントム「ロイヤルパラディンなどいらぬ! とばせ!」

 

マーハ「いきなりワガママ言いだしたぞ!?」

 

カロン「まあまあ、我が主。今回のロイヤルパラディンは、今までに無い新しい試みが採用されているんですよ」

 

ファントム「……ならば聞くだけ聞いてやろう」

 

ブラダ「敵を知ることは己を知ることにも繋がる」

 

カロン「かつてブレイクライドの名手として鳴らしたアシュレイは、今回もそれを踏襲した能力になってるよ。

このユニットの上に他のユニットが登場した時、CB1することで★+1!」

 

ファントム「くだらぬ! 新しい試みどころか、ブレイクライド時代と何も変わらぬではないか!」

 

カロン「この能力はV/R兼用だけどね」

 

ファントム「……何だと?」

 

カロン「ライド時のみならず、このユニットの上に上書きコールしたリアガードにも★+1が適用されるんだ」

 

ブラダ「名付けて、ブレイクコール……!」

 

カロン「ドヤ顔で自分が名付けたみたいに言ってるところ悪いけど、皆、同じこと考えてるよ」

 

ブラダ「むう」

 

カロン「アシュレイの配下である新規追加された2体の宝石騎士も、ブレイクコールを持っているよ。

G1のモルウィドゥスは1ドロー。G2のレイルは上書きしたユニットに+10000だね」

 

マーハ「……お前もその呼び方(ブレイクコール)使ってるじゃないか」

 

カロン「使いやすいからね。

さて。アシュレイにはもうひとつ効果があるよ。アタック終了時、SB2することでG2以下の宝石騎士をVなら2体、Rなら1体をスペリオルコール!」

 

ファントム「このスキルもV/R兼用と言うか!」

 

カロン「VとRにアシュレイが1体ずついれば、最大6回のアタックが可能になるのさ。その最中にブレイクコールもバリバリ発動するから、ドローしたりパンプしたり★増えたりのやりたい放題だね」

 

マーハ「最近はユニットをコストとしてドロップゾーンやソウルに置いて連続アタックできるユニットも増えたが、バトルフェイズ中のスペリオルコール時に発生するリアガードの上書きを斜め上の方向性で解決してしまったユニットと言えるだろう」

 

カロン「上書き前提で犠牲ありきの能力って、ぶっちゃけ僕たち(シャドウパラディン)より血塗られてるよね」

 

ファントム「我も気に入ったぞ!」

 

 

●『バトルシスター ふろまーじゅ』

 

ブラダ「やっておしまいふろまーじゅ。限界なんて鉢の巣よ」

 

カロン「数あるリミットブレイク口上の中でも、作者が2番目にお気に入りなふろまーじゅが登場だよ!」

 

マーハ「だからと言って、ブラスター・ダーク(あいつ)に言わせなくてもいいんじゃないか!?」

 

カロン「あれ、君が言いたかった?」

 

マーハ「断固として辞退する! 私達が言う必要があるのかという話だ!」

 

ブラダ「神に従い、神を信じ、神すら恐れぬ戦乙女、ふろまーじゅの能力だが……」

 

カロン「あっちはノリノリみたいだけどね」

 

マーハ「くっ」

 

ファントム「当時の口上やキャッチコピーは色々と神がかっていたな」

 

ブラダ「ふろまーじゅの能力だが、相手のヴァンガードがG3なら、バトルシスターすべてのパワー+5000だ。

特定名称で統一したデッキを組ませるなら、最低限この程度はしてもらわねば困るな」

 

カロン「魔女を名乗って、何ひとつ魔女をサポートしなかった、どこぞの魔女にも見習わせてやりたいね」

 

マーハ「それは我々の身内だ!」

 

ブラダ「そして、ここからが本命のスキルとなる。

手札を1枚捨て……山札の上からバトルシスターと含むユニットの種類と同じ枚数だけ見て、見たカードを山札の上か下に置く。

最大6枚のデッキ操作が可能となるわけだ」

 

マーハ「なるほど。アドバンテージに直結しないデッキ操作も、ここまでいけば手札1枚の価値はあるか。面白い取引だな」

 

ブラダ「6枚めくれば、次のターンにドローするカードまでコントロールが可能だ。次のターンにまた同じ効果を使えば、全ゲーム中で引いたりめくったりするカードをコントロールすることも不可能ではない」

 

カロン「完全なる未来!?」

 

ブラダ「おまけとして、登場時にCB1&SB1することでカードを1枚ドローできるV/R兼用のスキルも持つ。アドバンテージ獲得が不得手なバトルシスターでは有用なスキルだが、ふろまーじゅ名称が被ってしまうので、リアガードにそのまま置いておくと山札をめくる枚数が減ってしまうのがネックか」

 

ファントム「面白い。バトルシスターには、他にどのようなカードがあるのか教えよ」

 

カロン「はいはい。まずは、新規カードの『とらいふる』と『とりはす』

どちらもバトルシスターでアドバンテージを稼げる貴重なカードだけれど、ふろまーじゅのデッキ操作はバトルシスターの種類を要求するから、アドを稼げるからと言ってこれらのユニットばかりコールしていると、肝心のめくる枚数が少なくなってしまうね」

 

マーハ「幸い、ライド時にもスキルを発動できるので、ライド時に1回、コール時に1回、それぞれスキルを発動できるのが理想と見るべきか」

 

カロン「メインアタッカーとして採用できるのは『まかろん』と『かっさーた』

どちらもバトルシスターでは+10000は確約されたも同然のユニットだよ」

 

ブラダ「本気と書いてまかろんと読む」

 

マーハ「興味深いのは『ぷらりーぬ』か。

パワー23000のユニットだが、登場時にデッキトップを公開し、公開されたカードがノーマルユニットなら退却してしまう」

 

ファントム「フハハハ! ふろまーじゅならデッキトップをトリガーにすることなど容易ではないか!」

 

カロン「あー、その場合だと、ぷらりーぬをコールする前にふろまーじゅのスキルを使わないとならないので、めくる枚数が5枚になっちゃうんですよね」

 

ファントム「!?」

 

ブラダ「ふろまーじゅをリアガードにコールせねばならぬ状況も考慮すれば、5枚めくりで妥協すべき場面も多くなりそうだな」

 

マーハ「5枚ならまだ手札1枚の価値はあるんじゃないか? さすがに4枚以下だと躊躇するが」

 

カロン「他のバトルシスターは、優秀なんだけどふろまーじゅの動きとは噛み合っていないっていうのが多いかな。無理して採用せず汎用カードで埋めるか、バトルシスター名称を1種類でも増やすために採用するか。

バトルシスターにはバニラも多いので、そこらへんも採用すべきか悩ましいよね」

 

ブラダ「バトルシスター以外で採用したいカードは『ディバイナー・エンジェル』が候補に挙がる。手札コストとして捨てられるだけで1枚引ける、すべてがふろまーじゅと噛み合ったカードだ」

 

ファントム「さあ、未知なる戦術で対戦相手を絶望させよ!」

 

 

●『叡智の神器 アンジェリカ』

 

カロン「ジェネシスからは、かのミネルヴァを差し置いて、アンジェリカが登場さ!」

 

ブラダ「むしろ、次のVコレクション(仮)とやらでミネルヴァを出すつもりにしか見えんぞ」

 

ファントム「ヴァンガードZEROではちょうど光輝迅雷が登場したところだが、グランドエイゼル・シザーズを差し置いて、どこもかしこもミネルヴァ一色だぞ!」

 

マーハ(ソシャゲもしているのかこいつは……)

 

カロン(ずっと影の中に引きこもってるから暇人もとい暇竜なんだよ)

 

ブラダ「そんなアンジェリカの能力だが、まずは神装ゲージを持つユニットすべてのパワー+5000され、相手の効果では選ばれない。神装ゲージではもはやお馴染と言っていい、場持ちをよくするスキルだな」

 

マーハ「アルテミスからトリガーを波及させる効果を失わせたような感じか。安定感はユグドラシルの方が上だな」

 

ブラダ「ああ。だが、もちろん最新カードであるアンジェリカは、更なるスキルが続く。

次に、アタックした時、リアガード2枚にソウルから神装ゲージを置くことができる」

 

ファントム「ふむ。神装ゲージを扱う以上、その程度はしてもらわねばな」

 

ブラダ「最後に、相手のターン終了時、神装ゲージを5枚捨てることでダメージゾーンから1枚回復する」

 

カロン「ふーん。回復ねえ。

……ん? ユニットを+5000して、アタック時にゲージを配布して、ゲージを消費してはダメージゾーンを操作する? それって……」

 

ファントム「ギガレックスではないか!!」

 

ブラダ「逆レックスだな」

 

マーハ「これまで新しいことに挑戦し続けてきたクランセレクションの他カードと比較すると、既視感が拭えないな……」

 

カロン「ダメージ回復を『ふーん』で済ませてしまうようになった自分にも少し驚いたけど、12月にもそんなカードが登場したばかりだしね」

 

マーハ「むしろ、2つ集めるだけで神器と同じ効果を発揮する、あの妹の贈り物は何でできているんだ?」

 

 

●『ドーントレスドライブ・ドラゴン』

 

カロン「作者にとってはヒャッキヴォーグの仇! ドーントレスドライブがスタンダードに登場!」

 

ファントム「クランセレクションのカードはブレイクライド環境のカード……もっと言えば、ZERO環境で活躍しているカードが多いな」

 

ブラダ「オリジナルイラストの輸入、逆輸入も積極的に行われている」

 

カロン「少なからず意識してはいるんだろうね」

 

マーハ「ドーントレスの解説を行うぞ。

まず、ドライブチェックでノーマルユニットが2枚以上出たバトル終了時、前列リアガードのパワーを+10000する」

 

カロン「トリガーを引けなかったあなたには『たわし』が贈呈されまーす」

 

マーハ「残念賞!?」

 

ブラダ「一応、ドーントレスドミネイトのスキルを踏襲しているのだろうな」

 

カロン「ああ、対戦相手がめちゃくちゃ計算めんどくさかった例のアレね」

 

マーハ「……続けるぞ。

次に、アタックしたバトル終了時、手札が4枚以上であるなら、手札を3枚捨てることで、このユニットをスタンドできる」

 

カロン「ドーントレスの時点でスタンドしちゃう!?」

 

マーハ「そして、最後の能力。ライドされた時、そのヴァンガードに、このユニットの自動能力を与える!」

 

カロン「ブレイクライド!!」

 

ファントム「どんなかげろうのユニットでもスタンドさせることができるというのか!」

 

ブラダ「残念賞ももらえるぞ」

 

カロン「それは別にいらないかな。いや、あって困るものじゃないけどね」

 

ファントム「さて、どのようなカードと組み合わせるべきか」

 

カロン「誰もが夢見るのはジエンドにライドしてのヴァンガード4連続アタックだろうね」

 

ブラダ「うむ」

 

カロン「けど、“The X”を経由した場合、手札を0枚として扱うというスキルが邪魔して、ドーントレスのスキルが発動できなくなるんだよね」

 

マーハ「むしろ、ドーントレス側の“手札が4枚以上の場合”の部分が、あからさまに“The X”を警戒しているな」

 

ブラダ「なんの。ジエンドに直接ライドして、オーバーロードも何らかの方法でソウルインすれば4回アタックは可能だ」

 

カロン「現実を見なよ……」

 

マーハ「無理してジエンドを狙わずとも、グレートや“The TurnAbout”をスタンドさせるだけで、十分じゃないか?」

 

ファントム「オーバーロードにライドして強いことなど、言われずとも解っておるわ! 根絶少女らしいビックリドッキリコンボは無いのかと聞いている!」

 

カロン「ワガママだなあ」

 

マーハ「この小説に多くを求めすぎだ」

 

ブラダ「ブレードマスターなら、幻焔のドライブチェックにも残念賞が発動するぞ」

 

カロン「ドーントレスに再ライドして3回アタックするのが無難に強いかもね。ツインドライブが3回できるので、残念賞の発動機会も増えるし、その残念賞も2回もらえるようになるからね」

 

マーハ「言いだしたのは私だが、残念賞はやめないか!?」

 

カロン「ブレイクライドの『ライドされるまでは平凡』という難点を、『ブレイクライド時の能力をあらかじめ使える』という形で解決した意欲作! さあ、君ならここから何を成す?」

 

 

●『妖魔忍竜・黄昏 ハンゾウ』

 

マーハ「このカードが手札にある場合、相手のターン開始時……」

 

カロン「のっけから、なかなか見ない文章が並ぶね!?」

 

マーハ「ヴァンガードが暁ハンゾウなら、このカードをレスト状態でライドし、リアガードすべてのガード値に+5000する。ターン終了時、このユニットは暁に戻る」

 

ファントム「…………?」

 

カロン「ほら、異次元な動きすぎて、我が主が困惑してるよ」

 

ファントム「無礼者め! ヴァンガードにライドするなら、連続攻撃するに決まっておる!」

 

カロン「相手ターン開始時って言ってるでしょ!?」

 

ブラダ「要は、G2や、後列からもインターセプトできる妖魔変幻・トークンのガード値を+5000して、相手ターン開始時と終了時にプロテクトを1回ずつ得られるカードだ。相手ターンの守りを2重3重に固めることができる」

 

マーハ「ソウルに入った黄昏は、次の攻撃の布石にもなる。

『ハンゾウ』のアタック時、グレード0を退却させることで、ソウルからスペリオルコールし、後列からアタックできるようになり、パワー+20000する。

ターン終了時にはソウルに戻りつつ、妖魔変幻・トークンをコールすることが可能だ」

 

ファントム「やはり連続攻撃するではないか!」

 

カロン「ああもう我が主が正解でいいです」

 

マーハ「黄昏のスキルを使わずとも、このカードがソウルにあれば連続攻撃の準備が整うという点が肝になるな。ぬばたまの豊富なソウルチャージ手段で偶然のソウルインを狙ってもいいし、カゲサラシという直接的な手段も用意されている」

 

カロン「ハンゾウでここまでの連続攻撃ができるようになったのは、なかなか危険な香りがするよね」

 

 

●『獣神 エシックス・バスター』

 

カロン「ライドフェイズに登場したヴァンガードがいきなりエクストラアタック!!」

 

マーハ「ぶっ!」

 

カロン「おお、あのクールビューティーで名高いマーハが噴き出したよ」

 

マーハ「うるさい!」

 

カロン「このエシックス・バスターの登場時はもちろんだけど、ブレイクライド環境のユニットらしく、このユニットにライドした獣神ユニットも同じようにエクストラアタックが可能になるんだ。

残念ながら(?)本人以外には、アズール・ドラゴンかイルミナル・ドラゴンくらいしか対象がいないので、大した悪さはできないけど、やってることが既にやんちゃだから問題無いよね」

 

マーハ「そういう問題か?」

 

ブラダ「ヴァンガードのエクストラアタックはヒットしなかったらスタンドし、ヒットしていたらドライブ-1される」

 

カロン「ここでは割愛するけどヴァンガードをスタンドさせる手段は豊富なので、基本的にヒットしようがしまいがスタンドはできるものとして考えておくといいよ」

 

マーハ「となると、このアタックをガードするのは悪手だな。手札を消費し、相手のドライブも減らないのでは損失が大きすぎる」

 

カロン「と対戦相手は考えるだろうから、エシックスバスターを使う場合は★を多く積んでおくといいだろうね。ダメージ4でガードされなければ★がめくれて決まりだし、そうでなくとも★トリガーをエクストラアタックできるリアガードに振ることができれば、その後のリターンは計り知れないからね」

 

ブラダ「こちらが展開する前にトリガーをめくる事になるので、前トリガーは相性が悪いしな」

 

カロン「ともすればドーントレスの二番煎じに見えかねないスキルを、インパクトで打ち消した怪作だね!」

 

 

●『銀河超獣 ズィール』

 

カロン「作者がディメポで好きなユニットナンバーワン! 作者がライド口上で好きなユニットナンバーワン! 作者がリミットブレイク口上で好きなユニットナンバーワン!

圧倒的なる悪のカリスマ! ズィールがついにスタンダード襲来!!

待ちわびたってファンも多いんじゃないかな?」

 

ファントム「…………」

 

ブラダ「マイ ヴァンガードが、悪のカリスマは自分なのにって顔でお前を見ているぞ」

 

カロン「知らないよ」

 

ファントム「…………」

 

カロン「さて、このズィール。なかなかとんでもないことを書いているから、G2の『星を喰う者 ズィール』から順番にスキルを見ていこう」

 

マーハ「『星を喰う者』は、V/R兼用の能力を持つ。

CB1とユニット2体のレストで、相手ヴァンガードのパワー-5000することができる。ソウルにG1の『滅びの瞳』があれば1ドローだ」

 

カロン「G2の時点でさっそく弱体化はズィールらしくていいけど、2体もレストするから昔にように速攻はしにくそうだね」

 

マーハ「そして、いよいよG3の『銀河超獣』にライドだ。

G3にライドされた時、『星を喰う者』のさらなるスキルが発動。相手ヴァンガードを-5000する」

 

カロン「ズィールにライドする必要が無い点もポイントかな。アタックが通れば勝ちだけど、極端にパワーの低いグランギャロップに採用してみるのも面白そうだね」

 

マーハ「続けて『銀河超獣』の登場時スキルも発動する。山札の上から1枚見て、スペリオルコール」

 

カロン「いきなり何の脈絡も無い、取ってつけたようなスペリオルコールが割り込んできた!!」

 

暗黒魔道士 バイヴ・カー「呼んだ?」

 

カロン「呼んでないよ! たしかに昔の君と同じ能力だけどね!」

 

マーハ「話は最後まで聞け。さらにこのユニットがVにいるなら、相手のマーカー1つにつき、パワー-5000だ」

 

カロン「ふぅん? 一見強そうだけど、先行を取っちゃたら七海や星詠が相手でも無い限り何も起きないねえ。相手がプロテクトⅠを選んでも厳しそうだ。効く相手には効くだろうけど、過信は禁物だね」

 

マーハ「そして『銀河超獣』の起動スキル。CB1とリアガードを望む枚数ソウルに置き、相手ヴァンガードのパワーを-10000し、条件を満たしているなら、ソウルに置かれたカード2枚につきドライブ+1だ」

 

カロン「どれだけパワーを減らしたいんだよ!」

 

ブラダ「もうやめて。対戦相手のパワーはもう0よ」

 

カロン「このゲームではマイナスになるんだけどね。スキルを総括すると、だいたい-15000~25000くらいの振れ幅になりそうかな」

 

マーハ「ドライブを効率よく増やす方法にも触れておこう。ソウルに吸収したいユニットは4体。『滅びの瞳』でレストした2体のユニットを吸収するのはもちろんだが、ディメンジョンポリスには、他にもユニットをレストすることで力を発揮するユニットがいる」

 

カロン「『熱源怪獣 ジェネレーザ』! あつらえたように、こちらも怪獣だね」

 

マーハ「ジェネレーザはユニットをレストすることでパワー+10000できる。これらのユニットを組み合わせて、無駄なくユニットをソウルに入れていきたいな」

 

カロン「ズィール単体の考察はこれでおしまいだけど、ズィールはディメンジョンポリスのエースユニットであるブラドブラックとも相性がいいね」

 

マーハ「ああ。ブラドのスキルで登場する頃には、相手がプロテクトⅠを選んでいない限りはパワーをマイナスできるはずだし、バトルフェイズ中にスペリオルコールできるため、アタック回数もシンバスターに引けを取らない。なかなか面白い選択肢になりそうだ」

 

 

●『魔王 ダッドリー・ルシファー』

 

カロン「どんなG3もライジング・ノヴァのパーツにしかならないスパイクブラザーズで、どんなG3が登場するのか密かに期待していた枠だけど、むしろライジング・ノヴァでの使用を推奨された!」

 

マーハ「ヴァンガードが『ダッドリー』であることを指定すれば、ライジング・ノヴァでは使えなかったはずなのだけどな」

 

カロン「そんなガッカリー・ルシファーのスキルを見ていこうか」

 

マーハ「ルシファーがアタックした時、リアガード1枚をソウルインすることで、1枚引き、手札から『ダッドリー』をスペリオルコールする」

 

カロン「その際にスペリオルコールする『ダッドリー』は、G2の新規カード『ダッドリー・デーヴィー』が鉄板だね。

デーヴィーは登場時に山札からG2以外の『ダッドリー』を呼べるので、いとも簡単に5回のアタックが成立しちゃうよ」

 

ブラダ「デーヴィーが呼ぶべき『ダッドリー』は、ルシファーが筆頭候補になるだろう。単純なパワーの高さもさることながら、登場時にSB1でカウンターチャージすることができる。構築にもよるが、スパイクのソウルは貯まりやすく、ダッドリーのコンボだけでCB2を消費するのでカウンターコストの重みは大きい」

 

カロン「さて。これにライジング・ノヴァを組み合わせるわけだけど、スキルの発動タイミングや連続攻撃という点が競合する『スパイキング・サイクロン』と入れ替えになるのかな?」

 

マーハ「ルシファーは手札に『ダッドリー』が無いという状況が怖いな。ルシファーは4積みしておきたいカードだが、保険としてサイクロンも1枚残しておくべきか」

 

カロン「そもそもG2が激戦区のスパイクで、新たにG2を4枚入れろっていうのもキツいけどね。デーヴィーの枠にラインバッカー入れてもアタック回数は変わんないよっていうね。もういつも通りサイクロンでいいんじゃない?」

 

マーハ「いや待て。ラインバッカーも採用した上での、『ダッドリー』運用が前提だろう、そこは」

 

カロン「じゃあ、レナルドの枚数を減らすかい?」

 

マーハ「G1を減らす手もあるが……」

 

カロン「それでソウルの管理は大丈夫?

……何でシャドウパラディンの僕達が、スパイクブラザーズのチーム編成でこんなに悩まないとならないんだろうね!?」

 

マーハ「まったくな!」

 

 

●『ナイトメアドール ちぇるしー』

 

カロン「歴代ナイトメアドールの集大成! それがこの『ナイトメアドール ちぇるしー』だよ」

 

ブラダ「単体でも十分強いことが書いてあるちぇるしーだが、他のナイトメアドールと組み合わせることで、全クランの中でもトップクラスの回数でアタックが可能となる」

 

マーハ「ヴァンガードには『ナイトメアドール きゃろる』、リアガードには『ナイトメアドール ありす』がいることが前提だ」

 

ファントム「ふむ。ちぇるしーでは無いのだな」

 

カロン「ここから先は口頭での説明が手間すぎるので、展開の一例を文章として書き起こしておいたよ」

 

①ありす以外のリアガードでアタック ※アタックカウント:2

②ヴァンガードのちぇるしーでアタック ※アタックカウント:3

③ありすでアタック ※アタックカウント:4

④ありすのスキルで、ワーカロイドをスペリオルコール

⑤きゃろるのスキルで、ちぇるしーにスペリオルライド

⑥④のワーカロイドでアタック ※アタックカウント:5

⑦ちぇるしーでアタック ※アタックカウント:6

⑧バトル終了時、ちぇるしーのスキルで④のありすを含めたワーカロイド2体をスペリオルコール

⑨⑧のワーカロイド2体でアタック ※アタックカウント:8

⑩ありすのスキルでスペリオルコールされたユニットでアタック ※アタックカウント:9

 

ファントム「9回アタックとは……運がよければそれほどのアタックがナイトメアドールでは可能なのだな」

 

カロン「いえ。アクセルサークルがひとつしか無く、ソウルとリアガードを合計してありすが1枚しかない状況を想定しているので、ペイルとしては運が悪い部類です」

 

ファントム「バカな!!!」

 

ブラダ「ありすは2~3枚くらいソウルとリアガードに潜んでいると思っておいた方がいいな」

 

ファントム「…………」

 

カロン「まあ、アバウトに、CBが尽きない限りアタックが終わらないくらいに考えておいた方が間違い無いですよ」

 

ブラダ「ずっと我がターン」

 

 

●『伝説のPR♥ISM-Duo ネクタリア』

 

ファントム「バミューダ△が収録されているではないか! 何故それを先に言わぬ!」

 

カロン「我が主もバミューダ△のファンなんですね」

 

ファントム「無論。かつて『マーメイドアイドル エリー』のライブを前にして、思わずドラゴニック・オーバーロードと共に正座して聴き入ったのも、今は懐かしい。

最近は『煌きのお姫様 レネ』も推していてな。彼女に『うるさい人は嫌いよ』と言われては、ダムド・チャージングランスも控えざるを得ない」

 

カロン(聞いてないよ)

 

ファントム「して、このカードは、我がカラフル・パストラーレデッキをどのように強化してくれるのだ?」

 

カロン「あ、このカードはPR♥ISMの強化ですね」

 

ファントム「!? オオオオオオオオオオッ!!」

 

ブラダ「また絶望したか」

 

カロン「さっきからメンタル弱いな、この人!」

 

ファントム・ブラスター・オーバーロード「グオオオオオオオオオオオッ!!」

 

カロン「絶望が深まって、ファントム・ブラスター・オーバーロードに進化しちゃった」

 

マーハ「そんなくだらない理由でか!?」

 

ファントム「まあよい。ネクタリアの解説を続けよ」

 

ブラダ「少し器が大きくなったな」

 

カロン「うーん……。

とりあえず、ネクタリアは手札でスキルを発動するよ。このカードをバインドすることで、デッキからノーマルユニットをバインドできるんだ」

 

ファントム「魔法カード!?」

 

ブラダ「おろかな○埋葬!?」

 

カロン「うん、まあぶっちゃけガンスロッド以来の魔法カードだね。オーダーを除けば。

あと、ブラスター・ダークは伏字するならちゃんとしてね」

 

ブラダ「ああ」

 

マーハ「序盤でいかにPR♥ISMをバインドできるかがカギとなっていたPR♥ISMにとって、PR♥ISMの数が増えたこと、PR♥ISMをバインドする手段が増えたことで、初動が大きく安定するようになったな」

 

カロン「もちろんガンスロッドと違って、盤面でも活躍するよ」

 

マーハ「いや、ガンスロッドも一応盤面で使えるスキルはあったのだが……」

 

カロン「このユニットと同名カードがバインドゾーンにあるなら、リアガードでパワー+10000!

ヴァンガードならドライブと★も+1されるけど、さすがにヴェールほど強くは無いから、基本的にはこのパックだけでデッキを組みたい場合のオマケとして考えておくべきかな」

 

 

●『蒼波元帥 ヴァレオス』

 

カロン「アクアフォースからは、あの元帥サマが、ギーゼの使途ではもはやお馴染となったノーギフトで登場!」

 

マーハ「登場が早かったおかげでギフトをもらえたグレドーラは運がよかったのか悪かったのか……」

 

ファントム「フハハハ! フォースやプロテクトならいざ知らず、ギフトの中でも際立って強力なアクセルを得られぬとは、蒼波元帥とやらも堕ちたものだ!」

 

カロン「CB1&SB1でヴァンガードのパワーを-5000して、それがG3ならそのままパワー固定」

 

ファントム「!?」

 

カロン「手札からヴァンガードと同名カードを捨てることで、サークルのマーカーをすべて除外し、ドロップから5枚までスペリオルコールする」

 

ファントム「…………」

 

カロン「ユニットがアタックしたバトル終了時、リアガード2体の位置を交換」

 

ファントム「絶望した!」

 

カロン「そういう言い方で絶望すると、別のキャラクターになっちゃうので、やめてくださいねー」

 

ブラダ「ガスティールがダストを踏襲した能力だったので、こちらはメギドちゃんを踏襲したわけだな。……面白い!」

 

カロン「なんでそっちのメギド限定なの!?」

 

ファントム「やっていることはペルソナブラストと同じであるのに、テキストも究極超越らしくしてあるところに飽くなき拘りを感じる」

 

カロン「究極超越さえ使わなければ、他のユニットからアクセルサークルを持ち越すことも可能だよ。

その場合、アタック回数が増えるばかりか、アクセルⅡサークルの上でユニットを入れ替えることで、全てのアタックに+5000のパンプされるんだ」

 

ブラダ「アクセルⅠを選択していれば、全アタックに+10000のパンプがかかる。展開力の乏しいアクアフォースでは茨の道だが、狙ってみるのも一興か」

 

カロン「その場合、経由するアクセル持ちのG3はレヴォンが無難かな。トリプルドライブで次のターンに向けてのハンド・アドバンテージも得られるし、一部サポートカードも共有できるしね」

 

ブラダ「レヴォンは『蒼波』ではないので、『蒼波』カードの一部スキルが適用されない点。レヴォンと同時期に登場した『蒼波』にはレヴォンを名指しで指定しているカードがあるので、そのスキルはヴァレオスがヴァンガードだと適用されない点には注意が必要だ」

 

ファントム「ややこしさに絶望した!」

 

 

●『はむすけの学友 デカクレヨンのはむやん』

 

ブラダ「CB2と手札1枚で、好きなだけ展開できるって便利やん」

 

カロン「バトルフェイズ中にはむすけにライドできるとか無敵やん」

 

ファントム「新たに展開したふたつのアクセルサークルとはむすけで、さらに2回アタックできるとか最強やん」

 

マーハ「……何を言っているんだ、お前達は」

 

 

●『はむすけの恩師 つけペンのはむゆき』

 

マーハ「恩師(ティーチャー)なのにG1なのか!?」

 

 

●終

 

カロン「今日はツッコミごくろうさま、指揮官殿」

 

マーハ「まったく……シャドウパラディンファンに叱られても知らないからな」

 

ブラダ「ふむ」

 

ファントム「何故だ?」

 

マーハ「お前達のキャラが崩れすぎなんだ!」

 

ブラダ「解せぬ」

 

ファントム「笑止」

 

マーハ「そういうところだ! 意味深なこと言っていれば、クールなキャラクターが務まると思うなよ!?」

 

カロン「君も結構キャラ崩れはじめてるよー」

 

ブラダ「作者もシャドウパラディンファンだから大丈夫だ」

 

マーハ「その理屈もよく分からないが、絶対にまともなファンじゃないだろう」

 

カロン「まあ、10年前、ファントム・ブラスター・ドラゴンのアタックがエリーにあっさり止められた時、作者の中でシャドウパラディンの扱いが決定したよね」

 

マーハ「問題が根深いな!」

 

カロン「そんなわけで、今日のえくすとらはお開きにしちゃおうか」

 

ブラダ「うむ」

 

カロン「それでは読者の皆さん……」

 

ファントム「また会おうぞ」

 

マーハ「またやるつもりか!?」



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Ex.41「overDress スタートデッキ」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
好きなモビルスーツはザク。

・鬼塚オウガ
アメフト部のコーチ見習い。
カードファイト部は引退したが、まだまだヴァンガード熱は冷めやらぬ、高校2年生。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
好きなモビルスーツはグフ。

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
好きなモビルスーツはゾック。

・天道アリサ
今年で大学1年生になったミオの先輩。
ノリは良いが、根はマジメ。
使用クランは「メガコロニー」
好きなモビルスーツはギャン。

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的だが、それらは演技らしく、本質的にはミオに近い。
使用クランは「ギアクロニクル」
好きなモビルスーツはジム。


●序

 

ミオ「あけましておめでとうございます。今年も根絶少女をよろしくお願い致します」

 

オウガ「遅っ!!」

 

アリサ「そう言えば、ミオちゃんは今年はじめてのえくすとらだったよねー」

 

ミオ「なんでしょう……ここ3カ月の記憶が無いと言うか、ものすごくしょうもない企画に時間を奪われていたような気がします」

 

アリサ「そんなわけで、本編はとっくに3年生編に突入しているけれど、さすがにえくすとらでも2年生編の締めくくりは必要でしょってわけで、今回は2年生編のレギュラー総出演で、2年生編ラストとなるえくすとらをお送りさせていただきまーす!」

 

サキ「オウガ君やアリサさんともう一度えくすとらができて嬉しいです!」

 

オウガ「おう! 俺もだぜ!」

 

アリサ「今回のテーマは、いよいよ本格始動したオーバードレスのスタートデッキ!!

あたし達はVスタン次元の住人だけど、えくすとらではDスタンのカードも採り上げていくからね!」

 

ミオ「それではさっそくカードを見ていきましょう」

 

 

●近導ユウユ -天輪聖竜- 《サンライズ・エッグ》

 

アリサ「まずはDスタンがどのようなゲームになるのかを占う重要なポジション、ファーストヴァンガードから見ていきましょ」

 

サキ「滑りだしは大事な要素のひとつですからね!」

 

ミオ「その効果は、今のところ全国家共通で『ライドされた時、後攻なら1枚引く』になっていますね」

 

オウガ「Vスタンのファーストヴァンガードから、先攻ドローができなくなって、後攻のクイックシールドも無くなった感じか。ずいぶんと弱体化したな」

 

サキ「先攻で何も起こらなくなったのは大きいよね。Dスタンもペルソナライドとかで先攻有利な印象があったけど、ファーストヴァンガードでとりあえずバランスを取ったみたいだね」

 

アリサ「そして、Vスタンダードから継続のファイターが先攻ドローしてからの0ターンジャッジキルがそこかしこで発生してしまうのであった!」

 

サキ「ありそう!!」

 

アリサ「Vスタンと両立してプレイしていきたいファイターとか、地味に面倒よねー。PスタンのFVはごっちゃになることは無かったけど、こっちはなまじ似ているだけに、ね。

VもDも盛り上げたいなら、こういう細かいところにも配慮が欲しかったかも」

 

サキ「大会に出場するファイターの方は注意してくださいね!」

 

 

●《トリクスタ》 《ヴェルリーナ》

 

アリサ「続いては、タイトルであるオーバードレスの名を冠するスキルを持つ《ヴェルリーナ》!」

 

サキ「デザインは《クロノ・ドラン》と《クロノジェット・ドラゴン》に近いですけど、G2の主人公格という点では《ブラスター・ブレード》を連想させますね!」

 

ミオ「オーバードレスはリアガードにノーマルコールする代わりに、指定されたユニットの上に重ねて登場させることのできるシステムです。ヴェルリーナが指定しているのはG0の《トリクスタ》ですね」

 

アリサ「もちろんそれだけじゃアド損なわけだけど、オーバードレスしていることで《ヴェルリーナ》は更なる能力を得るわよ!

ヴァンガードにアタックした時、パワー+10000! さらにSB2で相手リアガードを1体退却!

……アド損してる割には地味じゃない?」

 

サキ「除去くらいノーコストでしてほしかったですよねー」

 

アリサ「ま、まあ、主人公格だし、今後もガンガン強化されていくでしょうから、次に期待、かな!?」

 

 

●《天輪聖竜 ニルヴァーナ》

 

アリサ「主人公が使う主人公なドラゴン! 《天輪聖竜 ニルヴァーナ》!!」

 

サキ「ヴェルリーナもいますから、主人公かどうか若干怪しいような気もしますけど」

 

アリサ「ヴェルリーナがブラスター・ブレードで、ニルヴァーナはアルフレッドポジションなのかもね」

 

ミオ「ニルヴァーナはふたつのスキル。そしてDスタンダードのG3共通の能力としてペルソナライドを持ちます」

 

アリサ「せっかくだからペルソナライドもここで考察しちゃいましょ! 2.0発表会では公開されてないシステムだったからね」

 

ミオ「はい。ペルソナライドは、ペルソナライドを持つヴァンガードと同名のヴァンガードにライドした時に発動します」

 

オウガ「ペルソナライドの効果自体はシンプルで、1枚ドローして、そのターン中、前列のユニットは+10000されるぜ!」

 

ミオ「ライド時に前列にいるユニットを+10000するのではなく、前列のユニットがそのターン中+10000され続けるので、ペルソナライド後にユニットを前列にコールしても+10000されるという点には注意が必要ですね」

 

アリサ「ペルソナライドする前のターンは前列を維持しておかなきゃ、とか考えなくていいのは嬉しいよね」

 

オウガ「もちろん、リアガードをスタンドさせたり入れ替えたりして連続攻撃するようなスキルとは相性抜群だぜ!」

 

アリサ「デッキビルド的な難点としては、エース級のG3を2種類投入して、対戦相手や状況に応じてスイッチするようなデッキを組みにくくなったことかしらね」

 

サキ「クロスライドみたいな、特定ユニットの進化系も出しにくくなりましたよね」

 

アリサ「それについては、『「ニルヴァーナ」にライドした時、そのユニットと同名として扱う』自動能力とか、やりようはある気がするけどね」

 

ミオ「それではそろそろニルヴァーナ固有のスキルにも目を向けていきましょうか」

 

サキ「はい! まずは手札から1枚捨てることでドロップゾーンからG0をスペリオルコールします。

《トリクスタ》を呼んで《ヴェルリーナ》にオーバードレスするのが基本ですけど、FVの《サンライズ・エッグ》なら、《トリクスタ》やトリガーよりパワーが1000高いので、そちらを呼ぶのもよさそうです。

スタートデッキで言えば、《焔の巫女 レイユ》をブーストしてあげることで、ぴったり18000のパワーになりますね」

 

オウガ「もうひとつのスキルは、アタック時にCB1でこのユニットとオーバードレスを持つユニットすべてにパワー+10000するぜ!」

 

サキ「オーバードレスを持つことが条件であって、オーバードレスをしている必要は無いんだね」

 

オウガ「コストは軽くないので、使うならできる限り前列はヴェルリーナで揃えたいな!」

 

アリサ「とまあ、これだけ見たら分かりやすい能力を無難に揃えたスタートデッキらしいユニットなんだけどね……。

この後紹介することになる他の看板ユニットは、既に連続攻撃しまくってて、無難じゃ済まないユニットばっかりなのよね。

パワーこそトップクラスではあるけれど、3回しかアタックできない、アドも稼げないニルヴァーナにとっては、いきなりかなり厳しい環境だと思うのよねー」

 

オウガ「どうなる、主人公!?」

 

 

●《焔の巫女 レイユ》 《焔の巫女 リノ》

 

アリサ「Dスタンで導入された新たなシステム、ライドデッキによる確定ライド!

各トライアルデッキには、確定ライドしてくださいとばかりに、ライドされた時に発動するスキルを持つユニットが収録されているわ。

これらの確定ライド用のユニットはFVとG3含めての総称で『ライドライン』と呼ばれるようね」

 

サキ「ニルヴァーナのライドラインは、リノがレイユにライドされることでトリクスタをコールし、レイユがニルヴァーナにライドされることで手札にヴェルリーナを加えることができます!」

 

オウガ「2アドを得つつ、オーバードレスの準備も整う、優秀なライドラインだな!」

 

ミオ「大抵はそこからすぐオーバードレスしてしまうので、実質は1アドになってしまいそうですが。そこはヴェルリーナの除去で取り返していきたいところですね」

 

 

●《火斬竜 インフェルノソード》

 

サキ「わあ、かっこいい!」

 

アリサ「……このユニットって、ペルソナライドいらなくない?」

 

サキ「あ、そうですよね。確定ライドがありますから、サブヴァンガードという概念はもう無いですし、スキルもリアガード専用ですから、ニルヴァーナを押しのけて使う理由がありませんね」

 

オウガ「ペルソナライドのシステムじゃ、ニルヴァーナからインフェルノソードにライドして無理矢理ペルソナライドだけでも発動させるってプレイングもまずできないしな」

 

アリサ「Vスタンのオーガスパイダーやゾクヒヒみたいに、ペルソナライドを無くして、その分スキルを盛ってほしかったかなぁ」

 

ミオ「今のところ公開されているG3は、すべてペルソナライド持ちなので、査定には影響していない可能性もありますけどね」

 

アリサ「トライアルデッキで対戦していて、看板ユニットにライドできなかったけど、トリガーの引きがよくて勝っちゃったみたいなハプニングも、もう起こらないのよねー。何だか寂しいなー」

 

ミオ「聞くところによると、作者は確定ライド反対派らしいですね」

 

アリサ「断固反対というわけじゃなく、どっちかと言うと反対ってレベルだけどねー。

メガコロやむらくもが、どのG2にライドできるかで戦い方が変わってくるデッキだったっていうのもあると思うよ。

G1~G3までライドするユニットが決まってたら、同じ展開ばっかりになって、飽きるのが早そう。

そりゃあ一番ライドしたいユニットはブラッディ・ヘラクレスだけど、キラーリーフにライドするのもそれはそれでオツなものよ」

 

ミオ「根絶者でも、ギアリにライドするか、アルバ・エルロにライドしてソウルからどう落とすか、色々と考えるのは楽しいですね」

 

アリサ「もちろんあたしや作者もライド事故して面白いとは思わないし、それが無くなるのは悪くないんだけどね。

不快な要素を潰すのに、序盤~中盤の面白い要素を削ったら意味なくない?

それならGアシストでめくる枚数をもう少し増やすとかでもよかったんじゃないかしら。

いきなりG1~G3を確定させるのは、さすがに極端すぎに思うのよ。

というのも、カードゲーマー……というか人間の欲望には限りが無いからね。いちいち応えてやってたらキリが無いわよ」

 

サキ「『アクセルサークルが増えても展開できない! つまらん!』なんて声に応えた結果、生まれてしまったのがアクセルⅡのような気もしますしね……」

 

アリサ「今、『確定デッキ大賛成!』なんて言ってる人は、いずれ、『初手に完全ガードが無いと一方的だ! 初手に完ガ加えさせろ!』みたいに、また騒ぎだすわよ、絶対。

もうさっさと初手を確定させたらいいんじゃないかしら。

……って、作者は言ってたわよ!!

あたしじゃないからね!!」

 

サキ「同じメガコロ使いであるが故に、作者の代弁者にされてる……」

 

アリサ「あと、ちょっとエモい理由もあってね。こっちはあたしも同意できるんだけど」

 

サキ「エモいて」

 

アリサ「ヴァンガードは『なりたい自分をイメージする』カードゲームでしょ?」

 

サキ「はい。そういう意味では、確定ライドは合致してると思いますけれど」

 

アリサ「それと『なりたい自分に必ずなれる』は、また別の話だと思うのよね、あたしは。

オウガ君だって、理想の自分はライジング・ノヴァだったかも知れないけど、メカ・トレーナーになると決めたのも、決して仕方なくで妥協したわけじゃないんでしょ?」

 

オウガ「……まあ、そうっすね」

 

アリサ「夢は大事だと思うけれど、なりたい自分がすべてだとあたしは思わない。

超越だって、『数多ある可能性』から未来を掴み取るシステムだったでしょ?

定められただけの運命なんて、とんだデスティニー・プランだわ! そんな人生の何が面白いんだっての!」

 

サキ「変わらない世界は嫌なんだー」

 

アリサ「あとはまあ単純に、スリーブを分けるのがめんどい」

 

サキ「ものぐさ!!」

 

 

●《鉄球竜 アンキボーラー》

 

サキ「たちかぜがきたと思ったらバニラだった!!」

 

アリサ「しかもパワーは8000、ガード値は5000で据え置きという、バニラである意味が無いバニラに……」

 

オウガ「リノの時も思ったっすけど、G1なのにガード値は5000なんすね」

 

アリサ「ええ。Dスタンでは、G1のガード値は一律5000になっているわ。ちなみに治トリガーのガード値も15000に減少しているから、デッキ全体の総ガード値はかなり落ちてるわね。

10000要求のアタックを1枚で防ぐにも、いちいち15000ガードを切らなくてはならないし、そうして簡単に15000ガードを切っていたら、いざ15000ガードが必要になった時、5000ガードを3枚切らなくてはなる可能性も!!

ガード値が揃ってシンプルになったように見えて、考えなくてはならないことは増えてるわよ!」

 

オウガ「なるほど。ペルソナブラストの存在を考えたら、相手のパワーが低い序盤にできる限りガードすることを心がけたほうがよさそうっすね」

 

アリサ「この後に紹介するブルースとかマグノリアとか、すでにVスタンと比べても遜色無いパワーで連続攻撃ができるんだけど、Vスタンよりガード値を減らして大丈夫なのかしら。また相手がG2の間に決着がついてしまうとかならないのかしら」

 

ミオ「さっきはVスタンの感覚でニルヴァーナを考察していましたが、ここまで全体的なガード値が低いと、安定して20000要求のアタックを繰り出せるニルヴァーナは、決して力不足とは言えないかも知れませんね」

 

サキ「そ、そんなことより、このアンキボーラーさんは、どう使ってあげたらいいんですかぁ!?」

 

ミオ「サイクロンドのようなバニラ強化を待ってください」

 

アリサ「確定ライドがあるから、G1で9000のバニラや、G2で12000のバニラって、ライド用ユニットとして需要はあったはずなのよね。

アド稼ぎまくるレイユやリノより優先されるとは思えないけど、そういう選択肢があるだけでもデッキ構築が楽しくなるし、序盤からアタックを防いでいきたい戦略には合致しているのよね。

せっかくの新システムを、なんでこう生かそうとしないのかしら……」

 

サキ「定められたユニットにライドさせられるんじゃなくて、せめて確定ライドするユニットくらいは自分で選びたいですよね!」

 

 

●《決意の聖霊王 オルバリア》

 

オウガ「来たぜ、オーバートリガー!!」

 

サキ「めくれたらパワー1億する、1枚でファイトをひっくり返す可能性を秘めた超強力カードだね!」

 

オウガ「最初のアタックがヒットしていきなりめくられたら、そのターンはオーバートリガーを引き返す以外、一切のダメージが与えられなくなるんだよな」

 

サキ「デッキの中にオーバートリガーが残っている場合は、最初のアタックはとりあえず受けてみるというプレイングも面白いかも知れないね」

 

オウガ「それをさせないため、攻める側はヒット時能力を持っているユニットで牽制したいところだな」

 

アリサ「基本的には2.0発表会の繰り返しになるけど、ヴァンガードのアタックを完全ガード以外で防いだら、常に貫通の危険性がつきまとい、どれだけ手札があっても完全ガードが無ければ即死もありえる。

総ガード値の低下もあって、完全ガードがとにかく重要なゲームシステムになっているわ。

完ガの切れ目が命の切れ目!」

 

ミオ「オーバートリガー自体もガード値が50000あるので、オーバートリガー対策にこそならないものの、1枚で大抵のアタックは防げる重要な札になってくれます」

 

アリサ「はっきり言って、オーバートリガーを引いた方が勝てると言っても過言ではないくらいに強い!

そのため、ヴァンガードではドライブチェックの回数を増やせる、トリプルドライブやVスタンドできるユニット。

リアガードでは、単体でスタンドできるユニットや、★を増加できるカードの評価が上がりそうね。

デッキトップ操作なんかは、過去イチ有能なスキルに生まれ変わっていると言っても過言では無いわ」

 

 

●《サンバースト・エヴォリューション》

 

オウガ「新世代のオーダーカードは、《光と影、交わる刻》のように各国家に所属してるぜ!

《サンバースト・エヴォリューション》はCB1でドロップゾーンの《ヴェルリーナ》をドロップから手札に加える! さらに他のユニットに+5000する!」

 

ミオ「確定ライドのおかげで、オーダーがライドを阻害しなくなっている点は、オーダーカード全体に対する追い風ですね」

 

アリサ「けど、相変わらずオーダーカードはディスアド1ってことを忘れてるコスト設定よね。実質、CB1消費して、1ターンに1枚しか出せない《ヴェルリーナ》!」

 

サキ「ノーコストで何度でも使えて、ユニットとしてヴァンガードにライドもできる昔のガンスロッドと比較したら弱体化が著しいですよね」

 

アリサ「現状、ヴェルリーナは5枚以上欲しいカードとは思えないけど、そこは主人公様のカード! いつヴェルリーナが何枚あっても足りないみたいなデッキが登場するかは分からない!

大切に保管しておくべきカードではあるかな」

 

サキ「その時には、このカードより優秀な《ヴェルリーナ》のサーチ手段が登場してそうなものですけど……」

 

 

●桃山ダンジ -暴虐の虎- 《ディアブロス“暴虐”ブルース》

 

オウガ「うおおおーーっ!! つ・い・に!! きたぜぇー!! スパイクブラザーズの後継、ディアブロス!!

そのキャプテンっぽい人、《ディアブロス“暴虐”ブルース》には、新しいシステムが導入されてるぜ!

その名も“一気呵成”!!

ライドフェイズ開始時、プレイヤーを“一気呵成”状態にするぜ!」

 

サキ「プ、プレイヤーに? いったいどういう効果なの?」

 

オウガ「“一気呵成”単体では何の効果も発揮しない!

だけど、プレイヤーが“一気呵成”状態を参照するカードが、ディアブロスには用意されてるんだぜ!

例えば、“憤怒”や“悪童”は、プレイヤーが“一気呵成”なら、パワー+5000されるんだ!

そして肝心の“暴虐”は、アタック時に“一気呵成”なら、SB5で前列ユニットをスタンドさせるぜ!!」

 

サキ「!! ペルソナライドと組み合わせれば、一気にゲームエンドに持ち込める破壊力だね!」

 

オウガ「だけど“一気呵成”もペルソナライドも、“暴虐”にライド直後はバニラ同然。スロースターターを地で行くユニットだな」

 

アリサ「このカードにライドすれば、ミオちゃんみたいなクールな女の子も、サキちゃんみたいなおとなしい女の子も、ムドウみたいなクソオタクも、みんな“一気呵成”になれるわけね!」

 

オウガ「おう!」

 

アリサ「この調子で“一生懸命”とか“危機一髪”とか“晴耕雨読”みたいに、プレイヤーがいろんな状態になれれば面白いよね!」

 

オウガ「おう!」

 

アリサ「“意気消沈”かつ“一気呵成”とか状態が重複しても面白いよね!」

 

オウガ「おう!」

 

サキ(オウガ君がツッコミに回ってくれないと、ツッコミが追い付かない……)

 

 

●《ディアブロス “憤怒”リチャード》《ディアブロス “悪童”スティーブ》

 

ミオ「ディアブロスにおけるライドラインですね」

 

アリサ「ユニットをソウルから出したり入れたり七面倒くさいことを書いてあるけれど、最終的に得られる報酬は1ドロー&1ソウルチャージ! ソウルを重視するデッキらしい、手堅いライドラインね」

 

ミオ「ライドラインの中では珍しく、特定のユニットへのライドを要求されていない点にも注目です」

 

オウガ「“悪童”にライドして1アド稼いでから、別のライドラインに切り替えるなんてことも今後はできるかも知れないわけだな!」

 

サキ「“憤怒”がデッキに4枚欲しい場合なんかは、別のG2をライドデッキに入れておくのもいいかも知れないね」

 

 

●《ブラザーズ・ソウル》

 

アリサ「テキスト短っ!!」

 

オウガ「現状、“暴虐”の戦い方には大きく分けて2パターンが想定される。

ひとつは、ディアブロスの順当ライドからペルソナライドまででソウルはぴったり5貯まるので、1回だけ“暴虐”のスキルを使うパターン。その1回にすべてを賭けないといけないので、ソウルチャージできるカードは入れず、とにかくパワーの高いカードを入れればいい。

もうひとつは、積極的にソウルチャージをしていって2回目のスキル発動を積極的に狙うパターン。

この《ブラザーズ・ソウル》は、ふたつめの戦略を強力にサポートしてくれるオーダーだぜ!」

 

アリサ「手札1枚使ってソウルチャージ2か……。こっちはオーダーとして絶妙なバランスね。ダークステイツはもともとがソウルを重視するクランの集合体だし、ディアブロス以外のデッキでも採用されそう」

 

サキ「その分、ダークステイツにはソウルチャージできるユニットがすぐ増えそうなんですよね。むしろ、こういったオーダーが欲しいのは、ソウルチャージが下手なのにやたらソウルを要求してくる系のデッキじゃないでしょうか」

 

アリサ「それもそうかー。国家縛りをやめて、Vスタンに輸出してくれないかなー。ソリダルバングルとはいいライバル関係になれそう」

 

サキ「ソウルバレット・ルーレット……」

 

アリサ「眼中にすらないわ!」

 

 

●江端トウヤ -頂の天帝-《頂の天帝 バスティオン》

 

アリサ「上流階級と下層階級に分かれたユナイテッドサンクチュアリ改めケテルサンクチュアリ。

この《頂の天帝 バスティオン》は、まさしく上流階級側!

その表現として、G3をこれでもかとばかりにヨイショするのが戦い方!」

 

サキ「スタートデッキに収録されているカードも、G3が16枚で、G2は僅か4枚という徹底ぶりです」

 

ミオ「確定ライドがあるからこそ組めるデッキと言えますね」

 

アリサ「そのG2である《天槍の騎士 ルクス》もブーストを得るスキルを持っているので、基本的に前列に立つのはG3! 戦うのは貴族の仕事(ノブリス・オブリージュ)というわけね。ただのいけ好かないお貴族サマというわけでもないみたい」

 

オウガ「そんなバスティオンのスキルは、自分ターン中、G3すべてにパワー+2000!

数値は小さく見えるかもだが、G1がブーストしてG3相手にぴったし15000要求できる数値になってるんだぜ!」

 

アリサ「もうひとつのスキルは、ドライブチェックでG3がめくれたバトル終了時、手札を1枚捨てることで、リアガードを1体スタンドしてパワー+10000!

手札コストいる?って気もするけど、どうせガード値は無いんだし、有り余ったG3を捨てちゃえばいいのかな」

 

 

●《聖裁の刻、来たれり》

 

ミオ「やたらと大仰な名前のオーダーカードです」

 

アリサ「来たれり!」

 

サキ「CB2で2枚ドローに、パワー+5000ですね。コストは重たい印象ですけど」

 

アリサ「これは結構使えるんじゃない? バスティオンはG3で戦うデッキだけど、G3なんて前列に3枚いたら十分なワケ。だからG3の水増しをオーダーでするのは理に適ってるわ。

バスティオンでめくって、次のターンでアドバンテージに変換していく。そんな動きが理想なんじゃないかしら。パンプも、スタンドを軸とするバスティオンには噛み合ってるわね。

これ以上にCBを使いたいカードも無いし、スタートデッキは毎ターンこのカードをブン回すのが基本になりそう」

 

サキ「Vスタンで剛腕の章を愛用してたファイターにはしっくり来るかも知れませんね」

 

アリサ「CBの使い道が乏しいってデッキも以外とあるからね。ほんと、ソウルの消費を無くして取り回しをよくした剛腕の章みたいな感じよ。

というか、せっかくハイクラスモスがいるのに、CBの使い道がマンティスとイントルードシザーくらいしか無いコレオデッキとか、普通に欲しいわ」

 

サキ「ケテルサンクチュアリだけに使わせるのはもったいない良オーダーですよね。国家で縛ったからこそのスペックかも知れませんけど」

 

 

●《天槍の騎士 ルクス》 《天剣の騎士 フォート》

 

ミオ「頂の天帝におけるライドラインですね」

 

サキ「ライドラインは特定のユニットにライドされた時アドバンテージを稼げるものが多いのですが……この2枚はそれに加えて厳しい条件が設定されています」

 

オウガ「ルクスはフォートにライドされた時、手札のG3を2枚見せてアド! フォートはバスティオンにライドされた時、手札のG3を3枚見せてアド! だぜ!」

 

アリサ「それってつまり……引き直しの際、手札にできる限りG3が集まるように引き直せって?」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「それで本当に3枚とか揃うの?」

 

ミオ「そんなプレイングしたことがないのでわかりません」

 

アリサ「だよねえ!」

 

サキ「確定ライドする時も、わざわざG3を残して、他のグレードを切るんですよね。確定ライドと相性いいようで、実は確定ライドにケンカ売ってるデザインな気が……」

 

アリサ「序盤からできる限り、デッキからG3を引っこ抜かなきゃならないのに、バスティオンはデッキからG3をめくることを要求するあたりもアンチシナジーよね」

 

オウガ「ディアブロスとは別の方向性でスロースタートなデッキになりそうだなあ……」

 

アリサ「それに加えて、守備もスカスカよね。他に確定ライド用のユニットが登場したら、さっさとチェンジしてしまった方がいいかも」

 

サキ「ルクスはリアガードとしても優秀ですからね。ライドするより、デッキに4枚いてくれた方が嬉しいです!」

 

オウガ「そして、こんだけ頑張ってフォートの効果を発動させても、《聖裁の刻、来たれり》がめくれたら不発になるという……」

 

アリサ「来たれり!」

 

 

●大倉メグミ -樹角獣王-《樹角獣王 マグノリア》

 

アリサ「もふもふ!」

 

サキ「アタック回数の多いデッキが単純に強くなりがちなのがヴァンガードですが、全スタートデッキの中で、もっとも連続攻撃を得意としているのがマグノリアです!」

 

アリサ「CB1でユニット1体にパワー+5000と後列からアタックできる権利を与え、さっそくバスティオンの不確定4回アタックを抜き去り!!!!

さらに! ペルソナライドしていれば、このスキルで選べる対象は3つに増え、ディアブロスをも越える、脅威の6回アタック!!!!!!」

 

オウガ「ひとりだけ、やってることがVスタンじゃね!?」

 

ミオ「いつぞやのバンドリでも、アタック回数の多い順で強かった印象があります。スタートデッキの中では、最も活躍の期待できるユニットと言えるかも知れませんね」

 

 

●《樹角獣 ラティス》《樹角獣 カリス》

 

ミオ「樹角獣のライドラインですね」

 

アリサ「最終的な報酬は、ランダムスペリオルコールによる2体分のボード・アドバンテージ!

オーダーカードなど、指定されていないカードがめくれてもソウルに入ったり、手札に加わったりしてくれる親切設計!

発動条件まで要求してくる上に、オーダーがめくれたら容赦なくドロップゾーンに落とされるどこぞの天帝が哀れだわ!」

 

 

●《斬獲怪人 ブルスラッシュ》

 

アリサ「バニラかよおおおおおおおおおおっ!!!」

 

サキ「わーい 仲間だー」

 

アリサ「うーん。開発サイドとしてはファンサービスのつもりかも知れないけど、やっぱりいい気はしないわねー。

もちろん最悪は、2.0発表会のえくすとらの時に言った『他クランのサブとしてこき使われる』ことなんだけど。

正直、これならいない方がマシだわ。

いなかったらいないで釈然としない気持ちになるんだろうけどね!

早く怪人のライドラインが来てくれないと、あたしと作者の胃が溶けるわよ!?」

 

 

●《獣を呼ぶ声》

 

オウガ「顔怖っ!!」

 

ミオ「カリスやラティスも、バトルフェイズに入ったらこんな顔しているのでしょうね」

 

サキ「変なイメージしないでくださいっ!」

 

アリサ「顔は怖いけど、紛れもない! 待望の! メインデッキに入るブリッツオーダー!!」

 

ミオ「まさか最後までVスタンダードに登場しないとは思いませんでしたけどね」

 

サキ「注目のスキルは、ユニットを1枚選び、そのバトル中+5000! 後列にリアガードが3枚いるなら、代わりに+15000です!」

 

ミオ「総ガード値の低いDスタンにおいて、15000相当のガードは貴重です。守りの要として活躍してくれそうですね」

 

アリサ「もちろん除去は苦手だけど、最低限5000ガードとして扱えるのは好感触! 当分の間、ストイケイアならとりあえず1~2枚は入れとけってカードになってくれそうね」

 

 

●瀬戸トマリ -極光戦姫-《極光戦姫 セラス・ホワイト》《銀河中央監獄 ギャラクトラズ》

 

アリサ「トリを飾るは、それに相応しいニューギミックを携えた極光戦姫! そして、その根幹を成すセットオーダー、ギャラクトラズ!!」

 

サキ「セットオーダーは、プレイ後、オーダーゾーンに置いたままになる新しいオーダーカードですね」

 

オウガ「リアガードを埋めず、ドロップゾーンにも送られない楽曲みたいなもんかな」

 

アリサ「エンチャントとか永続魔法とか言ってピンとくるファイターもいるかもね」

 

サキ「それはファイターじゃなくデュエリストですけどね」

 

ミオ「セラス・ホワイトのスキルですが、CB1で相手リアガード2体を監獄に収容することができます」

 

オウガ「監獄?」

 

ミオ「先ほど説明にあったセットオーダー《銀河中央監獄 ギャラクトラズ》がそれですね。

つまり、オーダーゾーンに監獄があれば、相手ユニット2体を追放することができるのです」

 

オウガ「CB1で2体除去かよ! メチャ強ぇ!」

 

アリサ「と・こ・ろ・が……ギャラクトラズにも驚きの効果があってね。

なんと! 対戦相手はCB1することで2体、SBすることで1体、ユニットを監獄から出所(コール)させることができるのよ!!」

 

オウガ「賄賂!?」

 

ミオ「保釈金ではないでしょうか」

 

アリサ「SB1はデッキによってはかなり軽いコスト!

例えば、効率のよくない《ブラザーズ・ソウル》なんかも、ギャラクトラズにおいては2体を脱獄させることのできる優秀な袖の下に早変わり!

CB1はCB1で、2体も脱獄させちゃうし、汚職にまみれたギャラクトラズの警備は、かなりガバガバ!!

はっきり言って、除去としての過信は厳禁!」

 

ミオ「登場時スキルなんかも再利用されてしまいますね」

 

オウガ「えー。それだけ聞くと使いにくそうっすね」

 

アリサ「大丈夫! この汚職警官どもは、犯罪者を逮捕したという実績(ノルマ)さえあれば十分なの!

例えば、キルナ・ブルーは、監獄にユニットがいるなら登場時に1ドロー!

セラス・ホワイトは、監獄にユニットが1体以上いるならパワー+10000! 3体以上いるならさらにドライブ+1!!!

その後は、ブタ箱に放り込んだ犯罪者が脱獄しようが、知ったこっちゃねぇ!」

 

オウガ「ひでえ!」

 

アリサ「超トリガーの存在するVスタンにおいては、トリプルドライブは単なるトリプルドライブ以上の意味を持つのは前にも言った通り!

今後はカウンターコストもソウルもカツカツっていうデッキの方が多くなってくるでしょうし、将来性も含めたスペックはかなり高そうよ」

 

サキ「面白そうなデッキですねー。私も一度使ってみたいです」

 

オウガ「俺は、コスト払って脱獄! とかしてみてーな!」

 

アリサ「ちなみにこのギャラクトラズ、ライドラインのG1でいきなりサーチしてこれるから、引けないっていう心配は無いわ。基本は1枚採用で十分。

ただ、初手にあるとその分のハンド・アドバンテージが失われるから、それが嫌なら2枚採用かな。2枚目は確定ライドや完全ガードのコストにでもしちゃいましょ」

 

ミオ「ちなみにこのギャラクトラズですが、極光戦姫はソウルを多用するデッキで無いにもかかわらず、発動時に何故かソウルチャージ3もしてくれます」

 

アリサ「ミラーマッチだと激しい賄賂の贈り合いが楽しめそうね!」

 

サキ「まさかそのための……!?」

 

 

●《極光戦姫 リサット・ピンク》《極光戦姫 キルナ・ブルー》

 

ミオ「極光戦姫のライドラインです」

 

アリサ「キルナ・ブルーはちらっと触れた通り、ギャラクトラズのサーチ! これが無ければ始まらない!

リサット・ピンクは相手の手札1枚を監獄送りに!

手札を監獄送りにできるスキルは、現状、このライドラインが最初で最後!」

 

オウガ「監獄に送られたカードはスペリオルコールしかできないので、リアガードに出したくないトリガーや完全ガードを収容できると、流れが一気に傾くな!

収容する手札を選ぶのは当然相手だけど、序盤で発動するスキルなので、そううまく手札が整っていない場合もあるぜ!」

 

ミオ「ただし、相手に1ターン早くG3をスペリオルコールされてしまう危険性も孕んでいますね。今後、強力なG3が増えてきた場合は要注意です」

 

アリサ「ギャラクトラズのサーチもアドとは言い難いので、全ライドラインの中でも手札や盤面のカードを増やすのは不得手!

一方、監獄への収容状態を参照するカードは、かなり早い段階からオープンにできるので、実は全スタートデッキの中でも速攻性は高い方!

G3にライドして、さらに1ターン待たなきゃいけない“一気呵成”を参照するカードと比較したら、まさにその差は歴然!」

 

 

●終

 

アリサ「オーバードレスに、デッキに入るブリッツオーダー。一気呵成に、袖の下。新しいギミックがてんこもりのスタートデッキだったわね!」

 

オウガ「最後のは少し違う!」

 

アリサ「さて! ここで大事なお話!

今回のえくすとらをもって、オウガ君がえくすとらのレギュラーを卒業しまーす!

オウガ君、何か一言!」

 

オウガ「あ! あー。うっす。

えーと。読者の皆……あと、サキも。急で悪かったな。

けど、ヴァンガードを辞めるわけじゃねーし、この1年間、アメフトしてた頃とは違った興奮があって、とっても楽しかったぜ。

またどこかで会おうぜ! 応援ありがとな!!」

 

アリサ「はい、ありがとー!

そして! 次回からえくすとらのレギュラーとなる、響星学園カードファイト部の新入部員も呼んでまーす!

レイちゃん、どうぞー!!」

 

レイ「はーい! ご紹介に預かりました、1年生の時任レイでーすっ! 使用クランはギアクロニクル!

されどその正体は……なーんて、もう既に本編を読んでくれている皆なら知ってるよね?

これから1年間、応援よろしくねー!」

 

オウガ「おう! これからのえくすとらは頼んだぜ!」

 

レイ「うん! まかせて、オウガ先輩!」

 

サキ「……なんだか気の合いそうなふたりだね」

 

アリサ「うん。ここで入れ替わりになるのが惜しいわねー」

 

ミオ「私に妹分が登場し、いよいよ佳境へと進行する本編と」

 

サキ「オーバードレス環境でも、いつも通りだらだら進行するえくすとらを!」

 

レイ「これからもよろしくお願いしまーすっ!!」




オーバードレスのえくすとら第1弾をお送りさせて頂きました!
これらはすべて発売前に書いた文章ですので、見当違いのことが書いてあっても笑って許してくださいませ。

さて、ここからは実際にこれらのスタートデッキを回してみまして。
私の中での強さの下馬評は

ストイケイア>ダークステイツ>サンクチュアリ=ブラントゲート>ドラゴンエンパイア

だったのですが、実際は……

ストイケイア>サンクチュアリ=ブラントゲート=ドラゴンエンパイア>ダークステイツ

みたいな感じでした。

ストイケイアはライドラインでアドを稼いで、マグノリアにライド直後から確定で4回攻撃、終盤は6回攻撃と、隙がありませんでした。
トリガーを引かれても、ブーストに切り替えたりできるので、柔軟性も抜群です。

サンクチュアリは、全体的なパワーがドラゴンエンパイアに次いで高く、連続攻撃までできるので、デッキが回ればかなり強力です。
ライドラインや来たれりのおかげでアドバンテージの獲得能力も不安定ながら随一なので、爆発力はトップクラス。

ブラントゲートは、相手によって有利不利がはっきりしている印象でした。
特にコストがカツカツのストイケイアに強く、コストがガバガバのダークステイツに弱いため、スターターデッキ間での強さを均等にする役目も兼ねているように感じました。
あと、オーバードレスを解除しつつ、セラス・ホワイト単体で3体を投獄できるドラゴンエンパイアにも有利。
使ってても使われてても楽しい、ステキデッキでした。

ドラゴンエンパイアは、アタック回数の少なさと、アドバンテージ獲得能力の無さが懸念でしたが、現状のガードプールでは、ほぼほぼガード不能なラインにまで簡単にパワーが伸びるので、普通に強かったです。
どんな不利な状況でも、★トリガー1枚で逆転できる可能性が残るのは、さすが主人公!

ダークステイツは、間違いなく“暴虐”のテキストだけ見れば最強クラスなのですが、アドバンテージ獲得能力が皆無なので、そのテキストを生かせない印象でした。
一気呵成にならなければ、ほとんどのカードがバニラなため、一気呵成までの間にダメージを詰められない=一気呵成のターンをノーガードで凌がれてしまう。
現状のカードプールでは、“暴虐”にライドしてから3ターンの生存はまず不可能なため、ソウルチャージ用のカードが必要無い。
仮に生存できたとしても、2発目のスキルが使えるほど潤沢にソウルが貯まるわけでもない。
特に、コールもガードもできない《ブラザーズ・ソウル》は完全にお荷物でした。

ただ!
ここまで強さを解説をしてきましたが、どのデッキも使っていて楽しかったのは間違いありません!
ダークステイツも、耐えに耐えて一気呵成で圧し潰す快感は素晴らしいカタルシスがありました。
(もっともダークステイツの勝ちパターンは、一気呵成になる前のパワー不足をトリガーで補って、そうして得たリードから一気呵成で畳みかけて逃げきることがほとんどなのですが。一気呵成前のターンで★や超トリガーをしっかり引けてないと、まず勝てません)
5デッキとも、今後が期待できるスタートデッキに仕上がっていると思います!
Dスタンダード、私も根絶少女(えくすとら)も続けていこうと思うので、読者の皆様も引き続きよろしくお願い申し上げます。

このお話で、ひとりでも多くDスタンに興味を持つ人が生まれることを願って。


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Ex.42「五大世紀の黎明」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
使用国家は根絶者。
根絶者ったら根絶者。

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
使用国家はドラゴンエンパイア。

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
使用国家はダークステイツとブラントゲート。


●序

レイ「読者の皆さん、こんにちはーっ!!

本日よりえくすとらのレギュラーを務めさせて頂く時任レイでーす!

応援よろしくねー!!」

 

ミオ「私達から紹介の必要が無くて助かりますね」

 

サキ「そうですねー」

 

レイ「もー! ふたりともテンション低いなぁ。

本日紹介するのは『五大世紀の黎明』! オーバードレス環境初のブースターパックだね!」

 

ミオ「はい。スタートデッキの強化はもちろん、新たに5種類のライドラインが登場し、俄然賑やかになってきました」

 

レイ「その中から抜け出すのはどのデッキか! さっそく見ていこうよ!」

 

 

●ドラゴンエンパイア 《ヴェルリーナ・バリエンテ》

 

レイ「まずはパックの表紙を飾るバリエンテから!」

 

ミオ「このユニットはトリクスタか、オーバードレス状態のユニットにオーバードレスすることができます。

ドレス元1枚につきパワーが+5000されるスキルこそありますが、オーバードレスにオーバードレスを重ねるのはかなりアド損なので、あまりやるべきではありませんが……」

 

サキ「一応、パンプは相手ターンにも持続するので、大切に育てたバリエンテが殴られてあっさり落ちるという状況にはなりにくくなっています」

 

レイ「わざわざパワーを上げる意味は他にもあるよ。むしろこっちが本命なんだけど、オーバードレス状態のこのユニットのアタックがヒットした時、手札1枚捨ててこのユニットをスタンド!

パワーが上がれば上がるほどヒットさせやすくなるし、スタンドさせた場合のリターンも大きくなるよ!」

 

サキ「ニルヴァーナ軸をしっかり強化してくれるカードですね!」

 

 

●《ヴェルリーナ・アルクス》

 

レイ「ヴェルリーナからもう一体! 待望の『オーバードレスしたら引ける』ユニットが登場だよ!」

 

ミオ「ニルヴァーナ軸の主力となるのはもちろんのこと、バリエンテへの繋ぎとしても使えそうですね」

 

サキ「これでオーバードレス持ちユニットが3体になった点も見逃せませんよ! ニルヴァーナのスキルで安定して前列全員を+10000できるようになっただけでも嬉しいです!」

 

 

●《砂塵の重砲 ユージン》《砂塵の狂弾 ランドール》《砂塵の銃撃 ナイジェル》

 

レイ「ドラゴンエンパイアからはなるかみを彷彿とさせるライドラインが登場だよっ!」

 

サキ「《砂塵の重砲 ユージン》はリアガードを2体レストさせるだけで自身のパワーを+10000しつつ、相手リアガード1体を退却させちゃいます。

まだまだ除去が重いDスタンでは群を抜いた軽さです!」

 

レイ「さらに、相手の空きサークルを参照した展開能力まで! SB5と重いけど、ライドラインでソウルチャージ2ができるので確実に1回は使えるよ」

 

ミオ「ナイジェルも含めて、1ターンに1~2体の除去がコンスタントに行えるのが最大の強みです。しかし、除去デッキの宿命と言うべきか、有利不利がはっきりしている印象ですね」

 

サキ「ユージンもそうですけど、G3にライドした時点でリアガードサークルを埋めてしまえるような展開力のあるデッキがこの弾で増えたので、そのようなデッキに先行を取られた場合は思うように展開できない場合も。

なおかつ、そのようなデッキは1~2体除去されたところですぐに埋め直されてしまうので、ユージンの強みが生かせません」

 

レイ「オルフィストとかゾルガとか、相手から多少除去してくれた方が動きやすいすらあるもんねー」

 

サキ「ニルヴァーナみたいなキーカードがはっきりしているデッキや、ディアブロスみたいな展開力は無いけど展開しないとならないデッキには本当に強いんですけどね」

 

 

●《再起の竜神王 ドラグヴェーダ》

 

ミオ「ドラゴンエンパイアのオーバートリガーです」

 

レイ「その追加効果はただ強!! ノーコストでのヴァンガードスタンド!! テキスト短いのに、思わず二度見するレベル!」

 

サキ「もちろんG3で引き当てるのがベストですけど、G1、G2で引いても十分すぎるほどリターンは得られます。他国家のオーバートリガーを紹介する前に断じるのもアレですけど、いつどのタイミングで引いても腐らないという点では最強のオーバートリガーではないでしょうか」

 

ミオ「しかし国家専用のオーバートリガーがここまで強いと、懸念がひとつでてきますね」

 

サキ「え? オーバートリガーが強いと問題が?」

 

ミオ「オーバートリガーが引き当てた側が勝ってしまうだけのゲームになってしまわないかという点です」

 

レイ「あー、たしかに。相手にだけオーバートリガー引かれて、自分はとっくにオーバートリガーがドロップやソウルにあったりすると、そのファイトを投げたくなるファイターも出てきそうだよね」

 

ミオ「もちろんカードゲームである以上、運要素は必要だと思いますが、これはさすがに引いた時とそうでない時の偏りが無視できないレベルに達しているように感じます。

もちろん個人の感覚によるものなので気にならないという人もいるでしょうが」

 

レイ「正直、ライドまで確定させたがるヴァンガードファイターが受け入れられるレベルかっていうと怪しいよねー」

 

サキ「確定ライドいらない。むしろライドに振り回されるくらいが楽しいって言ってる作者ですら気になってますからねぇ」

 

 

●《忍竜 テンシャースタッド》

 

サキ「これ、おもしろいです! ブーストしたアタックがヒットした時、CB1とこのユニットを退却させてヴァンガードと同名ユニットをデッキから手札に加える、実にむらくもらしいスキルですが……」

 

レイ「ペルソナライドがあるDスタンにおいては、同名カードサーチは、単なる同名カードサーチ以上の意味を持つ! だね?」

 

サキ「はい! ペルソナライドの下準備としても優秀ですが、ライドラインのユニットはリアガードとしても優秀なものが多いので、状況に応じてランドールやレイユを手札に加えてもよさそうです」

 

レイ「やってることはいつものむらくもなのに、Dスタンのギミックと綺麗に噛み合った怪作! こんな汎用カードが特定のクランのみならず、ドラゴンエンパイア全体で使えるっていうのもいいよね!」

 

 

●《サンライト・パニッシュメント》

 

ミオ「ドラゴンエンパイアのオーダーカードです。好きなだけカウンターコストを支払い、その数だけリアガードを除去します」

 

レイ「1枚で1体除去するだけでもオーダーとしては及第点だけど、コストをつぎ込めば全体除去にもなるわけだね! おもしろっ!」

 

ミオ「イラストに描かれているのはニルヴァーナですが、どちらかと言うとユージンとの相性が良好です。

ユージンはカウンターコストを使いませんので、除去の補助として使えますし、ライド前に大量展開されていても、このカードを引けていれば相手リアガードを全滅させることができるでしょう」

 

レイ「事前にユニットをコールすることなくリアガードを全滅させられるので、5枚のスペリオルコールも夢じゃない!」

 

サキ「今後もカウンターコストを使わないタイプのヴァンガードが出てきたら候補に入ってくる優良オーダーですね!」

 

 

●《燃え盛れ、清らかなる祈りよ》

 

レイ「ストイケイア以外の国家にもブリッツオーダーが配られてるよ!」

 

ミオ「これはドラゴンエンパイアのものですね。その効果は、ダメージが3以上なら15000ガードというものです。

《獣の呼び声》と比べ、ダメージゾーンは相手のプレイングに干渉されないため、中盤以降は安定した活躍が望めるでしょう」

 

レイ「反面、条件を満たすまでは5000ガードにすらならないので、序盤からダメージを抑えていくプレイングには不向き!

ペルソナライドに他のパンプが重なったら、15000ガードなんかじゃ足りないなんてこともザラにあるからねー。

やっぱり1、2枚採用くらいがちょうどいいのかな?」

 

 

●ダークステイツ 《重力の支配者 バロウマグネス》《エレクトロ・スパルタン》《ディープ・ソニッカー》

 

ミオ「ダークステイツの新規ライドラインです。ソウルを重視したデザインは、ダークイレギュラーズを彷彿とさせますね」

 

レイ「ドラゴンの炎や、雷の銃弾が飛び交う戦場で、メインウェポンがコンクリートブロック!?」

 

サキ「バロウマグネスはソウルの数に応じて力を増していきます!

まず、アタック時にCB1を支払うことで、ソウルが5枚以上なら1枚ドロー。

ライドラインでソウルチャージ2が確定しているので、最低でもここまでは達成されているはずですね」

 

ミオ「毎ターンアドバンテージを稼いでくれる優秀なスキルなように見えますが、バロウマグネスのライドラインは1アドも稼いでくれません。実質、その補填くらいに考えておくべきでしょう」

 

サキ「次に、ソウルが10枚以上でパワー+10000、★+1です!」

 

レイ「コンクリ強ッ!!」

 

ミオ「力が増して、頭に当てられるようになったのでしょう」

 

サキ「コンクリなのは変わらないんですねー」

 

ミオ「現状、自らのスキルで★を増加できるヴァンガードはバロウマグネスのみとなっています。最大の見せ場であり存在意義なので、バロウマグネスで初めてアタックした時点でソウル10枚は達成できている構築とプレイングを意識したいところですね」

 

レイ「《ブラザーズ・ソウル》も採用圏内かも!」

 

サキ「15枚以上で全体除去(ごちそうさま)からの連続攻撃! 達成まで一苦労ですが、他の追随を許さない強力なスキルとなっています!」

 

レイ「吹き荒れろ、コンクリートの嵐!」

 

 

●《怨恨の冥竜神 ゴルマギエルド》

 

レイ「ダークステイツのオーバートリガーだね!」

 

サキ「このトリガーがめくれたら最後、ゲームエンドまで自分ターン中のパワー+10000、★+1し続けます!」

 

レイ「後攻1ターン目でめくられようものなら、これまたゲームを投げたくなるレベルで強い! 反面、終盤だとパワー+1億とんで1万の★トリガーにしかならないことも……」

 

サキ「超トリガー自体は終盤でめくれた方が強いカードだから、それはそれで悪くないんじゃないかな」

 

レイ「結論! とっても強い!!」

 

 

●《スチームバトラー グングヌラーム》

 

レイ「今日のナイスデザイン賞! 初期の《ダンシング・カットラス》や《ライジング・フェニックス》を二回り強力にした感じのスキルが特徴だよ!」

 

サキ「まずは登場時にソウルチャージ1。その後、ソウルブラスト3することで1枚ドロー。実質、SB2で1ドローしているも同然というわけだね」

 

レイ「うん! パワーは標準の8000あるし、ドローは起動能力だから、ソウルさえあれば毎ターン使える! カットラスもここまで強くなったかーって感じだね」

 

サキ「レイちゃんは古いカードにも詳しいんだね」

 

レイ「ふふん! こう見えて《凶星の根絶者》が登場した頃からヴァンガードやってるよ」

 

ミオ「ディアブロス軸では、ブルースのスキルを2度使える状況は限られるので、余ったソウルはこちらでドローに回すといいでしょう。

バロウマグネス軸では、ドローをしている余裕こそありませんが、登場時にソウルチャージしてくれるだけで十分です。ソウル15枚のスキルを使ってなお、互いに生き残るような泥試合になれば、ドローも使えるかも知れませんしね」

 

 

●《地を這いずれ、“下等生物(ムシケラども)”!》

 

レイ「カード名を宣言するだけで、非紳士的行為でジャッジキルされかねない危険なオーダーカード!!」

 

サキ「考えすぎじゃないかな!?」

 

レイ「ソウルが10枚あるならソウルチャージ1、パワー+20000、1ドローの超強力オーダー!!

ただ、バロウマグネスはまず最速でソウル10を目指さないとならないデッキ。今のカードプールじゃ、ソウル10になってから強い系のカードを入れてる余裕は無いかなぁ。

ソウルが9枚以下の《地を這いずれ、“下等生物”!》は割と自分がムシケラ気味なので、採用するのは1枚で大量のソウルチャージできるカードが充実してからだね。

ホント、素質はあるんだよ!?」

 

 

●《タルタロス・ビートスクラム》

 

ミオ「ダークステイツのブリッツオーダーですね」

 

レイ「ソウルが5枚以上でパワー+15000! シンプルだね!」

 

ミオ「ブルース軸は構築やプレイングによってはソウルが5枚以下になってしまう恐れがありますが、バロウマグネス軸であればソウル5枚以下になることはないでしょうし、G2にライドした段階で条件を達成できます。イラストに反して、バロウマグネス向けのカードと言えるでしょう」

 

レイ「イメージしろ! スクラム組んでアタックをガードする超能力者達の姿を!」

 

 

●ブラントゲート 《柩機の神 オルフィスト》《柩機の兵 キュビジア》《柩機の兵 ルーチス》

 

レイ「見た目は物凄くリンクジョーカーっぽいブラントゲートのライドライン!」

 

サキ「武器は大鎌で、イラストレーターがDaisukeIzuka先生と、否が応でもカオスブレイカーを連想させるデザインですけど、関連性は果たして!? 今後のユニット設定が最も楽しみなユニットです!」

 

レイ「コンクリは?」

 

サキ「それはあんまり……」

 

ミオ「イラストこそリンクジョーカーを意識していますが、オルフィスト軸は彼のクランのように妨害を得意としているわけではなく、むしろ地盤固めが得意な安定型のライドラインです」

 

サキ「そのスキルは……世界が深淵黒夜(アビサルダークナイト)なら夜影兵(シャドウアーミー)を3体呼び出すことができます!」

 

レイ「……サキちゃん、厨二病?」

 

サキ「違います!」

 

ミオ「順を追って説明しましょうか。

世界というのは新しいセットオーダーです。これがオーダーゾーンに1枚あることで世界が『黒夜』に。2枚あれば世界が『深淵黒夜』になります。

夜影兵はパワー15000で、ブーストも可能なトークンです」

 

レイ「つまりオーダーゾーンに世界ってセットオーダーが2枚あれば、CB2でパワー15000、ブースト持ちのトークンが3体出せるわけだね……って、強っ!!」

 

サキ「コストがかかるようになった代わりに、最初から3枚出せてブーストまでできるようになったヤスイエ・ゴウマだもんね」

 

ミオ「除去を意に介さない、作者の大好きなタイプのスキルですね」

 

サキ「夜影兵を呼べるようになったオルフィストの強さはもはや語るに及ばず! 次からは『世界』に焦点を当てて、オルフィストの戦い方を考察していきましょう!」

 

 

●《虚ろなる月夜》《人知れぬ闇の中で》

 

ミオ「現状の世界は2種類。プレイした時にSB1で1枚ドローできる《虚ろなる月夜》と、プレイした時にSB1で前列リアガードを退却できる《人知れぬ闇の中で》です」

 

レイ「どっちかっていうと使うタイミングを選ばない《虚ろなる月夜》の方が優秀かな? 《虚ろなる月夜》は4枚積むとして、《人知れぬ闇の中で》は何枚がいいんだろう?」

 

サキ「ライドラインで世界は1枚確保できるから、オルフィストにライドするまでにもう1枚引ければ『深淵黒夜』にできるよね。《虚ろなる月夜》4枚、《人知れぬ闇の中で》3枚の7枚体制が無難じゃないかな。

強気な人なら、《人知れぬ闇の中で》2枚もありそうだけど……」

 

レイ「作者のような心配性は迷わず8枚フル投入!!」

 

サキ「それはそれで守備面が心配になりません?」

 

ミオ「このあたりは何度も試してみて、自分に合った構築を見つけるしかないでしょうね」

 

サキ「世界云々を抜きにしても、この2枚は優秀なオーダーですよね?」

 

ミオ「はい。特に《虚ろなる月夜》は手札を減らすことなくデッキの回転に貢献してくれますし、特定のキーカードを引けるかで強さが変わってくるようなデッキであれば、普通に採用できるでしょう」

 

レイ「《成金ゴブリソ》!!」

 

 

●《発破怪獣 ボバルマイン》

 

レイ「オルフィストの脇を固めるリアガードは、何と元ディメンジョンポリスの怪獣達! ダークヒロイックなオルフィストに、凶暴なデザインの怪獣はイラスト面での親和性もなかなか! 作者のハートは鷲掴み!」

 

サキ「かつてはスターゲートを脅かした者同士、仲がいいんでしょうか?」

 

ミオ「怪獣の中で最もレアリティの高いボバルマインは、ブーストしたバトル終了時、オーダーゾーンにセットオーダーがあるなら、このユニットをソウルに置くことでカウンターチャージができます。

もちろんセラス・ホワイト軸でも使えますが、基本的に盤面を夜影兵で埋めた方が強いオルフィストにとって、無駄なく盤面を離れてくれるユニットの存在は助かります」

 

レイ「これ以外にもオルフィストと相性のいい怪獣はいっぱいいるよっ!

