尼さんとオレ、時々サクラちゃん (朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次))
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テンプレな神様とのやり取りなどはカット×17回

エロゲのヒロイン相手にえっちなことしたいんだが?


 神様転生なんてテンプレの二次創作がある。

 オレはその手の作品は読みつくしたし、導入を見ただけでおよその中身が予想でき、実際読んでみるとその通りって事も多い。

 まあ陳腐だとは思うけれど、面倒臭い理由なんか抜きにチート無双させたけりゃこれが一番だ。

 

 何より読者であるこっちは仕事で疲れで鬱屈した気分をスッキリさせたくて読んでいる。

 なら小難しい理屈を並べられるよか、神様スゲーで済ませる方がストレスが無いのだ。

 

 ほら仮面ライダーブラックRXだってそうだろう?

 凄い超展開が起きても、ナレーターが「その時ふしぎな事がおこった」と言えば、ああなるほど、ふしぎな事だからしゃあないってなるもの。

 

 で、なぜオレがそんな事を言うかだが、それはまさにこのオレがその展開に巻き込まれたからだ。

 明日も早朝から仕事だと早寝をしたオレだったが、目が覚めると神様の前だった。

 こっちは寝間着のジャージ姿で寝ぼけまなこ。

 頭をポリポリやりながら周囲を見渡せば、そこには銀髪オッドアイの美少年がいたのだ。

 

 で、お前を転生させるからよろしくと言われ、テンプレですか? と聞くとそうだという。

 理由を聞けばこれもやはりテンプレで、退屈な神の娯楽だという。

 だから世界崩壊レベルのチートじゃなきゃ何でもくれてやると言われた。

 

 因みに世界崩壊レベルに該当するのは過去や未来に行けるタイムマシン系とか、それを含むチートオブチートである四次元ポケットとかそう言うのだという。

 

 ベタなとこで金ぴか我様の宝物庫とか、一方通行の反射とかも駄目だという。

 駄目というか、宝物庫はあくまで倉庫でしか無く、宝具は自分で集めた過去が無いと中身が無い。

 一方通行は反射が目立つけれど、その能力の本質はその演算能力だから、反射だけだとすげえチープだと言う。

 つまりどっちもオススメしないとさ。

 

 三十路手前となり既にオッサン扱いされているオレだが、それなりにアニメやゲーム、サブカル分野は嗜んでいる。

 そんな中で決めた能力は、送られる世界で死なない様に生きるのに足る戦闘能力と、どうせ原作あり世界に行くのなら、可愛い子ちゃんとハーレムとかやりたいので、精力絶倫と性欲過多を所望した。

 

 生きるのに足る戦闘能力とアバウトに指定したのは、そこがどの原作かは教えてくれなかったからだ。

 言ったら面白くないってよ。

 ならその世界基準で安全を確保できるように、漠然と戦闘能力と言ったのだ。

 要はレストランに行って然して知識も無いのにカッコつけて恥をかくよりは、最初からプロであるソムリエに「予算はこの程度で、赤と白を今日のメニューに合わせて選んでください」って言う方がスマートなのと同じである。

 

 そして精力絶倫と性欲過多を併せて頼んだのには理由がある。

 これね精力絶倫だけだと罠だと思うんだ。

 一晩に何発ぶっぱなそうとヤれるのがコレだろ?

 でも考えて欲しい。どんだけ好きな彼女がいたって、1年もすればまともにセックスなんか楽しめないだろ?

 けど何かの拍子に若い娘と知りあって、ベッドまで行けたりすると、「あれ?オレのチンポこんなデカかったっけ?」ってびっくりするくらいに勃起する。

 

 つまりどれだけ絶倫だろうが、セックスを義務に感じた瞬間ヤル気なんか起きない。

 どんな美人でも三日で飽きるって言うじゃない。

 あれだけハマった二次元ヒロインだって、現実にハーレムの一員となったらきっと面倒臭いってなるぞ。

 しまいにゃヒロインから隠れてオナニーしてる方がいいなんて言い出す自信あるわ。

 

 だから性欲過多だ。

 性欲、つまりやりてえやりてえ! と巻き起こる咽かえる程のエロスを求める野獣感だ。

 ミニスカートを履いたヒロインが落した物を拾おうと屈んだ瞬間、絶対領域が持ち上がりあわやパンチラか?! 

 そんなシーンがあればすぐさま野獣の眼光で見るくらいの性欲が無いと駄目なのだ。

 

 つまり性欲過多と精力絶倫が合わさり最強に見える。

 そう言う事だ。カンペキすぎる自分の頭脳が怖い……。

 そしてオレはこれまたテンプレ通りに穴に落され新たな世界へと旅立ったのだ!

 

 

 

 ★

 

 

 やってきた世界は割と普通だった。

 というかどう見ても現代日本にしか見えない。

 全然知らん場所だけど。

 

 そんなオレは資産家の洋風な豪邸的な場所にいる。

 いやそこの茶の間に座ってコーヒーを啜っている状況で我に返った。

 テーブルの向かい側にはぬらりひょんみたいな爺がいて、どのツラ下げてこの家の敷居を跨いだなんてニヤニヤ笑っているが目は野獣の眼光でオレを見ている。

 

 爺はオレをカリヤと呼んだ。

 カリヤ……ちんちんの横にせり出したあの部分……それはカリや!(激うまギャグ)

 じゃなくって、雁夜おじさんかよ……。

 これ転生オリ主じゃなくて憑依じゃん……。

 

「何を呆けている? 魔道を捨てたお前に居場所など無いと知れ」

「あー……ちょっと待って。頭を整理するわ」

「……ふむ? まあ良いわ」

 

 ありがとう爺。というかマキリゾォルケン。

 言ってみると意外と物分かりいいのな。

 しかし目の前で見たらマジでエグい見た目だなぁ。

 

 なるほどマキリに雁夜ってFate/ZEROかよ……。

 というかフェイトシリーズはステイナイトしかまともに見てないんだけど……。

 オレはライダー大好きだからね。

 おい慎二、そこかわれっ! ってくらい好き。

 次点でキャスターだな。葛木、そこかわれっ! ってくらい好き。

 オレの好みの女はグラマラスで床上手だからな。

 

 いやしかし、フェイトゼロは途中で切ったんだよ。

 あの王様の集いの辺りで胸糞悪くなってさ。

 他のファンは知らんけど、アニメでのセイバーと士郎の絆とか見るとさ、セイバーをかませ犬にすんじゃねえよって気分悪くなったんだよねえ。

 なのでそれ以降の展開を知らない。

 

 原作を知らないからゼロの二次小説も読まんかったし。

 まいったなコレ。

 いや大筋は知っているよ。

 ネタバレサイトをさらっと見たから。

 その後どうなったかなー? って気になるでしょ。

 

 それによるとアインツベルン陣営が最後まで勝ち残ったけれど、マスターの切嗣が聖杯は汚染されとるからエクスカリバーでぶっ壊せって命令して、発狂しながらセイバーが宝具開帳したらしい。

 んで聖杯の泥が溢れて? 冬木は阿鼻叫喚の災害に巻き込まれたって感じらしい。

 

 まあそれで、孤児の士郎君が切嗣に引き取られる。

 そして死んだ筈の綺礼は聖杯の泥をかぶってなんか生きている。

 金ぴか我様もご一緒に。

 

 その点を見ればなるほど、SNの前日譚なのかーで済むんだけどね。

 やっぱセイバーの改変ってかあの描写は好かんのだ。

 別にセイバーが嫁なんて言わんよ。

 セイバーは士郎の嫁がジャスティスだからさ。

 でも報われないけれどお互い答えを得た感じで別れて、セイバーは漸く安らかに死ねたんだからそれでええやん。

 鬱話やりたいがために聖杯への願いを歪曲さすなよ……。

 

 まあそんな訳で大雑把な結末は知っているが、その過程をほとんど知らない。

 見たとこもうろ覚えレベルまで忘れている。

 何というか多くあるアニメ作品の中の一つってイメージだからさ。

 熱中するほどハマってないのだ。

 

 でもこうしてここに来るんなら見とけばよかったなぁ……。

 ただオレが雁夜だってんなら、前提として聖杯戦争が始まる一年くらいは前なんだよな今。

 でもまだ冬の真っ最中だぜ? うーん……オレ、思ったより早く実家に帰ってる? わからん。

 なのでいまのオレの身体、すげえ健康そうなんだよな。

 

 雁夜おじさんってあれだろ。

 魔術の才能ぽんこつだけど聖杯戦争に参加したいから刻印蟲だかで無理やり魔術を使えるようにしたんだろ。

 なんで開始直前で既に死にかかってる的な。

 でもいま健康そのものに思えるから原作開始前は確定じゃん。

 それは間違いない。

 

 ってことは遠坂桜が養子に来たって話を聞きつけて戻ってきた流れか。

 ん? じゃギリギリまだ凌辱されてないっぽいのか?

 ならいいじゃんそのままでさ。

 

 うん、それでいいよ。

 聖杯戦争には出てもいいけれど、五体満足でいたいわな。

 全てを穏便に進めるには、聖杯を手にする根拠さえあれば、桜を桜のままでいさせられるか?

 まあ何というか本来の雁夜の持ってる憎悪とか桜への憐憫の情は無い。

 でも現在5、6歳の幼女に過ぎない桜をみすみすヤラせるのは気分が悪いからな。

 

 オレはネトラレとかリョナとか大っ嫌いなんだわ。

 薄い本とかも純愛ものも嫌だが、エロ全開ってのが好き。……なんの話だ。

 まあそう言う趣味の人にそれを押し付ける気は無いが、相いれないのだ。

 というか今後幸せ生活、或いは性活を過ごしたいと思うなら、ヘブンズフィールは勘弁してほしい。

 なので桜をここでどうにかしとけばそれが起こらないだろうよ。

 

 理想は第四次をどうにか潜り抜け、同時に桜を無事に済ませる。

 で、終わったら間桐の金を失敬して冬木から離れる。

 これだ。

 桜と士郎を近づけなきゃええねん。そうすりゃFateルートかUBWルートにしかならんのだし。

 士郎は凛かセイバーとよろしくやってなさいな。

 

 うん、方針はこれだ。

 そして思考をしていると色々オレに備わった能力が分かって来た。

 何というか脳に焼き付いていると言うかさ、使った事も無いのにそれが長年の経験の記憶みたいに理解しているのだ。

 さっすが神様、良い仕事してくれるわ。

 

 備わっていた能力は、上限なしの対神秘絶対殺す身体能力だった。

 とにかく鍛えたら鍛えただけ強くなり、その上限が無いから英霊クラスまでもいける。

 なので魔術だろうが魔法だろうが英霊だろうがブン殴ればいいって事らしい。

 

 要はサーヴァントという規格外の存在だろうが、超絶能力で優位に立っている状態を、ただの殴り合いレベルまで引きずり下ろすって事だ。

 ただし向こうの自力が上ならばオレはやられると言う。

 いいじゃないいいじゃない。やっぱ王道のバトル物ですよ。

 

 その能力の本質は、例えるならバキ世界の範馬勇次郎みたいなもんか。

 あれは強いんだけど、心底自分が最強という揺るがない確信を持っているから強いのだ。

 地震が起きた時、彼は渾身の力で地面を殴った。

 結果地震は止んだ。それだけを見ればまるでオーガが止めた様に見える。

 

 偶然かもしれない。

 でもオーガは自分は強いのだから出来て当然と思っている。

 だから雷をその身に浴びても平然としているのだ。

 オレの能力はそれに近い。思い込み強く願う程、後は鍛えまくればそうなる。

 

 神秘なんかある訳がねえ。

 お前らの理屈はご都合過ぎて筋が通らんわ。

 だから鍛えまくったオレがガチンコかますぜ。

 何この蒼いビーム。廻し受けでいなすからみたいな。

 

 なので聖杯戦争を勝ち抜くなら、まずは開始までの時間を有効に使い、オレの記憶にある肉体言語をすべて習得する勢いで修行をする必要があるな。

 英霊とガチンコやるんだ。その位の死力は尽くさないとやられるだろう。

 ん、なら鍛えさえすれば、臓硯の本体もどうにか出来そうだな。

 うん、そうだ。それでいこう。

 オレは目の前の爺を見据え言った。

 

「爺、オレが聖杯持ってきてやるから桜をオレにくれ」

「くくくっ、面白い事を言うな。魔術の素養も無いお前に令呪が宿るとは思えんがな。それとも何か、その身に蟲を喰ろうてみるか? そうすれば命は危ういが資格は得られるやもしれん」

「そっか令呪な。それがあればいいんだな?」

「そうさな。それが最低限であろうな。しかし雁夜よ、何故桜を欲する。貴様何を考えている?」

「あっ? んなもん将来は美人確定なんだ。慰みモノにするのに今から仕込むんだよ。てめえみたいな枯れた老人に桜はもったいねえ。あいつは葵の分身みたいなものだ。なら若い方がいいだろう?」

「くっくっく……よもやそこまで外道に落ちたか。いや儂が言う筋合いは無いのだがな。雁夜よ、欲するなら対価を。分かるだろう?」

 

 ネットスラングとかで流行った(ゲス顔)みたいな表現があるけれど。

 この爺の表情がまさにそれだな。

 見てるだけで分かる。こいつはクズだ。

 

 そもそも原作の雁夜おじさんだが、ストーカーレベルで遠坂葵に妄執してたけどさ、アニメ切った後で調べたら、どうやら葵と幼馴染になる様に爺が一枚噛んでるそうな。

 遠坂葵の実家は次代に才能を継承するのに特化した魔術師の家系らしい。

 だから彼女の娘である凛も桜も素質が凄いんだろう。

 

 爺は設定によると数か月で身体を乗り換えないと消滅するレベルで終わっている。

 けれど間桐の存続には執着している。

 なので葵が欲しかったんだろう。胎盤が云々とか言ってたしさ。

 まあその目論見は結局、凛と桜がいる時点で失敗している訳だが。

 それで遠坂の魔術刻印を凛が継承するから、桜の素質がもったいないし間桐でどうにかすれば一石二鳥だって言う時臣と、終わってる間桐を続けるには渡りに船の臓硯って構図なんだろう。

 

 なのでオレはゲスである爺を納得させるためにゲスな理由をでっちあげた。

 光源氏計画やな。

 育ったら美味しく頂く。それで子供でも出来ればいい感じの素質が生まれるんじゃね?

 遠坂と間桐の血が合わさり最強に見えるだろう? ってね。

 オレはお古はいらねえ。だから今寄越せって事だ。

 

 いや実際にセックスするならお古がいいよ。

 処女なんて面倒臭いし、フェラが上手い方が気持ちいいだろ。

 歯でも立てられたらイラっとするし。

 だいたい処女とヤってその日にエクスタシーに達するとか同人誌の中だけの話だもの。

 でもほら、魔術的に処女性って何かよさげっぽい理由になるかなーってね。

 

 おら退屈な神様よ。

 お前の目論見通り踊ってやるから参加チケットをくれよ。

 そう祈りつつ手の甲を握る。

 そうすると通じたのか熱くなった。

 オレはニヤリと笑ってそれを爺に見せる。

 目を丸くして驚いてら。そんな顔も出来るのかよ。

 

「ほらよ爺、聖痕だ。その日が来ればこれが令呪となるだろう。どうだ、信じたか?」

「貴様何をした……? それに……ふむ、たしかに魔力を感じるな」

「当たり前だ。さて爺、あんたが聖杯に願うのは言ってしまえば決して死なない健康で頑丈な肉体だろう? 間桐の魔術だのお題目はどうでもいい。実際アンタが願うのは酷く利己的なそれだ。ならオレがそれを手に入れてやる。だから桜と間桐はオレに寄越せ。もう表舞台から消えろ。いいな?」

「…………それが矮小な貴様に出来ると言うのか? ガキが妄言を吐くのに付き合う義理は無い」

「ならオレがお前に破滅をくれてやる。普通、願えば令呪って宿るほど軽いモノなのか? そうじゃないなら、オレが今、何故それを手に出来たか、その意味を考えるんだな。オレが間桐を出てからの時間で、よもや何もしていなかったなんて思わない事だ」

「……………………」

 

 殺さんばかりの殺気を込めて睨む。

 今の段階でオレに何も出来る事はないが、思い込みの力は偉大だった様だ。

 心の中から恐怖心が消え失せ、闘争心のみが支配している。

 それが奴さんにも伝わっている様だ。

 ごくりと息を飲む臓硯に思わず笑いそうになる。

 これハッタリなんだぜ? 妖怪さんよ。

 

「ふむ、ならまずは桜を貴様に預けよう。せいぜい愉しむがいい。だが全てを貴様に渡すのは、聖杯を手にしてからの事だ。その時に改めて答えよう」

「まあ今はそれでいいさ。それよりも爺。アンタって資産運用とかで土地を転がしていたりするか?」

「…………そうさな。いくつか手元にはある。それがどうした?」

「ならどこか冬木から少し離れた山なんて無いか? 出来れば周囲に人がいない様なクソみたいな土地がいい。これから暫くオレは聖杯戦争に向けて準備をする。その為には人目の無い土地が欲しい」

「ふむ、魔術の素養は無いと言うのに、自分の工房でも欲するか?」

「まあ詳しくは言えないが、その認識であっている。勝ちを確実にする為に必要な事だ」

 

