銀雷轟く銀滅龍 (太刀使い)
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成長編
第1話.転生することになった!?


帰ってきました!色々言いたいことはありますが、とりあえず本編をどうぞ!


「じゃあまた明日な〜」

「おーう」

 

 俺はどこにでもいる普通の男子高校生。そう、ふっつうの男子高校生だ。趣味はゲーム。特に「モンスターハンター」が好きだな。2Gから始めたモンハンだが、それ以降のソフトは全て購入しており、プレイ時間も各々700時間は超えているだろう。それぐらいモンハンが好きなのだ。

 

 さて、今日も学校終わったし、家に帰ってモンハンの続きでもしますかね!

 

 徒歩で通学しているので、いつもの帰り道を歩いていく。何気ないいつも通りの日常。たまに親父に呼び出されて家業を手伝わされることがあるが、変わったことといえばそれだけ。

 

 はぁ。なんか面白いことでも起きないかな。

 

 そう思った時だった。突然目の前が真っ暗になったかと思うと、俺の意識は暗転した。居眠り運転のトラックが、暴走運転の後歩道に乗り上げてきたわけだが、そのことを俺が知る由も無い。

 こうして俺の、人間として(・・・・・)の生涯は幕を下ろしたのだった……

 

 

 …Now loading…

 

 

 う、ん……ここは、何処だ?

 

 気がついた時、俺は真っ白な空間にいた。上も右も左も、挙げ句の果てには下まで真っ白な空間。明らかに異常な場所。

 

 一瞬で危険を察した俺は、咄嗟に左の腰に手を伸ばす。しかし、そこには何も無い。自分が学校帰りだというのを思い出して、思わず拳を握りしめた。

 

 くそっ!せめて通常武装でも持ち歩いていれば……!

 

「やぁ、目が覚めたみたいだね」

 

 背後から突然そう声をかけられる。咄嗟に後ろを振り向くと、さっきまで誰もいなかったはずの場所に、小学生高学年ぐらいの真っ白なワンピースを着た少女が立っていた。

 

 こいつ、何者だ……こうして向かい合っても気配を感じ取れないだと?

 

「お前は誰だ?そしてここは何処だ?俺をこんなところに拉致してきてなんのつもりだ。敵対勢力なら俺のことを邪魔だと思ってるのは分かる。だが、お前からは敵意を感じられない。一体……」

「ちょちょ、ちょっとストップ!!」

 

 聞きたいことは山ほどあったが、幼女が口を挟んできたので思わず押し黙る。

 

「いきなり質問責めにしないで!順に説明していくから……まず、貴方は死にました。トラックとの交通事故によって」

 

 は?

 

「ここは生と死の狭間のような場所。私はある提案を君にしたくて、君の魂をここに導いた。そして私は神様!どう分かったかな?」

「わかるわけかねーだろ!!」

 

 いきなり死んだとか魂とか神様とか言われて、理解できるやつがいるなら見てみたいぜ……

 しかし、どうやら敵に拉致されたという俺の考えは間違ってたわけだ。それを確認した俺は、今まで纏っていた戦闘用の意識を切り替え、普通の男子高校生に戻った。

 

「だから、君は死んじゃったんだってば。イヤホンを耳にさしながら歩くと危険だよ?」

「今言われたってもう遅いっつーの……」

 

 一周回って少し冷静になれたようだ。どうやら、俺は死んだらしい。トラックの衝突による死とか、親父に知られたら激昂して死ぬまで絞られるんだろうなぁ。まぁもう死んでるけどね!

 

「よし、少しは整理できた。んで、俺に何か提案があるとか言ってたよな?」

「おぉう、切り替え早いね……ゴホン。君への提案っていうのは、転生する気はある?ってこと」

 

 転、生……だと!?

 普段からラノベやweb小説を嗜む俺からしたら、その言葉はよく聞くものだった。

 転生、即ち生まれ変わるってことだ。ラノベ等はそのような話に溢れており、転生した人はだいたいがチート能力で異世界を無双している。

 

 幼女の言葉を聞いて、俺のテンションは急激に上がった。

 

「て、転生っていうのはあれだな?異世界に行って生まれ変わるっていう、あれだな?」

「その通りだよ」

「是非させてくれ!」

 

 即答だった。だって転生だぜ?こんな機会は二度とないだろう。ていうか俺もう死んでるしな。

 

「分かった。転生させるって方向で話を進めていくね。転生する世界は、モンスターという怪物がいる世界。もちろん人間も住んでいて、ハンターと呼ばれる人達が、モンスターから人間を守りつつ自然との調和をもたらしている。そんな世界だね」

 

 そ、それって……!完全にモンハンの世界なのでは!?

 

「お、察しがいいみたいだね。そう、君たちの世界でいう、モンスターハンターの世界だ。これはすでに決定していることで、変えることは出来ない。そこは理解してほしい」

 

 幼女は申し訳なさそうにいうが、俺からしたら願ったり叶ったりだ。俺がこよなく愛するモンハンの世界に行けるとは……

 

「それで、転生先なんだけど……」

「待った!その転生先ってのはこちらが指定できるか?」

「うーん……もともとあの世界にいるものなら可能だね。例えばゴジ◯とか言われても、それは出来ない」

 

 よし。これなら俺が密かにやりたいと思っていたことを、実現できそうだ。

 

「じゃあ、転生先は雷狼竜ジンオウガで頼む」

 

 そう、あの雄大な世界を、自由なモンスターとなって生きてみたいと思っていたのだ。俺の人生は幼い頃から縛られてばっかりだった。だからだろう。自由な生に強く憧れた。

 そしてジンオウガは、俺がモンハンシリーズで一番好きなモンスターなのだ。

 

「ジンオウガ……本当にいいの?モンスターになったら、生きていくのが大変だよ?まず幼体の時に襲われたらひとたまりもないし。それでもいいの?」

 

 幼女が心配してくれてるようだが、俺の気持ちは変わらない。

 

「構わない。ジンオウガに転生させてくれ」

 

 俺の真剣な眼差しを見て、この気持ちが本気であると分かってくれたらしい。

 

「はぁ。分かったよ。ジンオウガに転生させてあげる。でもやっぱり不安だから、少し加護を与えてあげよう」

 

 そう言って、幼女がかざした手から光が生じ、俺の周りを渦巻いた後、体の中に入っていくように消えた。

 

「特に変わりはないようだが……?」

「それは転生したらわかると思うよ。じゃあ準備に取り掛かるね」

 

 そう言って集中するためか、目を閉じたまま微動だにしなくなった。

 

 しかし、転生か……まさかこんなことになるなんてな。最後に家族の顔を見れなかったのは心残りだが……親父はどうでもいいが、母さんには感謝の言葉を伝えたかった。

 

「よし、準備完了!そっちの気持ちは固まったかな?」

「あぁ、いつでもいいぜ!」

「じゃあ……行ってらっしゃい!!」

 

 その瞬間、俺の体が眩いばかりの光に包まれた。同時に意識が遠のき始め、これから転生するのだというのが嫌でも分かる。そして、光が一層大きくなり、俺の意識は完全に途絶えるのだった。

 

 こうして、俺の第2の人(竜)生が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 …Now loading…

 

 

 

 

 

 彼のものが旅立った後、幼女は力なくその場にへたり込んだ。

 

「これで何人目だろう。まだ希望は見つからない。あの子を倒せる希望は……彼はなってくれるだろうか?その希望に……」

 

 初めてモンスターになりたいと言ってきた彼。明らかに今まで送ってきたもの達とは違う。

 幼女はその特異性に賭けてみることにしたのだ。

 

「あの子の封印が解ける日は、もうそう遠くない。急がないと……」

 

 

 

 




まず消えていた理由を話します。
今回初めて私の作品を見たって人はスルーしてください。

先月初めぐらいに機種変更をしたのですが、その際になぜかデータがとんでしまい、復旧することも叶わずそのまま前のデータが無くなってしまったのです……
私はこの春から進学することになっていたので、その準備が忙しく、なかなか復帰できない状況でした。

この頃になって色々落ち着いてきたので、リスタートしようと思った次第です。

今回の「銀雷轟く銀滅龍〜再誕〜」では、話の大筋は前回と同じにしつつ、所々でパワーアップした作品を届けられると思っています。

では、今回も私の作品とお付き合いしてくれる皆さん、今後もよろしくお願いします!


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第2話.俺、異世界に降り立つ

 眼を覚ますと、そこは真っ暗な空間だった。その上狭く、身動きも十分に取れない。

 

 確か幼女に転生させてもらって……ということは、ここは卵の中か?てか身動き取れねぇ!体当たりでもしてみるか。

 

 そうして体当たりを続けること数十分……

 

 割れねぇ!この卵の殻硬すぎなのでは!?普通すぐに割れて外の世界へ飛び出すところだろ!だがまぁ、ほんの少しだが光は差し込んだ来た。もうちょい頑張ろう……

 

 そこからさらに数十分後、ようやく卵は割れた。

 

 ゼェ……ゼェ……や、やっと出れた……もしかしたら、まだ生まれる時期じゃなかったのかもな。そこに俺の意識が宿っただけで、少し早かったのかも。

 

 そんな俺の気持ちも、目の前に広がる景色を見た瞬間に吹き飛んだ。どこまでも広がる森や山に、地球では考えられないほど澄んだ空気。右手には大きな湖が広がり、少し離れた場所なのに水の中が見えるほど透明。

 

 おぉ……これは、すごいな……

 

 我も忘れてその景色に魅入ってしまうほど、美しい景観だった。そして自分が今いる位置を知ることも出来た。何故ならそこはゲームで馴染み深い場所。渓流のエリア9、ハチミツが採取できるところにある大木の上だ。大木の上はなかなか大きな平地になっており、そこに巣があったらしい。

 

 さて、無事にモンハン世界に転生出来たわけだが……とりあえず水だな。水ならエリア7に湖がある。そこに行ってみるか。

 

 

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 ゴクゴクゴク……

 

 湖の水はとてつもないほど澄んでおり、その見た目通り飲んでもなんの問題もなく、むしろ美味かった。

 

 プハー。美味いなこの水。それにしても、すぐに水の大切さに気づけたのは僥倖だったな。これもあの経験のおかげか……

 

 俺の脳裏には思い出したくもない思い出が浮かぶ。まだ5歳の頃、特訓とかぬかして親父に一人で山の中に放置されたのだ。おかげでサバイバル術は身についたが、今でも人間のすることではないと思っている。

 

 いや、こんなくだらないことを考えるのはやめよう。俺は生まれ変わったんだ。前世に縛られ続ける俺ではない!

 それにしても、見事にジンオウガになってんな……青い鱗に黄色い甲殻。鋭い爪に二本の立派な角。そして身の丈の半分程はありそうな大きな尻尾。水面に映った俺の姿は、完全にジンオウガのそれだった。鋭い牙は肉を容易く噛みきれそうだ。

 

 いざジンオウガになってみると、なんか不思議な感じだな。まだ現実として捉えられてないというか。この四足歩行の慣れなさが、強く現実を実感させては来るんだけれども。

 とはいえ、今の未熟な体じゃできることは少ない。とりあえず家に帰るか。

 

 

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 エリア9まで帰ってきたんだが、そこである重大なことに気づいた。それは……

 

 飯がねぇ!

 

 ということだ。いや決してふざけてるわけじゃないぞ?ぶっちゃけかなり深刻な問題だ。

 ジンオウガの主食は肉。そしてここは自分以外味方のいない大自然の中。俺の体はまだ幼く、獲物を捕らえる能力が乏しい。つまり、だ。

 

 俺、生まれて早くも命の危機では!?

 

 ガーグァとかケルビならなんとかなりそうだが、人間の少年ぐらいしかないこの体では、奴らの逃げるスピードに追いつけないかもしれない。というか、不用意に歩き回ってほかの肉食モンスターに出くわしたくない。

 

 やばいな……ジンオウガって肉以外に何食べるんだ?そこらへんに薬草っぽいのは生えてるし、俺の家の下にはハチミツもある。一応食べるものはあるんだが……

 

 問題はそれらをジンオウガが食べても大丈夫なのか、というところだ。生物の体は、その生物が食べるものによって違う。

 人間は雑食なので問題ないのだが、肉食獣には草を消化する能力がないと聞いたことがある。もしもジンオウガにもそれが当てはまるなら、最悪の場合体調不良に陥るだろう。

 

 たかが体調不良と言ってもバカには出来ない。俺が成体ならいざ知らず、幼いこの体では、自然の中で生きていくには時には逃げることも必要だろう。この逃げるという行為が封じられた場合、待っているのはそれこそ死だ。

 それはサバイバル生活の時、嫌という程思い知らされた。

 

 しかし、このまま餓死するよりははるかにマシか……しょうがない、覚悟を決めよう。

 

 少しでも安全を確保するため、大木の上の家で食べることにする。爪で器用に薬草を刈り取り、ハチミツは蜂の巣ごと持って帰る。たかが蜂程度の針では、幼体の俺の体でさえ貫くことは不可能なのだ。

 

 さてさて、食べてみますかね。まずは薬草から……ムシャムシャ。

 ウッ!予想してたが、やっぱり苦いな。好んで食べるものではないだろう。だが、心なしか少し元気になった気がしなくもない。これが回復効果ってやつかもしれんな。

 

 お次はハチミツを……ペロッ。

 おお!これは美味いぞ!日本で食べたものよりコクが深いな。しかも採りたてっていうのも大きいだろう。うん、これはいくらでもいけるぞ!

 

 先程考えてた危険性は何処へやら。腹が減っててろくな思考が出来なくなってた俺は、そのままハチミツを食べ続けた。

 

 

 

 ふいー。食った食った。腹も膨れたし、食べた感じあのハチミツは栄養価も高そうだ。当分の間はこれを主食にしてもいいかもな。

 あとはきちんとこの体に、肉以外のものを消化する機能が備わってればいいんだが……

 

 まぁ今考えても仕方ないだろう。この大木の上なら、大型モンスターもそう来ないだろうし、気配の消し方なら嫌という程学んできたしな。とりあえず休むか……体が幼体だからか、まだ日は高いのにすごく眠い……

 

 

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 そのまま寝続けて、気づいたら翌日になっていた。

 俺の心配は杞憂だったらしく、一日経った今でも体に異常はない。俺の体は肉以外のものも受け付けるということが分かったわけだ。

 

 何気ないようだが、これはなかなか重要なことだぞ。これからは食料の心配をしなくていいってことだ。

 もちろん肉を食べるのに越したことはないが、肉が取れない日が続くこともあるだろう。そんな時には薬草やキノコの出番ってわけ。

 

 今のうちにキノコとかも食べておこうかな。

 

 そう思い、おもむろに目に入ったキノコを齧ってみた。あんなに慎重に動いてたのに、なんの警戒なしにこんなことをしてしまったのは、新たな事実が分かって気が緩んでいたからだろう。

 

 アバババババババ!?!?

 

 キノコ食べた途端に体が痺れて動けなくなってしまった。これはどう考えても、マヒダケを食べてしまったに違いない。

 痺れてしまった体は言うことを聞かず、そのままその場に倒れてるしか俺にできることはなかった。

 

 

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 ハァ……ハァ……油断した……

 少し考えれば危険なキノコが生えてるって分かるだろ。あの時の俺は、この世界に生えてるキノコはアオキノコだけだとでも思ってたのか?

 だが、これにも見返りはあった。なんとこれ以降にマヒダケを食べても、麻痺状態にならなくなったのだ。

 

 一体どう言うことだろうか?麻痺状態を体験したことによって、麻痺耐性がついたのか?一回で耐性がつくとは思えんが……

 よし、ものは試しだ。全部調べてやれ!

 

 そこから集められるだけの薬草やキノコを集めまくった。そしてその全てを食った。もちろん今回は大木の上でだ。エリア9が採取に向いた場所でよかったぜ。

 ネムリダケを食べて昏睡したり、ドキドキノコを食べて幻覚を見たり、火薬草を食べて口の中で爆発したり、ぶっちゃけロクな目に合わなかった。

 

 しかし、その全てに耐性を持つことに成功した。耐性といっても効果の小さいもの限定かもしれないが、何もないよりはマシだろう。

 

 もしかしたらこれが、幼女が言ってた加護ってやつなのかもな。なんの加護なのかはサッパリ分からんが。

 よし、少し成長したら、モンスターでも同じことが起こるか調べてみるか!



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第3話.はじめての狩り

 体が成長するまで、俺はただひたすら待った。このあいだのような失態を犯さぬべく、より慎重に行動したわけだ。

 

 幸いあの実験のおかげで各種状態異常に耐性を持てたので、より一層食料には困らなかった。味はマジでうまいとは言えないんだけどな!

 そんな時にはハチミツよ。これはマジで素晴らしい。毎日食べても飽きないほどには素晴らしい。

 

 あ、あと余談だが、この体はなんと鉱石までも食べられるらしい。

 少しばかり冒険しようとエリア8まで行った時だ。まぁご存知の通りあそこは飛竜の巣以外ロクなものはないわけだが、エリア9ばかりに引きこもってるのもなんだと思って行ってみたわけだ。

 

 その時鉱石を発見し、ある考えが浮かんだ。薬草から耐性を得られるなら、鉱石を食べたら防御力アップに繋がらないだろうか、と。

 鉱石には特に危険は感じられなかったし、何より石を食べる生物もいる。モンスターが生物の枠に囚われないなら、いけると思ったわけ。

 

 結果は大成功。鉱石を食う前より鱗が硬化したことが実感できた。それからは毎日少しずつ鉱石を食べるようにしている。

 

 そうして体の成長を待つこと1ヶ月が経った。

 

 

 俺の体は幼年期から青年期へと至っていた。依然成体に比べると大きさは劣るし、身体能力は低い。だが幼年期に比べて格段に成長したのも確かだ。

 なので、今日は初めて渓流を探検してみたいと思う。今の俺なら、ある程度のことならなんとかなりそうだし、大型モンスターに出会っても逃げ切れるだろう。

 

 てか何より、そろそろ肉が食いたい!!ジンオウガなのに、1ヶ月間ハチミツと草と石しか食べてないんだぞ!?流石に食いたいだろ、肉!

 とりあえずエリア1から行ってみるとすっか。

 

 

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 渓流といっても、ゲームのようなエリアのみが存在しているわけではない。ちゃんとエリア間の道や、エリア外にも世界は広がってる。当たり前のことだが。

 

 そんなわけだから、エリア9からエリア1に行くことも可能ってこと。

 ふむ、見た目はゲームの時とほとんど変わらないな。そしているいる、ガーグァが。

 

 ガーグァは食事でもしているのか、時折地面を嘴でつついている。当然こちらには微塵も気づいていない。

 

 これは絶好のチャンスだ。奇襲をかけて一気に仕留める。意識を集中……奇襲ならよく使っていた手段だ。失敗するわけにはいかない。

 いまだ!

 

 ガーグァが反対方向を向いた一瞬の隙に、茂みから飛び出す。そして躊躇わずにその喉元に噛み付いた。

 一拍遅れてガーグァが反応するが、時すでに遅し。俺の牙はすでにその喉元に深く刺さっている。

 暴れるガーグァの体を後ろ脚で押さえ込み、頭と首を前脚で固定。逃げられないようガッチリと捕らえる。

 

 ここまでくれば一安心だ。もう仕留めたも同然。その証拠に、ガーグァはピクピク痙攣するだけで、抵抗する力はなくなっている。

 狩りをする為に、色々デモンストレーションをしといてよかったな。生前テレビで見た、ライオンがインパラを仕留める映像が役に立った。

 

 ……よし、完全に絶命したようだ。初めてのこの体での狩りにしては、上出来といってもいいだろう。

 さて、早いとこ移動した方がいいな。血の匂いにつられてどんな大型モンスターが来るとも限らんし。とりあえず家に帰るか。

 

 

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 さてさて、早速お楽しみの食事タイムだ!

 

 目の前には仕留めたばっかりのガーグァが一体。さて、どう調理してやろうか……なーんてな。この体では調理なんか無理だし、そもそも火も調味料もないし。このままかぶりつくしかないな。

 しかし生肉をそのまま食べるとは……人間だった俺からしたら、なかなかハードな案件だぞ。

 

 むぅ……悩んでも仕方ない、か。この先何回も経験することなんだし、早いとこ慣れる方がいいだろ。

 

 そう考え、一思いにかぶりついた。

 

 む?これは……うまい!!滴る血もただの生肉も、全く問題じゃねーな!普通にうまいぞ!味はやはり鶏肉が近いか?

 

 恐らくジンオウガになった影響だろう。血抜きもしてない肉を食べてるのに、特に忌避感は感じなかった。そんなことより、1ヶ月ぶりに肉にありつけた喜びの方が大きい。

 俺と同じぐらいの大きさがあるガーグァを食べ終わるのに、20分もかからなかった。

 

 ふー、美味かった……やっぱ肉が一番だなぁ。鉱石とか薬草とかは、体を強化する目的で食べてたにすぎないし。ジンオウガが本来食べるものが、一番美味く感じるのは道理だな。

 

 さて、腹ごしらえもしたし、探検を続けよう。

 

 

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 今度はエリア7にやってきた。理由としては水が飲みたかったのと、やはりまだ成体じゃないというのを考慮して、出来るだけ家から近いところが良かったのだ。

 

 そんな俺の目の前には、この世界にきて初めて敵が立ちふさがっている。

 黄色い皮に全身を覆われ、トカゲのようなワニのような見た目。海竜ルドロスだ。鋭い牙をむき出しにして、盛大に威嚇してきている。

 

 ルドロスのサイズは今の俺より小さい。しかもロアルドロスの姿も無ければ、仲間のルドロスもいない。

 いい機会かもな。ここでこの体での戦闘に慣れておこうか。この世界にきて1ヶ月、一度も戦闘らしきものはしていない。このままだと体も鈍っちまう。

 よし、やるか……

 

 意識を戦闘モードに切り替える。精神が研ぎ澄まされ、より感覚は敏感に、より冷静に相手の動きを見極めるため。もはや少し懐かしい、戦闘の心構え。大丈夫、まだ忘れていない。前世で培った経験は、こちらでも役にたつだろう。

 

 ルドロスが真っ直ぐ突っ込んで来た。その動きは知性のない獣の突進と同じ。相手の動きが手に取るように分かる。

 ぶつかる寸前で真横に飛び、突進を回避。急ブレーキをかけるもすぐには止まらず、隙を作るルドロス。

 

 こい、雷光虫!!

 そう念じるだけであたりの茂みや草むらから、小さく放電する雷光虫が無数に集まってくる。そう、体が成長するに伴って、雷光虫を操れるようになったのだ。

 まだ超帯電状態にはなれないが、自身の攻撃に雷属性を付与することはできる。

 

 右前脚に雷をチャージし、無防備なルドロスの背中に向かって思いっきり振り抜く。バチっという音とともに小規模な放電が発生し、お手攻撃で傷ついたルドロスの背中を、さらに焼いていく。

 

「ーーーー!!」

 

 声にならない悲鳴をあげたルドロスはしかし、まだ諦めてなどなかった。首だけをグリンとこちらに向け、その口をガパリと大きく開ける。

 咄嗟に危険を察知した俺は、その場から大きく飛びのく。次の瞬間、さっきまで俺がいた場所に水の塊が通り過ぎていった。ルドロスの水球攻撃だ。

 

 あっぶねぇ……今のはあと少しで直撃もらうとこだったぞ。やはりモンスター、人間を相手にしてる時とは訳が違うな……だが!

 

 俺は尻尾を地面スレスレに振り抜く。その尻尾はルドロスの脚をとらえ、転倒させることに成功した。そしてもがくルドロスの腹に向かって、再び雷を纏わせた脚をぶち込んだ。

 

「ギャアァァ……」

 

 ルドロスの目から生気が失われ、ピクリとも動かなくなった。死んだようだ。それを確認した俺は、戦闘用のスイッチを切った。

 

 はぁ……なんとか倒せたー。やっぱ少し鈍ってんなぁ。まぁ人間の時とは体の構造がまるで違うし、しょうがないといえばしょうがないんだが。

 でも初勝利だ。今ので大体のコツは掴めたし、次はもっと上手く立ち回れるように頑張ろう!しかし疲れたな……やっぱ一番の問題はスタミナかなぁ。

 

 疲れる体を引きずるようにして、俺は家へとその歩を進めるのだった。

 

 あ、ちなみにルドロスはペロリと平らげたぞ。味は……うーんそうだな、水浸しの魚肉って感じ。要するに不味かった!

 

 



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第4話.暴食の王

遅くなって申し訳ありません……


 初めての戦闘を経験してから2ヶ月。この世界に来て3ヶ月あまりが経過した。

 

 依然として俺の体は成体には至ってない。まぁ当然っちゃ当然だろ。そもそも、こんなに早く青年期と思えるほど体が大きくなるとは思ってなかったのだ。

 まぁ、それはいい。そんなことより、もっと重要なことが分かってしまったのだから。

 

 それは、加護の本当の力というやつだ。確証はないし、証明も出来ないのだが、俺はこの答えで合っていると確信している。

 加護の力はおそらく『能力吸収』。気づいたきっかけはルドロスを倒した数日後のことだ。

 

 何気なしにくしゃみをした途端に、口から水の塊が飛び出してきたのだ。うわ……この言い方だと、俺がくしゃみの途端に唾をまき散らしたかのようじゃねーか。

 そう言う意味ではなく、本物の水球だ。現に水球が当たった岩は少しだけ削れてたし。

 

 その時は驚いたものだが、冷静になって考えてみると、あれはルドロスの水球攻撃なのでは? と思い至った。

 そもそもジンオウガに水袋は無いし、水を操るジンオウガってのも聞いたことがない。だったら、あとは俺がまだ未発見の新種か、加護の力かのどちらかだろう。

 まぁ十中八九加護の力だろうな。俺の見た目は完全に原種のジンオウガだし。新種だったら多少なりとも原種とは違ったところがあるだろう。

 

 それにしても、能力吸収とは……これは便利なんてレベルのもんじゃねーぞ。例えば属性。雷属性が使えるジンオウガは、雷に耐性がある。そして弱点は氷属性。これは誰でも知ってることだろう。

 じゃあ、ジンオウガが氷属性を使えたら? 氷に耐性を持てる。つまり弱点がなくなるってことだ。

 

 これはヤベーもんをもらっちまったな……まぁ死ににくくなるなら大歓迎なんだけどな。いつかは全属性をゲットしたいなぁ。

 さて、現状確認も終わったし、今日の探索に行くとしますかね。

 

 

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 この頃の日課となっている狩りを終えて腹を満たしたあと、いつもの散歩コースを歩くことにした。

 コースはエリア1からスタートして、4、5、6、7と経由してエリア9に戻ってくるというもの。

 

 それにしても、やはり現実とゲームでは全く違うということをヒシヒシと感じられるな。エリア4は朽ちた家屋がポツポツとあるのではなく、廃棄された村という感じで、まだまだ朽ちかけの家が多く存在している。

 エリア5はゲームのよりももっと広く、ドボルベルクが3匹暴れまわっても狭くは感じないと思えるほど。

 エリア6なんてすでに人間より大きい俺でさえ、足がつかなくなりかけるところがあるぐらい深い川が流れている。

 

 実際歩いてみるとわかる、ゲームと現実の違い。まぁゲームの中に入ったわけじゃないから当然っちゃ当然か。

 

 そんなわけで今いるのはエリア5。

 大型モンスターの気配もなく、のんびりとエリアの真ん中を歩いている時だった。少し遠くに、何かがある。不審に思いつつも近づいてみると、なんと息絶えたライゼクスだった。

 

 なんでライゼクスがこんなところに……? 本来ライゼクスは渓流には出ないはずだ。もしかしたら、この世界は違うのかもしれないけど。

 まぁそんなことはいい。これは大きなチャンスなのだ。ライゼクスには発電器官がある。そいつを食らえば、俺にも発電器官が出来るってわけ。

 ジンオウガの弱点である、発電を雷光虫に任せっきりという点を、これで克服出来る。

 

 こりゃラッキーだな。誰にやられたのかは知らんが、ここに死体を放置したのが悪いってね。

 ではいただきま〜す。

 

 ライゼクスの発電器官である背電殻を中心に、ペロリと平らげた。味は……まぁ普通だな。

 でもこれで発電器官を得ることが出来た。明日には出来てるかな? うーん、楽しみだ。

 

 と、その時だった。

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 大地が震撼するほどの咆哮が轟く。咄嗟に後ろを振り向くと、そこに奴はいた。

 全身を覆うはち切れんばかりの筋肉の鎧、大きく裂けた巨大すぎる顎。その顎から滴る涎は、地面に落ちるとシュウシュウと音を立てて地面を溶かす酸性だ。

 生態系の破壊者、暴食の悪魔、ゴーヤと呼ばれるイビルジョーが立っていたのだ。

 

 そいつを視界に捉えた瞬間から、俺の本能がけたたましく警鐘を鳴らしている。奴には勝てない。今すぐこの場から逃げろ、と。

 だが俺はその場から動けずにいた。それも当然。今一瞬でも気を抜いたら、死ぬというのが分かっているからだ。それぐらい、俺と奴の間には戦力差が存在している。

 

 どうやらイビルジョーは自分の獲物をとられたことに、怒り狂っているようだ。

 失敗したぜ……まさかあのライゼクスを仕留めたのが、イビルジョーだったなんてな……このまま逃がしてくれそうにもないし、戦うしかない、か。だが戦っても敗北は必至。なんとか隙をついて逃げるしかない! 

 

 こちらの方針がある程度固まり、意識を戦闘用に切り替えた時、イビルジョーにも動きがあった。深く腰を落として、両脚で強く大地を踏みしめているように見える。おそらく力にものを言わせて突っ込んでくるつもりだろう。

 それならばこちらにも対処は可能だ。まっすぐ突っ込んでくるならば、横に飛んでそれを回避。そのあと……!? 

 

 俺の思考は最後まで纏まることは無かった。気がついたら、俺の体は宙に浮いていたからだ。それがイビルジョーに突撃されて吹き飛ばされたということに気づいたのは、勢いで大木に叩きつけられた後だった。

 

 ぐはっ……ば、バカな。奴が動き出した瞬間が全く分からなかった……まるで砲弾のような攻撃だ……! 

 

 見ると奴が通ったであろう地面は、炎で焼かれたかのように焼け爛れている。イビルジョーが炎を使うはずもないし、あれは摩擦熱で地面が燃えたという証拠だ。

 

 イビルジョーはすでに体制を整えて、こちらに向かって来ようとしてきている。このまま倒れ込んでいてはマズイ。痛む身体を必死を動かし、なんとか立ち上がる事に成功した。

 

 くそっ、足へのダメージがバカになんねーな……薬草をバクバク食っていたお陰で、自然回復力には自信があるが、今すぐ全快ってわけにもいかない。早々に切り上げなければこちらが不利だ。

 すでに雷光虫で電力は補完済み。あとはアレをやるだけなんだが……タイミングが難しい上に、一回ミスるとすぐには連発できない。そしたら俺の負けだ。しっかり見極めなければ。

 

 今度は突進するのではなく、ゆっくりと近づいてくるイビルジョー。勝ちを確信しているのか、その顔からは見下すような視線が感じられる。

 

 バカにしやがって……そんな態度を取ってられるのも今のうちだからな! 

 

 すぐ近くまで迫ってきたイビルジョーが行動を起こす。巨大な顎での噛みつき攻撃だ。

 だが先ほどのようなスピードはない。これならかわせる! 

 顎が俺の体を捕らえるギリギリまで引きつけてかわす。その瞬間、イビルジョーと俺の体が、かつてないほどに近づいた。

 

 ここしかない! くらえ、フラッシュ!! 

 

 ありったけの電力を使用して、体全体を発光させる。モンハンでいうならば擬似閃光玉か。ともかくそれはイビルジョーの眼前で発動し、奴の視界を奪う事に成功した。

 

「ガァァァァ……ガアァァァァァァァァァ!!!!」

 

 突然目が見えなくなった事に驚いたのか、イビルジョーはその場でジタバタ暴れるのみ。

 逃げるなら今しかない!! 

 

 僅かに残った電力で脚力を強化し、その場から全力離脱。もちろん逃げた痕跡を残さないよう注意したし、途中から気配を消すことも忘れない。

 そんなこんなで、ようやくエリア9の家にまで戻ってくることが出来た。エリア9はエリア7からの入り口が思った以上に狭く、イビルジョーでは通り抜けられないと思う。エリア8からの道は言わずもがな。あの巨体が洞窟に入れるわけがない。

 

 はぁ〜。なんとか逃げ切れたようだ……ライゼクスを見つけたのはかなり幸運だったが、イビルジョーに出会うとか運ないなぁ。しかもあのイビルジョー、俺が知ってるのよりもなんか体色が黒かったし。変異種とかじゃねーだろうな? 

 ともかく疲れた……今日はもう寝よう。

 

 そのまま最低限の警戒はしつつ、眠りに落ちた。少し経ったのち、俺を逃した怒りからか、イビルジョーの咆哮が渓流中に響き渡ったのだった。

 



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第5話.旅立ち

めちゃくちゃ出遅れましたが、モンハンワールド買いました。オープンマップのモンハンとか、楽しすぎか。


 くっそ……イビルジョーのやつ、まだうろうろしてやがるのか。

 

 イビルジョーに襲われてから2週間は経ったと思う。その間、俺がイビルジョーに襲われることは無かった。まぁ細心の注意を払って行動してたからな。

 だが奴は諦めてないのか、まだ俺のことを探して渓流やその周辺をウロウロしている。

 

 すでに渓流の生態系は壊滅寸前まで追い込まれている。あれだけいたガーグァはその姿を消し、ブルファンゴとか1週間前から見もしない。

 大型モンスターは縄張りを守るために奴に挑み、その全てが返り討ちに終わったようだ。

 

 まさに渓流はイビルジョーの独断場。我が物顔で闊歩する奴に逆らえるものなど、存在しなかった。

 それは人間側も同じ。流石にイビルジョーともなればギルドも焦るのか、何回かハンターが送り込まれてきたっぽい。だが、結果は全て敗北だった。しかもキャンプ送りではなく、全員即死という結果。

 

 流石に俺も不味いと焦り始めるってもんだ。どう考えてまも奴に勝てる要素はなく、あっちは俺を探しているという始末。毎日の食事を確保するだけで精一杯だ。

 と、思ってたんだけどなぁ……

 

 

 ……Now loading……

 

 

「ガァァァァァァァァ!?」

 

 渓流にイビルジョーの悲鳴が轟いた。今まで傷一つ負った所など見たことがないイビルジョーの体は、今や至る所から血が流れている。

 強者のプライドからか戦意は失ってないようだが、勝敗は一目瞭然。このままいけばイビルジョーが敗北するだろう。

 

 い、一体何が起こってるんだ……

 あり得ない。そんなことはあってはならないと思考するが、目の前の現実がそれを無情にも否定してくる。

 あれほどの強さのモンスター。俺はてっきり、大討伐部隊でも編成してくるのかと思っていた。だが、実際に来たのはたった一人。その1人に、あれほどの猛威を振るったイビルジョーがボコボコにされている。

 

 しかも、見た目はまだ幼い少女のように見える。俺の目算だと、中学生……ぐらいか? 恐らく15、6ぐらいなのは確かだ。

 そんなか弱そうな女の子が、20メートルはあろうかという化け物を圧倒している。これが信じられるかってんだ。

 

 イビルジョーが威嚇の意味を込めて大きく咆哮するも、少女は微動だにしない。ただ手に持つ得物を静かに構えて、油断なくイビルジョーのことを見ている。

 その態度に怒ったのか、イビルジョーが突撃した。ただの突撃ではない。足の筋肉を限界まで使った、ロケット頭突きとも言えるものだ。

 しかし少女は、やはり動じない。イビルジョーの足の隙間。そのほんの僅かな隙間に体を滑り込ませ、攻撃を回避する。それだけでも十分凄技なのに、それだけではない。攻撃を仕掛けたはずのイビルジョーから血が吹き上がったのだ。

 

 少女はあの一瞬とも言える通りすがりの瞬間、イビルジョーを最低でも10回は斬りつけた、と思う。

 なんせその初動が俺でさえ見えない。僅かに腕を動かしたということしかわからない程、速いのだ。

 

 先程からこのようなことが連続して行われている。仕掛けるのはいつもイビルジョーだが、傷を負うのもイビルジョーなのだ。少女には着崩れ一つ見受けられない。

 

 あれが、ハンターなのか……? あれほどまでに強い存在だというのか。だとしたら、俺など生き残れる道は残されていないじゃないのか? くそっ、ここまで過酷な世界だとはな……

 

「もう、終わりにしましょう」

 

 初めて少女が言葉を発したことによって、俺の意識は再び戦場に戻った。見ると、今まで受けの構えだった少女が、攻めの構えをしている。ここで勝負を決めるつもりなのだろう。

 

 初めてイビルジョーに、恐怖の表情が浮かんだ気がした。見るからに動揺しているのが分かる。だが、その判断を下すのは、少々遅かったかもしれない。

 少女が一歩地を踏む。それだけで彼女の体は凄まじい速度で前方に飛び出し、一気にその間合いに詰めていく。腰だめに構えた太刀。恐らく抜刀術の類だと思われる。

 

「奥義 一の太刀『瞬…………!?」

 

 その時だった。イビルジョーが、今までしたことのないような行動をしたのだ。その巨大なアギトを、思いっきり地面に叩きつけて土砂を巻き上げた。

 突然の行動に一瞬たたらを踏む少女。その僅かな時間で、イビルジョーは地面に穴を掘り逃げ出したのだ。

 

 土煙が収まった後には、静かに納刀する少女と、巨大な大穴が残されてるだけだった。

 

「逃して、しまいましたか……」

 

 ポツリと呟く少女の顔には、汗ひとつ浮かんでいない。まるで、さっきまでの戦闘が無かったのではないかと錯覚するぐらい、穏やかな佇まいだ。

 俺は純粋に畏怖を覚えた。あれほどの剣技を操る少女。一体どれほどの鍛錬を積んできたというのだろうか。少なくとも、齢15歳の少女が身につけられる技術ではない。前世でも、あれほどの達人は見たことがなかった。

 

「うーん。上手くいきませんでしたねぇ。さて……」

 

 そう言って伸びをする姿は、ごく普通の少女に見えた。さっきの戦闘を見ないで今の少女を見かけたら、危険性0と判断してしまうかもしれないほどに。

 うん? 心なしかこっちを見ている気が……

 

「そこに隠れている人……いえ、モンスター? 聞こえてますか?」

 

 少女がこちらを真っ直ぐ見つめてそういった。

 

 なっ! 俺の潜伏が見破られただと!? 仕事柄潜伏する機会が多かったこともあり、潜伏にはかなりの自信があった。それこそ、前世では見破られたことなどない。

 確かに体が変わったとはいえ、それをこうも簡単に……? 

 

「やる気があるなら出てきてください。相手になってあげましょう。ですが、やる気がないのなら、今すぐ立ち去ることです。まぁ、言っても理解出来ないでしょうが……」

 

 彼女は気休め程度の警告として言ってるようだが、言葉が理解できる俺からしたら渡りに船だ。ここは素直に退散させてもらおう。

 背後から襲われる危険性はあるが、その時はその時。どうせ正面切って戦っても勝ち目など無いし。

 

 そのまま振り返ることなく、走って帰路に着いた。幸い、あの少女が追ってくるなんてことはなかった。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 はぁ……なんか1日のうちにとんでもないことが起きたなぁ。まさかイビルジョーが負けるなんて思ってもみなかった。

 まぁ奴が居なくなってくれたのはいいことだが、それよりあの少女のことだ。彼女は危険だ。いや、危険なんて言葉では表せないほどヤバい。もう二度と接触しないように心がけねば。

 

 それにしても、ハンターか。今まではイビルジョーに瞬殺される姿しか見てなかったが、今日を振り返って考えが変わった。

 ハンターは危険だ。モンスターにとって天敵といってもいいだろう。幸いなのは、ハンターはモンスターを殲滅するために動いているのではなく、自然との調和を齎すために動いているという点か。

 まぁ怪しいけどな。調査の邪魔だから。といってモンスターを狩るなんて展開は、ゲームでもあったし。油断はできない。

 

 俺はまだハンターと戦ったことはないから、危険視はされてないだろう。だが、このままではいつかハンターと戦うことにはなるはずだ。

 そうなった時、今の俺では圧倒的に実力が足りない。あの少女と対峙して、せめて逃げられるぐらいの実力をつけなければ、この世界では生きていけない。

 

 ……よし、武者修行の旅に出よう。やはり実力をつけるには実戦が一番。しかしハンターと無闇に戦うわけにもいくまい。

 狙うは別地方にいる大型モンスター達。俺には能力吸収の加護もあるし、一石二鳥だ。

 

 そうと決まれば早速行こう。もしかしたら、ギルドの調査隊とかが送りこまれてくるかも知れないしな。イビルジョー討伐は諦めてないだろうし。

 願わくば、あの少女が最強の一角と呼ばれるぐらい、この世界で強い存在でありますように。あんなのがうじゃうじゃ居たら、たまったもんじゃねーからな。

 

 さらば、渓流!



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第6話.移動、そして遭遇

歴戦古龍を狩る毎日を送っています……装飾品全然でねぇ。あと使ってない武器の龍脈石出るの勘弁してくれ……




 さーてと、どこに向かうとしますかね。

 

 モンハンシリーズをプレイしてると分かると思うが、ジンオウガってのは案外どこにでもいる。渓流はもちろん、火山、雪山、森丘、天空山などなど。その生息範囲はモンハンでもトップクラスだと思う。

 要するに、ジンオウガはどこにでも適応することができるってわけだ。まぁ雪山とか氷海にいるのは亜種だが……

 

 しかしそんなジンオウガが唯一出現しない地域がある。乾燥地帯だ。砂漠や砂原など、多くの乾燥地帯が存在するが、ジンオウガがそこに現れた例はない。つまり、ジンオウガは乾燥に弱いのではないか? と考えられるわけだ。

 

 ならばここは早めに乾燥地帯に行って、ジンオウガの弱点であろう乾燥に強くなる必要がある。

 てな訳で、行き先は砂原に決定! 幸いにも渓流から砂原ってのはそんなに離れてないしな。

 えーと確か、渓流から南西に行くんだったっけ? 前にモンハン世界の地図を見たことがあったのだが、いかんせんうろ覚えだなぁ。少し不安だが、とりあえず行ってみよう。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 ふむ、一旦冷静になって考えてみようか。

 

 俺の視界右には何が見える? それは森。オーケー。

 じゃあ左側は? さらに森。オーケーオーケー。

 成る程、どうやら前後にも森が見えるようだ。つまりここから導き出される結論とは……! 

 俺は深い森の中にいると言うことっ! 

 

 ………………うん、普通に迷ったわ。

 てかここマジでどこよ!? 見渡しても木ばっかとかシャレになんねーぞ! いや森の中では生きられないとか言うわけではないんだが……見晴らしの悪い森の中は、あんまり安全とは言えないってわけ。

 てか空を飛べるわけでも無いんだし、普通に考えたら自分が真っ直ぐ進んでるなんて、確認しようがないんだよなぁ。

 

 まぁ悩んでてもしょうがない。迷ったものは迷ったものとして受け止めていこう……

 さて、そうなると安全な場所を探す必要があるな。どうせ今日はこの森で一晩過ごす事になるだろうし、いくら夜目が効くからと言っても、やはり夜中の移動は危険だからな。

 こういう時、翼があれば迷うことなんてないんだろうなぁ。レウスとかレイアとか。羨ましい。

 

 さて、愚痴タイム終了っと。早いとこ探索を始めなくては。影の向き的にもう午後にはなってるはず。暗くなる前に寝床の確保だ! 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 お、こことかいいんじゃないか? 

 

 俺が見つけたのは、倒れた大木が折り重なっている場所。大木の中が空洞になっており、そこに身を隠すことができそうだ。しかも他の倒木がいい感じに積み重なっていて、外から空洞内を見ることはほとんど出来ない。

 

 ふむ、居心地は悪くないな。

 この木の性質なのか知らないが、空洞内はなかなかの適温だった。

 こういう時まだ成体になってないと有難いよな。成体だったらこの木の空洞には入れなかったかもしれないし。

 ふぁーあ、今日はこのまま寝る……と行きたいところだが、そうは問屋が卸さないらしい。今の今まで気づかなかったとは、不覚。

 

 のっそりと空洞から出てみるが、辺りを見渡しても何もいない。と思うかもしれないが、俺はもう気づいている。この肌を刺すような張り詰めた殺気に。

 相手はこちらの存在に気づいていたのだろう。なので隠れるのは無意味。むしろ閉所にいて奇襲されるの方がまずい。

 

「グルルル……」

 

 俺は警告の唸り声を出して様子を見る。お前の居場所は分かってるんだ。出てくるならさっさと出てくるんだな! 

 

 一拍ののち、ガサガサと茂みを掻き分けて出てきたのは、漆黒の体毛にスリムな体を持った密林のハンター。

 迅竜ナルガクルガだった。

 

 ナルガクルガはいつでもこちらにとびかかれるよう、低姿勢でジリジリと距離を詰めてきている。どうやら戦闘は避けられないようだ。

 

 この世界に来て4ヶ月余り。今までちゃんとした大型モンスターとの戦闘は避けてきた。まだ成体になってないってのもあるが、何より四足歩行のこの体に慣れていなかった。

 そんな状態では負けてしまうことは必至。そしてこの世界での敗北は、死を意味する。要するにこの世界では、全てから逃げた臆病者と、全てに勝利した真の強者しか生き残れないってことだ。

 

 俺が全てから逃げる? はっ、冗談。そんな事ではこの世界に来た意味が全くないし、何より俺のプライドが許さない。もう逃げるのは沢山だ。

 そして俺の目の前にはナルガクルガ。明らかに瞳に殺意を浮かべている。俺の敵、敵は倒すまで。

 ……いくぞ。

 

 意識のスイッチを戦闘状態に切り替える。前世で培った、戦闘最適化処置だ。

 ナルガクルガはまだこちらを警戒して動かない。警戒するのはいい事だが、何もしないのは悪手だ。こい、雷光虫! 

 

 あたり一面に青白い光を放ちながら、雷光虫が俺の元に集う。しかし、成体になってない俺は超帯電状態になることが出来なかった。おそらく電力不足が原因。だが、今は違う。

 ライゼクスから得た発電器官。こいつを使うことによって、今の俺でも理論上、超帯電状態になることができる!。

 

 雷光虫チャージ完了。

 発電器官、正常に稼働。

 オールクリア。

 

 ナルガクルガが今更になって飛びかかってくるが、時すでに遅し。

 ドン! と腹に響く衝撃が走った後、雷が落ちたかのような轟音が轟いた。超帯電状態に移行できた証拠だ。

 

 おぉ、これが超帯電状態……さっきまでとは感覚が全く違う。極限まで研ぎ澄まされた感覚は、超高性能レーダーにも引けを取らないんじゃないか? それに体も軽く感じる。これは……電気によって筋肉が活性化されてるっぽいな。

 ゲームでは何気なく見ていた超帯電状態だが、実際なってみるとそのすごさが分かる。こいつはかなり優秀だ。使い方次第ではどこまでも伸びるかもしれない。

 

 さっきの衝撃で軽く吹っ飛ばさらたナルガクルガが、再び飛びかかろうとしてくる。あの構えは、おそらく刃翼で斬りかかるつもりだな。

 しかし、超帯電状態になった俺には、その行動は酷く遅く見えた。視覚を強化しているのだ。

 二分の一程度の早さになったナルガクルガなど、もはやいい的だ。

 

 空中に飛び出したナルガクルガの腹下に即座に移動。ナルガクルガは目を見開く暇もなく、螺旋サマーソルトの餌食になった。もちろん雷を纏ったサマーソルトだ。

 ナルガクルガの弱点は雷。これは手痛い一撃だったようで、たった一撃貰っただけなのに、足元がフラフラしているようだ。

 

 動かなければ、待っているのは死。間髪入れずに雷光虫弾を4発発射。と同時に再度駆け出す。

 四方から迫る雷光虫弾を避けるために、奴は飛び上がるしかない。そう思ってナルガクルガが頭を上にあげた瞬間、奴の顔には絶望が浮かんだ。

 その頭上では、すでに俺が攻撃モーションに入っていたからだ。強化された脚で地面を踏みしめ思いっきりジャンプ。奴の頭上を陣取り、完全に逃げ道を無くした。

 逃げ道を失ったことによって、ナルガクルガはたたらを踏んでしまう。それがお前の命取りとなる。

 

 落下の速度を完全に生かしたお手攻撃を、ナルガクルガの脳天に叩き込む。G級ジンオウガよろしく、チャージお手攻撃だ。バゴォ!という音が鳴り、奴の頭をそのまま地面に叩きつけた。

 次の瞬間には4発の雷光虫弾が着弾。激しい電流が辺りに迸った。

 

 ゆっくりとその場から離れると、ナルガクルガは頭を地面にめり込ませた状態で絶命しているのが分かった。俺の、勝利だ。

 戦闘状態のスイッチを再び切り替える。その瞬間、ドッと疲れが押し寄せてきて、その場にへたり込んでしまった。

 

 あー、疲れた! やっぱ超帯電状態は体への負担がすげーわ。これももっと成長したら、改善されるといいんだがなぁ。

 雷光虫と発電器官の併用も実戦では初の試みだったけど、うまくいってよかった。練習はしてたんだが、しっかりと超帯電状態になれたのは今回が初めてだったもんな。まぁ成功したからよし! 

 

 それにしても超帯電状態、ヤバイなこれ。だってナルガクルガがほぼ瞬殺だぞ? 確かにナルガクルガは雷に弱いし、下位個体だったのかもしれない。

 それにしても、なぁ? きちんと使いこなせば、ここまで真価を発揮するものなのか。

 これは今後の戦闘でも期待できそうだ。

 

 ふぁーあ。めちゃくちゃ疲れたし、今日はもう寝よう。明日には森を抜けられるといいんだが……

 

 

 あ、ナルガクルガはちゃんと食べたぞ? 体毛が多すぎてモサモサしてたけどな! 早く火属性が欲しい……




翼があれば迷わない……レウスとかレイアとか……
レイア?迷子?うっ、頭が。


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第7話.vsハンター①

日間ランキングに載りました……!まだまだ投稿したばかりなのに、驚きが隠せません。
というわけで連日投稿!


 やぁ、僕はカナト。ユクモ村を中心に活動しているハンターだ。

 ハンター稼業を始めて、早いものでもう1年経つのかな? ようやくHRが4に上がり、上級ハンターへの道が開けてきたところって感じ。

 

 今日は仲間と一緒に、ホームであるユクモ村で依頼を受けにきたんだ。今クエストを受けに行ってるところなんだけど……

 お、きたきた。

 

「カナトー。買い出し終わったかー?」

「うん。今終わったとこ。そっちはなんかいいクエストあった?」

「おう、ばっちしだぜ!」

 

 190センチの巨体に分厚い筋肉を纏う彼はバスク。僕のハンター仲間の1人で、頼れるランサーだ。いつも彼の防御術には助けてもらってるよ。

 

「バスクったら、討伐系のクエストしか見ないんだから、選ぶのに時間がかかったのなんのって……」

「あはは……まあまあ。いつもフォローありがとね。エリン」

 

 エリン。うちのパーティの遠距離担当で、弓使い。スリムな体だが、弓使いにとっては理想的なフォルムと言えるね。彼女の巧みな弓さばきは、モンスターの注意を引いたり、不意打ちの攻撃にとても役に立っている。

 

 僕ことカナト、バスク、エリンの3人で1パーティだ。初めからこの3人で頑張ってきて、ようやくここまでたどり着くことが出来た。憧れの上級ハンターまであと少しだ! 

 

「ちょっと、何笑ってるの? カナト」

「ごめんエリン。でもさ、あと少しで上級ハンターだなぁ、って思うと嬉しくなっちゃって……」

 

 照れ臭くて頰をかきながらそう言うと、バスクがガッと肩を組んできた。

 

「そうだよなぁ。俺たちゃ、あと少しで上級ハンターなんだよな。そりゃあ笑いだって出てくるよな!」

「もう、そんなこと言ってあんまり油断しないでよね。それでクエスト失敗したら、元も子もないし」

 

 呆れながらそう言うエリンだが、そう言うエリンだってこの頃は上級の話ばっかりしている。彼女も嬉しいことに変わりはないんだ。

 

「それで、どんなクエストを受けてきたの?」

「あぁ、これだ!」

 

 バン! とバスクがテーブルに叩きつけるように置いた依頼書には、ナルガクルガ一頭の狩猟と書かれていた。

 

「ふむふむ、森に住み着いたナルガクルガが、時折街道に出てきて竜車を襲っているから討伐を頼みたい、ね」

 

 結局討伐系なんだ……と思いながら僕が依頼書を読んでいると、横から2人がこう言った。

 

「ナルガクルガなら私たち何回か狩ってるし、そう難しいクエストでもないでしょう」

「それに竜車が襲われて被害も出てるんだ。一刻も早くなんとかしないと、と思ってな!」

 

 手をグッと握ってバスクが熱く語る。

 相変わらずバスクは感情移入が激しい。ま、そこが彼のいいところでもあるんだけどね。

 

 ……うん、見た感じ難しい感じじゃないし、俺たちにはちょうどいいぐらいのクエストなんじゃないかな。

 

「よし、今日のクエストはこれにしよう。受付嬢さんの所で手続きしてくるね」

「了解」

「頼んだぜ」

 

 この時の僕は、今回もいつも通り何事もなく帰ってこれると、信じて疑わなかった。

 これから行く先で、どんなものが待っているかも知らずに。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 ナルガクルガを倒してから2週間、ようやく森の出口と思われる付近まで来ていた。

 2週間だぞ……どんだけ迷ってたんだよ、俺。

 いやまぁ、色々あったんだけどな? あの後もドスジャギィの群れとか、アオアシラとかの大型モンスターと戦う時もあったし、野生のアイルーと意思疎通出来ることも分かった。

 

 野生のアイルーと出会った時は衝撃的だったな。いろんな意味で。

 どうやら意思あるモンスターってのは、ほとんどが古龍種にしか存在してないらしい。だから、普通に意思がある俺を見て、アイルー達はそれはもう大騒ぎだった。

 そのあともてなされて、アイルー達の宴に参加して、この森の地図を手に入れて、とかなんかしてたらあっという間に時間が経っていたってわけだ。

 

 アイルー達の手助けのおかげで、ようやく森を抜ける算段がついた。今はもうほとんど森の外周付近まで出てこれてるはずだ。

 迷い込んでしまった森だけれど、ここで得られたものも大きかった。まぁ元々武者修行の旅だ。こういうことがあってもいいだろう。

 

 お! 木々の間から差し込む光が強くなってきたな。ようやく脱出出来る! 

 よーし脱出せいこ……う? 

 

 森から出た俺の目に写り込んできたもの。それは、明らかに武装したハンターと思われる3人組だった。

 

「な、ジンオウガ!?」

「くっ、この!」

 

 ランスを持った大柄な男が、俺の姿を視界を捉えた瞬間、背中のランスを抜き放って大きな盾を前に構えた。

 

 マジかよ!? ここでハンターと出会うことになるとは……

 いきなりのジンオウガの登場に困惑してるようだし、このまま逃げてくれればいいんだが……

 

「ジンオウガが出るなんて、聞いてないよ!」

「依頼書には何も書いてなかった! 要するに、つい最近ここに住み着いたってことよ!」

「おい、どうするんだ!?」

 

 どうやらこのスラッシュアックスを持った男が、パーティのリーダーらしい。ランサーの男と弓の女がスラアクの男に判断を仰いでいる。

 

「ここは街道にかなり近い。このままほっといたら、このジンオウガが行商人を襲う可能性がある。今のうちに狩っておくべきだと思う」

「でも……勝てるの?」

「おそらくだけど……このジンオウガ、まだ大人じゃないよ。勝機はある」

 

 うーわ、バレテーラ。やっぱ見た目でわかっちゃうものなんだなあ。

 しかも狩る方向で話がまとまってきてるし。仕方ない……やるか。

 

「いつも通り、バスクが攻撃を受け止め、僕が攻撃、エリンが援護と攻撃を!」

「「了解!!」」

「ジンオウガは超帯電状態が脅威だ! でも電気をチャージする時は少しだけ隙ができる! そこをつけば……!?」

 

 喋りすぎだよ、スラアク男。

 スラアク男が仲間の方を振り向いた瞬間、雷光中弾を4発発射。カーブを描く雷光虫弾は、2発ずつに分かれながらランサー男の盾をすり抜けてスラアク男に向かう。

 

「このぉ!」

 

 ランサー男が片方の2発を盾で防ぐ。その動きは素晴らしいものだが、もう片方には追いつけまい。案の定、スラアク男はスラアクの腹で雷光虫弾を受け止めている。

 

 状況分析……ランサー男が想定外の攻撃をさばいたことで、陣形が崩れている。スラアク男はガードの衝撃に耐えているのか、微動だにしない。残るは、弓女か。

 

 弓は属性攻撃に優れた武器。流石に氷属性の攻撃を連続でされたら、たまったものではない。先に片付けるべきは弓女だな。

 すでに超帯電状態への移行は完了している。彼らが色々と判断に迷っている間にやらせてもらった。実戦ではそういう僅かなタイムロスが命取りとなる! 

 

 筋肉を電気の刺激で活性化させている超帯電状態では、通常時とは比べものにならない身体能力を発揮できる。

 地面を強く踏み込み張飛。男2人の上を飛び越え、弓女の頭上に躍り出る。そしてそのまま、落下の勢いを乗せたお手攻撃。ナルガクルガ戦で見せたあれだ。

 

 この技は実は結構大振りであり、相手がダウンなどをしてない場合は、簡単に避けられてしまうものなのだ。現に、弓女は右に転がるように体を投げ出すことで、俺の攻撃を回避した。

 しかし、その対策を取ってないとでも? 地面に叩きつけた前足を起点に、その場で一回転。すると、ジンオウガ特有の巨大な尻尾がまるで鞭のように振るわれる。

 

 広範囲を薙ぎ払うように繰り出された尻尾は、弓女だけではなく2人の

 男までをも巻き込んだ。男どもは武器を盾にする事で耐えたが、女の武器は弓。当然ガードすることなどできない。

 尻尾に体を絡め取られ、そのまま激しく投げ飛ばされた。投げ飛ばす先も当然計算済み。その体は、大木へと叩きつけられる。

 

「エリン!!」

「カナト、エリンを頼む! ここは俺が耐えておく!」

 

 カナトと呼ばれた男が、エリンと呼ばれた女の元に走り寄っていく。回復薬かなんかを飲ませる気か? そうはさせない! 

 すぐさま妨害に移ろうとするが、ランサー男──確かバスクだったか──が、俺の前に立ちふさがった。

 

 くっ、邪魔だ! 

 連続でお手攻撃を繰り出し体制を大きく崩したところで、ジンオウガお得意のタックルをぶちかます。盾で防げたようだが、あまりの衝撃に大きく後退するバスクとやら。

 

 すぐさま視線を2人の方に戻すが、そこにはすでに立ち上がれるまでに回復した弓女エリンと、こちらを油断なく見据えるスラアク男カナトがいた。

 

 嘘だろ……今のほんの数十秒の間に、おそらく内臓破裂と複数の骨折を負った人間が立ち上がれるようになった、だと!? 

 回復薬グレート……いや、秘薬か? どちらにしても、その程度の傷では戦闘不能にしたことにはならないってことか……

 まるでゾンビ、いやゾンビよりもタチが悪い。

 

 俺が驚いている隙にバスクが2人と合流。おそらく彼らの基本的な陣形を組んだのだろう。隙がほとんど無くなった。

 いいだろう……そっちがまだ諦めないなら、次こそベースキャンプ送りにしてやる!! 

 

 

 

 

 



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第8話.vsハンター②

長らくお待たせしましたー!
ようやくテストも終わり、本日より投稿再開です。

※カナトの一人称を『俺』から『僕』に変更しました。


 さてと、あちらは完全にこちらを警戒してるみたいだし、もう不意打ちは出来そうも無いな。かといって正面から攻めても、ランサーに守られたエリンの弓が怖い。

 とはいえ、それは攻めあぐねてても同じか。ならば! 

 

 俺はハンター達に向かって猛烈にダッシュ。当然弓による攻撃が飛んでくるが、ここは仕方がない。モンスターの防御力を生かして何とか耐える。そのままある程度接近すると、カナトとエリンはランスをどっしりと構えるバスクの影に入った。

 

 普通のモンスターだったら、思いっきり盾にぶつかって手痛いカウンターを食らうのだろう。なるほど、なかなかいい手だ。しかし、亀のように固まってるだけなら、いくらでもやりようはある。

 

 ランスの盾にぶつかる瞬間に急ブレーキをかけ、上体を起こす。そしてその勢いを利用して彼らの目の前の地面を、全力で殴りつけた。その衝撃で、大量の砂煙が捲き上る。

 

「うおっ! なんだ!?」

「慌てないで! バスクはしっかりガードだ!」

 

 いい判断だな。カナトはうまく仲間を指揮している。突然の事態にも動揺せず、冷静に仲間に指示を出す。いいリーダーだ。俺が普通のモンスターだったら、な。

 

 砂煙の中でも、モンスターの目というのはよく働くのだ。おそらくあちらから俺の姿はほとんど見えてないのだろうが、俺からは奴らの姿がうっすらとだが見えている。

 そしてランスといえど、ガードできるのは前面だけ。

 

 サイドステップで奴らの側面に出た俺は、未だ盾の後ろに固まっている2人にタックルをかます。視界の悪い中、突然の横からの攻撃。流石に反応できなかったようで、カナトとエリンは吹き飛ばされていった。

 

「カナト、エリン! くそ、こいつ!」

 

 バスクが素早くこちらを振り向いてランスを突き出してくるが、ジンオウガお得意の後方スピンで素早くかわし、そこから連続お手攻撃に派生させる。

 ランスというのは、その防御力の代わりに機動力を犠牲にする武器だ。今さっき突きを繰り出したばかりのバスクでは、この攻撃は避けられない。

 

「ぐぁあああああ!」

 

 2連撃のお手攻撃を食らったバスクも、先ほどの2人のように吹き飛ばされた。本当なら追撃に移りたいところだが、これだけの時間、おそらくさっきの2人は……

 

「バスク!」

「バスクから離れなさい!」

 

 やっぱりな。すでに回復を終わらせていたか。直前にバックジャンプをしてなかったら、俺の体はハリセンボンになっていたぞ……

 というか、あの回復をどうにかしない限り勝てないな。回数制限とかないのか……? 

 くそっ、考えても仕方ない。それよりバスクが回復し切る前に、少しでも2人を削っておこう。

 

 カナトがスラアクを剣モードに変えて切りかかってくるが、スラアクは動きが遅い武器だ。恐らく、普段はエリンが弓で注意を引きつつ、バスクが盾となりながら攻撃しているのだろう。

 盾役のバスクがいない今、カナトは攻撃しやすい的だった。

 

 体をひねりつつジャンプをして、カナトの背後に回る。その際大きく尻尾を振り回すことで、カナトの背後で弓を引いていたエリンを牽制。

 と思ったのだが、何とカナトは剣モードのスラアクを大きく振り上げ、そのまま自らの背後、つまり俺を攻撃してきた。

 とっさに身をひねり、急所へのダメージは防いだが、前足の付け根にスラアクが突き刺さった。

 

 ザクッ!! 

 

 ぐああ! まさかあんな方法で攻撃してくるとは…… だが残念。致命傷には及ばなかったな! 

 しかし、カナトの攻撃はこれだけではなかった。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 刺さったスラアクから、激しい雷属性のオーラが火花となって迸り始める。その光は次第に膨張し、今にも弾け飛びそうなほど。

 まさか属性解放!? ま、まず……っ。

 

 ドガァァァァァァァァン!! 

 

 大きな爆発が起こり、俺は数歩後ずさる。右足がとてつもなく痛い。見ると、右足からモクモクと煙が立ち上っており、鱗は剥がれ落ち、肉が焼けているようだ。

 

 ぐうぅぅぅぅ! 不味い、脚が思うように動かねぇ! 

 

 カナトはこれをチャンスだと見たのだろう。煙をあげるスラアクを斧モードに切り替え、間髪入れずに殴りかかってきた。

 エリンもここぞとばかりに弓を連射してくる。遠目ではバスクが回復してこちらに向かってきてるのが見えた。

 

『コロセ』

 

 くそっこのままでは……! 

 

 四足歩行をする生物にとって、前足を封じられるというのは死にも等しい。どう行動するにしても前足は必ず使う部分であり、それを封じられたら動けなくなるのだ。

 現に俺はカナト達の攻撃を捌ききれずにいた。

 

『コロセ』

 

 一旦距離を取ろうと歯を食いしばってバックジャンプを試みるが、やはり距離が足らずすぐ追いつかれてしまう。

 

 ぐっ、やばい。出血しすぎて目が霞んできやがった……俺は、こんなところで死ぬのか? 

 

『コロセ』

 

 こんな、理不尽に……俺が人間達に何をした? 人間には危害を加えてこなかった。それなのに問答無用で狩ろうとするとか……

 

『コロセ』

 

 ああ、敵がいる……俺の敵が……敵はどうする? 敵は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コロス!!! 

 

 その瞬間、俺の中から理性というものが吹き飛んだ。

 

「グゥオォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 咆哮が轟く──

 

 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

 

 ん……あれ、俺どうしたんだっけ? 

 

 そう思って霞む頭をふるって起き上がろうとしたところ、全身に激痛が走った。

 あまりの痛みに体を見てみると、所々鱗は剥がれ落ち、肉がえぐれて血が流れていて、前足の爪も折れているという酷い有様が目に入る。

 

 うおっ! どうしてこんなにボロボロなんだ? 

 ううん、なんだか頭がぼんやりするな……確かハンター達と戦っていて……ってそうだよ! そのハンターはどうなった!? 

 

 顔を上げてみると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 なぎ倒された多くの木々。大量の土砂が巻き起こったのか、そこら中に砂山が積み重なっている。そして、俺を中心に広がる大きなクレーター。まるで災害でもあったかのような惨状だ。

 離れたところにはランスの盾だろうか? 元の原型が分からないほど、ひしゃげた金属の塊が落ちている。

 

 なん、だよこれ……これを俺がやったのか? 

 

 しかし、思い出せない。ハンター達と接敵してから数分後ぐらいだろうか。そこからの記憶がバッサリと抜け落ちているようなのだ。

 思い出そうとすると、激しい頭痛に見舞われるのみ。

 

 痛つつ……なんだかよく分からんが、とりあえずハンターは撃退出来たってことか。

 それより今日はもう休もう。なんだか体中筋肉痛のような痛みもするし、何よりクソ怠い……

 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

 なんなんだ……一体なんなんだあのジンオウガは!? 

 僕たちはたしかに優勢だった。あのジンオウガの奇抜な技の数々に翻弄されはしたけど、たしかに優勢に持ち込んだはず! 

 だけど、あのジンオウガが凄まじい咆哮をした後、全てが一変してしまったんだ……

 

 今思い出しても恐ろしい。

 真紅に染まった凶暴な目でこちらを睨んでくるのだ。纏う雷は蒼雷から、オレンジがかった緋雷に変わっていて、どう見ても原種のそれではなかった。

 

 それだけじゃない、スピード、パワー、硬さ、どれを取っても明らかにパワーアップしていたんだ。

 それまで目で追えていた動きも次第に見えなくなり、運良く攻撃がヒットしても、圧倒的なまでの硬度を持つ鱗と甲殻に全て弾かれてしまう。

 あんなもの、どうすればいいっていうんだ! 

 

「うう……」

「バスク! くそう、バスク……」

 

 バスクはジンオウガの攻撃から最後まで僕たちを守ってくれていた。それで隙をついてケムリ玉で脱出できたんだけど、その代償として両足を再起不能にされてしまったんだ。

 いくら回復薬等が凄まじい効力を持っていても、部位欠損やそれに準ずる怪我は治らない。それに回数制限もあるから、今日はこれ以上バスクに回復薬を飲ませるわけにはいかない。

 恐らくバスクは、もう、ハンターは……っ! 

