アリスと不思議な世界達 (ヴィヴィオ)
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プロローグ
アリス


「なにこれぇええええええええぇぇぇぇっ!?」

 

 目が覚めたら身体が縮んでいて、物凄く可愛らしい人形のような女の子になっていた。それもウェーブのかかった綺麗な金糸のような髪の毛が肩の少し下まである。瞳は水色のような碧眼で、とっても可愛らしい少女だ。服装は昨日、着ていた通りの姿でズボンや下着が落ちて裸にぶかぶかのYシャツになっていた。

 鏡の前で頬っぺたを触ってみると、鏡の中の少女も同じように頬っぺたを触っている。すべすべてモチモチな柔らかい感触をしている。手も身長も小さく、身長はだいたい110㎝くらいだろう。

 元々は男性だったというのにこの変わりよう。ありえない。というか、服装がやばい。

 

「声も高いし、息子も無い。完全ニ女ノ子ジャナイデスカ……」

 

 口から可愛らしい高い声がでてくる。怖くなって身体を抱きしめながら座り込んでしまう。そんな状況で少し落ち着いてから、部屋を見渡してみると……俺が居た自室じゃない。何時の間にか拉致されて性転換までさせられてしまったようだ。

 この状況で考えられるのはエロ同人みたいにやばいことをされるぐらいしか思いつかない。

 と、とりあええず部屋の中を確認してみよう。アニメや漫画で拉致されて性転換されるなんてよくあることだし、うん。クトゥルフ神話TRPGの動画とかで見ているし、なんとかなると思いたい。

 そんな訳で部屋の中を見渡してみる。まずこの部屋は寝室のようで、俺がさっきまで寝ていたベッドがある。ベッドの上は基本的なシーツと枕、布団、大きな本が置かれている。いや、この本はかなり怪しい。他にはテーブルと椅子があり、テーブルの上には水差しとコップが置かれていた。それと外に続くであろう木製の扉がある。

 

「まずこの部屋で怪しいのはこの本だよね……」

 

 ベッドにあったのは昨日、古本屋で買った大きな本だ。それを自室で眠りながら読んでいた。いたはずだ。

 

「あれ? 俺は誰だ? 名前や家族は? え? え? なにも、思い出せない……なんで、なんでっ! 記憶が消されてるっ! 嘘っ、そんな……」

 

 頭を抱えて座り込んで、嘆いていると恐怖と悲しさ、不安から涙が溢れてくる。

 

 

 

 

 どれだけ思い出そうとしても無理だった。泣いても誰もやってこない。原因となっていそうな大きな本を確認してみる。本の題名は『Grimoire of Alice』。表紙に黒い汚れがあり、緑色の表紙を汚している。左右に「」マークと文字は金色で描かれている。

 英語を普通に読むと、グリモワール・オブ・アリス。直訳するとアリスの魔導書。この本の持ち主か、書いた人がアリスなのだろう。詳しく見てみると、表紙の黒い汚れは変色した赤黒い血のように感じる。

 不気味に感じて慌てて手を離して別の部屋に逃げる。木製の扉が開こうとドアノブを回す。けれど鍵がかかっているのか、動かない。部屋の中に鍵があるかもしれないし、探してみる。

 でも、見付からない。ベッドの下とか、水を全部飲んでお腹が痛くなっても、その下に鍵なんかない。そもそも鍵穴もないので別の物かもしれない。そうなると怪しいのはやっぱり、この不気味な大きな本に違いない。

 試しに持ってみるけれど、重みなんてない。片手で持ってみたけれど、全然大丈夫。本を手に持った状態でドアノブを回して引っ張ってみると、普通に開いた。どうやら、この魔導書がないと開かない仕掛けみたいだ。

 

 隣の部屋はリビングとダイニングが一緒になっているようで、キッチンもあるし冷蔵庫もある。ただし、成人用の大きさのようでこの身体にはとても大きい。寝室以外にも扉が三つほどある。一つは鋼鉄の扉で中に何があるかわからない。もう一つは洗濯機のある脱衣所で、お風呂場となっていた。最後の一つはトイレだ。これらを探索しても何も見つからなかった。普通に使えそうではあるし、カメラの類いも何も無かった。ただ、トイレットペーパーも予備はないので、する時は水で流してからタオルで拭くしかない。

 とりあえず、次に食料を確認してみる。魔導書をテーブルに置いて冷蔵庫の中を確認してみるために手を伸ばして開けてみる。中にあるのはコンビニ弁当が八個だけあった。賞味期限がかなり怪しいけど、これしか見付からないので、二つを除いて全部を冷凍庫に移動させて冷凍する。これで賞味期限はある程度、気にしなくていい。幸い、この小さな身体なら、コンビニ弁当一つで一日が過ごせそうだし。後は水だけど、台としてテーブルにあった重い椅子を一生懸命に運んで、乗ってから水道水を流してみる。流れてきた水に指を突き入れてみると、ひんやりとする。

 

「冷たい」

 

 少し水をコップに取って、口に含んでみる。確か、ピリッと痺れたらアウト。でも、なんともないので、この水は大丈夫だと思う。不安だから、一回沸騰させてから飲んだら安全か。

 これで水は大丈夫だし、一応試してみよう。テーブルに魔導書を置いたまま、開けた状態にしたドアを潜ってみる。魔導書はどうなったか、不安に思って振り返ってテーブルの上を見てみる。テーブルの上には魔導書は無かった。

 

「え?」

 

 ふと下を見ると、()()()()()()()()()()()()()慌てて寝室からリビングの方に投げた。けれど、魔導書はすぐに消えて手の中に戻ってくる。なにこれ、凄く怖いんだけど。

 

「もう、怖いとか思ってられない……魔導書を読むしかない」

 

 魔導書を開いてみる。この魔導書を読んだ記憶すら失っているので、本当に恐怖しかない。それでも最初のページを読んでみる。最初は意味の分からない文字で書かれていたけれど、しばらく見詰めていると読めるようになってきた。

 

 

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)の内容は以下の通りだった。

 

 

 1.Grimoire of Alice(アリスの魔導書)はアリスの為に作られたアリスの為の魔導書である。故に持ち主は()()()()()()

 2.Grimoire of Alice(アリスの魔導書)の所有権を放棄すると持ち主は死亡する。

 3.Grimoire of Alice(アリスの魔導書)は他者に譲渡することができる。この場合、死亡するまでに手に入れたアリスポイント分の月日が猶予として与えられる。引き継いだ者には引継ぎ特典としてアリスが一つ解放され、肉体が前所有者が選んだアリスに変更される。またスキルポイントが三点貰える。

 4.Grimoire of Alice(アリスの魔導書)はアリスポイントによってあらゆるアリスの力を手に入れることができる。

 

 

 この内容だと、前の所有者はお婆さんの姿をしていたお店の人だ。そういえば彼女は黄色い外套を着ていて、アリスで好きなキャラクターはいないかと聞いてきたな。なんていったっけ?

 そうだ。東方のアリス・マーガトロイドと言ったはずだ。だが、この姿はアリスはアリスでも、どう見ても旧作のアリスだと思われる。あっ、もしかしたら東方のアリスとしか言っていなかったから旧作になったのか。つまり、この身体はロリスということになる。彼女の二つ名はWitch of Deathや魔法の国のアリス。まあ、便利ではあるしいいか。それに今更だ。この魔導書に書かれた通りなら、俺はすでにアリスになっていて、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を廃棄したら死んでしまう。それだけは嫌だ。とりあえず、二ページ目を見てみる。このページにはステータスを確認できた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice(アリスの魔導書)

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:1

 スキルポイント:3

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.1》《人形操作Lv.1》《バリア(反射)Lv.1》

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 こんな風に書かれている。これってつまり、俺自身はGrimoire of Alice(アリスの魔導書)が本体だということだと思われる。どういうことだっての。

 まあ、東方と答えた俺は運がいい。何故ならアリスは東方の魔法使いで、魔法の国のアリスは捨食と捨虫を習得している。

 捨食は食事を取らなくても魔力で補え、捨虫は身体の成長を止める魔法だ。つまり、魔力さえあれば食べなくてもいいし、成長もしない。不死ではないけれど不老である。いや、そもそも成長するのだろうか?

 この書き方なら本体は魔導書なのだし、旧作アリス、ロリスとして成長するかどうかも不安だ。まあ、気にしていられない。というか、アリスなのに人形が無いというのはこれいかに。まあ容姿端麗、眉目秀麗で異性のみならず同性からの印象も良いのは間違いない。

 アリスポイントというのはアリスを解放する力みたいで、触れてみると羽ペンが出てきて、新しいページになった。もしかしたら、これで俺が知っているアリスの内容を書けばいけるのかもしれない。一応、ロリスを触れてみると勝手にそのページになった。他のページには何も書かれていない。このことから、予想通り、新しく書けばいけるはず。

 俺をここに監禁した相手が何を考えているのかはわからないが、せっかくこのような能力があるのだ、強いキャラの力を手に入れよう。というか、死なない為にもう一つのアリスを増やそうと思う。彼女は内臓がえぐられる様な大怪我を負っても再生することができるし、人形師として力は有る。

 

「久遠寺有珠」

 

 声に出しながら新しいページに彼女、久遠寺有珠の名前を書く。しかし、何も起こらない。ただ、不思議なことに他に何を書けばいいのかわかってくる。彼女はTYPE-MOON発売のビジュアルノベルゲーム、魔法使いの夜の登場人物のひとり。

 世界に五人だけいる魔法使いの蒼崎青子の友人にして共犯者。魔術における先生にして相棒。蒼崎橙子とは旧知の仲、青子とは一年の同居生活。基本的に人間嫌いで、青子とは立場上仕方なく関わりを持ったに過ぎないが、いつの間にか青子の唯一の友人になっていた。

 細い手足と陽の光を知らぬ白い肌、憂いがちな趣きの、美しい人形のような少女で、人間的な表情が乏しく、魔術師としての生き方を絶対としている。日常生活はあくまで正体を隠して魔術を行うのが魔女としてのあり方だから続けているに過ぎない。古より伝わりし魔女としての教えと誇りが彼女にとっての絶対不可侵のルールであるため、人間らしさを臭わせる道徳や感情は不要としている。

 生まれる前から魔女であることを義務付けられていたため、十六歳にして魔術師として完成している。童話をモチーフにした呪術、薬学を得意とするワンダーランド系の魔女。まさに彼女もアリスである。お城に自ら閉じ込められたお姫様。永遠の令嬢。最後の鳥。今の境遇的にもあっている。

 能力はプロイキッシャーと魅了の魔眼。プロイキャッシャーは童話の怪物とも称される有珠の使い魔。略称はプロイ。童話をモチーフとしており、元となった伝承や童話に即した使用・発動条件があるものの、発動可能であるなら、あらゆる寓話、あらゆる不思議を許容する。それと全身には膨大な量の魔術刻印が刻まれており、その範囲は全身はおろか骨格、内臓にいたるまで。刻印がオートで治癒魔術を行使される。これが先程言った、生き残るための手段。ただ、非常に運動音痴なのが欠点だろう。

 書き終えると、急激に眠くなってきて、意識が真っ暗に染まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、()は身体を起こす。周りを見渡すと、リビングで倒れていたみたいだ。倒れる前のことを思いだしてみると、アリスポイントを使った事を思いだした。なのでGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を開いてみる。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice(アリスの魔導書)

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:0

 スキルポイント:3

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.1》《人形を操作する程度の能力Lv.1》《バリア(反射)Lv.1》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.9》

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ページに書かれているスキルに愕然とした。何故、運動音痴まで入っている。しかもレベル9という高さ。これはまずい。非常にまずい。しかも期待していた魔術刻印はレベル1だという。なにこれなにこれ、こんなの()は望んでない!

 って、私? 俺じゃなくて私? あれ、なんで私って言ってるんだ? これ、もしかして話し方もアリスに、女性になっていくのか!?

 

「おっ、私は男、男……女、いや、なにこれ、怖い、怖すぎる!」

 

 恐怖からベッドで蹲ろうとして、慌てて立ち上がる。走ろうとすると、何も無いところでコケてゴロゴロと転がって思いっきり壁に激突した。その痛みのあまり、泣き出してしまう。運動音痴レベル9はかなりやばい。生死に直結する。バリアを使って動かないと死ぬかもしれない。

 これは困るので何か対策が無いかと思って運動音痴の部分に触れてみる。するとスキルポイントを消費しますか? と聞かれたので押してみる。するとレベル8に下がった。デメリット系はスキルポイントで消せるみたいだ。ちょっとこれは死活問題なのでレベルを限界まで下げる。運動音痴がレベル6までなってくれた。これで死ぬほどではないけれど、なんとか運動はできるみたいだ。ただ、気をつけないとバランスが崩れて倒れそうになる。多分、自転車も乗れないし、水泳も駄目だろう。体育は一応参加できるレベルにはなった。久遠寺有珠はどうしようもないレベルなので仕方がない。

 後、壁にぶつけて出来たたんこぶは魔術刻印さんがオートで消してくれた。なので怪我はない。これからどうなるか、とっても不安だ。

 

 

 

 

 

 



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アリス

 これからどうなるのか、自分が自分でなくなる不安と恐怖で身体を震わせながらベッドで布団をかぶっ震えていた。

 そのまま眠ってしまったのか、気が付いたら意識がなくなっていたみたいで、胸に部屋の中に放り出していたGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を抱いて丸まっていた。

 

ひぃっ!?

 

 自分を自分で無くす元凶を思わず放り投げ、涙目でガクガクブルブルると震えている。どんなに助けを求めても誰も来ない。

 泣いていると、何時の間にか意識を失っていたりした。どれくらいの時間をこうしていたのか、わからない。

 

クスクス

 

 声が聞こえてきて身体がビクッとなる。恐る恐る布団から顔を外に出して確認してみるけれど、そこにはなにも居ない。

 

「気のせい……か、な……?」

 

 布団をもう一度被って真っ暗な中で眠ろうとした瞬間、私は()()()()()。慌てて布団を掴んで立ち上がり、振り回して部屋中を確認する。

 

「あっ、あははははっ、さっ、さすがに居ないよね? よね?」

 

 掛け布団を引き寄せて涙目なりながら、部屋の中をもう一度見渡す。でも、()()()は透明なので見えない。そこでふと嫌な考えが浮かんできた。

 

「待って、待って、待ってっ! やばいやばいっ!」

 

 布団を放り投げてGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を手に持ち、慌てて部屋を出る。そして、鋼鉄の扉を調べる。

 

 鋼鉄の扉は開いていた。

 

「さっ、さっきの、やっぱりここから……」

 

 顔が青ざめてくる。おそらく、さっきのクスクスと呼ばれる笑い声はクトゥルフ神話に出てくる星の精と呼ばれるモンスターだと思う。そうなると、時間経過で詰む可能性が非常に高い。

 

「やっ、やるしかない……だっ、大丈夫、大丈夫。わっ、わたし、私はアリスだもん、アリスなら、魔法の国のアリスなら大丈夫っ!」

 

 鋼鉄の扉を慎重に開いて中を覗き込む。相手は宙に浮かぶ血を吸う化け物であり、血を吸うことでその輪郭が真っ赤に浮かび上がっていく。浮かび上がった時は真っ赤に脈打つ巨大なゼリーにたくさんの触手が備わっており、ぷるぷると震えている。その触手の先には吸盤がついており、生き血を啜る口と大きな鉤爪も備わっていて、捕らえた獲物は死ぬまで離さない。そんな化け物が居た可能性がある。

 だからこそ、ここはやばい。ただ、人形は無いので武器が必要だ。だから、キッチンに移動してそこから包丁を取り、装備する。他に武器になりそうなのはやっぱり、弾幕だ。それの実験をせずにこのまま進んでいくと死ぬだろう。

 

「ま、まずは念の為にこの部屋を調べてからだね」

 

 キッチンの扉を押し開いて中身を確認していく。食器の類いは少しだけあるけれど、目的の小麦粉とかはない。仕方ないので水差しに水を入れてそれを撒いていく。これで水滴が空中に浮いたらそこに星の精がいるのは間違いない。

 

「よっ、良かった~この部屋も大丈夫みたいだ」

 

 なんとか落ち着いてこれた。でも、まだやらないといけないことがある。鋼鉄の扉の前に椅子や机を滑って倒れながらも移動させた。

 

「うぅ~痛い~」

 

 一応、風呂場やトイレも全部確認した。それが終わってから、弾幕を確認する。水浸しになっている部屋は放置する。今は時間が無い。それにこの身体がちゃんと魔法の国のアリスとなっていたら、赤・青・紫・緑・黄の五色の究極の魔法を操れるのだ。この五色にそれぞれ属性を宿せばいいだけ。

 そんな訳で、魔法を使ってみよう。まずは魔力を操作する。ただ、使い方はわからないので、弾幕を発動する。そう意思を込めると、身体の中から何かが抜けていく。すると目の前に無色の球体が四つ現れた。

 意識を身体の中に向けてみると、先程感じた不思議な感じの物が身体の中にあることがわかった。弾幕を構成する魔弾に魔力っぽいのが流れている。いや、他にも魔力が流れているのが二つあった。これは操作できないみたいなので、おそらく捨虫と捨食だと思われる。

 魔術刻印の方も起動してプロイキャッシャーを発動してみるも、やっぱり人形が無いので発動はしない。作りたいけれど、材料も無いのでそれも無理。ちなみに今までの魔力はオドなので、全て自前で賄えている。

 魔力には自然界にある魔力、マナと、術者の体内にある魔力、オドがある。この二つの違いは、とりだせる場所の差であって魔力である点においてその性質に変化はない。なので普通はマナを使って発動することが多い。けれど、アリスの原初の生命力とも、命そのものとも言われるオドは質がかなりいいみたいだ。

 今は自動回復にしか使えない魔術回路も問題無いので、魔弾の生成を増やしてみる。まずはどこまで作れるか試してみようと思う。そう思ってやってみたら、四つしか作れなかった。意思で操作してみると、思った通りには動く。けれども、どうしても一つを自由に動かすか、四つ纏めて同じように動かすしかない。

 

「……まあ、はじめてだし仕方ないよね……」

 

 続いて魔弾に属性を付与するイメージを行う。赤色の魔弾は炎。真っ赤でめらめらと燃える火の玉ができた。次はそれを球体の結晶体へとイメージしていく。流石は魔法の国からやってきたアリスだ。問題は数を作って操作になれるだけ。そんな訳で赤色を使って水浸しになった床を綺麗にしてみる。

 ジューという音と共に水分が飛んでいく。それをじーと見ているけれどふと思った。これ、水を集めて魔弾を作ればいいのではないだろうか?

 そう思って今度は水の魔弾を作ろうとしたら火の魔弾が霞のように消えた。どうやら、まだ同時には発動できないみたい。それでも、床にある水分を集めて渦潮のように水を集めて魔弾を作るイメージを行うと、身体の中から魔力が抜けていく。同時に地面から空中に水が吸い込まれて球体が形成される。

 

「お掃除終わりっと」

 

 集めた水は壁に向かって放ってみる。命中してバシャっとなっただけでダメージは全然ない。これでは役に立たないので、どんどん圧縮していく。50センチぐらいだったのを5センチまでに圧縮できたので、あとは高速回転させる。でも、これは維持が難しいので、やっぱり無しかな。ただ、イメージで動かせるので相手の体内に送り込んで内部から壊すのはいいかもしれない。

 続いて座って休憩しながら、魔力の回復を待つ。じっと瞑想して周りのマナを集めて体内に取り込み、オドを回復させる。イメージとしては空気中に含まれているので、呼吸して酸素を全身に行き渡らせる感じでしたら、ちゃんとできた。

 瞑想を五分ほど行ってから、休憩がてらにお弁当を食べることにする。捨食があるのでいらないけれど、やっぱり食べた方が精神的にも落ち着く。そんなわけでコンビニ弁当を取り出してレンジで500ワット、3分30秒で行う。

 わくわくしながら待っていると、チンッという音がした。中から親子丼を取り出し、テーブルの上に置いてラップを取り外す。二段重ねのトレイを外し、ご飯に中身を掛けてからスプーンで半熟卵と掻き混ぜて七味を振りかける。大人用の大きな椅子に座って、足をぶらぶらさせながら食事を開始する。

 

「っ~!? 辛っ、辛いぃいぃぃぃぃっ!?」

 

 大人のつもりで七味を入れたのだけれど、滅茶苦茶辛かった。それに舌が痛い。忘れていた。今はアリスな訳で完全な子供舌なのは仕方ない。この感じなら山葵も駄目だろう。でも、美味しいのは違いないけど辛い。それを我慢して食べていく。

 

 

 酷い目にあったけれど、魔力の回復は完了した。とりあえずは調味料は控えるとして、次にやるのは魔弾の総数を調べる。

 調べた結果、火を四発。六回までできた。そこで魔力切れだった。つまり、合計二十四発。それが私の出来る最大火力。弾幕としたら全然足りない。といっても、火を圧縮しているので、火力はどれほどかはわからない。というか、バリアも使うのだから二十四発も無理だ。だいたい十二発のバリア六回くらい。

 

 もう一度休憩してから、片手に包丁、片手にGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を持って鋼鉄の扉を潜る。まずは魔弾を四発用意し、発動状態で維持してすすんでいく。

 

 鋼鉄の扉の先は廊下で、突き当りは壁になっていて左右に廊下が続いている。入ったすぐの廊下の左右にも木製の扉があった。まずは入って右の扉を開いてそっと中を見る。

 中身は書斎だった。執務机とソファー。それに壁際にはびっしりと収められた本棚には十七冊の見覚えがある大きな本が納められている。それはGrimoire of Alice(アリスの魔導書)だった。表紙も題名も変わらない。試しに一つのGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を手に取って開いてみる。

 それは私のGrimoire of Alice(アリスの魔導書)と内容が違っていた。むしろ、本来のアリスに関わる物語だった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ()()()()()()()()。何時の間にか本棚に納まっていた本を不思議に思って手に取ったら、意識を失って目が覚めたら不思議場所に連れていかれていた。そこで本を読みながら助けを待った。そしたら、クスクスとどこから笑い声が聞こえてきて、それが日が経つごとに笑い声が増えてきた。怖くなって布団をかぶって泣いていたら、足を何かに掴まれて激痛が襲ってきた。身体中に見えない何かが噛みついてきて、血がどんどん吸われて目の前が真っ暗になった。

 

 

 

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 どう考えても星の精です。ありがとうございました。次の本を読んでみる。

 

 

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 私は()()()。気が付いたら、この部屋にいた。拉致されたと思って行動をする。怪しい大きな本、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を読んでいくと、理解した。私はアリスになるみたい。

 アリスポイントなる物を消費して完全なアリスとなる。そうだと思って本に私が知っているアリスを書いてみた。そうしたら、本当に不思議の国のアリスになった。

 そこからは不思議な冒険だった。鋼鉄の扉を抜けた先にあった扉を開けて入った。そこは不思議の国だった。そこから不思議の国のアリスの通りに進んでいく。三月兎や帽子屋達と出会って、一緒にマッドパーティに参加した。美味しくない紅茶を飲んで、吐きそうになりながら我慢して飲み込んで頑張った。でも、やっぱり彼等の好き勝手にやることに耐えられずに先に進んだ。そして、女王の兵隊、トランプ兵に捕まった。

 

 

 

 

 私は裁判を受けて、殺された。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 うわぁ、なにこれなにこれ。他にも読んでいくと、だいたい歴代の()()()は死んでいた。その中でも戦闘能力のあるアリスを選んだ人は生き残る可能性が高かった。ただ、その人も時間をかけ過ぎたのか、太く曲がりくねって鋭く伸びた注射針のような舌、原形質に似ているが酵素を持たない、青みがかった脳漿のようなものを全身からしたたらせる化け物に襲われて死んでいた。

 おそらく、ティンダロスの猟犬だと次のGrimoire of Alice(アリスの魔導書)で考査されていた。その人は私と同じく、戦闘系で固めていた。というか、普通にティンダロスの猟犬や星の精をぶち殺していた。

 彼女が選んだのはグリムノーツのアリス。そこから天性の実力を発揮して、様々な世界を旅してアリスポイントを集めていった。つまり、アリスポイントを集めて力をつければ普通にティンダロスの猟犬とかも倒せるようだ。

 この本から教えられた内容としては、まずアリスポイントは世界を開くポイントとしても使われる。その世界で偉業をなし、アリスの名前を広めればアリスポイントが手に入る。一つの世界につき最大三ポイントらしいので、次の世界を開くことを考えると二ポイントが使えるようだ。

 ただ、彼女は次第にとんでもないことをしだした。ある世界でハスターを召喚しようとした魔術師と探索者が争っていた。彼女は魔術師の方に味方をした。その時点で彼女は複数の世界を破壊し、救済し、好き勝手にやっていた。実力としてはすでに神に挑める程度だったからだろう。ハスターと戦った彼女は驚いたことに交際を申し込んで許可をもらえていた。

 カップルになったアリスはハスターといろんな旅をした。そして、子供も産んだが、ここで問題が起きた。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)は一つの世界に留まることはできなかった。また、どんどん年齢を重ねていったこともあって彼女はハスターに頼んで転生をすることを選んだ。しかし、それにはGrimoire of Alice(アリスの魔導書)は邪魔になる。何故なら、魂に至るまで私達アリスはGrimoire of Alice(アリスの魔導書)に支配されている。転生するには転生する力を持つアリスがいないといけない。だが、そんなアリスを彼女は知らなかった。そんな訳で生まれた娘にGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を託し、ついでにハスターの加護と黄色の外套という神器を与えた。

 次のアリスは最初に母親に薦められた世界を遊び歩き、最後にポケットモンスターの世界を選んだ。何を考えたのかは知らないが、彼女もアリスとして不思議な冒険をして、最後には母親と同じように転生を選んだ。

 そして、次のアリスとして私が選ばれた。あのお婆ちゃんは優しさからか、ちゃんと対策としてプレゼントがあるらしい。

 

「本によると、確かここに……」

 

 執務机の引き出しを開ける。そこにボタンがあった。それを押すと、ソファーの座る場所が浮き上がった。そちらを上げて中を確認すると、中には黄色の外套が入っていた。その外套を身に纏ってみる。フードもあるこれは色々と便利だと思う。

 一応、情報は手に入ったので、外に出てから目の前の部屋を調べる。前の扉の中身は倉庫だったようだけれど、残骸しか無かった。

 先に進んでいくと、左右に道が分かれている。左側はまた時計が設置された鋼鉄の扉があった。ただし、そこは覗き窓があったので覗いてみると……中には何も居なかった。ただ、暗闇が広がっているだけ。ここは嫌な予感がするので放置することにする。

 反対側に移動すると、大きな円形の広場になっていた。その円形の広場には中央に球体が設置された台座があり、壁には扉が二つだけあった。扉の一つは白と黒の丸いボール、モンスターボールの絵が書かれている。もう一つの扉には神社が描かれている。こちらはおそらく、東方プロジェクトの世界。

 どうやら、ベースとなったアリスの世界は最初の世界として用意されているみたいだ。ここを潜ってマーガトロイドの方のアリスから人形を貰ったらいいだろう。ただ、あちらも妖怪が跳梁跋扈しているので危険だろう。まだ実力は低いし。

 それを考えると、ポケットモンスターの世界はまだ楽だろう。危険はあるだろうけれど、十歳で旅に出るような世界であり、ポケモンを持っていたらちゃんと戦えるのだ。あの世界なら、私もサイキッカーとして魔法を鍛えることもできるしね。

 

 

 

 

 



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アリス

 

 向かう世界はポケットモンスターに決めた。すぐにでも、行くことができる。でも、その前に準備することは色々とある。そう、それは服装だ。今の私の姿で外に出ると捕まってお持ち帰りされたり、変態の露出狂となってしまう。そんなのは一部で女の子の憧れと言われているアリスや好きなアリスとして間違っている。今、男性物のYシャツだけなので、ぶかぶかな上に丈もあまっていて一応は隠せているけれどスースーして身体が震えたりもした。ほとんど恐怖心で気にもならなかったけれど、やっぱり考えると羞恥心が湧き上がってくる。

 

「といっても、服はないんだけど……」

 

 ついつい声に出して呟いてしまう。やっぱり、一人だから寂しいのもあるし、不安を紛らわせるために声を出す。それにこのままずっと黙って一人で居たら……コミュ障になりそうだ。コミュ障の幼いアリス……それはそれでアリかもしれないけれど、どう考えても最初は人生ハードモードが確定しているのでコミュ障だと死ぬ可能性が高い。

 だって、よくよく考えたらアリスポイントで自分を強化していくと、それは男だった前の自分がどんどん上書きされ、アリスになっていくことに代わりはない。それは私、俺の死であることに代わりはない。つまり、どちらに転んでも死ぬことは確定している。ベストな方法としては、ある程度アリスポイントで強化し、他は自前で頑張って戦える力をつける。最低でも自我を残せないと、いけない。そう、どん詰まりである。

 

「うぅ……」

 

 考えれば考えるほど、涙がでてくる。でも、時間制限があるのは確実だ。今居る部屋の反対側にある扉。あそこが開いたら物理的に殺される可能性が高い。そんな訳で服をどうにかする為に寝室に戻るついで確認しようと思う。

 

 

 広い部屋から出て目の前の時計がある鋼鉄の扉へと移動する。時計は十二時五分を指していた。時間はさっきから変わっていない。これが一周したら絶望が襲い掛かってくる。それを解決できるだけの力をつけないといけない。

 まあ、長針や短針が何を示しているかはまだわからないので、油断なく調査した方がいいい。でも、まずはここに長く居ても調べることはもうほとんどないはずだ。それなら、ポケットモンスターの世界に行った方がいい。少なくともモンスターボールを手に入れて、星の精など戦える力をつける。そして、星の精を捕まえる。これが今私が考えている計画だ。それに一人は寂しいし、ポケモン達が居たら少しは大丈夫だと思う。

 考え事を止めてから、警戒しながら寝室に戻る。

 寝室には前の私が脱ぎ散らかした服が置かれていた。床に落ちているのはベルト付きのズボンとトランクス。どちらも大きいので履けない。ここはベルトを取ってYシャツを縛りつけてミニのワンピースみたいにする。正直、丈が短いので見える可能性が高いけれど、黄色の外套を身に纏えばこちらの方が丈が長いので前をしっかりと締めれば大丈夫。

 続いてズボンを包丁で切って布にして足に巻き付ける。今まで素足だったので靴の代わりだ。しかし、なんだか汗臭い。これは一度洗濯した方がいい。一応、電気は通っているみたいなので洗えるはず。下着はトランクスを履いてズボンの布で縛りつけてなんとか着用する。

 さて、一応服っぽいのができたのでポケットモンスターの世界に向かう。一度洗濯した方がいいのは事実なのだけれど、そんな時間はない。それと戻ってこれるかもわからないので、餌としてコンビニ弁当はもっていく。一つしか持っていけないけれど、リュックとかないし、片手はGrimoire of Alice(アリスの魔導書)に塞がっているしね。包丁はGrimoire of Alice(アリスの魔導書)に挟んで持っていく。

 

 無事にモンスターボールと神社が描かれている場所までやってきた。その瞬間、後ろから秒針が進むカチという音がする。

 

 

 「クスクス、クスクス」

 

 

 狂気的な笑い声が聞こえて、振り返ろうとした瞬間。足に激痛が走った。その次の瞬間には身体が扉から引き離されていく。何かを掴もうとして必死に手を伸ばす。その腕は何かを掴んだ。だけど、次の瞬間には腕が噛みつかれた。腕から真っ赤な物が透明な何かを取って空中に運ばれていく。

 私の血液で輪郭が真っ赤に浮かび上がると、たくさんの触手を持つ脈打つ巨大なクラゲのような存在が現れる。

 

 「クスクス、クスクス」

「やっ、いやぁああああああああああああぁぁぁっ!?」

 

 身体が恐怖と血が抜かれていく寒さにガタガタと震え、痛みで泣きわめいて必死に手足をばたつかせる。それでも身体が動かない。

 

 

 「クスクス」

 「クスクス、クスクス」

 

 

 二体の星の精が現れ、私の身体を貪っていく。嫌だ、嫌だ、いやだ、いやぁああああああああああああっぁぁぁっ!

 

「死にたくないっ、死にたくないっ!」

 

 必死に手を伸ばして扉に手をやろうとして、力が入らなくなって目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 Bad Ending

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 →TITLE

 

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 オオ、アリスヨ。シンデシマウトハ、ナサケナイ

 

 

 死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ!

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

  TITLE

  Continue

 

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  TITLE

 →Continue

 

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 死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ!

 

 

 「クスクス」

 「クスクス、クスクス」

 

 

 二体の星の精が現れ、私の身体を貪っていく。嫌だ、嫌だ、いやだっ!

 

「こんなところでっ、死にたくないっ、死にたくないっ!!」

 

 必死に手を伸ばそうとして、嫌な感じがした。そうだ。私には魔法が、魔術がある!

 

「だん、まくぅぅぅっ!?」

 「クス、クッ――ッ!?」

 

 火の魔弾による弾幕を掃射する。至近距離から自分が燃えるのも気にせず、私の足と腕に噛みついている触手を吹き飛ばす。星の精が距離を取った瞬間にバリアを展開し、弾幕をまた放つ。放った弾幕は触手を振るわれて吹き飛ばされる。力じゃ絶対に勝てない。

 駄目だ。こんなのじゃ死ぬ。逃げ切る前に殺される。だったら、やることは一つ。火の魔弾を近距離の床に着弾させて爆発させる。バリアがその爆発の威力を跳ね返し、砕けて一部の衝撃が伝わって転げながら吹き飛ばされた。これによって扉の近くに移動する。モンスターボールが描かれている扉に抱き着いて、必死にドアノブを回して開く。でも、すぐ背後に奴等が来ている。

 

 「クスクス、クスクス、クスクス」

 「クスクス、クスクス」

 

 二体が攻撃してくる。運動音痴な上に足を怪我していては避けることなどできない。

 

「まだっ、まだぁぁっ!」

 

 だから、魅了の魔眼で一体を操って互いに攻撃させる。すぐに正気に戻るけれど、その前に弾幕を自分の受けるダメージを気にせず、近距離で爆発させてなんとか扉を潜る。その瞬間、星の精は残念そうに溶けるように帰っていく姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごろごろと転がるようにして出て来た私は木にぶつかって止まった。逆さのままで周りを見ると、そこは深い森のようで、木々の間から暖かな太陽の光が降り注いでくる。

 

「……た、助かった……? っ~痛っ、痛いっ、痛いっ、ふぎゃっ!」

 

 ほっとした瞬間、身体中に痛みが走った。痛みの余り、転がって頭を思いっきり地面に打ち付ける。軽く観察しただけでも、右足と左手の負傷。抉られているので再生は時間がかかると思われる。血液も結構抜けたし、魔力も余りない。それでも勝手に魔術刻印が発動して治療を始めている。ただ、このままだと死ぬ可能が高いのでバリアだけは張っておく。

 

「……はぁ、はぁ……はーっ、はーっ……」

 

 荒い呼吸を繰り返して酸素と一緒にマナを吸いこんで身体の再生を促す。同時に仰向けになりながら、木々の隙間から照らされる太陽の光を久しぶりに堪能していく。

 しばらくぼーとしながら空を見詰めていると、小さな鳥が飛んでいるところが見えた。その鳥はポケモンのポッポのように見える。

 本当にポケットモンスターの世界にこれたと思うと、少し涙が出てくる。いや、さっきから痛みとかのせいでいっぱい出してるけど。にしても――

 

「やったっ、やったっ、やってやったっ! これで私は生き残れるっ!」

 

 再生した両手を空に突き出して、盛大に喜ぶ。なんせ、あの怖い空間に戻る必要が無いのだ。無い……本当に?

 あの勝ち組になったアリス達は定期的に戻っていた。他の世界に移動するためだと思っていたけれど、アレがもし強制ならどうなのだろうか?

 思い出せば、最初は一週間毎に戻っていた気がしないでもない。後になるほど一月とか時間は開いていた。いや、後半だと旅をしている時は便利な宿屋扱いだったけど。

 そう思うと、不安になってきた。とりあえず、寝転びながらでもできることをしよう。まずはGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を開いてみよう。世界を移動したんだから、大丈夫だろう。ただ、手元にはないので、呼ぶしかない。

 

「おいで、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)

 

 予想通り、呼んだら目の前の空中に現れた。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)は勝手に開いてページが捲られていき、一つのページを表示した。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 不思議な世界第一世界・ポケットモンスターSPECIAL

 アリスポイントの入手方法:指定された伝説ポケモンの捕獲

 指定ポケモン:ゲンシグラードン、ゲンシカイオーガ、メガレックウザ、ディアルガ、パルキア、ギラティナ……

 スキルポイントの入手方法:ジムリーダーバッチの習得

 連続滞在可能時間:一週間

 スキル制限:なし

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 え? アニメじゃないの? ゲームですらないの? SPECIAL? ス・ペ・シャ・ル? グラードンとカイオーガの戦いで大災害受けたり、空間と時間を操るような奴が現れたり……これってぶっちゃけヨグ様とか、アザ様とか、同じレベルとはいわないけれど能力は同じなんだけど!

 

「待って、待って、待ってぇぇぇえっ!」

 

 死亡フラグ多すぎる! 世界滅亡フラグも多すぎる! だいたいアリスポイントの入手方法が軒並み世界滅亡クラスのポケモンな上に捕獲しろと! 撃破よりは難しいし、難易度設定が無茶苦茶すぎる! 本当に偉業だよ!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ、なんでアニメじゃないのぉぉぉぉぉっ!」

 

 アニメならそこまで死亡フラグは無かった。って、アニメは映画が含まれなければだ。よく考えたら、現実世界になったポケモンって結構な死亡フラグがころころしてるじゃん。なんで10歳で旅に出てるの!? 危険すぎるでしょ! スピアとかに襲われたら終わりだよ!

 そう思いながら、手足をばたつかせて苛立ちを表現するけれど、もっと不味い物が目に入った。それは祠だった。セレビィが出てくるような奴。つまり、ここはウバメの森なのだろう。

 思わず、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を掴んで片手で顔を隠しながら泣いてしまう。

 セレビィは時渡りポケモン。つまり、ここに出たということは、世界移動には一緒にある程度の()()も移動している可能性が高い。そうなると、ティンダロスの猟犬に襲われる可能性はとっても高い。これは死んだ。あいつらは時間移動者を徹底的に追ってくるからだ。予想していたけれど……ハードモードすぎるよ。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 眼を腕で隠して泣いていたら、声をかけられた。腕を外してそちらに視線をやると、そこには麦わら帽子を被った綺麗な金色の髪の毛をポニーテールにした可愛らしい女の子、イエローがいた。

 落ち着け。落ち着くんだ。ここで彼女の名前をこちらから言ったらいけない。安全だとはわかっているけれど、ここは怯えるような演技をした方がいい。火傷は治ったし、腕と足の損傷は比較的ましになったけれど、まだ身体は動かないし大丈夫。

 

「……あ、あなたは……だっ、誰……ですか……?」

 

 不安そうにGrimoire of Alice(アリスの魔導書)で顔を隠しながら聞いてみる。実際、不安なのは間違いない。今は一週間の猶予が与えられただけでしかないのだから。

 

「ボクはイエロー。イエロー・デ・トキワグローブです。君は?」

「あ、アリスです……」

「アリスちゃんだね。その怪我と恰好は……」

「……お、襲われたの……あなたは襲わない……?」

「おっ、襲わないよ!」

「捕まえない……?」

「捕まえないよ。それより、治療しよう」

 

 きずぐすりを使ってもらった。嘘は言っていないんだか、騙しているようで罪悪感が半端ない。特に好きなSPECIALで一番好きな子だから。彼女には是非ともレッドとくっついて欲しい。

 

 

 

 




 一度バッドエンドにした理由は簡単です。
まず、星の精は時計の短針が5ずつ進むごとにダイスを振って出目で出現します。100面体がなく、10面体2個でやっているのでクトゥルフ神話TRPGとは少し違いますが、10以下クリティカル、90以上ファンブルと設定して、最初は84で出現し、声だけをだしました。続いて出現率がだんだんと短針の場所によって上がってくるので、二回目は80以上となります。
二回目。ファンブリヤガッタ。ダイス目10と10.そんなわけで、星の精は二体出現。コンテニューしなければ死亡しました。
ちなみに短針は居る間、一日ごとに動きます。戻ってきた場合、入る時か出る時には必ず振ってもらうので、一週間に一度、星の精に出会う可能性があります。
後、ファンブルの場合は星の精×短針が進んだ数がでてきます。
さあ、アリスちゃんはどれだけ死ぬかな?

