東国戦遊志~夢~(東国幻想郷シリーズ) (JAFW500/ma183(関ケ原雅之))
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東国戦遊志~夢~#1 下弦の月
この作品は2次創作。
東方×ドラゴンボールとその他(特別編扱い)のクロスです。
戦闘力は撤廃し、相性などの相対関係での強さになります。
時系列は旧作終了の時点で、そこから先はちょっと(?)原作本来の流れと違う流れになります。
このシリーズでは「オリジナルキャラクター」・「大幅のオリジナル設定」が出ます。
東方とドラゴンボール二つの要素を持ちながら、「どちらでもない」、「新しいお話」です。思い切って始まった新しい「幻想郷」を心ゆくまでお楽しみください。(どちらかというと東方っぽいような…。)
(注)第弐幕のだいたいの流れ
・東国戦遊志 フリーザ・バーダックがメイン
・東国戦遊志~紅~ ラディッツ、妹紅、輝夜チームがメイン
・東国戦遊志~夢~ レイム、ルーミア、がメイン
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皐月(5月)上旬
[newpage]
[chapter:新しい妖怪?]
<妖怪の森>
いつの時代であっても虫というものは、なかなか人に歓迎されるものではないらしい。ムカデ、毛虫、蛾…。殺虫剤の餌食になるものは大体そういうものが多い。
「今日もゼロか…。」
小高い丘にそびえ立つ大木から薄っすらと見える街明かりをぼんやりと見つめる少女が一人幹を背にして眺めている。彼女の名はリグル・ナイトバグ。蛍の妖怪でありながら蟲を束ねるといった、使い方次第ではかなり手強い能力を持つ。猛威を振るっていた彼女だが、それも今や過去の話となりつつある。百年前を境に蟲たちの力が弱まり続けてしまい、威厳を持っていた彼女の姿も衰え始めこんな少女のような姿にまで戻ってしまったのだ。
「それにしても…元気ね…。ホント…。」
「え!?」
最近、この廃れ始めてきた妖怪の森に新しい妖怪が現れた。宵闇の妖怪で名前はルーミアだと言っている。かつて、この地には人食い妖怪ルーミアと言われる者がいたらしいが数週間前のあの者たちの襲撃以来、姿が見えない。そして、この目の前にいるこいつは…、どこかしらその面影がある。しかし、記憶がないというのだからおかしい。そもそも、こんな姿になってしまった私だってかつての記憶はある。ならば、彼女は何者だろうか…。まさか、遠い親戚か隠し子なのか…。
「何なんだろう私…。」
「…?」
何の話をしているのかその金髪の少女は分からないらしいが、こっちもなぜ彼女を助けたのか理由がよくわからない。ただ、何となくだった。何か求めていたものに導かれるようにボロボロだったこの子に手を伸ばしていた。そして、終いには手当までしてしまった。
「り~ぐ~る~、今日何するの?」
「どうしようかな…。」
思い返せば、彼女も成長したものだった。つい2週間前まで「わはーっ♡」とか、「わいッ!」ぐらいしか喋れなかった彼女が普通に同じような言葉でしゃべれるようになった。そして、最初は四六時中かじりに来ていて鬱陶しかったけど、次第にそれも消えた。人間だったらこういうの何て言うのだろう…。
月下のヤツメナナツメ~もう歌しか聞こえない♪
「そうだ、せっかくだしこの歌の主に会いに行ってみるのはどう?」
「さんせ~♡」
こうして、ちょっと楽しい夜の散歩が始まった。この声の主はもう知っているのだが、久しぶりに行ってみる気になった。また新たな仲間を紹介しつつ小さな宴でも楽しみに。
[newpage]
[chapter:主人公たちに夜はない。]
<博麗神社>
やる気が出ない者が一名、いつもと変わらない星空をぼんやりとみている。
「あの、変態レオタード、いったい何なのよ…。」
時をさかのぼる事、約2週間前、里の北にある玄武の沢に変な格好をした男がいると聞かされ、嫌々行ったのだが、見た瞬間戦う気がどっかに行った。というか、あれは人なのだろうか、なんか顔色が悪そうな色だった。
「なんなのよあんた…。」
「貴様が博麗霊夢か…。」
「いや…まあ…。そうだけど…。」
「ならば、話が早いな。」
すると、その男は沢の崖からふわりと飛び降りこう続けた。
「この辺にサルみたいな尻尾の生えた人間はいないか?」
「………?」
いきなり何を言い出したのか。質問が全く分からない。
「単刀直入に言ってやろう。サイヤ人はどこだ。」
「………??」
やはりだめだ。1ミリも分からない。
「サイヤ人って…。宇宙人か何か?」
すると、さも当然のようにこの男は語り始めた。
「俺たちはフリーザ軍だ。いずれここ一帯を占領するだろう。だが、あまり横暴なやり方をしようとは思わない。この美しさはなかなかないものだからな…。」