デッキ構築が苦手な人も、ライドラインのカードと、ガオーってしてるカードさえ入れておけば形になるくらい!」

 

サキ「国家制になって、各国家におけるイラストの統一感がバラバラになっちゃいましたけど、これならまだ初心者にも優しくていいですね!」

 

 

●《無窮の星竜帝 エルドブレアス》

 

レイ「ブラントゲートのオーバートリガーは、超強化された前トリガー!!

追加効果で前列ユニットのパワーと★を倍にするよ!! ユニット一体のパワーは無駄に2億オーバー!!」

 

サキ「ゴルマギエルドとは逆に、序盤にめくれるとガッカリだけど、中盤以降に引いた時はそのままゲームエンドまで持ち込める破壊力! 超トリガーの中でも決定力は随一かもしれません!」

 

レイ「ユニットを展開できていないと大した効果を発揮できないので、ド終盤の消耗戦なんかに引いてしまうと、これまたガッカリかも!」

 

ミオ「そのような事態を避けるために、このカードを意識したプレイングが常に必要になってくるでしょう。

リアガードより先にヴァンガードをアタックさせ、時には、アタックが通らないユニットも前列にコールしておかなくてはならなくなるでしょう。

たった1枚の引けるか分からないカードのために戦い方が半強制されてしまう、やや扱いにくい超トリガーかも知れません」

 

サキ「ヴァンガードのアタックで相手にトリガーを引かれて、続くリアガードのアタックが通らなくなったり、無駄にコールしたパワーの低いユニットが除去されたり、リスクのあるプレイングですからね……」

 

ミオ「全体的にパワーが高く、除去にも強いオルフィストを意識してデザインされたカードかも知れませんね」

 

レイ「ブラントゲートはノヴァグラップラーとディメンジョンポリスを抱える国家!

今後、スタンドできるユニットや、★を増加できるユニットが登場すれば、評価が爆上がりする可能性も!」

 

 

●《因果よ狂え、我が意のままに》

 

レイ「未来を見通し、事実を捻じ曲げ、人の運命を弄ぶ。

因果律の操作とは、まさしく神の領域に足を踏み入れるにも等しき禁忌。

超越者の御業を成したる、その効果や如何に……!?」

 

ミオ「ヴァンガードのパワーを+10000します」

 

レイ「因果しょぼっ!!!」

 

 

●《電光防壁、緊急展開!》

 

レイ「ブラントゲートのブリッツオーダー! CB2でヴァンガードのパワーを+30000するシンプルな効果だね!」

 

ミオ「実質トリガー2枚分のガード値なので、効率自体は決して悪くありません。

しかしながら融通がきかないのと、現状ブラントゲートのデッキはカウンターコストに余裕が無いのが難点です。

今後、コストに余裕のあるデッキが登場してから採用を考えるべきカードになるでしょう」

 

サキ「コストを支払わず、セットオーダーを参照してパワーを上げるカードがあればよかったんですけど……」

 

レイ「てゆーか、どこぞの因果がテキストそのままブリッツオーダーになったら解決じゃない!?」

 

 

●《六角宝珠の女魔術師》《五角閃光の女魔術師》《四角重層の女魔術師》

 

ミオ「ケテルサンクチュアリの新たなライドラインですね」

 

サキ「図形を冠する女魔術師! これはまさしくオラクルシンクタンクの後継ですよ!」

 

レイ「やってることもオラクルそのまんま!

ライドラインで1枚引いて、デッキ操作して。

六角宝珠がトリガー引いたらパワーアップに、ペルソナブラストでデッキトップ固定とトリプルドライブ!!

1発目にして、集大成!!」

 

ミオ「中でも注目は五角閃光のデッキ操作ですね。事前に超トリガーを引けることが予知できれば、今後の作戦が立てやすくなります」

 

レイ「ケテルサンクチュアリの超トリガーは、タイミングが重要だからねっ」

 

ミオ「また、五角閃光へのライドまでで1枚ドローはできるので、バスティオン軸でもライドデッキに採用するのもいいかも知れませんね」

 

レイ「初手に3枚もG3を抱えなくていいから序盤の攻守に幅を持たせられるね。その強みは、単なるアドバンテージじゃ測れない!」

 

 

●《豪儀の騎士 オールデン》

 

レイ「生きる《聖裁の刻、来たれり》来たれり!!」

 

ミオ「要約すると《聖裁の刻、来たれり》のように2枚ドローできるカードです。ユニットが残るので、こちらの方が断然お得となりますが、その高すぎる展開力が災いして、盤面が埋まった状態で発動すると、途端に劣化来たれりにランクダウンしてしまう困ったカードでもあります」

 

サキ「来たれりと総入れ替えするというよりは、来たれりと一緒に入れて使い分けるカードになりそうですね。

フォートのライドラインにおける不発が怖いので、早く抜きたいんですけど」

 

レイ「抜かれり!!」

 

ミオ「もうひとつのアタック時のパンプも、アタック時というタイミングにしては珍しくターン終了までパンプが持続するので、バスティオンとの相性は抜群です。ドローを考慮しなくても、戦力には十分数えられるでしょう」

 

レイ「さっすがRRRだね!」

 

 

●《栄典の光竜神 アマルティノア》

 

ミオ「ケテルサンクチュアリの超トリガーですね」

 

レイ「リアガードがアタックしたバトルでもドライブチェックが発動するよ! リアガードが2枚ともG3だったら追加で4回ドライブチェックの4アド!!!! もはや勝ち確!!」

 

ミオ「バスティオン軸なら安定してそのような状況を作れるため、相性がよく見えますが、反面、バスティオン軸はG1~G2までの間における展開が苦手です。ユニットが展開できていなければ、アマルティノアは何もしてくれません」

 

レイ「エルドブレアスだって、最低でもパワー2億の★トリガーにはなるもんね……」

 

ミオ「先行なら1回。後攻でも2回のドライブチェックしか機会が無いので、そうそう起こる事態では無いはずですが」

 

レイ「スタートデッキを使った初ファイトの初ドライブチェックでいきなり超トリガーを引き当てた作者が言っても、まったく説得力が無いよね!」

 

サキ「そんな事件が……」

 

レイ「ゴルマギエルドなら強かった!」

 

ミオ「また、バスティオンとアマルティノアのスキルをフルに生かすには、ツインドライブでアマルティノアとG3の両方を引き当てなくてはなりません」

 

レイ「あ、そっか。バスティオンはリアガードより先にアタックするわけにはいかないもんね」

 

サキ「バスティオン軸にとってはハイリスクハイリターンの超トリガーになりそうですね」

 

ミオ「一方、六角宝珠軸はG3を運用するデッキではありませんが、現状、超トリガーはこのカードしか無いようなものなので、G3は厚めに採用しておくとよいでしょう。幸い、バスティオン軸で使えるG3は、ほとんど六角宝珠でも採用できるため、選択肢には困りません」

 

サキ「六角宝珠軸は超トリガーを狙って引けるデッキですしね!」

 

レイ「相手が五角閃光をコールしたと思ったら、おもむろに後ろに下げて、その前列にG3を出してきた場合、負けを覚悟した方がいいよね!」

 

 

●《戦禍の騎士 フォサド》

 

レイ「アタックがヒットした時、CC1/SC1。ありそうでなかったスキルを持つG3だよ!」

 

サキ「除去しようにも、抵抗系のスキルも所持しており、相手からしてみればとにかく厄介なカードです! 1ターンに1回の制限すらないのでバスティオン軸ではこれが何度も襲い掛かってくることも……」

 

レイ「シンプルなテキストは強い! カードゲームの基本を体現するカードだね!」

 

 

●《ダークストレイン・ドラゴン》

 

レイ「バスティオン待望のブーストできるG3!! だけどもコストがちょっぴり重め!」

 

サキ「このカードと相性が良いはずの《ペインキラー・エンジェル》や、オールデンもソウルを消費するのがまた噛み合ってない感じがするよね」

 

ミオ「現状、想定される使い方は2種類。

ひとつは、他のソウルを消費するカードと併用して少数採用。このカードを出したターンで勝負を決めるエンドカードとして扱うパターン。

もうひとつは、ソウルを消費するカードを少数採用、もしくは投入せず、このカードをフル投入。このカードを普段使いしていくパターンですね」

 

サキ「うーん、どっちも強力そうだから悩みますね」

 

レイ「とにかく、入れないという選択肢は無いと思うよ!」

 

 

●《ディヴァインシスター ふぁしあーた》

 

レイ「ダイアフルドールと言い、旧シリーズから脱却したようで、脱却しきれてない感があるよね」

 

サキ「そんなことより! このカードは凄いですよ! トリガーがめくれただけでSB2でカウンターチャージ!」

 

レイ「所属といい、六角宝珠のサポートっぽいけど、全然そんなことないよね。トリガーなんて、基本はそこそこめくれるゲームだよ!?」

 

ミオ「適当に後ろに置いておくだけで複数回のカウンターチャージが見込めるカードです。これとフォサドによって、ケテルサンクチュアリは他国家よりもコストの補填が得意な国家と位置付けられたと言えるでしょう」

 

レイ「コストの重い来たれりも、これには大喜び!」

 

 

●《真相読解 コカビエル》

 

サキ「バスティオン待望の、ガードに使えるG3です」

 

レイ「ある意味、フォサド以上の必須カード!! バスティオン軸ならまずこれを4投!! 他のG3はその後に考えろ!」

 

 

●《ディヴァインシスター れぴすと》

 

レイ「ドライブチェックでトリガーがめくれたらCB2でスタンドするよ! こっちも六角宝珠と相性がいいように見えて、バスティオン軸でも採用圏内!」

 

サキ「G3をスタンドさせての連続攻撃がバスティオンの基本戦術ですが、もちろんバスティオンとは言え、ドライブチェックでG3が引けない時もあります。

ところがこのカードなら、トリガーがめくれてもスタンドできるので、スタンドに運が絡むというバスティオンの弱点を大幅に緩和してくれます!」

 

ミオ「アマルティノアを引いてスタンドしてくれるG3と考えれば、バスティオンとアマルティノアを繋ぐカードとも言えますね」

 

サキ「ツインドライブでG3とトリガーがめくれたら、両面スタンドだって夢じゃありません!」

 

レイ「こういう今までならオラクルでしか使えなかったようなカードを他に転用できるのを見ると、国家制になってよかったと思うよね♪」

 

 

●《ホープフル・デストード》

 

ミオ「ケテルサンクチュアリのブリッツオーダーですね」

 

レイ「ユニットが3枚以上ならパワー+15000! 《獣を呼ぶ声》と似たような感じかな」

 

サキ「弱点もだいたい一緒で除去には弱そうだね。だけど盤面が埋まってさえいれば、4枚除去されない限り条件は崩されないので、そこそこ頼れるんじゃないかな」

 

レイ「もちろんガードに使えるG3ということで、バスティオン軸ならさらに加点! 一方、フォートのライドラインスキルで失敗の可能性が上がるという点では減点!

あのライドライン、やっぱり使いにくくない!?」

 

 

●ストイケイア《怪雨の降霊術師 ゾルガ》《黒涙の骸竜》《怨念鎖》

 

レイ「作者のツボにどストライク!! ダンディな死霊術師が登場だよっ!! やっぱりグランブルーはこうでなくちゃ!」

 

サキ「まだダンディかどうかは分からないんじゃ……」

 

ミオ「もうグランブルーですらないですしね」

 

レイ「ゾルガの特徴は何と言っても『魔合成』!!

ノーマルオーダーをプレイする際、ドロップから別名のオーダーをバインドして、両方の効果を発動するよ!!

1ターンに1度しか許されないオーダーカードを実質的に2度プレイできる、禁呪っぽい雰囲気満点のステキスキル!

一方で、魔合成したオーダーのコストも据え置きなので、あんまり得した気分にはならなかったり」

 

ミオ「魔合成については、オーダーありきなので、詳細はオーダーの解説で併せて触れていきましょう」

 

サキ「もうひとつのスキルは、グランブルーを彷彿とさせる、シンプルなドロップゾーンからのスペリオルコールです!

確定ライドのおかげで手札のカードを序盤から確実にドロップゾーンに送れるので、この系統のスキルはDスタンダードにおいて強化されています!」

 

ミオ「ライドラインも、条件付きながら2アドを稼げる優秀なライドラインです。

総じて、アドバンテージの獲得に優れたグランブルーらしいデッキを構築できるカード群と言えるでしょう」

 

 

●《霊体凝縮》《悲嘆と絶望、そして拒絶》

 

ミオ「魔合成の軸となることが予想される2種のオーダーです」

 

レイ「《霊体凝縮》は、SB1でドロップゾーンからヴァンガードのグレード以下をスペリオルコールして、パワー+5000までしてくれるオーダーだよ!

手札1枚がドロップゾーンの好きなカードに化けるなら、SB1くらい許容範囲!

これまでのオーダーの常識を覆す、コストに見合った性能のオーダーだね!

ゾルガと言わず、今後登場するストイケイアのデッキでも採用できるカードになりそう」

 

ミオ「《悲嘆と絶望、そして拒絶》は、ゾルガ専用のオーダーです。

CB1でユニット3枚のパワーを+10000するカードですが、1枚分のディスアドバンテージを負ってしまうという点から、これまでは採用されにくいタイプのカードでした」

 

レイ「ところが! 魔合成があれば話は違う!

《悲嘆と絶望、そして拒絶》に《霊体凝縮》を合成することで、アドを失わず強力パンプをばら撒くことが可能に!!」

 

ミオ「コストも分かれており、効果も綺麗に噛み合っているので、ゾルガは基本的にこの2枚を魔合成していけばいいでしょう」

 

レイ「というか、他のオーダーが色々と問題アリなんだよねー……」

 

 

●《呪われし魂は悶え蠢く》

 

レイ「SB2で山札の上から4枚見て、ユニットを1枚選びスペリオルコール!

魔合成中なら代わりに2枚スペリオルコール!

コールしたユニットにパワー+5000してくれる、一見便利な爆アドオーダーなんだけど……」

 

サキ「まず、ライドラインでソウルを1枚消費しているので、基本的にゾルガはソウル2からスタートなんだよね。

そこからソウル2を消費するのは厳しいというか、そもそも《霊体凝縮》と魔合成できません」

 

レイ「その解決策は一応用意されているので、そこは何とかなったとしよう!

ところが《呪われし魂は悶え蠢く》をいざ発動したとしても、色々と問題だらけなの!

ゾルガデッキはライドラインや魔合成のために大量のオーダーを採用するデッキなんだけど、《呪われし魂は悶え蠢く》はデッキトップ4枚からのランダムスペリオルコール。その4枚の中にオーダーが混ざるのは、まず間違いなし!

さすがに4枚全部オーダーは無いにしても、オーダーとトリガーだけだったり、3枚がオーダーで1枚しかスペリオルコールできなかったなんて事態は普通にありえる!」

 

サキ「ストイケイアはブリッツオーダーも粒揃いだから、何らかは採用しておきたいしね……」

 

レイ「ゾルガは自分のスキルでも展開できるし、《霊体凝縮》でも展開できるしで、リアガードサークルがすぐ埋まっちゃうんだよね。

《霊体凝縮》と魔合成しようものなら、リアガードサークルが3枚空いてないと上書きになっちゃう。

ゾルガ自身も展開できるスキルを持ってるのに、これはキツイ!」

 

ミオ「とは言え、《悲嘆と絶望、そして拒絶》と魔合成したとしても、《悲嘆と絶望、そして拒絶》をベースとした場合、パンプ→展開の順でスキルが発動してしまうので、こちらもあまり噛み合いがいいとは言えません」

 

レイ「とにかく活躍する状況が限られてきそうっていう印象が強いオーダーかなぁ」

 

 

●《涙する悪意》

 

レイ「リアガードを2枚退却させることで、1ドロー、1CC、1SCのリソース補充!

手札のこのカードも失っているから、単純なディスアドは2!!

《ソウルバレット・ルーレット》の系譜を受け継ぐ、由緒正しい『オーダーはまず手札1枚減ってること忘れてない?』系のオーダー!

ある意味、オーダーらしいオーダーっちゃオーダーだよね!」

 

サキ「うーん……」

 

レイ「ケテルサンクチュアリとは打って変わって、コストの回復が苦手なストイケイアだけど、さすがにこれは重すぎかなぁ。

いくら展開力に優れたゾルガさんだって、これの後始末には苦労しそう。

ていうか、ゾルガさんってどれだけコスト払っても基本展開しかできない人だから、ユニット潰して、またユニットを出すというマッチポンプにしかならないんだよね。

一応、オーダーを使用したという事実は残るから《黒涙の骸竜》なんかは強化されるし、《霊体凝縮》は+5000のパンプが乗るからまったく無駄ってわけじゃないんだけど」

 

サキ「補填したリソースを、即魔合成に使用することができない点も評価を下げるよね」

 

レイ「うん。ゾルガデッキって、展開力とパンプに任せて、限られたリソースが尽きる前に相手を圧し潰すデッキになると思うんだよね。

こういう二手先を読んで使うカードは、ちょっと採用しにくそう。

そして最大の弱点は、カード名だけ言われても、まったく効果がピンと来ないことだよね!

《悲嘆と絶望、そして拒絶》、《呪われし魂は悶え蠢く》、《涙する悪意》、この3枚を並べられても、何が何だかまったくわかんないよ!?」

 

 

●《継承の乙女 ヘンドリーナ》

 

サキ「ドロップゾーン肥やしに、魔合成のソウルコストをタダにしてくれる、ゾルガのムーブを強力にサポートしてくれるユニットで……」

 

レイ「ど う し て こ う な っ た」

 

サキ「え、何が!?」

 

レイ「ファーストヴァンガードからトリガーまで。作者好みのアンデッドがズラズラと居並ぶ中、何でよりにもよってキーカードが、グランブルーとは何の関係も無い、ネオネク系女子なの!?」

 

サキ「あー……それは、えーと。ほら、自分を退却させてスキルを発動するので、穢れ無き乙女を生贄に捧げることで魔合成のコストとしているイメージじゃない、かな?」

 

レイ「うーん……30点」

 

サキ「一生懸命考えたのに!」

 

レイ「こういうの見てると、何で国家制にしたんだろうって思うよね!」

 

ミオ「れぴすとの時と言っていることが違いますよ」

 

レイ「ストイケイアは過去の2国家が混ざっちゃってるから、他の国家と比較しても闇鍋感が強いんだよねー。

実際、樹角獣とネオネク系女子が並んでもそんなに違和感は無いんだけど、ゾルガ勢と並んだ時は違和感がすっごい。

だからと言って、ゾルガと《ハイドロリックラム・ドラゴン》が並んで違和感が無いかというと、全然そんなことはないから、グランブルーの個性が強すぎるのかも知れないけどさぁ」

 

サキ「で、でも、冷静になって考えてみると、いくらソウルコストをタダにしてくれると言っても、魔合成はいくらソウルを使っても展開しかできないので、ヘンドリーナを退却させてる分、あんまり意味が無かったりもするかも!」

 

ミオ「ちなみにこのカード、同じRRでネオネク系女子の《鞭撻の乙女 イレーニア》との相性も抜群です」

 

レイ「次あたり、ネオネクのライドラインが来るのかもね!」

 

???「メガコロは!?」

 

 

●《天恵の源竜王 ブレスファボール》

 

ミオ「ストイケイアの超トリガーです、が」

 

レイ「追加効果はトリガーの全部盛り!! ……だけど」

 

ミオ「他の超トリガーがありえないことしているので、既存効果の集合体であるこのカードは地味さが拭えませんね」

 

レイ「ドラグヴェーダやアマルティノアならドライブチェック回数を爆発的に増やしてくれるから、1ドローはもちろん、★トリガーや治トリガーくらいついでで発動してくれそうなんだよね」

 

サキ「治トリガーがしっかり不発になる点も小さくまとまっている感がありますよね。せめてダメージ差があっても確定で治が発動してくれれば、他の超トリガーとは別の方向性でゲームを決定づける1枚になったかも知れないのに……」

 

レイ「治トリガーが不発になったブレスファボールは本当に悲惨。

だからと言って、スキルが完璧に発動できるシチュエーションを仮定するなら、他の4枚の方がよっぽど強い!!

これだけは相手に引かれても普通に挽回できそう」

 

サキ「そういう意味では、一番バランスの取れている超トリガーだと思うんだけどね。ブレスファボールが弱いわけじゃなく、他が強すぎるんですよ」

 

 

●《共謀怪人 アドマンティス》

 

レイ「アドではないけど、アドマンティス!」

 

サキ「アドにはなりませんけど、実は結構なやり手ですよ!

登場しただけで他のリアガードにパワー+5000は、ありそうでなかった高い効率のパンプです!」

 

レイ「この系統の元祖は素のパワーが6000で、パンプ値が+2000だった《細波のバンシー》互換だったことを思うと、時代の流れを感じるよね!」

 

サキ「同弾で登場した《スチームディテクティヴ ウバリット》と比較しても、2段階くらい強力ですよ!」

 

ミオ「ちなみにウバリットはヴァンガードもパンプできるので、かろうじて同位互換です」

 

レイ「もはやいちゃもんレベルの同意互換!」

 

ミオ「アドマンティスの所属するストイケイアにはまだそう言ったカードはありませんが、この系統のスキルが、ヒット時に発動するスキルと高相性です」

 

レイ「このカードは、今弾で唯一のメガコロ関連のカードだけど、メガコロはヒット時に発動するスキル持ちのユニットが多いクランだったし、メガコロのライドラインもそうなるのかな?」

 

ミオ「確実にガード要求値を上げることのできるこのカードは、使い方を工夫すればハンデスと変わらない活躍を見せてくれるでしょう」

 

レイ「ディスアドマンティス!」

 

 

●《恨み鉈》

 

レイ「ナタおとこ だ!!」

 

サキ「な、なんか今回のグランブルー系統のカード、おどろおどろしいカードが多いですよね……」

 

レイ「有体に言うとグロいよね! 《襲撃するゾンビ》もビックリだよ!」

 

ミオ「作者は大喜びしているようですが」

 

 

●《ゴースト・チェイス》

 

レイ「展開力のありすぎるゾルガさんにとって心強いブリッツオーダー!! 5000ガードしてくれつつ、リアガードを1枚手札に戻せるよ!」

 

サキ「こうして空けた盤面に、またゾルガのスキルやオーダーカードでユニットを埋めていくんだね」

 

レイ「上級者向けの使い方としては、ゾルガやオーダーで完ガかトリガーを蘇生させて、それを回収するパターンだね。回収したトリガーを即ガードに使えば、実質20000ガードに!」

 

ミオ「特に、何らかで超トリガーがドロップゾーンに落ちてしまった場合は、積極的に狙っていきたいコンボですね」

 

レイ「むしろブレスファボールはそっちの方が活躍できそう……」

 

サキ「蘇生させたゾルガを《ゴースト・チェイス》で回収してペルソナブラストの準備を整えるのもよさそうです!」

 

レイ「ゾルガは《獣の呼び声》も相性がいいはずだし、どっちを入れようか悩むよねー」

 

ミオ「ゾルガ軸は初手に1枚オーダーが無ければ、《怨念鎖》のライドラインスキルが失敗してしまうので、ブリッツオーダーも気持ち多めに採用しておくといいでしょう。《黒涙の骸竜》のライドラインスキルはノーマルオーダーにしか対応していない点には注意が必要ですが」

 

 

●全クラン 《ツインバックラー・ドラゴン》《リキューザルヘイト・ドラゴン》《ヴァイオレート・ドラゴン》《アイジスメア・ドラゴン》《プラナプリベント・ドラゴン》

 

ミオ「Dスタンの完全ガードですね」

 

レイ「メガコロみたいなドラゴンと関係無いクランにドラゴンを入れさせられる屈辱……」

 

ミオ「スキルは全国家共通で、発動時、手札が1枚以下なら手札を捨てなくていい完全ガードです」

 

レイ「勇敢(ブレイブ)!?」

 

サキ「これ1枚あれば逆転できるって切り札を手札に残してもよし。最後に完ガ2枚が残るように計算して動いてもよし。色々な使い方が想定できますね!」

 

レイ「便利なスキルだけど、バスティオン軸やゾルガ軸みたいな、ガード値の無いカードが多めに投入されているデッキでは恩恵を感じにくいかな。

手札0からでも盤面を構築できるオルフィスト軸では、多くの場面で『結果的に勝負を決めた』カードになってくれそう」

 

 

●《過激竜 ヴェロキハザード》《エミネンス・ジャーボベロス》《電極怪獣アダプトン》《天風の騎士 ヴェーチェル》《暗澹巡り》

 

レイ「完全ガード以外にも、互換カード、サイクルカードがもう一種類!

これまで互換カードと言えばバニラだったり、箸にも棒にもかからないカードが多かったけど、今回は違うよ!

ブーストするだけでパワー+2000のヤミヤマネコ!!

まだまだ火力不足のこの環境で、10000ブーストは普通に偉い!」

 

サキ「ヴェロキハザード、かっこいいです! 具体的にはどういったデッキで採用できるんでしょう」

 

ミオ「現在のパワーラインで10000ブーストを生かせるのは、主にG3、G1をブーストした場合ですね。

それぞれガード要求値を15000、10000に押し上げてくれます。

従って、戦略的にG3が前列に並びやすいデッキや、G1を前列に出さざるをえない展開力の低いデッキが挙げられるでしょう」

 

レイ「G3が並ぶっていうとバスティオン軸だね!」

 

ミオ「バスティオンはG3に+2000するスキルがあるので、ガード要求値は変わりません」

 

レイ「あ、そっか……」

 

ミオ「ですが、惜しいところはついていますよ。

できる限りG3を並べたいのは、アマルティノアを抱えている六角宝珠軸も同じです」

 

レイ「そっか! 六角宝珠軸でフォサドやオールデンをブーストしてあげたら強そうだね!」

 

ミオ「あとは《ヴェルリーナ・バリエンテ》を擁するニルヴァーナ軸でしょうか。コストは重いものの強力なヒット時能力を持つバリエンテとは、ブーストするだけでガード要求値を押し上げられるヴェロキハザードと相性がいいです。

展開力に欠けるデッキなので、G1をブーストせざるを得ない状況も出てくるでしょう」

 

レイ「細かいところでは、パンプはターン終了時まで維持されるので、かつての《ミラクル・ビューティー》みたいな後列ごとユニットスタンドさせるスキルが登場すると、ちょっぴり再評価されるかも!」

 

 

●終

 

レイ「思ったんだけどさー」

 

ミオ「はい」

 

レイ「ライドライン制って、クラン制の頃に挙げられていたデメリットが大して緩和されてなくない?」

 

サキ「そうですよね!?」

 

レイ「結局、作者が『メガコロのライドラインはまだかー?』って胃の痛い毎日を過ごすハメになってるじゃん!?」

 

サキ「メガコロのライドラインが登場したらしたで『メガコロのライドライン強化はまだかー?』って苦しむんだろうしね……」

 

レイ「むしろ、1年に1回は強化するって確約がされていない分、悪化してない!?

たぶん、戦略発表会でもいつ何のライドラインが登場・強化するなんて発表されないよね!?」

 

サキ「たちかぜのライドラインはまだかー?」

 

ミオ「根絶者のライドラインはまだかー?」

 

レイ「…………」

 

サキ「あ! どうせギアクロはもうすぐ来そうだしって顔してる!」

 

レイ「てへっ」

 

サキ「ダークステイツとかブラントゲートとか、抱えるクランの少ない国家は有利だよねー」

 

レイ「単純計算、ドラゴンエンパイアやケテルサンクチュアリが各クラン一回りする頃には、ブラントゲートなんか二週目終わってるからね」

 

サキ「うーん……まったく緩和されていない不公平感」

 

レイ「そんなわけで、ギアクロとメガコロと(作者の分)、皆の好きなクランのライドラインが早く収録されることを願って!」

 

サキ「次回は5月の本編でお会いしましょう!」

 

ミオ「根絶者のライドラインはまだかー?」




メガコロのライドラインはまだかー?
と言いつつ、ゾルガやバスティオンをそれなりに楽しんでいる作者です。

次回は5月の本編。
5月1日から2日あたりに公開を予定しております。
お楽しみにして頂ければ幸いです。


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Ex.43「ブシロードTCG戦略発表会2021夏 大盛」

●序

 

サキ「戦略発表会の季節がやってきましたっ!!」

 

レイ「やったー!! 楽しみー!!」

 

ミオ「それはいいのですが……」

 

アリサ「ん?」

 

ミオ「何故、アリサさんがこの場にいるのでしょうか」

 

アリサ「ひどい! ま、あたしのことは気にしないで。しばらくはレギュラーの皆で戦略発表会のえくすとらをどうぞ」

 

ミオ「まあいいですけど」

 

サキ「理由はだいたいわかりますしねー」

 

 

●ヴァンガードZERO

 

サキ「今回はヴァンガードZEROも取り上げましょう!」

 

レイ「いいねー」

 

サキ「注目はなんといっても、今秋の大型アップデート!!」

 

レイ「ギアクロだぁ、やったー!!」

 

ミオ「その前に根絶者があるのも忘れないでくださいね」

 

サキ「クロノ君がいるということは、時代もGに移行すると見て、間違いなさそうですね!」

 

レイ「クランとかどうするのかな? メインキャラのひとりがネオネクタールを使うわけで、さすがにネオネクをイベントクランのままにはしておけないよね?」

 

サキ「一方で、ダークイレギュラーズや、ペイルムーンは、Gのストーリーが中盤にならないと登場しないんだよね」

 

レイ「イベントクランの格上げとかはありそうだよね。グランブルーもそこそこメインキャラが使うわけだし。

格下げはあんまり考えたくないけど……本当にダクイレはどうするんだろ?

江西さんとか、マトモにファイトするのストライドゲート編の中盤だよ?」

 

サキ「G以外では、スーパーデッキが楽しみだね!」

 

レイ「作者が、シャドパラにしようか、リンクジョーカーにしようか、まったく新しいクランにしようか悩んでるよ。

いっそのこと、カードが揃ってるメガコロ選べば、オーブがウハウハなんじゃないかって汚いことも考えてるけど」

 

 

邂逅(エンカウンター)

 

レイ「オバロ出すのはっや!!!」

 

サキ「いつかは出すんじゃないかとは思ってたけどねー……ここまで早いだなんて」

 

レイ「こういう過去の遺産を食い潰す現状から脱却するために、天輪世紀にしたんだと思ったのに……ちょっと残念」

 

ミオ「こうなったらヲクシズの邂逅カードを待つしかないですね」

 

レイ「オバロ本人より、オバロおじーちゃんのイラストをオーダーにしてくれた方が嬉しかったよね!

ていうか、絶対にあれはカード化すると思ってたのにー!!」

 

 

●リリカルモナステリオ

 

レイ「バミューダ△の後継、リリカルモナステリオの情報がついに公開!! 待ち遠しかった人も多いんじゃないかな?

パッケージが女装したユウユ君なのもウケるけど」

 

サキ「バミューダ△の時代と大きく変わったのは、マーメイド以外の種族もアイドルに!!」

 

レイ「種族で言えば、ワービースト、ヒューマン、ドラゴロイド?、ヴァンパイア、エンジェルが公開されてるね! どの子もカワイイ!」

 

ミオ「根絶者(エイリアン)がアイドルになる日も近いですね」

 

 

●Vクランコレクション

 

レイ「以前よりアナウンスされていたVスタンのパックがついに登場だよ!!

パッケージにいるのは、シングセイバー、レイジングフォーム、ヴェラ、……初めて見るメガネっ娘、……プロミネンス・コア? コアの方だよね? グレアもういるし。違いがわからん!

そして……」

 

アリサ「ギラファだああああああああっ!!!!

それだけでも嬉しいのに、パッケージ!!

メガコロがこうも堂々とパッケージを勝ち取ったのは初めてよ!?

さっすがギラファ!! いえ、ギラファ様!!」

 

サキ「おめでとうございます、アリサさん!」

 

アリサ「ありがとー!!

邪甲将軍が《エリート怪人 ギラファ》とか誤植されてたことすら笑って許せるわ。

ZEROでギラファがネオネク所属になってたことといい、本当に皆、メガコロに興味無いよね?」

 

サキ「ずいぶんと根に持った許し方ですねー」

 

レイ「パッケージ以外でもユニットは公開されてるよ!」

 

サキ「フォルトナ、ボーイングソード、レミエル、もふもふが確定!! だね」

 

レイ「その他、能力を持った治トリガーの収録が確定してるよ!

攻撃を弾いているイラストが多いから、守護者になるのかな?」

 

サキ「そうでなければ、所持してるデッキの数×4枚を揃えなければならなくなるね」

 

レイ「作者の場合は、メガコロだけで20枚!!

もちろん、むらくもやグランブルーもあるわけで……」

 

ミオ「私も40枚集めなくてはなりませんね」

 

レイ「何で根絶者だけで10個もデッキ組めるの!?」

 

サキ「そんなVクランコレクションは、vol.1、vol.2が、9月3日に同時発売です!!

…………え?」

 

レイ「……同時?」

 

アリサ「……発売?」

 

レイ「4箱ずつ買うだけで、4万円以上ブッ飛ぶんだけど!?

何で、ひと月だけでいいから発売日をずらしてくれなかったの!?」

 

 

●overDress

 

ミオ「オーバードレスの今後にも軽く触れておきましょうか」

 

レイ「はーい」

 

サキ「9月24日には第3弾が発売します」

 

レイ「げっ 9月にまだ出るの?」

 

サキ「そして、10月にはスタートデッキ第6弾が発売! こちらも何と333円です!!!」

 

レイ「10月の出費は333円だけでいいの!?」

 

サキ「12月24日には第4弾が発売します! 楽しみですね!」

 

レイ「……コラボはスルーでいいよね」

 

ミオ「はい」

 

アリサ「ライドラインの数がまだ24の半分にも達してないのに、やってる場合かって話よ」

 

サキ「2弾は邂逅カードがライドラインになっちゃうんでしょうか」

 

アリサ「すでにニルヴァーナがいるかげろう枠が2つになるのもアレだけど、またファントムブラスターにシャドパラ枠を取られるのも、作者にとってはたまったもんじゃないのよね」

 

 

●終

 

レイ「……うーん、大盛だった、かな?」

 

ミオ「おおむねいつもどおりだったかと」

 

サキ「むしろ細かいネタを小出しにしていたような気も……」

 

レイ「やっぱり、どのクランが何月に登場するかのアレが無いと盛り上がりに欠けるよねー」

 

サキ「どのクランのライドラインが何月に登場するかっていうのを期待していたんだけどね……」

 

レイ「正直、作者は読んでて『今回の戦略発表会のえくすとらはいいかなー?』なんて思ってたらしいよ」

 

アリサ「ぶっちゃけギラファ様が無かったら、絶対に書いてなかったわよ」

 

レイ「それを除けば、作者的にはZEROが一番のニュースだったもんね。わかっていた。わかってはいたけれど、やっぱり『Gが来る!』と明言してくれたのは大きいよ。

コミック版ヴァンガードやるとか言い出す可能性もゼロじゃなかったわけだしね」

 

アリサ「そしてGが来るということは、若水さんのスキンが来るということ!」

 

レイ「そこなの!?」

 

アリサ「正直、メガコロで好きなユニットはほとんど出揃ってるから、そっち方面の楽しみはあんまり残ってないのよね、作者には。サイクロマトゥースで萌え尽きた」

 

サキ「コレオはさすがに気が早いですしねー」

 

アリサ「むしろ、ヤスイエやマガツタイフーンやシバラックバスターの登場するむらくもが、こっからはピーク!」

 

ミオ「根絶者も忘れないでくださいね?」

 

レイ「そんなわけで今日はここまで!」

 

アリサ「次回はフェスコレのえくすとらでお会いしましょーう!」

 

ミオ「アリサさんはいませんけどね」

 

アリサ「ひどい!」




白く燃え尽きたオバロおじーちゃんが大好きです。


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Ex.44「フェスティバルコレクション2021」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
トライアルデッキのキラ仕様根絶者をすべて4枚揃えた執念の持ち主。

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
キラ仕様のカードをプレイ用に買うことはなく、パックから出たカードを大切にするタイプ。

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
デッキはすべてキラキラにしたいタイプだが、お金が足りない。


●序

レイ「いきなりだけど、オーバードレスのパックって、剥くの楽しいよね!」

 

サキ「はい! 色々なカードが光ってて、SPも必ず1枚が入っているし、目当ての高レアカードが当たるかな? っていうこと以外にも楽しみができたよね」

 

ミオ「そんな作者の脳内では大絶賛の新シリーズですが、読者の皆様はいかがでしょうか」

 

レイ「今回はそんなオーバードレスの第2弾! 『フェスティバルコレクション2021』!!

ならばもっといろんなカードを光らせてあげようとばかりに、スターター再録カードのRRR仕様が中心に収録されてるよ!」

 

ミオ「デッキの全カードを最高レアリティで揃えたいタイプのファイターには、たまらないパックとなっています」

 

サキ「一方、魅力的な新規カードも各国家に2枚ずつ与えられています! 今回はこの新規カードで焦点を当てて見ていきましょう!」

 

レイ「それじゃ! えくすとら、すたーとぉ!」

 

 

●《焔の巫女 ミリン》

 

レイ「ドラゴンエンパイアからは新たなる焔の巫女が!」

 

ミオ「ミリンのスキルは、オーバードレス能力持ちがアタックした時、このユニットをソウルに置くことで、オーバードレス能力持ちを1体のパワーを+5000することができます」

 

レイ「パンプ先の筆頭候補はもちろん、ヒット時能力を持つバリエンテ!

とは言え、バリエンテは本人とニルヴァーナのパンプで十分すぎる感があるんだよね。

ディスアド背負ってまでパンプする価値は、あんまり無いような気も……。

G1でバリエンテの要求値を増やしたいなら、まずはヴェロキハザードを採用したらいいと思うよ」

 

サキ「い、一応、ソウルも増えるので《ヴェルリーナ》もサポートしてくれますよ!」

 

 

●《ディアブロスボーイズ ジャレッド》

 

レイ「『ディアブロス』がカテゴリ化!! オーバードレスでカテゴリの登場は初! ……だよね?」

 

サキ「この調子で『樹角獣』や『極光戦姫』もカテゴリ化するんでしょうか」

 

ミオ「『焔の巫女』もですね」

 

サキ「拳僧や、杖僧を忘れないであげてください!」

 

レイ「あ、ジャレッド自体は、一気呵成中の火力増強のみならず、一気呵成前の火力の低さも補える優良カード! コストはちょっと重いけどね!」

 

 

●《ツインプレス・スマッシャー》

 

レイ「レストしてカウンターコストを支払うだけで1体除去! 割と早い段階から登場することができて、使い減りもしないので、G2ライド時点から仕掛けておくとペースを握れるかも! 割と洒落にならない大量殺戮破壊兵器!」

 

ミオ「惜しむらくは、ブラントゲートのヴァンガードは、コストの消費が激しいタイプばかりという点です」

 

サキ「オルフィストは盤面をトークンで埋めちゃいますし、極光戦姫は独自の方法で除去ができます。コストばかりか、戦い方も噛み合ってませんね」

 

レイ「テキストに関しては本当に一級品! 今後、ブラントゲートにカウンターコストを使わず動けるヴァンガードが登場すれば、デッキの主軸となりうるスペックは十分にあるよ!」

 

 

●《極光戦姫 スパーク・リモーネ》

 

ミオ「ドロップゾーンのカードすら監獄に送り込む、死者に鞭打つ新たな汚職警官が登場です」

 

レイ「けど、ドロップゾーンのカードを監獄送りにするのは、基本的にデメリット! そこからドロップ送りにしたはずの強力カードを再利用されたらたまらないもんね!」

 

ミオ「ですので、場に出しにくいカード。基本的にはトリガーを監獄送りにしていくといいでしょう。そうすることで、監獄のカード枚数を参照するカードが弱体化しにくくなります」

 

レイ「面白い能力なんだけど、弱点はヒット時なことかなぁ。ただでさえ状況を選ぶカードなのに。欲しい状況だと、ヒットはまず許してくれなさそう」

 

サキ「極光戦姫自体が積極的にヒットを狙えるような、パワフルなデッキじゃないしね……」

 

 

●《ごるどがおん》

 

レイ「G2もG1も採用枠が極端に狭いケテルサンクチュアリで何故か登場した、G1をサポートするG2!! どうしろと!?」

 

ミオ「今後、ケテルサンクチュアリが普通のデッキになったとしても、手札にG1があること前提で、そのG1をコールすることを強制され、ソウルまで支払って、その報酬がたったパワー+5000では、採用はためらわれるレベルですけどね」

 

レイ「+5000なんて、カマキリが場に出るだけでもらえる報酬なのにね」

 

サキ「これが『テキストの短いカードは強い』の典型例だよ!」

 

 

●《樹角獣 クースィー》

 

レイ「ライドできず、中央後列以外にコールできず、しれっとガード値も持たない代わりに、破格のパワー15000を得たG1!!

基礎値15000のG1は、もちろん歴代最強!」

 

サキ「いざ中央後列にコールさえできれば、ブーストでマグノリアの火力を補いつつ、ペルソナライド後は後列から20000でアタックしてくれる、優秀な子であることは間違いないんですけど」

 

ミオ「複数採用はしにくいカードなので、実はゾルガ向きのカードかも知れませんね。ピン挿しでも、ドロップゾーンからもユニットをコールできるゾルガならば、出せる機会は増えるはずです」

 

サキ「クースィーを引く前の火力も《悲嘆と絶望、そして拒絶》で補えますからね!」

 

 

●《ハイドロレール・ドラゴン》

 

レイ「ゾルガに優秀な戦力がもう1枚! アタックがヴァンガードにヒットした時、ドロップゾーンのG3を回収してくれるよ! これでゾルガのペルソナライドを準備しよう!」

 

サキ「貴重なソウルチャージ手段にもなるペルソナライドは、ゾルガでは特に重要ですからね!」

 

レイ「ドロップゾーンにゾルガが無くても、最低限自分は手札に戻せるので、もう盤面を空けてくれるだけでもゾルガと相性がいい!」

 

ミオ「肝心の『ヒットした時』という条件も、《悲嘆と絶望、そして拒絶》で、このユニットと、このユニットのブーストをパンプすれば、高確率で達成できるでしょう」

 

レイ「ここらへん、先に挙げた極光戦姫との違いだよね!」

 

サキ「クースィーも、ハイドロレールも、ゾルガと相性がいいというか、ゾルガと《悲嘆と絶望、そして拒絶》の受け幅が広いだけな気がしてきました……」

 

レイ「うん。《悲嘆と絶望、そして拒絶》強いよねー。弱点は略しにくいことくらい」

 

ミオ「ちなみにハイドロレールで回収できるG3は『ユニット』のみで、オーダーは回収できない点には注意が必要です」

 

???「つーか、《ハイドロリックラム・ドラゴン》と言い、何でゾルガと相性のいいカードが、ことごとくアクアフォース系なんだよ!? グランブルー使いにケンカ売ってんのか!? 俺様と作者は絶対に採用してやらねぇからな!!」

 

レイ「? 何か聞こえなかった?」

 

ミオ「気のせいでしょう」

 

 

●終

 

レイ「面白そうなカードがいっぱいだったねー」

 

ミオ「ちなみに再録カードは、フレーバーも一新されています」

 

サキ「世界観を知る一助となってくれそうですね!」

 

レイ「それじゃ、今回はこのへんで」

 

サキ「さよーならー!」




Dスタンになって2回目のえくすとらをお送りさせて頂きました。
楽しんで頂ければ幸いです。

次回のえくすとらでは、レギュラーキャラに加えてゲスト1名という形式を復活させようと思います。
基本的には新規ライドラインの元になったクランから1名という形で。
次のライドラインが邂逅の2体だとすると……アイツしかいないな。

それでは次回、6月の本編でお会いしましょう!


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Ex.45「伝説との邂逅」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
M:tGで好きな色は無色(エルドラージ)

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
M:tGで好きな色は緑。

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
M:tGで好きな色は無色(アーティファクト)

・御厨ムドウ
容赦の無いファイトで対戦相手を打ち負かす、謎多き強豪ファイター。
使用クランは「シャドウパラディン」
M:tGで好きな色は黒。


●序

 

レイ「オーバードレスのブースターパック第2弾!! 伝説との邂逅のえくすとらがはっじまるよー!!」

 

サキ「今弾の特徴は何と言っても邂逅カード!! 3000年前の英雄達が、新たな能力を得て登場です!」

 

ミオ「私達からしたら、3ヵ月前の英雄なんですけどね」

 

レイ「もうロマンもへったくれもないよねー」

 

サキ「と、とにかくっ! 邂逅カードのひとつ、《ファントム・ブラスター・ドラゴン》の所属していたクラン、シャドウパラディンにちなんで、本日のゲストは根絶少女におけるシャドウパラディン使い、御厨ムドウさんですっ!!」

 

ムドウ「御厨ムドウだ。よろしく頼む」

 

レイ「はじめまして、ムドウさんっ! 聖ローゼの早乙女マリアさんと並ぶ影のエース! テレビで活躍は拝見してましたっ!」

 

ムドウ「ほう? お前が新しい響星の生徒か」

 

レイ「はいっ! 時任レイですっ!」

 

ムドウ「……フッ。いい目をしている」

 

レイ「え? アタシ、素質ありますか!?」

 

ムドウ「ああ。上目遣いになって『お兄ちゃん、今日はずっといっしょだよ?』と言ってくれないか?」

 

レイ「容姿が気に入れられただけだった!?」

 

ミオ「ムドウさんは変態ですからね」

 

ムドウ「そういうことだ」

 

サキ「否定しないんですねー」

 

ムドウ「音無ミオ。そこの後輩に、手本を見せてやれ」

 

ミオ「はい」

 

レイ「え?」

 

ミオ「お兄ちゃん今日はずっといっしょだよ」

 

ムドウ「完璧だ」

 

レイ「ちょっ! お姉ちゃん!? 何でこんなやつの言いなりになってるの!?」

 

ミオ「ムドウさんは私の働いているメイド喫茶の常連ですからね。この程度のリクエストは慣れています」

 

レイ「ええー? それにぜんぜん完璧じゃなかったよね? お姉ちゃん、ものすごい棒読みだったよ?」

 

ムドウ「それはそれでよいものだ」

 

ミオ「ムドウさんと出会って、私は変態という概念を理解することができました」

 

レイ「知らなくてよかったと思うな、そういう概念は!」

 

ムドウ「では、そろそろカード解説に移るとしようか」

 

サキ「さんざん前説をかき回した人が仕切らないでくださいねー」

 

 

 

●邂逅 《ドラゴニック・オーバーロード》

 

ムドウ「まずは邂逅カードから見ていくとするか」

 

レイ「はーい。オーバーロードはリアガードを叩いてスタンドする、いつものオーバーロード!

いつもと違った味付けとして、リアガードにアタックした時、対戦相手は手札からガーディアンをコールできないという強力なガード制限が!

これでリアガードを安全に潰しつつ、ヴァンガードに再アタックができるデザインになってるよ!」

 

ムドウ「ところがどっこい」

 

レイ「どっこい?」

 

ムドウ「今回のオーバーロードは何故かパワーが13000からピクリとも動かない。ガードされないと安心して単体でリアガードにアタックした場合、インターセプトされて普通に止められる恐れがある」

 

レイ「あ、ほんとだ!」

 

ムドウ「まあ、インターセプトは見えているからマシな方だ。ネハーレンでパンプするなり、ブーストを付けてやればいい。問題は……」

 

ミオ「ブリッツオーダーですね」

 

ムドウ「そうだ。ガードは制限できても、オーダーのプレイまでは制限できない。

ネハーレンでパンプした18000のオーバーロード単体でアタックする場面は多くなるだろうが、その場合、+15000のブリッツオーダーとインターセプトの組み合わせで2枚貫通になってしまう」

 

ミオ「ブリッツオーダーは国家やデッキによって修正値に違いが出てきます。それをしっかり把握して、ブリッツオーダーを使われてもアタックが通るパワーでアタックすることが肝要ですね」

 

ムドウ「それさえできれば、除去とドライブ回数を兼ね備えたいつものオーバーロードだ。今回も圧倒的なパワーで敵を蹂躙してくれるだろう」

 

 

●《鎧の化身 バー》

 

ムドウ「邂逅ユニットはライドラインが特に強力だ。

バーはネハーレンにライドされた時、CB1でデッキから好きなG1を手札に加えることができる」

 

レイ「バーというか、コンローじゃん!」

 

ムドウ「完全ガードを確実に1枚確保できるだけで、デッキの安定性は大きく底上げされる。★を増やして速攻を狙ってくるタイプのデッキに耐性がつくからな。現環境で言えば、高いパワーと、ヒット時にスタンドするスキルを兼ね備えたバリアンテも凌ぎやすくなる」

 

サキ「プロテクトがいなくなったので、今ははオーバーロードのライドライン独自の強みですね」

 

ムドウ「インフレが進めば、戦局を変える強力なG1をサーチするという選択肢もでき、一生腐ることのないスキルと言えるな」

 

 

●《ファントム・ブラスター・ドラゴン》

 

ムドウ「これもまたいつものダムド・チャージング・ランスと言った感じだ。3体のユニットを生贄に、パワー+10000、★+1」

 

サキ「今回はオプションとして、リアガードを2体除去もしてくれますよ!」

 

ムドウ「ちなみにZEROでは1体の除去。Vスタンでは3体の除去がオプションだった」

 

レイ「ややこしっ!」

 

ムドウ「ダムド・チャージング・ランス自体はいつものダムド・チャージング・ランスだが、環境がいつもの環境では無い」

 

レイ「?」

 

ムドウ「というのも、ケテルサンクチュアリはパラディン3種の集合体の割に、展開が不得手だからだ」

 

レイ「あっ!」

 

ムドウ「そもそも展開力においては最強を誇るシャドウパラディンですら、ユニット3体は重いと言われ続けてきたダムド・チャージング・ランスだ。こんなスキル、ケテルサンクチュアリに渡されて、まともに扱えるわけもあるまい」

 

サキ「オールデンなんかは、自身もユニットで、2枚ドローができるので相性がよさそうに思えますけど……」

 

ムドウ「甘いな。オールデンを使うと、今度はカウンターコストが足りなくなる。ライドラインで1、オールデンで2、ダムド・チャージング・ランスで1消費するので、表のダメージが4枚なければ、そのターン中には使えん。

ケテルサンクチュアリにはカウンターチャージ手段こそ豊富だが、それでも安定性に欠ける点は否めないだろう」

 

ミオ「《黒の賢者 カロン》や《饗応の魔女 ブラーナ》といったサポートカードで、できる限りコストを軽減していくしかなさそうですね」

 

ムドウ「まあ、扱いにくい点も含めてのダムド・チャージング・ランスだとは思うがな。俺は嫌いではない」

 

 

●《ブラスター・ダーク》

 

ムドウ「こちらもライドラインが強力だ。《ブラスター・ジャベリン》が適当なユニットをコールし、《ブラスター・ダーク》がそれを生贄にスキルを発動する。ユニット1体を除去しつつ、ドライブ+1だ」

 

レイ「すごっ!!」

 

ムドウ「さらに《ファントム・ブラスター・ドラゴン》がライドすることで、《ブラスター・ダーク》がリアガードにコールされるのだが……《ブラスター・ダーク》までで十分強いので、バスティオン軸や六角宝珠軸でも採用に値するライドラインと言えるだろう」

 

ミオ「G2からツインドライブできるという点は、六角宝珠に関するカードと特に相性がよさそうですね」

 

 

●《漆黒の乙女 マーハ》

 

ムドウ「美人だ。俺がシャドウパラディンを使うきっかけにもなったカードでもあり、俺の初恋でもある」

 

レイ「また恥ずかしい過去をペラペラと……」

 

サキ「若気の至りを黒歴史にせず、今も自慢げに語れるのはある意味立派な気もしますけど……」

 

ムドウ「恥ずかしい過去とも、若気の至りとも思っていないがな。黒歴史も俺の歴史だ。

で、マーハのスキルだが……」

 

ミオ「コストは、SB1、他のユニット1体を退却。

効果は、山札の上から5枚見て、その中からG1を1体スペリオルコールですね」

 

ムドウ「……は?」

 

レイ「ダムド・チャージング・ランスが求めてるのって、質じゃなく、数だよね……」

 

サキ「これでカロンやブラーナをコールして数を賄うデザインなのだとは思いますけど……」

 

レイ「1体退却までして、不発の可能性があるって相当のギャンブルだよね……」

 

ミオ「あ、パワー+5000もありました」

 

ムドウ「いらん」

 

レイ「そんなのいいから、せめてソウルは吐かないで欲しかったよね!」

 

ムドウ「マーハが《ファントム・ブラスター・ドラゴン》と相性が悪いのは、おおむねいつも通りなので、まあ構わんのだが。

これまで欲しいユニットを完璧にコールしてきたマーハが、山札の上から5枚しか見れなくなっただと?

3000年経ってもうろくしたか、このババァは」

 

レイ「いきなり辛辣になった!!」

 

ムドウ「やはり俺にはネヴァンしか無いな」

 

レイ「この浮気男! 最っ低!」

 

ミオ「では、ムドウさん。最後にこのカードの総評をどうぞ」

 

サキ「この流れで!?」

 

ムドウ「SPを額に入れて飾り、家宝として末代まで受け継がせてゆく。それがこのカードの正しい使い方だ」

 

ミオ「ありがとうございました」

 

サキ「たしかにイラストは綺麗ですけどね!?」

 

 

●ドラゴンエンパイア 《ヴェルリーナ・エルガー》

 

レイ「第4のヴェルリーナは、バトルフェイズ中のオーバードレス!!

トリクスタのアタック後、SB2でこのカードにオーバードレスできるよ!」

 

ムドウ「何故かカウンターチャージもついてくる」

 

レイ「そこ、本当に『何で?』って感じだよね!」

 

サキ「ソウルコストが重く、トリクスタのパワーも心許ないので、基本的にはペルソナライド時のフィニッシャーという扱いになりそうですが、ドラゴンエンパイアにはソウルチャージする手段も多く、トリクスタをパンプするサポートカードも今弾には多く収録されているので、連発もできるかもですね。

バリエンテやアルクスとコストが競合しないあたりも、よく練られてるというか、優遇されてるなぁって感じがしますよね」

 

レイ「弱点らしい弱点と言えば、トリクスタや後述するダマリーからアタックをスタートさせないといけないので、ニルヴァーナのパンプが少しもったいない点かな。ほんと重箱の隅なんだけどね。

はっ! もしかして謎カウンターチャージって、無駄遣いしてごめんなさいのキャッシュバック!?」

 

 

●《焔の拳僧 ダマリー》

 

レイ「そしてっ! エルガーのサポートカード筆頭がこちらっ!」

 

ムドウ「このユニットがアチョーとアタックした後、何故か相手の前列リアガードを退却させ、ドロップゾーンからG0を……まぁ、大概の場合はトリクスタがスペリオルコールされるネ」

 

ミオ「そこからトリクスタ⇒エルガーと繋ぐことで、1ラインで3連続アタックができるというわけですね」

 

サキ「スタートデッキの時点では、極光戦姫と並んで連続攻撃と縁が無かったデッキなのに……」

 

ムドウ「Dスタンが、Vスタンのような誰も彼もが5回以上殴ってくる魔境になる日も、案外遠くないのかも知れないアルな」

 

レイ「そんなことより、さっきから拳僧に対する偏見がひどくない!?」

 

ムドウ「アイヤー」

 

 

●《忍竜 トチガラシ》

 

レイ「Dスタンになってからも忍竜は色々と登場してるけど、ぬばたま出身なのか、むらくも出身なのか、アタシには区別がつかないんだけど……」

 

サキ「う、うーん……これは黒いし、ぬばたま、かな?」

 

ムドウ「スキルはぬばたまのヤミヤマネコに近い。手札から捨てられたらソウルチャージという点はほぼほぼ同一だ。

もっとも、ヤミヤマネコと比較した場合、ガード値はさておくとしても、パワーが1000低く、盤面で発動するスキルも無い。コストとして割り切った運用になるな」

 

レイ「ヤミヤマネコはコモンだったのにね!」

 

ムドウ「ただ、ヤミヤマネコは捨てられたらソウルチャージだが、トチガラシの場合はこのカードがそのままソウルに入る。トリガーをソウルに入れてしまうリスクが減った点は評価できる」

 

ミオ「Vスタンではソウルのグレードを参照するカードが多かったので、ヤミヤマネコはソウルにG3を入れるチャンスを得られるカードでもありました。そういう意味では、どちらも環境に合わせて進化したカードと言えるでしょう」

 

ムドウ「環境と言えば、当然、このカードはライドラインのコストとして捨てられた場合もソウルに入る。

手札から捨てられる機会だけで見れば、ヤミヤマネコよりこちらの方が圧倒的に上と言えるな」

 

 

●《忍竜 キザンレイジ》

 

レイ「こっちは?」

 

サキ「え、えーと……たぶん、むらくも? カラフルだし」

 

 

●《祝福の角笛》

 

ムドウ「《トレード・イン》だ」

 

サキ「しれっと他所様のカードを……」

 

ミオ「まあ、非公式の二次創作である私達からすれば、ヴァンガードも他所様なんですけどね」

 

ムドウ「例にあげたカード以外にも、特定のカードを捨てて2枚引く系統のカードは、他のカードゲームにおいて成功例が多い。果たして、このオーダーもそれらに連なる良カード足り得るか」

 

サキ「けど、オーバードレスのカードって、ニルヴァーナにとってはキーカードなんですよね。前列に2体は常に並べておきたいし、相手からも狙われやすく、いくら手札にあっても困らないカードな印象があります」

 

ミオ「アルクスはアルクス自体が手札交換みたいなものですし、バリエンテみたいな消費の激しいカードもあります」

 

ムドウ「それでもなおこのカードが必要なほどオーバードレスが手札で溢れると言うのなら、まずは構築を見直した方がいいのかも知れんな」

 

ミオ「このカードを使うにあたって最大の狙い目は、ライドラインで必ず手札に加わる《ニルヴァーナ》と言えるでしょう。

コストの競合するエルガーの登場で使いにくくなったカードですが、レイユのスキルを不発にさせないためには、ある程度の枚数はデッキに必要です。それらを処理する手段として《祝福の角笛》は活躍してくれるかも知れません」

 

レイ「いずれG1のオーバードレスなんかが登場して、デッキのほとんどをオーバードレスで固めることができるようにさえなれば、評価が爆上がりすることは間違い無し!

安いうちに4枚揃えとこ!」

 

 

●ダークステイツ 《異能摘出》

 

レイ「コ、コンクリさーん!?」

 

ミオ「バロウマグネスが呆気なくやられているショッキングなイラストですが、何故かバロウマグネスと相性の良い、よくわからないカードです」

 

ムドウ「コストは重く見えるが、《ブラザーズ・ソウル》を使いつつ、手札をソウルの好きなカードと交換していると見れば妥当なところだ。《ブラザーズ・ソウル》の枠を1枚割く価値はある」

 

レイ「死亡フラグの立ったコンクリさん! 果たして、次回は強化がもらえるのか!? 乞うご期待!!」

 

ムドウ「第3弾では、元気に素手で殴りかかるバロウマグネスの姿が……」

 

 

●《ヘルブラスト・フルダイブ》

 

サキ「つ、強すぎる……」

 

レイ「一気呵成中、前列にパワー+10000!! それだけでも十分強力なのに、強制コールがあるとは言え、何故かドローまで!」

 

ムドウ「単体にして、やっていることはほとんど《悲嘆と絶望、そして拒絶》+《霊体凝縮》と変わらん」

 

ミオ「このカードが真に優秀な点は、一気呵成前にも手札交換として使えることです。このカードが手札に2枚あっても、1枚はドローに変換することができます」

 

ムドウ「わかるやつには、サイクリングと言ったらわかりやすいか」

 

レイ「5ターン目までに引いておきたいフィニッシャーでありながら、複数積みしやすい心配りも兼ね備えた、オーダーの常識を覆す、超強力+超便利オーダー!!」

 

 

●《スパイラクル・スプラッシャー》

 

ムドウ「ヴァンガードがバロウマグネスなら+5000。以上」

 

レイ「なんか条件が雑じゃない!? ソウル10枚なら+5000じゃダメだったの!?」

 

 

●ブラントゲート《極光戦姫 ペリオ・ターコイズ》

 

レイ「本日の悪徳警官その1!」

 

ムドウ「こいつが前列で監獄を見張っている限り、捕まっていた連中のパワーは何故か-5000した状態で出所することになる。どうやら監獄内では虐待が常態化しているようだ」

 

サキ「モラル的な側面はともかく、これはかなり極光戦姫の強化になってくれそうですよ! -5000されたユニットを、わざわざコストを支払ってコールするのは、かなり割に合いません!

本体のパワーも高く、極光戦姫の火力を補ってくれそうです!」

 

ムドウ「このユニットが前列に2体いれば、パワー-10000できるようになり、ほとんどのユニットが出所した時点では役立たずの木偶の坊に成り果てる。

除去には弱いように見えて、《ヴェルリーナ》のようなバトルフェイズ中の除去では間に合わないので、その実、対処手段は限られている」

 

 

●《確保の瞬間! 極光戦姫密着24時!》

 

レイ「《地を這いずれ、“下等生物”!》 とは、別の意味で宣言しにくいオーダーが登場だよ!」

 

サキ「リサット・ピンクのライド時スキル以来となる、ハンデス収容だね」

 

ミオ「すでに一仕事終えているリアガードを収容するより、ハンデス収容はワンランク強力です」

 

レイ「コストも軽いし、4積みしてこれに特化してもいいくらいだよね。脱獄対策にペリオ・ターコイズを立たせることができれば、なおよし!

相手の手札が3枚以下になると使えないのは難点だけど、《確保の瞬間! 極光戦姫密着24時!》を使う前から相手の手札が3枚しかないようなら、それはもう勝ちじゃないかな?」

 

ムドウ「グレードもG2と軽く、早い段階から使っていける点も強い。リサット・ピンクと同時に使ってやれば、相手の出鼻を挫くことができるだろう」

 

 

●《硬拳竜 メタルナックラー・ドラゴン》

 

レイ「『銀河そのものを震わせる』とまで称されるフィニッシュブローを会得した格闘竜!! 果たして、そのスキルとは!?」

 

ムドウ「ペルソナライドしているなら、パワー+5000。以上」

 

レイ「銀河しょぼっ!!」

 

サキ「フレーバーが過大広告だとは思わないんだね……」

 

ミオ「ちなみに今弾で銀河を震わせることのできるカード=単体でパワー18000に達することのできるカードは16枚でした」

 

サキ「何でそんなくだらないデータだけとってるんですか!?」

 

ミオ「なお、今弾のオーバーロードは銀河を震わせることができません」

 

レイ「オバロしょぼっ!!」

 

 

●《極光戦姫 ビレート・カナリー》

 

レイ「本日の悪徳警官その2!」

 

ミオ「監獄に収容された凶悪犯罪者を速やかに死刑執行してくれます」

 

レイ「警官の職務を超越してる!」

 

サキ「えくすとらは面白おかしく誇張して書いてる部分も多々ありますけど、この子に関しては、フレーバー見る限り、ガチの悪徳警官なんですよね」

 

ムドウ「ヤツは地獄行き、テメェは監獄送りにしてやるよ!」

 

レイ「これ1枚で、収容が除去に化ける! リアに登場するだけで、監獄のユニットを1体バキューンしてくれるのは、かなり便利!

ノーコストってのが、本当に偉いと思う。パワーはともかく、脱獄対策としては、RRRのペリオ・ターコイズにも比肩する逸材だよ!」

 

サキ「ドロップゾーンから監獄送りにするスパーク・リモーネも投入すると、もう何がしたいんだか!

いや、どちらの行為にもそれぞれメリット・デメリットがあるのはわかってるんですけどね!」

 

 

●《炸裂! メルティング・ハート!》

 

ムドウ「こちらは、男にだけは宣言されたくないブリッツオーダーだ」

 

サキ「いや、女の子も宣言するの恥ずかしいですよ、これは!」

 

レイ「そんな物議を醸しそうなオーダーだけど、効果は一級品!

収容されているユニットの数だけ、パワーを-5000してくれるよ!」

 

ミオ「相手のアタック時に、監獄に何体のユニットが残っているかは相手のデッキやプレイングにも左右されるので、不安定なカードです……が」

 

レイ「このカードの真の魅力は、弱体化がターン中永続ってこと! スタンドしてくるユニットには、-5000でも劇的に効くよ!

現環境でもブルースやバスティオンに有効な他、ただでさえブリッツオーダーに弱いオーバーロードにとっては天敵とも言えるカード!」

 

サキ「投げキッスひとつで機能不全に陥るオバロって……」

 

ミオ「今後、ユニットをスタンドさせるデッキが流行るようなら、常に意識しておくべきカードとなるでしょう」

 

 

●《蝕まれる月光》

 

レイ「黒夜セットオーダーの最新作! CB1で夜影兵が出てくるよ!」

 

ムドウ「グレードが2なので、速攻向きのカードと言えるだろう。先行2ターン目から登場する15000は脅威の一言に尽きる」

 

レイ「極光戦姫に入れちゃってもいいくらいだよね! 火力に欠ける極光戦姫なら、CB1使ってでも夜影兵は戦力として欲しいよ!」

 

 

●《爆食怪獣 マルノルム》

 

レイ「手札からセットオーダーを捨てることでカウンターチャージ!

手札1枚を使う価値のある報酬だけど、問題はセットオーダーかな」

 

サキ「セットオーダーをたくさん入れることになるオルフィストなら使えそうだけど、よりカウンターコストが欲しいのは極光戦姫なイメージなんだよね」

 

ムドウ「黒夜セットオーダーはドロー、除去、展開と、それぞれ単体で見ても使い勝手のいいものが揃っている。極光戦姫にこれらのカードを複数枚と、マルノルムを併せて採用してみるのもよいだろう」

 

サキ「手札に来てしまった2枚目の監獄の処理もできますしね」

 

ムドウ「この構築は、今後登場するブラントゲートのライドラインにおいても有効と思われる。強力だがコストに余裕の無いカードが登場した時には試してみるといい」

 

 

●ケテルサンクチュアリ《精妙の騎士 オーワイン》

 

ムドウ「作者にはオーバードレス環境に3つの不満がある」

 

レイ「何、いきなり!?」

 

ムドウ「確定ライド――に関しては、過去のえくすとらで語ったらしいので、ここでは触れまい。

邂逅――もここではあえて語るまい」

 

サキ「はあ」

 

ムドウ「もうひとつの不満が、この《精妙の騎士 オーワイン》のような、やっていることはオラクルなのに、イラストがゴルパラみたいな、クランの役割を無視したカードだ!!

今まで積み重ねてきたものをないがしろにするのも大概にしろよ!!」

 

レイ「あー、なんとなく分かるような。デッキ内のユニットの見た目がバラバラだとテンション下がるんだよねー。

魔術師デッキを組みたいのに、騎士が2、3人混ざったりとか。アンデッドデッキを組みたいのに乙女が必須カードだったりとか。

作者のことだけど!」

 

ムドウ「作者がこれまでのオーバードレス環境で一番好きなデザインのカードは《ディヴァインシスター れぴすと》だ。

スキルもイラストもオラクル寄りだが、その実、相性がいいのはバスティオン。自分のクランのやり方で他のクランをサポートする、まさしく国家制になってよかったと心から思えるカードだからだ」

 

レイ「そもそもオラクルのデッキトップ操作と、ゴルパラのデッキトップコールって相性がいいんだし、この子は普通にゴルパラらしいことやってくれればよかったんだよね」

 

サキ「そう言えば、《金剛鏡の女魔術師》なんかはオラクルっぽく見えてゴルパラ的なんですよね。完全に効果が逆なような」

 

ムドウ「ちなみにオーワイン自体は、六角宝珠軸が欲しい要素をすべて兼ね備えた必須カードだ。作者のようないらん拘りが無ければ、とりあえず入れておけ」

 

 

●《アディショナル・エンジェル》

 

ムドウ「そう。作者が求めているのはこういうカードだ」

 

レイ「このユニットをダメージゾーンに置いて、ダメージゾーンから表のG3をスペリオルコール!

エンジェルフェザーのスキルで、バスティオンをサポート!

違うクランが手を取り合って戦ってる感があるよね!」

 

ムドウ「これは作者の中で《ディヴァインシスター れぴすと》を越えたな」

 

 

●《並び立て、選ばれし騎士達よ》

 

レイ「イケメン、イケメン、テッカメンのイラストが目印!」

 

ムドウ「イラストに描かれている騎士は3体だが、このオーダーはグレード3が4体いることで最大限の力を発揮する。

ユニット1体に+5000、1ドロー、ヴァンガードのドライブ+1だ」

 

レイ「このカードがソウルを吐いちゃうから、《ダークストレイン・ドラゴン》は使いにくそうだね。

ペルソナライド中にブーストできる《唱導の天弓 レフェルソス》もいるし、ペルソナライドしたターンのフィニッシャーとしての運用が基本になるのかな?」

 

ミオ「ここまで報酬が豪華なら、ブーストできないG3だろうと置いておくのも有効ですけどね。ペルソナライドするターンではなくとも、前もって《唱導の天弓 レフェルソス》を後列に置いておく価値は十分にあります」

 

ムドウ「バスティオン向けのオーダーに見えるが、効果は六角宝珠とも相性がいい。特にDスタンでクアドラプルドライブができるのは、現状、六角宝珠とこのカードをコンボした時だけだ。試してみる価値はあるだろう」

 

レイ「ちょっとクセはあるけど、戦線維持からフィニッシャーまで一手に引き受けてくれる優良オーダー! ケテサン流《ヘルブラスト・フルダイブ》と言っても過言ではないかも!?」

 

 

●《崇高なる意思》

 

レイ「今度は、背中合わせのイケメン&テッカメンが目印!」

 

ムドウ「イラストに描かれている騎士は2体だが、このブリッツオーダーはグレード3が3体いることで力を発揮する……さっきからイラストと効果を統一する気が無さすぎるな。

ゾンビを13体召喚するカードがあったなら、しっかりゾンビを13体描く。それが心意気というものだろうに」

 

サキ「何ですか、そのカード!?」

 

ミオ「条件が厳しくなった代償に、上昇するパワーも相応に高くなった《ホープフル・デストード》ですね。どちらを採用するかは、ファイターの好みでいいでしょう」

 

レイ「イケメンやテッカメンが好きな人は、迷わずこっち!」

 

 

●ストイケイア《感銘の乙女 ウルジュラ》

 

ムドウ「ユニットを自在に移動できるようになる、ルール捻じ曲げ系のカードだ」

 

レイ「盤面が埋まっている場合は、そのたびに入れ替えも発生するし、すべてのユニットを再配置させるとなると結構面倒そうだよね」

 

サキ「こんなパズル、昔ありましたよねー」

 

ミオ「いてくれるだけに何かと便利なカードではありますが、特に相性のよいカードは、V後列にしかコールできないパワー15000の《樹角獣 クーシィ》です。

他、《樹角獣 アイライータ》をユニットを並んでいる場所へ移動させ、ソウルチャージさせるのも有効です」

 

レイ「そんなことより、ライドラインもらってるわけでもないのに、ネオネク系のカードばっかり毎回RRもらってるのズルくない? そろそろライドラインとトリガー以外はネオネク系で統一したデッキも組めちゃいそう」

 

 

●《逆流する冥府》

 

レイ「史上初! RRのオーダーカードだよ!!」

 

ムドウ「RRなだけあって、その効果は非常に強力に見える。魔合成デッキなら、このカードの効果だけで、1体除去しつつ、2体をスペリオルコールすることが可能だ、が」

 

サキ「が?」

 

ムドウ「実際にそこまで上手くいくかは大いに運が絡む。

このカードは除去したユニットと同じグレードのカードを2体スペリオルコールしなければならないので、相手の場で除去できるユニットと、同じグレードのユニット2体がドロップゾーンに揃うことで、ようやく真価を発揮する。

しかし、魔合成デッキは、オーダーを大量投入しなければならない分、デッキの中のユニットはどうしても少なくなる。特にG3は抑えめになりがちだ。

 

ミオ「つまり、『相手のリアガードにG2しかおらず、自分のドロップゾーンにはG2が2枚揃っていない』や『どうしても除去したいG3がいるが、自分のドロップゾーンにG3がいない』状況が想定されるわけですね」

 

ムドウ「そういうことだ。自分のユニットを除去して、2体を蘇生させざるを得ない場面もでてくるだろう。

魔合成で使うことを考慮するとコストも重いので、複数投入するよりは、1~2枚の投入枚数に留めておいて、ここぞという場面で魔合成すべきカードになりそうだ」

 

ミオ「単品で使う分にも、1体除去、1体蘇生で十分すぎるほど元は取れているカードなので、マグノリア軸に投入しても面白いかも知れませんね。後列にもG2やG3を置けるデッキなので、蘇生させるグレードに融通が効く点も噛み合っています」

 

 

●《野生の知恵》

 

レイ「RRのオーダーがもう1枚! ストイケイアなんなの!?」

 

ミオ「こちらはマグノリア用のオーダーですね。山札の上から3枚捨て、ドロップゾーンから1体スペリオルコール。ヴァンガードがマグノリアなら2体スペリオルコールできます」

 

レイ「マグノリアが条件になってるだけで、やってることはモロにゾルガだよね。むしろドロップゾーン肥やしつつ蘇生できるオーダーって、ゾルガもめっちゃ欲しいんだけど!?」

 

ミオ「実際、ゾルガ軸に採用できなくもないですが、カウンターコストの消費がネックですね。《鬼首狩り》のサポートは必須になるでしょう」

 

 

●《悲恋の妖精》

 

レイ「超便利! ブーストしたアタックがヴァンガードにヒットした時、このカードをバインドして、バインドゾーンのオーダーを手札に加えるよ!」

 

サキ「つまり次のターンには、回収したカードと、前のターンに使ったカードとの組み合わせで魔合成ができちゃうわけだね。《悲嘆と絶望、そして拒絶》と《霊体凝縮》だけを延々と魔合成していくタイプのゾルガとは、特に相性がよさそう!」

 

レイ「ヒット時という点も、おなじみ《悲嘆と絶望、そして拒絶》でパワーを集中させれば問題なし! 毎度同じこと言ってる気がするけど、本当に便利だねー」

 

ミオ「このユニットはバインドされてしまうので、迂闊に使うとドロップゾーンのユニットが枯渇してしまう恐れがある点だけには注意してくださいね」

 

 

●《扇情の蜜》

 

サキ「ゾルガデッキ垂涎の、ノーコストオーダーです!

リアガード1体のパワーを、ドロップゾーンのカード5枚につき+5000し、15枚以上あれば★も+1してくれます」

 

レイ「コストを軽減してくれるわけではない魔合成は、とかくコストがかかりがち!

もうコストが無いよーって時、とりあえず魔合成だけはしときたい。そんな時にこのカードがきっと助けてくれるはず!

そんな状況、大概の場合は終盤の消耗戦なので、高いパンプと★も生きてくる!」

 

サキ「ゾルガデッキに1枚はお守りとして入れておきたい。そんなカードだね」

 

 

●《シュルドフィッシャー・ドラゴン》

 

ミオ「パワー18000。素のパワーで銀河を震わせることのできる、驚異的なユニットです」

 

サキ「その代償として、手札以外からリアガードをコールしていなければ、このユニットはアタックできません」

 

ムドウ「手札以外からユニットをコールする手段は、ほとんどがゾルガ関連のカードだ。なら《ハイドロリックラム・ドラゴン》で十分だな。次に行くぞ」

 

 

●《シュルドフィッシャー・ドラゴン》

 

ミオ「と、本来ならここで終わっていたところですが。ここまではリアガードとしての《シュルドフィッシャー・ドラゴン》の評価です」

 

レイ「?」

 

ミオ「なんと、このカード。これまでの同系カードについていた『このカードにライドできない』の一文がありません」

 

レイ「!?」

 

ミオ「つまり、このカードは何の工夫も無くライドしてしまえるパワー18000のユニットなのです」

 

レイ「!?!?」

 

ミオ「これは実質的に、ストイケイアにライドラインがひとつ追加されたと言っても過言ではありません。パワーだけならVスタンの《マジェスティ・ロードブラスター》です」

 

ムドウ「ゾルガのライドラインは《黒涙の骸竜》にライドした時点で完結する。オーダーには手札以外からユニットをコールする手段が多い事も考慮すれば、ゾルガ軸をベースにするのが妥当だろうな」

 

ミオ「はい。話が前後しますが、ショルドフィッシャーのデメリットである『手札以外からリアガードをコールしていないなら、このユニットはアタックできない』デメリットは、ヴァンガードでも健在です。ヴァンガードでアタックできない状況は負けに直結するので、デッキには、手札以外からユニットをコールする手段を大量に投入しておく必要があります」

 

ムドウ「最優先で採用すべきカードは《野生の知恵》だな」

 

レイ「え? マグノリア軸じゃないのに? 《霊体凝縮》とかじゃダメなの?」

 

ミオ「いい質問ですね。実はストイケイアにおいて手札以外からリアガードをコールする手段は、《野生の知恵》を除いて、ソウルを消費してしまうのです」

 

レイ「そうなの!?」

 

ミオ「《怨念鎖》がライドラインでソウルを1消費してしまうので、1ゲームで使えるソウルは2~3くらいに考えておいた方がよいでしょう。もちろん魔合成ができないので、ヘンドリーナも使えません」

 

ムドウ「《野生の知恵》を4積みした後は、《非業の死を乗り越えて》《霊体凝縮》《逆流する冥府》あたりから2~4枚と言ったところだな。《扇情の蜜》も隠し味にはいいかも知れん。あまりオーダーを入れる必要は無いデッキだが、《怨念鎖》や《黒涙の骸竜》のスキルが不発になったのでは笑えんからな。このあたりの枚数は時間をかけて調整する必要があるだろう」

 

レイ「オススメのユニットは?」

 

ムドウ「《棺桶撃ち》はドロップゾーンからオーダーをバインドするだけで蘇生できるので、手札が尽きてもシュルドフィッシャーのデメリットを解除することのできる必須カードになるだろう。《鞭撻の乙女 イレーニア》もシンプルで使いやすい。

だが、先述したように、これらのスキルはいずれもソウルを消費する。アドバンテージになるからと言って、考え無しに使い続けていると、一瞬でシュルドフィッシャーがアタックできなくなって詰むぞ」

 

レイ「うう……気をつけまーす」

 

ミオ「ストイケイアでソウルを補充する手段としては、ペルソナライドが最も手軽です。少しでもペルソナライドできる可能性を高めるために、《ハイドロレール・ドラゴン》を採用してもいいでしょう。……《悲嘆と絶望、そして拒絶》無しにアタックが通るかは怪しいですが」

 

ムドウ「《扇情の蜜》が隠し味にいいと言ったのはそれも理由だな。

あと、こういったヴァンガードのパワーが高いデッキは、左右のリアガードが狙われやすい。ウルジュラ+クースィーのコンボで前列にクースィーを揃えることができれば、大半のリアガードが単体ではアタックを通すことができなくなる。

同じ理由で、前トリガーも相性がいい。相手のアタックで前トリガーを引いた場合で、ヴァンガードは28000、リアガードはG2であっても20000の鉄壁が出来上がる」

 

ミオ「あとはとにかくパワーを優先ですね。耐久力は高いですが、長期戦もできないデッキなので、素のパワーで押し切れるようにしましょう」

 

サキ「総じて、カードプールの少ない現状では扱いにくい事は確かですが、その分、環境も18000を安定して突破できるほどにはインフレしていません。パワー18000の恩恵を味わうのは今が最大のチャンスですよ!」

 

ムドウ「これは作者の中で《アディショナル・エンジェル》を越えたな」

 

 

●《鉄錨の憤竜》

 

レイ「……あれ? 魔合成、だけ? ゾルガの下位互換? ゾルガ持ってない人向けかな」

 

ミオ「よく見てください。この魔合成は同名カードでしか魔合成を行うことができません」

 

レイ「なーんだ…………えっ!?!?」

 

ミオ「裏を返せば、同名カードで魔合成ができる唯一無二のユニットです。ゾルガですら不可能な、強力なオーダーの連続使用を可能とした、全く新しいヴァンガードと言えるでしょう。

これは実質的に、ストイケイアにライドラインがひとつ追加されたと言っても過言ではありません」

 

レイ「また!?」

 

サキ「どんなオーダーで魔合成すれば強いんでしょうか」

 

ムドウ「まずは残念なお知らせだが、《悲嘆と絶望、そして拒絶》は使えない」

 

レイ「それが一番強そうだったのに!」

 

サキ「あれはゾルガ指定がありますから、仕方ありませんね……」

 

ムドウ「ダブル魔合成して面白そうなオーダーを以下にピックアップしてみた。順番に見ていくぞ」

 

レイ「ダブル魔合成!?」

 

 

《呪われし魂は悶え蠢く》

 

ミオ「ヘンドリーナの補助は必須ですが、+5000されたリアガードを4体展開することができます。ドロップゾーンにカードも溜まるので、一手目に使うことができれば、後述する他のカードの補助にもなりますね」

 

 

《逆流する冥府》

 

ミオ「ヘンドリーナやペルソナライド無しでも、一度はダブル魔合成することができます。2体除去しつつ、4体のスペリオルコールはまさに圧巻。《鉄錨の憤竜》を使うからには積極的に狙うべき主砲と言えるでしょう」

 

 

《霊体凝縮》

 

ムドウ「無難な選択肢だ。上記2種と違って腐る心配はまず無いが、正直、これでダブル魔合成を狙うくらいなら、ゾルガで普通に魔合成をした方がよっぽど強い。入れるとしたら《呪われし魂は悶え蠢く》と入れ替えになるな。

作者の経験上、こういったイロモノは平均値を底上げするよりも、最大値を高めた方が勝率は上がるのだが」

 

 

《扇情の蜜》

 

ムドウ「《悲嘆と絶望、そして拒絶》の代用と言ったところか。ドロップゾーンを高速で肥やして、これでダブル魔合成をすれば2体に+15000、★1と、悪くない効果は期待できる。

通常の《鉄錨の憤竜》デッキとは、また違った《鉄錨の憤竜》デッキは組めるかも知れんな。ただでさえ変態デッキで、変態プレイをしてどうするんだという話だが」

 

 

ムドウ「こんなところか。基本は《逆流する冥府》と《呪われし魂は悶え蠢く》or《霊体凝縮》を4枚ずつとなるだろう」

 

ミオ「投入しておきたいユニットは、《継承の乙女 ヘンドリーナ》と《鬼首狩り》のコスト軽減コンビはもちろん、《悲恋の妖精》があれば毎ターンのダブル魔合成も楽になりますね」

 

レイ「このあたりはゾルガデッキと大きく変わらないのかな」

 

ミオ「《逆流する冥府》を2連発する都合上、ドロップゾーンの状態は非常に大事です。ヘンドリーナだけでは足りない恐れがあるので、さらにドロップゾーンを肥やす要員として《レディ・デモリッシュ》も候補になるでしょう」

 

ムドウ「現状でも目を見張るほどの爆発力はあるが、所詮イロモノの域は越えないだろう。

だが、いずれ誰もがこのカードの存在を忘れた頃に、『オーダーは1ターンに1度』が前提でバランス調整した、超強力なオーダーカードが登場する可能性はある。

今がピークの《シュルドフィッシャー・ドラゴン》と比較して、こちらは可能性の塊と言える。

これは作者の中で《シュルドフィッシャー・ドラゴン》を越えたな」

 

レイ「さっきから作者が移り気すぎない!?」

 

サキ「まあ、この2体を、オーバーロードやファントム・ブラスターより多くの文字数使って考察してるのなんてウチくらいのものですよね……」

 

 

●《棺桶撃ち》

 

サキ「ストイケイアがグランブルーと呼ばれていた時代にも見られなかった、物凄く簡単な条件でドロップゾーンからスペリオルコールできるユニットです!」

 

レイ「その条件はソウル1と、ドロップにあるオーダーのバインド! メチャクチャ軽い! 軽いんだけど……」

 

ムドウ「ストイケイアはライドラインでソウルを使うくせに、ソウルチャージする手段が極端に少ない。ソウルは超貴重品だ。ゾルガ軸に至ってはドロップゾーンのオーダーすらキーカードだ。

軽いはずの条件が、お国の都合で非常に重くなってしまっている。

 

レイ「今弾で初めてもらえたソウルチャージできるユニットが、マグノリア軸でしか使えないゾウさんだもんね……」

 

サキ「書いてあることは強いはずなので、今後ソウルに余裕のあるライドラインか、そもそも安定したコスト回復手段を早くください! ってところでしょうか」

 

レイ「何でストイケイアだけ、こんなコストに厳しいんだろ? ヴェルリーナなんて、連続攻撃のついでに謎カウンターチャージしてるのにね!」

 

 

●《乱射怪人 バレットワスプ》

 

レイ「今弾に収録されているメガコロ枠は2枚! やった、1枚増えた!

