種ウマ娘 (こもれび)
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第一話 スぺ×スズは正義!

「ご覧ください。ここ京都レース場は今、大勢のファンの熱気に包まれて、今か今かと春の大一番、天皇賞の幕開けを待ち続けています。さあ、並み居る強豪の中、最速で駆け抜けるウマ娘は果たして誰か−−−−」

 

 通路を抜けてターフに出れば、そこは割れんばかりの大歓声が響いていた。

 右を向いても、左を向いても、人、人、人。

 今まで経験したどのレースよりも、このレースが重要なんだってことがよくわかる。

 

「ふうぅ……」

 

 胸に手を当てて、この気持ちを落ち着かせようとしてみた。

 でも、胸のドキドキが全然収まらなくて、むしろさっきよりも悪くなったみたい。

 私は、自分が今着ている白と紫のベースの勝負服に目を向けた。大勝負だからと、トレーナーさんが新調してくれたそれは、春の日差しを浴びて光輝いて見える。

 トレーナーさんは、気負わないで楽しんで走れと、そう言ってくれたけど、でもやっぱりやるからには勝ちたかった。

 日本一のウマ娘になる。

 そう、私は『二人の』お母ちゃんと約束したんだもの。

 だから、やっぱり私は諦めない。

 どんなに緊張してても、どんなに怖くても、それでも全力をきっと出し切って見せる。

 

 だから見ててね。

 

 お母ちゃんたち……

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「よーし、それじゃあ始めるぞ!! チームスピカの今季総合優勝を祝して……」

 

 トレーナーさんがそう言いながらジュースの入った紙コップを高々と掲げた。

 それを見ながら私もコップを上げたら、突然トレーナーさんの前に飛び出したゴールドシップさんが。

 

「かんぱーーーーーい!」

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 その掛け声に合わせて、みんなでジュースを飲んだ。

 だけど、一人だけ、前に立っていたトレーナーさんが渋い顔。

 

「ったくひでえな、ゴルシ。俺のセリフ取るなよな」

 

「あ? トレーナーの話がなげえから代わってやったんだけど。むしろ喜べって! な!」

 

「まあよ、嬉しいは嬉しいが。なんたって今季は初めてリギルに勝ったからな。おハナさんのあの悔しそうな顔。くっくっく」

 

「トレーナーおめえよ、だんだん性格悪くなってんな。ま、いいからいくらでも飲めって。私が注いでやっから」

 

「いや、それ買ってきたの俺なんだが」

 

「小せえこと言ってんじゃねえって、けちくさい。ホレホレ可愛いゴルシさんのお酌だぞ」

 

 そんなことを言いながら方を寄せ合っているゴールドシップさんとトレーナーさんの二人。

 すごく楽しそう。いつもどおりで。

 その隣でマックィーンさんが、なんだかムスッとした顔でいるのもいつも通りかな。

 

「本当にトレーナーさんはイヤらしいですわ。メンバーのウマ娘にお酌させて喜ぶなんてどうかと思いますわ、ふんっ」

 

「おやおやおやぁ? なんだよマックィーン妬いてるの? ちゃんと注いであげるってば」

 

「そ、そうですの? ではお願いしますわ。なんだか催促してしまったようで気が引けますわね」

 

 と、真っ赤な顔のマックィーンさんがコップを差し出すと、ゴルシさんはペットボトルを持っている方とは別の手に何かを持って、ジュースを注ぎながらその何かの中身もコップに注ぐ−−−−

 

 あ、あれ、芥子だ。

 

「マックィーン、スカートに何かついてるよ」

 

 その隣で、テイオーさんがマックィーンさんのスカートを指さしてそう言うと、彼女はガタリと音を立てて立ち上がって−−−−

 その瞬間マックイーンさんがクシャッと紙コップを握り込んだと思ったら、ニヤニヤしていたゴルシさんの口にその中身が全部飛び込んでーーーー

 

「むぐぅおぉおおおおおおおおおっつ!!」

 

 口を抑えて転げ回るゴルシさんの脇で、マックィーンさんが、スカートを広げながら、濡れたハンカチを当てていた。

 

「ワタクシとしたことが、ケチャップをスカートに付けてしまうなんて、なんて失態を。メジロ家の恥ですわ」

 

「そんなに気にしなくていいと思うけどなー、ボクは。でも気になるんなら、後でボクのスカートを貸してあげるよ。確かマックィーンとボク、サイズ一緒だったもんね」

 

「助かりますわ、テイオー。そうしたら、後ほどお願いしますわね」

 

「うん!」

 

 そう言ってテイオーさんがにこりと笑っている。

 

「この前のレースで私は5勝目あげたもんね。あたしの勝ちね」

 

「何言っている。菊花賞でこっちが一着、スカーレットが二着だったから、当然俺の勝ちだ」

 

「年間で言ったらあたしの方が勝ち数多いですぅ」

 

「直接対決で勝ったほうが速いに決まってますぅう」

 

「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」」

 

 私達の隣では、スカーレットさんとウォッカさんが額を突き合わせて何か言い合っているし。ここもいつもどおりだよね。

 そんなみんなを見ながら、どうも私は笑っていたみたいで、ふいに私の袖をちょいちょいと引っ張られる感触に気がついて、そっちを見ると、そこには私が一番大好きな笑顔があった。

 

「どうしたのスペちゃん? そんなにニコニコして」

 

「スズカさん」

 

 ジュースの入った紙コップを持ちながらニコリと微笑んでくれたスズカさんを見て、思わず顔が熱くなる。

 でも、顔をそむけたくはなくて、ずっとその顔を見ていたくて、だけどそんなことしたら失礼かなとか、そんなふうにも考えちゃって、だから私は目を見たまま頑張って思っていることを言うことにした。

 

「え、ええと……。その、みんなと一緒にいられて……みんなと走ることができて、本当に嬉しいなって、そ、そう思ってました」

 

 一気にまくしたてるように言った私。

 わぁああ、何言ってるんだろう。恥ずかしい。

 でも、スズカさんは微笑んだままでうなずいてくれた。

 

「そうね。私もみんなと……スペちゃんと走れて本当に幸せよ」

 

「……!?」

 

 スズカさんのその言葉で心臓が跳ね上がってしまった。

 顔は熱いし、ドキドキするし、もう、きっと今顔真っ赤だ。

 そんなことを思いつつ身を縮込めていたら、トレーナーさんの声が聞こえた。

 

「いや、本当にスペの言うとおりだ。俺はこのメンバーで一緒に駆け抜けることができて本当に嬉しかった。特に今年は新メンバーの二人も頑張ったからな。『キタサン』、『アーモンド』、これからはお前らがスピカの中心になるんだ! 頑張れよ!」

 

「はいっ!」

「ウィーっす」

「ちょ、ちょっと、アーモンドちゃん。もっとちゃんと返事しなきゃ!」

「ええ〜? ちゃんと返事したよ〜? っていうか、キタサン、マジメかっ!!」

「ま。真面目だよ! いつでも私は!! あ、先輩方すいません。これからも頑張ります!!」

 

 真っ赤になって椅子に座り直す、黒髪ポニーテールの小柄なキタサンちゃんと、その隣で気だるげにケラケラ笑っている鹿毛のアーモンドちゃん。

 二人共レースデビューして一年足らずだけど、もう重賞をいくつも取っている。キタサンちゃんはなんと秋の天皇賞をとっているし、アーモンドちゃんはジャパンカップでレースレコードまで出して勝っちゃうし。

 私が必死に走ってブロワイエさんに勝ったあの時のタイムより速いとか、なんだかとっても心が折れそうなんだけど、ぐすん。

 と、とにかくこの二人は逸材も逸材。本当に速いし、強い。

 なんでスピカに入ってくれたのかなって前に聞いたんだけど、キタサンちゃんは、

 

『わ、私! み、みなさんの走る姿に感動して! どうしてもご一緒に走らせて頂きたくて、それで! スピカに来たんです! あ、あと、トレーナーさんが私の夢を叶えさせてくれるって約束もしてくれたので……』

 

 キタサンちゃんの夢がなんなのかはまだ聞いてないけど、最初からやる気が凄かったから、私も応援したくなったんだ。

 それは他のみんなも一緒。

 頑張るキタサンちゃんに触発されて、今年はみんなもいつも以上に結果を出したんだもの。

 アーモンドちゃんは逆に一見やる気無さげだったんだけど、一度走りだすと凄く速くて、しかも、速いだけじゃなくて、他の娘たちのリズムを狂わせるリードが上手くて、結局一人勝ちしてしまう。

 こういう娘が天才なんだなって、私も初めて実感したの。でも彼女いわく、『るめーるに言われたまま走ってるだけだよ』だって。

 るめーるさんて、誰だろう? 見たことないしね、謎です。

 ちなみにアーモンドちゃんがスピカに入った理由は、最初にキタサンちゃんに誘われたからだそうです。本当にどこでも良かったんだね。

 

 二人の新人ちゃんたちも楽しそうで、私たちも笑顔で楽しんで、またこんな風に楽しみたいな、また勝って祝勝会したいな、そんな風に思っていた時だった。

 トレーナーさんがぽつり。

 

「いつまでも本当にこうしていたいな。そう、いつかお前らが『上がる』までだ、こうしていたいから、来年も頼むぞ! がんばってくれ」

 

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

 

 一斉にみんなで返事をして、私はひとり頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

 

 ん? 『上がる』ってなんだろう?

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「今日は楽しかったわね、スペちゃん」

 

「はい、とっても」

 

 部屋に帰ってきてから、久しぶりにスズカさんと二人でお風呂に入って、今は乾かしたスズカさんの髪を櫛で梳いている。私の髪はもうスズカさんに整えてもらった。スズカさんの栗毛の髪がキラキラ光って本当にきれい。

 二人でこうやって時間を重ねていけることが本当に幸せで、この時間がずっと続いて欲しいって心から願っている私がここにいた。

 ううん。きっと大丈夫、この時間はずっと続くはず。

 トレーナーさんの言葉は不吉な感じだったけど、スズカさんとの時間は努力すればきっと手に入る。

 そう、きっと私が勝ち続ければ良いというだけのこと。そうきっと。

 

「はい、できましたよ」

 

「ありがとうスぺちゃん。じゃあ、もう寝ましょうか」

 

「はい……あ、あの……」

 

「ん? どうかした?」

 

 思わず口ごもってしまって二の句が告げない。でも、今のこの思いをどうしても伝えたくて、私はスズカさんの手を握って思い切って言った。

 

「あの!! きょ、今日、その……スズカさんと一緒に寝て良いですか!? その、久しぶりですし!!」

 

 きょとんとした顔のスズカさん。

 わわわ。ど、どうしよう。このまま嫌われたら私……

 すごく怖くて、ドキドキして……本当に泣きそうになりかけていたけど、次のスズカさんの笑顔で私の力は抜けた。

 にこりと微笑んだスズカさんが優しく言った。

 

「ええ、良いわよ。久しぶりに会ったのだものね」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 電気を消してからスズカさんの布団へと枕を持って近づくと、スズカさんは掛布団を持ち上げながら奥の方に身体をずらしてくれた。

 私は一度だけ会釈してから、スズカさんの顔の横に枕を置いて、そっと布団にもぐりこむ。

 まだ、布団の中は冷たかったけど、すぐにスズカさんの体温を感じて、私の胸はトクトクと脈打ち始めたのが分かった。

 優しく私を抱くように布団をかけてくれたスズカさん。

 その動作でふわりと私の鼻腔を甘い彼女の体臭が駆け抜けた。

 その途端に、全身に鳥肌が立ったような強烈な刺激が駆け抜ける。

 頭の中がぐるぐる回っているような気がして、でも、この幸福感だけは本物だということを理解して、ますます心臓が速く脈打った。

 

「寒くない? スぺちゃん」

 

「は、はいっ! 寒くないです! とってもあったかいです!」

 

「そう、なら良かった。おやすみなさい」

 

「は、はいっ! おやすみなさいです。スズカさん!!」

 

「くすっ。力抜かないと疲れちゃうわよ」

 

「は、はい……」

 

 すうっと目を閉じたスズカさんのことを、そっと薄めで見つめ続けた。

 本当にきれい。

 走る姿も、お話しているところも、本当にきれいで素敵だけど、寝顔もとても綺麗……

 とても……

 可愛い。

 

 トクトクと心臓が跳ね続ける。

 その音をスズカさんに聞かれたくなくて、私は胸を必死に抑えて目をぎゅうっと瞑る。

 でも、つぶっても、そこには優しく微笑むスズカさんの顔がずっとあって、その彼女と手をつないだり、肩を抱いたり、見つめあったり、そして抱き合ったり……

 そんな妄想がずっと頭の中を駆け巡っていたように思う。

 そしていつしか……

 私の意識は夢の中へと深く深く落ちて行った。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「す、スぺちゃん! あ、あの……」

 

「もう食べられないよぉ……? あれ?」

 

 耳元で声がしたので目を開けようと思うのだけど、なかなか目が開かない。

 あれ? 今日って何日? 授業? レース……?

 良くわからないまま、まさかまた寝坊!? と、思わず恐怖に身を起こそうと思ったけど、なんだかいつもと様子が違っていて布団を跳ね上げられなかった。

 だから、まず目を開いてみたわけだけど、目の前に可愛いスズカさんの顔があってまずびっくり。

 そういえば、昨日の夜、スズカさんと一緒に寝たんだっけと、今更になって思い出して、うわわ、スズカさんと一緒に寝れて本当に嬉しいよ。とか、そうまず思ったのだけど、なんだかスズカさんの表情がいつもと違っていて不思議な気持ちになった。

 なんというか、困惑気というか、恥ずかしそうというか……

 そうこう思っていたら下腹部に違和感が。

 あれ? なんか濡れてる……?

 ま、まさか、私しちゃったの!? この年で!? す、スズカさんの布団で!?

 子供のころ、お布団の中でおもらしして、お母ちゃんに思いっきり笑われたことを思い出す。

 ど、ど、どうしよう。

 こんなんじゃ私嫌われちゃう。

 

「す、スズカさん! ごめんなさい! すぐに何とかしますから」

 

「そうじゃなくて、スぺちゃん……慌てないで」

 

「い、いえ、すぐに何とかします。何とかしますから……え?」

 

 多分お尻の下の辺りが一番濡れているんじゃないかと、慌てて手で布団を触ってみたのだけど、そのあたりを探してみても濡れている気配はない。漏らしてない? でも確かに濡れている感じがあって……

 コツン。

 あたしの腕が何か固い物に触れた。

 と、触れたと同時に、今まで感じたことのないくらいのゾクゾクとした快感が頭に走って、同時にまた下腹部の辺りで濡れた感触。

 

「あ、あん」

 

 と、何やら目の前のスズカさんが真っ赤な顔で涙目になってる。

 え、えと。これはいったい。

 今の状況がまったくわからない私は、恐る恐る掛布団をゆっくり持ち上げてみた。その間も濡れた感触はしたままで……

 布団を持ち上げた途端、むわりと鼻をつく濃厚な臭い匂いが辺りに放たれる。と、同時に眩い朝日が差し込んだその布団の中では……

 私のパジャマのズボンからにょっきりと伸びた長い棒のようなものが、鈴鹿さんのパジャマの上着のボタンの間から中に侵入して、それの先があるのであろう胸の間の辺りをビシャビシャに濡らしていた。

 

「えええええええええっ~~~~!?」



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第二話 オサマラナイ!!

なんだかだんだん酷くなってまいりましたw


「あ、あ……また……、出ちゃいます」

 

「うん。大丈夫よ。そのまま出して」

 

「あ、あ……」

 

 スズカさんがその棒の先の方を両手で掴んで、床に置いてあるバケツの縁に沿わせてその中へと向きを変える。

 私は、そうされると同時に、頭を突き抜けるみたいな快感につま先までピンと足を伸ばして、またそれを噴出した。

 真っ白でしゃばしゃばしたその液体は、その棒の先から溢れ出て、バケツの中にすでに溜まっている白い液体のかさを更に増す。

 スズカさんはその棒の先から垂れる最後の滴をティッシュでふき取ってから、そっと手を放した。

 

「はあ、はあ」

 

「まだ、出そう?」

 

 小首を傾げながら、私を見上げてくるスズカさん。

 私はそれに、首を横に振ってから、分かりませんと答える。

 スズカさんは、困った様子でただ、そうとだけ呟いた。

 私はその棒が何とかスカートに隠れてくれないかとあれやこれや動かしてみて、まったく隠れてくれないことに焦り始めていた。

 そうこう繰り返し弄っているうちに、またあの快感が背中を上ってきて、さっきのようにスズカさんの助けを借りてバケツにむかうというエンドレス状態にはまってしまっていた。

 

 もう嫌だ。

 

 スズカさんは、もう学生服に着替え終わってる。

 寝起きにこの液体をパジャマの内側に私が噴射してしまったために、彼女はすぐに身体を拭いて着替えた。

 そして、今度は私の着替えも手伝ってくれて、上半身はなんとか着替えられたのだけど、下半身の方は、この長い棒の所為でスカートを穿くのに四苦八苦。

 なんとか着ることは出来たけど、結局この棒がスカートをめくれ上がらせてしまって全く隠しようが無かった。

 だからではないけど、隠すだけならと、上着のシャツの内側にこの棒を入れて、そのまま上着で見えなくしようともしたのだけど、ちょうど胸の辺りで締め付けられたせいでまたあの快感が昇ってきてしまって、そのまま顔に向けて発射。服も顔もべたべたで、すぐに着替える羽目になり、以後、ここでバケツと向かい合っているというわけです。

 

「痛くはないの?」

 

 スズカさんが心配そうにそう私をみあげてくる。

 私は自分のそれをもう一度見てみる。

 血管が浮き出ていて赤黒くて見るからに気持ち悪いそれ。

 でも、確かに触覚がそこにあって、それが脈打つごとに痛みのような感覚も確かに走っていた。

 

「はい、少し痛い……かもです。でも、この白いのが出てくるのが本当に気持ち悪いです。うう……うぇ……」

 

「だ、大丈夫。大丈夫よ、スぺちゃん。きっと治るから、大丈夫。ね」

 

 焦ってはいるけど、スズカさんは優しく微笑んでくれた。

 私はそれが何よりうれしくて……

 また、その棒がビキビキと震え出した。

 やだやだ、なにこれ。

 スズカさんの事を考えるとなんでこんなに変なことになるの?

 気持ち悪い。

 本当に気持ち悪いよ。

 スズカさんがまたバケツを指さしたけど、私は今度は首を横に振った。

 今回はそこまでの快感はないようだったから。

 というか、回数を重ねるごとに快感が減って来ているようにも感じたから、なんとなくだけど今回は大丈夫なような気がした。

 

「スズカさん……これ……なんですか? なんでこんな……気持ち悪い物が私に?」

 

「うん……これ、多分ね……」

 

 半べそをかいている私に、正座して見上げているスズカさんが頬を掻きながら言った。

 

「これ多分、『ペ〇ス』じゃないかなって思うんだけど」

 

「『ペ〇ス』?」

 

 聞きなれないその言葉に思わず聞き返す。

 いったいそれはなんなのだろうと、教えて欲しくて思わずずいと前のめりになったら、その棒がスズカさんの頬に少しぶつかってしまった。

 慌ててて謝ると、スズカさんは微笑みつつそれに手を添えて私の手へと渡してくれた。

 ああ、また快感が……が、がまんがまん。

 スズカさんはゆっくりと口を開いた。

 

「ええと、私も良くは知らないのだけどね、『上がった』ウマ娘の一部はファームに帰るのだけど、その時『ペ〇ス』を持った娘もいるの。スぺちゃんは聞いたことない? あ、そうか、スぺちゃんは子供のころ……」

 

 スズカさんはハッとなって手で口を押えた。

 私はそんな気遣いが素直に嬉しかったけど、罪悪感を持って欲しくなくて、すぐにフォローをした。

 

「はい……私は最近まで他のウマ娘さんを見たことがなかったので、良く知らないんです。でも……そうなんですね。『上がる』って引退するってことだったんですね。知らなかったです。でも、引退すると『ペ〇ス』が付くんですか? 『ペ〇ス』ってなんなんですか?」

 

「ええと……ごめんなさい、私にも良く分からなくて。でもねスぺちゃん。『ペ〇ス』があるウマ娘もみんな普通だったよ。普通に遊んでくれたし、普通にご飯も食べてたし。でも、スぺちゃんみたいにこんなに大きなのは初めて見たのだけど」

 

「や、やっぱり私は普通じゃないんじゃ。こんなに怖い『ペ〇ス』。酷い病気で、このまま死んじゃうんじゃ」

 

 そう投げやりになった時だった。

 スズカさんががっしと私のその棒……『ペ〇ス』を握った。

 

 あ…… 

 

「大丈夫よスぺちゃん。この『ペ〇ス』、私、そんなに怖くないもの。平気よ、全然。それに、スぺちゃんはスぺちゃんだもの。私、絶対嫌いになったりなんかしないから」

 

「スズカさん……私、私……」

 

 ぎゅうっと力を込めたスズカさんの手の感触に、背中がとんでもなくむずむずしてきてしまい、だめだめと頭で止めようと思ったのに、優し気なスズカさんの顔を直視した瞬間、それが込み上がってきてしまった。

 

「あ、出ちゃう」

 

「はい」

 

 さっと棒をバケツに誘導するスズカさん。

 そのまま勢いよくばしゃばしゃと液体が放出されて、またティッシュで先を拭いてくれた。

 

「ねえ、スぺちゃん。私達だけじゃ良く分からないから、トレーナーさんに相談してみよ。ね?」

 

 そうまた微笑んでくれるスズカさん。

 私はそんなスズカさんに言った。

 

「なんか、もう結構慣れましたね」

 

「そうね」



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第三話 カモフラージュ

主役はスぺとスズカです。一応ね。


「スズカさん、本当にこれで行くんですか? バレちゃいませんか?」

 

「大丈夫よスぺちゃん。ほら、私も一緒に持ってあげるから」

 

「あ……す、スズカさんに触られると、また出ちゃいますから」

 

「それも大丈夫。ちゃんとビニール袋被せてあるからね。安心して」

 

「あ、出ちゃいます」

 

 そんな会話をしつつ、私とスズカさんは並んで部屋を出た。

 廊下を見渡してみるけど、とりあえず今は誰もいない。

 私はそれにほっと安堵しつつ、私にぴったり寄り添って立つスズカさんと並んで、『それ』を手にして歩き出した。

 『それ』とは当然『ペ〇ス』のことなんだけど、この長いそれを服の内側に隠したところで、服が不自然に盛り上がって怪しいだけだし、またさっきみたいに顔に向かって噴射するに決まっている。

 もうあんな臭くてべとべとしたもの顔に被りたくなんかない。

 ではどうするか。

 スズカさんが提案してくれたのがこれだった。

 

「あれ? スぺシャルウィークにスズカか? どうした、今日はずいぶんとゆっくりだな、二人とも」

 

「ふ、フジキセキ先輩」

 

 突然階段から現れたのは寮長でもあるフジキセキ先輩だった。先輩は私達を通せんぼするように腕を組んで仁王立ち。

 

「こんな時間じゃ学校にはもう間に合わんぞ?」

 

 そう言われても、流石に今朝の今までの出来事を話す気にはならなくて、どうしようか困っていたら、スズカさんが言ってくれた。

 

「私達はこれからトレーナーさんと約束があるんです。その……今後の進路について……なんですけど」

 

「進路? ふーん」

 

 フジキセキ先輩は覗き込むように私たちを見た。 

 背中に嫌な汗が流れたかと思うと、さっきまでビキビキと痛いくらいだったあの棒が、嘘みたいに力が抜けて、手の中で少し柔らかくなっていた。

 あれ? これってもう平気なんじゃ……

 そう思っていたら、端を掴んでいたスズカさんの手の力が籠って再び棒の先が圧迫。

 見る間にまた元通りに。

 うう……

 スズカさんはそれを握ったままで先輩に言った。

 

「先輩こそ、こんな時間にどうして寮に?」

 

「ああ、私は今日から大阪なんだ。だからその準備をしていたんだ。そうそう、さっきから気になっていたんだが、二人とも。その二人が手にしている『長い包』はいったいなんだ?」

 

「あ、えと……」

 

 フジキセキ先輩が指さしたのは、紛れもなく私の股間から伸びた棒。

 でも、今はそれはむき出しにはなっていない。細長い布製の袋にすっぽりと収まっていて、その口をしっかりとひもで締めてある。

 そう、この状態であればこれは紛れもなくあれに見えるはず。

 

「こ、これは……『竹刀』です。トレーナーさんに持ってくるように言われて」

 

「竹刀?」

 

「は、はい! 私たちがたるんでいる時に、この竹刀で喝をいれるそうです。いえ、私達を叩いたりではなく、意識的に啓発できるようにということのようで……」

 

 一瞬フジキセキ先輩の眼光が光った様に感じたのは気のせいではないだろう。彼女は明らかに怪しんでいる。

 それが解って、私はその『竹刀』に偽装した『ペ〇ス』をスズカ先輩の背中に隠した。

 スズカ先輩は絶対大丈夫と言ってくれたけど、この偽装、結局は竹刀袋を頭から被せただけ。

 一番根元の部分まで覆ってから、その辺りをひもで縛って、跡は竹刀の柄の部分のようなテーピングした棒を袋に固定しただけのもの。

 確かに遠目に見れば、逆さにした竹刀に見えないこともないし、よくカモフラージュできているとも言えるけど、そもそも竹刀って逆さに持たないし、こんな股に挟むような格好、絶対おかしいよね!?

 なんでスズカさんがあんなに自信まんまんなのか分からないけど、私もう心臓バクバクで。

 そうおもっていたら、またペ〇スが縮んだような気がした。

 あれ? また小さくなった? やったこれならスカートに隠せるかも?

