今日も今日とて火々里さん (赤い鳩サブレ)
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第一話 薬飲んでも呑まれるな

「という訳だ! 分かったか!?」

 

 「KMM団緊急仮設会議室」と書かれたメモが貼り付けられた教室内。誇らしげにそう言い放ったKMM団──「塔の魔女」メデューサ派・エヴァーミリオン奪取チーム。正式名称「ケモミミを身近で愛でる会」──リーダーである猫耳少女、倉石たんぽぽのその言葉にメンバーの一人の白目がちな少女、宇津木環那がおずおずと手を挙げた。

 

「いや、たんぽぽちゃん。何にも分からないんだけど」

「何!? 何が分からないんだ!?」

「そりゃあ、まあ……」

「いきなり『会議だ!』って言って集めたと思ったらその封筒を置いていきなり『という訳だ!』って……鬼分かんないわよ」

 

 環那の横に座る眼帯が特徴的な少女、目野輪冥が呆れ顔で補足する。

 現在、彼女らは教室の机を5つ合体させ、半楕円形の長テーブルめいた形を作っている。たんぽぽが座るのが楕円の頂点にあたる議長席、環那がたんぽぽから見て右手前、右奥が冥だ。

 今度はたんぽぽから見て左手前に座る眼鏡少女、桂虎徹がが刀の手入れをしつつ言った。

 

「たんぽぽ、お前が『炎の魔女』対策を編み出したというのまでは分かる。とりあえずイチから詳しく話してくれ」

「……♪」

 

 その横、左奥に座る小柄な少女、飾鈴がそれに同意する。

 一同からの反応を受け、たんぽぽは咳払いをひとつすると顔をあげた。

 

「そ、そうか……コホン! では諸君、改めて言うまでも無く我々はあの『炎の魔女』に日々“惜しくも”敗北を繰り返している」

「いや、そこは“惜しくも”じゃなくない? 実際鬼強いよ『炎の魔女』。物理攻撃は一切無効、魔法も鬼強けりゃ魔法抜きの徒手でも鬼強い。かざりんの骨獣を素手で殴り倒せるしアイツ」

「♯……」

 

 「炎の魔女」こと火々里綾火。彼女らの標的である伝説的存在『白姫』エヴァーミリオンを宿す少年・多華宮仄を常に守護する強力な魔女。同時に現在KMM団が会議を行っている教室を含む冬月高等学校の理事長の娘にして、学内では理事長に次ぐ権限を有する代表生徒「姫」の称号を持つ容姿・頭脳・身体能力・カリスマ性の全てにおいて学内に並ぶ者なき完璧超人。

 その強さの理由はひとつで語られるものではない。おそらく生来であろう魔女としての資質は勿論だが、契約した眷属のダメージを肩代わりする代償として眷属の魔力を使用できるダメージ転移の契約、気高く美しい姿を維持する限り元来の10倍の魔力を得るノブレス・オブリージュの加護など、幾つもの強化が重なる事で綾火を若くして精強な魔女としているのだ。

 たんぽぽ達は「象牙の塔」の中では若輩ではあるが、一応は作戦を任せられる程度に一人前の魔女である。しかしそれでも「炎の魔女」が相手ではそもそも勝負が成立しない程の魔力差があるのだ。その意味において冥の評価は決して過大評価ではない。

 冥の横槍に対し、たんぽぽは意外にも素直に頷き、不敵に笑った。

 

「確かにその通りではある。かくいう私自身もそう思っていた……しかし気付いたのだ! 炎の魔女は『強い』が『無敵』ではない。倒すことは出来なくても無力化さえ出来れば、我々は多華宮君を手に入れられる!」

「……いや、たんぽぽちゃん。それこそ無理だと思うんだけど」

「ふっふっふっ……そこで、これだ!」

 

 既に諦めの混じった表情で意見する環那の不安を払拭するようにたんぽぽは強く言うと、机の上に置いていた封筒の口を広げた。中からやや大きめの清涼菓子めいた錠剤が転がり出る。

 

「これは?」

「これこそ今回の作戦のキモ、さるルートから入手した『炎の魔女を無力化できる薬』だ! 詳しい事はよく分からないが何かこう、良い感じの成分が入っているらしい!」

「偉く効果がピンポイントな上に、肝心なところがふわっふわだね……」

「これを炎の魔女に直接飲ませるのでなく、多華宮君に飲ませてヤツに転移させる。飲ませるまでが第一段階、飲ませてから効果が出るのを待ち、無力化したところに襲撃をかけるのが第二段階の二段作戦だ」

「そうは言うが、多華宮君と炎の魔女は24時間ほぼ一緒だ。どうやって引き離す?」

「それについてだが、炎の魔女でもどうしても多華宮君と一緒になれない瞬間がある。そこをだな……」

 

 虎徹の問いかけにたんぽぽが自信に満ちた態度で答える。

 そのやりとりを聞き流しつつ、冥は何となく机上の封筒に触れた。

 

「ん?」

 

 封筒の中にまだ何か入っている。探ってみると、一枚の小さな紙が出てきた。便箋を切ったものであろうそれには手書きで「処方箋」と書いてある。

 

「誰だか知らないけど、ご丁寧な事で」

 

 呟きつつ冥はその紙に眼を通し──表情を強張らせた。

 

「!?」

 

 もう一度じっくりと、そこに書かれた成分表示を見る。口元が引き締まり、その額に汗が滲み始める。

 

「おいおいおいおい……鬼ヤバいわ、これ」

 

 

 

 今日も今日とて火々里さん  第一話 薬飲んでも呑まれるな

 

 

 

 夏も近づく週末の冬月市。雲は高く、初夏の陽光が街並みを明るく照らす。

 

「多華宮君、麻婆豆腐と麻婆茄子、どちらが好きかしら?」

「え? うーん……どっちも好き、だけど……」

「その返し方は質問者を最も困らせるわ。僅かの差でも、より好きな方をはっきりと言いなさい」

「……それじゃ、麻婆茄子で」

 

 駅近くの大型スーパーで夕食の材料を吟味する、制服姿の少年と少女。

 少年の方は人目を引くような空気を持っていない。太っている訳でもなく痩せている訳でもなく、醜悪ではないが眉目秀麗と言うほどでもない、「ごく普通の少年」というイメージをそのまま当てはめたような背格好の少年である。

 どこかその顔にはあどけなさが残っており、おそらくは17、8才くらいであろう彼を2歳は幼く見せている。

 それとは対照的に少女の方は非常に衆目を集めるに足りる特徴を有していた。

 切れ長の瞳を持つ、長身の少女であった。隣を歩く少年も決して小柄ではなく170cm前後はあるはずだが、彼よりも更に頭ひとつ背が高い。190cm近くはあろう。夕暮れ前の買い物客に賑わうスーパー内でも、文字通り頭ひとつ抜け出た彼女はそれだけで注意を引く。その長身をして腰まで届く艶やかな黒髪も、1m程もあるのではなかろうか。

 また、その身長からしてスリムなモデル体型なのかと言えばこれも違う。おそらくは女子のXLサイズの制服であろうに、それでもボタンがはち切れそうな程に胸元の布地は張り詰め、その内側の豊満な乳房の形をはっきりと浮き上がらせてしまっている。しかもそれでいて全身がふっくらしている訳でもなく、胸から腰にかけての曲線はきゅっと引き締まり、そこからまた再び豊かな膨らみを描く。厚手の布地のスカートながら、その上からでも豊かな尻の肉付きは容易に想像できてしまう程だ。

 この少女こそたんぽぽ達KMM団が対策を練っていた「炎の魔女」こと火々里綾火であり、その横で買い物籠を手に連れ添う少年こそ「白姫」を宿すこの冬月市の「魔女の工房」における最重要人物・多華宮仄であった。

 

「牛乳、卵、茄子にピーマンに挽肉……多華宮君、甜面醤は家にあったかしら?」

「確かあったかな。母さん、結構中華も作るし」

 

 二人は今晩の夕食の材料を買いに学校帰りにそのままスーパーに寄っていた。

 ひと言では語り尽くせぬ事情を経て、現在綾火は多華宮家に居候をしている。夕食は基本的には多華宮家の母、小町が作るが定期的に綾火が作る事になっている。今日がその日なのだ。

 ふと、仄が何かを感じたのか腰をもじつかせた。

 

「んっ……ごめん火々里さん、ちょっとトイレ行ってきていいかな?」

「分かったわ。お会計は済ませておくから」

 

 綾火に買い物籠を渡すと、仄はいそいそとトイレへと向かう。

 

 ──その後方数m、野菜を物色する主婦たちの陰に隠れてレシーバーを手にする猫耳少女の姿があった。たんぽぽである。

 

「こちらたんぽぽ、標的はそっちに向かった。準備を」

 

 

 

「ふぅ……」

 

 自身の竿に手を添えて狙いを定めつつ小水を出し、仄は息をついた。綾火と共に過ごす時間は楽しいが、トイレというのは別の意味で寛げる瞬間だ。

 

「(火々里さん、また背が伸びたかな……?)」

 

 どうも横で歩いていて彼女の顔を見る時、首を傾ける角度が上がったような気がする。もともと自分と綾火が吊り合う関係だとは思っていないが、これ以上心身共に差を付けられるのも避けたいところではあった。

 その時、仄が用を足している後ろの個室のドアが開いた。

 

「……?」

 

 水を流す音が聞こえなかった事に違和感を覚える。すると、背後の気配はそこまま仄の横に回り込んできた。

 

「……へえ、もっと小さいかと思ってたんだけど割と立派なのを持ってるじゃない。多華宮君?」

「え?」

 

 男子トイレで聞こえる筈の無い女性の声。

 思わず仄が横を見ると白いローブを羽織った眼帯の少女、冥がしげしげと仄の肉棒を眺めていた。

 

「え!? ええっ!?」

「ハロー、多華宮君」

「……少しの間、大人しくして貰おうか?」

 

 更にもう一人の声。首だけ後ろに向けると、やはり白いローブ姿で抜身の刀を手にした虎徹が切っ先をこちらに向けている。

 

「(まさか、こんな所で!?)」

 

 仄の身体に戦慄が走る。自分も所有しているが、魔女のローブには一般人からの認識を阻害し、自動的に人避けさせる機能がある。それでこっそりとトイレに潜入し待ち構えていたのだろう。

 本来ならばここは迷わず逃げだすべきだが、未だに放出している小水は止まる気配がない。この状況にも関わらず「相手の白いローブを汚してしまうかも」と思ってしまうのが多華宮仄という少年である。

 身体を動かせないまま逃げる機会を伺う仄に、冥は胸元から何かを取り出し近づき──

 

「よっ……と」

「ふぇっ!?」

 

 唐突に仄の鼻を摘まんだ。反射的に口が開く。そこに何かが飛び込んできた。

 

「ほっ」

「………!?」

 

 すかさず冥は摘まんでいた指を離した。鼻の呼吸が解放された事でまた反射的に口が閉じ、そのまま口に入れられた錠剤らしき何かを呑み込む。

 

「ケホッ、ケホッ……い、今のは!?」

「……あー、まあ、ちょっとしたお薬さ」

「いや、『ちょっとした』って……!」

 

 仄が更に問いかけようとした瞬間、その身体が急速に横に引っ張られた。同時に虎徹が構えていた刀が真上に跳ね上げられる。

 

「なっ!?」

「多華宮君!」

 

 直後、トイレ内は爆炎に包まれた。爆風が壁を破壊し、二人の魔女を文字通りに吹き飛ばす。

 

「きゃあぁっ!」

「やる事はやった! とっとと逃げるよ!」

 

 炎の向こうから虎徹の悲鳴と冥の声が微かに届く。

 一方の仄はそのまま引っ張られると、今度は柔らかくも弾力ある感触に押し当てられた。

 

「わっ!」

「多華宮君、大丈夫!?」

「え!? か、火々里さん!?」

 