 再度気合いを込めてそう言う。

 修行をするには街の中じゃ無理だからな。

 それに臓硯があまり近いのも面倒だし。

 じっとオレを睨み返す臓硯。

 その内心は一切読めない。

 

「ふむ、まあいいだろう。当分さばけない様な土地はいくつかある。それを貴様に与えよう」

「有り難い。なら近日中に移れる様に手配を頼む。あと準備に金が要る。先行投資だと割り切ってオレが好きに出来る金を用意してくれ」

「厚かましい事だがいいだろう。儂はいつだってお前を見ているぞ。それを忘れない事だ」

「ああ、それが出来るならいくらでも見ればいい。じゃあ爺、頼むぞ」

「分かった。せいぜい励むがいい」

 

 オレは不毛な爺との会話を切り上げ席を立つ。

 桜は与えられた部屋にいるらしい。

 とりあえず修行に使えそうな場所は手に入った。

 野獣の眼光で押し切り少なくない金も軍資金として貰った。

 なら後は桜を連れてここを離れるだけだ。

 

 茶の間を出る際、オレと爺の視線が絡む。

 やつはオレを鼻で笑い、オレはヤツを路傍に転がる石を見る様な目で見た。

 もうこいつに用は無い。それだけだ。

 

 

 ★

 

 

 

「…………雁夜おじさん、ですか?」

 

 部屋の奥の庭に面した窓の下。

 黒髪の少女が三角座りをしていた。

 彼女はオレを見上げると不安そうにそう言った。

 というか面識あったんだな。細かいとこ思い出せんわ。

 

 襖を開けると中は8畳間程の洋室だった。

 あるのはベッドと小さなタンスがひとつ。

 つまり子供部屋としては失格だ。

 子供の気を引けるモノが一切無い。

 ぬいぐるみ一つくらいおいてやれよ。

 

 聞けば遠坂から受け取ってから三日ほど経っていると言う。

 その間彼女はここにいたのだ。

 飯はオレの兄になる男が与えたらしい。

 兄も詳しい事情や経緯は知らされていないし、過度な接触も禁じられていたと言う。

 雁夜の兄貴である鶴野がこの家の傀儡当主として管理しているそうだが、彼もノータッチだ。

 オレは不安そうな桜に努めて柔和な笑顔をしつつ、彼女に視線を合わせるためにしゃがんだ。

 

「う、うんそうだよ。雁夜だ。桜ちゃんだね?」

「うん、……そう、です」

「聡い子だね。でも君は子供なんだから丁寧に話そうとしなくてもいいよ」

「えっと、はい、うん」

「いい子だ。君はうちの養子になった。だから間桐桜だ。オレは爺さんの息子だから、君のオジサンになる。だからオジサンって呼んでいいよ」

「うん、雁夜おじさん? ってうわぁ!」

 

 オレはにこりと笑って彼女を抱きあげた。

 不安そうだった桜は目を丸くして驚いている。

 放置されて寂しかったでしょう?

 そのまま行ってたら今ごろは地下蔵であのチンポみたいな蟲から凌辱祭りだ。

 というか、それが無かったとしても養子にしといて放置はネグレクトだろうただの。

 まあ事情が事情だとしても。

 オレは桜ちゃんを肩車し、そのまま玄関に向かう。

 

 桜ちゃんはオレの青い髪をしっかりと小さな手で掴んで落ちない様に頑張っている。

 何とも微笑ましい気持ちになるな。

 原作に叩き込まれたオレだが、こうして接してみると情も湧く。

 なら能力を使って好き勝手にやらせて貰う。

 この子の不幸を取り除き、徹底的に甘やかしてやるのだ!

 

「お、おじさん、どこに行くの?!」

「んー? そうだな。まずは美味しい物を食べに行こう。その次は君にオレからプレゼントをするぬいぐるみを買いに行くかな」

「…………どうして?」

「だって、これから桜とオレは家族だろう? あー、あの胡散臭い爺さんとはもう関わらなくてもいいからな。数日中にオレは君とこの家を出る。だからその準備もあるな。ねえ桜、オレは君が寂しくならない様にずっと一緒にいるからね」

 

 それっきり桜は何も言わなくなった。

 ただ子供にしては凄い力で俺にしがみつき、オレの髪に顔を埋めて震えていた。

 子供が泣きたいときに泣けないって切ない物があるなぁ。

 遠坂でもそれなりに家族の時間はあっただろう。

 だって確か時臣が浴衣姿で家族と笑っている映像を見た記憶があるもの。

 

 でも魔術刻印が一子相伝だから素養があっても無駄になる。

 だから名家であり歴史もある間桐に養子。

 これは時臣が愛を持って判断した事だ。

 勿論根源を目指す利己的な魔術師と言う前提の上での愛だろうが。

 

 でも子供にしたら「明日からお前、あっちの家の子だから」って言われても理解できんでしょ。

 まして同じ街の中なんだぜ?

 普通に考えたらその状況、いつかは仲睦まじい遠坂家の光景を間桐となった桜が見るかもしれない。

 つか間桐家から上に歩いていけばすぐ遠坂家だぜ? 会わない方が変だわ。

 気持ちは分かるけど頭は悪いよな。

 まあオレはあくまで一般人目線だからどうしようもないが。

 

 だからハーレム祭りはいずれヤるけれど、オレが桜のいいパパになるのが先だ。

 凛ちゃんが悔しがるくらいに幸せにしてみようか。

 うん、だから今は甘やかしまくるぜ。

 神秘如きに負けないオレだからな。

 

 そうしてオレは桜を肩車したまま、青空の冬木市に繰り出したのだ。

 ちなみに桜が靴を履いていない事に気が付き、慌てて戻ったのは内緒である。

 




まだできませんでした;


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結婚は、人生の墓場なんて言いまして……

チートあるからって好きに行動できると思うなよ

えっちなことは少しでます


 

 

 前世でオレは独身だった。

 仕事がタフなのもあったが、単純に独身生活に慣れると大概の事は自分で出来てしまうからな。

 そうなるとわざわざ自分のテリトリーに人を入れる必要が無い。なぜなら煩わしいと感じるからだ。

 

 例えば今日はお好み焼きが食べたいななんて思う。

 あるだろう? ごくたまにクッソ重たい物を食べたいって思う時が。

 そこに奥さんや同棲する恋人がいたとして、あら今日は何かサッパリした物が食べたいわなんて言う。

 

 パートナーの意見だし、何かしら男の見栄みたいな物が働き、じゃあそうしようと返す。

 でもそれはよく考えるとストレスだ。だって豚玉と、残すのは目に見えていながら焼きそばを頼み、ビールでそれを流し込みながらプッハーっとやりたかったのだから。

 では逆に、「いやオレは重たい物が食べたいんだわ」なんて突っぱねたらどうだ。

 途端に辺りは重苦しい雰囲気に包まれ結局はストレスになる。

 

 だから結局は身一つで好きにやってる方が楽だと言う結論に至る。

 いやそれでも人肌恋しい時もあるだろう。

 ただそれってセックスの相手がいたり、後腐れなくデートできる相手がいれば解決してしまう。

 相手が欲しい時に、向こうの予定さえ合えばそれでいいのだから。

 

 これがオレの持つ気質だ。

 いかにも独善的で責任を背負う事を嫌う、間違った形だが、現代では割とありふれているだろうライフスタイル。現代日本独自の歪んだ個人主義だ。

 自由の国であるフランスやアメリカならこれは通用しない。

 自由にやるにもキチンとした義務が生じるからな。

 保険や社会制度の劣悪さを考えると、ニートなんかやってたら確実に飢えるかホームレスまっしぐらだもんな。

 まあいい年になっても独身だったらホモか精神異常を疑われるだろう。

 いやー日本が平和で良かったよ。

 

 それはさておき、桜を連れて臓硯が渡してきた権利書の住所にやってきたオレだ。

 場所は京都府内の僻地で、福知山と舞鶴の中間くらいか。

 全然冬木近郊ではなく、結構離れている。

 近くには大江山がある山岳地帯。つまりガチの田舎だな。

 

 車で県道から鉄格子の門を鍵であけ、辛うじて道っぽい私道を通って5km程進むと、どの時代からあるんだよって程に古い農村があった。

 茅葺き屋根のいかにも古民家ってやつが数軒並んでいる。

 見れば荒れ放題で辛うじて原型があるのが一軒。

 それ以外は風化して屋根が崩れ落ちたり半壊している。

 臓硯はこの土地を付き合いで押し付けられたって言ってたが、こんな土地誰も買わねえよ。

 まず自治体がここを宅地認定なんか絶対しないだろ……。

 

 とは言え車検付きの中古ワンボックスを購入し、そこに思いつく限りの生活道具を詰め込んでやってきたオレと桜だが、桜と言えば延々とはしゃぎ続けている。

 冒頭のオレのモノローグはこれに関係があるのだ。

 つまり桜が元気過ぎて既にオレ、疲れてますってこと……。

 

 やべえよ。ファミレスで飯を食えば当然口元を汚すしさ。

 それを拭ってやれば今度はトイレ行きたいと始まる。

 だから桜を連れてトイレの前に来たが、さて男と女どっちに行くべきかと悩む。

 いやまて普通の父親は男に連れて行くはずだよな……? いや自信が無いとかやる訳だ。

 

 それを過ぎ、今度は冬木のショッピングモールでぬいぐるみを買おうとおもちゃ屋に行った。

 おーこの世界にもポケモンがあるのな、とか思いながらピカチュウを見ていると、既に桜はいない。

 ファッ!? ってなったオレが慌てて探すと、子供が遊べるゴムボールだらけのスペースで知らない子と遊んでた。

 アカン……オレに子育て無理かも……と早くもオレはギブアップしそうになった。

 

 まあ養子に来たけどネグレクト状態だから不安だったろう。

 そこにオレがやってきて構いだした。

 不安な気持ちは反転、従来の暗い感じの桜はもういない。

 言うなればマトウ・サクラ・オルタ・リリィである。

 これもう分かんねえなぁ……。

 反転して闇堕ちじゃなく、良い方に反転してるのだからまだマシだが。

 

 そんなオレらだが、あの後数日を経て臓硯から準備が終わったぞと色々渡された。

 この人あれなんだよ。蟲妖怪でエグい扱いされているけれど、表の顔はガチの名士なんだよなぁ。

 金儲けも上手いし、コネを上手く利用して今の地位がある。

 遠坂はセカンドオーナーと言う立場だし、あそこも冬木の土地から金を吸い上げている。

 でもその規模は臓硯の方が圧倒的に手広いし手腕もある。

 

 土地はまあ持っているだろうと言う前提で話をしたが、ついでに金くれと言った件については、間桐雁夜名義の口座に2千万ほど入金してあり、面倒な税務処理は既に終えているから好きにやれと有能過ぎだ。

 それほどにオレの令呪発現に説得力があったのかね?

 ならやれる事はきっちりとこなし、原作が開始される頃には万全でありたいものだ。

 

 なので桜にはおじさんこれからちょっと離れた場所に住まなきゃだけど、どうする? そう聞いた。

 一応ね? 子供だからね。オレはあの家を出て修行する訳だし、残しとく訳にもいかないが。

 そしたら私も行きますときっぱり。うん、……うん? たまに桜、眼光鋭いんだよなぁ。

 ならばさっさと準備しようとオレは役場に行き住民票や印鑑証明などの書類をとった。

 いや足代わりの車がいるからね。

 

 業者に任せてたら時間がかかるから、必要書類を自分でとって、あとは車庫証明さっさと取れや状態にしただけだ。

 んで中古自動車屋で両面スライドドアのワンボックスを購入し、リアシートは全部フラットにして、そこに山籠もりに必要な道具を一式詰め込んだ。

 ホームセンターの店員さんが、あまりの大人買いにドン引きしてたわ。

 

 でまあ、実際現地に来た訳だが、結局この日は舞鶴まで出ていい感じの観光ホテルに泊まる事にした。

 うん、人里へのアクセスが悪すぎるのだ。

 オレ一人なら別に良いんだよ。

 川魚でも捕まえて喰えばいいし。

 でも桜がいたらそうはいかん。

 

 まともにフロも入れない生活とかダメだろ。親代わりとして。

 で、舞鶴に来たのは地元の工務店に頼んで、唯一無事だったあの古民家を速攻でリフォームして貰う事にしたからだ。

 同時に井戸を掘る業者も探して貰い、飲み水確保の井戸を掘る。

 一応現地の写真を撮ってあるが、古井戸なんかもあったし大丈夫だろう。

 

 最低限住めるようにして、かつ桜の部屋だけは子供部屋と言える程度の内装に。

 キッチンやシンク、風呂は中古でもいいから見栄えのいい物を頼むとオーダー。

 値段は総額で600万程。せっかく貰った金がどんどん減るよ……。

 まだ修行も始まってすらいないのに……。

 まあこれはコラテラルダメ……違う! 必要経費だ。

 

 問題は電話だ。携帯がねえんだこの世界。

 ただ移動電話があったから、これも数十万で権利を購入した。

 桜が病気にでもなったら困るしな。何かあった時の連絡手段はいる。

 まあこれも爺のスネを齧る結果になった訳だが、そこは割り切る。

 使えるモノは親でもってのを地で行ってやるわ。

 

 後は家電が最低限使える様に静音タイプの発電機を導入。

 併せて太陽光発電も入れて貰った。

 なので総額がさらにドン。1000万に届きました。

 何やってんだろうなぁ……。

 

 そして工事完了までの1か月弱。

 オレらは舞鶴ホテルを拠点に、桜と毎日釣りをしたり観光をしたりと楽しんだ。

 これ完全に観光旅行やん……。

 ああ、大江山からの景色は最高でしたわぁ……。

 もうヤケクソである。

 

 

 

 ★

 

 

「じゃそろそろやろうっ! 雁夜おじさんっ!」

「そ、そうだね、桜……」

 

 桜がすげえやる気だしてる……。

 半年以上にも渡る修行の日々。

 正直オレ、Fate世界じゃなく格闘漫画の世界にいるんじゃねえの? ってくらいヤった。

 

 序盤は1月も無駄にして、見た目は茅葺き中は現代風のマイスイートホームの準備に時間を費やしたが、その後はもう毎日狂ったように修行に明け暮れたのだ。

 何というか修行すればしただけ強くなるのは伊達じゃ無く、段々自分がいい意味で壊れていくのを日々実感できたのだ。

 

 そして聖杯戦争開始が間もなくとなった秋。

 オレはサーヴァントの召喚を決めた。満を持してって奴だな。

 事前に色々打ち合わせをしたいのと、どれだけ強くなったかを試したいと思ったのだ。

 言峰がアサシン、アヴァロンを持つアインツベルン陣営がセイバーはほぼ確定。

 時臣がギルガメッシュもまた確定。

 

 で、オレなんだが、ランスロットはというか、バーサーカーも正直無いかなと。

 いや魔力に余裕があるなら別にいいんだよ強いんだろうし。

 でもオレって雁夜な訳で、魔術回路はあるけど味噌っかすだからね。

 まあバーサーカーって人の宝具を拾って自分の武器に出来るからさ。

 それは凄いと思うよ。

 でも意思の疎通が出来ないのはきつい。

 

 オレが早めにサーヴァントを呼ぶのを決めたのは、修行の最終段階としてスパーリングをしたいからだ。

 神秘によって逸話が拡大解釈されてとんでも能力になったのが英霊達だ。

 でもいまのオレの場合は、ちょっと訳の分からん方向に強くなってるからな。

 なら武闘派の英霊を呼べたなら、現時点でのオレの地力がどの程度か測る基準になる。

 それによってどう立ち回るかを判断できると言うのが目論見だ。

 

 なので臓硯に連絡し、英霊召喚の儀式の詳細を記載した資料を送らせ今日を迎えた。

 オレ的に理想なのは第五次で登場するランサーだ。

 つまりクー・フーリン。

 正直逸話だけを見たら、どの英霊よりヤバいと思うんだ。

 ヘラの栄光さんが本来のクラスで登場したらその限りじゃないかもだけど。

 

 なのでホントはクー・フーリンをランサーで呼びたい。

 でも修行が楽しすぎてすっかり召喚のことを忘れていたのだ。

 もっと早く気が付いていれば、臓硯のコネを最大限に使って彼の遺物を探したのに……。

 でもまあ仕方ないから、縁故で呼んでみる事に決めた。

 例の神様とか言う規格外な存在にオレはここに送られたのだ。

 ならオレを触媒に呼ぶと何が来るんだろうか?