 スズカさんの背中に隠れたままで、なんとかやり過ごそうと思っていたら、フジキセキ先輩が言った。

 

「たとえトレーナーの指示でも、竹刀は武器になる。この寮の中では持たせるわけにはいかないな。さあ、渡したまえ」

 

「い、いえ、結構です。大丈夫です」

 

 そう言いながら、スズカさんの背中がどんと私にぶつかってきて、そのままペ〇スをこすり上げた。

 ああ、また……

 

「大丈夫ではない。それを決めるのは寮長の私だ。さあ、渡しなさい」

 

「いえ、そういう決まりは無かったと思います。それにこれは……だ、大事なものなんです。いくら先輩でも渡せません」

 

 スズカさんの背中がぐりぐりと私をこすってくる。

 

 あ、あ……

 

「スズカ……君がそこまで強情だったとは……知らなかったよ。だけど、規則は守ってもらう。危険物は私が預からせてもらう」

 

「いえ、絶対にだめです。これはたとえ私が罰を受けても渡すことは出来ません。出来ないんです!!」

 

 確かに渡せない。だって身体にくっついているのだもの。

 私をかばうスズカさんがまた身体を動かした。今度は上下に……

 

 もう、ダメ……

 

 竹刀袋の先の方が微かに盛り上がったけど、ビニール袋も被せてあるし、フジキセキ先輩には知られなかったみた。

 手を広げて通せんぼするようにしているスズカさんの背中に隠れて、ペ〇スを握ったまま後ずさる私。

 フジキセキ先輩はそれを見て……

 

「ふ……、分かったよ。私の降参だ。本当に大事なものなのだろうな、それは。ならば、危険物ではなく、貴重品として所持を認めよう。でもいいかい? 決してそれを人に向けてはならないよ。私は君たちを信じたんだ。だから君たちも決して暴力をふるわないと約束してくれ」

 

 そう言われて、私とスズカさんは大きく頷いた。

 

「はい約束します」「信じてください」

 

 それに先輩はうんうんと頷いた。

 そして言った。

 

「では、気をつけていきなさい」

 

 にこりと微笑んだフジキセキ先輩に、私達はおおきく頭を下げた。

 そのとき竹刀に扮したペ〇スが斜めになって、袋の端から少し中身が漏れてしまったのだけど、慌てて口を締め直して起き上がった。

 

「じゃあ、私達はこれで」

 

 そう言って立ち去って私とスズカさんは再び竹刀袋を握ったまま小走りに駆けた。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「まったく慌ただしい二人だ。ん? スンスン……なんの匂いだ? 栗の花?」

 



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第四話 タネウマムスメ

「いや、これはとんでもないモン生やしやがったなぁ」

 

 校舎内の狭い生徒指導室に三人で隠れてから、トレーナーさんの目の前で竹刀の袋と、さらに白いのがタプタプ揺れているビニール袋を外して棒を露出させた。

 その作業をスズカさんがしてくれていたのだけど、それだけでもうドキドキが激しくなってしまって、目の前の棒は更にガチガチになって腫れ上がる。

 っていうか、これトレーナーさんに見せて本当に大丈夫だったのかな? 今更になって怖くなってきた。

 スズカさんは不安げな顔のままでトレーナーさんに言ってくれた。

 

「あの……スぺちゃんは大丈夫でしょうか? これ、なんだか、とっても痛そうですし、その……これじゃあ普通に生活するのも大変そうですし…… 走れ……ないかもですし……」

 

「え……」

 

 走れない。

 悲しそうなスズカさんのその言葉で漸く思い至る。

 そう、走れない。

 こんなものがあったら、気にもなるし、邪魔だし、とてもじゃないけど今までみたいに走ることなんかできない。

 それじゃあ、私、もうスズカさんと一緒に走ることは……

 一緒にいられない。

 そ、そんなあぁ。

 

 愕然となって目の前が真っ暗になった気がしたけど、すぐにスズカさんが私を抱きしめてくれた。

 

「スぺちゃん。安心して。今度は私が付いて居てあげるから。走れなくなった私をまた走らせてくれたのはスぺちゃんだもの、だから今度は私がスぺちゃんを助けるから」

 

「す、スズカさん……」

 

 優しく微笑んでくれるスズカさんの言葉が本当に嬉しくて涙が溢れる。

 と、同時にスズカさんの胸にまたあの棒が挟まれて、感動とは別に快感も昇ってきてしまう。

 

 あ、出そう……

 

 少し身体をスズカさんから離して、必死に頭の中を邪な思いを払う。暫くそうしていたら大分気持ちが治まってきて、でも最初に昂ぶった分の少しだけが棒の先から噴出した。

 ほ……少しだけで良かった。

 

 と安心したのもつかの間、その白い液は、トレーナーさんの頭に。

 

「あ、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 謝る私を手で制したトレーナーさんは、ハンカチを取り出してそれを拭った。

 それから椅子に深く腰を掛けて大きく伸びをした。

 

「まさかスぺが最初に『上がる』ことになっちまうとはなぁ。これは流石に予想外だった」

 

「上がる……」

 

 その言葉の意味することを私はもう知っている。それは引退するということ。つまりやっぱり私はもうレースには出られないということ。そういうことなんだ。

 また涙が出そうになったところで、スズカさんが聞いてくれた。

 

「トレーナーさん、あの。このスぺちゃんに生えた物って、『ペ〇ス』ですよね」

 

 それにトレーナーさんは小さく頷いた。

 

「ああ、そうだ。ペ〇スだ。所謂男性器という奴だな。レースレースで俺もお前らにきちんと説明してこなかったし、そもそもウマ娘へのその類の教育は各ファームの方が専門だからな、ここまで碌な知識を与えてやらなかったんだから困惑しても仕方がない。悪かったな」

 

 そう頭を下げる。

 

「いえ……トレーナーさんは悪くないです。でも、これって、『普通』のことなんですよね。特に問題はないんですよね? また、走れますよね?」

 

「スぺちゃん」

 

 矢継ぎ早に問いかけた私の目を、トレーナーさんは穏やかな瞳で見つめていた。

 そして、口を開いた。

 

「問題は……ある。今まで通りとはいかない。それに一度上がったウマ娘は、もうレースで走ることは出来ない。そういう決まりなんだ」

 

「そ、そんな……」

 

 私が何も言えないまま泣きそうになっていたところで、私の前にスズカさんが身を乗り出した。

 

「それは納得いきません! スぺちゃんはこんなに頑張ったじゃないですか。それなのに、なんでですか? なんで走ってはダメなんですか? そんなの……あんまりです!!」

 

「スズカさん……」

 

 私より先に叫びながら泣き出してしまったスズカさん。私はそんなスズカさんにそっと触れて、静かに泣いた。

 私のことを思って泣いてくれていることが素直に嬉しくて。

 

「おいおい、待てよ二人とも。少し落ち着け、いまきちんと説明してやるから。確かに今まで通りではないけどな、これは嬉しいことでもあるんだ?」

 

「嬉しい事?」

 

 それがどうしてなのか、この大きなペ〇スが生えたことのどこが嬉しいことなのか、全く想像はできなかった。

 トレーナーさんが椅子に座る様に手招きする。

 それを見て、私とスズカさんは手近なパイプ椅子へと腰を下ろした。

 けど、私の方はペ〇スが金属製の机にぶつかって上手く座れない。

 それを見かねたスズカさんが私のペニスの先の方を持って、自分の方へとかたむけてくれた。

 そのままニコリと泣き笑い。

 スズカさん。嬉しいです。

 

「…………う、うーむ。あまり健全な絵面ではないが……まあ、気にするのは止しておこう。野暮だしな。さて、では……」

 

 トレーナーさんはこの指導室の一角にある、書棚へと向かうと、そこから一冊の本を選んで持ってきた。

 それから、ペラペラとページを送って、ある一ページを開くと私たちの前へと差し出した。

 そこに書かれていたものは……

 

「いいか、スぺ。GIを何度も制してきたお前は、全国のファームからすでにかなり注目されていてな、『上がる』日を誰もが待ちわびているんだ。それはスズカも他のみんなも同じなんだが、お前は少し早めに『卒業』して次の道へと進むというだけのことなんだ。なあ、スぺ。お前は納得していないかもしれないが、俺はお前は日本一と言ってもいい結果をレースで何度も残したと思っている。だから俺は言いたい。お前はこれから目指すんだ、第二の日本一を。日本一の種牡ウマ娘を! 日本一の種ウマ娘をぉぉぉぉ!」

 

 バキリと加えていたキャンディーを噛み砕いたトレーナーさんは、拳を握り込んでそう叫ぶ。

 それを見ながら、スズカさんと私の二人は、聞きなれない言葉を繰り返しただけだった。

 

「シュボウマムスメ?」

 

「タネウマムスメ?」

 

「「はい?」」 



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第五話 ウマ娘とは

シリアスですねえ。ペ〇ス弄りまくっていますけども。


 トレーナーさんの口にした言葉が本当に分からなくて、スズカさんと顔を見合わせる。

 というか、なんだかまた背筋がゾクゾクしたなって思ったら、ふと見たスズカさんが、無意識のうちに両手で私のペ〇スを撫でていた。

 だ、だめ……くぅぅぅぅぅん……

 

「お前ら、ほれ、これを良く見ろ。ウマ娘たるもの、これくらいは知っておけ」

 

 そう言って拡げたその厚めの本の開いたページには、何人かのウマ娘の写真と一緒にたくさんのウマ娘たちの名前。その見出しに『伝説の種牡ウマ娘』と書かれている。

 歴史に残る名種牡ウマ娘として連ねられている、写真のウマ娘さんたちの名前はといえば……

 

『ディープインパクト』

『ブライアンズタイム』

『ノーザンテースト』

『ブラッシンググルーム』

『サンデーサイレン……』

 

 そして、その下に数々の名前があるわけで、どうもそのウマ娘さんたちの子供や子孫であるらしい。中には知っている名前もありそうで一生懸命に探していたら、トレーナーさんが話し始めた。

 

「この本は少し前の物だから、今では更に伝説に残るような種牡ウマ娘も誕生しているけどな。いいかスぺ、スズカ、ウマ娘というのは強い親の遺伝子を受け継ぐことでその力を開花させると言われているんだ。長距離が強い。短距離が強い。勝負勘がある。末脚が伸びる。先行で逃げ切れる。大一番に強い。そういう、この本に載っているような、さまざまな要素を持って結果を残したウマ娘の遺伝子を、日本中のファームの人々のみならず、ファンの人たちもみんな待ち望んでいるんだ。そして、今やスぺやスズカもここに名を残す種牡ウマ娘に並ぶくらいに注目を浴び、そしてお前たちの遺伝子は、必ず次代で優秀なウマ娘を誕生させるはずなんだ。いいか? これは栄誉なことなんだ。どのウマ娘でもこれになれるわけではないんだ。お前たちの遺伝子は選ばれたんだから。だから……喜ぶことなんだよ」

 

 力を込めて力説するトレーナーさん。

 でも、正直私には今の話の殆どは良くわからなかった。

 でもひとつだけ分かったこと。それは、最後の最後で、トレーナーさんが少し泣きそうになっているように見えたことだけ。

 どうしてあんな顔をしたんだろう。

 私が何も話せないでいるとなりで、スズカさんがわたしのペ〇スを撫でながら、凛として発言した。

 

「トレーナーさん。選ばれること、望まれることがとても名誉なことであることは良くわかりました。でも、私もスぺちゃんも、その種牡ウマ娘が何をするものなのかまったくわかりません。ただ……遺伝子を残すということは、ひょっとして赤ちゃんを……」

 

 え? 赤ちゃん? 誰の?

 

 新たな疑問が頭をぐるぐる回りだして、なんだか怖くなって私はトレーナーさんを見た。

 そうしたらトレーナーさんは表情を無くした顔になって、言った。

 

「ああ、そういうことだ。種牡ウマ娘になった者は、牝ウマ娘のまま上がった成績の優秀なウマ娘たちへと……『種付け』をするんだ。要は妊娠させて、子供を作るということだ」

 

「え? 種付け? え? 子供? 作る? え? え?」

 

 疑問のままにトレーナーさんの言葉を繰り返していた私の手とペ〇スをスズカさんがぎゅうっと握った。

 

「落ち着いてスぺちゃん。私も一緒にいるから大丈夫よ。最後までトレーナーさんの話を聞きましょう」

 

「スズカさん……、は、はい……」

 

 気持ちを落ち着かせてトレーナーさんをと見れば、少し表情を柔らかくして口を開いた。

 

「種牡ウマ娘は選ばれたウマ娘にしかなることは出来ない。その選ばれた種牡ウマ娘の血によって、次の世代の力が決まると言っても過言ではない。だからスぺのようにペ〇スを獲得して選ばれた種牡ウマ娘はたくさん種付けをするんだ。だからこそ大事にされる。巨万の富も、栄光栄華も手に入る。ここに載っているウマ娘たちもそうやって歴史に名を刻んだ。スぺ……お前が目指すべきはここなんだ。ここに次に名を連ねるのはお前なんだ、スぺ」

 

 淡々とそう話すトレーナーさんの話を全部聞く。

 そうしている間も、スズカさんはずっとぎゅっと握り続けていてくれた。

 私は身体が震え始めていた。

 もうトレーナーさんの話がどういうことなのか、それも分かり始めていた。

 

 種牡ウマ娘になる。

 たくさん種付けをする。

 子供を作る。

 遺伝子を残す……

 

 つまり、私のこのペ〇スは赤ちゃんをつくるための道具。そして多分、このたくさん出る白い液体は赤ちゃんの素……

 私が種牡ウマ娘になって、たくさんのウマ娘さんたちと赤ちゃんをたくさん作る。

 そして生まれたたくさんの子供たちが成長して、今の私たちの様にレースに出て活躍する。

 そうして私は、たくさんの名ウマ娘の親として名前を残す。

 

 さぁーっと血の気が引いて行くのを感じていた。

 トレーナーさんは言った。

 私もスズカさんも、種牡ウマ娘として期待されていると……

 つまり、スズカさんも……

 

「と、トレーナーさん」

 

「なんだ、スぺ」

 

 喉がからからに乾いている。

 何を聞いても絶対に私にとって聞きたくないことを言われるに決まっている。

 でも、聞かずにはいられなかった。

 だって、私……

 

 私はスズカさんのことが……

 

 もう一度唾を飲んでから、乾ききった口で一生懸命に言葉を絞り出した。

 

「わ、私! す、スズカさんだけの種牡ウマ娘になりたいです」

 

 スズカさんの顔は見れなかった。

 でも、スズカさんがぎゅうっと私の手とペ〇スを握ったことだけは分かった。

 私は真剣だった。

 真剣にトレーナーさんを見た。

 だって、私はそんな歴史に残る様になんかなりたくないんだもの。

 もう何もできないのなら……もう走れないのなら、せめて……

 

 せめて大好きな人とずっと一緒にいたいのだもの。

 

 トレーナーさんは腕を組んだまままっすぐに私を見た。

 そして言った。

 

「スズカの検査はもう終わっている。スズカは……種牡ウマ娘に……なる。これはもう決定事項だ」

 

 その言葉の意味すること。

 それが分かって、私は口を抑えた。嗚咽しそうだったから。

 スズカさん……

 スズカさん……

 

 私の隣では……

 

 スズカさんの頬にも涙の筋が走っていた。



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第六話 登録抹消

雌性先熟(しせいせんじゅく)

 

 動植物界ではたまにある、性転換の方式。

 群れで暮らす魚などの中で、産まれた時は全てメスのままで、群れの中の一部が成長するに内に性別をオスへと変化させることで繁殖を行うタイプの生物のことをこう呼ぶのだそうです。

 私たちウマ娘もこれに当たるということで、どの娘も生まれたときは(メス)

 そこからの成長は、ほぼ人と同じなのだそうですけど、人で言うところの二次性徴の後期を迎えたのち、身体の成長のピークを迎えたタイミングで、一部のウマ娘の女性器が退化し、変わりに男性器が出現することがあり、これによって(オス)が誕生します。

 この切り替えのタイミングともいえる性器の切り替わりの期間が非常に短く、もっとも速い場合は、僅か30分ほどで完了してしまうということで、遅くとも数時間から半日ほどだそうですから、私の様に朝起きて驚くウマ娘さんは多いとのこと。

 いずれにしても、この切り替わりのタイミングは、学校を卒業してからがほとんどで、私の様に在学中で、しかもかなり早い時期での切り替わりは本当に稀ということで、授業でもまだきちんと習っていませんでした。

 

 ともかく、ここで一番重要なこと……

 

 それは、私が競走ウマ娘として『上がる』ということ。

 つまり、私の『登録抹消』。

 もうレースに出ることは出来なくなる。

 

 私は……

 

 もう走れない……

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 トレーナーさんと話した後、私とスズカさんはずっとこのウマ娘の『雌性先熟』についてを調べていた。

 色々探して、色々読んで、色々調べて、それで本当に私は自分が走れないのだということを実感した。

 それを感じた時、ただただ涙が溢れた。

 隣でスズカさんも何も言わずに泣いていた。

 泣いて、何も声を漏らさないままで、二人でぎゅっと手を繋いで泣いた。

 ただ、そうするしか出来なかったから。

 

 夕方、トレーナーさんが持って来てくれた牡ウマ娘用のサポーターに私は足を通した。

 この数時間、ずっと調べ物をしていたせいか、私のペ〇スもすっかり落ち着いて、今はそのサポーターの中にしっかりと納まっている。

 穿いてみて思ったのは、生地がしっかりしていてきちんと包んでくれているので、擦れたり暴れたりしないせいか、ペ〇スの存在自体がそんなに気にならなくなったということ。

 このままなら全力で走れそうだったし、実際走れるのだろうけど、でも、もう選手として走ることが出来ないんだということを思い出してしまって、そのことでまた泣いた。

 

 スズカさんと二人で手を繋いで寮へと向かう。

 私達の間に会話はなかったけど、ただスズカさんの手の感触が本当に私のことを気遣ってくれているのだと教えてくれていた。

 だから私は無理にでも笑顔を作った。 

 

「今日は付き合って頂いて、ありがとうございました。ほんと、一人だったらどうなるかと思いましたよぉ、あはは」

 

「スぺちゃん……」

 

 暗くうち沈んだスズカさんに向かって無理に笑ったんだけど、スズカさんはさっきよりも悲しそうな辛そうな顔になってしまった。

 でも、こうでもしていなくちゃ、私も耐えられそうにないし。

 

「あの……私、スピカに入って、スズカさんと走れて、もう後悔は全然ありません。だから、トレーナーさんの言う通り、種ウマ娘の日本一を目指してみようと思います。本当に、今までお世話になりました」

 

 スズカさんは私の手を握る強さを強めた。

 それは、何かを訴えかけるかのような力強さ。

 暫くして、彼女は言った。

 

「まだ……終わってないわよ? もう少し……一緒にいられるわ」

 

「いいえ、もう終わりですよ。もう終わっちゃいましたよ。私はもう……スピカのメンバーじゃないですもん」

 

「…………」

 

 スズカさんは何も言わない。

 ただ強く強く私の手を握るだけだった。

 そうしながら寮へととぼとぼと歩いた。

 今日、トレーナーさんはスピカのみんなへと私のことを告げると言った。

 ひょっとしたら、みんなはもうこのことを知っているのかもしれない。

 でも、もうどうしようもないもの。

 このまま、これを受け容れて、次に進むしか……

 

 これから先のことを考えれば、もう恐怖しかない。

 今までとは違う環境で、私はこれから種ウマ娘として生きていかなくてはならない。

 それがどういうことなのか、まだ良く分かっていないけど、少なくとも別れなければならないことだけは知っていた。

 

 そう、みんなと……

 

 そして、スズカさんと……

 

 ひょっとしたら、もうこれで本当に最後かもしれない。そう思いながら力を込めてスズカさんと手を繋いだ。

 

「…………」

 

「え? なんですか?」

 

 そのとき……微かにスズカさんの声が聞き取れた。

 私は慌ててスズカさんを見た。

 そこには、今まで見たことがないくらい真剣な目つきで私を見つめるスズカさんの顔が。

 私は、その真っすぐな瞳に、心が苦しくなって思わず目をそらした。

 でもその時はっきり聞こえたの。

 私の耳にはその言葉がはっきりと焼き付いてしまったのだから。

 

 先に立って私の手をひいたスズカさんは、無言のままでわたしを引っ張る様にして部屋へと向かい、そして、その夜もまた二人で抱き合って眠った。

 私はただ、苦しくて切なくて悲しい、そんな思いを抱きながらスズカさんに寄り添った。

 

 そして眠りにつく前、さっきスズカさんが口にした言葉を思い出して何度も頭の中で反芻した。

 その文言がまるで福音の様で、一刻でも私の心は楽になれたから……

 

『絶対に私は諦めない』

 

 スズカさん……

 その小さいけど力強い声を思い出すたびに、私の心は震えた。

 暖かで安らかな思いを胸に私は眠る。

 

 翌日……

 

 私の選手登録は、正式に末梢された。



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第七話 サヨウナラ

 私の登録抹消の話はあっという間に学園中を駆け巡った。

 そして、それと時をほぼ同じくして、日本中からの私への種付けオファーが舞い込んできた。

 学園在学中に、性転換してペ〇スを獲得したということ自体が非常に珍しかったことで、生徒の多くは意味も良く分からないままに、私へと近寄ってきて賞賛した。

 『上がる』ということが、昨年引退した、シンボリルドルフ会長さんやオグリ先輩たちと同じであって、そんな先輩たちと並んだということが羨望の眼差しになるということみたい。

 

 ただ、そんな大勢とは別に、やっぱりこの娘たちは心配してくれた。

 

「Hay! スぺちゃん! 元気出してネー」

「もうスぺちゃんと走れないなんて、寂しすぎるよぉー。でもわたしぃ、スぺちゃんの分まで頑張って走っちゃうから」

「スぺちゃん……困ったことあったら何でも言ってね。私、絶対力になるから! 私たちずっとお友達だからね!」

 

「エルちゃん……セイウンちゃん……グラスちゃん……みんな……ありがとう」

 

 クラスに退園の挨拶に行ったとき、この三人だけは私の気持ちを分かってくれたんだと思う。

 一緒に走って、鍛えて、戦った親友で、一番のライバルたち。

 そんなみんなともう走れないということが、本当に切なかった。

 

「よぉスぺぇ! そんな辛気臭い顔すんなって! これから繁殖ファームでがっぽがっぽ稼ぎまくりだろ? そんで大豪邸に住んで自由気ままに好き放題でぇ、いいなぁ、わたしも早く上がって種牡ウマ娘になりたいなー」

 

 ゴールドシップさん……

 

「ちょっとゴールドシップ! なんて無神経なことを言いますの!? 酷すぎますわ!! スペシャルウィーク。繁殖牡馬に選ばれることはとても光栄なことですの。ダイワ家、サクラ家などと並んで、我がメジロ家にも、多くの優秀なウマ娘たちの血が注がれ続け、誇りある一族を繁栄させてきましたのよ。ワタクシはあなたのこれからのご活躍を期待していますわ」

 

 マックィーンさん……

 

「でもでもでもぉ、スぺちゃんがいなくなるのは、ボクはやっぱり寂しいよぉ。あ、繁殖ファームには会長もいるみたいだし、今度絶対遊びにいくからね! 元気でなかったら、一緒に踊った振り付けで気を紛らわせてね」

 

 テイオーさん……

 

「スぺ先輩がいなくなったら、あたし悲しすぎるよ。ふぇええん」

「なに泣いてんだよスカーレット。お前が泣いてどうすんだよ。ふぇええん」

 

 スカーレットさん、ウォッカさん……

 

「スペシャルウィーク先輩! 先輩は私の目標です。私、先輩の分まで頑張りますから、どうか応援してください!」

「あ~、キタサンと無理せず頑張って優勝しま~す。あはは」

 

 キタサンちゃん、アーモンドちゃん。

 

 スピカでの最後のお別れ。

 みんなに抱えきれないくらいたくさんの花束を貰って、それを手にしてスピカを出た。

 それから小屋を振り返った。

 いろいろなことがあった。

 たくさんのことを経験した。

 ここに来て初めて私は本気で走ることを知った。

 そんないろいろなことを、一緒に分かち合いたい人はここには来ていなかった。

 トレーナーさんは多分私の種牡ウマ娘入りの件で駆けまわっているということみたい。

 スズカさんは……

 みんなもスズカさんの姿を見ていなくて、今どこで何をしているのかは分からないとのことだった。

 でも、私にはわかっている。

 きっと今、スズカさんは戦っているんだ。

 それがなんなのかまでは想像もつかないけど、きっと彼女は何かに足掻いている。

 そう思うと、心が凄く苦しかった。

 スズカさん……

  

 胸をきつくきつく押さえながら、私はその場を後にした。

 

 そして向かった学園の入り口には、大きな黒塗りのリムジンが待ち構えていて、タキシード姿の年配の運転手さんが出迎えてくれた。

 

「スペシャルウィーク様でございますね。繁殖ファームよりお迎えに上がりました。私が貴方様専属の運転手を務めさせていただきます。どうぞ、じいやとでもお呼びください」

 

「じいや……さん? ですか?」

 

「ええ、ええ。結構でございます、スペシャルウィークお嬢様。あ、私は、お嬢様とお呼びさせていただきますね」

 

「そ、そんな、お嬢様だなんて。わ、私ただの田舎ウマ娘ですし」

 

「いえいえ何を仰られますかお嬢様。お嬢様は今や日本中が注目する稀代の星でございます。もっと自信をお持ちくだされ。ささ、どうぞこちらへ。これからお嬢様の新しいお屋敷へとご案内したのちに、繁殖ファームへとご案内いたしますので」

 

「は、はあ」

 

 じいやさんが後部座席のドアを開けてくれた。

 ここに乗るということなのかな?

 私は一度振り返った。

 そこには、遠巻きに私を見送る大勢の学園生徒の姿。

 『がんばれ!スペシャルウィーク!』と書かれた巨大な横断幕を手にしたスピカみんなや、少し涙ぐんでいるエルちゃんたち。それにリギルのメンバーの人たちやリギルのトレーナーさんの姿もあった。

 私はそんなみんなに向かって大きく頭を下げた。

 

『本当にお世話になりました。サヨウナラ』

 

 ただそれだけを胸の内で呟いて、私は車へと乗り込んだ。




じいやのCVはチョーさんで。


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第八話 美浦TC改め、良馬繁殖センター(つまり♡♡ホテル)

 トレセン学園を出た私を乗せた高級車は、高速道路にすぐに上ると、そのまま都心方面へ。

 電車での移動は何度かしたことがあったけど、車に乗って東京の中心を走るのは初めてで、迫るビル群に圧倒されっぱなしだった。

 この驚きをスズカさんと共有できたら……

 今はそんなこと出来はしないことを重々承知の上で、窓に手を当てながらそんなことを夢想していた。

 

 やがて車は高層ビルの多い首都高を抜けて、茨城方面の常磐道へ。

 車道沿いの民家の向こうには木々も多くなってきて、ここがそれほど都会でないことだけは分かった。

 私はここにきて運転手さんのじいやさんに聞いてみた。

 

「あの……じいやさん。お聞きしても良いですか?」

 

「はい、どうぞ、スペシャルウィークお嬢様、なんなりと」

 

「えと……その……それ呼ぶの長いと思うので、呼び捨てでお願いします」

 

「はい、承りました、お嬢様」

 

「うう……」

 

 だからお嬢様って呼んでほしくないのになぁ、は、恥ずかしい。

 顔を押さえて思わず蹲った私に、じいやさんの声。

 

「どうかなさいましたか、お嬢様。どこかお加減でも悪くされましたか?」

 

「え? い、いえ、そうではなくて……そうそう、聞きたいことがあったんです。あの、今どこに向かっているのですか?」

 

 じいやさんはにこにこしたまま車のルームミラー越しに答えた。

 

「はい、今向かっておりますのは、『良馬繁殖センター』のある『美浦』でございます」

 

「美浦? えっと、それって、何県ですか?」

 

「はい、茨城県でございますね。もうしばらくでございますよ」

 

 茨城県……

 関東の地図はなんとなく頭に入っているけど、確か東京の東の方だったかな?

 そういえば、トレセン学園の前身のセンターが茨城県にあったって聞いた気がする。ひょっとしたらそこに向かっているのかな?

 

「あの……」

 

「はいお嬢様?」

 

 もう……

 ほんと恥ずかしい。

 私はいろいろ諦めて、じいやさんへと聞いた。

 

「その良馬繁殖センターについてお聞きしたいのですけど、どういったことをする施設なんですか?」

 

 私のその質問に、じいやさんは頭をぽりぽりと掻きながら笑った。

 え? 私笑われるようなこと言ったかな?

 しばらくすると、じいやさんは申し訳なさそうにミラー越しに頭を下げた。

 

「大変失礼いたしました、お嬢様。そのようなご質問を頂戴するとは微塵も思っておりませんでしたもので。ええと、繁殖センターで為さることについてでございましたね」

 

「はい」

 

 私が頷くとじいやさんは申し訳なさそうに首を横に振った。

 

「大変申し訳ございません。その御質問には、このようなしょぼくれたこ汚いじじいが説明することは非常に憚られます。センターに着きましたならば、そこの身持ちも気立ても良い美人の職員が懇切丁寧に説明することと思いますので、どうかそれまでお待ちください。そうですね……。非常に……やりがいのあるお仕事が待っていると、そう思っておられれば良いと存じますよ」

 

「はぁ」

 

 じいやさんの説明は要領を得なかったけど、私が種付けをするということはもう分かっていることだから、それについて具体的に聞きたかっただけだったんだけど……

 まあ、着いたらわかるってことで良いんだよね。

 種付けって、ほんと何をどうするんだろう……?

 私の悩みは何も解決されないまま、車はどんどん進む。

 そして、高速を降りると、綺麗に植林の整えられた庭園のような広大な森の中の道へと入る。

 木々の合間に立ち並ぶ豪華で大きな洋館の数々が立ち並び、その華麗さに目を奪われていると、その更に向こうに大きな湖と……

 その湖に浮かぶように屹立する白亜のお城が。

 

 あれ?

 モンサンミッシェルって、茨城県だっけ?