「…。」
話が跳びすぎて解らない。ただ、ここを侵略するとか物騒なことを言っているらしいけど…。
「しかし、確実に邪魔をしてくれる奴がいる。サイヤ人と言って戦うことしか頭にないサル野郎共だ。おかげでこっちもかつて大きな痛手を受けてしまった…。とにかく、俺たちはそいつらを真っ先に殺しここを征服しなければいけない。そういうことなのだ。」
「征服ねぇ…。」
やはりこの男、頭のネジが抜けている。魔理沙が最近『話題になっている』って言っていたあれになったつもりだろうか。
「やはり、貴様も信じないらしいな…。」
「当たり前でしょ ここを征服できるはずないでしょ。」
「なるほど…。せっかくだ、貴様で少し遊んでやろう。」
「本気で…言ってるの………?」
「新しい変身を手に入れたこの俺に負ける要素はない。」
こうして、変態相手に戦ったのだが変に強い、特に変身してからがおかしい。技が殆どよけられてしまった。
「さてと意外に時間が過ぎてしまったな……。前菜は放って他をあたるか。」
「ちょっ、こらッ!前菜扱いとは失礼なッ!!」
「貴様程度ではフリーザ様の相手にすらなれん。さらばだ!」
「あっ、このっ、待てっ!!」
あれから、今日にいたるまで何の情報もやってこない。
「かわれたのかしら…、だとしたら悔しいわね。」
「修行が足りないのよ、修行が。」
「はいはい、分かってますよ…。やればいいんでしょ。………はあっ…、嫌だなぁ修行…。」
なんだか、心が暗くなっていく。いや、それより頭がまた重くなっているような…。
「って!魔理沙!?」
「うだうだ言ってないで、またいつもの始めるわよ。」
なんか前にもこんなやり取りがあったような…。
「またかい…。」
「まあ…。それより、聞いてないの?また、あなたの母さんがどっか遠くの方へ修行へ向かったって…。」
「ああそう………、って、ええ!?」
私の母さんは、自分に代を譲って普通の人に戻った。あれ以来特に本格的に動くことはないはずだった。けど、この修行の話はおそらく違う。そこまで動かないといけない何かヤヴァイことが起き始めてるらしい。
「『夏までには帰ってくるから死ぬ気でがんばってね♡』って言われたけど…。」
「………。」
まずい、本気だ。『死ぬ気』って言葉を言うときは大体その言葉通りのことが起きる。
「さ~て、このまま修行に行くけどどうするの?」
「い…。」
「い?」
「行くわよ…。」
「決まりね♡」
こうして、あの老いぼれ爺さんを連れて本格的に修行をすることになてしまった霊夢だった。そして数日後、暇になってやってきた魅魔によって神社はまた破壊されてしまったのだった。めでた…くはないか………。
[newpage]
[chapter:祝!ロリスinマーガトロイド]
<魔法の森>
「さ~て、どうしよっかな……。」
神社を破壊したものの次の一手が思いつかない。魔理沙はどっか行っちゃったし、いじめようと思った霊夢もついて行ってしまった。そして、レイムを操っていたと思われる奴から届いたこの挑戦状。
――――次にこの地に戻る時、河にかかりし橋を隠し、究極の闇を以てこの地を滅ぼさん。――――
前半は分かった。しかし、後半が解らない。おそらく、彼女と関係があるものだと思うけどはぐらかされた。
「お茶を淹れて参りました、御主人サマ……。」
「………そうだ…。」
挑戦状を畳み机の上に置くと、魔法を発動させいきなり戦闘用の衣装に変えた。
「こ………こんどは何なの………。」
「主人に合わせて、ちょっとメイドもグレードアップってね。」
「え!?」
「それっ!」
魅魔が右手に持っていたその杖を天井にかざすとアリスの周りが不思議な風に包まれていく。
「ちょ、ちょっと!」
「光の力を纏いし風よ新たなる姿をこのメイドに与えよ、契約の主、魅魔が命ず!」
―――― 解放(release) ――――
「………。」
「う~ん、こっちの方もなかなか捨てがたいな…。」
青のワンピースのようなノースリーブに、ロングスカート。肩にはケープのようなものが付いており、頭にはヘアバンドのように赤いリボンが巻かれている。比較的小さかった身長も霊夢たちと同じぐらいにまで成長した。
「い、意外とまともにやってくれたわね。」
最初はそのままやり返そうと思ったアリスだったが、ちょっと大人らしい格好に満足したのか仕返しをやめてしまった。
「これぐらい当然よ♡さてと…。」
すると魅魔はドアを開けて、ふわりと宙に上がった。
「どこへ行く気?」
「魔界♡」
その言葉を聞いた時、足が一歩前に出ていた。
「連れて行きなさいよ………。」
「ん?」
アリスは、拳を締めるとこう言い放った。
「連れて行ってくださいッ!!ご主人様ァ!!」
