ライダー世界が異聞帯になったら (鮫田鎮元斎)
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Lostbelt No.■ 超常■■■■ 風都 『地球に選ばれた家族』
プロローグ1


ふと思い浮かんだネタ。

他の型月作品は知らないからその辺の設定は反映できない。


 僕ほど家族を愛している人間はいない。

 

 ビルが溶け、人が消える。そんな不思議な街に住む一家、それが僕の家族だ。

 

 

 

 父さんは恐怖の帝王みたいに怖いとこはあるけど、そこは普通の家庭と同じかな。まさに威厳のある父親って感じ。

 

 母さんは家出した。“事業”に関して父さんと喧嘩したみたいだ。正直あんまり覚えてない。

 

 姉さんと妹はすごく仲が悪い。僕が止めなきゃ延々と喧嘩し続ける。“メモリ”を使いそうなときは本気で怒るけどね。

 

 そして弟もいたけど、幼くして死んでしまった。でも、実質生きてはいるけど。

 

 

 

 

 

 

 だがすべて喪ってしまった。

 

 僕が海外でフィールドワークをしているうちに、“仮面ライダー”とかいう奴によって殺されてしまった。

 

 大切なものを奪ったあいつを許す気はない。でも復讐をしようと思うほど僕は愚かではない。

 

 今度は“家族”を護り抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たとえ――他の人類を見殺しにしてでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

『――聞いてるの? あなたさっきから上の空のようだったけど』

「ああ、ごめんよオフェリア。どうも異聞帯(ロストベルト)にいると感傷に浸っちゃって」

 

 通信機越しだが、呆れたため息が漏れた。

 

「もう僕が好きだったスイーツ屋さんはない、って考えるだけで落ち込むよ」

『ははっ! 違いねえ。俺の異聞帯も殺しはあるが――どうも味気なくて仕方ない』

 

 賛同したように軽口を叩くベリルだったが、その発言は場の空気を少しだけ悪くしていた。

 

『……随分余裕があるみたいだな、リュウト。君はレイシフト適正と戦闘能力だけでAチームに配属されたんだ。もう少し魔術に関する勉強をしないと』

「あー、どうも僕はそう言ったオカルトチックなことが苦手でね。根源? だっけ、正直意味不明でやる気が起きない」

 

 全員から白い眼を向けられ、彼は肩をすくめる。

 

「文句ならマリスビリーに言ってくれよ。僕は彼から直々にスカウトされたんだからさ」

『……ここにいる我々の中で未知数の可能性を秘めているのはリュウトの他にはいないだろう。そろそろ、君の異聞帯の報告も聞きたいものだが』

 

 先程同様に注目が集まる。

 

 キリシュタリアの評価はそのまま期待に変わっている。

 

「ま、報告してなかったのはすることが無かったからだよ。みんなと違って僕の担当は“最も新しい剪定事象”だから現代とあまり相違がないし争いもない。幸か不幸か、王は僕に近しい人物だからすんなりと認めてもらった。まあ、敵がいないわけではないけど」

 

 穏やかな笑みを浮かべていたリュウトの表情が消えた。

 

 ぞっとするくらい何もなかった。

 

『うらやましいな。僕と違って君は運も持ち合わせているみたいだ』

 

 過酷な異聞帯を担当するカドックは自虐的に笑う。その目にはいつも以上に濃い隈ができていた。

 

『無理は禁物よ、カドック。たまには休まないと、体を壊すわよ?』

「それには同感。折角美人のサーヴァントを召喚したんだから楽しまないと」

 

 オフェリアに睨まれている。彼は気にせずに続けた。

 

「――そう睨まないでくれ。僕も久しぶりに()()と話ができて舞い上がっているんだからさ」

 

 彼女はバツが悪そうに顔を背けた。

 

『ふん……僕はそうは思っていないけどな』

 

 カドックはそう吐き捨てて通信を切った。

 

『私も玉座に戻らせてもらうわ――リュウト、例の物は用意できているの?』

 

 芥 ヒナコは読んでいた本越しに問いかけた。

 

「うん。後で届けるよ」

『分かった。早く届けて。こちらの王もそろそろしびれを切らす頃合いだわ』

 

 彼女も通信を切る。

 

『“ガイアメモリ”――だッけか? 簡易的な魔術礼装が流通するなんざ世も末だな』

「欲しければ格安で販売するけど」

『いや、触らぬ神に祟りなし、だ。生憎と日々の闘争を楽しむので精いっぱいだからな』

 

 飄々とした態度を崩さぬまま、ベリルも通信を切った。

 

『どうやらお開きのようね。私も退散させて――ああ、思い出したわ。リュウト、私の異聞帯にある“四角”について調査を頼めるかしら?』

「いいよ。後で妹に頼んでおく」

 

 通信が切れる。

 

『皮肉だな。最も魔術に疎いお前が最も魔術師たちの悲願に近いところにいる』

「嫌味かい? よければこっちに来てくれてもいいんだよ」

『……遠慮しておく』

 

 沈黙を保ったままだったデイビットもまた、最低限の発言をして持ち場に戻ったようだ。

 

「……ビルが溶け、人が消える。その点で言えば僕の異聞帯は油断ならないけどね」

 

 そしてリュウトも通信を切り、クリプター達の会議から抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

「――会議とやらは終わったのかね?」

「うん。みんな元気そうで嬉しかったよ」

 

 異聞帯の王が僕に語りかける。

 

 懐かしいようで、懐かしくない。彼は僕の父親だけど、父親ではない。

 

 この世界での僕は、生まれる前に死んでいるのだから。

 

「それは何よりだ。君の交友関係は我が“ミュージアム”の未来に関わるからね」

 

 僕の居場所はここにない。

 

 でも家族であることには変わりない。

 

「わかってるよ、父さん」

「父さん、か。なんだか妙な気分だね。この世に生まれてもいなかった息子が、こうして存在しているのは」

 

 彼は笑いながら廊下の奥に消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 僕の名は園咲 リュウト。

 

 汎人類史では何もできなかった。

 

 だからこそ――異聞帯では家族を護る。もうあの日の後悔は味わいたくないから。

 

 

 

\DISASTER/

 

 

 

 メモリを起動させ、ベルトに装填した。

 

 この体にはあらゆる災害――地震、噴火、地割れ、津波、大火災、嵐、そのすべてが宿っている。僕の体には地球が持つ“災害の記憶”が取り込まれているのだから。

 

 逃走したカルデアの残党は近いうちに姿を現すはずだ。

 

 来るなら来ればいい――全部返り討ちにしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

異聞深度 E- A.D.2010

 

Lostbelt No.■ 超常■■■■ 風都

 

『地球に選ばれた家族』

 

――――――――――――――――――――

 

 

 




・キャラクター紹介

『園咲 琉人(リュウト)

サーヴァント:不明
担当:“ガイアインパクト”が成功し地球の記憶と繋がった人類の暮らす日本


 誰よりも家族を愛する男を自称する青年。レイシフト適正と戦闘能力以外は一般人と何ら変わらず、魔術の魔の字も知らない。“ミュージアム”と呼ばれる組織とかかわりがある。





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プロローグ2

まだモチベがあるので書いてみた。

急に他のライダー世界が異聞帯化する可能性もあるけど。


…………

……

 

「――さて、最後の一人――園咲 リュウト。彼は――おそらくマシュの方が詳しいんじゃないかな?」

「え、ええ……彼は魔術には一切の関わりがない人でした。大学で考古学を専攻していて、前所長とは聖遺物の発掘が縁で知り合ったとか」

 

 彼女は少しだけ頬を朱に染めながら答える。

 

「Aチームの中では誰よりも優しくて、面倒見がよくて――何より他人が傷つくことを嫌う方でした」

「それに加え異常なまでのレイシフト適正、戦闘能力、魔力値、すべてがずば抜けてる。人為的な操作が無かったのなら、まさに奇跡としか言いようがない」

 

 自分と同じ境遇と聞いていた藤丸 立香(男)は盛られていく設定に呆然としていた。

 

「と言っても、魔術は殆ど扱えていなかったけどね」

「そ、そうなんだ」

 