 

 エリンもあまりの出来事に放心しているのか、話しかけても反応がない。この辛い現実を認めたくないのかもしれない。

 

 これから、一体どうすればいいんだ……

 

 僕は竜車に揺られながら、明日からの不安を隠しきれずにいた。

 

 



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第9話.sideカナト

連続投稿です!
HRの仕組みについて、少し独自設定を入れてあります。ご了承ください。

今回は前前話で登場したカナトと、彼らハンター達の話です。
1話で収め切ろうとしたところ、だいぶ長くなってしまった……





「おいっ! どうしたんだ、ボロボロじゃないか!」

「早く医務室へ!」

 

 クエストから帰ってきたカナト達は、そのまま医務室に通されて一晩を明かすことになった。当然だろう、バスクは言うまでもないが、カナトもエリンも装備が壊れてしまっているほどの重症なのだから。

 

 翌日、バスクは絶対安静ということで面会謝絶。心配に思ったカナトだが、会えないものは仕方ないと思い、エリンを探した。そしてエリンとはすぐに合流することができた。 しかしその表情は暗い。

 

「あ、カナト……」

「エリン、大丈夫かい?」

「えぇ、少しは落ち着いたわ……」

 

 そういうが、エリンの表情が晴れることはない。カナトはなんだか気まずくなって、エリンと共にベンチに腰かけた。

 

「バスクのことなんだけど」

「っ……! な、何?」

 

 この話題は今のエリンにとっては辛いものかもしれない。でも、今言っておかないと、ズルズルと引きずったままになってしまうかもしれない、とカナトは感じていたのだ。

 

「さっき医者から言われたよ。命に別状はないって。でも……」

「でも?」

 

 エリンが心配そうな表情でカナトの顔を覗き込んでくる。それだけでもカナトの心は痛んだ。だが、覚悟を決めて言った。

 

「両足は、もう動かないだろうって……だから、ハンター活動はもうっ……!」

「そ、そんな……そんなことって!」

 

 言葉を荒げながらエリンが立ち上がった。カナトは俯いていてその表情を見ることは出来ないが、見なくても彼女がどんな表情をしているのか分かっただろう。カナトも同じ気持ちなのだから。

 

「く、う、うぅぅ……」

 

 血が滲むほど拳を握りしめる彼女に、カナトはかける言葉を見つけることが出来なかった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 さらに数日後。今回の件についてギルドからカナト達に説明を求められてきた。これも当然だろう。ジンオウガの突然の乱入。さらに原種とは違う行動の数々。ギルドが注目しないわけがない。

 

 あれからカナトはエリンとほとんど話していない。話しかけても、まだ心の整理がついていないと言われるだけ。

 バスクは目を覚まさないし、カナト一人で行くしかない。

 

「はぁ、気が重い……」

 

 重い足取りでカナトはギルドへと向かった。

 

 

 

 

 ギルドの裏口から入って要件を伝えたが、そこで告げられたのはカナトを驚かせるものだった。なんと、今回の一件はギルドマスターが預かったらしい。しかもドンドルマ本部のギルドマスター。だから今からカナトが会うのはそのギルドマスターと言うわけだ。

 

「い、いきなり緊張してきた……」

 

 本部のギルドマスターといえば、現役時代に数々の戦績を残した生きる偉人で、カナトのような下位ハンターからしたら、まさしく英雄そのもの。

 

「そんな人と会って話すだなんて……うぅ、せめてエリンが居てくれれば……」

「こちらがギルドマスターの部屋となっております。くれぐれも粗相のないようお願いしますね」

 

 カナトが考え込んでいるうちに、ギルドマスターの待つ部屋の前まで到着していた。

 受付嬢が軽く一例して去っていくのを見送った後、覚悟を決めてドアをノックするカナト。

 

 コンコン

 

「し、失礼します! ハンターカナト、召集の命を受けてやってまいりました!」

「よし、入れ」

 

 扉を開けると正面にその人はいた。まるで巌のようなオーラを感じるこの男こそ、世界中にあるギルドを束ねる本部ギルドマスター、キールだ。

 

 しかし、次の瞬間にはさらなる衝撃がカナトを襲った。

 

「失礼しま……え? な、な、なんでこの人がここに……というか本物!?」

「失礼ですね。本物に決まっているでしょう」

「そんな……あり得ない!」

 

「私がギルドマスターのキールだ。そして、おっとすまない。驚かせてしまったようだな。こちらは」

「ティナ・ルフールです。初めまして、カナトさん」

 

 ティナ・ルフール。彼女こそ最年少で「モンスターハンター」の称号を獲得し、後にも先にもいないであろう前代未聞の偉業、古龍の単独討伐を果たした、人類最強のハンターなのだ。

 当然HRは999。噂ではティナだけに作られた特別なランクがあるらしいが、カナトからしたらどちらとしてもかすむほどの高さにいる人に間違いはない。

 

 歴代最強のハンターと英雄であるキール。伝説の二人を前にして、カナトはあまりの衝撃で気絶しそうになり、思わずその場でよろけた。

 

「おっと、大丈夫かな?」

「は、はい。少し驚いてしまって……しかし、なぜ彼女がここに? というか、なんでキールさんのような大物が出てきたのか……」

「落ち着きたまえ。順に説明していく」

 

 混乱のあまりつい聞きたいことを口走ってしまったことをカナトは内心恥る。

 

(少し落ち着こう、深呼吸でもして。スーハースーハー)

 

「ゴホン、では初めに。何故私が出てきたかというと、話は1ヶ月程前に遡る」

 

 キールの話はこうだ。

 1ヶ月前、渓流にイビルジョーが現れた。生態系の破壊者と呼ばれるイビルジョーは、その名の通り渓流の生態系をこれでもかと破壊していったらしい。

 それを見かねたギルドは、ティナを派遣。ギリギリまで追い詰めるも逃げられてしまった、と。

 

 その後生態系の調査のため、渓流にギルド職員が派遣されたが、そこで奇妙なものを見つけた。

 なんと通常ジンオウガが出現しないような場所に、ジンオウガの捕食痕があったと言う。

 ギルドが不思議に思って調べてみたところ、どうやらそのジンオウガ、植物や虫、果てには鉱石なんかも食べていたらしい。

 

「成る程分かってきました。その不思議な行動をしていたジンオウガが、今回僕達が出会ったジンオウガだと思ったわけですね?」

「話が早くて助かる」

 

 ここでカナトは疑問に思ったことを口にしてみた。

 

「確かに不思議なジンオウガです。ですが、キールさんが出てくるほどの大物でしょうか?」

「うむ、私もそれだけでは出てこないさ。しかし、君達がジンオウガと戦ったという現場の報告を聞いて、状況は変わった」

「というと?」

 

 キールは一泊置いてからこう言った。

 

「強すぎるのだよ。調査の結果、捕食痕を残したジンオウガはまだ成体になっていないことが分かっている。しかし、報告から考えるに、君たちが相対したジンオウガのパワーは成熟した亜種以上にあるという結論に至った」

 

 成熟した亜種。その言葉を聞いて、カナトは驚きのあまり目を見開いた。

 長生きした亜種ともなれば、少なくとも上位の上位クエに出てくるような強さということ。とてもではないが、カナト達が太刀打ちできる存在ではない。

 

「まだ捕食痕のジンオウガと、君たちが会ったジンオウガが同一の個体であるという確証はない。だが、私はほとんど確信しているよ。この2つは繋がっているとね。だから聞かせてほしい。君達が見たものを。そのジンオウガから何を感じたかを」

「わ、分かりました」

 

 カナトはこの間の出来事を包み隠さず、全てありのまま話した。奇抜な技を使うことや、咆哮をしてからの豹変。その全てを。

 

 話し終えた後、キールは考え込んでいるのか、目を閉じて微動だにしない。ティナもその様子をジッと伺っている。

 やがてゆっくりと目を開いてキールが話し始めた。

 

「ふむ、確かに特異な個体のようだ。今までの報告からは聞いたこともない行動もそうだが、何より咆哮してからの豹変……おそらく怒り状態だろう。しかしそこは問題じゃない。問題は緋色の雷を纏っていたというところだ」

 

 そこまで言うと、キールはティナの方を向いた。

 

「ティナくん。緋色の雷を纏うジンオウガ、聞いたことはあるか?」

「いえ、ありません。蒼雷の原種、黒雷の亜種、金雷の金雷公、緑雷の不死種。ジンオウガには様々な種がいますが、緋雷のジンオウガなど聞いたこともありません」

「うむ、とすると……このジンオウガは新種の可能性がある、と言うことだ」

 

 キールはひとつ頷くと、なにやら書類を書き始める。

 

「この度の特異なジンオウガの調査。君にお願いしたい。頼めるかな、ティナくん?」

「ええ、もちろんです!」

「ありがとうカナトくん。君のおかげで、新たなる扉が開けそうだ。感謝する」

 

 キールがカナトに感謝の言葉を述べている。ハンター活動の中で、これほど栄誉なことはないだろう。当然カナトも、本当だったら飛び上がって喜んでいるところだ。

 しかし、カナトの心の中は今それどころではなかった。

 

(これで、終わり……? 僕らを苦しめたジンオウガ。その全ての事後処理をティナさんに丸投げして、僕はこれでお役御免なのか? 

 それは、それだけは……ダメだ!)

 

「ティナさん!!」

「はい?」

 

 声を張り上げてティナを引き留めるカナト。

 

「僕も、いえ僕たちもその調査に同行させてはくれないでしょうか!」

 

 そしてそう懇願した。

 

「カナトくん。これは非常に難儀な事案なんだ。君達を連れて行くにはあまりに危険過ぎる」

「そうですよ。おそらく件のジンオウガは少なく見積もっても上位。場合によってはG級個体です。G級になるにはHR20は必要。カナトさんは今HR5の直前ですよね? 危険かと……」

 

 キールとティナがカナトを諭すが、カナトの決意は微塵も揺るがない。

 

「それでもです!! 自分の実力不足は重々承知しています。ですが、仲間を再起不能にされたのに、後のことは他人に全部任せて自分は安全圏にいるなんて……僕のハンターとしてのプライドが許さないんです!」

 

 その言葉で、キールの眉がピクリと動き、ティナがハッとしたような表情を浮かべた。

 

「荷物持ちでも囮でもなんでもやります! だから、だから! 僕達もティナさんに同行させてください!」

 

 訪れる沈黙。その沈黙を破ったのはキールだった。

 

「くはは……はっはっはっはっは! 仲間がやられて、黙って見てるなんてハンターらしくない、か。全くその通りだな! いやいや、長く現場から離れていたせいで、ハンターの矜持というものを忘れていたよ」

「ハンターとは自由なものである、ですね。私としたことが、心配してたつもりがカナトくんを縛っていたのですか……」

「そ、それじゃあ……?」

 

 恐る恐る聞いてみるカナトに、ティナは優しく微笑んで手を差し出した。

 

「はい、同行を許可します。ですが、囮になんて使いませんよ? 貴方達にはこれから出発まで、みっちりと鍛えてもらいます。いいですよね? キールさん」

「あ、ああ。構わんとも。済まなかったなカナトくん。この調査は他に類を見ないほど危険なものとなるかも知れない。いついかなる時も気を抜かず調査に励むこと。いいな?」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 そう言ってカナトは、ティナの手をしっかりと掴んで握手を交わした。

 キールが小声で呟いた、「ティナ君の特訓か……出発までにカナト君達が潰れなければ良いのだが……」という呟きは、残念ながらカナトの耳には入らなかったようだ。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 ギルドマスター達と別れた後、カナトはエリンの部屋を訪れていた。今日会ったことを話すためだ。

 全てを話した後、カナトはエリンにこう聞いた。

 

「エリン。僕と一緒に来てくれないか? 一緒にティナさんと共に行こう。そしていつの日か、あのジンオウガの正体を暴き、バスクの仇を取ろう」

 

 エリンはしばらく俯いていたが、数秒後に顔を上げた。その目には闘士の炎が滾っている。

 

「ええ、ええ、そうね。このままここで引きこもっていても、バスクに合わせる顔がない。だったらあの雷狼竜に1発ぶち込んで、目にもの見せてくれようじゃない!」

 

 そして拳を握りしめて立ち上がり、そう宣言した。

 

「エリン!」

「行くわよカナト。バスクの分まで、私たちがやってやりましょう!」

「勿論だよ!」

 

 

 こうして決意を新たにカナトとエリン、そしてティナは謎のジンオウガの調査に赴く。

 

 

 

 




この世界ではHR6で上位、20でG級となります。


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第10話.砂原

日間ランキングに載っていた……いやー、ありがたいです!
これも全て読んでくださっているみなさんのおかげです。心から感謝を述べます!





 謎の記憶の欠落を体験した翌日、俺は例のハンターと戦闘した場所に立っていた。

 

 うん、どう考えてもおかしい! 

 え? 何がおかしいのかって? それはこの破壊の痕全てだ。今の自分の力はよく理解している、つもりだ。マックスパワーがどのくらいなのかも。

 それを少し重増して考えても、ここまでの破壊を繰り広げられるかと問われたら、答えはノーだ。

 

 俺がガチの本気を出しても、精々木が少し倒れて地面がほんのりと抉れるぐらいだろう。

 それが今目の前に広がっている光景はどうだ。木々はめちゃくちゃになぎ倒されていて、最早原型をとどめていないものまである。

 地面は所々穴ボコだし、大地をひっくり返したかのようにあちこちに土砂が山を作っている。

 極め付けはこの馬鹿でかいクレーター。昨日はよく分からなかったが、クレーターの部分の地面は真っ黒になっている。つまり高火力で焼かれて炭化しているということだ。

 

 いやいやいや……これを俺をやったとか、ジャギィがリオレウスを倒すぐらいあり得ないんだが? 

 まず俺の雷は地面を焼き尽くすほど火力出ねーし。思いっきり暴れまわってもここまで酷くはならない。

 もしかしから何か別の存在が介入してきたとか? いやないな。それだったら俺が無事な理由も分からなくなるし。

 

 ヒントとしては、記憶の欠落と酷い筋肉痛が俺を襲ったという事実のみ、か。

 でもなー。マジで何にも思い出せないんだよな。確かカナトとエリンがバスクの盾の後ろに移動して、それを俺が崩しにかかったはずなんだが…… そこから先がまるで、ブラックアウトしたかのように記憶が真っ暗なのだ。

 

 筋肉痛はまあ分からなくもない。でもあそこまで酷くなるものか? 普段からトレーニングはしてるし、全身の筋肉を毎日使っているはずだ。なのにあのレベルの筋肉痛。痛みとしては、体を少し動かすだけで激痛が走るレベル。

 

 分からないことだらけだが、今すべきことは分かる。それはこの場から一刻も早く立ち去るということだ。

 これだけ激しくハンターとやりあったんだ。カナト達の死体もないし、おそらくギルドの知るところとなるだろう。またハンターと戦うのは今はごめんだ。さっさとずらかるに限るぜ。

 

 ついに俺もギルドに目をつけられてしまったか……俺ってばまだ成体にもなってないんだぜ? それを狩猟対象にするとか、ギルドってやつは全く……! 

 とは言ってみたものの、まぁしょうがないよな。脅威がいたら排除する。地球でもその思考はあったんだから。この世界にあったって別に理不尽でもなんでもない。

 はぁ、それでも思うところはあるけどな。ま、考えてもしたかない! 前向きな気持ちで頑張っていこう! 

 

 次の目的地というか最初からの目的地は砂原だ。少し寄り道してしまったが、アイルー達に道も教えてもらったし、もう一踏ん張りだ。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 それから2週間後、俺はついに砂原にたどり着いた。

 

 うーん、一面砂の海! まぁ当たり前だけどな。

 それにしても広いなぁ。ゲームの時もエリア外に砂漠が広がっていたから広いんだろうとは思ってたけど、まさかここまでとは。地平線まで全てが砂漠だ。

 

 それに暑い!! 太陽が砂漠の砂を熱していて輪をかけて暑いし、空気もカラッカラで息苦しさも感じる。

 この暑さを一口飲むだけで無効化するクーラードリンクって……神秘だなぁ。

 

 これ以上ここにいるのは危険か。暑さで体調不良になったら不味いし、砂の上では動きにくい。ここでディアブロスなんかにあったら、一瞬で現世とさよならする羽目になってしまう。

 そういや砂漠って足が沈むよな……ディアブロスってどうやって突進してるんだろ? 

 

 だぁー! 考えるのはあとあと! 今は一刻も早く移動しなければ。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 砂原で涼める場所といえばエリア7だな。ここには砂漠では特に貴重な水もあるし、生活するには事足りるだろう。

 だが、この広いエリア7にただ居座るってのも、あまりにも危険すぎる。何度も言うが砂漠での水は貴重だ。だから他の大型モンスターがここを訪れる可能性も高いってことだ。

 そんな時隠れる場所もないここにいるのは非常によろしくない。少しいい感じの場所を探してみるか。

 

 そう思ってエリア7を探索し始めたんだが、思いのほか早くお目当てのものは見つかった。

 なんとエリア7にある池は地下深くまで続いており、別の場所から陸に上がることができたのだ。

 ぶっちゃけ池の中に潜るのはめちゃくちゃ不安だった。もしかしたらガノトトスとかが飛び出してくるかもしれないし。

 

 だが、危険をおかした甲斐はあったな。虎穴に入らずんば虎子を得ずとはこのことだ。

 俺が上陸した場所は、地下の空洞だった。しかもかなり規模が大きい。僅かに風の音が聞こえることから、どこかから地上に出られるかもしれないな。

 

 しかしこれはラッキーだぞ! この池は案外大きくないし、いるのは魚ばかりで大型モンスターの影もない。要するにここと砂原のエリア7との行き来に問題はないってことだ。

 食べ物は一応魚がいるし、なんならここには鉱石もキノコも植物もある。雑食ジンオウガである俺からしたら、ここは最適な寝床だと言えるだろう。

 

 よし、ここを砂原の寝床に決定! とはいえ、何も対策をしないってのも忍びないか……

 とりあえず微弱な特殊電波を発して俺の雷光虫達に連絡(?)を入れる。その結果、空洞の中はぼんやりと光る雷光虫が飛び交うという、幻想的な光景が完成していた。

 

 これで電力の供給も問題なし、と。ここは天敵のガーグァもいないし、雷光虫達にとっても住みやすい環境だろう。

 さてさて、この空洞がどこに繋がっているのか気になるところだが、今日は移動で疲れたし寝ることにしよう……

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 翌日、早速この空洞について調査を始める。

 その結果、俺の読み通りこの空洞は地上に繋がっていることが分かった。だが、その入り口はかなり狭く、小さい俺ですら通り抜けられないほど。

 これでは大型モンスターは入ってこれないだろう。ひとまず安心だな。

 

 どうやらこの小さな穴が通風口の役目を果たしていて、空洞内の酸素を保ってくれているようだ。調査したところ穴は複数あり、その全てが小さなものだった。

 まぁ小さいといってもジャギィやケルビ程度なら、通り抜けられると思うが。ドスジャギィともなればちょっと無理かなぁ。

 

 ともかくだ。この寝床の安全性はほぼ確立されたといっていいだろう。

 少し寒いのがたまにキズだが、日中は砂漠に慣れるために外にいるわけだし、我慢すれば事足りる。それにジンオウガは寒さには耐性があるしな。寒さには耐性があるのに氷属性が弱点という矛盾よ。

 

 

 というわけで御幸の憂いが断たれた俺は、砂原の砂漠エリアまで出てきていた。

 さてさて、本格的に修行に入ろうとしようか。砂漠は途方もなく広いし、これだけ開けてたら大型モンスターの接近にもすぐ気づけるだろう。砂中から飛び出してくるのは勘弁願いたいところだが。

 

 何から始めるかと考え初めた時だった。急速にこちらに接近する大きな気配を感じ取ったのだ。

 おいおい、早速かよ。しかも上空からだと? 

 顔を上げてみるが、太陽が眩しくてその姿を捉えることが出来ない。

 

 砂漠にいてこれほどの速さで飛行するモンスター…… ベリオロス亜種とか? にしては速すぎな気もするが……っ! 

 

 叩きつけられた殺気から逃れるようにその場から飛びのくと、先ほどまで俺が立っていた場所に無数の何かが降り注いできた。

 

「キァァァァアアアアア!!」

 

 飛び道具にこの甲高い鳴声……まさか!? 

 俺の目の前に現れたのは、松ぼっくりのように鱗を展開する、時にはリオレウスをも凌駕する飛行性能の持ち主。千刃竜セルレギオス。

 本来砂原にいないはずのそいつが、悠然と立ちはだかった。

 

 

 




10話を超えたということで、活動報告に意見箱兼質問箱を設けました。
ここが意味不明だぞコノヤロウって方や、こんな設定面白そうだからどう?って方は是非ともこちらにお願いします。


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第11話.千刃乱舞

『くそ……このバケモノが……』

『ふん……』

 

 目の前の男が生き絶えるのを確認した俺は、自らの獲物を懐にしまった。

 周りを確認すると、8人の人間の死体が血だまりの中に沈んでいる。まぁ俺が全てやったわけだが。

 

『HQ、こちら黒狼。標的の殲滅が完了した』

『了解。迎えのものと合流次第、速やかに帰還せよ』

 

 通信機に任務完了の報告を入れ、待ち人を待つ。

 すると次の瞬間、殺気が当てられたのを感じた。俺はとっさに投げナイフを殺気に向かって放つ。

 

『ははっ! また腕を上げたな』

『チッ……親父か』

 

 指の間に俺の投げナイフを挟んだまま現れたのは、親父だった。くそっ、いつ見てもムカつく面をしてやがる。

 

『だがまだまだ甘いな。遠距離攻撃というものを分かっていない』

『別にこれが本命の攻撃ってわけじゃない』

『たく、素直じゃないなあ。いいか? 遠距離攻撃ってのはな……』

 

 そこからみっちりと帰るまでの3時間、俺は親父に遠距離攻撃とその対処法について聞かされるのだった。

 強引に話を持ってきやがって。何回めだと思ってんだこの話。だが、この話が役に立つ日が来ようとはな……

 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

 

「キァァァァアアアアア!!」

 

 セルレギオスは俺の姿を捕捉した途端、身をひねりながら上昇し、翼を広げて滞空。そしてその状態で鱗を展開し、マシンガンのごとく刃鱗を放ってきた。

 サイドステップでそれを避け、セルレギオスの行動に気をつけつつ、超帯電状態に移行するための準備に取り掛かる。

 

 やっぱ戦闘は避けられない感じか。それより、なんで砂原にセルレギオスがいるんだ? 

 まぁこの世界はゲームじゃないんだし、何事もゲーム基準で考えるのは良くないかもしれないな。セルレギオスって普通に砂漠地帯にも生息するし。

 それよりも今は……! 

 

 準備が完了し、超帯電状態に移行する。しかしそこで俺は目を見開くことになった。

 なぜだか知らないが、俺の纏う雷の色がいつもと違うのだ。これまでは原種らしく蒼雷を纏っていたはずなのに、今は蒼雷は蒼雷なんだが、少しだけオレンジ色が混ざったような電気なのだ。

 しかも、心なしか出力が上がっている。

 

 これはなんだ……? よく分からんが、パワーアップしているようだ。これもあの記憶のないときのことに関係あるのだろうか? 

 だが今は、これはこれで好都合だ。

 

 ジンオウガが誇る強靭な脚を目一杯使って飛び上がる。そのままセルレギオスよりも上空まで飛び上がり、回転して尻尾をセルレギオスに向かって振り下ろした。

 しかし流石の飛行能力だな。翼を大きくはためかせて、後ろに飛ぶことで躱されてしまった。

 目標を失い、落下の速度が合わさった尻尾が、地面に叩きつけられる。

 

 ドゴゴゴゴゴゴゴ! 

 

 その衝撃で砂漠の砂が空中に撒き散らされ、俺のことをすっぽりと覆い隠してしまった。

 

 うーわ、確実に威力が上がってんなこれ。

 

 砂のせいで視界が遮られ、思うように動くことが出来ない。が、すぐに殺気が飛んでくるのを察知し、サイドステップでそれを躱す。

 避けといて正解だったな。物凄い勢いで刃鱗が俺の横を通り過ぎて行った。

 

 確かに視界は悪いが、今の攻撃でセルレギオスが地上に降りてきているというのが分かった。

 そして再び全力のジャンプ。上空から地上の様子を伺ったところ、セルレギオスが砂けむりの中でキョロキョロとしているのが見えた。

 

 背中を完全に晒しているセルレギオスに向かって、俺は新技を試してみることにする。

 ルドロスを食べて得た水球攻撃。あれのおかげで、俺の口内には物を飛ばす機能が生まれている。それを応用し、雷の塊を飛ばすことに成功していたのだ。

 

 口内に雷エネルギーをチャージし、雷球を発射する。と同時に雷光虫弾を4発発射。

 無防備に構えていたセルレギオスに雷球が直撃し、怯んだところに雷光虫弾が襲いかかった。

 

「キャアアアァァァァァ!?」

 

 かなりのダメージを与えたはずなんだが、セルレギオスは即座に羽ばたいてその場を離脱し、上空で俺の姿を目に捉えた。その顔は怒りに染まっている。

 そして怒りに任せて刃鱗をめちゃくちゃに飛ばしてきた。

 

 やばっ、空中だから避けようがない……! 

 

 最初と2発めの刃鱗を前足で弾き、3発めを雷球弾で相殺するも、そこで俺の抵抗は終わり、腹と体の側面に2発ずつ刃鱗が突き刺さった。

 

 ぐああ!! やられた…… これが裂傷状態か。

 

 刃鱗は抜いたのだが、刺さった場所から血がダラダラと流れている。しかもそれが止まる様子はない。裂傷状態による継続ダメージだろう。

 

 このままでは出血多量で戦闘が続行できなくなる。

 裂傷状態だから動かなければ治るはずだが…… そんな隙を奴が与えてくれるわけないよなあ。長期戦はまずい、速攻で決めるしかない。

 

 しかしさっきの攻撃でよほど奴の警戒心が高まったのか、弾幕のごとく刃鱗を放ってきて近づくことが出来ない状態だ。

 

 遠距離攻撃を多用してくる相手に対しては…… 使えなくなるまで間合いを詰めろ。だったよな、親父!! 

 

 不規則に左右に揺れる歩法を用い、姿勢を極力低くして駆け出す。当然セルレギオスは刃鱗で対抗してくるが、左右に揺れる俺を捉えられないようで、それが俺にあたることはない。

 とはいえ危ない場面もあった。時には刃鱗を前足の爪で弾きながら、その距離を詰めていく。

 

 全く、なんて脳筋な考えなんだか…… もう少しほかにやりようはなかったのかよ。だが、嫌いじゃない! 

 

 ついにセルレギオスの懐に潜り込むことに成功した。慌てて翼をはためかせようとしているが、もう遅い。

 低姿勢からアッパーを放ち、すくい上げるようにセルレギオスの顎を捉えた。生物である以上、顎を揺さぶられたら脳が揺れる。つまり脳震盪を起こす。

 

 案の定セルレギオスは、フラフラとした足取りで数歩後ずさった。

 その隙を逃さず連続お手攻撃! 上から叩きつけるように3発繰り出し、セルレギオスを地面に撃ち落とす。

 

 これで……トドメだ。

 

 ジャンプをして体を丸め、空中1回転。遠心力を利用した尻尾での一撃が、セルレギオスの頭をかち割った。

 セルレギオスはピクピクと数度痙攣したが、その後に動き出すことはない。完全に死んだようだ。それを確認し、超帯電状態を解く。

 

 いやいやいや、明らかに火力上がりすぎだろ! お手攻撃したところとか鱗がボロボロになってるし。

 俺の知らないところで俺が強化されてる件…… 怖えぇ。

 にしても、親父の言葉をここで思い出すとはなあ。まぁ多少は役に立ったのは間違いないし、まぁいいだろう。決して認めたわけじゃないからな! 

 

 その後、しばらくじっとしていたら裂傷状態が回復した。治し方はゲームと同じだったようだ。まぁ自然治癒力が上がったらなんかはしなかったが。

 倒したセルレギオスは……取り敢えず寝床に持って行こうかな。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 死んだセルレギオスを持って泳ぐのは大変だったが、なんとか寝床まで帰ってくることができた。

 

 はぁ疲れた…… でもこれで当面の食料には、ならないよなぁ。肉とか保存処理してないとすぐ腐るし。氷属性を手に入れられればなんとかなるか。

 

 現状での保存は無理だと思い、ひと思いにセルレギオスを食べる。

 味は……うん、まぁまぁかな。こんなもんだろう。モンスターとかどう見ても食用じゃないし、そもそも調理されてない。

 地球という料理の技術が発達したところにいた俺からしたら、やはり調理されてない肉を美味いとは感じられないんだよなぁ。美味いものは美味いんだが。

 

 食事もしたし今日は戦闘もして疲れた。早めに休もうかと思ったその時だった。

 

「流石。祖龍様の御使殿」

 

 そう、俺に話しかけるものがいた。

 

 

 

 




話の最初を見ていただいたらわかると思いますが、こんな感じでオウガさんの過去は少しずつ判明させていく予定です。


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第12話.古代竜人

お久しぶりです皆さん。2ヶ月ぶりでしょうか……
話したいことはありますが、とりあえず本編をどうぞ!


「流石。祖龍様の御使殿」

「誰だ!?」

 

 とっさに振り返ってみてみると、岩の上にそいつはいた。傘のような被り物から垂らした布で顔を隠した、小さな人型の生物だ。

 

「我ら、古代竜人。祖龍様の御言葉聞こえた。だからここに来た」

 

 古代竜人……確かゲーム内でたまーに出てくる謎の人種だったか。竜人よりも遙か昔から生きているという彼らには、いろんな考察が飛び交っていたっけ。

 しかし、さっき俺の問いに返してきたよな。まさか俺の言葉が分かるのか? 

 

「俺の言葉が分かるのか?」

「然り。我ら古代竜人。意思ある龍の言葉、分かる」

 

 意思ある竜、ね。要するにこの世界には、俺のように人間レベルで思考するモンスターが存在してるってわけだ。古龍は極めて知能が高いという設定があったが……どうやら想像以上にそいつらの知能は高そうだ。

 おっと思考がそれた。それは今はいいんだ。問題は祖龍の御言葉って部分だ。

 

「それで、古代竜人が俺に何の用だ?」

「祖龍様言った。アイツ(・・・)が目覚めようとしている。時間がない、と」

「アイツ……? アイツって誰のことだ」

「それ、禁忌。口外禁止。決まり事。でも時間ない。だから我ら手伝う。汝の成長」

 

 うーむ、不可解だな。何故あったこともない祖龍が、俺に助力してくるかってことだ。まぁ俺は例の神に転生させてもらった身だし、珍しく思われたのかもしれない。だが、それだけの理由で……? 

 まぁ、レベルアップを手伝ってくれるっていうのは、願ったりかなったりなんだが。それに不思議なんだが、こいつには協力してもらったほうがいいと、本能が告げているのを感じる。感覚の話なんだけどな。

 

「話はわかった。そちらの提案を受け入れよう。それで、具体的には何をしてくれるんだ?」

「汝、今困ってること、ある。それ解決する」

 

 困ってること……なんかあったっけ。あ、このあいだのあれか? 

 

「戦闘中に意識がなくなって、気付いた時には大破壊の跡が残ってたって言う件か?」

「然り。それの克服の仕方、教える」

 

 おお、それはありがたい。戦闘中に意識がなくなるとか結構危ないし、気にはなってたんだよな。それにあの規模の破壊を、どうやって引き起こしたのかも知りたいし。

 

「あれ、怒り状態。汝、モンスターの怒りの感情に囚われた」

 

 淡々と古代竜人が述べた事実に、俺は動揺を隠しきれなかった。

 

「怒り状態だと!? じゃあ何か、あの時俺は怒りで我を忘れてたってわけか?」

「そう。モンスターの怒りの感情。汝が思ってるより巨大。意思ある龍も、飲まれる可能性あり」

 

 そうか……

 俺は、感情は理性で抑えきれるとどこかで勝手に思っていた。実際生前は何回もそうしてきたしな。でもこの体は人間のそれじゃない。だったら、感情面でなんらかの変化が出てもおかしくはない。

 考えてみたら案外単純な話だったってことか。

 

「モンスターの怒り状態。絶大なパワー得られる。しかし制御するの困難。今から汝には、怒りの制御の練習。してもらう」

「了解した」

 

 こうして怒り状態を制御するための特訓が始まった。

 

 

 ……Now loading……

 

 

「怒り状態。モンスターが危機に陥ると起こる。即ち、自己防衛機能の一つ」

 

 古代竜人が言うには、怒り状態とはモンスターが己の身に危険が及んだ時、脳のリミッターを解除して暴れまわると言う、最終防衛手段らしい。生物の脳には負担がかからないようリミッターがかかっているが、モンスターも同じなんだな。

 怒り状態になるとモンスターは全ての身体能力や、特殊能力なんかも向上し、かなりのパワーアップが施されるんだそうだ。

 

 だが勿論、デメリットも存在する。リミッターを外すと自我が無くなり、疲れ果てるまで暴れ続けることになるそうだ。また、脳への負担もなかなかのものらしい。かなり危険な代物だ。

 しかし、これを制御できるようになると、パワーアップをしたまま自我を保ち、なおかつ脳へのダメージもほとんど無くすことが出来るんだとか。

 話を聞く限り、怒り状態の克服は今後の俺の生死にも関わってきそうな重要なことだった。早めに知れて良かった。

 

「んで、克服するには具体的にどうすればいいんだ?」

「怒り状態になる前、声聞こえたはず。声に飲まれないよう、精神を鍛える」

 

 声……声か。ぶっちゃけあの時の記憶は結構朧げなんだよなぁ。うーん、そういえばあの場にいた3人のハンター達ではないナニカから、話しかけられていたような……? 

 

「すまない。あの時のことはよく覚えてないんだ」

「承知。なら今から試す」

「……は?」

 

 そう言うや否や、古代竜人は手に持った杖を前に構え、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。

 

「お、おい。なにをする気なんだ?」

「祖龍様から力、授かってる。これで汝、強制的に怒り状態にする」

「いやいやちょっと待ってく……ぐぁ!?」

 

 制止の声をかけようとしたが一歩遅かったようだ。途端に俺の頭の中に、ナニカの声が響き始める。

 

『コロセ』

『コロセ』

『コロセ』

 

 こ、これか……! とんでもない破壊衝動っ。今すぐにでも暴れ出して、全てを壊したいっ……! 

 ダ、だメだ。意識をタもってイられナイ……

 

「グゥオォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 ここで俺の意識は、完全に怒りの感情に飲まれてしまった。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 う……こ、ここは……? 

 

「気がついた。汝力の使いすぎ、倒れた」

 

 倒れた俺の顔を覗き込むようにして、古代竜人がそう言ってきた。

 

 あぁそうか。俺はまた怒りの感情に飲まれてしまったようだ。しかしあれが怒りの感情……恐ろしいものだった。アレに声をかけられた途端、思考が破壊の一言で埋め尽くされてしまった。

 

「しかし驚いた。汝、怒り状態の身体向上、異常すぎる」

「それはどういう……ってなんじゃこりゃ!?」

 

 俺の周りは、それはもう悲惨なことになっていた。穴ぼこだらけの地面が広がっており、激しく暴れまわったのがみて取れる。壁も随分と崩れてしまっているようだ。

 俺の安住の地が……ま、まぁまだ住めなくはないしギリギリセーフか。

 

 俺が驚愕とともにその光景を見ていると、古代竜人が再び話しかけてきた。

 

「汝、怒り状態なると変化すごい。まず雷。電圧上がって、オレンジ色になってた」

「オ、オレンジ色? 纏う雷がか?」

「そう。これ証拠」

 

 そういうと古代竜人はおもむろに手を突き出してきた。よく見てみると手の中に雷光虫がいる。そしてその雷光虫が帯びている電気は、確かにオレンジ色に見える。

 

「た、確かに。他には? 他にはなにか変化はなかったか?」

「ふむ。特筆すべきは身体能力。多分3倍ある。すごい上昇」

 

 どうやら俺は怒り状態になると、身体能力が約3倍になり、電力が強化されたオレンジ色の雷、緋雷を纏うようになるらしい。

 えぇ……なんだかジンオウガの範疇から外れてきたような気がする……これも転生した時もらった加護が関係してるんだろうか。

 

「これすごい……もし制御できたら、一気に生物としての()、上がるはず」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもない。十分休んだ。特訓続ける」

 

 生物が何ちゃらとか言ってた気がしたんだけど……まぁいいか。

 それより怒り状態の制御だ。現状俺では怒り状態をどうすることもできない。なった途端、黒い意識が濁流のごとく俺の思考を塗りつぶしていくのだ。理性だけでどうにかなる代物ではないだろう。

 

「さっき見た感じ、今のままじゃ制御無理。精神を根本から鍛える必要ある」

「精神ね……これでも精神面は結構鍛えてきたと思ったんだがなぁ。まあいいや。それで具体的にはなにをすればいいんだ?」

「方法は色々ある。一つずつ試す。まずは……」

 

 怒り状態を制御するために、精神を鍛える長い特訓の日々が始まった。

 

 

 

 

 




はい、では2ヶ月放置してた理由ですが、「単純にモチベーションが上がらなかった!」です。

夏休みにたくさん投稿するとか言っておきながらこの始末……本当に申し訳ないです。
この頃ようやくモチベーションが復活してきて、投稿を再開する判断をしました。

もし私の作品を待っていたという方がいたら、本当に申し訳ないことをしたと思っています。
今はアイスボーンのお陰でモチベーションマックス状態なので、暫くは問題なく投稿できると思います。

最後に、話を完結させずに失踪することはありませんので、そこだけはご安心ください。
それでは3度目になりますが、本当に申し訳ございませんでした!


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第13話.進化

「……どうだ?」

「うむ、うむ。合格。問題なし」

「よっしゃ!」

 

 精神の修行を始めてから、はやくも3週間ほどが経った。その間は寝て起きたら瞑想や座禅(的なもの)などの修行、ほかにも色々やったが基本的には精神の修行。それしかしていない気がする。

 だが勿論進展はあった。ようやく、怒り状態の制御に成功したのだ。

 

「出力、安定性、共に高水準。もう暴走する可能性ない」

 

 古代竜人からお墨付きをもらい、晴れて俺は怒り状態を自分のものにすることができた。

 制御した怒り状態になると、雷が完全にオレンジ色の緋雷となり、身体能力が向上する。ここまでは最初からわかっていたことなんだが、そのほかにも五感が研ぎ澄まされることにより、さらに高度な戦闘が可能になっていた。

 あと、ジンオウガが怒り状態になると真帯電状態というさらに上の状態になれるってことは知ってると思うが、それも自在に使いこなせるようになった。

 もしかしたら、異常な能力アップはこの真帯電状態が原因の一つかもしれないなぁ。

 

 しかし疑問なのだが、怒り状態になるだけでここまで強くなるものなのだろうか? もはや自らの力の制御というより、進化というべき変化なんだが。

 

「然り。汝の怒り状態。通常のソレとはかなり違う。生物としての格、一段階上がってる」

 

 古代竜人に疑問を述べると、そんな言葉が返ってきた。本当にただの怒り状態ではなかったようだ。

 この生物の『格』なんだが、詳しいことは話すことが許されてないらしい。ただ少しだけ教えてくれたことによると、この世界の生物には例外なく『格』というものが存在している、と。

 別に『格』が高いからなんだとか、低いからなんだとかは無いようだが、『格』が上がれば上がるほどいいことがあるんだそうだ。肝心ないいことの内容については、教えてもらえなかったが。

 

「汝、もう修行の必要ない。暴走の心配も、もうない。でも忘れないで。アイツの復活は近い」

 

 古代竜人はそれだけ言い残すと、まるで霧のようにその場から消えてしまった。別れの挨拶もロクに出来なかったが、何故だろう。やつとはまた会う気がしてならない。

 

 結局アイツという存在についてはなんも収穫なかったなぁ。ま、俺は俺で好きに生きてくつもりだし、アイツというのが何者なのか、今考えても仕方ないか。

 そんなことより肉が食いたい!! この3週間、精神の修行の一環とか言われて、野菜(薬草)とキノコしか食べてないぞ! いくら俺が雑食だからって、流石にタンパク質が欲しくなるわ。

 よし、早速狩りに出かけよう。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 うおっ、眩しっ! 

 

 久々に外に出たので、太陽の眩しさに思わず目を細めてしまう。そして何より、ずっと寒い洞窟にいたから砂漠の暑さが2倍増しに感じるんだが……これは早めに慣れるしかないなぁ。せっかく砂原まで来たのに、ロクに外の探索すらまだ出来てないし。

 とりあえず、今は腹ごしらえだ! 

 

 

 

 ふぅ。久しぶりに食べる肉は格別にうまかったなぁ。

 

 あの後都合よくアプトノスを見つけ、即座に狩りを行なった。3週間ぶりに食べる肉の味は、生肉なのに高級料理店の牛肉の味がする気がしたよ。それほど肉に飢えていたってわけだ。

 

 アプトノスを食べて一服していると、向こうから何かがやってくるのが見えた。一瞬またハンターかと思ったが、それは杞憂に終わった。

 

「ニャニャ!? ビリビリさんニャ! こんなところで偶然だニャ」

「おお! あのアイルーじゃないか!」

 

 大きな荷台をガーグァに引かせて、その上でガーグァを操っているのは、こないだ俺が迷った森で仲良くなったアイルーの1匹だった。

 今更だが、何故アイルーが俺と話せるのかはよく分からん。本人達に聞いてみても、「なんとなくニャ」という曖昧なものが返ってきたし。今ではもう気にしてないが。

 ちなみにビリビリさんってのは俺のことな。

 

「まさか砂原に来てるなんてニャア。無事に森を抜けられたようで良かったニャ……って暴れるニャ!」

 

 アイルーを乗せたガーグァが激しく暴れまわっている。おそらく天敵であるジンオウガが間近にいるので、怯えて混乱しているのだろう。

 

「すまん……完全に俺のせいだな。ガーグァが可哀想だし、早めに離れた方がいいか?」

「すまないニャ。でもそれも出来ないんだニャア……」

「どういうことだ?」

 

 話を聞くと、このアイルーは砂原を抜けて海側にある仲間たちの村に物資を運ぶ最中なんだそうだ。しかし、その途中に大きなハプルボッカがいて、思うように進めないらしい。

 ハプルボッカは荷台を丸呑みにするので有名だし、思いがけない足止めを食らっている最中なんだとか。

 

「よし、なら俺がそのハプルボッカを退治してやるよ」

「本当かニャ!?」

「森で迷ってた俺を助けてくれたお礼が、まだ出来てなかったしな。任せといてくれ」

「ありがとうニャア。恩にきるニャ!」

 

 そうと決まれば早速行くとしよう。アイルーを助けるってのもあるが、怒り状態を制御した俺がどれだけ強くなってるのか。ハプルボッカにはその実験台になってもらうぜ! 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 1時間後、俺の目の前には黒焦げになったハプルボッカが倒れていた。

 

 あれー? ちょっと強くなりすぎてませんかね? 

 真帯電状態を試そうと思って電力を溜めたんだが、まさか移行するときに起こる放電で致命傷を与えてしまうとは……

 そこからはまぁ、ほぼ身動き取れなくなったハプルボッカにとどめを刺して完了という、あっけないものだった。

 

 思った以上に自分が強化されてて驚いたわ……

 こりゃーもう俺に勝てるやつなんていないんじゃないか!? …………はい、調子に乗ってみました。んなわけねーわな。

 渓流で会ったイビルジョー、アイツには未だに勝てる気がしない。多分だけどアイツ特殊個体かなんかじゃないかと思う。纏ってる気迫がそこらのモンスターとはレベルが違うんだよな。

 

 あと強くなったからこそ分かるんだが、そのイビルジョーを圧倒していたハンターの少女。あれはもっとヤバい。恐らく対峙した瞬間には切り刻まれてるよ……

 そう思えるぐらい、隔絶した強さが彼女からは感じられた。

 

 ま、今まで通り慢心せずに常に慎重に行動するに限るな。忘れちゃいけないことだが、まだ俺成体じゃないし! 

 何はともあれハプルボッカは倒したし、アイルーにこのことを教えてやらなくちゃ。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

「ありがとうニャア、ビリビリさん。お陰で仲間達に物を届けられるニャ」

 

 ハプルボッカの討伐を確認したアイルーは、そうお礼を言ってきた。

 

「いやいやお安い御用だ。それに森で助けてもらった恩を、これぐらいで返せたとは思ってないからな。今度会ったとき、またなんか困ったことがあったら言ってくれ」

「それは心強いニャ。こんなに強いビリビリさんが味方でいてくれたら、みんな安心ニャ!」

 

 そう言って、なんどもお礼を言いながらアイルーは去っていった。ガーグァは終始怯えて暴れていたが。仕方ないこととはいえ、少し凹んでしまったのは内緒だ。

 

 さーて、今日はいい感じに体も動かせたし、そろそろ帰るかな。怒り状態を制御した今の実力もある程度だが把握できたし。

 砂原での生活も随分長くなってきたな。ほとんど洞窟の中にいたとはいえだ。あんまり一箇所に止まってもアレだし、そろそろ移動についても考えなきゃなぁ。

 

 

 

 



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第14話.灼熱の刃

今回は少し長めになっております。


「ギャォォォオオオオオオオン!!!」

 

 迫り来る真っ赤な刀身をした刃を、紙一重のところで躱す。ふと自分の真横を見ると、大地が黒く焦げているのが目に入った。あの灼熱の刃によって、大地が焼かれたのだ。

 

 あっぶねぇ! あと少しで自分がこんがり焼かれるところだった……これが斬竜ディノバルドか! 

 

 何故ディノバルドとガチバトルをしているのか。それを語るには、数時間前に時は遡る。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 砂原での生活も、早くも2ヶ月が経とうとしていた。まぁそのうちの1ヶ月ほどは怒り状態の問題解決に使ったんだけどな。

 最初は早めに移動しようとか考えてたんだが、砂漠地帯でしかできないこともあるし、急ぐ旅でもないのでもう少し滞在しようと思ったのだ。

 

 ハプルボッカを倒した辺りからの1ヶ月。結構色々なことがあった。大型モンスターと戦うこともあったし、この地にいるアイルー達と仲良くなることもできた。今では彼らに肉を取ってくる代わりに、各地のアイルー達が運んできた珍しい食べ物を譲ってもらうという、共生関係が出来上がってるほどだ。

 

 前にこの地の強者であるディアブロスと戦い引き分けたんだが、それが効いたのかあれ以来ほとんどモンスターに、喧嘩を売られることはなくなった。

 アイルー達はそんな俺に、ボディーガードの役割も担ってほしいと言ってきたっけ。その件に関しては、この地にいる間だけという条件付きで承諾した。

 

 さてさて、何だかんだで2ヶ月も滞在したし、今度こそ新たな地に向けて旅を再開させたいと思う。

 この世界に来てだいたい半年経ったが、依然として俺の体は成体になっていない。いや、違うな。見た目は完全に成体レベルの大きさになった。でも、俺の感覚がまだこの体は成長するって言ってるんだよな。ま、気長に待ってみることにする。

 

 アイルー達に惜しまれながら、砂原を後にしようとしたその時、それは聞こえた。

 

「ギャォォォオオオオオオオン!!」

 

 大きな咆哮と、それに混じって聞こえる金属が擦り合わさったような甲高い音。こんな特徴的な咆哮をする生物は、一体しかいない。

 斬竜ディノバルド。巨大な尾を砥石の役割を持つ口で研ぎ、赤熱化させる巨大な獣竜種のモンスター。そいつが俺の行く手を阻んだのだった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 そして話は冒頭に戻るってわけ。

 

 このディノバルドが何故いきなり襲ってきたのかは分からないが、多分こいつの縄張りに入ってしまったとかそういうやつだろう。

 逃がしてくれそうにもないし、何よりこいつ隙がない。

 獰猛な猛獣のようにがむしゃらに襲いかかってくるわけでも、臆病な獣のように回避に専念するわけでもない。例えるなら……そう、狩人。相手の出方を伺い、一瞬の隙をついて仕留める狩人のような奴だ。

 

 いきなりの戦闘だったので、こちらはまだ超帯電状態にすらなれていない。それにひきかえ、向こうはすでに尾の赤熱化を完了させている。出だしは最悪だな……

 それにこのディノバルド、ゲームで見てたのより明らかに尻尾が長い。ディノバルドにとって尻尾が長いってのはアドバンテージでしかない。長ければ長いほど、その可動域が大きいということなのだから。

 

 と考えていう間に、ディノバルドが行動を起こした。大きく飛び上がって空中で体を回転させ、その大きな尻尾を叩きつけてくる。そこに込められた切断の力は、俺の装甲など容易く切り裂いてしまうだろう。

 単純にして強力。それがディノバルドが選んだ次の一手だった。

 

 しかし、単純だからこそ避けやすいってのもある。冷静にサイドステップを踏んで横に回避。次の瞬間、大きな尻尾が俺の真横に叩きつけられ、砂漠の砂を大きく巻き上げる。

 完全に避けたと思ったのだが、それが甘かった。なんとディノバルドの尻尾が小規模ながら爆発したのだ。ディノバルドが粘性を持った遅延性の爆発に長けたブレスを放ってくるということを、すっかり忘れていた! 

 横からの突然の衝撃に対応しきれず、体勢を崩してしまう。その隙に横長の刃が一閃。

 

「クァ……ッ!」

 

 鋭い刃が俺の鱗を切り裂き、赤熱化したことでもたらされる熱が、さらにその傷を焼き尽くした。

 堪え難い苦痛に、俺の口から声が漏れる。その後の痛みをなんとか我慢して大きくバックジャンプを2回。ディノバルドから距離を取ることに成功した。

 

 こいつ……強い! もしかしたら今まで戦ってきた奴らの中で一番強いかも。一撃が避けられた後の追撃の手をあらかじめ仕込み、それが成功した後の追い討ちの一撃。厄介な戦術と戦闘技術だ。

 だが、やられっぱなしってのは癪に触る……反撃開始と行こうかァ!! 

 

「グゥオォォォォォォ!!」

 

 咆哮を一つ。体の雷電殻をフル稼働させ、超帯電状態に移行する。背中の甲殻が上向きに展開し、全身の毛が逆立つ。

 突然の変化に、ディノバルドがわずかに動揺したのが分かった。その一瞬の隙を逃さずに、俺は行動を開始する。

 砂漠のモンスターの力を幾ばくか吸収したおかげで、砂地での戦闘にもなんら支障をきたすことがない。常にスペック全開で立ち回ることができる。

 

 全力疾走で砂地を駆け、互いの距離を詰めていく。走行スピードも前に比べたら格段に上がっており、すぐにディノバルドの眼前近くまで接近できた。

 ディノバルドはその構造上、後ろを振り向かなければ尻尾での攻撃をすることができない。しかし、この距離ではそんなことをしている暇はない。ならば必然的に体と体をぶつけ合う、力比べになるわけだが……その点はでは4つの足で支点を作れ、タックルするのに適した体を持つ俺に、軍配は上がる。

 

「グォォォオオオ!!」

 

 低姿勢で思いっきりタックルをかまし、ディノバルドを大きく吹っ飛ばす。尻尾を使ってなんとか転倒は避けたようだが、次の攻撃は躱せまい? 

 両前脚に雷エネルギーをチャージし、ジャンプして飛び上がる。飽和した雷が前脚から溢れ、蒼い雷が尾を引く。そのまま落下の勢いを乗せたスタンプ攻撃を、ディノバルドを叩き込んだ。

 着撃とともに溜めに溜めた雷を解放。まるで落雷が落ちたかのごとく爆音が響き渡る。

 

「ギャアアァァァ!?」

 

 悲鳴じみた叫びがディノバルドの口から発せられるが、彼も歴戦のモンスター。ただ痛みに悶えているだけでは終わらなかった。

 首をグリンとこちらの方に向け、口を大きく開いた。拙い! と思った時には奴の口内が赤く染まり、火炎弾が放出される。

 3連続で放たれた火炎弾を避けることが出来ず、俺は大きく吹き飛ばされてしまう。鱗の一部が黒く焦げ上がり、堪らず距離を取った。

 

 グゥゥゥ……やはり一筋縄ではいかんか……ここまでダメージを負わされるとは想定外だ。こいつを使わずに終われるかと思ったが、どうやら全力を出さなければいけないらしいな! 

 

 全力とは勿論怒り状態のことだ。怒り状態を制御した今では、別に命の危機を感じてなくても、いつでも怒り状態になることが出来るのだ。うーむ、怒り状態というのもなんかカッコ悪いので、これからは真帯電状態と呼ぶことにしよう。

 そもそも真帯電状態になるには、自家発電だけでは電力が足りない。雷光虫を呼び寄せないといけないんだが……そんな隙を奴が与えてくれるとは思えない。よし、ここは絡め手で行くか。

 

 スタンプを食らった箇所から白い煙が上がっているが、ディノバルドの戦意は衰えていないようだ。

 そんなディノバルドを見ながら、俺は口内に雷エネルギーを溜めて一気に放つ。放出された4つの雷球はディノバルドに着弾するも、派手さは無い。着弾した瞬間に微弱な静電気を発して消えてしまうほどだ。

 しかし、この技は威力重視では無いからな。その証拠に……

 

「ガ、ガァァァ、アアア!?」

 

 ディノバルドが小刻みに震えだした。よしよし、上手くいったようだな。

 あの雷球には麻痺の成分を含ませてあったんだ。今ディノバルドは麻痺状態ってわけだ。

 さて、致命的な隙が生まれた。あとは……!! 

 

 雷光虫が俺に反応して集まってくる。1匹1匹が青く強く輝く虫たちは、螺旋を描くように俺の元へと収束し、その電力を俺に貸してくれる。

 電力供給、完了!! 

 

 ドオオォォォォォォォン!! 

 

 先ほどのスタンプ攻撃を遥かに凌駕する爆音が響き渡った。あまりの衝撃に風が激しく吹き荒れ、砂が舞い上がっている。

 背中の展開していた甲殻がより攻撃的に隆起し、普段は展開しない前脚や後ろ足にある甲殻までもが、過剰な電力により展開し電気を帯びて淡く輝く。

 纏う雷は鮮やかな緋色となり、抑えきれないそれらが空中で弾けてバチバチと激しい音を鳴らした。

 

 真帯電状態へ移行した証だ。

 

 移行した瞬間から、体が軽く感じられる。まるで重力が自分の周りだけ減ったような。

 感覚が何倍にも研ぎ澄まされ、視界はより明瞭に、聴覚は僅かな音すら逃さず、空気の振動すら肌で感じられる。

 

 麻痺から解けたディノバルドが、驚愕したのかその場でたじろいでいる。ここまで激変するモンスターもそうはいないから、無理もないだろうが。

 そんなディノバルドを他所に俺は駆け出した。景色が次々に後ろへと流れていく。時間がゆっくり流れてるのではないか。そんな錯覚にすら囚われるほどの疾さだった。

 

 ディノバルドは反応できていない。反応した頃にはすでにお手攻撃を食らって体が地面から離れていた。

 カウンターとして放たれる火炎弾。先ほどと同じなら食らっていたかもしれない。しかし、感覚が何倍にも引き上げられた今なら、まるで幼稚園児が投げたボールの如き遅さに見える。

 しゃがみ込んでそれらを躱し、トドメの一撃。緋雷を最大限まで溜め込んだ尻尾を薙ぎ払う。オレンジ色のラインを空中に残しながら、渾身の一撃がディノバルドの体を捕らえ、吹き飛ばしていった。

 数回地面をバウンドしたのち、ディノバルドは地面に倒れこむ。そして、二度と動くことはなかった。

 

 それを確認したあと、真帯電状態を解く。その途端、ドッと疲れが流れ込んできた。

 やっぱ疲れるな〜。真帯電状態は。この感覚、初めて超帯電状態に移行出来るようになった頃を思い出すな……

 真帯電状態の後はロクに戦闘出来なくなるから、あんまり使いたくなかったんだよなぁ。でもこのディノバルドはかなり強かったし、仕方ないか。

 うーん、今日はだいぶ消耗してしまったし、出発は明日にするかぁ。

 

 そう思いながら、ディノバルドの亡骸を引きずりつつ、今まで使っていた洞窟に引き返していったのだった。

 

 

 




感想お待ちしております!


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第15話.振り返りとおさらい

今回は説明回チックな話となっております。オウガさんが今まで何を倒してどんな能力を手に入れたのかが纏めてある回なので、出来れば飛ばさずに読んでくれると嬉しいです。


 ふあ〜ぁ。昨日はまさに激戦だったなぁ。すっかり寝過ごしちまったようだ。

 え? 洞窟の中にいるのに、なんでそんなことが分かるのかって? そりゃあ、大分長いことここにこもってたからな。微弱な気温の変化で大体の時間は分かるようになってるってわけだ。

 

 さて、今日こそ新天地を目指していこうと思ったんだが……そういやどこにいくか決めてなかったな。

 うーむ、どこがいいだろ? やっぱ火山かなぁ。個人的に火属性が欲しいところだし、火山は強いモンスターが多い傾向がある。武者修行の旅に出てる身からしたら、うってつけの場所じゃないか? よし、行き先は火山に決定! 

 

 つっても火山がどこにあるかとか、ほとんど分からない……ま、山岳地帯の方に歩いていけばそのうち到着できるだろ。

 ではでは、出発だ! 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 こうして火山にいくことが決定したわけだが、ふと気になることがある、ということを思い出したので、砂原からほど近い岩場が多く点在する荒野に寄り道することにした。

 

 手頃な場所を見つけて仮の寝床とし、ひらけた場所にやってくる。

 さて、気になったことについてだ。それは俺の能力のこと。自分の能力を理解するってのは、戦闘においてとても重要なことだ。

 自分の力量もわからずに未知の敵に突撃するのは、愚者のやること。一流の戦闘経験者なら、自分の能力を理解した上で 彼此の力の差を察知する。まずはそこから始めるだろう。

 

 ここで俺の能力についてなんだが、勿論ジンオウガとしての力はよく理解している。つい先日も戦いを制してきたし、どのような動きが出来るかもよく分かってるはずだ。

 しかし俺には他のものにはない能力がある。あの神からもらった加護、能力吸収のことだ。

 

 この半年の間、俺は結構な数のモンスターを倒し、これまた結構な数の植物、鉱石、その他諸々を食べてきた。

 加護の力がどの程度の範囲で有効なのかは分からないが、それでもかなりの数の能力を得られてるんじゃないだろうか? 

 このまま、自分の出来ることがなんなのか分からないまま進むのは非常に危険だ。なのでこの際にハッキリさせようと思ったわけ。

 ひらけた場所に来たのは、能力の実験をおこなうからね。

 

 さて、初めはジンオウガの十八番。雷属性からだな。

 雷属性については特に確認するべきこともないように思う。普段これでもかってほど使ってるし、知らないことなどないと言い切れる。

 俺って結構たくさんの属性が扱えるわけだが、結局雷を使った時が一番使いやすくて威力も高いんだよなぁ。多分ジンオウガの体と雷属性がベストマッチだからなんだろう。

 

 次はざっと倒したモンスターを振り返ってみるか。

 ナルガクルガ、ドスジャギィ、アオアシラ、セルレギオス、ハプルボッカ。こんなところか? 

 んでこれ以降で砂原にいた間に倒したモンスターが、ラングロトラ、ドスガレオス、ベリオロス亜種、そして昨日のディノバルド。

 うーん、結構倒してるな……

 

 この中で属性系の能力は……ハプルボッカの水、ラングロトラの麻痺、ベリオロス亜種の風、ディノバルドの火か。

 ん? んん!? あ、いつの間にか火属性ゲットしてるじゃん……あれだけ火属性欲しいとか言っときながら、ゲットしたことに気づかないとは……不覚! 

 それにしても、モンスターは結構倒してるのに属性攻撃をしてくる奴にはあんまり会わなかったんだなぁ。

 

 で、各属性の話なんだが、ぶっちゃけ戦闘で使うのは麻痺ぐらいじゃないかと思ってる。下手に出来ることを増やして器用貧乏になりたくないし、何よりこのジンオウガの体が他の属性を使うことに長けてないのだ。麻痺はジンオウガ(金雷公)が使うから使いやすけど。

 なので属性を入手する目的は、その属性に耐性を持つためって点が大きくなりそうだな。

 

 今の俺が最も欲しいのはどちらかというとこっち。モンスターの身体的能力だ。

 例えばナルガクルガだったら刃翼、セルレギオスだったら刃鱗てな感じだな。これらは即戦力だ。ナルガクルガを食べて刃翼、いや俺には刃翼がないから爪が鋭くなり、セルレギオスを食べて刃鱗を飛ばせるようになった。これらの能力は非常に便利だと言えるだろう。

 

 特にディノバルドは大きかった。なんと俺の尻尾が刃尾になったのだ。ジンオウガの尻尾といえばゴツゴツしていてハンマーと言った方がいい形をしている。しかしディノバルドの能力を得て、尻尾の両側面に刃が出来たのだ。

 今の俺の尻尾はさながら地球の西洋で使われてた両面刃の剣だな。これはとても有用で、刃で切り裂くもよし、尻尾の腹で殴るもよしの優れものとなった。

 

 ディノバルドには散々苦戦させられたが、お陰でいい力が手に入ったな。ありがとう、ディノバルド! 

 

 後の能力はあんまりパッとしないかも。ハプルボッカとベリオロス亜種は砂地への適応だったから砂漠限定だし、アオアシラは少し爪の硬度が上がったかな? ドスジャギィに至っては統率能力を得たとか言われても、統率するべき部下がいねーよ! 

 

 ま、モンスターから得た能力はこんな感じかなー。結論としては、少し多彩なジンオウガになったってところ。

 

 よし、次は植物、鉱石系だな。

 鉱石系は結局何食べても効果は変わんなかったな。鱗や甲殻が頑丈になるだけだった。まぁそれだけでもかなり大きいんだが。

 確かにマカライト鉱石とドラグライト鉱石の違いとか、正確にはよくわからんしな。鉱石系はこんなところだろう。

 

 植物系は結構進展あったぞ。例えばマヒダケで麻痺耐性、ネムリ草で睡眠耐性、毒テングタケで毒耐性みたいな感じで、色々な状態異常に耐性を持つことができた。

 と言っても完全耐性ってわけじゃあない。ラノベ風に言うなら状態異常耐性(中)と言ったところだろうか。多少の異常なら効かないが、あんまりにも強力だと耐性を貫いて効いてしまうって感じ。G級個体の状態異常攻撃なら普通に食らうだろうな。

 

 後は薬草とハチミツで自然治癒力が上がったり、龍殺しの実から微弱だが龍耐性を得られた。

 これで耐性を持ってない属性は氷属性のみとなったな。一番弱点な属性だから早くなんとかしたいんだが……氷属性持ちのモンスターなんて、寒冷地帯に行かないとそういるものじゃないし、今は諦めるしかないか。

 

 ざっと見て今の俺の力はこんなところか。属性攻撃を雷限定にすると、そんなに出来ることは増えてないんだな。まぁ耐性方面は通常種とは圧倒的に違うんだが。

 戦闘スタイルは今まで通りで問題ないってことが分かっただけでも大きいか。

 

 さて、能力の確認も終わったし、尻尾での攻撃と連携を見直したら火山に向けて再出発するとしよう。

 

 

 

 



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第16話.sideティナ

今回も少し長いです。
ハンターサイドの話がいつも長くなるのは、なぜなのだろうか……?


 私の名前はティナ・ルフール。人類最強のハンターとか言われている15歳の少女です。うぅ、この自己紹介的なの、本当にやるんですか? 仕方ないですね……

 巷では人類最強だとか、龍討の英雄だとか、そんな感じに呼ばれてます。

 

 え? 古龍の単独討伐がどれぐらいすごいのですかって? そうですね。古龍といえば生きた天災とまで言われる存在であり、そこにいるだけで災害をもたらす超危険生物です。

 それを討伐するということは、人の身で大自然に喧嘩を売るようなもの。私が言うのもなんですが、到底敵うわけがありません。

 古龍を討伐するときは、通常熟練のG級ハンターが、特別指令により構成された20人のパーティで当たるのが基本です。それでも生きる天災こと古龍に勝てるかどうかはわからないほどです。現地に撃龍槍を運び込むなんてこともありますね。

 

 そもそも古龍が人の住む領域にやってくることなんて、滅多にあるものではありません。私の時は本当に運悪く二箇所で同時に古龍が出現し、片方の時間稼ぎのために私が送り込まれました。

 実際はその古龍を単独で討伐までして、今の称号を得てしまったわけですが……

 

 え? 普段どんなことをして過ごしているか、ですか?

 そうですね、普段はですね…………

 

 

【月刊「狩りに生きる」『特集! 人類最強のハンター!!』より抜粋】

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

 特異なジンオウガの調査にティナと、カナト、エリンで行くと決まってから3週間が経った。

 すぐに行動に移したいと言ったカナトだったが、なんの情報もないまま調査に赴いても、結果が伴わないのは目に見えている。なので、先の戦闘やこれまでの調査の報告書が出来るまで待機を命じられていた。

 

 その間を無為に過ごすのは勿体ないと考えたティナは、カナトとエリンを特訓に誘ったのだが……

 

「ティ、ティナさん……僕もう限界です……っ」

「カ、ナト……しっかりしなさ……うぅ」

 

 ティナの言うところの、ウォーミングアップ(・・・・・・・・・)の段階で2人とも限界が来てしまったようだ。

 滝のような汗を流しながら、白目をむいて倒れ込んでしまった。

 

「様子を見に来てみたら、すでに手遅れだったか……」

 

 突然倒れてしまった2人にティナがあたふたしていると、本部ギルドマスターのキールがやってきた。

 ティナからするとキールは幼少期に1人だった自分を拾ってくれた恩人であり、ハンターとしてのイロハを教えてくれた恩師でもある。

 そんなキールの登場に、ティナは少しばかり安堵した。

 

「キールさん! 大変です、2人が倒れてしまったんですよ!!」

「まぁ落ち着きたまえ。なんとなく予想はしてはいたのだがな……ティナくん。君、どんなことをしていたのかね?」

「え? えーとですね。朝6時から体作りのためにウォーミングアップを始めました。そしたら2人とも倒れてしまったんですよ……」

 

 そこまで聞いた途端、キールの顔に苦笑いが浮かんだ。

 

「そのウォーミングアップとやらの内容を、教えてくれないか?」

「はい。まずは腕立て伏せ1万回、腹筋2万回、背筋1万回、スクワット5千回。これを5セットやりました。その後は100キロマラソンを1時間以内に3セットし、あとは……」

「も、もういい。その辺で結構だ……」

 

 キールは深いため息を吐きながら思う。この娘は悪い子ではないんだが、何故こう、限度というものを知らないんだろう、と。

 

「ティナくん。それは君にとってのウォーミングアップだろう。一般人からしたら地獄のトレーニング以外の何物でもないぞ」

「え!? あちゃ〜またやってしまいましたか……腕立て等のセットを2セットにするべきでした」

「違う! そうじゃない!!」

 

 珍しく大きな声を上げるキールを見て、飛び上がって怯えるギルド職員がいたとかいなかったとか。

 

「はぁ、まあいい。カナトくん達は今日はもう限界だろうし、トレーニングはここまでにしておきなさい。この2人には後日然るべき教官をつけておこう」

「すいません……どうやら私は人にものを教えることが苦手なようです。教官さんにはよろしく言っておいて下さい……」

 

 トボトボと帰って行くティナの後ろ姿を見ながら、「そういう問題じゃないんだよなぁ」と呟くキール。

 その後、空いているギルド職員に2人を医務室に運んでいくよう伝え、自分も執務室へと戻っていった。

 

「それにしても、何故あんなにハードなトレーニングをしているのに、見た目は華奢なんだろうか……? まあ、筋骨隆々な15歳の少女なんて悪夢でしかないが……」

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「はぁ、またやってしまいました……」

 

 自分の部屋の中で、ティナは1人ため息をついた。

 ハンターはギルドに登録した時、各々部屋が貸し与えられる。それは上位になればなるほど待遇が良くなっていくのだ。下位は4〜6人の相部屋、上位は2人部屋、そしてG級ともなれば個人の広い部屋が与えられる。

 ギルド最高戦力のティナとあれば、その待遇はまさに破格の一言。超高級宿屋の一室よりなお広い部屋が与えられ、備え付けられた家具も、一流の職人が手がけた高級品。そんな目が飛び出るほどの値段がつくベッドの上で、ティナは突っ伏している。

 

「私の身体能力が異常なことなんて、分かってたことじゃないですか。何故彼らにあったメニューを作らなかったのか……はぁ〜〜」

 

 1人反省会に耽るティナの表情は暗い。彼女は以前にもその実力を買われて、ぜひ士官へという上層部の提案を受けたことがあったのだが、僅か1日目で生徒全員がぶっ倒れるというある意味伝説を作ったことがあったのだ。

 

「うぅ〜、うぅ〜」

 

 こうなるとティナはめんどくさい。根は真面目でいつも優しい彼女だが、同じ轍を踏んだりとどこか抜けている部分がある。そしてそれ関係で失敗するとすごく凹むのだ。年相応というかなんとういうか、ティナも15歳の少女なのだと実感する一面である。

 戦闘ではその天賦の才も相まって、ミスすることなどまず無いのだが、それ以外の面では……まぁ、そういうことだ。

 

「ご主人様、いつまで凹んでるニャ?」

 

 彼女のルームサービス係であるアイルー、テオがティナにそう問う。

 

「うぅ〜、テオ〜!」

「うニャア! いきなり抱きつくのはやめるニャ!!」

 

 そしてこういう時、ティナはいつもテオに抱きつくのだった。

 戦闘時は冷静沈着、それ以外は真面目で親身なティナ。彼女の自室での性格を知っているものはそうはいない。

 

「ゼェ、ゼェ、なんて馬鹿力ニャ……ってそうじゃなくてご主人様! 例の報告書が上がったから、明日執務室まで来るよう連絡が来てるニャ!」

 

 なんとかティナの抱きつきという名の羽交い締めから脱出したテオが、そう告げるが……

 

「いいんです。どうせ私なんてポンコツ。戦闘するしか脳のない脳筋なんですよーだ…………」

 

 非常にめんどくさい……

 

「ご主人様、しっかりするニャア──!!」

 

 テオの哀しい叫びがこだました。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 結局ティナのいじいじは翌日まで続いたのだった。

 なんとか復活したティナが執務室に向かうと、そこにはもうカナトとエリンが揃っている。

 

「すいません。私的な用事(・・・・・)で少し遅れてしまいました」

 

 この女、ふつうに誤魔化した。カナト達はティナの私的な用事とやらに興味津々なようだが、幼少期より付き合いのあるキールにはバレバレのようだ。

 

「ゴホン。今日君たちに集まってもらった理由は、もう聞いていると思うが、例のジンオウガについての調べが終わった。現段階で分かる限りのことが書かれてある報告書も、すでにここにある」

 

 キールが手にしたのは、なかなかの厚さのある冊子だ。まだ確認すら取れてないモンスターのことをここまで調べられたのは、流石ギルドの最高峰、本部の調査班が赴いただけのことはある。

 

「中身については後日ゆっくりと見てもらおう。さて、これを作るのにだいぶ時間がかかってしまった。君達には早速だが本格的な調査に赴いてもらう」

 

 その言葉を聞いて、カナトとエリンの表情がわずかに強張った。恐らく緊張から来ているものだろう。

 

「この案件は特別重大任務だ。可能な限り他言無用を要請する。では君たち3人の調査結果を心待ちにしているぞ。以上!」

 

 キールの話はとても短く締めくくられた。カナトとエリンの為にも、早く調査に行ってこいという、粋な計らいだ。

 3人は1人ずつ礼をしてから、執務室を後にした。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 執務室を出て少ししたのち、ティナが2人の方を振り返る。

 

「あの、その……昨日はすいませんでした!」

 

 そしていきなり謝った。

 カナトとエリンからしたら、自分より遥かに格上の人物が頭を下げているので、ものすごく動揺する。

 

「ティ、ティナさん!? いきなりどうしたんですか!?」

「私の配慮が足りないばかりに、お二人にはキツイトレーニングをさせてしまったので……」

 

 その言葉を聞いて、2人は思わず顔を見合わせる。そして2人同時に笑い出した。

 

「なんだそんなこと! 全然気にして無いですよ。それより、ティナさんの強さの片鱗が見えた気がして、嬉しかったぐらいです!」

「そうそう。私たちこんな凄い人と一緒に行けるんだって、2人で舞い上がってたところですから! こんな私たちを連れて行ってくれるなんて、感謝感謝ですよ」

 

 ティナの心配事は杞憂に終わったようだ。肩の力が抜けたのか、ほっと息を吐いた。

 

「そうですか……私、お二人には理不尽を押し付けてしまったとばかり……ですが今の言葉で救われました。こちらこそ、ありがとうございます!」

 

 そう言ってティナはにっこりと笑った。

 ここで補足説明だが、ティナは美少女である。その戦闘能力を知らなければ、庇護欲がそそられること間違いなしの容姿をしている。そんなティナの笑顔を男が向けられたら……

 

「………………」

 

 目を奪われること間違いなしであろう。

 実際カナトはボーっとティナの顔を見つめていた。それがエリンに見つかって腹をつねられたのはいうまでもない。

 

「あ、あと、お二人は私よりも年上なのですから、敬語は使わなくても大丈夫ですよ?」

「いやしかし僕達程度がティナさんにタメ口なんて……」

「いいんですってば。一時的とはいえ仲間になるんですし、仲間によそよそしくして欲しくはないですから」

 

 カナトとエリンはお互いに見合い、うなずきあう。

 

「そういうことなら……改めてよろしく、ティナさん」

「私からもよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 これからの調査のため、仲間意識をさらに強くしたところで、カナトが切り出した。

 

「それで、ギルドマスターから許可も貰ったことだし、今日から調査をしたいと思うんだけど。ティナさんは準備とか大丈夫?」

「私はいつでもいけますよ」

「よし、じゃあ早速出発……と行きたいんだけど、どこに行こうか?」

 

 カナトが2人にそう問いかけると、僅かにドヤ顔をしたエリンが話し出した。

 

「ふっふーん。実は有力な情報を観測隊から聞いてきているのでーす。なんと、ここからやや北側にある森の中で、オレンジ色の強い光が発光してるのを見たらしいわ!」

「オレンジ色の光といえば、あのジンオウガの雷の色。でかしたエリン!」

 

 カナトが大袈裟に褒めたのを見て、ティナがクスリと笑う。

 

「ではその情報に従ってみるとしましょう。目指すは北方です」

「北側かー。確か火山があるんだっけ?」

「そうね。とりあえず道なりに進んで火山を目指してみるのもアリかも?」

「ふふっ、それも考慮しておきますか」

 

 こうしてティナとカナト、エリンの3人は謎のジンオウガの足跡を追うため旅に出た。

 最強のハンターとリベンジを望むハンター達。彼らと転生した雷狼竜が出会う日は近い……

 

 

 

 

 




ハンター達のプロフィール


⚪︎ティナ・ルフール(15歳)
使用武器:太刀
身長:155cm
髪:銀髪のセミロング
目:真紅

⚪︎カナト・アルマール(17歳)
使用武器:スラッシュアックス
身長:173cm
髪:青
目:スカイブルー

⚪︎エリン・シューザック(17歳)
使用武器:弓
身長:166cm
髪:栗色のポニーテール
目:イエローグリーン


あ、ちなみにティナのウォーミングアップですが、マラソンは論外として腕立てなどのセットは1セットならカナト達も余裕でできます。彼らはモンスター(な)ハンターなんですからね。


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第17話.真なる古龍

今回の話は独自設定多めです。ご了承ください。特に今回は公式設定を一部改変している部分があるので、ご注意を。


 今俺は、この世界に転生してきてから最大最悪のピンチに陥っている。この窮地に比べれば、このあいだのディノバルドとの死闘なぞ可愛く見えるほどだ。

 

「フォォォオオオオオン!!」

 

 たなびく白い鬣に、青白い皮が全身を覆うその出で立ち。頭に生える蒼角は、多量の電気を帯びて激しく火花を散らしている。小柄な体躯からは想像できないような、圧倒的な威圧感とエネルギー量。

 真なる古龍の一柱。幻獣キリンが俺の前に悠然と佇んでいる。

 

 なんでこんなことになってるんだ……俺は普通に火山への道を進んでただけなのに。

 いや、今は嘆いてる場合じゃない。目を離すな。一瞬でも気を緩めたら死ぬ。それぐらい力の差があるってことが、ひしひしと伝わってくる。あいつから聞いた通りだ……

 俺はキリンから目を離さないまま、古代竜人が言っていたことを思い出していた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

『なぁ、この世界の古龍ってどれほどの強さなんだ?』

 

『古龍は強大。あまりの強さ故、生物の定義で捉えることすら、難儀』

 

『じゃあもし今ここに古龍が来たら?』

 

『瞬きの間に殺される。でも、古龍といえど、その内分け、複雑』

 

『というと?』

 

『祖龍様が直接創った古龍、5体のみ。火の炎王龍、水の溟龍、氷の冰龍、風の鋼龍、雷の幻獣。彼らのこと、真の古龍という』

 

『真の、古龍……』

 

『祖龍様認めし古龍、最初はこの5体だけ。後から増えた真の古龍、一応何体かいるけど。嵐龍とか、霞龍とか。それ以外の古龍、人間が勝手に分類した』

 

『たしかに古龍って種族は統一性ないよなぁ。でも待てよ? 確かラージャンって、キリンの角を餌にしてるんじゃなかったか?』

 

『なんの話?金獅子が幻獣に挑むとか、自殺行為。雷の化身たる幻獣に、勝てるわけない。そもそも幻獣、世界に一体だけ。何体もいる金獅子が餌にしてたら、何本生えて来ても足りない』

 

『そうなのか……やっぱゲームと現実は違うってわけか』

 

『何のこと?まあいい。でも気をつけて。最初の5体。原初の真龍達の力、他の古龍の比じゃないから』

 

『大丈夫だって。この世界って古龍の数は少ないんだろ? だったらそうそう会わないだろうさ』

 

『だといいけど』

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 完っ全にフラグだったな……まさか原初の真の古龍の一柱であるキリンと出くわすとは。

 あいつの話によると、原初の真龍達は己が内包する属性をこの世界にもたらしたとされている。この世界を創った祖龍ら禁忌に次ぐ存在なんだとか。

 ジンオウガが宿すこの雷の力も、元はといえば目の前のキリンが生み出したものってことになる。

 

 いやいや冗談じゃねーよ! 要するに神の一員みたいなもんじゃねーか。そもそも生物としての次元が違う。格が違う。そんな奴が相手とかどうすりゃいいんだよ……

 

 キリンは俺のことを逃してくれそうにない。一見ただ立っているだけに見えるが、恐らく一歩でも動けば攻撃が飛んでくるだろう。

 こいつらの行動原理って、ほとんど気まぐれって言ってたな。自分を脅かす存在なんていないから、敵対心を抱くことも、仲間意識を持つことも無いんだそうだ。

 

 要するに、俺の前に立ち塞がったのもただの気まぐれ。そんな、そんな理不尽が許されてたまるか……気まぐれで殺される? それこそ冗談じゃない。いいさ、そっちがその気なら、最後の最後まで足掻いてもがいて見せてやらぁ!! 

