頑張れ!苦労人オッタル (主任大好き)
しおりを挟む
オッタルという男
「全く・・・・・・。毎度毎度、主神様には困ったものだ」
200Cを越す身長に堅くそれでいて柔らかい筋肉が無駄なく混在する肉体を持つ男の
理由は気苦労と言えば一言でまとまるものの、内容はただの気苦労では済まないものばかりである。先の言葉の通り、一番大きな要因を作っているのは、彼が所属するファミリアを形成する神フレイヤである。
所属するファミリアの中で彼は特異な存在であった。いくつかある理由の中で最たるものは、彼が
「はぁ・・・・・・。リュー、アーニャ!
「いや、それでは彼女たちに悪い。強い酒を飲んですぐに帰る」
猪人の名前はオッタル。正真正銘の世界最強という名声を欲しいままにする男である、がその本質は気苦労を減らすために我武者羅に戦ったという側面の強い、一般人気質の男である。
その彼に酌をするように呼ばれたリューというエルフにアーニャという猫人キャットピープルは問答無用と言わんばかりに左右に座る。
「アンタ強い酒飲んでも酔わないじゃないかい!ったく・・・・・・、いいところに来たね、フィン、ガレス、リヴェリア。オッタルの近くで飲んで話を聞いてやりな!」
二人のリューとアーニャが座ってすぐにドアの開く音で新たな客が来たことを知らせるベルがなった。向かい合ってる女将のミアは客が誰かを見て座る席を示した。
呼ばれた三人の客は驚いたものの、オッタルの煤けたような後ろ姿を見てなるほどと納得する。
彼らは顔を見合わせて仕方がないと、苦笑いでかぶりを振ってそちらの方へ歩き出した。
「やあ、オッタル」
「ああ・・・・・・、お前たちか。こんな辛気臭くして申し訳ない」
「お前さんの事じゃ、どうせ主神様には呆れたとかじゃろ?」
「こちらで対処できるようなものならしてやるから何があったか話せ」
「聞いてくれるか・・・・・・。ありがたい」
そこからは、フィンたちに前回の飲みの場の翌日のことからを語り、主神や団員たちへの愚痴へと変わり、さらに神フレイヤを一方的に敵視している神イシュタルにさえ目の敵にされており、その眷属からも同情的な目で見られることなどを吐露し、最終的に励まされる猪人の姿があった。その間、健気に酌をしていたリューとアーニャもどういう訳か嬉しそうにしていたことにオッタルは不思議そうにしていたのだが。
「すまないな、俺ばかり。それと、俺は何とか阻止しようと動いているのだが申し訳ないことにうちの主神が問題を起こそうとしている」
「またか」
「本当にすまない。それでなんだが、前々から目をつけていた冒険者を強くしようと試練を与えるつもりらしい。俺が何度かそういった企みを阻止したせいか中々に策の全容が掴めない。この情報もなんとか手に入れたものだ。ミアも気をつけておいてくれ」
オッタルの注意喚起に軽く肩を竦めて答えたミアに申し訳なさそうに目を閉じるオッタル。オッタルの前のフレイヤ・ファミリアの団長だったミアにもそういった経験があったらしい。今ほどではないが。
「毎度毎度、お前さんも大変じゃのう・・・・・・。ロキがそんなんではなくてよかったわい」
「あれはあれで問題だろう。迷惑をファミリア内に留めるだけマシではあるが」
「羨ましい限りだ。さあ、お前たちも飲め。つまらん話を聞かせた詫びだ。奢ってやる」
「いいのニャ?」
「では、失礼して」
愚痴を聞いてもらった3人に、酌をしてくれていた2人に奢ることを約束し共に楽しく飲んでこの日はお開きとなった。
「いやあ、ありがとう。人のお金で食べる料理ほどうまいものは無いね」
「フィン、詫びと礼がなければ自分で払わせるに決まっているだろう。む、ガレスとリヴェリアもではな」
心の内を吐露した帰りは気持ちいいものである。綺麗な星空を見上げ、明日からの日々のために飲んだ今日はもう終わりである。オッタルは意識を切り替えて、いつもの佇まいに戻し自信にあてがわれている部屋へと帰って行った。
常ならば主神のいる部屋へと向かわねばならないのだが、今日はあってないような有給を取った日なのだ。態々あんなド変態たちの巣窟に行く気なんていうのはオッタルにはさらさらない。
いつだった、街を歩いていた時に見かけた白兎。神フレイヤが目をつけた少年というのはその人物だろう。武に通ずるオッタルから見ればすぐに分かるもので、冒険者としては覚悟も技量も無いに等しい少年ではあったが他にはない輝くものがあった。