 それが綾火の胸の感触である事に気付き、仄は慌てて顔を離した。

 改めて周囲に視線を向けると、男子トイレは完全に破壊されていた。壁のタイルは熱で半分ほど溶け、外壁は砕け、吹き込む風が室内の熱気を吹き散らしてゆく。

 

「火々里さん、どうして!?」

「多華宮君がトイレから行って戻ってくるのが、いつもの平均時間を一分ほどオーバーしていたわ。それで心配で来てみたら中から魔女の声がしたから」

「……そ、そうなんだ」

 

 驚いて尋ねる仄に、綾火は当たり前のように答える。

 どう反応して良いか分からずとりあえず頷いた仄に、綾火は言った。

 

「何かされなかった? 怪我は無い?」

「え、えっと、怪我は無いけど……何か、薬みたいなのを飲まされて……」

「薬?」

 

 仄の言葉に、綾火は整った顔に僅かの怪訝さを浮かべ──

 

「ッ!?」

 

 直後、その身体を大きくよろめかせた。彼女に抱きかかえられたままの仄の身体も一緒に引っ張られる。

 

「火々里さん!?」

「ううっ……!」

 

 突然に体調を崩したように苦しみ始めた綾火を、仄は何とか支えつつトイレを出た。破壊されたトイレについては、『工房』の修繕担当の魔女が直した上で一般人の記憶は改竄される。心配は無用だ。

 一転して綾火に肩を貸すような形になった仄は彼女の顔を見た。普段は顔色を変える事もなくクールに保たれているその表情には明らかな苦悶が浮かび、額からは汗が滲み、頬は紅潮している。

 仄の心配そうな視線に気付いたのか、綾火はこちらを見て言った。

 

「多華宮君……買い物袋は、そこのテーブルに置いてあるから、持ってもらえる、かしら……?」

「そ、そんな事言ってる場合じゃ……!」

「……お願い」

「………」

 

 片手に茄子や卵が詰まった買い物袋を持ち、反対側で綾火に肩を貸しつつ仄はスーパーを出た。

 

 

 

 ──スーパーから数十mほど離れた地点。

 

「ケホッ、ケホッ! 相変わらず無茶苦茶だね、炎の魔女は!」

「………」

 

 「塔の魔女」の証である白いローブの煤を落としつつ、冥は言った。

 一方の虎徹もぱたぱたとローブを叩きつつ、こちらは何かを考えている。

 やがて、虎徹は煤を落とし終えると冥に聞いた。

 

「……なあ、冥。あれは何の薬なんだ?」

「へ?」

「会議中、何か紙を見て渋い顔をしていたろう。たんぽぽは良く分かっていなかったようだが、どういう効果で炎の魔女を無力化するのか程度は知っておきたい」

「……ん~」

 

 虎徹の言葉に冥は歯切れの悪い反応を返すと、眉をハの字にしつつ答えた。

 

「媚薬だよ、媚薬。それも鬼致死量のヤツ」

「致死量の媚薬?」

「淫魔の角の粉末とか、牛頭人(ミノタウロス)の胆石とか、竜の血のエキスとか、その辺りのを無茶苦茶な量ぶっこんだの。誰が作ったか知らないけど正気の魔女が作れる薬じゃないよ、アレ」

「……それで、ソレを飲んだ場合は普通はどうなるのだ?」

「そこらの魔女なら()()()発狂、悪けりゃその場で心臓破裂」

「………!?」

 

 冥の言葉に虎徹は流石に動揺を見せた。

 

「まァ、炎の魔女の事だから死ぬってのは無いだろうけど……まともじゃいられないだろうね」

 

 僅かばかりの同情を顔に浮かべつつ、冥は呟いた。

 

 

 

「た……ただい、ま!」

「多華宮君、このまま、私の、部屋に……」

「和室の方が風通し良くて涼しいよ?」

「大丈夫……部屋の方で、いいから……」

 

 どうにか帰宅した二人であったが、多華宮家は無人であった。母の小町は会社勤めで帰宅するまでまだ時間がある。妹の霞は友人宅にでも行っているのだろうか。

 綾火を支えつつ、仄は一階の居間の先にある彼女の部屋に辿り着いた。

 

「ごめんね火々里さん、部屋、入るよ」

 

 このような状況であれ女性の部屋に入る事に申し訳なさを覚えつつ、仄はドアを開けて一旦綾火を座らせた。部屋の片隅に畳まれていた敷布団を広げ、そこに制服姿のままの彼女を寝かせる。

 

「ふぅ、あぁ……」

「凄い熱……火々里さん、このまま横になってて。とりあえず水を……わっ!」

 

 水を用意しようと腰を上げかけた仄は慌てて顔をそむけた。綾火がおもむろに制服のネクタイを緩め、ベストのジッパーを下ろしたのだ。やはり相当に押さえつけられていたのだろう。それだけで綾火の乳房は大きくブラウスの布地を張り詰めさせた。白い布地越しに、うっすらとブラが透けて見える。出来るだけ見ないようにと思ったが、否応なく視界に入ってしまう。

 

「ちょ、ちょっと火々里さん! 脱ぐなら僕が出てから……!」

「私は気にしないわ」

「気にしてよ! 嫁入り前なんだから!」

 

 呼吸は荒いが、綾火はいつも通りの調子で言ってくる。改めて仄は水を取りに行こうとした。

 

「……水は要らないわ。多華宮君……私なら大丈夫だから、そのまま部屋に戻って、一人にして貰えるかしら?」

「そんな……」

「多華宮君も、私の身体の事は知っているでしょ? これは、多華宮君が飲まされた薬の影響を、私が肩代わりしているだけ……放っておいてくれれば、明日には治るわ」

「………?」

 

 仄は違和感を覚えた。

 綾火は日常的に仄と常に共に居ようとする。それはもう、風呂とトイレと寝る時以外はほぼ一緒なくらいだ。その彼女が自分から仄を遠ざけようとしている。

 

「お願い、一人にしておいて」

 

 表情から仄の疑問を察したのだろう。綾火は更に言った。

 こういう時の綾火は決して引き下がらない。仄はそれを知っている。

 

「……分かった。火々里さん、何か必要なものがあったらすぐに呼んで」

「ありがとう、多華宮君」

 

 そう言うと仄は立ち上がった。どうしたのか、少し前かがみだ。

 仄は綾火を気遣うように何度か振り返りつつも部屋を出る。綾火は足音が階段を上がってゆくのを確認し、大きく息をついた。

 

「んんっ!」

 

 その身体がびくんと跳ねた。ブラウスのボタンを外し、ハーフカップのブラに包まれた豊満な乳房を外気に触れさせる。

 

「……まずいわね」

 

 瞳を潤ませつつも、綾火は静かに言った。これは──かなり()()()

 地下の隠し部屋に行こうかと綾火は考えたが、それはかなりリスクが高かった。確かに地下ならば自分の声は届かないだろうが、治まるまで戻ってくるのは難しくなる。そうなれば仄や小町は自分を探すだろうし、それで隠し部屋を発見されれば余計に問題となる。

 

「ここで……するしか無い、わね……ンッ、んうっ……!」

 

 乳房が熱く張っている。ショーツに包まれた股間が激しく疼いている。

 

「はあっ……た、多華宮、君……!」

 

 想い人の名前を口にしつつ、スカートのホックを外すと迷わず綾火はショーツに手を差し入れた。

 

 

 

「うぅん……」

 

 一方、部屋に戻った仄は仄でベッドの上で落ち着かなげにしていた。

 

「火々里さんが大変だってのに、何でこんな……?」

 

 もぞもぞと股間を持て余す。少し前から肉棒が勃起したまま治まらないのだ。きっかけは先ほどの綾火の緩められた胸元を見たのが原因だが、一向に治まる気配が無い。

 仄は知る由も無かったが、これは彼が飲まされた薬の残渣による影響であった。確かに彼が飲まされた媚薬の効果の99%は綾火に転移された。しかしながら、残った1%でさえその効果は市販の高級精力剤のそれを数倍上回る。ズボンの中の仄の肉棒はびくびくと跳ね、解放と射精を求めてくる。

 今なら綾火は近くにおらず、家族も帰ってきてはいない。自慰をするには最良の状況である。

 

「うぅ……ごめん、火々里さん」

 

 綾火が苦しんでいるのに自分が自慰をしたくなっている事に仄は申し訳なく思いつつ、ズボンのジッパーを引き下ろした。臍に貼り付きそうな程に反り返っている肉棒に手を添え、ブリーフの隙間から外に──

 

『おっと、それ待った!』

「わあっ!」

 

 突然の天井からの声に仄は思わず悲鳴をあげた。慌てて見上げると天井の一部が外され、そこから吊り目がちの猫耳少女と目つきの悪い人形が顔を覗かせている。

 

「あとりさん!?」

 

 昏峰あとり。冬月市を守る5人の魔女の一人にして、日常的に綾火を補助している猫耳を持つ少女。綾火が動けない時などは彼女に代わり監視役を務めているようだ。しかしこんな状況でまでそれを務めているとは。

 天井から降り立ったあとりは、手にしたパペットめいた人形の口から言葉を放った。彼女は基本的に内気であり、腹話術人形が代弁する形で会話するのだ。

 

『大体の状況は分かってるぜ。お楽しみを始めようとしていた所悪いが、そいつはちょっと待ってくれ』

「……どういう事?」

 

 その口調はシリアスだ。肉棒を半ば露出させたままの状況であったが、仄は表情を引き締めた。

 

『お前も気付いてると思うんだが……今回の姫様、相当にヤベえ。ああは言っていたが、傍に居てやってくれねえか?』

「でも、火々里さんが素直に聞いてくれるとは……」

『その位は手前の甲斐性で押し切れよ! 本気で心配だってんなら、多少の強引さは必要だぜ?』

 

 あとり本人は無表情のままだが、人形は器用に怒りの表情を浮かべて仄を叱咤する。

 

「あとりさんは、今の火々里さんがどうなっているのか分かっているの?」

『大体だがな。だが、俺から言うのはナシだ。それこそ姫様と一緒に居れば否応なく分かると思うぜ』

「……分かった。ありがとう、あとりさん」

 

 ズボンのジッパーを引き上げ、仄はあとりに微笑んだ。ベッドから身を起こし、部屋を出るといそいそと階段を下りてゆく。

 

「………」

『あ? 「これでいいのか?」って?』

 

 無言のあとりが何かを言ったように人形が首を動かす。

 

『さあな……だからって、あれじゃ姫様が惨め過ぎるだろ。同じ屋根の下にいる相手の名前を言いながらオナニーなんざ』

 

 人形は腕を組み、口元に苦笑を浮かべた。

 

『それに、案外いい機会かもしれないぜ? これで一線を超えられないようなフニャチンなら……もともと姫様には相応しくないだろうよ』

 

 

 

【続く】



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第二話 (色々な意味で)頑張れ多華宮くん

「……はい? 『霞を呼びつけて何かさせておけ?』 いや、可能でやがりますがね? 丁度、他所からウチの生徒にちょっかいかけてきてるグループが居て、そいつらを今晩中に叩き潰すつもりで、オラァ!」

 

 夕闇迫るストリート。

 着ぐるみめいたパーカーを被った少女が、携帯で誰かと話をしたまま眼前のリーゼント姿の巨漢を一撃で殴り飛ばす。

 

「え? ああ、今、そのグループの手下とやり合っている最中なんです。四天王がどうとか言っていましたが、まあイキっていただけの雑魚で……え? 『できれば霞を今晩は帰宅させるな』? あとり、それは一体どういう、ウラァ!」

 

 今度はアフロヘアの巨漢を一撃で蹴り倒す。

 

「姫様が!? ちょ、大事(おおごと)じゃないですか! ハアッ!」

 

 今度はモヒカンヘアの巨漢をチョップ一撃で沈める。

 

「……『多華宮君が居れば大丈夫』? 『ただ霞が居るとややこしくなる』?? 何だか分かりませんが、分かりました! オゥラァァ!」

 

