ロクでなし魔術講師と投影者;Remake (よこちょ)
しおりを挟む

1話

どうも、初めましての方は初めまして。リメイク前から読んでくださっていた方はお待たせしました。投稿主のよこちょです。
設定を練り直し、ようやく第1話を完成させることができました。今回こそは迷走しないようにやっていきたいと思いますので、よろしくお願い致します。
では、第1話「ロクでなしと投影者」をどうぞ!


ここはフェジテ。

アルザーノ帝国魔術学院という最高峰の魔術を学べると名高いこの学園のある、由緒ある土地だ。

志の高い生徒や職員、講師ばかり揃っていて皆毎日勉学に明け暮れている。

 

そう。この男を除いては。

 

 

 

「ふわぁぁぁ………ねみい……。」

 

 

 

この男はアラン・■・エミヤ。

その学園に在籍している一生徒だ。

だが、普通の学生と違い、フェジテの住宅街の一角にあるカフェ、「アイアス」に住んでいる居候である。

過去に色々あって両親を亡くして以来ずっと、アイアスに居候している。

 

 

「眠い………。よし、寝るか。」

 

 

 

だがこの男、基本ダメ人間かつめんどくさがり屋なので朝は起きない。

それどころか学校だと言うのに二度寝しようとしている。

 

 

「学校は……サボるか。うん。そうしよう。きっと神もそう言ってるはずだ。」

 

 

 

などとのたまい二度寝しようとしたその時、

 

 

 

ガチャッ!ヒュンッ!ドスッ!

 

 

 

自室のドアが開き、矢が飛んできて、自分の耳スレスレに刺さった。

 

 

「起きろアラン。またさぼるきか。」

 

 

この男はシロウ・エミヤ。

固有魔術持ちの魔術師だ。

この世界の魔術とは違い、投影魔術という魔術を得意としている変わり者だ。

しかも魔術師なのに近接戦闘を行うという点でも大分変わっている。

そのせいでアランも近接戦闘ばっかりできるようになったのだが………まぁその話はやめておこう。

 

 

「全くお前と言うやつは………。朝食の時間だ。冷める前に早く食え。」

 

 

「おお!シロウのご飯は絶品だからな。すぐ行くわ。」

 

 

 

耳元に矢がぶっ刺さったことは気にしないようにしながら答える。シロウは過去に軍属だったから間違っても当てることはしない。だが当たらなくても怖いもんは怖い。

 

 

「先に下に降りておくぞ。制服に着替えてから降りてきたまえ。」

 

 

「はいよ。メニューはなんだ?」

 

 

「ご飯と味噌汁と目玉焼きだ。さっさと降りてこい。」

 

 

「へいよ。」

 

 

こうしてシロウとアランの朝は始まる。

 

 

 

______________________________________________

 

 sideアラン

 

 

 

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

 

ふぅ。相変わらずシロウの飯は美味い。家庭的というかなんというか、とにかくなんか懐かしい味がするのだ。

シロウ曰く、「義父が全然料理できなかったから自然と身についた」だそうだが、それだけでこんなにも美味くなるものなんだろうか?

まぁ、その辺はシロウの元の才能とかもあったのかもな。

 

 

「ってか、やっぱ朝にも人来ねえな。」

 

 

実はこの店、全くと言っていい程に人が来ない。

普通のカフェならば朝のモーニングセットとかを食べに来たりコーヒーを飲みに来たりするやつもいるだろうに………

 

 

「なに、構わんさ。元々趣味でやっているだけのものだ。来ないなら来ないで楽でいい。」

 

 

「ま、宣伝もしてないしな。」

 

 

そのため、ここに来る人は本当に限られた人ばかりだ。

例えば…………

 

 

「ん?なんだ、アラン。私の顔になにか付いてるか?」

 

 

俺と同じ学校の教師でもあり、現在進行形でコーヒーを飲んでいるこのセリカ・アルフォネアくらいのものであろう。

この金髪の女性、セリカは俺の通っている学校の教師であるくせに俺よりも後にカフェを出る。それなのに間に合うってんだから羨ましいもんだぜ。

魔術ってすごい(小並感)

 

 

「なんも付いてないっすよ。………っと、そろそろ家出るかな」

 

 

朝ご飯を食べ終わると、そろそろ登校しなきゃいけない時間が迫っていた。

 

 

「なんだ。もう時間か?」

 

 

「ああ。んじゃ、行ってきます。」

 

 

「ああ。気をつけるんだよ。」

 

 

「わかってるって。」

 

 

 

そう言ってアランは家を出た。

 

 

 

「さて。仕込みを始めるとするか。セリカも、たまには早く出勤したらどうかね?」

 

 

「遠慮しておこう。私はこのコーヒーをゆっくり楽しんでから行くことにするさ。」

 

 

「ふっ、全く。お前も変わらんな。」

 

 

「あぁ。そして、『アイツ』もな。」

 

 

「だろうな。あの男がそう簡単に変わるわけも無かろう。なにせ、『ロクでなし』だからな。」

 

 

「ああ。全くだよ。」

 

 

 

______________________________________________

 

 

 

アランside

 

 

 

家を出てしばらく歩くと、噴水のある広場についた。

噴水近くにあるベンチに腰を下ろし、しばらく待つ。

 

 

「あ、アラン!おはよう!」

 

 

暇潰しに雲を数え、50を超えた辺りで、ようやく待ち人の声がした。

声をかけてきたのはシスティことシスティーナ=フィーべル。

勝気な目に銀のように滑らかで綺麗な髪を持った所謂美少女と呼ばれる部類に入る女の子だ。

 

 

 

「アラン君おはよう。」

 

 

 

一緒に声をかけてきたのはルミア=ティンジェル。

人懐っこくて誰にでも優しい、こちらも美少女である。

なおシスティと違ってどことは言わないが大きいので、男子生徒に人気がある。

2人は俺のクラスメイトで、結構仲がいい。

 

 

 

「おはよう。お二人さん。今日も仲がいいな。」

 

 

 

「まあね。………ところで、さっきなんか失礼なこと考えなかった?」

 

 

 

「気のせいだ。」

 

 

 

この2人は一緒に暮らしている。

本当の姉妹ではないのだが本物の姉妹のように仲が良く、いつも一緒にいるのを見かける。

たまに2人でゆるゆりな空間を作っている(偏見)な時があるが触れないでおこう。

個人の趣味嗜好に口を出してはいけない(戒め)

 

 

 

「んじゃ、学校に行きますかね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、ヒューイ先生なんでやめちゃったのかな………。」

 

 

2人と合流して並んで学校までの道を雑談しながら歩く。

 

 

「う〜ん。まあ、きっとなにか事情があったんだよ。」

 

 

 

「でもそのせいで休日まで登校になっちゃったしなぁ………。」

 

 

 

ヒューイ先生は俺らを担当してくれていた講師の名前だ。人当たりがよく、質問にも丁寧に答えてくれるいい先生だったので、よく魔術について質問したのを覚えている。

すごくいい先生だったのだが、なんの前触れもなく突然いなくなってしまったのだ。まるで蒸発でもしたかのように。

そしてそのせいで授業に穴が開き休日に補習、という訳だ。

 

 

 

「でももったいないよなぁ。」

 

 

「そうよね……。いい先生だったのに。授業もわかりやすくて………。」

 

 

「もっと教わりたかったよね。」

 

 

「「「ハァ………。」」」

 

 

「……まあ非常勤講師が来るらしいし、そいつに期待しようぜ。」

 

 

「そうね。……まあ、ヒューイ先生の半分でもいい授業をしてくれることを期待するわ。」

 

 

 

そうやって3人で歩いて学校へ向かっていると、

 

 

 

「うぉぉぉーーーッ!遅刻ぅぅぅ!」

 

 

 

悲鳴に近い叫び声とともに、なんとも珍妙な男が走ってきた。

その珍妙な男は血走った目でパンを咥え、まるで鬼のような表情で全力疾走をするという奇行をしているだけでなく

 

 

 

「おいそこのガキ共!どけぇぇぇ!」

 

 

 

そのまま俺らの方に突っ込んできたのだ。

 

 

 

「えちょっ!?」

 

 

「えぇ!?」

 

 

「え、え!お、『大いなる風よ』──!」

 

 

 

と、その男はシスティが点ばって叫びながらぶっぱなした【ゲイル・ブロウ】によって吹っ飛び、

 

 

 

「なんで俺飛んでんだァァァァ!」バッシャーン

 

 

 

キレイな曲線の軌道を描き、広場の噴水へと見事なダイビングを決めていた。

 

 

 

「……あーあ。やっちゃったな。システィ。」

 

 

校則で、俺達は基本学校外で魔術を使うのを禁止されている。理由は色々あるが……まぁ、一番は危ないからだろう。最も、その「危ない状況」を今まさに再現してしまった訳だが。

 

 

「ど、どうしよう……!」

 

 

「二人とも落ち着いて……。もう。」

 

 

ルミアが、わかりやすく焦るシスティをなだめてその男の方へ駆けていき、

 

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 

 

と声を掛けていた。流石は大天使ルミアエルである。

っと、俺もただ立ってるわけにはいかないな。

 

 

「大丈夫ですか?このアホが迷惑をかけまして……すみません。」

 

 

「すみません………って、誰がアホよ!」

 

 

突っ込むシスティを華麗にスルーし、男へ頭を下げる。

ルミアもシスティもそれに倣う。

 

 

「顔を上げたまえ少年少女達よ。俺なら大丈夫さ。ふっ……それより君達、怪我はないかい?」

 

 

 

全身切り傷擦り傷だらけのどうみても怪我をしている男からそう言われていた。

その男は精一杯爽やかな笑みを浮かべているのだろうが、ずぶ濡れの洒落た衣装を着崩している状態では全くカッコ良くない。しかもセットしていたであろう髪型も水でぐっちゃぐちゃになっており、端的に言うとダサかった。

 

 

 

「いや、あんたの方が大丈夫か?」

 

 

 

思わず突っ込んでしまったが、俺に非はないはずだ。

 

 

 

「全く……。急に飛び出すなんて危ないぞ?親の顔が見てみたいもんだよ。」

 

 

 

「いや、飛び出したのは貴方だった気がするんだけど……」

 

 

 

気がするんじゃなく事実だ。なんなら飛び出したって言うより突っ込んできてたな。

「どけガキ共ぉおお!」とか叫んでたし。なんなら進行方向全く変わんなかったし。

 

 

 

「で、でもシスティも魔術撃っちゃったでしょ?ちゃんと謝らないと!」

 

 

 

「そ、それもそうね。ごめんなさい。どうかご無礼をお許しください。」

 

 

 

「全くだよ。このグレン様が寛大な心の持ち主でよかったな!」

 

 

 

この男はグレンと言うらしい。

どっかで聞いたような名前だけど………まあ良っか。

 

 

 

「あーあ全く服がびしょ濡れだ。どうしてくれんだ。………うん?」

 

 

 

急に喋るのをやめたかと思えば俺をしばらく見つめ、ルミアをジロジロと見ていた。

 

なんだこいつ。変態か?