※命の危険は拠点フェイズでクトゥルフ神話のエネミーに襲われた時と伝説相手にする時ぐらいしか基本的にありません。

予定予告「ロボットつくってやるぅぅぅぅ」


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ポケットモンスターspecial 空白の二年間
アリス


 私、アリスの目の前に現れたのはイエロー・デ・トキワグローブ。彼女は第二章のメイン主人公であり、ポケモンの心や記憶を読み取ったり傷を癒す能力を持つ少女。他にも、釣竿に付けたモンスターボールを自在に動かしたり、自らの気持ちに同調させ手持ちポケモンを強化したりと多種多様な力を持つサイキッカーとも思われる。

 性格はおっとりしていて優しく、年下のジョウト地方の図鑑所有者にも敬語を使うなど、言葉使いも丁重。ポケモンが傷つくことを嫌っており、捕獲が恐ろしく苦手で下手。そう、彼女はこの世界の重要人物の一人。

 

「傷はこれで大丈夫だと思いますけど……」

「あ、ありがとうございます」

「それで、なんでこんなところで倒れていたんですか?」

 

 さて、どう伝えればいいのか悩む。イエローさんがある程度成長していて、ウバメの森に居ることから、予想できるのは第三章が終わった辺りだと思われる。とりあえず、時代を確定しないとどうしようもない。

 

「あの、ほとんど記憶はないんですが、何か大きな存在に攫われました。私の力で隙を突いて襲われながら必死に逃げてきたんですが、ここで力尽きて……」

「大きな存在……もしかして、それって氷を使っていた仮面の人?」

「よくわかりません。すいません、ほとんど覚えていなくて……」

「どこから出て来たのかはわかる?」

「それもわかりません」

「もしかして……いや、今はいいか。とりあえず、ボクと一緒に街まで行きませんか?」

 

 イエローさんとの会話である程度はわかってきた。氷の仮面ということから、イエローさんは私がマスク・オブ・アイスに攫われた子供の一人だと思ったのだろう。特殊な力があることは伝えたし。

 

「お、お願いします。力もまだ回復していないので……」

「その力ってどのような物ですか?」

「えっと、こんな力です」

 

 魔弾とバリアを発動して、見せてあげる。それを見るとイエローさんは驚いて、真剣な表情になった。

 

「その力の事は誰にも教えたら駄目ですからね? それが誘拐された原因だと思いますから」

「はっ、はい」

 

 間違ってはいないと思う。この力を与えるために誘拐されたのだから。しかし、イエローと出会えたのは運が良かった。これがシルバー達なら厄介なことに……ならないか。仲間だと思われるだろうし。

 

「それじゃ、出てきてドドすけ!」

 

 イエローさんが取り出したモンスターボールをボタンを押して大きくしてから投げる。投げられたボールは途中で開いて、中から光に包まれたポケモン――ドードリオがでてきた。

 ドードリオは阿修羅のように喜び、悲しみ、怒りを表す三本の頭が生えているのが特徴で、進化する際に頭部の一つが分裂して三つの頭を持つようになったとされる。非常に高速な走行が可能であるが、ドードーよりも遅い。眠るときはどれか一つの頭は必ず起きているが、脳だけではなく肺や心臓も三つある。しかし、一つの頭で食事をすれば他の頭が食事をしなくても満腹になるらしい。空を飛ぶ事が出来るが、翼はない。

 

「じゃ、乗ってください。大丈夫、僕も一緒に乗るから心配はないですよ」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 初めて乗るポケモンがドードリオ。確か、イエローさん曰く乗り心地が最高らしいし、期待できる。それに初めて触るポケモン。捕まえたいとは思わないけれど、やっぱり嬉しくなる。

 そんなことを思っていると、イエローさんに身体を持ち上げられて座ったドードリオの上に乗せられた。後ろにイエローさんが乗ってきて、私を抱きしめてくる。

 

「しっかりと手綱を掴んでくださいね」

「わっ、わかりました」

「じゃあ、行きますよ!」

「わっ」

 

 ドードリオが結構な速さで森の中を駆け抜けていく。草原で時速60キロも出せるみたいだけれど、森の中なので3、40キロぐらい。それでも凄く速く感じる。

 

「い、イエローさんはどうしてここに?」

「ボク? ボクはジョウト地方からカントー地方に帰る前に念のために見回りを兼ねてお供えにきたんです。そうしたら、アリスちゃんが倒れてて……」

「そうなんですか、助けてもらえて良かったです」

 

 これでヤナギ老人が起こしたアイスマン事件が終わった直後だとわかる。確か、次まで二年ほど猶予があったかな。じゃあ、それまでやることは厳選して600族の6Vを集めないと。正直言って、伝説に挑むのなら厳選しないと話にならない。

 そんな訳で必要な品物を集めないといけない。まず6Vメタモンは絶対に要る。アイテムはあかいいと、かわらずのいし。この二つも絶対に必要。メタモンを捕まえるのは私なら、外道な手段で可能なので他のアイテムはそこまで必要じゃない。悪いけれど、こちらも命が掛かっているのだから、今はまだ手段を選ぶつもりはない。

 

 

 

 

 イエローさんに連れられていったのはヒワダタウン。ここは人々とポケモンが仲良く素朴に暮らしている町。そこにある警察署に連れていかれた。

 

「あのジュンサーさん、少しお話が……」

「あ、イエローさん。わかりました。こちらにどうぞ」

 

 奥に連れて行かれて色々と話を聞かれた。といっても、基本的に覚えていないことにした。実際拉致された時のことなんて覚えていない。ただ、ウラウラ島という言葉はうっすらと覚えていると伝えた。

 

「ウラウラ島、ボクは聞き覚えがないです」

「えっと、ちょっと待ってね。ウラウラ島はアローラ地方ね。結構遠いわ」

「そんなところからも誘拐していたんですか……」

「いえ、こっちに旅行に来た時に攫われた可能性もあるわ」

「すいません。よく覚えてはいませんが、そこに行ってみたいです」

 

 悲しそうにする二人に罪悪感が湧いてくる。そこに行きたい理由など一つしかない。狙いはダンバル。手に入れる予定なのは一番強くて凄いトレーナーダイゴさんの切り札。メタグロス。鉄足ポケモンで四つのスーパーコンピューターよりも凄い頭脳を搭載しているらしい。私の狙い? このスーパーコンピューターデスが何か。

 

「流石にすぐに送る訳にもいかないわね」

「そうですよね……」

「あの、それならせめてポケモンを捕まえるの、お手伝いしてもらえませんか? 頑張ってウラウラ島を目指しますので……」

「それは……」

 

 イエローさんが悲しそうな顔をする。でも、確かに無茶を言っているのはわかる。まずは向こうに連絡を取って、実際に行方不明者がいるかどうかを調べないといけない。だが、その間の生活はどうする? 警察署で面倒を見てもらえるのか? そんなことは無理ではないだろうが、ごめんこうむる。ここがヒワダタウンならやりたいことは沢山あるのだから。

 

「待って、アリスちゃんって何歳なの?」

「十歳は超えているのは覚えています」

「本当?」

「でも、小さいよね?」

「その、あまり食べられていませんから……」

 

 嘘は言っていない。コンビニ弁当しかないしね。いや、アレは星の精でぶち壊されたから、もうほぼ食事がない。

 

「あっ、ごめんなさい。そうよね……」

「うぅ……ボク、ちょっと食べられる物を買ってきます!」

 

 イエローさんが出ていったので、私はジュンサーさんと色々とお話をする。その中で決まったこととして、テストを受けることになった。簡単な常識や計算問題などで、十歳以上の知識があるかどうかを確認するためだった。

 そのテストをイエローさんが戻ってくるまでに受けてみた。ポケモン世界の常識は不安だけれど、ゲームや漫画、アニメ知識を利用し、後は計算もすらすら答えたので大丈夫。モンスターボールをどうやって手に入れるか、という問題で、拾う、買う、作ると選んだ私に間違いはない。

 

「落ちていることは滅多にないし、そういうのは基本的に警察署に届けてね?」

「は~い」

 

 言われればその通りなので、納得するしかない。どちらにせよ、トレーナーカードを発行してくれることになった。当然、名前はアリスで、年齢は十歳(?)ということになった。

 

「ただいま。買ってきたよ。食べて」

「あ、ありがとう」

 

 お菓子の類いをイエローさんから貰って食べる。それからテストのことを話した。

 

「じゃあ、ポケモントレーナーとして過ごすって事だから、生活はポケモンセンターってことになりますよね?」

「そうね。それで行こうと思うの」

「なら、ポケモンが必要ですね。アリスちゃん、何か欲しいポケモンはある?」

「ダンバル」

「えっと、ダンバルは……ごめん、これは無理かな」

 

 イエローさんが図鑑で調べてくれた。でも、流石にここには居ないし、ダイゴさんから貰うしかない。

 

「じゃあ、メタモンがいいです」

「メタモンだね。一緒に捕まえに行こうか」

「その前に服とか靴を用意した方がいいわよ」

「確かにそうですね。よし、一緒に買いに行こうか」

「でも、私はお金がありませんよ?」

 

 この世界のお金は何も持っていないので、全部出してもらうことになる。売れそうなのは……あり得ないことだけど、身体くらい?

 他に売れそうなのって、正直言ってハスター謹製の黄色の外套こと黄衣ぐらいしかない。ただ、これを売る訳にはいかない。売ったら最後、呪われそうな気すらする。

 

「お金は……確かにどうしよう……ジュンサーさんは何か手があったりは……」

「それなんだけど、領収書を用意してくれたら後程支給させてもらうわ」

「あの、いいんですか?」

「ええ。アイスマンことヤナギ老人の資産を差し押さえて被害者の方に分配してるの。だから、多少は大丈夫よ」

「よかったね」

「うっ、うん……」

 

 本当は違うから、罪悪感が半端無い。これはお金を稼いだら、還元させてもらおう。そうしよう。それがいい。

 

「じゃあ、まずは服とか買いに行こうか」

「はい。お願いします」

 

 警察署から外に出て、ヒワダタウンにある服屋さんに移動する。といっても、ここは田舎なのでフレンドリィショップが、雑貨屋さんとしてあるみたい。ゲームでは警察署とかも存在していなかったしね。

 

「フレンドリィショップにはモンスターボールが売ってるから、そこで必要な物も買おうと思いますがいいですか?」

「はい。よくわからないのでお任せします」

「わかりました」

 

 無事に到着したフレンドリィショップは思ったよりも大きかった。扉も自動扉なので、簡単に中に入れた。

 

「まずは服屋ですね」

「こっちからがいいですよ」

「そっちですか?」

 

 イエローさんに手を引かれて連れて行かれたのは靴屋さんだった。確かに私の靴は靴とも言えない布を巻いただけの奴だから、これから買うのは納得できる。地味に痛かったけれど、魔術刻印で再生させているし無視していた。

 

「じゃあ、まずは靴を買いますね。えっと、旅はするんだよね?」

「はい。その予定なので動きやすい方がいいです」

「それじゃあ……すいません、店員さん!」

 

 イエローさんが店員さんを呼んだので、私は良さそうな靴を選んでいく。男物の靴を選んで履こうとすると、悪寒に襲われて気持ち悪くなる。逆に女の子用の可愛らしい青色の靴に視線が吸い寄せられる。でも、運動しないといけないんだからブーツにしてみる。一応、悪寒には襲われない。

 

「選び終わった?」

「色は青がいいです。でも、靴って何がいいんですか?」

「街とか舗装されている場所なら普通の運動靴でいいけれど、森とか歩くならブーツの方がいいかな」

「お客様、用意しましたのでこちらにお座りください」

 

 店員さんに言われた通り、用意された椅子に座る。すると店員さんが足を触ってきて、巻いてある布を取り外していく。怪我はないけれど、汚れはあるので店員さんが持ってきたバケツと水で綺麗に洗ってくれた。

 布で水分を取られた後は、可愛らしい赤色の子供用靴下を履かされた。男として恥ずかしくなって、顔が赤くなってくるけれど我慢する。商品を汚れた状態で履くのは店側としては許容できないだろうし、仕方がない。

 

「ブーツですが、どうでしょうか」

「立ってみて、軽く歩いてみて」

「はい。こうですか?」

 

 青色のブーツを履いて、軽く歩いてみる。違和感は特にない。いつも通り、こけそうになる程度だ。

 

「大丈夫?」

「大丈夫です」

「じゃあ、次はこちらですね」

 

 店員さんが差し出してきたのは、気になっていた可愛らしい青色の靴だ。女の子が履くよう可愛らしい物で、スリッポンと呼ばれる奴らしい。

 

「あっ、これは……」

 

 履いた瞬間、身体から力が湧いてくるような感じで軽くなった。ちょっと混乱していて、何を言っているかわからないけれど、確かに動きやすい感じがする。

 

「どうしたの? 大丈夫?」

「あ、大丈夫です」

 

 イエローさんに答えてから、歩いてみると違和感もなく、疲れなんて感じなくなった。何より意識しないでもこけない。これは凄い。原因がわからないけれど、これにしよう。

 

「これがいいです。でも、雨の時や森に入る時に使うブーツも欲しいです」

「旅をする前提でしたら、防水は必要ですね。わかりました。後はサイズに合わせてしっかりと用意させて頂きます」

「お願いします」

 

 靴を購入して、すぐに履かせてもらう。ブーツに関しては箱ごと袋に入れてもらって移動していく。

 

「それじゃあ、次は服にしようか」

「はい。お願いします」

 

 服はキッズコーナーに移動して、まず下着から選ぶことになった。俺としては女の下着なんてつけたくはないが、アリスとしてはつけないと仕方ない。なので無地、いや、ストライプの奴にした。ブラジャーはぺったんこなので要らないし、つけたくない。こういうのはロリスで助かった。アリス・マーガトロイドなら絶対に必要だったしね。

 

「じゃあ、次はこれなんかどうかな?」

 

 イエローさんに渡されたのは可愛らしい女の子らしい服。そこでふと疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「旅をするのなら女の子の恰好より、男の子の恰好の方がいいんじゃないですか?」

「アリスちゃんだと、男の子に見えないよ。可愛らしすぎるから」

「そう、なんですか……」

 

 言いたい。イエローさんも凄く可愛かったじゃないですか! と。でも、そんなことは言えないので黙って従っておく。楽しそうに色々な服を着せられては脱がされていく。店員さんも一緒になって選んでくれる。

 九十分が過ぎて疲れてきたころ、これはという服があった。白色のシャツに型に掛ける白いフリルのついた青いスカート。うん、後ろに白いリボンをつけたら完全にロリスの恰好だった。

 

「腰の後ろに付けられる大きな白いリボンってありますか?」

「できますよ。こんな感じですか?」

「凄い可愛いね」

 

 それを装着すると、靴よりも力が湧いてきた。これでなんとなくわかったような気がする。どうやら、アリスの恰好をすると力が湧いてくるみたい。ただ、アリスの恰好の中でも、ロリスの恰好が一番力が湧いてくるみたい。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)は私を徹底的にアリスに作り変えるつもりみたいだ。

 

「とりあえず、こんな感じで青色と黄緑色のをお願いします。それとヘアバンドも……」

「わかりました」

「寝間着とかも用意しないと。他にはテントとか寝袋だね」

「はい。でも、その辺りはまだいらないと思います」

「あ、そっか。じゃあ、次は生活用品だね。店員さん、今着ている服はこのままで、残りは用意しておいてもらっていいですか? 後で取りに来るので」

「大丈夫です。ただ、お支払いだけは先にお願いいたします」

「はい。領収書をお願いします」

 

 イエローさんがやってくれている間に鏡に向かってみる。鏡の中で可愛らしい金髪のアリスが恥ずかしそうにしていて、こちら手を伸ばしてくる。私も手を鏡にやって触れ合わせる。あちらのアリスは黄緑色の服を着ていて、髪の毛も少し銀色っぽい。

 

「あれ?」

 

 不思議に思ってもう一度見ると、ちゃんと今着ている青色の服で、髪も金色の髪の毛になっている。たっ、たぶん気のせい。あっちは涙眼だったけど、気のせいだと……思う……

 

「アリスちゃん? 泣いてるの?」

「だ、大丈夫です。それより、生活用品を買いにいきましょう」

「うん」

 

 イエローさんが手を握ってくれた。それだけで気持ちが落ち着いてくる。今は気のせいだと思っておこう。

 

 

 

 生活用品は歯ブラシ、櫛、ドライヤー、タオル、バスタオルなどを買った。化粧水とか、日焼け止めとか要るかもしれないけれど、私は永遠の美少女、もとい幼女になったので必要ない。捨虫で成長しないし、魔術刻印で肌とかも再生する。つまり、綺麗な子供の肌が永遠に続いていく。やったね!

 

「次はお待ちかね。ポケモンの道具だけど、何が欲しい?」

「モンスターボール、毒消し、穴抜けの紐、傷薬、麻痺治しかな?」

「そうだね。その辺りはもっておいた方が良いよ」

 

 穴抜けの紐とか、現実だけどゲームと同じ効果があるのだろうか?

 

「穴抜けの紐って、何に使うんですか?」

「穴に落ちた時に投げてくっつけるためだよ」

「ワープみたいな力は……」

「そんなもの、あるわけないですよ、やだな~」

「ですよねー」

 

 穴抜けの紐、あんまり要らない子。まあ、穴抜けの紐でどうやって穴を掘るなんてできるのだろうか? 無理でしょ。でも、穴から抜け出す為に必要だというのは理解できる。

 

「モンスターボールは数が欲しいです。そういえば、失敗しても残るんですか?」

「残ります。ただ、再度使うには時間がかかります」

「そっか、なるほど。でも、最低でも六つはいるよね」

「一応、公式戦で使えるのは六つが最大だね」

「その言い方だと、持てるの?」

「持つことも使うこと自由ですよ。ただ、トレーナーバトルでは最大が六体までと決まっているだけです」

「なるほど」

 

 これはいいことを聞いた。メタグロスを量産して、合体したスーパーロボットを作れそう! メタグロス達の力を使ってまずはグラードンとカイオーガの捕獲を行う。まずはカイオーガから。正直言ってグラードンは近づくだけで死ぬからね。むしろ、いっそのことハスターを召喚してぶつけてやろうか。全滅しか見えないけど。

 

「モンスターボールは二十個、モンスターボール用ベルトとリュックサックも欲しいです」

「はい。毎度お買い上げありがとうございます」

 

 受け取ったベルトをつけ、リュックサックに荷物を入れて受け取った。会計は全てイエローさんがしてくれたので、私はノータッチ。

 

「じゃあ、次はポケモンセンターだね。こっちだよ」

「はい」

 

 モンスターボールが描かれているポケモンセンター。ポケモンの回復やトレーナーに食事や宿を無償で提供する施設。今日から私が泊れる安全な場所。クスクスと笑う星の精に怯えなくていいのはありがたい。

 

「ジョーイさん、この子がアリスちゃんです」

「ジュンサーさんから聞いています。イエローさんが泊っている部屋でいいですか?」

「はい。それでお願いします」

「いいんですか?」

「うん。一緒に泊まりましょう」

 

 イエローさんとお話しながら、案内してもらって部屋は四人部屋で、残りの二人は居ないみたい。

 

「ボクはここを使ってるから、残りを好きに使っていいよ」

「じゃあ、こっちで」

 

 イエローさんとは反対側のベッドに荷物を置いていく。これでベルトを取り付けて、そこにモンスターボールを入れて問題なし。六つで捕まえられるかどうかはわからないので、靴箱を入れた袋に入れて全部持っていく。

 

「ご飯を食べたらポケモンを捕まえに行こうと思うけど、いいかな?」

「はい。大丈夫ですよ」

 

 お腹が全然空いていないのでわからなかったけれど、確かに食事の時間だ。そんなわけで、ポケモンセンターにある食堂で食事をする。味は美味しかった。山菜が多めのうどんで、とってもいい。

 

「それで、ポケモンのことは知っているんだよね?」

「ある程度なら、ですけど」

「それならボクのポケモンを使って戦った方がいいね。ボク、捕まえるのが得意じゃないから……」

「わかりました。お借りします」

 

 食事を終えたら、メタモンについて図鑑を使って調べてくれた。

 

「一番近いのは34番道路かな、育て屋さんもいるから、そっちに行った方がいいかも」

「育て屋さんには興味があります」

「じゃあ、ジュンサーさんに育て屋さんの方に行って泊ってくるって伝えてから、行きます。あ、荷物は全部持っていかないと駄目だから、用意しないと」

「先に調べておいた方がよかったですね」

「うん。失敗失敗」

 

 ジュンサーさんに挨拶をして、連絡をそっちに入れてもらえるようになった。それから、私達はドードリオに乗ってウバメの森を超えて34番道路に移動した。

 

 

 

 

 

 




―――――――――――――――――――――――――――――


 ネーム:Grimoire of Alice(アリスの魔導書)
 ベーシック:東方・旧アリス
 アリスポイント:0
 スキルポイント:0
 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.1》《人形を操作する程度の能力Lv.1》《バリア(反射)Lv.1》《弾幕Lv.1》
 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》


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アリス

 34番道路に到着した私達はまず、育て屋さんのおばあさんとおじいさんに挨拶しに行く。一応、事前に連絡しておいたので大丈夫らしいし、こちらとしても都合がいい。

 

「こんにちは」

「おお、よく来たね。そちらがアリスちゃんかな」

「はい。よろしくお願いします」

「随分と大変な目にあったと聞いているよ。ゆっくりとしていくといい」

「ありがとうございます」

「おばあさんはどうしたんですか?」

「今、食事の用意をしているよ」

 

 確かに日が落ちてすでに夕方といった感じなので、夕食の準備をしているのは納得だ。やはり、いくらドードリオで最短ルートを突き進んだとはいえ、ゲームと違って広さも段違いなので、それ相応の時間がかかった。

 

「まあ、立ち話もなんだ。お上がりなさい」

「「お邪魔します」」

 

 二人でおじいさんに挨拶してから、靴を揃えて家の中に入る。この家は純和風建築で、お庭がとっても広い。庭の中には森や湖まであって、複数のポケモンが住んでいる。

 

「いらっしゃい。お茶を用意しました。これを飲んで、まずはお風呂に行ってきなさいな」

「手伝わなくていいんですか?」

「まずはお風呂よ。手伝うのなら、明日からお願いするわ」

「わかりました。いきましょう、アリスちゃん」

「お、お風呂?」

「うん。一緒に入ろう。洗ってあげるよ」

「ひ、一人で大丈夫です」

「駄目だよ。何があるかわからないし、覚えているかもわからないでしょ」

「うっ……」

 

 確かに女の子の洗い方なんてわからない。でも、彼女はイエロー・デ・トキワグローブ。レッドさんの彼女(断定)なのだ。そんな彼女の裸を男である私が見るなど、あってはいけない――

 

「はい、こっちだよ」

「わわっ!? なっ、なになにっ、にゃんでっ!?」

「急がないと駄目だからね!」

 

 イエローさんにお姫様抱っこされ、風呂場に運ばれていった。そこで降ろされて、彼女が服を脱いでいく。それを見てしまって顔を真っ赤にしていると、その隙に服を剥ぎ取られてこちらも素っ裸にされた。

 

「ほら、行くよ」

「まっ、待ってっ」

 

 顔を真っ赤にしながら洗い場に連れていかれ、そこで身体を洗われていく。柔らかいタオルや素手で洗う感じで、マッサージまでしてくれてとっても気持ち良かった。でも、必死に目を瞑っていたので、自分で洗えないと思われてしまったようで、しっかりと教えられた。

 

「やっぱりまだまだ子供なんだね」

「うぅ、酷い。大丈夫、一人でも洗えるよ」

「じゃあ、ボクを洗って試してみてくれる?」

「そっ、それはお断りします」

「駄目だよ。ほら、アリス、お願い」

「アリスって呼び捨てですか?」

「駄目かな? アリスって妹みだいだし……ボク、妹が欲しかったんだ」

 

 確かに同じ金髪で、身体の小さな私は妹扱いされてもおかしくはない。それに互いに不思議な力を持っているわけだし。それに色々と迷惑もかけてるし、罪悪感も半端ない。

 

「わ、わかりました……イエローさん」

「そこはお姉ちゃんがいいな~」

「い、イエローお姉ちゃん……」

「やった、妹ができた!」

 

 後ろから抱き着いてきて首の横に顔を入れて頬っぺたをスリスリしてくる。気持ちいのでされるがままになる。

 

「かっ、身体、洗ってあげますから、交代です!」

「うん。お願いします」

 

 イエローさんを座らせて、彼女の髪の毛と背中を洗っていく。私は前も洗われたけれど、流石に前は自分でやってもらう。レッドさんに殺されたらかなわないし。ピカのビリビリは嫌だ。

 

「髪の毛が長いから、自分で洗うのが大変なんだよね」

「でも、綺麗ですよ。れ……彼氏さんも喜ぶと思います」

「かっ、彼氏なんてまだいませんっ!」

「まだ、なんですね。ということは、好きな人はいるんですね」

「そっ、それは……」

 

 両手の人差し指をくっつけて顔を真っ赤にするイエローさん。とっても可愛い。だから、応援してあげる。

 

「告白した方がいいですよ。イエローさん、お姉ちゃんが惚れる人ならライバルは多いでしょうし……」

「それは、確かに……カスミさんとか、絶対にレッドさんのこと好きだし……」

 

 カスミ。ハナダシティのジムリーダー。水ポケモン使いで、アニメ版ではサトシと一緒に旅をしていた。水とドラゴンタイプのギャラドスやヒトデポケモンのスターミーとかを使う。水のエキスパート。アニメ版よりも大人でカッコイイ女性と少女の間といった感じの人。敵は強い。

 

「少なくとも、気持ちを言葉にして伝えないと逃げられちゃうかもしれませんよ」

「うっ……」

「そのレッドさんが他の人とくっついてもいいんですか?」

「や、やだっ」

「なら、告白しましょう。大丈夫です。お姉ちゃんなら、いけます」

「だ、大丈夫かな?」

「はい。どちらにせよ、意識することは確実ですから、後は攻めていけばいいんです」

「わ、わかった。頑張ってみる……って、アリスはそんなことわかるの?」

「本で知りました」

 

 ジト目で見詰めてくるので、シャワーで頭を流して背中を洗ってあげる。それが終われば一緒に湯船に入る。もちろん、私は後ろを向いたままなので、互いに背中を預ける感じになる。

 

「ふぅ、やっぱりお風呂はいいです」

「そうだね。そういえば、なんでメタモンなの?」

「メタモンを選んだ理由ですか?」

「うん。その、メタモンって特殊で初心者が選ぶには難しいと思うんだけど……」

 

 ここまで色々としてくれているのだから、これからやることはしっかりと教えておいた方がいいかな。例えそれで嫌われても仕方がない。私にとって生き残ることが何よりも優先される。今はなりふり構わず行くと決めた。でも、これぐらいなら大丈夫だ。

 

「それは簡単です。メタモンの特徴は変身なのはわかりますよね?」

「はい。それは知っています」

「変身が使えるメタモンはどのポケモンとも子供が産めます」

「え?」

「その産まれてくるポケモンは親の潜在能力や特性、特殊な力を引継ぎます」

「そう、なんだ」

「つまり、厳選して最大値の6Vになったメタモンを作れば、後は道具を使って調整するだけです」

「そっ、そんなの駄目です!」

 

 イエローさんが湯船から立ち上がって叫んでくる。彼女は優しいから、この方法を受け入れられないと思った。それでも、説明しないのは駄目だと思ったからした。

 

「ポケモンは道具じゃないんですよ!」

「道具とは思っていません。品種改良、サラブレッドを生み出すだけです」

「そ、それでも駄目です! ポケモンはパートナーで友達なんですよ!」

「わかっています。ですが、それはその前の前提があってこそです。弱い子を捕まえて鍛えて、結果的に殺してしまったらそれこそ駄目でしょう」

「それは……」

「私には時間がないんです」

「時間がない?」

「はい。イエローさんと違って、私はまだ弱いです。それに命を狙われています」

「い、命を……? でも、ヤナギさんは……」

 

 確かにヤナギさんは捕まった。けれど、その配下やロケット団は別だ。彼等が私のことを知ったら、狙ってくると思う。

 

「それは頭がやられただけであって、配下は止まりません。だから、私は自分とパートナーとなるポケモンが死なないために厳選をします」

「っ!? どうしても、それをするっていうの?」

「します。これは絶対です」

「ボクがそんなことに協力できないって言っても?」

「はい。一人でも捕まえてきます」

「そんなこと、できると……」

「お姉ちゃん、イエローさんこそ、私の力を忘れましたか? 私は、戦う力を持っています。それはポケモン相手でも通用すると思います」

 

 試してはいないけれど、たぶん勝てる。そもそも計画通りに進めば戦いにすらならない。

 

「なら、勝手にしてっ!」

「はい。させてもらいます」

 

 イエローさんがお風呂から出ていってしまったので、そのまま湯船に頭の天辺まで浸かって頭を冷やす。少し熱くなってしまったけれど、6Vの600族を手放すことはできない。正直言って制限のない伝説ポケモンを相手にするのなら、6Vの600に努力値を厳選した上で、複数用意してようやく対抗できるレベルだ。なので、こればかりは仕方がないことだと思って、諦める。

 

 

 お風呂から上がって、火の魔弾で髪の毛を乾かして水の魔弾で冷やす。ドライヤーの代わりにも使えるとか、とっても便利。お風呂から上がったら、服が綺麗に用意されていた。怒っていても用意してくれるとか、イエローさんはとっても良い子。そして、私はとっても悪い子。涙がでてくる。でも、仕方がない。

 

「お風呂、いただきました」

「どうしたんだい? 喧嘩をしたみたいだが……」

「見解の相違です。私はポケモンに何より強さを求めていますが、イエローさんは違うということで喧嘩になりました」

「なるほど。話はわかった。しかし、喧嘩は早めに解決した方がいいよ」

「それはわかっています。でも、こればかりは受け入れてもらうしかありません」

「そうか……まあ、まずは食事としよう」

「いえ、私は要りません。私が居たら空気が悪くなるでしょうし、少し散歩でもして時間をずらします。食べ物はありますから」

「わかった。そういうことなら、散策してポケモンをみてくるといい」

「ありがとうございます」

 

 おじいさんに挨拶してから、モンスターボールを纏め、靴を履いて外に出る。そのまま育て屋さんの家から出て34番道路の草むらに入る。草むらといっても、森も近いので境界線なんてありはしない。ポケダンも自由に移動している。

 でも、まずはメタモンを探す。でも、メタモンはそう簡単にはみつからないので、人海戦術ならぬポケモン海戦術です。

 

「私の言う事を聞きなさい」

 

 目の前に現れたねずみポケモンのコラッタに魅了の魔眼を使って、魅了してメタモンを探させる。でてくるポケモン達を次々と魅了して、探させることによって手早く見つけ出す。

 すぐにコラッタの鳴き声が聞こえたので、そちらに出向くと、確かにへんしんポケモンのメタモンがいた。それはすぐにコラッタへと変化するが、私が魅了の魔眼で元の姿に戻して命令する。

 

「仲間の、他のメタモンのところに案内して」

 

 頷く様な動作をしてメタモンが移動していくので、私も追っていく。森の奥深くに入り、メタモン達がたむろしている場所にやってこれた。そこには紫色のドロドロしたメタモンがいっぱいいる。だいたい十八匹かな。

 

「残念。色違いはいないか」

 

 まあ、いい。何故なら、全部魅了して連鎖させるからだ。

 

「さあ、仲間を呼んでください」

 

 十八体が一斉に仲間を呼んでくる。至る所からメタモンがでてきてちょっとホラーだ。所要時間二十分。

 

「やっちゃった」

 

 正直言って、どれが連鎖した4Vかわからない。だって、いっぱいいるもん。仕方ないので徹底的に集めて集めて、この辺りに居る野生のメタモンを全てかき集めてみた。

 所要時間三百六十分。つまり六時間もかかった。そして、集まった数は千八百二十体。その中で水色のメタモンがいた。問題は6Vから4Vのどれかというところだ。

 しかし、ここからが問題だ。どうやって強さを判断しようか。図鑑なんて持ってない。でも、それはアローラに行ってからどうにかしよう。今できることとしては、選別だ。

 

「それじゃあ、後から来た順番にこっちに来て」

 

 後から来た順番にやってきたメタモン達。続いてやるのは身体測定だ。メタモン達には身体測定をやってもらう。全員一緒に一斉でやってもらうので、条件は全ていっしょ。攻撃はバリアで反射して判断。防御は反射された攻撃を耐えることで判断。素早さは単純に技の出す速さなどなど。しっかりとやってもらう。

 全ての計測に百十分ほどかかったが仕方がい。そして最高成績を叩き出してくれたメタモンをそれを一体ずつ捕獲する。特に色違いは優先して捕獲した。魅了してあるので、モンスターボールに簡単に入ってくれて楽ちん。本当に外道な所業である。

 といっても、これで測る固定値は正直言って、わからない。レベルが違う可能性があるからだ。でも、一体だけ全種目を他のメタモンと圧倒的な差を出してクリアーした色違いのメタモンがいた。その子にはマザーの名前を与えておこう。

 

「みつけたぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ひゃぁっ!?」

 

 いきなり声が聞こえてビックリして飛び上がってしまう。慌てて後ろを見ると、そこには怒り心頭といった感じのイエローさんが、ドードリオに乗っていた。四百九十分、約九時間もかかってるし、それはバレるよね、うん。

 

「大丈夫っ!? 怪我とかしていませんかっ!」

「だ、大丈夫だけど……」

 

 周りのメタモン達はこれ、どうしたらいいのって感じだ。そんなのをしらないといった感じで、イエローさんはドードリオから降りて私の身体をペタペタと触ってくる。

 

「ご飯の時から居なくなって、皆で探してたんですよ!」

「言った通り、探しに出ても大丈夫ですよ。この通り、目的のメタモンも捕まえましたし」

「……本当に? このメタモンは?」

「これは厳選した結果、必要ないと判断した子達です。あ、皆さんはもう帰っていいですよ」

 

 手を振って別れを告げると、みんな大人しく帰っていく。いや、色違いの子達は残って、こっちにやってきた。

 

「一緒に行きたいって言ってるよ」

「そうなんですか?」

「色違いの子は野生じゃ、生きづらいから……」

「でしょうね。わかりました」

 

 その子もゲットしてあげた。イエローさんや育て屋さんの夫婦にあげよう。いや、やっぱりアローラまでは連れていこう。正直言って、マザーが6Vかはわからないし。

 

「で、どうしてこんなことをしたのか、説明してくれないかな?」

「それはイエローさん、嫌がってたので私だけで……」

「それがどれだけ危険なことかわかってる? 確かに戦えるけど、それでも危険なことにはかわりないんだよ?」

「ごめんなさい」

「まったく。でも、ボクも言い過ぎたの。確かにアリスの境遇なら、力を求めても仕方ないし……」

「こちらこそごめんなさい」

「もういいよ。それよりも、産まれた子達はどうするの? これを聞かないで判断しちゃ駄目だからね」

「生まれた子達は里親に出すか、自衛ができるようになったら自然に返す予定です」

「それなら、まあいいかな」

 

 イエローさんも納得してくれたので、帰るとしよう。

 

「でてきて、マザー」

 

 モンスターボールを投げると、中から水色のメタモンがでてくる。

 

「マザー、ドードリオに変身」

 

 ドードリオにメタモンが変身すると、色違いのドードリオとなった。それに乗って帰るとする。

 

「色違いのドドすけだね」

「この子はこの子でいいですよ」

「確かにそうですね」

 

 二人でお話しながら育て屋さんに戻っていく。戻ったらおばあさん達に説教され、いっぱいご飯を食べさせられた。あと、メタモン達も庭に放して自由にさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 




マザーの出現は01なのでクリティカル。絶対成功ということで、色違いの6Vだよ、やったね!
ただし、ここで約9時間、出るまで頑張ったのでその分タイムリミットが減らされます。

残り五日。

魅了の魔眼は弱いポケモンにしかききません。伝説級は絶対に無理。トレーナーと絆を結んでいるポケモンも無理です。野生で低レベルなら有効です。


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イエロー・デ・トキワグローブ

 

 

 

 

 

 

 マスクオブアイス事件が終わり、少ししてから帰る前に育て屋さんに挨拶して叔父さんと一緒にトキワシティに帰ることにした。でも、その前に長旅になるのでウバメの森でチュチュ達を自由に遊ばせてあげようと思って行ってみた。

 しばらくポケモン達を遊ばせていたら、祠の方から子供の叫び声が聞こえてきた。ポケモンに襲われているのかと思って急いでそちらに移動したら、とても可愛らしい小さな女の子が大きな本を持って泣いていた。

 ボクはその子に声をかけた。彼女は片手と片足に怪我をしていて、とても動けるような恰好じゃなかったし、何より泣いている子を放置することなんてできない。

 声をかけると、驚いてから安堵を抱いて、すぐに怯えた表情になった。けれど、それはなんとなく演技だと思う。

 話していくと、彼女は誰かに捕まっていて、在った物で服とかを用意して逃げ出してきたようだ。その時に誘拐犯に見つかって手足を怪我しながらも必死に逃げて、扉を潜ったらここにいたらしい。彼女の服は大人用の物で、とても小さな女の子が着るような物ではない。それだけで、彼女がどんな目にあったのかボクでもなんとなくわかってしまう。

 それに彼女の傷口はボクが治療するまでもなく、どんどん治っていっていた。そこからボクと同じ能力を持っているのかと思って聞いてみたら、サイキッカーのようで攻撃手段も持っていた。

 そこで彼女がボクに怯えているのではなく、追手に怯えていたのだと分かり、すぐにヒワダタウンに連れていくことにした。

 

 

 彼女、アリスは酷い目にあって常に怯えるように見えたけれど、ポケモンとの触れ合いで笑顔を見せたりもしていたので、なんとか大丈夫だと思った。

 ジュンサーさんに話をして、詳しい内容をアリスに聞いたら、本人はわからないみたいだけれど、おそらくマスクオブアイス事件に巻き込まれたウラウラ島から来た旅行者か、それともウラウラ島から誘拐されてきたのかはわからないけど、アリスはそこに行くつもりみたい。流石にウラウラ島までボクはついていけない。アローラ地方というのはかなり距離があるから。だから、それまでの間は面倒を見てあげることにする。

 そう思って彼女の服や生活用品を用意して、彼女が望んだポケモン、メタモンを捕まえるためにメタモンが生息している34番道路に向かった。34番道路には育て屋さんの夫婦が住んでいるので丁度いい。電話で連絡したら、受け入れてくれるとのことだったので、お世話になろうと思う。

 34番道路にある育て屋さんに着いたボク達はお風呂の中でなにげない言葉から喧嘩をした。彼女はポケモンを厳選し、卵を産ませて強い個体を作り出すといったのだ。それはボクには信じられなかった。だから、先にお風呂を出て着替えだけを用意してあげて、外に出ておばあさんのお手伝いをした。

 

「そう。喧嘩しちゃったのね」

「はい……だって、そんなの間違ってる……」

「確かにそう思えるわね。でも、彼女の境遇を聞いた限り、そこまで間違ってはいないわよ」

「え?」

「よく考えてみて。アリスちゃんは命を狙われているのよ。そうなると、襲ってくる相手もポケモンを持っているわ。必然的にポケモンも命懸けの戦いになるの。弱いポケモンだと、アリスちゃんも危険だし、そのポケモンも死んじゃうでしょう?」

「それは……」

 

 確かに言われた通りだと思う。アリスはもしかしたら、ポケモンが死んでしまうことを恐れているのかもしれない。シルバーさんから聞いた話だと、攫われた子供達はどんどん数が減っていたらしいし、それってそういうことだよね。せっかく友達となったポケモン達が死んじゃったら、悲しくなる。

 アリスの能力は少なくともマスクオブアイス事件で、手下になっていたロケット団は知っているはずだし、そこから色んな所に伝わっているかもしれない。そうなると、ポケモンに強さを求めるのは仕方がないかも。

 

「それに産まれてきたポケモン達をどうするかによっても変わるわ。自立するまでしっかりと育ててから、野生に戻すのか、そのまま捨てるか、それとも里親を探すとか。ちゃんとその辺りは聞いた?」

「聞いて、ないです」

「なら、その辺りを聞かないといけないわね。それにポケモンブリーダーという職もあるのよ?」

「ポケモンブリーダーですか?」

「ポケモンバトルよりも、ポケモンの健康や幸せを対象とした育て方をするのが特徴よ。ポケモンの世話、タマゴの孵化、毛づくろい、健康的なポケモンフードの調合などを行うって聞いたわ」

「そうなんですね……」

 

 話を聞いていたら、そんなに悪い事でもないように思えてくる。でも、生態系を壊すことにはなりそうだけど。

 

「ばあさんや」

「おじいさん、どうしましたか?」

「アリスちゃんが食事は後でいいといってきおってな」

「あらあら」

「う……」

「早めに仲直りしないといけないわね。そんなに一緒にはいられないのでしょう?」

「うん」

 

 おばあさん達と食事をしてから、アリスに謝りに行こうと思った。何時までも喧嘩しているわけにはいかないから。部屋を覗いてみると荷物が減っていた。それもモンスターボールが無い。慌ててボクのモンスターボールを確認すると、皆が居た。せめて連れていってくれていたら良かったのに。

 

「おばあさん!」

「どうしたの?」

「ポケモン、減ってませんか!?」

「おじいさん?」

「今、食事をしとるが……見た限り減っておらんよ?」

「どうしたの?」

「アリスが一人でポケモンを捕まえに行ったみたいで……」

「それはいかんな。すぐに探さんと大変なことになるわい」

「コガネシティの人に応援を頼んで……」

「それは大丈夫だと思います。行き先もわかっているので、ボクが探してきます!」

 

 おそらく、アリスは力を使うつもりだ。他の人に見られる訳にもいかない。

 

「それじゃあ、お願いするわね。私は残っているから、おじいさんと一緒に探しに行ってあげて」

「はい!」

「うむ。鳥ポケモンを使おうかの」

 

 おじいさんと一緒に探しに出る。

 

 

 

 

 二時間経ってもアリスが見つからない。もしかして、連れ去られたのかと思っていると、おじいさんが小さな足跡を見つけてくれた。

 

「イエローちゃん、アリスちゃんは森の奥に入ったようじゃ」

「ウバメの森ですか?」

「うむ。それももっと奥地じゃ。この先には森と深い山しかない」

「そんな……」

 

 広大なウバメの森は祠がある場所と違って整備なんてされていない。軽装で入ったら、遭難して戻ってこれないかもしれない。それに森の奥には強いポケモンもでてくる。アリスが狙っていたメタモンだって、結構危険なポケモンだ。人にだって化けられるし、誤って踏むと身体を取り込んでくる。特にアリスはドジだから、こけたりしていそうだし。

 

「すぐに追います!」

「うむ。私も応援を呼んでこよう。森の奥に入ったとなると、大変じゃからな」

「はい!」

 

 こればかりは仕方がない。森の奥に入ったら、ボク達だけじゃ探し切れない。アリスが力を使っているところを見られないことを祈るしかない。

 

 

 

 

 

 森の奥地でアリスの痕跡を見つけた。やっぱり、こけたりどこかにぶつけたりしているみたい。ただ、どんどん奥に向かっていっている。ドードリオで必死に追っていったら、沼みたいなところに彼女はいた。

 ボク達がみつけた足跡はアリスの物じゃなく、別の子供のだったようで、全然別の場所から森の奥地へと入っていた。おかげでかなり時間がかかった。

 肝心のアリスといえば、沢山のメタモン達に囲まれていた。沼だと思っていたのが全てメタモンだった。

 

「みつけたぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ひゃぁっ!?」

 

 いきなり声をかけたから、アリスがビックリして飛び上がって慌ててこちらを見てくる。ボクは怒り心頭といった感じでドドすけをアリスに近付けて飛び降りる。

 

「大丈夫っ! 怪我とかしていませんかっ!」

「だ、大丈夫だけど……」

 

 周りのメタモン達は心を感じるかぎり、大丈夫そう。ひとまずアリスの身体をペタペタと触って怪我がないかを確認する。

 

「ご飯の時から居なくなって、皆で探してたんですよ!」

「言った通り、探しに出ても大丈夫ですよ。この通り、目的のメタモンも捕まえましたし」

 

 助けようと思ったら、あっさりともう捕まえたので帰るという。ちょっと叱らないと駄目かも。

 

「……本当に? このメタモンは?」

「これは厳選した結果、必要ないと判断した子達です。あ、皆さんはもう帰っていいですよ」

 

 手を振ってアリスが別れを告げると、みんな大人しく帰っていく。その子達は皆、楽しかったといった感じで、悪感情はなかった。ただ、色違いの子達は残って、こっちにやってきた。

 

「一緒に行きたいって言ってるよ」

「そうなんですか?」

「色違いの子は野生じゃ、生きづらいから……」

「でしょうね。わかりました」

 

 アリスはその子もゲットしてあげた。

 

「で、どうしてこんなことをしたのか、説明してくれないかな?」

「それはイエローさん、嫌がってたので私だけで……」

「それがどれだけ危険なことかわかってる? 確かに戦えるけど、それでも危険なことにはかわりないんだよ?」

「ごめんなさい」

「まったく。でも、ボクも言い過ぎたの。確かにアリスの境遇なら、力を求めても仕方ないし……」

「こちらこそごめんなさい」

「もういいよ。それよりも、産まれた子達はどうするの? これを聞かないで判断しちゃ駄目だからね」

「生まれた子達は里親に出すか、自衛ができるようになったら自然に返す予定です」

「それなら、まあいいかな」

 

 アリスの言葉もおばあさんの話を聞いた後なので、一応は納得できる。でも、ボクとしてはやっぱり好きになれない。

 

「でてきて、マザー」

 

 アリスがモンスターボールを投げると、中から水色のメタモンがでてくる。

 

「マザー、ドードリオに変身」

 

 メタモンがドドすけに変身すると、色違いのドードリオとなった。それに乗って帰るつもりみたい。大丈夫かちょっと不安だよ。

 

「色違いのドドすけだね」

「この子はこの子でいいですよ」

「確かにそうだね」

 

 おばあさん達の家に戻ってから、アリスは無茶苦茶怒られた。正座させられて涙目になっていたし、捜索を頼んだコガネシティの人達にもったっぷりと怒られていたので反省したと思う。

 

 

 

 お説教が終わり、ボクとアリスはまたお風呂に入った。今度は喧嘩せずに入った。流石にずっと探していたし、アリスも疲れているのかうつらうつらしていたので、身体を洗ってから湯船に入る。アリスは恥ずかしがっていたけれど、女の子同士なのでで大丈夫だよね。

 

「じゃあ、100まで数えようか」

「はっ、い……」

「まだ足が痛い?」

「痺れてるのに、イエローが酷いことをしてきました……」

「お姉ちゃんからのお仕置きだからだよ」

「それ、まだ続けるんですね……」

「嫌ならいいですけど……」

 

 ちょっと不安になって敬語で聞いてみる。

 

「嫌、ではないです。恥ずかしいですけど……」

「そっか、良かった」

 

 ほっとした。嫌われてはいないみたい。それにしても、照れて顔を赤らめているアリスは可愛い。ブルーさんがボクを可愛いがる理由がわかってきた。

 

「それより、数えましょう」

「そうだね」

 

 一から百までしっかりと数えてお風呂から出る。その直前でアリスが手を握って止めてきた。

 

「どうしたの?」

「乾かします」

「え?」

 

 アリスの近くに青い球体が現れて、それが私達の身体に付着している水分を全部取っていった。次に赤い球体で身体を温めてきて、もう一度青い球体で髪の毛を冷やしてきた。

 

「これで乾きましたし、光沢がでるはずです」

「凄い、便利だね」

「えっへん」

 

 無い胸をはって仁王立ちするアリスにおかしくなって吹き出し、思わず頭を撫でてしまう。やっぱり、大人ぶっていても、子供の部分があるね。

 

「ふにゃっ!?」

 

 アリスの髪の毛はしっかりと乾いていたし、ふわふわになっていて肌触りが良い。ちょっと嫉妬しちゃう。

 

「あっ……は、はやく着替えましょう」

「そうだね」

 

 こちらを見て顔を真っ赤にしたアリスが慌てて脱衣所に移動し、パジャマに着替えていく。アリスが着ているパジャマは見つけた時に着ていた大人の男性用Yシャツで、これを寝間着にするみたい。

 