 携帯を片手に持ったまま彼女、冬月市を邪悪な魔法から守る5人の魔女の一人にして不良グループ「天竺」総長である乙女橘(おとめたちばな)りのんは宙を舞い、最後に残っていたホッケーマスクを着けた巨漢の延髄に蹴りを叩き込んだ。

 

「さて……では霞に電話するとしましょうか」

 

 ──同時に5人の魔女の補欠枠、多華宮霞の師匠でもある。

 ホッケーマスクが倒れ込むのを確認すらせず、りのんは携帯の履歴から霞の番号を探した。

 

「……ああ、霞? 今、電話は大丈夫ですか? これから抜き打ちの修行を行います」

 

 

 

 今日も今日とて火々里さん  第二話 (色々な意味で)頑張れ多華宮くん

 

 

 

 多華宮家は二階建ての一軒家で、その造りは三人家族では少し持て余す程に大きい。二階には仄や霞の部屋に加えて幾つかの個室。一階にはキッチン、リビング、和室に浴室、そこそこの広さの庭もある。諸事情から自宅が完全に破壊され、多華宮家に居候することになった火々里綾火は一階の空き部屋を個室として利用している。

 

「………」

 

 勃起したままの肉棒を持て余しつつ、多華宮仄は気持ち息を殺して階段を下りた。綾火に言われて部屋を出てからさほどの時間は経っていない。床板を踏む音がやけに大きく響く気がする。

 やがて仄は綾火の部屋の前まで辿り着いた。

 

「火々里さん……」

 

 頼まれて出て行った手前、堂々と中に入るのは流石に気が引ける。仄は腰を落とすとそっとドアノブに触れ、音を立てないようにゆっくりと回した。鍵はかかっていない。

 そのまま仄は僅かにドアを開け、隙間を作った。

 

「!?」

 

 むわっとした熱気が隙間から流れ出し、仄の頬に当たった。室内の温度と湿度は相当に上がっているようだ。

 

「(だ、大丈夫なのか!?)」

 

 心配からすぐにでも部屋に飛び込みたい衝動を抑えつつ、仄は隙間に顔を近づけ中を覗いた。

 果たして、綾火は布団の上にいた。

 

「……!」

 

 しかし、その様子は仄の知るどの綾火の姿とも異なっていた。

 綾火は掛け布団を被らず、着崩れた制服を纏ったままうつ伏せの姿勢で腰だけ突き上げるような姿勢で、枕に顔を埋めていた。

 

「ンッ……ンウッ……」

 

 仄の耳に微かに綾火の喘ぎが届く。

 それが苦悶によるもので無い事は明白だった。綾火の片手はショーツの中に差し込まれ、下着の中で激しく動いていた。もう片方の手は、ブラから零れ露わになった重そうに揺れる乳房を揉みしだいているようだ。

 

「うっ……!」

 

 唐突かつ鮮烈な綾火が自慰行為に耽る姿に、仄は危うくそれだけで射精しそうになった。腰に力を込め、何とか堪える。

 綾火のスカートは既に半分脱げており、太腿で引っかかっているような状態だった。ステッチの部分に染みが浮かんでいるのが仄の位置からでも分かる。

 

「ふうっ……ンッ、アアッ!」

 

 快感が強まってきたのか声を抑え切れなくなった綾火の口が枕から離れ、より鮮明な喘ぎが室内に響く。

 

「(火々里さん、こんな声も出すんだ……!)」

 

 日頃から淡々とした反応で静かに語り、滅多な事では大声をあげる事もない綾火の嬌声。それを聞いた仄は素直にそう思った。

 

「(って、そうじゃない! どうなってるんだ、これ!?)」

 

 興奮で麻痺しかけている理性を辛うじて回復させ、仄は考えた。

 あとりは「行けば分かる」と言っていたが、これは流石に状況が唐突すぎる。体調を崩したと思っていた綾火が自分を遠ざけたかと思えば、さほどの時間も置かず部屋で夢中で自慰行為に及んでいる。これは一体どういう事なのか。

 そこで仄は何かに気付き、自身の勃起したままの肉棒に意識を向けた。

 

「(まさか……『そういう薬』だったのか!?)」

 

 あっさり引き下がった二人、自分の薬の効果を肩代わりした綾火の変調、不自然に滾る自分の身体。これらを結びつけるのは難しくなかった。

 同時に仄は今の彼女を襲う衝動の激しさを思い、息を呑んだ。今までのダメージ転移が発生したケースから考えて、本来自分が受ける筈だった薬効の大半を彼女は肩代わりしており、仄にはほぼ効果は残っていない筈だ。

 それでいて今の仄の身体には、まるで中に火が籠っているかのような「熱」が籠っている。ならば今の綾火はどれほどの───

 

「はぁっ……多華宮、君……!」

「!?」

 

 突然に自分の名を呼ばれ、仄の心臓が大きく跳ねた。思わず口を手で押さえる。

 

「多華宮君、多華宮君……ッ!」

 

 しかし、綾火はこちらに気付いたのではないようだった。枕に顔を埋め、腰だけを突きあげた格好のままスカートを脱ぎ、更に染みの広がるショーツをずり下ろす。

 当然ながら綾火の下半身を隠すものは全く無くなり、薄い陰毛に彩られた彼女の秘所が露になる。

 

「(あ……あれが火々里さんの、お、おまっ……!)」

 

 愛液に濡れる陰唇が蛍光灯の光に照らされテラテラと光沢を返す。

 女性の秘所がどんなものかは仄も知っていた。妹の霞とは彼女の強い要望により、数日に一度のペースで一緒にお風呂に入っている。隠す風も無く全身を見せてくる霞の乳房はおろか秘所の形も普通に知ってはいた。

 しかし、初めて目にする綾火の秘所は仄の股間を否応なく興奮させた。ビクンと肉棒が跳ね、ブリーフの先端に先走りが滲んだのが分かる。

 

「多華宮、君……そう、そこっ……くうっ!」

 

 布団の上の綾火はそう言うとクリトリスを中心に弄っていた指を陰唇に移し、膣口に指を差し込んだ。「くちゅ」という音が仄の耳にまで届いたような錯覚を覚える。

 

「う、動いて、多華宮君……激しくして、いい、から……!」

 

 どうやら綾火は仄に抱かれる妄想で自分を昂らせているようだった。うつ伏せになった事で釣り鐘状に揺れる巨大な乳房を強く揉みながら、膣に差し込んだ指を出し入れし始める。

 

「ンンッ! あ、はあ……っ! 多華宮君、もっと、強く……!」

 

 膣に挿入している一本の指を浅く動かしつつ、他の指で陰唇やクリトリスに触れる。部屋から漏れ出す空気の熱と淫臭が更に強まる。

 

「……っ!」

 

 やがて綾火の全身が大きく震え、僅かに脱力した。どうやら達したようだ。しかし、数秒ほどの間も置かずに再び秘唇を弄り始める。おそらくは全く治まっていないのだろう。

 

「………」

 

 仄は自慰を再開し始めた綾火の姿を見て、少し迷い、大きく息を吸い、立ち上がり、ドアを開けた。

 

「……火々里さん」

「っ!?」

 

 妄想でない仄の声に気付き、綾火は除けていた掛け布団を素早く手にして体に巻くと身を起こし、仄を見た。

 絶頂の余韻が抜けきらない紅潮した顔のまま、しかし何とか平時通りの対応をしようとしているのだろう。綾火は静かに尋ねてきた。

 

「どこから見ていたの?」

「その、火々里さんが僕の名前を呼び始めた、少し前あたりから」

「……そう」

 

 仄は綾火の瞳を見た。そこには浮かんでいるものは隠し切れない動揺と、拒絶。

 

「だったら分かるわね? これが、多華宮君が飲まされた薬の効用……こうなる事が分かっていたから、見てほしくなかった」

「……やっぱり」

「でも、逆に言えばそれだけよ。ひと晩を越えれば治まるわ」

 

 嘘だ。仄はそれを悟った。

 こうして今、仄と話をしている最中でも彼女の脚はもぞもぞと動いている。自身の中から際限なく湧き上がる性欲を抑え切れていないのだ。

 綾火には物理攻撃は全く効かない。毒物にしても猛獣用麻酔弾さえ短時間で無効化する。しかしおそらく──今回使われた薬は()()()()

 仄は息を呑むと、一歩踏み出した。

 

「火々里さん」

「それ以上、近づかないで」

 

 静かな、しかし全力の拒否。しかし仄は更に部屋に踏み込む。

 

「入ってきては駄目。多華宮君にまで影響が及ぶわ」

「……嫌だ」

 

 更に一歩。

 

「下がりなさい。これは『師匠』としての命令よ」

 

 魔女の師弟関係において、師匠の言う言葉に弟子は絶対に従わなければならない。師匠が黒を白と言えば、弟子も白と言わねばならない。

 綾火は日常においてこの「師匠」という言葉で仄に命令した事は滅多に無い。言わばこれは最終通告だ。

 実際、仄はその言葉に歩みを止めた。安心したように綾火が言う。

 

「そう、それでそのまま出て行きなさい。今晩の夕食は悪いけれど……」

「火々里さん……本当はもっと、苦しいんだよね?」

「……!?」

 

 仄はおもむろに制服のズボンのベルトを外すと、留め具を外して脱ぎ捨てた。先走りに濡れるブリーフも脱ぎ、下半身は靴下だけの姿になる。

 果たして仄の肉棒は固く反り返り、半分ほど露出した亀頭からは先走りが滲んでいた。血管をうかべた竿はびくびくと震え、臍に当たりそうになっている程だ。

 

「多分、ほんの少しだけ僕に効果が残っていたんだと思う。正直、その……火々里さんのを見て、ちょっとだけ、出た」

「………」

 

 綾火は答えない。潤んだ瞳で仄の肉棒から視線を逸らせずにいる。

 

「転移されたはずの僕でコレなんだから、今の火々里さんがこんなもんじゃないって事も、分かる」

「……多華宮君」

 

 仄は腰を落とし、綾火に顔を近づけた。

 日頃から自分と離れようとしない綾火が何故この状況において遠ざけようとしていたのか、既に仄は気付いていた。

 今の綾火は言わば飢えた狼であり、仄は無力な兎だ。近くに居れば綾火は堪えられなくなり、『兎』を食うだろう。

 綾火はそんな形で仄との一線を越えたくなかったのだ。敵に飲まされた薬による衝動のまま行う、初めてのセックス。そんな形で仄と結ばれたくはなかったのだ。

 仄にしても女性との交合の経験などない童貞である。確かにこんな形で綾火と初体験を迎える事への抵抗が無いかと問われれば、若干の迷いはあった。しかし──

 

「……火々里さん」

 

 心臓が激しく動悸している、仄はそれを感じつつ綾火に言った。

 

「え、えっと……僕も初めてだから、どれだけ役に立つか分からないけど……火々里さんの苦しいのを、少しでも軽くさせられるなら……」

「多華宮君、駄目、それ以上は……!」

 

 綾火の身体が震えている。まだ拒絶の色は消えない。

 仄は思った。理詰めでは今の彼女の心を開けられない。

 息を吸い、仄は真っ直ぐに綾火の瞳を見つめて言った。

 

「それが、薬の効果だったとしても……僕は、『今の』火々里さんとしたい」

「……!」

「……駄目、かな?」

 

 一瞬の静寂。

 直後、仄の身体は強烈な勢いで手前に引っ張られ、くるりと回転したかと思えば汗に濡れる敷布団に寝かされていた。

 

「火々里さ……ンッ!」

「んっ、ふっ、んんっ……!」

 

 綾火の顔が急速に近づき、仄の唇に綾火の濡れた唇が押し当てられる。熱を帯びた舌が仄の口腔内に入り込み、歯茎を撫でるように舐めてゆく。

 

「はあっ……多華宮君、多華宮君……!」

「か、火々里、さん……ううっ!」

 