 

 

 

「あ、あの。私の顔に何か付いてますか?」

 

 

「なんですか?俺はそっち系の趣味はないんですが……」

 

 

「安心しろ俺もねえよ。ふむ…………」

 

 

 

戸惑う俺とルミアの様子を気にせず、ずいっと顔を寄せるグレン。

 

 

 

「うーん。お前らどっかで……見た気が………。」

 

 

 

首を傾げ、俺の頬を抓り、腰をさする。そしてルミアの体のあっちこっちを触る。

 

 

 

……………って!

 

 

 

「【何・しとんじゃ・アホ】──ッ!」

 

 

 

『フィジカル・ブースト』を改変して使い、目の前の変態(暫定)に回し蹴りを腰に放つ。

 

 

 

「ぎゃぁぁ!腰がぁぁ!」

 

 

 

そんな間抜けな声を出しながら吹っ飛び、生垣に突っ込むグレン(暫定変態)。

 

 

 

「…………あっ。」

 

 

 

やっべえ…校則で禁止されているのに魔術を使ってしまった。

しかも(恐らく)一般人に対して、だ。

 

 

 

「……………ヤベーイ!」

 

 

 

「って、あんたもやらかしてんじゃないの!」

 

 

 

ゴキッ!っという音がなるほど俺も蹴られ、グレンと同じ生垣に突っ込む。

おいシスティ魔術使ってないんだよな!?くっそ痛い上になんでこんなに飛ぶんだよ!

 

 

「ちょ、痛てぇ!なにしやがゴフゥ!」

 

 

抗議しようと声をあげるも、生垣へ頭から突っ込んだため、声が途切れさせられた。

 

 

「うごぉ……痛てぇ……」

 

 

 

「全くもう………。ってもうそろそろ行かなきゃ不味いわね……。」

 

 

 

「え、ええっと………。大丈夫?」

 

 

 

「あー。気にすんな。俺この人見とくから。先行っといてくれ。」

 

 

 

「わ、わかった!」

 

 

 

そう言って2人を先に行かせる。

 

 

 

(今日は遅刻確定だな。ったく、ついてないぜ。)

 

 

 

そう思って隣を見る。

 

 

 

「あー痛ってえ……。思いっきり蹴りやがって。」

 

 

 

そう言ってこっちを恨めしげに見てくるグレン。

 

 

 

「す、すみません。つい。」

 

 

 

「ったく。気をつけろよ?って、こんなことしてる余裕ねえ!初日から遅刻とかセリカに殺さされる!」

 

 

 

「セリカって……あのセリカ=アルフォネア教授ですか?」

 

 

 

「ん?ああ。」

 

 

 

「てことは貴方はなにか学園と関係が?」

 

 

 

「ああ。今日から非常勤講師として入ることになっている。」

 

 

 

これは驚きだ。まさかこの変態(確定)が俺のクラスの非常勤講師とは。

 

 

 

「じゃあ俺のクラス見てくれるんですね。」

 

 

 

「そうなのか?まあ見知った顔がある方がやりやすいし助かるわ。ほれ、早く行くぞ!間に合わなくなる。」

 

 

 

「いや、まだ時間ありますよ?」

 

 

 

登校時間までまだ少しある。これなら歩いても間に合うだろう。

 

 

 

「まじで!よかったぁ〜。んじゃちょっと寝るから起こしてくれ。」

 

 

 

そう言って寝始めるグレン。

 

ぶっ飛ばしてしまった手前、止められない。

 

 

 

「………まあ、おこせばいいか。」

 

 

 

そう思い、隣に腰を下ろした。

 

 

 

「あ〜。朝から疲れた…………。」

 

 

どうせ走ればいいし、俺もちょっと一休みを…………

 

 

 

______________________________________________

 

 

 

「それでてめえまで寝たら意味ねえだろうが!アホかてめえ!」

 

 

 

「うっせえ!先に寝んのが悪ぃんだろうが!」

 

 

 

そんな応酬をしながら学園への道を全力疾走する俺ら。

起こすはずの俺まで寝てしまったので結局授業開始時間を大幅にオーバーしてしまったのだ。

いつの間にか敬語が外れてしまったがそんなことを気にしてる余裕はない。

 

 

 

「だぁぁぁもう!朝から最悪じゃぁぁ!」

 

 

 

「そりゃ俺もだわ!」

 

 

 

そんなことを叫びながら校門を駆け抜け、廊下を疾駆する。

 

 

 

「お先に!」

 

 

 

そう言って先に進む。もう始業のチャイムが鳴り始めた。

 

 

 

「オレが先だっての!」

 

 

 

そう言いながら追い越すグレン。始業のチャイムはまだなり続けている。

 

 

 

そうやってギャーギャー言いながら体当たりをしたり、蹴り飛ばしあったりと邪魔をしあって教室へ着き、ドアを体当たりで開ける。

 

派手に盛大な音を立てて吹っ飛んで反対側の壁まで飛んでいく扉を尻目に、

 

 

 

「ふっ……俺の勝ちだ。」

 

 

 

勝利宣言をするグレン。

 

 

 

「くそっ!負けた!」

 

 

ちっ、負けたか。

別に勝負をしてたわけじゃないんだが………何か知らんが敗北感があるぞ!

おのれグレンの野郎………!

 

 

 

「どっちも負けに決まってるでしょうがぁぁ!」

 

 

 

システィの叫び声とともに俺らの頭に衝撃が走り、鈍器で殴られたような痛みが頭蓋に響く。

 

 

 

「「ゴハァッ!」」

 

 

薄れゆく意識の中でどうにか目線を上にやると、俺の頭には辞書が刺さっていた。

 

 

「おまえ……力強すぎだ……ろ…………」

 

 

ガクリと膝から力が抜け、そのまま倒れ伏した。

 

 

 

______________________________________________

 

 

 

「えー今日から1ヶ月間非常勤講師としてこのクラスを見ることになった、グレン=レーダスだ。よろしく頼む。」

 

 

 

グレンが復活したので授業が始まる。

グレンは自己紹介から入っていた。

…………あのずぶ濡れボロボロのスタイのままルで、だ。

 

 

 

「前置きはいいです。早く授業を始めてください。」

 

 

 

Oh。相変わらずの「教師泣かせのシスティーナ」だ。

 

今日もツッコミが冴えきっている。

 

 

 

「へいへい。えーっと。」

 

 

 

そう言って黒板へ向き直り、チョークで字を書く。

大きな字で、「自習」と。

 

 

 

…………えっ?

 

 

 

教室にいる生徒全員の思考が一致した。

 

 

 

「えー今日は自習にします。……眠いんで。」

 

 

 

さらっと物凄い理由を言いながら教卓へ突っ伏し、イビキをかきながら寝始めた。

 

 

 

(わーお。こりゃすげえや。)

 

 

 

ここまでやる気がないと一周まわって尊敬の念を抱くぞ。

ってかあんだけずぶ濡れなのによく寝れるな………

 

 

 

(まあいいや。俺も寝よう。)

 

 

 

かく言う俺も朝の騒動で疲れていたので、あっさり意識を手放し、眠りの世界へ入った。

 

 

 

システィのグレンに対する抗議を聞きながら。

 

 

「ちょ、あなたふざけないで!教師としての自覚はないんですか!」

 

 

 

……………うるせぇ

 

 

 

______________________________________________

 

 

 

錬金術の移動授業以外を寝て過ごした俺は昼食を摂るために食堂へと向かっていた。

ちなみに錬金術の授業は不幸な事故によりグレンが負傷し、中止になった。

っていうか間違って女子更衣室に入るとかなんだその主人公補正。うらやまけしからん。

 

 

「っと、早く食わないと時間なくなっちまうな。」

 

 

食堂で食事を適当に頼み、席を探してキョロキョロしていると、

 

 

 

「ここ座る?」

 

 

 

とシスティが声を掛けてくれた。

 

 

 

「いいのか?」

 

 

 

「私はいいわよ。ルミアは?」

 

 

 

「うん!むしろ一緒に食べよう?」

 

 

 

「んじゃ、遠慮なく。」

 

 

 

そう言ってルミアの前へ腰を下ろす。近かったし。

 

 

 

「んじゃ、いただきます。」

 

 

 

そう言ってパンにかぶりつく。

今日はずっと寝てたのであまりお腹が空いていない。

だからパンとシチューという簡単なメニューにしてある。

これで午後の授業中にお腹が空いたりするかもしれんが………その時はその時だ。

 

 

 

「しかしシスティ、お前もっと食わんと大きくならんぞ?」

 

 

 

主に胸とか。

一緒にいるルミアは大きいのに…………

 

 

 

「う、うるさい。眠くならないようにしてるだけよ。あと今ちょっとイラッとしたんだけど………気のせいかしら?」

 

 

 

システィはそういうが、どう考えても少ないと思う。

あと怖ぇな。なんだこいつ心でも読めんのか?

 

 

 

「失礼。」

 

 

 

そんな会話をしていると、隣の席にグレンが腰を下ろした。

グレンは手に持ったお盆いっぱいに乗った料理を持っていた。

 

 

 

「お、先生はいっぱい食うんだな。」

 

 

 

「よく食べるんですね。」

 

 

 

気さくに話しかける俺らに対し、

 

 

 

「………。」

 

 

 

終始無言を貫こうとするシスティ。

 

 

 

「まあな。食事は俺の数少ない娯楽の1つだからな。………にしても。」

 

 

 

そう言ってシスティへ向き直るグレン

 

 

 

「お前それで足りんのか?たくさん食わんと大きくならんぞ?」

 

 

 

「貴方も言うんですか……。私は眠くならないようにしてるだけです。最も、あなたの授業ならもっと食べてもいいかもしれませんがね。」

 

 

 

皮肉を混ぜながらそう言い返すシスティ。

だが、皮肉を華麗にスルーしつつ、サラダを食べている。

システィの額に青筋が立っているように見えるんだが………いいのだろうか?