オッタルは自身の肩書きや名声に一切の興味を持たない。しかし、そこには一種の考え方もあった。何事も我武者羅に行動を起こし、諦めなければ気づけば目標の地点にいる。そこから先は自身の思うままに動けばいい。
「気張るといい。少年」
第一話 オッタルという男
「いい加減にしてください、駄女神様」
「いつもに増して刺があるわね・・・・・・」
何度となく繰り返されたこのやり取り。いい加減オッタルの方も口調を治すこともしなくなってもう長い。自覚があるならさっさと辞めろと言っているのにこれである。
オッタルが傅く前に偉そうに深く腰掛けているのが女神フレイヤ。フレイヤ・ファミリアの主神その人である。いくつも存在する美という概念の一つを纏めたかのようなその姿は見る者を虜にする・・・・・・、はずだった。フレイヤの目の前に傅く男を除いて。しかもその男、神という立場にある神フレイヤに対して慇懃無礼な態度である。なんと愚かしいことか!ほかの団員たちがいればそのように高々に声を上げていたことだろう。
「あなたのファミリアを存続させるために動いているのです」
神フレイヤには、言外に『だから余計なことをするなと言ったはずだ』と聞こえている。それを面白くないというなんとも娯楽に飢えた神々らしい感性で以て切り返す。
今回神フレイヤが起こした行動は目をつけていた白兎を彷彿とさせる少年、ベル・クラネルに対し彼を強くするために怪物祭モンスターフィリアにおける重大な役割を持つモンスターを魅了し、命令に従わせることで檻から放ったのだ。さらに、現段階では討伐するのには不可能と言わざるを得ないモンスターを向かわせ一騎打ちさせるなど、少年の主神、神ヘスティアには絶対に口に出来ないことまでやらかしたのである。
「私自身はこのファミリアから離れられるというのであれば喜んで離れたいのですが、貴女がそれを許さないから存続できるように動いているのです。それを一時の貴女の駄々に巻き込まないでいただきたい」
「あらぁ、嫉妬かしら?」
この時、神フレイヤはいつもの様にちょっかいのつもりでオッタルに切り返した。が、それは間違いだったようで。
「・・・・・・」
「あ、あら?」
大きく息を吐き、どこか震えているようにも見えるその腕をなんとか抑えようとしている。その後、無言で立ちあがり部屋を出るために扉のえる方へと歩き出した。
そして、ドアを開いて退室する直前に辛辣な言葉が神フレイヤを襲う。
「氏ね、死ねじゃなくて氏ね。くそアバズレ駄女神」
普段とは違い、よく通る声で放たれた言葉は神フレイヤを唖然とさせた。そして、ゆっくりと締まり切った直後ド変態の神フレイヤは大きな嬌声を上げた。
彼女の中では、先の言葉は自らを喜ばせる言葉責めの判定が出ていたようだ。なんとも残念な美神である。
⿴⿻⿸
ファミリアのあるバベルの塔から街へと出たオッタルにはやることがある。その証拠に、その手には詫びを込めた幾つもの手土産がぶら下がっている。
これから向かうのはいくつもあるのだが真っ先に向かうのは、神々の中で特に自身たち人間たちを愛する群衆の主を標榜とする神ガネーシャ。そしてそのファミリアである。
ガネーシャを始めそのファミリアの一部とギルドの本当の長である彼らの目的を、オッタルは尊いモノと思い絶対とは言い切らずとも協力出来ることは協力していた。その目的の布石となる催しを壊してしまったためだ。
「すまない、シャクティ・ヴァルマと神ガネーシャに会いたい」
「お、
独創的なファミリアの門の前に立つ番に目的を伝えると、言葉通りあまり待つことなく目的の人物に会わせてくれた。
ここでは話しづらいことであるため、できるだけ人の目がつかないところにと言うとガネーシャの私室へと案内された。
「この度は本当に申し訳ない」
土下座である。誠心誠意、謝罪の意を込めたこの行動に二人は合点の行ったように顔を見合わせた。
「なるほど、そういう事か・・・・・・。だからと言って許されることではない」
シャクティの強い言葉に言い返す材料などありはしない。神ガネーシャはその話の行く末を見守るばかりである。
「本当にその通りだ」
「・・・・・・しかし、お前とロキ・ファミリアの面々のおかげで何とか人的被害を出さずに済んだ。その事については感謝する」
神ガネーシャとシャクティは団員から報告されたことでその当時の状況をある程度推測していた。なにせ、すごい剣幕でオラリオの民の安全を守るために走り回り片っ端からモンスターを撫で切りにしていたと報告されたことされていたのだから。