美浦TCは滅茶苦茶広いですけど、この繁殖センターはさらに広くて、どうやら霞ケ浦の半分くらいは敷地らしいです。


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第九話 オウチ

「お嬢様、ここがお住まいになります」

 

「うわぁ、すっごく大きな建物」

 

 じいやさんの車は、あの白亜のお城を正面に見た、湖畔の細い道を少し進んだところにある、こちらもまた白くて綺麗な大きな洋館へと向かった。

 遠目に見た感じでも相当に大きくて、ひょっとしたら私たちの寮よりも大きいかも。

 その建物の玄関ホールの前は、車を回せるように屋根付きのロータリーになっていて、そこに車を寄せると、赤いスーツを着た男の人が、畏まって車のドアを開けた。

 

「お帰りなさいませ、スペシャルウィーク様」

 

「え? あ、はい。た、ただいまです」

 

 思わずそう答えると、その男性はにこりと微笑んでから、私のそれほど大きくない旅行鞄をじいやさんから受け取って先に立って歩き始めた。

 そしてここもやはり大きくて重そうな玄関扉を開くと、その男性は私に頭を下げて畏まった。 

 それに私もちょこんとお辞儀をして中を見ると、そこには何人ものメイド服姿の女性たちの姿が。

 

『おかえりなさいませ、スペシャルウィーク様」

 

「は、はいっ!!」

 

 全員がお腹に手を当てて優雅にお辞儀するのに合わせて、私は驚いたままで素っ頓狂に返事をしてしまう。

 緊張に身体が強張ったわけだけど、とりあえずこのままここに居ても仕方がないので中へと足を踏み入れると、再び先ほどの男性が私の前へと出てきて頭を下げた。

 

「スペシャルウィーク様、お部屋の準備は整っております。この後はセンターの方へと向かわれると承っておりますが、このまま行かれるようでしたらお荷物をお部屋へとお運びしておきますが、どうなさいますか? 少しお部屋でおくつろぎになられますか?」

 

 そう柔らかく言われても、私は緊張のあまりなんと言っていいのか思い浮かばず、咄嗟に。

 

「け、結構でございますので、このまま失礼します。うわぁあああ、じゃなくて、このまま向かいますので、荷物をおねがいします。よろしくお願い申し上げます!」

 

 言ってから頭を勢いよく下げたのだけど、その男性は特に動じた風もなくにこりと微笑んだ。

 

「畏まりました。ではお気をつけておでかけください」

 

「あ、あああありがとうございます。い、いいいいってきます」

 

 そう言って、くるりとUターンして急いでじいやさんの待つ車へと飛び乗った。

 ドアを閉めてくれたじいやさんが車を発進させると、先ほど出迎えてくれた人たち全員が、玄関ドアの前に並んでこっちに向かって頭を下げてって、えええ!?

 な、なんでこんなに丁寧なの?

 

 多分私は相当驚いた顔をしていたのだと思うけど、ルームミラーでこっちを見ていたじいやさんが愉快そうに笑った。

 

「大分驚かれたご様子でございますな、お嬢様。無理もありません。なにしろ全てが急で、全てが今までとまるで違うはずですからの」

 

「はい……本当にびっくりしました。まさかあんなにきれいな宿舎だったなんて……。私礼儀とか、作法とか全然わからないんです。あそこで暮らしている他の種牡ウマ娘の皆さんに迷惑をかけちゃうかもって、本当に怖くなりまして……」

 

 その私の言葉に、じいやさんはほっほっほと愉快そうに笑った。

 

「その心配はご無用ですよ、お嬢様」

 

「え?」

 

 みんな私と同じような感じということかな?

 とか、そう言われると思っていたのだけど……

 

「あの家は、お嬢様だけの御自宅で、他は使用人だけで、種牡ウマ娘の方は一人もおりませんからの」

 

「え? えええええええええええっ!?」

 

 私の絶叫が車中に響いた。

 

 



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第十話 黒い医師

突然雰囲気が変わるのも、二次創作の醍醐味ですよね。
CV:大塚明夫さん的な声の黒い人が登場しちゃいます。


 ここに来て、もう驚くことばかりで、これ以上驚くのが怖くなってきていた。

 でも、やっぱり逃がしてはもらえなかったみたい。

 続いて驚愕したのは、良馬繁殖センターこと、モンサンミッシェル……もとい、湖上の白城。

 森の切れ間から伸びる荘厳な広い石の橋の上を車でそのまま走り、湖底から直接石を積み上げて壁とした人口島とも言うべきその巨大な建造物を下から見上げつつその中へと入った。

 島全体が巨大な城の様に見えていたので、門をくぐれば屋内なのかと思いきや、そこは広い広い園庭で、丁寧に手入れされた植木の数々や、様々な花の植えられた花壇が広がっていた。

 その庭を何人ものウマ娘たちが、手を繋いだりしながら仲良さそうに散策している。

 よく見れば、どの人も、以前テレビなどで見たことのある娘ばかりで、名前と顔を思い出すたびに驚愕を繰り返すことになった。

 

 正面入り口に着いた時には、もう精神的にへとへと。

 じいやさんの案内で、センターの受付へと向かうことになったのだけど、いろいろと疲れてしまって一先ず受付をじいやさんに任せて私は小休止することにした。

 外観が古城のイメージだったわけだけど、中はといえば綺麗に整備されていて、新しめの病院の様にも感じられた。

 そんな綺麗に清掃の行き届いたロビーの端のの方で、一人私は佇んでいた。

 まさか驚きすぎて疲れ切ることがあるなんて思いもしなかった。

 こんなことなら車中で眠ってくるのだったと今更ながらに後悔しつつ、でももし他にも連れがいたら、疲れるよりも楽しいの方が勝っていたかも……

 それがスズカさんであったなら……

 そんなことを思いつつため息をついた。

 

 その時……

 

「失礼。君の腰と腹を少し触らせてもらうぞ」

 

「へ?」

 

 急にそんな声が頭上からして、そっと顔をむけてみると、そこには真っ黒な服を羽織った目つきの鋭い男性が。

 

「へ? へ?」

 

 いったいなんで私に声をかけて……? あれ? 今、この人なんて言ったんだっけ? え? 腰? 触る? へ?

 

 疑問符が頭に浮かびまくっていた中、何もしゃべれず見上げていた私の顔に、その黒い男の人の顔が迫ってくる。

 よく見れば、顔に大きな傷跡があって、その左右の皮膚の色が違っていた。

 え? なに? フランケンシュタイン? え? お、オバケ? ええ!?

 背筋がどんどん冷えてくるのを感じつつ、カチコチに固まったままだったわけだけど、その人は大きく息を吐いて私を睨んだ。

 

「君は、スペシャルウィーク号だな? 急に触れると蹴られると聞いたからこうやって先にお願いをしたのだが……、無反応ならば勝手に触らせてもらうしかないな」

 

「え?」

 

 その男の人はそういうと急に私のお腹に手を当てて、下腹部に向かって力を込めた。そしてすぐに私をくるりと180度回れ右させて、両手で私の腰から脇腹にかけて指を這わせていく。

 ぞわぞわっと、身の毛のよだつ感触が背中を走り、頭を抜けたタイミングで私はその人を思いっきり蹴った。

 ……つもりだった。

 ぶんと、その人の脇を私の足が素通りする。

 その人は何もなかったかのように私の前に立って見下ろしていた。

 

「なるほど……ウマ娘とは不思議な生き物だな。まあ、良く分かった」

 

 そう涼し気に言ったその人を見て、私はさっきされたことのあまりの恥ずかしさに声を荒げてしまった。

 

「な、何をするんですか!! 痴漢ですかっ!!」

 

 そう言った私のことを彼は完全に無視。

 表情ひとつ変えないままに続けた。

 

「君に聞いておきたいことがある。君の望みはなんだ?」

 

「え? の、望み? な、なんでそんなことを痴漢に言わなきゃならないんですか?」

 

「答えられないのなら、私はただ去るのみだ。契約不履行になるからな。だが、君の望みが『依頼人』と同様であるというのなら、私は私の為すべきことを為そう。さあ、君の望みはなんだ?」

 

 望み? 契約?

 いったいこの人は何を言っているの?

 それと、依頼人とこの人は言った。確かに言った。

 つまり、誰かに頼まれて私のところに来た……そういうこと?

 じゃあ、いったい誰が頼んで……

 そこまで考えて、ふと思い浮かんだのはあの優しい笑顔だった。

 ひょっとしたら……

 もしかしたら……

 まさかと思いつつ、そのことを聞いてみようと思い顔を上げた先で、黒い服の男の人はニヤリと笑っていた。

 

「まあ、急ぐまい。時間はまだ十分にあるからな。私は君の答えを待って行動することにしよう」

 

 そう言ってくるりと向きを変えて、その人はスタスタとこの施設の出口へと向かって歩き出した。

 私はその背中に向かって焦って声を掛けた。

 

「ま、待ってください。貴方はなんなんですか?」

 

 それに彼は顔だけをこちらへ向けた。

 

「私は……ただの医者だよ」

 

 そう言って黒服に黒い鞄を持ったまま、その人は歩み去った。



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第十一話 センパイタチ

「どうかなさいましたかな? お嬢様?」

 

 そう言いながらじいやさんが私の近くへ。 

 私はすぐに先程の男性の姿を探したのだけど、もうどこにも見当たらなかった。

 

「お医者様……という人に話しかけられました」

 

「お医者? はて? 今日は先生はお見えの日ではないはずなのですが……」

 

 そう言いながら首を傾げているじいやさん。

 来る日もあるということは、あの人はここの先生だったのかな? その割には一人だけ真っ黒で変な恰好だったけど。

 

「スペシャルウィーク! わぁ、スペシャルウィーク、本当にきたのね!」

 

 遠くからそんな声が聞こえて、そちらへと顔を巡らせてみれば、大きく手を振る髪の長い美人の姿。その姿振る舞いに、どきりと心臓が撥ねるのを感じつつも、知っている人に会えたという安心感に胸を撫でおろした。

 彼女はそうしながら小走りに近寄ってきた。

 

「マルゼンスキー先輩」

 

 近づいてきた彼女からふわりと甘い匂いが漂う。

 それに再度ドギマギしつつもひとまずぺこりと頭を下げた。

 

「いらっしゃい。いつ来たの?」

 

「あ、ちょうど今なんです。ついたばかりで」

 

「そうなのね。じゃあ、全然まだ分からないわよね、ふふ。それにしても驚いたわ、学生期間中でしかもまだ一年以上残してこのファームに来る生徒がいるなんて本当にびっくりしたわ。それも可愛いスペシャルウィークだっていうじゃない。ルドルフと二人で笑っちゃったわ」

 

「あ、会長さんもいらっしゃるんでしたね?」

 

「ええ、いるわよ。丁度今繁殖中だと思うから、後で会わせてあげるわね。それにあなたの事を話したら、オグリも凄く嬉しそうだったわよ。是非一度勝負したいって。なんの勝負なのかしら?」

 

 マルゼンスキー先輩は私の手を取ってピョンピョン飛びながら矢継ぎ早に話しまくる。

 普段は大人びた雰囲気だけど、とっても優しいしお茶目なんだよね。特に私に対しては子供とか孫に接するみたいに優しくなるし。

 この人、本当に可愛いなぁ。

 ルドルフ会長さんのことはテイオーさんに聞いていたけど、オグリさんもいたんだ。今度一緒に食べ放題行こうって誘ってくれたままお別れになっちゃってたからかな? 私も会ってオグリさんと食べに行きたい。

 

「お知り合いのお方にもお会いできました様ですし、私はこれで失礼させていただきます。受付はもう済んでおりますので、間もなく担当の若くて美人で気立てが良くて身持ちの良い娘が説明に来ることでしょう。では後程お迎えに上がります」

 

 運転手のじいやさんは私とマルゼンスキー先輩にぺこりと頭を下げてその場を辞した。

 

「運転手の方がいらっしゃったのね? 気が付かないままに話しこんでしまうなんて失礼なことをしてしまったわね」

 

「いえ、こちらこそ……。あの、マルゼンスキー先輩……その、せ、先輩も、しゅ、種牡ウマ娘なんですか?」

 

 そう言いながら、私に生えたものと同じものがあるのであろう、そのフラスカートの中へと注視してしまう。

 すると、彼女は股の辺りをさっと手で隠して、私のおでこをちょいとつついた。

 

「こらだめよ。そんな風にじろじろ見たら」

 

「あ、すみません」

 

 あ、やっちゃった。

 凄く気になりすぎちゃった。

 恥ずかしさに顔を覆った私に彼女はにこりと微笑んでから私の顔に触れた。

 

「最初だもの、しかたないわよね。まあ、そうね。あなたの想像通りの物がここにあると思うわよ。サイズは……想像通りかは分からないけどね、ふふ」

 

「そ、そうなんですか」

 

 屈託なく笑って教えてくれた先輩は、じゃあまたあとでと手を上げて私から離れる。その先には、白いガウンのようなものを着た赤毛のウマ娘と、栗毛でふわりとしたマタニティードレスを纏ったお腹の大きなウマ娘の二人が待っていて、その人たちの腰に手を回して中庭へと出て言った。

 

 あの人……ひょっとして妊娠……って、マルゼンスキー先輩の……

 

 子供!?

 

 よく見れば、同じようなお腹の大きな人や、薄手の浴衣姿の人たちが大勢いることに気が付いて……

 

「お待たせいたしましたスペシャルウィーク様。私が担当させていただきます、中山あぶみです。よろしくお願いいたします」

 

 あ、気立ても身持ちも良さそうな人だ。




なんだか、なまなましいw


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第十二話 種牡ウマ娘と繁殖ウマ娘

この話しは、一度削除し修正してから、再投稿しました。



 『あぶみ』さんという名前の目の前の綺麗な女性は、上下青の制服姿で、どことなくトレセン学園の『たづな』さんと似た雰囲気だった。

 彼女は私にこの良馬繁殖センターの施設の説明を事細かにしてくれた。

 

 この施設は、より効率よく、より多くの優秀なウマ娘を誕生させることを目的として、旧美浦トレーニングセンター跡地を中心に整備、建設された総合繁殖施設で、なんと年間10000件以上の種付けを一手に引き受けているのだそうです。

 10000件というのがそもそも凄い数字ですけど、この施設は出産まで面倒を見てくれるということで、妊娠した繁殖ウマ娘は出産前にこうしてこの施設を再度訪れて生活をするのだそうです。

 先ほどから私の前を行き来している多くのウマ娘は、妊娠した繁殖ウマ娘ということですね。

 中には種付け後帰郷せずに、この施設で生活しながら出産を迎える人もいるそうで、そのような大勢が生活するこの施設は、娯楽施設やアメニティーも充実しているようです。

 ジムやヨガ教室、映画館や温泉、各種スポーツ施設と当然競走用トラックも完備されていて、それらをここの人たちは自由に利用できるということ。

 当然ですが、お腹の大きくなったウマ娘さんがハードなトレーニングや競争を出来るわけではないのですが、一線を退いたとはいえ、G1覇者が大勢集まっている場所ですから、模擬レースなどもかなり白熱するようです。

 

「つい先日、マルゼンスキーさんと、オグリキャップさんと、シンボリルドルフさんが2400mで模擬レースをしておられたんですけど、間近で見て本当に感動しました。すっごくドキドキで!」

 

 とはあぶみさんの言葉。

 すごく感動したということが、興奮具合から凄く伝わってきました。

 私だって、この三人と走れたのは、あのウインタードリームカップでの一度だけ。

 また競争したくてウズウズしているのを自分で感じた。

あぶみさんではないけど、私だってとっても見たい。

 いえ、走りたい。戦いたい。

 今度こそ決着をつけたいですもの。

 そんな思いが沸々と沸くのは、私がまた未練を持っているといことなのかもですね。

 そう思いながらあぶみさんの話の続きを聞きました。

 

「ええと、では、次に種牡ウマ娘についてご説明しますね」

 

 あぶみさんは、私が何も知らないということを察して、事細かに説明してくれた。

 種牡ウマ娘は常に種付けを実施するためにこの繁殖施設の内か、もしくは近隣に住まうことが一般的ということ。

 私の知っているウマ娘さんで言えば、オグリさんはこの施設の中に部屋を借りて、ここで衣食住の全てを完結させていらっしゃるみたい。 

 マルゼンスキーさんとシンボリルドルフ会長さんは施設そばに住まいを用意してそこからこの施設へと通っているみたい。

 その住まいも、種牡ウマ娘さんの為に施設が用意したものなので、実質的にはここの宿泊施設と同じような扱いの様だけど、自分の家があるということで精神的にリラックスできる効果があるということらしいです。

 つまり、私が先ほど寄ったあの家もそういう意味合いで、あれは本当に私だけの家ということ。

 はわわ……

 でも、これは当然のことの様で、一度きりの種付けがほとんどの繁殖ウマ娘とは違い、種牡ウマ娘は一年間に何度も種付けを行う関係上当然収入も多くなりますから、かなり豪華な家を用意することは自然なのだそうです。

 そしてその種付けの回数は言えば、人気種牡ウマ娘だと、なんと一年間に数百回以上というから驚きです。

 特に春先は子供が作りやすいとのことで、丁度今時分……ここから2から3か月に種付けは集中するようです。

 

 繁殖ウマ娘さんたちが一年に一回ということですから、この数はとんでもないですけど、そもそも種付けってどういうものなのか……?

 

「では、いよいよお待ちかねの『種付け』について説明しますね。もうそろそろドキドキしてきたんじゃないですか?」

 

「えっと……本当に良く分からないので……」

 

「そうなんですか、ひょっとしてまだ未経験だったりします?」

 

「未経験?」

 

 私が繰り返すとあぶみさんはうんうんと頷いてから言った。

 

「別に童貞が恥ずかしい事ではないですよ。レースに集中するウマ娘さん達にとってレースが一番ですから。でも、長いウマ娘生を考えるならば、種牡ウマ娘に選ばれたのですから種付けが一番になります。きちんとお勉強して、目指せ種付け日本一ですよ。えいえいおー!」

 

「は、はい……」

 

 天へと拳を突きあげるあぶみさんのその姿に一抹の不安を覚えつつ、私の見学は続いた。

 

 繁殖ウマ娘さんの身体検査。

 なかなか発情しない繁殖ウマ娘さんへのカウンセリング光景。

 当てウマ娘さんとのラブラブデート風景。

 当てウマ娘さんと良い雰囲気にまって、その気になった繁殖ウマ娘さんと種牡ウマ娘さん初顔合わせ。

 嫌がったりする場合は、繁殖ウマ娘さんにブリンカー(目隠し)をつけたりだとか。

 繁殖ウマ娘さんの○○に、種牡ウマ娘さんのペ〇スが……

 あっという間の大量射精。

 終了。

 

 この間、たくさんの人が、裸で繋がる二人の種付け介助をしていました。

 

「さあ、これが種付けの一連の流れですよ。どうです? 簡単そうでしょ? 興奮してきましたらバンバン種付けしましょうね! れっつ、えんじょい、たねつけですよ!」

 

 ぐっと手を握り込んで微笑むあぶみさん。

 私はそれを見つつ……

 

 卒倒した。

 

「きゅぅ……」

 

「す、スペシャルウィークさんっ!」



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第十三話 ダメウマムスメ

「気が付かれましたかな、お嬢様?」

 

「あ、れ? ここは?」

 

 床から振動を感じて目を開けてみれば、前の方からじいやさんの声が。

 よく見てみれば、黒い皮のひじ掛けに凭れ掛かるようにして眠っていたらしいことに気が付いた。

 このひじ掛けには見覚えがあった。

 ここに来るまでに乗ってきた車の後部座席のものがこれだったから。

 ということは私は車の中で眠って……

 少しづつ思い出してきて、周りを見回してみれば、やはりあの車の中で、走りだしていた。

 

「すみませんお嬢様。眠ってしまわれておりましたので車中でお休みいただいたのですが、夕方になってしまいましたもので、このままお屋敷の方へ向かおうとしていたところでございました。もう今日は遅うございますので、このまま向かわせていただきますね」

 

「はあ、よろしくお願いいたします」

 

 じいやさんの言葉を受けて、車の後方を振り返ってみれば、あの巨大なお城のような繁殖センターの外観が。

 それを眺めていたら、だんだんとさっきまであそこで見ていた光景を思い出してきて、またもや頭が沸騰しそうになってきた。

 あ、あそこで、みんなは……あんなことを……

 はわわわわわわわわわわわわわ……

 両手で顔を覆って考えを散らそうとするのだけど、なかなかあの光景が消えてくれない。

 そんな状態でいた私の耳に、穏やかなじいやさんの笑いごえが。

 

「ほっほっほ。どうやらお嬢様には刺激が強かった様子でございますな。無理もございませんな。なにしろあそこでは今までご友人であられたウマ娘の皆様と繁殖をせねばならぬのですから。初めてお連れするお嬢様方の中にも当然お嬢様の様に驚かれる方も少なくありません。なあに、焦らぬことですよ」

 

 ハンドルを握りながらじいやさんはそう言ってくれる。

 他のウマ娘さんも私と同じように驚いてしまう子がいるということかな。

 そのうち慣れた? 他のウマ娘たちは?

 でも……

 だからってあんな裸同士であんな行為……恥ずかしすぎるよ……

 それにあんなことを良く知らない娘とするなんて……

 嫌だ……

 嫌だよ……

 スズカさん。

 

「うう……」

 

 再び思い出して唸っていると、ルームミラー越しに私に視線を向けていたじいやさんが、今度はあらたまって聞いてきた。

 

「お嬢様、不躾な質問になってしまいますが、どうかご容赦ください。お嬢様はひょっとしてどなたかに特別な想いをお持ちなのではございませんか?」

 

「え?」

 

 特別な想い……

 

 そう聞かれて……

 いや、その前から私はずっとあの人のことを考え続けていた。

 いつも私の前を走っていた人。

 いつも私に前を向く勇気をくれた人。

 そして、いつも私の走る意味だった憧れの人……

 今だけじゃない。

 私はいつだってずっとずっと彼女のことを考え続けてきた。

 そう、スズカさんのことを。

 

 でも……

 

 私はもうスズカさんと同じ時は歩めない。

 彼女と一緒に走ることも、彼女を近くで応援することも、彼女と競い合うことももうできない。

 私はもうレースでは走れない。

 それに……

 彼女が走れなくなったとき……

 彼女は私と同じ種牡ウマ娘になる。

 そして、今日私が見てきた様に、たくさんのウマ娘たちと裸でまぐわい続ける日が始まってしまう。

 その時……

 私は大勢の子供の親ウマ娘となっているはずで……

 そのことが何よりも恐ろしかった。

  

 もうスズカさんと同じ道は歩めない……

 そのことが本当に悲しかった。

 

「う……うう……」

 

 涙が出た。

 もうどうしようもなくてとめどなく。

 その様子をじいやさんはただ黙ってみていたのだと思う。何も話さないままに車を走らせてくれた。

 そしてあの大きな家へと帰り、大きな部屋の大きな布団の中で、小さく蹲って眠った。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 翌日再び繁殖センターへ赴いた私は、白衣を着た長身の女性と面談した。

 

「初めましてスペシャルウィークさん。私はこのセンターの医師で数河井(すごい)芽衣(めーい)と申します。これから担当させていただきますので宜しくお願いしますね」

 

「はい」

 

 数河井先生の説明の元で身体測定をして様々な検査を受ける。

 私はもうなにか諦めが付いてしまって、言われるがままされるがままに検査をこなしていった。

 先生は特に問題はないと言っていたけど、股間にこんなものがぶら下がっている私からすれば問題だらけにしか思えなかった。

 でも、大丈夫だと言われれば、大丈夫ということなんだろうくらいに思うことにした。

 私からすれば、もうどうでも良かったし。

 

 昨日驚いて卒倒してしまったあの繁殖室へと、私は今日初めて足を踏み入れた。

 白衣姿の介助人が数人で私の着ていた浴衣を脱がす。

 完全に裸になった私のすぐ前には、私よりも背の高い筋肉質のウマ娘さんが全裸で立っていた。

 

「あなたがスペシャルウィークちゃんね。ジャパンカップでブロワイエを破ったって聞いたわ、凄いわね。あなたの子種で絶対に日本一のウマ娘を産むわね。宜しくね」

 

 にこりと微笑んだ黒毛のその女性は、私の前にお尻を突き出してそれを大きく振ってみせた。

 私はそれを見ながら……

 

 ただ立ち尽くしていた。

 

 私にぶら下がったままのペ〇スは、ピクリとも反応することはなかった。



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第十四話 夢

 それからの私はどうも最悪だったらしい。

 来る日も来る日も繁殖室へと連行され、そこで様々な繁殖ウマ娘さんたちへと種付けを行おうとした。

 でも、何をどうしても、私のペ〇スはうんともすんとも反応しなかった。

 大概のウマ娘さんたちは私よりも年上で、しっかり発情した状態で来ているとのことだったけど、私の方はまるでだめ。

 緊張しているのかもしれないとか、好みの所為かもとか、いろいろと数河井先生は試してくれて、真っ暗な部屋にしたりとか、逆にムーディーな曲を流してみたりとか、ピンク色のライトの下で複数のウマ娘さんがダンスを踊ったりとか。

 年上がだめなら年下では? などという発想から、私よりも大分年下の小柄な子まで連れてきて試そうとしたけど、結果としてはまるで駄目だった。

 それではと、興奮を促す薬や、ペ〇スの勃起を促す薬も使用したのだけど、あれほど収まらず大変だったはずの私のペ〇スは、まったく反応を示すことはなかった。

 いつしか私は、種ウマ娘としては出来損ないのレッテルを貼られていた。

 

 数河井先生も私を見るたびにため息をつくようになったし、廊下ですれ違う繁殖ウマ娘さんたちも、私を見てクスクスと可笑しそうに笑うようになったし。

 こういう風に種付け出来ない状態のことを、ED(インポテンツ)というらしく、種馬失格なのだそう。

 

 それはそうだよね。このままでは子供を作ることはできないのだもの。

 種付け出来ない種牡ウマ娘なんて、本当に価値はゼロだもの。

 レースにも出られない、種付けも出来ない私は、完全な役立たず。

 何が日本一の種ウマ娘か……

 そもそもそんなもの、目指したいなんて思ってもいなかったし、目指せるわけなかった。

 

 私は数河井先生により検査の合間の時間を使って、常に練習用トラックへと出ていた。

 種牡ウマ娘用のサポーターを着用してトレーナーを穿けば、思っていたよりも股間の辺りはすっきりして走ることもできたから。

 でも、やっぱり違和感は酷くて、トップスピードで走ろうとすると、それの違和感の所為か以前のような限界付近の加速を得ることは出来なかった。 

 それでも走る時間はたくさんあったから、ずっと走り続けた。

 それこそ、トレセン学園に居た頃以上に。

 走ることは好き。

 でも、いまここで走るのは何か違っていた。

 楽しくないのだもの。

 トレセン学園でスピカのみんなと練習で走っていた時はまるで違う孤独感がずっと私を包んでいた。

 

「はぁはぁ……」 

 

「だいぶ打ちひしがれている様子だな」

 

「え?」

 

 声を掛けられてそっちを見れば、練習用トラックの入り口にあの真っ黒い服の男の人の姿があった。

 彼は上着を脱いで肩に担ぎ、黒ベストに紐ネクタイ姿でこっちへと近づいてきた。

 

「あなたは……お医者様?」

 

 そう、その人は以前、私の前に急に現れてお腹や背中を触った人で、自分でお医者さんだと名乗った。

 そのお医者さんは私の傍へとくると、腰を屈めて私を眺める。

 

「ふむ。かなり鍛えているようだな。これなら勝負になるか?」

 

「なんのことですか?」

 

 一体なんの話をしているのか、私を見てにやりと笑ったフランケンシュタインのようなお医者様。

 私は身を捩って胸を隠しながら後ずさった。

 本当に、この人は何を言っているのか、勝負? 勝負ってなんのこと?