って、別にアタシ達がメガコロのカードを考察する義理は無いんだけど、作者の趣味で1枚ずつ考察していくよ」

 

ムドウ「後列からインターセプトできる。それがどうした。以上」

 

レイ「オブラート!」

 

サキ「マ、マグノリア軸専用に見えますが、鉄錨の憤竜軸でも《呪われし魂は悶え蠢く》のランダムスペリオルコールでG2ばかりめくれた場合の保険になるかも知れませんよ!」

 

ムドウ「そんな保険を張るぐらいなら、10000以上のパワーで殴れるG1を代わりに入れた方が建設的だと思うがな」

 

 

●《レディ・デモリッシュ》

 

ムドウ「こちらは割とマトモだ。かわいいからな」

 

レイ「露骨!!」

 

サキ「このカードがブーストしたアタックがヒットすれば、山札から5枚もドロップしてくれます! ヘンドリーナの安定性には敵わないかも知れませんが、しっかり独自の強みは備えていますね。1回でも成功すれば、ゾルガ軸などドロップを重視するデッキはだいぶ動きやすくなりますよ!」

 

ムドウ「こいつや、レディ・バタフライ、レリッシュガール(レディ)、パピル・レイみたいなカードを見ていると、リリカルモナステリオにメガコロアイドルも登場するのではないかと思えてくるな」

 

レイ「それはない! ……と言おうとしたけど、蝶の羽を生やしたアイドルなんかは、妖精みたいでかわいいのかな?」

 

 

●《実りの季節》

 

レイ「ブルース軸には《ヘルブラスト・フルダイブ》、バスティオン軸には《並び立て、選ばれし騎士達よ》。

今弾にはフィニッシャーになり得る強力なオーダーが追加されてるけど、ヴァンガードらしからぬ、ほのぼのとしたイラストが目を引くこのカードもそんな1枚!」

 

ムドウ「ノーコストにして、後列のリアガードすべてにパワー+5000。破格のパンプ値の代償として、そのターン、ブーストも移動もできなくなるが、マグノリア軸ならば関係無いな」

 

レイ「ノーコストっていうのが、何をするにしてもコストを要求してくるクセして、カウンターチャージ手段もソウルチャージ手段もてんでもらえないマグノリア軸にはピッタリ! オーダーだから手札は消費してるんだけど、ぶっちゃけCB1より手札1枚の方が安い!」

 

ムドウ「他のユニットを後列からアタックできるようにする《樹角獣 ダマイナル》がいれば、ペルソナライドする前のターンから使っていける。これもまた複数枚採用も視野に入る優良オーダーだ」

 

 

●終

 

レイ「いやー、妙に盛りだくさんなパックだったよねー」

 

サキ「普通のトリガーが収録されてませんでしたからね。ほとんどのカードが何らかのスキルを持ったカードでした!」

 

ムドウ「あまり面白い考察ができそうになかった、新しい前トリガーについては他所を参照してくれ」

 

レイ「ふつーに便利!」

 

ムドウ「では、音無。最後の挨拶を頼む」

 

ミオ「はい。……また会おうねお兄ちゃん」

 

ムドウ「完璧だ」




私は黒緑が好きです。

「伝説との邂逅」のえくすとらをお送りさせて頂きました。
レギュラーメンバーが全員ツッコミ寄りなので、ボケ倒すキャラがひとりいるだけで回しやすくなります。

今弾は、思わぬ伏兵の登場で、デッキビルドがはかどりますね。
そんなわけで、今回はひさしぶりのデッキログを掲載です。
まだ回せていないので、ここから微調整は必須になるかと思いますが。

次回は7月1日前後に本編にてお会いしましょう。
お楽しみにして頂ければ幸いです。

【デッキログ】
鉄錨の憤竜:9P93
シュルドフィッシャー:74H9


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Ex.46「出航!リリカルモナステリオ!」&「Lyrical Melody」

●登場人物

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
好きなクリーチャーは《無限に廻るもの、ウラモグ/Ulamog, the Infinite Gyre》

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
好きなクリーチャーは《ギガントサウルス/Gigantosaurus》

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
好きなクリーチャーは《ボトルのノーム/Bottle Gnomes》

・柊マナ
ネガティブ思考がはかどる内向的な少女。高校1年生。
自信の無さに反して、ヴァンガードの実力は非常に高い。
使用クランは「ネオネクタール」
好きなエンチャントは《最下層民/Pariah》


●序

 

レイ「Dスタンのバミューダ△枠! 6つ目の国家、リリカルモナステリオ、ついに出航!!」

 

サキ「トライアルデッキ『出航!リリカルモナステリオ』と『Lyrical Melody』は同時発売で、分けて紹介する意味もあまり無さそうだったので、今回は合同で紹介させていただきます!」

 

ミオ「本日のゲストは、従来ならバミューダ△使いのヒビキさんをお呼びしていたところなのですが、前話の本編の流れでヒビキさんを登場させるのも違和感があったので、今回はその後輩をお呼びしています」

 

レイ「あ、もしかして、その子って……!!」

 

サキ「バミューダ△ともリリカルモナステリオともまったく関係の無いネオネクタール使い、柊マナちゃんです! どうぞー!」

 

レイ「わー、マナちゃんだー!」

 

マナ「ご紹介に預かりました、柊マナと申します。……あ、誰も私のことなんて興味無いですよね。失礼致しました。

私ごときの名前を覚えるのも億劫かと存じますので、どうか下等生物とでもお呼びください」

 

レイ「地を這いずれ!?」

 

マナ「本当に私なんかの知識なんて、トイレの落書きほどの価値もありませんので、どうか期待しないでください」

 

ミオ「価値が無いことを気にする人なんて、ここにはいませんよ」

 

マナ「ミオさん……」

 

ミオ「いるだけでマイナスになるゲストなんかもいますからね」

 

コキュートス(こっきゅん)「うむ」

 

レイ「いや、アンタのことでしょ!?」

 

サキ「こっきゅんさん、ひさしぶりの登場ですねー」

 

こっきゅん「くくく……オーバードレスになってから、登場する機会を窺っておったのだが、此度は我が後継者に相応しい娘を見つけてな」

 

レイ「こっきゅんの言う後継者とは誰のことなのか! リリカルえくすとら、はじまりまーす!!」

 

 

●《Astesice カイリ》

 

レイ「『Astesice』はリリカルモナステリオにおける、由緒正しきマーメイドのグループ!!

その戦い方もバミューダ△の得意技、バウンスを絡めたものになってるよ!」

 

サキ「《Astesice カイリ》は、アタック時にSB1でリアガード2枚をバウンス!

さらにアタック終了時、ペルソナライドしているなら手札から2枚のカードを前列と後列にスペリオルコールです!」

 

ミオ「例えば、登場時にパワー+10000できる《元気に登校 キャルフィ》と《青髪の異才 リシウス》をスペリオルコールすることで、手軽にパワー43000で追撃ができるというわけですね」

 

レイ「数値が軽くない!!」

 

マナ「《青髪の異才 リシウス》を《モグモグ娘 シーヤ》に変えることで、アタック回数を増やすこともできます」

 

レイ「……ん? キャルフィはG3なのにパワー10000で、リシウスとシーヤはG1でパワー3000? ずいぶんとパワー低くない?」

 

サキ「そうだよ! リリカルモナステリオは他の国家と比較して、全体的にパワーが低めなの! アイドルの集まりだし、やっぱり戦いは苦手なのかな?」

 

ミオ「ですが、それでカードとして使えなくなるわけではありません。むしろ、上述の3枚のように、パワーが低ければ低いほど、スキルはしっかり盛られています」

 

サキ「パワーが低いユニットは、スキルに注目! リリカルモナステリオを楽しむポイントのひとつですね」

 

マナ「確定ライドのおかげで、パワーの低いユニットにライドしてしまう心配が無いのもいいですね」

 

レイ「Astesiceのまとめとしては、バウンスで相手ターンの攻撃に備えたり、無駄の無い連続アタックに繋げたり、優秀な登場時スキルを使いまわしたりする、安定したテーマ!!

バミューダらしく戦いたいなら、迷うことなくこの子かな!」

 

 

●《Earnescorrectリーダー クラリッサ》《目指せ!最強のアイドル!》

 

レイ「しれっと登場した新種族、ドラゴロイドは人の姿をした、ドラゴンの女の子たち!

たぶん設定上は男の子もいるんだろうけど、リリカルモナステリオ的には関係無し!」

 

マナ「クラリッサは、まずライドラインがすごいんです。

G1クラリッサへのライド時に山札の上から7枚見て、G1『Earnescorrect』を手札に。

G2クラリッサへのライド時に山札の上から7枚見て、G2『Earnescorrect』を手札に。

さらにG3クラリッサへのライド時には、オーダーカード《目指せ!最強のアイドル!》を手札に加えます。

ある程度の運は必要ですが、ただライドするだけで3アドを取れるライドラインは、今のところクラリッサのみとなります」

 

レイ「すごっ!!」

 

ミオ「そんなすごいクラリッサのスキルは、アタックがヒットした時に1枚引いて、『Earnescorrect』のリアガードを1枚選んで+5000します」

 

レイ「ヴァンガードがヒット時能力持ってるのは偉いけど、ちょっと地味だね。ライドラインで燃え尽きちゃった?」

 

サキ「それもそのはず。クラリッサの本領は、ライドラインで手札に加えた《目指せ!最強のアイドル!》にあるんだよ!」

 

レイ「あ、そう言えば、そんなこと言ってたね」

 

サキ「《目指せ!最強のアイドル!》は、『Earnescorrect』が5種類以上いる時にプレイでき、『Earnescorrect』すべてにパワー+5000!

さらにヴァンガードのクラリッサが、ビッグバンナックル・バスターよろしく、好きな相手ユニット3体にアタックできるようになるよ!!」

 

レイ「隠しきれないドラゴンとしての本性……!!」

 

ミオ「…………」

 

 

 

 

――ミオの脳内

 

クラリッサ「この曲が終わったら、次はてめえだ!」

 

エブリン「当然だ! 馴れ合いなんぞごめんだぜ!」

 

 

 

 

ミオ「…………」

 

サキ「変なイメージするのはやめてくださいねー」

 

レイ「待って!? クラリッサのスキルって、たしかヒット時に1ドローだったよね……?」

 

マナ「はい。クラリッサのアタックが3体すべてにヒットすれば3ドロー、リアガードの『Earnescorrect』3体に+5000です」

 

レイ「ギャー!!!」

 

マナ「あえてヴァンガードをアタック対象に含めず、相手リアガードを全滅させて、アド差に任せた消耗戦を仕掛けるのも強そうですね。

……あ、面白くない戦い方しか思いつかなくてごめんなさい。死にます」

 

レイ「こんなところで死なないで!?」

 

ミオ「ドローできる枚数が多いので、一度でもコンボが決まれば、2度目3度目の《目指せ!最強のアイドル》も連鎖的に使える公算が高いでしょう。

しかし、条件となっている『Earnescorrect』は5種類ちょうどしかなく、ひとりでも欠けてしまうと全体が大幅にパワーダウンしてしまいます。

総じて、ハイリスクハイリターンなデッキと言えるでしょう」

 

レイ「特定のユニットを揃えて、オーダーでドーンっていうのは、Vスタンのバンドリ的だね!」

 

 

●《双翼の大天使 アレスティエル》

 

レイ「白と黒。天使と堕天使の翼を持つ少女。《双翼の大天使 アレスティエル》降臨!!

……って、カッコよ!!!

え? こういうの、リリカルじゃなく、ケテサンで出して欲しいんだけど!?」

 

サキ「光と闇の融合って、いくつになっても憧れちゃうよねー」

 

マナ「名前もまったくアイドルっぽくないような……」

 

ミオ「アレスティエルはバインドゾーンにあるカードによって、そのスキルを変化させます。

アレスティエルのライドラインを例に解説していきましょう」

 

レイ「はーい♪」

 

ミオ「G1アレスティエルがVに登場した時、山札の上から1枚バインドします」

 

レイ「ふむふむ」

 

ミオ「それが白翼なら、ライドデッキからライドする時、手札を捨てる代わりにソウルブラスト1することができるようになり、

それが黒翼なら、相手はグレード1以下のリアガードでこのユニットにアタックできなくなります」

 

レイ「なんて!?」

 

ミオ「白翼なら、ライドデッキからライドする時、手札を捨てる代わりに……」

 

レイ「リピートしてほしいわけじゃなくて! さっきから白翼とか、黒翼とか、何の話!?」

 

サキ「白翼、黒翼は、アレスティエルデッキのギミックだよ。

白翼は、バインドゾーンに奇数グレードのみある場合に有効になり、

黒翼は、バインドゾーンに偶数グレードのみある場合に有効になるんだよ」

 

レイ「何それ!? ややこし!! ていうか、どっちがどっちか覚えられないんだけど!?」

 

サキ「正直、ケレン味より、分かりやすさを優先して欲しかったところだよね」

 

マナ「一部特殊レアリティでは注釈文が省略されているので、より分かりにくくなっています。

……ああ、公式(かみ)のご意向を批判してしまいました。消されるかも……」

 

レイ「まず消されるのは作者だから安心して!?」

 

サキ「それ以前に、こんなところ公式は見ていないから安心して欲しいかな」

 

ミオ「メンバーから総スカンなので、今後、白翼は奇数、黒翼は偶数と表記するようにします」

 

マナ「ちなみに作者はどちらでもない状態を片翼の天使と呼称してます」

 

レイ「セ〇ィロス!?」

 

ミオ「アレスティエルに話を戻しましょう。

G2へのライド時、バインドゾーンのカードを山札に戻し、再び山札の上から1枚をバインド。

奇数の場合、CB1で★+1、

偶数の場合、このユニットのアタックはトリガーでガードされなくなります」

 

レイ「重い1撃と、堅実な1発! けど、コストもかかってるだけあって、やっぱり★が魅力的かな?」

 

ミオ「そしていよいよG3です。

G3になってからは、メインフェイズ開始時にバインドゾーンのカードを1枚手札に加え、山札の上から1枚バインドします」

 

レイ「偶数奇数が変化しちゃう可能性があるけど、毎ターン手札が稼げるようになるわけだね!」

 

ミオ「はい。G3アレスティエルは、

奇数の場合、このユニットのパワー+5000、★+1、

偶数の場合、相手ユニットすべてのパワー-5000です」

 

レイ「うーん……弱くはないけど、どちらが起こるか分からないギャンブル効果なことを考えたら地味じゃない?

環境は違えど、Vスタンのレオパルドは、もっとすごいことやってたよね」

 

サキ「Dスタンでも、バロウマグネスと比較したら、ちょっと寂しいところはあるよね。

もちろんソウルチャージというお膳立てが必要なバロウマグネスとは一概には比較できないんだけど、その分、こちらもランダム要素があって不安定なわけだし」

 

レイ「ま、いずれ両方の効果が発動するスキルが登場するかもね!」

 

サキ「……あはは、そうだね!」

 

レイ「それまではギャンブル効果で楽しく遊ぼう!」

 

 

●《降り注ぐ歌声 エルケエル》

 

ミオ「このカードがバインドされた時、次の相手ターン終了時まで、偶数奇数どちらも有効になります」

 

レイ「あ る ん か い ! ! !」

 

こっきゅん「全ての可能性を掴み取る……悪い答えじゃないわね」

 

レイ「こういうカードがあるなら話は違う! 奇数の★と、偶数の弱体化が組み合わされば破壊力は抜群!!」

 

マナ「ですが、このエルケエルもけっこう弱点だらけだったりするんです」

 

レイ「え?」

 

マナ「あ、水を差してごめんなさい。死にます」

 

レイ「いいから! 解説して!」

 

マナ「エルケエルは、ヴァンガードが登場した時、このユニットをバインドして、1枚ドローすることができます。

ですので、G3であるこのカードをバインドできるタイミングは、基本的にはアレスティエルがペルソナライドする段階になります」

 

レイ「まあタイミングが遅いくらいはいいよね。ペルソナライドで本気出すユニットなんて、他にいくらでもいるわけだし」

 

マナ「重ねて申し上げますが、エルケエルはG3です。従ってエルケエルは前列に置かれているでしょう。相手としてもエルケエルがキーカードなのは自明なので、間違いなくエルケエルは集中攻撃されます」

 

レイ「あ……」

 

マナ「アタックだけなら手札さえよければ守り切れるかもしれませんが、除去はどうしようもありません。タイミング的に、監獄入りすらアウトです。

セラス・ホワイト軸や、ユージン軸を相手にした場合、エルケエルは諦める他無いでしょう」

 

レイ「うーん。確かに大変そうだね」

 

マナ「スキルによるバインドに成功した後にも、ちょっとした欠陥が……」

 

レイ「まだ何かあるの!?」

 

マナ「欠点ばかり挙げ連ねてすみません。死に――」

 

レイ「これ以上、死にますとか言ったら絶交だからね?」

 

マナ「――ません。

エルケエルがスキルの発動に成功した時点で、バインドゾーンのカードは2枚になってしまいます。エルケエルがバインドされたターンはいいのですが、それを過ぎたらエルケエルも普通のG3に戻ってしまいます。

そこにメインフェイズ開始時の、アレスティエルのスキルが発動してしまうと……」

 

レイ「偶数と奇数のカードが並んじゃう……」

 

マナ「はい。片翼の天使になってしまう可能性があるのです」

 

サキ「それ、使うんだねー」

 

マナ「ですので、エルケエルのスキルを使う場合、そのターンで決着をつけるつもりで発動しなければ、じりじりと不利に追い込まれてしまいます。ご注意ください」

 

ミオ「と色々書き連ねましたが、このカードがアレスティエル軸のキーカードであることは疑いようがありません。フル投入しておけば、アレスティエルのスキルで偶然バインドされる可能性もそれなりにあるので、基本的にはそれを目当てに4枚採用しておくべきカードです」

 

 

●《儚き憧れ バルエル》

 

ミオ「せっかくの面白いカードなので、アレスティエルはもう少し考察しましょうか」

 

サキ「はい! 今弾にはアレスティエル以外にも、白翼、黒翼のスキルを有しているユニットが存在します。

アレスティエルと違い、所持しているのはどちらか片方だけで、それは自身のグレードに対応しています。

G1、G3(奇数)は白翼。G2(偶数)は黒翼といった具合ですね」

 

ミオ「そのことから、アレスティエルは大きく分けて3パターンの構築が想定されます。

ひとつ、奇数(G1、G3)のカードを多く採用する白翼型。

ふたつ、偶数(G0、G2)のカードを多く採用する黒翼型。

みっつ、奇数偶数こだわらずに強力なカードを上から順に採用した折衷型」

 

マナ「折衷型は、白翼黒翼関連カードを採用するか、関連カードをまったく採用しないかでも分けられそうですね。

関連カードを採用する場合、エルケエルがバインドされた場合の爆発力は凄まじいことになりますが、不安定なギャンブルデッキになりそうです。

一方、関連カードを採用しない場合は、アレスティエル本体こそムラがありますが、基本的には安定して戦える構築になります。インフレが進んで汎用カードが増えてくると、より強くなる型ですね」

 

サキ「この《儚き憧れ バルエル》は、偶数の黒翼デッキを組む理由になる逸材です!」

 

マナ「このユニットがRに登場した時、SB3することで、グレードが偶数のリアガード2枚につき、相手ユニット1枚選び、パワーを-5000します」

 

レイ「アレスティエルの偶数スキルと併せて、ヴァンガードのパワーを-10000してしまえるわけだね」

 

ミオ「それだけではありません。パワーが0以下のユニットは、山札に戻されます」

 

レイ「パワー5000以下のユニットは問答無用で除去! パワー10000以下のユニットはバルエルのスキルの対象にすることで除去!」

 

ミオ「偶数デッキを組む場合、前列はG2、後列はG0になるのでパワー不足が深刻です。このカードは、まさしくその弱点を補って余りあるものであると言えるでしょう」

 

レイ「下に偶数デッキのメリット・デメリットをまとめておいたよ! 参考にしてね!」

 

◆メリット

・特化すればデッキ内の奇数カードは完ガとアレスティエルのみという構築も可能なので、動きが安定する(それらを諦めれば完全に偶数のみにすることすら可)

・G2が多いので、比較的序盤から展開できる

 

◆デメリット

・前列がG2、後列がG0になりがちなので、パワーが低い

・ガード値の高いカードを手放さなければブーストできないので、意外と守りも弱い

 

 

●《虹映える翼 エリムエル》

 

サキ「こちらは奇数デッキの必殺技です!

奇数ユニット3枚につき、リアガードを1枚選び、パワー+5000、★+1!

アレスティエルの奇数スキルと併せて、全ライン★2の布陣が完成します!」

 

ミオ「前列にはG3、後列にはG1を並べることができるので、奇数デッキはパワーが高くなります。その特徴を最大限に生かしてくれるスキルと言えるでしょう」

 

レイ「前列にパワー8000や、パワー13000が並びがちなので、10000ブーストが大活躍! ヴェロキハザード互換の出番かな? 《踏み出す勇気を ベルティーユ》は要注目!」

 

マナ「奇数デッキは一見隙が無く、エリムエルのスキルも強力無比に見えますが、奇数リアガードを5体並べるという条件はかなり厳しかったりします。

というのも、メインデッキには必ず16枚の偶数カード、トリガーが入っているからですね。

当然、アレスティエルのスキルで奇数を置ける確率も低くなっているので、見た目以上にデッキは安定しません。

え? そんなことは分かっている? 失礼致しました……」

 

レイ「い、一応、奇数デッキのメリット・デメリットも下にまとめておいたよ!」

 

◇メリット

・前列にG3、後列にG1を並べられるので、全体的にパワーが高い

・エルケエルが無理なく採用できる

 

◇デメリット

・G3が多くなるので、ガード値が低くなりがち

・トリガー(偶数)の数は変えられないので、アレスティエルのスキルだけでは奇数のバインドが安定せず、盤面に奇数を並べるのも安定しない

・G2がいないので速攻性に欠ける

 

 

●《愛を見つめて ティルスエル》

 

レイ「何かメガコロみたいなこと言いだしたんだけど!」

 

 

●《彼方への飛翔 チェルエル》

 

レイ「スタンド封じまでしだしたんだけど!?」

 

 

●《みんなに響け ロロネロル》

 

ミオ「オーダーゾーンから表の曲を1枚選んで歌います」

 

レイ「……はい?」

 

ミオ「このユニットがアタックした時も歌います」

 

レイ「ついにヴァンガードがジョークカードを……」

 

こっきゅん「ゴチ!」

 

サキ「もちろんそんなわけもなく! こちらはロロネロル独自のギミックとなります!

曲というのはセットオーダーのひとつで、歌うというのは曲のスキルを発動させ、裏にすることを指します!」

 

レイ「なーんだ! じゃあ、この子の強さはセットオーダーの強さに集約されそうだね!」

 

サキ「はい! 次はロロネロルのキーカードを紹介しますよ!」

 

レイ「それよりもさー。コラボとかするぐらいなら、ヴァンガードでもジョークカードとか出して欲しくない?」

 

ミオ「このユニットがアタックがヒットした時、対戦相手に飲み物を買ってきてもらう」

 

サキ「対戦相手がデニムを着ていた場合、このユニットのアタックはガードされない」

 

レイ「このユニットがVに登場した時、ブースターパックを開封し、1枚を手札に加える」

 

マナ「《市場調査部によればヴァンガードファイターは本当に長い名前が好きなのでこのカードを間違いなく歴代最長の名前にしてみた・ドラゴン》」

 

こっきゅん「あなたのドライブチェックでユニットカードが出た時、それが「忍妖」を含むノーマルユニットならRにコールし、そのターン中、そのユニットのパワー+10000。違うなら、ドロップに置く。(この効果は強制)」

 

レイ「それはジョークじゃないからね!?」

 

 

●《六花ふらくたる》

 

ミオ「ロロネロルを語るには欠かせない、ある意味、ロロネロルの本体とも言えるのが、この曲です」

 

レイ「少し前でも同じようなこと言ってたような!?」

 

ミオ「まずはオーダーゾーンに置かれた時、オーダーゾーンの裏のカードを1枚、表にすることができます」

 

レイ「一度歌った曲を使いまわせるようになるわけだね!」

 

ミオ「圧巻なのが、この曲を歌った時の効果です。

リアガードを裏のオーダーと同じ枚数選びスタンドさせ、スタンドさせたユニット1体につき、このヴァンガードのパワーも+10000させます。

ロロネロルがバトルフェイズ中に歌えるようになるのはG3ロロネロルにライドしてからターンをまたぐ必要がありますが」

 

サキ「バトルフェイズ中に歌えば、5回アタックしつつ、ロロネロルは守護者封じのパワー33000オーバー!! 一気呵成に劣らぬ破壊力です!」

 

マナ「メインフェイズで《茜色らんうぇい》を歌っていれば、ロロネロルの★が+1され、突破力が上がり、《潮騒とわいらいと》を歌っていれば前列ユニットのパワーが+5000され、連続攻撃のプレッシャーを底上げできます」

 

ミオ「ちなみにその次のターン、さらに《六花ふらくたる》を使えば、4体スタンドの、パワー53000守護者封じです」

 

レイ「その歌の破壊力、まさにジャイ〇ン級!!」

 

こっきゅん「ボエー」

 

 

●《生真面目会長 エクノア》

 

サキ「いったい何の会長なんでしょう……」

 

レイ「ていうか、この子の種族はヒューマンなんだけどさ……それってもう完璧に一般人だよね?

ドラゴロイドやワービーストは身体能力が高いんだろうし、マーメイドはまだ神秘的な力があったのかも知れないけど、この子はもう言い訳の余地無く非戦闘員だよね!?」

 

 

●《果てしなき蒼》《揺るぎなき緋》

 

サキ「次に紹介するのは、《煌めく光彩 ウィリスタ》!!

ですが、まずはウィリスタと切っては切れない関係にある2種類の宝石オーダーを紹介しましょう!」

 

レイ「また意味不明の用語から導入されたら、たまんないもんね!」

 

サキ「実際、今回は特殊なギミックが多くて、作者は紹介順に悩んでいるらしいですよ」

 

ミオ「《果てしなき蒼》は好きなユニットにパワー+5000して、このカードをソウルに置きます」

 

レイ「ウィリスタ関係無く便利! 緊急でソウルが欲しくなるようなデッキなら、普通に採用したくなるね!」

 

サキ「ふふふ……次はもっとすごいですよ。

《揺るぎなき緋》はCB1が必要ですが、2枚引いて、1枚捨てる! もちろん、このカードもソウルに置かれます!」

 

レイ「え!? 2枚の手札交換しながらソウルも増えるの!? そんなの、どんなデッキであろうと採用できるじゃん!」

 

サキ「そう思うよねー? けど、思わぬ落とし穴が……」

 

マナ「リリカルモナステリオにおける他のテーマは、オーダーを採用しにくかったり、そもそも別のオーダーを使用するため、宝石カードを使っている余裕が無かったりするんです」

 

レイ「え? あ、そっか! 『Earnescorrect』は毎ターン《目指せ!最強のアイドル!》を使っていきたいし、ロロネロルも曲をセットしないとダメだもんね。アレスティエルも、白翼をメインにしたい場合は入れられない……」

 

マナ「次に紹介するフェルティローザも、ユニット以外のカードを入れにくいデザインになってます……」

 

レイ「それでも、多少のデメリットは享受してでも採用の余地はあるよね? 例えば『Earnescorrect』はG3になるまでオーダーは使わないわけだし、コンボデッキだから手札交換の需要は他よりも高い!」

 

ミオ「奇数以外のアレスティエルや、『Astesice』になら無理無く採用できますね。どちらもメインヴァンガードがカウンターコストを使用しない点も噛み合っています」

 

レイ「特に偶数アレスティエルは、キーカードのバルエルがソウルをめっちゃ使うので、フル投入でもいいかも!」

 

 

●《煌めく光彩 ウィリスタ》

 

サキ「思わぬ汎用カードの登場に盛り上がってしまいましたが、いよいよウィリスタの紹介ですよ!」

 

レイ「あの《揺るぎなき緋》様の主だもんねー! 楽しみー!!」

 

サキ「ウィリスタのスキルはふたつ!

ひとつは《揺るぎなき緋》をソウルブラストすることで、パワー+15000、インターセプト封じ!

便利な《揺るぎなき緋》が条件になってる点からも、こっちは毎ターン使っていくのが大前提になりそう」

 

レイ「インターセプトを完全に封じられたゲームは、相手にとってかなり窮屈なはず!」

 

サキ「もうひとつは《果てしなき蒼》をソウルブラストすることで、山札の上から5枚見て、その中から2体をスペリオルコール! オマケでパワーも+5000!」

 

レイ「爆アド!! って、《呪われし魂は悶え蠢く》+1じゃん!」

 

マナ「弱点も《呪われし魂は悶え蠢く》と同じです。ウィリスタはデッキに宝石オーダーをフル投入するようなデッキなので……」

 

レイ「5枚の中にオーダーが混ざっちゃって、強力なユニットが展開できない可能性もあるわけだね」

 

マナ「それともうひとつ。めくった5枚のうち、コールしなかった3枚は捨てられます」

 

レイ「……え?」

 

こっきゅん「このスキル1つで、5枚の山札が消え去るということだ」

 

マナ「ちなみにこのスキル。1ターンに1回制限はありません」

 

レイ「やめてやめて! こんなスキル連発したら、デッキアウト一直線だよ!?

あっ、こっきゅんを言う後継者って、もしかしてこの子!?」

 

こっきゅん「うむ」

 

マナ「《揺るぎなき緋》でも2枚引いちゃいますしね……」

 

レイ「え? 実はウィリスタと《揺るぎなき緋》って相性悪いんじゃ……」

 

マナ「サポートカードもやたら引かせたがってくる子がいたり……」

 

レイ「いじめ!?」

 

マナ「展開やプレイングによっては、バロウマグネス軸より先に山札が尽きることもあるでしょう」

 

レイ「そのくせバロウマグネスやゾルガよりパワーが出せるかっていうと、そうでも無さそうなんだよねー」

 

サキ「インターセプト封じが刺さる相手には強いんでしょうけど……」

 

レイ「ほんと、なんで『捨てる』なんて書いたんだろうね。それさえ無ければ、リリカル随一のド安定デッキとして君臨できたのに。

今はとにかくドロー力と展開力を生かして速攻を仕掛けるのが肝要かな。

引トリガーも必要無いので、★と前を増やしてガンガン攻めちゃおう!」

 

 

●《見守る深愛 オティリエ》

 

マナ「やたら引かせたがってくる子、その1です」

 

ミオ「《揺るぎなき緋》をプレイした時、パワー+10000、オーダーを追加でプレイする権利を獲得します」

 

サキ「権利の追加は重複するので、《揺るぎなき緋》を連続で使うことも可能です! 4回使えば、オティリエのパワーは53000!!」

 

こっきゅん「そして吹き飛ぶ8枚の山札」

 

レイ「やめたげて!!」

 

 

●《静謐なる慈愛 エリヴィラ》

 

マナ「やたら引かせたがってくる子、その2です」

 

サキ「こちらは《果てしなき蒼》をプレイした時、1枚ドローできます!

《果てしなき蒼》は、単体で使えばディスアドですので、できる限りこのカードと組み合わせたいですね」

 

ミオ「もちろん効果は重複するので、このカードが3体並んだ状態で《果てしなき蒼》をプレイすれば、3ドローです」

 

サキ「やったー!! ……って、もう素直に喜べないんだけど!?」

 

 

●《宵闇月の輪舞曲 フェルティローザ》

 

レイ「薔薇の名を持つ、幽霊を従えた吸血鬼のお姉様!

3000年前にも聞いたようなプロフィールだけど、関連性は如何に!?」

 

ミオ「その動きも、非常にグランブルーらしいものになっています」

 

サキ「ドライブチェックでゴーストのノーマルユニットが出た時、そのカードをユニットのいない前列にコールすることができます!

もちろんゴースト達にも、アタック終了時にリアガードサークルを離れてくれる子が存在してますよ!」

 

レイ「おお! 連続攻撃!」

 

サキ「さらに! コールしたらCB1でドライブ+1!!

理想を言えば、ゴースト2体で追撃しつつ、トリガー2枚を引いてくることだって!」

 

マナ「ただし、せっかく前列のリアガードを空けておいたのに、いきなりトリガーを連続で引いてしまって追撃できなかったという事態も想像できます」

 

レイ「ダブルトリガーがハズレ扱い!」

 

ミオ「ダブルトリガーならマシな方ですね。

ペルソナライドのために投入しているG3のフェルティローザや、完全ガードを引いてしまった場合、本当に何も起こりません」

 

レイ「5種類も完ガあるのに、何でゴーストが1体もいないの!?」

 

マナ「攻撃的なデッキなので、いっそのこと完全ガードを採用しないという選択肢もありえそうです」

 

ミオ「フェルティローザを相手にする時において気をつけたいのは、2枚貫通のガードは要注意ということですね」

 

レイ「ん? どういうこと?」

 

ミオ「フェルティローザ1回目のドライブチェックでトリガーを引いたと仮定します。

フェルティローザの盤面は、前列のリアガードサークルがどちらも空いているので、その時にはトリガー効果をフェルティローザに振ることしかできません」

 

レイ「うん、そうだよね…………あっ!!」

 

ミオ「次のドライブチェックでもトリガーを引かれた場合、2枚貫通のガードでは貫通されてしまいます。

・フェルティローザにしかトリガーを振れないタイミングがある。

・ドライブチェックの試行回数が多い。

この2点から、ダブルトリガーによるガード貫通が、フェルティローザ戦では多発します。

フェルティローザのパワーは低いのですが、ガードはできる限り完全ガードを使用した方が安全でしょう」

 

サキ「使う側としては、プレッシャーを高めるために、★トリガー16枚入れて、ダブルクリティカルが頻発する構築にしても面白そうですね」

 

レイ「全国家で一番最初に★16構築できるようになったんだよねー、リリカルって」

 

マナ「20000ガードの前トリガーは何故かもらえませんでしたけど……」

 

レイ「総じて、Earnescorrectとは別の方向性で振れ幅大きめのピーキーデッキ!

気まぐれお嬢様や、ゴースト達に振り回される気分で使ってみては?」

 

ミオ「作者の夢だったバンシーデッキが、斜め上の方向性で実現したとも言えそうですね」

 

 

●《華燭絢爛 エステランザ》《神秘の双子姉妹 ロミア&ルミア》《デモニックフィーバー ガルヴィエラ》《ファンタスティックフィニャーレ キャトリーナ》《神恩天唱 グリザエル》

 

ミオ「リリカルモナステリオの超トリガーも紹介しましょう」

 

レイ「エステランザ他の追加効果は、ゴルマギエルドと同じファイト中持続!

それもVに★+1、パワー+10000していたあちらとは真逆に、全リアガードに+10000!!」

 

サキ「後攻1ターン目に引かれたら、ほぼほぼゲームエンドな点は同じだけど、ゴルマギエルドより有効な場面は多くなりそう」

 

レイ「ゴルマギエルドはVのアタックだけ意識してればよかったもんね。極端な話、しっかり完ガさえ引けていれば、ゴルマギエルドはどうにかなったんだけど……」

 

サキ「こちらは適当なリアガードでVをブーストすればVに+10000されたも同然で、他のガード要求値も桁違いに上昇するので、Vだけ★が増加するよりよっぽど効率的にダメージが伸びそうだよね」

 

レイ「ゴルマギエルドの強みと言えば、ダメージ4で2枚貫通のガードをしてきた場合、そのままゲームエンドに持ち込めるぐらい?

そんな土壇場で2枚貫通のガードしか支払えないようじゃ、いずれにしろ+20000された残り2回のアタックでゲームが終わりそうだけど!」

 

 

●《手を取り合って エルネスタ》

 

レイ「《僕にその手を汚せというのか エルネスタ》」

 

サキ「《思い通りにいかないのが世の中なんて割り切りたくないから エルネスタ》」

 

ミオ「《駆り立てるのは野心と欲望、横たわるのは犬と豚 エルネスタ》」

 

こっきゅん「《愛にすべてを エルネスタ》」

 

レイ「それはゲームが違うからね!?」

 

 

●《世界周遊スペシャルライブツアー!》

 

ミオ「汎用カードにも、何枚か目を向けていきましょう」

 

レイ「《世界周遊スペシャルライブツアー!》はセットオーダー!

CB2で、ヴァンガードにリアガードすべてのパワー+5000の永続効果を与えるよ!

セットオーダーは使い減りしないのが魅力だけど、コストが重めなので実質使い切りになってしまうことも多そう」

 

サキ「その分、破壊力はコスト相応!

アタック回数が多めのデッキとは、特に相性がよさそうです!」

 

レイ「4回以上のアタックができるデッキは、Astesice、ロロネロル、フェルティローザだね」

 

ミオ「同じトライアルデッキに収録されているだけあって、Astesiceとの相性は良好です。カウンターコストをほとんど消費しない構築も容易なので、このスキルを2度使うこともできるでしょう」

 

レイ「ロロネロルは基本的に毎ターン曲オーダーをセットしなくちゃに見えるけど、ライドラインでも曲を置けるから、意外と余裕はありそうなんだよね」

 

サキ「後列もスタンドさせ、守護者封じまで持つロロネロルとの相性は、上記3種の中でも抜群です!

ロロネロルもサポートカードもカウンターコストを消費しがちなため、コスト管理もシビアですが、攻撃的なロロネロルデッキを組むなら試してみるのはいかがでしょう!?」

 

マナ「フェルティローザは、全体的にパワーが低めで、なおかつ不安定なので、+5000の全体パンプは、あればとても嬉しいです。

ですが、ゴースト以外のカードを投入することで、肝心のスペリオルコールが失敗してしまうリスクも増加し、こちらもコスト管理が大変です。

……フェルティローザの場合、やたらコストが余るパターンもありそうですけど」

 

レイ「ほんと、+5000自体はノドから手が出るくらいに欲しいデッキなんだけどねー」

 

 

●《挫けぬ才能 ヘンリエッタ》

 

レイ「ブーストしてもらったユニットのガード値分、パワーが増えるユニットだよ!

とは言え、★トリガーや前トリガーでブーストしても、合計パワー30000と、コストかけてる割には控えめ設定。

G3なら33000だったのにー!」

 

ミオ「このカードならではの強みを生かすのであれば、超トリガーでブーストをしてあげる必要があります」

 

レイ「パワー65000!!!」

 

ミオ「とは言え、パワーのためだけに超トリガーをコールするのはもったいないです。

Astesiceであれば、超トリガーをコールしても手札に戻すことができるので、好相性です」

 

マナ「ランダムスペリオルコールを多用するウィリスタは、トリガーが盤面に並びがちで、超トリガーがスペリオルコールされる可能性だって当然あります。そういった状況を、ヘンリエッタならフォローできて、むしろチャンスに変えることすらできそうですね」

 

サキ「G0でブーストするシチュエーションがほとんどな、偶数アレスティエルとの相性もよさそうですよ!」

 

 

●《パワフルダッシュ アンドーラ》

 

ミオ「手札から登場した時、CB2で★+1することができます。

Astesiceで突破力が欲しい場合に採用の余地がある他、白翼アレスティエルでは、エリムエルと合わせることで、★3でアタックすることができます」

 

レイ「今弾のユニットって、走ってるユニットが妙に多いんだよね」

 

ミオ「それについても調査済みです。

明らかに全力ダッシュしてるのが4枚、はっきりと読みとれないけどまあ走ってるだろうな的なイラストが3枚です」

 

レイ「わーい、相変わらずどうでもいい情報には手厚ーい」

 

ミオ「カード名は《堅実な歩み ペコリー》なのに、イラストでは走っているという、わけのわからないカードもありました」

 

レイ「本当にどうでもいい!!」

 

ミオ「7枚という記録は、1位の歌っている・踊っている、2位の飲み食いしているに次いで、堂々の第3位です」※何かを読んでいるも3位タイ

 

レイ「そんな気はしていたけど、食事シーンも多いんだね……」

 

ミオ「シャケをくわえながら走っている《元気に登校 キャルフィ》のような、どちらの派閥に所属したいのかよくわからないユニットもいました」

 

レイ「派閥とかないからね!?」

 

ミオ「ちなみに食事しているユニット総数は15枚です。特にゴーストの食事率が異常に高く、今弾に収録されたゴースト15枚中7枚、約半数のユニットが何らかを口にしています」

 

レイ「そもそもお化けって食事必要なのかな!?」

 

ミオ「もちろん首魁のフェルティローザもG0のイラストでトマトジュースを……」

 

レイ「あれ、絶対にトマトジュースじゃないからね!?」

 

ミオ「なお、お菓子や紅茶が映っているだけの《自撮練習中 アンネリーゼ》や《魂を込めた指揮 リヒャルダ》は除外しているので、それらを含めるならば、より枚数は増えます。

デッキ構築の参考にして頂ければ幸いです」

 

レイ「何を参考にしろと!?」

 

 

●《壮麗音調 リューディア》

 

レイ「顔つきと構図がアイドルというより、もはや中ボス!!

フレーバーも無駄にかっこいい!」

 

マナ「手札を2枚失っての、ヴァンガードと同名カード確保。ヒット時でなくなった代わりにディスアドが生じるようになったテンシャーステッドと言えそうです」

 

ミオ「なりふり構わずペルソナライドを使いたいデッキで採用するカードと言えるでしょう」

 

レイ「スキルにペルソナライドが関わっているユニットは、リリカルではAstesiceのみ!

Astesiceでは採用しておきたいカードだね。

とは言え、大なり小なりペルソナライドなんてみんなしたいものだから、どんなデッキにでも採用の余地はありそうだけど」

 

 

●終

 

こっきゅん「疑問なのだが」

 

レイ「何?」

 

こっきゅん「この学園には、何故これほどまでに浮かばれぬ霊(ゴースト)が彷徨っておるのだ?」

 

レイ「……たしかに!!」

 

ミオ「学園の裏で、何か後ろ暗いことをしているのは間違いないでしょうね」

 

マナ「その秘密に気付いた生徒が消されては、また新たなゴーストになるという無限ループ……」

 

サキ「いや、単にストイケイアのゴーストが入学してきただけでは……」

 

レイ「リリカルモナステリオが抱える深い闇に触れたところで、今日はお開きにしたいと思いまーす!」

 

サキ「いや、あの、その……」

 

ミオ「また次回のえくすとらでお会いしましょう」

 

マナ「私とお会いする機会は、もう無いと思いますけど……」

 

こっきゅん「さらばだ……」




リリカルのえくすとらをお届けさせて頂きました。
お楽しみ頂ければ幸いです。

ひさびさ登場のこっきゅん。
レイ&マナとは初対面ですが、面倒だったので初対面時の反応は省略させて頂きました。
どっちも普通に受け入れそうだし。

今回登場(?)したジョークカードは、すべて実在するものとなります(細部はヴァンガードに対応させていますが)
調べてみるだけでも面白いので、興味をお持ちの方は、是非とも「MTG アングルード」あたりで検索してみてください。

それでは次回、9月の本編でお会いしましょう!


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Ex.47「Vクランコレクション Vol.1」

●登場人物

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、天才で超人で変態。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
好きなオーラバトラーは「ドラムロ」

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
好きなオーラバトラーは「ズワウス」

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
好きなオーラバトラーは「サーバイン」

・天道アリサ
カードショップで働くアルバイト店員で、ミオの先輩。
ノリは軽いが、根はマジメな大学1年生。
使用クランは「メガコロニー」
好きなオーラバトラーは「ライネック」


●序

 

レイ「Dスタンに入ってから初! Vスタンのパックが登場!!

その名も、Vクランコレクション!!!」

 

サキ「やっぱりVスタンの住人としては嬉しいよね!

この中からどのカードがこの小説に登場するのかも楽しみだね」

 

ミオ「今日のゲストはVol.1のパッケージを飾っているロイヤルパラディンの……」

 

サキ「あっ、この小説でロイヤルパラディンと言えば!」

 

ミオ「ブラスター・ブレードさんをお呼びしています」

 

ブラスター・ブレード「それは勇気という名の光の剣! 輝け、ブラスター・ブレード!!」

 

サキ「そっち!?」

 

ミオ「ブラスター・ブレードさんは、本編に登場経験もありますからね。ゲストとしてお呼びできる資格は十分にあります」

 

サキ「それはそうですけど……」

 

ブラブレ「ゲストとして招かれた以上、この剣に誓って、カードを解説して見せる!」

 

レイ「うわあ、暑苦しい」

 

サキ「けど、意外ですね」

 

ミオ「何がでしょう」

 

サキ「てっきり今回はアリサさんがゲストに登場するかと思ったんですけど」

 

ミオ「あの人は、放っておいても然るべき時に乱入してくるので、わざわざ呼ぶ必要はありませんよ」

 

サキ「信頼という名の放置……!!」

 

ミオ「それでは、カードの総数も多いので、さっそく各カードを見ていきましょう」

 

ブラブレ「心得た」

 

 

●《探索者 シングセイバー・ドラゴン》《ブラスター・ブレード・探索者》

 

サキ「トップバッターは、シングセイバーと、探索者時代のブラスター・ブレードさんです! レギオン期のカードですね」

 

レイ「うーん……けど、これまでVスタンでは《ブラスター・ブレード・解放者》とかも登場させずにやってきたわけだし、最後まで《ブラスター・ブレード》を使って欲しかった気持ちはあるかな……」

 

ブラブレ「すまない」

 

ミオ「シングセイバーはV登場時に、《ブラスター・ブレード・探索者》を山札からスペリオルコールして、フォースの数だけパワー+10000します」

 

サキ「その《ブラスター・ブレード・探索者》は、登場時に手札を1枚捨てることで、相手の前列リアガードを退却させ、探索者ヴァンガードの元々の★を2にします!」

 

ブラブレ「これは強力なカードだな!」

 

サキ「自画自賛みたいになってますよー」

 

レイ「シングセイバーの見せ場は、もうひとつのスキルにある!

このユニットがアタックしたバトル終了時、このターンにライドしていないなら、SB3してドロップから山札に4枚戻すことで、山札からシングセイバーにライドできるよ!

もちろん、シングセイバーの登場時スキルも誘発するので、《ブラスター・ブレード・探索者》とあわせて2回の追撃が可能!」

 

ブラブレ「ソウルメイト・レギオン!!」

 

レイ「1ターン待たなければならない点は、一気呵成に近そうだね。Dスタンのカードだけど。

その分、手札も捨てない、ドライブも減らないと、連続攻撃できるヴァンガードでは間違いなく最高峰!!」

 

ブラブレ「これが絆の力だ!」

 

ミオ「そんな完全無欠に見えるシングセイバーですが、弱点がひとつあります」

 

サキ「? 後攻の場合、動き出しが遅れてしまう点ですか? アクセルみたいな早いデッキに先行を取られた場合、治ガーディアンがあるとは言え、苦戦を強いられそうですけど」

 

ブラブレ「その程度の困難、我が勇気で覆してみせる!」

 

レイ「根性論!?」

 

ミオ「それもありますが、それが弱点とは思えなくなるくらい、致命的な弱点です。天敵と言い換えた方がいいかも知れませんが」

 

サキ「ええ? なんですかぁ?」

 

ミオ「……やれやれ。あなたは私と何回ファイトしてきたのですか? この小説のタイトルを声に出して言ってみてください」

 

サキ「え? 根絶しょ……あっ!!!」

 

ミオ「そうです。シングセイバーをデリートしてしまえば、シングセイバーのスキルは失われ、かと言って再ライドしてしまうとソウルメイト・レギオンできなくなる。

デリートは、まごうことなきシングセイバーに対する回答です。

卑劣なシングセイバーの連続攻撃を、心清き根絶者のデリートが封じる。

なんと美しい主人公ムーブでしょう」

 

ブラブレ「くっ! おのれ、侵略者め!」

 

ミオ「侵略者ではありません。根絶者です」

 

サキ(ミオさんが調子に乗ってる……)

 

 

●《月弓の斎王 ツクミオリ》

 

ミオ「★トリガーです。以上」

 

レイ「いやホント、ツクヨミにとっても、他のオラクルにとっても、トリガーが20枚に増えたら強いのはわかるんだけどね!?

みんなが新しいエースをもらってる中、さすがにこれはやっつけすぎない!?」

 

 

●《幸運の女神 フォルトナ》

 

レイ「望む枚数ソウルブラストすることで、ソウルブラストした枚数分だけ山札を見て、好きな順番で山札の上に置き直せるよ! ……溢れ出るふろまーじゅ感!」

 

ミオ「ふろまーじゅとの最大の違いは、カードをデッキボトムに置けない点ですね。ノーマルユニットがめくれるタイミングは、自身のもうひとつのスキルや、引トリガーでやり過ごしたり、次のドローフェイズに持ち越したり、ひと工夫が必要になります」

 

レオ「お姉ちゃんも示唆していた、アタック時にユニット数に応じてソウルチャージできるスキルや、ダメージチェックでトリガーがめくれた時、フォースを得るスキルも持ってるよ! ……何でダメージチェック!?」

 

サキ「デッキめくって、ノーマルユニットをソウルチャージして、アタック時にダブルトリガー引いて、フォースとトリガー効果を得た2体で追撃 ……の方が、デザイン的に綺麗だったのにね」

 

レイ「今のままだと、デッキめくって、ノーマルユニットソウルチャージして、アタック時にもノーマルユニット引いて、受けにトリガーを温存しとく ……って不格好なプレイングになりそうだよね。

10枚くらいめくったら、攻めにも受けにもトリガーは残せそうだけど、山札は保つのかなぁ?」

 

ブラブレ「勇気さえあれば、どんな困難も乗り越えられるはずだ」

 

レイ「デッキアウトは難しいんじゃないかな!?」

 

 

●《封竜 ブロケード》

 

ブラブレ「ついに封竜の封印が解かれたか……!!」

 

レイ「イラストがヤバカッコいい!!」

 

サキ「そんなブロケードのスキルは、CB1でグレード2のリアガードをすべて退却させるという、非常に封竜らしいスキルです!

さらに、退却させたユニット1枚につき、前列ユニットのパワー+10000!!

各種サポートカードを使うか、相手がアクセルクランであった場合、前列+30000や40000くらい容易に到達します。

アタック回数こそ増えませんが、強化効率は目を見張るレベルですね!

相手の盤面にG2がいなければ、元々の★も+1されます」

 

ミオ「なお、相手の場にG2がいなかった場合、残念賞としてフォースが贈呈されます」

 

サキ「残念賞!?」

 

 

●《封竜 カルゼ》

 

レイ「指どころか、掌まるまる使ってるんだけど!?」

 

 

●《忍妖統領 ヌラ・ヒョウガ》

 

レイ「むらくもの新ユニットは、どこぞの侍大将と微妙に名前の被ったぬらりひょん! まさかの『忍妖』サポートだよ!!」

 

ミオ「CB1することで、山札を上から5枚見て、『忍妖』を含むカードを1枚スペリオルコール。

その後、相手のヴァンガードがグレード3以上なら、『忍妖」を含むあなたのリアガード2種類につき、そのターン中、このユニットのドライブ+1します」

 

レイ「おおっ! さすがに名称サポートだけあって、強力だね! アクセルサークルひとつしか無い状況からでも、条件さえ満たせばクインテットドライブ!!!!!」

 

ミオ「ところがぎっちょん」

 

レイ「ぎっちょん?」

 

ミオ「ドライブチェックでユニットカードが出た時、それが『忍妖』を含むノーマルユニットなら、リアガードにコールし、そのターン中、そのユニットのパワー+10000。違うなら、ドロップに置きます(この効果は強制)」

 

レイ「……え? それって」

 

ミオ「はい。ドライブチェックめくれたカードが忍妖であろうとなかろうと、それが手札に加わることは絶対にあり得ません。

唯一の例外は、オーダーカードですが、クイックシールドしかブリッツオーダーが無い現状、それを生かす手段は皆無でしょう」

 

サキ「しかも何がすごいって、このデメリット……ドライブ増加していなくても適用されるんだよね」

 

レイ「ひとりだけヴァンガードZEROの世界で生きてない!?」

 

サキ「百鬼夜行というか、もはや崖に向かって行進するレミングの群れ……」

 

レイ「もしくは江戸っ子なんじゃないかな? 宵越しの金は持たねえぜってやつ」

 

サキ「あの世への駄賃に大量の手札を抱えて死んでいく、どこぞの“THE BLOOD”も見習って欲しい潔さではあるけど……」

 

ミオ「こうなると、気になるのは『忍妖』の質ですが……」

 

レイ「そ、そうだよね! 『忍妖』さえ強ければまだ……」

 

ミオ「安心してください。『忍妖』は粒揃いです」

 

レイ「よかったー!!」

 

ミオ「あらゆるむらくもデッキで引っ張りだこ。同名カードがいればターン終了時にソウルインして1ドロー。ブーストまでできる器用な傑作カード《忍妖 ダンガンニュードー》を筆頭に」

 

レイ「ふむふむ」

 

ミオ「シラユキサポートの《忍妖 レイニィマダム》や《忍妖 ジャコツガール》も『忍妖』ですし、同名カードを揃えることに特化した《忍妖 ミッドナイトクロウ》や《忍妖 モロテサヴィラント》も依然として強力なカードです。

ドライブチェックでめくれた場合、アクセルサークルにスペリオルコールできる《忍妖 ヒャクメシャドウ》と言った変わり種も存在します」

 

レイ「やったー!! それならどうにか『忍妖』デッキも形にはなりそうだね…………ん?」

 

ミオ「どうかしましたか?」

 

レイ「『忍妖』デッキにシラユキは入れられないよね? シラユキは『忍妖』じゃないし」

 

ミオ「はい。ドライブチェックでめくれたシラユキが手札に加わらずドロップゾーンに送られるという屈辱を味わいたければどうぞ入れてください」

 

レイ「状況によってはトリガーより嬉しいカードなのに!」

 

サキ「設定上はシラユキも忍妖のはずなんですけどねー」

 

ミオ「むらくもをひとつの会社に例えたとして、ヌラを忍妖部の部長とするなら、シラユキは忍妖部雪女課の課長のようなものですからね」

 

レイ「それにミッドナイトクロウも、モロテサヴィラントも、ダンガンニュードーだって! 忍妖デッキで同名カードを揃えてちゃダメだよね!?」

 

ミオ「はい。ヌラが要求しているのは『忍妖』の種類ですからね」

 

レイ「ヒャクメシャドウに至っては、できることが完全に被ってない!?」

 

ミオ「モロ被りですね」

 

レイ「ヌラと『忍妖』の相性最悪じゃない!?」

 

ミオ「最悪です」

 

サキ「そもそも種類を要求するという行為自体が、むらくも本来の動きと正反対なんですよねー。

どこぞの侍大将が『ユニットをすべて同名にする』というスキルひとつで(全体除去もあるけど)、どれほど猛威を振るったか思い出してみてくださいよ。

それほどまでに同名ユニットを揃えたむらくものユニットというのは危険な存在なんです!!

同名を揃えるなと言われたら、そりゃあもう半数のカードがバニラも同然になりますよ!!」

 

ミオ「ちなみに『忍妖』は強力なユニットこそ揃っていますが、G1は3種類しかいません」

 

レイ「少なっ!!」

 

ミオ「そのうちの2枚は完全ガードです」

 

レイ「え? 何でそんな名称をテーマにしようだなんて考えたの?」

 

サキ「百鬼夜行なんだから、忍鬼も含めてよかったよねー」

 

ミオ「さらに『忍妖』のトリガーは、引トリガー1種類、治トリガー2種類です」

 

レイ「よりにもよって治トリガーで被った!!」

 

ミオ「このことから、後列にブーストできる忍妖を並べようとした場合、治トリガー(ユキヒメ)、治トリガー(バンブーフォックス)、完全ガードという悲惨な並びになってしまう恐れがあります」

 

レイ「ただでさえ守備が脆いのに!」

 

ブラブレ「……これはもう我が勇気をもってしても救いが無いのではないか」

 

レイ「英雄ですら匙を投げた!!!」

 

ブラブレ「すまない。私が未熟なばかりに……」

 

レイ「あっ! そうだ! いっそのこと、★16枚にするっていうのはどう? 腐ってもクインテットドライブだから、相手がノーガード宣言した時点でワンショットキルできる可能性は高いでしょ!」

 

ミオ「★を16枚にした場合、引トリガーと、治トリガーと、守護者がデッキに入れられなくなるので、ブーストできるユニットがレイニィマダムだけになりますが」

 

レイ「そうだった!!」

 

ミオ「フォローしようとした端から破綻していく賽の河原にも似た感覚。ここひと月、ヌラを見てからの作者が陥っている地獄です」

 

レイ「ねえ、お姉ちゃん! このヌラ・ヒョウガとか言うカード、本当にどうにかならないの!?

こういうどうしようもないカードを救済するのが『根絶少女』のえくすとらであり、作者のスタンスでしょ!?」

 

ミオ「よく誤解されがちなのですが、作者が好きなカードは『評価はされていないが実は強い』や『現状は弱いが将来性は非常に高い』などの磨けば光る原石であって、うまのふんを磨く趣味は無いのですが……」

 

レイ「言い方! もうオブラートが限界になってる!」

 

ミオ「作者がやらなければ、誰もやってくれそうにないので、徳を積むつもりでヌラ・ヒョウガのデッキ構築と戦い方を考察していきましょうか。なんとも慈悲深い作者ですね」

 

レイ「もう言い草に徳が感じられないよ!?」

 

ミオ「まず、最初は話の流れで否定しましたが、シラユキは入れるべきだと考えます」

 

レイ「やっぱりシラユキサポートの2枚をバニラにしておくのはもったいない?」

 

ミオ「それもありますが、先行でヌラにライドするのはあまりにも危険です。ドライブチェックで手札が増えないので、最悪、次のターンで一気に仕留められてしまう可能性がありますし、そうでなくてもヌラをよく理解している対戦相手であれば、リアガードを潰してきます」

 

レイ「そっか……ドライブで手札が増えないから、リアガードを除去されたら埋め直すのも難しいし、埋め直せなくなるとドライブ数も増やせないんだ」

 

ミオ「他にも、対戦相手にはG2のまま戦うという選択肢もありますね。相手はシングルドライブのアド1、こちらはツインドライブのアド無し。

この時点で互角ですし、相手が《エリート怪人 ギラファ》のような、毎ターンアドを稼げるG2の場合、こちらが不利です。

とにかく弱点だらけのヌラに初手でライドするのは、好きにしてくれと言っているようなものですので、ヌラの射程に入るまではシラユキで戦うことをおすすめします。やりすぎると普通にシラユキデッキを使いたくなること請け合いですが。

幸い、ヌラの決定力だけは確かなので、シラユキで一気にダメージを与えた後は、すぐにヌラへとライドできるでしょう」

 

レイ「これならどうにか形にはなりそうだね……!!」

 

ミオ「あとは『忍妖』を6種類並べて、クインテットドライブでシラユキがめくれないことを祈るだけです」

 

レイ「う……やっぱり条件が多いなぁ」

 

ミオ「特務ヤスイエデッキで、前列にウィーズルブルー4体、後列にウィーズルホワイト2体とタケヒメを並べて、ドライブチェックで前トリガーを1枚引くくらいの確率で達成できるんじゃないでしょうか」

 

レイ「それなら、もうそっちの方が強くない!?」

 

ミオ「基本的にヌラとヤスイエの関係はそんな感じですよ。ヌラで強い盤面を想定するのなら、ヤスイエはより強い盤面を、より少ない労力で構築できる場合がほとんどです」

 

レイ「うう……」

 

ミオ「どうしても忍妖だけで戦いたいという稀有な方……もといこだわり派は、序盤にあえてダメージを受けて《忍妖 オーガスパイダー》にライドすることをおすすめします。

あまりユニットが展開できず、3~4枚しかドローできないかも知れませんが、ヌラにライドするよりはよっぽどマシです」

 

サキ「あとは……これも最初は否定しちゃいましたけど、★16構築もアリだと思います」

 

レイ「えっ?」

 

ミオ「そうですね。G1はレイニィマダムだけになりますが、ここは無事にライドできることを祈ってください」

 

サキ「対戦相手がG3になったら、こちらもヌラにライドして、後列にG2だろうとG3だろうと『忍妖』をコールして、とにかくクインテットドライブを適用させます。

クインテットドライブさえ適用されたら、後列にトリガーをコールするなど、ブーストをつけてあげてください」

 

ミオ「リアの忍妖でアタックを終えたあとは、いよいよヌラでアタック。

相手がノーガードを宣言してきたら、相手に6点を与えられるだけの枚数、★トリガーがめくれることを祈ってください。

相手が『〇枚貫通』のガードをしてきたら、トリガーは全てヌラに乗せて、貫通することを祈ってください。

相手が完全ガードしてきたら、忍妖ばかりめくれることを祈ってください」

 

レイ「神頼み多くない!?」

 

ミオ「以上が、この1ヵ月、作者が模索したヌラの生かし方です」

 

レイ「ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。毒ばっかりで、気を悪くした人がいたらごめんね?」

 

ミオ「まだまだヌラには弱点があるのですが、書ききれないので一部省略していますからね」

 

レイ「本当はえくすとらでカードをこき下ろしたくないんだけど。

どんなしょうもないカードでも、おもしろおかしくいじって終わりにしたいんだけど。

でも正直、このカード、作者はけっこう頭にきてるんだ。

Vスタンのカード追加が半年に1回になる代わりに、バランス調整はしっかりできるようになるっていう公式のコメントをどっかで見た覚えがあるんだけど。

今のむらくもって、ものすごく調整が難しいと思うんだよね。

ヤスイエって圧倒的なエースがいて、ひとつ間違えれば制限カードに逆戻りのシラユキって爆弾も抱えてる。

ヤスイエより強くしつつ、シラユキを制限しなくて済むような、絶妙な強さのヴァンガードが求められていたワケ。

それでも半年あればしっかり調整してくれるんだろうと思って、蓋を開けてみれば結果はこのザマ。

この半年間、何をしていたの?

マガツをぬばたまにしたことと言い、アニメでむらくも使いだったシンさんをジェネシス使いにしたことと言い、ホントこのゲームってむらくもに対して不誠実だよね?

まともにテストプレイしたとも思えないヌラのスペックは、正直言って残念。

いや、作者の本音を代弁させてもらうなら、失望した、かな」

 

 

●《忍妖 フライトシックル》《忍妖 レディ・シルエッタ》

 

レイ「『忍妖』にG1が3種類(含む完ガ2種)しかいないのは、作り手なら分かってるはずなのに、むらくもだけ新規カードを2枚ともG2にするっていう神経がもう理解できないんだけど!?」

 

 

●《忍竜 ジュオンチャンター》

 

レイ「直近のPRでG1どころか『忍妖』ですらないカードをつける理由が、もう分からないんだけど!?」

 

 

 

●《抹消者 ボーイングソード・ドラゴン》

 

レイ「さーっ! 気を取り直して、次のカードいってみよー!!」

 

サキ「はいっ! なるかみからはボーイングソードが再登場です!」

 

ミオ「相手のノーマルユニットがバインドされた時、それと同名カードを山札からバインドします」

 

ブラブレ「《連鎖破壊(チェーンデストラクション)》か!!」

 

サキ「厳密に言うと《連鎖除外》が近いですけどね」

 

ミオ「ボーイングソード自体は、ヴァンガードにいる間はユニットをバインドする手段を持ちません。バインドは他のリアガードに頼る必要がありますが、なるかみならバインド手段には事欠かないでしょう」

 

サキ「本領発揮は、ライドされた時です!

まずこのユニットがリアガードにコールされ、ダメージゾーン2枚につきドロップゾーンのカードを1枚バインド!

ライドしたユニットがディセンダントだった場合、デッキ破壊効果も誘発するため、ディセンダントのバインドと併せて、相手のデッキはズタズタに!!」

 

ミオ「なるかみにしては、本体のパワーが高いだけで、★も増えない、リアガードのパンプもしないと平凡な戦闘能力ですが、それを補って余りある妨害能力と言えるでしょう」

 

ブラブレ「とんだハリキリボーイだな!」

 

レイ「相手のデッキからアタッカーを根こそぎ取り除ける反面、トリガー率を高めてしまうので、守護者封じしてくるヴァンガードや、スタンドしてくるヴァンガードには要注意!

ダブクリであっさりガード貫通とか、ツインドライブ×2で4連続トリガーとか、ふつーにありえるからね!」

 

ミオ「因果応報ですね」

 

 

●《抹消者 スパークレイン・ドラゴン》

 

ミオ「ついに《抹消者 スパークレイン・ドラゴン》と《抹消者 スパークレイズ・ドラゴン》が並び立つ日がきたようですね」

 

レイ「ややこしっ!!」

 

 

●《超次元ロボ ダイカイザー》

 

レイ「ついに登場! ダイッ! カイッ! ザーッ!!」

 

ミオ「スキルが多いうえに複雑に絡み合っているため、このユニットの動きを順序立てて説明しつつ、理想の動きを解説していきたいと思います」

 

サキ「まず、ひとつめのスキルは、このユニットがパワー35000以上なら、★+1の永続スキル!

ディメンジョンポリスらしい条件に、ディメンジョンポリスらしい★の増加!

まさしくこれぞディメンジョンポリスと言ったスキルです!

これについては、今のディメンジョンポリスであれば、条件を満たすことはさほど難しくないでしょう。

ただ、次の布石のために、できればパワー45000を目指したいところ……」

 

レイ「バトルフェイズ、ダイカイザーでアタック時にふたつめのスキルが発動!!

そのドライブチェックでG3がめくれたバトルの終了時、そのバトルで相手が守護者を合計1枚コールしたならCB1で1ダメージ!! ……つよっ!」

 

ミオ「詳しくは後ほど解説する予定ですが、G3の治トリガーである治ガーディアンは、無理なくデッキにG3を増やすことができるため相性が抜群です」

 

サキ「ダイカイザーの戦いは、それだけでは終わりません!

バトル終了時、ダイカイザーのパワーが45000以上で、このターンに登場していないのなら!

手札の《究極次元ロボ グレートダイユーシャ》のスキルが発動! グレートダイユーシャにスペリオルライドします!!」

 

レイ「ライドされた時、ダイカイザーみっつめのスキルも発動!

このユニットを前列にスペリオルコール!! 並び立つダイユーシャとダイカイザー!! あの繋ぎ絵カードを思いだしちゃうね!

ついでにヴァンガードがフォースをゲット!」

 

サキ「グレートダイユーシャのスキルでダイカイザーを含めたユニットのパワーを+10000して、今度はグレートダイユーシャでアタック!!

ダイカイザーふたつめのスキルは、なんと前列リアガードでも発動します!!」

 

レイ「つまり、もういっかい、完全ガードしても1ダメージを与える(かも知れない)スキルが発動する!! どんな悪党もこれにはまいった!」

 

ミオ「ダイカイザーを相手にした場合の攻略法は、ダイカイザーのアタックは積極的に完全ガードしていくことです」

 

レイ「え? 1ダメージ受けちゃう(かも知れない)のに?」

 

ミオ「はい。それでも本来なら2ダメージを受けてしまうところを1ダメージに抑えることはできますし、相手がG3をめくることができなければガードは普通に成立します。

G3をめくられたとしても、ヴァンガードでアタックするたびにCB1を使わされていては、ダイカイザー側のコストが枯渇します」

 

レイ「そっか。ダイカイザー側としては、ダイザウラスとかのスキルも積極的に使っていきたいしね」

 

ミオ「プロテクト殺しのスキルに見えて、その実、プロテクトこそが最もダイカイザー攻略に向いていると言えるでしょう。

ここぞという場面では、完全ガードを2枚使うことで、ダイカイザーのスキルを発動させなくすることもできます」

 

サキ「ダイカイザーのスキル発動条件は、守護者が合計1枚コールされていることですからね。2枚目の守護者のコストを支払う必要は無いので、3枚の消費で完全ガードです!」

 

ミオ「……まあ、そんな手間をかけずとも、より簡単にダイカイザーを攻略する手段があるのですが」

 

サキ「あ、この流れは……」

 

ミオ「はい。根絶者を使うことです。デリートを解除するには再ライドが必須なので、ライドしていないことが条件の、グレートダイユーシャへのスペリオルライドを封じることができます。

さすがは根絶者。ダイカイザーの姑息な企みすら手玉に取ってしまうとは。

これは本当に根絶者の時代が来るかも知れませんね。ふふ、ふふふ……」

 

サキ(ミオさんがメチャクチャ調子に乗ってる……)

 

 

●《魔王 ダッドリー・エンペラー》

 

レイ「告げろ、地球のボールデッドを!

スパイクブラザーズが誇る白き魔王が、ついにVスタン出場決定!!」

 

ミオ「ひとつめのスキルは、Vからアタックした時、CB1することで山札からG2以上の『ダッドリー』をスペリオルコールします。

前弾収録の《ダッドリー・デーヴィー》をスペリオルコールすることで、容易にアタック回数を2回増やすことができますね」

 

レイ「うん! 実にダッドリー・エンペラーらしいスキルだね!」

 

ミオ「もうひとつのスキルは、リアガードがアタックした時、ヴァンガードが『ダッドリー』なら、そのバトル中、そのリアガードのパワー+5000し、そのバトル終了時、そのリアガードを山札の下に置きます。このスキルはリアガードでも使えるので、後列に置いてブースト代わりにしても面白いでしょう」

 

レイ「ふむふむ……って! やってること完全に昔の《バッドエンド・ドラッガー》じゃん!!」

 

サキ「そうだよ! Vスタンの《バッドエンド・ドラッガー》が、昔とは似ても似つかないスキルになっちゃったので、単体で往年の名デッキ『バッドエンド・エンペラー』を再現しちゃったのが、今回の《ダッドリー・エンペラー》なの!」

 

レイ「ふたつのスキルを併せることで、アタックするユニットのパワーは全て+5000され山札に戻り、エンペラーのアタック時にユニットが空きサークルにコールされ、そのパワーも+5000される……パワーとアタック回数を兼ね備えた、昔のスパイクを彷彿とさせる逸品だね!」

 

ミオ「ヴァンガードが『ダッドリー』でなければふたつめのスキルは適用されないので、《逸材 ライジング・ノヴァ》でダッドリー・エンペラーをコピーしても本領を発揮することはできません。

スパイクブラザーズは久しぶりに、ライジング・ノヴァ以外のデッキタイプを手に入れたと言えるでしょう」

 

レイ「ライジング・ノヴァ1強のスパイクに、新たな風を吹き込むことができるのか!? 要注目だね!!」

 

 

●《バニーズビーストテイマー ティレイプス》

 

サキ「まさかの『バニー』が名称化! かわいいウサギさんを華麗に操るビーストテイマーが登場です!!」

 

レイ「バニーぃ? また『忍妖』みたいに、笑えないオチがつくんじゃないだろうね?」

 

サキ(レイちゃんがヌラ・ショックでやさぐれちゃってる……)

 

ミオ「『バニー』はこれまでで3種類しか登場していません……」

 

レイ「そら見たことか!!」

 

ミオ「その3種類とは、《ミッドナイト・バニー》、《ブラッシー・バニー》、《マスカレード・バニー》ですが」

 

レイ「そうそうたる顔ぶれ……!!」

 

サキ「3体しかいなくて、3体ともバリバリの現役ってすごいよね……」

 

ミオ「そんな『バニー』を率いるティレイプスも、過去ユニットのリメイクばかりがもてはやされるVコレに、一石を投じる可能性を秘めた逸材です」

 

サキ「まずは永続パンプ能力。ソウルのG1『バニー』1枚につき、前列ユニットのパワー+1000されます。

G1バニーは新規カードを含めても16枚が限界です。序盤なら2000~3000、終盤なら5000~6000と言ったところでしょうか」

 

レイ「最近のカードにしては控えめなパンプかな?」

 

サキ「もうひとつのスキルは起動スキル。CB1して手札から2枚をソウルに置くことで、ソウルからグレード2以下を2体コールするよ!

さらに! 『ビーストテイマー』のいる前列リアガードをひとつ選んで、そのサークルはヴァンガードサークルになる!!」

 

レイ「今度はビーストテイマー!?」

 

ミオ「ベターな選択肢は、新規カードの《バニーズビーストテイマーのお手伝い クロリナ》です。

リアガードとソウルにG1バニーが3体いればドライブ+1され、アタックした時にソウルからさらにユニットをスペリオルコールして追撃もできます。

G2なので、ティレイプスがソウルから呼び出すこともできるので、このユニットが用意できないことはまず無いと言ってよいでしょう」

 

レイ「そんな簡単にヴァンガード2体による計4回のドライブチェックができるなんて……。メチャクチャ厳しい条件を達成してようやく手札を放棄した5回ドライブチェックができるヌラは何なの……?」

 

サキ「ま、まあヌラと比較したら、なんだって強く見えちゃいますから」

 

ブラブレ「ヌラのことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」

 

レイ「ん? けど、ベターな選択肢って言ったよね? これだけでも十分すごいのに、ベストな選択肢がまだあるの?」

 

ミオ「はい。VRにビーストテイマーが1枚ありますよ」

 

レイ「……あっ! 《ゴールデン・ビーストテイマー》!!」

 

ミオ「正解です。《ゴールデン・ビーストテイマー》なら元々ツインドライブである点はもちろん、+3000の前列パンプを持ち、アタック時にユニットを2体スペリオルコールすることができる。コストを度外視すればクロリナの上位互換です。

G3なのでティレイプスのスキルで呼ぶことはできませんが、G1『バニー』は4枚中3枚が手札交換系のスキルを持つので、あらかじめ手札に加えておくことは容易でしょう」

 

レイ「ティレイプスもゴールデンもパンプ値は微量だけど、重なれば侮れない数値になりそうだね!」

 

サキ「『相手がG3である』とか『ライドしていない時』とか厄介な枷も無く、治ガーディアンで捌きにくいダブルヴァンガードのアタックに、そこそこのパワー! トップクラスのアタック回数! 4体の『バニー』が織りなす抜群の安定性!

どこを取っても危険な要素しか無い、作者が選ぶ、Vクランコレクション最強候補!!

それでいて古いカードが活躍できたり、遊び心も忘れていない、すべてにおいて百点満点のカードだよ!!」

 

ブラブレ「ルックスもイケメンだ!」

 

レイ「本当にVコレの開発に半年かけたとして、5ヵ月はこのカードにかけてるよね? ヌラは1日?」

 

ブラブレ「これからのヴァンガードは、首刎ねウサギに要注意だ!」

 

サキ「バニーちゃんは、そんなことしません!」

 

 

●《孤立の静淑 レフィアレード》

 

ブラブレ「バミューダ△に、内気なメガネっ娘が登場だ!!

このユニットは、CB1して、手札を1枚捨て、さらにこのユニットをレストすることで、スキルを発動するぞ!!」

 

レイ「いや、ちょっと待った!!」

 

ブラブレ「どうした、根絶者の少女よ」

 

レイ「ヴァンガードをレストしてちゃダメでしょ!? アタックもドライブチェックもできなくなるよ!?」

 

ブラブレ「案ずる必要はない。レフィアレードのスキルは、ヴァンガードによるアタックを放棄する価値があるものになっている!

まず、フォースが4つ以下なら、フォースを2つ得ることができ、

その後、山札の上からフォースのあるリアガードと同じ枚数だけ公開して手札に加え、公開されたトリガー効果をすべて発動する!」

 

サキ「アタックは放棄するけど、ドライブチェックの恩恵はしっかり受け取るんですねー」

 

ブラブレ「相手にダメージを与えずに手札を増やすことができるので、点止めも上手いぞ!」

 

レイ「英雄がセコいこと言い出した!!」

 

ブラブレ「さらにレフィアレードは、相手のグレードが3以上であるならば、フォースマーカーのある、G2以下のユニットは、後列からアタックできるようになる!」

 

レイ「……うーん。新しいことやってるように見えて、これまでのバミューダ△と、そんな変わってなくない?」

 

ブラブレ「むう」

 

レイ「フォースを増やしながら5回アタックって、結局のところ、ルピナやアンジュとやってること、ほとんど同じだよね?

というか、このふたりの頃から『やってること同じだなー』って思ってたし。またか……って感じかな」

 

ブラブレ「くっ!」

 

レイ「ヴァンガードのアタック放棄なんて新しいことやるのなら、もっと独自路線を貫いて欲しかったかも。

しっかりアタックしてるのに、ドライブの恩恵すらロクに得られないヌラに申し訳が立たないよ!?」

 

 

●《巡り巡る奇跡 アトロキア》

 

ブラブレ「スタンドできるレジェンドアイドルが登場だ!!」

 

レイ「イリーナは!?」

 

ブラブレ「このユニットは、バトル終了時、リアとドロップから3枚ずつノーマルユニットをデッキボトムに戻すことでスタンドできる!」

 

ミオ「デッキボトムとは言え、レジェンドアイドルデッキはシャッフルが発生しやすいデッキです。シャッフルしてしまうとデッキのトリガー率が低下してしまうので、そのターンに決着をつけてしまうつもりで使うのがいいでしょう」

 

レイ「レインディアデッキに入れる場合、ティルアの存在がネックかな。ドライブ数こそアトロキアの方が上だけど、ティルアはパワーも高いし、バウンスもしてくれるし、カード消費も手札1枚だけ。リアガードとしても優秀だし、ティルアより優先されることは無さそうかな。

G4なんだから、むしろ大きく差をつけて欲しかったところなんだけど……。

もちろんハイランダーデッキだから、ティルアも入れて、アトロキアも入れるって選択肢はあるけどね」

 

サキ「そもそも、レインディアからライドした場合、ドライブ-1されているので、3枚の消費に見合わないんですよね。どちらか言うと、単体で使っていくレジェンドアイドルなのかも知れないですね。それならデッキをなるべくシャッフルしない構築にもできそうですし!」

 

 

●《世界を包め愛の歌(オムニア・ウィンキト・アモル) ベネデッタ》

 

レイ「名前が無駄にカッコよすぎる!!」

 

 

●《蒼波竜 テトラ・ドライブ・ドラゴン》

 

サキ「アクアフォースからは、テトラドライブが参戦です!!

作者の周りでは人気の高い回『二人のレオン』で決め手となった、CB1でパワー+2000するあのスキルが再現されてます!」

 

レイ「あの回、面白かったよねー。作者の友人のアクアフォース使いも、好きなキャラクターを聞かれて、レオンではなく、わざわざЯレオンを選ぶくらい」

 

サキ「ヴァンガードzeroでは、ダイジェストで済まされたのが残念でした……」

 

レイ「で! Vスタンでのこのスキルは……さすがに今の環境で+2000じゃパワー不足かな。V/R兼用にするより、数値を上げて欲しかったんだけど。もしくはV限定+2000にして、当時を完全再現してくれた方が、いくらかファンサービスになったよね」

 

サキ「まあ、このスキルは今も昔もオマケだからねー。次はメインとなるスキルを見ていきましょう!」

 

ミオ「リアガードのアタック終了時、それが特定の回数のバトルであった場合、テトラドライブはスタンドします。

4回目で、手札2枚捨て、ドライブ-1でスタンド。

7回目で、CB1、手札1枚捨て、でスタンド。

計3回のアタック、合計ドライブ回数4で、『テトラドライブ』の伏線回収です」

 

レイ「ほんとね! 同じアクセルクランでこうも簡単にドライブ回数増やされると、ヌラは何なのかって思っちゃうよね!」

 

サキ「アクアフォースは1回1回のアタックがどうしても小粒になってしまう上に、テトラドライブも単体ではパワー14000が現実的なラインなので、治ガーディアンに弱いです!

トリガーやパンプできるユニットを引けないと、8回アタックのうちほとんどが通らない可能性だって……」

 

レイ「まあアクアフォースは、先行を取られて理不尽なデッキの代表格だし、治ガーディアンに引っかかるのは仕方ないのかも……」

 

 

●《邪甲将軍 ギラファ》

 

アリサ「はいはーい!! みなさん、お待たせ―!! アリサお姉さんだよー!!」

 

ミオ「…………」

 

サキ(ミオさんが無表情なのに「そら見たことか」って顔してる……)

 

アリサ「メガコロニーからはついに!! つ い に!!

ギラファが参戦!!!

メガコロではサイクロマトゥースと双璧を成す人気ユニット(ファイターズグッズフェスティバル調べ)なのに、ギラファ御本人のリメイクはこれが初!! 実に10年ぶりの再登場!!!

ちなみに作者はサイクロマトゥース派だけど、ギラファデッキだって10年前に組んでから、一度たりとも崩したことはないからね!!」

 

サキ「あの投票、ギラファがサイクロマトゥースに負けたのって、エリート怪人と票が割れたのも影響してると思うんですよねー。邪甲将軍とエリートって、どっちも格好いいんですけど、格好よさの方向性が違うというか」

 

アリサ「わかる! エリートがまずG2にしておくのがもったいないくらい、メチャクチャカッコいいのよね!! オーラバトラー的なカッコよさというか!!」

 

レイ「いかづちはねて、ソォドがはしる!」

 

ミオ「ちなみに作者も邪甲将軍よりエリートの方が好みだったりします」

 

アリサ「さて! メガコロやギラファの雑談ならいくらでもしていたいところだけど、そろそろ本題に入りましょ!」

 

ミオ「はい。邪甲将軍のスキルはふたつあります。

ひとつは、ヴァンガードにアタック時、CB1し、リアガードをソウルに置くことで、

相手は自分の手札から2枚選び、レスト&パラライズ状態でコールしなければなりません」

 

アリサ「上手く決まれば、相手のリアガードを強制的に上書きさせてディスアド4!!

けど、それは上手く決まればの話。最近は手札に戻ったりソウルに入ったりするリアガードが多いから、盤面が埋まるなんてこと、まず無いのよねー。

それに付随して、盤面が空いているとさらに困ったことが……」

 

ミオ「インターセプトですね」

 

アリサ「そう! このスキル、インターセプトはてんで封じてないの!

前列の空きサークルにG2をコールされて、そのままインターセプトされたら、普通にガードされたのと一緒!!

ギラファのやつ、10年経ってもツメが甘いわねー……」

 

ミオ「前列を2つ空けて、なおかつ自身は手札に戻るG2の、アグロヴァルなんかは天敵ですね」

 

アリサ「このスキル、なんでアタック時にしたのかな?

たぶん、イントルードシザーに無駄なく繋げるためだとは思うんだけど。

強制コールさせた後、暗黒繭を置いてインターセプトを封じたり、起動スキルの方が、メガコロ的には何かとやりやすかったんだけどね。

とは言え、弱点や不満もあれど、基本的には2ハンデス! 強力には違いないわ!」

 

ブラブレ「くっ! 正義に希望は無いのか!」

 

ミオ「もうひとつのスキルは、ソウルの『ギラファ』の種類に応じてパワーが+5000されます。

『ギラファ』が2種類以上あり、相手ヴァンガードがG3なら元々の★も2になります」

 

アリサ「さっきも言ったように、ギラファはインターセプトされるのは大嫌い!!

だからこそインターセプトでは足りない、高いパワーで殴れるのは理に適ってるわ!」

 

サキ「ギラファとは、どんなカードが相性いいんでしょうか」

 

アリサ「筆頭はさっきもちらっと触れたけど、《鋏撃怪人 イントルードシザー》ね!

ギラファが空きサークルをひとつ作ってくれるので、そこにスペリオルコールしちゃいましょ!

ディスアドを即座に埋め直し、アタック回数を増やしてくれるこのカードは、相性抜群! 同じクワガタだし。

事前にダメージを与えている必要はあるけれど、2ハンデスを受けたうえで3回のアタックをノーダメージに抑えるのは、相当難しいんじゃないかしら」

 

ミオ「ヴェノムスティンガーで使う場合と違い、事前にドロップゾーンに置いておく必要はありますが、《新星怪人 リトルドルカス》や《クリヤード・ブリーズ》を利用すればよいでしょう」

 

アリサ「他に相性のいいカードと言えば、結局のところイントルードシザーと相性のいい《無双剣鬼 サイクロマトゥース》や《マシニング・メテオバレット》になっちゃうんだけどね。

ギラファ本体と相性のいいカードがもう1枚!