このことから、例の如く主神により起こされた今回の出来事を鎮火する為に走り回っていたことを察していた。
ぶっちゃけて言えば、彼女からオッタルへの心象というのは悪くないのである。彼のおかげで、彼女の妹であるアーディが生きていることもその理由の一つであった。
しかし、ファミリアをまとめる団長という立場上やらなければならないこともある。今回も・形上そうしただけである。
「うむ、よくはないが話がまとまったな。そして終わったところで俺がガネーシャだぁぁぁぁぁ!」
「・・・・・・知っている」
「うむ!起き上がるといい、オッタルよ」
顔を上げ、いつもの様にすっと立ち上がる。神ガネーシャはいつもの様にこう言った。
「お前も含め皆無事だったのだ。それだけでいい」
「・・・・・・感謝する」
本当に出来た神である。神格者と名高いのも納得できるというものだ。煩い以外は。
話は終わり、手土産をガネーシャ含めウラノスの計画を知っている者たちの分だけ渡しガネーシャ・ファミリアを後にしようとする。丁度のタイミングでアーディと遭遇し少し話をして今度こそと外に出る。
「羨ましいな、ガネーシャ・ファミリアの面々が」
「あんなのでも私たちも信頼している。一応は自慢の神だ」
「・・・・・・ではな」
オッタルは少し疲れたようにシャクティに背を向けて歩き出した。まだ他に行くところがあるのだ。ロキ・ファミリアとかロキ・ファミリアとかロキ・ファミリアとか。
就活って大変なんじゃあ・・・・・・
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
オッタルの謝罪周りな一日
おいおい、一話目でこんなに評価されるって嬉しいのと今後怖いって思いが混在してる。でも、感想書いてくれたりお気に入りにしてくれたひと評価してくれた人みんな大好き!
みんな!オッタルからラリアットという贈り物を受け取って!
ガネーシャ・ファミリアへ謝罪周りを終えて次に向かったのはロキファミリアだった。ロキファミリアには、謝罪と礼の両方だ。迷惑をかけたことは勿論、市民の安全のために身を張ってまで戦ったのだ。もっと言えば、そのせいで将来有望のエルフも危険にあったとか。
冒険者として危険なことと言うのは常に付き纏うものではあるものの、本来必要のない場所で危険に晒されたというのならばこちらの落ち度という他ない。
例の如くロキ・ファミリアの門番へ話を通して待つこと数分。門番は若干居心地が悪そうではあったものの、特にそれ以外は何事もなく許可を得られた。そして、毎度の如くロキ・ファミリアの幹部に対し、謝罪と市民の安全のために戦闘を行ったことについての感謝を口にしていた。その様は普段口も態度も人相も悪いベートであっても、オッタルを見るその目は同情や憐憫といったかわいそうなものを見る正にそれだった。
「アンタも大変やなぁ・・・・・・。まあ、オッタルが悪い訳ちゃうからうちらからアンタにいうことはないけど」
「いや、団長として仕事をこなせていない俺が悪い」
「っかー!やめいやめい、真面目すぎるのもオッタルの悪いところや!うちのベートを見てみぃ!口は悪い、態度も人相も悪いの三重悪や」
「おい、ロキィ!今俺は関係ねえだろうが!」
何故か飛び火したベートは激しく反論するも、ロキはそれを右から左へと華麗なスルー。他のみんなもスルー右から左へと受け流す。
「まあ、事情は分かったよ。だが、対処できたのは君が以前酒場で愚痴を零した時に言っていたのを聞いていたからさ。あれがなければ対処は出来なかったから多少なりとも被害は出ていただろうね」
「おかげでファミリアの名声にも繋がったわい」
フィンとガレスは若干黒いことを口にするが、ここにガネーシャ・ファミリアの団員たちがいないからこその、オッタルに向けてこの場だけの励ましだった。
無論、もう長いこと付き合いのある友人たちの気遣いに気付かないはずもなくオッタルは礼とともに手土産を一人ずつ渡していく。ロキとガレスには高い酒を、リヴェリアには魔法を放つ際の補助具を幾つか、アイズたちには武器を少しでも長く持たせるようにと整備具を、レフィーヤにはリヴェリアと同じものと怪我をしたということで薬学書や薬品類を。そして最後にフィンへ。好みの趣向品などを幾つか入った袋を渡した。
