剣製を為す転生者は好きな子のために剣を振るう。 (星の空)
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プロローグ

 

───お前がいるせいで○○さんが迷惑してんだよ!

 

クラスのリア充に言われた。

 

───ほんと、なんも出来やしないんだから。

 

血の繋がった両親から言われた。

 

───消えろっ!!!消えろっ!!!消えろっ!!!消えろっ!!!

 

周りの人間全てからそう疎まれた。

 

しかし、そんな中でも1人だけ俺、釘無彗時(くぎなしせいじ)に手を差し伸べてくれた子がいた。

 

幼馴染で俺の初恋の子だ。その子は容姿を始め、成績運動共に群を抜いて良く、周りからは高嶺の花のような存在だった。

 

その子が俺に手を差し伸べることを気に食わない奴は数多いた。

 

その結果、幼馴染は犯された(・・・・)

 

リア充を含めるクラスメイトの男子達が束になり、俺を拘束して俺の目の前で幼馴染を犯し捲り、腹上死させたのだ。

 

クラスメイトの男子達は罪を俺に擦り付け、俺は呆気なく逮捕となった。

 

情けなかった。申し訳なかった。悔しかった。されど、俺には何も出来なかった。

 

幼馴染に懺悔し続け、飲まず食わずの重労働の末に栄養失調と過労によって、永眠をすることになった。

 

その時はまだ中学生だった。

 

だがそれは自己満足にしかなり得ない。こんなことで死ぬのは良くない事だろう。

 

出来ることならば、幼馴染に再び会って…………今度は…………

 

 

『………………余興だ。貴様のその心意気を(オレ)に魅せて見ろ。形はどうあれ、唯一無二の存在を失うのは痛い程分かるからな。(オレ)はもう叶わぬが貴様はまだ叶う。幼馴染とやらの自我は既に潰えてはいるが根本的な魂はそう変わらん。貴様が己の信念に従い幼馴染を守り通すか、折れて道化となるか、この(オレ)が見定めてやる。』

 

 

意識が完全に潰える直前に1つの声が聞こえた。トーン的に男だろう。この男の言う通りならば再び幼馴染に会える可能性があるのだろう。

1度諦めかけた願いが叶うというのなら乗らない手はない。男にとっては児戯なのだろうが、俺にとっては最後のチャンスだ。

俺はその話に乗ることにした。

 

『…………ふん、そうでなくては面白くない。貴様の幼馴染とやらの魂のある世界に送ってやる。自力で再燃した褒美に色々と教えてやろう。』

 

曰く、その世界は地球と変わりはない。

曰く、その世界は表はこの世界と変わりないが裏には魔術が存在する。

曰く、聖杯戦争なる儀式があり、英霊という存在が確かにある。

曰く、死徒や吸血鬼などの異型がいる。

曰く、幼馴染の今の家族は古くから暗殺家業兼道場を営むが幼馴染は知らない。

 

『貴様はその一族の向かいにある武家屋敷の出身、そして幼馴染と同時に産まれるようにしてやる。信念を貫き通せ。それと、さっき言ったがその世界には異型がいる故な、守る力をくれてやる。その力は人間でありながらこの(オレ)に勝った奴の力だ。奴は(オレ)と同じ英霊となったのでな仮に魔術師として大成すればどうなるのか気になっておったのだ。力を持つことは相応に危険を伴うがそれくらいの危機は跳ね除けろ。ついでに(オレ)を召喚するためのものを用意しておいてやる。時期を見て呼びだせ。』

 

その言葉と共を男から聞き届けたとともに俺は完全に意識が潰えた。

 

 

 

『…………唯一無二を失うのは辛い。救えず悔やむより死を恐れて救おうともしなかった(オレ)とは違って諦念すれど意思はあった奴ならば成すだろう。釘無……いや、転生後は千子村正(ちこむらまさ)の子孫……千子刃(ちこやいば)だったな。至るか道化か、ここにいる間の余興で見定めてやる。』

 

 



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第1話 あれから5年

 

 

俺、釘無彗時(くぎなしせいじ)こと千子刃(ちこやいば)は転生してから5年の月日が経過して、只今4歳児だ。

 

あの男が何者か謎だが確かに転生をしていたため信じることにした。

産まれてから4年間は恥ずかしい思い出ばかりだからカット。

 

昨日、4歳の誕生日を迎え、今日からは屋敷の庭の中なら自由に動き回っていいことになった。なので早速向かい側の家を確認することにした。

 