その言葉を聞いて、魅魔はこう返した。
「いい覚悟ね……。いいわ、あなたを、主のところまで連れて行ってあげる!!」
魅魔は何かを唱えると直上に穴を開け、彼女と共にその中へ入っていった。
<魔界>
「また来たの………。」
「いや……まぁ♡」
「………。」
まさか、ホントだとは思わなかった。魅魔の目の前にいるのは創造主にして、この世界の神。神綺様だ。
「ところで、今日は何の目的かしら…?」
「ちょっと借りていた従者を返そうと思って。」
「え………?」
「あの~、神綺様。私です、アリスです…。」
「…。」
すっかり変わってしまったアリスを前に愕然とする神綺、そして夢子。
「いったい何をしたのですかッ!!」
夢子が短刀を魅魔の胸元めがけて投げる。しかし、すぐに魅魔は持っていた杖の先でこれをはじいた。
「不思議の国のアリスから魔法使い少女アリスに変えたってところ♡」
全く余裕を崩さない魅魔、やはり彼女が神綺様を倒したのは本当だったらしい。
「こいつ…。」
「待って、夢子ちゃん。」
戦闘態勢に入ろうとした夢子を神綺が制した。
「人間界の神様だったかしら?」
「そう♥(嘘)」
「だったら、取引ていうのは知ってる?」
「何を取引するのかな~?」
「まず、あなたのメイドになっているアリスちゃんとあなたの持っている神の座をこっちに渡して。」
「残念だけど、神の座は譲れないねえ…。」
「なら、この夢子ちゃんと勝負して、貴方が負けたら、アリスちゃんだけはこっちに渡してもらえるかしら?」
「………いいわ。但し、私が勝ったらそっちの神の座をもらうね♡」
「私が神の座から降りれないのは知っているでしょ…。」
「さっきのは嘘♡そっちが勝てなかったら私がこの魔界に自由に出入りするのを許可するでどう?」
魅魔の周りに魔力が滲み出ている。戦う気だ、それもかなり本気で。
「交渉成立かしら…。」
「もちろん、さてそっちもカードを出してもらおうか。」
「いいわ。夢子ちゃん。」
「はい。」
「この勝負任せたわ、パワーアップしたあなたの力見せてあげなさい。」
「わかりました、神綺様。」
夢子。神綺の賭けを任せるのにまさに相応しい者だ。去年の戦いでも魅魔を相手に何度か打ち負かす程の実力者であり、魔界人の中で最強クラス。
「なるほど、ここで私に勝てば救世主ってところかい?」
「この魔界の玉座につけるのは神綺一人、人間の神である貴方に座らせない。」
両者それぞれ構えに入った。
「かかって来な!」
「いくよッ!!」
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[chapter:新たな息吹き]
<北の里への道>
「なんかどっと疲れたわ…。」
「レイムさん、休みますか?」
「気持ちの方、このまま歩いて明日には着くようにするわよ。」
「は~い!」
久しぶりに空を見上げてみた。あの戦争の時と変わらぬはずの空だが、今こうして見ると違って見える気がする。未だ暗い心に散らばる夢のかけらのように、一つ一つの輝きは弱いけれども集まったときそれは線となり明日の先をつないでいるのかもしれない。
「ところで、あんた名前まだ無いんだっけ…。」
「あ…そういえばまだつけて貰ってなかったですね。」
私の隣に並んで歩いているこの子が私の前に現れたのはつい先日のことだった。
あの黒紫との戦いから約1週間、レイムはやっと回復し動けるようになった。なぜ修行に行こうと思ったのか、それは彼女が操られた後、暗闇をさまよう中に見た「夢」だった。満天の星を包みゆく闇、それが何を意味するのかよく分からないがあまり遠くない未来だと感じた。
「さて、それじゃあ出発しようかな…。」
「待った。」
「!?」
「せっかく助けたんだ礼の一つぐらい私にしてもいいだろう。」
「礼をするようなことなんてしたかしら?」
「あの金髪の少女に力を渡して倒れてしまっていた時…。」
「あの時の?」
この数日前、レイムは黒紫と戦った後、死にかけていたルーミアに自分の持っていた『闇の力』を全て渡してしまったのだ。そして、彼女の意識が戻る前に力を抑える封印まで施したのだがそこで力尽き倒れてしまったのだ。
「まあ、なければいいが…。」
「なら…。」
レイムは背負っていた籠を下ろすと、入っていた箱の中から酒瓶と杯を取り出し、静かに渡した。
「それで充分かしら…。」
「………なるほどすっと体に入っていく酒か。」
ただ、ちょっとレイムは悔しかった。せっかく楽しみに取っておいた物が一つ減ってしまったのだから。
「悪くないな。」
「早く帰って欲しいわ…。」
「せっかくいいものを貰ったからな…。サービスで一つプレゼントでも渡してやろう。」
「え!?」
するとその者はどうやって持ってきたのだろうか。神社に置いてあった狛犬を置くとその背中に扉を創り、一気にその力を開放した。