 意味が分からなくて聞いているのに、私の言葉にこたえるつもりは無いようで、周囲をぐるりと見渡し始めた。

 

「勝負ってなんのことですかって聞いているのですけど?」

 

「ふむ……明かりも十分だな……さて……」

 

「ちょっと……私の話を!」

 

 そう言った時だった。

 彼はくるりと私に向き直って、まっすぐ目を見てきた。

 その仕草に思わず身体が強張って固まってしまう。

 

「スペシャルウィーク号。では答えを聞こうか」

 

「え? なに?」

 

 私を見下ろすその人は、微笑みを浮かべたままで射貫くような視線を向けてきた。

 何を聞かれているのか本当に分からなくて、だんだんと怖くなってきていたけど、彼はそんな私に構わずに口を開いた。

 

「答えだ。君はいったい何を選ぶ? 君はいったい何を望む? さあ、答えたまえ」

 

「選ぶ? 望み? え? どういうこと?」

 

 疑問が頭の中を渦巻く中で、なんとなくわたしはこの前この人に聞かれたことを思い出してきていた。

 この人は私に聞いた。私の夢はなんなのかと。

 私はどうしたいのかと。

 そのことを今聞いている?

 そんなこと……。

 夢は……

 あった。

 確かにあったよ。

 でも、こうなってしまっては……もうどうしようもないじゃない!

 彼に問われた内容は何度も何度も私の中で繰り返し考えたことでもあった。

 それなのになんで聞いてくるの?

 次第と私の中で怒りへと代わってきているもやもやを、私は彼へと叩きつけるように吐き出した。

 

「夢なんて……もう叶えられるわけないじゃないですかっ! いい加減にしてくださいっ! もう放っておいて!」

 

 あまりの苦しさに涙が溢れる。

 でも、もうこうとしか私には言えなかった。

 語気を荒げてしまったことを少し後悔しながら、何か怒られてしまうかもしれないとも怯えながら、私は目をぎゅうっと瞑る。

 何もかもが嫌で、すべてをシャットアウトしたかったから。

 でも、彼の次の反応は、私にとってまったくの予想外のものだった。

 

「夢は叶うさ。望んでいる限りはな。私はただ、君の今の望みを君の口から聞きたいだけだ」

 

「そんなこと……」

 

 言ってもなにもいみなんかない……

 そう思っているのは間違いない。でも、私には確かに望みがあった。

 すでに諦めてはいる。考えないようにもしている。

 でも……

 確かに、のぞみはあったから。

 

「わたしは……」

 

 言いながら彼を見上げた。

 男のお医者様は鋭い眼差しでただ私を見据えていた。

 とても怖かった……でも、言うなら今しかないのではないかと……

 そういう思いから、私は思いを声に出していた。

 

「私はもっと走りたい。もっとスズカさんと一緒にいたい。ずっと一緒にいたいです」

 

「そうか」

 

 涙も溢れてしまったそんな私を見つつ、彼はそれだけをポツリと言った。

 そして、首を横に向けて大声を出した。

 

「だそうだ。これで理由ができたな、サイレンススズカ号」

 

「え? す、スズカさん?」

 

 驚いて慌てて立ち上がった私は、黒いお医者様の方を向いた。

 すると、その背後にもうひとつの人影が。

 そこにいる人の姿を私が見間違えるはずがない。

 そこには、スズカさんが立っていた。

 でも、その雰囲気はいつもとまるで違っていて……

 

 彼女は重賞レース用の勝負服に身を包み、怖いくらい張り詰めた緊張感を漂わせながら私を睨んでいた。

 そしてゆっくりと近づいてくる。

 私はそのあまりの気迫に気圧されて、何も喋れないままで立ち尽くしていた。

 私の正面に立ったスズカさん。

 彼女は、私へと言った。

 

「スペちゃん……いえ、スペシャルウィーク。私と一対一の勝負をしなさい」



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第十五話 賭けレース

「え? 勝負って……な、なんでですか? スズカさん」

 

 私がそう口にすると、スズカさんはキュッと唇を引き締めて、私の質問には何も答えないままに見据えて言った。

 

「勝負はこの競技トラックを使用します。スタートはここ。このまま時計回りで周回して、ゴールはあの登坂の先。距離は3200m。質問がなければすぐにはじめましょう」

 

「え? え? す、すぐですか? いますぐ? え? さ、3200mって、そんな長距離を……スズカさんが? え?」

 

 彼女は再び唇を引き結ぶ。そして、視線をコースへと向けた。

 私は呆気にとられるほかは無かったけど、そもそもどうしてこうなっているのか説明をしてもらいたくて、再度彼女へと詰め寄ろうとした。

 その時、少し離れたところから、あのお医者様が声をかけてきた。

 

「スペシャルウィーク号。彼女は君との対戦を所望している。君はなぜこんなことになっているのか、疑問に思っているのだろうが、話は簡単だ。彼女と私は取引をしたのだよ、君との対決に勝つことを条件にしてね。彼女は君に勝つことであるものを手に入れる。そして負けた君のことは私がもらう。そういう約束になっている」

 

「え? 取引って……? え?」

 

 今この人はなんて言ったの? 私とスズカさんが勝負をして……

 スズカさんが勝ったら、私は……あの男の人のものになる。 え? ど、どういうこと……?

 頭の中で疑問符がぐるぐる回っていた。

 なんで私が賭けの景品みたいになっているのか……

 確かに、お金持ちの中には大金をはたいてウマ娘を買って、近くにおいてペットにする人がいることは知っている。でも、私なんてただの田舎者だし、欲しくなるというのが分からない。

 そもそも、私の知らないところでそんなことを勝手に決められるわけがあるわけないし、スズカさんがそんなことを承認するなんてとてもじゃないけど信じられなかった。

 

「う、うそ……嘘ですよね? スズカさんっ! スズカさんが私を売るみたいな……、そんなことをするはずないですよね?」

 

 もう私を見もしないスズカさんは、ただ照明に照らされた芝のコースを黙って見つめるばかり。

 何も答えないスズカさんに代わって、またあのお医者様が口を開いた。

 何かのプリントの様なものをとりだしながら。

 

「君の気持ちは分かるが、本当の事だ。そしてここにその旨を記載した契約書もある。君の所有権に関しての部分には、君の養母のサインもキチンといただいているよ」

 

 そう言って手渡された紙には、勝負の内容とスズカさんのサイン、それにお母ちゃんのサインまできちんと記入されていた。

 

「う、うそ」

 

 その紙を、さっと奪い取ったお医者様はその紙を畳んで胸ポケットへとすぐに仕舞った。

 

「嘘ではないと何度も説明をしているのだがね……。君はこのサイレンススズカ号と養母の二人に売り飛ばされたのだよ、この私に。もっともサイレンススズカ号が勝負に勝ったらという条件付きではあるがね」

 

 口角を吊り上げて微笑むその人は本当に邪悪に見えた。

 まるで悪魔か、死神か……

 その向こうで真剣にコースを見据えているスズカさんが空恐ろしく思えてきて、その感覚に身体が震えた。

 でも、そこで私はふと考えついた。

 この男の人が言った内容は少し変だったから。

 

 スズカさんがこの人とした契約は、『私と勝負してスズカさんが勝ったとしたら』というもの。

 当然だけど、私がスズカさんに勝てばこの通りではなくなるわけで、それこそ私が勝ったのだから嫌だと言えば話はもう終わってしまう。

 ひょっとしたら、この勝負……

 スズカさんがこの男の人に理不尽な要求を突き付けられて、しぶしぶ承諾することにしたのかもしれない。

 だからわざとらしく本気を装ってレースを持ちかけて、わざと私に負ける八百長試合をする気なのかも……

 

「…………」

 

 そう思い付きはしたけど、それだけはないと私は即座に悟る。

 今のスズカさんの眼差しが全てを雄弁に語っていたから。

 あの目は本気の目だ。

 とても見せかけだけの出来レースをしようと思っている様子ではない。

 そもそもスズカさんがいい加減なことをするわけがなかった。

 いつも本気で、いつでも真剣に望むのが彼女のスタイル。

 どんな理由があったとしてもその様な卑怯な行為を彼女は選ばない。

 

 ではどうして……

 

 不思議な点はもう一つあった。

 それは彼女が指示してきたレースの内容。

 ここのコースを使うのは分かるけど、私の体調も状況も知らないままに今すぐにレースをしようと申し出てきたこと。

 相手の状況も知らないままに戦おうなんてスズカさんらしくない。

 それと、一番の問題はその距離。

 彼女が提案してきたコースは言えば、この高低差のある長いコースの、さらにそれの一周半にも及ぶ。

 レースとしては長距離と言っても良いほどの長さで、確かスズカさんはこの距離のレースで惨敗した過去を持っていたはず。

 彼女の得意としている中距離を超える長さを指定してきたのはなんのため?

 正々堂々を重んじる彼女らしからぬ言動振る舞いの数々と、彼女自身が苦手とする長い距離での勝負を挑んできたことの意味。

 なりふり構わず勝ちにこだわって見せつつも、苦手な申し出をあえてしてきた理由。

 それらのちぐはぐさに私は困惑するばかりだった。

 

「どうしたの? さっさと始めましょう」

 

 スズカさんはそう言って、怜悧な瞳を私へと向けた。

 それに気圧されそうになりつつも、私はなんとか口を開いた。

 

「ひ、ひとつだけ教えてください。わ、私が勝ったら……どうなるんですか?」

 

 それにスズカさんは長く息を吸った後で漏らすように言った。

 

「貴女が勝ったら、あなたの好きにしなさい。なんでもあなたの言う通りにしてあげるわ。奴隷になれというなら、私はあなたの奴隷にでもなんでもなります」

 

「ええっ!?」

 

 スズカさんはなにかとんでもない事を口走っている。当然の様に驚いてしまったわけだけど、彼女は『でも』と続けた。

 

「私はあなたに負ける気はないわ。絶対に勝ちます。勝たなくちゃならないんですから」

 

 そして彼女は正面を向いた。

 

 私には今の彼女の真意はまったく読めなかった。

 でも、彼女が悲壮な覚悟をもってこのレースに臨もうとしていることだけは分かった。

 この私を賭けの対象としてでも?

 

「さあ、そろそろ始めてもらおうか。ホストはあくまでこの私だからな。何もしないというなら、不戦勝ということでスペシャルウィーク号は私がいただくだけだがね」

 

 そう言われて私は男の人を睨んだ。

 理由や経緯は良くは分からない。

 でも、このレースだけは絶対勝たなきゃだめなんだ。

 それだけは理解して、私は覚悟を固めた。

 

「やります。絶対に私が勝ちます」

 

「ああ、良い心がけだ」

 

 私は上下のジャージを脱ぎ捨てた。

 その下にはウララさんのような上下の体操着をきていたから。

 ブルマに関しては、ペ〇スがあるせいで少し膨らんでしまってはいるけど、いろいろ試した結果、このフィット感が一番私にとって走りやすいものだったから。

 

 私の隣では勝負服姿のスズカさんがすでに表情を強張らせていた。

 それを一度見つめてから私も正面を向く。 

 

 スズカさんの真意は分からない。

 でも……

 手を抜いてはだめなんだ!

 それだけを想い、私は覚悟を固めた。

 

「よし、では始めようか。位置について……よぉーい」

 

 お医者様の右手が高らかに上げられ……

 

 そして、一気にその手が振り下ろされた。



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第十六話 傍観者

 良馬繁殖センターから一台の白色の高級車が走り出していた。

 その後部座席には二人のウマ娘の姿。

 二人は皮張りのシートに深く身を沈めつつ楽し気に会話をしていた。

 

「今日もお疲れ様、ルドルフ。流石にこのシーズンはきついわね、毎日たくさん種付けしないといけないし」

 

 そう長い鹿毛の女性がおかしそうに言えば、隣で黒髪の混じるやはり鹿毛の女性が腕を組んだままで応じた。

 

「うむ、マルゼンスキー……これもすべて合縁奇縁(あいえんきえん)(※1)。どんなウマ娘とであっても、ここで得た縁を私は大切にしたい。だから私は衣帯不解(いたいふかい)(※2)に進むのみだ」

 

「もう、またそんなに難しい言い回しをして。でも、ルドルフは本当に真面目ね。私はそこまで頑張れないわよ」

 

「何を言う。寧ろ君の方が娘たちと上手く接している様に私には見えるが……君の相手の娘たちは随分と懐いているしな」

 

「そうかしら? だってみんな可愛いんだもの。うふふ」

 

「君は秀外恵中(しゅうがいけいちゅう)(※3)であるからな。私はそんな君が羨ましい」

 

「あら、ありがとう。ルドルフに褒められるなんて素直に嬉しいわ」

 

 そう穏やかに語りあっている二人。

 和やかな雰囲気であったところで、長い髪の女性が憂いの籠った瞳で窓の外を見つめつつ言った。

 

「それにしても心配よ、彼女のことが」

 

「スペシャルウィークのことか?」

 

「ええ……」

 

 二人はそう短く言葉を交わし短くため息をつく。

 そして、腕を組んだ方の彼女が口を開いた。

 

「これほど早く上がったウマ娘はかつていなかったからな……我々の常識が通用しないことは仕方があるまいが……。勃起不全の上、射精もままならない様だし、本人も相当に傷ついているのだろう」

 

「そうなのよ。繁殖ウマ娘ちゃんたちの間でも噂になっているみたいで、結構ひどいことを陰で言われているようなのよね。本当、心配だわ」

 

「ふむ……流言飛語に惑わされるなど愚かなこと。彼女はそこまで弱くはないと信じたいが、繁殖不能という現実がどれほどの重圧になるのか……なかなか察することはできないな」

 

「そうよね……なにか力になってあげられればよいのだけど……あら?」

 

 マルゼンスキーは窓の外を見て疑問の声を上げる。

 それにシンボリルドルフはどうしたと小さく呟いて、隣の彼女が見ている方向へと目を向けた。

 

「ねえルドルフ。こんな時間にトラックの全体の照明が点いているわ。消し忘れかしら?」

 

「いや、基本夜間は利用不可のコースだ。あれだけ照らしているということは誰かが走っているということではないか? すまんが……君」

 

 シンボリルドルフは車のドライバーへと練習用のトラックへ向かうように指示を出す。

 ドライバーは速やかにトラック脇の駐車スペースに車を寄せ、彼女達はそこから小高くなっている観覧用アリーナ席を上っていく。

 そしてコース全体を一望できるその階段状のアリーナへと踏み出して二人は驚いた。

 そこから見下ろした先……

 グリーンのターフの端の方に、3つの人影が。

 そのうちの一つは明らかに男性で、黒い上下の服のまま、その場の他の二人を見下ろすように立っていた。

 そして、そこにいるのこりの二人。

 そのうちの一人は練習着に見を包んだスペシャルウィークで間違いはなかった。

 残り一人……この場にいるはずのないそのウマ娘の姿を認めて息を飲んだのだ。

 

「ねえ、あれ、スズカじゃない?」

 

「ああ、間違いない。あそこにいるのはサイレンススズカだ」

 

 マルゼンスキーとシンボリルドルフの二人は、レース衣装に身を包んで、コース前方を向いて集中力を高めるサイレンススズカがなみなみならぬ緊張感を高めていることを察した。

 それから、これがどんな状況なのかを確認しようとしていたのだが、そこに声がかけられた。

 

「よおお前たち。来ていたのか」

 

「あなたは……スピカのトレーナー」

 

 それにその男性は小さく頷く。そしてコース上の人物たちへと視線を戻してから、つぶやくように言った。

 

「これからスズカとスペの一度限りの大勝負が始まるんだ。よかったら、見届けてやってくれ」

 

 ガリッと、加えていたキャンディーを噛み砕き、両手を組んで皮膚の色が白くなるほどに強く握り込むその姿に、何も言えないまま二人は頷くしかなかった。

 ただならぬ雰囲気の中、僅かなギャラリーを迎え、コース上の二人は位置につく。

 そして、黒い服の男の手が振り下ろされたと同時に、二色の閃光が躍り出る。

 疾風が……

 緑のターフを引き裂いた。

 

 

(※1)『不思議なめぐり合わせの縁。人と人とが互いに気心が合うかどうかは、みな因縁という不思議な力によるものであるということ。人と人の結びつきについていうが、特に男女の間柄についていう』

(※2)『あることに非常に専念すること。 衣服を着替えることもせず、不眠不休で仕事に熱中すること』

(※3)『外見が立派で頭脳も優秀である。容貌がよくて頭がよい』



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第十七話 サイレンス

たくさんのご評価ありがとうございます。とても励みになります。最終話まで頑張って書ききりますね。

さて、今日はなんだか、結構真面目にウマ娘を書いてしまった気がしています。スぺちゃんもっこりブルマーなんですけどねw


 お医者様の手が振り下ろされた瞬間、風が鳴った。

 

 なっ!?

 

 同時に蹴りだしたはずだった。

 でも、彼女の姿はすでに前方に飛び出していた。

 この走り方はまさしく彼女の本気のスタイル。

 大逃げを予感させる、彼女渾身のスタートダッシュそのもの。

 そう出てくる予感は確かにあった。

 張り詰めた雰囲気であったし、本気の瞳をしていたから。

 こうすることが一番サイレンススズカらしいと言えるのだから。

 でも、指定された距離は3200mもある。

 全てのスタミナを使い切るようなこんな走り方で、ゴールまでたどり着くことが非常に困難であるということを、他の誰でもない、常に共に鍛え続けてきたこの私が一番良く理解していた。

 彼女の最大の武器は瞬発力と、加速力。

 身体の内の全てのエネルギーを一気に燃やして、普通のウマ娘では辿り着くことの出来ない次元の加速を実現させてしまう。

 強靭な足腰と、全身の柔軟さは、彼女を一本の矢へと変貌させ、空間を突き抜けるように切り裂くのだから。

 けれど……

 それは永遠に続けられる走り方ではない。

 

 スタミナの殆どを一時に消耗させるようなこの走り方の練習に、私は何度もつきあった。

 でも、ある一定の距離をまたぐと、彼女は失速する。

 全身をバネとして駆け抜けていくうちに蓄積した乳酸によって、彼女の筋肉は硬直し、酷い時には痙攣しつつ呼吸困難に陥ることもあった。

 それを、繰り返し体感することで、トップスピードの持続時間を多少伸ばすことには成功したけれど、それも中距離までの話。

 今回のような長距離で、このスピードは間違いなく……

 

 もたない。

 

 スズカさん……

 

 息を大きく吸う。

 そして、吐く。

 それから、もう一度ゆっくりと吸い込みながら……

 

 全力で足を踏み込んだ。

 

 そしてそのまま加速させる。

 

 私だって瞬発力には自信がある。

 この1年間、ずっとスズカさんと駆け抜けてきたんだから。

 

 少し前方だったスズカさんの姿はみるみる大きくなった。

 そして私は彼女の真後ろに付いて、追走態勢に入った。

 

 スリップストリーム。

 

 空間を引き裂くスズカさんの全速力に対して、距離を離されることの危うさは十分私も身に染みている。

 たとえ後半に失速すると分かっていても、離された距離を詰めることが出来るかどうか、それこそただの博打。

 だったら、例えなんと言われようとも彼女に食いついていくしかない。

 それをするために、私も限界を超えた今のような走り方を強いられるとしても、スズカさんを確実に抜き去るためならば、やるしかない。

 両足の筋肉が悲鳴を上げている。

 たとえ空気抵抗の少ないこの位置にいるとしても、彼女の駆け抜けるトップスピードに喰らいつくのは至難の業。

 私は神経をひたすら研ぎ澄ませた。

 そのうえで、見た。

 彼女の背中を。

 

 行く。このまま。絶対に。

 私だってスタミナだけならスズカさんに負けていない。

 食らいついて、そして……

 

 必ず、勝つ!

 

 身体の限界を超えた速度の中で、ただひたすらに彼女の事だけを思った。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

「凄いわスペシャルウィーク。スズカの全速に追いついてる」

 

「あの速度はなんだ? スプリントレースでも始めたのか?」

 

 アリーナ席で目を見開いたシンボリルドルフたちがそう漏らすと、彼女たちの前方の客席に前傾姿勢で腰をかけた男性が苦しそうに声を出していた。

 

「馬鹿野郎スズカ、焦り過ぎだ。まだ先は3000mもあるんだぞ」

 

「え?」

 

「トレーナーさん、今なんて?」

 

 二人のウマ娘にそう聞かれ、視線も動かさないままに彼は言った。

 

「言ったとおりだ。このレースは3200m。春の天皇賞と同じ距離だ。くそっ!」

 

 そう歯ぎしりする彼に、シンボリルドルフが続けた。

 

「スズカが3200m? それは無茶苦茶です。彼女のあの足の伸びが最大限に生かせるのは短距離から中距離まで。その距離ならば、今の彼女は間違いなく最強のウマ娘だ。そうだというのに、そんな長距離でしかもスタートダッシュをなぜする必要が?」

 

 そう問うシンボリルドルフに、トレーナーの男は静かに答えた。

 

「あいつはスぺに特別に入れ込んじまってる。そのせいで多分冷静な判断が出来ないでいるんだろう。くそっ! このままじゃスズカまで……ぶっこわれちまう」

 

「え? それはどういう……」

 

 シンボリルドルフがそう再び問いかけようとした時、隣で遠方を見ていたマルゼンスキーが叫んだ。

 

「見て! スズカが加速したわ」

 

「なにっ!?」

 

「なんだとっ!!」

 

 目を細めるルドルフと、双眼鏡を当てて眺め見るトレーナー。

 彼らの視線の先で、サイレンススズカは恐るべき速度でスペシャルウィークを引き離しにかかっていた。

 その差はすでに5馬身に迫ろうとしている。

 

「あいつ……、一度目の下り坂を利用して加速をつけやがった。本当に死ぬ気か」

 

 そのトレーナーの言葉に、二人のウマ娘は凍り付く。

 限界を超えてしまった肉体がどうなってしまうのか、身に染みて良く分かっていたのだから。

 

 彼らの目の前で、無音の疾風が瞬いていた。



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第十八話 ガチンコ

繰り返しになりますが、スペちゃんはもっこりブルマーです。


 長い下りの右回り。

 私はインコースギリギリに身体を傾けつつ、大股に足を伸ばしながら地を蹴って、身体を前へ前へと押し出した。

 ここまで出してきた私の限界の速度。

 それをはるかに超える速度を無理矢理に引き出して、私は今駆け抜けている。

 腰からつま先まで、筋肉と腱とが伸縮を繰り返すたびに、痛みにも似た痺れが全身に走り、その感覚が常に私へと警告を発し続けていた。

 

 そうしながら思い出されるのは、『あの日』の恐怖。

 軽やかに感じた身体のバネの命じるままに走ったあの日、私の左足は……

 

 壊れた。

 

 何の前触れもなく、何の違和感もなく、ただ、壊れた。

 身体の限界を迎えたということだったのかもしれないけど、何一つの原因になりそうな予兆もないままにそうなったことが本当に恐ろしく、そしてもう走れないという現実が私を絶望の淵へと叩き落とした。

 生きた心地はしなかった。

 もう死んだと同じだった。

 走ることしか出来ない私が、走ることで漸く夢を抱くことができそうだったあの時、その全てを失ってしまったのだから。

 

 でも……

 

『いいえ、走れます! 絶対レースに出られます!』

 

 そう言ってくれたのはスぺちゃんだった。

 最悪の惨事から私を救い、過酷なトレーニングを手助けしてくれて、くじけそうになる私の心を守ってくれた。

 今の私があるのは全てスぺちゃんのおかげ。

 それなのに……

 

 全てを失った彼女がただ立ち去るしかなかったあの時、私は涙する彼女をただ見送ることしか出来なかった。 

 

 どれだけ辛かったろう。

 どれだけ苦しかったろう。

 

 胸がつぶれるほどに苦しかった私のその何倍も彼女は辛かったはず。

 

 だから……

 

 私はもう逃げない。

 絶対に迷わない。

 

 今こうして、スぺちゃんと戦う事からだって。

 彼女を守りたい、助けたい、救いたい……

 恩返しとか、借りを返したいからとかそんなことじゃない。

 今は、ただ彼女に勝たなければならないのだから。

 絶対に。

 それが唯一の『答え』なのだから。

 

 スぺちゃん……

 

 スぺちゃんは強くなった。

 初めて出会った頃の何倍も。

 彼女の素質は私を大きく上回っていた。

 ただ速くはしるだけではない、彼女の勝負勘や爆発力は決して努力で手に入れられるレベルのものではない天性のもの。

 そんなスぺちゃんと競い合って、鍛え合って、私の今はある。

 彼女に憧れて貰えるだけの私でいたい。

 いつだってそう思い続けてきた。

 だからこそ、私は自分の限界を何度も超えて来られたのだから。

 

 本気をだす。

 

 ううん、本気以上、限界以上。

 そうしなければ、私は彼女に勝つことなんてとても出来ない。

 

 そして何が何でも勝つ。

 たとえ私の苦手な長距離であったとしても。

 

 私がこの勝負でスぺちゃんに勝つことの出来る唯一の方法。

 

 それは、先行逃げ切り、これしかない。

 

 それも、ただの逃げではだめ。

 彼女がどんなに足を残していようとも逆転出来ない程の大逃げをする必要がある。

 大きく差を開けるには、前半で足の全てを使いきらなくては、それも効率よく。

 この勝負に必ず勝つために。

 そのためならば、この足。

 もう一度壊れてしまったって構わない。

 心の内でそう覚悟する。

 過去の恐怖も、迷いも、甘えも、その全てを掻き消して、私はこのレースへと没入する。

 

 聞こえるのは空気を切り裂く風の音だけ。

 自分の足音も心音も、スぺちゃんの気配すら何も感じない。

 

 足を……

 

 踏み出すの……

 

 何度でも!

 

 持てる全ての力を振り絞って、私は下りの先の長い直線を一気に駆け抜けた。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「くっ!」

 

 スズカさんの背中が突然小さくなった。

 その途端に、強烈な風圧が私の事を蹂躙した。

 なんとか持ち直して追従しようとするも、一度崩れた態勢からの復活は厳しかった。

 あっという間に置き去りにされ、追いつこうとするもこの状態の彼女の加速に追いすがることは困難を極めた。

 下りを利用しての急加速。

 まさか、ここでこんなスプリントをしかけてくるなんて……

 もはや張り裂けていてもおかしくない程に、全身の筋肉を酷使している。

 ここまで彼女の背後で温存していた自分ですらこうなのだ。

 絶え間ない風圧に晒されている今のスズカさんの身体にはどんな影響が出ているというのか。

 

 私の脳裏にあの日の故障したスズカさんの姿が霞める。

 それに恐怖しつつ、まったく減速の気配すらない彼女の走りに戦慄を覚えていた。

 

 スズカさん……

 いったいどうしてそこまで……

 

 彼女が何もなしに、こんなことをするわけないことは知っていた。

 ここまで真剣に、本気で……

 つまり、彼女は私が売り飛ばされるという約束などどうでも良いようなものの為に走っているということに他ならない。

 そのことに当に気が付いていても、それでも私は彼女に本気で勝たなくては。

  

 なぜか?