 

 出し惜しみをしている場合ではない。即座に超帯電状態になり、行動を開始する。本当は真帯電になりたいんだが、真帯電になるにはチャージ時間が必要だからな。そんな時間をかけている暇はないだろう。

 

 両前脚に雷エネルギーをしこたま溜め込んでジャンプ。ディノバルド戦でも使った、落雷スタンプを繰り出す。

 キリンはこちらには目もくれず、当然何もしてこない。そのまま攻撃がキリンの顔面に入り、放出された雷が辺りを焼き尽くす勢いで解き放たれた。地面が少し陥没し、砂煙が舞い上がる。

 

 今出せる俺の最高威力の攻撃だ。少しはダメージが入ったんじゃないか……? 

 

 砂煙が収まるとそこには、全くダメージを負ってないキリンが、先ほどとなんら変わらぬ姿勢で立っていた。

 

 うっそだろおい……まさかのノーダメージかよ。いくら雷に耐性を持っているといっても、今の攻撃を無傷とかありえないんですけど? 

 

 相変わらずボーっと立っているだけのように見えるキリンだが、次の瞬間には動きを見せた。どこか遠くを見つめていたキリンの瞳が、真っ直ぐに俺のことを捕らえたのだ。

 たったそれだけで、全身の毛がよだつのが分かる。竜の本能がけたたましく警鐘を鳴らしている。油断するなと。

 

 俺のことを視界に捕らえたキリンが、僅かに唸ったように見えた。それだけ、それだけの行動で今まで雲ひとつない快晴だった空に暗雲が立ち込め、雷が矢継ぎに落ちてくるようになる。

 唸るだけで天候を操作するとか、本当に自然の化身かよ……

 

 そのあり得ない光景に気を取られたのがいけなかった。目を取られた僅か数秒の間に、30メートルは離れていたキリンが目の前に立っていたのだ。

 咄嗟に身を翻して距離を取ろうとしたが、それより速くキリンの神速と言える速度の後ろ蹴りが俺の胴体を抉った。

 

「ガッ…………ハ!」

 

 激しく吹き飛ばされた俺は地面を数回バウンドした後、前脚の爪を使ってブレーキをかけることでなんとか停止した。

 その途端吐き気が込み上げてきて、激しくむせ返ってしまう。見ると、吐き出したのは胃の中身ではなく血の塊だった。

 

 まじ、かよ……!! 今の一撃で骨どころか、内臓の一部まで持ってかれたぞ……! くそ、強すぎるっ! 

 

 先ほどのスタンプ攻撃でキリンのスイッチが入ったのか、休む暇もなく攻撃し続けてくる。キリンの角が僅かに光ったと同時、俺の周りに極大の落雷が降り注いできた。

 痛みを堪えながら何とか立ち上がり、雷で筋肉組織をドーピングして避ける。

 ちょこまかと逃げる俺に嫌気がさしたのか、キリンが次の行動に出た。鳴き声をあげながら大きく仰け反ったのだ。

 

 やべ、これは……! 

 

 ドォガァァァァアアアアン!!! 

 

 次の瞬間、超広範囲に雷の塊が落ちてきた。俺が起こした雷が児戯に見えるほどの電量と電圧。圧倒的なまでの威力に、地面は焼けこげるどころかガラス化してしまっている。

 そんな必殺の一撃を受けてしまった俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に何ともなかった。

 

 あれ? 俺生きてる……? 確かにキリンの特大落雷を食らった筈なんだが……

 いや待てよ。そういえばジンオウガの鱗って、自分の雷で傷を負わないよう絶縁体になってるんだったな。ということは、ジンオウガは単に雷耐性が高いんじゃなく、雷が効かない? 

 確証はない。だが、あのキリンの攻撃を凌いだ時点で、信憑性が高まったのは確かだ。

 だとすれば十分に手は残されてるじゃないか! 気をつけるべきは奴の直接攻撃のみ。雷による攻撃は全て無視して突っ込む!! 

 

 未だに健在な俺に対して、キリンは無造作に雷を落としてきている。狙いは適当でほとんど当たってないが、適当だからこそ避けにくくなっているな。

 だか、そんなものは既に関係ない! 

 

 当たる雷も当たらない雷も全て無視して、キリンを目指して駆けた。先ほど受けた雷のおかげで電力が賄われ、既に真帯電状態にもなれている。

 古龍はやはりそれ以外の生物のことなど、どうとも思ってないのだろう。俺に雷が効いてないと分かってからも、キリンが特に行動を変えることはなかった。

 

 何もしてこないキリンに対して、帯電した雷の半分を込めたお手攻撃を両前脚で繰り出す。2発とも顔面にヒットするが、多少頭を揺らした程度でダメージは少なそうに見える。

 頭を揺さぶられたキリンが、鬱陶しげにこちらを睨んだ。そして放たれるは先ほどと同じ神速の蹴り。

 だが、来ると分かっていればいくら速くても避けようはある。小さくバックジャンプをし、紙一重で避けた。

 

 今まで散々舐めた態度取ってくれたな……これでも食らえ!! 

 

 ここまで隠しておいた奥の手。残された全ての電力を刃尾(・・)に集め、さらに不安定だから普段なら絶対しない、属性の重ねがけもしていく。雷属性に強い耐性を持っているキリンに対する、苦肉の策だ。持続時間はほんの数秒だが、俺の刃尾には氷以外の全ての属性が込められた。

 拒絶反応を起こして灰色に輝く刃を、キリンの角に向けて思いっきり振り抜く! 

 

 ギイイイイィィィィィィィン!! 

 

 甲高い音が響いたと同時に、パキッという何かが砕けた音が聞こえた。それも二ヶ所から。

 一つは俺の刃尾から。属性の重ねがけという無茶をした結果、刃尾の刃の部分が綺麗さっぱりかけてしまっている。

 そしてもう一つは、キリンの角から。圧倒的なエネルギーを内包した蒼角が、3分の1ほどかけているのだ。

 

 は、は。ここまでやって角がかけた程度のダメージか……電力は全て使い果たしたし、無茶したせいで体がうまく動かねぇ。ここでおしまいか……

 

 そう思いキリンの方を見ると、キリンは唖然とした表情で固まっていた。恐らく角がおられたことに衝撃を受けているのだろう。

 そしてそれはだんだんと怒りに変わって……いきはしなかった。それどころか、どこか満足気な表情を浮かべているようにも見える。

 怪訝に思いそれ見ていると、キリンはこちらを一瞥した後、稲光とともに姿を消したのだった。

 

 キリンが去ったことにより、雷雲がたちまち晴れて太陽がその顔を覗かせる。

 そして俺はというと、安堵と疲労から無様にもその場で気を失ってしまった。

 

 

 

 

 




ゲームの中のキリンって、なんであんなに弱い立ち位置なんですかね?天候変えられるし、古龍としてのレベルは高いと思うんですけど……
因みに真の古龍は天候を変えることができるなどの、自然に強く干渉できるドス骨格古龍から選びました。キリンは、雷系統の古龍がほかにいなかったので採用。

それにしても昨日のMHW:Iのアプデで、ラージャンがキリンを襲うって設定を公式が使ってきたのには驚きました。お陰でこの話を書き直すか随分悩まされましたが。
この世界ではキリンを格上の存在にするために、この公式設定を一部変更しております。

古龍について興味が出た方は、YouTubeで考察動画を見ると楽しめると思いますよ。


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第18話.竜と龍

今回も独自設定モリモリな回ですね。あらかじめご了承ください。


あと活動報告にお知らせがあるので、時間がある時見ていっていただけると幸いです


『やっぱお前はすげーよ。とても10歳児とは思えねー。流石政府の秘蔵っ子、黒狼様だな』

 

『そりゃどーも』

 

『なんだよ連れないな。俺たちゃ仲間じゃねーか! な?』

 

『ふん……』

 

 俺は政府に所属する、主に暗部と呼ばれる組織の一員だった。まあ一員といっても、親父に頼まれた時に手助けとして作戦に加わる程度だったが。それでも結構働かされてた気がするけど。

 暗部の存在は公には公表されていない。完全に裏の組織だ。その仕事は他国へのスパイだったり、政府要人の護衛など多岐にわたる。

 

 その中で俺は特に、自国や他国の邪魔な人物の排除を行なっていた。誰にも気付かれず、単独で、かつ確実に殺る。そんな俺のことを前世のお偉いさん方は口を揃えてこう言ったものだ。

 

 返り血が黒くなるほど血を浴びながら、単独で獲物を狩る一匹狼。すなわち「黒狼」と。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 随分と懐かしい夢を見たな……生前の記憶か。中学生になるまでの俺は、だいぶ荒んでたからなぁ。

 いや忘れよう。どうせ過去のことだ。今の俺には何ら関係ないことだしな。

 

 それよりも、一体あのキリンは何だったんだ? 角が折られたことに驚いて逃げたとか? それはないか。キリンからしたら俺なんて、いつでも殺せるはずだし。これも気まぐれの結果とか? 

 

 いや待てよ? そういや古代竜人が言ってたよな。意思ある龍の言葉が分かるって。言葉が分かるってことは、古龍は会話が出来る個体がいる。つまり人間と同等か、それ以上の知能を持つ古龍が存在している? 

 だったら、原初の真龍とまで言われてるキリンが、知能を持たないとは考えにくい。そう仮定すると、俺の前に現れたのにも何か意味があるのかもしれない……

 

 うーん、ぶっちゃけ情報が少なすぎて、だからなんだ? 状態だなあ。キリンが何の意図を持って現れたのか、この問題については一旦保留! 考えても分からないことは、考えるだけ無駄なのだ。

 

 それより問題はこいつよ。俺が切り落としたキリンの蒼角。先端部分が少し折れただけなのに、その切り落とした蒼角からは未だに圧倒的なエネルギーを感じる。

 これ、食っても大丈夫なんだろうか……? 食べたら絶大な力を得られるかもしれない。だが、秘薬というものは時として毒になりかねない。許容量をオーバーした力を取り込んだ結果、とんでもない後遺症が残るとかいう事態になったらと思うと、少し尻込みしてしまう。

 だが、パワーアップとしては絶好のチャンスだ。この世界の頂点の一角にある存在の力なんだ。逃すにはあまりにも惜しい。

 

 ここで尻込みしてても仕方ない、か。古龍の素材なんてこの先いつ手に入れられるか分からないし、食わない選択肢はないだろ!

 覚悟を決めてパクっと蒼角を飲み込む。

 

 ……案外、何ともないか? ウッ!? 

 

 次の瞬間には、俺の体中を激痛が走りまくっていた。体が内側から破裂しそうな、それでいて外側から圧縮されてるような。そんな変な感覚が俺を襲う。

 

「グゥゥ……ガァァァァアアアア!!!」

 

 あまりの痛みに頭を地面に何度も叩き付ける。それでも全く効果はなく、形容しがたい痛みは俺の体を容赦なく蹂躙していく。

 そして次第にミシミシとなってはいけない音が体から鳴り始めた。それに合わせて痛みはさらにそのレベルを上げていく。

 

 

 こ、れは……本格的に、や、ば、い……! 

 

 

 永遠に続くと思われた地獄の中で、俺は気を失っては痛みで飛び起き、また気絶するという二重苦を味わい続けていた。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどれぐらいの時が経っただろうか。体中を苦しめていた痛みはいつしか引いていき、体から鳴り響いていた形容しがたい不快な音も聞こえなくなっていた。

 

 

 ぐ……あ……終わった、のか? 

 

 

 地面に仰向けに倒れていた体を起こそうと思った時、ソレ(・・)は目に飛び込んできた。いつも見る自分の前足、白い体毛に覆われていたはずなのだが、気のせいだろうか。今はその毛が銀色に見えるんだが。

 それだけなら見間違いと切り捨てることもできた。しかし、それ以上の変化があれば、いやでも現実を理解させられる。

 

 白い。青かった鱗も、黄色がかった甲殻も、全てが真っ白になっているのだ。純白の鱗と甲殻は、太陽の光を反射して眩く輝いている。そんな俺の体を銀色の体毛が覆っているのだ。唯一変わりがないのは腹の方。鱗でも甲殻でも守られていない部分は、相変わらず灰色の皮のままだった。

 

 いやいやいやいや! 何だよこれどうなってんだよ! あまりの痛みに体の色素が死んだ……? だとしてもそんなレベルじゃねーな。キリンの蒼角を取り込んだからってのは確実だが、それだけじゃ説明つかないぞ……

 

 そう思って体に異常が無いか確かめるべく、ピョンピョンと少し飛び跳ねようとして足に力を込めたのがいけなかった。

 次の瞬間、俺は飛んでいたのだから。いや飛んだのとは少し違う。ジャンプ力が強すぎて、一瞬で空まで打ち上がったのだ。

 先程までいた場所が、片手で収まるぐらい遠くに見える。それほどの高さまで跳び上がっていた。

 

 

 ……はい!? 

 

 

 脳が理解するより早く、落下が始まった。相当高く跳んでいたので、落下のスピードもマジでシャレにならない。真っ逆さまに落ちていき地面に激突、はしなかった。

 この巨体が新幹線レベルの速度で起きてきたにもかかわらず、着地は静かなものだった。それはもう、そよ風が起きるぐらいの。自分でも驚くほどの、完璧な身体制御によってなせる技だ。それが咄嗟に出来た驚きよ。

 

 

 すまん、もう無理……

 

 

 一気に膨大なデータが流れ込んできた頭は、先程の疲労も相まって考えることをやめた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 次の日目が覚めてから、俺はいろいろなことを試した。そして分かったことだが、訳がわからなかった。

 自分でも何言ってんだとは思う。思うが……それ以外に言葉が見当たらないのだよ。

 

 身体能力は昨日やった通り、もはやバグなんじゃ無いかってぐらい強化されている。これで真帯電状態になんてなったら……うん、考えないでおこう。

 あと身体的特徴としては刃尾と爪が変わっていたな。刃尾は完全に剣になっていた。刃の部分は薄っすらと灰色になっており、全体的に体毛が無くなって金属感が増した。切れ味は、試した鉄を含んだ岩が軽く真っ二つです。やばいっすこれ。

 

 あと爪はさらにヤバかった。前足の爪だけなんだが、5本とも黒くなっていたのだ。元々黒かったのだが、漆塗りの陶器みたいに光沢があるのだ。何でかは知らない。というか俺が聞きたい。ただ、硬度は半端ないことになっていたな。切れ味? 刃尾より上というところで察してくれ。

 

 一応超帯電状態にもなった。結果はこちらも凄かったよ。毛が逆立ち、甲殻が展開するまでは良かったんだが、展開した甲殻が淡く青色に光るのだ。元々ジンオウガの背中の甲殻は雷電殻と言って蓄電能力を備えたものだったが、ライゼクスの能力を得たことによって発電器官として運用していた。

 発電した雷が漏れ出すことはあったが、淡く光るって何だよ……また新しい能力を得たのかもしれんな。

 あ、電気量が上がったのは当然のことね。もうそれぐらいでは驚かないよ。うん。

 

 後なんか角も変化があった。キリンよろしく蒼くなっていた。とは言っても真っ青ってわけでも無い。薄く青色になっている程度かな。

 

 もう何が何だか分からん……と、最初は途方に暮れていたんだが、自分の能力を確認しているうちに次第にある考えが浮かんだ。

 もしかしてこれ、古龍の能力を手に入れたからか? ってな。何当たり前のこと言ってんだって言われるかもしれないが、まぁ聞いてくれ。

 

 この世界の古龍ってのは、本当に化け物だ。これは古代竜人から話を聞いただけだから信憑性は無いが、嘘は言ってなかったと思う。

 ゲームの中でこそ少し強いだけの存在だが、現実世界では違うってわけだな。そこで、竜と龍の違いについてだ。

 

 この違いは知っての通り、古龍かそうじゃ無いかって事だな。呼び方の問題だ。俺のようなジンオウガは竜。キリンなどの古龍は龍。

 しかし、竜と龍では何が違うのか? 古龍とは一括りに行っても、沢山の種類がある。真の古龍とやらは少ないらしいが、それでも古龍と呼ばれる生物達が規格外の強さを持っていることは、周知の事実だ。

 

 なら、古龍を古龍たらしめんとする根拠は? 前まではただ強い生物なのだと、漠然と思ってるだけだった。だが、それは違う。ここからは仮説だが、古龍とは地脈……いや、少し別物だし龍脈と呼ぼう。この力に干渉できる生物のことだ。

 

 龍脈とは俺が勝手に名付けただけだが、的を得ていると思う。この世界にはまるで地脈の流れのように、巨大な生体エネルギーが循環していると思われる。強大な古龍等が死んだ時、そのエネルギーが龍脈の流れによって世界を巡り、新たな命の誕生を促す。そんな感じ。竜の力が流れる地脈だから、龍脈ってわけだ。

 古龍はこの龍脈に干渉して、力を引き出せる存在なんだ。自然の化身たる原初の真龍達は、この力がとんでもなく強いんだろうな。

 

 え? 何でそんなこと知ってるのかって? それが、俺にも不思議なんだが、感じ取れるんだよな。その龍脈の流れってやつが。あとそれの使い方と、何で存在してるかもぼんやりと分かる。

 ここで話を戻すが、これって俺が古龍になりかけてるから何じゃ? と思ったわけだ。そう考えると色々と納得がいくしな。能力吸収の加護が変な作用を起こしたのかも。

 

 まあ、古龍になろうがならまいが、俺のやることは変わらんがな。この世界を自由に生きる。この弱肉強食の世界を生き抜くために、戦う力をつける。その過程で古龍に近づくんだったら、それも受け入れようじゃないか。

 それに龍脈やら自然の力やら、なんかカッコいいしな。それが自分の力になるなら、全然ウェルカムだ。

 

 それにしても……生前黒狼とか呼ばれてた俺が、転生したら真っ白な雷狼竜か……全くの真逆になったなぁ。ま、これはこれでありだけどな! 

 さーて、思わぬ道草を食ってしまったが、火山に向けての旅を再開させるとしようか。

 

 

 

 

 



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第19話.圧倒

10月下旬から11月上旬にかけて、中間テストや学園祭など学校行事が目白押しなので、しばらく週1更新が続くかも知れません。
執筆できたとしても、投稿はかなり不定期になりそうです。


 キリンとの戦闘から一週間後、俺はついに火山地帯に到達していた。

 

 ようやくついたか……故郷の渓流を出てから3ヶ月と半分くらい。随分と遠くまで来たよ。しみじみと思い出を振り返ってみると、戦闘と修行の記憶しか出てこなかった。あんまりにも殺伐とした記憶しかなく、がっくりと首を下ろしたのは内緒だ。

 

 別にそれはいいんだよ。実はこの1週間、自分の能力と改めて向き合っていたのだ。突然手に入った意味不明な力に翻弄されつつも、なんとかその全容をある程度理解するに至ったぞ。

 結果としては、やはり俺は半古龍化しているということだな。何故半かというと、古龍的要素が欠けているからなんだよな。まずキリンが出来ていた天候操作。試してみたけど、雷を3、4発落とすのが限界だった。キリンのように一瞬で空を暗雲で覆うなんて芸当は出来ない。

 

 あとは、古龍の血とか。古龍の血といえばほとんど全ての古龍から採取出来たものだが、キリンの角を食う前と後で自分の血に変化があったとは到底思えない。勿論、この世界に古龍の血なんてものがない可能性もあるけど。

 

 それに龍脈についてもだ。おそらくだけど、俺はこいつを完璧には使いこなせない。何がダメなのか分からないが、龍脈の力を最大効率で運用することが出来ないんだよな。

 まあキリンの角をほんの少し食べただけだし、能力吸収の力が完全に働かなかったのかもしれない。勿論半古龍化したことによるパワーアップは凄まじいけどな。もはや自分の事をジンオウガと呼んでいいのか分からなくなって来た。悲しい事だが……

 

 とまあ、俺の力についてはここまでにしておこう。前にも言ったが後悔なんて微塵もないし、新たな力は進んで取り込んでいきたい程なんだから。

 

 さて、火山についてだ。ぶっちゃけ火山に着いたはいいんだけど、ここがどこなのか全然分かんないんだよなぁ。なんせこの火山めちゃくちゃデカイし。軽く迷子である。

 それでも麓の方にはアプトノスとかはいるし、生活出来ないわけではない。こうなったら全部周る勢いで探索してみるとするか! 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「グァァァァァァアアア!!」

 

 はい、初っ端からアグナコトルに喧嘩を売られています。いやな? 縄張りに入っちまったのは悪かったよ。でもさ、どこからが縄張りかなんて、分かんないじゃん? マーキングとかしてるとしてもさ、アグナコトルでもない俺に分かるわけないじゃん? 

 

 チュイン! 

 

 アグナコトルが放った熱戦が、俺の真横を通り過ぎた。途端に切断された地面からマグマが噴き出し、辺りを真っ赤に染める。

 やっぱ戦うしかないか……あちらさんは逃す気なんて微塵もないっぽいし。

 そう思い、いつもの調子で超帯電状態になった。この頃の日課であった、龍脈での強化(・・・・・・)を無意識に行いながら。

 

 

 ドオオオオオォォォォォォォン!!! 

 

 あ、やべ。ついやっちまった。龍脈を使うとただの超帯電状態でも、段違いの性能を発揮してしまうのに……

 現に俺からあふれ出した雷はそこらへんを纏めて焼き尽くし、悉くを炭に変えていっている。

 突然の俺の変容にアグナコトルは驚いたのか、警戒したのか、ピタリと攻撃をやめてしまった。

 

 こうなってしまったら仕方ない。そっちから仕掛けて来たんだ。恨み言はナシだからな! 

 強く踏み込み大地を駆け抜ける。その速度たるや、ディノバルド戦でみせた真帯電状態時のスピードが遅く感じるレベル。まさに高速移動というにふさわしい速度だ。

 そもそもジンオウガは超帯電状態時に、電力で筋肉組織を刺激して身体能力を高めるという特性がある。俺の扱える雷は恐らく通常のジンオウガより多いだろうし、身体強化の割合もそれだけ高まるって事だ。

 

 反応できてないアグナコトルに対して、黒く染まった前脚の爪を突き出す。それは、ノーガードだったアグナコトルの喉元に突き刺ささった。そして突き出した勢いを乗せたまま、突き刺さった爪をひと思いに振り抜く。そうする事で傷口が広がると同時に、相手の体を吹き飛ばすことが出来るからだ。

 

 今や俺の黒い爪の威力は、半端じゃないことになっている。ある程度硬い岩盤を爪で突き刺しても、プリンにスプーンを突き立てているぐらいの抵抗しか感じられない。

 ラノベでよく見た表現だが、地面をバターのように切り裂くことも、今の俺なら出来るかもしれない。する意味がないのでそんなことはしないがね。閑話休題。

 

 吹き飛ばされたアグナコトルは、喉元から夥しい量の血を流して蹲っている。

 そのまま出血多量で死ぬかと思われたが、相手は弱肉強食の世界を生き抜くモンスター。素早くマグマに浸かり、その熱で傷口を焼いて血を止めるという荒業を行なったのだ。これには流石に驚かされた。

 

 しかし痛めた喉が完治した訳でもないので、熱戦攻撃はできなくなってしまったようだ。そして遠距離攻撃を失ったアグナコトルなど、恐るるに足らず! 

 

 雷光虫を呼び寄せてより一層電力を高め、その高めた電力を背中の雷電殻から放出させる。青白いスパークが辺り一面を照らし、限界を超えた雷がバチバチと空気中に霧散していく。

 その電力を無駄にしないよう早めに行動しなければな。ジャンプして空中に躍り出ると同時、体をひねって地面を背中側にする。要するに、背中から着地しようというのだ。

 普通なら自殺行為だが、あるんだよなぁ。この体勢から繰り出せるジンオウガの高威力技が。そう、ゲームで普段はほとんど当たらないが、気を抜いたハンターを幾人と葬り去って来たあの技! 背面ジャンプ攻撃だ。

 

 アグナコトルは傷が深いため、素早く動くことができない。背面ジャンプ攻撃の唯一の問題点。攻撃が決まるまでに時間がかかりすぎる、というものを今なら克服できるのだ。

 

 ドンっ! という巨大が地面に叩きつけられた音が響いたのとほぼ同時に、膨大な量の雷が放出された爆音が轟いた。電気を放出しきりその場から飛び退いてみると、こんがり黒焦げとなったアグナコトルが横たわっていた。勿論即死だったろう。

 ちなみにこの技、何で背中から飛び込むのかというと、ジンオウガの背中にはもともと蓄電殻という電気を溜める器官があり、それを最も有効活用する方法が背面ジャンプなのだ。電気を逃さないようにする帯電毛も、背中は生えてる密度が高いからな。

 

 それにしても、やっぱ段違いの威力になってるよな。背面ジャンプがいくら強力だとは言え、前まではここまでの威力にはならなかったし。

 でもやっぱりこの力を使いこなせてないような気がする。何つーか、力に振り回されている感じ? 制御してるんじゃなくて、強大な力をただ闇雲に振り回しているだけって気がするんだよな。ここは要矯正だな。

 

 ともかく、今の一番の目標はこの半端な古龍の力を使いこなすことに決定だ。龍脈操作は常に意識するとして、力の扱いは実践の中で練習していくしかないかな。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「本当に火山まで来ちゃったわね」

「でも、行き先的にあのジンオウガが火山に向かった可能性は高いよ」

 

 白いジンオウガがアグナコトルと戦う前、ティナ、カナト、エリンの3人が火山にたどり着いていた。

 

「この火山は結構広いですからね。探すのに手間がかかるでしょう」

「ティナさんはこの火山に来たことがあるの?』

「ええ。2年前に、2人でアカムトルムを討伐しに来ました」

「ア、アカムトルム……」

 

 黒き神の異名で知られる覇竜の話が出てきて、カナトとエリンは顔を引きつらせる。

 

「まあその時は討伐まで行けずに、撃退で止まってしまったのですが」

「それでも凄いことに変わりないよね」

「そうね……」

 

 2人が改めてティナへの尊敬の念を深めたその時、

 

 ドオオオォォォォン!!! 

 

 遠くから爆発音のようなものが聞こえてきた。

 

「な、何だ!?」

「分かりません。ですが、相当な力の持ち主が近くにいるようです」

「それってもしかして!」

 

 エリンの言葉にティナはコクリと頷く。

 

「可能性はあります。行ってみましょう!」

 

 

 

 

 

 

 




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第20話.邂逅

今回の話はオウガさんの視点とハンター達の視点で話が展開していきます。
視点変更の際はわかりやすいように●●Now loading●●という表記にしてあります



 とりあえず今後の方針は決まったし、このアグナコトルを食べてしまおうか。黒焦げでいかにも美味しくなさそうな見た目だが、食うしかあるまい。自分で殺したモンスターは、残さず食べると決めているし。快楽殺人者にはなりたくないのだ。

 

 そうそう話は変わるんだが、アグナコトルの熱線攻撃って何かに使えないかな? 俺の考え通りだと、汎用性が高くて一度は使ってみたいアレが出来る様になるはずなんだが……まぁ明日のお楽しみかな。

 さてさて、ここら辺の主は結局アグナコトルっぽいし、次はどこら辺に行こうかな? 

 

 そう思った時だった。遠方から何者かの気配を感じ取ったのだ。

 

 何か近づいてくる? 結構小さいな……てかこれってまさか!? 

 

 俺の目の前に現れたのは、いつかの渓流で見たヤバい少女と、迷子になった森の外で会った、あのハンター達だった。

 

 

 

 ●●Now loading●●

 

 

 

 大きな爆発音がした方向に一直線に走ってきたティナ達は、予想外の光景に驚いていた。

 それもそのはず。そこには真っ白なジンオウガが佇んでいたのだから。

 

「これはジンオウガ……よね?」

「分かりません……ですが、先ほどの爆発はこのモンスターのせいかもしれませんし、油断しないでください!」

 

 真っ白なジンオウガの情報など、ティナ達の知識にはない。要するに新種のジンオウガかもしれないのだ。ティナのこの場の判断は正しい。

 そして内心ティナは焦っていた。自分が思っていたより目の前のモンスターが強大だったからだ。自分1人なら大丈夫だが、後ろの2人を守りながら戦うとなると苦しい状況になってしまう。

 

 そうティナが思っていた時、カナトがユラリと一歩前に出た。

 

「いや、こいつはあのジンオウガだ……」

「カナト?」

 

 カナトは怒りのこもった目で白いジンオウガのことを見ている。

 

「だってそうだろう! 人間がこんなに近くにいるのに、威嚇の咆哮を上げずにこちらを観察してくるジンオウガなんて、あいつしかいない!!」

「ちょ、カナト落ち着いて!」

 

 いきなり叫び出したカナトを、エリンが焦ってなだめる。

 

「エリンさん、どういうことなんですか?」

 

 ティナは件のジンオウガが、咆哮をほとんどあげなかったという事実を知らない。報告の際、カナトが伝え忘れていたのが原因だが。

 それを聞いて、ティナは成る程と呟いた。

 

「確かに咆哮をしないモンスターは珍しいです。しかし、居ないということもありません。コレだけの理由で決めつけるの時期尚早だと思いますが」

 

 ティナが説得したのをみて、エリンは内心安堵していた。普段冷静なカナトが取り乱したのには驚いたが、ティナの説得ならば素直に従うと思ったからだ。

 しかし、エリンの思い通りに事は進まなかった。

 

「ティナさんは直接あいつを見てないから分からないんだ……でも僕には分かる! あいつが、あいつがバスクをやったジンオウガなんだ!!」

「カナト、何をしてるの!?」

「ダメです! カナトさん!!」

 

 説得するティナの声も、制止するエリンの声も無視して、カナトは背中からスラッシュアックスを抜き放ち、単身白いジンオウガへと突っ込んでいく! 

 

 

 

 

 ●●Now loading●●

 

 

 

 

 白い装備の太刀使いの少女……あのイビルジョーを圧倒していたハンターか。相変わらずとんでもないほどの存在感だな。前世で会ったどれほどの達人でも、彼女ほどの気迫と風格の持ち主はいなかった。

 しかしだ。俺もあれから強くなった。勝てるとは思わないが、隙を見て離脱することぐらいはできると思う。

 

 それにあのハンター達もいるな。確かカナトとエリンだったか? ランサーのバスクが居ないようだが……

 俺が初めて怒り状態になったきっかけを与えた彼らだ。白い少女よりは危険は少ないだろうが、油断しないほうがいいだろう。

 

「あいつが、あいつがバスクをやったジンオウガなんだ!!」

「カナト、何をしてるの!?」

 

 ん? なんか言い争ってんのか? 

 と思ったのも束の間、いきなりカナトが飛び出してきた。手にスラアクを持っているし、明らかに攻撃の意思がある。

 

 おいおい、そんな直情的な攻撃が当たるかよ! 

 即座に超帯電状態に移行する。空中に飛び出していたカナトは、移行時に起こる衝撃波で大きく後ろに吹き飛ばされていった。同時に放出された雷が放射状に広がり、追撃を仕掛ける。

 

「カナトさん!」

 

 ここで白い少女が動いた。地面に倒されたカナトの前に素早く移動すると、神速の一太刀で雷を切り裂いたのだ。雷は左右に分断され、そのまま空中に霧散していった。

 倒れたカナトにエリンが駆け寄るなか、白い少女がその2人を守るように俺の前に立ち塞がる。

 

 マジかよ!? 雷を切り裂いただと? どういう芸当だよ。やっぱ力の差は歴然、か。

 だが妙だ。やろうと思えば今すぐにでも俺のことを切り伏せられるはずなのに、少女はこちらに向かってこない。あくまで防御に徹しようというのか? 

 確かにそこに立たれたら後ろの2人には攻撃できないが……別に取って食おうってわけじゃないし、このまま見逃してくれたらいいんだけど。

 

 と、その時、目の前の少女がポツリと呟いた。

 

「攻撃してこないのでしょうか?」

 

「いやいや、先に攻撃してきたのはそっちだろーが!」

 

 思わず口をついてそう言ってしまった。まあ、人間に俺の言葉が分かるはずもないし、どうというわけでもないが……

 

「な……!? い、今のは貴方が言ったのですか!?」

 

 白い少女が驚いたようにそう言ってきた。その言葉を聞いて俺も驚いてしまう。

 

「貴方って、もしかして俺のことか? アンタ俺の言葉が分かるのか!?」

「え、えぇ。どうやら聞き間違いではなさそうですね」

 

 どういうことだ……? 人間がモンスターの言葉を理解しているぞ!? 竜人族、ではないよな。耳尖ってないし。ならば一体? 聞いてみるか。どうやらこの少女に敵意はほとんどないっぽいし。

 

「何故俺の言葉が分かるんだ?」

「私は生まれが特殊なものでして。意識ある龍の言葉が分かるのです。それより、貴方は一体なんなのですか? 古龍でもないのに会話できるレベルの知性を持ち合わせているなんて……」

 

 うっ、その点については説明しづらいな。まさか転生した元人間です、なんて言って信じてもらえるわけないし。

 

「俺はジンオウガだ」

「いや嘘でしょう」

 

 アレェ? 俺ってばもはやジンオウガですらないの? 

 

「こんなに白いジンオウガがいるわけないでしょう! しかも古龍の中でもほんの一握りの数しかいない、会話可能な知性というものを持つジンオウガなんて……」

「といわれてもなぁ。俺はジンオウガのつもりだし、それが唯一の事実のつもりなんだが」

「はぁ、まぁいいです」

 

 少女がため息をついた。何だよ、俺が悪いのかよ……

 というか不思議だな。初めて喋ったはずなのになんだか話しやすい。スラスラと言葉が出てくるんだよ。 

 

「貴方が何者なのかは今はいいです。少し確認させてください。それが終われば、私たちはすぐにこの場から去りましょう」

「本当か? ならなんでも聞いてくれ」

 

 それから少女は俺に質問をして来た。前にカナトと会ったジンオウガとは俺のことか、とかまあ色々だ。

 そうしてひと段落ついたのか、少女が何か考えるそぶりを見せた。

 

「最後に一つだけ。貴方は人間の味方ですか? それとも敵ですか?」

 

 真剣な眼差しで聞いてきた。

 

「俺は人間に敵対するつもりはない。そちらが攻撃の意思を示さなければ、な。ただし、理不尽な理由で排除しようとしてくるなら……その時は抵抗する。最後までな」

 

 その問いに対して、俺も真剣な顔でそう返した。しばし見つめ合う俺と少女。そして次に少女が見せた顔は笑顔だった。

 

「そうですか。ならば安心ですね」

「お? 結構あっさり信じるんだな」

「いえいえ、これでも結構探ってたんですよ? ここは一つ、トップハンターのお眼鏡にかなったということで」

 

 はぁ? 今トップハンターって言ったのか!? 通りで強いわけだよ……

 

「では、私たちはこれで」

「おう。出来ればまた会いたいもんだな。アンタと話すのは中々楽しい」

「そうですね。また会えると思いますよ。その時は味方でいてくださいね?」

 

 そう言い残して、本当に少女は去っていった。カナトが何やら騒いでいたが、無理やり連れ去っていったな。

 というか、味方でいてくださいね? って……怖っ! それって脅しかなんかですか? 

 

 しかし、これでハンター達が俺のことを狙ってくることは、なくなったと思っていいんだろうか? 彼女がトップとはいえ、その発言力がどれほどのものかなんて俺は知らない。絶対ということはないかもしれない。

 だがまあ、一先ずは安心していいんじゃないかな。ハンターから狙われなくなったことだし、そろそろ里帰りも考えてみますかね。とりあえずこの火山での修行が終わってからだけど。

 

 少しばかり不安の種が取り除かれた気分で、俺は更なる強さを求めて火山の奥地へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、そういや彼女の名前聞くの忘れたな……

 

 

 

 

 

 



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第21話.sideティナ②

「ティナさんは一体何をしているのかしら……」

 

 今エリンの目の前では、ティナが独り言を言っているようにしか見えない光景が広がっていた。客観的に見れば、ジンオウガと話しているように見えなくもないが、竜と会話ができる訳ないと思っている彼女からしたら、それは独り言以外の何者でもなかった。

 

「う、うぅ……」

「あ、カナト! 大丈夫?」

 

 先程吹き飛ばされたカナトに意識が戻ったようだ。目をうっすらと開け、頭をぶんぶんと振っている。

 

「お二人とも、引き返しますよ」

 

 そんなティナの言葉が聞こえて来たのは、カナトの意識がはっきりしたのと同時だった。

 

「ティナさん? 引き返すってのはどういう?」

「そのままの意味です。このジンオウガのことを、いち早くギルドに報告しなければなりません」

 

 エリンがちらとジンオウガの方を見ると、微塵の敵意や害意も感じられなかった。先ほどまで感じていた、肌を刺すような緊迫感も今や既にない。

 理由はわからないが、あのジンオウガと戦う必要はない。そう感じたエリンは思わず安堵していた。先ほどの超帯電状態を見て、万に一つも自分とカナトに勝ち目はないと思っていたからだ。

 しかしあのジンオウガに一矢報いると決めていたはずなのに、なんて体たらくなんだ。とエリンは先ほどの思いを恥じて拳を強く握った。

 

「まだだ……まだ僕はあのジンオウガを倒してない!」

 

 エリンが目を離した一瞬の隙に、再びカナトが飛び出そうとスラアクを構えたのだ。咄嗟のことに反応できないエリン。しかし、それを止めたのはティナだった。カナトのスラアクを片手で握り、抜刀出来ないように押さえ込んでいる。カナトが両手で無理やり引き抜こうとするが、スラアクはピクリとも動かなかった。

 

「ティナさん! 邪魔をしないで!!」

「邪魔をしているのはどちらですか? 今はギルドに報告するのが先決です」

 

 激昂するカナトに対して、ティナはそう冷たく返した。

 

「なんだと……?」

「私たちの任務はなんですか? 特異なジンオウガの調査です。討伐ではありません。任務の内容を履き違えているのはカナトさんですよ」

「くっ! それがどうし……」

 

 カナトがその先の言葉を発することはなかった。ティナの鋭い手刀の一撃が、カナトの意識を刈り取ったからだ。

 

「すいませんカナトさん、エリンさん。今はあのジンオウガの気の変わらないうちに撤退すべきなのです」

 

 勿論急ぐ必要がないことはティナには分かっている。ジンオウガが自ら手を出さないと言っていたからだ。しかし、カナトとエリンにはそれが理解できていない。残されたエリンを納得させるには、そう言うのが一番効率的だったのだ。

 

「行きましょう、エリンさん」

「えぇ。カナト……」

 

 気絶したカナトを担いで、ティナは竜車を止めてある方向に歩き始めた。カナトを心配そうに見つめるエリンが後に続く。

 残されたジンオウガは、そんな2人の姿が見えなくなるまでその場に佇んでいた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「竜の言葉が……分かる!?」

「ええそうです。一応このことは秘密と言われてるので、あまり公言しないでほしいのです」

 

 竜車の中でカナトとエリンは、ティナが竜の言葉が分かるという事実に驚いていた。そんなことは不可能なはずなので、当然のことだろう。

 

「古龍というのはとても知能の高い生物なのです。その中の極一部の古龍は、会話可能なレベルの知性を持ち合わせています。私はそんな龍達の声を聞き、こちらの声を届けることができるのです」

 

 あまりのスケールの大きさに、2人は声を失う。古龍が高い知能を持っているということは、研究者達の研究の末ようやく解き明かされて来た事実として知ってはいた。しかし、会話が出来るなどという話は、噂程度ですら聞いたことがなかったのだ。

 

「ティナさんが竜の言葉が分かるっているのは、なんとか理解したわ……でもそれって古龍に限っての話なのでしょう? あのジンオウガは古龍だというの?」

 

 エリンの疑問はもっともだ。古龍は他のモンスターとは違う。竜よりいわば格上の存在だ。なのに何故ジンオウガであるはずの彼は高度な知能を持っていたのか? これにはティナも分からないと答える他なかった。

 

「もしかしたら、あのジンオウガはジンオウガと似て非なる存在なのかも知れません。本人はジンオウガだと言っていましたが……新種の線も考えた方が良さそうですね」

 

 あの時口にはしなかったが、ティナから見てもあのジンオウガの力は異常だった。ジンオウガにしてはあまりにも強大な力を感じたのだ。それはまるで、古龍のような……

 

(まさか、あり得ません。通常のモンスターが古龍になるなど、前例がないのですから)

 

 そう自分に言い聞かせるティナだったが、心のどこかにしこりを残すのだった。

 

「何故、やらせてくれなかったんだ……」

 

 不意に今まで黙っていたカナトが声を上げる。その顔は悔しさに満ち溢れていた。

 

「カナト! 貴方まだそんなこと言って……!」

「エリンは悔しくないのか!? あいつがバスクをやったジンオウガに違いないんだ! ようやく見つけたのに、目の前にいたのに……何もせずに引き返すなんて!! 僕1人でも残ってあいつと……」

 

 パァン!! 

 

 最悪の展開を語ろうとしたカナトの頬を、エリンがビンタしていた。

 

「貴方1人残って何が出来るというの!? あのジンオウガは異常よ。1人じゃ到底太刀打ちできない!! それを見越して、ティナさんが逃してくれたんじゃない。分からないの!? それに今回はあくまで調査よ。勝手な狩猟は規約違反。貴方だって知ってるでしょう……」

 

 エリンは、最初は頭に血が上ったのか激しくまくしたて上げ、最後の方はまるで自分に言い聞かせるかのように静かな声でそう言った。エリンにも思うところが無いわけがない。ただ、激情を理性が押さえ込むことに成功しただけだったのだ。

 

「そうですね。たしかにあのジンオウガはとんでも無く強い。言いたくはないですが、カナトさんお1人ではとても……」

「くっ……うぅ……クソ!」

 

 ティナの冷静な判断を聞いて、カナトは拳を膝に叩きつけた。本当は自分1人じゃ叶わないとカナトだって分かっている。だが、バスクを再起不能にされた怒りで、半分我を忘れているのだ。普段ならしないような荒々しい発言が出てくるのも、それが原因だった。

 

 気まずい空気が流れたまま、3人を乗せた竜車はユクモ村に向かって走ってゆく。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「報告は以上です」

 

 ユクモ村に帰還したティナ達は、真っ先にキールに詳細を説明しに向かった。ただし、この場にいるのはティナ1人だけだが。先ほど暴走したカナトの頭を冷やさせるのと、それに付き添ったエリンがいないからだ。

 

「ふむ……白いジンオウガ。しかもとても高い知性か」

 

 キールは目を瞑って腕を組みながらティナの方向を聞いていた。そして報告が終わった後、彼の口から出たのは溜息だった。

 

「キールさん。私は問題ないと思いますよ」

 

 あのジンオウガは放っておいても問題ない。ティナはそうキールに提案した。キールは全てのギルドを束ねる本部のギルドマスターであり、自身もかつて名を馳せたハンターだ。知能があるモンスターのことは知っているし、ティナが彼らの言葉を理解することが出来るということも知っている。それゆえの溜息だったのだ。

 個人としてはティナのことを信用しているし、下手な刺激を与えて被害が広がるよりは放置するのもありだと考えている。だがギルドマスターとしては、強大なモンスターを対策もせず見て見ぬ振りをするというのは問題なのだ。

 

「ティナくんから見て、そのジンオウガはどう写った?」

「それがですね、随分人間臭い竜でした。本来知性が高い古龍達は自分を上位者と捉えてる節が強く、常に高慢な態度を崩しません。しかしあの竜は対等な立場で、それこそ人と話してるような錯覚に陥るほど、気さくな方でした」

 

 実際ティナも驚いていた。以前出会った鋼龍などは「人間風情が真龍たる自分と話すことすらおこがましい!」というような発言をしており、龍は人間を見下す傾向があるのだと思っていたからだ。

 しかしあのジンオウガは違った。自分と同じように感情豊かで、まるで友人と話しているようだったからだ。

 

「成る程な……よし分かった。あのジンオウガについては調査中により討伐禁止ということにしておこう」

 

 キールが出した妥協案は、調査を名目に討伐を禁止するというものだ。個人的には討伐の必要性は限りなく無いと思っているが、それでは世間が納得しないだろう。そこで調査が済んでないので討伐出来ないことにしてしまおう、というものだった。希少なモンスターに時たま使われるものだ。

 一見その場しのぎに見えるかも知れないが、新種のモンスターの調査には数年、希少性によっては十数年かかることもある。この場合は妥当な策だと言えた。勿論被害が拡大すれば話は別だが。

 

「ありがとうございます。すみません、無理を言ってしまって……」

「いやいや構わないとも。君の目はとても優秀だ。人を、そして竜を見る目がある。そんな君が問題ないと言っているんだ。私はそれを信じるよ」

 

 しかしキールは「ただ……」と続けた。

 

「流石に世間に公表する際、特徴を記載する必要がある。話を聞いた限り、そのジンオウガは随分と特異なようだ。新種として扱うにしても、区別する必要があるだろう」

「そうですね……キールさんは新しい彼の名前、考えてあるのですか?」

「一応な」

 

 キールは机の引き出しから一枚の紙を取り出し、スラスラと文字を書いてからティナに見せる。そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【調査中】天狼竜ジンオウガ特種──と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




天狼竜の名前は、ジンオウガの亜種である獄狼竜から考えました。黒いジンオウガが『獄』なら、白いジンオウガは『天』というわけです。

ハンターサイドの話、続きます。


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第22話.sideカナト②

「どう、カナト。落ち着いた?」

「あぁ、ありがとうエリン……」

 

 ティナが調査の報告に行っている間、カナトとエリンはユクモ村の中心部にある広場に来ていた。ここは普段住民達の憩いの場になっているところで、外の風に当たった方がいいと考えたエリンは、カナトをここまで連れてきたのだった。

 空いていたベンチに2人で腰掛けてしばらくすると、カナトから焦りのような表情がなくなったように思える。時間が経って頭の整理がついてきたのだろう。

 

「全く、カナトらしくないわよ? もっと冷静に分析してから行動するのが、いつもの貴方でしょうに」

「ははは……面目ない。たしかに僕は気が動転していたようだよ」

 

 そう言うカナトの表情は暗い。頭の整理がついたことで、あのジンオウガと自分たちとの力の差を理解したからだろう。そして知ってしまった。自分たちではどう足掻いても勝てないということを。

 

「……そうね」

 

 そしてそれはエリンも同じだ。まるで歯が立たない。もし戦っていたとして、何分立てていたか……そう考えると恐ろしくなってくるのだった。

 

「だけど、ティナさんに迷惑をかけてしまった……僕の暴走で。なんて言ったらいいか……!」

 

 カナトはティナに迷惑をかけたことを、心底反省しているようだ。普段真面目な彼からしたら、これはとても大きな問題だと言えよう。表情が暗い理由は、これも含まれていそうだ。

 

「それは……普通に謝るしかないんじゃない?」

 

 エリンが控えめにそう言った時だ。

 

「お二人ともここにいたのですか。探しましたよ」

 

 そこに報告を終えたティナがやってきた。手には一枚の紙を持っている。

 

「ティナさん、ギルドマスターはなんて言ってたの?」

「調査中ということにするそうです。基本的には討伐は禁止。触らぬ神に祟りなしといったところでしょうか」

 

 そう言ってティナは2人に、手に持った紙を見せてきた。その紙には、天狼竜ジンオウガ特種という名前と、調査中につき見かけ次第ギルドに報告せよ。というお触れが書かれてあった。と、その時。

 

「ティナさん! さっきは悪かった!!」

 

 ティナが差し出した紙をよく見る暇もなく、いきなりカナトが頭を下げた。出発する前はティナがいきなり頭を下げたのだが、今度はカナトが下げたのだった。

 そしてこちらも同じように驚くティナ。

 

「え、え!? どうしたのですか?」

「ティナさんの忠告も聞かず、勝手な行動をしてしまった……頭に血が昇っていたとはいえ、仲間を危険に晒したことに違いはない。だから……!」

 

 言葉に詰まったのか、カナトが顔を上げた。その顔は悔しさや申し訳なさなど、様々な感情が浮かんでいる。そんなカナトを見たティナは、フッと優しく微笑んだ。

 

「自分で間違いに気づき、自分で反省することができる。これだけでもとても大切なことです。そしてカナトさんはお一人でそこにたどり着くことができた。ならば私からいうことはありませんよ。ただし! 次からは気をつけてくださいね?」

「っ……! はい!」

 

 緊張の糸が緩んだのか、ヘナヘナとその場に座り込んでしまうカナト。慌てて手を差し出すティナ。それをみてエリンがやれやれという具合に頭を振る。

 少しばかり、はじめの暗い表情が晴れたように感じた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 しばらくして落ち着いたあと、ティナはキールと話したことを2人に教えた。

 

「天狼竜ジンオウガ特種……か」

 

 エリンとカナトは特種という聞き慣れない言葉に、戸惑いつつもどこか納得してしまう。あの規格外のモンスターだったら、そんなことがあってもおかしくないな、と。

 

「私たちの任務はここで終了ですね。短い間でしたが、共に旅ができて楽しかったです。まだ話したいことはありますが、すいません今日はちょっと時間がないので、また明日ということで!」

 

 この後もキールの手伝いがあるとかいうことで、ティナは足早に去っていく。残されたエリンとカナトはその場に呆然と立ち尽くしていた。

 

 なんだか嵐のような出来事だった。突然現れたモンスターにバスクがやられ、ギルドマスターに呼び出され、ティナと旅をしてあいつに再会した。でも再会したあいつはとんでも無く強くなってて、焦りで前が見えてないうちに全ては終わっていた。

 

「エリン、これで終わりなのかな? これで……」

「カナト……」

 

 再び沈み出したカナトに、エリンは閃いたようにこう言った。

 

「とりあえずユクモに戻ってきたことだし、バスクのところに行ってみない?」

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「バスク、お見舞いに来たわよ」

「おお、エリンにカナトか! よく来たな。ずっとベットの上ってのも退屈してたとこなんだよ!」

 

 病室に着くと、いつもの調子でバスクが2人を出迎える。何も変わってないように見えて、彼はもうハンターを続けることができない。そう思うと、カナトの心は締め付けられる思いだった。

 

「ん〜? どうしたカナト。なんか悩み事でもあるのか?」

 

 流石は幼い頃からの親友といったところか。バスクはカナトのほんの少しの変化で、彼が沈んでいることを見抜いてしまった。

 

「い、いや。そんなことないよ?」

「そんぐらいで騙されるかってーの。なんかあったのかよ。な、話してみろ? パーっと話せば少しは楽になるかもしれないぜ?」

「バスク……」

 

 親友のその一言は大きかったらしく、カナトはポツリポツリとこれまでの出来事を話し始めた。バスクはカナトの話の所々で驚きつつも、最後まで黙って真剣に聞いている。

 

「というわけなんだ」

「なるほどな。つまりカナトは、俺をやったその天狼竜に一矢報いようとしたわけだ」

「うん」

 

 バスクはうんうんと首を縦に振りつつ続ける。

 

「だが、その天狼竜は思っていたよりもずっと強くなってて、自分じゃ到底敵わないと思ったと」

「うん」

「それでちんたらしているうちに、天狼竜の狩猟は禁止になった。もうやり返すことは出来ない。どうしよう? ってわけだな」

「うん」

「お前はバカか?」

「うん……え?」

 

 突然バカにされて、思わず下げていた頭を上げたカナト。顔を上げた先には、眉間にシワを寄せたバスクがカナトの顔をじっと見つめていた。

 その顔を見てカナトは気付く。これはバスクが怒っている時にする顔だと。

 

「いつ誰がやり返して欲しいって言ったよ。え? そんなことを頼んで、もしお前らが俺と同じ、もしくはそれよりひどいことになってたら、俺はなんて思うと思ったんだ?」

「そ、それは……でも!」

「そもそもだ!!」

 

 言い返そうとしたカナトの言葉を、声を大にしたバスクのそれが阻んだ。

 

「ハンターがモンスターにやられて怪我をしたり、再起不能になるって話は日常茶飯事だろ。なのにやられた奴の仲間が毎回毎回復讐なんて考えてみろ? 全てのハンターが復讐目的で仕事をする様になっちまうぞ。ハンターはそんなことのためにあるんじゃねぇ。そうだろう?」

 

 バスクの至極真っ当な指摘に、カナトは言葉を失ってしまう。確かにハンターが復讐に走るのは良くないこととされている。ハンターは殺戮者ではないからだ。

 傷ついたり、死んでしまう覚悟のないものは、決してハンターとして大成することは出来ない。

 

「俺は復讐なんぞ望んでねぇ。あのジンオウガに思うところが無いわけじゃないが、それは俺の実力不足。その現実を甘んじて受け入れることにしている。だからカナト。俺のために無茶だけはするな」

「バ、バスク……ごめん……っ! くっ、うぅ……」

 

 そんなバスクの厳しくも優しい言葉をかけられたカナトの目から涙が溢れる。勝手に思い込んで突っ走った結果、ただバスクに心配をかけ、申し訳ない気持ちでいっぱいになったからだ。全てが空回りになっており、気持ち的にも沈んでいたため、バスクの言葉はカナトの心に深く響いたことだろう。

 

 人目を憚らず泣きじゃくる親友のことを、バスクは彼が泣き止むまで優しく見守っていた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「落ち着いたかよ?」

「うん……ありがとうバスク」

 

 ようやく泣き止んだカナトの頭を、バスクはわしゃわしゃと無造作に撫でた。

 

「それにしても、俺がやられたことに怒って我を忘れるとか! カナトがそこまで俺のことを思ってくれてたなんて……感激だぜ!」

「え? バスクまさかあなた……」

 

 そっちの方(・・・・・)に気があるのかと思い、エリンは若干バスクから距離を取った。

 

「いやそういう意味じゃねーよ! おい引くな!!」

「ぷっ……あはははは!」

 

 バスクの慌てっぷりを見て、思わず大笑いをするカナト。そんな彼を見て、エリンは安心したように小さく息を吐いた。間近で彼の暴走を見ていた彼女は、実は結構心配していたのだ。このままカナトが壊れてしまうんじゃないかと。その心配はなくなったようだが。

 

「んで、お前らこれからどうすんだ? 任務ってのは終わったんだろ?」

 

 そうバスクが聞いてきた。ひとしきり笑ったカナトは、ぎゅっと顔を引き締めて答える。

 

「僕は、強くなる。今よりももっと」

「おいカナト、お前……」

「ううん、違うよバスク」

 

 バスクはまだあのジンオウガを諦めてないのか、そう思ったがどうやら違うようだ。

 

「次は守れるように。どんなことがあっても、もう大切なものを失わないように。僕は強くなる。手が届く範囲だけでいい。守るんだ、絶対に」

「カナト……いいじゃねぇか!」

 

 カナトの『覚悟』にバスクは嬉しそうにニッと笑った。

 

「エリンも付き合ってくれるかい?」

「ええ、勿論よ。私だって強くなる。二度と誰かさんが暴走しないように、ね?」

「エリン〜!」

 

 からかうように片目をつむりながら顔を向けてきたエリンに、カナトは抗議の声を上げる。

 

「がははは!! 俺も応援してるぞ。カナト、エリン、頑張れよ!!」

「「ああ(ええ)!!」」

 

 こうして、カナトとエリンの特訓の日々が始まった。翌日再会したティナに正式に弟子入りを頼み、彼女の元で毎日訓練に励んでいる。

 しかし例の如く地獄の訓練そのもので、何度も気絶してぶっ倒れているとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第23話.凶兆

 ハンター達との邂逅から2週間ほど経っただろうか。最近火山の様子がどうもおかしい。なんか殺気だってるというか、ギスギスしてるというか……ともかく居心地が悪いんだ。気のせいか空気もどんよりしてる感じ? 何かよくないことが起きてるんじゃねーだろうな? 

 

 それにこないだ見てしまったんだよな。ティガレックスとウラガンキンが、激しく戦っているのを。いやまあモンスターどうしが戦うなんてことは珍しくもなんともないし、それ自体は普通なんだが……あいつらの行動は常軌を逸していた。

 おそらく縄張り争いをしていたんだろうが、お互いに一歩も引かないのだ。しかもその具合がやばい。ティガレックスは翼膜というか前脚が再生不可能なほどボロボロだったし、ウラガンキンは顔の右半分が削れてなくなっていた。それなのに、お互い戦うのをやめないのだ。逃げる素振りなど微塵も見せないまま、結局彼らは死ぬまで争っていたのだった。

 

 あの光景を見た時、寒気が走ったね。明らかに異常な行動。それも確実に我を失っていただろう。

 確かゲームのモンハンでもこんな事件があったよな……あ、そうそう。4で出てくる狂竜ウイルスだ。ムービーでイーオスが明らかに格上なジンオウガに向かっていくシーン。先の2体の戦いは、このムービーから感じられる狂気が伺えた。

 

 まさか本当に狂竜ウイルスが蔓延し始めてるのか? だとしたら俺もやばいかも知れん。なるべく早めに火山から立ち去るべきか……? 

 

 と考えていた時だった。不意に背後から強烈な殺気を感じ、咄嗟にその場から飛び退く。数瞬後、先ほどまで俺がいた場所に何かが飛び込んできたと思ったのも束の間、地面が吹き飛ぶほどの大爆発が巻き起こった。

 モクモクと立ち昇る砂煙が晴れるとそこには奴がいた。特徴的な前足と頭を持ち、その圧倒的戦闘力でいく人ものハンターを葬ってきた獣竜種。そう、砕竜ブラキディオスが耳をつんざくほどの咆哮をあげながら、クレーターの中心に立っていた。

 

 ブラキディオスだと……火山地帯で一番当たりたくないモンスターと出逢っちまったようだな。ブラキは火力も高いし防御も硬い。こりゃ苦戦必至か? とはいえ……

 

 そう思って今一度ブラキディオスの方に向き直る。地面にクレーターを作ったやつは、何をとち狂ったのかその場でジタバタと暴れ始めた。目の前が見えてないかの如く、手当たり次第に暴れまわっている。

 そう、やつの様子がおかしいのだ。控えめに見ても、薬でイッちまった奴のようにしか見えない。

 

 こりゃあ、本格的に狂竜ウイルスの線が濃厚になってきやがったな。狂竜ウイルスで狂ってしまったと考えれば、色々辻褄が合う。火山の様子がおかしいのも、やはりこれが原因で間違い無いかもな。

 とはいえとりあえずはこのブラキディオスだ。放っておくと何をしでかすか分からないし、ここで倒しておくのが俺からしても、火山の連中からしても無難だろう。よし、やるか!! 

 

 雷光虫を呼び寄せて電力をチャージ。超帯電状態に移行する。そして雷光虫から得た電力を惜しまず使って、そのまま真帯電状態まで移行した。

 純白の鱗に緋雷を纏い、全ての帯電殻が展開していく。帯電殻の裏にある電気を溜める器官から光の粒子が立ち上り、刃尾の刃の部分が蒼色に発光する。

 これが古龍の力を手に入れた俺の最強形態である真帯電状態の姿だ。これでも龍脈の力は使っていないのだ。見た目の変化は今はどうでもいいか。

 

 暴れ回るブラキディオスは近くで大放電をした俺に気づいたようで、ギョロリとその目をこちらに向けてきた。そこで初めて気づく。やつの目が紫色に怪しく染まっているのを。狂竜ウイルスの線が濃厚になったな。

 こちらを視認したブラキディオスは、狂ったような雄叫びを上げながらがむしゃらに突撃してきた。その動きは単純にして明快。余裕で回避することができるだろう。

 現にその場を飛び退くことであっさりと回避できた。しかしその後に俺は目をむくことになる。ブラキディオスが拳を地面に叩きつけたんだが、明らかにその威力がおかしい。振りかぶってもないパンチとそれに伴う爆発だけで、地面に深々と穴が空いたからだ。

 

 なんだあの馬鹿げた威力は!? 確かに狂竜化すると身体能力が上がるって話だったが……だとしてもおかしいだろ! 

 

 あれはもう身体能力が上がるとか、そういう次元の話じゃない。脳のリミッターを外すどころか限界突破させて、攻撃力を上げているとしか思えない。確かに威力は上がるが、そんなものは自殺行為だ。行動一つ起こすたびに寿命が縮まっていると考えてもおかしくはない。

 本当はやつもさぞかし苦しんでいるのだろう。だがウイルスがその感情を殺して、破壊行動を続行させているのだ。

 何という酷いことを……! 

 

 地面に埋まった拳を引き抜いたブラキディオスは、ゆっくりと此方に振り向いた。そして次の瞬間、両足にグッと力を入れてジャンプをしながら飛びかかってきた。

 確かにあの拳に当たれば今の俺でさえ無事ではいられないだろう。だが、そんな知略も戦略もない攻撃が当たるわけもない! 

 飛びかかってくるブラキディオスを、体を引いてその身を低くすることで躱す。そしてすれ違いざまに、半身回って刃尾で腹を深く切り裂いた。剣道でいうところの、カウンター技のようなものだ。

 相手の勢いも利用して叩き込んだそれは、ブラキディオスを戦闘続行不可能にするほどの傷を負わせたはずだ。しかし、脳のリミッターが壊れているブラキディオスは、この程度では止まってくれなかった。

 

「ォォォォオオオオオアアアア!!!」

 

 恐怖心を掻き立てるような悍しい雄叫びを上げながら、腹から贓物が飛び出ているのにもお構いなしに向かってくる。その目はより狂気に染まり、怪しく紫色に輝き出していた。

 

 命の冒涜。ふとそんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 苦しいだろう……せめて一思いに楽にしてやるよ。

 

 龍脈の力を解放する。その瞬間落雷の如き放電が迸り、世界を赫に染め上げた。纏う緋雷はその電量を増し、オーバーヒート寸前の炎の様に煌々と光を発している。緋色に光る雷光虫が、激しく渦巻く炎の様に周囲を飛び回り始めた。

 龍脈で強化した真帯電状態。赤とオレンジの炎を纏っている様なその見た目から【炎雷状態】と名付けていたものだ。

 

 半狂乱で走ってくるブラキディオスに対して、俺は口をガパリと開いた。口内に収束されていくのは、真っ赤な真紅。徐々に膨張していくエネルギー塊は、軋みを上げながら真紅の光を放つ。

 そして臨界点に達したそれを一気に解き放った。解き放たれた赤き稲妻は、一条の光となってブラキディオスの体を飲み込む──

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………

 

 炎雷状態を解除した途端、俺は地面に倒れ込んでしまう。あの状態は消耗が激しいので、使った後はいつもこうなってしまうのだ。

 

 しかし今は疲れている場合ではない。問題は狂竜ウイルスと思われるものについてだ。ブラキディオスは最後のブラスターで消し飛んでしまったから確認が取れないが、やっぱりあれは狂竜ウイルスと見ていいだろう。不可解なのは、狂竜ウイルスにしてはやつから感じた狂気が凄まじかった点だ。

 狂竜ウイルスの実物を見たわけじゃないから何ともいえないが、ブラキディオスを蝕んでいたものは、狂竜ウイルスより厄介なものの気がしてならない。狂竜ウイルスはシャガルマガラが原因のものだが、もっと別の……シャガルより強大な何かがある様な気がするんだよな。まあ憶測でしかないが。

 

 何より許せないのは、その強大な何かが命を弄んでいること。無理やり脳のリミッターを外して、その上で上限以上に力を引き出すとか、全く反吐が出るぜ。命を道具か何かと思っている奴が、この世界にいるかもしれないってことだ。もしかしたら次は自分の身に何かあるかもしれない。用心しなければ……

 一回渓流に戻るべきかもしれんな。俺の第二の故郷である渓流が、ウイルスに汚染されるのは我慢ならないので。

 

 よし、そうと決まれば早速渓流に帰るとしますか! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第24話.帰還

 火山を後にした俺は、のんびり気ままに渓流への道に歩んでいた。ウイルスのことは心配だが、残念ながら俺にウイルスを根本からどうにかする力はない。どういう症状かは知ってるから、せいぜい拡散を防ぐぐらいだろうか。一応あれから毎日ウチケシの実を食べるようにしてるし。

 

 そういうわけだから、のんびり進んでいるわけ。この世界に来た第一目的は、自由に生きること。この頃戦闘ばかりであんましこの世界をよく見れて無かった。それはあまりにももったいない。強くなるために戦闘を重ねることは大切だが、それで生き急いでいては本末転倒だしな。たまには戦闘のことは頭の隅に置いといて、観光気分で歩いてみても文句はないだろう。

 

 のんびりじっくりこの世界を歩いてみて分かったことだが、まず空気がうまい。これは当たり前か。前世の地球は排気ガスやら何やらで汚染された空気を吸ってたわけだし。それに比べてこの世界は排気ガスなんてものはないのだろう。普通に歩いていても、まるで深い山の中の空気のように澄んでいるのだ。

 

 後は多分だけどこの世界というかこの星、地球よりかなりデカい。前にとてつもなく大きい湖に立ち寄ったことがあるんだが、その時見えた地平線の湾曲具合が地球とは比べ物にならないぐらい水平に近かった。これだけで考えても、この星がデカいというのが想像できる。

 だけどこれも当たり前かもな。だった考えてもみろ? この世界はモンスターという巨大生物が至る所に存在するんだぜ? もし地球と同じぐらいの星だったら、すぐさま土地が足りなくなり、生前競争の果てにモンスターは絶滅するかもしれない。かつて地球にいた大型生物たちのように。それがないってことはモンスターが沢山いてもなお余る土地があるに違いない。

 そう考えると俺が旅してきた道も、この世界のほんの一握りなんだろうなぁ。なんだかワクワクしてくるなぁ。まだ見ぬこの世界の全てを、いつかはこの目に焼き付けたいものだ。

 

 

 そうして歩くこと数週間。特に変わったこともなく俺は砂原付近まで戻ってきていた。照りつける太陽の日差しも、焼けるような砂漠の砂の暑さも、なんだか懐かしく感じる。

 

 ついにここまで戻ってきたか……思えば砂原ではいろいろなことがあったよな。特に古代竜人と会ってなければ、今でも俺は怒り状態の問題を抱えていたかもしれん。もしそうだとしたら、いつか俺は完全に化け物へと変貌していたかもしれないな……それにアイツからはいろいろなことを教わったし、今度あったら改めてお礼を言わなくちゃいけないな。

 

 そう考えながら歩いていると、前方に見たことのあるシルエットが浮かんできた。あれは……あの時のアイルーじゃないか! 