 それにかけて見る事にしたって訳だ。

 

 しかし問題はそこじゃない。

 聖杯戦争とかこの際ぜんぜん関係ない所で問題が発生したのだ。

 何というか……これまでの生活で良いのか悪いのか分からんが、桜がとんでもなくはっちゃけた。

 なんだろう? 魔術師の家で育ったからか、元々桜は聡い少女だった。

 同じ年の頃の子供では絶対にいないって程に精神が成熟していると言うか……。

 身体は当然幼女だけどさ。

 

 何というかマイホームが完成してそこで共同生活を始めたのだが、最初はオレが三度三度飯を作っていた。

 修行をしてても必ずランチの時間には家に戻り家事をしたんだぞ。

 当たり前だ。親代わりと言うのなら、きちんと責任を果たさなきゃいかん。

 桜は犬や猫じゃないのだから。

 

 すると桜は料理を自分でもしたいと言い出した。

 健気で可愛いな~とは思った。

 でも現実はこんな小さな身体だから、オレは過保護かもだけど難色を示した。

 いや多少出来る様になったとしてだ、オレが修行でいない時に火傷や包丁で切ったら怖いからさ。

 でも桜は頑なにやると言い張った。

 なんだろう、子供なのに野獣の眼光なんだよなぁ……。

 オレはその気迫に負け、結局は簡単な料理を教えた。

 

 米の研ぎ方を教え、基本的な包丁の扱いを慣れるまで指導。

 後は出汁を使って塩コショウで味を整えた時の平均的な味付けとか。

 これが分かれば炒めようが煮ようがどれも同じだからな。

 

 キッチンにはオレが背筋を鍛える為にやっている木の伐採や薪割りで出た木材を加工して、背の小さい桜が作業しやすい様に足場を端から端まで備え付けたわ。床の底上げというか。

 で、暫くやるとセンスがいいのか、筋力が無いから見栄えのいい物は出来ないが、味は普通に美味かった。

 味噌汁、ごはん、卵焼き。オレが山から採ってきた山菜や川魚を使った一品か二品が食卓に並ぶ。

 控えめにいって最高である。

 

 どうやら修行に明け暮れるオレに何か自分も役に立ちたいと思ったらしい。

 あまりに健気すぎてオレの涙腺は不覚にも崩壊したぜ。

 ただそれだけなら良かったんだ……。

 

 次に風呂だ。

 この家の傍に小川があるし井戸も掘ったから水は豊富にある。

 因みにトイレは汲み取り式の汚物層が埋まっている。

 ただ井戸水を使って見た目は水洗になっているから清潔で匂いも無い。

 あとは定期的に業者を呼んで処理して貰うだけだ。

 キッチンや風呂の排水も同じように処理している。

 

 電気は太陽光発電と足りない部分は発電機で問題なし。

 なので普通に家電は使えるのだ。

 ガスはLPだから火力も問題無いし。

 ちなみにネットは昔ながらのISDN方式だ。

 いわゆるダイヤルアップ回線。

 そもそもこの時代には光回線は広まっていないらしい。

 電話線は金がかかったが引けた。県道をラインが通っていたからな。かなり痛い出費だったけど。

 ま、昼間一人で家にいる桜が退屈しないようにって意味で引いたんだ。

 

 いや話が逸れた。そう風呂だ。

 修行を切り上げ帰宅するのがだいたい午後8時くらいだ。

 すると必ず飯が出来ている。

 それを食べると、「雁夜さんお風呂が沸いていますよ?」と、何故かおじさん呼びから名前呼びで桜は風呂に誘導する。

 

 まあ一日野山を駆けずり回っているから汗臭いし当然入るだろうさ。

 風呂はちょっと金をかけてあり、二坪タイプの広めの浴場だ。

 足を伸ばして入りたいしな。

 

 軽く汗を流してからザブンと入る。

 ああ^~たまらねえぜ^~なんて言いながら、命の洗濯を楽しむのだ。

 するとだ、「失礼します……」と楚々とした様子の桜が、余ってブカブカになっているけれど、バスタオルをまいて入ってくる。

 

 ファッ!? ってなるオレに意味ありげな流し目をした桜は、ほうれ見ろとばかりにバスタオルを外す。

 いやもうツルーン! ペターン! なんで色気もクソも無いんだが……。

 そして「雁夜さん、そこにお座りになって」と言うのだ。

 こっちは謎の迫力にやられ、素直に風呂の椅子に座る。

 

 すると桜はオレの背中をタオルでこしこしとやってくれる。

 ここまでは極楽ですよ。桜健気やな~で涙腺崩壊までがテンプレの。

 しかしだ。あろうことかこしこしタオルが気が付くとやたらと肉感的なむにむにに変わっているではないか!

 あまつさえオレの後ろからは幼女が出しちゃいけない「んっ……んんっ……」ってくぐもった声がする。

 こりゃいかん。オレの持つ第二第三の能力がアップを始めるじゃないか……。

 

 というかこの倒錯した状況に我が分身は本気を出している。

 お前そんななるんや……ってくらいにギンギンである。

 いかん、オレは桜のパパやぞ、不埒なマネはいかんぞ! ましてこれはロリじゃないペドや……いかん、人間としての尊厳とか色々終わっちゃう……。これは父でも鬼父になっちゃうじゃないか!

 オレは気休め程度にタオルで股間を隠しつつそう葛藤をする。

 彼女を傷つけずにやめさせるにはどうすればいいと。

 

 しかし神はこれすらも嘲笑っていると言うのか!

 背中を終えた桜は呆けているオレを気にする事無く素早く前に回り、オレと向かい合う体勢でオレの上に座ったのだ。

 完全に体面座位です。本当にありがとうございました。

 そして「雁夜さんのすごいおっきくなっているね……」なんてため息交じりで桜が言う。

 アウトー! 完全にアウトー! 

 オレは慌てて身体を流すと強引に浴槽にザブン。

 

 しかし魔王からは逃げられない!

 桜は小動物を追いつめた肉食獣の様な視線でオレを見ると、優雅に浴槽に入ってきて、またもやオレの上に座る。

 後ろからあすなろ抱きになる様にだ!

 こうなるともう逃げられない。

 オレは気まずいながらもその日あった事を早口で喋り、話題をそっちから逸らそうとする。

 しかしだ、桜はギンギンになっているオレのオレに桜の桜を滑らせる様に動き、やはり「んっ……んんっ……」とやり始める。

 そしてだ、「早く大人にならないかなぁ(チラッチラッ」だもの。

 

 オレは憤慨したね。

 桜よ、どうしてこうなったのかと。

 なので一方的に怒鳴る構図にならない様に気を使いながら、どこでこんな知識を得たのかと問い詰めた。

 

 するとだ、昼間時間がある時、パソコンを繋いで色々ネットサーフィンをしていたと言う。

 そこでとあるネットアイドルと出会ったらしい。

 白髪で中性的な顔をした可愛らしい支援絵がアイコンで、ネット中でファンを集めていると言うじゃないか。

 なんだよその地下アイドルは……。

 

 そのマギ★マリってアイドルが、時折ファン掲示板にいる誰かを個人チャットに呼ぶと言うサービス? をしているそうな。

 で、その掲示板に入り浸っていた桜にそれが当たった。

 マギ★マリ本人と話せるとテンションが上がった桜は、その勢いのままに色々話した結果、オレという存在は君にとって一生で一番の出会いだよ。だから決して離れてはいけないよ! みたいな事を言われ、その後個人アドレスを交換したマギ★マリと桜はオレとの関係について色々話したと言う。

 

 一生の出会い……なるほど夫婦ですね分かりますって流れになったらしいよ。

 そのマギ★マリのアドバイスで。

 お前完全に面白がって誘導しとるやないか! 

 チャットログ見たら完全に煽ってやがる……。

 ご丁寧に房中術的なサイトのURLのリンクまで張ってさ。

 

 例の雁夜さん呼びとかは、普段とのギャップで大好きなカレをドキドキさせよう! みたいな恋愛のハウトゥーサイトの受け売りだったわ。

 でもほら、彼女は彼女なりに一生懸命やった結果だからさ、それを暴いたら公開処刑みたいなもんじゃん。

 それに思い至らなかったオレはつい正論で説教をしたら、結果桜に真っ赤な顔でギャン泣きされ、雁夜おじさんを愛しているの! だから捨てないで! みたいな何故か昼ドラのドロドロの愛憎劇みたいなセリフに至る。

 これもう分かんねえなぁ……。

 

 なのでとりあえずは落ち着かせるために、「将来桜ちゃんが大人になって、まだおじさんが好きだったらお嫁さんにしてあげるよっ!」って逃げた。無難だがベターだと思ったんだ。

 そしたらまさかの「イヤっ!」だぜ。

 さらには「桜知ってるもん! 愛する夫婦はベッドで子供を作るんだもん!」って。

 絶句したね。

 

 あのさぁ……そのマギ★マリだっけ?

 もう絶対に許さねえからなあ……?

 爺の金をどれだけ使っても、絶対に探し出してボッコボコにしてやるわ……。

 悪いけど修行を終えた今のオレなら余裕だから……。

 冬木に戻ったら業者に金積んででもIP特定してやるわ……。

 クソが。

 

 だからまあ、桜が何故か黒桜に覚醒しそうな気配を醸し出してきたからさ、オレは寝る時は一緒に寝るのはセーフにするけど、セックスは身体が出来てからじゃないとダメとルールを制定。

 ただし朝はおはよう、夜はおやすみのキッスをすると言う妥協案が桜側から提出された。

 いくつかの討論の結果、これは講和条約に記載される事となった。

 

 ただネットで超耳年増化した桜は、セックスの基本プレイは既に理解済み。

 身体が小さく挿入できないなら口があるじゃない! って言いだした。

 アカン。絶対それで我慢できなくなってなし崩しにヤっちゃうパターンだ。

 なのでこれも身体に何か問題があったら困るから、どちらにしても最低限月経が始まらないと駄目ですと死守した。

 

 いやね、能力の関係で性欲を全開にするとヤバいんだよ。

 それこそリョナとか凌辱系同人誌みたいになるから。

 ペド体型にお腹がボコー! みたいなヤバ目のやつ。

 イリヤとクロとミユが魔力供給(意味深)を行うために百合ックスを始めたが、あまりの快感に荒ぶったミユとイリヤに謎のステッキ(意味深)が生えて、後ろと前からイリヤとミユが意味深棒でクロをイキ地獄に堕とすみたいな薄い本なら許されるだろうが……。

 それだとホラ、そもそも蟲に凌辱されるのを阻止! と始めた今の生活なのに本末転倒やん。

 

 だからそれが発現しない様に修行も鬼畜レベルで自分を追い込んだからね。

 アスリートは性欲あんまない理論よ。

 でも時折ムラっとするから、山の頂上行ってさ、全裸になって日本海を見ながらのオナニーだぞ。

 びっくりするわ。射精したら5メートルくらい精液飛んでったわ!

 そうやって桜の前でオスっぽい所出さない様に頑張ってたのに……。

 その結果がこれである。

 

 なんと娘のつもりで引き取った桜が、なんと幼な妻にクラスチェンジだよ……。

 黒桜化したら怖いからハーレムも駄目っぽいやん……。

 あー……マジでマギ★マリのやつ……ハイスラでボコるわ……。

 そんな訳で桜をパートナーにするとしても、少なくともあと10年近くはオレ、禁欲生活確定ですわ……。

 つらい……故郷の父さん母さんお元気ですか? どうして貴方たちはオレをロリコンに産んでくれなかったのか……。

 だったらこんなに苦しまずに済んだと言うのに……(錯乱)

 

 

 んで、なんやかやあって────

 

 やりました。英霊召喚。

 例の素に銀と鉄とか、前に4つくらいのダッシュが入った ────告げるとかやってさ。

 魔法陣からドーンですよ。

 

 その瞬間、右手の令呪が熱いって言うか痛いと言うか……。

 んで赤くふぅわぁ~って光ってる。

 

 まあサーヴァント呼ぼうとしたから当然で、出てこないと逆に困る訳だが。

 ただ触媒も無く指示通りの円陣を地面に書いてやったんだが、出て来たのはよく分からない痴女だった。

 クラスはと言えば、アルターエゴとか言う聞いた事が無いクラス。

 

 頭からにょっきりと角生えている以外は、もう直ぐにでも一発お願いしたい程の超美人。

 もうねチクビとか割れ目とかギリギリ隠れているけどほぼそのまま出てるみたいな服なんだよ。

 え、誰なの殺生院キアラって。

 しかも出てきた途端にすっごいエロい流し目でオレを見ながら、

 

「アルターエゴ、殺生院キアラ。救いを求める声を聞いて参上いたしました。

 でも、ふふ……私のような女を呼ぶだなんて、なんという方なのでしょう。

 私は生きとし生けるもの、有象無象の区別なく味わい尽くす魔性菩薩。

 これはもう、地獄の底までお付き合いしていただくしかありませんね?」

 

 そう言ったんだ。だがしかし、妖艶な視線をしてた彼女だったが、急に何か慌て出した。

 完全にキャラ崩壊である。

 え、何かしら? あれ? 本体がこっちきてませんか!? 

 なんかそんな事をブツブツ言ったあと、汗をダラダラ流し始めた。

 

 オレと桜と言えばポカーンとしつつ、まあとりあえず出て来たし別にいいかと思った訳だ。

 まあ眼福だし? でもまあ明日はまた山に昇って全裸オナニーしないとヤバいなコレ。

 んで今日は寝るかと横で見てた桜の手を引き家に戻ろうとした。

 いや家の前の広場が丁度いい感じだから外でやってたんだよ。

 家汚したくないし。

 で、戻り際にキアラさん? に詳しい事は明日話すから霊体化ヨロシク! って言ったんだ。

 そしたらキアラさん。

 

「あ、あのうマスター? 大変言い辛いのですが、どうやらわたくし、霊体化が出来ないみたいなのです……」

 

 しょぼーんって感じで、そんな事を言った訳。

 潤んだ瞳で上目遣いで見てくるしさ。

 やっべ、外れひいちまったなコレ……。

 そう呆れてたんだけど、「雁夜さん、女性を外においとくなんていけないです!」と幼な妻桜ちゃんがプンプンって感じで怒って、とりあえず仕方ないのでキアラさんを家にいれてあげた。

 

 その後家の中は御通夜みたいな雰囲気さ。

 なんかキアラさん滅茶苦茶落ち込んでるんだよなぁ……。

 なんか話が違うとかこんなはずじゃ無かったとかブツブツ言ってるし。

 でも桜がキアラさんの前にご飯をスっと置いたら律儀に食べた。

 器用だねキアラさん。

 

 でもまあ出ちゃったもんは仕方ないよね。

 なので明日もあるし今日は寝るかってなったわ。

 んで「キアラさんどうする?」って聞くと、わたくしはここにおりますのでお気になさらず……としょんぼり。

 しゃあないから茶の間の横の和室に布団だけ敷いてさ、襖は開けといて「眠くなったらどうぞ」なんて言ってオレたちは寝たんだ。

  

 あー外れかー……。

 というか角はアレだけど女の人ブン殴るのは嫌だしスパーリングはきついなぁ。

 ま、ぶっつけ本番で行くか……。

 しかし戦争中、桜はどうすっかなぁ。

 ここにいて貰った方が安全か?

 そんな事を考えていたら、いつの間にやら眠ってしまったオレである。

 

『ふふふっ、もうこうなってしまったのでしたら、マスターには責任を取って貰わねばなりませんね。ええ、ええ、それこそがお導きだったのだと信じましょう。ああっ、どういたしましょう────疼きますわ』

 

 そんな不穏なセリフなど、当然聞こえるべくもなく。 




ロリコンは悪い文明


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アスリートの心

ようやく本格的にえっちな話が書けました


 うーん……もっとFateシリーズを見ておけば良かったなァと絶賛後悔中である。

 というのもオレが召喚した殺生院キアラなのだが、どうも未来っぽい所から来てるって言うんだよ。

 そう言えば凛が呼んだアーチャーも、衛宮士郎が辿った未来のどれかなんだっけ。

 彼女もそのクチなのかもしれない。

 

 聞けば未来は電脳世界っぽいとこになっていて、彼女は月? にマスターとして呼ばれて聖杯戦争に参加したとかなんとか。

 元々は尼さんで、世の快楽を追求していたら気が付くと世界を破滅させたほうがいいのでは? という思想に変化し、未来でラスボスみたいな事をやってたらしい。

 すげーなキアラ。ぶっ飛んでるね。

 

 本人は元々仏教系新興宗教の宗祖(しゅうそ)の娘として産まれたが、深刻な病を抱えていたと言う。

 んで霊子ハッキング? もはやこの辺の固有名詞が出てきた途端こっちはチンプンカンプンなのだが、それで外と繋がると、その病はアッサリ治ったと。

 まあその後信者を戦わせて全員死ぬまでバトルロイヤルをやらせたり、月では死んだマスター達の魂やBBとか言う高性能AIとその別人格であるアルターエゴ2人とかを取り込んで魔人になったらしい。

 

 うん、なるほど。わからん。

 だからもっとFate関係を見ておけばと……ぐぬぬ。

 まあでもアルターエゴって別人格って意味だろ?

 こんなの別にFate用語でも何でもない。

 

 んんっ? でもアルターエゴがその名の通りの意味なら、目の前のキアラさんは誰かの別人格って事なん?