 

 

 

「ふぅ〜ん。ま、お前がそう言うなら知ったこっちゃないが、」

 

 

 

そう言いながら自分の料理の皿を一枚システィの前に置く。

 

 

 

「……………なんですか?」

 

 

 

「別に?お前を心配してるとかじゃないけど?授業中に空腹で倒れられたら困るし?」

 

 

 

「は、はぁ。」

 

 

 

「まあなんだ、その。やるよ。それ。」

 

 

 

ぶっきらぼうに言っているが、多分この男は優しい人なんだろう。

そう思わせるには十分な行動だった。

少々捻くれてはいるが。

どっかで知った言葉の「捻デレ」ってやつに近いのかもしれん。目は腐ってないが。

 

 

 

「………ありがとうございます。」

 

 

 

「ふっ。俺に盛大に感謝しろよ?俺があげるんだからな!」

 

 

 

「………あぁもうやっぱこの男ムカつく!そこに直りなさい!」

 

 

 

「お、ちょっ!暴力反対!」

 

 

 

キンキンッという金属音が立つくらい激しくフォークで打ち合う2人。

周りに被害こそ出ていないが、ちょっと迷惑そうにしている。うーむ、可愛そうである。

だが…………

 

 

 

「なあ、ルミア。」

 

 

 

「うん?何?」

 

 

 

「こいつらさ、」

 

 

 

「……うん。」

 

 

 

「「仲いいな(よね)」」

 

 

 

そう言って再び目を向けると、グレンが俺の分のフォークまで使って戦っていた。

 

 

 

「ガーッハッハ!これで二刀流じゃぁい!」

 

 

 

「ちょっあんた!卑怯よ!」

 

 

 

「ハッハッハ〜!最終的に勝てばよかろうなのだァ!」

 

 

 

どっかの柱の男のような叫びをあげたりしながらギャーギャーと騒いでいた。

ってか俺まだ食ってる途中なんだけど。

 

 

 

「はぁ………。【投影】」ボソッ

 

 

 

取りに行くのも面倒なので、こっそりとフォークを投影する。

一応人前で使わないようにしているけど、まぁバレなけりゃいいだろ。

 

 

 

「うん。やっぱうまいな。ルミアも早く食った方がいいぞ?」

 

 

 

「あ、うん。」

 

 

 

食べながらルミアにそう言い、騒ぐふたりを気にせず食べた。

………いや気にしないようにしてるけどやっぱりうるせえな。

流石に止めるかな。

 

 

「おい二人とも、その辺にしといた方がいいぞ?」

 

 

「ぜえ……ぜえ……そうだな。」

 

 

 

「はぁ……はぁ……。そうね。」

 

 

 

「ほら、早くくった方がいいぞ?」

 

 

 

「「わかってるわよ(っつうの)」」

 

 

 

なんだかんだ息ピッタリな2人であった。

 

 

 

(………あれ?アラン君、フォークどこから出したんだろう?)

 

 




アラン「と、言うわけで第1話!どうだったかね?リメイク作品ってのもあるから前作とは大分違う部分があったと思うが………まぁ、そこも楽しんでくれるとありがたいぜ。」

グレン「次回もまだ第1巻の内容だな。この頃の俺、相当ひでぇなぁ…………」

アラン「今もそんな変わってねえだろ。寝てはいないけど。」

グレン「酷えなおい。まぁ否定出来ねえけど。」

アラン「だろ?って、そろそろ次回予告行っとくか」

グレン「了解。」

アラン「オーケー。じゃあ次回予告!
何時になっても寝たり適当な授業をするグレン。その教師とは思えない態度にシスティは怒り怒髪天。グレンに決闘を申し込むことに。その結果はいかに!?」

グレン「そして決闘をした後、アランは俺の過去について追求。一体なぜ俺の過去を………?」

アラン「次回、『ロクでなし魔術講師と投影者』第2話!」

グレン「『サボり魔の決闘』。次回をお楽しみに!………って、ナチュラルに俺ディスられんのな。」

アラン「しゃーねーだろ?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 サボり魔の決闘

アラン「よう皆。主人公のアランだ。」

グレン「同じくグレンだ。さて、今回も原作第1巻の話だな。」

アラン「あぁ。ここからちょっとづつだが前作と乖離する部分が出てくるから、そこも楽しんでくれると幸いだ。」

グレン「つってもそこまで大きく変わるのか?」

アラン「変わるとも。俺の過去とか、シロウのこととか、他にもいろいろ。」

グレン「へー。ま、そのへんは乞うご期待ってやつだな。」

アラン「そうだな。……おっと、そろそろ本編に行くとするか!」

グレン「おう!じゃ、第2話を」

「「どうぞ!」」


昼食が終わり、午後の授業が始まった。

 

だが、相も変わらずグレンは1時間どころか午後の授業を全て寝て過ごすんじゃないかと疑うほど爆睡していた。

 

さすがの俺でもこのままではやばいと思い、寝てるグレンに声をかけてみる。

 

 

 

「なあ先生。いい加減授業してくんねえか?流石にこのままだと次のテストとかやばいんだが。」

 

 

 

「へっ。知ったことかよ。どうせこんなろくでもないことしたって変わりゃしねえよ。そんなことより体でも動かせ。こんなことよりよっぽど有意義だぜ?」

 

 

 

「……まあ、そう言われちゃそうなんだが。」

 

 

 

俺はこの学園に通ってる割には魔術がそんなに好きではない。まあ嫌いではないのだが……どうにも苦手なのだ。

 

それは俺の魔術特性にも関係がある。

 

俺の魔術特性は「■■■■■の解析・改造」。何に対して効果を発揮するかも分からない上、仮に分かったとしてもどう考えても通常の魔術に合わないものなのだ。

魔術とは先人である魔術師達が何世代もの月日を欠けて完成させた術式であるので、下手に改造しようもんなら魔力の効率は落ちるわ威力は下がるわといいことなんて全くと言っていい程ない。

成功しさえすれば「固有魔術」として扱える程の規格外魔術なり得るのだが…………まぁ、普通はできない。

俺は「ちょっとした裏技」みたいなので一応固有魔術は持ってはいる。だが…………まぁ、あんまり使うことは無いだろうな。

話が逸れたが、ともかく俺の魔術特性は、魔術の特性なのに魔術に適してないという矛盾した性質のため、あまり魔術が上達しない。

どうにか初等魔術は習得したものの、それ以上はからっきしだ。

それに魔術を極めたからと言ってそれで食っていける確証がある訳でもない。

だが、それとこれとは話が別だ。なにせ単位が取れなくなる。

 

 

 

「でも最低限授業くらいはしてくれ。でないとわかんねえ。」

 

 

 

「……ったくしゃーねーな。授業してやるよ。みんな席つけ。」

 

 

 

みんながほっと息をつく音が聞こえる。

まあみんな不安だったんだろうな。

 

 

 

「では授業を始める。えーっとここか?」

 

 

 

授業が始まった。……始まったのだが、

 

 

 

「ここは〜まあこうじゃないかな?でここが多分こうで、んでもってこっちは恐らくこうだと思われる。」

 

 

 

………こんな感じでぐだぐだと教科書を読むだけという授業(笑)としか言えないようなものだった。

 

しかもわかりづらい。これなら自習してた方がマシだったわ…………

 

そんなこんなで1時間たち、最終授業終了のチャイムがなる。

 

 

 

「お〜っともうこんな時間か。では諸君、さらば!」

 

 

 

と言って颯爽と姿を消した。

 

 

「な、な………なんなのよアイツぅううううう!」

 

 

空っぽの教壇に向け、システィの魂からのツッコミが刺さった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「………あ〜もう!なんなのあいつ!どんな先生かと期待してみたらただのロクでなしじゃない!」

 

 

 

帰り道でシスティがそう言う。

 

魔術がそんなに好きじゃない俺でもちょっとイラッと来たくらいだ。

 

生粋の魔術師であり、メルガリアン──メルガリウスの天空城の秘密に焦がれる人種である彼女にとってはまさに腸が煮えくり返るほどの怒りであろう。

魔術を「そんなもの」呼ばわりしてたし。

 

 

 

「うーん。これはちょっとね。」

 

 

 

優しいルミアでさえこの反応と苦々しい顔だ。

明日教室でテロが起きても不思議じゃないくらいの不満をみんな持ってるだろう。

 

 

 

システィ「とにかく明日、ビシッと厳しく言ってやらなくちゃ!」

 

 

 

「おうおう!言ってやれ!」

 

 

 

そんな軽口を叩きあいながら歩いていると、朝待ち合わせをした広場に差し掛かった。

 

 

 

「んじゃ、俺こっちだから。」

 

 

 

「うん。また明日ね!」

 

 

 

「じゃあねアラン君、また明日!」

 

 

 

「おう。また明日。」

 

 

 

そう言って美少女2人と別れ、自分の家へと足を向ける。

 

しかしあれだな。システィは勿体ねえなぁ。

顔もスタイルもいいのに男ウケが悪いのは。

まあ俺からすれば見る目がないと思わざるを得ないのだが。

 

 

「しかし、グレン=レーダス。ねぇ………」

 

 

なんか頭の片隅に引っかかる名前だな。

どっかで聞いたことあるような気が…………

 

 

そんなことを考えながら歩いていたからだろうか。

前から飛んでくる槍──いや、これは剣か!?

気づくのが遅れてしまったがこれはまずい!