 仄の肉棒に細く長い指が絡みつく。固さと熱さを確かめるように愛おしく撫で擦る。それだけで仄の腰は軽く浮き上がってしまう。

 密着する二人の間で、綾火の豊満な乳房が仄の胸板に心地よい弾力を与えてくる。先端で固くなっている乳首の感触を覚えつつ、仄は自分からもぎこちなく舌を伸ばし、綾火の舌に絡ませた。二人の唇の間で舌が別の生き物のように動き、唾液が交換されてゆく。

 

「ふぅ、はぁ……か、火々里、さん、凄い……!」

「……ごめんなさい、もう、私……ンッ!」

 

 離れた唇の間に粘液の箸がかかる。大きく息をつく仄に綾火は荒い吐息と共に呟くと、仄の身体に跨った。

 

「私に任せて……多華宮君は、そのまま……」

「う、ううっ!」

 

 愛液に濡れそぼる秘唇を広げ、屹立した肉棒に手を添える綾火の淫猥な姿に仄は言葉を失った。愛液の雫がぽとりと亀頭に垂れ、その熱さに思わず声が漏れる。

 綾火はそのまま腰を落とした。肉棒を焼けるような熱さの襞が包み、やがて亀頭の先端が強い抵抗感を覚えた。

 

「(これ、ひょっとして、火々里さんの処女膜……)うあっ!」

「ンッ、ンンッ……多華宮君、手を、握って……ああぁっ!」

 

 竿に添えられていた綾火の手が何かを求めて宙を泳ぐ。仄は快感に顔を歪ませつつもその手を強く握った。

 更に綾火は腰を落とした。ぷつぷつと接着していたシートが乖離するような感触と共に、仄の肉棒は綾火の膣内のより奥まで呑み込まれてゆく。

 

「うあっ、くうっ! 火々里さん、ごめっ、ああっ!」

「………!」

 

 初めて感じる強烈な熱さと締め付けと快感に仄の腰がびくびくと震えた。我慢しようと思う間すら許されず、どくどくと亀頭が精液を吐き出してゆく。

 結合部から愛液と僅かの血液が混じった白濁液が溢れてくる。

 

「……出してしまったのね、多華宮く、ンンッ!?」

「だ、大丈夫、まだ、全然だからっ!」

 

 満たされない事への不満が浮かびかけていた綾火の身体が跳ねた。射精直後というのに、仄の肉棒が硬度を落とさないまま下から突き上げたのだ。

 

「あっ! ああっ! た、多華宮君っ! 熱いっ!」

「ううっ! か、火々里さんこそっ、熱くって、キツくって、柔らかくって!」

 

 互いにテクニックなども知らない、本能任せの獣めいたセックスであった。仄が夢中で腰を突き上げると、綾火はそれに合わせて腰を振る。豊かな尻肉はその旅にゆさゆさと揺れ、大きさと弾力を備えた巨大な乳房が重そうに揺れると仄の片手がそれを強く揉んだ。もう片方の手は綾火の手を握ったままだ。

 

「うっ、うあぁっ!」

「んあぁっ! 多華宮君のが、出た、ままっ! またっ!」

 

 二度目の射精。しかし仄は腰を止めずに射精したまま更に綾火の快感を引き出そうとする。大量の精液によってより潤滑になった綾火の膣内を、凶暴なまでに怒張した仄の肉棒が蹂躙してゆく。

 

「た、多華宮、君! 私、もう、もう、少し、でっ!」

 

 仄は悶える綾火の顔を見た。それは淫らで、今までの仄の知らなかった顔で、そして美しかった。

 自分が彼女を気持ちよくさせている。その事実は仄に未知の征服欲を感じさせると共に堪らない愛おしさを覚えさせた。

 もっと綾火の感じる姿を見たい。自分が今まで知らなかった、おそらくは綾火自身も知らなかったであろう姿を見たい。

 

「あっ! ああっ! 来る、来る……っ!」

「か、火々里さんっ! う、ああぁっ!」

 

 互いを握る手の力が強くなる。

 三度目の射精と同時に綾火は大きく背を反らし、身体を震わせた。きゅっと仄の肉棒が強く締め付けられ、より奥まで精液を吸い上げようとする。

 やがて、にゅぽんと肉棒が綾火の秘所から抜け落ちる。しかし萎えたかに見えた肉棒は早くも復活し、硬さを取り戻してゆく。

 

「あぁ、ハァ、ハァ……」

「……火々里さん、その、いいかな?」

「え……?」

 

 絶頂の余韻に浸る綾火に仄は言った。彼女の身体も、既に再度の熱を帯び始めている。一度や二度の絶頂で治まるものではないのは分かっていた。

 仄の頼みに綾火は一旦身体を離した。仄が身を起こしたのを確認し、今度は四つん這いの姿勢で仄に尻を向ける。

 

「……恥ずかしいわ。こんな格好……ンンッ!」

「凄い、大きい……全然、手に収まらないよ、火々里さん……!」

 

 四つん這いになった彼女に覆いかぶさるかのように──実際は綾火の方が大きいので、上から圧し掛かるような恰好になってしまってはいるのだが──仄は身を寄せると、背中から手を回して綾火の両の乳房を揉みしだいた。片手では到底収まらない大きさの乳房は柔らかく、同時に確かな弾力で仄の指を押し返してくる。

 両手に感じる堪らない感触を堪能しつつ、仄は後ろから綾火の陰唇に亀頭を擦りつけた。

 

「はぁっ……お、お願い、多華宮君、焦らさずに、早く……!」

「う、うん、分かって……くうっ!」

「ああぁっ!」

 

 再び挿入される肉棒から与えられる快感に、綾火は声を抑える事も忘れて喘いだ。

 

 

 

 ──二人が交わる部屋を見下ろす、隣家の屋根の上。

 

「おーおー……すっごい効き目」

「これは……何と言うか……」

「♭……!」

「くくっ、いいねェ。生の参考資料は」

 

 眺めるように手を額にあてて声を漏らす冥。言葉に困る虎徹。顔を赤らめて、しかし視線を逸らさず見つめている鈴。何処からかスケッチブックを取り出して鉛筆を走らせている環那。

 冥は状況を確認すると、後方のたんぽぽに言った。

 

「リーダー! 状況は絶好、今が攻め時だよ!」

「にゃっ!?」

 

 後方で耳まで真っ赤にしていたたんぽぽは冥の声に跳ねるような反応を見せ、もじもじと答えた。

 

「そ、その……本当に『アレ』に攻撃するのか? もうちょっと待ってからの方が……」

「いや、何言ってるのたんぽぽちゃん? ここまでたんぽぽちゃんの想定通りに行ってて、今回はイケそうなんだよ?」

「ええと、そ、それはそうなんだけど……」

 

 環那のツッコミにもやはり顔を赤くしたまま言葉を濁す。

 たんぽぽは性についての知識は薄い。仄に白姫について説明を求められた時にも「お前の中の白いアレ」と言って誤解された事に気付かなかった程度だ。おそらくは本当に薬の効果については「炎の魔女を無力化できる」という所までで具体的な効果は分かっていなかったのだろう。冥はそう推測した。

 とはいえ、ここで二の足を踏んでもいられない。綾火のあの様からして、気高い在り方を示す限り魔力を10倍にする「ノブレス・オブリージュの加護」は発動してはいまい。言わば今の彼女は今まで相手をしていた時の1/10の力しか発揮できないという事になる。

 

「……仕方ない! たんぽぽはバックアップ、アタシらだけで行くよ!」

「わ、分かった!」

 

 たんぽぽの返事を待たず、冥たち四人は屋根を蹴った。

 冥の周囲に物質透過の魔獣「ダークスライム」が展開し、手にした鞭が音を鳴らす。

 環那の背中の巨大な魔導書「ブラックバイス」から魔物が溢れる。

 鈴の手にしていた頭蓋骨が骨の姿の獣「ラブリー・ボーン」を形作る。

 虎徹の手にした妖刀「虎鉄」が禍々しい光を放つ。

 

 後背位で仄から突かれ喘ぐ綾火は、そこで初めて四人に気付いたようだった。しかし遅い。戦闘態勢に移り、攻撃魔法を展開する前にこちらの攻撃が届く。

 その時、快感に震える手を少しだけ綾火は持ち上げ、ちょっとだけ指を振った。

 

「え?」

 

瞬間、辺り一帯を昼に変える程の大爆発が起こり──

 

「な……」

 

 爆風が、多華宮宅に飛び込もうとしていた4人を押し戻す。

 

「「「「何でぇぇっ!?」」」」

 

 やがて、四人とたんぽぽは爆風と爆炎により遥か遠くに吹き飛ばされた。

 

 「『ノブレス・オブリージュの加護』を失った綾火の魔力は1/10になる」ここまでは冥達の判断は当たっていた。

 しかしながら、綾火の魔力を強める方法はそれ一つではない。最も重要なのは、主従の契約を結んだ相手との心身の繋がりの強さである。

 この繋がりが強ければ強いほど仄から綾火への魔力の供給量は増大するのだ。具体的に言えば頬へのキス程度で対象の石化を解除し、耳かき&膝枕で校舎一棟を半壊させる程である。では、それが愛する者同士のセックスであったなら?

 確かに綾火の魔力は1/10になっていた。しかし──元の数字が10倍以上になっていれば、それは意味を持たないのだ。

 突然の爆発に、綾火に挿入したまま仄は驚いて周囲を見た。

 

「え!? な、何!?」

「ンッ……何でも、無いわ……それより多華宮君、もっと、動いて……!」

「くぅっ! し、締まるっ、火々里さんっ! 熱っ!」

 

 切なそうに腰を揺らす綾火の姿に、仄は再び肉棒を激しく突き入れた。

 

 

 

 某所。

 

「ふぅむ。とりあえずは幸先良好……といった所かの」

 

 幼い少女の声がする。

 

「しかしまあ、若者のまぐわいというのは激しいのう。何百年かぶりに子宮が疼くわい」

 

 かかか、とコート姿の少女は笑うと、手元のガトーショコラをひと口食べた。



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第三話 ひとたび一線を越えれば二度とは、二度とは

 ──結論から言えば、仄の行動は正解であった。

 

 ひとしきり交わった夜を越え朝を迎えた時、綾火の体調は完全に回復しており、同様に仄の中の不自然な滾りも治まっていた。

 実は母の小町はその最中に帰宅していたのだが、二人の様子を察してそっとしてくれていたようだ。翌朝の朝食が赤飯だったのは彼女なりの祝福だったのだろう。

 妹の霞は何故か夜に戻らず、明け方にフラフラで戻ってきたかと思えばそのまま寝てしまった。「何故か」このタイミングで師匠のりのんから呼び出されていたらしい。

 まあ、色々とあったが結果としては全て解決し、元に戻った──と言いたい所ではあるのだが、ひとつだけ変わった事があった。

 

「ちょ、火々里さん、上に霞が……!」

「大丈夫よ。さっき猫耳と一緒にゲームを始めたばかりだから、20分は降りてこないわ」

 

 綾火の仄への行為が、今まで以上に過保護かつ積極的になり、歯止めが効かなくなってきた事である。

 

 

 

 第三話 ひとたび一線を越えれば二度とは、二度とは

 

 

 

 週末の午後の多華宮家のリビング。机の上には幾つかの参考書とノートが置かれ、鉛筆と消しゴムが転がっている。

 現在、綾火と仄はエアコンの効いたこの部屋で勉強中──であった。

 

「いや、だからって、こんな、ううっ!」

 

 ズボンから引き出された肉棒が滑らかな指に扱かれ、仄は思わず声を漏らした。

 

「このまま勃起させた状態で勉強に集中できないでしょ? 我慢する必要はないわ」

 

 足を崩して座る仄に寄り添うように綾火は身体を近づけると、肉棒を扱く手を速めた。

 つい今さっきまで、二人は普通に勉強をしていた。しかし、答えを添削する為に近づいてきた綾火の胸が仄に触れ、仄は不意に勃起してしまった。

 すると間髪入れず綾火は仄の変化を察し、股間に触れてきたのだ。

 