 じゃ既にサーヴァントでも無いじゃん……。

 ってその辺どうなんだろうキアラさん。

 

「はい、その辺はその言葉通りなのですが……どうもわたくしはわたくしとしてここにいる様なのです」

「ん? キアラさんってサーヴァントなんだよね?」

「はあ……そうなのですがそうじゃないと言いますか……わたくし自身が持つ本来の力と言う意味ではむしろ全盛期よりもある位、この身に漲っておりますが、その座ですとか、そう言う物に縛られずここに呼ばれたようです。なので大変恐縮なのですがマスター? わたくし、聖杯戦争が終わったとしても帰る場所がありませんの」

「はぁなるほどねぇ……ってええ……だから霊体化出来ないってそういう? え、むしろ生身みたいな状態なの?」

 

 正座で向かい合うオレとキアラさん。

 オレと言えば、たおやかな笑みとゆるやかな口調で完全にバブ味の極みに包まれていて、どうしようもない愚息の自己主張が先ほどからどえらい事になっているのである。

 こればっかりは第二第三の能力の関係で、いくら身体を苛めて修行しようがどうにもならないんじゃよ……。

 

 でだ。彼女のぶっ飛び過ぎた生き様は絶句だった。

 要は世界に絶望していたらある時から開き直って欲望に忠実に生きた。

 忠実だから一般的な倫理とか常識に何の価値も覚えないから完全無視。

 気が付けばエロの権化として喰らうだけ喰らったら今に至るとさ。

 

 ところがだ。

 本来死んだ存在であるはずのサーヴァント。

 彼女も滅んだからここに居るんだけど、どうやら正規の手順で呼ばれてないっぽい。

 その後無間地獄みたいな所をふわふわ漂ってたらしいんだけれど、こっちきてーこっちきてーみたいな声に誘われそっちに向かうと眩い光があって包まれた、それがとてもキモチイイので愉しんでいたら、オレの顔が浮かんでここにやってきたと言う。

 なるほど、わからん。

 

 その際に「この男は君の欲望を全て受け止める唯一の男だよ」と少年の様な声に囁(ささや)かれ、それを信じて出てきたと言うじゃないか。

 …………完全に例の神様やんけ。

 で、まあそういう経緯はあれどサーヴァントと言う立場とか聖杯戦争の知識とかは持っているし、聖杯戦争自体は愉しそうだからノリノリで参加はするけれど、むしろ終わった後に責任取ってくださいましって言われてさらにオレの人生が詰んだ事をここにきてようやく理解した。

 

 いやね、今朝の事だけど桜とキアラの間でひと悶着あったんだよ。

 オレは基本的に桜と寝ているんだが、キングサイズのベッドなのに桜はわざわざオレに密着して寝ている。

 まあ邪な感情がそこにあったりなかったりするんだろうが、如何せん桜は幼女である。

 なのでこっちとしては別にガキ一人抱き枕にして寝ているくらいの感覚なので特に問題は無い。

 

 しかしだ、昨日は茶の間で正座してお構いなくなんて言ってたキアラさん。

 なんと今朝オレが目覚めると、いつもの様に桜がオレの右手をセミの様に抱きしめ寝ている見慣れた光景なのだが、反対の左腕にはキアラさんがセミになってた。

 しかもあん♡ だのうぅん♡ だの艶めかしい寝息と共に、オレの手をがっつり股間に抱きこんで擦りつけている。

 信じられんだろうがこれ、熟睡してんだぜ?

 

 異変に気が付いた桜がガバっと起き上がると、彼女はキアラさんを突き飛ばす様にして、叫ぶように雁夜さんは私の伴侶なのだからそう言うのはいけないと主張。

 対してキアラさんはサーヴァントとして呼ばれたのに受肉状態でここにいるから、仕事が終わっても元にいた所には戻れなくなった。

 故にオレが責任を取って自分を養う(意味深)のは当然の事ですのよと難解な仏教用語をちりばめつつ反論。

 

 その時点で桜の目がグルグルし始めたんだけど、オレが割って入って曖昧な笑みを浮かべながら「まあここは穏便にひとつ……」と事なかれ主義の日本人丸出しな仲裁を試みたのだが、これは男女の大切な営みの話なのだからマスターは黙っていて欲しいとキアラにも桜にも言われ、オレは部屋から追い出された。

 

 仕方ないのでオレは頭をポリポリやりながら、朝食の準備をしていた。

 手持無沙汰だし仕方ないよね。

 毎日かき混ぜている糠漬けはいい感じだななんてやりながら。

 

 そしたら部屋の襖がパカーン! と勢いよく開き、中から手を繋いだキアラと桜が出てきた。

 二人とも良い笑顔で、まるでラグビーの試合が終わった後にジャージを交換する選手たちの様に爽やかな表情だ。

 これは何か良からぬ事が起こる気がする……桜の変貌を経験し女の怖さを身に染みているオレはそう感じた。

 

 話し合いの結果、雁夜たるオレを二人は最良の形でシェアする事に合意したと言う。

 キアラは桜の拙い性の知識を補完し、桜はこの世界での社会性をキアラに補完する。

 経緯はどうであれ、二人で雁夜を支えて行けば問題無いじゃあないかみたいな結論に至ったらしい。

 ふざけんな! ばかやろう!

 オレはハーレム王になりたくて転生したんだよ……。

 でも、二人の野獣の眼光の前にオレは屈したのだ。

 そう、どう足掻いても男は女に勝てない、それが真理なのだと悟ったのさ……。

 

 哀しいけれど世界はいつだって、弱肉強食なのよね……。

 

 

 ★

 

 

 

 さて、桜とキアラの同盟が完成した所で本来オレがサーヴァントを呼んだ目的であるスパーリング。

 それが出来るかをキアラに尋ねた。

 勿論オレが持つ特性、つまり神秘とか関係なくガチンコできるって言うのも話した上でだ。

 

 オレが山でやった修行ってのは単純だった。

 まず基礎体力の向上だ。神秘の禿げた英霊だとてスクラッチな状態で渡り合うためには自力向上は必須。

 切嗣や綺礼を相手にした場合、重火器や令呪のバックアップで人外化した謎の八極拳と言う神秘とか関係ない相手ともヤらねばならんしな。

 それに切嗣の起源弾は怖いが、魔術のバックアップなしで立ちまわれるならただの銃弾でしかないし。

 

 なので山の斜面を延々とダッシュで走り回るとか、腕の力だけで大木を登るとか、自然を最大限利用した心肺機能及び筋力の増強から手を付けた。

 だが一か月もそれを続けるといろいろおかしくなってきた。

 木登りは幹をぶん殴れば拳ごとズボォ……って刺さるからそのまま登れるほどになってた。

 走る事もそうだ。走法は我流だが、いつのまにか走る速度は鳥を越え、上半身は一切動く事無く下半身は残像が残るレベルまで昇華した。

 もはや十傑衆走りレベルである。

 

 他にも感覚を研ぎ澄ませるために滝行を取り入れ、目をつぶった状態で雫一つ一つまでの動きを察知するくらいに敏感になった。雫のひとつひとつを感覚的に捉え、水面に落下する前に手刀で突くみたいな事を真面目にやってたんだ。

 ネットから手に入れた様々な格闘技の技術はその後取り入れてはみたが、一周回って気付いたのは、それこそ自分の身体を最大限に活かし、相手を最短距離で攻撃するのが最適であると確信した。

 つまりオーガこと範馬勇次郎が行っていた、ただ力任せにブン殴る、あれが最強と分かる。

 

 様々な修行の結果、今のオレはある種明鏡止水の境地にあるのだろう。

 心を穏やかにすれば相手の隠し持つ感情すら読み取れる。

 いや一応は覚えている限りの漫画やアニメで知った技とかも修行に取り入れたよ。

 でもね、渾身の力で殴るのが多分一番なんだわ。

 

 まあ小手先の技として豊富な引き出しを持つのは良いと思うんだ。

 だからまあ一通り出来る様にはなっている。

 勿論組み手をしていないから人間相手にどうなるかなんて知らん。

 でも出来ると思う。出来るんじゃないかな?

 まあ人間程度が相手なら、技を出す=相手は死ぬになるだろうし。

 一応山にいた熊と戦ってみたけど大したこと無かったしなぁ……。

 なので獣との組み手は諦め、逃げる獣を追いかけて組みついて殺して肉にするに切り替えてたわ最近。

 

 だから組手の代わりにカンフー映画に出てくるみたいな木人を作ってみたが、所詮は木製。技を繰り出すと爆散して終わるから意味がねえ。

 なので最終的には基礎的な膂力と、山の木々の間を縦横無尽に動き回るパルクールの上位互換みたいな三次元的な動き、そして超加速とその状態での自由な立ち回り、それらの底上げに終始したのだ。

 

 アニメ的演出だったけど、アーチャーVSランサーのシーンは、赤と青の閃光が交錯しているみたいな感じだったでしょ?

 つまりサーヴァントとガチンコやるにはあの程度の動きが出来ないと、そもそも同じステージに立てない。

 そこからさらに連中には宝具って規格外の武器がある。

 サーヴァント同士の戦いだからゲイボルクは心臓を外すが、オレなら一溜りもないだろうよ。

 やー、あのランサーは今回はいないにしてもだ。

 

 まあそう言う訳でおそらくオレの準備はある程度は整った筈だ。

 それに鍛えただけ強くなるってのは天井が無いって事だからまだまだ強くなれるんだろう。

 なら桜の安全を確保するって動機だけで聖杯戦争に出るのは勿体ない。

 せっかくだ、規格外の連中との殴り合いを楽しむべきだとオレは思う。

 

 ただやはり、現時点でどの程度の力量かって言うのを確かめたいってのが本音。

 なのでキアラに一応聞いてみたのだが……。

 

「ええ、ええっ! マスターとわたくしが身を絡めて殴り合う……ああっそれはなんて素晴らしいのでしょう……」

 

 うん、大丈夫そうだ。

 何かこう全身からエロ光線でまくっているけど行ける様だ。

 ならヤるしかないわな。

 横で桜が恨めしそうに睨んでいるが、せめて10年経ってから出直しなさい。

 

「ならいつもオレが修行をしていた山に行こうか。あそこなら気兼ねなく暴れられる。しかし魔人であるキアラに言うのはアレだが、大丈夫か? 女の身だからとは今更言わんが、その美しい身体を殴るのはいささか気が引けなくも無いのだが……」

「ああっ! そ、そんな!? ……うっ────ふうっ。ええ大丈夫ですわマスター、いえ雁夜さん。この殺生院キアラを侮らない事です」

 

 うん、一応確かめたが、オレの言葉に身体をビクンビクンと痙攣させ、頬は紅潮し少し白目になった後、何事も無かったかのようにキアラはそう言った。

 こいついちいちモザイクかけないとダメなリアクションするよなぁ……。

 まあいいか……。これでもオレのサーヴァントなのだ。

 大事にしてやらねばな。

 

「ああんっ♡ またそんなっ……マスター……パスが繋がっているのですから自重無さって下さいまし……」

 

 自重しなきゃいかんのはお前の方だと思うが……。

 そうして面倒になったオレは、身悶えるキアラを担ぎ、山に向かったのである。

 これが終われば冬木に戻る。

 待っていろマスター共、オレが正義の鉄拳を喰らわせてやるぜ!

 

「やぁん、マ、マスター、そこはっ――――

 

 キアラ煩い。背中で暴れんな。

 

 

 ★

 

 

 

「くっ、中々の攻撃ですわねっ……ですがこれで屈するなんて思わない事ですっ!!」

「あ、はあ……じゃ次はこれで」

「はぁうっ……これほどの重圧、身を裂かれるかのような苦悶を与えつつも、んんぅっ、的確にこちらの急所を穿つなんてっ……」

「はぁ……もういいっすかキアラさん」

「さん付けなんてよして下さいっ! キアラ、そうお呼びになってくださいましっ、そう、路傍に転がる石を踏みつけるかのように蔑んでっっ! はぁっぐうぅぅぅっ……んほおっ!?」

 

 あのさぁ……オレはさ、スパーリングがしたかったんだよ!

 サーヴァントの神秘を力で無効化できる、その為に鍛えたんだ。だから確かめたいんだよガチで戦えるかの実験って感じでよォ!

 

 けどこれ違うんや……。

オレが修行をしたために禿山になっちまった山の頂上に来たんだが、そこに並んで立って「どうだい? 中々の景色だろう?」なんてドヤったオレだが、キアラと言えば「わたくしはこの山の景色よりも、マスターのここにある霊峰で見せてくれる景色がいいのです」などと頬を染めつつ言ったと思えば、凄まじい勢いでオレは一瞬にしていつも着ている道着を全部剥かれた。

 

 つまり全裸である。まあここで飛ばした精子は数知れずだ。

 自然の中で全裸になるのは気持ちがいいからそれは問題無い。

 問題なのはオレを裸にひん剥いたキアラが凄まじい勢いでオレのオレにその淫らな口で登山を始めたからだ。

 

 いかんでしょ。オレは性体験に免疫など腐るほどある。

 だがしかし、日本海を見ながら射精に至ると言う程に賢者である今のオレにこれは毒だった。

 キアラは気付いていたのだ。オレの持つ第二第三の能力の痕跡を。

 確かに彼女が召喚された瞬間、禁欲を続けていたオレは思わず野獣の眼光でキアラの胸や股間を刹那の時で確認したさ。

 でも男なら、誰だって見るだルルォ!? オレは悪くない。

 だがそのねっとりした視線の意味を彼女は正しく理解していたのだ。

 

 彼女は己こそ快楽に堕ちた魔性菩薩だと語った。

 どうしようもなく高尚で同時に害悪な存在なのだと。

 この世全ての快楽を魂から求めてしまう罪人なのだと。

 その彼女の本質がオレと言う餌を前にして我慢など出来る筈も無かったのだ。

 

 キアラも瞬時に全裸になると、その細くしなやかな両の指先でオレには理解できない印を結ぶと目の前にしゃがみ込み、オレのオレを喉の奥まで呑み込んだ。

 呼吸が困難になるほど奥へ奥へと引きずり込めば当然、艶めかしさの欠片も無く、まるで獣さながらの呻き声と体内から溢れる空気が織りなす破裂音しかしない。

 

 白目がぐるりと裏返る程にキアラはそれを続け、切れ長の両の目からは苦悶の涙を流し続ける。

 だがしかし彼女の足元には彼女自身が垂れ流した物で濁流が出来ている。

 キアラは苦行とも言える行為を自ら行いつつ、同時に小刻みに気をやり続けているのだ。

 

 オレも短い時間で既に10度は達しただろう。

 だがキアラの咥内も食道内も妖しく律動を繰り返し、慣れる筈の快感に慣れない。

 これは強敵だ。なるほど、ならばこちらも本気を出さねばなるまい。

 魔性菩薩だ? 魔人だ? 馬鹿にするんじゃあない。

 こっちは神秘も魔性も生きてさえいるなら殺して見せる所存であります!

 

 オレは読経の様に喘ぎ続けるキアラの両の角をむんずと掴むと持ち上げた。

 大股を開いてしゃがんでいたキアラは当然股間の観音様も御開帳しっぱなしだ。

 一瞬目を見開いたキアラに台詞を吐かせる時間も与えず、オレは図らずも本気にさせられた我が宝具をキアラの奥底に向かって突き刺した。

 

 苦悶に顔を顰めるキアラを気にせずにオレは一気に彼女の全てを征服した。

 そうだキアラ。この世全ての快楽を見た、或いは見ようとしたお前の罪をオレは許そう。

 だがそのお前をオレが支配するのだ。

 そう、オレはお前の心すら征服する王だ。

 決めにイくぞオレッ 精液を回せッ

 AAAAAAAAAAAAALaLaLaLaLaie!!!!!

 

 そしてオレは突き刺したオレを中心にしてキアラを大開脚させたまま高速回転させる。

 キアラ、お前が罪人ならば、泥沼に咲いた蓮華の花の如く輝かせよう。

 食らえ全身全霊の花びら大回転だッ!

 ええか? これがええのんか?!

 もはやキアラは悲鳴とも咆哮とも区別のつかぬ奇声を発する。

 それと共に無数の体液がオレたちの周囲に虹を作った。

 

 ああ、アヴァロンはここにあったんだ……。

 

 オレたちは互いに刻が流れるのを眺めていた。

 そうしてオレ達の戦いは終わった。

 オレの勝利、その結果を残して……。

 

 いや、ただのセックスやんコレ。

 いきなり頼んでもいないのに極上のイラマチオを披露したキアラ。

 胃液を逆流させながらも全てを受けきる上級者であった。

 

 大自然オナニーをしてはいたが、この世界ではまだセックスはしていないオレ。

 何度か買い物に行くと誤魔化し舞鶴辺りでデリヘルでも頼もうと画策するも、全て驚異的な第六感を発揮した桜に阻止されたオレだ。

 こんな気持ちのいいフェラをされた事でもう我慢できへんかったんや……。

 

 その結果、キアラを駅弁スタイルでハメながら陽が沈むまで犯し続けちまった……。

 やばいわ第二第三の能力……。

 キアラの中も極上だったんだけど、何度イってもその度に後頭部をブン殴られる程の快感を味わうんだが、それがさらなる呼び水になってもっともっと犯すのだと野獣性が増すばかり。

 後半は流石のキアラもマスターそろそろ壊れますなんて弱音を吐いてたが、それすらオレを掻き立てる燃料にしかならず、なら壊れちまえよォとかキャラまで崩壊してヤり続けたんだわ……。

 その結果がこれである。

 

 全裸で仰向けに寝たキアラがアヘ顔で涎を垂らしながら幸そうに痙攣している。

 その全身はこれでもかとオレのザーメンで汚れていて、それを見てまた興奮したオレは、意識の無いキアラをオカズに10度程ブっかけると言う暴挙に出て漸く落ち着いた。

 

 あれだな……、桜の誘惑に乗らなくて本当に良かったッッッ!