 彼はダヴィンチのフォローに苦笑いをするしかなかった。

 

「そして()()予定は――」

 

 マシュが僅かに表情を曇らせる。

 

「シールダー、つまりマシュのパートナーになるはずだったというわけさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

「――ロシアが消える。カドックがやられた、ってことか」

「ええ、それはもう無様に」

 

 異星の神の使者に言われたが、リュウトの表情は変わることがない。

 

 それは彼女が望んでいた物ではなく、ムッとしたように眉を顰める。

 

「思ったより取り乱さないんですねぇ……もう少し動揺するかと思ったんですが」

「…………」

 

 無言で何の反応もない。

 

「もしかして、“クリプターはみんな家族”と言ってたのは信頼を得るための嘘だった? だとしたらあなたも相当な策士ですね♪」

「…………」

 

 どんなに煽っても何も返答しない。

 

「やれやれ、私も嫌われたものですね」

「ああ、考えごとをしているから黙っていてほしいんだ」

 

 ようやく沈黙が破られ、コヤンスカヤは口角を吊り上げる。

 

「考えごと……どうやって私たちを出し抜くか、とか?」

 

 彼女はこの青年を“精神的なサンドバック”として扱おうとしていた。家族を失い、天涯孤独の身となった彼はさぞや面白い反応をするに違いない、と。

 

 それに加え――叛逆の芽は摘んでおかなくてはならない。

 

「知ってるんですよ? 私。あなたが大令呪(シリウスライト)をどうにかして手放していること。だんまりを決め込んでいるならばらしてしまっても」

 

 

 

 

 

 

「うるさいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

\DISASTER/

 

 リュウトはガイアメモリを使用し、その体を異形に変化させる。

 

 そして彼女の細い首を鷲掴みにした。

 

「んっ!? これは、随分と手荒に――!?」

「だからうるさいって言ってるだろう? 君がいると鬱陶しくて仕方がない」

 

 マグマのように赤化しているその手は、容赦なく彼女の首を焼いていく。

 

「大令呪は手放していない。隠ぺいしているだけだ。ここは現代に近い日本なんだから、普通の人間と同じようにふるまわないといけないからね」

「くっ……ん!」

 

 見た目ほど華奢ではないようで、いくら強く掴まれても折れてしまう様子はない。

 

「それに、誰だって知られたくないことがあるはずだよ? 君だってそうだろう――妲己」

「!?」

 

 余裕を保っていた彼女の顔が、凶悪に歪んだ。

 

「あまりナメないでほしいな。僕は家族を大切に思っているが、そうでないモノはどうだっていいんだ」

 

 急に突き放され、霜の覆われた床に投げ出される。

 

「さて、と。カドックを助けに行くとしよう――君も用がないのならとっとと消えてくれ」

 

 その様子を目つきの悪いブリティッシュショートヘアが見ていた。

 

 低い声で呻ると、その猫は物陰へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

『――前方に生命反応を感知! ってこのままじゃぶつかるよ!?』

 

 虚数潜航艇シャドウ・ボーダーにダヴィンチの警告が響き渡る。

 

「も、もしや生存者か!? 今すぐブレーキを」

「Mr.ゴルドルフ、それはいささか楽観的すぎるでしょう。あれは――」

『その通り、解析したところ――Aチーム、クリプターの一人とデータが一致したよ』

「よしそのままアクセル全開で突っ込め!」

 

 敵であるとわかるや否や、ゴルドルフはそれを轢き殺す決断を下した。

 

「はぁ!? さすがにそれは無茶苦茶すぎますって!」

『ゴルドルフ君……私もそれには賛成できないな』

「う――」

 

 そうこうしているうちにボーダーは生命反応が出た地点を通り抜けてしまっていた。

 

「あれ……?」

 

 藤丸は不思議そうに辺りを見回す。

 

「ぶつかった……?」

『ううん。奇妙なことに反応が消失してる』

 

 その後も快調な走りを見せるボーダー。車内には不穏な空気が流れる。

 

「ほ、ほらみろ! 敵は恐れをなして逃げ出したに違いない!」

「……そう、なのかな」

 

 藤丸はどうしても不安を拭いきれない。

 

 首筋に刃物を当てられているような、ともすれば死んでしまうような感覚がある。

 

「これで終わりじゃない気が、する……」

「いいカンだね。さすがは人類最後のマスターだ」

 

 背筋に悪寒が走る。

 

 気が付くと空いていた椅子に、足を組んで座っている青年がいた。

 

『うっそだろ!? この私のセンサーをかいくぐって侵入したのか!?』

「その通りですよ、ダ・ヴィンチさん……少し若返りました?」

 

 青年、園咲 リュウトは穏やかに微笑む。

 

 どこにでもいそうな――目つきだけは鋭いが――平凡な男性。クリプターは良くも悪くも個性的と思っていた藤丸は、あまりの普通さに拍子抜けしてしまった。

 

「ふ、ふふふ……わざわざそちらから現れてくれるとは好都合! 怒りのゴッフパンチをお見舞いしてくれるわッ!」

 

 ゴルドルフはボクサーの様に拳を構える。

 

 心得のあるものが見れば、そこに魔力が纏われていることに気付くだろう。

 

「――喰らえ怒りのゴフッ!?」

 

 技名を叫びながら彼は体をのけぞらせる。まるで何かに殴られたかのようだった。

 

「え――?」

『藤丸君、前の私が言ったことを覚えていないのかい? 彼は魔術はド素人でも――戦闘能力の高さからAチームに抜擢された男なんだ。このくらい想定の範囲内さ』

「くっ――ホームズ!」

 

 現状戦闘能力を有しているのはホームズしかいなかった。

 

「うん、威勢がいいね」

「っ!?」

 

 再び衝撃波が放たれる。藤丸は腕を交差させて受け止める。

 

「ミス・キリエライト、一刻も早く武装を。ここは私たちで食い止める」

 

 ホームズの指示を受けるも、彼女は硬直したまま動かない。

 

(まさか……?)

 

 ホームズの脳裏にとある可能性が浮かんでしまう。

 

「ミスタ藤丸、令呪を」

「――どうして、ですか……?」

 

 敵の攻撃が止む。反撃のチャンスではあったがマシュの声がそれを躊躇わせた。

 

 床に雫が落ちる。彼女の震える唇からは嗚咽が漏れた。

 

 

「誰よりも優しかったはずの貴方がッ! どうしてこんなことをしたんですかッ!?」

 

 彼女の悲痛な叫びは敵の表情を曇らせる。

 

「私は……あなただけは、きっと違うと――信じていたのに……!」

 

 マシュは園咲 リュウトに恋心を抱いていた。当時は自覚は無かったが、人理修復の過程でそれに気づいた。そして必ず彼を蘇生する――それが彼女の原動力となっていたのだ。

 

 キリシュタリアは八人のクリプターと言った。その中に彼はいないと――最後の一人は敵の親玉なのだと勝手に思い込んでいた。そう思いたかった。

 

 その男が、敵として現れたことに衝撃を隠せていなかった。

 

「そっか……僕の事を信じていてくれたんだね。でももう遅いんだ」

 

\DISASTER/

 

 彼はUSBメモリに似たデバイスを掲げる。不気味な声が響く。

 

 そして左手にはめていた手袋を外し、手の甲にあった蜘蛛の巣に似た刺青(タトゥー)に突き刺した。

 

「レフ・ライノールがテロを起こし、僕達が瀕死になった時点で――この運命は決まってしまっていたんだ」

 

 室内に突風が吹き荒れる。

 

 異形の姿となった敵が起こす災害がブリッジの内部を荒らしていく。

 

『ま、マズいよ――ムニエルくんペーパームーンだけは何としても死守してッ!』

「んな無茶な――!?」

 

 一般のスタッフである彼には酷な話だったが、他のメンバーが戦闘にかかりきりな以上仕方のないことではあった。

 

「ミスタ藤丸ッ!」

「――ンッ! 令呪をもって命令する――ッアグッ!?」

 

 雹が藤丸を襲う。

 

 辛うじてホームズに魔力が渡され、宝具の真名解放がなされる。

 