「なんでそれ? もっと可愛いのもあるのに」

「可愛すぎます。これでいいですよ。落ち着きますし」

「そ、そう……?」

「お姉ちゃんもレッドさんの服を着て寝てみたらわかりますよ」

 

 どこかにやにやした笑顔でそう伝えてきたアリス。ボクはその言葉に想像して、顔を真っ赤にして身体を抱いてしまう。そんなボクを放置して、アリスはさっさと着替えてしまった。

 

「あっ、待ってよ」

「想像して悶えているお姉ちゃんなんか、待ちません。あ、早く上がらないとレッドさんに電話しちゃいましょう」

「待って、それは本当に待って!」

「さっさと告白しちゃってください」

「うぅ……アリスが虐める……」

「助けてくれたお礼もかねて、妹としてお姉ちゃんの恋を応援してあげてるだけですよ」

「それはありがたいけれど……って、本当に出ていった!」

 

 慌ててパジャマに着替えて、アリスを追っていく。アリスを追った先の部屋では布団が用意されていて、寝る準備が整えられていた。アリスはくっ付けてあった布団を離して一人でさっさと入ってしまった。

 

「な、なんで離すの?」

「寝相とか心配なので」

「わ、悪くないよ?」

「私がわからないので。あ、でも抱き枕としてちゅ……ピカチュウを貸してくれませんか?」

「あれ、ピカチュウを持ってるって言ったかな?」

「あっ……おじいさん達が話しているのを聞きました」

 

 何故か焦ったように答えるアリス。おかしい。だって、アリスと出会ってからは念の為にチュチュは出していない。アリスの前で出したのはドドすけだけ。それにおじいさんとは話していたみたいだけど、内容は喧嘩についてだけだったはず。明らかに誤魔化している。ひょっとしたら、ジュンサーさんに聞いたかもしれないけれど、それならそう伝えるはず。

 

「本当に?」

「ごめんなさい。モンスターボールを覗きました」

「そっか。そういうことならわかるよ。でも、チュチュはアリスに懐くかな?」

 

 アリスと出会う前から、モンスターボールに入ってもらっていたチュチュを出してあげる。

 

「ピカッ」

 

 チュチュは私に抱き着いて身体を擦りつけてくる。撫でてあげながら、アリスのことを考える。やっぱり、まだ何かを隠しているみたい。まあ、流石に出会って二日だから、そこまで心は開いてくれないよね。お姉ちゃんや妹というのも、妹が欲しかったのは本当だけど、心を開いてもらうための一つ。教えてもらえないと助けてあげられないし。

 

「チュチュはアリスと一緒に寝てあげられる?」

「ちゅ?」

「身体を撫でられたりしてもいい?」

「ピカ!」

「いいみたいだ。優しくしてあげてね?」

「ありがとう」

 

 恐る恐る、チュチュを受け取ったアリスは膝に乗せてゆっくりと、優しく撫でていく。チュチュは気持ち良さそうに目を細める。アリスもそれを見て満面の笑顔になった。やっぱり、良い子みたいだし、警戒する必要はあまりないかも。ポケモンのことが好きだってよくわかる。

 

「やった、本物のピカチュウだっ。凄く可愛い!」

「本物?」

「あ、等身大のぬいぐるみを買って持ってたんです。もうどこかに行っちゃったけど……」

「そうなんだ。だったら、最初のポケモンはピカチュウでも良かったんじゃない?」

「やー可愛いですけど、種族値を考えると襲われた時に死んじゃいますから……」

 

 やっぱり、アリスはこれからも襲われると確信しているみたい。

 

「種族値?」

「ポケモンにはそれぞれ、種族によって初期の能力が決まっているんですよ。普通のピカチュウなら320ぐらいですね。特殊個体だと430ぐらいですが……この子はどうでしょう?」

「ちゅ~」

 

 もふもふされながら、アリスの言葉に不思議そうにするチュチュ。もしかして、アリスって、知識でしかポケモンを知らないのかもしれない。そういえばドドすけに会った時もそんな感じだった。

 

「アリスはポケモンと触れ合ったことはないの?」

「ありませんよ。ゲーム、シュミレーションや本、データでは知っています」

「もしかして、攫われたところで教えられたの?」

「いえ、もとから好きだったので知識を集めていたんです。そこで沢山の人達がポケモンを研究していて、その知識の一部を使わせてもらっています」

 

 もしかして、その知識がアリスが攫われた原因の一つなのかな? 大事そうに何時も持っているGrimoire of Alice(アリスの魔導書)と書かれた本に載っているのかもしれない。でも、直接聞くわけにはいかないよね。アリスの心の傷もあるし……

 

「ふわぁ~」

 

 アリスがあくびをして、チュチュをぎゅっと抱きしめている。

 

「先に寝てていいよ。ボクはちょっと水を飲んでくるから」

「おやすみなさい……」

 

 チュチュと一緒にアリスが布団に入って眠り出した。ボクはチュチュを見ると、彼女も頷いてくれたので、そのまま外に出てオムすけ以外の皆を出しておく。

 

「みんな、護衛をお願い」

 

 頷いてくれたので、部屋に戻ってオムすけを出してボクも眠る。これで大丈夫だと思う。布団に入ると、アリスを探して駆け回っていた疲れからかすぐに眠ってしまった。

 

 

 少しして、オムすけやチュチュの鳴き声で目が覚める。慌てて起きると、アリスが(うな)されていた。近付いてみると、チュチュを抱きしめながら泣いている。

 

「……死にたくないっ……死にたくないっ……来ないで……血を吸わないで……いやぁぁっ……」

 

 明らかに普通じゃないことをされてきた言葉に、ボクは彼女を抱きしめる。抱きしめてあげたからか、少し安心したようだ。もしかしたら、アリスは捕まって実験体にされていたのかもしれない。それなら、彼女の魘されている理由もわかる。これはボクだけじゃ手に負えないかもしれない。明日にでもブルーさんや皆にも相談しようと思う。とりあえず、今は一緒に寝よう。

 

 

 

 

 

 

 




イエローちゃんはアリスのことを多少は警戒していますが、たすけるべき対象とみております。
言いくるめを失敗したりしているから仕方ないね。


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アリス

今回は駆け足気味。


 星の精に噛みつかれ、身体から血液が抜かれてどんどん寒くなっていく。そんな絶望的な状況なのに、次第に身体が温かくなってくる。

 

「ぴかっ?」

 

 ピカチュウの声で目を開けたら、何故か柔らかい物に顔が埋められていた。眠くて霞む視界の中でもぞもぞと動いて上を見ると、イエローさんが私の頭を抱えるようにして眠っている。どうやら、イエローさんの胸に抱きしめられて眠っていたみたい。

 頭がそう認識すと、なんだか甘い香りがして彼女の体温が伝わってきて顔が勝手に熱を帯びて赤くなってくる。

 

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ぴかぁっ!?」

 

 恥ずかしくなってピカチュウのチュチュを思いっきり強く抱きしめてしまった。当然、チュチュは怒って電撃を放ってくる。

 

「「あばばばばばっ」」

 

 私と寝ていたいイエローさんは共にチュチュの電撃を受けて、身体中が痺れてしまう。流石に十万ボルトどころか電気ショックですらもなかったけれど、身体中に痛みが走った。

 

「こ、これがピカチュウの洗礼……」

「なっ、なにが起こったの……?」

「ちゅっ!」

 

 チュチュは布団から出てご機嫌斜めのようで、尻尾でぺちぺちと叩いてくる。それでポケモンでお馴染みのピカチュウからの洗礼を受けた嬉しさとか、色々とごちゃ混ぜになった衝撃から正気に戻った。

 

「あっ、あの、離してっ!」

「ん……? ああ、ごめんね」

 

 小さな両手でイエローさんを押して、どうにか退かそうとしていると離れてくれた。まったく、驚いた。起きたら年下の少女に抱きしめられて、その胸に顔を埋めてるとか社会的な死が免れない。

 

「なんで、こんなことに……?」

「イエローさんが私に抱き着いていたので、おっ、驚いたんです。わざわざ離していたのに……」

 

 電流で無茶苦茶になった髪の毛を押さえながら、同じくぼさぼさになっているイエローさんに答える。

 

「それは……魘されてたからだよ」

「わっ、私が……?」

「うん。アリスちゃんが魘されてました」

 

 確かに夢で星の精に吸い殺される場面を見ていた気がする。あの時は本当に死を意識した。一人だし、他の探索者の助けなんて期待できない。時間経過で殺されることは確実だったと思う。だから別の世界に逃げることを強行して、それで結果的に助かった。でも、最初にみつけた時にそのままポケモン世界に飛び込んだら、簡単に助かったのかもしれない。その場合はイエローさんと出会っていないと思うけど。

 どちらにせよ、生き残ることはできたとは思う。でも、ここまで簡単にはいかなかったはず。私も流石に身の危機が迫った時以外は人間に魅了の魔眼を使うつもりはない。ポケモンの捕獲には便利だから使わせてもらうけどね。それに魅了の魔眼を使い続けると、後々酷いしっぺ返しが来ると思うし。

 

「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。理由はわかりました。でも、恥ずかしいので止めてください。手を握るくらいなら、まだいいですけど……」

「子供なんだから恥ずかしがらなくていいのに……」

「私は大人です」

「そうだね。大人だね」

「ぜん、ぜん、信じてませんね」

 

 イエローさんは私の頭を櫛で整えながら撫でてくる。完全に妹などの子供扱いだ。まあ、だいたい日本で110cmだと七歳ぐらいなので仕方がないかもしれない。けど、それを認めたらますますアリス化が進行していく。

 それにもしかしたら、力を使えば使うほどアリスになるのかも知れない。でも、使わないわけにもいかない。そう考えるとポケモン世界というのは素晴らしい。ポケモンの力を私の、アリスの力の代わりに使うことで抑えられる。

 そう考えると、本当は魔弾も弾幕もあまり使わない方がいいのだろうけれど、それだといざという時に死ぬし、自衛能力は必要。なにより、魔法を使いたい。だって、魔法だよ、魔法! ファンタジーの定番にして、最高の力! 旧作とはいえ、人形師のアリス・マーガトロイドになれたんだ。少しは楽しませてもらっても大丈夫なはず。

 

「はい、終わり。電撃を受けてもすぐサラサラのふわふわヘアーに戻った。ちょっと羨ましいです」

「イエローさんのも長くて綺麗ですけどね」

「なら、ボクのもお願いできますか?」

「……髪の毛は女の命なのではないですか? 私が触ってもいいんですか?」

「いいんですよ。お願いします。この水を使って、櫛で綺麗に梳いてください」

「はい」

 

 布団の上で女の子座りをしたイエローさんの後ろに立ち、受け取った櫛で梳いていく。綺麗な金色に光り輝くかのような髪の毛を触っていると、どきどきしてくる。女の子の髪の毛を触るなんて機会、滅多になかったし。それに手に持って金色の髪の毛を梳かしていると、イエローさんの(うなじ)がみえて興奮してくる。女の子の項とか鎖骨っていいよね。特に汗が滴り落ちる感じとか……ってなにを考えているんだ。この人はレッドさんのお嫁さんなんだから、そんなことを考えたらそれこそ100万ボルトを受けてしまう。だけど、あれだ。女の子に興奮するってことはまだちゃんと男だってことだし、良かった良かった。

 

「んんっ……すこし、くすぐったいです」

「ごめんなさい」

「髪の毛を梳かし終わったら、これで結んでください」

「はい。これで完成ですね」

「うん。それじゃあ、行こう」

 

 二人で外に出て、おじいさんとおばあさんの下へと向かう。二人は縁側でお茶を飲みながら、庭のポケモンを見ていた。庭ではメタモンやドードリオ、バタフリー、ガーディ、キュウコンが遊んでいた。ガーディとキュウコンは預かっている奴だろう。池の中はわからない。

 

「おはよう。もう夕方だけど、どうするね?」

「お腹空いとるかね?」

「ボクはそんなに空いてません。アリスはどう?」

「私も空いてません」

「だったら、手伝ってもらおうかね」

「そうじゃな……ポケモンの世話か、内職。どっちがええかのぉ?」

 

 内職かポケモンの世話か。そのどちらかだったら、ポケモンの世話かな。内職よりも今はポケモンと触れ合いたいし、覚えたいことも欲しい物もある。

 

「私はポケモンの世話でお願いします」

「そうかそうか」

「じゃあ、ボクは……」

「お主は内職じゃな」

「ええ~」

「頑張って」

「うう……」

「ほっほっほ。ほれ、アリスちゃん、こっちじゃ」

「はい。でも、玄関に靴があるので履いてきます」

「うむ」

 

 おじいちゃんは縁側から外に出るので、私は玄関から靴を履いて庭に移動する。そこでおじいちゃんと一緒になってお仕事を教えてもらう。

 

「まずはポケモン達の食事の用意じゃ」

「はい。どこにあるんですか?」

「こっちじゃ」

 

 庭に建てられた小屋に移動し、中に入る。そこは倉庫になっているようで様々物が置いてあった。おじいちゃんは蓋がしっかりと閉まる赤色の箱を開けて場所をずらしてもらう。私の身長でも中身は見える。中身は茶色のドックフードみたいな物だった。

 

「これがポケモンフーズじゃ。本当はポケモンそれぞれに合った奴を用意するんじゃが、ここでは預かるだけじゃから基本的にタイプ毎に用意しておる。こいつは炎タイプ用じゃ」

「炎タイプということは、キュウコンとガーディですね」

「そうじゃ。蓋の色や絵で判断しておくれ」

「わかりました。量はどれくらいですか?」

「体調によってかわるが、今日は元気じゃからこれくらいかの。餌入れはそこの棚じゃ。届かんじゃろうから、台を使うとええ」

「はい。ありがとうございます」

 

 おじいちゃんに教えてもらった通り、台を用意して餌入れを取る。それから、餌入れを横に置いて台を両手で掴んで運ぶと、つまづいて餌箱に頭からダイブしてしまった。

 

「大丈夫かの?」

「は、はい……これぐらい大丈夫です」

 

 頭を箱の縁にぶつけたせいで、きっとおでこが少し赤くなっていると思う。でも、気にするほどでもない。なので、台を置き直して今度は餌入れを持って乗り、中に入っているポケモンフーズを用意されていたスコップで取って餌入れにいれていく。

 

「うむ。そんなもんじゃ。人も一応食べられるから、食べてみるとええ」

「はい。はむ。うっ……」

 

 無茶苦茶辛いし、ぱさぱさしている。すぐに身体から汗がでてきて、吐きそうになるのを両手で口を押えて我慢する。

 

「炎タイプは常に身体を温めておくと体調がよくなる。だから、食事もそんな風に辛い物などを好むのじゃよ」

「にゃ、にゃるほど……めっ、メタモンや鋼たゃいぷのポケモンフーズはどれがいい、れしゅか?」

「メタモンは基本的になんでも食べるからの。後はそれぞれの嗜好じゃな。鋼タイプは鉱石とか、石じゃな」

 

 コストが凄くかかりそう。でも、仕方がない。伝説ポケモンを相手にするんだから、それぐらいのコストは必要経費と割り切ろう。

 

「ついでじゃから、色々と教えてやるかの」

「お願いします」

 

 メモ帳が欲しい。そう思ったらGrimoire of Alice(アリスの魔導書)が開いて、羽ペンもでてきた。

 

「そんな本、もっておったか?」

「は、はい。何時も持ち歩いているので……」

「そうか。それならええ。それでどうするんじゃ?」

「ここに教えてもらったことを書かせてもらいますね」

「かまわんよ」

「ありがとうございます」

 

 嬉しそうに教えてくれるおじいちゃんの言葉を書いていく。メモ帳としても使えるみたいなので便利だ。

 

 

 

 

 

 

 おじいちゃんに色々とポケモンの世話の仕方とか好みとかを教えてもらった。それを踏まえると、ある程度はゲームの知識が通用することが確認できた。例えばポケモンのタイプと相性とかね。

 ポケモンにはそれぞれ、ノーマル、炎、水、電気、草、氷、格闘、毒、地面、飛行、エスパー、虫、岩、ゴースト、ドラゴン、悪、鋼、フェアリー、呪いがある。ただフェアリーと呪いはまだ確認されていない。それぞれ弱点や得意なタイプがあり、弱点をつくと効果が抜群で、大ダメージを与えられる。逆に得意タイプだとダメージを与えられない場合がある。これらはバトルではとても大事な要素となる。

 これは基礎知識なので、ジュンサーさんのテストでも詳しくはないが、それなりに答えてはいたけど、確信は持てなかった。

 知らない知識はやはり、ポケモンフーズの好みとか、どの栄養を与えればいいとか。ゲームではないので、現実的な問題もでてくるのだ。栄養だけでなく、体調や排泄の問題とかね。厄介なのは排泄物。これを考えると私はやっぱりメタグロスの運用があっている。ボーマンダも欲しいけれど、基本的にはメタグロスでいいと思う。

 それとヒワダタウンに戻って、ガンテツさんが作るヘビーボールを手に入れないといけない。いや、いっそ作り方を教えてもらうといいかもしれない。これからポケモン世界は色んなところを回ることになる。一々ヒワダタウンに戻ってくるのは面倒だし、自分で作れるようになった方がいい。何せ、考えてみたらセレビィを捕まえるモンスターボール、私も欲しいからだ。アレがあればディアルガを捕まえられる可能性がある。しかし、ガンテツさんはセレビィのことであのボールを作ってくれないだろう。だったら、自分で作るしかないというわけだ。

 

「こんなもんじゃな」

「はい。ありがとうございます。大変勉強になりました」

「それはよかったわい。次は実際に餌をやろう。頼むぞ」

「頑張ります」

 

 おじいちゃんと一緒に庭に出て、ポケモン達に餌をあげていく。その間にポケモン達が眠る場所の掃除や排泄物から健康状態を調べていく。やっていることって馬の世話とほぼ変わらない。ポケモンも生物なのだとしっかりと理解できた。

 

「めたぁっ!」

「あ、いらっしゃい、マザー」

 

 私の色違いメタモンのマザーが寄ってきたので撫でてあげる。ピカチュウのチュチュと違って、スライムを触っているみたいで変な感じがする。そう思っていると、マザーがピカチュウに変身して抱き着いてきた。どうやら、昨日チュチュを抱いて寝たせいで嫉妬したのかもしれない。

 

「よしよし。良い子ですね」

 

 ピカチュウに変身したマザーを撫でまわしていると、メタモン達がやってきた。そういえば、メタモンってゲームでは変身するのは目の前の、対戦相手のポケモンだけだったけれど、こっちではどうなのだろうか?

 考えてみるとわざわざ対戦相手のポケモンに変身する必要なんてない。事前に別のポケモンに変身させて、そいつの特技を使った方が強い。

 

「マザー、少し実験を手伝ってください」

「めたぁ」

 

 ピカチュウに変身したままのマザーをモンスターボールに戻してから、また取り出す。マザーはメタモンの姿に戻っていた。

 

「ふむ。モンスターボールに戻すと変身は解除されると……なら、変身する持続時間はどうなの? マザー、皆。キュウコンに変身。できる限り持続させて」

「「「めたもー!」」」

 

 メタモン達の姿がキュウコンに変わった。私のメタモンは色違いが二匹、通常が六匹。合計八匹なので、ここには銀色が二体、金色が六体存在する。このキュウコン達を計測して、どれだけ変身していられるかを確かめようと思う。

 

「アリス、何をしているのですか?」

「実験です。イエローさん、時計を貸してくれませんか?」

「時計? ポケモン図鑑にあったかな」

「貸してもらってもいいですか? この子達の計測と使える技を調べたいですから」

「いいよ」

 

 ポケモン図鑑を借りて、イエローさんの横で教わりながら操作していく。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 キュウコン

 

 図鑑:No.38

 分類:きつねポケモン

 高さ:1.1m

 重さ:19.9kg

 タイプ:炎

 九本の尻尾にはそれぞれ違う神秘的な力が秘められているという話だ。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 図鑑もメタモン達が変身した姿をキュウコンだと判断している。しばらくはこの状態で置いておこう。時間を確認したので、どれだけ姿を変えていられるかを調べる。それが終わればバトルしても問題ないかだ。

 

「それで、どんなことをやっているんですか?」

「変身の持続時間ですね。それさえわかればこれはかなり便利ですよ。モンスターボールに戻さずにそのまま連れていけばジム戦も楽ができます」

「ジムに挑戦する気なの?」

「この近くのジムは挑もうかと思っています」

 

 ジムリーダーを倒せるかどうかはわからないが、ジムバッジを手に入れたらスキルポイントが手に入る。正直言って、スキルポイントは凄く欲しい。

 

「ポケモンバトル、ちゃんとできる?」

「できるとは思います。その為にメタモン達のレベル上げをしないといけませんが……」

「手伝おうか?」

「レベルが違いますし、勝負にならないと思いますよ?」

「負けてもレベル、上がるよ?」

「……それならお願いします。でも、今は持続時間を調べます」

「わかった」

 

 ゆっくりとメタモン達を見ながら、イエローさんと一緒にポケモンの世話をする。途中でおばあさんに晩御飯を御馳走になった。温かいご飯をみんなで食べるとやっぱり美味しい。前の世界では一人だったし。どちらもコンビニ弁当だ。

 

 

 

 

 

 キュウコンに変身できた時間は一時間だった。持続時間としては十分なので、続いてキュウコンが目の前に居なくても変身できるかを試した。結果、出来た。一度出会って何度も変身したらこれからも変身できるようだ。問題は変身した時に覚えている技はそのままで、成長しないということと、持続時間が三〇分になったことだが、どちらもどうとでもなる。

 これは悪用できる。イエローさんの手持ちをコピーして、ジム戦をすればいい。ピッピの弱点は毒と鋼。ミルタンクの弱点は格闘。格闘タイプはイエローさんのゴローニャを見せてもらえばいい。毒と鋼をどうするか。最悪、プリンで押し切る。

 

「イエローさん、格闘タイプっていますか?」

「います。ゴロすけっていう子が」

「じゃあ、その子、見せてもらってもいいですか?」

「預けてるから、明日ならいいよ」

「ありがとうございます」

 

 これで準備ができたので、さっそくポケモンバトルをやってみよう。イエローさんとの初バトル。

 

「マザー、相手は図鑑所有者。頑張っていくよ」

「めっ!」

「チュチュ、お願い!」

「ちゅっ!」

 

 相手はピカチュウ。地面タイプがいいけど、流石に変身はできない。キュウコンに変化させて、炎の渦で持続ダメージをだしてから……あ、イエローさんバタフリー持ってるじゃん。

 

「変身、キュウコン。炎の渦!」

 

 キュウコンになったマザーが炎の渦を吐いて周りを炎に囲ませる。イエローさんはチュチュを電光石火で走らせて回避する。

 

「チュチュ、空を飛ぶ!」

「マザーっ、バタフリーに変身して痺れ粉!」

「わっ! チュチュ、逃げて!」

 

 炎の渦はまだあるし、それによって発生した上昇する温かい空気に痺れ粉をたっぷりと含ませて運ばせる。こちらも火傷でダメージを受けるけれど、痺れ粉を空中でもろに受けたチュチュは体勢を崩して落ちてくる。

 

「チュチュっ、電気ショック!」

「ちゅぅううううううううううっ!」

「うわぁっ!」

 

 空から電気がバタフリーのマザーに命中して大ダメージ。マザーはあっけなくお目眼をぐるぐるにして戦闘不能になった。

 

「ボクの勝ちだけど、無茶苦茶しすぎです!」

「ごめんなさい」

 

 マザーを抱き上げてから、傷薬を与えて治療する。やっぱり、ゲームと現実では違う。炎の渦で味方にダメージが入るなんてありえないし。ただ、やっぱり自力が低い。

 

「マザー、大丈夫?」

「めっ」

 

 一応、返事はしてくれたので、このまま撫でてゆっくりとしていよう。ジム戦はバタフリーとゴローニャで行こう。いや、先に育てるべき600族を確保しにいくべきか。でも、海を渡らないといけないし、やっぱり先にジムかな。

 

「もうちょっとバトルの勉強をした方がいいかも。ボクもグリーンさんに教えてもらったから……」

「そうですね。やっぱり野生ポケモンと戦って訓練します」

「うん。それじゃあ……」

「イエローちゃんとアリスちゃんにお客さんよ」

「「お客?」」

 

 二人で不思議がっていると、おばあさんに連れられてきたのはジュンサーさんだった。

 

「はーい。二人共、元気そうね」

「なにかわかりましたか?」

「わからないわ。ただ、子供一人ぐらいなら向こうに送ることぐらいはできるから、実際に連れていってみようってことになったわ」

「危険じゃないですか?」

「そんなに危険じゃないわよ。トレーナーなら向こうでも生活はできるしね。だから、アリスちゃん次第ね。それと向こうで協力してくれる人も手配してあるわ。島キングと言ってこちらでいうジムリーダーね。どうする?」

「私は行きます」

「行っちゃうんだ……」

「ごめんなさい」

「ううん、それがアリスのためだし、わかっています。記憶を取り戻すために必要なことだし……」

 

 うん、罪悪感が半端ない。ただダンバルとタツベイを手に入れにいくためなんだけどね!

 

「大丈夫。向こうが終わったらこっちに戻ってくるよ。その時、また連絡するからね」

「アリス、ポケギア持ってないけど……」

「あ……」

「買えばいいわ。こっちからも連絡を取りたいしね」

「それじゃあ、明日買いに行こうか」

「はい」

「出発は明後日でいい?」

 

 ガンテツボールは手に入らないけれど、ある程度目処が立ったら戻ってきたらいい。ジムバッジは必要だから、取りに来る。それにゲームと違って、ボールの中身の入れ替えとか、普通にできると思う。

 

「はい、大丈夫です」

 

 その日はジュンサーさんも一緒になって食事をした。次の日は朝からポケモンの世話をして、皆でデパートに買い物にでかけて青色のポケギアを買ってもらった。

 

「これで何時でも連絡取れるね」

「何時でもではないですが、大丈夫だと思います」

「うん。あっちに行っても気を付けてね」

「はい。イエローさんもお気をつけて。って、すぐに帰るんですか?」

「それなんだけど、叔父さんに昨日電話したら今日なら、リニアのチケットが買えたらしいの」

「なるほど。お姉ちゃんにはご両親がいますし、早く安心させてあげた方がいいですね」

「ごめんね。本当ならついていってあげたいけれど……」

「大丈夫です。私にはマザー達がいますから」

「うん、そうだよね。それじゃあ、またね」

「あっ……」

 

 二年後の事を伝えるか悩む。原作通りに進めば大丈夫だけれど、不安でしかない。

 

「どうしたの?」

「二年後。会いましょう。それまでにポケモンを鍛えていてください。今度は私が勝ちますから」

「楽しみにしてますっ!」

 

 イエローさんの背中がリニアの駅に消えていくのを見送る。生き残る目的がもう一つできた。二年間、何が何でも生き残ってやる。その為にまず残り三日。勝負は船の上でのことになる。小麦粉を買っていこう。ちなみに移動で三日使ったのでこれ以上、準備はできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 船に乗ってアローラ地方に向かっているアリスは八日ほど世界から消失した

 

 

 

 

 

 

 

 




運命のダイスロール! 残念ながらアリスは22を出したので何も置きません。1日、メタモン達と監禁されるだけです。残念。二日目のダイスロールは存在します。

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アリス

今回は短いです


 

 

 

 船でアローラ地方に向かっているはずが、気が付いたらマザーを抱いてベッドで眠っていた。それも知っている天井の場所だ。おかしい。甲板に立ってタイタニックごっこをしていたのに。何故、私はあの拉致された部屋に戻っているのだろうか?

 

「めたぁ?」

「うん。そうだよね。今回はマザー達が居るからまだましかな」

 

 水色のマザーを退けて起き上がる。部屋の中身は前と変わっていない。いや、近くにイエローさんと一緒に買ったリュックサックが置かれている。チャックを開けて確認してみる。ベッドの上に中身を出す。白い粉、白い粉、タオル、歯ブラシ、櫛、水筒、予備の服、パジャマのYシャツ、モンスターボール14個。腰にはモンスターボールが6個。全てメタモンが入っている。改めて思うけど、何このバランスの悪いパーティー。仕方がないけど。

 私の理想はメタグロス、ボーマンダ、カイオーガ、グラードン、ギラティナ、パルキア、ディアルガ。ちなみに六匹言ってるけど、ギラティナからは手に入ると思っていない。ディアルガはセレビィを捕まえたルギアと鳳凰の羽で作ったボールでいける可能性はある。カイオーガとグラードンはそれぞれの宝玉を使って手に入れることはできそう。問題は他の連中。ギラティナとパルキアってどうすればいいんだ。ディアルガを捕まえたら、ギラティナがでてきて暴れるだろうし、狙うとしたらそのタイミング? まあ、先にグラードンとカイオーガだ。

 

「でてきて、みんな」

 

 モンスターボールを腰のベルトから取り出し、全部床に放つ。空中でモンスターボールが開いて中から赤い光を伴ってメタモン達が全員でてくる。

 

「皆、警戒をしっかりとしてね。見えない敵がいる可能性が高いから」

「「「めたっ!」」」

 

 声を発してくれるけど、よくわからない。ここはジェスチャーを覚えさせよう。○や×、矢印を覚えてもらったら意思の疎通ができる。

 

「えっと、こんな風に○とか、作れる?」

 

 メタモン達は私が両手で○を作って見せると、普通にできるようなので色々と教えていく。するとマザーはジェスチャーまで完璧に覚えた。グットとか手を作ってやってくるので、もはやドラクエのマッドハンドの域になっている。

 

「では、警戒して進もう! ここは敵地だと思うように!」

 

 メタモン達が○を出してくるので、理解したということでリュックサックに荷物を戻し、黄衣の外套を身に纏う。それから白い粉の一つを開けてそっと寝室から出てみる。外に出た瞬間、白い粉を掴んで思いっきり投げる!

 

「ひぎゅぅっ!?」

 

 投げた時に滑って私もダメージを喰らった。運動音痴めっ、許すまじ。でも、魅了の魔眼とか、色々と使えるから許しちゃう。全体的に見たらプラスだしね。

 

「め?」

「大丈夫。それで何か居そう?」

「めた」

「居ないか」

 

 この部屋は安全そうなので、煙たいのを我慢して進む。どうせ小麦粉だし、口に入っても問題ない。麻薬とは違うのだよ、麻薬とは。麻薬や違法ドラッグ駄目、絶対。アリスとの約束だよ。

 

「ふぅ、精神安定完了。よし、探索だ」

 

 黄衣の外套のフードを被り、口元を押さえながら真っ白な部屋を進む。なんだか黄衣の外套で汚染されそうだけど、気にしない。

 

「皆は好きにこの部屋を探索してていいよ。マザーはこっち」

 

 メタモン達に指示してから、冷蔵庫をみてみる。そこにはあるはずのない物があった。それはコンビニ弁当だ。7個しっかりとある。冷凍庫を見てみると5個入っている。補充されたみたいだ。

 

「こんな優しさいらないわっ!」

 

 思いっきり冷凍庫の扉を閉める。何時なくなるかわからないから、一応メタモン達の餌にしよう。うん、冷凍してある奴以外、リュックサックに詰めてもっていくか。二個、マザー達にあげて、残り二つを冷凍の奴と交換する。これで疑似冷蔵庫が完成。バスタオルに包んでからリュックサックに入れる。

 リュックサックを背負って準備ができたので、マザー達をみると仲良くコンビニ弁当を全て綺麗に食べきったみたいだ。容器は残していたので、そのままある。

 

「よし、行くよ……行くぞ」

「「めたっ!」」

 

 イエローさんと一緒にいたので、言葉は丁寧にして女の子みたいな感じにしていたが、ここでは一人なので男っぽくしないと口調まで完全に変わってしまいそうだ。すでに私に完全に変えられ、意識して俺と言わないといけない。口調まで慣れてしまえばかなりやばいと思う。すくなくとも、一人の場合は男らしく行動しよう。

 

「進行!」

 

 トイレと風呂場を見ると、石鹸など前は気にしなかったけれどしっかりと在った。これも補充されているのかもしれないので回収していく。タオルとボディーソープ、シャンプー、トリートメントを手に取ってリュックサックに詰める。容量いっぱいだから、なにか追加の入れ物が欲しい。今度のアリスはゲーム系の主人公にするといいかもしれない。アイテムストレージとかある奴。

 近場の物資は回収が終わったので、鋼鉄の扉を開けて奥へと進む。執務室も一応確認する。黄衣の外套が入っていた場所を確認すると、今度はハスターの聖印が刻まれたペンダントがあった。これは流石にまずい。持ってたり見るだけで狂気に陥る超危険なアイテムなのでそのまま置いておく。

 次に時計を確認すると長針は変化なし。短針は15を示している。でも、星の精は出ていないみたいだから、世界へ行く広場に移動する。

 広場は特に変わった様子がない。なんてことはなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 きっとコンビニ弁当に入っていたお肉だろう。そうに違いない。気にせずポケットモンスターの世界の扉を開けよう。

 ドアノブに手を回して開いてみる。でも、()()()()。何度やっても変わらない。もしかしたら、一度開くとインターバルが必要なのかもしれない。そうなるとお手上げだ。しばらくここに閉じ込められることになる。

 いや、待てよ。ここにはもう一つの扉がある。そっちはおそらく東方projectの世界。そうなるとアリスに会えるかもしれない。会えたら上海とか作ってもらおう。妖怪がでてきても、マザーやメタモン達がいるから大丈夫なはずだ。いざとなれば人里に居ればアリスが人形劇をしに来てくれるはず。他の東方キャラともあってみたいし、悪い事じゃない。それに妖精ならひょっとしたら捕まえられるかもしれない。流石に妖怪は無理だろうけどね。

 

「よし、この扉に決めた!」

 

 東方世界のドアノブを回すと、無事に扉を開いた。私は意気揚々と扉を潜っていく。

 

 

 

 

 




東方世界にレッツゴー


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東方世界のアリス

 

 

「どうしてこうなったっ!」

 

 

 おかしい。東方世界に来たはずだ。なのに何故、ビルが立ち並び、道路を車が無数に行きかっていて、歩道の人々はスマホやタブレットを持っている。この身は魔法使いであり、魔術師だからわかる。この世界は神秘が限りなく薄い。ビルとビルの隙間から表通りを見ただけでこれだ。

 

「こほっ、こほっ」

 

 何より排気ガスによって空気が悪い。ポケットモンスターの世界はまだ自然がいっぱいあって空気が良かった。行ったところが良かっただけかも知れないけど、これだけ発展している世界だと空気が悪いのは仕方ないかもしれない。

 でも、この世界だと身分証の無い子供は大変かもしれない。お金も戸籍も無いのだから。それと魔術師としては空気中のマナによる魔力の回復が望めないので、魔術回路をあんまり使えない。後、ポケモンセンターもないので、マザー達の回復や無料で泊まることもできない。うん、大変だ。普通なら。

 食事は要らないし、寝る場所はお昼に公園ででも寝ていたらいい。問題は警察と危ない人、変態さんぐらいだろう。ああ、お節介を焼いてくる人も危険か。魔法や魔術のことを知られたら捕まって実験台にされる可能性もある。まあ、その時は魅了の魔眼を使うし、捕まっても一週間でこの世界から消えるのだろうし大丈夫……だいじょばない。大人しく普通の女の子として過ごそう。

 

「まずは情報収集だね。その前に変身して」

「めっ」

 

 マザーを抱き上げて肩に乗せてマフラーみたいになってもらう。これでバレることはない。片腕を前に突き出して、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を呼び出そうと意識する。すると掌の上に大きな本が現れて、自動で今回の世界のページが開かれる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 不思議な世界第〇世界・東方project(現代)

 アリスポイントの入手方法:幻想郷への到達

 指定方法:任意

 スキルポイントの入手方法:幻想郷への到達時間、アリスらしい行動

 連続滞在可能時間:一週間

 スキル制限:なし

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 幻想郷への到達かぁ……一応、この世界には幻想郷があるんだね。よかったよ。これが別世界だったら笑えない。しかし、幻想郷への到達か。現実世界だったら、長野県とか言われてるんだっけ? 東方世界だとどうだろうか?

 その辺はやっぱり情報収集をしないといけないかな。いや、いっそのこと魔法を全力展開して、幻想郷の管理者に気付いてもらう?

 でも、その後が大変だろうし、なしかな。うん。どうしよう。お金も無いし、やっぱり地味に歩く?

 まあ、これたはやはり情報収集が大事。あと、気になるのがやはり、スキルポイントの入手の方。

 幻想郷への到達時間が減れば減るほどスキルポイントが貰え、アリスらしい行動をするとこれまた貰える。アリスらしい行動という場所を指でなぞってみると、ページが開いて、勝手に新しいページが表示された。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 アリス(東方旧アリス)らしい行動

 アリスらしい可愛い服装をする:達成済み

 アリスらしい言葉使いをする:未達成

 戦闘を行う:未達成

 魔法を使う:未達成

 弾幕ごっこをする:未達成

 プラスチックマインドをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成

 the_Grimoire_of_AliceをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成

 アリスの人形を作る:未達成

 アリスの人形を操作する:未達成

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 アリスらしい行動によるスキルポイント。なんかかなり簡単なのと、難しい奴が入り混じってる。プラスチックマインドとかをBGMにするって、どうしろっていうの? 録音して流せてっていうのか? それとも魔法で組んで流せと? 意味が分からない。

 アリスの人形は私に作れるかはわからないけれど、頼みこんで作ってもらおう。代価は必要だろうけど、いざとなればマザーを変身させればいい――いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あれ、何を考えていた? まあいいか」

 

 しかし、スキルポイントもアリスポイントもどれも取りやすい感じがする。もしかして、この世界はチュートリアルなのかもしれない。そう考えると納得もできる。

 まあ、ともあれ今は博麗神社を目指すために色々と調べよう。

 

 

 ビルとビルの間から出て、まずは街の場所を把握する。道路に出てクルリと回ってみる。そこで見えたのはアジア系の人々と京都タワー。どうやら、ここは日本で京都みたいだ。これからどうするかだけど、博麗神社の場所を探すのは結構簡単だ。

 まず、駅まででる。京都駅の近くにはビックガメラがある。そこに入って、パソコンコーナーかスマホコーナーへ向かう。そこでサンプルとして置かれている物でネットが接続されているのを探す。見つけたら、台を用意してもらってそこに乗って調べる。少しだけど、実際に接続できるので、検索ワードとして博麗神社を入れてみる。

 現実世界と違って、東方世界ではちゃんと博麗神社は現実の方でもある。博麗神社は幻想郷と外の世界の境界線に存在するため、幻想郷と外の世界でも博麗神社は存在している。いや、厳密には幻想郷にも外の世界にも博麗神社は建っていないといえる。

 しかし、境界にあるにも関わらず、外の世界の博麗神社と幻想郷の博麗神社が存在できるかというと、博麗大結界(常識の結界)によって、外の世界の常識と幻想郷の常識で分けられているので、外の世界の常識を持つものは外の世界の博麗神社に。幻想郷の常識を持つものは幻想郷の博麗神社にしか行くことができない。そんな訳で、博麗大結界を越えることが出来ないと外の世界の神社から幻想郷の中に入る事はできない。

 このようなことが設定として語られていた、と思う。詳しくは覚えていない。だけど、どちらの世界にも博麗神社が存在し、そこが表裏一体の接点になっているのは確実だ。だから、幻想郷への入口はそこにある。あるのなら、壊してみせましょう。

 さて、博麗神社の場所は把握した。ついでに行く方法も調べたが、残念ながら結構遠いので最終手段だ。こればかりは仕方がないしね。台から飛び降りて、駆けるように移動しようとして止めた。

 慌てて戻って、台を片付けてお礼を言ってから外に出る。まだ太陽は明るいので移動できる。まず行く場所は運送会社だ。運送会社の場所は調べたので大丈夫。

 

 

 

「お嬢ちゃん、どうしたのかな?」

 

 運送会社に入って、カウンターのお姉さんに話しかける。恥ずかしくて顔が真っ赤になり、俯いてしまう。

 

「えっとね、お小遣いで電車に乗ってみたの。そしたら寝ちゃって、迷ってね」

「迷子なのかしら? 警察に連絡しましょうか?」

「警察は駄目なの。パスポート? もってない。お母さんが……」

「お母さん達が持ってるの」

「そう。ハクレイ、ジンジャってところ、待ち合わせしてる、の。それでね、テレビで、やってたのみたの。ヒッチハイクって、お金なくてもいけるん、だよね?」

「あー警察は駄目なの?」

「お母さんが怒られちゃう。それにお母さん、失語症とか言うので話せないの。だから、アリスが一緒にいないと駄目なのに……」

「聞いてくるわね。ちょっと待ってて」

「うん」

 

 最終手段。子供の振り。羞恥心と自尊心に大ダメージを受けるが、致し方ない。もちろん、これは通常の方法での最終手段だ。本当の最終手段はマザーをキュウコンに変身させて、それに乗って行ったり、魅了の魔眼を使うことになる。どちらもなりふり構わない最終手段になるので、やりたくはない。

 

「電話番号とか、わからない?」

「わからないの、ごめんなさい」

「仕方がないわね。ちょうどそっち方面に行くトラックがあるから、乗せてもらいましょう」

「ありがとう!」

 

 運がいい。すぐにトラックに乗せてもらえることになった。運転手のおじさんと色々と話ながら高速道路を旅する。お菓子とか色々とくれる優しい人で良かった。襲われることもなく、無事に博麗神社のある村にこれた。

 着いた場所でおじさんと待っている間にトイレを借りて、そこからマザーを外に出す。外に出たら、マザーには京都でみた外国人に変身してもらって表にきてもらう。そこで私が駆けて行って抱き着く。

 おじさんに話して、母親が上手く喋れないことを伝えて、私がかわりに伝える風に話してから手を振って別れた。私はマザーと手を握りながら、博麗神社を目指す。

 そう、全ては計画通りに進行している。なんの問題もない。

 時間が夜になって、周りが真っ暗になってとっても怖いけど、問題ない。私にはマザーが居るから。あっちにフラフラ、こっちにフラフラしてるけど気にしない。

 博麗神社の場所にやってきたけれど、暗い。まあ、誰も居ないはずだしね。歩いて長い階段を登り、鳥居の前で一礼してから中に入る。マザーも一緒になってやっている。可愛い。

 

「ここが博麗神社。あの有名な場所で東方好きにはたまらない場所」

「めた?」

「うん。奥に進もうか」

 

 境内を歩いていると違和感を覚える。ここにはしっかりと博麗大結界が張られている。私もバリア、ある意味では結界のような物が使えるし、博麗大結界があるものだとわかっているのもあるだろう。

 問題はここからどうやって入れてもらうかだ。結界と結界が干渉して通れないかな?