 久しぶりの再会に嬉しくなった俺は、竜車に乗ったアイルーに駆け寄っていく。しかしそれが不味かった。当然だろう。相手からしたら見たこともない真っ白なジンオウガが、自分の方に向かって走ってきているのだから。普通に怖いわ。

 

「ギニャァァ!! な、なんかわからないモンスターがこっちきてるニャ!?」

 

 あ……そういやそうだった。俺ってばあの時からだいぶ見た目が変わったんだった。

 

「落ち着け! 俺だ俺。前に世話になったあのジンオウガだ!」

「ニャニャ!? 喋るジンオウガ……あぁ、あの!」

「グワァ!?!?」

 

 どうやら思い出してくれたようだ。安心したぜ。若干一体安心できてない奴がいるようだが、ここは我慢してもらいたい。

 

「久しぶりだニャア。こっちは変わらずだけど……そっちはだいぶ変わったようだニャ。こりゃ、暴れるニャ!」

「すまんな。こんなに間近にジンオウガがいたら、ガーグァからしたら怖いわな」

「気にしないで欲しいニャ。こいつってば少し臆病なところがあるから……おっとと」

 

 暴れるガーグァから落ちそうになりながらも、アイルーはそう言って笑ってくれた。あ、今半分落ちかけたぞ。マジですまん……

 

 それから俺たちはこの数ヶ月の間にあったことを話し合った。アイルーたちは、俺がハプルボッカを倒したことによって、交易がしやすくなったと喜んでいた。砂原に住むアイルーからしたら、森や海の資源が無くなると辛いんだとか。あとあのハプルボッカは人間の竜車も襲っていたらしく、俺は知らぬ間に砂原の安全を守ってしたらしい。

 俺の方はいろいろ噛み砕いて伝えたが、キリンに出会ったことには驚いていたな。やっぱ真龍が住処を離れて行動するのはほぼないことらしい。そりゃそうだよな。あんなのがうろちょろしていたら、安心して生活できないってもんだ。

 

 あと収穫もあった。あの白い装備の太刀使いの少女のことだ。このアイルーの集落には、昔オトモとしてハンターと共に行動していたアイルーがいるそうで、そいつから聞いた話なんだと。

 なんでも、彼女の名前はティナ。12歳でハンターになった天才少女で、14歳で人類史状初の古龍の単独討伐に成功した英雄らしい。

 古龍の単独討伐って……化け物か何かですか? 俺が会った真龍であるキリンよりは格下の古龍なんだろうけど、それでもあの規格外の存在を人間の身で、それも1人で討伐するとか……話を聞いただけなら絶対信じられないだろうな。でも実際会ったから分かる。あのそこしれないエネルギー。彼女ならあるいは、そう思わせるだけのものがあった。

 

 これはいよいよ彼女とは何があっても敵対するべきではなくなってきたな。流石に今の俺では勝てる要素が皆無だし。というか本当にティナは人間なのか? 実は古龍が人間に化けてるだけなんじゃ……なーんて、そんなことあるわけないよな。もし人化できたとしても、古龍が人間に味方する理由がないし。

 

「狂竜ウイルスかニャ? いや、聞いたこともないニャア」

「そうか……でも気をつけてくれ。アレは生物なら何にでも感染する厄介なものだ。アイルーにも影響がないとは言い切れない」

 

 念のため狂竜ウイルスのことも聞いてみたが、残念ながら知らないようだ。どうやら長いこと狂竜ウイルスが流行ったことはないみたいだな。となると、休眠期に入っていたゴア・マガラが活動を始めたのか……? 

 とりあえずアイルーにはウチケシの実を集めておくよう言っておいた。仲良くなったアイルー達がウイルスにやられるのは、後味悪いし我慢ならないしな。

 

「じゃあ俺はいくよ」

「渓流にも仲間達はいるニャ。何か用があったら、彼らのところを尋ねるといいニャ」

「分かった。じゃあ達者でな!」

「お世話になったニャー!」

 

 そうしてアイルーと別れた俺は、渓流への道を進んでいくのだった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 ついに……ついに帰ってきたぞー!! 

 

 砂原を出てから随分経ってしまったが、ようやく渓流に帰ってくることができた。久々に見る渓流はどこも変わった様子はなく、火山のようなギスギスした感じもない。どうやら狂竜ウイルスの影響は、ここには及んでないようだ。ひとまず安心安全。

 

 とりあえず一直線に家に来たわけだが、エリア9にあるこの家もだいぶ狭くなっちまったな。それだけ俺が大きくなったということなんだろうけど。一応新しい住処についても検討してみるとするか。ハンターを避けるためにも、もっと森の中に住処を作ってもいいかもしれん。

 まぁそれは置いておくとして、今は飯だ! 旅先ではあんまりガーグァを食べられなかったからな。やっぱガーグァの肉が一番旨いんだよ。早速狩りに行こう。

 

 

 

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 渓流のエリア1。ガーグァがよく休んでいるその場所で、俺はそこに広がる光景に驚いて立ちすくんでいた。

 エリア1はすでにガーグァの血で真っ赤になっていたのだ。そして宙を舞う無数の雷光虫。その中心に立っているのは……

 

「「アオオォォォォーーーーン!!」」

 

 2匹の雷狼竜。この世界に来て初めて出会った俺以外のジンオウガが、高らかに遠吠えをしていた。

 

 

 

 

 




今回で成長編は完結となります!

ここでお知らせなのですが、次の章のプロットを練るため2週間ほど投稿をお休みさせて戴きます。完成し次第バシバシ投稿していきますので、銀滅龍の次章をお楽しみに!


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雷狼の里編
第25話.side???


お待たせしました。新章突入です!
リメイクするにあたり、一番書きたかった章なんですよね。


「死んだ……?」

「ああ……息子は交通事故にあって死んだ。今までせがれと組んでくれてありがとな。葬儀についてはまた後日。それじゃあ俺は行くから……」

 

 そう言って家から出ていった義父さんの背中は、酷く悲しいものだった。いつもおちゃらけた調子で私たちをからかってくる彼の姿は、どこにも感じられない。そしてそれは私も同じだった。

 

『彼』が死んだと聞かされた時、私の心に満ちたのは無。悲しみも、苦しみも何もない。完全な無。感情が死んだと言っても過言じゃないかも。

 ただ一つだけ心に到来した思いは、自分の生きる意味が無くなったということ。『彼』がいなければ自分が存在している必要はない。それだけ『彼』の存在は私の中では大きかった。

 

『彼』との出会いは忘れもしない7年前のこと。私は犯罪組織が手がける、暗殺者を子供のうちから育てるという計画の元攫われた子供の1人だった。

 目の前で両親を殺された私は、当時感情が完全に死んでしまっていて、考えることもやめたただの人形のような存在だった。そんな私は犯罪者達にとっては都合のいい存在だったみたいで、積極的に隠密技術を叩き込まれていった。人形だった私はそれを余すことなく吸収し、犯罪者達の思うように動くロボットと化していた。

 

 そんな時に現れたのが『彼』だった。政府の要請で犯罪組織を壊滅させるために動いていた『彼』は、私がいた施設の要人達を全員暗殺して、実質的に私のことを助けてくれた。でも『彼』にはそんな気はなかったみたい。初めて会った時、『彼』はこう言ってた。

 

『逃げたければ勝手に逃げろ。ただし俺の邪魔はするな』

 

 今考えると、結構ひどいことを言っていたと思う。でも感情を失っていた私は、特に何を思うわけでもなくその場を後にした。そして森を彷徨っているうちに、『彼』の所属するチームの仲間に拾ってもらった。

 

 身寄りのなかった私は、暗部という政府組織の一員となって過ごすことになった。犯罪者達のせいで変に隠密技術が高かったから、成り行きで『彼』とペアを組まされることになったの。

 幼い頃から訓練をしていて感情が乏しい『彼』と、精神的ショックで感情を失っていた私。変なところで似ている私たちは、初めは会話を交わすこともなく任務をこなしていった。黒狼と呼ばれていた『彼』の暗殺技術は凄まじく、圧巻の一言だった。そんな『彼』にしてあげられることは、盗聴やスパイと言った情報収集の面だけだったな。

 私たちは年が同じということもあり、次第に打ち解けあっていったの。初めは些細な会話から。徐々に日常会話のレベルまで。『彼』は次第に感情豊かになり、私も起伏は小さいけど感情を取り戻したと思う。

 

 そうして一緒に生活していくうちに、私はこう思っていた。この人の為に私の人生を捧げよう。何もない私に唯一残されたこの命で、この人を一生支えていこうって。

 

 

 

 そんな『彼』が死んだ。私の生きる導だった『彼』が……私の心は再び無に戻った。何も感じず、何も考えず。

『彼』の葬儀が終わってからはそれがより顕著になった。完全に死んだ目で組織の集会に出たときは、お化けかなんかと勘違いされたほど。そして感情も思考も死んだ人間がそう長く生きられるはずもない。実際私が自ら命を断つのに、さほど時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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 気づけば真っ白な空間にいた。左右上下全てが白い空間だ。そんなところにいても、私の心が何かを感じることはない。たとえ目の前に白いワンピースを来た少女が突然現れても、驚くことすらなかった。

 

「うーん。今度の人は自殺者かー。自ら命を断ったのなら、転生の望みは薄かなぁ」

 

 少女が何かを言っている。私には関係のないこと。早く楽にしてほしい。私はもう何もしたくない……

 

「プロフィールは……また(・・)地球の人だね。この間のトラックに轢かれた少年(・・・・・・・・・・・)といい、この世界から魂が流れてくること多いなぁ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私の心に一点だけ炎が宿った気がした。

 

「今……なんて? トラックに轢かれた……少年?」

「え? ああうん。ちょっと前に導いた魂なんだけどね? 面白い子だったんだよー。いきなり拉致がどうこうとか言ったり、私をみて驚くどころか戦闘態勢を取ろうとしてね? いやー、あんな人間そうはいないよ!」

 

 そう言ってケラケラと笑う彼女だったが、私はそれどころではなかった。私の中でカチリとピースがハマったような音がする。もしかして、とそんな思いに駆られて、私は目の前の少女に質問を繰り返した。少年の容姿、立ち振る舞い、態度、言葉使い。全てを聞いて確信した。『彼』だと。

 

「それで、彼はどうなったの?」

「君、なかなか質問攻めがすごいね……」

 

 凄まじいまでの質問攻めを受けた彼女が疲れたような表情を浮かべたが、今は無視する。

 

「答えて」

「はいはい、分かったから落ち着いて? 彼は転生に応じて第二の人生を歩むことを決めたよ。今頃新しい生を満喫しているんじゃないかな」

 

 転生。その言葉には少し覚えがあった。『彼』が生前読んでいた書物に、転生を題材にした話が沢山あったから。確か……ラノベとか言ってたっけ? あんまり興味がなくて私は読んでなかったけど、知識ならある。

 

「私も転生したい」

「おぉう。聞く前から答えが帰っきちゃったよ……それはありがたいことだけど、行ける世界はこちらが決めさせてもらうよ?」

「その少年と同じ世界なら、問題はない」

「分かった。そっちがその気ならこちらとしても問題ないよ。彼と同じ世界に送ってあげよう」

 

 小さく灯った心の炎が、激しく燃え上がるのを感じる。止まっていた私の中の時間が動き出した。『彼』にまた会える。自然と笑みが浮かんだ。

 

「それで、転生先は何がいいかな?」

 

 転生先。確か転生というのは新たな生を受けて生まれ変わることだったはず。だったらこれも決まっている。

 

「彼と同じもので」

「彼と同じ、ね。あの子はジンオウガって言う四足歩行型の大型モンスターに転生したんだけど……分かるかな? ジンオウガ。まあともかく、人間とはかけ離れた怪物に変わりはない。本当にいいのかな? 人間の姿を捨て去って、モンスターとして生きる覚悟はある?」

 

 ジンオウガという言葉を聞いて、私の心には懐かしさが到来していた。『彼』と私はあまり趣味は合わなかったけど、数少ない合った趣味の中の一つがモンスターハンターだった。『彼』の家に居候していた私は、暇なときはよく『彼』と一緒にモンハンをしていたものだ。

 それにしてもいくらモンハンが好きだからって、ジンオウガに転生するなんて。ふふっ、キミらしいね。

 

「覚悟は出来てる。なんの問題もない」

「その目……本気みたいだね。分かったよ、君をジンオウガとして転生させてあげよう」

 

 そうして彼女は片手を前に出し、何かを念じるように目をそっと閉じた。すると彼女の手から光る鱗粉のようなものが出現し、私の周りを取り囲み始める。やがてそれらは一つにまとまり、私の中に吸い込まれていった。

 

「これは?」

「ちょっとしたおまじない。転生する君へ私からのささやかなプレゼントだよ。向こうであの子に会ったらよろしく言っといてね」

 

 次の瞬間、身体が光に包まれた。徐々に意識がなくなっていくのが分かる。けどそれは嫌な感じじゃなく、どこか暖かい気がした。これが転生……

『彼』にまた会える嬉しさを噛みしめながら、光の中で私は目を閉じた。

 

 

 

 

 




新たなヒロインの予感……
一つ言っておきますが、彼女はヤンデレではありません。


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第26話.雷狼の里

オウガさんの今の見た目としては、極み吠えるジンオウガの黄色い甲殻が白くなっている姿を想像していただければかなり近い姿になると思います。


「「アオォォォォーーーーン!!」」

 

 間違いない……ジンオウガだ。しかも2体。前に渓流にいた頃は一回も見たことがなかったんだが。獲物が少なくなってここまで出てきたのか? それとも……

 目の前に自分と同じ存在があることにひどく驚いてしまった。驚いたからと言って取り乱したりはしないが、それで奴らから隠れられているとも思わない。ジンオウガというのはぶっちゃけ隠れるのに向いてないのだ。流石は無双の狩人。隠れず堂々と獲物を仕留めるってか? 

 

 閑話休題。現に目の前の2体のジンオウガは、俺が隠れている茂みの方をじっと見つめている。時折低く唸っているところを見るに、警戒しているのだろう。時折お互いの目を見合っては何かを確認しているような仕草を見せるところから、この2人は仲間か?

 これ以上隠れても無駄だと感じた俺は、ゆっくりと茂みから出て行く。自分より一回りも大きく色も違うジンオウガが出てきたことに驚いたのか、一瞬奴らの動きが止まった。が、すぐさま警戒態勢をとりこちらに隙を一切見せてこない。成る程、なかなか場馴れしているようだ。

 

 これは手強そうな相手だな……そう思い、密かに電力を溜め始めたその時だった。

 

「お前、何者だ?」

 

 なん、だと!? 今、確実に奴が言わんとしていることが分かった。勿論本当に喋った訳ではない。ただ奴の身振りや唸り声を聞いていた結果、何を言っているのかが分かった。というところだろうか。

 そういえば前世で犬や猫はお互いにコミュニケーションを取れる、というのをテレビで見たような記憶がある。確か……カーミングシグナルとか言ったような気がする。もしかするとこれの一種のようなものだろうか? 今まで沢山のモンスターを見てきたが、こんなことはなかった。同じジンオウガだから、喋れずとも意思を伝えることが出来るのだろうか? 

 

「何者だ、とはどういうことだ?」

「あぁ!? テメェみたいな見た目の()は見たことねーんだよ! だから何者かって聞いてんだろーが!」

 

 初めに話しかけてきたのとは別のジンオウガが、まるでヤンキーかなんかのように絡んできた。何者かって聞かれてもなぁ。

 

「俺はジンオウガだが」

「ジンオウガ? ……あぁ、そういえば人間たちは我らのことをそう呼んでいたな。自らを人間が勝手に付けた名で名乗るとは、とんだ恥さらしめ」

 

 妙に上から目線でそう言ってくるのは、最初に話してきたジンオウガ。てか全員ジンオウガっていうのもめんどいな……よし、絡んできた方をヤンキー、上から目線の方を堅物と呼ぼう。

 

「それに貴様が我らと同じだと? その色合い、異形な尾。あり得ないにも程がある。ふむ、成る程な。貴様は奇形児に生まれ、異端として親に捨てられた。だから群れにも入らず、1人でうろついているのだな?」

 

 おいおい堅物さんよ。あんまり勝手に決めつけてくれるなよ……それに随分な言いようじゃねーか。あんまり煽られるとぷっつんいっちゃうよ? 

 

「はっ! 図星を突かれてお怒りってか? かわいそうだねー。親に捨てられた坊や?」

 

 ヤンキーが煽る。堅物も一見冷徹に見えるが、その目の奥には蔑みの感情が見て取れる。え? なんなの? なんで会ったばかりの奴らに、一言喋っただけでこんなにバカにされなきゃいけないの? 流石に堪忍袋の尾が切れた。少し痛い目にあってもらわねーとなぁ!! 

 

 超帯電状態に移行。生み出された衝撃波がエリア1に流れ出ている水を全て吹き飛ばした。

 

「なに!?」

「はぁ!?」

 

 突然超帯電状態になった俺を見て、2人も焦って雷光虫を集めようとする。だが、無駄だ。俺はこの場にいる全ての雷光虫に指示を出し、全員が俺の元に来るよう誘導する。雷光虫の本来の目的は自衛。だったら彼らより強い俺に集まるのは当然だよなぁ? 

 

「何故だ! 雷光虫が集まってこぬ!」

「くそガァ! テメェなにしやがった!」

 

 堅物とヤンキーが何やら騒いでいるが、すでにぷっつんいってる俺の耳には入らない。ただ少々煩かったので、一言だけ言った。

 

「黙れ」

 

 その一言から何かを感じ取ったのか、2人はピタッと騒ぐのをやめた。先ほどよりより激しく警戒心を抱いているようだ。恐らく2人は気付いていないだろうが、僅かに足が震えている。心では否定しても、本能が感じ取ったのだろう。俺と奴らとの力の差を。

 それを見た俺は超帯電状態を解除した。途端に放っていたプレッシャーが消え、2人がドサっと座り込んでしまう。相当緊張していたようだ。

 

「分かったか? 力の差ってやつが」

「くっ……」

 

 どうやら落ち着いてくれたみたいだな。久々にぷっつんきてしまったが、初対面の相手に舐められたんだからしょうがない。うん。結果的にマウント取れたしOKです! 

 

「それで、お前らはどこから来たんだ? 前までこの辺には居なかったよな?」

「いうはずねーだろ!」

「ほう……?」

 

 ヤンキーがまだ抵抗する意思を残していたので、濃密に練り上げられた殺気をヤンキーに放つ。途端にヤンキーはぶるぶると身を震わせて黙ってしまった。

 

「で?」

「チッ、分かったから許してやってくれ。縄張りを荒らされてイラついてたんだ。早とちりしすぎた」

 

 どうやら堅物は話のわかるやつのようだ。堅物が認めたからか、ヤンキーも渋々謝ってきた。堅物の方が奴らのコミュニティー内の位は上なのだろう。

 

「我らは『雷狼の里』からやってたものだ」

「雷狼の里……?」

「そうだ。我ら狼が暮らす場所。いわば集合住処といったところか」

 

 雷狼の里! そんな場所があったなんてな。そういえばジンオウガは深い森の中で群れを作って子育てをするんだったか。興味が出てきたな。1人で毎日過ごすのも少々寂しいし、同胞たちがいるなら仲良くなっておいて損はないだろう。

 

「ふむ、そこに案内してくれないか?」

「……いいだろう」

「おい、いいのか!? こんな得体の知れない奴を、俺たちの群れに連れてっても!」

 

 ヤンキーが何やら焦っているようだな。先ほどの殺気を浴びて、俺が只者ではないとでも思ったのだろうか。

 

「強い個体に従うのが我ら狼の掟。忘れた訳ではあるまい。あやつは力を示した。強者の力を」

「クソ!」

「ついて来い。里に案内しよう」

 

 そう言って2人のジンオウガは、渓流とは真逆の方向に歩き出した。どうやら本当に森の中に、その雷狼の里とやらはあるらしい。とりあえずついて行ってみるとしよう。

 

 

 

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「なあ、あれって霊峰か?」

 

 俺の目には遠くにそびえる山が写っている。上に行くほど細くなるその円柱状の山は、雲に隠れてその頂上を拝めないほどに巨大だ。

 

「霊峰は知っているのか。そうだ。あれこそ我ら狼の聖地たる霊峰ハクサン。この広大な森に住む無数の狼の群れは、どいつもこいつもあそこを自らの縄張りに入れようと日々争っているのだ」

 

 ほへー。あの霊峰って名前があったのか。ハクサンねぇ、前世にもそんな名前の山があったような……まあいいか。それより気になるのは、無数の狼の群れというところだ。

 

「この森には他にもジンオウガの群れがあるのか?」

「そうだ。大小様々な群れが存在している。この森はとても広大だ。我ら狼以外の大型生物も多く生息しているのだ。中でも我らが雷狼の里は、勢力縄張り共に最大クラスよ」

 

 成る程なぁ。エリア9の裏手に森が広がっているのは知っていたが、そこまで巨大だったとはな。確かここはドンドルマがある大陸とは別の大陸だったよな。まだ人の手がほとんど及んでないのだろう。

 それにしても日々争っている、ね。こりゃあ安息の地にはなり得ないかもなぁ。毎日争いが起きているなら、ドンドルマがある現大陸に渡るのもありか? それともいっそのこと、この森を併合してしまおうか……? なーんてな。流石にそれは俺でも無理だろう。ま、後のことは後で考えるとしよう。

 

「さて着いたぞ。ここが雷狼の里だ」

 

 堅物にそう言われて思考の世界から帰ってきた俺は、思わず目を見開いた。なんとそこはジンオウガだらけの場所だった。木の上で辺りを見渡している者、木の穴の中で寝ている者、広場でくつろいでいる者、全てがジンオウガだ。

 

 す、すげぇ!! 本当に雷狼の里じゃねーか! 見渡す限りジンオウガしかいない。本当に群れを作って生活してるんだな。あ、あそこにいるのはまさかジンオウガの子供!? か、可愛い……

 

 ジンオウガ好きの俺からしたら、たまらない光景だった。しかし向こうはそうは思ってない様子。いかにも戦えそうな奴らがゾロゾロとこちらに向かって歩いてきていたからだ。流石に白いジンオウガってのは目立ちすぎか? 

 

「長が通られます!」

 

 集まってきた奴らの1人がそう叫ぶと、サッと全員が左右に分かれた。そしてその間を通ってやってきたのは、通常のジンオウガより少し大きい俺より、さらに一回り大きい歴戦を感じさせるジンオウガだった。

 

 

 

 

 

 

 




主人公以外のジンオウガは喋っていません。オウガさんが彼らの身振りや唸り声、その声のトーンなどを見聞きして分析し、脳内で変換して会話を成り立たせています。彼らの口調はオウガさんの想像ですね。
コミュニケーションが取れるのは、ジンオウガ間のみです。


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第27話.長

アイスボーンにジンオウガ亜種登場決定、おめでとう!
あの画質でジンオウガだけじゃなく、亜種まで相手することができるとは、なんて嬉しいことなのでしょうか……!


 長とか言われていた奴が俺の目の前に立った。その時初めて気付いたんだが、こいつ極み吠えるジンオウガみたいな見た目してるな……体つきはとてもがっしりしていて、周りのジンオウガより明らかに格が違うのが分かる。目は鷹のように鋭く、眼光だけで人を殺せそうなほどだ。

 

「おい、こいつぁ何者だ?」

 

 暫くこちらを観察するような目で見ていた長は、俺の後ろに立っていた堅物に話しかけた。

 

「はっ。森外周で狩りをしていたところ出会いました。こんな見た目ですが自らを狼だと言っております」

「俺が聞きたいのはそこじゃあねぇ。何故うちの里に連れてきたかってぇことだ。まさか敗れた訳じゃああるまいな?」

「それは……」

 

 堅物は初めて戸惑ったように口籠っていたが、チラリと俺を親の仇のような目で捉えた後、意を決したように長に向き直った。

 なんだよその顔は。俺が何かしたってのかよ? 

 

「敗れた訳ではありません。しかし察してしまいました」

「何を?」

「自分では……逆立ちしてもこいつには勝てないと」

 

 堅物がそう言った瞬間、集まっていたジンオウガ達がざわつき始めた。あちこちで何か言っているが、いかんせんジンオウガの意思表示に慣れてない俺からしたら、いっぺんに大勢が話すと何を表現しているのか分からなくなる。

 

「静まれぇい!!」

 

 長がそう一喝しただけで、騒いでいたジンオウガ達はピタリと騒ぐのをやめて、再び綺麗に整列し直した。成る程、この里では長の命令は絶対だということか。

 

「勝てない、ねぇ。うちの一番隊隊長であるお前がかぁ?」

「はい」

「そうかそうか。くくく……ぶあっはっはっはっは!!」

 

 堅物が再度認めると、長は盛大に笑い始めた。しかしその笑いは嘲るようなものではなく、心の底から面白いと思っている者がする笑い方だ。

 てか一番隊隊長って、まじで軍隊か何かかよ。たしかに狼は群れで狩りを行う動物だったが……

 

「誠に天晴れ! まさかこいつに勝る狼がぁまだ残っていやがったとはなぁ。おいお前ぇ!」

 

 そう言って長が俺の目の前に立つ。その体から発せられる威圧感は凄まじく、今にも押し潰されそうなほどだ。だがそれぐらいで怖気ずくほど俺はやわじゃない。

 

「なんだ」

「肝も座っているときたか。ますます気に入ったぁ! よっしゃ、少し手合わせしてもらうぜぇ?」

 

 そういうや否や、長は雷光虫を集め始めた。あまりに突然の行動に、周りのジンオウガ達も狼狽えている。そんな中冷静さを保っていた堅物が、号令をかけた。

 

「狼狽るでない! 長のコレはいつものことだろう。総員散開!」

 

 堅物の号令で我に帰ったジンオウガ達は、素晴らしいほど迅速にその場を離れて遠くから俺たちを見れる位置に移動した。なかなか洗礼された部隊のようだな。

 

「どうしたよそ見なんかしてぇ! こちとらもうチャージが終わっちまうぞ!?」

 

 視線を戻すと、すでに長は薄らと帯電し始めていた。普通のジンオウガならば、今からチャージを始めても到底間に合わないだろう。普通のジンオウガなら、な。

 

「悪い悪い。あんまりにも超帯電状態になるのが遅いんでな。時間を潰してたんだ」

「何ぃ?」

 

 そう言って即座に雷電殻を起動させ、超帯電状態に移行する。一瞬でチャージが完了した俺を見て、長が少なからず驚いたのが分かった。そして距離を詰めるのにはその程度の隙があれば十分だ。黒曜石のような光沢を持つ爪で、袈裟懸けに斬りかかった。が、寸でのところで同じく爪による斬撃で止められてしまう。

 

「お前ぇ……今のは一体なんだぁ? チャージ時間ゼロで覚醒状態になるやつなんざ、見たことねぇ」

「それを素直に教えると思うか?」

「はっ! それもそうだなぁ!!」

 

 そう言って長は鍔迫り合いになっている爪にグッと力を込めた。思いのほかその力は強く一歩、また一歩と押し込まれてしまう。

 こいつなんて馬鹿力なんだ!? 自惚れかもしれないが、これでも俺はパワーには自信がある方だ。力比べで負けたことはほとんどない。だがこいつの力は今までのやつとは群を抜いて強い! 

 このままでは不味いと思った俺は、一気に力を抜いて長のバランスを崩しにかかった。案の定前のめりになった長の脇腹に、刃尾での強烈な斬撃を加える。浅くはない傷を負った長はバックジャンプで一旦距離を取った。

 

「おいおいマジかよ。この俺が先手を喰らっちまうとはなぁ。お前のその尾、一体どうなってやがんだぁ? 俺らのとは作りが違ぇな」

「そいつも秘密だよっと!」

 

 言いつつ雷光虫弾を4発放ち、俺自身もそれに合わせて疾走する。雷光虫弾は長の攻撃によって防がれてしまったが、距離を詰めることはできた。両前脚に雷をチャージし、いつもの落雷スタンプをくりだす。流石の長も不味いと感じたのか、受け止めるのではなく避けるのを選択したようだ。だが甘いな! 

 口をガパリと開いてそこにエネルギーをチャージ。ビームのように雷を発射した。これこそブラキ戦でも使った雷ブラスター。アグナコトルの能力を得て獲得した新たな技だ。

 

「グゥゥ!!」

 

 流石にジンオウガなだけあって雷耐性はアホほど高いな。だがブラスターに込めた熱や衝撃まではいなしきれまい。実際長は十数メートルほど地面を滑りながら後退した。

 

「はっは! やるじゃねぇかお前ぇ! 正直言ってみくびってたぜ。まさかここまで強いなんてなぁ。よし、その強さを認めてここからは本気も本気。ガチの状態で行かせてもらうぜぇ!」

 

 そう言って長はさらに雷光虫を呼び寄せていく。あの長の発言から流石に察した。やつは真帯電状態になろうとしている。

 長は俺の強さを認めてくれた。ならそれに答えて俺も全力で行かなきゃ失礼ってもんだろ! 

 

 俺も雷光虫を呼び寄せて真帯電状態に移行する準備を始める。青色に輝く雷光虫が辺り一面を飛び回り、幻想的な風景を生み出しているが、すでにヒートアップしてしまっている俺たちの視界には入ってこなかった。

 そして同時に鳴り響く2つの落雷。片方は澄んだ湖の如き蒼い雷を、片方は燃え盛る刧火の如き緋色の雷を。真帯電状態になった俺たちが生み出した衝撃波で草原の草がザワザワと揺れている。そして今まさに蒼と赫が激突しようとしたその時──

 

「そこまでぇ!!」

 

 先程避難の号令をかけていた堅物が、間に入って待ったをかけたのだった。その瞬間に俺たちの動きがピタリと止まる。見ると、お互いの顔に爪を突き立てる寸前だった。置き去りにされていた風が渦を巻くように激しく吹き荒れていく。

 

「いいとこだったのによぉ。なんで止めた?」

 

 不満そうに長が堅物のことをジロリと睨む。

 

「強いものを見つけたらすぐさま飛びかかる貴方のその癖……どうにか出来ないのですか? これ以上暴れられると里への被害がひどくなるので止めさせていただいたのですが、問題ありますか?」

「チッ、ねぇよ」

 

 そう言って長は突き出していた爪を引っ込めて、真帯電状態を解除した。それをみて、俺も真帯電状態を解除する。

 

「いや悪ぃな。お前があんまりにも強そうだったのでなぁ。ついつい血が滾っちまった。だがお前の強さはよくわかったぜ? 俺と互角……いや、お前はまだ力を残してやがったよなぁ? つーことはお前の方が強いってことかもな! ぶあっはっは!」

 

 長は何が面白いのか、声高らかに笑い始めた。それを見て俺は苦笑すると同時に、侮れないやつだと再認識した。たった数分の試合で俺がまだ余力を残していることに気づいたのだ。この長の洞察力には舌を巻くレベルだな。

 

「全く話が進んでないな……で? お前がこの里に来た理由はなんだ。連れてきたんだから理由ぐらい教えてもらうぞ」

 

 長の笑いがひと段落したところで堅物がそう言ってきた。

 理由ねぇ。初めは興味本位できてみただけだったんだが、見た感じここは居心地が良さそうだ。長と戦闘しただけで何が分かるんだって思われるかも知れないが、どうやら俺は仲間というものに飢えていたらしい。

 10歳の頃にアイツと出会ってから、1人になることなんてほぼ無かったからな……1匹狼の黒狼と呼ばれてた頃の俺が聞いたら、なんて思うことやら。

 

「俺を仲間に入れてくれないか? 力ならさっき見せた通りだ。きっとみんなの力になれると思う」

 

 率直にそう告げた。暫く沈黙が続いていたが、それを破るように長が一歩前に進んでくる。

 

「あ? てっきりもう仲間なんだと思ってたんだが……違ぇのか?」

 

 予想外の言葉に目を丸くさせていると、堅物がやれやれと言った風に首を振った。

 

「長がそういうなら我々には特にいうことはない。白き狼よ、我らの里に歓迎しよう」

 

 堅物がそう言った途端、周りのジンオウガ達が次々に遠吠えを上げ始めた。どうやら本当に歓迎してくれてるらしい。少し照れ臭くて前脚で顔をポリポリとかいていると、長が頭を少し下げてきた。

 

「これは?」

「互いの頭を軽く合わせるのが、俺らの仲間の証だ。お前も早くしろぉ」

 

 言われるがままに頭を下げコツンと長の頭に合わせると、ジンオウガ達の遠吠えがさらに大きくなる。

 この世界に来てはじめての仲間を得て、何故だか目頭が熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第28話.群れの生活

 長に認められて『雷狼の里』の一員になれたわけだが、今日はもう遅いとのことでその場で解散となった。各々自分の寝床と決めている定位置に戻っていく。

 当然俺にはそんな場所はないのだが、そこは堅物が気を利かせて空いている木の洞に案内してくれた。なんだよ、仲間になってみれば結構いいやつじゃねーか。そう言ったら思いっきり威嚇されたが。照れ隠しだな、分かる分かる。

 そのまま洞の中でくるまって寝て、その日は過ぎていった。

 

 翌日、日の光と共に起床した俺は、群れのことを何も知らないのでとりあえず昨日の広場に行ってみることにした。するとそこにはすでに数匹のジンオウガが集まっているのが見える。みんなきっちりと整列していて、なんだか学校の朝礼を思い出したよ。

 

「おい、お前もこちらへこい」

 

 ボーっとその光景を見ていた時、後ろから堅物にそう声をかけられた。堅物が整列しているジンオウガ達の前に立つのが見えたので、俺もその横に続くことにした。

 

「みな、昨日のことは知っていると思うが、改めて紹介しておく。我らの里に新たな仲間を加えることになった」

 

 その途端、わっと歓声が上がった。まぁ歓声とは言ってもジンオウガだから遠吠えに近いものだが。

 

「こやつの力は昨日の長との試合で見た通り。戦力としても申し分ない。我らの里に新たな仲間を加えるのはとても珍しいことだが、異論はあるだろうか?」

 

 堅物が言葉を切ってしばらくジンオウガ達を見ていたが、ジンオウガ達が特に何かをいう気配はない。どうやら異論はないようだ。内心少し心配していたが、結構安心出来たな。

 

「よし。異論はないな。ならば今日の集会は終了だ! 各々自分の持ち場へと行き、今日の勤めを果たせ。雷狼の里に栄光あれ!」

「「「「「「「栄光あれ!」」」」」」」

 

 堅物の遠吠えに合わせるように、全てのジンオウガが遠吠えを重ねていく。多分これが群れでの結束の証みたいなものなのだろう。次回からは俺もやってみよう。

 遠吠えが終わった後、ジンオウガ達が迅速に行動を開始していた。恐らく今日の勤めとやらをしに行くのだろう。見回りとか警備とかだろうか? 

 

「おい白いの」

 

 再び堅物が話しかけてくる。てか白いのって。前々から思っていたことなのだが、こいつら名前ってものはないのだろうか。

 

「白いのはやめろ……俺のことはそうだな、シロウとでも呼んでくれ。お前はなんて言うんだ?」

「名前持ちなのか。つくづくよく分からんやつだな。群れに所属しない1匹狼が、どこで名前をもらったのだ?」

 

 堅物の話によるとジンオウガの間で名前というのは、群れの長と長が認めた数名に与えられる、勲章みたいなものらしい。雷狼の里で名前持ちは長を含めてたった6匹しかいないそうだ。因みに堅物も名前持ちで、ウォルと言うんだと。

 

「まぁいい。ではシロウ、お前はこの里についてまだ何も知らんだろう。それについて詳しく教えてやる」

 

 そこから時間をかけて、ウォルは里のルールやらなんやらを教えてくれた。やっぱりこいつはいいやつだな。そんなことを思いながらウォルを見ていたら、また睨まれたが。閑話休題。

 雷狼の里はこのハクサンの森(この森一帯をそう呼ぶらしい)で最大勢力を誇る群れで、現在も勢力拡大中なんだそうだ。群れの総数は驚きの100匹。そのうちの40匹が戦闘可能な個体だと言う。ジンオウガが40匹も攻めてきたら……人間の街は終わるな。いや、ティナだったら何とかするかもしれんが。

 40匹と言うのがどれほど多いのかと言うと、ほかのジンオウガの群れの総数が50前後だと言えば分かるだろう。そこから非戦闘員を抜くと、他の群れの戦闘員は20ぐらいか。圧倒的な数の差だな。

 

 群れのルールは厳格なものはないが、大まかなものはある。喧嘩両成敗だったり、食事のルールだったり。でも基本的には自由な感じなようだ。

 

「大体こんなところだ。分かったか?」

「おう、教えてくれてありがとな」

「ふん、新たな仲間を束ねるのも私の仕事なだけだ」

 

 そう言ってウォルは仕事があるとかで去っていった。照れ隠しが多いやつだ。

 さて、勤めとやらも今の俺にはないし特にやることもない。少しぶらぶらしてみますかね。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 雷狼の里は森の中にぽっかりと空いた草原部分を中心として、円形状の縄張りになっている。そういやジンオウガって山の斜面とかに生息してるんじゃなかったのかって思ってウォルに聞いたんだが、こっちの方が獲物が多いからと返ってきた。んで昼間の中心部の草原では、戦闘員のジンオウガが何やら訓練していたり、非戦闘員や子供のジンオウガが遊んでいたりしている。夜になったら草原を囲むように生えている木々の洞で寝ると言ったところだ。

 今は昼前ぐらいで、元気に遊ぶ小さなジンオウガ達が見える。この群れで生まれた子供達だろう。チョコチョコしてて可愛いなぁ。

 そうやってじーっと眺めていると、視線に気付いた子供ジンオウガ達が一斉に駆け寄ってきた。

 

「ねぇねぇ、お兄さん昨日長様と戦っていた人でしょー!」

 

 5匹の子ジンオウガのうち、1匹が真っ先にそう聞いてきた。

 

「ああ、そうだよ」

「すごーい!」

「長様と互角なんて、びっくりしたー」

「ねー!」

 

 やはりジンオウガなのか、強いものに憧れる習性があるのかもな。俺が肯定した途端に嬉しそうな顔をしながら、俺の周りをぐるぐると走り始めた。

 

「ぼくもいつか、お兄さんみたいに強くなれるかなー?」

 

 最初に質問してきた子ジンオウガがそう聞いてくると、他の子ジンオウガ達も「ぼくもー」「わたしもー」と一斉に質問してくる。

 

「毎日ちゃんと食べて、たくさん寝て。体を動かして努力すれば、誰だって強くなれるぞ」

「「「「「ほんとー!?」」」」」

 

 子ジンオウガ達が目をキラキラさせながら俺の方を見てくる。うお……眩しすぎて直視できねぇ。

 

「ああ、でもお母さん達に迷惑をかけてはいけないぞ」

「「「「「はーい!」」」」」

 

 俺の言っていることを分かっているのか、分かっていないのか。子ジンオウガ達はケラケラ笑いながら走っていってしまった。

 やっぱり可愛いなぁ。テンプレみたいな諭し方をしてしまったが、喜んでいるようだしいいだろう。それにしても子供に好かれるってのはいいな。昨日長が飛びかかってきたときは驚いたが、今日の子供達の反応を見るに長には感謝しないと。

 

 その後もいくつかの子ジンオウガ達のグループに質問攻めに会い、全てが終わる頃には昼過ぎとなっていた。子供に好かれるのはいいが、流石に疲れたぜ……

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 雷狼の里での飯は、ほとんど自分で獲ってくるんだそうだ。まぁジンオウガは狩人と称されるほどだし、特に驚きはない。それに雷狼の里の縄張りは思っていた以上に広く、旨い狩場もいくつも抱えているらしい。俺も昼飯は近場で狩れたアプトノスを食べて済ました。

 

 昼飯後はスヤスヤと眠っている子供達を見て目の保養とした後、再びぶらぶらと歩き回ることにした。昨日入ったばっかりの新人ということで結構注目されたが、面と向かって話しかけてくる奴はいなかった。全く、好奇心旺盛な子供達を見習ってほしいな。

 

 そうしてぶらぶらしているうちに、戦闘員のジンオウガが訓練している場所にたどり着いていた。ジンオウガというのは単体でも強いのだが、この群れでは連携して戦うことも視野に入れているらしい。今はその練習をしている最中だな。

 近場でそれを見ながら感心していると、このグループのリーダーらしきジンオウガが近づいてきた。

 

「昨日群れ入りした御仁とお見受けする。一つ吾輩と手合わせしてはくれぬか?」

 

 いきなり戦いを申し込んできたこいつは、ランという名前持ちの一体だった。ウォルの次に強いとされているらしく、少し見聞きしただけだが、部下からの信頼も厚そうだ。

 

「俺は構わないが、随分といきなりだな」

「それについてはすまぬ。しかしウォルの奴から相当の手練れと聞き及んでおった故に」

 

 ジンオウガってのは、どうやら俺が思っていた以上に好戦的なやつが多いようだな……まあ俺からしたらかかってこいってところだが。

 

「なるほどな。では一戦だけ付き合うとしようか。俺はシロウだ、よろしくな」

「かたじけない。吾輩はランと申す」

 

 互いに少し距離を取って向き直る。始めの合図はランの部下の1匹に任せることにした。

 

「始め!」

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 数分後、ランの首元には俺の剣尾がすんでのところに突き立てられていた。

 

「俺の勝ちだな」

「驚き申した……まさかここまで強いとは。これは長殿が認めたのも納得であるな」

 

 剣尾を収めるとランが驚いた顔をしながら立ち上がった。再び向き合って頭をコツンとぶつけ合う。どうやらこれは前世でいう握手のような意味合いもあるようだ。

 

「強者であるシロウに頼みが。今吾輩達は新たな戦術を開発中なのであるが、なかなかいい案が出てこないのである。そこでシロウの意見も参考にしたいのだが如何に?」

「もちろんいいぜ。そうだな、今はどんなことをやってるんだ?」

「今はこんな感じで──」

 

 その後はランに前世で培った色々な戦術を教えていった。だいぶ感謝されたみたいで、次からの訓練にも時間があれば付き合ってほしいと言われたぐらいだ。もちろん快く了承したぞ。

 そんな感じで、俺の里での初日は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 



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第29話.密猟

 俺が群れに加わってから早いものでひと月が経とうとしていた。あれからこの群れにもだいぶ馴染むことが出来たし、みんなからの信頼を得ることにも成功したぞ。長すら凌駕する俺の力をたたえて、若なんて呼ばれることもあるぐらいだ。気分はいいがあんまり自惚れないようにしないと。確かに力は長よりあるだろうが、純粋な戦闘技術なら長の方があると言えなくもない。俺と長の間に確かな力の差はないのだ。

 ちなみに長の名前はレオンという。

 

 それから、他のジンオウガの群れとの縄張り争いを見学した。初めは縄張り争いがどんなものか全くわからないので、後ろから見ているように言われたのだ。

 こちらから出向いたのは総勢25体のジンオウガ。残りは多方面の警戒と縄張りの守りに当たるのだそうだ。対して相手の総数は15。数の上ではこちらが圧倒的に有利だった。

 しかし相手の戦い方は相当うまかった。地形をうまいこと利用して常に同じ数同士でぶつかるように誘導していたし、連携の精度もなかなかのもの。数では有利なはずなのに、なかなか攻めきれない状況が続いていた。レオンが参戦するまでは。

 乱戦の最中に飛び込んだレオンは、破竹の勢いで敵のジンオウガをなぎ倒していき、瞬く間に戦いの流れをこちらに引き込んだ。一気に崩された相手側は撤退していき、勝負あり。勝鬨をあげるレオンと仲間達を見た時は、思わず鳥肌が立ったぐらいだぜ。

 

 そんな感じで平穏なようで濃い1ヶ月を過ごした俺は、ついに仕事をもらうことになった。役割は遊撃部隊。縄張りの中を自由に探索し、非常事態が起こったらすぐに駆けつけるというものだ。自分の判断で行動することを許される、名前持ちにしか与えられない役割。それが遊撃部隊だ。

 群れに入って1ヶ月程度の俺にここまでの待遇をしてくれるとは、レオン達には感謝してもし足りないぐらいだ。その期待に応えられるだけの働きをしていきたいぜ。

 

 

 今日も遊撃部隊として縄張りの警備にあたっている。雷狼の里の縄張りは中心の草原部分が最重要だが、外側の森林部分ももちろん大切だ。他のモンスターに狩場を荒らされてないか、他のジンオウガの群れが縄張りを侵してないか、それらを確認しなくてはならない。

 俺の担当は縄張りの西側。他のジンオウガの群れの縄張りとは面していない、ある意味どんなモンスターでもいる可能性がある魔境だ。

 

「今日も異常はなしっと」

 

 とはいえジンオウガの群れにわざわざ侵入してくるモンスターなんて、そういるものではない。その日も特に異常は発見できず、俺は群れの中心部である草原地帯へと戻ることにした。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 しかし異常は起こった。夕方の点呼の時だった。東方面の警備に出ていたグループが、いつまで経っても帰ってこないのだ。ジンオウガが時計を持ってるわけもないし、多少の時間のズレが起こるのはしょうがない。だが、そこは野生に生きる生物。体内時計はかなり正確なはずだ。現に今までこれほど遅れて戻ってくる奴はいなかった。何やら嫌な予感がする。

 

 そろそろ日が沈む頃合いだというのに、まだ戻ってこない。痺れを切らしたレオンが、偵察に優れたジンオウガを向かわせる。

 そしてその偵察が帰ってきた時、嫌な予感が的中したことを知った。偵察に行ったジンオウガともう一体。行方不明になっていたジンオウガのうちの一体が、ボロボロの状態で姿を現したからだ。

 

「何があったぁ!?」

 

 思わずレオンがボロボロのやつに駆け寄って聞く。

 

「す、すいません、長……子が、我らの子が人に拐われてしまいました……っ」

 

 話をよると、昼間に縄張りの東を見回っていたところ、檻に入れられた子供のジンオウガを発見。即座に連れ去られたと判断した皆んなは、追いかけるものと報告しにいくもので別れようとしたという。その時、突然全方位から鉄の刺が無数に飛んできて、一斉にやられてしまったらしい。

 

 密猟団。その言葉が俺の頭の中に浮かんだ。ジンオウガの群れの中から子供をさらうとは、相当用意周到な奴らだ。子供が群れから離れる時間、見回りに来る時間、それらを全て確認した上での行動だろう。

 それに見回りの皆んなを倒した鉄の刺とやら。バリスタと見て間違いないな。体に刺さっていた一本を見て確信した。犯人は違法に対竜兵器を持ち出してモンスターを狩る、密猟団だ。

 

 そこまで一瞬で推理してその結果をレオンに伝えようとした。伝えようとしたんだが……言葉が出なかった。

 目を向けたレオンは、未だかつてないほど怒りに燃えていたからだ。ドス黒い殺気が抑えることなく溢れ出ていて、周りのジンオウガ達も萎縮し切ってしまっている。

 これは非常にまずい展開だ……皆んなをまとめるレオンが冷静さを失っていると、群れでの行動に必ず支障をきたす。それだけは避けなければならない! 

 

「おい、おいレオン!」

「うるせぇ、少し黙ってろぉ……腹ん中が煮えたぎっちまってどうしようもねぇんだ……!」

「どうしようもねぇのは、お前の頭の中だ!」

 

 憎しみのこもった目でこちらを見てくるレオンに対して、俺は思いっきり頭突きをかました。モロに受けたレオンは半端後退り、涙目でこちらを睨んできた。

 

「痛てぇな! 何しやがる!!」

「一回冷静になれ。お前が冷静さを失ってしまったら、誰がこの群れを引っ張るつもりだよ?」

 

 俺の言葉でハッとしたレオンが辺りを見回した。彼の周りには決意を込めた目を向ける大勢のジンオウガがいる。その光景に一瞬驚いた顔をしたレオンだったが、フッと笑って再びこちらを見てきた。その目はもう憎悪に囚われたもののソレではない。

 

「情けねぇ。群れのリーダーともあろう俺が、真っ先に取り乱しちまうとはなぁ。ありがとなシロウ。お前のおかげで目が覚めたぜぇ!」

 

 そう言ってレオンがニッと笑う。やはり我らが長にはこういてもらわなくちゃな。周りのみんなもレオンの威圧感が消えてホッとしてるし。

 

「よし! 聞けぇお前ら! 俺らの群れから子供がさらわれたぁ! 力の無い、だが未来ある子供を拐うとはぁ、許しちゃおけねぇ大罪だぁ! これより雷狼の里の全勢力を持ってぇ子供の奪還に向かう! 異論のあるやつぁいるかぁ!」

 

 誰一人として異議を唱える者はいない。静かに燃える怒りをその目に灯している。それは俺も同じ。

 

「よぉし!! 第一、第二部隊は俺に続けぇ! 卑劣な人の手から俺らの子を助け出すぞぉ!」

 

 レオンの遠吠えに合わせて、俺を含め出撃する全てのジンオウガが遠吠えをあげる。ひとしきり遠吠えを上げた後、密猟団の匂いを覚えていたジンオウガを先頭に、総勢20体のジンオウガが動き始めた。

 待っていやがれ密猟団ども……俺らの仲間に手を出した代償は安く無いぞ。

 

 

 

 

 



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第30話.殲滅

少し構成が甘いかもしれませんが、ご容赦ください。時間がなかったんです……


 ジンオウガの群れが子供の奪還に動き始めていた頃、ハンター側でも動きがあった。長年追い続けていた密猟団の情報が舞い込んできたからだ。その密猟団は主にモンスターの子供をメインに狙っている者達で、捕らえた子供を闇オークションにかけて高値で取引しているという。また違法な狩りも行っており、定価を遥かに超えた値段で素材を取引しているとか。

 

 別の案件(・・・・)で違法ハンターを取り締まるギルドナイトが出払っている今、彼らは好き勝手に行動を繰り返していたのだ。そんな彼らは欲に目が眩んだのか、いつもなら絶対にしないミスで自分達の痕跡を残してしまった。今回はその情報が伝えられてきたというわけだ。

 

「それで私たちに話が回ってきたというわけですか」

 

 ユクモ村のギルドマスターの執務室で、キールにそう問うティナ。

 

「うむ。事が事だけに私もこちらに来たのだ。全く、最近はユクモ村周辺で異変が多いな……まぁいい。知っての通り今はギルドナイトを動かす事ができない。だが、ようやく掴んだ奴らの尻尾を離すわけにもいかん。本当はハンターに頼むのは規約違反なのだが……頼まれてはくれないだろうか?」

「私は構いませんが、お二人はどうしますか?」

 

 後ろを振り向いたティナの目線の先にいるのは、カナトとエリンの2人。ティナの元で修行を始めて約2ヶ月。初めは無理難題だと思っていた彼女のウォーミングアップも今では鼻歌混じりにこなし、その後の模擬戦を含めた特訓にもついてきている。

 元々ハンターとしての才能があった2人は、この短期間でG級ハンターと比べても遜色ないと言われるほどに成長していた。

 

「僕たちのユクモ村で悪さをする奴は放っておけない。そうだよねエリン?」

「えぇ。自然との調和を務めるのがハンターの役目。それを壊す不届き者は痛い目に合わせてあげるわ」

 

 随分と頼もしくなった彼らを見て僅かに笑みを浮かべたティナは、キールに向き直る。

 

「というわけです。今回の密猟団捕縛作戦は、私と彼らの3人で執り行います」

「本当にすまんな。今回限り、ハンターが人に武器を向けることを許そう。本来ギルドナイトの仕事を押し付けてしまうとは、なんとも情けない限りだ……」

 

 最後まで申し訳なさそうに頭を下げるキールをなんとか宥めながら、3人は執務室を後にした。

 

「さて、情報によると密猟団は渓流に近いこの森に潜んでいるそうです」

 

 ティナが地図を広げて指差した場所は、渓流の奥に広がる大陸の半分を占めるほどの広大な森林だった。

 

「この森の中から奴らを探すとなると、結構骨が折れるね……」

「安心してください。彼らの居場所にはおおかた予想がついています」

「というと?」

 

 エリンが首を傾げてそう聞くと、ティナは得意げにこう答えた。

 

「昨日のうちに私が直々に彼らのアジトを見つけていたからです!」

 

 舞い降りる沈黙。ティナの身体能力や動体視力、その他諸々が常人に比べてずば抜けて高い事は知っている。だが何か特別な道具や方法での解決を予想し、少し期待していた2人は肩透かしを食らった気分になってしまった。

 

「ま、まぁとにかく! アジトの場所はすでに分かっているので、早速向かうとしましょう!」

 

 2人のコレジャナイという目に晒されたティナは、強引に会話を切り上げてスタスタと歩いて行ってしまった。

 残された2人は、少し悪いことをしてしまったなと苦笑いを浮かべながら、その背中を追いかけて行った。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「な、なんだこれは……」

 

 数時間後、密猟団のアジトにたどり着いたティナ達が見たのは、今まで見たこともないようなあり得ない光景だった。

 密猟団のアジトはすでに壊滅しており、至るところから煙が上がっている。彼らが住んでたであろうテントは焼き払われ灰に、そして彼ら自身もそれと同じように消し炭になっていたのだ。

 

「「「「「「アオォォォォォォ────ン!!」」」」」」

 

 そしてそんな焼け野原の残骸の上で高らかに遠吠えをあげるのは、20を超える数のジンオウガ。一斉に天に向かって吠え、勝鬨をあげているのだった。

 

「ジンオウガの群れ!? なぜこんなところに……」

 

 カナトとエリンが木陰からその光景を茫然と見ている中、ティナは即座に彼らの戦力分析を行なっていた。その結果、この2人では勝てない個体が三体、自分でも時間稼ぎに徹することになりそうな個体が一体いる事がわかった。その事実にティナは驚愕する。少なくともG級のジンオウガが4体いるのだ。明らかにパワーブレイカー。生態系を破壊しかねない存在達だ。

 

(あるいは、これほどの戦力を持たないとこの森では生きていけないとか……?)

 

 この森はまだ人間の手が全くと言っていいほど入ってない森だ。もしユクモ村に近いこの森がそんな魔境だったとしたら、ただ事ではない。

 すぐさま戻って報告をしようと思ったその時だった。彼女をさらに驚愕させる出来事が起こる。

 瓦礫に隠れて見えてなかったのか。突然それは現れた。全身を覆う白い鱗と甲殻。それを包む白銀に輝く体毛。あの火山で出会ったジンオウガだと、ティナは一瞬で気づいた。そしてそれは横の2人も同じ。

 

「な!?」

「あれは!」

 

 そしてあまりの動揺にガサッ! と大きな音を立ててしまった。そして狼の名を冠するジンオウガが、その音を聞き逃すはずがない。

 

 バッ! と全てのジンオウガが3人の隠れている茂みに目線を向けた。そこそこ戦えそうな個体が今にも飛びかかろうとしたが、一際大きいジンオウガがそれを制した。かなりの知能がある、そう判断したティナは状況は最悪だと分析した。知性なき獣ならいざ知らず、少なくとも群れを統率する個体が存在し、さらに上下関係までしっかりしてるとなれば、一方的に蹂躙されるのは目に見えているからだ。

 

 自分が飛び出して場を荒らし、2人を逃す時間を稼ぐしかない。ティナがそう判断して太刀に手をかけようとした時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「お前……あの時のハンターか?」

 

 いつの間にか、ジンオウガの群れの先頭にあの白いジンオウガが立っていたのだ。この天狼竜には言葉が通じる。ティナは藁にもすがる思いで語りかけた。

 

「そ、そうです。奇遇ですね。こんな森の中で」

「流石に奇遇ってのは無理あるだろ……んで? お前らは何しにここまでやってきたんだ? 状況からある程度は察することは出来るが……」

 

 ティナは密猟団を討伐しにここまでやってきたこと、ジンオウガの群れを発見したので隠れてやり過ごそうとしたことを伝えた。その間天狼竜が他のジンオウガ達のことを牽制してくれていたので、話はスムーズに進んだ。

 

「なるほどねぇ。だが一足遅かったな。その密猟団は俺らが狩っちまったぜ。俺らの群れから子供を攫いやがったからな」

「そうですか……」

 

 子供のために群れ単位で行動を起こすという、ジンオウガの生態の新事実に多少驚愕しつつ、ティナはほっと胸を撫で下ろした。このジンオウガ達が人間という種族に対して敵対心を持っているわけではない、と分かったからだ。

 

「俺らの長はお前らが何もしなければ、このまま見逃していいと言っている。用事が済んだら早めに出て行ったほうがいいぞ。群れの中には人間をよく思わない連中もいるからな」

「ご忠告ありがとうございます。少しの調査の後、すぐに帰還することをここに約束しましょう」

 

 そのティナの言葉を天狼竜が長に伝えたところ、満足したのか他のジンオウガを引き連れながら森の奥へと帰っていった。残された天狼竜とティナがしばし見つめ合う。

 

「貴方があのような大規模な群れに入っているとは驚きました」

「まあ入ったのは最近だけどな。結構いい奴らばかりで居心地はいいぞ」

 

 ニヒッと笑ったような顔をする天狼竜。ジンオウガの笑い顔など見た事がないのでティナからしたら判断するのに困ったが。

 そしてそのまま天狼竜も森の奥へと帰って行こうとしたので、ティナは咄嗟に聞く。

 

「貴方は! ……まだ人間の味方ですか?」

 

 足を止め、ゆっくりと振り返った天狼竜がこう言った。

 

「勿論、前に言った通りだ。あ、でも仲間達に手を出されたら、という理由も追加かもな。そんじゃ!」

 

 今度こそ天狼竜は森の奥へと消えていく。カナトとエリンに話しかけられるまで、ティナは彼が去っていった方をボーッと見つめていたのだった。

 

 

 

 



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第31話.再会

ゆっくりとですが更新再開していきたいと思います。長らくお待たせしました。


 密猟団を壊滅させてから2ヶ月はたっただろうか。あれから縄張り内で人間を見たという話は一切聞いていない。ティナが他の人に話さなかった証拠だろう。彼女には感謝しなければならないなぁ。

 

 拐われた子供達は当初酷く怯えて親の元から一向に離れようとしなかった。そんな子供の姿を見て、復讐に燃える何体かの仲間を宥めるのに苦労したもんだ。今ではその子供もすっかり元の調子に戻って、他の子供達と遊ぶようになっている。少々用心深くなった気がするが、過酷な自然界で生きていくにはそれぐらいがちょうどいいのかもしれないな。

 

 仲間のジンオウガを宥めたって話だが、どうやらこの群れの奴らは人間に対しての認識が随分と甘いところがある。ほとんどこの森から出た事がないらしいし、人間というものをそもそもあまり見た事がないのだろう。なので仲間を宥めるついでにいろいろ教えてやったよ。人間の弱さとそれを補ってあまりある数々の強さを。

 最初は人間が自分たちを脅かす可能性がある存在だと聞いて、信じられないと言った具合の仲間も多少はいた。だが自分の体験談も交えて様々な意見を交わしていくうちに、まだ少し侮っているとはいえ認識を改めてはくれたようだ。

 何より怖いのは、下手に人間側に手を出して討伐対象になってしまうことだ。もしもそうなったらいくらレオン達といえども無事じゃ済まないだろう。なのでこれからも人間関係の話にはよく注意して行動していきたいと思ったね。

 

 さて、話は変わるのだが、最近変な噂を聞くようになったんだ。なんでも縄張りの境界線付近で、奇妙なジンオウガを見たって話だ。んでこれが話を聞けば聞くほど今のわからない話なんだよな。

 曰く、1度目にしても瞬きの合間にいなくなるとか、そのジンオウガの近くには常に黒い霧が出ているとか、黒に近い体色をしているとか。

 黒い体色ってことはジンオウガの亜種である獄狼竜ではないかと考えられる。黒い霧ってのは龍属性のオーラが漏れ出ているのか? イビルジョーみたいに。だが最初の一つ。瞬時に姿が消えるというのが意味がわからない。オオナヅチじゃあるまいし、ジンオウガに姿を消す能力があるなんて聞いた事がない。ましてや獄狼竜なら尚更だよな。

 

 最初は見間違いか他のモンスターなんじゃないかって話でこの話題はおしまいになった。しかしその後にも同様のモンスターを見たという報告が相次いだ。ここまできたら単に勘違いや見間違いの線は薄いと言っていいと思う。

 縄張りの近くということもあるし、流石に放って置くわけにもいかない。レオンはそう判断したようで、名待ちの個体を2人1組で探索に出すことに決めた。レオンを除けば俺を含めて6体しかいない名持ちを総動員だ。それほど異常事態だと受け止めたってことだろ。

 そして俺のペアは、群れに入った初日に手合わせしてから仲良くなったランだった。

 

「ランはこの件についてどう思う?」

 

 探索をしながらそうランに聞いてみた。まだ群れに来てから日が浅い俺はジンオウガ事情と言うのをよく知らないからな。

 

「そうさな……吾輩もこのような事態は初めて故、理解に苦しむと言ったところであるな。突然消えると言うその生物、なんとも珍妙な……」

 

 予想通りというべきかランにもよく分からない事態のようだ。これは俺やこの世界のジンオウガですら知らない、新しい個体のジンオウガと言う線もあるな。そう考えると不謹慎ながらもジンオウガ好きの俺からしたら、ワクワクしてきた。

 

 しかし実際にはそのような生物に会うどころか、黒い霧すら発見出来ずに夕方になってしまった。これ以上縄張りの境界付近をウロウロして他の群れのジンオウガや他のモンスターを刺激しても不味いし、今日はもう帰ろうと言うことになった。まさにその時だった。

 

「む!? シロウ、これは件の霧ではなかろうか!」

 

 大声を上げたランの方を振り返ると、確かに森のさらに奥の方から黒い霧が漂ってきているのが見える。それは龍属性のように赤黒いような色ではなく、まるで全てを吸い込んでしまうかなような漆黒だった。

 

「ラン、どうやらこいつは当たりかもしれねぇな」

「であるな。どうする、シロウ?」

「ようやく尻尾を掴んだんだ。行くしかないだろ!」

 

 俺とランは当たりを警戒しつつ、黒い霧が漂ってくる方に向けて歩みを進めた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「くっ、ここまで来ると周囲を見渡すのも厳しくなってくるな……」

 

 黒い霧の発生源を突き止めるため進んだはいいものの、森の奥はさらに霧が深くなっており、自分の周囲以外はほとんど見えないと言う状況だった。しかも霧が黒いものだから、光も通さずに完璧に視界を遮ってくる。非常に厄介な代物だ。

 

「シロウ、あまり離れない方が良いのである。この先から、得体の知れない気配がする故に」

 

 ランの言った通り、確かに何者かの気配を感じ取れる。しかし黒い霧で視界のほとんどが遮られていて、何がいるのかは全くわからない。

 

 そうしてさらに進むこと数分、ようやくその気配の正体とご対面することになった。そいつの姿は確かにジンオウガ亜種に似ている。しかし所々が亜種とは全く異なっている。

 まず黒い。亜種も黒を基調とした体色をしているが、こいつはさらに黒い。体毛までもが漆黒の色をしている。そして全体的に小柄だ。わかりやすく言うなら、最小金冠サイズより小さいと言ったところだろうか。

 

「グルルル……」

 

 黒いジンオウガはそう小さく唸ったあと、なんとまるで煙か何かのように消えてしまったのだ。

 

「ほ、本当に消えたのである!」

 

 ランが驚いているが、俺には即座にそうじゃないと言うことがわかった。

 

「いや違う! 奴はどういうわけか透明になっているだけだ!」

 

 現にここから離れるように草木が擦れ合う音が遠ざかっていっている。せっかく発見できたのだ。ここで逃すのはあまりにも惜しい。

 すぐさま超帯電状態になって追いかける。驚いているランを置いてきてしまったが、まぁあいつならなんとかなるだろ。幸い身体能力は俺の方が高かったらしく、すぐに追いつくことができた。逃げる奴の前に回り込み、行手を塞ぐ。すぐ後からランが追いついてきて、黒いジンオウガをうまく挟み込むことに成功した。

 

「さて、お前が何者で、何故ここにいるのかを聞かせてもらおうか? 素直に話すことをオススメするがな(・・・・・・・・・・・・・・・・)

「ッ!!」

 

 俺のセリフに反応してなのか、何故か黒いジンオウガは目を見開いてしばらく硬直していた。そして俯いたかと思うとプルプルと小刻みに震え始めた。

 

「……け……た」

「ん? なんだって?」

「やっと、見つけた!」

 

 そう言いながら黒いジンオウガが飛びかかってきた。咄嗟に避けてしまったが、まるでその動きを読んでいたかのように方向転換してきた黒いジンオウガにあっさりと捕まってしまった。

 

「な!?」

「やっぱり。咄嗟の回避は右側に飛ぶ。昔からの貴方のクセ。それにあの脅し文句。昔と同じ」

 

 こいつの言っていることが分からない。昔からのクセ? 俺がこの世界に来てからまだ1年程度しか経っていない。なのに昔からのクセってどういうことだ? そもそも俺は真っ黒なジンオウガとの面識なんてないぞ。

 

「まだ思い出せない? 少しショック……私、澪音(みおん)。『黒狼の影』澪音」

「な、澪音だと!?」

 

 澪音といえば前世で俺の相棒だった少女の名前だ。10の頃犯罪組織から救い出してから、17で死ぬまでずっと共に過ごしてきた存在。親父からの依頼の時も、学校に行っている時も常に傍にいた兄妹のような奴だった。『黒狼の影』というのは俺の仕事を完璧にバックアップする彼女につけられた、敵国からの畏怖を込めた異名だ。

 しかしあり得ないだろう。ここは地球ではないし……だがさっきはっきりと黒狼の影って言ってたしな……

 

「本当に澪音なのか?」

「そう」

「じゃあ俺の母さんの好物は?」

「ショートケーキ……と見せかけて、本当は義父さんの手作り料理」

 

 間違いない……これは俺と澪音しか知らない事実なのだから。

 

「お前、なんでここに」

「実は……」

 

 そこから俺は澪音が何故この世界にやってきたのかの経緯を聞いた。まさか自殺とは……俺が死んだことで、澪音がそこまで追い込まらていたなんて。罪悪感やら後悔やらが俺の中で渦巻いている。

 

「母さんと……その、親父はどうだった?」

「お義母さんはとても悲しんでた。でもしっかりと現実を受け止めていたように思う。お義父さんは、なんともないって感じを出してたけど、お酒の量が増えてた。あれは悲しんでる証拠」

 

 彼女自身周りが見えてない状況だっただろうに、僅かな記憶から両親の様子を教えてくれた。それを聞いて俺は胸が締め付けられる思いだった。本当に2人には悪いことをしてしまった。俺だけでなく実の娘のように可愛がっていた澪音まで、2人の元を去ってしまったのだ。

 親不孝な息子でごめん……この想いが両親に届いていることを願わんばかりだ。

 

「2人の世界に入っているところすまぬが、そろそろ吾輩にもわかるように説明して欲しいのである……」

 

 あ、やべ。すっかりランのこと忘れてたわ。両親への想いは俺の胸の内に留めておくことにして、ランには彼女は敵ではないことを伝えた。

 

「ふむ。見れば2人は知り合いのようであるな。して、ミオンはこれからどうするのであるか?」

「そうだなぁ。お前行先とかあるのか?」

 

 澪音に聞いてみると、彼女はフルフルと首を横に振った。

 

「ない。強いていうなら、士狼の隣が私の行き先」

 

 キッパリと淡白な表情でそう言った。昔から彼女は感情が顔に出にくいやつだったが、こっちの世界でそれは変わらないのか。ま、そのかわり態度で感情が丸わかりなんだけどな。

 

「なぁラン、こいつも群れに入れることって出来ないかな?」

「ふーむ。そればかりは長に聞いてみないと分からないのである」

 

 まぁそうだよな。とりあえず帰るとしよう。あたりも暗くなってきたし、澪音のことをレオンに相談しないといけないしな。

 

 

 

 

 

 

 



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第32話.新入り

タグを多少変更しました。


「なるほどなぁ。言いたいことは理解したぜぇ」

 

 俺とランは里に帰った後すぐにレオンに今日あったことを報告した。同時に澪音の群れへの参入の件も。レオンはしばらく目を瞑って何かを考えた後、ゆっくりと目を開いた。

 