 

 それがスズカさんへのお礼だから。

 

 今の私があるのは、いつも本気で私と向き合ってくれたスズカさんのおかげ。

 彼女がいなければ、私はこんなに本気で勝つために走ることはできなかったから。

 スズカさん私を導いてくれた。

 スズカさんが私を鍛えてくれたから私は、こんなにも走ることを好きになれたんだ。

 大好きだから……

 絶対手は抜けない。

 

 どんな理由があるのかは本当に分からない。

 でも、手を抜いて手に入れられるものに価値なんてあるわけない。

 彼女の本気に、私も本気で返す。

 ただそれだけ。

 

 遥か先を行くスズカさんをしっかり見据えて、私は自分の心に鞭を入れた。

 気持ちでだけは絶対負けたらだめだから。

 私の本領はここから。

 どんなに泥くさくても、どんなに見てくれが悪くても、気合と根性で絶対になんとかしてみせる。

 

「ふぅぅぅ……」

 

 息を吐いて、乱れたペースを整えつつ、二週目の直線に入るタイミングを計る。

 スズカさんの大逃げの限界は迫っている。

 どんなに彼女の足が優秀でも、散々蓄積された疲労物質によって彼女の身体は自由を失ってきているはず。その機を狙って、一気に彼女を抜き去る。

 もうそれしかなかった。

 いよいよその直線に差し掛かった時、前方を走るスズカさんの肩が左右に大きく揺れ動いた。



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第十九話 ヲワリ

「い、今、一瞬、スズカのフォームが崩れなかったか?」

 

「え? そうだったかしら? 私にはわからなかったわ」

 

「そうか……、いや、私の気の所為かもしれないが……」

 

 アリーナ席で見下ろす、シンボリルドルフとマルゼンスキーの二人は、自分たちの目の前を高速で駆け抜け、すでに二度目の登坂に突入しているサイレンススズカを畏怖を持って見つめ続けていた。

 サイレンススズカは普通ではない速度を保ったままで、すでにこのコースを一周回ってきてしまっている。

 距離にすればすでに2400mを軽く越えてしまっている。

 これはまさしく驚異の出来事だった。

 サイレンススズカの最も得意とする距離は1800mから2000mであることは万人が知るところであり、何度となく競い合ったこの二人もまた、その尺でのサイレンススズカの強さは身に染みていた。

 余人を許さぬ加速力こそがサイレンススズカ最大の武器。

 その武器を如何なく発揮する彼女の戦法こそが、先頭抜け出しによる大逃げである。

 他のウマ娘との駆け引きもなしに、飛び出す勢いのままに後続をぐんぐん引き離すこのスタイルは、サイレンススズカをおいて誰にも出来ない芸当だった。

 だがしかし……

 

 ある距離を境に、彼女は糸の切れた凧のように失速してしまう。

 今までの苛烈な勢いがまるで嘘のように消え失せ、そのまま追走のウマ娘たちの中に消えてしまうのだ。

 

 それが、2000m付近なのである。

 

 確かにそうであった。

 今まではそうであったのだ。

 

 しかし……

 

「落ちない……」

 

「ええ……」

 

 彼女たちの目の前でサイレンススズカは未知の走りを見せつけていた。

 すでに彼女は、限界を超えた距離を走っている。

 そのはずなのに、彼女の勢いは落ちてはいなかった。

 ここまでと同様に身体を躍動させ、大地を蹴って前へ前へとその身を躍らせ続ける。

 ほぼトップスピードと言っても差し支えない速度のままこの距離を走る困難さを、彼女たちは良く理解していた。

 

「信じられない。スズカはどうしてあんな芸当が出来る? これでは勝負にもならない」

 

「まさか……3200mの逃げ切り……」

 

 そう呟きつつ、彼女たちは背筋にひやりと汗が流れるのを感じていた。

 あまりに非常識。

 あまりに異常。

 そのことに困惑を覚えつつも、少し下に座る男の言葉に追い打ちを掛けられた。

 

「それだけじゃない。このコースは京都を模して造られていて、今走っている内容は春の天皇賞そのものだ。このままゴールすれば……間違いなく……。見ろ、これが2400のタイムだ」

 

「なっ!?」

 

「え? 本当に!?」

 

 ストップウォッチを見せられたその数字に二人は絶句する。

 そのあまりに規格外のタイムに、度肝を抜かれつつ、視界の遠くを駆け抜けるサイレンススズカを凝視し続けた。

 まさかと思いつつも、そんなことはありえないと思いつつも、ひょっとしたらこのまま行ってしまうのではないか……

 異次元のタイムを出してしまうのではないか。

 その予感に彼女たちの肌は粟だっていた。

 しかし……

 ストップウォッチを手にした男だけは、目を細めた。

 そして祈るようにつぶやいた。

 

「スズカ……、頼む、もう…………」

 

 彼らが見守る中、サイレンススズカは再び下りの最終コーナーへと差し掛かる。

 今度は先ほどのような加速はない。

 ただ、それまでと変わらぬフォームで走り抜けていた。

 そんな中、彼女の背後に突然その『影』が現れた。

 

   ×   ×   ×

 

「うわあああああああああああああああああああっ!」

 

 全速で坂を登り切った私は、叫びながら腕を振って地を蹴った。

 目の前には先ほどと変わらない様子のままに坂を駆け降りるスズカさんの姿。

 やっと……

 やっと捉えた!

 鋭い矢じりの様に先を行くスズカさんを見据えたまま、私は全身の持てる力の全てを爆発させて加速させる。

 スズカさんが、ここまで失速しないなんて信じられなかった。普通じゃなかったから。

 でも……負けたくない一念で私は必死に追いすがった。

 前半にスズカさんの直背で温存を計れたことも大きかったけど、二度目の登坂の際のスズカさんのフォームにも助けられた。

 彼女は確かに速かった。

 でも、それは登坂で私を置き去りにするあの凄みのある走りとは違うものだった。

 彼女は平地の速度のまま駆け上っていたけれど、そこから更なる加速をおこなっていない。

 やはり彼女は疲労している。

 そう直観した私は勝負に出た。

 登坂に全力を傾けて、一気に彼女との差を詰めた。

 そして、下りに入ると同時に、先ほどスズカさんがしたように、私もスパートした。

 まだ、差はかなり離れている。

 でも、疲労している彼女はここから更なるダッシュには移れないはず。

 ここで……

 必ず差す!

 

「でやああああああああああああああああああああっ!」

 

 気合で吠えた。

 大地を削る様に蹴り続けた。

 胸を振るい、腕を振るい、全身で前方の空気を掻き分けた。

 少しづつ……

 先を行くスズカさんの背が近づいて来る。

 全身の血液が逆流してでもいるかのように身体全体が熱くなってくる。 

 そして……

 私はあらん限りの全力を振り絞った。

 ミチミチと身体が軋んでいた。

 足を上げ、腕を振り、ただそれだけを繰り返した。

 目の前に……

 スズカさんがいた!

 も、もう……少し……で……

 ゴールポストが見る間に近づいて来る。

 それを見ながら、最後の力を振り絞った。

 

「うわああああああっ!!」

 

 刹那っ!

 私はスズカさんの前に出た。

 ほんの一歩、ほんの半身。

 

 その瞬間に、ゴールを切った。

 

 勝った!

 

 私が勝った!

 

 勝ちましたよ、スズカさ……

 

 え?

 

 私の横を緑の風が吹き抜ける。

 呆気にとられた私の脇を、スズカさんが減速もせずに通過していった。

 

「スズカさんっ!!」



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第二十話 サイレンススズカの願い

アニメのスペちゃんの、『はいっ!』って返事が本当に良いのです!



「スズカさんっ!!」

 

 減速もせずに走り続けるスズカさん。

 まさか、ゴールの位置が分からないとか?

 それとも、レースに集中しすぎてとか?

 一体どうしてなのか、分からなかったけど、彼女の後姿に不吉なものを感じて、私は気が付くと全力で彼女のことを追いかけていた。

 速い……!

 とても3000m以上走って来たとは思えない速度。

 私ももう限界をとうに超えていて、あまりの疲労に意識が朦朧となっているというのに、いったいどうしてあんなに速く走ることが出来るのか……

 必死に追いかけるなか、このコース唯一の客席から男性が飛び降りてこちらに走ってくるのが見えた。

 

 あれは……トレーナーさん?

 

 彼は大声を張り上げていた。

 

「スぺっ!! スズカを転倒させるなっ!!」

 

「!?」

 

 背筋に怖気が走る。

 彼女に何かが間違いなく起きている。

 そう確信して、私は彼女に向かって全力で迫った。

 コーナーを超えて、尚も直線へと向かおうとしているスズカさん。

 私はそんな彼女になんとか追いついて、そのままその腰を抱きしめた。

 その瞬間感じたのは、信じられないくらいの冷たさ。

 彼女は尚も走り続けようとしていて、止まるそぶりを見せなかった。

 

「スズカさんっ!!」

 

 名前を呼んだ。

 でも、返事はおろか、何一つの小さな反応すら返してくれなかった。

 

「スズカさんっ!!」

 

 もう一度呼ぶ。

 すると、ほんの少しだけ足が遅れた。

 それを見止めて、私は彼女の上半身に抱き着いた。

 振りほどこうとするそぶりはない。

 でも、身体は異常なほどに冷たく、ただ腕や足を動かすことだけは止めようとしなかった。

 私は、そんな彼女に抱き着いたままブレーキをかける。

 彼女の手足は次第とその勢いを失って、最後は私に寄り掛かる様に倒れてきた。

 

「きゃ」

 

 だらんと身体を弛緩させて私へ向かって倒れ込むスズカさん。

 私は、すぐに彼女を仰向けにして名前を呼びかけ続けた。

 でも返事はない。

 手足は小刻みに震えていて、顔はすでに真っ青だった。

 その時気が付いた。

 彼女が呼吸をしていないことに。

 

「スズカさんっ!!」

 

「どけっ」

 

 急に頭上から声を掛けられて、襟首をつかまれた私はスズカさんの脇に尻餅をついた。

 何が起きたのか分からないままに、スズカさんを捜して視線を向けてみれば、そこにはあの黒い服のお医者様が。

 彼はスズカさんの衣装の胸の辺りを掴むと、そのまま一気に服を引き裂いた。

 びりびりに敗れた服の合間から、彼女の綺麗なお椀型の胸があらわになる。

 

「な、何をしているんですかっ!?」

 

 そう叫んだ私に、そのお医者様が睨んできた。

 

「手持ち無沙汰なら、こいつの気道を確保して呼びかけ続けろ」

 

「え? は、はい」

 

 彼は地面に置いた鞄を開くと、そこからコードの伸びたパッドのような物を二つ取り出して、スズカさんのお腹と肩にそれぞれ貼る。その間、私は彼女の顎を持ち上げつつ、何度も彼女の名前を呼んだ。

 

「電気ショックを使う。離れろ」

 

「はい」

 

 答えて離れた瞬間、スズカさんの身体が大きく跳ねた。

 そしてお医者様は、すぐにスズカさんの胸の間に手の平を当てて真下に向かって繰り返し押し始めた。

 

「気道は確保しているな? なら、俺の合図で彼女の鼻を摘まんで、その口に直接、大きく息を二回吹きこめ」

 

「え? スズカさんの口にですか? ちょ、直接?」

 

「ええいうるさい。さっさとやらなければ、こいつは本当に死ぬぞ」

 

「は、はいっ」

 

「よし……いまだ!!」

 

 私は急いで彼女の口に口を当てて、鼻を摘まみながら息を流し込んだ。

 スズカさんの胸が大きく膨らむ。

 

「いいぞ、その調子だ」

 

 彼はすぐ様マッサージに移り、そしてまた息を入れるように指示を出した。

 それに従って人工呼吸を行う私。

 そんなことをしばらく繰り返した後のことだった。

 

「カッ……カハッ!! カハッ、ケホッケホケホ……」

 

 丁度私が息を吹き込もうとしたその時、彼女は私の口に向けて逆に息を吹き出した。

 そして、そのままぜえぜえと掠れたような息を吐きながら咳を繰り返した。

 

「スズカさんっ!!」

 

「よし、自発呼吸再開。心臓の動きも……問題なさそうだな」

 

 彼はそう言いながら、スズカさんに酸素マスクを被せ、首に手を当ててその様子を見ていた。

 私は一気に全身の力が抜けて腰が抜けて座り込んでしまった。

 そのあと急に涙が溢れてきた。

 死んでしまうかと思った。

 もうだめかと思った。

 スズカさんが事故にあったあの日以上の恐怖に、今の今まで確かに襲われていたのだから。

 お医者様はスズカさんの手足の様子も確認しながら言った。

 

「意識のないまま走り続けていたようだな。よくも転倒しなかったものだ」

 

「え?」

 

 意識のないまま走り続けていた? 

 その言葉に私は先ほどの走りを思い返していた。

 確かにスズカさんは少しおかしかった。

 フォームは綺麗で速かったけど、いつも感じるような気迫のようなものはまるでなく、ゴール手前での駆け引きの一つすらなかったから。

 なら、本当に気を失ったまま走っていたの? 

 どこから?

 まさか、二度目の登坂の手前から……

 あの時、確かにスズカさんは一度体勢を崩しかけていた。

 そして、そこからプレッシャーのようなものを感じることはなくなった。

 まさか、本当にあそこから、あんな距離を走り切って……

 そのことを思い私は戦慄した。

 この人は……

 本当に走ることが全てなんだ……

 スズカさん……

 

「う……うう……」

 

「す、スズカさんっ!!」

 

 呻きつつ瞳を開こうとするスズカさん。

 彼女は荒く息を吐きながら、掠れる声を出した。

 

「れ……レース……は……。わ、私は……」

 

「スズカさん……それは……」

 

 彼女は必死にレースの結果を知ろうとしている。

 そのことが分かったけど、私は自分が勝ったということを告げることが出来なかった。

 すると……

 

「レースはスペシャルウィーク号の勝ちだ。君は負けた」

 

「な!? な、なんで今そんなことを言うんですか」

 

「今も後もない。事実は事実だ。君は勝った」

 

 冷たい視線で私を見据えるお医者様。

 それに何も言い返せないでいた私の目の前で、横になったスズカさんの閉じられた瞳から涙が溢れた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさいスぺちゃん。ごめんなさい……」

 

「え」

 

 急に謝りだしてしまったスズカさんに私はただ困惑した。

 彼女が私にとって理不尽と思える条件でこの勝負を始めたことの背後には、何か別の要因があることは理解していた。

 でも、それでどうして彼女が謝るのか。

 私が勝つことで彼女が何かを失うものと思っていた。

 でも、その失うものとは、ひょっとしたら私に関係のあるものだった?

 困惑して動けなくなっていた私に、お医者様の言葉が聞こえてきた。

 

「勝負はこれで決した。サイレンススズカ号……お前の『願い』を聞いてやる条件は消滅した。だが、お前のことは病院に連れて行ってやる。大丈夫だろうが脳に後遺症が残る可能性はある。精密検査も必要だからな」

 

 そう言って、黒服のお医者様はスズカさんのはだけた胸にマントを掛けてから、軽々と抱き上げた。

 そこへ……

 

「待ってくれ! 頼む。もう少しだけ待ってくれ」

 

 そう息を切らせて駆け寄って着たのはトレーナーさん。

 

「先生頼む。スズカの願いを聞き届けてやってくれ。この通りだ。こいつはこんなに頑張ったじゃないか。これに免じてどうか願いをかなえてやってくれ」

 

 手を合わせて頭を下げるトレーナーさん。

 黒いお医者様はそれを見つつ言った。

 

「そんなお涙頂戴な話しに興味はないんですがね。浪花節じゃあ腹は膨れませんぜ、だんな」

 

「く……」

 

 ぐったりとしたスズカさんを抱えたまま可笑しそうに笑うお医者様。

 逆に顔をくちゃくちゃにして苦しそうにしているトレーナーさん。

 私は、本当にこの状況がまったく飲み込めなかった。

 

「あの……と、トレーナーさん? いったいどういうことなんですか? 何の話をしているんですか?」

 

 そう問いかけた私に、トレーナーさんは苦し気に私を見た。

 そして何かを言おうとしつつ、その唇を引結んでしまった。

 何を言おうとしたの? 何を隠しているの? 

 得体のしれない不安が私の内から湧き上がってきて、困惑しきりになったところで、またお医者様が笑った。

 

「もう正直に教えてあげればいいじゃないですか。この娘は当事者なんだから」

 

「ど、どういうことですか?」

 

 お医者様は私を見つめた。

 それから視線をトレーナーさんへと戻して、言った。

 

「スペシャルウィーク号は間もなく『死ぬ』と。その治療を私がする条件としてこの勝負にサイレンススズカ号は勝つ必要があったのだと。事情説明もさせてもらえないまま、自分の苦手とするこんな長距離での勝負をせざるを得なかったのだとね」

 

「そ、そんな……」

 

 私が……死ぬ?

 私を治すためにスズカさんが勝負することになった?

 そのせいでスズカさんまで死にそうに……

 そんな……

 

 様々な恐怖が全身を駆け巡る。

 そのせいで思考がどんどん最悪のイメージを導きだし続け、私の胸は締め付けられ続けた。

 身を捩って震えることしかできないでいた私。

 そんな私を見下ろしながら、お医者様が言い放った。

 

「スペシャルウィーク号。君は『ミクロフィラリア由来による中枢神経異常』をきたしている。そのせいで性転換も早まり、性的活動能力の減衰も生じてしまっていると推測される。私の見立てでは間もなく『腰麻痺(ようまひ)』を発症し機能不全となり、全身の生命活動が停止するだろう。だから、このレースが君の最後のレース。良かったではないか、人生……いや、ウマ娘生の最後に愛しの相手と本気のレースをしてこのような思い出を作れたのだから。これでもう思い残すこともあるまい。ふふ」

 

 お医者様はそう笑い、スズカさんを連れて歩み去ろうとする。

 

 待って……

 待ってください……

 

 そう叫んで呼び止めようとしたかったけど、口がうまく動かなかった。

 全てのことが理解できなかった。 

 私が死ぬということも、これが最後だということも。

 すべてが分からなくて、考えがまとまらなくて、なんと声を出して良いのか分からなかったから。

 そうして座り込んでいた私の目の前で、お医者様が立ち止まった。

 

 それから私を覗き見るようにして一言。

 

「10億9262万円だ。私の治療を受けたければ耳を揃えてすぐに用意するのだな」



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第二十一話 お見舞い

【シャケトラよ、安らかに】

去る4月17日、天皇賞(春)でG1初制覇を目指していたマンハッタンカフェの子、シャケトラ号が、調教中の左前脚骨折のため安楽死処分となりました。
G2などで好成績を残しながらも、故障などもあってG1で結果を残すことが出来ていなかったシャケトラ号。
今回の天皇賞で歴史に名を刻んでくれると、多くのファンは願っていました。
でも、願い叶わず、祈り届かず、このような最期になってしまったことが非常に残念でなりません。
たらればになりますが、父マンハッタンカフェに並ぶとも劣らない名馬であったと、故障などがなければG1でも好成績を残せていたと、そう信じさせてくれる競走馬でした。
心から謹んでお悔やみを申し上げます。
シャケトラありがとう。永久に安らかに。


「スズカの様子はどうだ?」

 

「はい、今は眠っています。もう手足の震えも収まって、何も問題ないみたいですけど……」

 

「そうか……」

 

 トレーナーさんは廊下のソファーに座ったまま頭を抱えていた。

 その様子に私もただ立ち尽くすしかなかった。

 

 ここは、美浦繁殖センターの敷地内のウマ娘専用の病院。

 木造平屋の大きなロッジ風の建物で、病院と言うよりはお金持ちのお屋敷のようにも見える。

 でも、中は病院そのもので、見たことも無いたくさんの真新しい機械が、それぞれの診察室の中にいくつも置かれていた。

 あの黒い服のお医者様はスズカさんを抱えたままここへとつれてきて、私たちも慌てて後をついてきたのだけど、気が付いたら先生はもう居なくなっていた。

 それからあとは、私の担当でもある数河井先生がスズカさんを見てくれているのだけど、状況がまったく飲み込めていないようで、私と模擬レースをした下りを延々と説明することになり、結局後からやってきたルドルフ会長さんやマルゼンスキーさんがあのレースを見ていたということで、加えて説明してくれてなんとか私は解放された。

 でも、結局あの黒い服のお医者様のことは数河井先生も知らなくて、それと私の病気? のことも少し聞いてみたのだけど、あなたに異常はありませんと無碍に言われて終わりだった。

 

 数河井先生はスズカさんに特に問題はないとだけ言って去って行った。

 

 それにホッとした私はしばらくスズカさんに付き添い、それから今に至っている。

 

 ソファで大きなため息をついたトレーナーさん。

 私は思い切ってトレーナーさんに聞いてみた。

 

「あの……いったいどういうことですか? 私がその……し、死んじゃうとか、それ、ほ、本当なんですか?」

 

 そう言った私にトレーナーさんは一度顔を上げる。

 でも、難しそうに眉を寄せて首を振った。

 

「正直……俺にはわからん」

 

「わからんって!?」

 

 あんまりな答えに思わず大声を出してしまってから、ここが病院だということを思い出して自分の口を手で抑えた。

 それからもう一度トレーナーさんを見てみれば、再び大きなため息。

 そして口を開いた。

 

「分からないんだ。さっきお前の担当の先生もお前には問題はないと言っていただろう? それに、お前のここ最近までの健康診断の結果や過去の病歴も当たってみたんだ。でも、すぐ死につながるような原因らしきものは見つけられなかった」

 

 トレーナーさんはそう言いながら頭をポリポリ掻く。

 

「ま、強いて言えば、お前が子供のころにフィラリアにかかったという話くらいだが、それももう完治しているらしいしな」

 

 そう確かに一度そういう病気にかかったことがあったらしい。

 フィラリアとは寄生虫のことで、人やウマ娘、動物なんかの体内に寄生して悪さをする生物のこと。

 高熱が出たり、咳が止まらなくなったり、酷くすれば死んでしまうこともある病気。

 でも、薬もあるので治すことも出来るし、現に私は治ってからもう何年も経っている。

 別にここ最近発熱したり、咳の症状が出たりとか、そんなこともないし、今はもう大丈夫だと自分では思えるのだけど……

 そのことをトレーナーさんへと告げると、彼は頷いて返した。

 

「俺もそう判断しているんだ。でも、あの医者ははっきりと俺に言った。放っておいたらお前は死ぬってな」

 

「そんな」

 

 あのお医者様の鋭い瞳を思い出して背筋が冷えた。

 他の人に死ぬと言われることがこんなにも恐ろしいものだと初めて知った。

 身を捩って震えていると、トレーナーさん。

 

「そんなことあるわけない、そんなわけないと俺も思ってはいたんだが、一人だけ……スズカだけはそのことを信じた。信じてなんとかスぺを……お前を治して欲しいって、あの医者に頼んだんだ。そうしたら……」

 

 トレーナーさんはまた頭を掻きむしる。

 

「あの医者は、なら治療費は10億9262万円だとほざきやがった。それで、それは無理だと言ったら……」

 

「えっと……私とレースして勝てば治療費はただにする……とか?」

 

「そうだ。そう言われた。だからスズカは無茶をしてああやって走ったんだ」

 

「そんなことが……」

 

 スズカさんは確かに本気だった。本気で私に勝とうとしていた。

 それもこれも全部私のためだったなんて……

 

「それなのに私が勝ってしまって……。うう……」

 

 言いようのない後悔に包まれた。

 私はスズカさんの想いを踏みにじってしまった。

 いったいどうやって報いたらいいのか……

 そんなことを考えて頭を抱えていたところでガラガラっと戸が開く音が聞こえてきた。

 驚いて顔を上げてみれば、そこには病院着姿のスズカさんの姿が。

 戸に寄りかかるようにして立ってこちらを見ていた。

 

「スズカさんっ!?」

 

「おいおいおい、無茶すんな」

 

 駆け寄って彼女を抱きかかえる。

 すると、スズカさんはにこりと微笑んでくれた。

 

「ごめんねスぺちゃん。私、うまくやれなくて……でも大丈夫。スぺちゃんは絶対私が助けるから……」

 

 ぜえぜえと息をしながらそう言ってくれるスズカさん。

 トレーナーさんはそんなスズカさんに言った。

 

「いくら後遺症の心配はなくても、まだお前は回復してないんだ。もう少し寝てろよ」

 

「そうは……いきません。早くしないとスぺちゃんが間に合わないかもしれません。なんとかお金を作らないと……」

 

 スズカさん……

 

「だから、そもそもあの医者が嘘をついているだけかもしれないだろ? お前が騙されているんだよ、きっと。スぺはなんともないんだ。その証拠に、ここの先生はスぺは大丈夫だってお墨付きをだしたんだから」

 

「でも……ダメです。私は……私だけはこのことを無視しません。たとえ私が騙されていたとしても、スぺちゃんだけは守りたいですから」

 

 スズカさん……

 そこまで私のことを……

 涙が出た。

 こうまで言われて、私に微笑みかけてくれるスズカさんに、私の心は張り裂けそうだった。

 ぎゅうっと、力をこめて彼女を抱きしめる。

 すると、ぽんぽんと彼女は私の頭を撫でてくれた。

 

 その時だった。

 

「あ、スズカァ! 大丈夫だった? また無茶したんだって? 駄目だよそんなことばっかり」

 

「聞いたぜスズカ、スぺに負けたんだって?」

 

「スズカ先輩、スぺ先輩と3200mで勝負したって本当ですか? で、すごいタイム出しちゃったってほんとですか?」

 

「くっそー俺も見たかったぜ。先輩たちの走り」

 

「ほんっといつも心配ばっかりかけさせられますわね」

 

 廊下の向こうからぞろぞろとトレセン学園の制服姿のスピカのみんなの姿。

 皆はぱたぱたと私たちの周りに集まってきて取り囲むと、そんなふうにあれやこれや話しかけてきた。

 

「みんな……なんで?」

 

 ここにいるの?

 そう言おうとすると、それを制するようにゴールドシップさんが口を開いた。

 

「スぺが大変で、お金がすごくいるってスズカから聞いてさ、だから私たちお金持ってきたんだよ。はい」

 

 と、そう言ってみんなが茶色い封筒を差し出してきた。

 

「こ、これは……?」

 

 そう言いつつ見回していると、コホンと咳ばらいをしたメジロマックィーンさんが頬を赤らめながら。

 

「お金に困っているというのなら、少しは援助して差し上げなくてはメジロ家の名折れですわ。とりあえずですけれど、ワタクシからはじゅう……」

 

「あ、アタシ50万円持ってきました」

 

「俺も50万です」

 

「ボクも50万だよ、はい」

 

「少ないですが私も50万です」

 

「キタサンと同じだけでーす。50万円」

 

 と、キタサンちゃんやアーモンドちゃんまでも、それぞれ封筒を出す中、なぜかメジロマックィーンさんがプルプル震えながら周囲をきょときょと見回し始めた。

 そして、ゴールドシップさんの方を覗きみたところで、さっと封筒を胸に抱いた。

 その様子に不思議そうに首をかしげるゴールドシップさん。

 彼女はそのまま、手にしていたスポーツバッグを持ち上げて、そのチャックを開けた。

 

「私は一応3000万円な」

 

 ごろっとたくさんのお札の束がバッグの中で転がった。

 

「んなっ!? な、なんでそんな大金を……いったいどうやって手に入れましたの!?」

 

「FX」

 

 顔を真っ赤にしたマックィーンさんが、口をパクパクさせながら、自分の持ってきた封筒の中身をそのバッグの中にこっそり投げ込んでいた。



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第二十二話 ウマ娘たちの懐事情

「その話、私たちも一口のせさせてもらおう」

 

「ルドルフ会長さん、マルゼンスキー先輩」

 

 スピカのみんなの向こう側から声を掛けられて見てみれば、カジュアルなパンツルック姿のシンボリルドルフ会長さんと、フレアスカート姿のマルゼンスキー先輩の二人の姿。

 

「あ!! 会長!! 会長会長会長、かーいちょー!! 会いたかったー」

 

 そう言いつつ、ぴょんぴょん跳ねてルドルフ会長さんに抱き着いたのはテイオーさん。

 彼女は会長さんの胴に腕を回して胸に顔をうずめた。

 

「おい、テイオー。やめないかみっともない。それに私はもう会長ではないと言っただろう」

 

「うっ! 会長怒ったの? ボクは会長に会えた嬉しさを伝えたかっただけなのに」

 

「お、怒ってはいない。大丈夫だ。私だって嬉しいのだぞ」

 

「えへへ、やっぱり会長は優しい」

 

「うう……」

 

 少し困った感じの会長さん。なんだかこういう雰囲気は珍しいかも?