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

慌てて横に飛んで回避する。

 

すると前から強烈な殺気が飛んできていることに今更気がついた。

こんな殺気に気が付かなかったなんて、俺もまだまだ鍛錬が足りんということか。

 

 

 

「【投影】!」

 

 

 

遅れを取ってしまったが、手元に赤き槍『ゲイ・ボルグ』を投影させながら、引き続き飛んでくる矢を躱す。

ゲイ・ボルグから『記憶』を引っ張りだそうかとも思ったが、その場しのぎにしかならないと判断し、断念。

代わりにお返しとばかりにゲイ・ボルグを矢が飛んできた方に投げるが、当たった感触はない。

次の矢に用心しながらも、次は接近されてもいいように刃を付与した弓を投影する。

 

 

 

「さあ、どっからでもかかって来やがれ!」

 

 

 

威勢よく放った声を聞いたのか、男が思いっきり切りかかってきた。

その男は赤いコートを身に纏い、手に双剣を持っていた。

というか案の定シロウだった。

そりゃまぁこんな場所で切りかかってくるクレイジーな野郎はシロウくらいしかいないしな。

 

 

 

「ふむ。腕は鈍っていないようだ。それどころか上達したか。鍛錬は怠っていないようでなによりだ。しかし、最後のは頂けないな。大声を出すのは悪手だ。」

 

 

 

「ご助言どうも。にしても、もうちょっとマシな確かめ方はないのか?」

 

 

 

「すまないがこれ以外思いつかん。それに、これが1番手っ取り早かろう?」

 

 

 

「まあな。」

 

 

 

「だろ?さ、帰るぞ。アラン。」

 

 

 

「はいよ。」

 

 

 

お互い投影してた武器を消し、家路につく。

──────────────────────

 

 

 

「そういえば今日非常勤講師が来たんだが、凄いやつだったぞ。」

 

 

 

夕食が終わってゆっくりしていたシロウにそう切り出すアラン。

食後の紅茶をすすっていたシロウはカップを置き、水面を少し見つめてから答えた。

 

 

 

「知っているぞ。グレン=レーダスだろう?」

 

 

 

「なんだ、知ってたのか。知り合い?」

 

 

 

「知り合い………というか、元同僚だ。軍属時代のな。」

 

 

 

「へぇー……って、すごい経歴だな。そんな凄そうには見えなかったぞ?」

 

 

 

「だろうな。なにせアイツは軍属時代から魔術の腕はさっぱりだったし。」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「あぁ。だが、アイツは魔術に対する造詣は人一倍凄い 。明日聞いてみるといいさ。」

 

 

「了解。っと、宿題しなきゃな。んじゃ、おやすみ。シロウ。」

 

 

「あぁ。おやすみ、アラン。」

 

 

アランが姿を消した後、シロウは呟く。

 

 

「全く。本当にアイツは変わらんな。」

 

 

──────────────────────

 

 

 

次の日学校へ行っても、グレンの態度は変わらなかった。

 

それどころか日に日に悪化し、最近では教科書を日曜大工よろしく黒板に打ち付けている。

そんなグレンについに堪忍袋の緒が切れたシスティがグレンに決闘を申し込んだ。

 

 

 

「……お前、正気か?」

 

 

 

「ええ。その代わり、私が勝ったら今までの態度を改め、真面目に取り組んでもらいます。」

 

 

 

「全く……。こんな決闘なんざ持ちかける骨董品がまだ残ってたなんてな……。いいぜ。受けてやる。後悔すんなよ?」

 

 

 

 

 

そんなこんなで全員中庭に移動し、システィとグレンの勝負を見守った。

 

……のだが。

 

 

 

「【雷精の紫電よ】──!」

 

 

 

「ぎゃぁあああ!」

 

 

 

始終こんな感じで終わった。

 

 

 

しかもグレンは負けたのにも関わらずあろうことか約束を反故にしたのだ。

 

これにはシスティの怒りが大爆発。

 

またもや口論をしながら本日の授業も終わった。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

次の日も、そのまた次の日も全く態度を改めないグレン。

 

だが一応学校には来るし、授業をする。

 

ここ最近ではもうグレンに対する信頼は0に近く、みんな思い思いに自習をしている。

 

そんななかでもグレンに質問に行くリン。

 

そんな生徒に対するグレンの返答は

 

 

 

「これ、辞書な?これで調べろ。」

 

 

 

簡潔に言うとこんな感じの塩対応。

 

 

 

「こいつに何聞いても一緒よ。こいつは魔術の崇高さを全く理解してないもの。それどころか馬鹿にしてるわ。さ、一緒に勉強しましょ?」

 

 

 

もはやシスティでさえこんな対応。

 

「全員に諦められてる」。これがグレンの現状だ。

 

そんなグレンだが、いつもなら「へいへい。」と言わんばかりにスルーし、ふて寝しているはずの発言。

 

だが今日に限っては、なぜかスルーしなかった。

 

 

 

「魔術って、そんなに偉大なもんかね?」

 

 

 

教室が凍りついた。

 

 

 

「え……?」

 

 

 

流石に困惑するシスティ。

そんなシスティの態度なんて意に介さず、言葉を続ける。

 

 

 

「この世で術と付くものは必ずと言っていいほど人の役に立ってる。医術がなければ大勢人が死ぬ。農耕技術があるから作物は育つ。冶金術があるから包丁やらが作れる。だがどうだ?魔術はなんの役に立ってる?」

 

 

 

「そ、それは……。」

 

 

 

「あー皆まで言うな。わかってるよ。魔術はとっても役に立ってる。」

 

 

 

そう言うと、グレンは口を釣り上げ、どこか自嘲気味に言葉を紡ぐ。

 

 

 

「『人殺しの道具』としてな。」

 

 

 

その瞬間、時間が止まったような気がした。

 

 

 

「普通の兵士が10人殺すあいだに、魔術師は100人殺せる。大勢の兵士をいっせいに焼き払うことも出来る。ほら?役に立ってるだろ?」

 

 

 

「そ、そんなこと………!」

 

 

 

「反論できるか?できないよな?しかもその恩恵は自分にしか帰ってこない。だったらそんなもんはただの趣味だ。ただの自己満足でしかない。」

 

 

 

言い返せない悪魔の証明のような言葉が続く。

確かに、その主張は間違ってはいない。

魔術とは表裏一体であり、力そのものだ。使い方によっては、万物に対して牙をむく。

だが、それだけではないのも事実だ。

 

 

「おい、その辺にしといてくれないか?」

 

 

 

「いーや。言わせてもらうね。過去の戦争でも魔術は大活躍したさ。大勢の兵士を殺す意味でな。ほらみろ。魔術なんてろくなもんじゃ……」

 

 

 

俺の静止を振り切り、言い続ける。

だが、そこまでいったグレンはようやく気づく。

目の前の少女が目に涙を浮かべ、必死に睨んでいることに。

 

 

 

「ま、魔術はそんなもんじゃ……ない……」

 

 

 

消え入りそうな声でグレンに意見していることに。

 

 

 

「なんで……そんなことばっかり言うの……。あんたなんて……大っ嫌いよ………!」

 

 

 

そう言って勢いよく教室を出て行くシスティ。

 

 

 

「シ、システィ!」

 

 

 

慌ててそれを追いかけるルミア。

 

 

 

「………チッ………。」

 

 

 

重苦しくなった教室の雰囲気に舌打ちをするグレン。

 

重苦しい空気の中なった終了のチャイムは、いつもよりも大きく、寂しげに聞こえた。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「はぁ……。なんだかなぁ………。」

 

 

 

ため息をつきながら1人帰り道を行く。

 

クラスの雰囲気が重苦しいわシスティもルミアもいないわで結局1人で帰るハメになってしまった。

 

 

 

「グレン探したけどいなかったし……。そのせいで遅くなったし。全く………。ん?あれは。」

 

 

 

愚痴を零しながら歩く道の先に、二人分の影が見えた。

 

 

 

「ルミアにグレンか。」

 

 

 

なぜ一緒なのかは分からないが、グレンに用があったのだ。丁度いい。

 

広場でルミアと別れたグレンに声をかける。

 

 

 

「うっす。先生。」

 

 

 

「なんだ。今度はお前か?今回は蹴ったりしないよな?あれ痛いんだぞ?」

 

 

 

「知ってますよ。今日は別件です。」

 

 

 

「あぁ?なんだよ急に敬語なんざ使って。金なら貸さねえぞ?俺もピンチなんだ。」

 

 

 

俺の真剣さを茶化すように話すグレン。

 

 

 

「用事って言うのは……真偽を確かめに来ました。グレン先生。いや、『愚者』さん。」

 

 

 

グレンの纏う雰囲気が氷のように冷たくなった。

 

 

 

「てめえ……。なんでそれを知ってる。」

 

 

 

「簡単なことですよ。覚えてますか?あの組織であった実験のこと。」

 

 

 

「…………。ってことはあれか。お前、『弓兵

』の坊主かよ。」

 

 

 

「やっぱり間違いなかったか。………なぁ、ちょっと昔話をしてもいいか?」

 

 

 

「ああ。聞いてやるよ。聞いてやるが…………条件がある。」

 

 

「なんです?条件って。」

 

 

「………アイツに。シロウにも会わしてくれや。」

 

 




自らの過去を語るため、グレンを家に招くアラン。
シロウと対面したグレンは懐かしさに身を置きながらも、アランの過去について詳しく知ることになる。
アランの過去とは一体?
そしてアランの名にある秘密とは?
次回、ロクでなし魔術講師と投影者、第3話。「過去の記録」。
次回をお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 過去の記録

アラン「よっ。平成最後の投稿から引き続いて令和初投稿達成だ!」

グレン「令和初投稿にしちゃ結構重い話だが…………いいのか?」

アラン「それに関しては作者からプラカードを預かってる。えーなになに?『本当は明るい話の方がいいのは分かってたが………話の流れ上仕方がなかった。申し訳ない。』だってよ。」

グレン「まぁ、投稿遅いせいでこの時期に被っちまってるわけだし。完全に自業自得だがな。」

作者「非常に申し訳ない。できるだけ早い更新を心がけて行きますので、よろしくお願いします。」

アラン「急に出るなよ作者……。まぁいいや。さて、若干重めの第3話、『過去の記録』。」

「「「どうぞ!」」」


「着いたぞ。ここが俺んちだ。」

 

 

「へぇ〜。『Cafe アイアス』か。小洒落た店構えてんな、アイツ。」

 

お似合いっちゃお似合いだな、と零すグレンを後目に、ドアを開く。

チャリン、という軽やかな鈴の音と共に空いたドアの近くに、シロウが立っていた。片手に布を持っている辺り、恐らく窓拭きでもやっていたんだろう。

 

 

「おかえり。アラ……ン…………」

 

 

シロウはたっぷり5秒ほどこっちを見て硬直し、はぁっと大きなため息を吐く。そして、忌々しげに俺の後ろのグレンを睨むように見遣り、毒を吐く。

 

 

「アラン。家じゃそんな大きなバカ犬は飼えん。さっさと捨ててこい。」

 

 

「おいコラてめぇ。それが久々に会った奴に対する態度かよ?」

 

 

「冗談だ。で、なんの用だ?用がないなら帰りたまえ。」

 

 

「ったく。相変わらず口の悪い野郎だぜ。」

 

 

「それはお互い様だろう?」

 

 

互いに数秒睨み合い、ふっと笑う。

数年来の邂逅だったが、どうやら上手くやれたようだ。

 

 

「で、本当に何の用だ?まさか、お前ともあろうものがわざわざ俺の顔を拝みに来たわけでもあるまい?」

 

 

「誰がお前のしかめっ面見るために来るかよ。コイツに言われたんだよ。過去の話がしたいって。」

 

 