「ぐっ! かっ、火々里さん! このまま、だとっ!」

「もう出そうなのね。少し待ちなさい」

 

 腰の奥から強い射精感がこみ上げてくる。絶頂が近い事を仄が訴えると、綾火はふと手を止め、上体を伏せた。必然的に仄の股間に綾火の整った顔が密着する体勢になる。

 

「……あむっ」 

「ふあぁっ!」

 

 充血した亀頭が綾火の唇に包まれ、仄は耐えきれず大きな声をあげた。慌てて口を押さえ、階上の霞たちの反応を伺う。

 

「………」

 

 動きや反応なし。どうやら最近ハマっている狩りゲーに熱中してくれているようだ。

 

「っぱ……床を汚してはお義母(かあ)さまに悪いわ。このまま私の口の中に出しなさい」

「ちょ、そんな……うぅっ!?」

「ンンッ……はっ、んふっ……」

 

 何とか綾火を制止しようとした仄だったが、再度すっぽりと肉棒を咥えられ途中で言えなくなる。

 綾火の口がすぼめられ、竿の根元を柔らかく締め付けてくる。同時に舌先は亀頭全体を舐めまわし、鈴口をつつくように弄ってくる。

 冬月高校においてあらゆる面において最優秀と認められた「姫」の称号を持つ綾火だが、性についてもその優秀さを持ち合わせていたようだ。処女を失ってからまだ数日だと言うのに早くも仄の感じやすいところを把握し、嫌悪感を持つこともなく自ら進んで仄の肉棒を咥えこんでくる程になっていた。

 

「ンッ、ンッ、ふぅっ……」

「あぁっ! 火々里さん、出る、出るっ!」

「………!」

 

 背を反らし、仄は絶頂に達した。綾火の口の中にどくどくと精液が吐き出され、呑み込むのも苦しかろうそれを彼女は迷う事なく嚥下してゆく。

 

「あっ、んっ……か、火々里、さん……!」

「コホッ……こんなに沢山出して、やっぱり溜まっていたのね」

 

 丁寧に尿道に残る精液も吸い切ると、綾火は軽く咳払いをしてから身を起こした。背筋を伸ばし、口元に仄の精液が僅かに残っている以外は勉強を開始した時と全く同じ風に仄を見る。

 

「さ、勉強の続きをしましょうか」

「……ごめん、二分でいいから休ませてもらっていいかな?」

 

 射精後の脱力感からまだ戻れないまま、仄はぐったりと答えた。

 

 

 

 それから二時間後、仄の部屋。

 

『……姫様が時と場所を選んでくれない?』

 

 仄から「相談したい事がある」と声をかけられ、屋根裏から降りてきた昏峰あとりはその相談内容に(人形の)顔をしかめさせた。

 

「うん、火々里さんが、その、僕の事を気遣ってしてくれている……とは思うんだけど、朝でも昼でも、僕が勃起していたらソレを何とかしようとしてきて……」

 

 例えば、朝起こしに来た際に朝勃ちしていれば躊躇なく「おはよう」のフェラチオ、前回の襲撃の反省からか最近ではローブ姿で仄の外出時のトイレにも随行するようになり、そこで彼女の胸などに股間が反応してしまえば、帰宅後にはまずセックス、夜は夜で風呂に(一応の恥じらいなのかスクール水着姿で)入ってくるようになり、そこでうっかり勃起してしまえばなし崩しでセックスに持って行かれてしまう。

 それ自体は仄としても気持ちよくして貰っている手前、決して嫌という訳ではない。問題は──妹の多華宮霞にこの関係の変化を気付かれる事である。

 

『まあ、確かに霞にバレりゃあ……面倒臭くなるな』

 

 それについてはあとりも同意する。

 彼女は仄に対して「お兄ちゃん子」という枠を超えた強い執着心と依存を見せる重度のブラコンである(なお、本人はブラコンについては固く否定している)。

 幸いにして霞は性についての知識は疎く、むしろ性行為に対し不潔感を抱いているような状態なので隠し通せているが、このまま綾火の行動がエスカレートすれば遠からずその意味に気付くだろう。その時に「姫様だけ不公平よ! お兄ちゃん、妹の権利として私にも膣内射精(なかだし)して!」と言い出し兼ねないのが霞という妹なのだ。

 高校生にもなって数日に一度は添い寝し、一緒に風呂に入っている妹ではあるが、流石に仄としても近親相姦にまで及ぶつもりは無かった。そうなれば、後に起こるのは──ド修羅場である。

 

『うーん……姫様としちゃ、今まで出来なかった形で奉仕できるようになって張り切ってるんだろうなあ』

「うん、僕もそうだと思うんだけど……流石にこのままじゃ」

 

 ふと、人形は何かを思いついたように仄に聞いた。

 

『……なあ、要は姫様がお前の「時と場所を選んでほしい」って気持ちが分かればいいんだよな?』

「え? まあ、そうなの……かな?」

『だったらよ、こういうのはどうだ?』

 

 そう言うと、あとりの人形はある提案をした。仄は顔を赤らめ、驚きつつ反論を返す。

 

「いやいやいやいや、無理でしょそれ! 冬月高校(ウチ)って、魔女の名門校なんだよね!?」

『そこは問題ねえよ。要は魔女が参加していない日を狙えばいいのさ。希望者については俺も把握してる。調整は可能さ』

「それにしたって、その、流石に……」

『……正直、その位しねえと()()姫様を分からせる事はできねえと思うぜ?』

 

 あとりはあくまで無表情だが、その手の人形は多彩な表情で仄に語る。仄は逆にあとりに尋ねた。

 

「その、あとりさん的には大丈夫なの? これって下手すれば、火々里さんを怒らせるんじゃ……」

『まあ……そうだけどよ。ほら、姫様って、一度自分のする事を決めたら周囲がどうだろうと力づくで押し切って、しかもそれを成功させちまうだろ?』

 

 そう語る人形の表情はあくまでシリアスだ。仄は綾火との今までの色々を思い返し、頷いた。

 

「……そうだね」

『正直俺様としては姫様には少しの柔軟さが欲しいと思ってる。例えば工房長はガチガチの体育会系だけど、あれでなかなか駆け引きもできる人だ。お前の事も含めて本部とは色々とやり合ったらしい』

「………」

 

 工房長にして冬月高校理事長である火々里かざね。彼女の尽力により「白姫」を宿す自分は、こうして学園生活を満喫する自由を与えられているのだ。

 もしこれが融通の利かない管理者であれば、仄は工房本部の地下深くにでも封印されていただろう。

 

『姫様も将来的には工房長の後を継ぐ事になる。その時、今の姫様じゃ本部との微妙な駆け引きなんざ出来ないだろう。そういう意味で、今回のお前との一件は荒療治だがいい薬になると思ってんだ』

「あとりさん……」

 

 どうやら彼女は彼女なりに綾火の事を気にかけているらしい。

 その事を仄は理解し、改めてあとりに言った。

 

「……分かった。あとりさん、協力して貰えるかな?」

 

 

 

 ここで改めて冬月高校の特殊な代表制度システム「王子/姫」について説明せねばならない。

 天からの使いが降臨し、学舎において共に授業を受けたという伝説に由来するこのシステムは、毎年秋に行われる文化祭を中心として回転する。

 前回の文化祭から翌年の文化祭までの一年間、生徒の中から外見・学業・生徒間の評価など様々な面から候補生が選抜され、最終的に文化祭の全校生徒の投票によって決定するのだ。

 こうして「姫」または「王子」となった者は学内において生徒会はおろか理事会すら凌駕する、理事長に次ぐ権限を与えられる。「あの教師はこの高校に相応しくない」とその生徒が言えば、あとは理事長の判断ひとつで解任・退職が可能なのだ(幸いにして綾火が姫を襲名してからは、そういった不幸な教師は誕生していない)。

 そしてそんな代表生徒になった者は、全生徒からの羨望と憧憬と敬愛と、幾らかの嫉妬に晒される事になる。「姫様と少しの間でも同じ時間を共有したい」という気持ちそのものは悪ではないが、それが許容量を越えれば混乱を巻き起こす。現在、その混乱を制御するために存在するのが綾火自身が知らぬところで勝手に結成された「火々里綾火親衛隊」である。

 

 ──「姫様を囲む昼の食事会」

 

 誰とはなしにそう称されるようになったお昼休みの定例行事。

 綾火と一緒にお昼を取ろうとする生徒が授業終わりに教室に殺到するようになったため、親衛隊による抽選制チケット管理がなされるようになった一大イベントである。

 まず参加希望者は綾火ファンクラブに登録を行い、S席(綾火の至近距離、いわゆる升席)、A席(噴水外周・綾火側)、B席(噴水外周・反対側)から選んで事前予約を行う。その後に高倍率の抽選を経て出席権が当選した生徒に与えられるのだ。

 ちなみに綾火自身はこの食事会に対して楽しいと思ってはいないが、同時に面倒とも思っていない。「自分と多華宮君がお昼を摂る時に周りに勝手に人が集まり、勝手に散ってゆくだけ」という認識である。公園で恋人と寛いでいる時に周りの鳩に注意を向けるだろうか? つまりはそういう事なのだ。

 そんな訳で冬月高校の昼下がり、いつものように綾火は校内の噴水広場で広げたシートに座り弁当を広げていた。

 

「………」

 

 いつもであれば眼前に居る筈の仄は、まだ居ない。

 

「火々里さん、ちょっとだけ先に行ってもらっていいかな? すぐに追いかけるから」

 

 そう言って綾火だけ先に行かせたのだ。ちなみに仄の食事会への同席については当初こそ親衛隊などからの風当たりが強かったが、彼が生徒会長に就任した事や仄への周囲の好感度が増してきた事もあり、現在は渋々ながら受け入れているという状態である。

 

「あ、あの、姫様……生徒会長が来るまで、お話いいですか!?」

 

 仄がまだ来ない事を好機と見たのだろう。様子を伺っていた女子のひとり──同じクラスの筈だが、名前は憶えていない──が膝立ちで前に進み出た。

 

「………」

「あ、ありがとうございます! あのあの、今朝なんですけど……!」

 

 綾火は文字通り虫を見るような目で彼女を見たが、「駄目」と言われなかった事を了承と捉えたのだろう。その女子は喜々として綾火に話を始めた。

 

「っ!?」

 

 突如、綾火の制服に包まれた豊満な胸が背後から鷲掴みにされた。狼藉を働く指を弾力ある乳房が押し返す。

 

「……どうしました、姫様?」

 

 眼前の女子は小首を傾げて綾火を見る。

 彼女には現在の綾火の状況が正確に見えていない。その事を理解した綾火は背後の人物が誰か悟った。

 

「多華宮君?」

「………」

 

 背中の埃を取るような動作に見せかけつつ、綾火は背後を見た。果たして、ローブ姿の仄が綾火の背中に密着し、手を回して乳房を下から掬うように揉んできている。

 

「多華宮君、これは……?」

「ごめんね、火々里さん」

「んっ……!?」

 

 首筋へのキス。こんな状況だというのにそのキスの仕方は優しく、そのまま(うなじ)へと下がってゆく。

 綾火は咄嗟に周囲に視線を巡らせた。魔女のローブには着用者の存在を希薄化させ、一般人から認識されなくなると同時に無意識に対象との接触を避けるようになる隠密魔法が施されている。しかしそれはあくまで一般生徒の話で、魔女、もしくは魔女見習いであれば容易に認識する事が可能なのだ。

 

「大丈夫、今日の参加者に魔女はいないから……」

「くっ……んんっ!」

 

 仄はより大胆な行動に出てきた。今まで制服の上から揉んでいた胸を、脇から手を差し込んで直接触れてきたのだ。仄の指に乳房が揉みしだかれ、否応なく身体の奥から快感がこみ上げてくる。