 乗ってたらガチで凌辱系薄い本になってたぞコレ……。

 何というか、制御が利かんわ。

 

 まして今の舞台がFateゼロで良かったわ……。

 SNの時代だったらライダーとかキャスターを酷い目に遭わせる事間違いなしだぜコレ。

 そしてオレは遠い目をしながら、自分で汚したキアラにブっかかってるイカ臭いあれを手で落とそうと苦心するのであった。

 

 あれだね。自分でこんだけ出した癖に、冷静になるとただ臭いだけやなコレ……。

 結局悶絶したままのキアラを何とか背負い、川まで連れて行くと何やってんだオレと強烈な賢者モードで水浴びをしたのである。

 因みに家に戻ると速攻で桜にバレて大変だった。

 

 私も女にしてもらうんだと目つきが魔性菩薩になっていた。

 それを何とか抱きしめてムツ〇ロウさんの様に身体中を撫でまわし、桜はオレの癒しだ! 天使のままでいてくれ! と涙ながらに懇願すると、も、もう仕方ないですねッと丸め込まれたのだ。

 ほっと胸をなでおろすオレ。

 ちょろい幼女で本当に助かったと思うオレであった。

 

 

 

 




尼さん相手にイニシアチブを取れなかったマスターの屑、雁夜


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前向きになってはみるが、実は誘導されてる的なやーつ

修行編おわーり


 冬になり冬木市に帰って来た。駄洒落では無い。

 深山町にある今はもうオレの実家となった間桐の家に。

 

 修行は一応終わった。思いがけず幸運だったのは、キアラがああ見えてガチの殴り合いが強いという事だな。

 ただ問題は、スパーリングしようとすると必ずセックスに行こうとする事だな。

 まあ激しすぎるセックスは思いつく限りの体位を試すせいで、かなりインナーマッスルは鍛えられたと思う。

 いやそう思わないと遣る瀬無い気分になるのでそう開き直ったのだ。

 

 なので今日ここに帰ってくるまでは、基本的にキアラとの実戦メインだった。

 どうなってるのかイマイチオレにはわからないのだけど、キアラの状態ってのは生身なんだよな。

 だから殴ったり蹴ったりすれば当然傷つくし消耗もする。

 けどやっぱサーヴァント的な側面はある訳で、彼女の全盛期らしい時の能力は問題無く発揮できる。

 でも宝具は規格外過ぎらしく、令呪を3画切ってもギリギリ使えるかどうか? らしい。

 使ったらどうなるんだろうな?

 

 ただ変なビーム出して来たり、修行で強くなったつもりでいたオレが、コテンパンにされたのだから逆に良かった。

 お蔭さまで宝具さえなければ、10戦やって4勝くらいは出来るまでにはなった。

 

 サーヴァントとしての彼女は、当然英霊としての耐久力がある。

 だからまあ、それこそ英雄王にエアを抜かれなきゃオレも戦える分、有利に運べるだろう。

 それに真名がバレた所で逸話からの弱点は無いのもメリットか。

 5次アーチャーと一緒で、現代人には把握しようがないし。

 加えて彼女が言う生い立ちが真実なら、同じ地球ではあっても、Fate特有の分岐とか並行とかの世界の話になるんだろうし。尚更だよね。

 

 だが逆にデメリットは、彼女が受肉と言うか生身だって事に尽きる。

 死んだら座に還るじゃなく、文字通りゲームオーバーだからね。

 だからオレとしてはあまりキアラを前に出したくはないんだが、本人がそのヒリつく状態に興奮しているもんで、前に出る気マンマンなんだよなぁ……。

 惚れたが負けじゃあないが、ここまで情を交した以上、彼女の想いも尊重したいしな。

 

 キアラの話を聞けば聞くほど、普通であればキチガイの極みみたいな女なんだよな。

 行動が破滅的なんだけど、彼女自身は悪意が無い訳で。

 いや他人からすれば悪意なんだろうし、彼女の片手間で死んだ奴らからすればまあ、ふざけんなって話だろうさ。

 けどそれって型月のキャラって大なり小なりどこかおかしい訳でさ。

 

 でもオレからすれば、伴侶にするにはいい女なんだよな。

 オレもどこかおかしいのかもだけど、こいつって多分、純粋なんだよ。

 これだと語弊があるな……。

 うーん、あれだわ。子供が昆虫をキャッキャいいながら眺めてて、急に踏んづけて殺したり、足をもいだりするじゃん。

 あれって悪意が無くて、好奇心が原動力だろ?

 こいつの行動理念も多分そんな感じなんだな。

 

 ところで話は変わるが桜はもうダメかもしれない。キアラは存在が既にアウトだからアレだが。

 原作での儚い美少女はもういないのだ。

 その元凶はキアラじゃない。

 立ち居振る舞いが放送禁止なキアラだが、桜に対しては一定のリスペクトを持っている様で、言うなれば素質をブーストする存在だろうか? だからまだセーフ。……セーフ?

 

 しかしそもそもの元凶はネットアイドルのマギ★マリだ。

 だから聖杯戦争が終わったら絶対に見つけ出してブン殴る。絶対にだ。

 桜が取り返しのつかない事になったのはこいつのせいだ。

 

 まず最初に宣言するがオレは断じてロリコンなんかじゃない。

 原作の雁夜おじさんの様に、桜だけは助けるのだ、その想いでオレは強くなる決意をしたのだ。

 つまりは血が繋がっていなくとも、オレは桜の父親になるつもりだったんだ。

 彼女に降りかかる困難を全て叩き落とし、平穏を手に入れ、普通の生活をさせる。

 言うなればこれがオレの全ての原動力である。

 

 だが今はもう本当にアウトだ。

 本番こそしてないが、というかあんなちんまい身体にオレのは物理的に入らないけども、それ以外の事は日に日に上達していったのだ。

 セックスに関わるテクニックと言う意味だけでは無い。

 その手の話題で機嫌が悪くなるオレを懐柔する手管がヤバいのだ。

 

 こっちを下げない様にしつつ、されどオレの罪悪感を刺激して、最終的には有耶無耶にする老獪さを今の桜は持っている。

 これ子供が当たり前にやってのけるってある種のバケモノだろう?

 

 そりゃ怒るよオレは。ダメなものはダメ! そう言う事が出来るのも父親だと思うから。

 すると桜は涙を浮かべてプルプル震えながら雁夜さんごめんなさい……なんてやりながらオレの胸に縋りつくわけだ。

 そもそもガキが雁夜さんとか呼んでる時点であれなんだけど、この際それは置いておく。

 

 怒る内容のほとんどはエロい事に及ぼうとする所をオレが見つけてだ。

 朝起きたら毛布が膨らんでおり、めくってみれば朝立ちするオレのオレを桜が愛おしそうに頬ずりしつつ舐めているとか、リビングのソファーで桜と並んで寛いでいると、気が付けばオレの右手が桜の股間に誘導されていたりとか、とにかく小悪魔桜としての才能をいかんなく発揮してくる。

 

 で、怒ると彼女はしょんぼりして涙目で縋る、それを見たオレは桜も反省したのかなとか思う訳。 

 だがそうじゃない。

 ごめんね雁夜さん。こんな桜を嫌いになっちゃったのかな?

 なんでガキの癖に憂いを含んだ目でそんな事言う訳?

 

 とにかくオレの罪悪感をちくちく刺激しつつ、結局は桜のペースで有耶無耶になる。

 あまつさえそこに色々畳みこまれ、気が付くと講和条約の中にライトなオーラルセックスはセーフとか言う条項が追加されてしまった。

 最低限本番行為に関しては、彼女が法律的に婚姻が許される16歳まではしないと死守したが。

 

 そうなるとキアラとやりまくってるのはズルいとなり、そこで本来の論点が誤魔化され、ならオーラルセックスならセーフという風潮になりオレが丸め込まれるのだ。

 あれだよな。商人がAという商品を50円で売りたいと思い、だがクライアントに100円とふっかける。

 そいつは高いだのわいわいやった挙句、溜息でもつきながら、仕方ない今回は私が折れて50円にします……何て言うと相手はしてやったり、凄い安く買えたなんて思う。

 それに似ていると言うかさ……。

 

 結局は裏にキアラがいて、絶妙な所でアシストしてるんだよなぁ……。

 彼女をオレが召喚してから今日まで、彼女の事を色々知った訳だが、結局のところキアラは凄まじい爆弾だった。

 魔性菩薩とかよく分からんが、シンプルに言えば気持ちいい事が大好きなんだ。

 大好き? いや概念が違うな。

 生物が生きる為に呼吸を無意識に行う。それと同等なんだ。

 生物の呼吸が彼女には快感が該当するってだけ。

 

 だからそこに道徳で突っ込んでも通じない。

 お前の呼吸音煩いから止めろと言われても無理なのと一緒で、当たり前すぎて何が悪いとかの話じゃないのだ。

 キアラに道徳をとけば何を貴方は不思議な事を言ってるのかしら? と真顔で首を傾げるだろうな。

 

 じゃ快感ってなんぞやって話だが。

 セックスにおける快感とかは一側面に過ぎず、例えば他人が苦悶の表情でのたうち回っているのを見るってのも彼女には快感だ。

 自身が死ぬ寸前まで追い込まれるのも快感だろう。

 

 痛いってのは結果で、苦しいのも結果だ。

 彼女はその過程を見る。

 何をしたから痛くて苦しいのか。

 そこにドラマがあって、人がそこに真剣に生きている。

 その結果どうしようもない結末を迎えた時、その過程を含めて感極まる。

 ああなんてこの方は憐れなのでしょう……そう本気で思いながら彼女は気をやる訳だ。

 

 ならオレはどう彼女と付き合うかだが。

 そういう物だと受け入れた。

 だってそれが自然なんだから仕方ない。

 恋人を自分色に染めるなんて言いまわしがあるが、そんなのキアラには無理だ。

 なら無理な事はしない方がいい。面倒臭いし。

 

 オレがキアラの手綱を引くにあたり、彼女に求めた制約がある。

 それはオレの知らない他人を誘導して不幸な目に遭わせたりするな。

 その欲求をしきりに耐える自分に酔ってくれと。

 それと桜を必要以上に刺激するな。

 これらの二点を徹底させている。

 

 それが破られたら本気で捨てると宣言してある。

 オレには例の神様に貰った謎の特技があるからな。

 神秘はオレに通じない。ここまでの彼女との戦いも本気だったが、それでも殺すつもりでやったわけじゃあない。けど、この場合はオレも本気になる。例え負けたとしてもだ。

 まあ失敗したらその時は確実にオレは死んでいる訳で、なら負ける事は考えても意味はない。

 なら勝てたならキアラを殴り殺す事も出来る訳だ。

 実際それをすると彼女は全力で抵抗するだろうけど。

 

 ただ本人はもうオレの骨の髄まで自分のモノだから守ると言っている。

 嘘かもしれない? 疑えばキリがねえよ。

 しかしホントあの神様ロクな事しないよな。

 縁故による召喚のつもりが、あのガキが介入して押し付けられたのだから。

 どこぞの未来の世界ではキアラが大暴れしたって言うし。

 

 彼女は英霊の座にはおらず、全ての彼女が集約されて目の前にいると言う。

 なので他のあり得た世界で彼女が悪さをする事はもう無い訳だ。

 つまりこのどうしようもない爆弾を神様がオレに押し付けたとも言う。

 

 本人はこれまでの柵とか一切関係なく存在できる事に歓喜し、どうどうとストーカー宣言をしやがった訳だ。

 ここに闇堕ちしてないが、オレに病的に執着する桜が加わり最強に見える。

 どうやらオレの目論見であるハーレム計画は潰えたようだ。

 

 元々の桜が持つ魔術の才能にキアラの入れ知恵が加わり、扱いを間違うとアンリマユがフェードインした桜よりタチが悪い何かになりそうだ。

 なのでこの世界にやってきて1年程度でオレの人生は決まったのだ。

 2人の依存度の強い女に両脇をがっちり固められた恐妻家としての人生が……。

 

 まあでも、SNの時の桜とか、普段のキアラとかを思えば、これで辛い辛いなんて言ったら世の男から殺されても文句は言えんわな。

 どっちも女としては極上なのだから。

 色々と問題とか欠陥とかがあるだけで…………。

 

 とかまあそんな面だけを見れば魂が抜けそうになるが、そう言った全てのネガティブな鬱憤をこれから晴らせるのだと思えば少しは楽か。

 その為に冬木に戻ってきたのだし。

 

 聖杯戦争についての方針はもう決まっている。

 オレが各種陣営のサーヴァントにガチバトルを挑む。以上だ。

 それもスクラッチでだ。

 鍛えに鍛えたのは生き抜く為、桜を護る為だ。

 だが鍛えられた実感を持つたびにこう思う自分がいた。

 

 ────これ、英霊相手にガチンコいけるだろ? なら守りの一手じゃ勿体ないよな?

 

 ってね。

 多分普通の人間相手だと勝負にならないのが今のオレの力量だ。

 これは自画自賛では無く冷静に分析してだ。

 何というかあの山での修業で、最後の方はもうただの自然破壊になっていたからなぁ。

 多分かめはめ波とか出さないだけで、ヤムチャとかクリリンくらいにはなっていると思う。

 それくらい上限なく鍛えられるってのはチートだったのだ。

 勿論それはキアラと言う基準が出来た事で余計に確信できた。

 

 そうなると少々の苦痛じゃ苦にならない。

 アスリートがドMだと言われる所以がそういうメンタルかもね。

 実際トレーニングとは負荷を与え、それが普通だと身体を慣れさせる行為なのだ。

 最初は木の幹を殴り拳を折ったり血を流していたが、今は自分の身長の何倍もある巨石を正拳突きで簡単に割れる。

 

 こんな事をやっていると考えてしまったのだ。

 無難に生き抜く? なんて自分は甘い事を考えていたのか、と。

 桜や街を護るって理由があるから、孫悟空の様に力に酔ってフリーザに手痛いしっぺ返しをされるマネをオレは絶対にしない。

 なので最悪死にそうになれば力は使う。これは決定事項だ。

 

 だが鍛えに鍛えた今は、それが果たして彼らに通じるのか知りたいのだ。

 それにだよ? 関わっちまったら引きこもってもダメだろ実際。

 勝ちに来る連中はわんさかいる訳だし第四次は。

 なら減らせる陣営は確実に落とす、これが安全なんだろうよ。

 そうして初冬を迎えた冬木に戻って来た。

 肌寒くはあるが、今のオレにはそれほどでもない。

 

 山籠もりの拠点にしていたあの家からこの冬木に戻ってみると、随分と人が多くて驚いた。

 何というか冬木自体はそれほど人口密度が高い訳でもないし、西日本の地方都市でしかない。

 ただ今まで居た所が酷すぎたと言うだけか。

 まあかなりの時間あそこで暮らしたから、今となっては愛着もわくが。

 

 聖杯戦争が終わったなら、またあそこに戻って静かに暮らすのもいいが、桜の学校の事を考えれば無理か。

 色々はっちゃけてしまった今の桜だが、義務教育は受けさせねば。

 

 帰ってくる途中は方々で観光しつつのんびりだった。

 まずは舞鶴に向かって現地の店でキアラの服を一通りそろえた。

 こいつの角は消そうと思えば消せるのだ。

 なので普段は消して貰った。目立つからなあ。

 

 あと痴女スタイルもアウトだ。

 乳首とアソコが辛うじて隠れているだけのボディースーツめいたアレはダメだ。

 かと言ってもう一つのスタイルである尼さんルックも目立つ。

 尼さんルックでにゃんにゃんするのは興奮するが、こんだけの美人が尼さん姿でうろうろするのも目立つからなぁ。

 

 なのでオレの感覚で適当にコーディネイトしたカジュアルな装いに今は変身している。

 スキニージーンズに乗馬ブーツ。カシミアのハイネックセーターに緑色でハーフ丈のトレンチコート。

 元々ウエーブのかかった彼女の艶々の黒髪はそのまま垂らしている。

 うん、コーディネイト云々とか関係なく、こうして洋服姿を見るとくっそ美人なんだなこの人。

 オレの第二第三のスキルが暴れ出しそうで難儀したわ。

 

 そんな感じでオサレな普段着を何種類かの組み合わせが出来る程度に購入した。

 因みにランジェリーもいるわなって事でショップに行ったんだが、まあ予想通り彼女がえらんだのは全て煽情的なやつ。まあ似あっているからいいけれど。

 それに便乗して桜も欲しがり、服やら何やらまとめ買いしたわ。

 どうせ間桐の家にはロクな服ないしな。洒落っ気のないワンピースとか子供ぱんつ位しか。

 

 その後は温泉に泊まったり、観光地で食事をしたり、周囲の人間には家族旅行にしか見えんだろう。

 そんな風に戦争前の一時を愉しんだオレ達は、お化け屋敷めいた洋館こと間桐家に戻ったのである。

 

 

 ★

 

「む、むむむむぅ…………」

 

 リビングの応接で向かい合うオレと臓硯。

 爺は盛大に汗を掻きながらこうして唸るのみ。

 オレの膝の上には桜がおり、右隣には妖艶な笑みを浮かべて無言のまま臓硯を見ているキアラ。

 蛇に睨まれたカエルとはこの事か。

 

 帰って来たオレは、ダイニングで暢気にメシを喰っていた兄貴、間桐鶴野を見つけた。

 兄貴はオレを見ると「久しぶりだなかり……や?」みたいな感じで硬直した。

 まあそうか。今のオレは身長も180後半まで伸び、体重は120kgはある。

 かと言って太っている訳も無く、体脂肪は数パーセントしかないだろう。

 控えめに言って別人である。

 

 格闘を主軸にした戦闘では、リーチの差が有利不利を分ける。

 元々の雁夜の身長は低くはないが高くも無い、所謂中肉中背だった。

 しかし修行の最中、自己暗示と高カロリー高たんぱくな食生活を徹底し、その修行の内容もまた消費カロリーが2万で追い付かないレベルの苛烈さだった。

 食事で摂れるカロリーは1万そこそこだったが、残りは補助食品で補っていた。

 果糖やサプリメント、プロテインと言った物だ。

 

 自己暗示には理想の体型を常にイメージしていた。

 どこぞの弓兵じゃないが、想像するのは常に最強の自分。

 そのイメージの先の先へと自分を追い込んでいく。

 その結果がこの肉体である。

 つまり追い求める事を止めず、限界を意識しなければ、オレはまだ成長期でいられるって訳だ。

 

 そんな別人レベルの巨漢のオレを見た兄貴が絶句するのは当然の帰結だ。

 そしてオレは畳みかけた。ビビって冷静さを失った兄貴に。

 家族を連れて冬木から出て行けと。

 聖杯戦争が間もなく始まり、それが終われば間桐はオレが継ぐ。

 兄貴の嫌いな魔術の家らしさが更に増すぞと。

 爺にはオレが話を通すから、纏まった金を持って別の場所で新しい生活をしなってね。

 

 兄貴はよっぽど怖かったのか、逃げる様に準備をはじめた。

 まあ爺にはそれなりの金を渡せと言っておこう。

 そしてオレはキアラと桜を伴い爺が待つリビングに向かった。

 

 爺は兄貴と同じリアクションをした挙句、キアラに「あら、あらあら。雁夜さん、この醜悪な蟲を消してもいいのかしら?」と言われ、冒頭の状態になった。

 身体の構成が蟲の集合体という妖怪に堕ちている間桐臓硯。

 そんな爺の目にキアラがどう写ったのか?