 

「こらこらテイオー。ルドルフが困ってるじゃない? 少しやめてあげてね」

 

「はーい。ボクね、ちゃんと待っててあげられるよ」

 

 マルゼンスキー先輩に言われて、ぴょんと離れたテイオーさんは、ルドルフ会長のすぐ後ろにニコニコしなが立つ。

 それを見た会長さんは、改めて私へと近づいてきた。

 

「話は全部理解したよ、スペシャルウィーク。我々もなるべく君の為に資金援助をしたいところだが、あいにくそれほど手持ちはないのだ」

 

「金額が途方もないことは分かっているのだけど、私たちもここでそんなにたくさんお給金をもらっているわけではないのよ。だから……これだけ」

 

 そう言って渡してくれたのは、1000万円分のお札の束。

 十分とんでもない金額な気がするのですけど。

 

「あの……本当にお気持ちは嬉しいのですけど、こんなにしてもらって私……どうしたらいいか。それに、さっきのトレーナーさんの話もそうなんですけど、私が本当に病気なのかどうかも本当に分からなくて……」

 

 そう言った私の肩にルドルフ会長さんがポンと手を置いた。

 

「ああ、その話は私も懐疑的にもなってはいる。なにしろ、つい今しがた、君とスズカはとんでもないレースを私たちに見せつけたのだからな。あんな走り、久々に胸がたぎったぞ」

 

「本当に凄かったわ、あなたたち。タイムだけ見たら、今年の天皇賞で新記録をだした、そこのキタサンブラック以上だったもの。二人ともね」

 

「「「「「そうだったんですか!?」」」」」

 

 その場の全員が目を見開いて私とスズカさんを見た。

 それに驚いて、スズカさんと目を見合わせた後で。

 

「ま、まあ。そう……みたい?」

 

「すっげー」

「やっぱり先輩たちは凄すぎます」

「ボクも一緒に走りたかった」

「私も春の天皇賞を取った身としてとても気になりますわ」

「お前の記録キタサンにとっくに抜かれてるからな、気にするな」

「キーーーーっ」

「今度は私と走ってくださいっ! スペシャルウィーク先輩っ!! サイレンススズカ先輩!! お願いしますっ!!」

「キタサン走るなら、私も―」

 

 みんなのやいのやいのが始まって、ここが病院であることを忘れそうになる。

 そうしたらトレーナーさんが声を出した。

 

「ったく……お前らはほんとうにいつでも同じだな。とりあえず俺もなんとか1000万は用意できた」

 

「おっ! トレーナーにしちゃあ太っ腹だなぁ。なにした? 銀行強盗? 空き巣? おれおれ詐欺?」

 

「んなことするわけねーだろ。その……あれだ。退職金前借してきただけだ」

 

 おおー! とまた歓声が上がる。みんな本当に凄い。でも、トレーナーさんは乾いた笑顔。

 

「ま、これくらいは可愛いお前らのためだ。どうってことねえよ」

 

「どうってことあるような表情してっけどな」

 

「ゴルシうるさいぞ。ま、それはいいんだよ、本当に。問題はあのとんでもない金額の方だ。お前らのおかげで今6260万円集まったわけだが……」

 

「んんっ!!」

 

 と、メジロマックィーンさんがちょこっとせき込む。

 それをチラ見したトレーナーさんも、コホンと咳ばらいをして続けた。

 

「あとは、スズカやオハナさん、それに学園で話を理解してくれた連中や、スぺのお母さんも動いて、いまのところ総額で2億円弱くらいは集まっているのだけど、それでもまだ8億円以上足りないんだ」

 

 2億円も……

 こんな私の為に?

 そう思うと胸が締め付けられるように痛くなった。

 本当か嘘かもまだわからないこの状況で、こんなにも多くの人が私の為に動いてくれているのかと思うと、それだけでもうしわけなくなってしまう。

 そんなことを思っていたら、スズカさんが私の頭を撫でてくれた。

 

「今は気にしないで、スぺちゃん。私もみんなも自分のしたいことをしているだけだから。だから今は本当に気にしないで、ね」

 

 そんなこと無理ですよ……

 申し訳ない想いが大きすぎて胸が張り裂けそうなんですもの。

 でも、みんなは本当に何も気にしていない様子で、会話を続けていた。

 

「あと8億円かー。ホントにすっごい金額だよね」

「サラリーマンの生涯年収って2億円くらいだっけ? じゃあトレーナーには無理すぎるな」

「さりげなく俺をディスってんじゃねえよ」

「じゃあどうやって集めればいいんだろ?」

「この施設こんなに豪華なんだもん、スぺ先輩の為に出してくれればいいのに」

「それは無理ですわ。ここのお医者様はスペシャルウィークは病気ではないと言っているのですもの。絶対だすわけがありませんわ」

「でも先輩って、記録とかいっぱい出しているじゃないすか。少しくらい出してくれたって」

「それはあれだ。お前らはまだ学生で記録だけは表彰されるけど賞金はもともとないからな。それと種ウマ娘になっても種付けをしない限りは給料もでないから」

「そっか、スぺ先輩まだ種付けしていなって言ってたっけ」

「種付けをしたとしてもそんなには貰えているわけではない。種付け料の大部分はセンターの取り分という話だし、我々は給料という形で振り込まれるだけだからな」

「それでも、一般の人と比べれば多いと思うのだけれどね。種付け件数次第ということね、ふふふ」

「へー」

 

 私とスズカさんそっちのけで盛り上がるみんな。

 それを見てあっけにとられていたら、スズカさんが言った。

 

「みんなスぺちゃんが大好きなのよ。だから本当に心配しないでね」

 

「でも……」

 

 不安はどんどん膨れ上がるばかり。

 本当にどうしたら良いのか……

 

「お嬢様」

 

「へ?」

 

 不意に背後で声がしてそっちを見たら、タキシード姿のじいやさんが立っていた。

 スズカさんと抱き合ったままだったけど、首をそっちへ回したら、じいやさんはにこりと微笑んだ。

 

「ほっほっほ。皆様お嬢様のご友人の方でいらっしゃいますね? 先ほどご友人の皆様がいらっしゃるというお話を小耳にはさみましたもので、本日はマイクロバスでお迎えにあがりました。ささ、もう遅うございます。どうぞ皆様もご一緒に、お嬢様のお屋敷にお連れさせて頂きますれば」

 

 私はもう一度スズカさんと顔を見合わせた。

 彼女の瞳がぱちくりと瞬いた。




次回はお風呂回です。


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第二十三話 お風呂で

書いてみて思い出したけど、そう言えばこれはそういうお話だった(笑)


「うわぁ。ここがスぺ先輩のおうちですかぁ」

 

「すっげー」

 

「ほえー」

 

「まあまあですわね」

 

 みんなが口々にそんなことを言いながらバスから降りてくる。

 全員が降りるのを待って、最後にスズカさんと二人で家の前に行くと、ドアマンの彼が丁寧に会釈して私たちを招き入れてくれた。

 他のみんなは恐縮至極って感じなんだけど、一番申し訳ない思いしているのは私なんだよ。なにもしていないのにこんなに傅かれちゃってて、うう。

 ここに来たのはスピカのみんなのみ。

 ルドルフ会長さんとマルゼンスキー先輩は自分の家へと帰られて、トレーナーさんは用があるからって自分の車でどこかへ行ってしまった。

 だからここに今いるのは……

 

 スズカさん。

 ゴールドシップさん。

 メジロマックィーンさん。

 ウォッカさん。

 ダイワスカーレットさん。

 トウカイテイオーさん。

 キタサンブラックちゃん。

 アーモンドアイちゃん。

 それと、私。

 

 じいやさんの話の通りで、みんなが来ることを見越してくれていたメイドの皆さんが、全員分の夕食とお部屋の準備をしてくれていた。それと着替えなども。

 荷物を置いてからダイニングに入ると、もう食卓の用意も出来ていて、そこに全員で座る。

 結構みんなカチコチになっていたけど、私が食事を始めたらなぜか笑い出して、急に和やかになった。

 なんでだろう?

 いつも通り、どんぶりでご飯とニンジン盛を食べていただけなんだけど?

 ん?

 

 スズカさんの体調が気になっていたけど、もう全く問題ないみたい。

 食事しながらおしゃべりもしていたし、笑っても居たし。

 それを見て本当に安心した。

 

 食後、メイドさんたちの勧めで、今日は全員でお風呂に入ることになった。

 ここのお風呂は、ちょっとした公衆浴場並みの広さがあって、トレセン学園の寮のお風呂よりも正直言って広い。

 だからいつも一人で入るのが申し訳なさすぎて、汚さない様に端っこの方にちょこんと座って入っていた。

 でも、今日は大人数だし少しは足を伸ばしても良いかな? 

 そんなふうに思いながらお風呂場へと入ると、みんな余りの広さに目をまんまるにしていた。

 

「ひっろーい」

「すっげー、プールみたいだー」

「みてみて? ライオンが口からお湯吐いてるよ?」

「こっちはビーナス像の壺からお湯出てますって」

「この湯舟は大理石ですわね。我が家と同じですわ」

「なかなかいいじゃーん、スぺぇ、うらやましいなぁ、泳げるしぃ」

「ほぇ~」

「はぇ~」

 

 皆がはしゃいで、テイオーさんとゴールドシップさんがさっそく泳ぎ始めているなか、タオルで前を隠したキタサンちゃんとアーモンドちゃんが口をあんぐり開けて棒立ちになっていた。

 みんな思い思いで楽しんでくれているみたいで本当にほっとする。

 私の家って実感がまったくないから、本当にハラハラするし。

 

「スぺちゃん、私たちは身体を洗いましょ? 競争して汗もたくさんかいたし、久しぶりに私が洗ってあげるわ」

 

「い、いいですよ! スズカさんこそ倒れちゃったんですよ? 無理しちゃだめですってば! わ、私が洗ってあげます」

 

「そう? ならお願いしようかしら」

 

 そう話して二人で並んで座って、良く泡立てたスキンタオルでスズカさんの身体を洗っていく。

 前も、良くこうして背中や腕や足なんかをお互いに洗いあっていた。 

 その後は裸のままマッサージとかも念入りにお互い行っていた。

 以前は当たり前の様にやっていたのだけど、ここにきてしまったから本当に久しぶりで、スズカさんにこうやって触れられることが本当に嬉しかった。

 太ももや足の裏まで洗って流してあげると、スズカさん。

 

「今度は私が洗ってあげるわ」

 

「いいですってば」

 

「だめよ。お互いにするって約束だったでしょ?」

 

「うう……」

 

 そう言って、スズカさんの細い指が私の肩からお腹の方へと伸びてくる。

 そして私の背中に胸を押し付けたまま、優しく揉むように身体の前を洗ってくれた。以前の様に。

 そんな私たちのことを、湯船につかったゴールドシップさんとマックィーンさんが顔を半分沈めてぶくぶく泡を出しながらこっちを見ていた」

 

「なんだろうマックィーン。あの二人みてると、めっちゃもやもやしてくる」

 

「そうですわね。あんなにぴったり身体を密着させて、なにかいけないものを見ているような気になってきますわね」

 

 え? なんで? これって駄目なことなの?

 二人のそんな言葉にドギマギしつつ、それでもスズカさんに洗ってもらえることが嬉しくて、そのまま胸とかお尻とかも洗い続けてもらっていたら、二人がザバァっと立ち上がって、タオルもなしに腕を組んで仁王立ちになっていた。

 あ、ガ〇バスターポーズ。

 

「そういえばスぺって『ペ〇ス』が生えたんだよな? それってどれ? 見せてよ」

 

「そうですわ。元チームメイトとして確認すべきことだと思いますわ。後学のためにも!」

 

 そう言って同時にお風呂を上がった二人。

 スズカさんもきょとんとしたまま、泡だらけの身体を私の背中から離した。

 ああ、スズカさんが離れちゃった。

 と、そうちょこっとだけがっかりしながら、二人を見上げていると、そこに他のメンバーも集まってきた。

 

「え? スぺ先輩のペ〇ス、見せてくれるんですか?」

「どんなのですか? 気になります!」

 

 ウォッカさんとスカーレットさんも興味深々だぁ。

 テイオーさんもひょこひょこ顔を近づけてくるし、キタサンちゃんたちも明らかにわくわくした感じでお目メがお星様になっていた。

 

「えーと……」

 

 私はみんなのそんな視線に居たたまれなくなって逃げたかったんだけど、これはもう見せるしかないなと覚悟を固めて、みんなの前で立ち上がる。

 そして、まだ泡がついたままだった下半身にシャワーをあてて泡を全部流した。

 

「おおっ!!」

 

「これがっ!?」

 

 みんなの絶叫が一瞬上がる……

 けど、その次には少し首を傾げた感じでみんなが声を出していた。

 

「なんか……」

 

「思ってたのとちがう」

 

「なんというか」

 

「かわいい……かな?」

 

「というか、小せえな」

 

 そんなことを言いながらみんなが私の股間に顔を近づけてくる。

 私のペ〇スは今、最初のときみたいに血管を浮きだたせて、張り裂けそうなくらいに膨らんで上を向いているわけではない。かなり縮んで柔らかいままに垂れ下がっていた。

 私は手も下ろせなくなって、脇を締めたまま胸を押さえ込むような感じで手を上にしていたのだけど、みんなの顔が近づくにつれてなんだかだんだん恥ずかしくなってきていた。

 ひいっ!

 

「スぺちゃんのペ〇スは、すごく大きかったのよ。自分の胸で挟み込んでしまえるくらい上を向いて大きくなっていたわ」

 

 そうスズカさんが自分にお湯を掛けながらフォローしてくれる。

 それを聞いてみんな驚いていた。

 

「え? これがそんなに大きくなるの?」

「上を向いて?」

「ええ、それにとっても硬くて、どっくんどっくん脈打っていたのよ? それで、真っ白い精液をたくさん出したのよ」

 

 スズカさんがあの時の情景を思い出すように、自分の両胸を掴んで私のペニスのサイズがどれくらいかをみんなにレクチャーしてくれていた。

 みんなはその話を聞きながら私のしぼんだペ〇スを見ながら、ほんとに? とか嘘だぁ? とか、そんなことを疑問符交じりに言っていた。

 

「本当よ!!」

 

 信じていない感じのみんなに、ちょこっとだけスズカさんがムキになっていた感じだったけど、でも、今は仕方ないです。

 だって私、あの時みたいに大きくならなくなっちゃったんですもの。

 その原因も不明だし、大きくならないせいで、精液も出なくなっちゃったんですから。

 種ウマ娘としてここに来たのに、種付けもできない情けない私。

 もう自信もなにもなくなっちゃいましたから。

 

「本当なんだから!!」

 

 スズカさんはさらに強く言ってくれるけど、みんなは分かった分かったと口で言いつつも全然信じていない様子だった。

 もういいですよ、スズカさん。

 そう思っていたら。

 

 ガシっ!!

 

 あ……

 

「本当にスぺちゃんのペ〇スは大きくなるのよ、ほら、こんな感じで……」

 

 コスコスコスコスコスコスコスコスコスコス……

 

 あ……あ……

 

 スズカさんの細い指が、私のペニスを高速で擦る。

 そうされていたら、今まで何をされても全くなにも感じていなかったというのに、私の下腹部に何やら快感が……

 

「うわっ! うわっ! うわわっ!!」

 

 みんなが驚きの声だけが聞こえていた。

 気が付けば、例のドクンドクンと響くあの感触が私の下腹部に走っていた。

 そして、よく見てみれば、私の前にはスズカさんの背中と、お尻が? 

 彼女はいつの間にか私のペ〇スに跨っていた。

 

 コスコスコス……

 

 跨られたままで更に擦られる感触に、私はつま先でピンとまっすぐ立つ。

 

 あ……出……

 

 次の瞬間私は発射していた。

 発射し続けた。

 何度かあの感覚のままに出し続けた私。

 頭を突き抜けるようなあの感覚にふらふらしながら、目を開けてみたら……

  

 目の前にいたみんなの顔が、べったべたの白濁液まみれ。

 

「ね、言った通りだったでしょう?」

 

 ぺろりと舌を出して自分の顔にかかった精液を舐めとったスズカさんだけが、凄く嬉しそうなドヤ顔だった。



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第二十四話 10億9262万円

今更ですが、この金額……
言わなくても分かりますよねw


 みんなを白濁液まみれにした直後から、私はみんなのおもちゃになった。

 巨大化したペ〇スを触られまくって、メジャーで長さを測られたり、太さを測られたり、息を吹きかけられたり、擦られたり……

 みんな興味津々で質問しつつ私のそこばかりを弄りつくしていたのだけど、暫くしたら、またしょんぼりと小さくしぼんでしまい、それから何をしても大きくなることはなかった。

 ただ、スズカさんが触った時だけは、微かに反応したのだけどね、それも、ほんの少しだけ。

 先ほどスズカさんがしたように手でしごいてみたり、お尻に挟んでみたりと色々されたけど、もう今日はダメだった。

 

 みんなで身体を洗ってお風呂を出る。

 その後も、寝間着姿のままペ〇スをだした私を取り囲んで、あれやこれやみんながどうしたらまた大きくなるか、相談しつつ弄られるも変化なし。

 もうやめて欲しかったけど、物珍しさからみんなは辞めてくれず、私は下半身丸出しのままで枕を顔に押し当てて眠りました。スズカさんが手を握りながら添い寝してくれたから眠れたのかな?

 翌朝目を覚ましてみれば、丸出しの私の腰や足を枕にみんな寝息を立てていた。

 テイオーさんとか、涎垂らし過ぎで、私のペニスもぐっしょりだったよ。

 

 さて、そんなこんなで久々に会ったみんなとの楽しい時間も終了。

 みんなは学園の勉強もあるのですぐに帰ることになった。

 

「スぺちゃん。私も出来る限りのことしてみる。だから心配しないでね」

 

 そう言ってくれたスズカさんの言葉に胸が熱くなる。

 みんなもそれに合わせるように、なんとかお金を集めてみますと言ってくれた。

 私はみんなを見送ってから、すぐに良馬繁殖センターへと向かった。

 

 みんなにばっかり迷惑かけちゃだめだ!

 

 なんとかしなくちゃ……

 

 私のことなんだから……

 

   ×   ×   ×

 

 

「数河井先生! 私、種付け頑張ります!!」

 

 そう先生の前で宣言すると、先生は呆気にとられた顔になった。

 でも、すぐに表情を和らげて、

 

「そう、じゃあ頑張りましょうね。私もフォローするから」

 

「はい」

 

 こうして私は数河井先生と二人で気持ちも新たに種付け場へと向かった。

 

 私が用意すべき金額は10億円を超えている。

 はっきり言って、この金額を今の私が払えるわけがない。

 でも、ルドルフ会長さんたちは言っていた。

 種牡ウマ娘は、種付けするごとに歩合でお給料が増えると。

 もしそうなら、私がここで頑張って種付けをたくさんすれば、ひょっとしたら10億円くらい溜めることができるかもしれない。

 もうそれしかない。

 みんなが私の為にとお金をあんなに集めてくれた。

 スズカさんは私の為に命がけで身体を張ってくれもした。

 だったら私だって、やれることをやるしかない。

 

 私が病気なのか、本当に死んでしまうのか、そのことだって理解なんてしていない。

 でも、だからって何もしないじゃ、みんなに顔向けなんて出来ない。

 そう、もうやるしかない。

 

 昨夜、私は確かに勃起して射精もできた。

 

 昨日できたんだから、きっと今日だってできるはず。

 

 ペ〇スを勃起させて、繁殖ウマ娘さんの生殖器官に差し込んで、そこで射精すればいいだけ。

 

 思い出さなきゃ。

 昨日の事。

 昨日は確かにペ〇スは大きくなった。

 

 あの時、私が思っていたこと……

 そう、スズカさんのこと……

 

 思い出して……スズカさんのこと……

 

 あの細くて優しい指の感触を……

 

 熱い吐息を……

 

 彼女の柔らかい素肌を……

 

 あ…………

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「お疲れ様、スペシャルウィーク。その……あんまり気にしないでね」

 

「はい……」

 

 浴衣を着た繁殖ウマ娘さんが、申し訳なさそうにそう言って部屋を出て行った。

 そこに裸のままで取り残されたわたし。

 見下ろしてみれば、うんともすんとも言わない、しょんぼりしたペ〇スが……

 

「はぁ……」

 

 溜息をついて私も浴衣を羽織った。

 それから、先ほどまで私のそばについていてくれた数河井先生を探したのだけど、もうどこにもいなかった。

 きっと、途中で嫌気がさして出て行ってしまったのだろう。

 なにしろ、今日はつぎつぎと10人も相手を変えたのに、一度も種付けが成功しなかったから。

 

 やっぱりだめだった。

 一生懸命頑張ったのだけど、どうしてもだめだった。

 スズカさんのこともいっぱい考えたのに、何も反応なし。

 よくよく思い出せば、昨日だってお風呂場で一度だけ射精できたけど、その後はスズカさんが触っても反応しなくなっていたもの。

 やっぱり私にはもう無理なんだ……

 

「はぁ……」

 

 またため息が出た。

 

 私は沈鬱な気持ちのまま、更衣室で着替えて、じいやさんの待つロビーへと向かった。

 

 もう全てが嫌だった。

 何も出来ない自分が嫌で、先生に呆れられてしまったことも嫌で、こうして俯むくしかできないことが嫌だった。

 その時、声を掛けられた。

 

「スぺちゃん」

 

「随分と顔色が悪いようだな、スペシャルウィーク号」

 

「え?」

 

 声の主へと顔を上げてみれば、そこに居たのはスズカさんとあの黒いお医者様。

 二人が並んで立っていることがまず不思議だったけど、とにかく私は近づいた。

 

「どうして……? どうしてお二人が?」

 

「あのね、スぺちゃん。私が先生にお願いしたのよ。どうかスぺちゃんの手術をしてくださいって」

 

「手術……、あ、で、でも、私まだお金用意できていなくて……」

 

「大丈夫よスぺちゃん、お金は私がなんとかするから」

 

「でも……」

 

 私に微笑みかけてくれるスズカさんに励まされつつ、でも申し訳なさがいっぱいでどうしていいのかだんだん分らなくなってきていた。 

 とにかくスズカさんにこれ以上頑張らせたら駄目だ。

 その思いだけは伝えなければと、私は黒いお医者様に向き直って口を開こうとしたのだけど、良く見たら先生は微かに笑っていた。

 なんで?

 

「まったく……あのスペシャルウィーク号とサイレンススズカ号が自分で自分の金の心配をするとはな……本当に妙ちくりんなことだ」

 

「え?」

 

 よくわからないことを言うお医者様。

 彼は薄く微笑みながら私を見た。

 

「スペシャルウィーク号。もう一度聞こう。君の望みはなんだ?」

 

 先日と同じことを聞く先生。

 私はそれに、今回はすぐに答えた。

 

「それは……スズカさんとずっと一緒にいることです。ずっと一緒に走り続けることです」

 

「スぺちゃん……」

 

 即座にそう答えると、彼は目を細めた。

 

「分かった。ならすぐにオペだ! お前の望みをかなえてやる!」

 

 先生はそう宣言して、身を翻した。

 私はその背中に向かって、叫んだ。

 

「待ってください。私はまだ言われたお金を用意できていません。それにお、オペって? すぐに手術するってどういうことなんですか?」

 

 それにお医者様は答えた。

 

「君は治る。この私が手術すれば、必ずな。それが答えだ」

 

「いえ……それは……、そ、それだけじゃないですよ。お金は? お金のことはどうすればいいんですか?」

 

「ふふ……全ては戯言だよ」

 

「へ?」

 

 お医者様の物言いが本当に分からなくて、スズカさんの手を握ったまま立ち尽くしていたのだけど、先生はおかしそうに言った。

 

「そうだ……先日のレース。最高のショーだったよ。それでな、私は実はあの時、サイレンススズカ号に賭けていたんだよ……ま、ここでの『馬券』の買い方が不明だったからこんな紙切れになってしまったがね。勝負は君が勝った、だからこれは君の物だよ」

 

 そう言いつつ、私に向かってピらりと差し出してきたその紙は……

 

「こ、これ? ひょっとして『小切手』ですか? え? いち、じゅう、ひゃく……」

 

 彼の手に握られていた小切手らしき紙には、『¥1,092,620,000也』と書かれていた。

 そしてそれを見せながらもう一度……

 

「戯言さ」

 

「お医者様……」

 

 スズカさんと手をとりあって、震えながらそれを見た。

 この人は最初からこうするつもりだったんだ……きっと。

 でも、わからない。

 どうしてそこまでして私を助けようとするのか……

 私は恐る恐るそう聞いてみたのだけど、もうそれ以上彼は何も言わなかった。

 それからもう一度、その小切手を私へと突き出してきた。

 

 結局分からないことが多すぎるし、手術をすることになるようだし本当に怖かった。

 それでも、私はこの人のことを信じたくなっていた。

 このお医者様に縋れば、きっと何かが変わる。

 そう、きっと……

 

 私の手を握るスズカさんの手も力を増していた。

 それを感じつつ、私は覚悟を固めた。

 

 私は小切手へと手を伸ばした……

 

「おーい、スぺぇ!」

 

 そこに現れたのは、ゴールドシップさんと……

 大きな荷物を積んだ台車を曳くトレーナーさん?

 

「ったく、俺に運ばせんじゃねえよ」

 

 トレーナーさんははぁはぁと息を切らせつつ、私の方を見ているけど、それはいったいなんですか?

 

「えっと、ゴールドシップさん、いったいどうしたんですか?」

 

「へへーん、トレーナーがよ、最後の手段!! とか言って、宝くじを買ってたから、私も買ってみたんだけど、そうしたら当たったんだよ!」

 

「当たった? って、宝くじがですか?」

 

「そうそう、宝くじ。はい、10億9262万円」

 

「へ?」

 

 呆気にとられた私……と、スズカさんとお医者様。

 鼻をこすりながらバンバンとトレーナーさんの引いてきた台車の荷物を叩くゴールドシップさん。

 そして、その巨大な風呂敷を徐に解くと、そこには大量のお札の束の山!?