「………?」
「………石像が人に…。」」
「それじゃ。」
「待て!貴方…何者かしら…。」
「とうとう私も忘れられてしまったのか…。」
「いいから。」
もう一度問い詰めると、呆れつつ彼女はこう返した。
「摩多羅隠岐奈…この国を創った賢者の一人と言えばわかるかな。」
「賢者…そんなこと紫も言ってたわ。名前は初めて聞いたけど。」
レイムは握っていた拳を緩めると構えを解いた。
「ところで、あなたのその不思議な力、一体どうなっているの。」
「まあ、いつか分かるかもねその日が来たら…。では。」
そう言い残すと暗い森の奥へと姿を消していった。
「レイムさん、レイムさん。」
「!?」
「どうしたんですか?いきなり黙り込んで?」
「いやちょっとね…。ええと…どこまで話したっけ?」
「私の名前ですよ…。」
レイムは歩きながら考えた。大体、名前というものをしっかり考えた事はない。霊夢のときは、ほぼ直感でやってしまい自分と呼び方の見分けがつかなくなってしまった。仕方がないので一般にセンダイと言われることに決めたのが約10年前の話。
「狛犬で…口を開けていたから…。」
当て文字になるけど、やはりこれぐらいしか思いつかなかった。
「『高麗野あうん(こまのあうん)』でどうかしら…。」
「………。」
やはりまずかったのだろうか、反応が来ない。
「い………。」
「…。」
「いい名前ですね!!流石先代様、気に入りましたっ!!」
よかった、どうやら考え直すことなく一発で決めることができた。
「あれ?なんでそのことを知って…。」
これまでつい普通に話していたが今、気が付いた。『先代様』って言っていた前から、この子、私から名乗ってないのに『レイムさん』と呼んでいたのだ。
「実はわたし、あの時まではただの石像だったみたいで…。あの時、魔力で宿っていた神霊が体を持ったんですよ。だから、これまでの博麗神社の事ずっと見てきたんですよ。霊夢さんや貴方の事、そして亡くなってしまった元・神主様のことも…。」
「そう、ならば私が今まで行動したことも分かっているのね…。」
「まあ、大体ですけど…。でも勘ならそこら辺の者たちよりはありますよ。」
結局、あいつの正体は神秘の中らしいが頼もしい仲間を残してくれた。そして、この子のおかげで失いかけていた生きる気力がちょっと湧いてきた。これまで使っていたあの『夢想テンセイ』に代わるものを身に着けて、またここに戻ろう。おそらく、紫が動けなかった私に渡したのであろう、この名もなきカードと共に。
「さて、あうんちゃんだっけ…。もう少しでこのきつい峠を越えるわしっかり気を張っていきなさい。」
「はいっ!!」
新たな風が山の彼方から吹いている。ここから、朝日を見ることができたらどれほどスッキリとするのか…。しかし、ここで満足するわけにはいかない。どんな壁も越しきるまで油断しては越えられないのだから。
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[chapter:穏やかな灯]
<神社へ続く道>
「それ…、美味しいの?」
「美味しいわよ!…多分………。」
虫の泣く声しか聞こえないほど静まった夜。大き目の七輪を囲み、3本の竹串に開いた肴を指し川側から火であぶっている。
「まあ、こんなところかな。」
取り出した肴を持ってきた壺に浸けてまた火の中に戻した。
「あとどれぐらいかかるの………。」
「まあ、2回は……。」
ここまで、かなり時間がかかっているのだがあと2回はこれをやるらしい。
「う~ん、何か面白いことがあればな………。」
「しょうがないでしょ、また歌ったらあの小さい巫女に蹴飛ばされるし…。」
今、このヤツメウナギを焼いているのは、ミスティア・ローレライ。最近は、暇になったのかウナギの蒲焼に挑戦し始めたらしい。そしてついさっき、ここでロックをやっていたら寝不足続きになっていたのだろうか、すごく機嫌の悪いあの紅白を呼び寄せてしまい、『退治』されてしまった。
「じゃあ、朝とかならいけるかも!」
「朝にロックって合うと思う?」
「思う………?」
「なんで『?』がつくの…。」
「……いけないこともないかなって!」
この、能天気な妖精はチルノ。氷の妖精で、バカ…なのかもしれない。肝心な時以外は特にこれといって凄いことがない。もうこれが『平常運転』なのかもしれない…。
「とにかく、あと2回。それまで我慢するしか――――」
その時、目の前を淡い光が一つ横切った。
「これはホタル………かな?」
「!?ホタルだって!?」
「はらすぐそこ、チルノの肩に!」
チルノの肩にその蛍が止まった。
「ほえ~、珍しいこともあるんだね…。」