 それはこのリアクションを見れば一目瞭然だった。

 サーヴァントとして異質も異質。そもそもサーヴァントの範疇に収まらない存在力を持つキアラ。

 それを前にすれば、彼女が言う言葉がハッタリじゃない事は理解出来た様だ。

 

「キアラ、お前が蟲に触れる必要はない。やめろ」

「あっ、雁夜さんっ……んんぅ……ふぅ。分かりましたわ。でもその不意打ちはいけませんね。せっかくのランジェリーが汚れてしまいますもの。うふふ……」

 

 ウフフじゃねえよ。しなを作って太ももをなぞるんじゃあない。

 隙あらばエロに持ってこうとするキアラさんマジぱねーっす。

 ってかさりげなく気をやってるじゃねえか……。

 桜も対抗心むき出しで尻を意味深にもぞもぞ動かすな……。

 頼むよなーただの幼女でいてくれよー。

 

「う、うむ、相当なサーヴァントを召喚出来た様だな。その、なんだ、あまりこっちに近寄らせないでくれると嬉しいのだが……」

「やらないっての。爺は生きたいんだろう? 例の約束、間桐をオレが貰うって話は守って貰えるかい? オレとしては爺の健康を手に入れたなら、後は隠居して資産運用に専念して貰いたいだけだし」

 

 爺は驚いた顔でオレを見た。ナイスリアクション。

 でも実際そうなんだよ。桜を凌辱前にオレは雁夜になっているし、これまでの爺との関係性とか実感としても無いんだわ。

 そうなるとこっちに迷惑かけさえしなきゃ、こと表の顔に関しては物凄い優秀なのが間桐臓硯な訳だ。

 

 生前のオレはただの一般ピーポーだし、財産があってもそれを運用なんか出来ない。

 株だのFXだの聞いた事はあっても、それが素人に出来るかって話でさ。無理でしょ。

 ならそこはギブアンドテイクでさ、爺に健康体をプレゼントし、その代りオレが当主として実権を持ち、爺には財産運用を任せる。

 これ誰もがウインウインだろ。兄貴にはそのおこぼれを渡しときゃ、裏の世界に関わりたくない兄貴も大勝利だろうし。

 

 爺の健康体プランは結局は聖杯を使う方法しか思いつかんのだけど、問題である聖杯の泥に関しては、キアラが食べる気マンマンなもんで、彼女にやらせてもいいし。出来無きゃ爺には諦めて貰うが。

 そこまでは流石に責任は持てない。

 

 そもそも聖杯戦争自体も別に馬鹿正直に勝つ必要も無いわな。

 要は聖杯が機能するだけのサーヴァントを狩ればいいのだから。

 なのでランサーとキャスター辺りはオレが喰ってみたいが、他は何かこうふわーっと過ごし、セイバー陣営を勝たせればいい。

 で、汚染された聖杯に切嗣が絶望したシーンに割り込んで、オレがどうにかしてやろう(キリッ なんて恩を着せながら掻っ攫えばいいんじゃないかな? キアラ頼みだが。

 

 それでおこぼれで臓硯の肉体をどうにかする願いをして、後はまあ高度の柔軟性を維持し臨機応変にってやつだ。

 この冬木でのドンパチを終わらせる事。

 桜の身の安全を確保する事。

 この二点がクリア出来れば最悪他はどうでもいい訳だし。

 

 それにだ。

 キアラの能力を考えると、宝具をいきなり使えば、例の金ぴかすら初見殺しで済みそうだ。

 何というか彼女自身から聞いた話だけでの判断にはなるが。

 ただそうなると金ぴかがエヌマなんとかをかましたのと変わんないくらいに街がヤバそうだから最終手段だけどな。

 それを思うと、我様とは出来るだけ関わりたくないってのが本音だ。

 

「ま、爺さんよ。とりあえずは見ててくれよな。勝てなくても間桐が負けるこたぁ無いだろうし、アンタの生存方法にも聖杯以外にアテがあるからさ」

 

 おろおろとオレと桜とキアラの間に視線を動かしているジジイにそう言うと、ほっとした顔で頷いた。

 結局この人も大層な陰謀気質には見えるが、長生きし過ぎて逆に当初の目的を見失った憐れな男なんだよねえ。

 同情ってのも違うが、なんだろ? 聖杯戦争でいっちょ調子こかせて貰おうかとは思うけど、出来れば原作のラストみたいにはしたくないからな。

 

 だったら救われる奴は多い方が良い。

 そこにジジイをカウントした所で別にいいだろと思っているオレだ。

 単純に、この人が本来の魔術師として正気に戻ったなら、どんな風になるだろう?

 それを見てみたい気もするのだ。

 

 

 ☆

 

 

「…………多分、もうすぐ始まるんだろうなぁ」

「聖杯戦争がですか?」

「そう。色々頭では考えてるんだけど、これと言った正解が無い話ではあるしな。じゃどっから関わるかってのが決まらねえ」

 

 久しぶりに帰ってきた間桐の館。

 オレが憑依する前からの雁夜の部屋のベッドでキアラを腕枕しながら情事の後の一服をしている。

 憑依する前の雁夜の部屋と一点違うのは、ジジイとの話し合いの後、街の家具屋で在庫があったキングサイズのベッドをいれた事か。

 

 今更桜だけ他で寝ろってのも酷だしな。

 なら聖杯戦争が終わるまではこの家にいる訳だし、一緒に寝られるようにした。

 とは言えキアラの性欲を考えると毎晩のセックスは欠かせないし、オレ自身も聖杯戦争が近い事で気持ちがどうしても昂ってしまい、それがそのまま性欲に直結してるから問題は無い。

 

 ただまあ桜との関係が有耶無耶になっているが、少なくともオレは彼女の身体が大人になるまでは一切本番をするつもりもないし、その内別な男に惚れたならそれでもいいと思っている。

 むしろそうなってほしいよね。オレみたいなオッサン相手にするのも酷だろ。

 現状彼女にとってオレが唯一の絶対的な味方だから、それが幼いながらも恋心に変換してるんだろうよ。

 

 むしろ性的な知識を得た事で、その行為が基本的には恋人以上の近い関係の上で成り立つってのを知って、オレが離れていかない様に無意識に身体を差し出そうとしてるかもね。

 DVのニュースで見たことがある。

 子供ってのは親にどんだけDVされようが、それを自分の都合の良い風に解釈して、鬼畜な親の事を全肯定するんだと。

 だからDVが発覚しても、決して親を責めずに縋ろうとする。

 

 桜ってよく考えるとそれに近い状態なんじゃないのだろうか?

 まあ遠坂の家から養子に出されたのは、大人視点だと理解は出来るんだよね。

 Fateの設定だと、野良の魔術師は別として、魔術の家系だと魔術刻印ってのを次代に継承する事で引き継いでいくんだわ。

 だから結果的に魔術は一子相伝になる。

 

 ただ桜は架空元素とか言うレアな属性持ちだから、魔術師である時臣からすれば、そのまま埋もれさせるのはしのびない訳だ。

 そこで有能な後継ぎのいない間桐の養子にする事で、少なくとも魔術師として立てると考えたんだろう。

 

 何故凛を嫡子としたかまでは知らんけどさ。

 ただし原作の間桐はアレだったから、桜は凌辱され苗床扱いされた訳だ。

 時臣もそうなるって知ってたら別の家探しただろうに。

 単純に時臣は御三家に疑いを持っていなかったんじゃないのかね。

 うっかりとか言われているけど、真面目すぎて腹芸に向かないタイプに見えるし。

 

 だからまあ第四次が終わったら、一応は災害エンドにはさせない様に立ち回るつもりだし。

 そうなると士郎が衛宮にならんかもだけどね。

 ただ第五次を好奇心で見たいがために災害エンドにするのは本末転倒だからしないさ。

 なので、桜が魔術師になりたいってんなら、どうにかコネを作ってどこかに養子にやるか勉強させるかしようと思う。

 

 あれだ、ウェイバーも来るだろうしな、ここに。

 あいつは原作でも唯一五体満足でロンドンに帰った人間だし。

 それにエルメロイ二世になるかもしれん素質のある男だからな。

 だったらこの聖杯戦争でやつを贔屓してコネを作るのもアリだ。

 イスカンダルとは馴れ合える気はしないけどオレは。

 

 まあそんな事を考えてるもんで、今は桜の好きにさせる事にした。

 なので3人でベッド入った後、オレとキアラで桜を構い、良い感じの所でキアラの術で眠らせた。

 体力が無いから眠ってしまったで通るからな。

 その後キアラとハメるんだが、山みたいな野獣セックスは封印し、ドロドロと求め合うスローで淫靡なまぐわいのみにした。

 

 それでもお互いに10回ほど達したからな。

 なんでってそりゃお前、この家に防音ねーもん。

 オレらの本気のプレイなんて数軒先までキアラの喘ぎ声聞こえちゃうぞ……。

 キアラはキアラで、愛されセックスも好きらしいから満足らしいが。

 

「…………んっ、んふぅっ……」

 

 メンソールを肺一杯に吸い込むと、キアラがオレの唇を塞いで、そのまま吸い込んだ。

 そして美味そうに煙を吐くと、今や分厚すぎるオレの胸板に頬をあてた。

 

「いずれにせよ、物事はなるようにしかなりません。それに一念三千と申します。雁夜さまが今はお迷いでも、やがて自然と答えに辿り着くと思います。わたくしはただ、それを横で見届けましょうや。雁夜さま、存分に迷うがよいでしょう」

 

 さすがは本職の尼だねえ。

 言ってる事はよく分からないが、後ろ向きな気分は消えている。

 オレはそれに感謝し、もう一度、キアラを抱き寄せると彼女の中の六道を巡ったのである。

 

 




キチガイだけどちゅき♡


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冬、始まる

エロないよ 繋ぎの回だよ



 ウェイバー・ベルベットは己が呼び出したサーヴァントの気配を背中に感じながら、公園のベンチに座っていた。

 肌寒いとは感じるが、ロンドンの秋よりはマシだ、そう思いながら。

 

 彼が聖杯戦争に参加しようと思った動機は、言うなれば後先を考えずに動いただけの衝動的な物だ。

 売り言葉に買い言葉とは日本でのポピュラーな言い回しだが、ロードエルメロイに自分の書いた論文を散々なまでにこき下ろされた事がトリガーだったのかもしれない。

 

 とは言え時計塔の廊下で、偶然ロードの荷物を受け取らなければ彼はここにいなかっただろう。

 それほどに時間の流れとは、様々な人間の織りなす意図が複雑に噛みあった物なのだ。

 たった一つの思いもかけぬ出来事、それは当人にとってはイレギュラーであっても、もしかするとそれは何かが事前に決めていた、確定している流れかもしれない。

 人はそれを運命とでも呼ぶのだろう。

 

「くそっ、やるしかないっ」

『ははっ、坊主。怖気付いたのか?』

「うるさいっ!」

 

 ウェイバーが虚空に向かって悪態をつく。

 幸い周囲に人影は無いが、他人が見れば今の彼は気が触れたと見えるだろう。

 

 彼は昨日の深夜、この街で飼われていた鳥を盗み、それを贄とし儀式を行った。

 それにより、大柄な赤毛の益荒男が呼び出され、契約に至った。

 故に彼は1人であるが、その背には見えないだけでサーヴァントがいる。

 

 彼の手の甲に浮かんだ3画の令呪。

 そこから伸びる魔力のパスにより、2人の主従関係が成立していた。

 

 ウェイバーの心には今、2つの想いが交差している。

 一つは己が功名心だ。

 あの憎たらしいロードに目に物を見せてやり、自分がどれほど優秀なのかを証明する為に。

 もう一つが恐怖心。

 自分のサーヴァントはその真名を考えると大当たりだと言える。

 

 なにせ彼の名はイスカンダル。

 アレクサンダー大王の方が通りは良いだろうか。

 古代マケドニアの王である。

 彼の両親の血筋は、遠く辿るとそれぞれヘラクレスとアキレウスというギリシャの大英雄の流れを汲んでおり、いわば生まれながらにして英雄の資格を持っている。

 

 実際彼はギリシャ一帯から東はインドまで、果てはエジプト一体まで遠征をし、支配下に置いた。

 地球がまだ球体であると認知される前の古代では、見える範囲、行ける範囲こそが世界であった。

 彼はそれら全てを支配せしめた大王なのである。

 故に彼の異名は征服王。どこまでも駆け抜けて征服する。

 まさに覇王と呼ぶべき大英雄だろう。

 

 衝動で手にした彼の遺物。

 その縁のまま、彼は現れた。

 そして強がるままに胸を張り、震えながら契約した。

 

 しかしここに来て恐ろしいまでの重責を感じたのである。

 本物の英雄が放つ覇気とは、ロードから感じるプレッシャーなど塵と感じる程だった。

 大軍を率い遠征軍は進む。その先頭で兵達を鼓舞し、心酔させ続けたのがイスカンダルという男だ。

 拡声器もない。遠隔地に映像を送る技術も無い。

 そんな環境が当たり前の古代で、彼は万の軍勢を畏怖させたのだ。

 

 ギリシアの哲学者エラスムスはこんな言葉を残している。

 それは、一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。殺人は数によって神聖化させられる、と。

 大英雄とはまさにそれを体現した者の事を指す。

 そんな男と仮初めとは言え主従関係を結んだのだ。

 

 聖杯戦争におけるマスターとは、七騎のサーヴァントを従える魔術師の事だ。

 彼らは皆、令呪と呼ばれるサーヴァントへの絶対命令権を持つ。

 令呪とはそもそも、一画毎に膨大な魔力と制約力が込められた魔術でもある。

 所謂御三家の一つ、間桐が作り上げた秘術だ。

 

 ではサーヴァントは令呪の存在で絶対服従をするのか?

 いやそうでは無い。

 サーヴァントはそれぞれの英霊の座という、どこかも知れぬ場所からやってくる。

 しかし聖杯戦争に呼ばれる際は、各クラスに準じた特性を持って降臨するのだ。

 つまり本来の実力以下であるとも言える。

 

 例えばアルスター伝説におけるケルトの大英雄クーフーリンという男がいる。

 彼は血の半分が神の物で、一種のバケモノだ。

 瞳は七色に輝き、戦闘で興奮すると骨格ごと変化し、異形の姿になったという。

 そして一人で大軍を皆殺しにしても怪我ひとつ負わなかったなんて逸話もある。

 

 彼の戦闘は槍でも剣でも扱えるし、恐ろしい馬二頭に引かせた戦車を操った。

 勿論徒手空拳でも恐ろしく強い。

 さらにはルーンを操るドルイドでもあったという。

 つまり本来のクーフーリンが現界すれば、単純な戦闘で彼に勝てる者はそう多くないだろう。

 

 そんな彼が例えばランサーのクラスで呼ばれたとして、果たして本来の強さと言えるだろうか。

 戦士とは、戦場で相手を殺す者の事であり、そこでは槍だの剣だのと言った決め事は、いわば慢心以外のなにものでもないだろう。

 そこに武器が無ければ死んだ敵兵の獲物を拾って使うのが当然。

 

 結論、クラスを限定された状態でやってくるサーヴァントの強さは、本来のそれとは比較にならない程に弱い。

 それでもサーヴァントの強さを敢えて具体的に語るなら、戦闘機が数機分などと例えられるが、そもそも彼らを人間の尺度で測ること自体が間違っており、それを挙げた者の限界がそれと言うだけだろう。

 とは言えだ、人間が戦闘機に敵うはずも無く、どう足掻いても勝てない相手と言いたいのなら正解だ。

 

 さてそんな彼らが主人であるマスターを気に入らなければ、音も立てずに殺す事も出来る。

 勿論周到なマスターが、聖杯戦争が始まる前の段階で、己のサーヴァントに対し「自分に反逆する事を禁ずる」と命じたなら別だろうが。

 故に基本的にマスターは、サーヴァントに対して対価を提示するのが通例だ。

 

 英霊の座にいる彼らは、過去に死んだ人間の果てである。

 どれだけの逸話を残そうと、元々はただの人間でしかないとも言える。

 実際、サーヴァントが持つスキルというのは、彼らが生きて来た生涯の中で、後世の人にも残る逸話があり、のちの世に知られた事で逸話そのものが概念となり、スキルとして発現した物だ。

 

 中には気質としてそれを持ちえた英霊もいるだろう。

 だが基本的には人々が語り継ぎ、それが認知されたからこそだ。

 故に知名度の高い英霊の能力が高いと言われる所以がここにある。

 

 穿った考え方をすれば、逸話として伝わるそれらが、真実かどうかも怪しいのだ。

 そもそも歴史書の数々は、大概それを書かせた者が自分の偉業を誇張して書かせる事が多い。

 例えば、明智家の者が豊臣家の事を讃える書物を残すだろうか?