 

「えええええっ!?」

 

 絶叫する私をしり目に、彼女は言った。

 

「なんかさ、『〇ト7』とかいう奴を買ってみたらさ、数字七つ揃っちゃったんだよね。で、28億円だってさ。だからスぺに必要な分だけやるよ。遠慮すんなって」

 

「に、28億っ!?」

 

 まさに空いた口がふさがらなくなっちゃったわけだけど、そんな私の目の前から、スッと10億円の小切手が引っ込められた。

  

 あ……、なんかずるい……



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第二十五話 オペ

今回のお話、どう読んでもあのマンガですが、気にしないでください。


 良馬繁殖センターの一角にある、重役用スィートルームの一室で、数河井芽衣は大きなため息をついていた。

 ここは数河井に割り当てられた住まい。

 センターの資金で建てられたこの建物には、他にもここで働く重役たちのプライベートルームも用意されている。

 ここで彼女は、シャワーから出たナイトガウン姿のままで、グラスにウィスキーを注いでいた。

 天皇賞春秋連覇を果たし、ジャパンカップで凱旋門賞にも輝いたブロワイエをも降し、全国のファームや施設からもっとも注目の高かったスペシャルウィーク。

 種牡ウマ娘となった暁には、かなり多くの種付けオファーが来ると期待されてもいたことから、今回の若年性性転換をまさに慶事だった。

 通常のウマ娘よりも数年も早いのだ。

 当然、その分種付けもたくさん行えるわけで、多くの収益を見込んでいたセンター側からすれば最重要の種ウマ娘であった。

 でも……

 彼女は重度のEDを発症していた。

 完全な勃起不全というわけではなく、稀に回復することもあったようだが、実際の種付け現場での成功は皆無。

 好みの問題や、健康状態に左右される仕事でもあるため、その辺りに関してはかなり優遇していたつもりであったのだが、変わることのない結果に数河井は諦めを通り越して、ただただ落胆するようになっていた。

 

「ふう……もうスペシャルウィークはダメね。ここまで相当に予算を割り当ててきたけれど、面倒見切れないわ。上の判断としてももう『処分』相当ということだし、週明けにはさっさと追い出して……」

 

 まだ口をつけていないウイスキーのグラスを持ち上げそれを口に運ぼうとしていた。

 それを飲めば、ここまでの苦労や今の倦怠感が少しは払われると思えたから。

 

 その時、ドアをノックする音が聞こえ、彼女はもう一度グラスを手元へと下げる。

 どうぞと言って開いたドアの向こうには、普段から彼女の世話をしているメイドの姿。

 深々と頭を下げたそのメイドは彼女へと言った。

 

「失礼します。病院の方でこれからスペシャルウィーク様の手術がおこなわれるということで、数河井様にもすぐに手伝いに来るようにとのご伝言にございます」

 

「え? スペシャルウィーク? 手術? ど、どういうこと?」

 

 かたりとグラスをテーブルに置いた数河井は、そのメイドに掴みかかるも、彼女はただ慌てた様子で答えるのみ。

 

「い、いえ、私はそうお伝えするようにと申し使っただけでございます。申し訳ありません」

 

「そう、ごめんなさいね声を荒立てて。それで、誰からの伝言なの?」

 

「それが……名乗られなかったのですが、真っ黒い服を着た顔に斜めに傷の入った男のお医者様でした」

 

「黒い……医者?」

 

 数河井は先日のスペシャルウィークの話を思い出しつつ、急いでガウンを脱いで着替える。

 そして、嫌な予感を抱きながら病院へと急行した。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「ではこれからオペに入るぞ。緊張することはない。君はただ眠っていればいいのだ」

 

「はい」

 

 手術室の前の廊下で、オペ用の白衣に着替えた男はベッドに横たわるスペシャルウィークへとそう声を掛ける。彼女は男性の顔を見た後に、視線を壁の窓の方へと向けた。

 そこには窓越しに心配そうな眼差しを向けてきているサイレンススズカの顔。

 そちらへと視線を送りつつ、彼女は『行ってきます』と心の内で呟いた。

 そして彼女は手術室へと入った。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「どういうことですか? 貴方はいったいだれ?」

 

 スペシャルウィークへの麻酔導入がほぼ終わったころ、オペ室に手術着姿の一人の女性が駆け込んできた。

 彼女は、すでに準備を終えてあるこの部屋の様子を見ながら唖然としていた。

 

「これはこれは遅いお越しで。あまり遅いので、私一人で初めてしまうところでしたよ。数河井先生」

 

「な!? ひ、ひとりで? 何を言っているの? それに、これはいったいなんの手術……いえ、そうではないわ。スペシャルウィークの主治医はこの私です。彼女に病気は何もありません。それと、この施設の使用許可を出した覚えもないわ!」

 

「私もそんな許可をあなたから頂いた覚えはありませんな。だが、ここのセンター長には了解いただきましたがね」

 

 そう言って繁殖センター長の名前入りの書類を差し出してくる男性の手から、彼女はそれを奪い取る。

 そこには、この病院でのスペシャルウィークの手術を許可すると書かれていた。

 

「な? ど、どういうこと? 私にはこんな話は……」

 

 男の医者は微かに微笑んだ。

 

「そりゃそうでしょうなあ、なにしろ、了解を貰ったのはまだ数十分前のことですからね。なあに、心配はいりませんよ。福沢諭吉の絵の描かれた紙きれを、ほんの一万枚差し上げただけですからね。彼は一も二もなく快諾してくれましたぜ」

 

「一万枚……って、い、一億円!?」

 

「金額は誰にも言うなと言われていますから、ノーコメントで。金額はね、ふふふ」

 

 彼女はそれを聞いて愕然となった。

 まさかあのセンター長が買収に応じたなんて。

 それを聞いて怒りにも似た感情がふつふつと湧き上がってきていたところだったが、男の医者は構わずに言い放った。

 

「それと、どうもこのセンターではスペシャルウィーク号にできそこないの烙印を押して、ここから追い出すことを決めたようですな。そのことも教えてもらいましたよ」

 

「できそこないって……」

 

 そう言われ彼女は言葉を詰まらせる。

 スペシャルウィークを処分するように進言したのは他の誰でもない、この数河井であったのだから。

 

「だから私がスペシャルウィーク号をどうしようと、もはや誰も文句はなくなったというわけですよ。彼女と彼女の親の手術の承諾書もある。あんたは主治医としてオペに立ち会い、手伝えばそれでいい。最後くらい主治医らしく彼女の為に働け」

 

 ギンと眼光するどく彼女を睨みつける男の医者。

 それに見据えられて数河井は全身が硬直した。

 明らかに気圧され圧倒された中、麻酔で深い眠りについているスペシャルウィークを見て、彼女はコクリと頷いて承諾した。

 

「これより、『ミクロフィラリア病巣、および脊髄腫瘍摘出術』を行う。メス!!」



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第二十六話 神のメスなお話

4月28日、平成最後の天皇賞、最高でした。

一着フィエールマン、二着グローリーヴェイズ、三着パフォーマプロミス。
ディープインパクト産駒でワンツーフィニッシュと、前評判違わぬ強さに痺れましたね。
特にフィエールマンはラストの直線でもまだまだ身体がしなやかで、他のウマががむしゃら
に走る中、悠々と飛ぶように走っていたことが印象的でした。
フィエールマン、父親譲りのとんでもない末脚を持っていそうで、今後楽しみですよ。なにしろ、史上最少6戦目Vで、G1二つ目ですしね。

本当はこの天皇賞前にこの物語は完結させておくはずだったのですけど、遅れまくりで書けませんでした。なかなか思うようにいきません。
さて、今日でもやもや回が最後です(笑)
で、あと数話、いちゃいちゃが続きましてエンディングですね。
ゴールデンウィーク中に書き上げたいところです。
では、平成最後の投稿、行きまーす!!


「か、彼女がフィラリアに感染? そんなわけないわ。だって、もう完全に治癒していたし……検査でも何も問題はなかったし……」

 

「そ、そんなところに病巣なんてあるわけない……」

 

「う、うそ……。それは『肉腫』なの!? まさか、そんなものが筋肉繊維の中に……? え? 子供の頃のフィラリア感染で出来た物?」

 

「たしかに、ウマ娘の身体は人間に酷似してはいてもまったくの別物で、筋肉の密度は人のそれとはまったく別物だけど……でも、MRI検査でも確認はできなかったのよ? え? 腫瘍はもともとあった? 筋肉密度が濃すぎて腫瘍の判別が出来なかっただけ? それでその腫瘍の干渉によって脊髄にも腫瘍が出来てしまったと、そう言うこうとなの? だったら、あなたはどうしてわかったというの? え? 触診と筋肉の動かし方を見て? え? それだけで!?」

 

「待って!! 脊髄腫瘍が血管や神経に完全に癒着してしまっているわ! それを全て取り去るなんて無理よ! いったん閉腹してきちんと精密検査を…… ええっ!? このまま続行!? あなたっ! 患者を死なす気!?」

 

「うそ……な、なんて正確なメス裁きなの……切除後の血管がまるで乳幼児のものみたいに綺麗になっている。こんなの見たことないわ……」

 

「そんな……こんな短時間で全て切除を終えてしまうなんて……。この子の体内の全てを記憶していたとでもいうの?」

 

「…………」

 

「あなたを疑ってしまって悪かったわ。確かにこの腫瘍を放置して悪性化が進んでしまえば、いずれ脊柱神経まで侵されて、半身不随どころか脳もダメージを負っていたかもしれないわね。本当にありがとう。あなたのおかげでスペシャルウィークは救われたわ」

 

「え? まだ終わりじゃない? 何を言っているの? 今完全に腫瘍は取り去ったじゃない!? え? それだけじゃ約束は果たせない……って、あなたいったい何をする気なの?」

 

「やめなさいっ! そんなこと絶対に無理よ!」

 

「え!? そ、そんな方法で……!?」

 

「…………」

 

「ああ……か、神よ……。わ、私は今奇跡を目の当たりにしています」

 

「…………」

 

「あ、あなたは……いったい……!?」

 

「本当にごめんなさいスペシャルウィーク。私は危うく貴女のウマ娘としての生涯を壊してしまうところでした。そしてありがとう、ドクター……。私は間違っていました。ウマ娘は所詮人ならざる者……人の都合でどうこうしても構わないと、心の何処かでそう思っていたことを自覚できました。これからは心を入れ替えます。あ、あの……お願いです。どうかあなたのお名前を……」

 

 と、そんな風に数河井芽衣が涙を流して反省しつつ、黒服のドクターに名前を聞いたりしているところで全ての手術が終わり、『手術中』のランプが消えた。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 長時間の手術が終わり、私はその後退院するまで長い長い入院生活を送ることとなってしまいました。

 入院先は良馬繁殖センター……ではなく、トレセン学園そばの総合病院。あのスズカさんが入院していた病院になりました。

 最初の頃は、麻酔も効いていたし、痛み止めもよく効いたのであまり気にならなかったのですが、何をするにも本当に痛くなってしまって、ずっと泣いていました。

 でも、そんな私の元には、毎日スズカさんが通ってくれて、寝返りもろくに打てない私に、飲み物を飲ませてくれたりとか、手足をさすってくれたりとか、身体を拭いてくれたりとか、本当にいろいろお世話をしてくれました。

 あ、でも、スズカさんは学園のことも、レースのことも全然おろそかにしてなんかなくて、今年は負けなしのG1三連勝を達成してしまいましたし。本当に凄い!

 実はお母ちゃんも府中に来てくれていて、退院するまで毎日私のお世話をしてくれました。

 傷が塞がってからは歩けるようにもなりましたが、数か月ベッドの上での生活だったせいで、足も手も力が入らなくて、まるで他の人の身体みたい。

 全力で走れる気が全くしませんでした。

 骨折したスズカさんは、もっと酷い絶望感を持っていたのかもしれません。それなのに、完全に復帰してしまったのですから、やっぱりスズカさんは凄いです。

 私もリハビリを頑張って少しづつ走り続けました。

 大手術であったと聞いていましたが、手術跡が痛むようなこともなく、身体を鍛えていくうちにそこを切ったということが自分でも信じられなくなりました。

 ストレッチをしても違和感があるわけでもなく、足を大きく上げても、手術前の感覚に近いような感じ。

 次第に身体が元の様に動くようになってくると、スズカさんが並走してトラックで走らせてもくれました。

 ただ、かつての様にはまだ走れませんでした。

 身体を鍛えているといっても、あの頃の様に常にトップレースを走り込んでいたころに比べれば、衰えてしまっていることは自分が一番良く分かっていましたから。

 あのレベルまで回復させるためにはまだまだ練習が必要ですけど、もうレースを走れない私にそこまでモチベーションを高めていくことがやっぱり難しいみたいです。

 本気のレースはあのスズカさんとの一騎打ちが最後ということですね。

 それが私にとって寂しくもあり、嬉しくもあるのです。

  

 あのレースを走らせた黒いお医者様。

 ひょっとしたら、私にこの思い出を残そうとしてのことだったのでは? 

 上がったウマ娘が、もう二度とレースを走れないことを、あのお医者様は良く分かってくれていたのだと思います。

 

 あのあと、あのお医者様は私たちの前から忽然と消えてしまいました。

 

 手術を終え、担当の数河井先生に後のことを全て任せたそうですけど……

 あの手術のあと、色々なことが変わりました。

 

 まず私の種牡ウマ娘としてのお仕事が終わることになって、例の繁殖センター内のお屋敷も引き払うことになりました。

 じいやさんは寂しい寂しいと何度も言ってくれました。ほんの少ししか一緒に居なかったのに、そう言って貰えて本当に嬉しかったのですけど。

 

「今度必ず府中に遊びに行きます、お嬢様!! パチンコの帰りにでも!!」

 

 だ、そうです。

 府中には良く出るパチンコ屋さんがあるそうです。

 じいやさんってば……

 

 もう一つの変わったこと。それはあの10億円です。

 黒いお医者様に治療費として渡したはずのあのお金。実は全額私の信用金庫の口座に振り込まれていました。

 だから今私はとんでもないお金持ちです。

 数河井先生から聞いた話では、いずれ必要になるから持っていなさいと言っていたとのこと。

 最初は何のことか分からなかったのですが、今になってようやく理解できました。

 

 そしてもう一つ変わったこと、それは……

 

「スぺちゃん。そろそろ行きましょう」

 

「あ、待ってくださいよぅ、スズカさん」

 

 二人して真っ白なドレスに身を包んで、私とスズカさんはその扉の前に立つ。

 そして、ゆっくりと開かれたその扉の先には、たくさんのドレス姿の友達や仲間達の姿。

 スピカのみんな、お母ちゃん、トレーナーさん、エルちゃん、グラスちゃん達、先輩たち……

 みんなの視線を感じつつ、厳かなオルガンの楽曲に合わせて二人で腕を組んでその『バージンロード』を進む。

 その先には優しそうな笑顔の神父さんの姿が。

 神父さんの前で二人で誓いの言葉を交わし、それから向き合って熱く熱く抱擁しながらキスをした。

 居並ぶみんなの歓声が心地よく耳に響く。

 

 そう……

 

 私とスズカさんは……

 

 今日、結婚した。

 



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第二十七話 新妻二人のラブラブ新婚生活

 私は今、結婚式を挙げたホテルの一階の喫茶店にいます。

 大きなテーブルを囲むように座っているのは、スピカの面々や、クラスメートのみんな。

 それと私のとなりには当然、私の手をぎゅっと握ったままのスズカさんが優しく微笑んでくれています。

 ちらりと視線を向けるたびにニコリとほほ笑み返してくれるスズカさんに、私の胸は高まりっぱなし。

 顔がもう熱くなりすぎて、周りの友達に変な目で見られていないかともうドキドキです。

 私たちはここで、紅茶やコーヒーを愉しみながら、先ほどの結婚式と披露宴についてあれやこれや話をしています。

 午前中から始まった私とスズカさんの結婚式は(つつが)なく執り行われ、その後の披露宴も無事に終了。更に行われた記者会見で私は、披露宴以上に緊張してしまって、見当違いなコメントを連発してしまいました。

 本当に恥ずかしすぎますよ。

 でも、それをスズカさんがフォローしてくれて、なんとかなったという感じでした。

 ずっと握っていてくれていた手が本当にあったかくて、とても心強かったので。

 

 結婚式は身内と学園の仲間達中心に少人数で、このホテルの教会で。

 その後の披露宴は、このホテルの一番大きなホールを利用して、たくさんのレース場、繁殖センター関係者、全国のファームの上役の人たちもお招きしまして、更に更に報道陣の人たちまで会場に入って頂いての盛大なものになりました。

 こんな規模の披露宴になるなんて夢にも思わなかったのですけど、これを企画したのはレースの運営本部。

 公式レースで大きな結果を残すことが出来た私とスズカさんの功績を称えて準備してくれた様なのですけど、もう心臓バクバクで生きた心地はしませんでした。

 なんだかんだで披露宴も終わりましたが、こんな規模になってしまいましたのでゆっくり友達と話すこともできませんでした。

 だからというわけでもありませんが、仲間達だけでの二次会を都内の小洒落たフレンチレストランを借り切って、この後行うことにしたというわけです。

 

 それで二次会まではまだ暫く時間もあしましたし、流石に朝からの催しの数々に疲れ切ってしまっていたので、こうやってみんなで休憩をしていました。

 でも、みんなは私とスズカさんについて、あれやこれや聞きたがるので、結局私たちも会話に参加し続けているというわけです。

 そうこうしていると、私の近くに座ってレモングラスティーを飲んでいたグラスちゃんが聞いてきました。

 

「そういえば、スぺちゃんは種牡ウマ娘ではなくなりましたよね? なんでやめちゃったのですか? やっぱり病気のせいですか?」

 

「え? そういうわけじゃないよ。病気は完全に治ったって、お医者様が言ってたし。それもこれもみんなのおかげ。助けてくれて本当にありがとうございました」

 

 隣でスズカさんも私と一緒に会釈。そのまま握ったままの手にきゅっと力を込めてきました。

 その感触にぞくぞくっと背筋が震えましたが、感じちゃった表情が顔に出ない様に頑張って、笑顔!

 

「じゃあ、どうしてですか? 種ウマ娘を続けながらでもスズカさんが『上がる』のは待てましたよね?」

 

「えっと……それは、その……あのね?」

 

 私が説明する言葉を選んでいると、今度はグラスちゃんの向かいの席のエルちゃん。

 

「オー! ソレはヤボデース! スぺちゃんはスズカさんに貞操を捧げようとシタにきまってマース!」

 

「貞操? そうなのですか? でもたしか……種牡ウマ娘って自分勝手には辞められないって教えてもらったような」

 

「ああ、それはね……」

 

 グラスちゃんが唇に指を当てつつ、思い出すようにそう口にするのに答えてあげようとしていたら、隣の席のスズカさんがちょいちょいと私の服の裾を引っ張りました。

 何かあったのかなって顔を向けて見たら、目をトロンとさせて切なそうな顔になっているスズカさんの顔が。

 それを見て、私はサッと立ち上がりました。

 

「あ! み、みんなちょっと部屋に忘れ物しちゃったみたい。ちょっとスズカさんと取りに行ってくるからもう少しここでゆっくりしててね。会場へは一緒に行こうね」

 

 そう言うと、皆はコーヒーを啜りながら手を振ってくれました。

 私はスズカさんの身体を支えるようにしてから、その手を引いてこの式場にとってある私たちの部屋へとそそくさと向かいました。

 丁度扉が開いた、ホール隅のエレベーターの中へと、二人きりで慌てて飛び乗ります。

 はあはあと熱い吐息のままに私に寄り掛かってくるスズカさんの肩を、私はすぐに抱

きました。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ、ありがとうスぺちゃん」

 

「えっと……これですよね?」

 

「ええ……あ、ああん……」

 

 エレベーター内の防犯カメラに背中を向けて並んだ私たち。

 私はスズカさんの肩を抱きつつ、空いた方の手で、スカート越しに彼女の股間部分にそっと触れました。

 その途端にびくびくと痙攣するように震え出してしまうスズカさん。

 私は彼女が倒れないようにしっかりと押さえたままで、今まで触れていたそこから手を離して目の高さまで指を持ち上げます。

 その指先を見て見れば、うっすらと滴がついてしまっていました。

 これはもう限界かも。

 

「スズカさん。すぐですから、もう少しだけ我慢してくださいね」

 

「…………」

 

 ゆっくり上るエレベーターは一度も扉を開かないままに、ホテル上階の私たちの部屋のあるフロアに着きました。

 すぐさまスズカさんの手を引いて自分たちの部屋の前へ。

 ポケットのカードキーを扉へと差し込んで急いで開け放って、そのまま中へとスズカさんを引き入れます。

 それからすぐに扉を閉めて施錠しました。

 

 途端に唇が塞がれました。

 

 ……チュプ……ンッ…………チュ……ンハァ……チュ……チュム……

 

 私の背中に両手を回してぎゅうぎゅうと締め付けながら、唇に吸い付いてくるスズカさん。

 何度も舌で口内を舐め、私の舌を唇で吸い、私の奥へ奥へと舌を差し入れようと貪るスズカさんのことを、私もきつくきつく抱きしめました。

 暫くされるままでいるとスズカさんが、頬を真っ赤にして荒い息遣いのままに私を見つめてきました。

 

「スぺちゃん……もう……だめ。おねがいぃ……」

 

「はいっ! スズカさん、大丈夫ですよ」

 

 切なそうな表情のまま震える手で自分のスカートの前をたくし上げるスズカさん。

 私はその場に膝を着いて、ゆっくりと捲れあがっていくそのスカートの内側へと両手を挿し入れます。

 そして、彼女の薄手のショーツの両サイドの紐を掴んでゆっくりと慎重に下していきます。

 彼女の秘部が露わになる頃には、スカートはすっかりめくれ上がっていて、スズカさんはスカートの裾をぎゅうっと力を込めて堪えていました。

 膝まで下した彼女の白のショーツにはぬらぬらと光る液体が付いています。

 それをちらりと見止めてから、私は彼女のあそこを……

 

 即座に口に『咥え』ました。

 一気に根元まで。

 

「あ! ああっ!!」

 

 その途端に激しく彼女のそれが脈打ち、膨張して、勢いよくそれが私の口内へと流し込まれてきました。

 口内全部に溢れでる苦いそれを、舌をコントロールすることで咽ないように喉の奥へと導いて飲み込み続けます。

 彼女に不快な思いをさせたくない、気持ち良いままに最後の一滴まで出し続けて欲しい。

 そんな思いのままにやさしくやさしく唇と舌を使って、彼女のそれを愛撫し続けました。

 

「あ……は……はぁはぁ」

 

 ちろちろと舌でしごいても、もう何も出て来なくなったそれ。

 私はちゅぽんと音を立てつつ、それから顔を離すとすぐさま彼女を見あげました。

 荒い息遣いのまま倦怠感に包まれた様にぐったりとした様子のスズカさん。

 それにホッと安堵したのも束の間、急に彼女が私に抱き着いてきて、そのままディープキスの嵐。

 熱いスズカさんの、激しい舌使いに、私の頭も痺れ始めていました。

 あ、このままだと止まらなくなる……

 そんな危機感から更に甘えようとしてくるスズカさんを半ば無理矢理引き離しました。

 

「あ……ああ……」

 

 やっぱり切なそうなスズカさん。 

 その顔に最悪感が湧き上がってくるのを感じつつ彼女へと嗜めるように言いました。

 

「まだだめですよ、スズカさん。この後二次会もありますしみんなともたくさんお話しないと」

 

「で、でも……」

 

 いやいやと首を振りながら私へと圧し掛かろうとしてくるスズカさん。

 仰向けの私の開かれた股の間に、彼女は自分の身体を割り込ませて、今度は私のスカートを無理矢理めくり上げました。

 そして、その『元通り』になった私の下半身に穿いている、既にびしょ濡れになってしまっているショーツを愛撫しつつ、その中心へと自分の牡の証をぐいぐいと押し付け始めました。

 私の身体の中へと向かってめり込み始めるショーツ。

 身体の内側に衣服ごと侵入され始めている感覚。

 その快感の波に耐えつつ私はスズカさんに言いました。

 

「だめですってば! ほ、ほら! 約束したじゃないですか! 初めては初夜にしようって、二人で! ね! もう少しの辛抱ですよ」

 

「でも、もうこんなの……我慢できないわ……」

 

 そう言いつつ尻尾を振りながら迫ってくる彼女。

 私はそっと右手を彼女の腰の辺りへと伸ばして、彼女の勃起したそれを触ってみました。

 それはさっき以上に硬く硬くそそりかえっていました。

 つい今しがた果てて満足したはずなのに……

 スズカさんは私の身体に自分の身体をこすりつけ始め、胸を揉み、首筋を舐め、腰を押し付け、さらにさらに快感を求め続けてきます。

 私も、その快楽に流され始めていることを実感しながらも、わずかに残った理性をフル動員して、半ば強引に彼女の股下をくぐる様に身体を滑らせて、私の眼前に来たむき出しの彼女のあれを再び頬張しました。

 

「ああっ!!」

 

 再びの快感に艶やかな吐息を漏らすスズカさん。

 彼女は射精の衝動に抗えなくなっていました。

 こうなってしまえばもうエンドレスであることは、私も良く理解していました。

 私だってあの手術まではスズカさんのこれと同じような物を持っていたのですもの。

 だから、後は彼女が十分満足できるまで、とにかく射精させてあげれば良いのです。

 私は口で彼女のあれを激しく愛撫し続けました。

 

 でも不思議な感じです。

 初めてスズカさんにこのペ〇スが生えた時に、私も一緒に確認したのですけど、私についていたそれよりもずっと小さくてとっても可愛かったのです。

 大きく勃起しても、私のそれよりも小振りで、片手でも包み込めるくらいでした。

 でも、出てくる精液の量は私と変わらず凄く多いのです。

 ペ〇スって本当に不思議。

 あの性転換の日から、今度はスズカさんのペ〇スの射精処理の日々が始まりました。

 基本は私が手でしてあげたのですけど、そのうちに抱き合いながらとか擦りあったりとか、私が舐めながらとか、股にはさみながらとか、いろいろなやり方があることが分かってきまして、でも、初体験だけは結婚するまでとっておこうねと二人で決めたのです。

 そう、あの私の手術の後、スズカさんは私にプロポーズしてくれたのです。

 ずっと一緒にいましょうと。

 大好きですと。

 私は天にも昇る気持ちのままに、そのプロポーズをすぐにお受けしました。

 

 そしてその後知りました。

 私の手術は、背中側の脊髄の腫瘍を取るだけではなく、女性器の再形成手術も同時に行われていたということを。

 ウマ娘は雌性先熟(しせいせんじゅく)であるため、当然全て最初は(メス)

 それが、ある時期になると一部のウマ娘が(オス)へと性転換することになり、その際、もともと女性器だった部分が男性器へと急激に変化します。

 私もスズカさんも急に股間にペ〇スが生えてしまって驚いたのだけど、こうなってしまうともう女性器は消えてしまい、以後牝に戻ることはあり得ないという話でした。

 

 でも、それをあのお医者様は完全に元通りに、しかも子供を妊娠できる状態までの再性転換手術を成功させたというのです。

 これに一番驚いていたのは数河井先生。

 どうやら史上初めての成功例であったみたいです。

 ただし、あの黒いお医者様はどこかへ去ってしまったので、この手術の成功は隠されることになりました。

 数河井先生をはじめ、この手術を行えるお医者さんは他に誰もいないからだそうです。

 ということで、結局どうなったかというと……

 私はもともと牝として上がったということに事実を書き換えられることになりました。

 ペ〇スを失ってしまったので、当然種牡ウマ娘としての資格が消滅しました。

 私は元の(メス)の身体に戻りました。

 あのお医者様がここまでの手術をしてくれたのは、あの私の望みを叶えるために違いありません。

 

 スズカさんとずっと一緒にいたい。

 

 私が牝の身体であれば、スズカさんの子供を身ごもることも出来るのだし、結婚すれば、ずっと一緒にもいられるはずですし。

 

 あのお医者様がこの望みをかなえてくれたからこと、私たちは結婚を決められたとも言えます。

 

 そうそう、お医者様が残してくれたあの10億円については、今回のスズカさんの性転換に合わせて使うことになりました。

 私もそうだったのですけど、種牡ウマ娘に選ばれるウマ娘は種付けを強要されることになります。

 これは今後のレースでより強くて速いウマ娘を繁殖させるために必要なことで、半ば義務化されていることなので、勝手に辞退したりは普通はできません。

 だから、この大金を繁殖センターへと支払いました。

 スズカさんの種牡ウマ娘としての資格をお金で買ったというわけですね。

 これで晴れて私とスズカさんはただの一般人のウマ娘同士になり、結婚して独立した生活も送れるようになったというわけです。

 これからスズカさんと二人での生活が始められるなんて、本当に夢の様。

 お願いだから醒めないで欲しいと、私は心の内で強く強く願い続けました。

 

「ああ……また! で、でちゃう!!」

 

 ドクドクと脈打ちながら噴出し続けるその液体をゴキュゴキュと飲みつつ、私は心からの幸せを味わい続けました。

 

 二次会も終わり、このホテルの部屋に帰ってきた私とスズカさん。

 服を全て脱ぎ捨てた私たちは、何の遠慮もなく、抱き合い、なめあい、愛撫しあい、溶け合うようにいつ果てることもなく、お互いの欲望を満たし続けることに没頭しました。

 

 その夜、私とスズカさんは数えきれない回数、めちゃくちゃ種付けをしました。



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第二十八話 スズ×スぺも良いものですよ

いやあ、種付けって便利な言葉ですね。放送禁止用語ではありませんからね。え? 最近では放送禁止? 嘘!? 
(未確認なんですけどね、本当にすいません)


 それからの話をしますね。

 

 結婚した私とスズカさんは、私の実家のある北海道日高市に移り住むことにしました。

 家は、実家の牧場の外れに建っている白壁の一軒家。

 お母ちゃんが結婚した私達のためにと、もともと物置の様に使っていたこの建物をリフォームしてくれました。

 少し小高い丘の上に建っているその家の二階からは、広い草原と遠くの山々を一望できます。

 家の裏手の山林には小川も流れていて、山から湧き出る冷たい水が一年中せせらぎを作っていました。

 牧場から伸びる、緑の斜面を縦断するようなでこぼこのダート道を、荷物満載の軽トラックでゆっくり上って、その家の前でお母ちゃんとスズカさんと私の三人で荷解き。

 半日かけて家具や家電製品を運び入れて、ようやくお引越しが完了です。

 本当はお母ちゃんとも一緒に暮らしたくてスズカさんの了解もとっていたのですけど、それをお母ちゃんが頑なに拒否。

 二人の邪魔はしたくないよと、お母ちゃんは今まで通り牧場の母屋で暮らすことになりました。

 まあ、離れているといっても同じ敷地内なのですぐにいつでも会えます。

 ほんの2000mくらいですし、2分くらいで着きますし。

 

 新居での初めての夜は、スズカさんと二人でキャロットケーキを焼いてお祝いしました。

 二人で蝋燭を灯してこれからよろしくお願いしますとあらたまって頭を下げて……

 

 それからムラムラとお互い盛り上がってしまって、服を脱ぎ捨ててひとまず種つけ。

 ひとしきり発散した後で、二人して裸のままでケーキを食べさせあったりしてから、再び種付け。

 疲労困憊してふらふらになりながら、汗を流しましょうとお風呂を入れて、二人で身体を洗いながらまた種付け。

 湯船の中では抱き合いつつ種付け。

 身体を拭きつつ種付け。

 寝室の入り口で種付け。

 ベッドに横になって種付け。

 夢うつつのままに種つけ。

 種付け。

 種付け。

 種付け……

 

 その日から、私とスズカさんの二人きりの種つけ生活が始まりました。

 基本いつも一緒にいるのですけどね、何かの拍子でスイッチが入るとすぐに二人で始めてしまいます。

 この家にはお母ちゃんも来ませんし、こんな丘陵の上なので他の人も来ることはありません。

 いるのは、野ウサギとかエゾシカくらいなもの。

 人目を気にしなくていいこの状況に、私もスズカさんも遠慮なくいつでもどこでも何度でも種付けをしました。

 丸一日、服を着ないで過ごした日もありましたし、いつも手をつないでキスをしていましたし。

 時には、裸のままで家の裏の森の、小川のほとりで種付けをしたこともありました。

 

 それはもう夢のような日々で、ここは天国なんじゃないかって自分の認識を疑ってしまっていたくらいですし。

 

 私はスズカさんと結婚できたんだ。

 結婚して、こんなに愛し合える関係になれたんだ。

 スズカさんのこの笑顔を私一人のものにできたんだ。

 

 考えれば考えるほどに幸せが沸いてきて、愛しさからスズカさんのことがどんどん欲しくなって、私からもたくさん誘っちゃいました。

 

 そのような、他所から見れば(ただ)れた、怠惰な生活を暫く続けられたことには理由があります。

 私たちは、新婚旅行を行わない代わりに、新居での夫婦生活を優先することに決めたんです。

 だから、これは私たちにとっての長い休暇。

 休暇ですから、本当に好きにお互い愛し合い続けました。

 

 その後も愛し合う日々は変わりませんでしたけど、私とスズカさんはお母ちゃんの牧場で働くようになりました。

 具体的にはレストランや売店の店員をやったりだとか、牧場内の練習用コースでのウマ娘向けのレースのコーチング。それと、時折休日などに、野外ホールで私とスズカさんの二人でコンサートを開いたりだとか、意外と毎日忙しい日々となっています。

 お母ちゃんも、私たちのおかげでここが観光牧場になって嬉しいと言ってくれています。

 遠方からもたくさんのお客さんが来てくれていますし、私たちがレースを走っていたころからのファンと言う人も多いですし、本当に頑張らないと!!