 

 

 

 

 

「――初歩的なことだ、友よ」

 

 それはシャーロック・ホームズが持つ驚異的な観察眼と洞察力を昇華した技。

 

 例え解読不可能な謎であってもその答えへ導く。

 

「“初歩的なことだ、友よ(エレメンタリー・マイ・ディア)”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがすべてが凍り付いた。

 

「!?」

 

 英霊の切り札たる宝具が封じられてしまう。

 

「藤丸 立香、君がマシュの運命を変えてくれたらしいね」

 

 ボーダーの内部が凍り付き、使用不能となる。

 

「そこで僕なりのお礼をしてあげよう――」

 

 車体は独りでに浮かび上がり、嵐の壁へ――北欧の異聞帯に向けて移動を開始する。

 

「オフェリアの担当地域は平和な場所だよ。余生を過ごす場所としては申し分ない」

 

 外界とのつながりを断つ嵐の壁の一部に穴が開き、そこに向けてボーダーが放り込まれる。

 

 いつの間にか異形は漂白された大地に降り立っており、カルデアの一行は第二の異聞帯へ放り込まれることとなった。

 

 

「――僕よりも、同じ女性の方が説得しやすいだろうからね」

 

 彼は左手の甲からメモリを排出する。

 

 表情はずっと、穏やかな笑みを浮かべているままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 カドック・ゼムルプスの人生の中で、これほど死を意識した瞬間は無かった。

 

 シャドウ・ボーダーの車内から急に体を投げ出され、命綱無しのバンジージャンプを行っている状態だったのだ。

 

(ああ……僕は死ぬのか)

 

 短くも波乱に満ちた彼の人生が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

 

 それでも最後の三カ月――サーヴァントと共に過ごした異聞帯での出来事が、何度も何度も再生された。

 

「アナスタシア……」

 

 呼んだところで来るはずもない。

 

 呼べたところで、覚えているはずもない。

 

 英霊は座に還った時点で記憶が一旦リセットされてしまう。自分のような無力で何のとりえもない魔術師の記憶など、消え去ってしまうだろう。

 

 柔らかい感触がした。

 

 ゆっくりと、体が下ろされる感覚がした。

 

 

「――無事だったようね、マスター」

 

 ああ、この目に見えている姿は幻なのだろうか。

 

 凡才の自分が、こんな幸運に恵まれていてもいいのだろうか?

 

「なぁ――僕は今夢を見ているのか?」

 

 彼の手が取られ、ゆっくりと彼女の顔へとあてがわれる。

 

「これでも、私の存在が夢だと思うの?」

「…………いいや……現実なんだな」

 

 やっぱり天才には敵わない。

 

 敵わないが――この瞬間だけはそれでいいと思おう。

 

 大切なものを、取り戻させてくれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

「ああ、上手くいってよかった」

 

 家族を失う苦痛は耐えがたいものだ。

 

 僕は離れたところから再開を喜ぶ二人を眺める。

 

「本当に、よかった――っ」

 

 漂白された大地に赤い染みができる。

 

 さすがに、()本目はきつかったかな。

 

\TTTTTIIIIIMMMMMME----/

 

 僕の手の中でメモリが砕け散る。

 

 時間を逆行させる効果のあるこのメモリでカドックの大切な人を取り戻した。後は僕の異聞帯で平穏に暮らしてくれればそれでいい。

 

 

 

 

 ――――あなただけは、きっと違うと――信じていたのに……!

 

 

 胸が痛む。

 

 マシュの言葉が僕の心を深く傷つける。

 

「ごめんよ、マシュ……本当に、ごめん」

 

 僕は血反吐を吐き出しながら、謝り続けた。

 

 何度も、何度も。

 

 あの子にあんな悲しい顔をさせたのは他ならぬ――いや、本当に僕のせいか?

 

 

 そもそもマシュがカルデア側に付いているのは、彼女が人類最後のマスターと契約しているからで。

 

 人類最後のマスターは汎人類史を護るために戦っていて。

 

 そのせいで彼女は苦しい思いをせざるを得ない状況になってしまった。

 

「ああ、悪いのは藤丸 立香か……」

 

 あいつが足掻いているから、彼女は戦っているんだ。

 

 あいつがいるから、僕達の事を知る機会が無かったんだ。

 

 なら――やることはただ一つ。

 

 

 

 

 

「藤丸 立香を、消せばいいんだね」

 

 




カドアナですって? カドアナですよ。

平和な世界が一番です。


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幕間の物語

ダイジェスト風。

個人的にゲッテルデメルングが一番好きなストーリー、オフェリア好きだしナポレオンも好きだけど早くオリキャラの異聞帯へ進みたいので大幅にカット。


あとがきは超絶ネタバレ注意です。


 ――――これはまだ、世界が漂白されず、人理も焼却される前の話。

 

 

「あ……」

 

 ライブラリに入ろうとしたら、見知らぬ人と鉢合わせてしまった。

 

 つい最近やってきた人なのだろうか、それとも新規のスタッフなのか、よくは分からない。

 

「失礼、お先にどうぞ」

「え、ええ……」

 

 彼は私を先に通してくれた。紳士的な人だと思った。

 

 でも穏やかなのに、その目はとても鋭くて。

 

 まるで魔眼のような禍々しさを感じてしまった。それだけがどうしても忘れられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

「――故障した?」

「そうなんです……すいません」

 

 別の日、戦闘用のシミュレーターを使おうとした時の事。

 

 前に使用していた人物が想定以上の負荷をかけてしまったため臨時のメンテナンスを行わざるを得なくなったしまったと。

 

 私はきっと、キリシュタリアがやったのだと思った。彼以上の戦闘力を持つ人は、Aチームにすらいない。

 

 

 

 

 彼がAチームに配属されたのは、翌日の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

「デイビット、君はどう感じた?」

 

 彼は問いかけられ、僅かに視線を動かした。

 

「不確定要素が多すぎる。だがダ・ヴィンチと似たような存在であると言える」

「つまり、レイシフト実験の為だけに生み出された、もししくは改造された、と」

 

 私は背筋に悪寒が走るのを感じた。

 

 マリスビリー所長ならそのくらいのことをする、そんな予感があったから。

 

「あくまで俺の所感だが、あいつはヒナコと同じ類の人間だ」

 

 その言葉に、部屋の片隅で読書をしていた彼女が視線を上げる。

 

「私と同じ?」

「少なくとも俺はそう感じた」

 

 彼は相変わらずの無表情でそう答えた。

 

 

 キリシュタリアはデイビットからさらに意見を求めていた。私はそれが答え合わせをしているかのようにも感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

「あなたがオフェリア・ファムルソーネさんですか?」

 

 ミーティングの後、声を掛けられた。

 

「ええ……私に何か用かしら?」

「謝罪がしたくて――前に僕がシミュレーターを故障させたせいで、あなたが訓練を受けられなっかった、と」

 

 俄かには信じがたいことだった。

 

 彼は――園咲 リュウトと言う男は平凡な男だ。眼光が鋭いこと以外はどこにでもいる一般人。デイビットの言い回しを借りるなら、それが私の所感だった。

 

「そのことなら、もう済んだことよ。気にしていないわ」

「ああ、よかった。こうして同じチームに配属された以上、わだかまりがあったらうまくやっていけない。そう思いませんか?」

 

 そして彼はペペ以上のムードメーカー……だと思う。彼(彼女?)の様にジョークを言って和まるというよりは、空気の様に間に入ってくる。

 

 こんな言い方はしたくないけど、存在感が殆どないのが彼の特徴。でも確かにそこにいて、Aチーム全体の雰囲気をよくしてくれている。

 

「そうね。少なくとも……あなたのお陰でみんなが上手くやっていけている気がするわ」

「良かった。これからよろしくお願いします。オフェリアさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 気が付けば、リュウトは皆の悩みを相談される立場となっていた。一番長い時間一緒にいたのはヒナコだった気がする。デイビットの言っていた通り、気が合ってたのかも。

 

 そういう私も、日曜日になったら決まって彼のマイルームへ行っていた。

 