 バリアを展開して試してみると違和感が強くなった。おそらく、これはレベルが足りていない。私のバリアの特性は反射なので、低レベルでも影響が受けにくいのかもしれないな。

 

「スキルポイントは何点かある。よし、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)

 

 掌を前に出してGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を呼び出し、アリスらしい行動のページを確認する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 アリス(東方旧アリス)らしい行動

 アリスらしい可愛い服装をする:達成済み

 アリスらしい言葉使いをする:達成済み

 戦闘を行う:未達成

 魔法を使う:達成済み

 弾幕ごっこをする:未達成

 プラスチックマインドをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成

 the_Grimoire_of_AliceをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成

 アリスの人形を作る:未達成

 アリスの人形を操作する:未達成

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 現在、3つ達成でスキルポイントが3点、手に入っている。これをバリアに振ってみる。だいぶ違和感が強くなった。後少しでいけそうな気がする。なら、やれることは二つだけだ。

 

「マザー、模擬戦をしよう。キュウコンになって」

「メタァッ!」

 

 銀色の毛をした九尾の狐、キュウコンの姿へと変化したマザー。そんなマザーと対峙して弾幕を展開する私。

 

「ルールは簡単。互いにこの玉を出して当たったら負け。バリアは私とマザーにも互いにはるから、気にせず戦えるの。それとできる限り弾幕を綺麗に見せること」

「めっ!」

 

 やる気満々みたいなのでよしとする。

 

「いざ尋常に勝負!」

「キュっ!」

 

 無数の狐火、火の子が襲い掛かってくる。私も水の弾幕で対抗し、打ち消す。こっちは4発しかだせないのに相手の数が違いすぎる。

 

「コォォォォンッ!」

「ちょっ!」

 

 炎の渦が放たれ、私の周りが燃え咲かる。咲かるであっている。なにせ、周りの炎は空中で花のように綺麗に咲き誇っているのだから。

 

「ああもう!」

 

 上空に水球を打ち上げて、頭上で破裂させる。雨となって降り注ぐ水が炎の渦を鎮火させ、周りを水蒸気で満たしていく。続いて風の魔法で周りを吹き飛ばすと、マザーはどこにもいなかった。不思議に思うと、月明かりが遮られる。

 上を見ると、マザーが飛び降りてきていて、口を大きくあける。口の中から火炎放射が放たれ、運動音痴で身動きを取ったら致命的なことになりえる私は動けずにそのまま受ける。

 普通なら焼死確実な炎に思わず目を瞑ってしまう。でも、しっかりとバリアで反射されて、マザーに命中する。こちらも反射されて返ってきた。なんだか、お手玉みたいで楽しくなってくるけど、とっても危険なのでバリアがやばそうになったら、水球で消火する。

 

「さて、これでいいかな」

「めっ」

 

 十分に満足したようで、こちらにやってくるキュウコン姿のマザーを撫でてあげる。相変わらず銀色の身体は綺麗だ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 アリス(東方旧アリス)らしい行動

 アリスらしい可愛い服装をする:達成済み

 アリスらしい言葉使いをする:達成済み

 戦闘を行う:達成済み

 魔法を使う:達成済み

 弾幕ごっこをする:達成済み

 プラスチックマインドをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成

 the_Grimoire_of_AliceをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成

 アリスの人形を作る:未達成

 アリスの人形を操作する:未達成

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 改めて戦闘と弾幕ごっこをしたので、スキルポイントが2点手に入った。バリアのレベルを上げれば、博麗大結界を抜けられるだろう。

 

「よ~し、これで博麗大結界を抜けられるね」

「きゅ」

や・め・な・さ・い

 

 声が聞こえ、振り向くとそこには紫にフリルのついたドレスを身に纏った金色の長い髪の毛を持つ女性が居た。彼女は傘を差してこちらを見詰めている。滅茶苦茶知っている人で、東方世界では大の有名人。胡散臭いと言われて黒幕の一人とされる不幸な妖怪(?)。

 

「私は八雲紫。博麗大結界の監視者よ。小さな魔法使いさん、ここに何用なのかしら?」

 

 妖怪の賢者であり、幻想郷を作った張本人。能力は境界を操る程度の能力で、文字通り距離という概念から何から何まで歪めてしまえるかもしれないチーター。

 

「幻想郷へ入りたいの」

「……理由はなにかしら?」

 

 さて、ここでわからないの?とか答えて勝手に判断してくれると楽だけど、それだと殺される可能性が高い。ここは素直に言おう。

 

「アリス・マーガトロイド。幻想郷の中にいるよね?」

「ええ、いるわよ」

「彼女に会いに来たの」

「ご関係は?」

 

 本人の幼い姿、それのコピーがおそらく正しいのだろう。けど、それを説明して納得してくれるとは思えない。だったら、関係はなんだろうか? 妹? 娘? アリスと名乗るわけにはいかないし、名前も決めないといけない。名前か。そういえばアリスと魔理沙の子供でマリスというのがいたはず。東方子作りしましょ!っていう企画だったけれど。霊夢とアリスの子供でいいけど、名前的にアリス要素はこっちの方が強い。能力的には霊夢とアリスの子供の方が近い。レイスとか、アイムとかありそうだけど。

 

「娘?」

「娘なの? 嘘でしょ?」

「うん、嘘。私はアリス。アリスの幼い姿をした紛い物。そこに他のアリスを混ぜて究極のアリスにしようとしているの。この魔導書が」

「魔導書が?」

「これはGrimoire of Alice(アリスの魔導書)。アリスの究極の魔法が書かれている魔導書。持ち主をアリスにして、平行世界のアリスの力を集めて究極完全体アリスにしようとするとんでもないもの」

「……つまり、あなたはアリスになったのね」

「そう」

「頭痛いわ。なにそれ。馬鹿じゃないの。馬鹿じゃないの! 確かに平行世界のアリスを全部集めたら、究極のアリスになるでしょう。アリス以外の何者でもないのだから」

「そう、これぞGrimoire of Alice(アリスの魔導書)に記された究極の魔法。所有者は手放すと死亡し、放っておいてもアリスになって精神が死亡する。更に時限爆弾も設置されていて、アリス化しないと殺されるように狩人までご丁寧に設置されているんです。というわけで、幻想郷に入ってオリジナルのアリスに色々と教わりにきました。助けてください。お願いします」

 

 正直に話して頭を下げる。幻想郷に敵意が無いのでちゃんとお話しする。

 

「幻想郷に何かをするつもりはないのね? 結界に干渉しようとしていたのも入るだけで、結界その物に興味がないと?」

「興味はあります。何故なら、私が逃げ込める場所かも知れないから」

「なるほど。わかりました。そちらの九尾はなにかしら?」

「この子はマザー、別世界のポケットモンスターと呼ばれる存在で、今はそこに住んでいるキュウコンという子に変身しているんです。マザー、変身を解いて。この人は大丈夫」

「きゅ」

 

 マザーがメタモンの姿に戻ったので、これで敵意がないことも示したと思う。一応、マザーはモンスターボールに戻す。

 

「変身能力を持っているのね」

「色々と便利ですよ。ポケットモンスターは式神にもお勧めかもしれません」

「ふむ」

「妖怪の賢者、八雲紫。ビジネスをしましょう」

「ビジネスね……」

「私は貴女にポケットモンスター、ポケモンを提供する。貴女はそれを式神にしてもいいし、ペットとして飼ってもいい。護衛にしてももちろんいい」

「代わりに助けろってことね」

「そうです。とりあえずは幻想郷に滞在し、自由に出入りする許可を頂ければそれでいいので」

「いいわよ。その話、乗りましょう」

「本当ですか!」

「ええ。でも、条件があるわ」

「条件?」

「一つ、これから行った世界のことを必ず報告すること。そして、私が求める時には力を貸しなさい」

「その内容次第です」

「一つ。死者の蘇生。二つ。西行妖の討伐よ」

 

 西行妖は幽々子の父である歌聖を始めとした多くの人間の精気を吸った妖怪桜であり、幻想郷でも最高クラスの力を持つ八雲紫ですら手出し出来ないほどの力を持っている。現在は西行寺幽々子の亡骸によって封印されたため、大丈夫だけれどそんな化け物を相手にするなんて無理に決まってる。

 

「無茶苦茶だ!」

「ええ、そうね。そのためには貴女はアリスの力を高めないといけないでしょうね」

「っ」

「拒否してもいいわよ? 私は幽々子の為になら、貴女の、元人間の境界を弄るくらいやってみせるわ」

「それ、は……」

「何も無報酬で働けなんていいません。貴方とアリスの境界を操り、ある程度は進行を抑えてあげます。アリス・マーガトロイドに協力要請も取り付けます。ああ、そのモンスターボールというのは河童たちに研究させればもっといい物ができるでしょう。それにすぐにやれと言っているのではありませんし、別に構わないでしょう? なにせ貴方は不老の真なる魔法使いなのですから」

 

 メリットとデメリットを考える。まず生半可な手段じゃ西行妖には勝てない。勝てるまで待ってくれるみたいだから、大丈夫かもしれないけど生半可なアリスじゃ無理だろう。メリットは妖怪の賢者のバックアップを受けられる。これはかなりいい。何せ移動する必要がないからだ。式神になれば境界を操る程度の能力も手に入るかもしれない。それは非常にありがたい。

 

「式神にしてもらえる?」

「できないわ。貴方の魂は完全にGrimoire of Alice(アリスの魔導書)に支配されているわね。私が簡単に干渉できるレベルじゃないわ」

「そう……わかった」

 

 どっちにしろ、これは受け入れるしかない。八雲紫は幻想郷と友達の為になら汚いことだってやれる人、妖だ。私なんて鴨でしかないだろう。

 

「じゃあ、私は西行妖の討伐方法と西行寺幽々子の復活方法を異世界で探索。そちらは代わりに私の全面バックアップですね」

「ある程度は自分でやって頂戴ね。まだ全面的にバックアップするかどうかはわからないわ」

「アリスとの繋ぎと人形の制作依頼。それと資材の融通などは絶対にお願いします」

「いいわよ。それぐらいならお安い御用よ。早速、アリスの下へと向かいましょう」

「はい」

 

 どうやら、幻想郷には入れるみたいで良かった。でも、これからアリス対面することになるけれど、大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 




 ネーム:Grimoire of Alice
 ベーシック:東方・旧アリス
 アリスポイント:1
 スキルポイント:2
 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.1》《人形を操作する程度の能力Lv.1》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》
 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》

現在、まだ幻想郷に入る前のためにスキルポイントはまだ入っておりません。


 ―――――――――――――――――――――――――――――



 不思議な世界第〇世界・東方project(現代)
 アリスポイントの入手方法:幻想郷への到達
 指定方法:任意
 スキルポイントの入手方法:幻想郷への到達時間、アリスらしい行動
 連続滞在可能時間:一週間
 スキル制限:なし



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 アリス(東方旧アリス)らしい行動
 アリスらしい可愛い服装をする:達成済み
 アリスらしい言葉使いをする:達成済み
 戦闘を行う:達成済み
 魔法を使う:達成済み
 弾幕ごっこをする:達成済み
 プラスチックマインドをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成
 the_Grimoire_of_AliceをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成
 アリスの人形を作る:未達成
 アリスの人形を操作する:未達成



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アリス・マーガトロイド

評価、感想、お気に入り登録ありがとうございます。


 私、アリス・マーガトロイドは魔法の森に作った家の中でゆっくりと紅茶を嗜み、新しく魔法を組み込んだ人形を考えていた。といっても、どう考えても素材が足りないわ。

 複数の賢者の石を人形に組み込むことで自己学習装置を組み込み、自ら成長する人形を作成する。ただ、これでは自意識は生まれない。

 完全な自立人形の完成には近づいたけれど、まだ少ししか喋れないし、判断は私がしている。まだまだ完成には遠い。それに定期的に魔法を付与し直さないといけない。また、自ら考えて行動するには情報の蓄積が必須。今回の人形はその蓄積を目的として考案した。けれど、肝心の素材で詰まっている。賢者の石なんて高価な物をふんだんに使うのだからそれもしかたないわ。

 テーブルの上ではブロンドのロングヘアーに頭のリボンを付け小さな洋装を纏った可愛らしい人形が紅茶のおかわりを淹れていた。別の場所では赤色と青色を着た上海人形達が家事をしてくれているので考えることに集中できる。

 

「ああ、お金がない……」

 

 どう考えても結論はこれしかない。賢者の石を大量に作る素材なんて、転がっていない。手に入れるには幻想郷に無い素材もいるし、紅魔館から買わないといけないのもある。

 

「シャンハーイッ!」

「わかっているわ」

 

 考えていたら、空中に線が現れ、それが開いて黒い楕円形の形になる。その中心部には眼があり、その目が無数に現れると空間に穴が空く。

 

「ひゃぁああああぁぁぁぁっ!?」

 

 その穴から、金髪の幼い女の子が落ちてきた。続いてその穴からこの幻想郷の管理者、八雲紫が笑いながらでてくる。これはろくでもない非常に面倒なことが起こったに違いないわね。

 

「あらあら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()

「飛べますけど?」

 

 八雲紫の言葉に怒りが湧いてきて、睨み付ける。すると彼女は扇子で口元を隠しながら笑ってきた。

 

「アリス、貴女にお届け物よ」

「私に?」

「ほら、挨拶しなさいな」

「ん」

 

 床に倒れていた金髪の幼い女の子が立ち上がる。それを見て私は驚いた。彼女は()()()()()()()()()()()()()()

 

「これはどういう悪戯なのかしら? 悪趣味じゃない?」

「いえいえ、今回の件に関して私は何もしていないわ。ええ、男を女の子にして、アリスを虐めるなんて趣味はないわ」

 

 八雲紫が言った言葉に私は幼い私の姿をした奴を睨み付ける。

 

「本当に?」

「あ、あの、その……」

「そう」

 

 私の幼い姿の奴を無視して、上海人形と蓬莱人形を放つ。彼女は呆然とした表情で抵抗もできずに人形達が手に持つ円錐状の形をした槍に貫かれた。

 

「かはっ!?」

「あら酷い」

「貴女、それを本気で言っているの? 幼い姿とはいえ、男に自分の身体を好き勝手に見られて触られているのよ?」

 

 考えただけでも気持ち悪い。鳥肌が立ってきて、殺意が湧いてくる。

 

「……ないわね。ごめんなさい」

「で、コレは何かしら? 詳しい説明を――」

 

 そう言った瞬間、上海達が私の()()()()()()()()()()。驚いてそちらを見ると、上海人形と蓬莱人形がゆっくりと下がって槍が引き抜かれていく。そこから血が大量に噴き出すも、すぐに身体が修復されていく。まるで吸血鬼みたいに。

 血を浴びながら離れた青い服の上海人形と赤い服の蓬莱人形は空中に浮かび、こちらを警戒してくる。

 

「ふざけたことをしてくれるわね」

 

 私の人形達が乗っ取られた。怒りに任せて糸を伸ばし、支配権を奪い返そうとするも糸が弾かれる。全方位から向かわせても障壁に防がれる。いえ、障壁というよりは結界ね。糸が反射されていることから、厄介なことこにあの子達を取り返すのは骨が折れそう。

 偽物の方をみると、呆然とした表情から一転して恐怖に染まる表情で、()()()()()()()()()()。上海人形と蓬莱人形を護衛にし、丸い何かから変な妖怪を出し、それが私の姿へと変わっていく。

 

「ちょっと、退いて。ソイツ殺せない」

 

 弾幕を展開し、他の上海人形と蓬莱人形を完全装備で総動員する。人形の戦争(Dolls war)を発動して12体の人形たちを前方に配置する。今度は奪われないように全ての人形にバリアを展開し、相手の糸も繋げないようにする。

 

「あら、自分の娘を殺すだなんて頂けないわね」

「は? 何を言っているんですか?」

 

 ガタガタと震えて八雲紫に縋り付く偽物に本気の殺意をぶつける。

 

「あなた、あの魔導書を見せてあげなさい。守ってあげるから」

「……わっ、わかった……」

 

 怯えた表情で涙眼になりながら、上目遣いで八雲紫に頷くと彼女の手に大きな魔導書が現れる。それは私にとって見覚えがあり、消したはずの黒歴史。開けてはいけないパンドラの魔導書。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)

 

「ま、まさか、みっ、見たの?」

「み、みた。読んだ……」

「そう……やっぱり殺すわ。行きなさい!」

 

 魔操リターンイナニメトネスの発動も準備する。火薬を仕込んだ人形達を戦線に加えて24体の人形を同時に運用し、私も弾幕を展開。人形の戦争(Dolls war)で呼び出した上海人形と蓬莱人形12体からも弾幕を展開させる。後詰めとして天井にゴリアテ人形を配置し、上からの奇襲で確実に闇に葬る。

 

「まあ、待ちなさい。多分、アリスの知っている内容とは違うわ」

「……どういうこと?」

「読んでみたらわかるんじゃないかしら? そうよね」

「……そ、そう……これ、改悪されてる……はず……」

「いいでしょう。読んであげるわ」

 

 久しぶりに手に持った黒歴史、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を読んでいく。内容は改変されていた。むしろ、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)とか題名をついているが、本来載っていた究極の魔法としていた物とは違う。アレは魔理沙に奪われて、その後取り返したのだけれど内容が書き換えられて色々と混ざっていた。

 あの時点でGrimoire of Alice(アリスの魔導書)は私と魔理沙によって作られた混沌とした魔導書に変化していた。ここまでは別にいい。内容も覚えているし、魔理沙のおかげで新たな魔法の着眼点も得られた。

 でもその後、私は色々と追加してしまった。魔理沙と一緒に言い合った内容も含めて、平行世界の自分の力を集めることで究極の存在となる。そんな魔法を組もうとした。でも、無理だった。つまり、これは自分の考えた最強の私というチルノみたいな考えで書かれた魔導書の失敗作。

 当然、過去の私は廃棄した。そのはずだ。いや、あの時魔理沙が来ていた。まさか、魔理沙がすり替えてこっそりと持ち帰っていた? 魔理沙は勝手に人の魔導書を持ち帰ることが多々ある。可能性は大きい。

 

「待って、待って、これ、本当に魔導書になってるの?」

「流石は魔法の国のアリスね。女の子の空想が現実化するんですもの」

「止めてっ! というか、どうやって手に入れたのよ!」

「み、店で売ってて買った……」

「っ~~~」

 

 思わず床にORZみたいな感じに両手をついて項垂れる。

 

「で、加害者のアリスはどうするのかしら?」

「待って。私は破棄したはず。まずはもう一人の被告を呼んでちょうだい」

「いいでしょう」

 

 パチンと扇子を閉じると黒い目の空間、隙間が開いてそこから魔理沙が落ちてくる。彼女は私達を見て慌てだした。

 

「おいおい、何事だ?」

「魔理沙、あなた……この魔導書、見覚えがないかしら?」

「あ? これは確か、アリスが捨てるって言ってたから貰って、家の倉庫に放置していった奴だろ……なんでここにあるんだ?」

「まりさぁぁぁぁぁっ!」

「うぉっ!?」

 

 魔理沙の肩を掴んでがくがくと震わせる。

 

「せっ、説明をしろって!」

「まあ、私がしてあげます」

 

 八雲紫がしっかりと全てを話してくれた。その後、偽物も全てを話してくれたが、それは信じられない内容であり、信じたくない。

 

「平行世界の力を集めるって、アレが実現できたのかよ。確かに進化する術式を組み込んだが……」

「それ、賢者の石が要るはずなんだけど?」

「パチュリーが失敗作って言ってたから貰った。確か、フランの賢者の石を変えて出たお古だったはずだぜ。そいつを組み込んだ。でも、アレは失敗作だぞ。発動なんてしなかったしな」

「まあそうでしょうね。普通は発動するはずないは。()()()

「どういうこった?」

「彼女が言っていたじゃない。クトゥルフ神話と呼ばれる物にでてくる妖怪に襲われるって」

「もしかして、空間や時間を操るアザトースとかヨグ・ソトースとかが関わっている?」

「すくなくとも外なる神々が関わっているのは確実ね」

 

 つまり、私達が作った魔導書擬きは神様の介入によって、本物の魔導書として様々な世界を行き来して、作られた理念通りに究極のアリスを生み出す魔法として作用しているってこと?

 

「いやぁぁぁっ!」

「はっはっはっ、面白れぇなっ!」

「面白くないわよ! それって、私の身体が自由にされてるってことじゃない!」

「いや、その心配はねえぜ。だって、アリスの内容を書かないと駄目なんだろ。だったら、アリスのこと……ややこしいな。アリス・マーガトロイドのことを知っていないといけないってことだ。こいつは外の世界から私達のことを観測して知っていた。だが、普通はそんなことってできるのか?」

「千里眼とかを持っているのなら、普通にできるんじゃないかしら? 限定的な物でも他の世界を観測し、それを作り上げる。もしくは人の想念によって新しい世界が作られるとかかしら? この幻想郷も似たようなものですし、不可能ではないわよ」

「様々なアリスがいたけれど、アリス・マーガトロイドは私だけだったよ?」

「そう、それならまだましね」

 

 すくなくともこの偽物を消せば、私の身体を自由にする奴は存在しなくなる可能性が高い。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)も私が持って封印処理をすればいいのだから。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「さて、アリスには幻想郷におけるこの子の世話をしてもらいましょう。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)は貴女から、貴女達から生まれたのだから、子供のようなものでしょう?」

「そっ、それは……」

「よろしくお願いします、お母さん」

 

 さっきの意趣返しか、悪乗りしてこちらをからかってくる偽物。確かに色々と負い目があるから、助けることはいい。でも、お母さんって。

 

「待って、待ってっ! それは待って!」

「まあ、いいじゃないか。私も責任を取って一緒に面倒を見てやるからよ」

「魔理沙っ! 何を考えているの! 子供を育てるのって大変なのよ!」

「いや、中身は大人の男だろ」

「それはそれで問題でしょ!」

「まあまあ、ちょっとこっち来い」

 

 魔理沙に肩を抱かれて部屋の隅に連れていかれ、囁かれる。

 

「紫の奴が関わっているから、絶対に何か裏がある。おそらく、平行世界のことだろう」

「それは、まあそうでしょうね。アイツが動くなんて、裏で良からぬことを考えているに違いないわ」

「だったら、紫の奴の所にいさせるより、手元に置いて娘として教育した方がいいだろう?」

「それは……でも、魔理沙はいいの? 私と貴女の子供になるんだけど」

「別にいいんじゃねえか? 姿は幼い頃のアリスにそっくりだし、アリスに段々となっていくならどっちでもいいだろう。ここで重要なのはあの子が紫の奴と取引した内容だ」

「確か、全面的なバックアップね。なるほど、こちらにもメリットが得られるようにするのね」

「ああ。私達には研究する為に金や現物がいる。それを用意してくれるんだ。ましてや、仲良くなればご本人様が異世界の品々を持ってきてくれたり、異世界に行けたりするかもしれないぜ。そこのところ、魔法使いとしてどうなんだ? 控え目に言って……」

「最高ね!」

 

 魔理沙の言う通り、今回のデメリットは我慢すれば少なく、メリットは大きい。私にとって自分の身体のコピーを知らない男性にあげるという無視できない内容でも、それを上回るリターンが手に入る。完全自律型の人形を作れる可能性も大きい。

 

「それにポケモンだったか。それもスゲー気になるんだよな」

「確かに数百種類いるんだから、参考になるのは居るでしょう。私には必要ないかもしれないけれど……」

「そんなわけで、結婚しようぜアリス!」

「っ!? なっ、ななななにを言っているのにょっ!」

 

 けっ、結婚って私達は女同士で、しかも魔理沙と……どうなのかしら? いくら人形達がいるとはいえ、一人は寂しいし。いえ、二人になるのね。でも不安はあるから、魔理沙が来てくれるのは嬉しい。

 

「いや、娘がいるんだから一緒に住む必要があるだろ。で、身体は女とはいえ、中身は男の奴と二人っきりでここに住むのか? 私だったら嫌だな」

「それはそうだけど……なんで結婚? 妹でいいじゃない」

 

 冷静になって考えれば結婚する必要はない。魔理沙と一緒に住むだけでも別に構わないのだし。

 

「娘ってことにして、私がアリスと対外的に結婚したことにする。これで私とアリスが一緒に暮らす理由ができる。そうなると少なくとも、襲われた時に対抗できるぜ」

「なるほど。でも、上海達がいるから大丈夫じゃない? 魔理沙も普通に泊まりにきたらいいのだし……」

「これからどんどん力を付けていく奴だぞ。一人じゃ抑えきれなくなるし、私にも責任があるからな。何かあったら、私がアリスをこの身に代えても絶対に守ってやる」

「魔理沙……」

 

 カッコイイ魔理沙にちょっときゅんとした。うん、魔理沙との生活は悪くないわね。結婚の方も対外的にそっちの方が誤魔化しやすいのも確かにある。理由としては私と魔理沙で子供を魔法で作ってしまったから、と言えば納得されやすいでしょう。間違ってはいないわけだし。

 

「わかったわ。そうしましょう」

「よし、決まりだ。アリスの説得は終わったぜ。ただし、私もアリスと結婚したことにして一緒に住む。当然、私達のバックアップもしてくれるよな、妖怪の賢者様?」

「いいわよ。何が欲しいのかしら?」

「そうだな、まずはミニ八卦炉の素材だな」

「賢者の石を……20個くらい?」

「……ええ、どうぞ」

「あるのかよ……」

「驚きね」

「うわぁ……」

 

 私達は驚いたけれど、まるでこうなることはわかっていたかのように準備がいい。彼女の顔を見れば不敵な表情で微笑んでいる。やっぱり、怪しい。彼女が黒幕の気もしてきた。八雲紫なら、魔理沙の部屋から魔導書を盗み取ることだって妖怪の配置だって、それこそ世界を越えることだってできるかもしれない。

 

「ああ、後引越しの手伝いも頼むぜ。アリスの家の隣に私の家を運んでくれ」

「構わないわよ。他には何か有るかしら?」

「それなら、私から」

「何かしら?」

「これ、モンスターボールです。河童の人達に渡して量産と改造をお願いできないでしょうか?」

「依頼しておくわ」

「ありがとうございます。それと上海などの人形が欲しいので、アリスさんに作って欲しいです。いずれは自分で作りたいですが、まだ無理ですし……」

「だそうだけど、何が要るの?」

「そうね……」

 

 人形のことに関しては妥協できない。この子もそれがわかっているから、私に頼んだのでしょうね。流石は私ね。素晴らしい提案をしてくれたわ。にやけそうになる顔を必死に止めて冷静に、今私が考えている()()()()()()()2()4()()()()()()()

 

「そ、そんなにいるの?」

「当然よ。人形を作るのに一切の妥協はしないわ。バックアップしてくれるのでしょう?」

「わっ、わかったわ……」

 

 素材はどれも冥界や地獄、天界などに存在する希少な物をふんだんに頼んだ。これで上海達を作れると思うと本当に嬉しいわ。もちろん、彼女にもちゃんと12体、差し上げるわよ。彼女と私の24体のデータを使っていずれはバージョンアップもできるでしょうしね。

 

「んじゃ、次はコイツの名前を決めようか。アリスってわけにはいかないだろう」

 

 それもそうよね。アリスは私の名前だし。でも、彼女もアリスではあるのよね。

 

「単純にロリスでいいのじゃないかしら?」

「いや、それは微妙だろ」

「ないわね。私と魔理沙の子供なら、マリスにしましょう」

「それならいいな」

「覚えてなさいよ……」

「あなたもそれでいいかしら?」

「はい。でも、私はあくまでもアリスです。幻想郷での愛称がマリスというだけですよ。そこは譲れません。絶対に。そうじゃないと、死んじゃう」

「そこまでかよ……」

「そのようね」

「これは本当に手を尽くしてやらないとな」

 

 私達の責任でもある。そうと決まれば色々と決めましょう。

 

「定期的に連絡をしてちょうだい。その結果次第で支援します。あまり成果が上がらなければ打ち切りますからね」

「ああ、それは仕方がないな」

「ええ、そうね」

「わかっています」

「それならいいわ。それじゃあ、後で藍に届けさせるから、後の事は任せるわね」

「ああ、任せな」

 

 八雲紫がスキマを作って出ていったので、残されたのは三人になる。

 

「んじゃ、改めて自己紹介と行こうか。私は霧雨魔理沙。よろしくな」

「アリス・マーガトロイドよ」

「アリスもといマリスです。この子はマザー。それと種族としてのメタモン達」

 

 丸い物をボタンを押して大きくし、その中から粘体の生物をだしてきた。なにこれ、凄く不思議な生物なんだけど。

 

「それが言ってたポケモンか?」

「そうです」

「そっか。ちょっと触ってもいいか?」

「どうぞ」

「おーなんかドロドロしてるな」

「大丈夫なの?」

「ああ、平気だぜ。アリスも触ってみるか?」

「遠慮するわ。それよりも部屋を決めましょう。私と魔理沙は同じ部屋で、マリスは一人部屋ね」

「お、私は同じ部屋でいいのか?」

「守ってくれるんでしょう?」

「まあな」

「それで構いません。アリスさんからしたら、気持ち悪いでしょうし……」

「うっ……」

 

 悲しそうにしてくる幼い私の姿に心が痛む。けれど、やっぱり受け入れるのはまだしばらく時間がかかる。

 

「ごめんなさい。さっきの攻撃のこともだけど、やっぱりまだしばらくは無理よ……」

「仕方ないです。こちらこそ申し訳ございません。まさか、このような事態になるとは思わず……いえ、想像したことはあったんですけど」

「あるのかよ」

「やー違う自分というのは憧れませんか? まあ、なると実際には戸惑いと困惑、後悔が勝るのですが……」

「だろうな。まあ、アリスは慣れていけよ。マリスは私達の娘なんだからな」

「本当に娘にするんですね」

「そっちの方が面白そうだしな。アリスにも得はあるし」

「プロイキャッシャーね。教えていただけるかしら?」

「お母さんの頼みとあらば。でも、全然わかってないんですけどね!」

「だろうな。とりあえず、アリスはマリスに人形の操作を教えてやれよ。弟子として扱えば問題ないだろ」

「……そうね。それなら……人形について教えましょう」

「よろしくお願いします!」

 

 まずはあげることになる上海人形から教えましょう。私であるのなら人形について教えるのは苦にもならないはずだし。

 

「あ、伝え忘れていたわ」

 

 いきなり目の前に空間は引き裂かれて、座った状態の八雲紫が現れた。マリスはビクッとして驚き、すぐに私の後ろに隠れて服の裾を掴んでくる。星の精とかいうのに襲われたのがよほどトラウマになっているみたいね。

 

「何の用かしら?」

「仲がよろしそうで何よりだわ」

 

 私が複雑な表情をすると、ニヤニヤ笑ってくる。本当に嫌な奴ね。上海達を差し向けようとすると、両手を上げて降参のポーズをとった。

 

「争うつもりはないわ。えっと、マリスでいいのかしら」

「は、はい」

「貴女には幻想郷の民になる前に通過儀礼として、異変を起こしてもらうわ。それが完了するまでこの森から出ることを禁じます。外部との接触もできる限りしないように」

「ちょっと?」

「私が異変を起こすんですか? そんな力、まだ無いですよ」

「アリスと魔理沙に手伝ってもらいなさい。それか自分の力でやるのよ」

「私達が協力するのか? 私としては解決する方に回りたいんだが……」

 

 魔理沙はそうでしょうね。しかし、何をするかは相談するのもいいかもしれない。私が彼女と仲良くなるにはそっちの方が良さそうだし。

 

「……わかりました。自分の力でやります。ポケモンの力を使っていいんですよね?」

 

 じ、自力でやっちゃうの? 大丈夫なのかしら? 異変って結構力が必要なんだけど。

 

「ええ、いいわよ」

「そうですか。じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「やれるものならね」

「ふふふ、楽しくなってきた……」

 

 何をするかはわからないけれど、碌な事にはならなさそうに。八雲紫、紫に無茶ぶりされた仕返しをするつもりなのかも知れないわね。しかし、霊夢を倒すというのは個人的に興味があるわ。

 

「あ、アリスさん。お母さんには事前準備として手伝って欲しいのがあるんです」

「何かしら?」

「人形、作りましょう。水中戦用の人形を

 

 水中戦で使える人形。考えたこともなかったわね。楽しそうなことになってきたわね。

 

「どちらにしろ、弾幕ごっこの練習は必要だな」

「それよりもまずは生き残るために戦闘訓練ね。運動音痴は早目に克服しないと死ぬわ」

「はい。そのためにはスキルポイントが必要です」

「アリスポイントがあるなら戦闘系のアリスを取ればいいんじゃないか?」

「それなんですけど、ポケモンの世界から攻略するので、ポケモンを強化する能力がいいんです。人形も強化できるとなによりですし」

「確かに言われてみればそうだな……でも、そんな都合のいいのっているのか?」

「居ますよ……でも、旅に便利なタイプと悩んでいて……お二人は知りませんか?」

「流石に私は知らないな。アリスはどうだ?」

「知る訳ないじゃない。ただ、旅をするのなら、荷物を沢山持てるほうがいいんじゃないかしら?」

「その通りですが……」

「その辺はアリスならどうにかできるのか?」

「圧縮呪文を教えてあげるわよ。人形が入ればいいのだし。だから、その、アリスポイントとかいうのは生き残ること優先して使った方がいいでしょう」

 

 アリスポイントなんて言いたくないんだけど、仕方が無いので我慢しましょう。

 

「生き残ることを優先……あ、いいのがありました」

「どんなのだ? 私に教えてみろ」

「全ての味方が急所に攻撃しやすくなって、味方の回復と状態異常を治し、ついでに光属性の全体攻撃をします。その攻撃が命中すると状態異常の雪だるま化して少しの間動けなくなるよ。あと、魔族に対する特攻を持つから……」

「なんだ、その出鱈目な能力」

「まったくもってその通りね。魔族はおそらく妖怪や幽霊とかに置きからえれるでしょうし、いいんじゃない? 回復能力は便利でしょう」

「だな」

「じゃあ、とりますね」

 

 マリスがGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を呼び出して、新たにページを書き込んでいく。その間に考えましょう。急所に攻撃しやすくなるのはどういう理屈かはわからないけれど、人形操作にも使えるのでしょう。回復が人形にも有効ならそれは素晴らしいことね。雪だるまは意味がわからないけれど、浄化の光でも放つのかしら? 魔理沙のマスタースパークみたいな感じ? まあ、後でいいでしょう。私がすることはマリスに上海と蓬莱を与えて、戦い方と人形の作り方を教えてあげるだけ。それ以外のことは自ら考えて学び、進んでいくしかない。それが魔女なのだから。

 

 

 

 

 

 




アリス・マーガトロイド様、こんな感じであってのか不安です。なお、私はアリス×魔理沙が好きです。魔理沙×霊夢も好きです。結論。魔理沙はプレイボーイならぬ、プレイガール。ごめんなさい。

次に新たなアリスを載せますが、簡単にだけ。
支援能力が欲しくていろんなアリスを探しました。2、3時間。でも、ほとんど攻撃系なんですよね。そんなわけで幻獣契約クリプトラクトの[聖夜の旅人]アリス、潜在能力解放版です。スピードと悩みましたが、こちらにしました。樹の方はすごく強いですが、回復能力がなかったのであきらめ。
ちなみに候補にはハードゴアアリスとかもありましたが、あれ、本人のみなんですよね。魔術回路でオート回復がある現状、要るのか微妙。あちらの方が出鱈目な回復力ですが。たぶん後で取ります。

また、今回のことでこりたので、活動報告に皆さんが知っているアリスを募集しました。そんなわけでよろしくお願いします。(ぺこり


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東方世界のアリス(マリス)

 八雲紫と現代の方の博麗神社で出会い、契約をして無事に幻想郷に入れた。入った瞬間、オリジナルであるアリス・マーガトロイドの家に直接落とされるとは思わなかった。こっちは空も飛べない紛い物だというのに、それを彼女になじられたけれど、それを聞いて勘違いしたのか、アリス様の機嫌が悪くなった。

 その後も険悪な雰囲気の中、私の話になって隠し通すことなんてできないし、八雲紫がばらしたので必死に恐怖に震えながら説明した。前面に八雲紫を押し出して盾にはした。アリス様のところには行きたいけれど、やっぱり殺されるのは嫌だからだ。それなら、何をされるかはわからない、ある程度は優しいブラック企業の八雲に就職するのも辞さない。

 実際にアリス様に殺された。上海人形と蓬莱人形の持つ槍で串刺しにされて死に掛けたけれど、その時に人形操作に増えていたスキルポイントに全振りして、突き刺さしてきている上海人形と蓬莱人形のコントロールをアリス様から奇跡的に奪い、彼女達と自分にバリアを展開して奪い返されるのを防いだ。

 そうしたら、当然のようにブチ切れられたアリス様は、人形の戦争(Dolls war)に加えて魔操リターンイナニメトネスを展開してきた。あちらもバリアを張ってこちらの糸が届かないようにしてだ。でも、八雲紫、ゆかりんに頼んでバリアの内側に糸を通したら多分奪える。

 そんな一触即発の状態でゆかりんが頑張ってくれた。どうにかお話を聞いてくれるようになり、元凶のGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を渡すと、彼女は青い顔をしてから真っ赤になってまた怒り出した。後はゆかりんがアリス様の要請で魔理沙が呼ばれ、話し合いの後、何故か娘になった。いや、調子に乗ってお母さんとか呼んだからかもしれないけど……どうしてこうなったっ!

 外見が凄く若くて姉にしか見えない超絶可愛いお母さんが二人もできたよ、やったね! なお、一人のお母さんにはガチで嫌われております。でも、仕方ないよね。自分の幼い時の身体がいつの間にかクローニングされていて、その中に知らない見たこともない男性が入っているって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私でもそう思う。特に女性なのだから尚更だと思う。

 現実に姿が変わり、その基となる人と出会わなければまだましなのだろうが、今回は出会ってしまっている。私が特にアリス様の気持ちを考えもせずにきたせいもあるので自業自得だ。でも、それでも私は死にたくないし、クトゥルフ神話の化け物に食べられたくない。

 あんな世界に一週間も居たら絶対に食い殺されているし、東方世界に逃げ込んで幻想郷にこなくても何れ詰んだはずだ。少なくとも警察に追い回されることにはなるし、八雲紫に見付かるかもしれない。どちらにせよ、強くならなければ死ぬ。それなら、アリス様には悪いけれどこのような形になって良かったと思う。

 

 話し合いが終わり、とりあえずはアリス様も妥協してくれたようで対外的には娘、対内的には弟子ということになった。ここぞとばかりにゆかりんに集って高価な素材を貰っていた。まあ、これはアリス様、お母さんが受け入れてくれるための条件なので問題ない。後でゆかりんに支払いを求められるだろうとは思うけど、頑張ろう。

 続いて生活のことやアリスポイントことなどを話して、幻想郷に来たことで手に入れたアリスポイントを使って、支援もできるアリスを選んだ。幻獣契約クリプトラクトに出てくる聖夜の旅人アリス潜在能力解放状態で、能力は全ユニットクリティカル40%上昇と味方全体のHPを49%回復し、状態異常を回復する。光属性の182%全体攻撃。中確率で雪だるま化を付与。2回行動[強]、[滅殺]魔族キラー、[滅殺]ウォーリアキラー。滅殺は威力が2.5倍になる。わ~強い。つまり、戦士と魔族絶対ぶっ殺すウーマン。魔族の扱いがどうなるかによって火力がかわってくる。なので、魔族はモンスターやエネミー、妖怪と定義する。でも、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)が勝手に闇属性限定にしてしまった。致し方なし。

 これを書き終えると、身体中に激痛が走って目の前が点滅し、身体から力が抜けて倒れる。

 

「おいっ、大丈夫かっ!」

「どっ、どどどうしようっ!」

 

 二人の声が聞こえてくるけれど、だんだんと何も見えなくなって何も聞こえなくなってくる。いや、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)のページが高速で捲られていっている音だけはしっかりと聞こえていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら知らない天井。とっても良い匂いのするベッドに寝ていて、暖かい布団を被せられている。枕からも甘い良い匂いがしてくる。

 ふと人の気配を感じてそちらを向くと金色の綺麗な髪の毛をしていて、一見すると人形のようにも見えてくる少女と女性の中間に見える綺麗な女性が居た。服装は青のワンピースのようなノースリーブに、同じ色のロングスカートを着用。肩にはケープのようなものを羽織っており、頭にはヘアバンドのように赤いリボンが巻かれている。

 そんな彼女が窓際に椅子を置いて座り、膝の上で手を動かして人形を作っていた。近くにある机の上には人形を制作する為であろう道具と紅茶が置かれていて、近くで宙に浮かぶ人形達が見守っている。

 

「あら、目覚めたのね。良かったわ」

 

 人形の様に美しい金髪に綺麗な金色の瞳を持つ女性、アリス・マーガトロイドが、ホッとした表情を浮かべてくれていた。それを見ただけで嬉しくなる。

 

「お、おはようございます……」

「大丈夫? 身体に変なところはない? 急に倒れたからびっくりしたのよ」

「だっ、大丈夫です。ありがとうございます。倒れたのは多分、アリスポイントを使って身体の中身を作り変えて適応させたからだと思います。ほら、今はもう大丈夫で――」

「駄目よ。まだ寝ていなさい」

 

 起き上がろうとしたら、アリス様に肩を押さえられてそのまま寝かされてしまった。仕方ないので、そのまま枕に頭を乗せる。するとアリス様が起き上がる時に捲れた布団を直してくれた。

 

「林檎を用意したわ。食べなさい。あ~ん」

「あ、あ~ん」

 

 蓬莱人形が持ってきた容器からスプーンですり潰した林檎を掬って口元に運んでくる。恥ずかしくなりながらも食べさせてもらう。必要はないけれど、アリス様は食べてるみたいだし。

 

「よしよし、後は……」

 

 食べ終えて恥ずかしさに心の中で悶えていると、アリス様の顔が近付いてくる。

 

「え?」

「ほら、逃げない」

 

 私の髪の毛が上げられ、おでこを露出させられる。アリス様も同じ様にして、おでことおでこをくっつけてくる。そんなキスできそうな距離に綺麗なアリス様の顔があって心臓がドクンドクンと早鐘を打つかのように動いていく。

 

「顔は赤いけど、発熱は治まったようね。やっぱり、肉体の改変が原因なのかしら……?」

 

 顔が離れて少し残念な気もする。しかし、どう考えてもみても母親のような行動。こんな私に優しくしてくれるアリス様は、マジ天使。

 そんなことを考えながら周りを見ると、ベッドの上に水色の上に他よりも大きな上海人形が居た。不思議に思っていると、てくてくとこっちによってきて頬っぺたをペチペチと叩いてくる。

 

「もしかして、マザー?」

「そうよ。蓬莱人形に変身したみたいね」

「物にまで変身できるなんてすごい」

「知らなかったのね」

「ポケモンにしかなれないと思ってました」

「そう。でも、変身できるなら私の人形は要らないかしら?」

「要ります! アリス様の人形は可愛くて大好きです! だから、ください!」

「ちゃんとあげるわよ。それと様なんてつけなくていいわ。お母さんでいいわ。そのほうが魔理沙との……

 

 何かを呟いていたけれど、聞こえないのでそのままにする。とりあえず、心配してくれていたマザーを撫でて可愛がっていく。

 

「そうだ。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を開いてみなさい。更新されているでしょう」

「わかりました」

 

 寝ながら確認してみる。色々と変化している。スキルポイントも使っちゃったし。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:0

 スキルポイント:3

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.1》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 不思議な世界第〇世界・東方project(現代)

 アリスポイントの入手方法:幻想郷への到達

 指定方法:任意

 スキルポイントの入手方法:幻想郷への到達時間、アリスらしい行動

 連続滞在可能時間:一週間

 スキル制限:なし

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 アリス(東方旧アリス)らしい行動

 アリスらしい可愛い服装をする:達成済み

 アリスらしい言葉使いをする:達成済み

 戦闘を行う:達成済み

 魔法を使う:達成済み

 弾幕ごっこをする:達成済み

 プラスチックマインドをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成

 the_Grimoire_of_AliceをBGMとして弾幕ごっこ中に演奏する:未達成

 アリスの人形を作る:未達成

 アリスの人形を操作する:達成済み

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 アリスの人形を操作するは、支配権を取った時にできている。アリスポイントも手に入れたけど、もう使っているので0。スキルポイントが3になっているのは増えたからだろう。ただ、人形を操作する程度の能力が10レベルになっている。これはお母さんに襲われた時、人形をどうにかする為に最大まで上げたからだ。

 幻想郷に入る前の時点で2点あったし、9ポイント使っているから、7点足りない。それでも3点余っているということは、そこから逆算すると9点の加算があって、人形を操作して1点。余り0で残り3点という感じかな。

 それとおそらくだけれど人形を操作する程度の能力はお母さんと奪い合えるレベルになっていると思われるので、おそらく慣れたら同じように使えるだろう。ただ努力と研鑽は必要なので、どれだけ時間がかかるかはわからない。

 聖夜の旅人アリスは潜在能力解放状態を選択したからか、最初から高レベルで習得していた。隠されたデメリットが無いか、凄く心配になるレベルだ。

 

「どんな感じかしら?」

「とりあえず、マッドスウィートケイクを使ってみますね」

「ええ、把握しないといけないものね」

「はい。マッドスウィートケイクっ!」

 

 発動を意識すると、身体の中から急激に魔力が抜けていって眩暈がする。視界に火花が散って、これはやばいとわかる。

 

「すぐに止めなさい!」

「はっ、はいぃ……」

 

 スキルの発動は止まった。何故こうなったのかわからない。

 

「おそらく、魔力不足ね。マリスの魔力は一般的な魔女にしては多いけれど、私にしてはかなり低いわ。もしかしたら、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)が自動で低いレベルを設定してくれていたのは、使えないスキルを増やすのではなく、マリスと一緒に成長することで使えるようにしていっているのかも知れないわね」

「なるほど、確かにそう考えるとバリアの消費量もレベルが上がってから若干増えてるかも?」

「そもそも魔法の弾幕、何発出せるの?」

「色々とできるのは4発です」

「おそらく、捨虫や捨食など常に発動している物に使われているんでしょうが、話にならないわね。まずは魔力をあげないと駄目よ」

「確かにそうですね」

 

 魔力に3ポイント全部つぎ込む。すると身体の中から凄い量の魔力が湧き上がってきた。

 

「だいたい私の魔力の4割ぐらいかしら」

「これでも十分に多いのに……」

「一流ですから。でも、どうせならもうちょっと上げたいわね。確か、人形を作ればいいのよね?」

「はい。アリスの人形を作れば貰えます」

「私の人形、この場合は……もしかしてこれでいけるかしら? 体調はもう大丈夫?」

「平気です」

「それなら、やりましょうか」

 

 何かを考えたのか、お母さんは私を起き上がらせてベッドに座らさせる。それから布団の上に上海人形を置く。不思議に思ってお母さんを見ると、工具を渡してきた。

 

「まず、上海人形を覚えてもらうわ。その為に分解から始めるの」

「わっ、わかりました」

 

 上海人形の服を脱がせて、作り込まれた身体のパーツをお母さんの指示に従って外していく。人形の身体一つとっても百に近い数十を超えるパーツで構成されていた。

 分解された上海人形のパーツが綺麗に並べられる。それを今度は筆で掃除してから戻していく。順番をしっかりと把握しないとバラバラになっていく。涙目でみると、笑顔で言われた。

 

「それ、魔法をかけて正解の手順通りにやらないと最初からになるようにしているから頑張ってね」

「す、すぱるたっ!」

「人形の為だもの、当然でしょう」

「うぅ、反論できない……」

「それとマリスの人形につけて欲しい機能はあるかしら?」

 

 つけて欲しい機能か。これから行く世界はポケモン世界だから、モンスターボール射出機能とか欲しいかも。それに上海人形達は事前に設定した魔術を組んでおけばほぼ自動で動ける。ということはひょっとしたら、1体にモンスターボールを6個装備させれば素晴らしいことになるんじゃないだろうか?