ゆっくりと門を開いて外を見る。向かい側には確かに道場らしきものがあり、看板には八重樫道場と書いてあった。

ふむふむ、八重樫家か。道場の看板を見た後、視線を八重樫家の玄関に向けると、1人の女の子が顔を覗かせていた。しかも、同時に目があった。

 

「っ!!!」

 

ビリッと来た。直感的に分かったのだ。あの子の前世が俺の前世の幼馴染であることが。どう反応したらいいかわからなかったので思わず門の中に顔を引っ込めて、今度は目だけを覗かせる。

ビリッと来たときに女の子も何かを感じたのか、咄嗟に顔を引っ込めて、俺と同じ様に目だけを覗かせていた。

 

じーーーーーーーー

 

「刃!そろそろ始めるぞ!」

 

約1時間ほど目を合わせていただろうか。父こと18代目千子村正から声がかかったため、返事をして門を閉じる。

閉じる時に、女の子と瓜二つの女の子が女の子を連れて家の中に入っていくのを捉えてから門を閉じた。

門を閉じきるその時まで俺も女の子も一切目を逸らすことは無かった。

 

門を閉じたら俺は村正の声がした所に向かう。そこは、離れにある蔵で、中には鍛冶場と武器庫、何も無い部屋があった。

俺が来た時、村正は何も無い部屋にて座禅を組んで座っていた。

 

「来たか。これからお前には辛く、酷いことをする。だが、それを乗り越えたらあとは楽さ。そして、すぐとはいえないが千子一族が代々持ち得る力を扱えるようになる。だから俯せになって目を閉じてろ。…………歯を食いしばれ。」

「うん」

 

最後に不穏な一言を聞いたが、村正を信じて目を瞑り、持っていたタオルを口に挟む。その間に部屋から出て戻ってきた村正が声を掛けてきた。

 

「始めるぞ!!!」

 

──ジュウゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!

 

「ひぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

それと同時に左臀部辺りに焼き鏝を押し付けてきた。思わず悲鳴を上げるほど熱い。

それでも焼き鏝を退けようとしない村正。上半身を仰け反らせても村正が足で抑えるため、悲鳴を上げ続けるしか出来なかった。

 

──カチッ

 

しばらくしたら、そんな音と共に、薄緑色に発光するラインのようなものが身体全体に浮かび上がった。

これが何かを村正に聞き出す前に激痛と精神的疲労から俺は意識を潰えることとなってしまった。

 

次に目が覚めた時は一週間後の昼頃だった。

 



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第2話 魔術師と魔術回路

「…………ん、うぅん………………はっ!」

 

俺は村正に焼き鏝を押し付けられたことによる激痛と精神的疲労から気絶してしまったらしく、目を覚ましたら、布団の中にいた。

 

「………………一体あれはなんだったんだ……?」

 

気絶前に見た薄緑色に発光するラインの様なものが気がかりで、あの時に聞こえた音、電気を付けるスイッチの様な音だったのでそのイメージを取ってみた。すると、

 

──カチッ

 

全く同じ音とともに身体全体に薄緑色に発光するラインが迸った。

上手く言えないが、感覚的に神経っぽく感じた。

ラインを着けたり消したりと感覚を掴むために何度もしていたら、部屋の襖が開かれ、母である千子美麗(ちこみれい)が現れた。

 

「あら、目が覚めたのね?顔を洗ったら居間に来なさい。あなたのそれが何かをお父さんが教えるからね。」

 

身体を拭くつもりだったのか手にはタオルとお湯の入った桶を持っていたが、俺が起きたからか拭くことなく戻って行った。

俺は寝間着から甚平に着替えてすぐに居間に向かった。俺のこのラインがなんなのか気になるのだ。

居間に着いたら、村正が胡座をかいて待っていた。

 

「おう、ようやっと起きたか。怒りたいだろうがまぁまずは座って俺の話を聞け。」

「分かった。」

 

村正と向き合って座り、目を見据える。

 

「まず、この世界には不可思議な力が存在する。それは魔術というものでな、神秘がある限り扱える力だ。

そしてその力を扱う者を魔術師という。この千子家もそういう存在だ。魔術師は様々なアプローチで根源に到達しようと日々研鑽している。今までで根源に到達出来たものは数人しか居ない。

千子家は鍛冶で根源に至ろうと研鑽している一族だな。

昨日、刃に焼き鏝を押し付けたのは魔術師として重要な魔術回路を開くためのものだ。他の家は他の家で開き方が違うのは覚えておけ。

それで、魔術回路には属性と魔力量を示す数がある。今からお前の分を数えるから開けるか?」

 