本来、チルノのから滲み出る冷気であまり虫も妖精も近寄らないのだが、どういうことだろうか。この蛍は彼女の肩に乗っているのだ。
「!ちょっとまって、今まだ5月に入ったばっかじゃ…。」
「そうだっけ?」
あの変な集団が里を襲って約3週間。先日、やっと藤の花が咲き始めるようになった。しかし、ホタルは普通5月下旬頃。まだ、この時期ではない。なれば、このホタルの主の正体は分かった。
「いるんでしょリグル。」
「結構上手くいったと思ったんだけどな…。」
茂みの奥から小さな影が二つひょっこり現れた。
「あれ、なんか増えた?」
「まあ、その…。増えたというか増えちゃったみたいなの…。」
なんか、リグルの歯切れが悪い。
「………?」
その隣にいる金髪の少女は首を傾げたままこっちを見ている。どこかで見た妖怪と似た気がするけど全く浮かび上がらない。
「えっと、先に紹介するね。この子が新しくこの森に入ったルーミア。」
「よろしく~。」
どうやら、暢気な子らしい。口調がほわ~んとしている。
「じゃあ、先に…。」
先に口を開いたのはあの氷の妖精からだった。
「あたいはチルノ。この森の向こうにある湖の主よ。」
「私は、ミスティア・ローレライ。ミスティでいいわよ。」
「チルノ…ミスティー!!」
笑顔を浮かべると、その子はいきなり二人に向かって走り始めた。
「待って、まだ肴が…。」
「よっと。」
七輪にぶつかる直前、チルノがその子を引き寄せ事なきを得た。
「ちょっと、リグル!しっかり見ててよ!」
「あっ、ごめん、ごめん。」
リグルは申し訳なさそうに頭をかいていた。なにか気にしていたのだろうか彼女らしくもなく注意が明後日の方を向いていた。
「あれ、また何か焼いているの?」
リグルの視線がミスティの手元に移る。
「新しい肴でもどうかなって…。」
やっと3度焼きが終わったらしい。すると、彼女は近くに置いてあった飯ごうを開け、小さな茶碗を3つ出し、それぞれに盛り分けた。
「それは?」
香りにつられ、あの新入りの少女の興味もこちらに向いた。
「まあ、季節外れのうな丼みたいなものかな。あまり上手くできてないと思うけど…。」
早速、その3人はそのうな丼に手を付けた。が、やはりちょっと顔が曇った。うな丼にしてはまだお粗末な出来らしい。油が落としきれてない。そして、付け合わせがない。
「………そうだ!」
何か思いついたのだろうか、チルノは近くにあったヤカンを持ち、その中身を注いだ。
「え、ちょっとチルノ!?」
意外な行動にミスティが驚いた。あの中に入っているのはお茶。そもそもこれは最後に口直しとして用意していたものだった。それをチルノはそのお椀に注ぎ込んだのだ。
「よし、できた!」
完成したらしい。そして、一気にそれをさらりと平らげた。ただ、まだ何か足りないらしいく「あれ?」といった顔をしている。
「おかしいな~なんか行ける気がしたんだけど…。」
「お茶漬けか………。」
次に何か閃いたのはリグルだった。ふと近くにあった家の畑らしきところに生えていたネギの葉をむしり取り、ミスティに渡し包丁で切らせた。
「………!」
残った1つの茶碗で試しにやってみたミスティの顔に一つの光が差し込んだ。どうやら、この組み合わせならいける気がしたらしい。
「これならいける。」
早速、3人もそれに変えてもう一度手を付けてみた。今度は上手くいったらしくそのまま一気に食べ尽くした。
「いいと思うよ、これ。」
「やっぱり、これが最高ね。」
「うまかった~。」
この言葉を聞き、彼女の夢は一歩前進した。おそらく、そう遠くないうちに小さな屋台ぐらいは出せるだろう。
「とりあえずこんなところかな…。」
やっと一つ、ため息をつけたらしい。手に付いたすすを少し払うとその場に倒れるように座り込んだ。
「あっ、ホタルだ!」
ルーミアの前を一つの小さな光が飛んだ。
「あれリグル、またいつもの使ったの?」
「いや、私のホタルはここにいるけど…。」
彼女の手のひらにもう一つ光があった。どうやら、このホタルは少し早くさなぎから抜け出したらしい。
「ホ…タ…ル…。」
ふと、ルーミアは突然何かを思い出したかのように立ち上がった。
「ルーミア…ちゃん?」
一瞬だが、ミスティの目には彼女の姿が一回り大きく見えた。そして、気のせいだろうか髪が少し長いような感じがしている。
「ぎょえ~!!」
「「「!?」」」
近くにいたリグルが彼女の肩をつかもうとしたその時、いきなり野太い叫び声が遮った。
「ま、魔物が~~。」
「い”!?」
神社の方へ続く道の彼方から無数の白いどんよりが押し寄せてきた。
「まずい、一旦逃げるわよ!」
いまだ呆然と立ち尽くすルーミアの肩をリグルが無理やり引き寄せると皆それぞれ近くの茂みに身を隠した。
[newpage]
[chapter:決着。華麗なる一撃!]