その名も《七色怪人 スタッガーセブン》!!!!!!!」

 

レイ「?」

 

ブラブレ「?」

 

アリサ「ええい! 知らない連中は検索しろい!!

グレード3を2枚ソウルブラストする必要があるけれど、驚異的なフィニッシャーよ!! しかもクワガタ!!

ギラファは毎ターン好きなカードをソウルチャージできるので、コストは心配する必要なし!

G3ギラファをソウルから吐いちゃう可能性はあるけれど、スタッガーセブンがアタックするのはギラファの後だし、それがファイナルターンに繋がるのなら、先の心配をする必要も無いわね」

 

ミオ「イントルードシザーで詰めて、5点になったらスタッガーセブンでトドメというわけですね」

 

アリサ「あと、グレード3をソウルブラストしなくても、CB1でパワー+20000はされるからね?

メガコロで単体32000で殴れるユニットって、とっても貴重よ?

イントルードシザーで立たせる場合も、1度目はブーストつけて殴って、2度目は単体32000でアタック! という使い方ができるわ。

サイクロマトゥースのスキルを2度使うよりかは、よっぽどリーズナブル!

ま、スタッガーセブンは基本的には手札に隠し持っていたいカードだから、あくまで奥の手ではあるけどね」

 

ミオ「G3以外では、《ブローニィ・ジャーク》なんかは面白そうですね。ギラファのハンデスに、さらにハンデスを重ねることができますし、手札やソウルのイントルードシザーをドロップゾーンに落とす役割も担えます」

 

 

●《エリート怪人 ギラファ》

 

アリサ「続いて、エリート怪人も見ていくわよ!」

 

ミオ「このユニットがアタックした時、CB1することで、レストしている相手のリアガード1枚につき、『そのターン中』このユニットのパワー+5000。

レストしている相手のリアガードが1枚以下なら、ドローすることもできます」

 

サキ「コストが必要になった代わりに、パンプ値が倍増して、ドローもできるようになったメガララランサーみたいな感じですね!」

 

アリサ「注目点は、パンプがターン中永続することね。イントルードシザーや女王陛下(グレドーラ)でスタンドさせる対象としても一級品よ!」

 

サキ「ダークフェイスも見習ってほしかった……」

 

アリサ「ただ、ギラファデッキでイントルードシザーを組み合わせる場合は、ちょっと噛み合わないかな。

本来なら邪甲将軍でレストしたユニットを増やしてから、エリートでアタックしたいんだけど……」

 

サキ「イントルードシザーを使うなら、エリートから先にアタックしないといけませんからねー」

 

アリサ「まあ、それを差し引いても優秀には違い無し! ギラファデッキのみならず、あらゆるメガコロデッキに採用できるポテンシャルよ!」

 

ミオ「もうひとつのスキルは、このユニットと同じ縦列の、相手リアガードはインターセプトと移動ができなくなります」

 

アリサ「邪甲将軍のスキルで強制コールさせたユニットを固定するってデザインなんだろうけど、コールする場所は相手が選べるので、基本的には気休めかな?

イントルードシザーを使う場合、どうしても片方のラインは空いちゃうわけだし、アクセルサークルに置かれたら打つ手なし!」

 

サキ「エリート怪人を見てると、ギラファデッキはイントルードシザーと組み合わせて欲しいのか欲しくないのか、よくわからなくなりますね」

 

 

●《蛹怪人 ギラファ》

 

サキ「蛹怪人がものすごくリアルになってる……!!」

 

アリサ「そりゃあ、イラストレーター様も人間だからね。10年あれば当然レベルアップもされるわよ。

10年を経て、同じ方にまたギラファを描いて頂けるだなんて、本当に幸せだわ。

今回もかっこいいギラファをありがとうございました!!」

 

ミオ「蛹怪人は、ヴァンガード用のスキルを持っています。

Vに登場した時、ノーマルユニットを1枚捨てることで、デッキから同じグレードの『ギラファ』を手札に加えることができます。

ライドの安定化に貢献してくれるのはもちろんのことですが、イントルードシザーをドロップに落とす手段にもなりますね」

 

アリサ「リアガード用のスキルもすごいわよ!

リアに登場した時、SB2で2枚引く!! ……これだけなら、単なるパワー8000の《ダンシング・カットラス》なんだけど、このコストはなんと! 同じ縦列のレストしている相手リアガード1体につき、1減る!!

ユニットが2体レストしている列に置いたなら、ノーコストで1ドローよ!!」

 

レイ「タダ!?」

 

アリサ「これもまた、あらゆるメガコロデッキで採用できる逸材!!

SB1でも十分元は取れているので、ノーコストに拘らず、積極的にコールしていった方がよさそうかな?」

 

 

●治ガーディアン

 

ミオ「Vクランコレクション、目玉のひとつ。それが治ガーディアンです」

 

レイ「ここで説明する前にも、何度か名前が挙がったよね! それほど環境を左右するカードだよ!」

 

サキ「治ガーディアンは、治ガーディアンがグレード3にライドする前であるなら、ガードに使用することで、

①ヴァンガードのパワーを、そのターン中、+10000

②相手ユニットの★を、そのバトル中-2

のうちから1つの効果を選択して発動することができます!」

 

レイ「どちらの効果も、こちらがG2の間に速攻を仕掛けてきて、半ばゲームを決定づけてしまうような、もしくは本当にゲームエンドに持ち込んでしまうようなデッキを牽制してくれる効果だね!

①の効果は連続攻撃対策! 10000要求以下のアタックは完全にシャットアウトしてくれるので、アクアフォースのような、パワーが低くアタック回数に特化したようなデッキには特に有効!」

 

サキ「また、1発目のアタックに対しては実質25000ガードになってくれます。このゲームは、パワーの低いユニットからアタックするのがセオリーではありますが、前トリガーを投入しているデッキであるなら、ヴァンガードからアタックしてくれることもあります。

25000という数値は、ヴァンガードのアタックを1枚で捌くのにも十分な数値です! 総じて、速攻を得意とするアクセル相手には心強い効果となってくれそうですね!」

 

レイ「もっとも、実際にそれで前トリガーを引かれてしまったら、治ガーディアンのパワー+10000がチャラになっちゃうんだけどね。

前トリガーを相殺したとポジティブに捉えるか、治ガーディアンの使い損とネガティブに捉えるかは、状況と……ファイターの性格しだい?」

 

ミオ「②の効果は★を増やして一撃必殺を狙ってくるタイプのデッキに有効です。

《深魔幻皇 ブルブファス》などは、こちらがG2の間に、★2かつ非常に高いパワーでアタックしてきますが、治ガーディアンがあれば、どれだけパワー差があろうと、1枚でダメージを抑えることができるようになります」

 

レイ「こっちのパターンは、★を引かれたとしても1ダメージ! 本来3ダメージを受けていたと考えると、かなりお得だね!」

 

サキ「治ガーディアンの登場で、速攻が成功しにくくなり、後攻不利の現状が緩和され、ゲームがかなり健全化されたのではないかと思うのですが、どうでしょう」

 

ミオ「それは間違いありませんね。しかし、新たな懸念も生まれたように思います」

 

サキ「懸念、ですか?」

 

ミオ「はい。たしかに手数や★による速攻が悪目立ちしているのはわかります。

ですが、今の環境で作者がもっとも強いと考えているデッキは、フォースを大量にばら撒くタイプの、長期戦に持ち込んだ方が強い、デッキです」

 

レイ「ひとつ例に挙げるとするならルアードかな?」

 

ミオ「そうですね。ルアードのようなデッキは、ターンをまたげばまたぐほど、パワーが段階的に増えていくので、速攻で仕留めてしまうのがひとつの攻略法でした。

ですが、治ガーディアンの登場で、今後はそれも難しくなります。

一方、長期戦を見据えたルアードにとって、治ガーディアンの影響はほとんどありません。むしろ、20000ガードされないだけ戦いやすくなったのではないでしょうか。

このように、治ガーディアンは、速攻の是正を代償に、安定性の高いデッキの安定性を更に高めてしまい、デッキ格差をさらに広げてしまっただけ、とも取れるのです」

 

サキ「不快なゲーム展開を無くす方向ばかりに注力して、本当に対策しないといけない環境デッキに目が向いていない、というわけですね」

 

ミオ「アクセルにしても、本当に強いアクセルはパワーも兼ね備えているため、パワー+10000程度では止まりません。

作者が例にしやすいのでヤスイエを例にしますが、各ライン20000~25000要求が当たり前。ドライブの試行回数も多いので、大抵、そこからさらに前トリガーを引かれます。

本気で治ガーディアンを警戒するのであれば、

・守りを捨ててシラユキをコールする。アクセルⅠを選択する。

・特務やホワイトメインを投入することでデッキ全体のパワーをさらに底上げする。

など、戦略面でも、デッキ構築面でも対策を施すことのできる、とにかく柔軟性の高いデッキです。

治ガーディアンの影響が無いとは言いませんが、本当に苦しんでいるのは手数のみが頼みの綱だった、旧来のアクセルです」

 

サキ「速攻って、格下が格上を倒すためのジャイアントキリング要素でもあったんですよね。

これもまた作者のデッキを例に挙げますが、《魔の海域の王 バスカーク》軸のデッキです。

序盤から★2の高パワーでアタックしてダメージを稼いだ後、ナイトローゼに乗り直すデッキで、先攻から★2で殴れる点は、ナイトローゼ純構築と比較しても確かな差別化要素だったはずなのですが、今後はそれが難しくなり、純構築に大きく差を広げられてしまった印象です」

 

レイ「『速攻しか勝つ手段の無い』デッキにしても、不公平なシステムだよね。

さらに作者のデッキを例に挙げると《クラレットソード・ドラゴン》軸とか。

・すぐデッキアウトする

・高パワーが1ターンしか保たない

この2点から、フォースⅡをヴァンガードに乗せてのアタックにすべてを賭けるしかないんだけど、先攻の場合、たった1枚で、回数の限られた貴重な1発が防がれちゃう」

 

ミオ「しつこく作者のデッキを例に挙げるなら《蟲毒怪人 ヴェノムスティンガー》軸もですね。

ヴェノムスティンガーがヴァンガードにアタックを当てなければ意味の無いデッキですので、プロテクトを苦手としていました。

相手がプロテクトⅠを手札に加える方法の無いG2の間が、唯一の隙だったのですが、今後はその隙も治ガーディアンで埋められてしまいます」

 

サキ「プロテクト相手でなくとも『完ガさえされなければゴリ押せる』デッキだったので、1回だけでも完ガの代わりをされてしまうと厳しいんですよねー」

 

レイ「ヴェノムスティンガー軸に関しては、★16構築なので、本当に治ガーディアンの恩恵ゼロ!!

ていうか、クラレットソードも★16にしようか悩んでいた矢先の治ガーディアンだったんだけど!」

 

サキ「治ガーディアンに弱く、治ガーディアンの恩恵は受け辛い。『速攻しか勝つ手段の無い』デッキは、どうしてもそうなってしまいますよねー」

 

レイ「そんな懸念点も多い治ガーディアンだけど、単なる『速攻対策』だけでなく、面白そうな要素もいっぱい!!

ここからは、そういう点も見ていくよ!」

 

ミオ「治ガーディアン最大の特徴は、治トリガーでありながらG3という点でしょう」

 

レイ「あ、ホントだ!!」

 

ミオ「そして、治ガーディアンはコールされた時もスキルを発動します。自分のダメージゾーンが0枚の場合、山札の上から1枚をダメージゾーンに置くことができます」

 

サキ「先ほどとは打って変わって、こちらは点止め対策ですね!」

 

レイ「速攻したり、ダメージ与えなかったり、忙しいゲームだよねー」

 

ミオ「G3にしては低めのパワー10000ですが、それでもパンプ能力を持たないアクセル&プロテクトのG2よりかは高いです。15000ガードを切ることにはなりますが、リアガードとしてコールする価値もあるカードになっているのではないでしょうか。フォースを相手にした場合は特に」

 

サキ「他にも、G3であることが幸いしたり災いしたり、色々な部分でオモシロ現象が起こっているようですよ!

すべてのクランにも影響がある部分と言えば、プリズムバード互換でサーチできることですね!」

 

レイ「スチームブレス互換だね!」

 

ミオ「メタカードは引けなければ意味がありませんからね。むしろG3にした最大の理由がそれなのではないでしょうか。プリズムバードだかスチームブレスだか互換はすべてのクランに配られているので、その気になればどのデッキでもサーチすることができ、安定して手札に加えることができます。

治トリガーをデッキから抜くことに抵抗がある人もいるかも知れませんが、引けるか分からない治トリガーより、目先の脅威を確実に抑えることのできる治ガーディアンの方が重宝する場面は多いはずです」

 

サキ「一方、G3になってデメリットもあります」

 

レイ「ブーストできない!!」

 

サキ「……っていうのはアタッカーになれる点と一長一短だからいいとして。

何度も言うように、治ガーディアンはG3です。当然、G2やG3からライドすることができます。

ということは……」

 

レイ「G3にライドする段階で、手札に治ガーディアンしかなくてもGアシストできない!?」

 

サキ「そうです! これはかなり重いデメリットと言えそうです!

治ガーディアンは、パワーは低い、ギフトも持たないと、G3としてはかなり致命的な戦闘力です。

幸い、事前に切りやすいカードではあるのですが、G3にライドする直前に引いてしまった場合は、本当にどうしようもありません」

 

レイ「守り神が、一転して呪いのカードに……」

 

ミオ「他、治ガーディアンにライドすることで、一応デリートを解除することが可能です。デリート対策と言えなくもないですが、正直なところ、15000ガードを失って、デリートされた状態からパワーが10000上がるだけなので、やらない方がマシと言える状況も多いでしょう」

 

サキ「汎用的な治ガーディアンの影響は、こんなところでしょうか。クラン単位で見てみると、トリガーがG3に変わった影響が随所に出ているようです。例えば……」

 

アリサ「はいはーい! 再び登場、アリサお姉さんだよー!

メガコロと言えばG3! G3と言えばメガコロ! と言えるくらいに、メガコロはG3サーチが豊富なクラン!

例えば、メガコロはリドルドルカスだけでなく《マシニング・マンティス》や《マシニング・ホーネット》でもG3がサーチ可能!!

特に、コストを消費するマンティスの不発はかなり痛いので、トリガーとは言え、デッキの中に当たり札が増えただけでも嬉しい!

このことからメガコロは、『先攻を取ったら強い』デッキに強い、という新たな特性を得られたと言ってよさそう。

ただし、メガコロはG3を集めるのは上手くても、G3を生かす手段は皆無に近いので、その点だけは注意!

せいぜい、小隊長やギラファでソウルに突っ込んで、アントリオンやスタッガーセブンのコストにするくらい?」

 

ミオ「このように各クランで、治ガーディアン登場による影響が起きています。

ここからはVol.1に収録されているクランで、治ガーディアンが与えた影響を見ていきましょう」

 

レイ「ただ、作者はすべてのクランのすべてのカードを把握しているわけじゃないので、抜けがあっても許してね!」

 

 

◆ロイヤルパラディン⇒〇

 

ミオ「全体的に長期戦が得意なクランなので、治ガーディアンの登場はプラスに働くでしょう。

特に、序盤のダメージを抑える意義が大きく、ファイトが長引くほどフォースを大量に増やせる《マジェスティ・ロードブラスター》は要注目です」

 

サキ「一方、トリガーがG3になった影響は少な目でしょうか。無いわけじゃないですけど、基本はG1やG2を参照するクランですからね」

 

 

◆オラクルシンクタンク⇒〇

 

ミオ「G3になれば爆発的に手札を増やせるデッキが多いので、G2の段階で速攻を抑えられるようになった意義は大きいです。

G3を山札の上に置くことのできる《雅趣の斎女 フミノ》は、全カードの中でも、治ガーディアンとの相性は最高クラスと言っていいでしょう。

ただし、山札が切れやすく長期戦ができるクランではないので、増やした手札を生かして速攻し返すくらいの気持ちでいきましょう」

 

レイ「ていうか今のプロテクトって、コンセプトに反してほとんどのクランが長期戦は厳しくなってるんだよねー。

ターンが経過すればするほど、パワー+10000されていくフォースや(一部デッキは+10000じゃすまない)、アタック回数が増えるアクセルと比較して、プロテクトは手札を完ガと交換できるだけだもんねー(もしくは劣化フォース)。勝てるかっての!」

 

 

◆ジェネシス⇒△

 

ミオ「ソウルチャージで、G3が偶然ソウルに入りやすくなりました、が」

 

サキ「ジェネシスって、ソウルのG3を生かす手段が、他のクランと比較して少ないんですよね。《創天光神 ウラヌス》や《神界獣 フェンリル》のスキルが安く使えるくらいでしょうか」

 

レイ「治ガーディアンの登場が嬉しくないわけじゃないけど、特筆するようなトピックスも無い。普通って感じだよね!」

 

 

◆かげろう⇒〇

 

レイ「G2の間に相手を叩き潰すと言えば、オバロXの活躍が印象深いけど、正直、トンデモパワーで★トリガー乗せながら3回殴ってくる“The X”のアタックなんて、治ガーディアン1枚じゃ、防ぐのに全然足りないんだよね。そんなわけで影響はほとんど無し!」

 

 

◆むらくも⇒〇

 

レイ「例にも挙げた通り、高いパワーで殴ってくるアクセルクランの代表格みたいなもん!

ヤスイエどころか、シラユキも、侍大将も、治ガーディアンの+10000じゃ全然足りないし、極端な話、『特務』を投入されたらどんな軸だってヤバい。

決闘龍に至っては、ZANBAKUは速攻とはまったく別のところで戦ってるし、ZANGEKIに至っては治ガーディアンでガードできなくなるので、むしろ治ガーディアンを入れてる方が危険!!

総じて、治ガーディアンの影響は薄いと言えるかな」

 

サキ「シラユキのおかげで『速攻に強い速攻デッキ』という立ち位置でしたが、治ガーディアンとシラユキを両方投入することで、その特性はさらに強化されます。

シラユキがすでにいるので、20000ガードの通常治を入れやすくもあり、環境に合わせてデッキを柔軟に調整できる点も強みと言えるでしょう」

 

レイ「他のデッキも治ガーディアンでシラユキと同じことができるようになったから、相対的には強みが奪われて弱体化してるとも言えるんだけどねー。どっこい、プラスの方が全然大きかったって感じ」

 

 

◆なるかみ⇒△

 

レイ「治ガーディアンでも止めきれない★で殴ってくる抹消者に、治ガーディアンで止めきれないほどパワーの上がるヴァンキッシャー!!

2回アタックができるヴァンガードも多く、アクセルクランの中では、影響は低め、かな?

それでも治ガーディアンでアタックの止まるラインはちらほら出てくるだろうし、影響が無いないわけじゃない。

アクセルクランである以上、基本的に治ガーディアンはイヤ! むらくもの適応力が異常なだけ!」

 

サキ「守りが薄いデッキなので、少ない手札で耐えられることが嫌なんですよねー。

相手も早いデッキの場合、治ガーディアンで耐えられた、返しのターンで落とされてしまうことも……」

 

 

◆ディメンジョンポリス⇒◎

 

レイ「元祖・G3と言えばこのクラン!!」

 

サキ「ダイカイザーでG3がめくれる可能性を底上げできるのはもちろん、15000ガードを手札に加えられるようになったブラドブラック! 25000ガードができるダイライナー!

その他、G3を参照するカードは、実用的なものからイロモノまで、枚挙に暇がないほどです!」

 

レイ「ガード値の無いG3がデッキに多くなりがちで、どうしても速攻に弱いデッキだったので、治ガーディアンは守りの要になってくれること間違いなし!!

治ガーディアンと最高の相性を誇るデッキのひとつと言えるかな」

 

 

◆スパイクブラザーズ⇒△

 

レイ「フォースの中では速攻寄りのクランだね!

4~5体が途轍もないパワーの★2で殴ってくるのがデフォなので、治ガーディアン1枚で1ライン止められるようになったと言うべきか、その程度じゃ足りないと言うべきか……ビミョーなライン」

 

サキ「スパイクもデッキにG3が多めになりがちで、速攻に弱かったので、守りの面では強化と見てよさそうですね」

 

レイ「G3を参照するカードは意外にも少なめ。いや、あるにはあるんだけど、わざわざ治ガーディアンを指定する意味がないやつばっか!

《ガンワイルド・ウルフ》が少し決まりやすくなったかも? ぐらい」

 

 

◆ペイルムーン⇒△

 

レイ「手数を重視するクランなので、治ガーディアンの影響は避けられなさそう」

 

サキ「他のペイルムーンとはタイプの異なるハリー軸なら、影響は軽微かな? ターンを経るごとにパワーが増していくデッキだし、むしろ相性よさそうだね」

 

レイ「最悪なのが、手数に特化したナイトメアドールかな? 治ガーディアン1枚で、かなりアタックが止められちゃいそう」

 

ミオ「ですが、ナイトメアドールにとってもプラスはあります。治ガーディアンの《ナイトメアドール りんでぃ》はワーカロイドなので、ワーカロイドの各種サポートが受けられます。

治ガーディアンは、今弾で強化された『忍妖』や『銃士』名称すら与えられないほど、名称サポートを受けられないよう徹底されていますが、種族サポートは構わないようですね」

 

レイ「ガバガバ!!」

 

ミオ「《ナイトメアドール あびげいる》や《ナイトメアドール まりっさ》で手札に加えたり、最低限のパワーもあるので、《ナイトメアドール ちぇるしー》でアタッカーとしてスペリオルコールするのもよいでしょう。

実用的なコンボが揃っています」

 

 

◆バミューダ△⇒〇

 

ミオ「デッキタイプが多く一概には言いにくいのですが、長期戦を見据えたデッキが多いので、治ガーディアンとの相性は全体的によさそうです」

 

サキ「レインディア軸や旋律はG3以上が多めになりがちなので、序盤の守りを固められるのも嬉しいですよ!」

 

 

◆アクアフォース⇒×

 

レイ「手数に特化したクランなので、コンセプト上の相性は最悪かな?」

 

サキ「先行《テリフィックコイル・ドラゴン》なんかは、かなり理不尽だったので、仕方のない面もありますけど……」

 

レイ「むしろ治ガーディアンを生み出した元凶のひとつと言えそうだよね!」

 

ミオ「ヴァレオスなら治ガーディアンを封殺できるように見えて、パワーを固定するのは相手がG3になってからなので、見事に空振りしています」

 

レイ「元帥……」

 

 

◆メガコロニー⇒〇

 

アリサ「マンティスやホーネットとの相性がいいのは話した通り!

速攻も苦手な部類だったので、治ガーディアンそのものとの相性も良好。

ヴェノムスティンガーのような異端児もいるけど、基本的には強化かな?

悩ましいのが、《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》をはじめとするギャンブル勢。

治ガーディアンが流行ると仮定した場合、相手のデッキ内にあるG0が12枚になるので、ギャンブルの成功率はアップ!

治トリガーを落としながら、自分は★+1されるサイクロマトゥースとか超胸熱!!

相手のデッキ内にG3が4枚増えるので、コレオがクアドラプルドライブする確率も大幅アップ!!

と至れり尽くせりに見えるでしょ?

見えるんだけど、一番肝心なコレオの起動能力で、G0がめくれる可能性がダウンしちゃってるのよね。

それどころか、G0がめくれても治ガーディアンで15000ガードされる可能性だって出てきちゃった。

4回のドライブチェックなんて、今や誰も彼もが当たり前のようにやっている現環境、コレオの存在意義はガード制限にあったはずなのに、そのガード制限が相対的に弱体化させられたのはかなりの痛手なのよねー」

 

 

●終

 

ミオ「Vol.1の解説はここまでとなります。続きとなるVol.2も近日公開予定となっております」

 

レイ「ヌラについては、本当にごめんね。

けど、ひとつ知っておいて欲しいのは、作者がひとつのカードを弱いと断じる時って、悩んで悩んで悩んで悩んで苦しみ抜いて、考察に検証を重ねて、それでもなおどうしようもないと判断した時だけ!(検証はえくすとらを発売から1週間以内にはアップしたい都合上、不十分だという自覚はあるけど)

机上の空論で、他人事のように批評しているわけじゃないのは、知っておいてくれると嬉しいな!」

 

サキ「それでは、ブラスター・ブレードさん! 最後にシメの一言をお願いします!」

 

ブラブレ「寝る前には必ず歯を磨くんだぞ! ブラスター・ブレードとの約束だ!」

 

レイ「ありがとうございましたー。それじゃ、まったねー!」




Vクランコレクション Vol.1のえくすとらをお届けいたしました。

本当はVol.1とVol.2をひとつにまとめて公開する予定だったのですが、とんでもない文章量になり、慌ててふたつに分け直したものの片割れとなっております。
Vol.1だけでもえくすとら史上最大。

そのようなわけで、ここまで読んで頂き、まことにありがとうございました。
Vol.2もすぐ公開できるようになる予定ですので、残り12クランを使っている方は、お楽しみにしていただけると幸いです。


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Ex.48「Vクランコレクション Vol.2」

●序

 

ブラスター・ブレード「前回のあらすじ!!

急遽2本立てとなったVクランコレクションのえくすとら!!

ブラスター・ブレードをゲストに迎え、後半戦に挑む!!」

 

レイ「そんなわけで、新しく前説を考えている余裕も無かったので、さっそく続きをはじめるよー!!」

 

 

●《神託の守護天使 レミエル》

 

ミオ「Vol.2のはじめに紹介するのは、《神託の守護天使 レミエル》です」

 

レイ「ごちゃごちゃ書いてるけど、要約するとユニットをおおむね4体くらいスタンドさせて、おおむね2枚くらいドローできるユニットだよ!」

 

サキ「これを口頭で説明するのは大変ですからね……」

 

ミオ「攻めに特化しているノキエルを、若干マイルドにした印象ですね。エンジェルフェザーでアタック回数を稼げるユニットは未だ貴重で、ほどよく連続攻撃しつつ、ほどよくドローもできる、ほどよいユニットです」

 

レイ「残念なのは、同じ守護天使のザラキエルと全く相性がよくないことかな?

レミエルなんて元はブレイクライドユニットなんだから、スペリオルライドできるザラキエルといくらでも相性よくできたはずなのに!

強い弱い以前に残念な1枚!!」

 

 

●《撃退者 レイジングフォーム・ドラゴン》

 

サキ「シャドウパラディンからはレイジングフォーム・ドラゴンが再登場です!

モルドレッドと相性がいいという触れ込みの、そのスペックは如何に!?」

 

レイ「モルドレッドと相性よくするなら、ドラグルーラー・ファントムの方が嬉しかったけどね!」

 

ミオ「このカードがVに登場した時、ダメージゾーンのカードが4枚以上なら、CB1することで、デッキからG2以下の『撃退者』をスペリオルコールすることができます」

 

ブラブレ「リミットブレイクか!!」

 

レイ「けど、登場時にリミットブレイクって、少し噛み合ってないよね? 最初のライド時には使えないことが多そう」

 

ミオ「相手から速攻を受けた場合、損失無しでライドできるようになる他、フォースを得るために再ライドしながら展開することもできますが、どちらか言うともうひとつのスキルの布石という意味合いが強い効果ですね」

 

サキ「そのもうひとつのスキルは、アタックしたバトル終了時、『撃退者』を3体退却させることで、手札から『撃退者』にスペリオルライドすることができます!

リミットブレイクが適用されている場合、レイジングフォームにスペリオルライドすることで《黒衣の撃退者 タルトゥ》をコールし、さらにタルトゥがユニットを展開することで、3回の追撃が可能に!

前列にいるのが2体とも《ブラスター・ダーク》の場合、《幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム》にライドすることで、こちらも3回の追撃が可能です!」

 

レイ「……言うほどモルドレッドと相性いいかな?」

 

サキ「へ?」

 

レイ「レイジングフォームからモルドレッドに繋ぐ場合、モルドレッド最大の強みであるフォースをバラ撒くスキルを使う機会が無いんだよね。

《ブラスター・ダーク》は撃退者じゃないから、後列は撃退者で揃えないといけないし、そうなるとネヴァンやブランウェンみたいな汎用カードが使いにくくなる。

レイジングフォームとモルドレッドの両者を完璧に使おうと思ったら、最初にモルドレッドにライドして、ブラスター・ダークでフォースをバラ撒いた後、そのブラスター・ダークを生かした状態で(もしくは手札に次のブラスター・ダークを温存して)次のターンを迎えて、レイジングフォームにライド。さらにレイジングフォームのスキルでモルドレッドにスペリオルライドするというウルトラCが必要なんだよ!?

そんなの、『忍妖』を6種類揃えるのと、大して難易度変わんないよ!?

まあ、それしかないヌラと違って、レイジングフォームは取れる次善策が無数にあるから、圧倒的にこっちの方が強いんだけど!」

 

サキ「たしかに。単体でもレイジングフォームは機能しますし、そちらの方が動きやすそうすらありますよね……」

 

レイ「『相性がいい』って言葉には個人差があって、言ってしまえば『撃退者』名称を持っているG3というだけで、モルドレッドとレイジングフォームは相性がいいと感じる人もいるんだと思う。それは否定しない!

けど、作者の思う『相性がいい』って言うのは、ふたつのカードのスキルが完璧に噛み合って、互いに120%の実力を発揮できるのが『相性がいい』だと思うの!

レイジングフォームとモルドレッドって1+1=2にすらなってないもん。せいぜい1+1×0.5=1.5だよ!?

そこらへん、決闘竜3部作を見習って欲しいかな。あれこそ作者が理想とする『相性がいい』のお手本だと思ってるから!」

 

ミオ「最後に『撃退者』全体について軽く触れておきましょう。

新規カード含めてG1が4種類。G2が3種類。FVやトリガーにも1種類ずつ存在しており、数は申し分ありません」

 

サキ「ですが古いカードが多く……当時の感覚から見ても妙にコストが重いカードが揃っている印象です。

レイジングフォームもガッツリコストを使うので、ノーコストで動けるネヴァンやブランウェンの方が、使い勝手がいいかも知れません」

 

ミオ「レイジングフォームのスキルを安定させるために、カードパワーを落として撃退者で揃えるか。

個々のカードパワーを重視するか。

その中間点、絶妙な割合を見つけ出すか。

人によってデッキ構築に個性が出そうなカードですね。

そういうところだけは作者好みです」

 

サキ「ネヴァンのスキルで《厳格なる撃退者》を呼べる点は、意識しておくといいですね!」

 

 

●《青き炎の解放者 プロミネンスコア》

 

サキ「ゴールドパラディンからは、プロミネンスグレアに続いて、プロミネンスコアが登場です!」

 

レイ「順番、逆だよね!?」

 

ミオ「CB1して、ユニットを1体退却させることで、山札の上から4枚見て、2体をスペリオルコールします。

ソウルに《青き炎の解放者 パーシヴァル》があるなら、4体をスペリオルコールすることができるようになります」

 

サキ「現状のゴールドパラディンに、起動能力で特定のカードを狙ってソウルに入れられるカードはありません!

5、6ターン目以降であれば、先にパーシヴァルにライドする。アグロヴァルのスキルでパーシヴァルをソウルに入れるなど、パーシヴァルをソウルインする手段は豊富にあるので、7、8ターン目には適用されていることがほとんどでしょう。

感覚はシングセイバーなどの1ターン待つ系に近そうですね」

 

レイ「普通のソウルチャージでパーシヴァルが入る。ランダムスペリオルコールで登場したパーシヴァルをアグロヴァルでソウルインするなど、偶然パーシヴァルをソウルにねじ込む手段も多いので、それに特化してみても面白いかも?」

 

ミオ「もうひとつのスキルは、リアガードが登場した時、そのユニットとこのユニットのパワーを+3000し、相手ヴァンガードがG3で、それがアグロヴァルだった場合、このユニットの元々の★を2にします」

 

サキ「アグロヴァルは使い減りしないので、よっぽど追い詰められない限り、★は毎ターン適用できそうですね!」

 

レイ「……悪くは無いんだけど、『ソウルにパーシヴァルがあるなら』とか『相手がG3なら』とか、やたらと枷がかけられてる印象が強いかなぁ。

ゴールドパラディンもむらくもと同じで、パーシヴァルというトンデモ爆弾を抱えてるから、仕方ないのかも知れないけどね」

 

サキ「さすがにプロミネンスコアとパーシヴァルを選抜制限にするわけにはいかないからね……」

 

レイ「強くすることを放棄しちゃってるヌラと比べれば、こっちはギリギリを突いている感はあるので、しっかり半年間バランス調整をしてきた結果だと思うし、そういう意味じゃむしろ高感度高いんだけどね!

まだプロミネンスグレアの強化も残してるし!」

 

サキ「え? プロミネンスグレアはもういるんじゃ……?」

 

レイ「ターナバウトの付録は《蒼き炎のプロミネンスグレア》!!

まだ、《青き炎の解放者 プロミネンスグレア》が登場する可能性は残されてるんだよ!!」

 

サキ「き、詭弁……」

 

 

●《疾駆の解放者 ヨセフス》

 

レイ「誰!? このダンディなおじさま!」

 

ミオ「イラストレーターも人間なので10年もあれば……」

 

レイ「いや、これはもうそういうレベルじゃなくなってるんだけど!?」

 

サキ「ヨセフスの方が10年後っていう感じだよね。フレーバーも別人だし」

 

 

●《不敗の剣聖 ダイホウザン》 

 

レイ「ぬばたまに突如として現れた謎おじいちゃん!」

 

ミオ「ダイホウザンはアタック時にCB1SB1することで、相手リアガードを1枚手札に戻し、パワー+5000、ドライブ+1します。

相手のヴァンガードがG3以上、リアガード1枚以下なら、さらにパワー+10000。★も+1されます」

 

サキ「《忍獣 タマハガネ》などはもちろん、G1G2のホウザンもリアガードをバウンスできるスキルを持っているので、それらを駆使して条件を達成したいですね!」

 

ミオ「もうひとつのスキルは、相手のノーマルユニットがリアガードに登場した時、相手の手札が4枚以上なら、手札を1枚捨てさせることができます」

 

サキ「登場時に手札を増やす効果を持っているリアガードには、特に効果的ですね!

例えば《蛹怪人 ギラファ》を手札からコールして、手札が3枚になった場合、まずギラファのスキルが解決されて手札が4枚に。そこからダイホウザンのスキルが解決されるので、すぐに手札を捨てさせられることになってしまいます!」

 

ミオ「些細な弱点としては、何故かノーマルユニットしか指定されていないので、例えば、手札5枚の状態から、トリガーユニット⇒ノーマルユニットと順番にコールすることで、ハンデスを回避される可能性があることですね。

逆に、ダイホウザンと相対した場合、覚えておくと便利なテクニックでしょう」

 

レイ「こんなスキルをマトモに食らったらたまったもんじゃないので、ダイホウザンが見えた時点で、対戦相手は序盤から積極的に展開したり、ガードしたりしてくるはず。

そういう意味じゃ、性質はジャミョウコンゴウに近そうかな?

うう……嫌な思い出が」

 

サキ「?」

 

ミオ「そんな対戦相手の思惑を牽制するのが、G2ホウザンがライドされた時に発動するスキルです。

相手リアガードが3枚以上なら、ヴァンガードの★+1、ドライブ+1してくれます」

 

サキ「ユニットの展開を控えたらダイホウザンのハンデスが刺さり、ユニットを展開したら今度はホウザンにドライブや★を増加させられてしまうわけですね!」

 

レイ「ダイホウザンのひとつめのスキルと組み合わさった場合、ダイホウザンは単体パワー27000、★3、ドライブ4!!!!

イラストみたく、一撃必殺の一閃に昇華されるよ!!」

 

サキ「正直、ホウザンはホウザンで強力すぎて、多少のハンデスは我慢してでも展開を控えるファイターもいそうですね……」

 

ミオ「レイさんがおっしゃるように、性質が似ているため、ホウザン各種はジャミョウコンゴウとも好相性です。

また、ダイホウザンをちらつかせて相手に展開を強制させつつ、自分は暁・ハンゾウにライドするという、往年のジャミョウハンゾウのようなデッキも組めそうですね」

 

レイ「ありとあらゆる選択肢をちらつかせ、選択を誤った敵を一刀の下に斬り捨てる、超テクニカルデッキ!!

既存カードとの相性も含めて、かなり練られたカードだと思うので、対戦相手との知恵比べが好きな人は試してみて欲しいかな!」

 

 

●《古代竜 スピノドライバー》

 

サキ「真古代竜に続いて、ついに普通の古代竜も登場です!!」

 

レイ「だから順番逆じゃない!?」

 

サキ「《古代竜 スピノドライバー》は、Vスタンのブレイクライドユニットらしく、アタックした時と、ライドした時に、そのスキルを発動します!!」

 

レイ「ホント、どうしてレミエルはそうならなかったんだろうね!?」

 

サキ「まずはアタック時にCB1とリアガード2体を退却させることで、アクセル・サークルを1つ、1ドロー、手札から1枚スペリオルコール、ユニット2体に+5000の、4つもの恩恵が得られます。

次のターン、ライドされた時に、さらに同様の効果が発動するので……」

 

レイ「たった2ターンでアクセルサークル4つ!? そんなのガイアエンペラーに乗ったら、ほぼ勝ちじゃん!?」

 

サキ「ただ、弱点が無いわけじゃないんだよね……。ライドフェイズに2体のリアガードを要求されるので、事前にユニットを除去されていると、ライド時の効果は不発になっちゃうの。

ブレードマスターのような全体除去を相手にした場合、ライド時の発動はまず無理かな。

それでもレイちゃんの言う通り、対戦相手に対処法が無い場合のスピノドライバー⇒ガイアエンペラーは必勝パターンのひとつだと思うよ!」

 

ミオ「リアガードの場合、トリガーを引いた時という条件で武装ゲージを乗せることができます。

ですが、たちかぜはデッキ圧縮が得意でなく、ドライブ数を増やす手段もほとんど無いため、あまり期待できる効果ではありません」

 

サキ「それでも、先行を取った場合にライドするユニットが欲しかったガイアエンペラーにしてみれば、優秀な繋ぎであり、武装ゲージを置ける可能性のあるリアガードでもあるというだけで、かなりの強化になっていると思います!

もちろん他の軸でも活躍してくれるし、単体でだって十分デッキが成立するほどの強力カードですよ!」

 

レイ「古代竜名称なので、真古代竜の各種スキルの対象にもなるけど、真古代竜とは方向性が違いすぎるので、真古代竜デッキに入れるのは他の古代竜含めて難しそうかなぁ。イグアノゴーグならいけそうだけど、基本的に餌はラサレイト・レックスのが安定しそう」

 

ミオ「一方で、スピノドライバーを軸とするデッキなら、アドバンテージ獲得能力に長けた真古代竜は、いいリアガード要員になってくれそうです」

 

 

●《連隊竜 レジオドン》 《激走竜 ブルースプリント》

 

サキ「たちかぜだけ、再録がやっつけじゃないですか!?」

 

レイ「SPクランパックの時といい、開発はこの2枚をRRRか何かと勘違いしてるよね」

 

 

●《アルティメットライザー・MF》 《アルティメットライザー・DF》

 

レイ「ノヴァグラップラーからは、双闘時代のライザーが登場だよ!! 今回もカッコイイ!!」

 

ミオ「G3のMFは、ライザーがアタックしたバトル終了時、CB2とこのユニットをレストすることで、両者をスタンドさせることができます。

コストが重く、トリガーを乗せたユニットをスタンドさせることもできませんが、1ターンに1回制限は無いので、ここぞという場面では、積極的に使っていきたいですね」

 

サキ「ノヴァはカウンターコストを回復させる手段が豊富なので、こんなスキルでも、1ゲーム、2~3回は使える想定で動けますよ!」

 

レイ「スタンドさせるユニットは、単体でノーコスト22000のアタックを出せる《マキシマムライザー》がオススメだよ! 優秀なカードだね!」

 

ミオ「MFもうひとつのスキルは、アタック終了時、スタンドしている前列リアガードがいないなら、CB1することで、ソウルからG2『ライザー』にスペリオルライドすることができます」

 

ブラブレ「レギオン!!」

 

ミオ「エンド時にはMFに戻れるので、アクセルサークルも追加されます。アクセルⅡを選んでいれば、G2のドライブチェック含めて2アドです」

 

サキ「スペリオルライドの筆頭候補は、もちろん『アルティメットライザー・DF』です!!

相手ヴァンガードがG2なら15000、G3なら18000と、絶妙な数値でアタックしてくれますよ!!

というか、単体火力だけならMFより上です!」

 

レイ「これまで双闘の再現はユニットを横に並べるのが多かったけど、G2もヴァンガードとして扱えるという点は、これまでで一番双闘に近いかもね!」

 

サキ「そして! ライザーの闘いはこれだけでは終わりません!! DFはG2……。G2がヴァンガードということは、あのユニットのスキルの適用機会があるということです!!」

 

ブラブレ「その者の名は……《ネコ執事》!!」

 

サキ「《ネコ執事》はG2ヴァンガードのアタックがヒットしなかった場合、このユニットを退却させることでヴァンガードをスタンドさせることができるユニットです!!

旧スタン時代も似たようなスキルを持っており、G2を含む双闘ユニットをスタンドさせるコンボで猛威を奮い、即刻制限されたほどの凶悪カードでした……」

 

レイ「当時はMFが★2だったからガード強要できたし、双闘ユニットはツインドライブだし、単体パワーも高いしで、本当に強かったんだよね。

その時と比べたら、さすがに3段階くらいはパワーダウンしてるよね」

 

サキ「『そんな古いカード持ってないよー』という人も、Vコレにはしっかり《ネコ執事》が再録されているので、安心してくださいね!」

 

ブラブレ「光る《ネコ執事》!!」

 

ミオ「トリガー1枚でほとんどのアタックが止まってしまう単体パワーの低さは気になるところで、治ガーディアンも苦手としていますが、相手がトリガーを引けなかった場合や、ダメージ5点に追い込んでからの、詰め性能は全クラン中でも屈指となります。

総じて、ノヴァらしいノヴァと言えるスペックでしょう」

 

 

●《星輝兵 インフィニットゼロ・ドラゴン》

 

レイ「リンクジョーカーからは、前弾に引き続き『星輝兵』が登場!!

今回は侵略者はブレイクライドユニットのインフィニット・ゼロ!!

この流れだと、次もガーネットスターや、ブラスター・ジョーカーあたりになりそうだよね!」

 

ミオ「ヲクシズはまだかー」

 

レイ「ZEROでは新規イラストのガーネットスターが登場したんだけど、メチャクチャカッコいいんだよ!

『星輝兵』ではガーネットスターが一番好きな作者も大満足!! この調子でフリーズレイの収録もよろしくね!!」

 

ミオ「ヲクシズもカッコいいですよ」

 

サキ「イ、インフィニット・ゼロに話を戻しますね!

インフィニット・ゼロは、Vに登場した時か、ライドされた時、CB1と手札を1枚捨てることで、相手ユニットを1体呪縛します!

リミットブレイクしていたら、前列と後列を1体ずつにグレードアップです!

実にVスタンのブレイクライドっぽいスキルですね!!」

 

レイ「だから何でよりにもよってレミエルだけが……!!

まあ、それはもういいとして、他にもオプションがついているとは言え、ノーコストで前後列を呪縛した昔と比較すると、大人しくなっちゃった印象はあるよね」

 

サキ「序盤から呪縛とギフト強奪を回していけるカオスブレイカーで、わざわざこのカードを経由する必要はあんまり無さそうだよね。

相手の呪縛カード1枚につきパワー+5000する効果もあるので、リアガード要員かな」

 

ミオ「どうしてもカオスブレイカーでインフィニット・ゼロを経由したい場合は、G2で《グラヴィティコラプス・ドラゴン》にライドするのがいいでしょう。

呪縛カードとフォースを増やしつつ、ターンロス無くカオスブレイカーにライドできるので、うまく決まれば非常に強力です」

 

サキ「グレイドールや、ブラントリンガーなど、他のG3を経由する必要があるユニットの繋ぎとしてもインフィニット・ゼロは優秀です!

特に《シュヴァルツシルト・ドラゴン》との組み合わせは、胸が熱くなりますね!」

 

ミオ「なお、このユニットやスピノドライバー、前弾のドーントレスといったブレイクライド系のユニットに対しても、デリートは高い効果を発揮します。

これはもはや根絶者が世界を支配する前触れとしか考えられませんね」

 

サキ「世界を支配するかは知りませんけど、デリートが単なるパワー-9000~13000ではなく、独自の強みを持ち始めているのは確かですね!」

 

 

●《ブレイドウイング・レジー》

 

レイ「イケメン揃いのダークイレギュラーズでも屈指のイケメン!! ダクイレ女子人気ナンバーワン(ファイターズグッズフェスティバル調べ&作者の妄想込み)の《ブレイドウイング・レジー》がついに再誕!!

ギラファほどじゃないけど、こっちもずいぶんと待ったよね!!

おかえり、レジー!!」

 

ミオ「レジーは他のダークイレギュラーズのユニットと異なり、ソウルを参照するスキルを持ちません。

その代わり、SB1でソウルを1枚裏バインドすることができ、裏バインドの枚数によって新たなスキルを獲得していきます。

ソウルではなく、バインドゾーンのカードを翼と見立てているわけですね。

例えば、裏バインドが5枚の場合、このユニットのパワーは相手ターン含めてパワー+5000されます」

 

レイ「例からしてすごい!! 裏バインド5枚ってことはソウルブラストを5回すればいいってことだから……実質、ソウル10と同じくらいの難易度と見ていいのかな?」

 

ミオ「そうですね。基本的にはバインドするカードの倍数、ソウルチャージできれば達成できると考えてよいでしょう」

 

サキ「では、この調子で他のスキルを見ていきましょう!」

 

ミオ「裏バインド7枚(ソウル14相当)なら、パワー+10000、ドライブ+1です」

 

レイ「……両面+5000とか、ドライブ+1とか、妙に守備寄りだけど、ダクイレみたいな山札切れしやすいクランって、あんまり守備的な効果って嬉しくないんだよね。長期戦に持ち込んでも、デッキアウトで負けちゃうから。

特に山札の消費が激しくなるドライブ+1はデメリットにすら見えちゃう」

 

ミオ「裏バインド10枚(ソウル20相当)以上で、パワー+10000、★+2です」

 

レイ「いきなり攻撃的になった!!」

 

サキ「★+2というのもレジーらしくていいですね。これまでの成果を合計すれば、パワー37000、ドライブ3、★3でアタックできます」

 

レイ「さすがにこれなら強いかな……とは言え、この時点で20ソウルチャージだと、経験則、次のターンのアタックでデッキアウトしてしまうことも多そう。

★+2を裏バインド5とは言わずとも、裏バインド7くらいには適用して欲しかったかなぁ。

ていうか瞬間的とは言え、これと変わらないスペックで殴れるダイホウザンおじいちゃん、改めてすごいなぁ……」

 

サキ「おっと! これでレジーの評価を確定してしまうのは、まだ早計だよ!

ここまでで滅びの翼(バインド)は10枚。まだ15枚目の効果を残してるんだから!」

 

レイ「そうだった!! 裏バインド15枚のスキルは!?」

 

ミオ「アタック時、相手ヴァンガードに2点のダメージを与えます」

 

レイ「マ ジ で ! ?」

 

ミオ「マジです」

 

レイ「……ん? 裏バインド15枚?」

 

ミオ「ソウル30相当です」

 

レイ「で き る か っ ! !」

 

サキ「裏バインド10で止めて、後は山札を節約しながら戦った方が安定しそうだよね……」

 

ミオ「ですが、それでは無難に強いことは分かりきっていますし、面白くありません。

裏バインド15枚は達成できるのか。どのように達成すればいいのかを考察してこその根絶少女でしょう」

 

サキ「思わぬイロモノの登場に、作者がイキイキしている……」

 

レイ「もう、タイトルをダクイレ少女に変えた方がいいんじゃないかな!?」

 

ミオ「まず、レジー軸に有効そうなカードをピックアップしてみました」

 

 

・ドロップゾーンからソウルインできるカード

《ヴァリアンツ・キラーテイル》、《エンブレム・マスター》、《オースティア・ヒーター》、《サンバー・ブロワー》、《ブラッドサクリファイス ルスベン》、《ベスティアル・スクイーザー》

 

ミオ「これらはドロップゾーンのカードをソウルインすることができるユニットです。

山札だけで30回のソウルチャージは非現実的ですので、これらのユニットでドロップに落としたカードを再利用して、山札を節約するのが裏バインド15枚の達成においては必要不可欠です」

※厳密には《ベスティアル・スクイーザー》は違うが、ドロップを利用して山札を減らさずソウルを増やせる点は同様なので含めている

 

サキ「裏バインド10枚で止めるタイプも、このテクニックは応用できます! いずれにしてもレジーでは優先的に採用しておくべきカードですね!」

 

 

・ガーディアンサークルからソウルインできるカード

《ヴェアティーゲル・イェーガー》、《ヴェアヴォルフ・ケッツァー》、(《アイシクル・レジスタント》)

 

ミオ「バインド15枚を狙う場合は、1枚の手札も無駄にできません。

ガードに使えば、そのままソウルに入ってくれる、これらのカードの重要度も高いでしょう」

 

サキ「特に《ヴェアティーゲル・イェーガー》は、相手から除去を受けてもソウルインできる貴重なカードです。

一方、《アイシクル・レジスタント》はインターセプト時のみなので優先度は下がるかと」

 

 

・リアガードからソウルインできるカード

《ヴェアヴォルフ・フライビリガー》 《誘惑のサキュバス》 (《媚態のサキュバス》 《死魔侯爵 バアル》)

 

ミオ「最終的にはリアガードもソウルインしなければ、裏バインド15枚の達成は難しいでしょう。

前者2枚は、起動能力でソウルインすることができるので即効性があります。後列で戦線維持しつつ、裏バインド15枚が見えてきたら、さっとソウルに入れてしまいしょう。

中でもノーコストの《ヴェアヴォルフ・フライビリガー》は使い勝手が抜群です。キーカードなのが明白であり、除去に狙われやすい点は注意が必要です」

 

サキ「後者2枚はバトルフェイズでのソウルインなので、次のターンで裏バインド15枚が達成できるというタイミングで使わなければ、アド損で押し切られてしまう危険性が。上級者向けですね……」

 

レイ「まあ、レジー自体が超上級者向けなんだけどね!!」

 

 

・メインアタッカー

《デモンテッド・エクスキューショナー》、《ディメンジョン・クリーパー》(《ヴァリアンツ・シャットアーム》、《ドリーン・ザ・スラスター》)

 

ミオ「レジーは、ソウルがほとんど0の状態で戦わなければなりません。そのため、ダークイレギュラーズの約半数を占める、『ソウルを参照して強くなる』系のカードがバニラ同然になります。

そんな中、これらのカードは容易にパンプされ、前者2枚はソウルチャージまでできる、非常に優秀なカードです」

 

サキ「《ヴァリアンツ・シャットアーム》はソウルチャージできる効果を持たないので、優先度は下がりますが、ブーストするだけでパワー+6000される点は、レジー軸におけるアタッカーとして魅力的です。

裏バインド10枚で止めるタイプで攻撃力不足に悩まされた場合は、採用の余地があるかも知れません」

 

レイ「レジーは、ソウルチャージは頻繁に行うので、ドリーンのパワーは問題無く伸ばせるよ!

アタックがヒットすれば勝ちの裏バインド10枚型では、心強いブースト要員になってくれるかも!」

 

 

ミオ「こんなところでしょうか」

 

サキ「想像していたよりドロップからソウルインするカードが多かったので、ヌラがセクスタプルドライブできるくらいの確率で達成できるかも、というのが作者の所感ですね」

 

レイ「わかりにくい!

まあ、開発に半年かけてろくに達成できないようなスキル作ってるようじゃ総スカンだろうからね。頑張れば達成はできるんでしょう!」

 

サキ「それにしても、こんな時でもなければ使わないような名前がズラリ……」

 

ミオ「最後に。裏バインド15枚を達成したからと言って、決して勝ち確定というわけではない点は、留意してください」

 

レイ「何で? 終盤に2点も与えるんだよ? そんなの勝ち確じゃない? 治があるから?」

 

ミオ「それもありますが、考えても詮無いことなので除外しています。

単純に、裏バインド15枚を達成したところで、相手に3ダメージしか与えられていないシチュエーションが想像できうるからですよ」

 

レイ「え?」

 

ミオ「レジー軸には4回以上アタックする手段が無く、リアガードもダークイレギュラーズとは思えないくらいに貧弱です。レジー自体のアタックも、完全ガード1枚で容易に防がれてしまいます。

このことから、プロテクトクランの場合、ダメージを3点に抑えることは、決して難しくないと考えています」

 

サキ「最近は1ターンに2枚のペースでプロテクトを確保できるデッキも少なくないですしね……」

 

ミオ「ですので、最後に紹介したアタッカー枠は特に重要と考えています。

ひょっとすると、裏バインド15枚を目指す型でも、点を詰めるためにドリーンの採用は必要なのではないかと危惧しています」

 

レイ「むー……」

 

ミオ「少なくとも、裏バインド15枚を達成した後も、しっかり3回殴れるようでないと勝ちきるのは厳しそうです。山札が足りるかはかなり怪しいですが。

ここから先は、実際に回してみて調整するしか無さそうですね。

作者はダクイレ好きですが、ダクイレ使いではないので、考察はここまでです」

 

ブラブレ「真のレジーデッキは、画面の前の皆が完成させよう!」

 

 

●《ベスティアル・スクイーザー》 《ヴェアヴォルフ・ケッツァー》

 

ミオ「これ見よがしに『バインド』と記述してある新規カードと再録カードですが、表向きにバインドするので、レジーのスキルには何一つ貢献してくれません。

これ以外にもダークイレギュラーズにはユニットをバインドするカードがありますが、それらはすべて表バインドなのでご注意ください」

 

レイ「ほんと、何でこんなややこしいことしたのかな? 絶対に間違える人が出てくるよね」

 

サキ「まさか開発側が、表バインドと裏バインドの違いを理解していない……なんてことは無いと信じたいですけど」

 

ミオ「ちなみに、一部リンクジョーカーの使用する、裏でバインドする除去なら、滅びの翼を増やすことができます」

 

レイ「そうだった!」

 

ミオ「もっとも、そのリンクジョーカーが《シュヴァルツシルト・ドラゴン》の場合、最終的に滅びの翼を台無しにされますが」

 

レイ「そうだった!!!」

 

 

●《キューティクルディフェンダー フラヴィア》」

 

レイ「今さらキューティクル!?」

 

ミオ「まあ、『キューティクル』を指定するカードはひとつも無いので、直接的なキューティクルの強化には繋がっていないのですが」

 

 

●《時空竜 クロノスコマンド・ドラゴン》

 

レイ「ギアクロニクルからは、クロノスコマンドが6年半の時を経て再登場!!

脚が痺れたので立ち上がった場面のイラストが目印!!

どっこいしょー」

 

ミオ「クロノスコマンドがVに登場した時、CB1SB1と手札を1枚捨てることで、自分のリアガードを山札の下に置き、山札の上から最大5枚をスペリオルコールします。

とりあえず盤面を埋めることができるので、手札がトリガーばかりで展開できないという場面や、全体除去を受けた直後で役立つでしょう」

 

レイ「クロノスコマンドらしい全体除去も完備!!

アタックがヒットした場合、相手ユニットすべてを山札の下へ!

全体除去対策にして、全体除去!

やられたら、やりかえせ!!」

 

サキ「新しいGユニットが出るたびに言っているような気がしますが、クロノジェット軸で先行を取った場合の1手目として非常に優秀です!

連続攻撃のタイムリーパー、トリプルドライブのメタリカ・フェニックス、展開&除去のクロノスコマンドと、なかなか悩ましい選択肢になってきましたね」

 

 

●《海賊貴公子 ピノ・ノワール》《海賊麗人 ピノ・ブラン》

 

レイ「双闘ユニットがもう1体!!

グランブルーからは、麗血海賊団のピノ・ノワール、ピノ・ブランが参戦!!」

 

ミオ「双闘ユニットらしく、ピノ・ノワールとピノ・ブランのスキルは密接に関わり合っています。

まずベースとなるのがピノ・ノワールの永続スキル。ドロップのトリガー3枚につき、前列ユニットのパワーは+5000されます」

 

レイ「そんなピノ・ノワールのアタック時、ドロップゾーンにいるピノ・ブランのスキルが発動!

CB1してリアガードを1体退却させることで、1枚引きつつ、このユニットをスペリオルコールできるよ!

最大ピノ・ブラン2体で追撃できるので、ドロップゾーンにピノ・ブラン2体が第1目標!!

併せてトリガーや、カウンターチャージできるカットラスも落としておきたいので、コロンバールとかでピンポイントに落とすよりは、スケルトンの航海士とかでデッキを掘り返す方がよさげ?」

 

ミオ「ピノ・ブランがコールされた時、ピノ・ノワールのもうひとつのスキルも発動します。

SB1することで、山札の上から2枚をドロップし、捨てられたカードのトリガー効果をすべて発動します」

 

レイ「トリガーが落ちなくても泣かなくてすむ墓地肥やし! ていうか手札に加わらないドライブチェック! ヌラはこれだけを5回やってるようなもん!」

 

ミオ「ピノ・ブランは相手にアタックされず、ドロップゾーンのトリガー3枚につきガード値が+5000されるので、守りもかなり堅牢です。

しかしながら、ピノデッキは序盤から終盤まで積極的に山札を消費する必要があるため、長期戦はできません。

攻撃力は低くありませんが、ナイトローゼほど攻撃に特化しているわけでもなく、スカルドラゴンも積極的には運用しにくいデザインです。

デッキアウトには細心の注意を払い、いざという時にはネグロボーンでスカルドラゴンをスペリオルコールし、ピノ・ブランのコストには後列ユニットを充てるなど、効率的にゲームエンドへと繋げられるようなゲームプランと構築が求められるでしょう」

 

レイ「いっそのこと、最終的にはナイトローゼに乗り換えちゃうのもアリかもね」

 

 

●《特別名誉博士 シャノアール》

 

レイ「グレートネイチャーからはついにシャノアールが登場!! もふもふー!!!」

 

サキ「シャノアールのスキルはV/R兼用で、アタックした時にCB1で抽選スキルが発動しますが、その前に1ドローが付属しています。

欲しい時に欲しい効果が得られない可能性のある抽選スキルですが、最低保証があるのは嬉しいですね!」

 

レイ「1ドローと言ったら、バイナキュラスのノーマル効果だもんね! オマケからして大盤振る舞い!」

 

サキ「《黒漆の聖賢師 イザベル》でデッキトップを確認する際は、落とすつもりだったカードを引いてしまうことが無いよう、カードを置く順序に注意してくださいね!」

 

ミオ「肝心の抽選スキルは、以下のようになっています」

 

ノーマルユニット:リアガードを2枚選び、パワー+5000。ターン終了時、卒業(たいきゃく)

トリガーユニット:リアガードを1枚選び、パワー+5000。後列からアタックできるようになり、ターン終了時、卒業(たいきゃく)

 

レイ「卒業(たいきゃく)て!!」

 

ミオ「ビッグベリー軸であれば、どちらに転んでも大差無く、パンプと卒業を存分に生かすことができます。

イザベル軸であれば、両方の効果が適用され、イザベルの弱点であった(グレネにしては)少ないアタック回数を補うことができます。

これらのデッキでは活躍が期待できるでしょう」

 

サキ「なお、このスキルはヴァンガードで発動する場合、両方が発動します!!」

 

ブラブレ「全ての可能性を掴み取る……悪い答えじゃないわね」

 

レイ「ここまででもメチャ強いよね! で、で、ヴァンガード時、限定のスキルは!?」

 

ミオ「ありません」

 

レイ「…………へ?」

 

サキ「言いにくいんだけど、シャノアールのスキルはこれですべてだよ。申し訳程度にヴァンガードでも使えるようにはしてくれてるけど、現実的にはリアガード要員かな……」

 

レイ「なんで!? シャノアールでしょ!?

バリバリのヴァンガードで! バリバリのブレイクライドユニットじゃない!!

最終的には竜になった猫が、なんでパンダやキツネにあごでこき使われなきゃならないの!?」

 

サキ「その理屈はよく分からないけど……」

 

ミオ「グレネ使いである作者の友人も、『新しいことしようとして大失敗してるヌラの方がマシ』と最低評価を下していました」

 

レイ「作者だって、サイクロマトゥースやヒャッキヴォーグが新参のリア要員にされた時は、かなりムッとしてたもんね」

 

サキ「ていうか、御友人のヌラ評価もなかなか辛辣な気が……」

 

 

●《リコリスの銃士 ヴェラ》《リコリスの銃士 サウル》

 

レイ「異常に長かったVクランコレクションも、いよいよラスト!!

最後を締めくくるは、ネオネクタールの銃士!!

マルティナ&トゥーレと双璧を成す双闘ユニット、ヴェラ&サウル!!」

 

サキ「そしてこれが最後にして最大の難関なんですよね……両者のスキルがかなり複雑に絡み合っていて、どう解説したものか」

 

ミオ「ここまで駄文を書き連ねてきた作者の脳みそも、もう限界です」

 

レイ「実際はレジーを越えたあたりで、かなりグロッキー!」

 

ミオ「この後には治ガーディアンも控えているのですが」

 

レイ「一番大変そうなのが残ってた!!」

 

サキ「そんなわけでざっくりとした解説になりますが、サウルから。

サウルはいつもの銃士のように、登場時にリアガードを1枚退却させて、山札の上から3枚見て、そのうちの1枚をスペリオルコールする能力を持っています。

違うのは、トリガーをスペリオルコールした場合です。

CB1することで、そのトリガー効果を発動させることができます!」

 

レイ「本来ならハズレのトリガーが、サウルの場合は大当たり!」

 

サキ「次に注目するのは、ヴェラのスキルです。

相手のヴァンガードがグレード3で、前列にサウルがいるなら、トリガー効果は前列すべてに波及します」

 

レイ「前列に★+1することができれば、超強力だね!」

 

サキ「ヴェラももちろん入れ替え能力を持っていて、こちらは2体退却、山札の上から5枚見て、2体をスペリオルコールです。

このスキルでサウルを呼んでくるもよし。サウルの呼んだトリガーを、強力なユニットに入れ替えてもよし!」

 

ミオ「このスキルで『銃士』を2体スペリオルコールした場合、ドライブ+1されます。

ドロップゾーンのカードを2枚デッキに戻すこともできるため、トリガー率を高めた状態でトリプルドライブを行うことができます。

もちろん、ドライブチェックによるトリガーもすべて前列に波及させることができるため、最終的なパワーと★は凄まじいものとなるでしょう」

 

レイ「最後の最後に仕込まれた巨大爆弾!!

出だしの遅さは治ガーディアンで緩和されるはずだし、要注目の1枚? 2枚? かな!」

 

 

●治ガーディアン

 

レイ「Vol.2収録クランの治ガーディアン登場による影響予測もここでやっていくよ!」

 

ミオ「ちなみに作者は治ガーディアンが流行ると予想しているので、敵も味方も治ガーディアンがフル投入される環境を想定して評価しています。治ガーディアンが思ったより流行らなかった場合、この評価はまったくの無意味となりますのでご注意ください」

 

 

◆エンジェルフェザー⇒〇

 

レイ「ガウリールは★を乗せたアタックを1枚で止められるのはイヤだし、ノキエルのような手数に特化したデッキもある。かと思えば長期戦ができるマルクトメレクのようなデッキもあり、正直わからん!」

 

 

◆シャドウパラディン⇒〇

 

レイ「《結氷の魔女 ベンデ》による《ファントム・ブラスター・ドラゴン》への速攻スペリオルライドを利用するデッキは治ガーディアンを扱いにくいんだよね。最速で13000ヴァンガードに乗ることで、それが既に速攻対策になってるわけだし」

 

サキ「ですが、アドバンテージ獲得能力に長け、フォースを大量に獲得する手段も多いシャドウパラディンは、腰を据えて戦うことができるクランです。

治ガーディアンとの噛み合いは非常に良いので、スペリオルライド愛好家も、一度は治ガーディアンを試してみて欲しいですね!」

 

レイ「ルアードなら現状ベンデとはコンボできないし、引きまくるのにデッキアウトすら縁遠い長期戦の鬼!! 速攻による事故死率を下げるだけで、勝率はさらに上向くはず! ほんと、ルアードだけ見るなら◎評価でいいぐらいだよ!」

 

 

◆ゴールドパラディン⇒△

 

レイ「全24のクランの中でも屈指の速攻クラン!! エイゼルなんかはスペリオルライドも得意としており、とにかく治ガーディアンに引っかかるし、生かせない!

 

ミオ「グルグウィントやスペクトラル・デュークは、G3になってからの耐久力が持ち味のユニットです。これらのユニットであれば、治ガーディアンも生かせるでしょう」

 

サキ「ランダムスペリオルコールを得意としているので、パワー5000のユニットが減り、パワー10000のユニットを増やせるのは、単純に強化と見てよさそうです!」

 

 

◆ぬばたま⇒〇

 

レイ「手数や★で速攻するようなクランじゃないので、治ガーディアンは恩恵の方が強そう!」

 

サキ「意外とソウルチャージ手段が多く、ソウルのG3を生かす手段も豊富なので、偶然ソウルにG3が入る可能性が高くなった点も地味に嬉しい点です!

特にジャミョウで最速4枚残しハンデスを狙うには、その偶然を狙う以外に方法はありません!」

 

ミオ「派手さはありませんが、治ガーディアンで堅実に強化されるクランのひとつと見てよいでしょう」

 

 

◆たちかぜ⇒△

 

サキ「たちかぜはアクセルの中でもパワフルなクラン!! ……なんですが、ガイアエンペラーは相手がG3でなければ本領発揮してくれず、アンガーブレーダーのような先攻からの速攻に特化したようなデッキもあります。

真古代竜で前トリガーを引けても、アタックをカード1枚で防がれるようじゃがっかりですし。

トリガーやアクロカントの引きによっては治ガーディアンも気になりませんが、多少は悪い方向に影響してきそうです……」

 

レイ「そんなことより、しれっとトリガーと同一視されてるアクロカントさんヤバイ」

 

 

◆ノヴァグラップラー⇒△

 

レイ「こちらもかなりの手数重視クラン! エクストラアタックに対していきなり治ガーディアンとかされたら残念すぎる!!」

 

サキ「パワーを1点に集中させるビクトールであれば、まだなんとか……」

 

レイ「ゴッドハンドであれば、治ガーディアンなど紙切れも同然!! かっこいいなー」

 

サキ「そして、特筆すべきは《アシュラ・カイザー》です!!

治ガーディアンを投入することで、ユニットをスタンドさせる確率を上げることができ、ドライブチェックで治ガーディアンを引いた場合は、ダメージ回復しながらユニットをスタンドさせ、パワーも+10000~20000されるという、実に理想的な動きを見せてくれます!

実際、トリガーのG3と聞いて、真っ先にこの顔が浮かんだ古参ファンも多いんじゃないでしょうか?」

 

レイ「まあ、バリバリの低火力速攻デッキなんで、治ガーディアン使われるのもイヤなデッキなんだけどね!」

 

 

◆リンクジョーカー⇒◎

 

サキ「全体的に長期戦を得意とするデッキが多く、治ガーディアンと高相性です!

特に、本命にライドしてしまえば、圧倒的な制圧力と守備力を発揮する『星輝兵』や『星骸』は、序盤のダメージを抑えられる治ガーディアンとの相性は抜群ですよ」

 

ミオ「…………」

 

サキ「ミオさんが言いたくなさそうなので代わりに言ってしまいますが、フォースⅡをヴァンガードに乗せての速攻も戦略にある根絶者にとっては、治ガーディアンは嫌な存在です」

 

レイ「リンクジョーカーの中では速攻寄りなんだよねー」

 

サキ「治ガーディアンがG3であることを生かす手段もあります! 《怪腕のバーストモンク》は解呪することで山札の上から1枚手札に加えることのできるカードですが、G3がめくれた場合、ヴァンガードをスタンドさせることができます!

無理なくG3率を上げられる治ガーディアンは、メサイアにとっても大幅強化です!

『根絶者』だって別に恩恵が無いわけではないですし、属するあらゆるデッキタイプが目に見えて強化されている、非常に珍しいクランです!」

 

 

◆ダークイレギュラーズ⇒△

 

サキ「パワーは高く、手数は少なく、★を増加するヴァンガードも多い傾向にあるので、治ガーディアン1枚でアタックを止められると嫌な感じです。

長期戦が大の苦手なので、その防がれた1回が、致命的な1回だったということも多々ありそうです」

 

レイ「ブルブファスの『ソウルにG3が2枚以上なら~』って条件は満たしやすくなったけど、もともと満たせない方が珍しいレベルの、あってないような条件だったんだよねー」

 

 

◆ギアクロニクル⇒◎

 

レイ「ギアクロニクルと治ガーディアンは相性抜群!!

特に治ガーディアンがG3であることを生かす手段が豊富!

超越のコストにできることはもちろん、エイトで捨てれば好きなG3を持ってこれるし、バインド軸もデッキの総グレード値が底上げされて大喜び!

それらを差し引いてもスロースタートなデッキが多いので、治ガーディアンを使われても痛くないし、使う分にはとっても便利!

文句なしの◎!!」

 

 

◆グランブルー⇒△

 

レイ「パワーと攻撃回数を兼ね備えたナイトローゼはともかく、他は攻撃回数かパワーかに偏ったデッキが多いので、使われたら嫌なデッキは多いよ。

アタックを当てることが重要な『七海』とか、使われたら発狂しそう」

 

サキ「お化けに至っては、治トリガーが《お化けのりっく》であることが重要なので、デッキにも入れにくいです」

 

 

◆グレートネイチャー⇒△

 

サキ「アクセルの中ではパワフルなクランなので、アクセルクランの中ではマシな方です。あくまでアクセルクランの中では」

 

レイ「手数に特化したはむすけより、パワーがあって、シャノアールで強化もされた、ビッグベリー軸やイザベル軸が主流になるかもね!」

 

 

◆ネオネクタール⇒〇

 

レイ「スロースタートなデッキが多いので、治ガーディアンとは高相性!

G0を指定するカードが多くて、それらの対象にはできなくなったけど……重箱の隅レベルかな」

 

 

●終

 

サキ「長かったVクランコレクションのえくすとらもこれでおしまいですけど、どうでした?」

 

ミオ「ヲクシズはまだですか?」

 

サキ「まだです。

レイちゃんは?」

 

レイ「うーん……なんだか、強すぎないカードを作ることに腐心しちゃってる印象が強いかな。

開発期間はあったはずなんだし、全クランが環境トップとして戦える! くらいの神バランス、神強化を楽しみにしていたんだけど。

蓋を開けてみれば、環境トップどころか、そのクラン内のトップを越えているかも怪しいカードが多いんだよね。

2020年に出たカード(&クラセレ収録カード)って、どれもバケモノ揃いだからね!?

よっぽど自重してないテキストでないと、勝てないはずなんだけど……」

 

サキ「確かに『相手のヴァンガードがG3以上なら』をはじめとした、制限のかかっているスキルは多いよね」

 

レイ「その分、このパック間ではバランスが取れていると思うし、このパックのヴァンガードだけで戦う分には面白そうなんだけど。

戦うためのパックと言うよりかは、遊びの幅を広げるパックって感じ。

もちろん全部が全部そうじゃないし、怪しいカードもあるんだけど、作者の理想には遠かったかな」

 

サキ「とまあ、実は作者的には不満の残るパックではあったのですが、それもこれもVスタンにまだまだ期待しているからなんですよ!

半年に1回カードを出してくれるだけでも、メガコロ使いにとっては最高の環境ですし。

次回も楽しみに待ってます!!」

 

ミオ「それでは、ブラスター・ブレードさん。シメの挨拶をお願いします」

 

ブラブレ「よいこのみんな! ユナイテッドサンクチュアリで私と握手だ!」

 

サキ「ありがとうございました! それでは、またお会いしましょう!」




昨日に引き続き、Vクランコレクションのえくすとらをお送りさせていただきました。
ここまでお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。
長くなったのであとがきは簡潔に(いつもだいたい短いですが)、次回は9/25前後に更新予定、「共進する双星」のえくすとらでお会いしましょう!
次はDスタンですよ!


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Ex.49「共進する双星」

※本編と公開順が前後したことにより、一部時系列に乱れが発生しておりますがご了承ください

●登場人物

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
好きなFFシリーズは「Ⅴ」

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
好きなFFシリーズは「Ⅸ」
アニメ化おめでとう!

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
好きなFFシリーズは「零式」

・清水セイジ
驚異的なプレイング速度で対戦相手を圧倒する、最速のファイター。高校3年生。
使用クランは「アクアフォース」
好きなFFシリーズは「タクティクス」

・葵アラシ
背は低いが豪快で危険なファイター。
天性の勘を持つ高校3年生。
使用クランは「グランブルー」
好きなFFシリーズは「Ⅲ」


●序

 

レイ「オーバードレスシリーズ、第3弾! 『共進する双星』のえくすとら、はじまるよー!」

 

サキ「今回のゲストはアクアフォース使いの清水セイジさんをお呼びしております!」

 

セイジ「紹介に預かった、清水セイジである! 今回もよろしく頼む」

 

サキ「は、はい! こちらこそ!」

 

ミオ「今回はもうひとりゲストをお呼びしています。グランブルー使いの葵アラシさんです」

 

アラシ「いよう、ひさしぶりぃ」

 

レイ「あわわ……。天海学園の2大巨頭がアタシの目の前に……」

 

アラシ「くくく……そうカタくなんなって」

 

セイジ「ああ。年齢も実績も関係無い。我々はヴァンガードを愛する同士なのだからな。マナの友人になってくれた君ならば猶更だ」

 

レイ「ふわあ……やっぱり、かっこいいよう」

 

サキ「でも、アクアフォースのセイジさんは何となくわかりますけど、どうしてグランブルーのアラシさんまで?」

 

アラシ「あ? んなもん、お互いゲストとしての出演経験は1度ずつで、今回またセイジがゲストとして呼ばれるなら、俺様も呼ばねえと不公平だろうが」

 

サキ「理由が浅い!」

 

ミオ「アラシさんはヴァンガードプロジェクト2.0発表会回にも出演していましたけどね」

 

アラシ「ま、他にも色々と理由はあるんだけどよ」

 

ミオ「はい。10月の本編は、天海学園のエピソードとなる予定です」

 

レイ「おおっ! いきなりの本編予告」

 

サキ「なるほど。本編の前に改めて、天海勢のキャラ紹介を兼ねているわけですね」

 

アラシ「正直な話、セイジ単体だと動かしづらいっていうのもあるな。無口だし、堅物だし、こういうワイワイ騒ぐ場に向いてねーんだわ」

 

セイジ「むう」

 

アラシ「その点、俺様は何でも好き勝手言わせられるから、作者としては書きやすい。いやー、憎まれ役は辛いねぇ」

 

ミオ「では、そろそろ各カードを解説していきましょう」

 

レイ「えくすとら、スタートぉ!」

 

セイジ「うむ」

 

サキ「本当に向いてない!」

 

 

●《砂塵の榴砲 ダスティン》

 

レイ「ユニットストーリーでもイケメンぶりを発揮したフクメンがRRRで登場!」

 

ミオ「ヴァンガードがユージンなら、手札を1枚ソウルに置くことで、1枚引き、G2以上の相手リアガードを退却させることができます」

 

レイ「実質ノーコストでソウル増やせるわ、除去もできるわと、驚きのハンサムっぷり!!」

 

アラシ「それだけじゃねえぜ。

ダスティンがアタックした時、ソウルブラストすることで、ユニットのいないリアガードサークルひとつにつき、パワー+2000だ!

除去だけでなくアタッカーも兼ねるナイスガイだな。

コストは自身でも補充できるし、ユージンならまぁ足りなくなることはねぇだろ」

 

レイ「新戦力を得たユージンデッキで、魅せろ、ダンディズム!」

 

 

●《砂塵の双撃 オーランド》

 

セイジ「このカードがソウルにいる時、相手リアガードが退却しているなら、CB1でこのユニットをソウルからスペリオルコールできる」

 

ミオ「G3以上のヴァンガードがアタックした時、このユニットをソウルに置くことで、ヴァンガードのパワーを+5000します」

 

レイ「要するに、ソウルを行ったり来たりしながら、ヴァンガードを+5000してくれるユニット!

とは言え、スペリオルコールのコストが重いし、パンプ値もしょっぱいので、基本的には出しっぱなしになりそう。緊急でソウルが欲しい時や、ファイナルターンに少しでもパワーを水増しするためソウルインするくらい」

 

ミオ「ダスティンとの相性も抜群で、ダスティンのコストとしてソウルインすることで、すぐさまスペリオルコールにまで繋ぐことができます」

 

アラシ「このカードで最も注目すべき点は、ソウルで発動するスキルということだな。

つまり、ライドラインとしての採用も考慮できるってこった!」

 

レイ「ユージンのG1ライドラインであるナイジェルはソウルチャージしかしてくれない!

そして、G2ライドラインであるランドールは、G1が誰であるかを問わないので、ユージンのライドラインに採用はありえそうだね! ユージンなら条件を満たすのも余裕♪」

 

ミオ「もっとも、それではユージンにライドした時点でソウルが4枚しか無いので、最速で大量展開ができなくなる可能性がある点は気を付けてください」

 

レイ「今後も、『ライドラインがG2とG3だけである程度完結している』と『除去が容易にできる』の条件を満たせるデッキであるならば、ライドラインとして採用できる期待の1枚! ドラエンの新規ライドラインが登場するたび、意識しておくべきカードになりそうかな」

 

 

●《襲穫祭》

 

レイ「妙にハイセンスなネーミングの、ユージン向けオーダーだよ!」

 

ミオ「メインフェイズに相手ユニットが退却した時、カードを1枚引くことができます」

 

アラシ「このカードの後に《サンライト・パニッシュメント》を使えば、最大5体退却の5枚ドローだな」

 

レイ「ほんとだ! 爆アド!!!!!」

 

アラシ「バーカ! どっちもオーダーだから、同一ターンには使えねーよ」

 

レイ「図られた!?」

 

 

●《豪傑竜 ムサシドアーマー》

 

レイ「作者待望のむらくもっぽい新規ライドライン!! ……なんだけど、なんじゃこりゃ?」

 

サキ「別名のユニットにライドされてもペルソナライドになると言われても、だよねぇ……」

 

レイ「何にでも化けられるという点は、むらくもらしくて好感度高いんだけど」

 

アラシ「一応、想定できる使い方は2つあるな。

まず、ライドデッキをこのカードにすることで、メインデッキに本命のカードを4枚入れることができる。ペルソナライドできる確率が飛躍的にアップするわけだな」

 

セイジ「例を挙げるとするならば……別国家になるが《六角宝珠の女魔術師》はペルソナライドすることで本領を発揮するユニットなので、初動の遅さは許容できるし、次のターンからペルソナライドしやすくなる点は噛み合っている。

が、わざわざ別国家を例に出した点から察せるように、ドラゴンエンパイアにペルソナライドを条件としたスキルを持つヴァンガードはいない」

 

アラシ「まあ、仮にムサシドアーマーがケテサン出身だったとしても、五角宝珠のライドライン能力は使えなくなるわ、六角宝珠のサポートカードは使えなくなるわで、わざわざコイツを間に挟むかってーと、微妙なんだが」

 

サキ「そもそも、むらくものユニットが使いたくてムサシドアーマーを使いたいのに、他のユニットにすぐライドしてたら意味ないんじゃ……」

 

レイ「ふ、ふたつめの使い方は?」

 

アラシ「対戦相手によってメインヴァンガードを使い分ける。

例えば、ユージンとオーバーロードを4枚ずつメインデッキに入れておく。後は対戦相手の出方や、手札に応じて、どちらかにペルソナライドすればいい」

 

セイジ「とは言え、こちらのパターンも難がある。

まず、ユージンとオーバーロードは両方とも除去を得意とするV特化型だ。厳密には違いも多いのだが、わざわざ無理をして使い分けるほどではない

 

アラシ「逆に、ニルヴァーナは方向性が違いすぎて、一緒に入れられねーんだよな」

 

セイジ「ユージンも、オーバーロードも、初動が重要なデッキなので、それを放棄するムサシドアーマーへのライドは自殺行為でもある。優秀な専用サポートカードが使いにくくなる点も問題だ」

 

レイ「……要するにパヴサーガラに期待ってことだね!」

 

アラシ「前向きだな、オイ」

 

 

●《砂塵の穿弾 メイナード》

 

サキ「特筆するべきところは何も無い一列除去……なんですが」

 

レイ「何と、このカード! V登場時でも発動できるんだよ!!」

 

アラシ「……で? メインヴァンガードに確定ライドできる今の環境で、それに何の意味があんだ?」

 

レイ「ほんとそれ!!

『このユニットがVにいるなら、代わりに2枚選ぶ』くらい書けなかったのかな!?

ムサシドアーマーと言い、ドラエン、オモシロライドライン作るの下手すぎない!?

ストイケイアを見習いなよ!?」

 

 

●ダークステイツ 《強欲魔竜 グリードン》

 

レイ「ドラゴンがギアクロやペイルムーンのごく一部にしか生息していなかったドラゴン不毛の地、ダークゾーン(ステイツ)に登場した謎ドラゴンのライドライン!!」

 

サキ「ギアクロやスパイクではないですし、ペイルとも違う。リアガードの方向性はダクイレに近いですが、ダクイレに今までドラゴンは1体もいなかった。

……これは、24クランいずれにも依らないライドラインと見て間違い無さそうです。そんなのも出すんですねー」

 

レイ「いや、まずはギアクロ出してからでしょ、そういうの!?」

 

サキ(レイちゃん、思った以上にギアクロ出るのが遅くなりそうで焦ってる……)

 

アラシ「そんなグリードンは、V特化型のユニットだぜ。

このユニットがアタックしたバトル終了時、ソウルブラスト2して、スタンドしているリアガード4枚をソウルに置いたなら、このユニットをスタンドさせる!」

 

サキ「シンプルなVスタンドですが、

前列のユニットを残して、トリガーをリアガードに集めてもよし。

V後列のユニットを残して、突破力を高めてもよし。

応用が効きそうなスキルですね」

 

アラシ「一応、ソウルが10枚以上でパワー+15000もされるんだが、本人もサポートカードもソウルを使うわ、デッキ消費も激しいわで、これを狙ってソウルチャージはしない方がいいだろうな。

刹那的な+15000ぽっちより、2回殴れるターンをもう1ターン作った方が、大抵の場合は正解だぜ?」

 

セイジ「驚嘆すべきは、もうひとつのスキルだ。

ソウルにグリードンがあるなら、ダメージゾーンでの敗北は7枚になる!」

 

レイ「ありそうでなかったルール捻じ曲げ系の延命スキル!!」

 

セイジ「ペルソナライドすることで容易に適用することができるが、相手に速攻されそうな場合は、自身のスキルでソウルにグリードンを仕込むことも視野に入れた方がよさそうだな」

 

サキ「グリードンのスタンドはディスアド2で、なおかつ毎ターンスキルを使うには、手札を確保しておかなきゃいけません。

相手のアタックを積極的にガードするよりかは、強靭な肉体で耐えきるイメージなんでしょうね」

 

セイジ「ダメージが溜まりやすく、ドライブの試行回数も多いので、治トリガーの発動機会も多い。

デッキに4枚しか無いトリガーを余すところなく利用する様は、まさしく強欲だな」

 

アラシ「ソウルチャージしない方がいいっていう理由がこれな。

ライフ増加と、治によるダメージ回復のしぶとさが長所なんで、ダメージとは関係無いデッキアウトで負ける原因を作るのは、強みを潰すも同然なわけだ。

ダメージを多く受けられるってことは、その分だけデッキも減るってことは忘れるんじゃねーぜ」

 

ミオ「生粋のグランブルー使いが言うと重みがちがいますね」

 

アラシ「うっせ」

 

セイジ「守りのスキルのようにも見えるが、自分から積極的にダメージを受けることで、相手の治を不発にさせ易く、攻めにも貢献してくれる。

特に、自分が6点を受けた状態で、相手に6点目のダメージを与えた場合、相手の治は不発になるので、勝ちがほぼ確定する点は覚えておくといいだろう」

 

 

●《デザイアデビル インケーン》

 

アラシ「グリードンの取り巻きであるデザイアデビル。その中でも注目株だぜ!」

 

ミオ「ヴァンガードの能力でソウルに置かれた時、CB2することでヴァンガードのパワー+5000、ドライブ+1します」

 

レイ「グリードンでこの子を食べることによって、ツインドライブ⇒トリプルドライブの2回攻撃!! !!!

ディスアドを軽減し、攻撃力は跳ね上がる。まさしく必須級と呼ぶに相応しいサポートカード!」

 

アラシ「むしろ、毎ターン使っていくのが大前提だぜ」

 

サキ「スキルの発動条件を満たすだけなら、バロウマグネスでも可能です!