「狼の群れってのはぁな、どんなやつもウェルカムって訳にゃいかねーんだ。だから本来ならもうちっと考えるべきなんだがぁ……今うちに必要なのは戦力だぁ。そいつが戦力になるってんなら、特別に群れに入れてやってもいいぜぇ?」

 

 要するに戦える力があることを示せば、群れに入れてくれるってわけか? シンプルだな。レオンらしいといえばらしいんだけども。

 

「澪音、お前どれぐらい戦えるんだ?」

「分からない。この世界に来てからあんまり経ってないから。上位レベルのリオレウスなら勝てるぐらい?」

 

 それって結構強いんじゃ……澪音って前世はハッキング等や潜入調査での情報制握が得意だったから、あんまり戦えるって感じじゃないんだけど。薬物を使った間接的暗殺なら結構得意だったが。

 

「よし、ならうちから出す奴に勝てるか追い詰めるかができたら、群れに入れてやるよぉ。おい、ソウカ!」

「は、ここに」

 

 レオンが呼び出したのは、名持ちの女性(メス)であるソウカだ。ソウカは名付きの中で一番レオンを慕っており、特に忠誠心が高い奴だ。

 というかレオンのやつ、完全に面白がってるだろ……いきなり名持ちのやつを呼び出すとか、おれが連れてきた澪音の強さに興味津々なんだろうなぁ。

 

「先に降参させた方が勝ち。シンプルでいいだろぉ? あ、ちなみに死ぬような攻撃はすんじゃねーぞ? じゃあ始めぇ!」

 

 レオンの号令のもと模擬戦は始まった。ソウカはなんでも群れの結成初期からのメンバーらしく。戦いの経験は百戦錬磨。対して澪音は戦闘経験はほとんどないと言ってもいいだろう。本人は戦えると言っていたが、いざというときは止めに入る心持ちで2人の試合を見守ることにした。

 

 先に仕掛けたのはソウカだ。素早い身のこなしで澪音に近づき、その鋭い爪を振るおうとしている。

 それだけならば普通の行動なのだが、なんといっても速い。ソウカは今まで見た仲間のジンオウガの中で、1番と言っていいほど速かったのだ。しかも一切無駄がない。攻撃への移行があまりにもスムーズで、目で捉えるのも難しいかもしれない。

 

 それを前にして澪音は特に驚いた様子もなく体を傾けることで難なく回避していた。ぶっちゃけ今の動きを初見でされたら、俺だって少しは動揺するだろう。しかし澪音のやつは全く動じず冷静に対処して見せた。

 先程澪音は戦闘に向いてないかもと思っていたが、そういえば彼女にはこれがあった。どんな局面でも取り乱すことのない胆力。これこそ彼女の強みの一つといえるだろう。

 

「次は私の番」

 

 そう呟いた次の瞬間、澪音の体から黒い霧が勢いよく放出された。黒い霧は途端に辺りを黒く包んでいき、その霧にソウカも飲み込まれてしまう。

 その光景を見て周りのジンオウガ達がざわつき始めるが、そこはレオンの一喝によって収められた。というか彼の目もすごいことになっている。まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように、キラッキラに輝いているのだ。それを見て、俺は頬が引き攣るのを抑えられない。

 

 黒い霧の中で戦闘は続けられているのだろう。時折硬いものがぶつかり合ったような音が聞こえてくる。その光景はしばらく続き、そろそろみんなが焦れ始めてきた頃、戦局に動きがあった。

 ソウカが黒い霧の中から勢いよく飛び出してきたのだ。その体は至る所に切り傷や打撲跡がついており、中でも激しい戦闘が想像できる。そして次の瞬間、フィールドに充満していた黒い霧が内側から吹き飛ばされるようにしてかき消きえた。

 

 その中央に立っているのはもちろん澪音。なのだが、その風貌は先ほどまでのソレとは大きくかけ離れていた。雷電殻が展開され、全身の毛が逆立っている。超帯電状態になった証だ。

 しかしその見た目は通常種の元とはまるで違う。通常は青白い雷を纏うのだが、彼女の雷は黒い。全てを吸い込むような漆黒の雷が彼女を覆っているのだ。『黒い光』という矛盾したものを纏った澪音は、一歩、また一歩とソウカに向かって歩き出す。その歩みは圧倒的強者特有のプレッシャーを放っていて……

 

「降参だ。私の負けを認めよう」

 

 ソウカが降参を宣言したことによって、澪音もその歩みを止めた。と同時に、静まり返っていたギャラリーから歓声が上がる。どうやら今の2人の戦いをたたえているようだ。

 

「ぶあっはっはっはっは!! こいつぁ驚いた! まさかソウカ相手にこうも一方的に勝っちまうとはなぁ! おし、今日からミオンも俺たちの仲間に加えてやろう! てめぇら、文句はねぇよなぁ!?」

 

 レオンの言葉と共に周りのジンオウガが一斉に遠吠えをあげ始める。俺が群れに加わった時と同じように、澪音のことも歓迎してくれているようだ。

 

「ミオン、だったか? 思ったより強くて驚いたよ。改めて、私はソウカ。これからよろしく頼む」

「あなたも十分強かった。これからよろしく、ソウカ」

 

 ソウカに教えてもらいながら、澪音とソウカが頭をコツンとぶつけ合う。これで澪音も正式にこの群れの一員となったわけだ。

 沢山のジンオウガ達の遠吠えに祝福されながら、俺は安堵の表情を浮かべていた。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 その夜、澪音が使った力について詳しく教えてもらえた。なんと彼女は俺を転生させたのと同じ少女に導かれてここにやってきたようだ。その時俺と同じように加護を受け取ったのだが、それが今日使った力なのだという。

 黒い霧の力は、相手の判断能力、身体能力にディレイをかけるというもの。さらに霧を吸い込めば吸い込むほど、相手を状態異常にさせるというとんでもないおまけ付き。正直ぶっ壊れだった。

 

「めちゃくちゃ強いじゃん……俺のと違って即戦力になるし、何より使い勝手が良すぎるな……」

「でも遠い目で見たら、能力吸収ほどのチートもない。というかこっちの方が壊れ。もはや壊れを通り越してバグ」

「そ、そこまでかぁ?」

 

 正直そこまでの実感はない。たしかに便利な能力ではあるが、澪音のような魔法のような力があるわけでもないし、吸収とはいっても雷属性関連以外になると劣化コピーといったところだ。

 俺がうんうん唸っていると、澪音がトンと俺の方に体を預けてきた。

 

「今はそんなことより、また士狼と会えたことが嬉しい……」

 

 甘えるように寄りかかってきた澪音を見て、俺もフッと小さく笑った。

 

「ああ。俺もまたお前に会えて嬉しいよ」

「ふふっ。ありがとう、士狼」

 

『雷狼の里』の中心部である草原で、俺と澪音は寄り添いながら顔を上げる。そこに広がるのは前世では絶対に見ることの叶わないほどの、満天の星空。それを見上げながら、再び家族と会えた嬉しさを噛みしめながら俺は眠りについた。

 どうかこの幸せな時間、幸せな空間がずっと続きますようにと願いながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、ここまでの俺の新たな人生(竜生)はとても順調だったといえる。

 

 俺はこれまで運が良かった。この世界に転生して順調に力をつけ、仲間を得て、家族にまで会えた。そう、運が良すぎたのだ(・・・・・・・・)

 

 しかし、現実はいつもいつも都合がいいように出来ているわけではない。

 

 俺はこの先、それを嫌というほど思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 




ご都合主義の時間は、そろそろ終わりに近づいてきました。


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第33話.戦火

お久しぶりですー。
今世界を震撼させている例のあれの影響をもろにくらってしまいまして、すべての対応をそちらに回していた結果全く更新することが出来ませんでした……
今はだいぶ落ち着いてきたので更新を再開させていこうと思います。ただこれからどうなるかわからないので、安定した更新はもしかしたら出来ないかもです。


「……て、……きて、士狼」

 

 ゆさゆさと体を揺らされて、沈んでいた意識が覚醒していく。薄らと目を開けると真っ黒なジンオウガ、澪音が俺の顔を覗き込んでいた。

 

「ん……あぁ、おはよう澪音。交代の時間か?」

「うん。じゃ後はよろしく……」

 

 そう言いながら、澪音は泥のように倒れ込んだ。相当気を張っていたのだろう。早くも寝息が聞こえてきている。

 今俺たちは雷狼の里ではない、自分でもどこかよくわかってない森の中で2人ぼっち休息をとっているところだ。交代っていうのは見張りのこと。そう、見張りを立てないとおちおち寝てもいられない状況になっているというわけだ。

 何故こんなことになっているのか……それは数週間前のことになる。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 澪音が正式に群れに加わったことにより、俺の周りはより一層騒がしくなっていた。澪音は寂しい思いをしていたのかあれから俺にべったりだし、暇ができたかと思えばレオンが腕試しだと戦いを挑んでくる。それを回避したとしても今度はランに捕まって戦術指南をしてくれた頼まれる始末。ぶっちゃけ休まる暇もありゃしない。

 なのだが俺は実に充実していると感じていた。この世界に来てから半年余り1人で生活していたのが、ここに来て響いてきているのだろうか。仲間と一緒にいるという状況にとても安心感を覚えていた。

 

 こんな生活がずっと続けばいいな、とも思っていた。あんなことが起こるまでは。

 

 その日もいつものように縄張りの見回りを終わらせて、戯れてくる澪音の相手をしていたんだっけ。突然この世のものとは思えない悍しい咆哮が聞こえてきたんだ。

 

「な、なんだ!?」

「この声、気持ち悪い……」

 

 即座に辺りを警戒して見渡してみるとその原因はすぐにわかった。リオレウス。リオレウスの大群(・・)がこちらに向かって一斉に突き進んでくるのが見えたのだ。その目はいつか見たブラキディオスのように、紫色に怪しく光っていた。

 リオレウス達は雷狼の里の上空まで飛んでくると、いきなり火球ブレスを無差別に放ち始めやがった。その火力はとてつもないもので、たちまち大きな木々がメキメキと音を立てながら倒れ、瑞々しい緑に覆われていた草原が真っ赤な絨毯へと変貌していく。

 

「グギャャァァァァァァァァ!?!?」

 

 狂ったような咆哮を上げながらも、リオレウス達のブレス攻撃は終わらない。さっきまでの長閑な光景が、一瞬にして地獄の風景に変わってしまった。非戦闘員であるメスのジンオウガや子供達の悲鳴も聞こえ始めてきた。まさに地獄そのものだ。

 

「何してやがんだテメェら……ふざけんじゃねぇよ!!」

 

 怒りが頂点まで達した俺は、古龍の力をも使って炎雷状態まで移行。雷ブラスターで上空を飛び交う無数の羽虫(・・)共を叩き落し始めた。

 しかし相手の数は想像以上に多い。この時は怒りで視野が狭まってしまっていたが、今思い返してみると亜種や希少種もいたような気がする。そして希少種にまで至った個体ならば、極限化状態の奴もいただろう。つまり数でも力でも押されていた俺は、すぐさま返しの火球ブレスを一斉放射されて地面を転がることになった。

 

「ぐっ……!」

 

 体のあちこちに火傷ができ、うまく立ち上がることができない。このままでは再び一斉放射をくらって致命の一撃をもらうことになる。

 とその時、俺の体を真っ黒の霧が包み込んだ。これは……澪音の能力か。

 

「士狼、逃げるよ」

 

 澪音がそう言った。確かにそれが最善の選択肢だったのだろう。しかし怒りでほとんど我を忘れていた俺にとって、今逃げることなど考えられないことだった。

 

「ふざけんな……! あいつらを、レオンやランを置いて逃げれるわけないだろうが! 今俺が逃げたら、あいつらだけじゃ……」

「わかってる。でも私にとっては士狼の命が何より大事。それに多勢に無勢。このまま戦ってても勝てる見込みはない」

「そんなこと、やってみなきゃ……!?」

 

 そこで俺の意識が遠のいた。恐らく澪音が俺を気絶させたのだろう。敵が上空という離れた場所にいる今、黒い霧を操る澪音が逃げに徹すれば追いつけるものはいない。そのまま澪音は俺を担いだ(ひきずったともいう)まま雷狼の里から逃げ出したのだ。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 そのあと目を覚ました俺はすぐに雷狼の里に戻ろうとしたが、なりふり構わず逃げてきたこと、そして今すぐ戻ってもなんの解決にもならないことを澪音に説かれて渋々断念した。

 その日はその辺で休むことにしたわけだが、異変が起きていたのはリオレウスだけじゃなかったのだ。夜寝ているとこれまた様子がおかしいナルガクルガに奇襲を仕掛けられた。その時は澪音と2人で撃退したのだが、奇襲による先制攻撃を受けるのはいただけないって事で寝る時は片方が起きて見張りをすることにしたのだ。

 

 そして今に至るってわけ。正直何が起こっているのかさっぱりわからない。あれからというもの、森の中は異様な雰囲気に包まれている。1日に1回は気が触れたモンスターに襲われるし、正直気が休まるどころの話ではない。

 雷狼の里もなんとか捜索してたどり着いたんだが、そこに残っていたのは一面の焼け野原だけだった。余り(・・)死体がなかったのが唯一の救いと言えるほどにひどい有様になっていた。レオン達は逃げられた。そう思えるから。

 

 

 数時間後、澪音が起きたので今日の行動を確認し合うことにした。

 

「とりあえずこの異常事態の原因を探りに行かないとな」

「でもあれって狂竜ウイルスなんじゃ?」

「確かにな。でもなんとなくだがあれはただの狂竜ウイルスじゃない気がするんだよな……もっと得体の知れない、恐ろしいもののような気が」

 

 これは本当に感覚に頼った推論でしかない。だがこれでも長年戦場に飛び込んできた身。危機察知能力には一定の自信がある。

 

「だから俺はそれの原因を調べたい。その過程でレオン達に会えるかも知れないし」

「分かった。士狼がそう決めたのなら、私が何かいうことはない」

「お前なぁ……少しは自分の意見を言ってもいいんだぞ? 我慢とかしてないか?」

「そんなことはない。士狼のやりたいことが私のやりたいことだから」

 

 お前……そんな打ち切りラノベのヒロインが言いそうなことを……

 

「やった……死ぬまでに言ってみたいワード第5位をついに言えた!」

 

 何か澪音がボソッと言った気がしたが、俺はあえて気づかないフリをしてやった。これも家族だからこそなせる技ってか? てかお前もう1回死んでるだろ。

 

 いや、ホントは分かっている。澪音がそうやっておちゃらけて俺の気分を盛り上げてくれているってことは。妹にそんな心配をさせてしまうなんて兄失格だな……

 

「よし!」

 

 俺は気合を入れるために思いっきり両前脚で頰を引っ叩いた。

 

「士狼?」

「いやなに。いつまでもクヨクヨしてられないと思ってな。さて行こうぜ澪音。まずはこの森の中心部に向かってみようか」

「っ! ……うん!」

 

 この事態の真相を暴くため、何より仲間達との再会を誓って俺たちは森の奥へとその一歩を踏み出した。

 

 

 

 



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第34話.森の奥地へ

今回は久々にガチ戦闘回です。


 里から逃れてきて数日、俺たちは森の奥へ奥へと進んでいた。森の中心部には霊峰ハクサンがあるんだが、数日間歩いてもまだその麓に到達するどころか、まだ山が小さく見える始末。この森は本当に広い。

 前にこの星は地球より大きいと考えたことがあったが、どうやら俺の予想以上に広大なようだ。これほどの森林を擁する大陸の他に、少なくとももう2つ大陸があるんだからな。ちょっと考えられん。

 

「今日はここまでにしておくか」

「うん……結構歩いて疲れた」

 

 日もだいぶ傾いてきたということで今日の探索はここまでということになった。だが探索をやめたからと言って休めるわけではない。いつ気が狂ったモンスターに襲われるか分かったもんじゃないんだ。常に周りを警戒してないといけない。そんなわけで俺たちはここ数日本当の意味で安息をとれたことがないのだ。

 

「ッ! 士狼!」

「今日もか……全くいい加減にして欲しいな」

 

 俺より気配察知に優れた澪音が、モンスターの接近を察したようだ。すぐさま横にしていた体を持ち上げて警戒態勢をとる。

 そしてドシンドシンと大きな何かが近づいてくる音が聞こえてきた。ここ数日の襲撃で、足音だけでどれくらいのモンスターなのかわかるようになってしまったよ。こいつは……かなりデカい! 

 

「グオオオォォォォォォォォォォォ!!」

 

 大きな大木をまるで小枝のようにバキバキと折りながら迫ってきたのは、背中にコブが2つあり長い尻尾をハンマーのように振り回してくる獣竜種。ドボルベルクだった。

 

「澪音! 分かっているとは思うが、奴の尻尾は絶対に食らうんじゃねーぞ!」

「勿論!」

 

 俺と澪音はすぐさま二手に分かれて行動を開始した。同じところに長い間固まっていたら同時にハンマーで潰されかねない。

 それにドボルベルクは見た目通りそこまで素早いモンスターではない。ならば二手に分かれて錯乱するように攻撃した方が、被弾の可能性も少なくなるってもんだ。

 

 現に二手に分かれた俺と澪音を見比べてドボルベルクがキョロキョロし始めた。足を止めて油断しているってこと。

 

「いくぞ澪音!」

「はぁっ!」

 

 そして同時に突撃。鋭い爪による斬撃がドボルベルクの分厚い体皮を破ってダメージを与える。やつからしたら微々たる負傷だろうが、傷をつけられて怒っているのがわかる。

 

「グオオオォォォォォォォ!!」

 

 ドボルベルクはすばしっこく動く俺らを捉えられないと判断したのか、その場でグルグルと回転し始めた。単純な攻撃だが、奴のハンマーのような尻尾がそれなりの速さで振るわれるだけで十分な破壊力を生む。くらったら骨の数本は持ってかれるだろう。

 もし俺がハンターなら尻尾と地面のギリギリを通って奴の足元まで行くのだが、生憎今の俺はジンオウガ。どう考えても尻尾が当たってしまう。しかし、

 

「澪音!」

「了解!」

 

 彼女なら別だ。澪音は他のジンオウガと比べてもかなり小さい部類。しかもこれは偶然なのだがこのドボルベルク、結構デカい。デカいということはそれだけ尻尾と地面の間に距離があるってことだ。この幅だったら澪音なら……! 

 

「よし、成功」

 

 流石澪音。高速で振るわれるもはや鉄の塊と言ってもいいものが迫ってくる中、冷静に尻尾の内側に潜り込むことに成功した。

 そして回転攻撃中のドボルベルクの足元は安地も安地。ぶっちゃけ攻撃し放題だ。

 

 澪音はドボルベルクの足に爪を突き立て、傷を開くように思いっきりえぐった。ドボルベルクの足から鮮血が吹き上がり、苦痛の咆哮が響き渡る。

 そして足に大きなダメージを受けたことによって、ドボルベルクの体勢が大きく崩れた。しかも奴は高速回転中。少しでもバランスを崩せば転倒するのは道理だ。

 砂煙を上げながらドボルベルクの巨体が地面に倒れ込んだ。澪音が作ってくれたこのチャンス、決して無駄にはしない! 

 

 澪音が攻撃している間に溜めていた雷エネルギーを両前脚から一気に迸らせる。そして大きく飛び上がり、落下のスピードを加えた落雷スタンプをドボルベルクに叩き込む。

 両前脚がドボルベルクの横っ腹に吸い込まれるのと同時に、雷エネルギーを解放。落雷のような爆音が辺りに響き渡った。

 

 雷エネルギーをすべて解放し切ったあと、素早くドボルベルクから離れる。これで仕留めたとは限らないからな。密着した状態から反撃を喰らいたくはないし。

 そんな俺の横に音もなく澪音がやってきた。

 

「ナイスサポートだ澪音」

「あれぐらい朝飯前」

「いやほんとに凄いよ。眉一つ動かさずにあの中に飛び込めるのは」

「褒めても何も出ない……っ。それより油断しないで。まだ終わってないかもしれない」

「分かってるさ」

 

 澪音はうまく隠したようだが、今のは彼女の照れ隠しだ。昔から褒められるのに慣れてない奴だったからなぁ。

 っといけないいけない。久しぶりの澪音との戦闘でどこか浮かれてたようだ。決着もついてないのに戦闘と関係ないことをこんなに考えてしまうとは……集中しなければ。

 

 いまだに目の前からは黒煙がもくもくと上がっている。普通の生物なら確実に死んでいるだろうが……そんな生温い世界ではないことを、ここまで嫌というほど経験してきた。

 

「グオオオォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 突然響いた咆哮と共に、黒煙を突き破ってドボルベルクが突進してきた。そのスピードからは死にかけという言葉は感じられず、今だに奴はピンピンしているということが窺える。

 

 再び二手に分かれてその突進を避けるが、ドボルベルクは周囲の木をなぎ倒しながら大きく弧を描いて旋回。狙いを一体に絞って再度突撃してきた。狙われたのは澪音だ。

 

「澪音! 少し奴の注意を引いておいてくれ!」

「分かった!」

 

 体の小さな澪音はどうしても俺と比べて火力が出しにくい。しかしその小柄を生かした戦い方だってある。例えば今の錯乱。小柄ゆえに相手の攻撃を回避しやすいという利点を生かして、ヘイト集めとして一役買ってくれている。

 それに対して俺は火力は出るけどどうしても攻撃が大振りになりやすい。今までも相手の隙をついたり大きく体勢を崩させた時にしか大技は放たなかった。

 俺と澪音。互いが互いの弱点を補っているのだ。

 

 今ドボルベルクの意識は完全に澪音1人に向いている。俺は気づかれないように奴の背後に回り込み、完璧な死角へと立った。

 先ほどの攻撃で使い切った雷エネルギーはすでにチャージし終わっている。そいつを今度は全て刃尾に集めて解き放つ。

 刃尾が蒼雷で覆われ、激しくスパークを放ち始めた。準備は完了だ! 

 

 澪音のことしか見えていないドボルベルクの背中に、蒼雷を纏った刃尾での一閃を放つ。横一文字に傷が刻まれ、勢いよく鮮血が吹き出した。

 しかしそれだけでは終わらない。蓄積された雷がつけたばかりの傷を激しく焼くのだ。傷口を高電圧で焼かれる痛みは想像を絶することだろう。

 

「グオォォ……ォォ……」

 

 ドシーンという音を立ててドボルベルクが地面に倒れ込んだ。そのままピクリとも動く様子はない。

 

「ふぅ……勝てたか」

「私と士狼が組んでるんだし。当たり前」

 

 とか言いながらまるでふんす! とでも言いたげな顔をしているが。まぁいいか。それよりも、だ。

 

「気付いてるか澪音? この森、奥に行けば行くほどモンスターが強くなってやがる」

「そうだね。最初の方は私だけでも余裕だったのに、今ではこれだし」

 

 やはり森の奥には何かがあるというのだろうか……あるとしたらゴア・マガラか、それとも全く違う別の何かか。何にせよ、気を引き締めなければいけないのはこれからのようだ。

 

 

 

 

 



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第35話.呪い

シリアスタグ発動してます。


「だいぶ奥まで来たんじゃないか?」

「うん。あの大きな山がもうすぐそこ」

 

 奥へ奥へと進み続けてどれくらいたっただろうか。森の深部は濃い霧がかかっていて、昼か夜かもよくわからない有様だ。なので何日経ったか詳しいことはわからないが、里から逃れてからは結構な時間が経ったと思う。終わりが見えなかったが、ようやく終点が見えてきたぜ……

 あれから森の奥を目指しつつ仲間を探していたんだが、ついぞ1人も見つけることはできないでいる。だが全員死んでしまったと決まったわけじゃない! これからも根気よく探してみるつもりだ。

 

「それにしても、ここらへんはなんか不気味だな……」

「霧も紫がかってきて毒々しい。今のところ体に害は無いみたいだけど」

「一応道中でウチケシの実も見つけたしな。念のため毎日食べておこう」

「うん」

 

 この現象がゴア・マガラのウイルスによって巻き起こされたものだと決まったわけじゃ無いが、俺たちはウチケシの実を毎日食べるようにしている。狂竜ウイルスにはもちろん効果はあるし、他のものが原因でも効果はある……はずだ。あるよな? 自信はない。

 数に限りはあるが俺はそのうちウチケシの実の効果も吸収できるだろうし、澪音1人の分だけなら余裕があるぐらいだ。

 

 森の様子は奥に行けば行くほど阿鼻叫喚という言葉が似合うようになってきている。狂ったような咆哮が幾度も聞こえ、訳もなく暴れ回る大型モンスターがあちこちで狂乱している。目に耐えない光景だ。

 しかもこれは勘だがやはりこの森の奥地、正確にはあの霊峰とやらに原因があるように思える。時たま霊峰から吹き下ろされる風を浴びると、この上なく悪寒が走るのだ。明らかに怪しいもんだ……

 やはり霊峰に向かって進むのに間違いはなさそうだな! 

 

 とその時

 

「ガアアアァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 すぐ前方から狂乱したモンスターの声が聞こえてきた。このまま進めば確実に鉢合わせになるだろう。

 俺は澪音の顔を見て小さく頷いてから、慎重に前に進むことにした。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 少し進むとややひらけた場所に出た。と思ったのだが、そのひらけた場所というのは周りを覆う大木達が何本も倒されてできた人工(竜工?)の広場、要するに戦闘が起こってできた場所だった。

 現に今も目の前からは大きなもの同士がぶつかるような音や、何かを叩きつけている音が聞こえてくる。すると、

 

「ちぃぃっ!!」

 

 戦闘をしていた片方だろうモンスターが俺と澪音の前にいきなり現れた。相手に吹き飛ばされてここまで飛んできたのか!? 

 そして吹き飛ばされてきたモンスターはとても見知った顔をしていた。

 

「レ、レオン!?」

「シロウかぁ!? お前は無事だったんだなぁ。良かった……」

 

 俺はいきなりレオンに会えたことに心底驚いていたが、何故かレオンは驚きよりも安堵がその表情に現れていた。

 少し首を傾げつつもレオンが何かと戦っていたのを思い出して、加勢の意を伝える。

 

「シロウ……いいか、落ち着いて聞けぇ。ランを見つけた」

「本当か! ランは今どこにいるんだ!?」

 

 ランが見つかったと聞いて俺はその何かのことも忘れて舞い上がった。

 いきなり仲間を2人も見つけられたぞ! やっぱなぁ。あいつらがそう簡単に死ぬはずだないだよ。特に名持ちの奴らはこの森の中で見てもかなり強いし。何にせよこれで……

 

「だが奴はもうダメだぁ。()に侵されちまってる……もう俺たちの声は届きやしねぇ……」

「は……え? 何言ってんだよレオン……ランが、ランが何だって?」

 

 その問いにレオンが答えるより早く、広場の奥から答えがやってきた。

 

「ガアアアァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 レオンとさっきまで戦っていた何か。その正体は、紫色に染まった目をしたランだったのだ。

 紫色の目にはどう考えても理性というものが残っていない。怒り状態のモンスターに似た、目の前の敵を殺すという強い敵意しか感じられない。

 

「う、そだろ……ラン、俺だ。士狼だ……わかるだろ? なぁ!?」

 

 茫然と俺はランに手を伸ばすが、俺の問いかけにランは雷光虫弾という暴力で答えた。あの誰よりも戦術というものを大事にし、群れの中で1番知的だったランがだ! 

 頭の中が半ば真っ白になっていた俺はその雷光虫弾を避けることができず、後ろに弾き飛ばされた。

 

「士狼!」

 

 澪音が駆け寄ってきて俺の体を起こしてくれるが、俺にとって今のダメージなどどうでも良かった……

 なんとかランを元に戻す方法しか考えていなかった。

 

「レオン! 青い実は……ウチケシの実は食べさせたのか!?」

 

 火山での一件から狂竜ウイルスのことを知った俺は、一応と思いレオンにウチケシの実のことを教えていたのだ。もし身内がいきなり狂乱したり我を失ったら、青い実を食べさせるといいと。

 しかし帰ってきたレオンの答えは、俺をさらなる絶望の底へと叩き落とすものだった。

 

「食べさせたさぁ……だがまるで効果がねぇ! この前見つけた調子の悪い仲間に食べさせた時は、確かに効果があったぁ! だがランには持っていた分全てを無理やり食べさせたが、このままなんだぁ……」

「そ、そんな……」

 

 もしかしたら、完全に狂乱しきる前なら効果があるのかもしれない。だがランはレオンが見つけた時からこの状態だったという。

 

「シロウ。俺はこんな仲間の姿は見ていられねぇ……せめて俺の手で眠らせてやるのが、最後のリーダーとしての役目だと思ってる。手を、貸してくれねぇか……?」

 

 もう……もうランを倒すことしか方法がないのか? あのランを……一緒に戦術を練ったり、共に修練に励んだランを……こ、殺すことしか……? 俺は、俺は! 

 

「士狼!」

 

 ハッと顔を上げるとそこには、真剣な顔をした澪音がいた。

 

「み、澪音……」

「しっかりして。リーダーさんの言うとおり、あの症状がなんなのかわからない今、私達にできることは少ない。それに士狼も気付いてるはず。あの症状になったものは命を削っているって」

 

 あぁ、それは俺も思っていたことだ。狂乱したモンスターは自らの命を削って、体のリミッターを解除して暴れている。限界以上の力を絶え間なく引き出しているのは、本人からしたらとても苦痛を伴うことだ。

 もしこのまま俺たちが霊峰に到達して治す方法を知れたとしても、その頃にはランはもう……

 

「ランって人のことは私はよく知らないけど……苦しんでる。今もあの人は苦しんでる。だったら、早く楽にさせてあげるのも仲間の役目」

「ミオンの言うとおりだぁ。リーダーとして、仲間として、そして何より友として……苦しんでいるランを解放してやりたい。手伝ってくれるかぁ? シロウ……」

 

 今も頭の中はぐちゃぐちゃだけど。まだランが助かる方法があるって探したい自分がいるけど。それ以上に! ランに苦しんで欲しくない……

 その思いは俺も同じだ。

 

「分かった……俺も手を貸す……仲間として、ランを助けてやらないとな……!」

 

 狂乱して手当たり次第に木をなぎ倒しているランの前に俺たち3人は立った。

 ラン……今楽にしてやるからな。

 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

 そこからのことは正直思い出したくない。仲間を攻撃する罪悪感、後悔、それらの悪感情に何度も飲み込まれそうになった。

 でも理性が無いはずのランの目が「長、シロウ、ミオン、頼む」って言ってる気がしたから……俺たちは最後まで戦った。

 

「ラン……ごめん……ごめん」

「不甲斐ないリーダーですまねぇ……ラン」

「………………」

 

 戦闘が終わって夜がふけても、俺たち3人はまともな会話を出来ずにいた。全員顔を地面に向けて誰とも顔を合わせようとしない。無意識に今の自分の顔を見られたく無いと思っていたのかもな。

 

 

 ようやく再起できたのは朝日が昇る頃だった。

 

「いつまでもウジウジしてても仕方ねぇ……こんなんじゃランに顔向けできねぇからな」

「そう……だな。こんな姿を見られたら、ランに笑われちまう」

「うん……」

 

 落ち着いてきてから、俺と澪音は原因と思われるのは霊峰ということ。そしてこのまま霊峰を目指して進むことを話した。

 

「レオン、お前はどうする?」

「俺はこの森をくまなく探索してみよう思う。もしかしたら毒にやられて苦しんでる仲間が居るかもしれないからなぁ。そういう奴らを見つけて、出来るだけ多く救っていきたい。今は群れだの縄張りだの言ってる場合じゃねぇ。こんな悲劇を繰り返さないためにも……出来るだけ多くの同胞を救いてぇ」

 

 レオンは仲間を探すために森をくまなく調べることに決めたようだ。レオンらしい、リーダーらしい選択だと思う。

 

「じゃあ俺たちは行くよ。仲間にあったらよろしく言っといてくれ」

「あぁ。そっちこそ、元凶にあったら、俺とランの分までぶちかましておいてくれよぉ?」

 

 コツンと頭同しをぶつけた後、俺たちはレオンと別れた。

 こんなウイルスを撒き散らしてふざけやがって……『雷狼の里』を敵に回すとどうなるか、思い知らせてやる……! 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第36話.sideティナ③ 〜異変の始まり〜

「では今日の特訓はここまでです」

「「有難うございました、ティナさん!」」

 

 毎日の日課となっているカナトとエリンとの特訓を終えて、適度にかいた汗を流すために温泉にやってきたティナ。ユクモ村は温泉が名物なので、これに入るのもティナの日課になりつつあった。

 

「彼らは本当に強くなりました……初めはすぐに倒れてしまっていましたが、今では最後までついて来られるようになりましたし」

 

 温泉に浸かりながらティナは1人思いを馳せる。それはまだカナトとエリンがティナと出会ったばかりの頃。彼らはティナのウォーミングアップにすらついていくことができなかった。

 勿論ティナのウォーミングアップがおかしいというのもあるが。しかし今ではそのウォーミングアップも平然とこなし、その後の訓練もメニュー通りに最後まで通して行えるようになった。

 

 これがどれほど凄いことなのか当事者たちは気付いていないが、数ヶ月ぶりにユクモ村に視察に来たキールが目が飛び出るほど驚いたという出来事がある。

 キールといえばギルドマスターの仕事をしつつも有望な人材をスカウトすることでも有名なのだ。ちなみにティナもスカウトされたものの1人。

 人を見る目は誰よりも優れているキールが彼らの成長を見て驚いていた。カナトとエリンの弛まぬ努力の結果が現れた出来事だ。

 

「出会った頃は上級にもなってなかったハンターだったのに、今では2人だけでかなり上位のG級クエストもこなせるようになりました」

 

 この間彼らは2人だけでG級相当のラージャンを討伐してきたところだ。ティナも一応付いて入ったのだが、彼女が入る隙がないぐらい完璧にあのラージャンを仕留めて見せた。

 G級のラージャンを討伐出来るというのは、もはや英雄クラスの偉業だ。彼らは昔自分たちが憧れていた英雄の道に一歩を踏み出したことになる。

 

「ふふふ。次はどんなことをしましょうか。とても楽しみです……」

 

 他の人との身体能力に大きな差があるティナにとって、自分と同じぐらい動ける仲間というのは本当に嬉しい存在なのだ。

 いずれはあの子のように自分と肩を並べる存在に……そう思うだけでティナの機嫌はうなぎ上りだ。

 

 ティナはニコニコと笑みを浮かべながら温泉を後にした。

 ちなみにこれは余談だがティナには女性のファンも多い。彼女の満面の笑みを目の当たりにして、ノックダウンさせられた女性客がいたりいなかったり。

 

 

 ……Now loading……

 

 

「テオ、今戻りましたよ〜」

「お帰りなさいませニャ、ご主人様」

 

 広すぎる自室に帰るとそこにはルームサービス係のテオが風呂上がりの紅茶を用意して待っていた。

 

「おや、よく私が温泉に入ってきたって分かりましたね?」

 

 気が効くルームサービス係に感心しながらティナがそういうと、

 

「ご主人様、この頃毎日温泉に入ってるニャ。流石に行動パターンもわかってくるってもんニャ……」

 

 呆れた顔をしたテオがやれやれと手を振っていた。

 

「むぅ、そんなに温泉に入ってましたか……ですが温泉に入るのは私のこの頃の楽しみですし、まぁいいでしょう」

「温泉に入りすぎて、しわくちゃにならないといいけどニャ」

「何か言いましたか?」

「な、なんでもないニャ」

 

 テオは噴き出した汗を拭って安堵の息を吐いた。もし今のがティナに聞かれでもしていたら……テオの背中がぶるりと震える。

 

「テオ、何か私に伝達とかきていませんでしたか?」

「あー、そういえば明日キールさんがこっちにくるそうニャ。昼には着くからすぐに顔を見せてくれって。なんでも伝えたいことがあるそうニャ」

「伝えたいこと、ですか」

 

 この時ティナは何となく嫌な予感がするなと思った。しかし自分の思い過ごしだろうと思って特に気にしなかった。

 しかしティナの予感は次の日、当たっていたと知ることになる。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 翌日無事にキールが到着したと聞いたティナはギルドの執務室へと足を運んでいた。キールはティナにとって第二の親も同然の人。久しぶりに会えるとなると浮き足立つものだ。

 

「失礼します、ティナです」

 

 執務室のドアを開けると、いつもの場所にキールは座っていた。しかしその表情は久しぶりに娘同然のティナに会えた喜びではなく、眉間にシワを寄せた厳しいものになっている。

 その顔を見て即座にティナは何かよくないことが起こっていることを察した。

 

「何かあったんですね?」

「うむ……実はとても不可思議なことが起きていてな」

 

 キールの口から語られたのはこの頃のモンスターたちの異変。なんでも本来の生息地から大きく外れた場所で確認されたモンスターが多数いたり、普段なら好戦的ではないモンスターが暴れまわったりしているとのこと。

 別にこれだけだったらまぁそういうこともあるかで話は終わるのだが、その報告数が明らかに多くなってきているというのだ。

 

「それは大陸各地で見られているのですか?」

「そうだ。だからどこかに強大な……それこそ古龍が現れて、生息域を追われたモンスターが暴れているというわけでもない」

 

 ふむ、と顎に手を当てて考え込むティナ。確かに古龍の仕業ならば分かるのだが、大陸各地ともなるとどうだろう。

 全世界に影響を及ぼす存在。御伽噺の童歌に出てくる伝説の黒龍ならば可能性はあるが、あまりに荒唐無稽のため信じてはいなかった。

 

「モンスターが暴れていると言いましたが、具体的にはどんなふうに暴れているのですか?」

「それが報告によると、見境なく暴れまわっているそうだ。人やモンスター関係なく、目に入ったものは全て襲うようになったものもあるらしい。狂乱といった言葉が浮かぶ有様だそうだ」

 

 そんなのはもはや暴走の域を超えている。暴れているモンスター達に自我が残されているのかも怪しくなってきた。

 新種のモンスターが現れて、何か特殊な状態異常を起こしている……? 

 そこまで考えついたティナは今思っていたことをキールに伝えた。

 

「新種のモンスターか。確かにその線も考えられるな。しかし確証は何もない。新たな疫病のようなものかもしれない」

「疫病……だとしたら怖いですね。今はモンスターにしか報告例は無いようですが、もし人にも感染するようなものだったら……」

「うむ、大混乱が巻き起こるだろう。だからこそ今回の件は慎重に調査をしなければならない。こちらからもG級ハンターを何人か手配して調査にあたってみよう。君はどうする?」

「そうですね。私は……」

 

 こんな時彼女がいてくれれば……

 ティナの脳裏にはツインテールを揺らす、小柄だが1番頼りになる相棒の姿が思い浮かんだ。しかし彼女は新大陸の調査に行ってしまって、今こちらにいない。彼女の眩しい笑顔を思い出して一瞬寂しげな表情を浮かべるティナ。

 しかしまだ頼りになる仲間がいるではないか。自分と肩を並べられる可能性のある、心強い仲間達が。

 

「私はカナトさんとエリンさんを連れて調査に加わります。まぁ彼らが承諾してくれれば、ですが」

「彼らならばきっと答えてくれるさ。では調査の内容を追って報告する。今日は以上だ。……すまんな。きて早々こんなことになってしまって」

「いえ、キールさんのお役に立てるなら私は……」

 

 そう言いかけた時だった。

 

 カンカンカンカンカンカンカンカン!! 

 

 突然甲高い鐘の音が鳴り響いた。

 

「これはまさか……?」

「モンスター襲撃の知らせ!? そんな、この村にモンスターが来るなんて滅多にないのに……キールさんすいません、私行ってきます!」

「あ、あぁ」

 

 ティナが駆け出していって1人執務室に残ったキールがポツリと呟く。

 

「まさかこの大陸でも異変が……?」

 

 

 ……Now loading……

 

 

 この世界の村や街はモンスターの接近を防ぐために周りに鉄柵が張り巡らされている。

 ティナが唯一の村への入口である鉄の門の前にたどり着くと、そこにはあり得ない光景が広がっていた。

 徒党を組んで走ってくるドスジャギィの群れ、まるで鉄柵に蜂蜜でも幻視しているかのように一心不乱に駆けるアオアシラ達、そして空からも火竜夫婦が何組か飛んできているのも見える。

 その他にも数種類のモンスターが、一直線にユクモ村目掛けて走ってきていた。

 

「これは……一体? モンスター同士が群れて襲いかかってくるなんて、聞いたことが……」

 

 その光景にティナは一瞬足を止めてしまうが、すぐに自分のすべきことはこのモンスター達を1匹も村に入れないということを思い出して、すぐさま背中に背負った太刀を抜いた。

 

「ティナさん!」

「これは一体どういうこと!?」

 

 そこにタイミングよくカナトとエリンが駆け寄ってきた。彼らも鐘の音を聞いて大慌てでここまでやってきたのだろう。

 

「分かりません! ですがモンスターの大群がこの村に押し寄せようとしています。私たちはあれらを食い止めなければなりません!」

 

 数では圧倒的に劣っている。しかし

 

「了解!」

「1匹たりとも村に入れてなるものか!」

 

 この頼もしい仲間と一緒ならば……! 

 

 ティナ達ハンターとモンスターの大群による前代未聞の戦闘が今、始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第37話.sideティナ④ 〜襲撃〜

遅くなって申し訳ない!

ハンターサイドの話、続きです。


 モンスターがまるで波のように押し寄せてくる。狂ったような咆哮を上げながらこちらに向かってくる様は、とても形容し難い恐怖を感じさせるものだ。

 

「ひ、ひいいいい!!」

 

 1人、また1人と立ち向かうハンターの数は減ってきている。一体でも一般人にとっては十分脅威となるモンスターが、山のように襲ってきているのだ。下位や新人のハンターには荷が重いというもの。咎められるものではない。

 残ったのは上級ハンターやキールについてきた少しのG級ハンターのみ。しかしその全員の顔は緊張でこわばっている。ここにいる誰もがこれほどのモンスターの大群と戦ったことなどないのだ。当然だろう。

 そしてそれはティナ達も同じだった。

 

「ティナさん、これは……」

「考えるのは後です! 今は一刻も早くモンスター達を押し止めないと……!」

 

 

 村の周りが鉄柵で覆われているとはいえ、翼を持つモンスターならそれも関係ないだろう。とはいえ空ばかりに意識を割いていても今度は圧倒的な物量の地上組に押し込まれてしまう。

 ティナは久しぶりに冷や汗が伝うのを感じた。

 

「カナトさん、今ここにあるバリスタはいくつですか?」

「移動型バリスタはたった3機。それもあんまりいい精度じゃないんだ。とてもバリスタだけで制空権を取るのは難しいよ……」

「なるほど。なら!」

 

 ティナは集まっているハンター達の方を振り返り、声を大にして叫んだ。

 

「ガンナーの方々は全員空から来るモンスターに集中してください! 地上のことは他のハンターに任せて、決して空からの侵入を許さないようにお願いします! 残りのハンターのうち、盾持ちの方々はなるべく前へ! 危険なことはわかっていますが、少しでも長くモンスター達を引き付けてください! それ以外のハンターは全力でモンスターを狩って下さい!!」

 

 ティナの声は緊張で静まり返っていた戦場によく響いた。そしてこういう時は皆自分たちを引っ張ってくれる誰かの登場を待ち望んでいるものだ。

 ティナのことを知っているハンターは声高らかに、気づいてないハンター達も今はこの声の通りにすべきと判断して了承の声をあげた。

 

 自分のするべきことを示されたハンター達は迅速に動き始める。彼らは皆上位以上のハンター。あまりにも現実離れした現象のせいで遅れを取ったが、本来は優秀なハンターなのだから。

 

「私たちも行きますよ。カナトさん、エリンさん!」

「OK!」 

「分かった!」

 

 こうしてハンター対大群のモンスターの戦いが始まった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「はぁっ!」

「ギャォォォォォ……」

 

 戦闘開始から30分が経っただろうか。ハンター達の巧みな動きによって未だモンスター達の侵入を許さないでいた。

 ドンドルマで名を馳せているG級のランサーが数人いたのが功を奏して、前線が崩壊せずに済んでいるのだ。ガンナーの一斉射撃によって空から来るモンスター達もうまく牽制出来ている。

 

 そしてティナは1人で20体目のモンスターを斬り伏せたところだった。

 

「はぁ、はぁ、きりがない!」

 

 斬っても斬ってもモンスターは止めどなく押し寄せてくる。

 

「ティナさん! このままじゃ持たない!」

 

 剣モードに切り替えたスラッシュアックスでモンスターをなぎ払いながらカナトが近づいてきた。昔ならここにいるモンスター達に囲まれるだけでピンチだったのに、今ではとても頼もしいものだ。

 その成長にティナは少し微笑んだが、状況がそれを許してくれない。今もティナ目掛けてアオアシラが大きな爪を振り下ろしている。

 

「はっ!」

 

 しかしそれでやられる彼女ではない。振り向きざまに太刀を一閃させてアオアシラを切り裂いた。

 

「前線の様子はどうですか?」

「ランサーの人達がなんとか抑えてるけど……このまま続けてたらいつか突破されかねない。せめてモンスターがもう少し減ってくれれば……」

 

 カナトの言葉を聞いてティナは深く考え込んだ。みんな決死の思いで戦ってくれている。ならば自分も続かなければと。

 

「……カナトさん」

「何? ティナ、さん……?」

 

 呼び掛けられて振り向いたカナトが見たのは、見慣れたティナの顔。なのにカナトは怖気付いてしまった。それほど今の彼女の表情は鬼気迫るものだったからだ。

 

「私はこれより本気(・・)を、全力(・・)を出します。少々危険なのでみんなにさがってもらうよう言ってもらえませんか?」

「下がるって……まさかあの数を1人で相手にする気!? そんなの無茶だ! いくらティナさんが英雄だからってそれは……!」

「お願いです。カナトさん」

「ティナさん……」

 

 最初カナトはティナが諦めて自暴自棄にでもなったのかと思った。しかしティナの目は全く諦めていない。それどころか何か覚悟が決まった目をしていた。

 

「分かった。みんなには下がるよう言っておく。ティナさんの本気がどれほどか僕はまだ知らないけど……無茶はしないで」

 

 そう言ってカナトは他のハンター達が戦っている方に走っていった。

 

「無茶はしないで、か。久しぶりですね……他人から戦闘で何かを心配されることなんて。さて……」

 

 ティナは1人前線に残ったことで、全てのモンスターが自分に集まってきているのを感じた。

 今周りに人間はいない。いるのはモンスターだけだ。

 自然と体が恐怖で震える。目の前に迫るモンスター達に対してではない。本気を出すことに対してだ。だが、

 

「皆を守るためなら、私は!!」

 

 そう宣言したティナの真紅の瞳が、眩い輝きを放った──

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「よし、これで全員だな」

 

 カナトは言われた通りハンターの皆んなを後退させていた。初めは不満をいうものも多かったが、ティナの名前を出すと驚くほど素直に従ってくれたので後退は速やかに行われている。

 カナトはティナの知名度と信頼の高さに改めて感心させられていた。

 

「流石はティナさんだ。でも……」

 

 カナトは1人残っているティナがいる方へ目線を向けた。本気を出すと言っていた彼女。たしかに自分は彼女の本気というものを見たことはない。だが、本当に1人で大丈夫なのだろうか? 無理をしてないだろうか……

 

 やはり無理にでもついていくべきだったかと考えていたその時、モンスターの群れの中心から、巨大な火柱が上がるのが見えた。

 

「な、なぁ!?」

 

 火柱が上がっている場所はかなり遠い。だというのに鉄の門前まで引いていた自分のところまで眩しい閃光が目を焼く勢いで届いているのだ。

 次に襲ってきたのは台風のような勢いで吹き荒れる熱風と、耳をつんざく轟音。とてもじゃ無いがカナトは立っていられなかった。

 

 しばらく頭を押さえて地面に伏せていたカナトだが、熱風と爆音がなくなったのでそっと頭を上げてみた。

 見渡してみると巨大な火柱は消えており、あたりは静寂に包まれている。

 

「なんだ今のは……!?それにおかしい。静かすぎる。さっきまで聞こえていたモンスターの咆哮が一切聞こえなくなった……」

 

 周りのハンター達もざわめき始めている。このままでは混乱が生じると思ったカナトはみんなの前に出た。

 

「僕が状況を確認してきます! 大勢で行っても混乱するので、皆さんはここで待っていて下さい!」

「あ、おい!」

 

 誰かが呼び止めたような気がしたが、それを無視してカナトは走り出していた。混乱を収めるためと言っていたが、本当はティナのことが心配でたまらないのだ。

 

「ティナさん……」

 

 静まり返った戦場を、カナトは一直線に突き進んだ。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「これは!?」

 

 前線だった場所まで戻ってきたカナトが見たのは、全てが焼け焦げた大地だった。地面も木も、そしてモンスターさえもが焼け焦げて黒い炭状のなにかとなっているのだ。

 

「……はっ! ティナさん!? ティナさん!」

 

 焼けた大地を進んでいると、ティナが仰向けに倒れているのが見えた。カナトは一目散に駆け寄り、彼女の上半身を抱える。

 

「ティナさん、しっかりして! ティナさん!」

「う……カナトさん」

 

 ティナが薄らと目を開けたのをみてカナトは安堵のため息をついた。

 

「周りの、モンスターは……どうなりましたか……?」

「え? あ、あぁ。モンスターはいないよ。全員焼け死んでる……」

「そうですか……っ!」

 

 言いながらティナはヨロヨロと立ち上がる。カナトがそれを支えようとするが、ティナはそれを手で制した。

 

「ティナさん、一体何があったの?」

「私にも分かりません……あの後私はすぐ、何かに吹き飛ばされて、気を失ってしまいましたから……私に任せろなんて言っておいて、こんなザマですいません」

 

 ティナはそう言って「はは……」と薄く笑う。

 

 嘘だ。カナトはすぐにそう思った。これでも半年近く毎日ティナと顔を合わせてる身。彼女の表情の細かい変化も少しは分かるようになっている。

 だがカナトがそれを言い出すことはなかった。なぜなら笑う彼女の顔が、どうしようもなく悲しい表情をしていたから……

 

「そっか……」

「ええ。モンスターの脅威は一先ず去りましたし、1度村に戻りましょう」

 

 これ以上話すことはないと言わんばかりに、少しふらつきながらも足早に去っていくティナ。それを複雑な表情で追いかけるカナト。

 人類史に残るほどの脅威を乗り越えたというのに、焼け焦げた大地でそれを喜ぶものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません、書ききれませんでした……
次回もハンターサイドの話です。オウガさんの登場はもうしばしお待ちを!


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第38話.sideカナト③〜次なる調査へ〜

また2ヶ月ほど間が空いてしまって申し訳ない……
投稿ペースを縮められるよう努力します。


 ユクモ村の危機を救ったティナはそのあと盛大に村人たちに迎えられた。前代未聞の危機から自分たちを救ってくれたことに感謝を示して、その日はお祭り騒ぎのようなムードに村全体が包まれていた。

 しかしただ1人、カナトだけはそのムードの中に入れずにいた。理由は勿論あのティナの顔が脳裏にチラつくからだ。あの時のティナのなんとも言えない悲しげな表情……あんな顔は初めて見た。

 本当ならあの火柱の中で何があったのかをもう一度問いただしたい。しかしそれをしたら今までの関係が全て壊れてしまう気がして恐ろしいのだ。

 

「結局僕は、外側が強くなっただけの男ってことか……」

 

 力は昔に比べて格段に上がった。昔じゃ手に負えないようなモンスターにも立ち向かえるようになった。でも内面は全く成長していない。いつまでも天狼竜にやられたあの時の弱い心のままだ。

 そう自虐気味に考えたカナトは村の喧騒から少し離れた場所で1人夜空を見上げていた。

 

「こんなところで何してるの?」

 

 建物の影からひょっこり現れてそう声を変えてきたのはエリンだった。エリンは自然な動きでカナトの隣に立つと、同じように夜空を見上げる。

 

「村のみんなが探していたわよ? 最前線で戦った貴方に一言お礼を言いたいって」

「あぁ……あとで行かなくちゃね」

 

 乾いた笑みでそう返すカナトを見て、エリンははぁと小さく息をついた。

 

「何を悩んでいるのかは知らないけど、またいつかのように1人で抱え込んで押し潰されてちゃだめよ?」

 

 変わらず夜空を見上げているエリンの言葉を聞いて、カナトは驚いたようにエリンの顔を見る。

 

「ど、どうしてそれを……」

「何年あんたと一緒にいると思ってるの? それぐらいわかって当然よ」

 

 そしてエリンもカナトの顔を見て真剣な表情で言った。

 

「何を悩んでいるのかは今は聞かない。でもよく考えてみて。貴方にとってその悩みはどういうものなのか、そして相手はそれについてどう思っているのか。よく考えて、心の整理をつけてから行動するのよ。前みたいに1人で突っ走るのはもうごめんだからね?」

「!」

 

 そうだ。前は自分の空回りでバスクにまで心配をかけてしまった。自分がその人のためと思ってやっていることが、その人にとっての1番とは限らないのだ。

 エリンの何気ない言葉はそのことに気づかせてくれた。

 

「ん、少しはいい顔になったんじゃない?」

「ありがとう……エリン」

「どういたしまして。心の整理がついたら、私にも話して貰うわよ〜」

 

 そう言ってエリンは喧騒の中へと戻っていった。

 カナトは再び夜空を見上げ、先ほどエリンに言われたことを再確認する。

 

「また同じ間違いをするところだったな……」

 エリンが言っていたのはとても些細なこと。しかしそれに気付けるかどうかというのはとても大きい。

 顔を上げたカナトの顔は、今の夜空のように晴れ渡っていた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 村への襲撃から数日後、カナトとエリンはキールの部屋へと呼ばれていた。そしてそこにはティナの姿もある。ティナは初めてカナトと顔を合わせるやいなや強張った表情をしていたが、カナトが笑いかけると次第に安堵したような顔になっていった。

 

 数日ぶりの顔合わせが終わったところでキールが口を開く。

 

「今日みんなに集まってもらったのは、先日のモンスターの大襲撃について進展があったからだ」

「ほ、ほんとですか!?」

「うむ、あのモンスター達はユクモ村の南に広がる大森林、そこから来ていたということがわかった。そして調査のため数人のハンターを送り込んだのだが……」

 

 そこで一旦話を切ったキールはふぅと小さく息を吐いて続ける。

 

「森の中は多くのモンスターが我を忘れて暴れまわるという、地獄のような状況になっているそうだ」

 

 カナト達も大陸に広がる異変については聞かされていた。だがそれも偶発的で局所的にモンスターの凶行が起こっているわけではない。しかし大森林の中では至る所で発狂したモンスターが暴れ回っているというのだ。

 カナト達は先日の件と合わせて、その恐ろしい光景を想像して息を呑んだ。

 

「森の中は大変危険な状況となっており、並のハンターではとても太刀打ちできないだろう。そこでだ、前にティナくんには話したのだが、君たち3人には大森林の調査をお願いしたい」

 

 キールは今回の異変が大陸全体に及んでいること、そして大森林はその異変が多く集中している場所だということを説明した。

 

「多くの危険が付き纏う大変な任務になるだろう。それでも行ってくれるかね?」

「「お任せください!!」」

 

 キールの問いに対してカナトとエリンは即答でそう答えた。ユクモ村は自分たちの故郷。その村の近くで大きな異変が起こっているのだ。村を守るためにも2人が調査を辞退するという道理はなかった。

 

「ありがとう。よし、これより君たち3名に特別任務を言い渡す! 任務内容はユクモ村南の大森林の調査。モンスターが狂乱する原因を解き明かすのだ!」

「「「了解!」」」

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 キールの部屋から出て各自調査の準備のため解散した後、カナトが店先でアイテムを物色している時、後ろからティナが声をかけてきた。

 

「カナトさん! その、少しお話しいいですか?」

「ティナさん……」

 

 カナトは話の内容がどんなものかすぐに察することが出来たので、なるべく人の少ない場所に行こうと提案した。カナトの予想は当たっていたらしく、ティナも無言で頷いてカナトの後についていく。

 そしてたどり着いたのは昼間だというのに人気のない小さな広場だった。

 

「ここは村の中でも穴場のスポットで、滅多に人が来ることはないんだ」

「ありがとうございます……その、すいません気を使わせてしまったようで」

 

 カナトが広場の隅にあるベンチに座り、ティナにも横のベンチに座るように促す。するとティナはおずおずとカナトと同じベンチに座った。思わぬ距離の近さに一瞬ギョッとしたカナトだが、今はそういうことを考えている場合ではないと分かっているので、すぐに平静を装ってティナが話し始めるのをジッと待っている。

 少しの間を開けてティナがその重い口を開いた。

 

「その、先日のモンスター大襲撃の時はすいませんでした。私を心配してカナトさんを来てくれたというのに、素っ気ない態度をとってしまって……」

「いや、いいんだ。あの時はティナさんも意識がしっかりしてなかったようだし、あの状況で周りのことまで考えろという方が酷ってもんだよ」

「そう言っていただけるとありがたいです」

 

 そして再び訪れる沈黙。肩が触れ合うほどの距離にいるというのに、お互いに顔を合わせようとしない。その気まずい空気を打ち破るようにティナが声を出した。

 

「あ、あのですね、実はあの時私──!」

「ティナさん!!!」

 

 予想外のカナトの大きな声にティナは出しかけていた言葉を引っ込めてしまった。

 

「無理にその先は言わなくていいよ。理由は知らないけど、ティナさんにとってあまり話したくない内容だってことは分かる。勿論話してくれようとしてくれたことは嬉しいけど、無理してまで言って貰う必要はない。ティナさんの気持ちにちゃんと整理がついて、話す決心がついたらその続きを聞かせてほしいな」

「で、でも私は……」

「いいんだ、無理しなくても。僕はいつまでも待ってるからさ」

 

 その言葉を聞いたティナは両手を強く握りしめた。

 

「……分かりました。本当に心の決心がついた時に改めてお話しします」

「うん、それでいいと思うよ。心の整理がついていないと1人で抱え込んで暴走してしまうからね。僕の体験談が証明しているんだ、間違いない!」

「ふふ。なんですか、それ」

「あははは!」

 

 ひとしきり笑い合った後、2人は同時にベンチから立ち上がった。そこにはこの広場に来たときの気まずい空気はもう流れてはいない。

 

「さて、エリンも待っていることだし、早く準備を整えて調査に行くとしよう!」

「はい! 必ず私たちで異変の真実を見つけ出してみせますよ!」

 

 2人は同時に村の中心街に向かって歩き出した。それぞれが仲間との絆を再確認し、大森林の調査に乗り出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第39話.降臨

「ここは……一体なんだ?」

「神殿? みたいだけど……」

 

 レオンと別れたあと、俺たちは森の中を進んでいたんだが、その途中で妙なものを見つけた。一見すると朽ち果てた神殿のようなものだ。

 しかしこんな深い森の中に神殿があるってのもおかしな話のような気もするな。もしかしたらこの神殿ができた頃は、ここらへんは森じゃなかったのかも。

 

「見ろよ澪音、ここに像がある」

「ほんとだ……! 士狼、これって」

「ん? ……あぁ! これは!」

 

 朽ちた神殿の中央には一つの龍の像が建っている。所々が崩れてかなり劣化しているが、まだ原型は保っている。そしてその龍の像のモデルに俺たちは強い心当たりがあった。

 

「祖龍……」

「ミラルーツ……」

 

 建っていた像はゲームの中で何度も見たミラルーツそのものだったのだ。一瞬ボレアスかとも思ったが、ルーツはボレアスに比べて体毛の量が多い。そしてこの像はその細かい体毛までをも再現した実によくできたものだった。劣化してない状態が見てみたいほどだ。

 

「なんでこんなところにミラルーツの像が?」

 

 そう思ったときだった。

 

「また会った。祖龍様の御使殿」

 

 いつかのように突然後ろから声をかけられた。振り向くとそこには、砂原で会った古代竜人が立っている。

 

「っ! 誰!?」

 

 いきなり背後に現れた存在に警戒して澪音が臨戦態勢を取ったが、とっさに事情を説明して事なきを得た。

 

「久しぶりだな。そうそう、砂原での件は助かった。礼を言わせてくれ」

 

 砂原では言えなかった礼の言葉をようやく伝えることができた。古代竜人はうんうんと頷きながら俺の言葉を聞いている。相変わらず深い笠を被っているのでその表情はよく分からないが。

 

「それで? 今度はなんの用だ?」

「用があるは我らじゃない。祖龍様自ら話がある」

 

 そう言ったっきり古代竜人はだらんと力の抜けた人形のようになってしまって、話しかけても押しても引いてもうんともすんとも言わなくなってしまった。

 

「どうすればいいんだこれ?」

 

 思わずそう呟いたとき、いきなり古代竜人が光り始めた。古代竜人の小さな体を光が包み込むと、そのまま宙にふわりと浮かび上がる。

 

「な、なんだなんだ?」

「眩しい」

 

 しばらくそのまま様子を伺っていると、次第に声のようなものが聞こえ始めてきた。

 

「あー、あー、聞こえてますかー?」

 

 古代竜人のしわがれたような声ではない、凛と透き通るような少女の声が聞こえ始めたのだ。

 

「この声……お前まさか神様か!?」

「ピンポーン! 覚えててくれて嬉しいよ。久しぶりだね士狼、あと澪音も近くにいるのかな? 再会できたようで何より何より」

 

 俺と澪音をこの世界に導いたあの幼女神。出来事が出来事なだけに忘れることなんて出来るはずもないだろう。

 

「いやー、ようやく君たちとコネクションを繋ぐことが出来たよ。私の力もだいぶ衰えたもんだね」

「神様が直々になんの用だよ? 古代竜人の話では祖龍が用があるって言ってたが?」

「まだ分からないかな? 君ってば鋭いんだか鈍いんだかよく分からないね……ふふん、何を隠そう私こそが──!」

「貴方が祖龍ミラルーツってこと?」

 

 何やら盛大に名乗りを上げようとしたところ、澪音が横からセリフを掻っ攫ってしまったようだ。

 てかあの幼女が祖龍ミラルーツ!? にわかには信じがたいことだ。祖龍ともなればもっとゴツいおっさんでも出てくるのかと思っていたが。

 

「ちょっと澪音! 私の1番の見せ場を奪わないでくれるかな!?」

「あんまりにも焦らすから、つい」

 

 悪びれもなく言い放つ澪音。ルーツのこめかみがピクピクしているのが見える見える。くくく。

 

「はぁー。まあいいや。ともかく私が全てのモンスターの祖。ミラルーツ様です! 敬いたまえ〜」

「ははー、じゃねぇよ! 俺たちは急いでるんだ。用がないならさっさといかせてもらうぞ」

「あぁ、ごめんって! 久しぶりに話すから楽しくなっちゃっただけなんだよ!」

 

 なんかだんだん祖龍としての貫禄とか風格とか、そう言うのが剥がれ落ちていってる気がする……

 俺と澪音のジト目を受けて、古代竜人もといルーツはゴホンとその佇まいを正した。

 

「じゃあ核心から言うよ。今この世界で起こっている元凶を教えにきた」

「それは……本当か!?」

「勿論。モンスターの暴走が加速しているのは、『あの子』が目覚めようとしているからだ」

 

 待て待て待て。いきなりぶっ飛んだ話が飛び出てきたぞ。

 

「あの子っていうのは……?」

「そうだね……『あの子』には正式な名前はない。だから形式的に終わりを齎す災厄の龍。そうだね【終龍】と呼ぶことにしよう」

 

 終わりを齎す災厄の龍、終龍だと? それが今回の異変の黒幕だということか。だが終龍なんてものは前世では聞いたことがない。俺は結構モンハン世界の設定を好んで調べていたんだが、そんな単語は考察サイトの考察にも出てきたことはない。

 まあこの世界はゲームのモンハンと全く同じというわけではないのだから、俺が知らない単語が出てきてもなんら不思議じゃないわけだが。

 

「その終龍っていうのが、元凶でいいの?」

「うん。彼の撒き散らす濃密な瘴気を浴びたモンスターが、今各地で暴走しているモンスターということ」

 

 終龍……そいつが元凶。そいつのせいでランが、皆んながっ……うん? ちょっと待てよ? 

 

「さっき目覚めようとしているって言ってたよな?」

「うん。封印はまだ完全には解けてないよ」

「じゃあ何か? 終龍って奴はまだ目覚めてもないのに世界各地に影響を及ぼしているってことか!?」

「そうだね」

 

 その言葉を聞いて俺と澪音に衝撃が走った。当然だ。寝ている状態でここまでの被害を出せるのだ。もし目覚めて完全な力を発揮したとなれば……終わりを齎す災厄の龍、か。本当にその名の通り世界を終焉に導く力があるってことか! 

 

「君たちには終龍が完全に力を取り戻す前に、今度こそあの子を永遠の眠りに着かせてあげてほしいんだ」

 

 そう言うルーツの声からは、悲しみの感情が聞いてとれる。どうやら訳ありのようだが、今それを聞くのはお門違いってもんだろう。

 

「つまり終龍を殺してくれってことか」

「っ……うん」

 

 だから今するのは確認だけ。より直接的な言葉を使ってみたが、ルーツから反対の言葉が出ることはなかった。

 

「了解した。澪音も問題はないか?」

私達に(・・・)問題はない」

 

 やはり澪音も気付いていたか。

 

「それで、俺たちはこれから何をすればいい?」

「君たちはこのまま霊峰に向かって欲しい。そこにこの大陸を蝕む原因がいる」

「それは終龍じゃないのか?」

「終龍は特に強大な生物を媒介に世界に瘴気を撒き散らしている。霊峰にいるあいつを倒さない限り、この一帯の異変が収まることはないよ」

 

 なるほどな。世界各地で同時多発的にモンスターの暴走が起こっているのはそう言うわけか。より濃い瘴気を纏ったモンスターを各地に散らばらせ、そいつらからねずみ算式に狂竜モンスターを増やしていっているわけだ。

 

「だがよ、世界の危機だと言うんならあんたら禁忌が解決に当たるのが妥当なんじゃないか?」

「世界のパワーバランスとか地脈の関係とか理由はたくさんあるけど、禁忌は自分が治める地から離れることができないんだ。大戦の傷痕が深く残るこの世界ではね。そして私は数千年前の大戦の影響で現界することすら出来ない……」

 

 大戦というと、モンハンの非公式設定であった竜大戦の事だろうか。竜と人が絶滅寸前になるまで争いあったというあの……

 そんなことを考えていると、古代竜人を覆う光がチカチカと明滅し始めた。

 

「もう時間がないみたい。だから必要なことだけを言うよ。終龍の見た目はゴア・マガラに酷似している。地球から来た君たちなら意味がわかるはずだ。あと終龍は覚醒のために膨大なエネルギーを常に欲している。もし見失ったら、エネルギーが集まる場……を……してみて。じゃ…………を祈………………」

「あ、おい!」

 

 光の明滅が激しくなり、辺りが閃光に包まれる。程なくして閃光は収まったが、その時には古代竜人は光っておらず気絶しているのかピクリとも動く気配がない。

 

「時間切れか……現界出来ないとか言ってたし、本来の力が使えないのかもな」

「でも最後に結構重要なことを言ってた」

「だな」

 

 終龍はゴア・マガラに酷似している、か。やはり性質はこちらの方が強いとはいえ、モンスターが暴走しているのは狂竜ウイルスによるものだったんだな。そしてこの瘴気に当てられ続けるとウチケシの実の効果すらなくなると。

 

「確かに恐ろしい能力だ。だがようやく見えてぜ、ラン。お前の仇がよ……澪音、俺は必ず終龍を倒すと誓う。お前はどうする?」

「私は士狼の行く場所にどこまでもついていく」

「はは、お前は昔っからそうだな。だけどありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」

 

 そういうと澪音はにこりと微笑み返してくれた。家族が身近にいることが、こんなに心強いなんてな。

 

 突然教えられた異変の元凶と神様の真実。正直情報過多で頭がパンクしそうなほどだ。でも俺たちの目的は今日の話でより現実性を帯びてきたと思う。

 終龍。あの祖龍ミラルーツが終わりを齎す災厄の龍とまで呼ぶ存在。恐らくこれまでのどんな奴よりも強大な敵となるだろう。だが俺はランに、里のみんなに誓ったんだ。雷狼の里を敵に回す恐ろしさを思い知らせてやるとな。

 吹き抜けになった天井から覗く青空を見上げながら、俺は決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 




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第40話.竜と人と

 ルーツから異変の元凶について聞いた日から数日後、とうとう俺たちは霊峰の麓の近くまで到達していた。

 

「もうすぐそこだ……」

「うん。あと少し」

 

 雷狼の里から脱出してからもうどれぐらいの日が経ったのだろうか。森の中は深い霧で覆われていて昼夜の判別がつきにくいところもある。なので正確な日にちを覚えてないのだ。それでも結構な日が経っているだろうな。マジでこの森広すぎる。

 

「そういえばルーツに霊峰にいる奴について尋ねられなかったな」

「でも大体予想はつく。霊峰に住む強大な存在といえば……」

 

 まあ澪音の意見に俺も同意だ。恐らく待ち受けているのは嵐を司り、移動するだけで大災害としての記録が残るほどの存在。霊峰から時たま吹き下ろされる強烈な風も、あいつがいるなら説明がつくしな。

 

 そうしてあいも変わらず2人で森の中を進んでいる時だった。前方の方から何かがぶつかり合ったりするような音が聞こえてきた。この森の中だともはや珍しくもない現象だ。モンスター同士が戦い合っているのだろう。

 俺と澪音は頷き合いながら、相手に気づかれないよう慎重に歩き始めた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 戦いの音が近くなってきたので俺たちは手頃な茂みに体を隠してその様子を伺うことにした。しかしその戦闘の光景を見た瞬間、俺は目を疑った。

 

「カナト、そっちに行ったわよ!」

「OKエリン! はぁぁぁぁ!!」

 

 なんと戦っていたのは狂乱したモンスター同士ではなく、モンスターと人間。それも俺がよく知ったハンターだったのだ。スラッシュアックス使いのカナトと弓使いのエリン。彼らが狂乱したナルガクルガと戦っている。

 あいつらがここにいるってのは驚きだが、それ以上にあの2人ってあんなに強かったっけ? 2人の連携の精度や立ち回りは以前戦った時と比べて天と地ほどの差があるだろう。今の2人が相手だったなら、あの時の俺は負けていたかもしれないと思えるほど、カナトとエリンは強くなっていた。

 

 そうこうしているうちにカナトが止めの一撃を決めて勝負は決したようだ。彼らは少しばかり息が上がっているものの、まだまだ余力を残しているように感じる。見た感じあのナルガクルガは結構強そうだったんだがな……この森は奥に行けば行くほどモンスターが強くなってくる。ここはほとんど森の中心部に近いので、モンスターの強さもそれなりものになってくるのだ。改めて彼らの成長ぶりに驚かされた。

 

「お見事でした。これぐらいの強さのモンスターなら、もう私が手伝う必要はありませんね」

 

 げ! ティナもいるのかよ! 

