Fate/Masquerade 「偽聖杯戦争」で仮面ライダーとプリキュアが無双する 魔獣戦線特別編 (水無月冬弥)
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プロローグ
あるいは魔人同士の邂逅


 戦え

 

 己の全てをかけて

 

 何度倒れても、何度敗北しても

 

 己が望むものを手にしたいのなら

 

 戦え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我はお前の足掻きを愉しもう

 

 

**********

 

 

 狂っていく。

 

 

 狂っている。

 

 

 

 狂ってしまった。

 

 虚構と虚像の入り混じった偽りだが完成された円環が狂い、乱された。

 円は線となり、求めぬものは得られない

 

「アアアアア!」

 

 男は叫んだ。

 狂ったように叫んだ。

 

 断たれた、断たれたのだ。

 

 ありとあらゆるものをかけて!

 己の命までも駆けて!

 何度も何度も諦め、追い求めていたものが、今!

  

 明確に崩れ去ったのだ。

 

「どうすればいい。この時空の歪みを正すにはどうすればいい」

 

「戦うしかないだろうね」

 

 いつの間にか男の前には、美貌の青年が立っていた。

 

「誰だ、貴様は?」

 

 男の問いに青年は笑みを浮かべた。

 まるで聖人を堕落させる悪魔のような笑みを

 

「君を助けるものだよ」

 

「本当か? もしも偽りであれば」

 

 男は魔力を解き放った。

 歪んでしまい、彼の望みを果たせなくなったとしても、その力はこの世界でも絶対的な”力”であった。

 その力が、この歪んだ世界に満ちていき……

 

「お前を絶対に消滅させる」

 

 自分を取り囲むそれらをみても青年はただ苦笑するだけであった。

 

「偽りじゃないよ、君と同様に私にも願いがある。すべてを犠牲にしてもいいくらいのね」

「そのために、君も利用するが、その対価はきちんと払う準備はある」

 

 男は青年を見た。

 その笑顔の奥に込められた感情に男は気づいた。

 自分と同じような”狂気”レベルにまで高められた誓いの意志を。

 

「わかった。どうすれば元のセカイに戻れる?」

 

「先ほどいったとおり、戦って倒すしかない。この歪みを創った元凶である……」

 

 青年は言葉を続けた。

 

「666の魔獣が一体、DB-489決闘皇を」

 

 

**********

 

 

 魔獣、それは世界を滅ぼすと伝承に残りし666体の異形の存在。

 

 西暦1998年、千年の封印を破り、日本に甦った彼らの異能「邪力」は、日本中に張り巡らされた対魔獣結界「大結界」により、その大半を封印されてもなお最恐の存在であり、並みの退魔士、術者ではたちうちできなかった。

 

 魔獣に戦い、勝利できるのは世界最強クラスの能力者のみ。

 

 そのため、戦力集中と犬死にを防ぐためひとつの組織が創設される。

 その名を魔獣討伐援助機関「円卓の騎士」

 

 魔獣と戦うために登録される能力者「円卓の騎士」になるための条件は2つ

 1つは、魔獣と戦う意思を持つこと

 そして、もう1つは、世界最強クラスの能力者であることであった。

 

 

 

 かくして現代日本を舞台に世界最強の能力者「円卓の騎士」と世界最恐の存在「魔獣」とのバトルを繰り広げられることとなった。

 



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第1章 偽聖杯戦争開幕
ルーラーは英雄王


 Fate/stay night

 

 それは大人気のビジュアルノベルゲームである。

 

 

 ジャンルは、現代異能バトル。

 現代日本を舞台に、プレイヤーは「衛宮士郎」となって、サーヴァント「セイバー」を支配するマスターのとなって「聖杯戦争」を潜りぬけることなる。

 

 

 聖杯戦争

 

 

 それは、望みをかなえると伝えられし聖杯を手に入れるため、7人のマスターがそれぞれ「セイバー」「アーチャー」「ランサー」「ライダー」「キャスター」「バーサーカー」「アサシン」と称されるクラスのサーヴァントを使役し殺し合うバトルロワイヤルである。