カウンターコストがかさむので必須というわけではありませんが、採用の余地はありそうです」

 

 

●《デザイアデビル ゴーマン》

 

レイ「パワーが高く、トリガーをVに集中させることの多いグリードンのアタックを防ぐのは完全ガードが基本!

その完全ガードを使いにくくさせるのが、このカード!!」

 

アラシ「条件は相手のVがG3以上であること以外はインケーンと同じ。CB1支払うことで、相手に2枚以上コールしなければガードできなくなる制限をかける!

お馴染みの制限だが、グリードンとの相性は抜群。

完ガしようにも、相手に3枚の消費を強要させて、ガードを断念させるのが狙いってわけだな」

 

レイ「問題は、インケーンとコストが被ってること。併せて使いたいけど、さすがに毎ターンCB3は厳しそう。インケーンやゴーマンをソウルから回収できるムッカーもカウンターコストを使うわけだし……」

 

アラシ「ま、それもあるから、できる限りグリードンは相手のアタックを受けていくべきという結論に至るわけだな。

相手がそれを嫌ってアタックを渋るなら、それもまたよしだ。グリードンは落としたい時に落とせるほどヤワなヴァンガードじゃねえからな」

 

 

●《デザイアデビル ヒステラ》

 

レイ「スタンドしているリアガード1枚につきパワー+2000!

ダメージゾーンが5枚以上なら、代わりに+5000のアルティメットブレイク!!!!!」

 

ミオ「盤面が埋まっていれば単体21000。ダメージ5枚が達成されていれば、単体パワー33000にまで上昇します」

 

セイジ「グリードンのアタッカーとして最適なカードだ。その性質上、ダメージ5点も達成はしやすい。

だが、1手目にアタックしなければならない都合上、グリードンのトリガーをリアガードに振れなくなる点は注意が必要だ」

 

アラシ「グリードンでなければパワーが発揮できないというわけでもなく、他のデッキでも採用できるポテンシャルは秘めているぜ!

特に、ユニットをスタンドさせるブルース軸との相性は悪くねぇ。

1発目は33000。ブルースのスキルでスタンドした後も、ブルースをブーストしていたとして28000で追撃ができる。

ディアブロスの面々に劣らないトンデモパワーだぜ」

 

 

●《キーンリィ・ルデリィ》

 

レイ「グリードンが登場したおかげで、もらえたサポートカードこそ少ないけれど、バロウマグネスが何よりも欲しかったカードのひとつ! デッキアウトの延命手段だよ!」

 

セイジ「登場時、CB1することでソウルから好きな数だけノーマルユニットをデッキに戻すことができる。さらに選ばれた枚数だけパワー+5000される。

延命手段であり、屈指のアタッカーでもある」

 

アラシ「デッキ回復するつもりで出したこのカードが、そのまま相手を殴り殺したなんてこともありそうだな。けけけっ」

 

レイ「ソウルに1枚あれば十分なカードなので、ライドラインに仕込んでおく価値すらあるカードだよね。バロウマグネスのG2ライドラインは、ソウルが2増えるだけ(+手札交換)なので、他にしっかりソウルチャージできるカードを入れておけば、そこまで大きな問題にはならないよ! 終盤にこのカードが確実にソウルにいてくれるってことの方がメリット大きいと思うな」

 

 

●《グラビディア・ネルトリンガー》《ニートネス・メテオシャワー》

 

レイ「隕石の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女性エイリアンが登場だよ!!」

 

アラシ「設定だけ見ると、バロウマグネスの上位互換感がすげぇな」

 

レイ「同じ重力を操り、かたやコンクリ、かたや隕石……」

 

サキ「見た目的にはリンクジョーカーのエイリアン枠、なんでしょうか? 根絶者や星骸みたいな」

 

レイ「まだノヴァ枠がいないのに、リンクジョーカー枠2週目!?」

 

ミオ「根絶者を愛用している私や作者からすれば、似て非になるものですが」

 

セイジ「ちなみにグラビディアのほとんどはエイリアンだが、ネルトリンガーのみスペースドラゴンだ」

 

レイ「ややこしっ!!」

 

ミオ「そんな《グラビディア・ネルトリンガー》は、セットオーダー/隕石である《ニートネス・メテオシャワー》と密接に絡み合った効果を持ちます」

 

サキ「ああ、Vコレの双闘枠みたいな、説明が面倒なタイプですね……」

 

レイ「サキちゃんと作者がゲンナリしてる!」

 

ミオ「とりあえず、まずはネルトリンガーから見ていきましょう」

 

セイジ「ああ。

ネルトリンガーがVに登場した時、山札から隕石を2枚まで探し、オーダーゾーンに置くことができる」

 

アラシ「デッキに16枚まで入れられるセットオーダー/隕石の《ニートネス・メテオシャワー》は手札から発動してもソウルチャージ1できるだけの石ころだが、ヴァンガードの能力で置かれたなら1ドローもついてくる!

要するに、ネルトリンガーが登場するだけでソウルチャージ2の2枚ドローってわけだ」

 

レイ「爆アド!! !!」

 

アラシ「アドつっても、デッキの中身はガード値の無い石ころだらけだけどな」

 

セイジ「隕石の使い道はこれだけではない。むしろ、ここからが本番と言っていい。

ネルトリンガーがアタックした時、オーダーゾーンから隕石を1枚以上、望む枚数ドロップすることで、ネルトリンガーは力を増していく。

1枚以上で、パワー+15000。

3枚以上で、さらに★+1

5枚以上であれば、トリガー効果は2度発動するようになる」

 

アラシ「そして、隕石のさらなる効果も発動だぁ。

《ニートネス・メテオシャワー》がオーダーゾーンからドロップに送られた時、相手リアガードを1体選び、退却させることができる!

5枚の効果を発動させたついでで、相手の盤面は焼け野原だ!!」

 

レイ「爆ディスアド!!!!!」

 

サキ「隕石はどのくらいデッキに入れればいいんでしょうか?」

 

セイジ「それにはまず、どのように隕石を使っていくかを考察する必要があるな。

毎ターン、手札から隕石の発動とペルソナライドができていると仮定して、もっとも無難なのが、

ライドしたターンに1隕石。

その次のターンに5隕石。

さらに次のターンがあれば3隕石。

『1⇒5⇒3』パターンか」

 

サキ「全体除去のおかげで、生き残りやすそうなので、ライドしてから3ターン目も視野に入れられるのは強みですね!」

 

セイジ「この方向性を目指す場合、デッキに隕石が12~13枚あれば十分達成できるだろう」

 

アラシ「それだと、ちょっと攻撃力が足りなくねーか?

アタック回数が少ない分、★は必須だと思うぜ?

俺は『3⇒3⇒3』パターンを推すね。

もし3ターン目が回ってきそうになければ、その時に『3⇒5⇒1』パターンに切り替えりゃいい」

 

レイ「それだと何か物足りないなー。隕石16枚突っ込んで『3⇒5⇒5』とかできないの?」

 

ミオ「現状、隕石を安定して置く手段はネルトリンガーと、メインデッキに3枚しか入らない《グラビディア・ウェルズ》しかありません。隕石を多く入れたところで、置く手段が無い現状、少なくて11枚、多くて14枚あたりが限界でしょう」

 

アラシ「ちなみに、ドローとソウルチャージとサーチを繰り返すデッキなんで、4ターン目はまずない! そうなりゃ、もれなくデッキアウトで負けだ。

幸い、ソウルチャージとドローは任意なので、ギリギリまで調節が効くのは救いだがな」

 

ミオ「ここまで書いたところで、気になったので公式HPのデッキレシピを見に行ったのですが、隕石は16枚投入されていました」

 

レイ「強気!!」

 

アラシ「ま、レジーのデッキレシピが、よっぽど相手に接待してもらわねーと15枚も裏バインド揃えるの無理だろって構築だったんで、まったくアテにはなんねーけどな」

 

サキ「そ、そこはまあ、公式で最強の構築(ベストアンサー)を載せるわけにもいきませんし……」

 

レイ「けど、隕石を16枚集めるのって、なかなか大変そうだよね。これまでも16枚制限のカードはあったけど、実際には8枚くらい入れれば十分だったり、そもそも採用率自体が芳しくなかったりっていうカードがほとんどだった。けど、これについては10枚以上の採用は間違い無いし、グラビディアを組みたいって人も多くなるはず」

 

アラシ「ネルトリンガーを4枚集めるより、隕石を16枚集める方が大変だったりしてな。くくくっ」

 

レイ「しかもDスタンのパックって、Vスタンの頃よりもコモンの封入率が落ちてるんだよね。Vスタンは1箱買えば確実にコモンが2枚揃ったけど、Dスタンは特定のコモンが1枚しか当たらないこともしばしば」

 

アラシ「そーそー。せっかくだからこの機会にグチらしてもらうが、作者がそれでめっちゃ困ってんのよな。

これまでは4箱でコモン8枚、レア4枚が確実に揃ったから、欲しいパックは4箱単位で買うのがデフォだったんだが、今は4箱買ってもレアが4枚揃わなくなったから、欲しいカードを買い足すのがものすごく手間になってんだよ」

 

レイ「しかもカード名がいちいち覚えにくかったりするよね! 1弾を4箱買った直後の作者は、リアルでこんな感じだったよ↓」

 

 

作者「《涙する悪意》?が1枚足りなくて? 《悲嘆と絶望、そして拒絶》が2枚? 《呪われし魂は悶え蠢く》が1枚? そもそも《悲嘆と絶望、そして拒絶》と《呪われし魂は悶え蠢く》のどっちがパンプだっけ?」

 

 

アラシ「ゾルガかよ」

 

レイ「そして見事に買い間違えて、作者の家には《悲嘆と絶望、そして拒絶》が5枚あるよ」

 

アラシ「一番、5枚以上いらねーやつ!!」

 

レイ「それ以来、作者はDスタンのパック買ってないからね。割と嫌な思い出のひとつになってるみたい」

 

 

●《グラビディア・ウェルズ》

 

サキ「グラビディアの中でも指折りの働き者! まずはライドラインにおける能力がすごいんです!」

 

ミオ「このカードがVに登場した時、デッキの上から7枚見て、隕石を望む枚数手札に加えます」

 

レイ「最大7アド!!!!!!!」

 

アラシ「これがあるから、隕石は多めに入れていい派なんだよなー、俺は。隕石を入れれば入れるほど、このタイミングで手札が増えて圧縮もできるわけで」

 

セイジ「だが、圧縮してトリガーばかり引けたところで、アタッカーが引けなければ本末転倒だろう」

 

アラシ「それもあるんだよなー。やっぱ13枚が限界かなー」

 

サキ「夢が広がるライドラインのウェルズですが、リアガードに登場した時の能力も強力です!」

 

ミオ「ネルトリンガーの項でも軽く触れましたが、登場時に手札から隕石を2枚まで置くことができます。このカードが、隕石を確実に置ける唯一のリアガードとなります」

 

レイ「10000ブーストもできるようになるので、アタックヒット時に隕石を置くことのできる《グラビディア・プシブラム》のアタックも気持ち当てやすくなるよ! 本当、隕石の扱いに関してはスペシャリストだね」

 

ミオ「なお、不確定で隕石を置けるカードも、そのプシブラムが唯一となります。要は、隕石を置くことのできるリアガードは2種類しかいないというわけですね」

 

レイ「コンセプトによってはデッキに5枚以上入れたくなるようなカードなんだけど……何で、こんなカードをライドラインと一緒くたにしちゃったんだろうね」

 

アラシ「引けるかどうかで全体の強さが俄然変わってくるカードを、メインデッキに3枚しか入れられないって、結構致命的だよな」

 

 

●《枢機の竜 デスティアーデ》

 

レイ「オルフィストに唯一足りなかったもの……それはアタック回数!!」

 

サキ「それがこのカードのおかげで、ついにオルフィストは4回のアタックが可能になりました! これまでの常識を打ち破るスペックは、まさしくRRRに相応しいです!」

 

ミオ「このユニットがアタックしたバトルの終了時、夜影兵を3枚退却させることで、このユニットをスタンドさせることができます」

 

サキ「深淵黒夜でパワーも+5000されるので、単体パワーも十分です! 相手がG2でも15000で2回殴れるのは、ほんとにすごい……」

 

アラシ「そして! ブラントゲート待望のヴァンガードアタック後に2回殴れるユニットでもある!

エルドブレアスの効果を受けて、パワー2億30000、★2の2回攻撃は、どんな状況でも一発逆転の可能性を秘めてるぜ!」

 

ミオ「なお、ネルトリンガーもエルドブレアスの力を借りれば、パワー4億オーバーでアタックできます」

 

レイ「なにその頂上決戦!?」

 

 

●《悠久の時を超えて》

 

レイ「4枚目のセットオーダー/世界が登場! 今度の世界は夜影兵のパンプだよっ!」

 

ミオ「設置コストこそSB2と重いものの、一度置いてしまえば、夜影兵が登場するたび、そのターン中、その夜影兵のパワーが+5000されます」

 

レイ「ディスアドを補填してくれないタイプの世界だけど、効率がヤバすぎて、ぜんっぜん問題にならないかな。オルフィスト自体が、そんなにディスアドが重いデッキじゃないし」

 

セイジ「複数枚採用する余裕はさすがに無いので、デッキにピン挿ししておいて、ライドラインですぐにサーチしておくのがいいだろうな」

 

サキ「使用済みの夜影兵を有効活用しつつ処理できるデスティアーデとの相性はもちろん抜群です!」

 

 

●《リファブリッシュメント・ドック》

 

レイ「エイリアンだろうと女の子だろうと、G2であるならばブーストという新機能を追加するスーパー格納庫!! ブラントゲート驚異のメカニズム!!」

 

サキ「出オチみたいなカードだけど、手札の補填もしてくれるし、悪いカードじゃないよね。安定性とパワーを底上げしてくれそう」

 

セイジ「惜しむらくは、現状のブラントゲートにおけるライドラインと、あまり相性がよくないことだな。

極光戦姫はそうまでして攻めるデッキではないし、グラビディアはブーストどころか、盤面を埋めることができるかも怪しいデッキだ。

枢機は……言わずもがな、だな」

 

レイ「夜が明けちゃう!」

 

ミオ「今後、強力なG2を多く抱え、ビートダウン型のライドラインが登場するのであれば、隠し味として採用を検討してみるのも一興でしょう」

 

レイ「リアガード要員のRRRってG2が多いから、弾が進むごとにデッキにG2が増えてく傾向は確かにあるんだよねー、このカードゲーム」

 

 

●《極光戦姫 カフ・スプリング》

 

レイ「コントロール型の極光戦姫に嬉しい新戦力! ノーコストで! 状況に依らず! 監獄のカードを1枚増やせるって、すごくない!?」

 

サキ「ライバルは、コストは必要なものの、相手の手札の質を高めることもなく、パワーも出せるアキューズ・マカライトですね!

アキューズ・マカライトはPRカードで手に入りにくいので、その代用として収録されたとも言えそうです」

 

ミオ「手札破壊で言うと《確保の瞬間!極光戦姫密着24時!》もありますね」

 

レイ「そっかー……競合してるカードが多いのかー」

 

アラシ「それでもRRの2枚より採用率は高くなるかもな。それとも、レモナンでビートダウン型の極光戦姫が台頭するのかね?」

 

レイ「気になるのは、これほどの逸材がコモンで、今日のカードで紹介すらされなかったってことなんだよね。

ひょっとしたら、もはや作り手が極光戦姫を理解しきれていない疑惑が……」

 

アラシ「ま、かく言う作者も、現状の極光戦姫を理解しきれているかは怪しいけどな!

断片的な伝聞を、自分のカードゲーム経験値で繋ぎ合わせてるだけだからな。けけっ」

 

 

●《卓絶の天衝 ラグレール》

 

レイ「バスティオン軸にまたまたバケモノが追加投入!!

このユニットがアタックした時、CB2と他のユニットを望む枚数レストすることで、このユニットはドライブチェックができる!!

G3なので、このドライブチェックはもちろんツインドライブ!!」

 

ミオ「その代償も大きく、バトル終了時に手札を5枚捨てなくてはなりません。

ですが、前述のコストでユニットをレストした枚数だけ、このデメリットも軽減され、ユニットを2体レストしていれば3枚に。4体レストしていれば0枚に軽減されます」

 

サキ「ユニットを4枚レストすれば=アタック回数を1回減らせば手札を2枚増やすこともできるわけですね。

攻めっ気の強いバスティオンで使う機会があるかは分かりませんが、面白い選択肢です」

 

アラシ「さらに面白いのが、このデメリット。後払いなので、何かと踏み倒しやすいってところだな。

例えば、自分の手札が0枚の場合、このユニットのツインドライブで得た手札こそ失うものの、実質的な消費はゼロだ。

もっと言えば、このスキルで勝ちを決めてしまえば、手札がいくら消費されようが関係無ぇ」

 

セイジ「レストさせるユニットは0枚も選べるので、『どれだけ手札があっても、次の相手ターンは耐え切れない』という状況であれば、全員をスタンドさせたまま、ツインドライブの恩恵だけ得ることができるというわけだ。

Dスタンは、攻めに易く、守りに難い環境なので、その判断は慣れれば容易にできる。攻撃に特化したバスティオンならばなおさらだ」

 

ミオ「ドライブチェックを増やす特性がバスティオンと噛み合っているのはもちろんですが、もうひとつ非常に相性のよいデッキがあります」

 

レイ「六角宝珠だね!!」

 

ミオ「はい。特に六角宝珠では4枚をレストさせてハンドアドバンテージを得るパターンも選択肢に入ります。

手数の少なさは★トリガーとパワーで容易に補えるので、ペルソナライドできないターンはこれでデッキを回しつつ、守りを固めるといいでしょう」

 

 

●《立志の魔法 カカロネ》

 

レイ「RRRなのに肝心のデッキトップ操作がオーワインの下位互換なんだけど!?」

 

アラシ「まあ、オーワインがRRRもかくやという盛られっぷりだったからな」

 

セイジ「けしてこのカードが使えないわけではない。誤解の無きよう」

 

レイ「今弾は他にも六角宝珠を強化するカードが盛りだくさん! 大躍進が期待できるライドラインのひとつだよ!!」

 

 

●《イーズロッド・エンジェル》

 

レイ「バスティオン、六角宝珠、ファントム・ブラスター……ケテルサンクチュアリ、すべての軸で採用される可能性を秘めた、良デザインカードだよ!!」

 

ミオ「SB1で山札の上から1枚見て、このユニットの縦列にコールします。めくるカードはブーストできるカードでなければ基本的には機能しませんが……」

 

レイ「ファントム・ブラスターなら、誰であろうとドンとこい! 使えないカードなら、ダムド・チャージング・ランスの贄となれい!」

 

アラシ「六角宝珠なら、事前に山札を確認できるので、G1をデッキトップに置いてからこのカードをコールすりゃいい。

確認したカードをデッキボトムに送れない五角宝珠やカカロネとは特に相性がいいな!」

 

レイ「本来、その役目は《金剛鏡の女魔術師》だったんだけど、めくる枚数が多すぎて使いにくかったんだよね。五角宝珠のライドラインスキルで3枚めくって、1枚ノーマルユニット、2枚トリガーだった場合とか!

山札を微調整できるこのカードは、本当に助かる!」

 

アラシ「ラグレールをコールして、このユニットは後列でレストさせるって使い方も面白いぜ」

 

セイジ「残るバスティオンは、めくるカードはだいたいトリガーかG3になる。バスティオンデッキなら、G3でブーストできるギミックは組み込まれているだろう。もちろんこちらでもラグレールとの相性は良好だ」

 

 

●《啓示の魔法 トトリス》

 

レイ「なかなか直接的かつ大胆な六角宝珠サポート! CB1でデッキから六角宝珠を手札に直輸入!!」

 

サキ「六角宝珠におけるペルソナライド安定化はもちろんのこと、Dスタンでは珍しい、CB1で堅実なアドバンテージを提供してくれるカードでもあります。

少量の六角宝珠と共に、他のデッキに出張採用もありえるんじゃないでしょうか!」

 

 

●《守るべき誇り》

 

レイ「騎士だろうと女の子だろうとファントム・ブラスター・ドラゴンだろうと、G3であるならばブーストという新機能を追加するスーパー結界!! ケテルサンクチュアリのバリアはバケモノか!!」」

 

アラシ「手札を補填してくれた格納庫とは逆に、こちらはさらに手札1枚を要求される。他にコストはかからないとは言え、それだけのために手札2枚の消費は厳しそうだな」

 

セイジ「バスティオンにしろ、G3に寄せた型の六角宝珠にしろ、G3のブーストギミックを採用するのであれば、勝負所に確実に適用できるようでなければならないが、このカードを4枚採用するのは自殺行為だ。

入れるにしても、従来の手段に加えて、このカードを隠し味として1枚程度になるだろう」

 

 

●《旗艦竜 フラッグバーグ・ドラゴン》

 

サキ「アクアフォースの後継となるドラゴンがついに出撃です!!

武装やカラーリングがメイルストロームと酷似している点も気になるところ!」

 

ミオ「これでメガラニカは、グランブルー=ゾルガ軸、バミューダ△=カイリ軸、アクアフォース=フラッグバーグ軸と、全クランの後継が揃ったことにまりますね」

 

レイ「……ふーん、よかったねー」

 

セイジ「フラッグバーグは戦い方もアクアフォースを踏襲している。

フラッグバーグがアタックした時、そのターンにアタックした回数に応じて、以下の効果が発動する。

3回以上で、1枚ドロー。

4回以上で、相手リアガード2体を退却。

5回以上で、パワー+10000、手札から3枚以上コールしなければガードできない制限だ」

 

サキ「ドローに、除去に、ガード制限! このあたりもメイルストロームを彷彿とさせますね!」

 

セイジ「もちろん、連続攻撃ができるリアガードも豊富に揃っており、手札さえあれば5回のアタックは容易に達成できるだろう。

ただし、連続攻撃ができるユニットのほとんどがパワー10000で、ヴァンガードへの通りはよくない。

ヴァンガードに有効打を与えたい場合は、アドマンティスでパワーを底上げしてやるといい」

 

サキ「本当に優秀ですよね、あのカマキリ……」

 

アラシ「連続攻撃できるユニットを《霊体凝縮》で蘇生させんのも面白いぜ!」

 

セイジ「また、連続攻撃できるユニットのほとんどがカウンターコストを消費するので、消耗が激しく、それ故にアドバンテージを稼ぐ手段も限られる。

除去と消耗戦は天敵と言えるだろう。このあたりも従来のアクアフォース(特に初期の)譲りと言えるな。

あまりにもアクアフォースそのものすぎて、話を広げられないのが残念だ。

グランブルーを踏襲しながら新しいこともしているゾルガが、少し羨ましくもあるな」

 

アラシ「いやあ。あれはあれで考えることが多くて面倒だぜ?

ちなみに作者は、魔合成なんてどうでもいいから、普通のグランブルーにして欲しかった派だ」

 

レイ「はーん、ふーん、ほーん。それでー? ペイルムーンとー、ギアクロとー、ギアクロとー、ギアクロと―、ギアクロとー、ギアクロニクルはいつでるのかなー?」

 

サキ(レイちゃんが焦りのあまりスレてきてる……)

 

 

●《廃滅の虚竜》

 

アラシ「ストイケイアに、さらなるライドラインが登場だぜ!!」

 

レイ「またぁ!?」

 

アラシ「その名も《廃滅の虚竜》!!

V登場時にドロップからノーマルオーダーを1枚選び、そのコストを払わずにプレイする!!

魔合成のようにバインドすることも無いので、1枚オーダーがあれば、それを延々と使いまわすことができるぜ」

 

サキ「わぁ! それならゾルガや憤竜とも差別化できていて、十分新規ライドラインを名乗れそうなスペックですね!」

 

アラシ「んー。つっても、『ドロップゾーンからオーダーをプレイしている』っていう点においては魔合成と同じなんだよな。

魔合成はそれに加えて、手札のオーダーもプレイしているわけで。はっきり言って、こいつは魔合成の下位互換に近いスキルだ」

 

セイジ「同じコモンライドラインでも、見方によってはゾルガ以上のことをしていた憤竜とは違うということだな」

 

アラシ「その現状から脱却するには、ノーコストの部分を生かすしかねぇ。

例えば、Vスタンの《知略の兵法 剛腕の章》がDにもあったとして、だ。もちろんこんなカード、ゾルガでは重すぎて使えねーが、虚竜なら?」

 

サキ「虚竜にライドするたび、3枚ドロー&前列+10000!!!」

 

アラシ「そういうことだ。コストはクソ重いが、単体で爆アドを稼げるオーダーさえあれば、虚竜はゾルガ以上のことをできる可能性がある。

目安としては、単体で魔合成以上の成果をあげられるかどうかだな。

コストが割に合っている必要も無い。CB5SB8で5枚ドローみたいな暴利オーダーだろうと、虚竜はむしろウェルカムだ。ゾルガで使えなければ使えないほど、虚竜独自の価値になるんだからな」

 

サキ「……で、そういうオーダーは、あるんでしょうか?」

 

アラシ「…………」

 

サキ「アラシさん?」

 

アラシ「いやぁ、基本的にストイケイアのオーダーって魔合成すること前提にデザインされているからよ。軽いのが多いんだわ。

かろうじて重いと言える《逆流する冥府》は、魔合成しないと本領を発揮しねぇし。

唯一、面白いと言えるのは《涙する悪意》かなぁ?

2体の退却も、もちろんコストなので踏み倒せる。

カウンターチャージ1、ソウルチャージ1、1ドローが毎ターンできるなら……他にコストが重くて強いカードがあれば、それを連発できるからな」

 

サキ「……で、そういうコストが重くて強いカードは、ストイケイアにあるんでしょうか!?」

 

アラシ「いやあ、それがもうぜんっぜん! むしろケテサンに多いでやんの。オールデンとかオーランドとか。オーダーも来たれりとかあるし。完全に生まれてくる国家間違えてるよ、こいつ」

 

サキ「そうですか……」

 

アラシ「そんなわけで、今後に期待だな。重いオーダーか、重いRRR級のリアガードが登場すれば化ける可能性はある。素質自体は悪くないもんがあると思うぜ?」

 

 

●《死招きの黒呪術》

 

アラシ「とまあ、ここまでが第2弾までのカードで考察した《廃滅の虚竜》だ」

 

レイ「なんでそんなややこしいことを!?」

 

アラシ「だって、今日のカードでは、このカードだけが真っ先にポンと紹介されやがったからよ。イラストはマジかっけぇのに、どう使おうかと、作者がどれほど頭を悩ませたか。まずはその過程を知っておいて欲しかったわけだ!!

ま、さすがに、こんなカードを出しっぱなしにしたままでは終わらなかったぜ! 相性のいいカードがしっかりセットで収録されてやがる!」

 

ミオ「同じく初期に紹介されたムサシドアーマーは、特に相性のいいカードが登場することなく、出しっぱなしでしたが」

 

アラシ「そのカードこそ、《死招きの黒呪術》!! CB4で2枚ドロー!! このコストはバインドされているカード1枚につき1減る!

……んー、んんんー、んんんんんー、2枚ドローかー」

 

サキ「うーん。もう一声ってところでしょうか」

 

アラシ「まーな。2アドくらいなら、ゾルガがその気になりゃ余裕で稼げるわけで。3アドが分水嶺だと思ってたんだが、2アドかー。

つっても、その2アドはノーコストで得られる2アド! 余ったコストを有効活用できれば、ゾルガ以上の活躍は期待できる! ……んだが」

 

サキ「ストイケイアには重くて強いカードが全然無いんですよね」

 

アラシ「ああ。そっちはついぞ来なかった。

まあ、せいぜいブリッツオーダーの《封じられし道》あたりかな。……むりやり重いカードを探してきた感もあるが、コストさえあるのなら、悪くないカードでもある。

ライドラインの成功率を上げるため、オーダーの水増しは必要だしな」

 

 

●《死招きの黒呪術》

 

アラシ「《廃滅の虚竜》以外のデッキにおける《死招きの黒呪術》も考察しておかねぇとな!」

 

サキ「えっと……CB4の2枚ドロー。バインドされているカード1枚につきコストが1減るんでしたっけ」

 

アラシ「ああ。最初の魔合成ではコストが3もかかる。次のターンでも2なので、マトモに使えるのはゾルガや憤竜にライドしてから3ターン目だ。そこまでいくと、今度は2枚ドローによるデッキアウトが怖いな。

一応《鬼首捻り》でも軽減できるとは言え、正攻法では使えたもんじゃないので、他のバインドできるカードと組み合わせる必要がある」

 

サキ「それには、どんなものがあるんでしょうか?」

 

アラシ「色々とあるんだが、ぶっちゃけ《棺桶撃ち》一択だと思ってるぜ。というか、それ以外のバインド手段は、別にカウンターコストがかかるんだよ。コスト軽減するためにコスト消費してりゃ意味ねぇだろ。

魔合成する前に、オーダーと《棺桶撃ち》をドロップゾーンに送りこんで、バインドゾーンのカードをどうにか2枚増やす!

そうすりゃ1回目からCB1で使えるし、2回目以降はタダで2ドローだ!!」

 

サキ「そこまでいけば、どんなカードと魔合成しても強そうですね!」

 

アラシ「そこだけ見りゃあな。実際は《棺桶撃ち》の大量投入が必須なんで、デッキ自体のパワーがかなり落ちる。

後述するが、ゾルガにはソウルの有効な活用先が増えたんで、ソウルを無駄に消費するのもかなり痛い。

このカードを生かせるのは、ゾルガではなく《鉄錨の憤竜》だと思ってるぜ」

 

レイ「でた! 憤竜さん!!」

 

アラシ「ゾルガほど蘇生が上手くない憤竜なら、《棺桶撃ち》も余裕で採用圏内だ。

バインドを2枚溜めて《死招きの黒呪術》と《死招きの黒呪術》を魔合成すれば、CB2で4枚ドロー!!!!

次ターン以降の《死招きの黒呪術》はノーコストで4ドローだ!!!!」

 

レイ「爆アド!!!!」

 

アラシ「例の如くデッキ切れは怖いんで、サブのオーダーはフィニッシャーになる《扇情の蜜》を入れておくといいぜ」

 

レイ「ところで、《死招きの黒呪術》でゾルガさんが読んでる本は何なのかな?

魔導書ならそれらしかったところなんだけど、表紙の折れ方がどう見ても雑誌なんだよね。内容も文字というよりは写真っぽいし」

 

アラシ「んなもんエロ本しかねぇだろうが。なぁ、オウガ? っと、もうここにはいないんだったか」

 

サキ「なっ、なんでそこでオウガ君に同意を求めるんですか!?」

 

アラシ「むしろ、何でお前がそこに反応すんだよ!?」

 

レイ「でも、ぶっちゃけ、ヘンドリーナの前で平然とデリカシー無い本を読んでそうなイメージはあるよね、ゾルガさんは」

 

 

●《影纏い》

 

アラシ「ゾルガデッキをワンランク上に押し上げること間違い無しの、超重要戦力が登場だぜ!

登場した時に、ドロップに無いオーダーカードをドロップゾーンに送り込むことができる」

 

レイ「オーダーを使い分けやすくなったので、動きの安定性、汎用性、デッキ構築の融通まで大幅グレードアップ!」

 

アラシ「《廃滅の虚竜》デッキでは、《死招きの黒呪術》を実質8枚体制にできるようになったので、《廃滅の虚竜》にライドする前に《死招きの黒呪術》がドロップゾーンに落とせてない最悪の事態を回避するカードとして活躍してくれる。それどころか《死招きの黒呪術》を3枚に減らす構築だって考えられるな」

 

ミオ「2枚目以降の《死招きの黒呪術》は、基本的には死に札になってしまいますからね」

 

アラシ「《死招きの黒呪術》を使ったらデッキアウトしてしまう状況や、ファイナルターンを想定して、《霊体凝縮》や《扇情の蜜》をピン挿しする構築も考えられるからな。それらがダメージに落ちる前に、即座にドロップ送りしてくれる《影纏い》は終盤まで役に立ってくれるぜ」

 

セイジ「手札とドロップにオーダーが揃わず魔合成ができない状況も多かった《鉄錨の憤竜》デッキの不安定さも、このカードの登場で大幅に緩和されることになるだろう」

 

レイ「要するに、ストイケイアが誇るオーダー3人衆の誰もが求めてたカードってわけだね!」

 

アラシ「それだけに終わらないのが、《影纏い》のヤベェところだ。

オーダーをプレイした時、SB1することでパワー+5000。さらに、魔合成しているなら、リアガードを1枚手札に戻すことができる!!」

 

セイジ「《ゴースト・チェイス》の仕事を、ユニットが、メインフェイズで、行ってしまえるようになったということだ。

ゾルガで蘇生させた超トリガーや完全ガード、ゾルガ自身を、《影纏い》で回収する動きは、今後のゾルガでは最も基本的な動きとなるだろう」

 

アラシ「これな。超トリガーをファーストヴァンガードにしてしまうのも、大マジメにアリだと思うぜ?

ドライブチェック回数もデッキ圧縮も平凡なゾルガで、引くかどうかも分からない超トリガーにお願いするより、毎ターン50000ガードが担保される方がよっぽど強くね?」

 

レイ「実際、半年Dスタンやってて、超トリガーのおかげで勝ったファイトより、50000ガードのおかげで勝った試合の方が多く感じるよね」

 

セイジ「『超トリガーが見えている』状況と『超トリガーが見えていない』状況では、相手に対するプレッシャーが違うため一概には言いにくいが、一考の余地はある選択肢であると思う」

 

 

●《樹角獣 バロメツ》

 

レイ「G1にしてパワー10000!!」

 

アラシ「もちろんデメリットも半端じゃねえ。このユニットは前列からアタックできない。

10000ブーストなら《暗澹巡り》で十分だし、マグノリアで後列からアタックさせるにしても、10000と8000じゃ、ガード要求値は大して変わらん」

 

レイ「だからと言って、このヤギさんが使えないと判断するのはまだまだ早計!

何といっても、このユニットにはライドすることができるんだから!」

 

アラシ「もちろん前列からアタックできないデメリットはヴァンガードにおいても適用されるが、先攻でライドした場合は、そのデメリットを踏み倒しつつ、相手ユニット単体のアタックをほとんどシャットアウトしてくれる鉄壁のヴァンガードとなってくれるぜ」

 

セイジ「一方で、後攻でライドした場合、アタックができなくなるばかりか、パワー10000も大した意味を成さなくなる」

 

レイ「天国と地獄!!」

 

アラシ「使い方は、

これをライドデッキに入れておいて、後攻を取った場合は手札の別カードにライドする。

これをメインデッキに入れておいて、先攻を取った時、手札にこのカードがあればライドする。

のどちらかになるだろうな。

ライドデッキに入れるパターンを選択するやつは、よっぽどの勇者か大馬鹿だろうが、あえてこのカードを使うのなら、そのくらいしないとダメなのかもね」

 

サキ「投入するとしたら樹角獣デッキになるのでしょうか……」

 

アラシ「だな。

幸いと言うべきか、カリスのライドライン能力もかなり不安定だし、一方でリアガードにおけるスキルは優秀だ。

ライドデッキにバロメツを入れて、カリスをメインデッキに4枚入れた構築なら、普段とは一味違う樹角獣デッキにはなりそうだぜ」

 

 

●《バーニングフレイル・ドラゴン》《ステムディヴィエイト・ドラゴン》《警邏ロボ デカルコップ》《ブレードフェザー・ドラゴン》《情憬の乙女 アラナ》

 

レイ「5大国家にも3種類目の★トリガーが登場!! これにより5大国家でも★トリガー12枚構築ができるように!! ……なった、はずなんだけど」

 

サキ「ファイターズルールの更新によって、★トリガー、前トリガー、引トリガーは8枚しかデッキに入れることができなくなってしまいました」

 

レイ「これってどう見てもターゲットは★トリガーで、前トリガー、引トリガーはとばっちりだよね!

オルフィストなら、前トリガー11枚構築も面白そうだったんだけどなぁ」

 

サキ「基本的に前列に3体しか並ばない環境での前トリガー、全体的に手札のガード値が低くなった環境での引トリガーと比較して、★トリガーが一歩抜きんでていることは確かだとは思いますけど……」

 

アラシ「全体のガード値が低い分、★トリガーによる速攻は決まりやすくなってるしな。しょーがねぇと言えばしょーがねぇのかも知れねぇが、★トリガーガン積みによる速攻っていうのは、格下が格上を倒すのに最も有効な手段でもある。

速攻を制限する=ただ単にカードパワーが強いデッキだけが勝ってしまう環境になりがちなのも考慮して欲しかったところだね」

 

サキ「そのあたりは、治ガーディアンにも同じことが言えますよね」

 

アラシ「ま、そもそもの間違いは、G1のガード値を5000にしてしまったことだと、俺は思っているんだがね。

それによるガード要求値と戦略性に与える影響も分かるんだが、10000要求をいちいち15000でガードしないとならないDスタンは、はっきり言って、プレイしててメチャクチャ苛々するぜ。

作ってるやつは、それに気付かなかったのかね? それとも俺や作者が短気なだけなのかね」

 

レイ「カードゲーマーってきっちりした人が多いからねー。それも何故かファイト中に限って」

 

アラシ「ま、今弾でガード値が10000になるユニットが今弾で急増してんのは、暗に過ちを認めてんだろうとは思うけどな」

 

 

●《バーニングフレイル・ドラゴン》《ステムディヴィエイト・ドラゴン》《警邏ロボ デカルコップ》《ブレードフェザー・ドラゴン》《情憬の乙女 アラナ》

 

レイ「改めて新規★トリガー5人衆!!

彼らは3種類目の★トリガーであり、スキル持ちの★トリガーでもあるんだよ!」

 

セイジ「そのスキルとは、ブーストしたバトル終了時に、このユニットをソウルに置くことで、ユニット1体のパワーを+2000するものだ」

 

アラシ「ヴァンガードを選ばなくなった代わりに、2ランクほどダウンした旧《ランペイジ・シェイド》みたいな感じかね」

 

レイ「基本的にDスタンで+2000のパンプって使いづらくて、想定できるのはG1がG3をブーストした時の21000を23000に押し上げるくらい。これもデッキによりけりだけど、そんなに見かける状況ではないんだよね……」

 

サキ「ペルソナライドの関係上、G3は手札に温存されがちですからね……」

 

セイジ「+3000なら、《アセンダンス・アサルト》らのアタックが通るようになり、また違ったのだがな……」

 

レイ「4000ブーストに至ってはもっとで、本当に10000リアガードをヴァンガードに届かせるくらいの役目しか果たせない!

そんなわけで、このカードを盤面に出すのは相応のリスクを覚悟すること! 盤面に出すなら5000ブーストの方が遥かに使い勝手がいいからね!

なりふり構わずソウルを増やしたい!! ってデッキに採用できるカードだね」

 

アラシ「とは言え、これで1枚のアドバンテージを失っているので、ソウルでアドを取るってデッキにも向かねぇ。

かと言って、ソウルでパワーを上げていくタイプのデッキだと、今度はこのカード自体のパワーの低さが引っかかる」

 

レイ「あれ? 思ったより使いこなせるデッキは限られそう……?」

 

アラシ「まあ、いいバランスだとは思うぜ。前回の前トリガーは、前トリガーが入るデッキなら入れ得で、他の前トリガーを食っちまうレベルだったが、このレベルなら、従来の★トリガーも十分採用の余地があるだろうしな!」

 

 

●終

 

レイ「こうして『共進する双星』のカードを一通り見てきたわけなんだけど……」

 

ミオ「はい」

 

レイ「何が『共進』で、何が『双星』だったの!?」

 

ミオ「……さあ?」

 

アラシ「ダスティンとオーランドじゃね?」

 

サキ「たしかに綺麗なコンボでしたけど……」

 

アラシ「インケーンとゴーマン」

 

レイ「食われてるだけだよ、その子達!?」

 

ミオ「謎を残したところで、今回のえくすとらはお開きにしたいと思います」

 

レイ「それじゃ、まったねー!!」




FFシリーズでは「Ⅱ」が一番好きな異端児です。

ヴァンガード公式サイトでは、公式の小説「クレイ群雄譚」がスタートしましたね!!
その登場人物の中にはなんとメガコロ少女の姿が……!!
これは期待しかありません。
まだ読んでいないと言う方も、面白いのでぜひ。

あ、根絶少女も引き続きよろしくお願い致します。


【デッキログ】
虚竜さん:8WYC
憤竜さん:JDVU


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Ex.50「御薬袋ミレイ -封焔の巫女-」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
好きな〇戯王カードは《虚無を呼ぶ呪文》

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
好きな遊〇王カードは《究極恐獣》

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
好きな遊戯〇カードは《カラクリ将軍 無零》


●序

 

レイ「Dスタンに6つ目のスタートデッキが登場! お値段はもちろん333円!!」

 

サキ「…………」

 

レイ「どしたの、サキちゃん? 元気ないね」

 

サキ「いや、たちかぜは!?」

 

レイ「あー……」

 

サキ「なんで、たちかぜ系のライドラインを登場させないまま、こんなの出してるんですかぁ!!

装備なんてオーダー、なおさらたちかぜでやらせるべきじゃないんですか!?」

 

レイ「まあ、ニルヴァーナ(かげろう)と、ユージン(なるかみ)と、オバロだけ出してりゃ、他はどうだっていいやっていうスタンスは、10年前から何も変わってないよね?

本音を言っちゃえば、作者は割とDスタンに失望しかけてるよ」

 

ミオ「とは言え、バヴサーガラには何の罪もありません」

 

サキ「う……すみません」

 

レイ「そう! バヴサーガラ自体は、とっても面白そうなカードなんだよね。

サキちゃんがさっきサラッと触れたけど、なんたってついにヴァンガードにも装備カードが登場!!」

 

ミオ「《闇の破神剣》」

 

サキ「《伝説の黒帯》」

 

レイ「よそ様のカードゲームなのは今さらツッコまないけど、チョイスがニッチすぎない!?

せめて《団結の力》とか《月鏡の盾》とか言おうよ!」

 

ミオ「そのようなわけで、作者の内心はどうあれ、えくすとらはできる限り私情を挟まず進行させていただきますので、その点はご安心ください」

 

レイ「ま、次のVコレでは、作者がバリバリ私情挟みそうなレベルで不愉快に感じてるカードが2枚もあるんだけどね!」

 

ミオ「できる限り、と言いました」

 

レイ「都合よすぎる!!」

 

 

●《封焔の巫女 バヴサーガラ》《封焔の剣 プリティヴィー》《封焔の盾 スワヤンブー》

 

レイ「そんなわけで、まずはバヴサーガラの紹介だよ!」

 

ミオ「バヴサーガラは、先ほどから話に挙がっている、ノーマルオーダー/装備カードと密接な関係を持ちます」

 

レイ「あ、えくすとらで紹介順に悩むタイプだ」

 

サキ「と、とりあえず装備オーダーの解説から……」

 

ミオ「そうですね。

装備オーダーは、その名の通り、ユニットに装備する武具となるカードです。

装備オーダーをプレイした場合、そのオーダーは指定されたユニットのいるヴァンガードサークルに置かれます」

 

レイ「その際、イラストが繋がるのがカッコいいよね!」

 

ミオ「装備オーダーには、さらに右神装備、左神装備があり、同系統のオーダーを2つ以上装備することはできません」

 

サキ「右神装備と左神装備を1枚ずつ装備することは可能ですが、右神装備を2枚装備することは不可ということですね!」

 

レイ「右手装備、左手装備とすればいいところを、わざわざ神と表現するあたりヴァンガード!」

 

ミオ「ここでようやく装備カードの解説に入ります」

 

レイ「バヴサーガラまで、まだまだ遠そう!」

 

ミオ「スタートデッキに収録された左神装備は《封焔の盾 スワヤンブー》です。

プレイするコストにCB1こそかかりますが、このカードを装備している場合、1ターンに1回、相手からアタックされた時、装備しているユニットのパワーを+10000してくれます」

 

レイ「つまり、毎ターン10000ガードがタダで使えるってこと? すごくない!?」

 

サキ「Dスタンは10000ガードが不足している環境です。

10000要求を15000でガードしたり、2枚使ってガードしたりといった無駄が格段に減るので、見た目以上に防御力を底上げしてくれそうなカードですね」

 

ミオ「性質上、リアガードが狙われやすくなるので、アタック後に盤面を離れるユニットと相性がいいです」

 

サキ「リアガード狙いのアタックにめっぽう強い《ヴェルリーナ・バリエンテ》や《ヴェルリーナ・エクスペクター》を《トリクスタ》と共に採用するのも面白そうですよ!」

 

ミオ「右神装備は《封焔の剣 プリティヴィー》です」

 

レイ「ずいぶんとプリティな名前の剣だね……」

 

ミオ「スワヤンブーとは対照的に、アタック時にパワー+10000してくれる他、相手のダメージが4以下なら、アタック終了時にCB2して、このカードをドロップゾーンに置くことで、1ダメージを与えます」

 

レイ「効果はプリティじゃなかった!」

 

サキ「コストもプリティじゃないけどね……」

 

レイ「条件もあって、コストも重い。使えるのは1ゲームに1回かな。

剣が折れた後に装備する詰めのカードは、次のパックに期待だね!」

 

ミオ「そしていよいよバヴサーガラの紹介です」

 

レイ「待ってました!」

 

ミオ「このユニットが装備した時、ソウルチャージし、ドロップゾーンからG1以下をスペリオルコールすることができます」

 

サキ「装備のディスアドを即座に補填してくれる、優秀な効果ですね!」

 

レイ「プリティはともかく、盾の装備って実質2アド、3アドくらいの価値あるんだけどね!」

 

ミオ「前列にG1が並びがちなので、前列で10000パワーを出せる《封焔竜 ナモーカール》や《忍竜 フシマチマドカ》を採用しておくと、よりスキルを活かすことができます」

 

サキ「前列にG1が並んでもいいように、《過激竜 ヴェロキハザード》を後列に置いておくのもいいですよ!」

 

ミオ「スペリオルコールできるのはG1以下なので、《トリクスタ》も呼んでくることができます。その点からもオーバードレスとは相性がよさそうですね」

 

レイ「まあ、アニメのサブタイ予告見てると、専用のオーバードレスは来そうだよね」

 

サキ「黒いトリクスタ!」

 

ミオ「そして、バヴサーガラが2枚以上装備している場合、SB2することで、相手の前列リアガードをすべて退却させ、このユニットの★を+1します」

 

レイ「ここまで達成したら、弱点はレストがいちいち大変そうなことくらいだよね!」

 

サキ「2枚繋がる双闘でも、結構大変だったからね……」

 

 

●《封焔竜 ハリバドラ》《封焔竜 ナモーカール》《封焔竜 アーヒンサ》

 

ミオ「続いて、ライドラインも解説していきましょう」

 

レイ「はーい!

G0のアーヒンサから、G1のナモーカールにライドした時点で、デッキから装備オーダーを1枚サーチ!

G1のナモーカールから、G2のハリバドラにライドした時点で、ドロップから装備オーダーをサルベージ!

極光戦姫とゾルガのライドラインを足して2で割った感じかな?」

 

サキ「キーカードを確実に手札に加えつつ、ノーコストで2アド稼げるので、かなり強力なライドラインですね!」

 

レイ「G2にライドした時点で、スキルが完遂されるタイプのライドラインなので、特定のライドラインに属さないG3のライドデッキにもピッタリ!

ムサシドアーマーはじまった!?」

 

ミオ「早期に盾を装備したいバヴサーガラで、わざわざムサシドアーマーを経由する必要性は皆無ですが」

 

レイ「……ムサシドアーマーの活躍は、また次の機会に!

大丈夫! 次の弾で『ムサシドアーマーはこのための布石だったのか!』っていう、抜群に相性のいいG3コモンが登場すると、作者は信じてるから!」

 

 

●終

 

ミオ「バヴサーガラの解説は以上です」

 

レイ「まとめると、現時点でもV本体の詰め性能はトップクラス! 盾のおかげで守りも堅い!

ただし、リアガードを強化したり、連続攻撃させたりは一切できないので、典型的なV特化デッキになりそうかな?

ドラゴンエンパイアの中でも、ドラグヴェーダとの相性はピカイチ!」

 

サキ「バヴサーガラと足並みを揃えられる、単体性能の高いリアガードが登場すると、強くなりそうだよね」

 

レイ「となると、やっぱりオーバードレス!! 期待しちゃっていいのかな?」

 

ミオ「次の強化が楽しみですね」

 

レイ「それじゃ、今回はこのへんで!」

 

サキ「次回もよろしくお願いします!」




1週間遅れで、スタートデッキ「御薬袋ミレイ -封焔の巫女-」のえくすとらをお送りさせて頂きました。
本当は実際に試してからあとがきを書きたかったのですが、都合が合わず、今回は実際にプレイしてみた感想は無しとなります。
おかげでネタもありません。

次回は12月の本編で、作中最後の高校選手権となります。
そちらでまたお会いできれば幸いです。


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Ex.51「覚醒する天輪」

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
期末テストの平均点は95点。
国語以外は基本100点。

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
期末テストの平均点は81点
昔はケアレスミスが多かったが、最近は克服できてきた。

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
期末テストの平均点は55点
ヴァンガードの成績と反比例するかのようにテストの成績が落ちており、少し焦っている。

・星見トウコ
最年長のプロファイターとして様々な記録を残す生きる伝説。
がさつで容赦の無い性格のため、人気は低い。
使用クランは「ノヴァグラップラー」
学生時代の期末テストの平均点は9点。
そもそもろくに授業を受けず、カードショップに入り浸っていた。
良い子はマネしないでね。


●序

 

ミオ「『覚醒する天輪』のえくすとらがはじまります。カードを紹介していきましょう」

 

レイ「早っ!!」

 

ミオ「作者のDスタンに対するモチベーションが反映されています」

 

レイ「ああ、魅力的なカードがいっぱいで、いてもたってもいられないんだね!」

 

ミオ「そういうことにしておきましょう」

 

サキ「やる気の無い作者に代わって、ゲストも呼んでおきました!

作中にて、ついに登場したプロファイター……」

 

レイ「!!」

 

サキ「ノヴァグラップラー使い、星野トウコさんです!!」

 

トウコ「ふん! プロをこんなところに呼び立てて。ちゃんと楽しませてくれるんだろうね!」

 

レイ「そっち!? ダルクさんじゃなくて!?」

 

トウコ「そっちで悪かったね!」

 

レイ「ひいっ! ごめんなさいぃ!」

 

ミオ「こっちの方が、作者が書きやすいからですね」

 

トウコ「こっちで悪かったね!

さあ、さっさとはじめるよ、小娘ども!」

 

レイ「ああ……結局、はやく進める流れになっていく……」

 

サキ「あばばばば……トウコさんがこんな近くに」

 

 

●ドラゴンエンパイア《天輪真竜 マハーニルヴァーナ》

 

レイ「ついに登場、グレード4!!!!」

 

ミオ「まずはG4の共通仕様から説明していきましょう」

 

トウコ「そんなまどろっこしいことはいいんだよ! さっさと次に行くよ!」

 

レイ「まだマハーに触れてすらいないんだけど!?」

 

ミオ「G4の共通仕様は

・トリプルドライブ

・ペルソナライド無し

・パワーは13000で据え置き

この3点が挙げられます」

 

サキ「ペルソナライドを所持していないというのが難しいですよね。ライドした時点ではディスアドになってしまいますし、元ユニットでペルソナライドした方がパワーだけなら高くなるっていうユニットもいるんです」

 

レイ「その分、スキルはとっても強力!!

マハーニルヴァーナは、オーバードレス状態のユニットがいるなら、前列ユニットにパワー+10000してくれるよ!」

 

サキ「ニルヴァーナが持っていた、パワー+10000する起動スキルの代わりみたいなものだね」

 

ミオ「ニルヴァーナがそのままペルソナライドした場合は、順当にいけば前列パワー+20000なので、サキさんの言っていたペルソナライドした方がパワーは高くなるパターンですね」

 

レイ「ニルヴァーナと差別化するには、もうひとつのスキルがよっぽどでないとダメってことだね!」

 

ミオ「CB1して、手札かソウルからニルヴァーナを含むカードをドロップに置くことで、ドロップからG0をスペリオルコールし、相手のダメージが4枚以下なら1ダメージを与えます」

 

レイ「よっぽど!!」

 

サキ「パワーを上げる必要があるのは、つまるところ相手にダメージを与えるためですからね! トリクスタも準備できますし、これならニルヴァーナのペルソナライド以上の性能と言い切れるでしょう!」

 

レイ「素でトリプルドライブなので、超トリガーのドラグヴェーダを引いたら祭りだね」

 

 

●《ヴェルリーナ・エスペラルイデア》

 

サキ「ニルヴァーナをG4へと覚醒させるべき理由は他にもあります! それがこのヴェルリーナの(暫定)最終進化系、エスペラルイデアです!!」

 

レイ「なんとこのヴェルリーナもグレード4!!!! ヴァンガードがマハーニルヴァーナ(もしくはエスペラルイデア)でないと、オーバードレスはもちろん、リアにコールすることもできないよ!」

 

サキ「オーバードレス元はトリクスタ! この原点回帰っぽさもかっこいいですね!」

 

ミオ「このユニットは、オーバードレスした時、ドロップからトリクスタとオーバードレスすべてを、このユニットのドレス元とします」

 

レイ「そして、ヴァンガードがアタックした時、SB1することでこのユニットはスタンドし、ドレス元1枚につきパワー+5000!! 連続攻撃&超パワー!!

そのままマハーニルヴァーナを使う理由になってくれそうな、ただ強カード!!」

 

トウコ「おっと! エスペラルイデアを扱えるのはマハーだけじゃないよ!」

 

レイ「え? でもG4なんてマハー以外にいないんじゃ……」

 

ミオ「ユージンですね」

 

サキ「……あっ! ユージンなら山札からスペリオルコールできますね!」

 

トウコ「ああ、そうだよ。それもただスペリオルコールするだけの魅せプレイってわけでもない。エスペラルイデアのスタンドは、ソウルブラスト以外に条件もいらないからねえ」

 

レイ「ユージンでも連続攻撃ができるってことだね! おばあちゃん、すごい!」

 

トウコ「ふん。このくらい、自分で思いついて欲しいものだね」

 

サキ「安定はしませんが、ユージンでは貴重な連続攻撃です。試してみたくなるコンボですね!」

 

 

●《トリクムーン》

 

レイ「こちらもある意味、原点回帰? 黒いトリクスタことトリクムーン!!」

 

サキ「黒いブラスター・ブレード!?」

 

レイ「黒いクロノジェットもいてよかったよねー」

 

サキ「ブラックアウト側が星なんだから、デイブレイク側は太陽とかの方がいいと思うんだけど……」

 

レイ「トリクサン!!」

 

トウコ「いつまでファイトに関係ない話をくっちゃべってんだい、あんたらは」

 

ミオ「えくすとらから雑談を除いたら、何も残りませんよ」

 

レイ「けど、馬鹿話ばっかりしていられないほど、トリクムーンがとんでもカードなのも事実!

このカード……なんと、中央後列にコールするだけでカウンターチャージ!!」

 

ミオ「バヴサーガラや装備カードを指定しているわけでもないので、ニルヴァーナのスキルでスペリオルコールするもよし。ユージンの後列にコールしてそのまま寝かすのもよしです」

 

レイ「これだけであらゆるドラゴンエンパイアのデッキに採用できるのは間違いないんだけど、バヴサーガラで使用した場合は、さらなる加点が!」

 

ミオ「ブーストした時、バヴサーガラが装備しているカード1枚につき、ブーストされたユニットのパワーが+10000されます」

 

レイ「実質25000ブースト! こっちはこっちでV後列でなくとも発動するので、リアガードを超パワーにすることだって!

気難しそうな見た目とは裏腹に、融通がききまくるとってもいい子!」

 

 

●《封焔の槍 アーディティア》

 

レイ「バヴサーガラの新たな右神装備!」

 

ミオ「アーディティアは、CB1することで装備でき、装備しているユニットのパワーを+10000してくれます」

 

レイ「これだけなら剣と大して変わらないんだけど、もうひとつの効果がすごい!

このカードが装備された時、追加で装備カードをプレイできる!」

 

サキ「これにより、1ターンで左右の装備を揃えることができるようになり、バヴサーガラの退却スキルと★+1をライドしたターンに適用できるようになりました! バヴサーガラの弱点であった初動の遅さが大幅に緩和された形になります!」

 

レイ「いよいよバヴサーガラも本領発揮!! これはフル投入確定だね!!」

 

 

●《封焔竜 アーダルラ》

 

レイ「――なんて言ってたら、いきなり槍の立場を危うくするカードが!!」

 

ミオ「リアガードに登場した時、Vの装備が1枚なら、CB1することで手札かドロップから装備カードをヴァンガードに装備してくれるカードですね」

 

レイ「起動にコストこそかかるものの、装備カードのコストは踏み倒せるので、剣⇒アーダルラ⇒盾の順に実行することで、SB1CB1でフル装備が可能に!!

槍⇒盾のパターンはCB2と重いうえに、装備後のスペックは基本的に剣>槍なので、アーダルラを経由した方が強い!

しかもアーダルラはドロップゾーンからも装備できるので、装備カードを確定ライドのコストにしておけば、槍で手札から装備するよりもアド得!!

バヴサーガラが投げ捨てた剣も後から拾えるし、槍は手札に槍を含めた2枚の装備カードが無いとダメだけど、アーダルラは手札がこれ1枚でも機能する!

逆に、槍は手札に同名カードが複数枚あっても腐るけど、アーダルラは最低限コールはできる!」

 

サキ「しかもアーダルラは装備が2枚あるだけでパワー+5000されるアタッカーでもあります! 槍にもドローがありますが……」

 

レイ「ドローさせてくれるなら、普通に18000で殴れるアーダルラを引きたいよね。それなら最初っからアーダルラ使えばいいわけで。

バヴサーガラデッキの主力となるブーストは、パワー25000のトリクムーンなので、パワーラインもぴったり!

何で槍と一緒にこんなカード出しちゃったの!?」

 

サキ「第5弾のRRRになっててもおかしくないカードだよね……」

 

レイ「現状は槍の上位互換。槍は5枚目以降のアーダルラと言っても過言では無い状況だけど……」

 

ミオ「一応、槍には槍のメリットがあります。それは装備カードであることと、サキさんの言ったようにドローがあることです」

 

レイ「?」

 

ミオ「バヴサーガラのサポートカードには装備カードを指定するものが多いので、今後も装備カードであることを生かせるカードが登場する可能性があります。手札から複数枚の装備カードを捨てることを要求されたり、ドロップの装備カードを数えるスキルなどが登場すればチャンスですね。

ドローについては、環境がインフレすればするほどドローの価値は上がっていくものだからです。一方で、18000アタッカーの価値は下がっていくものだからです。

例えば、33000の★2でアタックできるG3がバヴサーガラに登場すればどうでしょう?」

 

レイ「あ、そっか! パワー18000のアーダルラで妥協するんじゃなく、そのG3を引き込める可能性の上がる槍が優先されるってことだね!」

 

サキ「槍にも将来性があるということですね!」

 

トウコ「ま、それだけ環境がインフレする頃には、槍なんて見向きもされないような装備カードも登場してるだろうけどね!」

 

レイ「台無し!!」

 

 

●《封焔の銃 チャンドラ》

 

レイ「盾に代わる左神装備も登場!

盾自体がかなりのハイスペックで、剣と違って使い減りもしないので、要求される性能は右神装備よりずっと上なんだけど、槍があんな体たらくで大丈夫かな……?」

 

ミオ「一応、槍自体はかなりのスペックなのですが」

 

サキ「いけなかったのは、同じ弾に、役割が同じで、レアリティも同じの、超ハイスペックなカードが収録されてしまったことなんですよね」

 

レイ「そんな期待と不安に彩られた銃は、SB1で装備可能!」

 

ミオ「装備しているユニットがアタックした時、CB2でドライブ+1。バトル終了時に、この銃はドロップされます」

 

レイ「弾1発しかないの!?」

 

サキ「コストの重さは気になりますが、防御を捨てて攻めたい時に使うファイナルターン向けのカードですね。盾に代わる装備というよりは、最終盤で盾と入れ替える装備として調整してきました!」

 

レイ「剣と同時に装備して、攻撃に特化したパヴサーガラデッキを組んでみるのも面白そう!」

 

サキ「いいカードでよかったねー」

 

レイ「……大丈夫? この後、コールするだけでバヴサーガラのドライブ+1する18000アタッカーとかいないよね?」

 

サキ「トラウマになってる!」

 

 

●《忍竜 シャクガン》

 

レイ「フレーバーテキストかっこよ!」

 

 

●《ドラグリッター サルマー》

 

レイ「唐突に収録された謎治トリガー!! 特殊レアリティっぽいけど……」

 

サキ「次弾に収録されるカードの先行収録か何かでしょうか?」

 

レイ「それにしては特別感が無さすぎるんだよね。次に登場するライドラインのファーストヴァンガードとかだったら分かるんだけど」

 

 

●ダークステイツ 《ディアブロス “絶勝”ブルース 》

 

レイ「G4、2枚目に紹介するカードはブルース!!

アタック終了時、一気呵成なら自分ごと前列をスタンド!!」

 

サキ「ペルソナライドが無いので個々のパワーこそ“暴虐”に劣りますが、ディアブロスは元々パワーの高いデッキで、パンプ手段にも事欠かないので、あまり気にはならないでしょう。

それよりスキルはほとんど据え置きのまま、ヴァンガードまでスタンドするというのがすごすぎます!」

 

ミオ「注意点として、当たり前の話ではありますが、このカードは《ディアブロス “暴虐”ブルース》ではありません。

《ディアブロスジェットバッカー レナード》など、“暴虐”を指定した強力なカードが使いにくくなっている点は、わずかな良心と言えなくもないでしょう」

 

レイ「ここらへん、他のG4も同じだから注意してね! マハーでも《ヴェルリーナ・エルガー》が使えなかったりするからね」

 

サキ「ブルースは、名称を参照するより、一気呵成を参照しているパターンが多いので、被害は少ない方ですけどね」

 

 

●《デザイアデビル ブベツー》

 

サキ「グリードンも4回アタックができるようになりました!」

 

レイ「とは言え……デザイアデビルには追撃に向いたカードがいないんだよね。ペルソナライドしていないなら、ゴーマンやインケーンの方が有効な場面も多そう。

まあ、1手目にヒステラを使っても、トリガーを振れるユニットが残るってだけで偉いのかも知れないけど」

 

 

●《ブレインウォッシュ・スワラー》

 

レイ「Dスタンにもドリーンがやってきた!!」

 

トウコ「……ちっ。嫌なこと思い出させんじゃないよ」

 

レイ「文化祭のこと、根に持ってる!?」

 

サキ「《ブレインウォッシュ・スワラー》は、ソウルチャージされるごとにパワーが+5000されるG1!

まさしく、天輪世紀のドリーンと呼ぶに相応しいユニットですが、『ソウルチャージ』しか参照しないので、それ以外の方法でカードをソウルに置いても無反応な点に注意です!」

 

レイ「よく使われるカードで言うと《セルフィッシュ・エングレイヴァー》とかね」

 

サキ「その代わり! この《ブレインウォッシュ・スワラー》は、登場時に自前でソウルチャージができるんです!

ドリーンでありながらソウルチャージもできる、まさしく新時代のユニットなんですよ!」

 

レイ「是非とも盤面で末永く活躍して欲しいカードなんだけど、肝心のバロウマグネスは、優秀なユニットも見境なくソウル吸い込んじゃうせいでビミョーに相性が悪い!」

 

ミオ「むしろブルースとの相性が抜群ですね」

 

レイ「《パンデモニウム・タクティクス》1回するだけでパワー+20000とか、何事!? って思うよね」

 

 

●《デザイアデビル ヤーダ》

 

レイ「この子の名前がジコチューでよくなかった!?」

 

 

●ブラントゲート 《極光烈姫 セラス・ピュアライト》

 

レイ「G4、お次はセラス・ホワイト!!」

 

ミオ「セラス・ピュアライトは、登場時にCB1と、『セラス』をソウルブラストすることで、相手の手札、リアガード、ソウルをそれぞれ2枚ずつ監獄に収容します」

 

レイ「2ハンデス!!」

 

サキ「それもすごいけど、相手のソウルに干渉している点も注目だよ。相手のソウルを減らすだけならヰゲルマがいましたが……」

 

ミオ「ヰゲルマ『様』です」

 

サキ「(うるさいな……)ヰゲルマ様がいましたが、能動的にソウルに干渉できるのは、このカードが初! ……ですよね?」

 

レイ「滅多に無いだろうけど、ソウル2枚のグリードンから、ソウルのグリードンを引っこ抜いたら、それだけで勝てちゃうなんてことも!?」

 

サキ「出だしからとんでもない効果で話が逸れてしまいましたけど、ピュアライトのスキルはまだまだ続きます」

 

レイ「監獄に収容されているカード2枚につき、前列ユニットのパワー+5000!! 10枚以上なら、さらに前列ユニットの★1!!」

 

サキ「ペルソナライド無しでも、それを圧倒するパワー!

他のG4は、元となったユニットを順当に強化した感じになりますが、セラス・ホワイトのみ役割が反転して、相手を封殺するコントロール型から、必殺のフィニッシャー型へと変化します!」

 

レイ「ダラダラ戦ってると、超トリガー引かれて逆転される恐れがある環境だし、決着を早められるフィニッシャーの登場は嬉しいよね。

こんなカードが出た以上、下手にコントロールするより最速でピュアライトに繋ぐ方が強い説もあるかもだけど」

 

ミオ「仮にピュアライトで仕留め切れなかったとしても、相手の手札とソウルを削っているので、反撃できる手段は限られるでしょう。特にソウルは保釈金としても扱える、極光戦姫相手では重要なリソースです」

 

レイ「前列にペリオ・ターコイズでも立たせておけば完璧かな♪」

 

 

●《グラビディア・シャーゴ》

 

ミオ「グラビディアには隕石を山札に戻せるカードが登場しました。

SB2することで、ドロップゾーンから隕石を5枚選び、山札に戻します。

さらに、戻した枚数に応じて、さらなるスキルが重複する形で適用されていきます」

 

レイ「1枚以上戻したら?」

 

ミオ「パワー+5000されます」

 

レイ「3枚以上戻したら?」

 

ミオ「パワー+5000されます」

 

レイ「5枚以上戻したら!?」

 

ミオ「パワー+5000されます」

 

レイ「やっつけだった!!」

 

 

●《極光戦姫 サプレス・グリーマ》

 

レイ「ドラゴンエンパイアのユニットすらまだやったことの無い分身を、ブラントゲートが先にやりやがった……!!」

 

サキ「リリカルモナステリオのパラライズと言い、たまにユニットの役割が大きくブレることあるよね……。しかも、作者が愛用するクランのツートップを象徴するギミックと言う嫌がらせ……」

 

レイ「そもそも作り手側が、全24クランの特性を把握していないと作者は思ってるよ。少なくとも、知識や愛着は露骨に差があるね。たぶん、開発チームのお偉いさんは、ネオネクとかエンジェルフェザーとかが大好きなんじゃないかな」

 

 

●《電磁怪獣 エレヒレシーデ》

 

ミオ「エレヒレシーデは、G3でパワー15000のデメリットアタッカーです。

オーダーゾーンにカードが無いならアタックすることができませんが、現状のブラントゲートのライドラインであれば、無条件で15000のアタッカーとして運用できるでしょう」

 

レイ「とは言え、それだけだと優秀な代わりはいっぱいいる!

この子の存在意義はもちろん、ライドもできるということ!!!

パワーは3000低いけど、ブラントゲート版シュルドフィッシャーだね!」

 

ミオ「セラスとオルフィストのライドラインは、いずれも確定でセットオーダーを手札に加えることができるため、確実にエレヒレシーデのデメリットを解除することができます。

運用する場合は、これらのライドラインのG3枠に投入するのがいいでしょう。

いずれのライドラインもG2の時点で完結するタイプなのも好相性です」

 

レイ「シュルドフィッシャーと違って、構築やプレイングに制限がかかったり、最悪、デメリットが適用されてアタックできなくなったりっていう心配が無いのは嬉しいね。それもあっての15000査定なんだろうけど」

 

ミオ「ちなみにその15000というパワーですが、実際のところシュルドフィッシャーとさしたる違いはありません。

というのも、Dスタンの基本的なパワーラインは

・G3⇒13000

・G2⇒10000

・G1⇒8000

となっており、パンプされる場合も、実に7割近いカードが5000刻みでパンプされるようになっているからです」

 

サキ「G2をG1がブーストした場合、パワーラインは18000。

ヴァンガードがシュルドフィッシャーだろうと、ガード要求値は5000+5000xで変わらないというわけだね」

 

ミオ「そうです。明確にシュルドフィッシャーと差がつく場面と言えば、G3をG1がブーストする場合や、よくいる15000アタッカー単体のアタックが通ってしまうくらいでしょうか。

+2000のパンプは+5000に次いで多く、パワー20000ラインも形成されやすいので、注意が必要です。

他にもパワー7000や9000のような変わり種のカードとぶつかった場合、シュルドフィッシャーでは通さなかったアタックが通ってしまうこともありますが、そのあたりは使い勝手の代償として諦めましょう」

 

サキ「それでは、ここからは監獄型エレヒレシーデと、夜型エレヒレシーデ。それぞれ相性のよさそうなカードを見ていきましょう!」

 

トウコ「ちょっと待ちな! なんでこんなカードがG4勢より優遇されてんだよ!」

 

ミオ「えくすとらではよくある光景です」

 

 

・監獄型エレヒレシーデ

 

ミオ「監獄型で採用したいカードは以前にえくすとらでも紹介した《極光戦姫 ビレート・カナリー》です。

セラスより収容数は劣ってしまう反面、収容数を気にする必要も無いので、収容されたユニットを処刑するカードを気兼ねなく投入することができます。

ライドラインのキルナ・ブルーが収容した手札を、ビレート・カナリーでドロップへ送るハンデスコンボは、エレヒレシーデの必勝パターンになるでしょう」

 

レイ「他にハンデスできるカードは《確保の瞬間!極光戦姫密着24時!》や《極光戦姫 チェイシング・ネール》がいるよ!

除去デッキはありふれている環境だけど、ハンデスデッキはまだいないので、それっぽく仕上げてみるのが面白いかな。

ただ、現状収容したユニットを処刑できるのはカナリーの特権なので、軸にするのは難しそう。

ほんと、どんな権限もってるの、このおねーさん!?」

 

ミオ「収容数が劣るという欠点を逆手に取る手段もあります。今弾収録の《極光戦姫 テイザー・ラージュ》です。

相手のリアガードが手札以外から登場した時、そのカードをレストさせるユニットです。

この効果は強制なので、監獄がいっぱいの場合は、囮を先に脱獄させてテイザー・ラージュの気を引いてから、本命を脱獄させるという回避手段があるのですが」

 

レイ「監獄に本命1体しかいない場合、その手が使えないわけだね!」

 

ミオ「はい。なおこの効果は手札以外からのスペリオルコールであれば、監獄以外からのスペリオルコールにも反応するので、監獄にユニットが収容されていなくても機能します。

手札以外からのスペリオルコールが流行るようであれば、エレヒレシーデどころか、オルフィストやグラビディアにすら採用される可能性のあるカードで、非常に将来性の高いユニットと言えるでしょう」

 

サキ「ちなみにブラントゲートで『セラス』を指定するリアガードはサプレス・グリーマしかおらず、ほぼほぼセラス軸と同じような構築も可能です!

名称指定されがちなRRRの、アガラー・ルージュやぺリオ・ターコイズだって運用できちゃいますよ!」

 

 

・夜型エレヒレシーデ

 

レイ「まず世界セットオーダーは《蝕まれた月光》を採用しておきたいよね!」

 

サキ「夜影兵トークンを1体生成するセットオーダーだね。

オルフィストでは持て余すことすらある夜影兵ですが、エレヒレシーデにとっては貴重な戦力です。

オルフィストのサポートカードも、オルフィストを指定してるカードはほとんど無く、(深淵)黒夜と夜影兵を指定しているものがほとんどなので、そのふたつを同時のフォローできるこのカードは4枚必須かも知れません」

 

レイ「オルフィストは運用にカウンターコストを食うのが難点だったけど、エレヒレシーデはコストが一切かからないので、効果は強いけどコストが重かったカードも使えるね!

《極冷怪獣 ドラムラー》なんかは、イラスト面でもシナジーがあって◎!」

 

サキ「今弾のRRな《枢機の竜 カルジャミード》なんかは、盤面、特に後列が夜影兵ですぐ埋まってしまいそうなオルフィストよりも上手く運用できそうですよね」

 

 

●《アメリオレート・コネクター》

 

レイ「整備されてる方のロボット、どっかで見たことある顔だと思ったら、前弾の《リファブリッシュメント・ドック》で磨かれてるロボットの色違いだった……!!」

 

サキ「そっち!?」

 

レイ「イラストレーターさんも同じなんだよねー。何だろ、このシリーズ。今後も続くのかな? いつかこのロボットもカード化されたり」

 

トウコ「ちょっと! 新しい引トリガーを、そんな与太話でスルーするつもりかい!?」

 

ミオ「えくすとらではよくある光景ですが、新引トリガーについては最後にまとめて解説するつもりなので、安心してください」

 

 

●《枢機の兵 シュプレマ》

 

レイ「パワー10000のG1! しれっとガード値も10000!」

 

サキ「もちろんデメリットも設定されていて、世界が深淵黒夜でなければコールすることができません」

 

ミオ「ですがライドには一切の制限は無く、デメリットもどこぞの羊のようにアタックを縛るものではありません」

 

レイ「とは言え、ブラントゲートのライドラインにおけるG1は、今のところキーカードをサーチするようなものばかり。これにライドするのは自殺行為かな?」

 

ミオ「環境がインフレすればするほど、序盤でダメージを抑えるのは重要になっていきます。今は活躍の場は無くとも、記憶の片隅には置いておく価値のあるカードでしょう」

 

 

●《極光戦姫捜査網 激録大追跡!》

 

レイ「いや、結構逃がしてるよね?

左上の子とか、(パトカーには轢かれそうだけど)完全に間合いの外だし。右上の子とか、後ろ気にしてる余裕まであるし」

 

 

●ケテルサンクチュアリ《頂を越える剣 バスティオン・プライム》

 

レイ「G4、4枚目に紹介するのはバスティオン!」

 

サキ「+2000のパンプは、G3から前列ユニットに変化しており、後列にG3が並ぶことも多々あるバスティオンデッキのことを考えれば、少し劣化している感がありますね」

 

レイ「もっとも、前後列にG3が並んでいるなら、後列に+2000が無かろうとG3以上に対するガード要求値に変化は無し!

テキストとは裏腹にG3を並べる構築を推奨してる感があるよね」

 

サキ「もうひとつのスキルは、よりそれが顕著になっています。

ドライブチェックでG3がめくれた場合、手札かソウルから『バスティオン』をドロップすることで、G3ユニットをすべてスタンドさせてパワー+10000です!!」

 

レイ「バスティオンと比較して、効率5倍!!!!!

順当進化とか言っていられないレベルの超強化!!」

 

サキ「もちろん、このバスティオン・プライムもトリプルドライブなので、ドライブチェックでG3がめくれる確率は大幅アップしていますよ!」

 

トウコ「ずいぶんと持ち上げてるけど、当然、このカードのデメリットには気付いているんだろうね?」

 

レイ「え?」

 

ミオ「このカード自体がG3ではないことですね」

 

サキ「あっ! このカードを多く入れれば入れるほど、肝心のドライブチェックでG3がめくれる可能性が減っちゃうんですね。

プライムはトリプルドライブだからいいにしても、通常のバスティオンでは連続攻撃が失敗する確率が上がりそうです」

 

ミオ「それだけならまだしも、初手からバスティオン・プライムを抱えて『最速でプライムをかましてやるぜ、うっしっし』と含み笑いしていたら、フォートやルクスのライドラインが失敗してしまう可能性すらありますね」

 

サキ「何ですかそのキャラ……?」

 

レイ「そうなるシチュエーションはドラグヴェーダの時よりかは少ないだろうけど、このカードがリアにいる時にアマルティノアを引けたら、もちろんトリプルドライブ!!!」

 

トウコ「あと、説明が面倒なんで詳細は省くけど、ラグレールと組み合わせるととんでもない数のカードが引けるようになるよ!

興味があるなら試してみな!」

 

 

●《双連の大魔法 トトーネ》

 

レイ「六角宝珠のデッキ構築、その根底を覆すトンデモカード!!

バトル終了時、ドライブチェックでめくれたトリガーにつき、効果が発動されるよ!

★トリガーがめくれれば、リアガードを1体除去。

前トリガーがめくれれば、なんと! リアガードを1体スタンド!!」

 

サキ「六角宝珠は、手数の少なさを補うために★トリガーを多めにした構築にしている人が多いと思いますけど、これは状況が変わりそうです!」

 

レイ「一方で……★の方が微妙にしょっぱいというか、効果が同じ方向を向いてないんだよね。

六角の攻撃力で前を引きつつユニットがスタンドするなら、大抵の敵は撃沈するから除去なんていらないんだけど。タイミングが遅いから、インターセプト封じにすらならないし。

フレーバーでは★と前を合わせよう感が出てるけど、気にする必要は無し! やるなら前に特化しちゃおう!」

 

サキ「同様に六角宝珠の連続アタックをサポートする《再来の魔法 ララリタ》にも注目です! コストこそ重いものの、5回アタックもれぴすとを使うよりは容易になりました!」

 

 

●《誓約の天刃 フリエント》

 

レイ「他の国家が『マグノリア』やら『セラス』やら、G3もG4も含める形でサポートカードを調整してきている中、何故か《頂を越える剣 バスティオン・プライム》を直接指定する融通の効かないお兄さん!

自分より強い者にしか従わないぜ!」

 

サキ「本人もさぞ強いのだろうと思いきや、条件をすべて満たして、パワーが5000増えた代わりにドローできなくなったオールデン……」

 

ミオ「単に、長いものに巻かれるタイプの人だった可能性がありますね」

 

サキ「ちなみにプライムを指定するカードはもう1枚《天兆の騎士 グランディール》がありますが、こちらは独自性があって面白い効果なんですよね。

強い弱い以前に、こちらも特別なことはやってほしかったです」

 

 

●ストイケイア《樹角獣帝 マグノリア・エルダー》

 

レイ「G4ラストを飾るは、マグノリア!!」

 

サキ「まずは登場時にソウルからスペリオルコールします!

以前のマグノリアと比較しても脈絡の無い効果ですが、ライド時のディスアドバンテージを即座に補填してくれるのは、ペルソナライドを持たないG4にとってはありがたいです!」

 

レイ「一方で攻撃能力は少し控えめ。

ソウルかリアに『マグノリア』がいるなら、すべてのリアガードは後列からアタックとインターセプトができるんだけど、ペルソナライドしたマグノリアとパワーは大差無し。

相手に1枚でもトリガーを引かれると、アタックが軒並み通らなくなる可能性だって」

 

ミオ「他のG4や従来のマグノリアのように、ライドしたそのターンで決めに行くというよりかは、トリプルドライブ、ノーコスト、両面パンプ、後列からのインターセプトを生かして、じっくり戦うタイプなのかも知れませんね。耐久に必要なテキストはすべて揃っています」

 

レイ「もちろんギュノスラの引きによっては、パワーと手数を兼ね備えたアタックで一気に仕留めにいくこともできるよ! そういう意味でも、マグノリアのスキルにコストがかからなくなったのは嬉しいね!」

 

 

●《彷徨の獄竜》

 

レイ「グリードンやユージンすら4回アタックし始めたと言うのに、頑なに3回アタックに拘るゾルガさんに新戦力!!」

 

サキ「これもまた、ゾルガのデッキ構築を大きく変化させること請け合いです!!」

 

レイ「まず、オーダーをプレイするだけで、ドロップゾーンから蘇り、パワー+10000か、★+1!!

魔合成していたなら、その両方が適用されるよ!!」

 

ミオ「このカードの登場により、ゾルガの戦い方は大きく変化することが予想されます。

これまでは《零体凝縮》などの展開するオーダーに、《悲嘆と絶望、そして拒絶》などのユニットを強化するオーダーを魔合成して、展開したユニットをパンプしていく戦い方がゾルガの基本でしたが」

 

レイ「展開の部分をユニット側でしてしまえるようになった(それも出てくるのは現状の最高戦力)ので、《煽情の蜜》+《悲嘆と絶望、そして拒絶》みたいな組み合わせでも、パンプと展開をこなせるように!!」

 

ミオ「ただし、解決順はオーダー⇒《彷徨の獄竜》の順になる点は注意してください。《悲嘆と絶望、そして拒絶》のパンプは、あらかじめコールしておいた後列かヴァンガードに乗せることしかできませんし、《煽情の密》の★を獄竜に乗せて★3というプレイングもできません」

 

レイ「これはもう本当に構築もプレイングもガラッと変わるよ!?

オーダーはアドバンテージをあんまり気にしなくてよくなったし、獄竜さんを速攻でドロップに送るための、墓地肥やし系カードの重要度は大幅アップ!」

 

ミオ「そしてもう1点。重要なのが盤面に出た後の《彷徨の獄竜》を速やかにドロップゾーンに戻す手段が必須となります」

 

レイ「そっか。獄竜さんは、1ターン過ぎたらG3にして5000のバニラだもんね。うう……《サムライ・スピリット》がDスタンにも欲しい」

 

ミオ「サムライが無くとも、効率よく《彷徨の獄竜》をドロップゾーンに送る手段はあります」

 

サキ「《涙する悪意》ですね!」

 

ミオ「そうです。《涙する悪意》のコストで《彷徨の獄竜》をドロップに送ると、ドロップに送られた《彷徨の獄竜》が即座に《涙する悪意》に反応してくれるため、《涙する悪意》は《彷徨の獄竜》を再展開しつつ1ドロー・カウンターチャージ・ソウルチャージできるアドの塊に早変わりです。

このことから、今後のゾルガが採るべき戦略は

①速攻でドロップゾーンを肥やして、《彷徨の獄竜》2枚をドロップに置く

②適当なオーダーを魔合成して《彷徨の獄竜》をスペリオルコール

③次のターン以降は《涙する悪意》とオーダーで魔合成して《彷徨の獄竜》を再度スペリオルコール

となるでしょう」

 

レイ「これは《レディ・デモリッシュ》大活躍の予感!!」

 

 

●《寄る辺亡き魂よ、我が身に集え》

 

サキ「ついにゾルガさんもハイパーモードに……」

 

レイ「そんな明鏡止水の境地に至った新たなオーダーは、手札からオーダーを捨てることによるドライブチェックの増加!!

とは言え、手札2枚消費してのドライブ+1だから、あんまり魅力的じゃないんだよね。

墳竜さんでダブル魔合成した日にゃ、クアドラプルドライブの手札3捨て!!」

 

サキ「デッキに超トリガーが残っている場合は積極的に使っていき、超トリガーが無い場合は他のオーダーに切り替えるというメリハリが必要かもだね」

 

レイ「けどゾルガさんの超トリガーって、決定力になりにくいブレスファボールなんだよねえ。左右に★2が並ぶ現状のゾルガさんを考えれば、オルバリアの方が相性いいのかも」

 

ミオ「《廃滅の虚竜》のスキルによって、ノーコストでプレイする分には優秀なカードです。《死招きの黒呪術》でアドバンテージを稼いだ後は、《寄る辺亡き魂よ、我が身に集え》でアド稼ぎは維持しつつも、プレッシャーも高めていくという動きができるようになりました」

 

 

●《晴朗の乙女 レェナ》

 

レイ「これってさ。ネオネクの優遇を象徴しているようなカードだよね?

この前の効果つき★トリガーといい、何でライドラインすらいないネオネクばっかなの?

まだメガコロなんて1枚もトリガーもらってないんだけど?」

 

トウコ「グダグダうるさいね! そんな不満があるならやめちまいな!」

 

レイ「ひいっ! 作者がアタシを使って代弁してるだけなのに!」

 

 

●《罪過に廃絶の美酒を》

 

レイ「ドロップとバインドのオーダー1種類につきパワー+5000するブリッツオーダー!! 何故か1ドローまでついてくる!」

 

サキ「ソウルが必要とは言え、かなり盛られたブリッツオーダーですよね。ドローの部分が本当に強くて、+5000でも十分に元は取れてるカードです。そんなに種類が落ちない《廃滅の虚竜》や《鉄鋲の憤竜》ですら採用圏内ですよ」

 

レイ「もちろんオーダーを散らしたゾルガなら、凄まじい防御力でアタックを防ぎつつ1ドロー!!

主役級ユニットに混じってリミットオーバーアクセルシンクロしてる獄竜さんのイラストはダテじゃない!」

 

 

●《暗海潜り》

 

レイ「謎にVでも使えるスキルを持ったG2!!