 指示は4つの技だけを繰り返させるだけだけど、数は力なので整列させてラスターカノンやコメットパンチを放たせるだけでも十分に強いだろう。私が操れるのは感覚的に今は20体が限界だと思われる。精密操作は無理だろうけど、それでもモンスターボールを放つ程度はできる。その20体の上海人形と蓬莱人形から6体のポケモンを出すと、120体になる。私のを含めると合計で126体。ちょっとした軍隊にならないだろうか?

 

「モンスターボールを腰にセットして、こちらの指示で投げて、四つでいいので技の指示ができるようにできますか?」

「縮小呪文と拡大呪文を使ってならできるわ。指示も大丈夫よ。でも、そんなに遠くは投げられないわ。足元や1メートル先に落とすぐらい?」

「射出は無理ですか……」

「詳しくないけれど、河童に頼めば武器として作ってくれると思うから、注文しておきましょう。代金は八雲紫が出してくれるでしょうし」

「お願いします」

 

 そういえば話は変わるけど、スピアーの針とか上海人形達の武器に使えるかも知れない。レベル上げも兼ねて狩りに行くのもいいかも。

 

「今戻ったぜ!」

 

 考え事をしていると、扉がいきなり勢いよく開いて部屋の中に片側だけおさげにし、前に垂らしたウェービーな金髪をした少女が入ってくる。彼女は白いリボンのついたつばの広い三角帽子を被り、白のブラウスのような服の上に黒いサロペットスカートのような服を着用し、スカート部分に白のエプロンを着けた服装だ。

 

「お帰りなさい、お父さん」

「誰がお父さんだ。私は女だぜ」

「お帰りなさい、魔理沙。でも、私かお母さんだとお父さんは魔理沙ね」

「失礼な」

「それにお母さんが二人だと混乱するから、これでいいんじゃない?」

「あ~それなら名前でいいぞ。ややこしいのはアリスの二人だけだからな」

 

 それもそうか。いや、だがこれはこれで面白くない。それならこれもありか。

 

「魔理沙ママ?」

「ママは止めてくれ。お母さんでいいじゃん。個別に呼ぶ時はお母さんの前に名前を付けたらいいだけだしな」

「それもそうね」

「アリスお母さんと魔理沙お母さん。うん、それでいいです」

「じゃあ、決まり。それで身体は大丈夫なのか?」

「身体に異世界のアリスが適応されただけですから、大丈夫です」

「だからそんなに魔力が増えているのか。倒れる前の四倍はありそうだな。羨ましい限りだ」

「あら、魔理沙だってミニ八卦炉で増幅してるじゃない」

「私は純粋な魔女じゃないからな」

「教えてあげましょうか?」

「ん~今はまだいいかな。もうちょっと成長したいし」

「今の魔理沙も可愛いのに」

 

 ……そういえば上海人形ってどことなく魔理沙に似ている。特に今、お母さんが作っている黒い服を着た人形は三角帽子を被せたら魔理沙みたい。

 

「私もミニ八卦炉、欲しいな」

「魔力を増幅したいのか」

「うん。それに人形にミニ八卦炉を搭載したら、凄いことになりそうじゃないですか?」

「……それはいいわね。今まで私が魔力を供給していたけれど、人形その物にミニ八卦炉で増幅させて維持させ続ければ……すくなくとも劣化以外は気にならなくなるわね」

「まあ、ミニ八卦炉の材料は注文しているが、量産となるときついぜ? にとり達もマジックアイテムを作るのは苦手にしているからな」

 

 にとり、本名河城にとり。河童の妖怪。河童は玄武の沢に多く生息しており、一つの社会を形成している。手先が器用で道具の作成に長けているが、人間には理解不能なレベルの物が多いためにその技術は一部の妖怪にしか解放されていない。物理的な道具の作成は得意なのだが、呪術的な品やマジックアイテムの製作は若干苦手。

 

「香霖に頼むしかないだろうな」

「ミニ八卦炉の術式、教えてくれないかな……」

「あ~作ってくれるかもしれないが、流石に教えてはくれないだろうな」

「そうよ。貴女も魔法使いなら、自分で解析して手に入れなさい」

「そう、ですね。貰ってばかりじゃなくて、自分の物にしないと駄目ですよね」

 

 でも、できる限り早く欲しい。なら、相手に代価を渡して現物と交換するか。

 

「……異世界の品物で物々交換とか、どうですか? 術式の解析はもっと魔法について勉強してから頑張ってみます。私も自分だけの力で人形を作りたいですし」

「それがいいわ。人形談義とか、見せあいっことかもしたいし……あっ、異世界で人形とか買ってきてね。その為に頑張って今できる最高傑作を作ってるから」

「お土産ですね。わかりました」

 

 アリスお母さんは人形のことが大好きだから、その話になると早口で饒舌になる。お土産を忘れたら、凄く怒りそう。

 

「現物に関しては交渉してみるか。でも、私も何か欲しいな……」

「ポケモン世界だと、それこそポケモンなのですが、何が欲しいかですね。適当に捕まえてくるので、好きな子を連れていってくれてもいいですよ」

「どっちかっていうと、異世界に行ってみたいんだが……」

「それはできるかわかりませんね。私の実力が上がればいけるかも知れませんが……」

「まだまだ弱いし、そもそも飛べないでしょう」

「うっ……」

「それは致命的だな。よし、私と特訓だ」

「それは駄目よ。今日は安静にして、明日からにしなさい」

 

 そういえば今は何時なのだろう? 外は明るくなっているので、二日目になっているのは間違いない。

 

「私、どれくらい寝ていましたか?」

「二日ね」

「二日……つまり、この世界で三日は経っていると……」

「残りが四日だな」

「最長で、ということはその前に戻れるのでしょうけれど、明日は増えた魔力の訓練よ。魔理沙と飛行魔法を覚えて、次に人形をどれだけ扱えるかの確認と、私の術式を教えてあげる」

「でも、同じアリスでもそう簡単に覚えられるのか?」

「普通は無理ね。でも、スペルカードとして術式を埋め込んだマジックアイテムを渡せば別よ。私とマリスの魔力は調べた限り、完全に同じ物のようだし、起動することは簡単よ。むしろ、そうじゃないと私の上海達が動くはずないもの。いくら人形を操れても、空を飛んだり、自分以上の武器を扱えるはずないでしょう?」

 

 確かにそうかもしれない。あの時は夢中だったけれど、比較的すんなりと操作権を奪えた。いくらアリスお母さんが油断していても、あんなにすんなりと行くのは私が同じ存在だったからか。

 

「なにそれ、ずっこいな」

「まあ、あくまでも術式だけで、人形も無いと意味がないのだけれど……」

「人形も貸すんだろ?」

「貸しはしないわ。あげるの。それにこれは依頼の品だからね」

「そこに愛情は?」

「あるわよ?」

「本当?」

「まじか?」

「私の溢れんばかりの人形愛が詰まっているわ」

「「デスヨネー」」

 

 こんな風に雑談しながら、私は上海人形を組み立てて間違って分解し、組み立てて間違って分解し、組み立ててを繰り返す。正解の工程をみつけて進んでいくと、だんだんど正解の道筋が見えてくる。

 

 

 

 ふと気が付くと魔理沙お母さんは居なかった。アリスお母さんはそのまま椅子に座って人形を作っている。

 

「あれ?」

「魔理沙なら香霖堂にミニ八卦炉のことを頼みに行くついでに買い物にいったわよ。モンスターボールとメタモンを連れて」

「そうなんですね」

「帰る時に八雲紫に家をここに持って来てもらって繋げると言っていたわ」

「え?」

「もちろん、少し放すようにしたわ。あの子の家、臭うもの」

「キノコですか」

「そうよ」

 

 魔理沙は大のキノコ好きで、色々とやばいキノコを持っていたり、育てていたりする。そんなわけで、あまり近い所にあると困るのだ。

 

「あっ」

「どうしたの?」

「魔理沙お母さんにプレゼントを思い付きました。キノコポケモンがいるんです。だから、その子を捕まえてきてくれたら喜ぶと思うんですが、どうでしょうか?」

「いいと思うわよ。ところで、人形のポケモンは……」

「いません。微かにありそうなのが機械仕掛けのマギアナか、ゴーレムですか。どちらも伝説や準伝説で捕まえるのは困難です」

「そう。残念ね。じゃあ、次は人形の世界をよろしくね」

「えっと、次かどうかはわかりませんが、頑張ります。それにポケモンの素材を使って人形に適応するのもいいかもしれませんよ。進化の石とか、不思議な物がありますし、スピアーというポケモンの針は武器にもできると思います」

「なるほどね。よろしい、待ってあげましょう。それで……って、その子は何をやっているの?」

「え?」

 

 アリスお母さんの言葉にマザー方を見ると、蓬莱人形を飲み込んでいた。普通なら怒るところだが、マザーは離れてから蓬莱人形になり、またくっついてを繰り返している。回を重ねるごとに精密になっていき、次第に空すら飛び出した。

 

「面白いわね。マリス、上海人形は覚えたのかしら?」

「覚えました」

 

 正確には思いだしてきたといえる。まるで事前に覚えていたかのように何がどうなっているのか、わかってきたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そう。じゃあ、次はその子に上海を分解した状態で取り込ませて記憶させてあげなさい」

「はい。マザー、おいで」

「めたぁっ」

 

 マザーが上海人形を飲み込んでしっかりと形を覚えていく。すぐに吐き出して同じ形に分かれた状態でなっていく。中心部の格だけは同じだ。

 

「次は組み立てた状態の上海人形で」

「メタァ!」

 

 完全な上海人形となったメタモンが空を飛んでいる。ただ全て一色なので代わりはない。

 

「次は自分で分解して組み立ててみなさい。それができたら合格よ。マリスは上海人形から蓬莱人形に入りなさい。形状をミリ単位までしっかりと覚えるのよ。ちょっとした誤差が動く人形には致命的な狂いになります。妥協は一切なし。終わるまでご飯なしだからね」

「はい!」

 

 ご飯なし。堪えるはずだけど、私には別に必要ない。なんだかんだ言って優しい。その日はひたすら上海人形と蓬莱人形を覚える作業を行った。

 

 

 

 

 

「ただいま。飯にしようぜ」

「そうね。マリスは出来た?」

「はい。組み立ててと分解は問題ありません」

「わかったわ。それじゃあ、ご飯にしましょう。魔理沙、作るから少し待っていてくれる?」

「もう作ったぜ。何時だと思っているんだ?」

「「あ……」」

 

 二人して空を見ると、すっかりと日が落ちていてかなり暗くなっている。

 

「ほら、こっちに来い」

「立てるかしら?」

「大丈夫です」

 

 立ち上がって、上海人形の姿になったマザーが空中を飛んでついてくる。リビングに行くと、テーブルの上にキノコ料理や焼き鳥が並んでいた。

 

「ちゃんと食べれる物よね?」

「もちろんだぜ」

「私は別に毒物でも問題ないですが……」

「いやいや、毒なんて入ってないからな。ちょっと色はアレだが……超レア物だぜ!」

「なるほど」

 

 虹色のキノコなんて不気味な物、食べてみないとどうなるかはわからない。それでも、どうせ胃がやられてもすぐに再生するのでパクっと行ってみる。すると口の中に味が変化する意味不明な美味しさが広がる。それに魔力が上がった気がする。

 

「レインボーキノコ。食べると魔力が上昇する素晴らしい代物だ。普段は私が独占するんだが、今回は特別にふるまってやる」

「いつの間にそんな代物を……」

「ちょっと八意永琳と組んで作った魔法薬で育てた」

「キノコは薬にもなるのかしら?」

「ここのは変な生態をしているからな」

 

 とりあえず、食べられるので私はリュックサックからポケモンフーズを取り出してマザーとメタモン達にあげる。

 

「それでどうだったの?」

「香霖も異世界の物には気になるようで、ミニ八卦炉の依頼を受けてくれた。ただ、しばらく時間はかかるみたいですぐには無理だ」

「まあ、それは仕方ないでしょう。そこまでの代物なんだから」

「ですよね。今ある装備でどうにかしてみます」

「まあ、多分なんとかなるとは思うが……あの黄色の外套もあるし」

「あれ、神器だと思うんですが……効果がわからないんですよね」

「……そう、わかってないのね……なら、そのままでいいわ。ただし、絶対に着て行動しなさい」

「は、はい、わかりました」

 

 アリスお母さんがそこまで言うのなら、アレはかなり凄い物なのだろう。どんな効果があるかはわからないが、常に着ておこう。

 

「アリス」

「「何?」」

「マリスじゃなくて、大人のアリスの方だ。頼まれていた物を買ってきたぞ。ほら」

「ありがとう」

 

 魔理沙お母さんが渡したのは、複数の金属の板とトランクケースだった。トランクケースも不思議な金属でできているみたいで、重そうだ。

 

「しかし、かなり高かったぞ」

「いいのよ。魔理沙も出してくれるのでしょう?」

「まあな」

「なんなのですか?」

「まだ秘密よ。それよりも食事は終わったから、あなたの部屋に案内するわ」

「さっきの部屋じゃないんですか?」

「あそこは私の部屋よ。あなたにはまた別の部屋を用意したわ」

 

 あそこ、アリスお母さんの部屋だったんだ。つまり、あのベッドは……

 

「変な想像しない」

「あいたっ」

「やれやれ」

 

 案内された部屋は結構広く、綺麗に掃除されている。それに真新しいベッドや作業台、タンスなど家具が運び込まれていた。作業台の上には人形を作るであろう道具が並べられていて、寝室と工房も兼ねているのだろう。それに人形を飾るためのスペースまでしっかりとある。

 これらは素直に嬉しい。ただ問題はシーツ、カーテンなどがピンク色で、壁紙には上海人形や蓬莱人形、仏蘭西人形達が遊んでいる可愛らしい絵が書かれていることだ。

 

「あの荷物でいっぱいだった倉庫が随分と可愛らしい少女趣味の部屋になったな」

「なにか文句や不満はあるかしら?」

「いえ、ありません」

「アリスは徹底的に女の子として扱うつもりだな」

 

 魔理沙お母さんが私の肩にポンと手を置いてくる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()どう考えてもアリス化が進行している。やはり、これはアリスポイントを使った弊害か。

 しかし、最低でも後一回は使わないといけない。使う予定なのはハードゴアアリスの驚異的な再生能力。変身状態、魔法少女の状態だったら何があっても死なないという力だ。肉片だろうが翌日には問題なく行動できる。これがあれば伝説やクトゥルフ神話の化け物相手でも怖くない。そう、不死になれる。それにこの素晴らしい力は解除ができるので、死のうと思ったら死ねる。この力があればひょっとしたら、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を破棄した後でも生き残れるかもしれないという希望がある。あるといいなぁ……

 

「よし、マリスは先に風呂に入って寝ろ。私とアリスはこれから初夜だから」

「ちょっ!? 何を言っているのよ!」

「ほら、行くぞ」

 

 ワクワクして聞き耳を立てると、部屋の中から何も聞こえない。それに扉の前に無数の上海人形と蓬莱人形が通せんぼをして、私の服を掴んで風呂場に案内していく。何をしているのかはわからないが、明日は、昨日はお楽しみでしたねって言わないといけないかも。

 

 

 

 

 




 アリスと魔理沙はエッチなことなんてしません。いいですね?
 実際にしないです。何をしているかは作中で後で書きます。
 とりあえず、アリス様まじ天使。おそらく添い寝することになる魔理沙の寝顔に顔を真っ赤にしていることでしょう。魔理沙もおそらく。だといいなあ。
 


 ―――――――――――――――――――――――――――――



 ネーム:Grimoire of Alice
 ベーシック:東方・旧アリス
 アリスポイント:0
 スキルポイント:0
 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.4》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》
 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》
 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》



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東方世界のアリス(マリス)

 目が覚めた。昨日とは同じ家だけど別のベッド。新しいので昨日感じたいい匂いはしない。あれはアリスお母さんの匂いなのだろう。自分の幼い身体の中に入っている男の私を自分のベッドに寝させるなんて、本当にいい人だ。

 例え少女趣味の部屋で落ち着かなくても気にしない。

 しかし、天井にも人形が描かれているし、上海や蓬莱達が飛び回っている。人形が好きな人じゃないとノイローゼになりそうな部屋だ。私は今のところ大丈夫だし、()()()()()()。上海人形とかは可愛いと思っていたが、前はここまでだっただろうか?

 

「まあ、いいか。ん~~」

 

 身体を起こしてベッドの上で伸びをする。身体が目覚めるまで、ベッドの上で軽くぼーとする。

 

クスクス、オハヨウ、クスクス

「ひっ!?」

 

 笑い声が聞こえてビクッとなり、恐怖に身体が震えて慌ててピンク色の布団を被る。布団の中にはマザーが居たので、抱っこしてからそ~と布団を退かす。周りを見ても何もいない。周りには上海と蓬莱が飛んでいて、窓を拭いたり掃除をしたり、私の着替えを用意したりしていた。

 

「上海、蓬莱っ!」

 

 魔法の糸を伸ばして、彼女達の制御権を手に入れて部屋の中を隅々まで飛ばせる。人形を操る程度の能力で私は部屋に居た五体を使えていた。その結果、ここには星の精が居ないことがわかった。

 

「よかった……」

 

 ホッとしてベッドから出ようとしたら、腰が抜けてそのまま倒れて床に頭を打った。そのタイミングで部屋の扉が開いてアリスお母さんが凄い形相で入ってきた。その後ろには完全武装の人形達が並んでいる。

 

「どうしたのっ!?」

「なっ、なんでもないよ」

「なんでもないことはないでしょう。私の人形の制御権が奪われたのよ? それほどのことが起こったのでしょう? 違う?」

「ち、違わないけど違うの……」

「どういうことかしら?」

 

 問い詰められて困っていると、声をききつけて魔理沙お母さんも部屋にきた。

 

「朝からどうしたんだ?」

「それが、人形の制御権を奪われたのよ。それで何かあったのかって急いできたのだけれど……」

「どうにもなってないな。悪戯か?」

「ち、違うの。えっとね……」

 

 慌ててしどろもどろに説明していく。

 

「笑い声か……幻聴じゃないよな?」

「……わ、わからない。怖くなって上海達の制御権を取って部屋中を探してみたけど、居なかったし……」

「なら気のせいか」

「あ~それ、この子達の笑い声だと思うわ」

「笑うのか!?」

「その、楽しいことがあったら笑うように登録していてね? 普通は発動しないのよ?」

「なんでまた、そんなのが発動したんだ……?」

「発動しないのに発動した? 怖い……」

「あ~もう、白状するわよ! 昔、マリスぐらいの時に友達が居なくて人形が友達だったのよ! 上海達にいろんな声を登録して笑ったりするようにしたのよ。その時の術式が残っていて、マリスを見て起動したんでしょう。マリスに用意しているのは練習用の奴だし」

 

 頬を真っ赤にして両手で顔を隠しながら教えてくれた。

 

「なんだ、星の精じゃなかったんだ」

「術式を取り除くわ」

「いや、駄目だ。むしろ、笑うようにしてやれ」

「え?」

「ハッキリ言ってやる。笑い声を聞いただけで腰が抜けるようじゃ、次に出会ったら生き残れないぜ」

「それはそうね」

「うん……確かに……」

「だろ? だから、辛いだろうがトラウマを克服するためにこれでいいだろう。戻る時にはちゃんとした戦闘用なんだろ?」

「もちろん、私の今できる最高の子達を用意しているわ」

「だったら問題ないだろう。どうだ、できそうか?」

「が、頑張る。うん、やってやる」

「よしよし」

 

 魔理沙お母さんに頭を撫でられた。不思議と身体が温かくなってくる。

 

「まあ、いいわ。それじゃあ朝ご飯にしましょう。気が抜けたら眠くなってきたし……」

「そうだな。昨日はほとんど寝てないし……」

「昨日はお楽しみでしたね……?」

「ええ、楽しかったわ」

「そうか? 私は大変だったんだが……」

「貴女はまだまだコントロールが雑なのよ」

「何をしていたの?」

「スペルカードを作ってたんだ。アリスは人形の続きだな」

「なるほど」

「話は後よ。さっさと着替えて顔を洗ってきなさい」

「はーい」

 

 靴下と靴を履いて部屋から出て洗面所に向かう。洗面所に入ると、上海達が台を用意してくれる。それに乗ると、今度は濡れたタオルで顔を拭かれる。あっという間に顔を綺麗にされたら服を脱がされ、寝汗まで綺麗にされてから新しい服を着せられる。それは大きさ以外は上海と同じ服だった。

 なんだか全て全自動で人形達がやってくれる。そのままいい匂いのするリビングに行く。リビングでは二人が食事を並べていた。レタスと昨日残った鶏肉が入ったサンドイッチだ。

 

「今日は飛行訓練だ。食べたら外に出るからな」

「空を飛ぶの、楽しみです」

「だろうな。私も初めて飛んだときは楽しかった」

「楽しむのはいいけれど、怪我をしないようにね」

「はい」

「よし、じゃあいっちょ行くか」

 

 急いで食べるとアリスお母さんが呆れている。魔理沙お母さんは先に食べ終えた。

 

「洗い物はしておくから、先に行ってきていいわよ」

「じゃあ、準備してるから外に来いよ」

「んぐっ」

「もっとゆっくりと食べなさい」

「あいたっ」

 

 急いで食べていたら、お母さんに怒られた。確かにせっかく作ってくれたのに味わわずに食べるのは失礼だ。楽しみは後に取って置いて、ちゃんと食べる。

 

「ごちそうさまでした」

「はい。お粗末様でした」

 

 食べ終えた食器を上海達に任せて、ドアを開いて急いで外に出る。外ではすでに魔理沙お母さんが準備をしていて、手には箒と木箱を持っていた。

 

「よし、来たな。じゃあ、飛行訓練だ。私はこの箒で飛ぶ。マリスも箒で飛ぶのがいいかと思ったが、お前の身体と力はアリスの物だ。だったら、アリスと同じように飛ぶのがいいと思う」

 

 確かにその通りかもしれない。私の力も身体も全てアリスになっている。そのアリスと同じ方法を取るのが効率的だろう。

 

「そんな訳で、こいつをアリスから預かっている」

 

 そう言いながら、魔理沙お母さんが木箱を渡してくれたので、受け取る。

 

「さっそく開けていい?」

「ああ、いいぞ」

 

 地面に座って箱を開けてみると中には布が敷き詰められていて、その上に芸術品どころか美術品と言っていいほど精巧に作られた二体の人形が置かれていた。

 それぞれ青色と赤色の洋装を身に纏うブロンドのロングヘアーの小さな可愛らしい人形少女。頭と腰に青い大きなリボン、胸元に小さなリボンをしていて、腰にモンスターボールを納めるだろうベルトをしている。一緒に盾と槍、両刃でできた長方形の大剣が入っているので、彼女達の装備だろう。

 

「これって……」

「昨日、アリスが徹夜で作ってくれたぞ。私も色々と手伝ったぜ。流石にミニ八卦炉は無いけど、魔力はたっぷり込められている」

「それって……」

「最終手段としての自爆用と動力源に私のマスタースパークを使っている。もっとも、威力はかなり低いだろうけどな」

 

 威力は低いと言っているけれど、マスタースパークって言ってしまえば光線の奔流、ビームだ。そんなのいくら下げたとはいえ、破壊力が半端じゃないだろう。

 

「まあ、そんな訳でマリスの魔力をできる限り使わないように作られている。ただ、整備と充電はしないといけない」

「整備はわかりますが、充電ですか?」

「そうだ。普段は自然にある魔力を吸収するが、戦闘をすると魔力を大量に使うからな。いくら賢者の石を搭載していても、そこまでは出来なかった」

「待って、賢者の石を搭載?」

「そうだ。魔力の貯蔵庫と自己学習装置としてアリスが取り付けた。そうじゃなきゃ、アタシの魔力を蓄えることなんてできやしないからな。こいつら一つ一つがアリスの技術の結晶だ」

 

 この子達はまるで妖精みたいにほぼ生物と変わらない。関節の部分ですら、人工の皮膚で覆われていて何でできているかわからない。こうして眠っているように機能を停止しているから、見れば人形だとわかるけれど……動き出したら多分わからない。触って判断しないと駄目だろう。

 

「凄い……」

「後、こいつらにはアリスの魔法が記憶されているから、マリスの魔法をサポートしてくれる。起動してみろ」

「はい。起きて、上海、蓬莱」

 

 魔法の糸を伸ばして二人の人形に繋げる。でも、起動しない。いや、口が微かに開いたかな。

 

「あー血液を一滴、口に入れてやれ。それでマスター登録が完了する。」

「え?」

「お前にコントロールを奪われたのが相当悔しかったみたいで、魔力と血液の中に入っているデータを基に個人登録をするとかなんとか言ってたな。まあ、使い魔にするってことらしいから、結局血液は与えないといけないが……」

「わかりました。使い魔契約のやり方はわかりますか?」

「全部自動でやってくれるらしいぞ。自動化とか、私にはさっぱりだ」

「そういうところはアリスお母さんの得意分野でしょうし……」

「研究の年期が違うしな」

 

 一緒に入っていた人形の二倍はある大剣を取り、それで指に傷をつけようとすると気付いた。この大剣にも魔法が付与されているし、正体不明の金属が使われている。今は気にせずに指を傷付けて血液を二体に飲ませる。

 すると、彼女達の胸の中心から七色の光が放たれて複数の魔法陣が展開されていく。

 それらは私と人形達を取り囲み、立体的になっていく。まるで全身を調べられているかのように感じる。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)まで空中にでてきて、そちらも高速でページが捲られていく。

 

「名前はどうするんだ?」

「リボンの色こそ違いますが、もちろん上海と蓬莱です。私はアリスですから」

「そうか」

 

 しばらくすると、白いケープに白いエプロンを付けた青いワンピースを身に纏った上海と赤い服に白いケープに白いエプロンを付けた赤いワンピースを身に纏った蓬莱がそれぞれパチリと瞼を開く。

 それぞれの青い瞳と赤い瞳が私を捕らえ、驚いたことに嬉しそうな表情に変わっていく。同時に展開されていた魔法陣が全て二人の中に戻っていき、七色の光が収まった。その直後、二人の身体が重力に逆らってふわりと浮き上がってくる。

 

「シャンハーイ」

「ホ、ホラーイ」

 

 二体の人形は宙に浮かびながら、スカートを掴んで頭を下げてくる。その上、喋ってきた。

 

「えっと、声を……」

「返事だけらしいぞ」

「なるほど……これからよろしくお願いします」

「シャンハーイ」

「ホラーイ」

 

 二体は少し嬉しそうに頷いた後、こちらによってくる。私の左右の肩に立つと、頬ずりしてくる。こそばゆくてついつい笑ってしまう。

 二体は満足したのか、入れられていた箱に戻って武器を持ってきた。上海は盾と槍で、蓬莱が大剣みたいだ。

 

「戦闘はまだしないから、仕舞っていていいぞ」

「仕舞えるの?」

 

 コクコクと頷いたと思ったら、二人の武装が光って小さくなっていく。おそらく、縮小魔法だと思う。二人はそれを胸元のリボンの下に入れる。どうなっているのかはわからないので、覗いてみるとリボンの後ろにくっついていた。

 

「どんな感じだ?」

「ん~大丈夫だと思います」

 

 二体は私の肩から飛び降りて、飛び回り元気に頷く。

 

「それじゃあ、飛行訓練だ。上海、蓬莱、二体でマリスを飛ばしてみろ」

「シャンハーイ」

「ホラーイ」

「わっ、身体が浮いていくっ!」

 

 身体が上に浮かび、足が地面から離れる。不安になって足をバタバタさせてしまう。それでも、落ちることはなかった。どうやら、周りにバリアが展開されているみたい。それによって重力すらも反射している浮いているのかもしれない。

 

「んじゃ、空を飛んで散歩しようか」

「はい。でも、大丈夫かな?」

「大丈夫だって。それよりも空に居ることに慣れたら、二人との繋がりを感じて術式を自分の物にするんだぞ。アリス曰く、今みたいに分厚いバリアを張らずに必要な部分だけ張る方が効率いいからな」

「頑張ってみます。二人共、よろしくね」

「シャンハーイ」

「ホラーイ」

 

 といっても、やっぱり無重力飛行みたいな感じで慣れない。人は空を飛ぶためにできていない。地球の重力に引っ張られているのだ。そう、私はオールドタイプ。宇宙には適応できない。というか、妖怪って宇宙に出たらどうなるのだろうか? ガンダム世界に行ったら不安だ。

 

「んー空中戦は無理そうだな。人形の操作はできるか?」

「二体なら問題なく操作はできるけど、それじゃあ……」

「戦いはできないな。それに動かせるだけみたいな感じだ」

 

 二体を好きなように動かせる訳ではない。私の意思でそれぞれを別行動させることはまだできない。自動行動以外では同じ行動を取らせることしかできない。マルチタスクとか、まだまだ無理みたいだ。それに集中して一つのことをした方が、作業効率はいいらしい。

 

「まあ、まずは二体を完全に操ることだな。そいつらは高性能だから、ある程度は自動化できているみたいだが、その二体以外にも動かすんだから自由自在にできるようにならないといけないぜ」

「わかってます。この子達は空を飛ぶのと護衛とかに使います」

「それがいいだろうな。まあ、今日は空を飛んだり、二体がいることに慣れるといいぞ。少なくともそうだな……空中戦をするにはこれぐらいはできないと駄目だぜ」

 

 魔理沙お母さんが急加速して、ほぼ直角で急上昇して180度ロール。そのまま螺旋軌道で落ちてくる。それからジグザグ走行で走ったり、かなり無茶な軌道をしている

 

「本当にそんなレベルがいるんですかっ!?」

「要るんだよな……むしろ、これがないとすぐ被弾してジ・エンドだ。弾幕を避けるのにも必要だし、マスタースパークとか、12体の人形から放たれる弾幕の嵐。まともな軌道で回避できると思うか?」

「無理ですね……」

 

 文字通り、人形一体から放射線状に放たれる弾幕の壁ともいえるような攻撃を逃げ道を見つけて突っ切り、こちらのショット、弾幕を与えないといけない。

 

「特に人間の私が妖怪を相手にするには、何時もとは言わないが結構命懸けだぜ。まあ、マリスならそこまでやばいことにはなりなさそうだが……少なくとも自由自在、縦横無尽に空を超高速で飛び回って一撃必殺を叩き込む私のタイプか、アリスみたいに自分は留まって人形達による弾幕を張って相殺する砲台タイプ。どっちがいいかな?」

「い、今のところは砲台がいいです。それしか選択肢がないし……」

「とりあえず、アリスが色々と考えているみたいだから、任せる。私はその二人に空中戦の軌道を学習させる。マリスは慣れるように散歩だ。上海と蓬莱に私についてくるように言ってくれ」

「上海、蓬莱、自動でお願い」

「シャンハーイ」

「ホラーイ」

「よし、じゃあ散歩に行くぞ!」

「ちょっ、速いっ!」

 

 急加速した魔理沙お母さんに私を挟むようにして、浮いている蓬莱と上海が同じように急加速して追っていく。軌道を教える為の散歩は私が思っている散歩じゃなかった。何度も吐きそうになる。そう、今回の空を飛ぶ訓練は私じゃなく、上海と蓬莱に教え込む方だった。残り丸二日しかないから、こんなスパルタも仕方がない。そう思おう。うぅ……気持ち悪い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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東方世界のアリス(マリス)

次の次でポケモン世界に戻ると思います。ダイス次第ではその前に戦闘が入るかもですが。明日の更新は微妙です。


 

 

 

 東方世界に居られるのも残り二日。昨日は魔理沙お母さんから、地獄の特訓を施された。ジェットコースターなんて目じゃない立体機動に、急加速、急停止など戦闘機以上の馬鹿みたいなGを体験させられた。本当は風も含めて全部反射できるみたいだが、それをすると魔力の消費量が高くなりすぎるので現実じゃないとのこと。時代は低コストのエコなのだ。

 昨日はこんな感じだったので、本日はアリスお母さんとの訓練だ。そんな訳でいい匂いのするお母さん達の部屋で作業する。そう、お母さん達。部屋には前と違って二人の匂いがしていた。特にベッド。どうやら、一緒に眠っているみたいで百合の花が咲いていたのかもしれない。私は男なので、女の子が好きだ。女の子同士の絡みも好きだ。よし、まだ正常だな。正常と言い切るには微妙かもしれないが気にしない。

 

「雑念が多いわよ」

「痛っ!」

 

 アリスお母さんの上海で殴られた。

 

「ほら、時間が無いのだから集中しなさい。いい? 人形達はしっかりとメンテナンスしないといけないの。貴女みたいに高速再生するわけじゃないんだから、治療してあげないと駄目なの。わかるでしょう?」

「はい」

「なら最低限のメンテナンスの仕方は覚えなさい。整備マニュアルは作って置いてあげたけど、今は実機で私が直接教えてあげないと駄目な部分もあるから……」

 

 実験機みたいな感じだから、しかたないだろう。特に賢者の石を搭載するなんてぶっ飛んだ製法なのだ。メンテナンスに失敗して賢者の石が暴走すると大変なことになる。

 

「ほら、そこ違う。入れた数値が違うから術式が変わって誤作動を起こしているわ」

「ここ?」

「ここの部分よ」

 

 椅子に座っている私の後ろから抱きしめるような感じで、私の手を取って教えてくれる。手取り足取り教えてくれるのでわかりやすい。難点は、恥ずかしいのといい匂いがしてドキドキすることぐらい。

 

「ねえねえ、なんかすっごくやばい機能があるんだけど……」

 

 上海と蓬莱に搭載された術式をアリスとして埋め込まれていた知識で読み解いて確認すると、ちょっとシャレにならない機能があった。

 

「解放しちゃ駄目よ。それは自爆だから、本当に死ぬような状況以外は駄目。今のマリスじゃまず制御できないから」

「この狂気に満ちた破壊の力は絶対に無理だよぉ……」

「泣き言は認めません。何れは制御してもらうわ。使いこなせれば上海達の戦闘力は格段に上昇するのよ。もっとも、術者も狂気に陥る危険があるのだけれど」

「ドールになんて危険物を……」

「賢者の石の出所が出所だからよ」

 

 この賢者の石の出所はやっぱり、あの可愛らしい吸血鬼の妹様のようだ。確か、翼にある賢者の石で狂気を制御しているんだっけ?

 いや、あれは二次設定か。羽についてるくらいだから、生み出されているのかな? まあ、どっちでもいいや。

 

「とりあえず、使わないでいよう。うん」

「そうね。下手に弄らない限りは大丈夫よ」

「そうします」

 

 蓬莱と上海のメンテナンスで危険な場所とかを教えてもらったら、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)にしっかりと書き記していく。

 続いてメンテナンスの授業が終われば人形制作の授業になる。まずは設計図の読み方から書き方を習う。時間が無いので、アリスお母さんが用意した物を丸写しで、終わらせる。

 それで次はパーツの作成だけど、ここからは地獄だった。もしも、上海と蓬莱のパーツが壊れたら私が自分で作らないといけない。なので使えるレベルの制作技術が求められる。そう、()()()()()()()()()()()()

 

「はい、駄目。0.5ミリ厚いわ。許されるのは0.01以内よ。希望を言うなら0.001以内がベストだけど」

「うぅ……難しい……」

 

 1ミリぐらいまでならいけるんだが、それ以降となると慣れとか感覚のレベルになってくる。アリスのスペックじゃなかったら絶対に無理だ。道具もマジックアイテムだし、魔法で削る値や時間を設定できたりもする。でも、流石に0.01ミリレベルになると感覚だ。

 

「流石に簡単じゃないか。私の小さい頃の身体なら仕方ないのかもしれないわね。まだ制作して少しした時ぐらいの時だし……」

「だ、大丈夫。私の先にお母さんがいる訳だし、研鑽すれば大丈夫だってことです」

「それもそうね。でも、私の為にもマリスには早急に私が及第点を与えるぐらいの制作技術は身に着けてもらうわ。そうじゃないと、()()()()()()()()()()()()()まともな人形を作れないでしょう。伝承の物語にそって力を付与された人形。とっても楽しみにしているのよ?」

「が、がんばります、はい」

「期待しているわ。それじゃあ、頑張って頂戴ね」

「任せてください」

 

 よ~し、頑張って行こう。アリスお母さんと一緒に()()()()()()()()()()をするためだ!

 

 

 

 夜になるまで必死に頑張った。けれど流石にそう簡単に技術は追いつかない。なので、ご飯を食べた後も自分の部屋で自主練習を繰り返した。それでも経験値が、熟練度が足りない。

 これは徹夜するしかない。でもできない。この東方世界に居る時に授業を受けて技術を磨きたい。だけど、寝ないと集中力は落ちるし覚えられない。それに次の日にはあの白い部屋に戻される。そうなると何時襲われるかわからない。そんなところで寝不足だと死ぬ確率が跳ね上がる。

 

「よし、寝よう。マザー、上海、蓬莱、おいで」

 

 蓬莱と上海、マザーを呼び寄せて一緒にベッドに入る。正直、一人で眠るのは怖いので一緒に寝るのだ。マザーと上海、蓬莱のベッドは籠に布を敷き詰めてある。そこにマザーが寝て、その上に上海と蓬莱が横たわる。マザーの身体ベッドになるのだ。

 他のメタモン達はベッドの上や床、机の上とかで好き勝手に寝ている。中には飾られている人形に変身して眠っている子達もいるので、この部屋は安全だと思わる。警備にノーマルの上海と蓬莱もいるし。たまにクスクスと笑っているのが怖いけど。

 

「おっ、おやすみ」

「シャンハーイ」

「ホラーイ」

「メタァ」

 

 眠ると怖い夢の世界へ連れて行かれる。そこは例のあの部屋。そこで私は星の精に血を吸われて殺された。クスクスと笑う星の精達。ここで私は死に、ミイラにされていく。そこで私の人生は終わった。そのはずだった。でも、勝手に着ていた黄衣の外套が浮き上がる。その中身は何も無いにもかかわらず、風が吹いてミイラとなった私の身体が吸い込まれていく。そして、黄衣の外套が床に落ちるとこちらを見詰めてくる。その顔は真っ黒く、真っ赤な瞳をしていた……明らかに人間じゃない。その顔は――

 

 

 

 わ た し の す が た を し て い た 

 

 

 

「っ!?」

 

 飛び起きると、身体がガタガタ震えてくる。すぐに上海と蓬莱、マザー達が寝ている籠を抱きしめる。なにあれなにあれ、ナニアレッ! も、もしかして、私って、いっ、一度死んでる? そっ、そんなわけなっ、ないしっ! こっ、こうして生きて、いるん、だからぁっ! ちゃっ、ちゃんと胸を触ってみたらしっ、心臓だって動いてるし、生きてるっ! うん、きっと気のせい。気のせいだ。気のせいのはずだ。

 

「ホラーイ?」

「メタァ?」

「だ、大丈夫……」

「シャンハーイ」

 

 心配そうにしてくれる三体に私はほっとする。やっぱり私は生きてる。間違いない。うん、大丈夫大丈夫。ボクには蓬莱達がいるからね。彼女達が私を慰めてなでなでしてくれている。

 

「ふぅ……ふぅ……よし、元気百倍っ! 頑張ろうっ!」

 

 時計を見てみると、まだまだ夜中だ。寝よう。そう思って布団を被ったけれど全然眠くない。むしろ、寝汗とかで気持ち悪い。

 

「駄目だ。全然寝れる気がしない……」

「めたぁ?」

「マザー達は寝ていていいよ。私、ちょっとシャワーを浴びてくるから」

「めっ」

 

 布団を捲り上げて、ベッドから出る。汗が気持ち悪いので、着替えを用意してシャワーを浴びに部屋から出る。でも、周りはとても暗くて怖くなってきた。この暗闇の中が、黄衣の外套の中にあった真っ黒な顔に思えてくる。

 

「駄目だ、これ無理っ!」

 

 部屋の中を見ると蓬莱と上海がこちらをじーと見詰めていた。それもすぐ近くで。だから二人にお願いする。

 

「一緒に来てくれる?」

「シャンハーイ」「ホラーイ」

 

 頷いてくれた二体を連れて脱衣所に入る。そこで替えの服を置いて着ている服を脱いでいく。脱いだ服は洗濯担当の蓬莱ちゃんに渡す。脱衣所の鏡に映る自分の裸に顔が赤くなり、すぐに逸らす。

 そんな風にしていると、目の前に蓬莱と上海がやってきて手を上げてくる。

 

「はいはい、わかってますよ」

 

 二人の服を脱がしていき、そちらの服も渡す。その後は風呂場でシャワーを浴びる。出てくるお湯で汗を洗い流し、覚悟を決めて身体をしっかりと見る。

 アリスお母さんには悪いけれど、特に胸や腕など攻撃された場所を確認する。やっぱりおかしいところはないし、普通の幼い女の子の裸だ。

 

「やっぱり、大丈夫。夢は所詮夢。大丈夫大丈夫」

「シャンハーイ」

「あ、洗ってくれるの?」

「ホラーイ」

 

 可愛らしい小さな人間そっくりの蓬莱と上海が、スポンジを持って身体を洗ってくれる。

 

「あわあわだ」

「アワアワー」

「アワアワー」

 

 二体にしっかりと綺麗にしてもらった。これ、上海と蓬莱に身体を洗う機能が備わっているってことは、アリスお母さんもやってるってことなんだね。それはそうと、二体もしっかりと洗ってあげる。するとくすぐったそうに動いた。本当に精巧に作られていて、喋れないこと以外はまるで意識があるように思えてしまう。

 汗を流して外に出ると、蓬莱と上海が髪の毛を拭いて乾かしてくれる。その後、櫛で髪の毛を梳いてくれるし、着替えも手伝ってくれた。なんというか、一家に二体は欲しいね。

 

 今日の着替えはアリスお母さんが用意してくれた服なので、可愛らしいものだった。猫耳フードがついたワンピースのパジャマで、着て鏡で見てみると大変可愛らしい。思わず、猫の手をしてしまう。そうしたら破壊力が半端なかった。アリス猫、いい。

 っと、こんなことをしていると知られたら、怒られているかもしれない。脱衣所からリビングに戻ると、アリスお母さんの上海が飛んできてココアが入ったコップを渡してくれる。

 

「ありがとう」

 

 受け取ったココアを飲んで、部屋に戻る。どうせ眠れないので部屋で勉強することにしよう。

 部屋に戻ってから机に座って、灯りの魔法を使う。炎の魔弾を使ってランタンの中に入れるだけの簡単な奴。

 

「さて、勉強しましょう」

 

 木材を削って上海と蓬莱の予備パーツを作っていく。ただひたすら頑張って0.01を目指す。

 

「寝なさい」

「お、お母さん……」

「この家で上海達の監視から逃れられるはずがないだろ」

「あ~」

「だから、寝なさい。睡眠は大切なのよ」

「でも……」

「怖い夢でも見て寝れないんでしょ」

「うっ、それも知ってるんだ……」

「そんなわけで寝るまで手を握って子守歌でも歌ってやるよ」

「う~わかりました」

 

 持ち上げられてベッドに入れられる。アリスお母さんは部屋で座りながら、上海達を操作していく。どうやら本を書いているみたいだ。マリサお母さんは何かの香を焚いて手を握って歌ってくれる。それを聞いていると、眠くなかったのに段々と眠くなってきて――

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「寝たか」

「魔理沙、あなた眠り薬を使ったでしょ」

「まあな。ネムリダケから作った特別製だ。一応、薬として渡してやるつもりだ」

「そう。まあ、確かに必要かもしれないわね。あんなことがあったんだから……」

「アレはやっぱ死んでるのか?」

「可能性は高いわね」

「でも、生きてるよな?」

「蘇生されたのかしら?」

「だとしたら、怪しいのはあの外套か」

「前のアリスが残した遺産ね。どんな効果か気になるけど、どんな物にも代償は必ずあるわ」

「早苗の奇跡にはあんまりないけどな」

「アレは例外でしょう。まあ、今の所は大丈夫だと思うわ。八雲紫も放置しているみたいだし」

「監視は継続だな」

「当然よ。この子は不安定すぎるわ。ちょっとしたことで死んだり、心が壊れるわよ」

「そいつは防がないとな」

「ええ」

 

 

 

 

 

 



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東方世界のアリス(マリス)

 温かく柔らかい感触に目が覚めると、お母さん達に抱きしめられながら眠っていた。

 

「っ!?」

 

 驚き、現状を理解するとドキドキしてくる。どうして、どうしてこんなことになっている! 確か、昨日は……思いだしてきた。悪夢を見て寝汗がひどくてシャワーを浴びたんだ。それから寝れないから勉強しようとしたら、お母さん達に止められて布団に入れられた。そのまま魔理沙お母さんの子守歌を聞いているとだんだんと眠ってしまった。

 アリスお母さんは寝る必要もないのに私と同じように寝ている。いや、私も寝る必要はないのか。

 私もお母さんも人間の時の感覚として食事して眠っている。特に私は人間を止めて魔法使い(アリス)になって間もないから、人と同じような生活をしないといけない。

 それよりも現状をどうするか、だ。私は魔理沙お母さんに抱き枕にされ、魔理沙お母さんはアリスお母さんに私越しに抱きしめられている。抜け出せない。

 本当にどうしてこうなった。

 無理矢理抜け出すわけにもいかないので、大人しく眠ろう。羊が……いや、こっちの方がいいか。上海が一体、蓬莱が一体……

 

 

 

 

 気が付いたら寝ていたようで、お母さん達は居なくなっていた。眠気で目元を擦りながら、周りをみると上海が服を持ってきてくれる。それに着替えてから、部屋を出てリビングに入る。

 そこでは魔理沙お母さんとアリスお母さんが、テーブルに置いたトランクケースに色々と入れていて、まるで旅行に出掛ける準備だ。

 

「なにをしているの……?」

「あら、おはよう」

「おはよう。コイツはお前の準備だ」

「私の……? そっか、今日が最後の日……」

 

 思いだすと沈んだ気持ちになってくる。またあの部屋に行かなくちゃいけない。でも、ポケモン世界には行きたい。イエローさんと会いたいしね。

 

「まあ、また来週戻ってきたらいいだろ」

「ここは貴女の家よ。戻ってきたければきたらいいの」

「こんなことを言っているが、心配しているんだぞ。こんなのを用意してやがるからな」

 

 そう言ってテーブルの上にあるトランクケースを軽く持ち上げる。それは薄い色の革が張りつけられて整えられていた。これは何だろう?