 サーヴァントの器となるのは、伝説や神話に登場する英雄の霊「英霊」であり、それぞれのクラスに応じた人外の力を振るうことになる。

 

 その戦いに似た戦い、「偽聖杯戦争」ともいえる戦いが、ここ布雪市で繰り広げられていた。

 聖杯を巡る戦いなのは、Fate/stay nightと同じであるが、最後の一人となったマスターは、この偽聖杯戦争を主催したルーラーである英霊ギルガメッシュと戦うこととなり、彼の英霊に勝利すれば、聖杯を手に入れ願いを叶えることができる……

 ……はずなのであるが、この偽聖杯戦争で願いをかなえたものはいない。

 なぜなら……

 

 誰もギルガメッシュと対峙して勝利したものがおらず、新たな偽聖杯戦争が何度も開催されているからである。

 

 そして、今宵……

 

 新たな偽聖杯戦争が幕を開けようとしていた。

 

 

**********

 

 偽聖杯戦争を裏で操っているのは魔獣であった。

 

 この世に存在すら許されていない魔獣の持つ世界の理を歪め狂わす異能「邪力」 

 その力によって、数多の英霊が布雪市に召喚されていた。

 

 だが、狂った力による数多の召喚は、布雪市周囲の時空を歪ませることなる。

 

 その結果……、この世界に隣接するあまたの並行世界(パラレルワールド)との時空が何度もつながり、この世界ならざる存在が、偶然迷い込むことがあった。

 

 総帥と対峙した男はその一人であるが、彼の他にも2人、この世界を来訪した異邦人がいた。

 

 

**********

 

「ごきげんよう」

 突然の並列世界に転移に驚いた様子であったが、それも一瞬のこと。

 少女は、目の前のスーツを来た女性に深々と一礼する。

 ただお辞儀をしただけなのに、その動きに可憐さと優雅さが同居していた。

 

「驚いた……」

 

 感嘆の声をあげたのは、スーツ姿の女性であった。

 

「いきなり別の世界に転移されたのに、ここまで落ちついているとは」

 

「いえいえ、驚いていますよ。ただ、別の世界に飛ばされたことは1回ではないので」

 

 少女は微笑んで答えた。

 その容姿はどこにでもいるごく普通の少女であったが、その見た目以上の修羅場を潜りぬけてきたようであった。

 

「でも、ここは何か違いますね」

 

 少女は周囲を見回す。

 

「悪意? 敵意? なにか邪なものを感じます」

 

「それは邪気という。この世界を滅ぼそうとする魔獣の気配だ」

 

 女性は少女に対して、魔獣に関する説明をした。

 

「では、この世界のプリキュアは魔獣と戦っているわけですね」

 

「プリキュア?」

 

 女性は首を傾げる。

 

「その名称は初耳だ。残念ながらこの世界にはそのような組織はいない」

 

「いないのですか。プリキュアがいない世界もあるなんて驚きです」

 

「だからこそ、貴女にお願いしたい事がある」

 

「お願い……ですか」

 

「どうか1回だけでいい。魔獣と戦っていただけないだろうか?」

 

「魔獣と戦う……」

 

 少女の容姿は普通だが、その佇まいは気品にあふれていた。

 悪と戦うというよりは、深窓の令嬢といった趣であるが、彼女が世界最強クラスの能力者であることを女性は疑っていなかった。

 なぜなら、その気配を探ってここまで辿りついたのだから。

 

「こちらの推測だが、今回の魔獣さえ倒せば元の世界に戻れるようだ。頼む、世界を救ってくれないか?」」

 

 

**********

 

 一方、同じように依頼をされている青年がいた。

 

「だいたいわかった」

 

 傲岸不遜を形にしたような笑みを浮かべ、ワンピース姿の女性を見る。

 

 青年の態度は絶対強者の自信の表れであり、そして、その力は彼が通りすがった世界で実証していた。

 

「それで俺に何をしてほしい。この世界の日本を守護するあんたには悪いが、俺は壊すことしかできないぜ。なにせ俺は……」

 

 首からかけていたマゼンタカラーのカメラで、女性を撮りながら、青年は言葉を続ける。

 