「では、迷惑をかけた。今後また来るだろう。うまいこと抑えたいが、ことが起こったら全てあばず・・・・・・フレイヤ様の仕業だと思ってくれていい。ではな」
オッタルは口の悪いことを言いそうになったものの、この場にはまだ女子供がいることを思い出して言い直し、ロキ・ファミリアを後にした。
⿴⿻⿸
さて、と一息ついた人物が一人。客人を招き入れ、いつもの様に謝罪と礼を受け入れ手土産を貰う。いつもの流れだ。しかし、この人物にはもう一つ重大な試練が残されていた。
先程受け取った趣向品の入った袋の中に他の人物にはない手紙のようなものが封入されているものが一つ。どうやら、今回もあの友人は手に入れてくれたらしい。ここで焦るのは得策ではない。とある
「『
小人族の隠れ家。それは小人族の女の子がメイド服を着て、お客様をご主人様と呼んでくれる嬉し恥ずかしなお店である。小人族の少女たちが一生懸命に応えてくれる光景は冒険者として疲れ果てたその心に癒しを与えてくれる一種のヒーリングスポットとしてもある界隈で有名だ。
勿論、『えっちなのはいけないと思います』をモットーに活動しているため、『YESロリータNOタッチ』を信条にしている人たちにはかなりウケがいい。
しかし、フィンにはそんな者たちとは一線を画す熱い想いがあるのは確かである。
小人族は容姿や通常は非力であることから他種族からある種の差別的な扱いを受けていることは事実である。昔ほどではないと言っても今でも、所々にその爪痕は残っている。そんな小人族を奮わせ、立ち上がらせることが自身の夢であると豪語するフィンはまさしく英雄のそれだった。
(僕は小人族の新たな光となるために小人族の女の子のお嫁さんを探すんだ!)
熱いその想いがいつか叶うことを信じて。
第二話 オッタルの謝罪周りな一日
オッタルの所属するファミリアは良くも悪くも有名である。何故か。世界最強の冒険者であるオッタルを始め、世界でもドのつく希少なLv6、Lv5を保有しているからである。オッタルは世界で唯一、前代未聞の地であるLv7というフィールドに至っており神フレイヤの言葉曰くステイタスも後半まで上がっているとのことである。否定も肯定もしないオッタルは、あまり自身のレベルについては興味が無いのだが。
しかし、それを覆す程に悪評が絶えないのも事実である。自分が気に入った他派閥の
神フレイヤは愛多き存在である。これは周知の事実であり、変えられるものでは無いらしい。そのために、天界でも男神を取っかえ引っ変えとまでは行かなくとも食ってきとの事だ。つまり、何が言いたいのかと言うと男神からは神同士の契約として男神を魅了して冒険者を得ることもままある。Win-Winの関係が出来上がるのだが、これは女神相手だと対応が別である。ファミリアの力を傘に相手を脅すというのだ。これがまた、オッタルを呆れさせることに拍車をかけている。
「ふむ。最後はベル・クラネルと神ヘスティアの所か」
フレイヤを相手にしている時に絶対にヘスティアに言える内容ではないと言ったものの、どう足掻いてもファミリアを存続させるために必要なのはヘスティアへの謝罪である。起こした責任からは逃れられないのだ。それを悟られ、瓦解したファミリアを幾つか知っているのだから。
先日、オッタルの主神である駄女神のフレイヤが起こした騒ぎの中で身を危険に晒しながらも、自身の主神を護るために強敵と戦い見事勝ったという例の少年。自分の主神が取った手段は最悪といえども、密かに応援している冒険者の活躍を知れたのはオッタルにとって不幸中の幸いというものだった。それに、神ヘスティアとは初対面という訳では無い。
神フレイヤに自身の護衛を頼まれたときに嫌々ながらも街を歩き目的地へと向かう道中、アルバイトに精を出す神ヘスティアを目撃。神フレイヤはそれに興味を持ち話し始めたのがきっかけだった。
遠慮なく正面から君は苦手なんだ発言をした神ヘスティアにオッタルはその瞬間口に出した。
『もっとこの駄女神に言ってください。年甲斐もなく我儘を言うのは辞めろと』
瞬間辺りに神フレイヤから発された嫌な空気をものともせずに、神ヘスティアとオッタルは神フレイヤのダメなところを交互に挙げて行った。
おかげでそれからというのも、お互いに愚痴りやすい相手と認識しオッタルはじゃが丸くんを買いに行くこともしばしば。
「ここか。夜分遅くにすまない、神ヘスティアは居ないだろうか」
戸を叩き人の有無を尋ねると、中からドタバタと音を立てながら近づいてくる音が。