 

「このトランクケースは人形達のベッドにもなっているから、絶対に持ち歩きなさい」

「それだけじゃないぞ。内部は空間を拡張してあるし、縮小する魔法を入れる物にかけられるようにしてある。だから、この中にはテントも入っているぜ。それに軽量化の魔法がかかっているから、マリスのような非力ちゃんでも持てる。後、無駄に頑丈だな」

「人形達の家を軟に作るはずないもの」

 

 確かにそうだよね。ここは蓬莱と上海達の家になるわけだし、アリスお母さんが軟に作るはずがない。

 

「ちなみにこいつ、いざとなれば盾になれるぞ」

「そうよ。家より中身が大切だから、盾として使いなさい。それと人形達よりも自分の身を優先しなさいよ。その、怒らないから……」

「あ、ありがとうございます……」

「着替えとかも入れておいたから、好きに着ろよ。私として三角帽子がお勧めだ」

「帽子……」

「まあ、ただの帽子だ。さて、こいつは容量が大きいから持ってきた挿物があれば持っていくといいぜ。っと、使い方を教えないとな」

「そうね。ここにダイヤルがあるから、そのダイヤルを合わせて開けばその空間に繋がるわ。スキマ妖怪にも協力させたから、結構使えるはずよ」

 

 アイテムボックスみたいな奴か。人形達の家も兼ねてるけど、十分だと思う。

 

「ダイヤルの一つに人形を作る道具や宿題がてら、私が書いた人形を作るための手引書を用意したわ。これでしっかりと勉強しなさい」

「はい、ありがとうございます」

 

 これは非常にありがたい。私が旅する上でも必要な物だし、それに人形の技術が磨ける。

 

「弟子の為に書き上げた奴だから、覚えたら燃やしなさいよ」

「もったいない……」

「駄目だからな。流出させるのは魔女としてありえないからな」

「あなたは特別だからあげたの。癪だけど、私でもあるのだから許せるだけ。勘違いしないように」

「はっ、はい」

「まあ、こんなことを言ってるけど心配しているのは事実だからな。ツンデレって奴だ」

「誰がツンデレよ!」

「こんなのを用意する奴だ」

 

 そう言いながら、数枚の金属製カードを見せてくる。その全て私が見たことのあるものではない。ただ、書かれている文字には見覚えがある。

 

「スペルカード?」

「ああ、そうだ。こいつはアリスのスペルカードだ。特別制だから、魔力を通せばアリスの弾幕を展開できる。入ってるのはなんだっけ?」

「操符・乙女文楽よ」

 

 確か、大玉をアリスと自機の間に配置した後、そこから人形を生み出してレーザーや弾幕をまき散らす技だった気がする。文楽が操り人形による浄瑠璃芝居を指す言葉なので、これは複数人用の操る人形を一人で扱う少女による人形劇ということだ。

 弾幕ごっこ初心者のアリスにプレゼントされるスペルカードとしてはとってもあっている。人形劇の練習もしないと。

 

「言っておくけれど、あげるスペルカードはこれと蓬莱と上海だけよ。本来は人形も弾幕も自分で用意するものなんだから」

 

 乙女文楽以外にも咒詛・蓬莱人形と咒符・上海人形。これは上海と蓬莱用のカードかな。

 

「はい。わかってます。他のカードは?」

「こいつはスペルカードを登録するための奴だな。まあ、今は要らないだろう。持っておくだけもっておけ」

「後、上海と蓬莱のカードには弾幕の設定は入っていないから、今は呼び出すだけよ。乙女文楽の方はちゃんと入れてあるわ。それとBGMというのはわからなかったから入っていないわ」

 

 どうやら、ゲームが発展していないようだから、BGMとかがわからないのは納得できる。しかし、こうなると困った。そもそも東方に録音機とかないしな。河童が作れるかもしれないぐらいだろう。それか外の世界から持ってくるか、異世界から持ってくるしかない。

 これはもう音楽系のアリスを取るのも検討する必要がある。私に音楽系の才能は無い。けれど、他のアリスには才能があるだろう。それに音楽系の技能は人形劇にも活かせるから無駄にならないし、いろんな世界でお金を稼ぐ技能に使えると思う。とっておいて損はないな。まあ、それも死ななくなったらだ。

 それにしても、スキルポイントとアリスポイントは比較的、簡単に貰えたが……全部は難しいか。

 

「マリスのオリジナル人形か。ちょっと期待だな」

「それは少し考えていることがあるので、お任せください」

「どんなの?」

「まだ秘密です。できるかどうかわからないですから」

「わかったわ。楽しみに待ってるとしましょう」

「だな。あっ、それとコレは私が作った弁当だ」

「こっちのは私のよ」

 

 二人がそれぞれバスケットを渡してくれる。中を見れば魔理沙お母さんのはキノコのソテーで、アリスお母さんのはサンドイッチだった。

 

「二つ?」

「私、キノコは使わないから」

「美味しいのになぁ~」

「いやよ。得体が知れないのが多いもの。マリスも旅をするのならキノコには気をつけなさい。死ぬわよ」

「大丈夫です。キノコを食べるぐらいなら、食べませんから」

「ひでぇな」

「死なないし……」

「食べなくても死なないなら、それも手だな」

 

 他愛無い話しをしながら、トランクケースを受け取る。かなり軽量化されていて、全然重たくない。キャスターとかはついていないので常に手で持つのは面倒だけどそれでも充分だ。だって、これってアイテムボックスとかと同じだし、私の為に二人が用意してくれたと思うと感無量だ。

 

「だが、あえて言おう! キノコにはロマンがあると! 魔法薬としても有効なんだぞ! 例えばキノコ汁を飲むだけで魔力が回復したり、とっても便利だぜ!」

「でも、見分けがつきにくいじゃない。ましてや異世界に行くんだっら、常識も何もかも違うでしょう。いい? 絶対にキノコは食べちゃ駄目よ」

「なんだとっ!」

「なによっ!」

 

 この二人、キノコでは喧嘩するみたい。今でこそ仲がいいが、最初はかなり悪かったから仕方ないね。魔理沙お母さんはキノコが大好きだし。それに魔理沙お母さんは……うん、ある悪癖があるからね。

 

「っと、喧嘩している暇はないな。もう時間はあまりないんだろ?」

「そうね。八雲紫に聞いた話じゃ、もうまもなくここからマリスは消えるわ」

「時間、わかっているんですね」

「レミリアに聞いたんだろうよ」

「レミリア、レミリア・スカーレット。吸血鬼で運命を操る程度の能力でしたね」

「そうだ。やっぱその辺も知っているんだな」

「観測していましたから」

「やれやれ、嫌な話だな」

「そうね。ああ、そうそう、八雲紫から伝言。モンスターボールはまだ時間がかかるそうよ。河童達でも時間がかかるみたいね」

「いや、そんなすぐには無理でしょう。まったく別の技術体系ですよ」

「アイツらならあるいは……」

 

 まあ、しばらくはお任せということにしよう。向こうの世界で色々とやることがある。土地も欲しいし、あっ、忘れるところだった。

 

「八雲紫、もしくは八雲藍。どちらかが見ていますよね? すいませんが、金塊かダイヤ、なにかお金になる物をください」

「あーお金か」

「はい。土地を買ってポケモン達をそこで一時的に保管します。このトランクケースの中だと窮屈でしょうし、纏めて移動するとなると疑われます」

「なるほどね。でも、子供が金塊とか持っていたらもっと怪しいわよ」

「ええ、ですから原石が望ましいですね」

 

 そう言うと、目の前にスキマが開いて金の鉱石が二個、落ちてきた。それを慌てて掴むと、重くてそのまま転けてテーブルに頭を打ってしまう。

 

「う~」

「大丈夫か?」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

「そのぐらいで死にはしないわよ」

 

 背後から肩を掴まれて起こされる。頭の後ろに柔らかい塊が当たって、顔をあげて上を見ると背後に八雲紫が居た。彼女に抱きしめられていて、慌てて離れようとするも抜け出せない。

 

「無駄遣いは許さないから、そのことをしっかりと肝に銘じておくのよ。これは土地を購入する代金。管理は任せるけれど、あくまでも貸すだけ」

「わ、わかりました……」

「そこまでする必要があるのか?」

「ええ。ポケモンバトルは弾幕ごっこの難点をある程度緩和してくれるでしょ? なにせ妖力も霊力も魔力も関係なく、万民に扱えるのですから」

「確かにそうね。弾幕ごっこといっても、人間とそれ以外じゃ、かなりの差があるわ」

「そう。そこで重要なことは弾幕ごっこで決めて、些細なことはポケモンバトルといった感じにしようかと思います。もっとも、実験段階なのでどうなるかはわかりませんが……ああ、ちゃんとポケモン達の意思も確認しますわ。幻想郷に害が無い限りは何者でも受け入れますけど、来たくない者まで受け入れる必要はありませんから」

「何を考えてやがる」

「あらあら、正直に言ってますが……?」

 

 扇子で口元を隠して怪しく笑う八雲紫。胡散臭さが溢れでている。お母さん達はジト目だ。ひょっとしたら、ご褒美?

 

「あいたっ!」

「変なことを考えたでしょう」

「ナンノコトカナー」

 

 そんなわけないか。扇子で殴られた頭を押さえながら立ち上がって、トランクケースは持ち手のダイヤルで操作する。開いたトランクケースに金の鉱石を入れて、色々と開いてみる。

 

「とりあえず、向こうに行ったらポケモンと土地の確保ですね。人とかも雇うことになりますが、いいですよね? あと、一週間しか居れないと思いますので、優先はポケモンを捕まえることにしますが、いいですか?」

「ええ、構わないわよ。むしろ、時間をかけて精査なさい」

「はい。お母さん達からは何か有りますか?」

「私からはしっかりと勉強をしておくように。戻ってきたらテストをするからね」

「もちろんです」

「私から別にないかな。元気に戻ってこればそれでいい。といっても、まだ今日の日付がかわるまでは居るんだろ?」

「はい。このトランクケースの中身とか教えてもらわないと駄目ですし」

「いえ、それなのだけれど、今すぐ戻りなさい」

「「「え?」」」

 

 三人で不思議がって八雲紫を見る。彼女は相変わらず扇子で口元を隠して微笑んでいるだけだ。

 

「理由は?」

「まず一つ目として、あくまでも一週間というのは連続滞在時間というだけなの。それにアリスポイントを入手したのだから、変化が起きるはずよ」

「ふむふむ」

「二つ目。()()()()()()()()()()()()()()()()

「帰ります! 違う、今すぐ行ってきます!」

「はやっ!」

「まったく……」

「だって、あの言い方だと多分、レミリアさんの能力のお蔭だろうし……」

「正解。そして、これも教えてあげる。まず、あちらの世界に着いたら――」

 

 しっかりと教えてもらったことをメモしておく。とんでもない情報を頂いた。私に幸運が訪れる方角とのことだし。

 

 

 

「まあ、気をつけていってきなさい」

「元気でな。また戻って来いよ」

「はい。ありがとうございました。また来ます」

 

 家の外で黄衣の外套を身に纏い、トランクケースを片手に持って挨拶を交わす。抱きしめ合ったりはせずに簡単に話すだけだ。それだけして、空いている手に呼び出したGrimoire of Alice(アリスの魔導書)でこの世界から出て、あの場所に移動する。

 すぐに視界が入れ替わり、私はベッドで寝ていた。目覚めたらすぐに腰からモンスターボールを取ってマザー達をだし、近くにあるトランクケースから上海と蓬莱を取り出す。全員に警戒させながら、回収する物を回収してから時計を確認する。

 時計の短針は4の部分なのでまだ大丈夫。世界の扉を確認すると、ポケットモンスターの世界はまだ一日ちょっと封鎖されている。東方世界も七日間の封鎖が発生していた。どちらも扉に数字が現れていたのでわかりやすい。ここで一日は潰さないと駄目なので、書斎に籠る。あそこなら、アリスの情報があるかもしれないからだ。

 

 

 私が知らないアリスの情報は入ってきたけれど、真新しい物は無かった。なので勉強して過ごすことにする。

 トランクケースからアリスお母さんがくれた魔導書を取り出して、目次を見る。この魔導書はアリスお母さんが上海達を使って書いた魔導書で全部で八冊もある。まずは人形ではなく、簡単な魔法使いとしての魔法を覚えようと思う。

 目次を見ると探し物を見つける魔法があった。比較的簡単な魔法だけれど、これからやることを考えるととても便利なのでしっかりと覚える。物を探す魔法と人探しの魔法。この二つを重点的に覚えた。これでキーアイテムを手に入れられるからだ。ポケモンに有効かどうかはわからないけれど、これらは便利だ。特に物探し。人探しも大事だけど、まずはダンベルとタツベイを手に入れて、次に物を探す。赤い糸とかわらずの石。この二つを手に入れないと駄目だしね。

 

 

 



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ポケモン世界のアリス

 

 

 

 物探しと人探しの魔法は覚えた。タイムリミットまではまだ少しあるし、ここで発動してみよう。

 

「蓬莱、上海、ポケットモンスターの世界の道具を探して」

 

 まだ精密なコントロールはできないので、補助輪でもある上海と蓬莱を通して魔法を発動する。蓬莱と上海が互いに手を取り合って、額をくっつけあって発動し、彼女達が光る。

 ポケットモンスターの世界にしたのは、おそらく前のアリスが残していった物があると思うからだ。

 すぐに二人は手を離して部屋から出ていく。糸は繋がっているので、大丈夫だ。それに彼女達は人形だけど私の使い魔なので意思はある……のか? ないはずだれど、使い魔の契約で魂が繋がっている。

 東方世界の魔法はわからないが、すくなくとも魔法使いの夜、TYPE-MOONの世界では時に他者との交渉などで魔術師の代理人を勤める存在だ。

 代理を勤めるにあたって当然、知性を持ち、またその知性は本体である魔術師を再現したものでなければならない。使い魔の使用はその場限りではなくもっと多岐に渡るので、ただ単に本体である魔術師の思考を再現するだけでは駄目なのだ。

 状況に応じて魔術師の考えを忠実に再現しながらも、思考の方向性が異なる自分自身でないといけない。これは魔術の研究において別の視点を提供し、本体の思考の死角を指摘することも求められるからだ。わかりやすく言うと、独立した意志を持つ魔術師の一部という扱いだ。それが魔術師の分身たる使い魔となる。

 そして、私は種族として魔法使いであり、魔術師でもある。久遠寺有珠のプロイキッシャーを持っている私が契約した蓬莱と上海は、その特徴と色々と合致する。まず人形であること。また、アリスが長い事、使い元の世界も含めて語られている。ひょっとしたら童話の怪物となるかもしれない。名前こそ蓬莱と上海だが、どちらかというと不思議の国のアリスみたいな容姿をしている。いや、プロイキッシャーは童話の怪物。童話、つまり物語があればいいのだ。その点、上海と蓬莱は問題ない。プロイキッシャーにしてしまおう。これにより、神秘を伴わない物理攻撃は無効になる。ポケモンに有効かはわからないが、機械類は効かなくなるだろう。

 そう思うと蓬莱と上海の繋がりが強化された。自分で作らないと駄目かと思ったが、久遠寺有栖も親から何体かは受け継いでいた。上海と蓬莱もそれが適応されたのかもしれない。伝承防御はどうなっているかわからないけれど、期待しておこう。

 

「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」

 

 蓬莱と上海の二体が戻ってきた。二人はそれぞれアイテムを持っていた。蓬莱は赤い糸。赤い服を着ているだけあって狙い通りの物を持ってきてくれた。

 

「えらいえらい」

「ホ、ホラーイ」

 

 上海が持ってきたのは――

 

 

 

 縞 瑪 瑙 の ブ ロ ー チ だ っ た 。

 

 

 

 ――上海から奪い取って、すぐに黄衣の外套が在った場所に戻す。手から外れない。不味い不味い不味いっ!

 

「蓬莱、私の手を切り落としてっ!」

「ホラーイっ!」

 

 手が切り落とされ、魔術刻印が起動して再生する。どうにか手放すことができた。上海が持ってきたアイテムは呪いのアイテムで、持っていたら死ぬ。ハスターがやってきて魂を抜いていくのだ。

 

「アレは駄目だよ」

「シャ、シャンハーイ……」

 

 しょぼーんとしている上海の頭を指で撫でてあげる。ここでのアイテム探しは本当にやばい。変なアイテムが沢山ありそうだ。でも、ネクロノミコンとかちょっと読んでみたい。まあ、まだ私には早いだろう。

 

「ああ、大丈夫だよ。痛いけど、なんとかいけるから」

 

 頭を撫でていた上海の指が、痛みで流れた涙を拭ってくれる。蓬莱は不安そうに自分が持ってきた赤い糸をみている。

 

「二人共、ありがとう。ここでのアイテム探しは止めるよ。ごめんね」

 

 二体がふるふると頭を振るが、こればかりは私が悪い。前のアリスにはもう頼らないようにしよう。危険だしね。

 

「さて、そろそろ時間だから扉を見てみようか」

「シャンハーイ」

 

 上海達の声を聞きながら移動する。時計の短針は動いて5の数字を指し示したが、何も起きない。扉に移動するとポケットモンスターの世界への扉に数字が無くなっていた。

 

「よし、レッツゴー」

 

 後ろも警戒しながら扉を開き、安全を確認する。どうやら、大丈夫なようなのでアンティークのトランクケースを持って潜る。すると視界が真っ暗に暗転した後、光が戻って()()()

 

「っ!? 上海ッ、蓬莱ッ!」

「シャンハーイ!」「ホラーイ!」

 

 身体がふわりと浮き上がり、落下することがなくなった。足は海面につきかけており、そのことから考えられるのは空中に放り出されたということ。原因はなんだろうか、と考えるとすぐに思いだした。

 私はアローラ地方に船で移動している時に戻された。つまり、船の上だったのだ。その船の大きさから考えると落ちた距離も同じだ。異世界間の移動が場所ではなく座標ということなら納得できる。

 

「しかし、飛べないと詰みじゃないですか」

 

 下を見ると海面の下に影が現れているので、すぐに空中に逃げる。先程まで私が居た場所を青い蛇のようなドラゴン、ギャラドスの大きな口が通り過ぎる。

 ギャラドスはすぐさま海面に沈んで、また上がってくる。今度は他のギャラドスも一緒だ。そいつらが海から顔だけを出して口を開ける。その口の中に光が集まってきて、嫌な予感しかしないっ!

 

「上海っ、蓬莱っ、緊急離脱っ! 方角は……」

 

 八雲紫を通じてレミリア・スカーレットに教えてもらった場所に移動する。方角ではなく、目印は太陽がある方角。しばらく空を進めば追われている船があるらしい。そこに乗っている人を助ければ私の求める物が手に入ると言われた。

 だから、太陽の方角に向かう。移動すると、ギャラドスから放たれた破壊光線が通りすぎていく。

 

 

 言われた通りに海の上を飛んで進むと、確かに船があった。その船はギャラドス達に襲われているようで、今も多数のギャラドスから攻撃を受けている。どうやら、特殊な個体に率いられているようで、それは一際大きく、他のギャラドスの倍以上に大きい個体だった。その上、色が真っ赤だ。

 対する船の人は赤色のハヤブサのようなポケモン、ファイアローや、アシレーヌを出していた。アシレーヌはアローラ地方で最初に貰えるポケモンの最終進化系で、全身青の体色から白と青のツートンボディをしていて、頭からは泡の髪留めで纏められた水色の長い髪の毛が生え、ヒトデのような髪飾りを付けている。

 その船の周りには瀕死になったギャラドスがぷかぷかと浮かんでいて、船の上にいるアシレーヌは歌い続けている。そのアシレーヌを護衛しているのがゴーストポケモンのゲンガー。しかもメガゲンガーのようで、金縛りをしたりアシレーヌが眠らせた相手を夢食いで倒している。それも全員に滅びの歌を入れてからだ。

 二匹の護衛兼、遊撃はファイアローで、空から油断した個体を確実に仕留めていっている。トレーナー本人は船の上から指示をしていて、近くにはトレーナーを護衛しているジャラランガがいた。

 普通なら勝てるはずが、ギャラドスが大量にいて船を狙われていることで手が出しにくくなっているようだ。

 

「そこのお姉さん、助けはいりますか?」

「ん? え? 空を飛んでる? サイコキネシス? あれ、新種のポケモン?」

「そんな感じです。それで助けはいりますか?」

「お願いできる? 色違いのギャラドスを捕まえに来たら、まさかこんなに居るなんて思わなかったの」

 

 水色の涼し気な服を着た彼女の首元にはネックレスのキーストーンがある。

 

「なるほど。赤いギャラドス狙いですか。それなら、私が捕まえるので、交換しませんか?」

「なにと?」

「その前に、エリートトレーナーですよね?」

「そうだけど……」

「ジャッジ機能、持ってませんか?」

「持ってる。それが欲しいの?」

「はい」

「わかった。あのギャラドスと交換でならいい」

「ありがとうございます」

 

 契約が成ったので、そのまま空を飛んで移動する。空中からファイアローが妨害を仕掛けているので、遠くから色違いのギャラドスと視線を合わせる。

 いきなり襲われた先のギャラドスの恨みも込めて魅了の魔眼を発動する。同時にカモフラージュとして技名を叫んでおく。

 

「上海、メロメロ!」

「シャンハーイ!」

 

 効果はない。だって、口に出しただけだし。だが、ギャラドスは動きを止めた。その隙に近付いて、至近距離から魔眼で魅了する。それから少し話をしてモンスターボールに入ってもらう。話した内容は捕まる代わりにバトルで自らを認めさせないと従わなくていいということだ。私が戦うわけではないし、それでギャラドスも納得しているのでエリートトレーナーさんに任せよう。こちらは、はいか、いいえで答えさせただけだし、後はどうしようもない。問題は群れのボスが居なくなったギャラドス達だ。扱いは全部、あちらに任せたらいいか。私じゃなにもできないし。

 

「はい、ゲットしましたよ。ジャッジ機能と交換です」

「ええ、ありがとう。ジャッジ機能搭載型のパソコンは買わないといけないの。だから、案内してあげるから好きなのを選んでいいわよ。どうせ帰るし」

「お願いします。この群れはどうしますか?」

「放置というわけにもいかないから、捕獲していきます。ギャラドスは危険だから、治療してからもっと沖に放すわ」

「わかりました」

 

 上海と蓬莱はそのまま肩に乗せて、船に乗って移動する。

 

 

 

 到着した場所はマリエシティ。まずはポケモンセンターに移動して、ギャラドス達を預けた後に案内してもらった電気屋に移動。そこでノートパソコンを買ってもらった。

 それから、ポケモンセンターに戻ってそのパソコンにジャッジ機能をインストールしてもらえた。ゲームではポケモンセンターにあるパソコンを使っていたが、それは子供が買えなかっただけだ。買えれば持ち運び可能。ただ、ジャッジ機能はポケモントレーナーとして一定の評価を受けた人が貰えるものらしい。私の場合はエリートトレーナーさんの推薦と赤色のギャラドスの捕獲で認められた。

 どうやら、赤いギャラドスの捕獲はついでで、エリートトレーナーとしてポケモン協会からマリエシティに接近してきているギャラドスの群れを調査し、追い払うように依頼されていたようだ。

 私としてもレミリア・スカーレットの言葉に従ったおかげでジャッジ機能つき最新式のノートパソコンが手に入ったのでほくほくだ。

 

「アリスさんでしたね」

「はい。アリスですが、なんでしょうか?」

 

 ほくほくして、上海と蓬莱、マザー達と喜んでいるとジョーイさんが声をかけてきた。

 

「捜索願いが出されています。なんでも船の上から消えたとか……」

「落ちて遭難していました」

 

 そっぽを向きながら答える。当然、逃がしてくれずに色々と事情聴取を受けることになった。それまでは大人しく待つことにする。そんな訳で、今はモンスターボールにマザー達を入れて、ノートパソコンに繋げたハンドスキャナーで確認する。モンスターボールをスキャンすると、ノートパソコンにあるジャッジ機能がしっかりと判定してくれる。

 

「やったっ、マザー6Vだ」

「シャン、ハーイ」

「ホラーイ?」

「嬉しいことが起こったの」

 

 赤い糸は手に入れた。後は変わらずの石。厳選するためのアイテムは残り一つ。その前に色々としないといけないけど、どうにかなる。ただ予定は決めないと。まずはここを拠点としてホクラニ岳でダンバル達をとにかく沢山捕獲する。次にマザー達と卵を産まさせる。

 ダンバルはダンバル同士でくっつくことで進化する。ゲームではレベルだったが、増えたダンバルがどこから来たのかはわからない。それを解析して手早くメタングにして、更にメタグロスにする。

 育成と進化が終わればメレメレ島に移動して今度はタツベイを捕獲し、厳選する。ただ、こちらは難しいかもしれない。ボーマンダはおそらく自我が強いと思うので、卵の厳選は問題があると思う。その点、メタグロスは鉄足ポケモンで、鉱石だ。自我はあるだろうけれど薄いと思われるので、説得して合理的に判断してくれたら……いいなあ。

 うん、やっぱりメタグロスを量産した方がいいな。そっちの方が私にとっても得がある。鉄の身体に自我があるのなら、人形にも自我が生まれるだろう。メタグロスを解析することで完全自立型人形ができる。

 メガストーンとキーストーンも解析して量産しよう。私だけで無理なら、東方世界の人達に頼めばいい。

 

「アリスさんですね。私はジュンサーと申します」

 

 どうやら考え事をしている間に警察の人が来ていたようだ。その人とお話をしてから私はある人の場所に連れていかれた。

 

「あ~俺はクチナシ。くそ面倒だが、今日からお前の面倒を見てくれるところに案内してやる。ついて来い」

 

 その人は目の下にクマがあり、猫背でくたびれた雰囲気を漂わせているただの冴えない中年男性のように思えるが、これでも警官だ。

 灰色の短髪に、常夏のアローラ地方にはそぐわないほど青白い肌をしており、据わったような目からは赤い瞳がのぞいている。警察官の制服を着用しているが、ジャケットの下に赤いキーネックシャツを着ていて、靴ではなく突っかけサンダルを履いていてだらしがない。

 

「わかりました。何処に行くんですか?」

「エーテルハウスだ。そこを拠点に調べていくといい」

「一応、ポケモントレーナーなので、ポケモンセンターで生活もできるのですが……」

「それでも、一度だけは顔をだせ。身よりの無い子供を預かっている場所だから、手掛かりがあるかも知れない。それに同い年くらいの餓鬼もいる。そいつに案内してもらえばいいだろう」

「いえ、大丈夫なんですが……」

「こっちも仕事だからな」

「わかりました。でも、案内はいりませんよ」

「そいつは好きにするといい」

 

 車に乗せられて案内された場所は海の近くに作られた孤児院で、それなりに大きな場所だった。

 

「あ、おじさん。その子が新入りさん?」

 

 そうクチナシさんに聞いてきたのは、ふにゃっとした猫口が愛らしい紫髪の少女。黒や紫の布をつぎはぎしたような服を着ている。二の腕には黄金の腕輪を着けていて不思議な感じがする。

 

「そうだ。もっとも、すぐに出ていくかもしれないがな。こいつはお前と同じですでにトレーナーだからな」

「そうなんだ。アセロラは、アセロラ。こう見えて大昔に凄かった一族の娘なの。よろしくなの!」

 

 そう、未来のキャプテンにして、四天王にまでなったゴースト使いの少女、アセロラだ。三方向に分かれた前髪の髪結いに証を使っていたけれど、今は普通に髪留めだ。

 

「私はアリスです。ここには少しだけお世話になると思います」

「それでも歓迎するよ!」

「ありがとうございます」

「んじゃ、後は任せた。俺は帰る」

「は~い」

 

 それから、エーテルハウスに入る。エーテルハウスはそれなりに大きな建物で、ポケモンや孤児が思い思いに過ごしている。中には庭でポケモンバトルをしている小さな子達もいる。

 

「ポケモンバトル、してみる?」

「いえ、まだ弱いのでいいです。それより順番待ちをしているようですが……」

「ここに居るポケモンで、戦いたがる子は少ないし、そもそも数もいないしね」

「なるほど……」

 

 これはいいことを思い付いた。孵化させたダンバル達でバトルさせればいいじゃないか。子供達も経験が積めて、私のポケモンもレベルが上がっていい。ましてや、ポケモン達の引き取り手にもなりえる。報酬としては孤児達にタツベイを与えて育てさせればボーマンダという強いパートナーが連れていける。ええ、問題ありませんね。

 

「そういえばアリスって人形が好きなの?」

「はい、大好きです!」

「わっ、いきなり元気になった」

「いいですか、人形というのはとても可愛らしくて……」

 

 早口になりながら如何に人形が素晴らしいかをアセロラに力説して、洗脳してあげる。いや、もちろん魅了の魔眼とかは使いません。

 

「あははは、アリスが人形を好きなのはわかったよ。それで、アセロラが聞きたいのは人形のポケモンって持ってるのかなってことだよ」

「え? いるんですか?」

「いるよ。カゲボウズとその進化系のジュペッタがいたは――」

「どこですか!」

「こっ、今度案内するから、離してっ、苦しいっ」

「あっ、ごめんなさい」

 

 慌ててアセロラの服を掴んでいた手を外す。そのまま咳き込むアセロラの背中を撫でる。やばい。人形ポケモンがいるのなら話は別だ。そちらの確保も優先しなければいけない。これは優先順位を変えるべきか悩む。人形師としては確保すべきなんだろうけど、私はまだちゃんと人形を作れていない。

 

「後、案内するっていったけれどすぐには無理だよ」

「なぜ?」

「こっ、怖いよ!」

「ごめんなさい」

「えっとね、私もまだ弱いし、アリスちゃんも弱いよね? 強い人と一緒じゃないと駄目だから、クチナシおじさんに連れていってもらわないといけないの。でも、滅多に来てくれないから……」

「なるほど。つまり、実力をつけたらいいのですね。わかりました」

「わかってくれたんだね。よかったよ」

「はい。ポケモンバトルをして鍛えまくればいいのです。さっそく厳選に必要なポケモンを確保しましょう」

 

 土地の購入資金として金の原石をもらいましたが、これを換金してモンスターボールに換えてしまいましょう。八雲紫に回すためのポケモンを確保するためだとすればあちらも納得してくれるでしょう。

 

「えっと、部屋はアセロラと同じ部屋でいいよね?」

「いえ、泊まりませんよ」

「はい?」

「予定変更です。今からポケモンを捕まえに出ます」

「ちょっ、ちょっと!? も、もうすぐ夜だけどっ!」

「大丈夫です。ああ、アセロラは欲しいポケモンはありますか? なんでしたら捕まえてきますが……」

「えっと、私はいいかな?」

「そうですか。では、私はいきます」

 

 トランクケースを持って踵を返す。もはや時間は無駄にできない。これより私は修羅となる。一切寝ずに行動を開始する。

 

「ほ、本当に行くの?」

「はい。ですがすぐ戻ってきます。ポケモンを預けるので、それで子供達にバトルさせてあげてください。とりあえず明日には戻りますから」

「う、うん。い、行ってらっしゃい」

「いってきます」

 

 まずはマリエシティに向かう。カプの村では換金できないだろうから、仕方がない。そちらに高速で向かって金の原石を取り扱っている場所を聞く。聞いたお店で相手を魅了して適正の値段でなんの疑いも無く買ってもらう。子供が持ち込んだ特大の金の原石など買い叩かれるに決まっている。これを買い叩かれるということは私の死に直結する。()()()()()()()()()()()()()()。相手は妖怪の賢者。相手には悪いが、魅了させてもらって適正値の商売をしてもらい、出所はあかさない感じでいく。

 二つ貰った原石の一つが500万になった。これでモンスターボールを大量に購入する。とりあえず300個のモンスターボールを購入し、60000使う。うん、安い。

 続いてホクラニ岳まで移動する。待っていて、私のダンバルにカゲボウズ達っ!

 

 

 

 

 




ウラウラ島といえばSMでとっても可愛いアセロラちゃん。可愛くないという人がいるのは認めるが、改めません。アセロラちゃんは可愛い!

指摘があった人形ポケモンに関してですが、一応ウェブで調べました。そうすると出るのはポケモンのぬいぐるみ達ばかり。ちゃんとしたポケモンは全然んでませんでした。思いだしながらやってるせいでほとんどウェブで集めておりますので、そちらがアレだとこうなります。そんなわけでアセロラちゃんに教えてもらう形にしました。流石に全部のポケモンを覚えているはずありませんし。151匹は多分言える。でも、その後の全部言えるのって滅多にいないと思います。言える人はポケモンマスター(仮)を与えられることでしょう。

ちなみに本編では気付いていませんが、上海と蓬莱を手に入れたことでよりアリス化が進行しております。具体的には人形への執着度が3倍ほど上昇しております。男の時はなんともなかったが、アリスになってからの基礎値は上海人形に諭吉さん数枚をつぎ込むぐらい。その状態で3倍。つまり、人形大好きといったレベルです。アリス・マーカロイドはもっと上です。

黄衣の外套はコンテニューしてくれますが、代償が存在しています。復活した回数によってデメリットが複数発生します。無償で復活させるほどハスター様が優しいはずありません。この能力があるので、ゲートキーパーは容赦なく殺すところでは殺します。やったね!

ダイス振った時の説明。八雲紫からの情報はクリティカル。赤い糸は17で成功。上海は97を振った。でも、手で勘弁してあげた。上海が可愛そうだからね!

弾幕ゲームは間違いで、弾幕ごっこです。修正させていただきました。それとBGMについてややこしくなったので、前の話みたいな感じにしました。

誤字脱字、感想ありがとうございます。大変助かりました。

ああ、あと今作のアセロラちゃんは‥‥強化されます。手持ちポケモンも若干かえるかも。あの手持ちに隠された意味などない。いいね? もしもアルとイッタヒトは・・・・ザンネンナガラ・・・・機関から星の精が派遣される。気をつけるように。なお、当局は一切の責任を取りません。


こんな感じでいいかな。古戦場忙しい。ボーダーがおかしすぎる・・・・FGO、沖田オルタこない・・・・もうやだ・・・・





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ポケモン世界のアリス

 

 

 やってきましたウラウラ島にあるホクラニ岳。ここで捕まえるのはダンバルというポケモンで、鋼とエスパータイプを持つ鉄球ポケモンだ。そのダンバルは捕まえやすさはたったの3。伝説ポケモンと同じレベルだ。でも、そんなのは私に関係ない。

 

「まず、ここでヘビーボールを探しますか」

 

 確か落ちていたはず。物探しの魔法で探してみる。上海と蓬莱が飛び去って、少しするが何も見つからなかった。

 

「あーやっぱり見つからない?」

「シャンハーイ」

「ホラーイ」

 

 ゲームでは手に入ったアイテムも、この世界では配置されていない。アレは制作会社がスムーズにプレイさせる為に設置したのだろうから、なくても仕方がない。

 

「諦めよう。上海、蓬莱、ダンバルを探すよ」

 

 二体が頷いたので、そのままダンバルを探して行く。メタモンを捕まえたように他のポケモンにも協力を要請する。エアムードやオニドリルに手伝ってもらったので比較的簡単に見つけられた。

 その子達は崖の下に存在する洞窟に沢山いるようで、空を飛んでいかないといけない。たまに一部の子達が上にでてきているみたい。

 私は上海と蓬莱を使って、空中に浮かびながら降りる。その洞窟は磁力が強いようで、金属が吸い寄せられていく。一応、荷物はトランクケースの中にあるので問題はなさそうだ。

 真っ暗な中を魔弾で光源を作って進んでいくと、沢山のタンバル達が居た。その子達は私を見るなり一斉に襲い掛かってくる。一体一体捕まえることはできず、集団で戦闘になった。流石にこうなると魅了の魔眼も効かない。

 

「マザー達、キュウコンに変身して炎の渦」

「「「めたぁ!」」」

 

 全部のメタモン達を出し、変身させて弱点である炎で攻める。もちろん、それだけじゃない。私も上海と蓬莱を通して弾幕を展開して攻撃していく。

 炎の渦が洞窟内をすぐに埋め尽くす。念の為、私は入口に陣取って呼吸できるようにしておいた。

 相手のダンバル達は突進してきたり、磁力でこちらを引き寄せようとしてくるので、それを炎の弾幕で撃ち落として炎の渦で継続ダメージを与えていく。殺さずに瀕死の状態まで追い込む。ゲームと違って瀕死の前で止める必要なんてない。ましてやルール無用の野生ポケモンとの勝負。

 

「だから、私と蓬莱達が入っても大丈夫。むしろ実験に丁度いい」

 

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を呼び出し、中から一枚のスペルカードを取り出す。

 

「スペルカード、躁符・乙女文楽」

 

 スペルカードに魔力を流し込み、術式の開始を宣言する。すると球体が現れる。球体から上海と蓬莱の同型が中から三体の人形がでてくる。この子達はトランクケースの中に入っていた子達だ。

 私の両手の指から魔法の糸が出ていて、彼女達に繋がっている。空中に浮いている三体の人形は両手を突き出してレーザーや弾幕を展開していく。その度に私の身体から魔力が減っていっている。

 

「上海と蓬莱はモンスターボールを投げて、倒れたダンバルの捕獲をお願い」

「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」

 

 自らもダメージを受ける突進しかできないダンバル達では、いくら数がいても弾幕を越えられない。こちらも相手を弾くことを優先している。ろくにダメージを与えられないが、これでいい。何故なら、ダメージは炎の渦による持続ダメージが存在するからだ。当然、私も火傷はするけれど、そちらは回復する。

 操る四体による弾幕の中を上海と蓬莱はこっそりと避けて地面に倒れているダンバル達にモンスターボールを当てていく。抵抗しようにも気絶して意識を失っていたらできない。そんな訳で次々と捕獲していく。

 私は私で四体の操作に集中している。対象を決めて攻撃を繰り返す。汗がだらだらと流れ落ちては炎に炙られて蒸発していく。

 このまま上手く行ってくれると嬉しい。そう思っていたら、ダンバル達が突進を止めて塊だした。そいつらは身体を光らせ、互いに引きあうようにして合体していく。

 

「進化の光っ!」

 

 ダンバル達が互いに引き合って連結し 脳味噌が二つになったことでサイコパワーは2倍になった。ただし 賢さ自体は変わっていない。このまま押し切れる。

 上海と蓬莱も攻撃に参加させ、近づかないように遠距離から攻撃していく。だが、サイコパワーが上がったことで念力を覚え、バリアを展開してくる。

 

「ちっ」

 

 それと単純に身体が大きくなって、弾幕ではそう簡単に弾けないようになった。更に一部の個体は電磁浮遊を使って加速し、腕を鈍色に変化させて突撃してくる。メタルクローの一撃をバリアを展開して跳ね返し、逆にダメージを与えることで怯ませる。その瞬間に瞳を合わせて魅了し、モンスターボールを使って捕獲した。

 これで残り五体のメタングになった。その五体の内、一体は他と色が違った。そいつに上海と蓬莱が飛来し、左右から近距離でレーザーを放ってダメージを与える。残り四体は必死に弾幕を張りながら、マザーも参戦させて決着をつける。

 

「マザー、怪しい光!」

 

 これでメタング達が混乱してくれる。その間にダメージを積み重ねていく。メタング達は混乱しながら互いにぶつかり合っていく。それは上海と蓬莱達にとって隙でしかない。

 そう思っていたら、いきなり方向転換をして奥へと逃げていく。

 

「追ってっ!」

 

 上海と蓬莱に加えて四体の人形達も先行させる。私はキュウコンに変身しているマザーに乗って追いかける。

 洞窟の奥深くへと追っていくと、そこには大きな岩があった。それは磁力を発生する特殊な岩のようで、メタング達がくっついている。そのメタング達は見た事ある光に包まれ、ダンバルが四つ足されたメタグロスに進化してしまった。顔にはクロスの文様があり、明らかに強さが跳ね上がっている。

 

「ちょっ、待ってっ!」

 

 そいつらは更に光って四つの腕を前に出して空中に浮き上がる。なんでキーストーンもメガストーンも無くてメガ進化しちゃってるの! いや、もしからしたら、あの岩がそうなのか?