 実のところ、仄を振り払い放り投げるのは綾火には容易い。体格的にも、また腕力的にも綾火が勝るからだ。しかしそうすれば、流石にローブの隠密効果にも限界が来る。仄は突然昼食を広げる女子たちのなかに魔法使いめいた格好で出現する事になるのだ。

 「工房の魔女」において最も禁忌とされるのは、魔法や魔女の存在を一般人に認識される事である。先日のスーパーのトイレを爆破したケースなどは現場には魔女と仄しか居なかったから何とかごまかせたが、この人数で、しかもその大半が綾火に注目している現在の状況下では──

 

「あ、あの、姫様、大丈夫ですか? 私のお話、不愉快でしたか?」

 

 自分の話で綾火を怒らせたと思ったのだろう。眼前の少女は眼前で綾火の胸を揉み、うなじにキスを重ね、身体を密着させている仄に気付かないまま泣きそうな顔で尋ねてきた。

 綾火は今にも漏れそうな喘ぎ声を抑えつつ答えた。

 

「ん、だ、大丈夫よ……続けて」

「本当ですか!? 良かったー!」

 

 少女はぱっと表情を明るくさせた。周囲から様子を見ていた他の女子が驚きの声をあげる。

 

「姫様がスルーせずに返事を返した!?」

「そんなに姫様のツボに刺さったのかしら、『朝食のハマグリのみそ汁に小さなカニが入っていた』って話……」

「………」

 

 聞き流していたが、どうやら思っていた以上にどうでもいい話をされていたようだ。

 

「あのあの、それじゃ次は三日前に……」

 

 とはいえ、眼前の少女を舞い上がらせるには十分だったようだ。こんな機会は二度とないと思ったのか、綾火の反応を気にせず滔々とどうでもいい話を再開する。

 綾火はできるだけ自然な動作で弁当箱の中の鮭の切り身を食べると、小声で仄に言った。

 

「(多華宮君、これ以上は……)」

「ごめんね、あとちょっとだから」

「……!」

 

 腰の後ろ辺りに、熱く固い感触。

 何かは考えるまでもなかった。腰を落とした仄がズボンから勃起した肉棒を晒し、綾火の腰に擦りつけているのだ。

 

「(駄目よ、んっ! そ、挿入すれば、流石にローブの魔法でも隠し切れなくなる……!)」

「分かってる。少し捲るね」

「多華宮君……!?」

 

 スカート越しの感触から、今度はショーツ越しのよりリアルな熱と感触に変わる。現在の綾火はレジャーシートに正座に近い姿勢で座っているが、仄は後ろからスカートを捲った上で肉棒を尻の谷間に押し当ててきたのだ。

 

「(多華宮君、こんなに興奮してる……)ああっ!」

「ど、どうしました、姫様!?」

 

 思わず漏れてしまった喘ぎに、少女が話を止めて気遣う。

 

「……何でもないわ。作ってきた雷こんにゃくが、ちょっと辛すぎただけ」

「そうだったんですかー……姫様でもそういうのってあるんですねー」

 

 疑いもせず少女は頷く。

 ショーツ越しの尻に強く押し当てられた仄の肉棒は、そのまま上下に動き始めた。いわゆる「尻ズリ」である。

 

「(はあっ……た、多華宮、君……!)」

「気持ち、いいよ……火々里さんの、お尻……! すべすべで、暖かくて……!」

「(そんな事を、言わないで)ん、んくっ……!」

 

 頬が紅潮しているのが分かる。身体の奥からじんじんと疼く。股間の辺りが少し生暖かい。おそらくは濡れてきているのだろう。

 仄の肉棒は綾火の尻を滑らかに動く。次第に上下する速度が増してゆき、それに呼応するように熱が増してゆく。

 ローブの効果で綾火の背中は仄が存在しないように幻影が作られている。スカートも捲れて見えてはいないはずだ。

 

「ふっ……ンッ……はぁっ……!」

「そんなに面白かったですか!? 良かったぁ!」

 

 漏れる吐息を相槌と思ったのだろう。「家族でファミレスに行ったら、インド人がカレーを食べていた話」を続けていた少女が嬉しそうに言う。

 もはや綾火にはそれに普通に言葉を返す事もできなかった。擦りつける仄の動きに、時折びくりと跳ねるような感覚が混じる。絶頂が近いのだ。

 仄の口が耳元に寄せられる。熱い吐息が耳に吹きかけられ、それだけで綾火の身体もどくんと反応してしまう。

 

「も、もう、出るっ……!」

「……っ!」

 

 熱い迸りがショーツに吐き出されるのを感じる。綾火は身体を震わせ、軽い絶頂に達した。

 

「……ごめんね、火々里さん」

 

 その声を最後に、背後の仄の気配が遠ざかってゆく。

 

「………」

「あのあの、それで次はですね……」

「……話を止めてもらっていいかしら?」

 

 更なるテンションで話を続ける眼前の少女に、綾火は冷たく言った。

 

 

 

「ああああああ……」

 

 校舎裏、人気の少ない体育用具室付近。

 

「ど、どうしよう……あそこまでやるつもりは無かったのに……!」

 

 多華宮仄はローブ姿のまま壁に向かい、頭を抱えていた。

 当初の予定では、少し胸を揉んで耳や首筋を責め、綾火を感じさせるだけで早々に撤退。食事会に合流するつもりであった。尻ズリから射精までやってしまったのは仄の暴走である。

 喘ぎ声を抑えつつ感じる彼女の姿が可愛らしく思わず発情してしまった訳だが、流石に精液を彼女の尻に擦り付けたのは完全に行き過ぎだろう。

 

「火々里さん、怒ってるよなぁ……いや、絶対怒ってるって」

 

 射精を終えて冷静になった頭に浮かぶのは反省と後悔だけだ。午後の授業で、隣の席の綾火にどんな顔で会えばいいのやら。

 更にしばらく仄は頭を抱えていたが、やがて覚悟を決めたのか顔を上げた。

 

「……謝るしか無い、よな。許してくれないだろうけど」

「別に怒ってはいないわ」

「わあぁ!?」

 

 背後からの声に、思わず仄は悲鳴をあげて振り返った。

 

「か、火々里さん!?」

「………」

 

 食事会を終えた綾火が眼前に立っていた。何故仄の位置が分かったのかは不思議ではない。彼女なら簡単な追尾魔法のひとつも余裕で使えるだろう。あるいは自分がここに来るよう誘導されていたのかもしれない。

 逆光を背にこちらを見下ろす彼女の姿に、仄は色々な弁解を頭に浮かべ──それが全て無駄だろうと悟り、頭を下げた。

 

「ごめん、その、やり過ぎた……よね」

「多華宮君、頭を上げて。本当に怒ってはいないの」

「……え?」

 

 そう言われ頭を上げた仄が見た綾火の表情は──反省であった。

 一見すると無表情なままに見えるが、確かに彼女は何かしらを反省していた。

 

「火々里さん?」

「……悪かったのは私の方。今まで多華宮君の為と思ってやってきたのだけど、私は貴方の気持ちを何も分かっていなかったのね」

「えっと……それって」

 

 仄の心に一条の光が差す。あとりは「荒療治」と言ったが、本当に上手くいって──

 

「多華宮君は、衆目に晒されてのセックスが好きだったのね」

「……え?」

 

 仄の身体が硬直する。

 

「大丈夫、私は多華宮君がどんな性癖を持っていたとしてもそれを全て受け入れるわ。基本的に死なないからどんなハードプレイでもOK。例え多華宮君が自分の×××を食えとか言ったとしても、私はそれを喜んで受け入れるわ」

 

 思考が止まった状態の仄の耳に綾火の声が届く。一部がノイズめいて聞き取れなかったが、聞こえない方が幸福だったと言えるだろう。

 言い終えた綾火は無表情のままサムズアップすると、その手を下ろした。

 

「手始めにここで、さっきの続きをしましょう。ちょうど体育館で授業があるから、多華宮君のスリル欲求も満たせると思うわ」

「ちょ、え、待っ……!」

 

 そう言いつつ綾火がスカートを上げる。慌てて制止しようとした仄は、そこに見えたものに言葉を失った。

 

「私も、もう我慢ができないから」

 

 精液塗れのショーツは既に脱いだのだろう。ノーパンで隠すもののない綾火の秘所が真昼の体育館裏で露わになっていた。陰毛は既に愛液に濡れ、艶やかな光沢を仄に見せつける。

 

「……火々里、さん」

 

 おそらく自分はこの後、彼女の提案を受け入れてしまうのだろう。

 衝撃と興奮で痺れる意識の中、仄はそう思った。



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第四話 多華宮君と氷炎の谷

 多華宮仄は健全な男子高校生である。健全な男子高校生である以上、草食系でこそあれ相応の性欲は持ち合わせているし、知識欲もある。

 とりあえず、他者から「白いアレ」と言われて精液を連装する程度には性知識はある。

 そんな訳で、例え間近に一緒に風呂やベッドに入ろうとする妹や、完璧なプロポーションと美貌を併せ持ち、更に仄が望めば何時でも奉仕してくれる美女が居たとしても──それはそれとして性への興味はあるし、オナニーをしたくならないという訳でもない。

 セックスにはセックスでしか味わえない快感があるが、同様にオナニーにもオナニーで良さがあるのだ。

 

「説明してもらえるかしら」

「ええと……その」

 

 果たして、この理屈を今の綾火に語って理解して貰えるだろうか。

 部屋に隠していたつもりだったエロ本を前に置かれ、汗をかきつつ仄はそう思った。

 

 

 

 今日も今日とて火々里さん  第四話 多華宮君と氷炎の谷

 

 

 

「……正直なところ、妻として反省しているわ。まだ私は多華宮君を満足させてあげられていなかったのね」

「(妻!?)」

 

 ここは仄の部屋。説教をするように背筋を伸ばして正座する綾火と、エロ本を挟んで土下座めいた姿勢で座る仄。

 色々と過程をすっ飛ばした綾火の発言に仄はツッコミを入れたかったが、今の状況はそれを許さなかった。

 このエロ本は仄が購入したものではなく、級友の男子から一時的に預かったものである。携帯ひとつで無修正動画が小学生でも見られる現代だが、本によるエロスというのは未だに根強く残っているのだ。

 かつての仄は内向的な性格と付き合いの悪さから男友達はほぼ居ない状態だったが、生徒会長になり様々な面で学校への貢献やら不良撃退やらの活躍を見せるようになり、多少なりとも話をする相手も増えてきた。その一人から「彼女が家に来るから、しばらく預かっておいてくれ」と渡されたのだ。コンビニで売られているような物でなくちゃんと成人マークが付けられた濃いめの一冊だ。

 仄としても男としての興味を抑え切れず受け取り、天井裏のあとりを警戒しつつ昨晩はそれを堪能させてもらったが──仄程度のカモフラージュでは綾火に通用しなかった。妙にスッキリしている仄の姿に違和感を覚えた綾火は学校を終え、帰宅後に早々に仄の部屋に押し入ると僅か一分足らずでエロ本を発見してしまったのだ。

 

「(『それは友達から預かったもの』……って、ここで言っても言い訳にしか聞こえないよなぁ……)」

「多華宮君」

「は、はいっ!」

 

 いつもと同じ綾火の声のはずだが、やけに威圧的に聞こえる。仄は慌てて身を起こした。

 綾火は二人の間に置かれたエロ本を手に取ると、その中身を広げてパラパラと読み始めた。DVDは付属していない、それなりの厚さの本である。中身も普通のセックスからコスプレ、3P、ソフトSMまで網羅し、女優のレベルも結構高いようだ。

 しばらく綾火は読み進め、ある箇所で止まった。

 

「多華宮君は、ここに書かれているような行為をしてみたいの?」

「え?」

「素直に答えて」

 

 ここで下手に言い繕うのは下策だ。仄はおずおずと答えた。

 

「は……はい、その、興味があるか無いかと言われれば……あり、ます……」

「そう」

 