 逆に太閤秀吉は自分の事を文字として残す場合、わざわざ小物に見える様なエピソードを書かせるだろうか?

 

 時代が古ければ、どこの世界でも自分の家の繁栄こそが全てだ。

 故に子々孫々と歴史を語り継ぐために、良い事ばかり書くに決まっている。

 そう言う歴史の側面を考えると、果たして歴史の教科書がどれほど正しいのかなど怪しい物である。

 死人に口なしとは万国共通の真理であり、数百年、数千年むかしの出来事の検証など誰も出来ないのだ。

 ただ見つかった遺物や歴史書から、こうであろうという部分を抜き取り編纂する以外に方法は無い。

 

 そんな英霊達がたかが極東の島国で行われる魔術儀式程度に出張ってくるのだ。

 自分たちから見れば恐ろしく矮小な魔術師風情に従う為に。

 それは万能の願望器と呼ばれる聖杯の恩恵、それにあやかりたい未練が彼らにあるという証明だろう。

 つまりマスター達が彼らを従え、早々に反逆されない為に対価をチラつかせるのは当然の手段である。

 

 さて話を戻そう。

 妙な重圧がウェイバーの細い肩に重くのしかかったのは、イスカンダルという本物を間近に見た事で、己の矮小さが浮き彫りになったからだ。

 彼が求める対価はこの現代に受肉し、自分が征服した世界の先を見定め、かつて自身が辿り着けなかったオケアノスの果てに行く事だ。

 

 ウェイバーはこれに二つ返事で約束をした。

 ならば彼に何か確固たる信念があったのか。

 イスカンダルに受肉を与えるという事は、聖杯の権利を手にするという意味になる。

 つまり、ロードエルメロイを含む、自分よりははるかに力量の高い魔術師達をねじ伏せなければならないのだ。

 

 出来るのか? 自分に。

 その事だ。

 イスカンダルに啖呵を切ったのも、実はロードエルメロイに反抗したのと同質の勢いだと彼は自覚している。

 とにかく自分が小物に見られる事を彼は怖れており、その為に無意識のうちに虚勢を張ってしまうのだ。

 けれども冷静になれば理解できる。自分の考えなしの蛮勇に。

 

 だが今更引く事は出来ない。

 ここで自分が弱腰になれば、失望と共にイスカンダルは自分を殺すだろう。

 それが解るからこそ、ウェイバーは憂鬱だった。

 そんな時だった。声が聞こえたのは。

 

「へえ、もう呼んだんだな」

 

 ベンチに腰掛け俯いていたウェイバーが見あげると、そこには全身黒ずくめの大男が立っていた。

 イスカンダル程ではないが、東洋人の骨格には思えない程の恵まれた肉体。

 彼は黒いジーンズに袖の長い黒のTシャツ姿で泰然とそこにいた。

 

 周囲に誰もいない。つまり男はウェイバーを認識した上でそう言ったのだ。

 思わず身構える。

 それと共にウェイバーの背中辺りで金色のエーテルが蠢くも、彼は心の中で必死に今は出てくるなと命じた。

 矮小な小僧ではあっても、そして卑屈で内罰的な少年であっても、それでもウェイバーの思考は冷静だった。

 今ここで手の内を晒すのは悪手である、その事だ。

 

「お、お前もマスターの様だな。ま、まだ始まってはいないぞ!?」

 

 思わず声が震えたのは仕方がないだろう。

 それでも彼が関係者なのだろうと言う前提でそう言った。

 目の前の男はそれに微笑みを返しただけで、そのまま踵を返すと住宅街のどこかに消えていった。

 

「……ふう」

『小僧、この戦争、存外楽しみになってきたぞ。あんな男がいるのなら、それなりに楽しめそうだ』

「何言ってんだよ。アイツ、多分ヤバい奴だ。お前の事を意識しながら笑ってたぞ」

『なればこそよ。このイスカンダル相手に挑発しにきたんだな。あれは魔術師と言うよりは、勇士そのものだろうよ』

 

 ウェイバーはその言葉を無視し、立ち上がると自分の頬を思いっきり両手で張った。

 あんな男がこれから立ち塞がるのか、そう思うと何故か沸々と腹の下が熱くなってきたのだ。

 あの青髪の目立つ筋肉質の男、その後ろ姿を思い浮かべながら。

 震えはいつの間にか止まっていた。

 

 

 ☆

 

 深山町にある住宅街の一角にマッケンジー氏の自宅は直ぐに見つかった。

 結局のところ、原作アニメは視聴した事があるものの、詳しくなんか覚えている訳が無い。

 

 もちろんそれは所謂マニアな人は小説まで読み込み、設定や時系列を把握しているのかもしれない。

 けれどもオレにとってFateシリーズは、今まで見たアニメの中の一つの作品でしか無く、そこまで詳しく流れを覚えている訳じゃあない。

 

 なのでオレがとる戦略としては、潰しやすい所を真っ先に落とし、その後は他の陣営の動きに対し最善の方法をその都度考えるという事だ。

 実際オレという、ガワこそ間桐雁夜で、その事に今更違和感も無いが、それでも原作通りに動く気が無いイレギュラーだ。

 

 なので原作の結末にしないって事は決定事項としても、過程の部分は全て未知だってことになる。

 そこで自分が関わらない展開が増えれば増える程、気が付いた時にはどうしようもない事態になっている可能性が高くなる。

 そうなると必然的に、自分が未知のストーリーを回すしか選択肢が無い事に気が付く。

 

 ではどうするかと言えば、キャスター陣営は最優先で狙う。

 何故かと言えば主従共に弱いからだ。

 マスターである龍之介は魔術師でも無いただの若者でしかない。

 殺人鬼というサイコパスだが、言ってしまえばただそれだけだ。

 

 彼が偶然呼んでしまったサーヴァントであるジル・ド・レェにしてもだ。

 触手を出す魔本があれど、キアラとガチンコ出来るいまのオレなら狩れるとは思う。

 なので狙うならまずはここだ。

 

 次はそうだな、消去法的にランサー陣営になるだろう。

 あそこはマスターとその婚約者、そしてランサーという複雑な人間関係であるし、マスターとランサーの間に一方的な忠誠心はあれど、マスターはランサーを一切信用していない。

 つまりはチームとしての纏まりが薄く、イレギュラーな展開に弱いと思われるからだ。

 例えば隙をついてソラウ嬢を殺しにかかればケイネスは反射的に彼女に意識が向く。

 結局、血なまぐさい現場に婚約者を連れてきている時点で彼は無能なのだ。

 

 魔術師としての力量は凄いのだろう。

 あの水銀の礼装も素直に凄い物だと思えるし。

 もし切嗣に起源弾が無ければ返り討ちに遭っていただろうな。

 だって重火器は無効化していたし、あまつさえ至近距離での爆風にすら耐えている。

 同じ様に、言峰もなすすべなく殺せるだろう。

 要はあの礼装、対魔術師と、魔術以下の攻撃手段に対しては滅法強いんだ。

 切嗣に負けたのは単純に相性が悪すぎただけで。

 

 けれども彼はその礼装に頼った戦闘スタイルだし、執行者の様に修羅場を経験している訳でも無い。

 なので有利が取れる所では圧倒的でも、想定外の事に狼狽える素人っぽさがあるのだ。

 それに加え、自分の弱点である婚約者を現場に連れてくるという慢心。

 この慢心こそが彼の死因にも等しい。

 なんというかケイネスは聖杯戦争を舐めていたんだろう。

 若くして時計塔のエリートとなった己の優秀さが、イコールそのまま、戦いでの強さであると決めつける事になった。

 世間を知らない純粋培養なお坊ちゃんって感じだな。

 

 故に無能だと言ったのだ。

 この聖杯戦争って戦争の部分は名ばかりであり、実際は7人によるバトルロイヤル方式の決闘なわけで。

 んでマスターが魔術師である以上、戦力はサーヴァントひとりと自分の魔術が戦力の全てだ。

 

 けれどもこの第四次に限っては、アサシン陣営やライダー陣営は単騎って訳じゃ無い。

 アサシンが分裂タイプのやつだし、ライダーの宝具は軍その物の召喚なわけで。

 つまりは基本的にはマスターとサーヴァントというペア編成だとしても、相手がそうとは限らないのも事実って事だ。

 当然各陣営は自分たちの手の内を出来る限り隠蔽するだろうし。

 

 そこで慢心出来るケイネスは、ランサーを抑える事さえ出来れば安パイって事になる。

 まあケイネスの礼装がいかに凄かろうと、海に突き落としてやれば終わるだろ。

 魔術で延々と海中で生きられるなら別だが、そんな都合のいい魔術なんかある訳も無し。

 

 まあ金ぴかこと英雄王の慢心とは質が違うけどな。

 彼の慢心とは、ある種の諧謔《かいぎゃく》みたいなもんだ。

 彼は人類の歴史の最初の第一歩を記した様な物だし、世界が自分の庭ってのもあながち間違ってはいない。

 そして神の血を引いていながら、その神と決別し、人類が自分たちの足で歴史を刻むきっかけを作った。

 

 その彼からすれば、自分以外は等しく無価値なのだ。

 有象無象の中でごくまれに、価値のある存在を見出し、それに愉悦を覚える。

 つまりたかが人間一人の人生の価値などいちいち吟味する価値観をそもそも持っておらず、宮殿から見下ろす広場につめかけた自分の民たちと同質なのだ。

 

 王は全てを統べる存在。

 それを文字通りやってのけたのがギルガメッシュという王なのだ。

 だからまあ、遠坂時臣の目的も、衛宮士郎の葛藤も、たしかに人間目線じゃ色々思う所はある。

 けれどもそれを王であるギルガメッシュに言われても、夥しい数の民を導いて来た彼に何て答えればいいというのか。

 

 多分、ギルガメッシュだろうがイスカンダルだろうがアルトリアだろうが、王は直属の家臣くらいまでしか目は届かない。

 末端の兵なり民を評価するのは、あくまでもそれを束ねる上役だろう。

 それがさらに上役、そのまた上役と伝わり、やがて王にこんなやつが居たって伝わり、そこで興味を惹かれれば気に留めるかもしれない。

 せいぜいその程度でしかないのだ。

 

 故に英雄王の慢心は、下々の人間相手に本気を出す事自体が恥だからに過ぎない。

 王は兵に命じ多くの敵軍を殺す。

 けれども自ら剣を取り誰かを殺す殺人者では無い。

 同じ殺人行為でも、その2つの間には大きな隔たりがあるのだろう。

 

 だからこそ、敢えてオレは序盤から中盤の間にギルガメッシュに挑むつもりだ。

 何故か、それは単純に、彼に本気を出されたら困るからだ。

 オレの持つ力は英霊相手には相性がいい。

 それこそケイネスに起源弾を撃つ切嗣の様な構図となるだろう。

 

 でもだ、エアは駄目だ。

 あれはオレの能力でも抑えきれない。

 いくらオレが人間の枠を超えた力を持っていても、あくまでも視界内であり触れられる距離じゃないと意味がないのだ。触れられなきゃ殴れないのだから如何ともし難い。

 

 エアを解放して宝具を撃たれれば、下手すりゃ冬木どころか周辺地域が原初の景色になっちまう。

 これはマズい。

 だからギルガメッシュとの戦いは、闇討ち前提で考えている。

 それこそ大橋での英雄王と征服王の一騎打ち、あれに横やりを入れても。

 イスカンダルには恨まれるだろうが、対英雄王となれば義を重んじる事すら慢心だろうよ人間目線なら。

 

 はぁ……散々息巻いて英霊とガチンコやるぜなんて言っていたが、冷静になると第四次ってヤバいのばっかだなと改めて思う。

 まったく、先が思いやられるな。

 とは言え、それに怖気づいて立ち止まる気など一切無いのだがな。

 

 桜の、そしてあの、うん、キアラの……。

 今後も彼女らと生活をするのなら、冬木は平和でいてくれないと困るのだ。

 ならば今動かなくていつ動くのかと言う話だ。

 何もしなければ、確実にこの街は火の海となるのだから。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 日本入りしたアインツベルン陣営。

 セイバーのサーヴァントを召喚した本人である衛宮切嗣は、妻であり小聖杯を宿すアイリスフィールを偽のマスターに仕立てた上で別行動をさせていた。

 それは彼女をマスターとして誤認させる事が一瞬でも敵マスターの目を欺く隙となるだろうからだ。

 そうすれば確実にマスターを落とせる、そう言う思惑である。

 

 そして現在の彼は、自分の都合よく動く女との密会に、新都にある安ホテルにいた。

 女は久宇舞弥と言い、切嗣がかつて拾った少女だった女性だ。

 彼女は生きながら死んでいる。

 それは生きる事に何の意味も見いだせないからだ。

 

 元々の彼女は少年兵の一人で、人間以下の生活を強いられながら日々大人たちに自分の穴を使われるだけの道具であった。

 故に世界に対し何の希望も抱けず、全てに対して無気力となった。

 その為自分で死ぬこともせずに今日まで生きて来た。

 

 彼女を拾ったのが切嗣であるから、自分の命は彼が好きに使えば良い。

 久宇舞弥という女の行動理念はこれである。

 逆に切嗣は彼女が絶対に裏切らないからこそ傍に置いている。

 或いはいくつもの贖罪の念から、人並みの幸せを得ることを忌避してはいるが、無意識に人間らしい他人との接触を求めた結果かもしれない。

 とは言え本人達にそれらの感情は無意味であり、考える事も無いのであるが。

 

 密会の内容は今後の動き方についての打ち合わせだ。

 ここは歓楽街の外れにある連れ込み宿で、そう言う界隈を訪れるのは何も若い恋人同士とは限らない。

 むしろ家庭のある者だったり、社会的立場の高い人間が人目を避ける様に逢瀬を楽しむ場所でもある。

 故に切嗣がこの場を選んだのは、いかにも常人では無い雰囲気の男女が入り込んだとしても不自然では無いからだ。

 

 打ち合わせの内容の多くを占めたのは、事前に非合法ルートで持ち込んだ重火器や爆薬の回収と、その設置のタイミングについてである。

 切嗣は魔術師としては中途半端な存在であるため、聖杯戦争において魔術での戦いはそもそもしない。

 いや出来ないという方が自然か。

 

 そもそも切嗣にとって魔術とは手段であり、敵を殺す為の選択肢の中の一つに過ぎない。

 これは彼自身が不完全な魔術師である事が原因である。

 魔術とはいくつもの複雑な手順を経て漸く起こせる神秘の体現だ。

 誤解を恐れずに言うならば、その苦労に見合う結果が必ずしも得られるとは限らない欠陥品だとも言える。

 

 基本的に魔術を扱うには、前提としてその身に魔術回路が存在している事があげられる。

 これは魔力を循環させる神経組織の様な物で、その本数は個人差がある。

 次に魔術師はその家系を幾重にも積み重ねる事で強さが増すという特色がある。

 これは魔術にはそれぞれの特色があり、言わば何かに特化した技術とも言える。

 それを魔術刻印という術式で次代に継承を行う事で引き継ぐことが出来るのだ。

 次代はそれを更に研鑽し、その重みを増していく。

 故に長く続く魔術師の家系は貴重であり、その技術は高いとされている。

 

 だが切嗣はどちらの面でも不完全だった。

 魔術回路の本数はそれほど多くないし、刻印の方はその全てを継承しきれていないのだ。

 その理由については、彼の過去について少し触れる必要がある。

 

 衛宮切嗣は幼少時、とある島で生活をしていた。

 彼の父である衛宮矩賢は優れた魔術師であった。

 彼の魔術は時間操作と言う物で、自身或いは小因果の範囲を、固有結界を用いる事で時間の加速を行う。

 それが魔術協会から封印指定とされ、追手がかかった。

 

 そこで矩賢は島に潜伏し、自身の研究を続けながら幼い切嗣と暮らしていた。

 彼は時間操作を使い根源に辿り着く事を目的としていた。

 人間性はいかにも独善的な魔術師然とした物だが、その一方で正しく切嗣を愛していた。

 そう言う意味では、魔術師と父親と言う心を両立していた稀有な存在とも言える。

 

 矩賢の研究は行き詰っていた。

 いや、正確に言えば研究を続けていけばいずれは根源に辿り着く算段は出来ていた。

 しかし圧倒的に時間が足りない。

 人間の生涯は長くとも八〇年前後だろうか?