 見えないので弾幕を送り込んで照らしてみる。それは巨大なメタグロスナイトの集合体だった。ひょっとしたらキーストーンもあるのかも知れない。どちらにせよ、魅了の魔眼を発動し――

 

「戦略的撤退っ!」

 

 ――たが、効果が無かったので一目散に逃げだす。ただ、このままじゃ逃げきれないのはわかっているので、水の魔弾を展開して、そこに火炎放射を撃たせる。急激に熱せられた水は水蒸気となって周りを覆いつくす。その隙をついて一気に逃げ出し、捕まえたモンスターボールは上海と蓬莱、人形達を使って回収していく。私の足はマザーなので大丈夫。

 洞窟から抜け出して、海に向かって落ちていく瞬間。洞窟の内部から光線がでてくる。それをバリアを展開して反射しようとしたら、割られた。しかも直に次弾が来る。二体いたので仕方ない。

 

「海面に向かって炎の渦!」

 

 指示した通りに海面に向かって炎の渦を発生させ、水蒸気に包まれる前にトランクケースを開けてモンスターボールや人形達を回収。上海と蓬莱も入ってもらい、マザーを除いたメタモンも仕舞う。

 

「マザー、ギャラドスに変身して私を食べてっ!」

「メタァッ!」

 

 赤いギャラドスになったマザーに食べられて身体の中に入る。歯がギザギザでとっても怖いけれど、中でバリアを展開して耐える。そのまま水中に逃げることでメガメタグロスから逃げおおせた。空を飛べば追いつかれる可能性はあるが、海の中までは追ってこれまい。

 負けた負けた。こればかりは仕方がない。いくらなんでもメガメタグロスどころか、メタグロスにも勝てるはずがないし、逃げるのが正解。こっちはまだ低レベルのメタモン達しかいないのだ。ダンバルだけならいくらでもどうにかなった。でも、メタングに進化してからは怪しい。それ以降なんて絶対に勝てない。レベルが違うのだよ、レベルが。

 

 

 少し離れてから、海面に上がる。流石に呼吸したいのでこればかりは仕方がない。海面に顔を出したギャラドスの口の中からそっと外を覗く。洞窟の周りでは二体のメガメタグロスが浮遊していた。こちらを探しているようだが、そのまま洞窟から離れると、メガ進化状態が解除された。どうやら、あの洞窟限定でのメガ進化のようだ。あの二体はすぐさま洞窟に戻っていった。

 

「マザー、念の為島沿いに迂回して帰ろう。飛行はしないから、しばらくこのままでお願い。酸素を取り込んだらまた移動。相手が追って来ないってわかるまで、それで」

 

 頷くことはないけれど、私が口の中に戻るとマザーも口を閉じて海に潜る。そのまま洞窟から充分に距離を取り、口から出てギャラドスの背中に乗った状態でマリエシティに戻る。

 乗船所付近に到着したら、ギャラドスから飛び降りて地面に着地する。私の姿に通行人や船に乗っていた人は驚くが、気にしない。モンスターボールを取り出してマザーを戻そうとしたが、止めた。

 

「おいで」

「めっ」

 

 マザーはギャラドスから姿をメタモンに戻し、私の腕の中にすっぽりと納まる。私は労いの意味も込めて撫でてあげる。

 

「ご苦労様でした。今からポケモンセンターに行くから、少し待っててね」

 

 上海の姿となったマザーを連れて歩いて行く中、考える。メガメタグロスになられたのは誤算だったが、これでメタグロスナイトの所在地が判明した。それにおそらくキーストーンもあそこにある可能性が高い。また、現実となったことで予想以上にマザーを筆頭にメタモン達の汎用性が上がりまくっている。短時間だけでも変身できるのなら、凄く便利だ。もっとも、PPは低いので長時間の戦闘や移動は無理だけど、それでも手持ちに数えずに持つのもいいかもしれない。

 

「ん~やっぱり、鋼統一パーティーは無謀かな?」

「メタァッ」

 

 いいんじゃないかと言ってくる感じのマザー。でも、これはどちらかというと私の好きにしろって感じだ。まあ、鋼統一パーティーは……いや、違う。そもそもメタグロスを集める理由は伝説ポケモンを相手にするためだ。比較的扱いやすくて、独自に戦闘行動がとれるほど賢い。何せ四つのスーパーコンピューターを搭載しているような物だし。上海と蓬莱の手持ちにするだけだし。

 メガストーンとキーストーンを解析し、魔法的に再現してメガメタグロスを量産。そして一体化、もしくは合体させることで更に上のメガを超える進化を行わせる。それがメタグロススーパーロボット計画。いや、今適当に名前をつけただけだけど。でも、図鑑説明に合体ってつけられていて、公式でも認めているんだからできないことはないだろう。タンバルを20体とかで合体させればスーパーロボットも夢じゃない。

 問題は合体の方法だ。メガストーンとか磁力が影響するのだろう。それ以外にもいっその事、融合魔法とかでやってしまうか。カードゲームのアレみたいに。ちょっと面白そう。でも、これを実現するには意思の統一と身体の動きを合わせないと駄目だし、シンクロさせるしかないな。シンクロ召喚! いや、シンクロ合体か。まあ、どっちでもいいや。まずはあのメガメタグロスを倒す。

 

「タンバル達には悪い事をしているけど、これがポケモントレーナーだしね……」

 

 ポケモンの住処に侵入し、捕まえて育てる。アレ、これってNの言葉ってあながち間違いじゃないや。わー否定できない。銀河団は滅ぼすけど、Nのことについては見逃しても……いや、ゼクロム欲しいから駄目かな。うん、もらうだけ貰って本人には好きにさせてあげよう。ポケモンの解放を願うのなら、私のポケモンを一部解放してあげてもいい。計画通りに進むと、その時には伝説ポケモンをゲットしているしね。まあ、この子達が私を拒否して逃げたいならだけど。

 

「めっ」

「ああ、到着したね」

 

 ポケモンセンターに到着した。扉の前に立つと自動ドアが開くので、中に入ってジョーイさんのところに向かう。

 

「すいません、ポケモンの回復をお願いします」

「はい、かしこまりました。その子は新種ですか?」

「いえ、メタモンです。マザー」

「メタァッ」

 

 上海の姿から普通のメタモンの姿に戻る。私はカウンターにトランクケースを置いて、中から沢山のモンスターボールを取り出して置いていく。

 

「ダンバルがいっぱいですね」

「はい。全部でダンバルが17体、メタングが2体、マザーとメタモン達……」

「わかりました。トレーナーカードをお願いします」

「どうぞ」

「アリス様ですね。確かにお預かり致しました。ポケモンをポケモン協会が運営している預り所や研究所などに預けたりしますか?」

「いえ、このまま持って帰ります」

「わかりました。それではしばらくお待ちください」

「あ、ポケモンの回復装置っていくらくらいしますか?」

「回復装置ですか?」

「700万くらいだった気がします」

「そ、それは流石に買えませんね」

「そうなんです。高いのでポケモンセンターの数を増やせないんです」

 

 ジョーイさんと少しお話した後、食堂で紅茶を飲みながら魔導書を読む。探すのは持続型の回復魔法を装置する方法だ。これがあるとないとじゃ、効率が全然違う。私が持ってる回復手段は、今の所まだ使えないし。魔力が足りない。

 しばらく探してみるけれど、回復系が無い。融合系も探してみる。こちらもない。というか、当たり前だけれど基礎の魔法理論しか乗っていない。自分で研究して作れということだろう。ポケモンの回復装置に関しては八雲紫と相談して購入するかどうか考えたらいい。一つ買えば河童さん達が増やしてくれるだろうし。

 

 土地についても調べないといけないし、勉強もある。やることが多すぎる。それでも一歩一歩進んで行こう。

 紅茶の香りを楽しみ、一口飲む。魔導書を仕舞って別の本を取り出して人形の勉強を始める。

 

「アリス様、治療が終わりました。どうぞ、皆さん元気になりましたよ」

「めた」

「お帰りなさい。ありがとうございました」

「今日はどうしますか? もう時間も遅いので、女の子が外を出歩くのは駄目ですよ」

「部屋を借りられますか?」

「はい、大丈夫です」

「では、お願いします」

 

 ポケモンセンターに努めるタブンネに案内してもらい、宿の部屋で捕まえたポケモン達をジャッジする。まずはメタング2体。いきなり一体目のメタング6Vの色違い。厳選する必要がないほどの絶対成功。なんだろう、この運。多分、どっかで死んじゃう。怖い。

 二体目は色違いではないけれど5V。タンバル1Vが6体。3Vが6体。4Vが5体だった。今回のはかなりの当たりだ。

 これはマザーと6Vのメタングの子に子供を産ませればいいか。それともこのまま6Vの子を使うか。木の実を食べさせて努力値をリセットすればいいだけだし、うーん。潜在能力を解放させる魔法を作った方がいいかもしれない。

 

「もう少し保留にしよう。とりあえず、木の実の確保かな」

 

 能力値を下げるのが10ずつだから、最大252と考えて26個か。植物促進の魔法は作ってられない。こちらと東方世界でも栽培しよう。確か、魔理沙お母さんが八意永琳に薬を作ってもらってキノコを成長させたって言ってたし、いけるいける。あ、むしろ八雲紫に頼んで努力値とかの境界を取っ払ってもらえばいいんじゃないだろうか? 何もこの世界基準でやる必要はない。ポケモンリーグとかには出禁になりそうだし、普通のポケモンも用意しておかないと。というか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まあ、ミュウツーなんているから平気だよね、うん。

 

「とりあえず、メタングは持ち歩くことにしよう。名前はメルクでいいか」

 

 シルバーメタグロス。色違いのシルバー、からル、メタルからル、グロスとクロスをかけて濁点を抜いてク。これでいこう。それ以外のポケモンはアセロラがいるエーテルハウスに預けて使ってもらう。

 

「あ、後は皆、好きにしてていいよ」

 

 そう言って自由にさせながら、私はトランクケースから蓬莱と上海を取り出してメンテナンスを行う。私の操作技術がまだまだなので被弾が多い。代わりのパーツを組み合わせて綺麗にし、動かして問題ないかを確認する。整備マニュアル通りにやったけれど大丈夫みたい。

 後は使った交換パーツを、予め入れてあった、家のあった森で取れた木材を加工して作る。続いて解れたり、焼けた服を縫っていく。こちらは操作技術の向上も兼ねて上海達の同型にやらせてみる。後はマルチタスクの練習としてメタング達の身体を拭いてあげたりもしよう。それらの操作に集中し、頑張る。

 

 

 

 

 

 

 気が付けば夜が明けて朝日が射し込んできている。服は何個も残骸が転がっているが、どうにか及第点が貰えるレベルに……ならなかった。残骸がいっぱいできたので、それらはふきんとして人形やポケモン達のメンテナンス道具にしよう。

 

「ん~よし、今日も頑張ろう」

 

 座っていた椅子から立ち上がって、軽く身体を解していく。それが終わってから振り向くと、ポケモン達が思い思いの姿で眠っていた。メタング二体を中心にタンバル達が寄り添い、メタングの上にはメタモン達が眠っている。そんなポケモン達に上海と蓬莱、それに同型の人形二体がくっついていた。どうやら、彼女達の操作をちゃんとできなかったみたいだ。

 同型の方を操り、宙に浮かせてこちらに引き寄せる。上海人形と蓬莱人形達をクルリと回転させて両手両足を動かす、ラジオ体操をさせて動作チェックを行う。硬かった接続部もちょうどいい感じに摩耗して滑りがよくなっているので、これでよしとする。新しい靴だと靴擦れするのと同じで、慣らす必要があるのだ。

 

「じゃあ、おやすみ」

 

 四体の人形達をトランクケースに戻して休ませる。能力を切ってから、トランクケースを一度閉め、ダイヤルを変えてからもう一度開けて着替えとタオルを取り出す。昨日、お風呂に入っていないから気持ちが悪い。日本人としてお風呂は大事だ。

 

「上海、蓬莱」

「「?」」

 

 小首を傾げてくる姿が可愛らしくて思わず撫でてしまった。ずっと撫でていたいけれど、そういう訳にはいかないので要件を伝える。

 

「シャワーかお風呂に入ってくるから、ポケモン達をお願い」

「「っ!」」

 

 蓬莱と上海は私にしがみついてきた。どうやら、一緒に入りたいようだけど、ここは私以外にも人がいるし流石にまずいと思う。確か、第七世代であるサン&ムーンにはサイキッカーはでていなかったし、ややこしいことになる。新種のポケモンだと勘違いしてくれるかもしれないが、裸になるところで襲われるのは……あれ、問題ないか。

 

「じゃあ、どっちかと一緒に入るね。片方は残って欲しいし……」

「「……」」

 

 見つめ合う二体は徐に武器を構えだした。私は慌てて二体を止める。

 

「じゅ、順番で一緒に入ろう。ね? 喧嘩はしないで、お願いだから……」

「シャン、ハーイ……」

「ホラーイ……」

 

 しょぼーんとしている二体を慰めていると、足元が叩かれた。そちらに振り向くと、マザーとメルクが居た。どうやら、起きてきたみたいだ。

 

「起こしちゃった?」

「めた」

「ぐぁー」

 

 二体が何かを伝えようとしてくれるけど、わからない。困っていると、マザーとメルクが押し出してきた。

 

「え? えっと……」

 

 上海と蓬莱と一緒に外に出され、扉が閉められた。開けようとしても、メタングが扉の前に陣取っていて、開けられない。

 

「これは一緒に行っておいでってことかな?」

 

 蓬莱と上海に聞いてみると、二体とも頷いたのでおそらく間違いじゃない。まあいいか、お風呂に行って来よう。ポケモンセンターはしっかりと浸かるお風呂があるので助かる。

 早朝だからか、まだ誰もいない。服を脱いで上海と蓬莱と入り、いつもの通りに身体を洗ってもらってから湯船に浸かる。二体は桶に入れて湯船に浮かせている。頬っぺたをツンツンしながら遊んでいると、他の人がやってきたのでさっさと出て皆を連れてご飯を食べる。

 ポケモンセンターはポケモンのご飯も無料なので、それぞれ楽しめる。もちろん、お金を払ってもっといい物を注文したりもできる。私は紅茶だけにして、ポケモンフーズを少し高いのにしてあげる。そろそろ本格的に資金稼ぎをしたい。トレーナバトルで稼ぐか、何かを売るかを考えないと。まあ、私の場合は捕獲したポケモンを売った方がいいのだけれど……これって犯罪だったかな?

 ポケモン協会の依頼を受けての捕獲は合法か。エリートトレーナーの人がやってたし。うん、依頼か。もう少しレベル上げてからでいいか。本日の予定はタツベイを捕獲し、エーテルハウスに戻ってポケモン達を預ける。普通に預けたらポケモン達が迷惑をかけるだけだろうから、魅了の魔眼を使ってアセロラの言う事や指示に従うようにしっかりと教え込んでからポケモンバトルをさせる。人の方も駄目なことをしっかりと指導しないと。これ、思ったよりも大変かも。でも、蓬莱と上海がポケモンバトルをできるようになるまでの我慢だ。ああ、木の実の確保もあるか。忙しいけど頑張ろう。

 

 

 

 

 



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17話

 

 

 さて、タツベイを捕まえるのだけれど、どうしようかな。私が今居るのはウラウラ島のマリエシティ。タツベイが居るのはメレメレ島の三番道路だったかな。確か、ゲームで三番目の道路でひたすらタツベイに仲間を呼ばせてボーマンダの超低レベルを捕まえた覚えがある。

 ゲームだと低レベルだからボーマンダは捕まえられた。でも、現実となると進化前の子供が居るのだから、親のボーマンダ、高レベルがいても何もおかしくない。むしろ居るだろう。空の破壊者、ボーマンダに勝てるはずはないので逃げるしかない。こちらには時速100キロを出せるメタングのメルクが居る。移動でもメルクを頼るつもりだ。ここからメレメレ島まで結構な距離はあるし。まあ、出たとこ勝負というわけで行ってみよう。

 

「ご飯、食べ終えた?」

 

 ポケモン達が返事をしたので、餌入れを回収してしっかりと水場で綺麗に洗って返す。ポケモンセンターが無料だとはいえ、食器類は自分で持ち込んだ奴に料理を入れてもらうか、レンタルしないといけない。無料で宿と食事を提供しているからこそ、片付けなどは自分でしないといけない感じかな。

 洗い物を終えたら、上海と蓬莱に服だった布で綺麗に拭いてもらい、トランクケースに片付ける。

 

「皆の食器も用意しないといけないね」

「ホラーイ」

「メタァ!」

「クギャ」

 

 ポケモンも人形達も頷いたので、後で買いに行こう。でもまずはメルクとマザー以外のポケモン達を仕舞う。

 

「ダンバル達と戻って」

 

 蓬莱と上海にも手伝ってもらいながら、モンスターボールから赤い光線を出してポケモン達をモンスターボールの中にいれる。この中は快適らしいけれど、一体どうなっているのかわからない謎技術だ。

 

「上海と蓬莱は私の護衛。マザーはその、良ければクッションになって……」

 

 私が言うと、マザーがもう仕方がないなぁという感じになってしまった。でも、仕方がないと思う。メタングの上って鋼で平らだし、冷えると思う。そうなるとお腹やお尻が痛くなる。こっ、こればっかりは仕方ない。

 

「ライドポケモン用の装備も用意しなきゃね」

「クガァ」

「はい、行きましょう」

 

 人形とポケモン達を連れてジョーイさんと看護師をしているタブンネに挨拶をする。

 

「お世話になりました。また来ます」

「はい。お気をつけて。それと珍しいポケモンを連れていると、それを狙ってくる人も居ますから、気をつけてくださいね」

「はい。もちろんです」

 

 まあ、私の容姿に油断しているところを魔法で殺っちゃえば楽なんだよね。一番楽なのは魅了してから自首させること。次点で奇襲。こっちが精神的には辛いけど、私の情報が漏れることはないのでお勧め。人としてはどうかとは思うけどね。超絶可愛い天使のアリス様の身体を狙うのだから、極刑は致し方無い。自分のことを言っているようで、ナルシストみたいだけど、実際にアリスお母さんに殺されるだろうから相手を殺るのは間違っていない。本当にアリスは可愛いからね。

 ちなみに襲われる確率は八割くらいだと思う。チンピラだとスカル団。それ以外だとロケット団とか、銀河団とか、ガチでやばい連中がいっぱいいる。それとカイオーガとグラードンを手に入れるためにアクア団かマグマ団、どちらかに所属しようと思っている。内部から情報を収集し、どこかでダイゴさんと渡りをつけて情報を流す。

 私は紅色の玉と藍色の玉を強奪するついでに連中の資金を根こそぎ奪って、内部から重要施設を破壊する。特に潜水艦に乗る時に私だけで乗っていければ最高だ。流石に海底に向かう能力は私にはないし。でも、海底洞窟で戦う方が戦いやすいんだけどね。

 

「よし、それじゃあメルク、お願い」

「ぐがぁ!」

 

 メルクが身体を地面に着ける。その上にマザーが乗って広がってくれるので、そこに更に私が乗る。すると下半身がマザーに包まれてしっかりと固定化された。上海と蓬莱は私の膝の上に仲良く座ってきたので大丈夫。

 ぺたんと女の子座りをしながら、メルクに指示を出す。

 

「発進! 目標、メレメレ島!」

 

 メルクが電磁浮遊で浮き上がり、高速移動で加速していく。風圧が凄いのですぐにバリアを展開する。反射するものは風圧と紫外線だけにして、他は通す。そうじゃないと磁力による移動すらできなくなってしまうし。

 

 

 

 

 時速100キロメートルで空を飛ぶと速い速い。すぐにウラウラ島からメレメレ島に移動できてしまった。ライドポケモン、本当に便利だ。

 メレメレ島はアローラ地方の北西に存在し、島の南西にアローラ地方最大の都市ハウオリシティがある。北にリリィタウンという小さな村があり、南にテンカラットヒル、北にメレメレのはなぞのの広がる山がある。守り神はカプ・コケコで、首長はハラ。キャプテンは今はどうかわからないけれどイリマという人。モデルはハワイ州のオアフ島。カプ・コケコにも使われているゴールデンイエローはオアフ島の公式カラーで、イリマは公式の花だ。島名の由来はハワイ語で黄色を意味しているので間違いなし。

 この島の三番道路にある橋の南側でタツベイが存在している。木の実の木があるのも特徴だ。

 

「あそこかな。降りてみて」

 

 メルクが降下してくれて、しっかりと場所を確認できた。木の実の木の近くには野生ポケモンがいて、食事をしている姿がみえる。アブリー、マンキー、ヤングース、タツベイ、マケンカニ。数はそれぞれ10体くらいいて、本当に運がいい。

 ここは空から奇襲しよう。……やってることは悪役だよね。よし、止めよう。

 普通に降りて着地する。気の弱いポケモン達はすぐに逃げだしていく。残ったのは好戦的なポケモンだけだ。なので、私は手持ちのポケモンを全部出す。ダンバル17体。メタング2体、メタモン六体。メタモンはキュウコンに変身させて怪しい光で混乱させる。そこにメタング達に突進させてダメージを与える。

 タツベイやマンキー、ヤングースはこちらに攻撃をしかけてくるが、メタングがメタルクローで対応していく。私はモンスターボールを投げて手早く戦闘不能にしたポケモン達を捕獲していく。

 タツベイ達が泣き出すと、何処からかタツベイ達が突撃してくる。その数55体。一気に仲間を呼んだようで、親まで来そうなレベルだ。

 

「後から来た者達を優先的に狙って。マザーやメタモン達はギャラドスに変化。破壊光線で一気に蹴散らして!」

 

 ギャラドスに変身した子達は口から破壊光線を出して纏めて処理する。耐えていても、そこにダンバル達が突進してくるので、吹き飛ばされて一体一体、メルクやメタングのメタルクローで処理されていく。

 そこを私が近付いて魅了し、モンスターボールに大人しく入らせる。捕獲に関しては本当に便利な能力だ。

 12体のタツベイとマンキー、ヤングース四体のポケモンを捕まえた。他にも転がっているタツベイをモンスターボールに収めようとしたら、残りが一斉に鳴いて遠くから咆哮が聞こえてくる。

 

「撤収準備。貴女達、私についてきたら強くしてボーマンダにしてあげる。くる?」

 

 残っている子達にも聞いてあげる。タツベイ達は地べたを這いずりながら、こちらにやってきて見詰めてくる。モンスターボールを差し出してあげると自ら入っていく。なんていうことはない。こちらの実力を示せばちゃんと仲間になってくれる。特に好戦的な子達はこれができるのでいい。ポケモンといえど野生動物のようなものなので、強いことはステータスになると思う。一部、残る子達はいるけど問題ない。その前に捕まえた子達もいるし。私はアニメの主人公のように甘くも優しくもない普通のポケモントレーナーだ。捕まえた後はしっかりと育てるつもりだし、無責任に捨てたりはしない。ちゃんと里親を探す。でも、それは捕まえる前は例外だ。

 

「さて、戻りますよ。ボーマンダと戦うのはきついし、にっげろー」

 

 モンスターボールをトランクケースに仕舞ってから、メルクの背中に飛び乗って逃げる。メルク達を捕まえる時と少ししか変わっていない。一日でそんなに強くなれるはずもないし。

 しかし、思ったよりも時間が経ってない。これからのことを考えるとアレも居る。エーテルハウス、寒そうだし暖房役も確保しましょう。

 

「進路をアーカラ島にお願いします」

「ガッ」

 

 ヒノヤコマやファイアローとならまだ戦えるかもしれない。ボーマンダはこっちの防衛を平気で貫通する火力を持っているけれど、この二匹なら、どうにかできると思う。怪我してもいいから戦ってみるか。

 ただ、四倍の弱点である岩タイプの技って誰か持ってたっけ。誰も持ってない。それにメタングは弱点として炎がある。飛行は半減だけど。まあ、大丈夫か。土の弾幕を用意してもいいし、考えている方法もある。

 

「見付けたっ!」

 

 ファイアローは基本的に単独かつがいで行動しているため、仲間を呼ぶ心配もない。しかも色違いで全部が赤い。身体も凄く大きい。むしろ、なんか絶対ヤバい奴だ。

 全長は1メートルと低めだけど、全身が炎に包まれている。空を飛ぶと、その跡には火の道ができている。どう見てもやばい。というか、本当にファイアローなのか? 炎を身に纏って飛んでいるからファイアローだと思ったけれど――

 

 

 そ い つ と 目 が あ っ た

 

 

 ――やばい。そう思った瞬間、あちらは体勢を変えてこちらに身体を向け、尋常じゃない加速で突撃してきた。

 

「避けてっ!」

 

 メルクが磁力を使って一機に下がる。だけど、相手はもっと速かった。次元が違う。音を置き去りにして突撃してきたのだ。軽く横を通り過ぎるだけで吹き飛ばされ、燃やされかけた。メルクも私もバリアでどうにか防いだから大丈夫だったけれど、やばすぎる。

 

「っていうか、どう見てもファイアローじゃないっ!」

 

 すれ違った一瞬だけど、相手は文字通りの炎の鳥。伝説ポケモンから準伝説ポケモンへと格下げされたポケモン。

 

「確かに炎と鳥タイプのポケモンなんだけど、なんでここに居るのっ、ファイヤー!」

 

 相手は海面すれすれになると、水分を蒸発させながら更に加速していく。そのまま90度で上に上昇していく。高速移動にニトロチャージ、ゴットバードは最低でも使っているのだろうか、相手との速度が違い過ぎて話にならない。

 これはまずい。逃げることもできそうにない。勝ち筋はあるんだろうか? いや、生き残ることを優先に考えないといけない。まずは弾幕を展開して相手の動きを封じる。幸い、下は海だ。水はファイヤーの苦手とするところのはずなので、海面まで下がって弾幕を展開する。

 

「メルク、海面ギリギリまで降下っ! 最大速度! 海の中に入ってもいい!」

「がぁっ!」

 

 海面まで最大速度で地面に落ちる。浮きそうになる身体をメルクに掴ませ、私は空中に機雷に見立てて弾幕を配置してく。制空権を取られるのはまずい。でも、速さが違い過ぎて対応できないのだから仕方がない。

 マザー率いるメタモン達がファイヤーに変身させられればまた違うかもしれないが、変身できるかはわからない。それに変身しても対応されるかもしれない。それならまだ出さない。

 相手のファイヤーは空で停止、日本晴れを使ったみたいで周りが急激に晴れになって熱くなる。陽射しが強くなり、炎の技が1.5倍、水の技が0.5倍となった。これはまずい。こっちの威力が低くなりすぎる。

 

「メルクっ、雨乞い!」

「??」

 

 ちっ、覚えていないか。これはどうしよう。本当にまずくなってきた。そうこうしているうちに飛んできたので全力でバリアを展開する。ファイヤーはこちらの弾幕を羽をたたんで避けたり、炎の噴射で軌道を変えて避ける。全てを回避してこちらに来ながら口から数メートルはあろう炎の塊を放ってくる。それを電磁浮遊と高速移動で回避する。そして、ファイヤーが突っ込んでくる直前に移動してバリアに直撃させる。バリアは破壊されるけれど、それなりのダメージを反射する。それに加えて特攻でダメージを負ってくれてたらいいなぁ。

 海面に到着したので、魔弾を海水を使って生成して上海と蓬莱と共に放っていく。それでも相手の熱量にまけて途中で蒸発していく。しかし、温度を下げることはできる。

 ただ、ファイヤーはこちらに向かって炎の渦を放ってきた。周りの海面が一気に炎に包まれて服が燃えて、肌が焼け爛れてくる。そんな中で突撃してくるファイヤーに向けて指示する

 

「メルク、サイコキネシス!」

 

 メルクのサイコキネシスでファイヤーの動きを阻害する。なんとか速度が落ち、そのタイミングに合わせてバリアを展開した。これで反射ダメージを与えようとしたら、口を開けてソーラービームを撃ってきた。日差しが強いのでチャージは即座に終わり、それが反射される。だが、ファイヤーは気にせず突撃してきて、避ける暇もなく身体に激突され、全身を焼かれていく感触がする。熱いと思ったら痛みに変わる。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 激痛で叫び声を上げるなか、魔術刻印を総動員させて再生させる。焼かれると再生を繰り返す地獄だ。でも、()()()()()()()()()()()()。だから、激痛の中で歯を食いしばりながら、黄衣の外套を着ている部分で抱き着いて動きを止める。

 これが多分、最後のチャンス。だから、蓬莱と上海に想いを伝える。二体はちゃんと私の指示通りに私達を包んで一緒に海に突撃していく。下に居たメルクが離れて迂回し、上空に移動したら上から圧し掛かるようにして加速して私達を海に押し入れていく。どうやら、メルクも私の意思を受け取ってくれたようだ。流石はエスパータイプ。

 黄衣の外套の部分は燃えないし、熱くもならない。流石は神器。これさえあればファイヤーだってどうにかなるかもしれない。

 そのまま海面に激突し、海の中へと入っていく。当然、全力でファイヤーも抵抗して身体から炎を出していくが、こちらも放すつもりはない。周りが水泡に溢れて沸騰していく。

 だが、気にしない。黄衣の外套以外の場所に何度もバリアを展開しては壊され、再生して張り直すを繰り返す。酸素もなく、魔力もどんどん減っていく。

 

「「っ!」」

 

 上海と蓬莱が私の腰からモンスターボールを取り出して、中からメタモン達を出してくる。マザーがギャラドスにになり、一斉に背後からハイドロポンプを放ってファイヤーに当てていく。

 ファイヤーが身に纏う炎は海水をどんどん蒸発させていくが、海水が戻ってくる量の方が多い。

 口内や食道などが火傷して行く中、ファイヤーの炎がどんどん消えていく姿に嬉しくなってくる。私は激痛に苦しみながら、死にかけているが、相手もそれは同じ。流石に母なる海には勝てまい。

 余裕が少し生まれたので、我慢しながら空のモンスターボールをファイヤーに当てるが、入りもせずに弾かれてしまった。どうやら、まだ諦めないようだ。

 これで捕まえたかった。次第に意識が朦朧としてきているし、魔力ももう底をつきかけている。でも、こんなところで死んでいられない。必ず生きて帰る。私にはイエローさんやお母さん達が待っているのだから。それにアセロラも待ってくれているかもしれない。だから、諦めてなんてやらない。

 

 私に従えっ!

 

 意思を込めてファイヤーを見詰め、魅了の魔眼を使う。ファイヤーの返答は至近距離から光る嘴による攻撃だった。その一撃を受ければ死ぬ。そう思うような一撃だ。

 死ぬ。そう思った瞬間、上海が槍を持って突撃してくる。が、ファイヤーの翼で弾かれる。間髪入れずに、上海の後ろから迫っていていた蓬莱が彼女にとっての両刃の大剣でファイヤーを攻撃する。顔を打ち付けられ、軌道がそれた攻撃は私の顔のすぐ横を通っていった。その直後、水が一部弾け飛んだ。準伝説のくせに化け物すぎる。

 ほっとしながらもう一度モンスターボールを放つ。今度は入ってくれた。どうせでてくると思うので、次の準備をする。ギャラドス達に締め付けさせる。その上からメタングを出してサイコキネシスでボールを押さえつける。その間に急いで呼吸しに外に戻る。

 

「ぷふぁっ、息するだけでも痛い……しかも周りも熱いし……」

 

 酸素を補給し、トランクケースから人形達とモンスターボールを取り出してからまた潜る。ファイヤーはすでにボールから抜け出して、水中で大暴れしていた。本当に出鱈目すぎる。

 仕方ないので、このまま捕まえにかかる。人形四体も合わせて五回だ。これでいい加減捕まって欲しい。だが、悉く出て来た。

 ファイヤーの身体全体が光っていく。そして、直後に高速回転して水や砂を掻きまわしていく。原始の力、暴風を使ったのだろう。水中でそんなことをやれば渦が発生して振り回される。

 メルク達に指示をしてサイコキネシスで押さえさせ、マザー達には噛みつかせる。歯をしっかりと食い込ませれば自分の力で更にダメージを増やしているだけだ。外れたら駄目だけれど、ギャラドスなら大丈夫だろう。

 そして、渦ということは上からなら接近せずにモンスターボールを当てられる。三回目の正直として投げたけれど、私のは外れた。その時、外れたモンスターボールを上海と蓬莱が二人でキャッチして飛んでいく。

 ファイヤーは口を開けてこちらに向く。その口の中には太陽の光が収束していく。バッと慌てて振り向けば私達の上には日本晴れの青空が広がり、太陽の光が降り注いでいる。渦によって水を飛ばされていたのが、バリアを展開していたせいで気付かなかった。

 このままじゃ上海と蓬莱が死んじゃう。それだけは絶対に嫌だ。だから、必死に考える。私にはそれぐらいしかない。今は魔力もほとんど無くて使えるのはバリアだけ。それも今展開しているものぐらいで……あ、そうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なら、反射すればいい!」

 

 太陽の光をバリアで反射する。ファイヤーよりも私が上に居て太陽に近いからこそできる方法。太陽の光を反射すれば何も見えなくなるけれど構わない。後は上海と蓬莱に任せればいいのだから。

 

「ホラーイ!」

 

 蓬莱の叫び声が聞こえ、ファイヤーの断末魔のような叫び声が木霊する。

 

「シャン、ハーイ!!」

「メタァァッ!」

「ガァッ!」

 

 そして、上海達の勝利の雄叫びのような声が聞こえてきたので、恐る恐るバリアを解除して視界を戻すと、海底まで見える渦の中心で光に包まれていくファイヤーの口の中に剣を突っ込んだ真っ赤なオーラを身に纏う蓬莱と、モンスターボールを口の中に突き入れて当てていた上海の姿があった。

 周りにはメタング達がいて、水中で砂嵐を使った後に暴風。これによって弾丸のようになった砂でボロボロになったポケモン達はみな、なんとか生きていた。

 

「勝った?」

「シャンハーイ!」「ホラーイ!」

 

 ファイヤーはモンスターボールの中に吸い込まれ、カチッという音がして出てくることはなかった。でてきた瞬間、蓬莱によって喉を突き刺されるという現状を考えれば当然かもしれない。

 

「と、とりあえず、ファイヤーゲット! って、皆急いで上がってきて!」

 

 ファイヤーが居なくなったことで暴風も解除されて海水が押し寄せてきている。私も慌てて下に行ってトランクケースを回収。モンスターボールに皆を戻してから上海と蓬莱と共に外に出る。

 間に合わない。戻ってきた海水に飲み込まれそうになったので上海と蓬莱をトランクケースに入れて必死に掴んで激流に身を任せる。魔力なんて枯渇寸前だから、これで死ぬかも知れない。そう思っていたら、赤いギャラドスがやってきて私を飲み込んだ。

 不安に思ってギュッとトランクケースを抱きしめていると、吐き出されて身体が打ち付けられる。

 

「ハーイ、アリスちゃん。数日ぶりね?」

「あ、どうも……助かりました……」

 

 相手はエリートトレーナーのお姉さん。しかも激おこぷんぷん状態。よく見れば他にも沢山のトレーナーがいた。

 

「アーカラ島付近の海上で爆発や炎の光線を見たという目撃証言が多数寄せられたの。相手は炎を纏った鳥で、見た事はないらしいのだけれど……どうなったの? こっちからじゃよく見えなかったのよ」

 

 私は無言で指でピースサインを作ってから、そのまま力が抜けて腕を船の甲板に落とす。

 

「それ、提出する気は?」

「……ない、です……これ、私の……」

「でしょうね。後で確認だけさせてね」

「……はい……」

 

 もう疲れたので眠る。この人はきっと信頼できると思うし。

 

 

 

 

 

 目が覚めたらアーカラ島の病院だと思う場所で眠っていた。身体中には包帯が巻かれていて、点滴も打たれている。服も病衣に変えられていて、口には酸素マスク。あの恥ずかしい場所に管が入れられている。どう考えても集中治療室です。ありがとうございました。

 

「痛っ」

 

 身体を動かそうとすると火傷や筋肉痛で凄い痛みが襲ってくる。意識してみると、魔力不足だったのと、魔術刻印が連続発動でオーバーヒートしてしまったみたいで発動していない。でも、これなら魔力を流せば元に戻るはずなので、大丈夫。苦しいからさっさと魔力を流して回復をはかる。

 周りに漂っている炎属性が強いマナを吸い込み、魔術刻印に流して身体を中から修復していく。肌も色々とやばいことになっていたのが、みるみる生まれたての綺麗な赤ちゃん肌に逆戻り。

 再生している間に周りを見渡してみると、トランクケースが近くに置かれていた。その上には上海と蓬莱が武装した状態で仁王立ちしており、その周りに他の人形達も円陣を組んで守っていた。

 

「おはよう」

「シャンハーイ!」

「ホ、ホラーイ!」

 

 二体は私に抱き着いてきて、身体を擦りつけてくるので撫でてあげる。嬉しそうにしながら甘えてくる二人は本当に可愛らしい。

 しばらく撫でていたら再生が完了したのか、身体が凄く楽になった。そうなると邪魔なので酸素マスクを取り外し、腕に取り付けられている点滴を上海と蓬莱に抜いてもらおうとして止めた。この子達は点滴が何かわかっていないだろうし、自分で抜こう。

 

「っ」

 

 ちょっと痛かったけど無事に抜けた。上海と蓬莱は心配そうにしてくるけれど、大丈夫だ。傷もすぐに修復が勝手に始まって綺麗になる。

 

「はい、もう大丈夫だよ」

 

 こくこくと頷く二人を見てから、最大の問題に入る。次に抜くのは尿を出すためのカテーテル。見るのは嫌なので慎重に引き抜くが、こちらは上海と蓬莱に頼もう。

 

「ゆ、ゆくりと引き抜いてね」

「ほ、ホラーイ」

「シャンハーイ」

「あっ、んっ、んんんっ!」

 

 二人に引き抜いてもらうとくぐもった変な声が勝手に出る。無事に抜けたカテーテルは綺麗なままで水滴なんて……ついていたけど気にせずしまう。食事は摂ってないけれど、水分は紅茶をとってたしね。点滴はどっちに分類されるかはわからない。

 恥ずかしかったけれど、一番の問題は大丈夫だったのでベッドから降りて立ち上がってみる。トランクケースを開けて着替えを取り出す。何時ものアリスの服はあるけれど、今は別の服にしよう。アリスお母さんが用意した凄く可愛らしい服ではなく、シンプルな白いワンピース。こちらもお母さんが用意しただけあってフリルがあしらわれているけど地味な部類になる。これを着るために病衣を脱いでいくと、下半身が凄い事になっていた。アレを履いていた。男としても、女としてもこれはアウトだ。下着も新しいのを用意して着替える。

 幸い、食事はしていないので汚れていない。アリスちゃんは魔法少女だから、アレはしなくていいのだ。言ってみたが、あながち間違いではない。アリスちゃんは魔法使いの少女だからな。

 

「どうでもいいか」

 

 ようやく、恥ずかしさも落ち着いてきたので思考を変える。まずはトランクケースを開けてモンスターボールを確認する。みんなちゃんとあるが、何個の空ボールは回収できていない。こればかりは仕方がない。ただ、皆がほぼ瀕死だったり、怪我をしていたりする。特に捕まえたファイヤーだ。確認するとちゃんと居てくれたのでほっとする。命を懸けて捕まえたのに、これで逃げられたり奪われたりしたら困る。

 しかし、これで次に行く場所が決まった。ポケモンセンターだ。回復をしないと話にならない。

 さて、行く場所も決まったので壁にかけられていた黄衣の外套を身に纏う。そこでふと思った。魔理沙お母さんが渡してくれた帽子も被れば完全に魔法少女じゃないだろうか。流石に恥ずかしいからいいか。

 

「行くよ」

「シャンハーイ」

「ホラーイ」

 

 二体が私の肩に座ったのを確認して扉を開けて廊下に出る。それから外に向けて移動していくと、看護師さん達がいるナースステーションに到着した。現実にはポケモンセンターだけでなく、ちゃんと人間用の病院もあって助かるね。ないと困るのだけれど。

 

「お世話になりました」

「あ、はい。お元気で」

 

 しっかりと挨拶をしてからエレベーターホールに向かうと、丁度やってきた。エレベーターからは白い帽子を被った男性が降りてきたので、軽く会釈だけして中に入ってボタンを押す。

 エレベーターで一階に降り、ふと会計がどうなっているのかと思ったが……今はポケモンセンターに行くことを優先しよう。後で支払いにくればいいだろう。あ、保険証とか持ってないけど、お金大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

「すいません、私はこういう者なのですが、海で保護されて担ぎ込まれた少女がいるって聞いたのですが……」

「はい、確かにいます。今も集中治療室で……」

「案内してもらえますか? 許可は取っていますから……」

「すいません、面会できる状況では……」

「いえ、彼女の傍にいる新種のポケモンについてなのですが……」

「駄目です」

「たっ、大変よっ! 259号室の患者さんが居ないわ!」

「まさかっ!」

「いや、私じゃないからね。今来たところだから」

「さ、探さないと! とても動ける状態じゃ……」

「特徴を教えてくれるかな? ボクの方でも探すよ」

「わ、わかりました。では……」

「あれ、その娘ってさっきエレベーターホールですれ違ったけど……」

「いや、そんな動ける怪我じゃないですよ。全身火傷にあばら骨が何本も折れていて……」

「じゃあ、もしかしてボクが見たのって……」

「ふふふふ」

「あははは」

「追ってください!」

「任された!」

 

 

 

 

 

 




アンケートの回答、アリスの知らせありがとうございます。大変助かっております。

 今回のダイス紹介となんでファイヤーさんがいるの? について説明します。
まず、ファイヤーさんがファイアローの代わりになった理由ですが、ダイス目が97.致命的な失敗です。はい、致命的。そこでファイアローさんの炎飛行から、同じタイプのファイヤーさんにでてきてもらいました。本当はクトゥグアにしようかと思ったのですが、これ、アーカラ島が終わるじゃん。
ということで、旅をして火山に立ち寄ったファイヤーさんです。
このファイヤーさん、伝説の鳥(笑い)なんてつけられるレベルじゃないです。個体値でクリティカルではないですが、スペシャル、14くらい出しました。なのでレベルも高レベル。実力も高い。致命失敗も合わせて技の掛け合わせくらいなんのその。
海に叩き込まれても海水を吹き飛ばすことすらできます。でも、所詮は神でもない伝説の鳥さん。神器である黄衣の外套を壊すことなんて無理です。飛行タイプが風の旧神であるハスター様のお力に勝てるはずがなし。壊せないので捕らえることができます。ここで行為判定にクリティカル。それまで悉くフィフティーフィフティーで失敗してたのに、ここで成功。そのまま海にドボン。ここからは出目勝負。五回までの捕獲チャンス、失敗したら死亡。クリティカルしないと捕まえられない。
一回目は一人、二回目は判定成功で人形を使ってモンスターボールを投げる回数、増やすも失敗。三回目にアリスが失敗して、上海と蓬莱がクリティカル。上海と蓬莱がファイヤーを手に入れました。

コロシソコネチャッタ

まあ、本番はグラードンとかだしね! どこまで激しくしようかなあ。今回はフィフティーフィフティーだから、八割失敗かなぁ? ファイヤーがいなければ1割。10以下じゃないと失敗するという鬼畜難易度。どこまで補正を上げられるかが勝負ですね。


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ポケモン世界のアリス

 

 

 

 やってきましたカンタイシティのポケモンセンター。上から見るとモンスターボールの形をしている特徴的な円形の建物。自動ドアを潜って中に入ると、広々としたエントランスになっており癒しの空間(?)が広がっている。とりあえず、ポケモントレーナーや研究者の人達がポケモン達と一緒に寛いでいるのは事実なのでいい。

 

「カンタイシティ、ポケモンセンターにようこそ。ポケモンの治療、またはご宿泊、お食事ですか?」

「ポケモンの治療をお願いします」

「かしこまりました」

 

 定型文みたいなやり取りをしながら、沢山のモンスターボールとトレーナーカードを差し出してお願いする。

 

「それと飲み物だけ貰えますか?」

「大丈夫ですよ。こちらが券になります」

「ありがとうございます」

 

 ポケモンを預けてから、併設されているレストランの方に移動する。紅茶を淹れてから席に座り、トランクケースから人形達を取り出す。どの子もボロボロで、修理が必要だ。むしろオーバーホールがいるレベル。流石にあの状況で突撃させたため少なくないダメージが入ったのだろう。

 とりあえず、上海と蓬莱は流石はアリスお母さんが今持てる全ての技術で作ったとか言っていたような気がしないでもない子達。ダメージはそこまででもない。それでもパーツの摩耗や服は駄目になっているので予備パーツで修正する。他の人形達は総入れ替えだ。

 整備道具を使って、上海と蓬莱の身体を交換していく。二体とも嬉しそうに両手を上げて喜んでいる。私は使ったパーツをメモ帳に書き出し、新しく作らないといけない人形のパーツとその材料を調べて購入リストを作っていく。人形作りってやっぱりお金がいる。どうにかして稼がないと……

 

「すまない。君がアリスちゃんかな?」

「だっ、誰ですか……」

 