薄緑色に発光するラインは魔術回路らしく、俺は魔術師になったらしい。そして、今から属性と量を調べるらしい。村正の指示通りに魔術回路を開く。

 

「もう開き方を馴染ませたのか。……同調、開始(トレース・オン)。」

 

何かの呪文を唱えたら、俺の体の隅々を凝視してくる村正、正直に言うと気持ち悪い。誰が好きで男に見られないとならないのだろうか。

 

「……ふむふむ、なるほどな。属性は火と地、回路は50本、起源は武器か。あ、起源はあらゆる存在が持つ、原初の始まりの際に与えられた方向付け、または絶対命令。あらかじめ定められた物事の本質だ。

お前なら出来るかもしれないな。とりあえず5歳になるまで世界各地を旅して、知識を蓄える必要がある。度をしながら千子家の魔術を教えてやるよ。」

「う、うん。」

 

俺の属性と魔力量、起源が分かった途端今年1年何をするのかが次々と決まり、世界各地を旅することになった。あの子に会えなくなるのは悲しいが、守る術に成り得る魔術を習得するには今は耐えるしかないだろう。千子家の魔術が何かは分からないが、手に入れてみせる。

 

 

─翌日、旅に出た。帰って来るのは一年後だ─



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第3話 入園式と投影魔術(グラデーション・エア)

魔術回路が開かれて、属性が火と地、回路が50本、起源が武器と分かり、旅に出てから1年が経過し無事に実家まで帰ってきた今日、重要な事実を知った。

 

「あら、お帰りなさい。それじゃあとっとと着替えて入園式に行きましょうか。」

「は?入園式?何それ?疲れたから寝ようと思ったんだけど?」

「何言ってんのよ。日本の義務で5歳から幼稚園に行かないといけないんだからね?…………義務じゃないけど」

 

帰ってすぐにまた出ないとならない事実に固まる俺。それに気にせずにじり寄る我が母、美麗。

立ち直ったら俺はすぐさま玄関を飛び出して逃げる。しかし、美麗は見通していたのか、先回りをされていた。

結局、捕まり着替えさせられて幼稚園に連行されてしまうこととなった。

 

─ちなみに旅から帰ったときに持っていた荷物の中に世界で初めて脱皮した蛇の皮があるのだがそれは偶然拾った代物で、後に何処ぞの優雅たる紳士が触媒を用意出来ず初戦敗退したのは余談だ。

 

「───で、あるからして皆さん、仲良くしてくださいね?」

「「「はぁぁぁい!」」」

 

只今俺氏、園稚幼稚園(そのちようちえん)という幼稚園の体育館?にて入園式に出ていた。確かに数日前に5歳になったが帰宅直後に入園式は正直精神的にキツい。まぁ、師匠らの修行の方が全体的にキツかったのだが。

長かった式も終わり、教室に移される。教室に移動したら、お友達作りから始まった。

みんな、さ隣の子に話しかけたり、入園前から中がよかったのか、その子の所に行ったりしていた。

そんな中、俺はある子達と見つめ合っていた。

 

「「「………………」」」

 

俺は立ち尽くすが、目の前の2人は面白い。二人とも気が強そうだが、1人は無表情な子で俺に近づこうとして、もう1人の凛々しい子がそれを立ち塞がって俺を若干睨んでいるのだ。

その攻防に勝ったのは無表情の子だ。フェイントをかけて通り抜けて俺の方に来た。

 

「…………誰?」

 

──ガクッ

 

俺と俺を若干睨んでいた子は同時に崩れ落ちた。

 

「「じゃあなんだったんだあの攻防は!?」」

「…………む、雫が仲良さそうにしてる。」

「「何処が!?初対面だぞ!?」」

「…………それで、誰?」

 

どうやらこの無表情な子はマイペースな様で、凛々しい子は苦労性が伺えた。

 

「…………はぁ、俺は千子刃。好きな物は武器で特技は鍛冶だ。」

「……武器?鍛冶?じゃあ、刀造れるの?」

「造れるよ。日本の鍛冶師では当たり前だ。まぁ、銃刀法違反にかかるから今は(・・)造らないが。それで、あんたらは誰だよ。」

「…………八重樫巫都(やえがしみこと)。好きな物は刀で特技は剣道。」

 

マイペースな子が巫都と名乗った時にビリッと来た。そして思い出した。

この子が、1年前に小1時間も見つめ合っていた子だと。前世の幼馴染だと。

 

「私は─────」

「あぁ、向かい側の八重樫流道場んとこのか。」

「───八重樫って、何故挟んだ!?貴様もマイペースだな!」

 