 

 お仕事は大変ですけど、大変なほど夜は二人して燃えてしまって、気が付いたら朝になっていたとか、そんなことも結構あって尚大変なんですけどね。もっとしっかりしないと。

 

 毎日が本当に充実していて、毎日が本当に楽しくて嬉しくて、私はすっごく幸せです。

 

 大好きです、スズカさんっ!!

 

 裸のままでソファーに座る私を、やはり裸のまま私の背中に胸を押し付けつつ、両手で抱き締めてくれるスズカさん。

 彼女は私の少し大きくなってきたお腹をゆっくりとさすりながら、振り向いた私に優しくキスをしてくれました。



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エピローグ 日本一のウマ娘へ①

さあ、ついにエピローグです。
スペとスズカがいちゃいちゃして終わるわけではなかったのですよ、実は。
まあ、この話の裏でも、くんずほぐれついちゃいちゃしているとは思いますけどね(笑)

ということで、残すところ今回ともう一話です。
ここまでお読みいただいた皆様には先に御礼を。
本当にありがとうございました。
こんなエロもガチも中途半端な小説をお読み頂いて、もう感謝しかありませんよ。

あと少しだけになりますが、どうぞお付き合いください。
ではエピローグの始まりです。


 時は流れて……

 

 

『ご覧ください。ここ京都レース場は今、大勢のファンの熱気に包まれて、今か今かと春の大一番、天皇賞の幕開けを待ち続けています。さあ、並み居る強豪の中……』

 

 

 場内は大勢の人たちのざわめきに溢れかえっていた。

 ターフへと出ると、眩い春の日差しが照り付けている。

 一度手を翳して目の眩みを押さえてから、周囲を見回した。

 スタンドには隙間なく入りきれないほどに埋め尽くされているファンの姿。

 そしてその歓声が振動となってレース場全体を震撼させていた。

 

 来た。

 ここに来れた。

 

 私は湧き上がる興奮と嬉しさに震えていた。

 拳をぎゅっと握って胸に当て、トクトクと速足になっている自分の鼓動を感じながら大きく息を吐いた。

 

 上京して数か月。

 まだ数回しかレースには出ていなかった。

 でも……

 私はその全てのレースで勝ち星を上げた。

 それも偶然なんかじゃなく、立てた作戦通りに走ることによっての全力の勝負で!

 うぬぼれているわけではないけど、私はこの今の走りに自信を持っていた。 

 身体に沁み込んだレース感と数々の技術は、一朝一夕で手に入った物ではなかったから。

 それこそ血のにじむような努力の結果でもあったから。

 

「ふう……」

 

 もう一度大きく息を吐いた。

 ここまでは順調。

 そして、今日のこのレースで、初のG1を獲得して、ここから始めるんだ。

 今まで誰も為し得なかった偉業を。

 そう……

 

『G1レース全冠制覇』を。

 

 ここから私は出走可能な全ての重賞にどんどん挑戦していく。

 そのためには一度だって負けてなんかいられない。

 必ず一着をとって、次のレースにも挑戦する。

 それこそが私の最大の夢……

 

『日本一のウマ娘』の証たるその称号を必ずこの手にするために。

 

 そう……

 

 二人のお母ちゃんの為に。

 道半ばでトップレースから遠のかざるを得なかった二人の為に。

 最強最速と謳われた二人の力が、本当に日本一であったのだと証明するために。

 

 大好きな、スペお母ちゃんとスズカお母ちゃんの為に。

 

 私は必ず日本一のウマ娘になるっ!!

 

「おーい、『スス子』。こっちこっち」

 

 胸の前でガッツポーズをしつつ、せっかく気合を高めていたというのに、急にそんな間延びした声が聞こえてそっちを見て見れば、飴玉を加えたまま剃り残したあごひげを摩りつつ手を振っているトレーナーさんの姿が。

 気がそがれてしまったけど、呼ばれてしまっては仕方ない。

 私はそそくさと、フェンス越しにこっちを見ているトレーナーさんの元へと向かった。

 

「よお、『スス子』。元気か? 緊張しまくってるか?」

 

 そんな風に気軽に声をかけてくるトレーナーさん。

 私はその様子にムッとしつつ、彼を睨んだ。

 

「スス子スス子って、こんな時くらいきちんと名前で呼んでくださいよ、トレーナーさん」

 

「なんだよ、別にいいじゃねーかよ。お前は㋜ぺと㋜ズカの子供なんだから『㋜㋜子』でぜーぜん問題ないだろ?」

 

「問題ありますってば! もうっ! トレーナーさんがそんな風にいつも呼ぶから、周りのみんなにもスス子ちゃんって呼ばれるようになっちゃいましたし……もうっ!!」

 

「ははは。その様子じゃ全然緊張はしてないみたいだな。ま、あんまり気張らずに楽しんで来いって」

 

「そうはいきませんよ! 楽しんでなんていられません。今回だって負けるわけにはいかないんですから。私は日本一のウマ娘にならなきゃいけないんですから!」

 

 そう言って気合を込めて拳を握り込んでみると、トレーナーさんが頭をぽりぽりと掻いた。

 それから、苦笑いを浮かべる。

 

「ほんっとにお前はスぺとスズカにそっくりだな。その一本気で生真面目なところとか」

 

「そ、そうですか?」

 

 お母ちゃんたちに似ていると言われるとつい頬が緩んじゃう。誰に言われたとしても。

 だって本当に嬉しいんだもの。

 

「ああ、そうだよ。で? お前は全勝して日本一のウマ娘になるわけだよな」

 

「はいっ! そのために、日高のお母ちゃんたちに、毎日毎日特訓してもらってきたんですから」

 

「無理矢理にお前に頼みこまれたって聞いてるぞ? あんまり自分の親をこき使ってんじゃねえよ。あいつらはのびのびやるタイプだったんだから」

 

「そんなの関係ありません! お母ちゃんたちが北海道に移ってから、レースの世界からお母ちゃんたちの話題がすっかり消えてしまったんですよ? 私はお母ちゃんたちがどれだけ凄かったのか、それを証明したいんです」

 

「別に消えちゃあないけどな。あいつらの打ち立てた記録は永遠に不滅だよ」

 

「それでもです! 私はいつでもお母ちゃんたちが褒められていないと嫌なんです!」

 

「ほんっとにわがままな奴だ」

 

「どうとでも! ふんっ!」

 

 まさかレース前にこんなに風にムキにさせられるなんて思わなかった。

 これでコンディション崩れちゃったらどうする気なの? 

 

「ま、どうせ我が『チームスピカ』はお前一人だけだからな。とりあえず適当に頑張ってせめて3着くらいまで入って、メンバー勧誘に貢献してくれよな」

 

「絶対1着ですってば!! それに!! チームが私だけなのは、トレーナーさんがちゃんと指導していないからじゃないですかっ!! まさかみんな辞めちゃって誰もいないなんて、想像もしていませんでしたよ!」

 

「だってよ、おハナさんと子供たちが可愛すぎるんだもの。そりゃ、さっさと帰って妻と子供たちを愛でたいじゃないか? だから別に俺は悪くない」

 

「うわぁ、また惚気られた。もうっ!! なんでお母ちゃんたちもトレーナーさんもそんなにニヤニヤして惚気るんですかっ!! もっと真剣にレースに向き合ってくださいよ!!」

 

「はいはい。おっと、そろそろ時間みたいだぞ? お前も早くスタートに行けよ。あ、万が一1着取れたら、A5松坂牛の焼肉食わせてやるよ」

 

「もうもうもうっ!! 呼びつけたのトレーナーさんでしょっ!!」

 

「ほら早よ行け、しっし!」

 

「絶対1着とって、食べまくっちゃうんですから! 泣いて謝ったって許してなんかあげませんからねっ! ふん」

 

 あんまりにも頭にきたので、そんな捨て台詞を吐いて私はスタートゲートの方へと向かった。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 観客席の一番前。

 つい今しがたまでそこで自分のチームの選手に話していた男は、握り込んでいた手のひらを開いてみて、それがぐっしょりと濡れていることを確認して思わず笑った。

 全身が震えていた。

 もうすでに泣きそうだった。

 彼は強気なことを言う彼女をからかってみせたものの、その実緊張に潰されそうになっていたのは彼自身の方だった。

 

 ついに来た。

 ついにこの舞台に上がった。

 

 あの、スペシャルウィークとサイレンススズカの子供が。

 彼女たちの血の滲むような努力と激しい戦いの数々をともに駆け抜けてきた彼にとって、目の前のこのウマ娘は本当に特別な存在であった。

 そして、そんな彼女が彼に宣言した言葉、それは……

 

「日本一のウマ娘になります」

 

 奇しくも以前、その言葉を、彼は彼女の母親の一人から聞いていた。

 最初はスペシャルウィークが教えた言葉なのかと思っていた。

 だが、電話で彼女へとその話を聞いてみると、そんなことは話していないと、彼女自身も驚いていたくらいだったのだ。

 その時から彼の新しい夢の幕が開いた。

 両方の母親譲りの素晴らしい足と、しなやかなバネのような上半身。それと、類まれな負けん気の強さと計算高さを兼ね備え、さらにまさに練習の申し子と呼べるほどの努力家。

 惜しむらくは、そんな自分の力を過信している節があって融通が聞かないところか?

 彼女の基質は頑固すぎるのだ。

 今まではそれで良かった。

 努力と作戦の2つで他の選手を攻略してくればよかったのだから。

 だが、これから先は違う。

 実力が拮抗してくる強豪と戦い続けるためには、自力を上げるだけでは済まないのだ。

 もし相手の策略が彼女の上を行っていたら?

 もし自分の作戦と違う流れが起きてしまったら?

 レースは生き物。

 思い通りになんてならない。

 そんなとき、ミスをしたことのない今の彼女には立て直しは困難になることだろう。

 それがよくわかるからこそ、彼は肩に力の入りすぎている彼女をからかったのだ。

 

 力を抜け。

 周りをよく見ろ。

 感覚を研ぎ澄ませ。

 

 それができたならきっと……

 

 きっとお前は……

 

 じわりと再び手の中に汗が流れた。

 

 彼はまた笑う。

 この子の実力は本物だ。

 だから、その夢を叶えてやろう。

 いや、俺の夢でもあるからこそ絶対に叶えるのだ。彼女と二人で。

 

「日本一かよ……」

 

 彼はそう呟きつつ、ターフを跳ねるように駆ける、紫色のレース衣装の彼女に、かつての二人の教え子の姿を重ねて見ていた。



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エピローグ 日本一のウマ娘へ②

「おいおい二人共? そろそろ始まんだからちゃんと目を開けなって」

「そうですわ。あ、ほら、あそこにいますわよ。ほらほら」

「うう……」

「そんなこと言われても……」

 

 アリーナ席の上段、賓客用の座席で、藍と若草の色違いの薄手のワンピースドレス姿で着飾ったスペシャルウィークとサイレンススズカの二人が、手を組み合って縮こまってギュッと目を瞑っていた。  

 そんな二人に、ダメージジーンズ姿のゴールドシップとフリルのついた白色ブラウス姿のメジロマックイーンの二人が詰め寄っていた。

 

「む、無理ですよぉ。だ、だってあの子の初めての大一番なんですよ? もし何かあったらって怖くて」

「そ、そうね……私も凄くドキドキしてしまって……まさか自分の子のレースがこんなに緊張するなんて、思いもしなかったの」

 

「ていっ!」

 

「きゃ」「わひゃあ」

 

 二人の間にゴールドシップが手刀を落として離れさせる。二人共、おずおずとゴールドシップ達を見上げた。

 

「まったく、あのスペとスズカがそんなに怯えるなんてさ。大丈夫だよ、あの子はお前らが思っているよりずっと強いから」

 

「だってぇ……」

 

 すでに泣きそうになっている二人を、かつてのチームメイト達が取り囲んで声をかけ始めた。 

 

「スペ先輩、スズカ先輩。あの子の負けん気の強さは俺たちが保証しますよ。めちゃくちゃ根性凄いですから。な、スカーレット」

「ええ! ホントですよ。この前なんて私達がスタートの指導した時に、私達に完全に勝つまで何十回も練習付き合わされたんですから。私たちの方がヘロヘロになりましたよ」

 

 そう話すのはウォッカとダイワスカーレットの二人。

 その脇から今度はスカジャンスカート姿の小柄なウマ娘。

 

「ボクも保証するよ。あの子ダンスのレッスンも全然手を抜かないし、ボクの最新のステップも完コピしちゃったしさ。キレッキレすぎてボクが引いちゃったくらいだもん」

 

 と笑うのはトウカイテイオー。

 

「それだけではありませんわ。彼女にはワタクシがみっちりとレース戦術を叩き込みましたもの。先日泊まり込みで過去の様々なレース展開を元に、戦術の組み立て方をレクチャーしましたけれど、まるで水を吸うスポンジのように知識を吸収していましたわ。彼女の優秀さはこのワタクシが保証いたしますわ」

 

「だから性格きつくなっちゃったんだな。マックィーンのせいだった」

 

「ちょっと! なんでワタクシのしたことが悪いみたいに言われなきゃなりませんの!? だいたいこの前あの子が言っていましたわよ。 ゴールドシップさんがとても怖いって。いったい何をなさりましたの?」

 

「あ? えーと、メンタル強化でやらせてた10,000ピースのジグソーパズル、完成間際にわざとぶっ壊しただけだけど?」

 

「ゴルシそれはちょっと」

「普通にメンタルやられるな」

「流石に引くなー」

「いったいあなたは何をなさっておいでですの!?」

 

「まあ、いーじゃん。ほらあいつ、負けず嫌いだからさ、私が壊したそばからまた黙々と作ってたから、完成間際にもう一回壊したんだよね。ぎゃーって絶叫していたな。流石に3回目は壊さなかったけど、そう言えば、完成してからガタガタ震えながらこっちを見てた」

 

「二回も……」

「ひど……」

「それ間違いなくトラウマだよ」

「あなた、そのうち本当に刺されますわよ」

 

 マックィーンとゴールドシップの漫才のようなやりとりに、他のメンバーが合いの手を入れるような感じで笑いあっている中、スペシャルウィークとサイレンススズカの二人だけはやはり憂鬱そうな顔になっていた。

 

「ねえスぺちゃん。あの子大丈夫よね?」

「もう分かんないです! でも、お願いだからケガとかしないで……」

 

「スぺ、知ってるか? 言葉にすると本当になっちゃうもんなんだぜ」

 

「「ふぇええっ!!」」

 

 にやにやしたゴールドシップがそんなことを口にする脇で、二人は抱きあって目をまた瞑った。

 

 そのような感じでワイワイガヤガヤと着飾った元チームスピカの面々が会話をしている場所から少し離れた席で、この会話に聞き耳を立てつつ微笑んでいる男の姿があった。

 黒のスーツベストに黒のズボン。足元に黒カバンを置いたその男性の顔には、斜めに傷跡が走っている。

 そんな彼の隣には髪にリボンを巻いた小さな少女の姿があった。

 

「ちぇんちぇえ? なんで競馬場に来たのよさ? あたちお馬さんは見るより乗る方がしゅきなんりゃけど?」

 

「ふ……、ここは競馬場ではないよ」

 

「競馬場じゃないの? ふーん? あ、え? あの娘たち、みんなお尻に尻尾はえてりゅよ、ちぇんちぇえ? え? ここってひょっとしれこしゅぷれ会場!? ちぇんちぇえ!! ちょんなエッチな趣味は奥さんのあたちが絶対ゆるちまちぇんからね! ぷんぷん」

 

「落ち着けよ。私はただ、昔治療した患者を見に来ただけだ。それと、その娘のこともな」

 

「患者ちゃん? どこ? どこ?」

 

「まあいいじゃないか。それよりもあそこにいる紫のウェアのウマ娘が、私の患者の娘だ。それと……、ふふ、まさかブエナビスタ号までいるとはな……この世界は本当に摩訶不思議なことだ」

 

「ウマ娘? ブエナビスタ? え? ひょっとして、あの娘たちがお馬しゃんなの!? あっちょんぶりけーなのよさ!!」

 

 と、両手で頬を押さえ込んで絶叫している少女に微笑み返しつつ、傷の男は静かにターフを見下ろしていた。

 そこにいる彼の治療の証とも言えるウマ娘の少女と、本来ならば存在できるはずのないウマ娘の姿を。

 まさに不可思議なその光景に彼はただ微笑み、そしてこれから起こるであろう未知のシナリオのことを考え楽しんでいた。

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「わあ、やっと来た! 駄目だよ遅れちゃ」

 

「わーん、ごめんなさい、ブエナビスタお姉さま」

 

 スタートゲート前に慌てて移動すると、そこにはにこりと微笑んでくれている黒鹿毛のお姉さまの姿が。

 私がトレセン学園に入学して、最初に出会ったのが、このブエナビスタお姉さまだった。

 本当に素敵だった。

 まだここのことが良くわからなかった私は、初日に府中レース場で大勢の観客の声援に包まれながら一着をとったお姉さまを見た。

 本当に凄かった。

 とっても速くて可愛くて、そしてお茶目な人。

 見た人みんなを魅了してしまう、そんな人。

 私も一目で大好きになってしまった。

 いつかこの人と走りたい。

 この人と競い合いたい。

 そんなワクワクした感情のままに学園生活をスタートして、そして寮で再会して仰天した。

 同じ部屋でルームメイトだったから。

 そしてそこから私の夢への道行きが始まったの。

 

「日本一のウマ娘になる……その最初のレースだもんね。応援はしてるけど、私絶対手は抜かないから! 今日はお互い頑張ろうね!」

 

「はい! お姉さま!! 私も中途半端には走りません! 絶対全力です!!」

 

 そう言いあって握手。

 手袋越しにお姉さまの体温を感じて、思わずドギマギしてしまったけど、それも今だけ。

 レースが始まればもう後には引けない。

 とにかく全力をだすだけだもの。

 

「やあ……『アイドル』と『日本一』コンビか……。仲良く着順の相談でもしていたのかい?」

「そんなことしたって無駄ですよ。何しろこのレース、一番人気と二番人気の私たちがそのままワンツーフィニッシュになりますもの。せいぜい3着目指して頑張ってくださいね。もっとも、それだけの実力があればですけど」

 

「『ブルーファンタジー』ちゃん、『プリンセスコネクト』ちゃん……それはちょっと言いすぎ……」

 

 とても酷いことを言われて本当に頭に来たけど、お姉さまが私の前に出て二人へと文句を言おうとしてくれたからすぐに冷静になれた。

 だから私はお姉さまを制して何も言わないままに二人の前へ身を乗り出した。

 その様子に、二人の先輩は薄く笑う。

 

「なんだ、何か言い返すのかと期待していたんだけど、とんだ期待外れだったかな?」

「そうそう。身の程はわきまえた方が良いですよ? 特に日本一のウマ娘さんは、ご両親が『故障』と『病気』になられていましたものね。あまりご無理為されない方が良いのでは? ふふふ」

 

 そんなことを言う二人に、お姉さまがまた飛びかかろうとしたけど、私はその手をぎゅっと握って引き留める。

 そして手をつないだまま向きを変えてゲートへと向き直ってから少しだけ言った。

 

「先輩方……口が随分元気なご様子ですね。どうぞ頑張ってたくさん喋っててくださいね、私たちは頑張って走りますので」

 

「は?」

「え?」

 

 二人は強気な私の言葉に絶句してしまっている。

 それを見て、ああ、この人たちには大した信念は無いのだなと残念な感情が沸き上がった。

 だからではないけど、私は彼女たちに強い口調で言った。

 

「La victoire est à moi(調子に乗るな)」

 

 そのまま振り返らずにゲートへと向かう。

 隣ではブエナビスタお姉さまが呆気に取られた感じで私を見ていた。

 

「びっくりした。あんな怖い顔もできるんだね」

 

「だって、ゆるせなかったんですもの」

 

「え? なにが?」

 

「私とお母ちゃん達だけじゃなく、お姉さままで悪く言われて。そんなの絶対耐えられません!」

 

「もう……そんなこと言われたら……あなたのこともっと好きになっちゃうじゃない」

 

「私はお姉さまが大好きなんです!」

 

 本心を言ってしまってちょっと恥ずかしかった。

 でも、にこにこ微笑むお姉さまが本当に可愛くて、別に言ってもいいやって思えてしまったからしかたない。

 レースは別ですよ。宣言通り手加減なんてしませんからね。

 本気で行きますよ。

 

 お姉さまとつないだ手を離して、一度視線を向けてからゲートへと入った。

 そして前を向く。

 ここから先は真剣勝負。

 今まで努力してきた結果をここで描ききる。

 そして始めるんだ。誰も無しえなかった偉業を。

 私の大好きな二人のお母ちゃんのために。

 そして、私自身の為に……

 

 さあ、いよいよ……

 

 私の先に眩く広がる道。そこへと続くかのような目前のゲートが今……

 

 開かれた―――――

 

 

   ×   ×   ×

 

 

『さあ、レースが始まりました。最初に飛び出したのは、大外13番、『スペシャルスピカ』—————』

 

 

 

 

 

 






最後までありがとうございました。

後書きが少し長くなりそうですので、後ほど追加で投稿いたします。


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後書き

 そしてスピカ×ブエナの種ウマ娘が始まる……なんちゃって。 

 始まりませんよ、悪しからず。

 

 ということで、ようやくこの物語も終わることになりました。

 ウマ娘の二次小説とか言っておきながら、その実オリジナル展開、オリジナルキャラをバンバン出した挙げ句、ラストはスペでもスズカでもない、二人の娘だとか、いやはや二次小説の皮を被ったペ○ス……もとい、オリジナル小説でございました。

 まあ、仕方なかったのですよ。

 何しろ書き始めるきっかけが、「ウマ娘ってどうやって産まれるのだろう?」という素朴な疑問から始まりまして、「スペシャルウィークは牡だね? サイレンススズカも牡だね? でも作中だと牝だよね? これいかに?」とまあ、こんな感じで考えつつ、「原作アニメのスペとスズカって、なんかいちゃいちゃしてるよね、微笑ましいよね、というかむしろ良いよね! 百合百合! 尊!!」

 とまあ、こんな欲望がムクムクと育ってまいりまして、春の天皇賞も近いし、それに合わせて小説を書いてみようかな? と始めてしまったわけです。

 そしてつけたタイトルが「種ウマ娘」。

 いや、もう見も蓋もありませんね。

 種馬ですよ?

 まさに種牡馬。

 日本の誇る種馬といえば、スペシャルウィーク、サイレンススズカ、ディープインパクトなどの親でもあるサンデーサイレンスがまず頭に浮かびますけど、この春の天皇賞をとったフィエールマンはディープインパクトの産駒ですし、数年前に親子二代ジャパンカップ制覇を為したブエナビスタの父親は、スペシャルウィークです。

 競馬の何が素晴らしいって、そのような名馬の血統が脈々と継がれて、大舞台でドラマを繰り広げること、これにつきます。

 では、ウマ娘の世界では?

 ここはそれこそ、そんな全世代の名馬が一堂に会してドリームマッチを繰り広げる。

 年の差、時代、歴史を飛び越えての戦いは、それはまた格別の楽しみでもあります。

 でも、血統という、競馬の楽しみも味わいたい。

 まあ、だからこその種ウマ娘設定なんですよ。

 この作品では、牡を種牡ウマ娘、牝を繁殖ウマ娘と呼ばれていて、牡はある時期までメスで、そこから性転換してオスになります。つまり『ふたなり』ちゃんなわけです。

 まあ、女性器の方は退化するので、グラマラスなボディの男の娘って感じが正解なのですけどね。ルドルフとかマルゼンスキーは妖しさ満点ですよね、間違いなく。

 さて、ここからです。性転換できるなら、史実が牡でも妊娠させてしまえるのではないか?

 となれは、スペシャルウィークとサイレンススズカのこどもだって……

 ということで、娘ちゃん登場というわけです。

 最初から出てきていたわけですけどね、スペに似ていますから勘違いしちゃったかもですけど。

 

 スペシャルウィークとサイレンススズカがいちゃいちゃして、ラブラブして、ペ○スペ○ス連呼して、えっちな戯れをしまくる。

 そんな、夢ある世界を見てみたかっただけなんです!

 いえ、私は変態ではありませんよ? ちょっと趣味が特殊なだけで。

 とりあえずこの作品はこれで終わりますが、裏話は色々考えていました。 

 繁殖センターのスペの家には、今ゴールドシップとマックイーンが二人で暮らしていて、毎晩同じ布団で寝ているとか、ウォッカとスカーレットがどっちが先に妊娠するか競争していたりとか、テイオーがルドルフにべったりだとか、キタサンとアーモンドが海外旅行しまくっているとか。

 それと、肝心のスペ、スズカは、北海道でのびのびといちゃいちゃカップル生活を勤しんできましたとか。そんなサイドストーリー。

 いずれ追加していくかもしれません。

 が、とりあえずはここまでです。

 

 最後の最後までのお付き合い、本当にありがとうございました。 

 それではこの辺で。

 またいつか、お会いしましょう。

 では。

 

 令和元年5月14日

 こもれび



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