 いつも何も言わず、お茶とお菓子を出してくれた。

 

 日本の“シャルモン”という有名なケーキショップの物をわざわざ取り寄せてくれているらしい。

 

 

 彼も甘いものが大好きだそうで、いつも美味しいスイーツを探し回っていたことを話してくれた。

 

 実家のティータイムでは彼のお父さんが選んだお茶菓子がふるまわれていたこと、二人の妹の仲が悪いのが悩みだということ、考古学の専門的な話(あまり興味は無かったけど)――とにかくいろいろなことを話してくれた。

 

 それにつられて、私も自分のことを少し話した。

 

 話すうちに、少しだけ肩の荷が下りた気がして。

 

 きっと彼のような家族が居たら、私は日曜日を好きになれていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 意識が朦朧とする。

 

 命があと少しで尽きそうなのが体感でわかった。

 

「……マシュ?」

 

 手を握られた気がする。感覚がはっきりしなくて、何かが触れたように感じる。

 

「はい、ここにいますよ。オフェリアさん」

 

 きっと、スルトを斃せたのだろう。本当に、本当にマシュはすごい。

 

「マシュ、すごいのね。本当に、アナタはすごい」

 

 私は声を出せているんだろうか?

 

 ただ思っているだけ?

 

「っ私、カドックをもう責められない。アナタたちの事を止めるなんて……」

 

 ああ、これからなのに、やっと、アナタと友達になれそうだったのに。

 

「アナタの歩みを……できれば応援してあげたいけど、駄目。キリシュタリア様は、裏切れない。裏切りたく、ないの」

 

 ねえマシュ、知っていた? 私、彼を思う彼女ほどではないけど。

 

 

 

「……やっぱり、彼の言う通り、勇気を、出せばよかった。わたし、あなたと――」

 

 彼は全てをお見通しだったのかもしれない。

 

 私にテーマパークのチケットをくれたことがあった。すべてが終わったら、マシュを誘って、友達同士の様に――

 

 だけどそれも、敵わぬ願いになってしまったけど。

 

 

「マシュ、リュウトに、きをつけて。彼、クリプターになって、変わってしまった。アナタにこれを、いうの、嫌だけど――」

 

 怖かった。

 

 本当に優しかった彼が、大きく変わってしまったことが。

 

 恐怖の帝王、程ではなくても――私の心に重圧を感じさせるのには十分だった。

 

 優しい兄から、厳格な父へ。

 

「はい、私は絶対に――リュウトさんを」

「彼には、アナタが、必要よ。わたしとしては、少し、複雑だけど、彼なら、味方に、なって――」

 

 息をするのがつらくなってきた。

 

 最後に、これだけでも、伝えたい。

 

「あの英霊……に、もしも、また……会えたら……」

 

 ありがとう。結婚はお断りだけど、あなたの虹、綺麗だった。

 

 そう伝えたい。

 

 

「―――――」

 

 もし私が勇気を出せていたら。

 

 彼の言う通り、素敵な日曜日が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 2015年 X月 X日。とある日曜日。

 

 

 

「――なに、これ?」

「ああ、僕の故郷にあるテーマパークのチケット」

 

 ペア優待券、期限は2016年12月末――

 

「デートのお誘い? 私たちにそんな余裕は」

「違うよ。君と、マシュで行ってきてほしいんだ」

 

 風都ランド。センスのない名前だけど、たぶん普通の遊園地なんだろう。風車のような可愛いマスコットのイラストが描かれている。

 

「次の日曜日、きっと素敵な日曜日になるよ。だって、友達と楽しく過ごせるんだ。悪いはずがないよ」

「でも、私は魔術師よ。こんな普通の人みたいに」

「僕は魔術の事はよくわからないけど、君の事ならわかっているつもりだよ。君は普通の女の子だ」

 

 彼はいつもの笑顔で私に言った。

 

「まあ、眼帯しているのは――ちょっと変わっているけど」

 

 その一言は余計。

 

「そう……なら、誘ってみようかしら」

 

 次の日曜日――は無理だから、その次。

 

 いつかの日曜日に、マシュと一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※二部三章ネタバレ注意
































「さて、こうして召喚された以上、覚悟はできているんだろうね?」
「はん! 私に何を話せッていうのかしら?」

 虞美人は強気に応える。

 警察の取り調べよろしく、ゴルドルフはテーブルを叩く。

「もちろん、貴様らクリプターの目的についてだ!」
「あら、なんの事かしら? 全然記憶にないんだけど」
「ふっふっふっ……白を切っていられるのも今のうちだ――ムニエルくん!」

 彼が指を鳴らすと、ドアが開く。

「拷問でもすれば? ま、何されても……?」

 運ばれて来たのは、“トロットロのカルボナーラ”と“カリッカリのベーコンエッグ”だった。

「なに、これ?」
「まぁ食べたまえ。少なくとも君の不健康な顔はひまわり色に変わるだろうね」
「……ふん! どうせならもっとマシな美食を」

 カルボナーラを頬張った彼女は大きく目を見開いた。

「…………こ、この程度で私が」
「お代わりもあるぞ?」
「……くっ! 作れ! こうしてカルデアの陣営に属する以上、少しくらい協力をしてあげないこともないわ!」

 次の日から彼女の態度が軟化したとか。
















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intro1

今回から本格的にネタバレが起きます。

あらすじをよく読んでから本編を閲覧してください。

読まずに感想で文句言って来たら通報しますよ! つ、通報しちゃうからね!?


…………

……

 

 

『いい加減、この状況もどうかと思うぜ』

 

 ロシア、北欧、中国、三つの異聞帯がカルデアに撃破され、ベリルは危機感を募らせていた。

 

『結局暗殺も失敗しているしよ……何とかしないとな』

『うん、僕もそう思うよ』

 

 珍しく笑みを浮かべていないリュウトも、彼の言葉に賛同している。

 

「私の事は非難しないでくださいまし。計画は完璧でしたので」

『どこが完璧なんだよ』

 

 殺気の籠った声に、コヤンスカヤは全身の毛を逆立てた。

 

『毒なんて回りくどい方法使わず、気配を消して首を斬った方が確実だったんじゃないか?』

『! おいおい、穏健派代表のリュウトがそれを言うか?』

『うるさいな……僕はみんなが思っている以上に怒っているんだよ――だってカルデアのマスターは……ゴフッ』

 

 全部言い切る前にせき込む。彼の口の端からは僅かに血がこびりついていた。

 

「無理をしているみたいだな……」

『そういう君は随分と余裕みたいだね、キリシュタリア』

 

 指摘され、僅かに表情が揺らぐ。

 

「それは誤解だ。私もこの事態に少しは動揺しているよ」

『……嘘つけ。君は慢心しているだけじゃないのか?』

 

 棘のある言い方だった。

 

『君は“異星の神”直々にスカウトされたんだから、当然だよね。勝てる前提で異聞帯もらっているから、どんな脅威が来ても返り討ちができる――サーヴァントだって相当強いんだろ?』

「何が言いたい」

『僕らを生き返らせたのはなんでだよ、ってこと』

 

 その言葉に、全員が反応した。

 

『僕は全部見ていたぞ――恩を売れば僕たちが君の手下になるとでも思ったのか? それとも単に見殺しにするのが怖かったのか? 答えろよ偽善者!』

『やめなさいリュウト!』

 

 見かねたペペロンチーノが咎めた。

 

 完全に錯乱とも見える物言いだったからだ。

 

『一体どうしちゃったのよ? らしくなじゃない』

『……僕はいつも通りさ。ただ――取り乱しているだけだよ』

 

 神妙な面持ちで、ベリルはこう告げる。

 

『言いたいことは分かるがな。明らかにこりゃ出来レースだ。今回の一件で俺も確信を得たよ――俺のとこはそろそろ限界だ』

『的を射ているな』

 

 崩壊寸前の異聞帯を担当している二人は、ともに何かを感じ取っているようでもあった。

 

『だってさ。みんなも薄々感じ取っていたのさ――でも、君の天下は今日までだ』

 

 リュウトは大胆にもこんな宣言を行った。

 