魔界最強の名を賭けた戦いの風は嵐になった。魅魔と夢子。お互い本気レベルでのバトルにまで発展した。しかし、相性が悪い。夢子は、移動時に透明になってしまい攻撃が当てにくい。それに加えて短刀の投げ飛ばし、ビームから小球まで幅広い攻撃を仕掛けてくるためパターンは一切通用しない。対する魅魔の攻撃は、パワーとスピードはあるのである程度跳ね返すことができるが精密動作性は低い。彼女が夢子を目でとらえたとしても既に別の場所に移られてしまい攻撃が中途半端に終わってしまう。さらに、相手の攻撃が絶え間なく降り注いで来るためチャージしてスペースを開けて一気に突っ込むことがしにくい。
「鬱陶しい攻撃ね。」
「この前の分とこの子に手を出した罪をここで滅ぼしてやるのです!」
「相変わらず容赦ないのね…。まあ、あなたが私に勝てる見込みはないけど♡」
「減らず口を…。でも、嘘から出た実もここまでですよ。もうあなたの残機はあと1。そして、もうボムはあと一つしかない。」
「で?」
「たった一つのボムだけでこの攻撃を消してここまでたどり着くことは不可能。」
「不可能ねえ…。」
「あきらめて降参するのです。」
「じゃあ、降参。」
「え!?」
「嘘♡でも、私に勝つことはできないよ、私は神だから。」
魅魔は何かを思いついたらしい。そして、場の流れが逆流し始めた。
「神でもないくせに、まだ性懲りもなくハッタリを…。」
「いいえ、私は予言ができる神様なの♥」
「証拠もないくせに…。」
「なら、一つ予言するわ。」
「!?」
「私は負けるかもしれない。」
「当然でしょ!」
「でも、あなたは私に勝てない。」
夢子は固まった。今この神様もどきは何と言ったのか。『負ける』と言っていた、しかし同時に『私には勝てない』と言っていた。
「信じるか信じないかは任せるね、まあそっちがどう動いても次の一撃で片が付くから。」
魅魔は、消していた杖を取り出すと同時にボムを取り出し構えた。しかし、とてもこの弾幕を前に突っ込んで来れる距離ではない。
「かかって来な。この一撃を破れるものならね。」
「その言葉そのまま返してやりますよ。」
夢子はもう一度弾幕を張り直し、短剣を手元にそろえ、弾幕の前にもしっかりと並べ迎撃態勢を取った。たとえ空に逃げても追撃用に残っているからしっかり狙える。
「今だ。」
魅魔はそうつぶやくと一気に間合いを詰めた。無謀にも短剣、弾幕と並んだ何層にも渡る攻撃を相手に突っ込んでくるらしい。
「させませんよ!」
立ち向かってくる魅魔を焦点に一斉に短剣が襲い掛かる。魅魔は持っていた棒でそれをはじくと押し寄せる弾幕の僅かな隙間を潜り抜け、夢子の正面に空いたスペースに突っ込んだ。
「これで終わり、くらえッ!!」
魅魔が持っていたボムを向けたその瞬間、彼女の右肩を閃光が貫いた。
「!?」
「ふふふ…♡」
夢子の両サイドに二つの丸い光の玉がありそこから出たビームが彼女の肩を貫いたのだ。
「くぅ………ッ!」
無理やりそのボムを撃ちだした魅魔だが一瞬遅い。後ろからバランスを崩してしまい目標から90度それた彼方の方に打ちあがってしまった。
「残念でしたね。これで私の勝ちですよ…。」
「…年貢の納め時ってやつだね…。」
「もちろん、ここであなたの方ですが。」
夢子が持っていた短剣を振り上げた。
「これでおしまいよッ!」
「さ~て、そろそろかな♡」
「!?」
魅魔が笑みを浮かべた瞬間、ふと夢子の背後が明るくなり始めた。
「え…。」
「ちょっと気づくのが遅かったね♡」
魅魔が羽を広げ両手を斜め前に突き出した。するとそのボムは形を変え大粒の球いくつかとここら一帯を射程に入れるほどの巨大な流れ星となってここに突っ込んで来ている。
「正気なのですか!?」
「もちろん神様だからこれぐらいできるの♥」
そして、白い光と共に勝負はついた。
「ふ~、私に『負け』を出させるなんて、許せないわね…。」
「神綺様…ごめんなさい…。」
決着はついた。両者負けの引き分けになった。
「まあいいわ…、夢子ちゃん。アリスちゃんはこっちに返ってきたから…。」
「でも、こいつがここに来るのは許せませんよ!」