「世界の破壊者らしいからな」

 

 女性はニコニコと笑みを浮かべながら、口を開く。

 

「それならば好都合ですわ。世界の破壊者ならば、世界を滅ぼす存在である魔獣と互角でしょうし、それに……」

 

「それに?」

 

「あなたより先に世界を壊すことを許せないでしょ?」

 

 女性の問いかけに青年は苦笑する。

 

「なるほど、確かにそうだ。いいだろう」

 

 

**********

 

 まったく別の場所で、少女と青年は答える。

 

「わかりました。依頼をお受けしますわ」

 

「まずは、その魔獣って奴を破壊してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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死闘! 英雄王vs騎士王

「まさか、このような傍若無人な方法を使って(おれ)の宮殿に押し入ってくるとはな……」

 

 英雄王は驚きと呆れが入り混じった表情を浮かべた。

英雄王ギルガメッシュ

 古代メソポタミア神話に語り継がれし王。

多くの英雄譚の中でも、最も古き英雄譚の英雄である彼は、Fate/stay nightではイレギュラーな8人目の英霊として登場するが、この偽聖杯戦争では、戦争の均衡を取り仕切る裁定者(ルーラー)として現出していた。

 

 ここは英雄王の宮殿

 かのバビロニアの空中宮殿には遠く及ばないものの、荘厳な神殿風の宮殿であった。

 

 この宮殿がありし場所は日本にあって、日本に非ず。

 邪力により異空間に創り上げられた決闘の宮殿であった。

 

 偽聖杯戦争の最終決戦において闘技場ともなる大広間の玉座に、英雄王は悠然と座っていた。

 黄金の髪の美麗な青年

 その体には、鮮やかな彫刻の施された黄金の甲冑に包まれており、武器は手元にはないが常時戦場の雰囲気を漂わせていた。

 

 英雄王は玉座より侵入者を見下ろす。

 だが、彼は侵入者を前にしても、玉座から立ち上がろうとしなかった。

 

 新たなる偽聖杯戦争はまだ始まったばかり

 選ばれた7人のマスターは誰もまだ敗北していない。

 本来であるならば、まだ戦う時ではないはずであった。

 

 最後の一人になるまで、英雄王はこの地よりマスター同士の戦いを観覧し、勝利者が決まった瞬間、この宮殿への門を開ける約定(ルール)であった。

 

 だが……

 

……その約定を破り、今、彼の前には1人のマスターと、サーヴァントがいた。

 マスターは10代の少年。

 地味な灰色のトレーナーにジーパン姿の少年の手には、抜き身の日本刀が握られている。

 その刀身は魔力を帯びており、ただの刀ではないようであった。

 そして、その傍らに立つサーヴァントは白銀の甲冑をまとった金髪の青年。

 気品のある顔だちは闘志にあふれ、その手に握られた両手剣からは、凄まじい魔力が迸っていた。

 

 ここに辿りついたのも、その両手剣の魔力によるものであった。

 

(おれ)の邪力を辿り、宮殿の位置を割り出したうえでの、宝具による一撃で空間を裂くとは……」

 

 マスターの背後、大広間の大扉の前の空間が裂かれていた。

 裂け目からは、雑居ビルと、道路に置かれた辻占いの机が見える。

「さすがはセイバーだと褒めてやろうか」

 

 騎士の英霊(セイバー)、それは7つのクラスの中でも最強と言われるクラス

 その名のとおり、剣を得意する英霊のみが選ばれるのだ。 

「雑種、その蛮勇だけは褒めてやろう。しかし、いいのか、雑種よ?」

 

 ギルガメッシュは尊大に言い放った。

「お前は早死にする気か?」

「死ぬ気はない……が」

 

 少年はギルガメッシュを睨む。

「なにが聖杯戦争だ。聖杯戦争はゲームの中の架空の話だ! これはただの模倣でしかない!」

 

 少年の言うとおり、これはゲームの歪な偽物(フェイク)に過ぎない。

 ゲームのように練られた設定も、計算されたキャラの関係性もない。

 