 カナトとエリンの成長ぶりに驚いて気がつくのが遅れてしまったが、奥の木陰から純白の装備を身に纏った少女、ティナが出てきた。歴代最強と称される彼女のオーラは相変わらず凄まじく、隣にいる澪音も彼女の姿を見て目を見開いている。

 

「ありがとう。ティナさん」

「でも気をつけて。まだ近くにモンスターがいる気配がするわ」

 

 まさかエリン、俺たちの気配に気づいているのか!? 前はハンターの卵のように思えていた彼女も今や歴戦のハンターのような風格になっちまったなぁ。

 

「それはその木陰で身を隠している彼のことですか? もう気づかれているのは分かっているでしょう。出てきたらどうですか?」

 

 俺たちの隠れている茂みを見ながらティナがそう言った。

 まあ彼女がこの距離で俺らに気づかないわけがないよな……あれから隠密の腕もあげたと思っていたんだけどな……悲しい。

 

「士狼? どうするの?」

 

 澪音は相変わらずティナの存在を警戒して激しく緊張しているようだ。まあ無理もないだろうけど。あんな規格外の存在、前世では絶対にいなかっただろうからな。

 

「大丈夫だ。彼女達とは顔見知りなんだ。出て行っても何もされないさ」

 

 そう言いながら俺は茂みから姿を現した。モンスターがいるのは分かっていても、それが俺だというのは分かっていなかったのかエリンは驚いたような顔をしている。

 

「久しぶりだな、ティナ。それにそこのハンター達も」

「やっぱり貴方でしたか。よく会いますね。あれ? 私貴方に名前教えましたっけ?」

「風の噂で聞いたんだよ」

「風の噂でって、面白いことを言いますね。ふふふ」

 

 風の噂って言葉はこの世界じゃあんまりメジャーな言葉じゃなかったのか? まあウケてるようだしいいか。

 

「もう一体後ろにいるようですが、そちらは仲間でしょうか?」

「あぁ。おい澪音ー! お前も早く出てこいよ!」

 

 そう呼びかけると澪音がおずおずと茂みから姿を現した。まだティナを怖がっているのか? あ、いやただの顔見知りか……こいつ前世から俺と両親以外には全く懐かなかったからなぁ。

 

「ミオン、というのは彼女の名前ですか?」

「あぁ。てかお前澪音が女だってよく分かったな」

「人間の男女を見分けられるように、モンスターのオスメスぐらい見分けられますよ?」

 

 え? マジ? 俺未だにジンオウガ以外の雌雄の区別つかないんですけど? 

 

「ティナさん、このジンオウガはやっぱり……?」

 

 あ、ティナとの会話ですっかり忘れていたが、そういやこいつらもいたんだった。

 エリンが随分警戒しながらティナにそう尋ねる。

 

「ええ。天狼竜で間違い無いですよ」

「やっぱり……」

「天狼竜……っ!」

 

 カナトとエリンが複雑な表情でこちらを見てくる。俺なんかこいつらにしたっけ? あ、そういえばバスクってランサーが見当たらないな。今日は来てないのか? 

 

「というか天狼竜ってなんだ?」

「あぁ貴方の二つ名ですよ。ギルドマスターが貴方のことを正式に新種と認めたので、新しい名前が作られたわけです」

 

 新種かぁ。やっぱり俺ってもう普通のジンオウガじゃ無いってことだよなぁ。悲しいような強くなってる証拠として嬉しいような。

 

「ところでバスクの姿が見えないんだが、あいつはパーティメンバーじゃなかったのか?」

「それは……」

 

 そこからの話はティナを通訳としてカナト達が俺に話してくれた。怒り状態で我を忘れていた時に、バスクに深傷を合わせてしまったこと。それが原因でハンターを引退したこと。その復讐をしようと俺を追っていたこと。全てを話してくれた。

 

「今ではもう君に復讐しようとかは思っていないよ」

 

 カナトは最後にそう言って笑って見せた。しかしその言葉の節々から自分の感情を押し殺しているというのが感じ取れる。我を忘れていたとはいえ、俺は1人の人生を奪ってしまったのか……

 

「黙って聞いてれば何? 大した確認も取らないまま討伐を決めたのは貴方達の方。それに対抗した結果貴方達に被害が及んだだけの話。士狼は何も悪く無い」

「お、おい澪音?」

 

 いきなり澪音が話に割って入ってきた。俺のことを庇ってくれるのは嬉しいのだが、流石に言葉が厳しすぎるんじゃ無いだろうか……? 

 おいティナ! 「天狼竜の名前はシロウ、ですか……」とか言ってボーっとしてないでお前も止めに入れって! 

 

「そんなことは分かってるさ! いや、初めは分かってなかった……でも仲間達のおかげでそれに気づくことが出来た。だからもう拘ってないって言ったよね!? それに君は誰なんだ? 僕らの問題に他人が勝手に入ってこないで欲しいな!?」

「士狼は私の家族。家族が不当ないわれをされていたから庇った。当然のこと。そんなことも分からないから、バスクって人に怒られたんじゃ無いの?」

「何を〜!?」

「やる?」

 

 やべぇ、一触即発の雰囲気になっちまった……しかもなんて子供っぽいやりとりなんだ……

 ティナはさっきからボーッとしてるのか通訳するだけの機械になってるし、エリンは面倒事が嫌いなのかいつのまにか離れたところで我関せずを突き通している。ハンターside使えないなおい!? 

 

「ま、まあまあ2人とも。ここは仲良くだな……?」

「士狼は黙ってて。この勘違い野郎には1発キツイのを打ち込まないと気が済まない」

「あぁ。君には黙っててもらおうか。お節介女にはいろいろ分からせる必要がある」

 

 あ、さいですか……

 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

「君なかなかやるね……ミオンって言ったっけ?」

「カナトこそなかなかやる……認めてあげてもいい」

 

 なんか友情が生まれたんだが。喧嘩して友情が芽生えるとか、君たちはヤンキーか何かですか? 

 2人は疲れ果てたのかフッと同時に笑い合った後ドサッとその場に倒れ込んでしまった。

 

「カナトも言っていた通り、私たちはあなたに何か思うところはもう無いわ。ハンターとモンスターが戦った結果起きた出来事だもの。そもそも復讐とか考えるのがお門違いだったのよ。それを言われるまで気づけないなんて、私もカナトも子供だったわ」

「そうか。そう言ってもらえるとこちらとしても助かる」

「ええ。バスクも謝罪なんて求めてないはずよ。彼、自分を倒したジンオウガが喋ってたなんて言ったらなんていうかしら」

 

 そう言ってエリンは笑っている。確かにハンターとモンスターが戦った場合、どちらが悪いなんてことはないんだろうな。それが密猟団とかの違法集団じゃない限り。

 

「そういや、お前達はなんでここにいるんだ?」

「そういう貴方こそ、こんな森の奥で何を?」

 

 カナトと澪音のドタバタで目が覚めていたティナと情報交換をした。俺は雷狼の里が襲われて、その元凶を止めるべくここまできたこと。ティナはユクモ村がモンスターの大群に襲われた原因を突き止めるため、特別任務とやらでここまで来たことを話してくれた。

 

「どうやら俺たちの目的は一致しているようだな」

「そうですね。ではしばらくの間共闘ということにしませんか?」

「共闘!?」

 

 ティナから驚きの発言が出て素っ頓狂な声が出てしまったが、成る程共闘か。悪くないな。

 

「そうだな。戦力は多ければ多いほどいいしな。俺はそれでいいがそっちはいいのか?」

「私たちのことなら問題ないわよ。そっちも言った通り、戦力は多い方がいいしね」

 

 ぶっ倒れてる2人には後ほど聞くとするが、まあこの感じだと反対の言葉は出てこないだろう。

 

「よし、なら決まりだな。よろしく頼む、ティナ」

「ええ、こちらこそ。シロウ(・・・)

 

 思わぬところで大きな戦力を得ることができたな。さて、あそこで伸びてる2人を起こしたら出発するとしよう。目指す霊峰はあと少しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




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第41話.霊峰

モンハン新作発表きたー!アイスボーンではミラボレアスが来るし、最近モンハン界隈が熱いですね!


「これが霊峰か……」

「間近で見るととんでも無く大きい山ですね」

 

 俺たちはようやく霊峰の麓に到達していた。ティナ達と組んでからというもの、森で襲ってくるモンスターへの対処がとても楽になったので、思ったより早く辿り着くことができたな。

 

 それにしてもカナトとエリンの成長っぷりには改めて驚かされた。こないだちらっと見たときも強くなっているのは感じていたのだが、行動を共にすることでより深くそのことを理解したよ。

 特に連携がとてもスムーズになっている。前も決して連携が良くなかったわけではないが、今はそれが間違えるほどに上手くなっている。2人の攻撃には一切の無駄がなく、お互いの攻撃が綺麗に敵に叩き込まれていく様はもはや感心するレベルだ。

 

 そんなわけでモンスターとの戦闘は俺と澪音、ティナ、カナトとエリンのローテーションで捌いていったので、疲労も単純計算で3分の1に抑えることができた。

 けどやっぱり、この中だとティナの戦闘能力は頭1つ、いや2つぐらいは飛び抜けていたな。まず俺たちと違って1人だというのに戦闘にかかる時間は2分の1以下なのだ。ほとんどのモンスターを初撃で倒してしまうからな。

 うーむ。あの小さな体のどこにそんなパワーがあるというのだろう? それにティナからは何か古龍と似た気配がするような? 

 

「士狼、気をつけて。ものすごい数の気配がこっちに向かってきてる」

 

 そんなことを考えていると、澪音の緊迫した声が聞こえてきた。慌てて思考をやめて周囲の気配を察知してみると、確かにこれまでの比じゃない数のモンスターがこちらに向かって走ってきているのがわかる。

 

「おいティナ、やばいぞ」

「分かってます。このモンスターの数……捌くのには一苦労するでしょう。そしてもし疲弊しているところに、例の元凶が奇襲でも仕掛けてきたら……」

 

 確かにまずい。このままここで足止めされてたら、いつまで経っても霊峰の頂上に向かえないかもしれない。捌ききったとしても疲労はかなり蓄積されるだろう。どうする……? 

 

「士狼、ここは私に任せて」

 

 澪音が一歩前に出てそう言った。

 

「私がここでモンスターを足止めしているうちに、士狼は頂上にいる元凶を倒して」

「だが澪音! あんな数のモンスター、いくらお前でも……!」

「僕たちも残る」

 

 慌てて澪音を止めようとしたとき、前に出た澪音の横にカナトとエリンが並んだ。

 

「この中ではティナさんと天狼竜が1番強い。正直その元凶とやらに僕らが立ち向かっても、足手纏いになるかもしれない……だったら、ティナさん達が安全に戦えるよう、僕らがここでモンスター達を止めるべきだ」

 

 カナトの言葉にエリンが小さくうなずく。

 

「でも危険ですよ! ここに集まってきているモンスターの数は、おそらく100や200じゃ下らないです! そんな数の暴走モンスターをたった3人で迎え撃つなんて……!」

「ティナの言う通りだ! 確かにここで大勢のモンスターと戦うのは危険かも知らない! だがお前達が死んでしまったら、それこそ意味がないだろう!?」

 

 澪音には勿論死んで欲しくないし、カナト達だって村で待っている人たちがいるはずだ。こんなところで犬死にするなんて、あんまりにもっ……

 

「私なら大丈夫。それにこいつらもいる。士狼達が元凶を倒すまで生き残るなんて、余裕」

「うん。だからティナさん、天狼竜。ここは僕たちに任せて行ってくれ! 早くしないとモンスターに囲まれてしまう。だから早く!!」

 

 こちらを見る澪音、カナト、エリンの顔は覚悟が決まっている。それを見た瞬間、俺は自分も覚悟を決めなくてはいけないと悟った。

 

「だ、ダメです……私も残って!?」

 

 説得しようとするティナの体を強引につかんで、背中に乗せる。そして俺は一気に霊峰の崖を駆け上がり始めた。

 

「シロウ!? 何をするんですか! おろしてください、このままでは彼らが!」

「あいつらの覚悟を無駄にする気か!?」

「っ!?」

 

 俺の言葉にティナは今にも駆け出しそうだった足を止めた。

 

「あいつらはもう覚悟を決めていた。そして俺たちに全てを託してくれたんだ。今戻ったらそんな覚悟も、託された思いも全て無駄にしてしまう……俺たちがすべきことは後ろに戻ることじゃない。真っ直ぐ前だけを見ることだ!」

「シロウ……」

 

 それっきりティナは黙って動かなくなってしまった。少し強引だったが、今はこれしか方法が思いつかなかったんだ。すまん。

 俺は澪音達3人の思いを胸に、霊峰の崖を全速力で駆け上がっていった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「ありがとう天狼竜。必ず元凶を倒してくれよ……」

 

 カナトはだんだん小さくなっていく士狼の背中を見つめながらそう呟いた。かつては復讐をすると誓った相手。それが今はとても頼りになる存在になっている。その事実にフッと笑ったカナトは、迫りくるモンスターの群れに視線を戻して木を引き締め直した。

 

「さて、あいつらをどうにかしないといけないわけだけど……ミオンは僕達の言葉は分かるんだよね?」

 

 その言葉に澪音がコクリと頷いたのを見て、カナトはよしと頷いた。

 

「じゃあミオンは黒い霧を最大展開させつつ、霧の中に入ったモンスターを確実に仕留めて行ってくれ。エリンは近くの高台に移動したのち、僕たちの援護を。勿論自分の身を守るのを最優先にね。僕は澪音の霧で錯乱したモンスター達を狩る」

 

 カナトが矢継ぎ早に作戦を立てていくのを聞いて、エリンは一瞬驚いていた。確かにカナトはパーティリーダーだが、あまり作戦を立てるのは得意ではなかったのだ。それが今はどうだろう。それぞれの長所を生かして的確に指示を出しているではないか。

 カナトが修行で成長したのはパワーやスタミナだけじゃないことを感じ取って、エリンは少し感動していた。

 

「よし、じゃあ作戦開始だ!」

 

 カナトの宣言と同時に澪音が全身から黒い霧を噴出する。霧に包まれたり、吸い込んだ敵にさまざまな状態異常を与える特殊な霧だ。士狼と出会ってからさらに技に磨きがかかっており、今では拡散する範囲や状態異常の強弱までをも自在にコントロールすることが出来る。

 今回は敵の数が圧倒的に多いので範囲は最大限に、状態異常の強さもMAXに設定した超極悪なものになっている。今のこの霧に包まれたものは火傷と凍傷で動きが鈍り、毒と麻痺でジワジワと体力を削られ、混乱と精神汚染で前後不覚に陥ることだろう。

 

 現に元より脳のリミッターが外れているモンスター達でさえ、澪音の霧に飛び込んだものは見当違いの方向に突撃して行ったり、動けなくなったりしている。

 そして動きが鈍ったモンスターなど、澪音の敵ではない。これでも澪音はジンオウガ。近接戦闘ではほとんどのモンスターを凌駕している。動きが鈍いモンスターから重点的に、確実に仕留めている。

 

 そして戦っているのは勿論澪音だけではない。スラッシュアックスを手に持ったカナトは、霧のギリギリ範囲外で錯乱して同士討ちをしているモンスター達をまとめて倒しまくっている。事前にウチケシの実を用意しているから、澪音の霧の餌食になることはない。

 また飛行モンスター以外は追って来られないような尖った岩の天辺に陣取ったエリンは、霧の中で悶えているモンスターを射抜きつつ、澪音とカナトの死角から襲おうとしているモンスターの急所を的確に射抜いて完璧なフォローをしている。

 

「士狼の邪魔は絶対させない。ここは通さない!」

「必ずここは凌いで見せる! だからティナさん、天狼竜、2人も負けるな!」

「2人とも熱くなりすぎて周りが見えなくなってないといいけど……ま、今は燃えてる方がちょうどいいし、2人に手出しはさせないけどね!」

 

 モンスターの大群はまだまだ霊峰の麓に集結し続けている。3人の決死の防衛戦は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




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第42話.秘めた想い

遅くなって申し訳ない!
今回は遅くなった分いつもより多めでお届けしています。


「夜も更けてきたな……今日はここまでにしよう」

「分かりました」

 

 霊峰の崖を駆け上っていた俺だが、この霊峰めちゃくちゃ標高が高い。全速力で駆け上がってきたつもりだが、気づけば夜中になっていた。

 視界が悪い時に戦闘にでもなったらかなり危険だし、夜が明けるまで待機しようと思ったわけだ。

 いい感じに手頃な横穴を見つけたのでそこで一晩明かすことにしようと思う。適当に見繕った木材に俺が少量の雷で火をつけた、即興の薪を作って暖をとることにした。

 

「…………」

「…………」

 

 パチパチと木が燃える音と、外で荒れ狂う風以外なんの音も聞こえない静まり返った空間。ぶっちゃけいうとかなり気まずい。

 俺は穴の1番奥の方で丸くなってるし、ティナは薪の炎をボーっと見つめているだけで特に動きはない。このまま黙りこくっていると気がどうにかなってしまいそうなので、俺は適当に話題を振ることにした。

 

「なぁティナ。ハンター達って普段はどんなことしてるんだ?」

「いきなりですね……何故そんなことを聞くのですか?」

「いや、ふと気になったというか。このまま沈黙の時間を過ごすのがキツかったというか?」

「ふふ、確かにそうですね。ではハンターになる為にはどうするのか、というところから話しましょうか」

 

 一度話題を見つけて仕舞えば話というのは結構続くもので、俺もティナも自分の周りのことをお互いに話し合った。ティナからはハンターの生活やそれによってもたらされる人々の暮らし、ハンターの階級制度についてなんかも聞いた。逆に俺はこの間まで出ていた旅の話を主にした。意外と旨かった食材や、口で語るには言葉が足りないほどの絶景の話などをした。

 

「平原にある鏡のような湖ですか?」

「ああ。特にあの場所はまっ平らな地形になっててな。湖の水がまるで鏡のように空を映してるんだ。特に夜は絶景だぞ。地平線を挟んで視界が星空いっぱいになる」

「ロマンチックですね……」

 

 ティナは俺の話の中でも絶景の話が気に入ったようで、色々と質問をされた。それに詳しくかつ面白おかしく返答したりして、まあそれなりに楽しい時間だったよ。

 しかし無限に話が出てくるほど俺もおそらくティナもネタが多くない。楽しい時間はあっという間に終わってしまい、また静寂の時間がやってきた。先ほどまでの楽しい時間を取り戻したいと思っていたのだろう。俺はつい気になったことをよく考えもせず口に出していた。

 

「なぁ、なんでティナからは古龍の気配がするんだ?」

「ッ!!」

 

 話した瞬間、やばいと思った。今まで和やかに微笑んでいた彼女の顔から一瞬で笑顔が消え、あまつさえ殺気がまるで衝撃波のように俺の全身を襲った。ティナが発した闘気で小さな薪の炎は消え、あたりは暗闇に包まれる。

 思わず身構えてしまったが、俺が真っ二つになることはなかった。

 

「す、すまん! デリカシーにかける質問だった。今のは忘れてくれ……」

 

 おそらくティナにとって触れられたくない話題だったのだろう。俺はよく考えもせず彼女のパーソナルゾーンに入ってしまったと考え、謝罪した。

 

「いえ、大丈夫です。それより、何故私から古龍の気配がすると……?」

 

 しかし帰ってきたのはこのような質問だった。彼女の顔は暗闇に隠されておりどのような表情をしているのか分からないが、声音からは殺気や怒気などは感じられない。

 

「あ、ああ。実は俺も半分古龍みたいな存在なんだ。だから龍脈……っつっても伝わらないか。古龍の扱う独特な力の流れをティナから感じてな。だから……」

「古龍みたいな存在? 貴方自分で自分のことをジンオウガだって言っていたではないですか」

「いや、それはまあそうなんだが」

 

 参ったな……確かに俺はジンオウガだとティナに言ったし、自分もジンオウガのつもりだ。だが古龍化してるのは間違い無いし、それをどうやって彼女に伝えるべきか。

 能力吸収は俺の切り札みたいなもんだ。それを知られるのはなぁ……でも踏み入った話をしたのは俺からだ。だったら俺も秘密の一つや二つ、話すのが道理というものだろう。

 

「信じてもらえるか分からないが……俺は食った生物の力を取り込むことが出来るんだ。半分古龍っていうのは、前に古龍の一部を食べて体が古龍化しかかってるってわけ」

「生物の力を、取り込む? にわかには信じられないですが……それを信じるならば、貴方の特異な力も説明がつくというわけですね。成る程……」

 

 それからティナは黙ってしまった。俺が言ったことを少しは信じてもらえたのだろうか? 

 

「分かりました。貴方の言ったこと、信じましょう」

「本当か?」

「ええ。貴方が見せた様々な技の数々。それらが先ほどの話の裏付けとなりますから。そしてここまで話してくれたんです。私も自分のことを話さなければなりませんね……」

 

 俺はデリカシーのない発言のお詫びとして話したんだが、何故か彼女も自分の秘密を明かそうとしている。勘違いなのだがそれに茶々を入れるのはお門違いというものだろう。俺は黙って聞いていることにした。

 

「今から見せるもの、話すことは一切他言無用でお願いします」

 

 そういった瞬間、ティナの存在感が大きくなった気がした。そして彼女から発せられるオーラも、先ほどまでに並べてかなり大きくなった。元々凄まじいオーラを発していた彼女のそれが、また大きくなったことで俺は驚いてつい飛び起きてしまった。

 

「驚くのはまだ早いですよ」

 

 そういうとティナは指先から炎を灯して(・・・・・・・・・)辺りを照らした。そして目に入ってくるのは、変貌した彼女の姿だった。

 

「これは!?」

 

 なんとティナの背中から龍の翼が生えているのだ。よく見ると背中の方から尻尾が伸びているし、目も爬虫類や竜のように縦に割れていてとても人間のそれには見えない。

 

「私は龍と人間のハーフなんです」

「ハーフ……ってあのハーフか? 龍と人間の子供ってこと!?」

「はい」

 

 そういう彼女の顔はすごく悲しそうだった。そんな顔を見て驚いて機能停止していた脳が冷やされて、冷静な思考が戻ってくる。

 

「龍と人間の間に子供が生まれるのか……」

「いいえ。生まれませんよ。普通なら、ね」

「まさか!」

 

 俺の脳裏に浮かんだのは生態実験という文字。前世では嫌というほどそれ関連の怪しげな施設を壊滅させてきた。中には意味不明な配合をされたキメラのような生き物がいた研究施設もあったな。とにかく道理を外れた外道の所行だ。

 

「貴方の想像通りでしょう……わ、私は……うっ」

 

 次の瞬間ティナは激しくむせ返った。見ると彼女の額には玉のような汗が浮かんでいる。相当無理しているらしい。

 

「おい、無理はするな! 話したくない内容なら無理に話さなくていい!」

「……ッ!」

 

 そういうとティナはスッと体の力を抜いた。途端に龍の翼や尻尾は消え失せ、縦に割れていた目も元に戻った。

 先ほどのティナの突然のえずき。おそらく拒絶反応だろう。小さな頃に体験した恐ろしい出来事が彼女の脳裏にフラッシュバックしたというわけだ。

 

「少しは落ち着いたか?」

「……ハイ」

 

 少しやつれたように見えるが、落ち着いたかどうかは怪しいところだ。とりあえず俺は再び薪に火をつけると、暗闇に包まれていた空間に明かりが戻った。

 するとティナが小刻みに震えていることに気づく。回り込んで顔を覗いてみると、彼女は焦点の定まらない虚な目で此方を見つめ返してきた。明らかにヤバイ。

 

「私は、人間ではありません。そしてそれが仲間達に知られるのがたまらなく怖い……言おうとしたことはありましたが、結局口からは何も出なかった。だってそうです! 私が人でも竜でもないバケモノと知ったら、きっと彼らだって私から離れて──!」

「ティナは人間だ!」

 

 思わず叫んでいた。もう見ていられなかったから。今のティナはかつての外道共に捕われていた子供達そっくりで、見ていられなかった。

 

「ティナには人も竜も分け隔てなく思いやれる心がある。ティナには他人を気遣う優しさがある! 数日しか共にいない俺如きの軽い言葉でしかないが、ティナは人間だ。だから自分のことをバケモノだなんて言うな……」

「でも……でも!」

「仲間に知られるのが怖い、一緒にいたい、離れて欲しくない。人間らしい感情と欲も持っている。そんな奴が人間じゃなかったら、世の中みんなバケモノになっちまうぜ?」

「うっ……くっ…………うぅう」

 

 俺の言葉なんて軽い。それはわかってる。ティナとはまだ数日の付き合いだ。その程度で彼女の全てが分かったなんて傲慢なことは言わない。だけど、目の前にいる弱った少女を励ましたかった。かつては出来なかった。俺にも感情が無かったから。でも今は違う。

 それから静かに声を抑えているティナの周りを囲うように、俺は丸くなって見守っていた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「落ち着いたか?」

「はい。申し訳ありませんでした……」

「本当に落ち着いたんだろうなぁ?」

「もう、意地悪を言わないで下さい!」

 

 この調子なら大丈夫だろう。先ほどのティナは明らかに精神に異常をきたしていた。あのまま放っていたら壊れてしまいそうだったが、なんとか持ち直せたみたいでよかったよ。

 

「それより謝るのは俺のほうだ。ティナをこんなに追い詰めたのは俺が話を振ったからだし。本当に済まなかった」

「い、いえ! 確かに話を振ったのはそちらですが、私が勝手に喋ったことです。貴方が悪いわけでは……」

「そ、そうか?」

「はい。思えばなんであんなに喋ったのか……自分でも不思議なくらいです」

 

 おそらくだが、それは俺がモンスターだからだろう。先ほどの彼女の言葉を聞いた感じ、ティナは自分が龍との混血なのが他の人に知られることに強い恐怖を感じている。だから今まで誰にも話さなかったし、話そうとしても失敗してきた。

 しかし俺はモンスターだ。だからティナの今まで押さえてきた恐怖心や罪悪感なんてものが一気に解放された結果が、先ほどの取り乱しようだと考える。

 

「もし、溜め込んでいるようなら遠慮なく俺に話せ。いつでも聞いてやるから。あ、無理して話したくないことまで話さないように!」

「ふふ、了解です」

 

 そうして微笑んだ彼女の顔は憑き物が落ちたかのように晴れ渡っていた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 次の日、朝早く起きた俺とティナは山頂への道についていた。嵐のせいで崖崩れが頻発しており、回り道したりやり過ごしたりなど時間がとられているが、着々と頂上には近づいてきている。

 

「あの、昨日はありがとうございました」

 

 そんな時ティナからこんなことを言われた。

 

「あそこまで踏み入った話をするのは初めてでした。お陰で胸の奥のざわめきが少しなくなった気がします」

「ならよかった。俺もティナの意外な一面を見られたしな?」

「貴方こそ意外と意地悪なんですね……でもこれをきっかけに、彼らにもこの話が出来るよう努力してみようと思います」

「そうか……無理は、するなよ?」

「勿論です!」

 

 この調子ならティナは大丈夫そうだな。昨日は焦ったものだが、なんとかなって一安心だ。さて山頂まではあと少し。ここからは気を引き締めていかないとな。

 昨日よりさらに強まった背中にいる最強剣士との絆を確かに感じながら、俺は崖を登る足に強く力を入れた。

 

 

 

 

 

 




最強と言われてもティナはまだ15歳の少女。いろいろ背負うにはまだ幼すぎるし、空回りもしますよね。


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第43話.頂上

戦闘描写って難しい……

アンケートをとっているので、もしよかったら参加してみてください!


 頂上に近づくにつれて叩きつけるように強くなっていく風に逆らいながらも、俺たちはとうとう頂上に到達していた。そしてそこで目にしたものは、神話の存在。

 

 曰く、霊峰に住む嵐の化身。曰く、大いなる厄災の龍。嵐を纏って宙を舞い、豪風と共に姿を表す自然の化身。森羅万象遍くを薙ぎ払う圧倒的暴力。祖から生まれし真なる龍。

 人々から『天の神』と呼ばれ恐れられるその名は嵐龍アマツマガツチ。

 

 大自然の化身が悠然と空を舞っている姿を見て、俺はやはりと思った。霊峰から大森林に瘴気を撒き散らしていたのはアマツマガツチだったのだ。見ればわかる。その美しいはずの純白の羽衣は薄らと紫色に変貌し、目は妖しく紫色に光り輝いている。そして奴の体からは絶え間なく瘴気が漏れ出しており、風に乗って麓まで流れていっているようだ。

 

「アマツマガツチ……やはりこいつが原因だったか」

「貴方から聞いてはいましたが、やはり実際に目にすると驚きますね」

 

 とその時、アマツマガツチが異物の存在に気づいたのかこちらに目をやった。そして奴と目があった瞬間、まるで重力が増したかのような感覚にとらわれる。アマツマガツチという圧倒的存在から放たれるオーラが、そう錯覚させているのだ。

 

「ギャオオオォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 そして放たれる咆哮。それだけで空は嘶き突風が巻き起こる。絶え間なく雷が起きている空は、奴の心情を表すかのように真っ赤に染まっている。

 やはり理性を失っているのだろう。アマツマガツチは真なる古龍と古代竜人が言っていたはず。ならば会話できるレベルの知能は持っているはずだ。だが目の前の存在からはまるで知性など感じない。凍てつくような殺気が送られてくるだけだ。

 

 アマツマガツチは目に入ったもの全てを攻撃するのだろう。今にもこちらに突っ込んできそうな雰囲気だ。それほどまでに瘴気の侵食が進んでしまっている。こいつ自身には本当は罪はないってのに……

 

「さてティナ、覚悟はいいか?」

「勿論です。そっちこそ足が震えてませんか、シロウ?」

「これは武者振るいだ!」

 

 そう言いながら俺は駆け出していた。走っている途中で超帯電状態に移行し、さらに龍脈を使用する準備を始める。龍脈を使うには少し時間がかかるのがネックだな。

 まずは手始めに雷ブラスターを発射。蒼電のレーザーが一直線にアマツマガツチを襲う。しかしアマツマガツチが一鳴きしたかと思うやいなや、奴の周りに分厚い嵐の壁が出現して俺の攻撃を完璧に防いでしまった。

 

「おいおいマジかよ。あんなにあっさり塞がれるとか……」

「本当にシロウは多芸ですね」

「まあな。それよりあの嵐の壁がある限り近づけないが、どうする?」

「壁があるなら切り裂くだけです!」

 

 んなめちゃくちゃな、思ったがなんとティナはその小さな体でアマツマガツチの嵐の壁を真っ二つに切り裂いてしまったのだ。流石に驚いたが、ティナが切り開いてくれた道を無駄にするわけにはいかない。俺はもう一度雷ブラスターを発射した。しかし……

 

「効いてない、だと……?」

 

 雷ブラスターはアマツマガツチの皮膚をほんの少し焼いただけで、どう見ても有効打になっているようには見えない。確かに龍脈の力を使ってないとはいえ、効かないなんてことあり得るのかよ!? 

 

「はぁっ!!」

 

 呆然としてるとティナがアマツマガツチに切りかかった。しかしそれすらもアマツマガツチの鎧のような皮膚に塞がれて薄皮一枚を切るにとどまっている。

 

「ふむ。予想以上に硬いですね」

「そんな冷静にしている場合かよ!?」

「大丈夫です。次はもっと威力を上げるので。私がアマツマガツチに攻撃できるよう援護してください!」

「お、おう!」

 

 アマツマガツチにまだ動きはない。ロクな攻撃を与えてないので敵として認識してないのかもしれない。先程はこちらを見て咆哮した気がしたが、正気を失っているのでたまたま咆哮を上げただけだったのかもな。

 

 とりあえず奴が纏っている嵐の壁をどうにかしないと話にならない。俺は激しい風が吹く中なんとか雷光虫を集めて真帯電状態に移行しさらに火力を高める。そしてその高めた火力を爪に収束させた。この頃気づいたのだがこの漆黒の爪は導電率がとても高いのだ。なので雷を集めやすい。

 収束した雷は爪を伝ってオーラ状に展開され、俺の爪を一回り大きくさせる。そしてその状態の爪を嵐の壁にねじ込んだ。

 

「ぐおおおお……!」

 

 そしてこじ開けるようにして嵐の壁を引き裂く。

 

「いけ、ティナ!」

「ありがとうございます!」

 

 壁にできた隙間からティナがアマツマガツチに肉薄した。その構えはいつか見た抜刀術の前の構えに酷似している。そしてアマツマガツチの眼前で大きく踏み込んで急停止。今まで出していた速度を急激に止めたことによって生まれたエネルギーを、全て抜刀の瞬間に解き放った。ギャインという金属が擦れたような音があたりに響き渡る。

 

「ギャオオォォォォ!!」

 

 見るとアマツマガツチの腹から血が噴き出している。ティナがあの鎧のような皮膚を貫通して、アマツマガツチに傷を負わせたのだ。

 

 しかしここまではアマツマガツチが動かなかったからできただけのこと。そして傷を負わせた今アマツマガツチがついに俺たちのことを敵と認めたらしい。空をつんざくような咆哮をあげた後、今まで微動だにしなかった巨体が動き始める。そしてその動きは巨体に見合わず俊敏だった。

 さらにアマツマガツチは宙に浮いているので3次元的な行動が可能だ。そしてそれがいかに脅威かということを、俺たちは思い知らされることになる。

 

 アマツマガツチが鞭のようにその巨大な尻尾を叩きつけてくる。俺はそれを後ろに飛んで躱そうとしたのだが、尻尾に纏われていた暴風が地面に叩きつけられたことによって爆発のようなものを起こし、土や岩の破片が散弾銃のように襲いかかってきた。

 

「マジかよっ!!」

 

 咄嗟のことで避けられなかった俺は、まともにそれを喰らって後方に吹き飛ばされてしまう。しかしここにいるのは俺だけではない。俺に意識が向いているうちにティナがアマツマガツチに攻撃を仕掛けたのだ。だがアマツマガツチは空中で体をくねらせてティナの方に振り向くと、風の塊を3発撃ち出した。それに当たるティナではなかったが、余りに強力な風が吹き荒れたために切り込めずにいる。その間に体勢を立て直した俺は一旦ティナのそばに近づいた。

 

「流石古龍というか……攻撃がダイナミックすぎる」

「しかも彼の使う風が強すぎてまともに近づくのも難しいですね……」

 

 近づけば暴風によって行手を阻まれ、遠ざかればブレスで狙撃しつつ自身は嵐の壁で防御。正直言って攻防が完璧すぎる。なんとかしてアマツマガツチの風を弱めらないものか……古龍の力の制御は角で行うことが多いと聞いたことがあるが、角を破壊するには結局近づかないといけないしなぁ。

 

「ガァァァァアアアア!!!」

 

 長考する暇も与えてくれず、アマツマガツチが線のように鋭い水のブレスを放ってきた。俺とティナは左右に分かれるようにして避けたが、ブレスが大地を易々と切り裂くのを見て背筋に冷や汗が走る。

 さらにアマツマガツチは一鳴きして小規模の竜巻をなんと8つも生成した。幸いそれらの動きは速くなかったが、不規則に揺れる竜巻があちこちに出現したことで相当な移動制限をかけられたと言ってもいいだろう。触れただけで体が千切れ飛びそうなほどの威力だしな。

 

 畳みかけるように俺に突進してくるアマツマガツチ。竜巻が両サイドにあることよって動きを制限されてしまった俺は、それを正面から受け止めるしかなかった。俺の体の2倍以上はあろう巨体に突進されて、踏ん張っているのにものすごい速さで後方へと押し込まれてしまう。あと少しで岩に叩きつけられるといったまさにその時、龍脈の使用準備が完了した。

 

 俺は即座に炎雷状態に移行。蒼電が赫く燃える緋雷へと変貌し、電力が大幅に向上する。それすなわち雷によって強化されている俺の筋力がさらに強化されたということ。地面を踏み抜く勢いで体を固定し、なんとかアマツマガツチとの力比べに対抗していく。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 その結果なんとか踏みとどまることに成功した。しかしアマツマガツチは常に嵐を纏っているわけで、接触しているだけで鋭い風に切り刻まれている。確かにダメージは洒落にならないが、お陰でアマツマガツチを捕らえることができたぜ! 

 

「ティナ、今だ!!」

「はい! 奥義三の太刀『剣舞』!!」

 

 ティナが放った奥義とやらはまさに凄まじいの一言だった。ほとんど一瞬の間に10、いや15回の斬撃を行なったのだ。龍脈の力を使っている俺ですらほとんど目で追えないほどの速さ。普通の人が見たら一太刀分にしか見えないことだろう。その威力も凄まじいもので、アマツマガツチの背中から大量の血が噴き出した。これは相当なダメージになったはずだ。

 アマツマガツチが怯んだ隙に俺は脱出。再びティナと合流した。

 

「今のは結構効いたんじゃないか?」

「はぁ、はぁ、そうですね。流石にこれでダメージなしとか言われたら為す術がありません」

 

 そういやティナの息が上がっているところとか初めて見たな……それほど先程の奥義ってのは使用に負担がかかるものなんだろう。

 そんな会話をしながら、ティナの攻撃を喰らったあと微動だにしないアマツマガツチを警戒しながら見つめていると、突然

 

「グゥゥゥゥ……ォォォォォォオオオオオオ!!!」

 

 これまでものとは全く違う、聞いただけで全身の毛がよだつような恐ろしい咆哮をアマツマガツチが上げた。

 

「うっ、これはなんだ!?」

 

 そう思ったのも束の間、空から巨大な竜巻が3本出現した。まるで巨大な柱が落ちてきたかのような衝撃を持って地面に激突したそれは、その凄まじい風圧で辺りのものを吸い上げ始める。

 

 そして大量の瓦礫や木の破片を取り込んだ、質量ある竜巻と化したそれらが一点に集まり始めた。特大の風の力が一点に収束して、圧縮されて、一つの塊にって……こいつはやばい!! 

 

「ティナ、避けろぉぉぉ!!」

 

 気づいた時には遅かった。前世で理科の実験でやった圧縮と膨張。それを何万倍もの規模で行ったものが目の前で炸裂したのだ。限界以上に圧縮された空気が膨張する力というものはとんでもないものだ。下手な爆弾より強烈な衝撃が全身を襲い、俺は一瞬にして彼方へと吹き飛ばされた。

 何度も地面を跳ねながら吹き飛ばされていく間に意識を失ってしまったのだろう。気づいた時には俺の体は地面に横たわっていた。クラクラする頭を振りながらゆっくりと起き上がると、全身に激痛が走る。激しく地面に何度も打ち付けられたせいで、あちこちを打撲してしまったようだ。

 

「う、く……ティナは、無事か?」

 

 痛む体で辺りを見渡してみると、純白の装備がボロボロになりつつも剣を地面に刺してなんとか踏ん張っている彼女が見えた。俺は吹き飛ばされたというのにティナは剣一本であの暴風に耐えたというのか。

 しかしやはりダメージは負っていたようで、暴風を凌ぎ切ったあとその場に片膝をついて蹲っている。

 

「ギャオオオォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 より一層紫色の目を輝かせたアマツマガツチが、勝ち誇ったかのように天に向かって叫んでいる。その体に先ほど受けた傷はほとんど無く、早くも再生が始まっているのが分かる。

 

 勝てるのか? 俺たちは、あの暴風の化身に……! 

 

 圧倒的な戦力差を見せつけられて、俺は宙で咆哮を上げるアマツマガツチを睨みつけることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 




続きます!

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第44話.舞うは嵐、奏でるは災禍の調べ

「ゲホッ、ゲホッ!」

 

 ティナの元に近づくと彼女は蹲りながら咳き込んでいた。炸裂する嵐に含まれていた瓦礫が彼女を襲ったのだろう。まああれを食らって吹き飛ばされなかっただけでも凄まじいものなのだがな。

 

「大丈夫か? ティナ」

「なんとか……致命傷には至っていません。それよりシロウは平気ですか? かなり嵐で切り裂かれていたようですが……」

 

 先ほどアマツマガツチとぶつかり合っていた時のやつだな。奴は常に嵐を全身に纏っているから、近づくだけでダメージを受けてしまう。それなのに長時間接触していた俺を気遣ってくれてるのだろう。

 

「こっちもなんとかって感じだ。纏ってる嵐はあいつの中では弱い方なんだろう。多少の切り傷で済んだ」

「なら良かったです……」

 

 かなりのダメージを負ってしまったが、お互いまだ戦えるようで安心だ。流石にこんな化け物相手に1人で戦うのは勘弁願いたいものだからな。

 

「さてどうするかな……今のままじゃあいつには勝てそうにもないぞ」

「……私の古龍の力を使うしかありません」

「ッ! 昨日のあれか」

 

 昨日の出来事があった手前、ティナに古龍の力を使わせるのは心苦しいものがある。だがこのままでは2人ともやられてしまうだろう。ティナもそれが分かっているからこの決断に至ったはずだ。

 

「でもいいのか? その力は体への負担が大きいって感じだったが」

「そうも言ってられないでしょう。少し危ないので離れていてください」

 

 そう言って目を閉じて深く集中し始めるティナ。俺は言われた通り離れたが、いつアマツマガツチがこちらに気を向けないとも限らない。警戒しておかなければ……

 そう思った次の瞬間、ティナの目がカッと見開かれた。その目は昨日も見たように龍のごとく縦に割れている。と同時に巨大な火柱が彼女を中心に巻き上がり、ティナの全身を覆い隠してしまった。

 

 あまりの熱量に近くにいるだけで体が溶け出してしまいそうなほどだ……炎が弱点のアマツマガツチが正気を失っているにも関わらず、警戒の姿勢をとるほどにその火柱から発せられる熱は凄まじい。

 そして火柱が弾けるように消えたその中から、龍の翼と尻尾を携えたティナが現れる。翼はまるで燃えているように真紅に染まっており、長い尻尾は力強さを感じさせる。これがティナの古龍化した真の姿か! 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……さあ行きますよ!」

「おう!」

 

 おそらく彼女のこの状態は長く続くものではあるまい。実際俺も炎雷状態をずっとキープできるわけではないのだ。それほどまでに龍脈というのは凄まじいエネルギーを秘めているということ。

 

 そして古龍化したティナはさらに増して凄まじかった。なにせ元々が規格外の存在なのだ。それが龍脈の力を使ったとなると……正直考えたくないレベルだ。だが真に恐ろしいのはアマツマガツチ。そこまでしないと奴とは渡り合えないというのだから。

 

 ようやく俺たちのことを視界に捕らえたアマツマガツチは、竜巻をブレスのように放ってきた。それも三つ同時に。しかし俺たちはもう先程までの俺たちではない。俺は真っ赤な雷ブラスターで、ティナは神速の一太刀で竜巻を叩き伏せると、一気に距離を詰めるべく同時に駆け出した。

 

「ティナ! 俺が奴の嵐をどうにかする。だからお前は全力の一撃を叩き込め!」

「了解です!」

 

 俺が今回使うのは刃尾だ。そこにディノバルドやアグナコトルから頂いた火属性を纏わせて炎剣を作る。アマツマガツチは火属性が最大の弱点のはず。こいつなら! 

 地面を踏み抜く勢いで一気に空中に飛び出した俺は、体を一回転捻ってその勢いを利用した一振りをアマツマガツチの嵐の壁に叩きつけた。刃尾と嵐がぶつかり合って嫌な音が響き渡る。

 

「ここが踏ん張り時だ……行くぞぉ!」

 

 より一層刃尾に力を込めて、強引に嵐の壁を叩き割った。その向こうでは忌々しげにこちらを睨みつけるアマツマガツチの姿が。

 と同時に俺の背中の上を通ってティナが現れる。古龍化したことによって生えた翼を使って飛行しているのだ。十分アマツマガツチに近づいたティナが鞘から太刀を引き抜くと、その刀身が真紅の炎に包まれる。やはりというべきか、ティナが宿している古龍の力は火属性なのだろう。

 

「アマツマガツチの能力は角が司ってる! 狙うなら角だ!」

 

 俺の言葉にティナはコクリと頷くとさらに飛翔。一気にアマツマガツチの眼前に躍り出た。そしてその炎の太刀をアマツマガツチの角目掛けて横一文字に振るう。しかし流石はアマツマガツチの最重要器官というべきか、簡単には折れてくれずにティナの太刀を受け止めている。

 

「はああぁぁぁ!」

 

 掛け声と共にティナがより一層太刀を握る力をこめた。それに呼応するかのように太刀から迸る炎の勢いが増し、ジリジリとアマツマガツチの角を削っていく。その結果、アマツマガツチの黄金の双角の内の一本が根本からポッキリと折れた。

 

「グオオオォォォォ!?」

 

 驚いたように鳴くアマツマガツチ。その体からは一目瞭然なほどに嵐の力が弱まっていた。やはり古龍の弱点は角で間違いないようだ。

 しかしこれでアマツマガツチを倒したわけではない。片角を失って怒り狂ったのか、手当たり次第に空から竜巻を落としてくる。だがやはりそれらには先程までのような凶悪な力は宿っていない。

 

 雷エネルギーを溜め込んだお手でそれを叩き潰して雷ブラスターを放つ。炎雷状態で威力の上がっているそれはアマツマガツチの左腕の羽衣を纏めて焼き払った。痛みで激しく暴れるアマツマガツチの巨体に怯むことなく今度はティナがその懐に入り込み、先ほどの『剣舞』をもう一度放つ。鮮血が激しく舞い散り、より一層アマツマガツチにダメージを与えた。

 

「グオオオォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 想定外のダメージで怒りが強くなったのか、アマツマガツチが一際力強く吠える。それに呼応して天からさらに竜巻が降り注ぎ、吹き荒ぶ突風は俺の体でさえも吹き飛ばさん限りに力強くなった。片角を失っているのに、なんてパワーを残してやがる……

 だが何のこれしき! 降り注ぐ竜巻をジグザグに走行することで躱し、アマツマガツチに渾身のお手攻撃を放つ。それは奴が体をくねらせることによって躱されてしまったが、本命はこっち。振りかぶっての刃尾の一撃だ。これはしっかりと命中し、多大に含まれた雷エネルギーが炸裂、放電の如き稲妻がアマツマガツチを襲う。

 

「あとは任せてください!」

「おうよ!」

 

 スイッチの要領で下がった俺の代わりにティナが前に出た。構えは先ほどと同じ抜刀術のもの。しかし素人目にもそれが先ほどの一撃とは全く違うものだということが分かった。

 

「奥義一の太刀『瞬閃』!」

 

 まさに閃光の如き一撃。ティナが放った抜刀術は俺にはその出だしが全く見えなかった。炎の太刀が空間を引き裂かんばかりの勢いでアマツマガツチを一閃し、その態勢が一気に崩れる。ここが決めどきだ! 

 

 苦し紛れに奴が放った水のレーザーをかわして大ジャンプ。アマツマガツチの上をとった。そして両前足に炎雷状態によって極限まで高められた雷エネルギーを全て凝縮する。俺の十八番、落雷スタンプだ。だが当然それを黙って見ているアマツマガツチではない。流石にまずいと思ったのか、大きく口を開けてブレスを放つ構えをとる。

 

「させませんよ!」

 

 そこはティナのナイスフォロー! 顎の下から突きを放つことでブレスの照準をずらしてくれた。見当違いの方向に飛んでいくブレスを横目で見ながら、俺は落下の態勢に入った。

 

「落ちやがれぇぇぇーーー!!」

 

 落雷スタンプはアマツマガツチの頭頂部に炸裂し、そのまま奴の頭を地面に叩きつけた。と同時に溜め込んだ雷エネルギーを全放出。耳をつんざく轟音が響き渡る。

 立ち上がる黒煙が晴れてくるとそこには、嵐を纏う力を失ったのであろうアマツマガツチが地面に倒れ伏していた。しかし驚いたことまだ生きているようで、血を流す頭をゆっくりとこちらに向けてブレスを放とうとしてきている。

 

「これで、終わりです」

 

 それより速く、ティナの一閃がアマツマガツチを切り裂いた。これがとどめとなり、アマツマガツチの目から徐々に生気が失われていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……これで、終わったのか……?」

 

 力を失っていくアマツマガツチを満身創痍ながら見つめていると、不意に頭に言葉が浮かんだ。「ありがとう」と聞こえたそれは、アマツマガツチのものだったのかもしれない。

 そうだ、こいつも元を辿れば被害者なのだ。命のリミッターを外されて暴れていた挙句、このまま放っていたら森林の生物を全て根絶やしにしていてもおかしくはなかった。最後に感じた感謝は、自分を鎖から解き放ってくれてありがとう、という意味だったと信じたい。

 

 完全にアマツマガツチから生気が消えたことを確認した後、俺は炎雷状態を解いた。その途端今までアドレナリン等によって無視していた痛みや疲れがドッと津波のように押し寄せてきて、思わずその場に倒れ伏してしまう。どうやら古龍化を解いたティナも同じなようで、翼や尻尾が消えると同時にその場に倒れ込んでしまった。

 

「どうやらこれ以上動けそうにありません……」

「やっぱそっちもか……体に力が入らねぇ」

 

 早く澪音達のところに戻らなきゃならないってのに……な……

 そうして俺の意識は闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 




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第45話.終わらぬ戦い

今回の話で雷狼の里編は終了です。



「士狼! 起きて、士狼!」

 

 俺を呼ぶ声が聞こえる……そうだ、早く起きなければ……

 

「ん、うう……」

「よかった。ようやく起きた」

 

 ぼんやりする焦点が定まってくるとそこには、心配そうな顔で俺のことを覗き込んでいる澪音の顔があった。

 

「澪音、無事だったんだな。良かった……」

「それはこっちのセリフ。士狼全然起きないから心配した」

 

 そう言って不安そうな顔をする澪音。心配かけちまったのはこっちもか。ごめんな。

 そう思いつつ前脚で頭を撫でてやると、嬉しそうに顔をくしゃくしゃにさせる澪音。前世でもこうされるの好きだったんだよな。

 

「あなたも起きましたか、シロウ」

「ああ、ティナも元気そうで何よりだよ。そうだ、カナト達は無事か?」

「僕たちの心配をしているなら問題ないよ」

 

 そう言いながらティナの後ろから出てきたカナトとエリンだったが、その見た目はどう見ても問題ないようには見えなかった。防具はボロボロ、体は傷だらけで見るに耐えない。カナトに至っては頭から血が出てるし。

 

「いやいや、問題なくはないだろうよ」

「これくらいいつもの特訓に比べたらなんてことありませんよ。ねぇ、お二人とも?」

「ま、まあね」

「あはは……」

 

 一体どんな特訓してんだよ!? でも、いつもこんなボロボロになるまで特訓してたとすると彼らの成長ぶりもよくわかるってもんか。

 

「それで、あのモンスターの大群はどうなったんだ?」

「まだ麓に結構な数いる。シロウ達がアマツマガツチを倒したから何とか撒いてここまで上がってきた」

「アマツマガツチを倒したって、どうやってわかったんだ?」

「これ」

 

 澪音が示した方を向くと、嵐が消えて雲の合間から日差しが差し込む光景が俺の目に飛び込んできた。霊峰の頂から見えるそれはまさに絶景といったもので、俺はしばらくの間言葉を忘れてしまう。

 

「突然嵐が止んだから、シロウ達がやってくれたと思った」

「そうか……俺たち本当に倒したんだな。あのアマツマガツチを」

「ええ、そうです」

 

 徐々に霊峰にも届きつつある日の光を感じながら、俺は言いようのない達成感に包まれていた。だってあのアマツマガツチだぞ? 自然の猛威がそのまま生き物になったかのような存在。生物と定義できるかどうかも怪しい超特級の存在だ。そんな存在に俺たちは勝った……

 

「さて、感慨に耽るのもここまでにして、今後のことを考えよう」

「私達はこのままユクモ村に帰ろうかと思います。今回の件を上に報告しなければいけませんし」

「俺たちはとりあえず仲間と合流しないとだな。他の奴らがどうなったか心配だ」

 

 アマツマガツチを倒したのは喜ばしいことだが、まだ元凶を倒したわけではない。終龍と呼ばれる存在を倒さなければ、この災害は止まらないのだから。

 

「もしギルドの方で何かわかったら、俺たちにも知らせてくれないか?」

「それはいいですけど、どうやって貴方と会えと? この広い大森林から探すのは流石に骨が折れます」

「うーむ。確かに……」

 

 どうするべきか悩んでいると、澪音がこう言った。

 

「角笛はどう?」

「角笛?」

「そう。私は特別耳がいいから、大森林の中心部に私たちがいたとしても、森林の外から聞こえる笛の音を察知できる」

 

 おお、まさか澪音にそんな隠された特技があったとは。お兄ちゃん感心。

 

「ならばそれで。普通の角笛だとモンスターが寄ってくるので、回復の笛を吹くことにしましょう。音色は分かりますか?」

「大丈夫」

「よし、では私達は行きます」

 

 ここまで共闘した友として、ティナ達と別れるのは名残惜しいが……仕方あるまい。

 

「じゃあ、また何かあれば」

「ええ、貴方と共に戦うのは存外楽しかったですよ」

「またな、天狼竜」

「さようなら」

 

 そう言い残してティナ達は去っていった。突然始まった俺たちの共闘劇だったが、俺も楽しかったぞ、みんな。

 

「さて、俺たちは仲間を探さないとな」

「…………」

「ん? どうしたんだ澪音。早く行くぞー」

「あ、うん」

 

 ティナ達霊峰を降っていったあと、アマツマガツチの亡骸をぼーっと見ている澪音に声をかけて、俺たちはその反対側に向けて歩みを進めていった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 それからしばらくのち、俺たちは焼け野原となった雷狼の里まで帰ってきていた。そこになら仲間がいるんじゃないかと思ってな。そして雷狼の里が見えてくるにつれて、懐かしい顔ぶれも見えてきた時には、俺はがらにもなく涙が流れそうになった。

 そして俺たちに気づいた仲間達は喜びの表情を浮かべて一斉に遠吠えを上げ始める。

 

「おぅシロウ。お前、遂にやったんだなぁ」

「レオン!」

 

 そんな仲間達の間からレオンが現れた。相変わらず元気なようで安心だ……

 

「お前があの嵐の龍を倒してくれたおかげで、毒が流れるのも止まったみてぇだ。あれから嫌な感じもしなくなったしなぁ」

「よく俺がアマツマガツチを倒したってわかったな」

「ア、マツ? まぁいいか。そりゃお前ぇ、あんなに重苦しい空だったのに、一瞬でこんなに晴々としたものになったんだ。そう思うのも当然だろぉ?」

 

 レオンにアマツマガツチって言ってもそりゃ分からんわな。反省反省。

 

「それで、他の仲間達は全員見つけられたのか?」

「いや、全員ってわけにはいかなかったぁ。中にはランみてぇにおかしくなっちまった奴もいたし、未だに行方不明の奴もいるしなぁ。最初の火竜の襲撃でやられちまったぁやつもいる」

「そう、か……」

 

 分かっていたことだが、やはり現実を突きつけられると辛いものがある。

 

「んな落ち込むなぁ。お前はよくやった」

「ああ、ありがとうレオン」

 

 それから俺はあの時別れたあと、レオンがいかにして仲間達を探したのかという話を聞いた。時には他の群れのジンオウガと喧嘩になったり、狂った仲間を送り届けたり、いろいろなことがあったそうだ。

 俺は俺でアマツマガツチを倒した時のことを語った。とは言ってもティナと共闘したというのは伏せたが。流石に一般モンスターであるレオンに人間と共闘したなんて言ったら、なんて思われるかわからないからな。勿論いずれは言うつもりだが、色々なことがあった今言うべきではないだろう。

 

 そしてその夜は里を上げてのお祭り騒ぎとなった。どうやらこの一件で群れ同士の垣根がだいぶ無くなったらしく、今では殆どのジンオウガがこの雷狼の里に集まっている。瘴気にやられたやつも少なくないって話だ。今は群れ同士でいがみ合っている場合ではないとみんな理解しているのだろう。

 

「この平和な時間が続けばいいんだがなぁ……」

 

 馬鹿騒ぎをしているみんなを見ながら、そんな感情が溢れた。この平和な時間が今だけのものであり、明日からはまた忙しくて過酷な日々が始まるのはわかっている。今では人手不足のために助かった名持ち達が色々とレオンを手伝っているらしいしな。

 

「士狼」

「ん、澪音か」

 

 振り返るとそこにはいつものように澪音が立っていた。が、その顔は何故か深刻そうな表情を浮かべている。

 

「少し話がある。こっちにきて」

 

 そう言いながら群れの中心から離れていく澪音。まぁ少しぐらい空けても問題ないだろ。そう判断した俺は彼女の後をついていくことにした。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 群れから結構離れたところでようやく澪音は立ち止まってくれた。

 

「こんなところまで来て話ってなんだよ?」

「これ見て」

 

 そう言って澪音が懐から取り出したのは、黄金に輝く2つの角だった。そして俺はそれに見覚えがある。見覚えがあると言うか今日見た。

 

「お前、それまさかアマツマガツチの角か!?」

「そう、士狼の加護は能力吸収だって聞いてたから、一応持ってきといた」

 

 それはありがたいが……こんなに隠れて話すようなことでもないような? 

 

「前にキリンの角を食べた時、大変な目にあったって聞いた。だから完全な状態のアマツの角なんて食べたら、どうなるか分からない。だから出すか迷ってた」

 

 成る程そう言うことか……確かに前は欠けたキリンの角を食べただけでかなりの激痛に襲われたからな。同じ真なる古龍であるアマツマガツチの角を、それも完全な状態のものを食べたらどんな副作用が起きるか分からない。

 

「澪音、俺のことを心配してくれたのは感謝するぞ。角を持ってきてくれたこともな」

「じゃあ……やっぱり食べるの?」

「ああ。ルーツが言っていた終龍は、きっとアマツマガツチよりも強大な存在だ。そんな奴に対抗するには、真なる古龍の力が必要なんだ」

「でも、もし士狼に何かあったら、私は!」

 

 取り乱す澪音に対して、俺は真剣な眼差しを向ける。

 

「澪音、大丈夫だ」

「士狼……」

 

 澪音はまだ完全に納得はしていないようだが、理解はしてくれたようでアマツマガツチの角を地面に置いてくれた。

 俺はゆっくりとその前に立ち、その角を見つめる。黄金に輝いていて見た目は綺麗だが、今はその輝きが不吉なものに見えてならない。底の知れない未知のエネルギーが渦巻いているのを感じる。

 

「じゃあ、いくぞ」

 

 俺は覚悟を決めて、アマツマガツチの角を2本とも一気に平らげた。

 

「!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、ユクモ村の南に広がる大森林の一角から銀色の光が空に立ち上るのが目撃される。光は天を貫くように伸びていき、その光は暗い夜空をも照らすほどだったと。

 

 世界各地で起きている異変に不安を抱えていた人々の間では、さらなる凶兆だと怯えるものや、神が使わした救いの光だとして崇めるものなど多数に意見が分かれたと言うが、その真相を知るものは誰もいない。

 

 そうして後に『黒き呪い』と呼ばれる異変が起きてから、2年が経過した──

 

 

 

 

 




これで雷狼の里編は終了です。
次回からの新章をお楽しみに!


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動乱の新大陸編
第46話.2年後


というわけで新章始まりました!
この章からは物語の展開上ハンターサイドの話も多くなってくるので、side⚪︎⚪︎と書くのはやめています。


『黒の呪い』が発生してからはや2年。人類は初めこそその対応に追われていたが、ティナ・ルフールとその仲間が持ち帰った情報によりウチケシの実が有効だということが判明。定期的にこれを摂取することで呪いにかかる心配は無くなった。そのせいで一時的にウチケシの実が市場から消えるなんてことになったが、それはまた別の話。

 

 ギルドの方もこの2年血眼になってこの災害の元凶を突き止めるべく活動していた。これまたティナから持ち出された情報で、この現象は一体のモンスターが引き起こしていることが知れ渡り、ギルド内部は大混乱。未だかつてこの規模で影響を及ぼすモンスターなどいなかったからだ。

 しかしギルドマスターであるキールの辣腕によって混乱は早期に収束され、ティナの情報にあった元凶のモンスターは膨大なエネルギーを欲して移動するというのをもとに、居場所の特定が急がれることになる。だがそれも困難を極め、さまざまな策が講じられては失敗に終わるというのを繰り返しているうちに2年が過ぎたというわけだ。

 

 だが今日、2年にわたる調査と研究の末ついに今までにないエネルギーの発生場所が発見されることになった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「今日はキールさんから重要な発表があるって聞いたけど」

「もしかしたら、『黒の呪い』について何かわかったんじゃない?」

「だといいのですが。()の言っていた終龍とやらが力を取り戻す前に、何としても居場所を突き止めないといけませんから」

 

 ドンドルマのギルド内を歩いているのは2年の間で成長したティナ、カナト、エリンの3人。活動拠点を色々あってユクモ村から大陸の中心部にあり、ギルド本部があるドンドルマに移した3人は、まさに八面六臂の活躍で日夜人々のために戦っていた。

 

 2年の間で17歳になったティナは、まさに少女と女性の中間特有の可憐さを醸し出しており、腰まで伸ばした銀髪が彼女の容姿をより一層際立たせている。昔からいたファンも今では数え切れないぐらいにまで増えたとか。

 カナトは19歳ということもあり、2年前よりさらにガッチリとした体型になって男らしさが格段に上がっている。以前の面影を残しつつも逞しい男性として成長した。

 エリンも同じく19歳。昔から知的な見た目をしていた彼女は、この2年で大人の女性らしさがかなり増したと言える。まさに出来る女と言ったその容姿には、密かに憧れている人も多いとか。

 

「おい、見ろよ。英雄様御一行だぜ」

「ああ。歩くだけでオーラが迸ってるっていうか」

「格が違うわよね〜」

 

 ギルド内では超有名人になりつつあるこの3人。周りがガヤガヤと騒ぎ立てるのに気づくと、そそくさとギルドの内部へと早足で進んでいった。

 

「はぁ〜。私まだああいうのは慣れないのよねぇ」

「慣れるしかありませんよ……慣れたらどうとでもなくなります。無の境地です……」

「うわぁ、ティナさんが悟ったような目をしてる……」

 

 気さくに話し合う彼女たちの間には、2年前よりも堅い絆が確かに見て取れる。人としてもハンターとしても確かな成長を経たようだ。

 そんな3人だが、ギルドマスターの部屋の前まで来ると一瞬で気持ちを切り替えて真剣な眼差しとなった。そして3人を代表してティナがその扉を叩く。

 

「キールさん、ティナです」

「入ってくれ」

 

 扉を開けて部屋に入るとそこには、大量の資料の山に囲まれたキールが疲れた顔をして椅子に座っていた。

 

「よく来てくれたな君たち。さて、今日呼んだ要件だが、『黒の呪い』関連で大きな進展があった」

「大きな進展、ですか」

「ああ。今までティナ君が言っていたエネルギー溜まりを探していたわけだが、2年という歳月をかけても小規模なものしか発見できていなかった。しかしだ、今回見つけたエネルギーの波長は今まで見つけたものと比べても規格外のものだと言ってもいい」

 

 それを聞いてティナたちは息を呑んだ。大きなエネルギーが集まっているということは、それだけ危険なモンスターが集まったり災害級の自然現象が発生する可能性が高いということだからだ。

 

「してキールさん。そのエネルギーはどこで?」

「うむ、新大陸(・・・)で感知されたそうだ」

 

 新大陸。古くから存在は知られていたものの、空路にしろ海路にしろ安定した渡航が確立されていないため、近年までは知る人ぞ知る土地だった場所。しかし『古龍渡り』という、新大陸に向かって古龍が一斉に移動するという謎の習性が確認されてからは、新大陸古龍調査団が派遣されて調査が進められている未開の地のことだ。

 

「新大陸ですか……あそこはまだ調査がほとんど進んでいませんし、よく分かりましたね?」

「ああ、彼女がまたやってくれてな」

「彼女?」

「おーい、入ってきていいぞ!」

 

 そうキールが言った途端、バン! と勢いよく部屋のドアが開かれた。そして入ってきたのは、見るからに分不相応なほどの大きさを誇る大剣を携えた、小さい女の子だった。

 

「エスメダ・クラスタリア。登場!」

「エスメダちゃん!?」

「久しぶりね、ティナ!」

 

 彼女の名前はエスメダ・クラスタリア。ハンターギルドでティナが第一位の実力者だとすれば、エスメダはそのすぐ下の第二位と呼ばれるほどの実力者だ。

 小さな体にもかかわらず、成人した男性のハンターが使うのと同じ大きさの大剣を振り回す彼女の怪力は、ハンターなら誰もが知っている光景なのだ。数年前まではティナと一緒にパーティを組んでおり、2人で古龍を撃退した話などは伝説としてハンターの間で語り継がれている。

 

「エ、エスメダ・クラスタリア!?」

「あの『粉砕』のエスメダ!?」

 

 カナトとエリンもいきなりのビッグネームの登場に度肝を抜かしている様子。ハンターギルドが誇る最強戦力の2人が揃ったともなれば、当然だが。

 

「エスメダちゃん、久しぶりですね!」

「ティナも相変わらずみたいで安心したわ。というか、あんた随分と背が伸びたようね……」

「エスメダちゃんは相変わらずですねぇ。可愛いです!」

「や、やめろ! 頭撫でるなぁ!」

 

 およそ2年半振りに親友と再開した2人のはっちゃける姿を見て、キールは微笑ましそうにそれを眺めている。だが今は重要な会議の真っ只中。気持ちを切り替えたキールはゴホンと咳払いをした。

 

「感動の再会のところ悪いが、私の話も聞いてもらえんかね?」

「あ、すいませんキールさん。つい……お2人にもはずかしいところを見せてしまいました」

「ようやく離してくれた……この隠れ怪力女……ご、ごほん。さて、私を新大陸から呼び戻した理由、そろそろ聞かせて貰おうかしら」

「うむ、これからはエスメダくん。君もティナくん達と共に行動してもらおうと思ってな」

 

 それを聞いてティナとエスメダはより一層真剣な表情になった。もう一度同じパーティになれるのは嬉しいが、自分たち2人が同じところにいるということは、それほどの危険な任務が待っているということだからだ。

 

「新大陸で観測されたエネルギーの波長が大きいことは話したが、未だにその位置が確認できていないのだ。なにせ新大陸は『古代樹の森』と『大蟻塚の荒地』と呼ばれる場所しか調査が進んでないのでな」

 

 未開の地である新大陸はほとんど開拓が進んでいない。だからギルドは定期的に新たな調査隊を派遣して調査を急いでいるが、それでもまだほとんどが手付かずというのが現状だ。

 

「観測されたエネルギーは過去の資料と見比べても比較にならないほど。さらにもしかしたらこれが『古龍渡り』と関連しているかもしれない。この事態を重く受け止め、ティナくんとエスメダくんを同じところに配置する結論に至った。どうかね?君たち4人の意見が聞きたい」

「成る程……確かに新大陸は未知な部分が多いと聞きます。戦力は多い方がいいと思ってましたし、私に異論はありません」

「私も同意見よ。ティナと私が組んだら怖いものなんてないわ!」

「僕も異論はありません。この2人の足を引っ張らないよう、頑張りたい所存です」

「私もです。新大陸の調査隊に恥じない活躍をしたいです」

 

 4人の心強い意見を聞いてキールはしっかりと頷いた。

 

「よし、では本日から4人には新大陸で感知されたエネルギーの調査を命じる。ティナくん、エスメダくん、カナトくん、エリンくん。『黒の呪い』を解決する鍵は君たちに託された。必ず成功させてきてくれ!」

「「「「了解!」」」」

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 キールの部屋から出た4人は、まず初対面の3人に対してティナが簡単に紹介を済ませていた。

 

「貴方達がカナトとエリンね。ティナから話は聞いているわ。私はエスメダ・クラスタリア。これからよろしくね!」

「カ、カナト・アルマールですっ! よろしくお願いします!!」

「エリン・シューザックです。こちらこそよろしくお願いします……」

 

 まるで道端でいきなり有名人に話しかけられた町民のような反応をする2人を見て、エスメダは堪えきれないとばかりに笑い声を上げた。

 

「あはははははは!! そんなにガチガチにならなくてもいいわよ。あたしにもティナみたいに砕けた感じで話して欲しいわ。これからは一緒に行動する仲間だしね!」

「そういうことなら……よろしく、エスメダさん」

「大物はみんな懐が広いのね……私からもよろしく」

「うんうん、それでいいのよ!」

 

 エスメダのフレンドリーさも相まって、3人はすぐに打ち解けることが出来た。諸々の自己紹介が終わったところでティナがこれからのことをエスメダに尋ねる。

 

「それでエスメダちゃん。新大陸にはいつ出発するんですか?」

「ふふふ……今からよ!」

「「今から!?」」

 

 あまりの唐突さにカナトとエリンが素っ頓狂な声を上げた。

 

「エスメダちゃんのそのパワフルな行動力、相変わらずですね……」

「善は急げって言うでしょ。さあさっさと船着場に行くわよ! 大丈夫、新しい装備とか新大陸の概要は船の中で説明するから!」

 

 そう言ってどんどん歩いっていってしまうエスメダ。その背中を呆れたようなため息を吐きながらも、どこか懐かしんでいる顔をしたティナが追いかける。

 

「エスメダさんって結構豪快な人なんだね……」

「ええ、でも面白そうな人じゃない?」

「まあ確かに。それに『絶刃』と『粉砕』の2人が揃ったんだ。心強いことこの上ないよ」

「それは二つ名?」

「うん、ティナさんとエスメダさんがハンターになって頭角を表してきた頃につけられたあだ名らしいよ。全てを断ち切る超絶技の刃と、全てを粉砕して突き進む姿からつけられたんだって」

「あはは……」

 

 置いてけぼりにされたカナトとエリンがそう話していると

 

「カナトさん、エリンさん、早く行きますよ〜!」

「さっさと来ないと置いてっちゃうわよ!!」

 

 遠くから聞こえる2人の声が響いてきた。

 

「今行くよ!」

「もう、置いていくのは勘弁して!」

 

 色々な意味でこの2人に置いていかれないようにと決心したカナトとエリンは、声の聞こえる方に向かって走っていった。

 

 

 

 

 

 




ハンター達のプロフィール
(エスメダ以外は変更点だけ)

⚪︎ティナ・ルフール(17歳)
身長:165cm
髪:腰まで伸びた銀のロング

⚪︎エスメダ・クラスタリア(18歳)
使用武器:大剣
身長:148cm
髪:赤のツインテール
目:翡翠

⚪︎カナト・アルマール(19歳)
身長:180cm

⚪︎エリン・シューザック(19歳)
身長:173cm



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第47話.銀の狼

お待たせしました、主人公サイドの話です。


「澪音〜、そっちはどうだった?」

「なんとか2体仕留められた」

「マジか! やっぱ狩りは澪音に勝てねーなぁ」

「ふふん」

 

 アマツマガツチを倒してからもうそろそろ2年が経つ。俺と澪音はユクモ村がある地域から離れて、大陸の中心部で活動している。雷狼の里から離れるのは寂しいし心苦しかったが、終龍を追いかけるためには大陸の中心部で活動するのが都合が良かったのだ。

 それに雷狼の里はレオンがしっかり守っていくと約束してくれた。ならば俺はそれを信じて仲間の思いを胸に先へ進むべきだろう。

 

 そんな感じで今日まで色々やってきたわけだが、まずこの2年で俺達の食料となる草食獣がかなり減ってしまった。原因は当然あの瘴気のせいだ。ハンター達の間では『黒の呪い』とか言われてるらしいな。

 ともかくあれのせいで草食獣が過剰に肉食モンスターに狩られたり、そもそも草食獣自身が瘴気に侵されて死んでしまうことが多くなった。その結果1日の食料を確保するのも難しくなるぐらい草食獣を見なくなってしまった。まあ俺は肉以外のものも食べられるわけだが、澪音はそうもいかないしな。

 

 それにしても狩りの時は澪音の聴覚がとても役に立つんだ。俺も感覚器官はかなり強化されたはずだが、澪音のそれにはまだ及ばない。本当にキロ単位先の音まで聞き取れるから驚愕だろ? 