 綾火の反応は静かだった。

 

「………」

「か……火々里さん?」

 

 形の良い顎に指をあて、綾火は何かを考えているようだった。どう反応してよいか分からず困惑する仄を他所に、綾火はエロ本を持ったまま立ち上がった。

 

「多華宮君、もう立っていいわ。少し待っていて」

 

 そう言うと、綾火は流れるような素早さで仄の部屋を出ていった。

 

「……火々里さん、許してくれたの、かな?」

 

 

 

 30分後。仄の部屋には()()の人物が集まっていた。

 

「ええっと~……あの~、姫様? 凍子、バイト中だったんですが何でここに……? 多華宮君、何かあったんですかぁ?」

「いや、その、僕もさっぱり……火々里さん?」

「………」

 

 氷尾凍子(ひお とうこ)。内はねの髪とおっとりした性格が特徴的な、冬月市の魔法防衛を任されている5人の魔女のひとりにして、生徒会副々会長という奇妙な肩書の持ち主にして、かつて綾火の世話役を務めていた少女である。

 彼女の言葉通り、凍子は本当にバイト中だったのだろう。駅前のメイド喫茶のユニフォームである、ディアンドル風の服装のままだ。胸を下から持ち上げるように締められた胴衣が、もともと大きい彼女の胸を一層大きく見せている。

 綾火は無言で先ほどのエロ本を広げると、フロアに置いて二人にも見えるようにした。

 

「多華宮君がここに書かれているプレイをしてみたいと言うの。流石にこれは私ひとりでは無理だから、凍子、貴女手伝いなさい」

「ちょ、え、お願いじゃなくて命令なの!? いや、それより……!」

「こ、これを、ですかぁ!?」

 

 先ほどの自分の発言が余りに不用意なものであったと今更ながら思いつつ、仄はそのグラビア、二人の巨乳美女が互いの乳房を寄せ合い、ローションを垂らしながら男性の肉棒を左右から挟み込んでいる写真を見た。

 

「最初はお母さんに頼もうかとも思ったのだけど……お母さん、胸の谷間で空き缶を潰せるくらいレベルが高いから、今の多華宮君では潰されるかもしれないわ。だから適当なところで一番胸の大きい凍子を連れてきたの」

「いや、問題なのはそこじゃなくって……今こうして説明したって事は、凍子さん何も知らないで来たんだよね? 幾らなんでも無茶苦茶だよ!」

 

 流石にこれ以上は綾火が相手でも勝手をさせられない。仄はそう思って強く言った。

 横の凍子の様子を伺う。最初に驚きの声をあげたまま、凍子は口に手をあて、未だ衝撃の治まらない瞳で綾火を見ている。

 震える声で凍子は言った。

 

「う、嘘……です、よね」

「いつも私は本気よ」

 

 間髪入れず綾火は返答した。その表情には一切の感情が見えない。

 

「そんな……ま、まさか……!」

 

 室内の空気が冷えてきた。エアコンの効きではない。凍子の身体から冷気が放たれているのだ。彼女は氷結魔法を得意とする魔女の一族のひとりで、精神的に不安定になると冷気を発し、最大出力ならば都市ひとつを氷漬けにできるのだ。

 これ以上は本当にまずい。仄はそう思い、何とか綾火を思い留まらせようとした。

 

「ほら、こんなに凍子さんも嫌がって……」

()()()()P()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 その声を打ち消すような大きさで、凍子の歓喜の叫びが室内に響いた。

 瞳を輝かせて聞いてくる凍子に、綾火は淡々と答える。

 

「まあ、そういう事になるのかしら?」

「……っ!」

 

 凍子の身体が震えた。

 普段のおっとりとした雰囲気とは別人のような機敏さで仄の方に向き直り、手を床に置いたかと思うとそのまま深々と頭を下げる。

 

「多華宮君、ありがとうございますぅぅっ! まさかこんな、棚からぼた餅どころか棚から姫様な幸運を頂けるなんてぇ、本当に、本当に……うっ、ううっ……!」

「いや、え、ええ……?」

 

 ガチ泣きである。

 かつて漫画で読んだ「圧倒的感謝っ……!」というのはこんな感じだろうか。そんな事を頭のどこかで思いつつ、仄はどう反応して良いか分からないまま凍子を見た。

 

「あ、あの、凍子さん?」

「はいっ!」

「ええっと、その……つまり、火々里さんの話を引き受けるって事?」

「勿論ですぅっ! あのあの、今から取り消しって無いですよね? そうなったら凍子、ショックでこの家を丸ごと凍らせてしまうかもしれません……」

「………」

 

 逆に脅迫めいた事を言ってきた。

 助けを求めるように綾火を見ると、そこで綾火は初めて何かに気付いたように言った。

 

「火々里さん、えっと、凍子さんって……」

「……ああ、そういえば多華宮君は知らなかったわね。彼女、中学で私の世話役をしていた頃に私の使用済みのシャツや肌着やらで、発覚するまでの半年間連日オナニーをしていた変態よ。もう許したけど」

「姫様ぁ! その事は言わないでくださいぃ!」

「(……許したんだ)」

 

 改めて綾火の度量の大きさに感心しつつ、当の凍子が自分以上に話に乗ってきている以上、もはや綾火の提案を止めるのは不可能だと仄は理解した。

 

 ──綾火と凍子の両の乳房に挟まれる事への期待感も、ちょっとあった。

 

「それじゃ、早速始めましょうか。妹さんは友達のところで一緒に宿題をするって言っていたから、2時間くらいは余裕があるわ。多華宮君、脱いで」

「え?」

「ズボンから出しただけじゃ挟みにくいでしょう? 凍子、貴女は任せるわ」

「は、はい! それじゃ、ユニフォームを汚すといけないので、脱がせていただきますねぇ」

 

 綾火に促されるまま仄は着たままだった制服のズボンを下ろし、シャツを脱いだ。この後の奉仕への期待感からか、既に仄の肉棒は半勃起してトランクスを押し上げている。

 

「……あれ、火々里さんは?」

「私は上だけにするわ」

 

 仄と同じく制服姿だった綾火だが、制服のボタンを途中まで外すと胸元だけをはだけさせ、器用にブラを外してゆく。

 

「(そういえば、火々里さんって全部脱いで僕とした事は無いよな……?)」

 

 ふと、仄は思った。基本的に仄とセックスする時の綾火は服を着たままだ。風呂に一緒に入る時などもバスタオルを固く胴に巻いたり、あるいはスクール水着だったりで完全に露出して仄に全てをさらけ出した事は無い。

 何か自分に見せたくないものがあるのだろうか。そして、それを自分が見る事が許される日は来るのだろうか。

 仄がそんな事を思いながら綾火を見ていると、怪訝そうに綾火がこちらを見た。

 

「……多華宮君?」

「え!? あ、いや、何でも……」

 

 ごまかすように仄は答え、視線を逸らした。

 

「!」

 

 その逸らした視線の先に、白い肌と豊かな双丘が間近にあった。

 

「うぅ~……こんな事になると分かっていれば、姫様用にとっておいた勝負下着を着てきたんですけどぉ……」

 

 シンプルなコットンの白のショーツとブラだけになった凍子が恥ずかしそうに言う。

 しかし、その姿は仄にとっては十分に刺激的だった。服の上からでもそのどっしりとした存在感を示していた巨乳は更に大きく見え、深い谷間を作り上げている。うっすらと血管が浮かぶ白い肌が何とも官能的だ。

 全体的にふくよかな印象が強い凍子であったが、日々の多忙なバイト生活によるものだろうか、確かに綾火ほど引き締まってはいないが、思った以上にその体は均整の取れたものだった。

 むっちりとした太股からのラインは緩やかな窪みを経て、やがて両の乳房へと逆ひょうたんめいた曲線を形作る。

 おそらく単純なサイズでは綾火と同等であろうが、凍子は彼女に比べて身長が低い。カップで言うならI~Jくらいはあるのではなかろうか。

 仄は眼前で重そうに揺れる乳房に視線を奪われつつそう思った。観ているだけで股間の肉棒がびくりと反応してしまう。

 

「……多華宮君」

「い、いや! 見とれてない。見とれてないって!」

 

 ちりちりとした熱気を綾火の方から感じ、仄は慌てて言った。

 

「私は何も言ってないわよ? ……まあいいわ。多華宮君、下着も脱いで横になって」

「う、うん……」

 

 言われるがままに仄は下着を脱ぎ、傍らのベッドの上に横になった。勃起した肉棒はびくびくと屹立し、存在感を示している。

 

「ふあぁ……こんな形なんですねぇ。ええと、それじゃ凍子も……」

 

 物珍しそうに凍子は言うと、背中に手を回してブラのホックを外した。

 

「(うわ……!)」

 

 「ゆさっ」と音がしたかと錯覚するほどの重みを感じさせる動きと共に露わになった凍子の乳房に、思わず仄は息を吞んだ。

 乳房の先端で小さめの薄桃色の乳首が震えている。仄は綾火と霞(あと子供の頃にお風呂に入った時の小町──加えて、うっかり見てしまった風呂上りの冥&虎徹)の胸しか知らないが、綾火の張りのある乳房とその先の鮮やかな朱鷺色の乳首と比べて、全体的に色合いを含めてふっくらとした、柔らかな印象を覚えた。どちらが良いという訳ではなく、どちらにも、それぞれの美しさがあると思った。

 ──まあ、勃起したままベッドで寝ている状態で思う事ではないのかもしれないが。

 凍子の準備が整ったのを確認しつつ綾火が言った。

 

「凍子、私は右からするから、貴女は左から来なさい」

「は、はいっ!」

 

 仄の腰を挟むように二人がベッドに上がる。二人の美女に自分の肉棒が凝視されているというシチュエーションに、仄の中からも否応なく興奮が湧き上がってくる。

 

「まずは多華宮君のを挟みやすくするのに、完全に勃起させるわ」

「はあぁ……まだ、これより大きくなるんですか……でも、何だか少し、可愛いですねぇ」

 

 屹立する肉棒に綾火の指が触れる。赤面しつつも凍子はその様子を凝視し、自らも手を伸ばした。

 

「う、うわっ!?」

「ひっ!?」

 

 突然、仄の腰が跳ねた。肉棒が同時にびくんと激しく反応し、凍子は悲鳴めいた声と共に手を離す。

 

「多華宮君、だ、大丈夫ですかぁ!?」

「いや、その、予想外に冷たかったから……」

「え?」

 

 そう、凍子の手は常人の「手が冷たい」というレベルでなく──まるで冷蔵庫の中の生肉で包まれたように冷たかったのだ。

 彼女の凍結能力は自身の危機や強度のストレスなどで引き起こされるが、強い興奮によってもそれが起きるなら、納得のできる話であった。

 凍子はしょんぼりと頭を下げた。

 

「す、すみませぇん……これじゃ、凍子……」

「あ、いや、そうじゃなくって……」

 

 落ち込む彼女に、寝たまま仄は綾火の方を伺いつつも言った。

 

「そ、その……気持ち、良くって……」

 

 それは未知の感覚だったが、肉棒はそれを確かに快感として受け止めた。今も肉棒は萎える事なく、綾火と凍子の前で屹立している。

 仄の言葉に綾火は僅かに眉を動かしたが、特にそれについては触れず次の指示を出した。

 

「私が先を責めるわ。凍子、貴女は竿の方をお願い」

「わ、分かりましたぁ……ひ、姫様と一緒にこんな事が出来るなんて、夢みたいですぅ……!」

「……あくまで貴女を呼んだのは多華宮君を満足させる為よ。忘れないで」

「勿論ですぅ。多華宮君、あの、改めてぇ……初めてですけど、よろしくお願いしますね」

「え!? ちょ、『初めて』って……」

「大丈夫ですぅ! 姫様相手のイメトレは、それこそ何百回やったか分かりませんから!」

「いや、そういう問題じゃなくって……ううっ!」

 