ばーん!という音を立てながら神ヘスティアとベル・クラネルは足を抑えながら出てきた。その様子に唖然とするも、直ぐに表情を戻した。
向こうも向こうでびっくりした様子。それもそうだ。世界最強と名高いフレイヤ・ファミリアの団長、オッタル。それはベル・クラネルという冒険者見習いを驚かすには大きすぎる存在だった。
「そんなに慌てなくてもよかったのだが・・・・・・」
「あれ、オッタル君?どうしたんだい」
「お、おおお、オッタル君って!?」
ベルは仲の良さそうな二人を見てこれまたびっくり。この時の驚きを超えるもの後にも先にもそんなに多くはなかったようだ。
そんなこんなで中に入れて貰ったオッタルは、いつもの様に謝罪。そして愚痴として何度か聞いていたヘスティアは納得した。
「つまり、だ。君はいつも愚痴っていることが今回僕たちにも降り掛かった、そう言いたいわけだね?」
「その解釈で構わない」
「えっと・・・・・・」
頭を下げ続ける世界最強に戸惑いを隠せないベル。ヘスティアの先の言葉も気になるが、降り掛かったとは一体どういう事なのか。
「今回は僕の唯一の眷属、ベル君を失わなくて済んだ。けれど今後もこういうことが続くとも限らない。それは、分かっているね?」
「無論」
先程の気さくに話す2人の様子から打って変わった様子や、普段のダメところ盛り沢山のヘスティアばかり見ていたベルにとって、威圧的な雰囲気を身にまとって目の前のオッタルに向けて言葉を発するというのは新鮮なものを感じた。それと同時に、真剣に自身のことを考えていることを知ったベルは場違いながらも嬉しく思った。
その直後だった。
「はぁ・・・・・・。君が悪くないことは知ってるよ。災難だったね」
「そう言って貰えると助かる。繰り返さないように何度言ってもあのあばず・・・・・・アバズレは解さんからな」
「・・・・・・えっ?」
今までの真面目モードはどこにやら。特にオッタルの主神であるフレイヤのことについては、とんでもなく美しいということくらいはベルでさえ知っている。にも関わらず言い直したのかといえば結局アバズレと口にしたことも衝撃的な内容だった。
「お前がベル・クラネルか」
唐突に声をかけられたベルは気付く。先程までの平身低頭だった時には感じられなかった雰囲気。無駄のない巌のような身体、自身を値踏みするかのような視線。それでいながら、それを当然と思わせるだけの王者としての風格。
(すごい・・・・・・)
ベル・クラネルからみてそれが、最強と呼ばれる人間を間近で見た感想だった。
「神ヘスティアからお前のことは聞いている。今回のことで君の未来を奪うことにならずに済んで良かった。これは謝罪としての手土産だ」
「え、あ、あり、ありがとうございます・・・・・・」
噛んでしまったことを恥じることも無く、最強という存在に自身の名前を刻んでもらっていたことに驚いた。これ程に嬉しく思えることはあるだろうか。これ程に芽生えてきた冒険者としての心を滾らせることはあるだろうか。憧れ、恋焦がれたあの人とは違って純粋な気持ちで冒険者として焦がれたことが。
「・・・・・・僕、頑張ります!」
脈絡もなく、有り余った感情を叫んだベルにオッタルは言った。
「待っている」
ただ一言とは言えど、それは男と男の約束である。それを眺めていたヘスティアも釣られて笑顔になっていた。
その後、ヘスティアにもホームにとって必需品となっていたものを手土産として渡してヘスティア・ファミリアを後にした。この後は予定などない。明日は何も無かったと思い直す。
「そうと決まれば」
フレイヤのせいで溜まったりに溜まった謝罪周りでの鬱憤をモンスターで晴らそう。最近、ダンジョンに潜る暇もなかったのもあるが、やはり先程の出来事が理由の大部分を占めていた。ベルという少年の熱い想いを直に感じたこの男も魂の昂りを覚えていた。
「ああ、久しぶりに見た。俺も以前はそうだったな」
やはり、冒険者とはこうでなくては。熱く滾る想いが暴走しないように意識する。しかし、長いことダンジョンに潜るためには食料を準備しておかなければ。それにまずは腹を満たさなければならない。
食事は自身で作ることもあるが、やはり嫌なことがあったら美味いものを食べるに限る。いつもの様に豊穣の女主人へと向かった。
「今日は何を食べるか」
9日から4年か。就活、早く決まるといいなぁ・・・・・・。あへ、あへへぁ・・・・・・。
目次 感想へのリンク しおりを挟む