苦労性な子が何か言っていたが、向かい側に住んでいるという旨を伝えるとツッコまれた。

 

「って、向かい側?貴様はあの屋敷に住んでるのか?」

「あぁ、1年前に1度だけ巫都(みこっ)ちゃんには会ったことがあるけどな。」

「………みこっちゃん………ポっ」( ⸝⸝⸝•_•⸝⸝⸝ )

「…………私の巫都を誑かすな!っと、私は雫。八重樫雫だ。覚えなくともいい。」

「OK、雫ね。もう覚えたから無理。」

 

自己紹介を済ませた後、しばらく他愛ない話をしたら先生から声がかかった。

 

「皆、仲良くなれた子はいるかな?今日はこれだけしかないけど明日から色んなことをして遊ぼうね!それじゃあさようなら!」

「「「さようなら!!!」」」

 

バラバラに親の元に駆けて行ったり、新しく出来た友達とお喋りをしながら外に出る子がいる中、俺は音を立てずに外に出る。

母の元に向かうと何処かの両親と仲良く話をしていた。

 

「母さん、早く帰ろ。」

「あら、終わったのね?刃、この人達は──」

「初めまして、刃君。俺は八重樫虎一、刃君の後ろにいる雫と巫都の父さ。………………娘達に手を出したら殺───」

 

────ゴスっ

 

「あらあら、手が滑っちゃいました。気にしないでね?あ、私は八重樫霧乃。雫と巫都の母よ。…………手を出したら責任とってね?」

 

この夫婦の第一印象は親バカとおっとりして抜け目がない奴だった。

 

「……ハハハ。そ、それじゃさようなら。行こ、母さん。」

「刃ったら何を急いでるのかしら?進行方向は同じなんだから雫ちゃんや巫都ちゃんと一緒に帰ればいいじゃない。私たちは後ろにいるから気にしなくていいのよ?」

 

逃げること叶わず、俺は一緒に帰ることとなった。まぁ、何事もなく無事に帰ったあとはすぐに布団にこもって寝たのは悪くないだろう。

3時間後に目を覚ました時は夕飯の時間になっており、エプロン姿の美麗と上半身裸で蒸気を出している村正が待っていた。

今日の夕飯は俺の好きなビビンバだった。

 

「さて、始めるか。」

 

夕飯を食べた後は、蔵の武器庫に来ていた。武器庫には様々な武具防具が入っており、この中で最も高いのは聖剣エクスカリバー(約束された勝利の剣)の鞘と、都牟刈村正(つむかりむらまさ)だろう。

今日は都牟刈村正を投影魔術(グラデーション・エア)投影をするためにここに来たのだ。

 

投影魔術

┗本来は失われたオリジナルを数分間だけ自分の時間軸に映し出して代用する魔術であり、外見だけのレンタル。投影した道具はオリジナルの道具と比べると劣化が激しく、さらに時間を経れば投影したものは世界の修正により魔力に戻ってしまう。また、イメージに破綻が起きても霧散してしまう。非常に効率の悪い魔術で、投影でレプリカを作るなら、ちゃんとした材料でレプリカを作った方がよほど手軽で実用に耐える。このため、野外で必要な道具をその都度調達する必要があるなどの特殊な状況ならともかく、魔術としては儀式で道具が足りない際に間に合わせで用意する、などの目的くらいにしか活用できない。

 

しかし、千子家は通常の投影魔術とは違う特殊な投影魔術なのだ。

投影で造り出したレプリカが本物とほとんど変わりないもので、本領も発揮出来る。だが、その本領を発揮したら壊れてしまうという欠点もある。

その上、本来ならば脳が焼き切れてしまう様な投影をしてもなんの問題もないという破格なものなのだ。

聖杯戦争にて出現するサーヴァントやそれらが持つ宝具、神造兵装の投影などといったものが、脳が焼き切れてしまう例えだ。

 

なので、現存する宝具となった都牟刈村正の投影をしても問題はないのだ。

説明する間に都牟刈村正を投影し終えたため、試し斬りをすることにした。

既に完璧に投影が出来る三池典太を投影し、これまた投影した模型に持たせてから構える。

 

「シッ!!!」

 

──チンッ

 

袈裟懸けで都牟刈村正を三池典太に切りつけた結果、都牟刈村正が折れてしまった。

まぁ、完璧に投影出来る三池典太と初めて投影した都牟刈村正では、三池典太が残るのは道理だろう。

 

「まだまだか。」

 

この後、三池典太が刃毀れするほどの出来栄えになるまで都牟刈村正を投影し続け、それが出来たら、風呂に入り、明日に備えて寝ることにした。

 



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