『カルデアの連中を始末し、パワーバランスをひっくり返す』

 

 だがそこで体調が限界を迎えたのか、通信が途切れてしまった。

 

『……危ないクスリでもやってんのかね、あいつは。兄貴分としちゃ心配になるが』

『あら、弟分の間違いじゃなくて?』

『茶化すなよ……ま、前例もあるし期待せずに待ちますか』

 

 ベリル、ペペロンチーノも通信を切断した。

 

「偽善者、か。返す言葉もない」

『認めるのか?』

「それが分かっているのなら、私も苦労はしていない」

 

 そう帰したキリシュタリアの表情は、どこか浮かない様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

――――カルデアベース

 

 

 

「……ったく、虞美人さん人使い荒いなぁ」

 

 つい最近召喚された虞美人にパシられ、藤丸 立香は通路を小走りに駆けていた。少しずつ常駐するサーヴァントも増えてきており、元のカルデアに近づいてきていた。

 

 そのおかげか、彼の心も少し穏やかになってきていた。

 

「さてと、焼きそばパン買えたし」

 

 なぜか毎回同じものを要求されるのが謎ではあったが、何も言うまい。項羽(だんな)から料金をもらっているので気にすることもなかったが。

 

「――ッ!?」

 

 不意に、通路内に人が出現した。

 

 それはクリプターの一人、園咲 リュウトだった。

 

「ああ、運がいいな」

 

\OLD/

 

 彼はメモリをベルトのコネクターに挿入し、その体を異形へと変化させる。

 

「手っ取り早く終わらせられる」

「なんでここに……!?」

 

 藤丸はサーヴァントを呼んで召喚しようとするも、足元が何かに浸食されていることに気付く。

 

「座標を検索しただけだよ。後は僕の能力で到達できる」

「ぐ……っ!?」

 

 警報が鳴り響く。

 

 だがもはや時すでに遅し。

 

 

 異形の背中に短剣が突き刺さる。

 

「……ああ、久しぶりだね」

 

 パシリの途中だったことが幸いし、虞美人がすぐに救援に駆け付けた。

 

「ヒナコさん……ちょっとそれは破廉恥すぎません?」

「うっさいわね。私がどんな格好していようが勝手じゃない」

「ああ、確かにそうだね」

 

 謎の物質は藤丸の足下から彼女の方へと移動する。

 

「ッなによこれ……!?」

 

 動きにくそうにしているも、狙っていた効果は表れていないようだった。

 

「そうか、不老だから意味ないのか」

「なにをごちゃごちゃと!」

 

 血を纏った攻撃が異形を襲う。

 

 謎の攻撃を諦めたのか、そのまま距離を取って元の姿に戻る。

 

「どうやって来たかは知らないけど、観念することね。直に援軍がやってくるわ」

「ああ、多分無理だとおも――ゴフッ」

 

 リュウトは血反吐を吐き出し、口元を拭う。

 

「……! どうしたのよ、それ」

「優しいですね。心配してくれるんですか?」

「ッ! そんなわけないでしょう!?」

 

 逆上した虞美人の攻撃は、当たらなかった。

 

 正確には当たるはずだったがすり抜けたのだ。

 

「これがここに侵入したカラクリ、僕は“ハイドープ”だから」

 

 満身創痍な様子の彼は、ゆっくりと後退し――壁の奥へと消えていった。

 

(やけに素直ね……どういう事かしら?)

 

 不思議に思いつつ、蹲ったままの藤丸の下へ歩み寄る。

 

(あれ……こいつの髪、こんなに白かった……?)

「いつまで寝てんのよ。いい加減起きな――ッ!」

 

 彼女の気のせいなどではなかった。

 

 藤丸の髪は見事に白髪となっていた。それだけでなく、彼の肉体は無残なまでに加齢し、皺だらけに。カルデアの制服がだぶついてしまっているほどに体が細くなってしまっていた。

 

 それに加え顔つきも完全に老人のそれであり、藤丸 立香(80)といっても過言ではない。

 

「嘘……老けてる?」

「ぉぉ虞さん……なぜか体の節々が痛むんじゃが」

 

 老人となったことだけでなく、異変は他にも起きていた。

 

「どうして誰も来ないのよ……!?」

 

 カルデアベースに常駐しているはずのサーヴァント達が、警報が鳴っているにもかかわらずマスターのピンチに駆け付けないのだ。

 

 いつまでも、警報だけが空しく鳴り響いていた。

 

 






それにしても設定複雑すぎるし鯖多すぎて訳わかめ……せや、鯖が出れなくなる設定創ったろ!

そんな理由でぐだ男はおじいちゃんになりました。


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intro2

思っていたよりオリ主の風都民適性が高いと言ってくださっているのでワタクシ大喜びであります。

ちなみにオリ主と園咲家の関係は以下の通り

琉兵衛……父親

冴子……妹、ということにしたかったけど年齢的に矛盾するので姉に変更。あの人30歳だっけ……?(焦り)

若菜……こっちは妹。姉妹の仲介役。


霧彦……姉の婚約者。面識はないが近いうちに会っていたいと思っている。

井坂……誰? 完全に知らない人。



クッソ、園咲姉妹あんなに年齢差あったのは誤算だった。そりゃ仲悪いよね。


…………

……

 

 

「――確認が取れました。現在カルデアベース内に現界している英霊はここにいる方々だけです。残りは全て契約凍結状態です」

 

 指令室にいるのはダ・ヴィンチ、ホームズ、そしてなぜか一人だけ存在していた虞美人。

 

 現在の戦力はこれだけである。

 

「ってどうなっているの? 攻撃を受けたのは私と後輩だけ、召喚システムは無事なんでしょう?」

「そう、()()()()にはなんの問題もありません」

 

 冷静にシオンは説明をする。

 

「問題は藤丸さんの方です。彼は老化したことが原因で生成できる魔力が著しく減少しています。その状態で全サーヴァントの契約を維持するのには危険が伴うため安全装置(セーフティ)が作動したのでしょう」

 

 ちなみに組み込んだのは私です、と付け加えることも忘れない。

 

「そして彼自身、英霊との縁を忘れかけています。はっきり言ってボケかかってます」

「ではなぜ虞美人さんだけ無事だったのでしょうか? 先輩とのつながりは最も少ないはず」

「理由はこれなんじゃないかな?」

 

 ダ・ヴィンチが出したのは焼きそばパン。

 

「早くこれを届けたい、という思いが、彼女との縁が消えなかった理由だと思うな」

「とはいえ戦力の低下は否めません。藤丸さんの魔力量を考えると、サーヴァントが戦闘を行った瞬間にポックリと死んでしまう可能性があります」

 

 ゴルドルフは信じられないものを見るように藤丸を見る。確かに見た目こそ老人だが、その目の奥には強い意志があるように見えたのだから。

 

「じょ、冗談は良くないぞ! 老いた程度で使い物にならなくなるなら魔術師にも引退制度ができることになるじゃないか。ほら、肉体は衰えても技は成熟すると」

「ポイントはそこです。彼の場合、因果逆転の呪いを受けた状態になります――」

 

 要するに“年を取った精神”に合わせて“肉体が老化した”という現象である。

 

 技を研鑽しながら年を重ねたわけではなく、ただただ年を取っただけ。つまりは知識量は現在のまま体だけが年老いたということになる。

 

「つまり――体は老人、頭脳と技術は子供」

 

 控えめに言って最悪だった。

 

「え……?」

「Mr.ゴルドルフ、この程度で驚いてはいけません。前回と同様に解決しようにも、全力の戦闘を行ってしまえばミスタ藤丸の命に関わる。つまり異聞帯へ赴いて敵の術者を討つ、と言った解決方法は非常にリスキーであると言えるでしょう」

「や、やめろやめろこれ以上聞くと私の繊細なメンタルが――」

「さらに、この呪いが解決するのを待とうにも、今度は寿命というタイムリミットがある」

 

 攻めたら死、退いても死、ここまでさせた時点でカルデア側は詰んだも同然の状態なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 対策を練ること数時間、その間マシュは藤丸の食事補助を行っていた。

 

「先輩、アーンしてください」

「あー」

 

 口に入れたおかゆをゆっくりとした動きで咀嚼している。数時間前までは元気な若者だったのがここまで老いてしまっているのは非常に痛ましいことであった。

 

(どうしてリュウトさんは)

 

 彼女の心は完全に曇っていた。

 

(私は、彼の事を殆ど知らなかったのでしょうか……?)