 言葉を続けようとした仄は、亀頭が生暖かいものに包まれた刺激で中断を余儀なくされた。綾火が亀頭を口に含んだのだ。

 

「ンッ、んんっ……れろっ、ふぅぅ……」

「ちょ、火々里さん、強い……っ!」

 

 先ほどの凍子の手についての感想で、彼女の中の対抗心に火が点いたのだろうか。舌先でねぶるように鈴口をつつき、あるいはカリを舐めあげてくる。熱の入った綾火のフェラに仄は腰を浮かせた。

 

「くっ、ううっ!」

「はあぁ……姫様が、こんな事を……ええっと、じゃあ、凍子もぉ……んっ、こ、こう、でしょうか……?」

「うあぁっ! と、凍子さんっ!」

 

 今度は竿を柔らかくもひんやりとした感触が包む。そのまま凍子の指は仄の竿を擦り始めた。

 亀頭を熱い口腔内に、竿を冷たい指で攻められ、瞬く間に仄の肉棒は更に怒張し反り返った。

 

「うわぁ……本当に大きくなってきました。男の人って、こんなになるんですねぇ」

「んはっ、はぁ……凍子、遊んでないで、ちゃんと多華宮君に奉仕を……ん、んちゅ……」

「い、いや、ちょ、待って、うあっ!」

 

 もはや何かを言う事も許されない強烈な快感に仄は背を反らせた。腰が震え、強い射精感がこみ上げてくる。

 

「ま、待って! このままじゃ、もうっ……!」

「あわわ! ひ、姫様っ、多華宮君、何だかびくびくしてきましたぁ!」

「ンッ……まだよ、多華宮君。もう少し我慢して」

 

 仄の反応に凍子が慌てる。綾火は思い出したように唇を亀頭から離した。先走りと唾液が混じった粘液が橋をかける。

 

「ふうっ……はぁ、はぁ……」

 

 強烈な快感から一時的に解放され、仄は大きく息をついた。肉棒は限界まで勃起し、浮き上がった血管が激しく脈動している。亀頭から垂れた綾火の唾液は竿まで垂れ、肉棒全体をテラテラと照り光らせていた。

 

「さあ、本番といきましょう。凍子」

「は、はいぃ!」

「多華宮君、ちょっと腰を上げて」

「う、うん」

 

 綾火は仄の頭の方にあった枕を手に取ると、それを浮き上がった腰の下に敷いた。それを挟むように綾火と凍子が腰を落とす。

 

「いくわよ、多華宮君」

 

 綾火の張りと重みを両立させた、熱を帯びた豊満な乳房が右から、

 

「はわぁぁ、姫様の胸……生で見たのは中学以来ですけど、本当に成長されましたねぇ」

「……凍子」

「わ、分かってますよぉ」

 

 凍子の柔らかくも重量感ある、冷気を帯びた白い大きな乳房が左から迫る。

 

「んっ……」

「ふぁ……」

「う、く、ぐうっ!」

 

 まだ動いてもいないというのに、四つの乳房にむっちりと挟まれた仄の肉棒はびくびくと反応して亀頭から先走りを滲ませた。

 

「はあっ……多華宮君の、凄く、熱いですぅ……そ、それじゃ、動かし……ますね」

「凍子、もう少し寄せて……」

「あ、は、はいっ! んっ! 姫様の乳首と、凍子の乳首が当たってますぅ!」

 

 恍惚とした表情で凍子は言いつつ両手を自身の乳房に添え、そのまま状態を前に出した。綾火も同様に乳房を左右から寄せつつ身体を前に。

 畢竟、仄の肉棒は四つの乳房にすっぽりと挟み込まれた。そのまま添えた手を動かし、揺れる乳房が竿を、亀頭を擦ってゆく。

 

「うあっ! ちょ、これっ! んんっ!」

 

 危うく達しそうになり、仄は歯を食いしばって堪えた。

 しっかりとした張りと弾力を有するゴムまりめいた綾火の乳房は熱を帯び、それに挟まれた側は蕩けそうな温もりを感じている。

 一方の弾力こそ綾火ほどではないものの、彼女をに勝るとも劣らない大きさと包み込むような柔らかさを持っていた凍子の乳房はひんやりと冷たく、まるで大きなアイス大福に挟まれているかのような快感を肉棒に与えてくる。

 しかもその四つの乳房それぞれがより密着し、仄から精液を搾り取ろうとばかりに肉棒全体を刺激してくるのだ。

 

「あ、はあっ……か、火々里さん、凍子、さんっ!」

「んんっ……感じているのね。こんなに硬く、熱くなってる……」

「ふっ、んはっ……多華宮君、可愛い、ですぅ……!」

 

 快感に悶える仄の姿に、綾火や凍子も乗ってきたのだろう。次第に乳房の動きは大胆さを増し、より仄の肉棒に快感を送ろうと強弱も織り交ぜて上下にたぷたぷと揺れる。

 綾火だけでなく、日頃からのほほんとした雰囲気で仄にも接していた凍子までが、自分の肉棒に胸を押し付け合いながら奉仕している。その光景は仄の中に否応なく支配感を覚えさせる。

 

「あぁ……姫様の乳首ぃ、固く、んあっ! な、なってきて、ますっ!」

「……貴女のも、んっ、尖って、きているわよ」

「だ、だって……姫様と、こんな事ができて、多華宮君も、こんなに、感じていて……私だって、気持ちよく、なっちゃいますよぉ……」

 

 胸での奉仕を止めないまま、凍子は腰をもじつかせている。一方の綾火も、凍子をたしなめるように言いつつも自身の腰のくねりを止められていない。

 

「ぐっ、くうっ!」

 

 仄は堪らず自分も腰を上下に振り始めた。綾火の唾液と先走り、そして二人の汗に塗れた肉棒が熱さと冷たさの両方を感じる谷間を激しく動く。

 

「きゃ……どうしたんですか、多華宮君? ぬ、抜けちゃいますぅ!」

「もう限界のようね……凍子、舌を出しなさい。一緒に多華宮君のを……」

「は、はい……あふっ、ンッ……」

「うあぁっ!」

 

 肉棒の根元を絞るように二人は乳房を下に寄らせる。谷間の間から亀頭が覗くと、綾火は躊躇なくそれに舌を伸ばした。一方の凍子もおずおずと舌を絡め始める。焼けるように熱い綾火の舌と凍えるように冷たい凍子の舌が亀頭の周りで踊り、時折、舌同志が絡み合う。

 

「あぁ……姫様、姫様ぁ……!」

「あふっ……凍子、私はいいから、多華宮君に……れろっ、ンッ、んちゅ……」

「ふぁ、ふぁぁい……はあっ、な、何だか、しょっぱい、ですぅ……はむっ……」

「ううっ! も、もう、駄目っ! 出る、出るっ! 二人とも、顔、離してっ!」

 

 腰の奥からの射精感がいよいよ我慢できなくなってきた。

 二人の顔を汚すまいと、悶えつつも言う仄に綾火は亀頭を舐めまわしつつ答えた。

 

「んはっ……構わないわ、多華宮君。このまま遠慮なく出しなさい」

「ちゅぅぅ……え、出る? え?」

 

 一方の凍子も、何が起こるか理解しきっていないのかきょとんとしつつも舌を這わす。

 

「ああぁっ! 出るっ、出っ……!」

 

 シーツを強く握り、仄は絶頂に達した。噴水のような勢いで鈴口から精液が噴き出し、綾火と凍子の整った顔を容赦なく汚してゆく。

 

「………!」

「ひゃあぁ! す、凄い、勢い……!」

 

 眉一つ動かさずに白濁液を受け止める綾火と、悲鳴をあげつつも綾火と共に精液を浴びる凍子。

 脈動は仄自身が驚くほど続いた。二度、三度、四度と腰が震える度に勢いを落としつつも精液が迸る。強く押し当てられたままの四つの乳房が作る谷間に、粘っこい水溜まりが出来上がる程に射精は続いた。

 

「あ、は、はぁ……!」

 

 仄は意識が遠のく程の快感の中、言葉も発せられないまま射精が完全に治まるまで小刻みな喘ぎを漏らす。

 やがて射精が収まると、綾火は顔を精液で汚したまま仄に言った。

 

「……満足してくれたようね、多華宮君」

「え? あ……その……うん、凄かった……」

 

 荒い息のまま仄は言った。

 綾火はその反応に頷くと、今度は同じく精液塗れの凍子に言った。

 

「助かったわ、凍子。もう帰っていいわよ」

「ええっ!?」

「ちょ、火々里さん!? 用が済んだからって……!」

 

 あまりに一方的な物言いに思わず仄が言うと、綾火は不思議そうに首を傾げた。

 

「……多華宮君? この後は私と多華宮君がするだけで、凍子が混じる要素は無いのよ?」

「え?」

「それとも、凍子に見られながら多華宮君はしたいの?」

「ええ……?」

 

 言われてみれば、確かにこのまま凍子を自分たちに付き合わせる必要はない。綾火に言われ仄は気付いた。

 考えてみれば、もともと凍子はバイト中に強引に連れてこられただけなので早く返してあげるのが当然だ。無論、綾火は誤解したままだが仄には羞恥露出プレイをする趣味はない。

 

「そ……そう、だね。ごめんね、凍子さん。バイト中なのにこんな事に付き合わせ……」

「あ、あのっ!」

 

 その時、凍子が大きな声で言った。身を起こし、膝に手をあてて真剣な顔で(まだ精液がついたままではあるが)、こちらを見ている。

 

「ど、どうしたの? 凍子さん?」

「姫様、多華宮君……もし、許されるのでしたらぁ……わ、私も一緒に、お二人のしているのに混ぜて貰えませんか?」

「……凍子?」

 

 ぴりっと綾火の肌から小さな炎が弾ける。彼女の怒りを感知し、凍子は慌てて言った。

 

「ち、違いますぅ! 別に姫様から多華宮君を取ろうとか、そういうのでは決してありませぇん!」

「ええと、じゃあ、どういう事?」

 

 凍子の意図を察し兼ね、仄は尋ねた。少し身体をくねらせつつ、凍子は綾火を見た。

 

「そのぉ……凍子としては割と本気で姫様の子供を産みたいと思っているんですけどぉ、それは叶わぬ願いじゃないですかぁ。ですので……」

 

 ちらっと、射精した直後の仄の肉棒に視線をやる。

 

「ですのでぇ……その、一度、多華宮君とさせて頂ければ、姫様とは“竿姉妹”という事になりますので、お願いできればとぉ」

「ちょ、ちょっと待って! どこでそんな言葉を、じゃなくって! 凍子さん、初めてって言ってたけど、その……」

「はい、凍子は処女ですよぉ」

 

 あっけらかんと答える凍子に仄は強く言った。

 

「そんな、もっと大事にしなきゃダメだよ! 女の人のそれって一回限りなんだよ!?」

「一回限りだからですぅ!」

 

 そう答える凍子の表情はあくまで真剣だった。

 

「姫様が凍子を誘ってこんな事を一緒にしてくれる機会なんて、それこそ今後、一生無いかもしれませぇん! だから、だからお願いしますぅぅ!」

「……多華宮君、鬱陶しいなら叩き出すけど?」

 

 無表情のまま恐ろしい事を綾火は言う。彼女なら言った通り、凍子を裸のまま叩き出すだろう。

 

「………」

 

 仄は思った。凍子の変態行為には実際ちょっと引いたが、彼女は彼女なりに数年間、綾火を想ってきていたのだ。そんな彼女と(思っていた形とは大幅に違っていたとしても)身体を重ねられる機会というのは、凍子にとってはそれこそ二度とないかもしれない瞬間なのだろう。

 その気持ちは仄にもよく分かった。人生において「こうするしかない瞬間」というのは、確かにあるのだ。

 

「……火々里さん、その、凍子さんも一緒で……いいかな?」

 

 数十秒の熟考の後、仄はおずおずと綾火に言った。



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