じゃあライドラインに採用できるかっていうと、《黒涙の骸竜》に勝っている部分が見つからないんだよね」

 

サキ「手札にオーダーがあるなら、それを確定ライドのコストで捨てて、骸竜で回収すれば、そのままアド+1ですからね」

 

レイ「どうしてもオーダーをドロップに送りたいなら、次の確定ライドで捨てればいいだけだし。

これだけ確定ライドの存在が忘れられているというか、V環境で作られたようなカードなんだよね」

 

サキ「パワーも9000だしね」

 

 

●《叫喚は雨音に溶けよ》

 

レイ「ノーコストになった《逆流する冥府》!!

除去する対象は選べなくなったけど、相手にディスアド1、自分にアド1という結果はまったく同じ! これは強い!

墳竜さんでダブル魔合成するのにも向いてる他、シュルドフィッシャーの拘束を解除するのにも便利そう!」

 

サキ「弱点も《逆流する冥府》と同じで、ドロップにスペリオルコールできるグレードがいないこともありえるという点ですね。除去するユニットは相手に選ばれるので、その弱点はより顕著となっています」

 

ミオ「弱点は他にもあります。このカードはノーコストであるが故に、ソウルのカードをドロップゾーンに送りこむことができません。《逆流する冥府》であるならば、ドロップにG2が無くとも、コストで《黒涙の骸竜》をドロップに置けたのが、このカードでは不可能になっています」

 

サキ「グランブルーにおいて、ソウルを使わないことは必ずしもメリットではないということを体現したようなカードですね」

 

 

●《フレアヴェイル・ドラゴン》《喚起の操獣師 ライリー》《アメリオレート・コネクター》《加護の魔法 プロロビ》《晴朗の乙女 レェナ》

 

ミオ「最後に紹介するのは新規の引トリガー達です」

 

レイ「書いてあることは前トリガーと同じで、相手がG3ならガード値に+5000! これで引トリガーでありながら10000ガードができるようになったよ! まさしく10年目の大革命!」

 

トウコ「Dスタンの引トリガーは、Vスタン以前の引トリガーと比較して、カードパワーが低くなっていたからねえ。いい調整だと思うよ」

 

レイ「え? そうなの?」

 

ミオ「はい。Vスタン以前の引トリガーは、ガード値が、ドローしたカードと合計して、他のトリガーのガード値とだいたい同じになるよう調整されていました」

 

サキ「旧環境なら、+5000のノーマルユニットを引くことで合計+10000に。

Vスタンなら、+10000のG1ユニットを引くことで合計+15000に。

その環境でもっとも採用されている枚数が多いカードを引いた場合、ちょうど他のトリガーとガード値が釣り合うようになっていたんですね」

 

ミオ「ところが、Dスタンになってその状況が変わりました。G1もG2もガード値が一律5000となってしまったため、引トリガーでカードを引いてもガード値は+15000となりにくくなり、統計的に見て、他のトリガーよりガード値が劣るようになってしまいました。

確定ライドが実装されたため、ガード値を持たないG3やオーダーが多く採用される特殊なデッキが増えたのも一因ですね。

そのため、引トリガーはVスタン以前のように守りの要としては使いにくく、攻め手は欲しいけどアドバンテージが稼ぐのが苦手なデッキや、前トリガーと極端に相性の悪いデッキで使われる、攻めを意識したトリガーになっていたように思います」

 

レイ「トリガー枚数が制限される以前には、★12が流行っていたのも、そんな理由があったからなんだね」

 

トウコ「単純にゲーム速度のインフレもあるだろうけど、引が弱いから★を多く採用せざるを得なくなり、引が採用されないから★がそのまま決定打になりやすい。そんな負のスパイラルが巻き起こっていたのも理由のひとつだろうね」

 

ミオ「ですが、今回の新引トリガーの実装で、引トリガーは再び守りの要として活躍することが予想されます。それどころか引トリガーで引トリガーを引いた方がガード値が上がるという環境は、誰もが経験したことのないものとなります」

 

レイ「そっか。今までと違って、引で引を引いたらガード値的にはラッキーなんだね。新規の4枚に限って言えば」

 

ミオ「そして、耐久できれば、他のG3より有利になるG4勢との相性は抜群です。

もちろんどんなデッキでも採用できるカードではありますが、G4の強さを下から支えるカードとして活躍するのは間違い無いでしょう」

 

 

●終

 

トウコ「……ふん。30点てところだね」

 

レイ「いきなり評価された! しかも低い!」

 

サキ「5、50点満点中でしょうか……? それともやっぱり100点満点?」

 

トウコ「1000点満点中の30点だよ!」

 

レイ「想像以上の最低評価!」

 

ミオ「では、今日はこのあたりでお開きにしましょうか」

 

レイ「はーい! それじゃ、またねー」




「覚醒する天輪」のえくすとらをお送りさせて頂きました。
色々とお値段がすごいことになっていて、びっくりしています。

Dスタンと言えば、こちらで来年から執筆予定のDスタン小説について予告させて頂きました。
未読の方は、ご確認頂けますと幸いです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=272484&uid=269407


次回は1月1日に公開予定の、1月本編でお会いしましょう。
いよいよ24つ目のクラン、ペイルムーンが登場です!!


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Ex.52「Vクランコレクション Vol.3」

・藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ高校2年生。
使用クランは「たちかぜ」
オーバードレスで好きな回は、2期のトウヤVSダンジ

・時任レイ
ミオの妹を名乗る根絶者のディフライダー。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校1年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
オーバードレスで好きな回は、トウヤが旗を燃やそうとした回。

・御厨ムドウ
容赦の無いファイトで対戦相手を打ち負かす、謎多き強豪ファイター。
使用クランは「シャドウパラディン」
オーバードレスで好きな回は、トウヤが女装した回。

・音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。高校3年生。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
オーバードレスで好きな回は、トウヤが「カートン買いは常識だよ」とかのたまった回


●序

 

レイ「Vコレユーザーにとって半年に1度のお楽しみ! Vクランコレクションの季節がやってきたよ!」

 

サキ「今回もゲストをお呼びしております! Vol.4のパッケージにてセンターを飾っているシャドウパラディン使い……」

 

ミオ「表紙にいるという理由だけで呼んでいると、毎回シャドウパラディンが含まれてしまいそうですが」

 

レイ「うん。ゲストとして呼んだことのない、ペイルムーン(エンド・オブ・ステージ)ジェネシス(ノリトさん)でもよかったんだけどね……。

現レギュラーにはボケに徹しきれる人がいないから、ボケがひとりいるだけで全体が締まるんだよね。

あと、今回は毒舌な人が欲しいってのもあるし」

 

サキ「ふ、不穏な空気が……」

 

レイ「そんなわけで、お呼びしましょう!

本編のシャドウパラディン使い、御厨ムドウさんです!!」

 

ムドウ「……今の俺はムドウではない」

 

レイ「はい?」

 

ムドウ「ムドウ“Я”と呼べ」

 

レイ「子どもか!!」

 

ムドウЯ「作者も似たようなものだぞ。今もDスタンでは《廃滅の虚竜》を使いながら『真剣勝負のその先、俺に感じさせて頂戴よォ!』とか言いながらハシャいでいるしな。いい年して」

 

レイ「それ以前に、なんでそのセリフなの!?」

 

ミオ「作者曰く、オーバードレスでの暫定ベストバウトはマサノリVSトマリだそうです」

 

ムドウЯ「俺は生きてるゥ!」

 

 

●ロイヤルパラディン 《導きの宝石騎士 サロメ》

①V:アタックしたバトル終了時、CB1で手札から宝石騎士をユニットのいるサークルに望む枚数コール

②V:上記で3枚以上コールし、相手のヴァンガードがG3以上なら、SB4でこのユニットをスタンド

③V/R:他のユニットがこのユニットがいるサークルに登場した時、そのユニットのパワー+10000、ドライブ+1

④美人

 

ミオ「む。いつも少し書き方が違いますね」

 

サキ「はい! これまでは私達のセリフで効果を解説していたのですが、それだと読みにくいし、効果も頭に入ってこないかなと思ったので、冒頭で要約した効果を列挙してみました!」

 

レイ「キャラクター的に、効果解説役にされることの多かったお姉ちゃんの負担も減るね!」

 

ミオ「私のセリフが減るともとれるのですが」

 

レイ「それはともかく、なんかどうでもいい④が追加されてるんだけど!?」

 

ムドウЯ「誰の仕業だ」

 

レイ「あんたしかいないでしょ!?」

 

ミオ「サロメは①と②を組み合わせることで、手軽にリアガード4回、ヴァンガード2回の連続アタックが可能です。それだけでも非常に強力なユニットですが……」

 

ムドウЯ「宝石騎士には、リアガード単体で連続攻撃の起点となる《純真の宝石騎士 アシュレイ》がいる。

すでにアシュレイが存在している場合や、①のスキルでコールすることができれば、リアガードのアタック回数は最高6回まで伸びる」

 

サキ「フォースでありながら、アクセルに匹敵するアタック回数ですね!!」

 

レイ「ちょっと前まで、ロイパラって3回しか殴れないクランの代表格だったのにね!」

 

ムドウЯ「さらに、自身やアシュレイのブレイクライドを経由していれば、サロメ自身もトリプルドライブのVスタンドか、★2のVスタンドに化ける。

多少下振れでも高い水準で連続攻撃を可能とし、上振れた場合なら他の追随を許さないトップクラスの爆発力も誇る。

端的に言って、これはヤバい」

 

レイ「サロメ……とっても、つよいね!」

 

 

●オラクルシンクタンク 《ベニトアイトウィッチ ヨヨ》

①V/前列のR:「ウィッチ」のヴァンガードがG3以上のVにアタックしたバトル終了時、このターン1回目のバトル中なら、CB1、手札を2枚捨てることで、手札からウィッチを含むG3にライド

②このユニットがライドされた時、このカードをRにコールするか、プロテクトを1つ得る

 

ムドウЯ「美人だ」

 

レイ「冒頭にもってきたらいいって話でもないからね!?」

 

ムドウЯ「俺の持ちネタだからな」

 

ミオ「仮に女性ユニット解説のたびにそのネタをやるとしたら、SPになっているユニットだけ計上しても、8回『美人だ』と言わなければならなくなりますが」

 

ムドウЯ「マジか」

 

レイ「テンドンなんてレベルじゃない!」

 

サキ「今回は女性ユニットが多いんですよねー」

 

レイ「Vol.3、Vol.4のパッケージにおける男女比率は2:4で、なんと! Vol.3のパッケージは全員が女の子!」

 

サキ「そんな華やかなVol.3ですが、オラクルではPRカードでじわじわ強化されてきたウィッチが、ついに大々的に大幅強化です!!

これまでもけっこう的確な強化をもらっていたので、作者が注目していたテーマでもありますが、覚醒なるか!?」

 

レイ「Vコレのオラクルって、前回の★トリガー(ツクミオリ)もそうだけど、新規Vもらうというより、既存デッキの強化が多いよねー」

 

ミオ「ウィッチのアタック回数は、ヨヨから他のウィッチにスペリオルライドすることによるR→R→V→V→Rの5回が限界です。サロメの後だと、攻撃面ではどうしても見劣りしてしまいがちですが……」

 

サキ「ウイッチの強みは、オラクルらしい手札アド獲得能力と、守備力です!

ココにライドすればツインドライブとは別に2ドローができますし、手札のウイッチをプロテクトに変換できるので、完ガさえあれば封殺できるタイプのデッキには特に有効です!」

 

レイ「サロメより、ずっとかたい!!」

 

サキ「そのネタ、絶対にやると思ってました……」

 

ムドウЯ「おとなになるってかなしいことなの」

 

 

●ジェネシス 《終末の女王 ヒミコ“Я”》

①手札:ターン終了時、リアガードを1枚以上、すべてソウルに置くことで、このユニットにレストでライド

②V:アタックした時かされた時、CB1で1枚引き、ソウルから★トリガーか引トリガーを1枚選び、Rに呪縛カードとして置く。置いたら、自分の呪縛カード1枚につき、そのトリガー効果を1回発動。

 

サキ「Яしたヒミコは受けに特化した能力です!

相手ターン開始直前に、①でスペリオルライドすることで準備完了!

相手からアタックされた時、②でトリガーを発動し、受け23000という驚異的な防御力を実現!

トリガーは★トリガーも選べますが、できる限り引トリガーを選びたいですね!」

 

レイ「相手ターンに呪縛カードを置いてしまう都合上、次の自分ターンにそれが残ってしまう点は注意だね!

ヒミコЯならそれを利用することでトリガー効果の発動回数を増やすことはできるけど、それ以外にパンプも無く、ブーストもほとんどできなくなるので、高い守備力の代償か、攻撃力はかなり低め!

ヒミコにライドし直して、フォースを増やすことで攻撃力を補っていきたいね」

 

ミオ「フィニッシャーとしてフェンリルを採用し、最終的にはそちらにライドするのもいいかも知れませんね」

 

ムドウЯ「なお、相手が星輝兵の場合は効果が飛躍的にアップし、相手ターンにトリガー効果を3~4回発動させることも可能になる」

 

サキ「相手ターンの43000受け、4枚ドローは、かなり面白そうですね!」

 

ムドウЯ「もっとも、相手がカオスブレイカーの場合は、最終的に解呪されるカードの数も増えるので、諸刃の剣ではあるのだが。

守備力にまかせてだらだら長期戦をしても、ジェネシスはデッキアウトしてしまうしな」

 

 

●《陽光の女神 ヤタガラス》

①V:このユニットのアタック時、CB1SB3することで、このカードでSBされたグレードの合計により以下のすべてを行う

・5以上-そのターン中、前列ユニットのパワー+10000

・7以上-リアガードを2枚選びスタンドさせる

・9以上-2枚引く

②V:ユニットがGに置かれた時、SB3することでシールド+10000

 

レイ「ジェネシスからもう1枚! 今回のVコレは、メインVとして使えるカードが2種類以上収録されているクランも多く、このヤタガラスもその1枚!

いろんなデッキが組めるようになるので、デッキビルダーとしてはたまらんパックに!」

 

サキ「ヤタガラスは、そのデッキ構築が特に楽しそうなカードです!

①の効果で要求してくるグレードの合計値がかなり大きく、類似ユニットのように好きなだけソウルブラストもできません。

真面目に7以上の達成を狙おうと思ったら、G3を1枚はソウルブラストしなくてはならず、9以上の効果は必ずG3を3枚ソウルブラストしなくてはなりません!」

 

レイ「それなら不真面目に達成を狙えばいい! こんな時に役立つのが《絶界巨神 ヴァルケリオン》! グレード5!!!!!」

 

サキ「ヴァルケリオンを含めることで、

7以上の効果をG5、G1、G1。

9以上の効果をG5、G3、G1。

などなど、G3を温存したり、G1を含めても達成できるようになるので、コストの捻出がかなり楽になります!

というか、ヴァルケリオンを採用しないと立ち行かないんじゃないでしょうか」

 

レイ「どうせG3を必要以上採用することに代わりは無いんだから、そこにG5を4枚入れ替えるくらいなんともないよね」

 

ミオ「今弾に収録されている《林檎の魔女 シードル》や、前弾の《オレンジの魔女 バレンシア》など、ジェネシスは手札やドロップから目当てのカードをソウルインする手段にも長けています。

ヴァルケリオンを採用する場合は、それらの能力を有したカードをあわせて採用するといいでしょう」

 

ムドウЯ「②は、余りがちなソウルのG0を使って、手札で腐ったG3やヴァルケリオンにシールド値を与えることもできる。

ふたつの能力が上手く嚙み合った良デザインと言えるだろう」

 

 

●かげろう《ドーントレスドミネイト・ドラゴン“Я”》

①V:ドライブチェックでノーマルユニットが出た時、CB1でそのカードを呪縛カードとしてRに置く。置いたらパワー+10000、ドライブ+1

②V:このユニットがアタックしたバトル終了時、SB1で自分の呪縛カードすべて解呪し、それらをすべて退却。退却させたユニット1枚につき、相手はリアガード3枚退却。2枚以上退却させなかったらマーカーを1つ除外。

 

レイ「どこぞの気まぐれヴァンパイアお姉様みたいなことを言い出した!!」

 

サキ「いきなりダブルトリガーだとガッカリなのも、お姉様と同じだね……」

 

ムドウ「気まぐれお爺様の御機嫌を少しでも取りたいのであれば、前身であるドーントレスドライブからのブレイクライドを狙うといい。仮に1度目のアタックがダブルトリガーだったとしても、2度目のチャンスがある。

まあ、ノーマルユニットばかりがめくれて、コストが枯渇する可能性の方が高そうだが」

 

ミオ「アタック回数が少なく、Vに特化した能力なのでプロテクトクランが天敵で、自身の効果でプロテクトⅠを除外できない点もそれに拍車をかけています」

 

レイ「メイン効果のひとつが完全に腐らされるんだもんねー。反面、アクセルにはメチャ強そうなんだけど。

本人が強い弱いというより、有利不利がハッキリ出るタイプのユニットだね!」

 

 

●《ブレイジングフレア・ドラゴン》

①V/R:1枚以上、望む枚数SBすることで、このコストで払ったソウル1枚につき、リアガードを1枚退却。このユニットがVにいて、このコストでSB5以上している場合、相手はサークルのマーカーと手札のプロテクトすべてを除外。

②V/R:このユニットがアタックした時、ソウルチャージ1。相手のヴァンガードがグレード3以上でリアガードがいないなら、そのバトル中、このユニットのパワー+10000

 

レイ「かげろうは、なんと3枚とも新規メインVが与えられてるよ!」

 

ムドウЯ「そのうちの1枚、懐かしのブレイジングフレアは、メインを張っているドーントレスドミネイトよりもある意味すごいことをやらかしている。

全体除去できるという点はそのまま、SB5を払えばサークルのマーカーをすべて除外に加えて、手札のプロテクトまで余さず除外することができる。

ことギフトを焼くという1点においては、気まぐれお爺様の上位互換だ」

 

レイ「ギャー!!」

 

ムドウЯ「ちなみにドーントレス“Я”もだが、この効果は財宝マーカーも焼くことができる。七海では逆立ちしても勝てないな」

 

レイ「フギャー!!」

 

ムドウЯ「だが、かげろうは全クランを見渡してみても、屈指のソウルチャージが不得手なクランだ。

本人のソウルチャージがアタック時なのもあり、ライドしてすぐは使えないだろうし、2度目は絶対に無い。

他のカードにソウルを裂きにくいのも辛いところだ」

 

ミオ「ソウルが溜まる前に大量のフォースやアクセルで圧し潰されたり、一度ギフトを焼き払っても、次を補充されたら対応できないということですね」

 

ムドウЯ「そうだな。なお、さすがにギフトは焼けないが、このユニットはほとんどのスキルがリアガードでも適用される。

1枚で複数のユニットを焼ける点は、手札が少なくなりがちなかげろうでは重宝する。

アタックしただけでソウルチャージできる点は、かげろうでは貴重なソウルチャージ要員として活躍が期待できる。

総じて、優秀なリアガードであり、Vでも遊べる魅力的なカードとして仕上がっていると言えるな」

 

ミオ「古参プレイヤーもこれには大満足!」

 

 

●《ドラゴニック・ロウキーパー》

①V:各バトルフェイズ開始時、CB1SB1することで、自分と相手のリアガード3枚につき、相手は自分のリアガードを1枚選びバインドする。

②V:ターン終了時、①でバインドされたカードをRにコール。登場時の自動能力は発動しない。

③V:相手の後列のリアガードがいないなら、ユニットすべてのパワー+5000。相手VがG3で、Rがいないなら、さらに+5000。相手ターンでも有効。

 

レイ「これもまたかなり懐かし……というか、かなりマイナーなところから引っ張ってきた《ドラゴニック・ロウキーパー》が再登場!!」

 

ムドウЯ「イルドーナはまだか?」

 

サキ「ロウキーパーは、かなり守備的なカードです!

ロウキーパー側にユニットが5体揃っているなら、リアガードを5体並べたとしても後列がすべてバインドされてしまい、③が適用されてしまいます!

それどころか、4体までしか展開できなければ前列までバインドされてしまうことにもなりかねません!

展開を抑制する①②と、相手ターンにパワーを増幅する③が合わさり、かなり強固な布陣を築くことができます」

 

レイ「もっとも、それはロウキーパー側が展開できていればの話!

かげろうの展開力はイマイチなうえに、コストはほとんどロウキーパー本人に奪われる。おまけに今の環境は大抵のクランから除去が飛んでくる!

と、安定して5体のユニットを揃えるのは内部的にも外部的にも苦しそう……」

 

ミオ「自身の強固な守備力が災いして、相手が狙わずとも点止めのような形になってしまいがちです。

こちらのコストが払えなくなった途端、相手が戦力を解放してきて勝負を決められるというパターンが想定されるので注意してください」

 

レイ「かと言って、コスト欲しさにノーガードしていたら、このカードを使う意味が無くなるわけで。こういう系は本当に運用が難しいよねー。間違いなく独自の強みはあるんだけど」

 

ムドウЯ「だからこそ使いこなす意義があるカードとも言える。腕の見せ所だな」

 

レイ「せめて所属するクランが違ったら、印象もまた違ったものになったのかも。展開力のあるシャドウパラディンとか」

 

ムドウЯ「つまりイルドーナはまだか?」

 

 

●むらくも《隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ“Я”》

①山札/V/R:このカードは「隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ」として扱う

②V:SB1で山札からこのカードと同名カードを3枚までスペリオルコール。その後、リアガードをコールされたユニットと同じ枚数呪縛。

③エンド時に呪縛カードが解呪された時、リアガードを山札の下に置くことで、自分のリアガードを1枚手札に戻す

 

レイ「全むらくも使いが待ち望んでいた叛逆の刃! ヒャッキヴォーグ“Я”が、ついにVスタンへと推参!!!」

 

ムドウЯ「ヒャッキヴォーグ3体をスペリオルコールし、後列3体を呪縛。

ブーストがいなくなることによる火力不足は、素のヒャッキヴォーグで補うっていうコンセプト……なのだろうが、それが大きなミステイク」

 

レイ「え?」

 

ミオ「《隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ》は、ユニットが5体いなければヒャッキヴォーグを+10000することができません。

つまり、3体を呪縛した後にヒャッキヴォーグのスキルを使用しても、アクセルサークルが2つ以上なければパンプすることができないのです」

 

レイ「ほんとだ!!!」

 

ミオ「そのため、ヒャッキヴォーグ“Я”の一手目は物凄く悩ましいものになっています。

・3体を呪縛して、4体の12000でアタックする

・2体を呪縛して、ヒャッキヴォーグのスキルを1度使用し、4体の22000+1体のブーストでアタックする

のどちらかになるでしょう」

 

レイ「フォースに先行取られるだけで負けが見えるね!」

 

ミオ「幸い、③のおかげで再ライドは確定し、アクセルサークルが2つになれば使い勝手が大幅に向上します。

本領発揮するのはターンをまたいでからという、シングセイバーに近い系統のユニットと言えるでしょう」

 

レイ「③はかなりすごいよねー。3体呪縛してからの、3体山札に戻し、3体手札に戻しは、『銀の茨』のドリアーヌや、御大将のダンガンニュードー大量展開を彷彿とさせる爆アド!!!

やってることが二世代前の最強ムーブって、強いんだか、弱いんだか……」

 

ムドウЯ「そもそも《隠密魔竜 ヒャッキヴォーグ》を生かしたいのなら、御大将の方がブースト要員も+10000できる分、よほど効率よくできるからな」

 

レイ「ほんとそれ。御大将のヒャッキヴォーグは、単純計算で効率2倍+αなんだよね。

ていうか、御大将って今でもメチャクチャ強いからね?

シラユキの制限解除で過去の強さは取り戻してるし、それからアリオウなどの相性のいいユニットももらえて、火力はさらに上がってる。全体除去+トリガー率低下という、ヤスイエどころかほとんどのクランがマネできない独自の強みもある。

ヒャッキヴォーグ“Я”という、むらくもにおけるレジェンドの名前を使っておいて、ヤスイエどころか、その御大将すら越えられそうにないっていうのは、正直残念かなー」

 

 

●《白面金毛の妖狐 タマモ》

①このカードがドライブチェックで出た時、このカードをRにコールしてもよい

②このユニットがRに登場した時、ドロップからユニットを1枚選び、それと同名になる

③V/R:このユニットがアタックした時、「忍妖」を含むリアガードが3種類以上ならSB1で、パワー+10000、ドライブ+1。バトル終了時、Rにいるこのユニットを手札に戻す

 

レイ「これまたお懐かし! タマちゃんが『忍妖』サポートを引っ提げて帰ってきた!!」

 

ムドウЯ「カテゴライズ的には『忍獣』の方が近い気がするのだが」

 

レイ「細かいことは気にしない!」

 

ミオ「タマモ本人は『忍妖』ではありませんが、①のスキルによりドライブチェックから登場することができ、②のスキルで名称も『忍妖』に変更することができます」

 

レイ「かなり強引!!」

 

サキ「わざわざタマモを使うのではなく、新規の『忍妖』ではダメだったんでしょうか……」

 

ミオ「パワーも③で補うことができる他、ライドすることでヌラ・ヒョウガの弱点であった先行5ターン目をカバーすることができます」

 

レイ「ぶっちゃけ、ヌラに乗りなおすより、そのままタマモで戦った方が強そうな気もするけどね!

なんならタマモ軸でデッキを組めば、ヌラみたいに『忍妖』に偏らせなくてもよくなるし。

こっちの方がもふもふしててかわいいし」

 

サキ「私見がひどいよ!?」

 

レイ「『忍妖』をどうにか盛り上げようというという涙ぐましい努力は伝わってくる! それだけは認める!

けど『忍妖』最大の欠陥である『G1がいない』という点が何も解決していないんだよね。②の効果に『ブーストを得る』の一文がついて、③の効果に『ブーストした時』の一文が加わって、ようやく一人前だったかなー。

いやほんと『忍妖』って、そのくらい盛ってあげないとロクに回らないデッキだからね!?」

 

ムドウЯ「と、ここまでが『忍妖』デッキにおけるタマモの評価だ」

 

レイ「へ?」

 

ムドウЯ「タマモは『忍妖』にこだわらなくても、十分に優秀なユニットだと言っている」

 

ミオ「①の効果だけ見ても、コールする場所を選ばないヒャクメシャドウですからね。それにスキルがふたつ付随して、弱いはずがありません」

 

ムドウЯ「だからと言って、ヒャクメシャドウが完全に立場を奪われたかと言うと、そうでもないしな。

むしろ、タマモと共に採用することで、ドライブチェックからスペリオルコールできるカードが8枚体制のデッキを組むことができるようになった」

 

サキ「上位互換が登場することで価値が上がるというのも面白いですね」

 

ムドウЯ「これ系統のカードは発動機会を増やすことが第一だからな。

さて。そんな疑似忍妖と言うべきデッキだが、シラユキとの相性が抜群だ」

 

サキ「シラユキと相性のいいカードに『忍妖』が多いからですね!」

 

ムドウЯ「アタック後に盤面を離れるので、空いたサークルに幻夢シラユキのスキルでさらにシラユキをコールできる、というのもあるな。

ヒャクメシャドウのパワーの低さも、シラユキの弱体化で補うことができる。

面白いほど噛み合った組み合わせなので、興味があれば試してみるといいだろう。

まずはシラユキにタマモを4枚投入し、好みでヒャクメシャドウを増やすところからはじめてみようか」

 

 

●《特務忍獣 ウィーズルブラック》

①パワー8000

②Vに登場した時、山札からウィーズルレッドをスペリオルコール

③V:「特務」のパワー+2000、シールド+5000

④V:G3以上にアタックした時、CB1、ドロップからノーマルユニットを山札の下に置くことで、G2以下で別名の「特務」4体をスタンド

 

レイ「まさかと言うべきか、ようやくと言うべきか、5匹目の特務忍獣が颯爽と参上!!

遅れてやってきては、なんやかんや言いながら主人公(レッド)を助けてくれるあたりは、いかにもブラックっぽい!」(※レイと作者の主観です)

 

サキ「まずは②のスキルで、登場時にレッドをサーチできます!

レッドにライドできなくても、ここで確実にレッドを呼んできて、盤面を『特務』で埋めることができます!」

 

レイ「レッドにライドできていたとしても、『特務』をノーコストで増やしてくれるだけで本当に偉いっ!!

『特務』デッキはリアガードを潰されて消耗戦に持ち込まれる展開が本当にイヤだし、そうでなくてもアクセルサークルを手札消費無しで埋めてくれるのは大助かり!」

 

ミオ「仮に完全に点止めされていたとしても、治ガーディアンをコールして1ダメージ受けることで、レッドの効果を発動できますね」

 

レイ「ここまででも『特務』としては既に100点をあげたいくらいなんだけど、まだまだスキルは続く!」

 

ミオ「はい。『特務』をパンプする③の永続効果ですね。+2000のパンプを積み重ねるのが『特務』の特徴ですが、このスキルは相手ターンでも持続するのが大きな特徴です」

 

レイ「これのおかげで実質パワー10000で戦える……のも嬉しいけど、真に嬉しいのはリアガードの『特務』も10000で受けられること!

さっきも言ったように、手札を消耗しがちな特務はリアガードを狙われるのがイヤで、なおかつ狙われやすい!

パワー10000にもなれば、フォースのG2と同じ堅さ! シールド値が上がるのもあって、ホワイトやブルーといった重要度の高い特務を少ない手札で守りやすくなる!」

 

ミオ「④のスキルはフィニッシャーです。最大4体の特務をスタンドさせます」

 

レイ「パワーに定評がある『特務』を4体もスタンド!!!!

と聞くと強そうだけど、特務の強さはブーストにもパンプが行き渡る点なんだよね。単体だと以外と力不足だったりもする。

16000で4回アタックするより、32000で2回アタックした方が強い場合もあるので、スタンドのさせ方には注意! かな?

そこだけ気を付ければ、あの『特務』で連続攻撃!! 弱いはずがない!!」

 

サキ「消費するのがカウンターコストだけなので、もともと『特務』と相性のよかったシラユキを継続して採用できるのもいいよね」

 

ムドウЯ「平然とソウルを要求してくるヒャッキヴォーグ“Я”や、タマモに対する当てつけか?」

 

サキ「ち、違いますよ!」

 

ムドウЯ「気にするな。ソウルブラストと書いてあるだけで、第一印象が悪くなるのは、もはやむらくものユニットが今後も背負い続ける宿命と言っていい」

 

ミオ「実際、どれだけシラユキを有効活用できるかで、デッキの強弱が露骨に変わってきますからね」

 

レイ「話をウィーズルブラックに戻すけど、これまで『特務』ではひとりだけ方向性が違いすぎて採用しにくかったイエローが、ブラックのおかげで採用し易くなってるんだよね。

きっと④のスキルだけなら、イエローは『入れたくないけど採用しなきゃ』だったと思う。

けど、③のスキルでシールド値を増やしてイエローの長所に触れてくれたことで、守りに特化したイエローも『採用したい!』のレベルまで昇華されてるんだよね。ここが本当に上手いと思う。

何度も槍玉にあげて本当にゴメンなんだけど、『忍妖』って『入れたくないけど採用しなきゃ』の集大成なんだよね。ヌラが『忍妖』の名前を求めてるだけで、『忍妖』と相性のいいことを何ひとつ書いてないから。デッキに入るほとんどが『忍妖』と名前のついただけのバニラ。

同じむらくもで、何でここまでカードデザインに差ができるのか不思議だよ」

 

ムドウ「開発チームはむらくもに関する知識が致命的に不足しているのではないかという疑惑が立っていたが、どうやら知識が足りないのではなく、偏っているだけだったようだな」

 

レイ「リアガードが5体いないとヒャッキヴォーグのパンプが適用されないことすら知らない時点で、むらくもに携わる人間としては致命的なんだけどね!

とにかくウィーズルブラックは、特務が欲しかったアドバンテージ、守備力、攻撃回数、すべてを兼ね備えた300点満点の逸品!!

後は除去耐性だけなんだけど、さすがにそれはワガママかな?」

 

 

●なるかみ《封魔神竜 ダンガリー》

①パワー17000、★2、トリプルドライブ

②V:自分のバトルフェイズ開始時、相手のヴァンガードがG3以上なら、自分の山札の上から1枚バインド

③V/R:このユニットがアタックした時、自分のバインドゾーンすべてをドロップに置く。

・2枚以下-そのターン中、このユニットのパワー-10000、★-1、ドライブ-2

・4枚以上-相手は自分の手札から1枚選びバインド

・5枚以上-自分のドロップから3枚を山札に戻す

 

レイ「何故だか根強い人気のダンガリーさんが、オモシロスペックを引っ提げて帰ってきた!!

素の状態で、パワー17000! ★2!! トリプルドライブ!!!

形骸化しかけている基本能力をこれでもかと有効活用してきたよ!!」

 

ミオ「もちろん、このスペックをそのまま運用することはできません。アタック時にバインドしているカードが2枚以下だと、パワー7000、★1、ドライブ1に弱体化してしまいます」

 

サキ「つまり、ダンガリーのアタック前にバインドゾーンのカードを最低3枚に増やしておく必要があるわけですね!」

 

ミオ「はい。今弾に収録されている2枚の呪禁道士は、起動能力で毎ターン安定してカードをバインドできます。

既存カードにも《ドラゴンナイト シャラフ》《雷轟電撃のジン》《ドラゴンナイト ズバイル》《バルバリ・ビレール》などが存在するので、それらを活用していくことになるでしょう」

 

レイ「うわぁ。聞いたこともないようなカードがいっぱいだぁ」

 

ムドウЯ「この制限は当然リアガードでも適用される。そのスペックをリアガードで悪用されないための枷ではあるが、裏を返せば、バインドカードさえ用意できれば、パワー17000、★2のリアガードとして運用することも可能だ」

 

ミオ「その場合、自分のカードをバインドするスキルを持つ《ドラゴニック・ヴァンキッシャー》が狙い目ですね。

また、ヴァンキッシャーを指定するサポートカードには《ロッククライム・ドラグーン》や《ボルテックシュレッド・ドラゴン》と言った優秀なバインド要員も存在するので、実のところダンガリー軸にするより効率的にカードをバインドできるのではないかという側面もあります」

 

サキ「ダンガリーをヴァンガードにした場合も言えることですが、ダンガリーを2体以上並べる場合、それぞれのアタック時に弱体化を解除しなければなりません。よほどうまくバトルフェイズ時にカードをバインドできなければ、基本的に2枚目以降のダンガリーはパワー7000のユニットとして見るべきでしょう」

 

 

●ディメンジョンポリス《創世英雄 ゼロ》

①パワー0

②Vからアタックした時かライドされた時、CB1SB1で1枚引き、相手のユニットのパワーを0になるまで増減

③V:アタックされた時、手札からG3を捨てることで、★を0になるまで増減

 

レイ「特殊なパワーを持つユニットが多い今弾(しかも何故かVol.3に偏ってる)の中でも異彩を放つパワー0!」

 

ミオ「もちろんパワー0に相応しい強力な効果が与えられています。

アタック時に相手パワーも0にできるので、ブーストやフォースのパワー合計が、そのままガード要求値に繋がり、リアガードのアタックも俄然通りやすくなります。

先に挙げたダンガリーのような基準値を超えるパワー持ちも増えてきたので、そういったユニットを相手にする場合は特に輝くスキルですね」

 

レイ「ブラドブラックからスペリオルライドすれば、それまでに引かれたダメージトリガーを帳消しにして0にしちゃうよ! しれっとドローもついてくるので、ホントに偉い!」

 

ミオ「懸念となる受けにも救済措置が与えられています。手札のG3を1枚捨てることで、相手の★までも0にします。

アタック回数が少ないデッキには特に強く、そういったデッキは数値受けが困難なパワーを弾きだしたり、守護者封じがかかることがほとんどなので、下手なパワー13000より有利に戦えるでしょう」

 

レイ「パワーと守護者封じを兼ね備えた、流行りのガウリールにはとにかく強い!」

 

ミオ「反面、手数で攻めてくるユニットは苦手です。パワーは低いがアタック回数は飛びぬけているナイトメアドールや、テトラドライブ軸のアクアフォースのようなデッキは天敵となるでしょう」

 

ムドウЯ「というか今の環境、3回しか殴ってこないデッキより、4回以上殴ってくるデッキの方が圧倒的に多い。理屈ではともかく、現実的にゼロで戦い続けることは厳しいだろう」

 

サキ「ライドしてもされても強いユニットなので、ダメージに余裕のある序盤にライドして、すぐ他のフィニッシャーに繋ぐか、終盤にライドしてフィニッシャーとして運用するのがよさそうですね」

 

ムドウЯ「また、リアガードとしては擁護しようがないほどのポンコツと化す。よっぽどメインとして扱いたいのでない限り、採用枚数は少なくていいだろう。ディメンジョンポリスはG3のサーチ手段が豊富だからな」

 

ミオ「ちなみにバヲンさんとかち合った場合、パワー0をコピーし、パワー0をパワー0に弱体化する名勝負が展開されます」

 

レイ「泥仕合だよ!」

 

 

●スパイクブラザーズ《魔大帝 ダッドリー・エンペラー“Я”》

①バトルフェイズにリアガードが山札に置かれた時、スタンドしているリアガードを1枚呪縛することで、このユニットのパワー+10000。相手がG3以上なら、手札から1枚捨てることでドライブ+1

②アタックした時、G2以下の自ユニットがいないなら、CB1SB1で山札から1枚スペリオルコール

 

レイ「かつて“Я”被害者を出さなかったスパイクブラザーズからも、ついに“Я”ユニットが!!

ていうか、一介のスポーツ選手にすぎないスパイクブラザーズのユニットが何で“Я”してるのかな? リンクジョーカー暇なの?」

 

サキ「ダッドリー・エンペラー“Я”は、もちろん前身である《魔王 ダッドリー・エンペラー》との相性が抜群です!」

 

レイ「ヒャッキヴォーグは、ヒャッキヴォーグ“Я”と相性よくなかったけど?」

 

サキ「それはそれ、これはこれ!」

 

ミオ「ヴァンガードにダッドリー・エンペラー“Я”、リアガードにダッドリー・エンペラーと並べると、ユニットがアタックするだけで山札に戻るため、容易にエンペラー“Я”の①の効果を2度発動させることができます」

 

レイ「あとは空いたリアガードサークルに②の効果で好きなユニットをスペリオルコール! そこから《ダッドリー・デーヴィー》などの展開できるユニットを選べばアタック回数をさらに増やせるね!」

 

ムドウЯ「ダッドリー・エンペラー“Я”は意外にも『ダッドリー』を指定していないので、ライジング・ノヴァとコラボレーションすることもできる」

 

レイ「ほんとだ!! ていうか“Я”してないのに呪縛が使えるライジング・ノヴァが逸材すぎる!!」

 

ムドウЯ「組み合わせるのは、安定の《デッドヒート・ブルスパイク》でもいいが、リアガードを山札に戻せる《バッドエンド・ドラッガー》とも相性がいい」

 

レイ「ここにきて、バッドエンド・エンペラー!?」

 

ムドウЯ「……それにしても、俺の弟子が好きそうなコンボだな」

 

ミオ「公開があと1月早かったらライジング・ノヴァ“Я”が書けたのにと、作者が身悶えしていました」

 

サキ「ライジング・ノヴァと組み合わせる場合、ダッドリー・エンペラーが使えないので、山札にカードを戻す手段が限られてしまいます!

前述の《バッドエンド・ドラッガー》の他、今弾に収録の《マシンガン・グロリア》であれば2枚のカードを山札に戻せるので、1枚でドライブ+2を適用させることができます。これらのユニットを有効活用していきたいですね!」

 

 

●《銀の茨の竜女帝 ルキエ“Я”》

①V/ソウル:CB1、グレードの違うユニットを3枚呪縛することで、Vにいるなら、ソウルからグレードの異なる「銀の茨」3枚をスペリオルコール。ソウルにいるなら、ソウルからスペリオルライド。

②V:相手のVがG3以上なら、呪縛カード1枚につき前列ユニットのパワー+3000

 

ムドウЯ「ドS男子に絶大な人気を誇るルキエ“Я”もVスタンで再演だ。踏まれたいな」

 

レイ「知らないよ!」

 

ムドウЯ「ルキエЯの特徴は、そそる嗜虐的な視線と、Vとソウルで大きく性質を変える①の効果だ。

とは言え、メインで使いたいのはソウルで発動する効果の方だろう」

 

レイ「そうなの?」

 

ムドウЯ「ああ。ヴィーナス・ルキエと組み合わせる場合を例にすると、まずヴィーナス・ルキエのスキルでユニットを展開する。

その後、ルキエ“Я”のスキルでスペリオルライド。アクセルサークルが増えるばかりか、相手がG3ならば、永続能力によるパンプ値は、ヴィーナス・ルキエの+5000を凌ぐ+9000だ。

ルキエ“Я”になっても、エンド時にはヴィーナス・ルキエのアクセルサークルを得る効果は適用されるので安心するといい」

 

レイ「えっと……このターン中にアクセルサークルが3つになってて。次のターン、別のルキエにライドして、さらにルキエ“Я”にスペリオルライドすれば……」

 

ムドウЯ「次のターンには、最大アクセルサークル5つでアタックできるな」

 

レイ「アホか!!!!!」

 

ムドウЯ「アホだな」

 

ミオ「『銀の茨』は、いくらアクセルサークルが増えても物ともしない展開力があります。アクセルサークルを増やす方向での強化は、まさに理に適っていると言えるでしょう」

 

ムドウЯ「できることならヴィーナス・ルキエと組み合わせたいが、素ルキエなら後列に呪縛用のユニットも展開でき、パワーの最大値もヴィーナス・ルキエより僅かに高い。コストが余っているなら、序盤や最終盤の選択肢に入るだろう」

 

レイ「現状でも十分すぎるほど強いルキエを文字通りそのまんま生かす方向で強化された『銀の茨』!! 念願だったカウンターチャージ要員のアナも加入し、安定性も大きく増してるよ! これは『銀の茨』くるんじゃない!?」

 

 

●バミューダ△《爆音歌姫 レフィアレード“Rock”》

 

サキ「メガネっ娘からメガネをはずすなあああああああああああああっ!!!!!!」

 

レイ「サ、サキちゃん……?」

 

ムドウЯ「未だにメガネっ娘からメガネをはずした方が可愛いなどという幻想を盲信している輩がいるとは。……愚かを通り越して、もはや哀れだな」

 

サキ「次に行きましょう、次!!」

 

ムドウЯ「異論は無い」

 

 

●アクアフォース《蒼嵐業竜 メイルストローム“Я”》

①V:リアガードがアタックしたバトル終了時、アタックがヒットしていなかったら、スタンドしているユニットを1枚呪縛することで、このユニットのパワー+10000。「メイルストローム」がソウルにあるなら、1体退却。

②V:アタックした時、4回目以降のバトルなら、CB1することで★+1、ドライブ+1。ヒットしなかったら呪縛カード1枚につき、相手は手札かリアガードをドロップに置く

 

レイ「いまだかつてない理由で、本当にとばされちゃった!」

 

サキ「ルキエに続いてメイルストローム“Я”も復活! リンクジョーカー編が好きな人にはたまらない構成ですね!」

 

レイ「スキルは間違いなく強力!! ……なんだけど、スタンドしているユニットを呪縛させつつ4回のアタック回数を確保するって、展開があまり得意でないアクアフォースだと大変そう……」

 

サキ「メイルストローム以外のアタックはほとんど通らない……なんてことも多々ありそうだね」

 

レイ「ソウルに『メイルストローム』に入れる近道が無いから、本格始動も遅いし、テキストの端々に相手に選択肢を与えちゃってるから、上手い人が相手だと簡単に捌かれちゃいそう。総じて駆け引きが得意な玄人向けの印象かなぁ」

 

 

●《コバルトウェーブ・ドラゴン》

①V:ガードがアタックした時、このユニットのパワー+5000

②V:このユニットがアタックした時、CB1でこのユニットのパワーにより以下を行う

・25000以上-このユニットの★+1

・30000以上-リアガードすべての前列と後列を入れ替えてよい

・35000以上-前列リアガードのパワー+10000

 

レイ「アタック回数を積み重ねることでパワーを上げて、最後にドッカーン!! っていうデザインはわかる! ただ、そのドッカーン部分がまったく噛み合ってない!!」

 

サキ「前後列入れ替えって、アタック回数を稼ぐ目的じゃなくて、アタック回数を稼ぐための手段だよね……」

 

レイ「前列後列すべてを尽くしてなりふり構わずアタック回数を稼ぎ、最後に大きな報酬を得られるから、こういうカードは楽しいと思うんだよね。

わざわざ後列をアタックさせないブーストもさせない舐めプの果てに得られる報酬が、それらのユニットが前に出てきて、おざなりなパンプをもらえるだけって……カタルシスも何もあったもんじゃないよ!?

50000以上で★+2くらいは言って欲しかったし、なんなら25000以上の効果で終わっていた方が、まだデザイン的には綺麗だったよ!」

 

サキ「こういう枠のカードは、強弱別にして、使っていて楽しいカードにして欲しいですよね……」

 

 

●メガコロニー 《武神怪人 マスタービートル》

①V/R:CB1することで、相手のユニット2体をレストしてパラライズ。このユニットがVにいるなら、それらのユニットの元々のパワーを得る。

②V:このユニットがアタックした時、CB1、手札から1枚捨てることで、レストしている自分と相手のリアガード3枚につきドライブ+1

 

アリサ「はいはーい! アリサおねえさんのターンだよー!!」

 

ムドウЯ「帰れ」

 

アリサ「げ。ムドウいたの?」

 

ムドウЯ「無論だ」

 

アリサ「それでもあたしはめげずにメガコロの解説続けるのであった!

まず紹介するのは《武神怪人 マスタービートル》!!」

 

サキ「メガコロニー使いの方にとっては、印象に残っている人が多いカードみたいですね」

 

アリサ「そうだね。マスタービートルが登場してから1年以上メガコロの強化がもらえなかったという悲しいバックグラウンドもあって、長い期間お世話になったっていうメガコロニストも多いんじゃないかな?

落ち着いた雰囲気の旧イラストとは打って変わって、今回は白熱の空中戦! かっこいい!!」

 

ミオ「重力を操れるのに空中戦しているのはおかしくないですか?」

 

レイ「めちゃくちゃ抗われてるよねー」

 

アリサ「う、うるさいな! マスタービートルの超重力にも耐えるほどの強敵を一閃したシーンなの! イメージしろ!!

そんなマスタービートルのスキルを解説する前に、現状のメガコロが置かれた状況をおさらいしておこっか」

 

ミオ「はい。まずメガコロニーにとって最大の逆風が、Яユニットの台頭ですね」

 

レイ「? それが問題あるの?」

 

アリサ「問題大アリよ。あ、これは有りと蟻をかけてるんだけど……」

 

ミオ「聞いてません」

 

アリサ「Яユニットは味方を呪縛することで力を発揮するんだけど、最終的にそれらのユニットはターンエンド時にすべて解呪されるわ。そうなると何が残るか……」

 

レイ「そりゃ当然ユニットが残る……あ!! 解呪されたユニットは()()()()()()でリアガードに残る!!」

 

アリサ「イエース!! スタンドしたままのユニットが残ると、エリートギラファや、蛹ギラファといった、レスト状態のユニットを参照するスキルに支障が出るの。Я環境はメガコロにとって致命的……!! 暗黒繭も呪縛で簡単に消されるから、Яユニットはことごとくメガコロにとって天敵ね。

そんな環境にしっかり対応してくれたのが、①のスキルよ!」

 

サキ「スタンドしたユニットがいるなら、こちらからレストしてしまえばいいわけですね! パラライズもつけて!」

 

アリサ「そうよ。地味に起動能力にしてくれた点も嬉しいわね。

というのも、メガコロにはハイクラスモスという強力なカウンターチャージ要員がいるのだけど、メガコロのアタック時にコストを支払うヴァンガードが多くて、カウンターチャージがワンテンポ遅れることが多かったのよね。

……邪甲将軍のアレとか起動能力にしてくれたら、ワンランク強くなったのにと今でも思うわ」

 

サキ「マスタービートルなら、起動能力を使用して、即ハイクラスモスでコストを補填できますね!」

 

アリサ「そうして得たコストで、いよいよマスタービートル最大の見せ場である②の能力よ!

レストしているユニット3体につきドライブ+1ということは、自分のユニットが5体レストしていれば、相手ユニットは1体レストしているだけでドライブ+2!! クアドラプルドライブまでは安定して達成できそうね。

レストしている相手ユニットが4体ならドライブ+3だって!!! アタックやブーストしたユニットが消えやすい環境ではあるけれど、まだ現実的な範囲ではないかしら?」

 

レイ「ドライブ5!!!!!」

 

アリサ「正直、メガコロ使っててクインテットドライブと言える日が来るとは思わなかったわー。

そんな夢が膨らむスキルだけど、難点も多いのよねー。

まず、基本マスタービートルが最後にアタックしなければならないので、ドライブチェックでトリガーの振り先が無い!!」

 

レイ「え、もったいな!!」

 

アリサ「そんな時は《鋏撃怪人 イントルードシザー》でユニットをスタンドさせればいいわ。おあつらえ向きに、②のスキルには手札コストがあるので、それでイントルードシザーをドロップしちゃいましょ!」

 

ムドウЯ「相手がダメージを受けてくれず、イントルードシザーを使えなさそうな場合は、味方をレストできるユニットで調整するのも手だな。

相手リアガードが5体レストしている場合、《マシニング・メテオバレット》で自身の後列をレストしておけば、メテオバレットを立たせたままマスタービートルのクインテットドライブに繋げることができる」

 

アリサ「もうひとつの難点が、相手にインターセプトされるとドライブ回数が減ってしまう可能性がある点。幸い、メガコロにはインターセプトを封じる手段は数多いので、それらを使えば解決ね。エリートギラファ、ハイクラスモスといったお馴染みの面々はもちろん、暗黒繭でもインターセプトは妨害できるので《クリヤード・ブリーズ》なんかもよさげ。

とまあ弱点も多いけど、構築やプレイングでカバーできる範囲よ。

さあ、皆もれっつクインテットドライブ♪」

 

 

●《マシニング・アーマービートル》

①R:他のリアガードをレストすることで、相手リアガードをレストしてパラライズ。このユニットのパワー+6000

②R:このユニットがレストしているなら、このユニットと同じ縦列の相手リアガードはインターセプトとブーストができない

 

アリサ「マシニングにも新戦力!! マシニングのG2は2種類しかいなかったので、マシニングで統一したい人にとっては、その存在だけで価値があるわね。

けど、能力は平々凡々で、パワーも妨害も中途半端な印象かなぁ。

メガコロのG2枠って、マシニングにこだわらなければ粒揃いで、よっぽどのスペックでなければ入らないのよねー。

マシニングで統一して、スキャッターホーンやサイビスターのスキルを安定させたい人向けかな?」

 

 

●《ブリリアン・ブリスター》

①後列R:ターン終了時、スタンドしている相手ユニットがいないなら、このユニットを手札に戻す。手札が6枚以下なら、SB1で1枚引く

②このユニットがGに置かれた時、相手Vがレストしているなら、SB1、手札から1枚捨てることで、相手リアガードを1枚レストし、そのターンスタンドできない

 

アリサ「かつてはヴァンガードの再スタンドを封じるという唯一無二の能力で、オーバーロードをも震撼させたブリブリが、新たな妨害スキルを引っ提げて帰ってきた!

前回とは逆に、リアガードをレストさせてスタンドを封じるよ!

……って条件もコストも重っ!!!

Vがレストしているならとかいう条件、明らかに余計でしょ!」

 

レイ「手札コストも重いよねー。手札の消費を抑えたいからリアガードをレストさせたいのに、そこで2枚消費してたら大して変わんないじゃんって言う」

 

アリサ「まあ、ブリブリの名前からどうしても妨害に期待してしまうんだけど、まず①が普通に優秀なのよね。ノーコストでとりあえず手札に戻ってきて、コストを払えばドローまでできちゃう。

6枚以下という制限が、ドライブチェックで一気に5枚引くことだってあるマスタービートルと微妙に噛み合ってないんだけど」

 

ミオ「反面、相手ターンにアドバンテージを稼ぐ暗黒繭を操るグレドーラとの相性は良好です。

②もナイトローゼやメサイア、前を採用したアクセル系クランなど、ピンポイントで効く相手は一定数存在するので、欲しい時に欲しいカードを持ってこれる暗黒繭とは噛み合っていますね」

 

アリサ「相手に見せつけることで動きを大きくけん制できるカードだから、そういう意味でも①の効果や、暗黒繭との組み合わせは面白いのよね。こちらに②を使うつもりはなくとも、相手が②をイヤがってVのアタックを最後に回してくれれば、それだけで仕事は果たしてくれたことになるからね」

 

ムドウЯ「一方で、このカードを意識の外に置いておいて欲しい場面もある。

例えばガウリールは、本来なら他のユニットにトリガーを乗せたいのでガウリールからアタックしてくるが、ブリブリの存在を読まれた時点でガウリールは最後にアタックしてくるだろう。ハミエルなど守護者封じのユニットをブリブリで封じられるのは敗北に直結するからな。

だからと言って、メガコロを相手しているというだけで常にヴァンガードのアタックを最後にしなければならないというのは、あまりにも窮屈だ。

その存在が相手のプレイングに影響を与えるカードは、カードプールにあるだけで価値がある」

 

アリサ「時にこれ見よがしに見せつけ、時に隠し持ち。対戦相手を心理的に制圧する読み合い系カード!

こういう相手の裏をかけるカードは、ヴァンガードにあまり無いので、上手くハマれば本当に楽しそう!」

 

 

●終

 

ミオ「みなさん、お疲れ様です――」

 

レイ「あー、本当に疲れたよー! V候補がいつも以上に収録されてるおかげで、考察するユニットがいつもより多くて……」

 

ミオ「ここからが後半戦です」

 

レイ「…… そ う だ っ た ! !」

 

サキ「そんなわけで、またすぐ、VクランコレクションVol.4編でお会いしましょう!」

 

ムドウЯ「さらばだ」




Vol.3のえくすとらも近いうちに公開しますので、少々お待ちください……!!


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Ex.53「Vクランコレクション Vol.4」

●序

 

ミオ「Vol.4から読み始めた方、よろしくお願い致します。Vol.3から続けてきた方、お疲れ様です。

ここからVクランコレクションVol.4編となります」

 

サキ「ゲストはVol.3に引き続き、御厨ムドウ“Я”さんです!」

 

ムドウЯ「よろしく頼む」

 

レイ「それじゃ、さっそく! Vol.4スタート!!」

 

 

●エンジェルフェザー 《粛清の守護天使 レミエル》

①V:バトルフェイズ開始時、カウンターチャージ。ダメージゾーンにある表のカードと別名のリアガードすべてを呪縛。リアガード2枚につき、相手リアガード1枚退却、このユニットのパワー+20000

②V:このユニットがアタックした時、G3をソウルブラストすることで、ドライブ+1。相手はCB2してよく、しなければ手札からGにコールする時、自ダメージゾーンの枚数以上同時にコールしない限りコールできない

 

サキ「呪縛がコストではなく、純粋にデメリットになっている珍しいЯユニットです! そしてそのデメリットは軽減することが可能! うまくダメージゾーンを調整すれば、Яユニットでありながら、ユニットを呪縛することなく運用することもできますよ!」

 

レイ「呪縛に抗っている感があってエモいよねー。アモンとか自らЯを望んだユニット以外は、こういう方がらしいかも」

 

サキ「革新的な①の効果とは裏腹に、②は最近見なくなったG3のソウルブラストです!」

 

レイ「コストこそ懐かしだけど、効果は今時のトンデモ!! 平然とガードに4~5枚要求させるよ!!

だけど、対戦相手はコストを支払うことで回避できるし、ドライブ+1こそあれど★は増えないので、プレッシャーには欠けるかも。

★は多めに入れとこう!」

 

サキ「前身のレミエルと直接の関係は無いけれど、ダメージゾーンとリアガードの名称を揃えるという動きは共通しているので、共存は容易ですね。

手数のレミエル、一点突破のレミエル“Я”と役割分担も取れているので、序盤はレミエルでダメージを詰め、“Я”でトドメを刺したり、対戦相手のデッキタイプに合わせて有利な方に乗り換えたり、戦術の幅が広がりますよ」

 

 

●シャドウパラディン 《撃退者 レイジングフォール・ドラゴン“Я”》

①V:撃退者を呪縛することで、撃退者3枚のパワー+5000

②V:呪縛カード1枚につき、このコストは1減る。アタックしたバトル終了時、CB3、手札から3枚捨てることで、スタンドしているリアガード2枚まで選び呪縛する。呪縛カードが2枚以上か、ダメージゾーンが5枚なら、このユニットをスタンド。

 

レイ「あのレイジングフォームがЯ!? 旧作にいなかったЯユニットの象徴的存在!!」

 

ムドウЯ「レイジングフォームとの兼ね合いのため、色々とオプションが書いてあるが、レイジングフォール単体としてやることは単純だ。

①のスキルで後列の3体を呪縛⇒②のスキルがノーコストで使えるようになるので、Vで2回殴る⇒残りの2体でさらに殴る。

初見では勘違いしがちだが、②の2体呪縛はコストではないので、わざわざ適用する必要は無い。かく言う作者も最初は勘違いしていた」

 

レイ「まあ、仮に②の呪縛がコストだったとしても、全然弱くは見えないんだけどね!」

 

サキ「レイジングフォームと組み合わせることで、さらに強くなるんですよね?」

 

ムドウЯ「そうだな。それはダメージが4点以下の場合と、5点の場合で、さらに動きが異なる。

4点以下の場合は

レイジングフォームで殴る⇒後列の撃退者3体を退却させ、レイジングフォールにスペリオルライド⇒レイジングフォールで殴る⇒2体呪縛して、レイジングフォールをスタンド⇒殴る

のVによる3回攻撃だ」

 

レイ「あ、②の2体呪縛はここで使うんだね!」

 

ムドウЯ「5点の場合は

レイジングフォームで殴る⇒後列の撃退者3体を退却させ、レイジングフォールにスペリオルライド⇒レイジングフォールで殴る⇒ダメージ5なのでレイジングフォールがスタンド⇒殴る⇒左右でも殴る

のV3回、R2回の5回攻撃になる」

 

レイ「アルティメットブレイク!!!!!」

 

ムドウЯ「テキストこそ汚くなったものの、レイジングフォームとの連携は完璧に取れており、単体でも機能する。デザインとしては完璧だ」

 

ミオ「弱点らしい弱点と言えば、本体には無く、コストとなる撃退者の質でしょうか。ある程度改善はされてきましたが、まだまだタレント不足なのは否めません」

 

レイ「撃退者だけで固めるよりも、ネヴァンやアビサルをブン回した方が絶対に強いもんねー」

 

ムドウЯ「むしろ、あえて撃退者を小粒にすることで許されている効果な感があるな、このカードは」

 

 

●ゴールドパラディン「救国の獅子 グランドエイゼル・シザーズ」

①V:手札からエイゼルを含むカードをソウルに置くことで、ソウルにあるG3「エイゼル」の能力をすべて得る

②V:相手のヴァンガードがG3以上で、ソウルのG3が2枚以上ならCB1することでドライブ+1、相手はヴァンガードの自動能力を発動できない。呪縛カードをすべて解呪。

 

レイ「呪縛の鎖を断ち切る鋏! Vスタンにおける4枚目のエイゼル、グランドエイゼル・シザーズがついに登場!!」

 

サキ「グランドエイゼルは、オバロXのように、ソウルにある『エイゼル』の効果をコピーします! それも、すべて!!」

 

レイ「究極形体になったグランドエイゼルは、アタック時に手札から1枚コールし、パワー+15000しつつ守護者封じ、ドライブチェックでは山札の上から2枚見て、そのうちの1枚をスペコするバケモノに!!

全員がVRなだけあって、もうムチャクチャ!!」

 

ムドウЯ「理想を言うなら、

先攻2ターン目or後攻3ターン目にブロンドエイゼルの効果でスペリオルライド⇒レーブンヘアードの効果でスペリオルライド⇒次のターンに、グランドエイゼルにライド⇒グランドエイゼルの効果でプラチナエイゼルをソウルイン

の流れで、相手がG3にライドするかしないかの段階でグランドエイゼルは完成する。

必要パーツが多すぎるので、そこまで完璧に決まることは稀だろうが、一か所くらい欠けてもでも十分すぎるほど強い。

最低限の目標はブロンドエイゼルのスペリオルライドだ。これができなければ、②の適用も遅れるからな」

 

レイ「②も色々とすごいことが書いてある! もはやVスタンでは珍しくもないトリプルドライブなんだけど、エイゼルの場合は毛色が違う! プラチナエイゼルのトリガー操作&スペリオルコールが3回適用されるからね!!!」

 

サキ「そこにエイゼルのノーコストで手札からスペリオルコールする効果も加わってくるわけですからね……。全クランの中でもアタック回数は随一なんじゃないでしょうか」

 

レイ「ブロンドエイゼルやレーブンヘアードのスペリオルライドに成功していたら、その分だけアクセルサークルも増えているわけだしね……」

 

ムドウЯ「それだけではない。エイゼルはゴールドパラディンなので、パーシヴァルでさらにアクセルサークルは増える」

 

レイ「そうだった!!!」

 

ムドウЯ「いち早くG3にライドできるエイゼルは、ある意味グルグウィントよりもパーシヴァルを上手く扱えるユニットだと言える。

これまではスペリオルライド後のカードパワーがそれほどでも無かったから見逃されていたが、こうなるとどうだろうな。ただでさえG3を多く積むデッキなので、そこにパーシヴァルまで加わるとライドやガードが安定しなくなる懸念もあるが。ブロンドエイゼルのスぺライからパーシヴァルが決まるだけで相当有利なので、グランドエイゼルの枚数を抑えるという選択肢もあるか……」

 

レイ「話が逸れたけど、②の効果はまだまだ続くんだよね。

ヴァンガードが自動能力を発動できなくなり、ユニットすべてを解呪!!

解呪はグランドエイゼルだしわかるんだけど、自動能力うんぬんって……?」

 

ミオ「カードが解呪されても、カオスブレイカーが効果を発動することができなくなります」

 

レイ「それか!! って、エイゼルのアクセル地獄に一番対抗できそうなユニットだったのに!!」

 

ミオ「それ以外にも、《創世英雄 ゼロ》などの変則的なガードを防ぐことができます。レーブンヘアードの守護者封じは、そういったスキルを苦手としているので、この点から見ても噛み合ったスキルですね」

 

レイ「弱点が無さすぎる!!」

 

ミオ「あえて弱点らしい弱点を挙げるとするならば、これだけエイゼルが寄り集まっていながら、リアガードのパンプは一切せず、ゴールドパラディンにはパワーを出せるユニットも少ないため、相手のトリガー次第ではアタックが止まってしまう点でしょうか。

《マジェスティ・ロードブラスター》や《ブレイドウイング・レジー》など、基準値を越えたパワーを持つユニットとは戦いにくいでしょう」

 

レイ「そっか。そういうのは自動能力封じでも止められないんだ」

 

ムドウЯ「まあ、現実はプラチナエイゼルの効果で2、3枚前トリガーを引いて、パワー不足も解消されるのだろうが」

 

レイ「弱点が無さすぎる!!!!」

 

 

●《軍竜 ラプトル・カーネル》

①V:このユニットがアタックした時、CB1、リアガードを1枚以上退却させることで、このコストで退却させたユニット1枚につきパワー+5000。このコストで5枚以上退却させ、相手のヴァンガードがG3以上なら、バトル終了時、このユニットをスタンド

②V:バトルフェイズ中に登場したユニットのパワー+5000

 

サキ「ギガレックスと並んで作者の好きなたちかぜユニット、ラプトル・カーネルがついに出撃です!!

もう、ヴェロキラプトルというモチーフがたまらないんですよね! スピノドライバーとか、ギガノブレイザーとか、レックスのようなメジャーどころをはずしたユニットが、もう大好物なんですよ! 私も、作者も!」

 

アリサ「わかるわー。メガコロもカブトクワガタばっかだから、たまにヴェノムスティンガーみたいなユニットが出てくると、それだけでテンション上がるのよねー」

 

サキ「なんでまだいるんですか?」

 

アリサ「ひどい!」

 

サキ「そして、そんな作者のひねくれ根性を真正面から叩き壊す、ギガレックスの暴力的なカッコよさ! 本当にこの2匹は最高ですー」

 

レイ(サキちゃんが作者に乗っ取られかけてる……)

 

サキ「そんな作者がこよなく愛するラプトル・カーネルですが、作者の贔屓目なしに超強力です!!

ユニットを5体退却させることによるヴァンガードのスタンド!!」

 

レイ「グラトニードグマ!!!」

 

ミオ「何の因果か、構図もそっくりです」

 

サキ「特筆すべき点は、捕食者としての役割がラプトル・カーネル1体で完結していることです!!

手札に捕食者ばかりで餌がいない。逆に、手札が餌ばかりで捕食者がいないという、たちかぜでありがちな事故の心配が、ラプトル・カーネルにはありません!

デッキに必要なカードは餌のみです!!

こと安定性においては、他のたちかぜを大きくリードしていると言えるでしょう!」

 

ムドウЯ「一点補足しておくと、餌となるユニットは基本的にはパワーが高くない。

隠し味として《掃討竜 スイーパー・アクロカント》などのアタッカーもデッキに少量加えておくと、よりおいしくラプトルデッキを味わえるだろう」

 

 

●ノヴァグラップラー《最凶獣神 エシックス・バスター“Я”》

①V:リアガードがアタックした時、このユニットがスタンドしているなら、そのユニットを呪縛

②V:このユニットがアタックした時、パワー+5000。バトル終了時、手札から1枚捨てることで、呪縛カード3枚を解呪し、退却。3枚退却させたら、このユニットをスタンド

③V:このユニットのアタックがヒットした時、「獣神 エシックス・バスター」をソウルブラストすることで、ドライブ+1

 

レイ「なんだかいきなりとんでもないデメリットで書き出してるけど、要約するとリアガードのアタック3回を、ヴァンガードのアタック1回に変換するユニットって感じかな」

 

サキ「エクストラアタックは後列からでもアタックできるので、それを上手くつかうことで、前列を呪縛させずに呪縛カードを増やせるよ。

このカードを使う上でとっても重要なテクニックだから覚えておいてね」

 

ミオ「②にターン1回の制限は無いので、呪縛カードを6枚準備することができれば、2度目のスタンドも可能です。理論上は3度目、4度目も可能ですが、現実的には3度が限界でしょう。それもかなりの引き運は必要ですが」

 

レイ「エシックス・バスターのブレイクライドによるエクストラアタックと併せて、相手が泣くまでヴァンガードで殴り続けるラッシュがエシックス・バスター“Я”の真骨頂!!

それから……えっと……」

 

サキ「…………」

 

ミオ「…………」

 

レイ「……ごめん。そろそろ核心に触れていいかな?」

 

ミオ「どうぞ」

 

レイ「やってること、レイジングフォームとモロ被りだよね」

 

ミオ「モロ被りですね」

 

レイ「それも、レイジングフォームの方が、より高い水準でそれをこなしてるよね」

 

ミオ「こなしてますね」

 

レイ「3体を呪縛させなきゃならない点はまったく一緒で、こちらはアタック回数を犠牲にしている(エクストラアタックを使う場合はコストも必要!)のに、向こうは基本アタック回数に変化無し! 何故かパンプまでしてくれる!

一方、こちらは呪縛させたユニットを最終的に退却させるというおまけ付き! 手札コストこそ向こうの方が多いけど、消費で言えばまったく釣り合ってない!

特定のユニットと組み合わせることでアタック回数が増加するところまで一緒!

ていうかアクセルの強みはアタックの手数なのに、それを放棄しちゃってるんだもん。アタックの質で勝負しても、フォースに勝てるわけないじゃん!」

 

サキ「Vで3回殴るより、Vで1回、Rで6回殴る方が強い場面だって多いよね……」

 

レイ「ヴァンガードの質で負けてても、リアガードでカバーできるのがこのゲームなんだけど、エシックス・バスター“Я”はそれすらさせてくれないから、本当に救いようがない!

とまあ、カタログスペック上はレイジングフォームの下位互換ではあるんだけど、そもそも互換先が強すぎるだけで、このユニットが弱いと断じるのは早計かな」

 

 

●リンクジョーカー 《星輝兵 ネビュラロード・ドラゴン》

①V:ソウルブラスト1、「星輝兵」1枚を退却させることで、相手は自分リアガードを1枚えらび呪縛する。相手後列にリアガードがいないなら、ドライブ+1。呪縛しなかったら、相手は山札の上から1枚をユニットのいないRに呪縛カードとして置く。

②V:相手のヴァンガードがG3以上なら相手の呪縛カード1枚につき「星輝兵」のパワー+5000

 

レイ「リンクジョーカーからはまたしても星輝兵が! これでカオスブレイカーから3連続! いい加減、他のカテゴリも追加してくれないかな!?」

 

ミオ「根絶者とか根絶者とか根絶者ですね」

 

サキ「ネビュラロードは、呪縛カードを力(パンプ)に変える、攻撃的なリンクジョーカーのユニットです!

呪縛カードを前列に置きたがるファイターはそうそういないので、呪縛カードは後列に溜まりがちですが、そうなればまさしくネビュラロードの思うツボ! 高水準のパンプを得られ、後列リアガードがいなくればドライブまで+1されちゃいます!」

 

ムドウЯ「とはいえ本人の呪縛効率はかなり悪く、できる限り他のカードと組み合わせたい。

お馴染みのジルコニウムは、同様に呪縛カードが後列に置かれることで力を発揮する。

先行の場合は力を発揮しないので、インフィニットゼロを経由するのもいい。

後はバルヲルで呪縛カードをΩ呪縛してしまうかだな」

 

ミオ「バルヲル様、です」

 

ムドウЯ「黙れ」

 

レイ「まあ攻撃的っても、最終的にフォースを大量に得られるカオスブレイカーも、大概攻撃的だったんだよねー」

 

ムドウЯ「ならば、カオスブレイカーでフォースを大量に得てから、フィニッシャーとしてネビュラロードに再ライドするといい。カオスブレイカーのフォースと、ネビュラロードのパンプが合わさり、納得のパワーが出せることだろう」

 

 

●ダークイレギュラーズ 《魔界侯爵 アモン》

①V:リアガードと手札から1枚ずつソウルに多くことで、相手はリアガードと手札とドロップから2枚ずつ選びソウルに置く。ソウルに6枚置かなかったらドライブ+1

②V/R:自分と相手のソウル6枚につき、このユニットのパワー+5000。Vにいるならパワー+10000

③V:相手のソウル6枚につき★+1

 

レイ「長き沈黙を破り、巨悪のカリスマ、魔王の中の魔王、アモン様がついに 降 臨 !」

 

サキ「相手のあらゆる領域からカードをソウルに送り込む姿は迫力満点です!

再序盤であれば、リアガードやドロップには2枚以上のカードが無いことも多いので、ドライブ+1も狙えますね。

相手がG2以下であることによる制限もかからないので、かなり先行有利のカードではないでしょうか?」

 

アリサ(2枚ハンデスという最大の特徴は同じで、先攻でも★が乗って、ドライブも+1されてノーコストって、割とギラファが泣くレベルよね?)

 

レイ「それ以降にドライブ+1を適用したい場合、手札とドロップは期待しにくいので、狙うはリアガード!!

《ファンタズマ・エクゼキューター》や《グウィン・ザ・リッパー》などで相手リアガードが1枚になるまで除去しちゃおう!

メガコロの時には弱点として挙げた、盤面にカードが残りにくいという環境が、アモンにとっては追い風だよ!」

 

ムドウЯ「アモンはカウンターコストもソウルコストも一切要求してこないという部下思いな一面も持っている。コストを要求するカードの自由度はかなり高い。

特に抜群の相性を誇るのがCB1でソウルから回収できる《ドッペル・ヴァンピーア》で、これ1~2枚で延々とアモンのコストを賄うことができる。

採用しておくべきカードとなるだろう」

 

レイ「相手がG2でも容赦しない極悪さと、融通の利く燃費のよさを併せ持つ、単体で見れば完璧なアモン様!

問題は相手にソウルを与えてしまう点が、どれほど相手に利するか、だよね」

 

ムドウЯ「上手いファイターなら、使えるソウルの総量をデッキ構築の時点で計算して組んでいるはずなので、必要以上にソウルを消費するカードを入れているパターンは少ない。

よってあまり気にする必要は無いと見ている。

だが、何事も例外があり、それがとにかく手札に加えておきたいパワーカードであるならフル投入されている恐れもある。シラユキなどはその代表格だ。その場合、強力なカードをソウルを気にすることなく連打されることになるため、厳しい戦いを強いられる。

また、最近はめっきり見なくなったソウルのG3を参照する類のカードも高速化・安定化させてしまう。

こっきゅんがいきなり4~5枚展開してきたり、御大将がいきなり全体除去してきたり、グローリー・メイルストロームやZANGEKIがいきなり強力な制限を仕掛けてきたり、思わぬ古いカードに苦戦させられることもあるかも知れんな」

 

レイ「相手が《ブレイドウイング・レジー》の場合、途轍もない勢いで滅びの翼が増えていくことに!」

 

 

●ギアクロニクル 《スチームメイデン エルル》 《スチームメイデン アルル》 《スチームメイデン イルル》

①V:ドロップから1枚バインドすることで、バインドゾーンから「スチームメイデン」を1枚スペリオルコール

②V:「スチームメイデン」のリアガードがアタックしたバトル終了時、そのユニットをバインドすることで、バインドゾーンからバインドされたカードのグレード+1のカードをスペリオルコール。G1をスペリオルコールしたらカウンターチャージ。

③V/R:バインドゾーン1枚につき、このユニットのパワー+1000。Vにいるなら+3000

 

レイ「ギアクロニクルからはなんと! 《スチームメイデン エルル》が時を越えてやってきた!!

人気があることは知ってたけど、めぼしい能力の無かったV要員からの大出世!!

設定上の存在だったエルル達の姉妹も登場し、ついでに『スチームメイデン』もカテゴリ化!!」

 

ミオ「『スチームメイデン』はグランブルーの『お化け』をちょうど逆にしたような動きで戦います」

 

レイ「手札から直接コールするか、①の効果でG0の《スチームメイデン ウルル》をスペリオルコールすることでコンボ始動!

ウルル(G0)⇒イルル(G1)⇒アルル(G2)⇒エルル(G3)

とアタックを繋いでいこう!」

 

ムドウЯ「オルルはどうした?」

 

レイ「知らないよ!」

 

ミオ「スペリオルコールのたびにグレードが増加し、パワーも上がっていくので、お化けと違い、初撃でいきなりダメージトリガーを引かれて、残りのアタックが軒並み通らなくなった。というリスクが低下しています。

プロテクトだったあちらと違って、こちらはフォースというのもあり、連続攻撃を確実に通していくという点においては『お化け』以上と言えるでしょう」

 

サキ「コンボを完遂するには、バインドゾーンに4種類のスチームメイデン姉妹がそれぞれ必要となります。

それぞれの効果を勘案すれば、ドロップに2枚、バインドゾーンに2枚あればOKなんですけど、それでもなかなか大変そうな条件です」

 

レイ「基本的にはミステリーフレア軸のカードが応用できるけど、それ以上にスピード感が要求されるので、ドロップからバインドするナブーやリビットよりは、手札から直接バインドできるロストブレイクやリノベイトウイングの方が優先度高そうかな。この2枚はデッキの回転に貢献してくれるのも魅力だよ。

《歌舞優楽の時空巨兵》はアド損こそするものの、相手にガーディアンを2枚以上コールできないガード制限を与えるので、連続攻撃を得意とする『スチームメイデン』とは相性抜群!!

こんなところかな?」

 

ムドウЯ「……それだけか?」

 

レイ「え、なに?」

 

ムドウЯ「……では、ここまでが正攻法。ここからは、よりコンボの成功率を上げるための裏技だ。とは言え、難しいことではない。

ファーストヴァンガードをウルルにする。

それだけだ。

あとはソウルのウルルをソウルブラストするだけで、ドロップにウルルを用意できる。イルルでソウルブラストするのが、展開面でも絵面的にも理想だな」

 

レイ「ええ? けど、それだとドローもできないし、トリガー率も下がっちゃうんじゃない? それも治トリガー」

 

ムドウЯ「たしかにドローできないのは痛手だが、それだけだ。

治トリガー率を下げることは、スチームメイデンにおいてはメリットに繋がる部分もある」

 

レイ「そうなの?」

 

ムドウЯ「エルルはコンボの完遂にカウンターコストを2必要とする。序盤に治トリガーを引いてしまい、ダメージが1のままエルルのターンを迎えてしまうとコンボが完遂できなくなる。

治トリガーのリスクを抑えることで、攻撃面の安定性を底上げするわけだな。

それ以外にもメリットがあり、ウルルを確実に調達できるので、残り3枚の治トリガーは治ガーディアンを採用できる。結果的にこちらの構築の方が必要以上のダメージは抑えやすくなるわけだ。

この程度のことも紹介できないようでは、ギアクロニクル使いの名がすたるな。時任レイ」

 

レイ「むむむ……」

 

ムドウЯ「ついでにもうひとつ。

最後に繋ぐG3の『スチームメイデン』は、別にエルルである必要は無い。

2枚目以降のエルルがあるなら、再ライドしてフォースを増やした方が、よっぽど攻撃面に寄与してくれる。

よって、同じG3の『スチームメイデン エンギルサ』も少数採用しておくといい。

・G3『スチームメイデン』の水増し

・エルルへの再ライドの安定化

の2点に貢献してくれるだろう。

エルルのバインドは、先のことを考えなくていいファイナルターンで十分だ。その時にはバインドゾーンのカードも溜まっているだろうしな」

 

 

●グランブルー 《氷獄の冥王 コキュートス“Я”》

①ドロップ:「コキュートス」を含むヴァンガードがG3以上のヴァンガードにアタックしたバトル終了時、このターン1回目のバトルなら、CB1、手札から4枚捨てることで、あなたのリアガードすべてを呪縛する。その後、呪縛カードが5枚なら、このユニットにライドし、ソウルのG3カード1枚につき、呪縛カードを1枚選び解呪し、このユニットのパワー+10000

②V:アタックされた時、リアガードを3枚退却させることで、ドロップ10枚につき、そのバトル中パワー+10000

 

レイ「襲い掛かってきたリンクジョーカーを難なく蹴散らしたものの、落ちてる骸をうっかり触れてしまったことで“Я”してしまった、全“Я”ユニットの中でも屈指の情けない“Я”経緯を持つコキュートスが、Vスタンの世界でもついにうっかリバース!!

……って、何じゃこりゃ!?」

 

ムドウЯ「……これはひどいな」

 

レイ「と、とりあえず順番に解説していこっか……」

 

>CB1、手札から4枚捨てることで~

 

レイ「まずここだよね? やってることはスタンダードな再ライドによるVスタンドなんだけど……手札4枚って何?

10年間、様々なVスタンドを見てきたけど、手札4枚なんてコスト初めて見たよ?

これまで2枚がほとんど。多くても3枚だった手札コストが、何で最新カードになって増えてるの?

こういうところをインフレしなよ」

 

ムドウ「ちなみに同じようにドロップからスペリオルライドできるヤスイエは、カウンターコスト消費無しの、手札2枚のドライブ-1だ。

ヤスイエとこきゅЯの動きは何かと似ているが、比較すると笑えるくらいにこきゅ側が弱いぞ」

 

>あなたのリアガードすべてを呪縛する。

 

レイ「ならばせめて強力なオプションがついてくるかと思いきや、いきなりデメリットから始まった。《狭霧のバンシー》がパンプしてようと、前身のこっきゅんがトリガーを引いていようと全て帳消し!

もちろんこっきゅんも“Я”にスペリオルライドされるので、本体にトリガー乗せても意味無し!

意味あるのは、引トリガー、治トリガーの独自効果部分と、アタックがヒットした時の★くらい!」

 

>ソウルのG3カード1枚につき、呪縛カードを1枚選び解呪

 

レイ「もちろんさすがに解呪はしてくれるんだけど、ソウルのG3につき1枚という激渋査定!

普通に使えば初動で1枚。ロマリオにライドできていて、ようやく2枚!!

ブーストはまず期待できないので、単体火力に優れた《不死竜 スカルドラゴン》や《ストームライド・ゴーストシップ》は必須!」

 

>アタックされた時、リアガードを3枚退却させることで、ドロップ10枚につき、そのバトル中パワー+10000

 

レイ「リアガード3枚退却って何? たしかにこっきゅんはグランブルーの中でも展開力に特化したユニットだけど、さすがに信頼されすぎでない?

スペリオルライドの効果と合わせて前後ターン7枚のディスアドって前代未聞だよ? もはや効果を使えば使うほど損をするレベルなんだけど」

 

ムドウЯ「展開できるからと言って、その分、コストを重くされたら、まったく意味が無いのだがな」

 

レイ「こきゅЯ自体は一切展開できる効果を持たないから、こきゅに再ライドできなければ、その展開力すら失うんだけどね! 正直、手札4枚捨てた上で再ライド札は残しておけとかできる自信無いよ?

是が非でも《狭霧のバンシー》と組み合わせたい効果ではあるけれど、前述の通り、こきゅЯと《狭霧のバンシー》の相性は最悪。どうしても使いたければ後列に置くしかない!

ちなみにこちらも前述の通り、前列はスカルドラゴンかゴーストシップに強制されているようなものなので、1体でも除去されたら、この効果自体が使えないよ!

それらでもなければ前列はインターセプトできる《グリード・シェイド》あたりだろうから、なおさらこんなスキルのコストにする必要性がない!」」

 

ムドウЯ「これだけのコスト……というかリスクを背負わせて、得られる報酬はガード値+10000だ」

 

レイ「他のクランには、コストは必要なものの2枚の消費で完全ガードしたり、山札から2枚ガードに使えるユニットとかいるんだけどね。3000年後には、盾をひょいと掲げるだけで同じことできる女の子もいるよ?」

 

ムドウЯ「終盤であれば+20000にもなるが、そんな状況はグランブルーにとってデッキアウト寸前、待った無しの状況だ。少なくともこっきゅんのスキルを使っている余裕は絶対に無い。

この時点で、グランブルーを使ったこともない、グランブルーに欠片も興味も無い人間がデザインしたカードだということが透けて見えるな」

 

レイ「それどころか、アタシはテストプレイすらしてないと思うよ?

実際こきゅЯって、動きだけで言えば、

こきゅで展開⇒こきゅЯで連続攻撃⇒こきゅЯで展開したユニットをコストに守る⇒こきゅに再ライドして展開

と、いかにも机上の空論で作ったかのように綺麗。

けど実際に使ってみれば、トリガーの振り先がいなくなるな、とか、こきゅの展開力と比較してもコストが重すぎるな、とかすぐ気付けるハズなんだよね。

むしろテストプレイしていて、これでOKと判断したなら、そいつらはマジでヤバい。

だからアタシは、テストプレイなんてしてないことを願ってるよ。今回は時間が無かっただけってね。

そのしわ寄せがグランブルーに来たのは、作者の心情を代弁するなら本気で不愉快なんだけど。

こきゅЯって、グランブルーにとって割と革命的なユニットだったんだけどね?」

 

ムドウЯ「開発期間が半年あるのでバランスはしっかり調整できますと豪語していたがな」

 

レイ「もう忘れたよ、そんな戯言」

 

ムドウЯ「一応、最後にフォローしておくが、ロマリオ⇒こきゅ⇒こきゅЯと経由するだけで、次のターンには《パーラメント・シェイド》が使える。これだけが唯一の存在意義と言えるだろう」

 

 

●《死海の呪術士 ネグロボルト》

①V:ライドフェイズ開始時かメインフェイズ開始時、ドロップのトリガーではないカードをすべてバインドする

②V;このユニットがアタックした時、ドロップ10枚につき、このユニットの★+1、前列すべてのパワー+20000

③V:ドロップ10枚につき、シールド値+5000

 

レイ「ならばせめてネグロボルトはマトモであってほしいという願いも踏みにじられた!! もう1行目の時点で論外!!

他の効果はバインドゾーンを数えるのかなと思いきや、計上するのはドロップという、完全完璧何のフォローもしようが無い、グランブルーにとって致命的とも言えるデメリット!!

『ドロップ10枚につき~』とか、ドロップ20枚貯めればいかにも★+2、前列+40000できますよ的に書いてるけど、まず無理でしょ!?

開発チームにグランブルーの知識が無いのは知ってたけど、トリガーって16枚しかデッキに入らないことも知らないのかな? ヴァンガードはじめて1週間?