 その結果、Fate/stay nightの聖杯戦争は魔法儀式の側面を持っているが、偽聖杯戦争はただのバトルロワイヤルでしかなかった。

 

 ただ7人のマスターが戦いあい、その勝利者が英雄王と戦い……

 

 

 ……そして敗北する。

 

 それが延々と続いていく、それが少年の予測するこの偽聖杯戦争の物語だ。

 

 だからこそ、少年は偽聖杯戦争が始まるが否や、英雄王を索敵したのだ。

 

 いつもと同じように戦えば敗北は必至。

 ならば、イレギュラーを起こすしかない。

 そう考え、奇襲したが英雄王に動揺の色はない。

 

「なるほど、確かに真の聖杯戦争ではないかもしれないが、それは些細なことではないか? (おれ)には力がある。そして……」

 

 英雄王は玉座の背後に鎮座する巨大な水晶を見る。

 

「雑種、いや、シロウ。お前の大切な人は(おれ)を倒さぬかぎり、ここに眠っているだけだ」

 その水晶の中には、一人の少女の姿があった。

「桜!」

 志狼は愛する少女の名を呼んだ。

 

「それともここで、この者を殺して見るか」

「おのれ、魔獣!」

 

 志狼は叫んだ。

 

 この偽聖杯戦争は偽りばかりだ。

 

 マスターとサーヴァント

 

 英霊

 

 聖杯 

 

 魔術回路、令呪etc……

 

 ゲームの設定は、実際には存在しない。

 

 だが、この世界に魔法が存在しないわけではなかった。

 普通に生きている人々には秘匿されているだけでお、異能や魔法は確かに存在しているのだ。

 

 そして、志狼は、魔法の存在を知っている闇の世界の人間の住民であった。

 

 志狼は手にした日本刀に呪力を込める。

 闇のものを狩る術者の家系である彼の家に代々伝わる霊刀

 数多の闇のものを屠ってきた刀だが、目前の英雄王の偽物を倒すには、力が全く足らなかった。

 

 なぜなら彼は英雄王としては確かに紛い物ではあるが、世界を歪め、この偽聖杯戦争を支配できる力を持っていることは間違いないのだから。

 

 魔獣

 はるか昔より、世界を滅ぼそうとする666の異形の存在

 1000年ほど前に日本に封印されたが、20年ほど前に復活し、日本国内において世界を滅ぼそうと活動をしている異世界からの侵略者。

 その一体が、英雄王の正体なのだ。

 

 魔獣を倒すことができるのは、世界最強クラスの能力者のみ

 並の術者である志狼で太刀打ちできるはずもない。

 

 正攻法では……

「マスターよ、宝具の解放の許可を!」

 

 セイバーが叫ぶ。

 この宮殿に辿りつくために空間を切り裂いたように、彼の剣には凄まじい力が秘められている。

 彼こそ、セイバーの中のセイバー

 その手にする両手剣も、数多の魔剣、聖剣、妖刀の中でも最強クラスの聖剣であった。

「頼む! 聖剣の力を解放してくれ!」

 

 マスターの声に、セイバーが聖剣の真の力を解放する。

 

「十三拘束解放シール・サーティーン――円卓議決開始デシジョン・スタート!

《───承認。

 

 心の善い者に振るってはならない

 是は、生きるための戦いである

 

 是は、己より強大な者との戦いである事

 

 是は、人道に背かぬ戦いである

 

 是は、真実のための戦いである

 

 是は、精霊との戦いではない事

 

 是は、邪悪との戦いである事》

 

 十三の封印のうち、7つの封印が解放され、刀身がまばゆい光を放ちはじめる。

 

 いや、それは目映い程度は済まされぬ煌めきであった。

 

 そしてセイバーは8つ目の封印の解放を宣言する。

 

「是は、世界を救う戦いである!」

 

 聖剣の輝きがさらに増した。

 

 まるで地上に太陽が降臨したかのような、そんな圧倒的な輝きの中、セイバーは聖剣を振り下ろす。

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!」

 聖剣から放たれるは、戦場において必殺の一撃

 