「神様相手に結んだ約束を取り消すのかい。」
「うっ…。」
勝負は引き分けに終わったが、魅魔の方が一枚上手だった。あの時、『そっちが勝てなかったら私がこの魔界に自由に出入りするのを許可するでどう?』と言葉巧みに自分に有利な条件を持ち掛けそれをすんなりと呑ませてしまったのだ。
「だけど気に食わない判定ね…。両方『負け』だなんて…。」
頭の上に出ている『負け』という文字を眺めながらちょっと悪態をついている。『引き分け』とでると思っていたらしいが判定がへそを曲げたのか両者『負け』扱いになっている。
「さ~て、望み通りこの魔界を使わせてもらうわ♡」
「変なことしないでね。」
「大丈夫、大丈夫♡へーき、へーき♡(嘘)」
それからしばらくして、魔物たちが必死で人間界に逃げる様子が記事に載り騒ぎになったのであった。う~ん。
[newpage]
水無月(6月)下旬
[newpage]
[chapter:目覚めた闇]
<妖怪の森>
「ルーミアちゃん、いつまでそこで月見ながら突っ立っているの!ホタルを見に行こうって言ったのそっちでしょう?」
リグルは、もうすでに出かける準備を済ませている。別にホタルぐらいここに呼び寄せるのは簡単なのだが、反対に見える東の山の沢のホタルをどうしても見たいと駄々をこねているのだ。仕方がなく、私の方が折れて連れていくことになってしまった。
「リグル・ナイトバグ……。」
「え!?」
突然ルーミアがこっちを向いて呟いた。それに、今の声…。いつもの彼女じゃない程に低く、恨めしそうな感じだった。
「人間についてどう思う……?」
「お………ん?」
いきなり場違いなことを急に聞かれた。いきなり何を言い出しているのか?
「いいから、答えろッ!!」
まずい、これは本気で殺される。
リグルは焦りながらも必死で答えを考えそして答えた。
「こ………怖がらせてやりたいと思っているよ。」
すると、彼女はこっちを振り向き、睨みつけて言った。
「全員、殺してやりたいと思わないのか…。」
その言葉に、唖然とするしかなかった。いくら何でもそれはいけない。私たち妖怪は人間がいるからその存在を保っているわけで、人間が消えて行ったら存在を保てるか分からない。
「できるわけないでしょ、もしそうだとしてらこれからどうしていくのよ!」
すると、一層顔を険しくして怒号を飛ばしてきた。
「そんなんだからッ、蟲の王になれないのよ!一方的に人間に虫たちが殺されて悔しいと思わないの…。」
痛い所を突かれた。実際、殺虫スプレーがこっちに出回って以来この姿にまで退行してしまった。だが、殺し返すのがいいとは思わなくなってきた。あの戦争を見て以来…。
リグルは返す言葉が見当たらず、黙るしか選択肢が無くなってしまった。
「私は人間を許さない…。必ず、この手で――――」
憎しみの顔が一層深まっていくが、突然気を失うように倒れこんだ。リグルは一瞬戸惑ったがこのまま見捨てるわけにもいかず、意を決して近寄りうつ伏せになった彼女を起き上がらせた。
「しっかりして、ルーミア!」
「………あれ、リグル?」
朝目覚めたばかりの子供のようにぼんやりとしている。この様子を見ると先程までの人物ではない。
「よかった…。」
「………?」
何が起こったのか分かってないらしいが、これでいい。この優しく無邪気なままの彼女の方が。
リグルはルーミアの肩を寄せるとしっかりと力強く抱き留めた。
<フリーザ軍(地下)モニター室>
「××××様、どうやら上手く制御できてないみたいです。」
モニターを見つつその者は、腕を組んで難しい顔をしている。
「ここに住む妖怪だから強めに掛けたはずだけど、まさかこうも早く破られるとは…。やっぱり、Xdayに直接乗り込んで操るしか方法はないみたいだね。」
そうつぶやくと、後ろの扉を開けてどこかへ行ってしまった。
[newpage]
<人間の里>
フリーザ軍再来の日付が特定されて以来、里に住む人間妖怪を交えて何度か町会議が繰り返された。しかし、あの妖怪でさえねじ伏せてしまうフリーザ軍を相手にいい手が思いつかない。そこで、里に住む妖怪たちにも協力してもらいフリーザ軍を退ける案が出たのだが…。