そう言い、俺の肩を叩くグレン。

怪訝そうに見るシロウを見て、俺も覚悟を決める。

……俺も理由を話さなきゃいけないな。

 

 

「だってシロウ、俺にまだ教えてくれてないじゃん。あの事件で何があったとか。」

 

 

ビシリ。と、空間にヒビが入ったような錯覚を覚える。

そして様々な感情がないまぜになった表情をシロウは浮かべる。

 

 

 

「…………話せる部分は話したじゃないか。」

 

 

「でも、全部じゃないだろ?」

 

 

俺の言葉を聞いたシロウはバツの悪そうな表情を浮かべた後、苦しげに続ける。

 

 

「それはお前がまだ小さかったから……」

 

 

「じゃあ今ならいいいな?」

 

 

「…………………………………」

 

 

シロウは黙り込む。

そして、頭を抑えて悩んだ。

やがてひとつ深呼吸をし、何かを決意したように言う。

 

 

「本当にいいんだな?」

 

 

「あぁ。勿論だ。」

 

 

「…………良いだろう。資料をとってくるから居間で待っておけ。グレンもな。」

 

 

覚悟を決め、2階へと上がって行くシロウを見送り、グレンと2人で居間に移動する。

俺がお茶を準備しながら、グレンに謝る。

 

 

「…………すみません。先生。俺の勝手に巻き込んじゃって。」

 

 

「別に構いやしねぇよ。あと今更敬語使わんでいいぞ?俺は気にしねぇし。」

 

 

「………あぁ。すまんな。」

 

 

「気にすんな。それに、俺もお前の過去には興味があるしな。」

 

どこか暗い目をしたグレンは、真っ直ぐ前を見つめる。いや、目線こそ前を向いているが、何処を見ているという訳でもない。何か、ここではないどこかをみている様な…………

 

 

「待たせたな。」

 

 

グレンの目線について考えていると、シロウが分厚い封筒を持ってきた。仕方ないので思考を中断し、シロウへ向き直る。

 

「まずお前の過去について、単刀直入に言おう。お前は───────────

 

 

 

 

 

 

 

 

人間じゃない。」

 

グレンはかなり驚いたようだが、俺は知っていたため、ショックを受けただけだった。いや、結構ダメージ入ってるな。

多分、普段から周りのシスティやルミア達のような「普通の人間」と一緒に生活しているから、改めて突きつけられた現実に理解はできても感情が追いつかないのだろう。

 

 

「お前の正体は人間ではなく、人造人間。平たくいえば、ホムンクルスの様な物だ。」

 

 

「ちょ、ちょっと待て。コイツがホムンクルスだって!?ありえねぇだろ!?」

 

 

「あぁ。普通に考えれば『こんなホムンクルスはありえない。』あくまで、普通に考えれば。だがな。」

 

 

1口紅茶を飲み、舌を湿らせてから更に事実を告げる。

 

 

「だが、アランを作った組織は、あの『天の知恵研究会』だ。」

 

 

天の知恵研究会。それはこの国に古くから存在する組織であり、魔術を使って色々悪いことをやってるクソ組織のことだ。

グレンやシロウ、そしてアルフォネア先生がかつて所属していた宮廷魔術団はそいつらとも戦っていたため、なにかと縁の切れない組織でもある。

 

「あのクソッタレ組織かよ………!考えるのも癪だが、アイツらなら造れても可笑しくねぇ。」

 

 

「あぁ。そして、その同機だが…………これはアランにも話してない。覚悟はいいか?」

 

 

「………あぁ。」

 

 

ふぅっともう一度息を吐き、シロウはとんでもない事実を告げた。

 

 

「アランの身体は『聖杯の欠片』が入っている。有り体にいえば、『器』としての機能を有しているんだ。」

 

 

「「………………は?」」

 

 

 

ハンマーでぶん殴られたような衝撃が頭を襲う。

 

 

「俺が…………器?」

 

 

「そうだ。」

 

 

鷹揚に頷くシロウは、俺に更なるショックを与える。

 

 

「器として作られたアランには、本来なら『魂を喰らう』性質があるはずだったんだ。最も、アランは所謂『失敗作』だったらしいがね。」

 

 

そう言って、封筒から一札の資料を出す。

目を通すと、そこにはとんでもないことが書かれていた。

 

 

「『Project;Grail&Servant』(英雄召喚)………だって………?」

 

 

「か、『過去の英雄をそのまま現代へ蘇らせる術式』……だと!?」

 

 

「嘘だろ!?もしそんなことが可能なら………!」

 

 

「あぁ。天の知恵研究会に英雄がぞろぞろと連なるだろうな。」

 

 

「なんでこんなことを今まで黙ってたんだよ!」

 

 

グレンはシロウの胸元をつかみ、捻りあげる。

しかし、シロウは余裕の表情を崩さない。

 

 

「落ち着け。よく資料を読んでみろ。」

 

 

読んで書いてあることを要約すると、どうやら俺は本当に失敗作らしい。というか、『放棄せざるを得なかった完成品』と言った方が近いかもしれない。

完成目前だったらしい俺の体に自我、つまり今の俺の意識が芽生え、反逆。そのまま逃げ出したらしい。…………記憶にはないが。

んで、結果的に意識が芽生えるという結論に至って欠陥が発覚。そのままプロジェクトは凍結、ってなったってことらしい。

 

 

「とすると、俺に子供の頃の記憶が無いのも?」

 

 

「恐らく、作られた存在だからだろうな。」

 

 

「名前んとこの空白は?」

 

 

「実験中に呼ばれていた名前、もしくは素体の元となった遺伝子の人物の名残だろうな。」

 

 

「…………そうか。」

 

 

正直いって、いい気分はしない。

俺が造られた存在だとかそんなのはどうだっていい。

だが人間としてではなくモノとして、しかも他人の犠牲となることを前提に造られた『死体』だと言うことだけは、どうしても容認できない。

 

 

「………大丈夫か?アラン。顔色が悪いが。」

 

 

「あ、あぁ。確かにショックだったが…………ま、大丈夫だ。」

 

まだいやーな気持ちは残っちゃいるが………まぁ、問題ないだろう。

それに、シロウは俺の過去を知りながら普通に接してくれた。それだけで充分だ。…………恥ずかしいから口に出しては言わねぇけど。

 

 

「俺の過去はだいたいわかった。サンキューなシロウ。話してくれて。」

 

 

「…………………いや、礼には及ばないさ。俺もそろそろ話しておいた方がいいと思っていたところだったしな。ちょうどよかった。」

 

 

「そっか。」

 

 

「あぁ。よし。そろそろご飯にするとしよう。グレンもせっかくだし食べて行くといい。」

 

 

「あぁ。そうさせてもらうわ。」

 

 

こうして俺の過去を知れたし、グレンとも仲良くなれた。めでたしめでたし、だな!

 

 

 

 

───────────────────────

 

その夜。

グレンとシロウは酒を飲みかわしていた。

アランは既に就寝しており、この家で発せられた音はグレンとシロウ2人だけのものだった。

 

 

「なんだよ、珍しいな。お前から酒に誘うなんて。」

 

 

「いや、ちょっと、な。」

 

 

どうにも歯切れの悪いシロウ。

軍属時代にもあまり見せなかったような態度に痺れを切らしたグレンは、核心を付く問を投げる。

 

 

「アランのことか?」

 

 

「………………あぁ。」

 

 

「やっぱりな。お前のことだ。変になんか隠してると思ってたぜ。んで、何を隠してたんだ?」

 

 

「…………これだ。」

 

 

そう言うと、懐から1枚の写真の様なものを取り出す。

写真には紋様のようなものが白黒で描かれており、まるでレントゲンのようにも見えた。

 

「これは………『』か?」

 

 

セラフィスマップ。それは、人なら誰しも持っている「魂紋」を形として表した図のことだ。

個人個人によって当然魂紋は違うので、パッと見て一概に違和感があるとは言えない代物だ。

だが、アランの魂紋は明らかに『異常』だった。

 

「な、なんだこりゃ!?魂が……………魂が半分ねぇじゃねぇか!!」

 

 

そう。アランのセラフィスマップは半分が真っ黒に塗りつぶされたように何も無かったのだ。

人によってパターンが違うといえど、半分しかない状態では本来、人は生きていけるはずがない。

 

 

「違う。半分しかない訳では無いんだ。正確に言えば、『半分に押し込められている』んだ。」

 

 

「なんでだ!?なんでこんなことに!?」

 

 

「わからん。だが、アイツは元々『器』として作られている。だったら……………」

 

 

「まさか!あのスペースは『別人の魂を入れる場所』か!?」

 

 

「断定はできんがな。その可能性も有り得る。なにせ資料にも何も書いてなかったからな。」

 

 

「………成程な。それでアランには言いたくなかったって訳か。」

 

 

「そういうことだ。だが、お前ならば話してもいいと思ったのでな。」

 

 

「へっ、随分と信頼されてるようだな。」

 

 

「まぁな。お前なら信頼してアランを預けられる。」

 

 

「………あーもう。なんか調子狂うな。」

 

 

皮肉を素直な感情で返され、気恥しさを覚えたグレンはそっぽを向き、一気に酒を煽って顔の赤さを誤魔化す。

その様子を可笑しそうに見ながら酒を飲み終わり、シロウはグレンに釘を刺す。

 

 

「だが、気をつけてくれ。お前は昔からトラブルに巻き込まれやすいからな。お前のことだ。万が一にもないとは思うが………」

 

 

「わーってるよ。一々言わなくてもいいっつうの。」

 

 

「そうか。それならよかった。」

 

 

しばし無言で酒を飲む時間が続く。

 

 

「じゃ、俺帰るわ。明日も仕事だからな。」

 

「あぁ。それではな。グレン。」

 

「あぁ。」

 

 

やがて2人で1本の酒瓶を空けた後、グレンは別れを告げて家へと帰った。

 

 

「はぁ………。酒のせいか。随分と俺らしくないことをしてしまったな。」

 

 

シロウは空っぽの酒瓶とグラスを片付け、眠りに着く前に空を見上げる。今宵は何の因果か月は半分欠けており、もう半分は闇夜に隠れてしまっていた。

満月には力が宿ると言われている。果たしてアランという半月が満月になった時、どうなるのか。

そんなことを考えてしまった思考を振り払い、床へ着く。

居間に残されたのは僅かな酒の匂いと、半月の照らす弱々しげな月光だけだった。




若干の疑念を残しながらも過去を知ったアランとグレン。
秘密の過去を共有したことで親睦を深め、信頼しうる間柄になったことがきっかけか、講師としての手腕を遺憾無く発揮するようになったグレン。
順調に回り始めた彼らの日常だったが、そこに忍び寄る不穏な影が………!
次回、「ロクでなし魔術講師と投影者;Remake」、第4話。『覚醒!の講師』
次回の更新をお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 Wake up 講師!