 一瞬にして数多の戦士を屠る。

 いや、一軍すらも灰燼に還す必勝の黄金の奔流が、英雄王にむかって放たれる。

 

「おおっ!」

 

英雄王は立ち上がる。

 

「これが、貴公の、真の力か!」

 

 その体をも呑みこむ強大な光撃を前にして、英雄王の顔には笑みが浮かんできた。

「アーサー・ペンドラゴン!」

 ギルガメッシュは、セイバーの真名を叫んだ。

 

 セイバーの正体は、Fate/stay nightのセイバーのアルトリア・ペンドラゴンの原型(プロトタイプ)であり、伝説の王アーサー王の英霊であった。 

 

 彼が手にする聖剣エクスカリバーもまた世界一有名な剣であり数多の戦士、英雄、王が至高と認めた聖剣 

 すべての封印を解かれていないとはいえ、その一撃を耐え抜くものはこの世には存在しなかった。

 

  

 そう、この世の理に殉じるものであるならば。 

 

 

「無駄だ!」

 

 高らかに英雄王は告げる。

 

 その身は黄金の輝きに呑みこまれるも、その声には余裕があった。

 

 其れも当然

 

 この世界の武人全ての理想と祈りが込められたその一撃は、彼のまとう黄金甲冑に阻まれ、彼に傷一つつけることができないでいた。

 

 清冽な聖剣の輝きに反して、その黄金の甲冑の輝きは毒々しく、見たものの目を濁らせる穢れた力であった。

 

 それこそが邪力。

 この世界の存在ではない魔獣が放つ、この世界の理を歪め穢す力であった。

 

 聖剣の輝きが弱まっていく。

 マスターである志狼の魔力が尽きかけているのだ。

 

「さて、聖剣の力が尽きた瞬間、褒美をとらせてやろう」

 

 英雄王の背後の空間に魔法陣が浮かび、その中心から魔力を帯びた刀身が現れる。

 

 ギルガメッシュの宝具「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

 その魔法陣は彼の宝物庫につながっており、ありとあらゆる魔術装備「宝具」の原型となった法具が貯蔵されており、魔法陣を通じて、英雄王は自由自在に武器を取り出すことができる。

 

 ギルガメッシュはいつでも源魔剣を放つ準備をしたまま、力尽きるのを待った。

 聖剣の放つ光が瞬く間に消えていく……

 

「そろそろか……」

 

 英雄王が神器を放とうとした刹那、その眼前に刃が飛び出した。

「慢心したな!」

 

 志狼が叫んだ!

 魔力をほぼ使いきり、その顔は蒼白かったが、その闘志に揺らぎはない。

聖剣の一撃が終わるその刹那、渾身の力を振り絞って英雄王に肉迫したのだ。

 

 勝利を確信した英雄王が油断した、その一瞬を狙って。

 この瞬間なら、傷を負わせることができる。

 

 これまでの闘いで確信していたことだ。

 

 たとえ、聖剣に比べれば、あまりにも弱い魔力しか込められていない霊刀でも英雄王に届くのだ。

「うおおおおおお!」

 

 志狼は全身全霊をこめて一歩踏み込み、英雄王の眉間めがけて剣を突き出した。

 

 

 



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紅の狂戦士

 志狼の放った渾身の突き

 彼の残りの呪力を注ぎこまれた刃が、英雄王の頬をざっくりと切り裂いた。

 

 迸る鮮血

 

 だが、志狼は絶望に顔を歪める。 

  

 彼の放った渾身の一撃を、英雄王は首をわずかに傾けただけでかわしたのだ。

 

 英雄王の顔に浮かんだのは愉悦

 

 志狼は咄嗟にバックステップをするが間に合わない。

 跳ね上がった黄金の靴底が志狼の胸にめり込んだ。

 

 めきっ

 

 肋骨の骨が軋み折れる音と激痛を感じつつ、後方に吹き飛ぶ。

 

「シロウよ、お前ではないか、(おれ)の事を偽物といったのは」

 

 胸を押さえながら立ち上がる志狼を見下ろしつつ、英雄王は言葉を続けた。

 

「だから、慢心することはない」

 