 

「これ士狼の分」

「なんかいつも悪いな。俺も結構探してるんだが……」

「問題ない。狩りは任せて」

 

 狩りは澪音に頼りっぱなしだ。兄として情けない限りだよ……まあ戦闘面ではかっこいいところを見せられてるはずだからおあいこと思いたい。おあいこのはず……だよな? 

 

「士狼、ボーっとしてないで早く焼いて欲しい」

「ああすまん。今やるぞ」

 

 俺たちは大体肉は焼いて食べている。勿論生のままでも問題ないのだが、元が人間ってこともあって焼いた肉の方が気持ち的に楽だし、やっぱり肉は焼いたほうが美味いだろ。

 

「ほい、こんな感じかな」

「ん、問題ない。美味しい」

 

 そんな感じで夕飯となる肉を食べている時だった。澪音の耳がピクピクと動いた。これは付近に何かが接近している合図だ。

 

「なんかきたか?」

「ん、ティナが来てる」

「お、新しい情報かな?」

 

 ティナには俺たちがよくいる場所を教えてある。このご時世どこから瘴気に侵されたモンスターが出てくるか分からないからな。回復の笛を吹いても襲われたことがあったので、効率よく合流するために場所を教えてるってわけ。

 それにしてもティナ達まで大陸の中心部、正確にはドンドルマだがこっちに来るとは思わなかったな。まあこんな感じですぐに最新の情報を持ってきてくれるのはとてもありがたいが。やはり人間の情報網は素晴らしい。

 

「いい匂いがすると思ったら、食事中でしたか」

「おっすティナ」

「おっす」

 

 草むらをかき分けてティナが現れた。いつものように純白の装備に身を包んだ彼女は、この2年でとても可愛らしく成長したと思う。まあその可愛らしさとは裏腹に、強さもめちゃくちゃ成長してるから怖いんだが。

 

「寛いでいていいご身分ですね。私たちは毎日モンスターの討伐に行っているというのに」

「いやいや、寛いでいるのは今だけだからな? 昼間は毎日終龍の痕跡を探してるからな?」

「ふふふ、わかっていますよ。少しからかってみただけです」

「ティナも肉食べる?」

「あ、いただきます」

「それ俺の肉なんだが……まあいいや」

 

 澪音もこの2年でだいぶティナとは打ち解けたようで、今では友達の如く接している。あんまり他人と馴染むことのなかった澪音がこうして誰かと楽しそうにしているのを見ると、なんだが微笑ましいな。

 

「それでティナ。ここに来たのはまさか肉を食うためじゃないんだろ?」

「ええ。実はですね──」

 

 ティナは今までにないほどのエネルギーの波長が観測されたこと、そしてそれが新大陸にあること、自分たちもそこに向かうことを話してくれた。

 

「新大陸っつーのは?」

「海を渡った向こう側にある未開の地のことです。私たちもほとんど調査の手が及んでないので、まさに盲点でした」

 

 ん? それって前に古代竜人が言っていた場所のことじゃないか? 確か『古龍渡り』って言う現象が見られるとか言う……

 それにしてもそんな場所があるとは知らなかった。この世界は前世でやっていたゲーム、モンスターハンターに酷似しているが、新大陸や『古龍渡り』なんてものは知らない。もしかして俺が死んだ後に発売されたモンハンの舞台だったり? いやそんな偶然はないか。

 

「知らせてくれてありがとな。これで終龍討伐に一歩前進したわけだ」

「いえいえ。まぁ今すぐ出発だと騒ぐエスメダちゃんを静めるのは苦労しましたが……」

「ん? 何か言ったか?」

「こちらの話です。ですが貴方達はどうするのですか? 新大陸は海の向こうにある大地。空を飛ぶか海を泳がない限り到達できませんが……貴方の古龍の力でなんとかするのですか?」

 

 あ、そうそう。俺の古龍の力についてまだ話してなかったな。アマツマガツチの角を食べたことで俺はほとんど完全な古龍へと進化した。まあ食べた反動で1ヶ月昏睡状態になって澪音を悲しませてしまったが。

 んで昏睡から覚めた後の俺は、それまでとはまるで違っていた。まず体色が銀色になった。体毛と鱗が銀色で、白い甲殻はそのままだったが謎の光沢がある。腹の方の皮の部分は相変わらず灰色だが、もはやジンオウガと同じなのはそこだけという悲しみよ。

 あとは刃尾の刃の部分も銀色になっており、前脚の爪もこれまた銀色になった。あ、角もか。まさに俺の体はまっ銀銀になったわけだ。理由は知らん。何回も言うが俺が一番知りたい。

 

 そして能力だが、俺の生み出す雷はどの状態でも変わらず銀色になったな。銀雷だ。いや銀雷ってなんだよって思うかもしれないが、これが本当に銀色の雷なんだからそれ以外に言いようがない。だから炎雷状態というのは無くなってしまった。

 身体能力については言わずもがな。今まで以上に強化されたな。あと五感もさらに研ぎ澄まされてほんの些細な変化ですら察知できるようになった。もはやチートよチート。

 

 一番驚いたのはここまでチート級の生物になったのに、アマツマガツチ戦でみた本気のティナに確実に勝てるようになったと断言できないところだ。いやちょっとティナさん強すぎませんか? 上には上がいるってことだな。ここまで強くなっても俺が慢心しない1番の理由だよ。

 

 さて話を戻すが、新大陸に行く方法はぶっちゃけてしまえばある。

 

「いや、別に古龍の力を使うわけじゃない。まあ新大陸には多分いけるから安心してくれ」

「ならいいのですが。ミオンさんも来れる方法なんですか?」

「勿論だ」

 

 てか澪音なら例え俺がなんらかの力を使って1人だけ新大陸に行ったとしても、普通についてきそうで怖い。それぐらいの執念をこいつからは感じる。

 

「報告したいことは以上です。では私はこれで……」

「もう夜も更けてきたし今日はここで一泊してけよ」

「ん。私ももっとティナとおしゃべりしたい」

 

 帰ろうとするティナをつい呼び止めてしまった。この3人で話している時は本当に気楽に話せるから楽しいんだよな。多分新大陸に行ったらこうしてのんびりする時間もほとんど無くなるだろうし、今ぐらいはそんな気持ちになってもいいだろう。  

 

「お二人がそう言うなら……今日はこっちで一晩明かしましょうか」

「そう来なくちゃ!」

「ティナ、何か心配でもあるの?」

「い、いえ。ですが一晩中出かけてると明日エスメダちゃんとカナトさん達になんて言われるか……」

「ティナなら恐れるものなんて何もないだろうに」

「いえいえ! こういう時のカナトさんとエリンさんはうるさいんですよ。いい年した女の子が遅くまで出歩くとは何事か、とか言って。それにエスメダちゃんはですね──」

 

 その後も俺たちの楽しいおしゃべりは続き、そのまま夜明けまで喋り明かしていった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 翌朝早くにティナはドンドルマに帰っていった。エスメダとやらが起きるまでに帰るつもりらしいが、話を聞いた感じ無理なんじゃないかと思う……

 朝までくっちゃべってて疲れないのかって? 澪音も含めてここにいるのは規格外の存在ばかり。それぐらいじゃ疲れんさ。自分で言うのもなんだけど。

 

「それで士狼。新大陸にはやっぱりあれ(・・)で行くの?」

「ああ。昔古代竜人から話を聞いててよかった。あの時は話半分で聞いてたが、まさかここに来て役に立つ日が来るとは」

 

 しっかりと後始末を済ませた俺たちは、新大陸へと向かうためにあれ(・・)がある場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにオウガさんのモンハン知識は、XXまでのものしかありません。これはやってないのではなく、ワールドが発売される前に死んでしまったからです。澪音も同じ。


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第48話.新大陸へ

明けましておめでとうございます!

今回はハンターサイドと主人公サイドの両サイドの話です。
あと少し短めです。申し訳ない……


 新大陸に向かうため定期便に乗り込んだティナ達。新大陸へは物資の輸送などのために定期便が出されており、今回はそれに乗せてもらう形で新大陸に行くということになったのだ。

 ドンドルマの近くを流れている大河にある港から船に乗り込んだ一行は、今まさに海の上を航海している。

 

「船とか初めて乗るから、なんだかワクワクするね」

「そうね。こんなに大きなものが水の上に浮かんでいるなんて、未だに信じられないっていうか……」

 

 カナトとエリンは内陸のユクモ村で育ったため、そもそも海というものを見たことがなかった。はるか彼方まで広がる大海原はどんな湖よりも広く、カナト達は常にキラキラした目でそれらを眺めている。

 

「2人とも、景色を眺めるのもいいですがそろそろエスメダちゃんから新大陸の説明があるみたいですよ」

「あ、うん。わかったよ」

「確かに少し浮かれていたわ。変な顔見られてないといいけど……」

 

 そうして3人は新大陸の地図を広げているエスメダの前に座った。

 

「揃ったみたいね。では今から新大陸について説明するわ! まず新大陸というのがどういう場所かは、流石にわかってるわよね?」

「それはキールさんから聞いているので、省いてもらって構いませんよ」

「ならまずはあたしたちの活動拠点となるアステラについね。アステラは新大陸で唯一あたしたち人が住める拠点よ。内部には商業はもちろんのこと、武器屋や狩りに必要な道具屋。料理を提供してくれるところもあるわ! まさにハンターのための街って言ったところね」

 

 現大陸で今まで生活してきた3人にとっては、街一つが全てハンターのために存在しているという点があまりピンときていないようだった。自分たちが今まで生活していた、ハンターギルドの本部があるドンドルマでさえ街の大半は一般市民が使う施設が多く、ハンターが利用する施設が他の街より少し多いというぐらいのもの。

 それが街ひとつがハンターのためのものといっても過言ではないのが、アステラだ。エスメダの詳しい説明を聞くにつれ、ティナ達3人はアステラという街に大いに興味が湧いた。

 

「成る程、フロア一つがまるまる武器屋になっている、と?」

「そうよ! 2期団の親方が作る武器は、そんじょそこらの鍛治職人じゃ真似できない一級品。貴方達もあの腕前を見たら驚くわよ」

「それは楽しみですね……!」

 

 ティナは武器屋についてエスメダに色々問いただし、

 

「アステラの料理って美味しいの?」

「勿論! 食事はハンターにとってとっても大切なもの。アステラではハンターの為に考えられた色々な料理が振る舞われているわ。現大陸では味わえない、面白い料理もたくさんあるわよ」

「へぇ〜。レシピを覚えたら私も作ってみようかしら」

 

 エリンはアステラの料理に興味を抱いたようだ。

 

「さて、随分とアステラのことを気に入ってくれたみたいだけど、本題はここからね。古代樹の森と大蟻塚の荒地について説明するわ!」

 

 古代樹の森と大蟻塚の荒地は、現在ハンターの手が及んでいる地域のことだ。

 古代樹の森はその名の通り古代から存在すると言われている大樹が所狭しと生えている場所で、中心に生える巨木はあまりの巨大さに下層、中層、上層と区切られているほど。それぞれの層にはそれぞれの生態系が形成されていて、今のところ新大陸で一番命あふれる場所になっている。

 

 大蟻塚の荒地は、古代樹の森とは打って変わって乾燥した大地が続いている場所。沼地や砂漠の面積が増え、緑の数が大きく減るのが大蟻塚の荒地の特徴だ。古代樹の森と違って過酷な環境なので、出現するモンスターの強さも相対的に上がっている危険地帯だ。

 

「──と、今のところ分かっているのはこの2つだけ。新大陸はまだまだ広いし、今現在も調査が行われているわ。エネルギーが観測されたのは古代樹の森や大蟻塚の荒地よりさらに奥地。調査を進めてそのエネルギーのありかを探すのが、あたしたちの任務ってわけね!」

「新大陸、楽しみですね」

「まだ見ぬ未知を探しにいくってわけか……確かにワクワクするかも」

「2人とも遊びじゃないからね? 浮かれるのもいいけど、調査もちゃんとするわよ」

 

 未踏の地である新大陸に想いを馳せながら、4人が乗る船は着実に目的地へと近づいて行っている。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「さて、ようやく着いたな」

「ここが地脈の入り口?」

「そうだ。ここから地中を通って新大陸まで行くぞ」

 

 俺たちは今地中までぽっかりと開いた穴の前に立っている。このまるで地獄まで続いていそうな大穴の正体は、地脈の入り口だ。

 この世界の地脈とは簡単に言えばエネルギーの通り道だ。この大地を循環するさまざまなエネルギーは、地脈を通って世界中へと流れていっている。そして『古龍渡り』をする古龍達の通り道となっているのも、この地脈というわけだ。そもそも新大陸というのは海の向こうにあるって話だ。どうやって翼を持たない古龍が新大陸に行ってるんだという話だが、その答えがこの地脈の通り道ってわけだな。まあ全部古代竜人からの受け売りだけど。

 

「ティナから新大陸の方角は教えてもらったし、さっさと行くとしようぜ」

「士狼のそれ、ほんとに便利」

「まあな。お陰で方角さえ分かれば道に迷うことがなくなったからなぁ」

 

 俺の古龍としての力が上がったとき、雷だけじゃなく電気に関係するものを操る力も上がっていた。今では磁力をうまく感知してどこにいても方角が分かるようになったってわけ。

 

 地脈の入り口から入るとすぐに光が差し込まない暗黒の世界が訪れた。まあ地中を進んでるわけだし、当然だが。その点は俺も澪音も暗闇の中でも完全な視力を保てるようになっているから特に問題はない。

 

「士狼、あれ」

「ん? ……うわぁマジかよ」

 

 さらに奥へと進んでいくと俺たちとは違う方角への道にとんでもないものがいた。山のような巨体で歩くだけで災害級の被害をもたらす、大きさならトップクラスの古龍。老山龍ラオシャンロンだ。

 そのラオシャンロンが巨大な体を左右に揺らしながら、ドシンドシンと遠ざかっていくのが見えた。このように地脈は各地を徘徊する古龍の通り道にもなっているのだ。本当にこの世界は不思議だよなぁ。地球の常識が悉く通用しない。

 

「ラオシャンロン、でっかい。すごい」

「澪音はラオシャンロン狩るの好きだったもんな」

「ん、狩りごたえ抜群」

「俺はもっとスピーディーなやつを狩るのが好きだったけどなぁ」

 

 澪音と2人きりになると、ついつい前世の話で盛り上がってしまう。前世では、澪音はラオシャンロンやダラ・アマデュラみたいな超巨大モンスターを狩るのが好きで、俺はタマミツネやナルガクルガみたいな素早いモンスターを狩るのが好きだった。

 素早いモンスターの方が好きだった理由は、油断するとすぐに被弾してしまうから常に緊張感を持って狩りが出来たからだ。澪音はハンターより遥かに大きいモンスターを叩き伏せるのが楽しかったみたいだが。

 

 そんなわけだから実物のラオシャンロンを見て澪音はいつになくはしゃいでいる。まるで動物園で初めてゾウを見た子供みたいで、思わず笑みが溢れてしまった。

 

「む、士狼笑うなんて酷い」

「いや、ごめんよ。はしゃいでる澪音が面白くてさ」

「士狼だって戦闘してる時、いつも目輝かしてるくせに」

「え、いやそれは嘘だろ? 俺はそんなバトルジャンキーじゃないぞ」

「嘘じゃないもーん」

 

 地脈の中はほとんど生物の気配がしないのもあって、俺たちはいつもよりかなり羽目を外して会話を楽しんでいた。

 目指す新大陸まではまだ時間がかかるだろう。それまでは大切な家族との会話を目一杯楽しんでもバチは当たるまい。

 

 

 

 

 

 

 



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第49話.アステラ

だいぶ長くなってしまった……
色んなキャラが出てくる分ハンターサイドはどうしても長くなってしまいますね。


 ティナ達を乗せた船は数日の時間をかけて新大陸にあるアステラの港に到着していた。

 

「う、うげぇ。酔った……」

「ちょっとカナト、大丈夫?」

 

 最初こそは目新しいものの数々でテンションが上がっていたカナトだが、慣れてくると船の揺れに耐えきれなくなり終始真っ青な顔をしていた。エリンの肩を借りながら船から降りてくるカナトは今にも吐きそうな顔をしている。

 

「全く船酔い程度でだらしないわねー」

「まあ少しコツを覚えれば船の揺れ程度の揺さぶり、自分でどうにか出来ますからね」

「いやそんなことできるのティナさん達だけだから……私はカナトを休ませてくるから、先に2人で行ってて」

 

 そのまま遠ざかっていくカナトとエリンを見送ってから、ティナは改めてアステラという街を眺めてみた。そこかしこでハンターが歩いており、まるで集会場にいるかのような感覚。店で売られているものは一般人が使うような日用品ではなく、ハンターが狩りで使うような道具ばかり。まさにハンターの街というべき光景だ。

 

「本当にハンターの方が沢山いますねぇ」

「当然でしょ。ここにいるのはハンターか、その関係者だけなんだから。さ、荷物をまとめたらいくわよ」

「行くって何処にですか?」

「ここの総司令のところ」

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 エスメダに連れられてやってきたのは港からほど近い一角。大きなテーブルの上には新大陸の地図が広げられており、そのテーブルの周りには沢山の椅子が並んでいる。さしずめ会議室といったところか。

 

「総司令〜。帰ったわよ!」

「おお、君か」

 

 そのテーブルの真前に立っている人物こそ、総指令その人。数十年前に新大陸に派遣された初めての調査隊の一員であり、調査隊員達から全幅の信頼を置かれている存在だ。

 

「君がティナか。話はキールから聞いているよ。今回は新大陸の調査にやってきてくれたこと、心から感謝する」

「ご丁寧にどうもです。ティナ・ルフール、本日付で調査隊員に加わります。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 ティナと総司令が握手を交わすのを見届けたエスメダは、近くにあった椅子に腰掛けながら言う。

 

「それで総司令。何か進展はあった?」

「残念ながらまだ何も。君が観測したエネルギーは新大陸のかなり奥地からのものだったが、そこに到達するための道も手段も我々は持っていない。急ぎ調査を進ませてはいるが、今のままでは八方塞がりだろう」

 

 新大陸はその土地柄なのか生息するモンスターのレベルも現大陸と比べてかなり高い。なのでただ調査すると言ってもかなりの危険を伴う行動なのだ。

 

「君たちには追って任務を依頼することになるだろう。それまではこのアステラを歩いてみるといい。エスメダ、案内は任せるぞ」

「了解〜! さ、ティナ行きましょう!」

「え、あ、ちょっと待ってください! あ、では失礼します。エスメダちゃん早いですってば〜!」

 

 エスメダの後を追うティナを眺めながら、総司令はフッと笑った。彼女達ならば、この新大陸に新しい風を運んでくれるかもしれない、と。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「うわぁ〜、すごいですねぇ!」

 

 エスメダにお願いして、ティナは早速アステラの自慢だと言う工房に案内してもらったいた。その工房は現大陸でもほとんどお目にかかれないほど大きく、最新鋭の武具を作るのに適した環境だと言えよう。そしてそこで腕を振るうのは現大陸でも腕すぐりの職人達。彼らのおかげで新大陸のハンター達はレベルの高いモンスターと渡り合うことができているのだ。

 

「このフロアは全部工房なんですね……あ、あそこにあるのって説明された『クラッチクロー』ってやつですか!?」

「あ、ちょっとティナってば! もう、武具のこととなると目の色変えるところは、変わってないのねぇ。私は向こうで休んでるから、気が済んだらこっちに来るのよ!」

 

 エスメダの声に「はーい」と生返事で返したティナは、工房のあちこちをくまなく観察していく。

 

「この太刀は随分といい品質ですね。刃の鍛え方もすごく高レベルです。こっちの弓もなかなか……エリンさんがみたら喜びそうです。お、この防具の作り方は凝ってますね! こんなに重厚な鎧なのに、駆動系に一切の支障をきたしてないとは。新大陸の職人さんはハイレベルとは聞いてましたが、これほどとは……!」

 

 そんな感じで色々と物色していると、いきなり後ろから声をかけられた。

 

「おいぃ! そこのチビ助!」

 

 目を向けると、見上げるほどの大男がそこには立っていた。結構身長が伸びたカナトよりも遥かに大きいだろう。195cmはある。その高い体に余すことなく筋肉という鎧を身につけた典型的なハンター体型の男は、ティナに向かってずしずしと歩いてくる。

 

「チビ助、というのは私のことですか?」

「そうだあ! 俺はてめえみたいなガキのくせに調査隊に選ばれて調子に乗ってる奴が大っ嫌いなんだよ!」

 

 ここは腐っても新大陸。選ばれたハンターしか来れない場所なので、当然この男もハンターの中では強い部類に入る。しかしやはりハンターの世界は実力主義の世界。例えば自分は低ランククエストで足踏みしているというのに、自分より若いハンターが高ランククエストをクリアしてチヤホヤされるのは面白くないものだ。

 彼だって普段はこんなことはしない。だが先日クエストで失敗して、昼間からやけ酒をしていたのがタイミングが悪かった。そうでもなければ、いくら少女とはいえ初対面の人にこんな態度は取らない。

 

「調子に乗っている……? 私はここにきたばかりなのでよく分からないのですが」

「どうせお前も、割りのいいクエストばっか受けてランクを上げた口なんだろ? 実力もねぇくせに、新大陸に来るんじゃねぇ!」

「ふむ……つまり私に実力を示せと言っているのですか?」

 

 ただの酔っ払いの戯言だが、真面目なティナは自分はこんななりだから疑われているのかもしれない、と考えてしまう。そしてならば疑いを晴らしておかなければ、とも。

 

「なら模擬戦でもして見せればいいですか?」

「模擬戦ん〜?」

「はい、あそこにいる人と一戦交えますので、それを見てから改めて考えていただければと」

 

 そう言ってティナが指さしたのは、頬杖をつきながら眠そうな欠伸をしているエスメダだった。この騒ぎを聞きつけて集まっていた野次馬の視線が一斉にエスメダに集まる。

 

「え? な、何よ?」

「エスメダちゃん。どうやら私は本当に新大陸にいるに相応しい人物なのか疑われているようです。なので一戦お相手をお願いしてもいいですか?」

「はぁ!? いやよティナと戦うなんて! 絶対無事じゃ済まないじゃない!」

「そうですか……エスメダちゃんはこの人数の前で勝負から逃げる臆病者なんですね?」

「な!?」

 

 ティナは普段心優しいが、親友であるエスメダには色々容赦がない。まあそれほどエスメダのことを信用しているというわけだが。

 

「じょ、じょーとうじゃない! いいわよ、やってやるわよ!! あたしに負けても後悔するんじゃないわよ!」

 

 そしてエスメダ、煽り耐性が低い。あのような煽りでもエスメダには有効なのだ。

 こうしてひょんなことからティナvsエスメダという、ハンターギルドの最上位同士の戦いが始まることになった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「これ、どういう状況?」

「聞いた話によると────ということらしいわよ」

「えぇ……誰だよティナさんに余計なこと言った人は。ここら一帯を更地にしたいのか?」

 

 酔いから復活したカナトはエリンを連れてアステラのトレーニングフィールドに来ていた。そしてティナとエスメダが模擬戦をするという話を聞いて内心恐怖していた。

 ティナの強さは自分たちが一番知っている。そのティナと肩を並べるのがエスメダというのだ。要するにティナが2人で今から暴れる……想像するだけでカナトの背筋は凍った。

 

「エスメダの姉御に喧嘩を売るとは、馬鹿な新人だな」

「まったくだ。現大陸にいたからエスメダのことを知らないんだろ」

 

 ティナが英雄と呼ばれ始めたのは約3年半前から。なので新大陸に長くいたものはティナのことをほとんど知らず、エスメダが相手じゃ勝負にならないと嘲っている。

 

「おい、ティナって言えばあの!?」

「あの英雄が新大陸に来てたのか……」

 

 逆に最近新大陸に来たもの達はティナのこともよく知っているので、今から始まる戦いにカナトと同じく恐れている。

 

「思えばこうしてエスメダちゃんと戦うのは久しぶりですね」

「そうね」

「エスメダちゃんってば、なかなか練習相手になってくれませんでしたから……」

「あんたとやったらあたしが持たないからでしょ……バトルは好きだけど、こういうのは好きじゃない……」

 

 ハンター同士で武器を向け合うのはご法度なので、ティナとエスメダが持っているのは太刀と大剣を模した木刀だ。

 ちなみにこのようなハンター同士で戦うことは珍しくない。普通に訓練でも行われるし、ハンターは血の気の多い生き物。ちょっとしたいざこざを解決するためにこうして立ち会うことも多々ある。

 

「やるからには全力ですよ。私はここにいる皆さんに実力を示さなければいけませんから」

「だからあれはそういう意味じゃ……あーもう! 分かったわ。ここまで来たら愚痴るのはなし。そっちがその気ならあたしも全力よ!」

 

 そして戦いが始まる。最初に仕掛けたのはティナだ。持ち前の素早さを活かしてあっという間にエスメダに迫っていく。しかし鈍器を持っているとは言え、この程度のスピードについていけないければエスメダが第二位と呼ばれることはない。ティナのスピードに対してどっしりと構えることで、ティナが打ち込む隙を無くした。

 

 そんな不動の構えを見せるエスメダに対して、ティナは怯むことなく斬りかかる。大袈裟に斬りかかったそれを大剣の腹で受け止めたエスメダは、その怪力でもってティナのことを空中に跳ね上げた。しかしそれを軽やかな身のこなしで流したティナは、今度は8文字に切りかかる。それを腹ではなく木刀の刃の部分で受け止めたエスメダ。そのまま2人は鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「流石エスメダちゃんです。今の8文字を切り抜けますか」

「太刀は小回りが効いていいわよね! あたしは食らいつくだけで精一杯よ!!」

 

 鍔迫り合いでは腕力の勝るエスメダが押し勝ち、そのままティナの胴に大剣の一撃を入れた。だが精密な身体操作に秀るティナはバク転をすることでその衝撃を受け流しつつ後退し、すぐさま体勢を立て直す。そして飛びかかるようにエスメダに斬りかかった。

 

「甘いわね!!」

 

 しかしそれはエスメダの予想の内。剣先が霞むほどのティナの剣戟をなんと目で見て躱し、体制が崩れたところに振りかぶった大剣の一撃をお見舞いした。

 

「ぐうっ!!」

 

 ロクにガードも出来ずにそれを受けてしまったティナは、地面に叩きつけられる瞬間に受け身をとってなんとか追撃を躱した。

 

「ふぅ、流石にやりますね!」

「タダでやられるわけにはいかないからね!」

 

 距離をとって再び太刀を構えるティナに対して、やはりエスメダは不動の構えを解かない。素早い相手には下手に動くより、しっかりと相手の動きを目で追う方が大切だと分かっているからだ。

 そして仕掛けたのはまたもやティナ。不規則に左右に揺れる歩法を使って、エスメダを錯乱する作戦だ。エスメダは多少目線を左右させたものの、やはりその程度ではぶれない。ティナの剣を必ず見切ると集中している。

 

 そんなエスメダに対してティナが選んだのは突きだった。低姿勢から斜め上に放たれたそれは、しかしてエスメダの大剣によって弾かれる。弾かれた隙を晒さないように、その勢いすらも利用して半回転からの横一文字を放つティナ。だがこれも弾かれる。エスメダの防御力は並大抵ではない。

 そして無理に横一文字を放ったことで、ティナの体制が崩れたように見えた。エスメダはここが勝機とばかりに大剣を握りしめてティナに斬りかかる。

 

「貰ったわ!」

 

 しかしそれを見てティナが浮かべた表情は、笑みだった。

 

「引っかかりましたね! 奥義二の太刀『水鏡』!!」

 

 ティナの持つ3つの奥義。その一つである二の太刀は完璧なカウンター。自分の技の威力を利用された返しの一撃に、流石のエスメダも反応できなかった。首筋にピタリと木刀が添えられて勝負がつく。

 一拍してゴオッ! とティナの奥義で発せられた風が周りの野次馬達の頬を撫でた。風が発生するほど早い剣技だったということだ。2人の攻防がハイレベルすぎて何が起きたか理解できてないものもいる。

 

「はぁ、はぁ、私の勝ちですね」

「降参よ……はぁ、はぁ、そもそも、あたしの技は対人間を想定してないもの……というか奥義使うのはずるいでしょ」

 

 エスメダが降参したことによって呆気に取られていた場の空気がようやく戻り、歓声が上がった。エスメダはこの新大陸では並び立つものがいないほどの強者。そのエスメダを下したティナの実力を疑うものは、もういないだろう。

 たくさんの歓声に照れながらもティナが答えたことによって、歓声はさらに大きくなっていった。

 

「あーよかった。最悪の場合僕ら全員吹き飛ばされててもおかしくなかったよ」

「確かにね……それにしてもあの2人はやっぱりすごいわ。ティナさんの最後の技なんか、私ほとんど見えなかったもの」

「僕もギリギリって感じかなぁ。彼女達の壁はまだまだ高そうだね」

「でも負けてられない、でしょ?」

「勿論。いつか追いついてみせるさ!」

 

 そしてこの模擬戦によってカナトとエリンの決意がさらに固くなったりもしていた。こうしてティナ達のアステラ初日は、騒がしく終わっていくのだった。

 

 

 

 

 

 




ティナが絡まれるくだり、一回やってみたかったんですけど余計でしたかね?結構迷ったんですが入れてみました。
自分はああいうのは嫌いじゃないんですけど、嫌いだって言う人も一定数いるみたいなので……

感想お待ちしてます!


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第50話.新大陸の洗礼

投稿再開しますー

【あらすじ】
多くのモンスターが狂乱し暴れ回る現象、通称黒き呪いの調査のため、またその元凶である終龍を討つ為に、ハンターであるティナから得た情報のもと旅立った主人公と澪音。一行は地脈の道という地下を巡るエネルギーの通り道を抜けて、ついに新大陸と呼ばれる地へ辿り着こうとしていた。



 地脈の道を歩くこと数日。ようやく俺たちは新大陸の地脈の入り口に到達しようとしていた。

 

「結構時間がかかったな。思ったより現大陸と新大陸の距離は離れているようだ」

「もう暗闇飽きた……面白くない」

 

 澪音はここ数日変わらぬ景色の道を歩いてきたので、すっかり飽きてしまったようだ。地脈の道は殆ど利用されることのない、いわば隠し通路。初日にラオシャンロンと出会ったのは実はかなりレアな場面だったのだ。

 それに地脈の道は酸素がほとんどと言っていいほどないので、通常の生物では通り抜けることができない。俺は古龍化した時に酸素がなくても活動できる体になったらしいから平気だし、澪音は自身の加護の性質上、呼吸しなくてもある程度は平気だからなんとかなった。なので普段この道を使うのは古龍だけなんじゃないかな。

 

 そうこうしているうちにうっすらと光が見えてきた。おそらく新大陸側の地脈の入り口が近づいてきているのだ。澪音の体も心配だし、さっさと通り抜けてしまうことにしよう。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「おお、ここが」

「新大陸……!」

 

 数日ぶりの日光を前に目を細めながら地脈の道から出てくると、目の前に広がっていたのは緑に覆われた森林地帯だった。見たことのないような木々が生えているこの場所は、ティナから聞いていた『古代樹の森』だろうか。

 

「ん? なんか……」

「士狼、どうかした?」

「いや、一瞬違和感を感じたけど、特に問題はない」

 

 多分久し振りに日の元に出たことで体が驚いているのだろう。古龍化したこの体が、この程度のことで驚いてくれるかどうかは疑問だけど。

 それにしてもだ、ここは随分と面白い植物が生えているな。『古代樹の森』っていうぐらいだから、古代から存在する木々なのだろうか? 

 まあいいや、とりあえず新大陸には無事に着けたわけだがここからどうしようか? ティナ曰く大きなエネルギーが観測れたって話だが、俺は別にエネルギーの感知なんてできないからなあ。やはりどこかでティナ達と落ち合いたいところだが……あちらが前みたいに角笛を吹いてくれたら楽なんだけど、まだ俺たちがこっちに着いてるとは知らないだろうし。

 

「士狼、士狼」

 

 そんなふうに考えていると澪音がちょいちょいと俺のことを突いてきた。

 

「ん、どうした?」

「お腹すいた」

「あー」

 

 そういやもう何日も食事というものをしてなかったな。確かに腹がすいた。さて、右も左も分からないような新大陸でどうやって獲物を探すか……と思ってたんだが、どうやらその心配は無用らしいな。

 

「何か近づいてきてる」

「だな。着いて早々襲われるとはついてない」

 

 そう、なんらかのモンスターがこちらに向かってきているのだ。新大陸のモンスターが果たして現大陸ものと同じなのかは分からないが、出来れば同じだといいんだが。予備知識の全くないモンスターと戦うのはやっぱり不安だし。

 しかしその願いも虚しく、俺たちの前に飛び出してきたモンスターはみたことも、ましてや前世の知識にも無いようなモンスターだった。出立ちやその体格からはあまり強靭といった言葉は連想できない、言うなれば俊敏そうな見た目。青みを帯びた灰色っぽい体毛に覆われた体を持ち、その四肢には体に見合わないような巨大で鋭利な爪が生えている。そして何より際立つのはその尻尾だろう。なんと胴体と同じかそれ以上の大きさがあるのだ。

 

「クアアアァァァァァァァ!!!」

 

 まるで大きなイタチのようなモンスターは、威嚇のための咆哮を上げる。体の大きさ的にそこまで大迫力があるわけでは無いが、そこに込められた圧からは強者の風格を感じ取れた。

 

「いきなり知らないモンスター……!」

「ああ。奴が何をしてくるか分からない以上澪音は一旦下がっといてくれ」

「でも」

「大丈夫だ。そんな簡単にやられはしないさ」

「……うん。頑張って」

 

 澪音は素早く下がって茂みの中に消えていった。こいつの知識が全く無い以上、打たれ弱い澪音に万が一があったら困るからな。

 さて、目の前のモンスターは威嚇をするだけして飛びかかってくる様子はない。何も考えずに突撃だけしてくる奴らと比べたら、厄介なことこの上ないな。慎重に相手の出方を伺えるだけの知性があるということなのだから。

 俺も様子見をしつつ即座に超帯電状態に移行し、相手の出方を待つ。いきなり放電を始めたのに驚いたのか、モンスターはピクッと反応しながらもその距離を詰めてきた。

 

 モンスターの右前足の爪での攻撃を躱し、お返しとばかりにこちらの黒爪での攻撃をお見舞いした。だが思ったよりもモンスターの装甲は硬く、薄皮1枚を切り裂くに終わる。というか装甲が硬いのは硬いのだが、それより奴の身のこなしの方が驚きだ。自分の攻撃が外れて反撃られそうだと悟るやいなや、体を捻ってその衝撃を緩和しようとしていたからだ。これは相当場慣れしているぞ……

 

 俺に一撃をもらったことでより警戒心を強めたそのモンスターは、バッと大きく両前脚を開いたかと思うとそのままジャンプして滑空し、巨大な木の幹にしがみついた。その時見えたんだが、奴の前脚には滑空を支えるための皮膜があった。俺は今までこいつのことをイタチのようだ思っていたが、どうやらそれは間違い。正しくはモモンガのようなモンスターだった。

 

「クアアアァァァァァァァ!!!」

 

 木の幹に鋭利な爪を食い込ませて器用に捕まっているそいつは、一際甲高い咆哮を上げた。次の瞬間、奴の全身からバチバチという音と共に電気が迸り始める。

 成る程、こいつが使う属性は雷属性か。おそらくその身軽さを生かして木々の間を滑空で移動しつつ、敵の隙をついて電撃を帯びた攻撃をしてくるスピードタイプなのだろう。しかし残念だったな。俺には元々雷属性の攻撃はほとんど効かない。それが古龍化したことによってほぼ完全に無効化出来るようになっている。相性が悪かったな。

 

 木から飛び降りつつ電撃を帯びた尻尾で広範囲を薙ぎ払うように攻撃してきたモンスターに対して、俺はその尻尾を噛み付いて捕らえる。やはりこいつはスピード特化のようで尻尾に噛みついた俺をなんとか振り解こうとしているが、俺の口はその程度の力ではびくともしない。そのまま勢いをつけながら放り投げ、大木の幹に叩きつけた。

 

「ッッッ!!!」

 

 声にならない悲鳴を上げながらヨロヨロと倒れるモンスター。流石にこの程度でやられるわけではないようだ。しかし先程のダメージでどこか痛めたのかほとんど動けない様子。勝負あったな。

 俺は刃尾でモンスターの首筋を一閃。鮮血が撒き散らされ、モンスターの目から光が消えていく。

 

「流石士狼。だいぶ余裕そうだった」

「見てたのか。まぁ確かに場慣れしてそうな奴だったが、そこまで脅威は感じなかった。でも現大陸にいたら結構な強さだと思うぞ」

 

 あの時ティナから聞いていたのだが、新大陸にいるモンスターは現大陸のものより強い場合が多いらしい。新大陸の過酷な環境で育ったモンスターは通常より強くなりやすいんだとか。俺が倒したこいつも現大陸だったら上位クラスだろうが、もしかしたらこっちでは下位相当なのかもしれない。

 

「士狼、早く食べよう」

「ん、そうだな」

 

 澪音はもう待ちきれないのか早く早くとせかしてくる。その仕草が可愛いものだが、俺も腹が減ったのは同じなのでさっさと処理するとしようか。

 

「でも昔みたいに一気にボン! と焼けなくなったのは不便だよな」

「確かに。士狼ほかの属性の扱い、下手になったから」

「下手とかいうなよへこむだろ……」

 

 そう、古龍化してからというもの、俺は雷属性以外の扱いが極端に悪くなってしまった。昔は大きなモンスターも強力な炎で一気に焼けていたのだが、今は小さな炎でチリチリと焼くしかない。そのほかのも同じような感じで、とても戦闘で使えるレベルではない。

 多分だが古龍化したことによって、俺の存在がルーツの加護を受けて色々吸収した結果不安定になっていたものから、【雷属性を操る古龍】というものに固定化されたからだと思う。だからか分からないが、ルーツからもらった能力吸収の加護もこの頃はほとんど働いていない。そのかわり古龍化以前より防御力も攻撃力もかなり上がったんだけど。

 

「確かに出来ることは減ったけど、そのかわり強くなれたんだからいいんだ」

「うん、士狼は最強。誰にも負けない」

「それは言い過ぎだだっての」

 

 勿論俺が最強なんて微塵も思ってない。俺より強い存在は知ってるし、何より俺は古龍として若輩者。龍脈の扱いだってまだまだお粗末なもんだ。前に邂逅したキリンとかだったら、もっと上手く龍脈の力を使えることだろう。そう考えるとあの時のキリンは全く本気じゃなかったんだろうなぁ。

 まあこれから上手くなっていけばいいさ。

 

 そんな感じで俺と澪音の新大陸生活初日は過ぎて行った。

 

 

 




オウガさんが戦っていたモンスターはなんだか分かりましたか?

正解は「トビカガチ」です。


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第51話.家族

モンハンライズ発売おめでとう!
早速やっていますがなかなかに面白いですねこれ。ただモンスターを攻撃する時の効果音はワールドの方が好きかなぁ?


 私の名前は澪音。前の世界で死んでこの世界に転生してきた転生者だ。そして目の前にいるのは士狼。私の大切な人。

 今は士狼に連れられて新大陸というところに来ている。なんでもそこで大きなエネルギー? が観測されたとかなんとか。でもぶっちゃけて仕舞えば私はそれに関してあまり興味がない。私にとって一番は士狼だし、二番目なんてない。士狼がいてくれればそれでいい。なので悪いとは思っているのだが、士狼が群れのジンオウガ達の仇を討ちたいと言った時には咄嗟に嫌な顔をするのを抑えてしまった。

 群れのみんなには良くしてもらったし、そこに恩義は感じている。それは本当。でも彼らのために士狼が危険の中に飛び込んでいくというのは、どうしても耐えがたいことだった。

 

 前世で彼を失った時私は目の前が真っ白、ううん。目の前から全てのものが消え去ってしまうような、そんな感覚に陥った。本当に奇跡に奇跡が重なってこうして再び士狼と会えたわけだけど、もう2度と士狼を失うつもりはない。ない、けど士狼はそんなつもりはないみたい。彼はああ見えて義理堅く情に熱いところがあるから。失った仲間のためにも立ち止まってくれることなんてないと思う。まあそんなところが彼のいいところでもあるから。

 

 私はもう2度と士狼の側を離れるつもりはないと誓った。だからどんなに事態が私の理想とはかけ離れた場所へと動こうとしても、私が士狼のそばから離れるなんて選択肢はない。ないのだ。

 

 え? なんでこんな話をしてるのかって? それは……

 

「嫌」

「分かってくれ澪音。たった数日のことじゃないか。な?」

「無理」

「だってお前、こんなクソほど広い森を固まって歩いててもしょうがないだろ……せっかく2人いるんだしここは手分けするのが効率的だと思わないか?」

 

 士狼があろうことか二手に分かれて探索をしようと言ってきたからだ。

 確かに狩りとかで分かれて行動することはあった。あったけどそれはせいぜい半日ほど。それぐらいだったら私だって我慢する。でも今回は数日、もしかしたら数週間離れ離れになってしまうかもしれないのだ! 私が、士狼と、離れ離れ……そんなことは許されない! そう、断じて!! 

 

「澪音。俺だって奇跡的に会えた家族と別れるのは辛い。でもさ、固まって動く利点がないことは澪音にも分かってるだろ? それに俺はお前のことを何より信用している。俺の妹は必ず俺の想像以上の結果を出してくれる奴だってな」

 

 う、そ、それはずるい。そんな言い方されたら……

 

「でも……」

「な、頼むよ澪音?」

「う、あ、うん。分かった……」

「おお、分かってくれたか!」

 

 そんな目で見つめられたら断れるわけない……士狼はずるい。

 そう、そうだ。士狼にはこれがある。油断している場合ではないのだ。きっとこんな感じでほかの女とも接してきたに違いない。例えば……そう、ティナ。あの子アマツを倒す前と後では随分士狼との距離感が違ったような? 

 

「澪音さんチョロくて助かった……ん? さ、殺気なんて漏らしてどうした?」

「え、あぁ。何でもない。それより何か言ってた?」

「いぃや? 何にも言ってないぞ?」

 

 士狼の態度は怪しさ満点だったが、分かれてる間の行動方針なんかを話している間にはぐらかされてしまった。くそう。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 さて、士狼と別れてから1日が経とうとしている。そろそろ士狼成分が欠如してきた。これが無くなると私は死ぬ。かもしれない。

 まあ冗談はこれぐらいにしといて、ぼちぼちと探索をやっていくとしよう。といっても私の感覚器官をフル活用して周りの様子を調べる程度だけど。私にだって件のエネルギーとやらは感知できない。そもそもどのようなエネルギーなのか分からないのに、どうやって感知するんだっていうね。それに士狼が期待してるのはそこじゃない。

 

 多分士狼はティナ達と合流して情報を得たいんだと思う。だから私が探すのは大きなエネルギーとやらではなく、人間の痕跡。ふふん。言われずとも士狼が何をして欲しいのかがわかる。流石私。流石士狼の魂のベストパートナー。

 

「ギャオオオオオォォォォォォォォ!!!!」

 

 うるさいな。折角士狼と魂のつながりを感じているところだったのに。それに何だこいつは? イビルジョーの親戚みたいな見た目だな。でも全身に毛が生えてる。黒とピンクの体毛とか派手な奴。後咆哮してた時チラッと見えたけど背中から大きな何かが出てた。あれは……そう、スピノサウルスの背中についてるみたいなやつ。

 

 あ、というかこいつ瘴気にやられてるじゃん。やっぱり終龍はここに来てるんだ。士狼の予想は当たってたってこと。士狼はすごい。最強。イケメン。

 

「グルルルルルルル」

 

 心の中で士狼のことを称賛しまくってたら、そんな感じで低く唸られた。瘴気にやられてるのにすぐに飛び込んでこないんだ。なかなかやるじゃん。

 でもまあそりゃ殺る気はまんまんですよね。めちゃくちゃ殺気放ってるし。ただでさえ喧嘩っ早そうだもの。プラスで瘴気でしょ? あー、この世界の生き物ってなんか血の気が多くて疲れる。ま、モンスターなんだしそれが正常か。こいつは異常だけど。

 おっと。暫定ティラノスピノが突撃してきたから横にジャンプすることでそれを避けた。するとティラノスピノは勢い余って大木に激突。大きな音を立てながら、ぶつかった大木がグラグラと揺れる。衝撃で枝に溜まっていた小鳥達が一斉に逃げ出していった。

 

 うーわバカだ。いきなり飛び出してこないのはすごいと思ったけど、やっぱり瘴気にやられてるやつはまともな思考をしていない。さて私もそろそろ反撃するとしようか。あなたのせいで全く探索が進んでないしね。このままじゃ士狼に幻滅されてしまう。それは必ず回避する。

 黒い霧を放出。範囲は最低、威力は……最高でいっか。そんなに長い間展開しなければ大丈夫大丈夫。

 黒い霧がティラノスピノの全身を包み込む。と同時に霧に付与されたさまざまな状態異常がティラノスピノに襲いかかった。今の私の霧ならば、たとえ古龍といえども無傷で済ますことはできないだろう。と聞いた。士狼から。古龍って遠目でアマツのことを見ただけなんだけど、結構やばそうな感じだった。本当にそんな奴らにこれが効くのかね? 私そんなに強くないと思う。

 

「グガァァァ……グァァァ」

 

 おっと、火傷と感電と凍傷でダメージを受け、幻覚に頭痛に吐き気、催眠で思考能力が低下しているティラノスピノがうめいている。実際には脱水症状みたいなのとか小さいものだと腹痛とかもあるけどそこは割愛。全部言ってたら時間かかるし。そういえばこの黒い霧を使ってるせいで私はほとんど超帯電状態になったことがない。だってなる前に大体終わってるし。そもそも私ジンオウガのくせにあんまり力無いから超帯電状態になってもねぇ。

 

 ま、とりあえずここまできたらいくらティラノスピノといえどもそこら辺のトカゲと変わらない。確かに瘴気は脳のリミッターを外して限界以上の能力を引き出す結構恐ろしいもの。だったらその能力の最大値を限りなくゼロにしちゃえば、多少限界突破されても怖くないよね? じゃ、さよなら。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「なに、人間の痕跡を見つけた!?」

「うん」

「でかしたぞ澪音! これで運良くあいつらと会えたら、色々情報を聞き出せるかもしれない。よし、早速その痕跡があった場所に行ってみよう!」

「……分かった」

 

 よっしゃー! 士狼に褒められた〜褒められた〜努力した甲斐があったってもんよ。このために数日かけて極限まで集中して情報収集してたからね。全てはこの時のため。あぁ何という幸福……

 

「おーい。なにしてんだ? 早く行こうぜ」

「あ、うん。今行く!」

 

 私は澪音。この弱肉強食の世界を士狼とともに生きていく、1匹のジンオウガだ。

 

 

 

 

 

 

 




たまにはこういうのもありかと思った

澪音はあんまり喋んないやつですけど、中身はこんな感じなんです。


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第52話.調査隊

今回はティナの一人称視点です。


「ふぁーあ」

 

 アステラにあるハンターごとに割り振られた部屋のベッドの上で、私は欠伸をしながら起き上がりました。アステラでは何とハンターが寝泊まりするための大きな施設があり、アステラに滞在している間は無料でここを借りられるというのです。ちなみにハンターランクによって部屋の大きさが変わるというのは、現大陸の方と同じでした。ですがあちらは多少なりともお金を取られるので、無料で寝泊まりできるというのはとても大きいことです。

 私は高ランクハンターということもあり、この施設で1番大きな部屋が割り当てられました。いつも言っているのですが、こんな大きな部屋を私1人で使ってしまうのはもったいないと思うのです。なので今回は……

 

「エスメダちゃん、朝ですよー!」

「うわぁ! 飛び乗ってこないでよティナ!」

 

 エスメダちゃんも一緒です。彼女とはハンター育成学校の頃からの友達であり、戦友であり、親友です。昔はよく2人でクエストに出かけては、こんな風に一緒のテントで寝ていたものです。懐かしいですねぇ。

 

「エスメダちゃん、早く起きないとこちょこちょしちゃいますよ?」

「分かった、分かったから! 私がそれに弱いこと知ってるくせに……」

「知ってるからやってるのですよ?」

「よりたち悪いわよ!」

 

 ふふふ、こうしてエスメダちゃんと何気ない話をするのも久しぶりなので、ついつい。まあ早く起きないといけないのは事実なんですけど。多分カナトさん達ももう起きてるでしょうし、待たせるわけにはいきません。

 

「起きたのなら、パパッと用意して下に行きますよ」

「ふぁーい」

 

 眠そうなエスメダちゃんを連れて私たちは下に降りて行くことにしました。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 この宿泊施設の一階は現大陸にあったハンターギルドのような作りがしてあり、ここでハンター達はクエストを受けたり、情報を集めたり、お酒を飲んだりとまあそんな感じです。なので一階はいつも騒がしくてガヤガヤしてます。私はそんなギルドの雰囲気が好きだったので寧ろいいんですけど。

 

「あ、ティナさんおはよう」

「おはようございます、カナトさんにエリンさん」

 

 案の定カナトさんとエリンさんは先に着いていたようです。この2年でさらに逞しくなったお2人は、もう歴戦のハンターと言ってもいいような風格を醸し出しています。私が鍛えたんですから当然ですけど! 

 

「あれエスメダさんは?」

「エスメダちゃんならここに……」

「スヤスヤ……」

「寝てるわね」

 

 エスメダちゃんが朝に弱いのは相変わらずのようです。こうなったら、

 

「起きないとこうするって言いましたよね? くすぐりの刑です!」

「ひゃ!? あはははははは! ちょ、ちょっとやめてって……ははは!」

「だめでーす。寝坊助さんには罰が必要ですからね」

「そ、そんなー!」

 

 ひとしきりくすぐったらエスメダちゃんはピクピクして動かなくなってしまったので、今日はこのくらいにしておいてあげましょう。

 さて、今日はそんなことよりこれからについて話し合わなければなりません。いくらハンターランクが高い私たちとはいえ、新大陸では右も左も分からないようなひよっこ。ならばしっかりと情報を集めて、キールさんに託された任務を遂行できるようにならなければいけません。

 

「ティナさんってエスメダさんに対して容赦ないよね」

「そうね。あれも一種の愛情表現なの、かしら?」

「うーん。最強のハンターはこんなところでも規格外か……」

 

 お2人が何か言っているようですが、そろそろ話し合いを始めましょうか。せっかく早起きしたのですから時間は有効に使わないと。

 

「では皆さん。今後について話し合いを始めるとしましょう」

「そうだね。でも僕らは新大陸についてほとんど知らない。船の中でエスメダさんに少し聞いたとはいえ、やっぱり聞いただけじゃ分からない点も多いと思う」

「そうね。実際に自分の目で見てみると新しい発見をするのも多いし、やっぱり最初は探索に行ってみるのがいいんじゃないかしら?」

 

 探索ですか。確かに一度新大陸を自分の足で歩いてみるのがいいかもしれません。タイミングよく今日は古代樹の森に大型モンスターは出現してないようですし、そこに行ってみましょうか。

 

「では今日は古代樹の森に行ってみるということで。異論はありますか?」

 

 お2人が首を横に振るのを見て、私は明日から立ち上がります。

 

「では探索クエストに出発です!」

「「了解!」」

 

 その後近くで軽く朝食を済ませた後、私たちは古代樹の森へと向かって出発しました。エスメダちゃん? 足腰が立たなくなったそうなので仕方なく私が担いで運んであげましたよ。それを見たカナトさん達の顔が若干引き攣っていたような気がしましたけど、まあ気のせいですよね。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「到着っと」

 

 新大陸の移動は現大陸のように竜車での移動ではありません。竜車が使われないわけではありませんが、もっと画期的な移動方があったのです。それはギルドが飼育しているメルノスという翼竜種の脚に、スリンガーのワイヤーを括り付けて運んでもらうというものです。

 初めは本当に正確に目的地に運んでくれるのか疑問でしたが、実際にやってみるとすごいもので本当に目的地に運んでくれます。空を飛んでいくわけですから移動は速いですし、高い場所から見る新大陸の景色はそれは絶景でした。

 

 それにしてもこのクラッチクローというものは便利ですね。石や閃光玉を射出することもできれば、頭上に刺さる場所があればターザンのように一気に空中移動することもできる。さらにモンスターとの距離を詰めたり、ぶっ飛ばしというものも出来ると聞きました。本当に便利で画期的な発明だと思います。

 

「皆さんも無事に着けたようですね。では早速探索を開始しようと思うのですが、エスメダちゃん案内頼めますか?」

「任せなさい! 古代樹の森にはもう何回も来ているから、地図は頭の中に叩き込んであるわ」

「それじゃあ行きましょう!」

 

 こうして古代樹の森ツアーが始まったのですが、新大陸の探索はまず根幹からして現大陸とは違うというものを知りました。現大陸では素材を採取しに来た時、なかなか見つからなくて途方に暮れることもあります。ですが新大陸では導虫というものがあるのです。

 これは簡単にいうとガイド役みたいなもので、例えば負傷して薬草が足りない思った時に導虫を使うと、薬草がある場所まで案内してくれるのです。どういう原理でそうなっているのかはエスメダちゃんが覚えているわけもないので分かりませんでしたが、とにかく凄いものです。

 

「これがあればあの時もっと楽だったのに……」

「やめなさいカナト。虚しくなるだけよ……」

 

 あー、お二人が言っているのはマンドラゴラ失踪事件のことですね。秘薬のストックが無くなってきたから、調合素材のマンドラゴラを取りに行くと言って出かけたお2人がそのまま2日間戻ってこなかったというものです。

 なんでも寝ずに探したのに全然見つからず、ようやく見つけたのは調合には使えないような小さなものだけという、悲しい事件でした……何より悲しいのはお2人が出かけた1日後にマンドラゴラが店に入荷されていたということ。完全にタイミングが悪かったのです。

 

 その後も特に特筆するような出来事は何もなく、私たちは古代樹の森の中央にはある一際大きい木の天辺付近まで来ていました。この木は巨大すぎて枝の一本一本が十分な足場となっているので、ここまで上に来れることが出来ました。

 

「古代樹の森はこんな感じね! ここは結構広いからまだいけてない場所もチラホラあるけど、主要な場所は殆ど案内できたと思うわ!」

「ありがとうございます、エスメダちゃん」

「いいのいいの。私としても、早くティナ達には新大陸に慣れてもらわないといけないからね。急ぐ任務なんだし!」

 

 確かにその通りです。あの異変の原因を断つためにも、私たちは急いでそのエネルギーの発生源へと辿り着かなければなりません。そういえばシロウ達は無事に新大陸へとつけたのでしょうか? 彼らなら問題ないと思いますが、やっぱり心配です……

 

「ティナさん、今日は日も傾いてきたしそろそろ帰らない? こっちで一泊してもいいけど、まだアステラでの情報収集も済んでないし」

「そうですね。キリもいいですし、今回はここら辺で帰還するとしますか」

 

 新天地での焦りは禁物です。急ぐ任務なのは間違いないですが、焦って周りが見えなくなってしまったら本末転倒ですから。

 ですが状況は私たちを待ってはくれませんでした。古代樹の森の調査から帰ってきてからほんの数日後、新大陸の奥地へ続く道が発見されたという一報が入りました。

 

 新たな調査地の名前は「陸珊瑚の台地」

 私たち4人はその調査に向かうよう総司令に任命されたのです。

 

 

 

 

 




アンケートのご参加ありがとうございました!


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第53話.調査・陸珊瑚の台地

 陸珊瑚の台地とは陸にも海にも似た、豊かで不可思議な生態系が広がる高低差に富んだ台地のことだ。陸生の珊瑚が積み重なるようになってできた場所であり、まるで陸にいるのに海の中にいるかのようなそんな感覚に陥ってしまう。そんな陸珊瑚の台地をティナ達ハンター4人が歩いていた。

 

「ここは古代樹の森や大蟻塚の荒地とは、全く異なった場所ですね」

「そうね。確かに見たこともないような植物や鉱物が見てとれるわ」

 

 ティナ達はギルドの依頼で新たに発見された場所であるここ、陸珊瑚の台地の調査にやってきていた。数多くのハンターがいる中何故彼女達が選ばれたのかというと、新天地であるここはどれぐらいの危険度かも分からないので、現状の最高戦略を向かわせたというわけだ。

 だが陸珊瑚の台地は大蟻塚の荒地と比べて環境的に過酷というわけでもなく、寧ろ生物にとっては生きやすい環境と言えるだろう。照りつける日差しは荒地のように肌を焼くようなものではないし、至る所から流れ出る水は植物の発育を促して自然豊かな環境を作り出している。

 

「今のところ危険そうなものは見つかってないね」

「そうですね。景色も幻想的でなんだか心が安らぎます」

「確かに……ん? ねぇちょっとこれ見て!」

 

 エスメダが何かを見つけたのか岩肌にダッシュで走っていく。それを見たティナ達も不思議に思いつつもエスメダの後を追っていった。

 

「エスメダさん、何か見つけたの?」

「ええ! これを見てちょうだい」

 

 エスメダが指差しているのは陸珊瑚のゴツゴツとした岩肌ではなく、その岩に付着している生物の体毛のようなものだった。

 

「これは……毛ですか?」

「そうね。えーと、ちょっと待って……うん、これは体毛で間違いなさそうね。しかも今まで新大陸で見つかったどのモンスターにも該当しないわ!」

「ということは、新種ってことかしら?」

 

 見つけたものは体毛ということで間違いなさそうだ。白っぽいクリーム色の体毛が岩肌に付着している。これは大型モンスターが縄張りを示すために、岩に体を擦り付けていたということが考えられる。そうやってモンスター達は自分の匂いをつけて縄張りを主張しているのだ。

 

「よく見たらここら辺の岩場は何かで引っ掻かれたような痕もあるね。もしかしたらもうモンスターの縄張りに入っているのか……?」

 

 カナトがそう呟いた時だった。

 

「クアアアァァァァァァァ!!!」

 

 甲高い鳴き声が4人の頭上から響いてきた。

 

「モンスターです! 皆さん気をつけて!」

 

 ティナがそう言い終わる前には、全員が武器を抜いて戦闘態勢になっている。それを見たティナは改めて頼もしい仲間達だと思いながら、自らも太刀を抜いて頭上に現れたソレに目を向ける。

 そこにいたのは、白い体毛に覆われた飛竜種のようなモンスターだった。火竜などの飛竜種に比べれば小柄だが、体のつくりは殆ど同じ。腰から尻尾にかけた部位や腹などは甲殻が露出しており硬そうな印象を受ける。その尻尾は大きく発達しており、普段から何かに使っているのだろう。

 

 一眼見てそのような分析を終えたティナはカナト達に指示を出すべく口を開こうとしたが、それより先にモンスターが行動を起こした。大きく息を吸い込んだ直後、その首回りが大きく膨張して膨らんだのだ。どうやらこのモンスターは空気を吸い込んで気球のように浮かぶ性質があるらしい。

 そして空気を吸い込んだということはそれを吐き出すのも可能ということ。まるで弾丸のような空気の塊がティナ達に向けて発射された。

 

「縄張りに侵入されたと思って怒っているようです。戦闘は避けられそうにありませんね……みなさん! 仕方ないですがここで」

 

 ティナがいち早く状況を判断してみんなに呼びかけようと口を開くよりも前に、モンスターに向かって飛び出していく影が1人。

 

「おらぁぁぁぁ!!!」

「クアアアァァァァ!?」

 

 エスメダがモンスターに大剣を振り下ろしていた。

 

「ちょ、エスメダさん!?」

「ティナさん! エスメダさんが飛び出して行っちゃったわよ!?」

「あー、あれはいつものことなので……エスメダちゃんは結構戦闘狂なんですよねー」

「「えぇ……」」

 

 そう、エスメダ・クラスタリアは戦闘狂だ。彼女自身の戦闘能力はとても高く、伊達にギルドナンバー2の称号をもらってない。だが命令や作戦をほとんど聞こうとしないのが玉に傷で、エスメダはこと大規模作戦においてはティナに手綱を握らせるか遊撃隊ということにして好きにさせるかの2択しかない。

 

「ああなったエスメダちゃんと連携するのは私じゃないと無理なんですよね……この頃は結構抑えられるようになったと聞きましたが、長らく戦闘してなかったから色々溜まってたんでしょうか?」

「あーと、加勢しなくてもいいの?」

「あの大剣の嵐の中に飛び込めるのなら加勢に行ってもいいんじゃないですか?」

 

 そう言ってティナが指差した方には、本当に嵐の如き連撃を叩き込むエスメダの姿があった。

 

「い、いや遠慮しとくよ」

「まああれぐらいのモンスターならエスメダちゃん1人でもなんとかなるでしょうし、不測の事態に備えるぐらいの心持ちで待機しときましょう」

「確かにエスメダさんなら大丈夫だと思うけど……」

 

 そんな感じで後ろの3人が喋っている間にも、エスメダの連撃は止まらない。自分の背丈と同じぐらいかそれ以上の大剣を振り回しているというのに、全くその重さを感じさせない動きは圧巻の一言だろう。

 しかしいつまでもやられっぱなしのモンスターではない。より一層口に空気を溜めて上へと浮上し、エスメダの大剣の範囲外に逃れようとする。

 

「逃がすわけないでしょ!!」

 

 しかしその程度でエスメダは止まらない。大きく踏み込んでジャンプし、一気にモンスターを飛び越えてしまった。巨大な大剣を振るうには何も腕力だけが強いだけではいけない。それを支える脚力も必要なのだ。そのどちらも高水準で兼ね備えるエスメダにとって、たとえ火竜の飛翔だろうと追いついて叩き落とせると自負している。

 

「落ちなさい!」

 

 思いっきり振りかぶった一撃。重力を味方につけたそれはモンスターの頭頂部に突き刺さり、そのまま勢いを殺さず地面に叩きつける。あまりの勢いに地面が軽く砕けるほどの衝撃が巻き起こった。『粉砕』の名に相応しい破壊力と言えよう。

 だがそれでもモンスターは力尽きていなかった。上空から降ってくるエスメダに対して残った僅かな力で空気の塊を射出したのだ。限界までその大きさを絞られた空気弾は先ほどの一撃を遥かに凌駕する威力が込められている。当たればさしものエスメダでも無傷とはいかないだろう。

 しかし、エスメダが得意なのは何も攻勢だけではない。大剣という長物を扱うにはどうしても行動が大振りになりがちだ。いくらそれを縦横無尽に振るえたとしても、その点は変わらない。なのでエスメダは攻撃以上に防御に重点を置いた立ち回りを得意としている。ここら辺がただの戦闘狂とエスメダを分ける点と言えるだろう。

 

 向かってくる空気弾を大剣の腹で弾いて晒す。モンスターの最後の足掻きでさえ軽々と躱したエスメダは、トドメを刺さずに地面に軽やかに着地した。今回自分たちがきたのはあくまで調査のため。無闇にモンスターを殺すのはいけない事だと理解しているからだ。

 

「お疲れ様です。エスメダちゃん」

「えぇ。ま、これぐらいならドンと任しておきなさい!」

「任せるも何も、勝手に突っ込んで行ったのはそっちでしょうに……」

「そうだっけ?」

 

 呆れるティナの前でエスメダはそうとぼけて見せた。

 

「それにしても流石はエスメダさんだ。新発見のモンスターとはいえ、ああも完封してしまうなんてね」

「そうね。なんていうか、思い切り? が凄かったわ。人は迷わないとああも強くなれるのね」

「エリン、それはなんか違うと思う」

「え?」

 

 そうして戦闘を終えたエスメダを労ったあと、ティナ達は未だ倒れ伏しているモンスターを観察して詳細にノートに書き込み始めた。なにせ新発見のモンスターなのだ。こうして記録を取って研究者達に渡し、その生態を解明していくのもハンターの仕事の一つだ。

 

「さて、こんな物でいいでしょう」

 

 一通り記録を取ってこれからのことを考えようとした時だった。突然地面が大きく揺れ始めた。

 

「こ、これは!?」

「地震ですか!」

「でも、こんな大きな地震なんて今まで新大陸では一度も……!」

 

 陸珊瑚は陸生の珊瑚の積み重ねでできた台地。なので大きな揺れには弱く、実際ここには遥か下まで続く穴が空いている場所もある。だからこれほどの大きな揺れが起きたということは……

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ティナ達が立っている足場が揺れの大きさに耐えられずに崩落していく。そしてそこにいた4人も重力に従って下へと落ちて行ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第54話.屍の谷

お気に入り登録数が1000を超えとる……
最初に見た時、まさかここまでくるとは思っていなかったから驚きで目を見開きました。
これまでこの作品を見てくださった全ての人に感謝を!そしてこれからもよろしくお願いします!!


 人間たちの足跡を辿っていた俺たちはいつしか薄気味悪い場所へと辿り着いていた。その場所はなんというか、骨で出来ている。いや自分でも何言ってんだと言いたいが本当にそうなのだから仕方ないだろ。超巨大な骨を基礎としてその骨に積み重なった土や生物の死骸がこの場所を形成しているのだ。基礎となっている骨があまりにも大きいため、地下まで続く1つの地形が出来上がっているといえば、この骨のスケールが想像できるだろうか。

 

「このでかい骨の持ち主は、一体どれほどの大きさだったんだ……」

「推定、全長2kmぐらい?」

「マジかよ。それ生物として生きていけるのか?」

 

 全長が2kmとか普通に考えてあり得ないだろ。キロメートルだぞキロメートル。1日に食べる食事の量だけでも相当な量になってくるはずだ。そんなのが生きていたなんて少し信じられないな。まぁ実際に骨はこうして残ってるんだから大昔には生きていたのだろうが。

 

 さて、そんなド級の骨のインパクトに圧倒されていたが、そろそろこの場所の探索を始めようじゃないか。上層部は日のあたりはいいがなんだかおどろおどろしい場所だ。おそらくここは谷のようになっており、ここより上に住んでいる生物の死骸が落ちてきているのだろう。至る所に大小さまざまな骨が散らばっている。

 骨でできた土地に骨が積み重なっているのか……なんか墓場みたいな場所だな。

 

「士狼、あそこ見て」

 

 そう言って澪音が指し示したのは骨でできた大地の上の方。上層部の1番上の方だった。そこには全身を骨で覆った、ウラガンキンのような生物が丸くなって寝ているのが見える。

 

「んー、あんなモンスターは見たことないな。また新大陸固有のモンスターか」

「ん、骨を纏ったウラガンキンみたい」

 

 やはり澪音もそう思うか。まぁあいつのことは気にならない訳ではないが、寝ているならこちらに危害を加えることもないだろう。起こさないようにそっと離れるのが吉だな。

 そう思いつつ、俺たちは下へと降りていくための坂へと向かっていった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「これはひどいな……」

 

 中層で俺たちを待っていたのは、溢れんばかりの瘴気の霧だった。中層は全体的にこの霧が充満しているらしく、怪しげな黄色いもやがそこかしこに漂っている。

 頭上を飛んでいる小型の翼竜を見た感じ、この瘴気に長時間当てられると正気を失ってしまうようだ。現に小型の翼竜達は何もいない虚空に向かって威嚇をし続けている。

 だが俺には古龍となったことで殆どの状態異常にかかることはない。そして澪音も自分の能力の仕様上、この程度の瘴気にやられる程ヤワな体はしていない。要するに俺たちによって中層に漂う瘴気は問題にならないということ。

 

 恐らくだがこの瘴気はここに降り積もった死骸がなんらかの作用を起こして発生しているのだろう。この谷の上には生物が住みやすい環境ができていて、そこで死んだ生物がここに落ちてきてこの世界特有の微生物とかが死骸を分解する際に瘴気が発生するとか? 