 

 園咲 リュウトという男は、彼女から見れば優しい男だった。誰にでも紳士的であり、よく職員の手伝いをしている姿を見かけていた。

 

 特に彼女に対しては特別に目をかけてくれており、まるで本当の兄であるかのようにも感じていた。

 

「……何辛気臭い顔しているのよ」

「虞美人さん」

「会議終わったみたいよ。こいつの面倒は私が見ておくわ……っ!?」

 

 その刹那、彼女の体が消滅しかかる。

 

「体の維持はカルデアの電力である程度賄えます……ですが現界を維持するためにはやはり先輩の存在が」

「……早く行きなさいよ。私は何度でも召喚できるけど、こいつは死んだらそこまでなのよ」

「は、はい……そう、ですよね」

 

 藤丸は眠くなったのか、うとうとしていた。

 

 その姿を見て、彼女の心はまた傷つくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

「え、異聞帯に行くんですか……?」

「はい、そうせざるを得ないからです」

 

 事態を解決するためにはやはり藤丸 立香にかけられた呪いを解かなくてはならない。

 

「日本の異聞帯の異聞深度はE-です。戦闘の発生確率はかなり低いと考えられます」

 

 本来の歴史から外れているほど異常性が高い=人類史の否定である異聞深度。

 

 それがほとんど差がない(E-)である以上、戦闘を行わずに事態を解決できる可能性もある。

 

「更にミス・キリエライトがいることも大きな要因でもある。敵のプリプターは君に執心しているように見受けられる」

「ごめんよ、マシュ。君にはとても辛いミッションとなる」

「だが拒否権は無いぞ! これは人類の未来がかかっているのだからな!!」

 

 ゴルドルフが威厳たっぷりに付け加える。

 

「とはいえ辛いのならばこの私が一肌脱ごうじゃないか。研鑽を積み重ねたアルティメットゴッフパンチで全てを解決して見せるとも!」

「いえ、やります……!」

 

 彼女は歯を食いしばり、辛い気持ちをこらえる。

 

「これは私にしかできないことですからッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

異聞深度 E- A.D.2010

 

Lostbelt No.X 超常犯罪都市 風都

 

『地球に選ばれた家族』

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 いい風が吹く町、風都。

 

 町のシンボルである風都タワーは今日も巨大な風車を回している。

 

「……な、なぁあれ」

「仮面ライダーじゃなかったか?」

 

 赤い革ジャンを着て歩いている男性を指さし、高校生の二人組はポケットから“ガイアメモリ”を取り出す。

 

\MAGMA/

 

\COCKROACH/

 

 二人は異形の怪人“ドーパント”へと変身を遂げる。

 

「仮面ライダーを斃せば」

「もっといいメモリがもらえるッ!」

 

 革ジャンの男性は二人の攻撃を躱し、自身もメモリを起動させる。

 

\ACCEL/

 

「変っ身!」

 

 彼は赤いバイクのようなアーマーを纏った戦士へと変身を遂げる。

 

「くっ――もうここまでガイアメモリが流通していたのかッ!?」

 

 戦いを見ていた市民たちは、それぞれマグマの力を操るドーパントとゴキブリの力を操るドーパントを応援している。

 

 だが誰も赤い戦士を応援していなかった。

 

 

 

 

 

「……さて」

 

 その風景をラーメン屋台の店主が写真に写す。マゼンタ色のトイカメラで。

 

「俺はこの世界を破壊すべきか、否か」

 

 彼は巻き込まれぬように屋台を引いてどこかへと向かっていった。





ぐだ男、ボケる。

召喚を維持するにはぐだ男とのパスをつなぐ=縁を持つ、だと思っている。その縁が消えればカルデアに常駐できない気がする。

レベル半減とかじゃなくて総コスト半減もギミックとしてあったら厄介だと思っている。実装されたらどうしよう……

結論:よくわからん、ノリで読んでください。


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第一幕 招かれざるS/風の吹く町


2009年がもう10年前なのが恐ろしすぎる……

遂に異聞帯突入。モチベはギリギリ持っているので続行。


…………

……

 

 

「ここが風都……」

 

 戦いを行わない以上、マシュは武装せずにボーダーを降りる。

 

 森の中に出現したおかげで悪目立ちはしていない。街中だったら完全に注目の的だったかもしれない。

 

 

 ――――パシャッ

 

 誰かに撮影された。

 

 振り返ると、ラーメン屋の店主がマゼンタ色のトイカメラでこちらを撮影していた。

 

「っあの撮影は」

「気にするな。どうせ上手く撮れてない」

 

 店主は悪びれずに答えた。

 

「そういう問題では」

「悪いが俺は忙しい」

「あっ」

 

 そのまま屋台を引いて彼はどこかへと去っていった。

 

「――マシュ君、そんなことを気にせずに調査をするぞ! 事態は一刻を争うのだからね」

 

 ゴルドルフはホームズによっておだてにおだてられハイテンションであった。

 

 そんなノリの彼に呆れつつ、ともに市街地へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 異聞帯、風都。

 

 その風景は現代日本と何ら変わりは無かった。

 

「うん……? 本当にここは異聞帯(ロストベルト)なのかね?」

『ブリーフィングを忘れたのかい? ここは異聞深度E-、つまり中国以上に凡人類史に近い場所でもある』

 

 礼装による通信を携帯に偽装することで更に目立たなくしている。

 

 それほどまでにここは日本に近しかった。

 

『でも油断はしないことだ。曲がりなりにもそこは異聞帯なのだからね』

 

 ダ・ヴィンチの言葉が示す通り、通行人が彼らの方を指さしひそひそと話をしている。

 

 

「ああ、間違いない。あれがカルデアって犯罪組織の」

「よし、斃せば」

「いいメモリがもらえるぜッ!」

 

 芸人風の三人組がメモリを取り出し、各々の体に挿入する。

 

\ANOMALOCARIS/

 

\BIRD/

 

\COCKROACH/

 

 突如とした脅威の出現に二人は一瞬あっけにとられる。

 

「て、敵襲ですッ!」

『え? 魔力反応一切ないんだけど』

「だったらあれは何なのだ!?」

 

 デミ・サーヴァントとしての経験から、マシュは咄嗟に異形の攻撃を躱すことに成功する。

 

 が、ゴルドルフは僅かに反応が遅れて攻撃を喰らってしまう。

 

「くっ!」

 

 借りていた魔銃で応戦するも、異形達には効果が無かった。

 

「いってぇ!」

「何すんだこのアマ!」

 

 ゴキブリのような異形に魔銃を破壊され、首根っこを掴まれる。

 

 仲間のピンチにゴルドルフは奮戦しているも、早くも息が上がってしまっていた。

 

「あ、そうだ……殺す前にこの子、犯っちゃおうか」

「名案! この町を穢す奴らは見せしめにしないとなぁ!」

 

 なんかよくわからない生物がモチーフの異形は下衆のような笑い声をあげていた。

 

(せめて――武装さえできれば)

 

 オルテナウスを使用していれば、最小限の消費で撃退できていたかもしれないのに。

 

 彼女は精一杯怪物たちを睨み付ける。

 

「とりまあのデブはここでぶっ殺すか!」

「え、ちょっ!?」

 

 鳥の異形はゴルドルフを上空へとかっさらう。

 

「し、新所長!」

 

 そして視認不能な高さまで上昇し、そこで手放す。

 

「ふぉごごごごっ! ごっ!」

 

 超スピードで彼の体が落下する。

 

 魔術を展開しようにも風圧で身動きが取れない。

 

「うがっ!? ……?」

 

 地面に叩きつけられる直前、何かに引っ張られて急減速する。

 

 それは蜘蛛のようなロボットだった。

 

 

「――よーしいい子だ」

 

