仮面ライダーオーズ-Infinit- (春雷海)
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仮面ライダーオーズ-Infinit-
オリジナルキャラは出てくることはありますが、ほとんどはクロス作品の登場人物を出します。
若干性格がマイルドになっているキャラもいますが、悪しからずに。
頭を緩やかにして読んでください。
仮面ライダーオーズの始まりは三つの出来事。
一つ。
ISアイエスを動かしてしまい、強制的に学園に入学された飛野 鋭牙。
彼と違い、専用機を持つ同じ男子生徒である織斑一夏と比べられて、嫌気を差してしまう。彼と彼の周りに集まる代表候補生たちとの間に溝が深まる。
二つ。
入学した当初より支えてくれた更識簪が織斑一夏と一緒にいるところを見て、遂に我慢が限界。学園を去ってしまう。
そして三つ。
メダルの怪人——グリードが復活。
退学した鋭牙は、同じ怪人で右前腕部のみの復活しかできなかった鳥型のグリード『アンク』と遭遇。
そして、彼は仮面ライダーオーズに変身した。
* * * * *
「——というわけで。飛野 鋭牙くんは我が鴻上ファウンデーションの社員なのだ……幾らIS学園の権威を振舞っても、勝手に社員を連れ出さないでいただきたい」
超高層ビルの最上階にある会長室――そこは一種のスイートホームではないか謳われるほどに広く、高透過ガラスから見える、景色はとても壮大だ。
そんな一室にいるのは二人。一人は強面の大男で派手な色のスーツを着用している彼の名は鴻上光生。巨大財団・鴻上ファウンデーションの会長であり、様々なコネクションを持っている人物である。
そんな彼はいま、ケーキ用のキッチンにてココア、砂糖、コーンスターチをボウルに入れ混ぜ合わせていた。
もう一人はスーツを着用した切れ目の女性――織斑千冬は苛立つ気持ちを抑えるように一度深呼吸を整えてから再度言葉を紡げた。
「彼はまだ学生の身分です。学生が会社に入社などありえないことなのですが」
「うぅん? 彼は退学届けを出したと云っているよ」
「それはまだ受理されていません。そして、彼は政府に命じられてIS学園に通っているのです。 そんな一個人の理由で退学など……」
「その件については問題ないよ。 私の知り合いに協力を頂いて、彼を無事に退学していただいた」
「そんな馬鹿なことを――」
鴻上の言葉を否定しようと千冬が紡げる前に、彼女の懐から携帯電話が震え出した。
「出たまえ」と鴻上に促されて千冬が携帯電話の通話を押すと――。
『お、織斑先生っ! 先ほど、飛野くんの退学届けが認定されたと連絡を受けましたっ!』
「なっ、そんな馬鹿なことがっ!」
『事実ですっ! 教頭や理事長も飛野くんの退学処分は実施すると……っ』
電話相手の千冬の同僚である山田 摩耶の言葉に千冬は動揺を隠せなかった。
女性にしか反応できないパワードスーツISを使える二番目の男子である飛野 宗司——貴重な存在である彼を世に放つということがどういうことになるかわからないはずがない。
ISが出現して十年。女性が優遇され男性が虐げられる世界となり、女性にしか反応しないはずのISが男性に、しかも二人に反応した。
貴重な存在である彼を組織や機関が逃すはずもない……下手をしたら彼は実験材料になりかねないというのに何故。
千冬の動揺を知ってか知らずか、ポットで温めておいた牛乳を流し入れ、手早く混ぜ合わせしながら手鍋に移す鴻上。
「確かに彼は二人目のISを使える男子。実験材料として見てくる組織や機関がいるだろう――しかし私の財団がバックにつけば、彼を守れるだろう」
「っ学園でも――」
「だが、彼は自らここを選択し、私たち財団の一員になった。これ以上の問答は無用だ、早く帰り給え」
そう言い放った後、鴻上はケーキ作りの続きをするためにキッチンに備え付けられている小型冷蔵庫からスポンジを取り出す。
言葉だけでなく態度にもそれを表しており、彼女はあきらめたように息をついて立ち上がった。
「失礼します――」
「あぁ、そうだ。 一つ、君に云いたかったことがある」
鴻上が準備を進めていきながら目を向けることなく千冬に声をかけた。
「君は彼のことをよく他者と比べて厳しく接しているようだが、少しばかり彼の努力を認めたらどうかね?」
「……実力と結果が全てです。 努力だけでは全く意味がありません」
「確かに君の優秀な弟君と違い、確かに彼は才能も何もないだろう……だが途轍もない努力家だ。いきなり兵器ともいえるISに乗らされ、知識も何もなくゼロから勉強を始めたのだからね――生徒にしては目を見張るものだ。誰だって、弟のように上手くいくとは思わないことだ……教師たるものは長い目で生徒を見つめなければ続かないよ。私のこの会社を立てた時もそうやって続けてきた」
すべての道具や材料をそろえ終えた鴻上は次いで千冬に目を向ける――つまらないものを見るように。
「人はみな違うのだよ。それぞれに秘めている欲望が違うように。君はもう少し長い目を養うべきだ……それではつまらなく見えるよ」
「…………失礼します」
そう言って千冬は会長室から出ていった。鴻上に云われた言葉を胸の中にしこりを残したまま。
そして彼女は知らない……IS学園に戻ったら更なる問題に直結することに。