 彼はそれでは足りぬと判断した。

 

 そこで手を出したのは、人間の寿命に縛られない肉体を得る事だった。

 その為に研究をしたのが吸血衝動を持たないクリーンな死徒化である。

 そうすれば死徒と言う人外の能力の、欲しい部分だけを手にする事が出来る。

 しかしてそれは助手のシャーレイや息子である切嗣、当然自身を含め、破滅に至るトリガーとなった。

 

 シャーレイは矩賢の助手を務めていたが正式な物では無い。

 流れで結果的にそうなったと言うだけだ。

 アリマゴ島は南海に浮かぶ孤島であり、外界から隔絶した辺境だ。

 しかし彼女は頭脳明晰であり、通信教育ながら一三歳と言う年齢で大学院レベルの知識を持っている。

 その好奇心は強く、切嗣を弟の様に接しながら衛宮家と関る様になった。

 

 しかしその強い好奇心の結果、矩賢の死徒化の研究の中で使っている試液に触れる事になる。

 矩賢にはそれに触れるなと言い含められていたにも関わらずだ。

 結果、不完全なまま死徒化してしまう。

 不完全と言う事は当然、強い吸血衝動を起こす。

 

 故にシャーレイは切嗣に自我が無くなる前に殺してと懇願した。

 けれども切嗣は幼く、そして目の前の女には淡い恋心を抱いていた。

 故に彼は殺すという選択を取れず、結果島の教会に助けを求めた。

 

 教会は主の奇跡を伝えるだけの組織では無い。

 主の敵を殺すという仕事もあるのだ。

 結果、死徒と言う存在の発覚は、教会の暗部をこの島に呼ぶ理由となった。

 

 この時より衛宮切嗣と言う男の不幸は始まったのだろう。

 力の無い自分が必死に奇跡を願ったところでそれは叶わない。

 そう、人にとって都合のよい神などは存在しない。

 

 彼はこの後も生き延びた。

 ただおそらく、この幼少時の経験の結果、彼の心は凍ってしまった。

 その後にいくつかの悲劇を重ね、それでも身体は成長し、生きる為の技術を学んだ。

 けれども彼の精神は父とシャーレイの喪失。

 この時点で止まったのだ。

 

 何故なら、彼が願う恒久的な平和とは、子供が無邪気に思う夢と違いはないのだから。

 さもありなん。理由はあれど、過程の無い夢など大人の社会では許されないのだから。

 抽象的で生きていける程、世界は甘くはないのだ。

 

 コートの襟を立てて雑踏に溶ける衛宮切嗣。

 ふと見上げた濁った空に、彼は何を思うのだろう。

 それでも彼に止まる事は許されない。

 その果てに何が待っていようとも。

 

 




型月ファンには薄々お気づきでしょうが、細かい設定とかガバガバです。
ある種、Fateキャラを使って個人的なストーリーを流しているだけなのかもしれません。
なにせエロを書きたくて始めたってのと、キアラPUって爆死した結果、書けば出るというオカルトに縋って書き始めたという不純過ぎる2つの理由により、復刻ではなく初回のCCCコラボの時に書いた作品なので。

ほんとはね、この主人公の能力は、イマジンブレイカーみたいに神秘を無効化するってやつで書いてたの。
でもね、それはつまらんのよねチート感凄すぎて。
その部分を全部消し、徒手空拳タイプに書き直した。

ただ目的は歪すぎる情愛とか、生産性の皆無な貪る様なセックスとか、そう言う爛れた相手との愛は成立するのかねえって言う感じでキアラを動かしたいんです。

なのでこの後も書きますが、ZEROのストーリー自体は彼と彼女には添え物程度で進んでいきます。

言うて結末は決まってますが、起承転結の転の部分が白紙なので、その辺を悩む事になりそうですが。

なので保険じゃないですが、型月設定と矛盾があったとしても、今更止まるんじゃねえぞ……って感じで行きますので、設定剥離が気になる方はそっと閉じてくださいまし



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撃鉄をあげろ

多忙過ぎて全然かけてません!
が、エタっても嫌なので、中途半端な状態ですが投下。
だから短いです!
また暫くまってつかあさいや;;


 

 

 

「…………ッ!!」

 

 互いの息は荒く、恐らく断末魔に似た苦悶。

 声を殺してまぐわうのは、快楽よりも苦痛が勝る。

 

 息を殺して、己が剛直で祈荒(きあら)の蜜が溢れた陰穴を破る。

 すると彼女は生娘の様に顔を顰め、だが次の瞬間酷く淫猥な笑みを見せる。

 

 始まりはいつも乾いたそこに無理やり押し入る事から。

 愛を持ってぞんざいに扱われる事を祈荒(きあら)は悦ぶのだ。

 けれどもそれを叶えたくてオレがそうする訳じゃない。

 

 ただそうすると、酷く気持ちがいいのだ。

 処女性を重んじる訳でもない。

 今や人の枠を越えた、ただの化物に過ぎないオレが、そうする事で人であると認識できる様に感じるからだ。

 

祈荒(きあら)、口を開けろ」

「……はっ、はっ……あっ────」

 

 今や愛液を垂れ流し、無造作に生え散らかした陰毛をだらしなく張りつかせた祈荒(きあら)を貫きながら、声を殺して喘ぎ、短い時間で繰り返し気をやり続ける彼女の口に指をつきいれる。

 声を、動きを制限しつつも、腰を打ち付ける反復運動はベッドを小刻みに揺らす。

 

 横目に見えるのは、年相応にあどけない寝顔を晒した桜の姿。

 貫頭衣のような質素な寝間着。

 胸元はまだ女であることを一切主張していない。

 そこが規則的に上下している。

 桜は眠っている。

 

 祈荒(きあら)の切れ長な目が虚ろを湛えながら桜を見る。

 すると口が半開きに割れ、喘ぎと共に愉悦が滲む。

 この女は相手がただの少女であっても、自分がこの男を独占しているのだと喜悦しているのだ。

 その業の深さに愛しさが増す。

 

「んぶぅ……ぇろお────」

 

 唾液でぬめる舌を指で掴むと、祈荒(きあら)は吸い込む様にしゃぶりつく。

 指に感覚はあれど、性感は感じない。

 だが無心に、彼女は愛撫を繰り返す。

 充血した目がオレを射抜くが、その意味のない健気さに胸がどくりと鼓動した。

 

 半開きの唇からはだらだらと唾液を零し、これだけ綺麗な女だというのにその唾液は獣の体臭の様に鼻につく。

 それが余計にオレを興奮させ、思わず細くて白い彼女の首を絞めたくなる欲が産まれるが、必死に耐える。

 

「……んっ、んんっ、はあっ……雁夜さまのが、膨らんで、おります……」

 

 確かにオレはもう果てるのだろう。

 繰り返し後頭部を強打されるような快感の渦に襲われている。

 力を入れ過ぎても、だが抜き過ぎても直ぐに放出してしまう。

 だからそれが嫌で必死に抵抗をしている。

 

祈荒(きあら)っ、祈荒(きあら)祈荒(きあら)、ああっ……」

「なま、えっ、呼ばれています、ああっ、名前、名前っ……ええ、雁夜さま、ここにおります、あなたの祈荒(きあら)が、ただの祈荒(きあら)がここにいるのですっ、ああ、嗚呼……果てて下さいまし、わたくしの名を呼びながら、果てて下さいましっ、ああ、ああっあああああっ!」

祈荒(きあら)祈荒(きあら)っ────」

 

 オレは征服したいのだ。

 独占したいのだ。

 このどうしようもない女を、縛って、縛って、縛り尽して。

 名を、彼女にとっての真実の名を呼ぶことで互いに喜悦する。

 

 数えきれない程の男と交わっただろうこの女を。

 どうしようもない性癖と思想を抱えたこの女を。

 抱く事で、飲み込まれる様に抱かれる事で愛していく。

 ああ、果てる。

 出てしまう。

 

 乳房を掴む。潰さんばかりに。

 必然、行き場を失った血液が先端を真っ赤に染め、オレはそこに齧りつく。

 ぐちゃり、ぬちゃりと、祈荒(きあら)の中に自分を突きさしながら。

 何度も、何度も、あれだけエレクトしていたそれが溶けそうな感覚に変わる。

 祈荒(きあら)が背中を弓なりに逸らし、だが堕ちない様にオレの首に手を回すと、粘つく舌をオレの口にねじ込んでくる。

 

 そして同時に果てた。

 目の前が真っ白に。彼女も全身を痙攣させた。

 脈打ちながら何度も祈荒(きあら)という女の最後の領地を白く塗りつぶす。

 苦痛なくらいの快感の波に目の前をスパークさせ、余韻よ続けとばかりに緩やかに腰を送りながら。

 

「ふふっ、愛しくて、貴方様を喰らってしまいたくなります……」

 

 つながったまま覆いかぶさるオレに彼女はまるで子供をあやす母親の様に、汗ばむオレの背中を撫でる。

 どれだけ性欲が、欲望の獣性があろうと、気持ちまで注ぎこむ交わりはこうして酷い倦怠感に襲われる。

 いいよ、オレがそう言えば祈荒(きあら)はどうするのだろう。

 

 きっとそうされても後悔は無い様な気がする。

 彼女の思想は、恐らくオレという人間が傍にいた所で変わりはしない。

 ただ楔の様な、だが酷く脆いダムの様な、オレの存在など多分その程度なのだ。

 

 それでも彼女はオレを喰らいはしないのだろう。

 祈荒(きあら)、そう初めて呼んだ時の、少女の様な恥じらいが本物なら。

 それが彼女の擬態の一つだったとしたら、多分オレが間抜けだっただけという事。

 

祈荒(きあら)、お前、良い匂いがするな」

 

 二人で仰向けになって寄り添い、目を閉じる。

 何となく漏れたセリフに彼女は何も言わず、ただオレの胸を爪で甘く引っ掻いた。

 背を向けて寝ている筈の桜が揺れたように見えた。

 

 それでもオレ達は、ただけものみちをゆくだけ。

 

 

 ☆

 

 

 英霊同士の戦い。

 そこにヒトとして入り込むのは愚かである。

 どれだけ研鑽し、どれだけ積み重ねようと、彼らは人としての存在を捨て、伝承による逸話が概念となり、それが彼らの強さとして固定される。

 

 ならばオレは。

 自身の特性は上限の無い潜在能力。

 つまり鍛えれば鍛えただけ身になる訳だ。

 

 祈荒(きあら)が来る前、そして来た後。

 そこを基準に明確にオレの力量は増した。

 だが考えても見て欲しい。

 たった一年未満だ。オレが修行に費やした月日は。

 

 それはどれだけ濃密な修行だろうと、所詮は短い期間でしかない。

 ならば何故、祈荒(きあら)を得たオレが(たが)を外す事が出来たのか。

 彼女のルーツである真言立川詠天流とは、真言密教の一派ながら、男女のまぐわいを経て解脱に至ると言う教義があるらしい。

 

 愛欲そのものが彼女の本質では無く、セックスにおける様々な手管もまた、彼女の武器なのだ。

 オレにとっての彼女は、サーヴァントというよりは、広義的な意味では母のような存在なのかもしれない。

 祈荒(きあら)との修行としての交わり、これは冬木に戻ってくる前のほんの2か月程の期間に過ぎないが、スパーリングよりはむしろこちらを重点的にこなした。

 

 魔人としての側面を露わにすると、オレの精神は彼女の胎内に取り込まれる。

 そこで彼女の本質と対峙し、刹那の時間で数百年の苦行を行う。

 ただ絡みあい、溶け合い、己をさらけ出して貪り合うだけのセックス。

 その最中にこれは行われる。

 その結果、ただの2か月が数百年もの期間に化ける。

 

 聖杯戦争においてマスターは、呼びだしたサーヴァントと契約を結ぶと言う。

 それが建前に過ぎないにしても。

 オレが彼女にした約束事は、ただお前を愛すると言う事のみ。

 対して彼女がオレへ約束したのは、永劫オレと在り続けると言う事のみ。

 

 だから彼女が危うくとも、ある一線を越えないのだ。

 オレを取り込み、子宮の中でドロドロに溶かし味わっても、必ず元に戻す。

 無数にある彼女の欲望の向かう先をオレという一点に縛っているのだ。

 おそらく、彼女がそれを破ろうとすれば可能だろう。

 

 なにせ彼女は魔人で破戒僧なのだから。

 ゲッシュを破った勇士は神の加護を失うと言うが、彼女が制約を破ったとして、あるのは快楽だけだろう。

 禁忌を破る、それほどに甘美な事はないのだから。

 

 だがオレは無様に()うのだ。

 情けなく喘ぎながら、無防備に口を半開きにし。

 愛しいお前を死んでも縛り付け続けたいのだ、と戯言ですらない益体(やくたい)も無い事を呪詛の様に吐きながら。

 それが祈荒(きあら)にとって楔になっている様だ。

 

 依存しているのはオレだ。

 桜を護る、その目的の為に強くあらねばならない。

 その為に祈荒(きあら)を利用する。

 依存はその為の対価だ。

 

 だが目的の為の手段が今や、逆転した。

 際限なく積み重ねた己の力量。

 それがどこまで通じるのか、それを試す。

 

 結末なんかどうでもいい。

 桜の安全は確保した。

 ならばオレはあいつと共にある為に獣に堕ちる。

 

 嗚呼、とても腹が減った。

 なら喰らうしかないだろう。

 だから――――飛び出す。

 物陰に息を潜めている倉庫街の夜。

 

「なっ、我等の戦いを(けが)すかっ!?」

 

 倉庫街に閃光が交差する。

 二本の手槍を持つ槍兵と、不可視の剣を振う女騎士。

 寸前まで気配を消して飛び込んだ。

 

 なるほど、英霊をして察知できない程度には身についていた様だ。

 ランサーが憎々し気に顔をゆがめるが、既にオレは足を振り上げていた。

 

「なっ!?」

 

 驚いた所でお前の槍はオレの手にある。

 どれほどの達人だろうが、武器を握ると言う時点で不純なんだ。

 個の戦いにおいては。

 

 武器とはつまるところ、リーチを伸ばす手段だ。

 確かにそれはメリットだ。

 戦国時代、乱戦において日本刀を使うバカはいない。

 槍だ。圧倒的に槍が有利だった。

 

 離れた所から突き、動けなくする。

 後はゆっくり殺せばいい。

 相手に攻撃が届かない時点で負けだ。

 だからこそ長物は重宝された。

 

 けれど、今は個の戦いである。

 そして、オレは彼らの(きょ)をついた。

 武器は握る物だ。

 なら最大の握力で握り続けるのか?

 そんな訳ない。

 

 握力とは徐々に落ちる物。

 だから必要な時に強く握るのだ。

 つまり普段は最低限の握りで維持している。

 ならば虚を突けば武器を奪うなど容易。

 

「騎士道精神ってか? 聖杯欲しさに人間に尻尾を振る悪霊風情が偉そうな事をほざくな」

 

 そう煽ると対峙していた二人は動きを止めた。

 ランサーも女騎士も矜持を穢され怒り心頭ってか?

 そうら隙だらけだぞ。

 オレは奪った黄色い槍でランサーの腕を突いた。

 苦悶に歪むランサー。

 

「ぬう、舐めるなっ――――

 

 流石は英霊だ。

 赤い槍で応戦しようとする。

 が、想定済み。

 

「貴様っ――――

 

 女騎士の足を槍で払い、その結わえたブロンドを掴んでランサーに放る。

 いくらサーヴァントだろうが体重は所詮女。

 英霊の速度に問題無く目が追い付く事を確認出来た以上、懸念事項は無い。

 

「それじゃ仕上げと参ろうか。たしかマスターを殺しても脱落するんだったな、そこの麗人よ、さようならだ」

 

 黄色い手槍を偽マスターことアイリスフィールに向かって投擲。

 英霊とやり合える身体能力を持って、ランサーの宝具でもあるゲイボウを投擲したならどうなるか。

 そこにいた女騎士は姿を消し、瞬時に彼女の前に剣を構えた姿勢で立っていた。

 目論見通り令呪を消費させたらしい。

 

 だがこれで終らんよ。

 投擲と同時にオレは駆けだしている。

 アイリスフィールに向かって。

 そして女騎士、いやもうセイバーでいいか。

 彼女が聖剣で弾こうとした瞬間、ゲイボウを掴み虚空に向かって投擲。

 

(飲みこめ、祈荒(きあら)

 

 念話でそう伝えてある。

 結果、コンテナの上あたりで槍は歪んだ空間に消えた。

 それと共にオレも駆け抜け、闇の中に紛れ込む。

 もう目的は達した。

 さて、どうするかな?

 

「双方武器を収めよ。王の御前である!」

 

 そんな勇ましい声が闇夜に響いたが、それを聞く義理はオレには無い。

 祈荒に命じたもう一つの目的は達成できたとの念話が届き、オレは隠しておいた単車に跨ると、拠点へと向かってスピードを上げたのである。

 

 




自営業は結婚以上に人生の墓場と強くいいたい今日この頃

過去の自分を助走つけて殴りたい


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