 物陰からソフト帽をかぶった男性が姿を現す。

 

 三つ揃えのスーツを着こなし、様々なガジェットを周りに従えていた。

 

「この町を穢してんのはお前らの方だろ」

「「「はぁ?」」」

 

 息ぴったりに異形達は反応する。

 

「ちょっと待ってなお嬢さん。すぐに片づける」

 

\JOKER/

 

 彼はベルトから一つのスロットが付いたバックル――ロストドライバーを取り出して腰に装着する。

 

「行くぜフィリッ……っけね、また癖が」

 

 彼は帽子を目深にかぶり直し、メモリを構える。

 

「変身!」

 

 それをベルトに挿入し、展開した。

 

\JOKER/

 

 男性は濃い紫色のアーマーを身にまとった。

 

「さあ、お前らの罪を数えろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

「はぁ? なんだお前」

「ジョーカー……仮面ライダージョーカーだ」

 

 ジョーカーはゆっくりと歩みを進める。

 

「仮面ライダー! こりゃゴールドメモリも夢じゃねえ!」

 

 ゴキブリの異形はモチーフ通りの高速な動きで攻撃を仕掛ける。だが彼はそのすべてを見切っている。

 

「まだまだだな」

 

 攻撃をいなし、カウンターを決める。

 

 上空からは鳥の異形から攻撃を受ける。羽をばらまくような波状攻撃だ。

 

 ジョーカーはゴキブリ異形を盾に攻撃をしのぐ。

 

「でででで!」

「大人しくしやがれ――」

 

 押さえつけつつ、彼はベルトのメモリを腰の別スロットに装填し起動させる。

 

\JOKER・マキシマムドライブ!!/

 

「ライダー・キック!」

 

 そして攻撃が止むと同時にゴキブリを蹴り上げ、滞空していた鳥にぶち当てて撃破した。

 

「次はお前だ」

「え、マジかよ!?」

 

 謎の生物――アノマロカリスの異形を指さす。

 

 それは銃弾のようなものを吐き出して牽制するがすべて躱される。

 

「あ――こっちには人質ッ!?」

 

 マシュの事を思い出し人質作戦をとろうとするも、突如飛来したカブトムシ型のロボットによって妨害されてしまう。

 

 彼女はその隙に抜け出して安全圏へと退避する。

 

「これで気兼ねなく斃せるぜ」

 

\JOKER・マキシマムドライブ!!/

 

 ジョーカーの拳にエネルギーが充填される。

 

「ライダー……パンチ!」

「ひでぶっ!」

 

 三体の異形は爆発と共に人間の姿へと戻り、体外に排出されたメモリは砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

「あの、ありがとうございました」

 

 マシュは深くお辞儀をして礼を言った。

 

「ああ、いいってことよ。それよりも、あんたらがカルデアって組織の連中か?」

 

 ジョーカーは変身を解除し、帽子をかぶり直す。

 

「は、はいっ! もしや、サーヴァントの方ですか……?」

「どうやらそうらしい。俺も記憶が曖昧でな」

 

 彼は困ったように帽子を押さえる。

 

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はサーヴァント、“ハードボイルド探偵”左 翔太郎だ。クラスは恐らくライダー、のはずだ」

「ええと、ヒダリさん、ですね。私はマシュ・キリエライト、よろしくお願いします」

「君がマスターなのかい?」

 

 左の問いかけに、彼女は顔を曇らせる。

 

「いえ、私はデミ・サーヴァントですので。私のマスターは……」

「おっと、皆まで言わなくていい。事情は大体わかった。俺は君に手を貸す、それが依頼だからな」

 

 その言葉に彼女は目を見開く。

 

「言いたいことは山ほどあるだろうが、まずは移動しよう。“組織”にかぎつけられたら面倒だ」

 

 と、彼はマシュの手を引いてこの場を去る――

 

 

「……お、おうい…………そろそろ下してくれないか?」

 

 ずっとぶら下げられたままだったゴルドルフの顔は完全に真っ青だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

「はい、これでしばらくは大丈夫でしょう」

 

 気のせいか、体が少し軽くなった気がする。

 

 本当にこの先生は腕がいい。ちょっと特殊な人だけど。

 

「ありがとうございます、井坂先生」

 

 この人は見た目だけは紳士だ。

 

 中身は――ガイアメモリに取り憑かれ、ドーパントの体にしか興奮できない変質者。

 

 仕事もドーパント専門の医者という危ない人間だ。

 

「メモリの複数挿しをしたい気持ち、分からなくはありませんが……限度というものがあるでしょう。こうも短期間に何本も使用しては」

「そんなこと、知っているよ」

 

 僕はカルデアのマスターを老化させた“オールド”のメモリを先生に渡す。

 

「それより、このメモリを預かっていてくれませんか?」

「いいんですか、これを預けても。私が勝手に使うかもしれませんよ」

「別に、壊さないでいてくれればいい。もう用済みだから」

 

 メモリブレイクされなければ藤丸 立香の老化は解けない。家族に預けるよりも意外性があって見つけられないかもしれない。

 

「そうですか、でしたら」

 

 僕が聞いた話だと、この人は凡人類史では死んでいる。父さんから“ケツァルコアトルス”のメモリを奪い、その能力を手に入れようとしたところを仮面ライダーに退治されたとか。

 

 異聞帯(こっち)の彼はその運命からは外れている。そもそも彼の死因となるメモリは生み出されていないのだから。

 

「時に、冴子君から聞きましたよ。君はとても珍しいメモリを持っているみたいですね」

「……おしゃべりだな、姉さんも」

 

 きっと僕が家族だと信用させるために流した情報がそのまま伝わったみたいだ。

 

「ゴールドメモリよりも更に格が上の――プラチナメモリ。是非とも診察させてほしいですね」

 

 ジュルリ。

 

 先生は紳士な見た目とは裏腹に、不気味な舌なめずりをした。

 

(やれやれ……姉さんはどうしてこんな人を好きになったんだろうね)

「それは僕の最重要機密だからね。さすがに見せはしないよ」

 

 これで当分は戦える。

 

 僕の場合、直挿しの方が出力高いけど――当分控えた方がいいかな?

 

 事を成す前に死んでしまっては意味がないから、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 リュウトが診察室を出ていったあと、井坂は不気味な笑みを浮かべた。

 

「彼の持つ“エクストリーム”のメモリ……ああ、是非とも挿してみたいですねぇ」

 

 ジュルリ。

 

 ごちそうを前にした肉食獣の様に舌なめずをする。

 

「まあ、いいでしょう。当分は普通のメモリで我慢するとしましょう」

 

 さっき預かったオールドのメモリを白衣のポケットにしまい、表情を普段のものに変えた。

 

「――――次の方、どうぞ」

 

 

 






井坂先生は生きてます。その方が一波乱ありそう。



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第二幕 招かれざるS/協力者を探して

全然展開がまとまらなかった。

没案などはあとがきで。

※グロ描写注意


…………

……

 

 

 ディガルコーポレーション。それはガイアメモリの製造、販売を行っている会社だ。

 

 その応接室に芸人風の三人組――マシュ達を襲った男たちだ――が招待されていた。

 

「――いや、お待たせしました。どうにも体調がすぐれなくて」

 

 ドアが静かに開けられ、アタッシュケースを持参したリュウトが入室する。

 

 にこやかに微笑み、三人の向かいに腰を下ろす。

 

「あなた方が、例のカルデアと遭遇し、戦ってくれた人たちですね?」

「は、はいっ!」

「オレ達っす」

「……」コクコク

 

 三人とも緊張しているのか、なれない敬語を使っている。

 

「ああ、やはりそうでしたか。でしたら――特別報酬を支払わないと」

 

 と、彼がケースから取り出したのは三本の同じメモリ――マスカレイドのメモリだった。

 

「え、これって……」

「新しいメモリ、欲しいんでしょ? それを使いなよ」

 

 マスカレイドのメモリには破損すると自爆する機能が付いている。つまり敗北は死を意味することとなってしまう。

 

「でもこれじゃ」

「……今すぐ死にたいなら」

 

\DISASTER/

 