「やはり、ここは妖怪にでも助けを借りないと無理な話です。」
「阿呆、何を言うかッ!いつまた妖怪が刃を変えて襲ってくると思っている!!」
やはり、保守派と改新派のぶつかり合いは避けることができず。紛糾までに至る。
「落ち着いてください。双方言い分は分かります。彼らがこちらを裏切らないとは言えない。一方、彼らは妖怪でありつつも里に生きる『人』として暮らしている。彼らの助けを借りつつもできるだけ人間で解決するのがいいと思いますよ。」
中立の立場にいる人はそれぞれ捉え方が違うが、大体後者のような気持ちらしい。
「何も分かってないのは過去を見ていない楽観主義な貴様らの方だ!!――――」
保守派の男が床を思いっきりたたき、辺りを静まり返らせた。
「15年前の戦争が博麗神社の神主の弔い合戦だったということを忘れているだろう…。」
全員静まり返るしかない。あの引き金を引いたのは『人食い妖怪』。そして、神主は骨がほぼむき出しになった状態という惨殺された姿で見つけられた。以降、その妖怪を匿う妖怪の森の連中と戦争が起こったことを知らない者はほとんどいない。
「結局、われわれ人間は『籠の中の鳥』でしかない。人間が妖怪に管理される…、そういう宿命なんだこの世界は…。」
この言葉を聞いて、里に住む妖怪たちはなんだか申し訳ない気持ちを持ち始めている。しかし、その男はそれだけに留まらずこう続けた。
「言っちゃあ悪いのは分かっているが言わせてくれ。ふりーざ軍とやらに捕まったあの妖怪たちだってこっちに刃を向けるしか無かったじゃあないのか?」
慧音の横に座るあの妖怪に人々の視線が移る。なんとも言えない顔を向ける人が多いが、ちらほらと憎しみの表情を浮かべる者たちがいる。けがを負わされた戦闘部隊の家族の人々だった。あれ以来、傷が悪化して病気で亡くなった人もいる。仕方なかったとはいえ、それでも納得できない人がいるのが現状。中には、子供だけ取り残された者だっているのだ。
「結局、俺たちが頑張っても一周回って円にしか戻れないのさ。」
近くにあった酒瓶を取ると、その男は一気に残った酒を飲みほした。彼は、あの妖怪に家族全員を殺されて残った人だった。だから、この出した結論には重いものがある。
「いや、――」
すると、慧音は立ち上がりこう説いた。
「確かに、貴方が仰る主張は間違っていませんし、反論するつもりありません。ただ、神主様のことについては違うものがあります。」
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<北の里の外れ>
「ハアッ!!」
最後の3日間にわたる不眠での修行が終わった。体に良くないですよとあうんは言っていたけど、あの強烈なプレッシャーに打ち勝つには、限界の中での最後の一撃が打てるようでなければならない。
「後ろから失礼~♪」
「っ!って、紫か…。」
気を抜いているときにひょっこり現れるこの心臓に悪いスキマ妖怪は八雲紫。どうやら、最近復活したらしい。未だ包帯がまかれている。
「いきなり危ないじゃないの、せっかく戻った顔にまた傷がつくところだったわ…。」
「いきなり、うしろに現れるからそうなるの。」
妖怪退治を受け持っていた仕事柄で、中々戦闘癖が消えない。
「まだ、忘れてないのね。『あの人』の事…。」
紫が視線を送る先には、白い花の冠と枯れて色を失った花の冠がかけられた小さな墓が一つある。
「…たとえ忘れられても、私が生きるこの幻想郷を創ったのは彼だった…。それだけは消えないから…。」
薄っすらと淡い光が見え始めている。修行に打ち込んでいたため忘れていたが今日が命日だった。あの日も同じようにホタルが飛んでいた。
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次回:水無月のホタル(特別編)※ちょっと期間を開けて、夏ごろになります。
7月下旬以降の予定
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