更織簪が学園の許可を取らずに無断外出をするという問題に。
* * * * *
多国籍料理店『クスクシエ』——そこは扱う料理に応じて店員がその国のコスプレして接客することが有名。
また女性店主が運営しているも、世間の女尊男卑など一切気にせず、お客を受け入れることで、評判は上々である。
そんなクスクシエにある扱われていない居室にて、少年と青年がいた。
「ふん、八百年眠っただけで、人間はよく発達したもんだ――いい意味でも悪い意味でもな」
赤と金のメッシュの髪が特徴的な青年、アンクはアイスを食べながら可愛らしくプリントされ古くなったノートとスマートフォンの両方を見比べ、そう嘲る。ノートに記載されている機体の詳細と、スマートフォンに載っている今の世界の風潮についてを。
「どうでもいいけど、それ俺のノートだからな。 汚さないでくれよ」
そんな青年を見ずに注意しながらも、執事服に着替えているのは黒髪の少年——飛野 鋭牙。
黒髪を乱雑に短く切りそろえたワイルドな髪形と穏やかそうな表情が一致していないものの、本人はそれが気に入っている様子。
「はっ、別にもうお前はこのノートは使わんだろ。 既に退学ってやつをしているんだろ? だったら義理立てる必要もない」
「そのノートはまだ使えるんだよ。書かれているページを全部切り取って、教えてくれた仕事の内容を書かなきゃいけないんだ」
「なんだ。普通に覚えられないのか、お前は」
「俺は物覚えと要領が悪いんだ……だから書いて覚えていかなきゃいけないんだって」
それでも結局ISの扱いもダメダメだったけどなと苦笑して、執事服を着替え終えた鋭牙。
そんな彼の言葉に「そうかい」と云って興味をなくし、スマートフォンから目を離してノートを見るアンク。
ノートの後ろには更識簪という名前が書かれているも、別に気にせずにノートを捲る。
ノートには基本システムからIS運用法、そして機体について詳細され、武器の使い方や乗った際の動きについて、鋭牙自身が考え学んだことを記載したことが多い。
誰かの名前が書かれており、そのアドバイスをそのまま書き残してもいた。
ところどころに涎の跡が付いているのも、そこは見逃そう。人間にしては頑張ったほうだとアンクは思っている。
(だがそれでも凡人は凡人か……)
努力は実らずに結局はこの料理店でアルバイトをしているというのは何とも虚しいことか。
だが、アンクにとってはいい拾い者だった。
ISとやらのおかげか、それなりに戦い方も熟知しているし、忌々しいあの鴻上ファウンデーションの武器や道具も器用に使いこなせている。
しかも、戦いを重ねるうちに、メダルの使い方を理解してはその力にも付いていっている……最近ではコンボの力も平然と。
鋭牙曰く『ISよりもこっちの方が使いやすい』で軽く人外化していないかこいつとアンクは疑い出している。
(ほんと、いい拾い者だよお前は)
鋭牙をオーズとして利用し復活のためメダルを集められ、またこの彼らと関わりそしてこの人間の身体を得て感じられることが多くなったことはアンクにとっては悪いことではなかった。間違いなく。
「これからも利用させてもらうぞ、お前を」
「今更な発言どうも。 とりあえず俺も早くそいつを解放させてやりたいからな……ちゃんと無事にしとけよ?」
「あん、この五反田弾ってやつか…………そういえばお前はこいつの妹と知り合いだっけか」
「泣きつかれちまったからな、お兄を助けてって。全く困ったやつだよ」
そう言いながらも笑って答える鋭牙であった。
* * * * *
「……はぁ」
一人の少女が憂鬱そうなため息をついて、公園のベンチに座り込んでいた。
その可愛らしい見た目と白いIS学園の制服が目立って、周囲の人が見つめる中を気にすることなく、視線は地面に向けられていた。
「鋭牙、どこに行ったんだろ……」
少女、更識簪は同級生であり同居人でもあった飛野鋭牙を探していた。
思えば、簪がとある出来事で一夏に謝罪し、姉と仲良くなれることを相談してから彼がよそよそしくなってきたのを感じた。
それは簪も気にしていたが、長年拗れてしまった姉と仲を早急に何とかしたいという焦りで会話することが少なくなり……姉と仲良くなった数日後に彼は行方不明となった。
「鋭牙……」
訓練機でも専用機相手に立ち向かう姿も、必死の努力で僅かでも拮抗する姿も……一緒に彼女の専用機を作った事も、彼女にとってはヒーローに見えて格好良かった。
鋭牙の姿から勇気を貰って姉と仲直りし、学園祭は彼と廻りたいと思っていた矢先に……鋭牙が行方不明となった。
居ても立っても居られずに簪は鋭牙を探すために学園を飛び出してきたものの……彼の居場所を全く知らない彼女に探せるものではなく、疲れた体を癒すためにベンチに座っていた。
「どこに行っちゃったの……」
簪にとって飛野鋭牙はヒーローであり、好意を寄せている相手だ。
だからこそ彼がいなくなってしまうことに不安に陥り、早く会いたいと思っている。
「ほう、オーズの知り合いか……折角だお前を餌にしてやるついでに合わせてやる」
「え?」
背後から聞こえた声に振り向くのと同時に、緑のジャケットを羽織った男が殴りつけたのを最後に……簪の意識は掻き消えた。
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