お久しぶりです。
最近全く時間取れずにこんなに遅くの投稿となってしまいました。申し訳ございません。


アランが自分のことをグレンに話した次の日。

アランはいつものようにシスティーナとルミアと一緒に登校していた。

 

「………またあいつの授業とも言えないものを受けなきゃいけないのね………。」

 

憂鬱そうにそうこぼすシスティーナ。

真面目な彼女にとって、授業をサボるという選択肢は初めから存在しない。

だから、行くしかないのだ。

しかし、どう考えてもグレンのあの授業は苦痛でしかないはずなのに、横を歩く2人は全然そうは見えなかった。

 

 

「ま、多分大丈夫だぞ。」

 

「うん。きっと大丈夫。」

 

 

それどころか、信頼したように安全を保証する始末。

なにか知っていそうな雰囲気出す2人を見たシスティーナは少し考え、とりあえずは信じることにしたのだろう。

 

 

「………はぁ。2人がそう言うなら今日は見てやろうじゃないの。」

 

 

そう言って観念したかのようにため息を吐いた。

 

 

「なんだかんだ言って仲良いくせに。」

 

「仲良くなんか無いわよ!あんなやつ!」

 

 

フンッと鼻を鳴らし、そっぽをむくシスティーナ。

 

 

「悪かったって。」

 

「でも先生と1番話してるのってシスティだよ?」

 

「大半お説教だがな。」

 

 

アランが茶々を入れるが、実際そうである。

他の生徒は完全に無視を決め込んで授業中に自習をしているので、誰も話さないのだ。

グレンが学院で話すのはここにいる3人とセリカくらいであろう。

 

 

「それはあいつがしっかりしてくれないからよ。してくれるんなら説教もしなくてすむし。清々するわ。」

 

「やれやれ。素直じゃねえなぁ。」

 

「何か言った?」

 

「何も。ほら、教室ついたぞ。」

 

 

そう言って教室に入ってそれぞれが席につく。

アランはいつものように睡眠に………入らず、教科書とノートを机に準備していた。

 

 

「………どうしたの?頭でも打った?」

 

「なわけあるか。授業の準備だよ。今日は授業あるだろうし。」

 

「ふん。あいつに限ってそれはないね。」

 

「お、なんだギイブル。お前もそう思っちゃうか?」

 

 

鼻で笑い、冷静に言うギイブル。

 

 

「あいつはやる気がないんだ。アランだって今までの態度を見てただろ?なら、期待するだけ無駄だよ。どうせ授業にも遅れてくるさ。」

 

 

この教室にいる殆どの生徒の気持ちを代弁した発言に、アランは笑って答えた。

 

 

「ま、多分大丈夫だ。なんせあいつは、『先生』だからな。」

 

 

 

ガラガラガラ!

 

 

 

アランが言い終わったタイミングを図っていたのだろうか。

初日に吹っ飛ばされたが後に直されたドアが音を立てて開く。

はて、まだ来てない生徒は居ただろうか?

みんながそう思ってドアの方を見ると……グレンがいた。

しかも、授業開始前に。

どうしたのだろうかとみんなが小声で話していると、ツカツカと靴の音を鳴らしてグレンが歩き、システィーナの前に立つ。

 

 

「………なによ。まだ魔術はくだらないと言うのかしら?」

 

 

システィーナは喧嘩も辞さないという覚悟でそう問いかける。

だが、グレンは一切なにも余計なことは喋らず、腰を折り、頭を下げた。

 

 

 

「………昨日は悪かった。」

 

 

 

それは一般的にいう謝罪の意を示す行動。つまり、謝ったのだ。

 

 

「………え?」

 

 

謝られた本人も驚きを隠せず、きょとんとしている。

それどころかクラス全員がその行動に驚き、目を丸くしていた。

 

 

「ほら、なんだ。俺は魔術なんて大っ嫌いだが……それを押し付けるのは子供っぽいっていうか大人気ないっていうか………。とにかく、悪かった。すまない。」

 

 

そう言って答えを聞かずに移動し、腕を組んで黒板に寄りかかって目を閉じた。

クラス全員。いや、アランとルミアを除いた全員が今までのグレンからは考えられないような行動に度肝を抜かれて小声で騒ぐ。

ちなみにルミアは期待の目でグレンを見つめ、アランはニヤニヤしながら事の顛末を見守っていた。

そして刻々と時間は過ぎていき、授業開始のチャイムが鳴った。

 

 

「さて、授業を始める。」

 

 

驚く生徒を尻目に時間ぴったりにそう宣言したグレンは教卓にある教科書を手に取り、パラパラとページを捲っていく。

だが、捲る度にどんどん顔が苦くなって行き、額から汗が流れ、限界が来たのか教科書を閉じた。

 

 

 

「なんじゃこれ!そりゃぁ!」

 

 

そう言って窓の外へ教科書をぶん投げた。

ああ、なんだ。いつも通りだったか。

各々そう思い、自習の準備をしようとすると

 

 

「さて、お前らに言っとくことがある。」

 

そう、声を出した。

そして口角を釣り上げ、心底バカにしたような声音でこう言った。

 

「お前ら、本っ当に馬鹿だな?」

 

と。

そう言い出し、グレンは「本当の授業」を開始した。

 

────────────────────────

 

 

 

「こんな授業があったのか」

 

 

授業を受けている生徒は全員こう思った。

最初に扱った呪文は「ショック・ボルト」。

基礎中の基礎の魔術で、あんまり魔術が得意でない俺だって使える魔術だ。

普通の講師ならば「これはこう唱えたら出てくる」くらいしか説明しないこの魔術。

 

だが、グレンは違った。

 

この魔術の威力調整やら射程の変え方を実際に見せてくれた。

そしてなによりもわかりやすい。

魔術が得意でない者はわかるように。

得意な者はより理解が深まるように。

そんな授業だった。

当然こんなハイレベルな授業をしたのだから数日もしないうちに評判になった。

日を追う事にグレンの授業に参加する人が増え、教室が少々窮屈に感じるほど参加者が増えていったが、当の本人は全く気にせず授業を続けていた。

だが………

 

 

 

「じゃぁこの呪文のここを変えたらどうなるか?アラン。答えろ。」

 

「あの、俺に当てる回数多くないっすかね?」

 

「ふっ。俺はお前の為を思ってだな」

 

「嘘つけ。てか俺以外にも当てろよ。不公平だろ?」

 

「ぶっちゃけお前くらいしかこれを初見でわかるやつ居ねぇよ。」

 

 

俺ばかりに当ててくるのだ。

別にそれだけなら構わないのだ。実際わかってるのは事実だし。

だが、いちいち当てられると地味に面倒臭い。ノートも取る時間減っちまうしな。まあそこはシスティとルミアが見せてくれるからなんとかなるのだが。

と、そうこうしているうちに本日も授業が終わり、下校となった。

 

 

「やれやれ。今日も疲れたなぁ……。お前ら明日ちゃんと来いよ?」

 

 

明日は休日だが、授業がある日だ。

例のヒューイ先生が辞めた分の埋め合わせである。

 

 

「貴方こそ遅れないようにしなさいよ?」

 

「けっ。分かってるよ『白猫』。」

 

 

白猫というのはグレンがシスティにつけたあだ名だ。

なんでも髪の色といつも着いてる猫耳みたいなのからつけたらしい。本人曰く、ふっと思いついたとか言っていた。正直賛同できる。怒った様子とかもどこか威嚇してるネコを連想させるしな。

 

 

「私は猫じゃないって何度言えば分かるんですか!だいたいさっきの授業だって魔術に対する敬意が」

 

 

だが本人はあまり納得していないようで、言われる度にああなっている。正直諦めて受け入れた方が良いのではなかろうか?

 

 

「だ〜もうやかましいわ!ほら、さっさ帰れ!じゃあな!」

 

 

そう言い残してダッシュで教室を後にするグレン。

 

 

「あっコラ!………もう。いつもこうなんだから。」

 

「あ、あはははは。まあ、先生だしね?」

 

「ま、さすがに遅れはしないだろ。遅れたら流石にベストオブアホエストの称号をくれてやるわ。」

 

「それもそうね。見てなさいよ〜!明日こそ魔術についての敬意を……!」

 

 

そう意気込むシスティをみて、クラス全員「ああ、いつも通りだな。」と思ったそうな。

 

────────────────────────

 

 

 

そして次の日。

本来ならばこの曜日はゆっくりと起床し、遅めの朝飯を取っているはずの休日。

だがアランは朝起きてから人生最速とも言えるスピードで制服に着替え、通学路をダッシュしていた。

 

 

「やっべ!完全に寝坊じゃい!」

 

 

そういいながらダッシュするアラン。

今日からシロウが食材調達で釣りに出かけるということをすっかり忘れ、グースカと授業開始時刻まで寝こけていたのだ。

昨日アホの称号をくれてやるといった発言が完全にブーメラン発言となっていた。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!間に合わねえってか間に合ってねえ!」

 

 

授業開始から20分程過ぎてから学校に着き正門を潜ったアランは、自身に『フィジカル・バースト』を掛け、思いっきり地面を蹴る。

 

 

「セイハァアアーーーー!」

 

 

蹴った勢いで教室よりちょっと上まで飛び上がり空中で回転。体制を整え、慣性に従ってそのまま窓に突っ込んだ。

 

 

ガッシャーン!

 

 

大きな音を立てて割れて飛び散るガラスと共にアランは教室へ到着した。

が、様子がおかしい。いやどう考えてもおかしいのは彼なのだがそれは置いておくとして。

普段ならば授業が始まっているか喋りながらも自習なりなんなりをしている時間なのだが今日は違った。

クラス全員ロープと札でぐるぐる巻きにされていたのだ。

 

 

「………そういうプレイか?変態だな。」

 

 

「「この状況でそれを言うお前には言われたくねえよ!」」

 

 

遅刻、器物破損、変態のレッテル貼り。

この3つを器用に同時にやってのけたベストオブバカエストは、クラスメイトに盛大に突っ込まれた。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

なぜこんなことになったか。

それは遡ること10分前。

 

 

「………遅い!」

 

 

授業開始のチャイムが鳴ってしばらくした教室で、額に青筋を立てたシスティーナが叫んだ。

昨日注意をしておいたグレンがまだ来てないのだ。

それに、「アホの称号をくれてやる」とか言っていたアランも来ていない。

 

 

「折角改善されてきてちょっと見直したのに……!あいつったら!しかもアランまで!」

 

「でも最近頑張ってたのに急に来ないっていうのも変じゃない?きっとなにか事情があったんだよ。」

 

「……あいつらならただの寝坊ってこともありそうだけどね。」

 

 

実際グレンもアランも寝坊であるのだが、それを知る者はここには居なかった。

 

 

「あ、あははは。そんなことない……よ。きっと。」

 

 

ルミアが即座に断定できないあたり、なかなか信用されてないようである。

 

 

 

ガラララララッ!