 

「とりあえずもっと下に降りてみるか」

「ん」

 

 まだ道は下へと続いている。俺たちはさらに下へと進んでいくことにした。

 下へと向かう道中には特に生物の姿は見えなかったな。まあこんな環境だし住んでいる生物も少ないのだろう。虫みたいな小さいやつなら結構いたけど。

 あと道から逸れたところに大きな水溜りが出来ているのを見た。遥か上層から流れ落ちてくる水が、この谷で溜まって形成されているのだろう。そうなると、谷の上にある土地は水が豊富にあるってことか。ならば多種多様な生物が住んでいるんだろう。谷に落ちてくる死体が増えるのも納得だな。でなければ充満するほどの瘴気が発生し続けるなんてあり得ないし。

 

 そうこうしているうちに、最下層と思しき場所まで辿り着いていた。最下層は骨ではなく本物の地面が露出している場所だ。そこで気づいたが、この巨大な骨は蛇がとぐろを巻くような形で存在しているのだ。だから螺旋状に降れる道が出来ていたのか……

 そして道中で見た俺の体と同じぐらいの扇状になっている骨。あれは恐らく背中から生えていたものだろう。蛇みたいな形で、扇状の骨が連なって背中に生えている生物。ここまでくればこの骨の正体にも薄らと気づくってもんだ。

 この骨の持ち主は蛇王龍ダラ・アマデュラ。大きさこそ俺が知っているものより遥かに大きいが、恐らくダラ・アマデュラの死骸を元にしてここは出来たのだろう。

 

「新大陸にもダラ・アマデュラがいた?」

「そうかもな。だがなぜこいつはここまで大きくなったんだろう」

 

 今はもう骨しか残ってないからその問いに回答が出るときは来ない。だが一体の生物が生態系を作っているという事実に、俺は改めてこの世界のスケールの大きさというものを感じていた。

 

 その後最下層の探索を続けていたのだが、はっきり言って最下層はあんまり広くなかった。いやそれは違うな。恐らく俺が思っている以上に広いのだろう。だが俺や澪音では通れない大きさの小道がいくつかあって、その先に進めなかったのだ。

 

「うーん。これでここの探索も終了か?」

「士狼、こっちに道がある」

「お、本当だ」

 

 澪音が見つけた道を進んでいくと、そこは水色に光る水が両側に流れ出ている幻想的な場所だった。この水は一体どうなってるんだ? 

 そう思い水色の水に前脚の爪をつけた瞬間、ジュッという音と共に爪から煙が出た。

 

「ん? これ酸性の水なのか」

 

 どうやら強酸性というわけでもなく、爪には大した傷もついていなかった。だが人間がもしこの水に入っていたら、ドロドロになった可能性も十分にあるな。

 瘴気を作っている微生物的な何かがこの水に溶け込んでいるのだろうか? 多分この水は谷に積み重なった死体に触れているだろう。その際なんらかの形で酸性の水になったのかもな。水自体はさっき見た上から流れ落ちてきているものだろうし。

 

「士狼大丈夫?」 

「ああ。この程度ならなんともない。でもどんな危険な成分が含まれているか分からないから、不用意に近づかない方がいいな」

「この奥にも広場があるけど、そこで完全に行き止まりみたい」

「じゃあここで探索は終了だな」

 

 一応一通り見回ってみたが、人間の痕跡らしきものは確認できなかった。多分まだここにはきたことないんじゃないかな。この谷の上ならどうだろうか。今度はそっちに行ってみるか。

 そう考えていたとき、いきなり大きな音を立てながら地面が揺れ始めた。

 

「地震?」

「いや違うぞ……これは地脈の道で何かとんでもなくでかい生物がみじろぎしてるんだ」

 

 確かにこれは地脈の道からの振動で間違いない。だが地震と間違うような揺れを起こせる生物なんているのか? 龍脈が使われた感じもしないから、多分壁に体がぶつかったとかで起きた衝撃だと予想できる。だがこの揺れの大きさはあのラオシャンロンでも無理だと思う。まさかあれより巨大な生物がこの下に……? 

 

 そこまで考えていたとき、上から岩が落ちてくるのに気づいた。今の揺れでどこかの地形が崩れたのだろう。澪音を守るように前に出た俺は、こちらに落ちてくる岩だけを適度に砕いていく。そうしているうちに、岩ではない何かが落ちてきているのに気づいた。恐らく崩れた場所の近くにいて巻き込まれたのだろう。不運な奴らだ。ん? あれはまさか……

 

 だいぶこちらに近づいてきたことで、その落ちてきている何かがよく見えてきた。そしてその何かはとても見覚えのある姿をしている。

 

「おーい、ティナ。お前こんなところで何やってんだ?」

「え、貴方は!?」

 

 その何かとは、ティナとその仲間達だったのだ。

 

 

 

 

 

 




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第55話.『粉砕』と天狼竜

「成る程、その陸珊瑚の台地ってところを調査していたらさっきの地震による落盤に巻き込まれたのか」

「はい。貴方は人間の痕跡を辿ってここに?」

「まあな。どうやら一段上だったみたいだが」

 

 上からティナ達が落ちてきた時には驚いたが、運良く彼女達と合流できたのは助かった。新大陸に着いたは良いものの、何をすれば良いのかさっぱりだったからな。ここで彼女から情報をもらって俺たちも終龍の探索にあたるとしよう。

 

「良い機会だし人間側で得た情報を教えてくれないか?」

「良いですよ。といっても──」

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 ティナから話を聞こうとしたところ、いきなり横から割り込んできた奴がいた。見た感じはティナと同じぐらいの年齢の少女か。しかし俺は彼女のうちに宿る強さというものを薄らとだが感じ取っている。こいつ相当強いな。

 

「ああ、すいません。彼女はエスメダ・クラスタリア。私の古くからの親友で、今回からパーティに加わったハンターです」

「エスメダ・クラスタリアよ! ティナから話は聞いているわ。あなたが天狼竜っていう特殊個体のジンオウガね?」

「あ、ああそうだが」

 

 結構グイグイくるなこの子……ティナの親友ってことは彼女がモンスターと話せるってことは知ってそうだな。現に明らかに俺に話しかけてきているし。勢いが良すぎて咄嗟に答えてしまったが。

 というかエスメダってどこかで聞いたことあると思ったら、新大陸に来る前ティナから聞いてたんだった。まあ詳しい人となりは知らないが。

 

「俺になにか用か?」

「ティナと一緒にアマツマガツチを倒したと聞いたわ! あなた、結構強いんでしょ!?」

「え? うんまあ、強いかどうかは分からんが、自分の力に自信はあるが」

「良いわね良いわね! よし、私と手合わせしなさい!!」

「ちょ、エスメダちゃん!?」

 

 は、手合わせ? いきなり何を言い出すんだこの子は? 

 その後ティナが教えてくれたのだが、エスメダは強い相手を見ると戦いたくてしょうがなくなるらしい。いわゆるバトルジャンキーってやつ? んでそれは相手がモンスターでも構わないらしく、よくこんな感じで飛び出して行っては戦いの相手を求めているそうだ。

 

「エスメダちゃん、この頃歯応えのある相手と戦ってないみたいで……このままだと何をしでかすか分かりませんし、相手をしてあげてくれませんか?」

「しかしなぁ」

「彼女はこう見えてもギルドのナンバー2です。それに暴れられると色々……」

 

 暴走列車ですか? 危険すぎるだろそれ。だがギルドのナンバー2か。ぶっちゃけどれぐらい強いのか興味はある。死闘ではなく手合わせなら命の危険も殆どないだろうし、乗ってみるか。

 

「分かった。手合わせなら付き合うぞ」

「ほんと!? 恩にきるわ!」

「士狼もどうせ戦いたがってる。お互い様」

「ちょ、澪音さん!?」

「あはは、ありがとうございます」

 

 そんな感じでエスメダと戦うことになってしまった。傍には澪音やティナ、カナトにエリンが控えて俺たちの戦いを見守っている。そしてエスメダが徐に大剣を引き抜いたことで勝負開始となった。

 

「おらぁぁぁぁぁ!!!」

「っ! 速い!」

 

 いきなりエスメダが突っ込んできたのだが、その速度が思った以上に速かった。自分の身の丈以上の大剣を持っているというのに、その重さを全く感じさせない軽やかな動き。成る程こいつは強敵だ! 

 迫り来るエスメダの大剣をステップを踏んで回避する。大剣をまるで片手剣か何かのように振り回して追撃してくるエスメダだが、俺は冷静にその全てを回避していく。

 

「なかなかやるわね!」

「そっちもな!」

 

 何度目かの大剣の振り下ろしを前脚の爪で防ぎ、そのままエスメダを押し返した。エスメダは空中で綺麗に受け身を取って静かに地面に着地する。どうやら防御の方も高水準のようだ。

 だが距離を空けたのは愚策だったな。俺に隙を与えるということは、こういうことだ! 

 

 即座に超帯電状態に移行。銀色に光り輝く雷が体中から迸る。展開した白い甲殻が淡く光り、その裏にある蓄電殻から銀色の粒子が巻き上がりはじめる。そして刃尾の刃部分が攻撃的に展開して、トライデントのような三叉のものになった。これが今の俺の超帯電状態だ。

 

「いきなり超帯電状態になるとか、こんなの見たことないわ!」

「ずるいとは言わないよな?」

「当たり前よ! むしろ初めて見る光景にワクワクしているぐらい!!」

 

 そう言いながらキラキラした目を向けてくるエスメダ。本当にワクワクしているようだな……確かに戦闘狂だなこりゃ。

 

 改めて構え直したエスメダに対して、俺は銀色に輝く爪で斬撃を放つ。脆い鉄なら両断してしまうほどの威力を誇るものだが、エスメダは冷静に俺の攻撃を受け止めている。どうやら相当良い素材で作られた武器のようだ。

 爪が塞がれたなら次はこれだ。ジンオウガの定番であるお手攻撃。ただし銀雷を纏わせて放つそれは、そこらのジンオウガのものと同じと思ってもらっちゃ困る。威力はこちらの方が圧倒的に上だ。しかしこれもエスメダは大剣で防いでしまった。連続でお手攻撃を繰り出したのだが、そのどれもが正確無比な防御に阻まれて本人に届かない。しかもガードされた僅かな隙をついて反撃をしてくるのだから、攻撃を仕掛けた俺が傷を負うと言う始末。

 

 このままではジリ貧だと感じた俺はバックステップで一旦距離をとった。まさかエスメダの防御力がこれほどのものだとはな。バトルジャンキーのくせに防御力の方が高いとか反則だろ。しかしその程度で止められる俺ではない! 

 

 距離を詰めてきたエスメダに対して雷ブラスターを放つ。それを大剣の腹で弾いて躱すエスメダだが、一瞬の隙が作れれば十分。一気に距離を詰めて飛び上がりながら螺旋状にサマーソルトを放つ。三叉に分かれた超帯電状態時の刃尾によって擬似的に3連撃を生み出すそれは、エスメダの鉄壁のガードを崩すのに十分な威力だった。

 そしてガードが崩れた瞬間を見逃さずに、叩きつけるようにお手攻撃を繰り出す。重力を味方につけたそれは確実にエスメダのことを捉えた……はずだった。

 

「これも防ぐか……!」

「私の最強の防御術。甘く見ないで貰いたいわね!」

 

 そう、エスメダはこのコンボさえも耐え抜いていた。まさに動かざること山の如し。俺の中での高火力攻撃を連続で受けながらも、彼女は踏み込みのための一歩以外動いていない。まるで鉄の塊を相手にしている気分だ。

 

「隙だらけよ!」

 

 上空からの一撃をガードされて致命的な隙を晒している俺に、背中から振り抜かれた大剣が叩き込まれる。まるで巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃が俺を襲い、思わずくぐもった声が口から漏れた。なんとか追撃だけは許さないようパックジャンプで距離を取るが、今の一撃はなかなかに効いた。一瞬ふらつきながらも脚に力を入れて踏みとどまる。

 

「お前、めちゃくちゃ強いな……」

「そう言うあなたも強いわ。それにまだまだ本気じゃないんでしょ? 遠慮はいらないわ。全開で来なさい!」

 

 全力じゃないことまで見抜かれてたか。流石はナンバー2。一筋縄ではいかない相手だ。ならばお言葉に甘えて全力の全開でいかせてもらう! 

 龍脈の力を解放して真帯電状態ヘ移行。迸る雷の量が爆発的に増加し、暗い谷の底を明るく染め上げる。脚が全てエネルギー状の雷に覆われて、激しい火花を散らす。そして頭部にある甲殻が展開して2本の角と合わせて王冠のような形を作った。これが俺の正真正銘、全力全開だ。

 

「すごい、すごいわ! こんなに目の前の相手から圧を感じたのはティナ以外初めてよ! こんなに凄いものを見せてもらったんだから、私も答えないといけないわね!!」

 

 そういうとエスメダは持っていた大剣を地面に突き刺して目を閉じた。

 

「超越秘技……!」

 

 次の瞬間エスメダの体から半透明のオーラが立ち上り始めた。武器からも同様のオーラが発生しており、エスメダが発しているオーラと混ざり合い、練り上げられて闘気と化していく。

 その姿は人類という種族を、まさに超越したような錯覚を与えるほど凄まじい。激しい闘気に当てられて空間が歪んだように見えるのも気のせいではないだろう。

 

「こ、これは……」

「超越秘技。はるか昔から私の家に伝わる秘奥よ。短期間だけどハンターの力を爆発的に飛躍させる技。今のあなたにはこれを使うべきだと判断したわ!」

 

 成る程確かに凄まじい。ぶっちゃけ真帯電状態になってしまえば、エスメダに勝ち目はないと踏んでいた。しかしこんな奥の手を隠していたとはな。今のエスメダはあの時見たティナの本気に勝るとも劣らない迫力がある。油断していたらやられてしまうのはこちらだ。

 

「いくぞ!」

「来なさい!」

 

 そう言って振り下ろした俺の爪がエスメダの大剣とぶつかり合う、まさにその時。

 

「そこまでです!!」

 

 ギィン! という音を立てながら爪と大剣は同時に弾かれてしまった。ティナが放った一太刀が俺たちの攻撃を無効化したのだ。

 

「ちょっとティナ! 今いいところだったのに!」

「これ以上やったらこの谷底が持ちません。全く2人とも全力を出しすぎです。少しは周りを見てください」

 

 そう言われて周りを見渡してみると、俺たちの戦闘の影響で色々なものがぐちゃぐちゃになった光景が飛び込んできた。

 

「確かに少しやりすぎたな……」

「私、こんなところで生き埋めになるのはごめんですからね」

「まあ、しょうがないわね」

 

 エスメダはそう言いながら渋々大剣を背中に背負い直した。気づけば彼女から発せられていた闘気は何事もなかったかのように消えている。それを見た俺も真帯電状態を解除した。

 

「それにしてもあなたすっごく強いわね! びっくりしちゃったわ!」

「いやいや、そっちこそ思っていたより何倍も強かったぞ。つい本気を出してしまった」

「エスメダちゃんまた実力を上げましたね。シロウも2年前よりかなり強くなっていて驚きました」

「そう言うティナもめちゃくちゃ強くなってるわよね?」

「確かに。正直未だに追いつける気がしないな」

 

 その後戦いあったエスメダとすっかり意気投合した俺たちは、澪音やカナト達も交えて情報の交換をした。とは言ってもこちらから出せる情報はないに等しいので、ほとんど話を聞いている感じだったが。

 

「今わかっているのはこんな感じですね」

「成る程な。まだそっちも詳しいことは分かってないのか」

「はい、調査は出来るだけ急ピッチで進めてるのですが……」

 

 そんな感じであまり進展のない状況に、眉間に皺を寄せている時だった。先ほどの揺れとは比べものにならないほどの揺れが再び俺たちを襲った。

 

「グオオオオオォォォォォ…………」

 

 そして同時にはっきり聞こえたのだ。彼方から響くとてつもなく大きなモンスターによる、咆哮が。

 

 

 

 

 

 

 




感想お待ちしてます!


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第56話.地震

モンハンRISEをしていて投稿が遅れたというわけではない……わけではない、かもしれなくもなくもない。

あと今回短いです。すいません……


「おさまったか?」

 

 今回の揺れは先程のものと比べてかなり大きかった。普通の人ならあまりの揺れに立っていられないほどのものといえばその大きさが伝わるだろうか。まあこの場に普通の人間なんて存在はいないんだけどな! 

 

「はい。かなり大きな地震でしたね」

「ああ、それに……」

 

 さっきの地震が起きていた際、俺は確かに聞いたのだ。かすかだが地の底から響くような巨大な生物の咆哮を。

 

「ゾラ・マグダラオス。ついに活動を再開したのね」

「エスメダちゃん、ゾラ・マグダラオスとは?」

「ええ、溶山龍とも呼ばれる古龍のことで、私たちが今回の古龍渡りで特に注目していた古龍よ」

 

 エスメダの話を纏めると、今回発見されたゾラ・マグダラオスとやらは今まで確認されたどんな個体よりもはるかい大きい個体らしい。彼はまもなく天寿を全うしきる極めて老熟した個体で、死に場所を求めて古龍渡りをしてきたのではないかと考えられているらしい。

 そして古龍渡り自体が古龍が死に場所を求めるための大移動だと考えた調査隊は、その死に場所というものを探していた。

 

「今回は偶然ここに落ちてきたわけだけど、私は確信したわ。此処こそが古龍達、いえそれだけでなく新大陸に住まうすべてのモンスター達の死に場所だってね」

 

 確かにエスメダの言葉には一理ある。此処は屍が積み重なるようにして出来上がった場所。多くのモンスターが死に場所として選んできたというのなら、此処が形成された理由も納得できる。

 

「話は理解した。んでこれは興味本位なんだが、そのゾラ・マグダラオスってのはどれぐらい大きいんだ?」

「観測班の報告だと全長は250mを超えているらしいわよ」

 

 250m!? んな馬鹿でかいモンスターが存在しているとは……まあ4Gで出てきたダラ・アマデュラは400mを超えるって設定だったし、この屍の谷を形作ったダラ・アマデュラっぽい骨の大きさも規格外だが……実際にそんな大きな生物が今存在しているということに驚きを隠せなかった。

 

「恐らく此処がゾラ・マグダラオスが求めていた地のはず。でもおかしいわね? さっきの地震は明らかにマグダラオスが移動している感じだった。これ以上一体どこに?」

「求めていた死に場所が此処ではなかったとか?」

「うーん。カナトの言う通りかもしれないわ。ともかく一度アステラに帰って報告した方がいいかも。ここのことも他のみんなに伝えないとだし」

 

 ティナ達は一度帰ることで話がまとまりそうだ。俺たちはどうしようか。せっかくだしそのゾラ・マグダラオスってのを見に行くのも面白いかもしれない。

 

「シロウ。私たちはアステラ……えーっと拠点に帰ります。貴方達は?」

「まあ俺たちは俺たちで終龍の痕跡を探してみるさ。ゾラ・マグダラオスってのにも興味あるしな」

「調子に乗って喧嘩を売らないでくださいよ?」

「いや売らねぇよ。俺のこと何だと思ってんだ? まったく」

「ふふふっ」

 

 その時、先に戻ろうと上へ上がる道を歩いていたエスメダが振り返って叫ぶ。

 

「ちょっとー! イチャイチャしてないで早く戻るわよ!」

「な、い、イチャイチャなどしてません! そ、それではまた!!」

「お、おう」

 

 ティナのやつすごい顔して走っていったけど……イチャイチャしていたと言うかただ話していただけだったが、俺と話すのはそんなに嫌だったのだろうか? 

 

「士狼」

「何だよ澪音……!?」

 

 振り返るとこちらはこちらですごい顔をした澪音が俺を睨んでいた。なんだなんだ、俺が何かしたってのか。

 

「ど、どうしたんだ。そんなに鬼気迫った顔をして」

「むー。何でもない」

「本当か?」

「本当。士狼が朴念仁で助かった」

 

 最後の方は小声だったから何を言っているのかわからなかったが、まあ何でもないならそれでいいんだ。

 

「さて、俺たちはどうしようか。俺的には件のゾラ・マグダラオスってのを一目見ておきたいと思うんだが?」

「賛成。大賛成。ぜひ見ておくべき」

 

 さすが澪音。超大型生物には目がないな。恐らくゾラ・マグダラオスいるのは地脈の道だろう。とりあえず入り口まで戻って探してみるか。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 再び地脈の道に戻ってきたわけだが、ゾラ・マグダラオスがどこにいるのかは一瞬でわかった。何故なら奴が通ったであろう場所はことごとく溶岩が転がっているからだ。エスメダに聞いた話じゃ背中に火山を背負ったような龍だと聞いているがなるほど、ガチなほうの火山のなのか。

 

 そうして地脈の道を辿っていくとついに見つけた。初めは本当に地下火山があるのかと思った。だがその火山がゆっくりとだが動き始めたので流石に驚いた。

 

「これがゾラ・マグダラオス……」

「大きい」

「大きい、なんて言葉じゃ表せないレベルだなぁ」

 

 溶山龍ゾラ・マグダラオス。それは真の意味で動く火山だった。全身をザッと見た感じ、姿はラオシャンロン系の骨格をしていそうだ。だが何より特筆すべきなのは背中に背負った火山だろう。あれは火山のような何かではなく、本物の火山といっても差し支えないんじゃないか? そんなレベルの代物が、こいつの背中には存在している。

 あとこいつの全身は黒に近いゴツゴツしたもので覆われているが、恐らくそれはマグダラオスの背中から流れ出た溶岩が、溶けて固まった物だろう。言うなれば溶岩の鎧だ。もしこいつと戦うんだったら、何層にも積み重なった溶岩をどうにかしない限り、ダメージを与えることすらできないだろうな。

 

 だがよく見たらこいつの体のあちこちには排熱機関と思われる突起物が存在している。あれを壊せば奴の体温コントロールを狂わせることが出来るか……おっと、別に戦うわけでもないのに、勝手に思考が戦闘よりになってしまっていた。

 

「グオオオオオォォォォォ……」

 

 地面の上から聞いても響くぐらいの唸り声だ。この至近距離で聞くと、別に声を張り上げてる風でもないただの声でもうるさい。もしこいつが本気で咆哮したら、人間の鼓膜程度簡単に破壊できるんじゃないか? 

 

「それにしても、こいつは一体どこに向かってるんだ?」

「んー、この先はなんかエネルギーが集まってる感じ」

 

 となると新大陸の核みたいなところに向かってるのか。でもなんのために? こいつはもう時期に死ぬみたいだし、今更力を求めてってわけではあるまい。もしかしたら理由なんてないのかもな。ただ大きな力に導かれて歩いているだけかも。

 

 ん? 確か死した古龍はその身に内包するエネルギーを大地へと解き放って、次の命の循環の糧となるんだったか。

 んでこいつは長い年月を生きてきた古龍(・・)で、そろそろ寿命を迎えると。これだけ大きくなるまで生きていた古龍だ。その身に宿すエネルギーもとんでもないものになってるだろう。それを新大陸の核とも言える場所で解き放ったら……あれこれまずくね? 

 

「解き放たれたエネルギーは地脈に乗って新大陸全土に行き渡ることになる……」

「そうなるとどうなるの?」

「過剰なエネルギーが核というデリケートな場所で一気に放出されたことで地脈が暴走、最悪の場合新大陸が吹き飛ぶか、最低でも火の海は免れないぞ……!」

 

 こんなところで油を売ってる場合じゃねぇ! 急いでティナ達と再合流して、このことを伝えなければ! 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第57話.ゾラ・マグダラオス誘導作戦

約10ヶ月ぶりの投稿となります……
長い間お待たせして本当に申し訳ありません。忙しかったのもありますが、単純にモチベーションが死んでました。


「ゾラ・マグダラオスが地脈回廊に向かってる、ですか?」

「ああ。非常にまずい事態になった」

 

 アステラへと戻ってきたティナ達は、眉間に深い皺をつくった総司令がそういうのを聞いていた。

 

「すいません、地脈回廊ってなんですか?」

「あー、カナト達は知らなくても無理ないわね。地脈回廊っていうのは、簡単に言えば新大陸の地脈が全て集まっている場所のことよ。地脈の最深部とも言えるわね」

「そこにゾラ・マグダラオスが向かうとどうなるの?」

「もしそこでゾラ・マグダラオスに秘められたエネルギーが放出されたら、地脈をめぐって新大陸全土にエネルギーが駆け巡り、溢れたエネルギーによって地上は火の海になる可能性があるわ」

「っ!」

 

 カナトとエリンが息を呑む。それも当然だろう。大地の全てが火の海になるなど、前代未聞の大厄災だからだ。現大陸でもそのレベルの災害は発生したことがない。

 

「総司令! 急いで討伐すべきです!」

「カナトの言い分はわかる。しかしすでにゾラ・マグダラオスは地脈回廊に近い場所まで来ている。もし討伐に成功しても、たどる結末は変わらないだろう……」

「そんな……」

 

 討伐するのは逆に事態を早めるだけ。ともなればハンターにできることはもはやないように思えた。しかしその時、地図をじっと見つめていたエリンが閃いたように顔を上げた。

 

「ゾラ・マグダラオスを誘導するのはどう、かしら?」

「誘導?」

「はい。ゾラ・マグダラオスは現在地脈回廊に向かっています。しかし地図によれば地脈回廊は海と面しているのですよね?」

「そうか!」

 

 総司令もエリンの言わんとしていることを理解したのだろう。両手を机について改めて地図を眺め始めた。

 

「ゾラ・マグダラオスを海に誘導できれば、エネルギーの放出は海中で行われ、地脈を駆け巡ることはない……よく気がついた、エリン!」

「流石エリンさんです! 確かにこの方法ならまだ希望があります。賭けてみてもいいのでは?」

「うむ。ではこれより作戦会議を行う。幹部達を集めてゾラ・マグダラオスを誘導するための案を練ろう。君たちは指示があるまで各自決戦の準備をしておくように」

「「「「了解!」」」」

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 ゾラ・マグダラオス誘導作戦のことはすぐにアステラ中のハンター達に伝えられ、皆が慌ただしくその準備に取り掛かり始めた。新大陸の調査が始まってから前代未聞の総動員でのクエスト。ハンター達の間で緊張が走っているのが見て取れる。

 

「バリスタの弾ってどこに運べばいいんだっけ?」

「3番の竜車だ! 急げ!」

「誰か撃龍槍のメンテ手伝ってくれ!!」

「空いてる鍛治職人探してくる!」

 

 バタバタとハンター達が駆け出していく中で、ティナ達4人もまた自分たちの準備を進めていた。

 

「とはいっても、僕たちが準備することなんてほとんどないんだけどね」

「しょうがないでしょ、私達は新大陸に来たばかりなんだから。変に首を突っ込んでも混乱するだけよ」

 

 やることが武器の手入れとアイテムの補充しかないカナトとエリンは、武器の最終調整をしながら慌ただしいハンター達を眺めていた。エスメダは全ハンターの姉貴分なので他のハンター達にひっきりなしに指示を出しているし、ティナもその補助として忙しそうにしている。

 

「それにしてもゾラ・マグダラオスか、向こうにいた時はラオシャンロンの迎撃に参加したけど」

「確かに老山龍迎撃戦も凄まじかったけど……あの時とは規模が全然違うわ。なんせ大きさが段違いなんですもの。エスメダさんがいうには最早歩く火山だとか」

 

 歩く火山と言われても、カナトはあまりピンとはこなかった。あまりにもスケールが大きすぎて想像しにくかったということだ。

 

「正直新大陸についてからは予想外のことばかりで余裕が持てないよ。僕たちも結構強くなった自信はあったんだけど、流石エリートが集まる新大陸というべきか、周りのみんなのレベルが高いのなんのって」

「あら、自信喪失?」

 

 ふと弱音をこぼしたカナト。とはいえ新大陸に来れるのは現大陸でG級、もしくはそれに準ずる実力を持ったハンターのうち、さらに一握りの実力者しか来れないのだからレベルが高いのは当たり前である。

 

「まあ多少はね。改めてティナさん達の凄さってのも思い知ったし、何より天狼竜。あいつまた強くなってるんだもんなぁ」

「それは同感。今の私たちなら天狼竜にも引けを取らないんじゃないかって思ってたけど、強くなっていたのは何も私たちだけじゃなかったみたいね」

 

 天狼竜は2人にとってある種の目標であり、意識せざるを得ない相手だ。禍根は無くなったとはいえ、あの凄まじい雷の竜は2人の脳裏に焼き付いて離れない。

 

「でも僕たちだって強くなった。この新大陸に生きる先輩たちに追いつけるぐらいには」

「そうよ。目標は高く遠くあるべきだわ。簡単に追いつけたら目標とは言わない。でしょ?」

「ああ。そうだね」

 

 喋りながらも手を動かし続けていたカナトたちは、武器になんの不備もないことを確認して立ち上がる。

 

「さて、流石に何もしないってわけにはいかないし、荷物運びでもしに行こうか」

「そうね」

 

 己の武器を背中に背負ったカナトとエリンは、来る決戦に向けて戦意を昂らせているのだった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 急いでティナ達を追いかけた俺だったが、流石にゾラ・マグダラオスがいる場所からあの屍の谷に戻る頃には彼女達の姿は既になくなっていた。最初は焦ったものだが、人間達は結構優れた情報網を持っているだろうし、エスメダも何かに気づいているようだった。彼らが自分たちで答えに辿り着いて対策を考えていることを信じつつ、俺たちは俺たちに出来ることを考えることにした。

 

 しかし答えはなかなか出てこない。初めはゾラ・マグダラオスを倒して仕舞えばと思ったのだが、絶命した時にエネルギーが放出されるなら討伐したら結果は同じで本末転倒だということに気づいて却下。だがだとするとどうすればいいのだろうか。真なる古龍じゃないあいつには言葉も通じないだろうし、説得するというのは論外。だが何もしなければ新大陸が吹き飛ぶ。

 

 確かに新大陸が吹き飛んだところで、俺と澪音が無事なら俺にとっての損害はないに等しい。だがせっかくこの世界で知り合ったハンター達がここにはいるんだ。彼らがただ災厄に飲まれるのを他人ヅラで眺めているのは、寝覚めが悪いってもんだろ。出来ることならなんとかしてやりたい。

 そんなことを考えていたら澪音になんとも言えない顔をされたが。澪音が俺のことを第一に考え、それ以外に対しては極論どうでもいいと感じているのは薄々分かっている。そんな澪音には悪いんだが、今回も俺のわがままに付き合ってもらおう。それにこれは澪音の問題であって俺がとやかく言えることじゃないしな。

 

 そんな感じで色々考えるもいい案が浮かばずに数日が経った時だった。ティナが俺たちのところにやってきたのだ。

 

「成る程……ゾラ・マグダラオスを海に誘導する、か」

「ええ。これならばきっと新大陸の破滅を防ぐことができます」

 

 エリンの考えは理にかなっているように聞こえた。確かに海中ならエネルギーの拡散も抑えられるし、何より地脈の1番デリケートな部分で放出されるよりよっぽど被害も抑えられるだろう。

 

「よし分かった。でもそれだと俺と澪音にできることは無さそうだな。何せハンターが主体で動く作戦なんだろ?」

 

 ティナやカナト達ならともかく、他のハンターの前に姿を表すわけにはいくまい。絶対に一緒に討伐する動きになるって。そんな危険なところに行きたくないし、澪音を連れて行けない。

 

「いえ、貴方にも協力してほしいと思っています」

「いやいや、流石に冗談だろ?」

 

 俺はそう思ったがどうやらあちらは本気らしい。ゾラ・マグダラオスを誘導するにはある程度弱らせる必要があるらしく、火力が高い俺の力は必要なんだと。

 

「貴方が乱入してきたら場は荒れるでしょう。ですがそれを加味しても貴方がマグダラオスを殴ってくれた方が火力は出ます。安心してください。貴方がきたら私達が引き受けると言って、他のハンターが来ないようにしておきますから」

 

 うーん。なんだか不安だが、マグダラオス誘導作戦を成功させてもらわなければ、困るのはこちらもだ。ここはティナを信じるしかないようだな。

 

 俺は了承の意を伝えて彼女達と別れた。作戦決行は1週間後、場所は地脈回廊。この新大陸を火の海にさせないためにも、いっちょ頑張るとしますか! 

 

 

 




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第58話.火山の龍

お久しぶりです!!!(大声)


 ゾラ・マグダラオス誘導作戦は、ティナ達が着く前から始まっていた。先行部隊として派遣された彼らは、迎撃するための設備や安全を確保した拠点を作るのが任務となっている。

 

 そうして先行部隊が完成させた拠点に、本体であるティナたちが合流していくのが作戦の第一段階だった。本隊の数は100人規模に及び、これまでの歴史の中で最大の作戦が始まろうとしている。

 続々と竜車に乗ったハンターが拠点に到着していく中、ティナたちも長い道のりを終えて現地に到着していた。

 

「分かりますか? 3人とも。拠点の向こうから発せられる、この尋常ではない気配を……」

「うん、感じるよ」

「今まで多くのモンスターと戦ってきたけど、これほど大きくて威圧感のあるオーラは初めてね……」

 

 ティナたちは拠点に近づくにつれて大きくなっていくゾラ・マグダラオスの気配に息を呑んだ。

 本来この付近は年中穏やかな気候なのだとか。それが今はどうだろう、まるで火山の麓のように空気は熱せられており、周りにいるハンター達も汗を拭っている。この現象がたった1匹のモンスターによって引き起こされているという事実に、カナトはゴクリと息を飲み込んだ。

 

「さあ、ここまできたら後一息です。私たちも作戦に参加しますよ!」

 

 ティナの掛け声に3人は無言で頷く。自然の化身との戦いを前に気を引き締め直したのだった。

 

 

 ……Now loading……

 

 

「これは……」

「なんて、大きさなの……」

 

 ゾラ・マグダラオスの通り道になっている大渓谷を見下ろせる位置に到着したティナ達は、そのあまりの威容に言葉を失っていた。

 歩く火山、確かにその通りだろう。山のようになっている背中からは絶えず溶岩が流れ出し、まるで活火山そのもの。冷え固まった溶岩で全身を覆った姿は堅牢で、並みの攻撃など寄せ付けないだろう。そして何よりその大きさ。老山龍などとは比べ物にならないその全長は、規格外としか言いようがない。

 

「ゴオオオオオオオオォォォォォォォ…………」

 

 火山を背負いし龍。ゾラ・マグダラオスは、低く唸りを上げながら前身を進めているのだった。

 

「呆気に取られていても仕方ないわ! とりあえず私たちの持ち場に移動するわよ!」

 

 目の前の光景に目を奪われていた3人はエスメダのその言葉で目を覚まし、指笛でメルノスを呼び寄せて先行部隊が構えた迎撃施設の方へと飛んでいく。

 そこでは既に戦闘が始まっており、ハンター達の怒号が飛び交っていた。

 

「2番バリスタが弾切れだ! 予備弾薬持ってきてくれ!!」

「6番バリスタ破損! 修復は困難だそうです!」

「マグダラオスの背に乗る奴を射抜くんじゃねーぞ! 彼らが排熱器官を壊すまで辛抱だ!」

 

 作戦の概要は既に本部の方で聞いてある。こんなところで悠長に話している暇などないのだ。彼女達の役割はゾラ・マグダラオスの背中に乗り移り、各部にある排熱器官を壊す、もしくは機能不全にすること。この作戦はゾラ・マグダラオスを誘導することであり、そのための策としてマグダラオスを逃げさせるというのが成功条件だった。上手くハンター達からマグダラオスが逃げるようにし、海まで誘導する。なのでゾラ・マグダラオスにとって、ハンター達のことが脅威だと知らしめる必要があった。

 

 排熱器官はゾラ・マグダラオスにとって重要な器官のはずであり、この部位の破壊は無視できないダメージとなるだろう。しかしその為には背に乗って至近距離で攻撃しなければならない。危険度は最高クラスだ。なのでティナ達のような精鋭中の精鋭が選ばれている。

 

 メルノスで飛んで直接ゾラ・マグダラオスの背中に飛び乗ったティナ達は、そのあまりの熱気に顔を歪める。

 

「暑い……まるで火口の中に入ったみたいだ」

「汗が止まらないわね……ティナさんは平気なの?」

「私は暑さに強いので平気です。みなさんは大丈夫ですか?」

 

 確かに暑いは暑いが彼らも精鋭に選ばれたハンター。これぐらいは障害にならないとばかりに力強く頷いた。

 

「ではこれより行動を開始します。二手に分かれてゾラ・マグダラオスの背中を探索。排熱器官を見つけ次第攻撃を行なってください。排熱器官は1つとは限らないので、1つ目を見つけても引き続き探索を。では行きますよ!」

 

 今回はティナとカナト、エスメダとエリンのチームに分かれることになっている。頷き合った彼らはお互い逆方向に走りながら探索を始めていく。ゾラ・マグダラオスの背中はかなりの広さがあり、ハンターが走り回っても窮屈ではないほどだ。それでいて本物の山のように急斜面になっている場所も多く、探索するには最悪な環境と言ってもいいだろう。

 

「カナタさん、前方に崖があります。飛び越えますよ」

「分かった!」

 

 だが彼らはハンターだ。最悪の環境だろうと軽々と駆け抜けてこそ。ティナとカナトはひょいひょいとゴツゴツした岩肌ともいうべきその背中を駆け抜けていった。

 そうして走っているうちについに見つけたのだ。明らかに熱を排出している動きを見せる、一際目立つ突起物に。

 

「これが排熱器官で間違いなさそうですね」

「だね、よし早速!」

 

 カナトが背負っていたスラッシュアックスを抜いて排熱器官に斬りかかった。岩の塊のような見た目をしているが、案外その肉質は柔らかいようで確かな手応えをカナトは感じる。

 

「これならいける!」

「カナトさん! 危ない!」

 

 再び斬りかかろうとしたカナトだったが、ティナの叫びを聞いて瞬時にその場を離脱する。彼にとってティナの警告は何より信頼できるものであり、自らの行動を中断するに足ると考えているのだ。

 そしてティナの警告は正しかった。カナトが離脱してから少しおいて、ブシュー! と音を立てながら排熱器官から超高温の熱が放出されたのだ。あれに直撃していたら、いかにハンターが頑丈とはいえ大火傷では済まないだろうと思い、カナトの背筋が凍る。

 

「ありがとうティナさん。危ないところだった……」

「どうやら定期的にああやって熱を排出しているようですね。攻撃というわけではなさそうですし、気をつけながら破壊を試みましょう」

「了解!」

 

 今度はティナも太刀を抜き、カナトと共に排熱器官へ攻撃を加えていく。

 そして重要器官であるからか驚異的な耐久力を見せた排熱器官だったが、流石にこの2人の攻撃に晒され続ければ堪らないようで、少しの時間の後あきらかに熱の排出量が減った。

 

「ふう、こんなものでいいでしょう。では次の場所を探しましょうか」

「了解……おや?」

 

 カナトが見上げた先、そこには1人のハンターがメルノスに乗ってこちらに近づいてきていた。カナトの記憶では確か伝来役だった彼が大きな声で叫ぶ。

 

「ゾラ・マグダラオスの後方付近に正体不明の銀色のモンスターが現れた! 注意されたし!!」

 

 その報告を聞いて、ティナはようやく来たかと口角を僅かに上げるのだった。

 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 ゾラ・マグダラオスの通り道にやってきてみたら、もうすでにハンター達が交戦しているのが見えた。急拵えの足場にバリスタなどの各種対竜兵器を置き、翼竜に捕まったハンターが行ったり来たりしているのが見える。

 

「ま、ハンター達の邪魔にならないように控えめに暴れるか」

 

 ちなみに澪音は留守番だ。流石にこれほどのハンターが集まっているのだ。ティナはああ言っていたがやっぱり不安はあるというもので。猛烈に反対した澪音を宥めていたら少し遅れてしまったな。

 

 さて、ティナからは暴れてくれればいいと言われているのでその通りにするとしようか。雷電殻を起動させて超帯電状態に移行。銀色の雷を纏った爪でとりあえずマグダラオスの背中を切り裂いてみる。軽めの一撃だったってのもあるが、それでも俺の爪で浅い傷しか入らなかったのを見て思わず歯噛みしてしまう。

 

 こりゃ思った以上に硬いな。多分弱点は排熱器官なんだろうけどそっちはハンター達が破壊してるだろうし……仕方ない。ちまちま削るとするか。

 とりあえず色々な技を試してみることにした。尻尾での斬撃、噛みつき、お手攻撃、雷ブラスターなど一通りやってみたのだが、いかんせんこいつが巨大すぎて効いているのか分からん。というか溶岩の鎧が厚すぎて本体にダメージ入ってんのかこれ? 

 

「なら、こいつはどうだ?」

 

 四肢に力を入れて跳躍、雷の力を全て前足に凝縮して放つ俺の十八番、雷スタンプだ! 

 着弾と同時に爆発。圧縮された雷の力が、解き放たれた衝撃で雷撃を伴う爆発を発生させる。

 

「ゴオオオオオオオオォォォォォォォ!!!」

 

 遠くの方でゾラ・マグダラオスが雄叫びをあげているのが微かに聞こえた。よし、これなら効いてるっぽいな。なら……!? 

 

 次の瞬間、俺はとてつもない殺気を感じ取った。不味いと思ってそこから飛び退くと、数瞬後に上から何かが猛スピードで接近してくる。その何かはそのままの勢いでゾラ・マグダラオスの背中に激突し、砂埃を撒き散らした。衝撃の大きさにゾラ・マグダラオスが身動ぎしているのが分かる。

 

 そして砂埃を掻き分けて出て来たのは、これまた俺の知識にないモンスター。全身を棘のような突起物で覆われている黒い()は、四肢に力を入れて咆哮を上げる。

 そんな龍の目に俺は、捕食者特有の獰猛さを感じ取ったのだった。

 

 

 

 




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※2022/6/21 追記
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第59話.破滅が来たりて喇叭を鳴らす

 な、なんなんだこいつは……

 突然目の前に降って来た謎の龍に俺は驚愕を隠せなかった。全身に棘のようなものを生やしたそいつは、ギョロギョロと爬虫類のような眼で辺りを見渡している。

 

「グオオオオオォォォォォ!!」

 

 そしてこちらを視界に入れた途端、咆哮を上げながら突進して来た。俺は既に超帯電状態になっていたし、警戒もしていたので不意をつかれるわけはない。だが思った以上に奴の動きが速い。何も考えていないようなまっすぐな突進だったが、あまりの速さに避けることができなかった。回避を断念した俺はこちらもタックルで迎え撃つことにする。生憎、パワーには自信があるんでな! 

 

 ドシン! と重たいもの同士がぶつかる低い音が響き渡った。俺と龍が真っ正面からぶつかったのだ。力比べは拮抗していたが、驚くべきことに奴の方が少し力が強いようで段々と押されていく。このままでは押し負けてしまうと感じた俺は、わざと力を抜いて龍の体制を崩すことにした。狙い通り前屈みに倒れようとしている龍の顔面に、渾身の力でアッパーを入れる。

 無防備な状態で食らって防御もできなかったのだろう。龍は吹き飛ばされて地面を転がっていく。顎の辺りから煙が出ているのは、俺の前脚に纏っていた銀雷が奴の鱗を焼いたからだ。

 

「シロウ! ここに居たのですね!」

 

 声がした方を振り返ると、ティナとカナトがこちらに向かって走って来ているのが見える。恐らく事前に言っていた通り他のハンターがこちらに来ないように取り計らってくれたのだろう。有難いのだが、今はそれどころではない。

 

「ティナ、カナト。どうやら俺以外にも乱入者がいるみたいだぞ!」

「あのモンスターは……」

 

 ティナとカナトの視界にも黒い龍が入ったのだろう。だが彼女達の反応から察するに、どうやらみたことがないモンスターのようだ。新大陸でしか確認されてないか、もしくは新種か? 

 

「そいつは滅尽龍ネルギガンテ。調査団が長年追いかけて来た龍よ」

 

 気がつけばエスメダとエリンも合流していた。そしてエスメダはこいつのことを知っているようだ。

 

「ネルギガンテ、と言ったか。どんなモンスターなんだ?」

「とても攻撃的な性格ね。ブレスのようなものは吐かないけど、ネルギガンテの恐ろしいところはその膂力よ。力だけで他の古龍を倒しているところも目撃されているわ。そして調査団はネルギガンテと古龍渡りに密接な関係があると考えているけど……この話は今している場合じゃないわね」

 

 確かにエスメダの言う通りだ。俺に吹き飛ばされたネルギガンテは既に起き上がっており、今すぐにでもこちらに飛びかかって来そうな雰囲気をしている。

 

「グオオオオオォォォォォ!!!」

 

 そして咆哮と共に再び突進して来た。それをみたハンター達の行動は迅速そのもので、すぐさまその場から飛び退いて各々の武器を手に臨戦体制を整える。俺は逆にその場に留まり、ネルギガンテの攻撃を受け止めることにした。

 

 ネルギガンテは突進では通じなかったからか、今度はその大きな手を叩き着付けるように振り翳した。だが大ぶりな攻撃は隙を晒すことにもなる。俺は素早く回転して刃尾を振り回し、二本足で立っているネルギガンテの足を払った。狙い通り地面に倒れたネルギガンテに対して、再びアッパーの要領で奴の体をかち上げる。本当はこちらも叩きつけるような攻撃をしたかったが、今の俺は1人で戦っているわけではない。ティナ達が追撃しようとしている気配を感じたので、攻撃しやすいようにアシストしたのだ。

 

「ありがとうございます、シロウ!」

 

 俺の意図を汲み取ったティナが浮き上がったネルギガンテの横腹を太刀で切り裂く。鋭い一撃はネルギガンテの守りを突破したようで、うめき声のようなものを漏らして翼を大きく広げた。どうやら飛んで体勢を立て直そうと思ったらしい。

 

「逃がさないわよ!!」

 

 そんなネルギガンテの背後からエスメダが現れ、大剣でその背中を思いっきり切り付けた。いや、あれはもう斬撃ではないな。叩きつけたと言うのが正しい表現だろう。

 ともあれネルギガンテは飛翔に失敗し、再び地面に叩きつけられることになる。そんなネルギガンテの落下地点には、属性解放突きの構えをしているカナトの姿が。さらなる追撃をするためスラッシュアックスを突き立てようとするが、流石のネルギガンテもやられっぱなしでは無かった。素早く前脚を払ってカナトを吹き飛ばそうとする。だがハンターはまだあと1人いる。

 

 最後に残ったエリンが正確な一矢でネルギガンテの足の付け根を狙撃。突然の痛みでネルギガンテは行動を止めてしまう。そしてその隙にカナトのスラアクが突き刺さり、氷属性のエネルギーが解放されて爆発を起こした。

 

「ナイスアシスト、エリン!」

「援護は任せなさい!」

 

 いや、すごい連携力だな? 彼らは一言も何をすると口に出していなかった。だと言うのにこれだけスムーズに攻撃がつながったのは、各々が高い技量を持っていると言うのもあるが、何より信頼しているからだろう。エスメダはこの頃パーティに加わったと言う話だったが、もうここまでの連携が出来る様になっているとは。

 

「油断しちゃダメよ!」

 

 そう思っているとエスメダが鋭い声を上げた。確かに仕留めてはないだろうが、かなりの攻撃を加えた。油断しているとは言わないが、そこまで警戒する必要があるのか? 

 

「ネルギガンテの最大の特徴を言ってなかったわね。それは……」

 

「グオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!」

 

 エスメダの言葉を遮るように、爆発の砂塵を突き破ってネルギガンテが姿を表した。そして驚くべきことに、その体には先ほどの攻撃を食らったとは思えないほど、傷が少ない。

 

「再生能力。ネルギガンテの最も恐ろしいところは、どんなに傷を負ってもすぐに治してしまう再生能力にあるわ!」

 

 ちっ! 面倒な能力だ。先程の攻撃は俺からみてもネルギガンテに決定的な一打となったと思った。だがどうだ、こうしている間にも奴は傷を再生し続けている。ん? そういえば棘が黒くなっているような……? 

 

 そう考えているうちにもネルギガンテは止まってくれない。今度こそこちらを殺すという殺意に塗れた咆哮を上げた。その時に俺は確かにみたのだ。奴の目が紫色に怪しく輝いているのを。

 

「こいつ、瘴気に侵されているぞ!!」

「何ですって……呪いの瘴気は、古龍にも影響できると言うのですか!?」

 

 思えばネルギガンテの行動は愚直なまでに単純だった。初めは自分の力を信じているが故の行動だと思っていたが、どうやら違ったようだ。瘴気によって思考能力が著しく低下していると言うのが理由だろう。

 

 それを裏付けるかのように三度ネルギガンテが突進してくる。さっきまではその力の大きさに慄いていたが、瘴気にやられていると分かった今では何だか哀しく思えて来た。

 ネルギガンテの突進をジャンプで躱し、空中で体を丸めて一回転する。回転の勢いを乗せた刃尾を振り回し、ネルギガンテの背中を深々と切り裂いた。相当ダメージが大きかったのかネルギガンテの動きが明らかに鈍った。チャンスだと思った俺は着地と同時に前脚の爪に雷を集め、そのままネルギガンテを殴るように弾き飛ばす。受け身を取ることもしないまま吹き飛ばされたネルギガンテの巨体は2度ほど地面でバウンドした。

 

「瘴気にやられたままでは苦しいだろ……これでトドメだ!」

 

 最後の一撃を決めるべく俺がネルギガンテに接近したその瞬間、いきなりネルギガンテがガバッと起き上がった。そして全身を縮こまらせたかと思うと、翼を大きくはためかせると共に全身の棘を射出して来たのだ。

 

「なに!? ぐあっ!」

 

 突然の行動で俺はガードが間に合わず、半分ほどは躱したものの残りが俺の体に食い込むように殺到した。幸い貫通するほどの威力は無かったので致命傷にはならなかったが、俺は動きを止めてしまった。その隙にはためかせた翼を力強く動かしてネルギガンテが去っていく。

 

「シロウ! 大丈夫ですか!?」

「ああ、何とかな。それよりネルギガンテは?」

「逃げていったわね。この距離じゃ流石に私の弓も届かないわ」

 

 遠くへ飛び去っていくネルギガンテを眺めていると、今度はゾラ・マグダラオスが大きくみじろぎしたのか足場が激しく揺れる。

 

「おいおい、今度は何だ!?」

「多分撃龍槍が作動したんだと思う。作戦が最終段階へと移ったんじゃないかな?」

 

 なるほど。そういえばゾラ・マグダラオスを弱らせるためにここに来たんだっけか。ネルギガンテのインパクトが強すぎて忘れてた。

 とその時遠くの方から小さな翼竜が飛んできているのが見えた。足元にハンターがぶら下がっているのも見える。

 

「おい、なんかハンターがこっち来てるぞ」

「やばっ」

「伝来員かもしれません。シロウ、戦ってるふりをしてください!」

「え?」

「君が意思疎通のできるモンスターだってのは僕らしか知らないんだ! だから早く!」

「お、おう、分かった」

 

 突然のことで戸惑ったがまあ確かにしゃべれるモンスターがいるなんて一般には公開されてないのは当然か。とりあえず銀雷を辺りに放出してれば派手だし戦闘中っぽいか? 

 

「何だこのモンスターは……?」

「お疲れ様です! 何か緊急の知らせですか?」

 

 ティナがさも俺の雷撃をバックステップで躱した風を装って新しく来たハンターに話しかけた。

 

「あ、はい! 作戦は成功。各ハンターは拠点まで撤退するようにとのことです」

「分かりました。ここは危険なので貴方は先に戻っててください」

「了解です。見たところ未知のモンスターのようです。十分に注意してください。ではご武運を!」

 

 そう言ってハンターは再び翼竜につかまりながら遠ざかっていった。

 

「ふう。何とか誤魔化せましたかね」

「だな。作戦成功ってことは、ゾラ・マグダラオスは海に誘導できたのか?」

「成功ってことはそうなんじゃないかしら。とりあえず戻って確認してみましょ!」

 

 俺はこのままこいつに乗って行く先を確認するか。ハンター達の拠点に行くわけにもいくまいし。本当に作戦が成功したのか確認しときたい。

 

「では私たちは行きます。今回は協力有り難うございました」

「いやいや、新大陸が吹き飛んだらこちらも困るからな。寧ろハンターが総出で作戦を立ててくれたし、助かったのはこちらだ」

「ティナ、早く戻るわよ! 不足の事態に備えて拠点で情報を共有しなきゃ!」

「あ、はい! ではシロウ、また会いましょう」

 

 そう言ってティナ達もさっきのハンターのように翼竜を呼び、その脚につかまって飛び去っていった。今のハンターはみんなあんな移動方法をしているのか……画期的で面白そうだ。いくら俺が古龍に近づいたとはいえ、空は飛べないからなぁ。

 

 そんなことを考えながら、ゾラ・マグダラオスが本当に海に行くのか確認するまで俺はこいつの背中でのんびりすることにした。

 

 

 

 

 



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第60話.地脈の回廊

 あのあとゾラ・マグダラオスは本当に海へと向かって歩みを進めていった。その直後に海の方から眩いばかりの光が溢れるのも確認している。恐らくゾラ・マグダラオスが生命活動を停止したのだろう。溢れ出たエネルギーは海中を通って世界中に拡散していき、新大陸が更地になる危機は回避できたのだ。

 全てを見届けた俺は離れた場所で待機していた澪音と合流した。

 

「おっす澪音。1人にして悪かったな」

「ううん。それより士狼、ゾラ・マグダラオスが通った道から、新大陸の奥に行けるみたい」

 

 マジか! それはとても朗報だ。新大陸の北側は高い岩壁に隔たれており、普通に行くのは無理だったのだ。まあ俺だけならちょちょいのちょいだが、澪音はそうもいかない。こいつはジンオウガの割に力が弱く、殆ど超帯電状態になったことがないから雷による肉体の強化も微々たるものだ。そんな澪音にほぼ垂直の岩肌を登れというのは酷だろう。

 

 なのでゾラ・マグダラオスのおかげで新大陸の奥地への道が拓けたというのは、俺からしたら朗報だったというわけだ。

 

「1人の間暇だったから、色々探索してた」

「ナイスだ澪音。ティナ達が言うには大きなエネルギーの反応は新大陸の奥地かららしい。終龍の痕跡を見つけるためにも、早速いってみよう」

「ん、分かった」

 

 俺は澪音の案内でゾラ・マグダラオスが来た方向とは逆側に歩みを進めていった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「おお、こりゃすげぇな」

 

 澪音に案内されてたどり着いたのは、岩壁にポッカリと開いた大きな穴だった。確かにゾラ・マグダラオスの巨体が通れるほどの穴だし、奴がくり抜いたと見て間違いないな。

 それにしてもゾラ・マグダラオスは随分と下の方を通っていたんだな。感覚的には地脈の道のようになっている場所だ。地中の中にトンネルが通っていると考えてもらえれば分かりやすいだろうか。

 

「じゃあ先に進んでみよう。警戒は怠るなよ」

「分かってる」

 

 その穴は随分と長く続いているようだ。かなり目の良い俺の視力を持ってしても、穴の向こうは未だに暗闇に包まれている。

 

「なんだか地脈の道を通った時のことを思い出すな」

「確かに、でもずっと地下なのはもう嫌」

「ははは、確かになぁ」

 

 代わり映えのない風景が何日も続くのは流石に俺だって勘弁してほしい。退屈は龍をも殺す、だ。まああっちの大陸に帰るためにもう一回必ず通ることになるんだけれども。

 

 そうして地脈の道でやっていたように適当な話をしていた時だった。視界の奥で僅かに光がさしたのを感じる。出口が見えて来たのだ。

 

「お、出口だ。よかったな澪音、今回は早めに抜けられそうだぞ」

「ん」

 

 心なしか澪音の表情が嬉しそうに見える。そんなに洞窟は嫌いか? 俺は前世の経験上暗闇も慣れたもんだ。今は竜の視力で見えづらいとは感じないが、前世の頃はどんな暗闇でも即座に目を慣らすことが重要だったしな。

 おっと思考がそれた。そろそろ出口に近づく。いきなり何かが襲いかかってくるなんてことはないだろうが、警戒をするに越したことはない。

 

「おお……これはまた、絶景だな」

「すごい……綺麗」

 

 暗い洞窟を抜けた先には、なんとも幻想的な風景が広がっていた。大小様々な水晶が所狭しと乱立しており、大きいものは俺なんかよりもざっと大きいものもある。中央付近には周りの水晶とは比べ物にならないほどの超巨大な水晶が聳え立っており、存在感が凄まじい。

 

「この水晶、古龍の力に似ている……?」

 

 ふと全方位から古龍のエネルギーを感じたので集中してみれば、この水晶一つ一つに、恐ろしく濃密な生体エネルギーが秘められていることが分かった。おそらくこの水晶に見えるものは実際には鉱物ではなく、生体エネルギーが結晶化して地面から突き出て来たものではないだろうか。

 だとするととんでもないな。一面を覆い尽くすこの水晶が、モンスターにとっては全て垂涎のご馳走ってわけだ。ただ水晶が秘めるエネルギーはあまりに濃密であり、一般モンスターが食らえばどうなるか分かったもんじゃない。下手をすると中毒症状を起こして死んでしまうんじゃないか? 

 

「とりあえずものは試しに、と」

 

 パクリと水晶を食べてみる。飲み込んだ途端に生命エネルギーが流れ込んでくるのを感じ、その思った以上の濃密さに思わず顔を顰めてしまった。

 

「士狼、大丈夫?」

「ああ、少し驚いただけだ。しかしすごいなこれ、一塊程度でこのエネルギー量か」

 

 間違いなく、これは多くのモンスターにとって毒だ。ただしこれを吸収し切れるモンスターにとっては、喉から手が出るほど欲しいものだろう。例えば古龍とかな。

 分かって来たぞ。古龍渡りの正体はこれだな? この地は多くの古龍が死に場所として選んできたのだろう。この間の屍の谷がこれを証明している。その結果古龍の生体エネルギーが蓄積されていき、結晶化するほどに積み重なっているのだ。そしてそれを求めてまた古龍がやってくる……古龍渡りの正体は死に場所を求める古龍の大移動か、このエネルギーを狙ってやってくる古龍達のどちらかと見た。

 

 だがそれだと疑問が残るんだよな。なぜ古龍はこの地死に場所に選ぶのか、という点だ。別に死に場所など自分が生まれた地や長く住んだ地など他にもありそうなものを。多くの古龍が意思疎通をしているわけでもなく、この地にやってくる理由はなんだ? 

 

「しかし惜しいな」

「何が?」

「俺に神様の加護が残ってないことがだ」

 

 もし俺にまだ能力吸収の加護が残っていたら、この水晶を食べるだけでグングンと強くなることができただろう。まあそんな手段で手に入れた力がいずれ悪い反動として帰ってこない保証はないし、力だけを手に入れても努力や苦労がついて来なければ意味はないのでそんなことはしなかっただろうが。

 にしても少しぐらいは……と思う節がないわけではない。それほどまでにこの水晶が秘める力は大きいのだ。

 

「ま、無い物ねだりをしてもしょうがない。とりあえず辺りを探索してみるか」

「ん、そういえば、あっちの方から何か聞こえる」

「ならそこにいってみよう」

 

 俺たちは澪音が何かを聞き取ったという場所に行ってみることにした。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 澪音が案内してくれた場所は、溶岩が川のように流れている場所だった。どうやら流れるマグマの音が聞こえていたらしい。

 

「ここら辺は火山活動も活発なのか? にしては火山は見当たらなかったが……」

「あ、ヴォルガノスがいる」

 

 うお、マジだ。遠くの溶岩の海でヴォルガノスが優雅に遊泳している。マグマの中を泳いでもびくともしない鱗があってこそだな。まあ下手に刺激して怒りを買ってもめんどくさいし、気づかれないうちに去るとするか。

 

 溶岩地帯を後にした俺たちは巨大水晶の麓まで移動した。

 

「そういえば、ネルギガンテも瘴気にやられてたんだよ」

「古龍にも効果があるってこと?」

「そうだな。どうやら思ってた以上にこの瘴気は強いらしい」

 

 古龍にも効く狂竜ウイルスなどゾッとしないな。影響範囲が大陸を覆い尽くせるほど広いだけでなく、瘴気自体の強さも桁違いときた。早くなんとかしないと、本当に取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。

 

「ここにはこれだけの生体エネルギーがあるんだ。恐らく終龍もこれを求めてやって来るはず。とりあえず怪しそうなところはないか色々調べてみよう」

「ん、分かった」

 

 なんとか終龍がこのエネルギーを手に入れる前に阻止できればいいんだが……

 

 

 

 

 

 




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第61話.転がる鉄槌

 水晶の地を色々と探索してみたのだが、特にこれといって大きな発見はなかった。確かにエネルギーが多い場所なのだが、濃密なエネルギーを含んだ水晶がそこらじゅうに生えているので、いまいち感覚が狂う。

 澪音の知覚能力にも期待したのだが、俺と同じように水晶のエネルギーに邪魔されて上手く感知できないと言っていた。ただ祖龍が言っていた場所はここが1番最適だと思うのでもう少し探索は続けてみる。それでもし収穫なしなら、どうにかしてハンター側の情報を得ないといけなくなるな。

 

「士狼、何かきてる」

 

 澪音の感知範囲に何かが引っかかったようだ。こいつの感知範囲はまさに高性能レーダーそのもので、この頃はどのような形状のものなのかさえ分かるようになってきたらしい。

 

「どんなやつだ?」

「んー、結構大きい。アルマジロみたいな感じ?」

 

 アルマジロ? ああ、丸まっている何かってことか。大きいってことはモンスターだよな。丸くなるモンスターといえば、ラングロトラかあるいは……

 

 そこまで考えていた時、ようやく俺の目にもその何かが映った。ゴツゴツした背中に特徴的な顎を持つそのモンスターは、俺の知識にもある。

 

「ウラガンキンか!」

 

 かなりの速さで転がりながらこちらに向かって来ていたウラガンキンは、俺たちの前で回転を止めてその二本足で地面を踏み締める。

 

「ゴァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 喉が張り裂けんばかりの咆哮を上げたウラガンキンの目は紫色に怪しく光っており、心なしか体表面の色も紫がかっているように見える。極め付けは体から黒っぽいオーラがゆらめきながら立ち上っており、今まで見たどんな瘴気に侵されたモンスターよりも禍々しい。

 

「案の定瘴気にやられているな。それにこいつはなんだか様子がおかしい。澪音、油断すんなよ」

「分かった!」

 

 咆哮をあげ終わったウラガンキンは大きく頭を振りかぶる。恐らく顎を叩きつけてこようとしているのだろう。だがあまりにも予備動作が長すぎるので、当たるはずもないと俺は思っていた。

 しかしウラガンキンが叩きつけようとしていたのは、俺本人ではなく地面。自らの足元を大きく叩きつけることで、凄まじいまでの地揺れが発生した。顎が叩きつけられた地面はひび割れて陥没しており、その威力のとんでもなさが窺える。

 

 そして地揺れに足を取られてしまった俺は、咄嗟に行動をすることができずその場に縫い止められてしまった。揺れに耐えている俺に対してウラガンキンは足元がふらついている様子もなく、しっかりと二本足で立っている。そんなウラガンキンからしたら、フラフラしている俺は格好の的だろう。大きな尻尾を振り回して俺のことを薙ぎ払った。

 

「士狼!」

 

 ふらついていて踏ん張ることもできず、尻尾の振り回しを喰らった俺は壁際まで吹き飛ばされてしまう。そしてそのダメージの大きさに驚愕していた。この間のネルギガンテですらここまでのパワーは感じなかったのだ。古龍ですらないウラガンキンが出せる火力じゃない。あの黒いオーラや紫色の体色が原因か? 

 前世の知識には極限化というものがあるが、目の前のウラガンキンに起こっているのがこれと同じなのかは分からない。だが少なくとも似たような強化をされていると思ったほうがいい。

 

「み、澪音気をつけろ。こいつかなり強いぞ!」

 

 吹き飛ばされてしまった俺はウラガンキンからだいぶ離れてしまった。そしてウラガンキンの次なる標的は、まだ目の前にいる澪音だろう。

 澪音は俺の声を聞いて冷静さを取り戻したのか、黒い霧を発生させながらジリジリと距離を取ることにしたようだ。あの霧は凶悪な能力をしており、瘴気にやられたモンスターにも有効だと聞いている。

 

 だがウラガンキンはそんな澪音の霧を突き破るように突進し、距離を取る澪音に追いついてしまった。霧が効かないことに驚愕している澪音に、素早く連続で顎を叩きつけようとしている。澪音は小柄なのでかろうじて躱し続けているが、あのウラガンキン素早さもさることながらスタミナも桁違いだ。顎を叩きつける動作はかなり疲れるはず。いくらウラガンキンがそれに適した構造をもっているとはいえ、疲れるはずなのだ。

 

 だがウラガンキンは頭の動きを止める気配は全くない。確実に澪音を仕留めようと顎を叩きつけ続けている。澪音も素晴らしい動きで躱し続けているが、いずれ限界がきてしまうだろう。まあ俺がそんなことはさせないが! 

 

「澪音から離れろ!」

 

 吹き飛ばされた分の距離を詰め直した俺は、ウラガンキンの側面にタックルをした。既に超帯電状態にはなっているので、体を押し当てているだけでも雷がやつの体を焼いていく。

 

 突然の横からの衝撃に流石に踏ん張ることが出来なかったのか、ウラガンキンがよろめいた。その隙に澪音はその場から離れることに成功する。

 

「大丈夫か、澪音!」

「はぁ、はぁ、なんとか……ありがとう士狼」

 

 息は切れているようだが、目立った外傷は軽度のものだ。とりあえず間に合ったようだな。本当によかった。

 

 先程の俺のタックルはウラガンキンに殆どダメージを与えられてないだろう。タックルした時の感覚が、まるで壁にぶつかった時ぐらいに手応えが無かった。現にウラガンキンは殺意の篭った目でこちらを睨みつけている。

 

 そんなウラガンキンだがまた顎を振り上げている。流石にどんなに威力が高かろうともう当たりはしないと思っていたのだが、ウラガンキンがとった行動は顎を叩きつけるものでは無かった。ウラガンキンは体を丸めたまま回転をし始めたのだ。頭を振り上げたのは勢いをつけるため。先程移動のために転がりながら進んでいたように、今度は攻撃として転がり始めたウラガンキンが俺たちに迫る。

 

 俺と澪音は咄嗟にサイドステップを踏んでそれをかわしたが、ここの地形が良く無かった。ここは周囲の四方に緩やかな傾斜のある壁があり、ウラガンキンはこれを利用して方向を変えながら再びこちらに向かって来る。それもなんとか躱すが、何回も何回も壁で方向転換して向かって来るのだ。しかも縦横無尽に転がり続けるものだから、一瞬たりとも気が抜けない。もしもあれを喰らったら怪我では済まないだろう。

 だが流石にこちらも疲労が溜まって来るものだ。ウラガンキンが方向を変えた回数はとうに10を超えている。俺よりも澪音が心配だ、先程息も上がっていたし、だいぶ辛いと思う。

 

 これ以上回避することは困難だと判断した俺は、ウラガンキンを真正面から迎え撃つことにした。この頃は使っていなかったが仕方がない。龍脈の力を使う! 

 龍脈の力を利用して真帯電状態に移行。四肢が迸る雷エネルギーに覆われ、地面に接している部分から激しく火花が散る。纏う雷のパワーが飛躍的に上昇し、全身の甲殻が攻撃的に展開した。

 

 全ての力を解放した俺は後脚だけで体を持ち上げ、前脚を両方とも使ってウラガンキンを受け止めにかかる。かなりのスピードで転がって来るウラガンキンを受け止めた瞬間、とんでもない負荷が俺の全身に襲いかかった。刃尾を地面に突き立てて踏ん張ろうとするが、それでもジリジリと押し負けていってしまう。

 

「くっ……負けるかぁ!!」

 

 両前脚を覆っている銀雷の威力を上げ、一気に放出する。脚から迸る雷がジェット噴射のように尾を引き、前への推進力に変えてくれる。この状態なら空だって飛べるかもしれないな。

 冗談はさておき、渾身の力比べは段々と俺の優勢へと傾きつつあった。後脚が地面にめり込み刃尾がミシミシと変な音を立てながらも、ウラガンキンの回転の勢いを確実に殺していく。そして十分に回転の威力が下がったのを確認し、余裕が出来てきたので攻撃に移らせてもらおう。

 

 至近距離にいるウラガンキンのゴツゴツした背中に向けて、ガパリと口を大きく開く。口内に銀雷が収束されていき、眩いばかりの光を放っている。野生の勘からか不味いと察したウラガンキンが回避しようとするが、俺の両前脚がガッチリと奴の体を掴んではなさい。

 そして雷ブラスターをゼロ距離で放った。ウラガンキンの体がブラスターの威力に押されて後ろへと後退していく。どうやら回避は諦めて防御に徹することにしたようだ。そんなウラガンキンに対して俺は溜めたエネルギーが尽きるまでブラスターを放ち続けた。

 

 ブラスターを放ち終わるとそこには、攻撃を受けた場所が真っ赤に赤熱してしまったウラガンキンの姿が。あまりの高温で鱗が溶けてしまっているのだろう。並のモンスターなら消し炭になる威力だ。この程度で済んでいることに逆に驚いているよ。

 

「士狼、お疲れ様」

「ああ、あと今の俺にはあんま近づかないほうがいいぞ。危ないからな」

 

 少し離れた位置で澪音が待機しているのを確認した俺は、刃尾に雷を蓄積して回転しながら振るう。息も絶え絶えだったウラガンキンはこの攻撃がとどめとなり力尽きたようだ。

 それにしても強かった……まさか一般モンスターであるウラガンキンに、龍脈の力を使うことになるとは。瘴気で強化されたモンスターの強さはとんでもないな……幸いなのは、ここまで瘴気に適応できるやつがあまり多くはないだろうというところか。

 

「今回は、あまり役に立たなかった」

「いや仕方ないって。多分こいつそこらの古龍より強いんじゃないか? だからしょげることないぞ」

 

 珍しくしゅんとしている澪音を励ましながら、真帯電状態を解いた。

 

「今回のことで改めて思い知ったよ。終龍を倒さない限り、自由にこの世界で生きていくことは出来ないってな」

 

 放っておいたら終龍は世界の全てを瘴気で包んでしまうだろう。そこには俺の愛したこの世界はなく、あるのは正気を失った人やモンスターが殺し合うだけの残酷な世界だ。そんなことには決してさせない。

 

「いこう澪音。なんとしても終龍の企みを阻止するぞ」

「ん、私も瘴気に包まれた世界は嫌」

 

 澪音も今回の件で考えを改めたようだ。こいつが終龍を追いかける俺のことをあまりよく思っていなかったのは、薄々感じてたからな。流石に澪音も自分が住む世界を滅茶苦茶にされるのは嫌だろう。

 

 とりあえず俺も澪音も消耗したし、一休みできる場所を探そう。夜が明けたらまた終龍が求めているエネルギー源を探しに出発だ。

 

 

 

 



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