 志狼は霊刀を構える。

 呪力も体力も尽き、胸の激痛がやむこともない。

 霊刀を持つ手も震えている。

 

「セイバー、まだ戦えるか?」

 

 志郎はセイバーに問い掛ける。

しかし、志狼の問いに答えるものはいなかった。

 

「セイバー?」

 

 セイバーのいるはずの位置をちらりと見た志狼は絶句した。

 

 そこには、全身に無数の剣で貫かれ絶命しているセイバーの姿があった。

 

 銀色に輝いていた鎧は、無残に破壊され、真っ赤な血で染められていた。

 その目は見開いたままであり、為す術もなく敗北したのを物語っていた。

 

 志狼の攻撃をかわしながら、英雄王は王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を使用していたのだ。

 

「マスターからの魔力供給もなく、渾身の一撃を放ち終えた状態のこやつを殺すことなど、屋台の射的の的を射るより簡単だったぞ」

 

 絶命したセイバーの体が消えていく。

 

「どうした? さすがにこの状況でセイバーを失うのはつらいか」

 

 問い掛けるギルの笑みはどこか艶めかしかった。

 

「他のものとは違い、闇のものと戦う力を持っているとはいえ、サーヴァントに勝てるはずもない」

 

 英雄王の笑みがさらに深く、濃いものとなる。

 

「いいぞ。いいぞ、シロウ。その絶望した顔、じつにいい。その顔を見るために私は戦っているといってもいい。ああ、素敵だ。素敵だぞ、シロウ」

 

 英雄王の顔は蕩けていた。

 

「さあ、敗北を認めるか? 許しをこうか? それとも……? さあ、どうする?」

 

 英雄王の問いかけに、志狼は一旦眼を閉じ……

 

 ……再び、眼を開けた時、その顔には闘志が戻っていた。

 

「ほう、この状態でもまだ戦う気が……、ん?」

 

 志狼の目は英雄王を見ていなかった。

 英雄王の背後、水晶に閉じ込められていた幼馴染を見ていた。

 

 彼、志狼は、幼馴染の彼女を救うために戦っているのだ。

 そのために彼は消えかけていた闘志をかき集めたのだ。

 

 だが、そんな志狼の態度は英雄王の不興を買うことになる。

 

「雑種、(おれ)ではなく、桜を見るのか」

 

 魔法陣から英雄王が一振りの剣を取り出した。

 

 いや、それは剣と呼べるのだろうか

 

 円筒状の刃をもった黄金の柄の武器。

 

 その銘は「乖離剣エア」

 

 英雄王のみが所有する唯一無二、最強の武器

 

「私を見ないのなら……」

 

 英雄王は怒りの表情を浮かべながら、乖離剣を振り上げる。

 

「死んでしま……、えっ」

 

 乖離剣を振り下ろそうとした瞬間、宮殿内を魔力が走ったと思ったら志狼の体を包み込み……

 

 ……忽然と志狼の姿が宮殿から消え去ったのだ。

 

「なん……だと」

 

 志狼のいた場所には、新たな騎士が立っていた。

 

 セイバーではない。

 

 紅の甲冑をまとった騎士だ。

 

 英雄王と対峙し、ただ無言で立っている。

 

「今回はつくづく不測の事態が起きるとみえるな……」

 

 英雄王は紅の騎士を見る。

 裁定者(ルーラ)としての力が、その正体を見破る。

 

「貴様、バーサーカーか」

 

 英雄王の問いかけにも、紅の騎士は答えない。

 

「会話をする理性も失ったか」

 

 サーヴァントのクラスのひとつ、狂戦士の英霊(バーサーカー)

 英霊の中でも、「狂気的な行動を行った伝承をもつもの」あるいは「発狂した伝承がある」ものがなるクラスであり、理性を代償にして、力を増大させるスキル「狂化」をもつ英霊であった。

 

「理性のない狂人風情が……」

 

 英霊王は、乖離剣を構える。

 

「シロウを仕留められなかった鬱憤を晴らさせてもらうぞ」

 

 紅の騎士は、左腕の盾を構える。

 

「そのような盾で(おれ)の乖離剣を受け止められるか!」

 