 

 

 

そうやって話していると、教室のドアが開き、2人の人が入ってきた。

 

 

「きっと先生とアランね。もう!遅刻は厳禁って昨日あれほ…ど……。………え?」

 

 

語尾が小さくなるシスティ。

それもそのはず。

なんせ教室に入ってきたのはアランでもグレンでもなく、

 

「は〜い。みんな授業お疲れ様〜。」

 

 

そう言いながら入ってきた見知らぬ人達だったからだ。

 

 

「あなた達誰なの。見たところこの学園の関係者には見えませんが。」

 

「おいおい!誰って聞かれたぜ!」

 

「ったく。この状況でわからんのか?おじさん達は所謂テロリストってやつなの。入口にいた門番ぶっ殺して中に入ってきたってわけ。あ、ちなみに俺はジンって言うんだ。」

 

「俺はブラッドだ。よろしく…っつってもまぁすぐ居なくなるけどな!」

 

「う、嘘……。だってあの門番は派遣された優秀な……!」

 

 

突然言われたことに混乱するシスティを尻目に、勝手に自己紹介をするジンとブラッド。

 

 

「いやいやあれが優秀ってw」

 

「あんな弱いのが門番じゃテロリストに侵入されちゃうぞ?」

 

「まぁ俺らがテロリストなんだがな!」

 

「「ギャッハッハッハ!」」

 

 

自分たちがテロリストだと豪語し、そのうえで大笑いする2人。

 

 

「な、何よあんた達!あんた達なんか先生にかかればあっという間に!」

 

「ん?ああ。グレンだっけ?あいつなら多分今頃俺らの仲間が殺してるぞ?」

 

「え……?そんなはず…」

 

 

唐突にカミングアウトされた衝撃の事実にザワつく教室。

そんな空気を意に介さずヘラヘラと笑う2人は、学生の身に過ぎない彼らにとってはまるで悪魔のように感じられた。

 

 

「そーそー。だから君たちは安心して死ねるってこと。よかったな〜大好きな先生と三途の川の向こう側で会えるぜ?」

 

 

ギャハハハハハと下品に笑う男二人の後からもう1人男が現れた。

 

 

「お喋りもいい加減死しろ。さっさとこいつらに『スペル・シール』をかけて無力化しろ。」

 

「えー。レイクさんマジでやるんすか?どうせこんな弱っちいやつらなんかほっといても大丈夫な気がしますがねぇ。」

 

「そうそう。魔力もったいないっすよ?」

 

「いいからさっさとやれ。」

 

「へいへい。」

 

 

渋々と言った様子で『スペル・シール』をかけるジンとブラッド。

だがそんな態度とは裏腹に、きっちりと強力に術をかけていく。

全員に『スペル・シール』をかけ終わり、縄でがっちりと縛ると、レイクと呼ばれていた男が指示を出す。

 

 

「次だ。ルミアという少女を連れていけ。そこの金髪の娘だ。」

 

「ちょ、ちょっと!ルミアに何する気なのよ!」

 

「あ?お前にゃ関係ねえよ。」

 

 

親友であるシスティーナが縛られていながらも抗議するが、冷たい態度で一蹴される。

その冷たい目はシスティーナを凍り付けるように居抜き、反抗心を削ぐ。

 

 

「くっ。せめて魔術が使えれば……!」

 

「……?お前、なんか勘違いしてねえか?」

 

「な、何の話よ?」

 

「お前らと俺らとじゃ魔術の力量が違いすぎんだよ。んーと、【ほいっ】っと。」

 

 

会話の中に組み込まれていた、たった一単語から魔術が起動する。

システィーナに向けられていた指先からでた閃光は細く真っ直ぐに直進し、システィーナの目の前の床を貫通した。

 

 

「そ、そんな!まさかこれは『ライトニングピアス』……!?」

 

 

「ライトニングピアス」は軍用のB級魔術である。

その名前の如く、雷の様な速さで直進した光が対象を貫くという、シンプルかつ恐ろしい魔術だ。

殺傷力が高い魔術。つまり、「人を簡単に殺められる」魔術だ。

そんな強力な魔術を一節どころか一単語で発動できるのだ。学生がどうこうできるレベルではない。

 

 

「だから言ったろ?無理だって。」

 

「無駄な抵抗はしないほうがいいぞ?んで、こいつがルミアだっけ?」

 

 

そう言ってルミアを抱えあげる。

 

 

「おいカリス。すまんがその銀髪の女も連れてってくれ。ちょっと『味見』したくてよ。」

 

 

「へっ。ロリコンかよお前。まあいいけどよっと。」

 

 

そう言ってカリスはシスティーナを抱えあげる。

2人はニヤニヤと卑下た目をしており、今からなにをしようとしているか等、容易に想像出来た。

 

 

「きゃぁっ!ちょ、ちょっと!離しなさい!」

 

「あーもううっせえな。【眠れ】。」

 

 

魔術を発動させてシスティーナを眠らせ、ジンとレイクとともに廊下へと移動して行った。

 

 

 

────────────────────────

「ってことがあったんだ。」

 

 

俺が全員に解呪し、代表してカッシュに状況を聞くと、相当やばいということがわかった。

学園にテロリストとか中学生の妄想かっての。まぁいざ実際にそんなシチュエーションになれば分かるが、ぶっちゃけ怖い。遅刻してなけりゃ俺もこうなってたと考えると、足が震える。

 

 

「そうか……。んじゃ、ちょっと行ってくるわ。」

 

「ちょっと!どこに行くんですの!」

 

 

ウィンディに止められる。

だが、俺は足を止めない。ガックガクでコケそうだがな。

 

 

「あ?んなもんそのロリコン共のとこに決まってんだろ。トイレはさっきいったしな。ばったり遭遇してビビって漏らす心配はない。」

 

「そういうことじゃないんですの!危険すぎますわ!」

 

「まぁ、確かにな。」

 

 

確かに状況は危険すぎる。

テロリストがどこにいるかもわからないような状況で動くのは大変危険だ。罠だって仕掛けられてるかも知れない。

でも。

 

 

「でも、動かない理由にはならない。」

 

 

アイツらは俺にとって大事な友人だ。

当然助けたい。

俺に出来ることをやりたい。

 

 

「それに、そんな馬鹿どもに好きにさせてたまるかよ。」

 

 

そう言って廊下に出る。

ウィンディがまだ何か言っているが、無視を決め込むことにした。

 

 

「さて………どこにいるんかね?」

 

 

そう言って廊下を走り始めた。

不思議と足の震えは止まっており、俺は難なく走れた。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

「ふう。」

 

 

一方グレンは、絡め手を使う陰キャ魔術師に襲われていたが返り討ちにし、

 

 

「これでよしっと。」

 

 

魔術師を裸にひん剥いてどこからか取り出した紙に「不能」と書いて股間に貼り、ケツ穴に薔薇(棘あり)をぶっ刺し、縄で縛っていた。

そしてその作業(嫌がらせ)を終え、やりきった顔をした。

 

 

「ふぅ。………急ぐか。」

 

 

学園への道のりを全力で走り始めた。




完全不定期ですが、待ってくださるとありがたいです。
では、次の投稿まで!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 返り血の味

ぜぇ……ぜぇ……。」

 

 

 

教室を飛び出した俺は校舎内を走り回り、テロリストを探す。

廊下を駆け抜けドアをぶち破り、階段を駆け上がって周囲を見渡す。だが、行く先々の教室全部に人影は無く、とうとう最後の二部屋となった。

 

 

「………俺運悪すぎないか?」

 

 

そう思ってしまったのも不思議じゃないだろう。

だってさんざん走り回って最後の二部屋まで見つかんなかったし。

ていうかいるならいるって言ってくれればいいのにな。まぁ仮に言われても怪しくて絶対近づかないけど。

 

 

 

「んで?どっちから行くよ?」

 

 

 

そう問うのは無論、我らが講師のグレン先生だ。

どうやら先生も道中テロリストに襲撃されたらしく、そいつをぶっ倒したあとに『公開処刑』(恥辱ver)を施し、急いでこっちまで走ってきたようだ。

で、俺が廊下を走ってる時にばったり出会い、以後一緒に行動してるってわけだ。出会い頭におもっくそ殴りかかられたがな!

俺が殺気を感じられていなかったら死んでた。

 

 

「さぁ?ってか、二手に別れません?どうせ残り二部屋ですし。」

 

「まぁどっちかにしか居ないだろうしな。いいぜ。んじゃ、俺は奥の部屋で。」

 

「じゃあ俺はこっちで。」

 

 

 

グレンが選んだのは廊下の突き当たりの部屋。

俺はその1個手前の部屋だ。

ガラララララッと言う音を伴って空いたドアの向こうに居たのは、

 

 

「ん?お前誰よ?」

 

 

自らの上半身──特に鍛えられて盛り上がった筋肉を見せつけるようなポージングを取り、鏡越しにそれを見つめて角度を調節する人がいた。

全身はまるで鋼のように黒光りしており、ボディービルでもやってるんではないかと思わせられた。

端的に言うと────────変態である。

 

 

「………お邪魔しました。」

 

 

そう言って廊下に出る。

すると、ちょうど同じタイミングでグレンが奥の部屋から出てきた。どこかしょんぼりしながらもイラついている。そんな様子だった。

まるで年末の赤服髭面のクルシミマスの日のような顔をしている。なにがあった。

 

 

「どうしたんすか?」

 

 

「いや、なんかお邪魔しちゃったかなって。」

 

 

「奇遇っすね。俺もなんすよ。」

 

 

どうやらあっちにも変態、もしくはそれに近いなにかがいたのだろう。お互い、変な奴に出会ってしまったもんだ。

さて………残りは屋上だな(現実逃避)

 

 

 

「ちょ!助けなさいよ!」

 

 

 

奥の部屋からシスティーナの声が聞こえる。

ってシスティおったんかい。

 

 

「え〜……やっぱそういう感じだったの?お互い合意の上でやってるリア充爆破しろ案件じゃなく?」

 

 

なんて言いながら部屋に戻っていくグレン。一体何があったと言うのだ………?