それともトリガー16枚ドロップに落としてから、《スケルトンの航海士》でも使えって!?」

 

ムドウЯ「なお山札の消費は考えないものとする」

 

レイ「①のデメリットが無くて、ようやく戦えるレベルのヴァンガードだよね? どうせ3回しか殴れないんだし」

 

ムドウЯ「まあそれなら面白いカードにはなっただろうな」

 

レイ「アタシ、このカードをデザインした人は、ヌラをデザインした人と同じだと思ってるよ。

1行目からデメリットを書き連ねる無神経さもそうだけど、『今までに無かった新しい効果』を『クラン特性を無視した効果』と履き違えているあたりがソックリ。

むらくもが同名カードを並べることを拒否されたら大半のカードがバニラになるように、グランブルーだってドロップを封印されたら大半のカードはバニラになるのは目に見えてるんだけど。

そんなカードでデッキを組んで。使ってて面白いと思った?

これ作った人、はっきり言ってセンス無いよ。

消費者の立場から厳しいことを言わせてもらえば、このカードをデザインした人は即刻辞めてほしいかな」

 

 

●《不死竜 グールドラゴン》

①バインドゾーン:CB1、リアガードを1枚退却させることで、バインドゾーンから他のノーマルユニットを6枚まで山札に戻す。4枚以上戻したら、このカードをコール

②R:このユニットがヴァンガードにアタックした時、SB1、他のリアガードを退却させることで、相手のリアガードを1枚退却

 

レイ「主も主なら、部下も部下だった。

令和の時代に、パワー9000になって、しょうもない除去能力を得た、バインドゾーンからしか出てこれない旧《キャプテン・ナイトミスト》って何ごと?

カウンターコストも、リアガードの退却も絶対にいらないでしょ!?」

 

ムドウЯ「デッキのトリガー率も下げてくれるぞ」

 

レイ「やったね!」

 

 

●グレートネイチャー 《双筆の闘士 ポラリス》

①V:このユニットがアタックしたバトル終了時、CB1することで、リアガード1枚はこのユニットと同じパワーを得る。そのユニットのパワーが50000以上なら、そのユニットをスタンド。そのユニットのパワーが70000以上で、相手のVがG3以上なら、さらにこのユニットをスタンドし、パワー+15000。

 

レイ「ポラリスの刃は3度煌めく! アジアサーキット編の強敵もリメイクだよ!」

 

ミオ「ポラリスはアタック終了時に自身のパワーを他のユニットに与えることができます」

 

レイ「ギュノスラの御先祖様かな? クマだし」

 

サキ「さらにパワーが50000以上なら、そのリアガードをスタンド! パワーが70000以上ならポラリスまでスタンドしちゃいます! 条件こそあれど、コストだけ見れば歴代最強レベルで軽いVスタンドですね」

 

ムドウЯ「対戦相手もこれにはクマった」

 

レイ「パワー50000をスタンドさせるだけならビッグベリーでもできるというか、ビッグベリーの下位互換もいいとこなので、是が非でもパワー70000を目指したい!

必要なのは、単体でパワーを出せるユニットと、そのユニットやヴァンガードに高いパワーを割り振れるユニット!」

 

サキ「単体で高いパワーを出せるユニットと言えば……」

 

ムドウЯ「《バキューミング・トータス》」

 

レイ「え? 誰だっけ、それ」

 

ムドウЯ「CB1、手札をすべて捨てることでパワー+20000。合計パワーは32000だ」

 

レイ「できるかっ!! ……いや、けどなりふり構わず勝ちにいかないとならないターンじゃ、悪い選択肢じゃないのかな」

 

ムドウЯ「次点が、CB1の抽選効果で、ノーマルユニットがめくれれば+15000されるイザベルの27000だな」

 

レイ「う、うーん……。こっちは悪いカードじゃないけど、抽選頼みになるのはちょっと怖いかな」

 

ムドウЯ「しれっとトータスさんをディスるのはやめろ」

 

ミオ「安定性を求めるなら、《アンバーズ・トライアングラー》の22000ですね。ポラリスでスタンドさせる候補は、必然的にアクセルサークルに置かれることになるので、後列にユニットがいないという条件は自然に満たされます。アタックがヒットすれば、自身にパワー+10000を振ることもでき、合計パワーはアクセルサークルのパンプを除いて32000になります」

 

レイ「やっぱりトータスさんいらなくない!?」

 

サキ「アクセルサークルのパンプも計上されるなら、アクセルⅠを選択するのもよさそうですね!」

 

ミオ「トライアングラーは、V以外のユニットにアタックがヒットしてもパワー+10000を振れるので、ポラリスをスタンドさせたいだけならトライアングラーはリアガードを狙うことも一考に値します」

 

ムドウЯ「パワーを振ることのできるユニットなら、《歴史学者 ブッシュベック》、《はむすけの学友 ロケット鉛筆のはむどん》、《メジャード・フォッサ》、《歴史学者 ブッシュベック》がパワー+10000でタイだな。

特にはむどんは自身もパワー+10000されるので、ポラリスをブーストするユニットをパンプし、このユニットをポラリスの対象にすれば、実質的にパワー32000として扱うこともできる」

 

ミオ「G3をソウルブラストする必要はありますが、《鈍重知恵袋 もるもどん》も前列ユニットをポラリスごとパンプすることができます」

 

レイ「G3に偏ってるのは気になるけど、けっこう種類は多いみたいだね! これならパワー70000も非現実的なラインじゃないのかな?」

 

ムドウЯ「ポラリスをブーストするユニットも選定する必要があるな。安定して13000でブーストできる《ひたむき助手 ミニベリー》がもちろん最有力候補だが、リアガードのパワー70000を狙いたいだけなら12000ブーストの《シルバー・ウルフ》も正直変わらん。ミニベリー4枚だけに頼るのはリスクが大きいので、併せて採用しておくと安定性が増すだろう」

 

ミオ「トリガーにも注意が必要です。前トリガーであればポラリスも、スタンドさせる候補もまとめて+10000されるので、非常に相性がいいです。

ポラリスをブーストするのがミニベリーかシルバー・ウルフで、アクセルⅡサークルにパワー22000のユニットがいれば、前1枚でパワー70000達成です」

 

レイ「達成(サクセス)!!」

 

ムドウЯ「……思うのだが」

 

レイ「何?」

 

ムドウЯ「ポラリスの刃、2度しか煌いていなくないか?」

 

レイ「……!! ほ、ほら、ポラリスでスタンドさせるユニットも、リアガードのポラリスにしたら……!!」

 

ムドウЯ「それだとポラリスの刃が4度煌めくのだが」

 

レイ「…………」

 

ムドウЯ「これはクマった」

 

 

●《真理の守護者 ロックス》

①V:手札から1枚ソウルに置くことで、山札の上から3枚公開し、G3すべてを手札に加え、残りを捨てる。このコストでG3を置いたら、このユニットは「G3ユニットすべてのパワー+5000」を得る

②V:ターン終了時、G3のリアガードを2枚退却。退却させたユニット1枚につき、1枚引き、相手ユニット1枚退却

 

レイ「ポラリスに続いてロックスも爆進!! これでチームSITジニアスのエースユニットがVスタンに勢揃い!」

 

ムドウЯ「何の脈絡も無く、グレートネイチャーとは何の関係も無いG3を推し始めたロックス。これはクズカードの気配しかしないな……と思いきや」

 

レイ「グレートネイチャーのG3は粒揃いも粒揃い!!

ぶっちゃけ、G3の扱いに長けたディメポやメガコロよりもリアガード用G3の質がいい! リアガード重視クランの面目躍如!」

 

サキ「ディメンジョンポリスのG3はV用のカードが多いし、メガコロニーもライドを繰り返すデザインのカードが多いからね」

 

レイ「①の効果でアドバンテージを稼ぎつつパンプし、②の効果で守りを固める!

デッキの中身がG3だらけになるので見た目よりは脆いだろうけど、テキストだけ見れば超優秀!!

何より、これらの動きに一切のコストを要求しないどころか、むしろ毎ターンソウルが増えていく!!

グレートネイチャーが誇る優秀なリアガード達のスキルをブン回し放題で、点止めにも強い!!」

 

ムドウЯ「これはすごいゾウ」

 

サキ「ここからは、ロックスと相性のいいG3を順番に見ていきましょう!」

 

 

・《特別名誉博士 シャノアール》

 

レイ「グレネの優秀なG3と言えば、まずはこれ!!」

 

サキ「抽選によるパンプと引き換えにユニットを退却させてしまうユニットですが、パンプを与えたユニットをロックスで処理すれば何一つ損はありません! 実にグレートネイチャーらしい戦い方ですね!」

 

ムドウЯ「特筆すべきはトリガーを抽選した際の、他のユニットを後列からアタックできるようにする効果だ。デッキがG3で溢れるロックスは、ブーストできるユニットが少なく、後列を持て余しがちだ。このユニットであれば、後列にもG3を置いておくことで連続攻撃の布石にできる。アクセルにしては少ないロックスの手数を補うことができる必須カードと言えるだろう」

 

 

・《アンバーズ・トライアングラー》

 

レイ「こちらももはや説明不要! ポラリスでもさんざん持ち上げたグレネの雄!」

 

ムドウЯ「アクセルサークルに置いてももちろん強いが、G1の少ないロックスでは、通常のサークルに置くことも視野に入る。ドライブチェックでブーストできるカードを引いたら、このユニットはロックスで退却させればいい」

 

レイ「ただでさえ優秀なカードで、ロックスとの相性も抜群ときた! この子の融通が効きすぎてるだけかも知れないけど!」

 

 

・《黒漆の聖賢師 イザベル》

 

レイ「①の効果はロックスの重要なアドバンテージ源! けど、どれだけG3をデッキに入れても失敗の可能性はつきまとう……。

Dスタンのように確定ライドがあるわけじゃなし、トリガーだって16枚入ってるからね」

 

ムドウЯ「そんな①の成功率を高めるカードというわけだな。G3が1枚以上あればロックスのスキルを使えばいいし、トリガーが多ければロックスの効果は使わず普通に殴っても元は取れるだろう。

パワーの低さは気にかかるが、少しでも安定性を高めるために採用しておきたいカードと言える」

 

 

・《鈍重知恵袋 もるもどん》

 

レイ「毎ターンソウルを補充できるのがロックスの特徴だけど、そのソウルはG3でもある!!!

G3のソウルブラストを要求するこのカードも大活躍!

1ターンに1回制限も無いので、コストが許す限り重ねがけすることだって!

ロックスの長所を生かしつつ、火力不足という短所も補うベストパートナー!!」

 

 

・《カルチャー・ゴリラ》

 

レイ「ソウルブラスト5という莫大なコストを要求する代わり、パワー25000以上のユニットすべてをスタンドさせる、リアガードになったビッグベリー!! 何故か全体除去までついてくる!!」

 

ムドウЯ「ロックスがソウルを補充できるので、ファイト終盤には安定してスキルを発動できる。もるもどんとは選択式のフィニッシャーになるだろうな」

 

サキ「抽選スキルにはなりますが、《アフレイティッド・リーマ》でさらにソウルチャージを狙っても面白いですよ! 相手がG3になる前に放たれるゴリラのスキルは迫力満点です!」

 

レイ「ゴリラもそうだけど、相手がG3じゃなくてもスキルに制限がかからないロックスも偉いよねー。

最近、このスキルに『相手がG3以上なら』の制限いる!? って首傾げることも多いのに」

 

 

●ネオネクタール《茨百合の銃士 セシリア“Я”》

①V:このユニットがアタックした時、CB1、リアガードを2枚退却させることで、山札の上から5枚見て、その中から2枚スペリオルコール

②V/前列のR:なんかごちゃごちゃ書いてる

 

レイ「ビーナストラップは!?」

 

ムドウЯ「レフィアレードと言い、メガネっ娘に厳しいブシロード」

 

サキ「とばしちゃいましょう!」

 

レイ「さすがに2度もそれはできないけど……あんまり書くことが無いのも事実。

作者が要約を放棄するほど、レイジングフォールも真っ青なごちゃついたテキストしてるけど、要するにVとRにセシリア“Я”がいれば、リアガードで4回以上殴れるわ、Vもスタンドするわのお祭り騒ぎ。

たとえ“Я”してないセシリアにライドしてしまっても、銃士お得意の坊主めくりで“Я”をスペコすることでフォロー可能。爆発力と安定性を兼ね備えているという意味ではサロメとどっこいどっこいで、めちゃくちゃ強い。

だらだら長いテキストがすべてを物語ってると言うか。そこに何か付け足す必要なんてないんだよね。

噛めば噛むほど味が出るポラリスやロックスの後で、これはキツイ。ただでさえ最後のクランで、もう作者はバテバテなのに」

 

ムドウЯ「美人だ」

 

レイ「そういう付け足しもいらないからね!?」

 

 

●《深翠の主 マスター・ウィステリア》

①V/R:CB1、手札から1枚捨てることで、プラントを2枚コール。他のユニットを1枚選び、山札からそれと同名カードを手札に加える

②V/R:このユニットがアタックした時、ユニットを1枚選び、同名ユニットのパワー+5000。このユニットがVにいるならパワー+10000。

 

レイ「最後を飾るは、ブレイクライド環境で特にパッとしなかった印象のマスター・ウィステリア!! 大丈夫!?」

 

ムドウЯ「安心しろ。今回のウィステリアは優秀だ。①の効果はヴァンガードを対象にすることもできる。つまり、このユニットをコールした時点で次のターンの再ライドが確定する」

 

レイ「ほんとだ! ウィステリア、偉い!」

 

ムドウЯ「一応、Vでのスキルも持っているのでピックアップしたが、基本はリアで輝くカードだ。肝心の①のスキルが自身を対象にできないからな。

これにライドするくらいなら、アルボロス・ドラゴンやスタンドピオニーの隣にこのユニットをコールした方がよっぽど強い」

 

レイ「あらゆる軸を強化できるカードなのに、自分だけは強化できなかった……!!」

 

 

●終

 

レイ「終わったー!! で、ここからが総評なんだけど……」

 

ムドウЯ「今回は酷かったな」

 

サキ「容赦無し!!」

 

ムドウЯ「まず、Vスタンドが多すぎる……とは言え、それは構わない。

ヴァンガードはルールがシンプルな分、インフレのさせ方が限られている。

リアガードでのアタックが、回数もパワーも行くところまで行ってしまったから、もうVをスタンドさせるしかないというのは理解できる。

そもそもがバランスを取ることが困難になってスタン落ちさせられた魔境だからな、Vスタンも」

 

サキ「ルールがシンプルなのもヴァンガードの魅力だと思うんですけど、そのせいでカードがすぐに強くなりすぎてしまうという弊害があるんですね」

 

ムドウЯ「ああ。だから過剰なインフレにとやかく言うつもりはあまりない。

問題はその見せ方だ。

レイジングフォール“Я”、エシックス・バスター“Я”、コキュートス“Я”

この3体は、デザインの稚拙さを象徴するカードだと思っている。

いずれも3~5体以上のRを呪縛して、Vを1~2回スタンドさせる。

子供だましのようにやり方の細部を変えているだけで、本質的にはまったく同じだ。

そのくせ、レイジングフォールは後列を1体呪縛するだけで前列に+5000され、エシックス・バスターとコキュートスは理不尽なレベルでアタックを放棄させられる。

半年かけて、この程度のカードしか作れなかったのか?」

 

レイ「開発の言う『バランス』が、『全24クランを少しでも平等に戦えるよう努力する』ことじゃなく『開発が勝たせたいクランを勝たせる』という意味なら、もうヴァンガードを続ける意味も無いよね。半年かけて作った、単なる出来レースだもん」

 

ムドウЯ「最悪、強さに差をつけるとしても、レイジングフォールとはまったく違う動きをして、『エシックス・バスター強えー』『コキュートス強えー』と気持ちよく騙されたかったな。そういう意味での『見せ方』だ。

現状では誰が見ても、エシックス・バスターとコキュートスは、レイジングフォールの下位互換だろう」

 

サキ「と、とは言え、評価できる点もあったんですよね?」

 

ムドウЯ「ああ。これは作者の好みなのだが《ブレイジングフレア・ドラゴン》や《真理の守護者 ロックス》などの、メインとなるユニット以外にもヴァンガード用のG3が増えたことは悪くない」

 

ミオ「そのおかげで、えくすとらで書くことも増えましたが」

 

ムドウЯ「それはまあ、嬉しい悲鳴だな」

 

レイ「人によっては、そんなものより優秀なリアガードが欲しかったっていう人もいそうだけど」

 

ムドウЯ「だから作者の好みだと言った。

前回は環境を変えるほどのヴァンガードはいなかった印象だが、今回は間違いなく変わる。そういった点を評価する者もいるだろう。

ただ、作者にとっては期待外れだった。

今回の酷評は、言ってしまえばそれだけの話だ」

 

サキ「要するに、作者の意見など気にせず、皆さんは思い思いにヴァンガードを楽しんでください!! ということですね!」

 

ムドウ「そうだ」

 

ミオ「結論も出たところで、そろそろお開きにしましょうか」

 

サキ「はい!」

 

ムドウ「さらばだ」




Vol.3から読んでくださった皆様、お疲れさまです。
4だけでも結構な量ではありますが……。

なお、ぬばたまマガツは、マガツがむらくもで一番好きなユニットだった自分にとって、今でも納得いかないため省略しました。
ご了承ください。

それでは、いよいよラスト2話!!
次回は2月の本編でお会いしましょう!

リリカルのえくすとらも、2月中には公開を予定しています!


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Ex.54「リリカルモナステリオ ~新学期はじまるよ!~」

・綺羅ヒビキ
天すら羨む美貌を誇る、銀髪碧眼の麗しきファイター。高校3年生。
その完成されたプレイングは、芸術にも喩えられる。
使用クランは「バミューダ△」
好きな食べ物は「アイスクリーム」

・清水セイジ
驚異的なプレイング速度で対戦相手を圧倒する、最速のファイター。高校3年生。
使用クランは「アクアフォース」
好きな食べ物は「魚」

・葵アラシ
背は低いが豪快で危険なファイター。
天性の勘を持つ高校3年生。
使用クランは「グランブルー」
好きな食べ物は「納豆」

・柊マナ
ネガティブ思考がはかどる内向的な少女。高校1年生。
自信の無さに反して、ヴァンガードの実力は非常に高い。
使用クランは「ネオネクタール」
好きな食べ物は「雑草」


●序

 

ヒビキ「読者の皆! 今日も元気に ~えくすとらはじまるよ!~」

 

アラシ「それはいいけど、何で天海(おれたち)が担当なんだよ」

 

セイジ「音無さんから、今月のえくすとらを代わって欲しいという相談があったので、それを了承した」

 

アラシ「ふーん。なんでまた。

なあ、お土産を忘れて手ぶらで帰ってきたマナは何か知ってるか?」

 

マナ「うう……私も何がなんだかよくわからないんです」

 

アラシ「……そっか。まあ何でもいいや。任されたからには、やってやろうじゃねえか」

 

ヒビキ「うん。マナも心配する必要はないよ。

あの子が、ミオちゃんがえくすとらを誰かに任せてまで、何かをやると決めたんだ。どんな難題だろうと、もはや解決したも同然さ」

 

セイジ「随分と彼女を買っているな」

 

アラシ「なんつってもオウガの野郎が尊敬してやまない女だからな」

 

セイジ「ああ。私も異論はない。あの天道先輩が誰よりも信頼している後輩だからな」

 

マナ「……そうですね。私も音無さんのことを信じます。レイちゃんも……!」

 

ヒビキ「マナが元気を取り戻したところで本題に入ろうか。

今日のテーマはリリカルモナステリオ ~新学期はじまるよ!~」

 

アラシ「新学期て。もう2月も末なんだが……」

 

ヒビキ「細かいことは気にしないよ。

バミューダ△の後継が、半年ぶりに再強化! 図らずもボクに相応しい回となったね」

 

マナ「G4のカイリをはじめとした既存ライドラインの強化はもちろん、新たなライドラインも2種類が追加されていますね」

 

アラシ「これら3種をメインに、他にも気になるカードにはバシバシツッコミを入れていくぜ!」

 

セイジ「それではえくすとらを開始する!」

 

 

●《Astesice×Live カイリ》

①V:このターンに登場したリアガードのパワー+5000

②V:アタック時、ソウルに「カイリ」を含むユニットがあるなら、リアガードを2枚まで手札に戻し、手札から2枚スペリオルコール

 

ヒビキ「カイリはより凛々しく美しく成長する! カイリがグレード4となってさらなる輝きを得たよ!」

 

マナ「トライアルデッキ収録だったこともあって、G3のカイリもシンプルなテキストでしたが、それに輪をかけてテキストが短くなっていますね」

 

セイジ「それも余計なコストや条件が省かれた故だな。カードゲーマーの不文律である『テキストが短いユニットは強い』を体現したユニットと言えよう」

 

アラシ「言われてみれば、DスタンのG4ってどれもテキスト短いもんな」

 

セイジ「そのG4の中で、カイリともっとも性質が近いのはマグノリアだ」

 

ヒビキ「できることはG3である前身とほとんど同じ。されどコストや条件が省かれ、トリプルドライブも得たことから、持久戦で力を発揮するようになっているよ」

 

セイジ「マグノリアも活躍しているようだし、こちらも期待できそうだな!」

 

アラシ「……解説も短いな」

 

セイジ「テキストが短くて強いユニットは、補足できることも少ない」

 

 

●《新世代の美 エルミニア》

①V:CB1、パワー+5000

②V:アタックしたバトル終了時、ソウルと表のダメージゾーンが合計0枚なら、手札から1枚捨てることで、全力を持つリアガードを1枚スタンド。このターン、次に使うCBが1減る。

 

アラシ「最初に言っておくぜ。こいつはかなりの問題児だ」

 

セイジ「《新世代の美 エルミニア》は、新たな能力である『全力』を持つ。

『全力』はダメージゾーンがすべて裏、もしくはソウルが0の時に発動できるスキルの総称で、ユニットによってどちらかの条件が設定されている。

リーダーであるエルミニアは例外で、その両方というわけだな」

 

アラシ「どっかのアルトマイルで見たような能力だが、それはいい。

常にコストを消費し続けなければならない厳しい条件に見合った効果だったらな!」

 

セイジ「そのスキルはと言うと……」

 

マナ「アタック終了時、手札を1枚捨てて、全力を持つリアガードを1枚スタンドさせます……」

 

アラシ「……バスティオンじゃねーか!!」

 

マナ「ひいっ! ごめんなさい……」

 

セイジ「君が謝る必要はない」

 

ヒビキ「アラシ。その言い方には語弊があるよ。この子はスタンドさせたユニットをパワー+10000してくれないからね」

 

アラシ「劣化バスティオンじゃねーか!!!!

ふっざけんなよ!? 何でDスタンがはじまって1年が経とうかという時に、スタートデッキへ逆戻りしてんだよ!!

当のバスティオンは、たった1年の間にG4になって、トリプルドライブして、リアガードすべてスタンドさせとるわ!!」

 

ヒビキ「エルミニアには次に使うカウンターコストを減らす素敵な効果もあるんだけど……」

 

セイジ「適用はバトルフェイズ中になるので、コスト軽減を生かせるユニットは限られる」

 

アラシ「ていうか、ぶっちゃけ全力ユニットにロクな候補がいねえ。ほぼほぼ《ベイジングファウンテン テルエス》一択じゃねーかな?」

 

セイジ「さて、そんな厳しい能力のエルミニアだが、全力の条件を満たすのもなかなか骨が折れる」

 

アラシ「マジかよ」

 

セイジ「まずはカウンターコスト。こちらについては、エルミニアが1ターンに1回制限の無い、CB1で自身を+5000する能力を持っているので、確実に条件を満たすことが可能だ。

もっとも、ヴァンガードに+5000するためだけにCB1を支払うのは下策であることは心に留めておきたい」

 

アラシ「コストってのは、もっと目に見えるアドバンテージに使うのが基本だぜ?

アルトマイルが強かったのは自分のスキルでコストを消費しながら、さらにコストを消費できるユニットを拾ってこれるところだったからな?」

 

セイジ「問題はソウル0枚だ。こちらに関してはエルミニアが一切触れられない領域である」

 

アラシ「だからと言って、ソウルブラストを持つユニットを入れすぎると、いざソウル0を達成した瞬間、そいつらが軒並みバニラになる。

カウンターコストを消費するユニットとソウルを消費するユニットのバランスが重要で、構築にかなりの神経を使うタイプのユニットだ。バスティオンなのに」

 

マナ「バスティオンは、適当にレアリティの高いG3を積んでいるだけで、それなりのデッキにはなってくれましたからねぇ……」

 

ヒビキ「フッ。気難しい子ほど、挑戦しがいがあるものさ」

 

アラシ「仮に完璧な全力デッキを組めたとしても、せいぜい1弾のパックが出た時点でのバスティオンと同じくらいの強さに留まりそうなのが泣けるね。

バスティオンは良くも悪くもDスタンの成功例で、踏襲したくなるのもわかるんだが、正直、模倣すらできてねえ」

 

セイジ「腐ってもバスティオンなので、速攻を仕掛けることができればあるいは……と言ったところか」

 

 

●《みゃーみゃーあんさんぶる ナラ》

①R:登場した時、CB1でソウルから1枚選び、ユニットのいないRにコール。その後、ソウル1枚につき、手札を1枚捨てる

②R:G3以上のVにアタックした時、ソウル0枚ならこのユニットのパワー+5000

 

アラシ「エルミニアがバスティオンならば、RRRのこっちはモロにオールデン!

登場した時にアドを稼ぎ、アタックした時にパワーを伸ばしてくぜ!

もう、笑えるくらいにオールデン!」

 

セイジ「とは言え、オールデンと比較すると物足りない部分が多い。

まずアドバンテージを稼げる①の部分がソウルからのスペリオルコールなので、エルミニアの性質上、呼び出せるユニットはライドラインのユニットに限られる。

特に終盤以降は、リアガードではバニラでしかないエルミニアしか呼べなくなるのは辛いところだ」

 

アラシ「グレードが違うから仕方ないけど、②のパワーもオールデンより控えめなんだよな。

ご丁寧に相手がG3でないとパンプしてくれないから、単体でのガード要求値は5000⇒10000止まり。

バスティオンの効果込みで10000⇒25000にまで跳ね上がったオールデンとは雲泥の差だぜ」

 

マナ「バスティオンの効果を込みにするなら、相手がG2なら、オールデンは15000⇒30000要求でしたからね……」

 

アラシ「改めて見るとえげつないなバスティオン……」

 

セイジ「バスティオンとして戦っても劣化にしかならないのはアラシの言う通りなので、こちらはG2の間に展開できる速攻性を強みにすべきだろうか」

 

 

●《ベイジングファウンテン テルエス》

①R:ヴァンガードにアタックした時、ソウルが0枚ならCB1することで、そのバトル中「アタックがヒットした時、1枚引く」を得る。他のユニット1枚のパワーをターン終了時まで+5000。

 

セイジ「エルミニアのスキルでスタンドさせる筆頭候補だ」

 

アラシ「相手にガード強要させつつ、他をパンプ! これが2回!

これをスタンドさせることさえできれば、エルミニアはそこそこ強いかもな。

ていうかこれを引くことが大前提! 実質、エルミニアの本体みたいなもん!」

 

マナ「ビクトールとドスレッジの関係みたいなものですね」

 

 

●《堅実な瞳 リリアナ》

①R:このユニットがアタックした時、ソウル0枚ならCB1することで、そのバトル中、パワー+10000

 

セイジ「エルミニアのスキルでスタンドさせる次点候補だ」

 

アラシ「ガード要求値は、単体で15000⇒15000とそこそこ。テルエスは相手をダメージ5まで追い詰めた時点でお役御免なので、最終的にはこっちをスタンドさせたいね」

 

セイジ「欲を言うなら、『そのバトル中』ではなく『ターン終了時まで』として欲しかったところだが」

 

アラシ「欲どころか、当然の権利としてそうあって然るべきだったと思うけどな」

 

 

●《MiMish フォルティア》

①V/R:このユニットと同じ縦列に他のユニットがいるなら、そのユニットとこのユニットは友達になる

②アタックしたバトル終了時、他の友達が5枚以上なら、CB1、手札から1枚捨てることで、このユニットをスタンドさせ、パワー+5000、ドライブ-1

 

ヒビキ「もうひとつの新たなライドライン、フォルティアが新能力『フレンド』を引っ提げて登場だよ!」

 

セイジ「その能力とは?」

 

ヒビキ「『フレンド』能力を持つユニットと同じ縦列にユニットがいる場合、それらのユニットは“友達”になるのさ」

 

アラシ「……あ? それって」

 

ヒビキ「フォルティア関連のユニットは、“友達”状態を参照するスキルを持つ。フォルティアの場合は“友達”が5枚あるならスタンドできるのさ!」

 

アラシ「♪♪(ハーモニー)じゃねーか!!!」

 

ヒビキ「ボクに怒鳴られてもね……」

 

アラシ「VクランコレクションVol.3・Vol.4の頃から思ってたけど、この際だから言わせてもらうぞ!?

最近、『今の環境で何がどのように強いのか』と『昔にどんなカードがあったのか』が分かっていない、ヴァンガードはじめて半年の初心者が考えたのかってカードが多すぎる!

情緒的な言い方をするなら、10年続いたヴァンガードというゲームに対する愛情もリスペクトも感じられない!!

エルミニアとか、どう見てもアルトマイル+バスティオンだし、そのうえアルトマイルが何故強かったか、バスティオンが何故強かったかが理解できていないので、もしくは下手に差別化しようとしたばかりに、ひどいスペックになってる」

 

セイジ「気持ちは分かるが、とりあえずフォルティアに話を戻そう。

フォルティアは友達が5枚いなければスタンドできないので、必ず盤面を埋める必要があり、そのうちの2枚は『フレンド』持ちでなくてはならない。

難しすぎる条件でも無いが、除去を得意とするデッキが相手だと苦戦は必至だろう」

 

ヒビキ「ユージンや極光戦姫は天敵だろうね」

 

セイジ「ちなみに友達が監獄に入れられた時点で、そのユニットとは友達ではなくなる」

 

アラシ「薄情なやつらだな、おい」

 

セイジ「監獄に賄賂を握らせて脱獄できればまた友達になれる」

 

アラシ「現金なやつらだな、おい!」

 

マナ「VスタンドのコストはCB1と、手札1枚です。ドライブは-1。今後しばらくは、これがDスタンにおけるVスタンドの基本(スタンダード)になりそうですね」

 

アラシ「同じ手札1枚捨ててるのに、リアガードを1枚スタンドさせるだけのエルミニアと、Vがスタンドするフォルティア……」

 

 

●《共に駆ける光芒 オフィリア》

①R:Vの「煌く光彩 ウィリスタ」がアタックしたバトル終了時、このターンプレイしたかソウルブラストしたカードにより、以下のすべてを行う

・「揺るぎなき緋」―このユニットのパワー+15000

・「果てしなき蒼」―CB1、中央後列のリアガードを山札の下に置くことで、このユニットをスタンド。山札をシャッフル。

 

マナ「しんてぃれーと・れいず……」

 

アラシ「名前が無駄にかっこいいな」

 

セイジ「今一つパッとしなかったウィリスタに途轍もない新戦力が追加された。

条件を満たせば、デッキの総数とトリガー率を増やしつつ、単体パワー28000で追撃が可能だ。

その条件も、宝石のプレイとソウルブラスト、両方を含めてくれているので非常に緩い。事前にオティリエを引いておく必要すらない」

 

アラシ「至れり尽くせり……というか、もはやヤケクソな強化だな」

 

ヒビキ「もともとインターセプトを完全に封じるウィリスタは、アタック回数さえ増やすことさえできれば……という素養はあった。蕾が花開く瞬間は、いつ見ても美しいね」

 

アラシ「ま、このカードを引いて来れなきゃ、いつものウィリスタなんだけどな。

とは言え、どこぞの全力と違って、引きまくり、展開しまくるウィリスタは、特定のカードを引き込むこと自体は得意なユニットだ。

この1枚で、かなり強くなったんじゃねーかな?」

 

 

●《秘めたる宝 フェナエル》

①R:このユニットが登場した時、「アレスティエル」を含むヴァンガードがいるなら、SB1することでバインドゾーンから1枚手札に加える。加えたら、手札から1枚選びバインド。

②R:黒翼―このユニットがヴァンガードにアタックした時、CB1することで、G3以上のヴァンガードのパワーを、そのターン中-5000

 

アラシ「イケメン!!」

 

ヒビキ「今弾は男装の麗人的なユニットが多いよね」

 

アラシ「王子(プリンス)とか言いきっちゃってるユニットもいるしな」

 

セイジ「アレスティエルのRRR枠は、黒翼、白翼、どちらでも使える可能性を秘めたユニットだ」

 

マナ「黒翼ユニットではありますが、エルケエルのような枠ですね」

 

セイジ「登場した時、バインドゾーンと手札を入れ替えることができるので、バインドゾーンを好きな色の翼に変えることができる。

このスキルでエルケエルを置くことができれば、任意のタイミングで、相手がG2以下であっても、両方の色を適用させることが可能だ。

 

ヒビキ「黒翼軸、白翼軸はもちろん、両方のいいとこどりしたデッキも現実味を帯びてきたかもね」

 

アラシ「とは言え、こいつ自身はG2であることに違いはねえ。

白翼軸では、バインドされたフェナエルの尻拭いのために、もう1枚のフェナエルを出動させなきゃならんパターンも多いかもな」

 

 

●《彼方を目指して ピアエル》

①黒翼―「アレスティエル」を含むヴァンガードがいるなら、このユニットは後列からG3以上のヴァンガードにアタックできる

 

セイジ「アレスティエル、その黒翼軸を強化するカードをもう1枚。

黒翼なら後列からアタックできる、単純明快にして超強力なユニットだ」

 

アラシ「黒翼はブーストできるG2がもっと欲しいなーと思っていた矢先に、その理想を遥かに飛び越えるユニットを出してきやがった……」

 

ヒビキ「このユニットが並べば並ぶほどアタック回数も増えていく。パワーが低いという弱点も、弱体化を得意とする黒翼軸であれば、大した問題にはならない」

 

アラシ「ウィリスタと言い、カードパワーが足りないと思ったら、とりあえずアタック回数を増やしとけという風潮は、Vスタンがいっきにインフレした頃を思い出すよなぁ」

 

 

●《Sweet×Sweet》

①ノーマルオーダー:CB1で山札の上から5枚見て、ユニットを1枚選びRにスペリオルコール

 

アラシ「ゾルガ軸ですらまだもらえていないRRRのオーダー!!」

 

ヒビキ「手札は増えないものの、デッキの安定性を大きく底上げしてくれるカードだね。

G2オーダーなので、1ターン早くG3を展開して、速攻を仕掛けることすら可能だよ」

 

セイジ「デッキの安定性を底上げするオーダーであれば、リリカルには既に《揺るぎなき緋》がある。こちらはソウルを増やすことができるので、デッキタイプによって使い分けていきたいな」

 

マナ「欠点も《揺るぎなき緋》と同じですね。リリカルには専用のオーダーを有するライドラインが多いので、このカードを使っている余裕があまりありません」

 

アラシ「ウィリスタは当然として、クラリッサの《目指せ! 最強のアイドル》、ロロネロルの歌、といった具合にな」

 

セイジ「フェルティローザもオーダーを投入しにくいデッキタイプであり、白翼軸アレスティエルもG2であるこのカードは入れにくい」

 

ヒビキ「反面、今弾の新規ライドラインは特別なオーダーを必要としない。それぞれ特定のカードを引き込んでこそ輝くデッキなので、そういう意味でも噛み合っているね」

 

マナ「そして少女達の背後に映り込む謎の幽霊達……」

 

アラシ「心霊写真!?」

 

セイジ「妙に多いゴーストの生徒といい、この学園はやはり何かあるな」

 

こっきゅん「うむ」

 

 

●《風の中の音 デュケイラ》

①R:このユニットと同じ縦列にフレンド能力を持つユニットが登場した時、友達が3枚以上ならCB1することで1枚引く

 

セイジ「友達を参照する能力を持ちながら、本人はフレンドを持たないユニットだ」

 

ヒビキ「友達が欲しいけど、自分から話しかける勇気が持てない。ふふふ、恥ずかしがりやさんなんだね」

 

アラシ「とんでもない妄想ブッこんできたな」

 

 

●《食べ過ぎ注意! アイリーン》

①R:このユニットがリアガードをブーストした時、山札の上から1枚見て、山札の上か下に置く

 

セイジ「今弾の何かを飲食しているカードは13枚だ」

 

ヒビキ「食べ過ぎ注意!」

 

セイジ「なお、食べ物が映り込んでいるだけ(《Sweet×Sweet》等)のカードや、食べ物を手にしているだけ(《笑顔を共に ジーズヤ》等)のカードは除外している。人によってはもっと多く感じるかも知れないな」

 

アラシ「でた! えくすとら名物、何の役にも立たない情報!」

 

マナ「何の役にも立たない……まるで私みたいですね。ふふふ……」

 

アラシ「何がすごいって、こんな何かを食ってるだけの小娘が、オラクルと同じことをやってるってことなんだよな」

 

 

●《紡ぎ重ねる追走曲 ディートリンデ》

①R:Rに登場した時、SB1することで、Vに「宵闇月の輪舞曲 フェルティローザ」がいるなら、ドロップから〈ゴースト〉をスペリオルコール

②R:アタックしたバトル終了時、このカードを山札の下に置く

 

ヒビキ「相変わらずカード名が詩的で美しい、フェルティローザサポートのゴーストだね」

 

アラシ「効果はゴーストらしい……というかグランブルーらしいスペリオルコール!

メインフェイズにコールして盤面を構築できるのはもちろん、フェルティローザでバトルフェイズにスペリオルコールすることで、一気に前列の空きサークルを埋めることができる!

フェルティローザに任せても強いカードをスペコしてくれるとは限らないし、最悪、スペコしてくれないことすらあるので、基本的にはディートリンデに任せた方が安全だな!」

 

セイジ「ただし! フェルティローザ軸のメインアタッカーは何かとデッキに戻りたがる。エレオノーレやイングリットなど、ここぞという時に欲しいカードがドロップに落ちていないこともある点だけは注意するように」

 

マナ「すでに前列が埋まっている場合も、より強いユニットに上書きしたり、後列にブーストをコールすることでガード要求値を底上げしたりできますね。私と違って便利なカードです」

 

ヒビキ「特に相性のいいカードは《胸に募る慕情 フロレンツィア》だ。

手札以外から登場した時にガード制限をかけることのできるユニットだけど、ディートリンデでドロップゾーンからコールした時にも、もちろんスキルは発動する。

メインフェイズ中にスキルを生かす手段ができたことで、大幅に使い勝手が上がったと言えるだろうね」

 

アラシ「俺は《結い上げた憧憬 ハイルヴィヒ》を推すぜ。

ディートリンデのスキルでコールしても、バトルフェイズ中ならもちろんスキルが発動する。

消費したソウルは、即座にハイルヴィヒが補ってくれるので、実質タダで1ドローだ!

ディートリンデのコストでソウルのハイルヴィヒを落としつつ、ハイルヴィヒを蘇生させて、またソウルに戻ってもらうムーブも楽しそうだな!」

 

ヒビキ「フェルティローザ本体はもちろん、既存カードとの相性も抜群な期待の1枚!

これまでソウルはエレオノーレにつぎ込めばよかったけど、このカードの登場で、そうもいかなくなった。

けど、やりくりする価値はあると言えるだろうね!」

 

 

●《永遠に別たぬ夜明曲 イレーネ》

①R:このユニットがゴーストのリアガードをブーストした時、そのバトル中、このユニットのパワー+2000。バトル終了時、ブーストされたリアガードを山札の下に置いてよい

 

ヒビキ「フェルティローザサポートをもう1枚!」

 

アラシ「このカードがあれば、どんなカードであれ盤面から離すことで、前列が空いた状況を整えることができる!

使い減りもしないので、イングリットとエレオノーレに頼りきりだった現状からついに脱却! 安定性の大幅な向上が見込めるぜ」

 

セイジ「そればかりか、効果は悪くないが盤面から離すことができないので使いにくかった《胸に募る慕情 フロレンツィア》のようなカードも採用しやすくなった。

この1枚の追加で、フェルティローザはデッキ構築を1から見直す必要が出てきたな」

 

アラシ「『山札の下に置いてよい』なので、ユニットを残したい場合はそのままにしておくこともでき、フェルティローザ関係者とは思えないくらいに融通も効く。

変わったところでは、エレオノーレがデッキトップに戻るより先に、デッキボトムに戻すこともできるぜ。意外とデッキトップに置きたくない状況もあるカードだったので、こういう小技が使えるのも助かるな」

 

ヒビキ「今弾にはソウルを増やせる《幽魂の抱擁 ベティーナ》も追加されている他、連続ブーストができるエルネスタや、お姉様にお呼ばれされても単体13000でアタックできるヘルミーナなど、G1は激戦区になってきている。

それぞれ向いている方向性も違うので、安定性を伸ばすか、ソウルを増やしてじっくり戦えるようにするか、パワーに特化するか。コンセプトを定めて採用枚数を決めていきたいね」

 

 

●《清爽の歌姫 ベランジェール》

 

アラシ「覚醒する天輪に続いて、今回も登場した謎レアリティの謎ヒール!! 本当に何の枠なんだ、これ?」

 

 

●終

 

セイジ「これで私達の仕事は終わりだな」

 

ヒビキ「あとはミオちゃん達にすべてを託すだけだね」

 

アラシ「下手こくんじゃねーぞ、くくく」

 

マナ「物語の完結まで、どうか応援頂ければ幸いです」

 

アラシ「そんじゃ、まったなー!」




「リリカルモナステリオ ~新学期はじまるよ!~」のえくすとらをお送り致しました。
衝撃的な終わり方をした2月本編ですが、もちろんあれで完結ではありません。
3月の本編は3月1日に公開予定です。

それでは次回、3月の本編、最終回にてお会いしましょう!


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Ex.55「澪」

えー、まずはごめんなさい。
最終話のあとがきで「根絶少女の総まとめを行う」と書いたのですが、すみません。
思ったよりも面白くなりそうになかったので、お蔵入りになりました。
やっぱり自分の作品を解説するのは苦手です。
というか作中にすべて載せたつもりなので、今さら語ることなんてありません。
※あとがきも書くことなくて悩むタイプ

お詫びと言ってはなんですが、考えてはいたけど書く機会のなかった小話を一本お送りさせて頂きます。
時間軸は2年生編の6月~7月あたりになります。
お楽しみ頂ければ幸いです。


サキ「『ごん、お前だったのか。いつもくりをくれたのは』……」

 

ミオ「…………」

 

サキ「『兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました』……おしまい。……どうですか?」

 

ミオ「……泣けませんね」

 

アリサ「おっはよー! 遅れてごめんね。……何やってんの?」

 

サキ「あ、アリサさん。おはようございます。ちょっとミオさんと賭けをしてまして。

ミオさんを泣かせることができれば、今日の帰りにファミレスで一品おごってもらえるという約束で、どうにかオウガ君とふたりで泣かせようとがんばっているのですが……」

 

オウガ「うわあああああ! ごんんんん!! ごんんんんんんっ!!!」

 

アリサ「代わりにこっちが泣いちゃったわけね」

 

サキ「泣いた赤鬼(オーガ)……」

 

アリサ「泣かせる手段に『ごんぎつね』の朗読を選ぶのも古典的というか何というかだけど。

けど、惜しいところはいってるかな。そこからミオちゃんを泣かせたければ、簡単だよ」

 

ミオ「む。アリサさんも参加するのは卑怯ですよ」

 

アリサ「『ごんぎつね』の登場人物を、兵十をドロヲンに。ごんをファルヲンにして、もういっかい朗読してみて」

 

サキ「……はい?」

 

 

――5分後

 

 

サキ「『ファルヲン、お前だったのか。いつもパワーライズ・エリクサーをくれたのは』……」

 

ミオ「…………」

 

サキ「『ドロヲンは、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました』……おしまい」

 

ミオ「うわああああああん! ファルヲンさん! ファルヲンさあああああん!!」

 

オウガ「めっちゃ泣いてる!!」

 

サキ「いや、私達が泣けないんですけど! むしろ、笑いをこらえるのに大変だったんですけど!」

 

アリサ「登場するアイテムまでしれっとアレンジしてた人が言うセリフじゃないわねー」

 

ミオ「……ぐすん。私の負けです。いいお話でした」

 

サキ「キャストが変わっただけで、お話は同じなんですけどね」

 

オウガ(……ま、先輩の珍しい表情が見れただけでよしとするか)

 

----

 

ミオを漢字で書くと「澪」

「零」に「さんずい」を付けることで、涙を流すことのできる虚無。

という祈りを込めて名付けました。

対となるレイは「零」であり、虚無そのものです。

 

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最後に新作「ヴァンガードゴシック」の予告を……。

 

----

 

夢破れた少年「如月(きさらぎ)リュート」の前に現れたのは、夜色のドレスを纏った儚げな少女「鈴導(りんどう)カミラ」。

彼女はリュートに「自分は吸血鬼だ」と名乗った。

 

 

――「やあ、少年。今宵は月が綺麗だね」

 

 

鮮烈な出会いを鮮血が彩る。

ヴァンガード×ゴシックホラー?

 

4月29日 開幕!!




●今後の予定
4月上旬:「群雄凱旋」のレビュー
4月29日:新作「ヴァンガードゴシック」第1話公開
5月3日:新作「ヴァンガードゴシック」第2話公開
5月中旬:「フェスティバルコレクション2022」のレビュー
5月下旬:「Pクランコレクション2022」のレビュー(根絶少女のえくすとら)
6月1日:新作「ヴァンガードゴシック」第3話
6月下旬:「Vクランコレクション」のレビュー(根絶少女のえくすとら)


まず、予告していたとおり、Dスタンをテーマにした新作「ヴァンガードゴシック」を4月29日に1話、5月3日に2話と続けて公開します!
せっかくなのでゴールデンウィークに読んでもらいやすくしました。

4月上旬の「群雄凱旋」と5月中旬の「フェスティバルコレクション2022」のレビューは、根絶少女でもない、ヴァンガードゴシックでもない、まったく別のキャラクターで続けさせていただきます!
というのも、ヴァンガードゴシックは1年で完結する予定なので、割とすぐ終わっちゃうんですよね。
仮に小説を書かなくなっても、パック談義は続けていきたいなと思っているので、長年続けられる形にしたいと思います。

5月下旬と6月下旬のPコレ、Vコレは根絶少女のえくすとら扱いとなります。
この2回で全キャラクターを登場させて、根絶少女は正式に完結とさせて頂きます。
今後も根絶少女、そしてヴァンガードゴシックをお楽しみ頂ければ幸いです。


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Ex.56「Pクランコレクション2022」

●登場人物

・小金井フウヤ
高い実力を誇るイケメンファイター。
人当たりはいいが、冗談が通じない堅物。
使用クランは「ゴールドパラディン」

・早乙女マリア
高飛車な性格だが、それに見合った実力も併せ持つツンデレお嬢様。
使用クランは「ロイヤルパラディン」

・御厨ムドウ
容赦の無いファイトで対戦相手を打ち負かす、謎多き強豪ファイター。
萌えに造詣が深い。
使用クランは「シャドウパラディン」

・神薙ミコト
美少女だが性格キツめの、黙っていれば大和撫子。
使用クランは「オラクルシンクタンク」

・神薙ノリト
ミコトの双子の弟
使用クランは「ジェネシス」

・十村ヒカル
誰よりも勝ちにこだわる意識高い系ファイター。
使用クランは「エンジェルフェザー」


フウヤ「ここは……どこだ……?」

 

マリア「どうやらここはえくすとら世界のようですわね」

 

フウヤ「マリアさん!?」

 

ムドウ「どうやらこの場には、作中で登場した聖ローゼ学園勢が集められているようだ」

 

ヒカル「…………」

 

ノリト「……と」

 

ミコト「……いうことは?」

 

ムドウ「『Pクランコレクション2022』のえくすとらは、我々聖ローゼが担当する……!!」

 

フウヤ「……やったあああああああああああっ!!!」

 

マリア「ふふ。ずいぶんと嬉しそうだこと」

 

ミコト「フウヤさん、ゴウキポジションだなんだと、作者にずいぶんと揶揄されてきましたから……」

 

ムドウ「まあ、実際に作者はそのつもりだった。

フウヤどころか聖ローゼそのものが、2年生編の中盤からは天海学園と入れ替わりに退場しているだろうという想定で書いてきた」

 

ノリト「天海をAL4とするなら、僕達はそれこそチーム男前のポジションだったわけですね」

 

ムドウ「3年生編のヴァンガード甲子園では、新たな勢力が聖ローゼを破って(かませ犬にして)音無ミオ率いる響星学園に立ちはだかる予定だった。

ところが実際はどうだ? 聖ローゼは最後まで第3勢力として確かな存在感を放っていた……はずだ。

今回は作者の想定を超えて活躍した、我々に対する褒美と言える」

 

ヒカル「本来であればディメンジョンポリスとエンジェルフェザーは、その『新たな勢力』として活躍させる予定だったらしいですよ」

 

ノリト「終盤で君が聖ローゼを裏切るのは、その名残というわけだね」

 

ヒカル「その節はどうもすみませんでしたねぇ」

 

ミコト「うわ。またやりそうな顔してるわ、こいつ」

 

マリア「さあさあ、裏話はそこまでにして。そろそろえくすとらを始めますわよ」

 

ノリト「はい。『Pクランコレクション2022』は、2年ぶりに登場したPスタンダード専用のパックです。

全クランに、新たなGユニットとGガーディアンが1枚ずつ追加されていますね」

 

ムドウ「だが、作者は既にPスタンは門外漢だ。今回のえくすとらは、いつも以上にアテにしないでもらいたい」

 

マリア「それでは、さっそくはじめましょう……と言いたいところですけど、さすがに人数が多いですわね」

 

ムドウ「我々は作中でもマンモス校という設定だしな。仕方あるまい」

 

ヒカル「そういうことでしたら、僕はずっと黙っていますよ。こういうのに興味ないんで」

 

ミコト「ほら、またあんたはすぐにそういうこと言う! あんたも一緒にやるのよ!」

 

ヒカル「……ちっ。仕方ありませんね」

 

フウヤ「ふふっ。しばらく見ないうちに、ミコトもずいぶんと部長らしくなったね」

 

ミコト「ええっ!? そ、そんなことも……ありますけどぉ……」

 

ムドウ「イチャイチャするな。さっさとはじめるぞ」

 

 

●《昂然の聖騎士 エウロギアス》

 

マリア「我がロイヤルパラディンのGユニットですわね。

アタック時にリアガードと同じ枚数だけドロー!!」

 

ムドウ「これは爆アドかと思いきや、ドローした枚数だけ手札からコールというオチがつく。残念な鉄仮面だ」

 

マリア「必然的に上書きコールになってしまいますので、V出身の宝石騎士と組み合わせたいところですわね。

アシュレイもいますし、見た目以上に攻撃回数とパワーは稼げそうですわよ」

 

ノリト「リアガードが5枚以上なら、イマジナリーギフト・フォースを得られるというオマケもありますね」

 

ミコト「Gユニットでありながらギフトが得られるなんて、面白いデザインよね」

 

フウヤ「今弾では、エウロギアス以外にも、何枚かそういったギフトを得られるGユニットが収録されているね」

 

マリア「アドバンテージを稼げるわけではありませんけど、大量の手札交換ができるのは事実。

総じて、相手ターンに備えて守りを固めながら、次の布石を打つためのユニットと言えるのではないでしょうか。

局所的なメリットで言えば、手札からスペリオルコールできるので、《罪魁女帝 ダークフェイス・グレドーラ》のコール制限をすり抜けることもできますわよ」

 

ムドウ「ふはは……怖かろう」

 

 

●《慶福を紡ぐ難陀竜王》

 

ムドウ「ナンダこりゃ?」

 

ミコト「こちらは正真正銘の爆アドカードよ!

表のGゾーンの枚数+2だけ山札の上から公開し、ノーマルユニットはスペリオルコール! トリガーユニットは手札に加わりつつトリガー効果も発動という何一つ無駄にしない組み合わせ!!

初動でも3枚めくれるし、事前にGガーディアンを使っていたり、ファイト終盤にもなればとんでもないことになりそうね!」

 

ノリト「たかがトリガー効果と侮るなかれ。今のPスタンには超トリガーがあるからね。それを強引に引き当てにいく行為は単純に強力だ。

そしてオラクルシンクタンクの超トリガーはアマルティノア……」

 

ミコト「アドがさらなるアドを呼ぶ、というわけよ! もうこれだからオラクルって大好き!」

 

 

●《聖霊熾天使 ザフキエル》

 

ミコト「ほら! エンジェルフェザーくらい、ヒカルが解説しなさいよ!」

 

ヒカル「……わかりましたよ。

雑にパンプして、雑にドライブ増えて、雑にカウンターコスト回復して、雑に強いカードです」

 

ミコト「説明も雑い!」

 

 

●《超機動病棟 フィルマメント・グランツ》

 

ミコト「ダメージゾーンからユニットをGにコールぅ~?

ありそうでなかった効果ではあるけど、その程度の効果に何でCB3も支払わなきゃ……って、回復してるじゃないの!!!!」

 

ヒカル「その消費を即座に取り戻せるザフキエルとの相性は抜群ですね。エンジェルフェザーらしい、負けない戦いができそうです」

 

ムドウ「起動病棟がついにGユニットになった点も感慨深いな」

 

ヒカル「それはどうでもいいですが」

 

ムドウ「魔界城もよろしく」

 

 

●《暗黒騎士 クロウ・クルワッハ》

 

ムドウ「リアガードを2枚退却させることで、相手に3枚の退却を要求するカードだ。ここまでなら単なるカーニバルドラゴン+1だが、以降の文章はPスタン味が溢れている。

相手が3枚退却させることができなかった場合、アタック終了時、リアガード2枚の退却でこのユニットはスタンドする。

ドライブ-2だの-1だのデメリットの付与は一切無し、だ」

 

フウヤ「Gユニットがそのままスタンドだって!?」

 

ムドウ「とは言え、相手にユニットが3体以上いる場合、単なるカーニバルドラゴン・強でしかない点は否めない。

それに、シャドウパラディンには素人目にもヤバイ《暗黒竜 チェインランカー・ドラゴン》もいる。

主力というよりかは、Gゾーンに1枚仕込んでおいて、どうしても超トリガーを引きたい場合など、状況に応じて超越するカードになるだろう」

 

 

●《栄華の黄金騎士 イドヴァリウス》

 

ムドウ「美人だ」

 

フウヤ「俺の番なんで黙っててください。

このユニットはアタックした時、レストしているリアガードをすべて山札の下に置き、手札から2枚選びスペリオルコールすることができる。

さらにユニットを4枚以上山札に置いたなら、ドライブ-2して、このユニットもスタンドする!」

 

ムドウ「プププ……。今時、ドライブ-2とか……」

 

フウヤ「相手にユニットが3枚残っているだけで、カーニバルドラゴン改にしかならないよりはマシですよ。

Vのグルグウィントを彷彿とさせる永続パンプ効果も兼ね備えており、G2以上のユニットであれば、大抵はアタックを通すことができる。

弱点はリソースの消費が激しいことだ。イドヴァリウスをスタンドさせるためには最低でも、盤面から4枚、手札から2枚のカードを消費することになる。他のユニットでアドを補填しても赤字は避けられない」

 

ミコト「むしろ、採算度外視でトドメを刺しにいくためのカードと言えるでしょうね」

 

フウヤ「ああ。V以降のゴールドパラディンらしいカードだ」

 

ムドウ「ゴールドパラディンでG3以上の女の子は非常に珍しい。大切にするといい」

 

 

●《奉魂天竜 ジャグダナルルガ》

 

ムドウ「このジャグダナナルガは、ドロップから異なるグレードのユニットを望む枚数ソウルに置くことで、その数だけパワー+10000することができる」

 

ノリト「ジャグダナルルガです」

 

ムドウ「ジャダグナルルガのパワーは、G0~G3だけでも55000+になるが、ヴァルケリオンを採用するタイプなら65000+まで伸びる。いっそのことバスティオン・プライムも採用することで75000+だ」

 

ノリト「ジャグダナルルガです」

 

ムドウ「さらにジャグナダルルガは、相手のガーディアンを退却させ、デッキトップのユニットに変換することができる」

 

ノリト「ジャグダナルルガです」

 

ムドウ「しかもこの効果はジャグダナルルルガ以外のアタックにも適用できる。一発逆転の可能性を秘めた、ジェネシスの切り札として活躍してくれるだろう」

 

ノリト「ジャグダナルルガです」

 

 

●《神龍騎士 バラカート》

 

マリア「…………」

 

ムドウ「…………」

 

フウヤ「…………」

 

ミコト「…………」

 

ノリト「…………」

 

ヒカル「おやおや。いかがしました?」

 

ムドウ「俺達の使用クランはユナイテッドサンクチュアリのクランに偏っている」

 

ヒカル「ええ、そうですね」

 

ムドウ「いきなり全員の新規カード紹介が終わってしまったので、気が抜けている」

 

ノリト「僕はツッコミだけで終わったんですけどね」

 

ヒカル「やれやれ。しようのない人達だ。

《神龍騎士 バラカート》は、相手の空きサークルによって力を発揮します。

空きが3つなら、パワー+10000、★+1、ドライブ+1。

空きが5つなら、さらにリアガードすべてにパワー+10000を与えます。

すべての条件を満たせるなら申し分の無い能力ではありますが、このユニットは除去を一切持ち合わせておりません。

リアガードでユニットを除去していくのが理想ですが、除去に偏らせすぎてしまうと、今度は展開力が足りず、パンプを生かせなくなる可能性も。

自分から積極的に除去を狙っていくよりかは、盤面にユニットをほとんど残さないタイプのデッキにに対して超越するカードと考えた方が安定するでしょうねぇ」

 

 

●《六道忍鬼 ヤツカロード》

 

マリア「はいはい、シャキッとする! まだまだ新規カードは残ってますわよ!」

 

フウヤ「マリアさんも気が抜けてたのに……」

 

マリア「ヤツカロードは、対戦相手に苦渋の二択を迫らせるカードですわ。

まずは相手のドロップゾーンから3枚選び、それぞれにコールするかしないかを選ばせます。

そのうちのコールしたユニット1枚につきハンデス。コールしなかったユニット1枚につきドロー&パンプ。

……どちらを選んでも地獄ですわね」

 

ムドウ「とは言え、選択権は相手にあるので、被害を抑えられてしまうことも多い。ぬばたまはハンデスできるGユニットに困っていないこともあり、できる限りドロー側が狙える状況で超越するのがいいだろう」

 

 

●《爆虐巨頭 ギガトノフェイロー》

 

ムドウ「背負った大仰な砲台とは裏腹に、手にした小さな拳銃と手斧がチャームポイントだ」

 

フウヤ「チャームポイント……かなあ?」

 

マリア「色々と書いてますけれど、端的に言えば、このユニットが暴喰時に食べた数だけユニットをスタンドさせる能力ですわ。パンプもつくので攻撃力も高く、超越しながらアクセルサークルを増やせるスピノドライバーとマッチした能力になっていますわね」

 

 

●《伏魔忍鬼 イズシオトメ》

 

ムドウ「乙女だ……」

 

ミコト「ヌエダイオーを失ったむらくもに、どのような新戦力が与えられたのかしら?」

 

マリア「まずはユニットを2体分身させるむらくもらしい能力ですわ。デッキに戻らないVシリーズ方式ですのでアドバンテージを稼げる分、呪縛やバインドには要注意ですわね」

 

フウヤ「この能力はコストも重要ですね。Gゾーンを1枚表にすることができるので、シバラックヴィクターを表にすればアタック回数を水増しできます」

 

マリア「もうひとつの能力は、同名カードは後列からアタックできるようになる効果です。むらくものリアガードは連続攻撃できるユニットが多く、シバラックヴィクターも含めるとかなりの回数アタックできそうですわね。

しかしながら、イズシオトメ自体にパンプ能力は無く、むらくもは全体的に攻撃力も低めです。

Vのシラユキで補ってあげるなりはしてあげたいところですわね」

 

 

●《征天覇竜 エクスターミネイト・ドラゴン》

 

ミコト「相手の前列空きサークルだけドロー&パンプできるカードね。

本人は除去能力を持たないので、他のユニットで除去してあげるべきかしら?」

 

ノリト「《征天覇竜 スタンバース・ドラゴン》が、ちょうど相手リアガードを除去しつつドローできるので、それと使い分けるのも面白そうだね」

 

 

●《武闘皇竜 マーセラス・ドラゴン》

 

ムドウ「誰もがはじめはなるかみと勘違いしたノヴァグラップラーのドラゴンだ」

 

フウヤ「リアガードがカードの能力でスタンドした時、このユニットもスタンドし、メインフェイズならエクストラアタックすることができる。

特筆すべきは、この効果に1ターンに1回の制限が無いので、リアガードのエクストラアタックを含めて、メインフェイズにも関わらずとんでもない回数のアタックができそうだね」

 

マリア「アタックするたびに

ハーツが《アシュラ・カイザー》なら、6月に登場するG3の《闘神 アシュラ・カイザー》にスペリオルライドすることで、ドライブ数をリセットできますわね。

マーセラス・ドラゴン自体はエクストラアタック以外の効果を持たないので、乗り換えに遠慮はいりませんわ」

 

ミコト「メインフェイズで戦える都合上、色々なカードが使えるので、他にも抜け道がありそうですね……」

 

 

●《宇宙翻る翼 ユニバ―ド・ギャラクシー》

 

ムドウ「パワー100000以上なら、ドライブ+2」

 

フウヤ「桁が違う!!」

 

ムドウ「ダメージゾーンとリアガードの合計だけパワー+10000されるので、条件の達成もそう難しくない。ディメポらしく強いぞ」

 

 

●《極大甲獣 ギラガメルモス》

 

ムドウ「このカードの最大ガード値は25000。よって宇宙に現存する全火力は、パワー25001相当ということになるな」

 

フウヤ「全火力しょぼい!」

 

 

●《星雲竜 コズミックドーン・ドラゴン》

 

マリア「このユニットがアタックした時、山札の上から7枚見て、2枚まで呪縛カードとして置き、その後、望む数の呪縛カードを解呪するか手札に加えることができますわ。

さらに手札に加えたカードの数だけ、相手ユニットを呪縛できます」

 

ムドウ「その性質上、カオスブレイカーにはめっぽう強い。解呪時の効果を発動させることなく、すべての呪縛カードを手札に戻すことができ、相手の盤面を呪縛し返すことができる」

 

ノリト「カオスブレイカー側も当然コズミックドーンは使えるので、また呪縛され返されたりもするんですけどね」

 

フウヤ「メサイア以外のデッキでも、連続攻撃ができるようになった点にも注目だね」

 

 

●《無法王 ギャリィ・ガバルス》

 

ムドウ「ひとりバッドエンド・エンペラー」

 

ミコト「スパイクにしては消費もコストも少なく安定してるけど、Gゾーンのカードを表にしないので、ヘルハード・エイトに繋ぐには不向きね」

 

ノリト「2020のヴィラン・ヴァーミナスもGゾーンを表にしなかったので、やっぱり警戒されているのかな?」

 

 

●《終極の深冥王 ヴォルファルクス》

 

ムドウ「猊下がいなくなったと思ったら、またとんでもないのがやってきた」

 

マリア「バトルフェイズ中にGゾーンから超越できるユニットですわね。ダークイレギュラーズには既にデスアンカーがいますので、

Gユニット⇒デスアンカー⇒ヴォルファルクス

と手軽にヴァンガードで3回アタックできますわ」

 

ミコト「これもまた色々と悪用する方法がありそうな……」

 

ノリト「これまで禁止されたら、もう笑うしかないよね」

 

 

●《犀利の大奇術 レオンティーナ》

 

マリア「アタックした時、リアガードすべてをソウルに置いて、置かれたカード1枚につきソウルから2枚選びスペリオルコールできますわ」

 

フウヤ「ソウルに入れたカードが倍になって戻ってくる。ペイルムーンらしい、手品のようなユニットですね」

 

ムドウ「さらにグレードを4種類以上コールすることで、ガード制限をつけることができる。

G0~G3が基本だろうが、メガロルードや絶勝ブルースを採用することで、後列にG1だけを並べることもできるぞ」

 

フウヤ「優秀なトリガーは、パワー4000のものが多いので、案外それがいいのかも知れませんね」

 

 

●《ハイブロースチーム シュリシュマ》

 

ムドウ「アタック時にバインドゾーンからユニット2枚をスペリオルコールできるユニットだが、この娘の本領はそこではない。

このユニットはGゾーンで表になってこそ本領を発揮する」

 

マリア「グレード3のユニットがアタックしたバトル終了時、そのユニットをバインドすることで、このユニットがスペリオルコールされますわ」

 

フウヤ「まさしくGゾーンからの時翔ですね」

 

ムドウ「ギアクロニクルのGゾーンをめくるカードは、このカードの登場によって一段階強化されたと言える。色々と試してみるといいだろう」

 

 

●《常闇の海賊王 バーソロミュー》

 

ムドウ「ついにグランブルーに登場した、ガードに3枚以上同時にコールしなければコールできない制限を課すカードだ。端的に言ってこれはヤバイ」

 

フウヤ「グランブルーは全クランで見ても単体で屈指のパワーを誇るスカルドラゴンを擁するクランですからね。この制限が満たせる状況であれば、少なくともパワーは72000以上。完全ガードでなければ到底防ぐことは叶わない威力ではあるけれど、そうなると手札を4枚も消費することになる」

 

マリア「火力だけならまだしも、グランブルーはアタック回数にも優れていますわ。バーソロミュー単体で見ても5回攻撃。コストが有り余っている状況であれば、10回以上アタックされながら、その端々にスカルドラゴンが含まれる。くらいの認識でいなければなりません」

 

ムドウ「Pスタンで不用意に点を与えるのは厳禁ということを如実に教えてくれるカードだ」

 

 

●《夢を照らすは輝ける碧海 ヘルトラウダ》

 

ムドウ「名前が無駄にかっこいい」

 

マリア「リアガードを追加でアタックさせつつ、ハーツもスタンドさせて追撃と、これもまたムチャクチャ書いてるカードですわね……」

 

ノリト「Vスタンのカードも、Gユニットに匹敵するほどパワーアップしてますからね。ハーツだったカードで追撃というのは、2年前とはまったく意味合いが異なりますね」

 

ミコト「レインディアに繋げば、Vが合計4回アタックすることだって!」

 

ムドウ「完璧に決まれば、少なくとも対戦相手の夢は泡と消えるだろうな。夢が叶うと証明するために、他者の夢を打ち砕く……皮肉なカードだ」

 

 

●《蒼烈魁竜 フュリアルガス・ドラゴン》

 

ムドウ「アクセルを不正受給する、アクアフォースのドラゴンだ」

 

ミコト「アタック回数は最高峰だけど、パンプはおまけみたいに書き足されている後列から移動させたユニット1体にしか付与されないのでパワーは低めかしら?」

 

ノリト「フィニッシャーにもなれると言えばなれるけど、どちらかと言えば、アクセルを増やして次に繋ぐカードかもね」

 

 

●《毒悪怪神 マリグナンテス》

 

アリサ「メガコロあるところにあたしあり! アリサちゃんのメガコロ解説の時間だよー」

 

ムドウ「帰れ」

 

アリサ「な、なんでよー」

 

ムドウ「今回は聖ローゼ(おれたち)の時間だ」

 

フウヤ「ま、まあまあ。天道さんがメガコロニーのスペシャリストなのは確かですし」

 

アリサ「さすが小金井くん! 話がわかる!」

 

ムドウ「……ちっ。好きにしろ」

 

アリサ「そんなわけで、ヴェノムスティンガーLv.100もといマリグナンテスの紹介よ!

実はメガコロ云々置いておいて、Pコレのメガコロはものすごく気になっていた枠なのよねー。

というのも、現状のメガコロは《罪魁女帝 ダークフェイス・グレドーラ》が強すぎるから!!

ヴァンガードを含めたスタンド封じに、手札以外からのスペリオルコール封じ! メガコロの集大成とも言える能力を備えながら、連続攻撃までこなす!

Pにおけるメガコロ最大の存在意義であり、どのクランにも真似できない圧倒的独自性。常にメガコロを握る理由であり続けた、絶対女王!」

 

マリア「……裏を返せば、罪魁女帝に超越しないターンは、メガコロニーとして存在感を発揮できない。ということですわね」

 

アリサ「さすがマリアさん! そういうこと!

ギフトはプロテクト。超越スキルにパンプは皆無。リアガードも戦闘に長けた者が少ないメガコロニーは、無理に戦おうとしても他のクランに及ばない。

それでもなお罪魁女帝を押しのけてまでメガコロが超越したいGユニットって、いったいどんなのよ!?

その答えがこれ!! Gゾーンからでもスキルを発動できるGユニット!!

罪魁女帝で表にして、そこからスキルを発動できるなら、罪魁女帝にずっと超越したまま戦える!

新たなエースユニットを与えられるのではなく、既存のエースユニットを強化するという逆転の発想から生まれたGユニットよ!」

 

フウヤ「ムチャクチャだ!!」

 

アリサ「では、このマリグナンテスはどのように罪魁女帝を強化してくれたのか。

このカードがGゾーンに表でいる場合、CB1、リアガード1枚をソウルインすることでスキル発動。

ここからは相手の状態によって、スキルの効果が分岐するわ。

まず、相手の盤面にスタンドしているリアガードが残っている場合。この場合、そのユニットを退却させてくれるわ。罪魁女帝のスタンド封じは、相手ユニットをレストしないので、あらかじめユニットをスタンド状態で立たせておくのはひとつの攻略法だったんだけど、今後はそれも許さない。ただ、それだけではさすがに物足りないので、カウンターチャージのキャッシュバックと、1ドローがオマケでついてくるわ」

 

ノリト「なるほど。罪魁女帝の弱点を補えるというわけですね」

 

アリサ「もうひとつ。相手の盤面にスタンドしているリアガードが残っていないなどで、ユニットが退却できなかった場合。この場合、ヴァンガードのパワーを-10000! 罪魁女帝のパワー不足を解消してくれる恵みの弱体化! 連続攻撃とも相性抜群!

しかもこれらは同名カードの発動制限がないので、ターン数を重ねるほど表のマリグナンテスが増えていき、弱体化を重ねることができるの!」

 

フウヤ「まさしくGゾーンに蓄積されていく猛毒といった趣だね」

 

アリサ「しかもこのマリグナンテス。罪魁女帝だけでなく、メガコロニーのもうひとつの勝ち筋であるアントリオンゾーアとも相性がいいの!

守護者制限を持つアントリオンに、ゾーアの特殊勝利効果を付与する必殺コンボなんだけど、知っての通りゾーアで指定したユニットのパワーは99999で固定されてしまう。本来なら戦闘補助は不可能……なはずなんだけど」

 

フウヤ「敵を弱体化するなら、話は別。というわけだね」

 

アリサ「そう! マリグナンテス1匹につき、アントリオンのガード要求値は10000増加! もともと99999は数値受けするにはギリギリなので、この10000が決定打になる可能性はおおいにある!

ああもう! やっぱり、アントリオンかっこよすぎ!!

あ、ちなみにマリグナンテスのコストでG3をソウルに入れることができるので、アントリオンのコスト調達にもマリグナンテスは貢献してくれるのよ」

 

フウヤ「至れり尽くせり!」

 

アリサ「実際に罪魁女帝を差し置いてやる価値がどこまであるのかは疑問だけど、マリグナンテスは普通に超越しても、そこそこの力を発揮するわ。

マリグナンテスがVにいる場合、このカードのスキルはGゾーンを表にすることでも発動できるので、2枚目のマリグナンテスを表にすることで、さらにマリグナンテスのスキルを重ねがけ!

相手にスタンドしているユニットがいない場合、相手ヴァンガードを合計-20000できるの。

次に罪魁女帝に超越する場合、Gゾーンにマリグナンテス3枚なんて状況を作り出すこともできる! メガコロのパワーで5回攻撃とは言え、-30000とかされたらさすがに話は違う!

どうしても罪魁女帝じゃ戦果をあげられない! なんて時には試してみるといいかもね」

 

 

●《繋縛怪神 クルーウェブル》

 

アリサ「お次はメガコロのGガーディアン!

SB1するだけでガード値に+30000もされちゃう、超お手軽45000ガード!!

……なんてはずもなく、相手は他のユニットをレストすることで、このユニットのガード値を-10000できる!

さすがに他のアタックできるユニットをレストさせるのはもったいないので、基本的には後列のユニットがレストされるはず」

 

ムドウ「だが、そのパターンも後続のガード要求値を下げることに繋がるため、メガコロニー側にとって悪い取引ではない」

 

ノリト「メガコロニーお得意の、自分有利な2択ですね」

 

アリサ「もちろん、他のユニットがレストし尽くした、最後のアタックに対して使う分には45000ガードだし、このカードで他のユニットをレストさせた後、さらにこのカードを出すのも面白そう!

むらくもやアクアフォースといった後列もアタックに参加するデッキに対しては俄然有利!

相手がこのカードを警戒する場合、わざわざユニットを後列にスタンドさせたままアタックしてくることだってあるかも知れない。カードプールに存在するだけで相手の動きを縛る、メガコロらしいカードよ!!」

 

マリア「……けど、弱点もありますわね」

 

アリサ「……へ?」

 

マリア「どうしても通したいアタックの場合、相手はなりふり構わず他のユニットをレストしてくるでしょう。★が増加したユニットのアタックとか。

極端な話をすれば、ゾーアの99999パンプを受けたユニットのアタックを防ぐのには、このカードは何の役にも立ちませんわ」

 

ノリト「それは……一番45000ガードが欲しい場面ですね」

 

アリサ「ぐ……ぐむむ~。ユキみたいに、人の絶頂に水を差すようなこと言いおって……」

 

マリア「あの子に指摘できそうなことが、わたくしにできないと思いまして?」

 

 

●《全智竜 カラドリウス》

 

ムドウ「どう見てもオウム」

 

マリア「このユニットがアタックした時、パワー30000以上のリアガードをスタンドさせ、ガード制限を付与しますわ」

 

ムドウ「全体に制限を付与したバーソロミューと比較すると物足りなく見えるが、そこはグレートネイチャー。実際は30000では済まないほどパワーの上がったユニットが、そこから何回もアタックしてくるものと思った方がいい」

 

 

●《恩情の花乙姫 ラディスラヴァ》

 

ムドウ「一つ目の効果はアドバンテージを稼ぐ効果だが、指定したユニットと同じグレードを、1枚スペリオルコール、1枚手札に加えるという形を取っている。

従来のように同名カードを3枚並べることができる他、指定したユニットと別名のカードを2枚並べることもできる」

 

マリア「G1を指定して、完全ガードを手札に加えておくという使い方もできますわ。ネオネクタールにしては珍しい、かなり自由度の高いアドバンテージ獲得能力ですわね」

 

ムドウ「もうひとつの効果は、同名のリアガード2体をスタンドする。シンプルだが、パワーにもアタック回数にも優れたネオネクタールには十分すぎる能力だろう」

 

 

●終

 

フウヤ「夢のような時間だった……」

 

ヒカル「これで終わりですね。では、僕は帰らせて頂きますよ」

 

ミコト「ちょっと、ヒカル! 待ちなさいよ!」

 

ノリト「ああもう! 姉さんもどこいくの!」

 

マリア「……しばらく見ないうちに、聖ローゼもずいぶんと賑やかになりましたわね」

 

ムドウ「ふっ。まったくだ」

 

マリア「では、わたくし達も、このあたりで失礼させて頂きますわ」

 

ムドウ「次回、正真正銘の最終回『Vクランコレクション』のえくすとらもよろしく頼む」

 

マリア「それでは、ごきげんよう」

 

ムドウ「さらばだ」




『Pクランコレクション2022』のえくすとらをお送りさせて頂きました。
いよいよ根絶少女も残すところあと1話!
最後までお付き合い頂ければ幸いです。


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Ex.57「Vクランコレクション Vol.5」

登場人物&その後

●音無ミオ
根絶者にディフライドされている無表情・無感情の少女。
ディフライド関係無く、知勇兼備の才媛。
使用クランはもちろん「リンクジョーカー(根絶者)」
プロとして活躍する毎日。戦績も上々で、今、もっとも話題の人気プロファイター。

●早乙女マリア
高飛車な性格だが、それに見合った実力も併せ持つツンデレお嬢様。大学4回生。
使用クランは「ロイヤルパラディン」
ユキとの大学生活を満喫中。その一方で、来年のプロデビューも決まっている。

●神薙ミコト
美少女だが性格キツめの、黙っていれば大和撫子。
使用クランは「オラクルシンクタンク」
プロを目指し、努力を続けている。
フウヤとはたびたび会っているらしいが、関係が進展しているかは不明。

●神薙ノリト
ミコトの双子の弟。
使用クランは「ジェネシス」
プロを目指す一方、姉のマネージャーとなる道も模索している。ふたりでプロになるという目標は、ふたりがプロになると同意じゃない。

●山崎タツミ
かつてミオにヴァンガードの教えを受けた高校2年生。
使用クランは「かげろう」で、ドラゴニック・オーバーロードの強さに憧れを抱く
響星学園に入学し、去年のヴァンガード甲子園は予選大会で惜しくも準決勝敗退。
だが、本人は全勝しており、早くも『若き大君主』の二つ名で呼ばれ、注目を集めている。

●白河ミユキ
おっとりしているが、プロ並みの腕前を持つ完全無欠な和装美人。大学4回生。
使用クランは「むらくも」
彼女が何を企んでいるのか、知る者はいない。

●近藤ライガ
ユキやアリサの先輩で、何もかもおおざっぱな巨漢ファイター。
使用クランは「なるかみ」
たまにアマチュア限定の大会に参加しては、雑だが妙に強いプレイングで会場を荒らして去っていくため、プロを目指すファイターに恐れられている。

●天道ミサダ
ユキを敬愛するアリサの弟。
文武両道で、サッカー部とカードファイト部、ふたつの部活を掛け持ちしているほど。
使用クランは「ディメンジョンポリス」
ヴァンガード甲子園では山崎タツミと激戦を演じ、惜しくも敗北。悔しかったらしく、高校選手権でのリベンジに燃えて猛特訓中。

●鬼塚オウガ
アメフト部のトレーナー見習い。
カードファイト部は引退したが、まだまだヴァンガード熱は冷めやらぬ、大学1回生。
使用クランは「スパイクブラザーズ」
小学生の頃から目標だった、アメフトの強豪大学への入学を果たし、トレーナー見習いとして活躍中。

●遠藤モモカ
かつて《祝砲竜 エンド・オブ・ステージ》にディフライドされていた中学2年生。
使用クランはもちろん「ペイルムーン」
着々と腕をあげており、今や近所のショップ大会レベルなら優勝常連。
プロのファイトを観戦するようにもなり、ヒビキの熱狂的なファンになる。

●綺羅ヒビキ
天すら羨む美貌を誇る、銀髪碧眼の麗しきプロファイター。
その完成されたプレイングは、芸術にも喩えられる。
使用クランは「バミューダ△」
プロになってから負け無しで、快進撃を続けている。ダルクとの再戦も近い。

●清水セイジ
驚異的なプレイング速度で対戦相手を圧倒する、最速のファイター。
使用クランは「アクアフォース」
漁師となり、父親と共に漁にでる日々。お守りとして、防水加工したカードを懐に忍ばせている。

●天道アリサ
カードショップで働くアルバイト店員。
ノリは軽いが、根はマジメな大学3回生。
使用クランは「メガコロニー」
カードショップ『エンペラー』の看板娘として皆から愛される一方、いつか自分の店を持つために勉強を続けている。


●序

 

ミオ「読者の皆さん、おひさしぶりです。音無ミオです。

大変長らくお待たせしてしまいましたが、Vクランコレクションvol.5、vol.6のえくすとらをお送りさせて頂きます。

今回は各クランの使用者をゲストとしてお招きしています。

根絶少女最後のえくすとらとなるこのひと時を、どうかお楽しみ頂ければ幸いです」

 

 

●ロイヤルパラディン《哀哭の宝石騎士 アシュレイ “Я”》

①V:【SB2、リアガードを1枚呪縛】相手前列のリアガードを1枚退却。山札を上から4枚見て「宝石騎士」を1枚コール。

②V:このユニットがアタックした時、呪縛カードが2枚以上なら【CB1】することで、山札からG2以下の「宝石騎士」を2枚コールし、呪縛カード1枚につき、このユニットのパワー+10000。呪縛カードが3枚以上なら、相手は手札から守護者をコールできない。

 

マリア「わたくしが一番手ですのね! 光栄ですわ」

 

ミオ「はい。マリアさん、よろしくお願いします」

 

マリア「まかせてくださいませ。

さて、アシュレイЯはかつての能力を踏襲しつつも、今風に大幅な強化が加えられておりますわ。

まず①の効果は、呪縛をコストに1体除去しながら展開。これだけだと物足りなく感じられるかも知れませんが、この効果に1ターンに1回の制限は無く、重ねて使うことが前提になります」

 

ミオ「①の効果を重ねて使うことで、②の効果も強さを増していきますね。

2枚呪縛していれば、アタック時に宝石騎士を2枚スペリオルコールでき、3枚呪縛していれば単体パワー43000に守護者封じも発動します」

 

マリア「Я前のアシュレイがいればさらにアタック回数を水増しすることができますけれど、3枚呪縛の時点で消費するソウルは6。そこにアシュレイの2が加わるのは、できなくはないですけれども、かなりギリギリですわね。

呪縛を2回に抑えてアタック回数に寄せることもできますけれど、ブーストもパンプもできず、フォースも水増しできないアシュレイЯでは、連続攻撃のプレッシャーはあまりありません。

素直に毎ターン3枚呪縛していくのが強そうですわね」

 

ミオ「Vが高いパワーでガード制限をかけることができるので、フォースⅡを選ぶのも面白そうですね」

 

 

●オラクルシンクタンク《ヘレティックバトルシスター ふろまーじゅ “Я”》

①V:呪縛カード1枚につき、「バトルシスター」を含むユニットすべてのパワー+5000。

②V:【CB1、手札から1枚捨てる】山札の上から「バトルシスター」を含むユニットの種類と同じ枚数見て、望む枚数を山札の上に望む順で置き、残りを山札の下に望む順で置く。【「バトルシスター」を含むそれぞれ別名のリアガードを1枚以上、望む枚数呪縛する】ことで、呪縛したカード1枚につき、1枚引く。

 

ミコト「オラクルなら私の出番ね! さっさとはじめましょ!」

 

ミオ「はい。こうしてえくすとらでご一緒するのははじめてですね」

 

ミコト「ふろまーじゅはЯしても、できることは前とほとんど同じよ!

デッキ見て、ドローして、パンプする!!

そのいずれもが、ふろまーじゅよりも高いスペックでまとまっているので、ほぼほぼ上位互換と言って差し支えないわ。

ただ、それでふろまーじゅが使えなくなるわけじゃなく、ふろまーじゅはリアガードでも2枚引けるので、今後はそちらで活躍してもらうことになりそうね」

 

ミオ「ふろまーじゅЯは、デッキトップを見た後に、すぐ引けるのが強そうですね」

 

ミコト「ええ! これでデッキトップに集めたノーマルユニットを、即手札に加えることができるわ。

しかも結構融通が効いていて、例えばめくった6枚のカードに5枚トリガーが含まれていた場合、1枚だけドローして、相手ターンにトリガーを残しておく……なんて戦術も取れるわよ!