 リュウトはメモリを左手の甲に挿入し異形の姿となる。

 

「そうしようか」

 

 両手から高電圧の稲妻が放たれ、右端に座っていた小太りな男が感電死した。

 

「ひっ!?」

「な、なな何で!?」

「何でって、そりゃ――」

 

 異形はせせら笑いながら生き残りの首を掴む。

 

「君ら、マシュを傷つけようとしたろ? ほら、あのデブと一緒にいた女の子だよ」

「や、あれは」

「お、お俺らっは犯罪組織の、人間を」

 

 怯える二人の首をへし折ることなどせず、ゆっくりとその温度を上昇させる。

 

 皮膚の焼ける嫌なにおいが漂ってくる。

 

「やっぱり、僕が行くべきだったかな。君らに任せない方が、君らの為になるもんね」

「「――ッ!」」

 

 首が炭化し、体がそれぞれ崩れ落ちる。切り離された頭部が床に投げ捨てられる。

 

 異変を感じた社員が部屋に入った瞬間、あまりのむごさに口を押さえた。

 

「ああ、すみません。ちょっと汚し過ぎちゃいました」

 

 元の姿に戻ったリュウトは穏やかな笑みを浮かべながら部屋を後にし――喀血した。

 

 ドライバーを使わなかったツケが回ってきているのだ。

 

「あれ、おかしいな……このメモリは、適合率高いはずなのに」

 

 口元を拭いつつ、建物を後にする。

 

 そんな彼の姿を、目つきの悪いブリティッシュショートヘアが観察していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

「――だめじゃ! その男は信用できん!」

 

 ボーダーに戻ったマシュとゴルドルフ。

 

 だが開口一番に老人化した藤丸が喚きだしたのだ。原因は左の存在だった。

 

「せ、先輩……落ち着いてください」

「騙されてはならん! わ、ワシはアガルタでひどい目に」

「失礼」

 

 なれた手つきでホームズが藤丸に鎮静剤を打つ。

 

 大人しく眠りについた藤丸をムニエルらスタッフが部屋に運んでいく。

 

「……あーなんだ、前にもこういうことがあったのか?」

「その、色々ありまして」

 

 マシュは亜種特異点(アガルタ)での善人面したレジスタンスのライダー(クリストファー・コロンブス)の事を思い出す。

 

 最初は味方のようにふるまうライダー、トラウマを想起させても仕方のない組み合わせかもしれない。

 

「だったら仕方ねえか。だが、俺は君たちを裏切りはしない――おやっさんの名に懸けてな」

 

 そこで彼は思い出したように尋ねる。

 

「そういえば、カルデアに“鳴海 壮吉”ってサーヴァントはいないか? クラスは――おそらくライダーかキャスターだと思うんだが」

 

 マシュは首を振ってそれに応える。

 

「そうか……弟子の俺が英霊になった、ってのに」

「まーそういうこともあるよ。師匠よりも名を上げてしまっている英霊もいなくはないからね」

 

 落ち込む左をダ・ヴィンチが慰める。

 

「どうなんだろうな、全ては思い出せたらいいが」

 

 異聞帯に召喚された影響か、彼の記憶は完全に取り戻せているわけではなかった。

 

「それよりも、さっきの爺さんがマスターなのか?」

「はい……あの、本来は老人ではないのですが」

「Mr.左、あなたはこの異聞帯に精通しているようですが、老人化の呪いを解く方法はご存じで?」

 

 左はホームズを見て違和感を覚えるも、気のせいだったことにして質問に答える。

 

「恐らくは“オールド”のメモリの力だ」

「オールド……つまりは老人」

「そうさ。オールドの精神干渉は対象を老人化させる。特異体質――いや、高ランクの対魔力が無ければ防げない。元に戻すにはメモリをブレイクするしかないが――」

 

 彼は藤丸が運ばれていった方向に目をやる。

 

「正直、俺にも対魔力のスキルはあるがあれに耐えられる程じゃない。できれば増援が欲しい」

「それができていれば苦労しないんだよ」

 

 完全に困り顔のダ・ヴィンチ。

 

「今の藤丸君じゃとてもじゃないけどサーヴァントを召喚・使役できない。生成できる魔力量は微々たるものだしパスもいつも以上に短い。第一、戦闘がないのを見込んでの突入だからね」

「我々は彼と契約していないサーヴァント、戦闘は行えるが――残念ながら武闘派ではない」

 

 ホームズはバリツで戦えるが、あくまで真価を発揮するのは頭脳労働。ダ・ヴィンチは、以前の姿ならばまだ戦えたが、ロリ化して戦闘能力は大幅に弱体化している。

 

「――だったら、敵の敵は味方、じゃないのか?」

「「「!?」」」

 

 この場にいる誰でもない声が上がる。

 

 それはボーダーを撮影していたラーメン屋だった。

 

「井坂 深紅郎、という男が打倒ミュージアムの為に準備をしているそうだ」

「聞いても無駄だと思うけど、どうやって私のセキュリティを突破したのかな?」

 

 答える気はないらしく、男はトイカメラでこの場にいた全員の写真を撮った。

 

「会ってみたらいいんじゃないか?」

 

 そしてオーロラのようなものを生み出し、その向こうへ歩いて行こうとする。

 

「ま、待って下さい! あなた一体」

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」

 

 マシュは追いかけようとするも、すぐにオーロラは消滅した。

 

「……井坂、か」

「知り合いなのかい?」

「奴はかなりイカれている……が、手を組むには最適な人材ともいえるな」

 

 左は凡人類史での悪行を思い出したのか、本当に嫌そうな顔をしている。

 

「でしたら、会ってみる価値はあると思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

「キーワードは“聖杯戦争”“サーヴァント”“召喚”」

 

 地球(ほし)の本棚。リュウトはそこで“検索”を行っていた。

 

 キーワードを入れるたびに本棚の数が減り、最終的に一冊の本が残る。

 

「うん、これで僕もサーヴァントを召喚できる」

『あら、“お兄様”もここへ入れたのね』

 

 彼の妹、若菜が本棚のある空間に侵入する。無論、この世界での彼女とつながりがあるわけではない。

 

「ああ、できるさ。別に必要は無かったけど――僕の体調が悪くて、メモリを使わない戦闘をしないといけなくてね」

『まあ、それは大変ね』

 

 若菜は上品に微笑むも、その裏にはどこか意地の悪さを感じさせるものがあった。

 

「じゃ、僕は戻るよ」

 

 リュウトが空間から姿を消した後、彼女は悲しそうな表情を見せていた。

 

「……馬鹿な人。お父様に騙されているとも知らずに」

 

 本棚には彼の事は記載されていなかった。この世界での“園崎 琉人”はこの世に生まれていない存在だから。すべてが記録されている地球の本棚でも、並行世界の記録は存在していない。

 

 彼の言葉を信じるなら、家族のためにすべてを犠牲にできる人物。

 

「ほんと、馬鹿な人。私たちはあなたの家族じゃないのに」

 

 若菜は一人静かに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 サーヴァントを召喚するのに必要な条件は三つ。召喚式、縁のある触媒、そして霊脈。

 

 触媒は――メモリで代用できるはずだ。これにはすべての記憶が詰まっている。

 

 霊脈は問題ない。屋敷の地下にはガイアゲート、地球との接触ポイントがあるから十分なはずだ。

 

 最後の召喚式、この本が正しいなら、大丈夫だ。

 

 

「――告げる」

 

 魔力の生成は大体教わったから、ある程度いけると思う。

 

 後は呪文を噛まなければいい。

 

 このサーヴァントが居れば、この異聞帯最大のウィークポイントを護ることができる。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 魔法陣が大きく輝く。

 

 そこに居たのは――

 

 

 




ガイアメモリって最強の触媒だと思う。

翔ちゃんがホームズの秘密に気づいた感出してるけど本編で描写されない限り何もできない仕様。


・没案

探偵事務所に向かうも照井と遭遇、敵と勘違いされ戦闘に突入するも所長の便所スリッパで制裁。

没理由:キャラが多くなりすぎて収集がつかなくなりそうだったから。


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