 

 

「……俺はどうしようか。」

 

 

悩んだが、結局もう一回部屋に入ることにした。

できれば目を瞑りたかったんだがね。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

「よう。よくここまで来れたな。俺はブラッドだ。どうやって抜け出してきたかは知らんがここで素直に死んでもら……」

 

 

 

「いや、取り繕えてないから。思いっきりさっき見ちゃったから。」

 

 

 

部屋に入るとしっかりと戦闘用の魔防具を着込んだ男、ブラッドが仁王立ちしていた。

なんかいい感じに仕切り直そうとしてるが、どう頑張っても最初の出会いが半裸の状態だったのだ。

第一印象が「変態」で次の印象が「仕切り直そうとして失敗した変態」なので、総合的に考えてこいつへの印象は「変態」しかない。ここから持ち直そうとするのは些か厳しいものがある。

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

お互いの間に、気まずい沈黙が流れる。

 

 

「……なぁ、お前、名前なんていうんだ?」

 

「はぁ、アランですが。」

 

「アラン、か。なぁアラン。俺は今超恥ずかしい。」

 

「でしょうね。」

 

 

 

初対面が半裸で恥ずかしがらん人がいたらそいつは恐らく変態だろう。まぁこいつ変態なんだろうが、羞恥心を覚えるタイプの変態だったのか。

 

 

「だからよ、お前は口封じのために死んでもらう。いいな?」

 

「嫌ですよ?」

 

 

即答する。

なんでこいつの半裸見たからって死なにゃならんのだ。せめて死ぬなら女の裸見てから死にたい。何が悲しくて強制的に野郎の半裸みて死ななきゃならんのだ。

ここは丁重にお断りさせていただこう。

 

 

「まぁ、お前に決定権はねえ。だからよ、死ねやぁ!」

 

 

いきなりブチ切れて殴りかかってくる。

だが、怒りに身を任せているにしては鮮やかで無駄のない最短距離の突進。

 

 

「っとあっぶね!」

 

 

目視で間に合うかは分からなかったが、慌てて横に避ける。

だが、やはり咄嗟の回避では間に合わなかったようで、腕を少し掠ってしまった。

 

 

「ッ!」

 

 

重く、鈍い痛みが腕を走る。

骨にまで届くようなこの鈍い痛みは、鈍器で殴られた時の衝撃と大差なかった。

 

 

(グッ!掠っただけでこの威力とかふざけんなよ!?まともに近接戦闘しても勝ち目はないじゃねえか!)

 

 

 

状況を分析するために後ろへ跳躍。一旦下がることで開けた視界を一瞬で見渡し、現状の不可思議な点を炙り出す。そしてよく注意してブラッドを見ると、1つ不自然な点があることがわかった。

 

 

「………腕が、光ってる?」

 

 

「なんだ。もう気づいたのか?俺の腕は金属の義手でな。これを錬金術でちょちょっと弄れば思った以上に応用が効くんだよ。」

 

 

なるほど。錬金術と義手か。

今まで見たことがないような組み合わせで驚いたが、良く考えればわざわざ金属とかを持っていく必要も無くなるから便利なのかもしれない。

とりあえず状況は分かったが…………困った。

相手は恐らく近距離のエキスパート。学生に毛が生えた程度の腕前しかない俺が接近戦を挑んだところで勝ち目は薄いだろう。

 

 

「だったら遠距離しかないよな───『雷精よ・紫電の衝撃をもって・撃ちすえよ』!」

 

「なんだショック・ボルトかよ。『霧散せり』っと。」

 

 

だが結果はご覧の有様だ。

学生に毛が生えた程度はおろか、学生から毛も皮膚もむしり取ったくらいの実力しかない魔術では相手にすらならないだろう。

そもそも俺は攻撃魔術どころか普通の魔術すらも一節詠唱で出せないしね。

学院のセキュリティを突破できた輩共に撃っても一瞬で魔力に戻るだけだし、その分の隙を晒すのがオチだ。つくづく俺の魔術適正の無さに嫌気がさすが、今はそんなことは言ってられない。

ならばどうするか……!

 

 

 

「うっすい勝ち目を死ぬ気で拾いに行くしかないよなッ!【投影】!」

 

 

 

そう言って投影したのは、朱槍『ゲイ・ボルグ』。

平行世界の英霊「クーフーリン」の持つ魔槍であるこれは、それだけで一騎当千の力を持つ。

 

 

「はっ!なんだ投影魔術か。」

 

 

だが相手は驚きはすれど、驚異には思っていない。

投影魔術投影したものは脆く、直ぐに魔力へ帰る効率の悪い魔術としか認識されていないからだ。

 

 

「学生がそんな魔術を使えるのは驚きだが、ハッタリにすぎんな。そら行くぜ!」

 

 

轟速で迫る腕を槍で打ち据え、交わす。

それで出来た隙を逃すまいと槍で突くが、いとも簡単にいなされ、蹴られる。慌てて防御姿勢を取るが、槍はたったそれだけで砕け散り、魔力へ帰った。

 

 

「ちっ。【投影】──!」

 

 

砕けた槍の代わりにもう一本投影し、投げつける。

だがそれは、半身をずらされて柄の部分に拳を入れられ、また砕かれた。

 

 

「やっぱりな。所詮は紛い物か──何?」

 

 

魔力をそのまま解放し、ジェットの様にして強引に体制を建て直し、力を込めて一直線に鋭く突く。

相手が驚いている隙に、呼吸の隙間に差し込むようにして疾く進む槍。

狙うは心臓ではなく、腹。

心臓は狙われやすいと相手も承知のはずだから、あえて腹を狙った。

 

 

 

「わかりやすいな。そらっ!」

 

 

 

だが、いとも簡単にいなされる。

素人目線では攻撃を通すにはまだまだ甘かったか。

 

 

「チッ……。さすがに獲物が長すぎたか。」

 

 

 

遠くから狙えるのはいいのだが、直線的すぎて避けられたようだ。

だが、これでいい。

 

 

「ならば何度も突くのみ!」

 

 

一撃が当たらないのは百も承知。

ならば当たるまで次の攻撃を放つまで!

さっきよりも勢いを付けて何度も何度も違う場所に叩き込む。 

 

頭、心臓、足先、腰、腕。

 

不規則に何度も叩き込む。リズムも呼吸も変えてひたすらに腕を振る。

しかし、相手はいとも簡単に軌道を逸らし、槍を叩き折る。掠らせるのが限界だ。

 

 

「はっ。こんなもんか。急に槍が出たのにゃ驚いたが本人がこの程度じゃな。それじゃぁ、死んでもらおうか!」

 

 

そう言って俺の槍を掴む。

ミシリと音を立て、通算何本目かも分からない槍───わざと脆く作った槍を破壊する。

 

 

「オラァ!」

 

 

そしてその残骸を後ろに放り投げ、跳躍。

 

 

「死ねぇ!」

 

 

勢いを付けるために飛び上がり、俺へと落下してくるブラッド。

そのまま殴られれば、俺はもろに食らってしまい、死なないにせよ重傷を負うだろう。

だが、そんな未来はありえない。

なぜなら………

 

 

 

「【投影】!」

 

 

 

ゲイ・ボルグを「本来の強さ」で投影させればいいだけの話だからだ。

そしてこの機会を狙っていた。

相手が確実に俺を仕留められる。

そう思って油断し、大きな隙を晒してしまうしまうその瞬間を。

 

 

 

「かかったな阿呆が!行くぜ我が固有魔術!

【真名部分解放・刺し穿つ死棘の槍】!」

 

 

 

これこそが俺の固有魔術の、【真名部分解放】だ。

例えば俺の今投影しているこの「ゲイ・ボルグ」。

これは元々、平行世界の英霊「クーフーリン」の宝具だ。

それを投影し、ただ槍として使うだけなら普通に誰でも出来る。この槍を知っていれば、の話にはなるが。

だが、真名解放。つまり「宝具として発動させせる」ことはできない。

なぜなら使っているのが英霊本人でないからだ。

だが俺の使う投影魔術はちょっと特殊で、真名解放をすることが出来る。勿論、英霊本人が使うよりは劣るし、技量も威力も完全にコピーすることもできない。

だが、英霊とは人知を超えた存在。その力の一端でも俺のような矮小な人間には過ぎた力となり得る。

そしてこのゲイ・ボルグは端的に言えば「心臓必中」。当たりさえすれば対象の心臓を漏れなく破壊する呪いの朱槍。

 

 

「ガッ………!」

 

 

呪いの朱槍は大ぶりに振りかぶっていたせいでガラ空きになっていた腹に吸い込まれるように突き刺る。

そして、一瞬の間もなく胸元が爆散。

花のような血飛沫を滝のように撒き散らしながら慣性にしたがって串刺しのまま飛んでいき、壁に刺さる。

ゴフッという空気を押し出す音が聞こえた。

俺は今、和紙1枚分も無さそうな薄い勝ち目を拾うことが出来た。

 

 

「……………はぁ。終わったか。」

 

 

一応槍を構えて警戒状態で近づき、脈を確認すると既に事切れていた。まぁ、流石に心臓を木っ端微塵にされたんじゃ生きてるやつもそうそういない。

緊張状態から抜け出したせいで疲れが一気に出てきて、思わず座り込む。

 

 

「なんなんだろうなぁ……この感覚は。」

 

 

だが、全身にのしかかるこの重さは、決して疲れとかそういった簡単なもののせいだけではない。

 

───俺は今、確かに人を殺した。

 

その事実は俺を蝕んでいる。だが。

 

──────あぁ。死ななくてよかった。

 

だが、それ以上に重く感じるのはこの感情。

「生きられた」以上に感じてしまうこの「安堵」の感情。

無論、罪悪感は存在する。だが、安堵がそれを上回るのだ。

 

 

「………どうしたんだろうなぁ。俺。」

 

 

わからないままに廊下を出るが、上手く足に力が入らない。

よろよろとした足取りではそう遠くへ行くことも出来ずに足がもつれ、壁にへたり込む。

廊下の窓から差し込む日光が俺の網膜を焼き、思わず手をかざす。かざした手は返り血で濡れていた。

その事実で更に俺の心は混沌の渦に巻き込まれ、思わず深いため息が漏れた。

ため息の音は存外に、いやに静かな廊下に響いた。




というわけで固有魔術のお披露目です。
詳しいことは次回のあとがきに引っつけようと思います。
では、次回の投稿まで!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。