逆に5枚呪縛の5枚ドローして、なりふり構わず手札を増やすこともできるけど、山札を増やす手段の無いバトルシスターではデッキアウト一直線なのでオススメはしないわね。

相手がクラレットソードや、ブレイドウイング・レジーみたいな、オラクル以上になりふり構わず山札を削るデッキならワンチャンと言ったところかしら」

 

 

●ジェネシス《恵愛の神器 フリッグ》

①V:神装ゲージを持つリアガードすべては、相手のカードの効果でRから離れず、パワー+5000。

②V:【CB1】山札を上から5枚見て、1枚コール。「神器」を含むユニットをコールしたら、リアガード2枚にソウルから神装ゲージを置く。

③V:自ターン開始時、相手のダメージゾーンが4枚以下なら、【神装ゲージを5枚捨てる】ことで、相手に1ダメージ。

 

ノリト「ジェネシスは僕の担当かな。よろしくね、音無さん」

 

ミオ「はい。頼りにしています。

ジェネシスは、ミネルヴァ『ではない』ことで話題になったフリッグですね」

 

ノリト「ほんとにね。人気のユニットが公開されて盛り上がることは多々あれど、公開されなかったことで盛り上がったのは前代未聞だよ」

 

ミオ「人気ユニットであるが故に出しあぐねている感はありますよね。出すなら大々的にパッケージのセンターにしたいけれど、今回はЯがテーマなのでできなかったように」

 

ノリト「今後もミネルヴァではないユニットが公開されるたびに騒がれるのか気になるところだけど……」

 

ミオ「今は何の罪も無いフリッグを解説しましょう」

 

ノリト「やっていることは前々回に登場したアンジェリカと真逆の、神装ゲージを使った1点ダメージ」

 

ミオ「つまりギガレックスですね」

 

ノリト「ギガレックスだね」

 

ミオ「サキさんがこの場にいなくてよかったです」

 

ノリト「ただ、フリッグも他の神器と同じくリアガードに耐性を与えることはできるんだけど、『相手の効果で盤面から離れない』という特殊な耐性で、ブレードマスターの全体除去には強いけど、なんと呪縛に対しては総スルー。

また、アンジェリカ同様、リアガードへのアタックはどうしようもないので過信はしないように。

特にダメージ回復だったアンジェリカは、リアガードへのアタックを誘うことで、疑似的に延命という役割を果たすことができていたんだけど、フリッグはダメージを与える効果が腐ると存在を否定されたも同然なので注意かな。

引き続きアンジェリカも採用して、フリッグと使い分けていきたいね」

 

●かげろう《ドラゴニック・オーバーロード “The Яe-birth”》

①V:バトルフェイズ開始時、【リアガードを1枚以上、すべて呪縛する】ことで、このユニットが次にアタックしたバトル終了時【CB1、手札から1枚捨てる】ことで、このユニットをスタンド。

②V:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【SB1】することで、呪縛カード2枚につき、相手のリアガードを1枚退却。

③V:このユニットがアタックしたバトル終了時、呪縛カードが5枚以上で、ダメージゾーンが4枚以上なら、【手札から2枚捨てる】ことで、このユニットをスタンドさせ、イマジナリーギフト・フォースを1つ得る。

 

タツミ「ミオさん、おひさしぶりです!」

 

ミオ「はい。かげろうはもちろんタツミさんの担当ですね」

 

タツミ「はい!

“The Яe-birth”は虚無の力を得たオーバーロード!

ジ・エンドと同様に3回のアタックを可能としながら、除去もこなすことができるよ!」

 

ミオ「となると、ジ・エンド、ひいてはそれを扱う“The X”との比較が必要ですね」

 

タツミ「“The Яe-birth”が勝っている点は、冒頭でも述べたように、ユニットを除去できる点だね!

オーバーロードはかげろうにしては除去が不得手だったので、この点は他のオーバーロードと一戦を画する点だと思ってるよ!

ドライブが一切減らない点も、当然のことながら、とっても強い!!

欠点は、序盤に3回アタックが難しい点かな。

リミットブレイクを達成していなければ3回アタックできないので、どうしても相手依存になってしまうし、ダメージ1点あれば3回アタックできるジ・エンド(The X)と比較して、初動で劣るのは否めない。

ユニットを5体展開していなければ本領を発揮できないのも難点かな。

そもそもかげろうは展開力が無くて、それでも単騎で相手を倒してしまえるのがオーバーロードの魅力でありコンセプトだったわけで。そのオーバーロードで盤面を埋めるというのは結構ハードルが高いよ」

 

ミオ「なるほど。“The Яe-birth”を積極的に狙っていきたい場合は、相手のアタックをノーガードで通して手札を温存するのがよさそうですね。それをすることでリミットブレイクにも近づくわけですし」

 

タツミ「そうだね。多少のダメージなら大量のドライブチェックによる治トリガーが見込めるしね。その治トリガーでリミットブレイクが解除されるリスクもあるんだけど」

 

ミオ「そして“The Яe-birth”を使ううえで欠かせないメリットがもうひとつ……」

 

タツミ「うん! それは《ドーントレスドライブ・ドラゴン》とシナジーすること! だね?」

 

ミオ「そうですね。

“The X”では絶対に不可能で、ジ・エンドではソウルにオーバーロードがある状態でドーントレスからジエンドにライドという、回りくどい条件を達成する必要がありましたが、“The Яe-birth”であればソウルの条件は必要ありません。盤面を埋めてなお、手札4枚以上の条件は満たさなければなりませんが、ジ・エンドよりは遥かに容易でしょう」

 

タツミ「完全に決まれば、ツインドライブの4回アタック!!!! 例の如く治トリガーのリミットブレイク解除だけは怖いけど」

 

ミオ「ダメージ5点から始動しても、リミットブレイク解除してもおかしくないドライブ数ですからね」

 

タツミ「もちろん“The X”でジ・エンドと使い分けるのも強い!

相手が展開してこないようならジ・エンドで3回アタック。相手が大量展開してきたら“The Яe-birth”で全体除去しつつ、あわよくばこちらでも3回アタック……と言った風にね。

総じて、オーバーロードの可能性を大きく広げてくれたユニットだと思うよ!!」

 

 

●《勝利の化身 アリフ》

①手札:ヴァンガードが「勝利の化身 アリフ」か「盾の化身 ラーム」なら、【Rから「鎧の化身 バー」と「槍の化身 ター」をそれぞれ1枚ソウルに置く】ことで、このカードにライド。

②V:「化身」リアガードがアタックした時、そのユニットのパワーを、このユニットと同じになるまで増減させる。

③V:【CB3】このユニットのパワー+15000/★+1/ドライブ+1。【「鎧の化身 バー」と「槍の化身 ター」をそれぞれ1枚ソウルブラスト】することでカウンターチャージ3

 

ミオ「かげろうからはもう1枚。懐かしのヴァンガードが登場です」

 

タツミ「そう言われても、このカードが登場した時の僕って5歳くらいなんだけどね」

 

ミオ「私も似たようなものですが。そもそも私がヴァンガードと出逢ったのは3年前ですし」

 

タツミ「イラストはメチャクチャ格好いいよね!」

 

ミオ「作者も思わず『誰これ? かっこよ』と呟いてしまったほどです」

 

タツミ「そんなアリフは、最速スペリオルライドを得意とするよ。ヴァンガードが《盾の化身 ラーム》なら……誰?」

 

ミオ「かげろうのG2バニラです。オーバーロード以外はまだまだですね、タツミさん」

 

タツミ「いや、だって、これは!」

 

ミオ「気にすることはありません。作者も完全に新規カードと思い込んでいましたから。なんなら今日のカードで合わせて公開された再録の《ブレイクブレス・ドラゴン》も新規カードと勘違いしていたほどです」

 

タツミ「作者のかげろう知識が浅い!!」

 

ミオ「そんな《盾の化身 ラーム》に、《鎧の化身 バー》、《槍の化身 ター》をソウルインすることで、《勝利の化身 アリフ》にスペリオルライドできます」

 

タツミ「フォースⅡを選んで速攻するのが強そうかな?」

 

ミオ「難しい問題ですね。たしかにフォースⅡとも相性がいいのですが、アリフは②の効果で『化身』にパワーを与えることができます。こちらを生かすのであればⅠの方がよいでしょう」

 

タツミ「本当だ!! 『化身』って、他にどんなユニットがいるの?」

 

ミオ「ラームとバーとターがいます」

 

タツミ「すでに出尽くしていた!!」

 

ミオ「はい。そのようなわけで、『化身』の安定した展開は期待できません。★トリガーのターが23000以上のパワーでアタックできるのは圧巻ですが、トリガーをコールするのはリスクもありますしね。

ですので、フォースⅠに拘らず、状況が許すのであればフォースⅡも選択していくべきかと」

 

タツミ「そこは臨機応変に、だね」

 

ミオ「はい。便利な言葉です。

そんなアリフですが、もうひとつスキルがあります」

 

タツミ「妙に盛られてる!!」

 

ミオ「CB3することで、パワー+15000/★+1/ドライブ+1。バーとターをソウルブラストするなら、カウンターチャージ3できます。

CB3相当のスキルを、スペリオルライドに成功していれば1回実質タダで使えるということですね。

治トリガーや、カウンターチャージ次第ではありますが、1ゲームに3回使えることもあるでしょう」

 

タツミ「なんか“The Яe-birth”よりもデザイン凝ってない!?」

 

ミオ「そして、このアリフ。《ドーントレスドライブ・ドラゴン》との相性も抜群です」

 

タツミ「……本当だ!!」

 

ミオ「スペリオルコールは半ば諦めて、はじめからドーントレスにライドするのもいいですし、スペリオルコールからドーントレス⇒アリフと乗り継ぐのも、ターン数的には変わりません。

ドーントレスはカウンターコストを一切消費しない点も高相性です。

そしてブレイクライドに成功すれば、パワー28000、★2、トリプルドライブの2連撃です。

ここまで決まれば、本当にオーバーロードに勝るとも劣らない活躍が期待できそうですね」

 

タツミ「うん! オーバーロード以外も勉強していかないとダメだなあ……」

 

ミオ「そしてこのアリフ。スペリオルライドに成功すればソウルを5枚確保できるので、《ブレイジングフレア・ドラゴン》にライドすることで、即ソウルブラスト5の効果を適用することもできます。

相手の速攻や、イマジナリーギフトの不正受給に困った時のため、こちらも隠し味として採用しておくと思わぬ活躍を見せてくれるかも知れません」

 

 

●《ドラゴンモンク ゴクウ》

①V:【CB1、手札からG3を1枚捨てる】このユニットのドライブ+1。

②V:このユニットがアタックしたバトル終了時【CB1】することで、そのバトルのドライブチェックで出たノーマルユニットのグレードにより以下すべてを行う。

・グレード3-リアガードを2枚退却。

・グレード2-リアガードを1枚スタンド。

・グレード1-リアガードを1枚のパワー+10000。

 

タツミ「これもまた最古参!」

 

ミオ「ハッカイも忘れないであげてください」

 

タツミ「このカードもドーントレスとの相性が抜群!

トリプルドライブを得たままスタンドできるのは単純に強力だし、ゴクウ、ドーントレス双方のノーマルユニットを引いた際の効果も適用されやすくなるよ!」

 

ミオ「ただし、ゴクウにしてもドーントレスににしても、基本的にはトリガーを引いた方が戦果を得られます。

ご丁寧に、治ガーディアンがめくられてもG3の効果は適用されないように書かれていますし」

 

タツミ「そのくらい許してあげても、だよね」

 

ミオ「そのため、ノーマルユニットは残念賞として見るべきですが、G2がめくれた時の効果のみ、ユニット1体のスタンドとやや強力です」

 

タツミ「かげろうでリアガードの連続攻撃は貴重!」

 

ミオ「このことからG2を気持ち多めに配分しておくと、ゴクウならではの強みを生かせるでしょう」

 

 

●むらくも《式神使い リョウギ》

①V:【CB1】山札を上から5枚見て「忍妖」を1枚まで選びコール。相手のヴァンガードがG3以上なら2枚コール。

②V:このユニットの能力でリアガードが登場した時、そのユニットはこのユニットのカード名を得る。

③V:このユニットのアタックがヒットしなかった時、【SB2】することで、ドロップから「忍妖」を追加されたRと同じ枚数まで、追加されたRにコールする。

 

ユキ「ふふふ……えくすとらもひさしぶりねぇ」

 

ミオ「ユキさんとまたえくすとらでお話できて嬉しいです」

 

ユキ「ふふ、私もよ。

さて。むらくもに登場した新たなユニット、式神使いの女の子、リョウギは『忍妖』に関する効果を多く持つわ。

『忍妖』と言えば、むらくもを全否定するような、種類を参照する能力が印象的でしたけど、今回はばっちり同名カードを並べやすくする能力を持っているわ」

 

ミオ「これでダンガンニュードーも本領を発揮できますね」

 

ユキ「ダンガンニュードーが使えるのに、ダンガンニュードーが使えないって、意味がわからなかったものねぇ。

まあ愚痴はこのくらいにして。

リョウギは、自身の効果で登場したユニットを自身と同名に変える効果の他に、ふたつの能力を持つわ。

それぞれ展開に、連続攻撃と、ヤスイエを踏襲したような能力なのだけれど、いずれも、効果が不安定だったり、相手依存だったり、下位互換ではないけれどヤスイエよりは劣る印象は否めないわねえ」

 

ミオ「相手がG2にも関わらず、大量展開しながらVが2回アタックしてくるヤスイエがいかにおかしかったかというところでしょうか」

 

ユキ「とは言え、リョウギならではの強みはきちんと持っているし、何よりリョウギとヤスイエは意外と相性がよかったりもするのよ」

 

ミオ「ああ。ヤスイエ・テンマからリョウギにライドするんですね」

 

ユキ「ええ。ヤスイエは効果を使うと、能力の大きく劣るテンマにライドした状態になってしまうので、毎ターンの再ライドが必須。

そこでリョウギにライドしてしまうのは悪くないわ。

その段階なら、対戦相手もG3になっているはずだから、展開力に関してはヤスイエと遜色無いし、アクセルサークルも3つになっているので、③の影縫能力でユニットを3体展開できるわ。

ヤスイエならその段階で4点に追い詰めていることも珍しくないから、影縫も生かしやすいし、ヤスイエなら『忍妖』に寄せた構築も難しくない。

すべてがリョウギと噛み合っているのよ」

 

ミオ「結局のところ、アクセルサークルを増やせて、速攻ができて、構築の幅が広いヤスイエがすごいだけな気がしてきました」

 

 

●なるかみ《抹消者 ボーイングセイバー・ドラゴン “Я”》

①V:【CB1、リアガードを1枚呪縛】相手は手札とリアガードとドロップからそれぞれ1枚バインド。

②V:相手のノーマルユニットが山札以外からバインドされた時、相手は山札から、それと同名を1枚まで探し、バインド。自分のユニットのパワー+5000。バインドしなかったら+10000。

③V:このユニットがアタックした時、ソウルかRに「ボーイング」があるなら、【CB1、SB1】することで、リアガードを1枚スタンド。自ダメージゾーンが4枚以上なら、リアガードすべてをスタンド。

 

ライガ「おう! なるかみは俺にまかせろ!」

 

ミオ「はい。頼りにしています」

 

ライガ「このカードはな……すごく強いぞ!」

 

ミオ「ボーイングセイバー“Я”は、ボーイングソードの特徴を踏襲しながらも大幅に強化されています。

相手カードのバインドに応じて、デッキの同名カードをバインドする効果はそのまま、単体で、手札、リアガード、ドロップの3か所からカードをバインドすることができるようになったので、デッキ破壊の効率が大幅にアップしています」

 

ライガ「そして、すごくかっこいい!」

 

ミオ「デッキ破壊しかできなかったボーイングソードとも違い、攻撃能力も非常に高く、特にリミットブレイク達成時の全リアガードのスタンドは圧巻です。

この効果は1ターンに1回の制限を持たないので、ディセンダントでヴァンガードのスタンドに成功した場合、全リアガードが2回スタンドするという事態にもなりかねません」

 

ライガ「ああ! ディセンダントもかっこいいな!」

 

 

●《抹消者 スイープコマンド・ドラゴン》

①V/R:このユニットが登場した時、【SB1】することで、前列のリアガードをバインド。後列のリアガードを1枚、ユニットのいない前列Rに移動させる。

②V:相手リアガードがバインドされた時、相手の前列のリアガードを1枚選び、バインド。自ダメージゾーンが4枚以上なら、さらに【CB1、SB1】することで、イマジナリーギフト・アクセルを1つ得て、ドロップから「抹消者」をコール。

 

ライガ「このカードもかっこいいな!!」

 

ミオ「アクセルサークルを不正受給できる抹消者です。しかしアクセルサークルを取得できるタイミングはリミットブレイク達成時と遅く、それを除いたスイープコマンドはかなりしょうもないユニットに成り下がります」

 

ライガ「しょうもないな!!」

 

ミオ「なるかみには、かげろうにおけるドーントレスのような、繋ぎに長けたユニットも存在しません。

今のところは速攻された場合に速攻し返すのがせいぜいなユニットですが、今後のカードの追加によっては化ける可能性を秘めたカードと言えるでしょう」

 

ライガ「ドーントレスもかっこいいな!!」

 

 

●《アーマーブレイク・ドラゴン》

①V:【CB3】前列リアガードすべてをバインドし、ユニットのいない前列R1つにつき、そのターン中、このユニットのパワー+10000/クリティカル+2。

②V:このユニットがアタックした時、自ダメージゾーンが4枚以上なら、このユニットのパワー+10000し、相手は手札から守護者をGにコールできない。

 

ライガ「このカードもすごいぞ!!」

 

ミオ「はい。コストこそ重いものの、前列を除去しつつ単体パワー32000、★5によるアタックを可能とする、凄まじいユニットです」

 

ライガ「凄まじいな!!」

 

ミオ「相手がアクセルの場合、その★は7や9、11にまで伸びることもあるでしょう。

もちろんその分のパワーも上がりますし、極めつけはリミットブレイクで付与される守護者封じです。

今後、なるかみに4点以上のダメージを与えるという行為は、即死の危険と隣り合わせになります。

カードプールにあるだけでも相手に必要以上のアタックを躊躇させる、影響力の高いカードと言えるでしょう」

 

ライガ「高いな!!」

 

 

●ディメンジョンポリス《暗黒次元ロボ “Я” ダイユーシャ》

①手札:G3以上の「次元ロボ」ヴァンガードがアタックしたバトル終了時、このターンにアタックしたユニットすべてが「次元ロボ」なら、【CB1】することで、このカードにライドし、ドライブ-1。

②V:【「次元ロボ」リアガードを2枚呪縛】相手のヴァンガードのパワー-10000。

 

ミサダ「ユキさんはどこだっ!?」

 

ミオ「もう帰りましたよ」

 

ミサダ「くそーっ!! ああ、けど、少しユキさんの残り香が……」

 

ミオ「そこはライガさんのいた場所ですが」

 

ミサダ「そんなわけでディメポは、俺が担当させてもらいますよ!

“Я” ダイユーシャは、次元ロボ限定になった代わりに、条件の軽くなったグレートダイユーシャ!!

G3にライドしたターンからVで2回殴れるようになったし、その次のターンからは、グレートダイユーシャを経由することで、3回アタックすら可能に!!

こんな簡単にVが連続攻撃していいのかって言うくらい、シンプルに強い!!」

 

 

●《イニグマン・ストーム》

①V:「イニグマン」を含むソウル1枚につき、このユニットのパワー+5000。

②V:アタックステップ開始時、このユニットがパワー20000以上なら、このユニットのクリティカル+1し、35000以上なら、さらにドライブ+1し、50000以上なら、さらに『このユニットがアタックしたバトル終了時、【手札から2枚捨てる】ことで、このユニットをスタンドさせ、ドライブを0になるように増減させる』を得る。

 

ミサダ「あの《イニグマン・ストーム》が、ついにVスタン参戦!!

ソウルの『イニグマン』の数に応じて、そのパワーが増していくぞ!

さーて、他に『イニグマン』は、どんなのがいたかなー?」

 

ミオ「いません」

 

ミサダ「……へ?」

 

ミオ「『イニグマン』名称を持つユニットは、現状《イニグマン・ストーム》のみです」

 

ミサダ「……なんでだよっ!?

てっきり、俺が忘れていただけで《イニグマン・レイン》や《イニグマン・ウェーブ》あたりは先んじて収録されているものとばかり……。

マスクドポリスはいるのに……」

 

ミオ「ですのでこの能力は、再ライドした時に、さらにおまけで簡易フォースがもらえる、ぐらいの認識でいればよいでしょう」

 

ミサダ「もっとも、ストームの本命は、もうひとつの能力だぜ!

アタックステップ開始時のパワーに応じて、★、ドライブ、スタンドの権利を順々に得ていく、実にディメポらしい能力だ!!」

 

ミオ「これらの効果に、一切のコストがかからないのもポイントですね」

 

ミサダ「ああ! コストを使ってしっかりパンプして、最低限、ドライブ増加までは常に適用させておきたいな!」

 

 

●スパイクブラザーズ《ジャガーノート・マキシマム・マキシマム》

①V:各メインフェイズ開始時、相手のヴァンガードがG3以上なら、このユニットは『このターンに登場したあなたのユニットすべてのパワー+5000/シールド+5000』を得る。

②V:アタックしたバトル終了時、リアガードが4枚以上登場しているなら、【SB3】することで、縦列を1つ選び、その縦列のユニットすべてをスタンド。このユニットをスタンドさせたら、ドライブ−1し、ターン終了時、リアガードすべてを山札の下に置く。

 

オウガ「うっす、ミオ先輩!」

 

ミオ「おひさしぶりです、オウガさん。また少し大きくなりましたか?」

 

オウガ「選手でないとは言え、鍛えるのをやめたわけじゃないっすからね。

もちろん、ヴァンガードの鍛錬も欠かしてないっすよ」

 

ミオ「それは楽しみです」

 

オウガ「《ジャガーノート・マキシマム・マキシマム》は、一言で言うならスパイクブラザーズの異端児にして革命児!!

ディフェンシブタックルのポジションが示す通り、ユニットのシールド値を上昇させる能力を持ち、なおかつ……スパイク初のVスタンドだ、ヒャッホーイ!!!」

 

ミオ「厳密にはPスタンにおける絶勝ブルースが先ですが、おめでとうございます」

 

オウガ「コストも条件も重いので、Vスタンドはここぞという時に決めていきたいな!

もちろん俺の相棒、ライジングノヴァとの相性は抜群!

組み合わせるユニットは鉄板のブルスパイクでももちろんいいが、せっかくVがスタンドするんだから、Vのパワーを上げられて、ヒット時能力も得られるザイフリートも面白いぜ!」

 

ミオ「①の能力はライジングノヴァでは使えないので、《ジャガーノート・マキシマム・マキシマム》独自の強さもちゃんとありますね」

 

 

●ペイルムーン《妖剣の奇術師 サーラ》

①V:【CB1】山札からG3を1枚Rにコールし、このユニットは『G3リアガードすべてのパワー+2000し、ブーストを与える』を得る。

②V:ドライブチェックでG3以上が出たバトル終了時、【Rからノーマルユニットを2枚山札の下に置く】ことで、ソウルからG3を2枚まで選びコール。

 

エンド・オブ・ステージ「ペイルムーンはもちろん!!」

 

モモカ「あたし達の担当だねっ!!」

 

エンド「モモカぁっ!!」

 

モモカ「エンド・オブ・ステージっ! 会いたかったぁっ!!」

 

ミオ「……あなた達は、どちらさまですか?」

 

モモカ「あ、そう言えば結局あたし達って、音無さんとは会えずじまいだったような……」

 

エンド「ふっ。あの時はどれだけ探しても会えなかったのに、今こうして顔を合わせることができるとは。運命とは数奇なものだな……」

 

ミオ「いや、しみじみされても、まったく状況がわからないのですが」

 

エンド「それじゃ、さっそくサーラの紹介をしていこうか!」

 

モモカ「うん! けど、あたしに上手くできるかなぁ……?」

 

エンド「オレがサポートする! 自信もっていけ!」

 

モモカ「うん!」

 

ミオ「……まあ、楽しそうなので、よしとしましょうか」

 

モモカ「ま、まず①の効果はG3万能リクルート! 状況に応じて欲しいユニットをスペリオルコールしてこれるよ!

筆頭候補は《アーティラリーマン》! アタックのヒット時に重いデメリットを持つアタッカーだけど、サーラの効果でブーストさせることによって、その高いパワーだけを生かすことのできる、サーラデッキの生命線とも言えるユニット!

手札のG3をソウルに仕込むことで、②の効果の補助もできるよ!

まずはこのカードを後列に揃えるところから! かな?」

 

エンド「他にも、相手ターンに備えることのできる《銀の茨の獣使い ドリアーヌ》、連続攻撃の《ナイトメアドール ありす》、カウンターチャージの《コミカリティ・キメラ》など、候補はたくさんあるぜ」

 

モモカ「もうひとつの効果は連続攻撃! ドライブチェックでG3をめくる必要はあるけど、アタック回数を2回増やすことができるよ!

展開もできて、アタック回数も多い! これはすごいユニットだよね!!」

 

エンド「……うーん、それはまあそうなんだが」

 

モモカ「どうしたの? 歯切れ悪いね」

 

エンド「できることがあんまり《ゴールデン・ビーストテイマー》と変わってねーんだわ。

そっちはコストこそかかるものの、サーラのように不発も無いし、運がよければダブルトリガーだって乗る。

最低値でも最大値でも、連続攻撃の質は《ゴールデン・ビーストテイマー》の方が上なんだ」

 

モモカ「ええっ! そんなぁ……」

 

エンド「リョウギとヤスイエのように、比較対象がそのクラン内のトップなら、まだ救いもあるんだが。

《ゴールデン・ビーストテイマー》は初期のGR。それも現在は《バニーズビーストテイマー ティレイプス》とセットで扱われるようなカードだ。

比較対象がそんなカード単体で、しかも負けているようじゃ、ペイルムーン内での立場はかなり厳しいと言わざるを得ない」

 

モモカ「…………」

 

エンド「で、でもっ! サーラのG3を山札から持ってこれるという点は確かな強みだからな!

今後、より強力なG3が登場すれば、一気に化ける! 極端な話、ペイルムーンにパーシヴァルが登場しないとも限らないんだからな!

サーラが好きなら、信じて使い続けることは、けっして間違いじゃないんだぜっ!!」

 

モモカ「……うんっ! そうだね! あたし、これからサーラさんを使ってみるよ!」

 

エンド「ああ! その意気だぜ!!」

 

エンド(……え? オレは?)

 

 

●バミューダ△《Duo 魅惑の瞳 リィト》

①V:【リアガードを1枚バインド】1枚引く

②V:このユニットがアタックしたバトル終了時、【CB1、手札から1枚捨てる】ことで、このユニットをスタンドし、ドライブ-1。バインドゾーンから、このコストで捨てたカードと同名のカードを1枚まで選び、Rにコールする。相手のヴァンガードがG3以上なら、イマジナリーギフト・フォースを1つ得てVに置く。

 

ヒビキ「バミューダ△は、このボクに任せてくれたまえ!」

 

ミオ「はあ。まあ、がんばってください」

 

ヒビキ「リィトはVをスタンドさせつつ、手札コストとして捨てたカードと同名カードがバインドゾーンにあるなら、そのカードをスペリオルコールさせることもできる。VとRから多方面で連続攻撃できる強力なユニットだよ。しかも、相手がG3ならフォースもついてくる!」

 

ミオ「バインドにVスタンドにスペリオルコールにフォース。他のバミューダ△で見たような効果ばかりですね」

 

ヒビキ「バミューダ△は、他と比べてVにできるユニットが多いから、ある程度は仕方がないんじゃないかな。

ヴァンガードというゲームは、ある程度強い動きが限られてくるし、それをさらに強くさせようと思ったら、もう強い効果を組み合わせたり、さらにコストを安くさせたりするしかなくなってくるんだよね」

 

 

●アクアフォース《轟く波紋 ジノビオス》

①V:【SB1】山札を上から5枚見て、1枚コール。

②V:このユニットがアタックした時、前列にスタンドしているユニットがいないなら、【CB1】することで、リアガードを1枚スタンドさせ、自ダメージゾーンが4枚以上なら、リアガードすべてをスタンドさせる。ソウルに「高まる波紋 パヴロス」があるなら、スタンドさせたユニットのパワー+5000。

 

セイジ「よろしくお願いする!」

 

ミオ「はい。ジノビオスは、リィトにも増して目新しいことを書いていないシンプルなユニットですね。それでいて強すぎることもなければ、弱くもないので、かなりコメントに困ります」

 

セイジ「質実剛健と言ったところだな!」

 

ミオ「物は言いようですね」

 

 

●メガコロニー《邪甲帝王 ウラギラファ “Я”》

①V:このユニットがヴァンガードにアタックした時、【CB1】することで、相手は自分の手札から1枚以上、望む枚数選び、Rにレストでコールする。このコールで自動能力は発動しない。コールした枚数が、ソウルの「ギラファ」を含むG3の枚数より少ないなら、【リアガードを1枚呪縛する】ことで、このユニットをスタンド。

②V:自ターン中、相手のリアガードが登場した時、【リアガードを1枚呪縛する】ことで、前列のユニットすべてのパワー+15000。

 

アリサ「あらゆる悪行を極めたかのように見えたエリート怪人が、唯一成し得なかったもの……それは裏切り!!

女王に反旗を翻したギラファの邪道は、ついに頂点へと至る!!

まあ、当の女王陛下は、手のかからなかった子に反抗期がきたとか喜んでそうだけど!!

我が子が悪の道を往くのなら、たとえ裏切りであっても絶対に怒らないと思うのよね、あのお方なら。

そんなあたしと作者の妄想はさておき、ミオちゃん、ひっさしぶりー!」

 

ミオ「はい、おひさしぶりです。いつも通りですね、アリサさん」

 

アリサ「もちろん、アリサお姉さんはいつも通りのメガコロ推しよ。

そんな純白の甲殻がカッコいいウラギラファは、メガコロ初となるVスタンド!!

しかも手札を一切消費せず、ドライブすら減らないという、歴代Vスタンドの中でも最高峰!!

……当然、そんなものが簡単に許されるはずもなく!

ウラギラファのギミックをゆっくりじっくり見ていきましょ!」

 

ミオ「はい。まずはウラギラファのアタック時、①の効果が発動します。

相手は1枚以上のユニットを手札からレスト状態でスペリオルコールしなければなりません。

なお、Я前のギラファと違って、このスペリオルコールにパラライズは含んでいないので注意してください」

 

アリサ「そして、コールしたユニットの数が、ソウルにあるG3『ギラファ』の数より少ないなら、ウラギラファがスタンド!!

とは言え、さっきも言ったようにウラギラファのスタンドは、手札も減らない、ドライブも減らない、②の効果で前列に+15000までされる、1ハンデス付きのVスタンド!!!!

こんなもの、許してくれる対戦相手がいるはずもない!! ハンデスの方がよっぽどマシ!!

よって、ソウルにあるG3『ギラファ』の数に応じて、強制スペコの枚数が増えるパラライズ抜きのギラファ、くらいに思っておいた方がいいと思うわ」

 

ミオ「強制スペリオルコールさせる枚数の変遷は以下となります」

 

ソウルのG3『ギラファ』が0枚⇒1枚

ソウルのG3『ギラファ』が1枚⇒1枚

ソウルのG3『ギラファ』が2枚⇒2枚

ソウルのG3『ギラファ』が3枚⇒3枚

 

アリサ「ソウルに1枚G3『ギラファ』が入ったくらいじゃ、何も変わらないのよねー。

見ての通り、ソウルにG3『ギラファ』が2枚で、ようやくギラファとトントン。

②のパンプもあるとは言え、それだけじゃ何の下準備も必要としないギラファの方が強そう。

よって、最低でもソウルに『ギラファ』が3枚のパターンを目指したいところね。

それなら後列をぴったり3枚呪縛して、前列を+45000できるしね」

 

ミオ「では、ソウルにG3『ギラファ』3枚パターンを目指す構築とはどのようになるのでしょうか」

 

アリサ「まず、最初は素のギラファにライドしたいところね。ギラファはスキルでリアガードをソウルに入れることができるので、その効果でG3『ギラファ』をソウルインしてから、ウラギラファにライドすることで2枚は達成。

あとは《小隊長 バタフライ・オフィサー》でもう1体のG3『ギラファ』をソウルインできれば……ってとこね。

ソウルイン手段には《マシニング・スキャッターホーン》もいるけれど、現状、ギラファとマシニングの混合構築は厳しそう」

 

ミオ「自分3ターン目までにG3『ギラファ』が3枚、自分4ターン目にウラギラファが1枚必要というわけですか」

 

アリサ「そう! これまでのメガコロが積み重ねてきた、ありとあらゆるG3をかき集める手段を結集して、4枚のギラファを手札に揃えるのよ!」

 

ミオ「それに加えてG1である《小隊長 バタフライ・オフィサー》も必要、と」

 

アリサ「そこは根性で!」

 

ミオ「わかりました」

 

アリサ「ここまで大がかりなコンボをしかけておいて、できるのは強制スペコさせる枚数が1枚増えて、前列を+45000できるだけのギラファ!!(★抜き、パラライズ抜き)

+45000の数値が低いとは言わないけど、今の環境、それで3回しか殴れないんじゃ、自分4ターン目に勝つことなんて不可能!! イントルードシザーとの相性も悪いしね。

ちなみに、ただでさえアド取りが苦手なギラファで、構築も歪になるウラギラファでは、5ターン目は無いものと考えていいわ。

自分4ターン目がマストなキルターン!!」

 

ミオ「つまり、4ターン目で決着をつけられるフィニッシャーも必要というわけですね」

 

アリサ「そう! そこであたしがオススメしたいユニットは《デスワーデン・アントリオン》!!

ソウルにG3『ギラファ』がいるので、コストの心配は必要なし! 手札とソウルのG3『ギラファ』は消費しちゃうけど、ウラギラファにライドした以上、そこがファイナルターンなので気にする必要は、やはりなし!

アントリオンもG3なので、ギラファと一緒に集めやすいのもポイントね。

最低でもパワー67000、★2の守護者封じが、3ハンデスと共に襲い掛かってくるのは、脅威の一言に尽きる!!

できることならアントリオンを2体並べたいけれど、相手がダメージ3とかの場合、前列1体と、後列2体を呪縛して、アントリオンをブーストしてパワーを集中させる方が有効な場面も多いから注意してね。

なによりも、初期のメガコロニー二大巨頭ともいえるギラファとアントリオンが並び立つ、その雄姿が! もうたまらんのよ!」

 

ミオ「そろそろ次に行きますよ」

 

 

●《メガコロニー戦闘員S》

①R:このユニットが登場した時、【SB1】することで、相手は手札から1枚選び、レストでコールし、1枚引き、そのユニットをパラライズ。このコールでは自動能力は発動しない。

②ドロップ:スタンドしている相手ユニットがいないなら、【手札から1枚捨てる】ことで、このカードをユニットのいないRにコールし、ソウルチャージ1

 

アリサ「手札を1枚捨てるだけで、ドロップから蘇り、何故かソウルチャージまでしてくれる、グランブルーもビックリのユニットよ!

ソウルチャージの利便性は言うに及ばず、いついかなる時でもG2を用意できるようになったっていうのも地味な利点で、グレード比率がG3に偏りがちなメガコロでもプロテクトⅡを選びやすくなったわよ。

イントルードシザーをドロップへ送る手段としても優秀! まずはさっさと手札からコールして、さっさとインターセプトでドロップに送っちゃおう!」

 

ミオ「①の効果は、小型のギラファといった印象ですね」

 

アリサ「そうねー。けど、相手に1枚ドローさせる点が大問題で、基本的には封印安定かな。

一応、ウラギラファとコンボして前列+15000はできるけど、ウラギラファ自身の効果でだいたい足りてるし。

あとは、マスタービートルなら相手の盤面にいるユニットを増やして、自身のドライブを増やす、なんてやり方もできるこっちゃできる。

ただ、相手としてはユニットを増やしたくなければ上書きするという選択肢もあるわけで、結局のところ相手依存なのよねー」

 

ミオ「メガコロニーらしいと言えばらしいですが」

 

アリサ「ただ、この難しい効果を生かせるデッキも存在する! それこそがデッキ破壊に特化したガンニングコレオ軸よ!」

 

ミオ「ああ。相手にドローさせる点を、デッキ破壊として見るわけですね」

 

アリサ「そう! 毎ターン、インターセプト要員を確保しつつ、相手に1~2枚強制ドローさせ続ける、脅威のデッキ破壊エンジン!

特に、自発的に盤面から離れつつ、山札を削ることのできる《タービュラント・シグナル》との相性は抜群で、このユニットで戦闘員Sを上書き、効果を発動して盤面から離れることで、空きサークルができるので、そこにもう一度戦闘員Sをスペコすることができるの!

これを繰り返せば、いっきに5枚くらいは山札を減らせそう!

まさしくデッキ破壊軸の必殺技ね!」

 

ミオ「なるほど。デッキ破壊のエンジンにして必殺技でもあるわけですね。ですが……」

 

アリサ「……うん。ミオちゃんなら気付いてるよねー。ここでオウガ君なら『こいつはメガコロ最強ユニットだぜ!』って盛り上げてくれただろうから、落としやすかったのに」

 

ミオ「はい。便利な人でした」

 

アリサ「この戦闘員S、たしかにメチャ強いのよ。そしてこの子の場合、その強すぎることが大問題!!

あえて最初に触れなかったけど、戦闘員Sをドロップからスペコする条件は、相手にスタンドしているユニットがいないこと。

普通なら満たされていて当然の条件だけれど、こんなバケモノがドロップという見え見えの場所に鎮座していたなら、相手はさすがにユニットを1体立たせたままターンエンドする! あたしならそうするし、メガコロに詳しい人ならきっとそうする!

そして、Vスタンのメガコロは、相手を効率的にレストする手段が少ないのよ。よくてアーマービートルくらい? G期には腐るほどいたのに!

そんなわけで、上手い人を相手にした場合、このユニットは仕事をさせてくれない可能性が大。そうでなくても、ただでさえЯユニット全盛の環境で、相手の盤面にスタンドしたままのユニットが残りやすいのに。

戦闘員Sが活躍しなくなるだけならまだしも、リトルドルカスやブリブリと言った汎用カードまで巻き添え食って効果が適用されなくなるので、Sに頼り切った構築にするのは非常に危険!!

効果自体は強力に違いないので、あくまで隠し味程度に。止められてもデッキが回るように構築しておくのは大前提かなー」

 

 

●《メガコロニー戦闘員M》

①G:このユニットがGに置かれた時、レストしている相手のユニット2枚につき、シールド+5000。

②G:このユニットがGから退却した時、スタンドしている相手のユニットがいないなら、このカードをユニットのいないRにコールし、ソウルチャージ1

 

アリサ「ゲルドスラッグを3段階くらい強化したようなこのカード! ゲルドスラッグも弱いカードじゃなかったのに!」

 

ミオ「ゲルドスラッグと比較して、ガード値の増加は2枚につき+5000となったものの、ヴァンガードを含めた前列も数えるようになり、特にアクセルに対して強く出られるようになりました」

 

アリサ「そして、見どころは②の効果ね。Gからの退却後、相手ユニットがすべてレストしている場合、このユニットをスペリオルコール&ソウルチャージ!」

 

ミオ「《ブリリアン・ブリスター》が登場してから、メガコロニーの、ソウルの重要性は格段に上がっています」

 

アリサ「ほんとそれ! ホーネットと併せて採用したって足りないくらいだわ。

この子のソウルチャージを美味しく味わうコツは、使い渋らないこと!

例えば序盤も序盤。後攻の対戦相手がG1のヴァンガード単体でアタックしてきたとする。

そんなよくある光景で、このカードはさっさと使ってしまっていい!

仮に、相手にトリガーを引かれて貫通されたとしても、このカードが盤面に残ってソウルチャージまでしてくれるので、手から普通にコールした時よりも断然オトク! 不思議!」

 

ミオ「ファイトが終盤になるほど、盤面に出てくるユニットも増えて、ダメージトリガーやら呪縛やら暗黒繭やらで、スタンド状態のユニットが残りやすくなりますからね。最序盤が②の効果を適用できる最大のチャンスというわけですね」

 

アリサ「これはソウルチャージと、序盤にダメージを抑えるプレイングを重視した場合の一例だけどね。

コストや有効治の確保で、最初の1点は受けた方がいいことも当然あるわ。このプレイングが最適解だなんて思わないこと!

このあたりは構築時点で、相手が何で、自分がどうなら、どのように動くか、きっちり指針は立てておくべきね。

書いてあることが強いので、雑に使っても活躍はしてくれるだろうけど。このカードの切り方次第で勝敗の明暗が分かれてしまうレベルの、とっても奥深いカードよ!」

 

 

「Vクランコレクション Vol.6」に続く



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Ex.58「Vクランコレクション Vol.6」

登場人物&その後

●十村ヒカル
誰よりも勝ちにこだわる意識高い系ファイター。大学1回生。
使用クランは「エンジェルフェザー」
特定のチームやサークルに所属せず、ただひたすら孤高に腕を磨き続けている。

●御厨ムドウ
容赦の無いファイトで対戦相手を打ち負かす、謎多き強豪ファイター。
使用クランは「シャドウパラディン」
プロファイターを目指していたが、その知識とあけすけな物言いを買われ、ヴァンガード雑誌の編集部にスカウトされる。
彼の書くコラム『ヴァンガード へっぽこカードレビュー in惑星クレイ』は、独自の切り口で注目カードが解説されており、コアな人気を誇る。

●小金井フウヤ
人当たりはいいが、冗談が通じない堅物ファイター。
使用クランは「ゴールドパラディン」
プロファイターとして活躍しており、特に女性人気が高い。ルックスもイケメンだ。
ミオとの交流も続いているため、熱愛報道が流れたことも。本人は否定しているが、ミオ側が否定していない(興味ないので無視している)ため、ややこしいことになっている。

●黒澤ミカゲ
カードファイトに興じる好々爺。ユキの祖父。故人。
使用クランは「ぬばたま」
今も天国からレイやユキを見守っているにちがいない。

●藤村サキ
マイペースでミーハー気質な恋するメガネっ娘。
深いヴァンガードの知識を持つ大学1回生。
使用クランは「たちかぜ」
去年は面倒見のよい部長として、響星学園カードファイト部を牽引してきた。
今は教員免許の取れる大学で、自分の夢に向かって邁進中。

●星見トウコ
最年長のプロファイターとして様々な記録を残してきた伝説。
がさつで容赦の無い性格のため、人気は低い。
使用クランは「ノヴァグラップラー」
今はプロを引退し、ヴァンガードを広めるため世界中を旅している。

●ダルク・ヴァーグナー
若くして世界ランキング1位を誇る、プロファイターの中のプロファイター。
使用クランは「ダークイレギュラーズ」
今も世界ランキング1位の座を守り続けており、ミオやヒビキといった若者の台頭を楽しみに待っている。

●葵アラシ
背は低いが豪快で危険なファイター。天性の勝負勘を持つ。
使用クランは「グランブルー」
本名は「葵ナギ」だが、グランブルー使いが「凪」では格好がつかないということで「嵐」を名乗っていた。
今は「葵ナギ」に戻り、船乗りとして島と本土の橋渡し役を担っている。

●春日マナブ
常時やる気のない、響星学園のカードファイト部顧問。
使用クランは「グレートネイチャー」
サキやレイ、タツミとたまにファイトするようになり、3人の成長に一役買った。

●柊マナ
ネガティブ思考がはかどる内向的な少女。高校3年生。
自信の無さに反して、ヴァンガードの実力は非常に高い。
使用クランは「ネオネクタール」
天海学園カードファイト部は彼女ひとりになってしまったが、レイとの交流は続いており、たびたび会いに行っている。

●時任レイ
根絶者にディフライドされていた少女。
ミオと違って表情豊かで社交的な高校3年生。
使用クランは「ギアクロニクル」
スチームメイデンも使いはじめた。
現在は響星学園カードファイト部の部長を務めている。
タツミに対しては先輩風を吹かしているが、タツミの方がしっかりしているため、何かと暴走しがちな先輩を後輩がフォローするという形になりがち。いいコンビ。


●エンジェルフェザー《回転する剣 キリエル》

①V:このユニットが登場した時、自サークルにプロテクト・マーカーがあるなら、【CB1】することで、イマジナリーギフト・プロテクトを1つ得る。

②V:自サークルのプロテクト・マーカー1つにつき、このユニットのパワー+5000。

③V:このユニットがアタックした時、【CB1、SB1】することで、ダメージゾーンから、プロテクト・マーカーのあるRと同じ枚数まで選び、Rにコールし、それらの自動能力は発動しない。その後、この効果で選ばれたダメージゾーン1枚につき1ダメージ。

 

ヒカル「やれやれ面倒ですね。何故、僕がこのようなことを」

 

ミオ「おや? 自信がないのでしょうか」

 

ヒカル「……そうは言ってないでしょう。

キリエルは、エンジェルフェザーでたまに登場する、プロテクトⅡのテコ入れ枠です、

プロテクトⅡを選ばなければ、このカードはバニラになってしまうので、相手がヴァルケリオンであろうと、クロノファングであろうと、プロテクトⅡの取得は必須です」

 

ミオ「本来、ギフト側がユニットを補助しなければならないはずなのに、なんでユニット側がギフトを補助してあげなければならないのでしょうか」

 

ヒカル「知りませんよ……。

このユニットは、ライド時にプロテクトⅡを選んでいるのなら、さらに追加でプロテクトⅡを得ることができます。

 

ミオ「単体では影響力の低いプロテクトⅡもふたつ集まればフォースⅠを越えますね」

 

ヒカル「そして、プロテクトⅡの数だけ、パンプ、ダメージゾーンからのスペリオルコールによる連続攻撃、さらにはダメージチェックと、様々な恩恵が得られます。

①のスキルと合わせてコストは一見重く見えますが、スペリオルコールの際にほぼほぼ全回復できるので、元手さえあれば大丈夫。むしろ余裕のある方です」

 

ミオ「やればできるじゃないですか」

 

ヒカル「僕は元々できるんですよ」

 

 

●シャドウパラディン《呪札の魔女 エーディン》

①V/G:このユニットがアタックされた時か、このユニットがGに置かれた時、【「魔女」を含むリアガードを2枚退却させる】ことで、スタンドしている相手のリアガードを1枚を退却。

②R:「魔女」を含むヴァンガードがいるなら、このユニットは、相手のカードの効果で選べず、インターセプトを得て、パワー+5000。

 

ムドウ「エーディンだヒャッホオオオオオオオオイ!!!!」

 

ミオ「誰ですかあなたは」

 

ムドウ「つれないことを言うな。俺だ。御厨ムドウだ」

 

ミオ「私の知っているムドウさんと、まったくキャラが違ったものですから」

 

ムドウ「トートツィーゲルと並んで、作者のシャドパラ最推しユニットであるエーディンが登場したのだからこうもなろう」

 

ミオ「作者に乗っ取られているじゃないですか」

 

ムドウ「美人だしな」

 

ミオ「そこはいつものムドウさんですね」

 

ムドウ「そんな作者ですらまったく予想していなかった、新たなエーディンのスキルだが、お馴染みの相手バトルフェイズに相手ユニットを退却させるスキルが、何と手札からガーディアンサークルにコールした際にも使えるようになった。

手札という未公開領域から出てきて、相手のアタックを強制的に1回分減らしてしまうスキルが弱いわけがない」

 

ミオ「今後、魔女と戦う際には、常に意識しておかなくてはならないカードですね」

 

ムドウ「コストは魔女でなければならなくなったので、魔女に寄せた構築でしか使えなくなったが、ヴァンガードまで魔女である必要はない。

奇襲的に使った方が強いスキルではあるし、ルアードやモルドレッドのようなデッキで使った方が、意表は突けるかもな。

どうせネヴァンならどのようなデッキにも投入されているだろうし、魔女が偶然後列に2体いたとしても、さして違和感はあるまい。

同じ相手には一度しか通じないだろうが、大会など一発勝負の場なら、その一度が致命打になる」

 

ミオ「なるほど」

 

ムドウ「そしてこのエーディン、嬉しいことにVでも運用が可能だ。

わざわざこのカードを手札から出す必要が無くなったので、消費こそ軽減されているが、最大の武器である奇襲性が失われているため、相手が攻撃順に融通の利くデッキの場合、思うような戦果を挙げられないことも多いだろう。

アタック時には13000のバニラでしかなく、シャドウパラディンはアタッカーとなるリアガードも少ないので、攻撃力は誇張抜きで最底辺だ」

 

ミオ「《結氷の魔女 ベンデ》の最速スペリオルコールを成功させて、パワーの無さを誤魔化していきたいところですね」

 

ムドウ「攻撃力を高めたいなら、同じ魔女で単体33000アタッカーになる《群像の魔女 アンネリン》も候補に入る。

が、魔女はカードをデッキに戻す手段が豊富で、《貴石の魔女 ダーナ》で一度だけながらデッキ破壊もできるため、ライブラリーアウトに特化したデッキを組んでみるのも一興か。

とにかくエーディンでもう一度戦える! それだけで俺は今、最高に幸せだヒャッホオオオオオオオオイ!!!!」

 

ミオ「それはまあ、おめでとうございます」

 

 

●《撃退者 ドラグルーラー・ファントム》

①V:ライドフェイズにこのユニットが「撃退者」を含むユニットからライドした時、山札から「撃退者」を1枚コール。相手のダメージゾーンが4枚以下なら、【「幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム」をソウルブラスト】することで、相手に1ダメージ。

②V:このユニットがアタックした時、【CB1、SB1】することで、前列の「撃退者」と「ブラスター・ダーク」以外のあなたのリアガードすべてを退却させ、退却させた枚数1枚につき、前列のユニットのパワー+5000。2枚以上退却させたら、前列のリアガードをすべてスタンド。

 

ムドウ「お馴染みドラグルーラーだ。

まずはモルドレッドにライドし、フォースをばら撒きつつ、ドラグルーラーにライドして1点バーン。連続攻撃で仕留めるという、流れるような動きが美しい良デザインのカードだな。

モルドレッドが先攻だと本気を出せないので、先攻を取った際のゴリ押し力に欠けるのが玉にキズか」

 

ミオ「特徴としては、撃退者でありながらコストに撃退者以外のユニットを要求されている点ですね」

 

ムドウ「ああ。一見、デッキ構築が難しそうに見えるが、G1を撃退者以外で固めるだけでも形にはなる。

コスト要員としては、撃退者に属さないユニット……ネヴァンやアビサル・オウルの方が圧倒的に優秀だからな。このあたりのデザインも素晴らしい」

 

 

●《始原の魔道士 イルドーナ》

①山札/ドロップ:このカードのグレード-2。

②手札:ヴァンガードがG1なら、【このカードを手札から捨てる】ことで、山札を上から10枚公開し、G1が2枚以上公開されたら、公開されたG2以上から1枚選び、手札に加え、山札をシャッフルする。

③V/R:アタックした時、【CB1、他のリアガードを2枚退却させる】ことで、2枚引く。このユニットがVにいるなら、ドロップのG1のカード1枚につき、そのバトル中、このユニットのパワー+5000。

 

ムドウ「俺の相棒、イルドーナだ」

 

ミオ「そういう設定だったんですね」

 

ムドウ「ああ。この小説が連載されている間は、ついぞ収録されなかったがな。

しかも、今回のイルドーナも、どちらかというとリアガード寄りだ」

 

ミオ「クラレットソードや、ルアードと言った、G1に比重を置いたデッキのサポートですね」

 

ムドウ「そうだ。①の効果で必要な領域ではG1として扱え、②の効果でライド事故を回避することができる。

③はヴァンガードにしていれば、余裕でパワーは50000を越えるので、再ライドできなければ大きくパワーが低下してしまうクラレットソードでは、ヴァンガードとしての出番もあるかも知れん。

だが特筆すべきは、ソウルではG3として扱われる点だろうな」

 

ミオ「《ナイトメア・ペインター》でドロップのイルドーナをソウルに置くことで、『ソウルにG3があることで適用される効果』を最速で満たすことができますね」

 

ムドウ「ああ。その中でも最も危険なのは、間違いなくルアードだろう。

ベンデとのコンボが制限されて以来、再び相手がG2の段階から★2でアタックできるようになった」

 

ミオ「それが強すぎたので、ベンデとルアードは選抜制限にされたはずでは?

私は人の感情に疎いので、開発側がそれをした意図がわかりません」

 

ムドウ「それは俺にもわからん」

 

 

●ゴールドパラディン《スペクトラル・デュープ・ドラゴン “Я”》

①V:ソウルに「スペクトラル・デューク・ドラゴン」があるなら、このユニットのパワー+10000し、相手のヴァンガードがG3以上なら、さらに★+1。

②V:このユニットがアタックしたバトル終了時、【CB1、リアガードを3枚呪縛する】ことで、このユニットを【スタンド】させ、そのターン中、ドライブ-1。

③手札:ヴァンガードがアタックしたバトル終了時、自ダメージゾーンが5枚以上なら、【CB2、リアガードを3枚呪縛する】ことで、このカードにライドし、このユニットの自動能力は発動しない。

 

フウヤ「やあ、ミオちゃん。今日は有意義な時間になることを期待しているよ」

 

ミオ「はい。損はさせないつもりですよ」

 

フウヤ「ゴールドパラディンにも、ついにЯユニットが登場したね。

①の効果で、ソウルにスペクトラルデュークがあれば強化される。これが無ければ、素のパワーは頼りないので、できる限りデュークからライドして運用すべきだね。

デュークの特徴であった耐久力は失われるので、できればこれにライドしたターンで仕留めにいきたいところだ」

 

ミオ「②の効果は、デュークと同様にVスタンドです。

Яユニットのコストとしては非常に珍しく、バトルフェイズ中に、アタックを終えたユニットを呪縛することで効果を発動できます。

要するにユニットが揃っていればいいため、ゴールドパラディンでは容易に満たすことができるでしょう。

同じЯユニットのVスタンドで、バトルフェイズ前に全ユニットを呪縛させなければならないこっきゅんや、アタックした端からそれが敵に届かず呪縛されるエシックスバスターが気の毒に思える効率のよさです」

 

フウヤ「まあ、そこらへんのユニットに気を遣っていたら、今後、強いカードなんて作れないけどね」

 

ミオ「極めつけが、手札で発動するアルティメットブレイクです。

コストも条件も重いですが、ドライブの減らないヴァンガードが未公開領域から追撃してくるというのは、相手のプランを崩すには十分すぎる破壊力です。

この効果だけを目当てに、スペクトラル軸以外のデッキにこのカードを投入することも考えられるでしょう」

 

 

●《断罪竜 クロムジェイラー・ドラゴン》

①V:【CB1、手札から「断罪竜 クロムジェイラー・ドラゴン」を1枚捨てる】ことで、山札を上から、ユニットのいないRと同じ枚数見て、望む枚数コール。

②V:このユニットがアタックした時、あなたのRすべてにリアガードがいるなら、【CB1、SB1】することで、そのバトル中、このユニットのパワー+10000/★+1し、自ダメージゾーンが4枚以上なら、さらにドライブ+1。

 

フウヤ「新たなスペクトラル・デュークと共に登場したのは、同じ部隊に属するクロムジェイラー・ドラゴン!

そのスキルも懐かしのペルソナブラスト!! 空きサークルすべてにユニット展開と、書いてあることは悪くないんだけど、ペルソナブラスト全盛の9年前とは違って、今は再ライドを繰り返して毎ターンギフトを得ていくのが大前提の環境。

再ライド先である自身を捨てなければならないペルソナブラストは、環境的にはかなりの向かい風なんだよね」

 

ミオ「安定した再ライドは望めないので、サブヴァンガードは準備しておくべきでしょうか」

 

フウヤ「もしくはこのユニットをサブヴァンガードにしてしまうかだね。スペクトラル・デュープは、ユニットを展開する必要があるにも関わらず、本人は展開能力を持たないため除去に弱い。

そういった相手に、クロムジェイラーの展開力は有効に働くはずだ。

クロムジェイラー自体が4積み必須のカードなので、構築はかなり難しいんだけどね……」

 

ミオ「一気にデッキを6枚以上めくることができるので、1枚制限のパーシヴァルを強引に引いてくるためのカードとしても使えますが……」

 

フウヤ「より効率よくそれができるユニットが登場してしまったね」

 

ミオ「そんな前置きを経て、次のカードに行きましょう」

 

 

●《解放者 ホーリーシャイン・ドラゴン》

①V:このユニットが「解放者」からライドした時、【CB1】することで、山札から、このユニットと別名のG3「解放者」にライドする。自ダメージゾーンが4枚以上なら、山札を上から5枚見て、2枚まで選びコール。

ソウル:自ターン終了時、自ダメージゾーンが4枚以上なら、このカードを手札に加えてよい。

 

フウヤ「どんな『解放者』にもライドできる『解放者』のワイルドカード……なんだけど、ミもフタも無い言い方をすれば、パーシヴァルに確定でライドできるカードだ」

 

ミオ「1ターン、パーシヴァルで戦わなくてはなりませんが、ゴールドパラディンでアクセルサークルをふたつ増やせるメリットの前では些細な問題と言えるでしょう。

パーシヴァル自体もVで扱える効果を持っており、決して無力なユニットではありません。

その後はグルグウィントにライドし直すのもいいですが、同じ解放者であり、ソウルにパーシヴァルがあることを要件に持つプロミネンスコアとの相性も抜群です」

 

フウヤ「むしろそれこそが想定された使い方なんだろうけどね!!」

 

ミオ「安定してアクセルサークルを増やせるのが強すぎるので、パーシヴァルは1枚制限にされたはずでは?

私は人の感情に疎いので、開発側がそれをした意図がわかりません」

 

フウヤ「それはミオちゃんでなくともわからないと思うよ」

 

 

●ぬばたま《妖魔忍竜 マゴロク“不還”》

①V:妖魔変幻・トークン1枚につき、前列ユニットのパワー+5000。

②V:相手のヴァンガードがG3以上で、妖魔変幻・トークンが3枚以上なら、前列ユニットの★+1。

③V:自リアガードが手札に戻された時、ユニットのいないRに妖魔変幻・トークンを1枚コールし、さらに【CB1】することで、イマジナリーギフト・プロテクトを1つ得て、そのサークルに置く。

 

ミカゲ「ほっほっほっ。はじめましてじゃなあ、ミオちゃん」

 

ミオ「黒澤ミカゲさんですね。お話はレイさんから伺っています」

 

ミカゲ「それは嬉しいのう。

さて、ぬばたまならわしに任せてはくれんかのう」

 

ミオ「はい、お願いします」

 

ミカゲ「よしきた!

マゴロクは、ハンゾウと同様に妖魔変幻・トークンを扱うヴァンガードじゃな。

後列に妖魔変幻・トークンを3体並べることで、前列全員のパワー+15000、★+1の状況を作ることができるので、まずはそれを目指すとよいじゃろう。

このユニットも味方のバウンスに反応して妖魔変幻・トークンをコールしてくるので、《妖魔忍竜 クロギリ》や《妖魔忍竜 ヤミシブキ》の効果を1度使えば、それだけで条件は達成じゃな」

 

ミオ「CB1することでプロテクトⅡを得ることもできますが」

 

ミカゲ「ふむ。わしはこの効果は無理に狙わんでいいと思っておるよ。

妖魔変幻は確実にブーストできるとも限らんし、除去相手では妖魔変幻のインターセプトはほとんど意味を成さん。

相手が除去を得意としていたり、完全ガードが必要だと判断するなら、素直にプロテクトⅠを選ぶのがええじゃろ。

この効果に拘らなんだら、マゴロクはノーコストで動けるしの」

 

ミオ「下手に妖魔変幻がプロテクトⅡを得るよりかは、マガツゲイルなどで手札を増やした方が有用な場面も多そうですね」

 

ミカゲ「それもよいが、わしのおすすめは《忍妖 ゴイノヒ》じゃな。

コストはCB2とちと重いが、パワー+15000と★+1を乗せたまま2回攻撃することができるぞ」

 

ミオ「なるほど。それは確かに強力ですね」

 

ミカゲ「もうひとつ裏技として、盤面が埋まっていて②の能力で妖魔変幻を置けなかった場合、プロテクトⅠを選んでいれば手札に加えることができる。

ま、こんなところかのう。わしはそろそろおいとまさせてもらうよ」

 

ミオ「レイさんには会っていかないんですか?」

 

ミカゲ「老人がいつまでもでしゃばっているようじゃいかんよ。あの子はもうわしがいなくてもやっていけるはずじゃ」

 

ミオ「……それもそうですね。今日は遠いところからありがとうございました」

 

 

●たちかぜ《絶古代竜 スピノドライバー “Я”》

①V:このユニットが登場した時、『1枚引き、あなたの手札から1枚コールする。そのユニットにあなたの山札を上から1枚武装ゲージを置いてよい』を1回行う。ソウルに「古代竜 スピノドライバー」があるなら3回行う。

②V:あなたのダメージゾーンが4枚以上なら、【CB1、武装ゲージを持つリアガードを2枚呪縛する】ことで、このユニットは『V:ドライブチェックで前トリガーが出ているなら、前列の「古代竜」すべての★+1』を得る。

 

サキ「たちかぜ初のЯはスピノドライバーっ!!!」

 

ミオ「唐突ですね」

 

サキ「いやー、これがまたとってもかっこいいんですよー。

スピノドライバーの特徴である、背中から発射されている刃が、Яだと黒輪になってるんですよ! それがまたよくて……」

 

ミオ「そろそろこのユニットの解説をお願いします」

 

サキ「はっ! そうでした!

私ったら、たちかぜのユニットの話になるとつい夢中になってしまって……。お恥ずかしい……。

そんなかっこいいスピノドライバーЯは、もちろんスピノドライバーとの相性が抜群です!

登場時に1枚引いてから手札のユニットを武装ゲージ付きでコールでき、なおかつソウルにスピノドライバーがいれば、それが3体も出てきます!!」

 

ミオ「スピノドライバーの弱点であった、ブレイクライド前にユニットを除去されてしまうと何もできないという弱点が補強されているわけですね」

 

サキ「はいっ! そして、リミットブレイク時に、前トリガーがめくれた場合に古代竜の★を+1することができます!

真古代竜を彷彿とさせるエモい能力で、決まれば超強力ですが、スピノドライバーはツインドライブしかできないので、コストが重い割にはかなり運任せです!

後述するティラノレジェンド様と組み合わせたいですね」

 

ミオ「……様?」

 

 

●《古代竜 ティラノレジェンド》

①V/R:このユニットが、Vに登場した時か「古代竜」の能力でRに登場した時、このユニットのパワー+10000/ドライブ+1。さらに【手札から1枚捨てる】ことで、ドロップから前トリガーを1枚、山札の上に置く。

②V/R:このユニットがアタックしたバトル終了時、【CB1、リアガードを1枚退却させる】ことで、1枚引く。

③R:ドライブチェックでトリガーが出た時、このユニットに山札の上から1枚武装ゲージとして置く。

 

サキ「そしてこちらにおわすのが、ティラノレジェンド様でございます!

いやー、かっこいいですねー!!

ラプトル・カーネル、ギガレックスに次いで、作者が好きなたちかぜのユニットです!

こと名前においては、全ユニットの中でもトップクラスにお気に入り!

ティラノでレジェンド! 暴君にして伝説! これほどまで恐竜にお似合いの名前があるでしょうか!

何ならティラノサウルスにティラノサウルスと名付けた人のセンスがまずすごい! どれだけ厨二心を残してるんですか!」

 

ミオ「作者が新しい恐竜の化石を見つけようものなら、アルティメットサウルスとか名づけそうで怖いですね」

 

サキ「“Я”もつけちゃいましょう!」

 

ミオ「ヴァンガードファイターの鏡ですね」

 

サキ「さて、盛大に話が逸れてしまいましたが、Vスタンにもついにティラノレジェンド様がご降臨です!

基本的な役割は、前述した通り、スピノドライバー各種の効果でスペリオルコールして、前トリガーをデッキトップに仕込むこと!

ブレドロメウスもスペリオルコール能力を持つので、真古代竜でも採用できますね!

ただし、真古代竜で使う場合、ティラノレジェンドは前を引いても★が乗らないため、他の真古代竜と足並みが揃わない点は注意です」

 

ミオ「状況に応じて、ティラノレジェンドを後列に下げるか、上書きする必要があるでしょう」

 

サキ「そしてティラノレジェンド様は、登場時にドライブが増加するので、ヴァンガードに採用することもできちゃいます!

真古代竜と組み合わせる場合、★の乗らないティラノレジェンドのアタックはノーガードされがちですが、前トリガーを確実に仕込むことができるティラノレジェンドデッキは、トリガーを前で統一する必要はありません!

★トリガーも採用しておけば、真古代竜とたかをくくってティラノレジェンドのアタックをノーガードしてきた相手の不意をつけるかも知れません。

もしくは、ブーストした時のヒット時能力を持つプテラフィードでブーストしてあげれば、★が乗らないにしろ相手はノーガードしにくくなりますね」

 

ミオ「そう考えると、意外と面白いデッキが組めそうですね」

 

 

●ノヴァグラップラー《最強獣神 エシックス・バスター・エクストリーム》

①V:「獣神」がスタンドした時、ソウルに「獣神 エシックス・バスター」があるなら、このユニットのパワー+5000。

②V:ドライブチェックで「獣神」が出た時、【CB1、手札から1枚捨てる】ことで、そのドライブチェックで出た「獣神」と同じグレードの、「獣神」リアガードを1枚選び、スタンド。自ダメージゾーンが4枚以上なら、この効果でスタンドさせたユニットと同じグレード「獣神」ユニットすべてを【スタンド】させる。

 

トウコ「ノヴァならあたしの出番さね! ……と言っても、ここは弟子に任せようかねえ」

 

ミオ「スポンサーになってもらった覚えはあれど、弟子になった覚えはありませんが」

 

トウコ「スポンサーも師匠も似たようなもんさ!」

 

ミオ「そうでしょうか?

とりあえず、エシックス・バスター・エクストリームは、色々と書いていますが、目指すのはただひとつ」

 

①リミットブレイクを達成する

②ドライブチェックでG3の獣神をめくる

③G3の獣神リアガードをスタンドさせる

④エクストリームもスタンドする

 

ミオ「この流れ一点のみとなります。リミットブレイクが達成できていなかったり、G3がめくれなかったエクストリームはかなりしょうもないので、考慮に入れる必要はありません」

 

トウコ「となると、必要になってくるのは獣神G3の選定だねえ」

 

ミオ「はい。ですが、獣神のG3はヴァンガード専用のユニットが多く、パワーには不安が残ります。まあ、そもそも獣神のリアガード自体に、攻撃面ではロクなユニットがいないのですが。

何と言うか、評価以前に、カードが足りていない印象を受けますね」

 

トウコ「はっきり、特定の名称で固めなきゃならないカードのスペックじゃないってお言いよ!

最近のノヴァ……っていうか、獣神のカードデザインがひどいんだよ!

ダラダラと七面倒くさいこと書いてあるクセに、読み解けば、他のアクセルクランとできることが大差無いか、下位互換一歩手前。

もう少しちゃんと考えろってんだ!」

 

ミオ(こういう時のトウコさんは役に立ちますね……)

 

 

●《闘神 アシュラ・カイザー》

①手札:ヴァンガードが「アシュラ・カイザー」なら、【CB1】することで、このカードにライドする。

②V:ソウルに「アシュラ・カイザー」があるなら、【SB1】することで、山札を上から3枚見て、1枚を山札の上に置き、残りを捨てる。

③V:ドライブチェックでG2以上が出たバトル終了時、リアガードを1枚スタンドさせ、相手のヴァンガードがG3以上なら、さらに【CB1】することで、リアガードすべてをスタンド。

 

トウコ「アシュラ・カイザーの強化として、永劫不敗……ではなく、闘神のアシュラ・カイザーが登場だよ!」

 

ミオ「ヴァンガードがアシュラ・カイザーなら、①の効果でいきなりこのライドにスペリオルライドすることができ、アクセルサークルを増やすことができます。

②ではデッキトップ操作し、③でG2以上をめくってリアガードをスタンドさせます。

 

トウコ「せっかくデッキトップ操作できるのにトリガーをわざわざ落とすのはもったいないねえ!」

 

ミオ「はい。できることなら治ガーディアンを有効治で引きたいので、ダメージは積極的に受けにいってよいでしょう。

そうでなくとも、下手にユニットをスタンドさせるよりかは、アクセルサークルを増やしているのもあって前トリガーの方が有効な場面も多そうですね」

 

 

●ダークイレギュラーズ《魔神侯爵 アモン “Я”》

①V:【リアガードを2枚呪縛する】ことで、ソウル1枚につき、このユニットのパワー+2000。このユニットがパワー40000以上なら、このユニットの★+1。

②V:【CB1】することで、ソウルから「アモン」を2枚までコール。ターン終了時、コールされたユニットをソウルに置く。

 

ダルク「Hallo! ミオさん! お元気ですか?」

 

ミオ「はい。ダルクさんもお元気そうで」

 

ダルク「ふむふむ。アモンЯですか。

アモンは強力ですがアドバンテージの消費が激しいユニットでした。

手数がたりなくなった時は、このアモンЯにライドすることで、パワーは維持しつつユニットを展開することができます。

ただ、攻撃面ではどうしても相手の手札を削れる素のアモンが優秀ですので、今後のアモンは、素のアモンとアモンЯを適宜入れ替えながら戦うことになるでしょう。

参考になりましたか?」

 

ミオ「ありがとうございます。同じプロでも、どこぞのスポンサー様と違ってダルクさんは親切ですね」

 

ダルク「あはは……。ああ見えてトウコさんも優しいところが……ないね、うん」

 

 

●ギアクロニクル《遡る時乙女 ウルル》

①G:このユニットがGに置かれた時、【ドロップからユニットカードを1枚、山札の下に置くかバインドする】ことで、このユニットのシールド+25000。

②ドロップ:ヴァンガードがアタックされた時、【手札から治トリガーを1枚捨てる】ことで、このユニットをGにコールする。

③G:このユニットがGから退却した時、このカードをバインドする。

 

レイ「ミオちゃん! ギアクロニクルならあたしにまかせて!」

 

ミオ「もちろんです。よろしくお願いします」

 

レイ「時乙女ウルルは、もともとはGガーディアンだったユニットだよ!

今回はVスタンでそのギミックを再現! このカードがドロップにある時、手札から治トリガーを捨てることで、Gに出てきて25000ガード!!

その際、バインドもできるから、イラスト的にもスチームメイデンデッキには入れておきたいね!」

 

ミオ「…………」

 

レイ「え? なに? その無表情なのに何か言いたげな顔」

 

ミオ「……残念ながら、時乙女ウルルとスチームメイデンとの相性は、あまりよくありません」

 

レイ「ええっ!? そうなの!? なんで!?」

 

ミオ「まず、スチームメイデンの治トリガーは《スチームメイデン ウルル》が優先されます。

ウルルのガード値はもともと20000あり、時乙女ウルルに変換しても、ガード値が5000しか上がりません。

ファーストヴァンガードをウルルにして、他を治ガーディアンにする構築もありますが、その場合もメインデッキの治トリガーが減ってしまうので、やはり効果の発動機会が減ってしまいます」

 

レイ「あっ、そうか……。治ガーディアンの中盤以降のガード値の低さを誤魔化せるカードとして、時乙女ウルルは優秀なんだね」

 

ミオ「それだけではありません。スチームメイデンにはこのカードをドロップに送るギミックがありませんし、このカードをコールする手段も持ち合わせていません。

スチームメイデンは、メインギミックに多くのカウンターコストを必要とするため、あえてアタックを受けにいかなければならない場面も多く、ガードしながらのバインドはあまり噛み合っていません。

などなどスチームメイデンと時乙女ウルルは、細かい粗が目立つ組み合わせになっています。

むしろ、このカードで強化されるのはミステリーフレア軸ではないでしょうか」

 

レイ「あっ! ミステリーフレアなら治ガーディアンは確定で採用されてるし、このカードも超越でドロップに送れる!

ミステリーフレアはカウンターコストも必要としないし、G4に超越したら、いざという時、このカードを手札からコールできる!

バインドできるグレードも枚数も多いし、カードを山札の下に送れるし、すべてが嚙み合ってる!」

 

ミオ「そういうことです」

 

レイ「うーん。ミステリーフレアが強くなるのは嬉しいけど、釈然としないなあ。

ウルルなんだから、もう少しスチームメイデンと相性よくしてもよくなかった?」

 

 

●グランブルー《七海怨霊 オグチボヤージュ》

①V/R:ドロップとバインドゾーンの「七海」を含むカード1枚につき、このユニットのパワー+3000。

②V/R:【財宝マーカーを1つ除外する】ことで、ドロップからG2以下の「七海」ユニットを2枚までコールする。

③V/R:このユニットのアタックがヒットした時、財宝マーカーのないVかRを1つ選び、財宝マーカーを1つ置く。

 

こっきゅん「久しいな、小娘」

 

ミオ「こっきゅんさんですか。おひさしぶりです」

 

こっきゅん「今宵は我が、新規カードが追加された、ナイトミストの小僧が率いる七海デッキを解説してくれようぞ」

 

ミオ「ありがとうございます」

 

こっきゅん「まず、これまでの七海デッキの弱点と言えば、アタックのヒットが求められているにも関わらず、全体的なパワーが低いことにあった。

だが、このカードは『七海』版スカルドラゴンとも言える、非常に効率のよいパンプ能力を持つ。

ドロップに『七海』が4枚あれば、ナイトミストの財宝3枚の能力と併せて単体20000要求となるので、まずはそれを目標にするとよいだろう。

《スケルトンの航海士》を一度でも使えば、すぐに達成できるであろうし、以降もそのパワーは際限なく伸びていく」

 

ミオ「気になるのは②の能力ですね、七海で財宝を減らしてしまうのでは、一見アンチシナジーにも思えてしまいますが」

 

こっきゅん「だが、財宝3から財宝6までの道のりは遠く、財宝6達成前にファイトの趨勢が決してしまい、財宝6は手遅れ、もしくは過剰になってしまうこともある。

それならば財宝は3をキープするようにし、中盤からこの効果を使った方がよい場面も多かろう」

 

ミオ「たしかに財宝6を目指すまでの間に、ユニットを6体展開できると考えたら、こちらの方が有効な場面は多そうですね」

 

こっきゅん「財宝6を目指す場合でも、この効果でスラッシュ・シェイドを展開した方が、結果的には近道になるやもしれぬ」

 

ミオ「G2以下の七海で単体20000要求できるのは、スラッシュ・シェイドだけですからね」

 

こっきゅん「このように七海はかなり良質な強化をもらえたと言って過言では無いだろう。我には及ばずとも、今後はナイトローゼの小娘に勝るとも劣らぬ戦果を……」

 

アラシ「待て待て待て待てええええぇぇぇっ!!」

 

ミオ「おや、アラシさん」

 

アラシ「なんでナチュラルにこっきゅんのまま話が進んでるんだよ!? この小説のグランブルーって言えば、俺様だろ!? 2年生編のラストファイトを飾ってるんだぞ!?」

 

こっきゅん「笑止」

 

アラシ「笑えねぇわ!

え? 俺の出番、マジこれで終わりなのか?」

 

 

●グレートネイチャー《学園の処罰者 レオパルド “Я”》

①V:【「レオパルド」を含むリアガードを1枚呪縛する】ことで、山札から捨てられたカードはノーマル、トリガー、オーダーのカードタイプを得る。

②V:【CB1】山札を上から1枚捨て、そのカードタイプにより以下すべてを望む順で行う。

・ノーマルユニット-山札を上から5枚見て、2枚までコール。

・トリガーユニット-このユニットは『前列のユニットすべてのパワー+5000、このユニットの★+1』を得る。

・オーダー-イマジナリーギフト・アクセルを1つ得る。

 

マナブ「……ああ、僕が解説しないとならないのか。

まあ、プロになった音無なら、グレートネイチャーのカードも詳しいだろ。僕の代わりに頼むよ」

 

ミオ「それを言われては断れませんね。

レオパルド“Я”は、レオパルドのスキルを踏襲しつつも全体的に強化された抽選効果と、イザベルとは少し違った抽選を確定させる効果を持ちます。

①の効果で抽選を確定させ、②の効果をすべてを得るという動きが基本となるでしょう。

上記をすべて実行したレオパルドЯは、相手のグレードを問わず、CB1でアクセルを不正受給しつつ、ユニットを2体展開し、それらのユニットをパンプしながら自身は★も増えるという、アクセルがやってはいけないことを盛りに盛ったユニットとなります」

 

マナブ「Vコレになってから、相手がG2の場合、★の増加は自重しているユニットも多いのに、アクセルであるこのユニットが自重しないのは、控えめに言って意味わからんよね」

 

ミオ「はい。ですので、レオパルドЯの強さに関しては、これ以上解説する必要はないかと。

むしろ、このカードで解説すべきはルール面だと考えています」

 

マナブ「ああ、なるほど」

 

ミオ「レオパルドЯの抽選を確定させる能力……厳密に言えば、山札から捨てられるカードに3つのカードタイプを与える能力は、そのシンプルなテキストに依らず、非常に難解なものとなっています。

ここからは、レオパルドЯの間違えやすそうな効果処理について説明していきたいと思います。

ただ、知識が豊富なマナブ先生が相手だと、盛り上がりに欠けるため、カード知識に乏しい驚き役として、オウガさんにもお越しいただきました」

 

オウガ「嬉しくない役回り!!」

 

マナブ「それは僕は楽できていいね」

 

オウガ「あ、先生! ちぃーっす!」

 

 

ケース1:①の効果が適用されている時、《バイナキュラス・タイガー》の抽選効果を使った場合

 

ミオ「まずは初級です。

レオパルド“Я”の効果が適用された状態で、《バイナキュラス・タイガー》の抽選効果を発動した場合、どうなるでしょう」

 

オウガ「レオパルドЯの効果は3つすべて適用されるんだから、バイナキュラスも2つの効果が両方適用されるに決まってるぜ!」

 

ミオ「…………」

 

オウガ「……いや待て、違う! レオパルドЯは『すべてを望む順で行う』って書いてるけど、バイナキュラスのテキストは『どちらかを行う』って書いてある!

使える効果は、どちらか片方だけだっ!」

 

ミオ「危なかったですが、正解としておきましょうか」

 

 

ケース2:①の効果が適用されている時、《ラブラブ・ドッター》の抽選効果で捨てられたカードをコールしようとした場合

 

ミオ「《ラブラブ・ドッター》は、抽選効果で捨てられたカードがノーマルユニットであった場合、その捨てられたユニットをスペリオルコールすることができます。

さて、レオパルドЯの効果が適用されている場合、《ラブラブ・ドッター》は、自身の効果で捨てたユニットをスペリオルコールできるでしょうか」

 

オウガ「へ? そんなもん、できるに決まってるぜ!」

 

ミオ「ちがいます。その捨てられたユニットは『オーダー』になっているため、スペリオルコールすることができず、ドロップに置かれます」

 

オウガ「マジで!?」

 

ミオ「マジです」

 

 

ケース3:①の効果が適用されている時、②の効果でオーダーが捨てられた場合

 

ミオ「①の効果が適用された状態で、②の効果でオーダーが捨てられた場合、処理はどうなるでしょうか?」

 

オウガ「当然、3つの効果が適用されるに決まってるぜ!」

 

ミオ「いえ。オーダーは『ノーマル、トリガー、オーダーのカードタイプ』を得ていますが、『ユニット』のカードタイプは得ていないため、オーダーの効果のみが解決されます」

 

オウガ「屁理屈くさい!!」

 

マナブ「このことから、レオパルドЯのデッキには、極力オーダーを入れない方がいいだろうね」

 

 

ケース4:①の効果が適用されている時、抽選効果で落としたユニットを、《魔法科学者 テスター・フォックス》でデッキに戻す場合

 

ミオ「テスター・フォックスは、ドロップからノーマルユニットとトリガーユニットを1枚ずつ山札に戻すことで、リサーチャー・フォックスをスペリオルコールできます。

レオパルドЯの①の効果が適用されている状況で、抽選効果でノーマルユニットをドロップに置きました。そのカードと、別のノーマルユニットを山札に戻した場合、リサーチャー・フォックスをスペリオルコールすることができるでしょうか」

 

オウガ「え……? ノーマルユニットを2枚山札に戻しているわけだから、できない……っすよね?」

 

ミオ「はずれです。……まったく。あなたは本当に今もヴァンガードの勉強を続けているのですか?」

 

オウガ「せっかく出番もらえたのに、何なのこの扱い!?」

 

ミオ「①の効果適用後に抽選効果で落としたユニットは、ドロップにあってもノーマル、トリガー、オーダーとして扱われたままです。

よって、この場合はトリガーユニットとノーマルユニットを山札に戻したものとして扱われ、リサーチャー・フォックスをスペリオルコールすることができます」

 

マナブ「これを応用することで、テスター・フォックスでトリガー2枚を山札に戻しつつ、リサーチャー・フォックスをスペリオルコールすることができる。

レオパルドЯにテスター・フォックスを採用する場合は、覚えておきたいコンボだね」

 

 

●ネオネクタール《悠久の回帰 グラジオール・ドラゴン》

①V:あなたがコールするプラント・トークンは、グレード0/パワー10000/シールド10000/★1、ブーストとインターセプトを持ってコールされ、プラント・トークンは後列からでもインターセプトできる。

②V:【ドロップからノーマルユニットを1枚山札の下に置く】プラント・トークンを2枚までRにコールする。

③V:このユニットがアタックした時、【CB1】することで、1枚引き、手札から2枚まで選び、それぞれプラント・トークンのいるRにコールする。

 

マナ「どうも。ゴミクズです。私ごとき何の役にも立てないかと思いますが、よろしくお願い致します」

 

ミオ「よろしくお願いします、マナさん」

 

マナ「グラジオール・ドラゴンは、アルボロス・ドラゴンと同じ、G2バニラ相当の強化プラントを生成できるユニットです。

しかもそれらのトークンは後列からもインターセプト可能と、守りに優れています」

 

ミオ「ですが、③のバトルフェイズ中にスペリオルコールする効果は、せっかくコールしたインターセプトできるプラントを上書きしなければならず、あまり噛み合っていない印象を受けますね」

 

マナ「勝ちにいくターンか、相手が除去を得意としていてインターセプトが役に立たないような状況でもない限り、③の効果は1枚ドローまでに留めておいて、手札やプラントを温存する方が強いかもしれませんねえ」

 

ミオ「堅守を生かしたロングゲームを目指していきたいところですね」

 

 

●リンクジョーカー《星輝兵 “Ω” グレンディオス》

①V:「Я」リアガードすべての元々のパワーは18000になる。

②V:メインフェイズ開始時、自ダメージゾーンが5枚以上で、相手の呪縛カードが5枚以上なら、このファイトに勝利する。

③V:【SB1、バインドゾーンに表の同名のカードがない「Я」を1枚バインドする】次の相手のターンのエンドフェイズ中、相手は自分のカードを表にできない。

④V:「Я」ユニットがRに登場した時、追加されたR以外にいる相手のリアガードを1枚選び、呪縛する。

 

ミオ「む。困りましたね。今のやり方でしたら、リンクジョーカーは私ひとりで解説することになってしまいます」

 

レイ「はーい、お姉ちゃん! それならアタシにまかせて!」

 

ミオ「む。レイさんですか。たしかにレイさんなら、資格は十分ですね」

 

レイ「えへへ。でしょ?」

 

ミオ「ところで、あなたは本当にレイさんですか?」

 

レイ「やだなぁ。何を言ってるの、お姉ちゃん。アタシはアタシだよ」

 

ミオ「まあ、いいでしょう。

グレンディオスは、他クランのЯユニットを利用できるユニットです。その際、リンクジョーカーは他クランのЯユニットも使用できるようルール整備が行われていますが、ギフトを含めた効果はすべて失われるため、リンクジョーカーでアクセルを取得した後、グレイドールに再ライドする等、悪用はできなくなっています」

 

レイ「ちぇっ。むしろそれやりたかったよねー」

 

ミオ「はい。連続攻撃できる最強根絶者が爆誕してしまうところでした」

 

レイ「で、グレンディオス本体はと言うと、旧グレンディオスとほとんど一緒!

Яユニットをコールして呪縛して、手札からЯユニットユニットを捨てる代わりに、ドロップからЯユニットをバインドすることでΩ呪縛!

アルティメットブレイクかつ呪縛カード5枚を達成することでワールドエンド! アクセルサークルを呪縛する必要が無いのは助かるんだけど、ユニットが一部はみ出したままワールドエンドするという、締まらない見た目になっちゃう!」

 

ミオ「1ターンに1度しか呪縛できないグレンディオス単体で、すべてのユニットを呪縛しきるのは大変なので、インフィニットゼロを経由するのもいいでしょう。

こんなところでしょうか」

 

レイ「……ねえ、お姉ちゃん。あの時は、本当にごめんね?」

 

ミオ「あの時とは、どの時でしょうか? 私は何も怒っていませんし、許すことなど何もありません。私達は姉妹なのですから」

 

レイ「……うん。ありがとう。さよなら、お姉ちゃん」

 

ミオ「ええ、さようなら。また会えて、嬉しかったです」

 

 

●終

 

ミオ「ここまでお疲れ様でした。

これにて小説『根絶少女』は、予定していたすべての工程を終え、無事に完結を迎えることとなりました。

応援してくださった皆様に心からの感謝を。

本当に本当にありがとうございました。

またどこかでお会いましょう」

 

ムドウ「さらばだ」

 

ミオ「最終回までムドウさんが締めないでください」




大変お待たせしてしまいました。
1年前のパック、VクランコレクションVol.5&6のえくすとらをお送りさせて頂きました。
せめてものお詫びとして、登場人物の1年後も、簡単にですが前書きに書いてみました。
最後の最後で晩節を汚してしまった感もありますが、これにて正真正銘、根絶少女は完結となります。
ここまでお付き合い頂き、本当に本当にありがとうございました。


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