 英雄王は乖離剣の邪力を解放する。

 

「さあ、宴をはじめるか。至高で最強の王である(おれ)と戦う幸せを噛みしめろ」

 

 英雄王が乖離剣を振り下ろした。

 

 全力ではない。

 

 本気をだせば、約束された勝利の剣(エクスカリバー)をも圧倒する力を持つが、それでは宮殿を崩壊させてしまう。

 そして、Fate/stay nightのバーサーカーであないのであれば、無尽蔵ともいえる生命力も持っていないだろう。

 だから、全力ではないが、並の英霊は余裕で屠る力で振り下ろした。

 

 対する紅の騎士はその一撃を盾で受け止めることはなかった。

 なぜなら、紅の騎士は、英雄王の頭上へ一瞬で移動したのだ

 

「瞬間転移だと?」

 

 乖離剣から放たれた邪力で床を破壊しながら、英雄王は頭上を見上げる。

 

 その目が大きく見開かれる。

 紅の騎士の手には英雄王と同じ乖離剣エアが握られていた。

 

「偽物! まさか無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス )か」

 

 紅の騎士が振り下ろした乖離剣を英雄王はとっさに乖離剣で受け止める。

 

 真の乖離剣の前に、偽の乖離剣は無力であった。

 

 一瞬にして破壊、真の乖離剣の邪力の余波を受け、紅の騎士は天井へ吹き飛ぶ。

 

「そ、そうだ、無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス )では乖離剣エアは創造できない、別の魔術か」

 

 英雄王は紅の騎士を見る。

 バーサーカーであることまではわかるが、真名まで読み取ることはできない。

 

 紅の騎士は天井に激しく衝突したあと落下する。

 

 落下しながら、紅の騎士は矢を放った。

 いつの間にか、左腕の盾が弓へと変化している。

 

 魔力を帯びた矢が英雄王を襲う。

 

 だが、英雄王は避けなった。

 黄金の鎧が創り出す邪力の障壁が、すべての矢を弾いていく。

 

「見事な宴会芸だな」

 

 英雄王は余裕の笑みを浮かべ……

 

「だが」

  

 乖離剣エアを振り上げる。

 

(おれ)を驚かせた罪は贖ってもらうぞ!」

 

 乖離剣エアの邪力が開放される。

 

 触れたものを破壊する螺旋の邪力が紅の騎士にむかって放たれる。

 

 紅の騎士は跳躍してかわそうとするが間に合わなかった。

 

 下半身が螺旋の邪力に呑みこまれ、一瞬にして消滅する。

 

 上半身のみとなった体が床に落ちてバウンドし、紅の甲冑が消滅する。

 絶命したことにより、魔力が消滅したのだろう。

 

「……」

 

 英雄王は空間の裂け目へと歩いて行った。

 夜のためか、一般人はまだ誰も気づいていないようだった。

 街路灯の下に設置された占い師の机

その机の上の水晶玉が英雄王の姿を映していた。

 

 偽の英雄王の姿を……

 

 英雄王は裂け目に右手をむけ、邪力を使い空間を修復する。

 完全に空間が修復したのを確認すると、英雄王は紅の騎士だったモノに近づいた。

 

 鎧は消滅したが、その上半身だけが残っていた。

 カジュアルなジャケット着た短髪の男性の死体。

 

「消滅しないところをみると英霊ではない、ただの人間か。マスターと英霊が融合したケースか?」

 

 死体の周りには倒された時にポケットからこぼれたのか、十数枚のカードが散らばっていた。

 

 英雄王はその1枚を拾い上げる。

 

 そのカードには、ギリシア数字で「XXI」と書かれており、地球のイラストが描かれている。

 それはタロットカード

 大アルカナ22枚のうちの1つ、「世界」のカードであった。

 

「なぜ、タロットを。まあ、いい。マスターであろうと英霊であろうと、これでバーサーカーは脱落……」

 

 英雄王の口が止まる。

 

「これは……、バーサーカーとそのマスターとの契約が切れていないだと?」

 

 英雄王は死体を見る。

 

「では、この男は何者だ?」

 

 



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