 声がした方を向くと、そこには褐色の肌にサングラス、半裸の上から白衣を羽織る独特のファッションセンスをした20代から30代前半と推定される男性がいた。

 ここがアローラ地方でなければ変態扱いしても問題ない恰好だ。このアローラ地方は常夏の島なので温かいというより、むしろ熱い感じだ。なので水着姿のような恰好をしている人は少しは居ると思われる。

 

「ボクはククイ。ポケモンの研究をしている」

 

 ククイ博士。彼はメレメレ島のハウオリシティの外れに研究所を構えている。研究所の外観はかなりボロボロだが、中はかなりの設備が整っており、地下室が研究スペースになっていたはず。その他ヨットも所有しているので、お金はあると思われる。

 彼はポケモンの技についての研究に熱心であり、時には自らポケモンの技を受けることもあるというドMの可能性すらある人物である。

 

「その博士が何の御用でしょうか?」

「君、病院を抜け出しただろう」

「ポケモン達に治療が必要でしたから」

「そうか。それはいい。彼等も治療しようとしたのだが、そこのポケモン達が妨害してきてできなかったらしいんだよ」

 

 ククイ博士が上海と蓬莱のことを指差して伝えてくれる。目覚めた時の様子から、トランクケースと私を死守してくれていたのだろう。ファイヤーが盗まれる可能性すらあったので、その方がいい。

 

「この子達が……よく頑張りました」

「シャンハーイ」「ホ、ホラーイ」

 

 二体が手を挙げて喜んでいる。それを見てなんとも言えないような顔をするククイ博士。

 

「博士の目的は私が捕まえたポケモンですよね?」

「それもないとはいえないが、まず病院に戻ろうか。君はわかっていないかもしれないが、重症なんだ。それも命が関わるような……」

「それならもう治しました」

「え?」

「いやいや、そんなはず……」

「この通り、元気です」

 

 腕を力んで見せる。必死に目を瞑って力こぶを作ろうとしたけれど、できない。

 

「いやいや、聞いた限り全身大火傷で、まともに動くことも望めないかもしれないと……」

「それであっていますよ。でも、治しましたから」

「そ、そんなことが可能なのか?」

「私、こう見えてもサイキッカーですから」

「サイキッカー……確か、特殊な能力を持つ者達だったね」

「はい。自分の治療限定ですが、強い回復力を持っています。だからこそ、捕まえることができたのですが……」

「ポケモンの自己再生みたいな物か」

「そうです。その解釈で間違いありません。なっ、なんなら実演してみせましょうか……?」

 

 痛みを想像してちょっと涙目になりながら伝える。

 

「いや、それには及ばないよ。でも、検査だけは受けた方がいいからね」

「検査ですか……」

 

 検査と聞いて嫌な顔をする。私の遺伝子情報ってどうなっているんだろうか? 心は人のつもりだが、身体は魔法使いの物で、少なくとも三人のアリスが混ざっている。そんなDNAなんて……って、やばい。これはちょっと魅了の魔眼を人に使うのを解禁して、私の血液を処理しないといけないかもしれない。

 

「ホラーイ」

「え?」

「シャンハーイ」

「あ、ありがとう」

 

 二人からなんとなく意思が伝わってくるし、身振り手振りで教えてくれた。それによると、採血とかはされていないようだし、着ていた服とかも全部回収済みとのこと。良かった。これから気をつけないと。ミュウツーみたいなの造られたら困るし。

 

「嫌かい?」

「はい。検査は遠慮しておきます。それで他にご用件はあるのでしょうか?」

「ああ、ある。君が捕まえたポケモンをボクに見せてくれないだろうか?」

「ポケモンですか……」

「もちろん、その子達を含めてね」

 

 ククイ博士は蓬莱と上海も調べたいみたいだ。確かに人形が動くのなんてポケモンぐらいしか考えられないだろう。でも、調べたらこの子達はポケモンじゃないとわかるし、これはばらしても大丈夫だ。問題はファイヤーのことだ。これを教えるのは大丈夫だが、無料で教える訳にはいかない。

 

「代価はなんですか? 流石に無料というのは遠慮したいです」

「それはそうだね。ポケモン図鑑をあげよう」

「ポケモン図鑑……」

 

 欲しいか欲しくないかと言われたら、欲しい。でも、今はお金の方が欲しい。

 

「図鑑は要りません。ですので、ファイヤーのデータでお金をください」

「お金か……」

「はい。人形作りにはお金がかかります。ああ、島でもいいですよ。捕まえたポケモン達を世話する場所が要りますから」

「島は流石に無理だなあ……」

「ですよね。というわけでファイヤーのデータは売らせて頂きます」

 

 まあ、レッドさん達にすでにデータを取られているから、そこまでの値段にはならないはずだ。

 

「実物を見せてくれるかな?」

「構いませんよ」

「その子達に関してはどうだい?」

「この子達はポケモンじゃありませんよ」

「え、違うのかい?」

「はい。この子達は私の力で操作しているだけです。ポケモンのサイコキネシスと同じです」

 

 上海と蓬莱が机の上でスカートを掴んでペコリとお辞儀をする。それにククイ博士は驚愕の表情をしている。

 

「だ、だが、この子達は君が気絶している間も動いていたのだが……」

「それはそうですよ。私が直接操らなくても、ある程度自動で動かせるようにしていますから」

「それ、ポケモンになってないかい?」

「……否定はできませんね。古代の人はマギアナとかレジギガスとかを生み出しているんですから」

「作り方に凄く興味があるが、一応はポケモンとして登録しておかないか?」

 

 計画通りにすすめば、魔改造したジュペッタを登録することになる。でも、上海と蓬莱は登録しないようにしておこう。

 

「やはりお断りします。ファイヤーだけでお願いします」

「わかった。それでいいよ。それでファイヤーは?」

「今、治療してもらっています」

 

 ジョーイさんの方に視線をやると、ジョーイさんの方にタブンネがモンスターボールが入った台を持ってくる。ジョーイさんはタブンネと合流してからこちらにやってきた。

 

「お預かりしたポケモンは皆さん、元気になりましたよ」

「ありがとうございます。バトルフィールド、借りていいですか?」

「構いませんよ」

「助かります。ククイ博士もいいですよね?」

「ああ、構わないよ」

 

 それから、タブンネに案内されてバトルフィールドに移動する。外にあるバトルフィールドでは他のトレーナーが戦っていたりもするが、空いている場所を探す。別に広い場所ならいいので、バトルフィールドじゃなくてもいいのだ。

 

「あそこにしよう」

 

 ククイ博士が見つけた場所に移動し、そこでバリアを展開してからモンスターボールを投げる。

 

「出てきて、ファイヤー」

「ギャァァァッ!」

 

 出て来たファイヤーは全身に炎を纏い、こちらを威嚇してくる。なんてことはなく、いきなり炎を放ってくる。

 

「うぉっ!」

「予想通りですよ」

 

 バリアで防いでいる間にモンスターボールのスイッチで中に戻す。

 

「まあ、見ての通りです。ファイヤーは私に従いませんので、調べるのも命懸けです」

「これはまた……」

「まあ、無理もありません。博士は私が倒した方法を知っていますか?」

「いや、知らないが……」

「海に叩き落し、水中戦をしました」

「え?」

「ファイヤーにとってあの敗北は認められないのです。私は実力で勝ったのではなく、フィールド効果で勝ちましたからね」

「海に叩き落したのか。それは怒るな」

「それでも勝ちは勝ちです」

 

 おそらく、準伝説ポケモンや伝説ポケモンはプライドも高いし、しっかりと一対一で倒さないといけないのだろう。面倒だ。

 

「確かにそうだが、これはデータなんて取れそうにないな。どうするつもりなんだい?」

「私の知り合いに預けて教育してもらい、私が使いたい時に借りるという感じにしようと思っています」

 

 ファイヤーは火の鳥。だからこそ、彼女に預ける。不死にして炎を操る能力を持つ少女。八雲紫を通して、報酬としてファイヤーを渡せば手伝ってくれると思う。期待はできないけれど、大丈夫だろう。

 

「そうなんだね。だが、もったいないと思わないのかい?」

「思いません。私には使えませんから」

「そうなの?」

「だって、人形が燃えるじゃないですか! そんなのありえません!」

「あ、はい」

 

 わかっていないククイ博士にたっぷりと言って聞かせる。人形の素晴らしさについて、70分ほど話したらもういいと言ってきた。後、80分くらいは話せそうだけど、仕事があるらしいので仕方がない。

 

「お金は渡せないが、ファイヤーを見せてくれたし、何かプレゼントしよう」

「それなら、変わらずの石が欲しいです」

「わかった。用意しよう」

「ありがとうございます」

 

 これで後はファイアローかヒノヤコマを確保するだけでいいです。しかし、着実に孵化厳選の準備は整ってきています。

 

「そういえば治療費とかいくらでしょうか?」

「わからないから、病院には一番行かないといけないよ」

「はい。今から行ってみます」

「それがいいだろう」

 

 ククイ博士と別れた後、私は病院に移動してから事情を説明し、たっぷりと怒られた。治療費用は結構な値段になってしまったけれど、ほぼ自力回復なので払えないレベルではない。ただ、手持ちがアレしかないのでお土産は沢山用意しないといけなくなった。まあ、ファイヤーを渡すので大丈夫なはず。それにほとんどのポケモンを渡すだろうし、手元に残すのは移動用としてメタングくらいか。八雲紫と相談しないといけないけれど、メルクとマザーは向こうに預けることになるだろうし。うん、ジュペッタを早く手に入れないと。

 

 

 

 




ファイヤーさんは扱えません。トレーナーレベルが足りません。少なくとも自力で通常バトルして勝たないといけません。
後、人形好きのアリスにとって燃やしそうなファイヤーはNG。今の所は。
ファイヤーさんは東方のあの方のパートナーになります。ちなみに彼女がトレーナーになった場合、ファイヤーさんは三倍ほど強くなります。プレイヤーの支援という名の炎増強されるからです。彼女が気になる人は東方、焼死しない人間で調べてみましょう。まあ、次の東方世界でだしますけどね。


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ポケモン世界のアリス

 病院での支払いを終えてからアーカラ島をメルクに乗って探索し、今度こそヤヤコマとヒノヤコマを確保する。群れで行動はしていないので11体ほど確保して諦めた。

 その後、お昼を過ぎた辺りで切り上げてウラウラ島の15番水道にあるエーテルハウス。そこに時速100キロで空中を移動し、やってきた。孤児施設の前に降りメルクをボールに戻してチャイムを鳴らす。

 

「は~い。あ、アリスちゃん! 昨日来るって言ってたのに、来なかったらから心配してたんだよ!」

「ごめんなさい」

 

 出て来たのはアセロラで、私はしっかりと謝る。私が悪いのはちゃんと分かっているから。

 

「まあ、いいよ。ほら、入ってきて」

「お邪魔します」

 

 エーテルハウスの中に入り、案内してもらう。このエーテルハウスには孤児になった子供やポケモン達がいる。

 

「大人、居ないね」

「たまに来るけど、あんまりいないよ」

「あ、アセロラお姉ちゃん、ユ-ナが泣き出しちゃった!」

「わかった。すぐ行くから待ってて」

「うん!」

「アリス、ごめんね。ちょっと行ってくるから、ここで待ってて」

「うん、わかった」

 

 食堂に通され、そこで座って待つ。ただ、手持ち無沙汰だったので、トランクケースの中からアリスお母さんが入れてくれていたティーセットを取り出し、ポットに魔法で水を作り、温めて紅茶を淹れる。ティーポットに入れてからしばらく蒸らし、カップは両手で魔法を使って温める。

 ついでに上海と蓬莱も出して、紅茶を淹れるの手伝ってもらう。ついでなので、アセロラの分も用意する。ティーセットの他にもクッキーがあったので取り出していると、視線を感じて振り返る。そこにはジーとこちらを見ている女の子が二人。二人の女の子はボロボロのぬいぐるみを抱きながら、上海と蓬莱を見ている。

 

「人形さんが動いてる……」

「私のも動くのかな?」

 

 私は女の子が持っている兎のぬいぐるみに魔法の糸を取り付け、操作していく。

 

「わっ、動いた!」

「本当だ!」

 

 ぬいぐるみを動かして、女の子の手の中から抜け出させ、テーブルの上に浮かせてクッキーを掴ませようとして止めた。汚い可能性があるから、普通に上海と蓬莱の二体と遊ばせる。

 

「クッキー、食べる?」

「いいの?」

「食べる~」

「じゃあ、手を洗っておいで」

「「は~い」」

 

 二人の女の子が手を洗いにいったので、紅茶を追加で用意する。操っていたぬいぐるみをみると、解れていたり継ぎ接ぎだらけだったりしているのが気になる。

 

「ただいまー」

「くっき~」

「はい、どうぞ。紅茶もあるから飲む?」

「「飲む~」」

「砂糖もたっぷり入れましょうね」

「「は~い」」

 

 二人の女の子を世話しながら、人形劇の練習がてら三体のぬいぐるみで遊ばせていく。それを見た女の子達は喜んでくれる。

 

「ごめん、お待たせ……って、お茶会?」

「マッドティーパーティーにようこそ」

 

 兎のぬいぐるみで手を上げさせ、アセロラを誘う。アセロラは泣いている女の子を連れてきた。彼女は腕の取れたぬいぐるみを持っている。

 

「これって……」

「待ってる間、暇だったから用意したの。迷惑だった?」

「ううん、アリスがいいならいいよ。私もお呼ばれしていいんだよね?」

「もちろん。そっちの女の子も」

「ありがとう。ほら、あなたも」

「ありが、とう……」

 

 泣いている女の子をアセロラが椅子に座らせ、クッキーを食べさせていく。

 

「それでどうしたの?」

「えっと男の子とぬいぐるみの取り合いをして千切っちゃたの」

「そうなんだね。男の子はいないみたいだけど……」

「今はポケモンと外で遊んでるよ」

「なるほど……まあ、取り合えず貸してみて」

「うん」

 

 受け取ったぬいぐるみを綺麗に治していく。同時に上海と蓬莱も動かしつつ、人形劇っぽいのもやっていく。アセロラ達も人形劇に夢中になっていたので、しばらく遊ばせていた。

 

 

 

 

 人形劇が終わり、治療したぬいぐるみを女の子に渡した。

 

「えっと、それじゃあ部屋に案内するね。アリスの両親のことはエーテル財団の人達も探してくれているから」

「ありがとう」

 

 意味の無いことなのに、いろんな人に手間をとらせて心苦しい。私の素性なんてこの世界にはない。私は世界と世界を渡る旅人だから。

 

「ついたよ。この部屋を使って」

「うん、使わせてもらうよ」

 

 部屋に荷物を置いて、トランクケースから沢山のモンスターボールを取り出していく。

 

「いっぱいのモンスターボールだね。もしかして、その中にポケモンがいっぱいいるの?」

「そうです。この子達を貸してあげますから、訓練するといいでしょう」

「でも、危なくない? それに何かあれば私が守るし」

「アセロラ一人じゃ守り切れませんよ。それに子供達も自衛するための戦力は必要です」

「それは……」

「相手も集団で来ますからね。それにアセロラも一緒に強くなればいいんですよ」

「わかったよ」

 

 まだ納得していないみたいだけど、これでいい。しばらくお世話になるので、子供達に挨拶をしてから庭にファイヤーとメルク、マザーを除いたポケモン達を放つ。その子達にはしっかりと子供達の言う事を聞いたり、子供に危害を与えないように言い聞かせる。

 メタングに子守りを任せて子供達にバトルの仕方を教えていく。タンバル達は突進しかできないし、小さな子供達でも戦える。他のポケモンは技も増えるのでしっかりと教えていく。事前にこの子達は人に向けてポケモンの攻撃をしたら駄目だと教えてあるので、大丈夫だろう。

 

「アセロラは何かポケモンを持ってるの?」

「私はこの子、おいでミミたん」

 

 アセロラの声に反応して出て来たのは色違いの白いミミッキュ。アセロラの傍でふわふわ浮いている。性別はおそらく♀で、纏っている布にツギハギがあり、耳元に花を飾っている。

 

「その子は?」

「この子はミミたん。ミミッキュの幽霊だよ」

「きゅ~」

「浮いてるけど、ポケモン?」

「それを言うなら、その子達もだよ?」

「それもそうだね」

 

 上海と蓬莱はミミたんと楽しそうに空中を飛んで遊んでいる。しかし、幽霊って戦えたっけ?

 

「幽霊なのはわかったけれど、戦えるの?」

「あ~物理的な攻撃はすり抜けちゃうんだよね。私は触れるんだけど……」

「なるほど……まあ、何か対策を考えます。それで他には何がいますか?」

「後はこの子かな。来て、カゲたん!」

 

 現れたのは黒色のてるてる坊主みたいなポケモンで、こちらも空を飛んでいる。この子が人形ポケモンのカゲボウズなのかな。

 

「その子が人形ポケモンだよ」

「そうなんですね……」

「あれ、なんか反応が思ってたのと違う」

「なんというか、そのてるてる坊主を人形と認めていいものか……」

「あははは、人形だよ」

「そう、ですね。よし、捕まえに行きましょう」

 

 てるてる坊主も人形。そう思い込むことにしよう。それに私の能力で扱えたら人形に違いない。

 

「えっと、アリスは連れて行く子はどんな感じ? 私はクチナシおじさんに連れていってもらったし、安全かどうか確認しないと……」

「私はメタングのメルク、メタモンのマザー。後は上海と蓬莱、それに私が戦力かな」

「えっと、自分で戦うの?」

「そういう力を持ってるからね」

「ん~まあ、メタングが居るなら大丈夫かな」

 

 よし、アセロラから許可がもらえた。これで捕まえることができる。

 

「では、すぐに行きましょう」

「もうすぐ夜だけど、その方がいいかな。よ~し、いっちゃお~!」

「やったー!」

「あ、でも子供達が寝た後だからね」

 

 ずてーと転けそうになるけど、我慢してアセロラと一緒に子供達のお世話をする。男の子達にはポケモンバトルを教えたり、女の子には上海と蓬莱を使った簡易の人形劇を見せる。私は同時に皆の破れた服を縫っていく。

 アセロラは料理を作っていったり火事をしている。しばらくして夜になると、子供達を寝かしつける。護衛としてメタングやタンバル達を用意したので大丈夫だろう。

 

 

 そんな訳でアセロラと二人でメルクに乗って、肝試しも兼ねた夜のドライブだ。

 

「きゅ~」

 

 隣に幽霊がいるけど、気にしちゃ駄目だよね。上海と蓬莱も楽しそうに遊んでいる。

 

「あ、あそこだよー」

 

 アセロラが案内してくれた場所は廃棄されたスーパーの跡地だった。一応、建物としてはしっかりとしている気がしないでもない。

 

「ここって確か……」

「スーパー・メガやすだよ」

 

 そういえばそんなところがあった。確か、ゴーストポケモンが沢山でてくるんだったかな。

 

「じゃあ、中に入るよー」

「灯りはどうします?」

「用意してあるよ」

 

 懐中電灯を使ってアセロラが光源を確保してくれた。スーパー・メガやすのフェンスを越えて中に入ると、おどろおどろしい気配が立ち込めている。まるでここが怨念が集まるスポットみたいに感じた。

 

「この中にカゲボウズがいるからね。アリスちゃんの狙いはそれだよね?」

「うん。どうせならアセロラも何か捕まえる?」

「どうしようかなあ……うん、やっぱりいいよ」

「じゃあ、私がいっぱい捕まえるね」

「頑張ってね」

「ありがとう」

 

 建物は一階建てのスーパーなだけあって、商品棚が複数あって倒れていたり、カートが置かれている。

 

「暗い上に見えない……その上……」

 

 飛来してくる物体を避けようと、後ろに飛び退る。そうしたら、身体がうまくいかなくて、後ろに倒れた。その瞬間、クスクスと笑う声が聞こえてくる

 

「ここはゴースト達の巣窟だしね……って、大丈夫? 震えてるけど……」

 

 身体がガタガタと震え、思い出されるのは星の精の血が上っていく姿。恐怖に震えていく中、私に向かって空中に浮かんだカートや棚が殺到してくる。

 

「ホラーイ!」

「シャンハーイ!」

 

 上海と蓬莱が槍でカートを貫き、蓬莱が棚を剣で複数に切断して即座に上海の後ろに下がる。上海は盾を構えるとその前に魔法陣が展開されて防いでくれた。

 

「ありがとう……」

「大丈夫?」

「はい、大丈夫です……」

「ふふふふ、コイツラ、ツブシテヤル」

「あわわ」

 

 全力で弾幕を展開する。前と違って40発ぐらいは一斉に放てる。だから、周り全てに放った。一応、支柱とかには当たらないようにはしたけれど、結構な数の奴が倒れている。

 ゴーストやカゲボウズ達がシャドウボールを飛ばしてくるので、蓬莱が切り裂いて守ってくれる。上海は頭上から突撃してゴーストを貫く。

 

「くぎゃぁああああああああああああああぁぁぁっ!」

「え?」

 

 槍で貫かれたゴーストは何故か貫けてダメージを与えられた。魔力が籠っているから有効なのだろうか?

 

「うわぁ」

 

 他のポケモン達は容赦なく倒されたゴーストに恐怖を覚えたようで、大人しくなってしまった。

 

「制圧しましょう」

 

 メルクとメタングに変身したマザーがサイコキネシスを使って敵を倒していく。ファイヤーよりは弱い。だから、ゴーストが大人しくなったことで、ここを制圧できるかもしれない。

 

「主ポケモンがいるはずだけど、出てこないね」

「うん」

 

 カゲボウズやゴースト達を捕まえながら、進んでいくと奥に部屋を見つけた。そこは店員用の部屋のようで、施設のようなものは何もない。

 

「何か居ると思う?」

「居ると思うよ」

「だよねー」

 

 さて、警戒しているけれども何もでてこない。35分ほど待ってもでてこないので、ひょっとしたらいないのかも。

 

「きゅきゅ」

「ミミたん?」

 

 そう思っていたら、ミミたんが私達の前にでてきた。そのまま奥に行って残骸を尻尾で叩いていく。

 

「何かそこにあるのかな?」

「探してみましょうか」

「うん」

 

 残骸を退けてみると、そこにはなんとミミッキュのZクリスタルがあった。もしかしたら、ここのボスはミミたんだったのかも知れない。

 

「これはアセロラが持ってたほうがいいかな」

「いいの?」

「うん。私は別のを探すから」

「わかった」

 

 探していくと、電話番号が書かれた紙がみつかった。どうやら、ここの所有者みたいだ。

 

「そういえば、ここって売りに出されてたりするの?」

「出されてるよ~。でも、ゴーストポケモン達が住み着いているから売れないの」

「そう、それは良かった」

 

 ポケギアを取り出して電話番号を打ち込んで連絡してみる。電話がかかり、相手がでてくれた。

 

『こちら、ウラウラ島不動産でございます』

「スーパー・メガやすの跡地、おいくらですか?」

『そちらでしたら……』

 

 高かったけれど、しっかりと交渉して格安にしてもらった。事故物件になってるし、相手側も持ってるだけじゃアレだしね。でも、土地だけでも5百万した。スーパー並みに広い場所となると、本当はもっと高いけれどね。

 

「買ったの?」

「うん。ここ、利用させてもらうから」

「そんなお金を持ってるの?」

「パトロン、あしながおじさん……あしながおばさんがいるからね」

「そうなんだ。それで、ここをどうするの?」

「ここでちょっと厳選しようと思ってね」

「厳選?」

「気にしなくていいよ」

 

 ここは怨霊の気配が強い。ここで厳選すればいい。そんなわけで上海と蓬莱の同型人形を一体ずつ置いておく。これが成功したら素晴らしいことになる。

 

「そう?」

 

 捕まえたカゲボウズ達の力を集めるためには色々と準備しないといけない。ここを改造するのはまた今度でいい。まだ正式に私達の物でもないし。

 

「じゃあ、戻ろっか」

「うん」

 

 エーテルハウスに帰ってから、必要な品物を全部注文しないといけない。いつも通り、メタングに乗って帰る。

 

 

 エーテルハウスで貸してもらった部屋に戻ってアセロラと別れる。それから考えていた人形を作る。カゲボウズやジュペッタの本質はぬいぐるみや人形ではなく、中身の怨霊だ。おそらく、カゲボウズの時に恨みを食べ、それによって一定値を越えたらジュペッタになると思われる。

 つまり、付喪神の一種と考えられる。

 じゃあ、私が作った人形にジュペッタが宿ったら、それは素晴らしいジュペッタにならないだろうか? これはミミッキュにもいえる。外装のピカチュウの身体も作ってあげたらいい。

 そして、私の作る人形は童話の怪物(プロイキッシャー)となる。つまり、それはジュペッタの名を語るナニカ。そんなわけでまずは赤ずきんを作るとしよう。赤ずきんの伝承としてはお使いにいって狼に食べられたお婆さんと一緒に赤ずきんの少女も食べられる。赤ずきんだけだと弱い。なので物語としてとらえて使える者を考えていこう。まず、赤ずきんの少女、狼、猟師、お婆さんだ。つまり、理想は銃器を持つ狼使いの女の子。お婆さんの要素は食べられたら発動する感じで復讐系にしよう。

 身体は上海と蓬莱の設計図を利用して作る。パーツ作りの練習にもなるし、プロイキッシャーとして作るのはいい。上海達と違ってショートヘアにして赤ずきんを装備。ライフルとかも用意して……様々な魔法を施していく。これ、完成したらゴースト、炎になるのかな。しかも伝承防御持ちなので防御力もぴか一。ふふふ、チートジュペッタだね。

 

 




どう考えても大会じゃ使用禁止。でも、反則じゃない。防御力も高いし攻撃力も高い。うん、ひどいことになりそう。
ジュペッタ(赤ずきんの姿)。メガリザートンクラスの火力持ち。しかも物理攻撃がほぼ効かない。特殊攻撃のみでお願いします。
当然、作れればになります。


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ポケモン世界のアリス

 

 赤ずきんのぬいぐるみを作っていく。アリスお母さんから貰った魔導書で調べながらというのもあって完成度は11%。完成にはまだまだたりない。基本的な身体はできたけれど、やっぱりまだまだ研鑽がたりてない。

 

「あれ?」

 

 手を伸ばした先のカップに口をつけても、紅茶が入っていなかった。淹れるように蓬莱にお願いしようとしたら、窓から入ってくる朝日が目に入る。

 気が付いたら夜が明けていたようだ。流石に泊まらせてもらっているので、お手伝いをしないといけない。そんなわけで、トランクケースと一緒に蓬莱と上海を引き連れて部屋から出る。

 キッチンに移動してから、料理を始める。ちゃんと昨日のうちにアセロラに許可を取っていたから使うことは問題ない。それと練習がてら、人形を操作して行う。ただ、まだ不安なので火を使う場所だけは自分でやる。

 まずはスープを確認し、昨日残っているものを継ぎ足して使う。野菜を切るのは蓬莱と上海に任せて、私が直接するのはサポートと食堂の掃除だ。

 パンはあるみたいだし、卵もある。卵は何の卵かわからないが、火を通せば大丈夫だろう。そんな訳で、ボウルに卵を溶いてミルクと砂糖を入れてからスライスしたパンを入れて漬けておく。後は焼けばフレンチトーストの完成。

 味が染み込むまでに人形で食器類を用意しながら、こちらの世界に来てから開いてなかったGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を呼び出す。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)はページが自動的に捲れてこの世界のページが表示された。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 不思議な世界第一世界・ポケットモンスターSPECIAL

 アリスポイントの入手方法:指定された伝説ポケモンの捕獲

 指定ポケモン:ゲンシグラードン、ゲンシカイオーガ、メガレックウザ、ディアルガ、パルキア、ギラティナ……

 スキルポイントの入手方法:ジムリーダーバッチの習得

 連続滞在可能時間:二週間

 スキル制限:なし

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 日数が増えてる。前と違うのは二つの世界を渡ったからだろうか? それぐらいしか考えられないし、そういうことなんだろう。

 続いてステータスを確認してみよう。ファイヤーも一応準伝説ポケモンだし、アリスポイントが手に入っていたら嬉しい。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:0

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.4》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 

 

 入ってない、だと!? いや、ファイヤーは今でこそ準伝説ポケモンだけど、ちゃんとした伝説ポケモンだから。その辺り、考慮してくれないかなぁ!

 そう思ってお願いしてGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を崇めてみる。そしてもう一度開いてみるけどアリスポイントに変化はなし。

 いやいや、ファイヤーさんってジムリーダーよりも強いから、せめてスキルポイントをください、お願いします!

 三度目の正直! そう思いながら開けると――

 

 

 スキルポイント:

 

 

 スキルポイントに5点の数字が浮かび上がってきた。どうやら、一応は認めてくれたようだ。これなら準伝説ポケモンを捕まえる理由もできたし、頑張ってみようと思える。手に入れたスキルポイントは魔力に全振り。これで残り1点で聖夜の旅人アリスの力が使える。まったく、手に入れたのに使えないとか、残念だ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:0

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.9》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 

 

 魔力がかなり増えた。一気に5も上げたせいか、強制的に器が広がったみたいに感じて身体中に内側から弾けそうな痛みが走る。

 

「かはぁっ」

 

 口から吐血し、小さな腕から血液が噴き出す。目からも流れている感じがする。ただ、痛みはすぐに治まったので修復されたみたいだ。慌てて顔を洗って綺麗にする。

 一気にスキルアップする時は気をつけないと駄目みたいだ。そういえば、人形を操る程度の能力を上げる時も激痛に襲われていたし、間違いない。アレは刺された痛みだと思ったけれど、他のも混じっていたのかもしれない。

 

「ホラーイ?」

「シャンハーイ?」

 

 蓬莱と上海が心配そうに聞いてくる。私は手を拭いてから二人の頭を撫でる。

 

「大丈夫。それよりも血を処理しないといけないから、手伝ってくれる?」

「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」

 

 吐いた血液などを処理する。幸い、調理場だったので水はある。後、食材に血がかかっていないかもしっかりと確認しておく。料理に血が入ったら大変だから。

 

「よし、大丈夫ね」

「何が?」

「ひゃぁっ!?」

 

 後ろから肩を掴まれて耳元で声がかけられ、ビクッとなって身体を浮き上がらせる。後ろを恐る恐る振り向くと、アセロラが居た。

 

「ビックリしたぁ~」

「それはこっちの台詞だよ? それにしても、本当に朝ご飯を作ってくれたんだ」

「お世話になっているし」

「それは別にいいんだよ。これから家族になるんだし」

「いえ、あの……私、でていきますよ? 土地も買ったので……」

「え~行っちゃうの?」

 

 寂しそうにするアセロラに罪悪感が湧いてくるけれど、こればかりは仕方がない。私は世界を越える旅人なのだし。

 

「まあ、色々とやりたいことはあるし、ここに私のルーツがないとわかれば、それを探しにまた別のところに向かいます。といっても、少しの間はお世話になりますよ」

「そっか、仕方ないね。じゃあ、それまではよろしくね」

「はい、よろしくお願いします……するね」

「よっろしくー! それじゃあ、ご飯の用意をしようか」

 

 元気なアセロラと一緒に料理をしていく。熱したフライパンにモーモー印のバターを引いてから、パンをカリカリになるまで焼く。焼いたパンはお皿に乗せて、スープをお椀に入れて食堂に運ぶ。

 

「う~ん、いい匂い」

「だね。スープもできてるし、私は子供達を呼んでくるね」

「行ってらっしゃい」

 

 子供達を起こしに行ったアセロラを見送ってから、広いお庭に出てからポケモン達にご飯を上げていく。マザー達が元気に食べているのを見守りながら、少し待つ。

 

「おはよ~」

「おはよう、ございます」

「おはようございます」

 

 アセロラや子供達と一緒に食事をした後、ポケモン達の世話をしてから、スーパー・メガやす跡地の支払いやその他諸々の支払いのため、残りの金の原石も売却した。これで発電装置と回復装置を購入した。どちらもスーパー・メガやす跡地に搬入してもらうよう頼んだ。一応、怪しまれたけれど私には切り札があるので問題なかった。

 

 

 

 搬入までの間、ここの片付けをしないといけない。流石に生活したりはしないので、そこまで綺麗にする必要はないが、破片とかは片付けておかないと踏んだ時に怪我をする。それは困るのでお掃除をしようと思った。なので黄衣の外套を身に纏ってスーパー・メガやす跡地にやってきた。

 

「どうかな? カゲボウズか、ジュペッタになっていたらいいけど……」

 

 掃除の前に可愛い上海と蓬莱の人形を確認してみる。んー残念ながら変わっているところはなさそう。この方法は間違っているのか、それとも力が足りないのか、どちらにせよジュペッタはぬいぐるみの身体が要る。上海と蓬莱の身体に入ってくれると素晴らしい力が発揮できそうだけど……捨てられて恨みがたまるとジュペッタになる。でも、アリスが人形を捨てるなんてことは可能だろうか?

 

 

 絶対にできない! 考えるだけでも寒気がする!

 

 

 これは駄目だ。私にとって絶対に取れない手段だ。大人しくカゲボウズからジュペッタに進化させるしかない。二体を回収して、周りを改めて確認する。微かにゴースト達が産まれていた。ここが霊的スポットであることは間違いないと、魔法使いとして断言できるので、ここを魔術工房に造り変えて私の魔力を使ってもっとゴースト系を生まれやすい環境に整える。

 

「皆、でてきて」

 

 マザー達を全部出し、ポケモンの不思議な卵の生産に入るために掃除をする。ここではゴースト系を育てようと思う。マザーに赤い糸を持たせ、これで6Vになる確率が上がる。変わらずの石があれば性格までいけるけど、こればかりは仕方がない。

 

「マザー、カゲボウズやメルクの子供産んでくれる? メルク達も大丈夫? 嫌ならいいよ……」

 

 マザー達は特に問題ないようで、やはり人とは価値観が違うようだ。強い子孫を残す衝動でもあるのかも知れない。どちらにせよ片付けが終わったら卵を増やそう。

 

 

 

 




アンケートありがとうございました。厳選はしますが、つくられた卵立は捨てたりはしません。

でも、タンバルの卵とか、カゲボウズの卵ってどうやって生まれるんだろう?


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21話

 

 マザーがメルクやカゲボウズ達と子供を作る環境を整える為、人形達と一緒に片付けていく。倒れている棚を起こし、カートを元の位置に戻し、瓦礫をサイコキネシスなどで運びだしていく。捕まえたゴーストやゴルバット、クレッフィ、ミミッキュにも手伝わせているので早い。

 クレッフィは鍵穴のような形状の口に、ストラップのような胴体、頭部と角の間からリング状に繋げた細長い腕が生えているという不思議な形状。ゴルバットは大きな顔に羽を持つコウモリポケモン。ミミッキュはピカチュウの被り物をしているが中身はとっても怖いなにか。ゴーストは暗闇から人間を狙う。冷たい舌に舐められると日に日に弱り死に至る。

 このように物騒なポケモンもいるが、霊的なスポットと考えたら当然のことだと思う。それとゴーストはその進化前であるゴースもいるし、ゴルバットの進化前のズバットもいる。それら全ては捕まえてあるので、危険はない。

 

 一時間ほどかけて人海戦術ならぬポケモン海戦術で多数の瓦礫を排除し、メルクとメタングのサイコキネシスで倒れていた棚を整えた。使えそうにない壊れた物は端っこに置いておく。これらはまた別の事に使えるだろうからだ。とりあえず、棚や瓦礫を退けて広い場所を確保したら、そこをポケモンバトル用のフィールドにして、アリスお母さんから貰った魔導書をもとにして結界を張っていく。魔力は土地から吸い取ればいいし、ゴースト達がいるので彼等からも微量ながら徴収する。だいたいスーパーの半分をこれにした。

 それが終われば外に出て魔法陣を描いてこちらも結界を用意する。用意した結界は私のバリアと似たような感じにしてベクトルを操作する。操作物は恨みなどの怨念だ。ここはパワースポットとしてそういうのを集めやすいので、それをより強く強化して吸い寄せる。同時に他に拡散しないように結界で覆ってしまう。つまり、内側はゴーストタイプのポケモン達が過ごしやすい環境になる。

 これらの結界は非効率でまだまだ洗練出来そうだけれど、初心者魔法使いにはそこまで強力なのはできない。本当は警備にだって魔法や魔術を使うのだが、そこはポケモンで代用する。ああ、それとフェンスの所に私有地につき立ち入り禁止と書いておく。もちろん、勝手に侵入した場合、危険なポケモンを放しているので敷地内で何が起きても関与しないことを記しておく。御用がある方はこちらの電話番号に……とも載せておくので連絡がこなかったら知らん。一応、殺さないようには言っておくが、負のエネルギーが強化されたポケモン達が素直に聞いてくれるかはわからない。

 

 

 さて、一日掛かりの仕事になったが、中身は綺麗になった。続いて屋根に上がって雨漏りを直す。方法は復元の魔法。高度な魔法なので魔導書を片手に何度も間違いながら行った。魔力の六割が一瞬で消えてしまったが仕方がない。

 綺麗になった屋根や直した屋上にはヒノヤコマ達鳥ポケモンや普通のポケモン達が出られるように設置されていた扉に穴を開けて通路を作った。ダンバルとかなら通れるだろう。メタングは外からになるが、別にいい。ここは日光浴ができるようにしたり、水飲み場を整備したりする。基本的にヒノヤコマ達の繁殖所にもなる場所だろう。

 管理人室や従業員室だった場所には発電機とポケモン回復装置を置く予定だ。発電機を外に出さないのは盗まれたら困るから。いたずらされても嫌だ。

 それ以外の場所の残り半分。これを更に半分にした四分の一をポケモン達の自由に過せる場所にする。ただ。ヒノヤコマ達を配置し、卵を置くつもりでもいる。残りの四分の一は私の工房として作業台などを配置した。ここでひたすら人形を作って飾っていく予定。

 

 本日はここまでだ。帰ってアセロラ達と遊ぼう。

 

 

 

 

 

 次の日。瓦礫を積み上げて壁を作る。同時に駐車場に穴を開けて飲み水を得られるようにしてやった。深い穴だけどまあ、仕方がない。それにすぐ近くに海があるので必要なかったかもしれないが、真水は大事だろう。

 後は搬入が終わるまで暇なのでひたすらポケモン達を自由にさせる。私は私で人形作りに精を出す。赤ずきんを作っているのだけど、ジュペッタの身体になってくれるかわからない。そもそもちゃんと童話の怪物になってくれるかもわからない。そもそも童話の怪物って使い魔なんだから、中身あるよね。

 できたらいいなぐらいな感覚だ。童話を伝承と捉えてグラードンやカイオーガの人形を作ってみようとは思うが、どうせなら……ああ、そうか。そうだ。あの方法なら私はちゃんと、十全にコントロールできるかもしれない。よし、その方向で行こう。玉の入手は絶対だけど問題ない。

 一先ずグラードンとカイオーガの対策は思い付いたので人形をいっぱい作ろう。作れば作るだけ腕が上がっていくので楽しい。目指す先はすでにわかっているだけあって、技術の上がる速度がおかしいというのもある。

 作った人形は棚に飾っておく。するとゴースやゴースト達が中に入って上海達と遊び出してしまった。まあ、好きにさせよう。壊さなければ怒ったりしない。それに人形の中には入るのなら、私のコントロールが利くしなんの問題もない。

 

「アリス、いる~?」

「その声はアセロラ?」

「そう、アセロラちゃんです」

 

 声が聞こえたので、扉を開けると庭にアセロラが入ってきていた。その後ろには子供達もいる。

 

「どうしたの?」

「遊びに来たんだよ。アリス、全然戻って来ないし……もう二日だよ?」

「いつの間にかそんなに経ってたのね」

「うん。それで中に入っていい?」

「いいよ」

「皆、いいって。行こ~」

 

 子供達を連れて皆で中に入る。中は暗いので灯りとして魔弾を生み出していく。仄かに光るそれは蝋燭の灯りや人魂のようにみえて子供達は怖がっている。

 

「電球は?」

「買ってない。必要ないと思うし……」

「要るよ!」

「それもそうだね。あ、この子達ってゴーストポケモン達は大丈夫なの?」

「大丈夫だよ」

「それは良かったわ」

 

 手を叩いて皆を呼ぶと、コウモリの翼が生えた黒い服を着た金髪灼眼の可愛らしい無数の人形達が飛んでくる。

 

「わ、可愛い」

「そうか?」

「お人形さん……」

 

 子供達と遊ぶのはいいが、怪我をさせないようにだけ糸を通じて伝えておく。

 

「あれ、どうやってるの?」

「中にゴースやゴースト達が入っているの。背中の翼はズバットね」

「なるほど」

「カゲボウズやジュペッタが生まれてくれたらいいんだけど……」

「あの、アリス? この子達ってジュペッタとかと変わらないと思うよ?」

「……」

「ミミたんの中身だってゴースみたいなものだし……」

「なるほど。言われてみればそうかも」

 

 カゲボウズやジュペッタ、ミミッキュはあくまで外装によって変わるだけで、中身は同じなのかも知れない。そこから成長する過程と身体の外装に合うように育つから違うだけなのかもしれない。この理論があっていれば、ここは魔術工房として素晴らしい。

 

「あの、アリスお姉ちゃん、ぬいぐるみが欲しい……」

「私もー」

「動かない子で大事にするのなら、作ってあげる。動くのはポケモンさんが中に入っているだけだからね。それでもいい?」

「それでもいい!」

「お願い!」

「じゃあ、希望を聞くよ」

「俺達はポケモンバトルがしたい!」

「確かに……」

「アセロラ、そっちは任せられる?」

「任せて~」

 

 女の子達は私と一緒に行って、男の子達はアセロラとポケモンバトル。ここに居る子達は全部私のポケモンだし大丈夫。というか、一つ試してみよう。

 

「ゴースト、戻って」

「?」

 

 不思議がっているゴーストにモンスターボールの光線を当てて中に戻す。すると人形だけが落ちた。慌てて人形を掴んで、ゴーストを出して入ってもらう。今度は人形もゴーストだと認識して試してみる。すると一緒には入らなかったが、人形は引き寄せられた。

 

「なるほど。ありがとう。自由にしていいわ。遊んできて」

「ご」

 

 これでわかったことがある。おそらく、アセロラが言っていることはある程度は正しい。必要なのは定着させる時間だ。ポケモンとトレーナーが人形を身体だと認識したらそのようになる。素晴らしい。これならもっと色々と試してみたい。

 

「お姉ちゃん?」

「ああ、ごめんね。それじゃあぬいぐるみを作ろうか。どんなのがいい?」

「えっとね、ピカチュウ!」

「マリルリさん!」

「あの子!」

「任せて」

 

 机に材料を置いてから、椅子に座って布に魔力を込めて縫っていく。その間に女の子達はゴースト達が入った人形達とおままごとやお手玉とかしている。基本的に好戦的な人形達以外はこちらに来ていて、タンバルや好戦的な人形、タツベイ達はポケモンバトルをしている。

 

 

 一時間半ぐらいでできたぬいぐるみを渡すと、子供達は嬉しそうに遊びだした。アセロラの方に行ってみると、アセロラのカゲボウズがメタングとの対戦中にジュペッタに進化したところだった。

 

「ジュペッタになった!」

「すげー」

「おめでとう」

「あ、アリス。みてみて~」

「ええ、見せてもらうね」

 

 ジュペッタの身体を触りながら確認していくと、身体の中に負のエネルギーがあるのがわかる。色々と測定しながら、中を覗かせてもらう。中身は真っ黒で深淵を覗いているような気がしてくるし、負の波動が伝わってくる。面白い。実に面白い。だから、少し操作してこの場に集まっている負の力を注いでみる。

 

「ジュッ!」

「ちょとっ!?」

 

 身体が大きくなり、両手など身体中にファスナーが現れた。そこから赤い手がでてくる。メガジュペッタ。どうやら、集まっている負のエネルギーと私の人形を操る程度の能力によってキーストーンとメガストーンの代わりになってしまったようだ。キーストーンもメガストーンもいらないとか、人形限定とはいえチートだよね。

 

「はい、ありがとう。この子は元気になったよ」

「大丈夫なの?」

「じゅぺっ!」

「そう。じゃあ、ポケモンバトルの続きだよ」

「望むところだ! 行くぞ、メタング!」

「ガァ!」

 

 相手が待ってくれていたので、女の子達も含めてポケモンバトルを見学する。アセロラが身体を左右に揺らしながら、メガジュペッタに指示をだしていく。

 

「シャドウボール!」

「じゅぺっ!」

 

 数十センチのシャドウボールが数メートルまで大きくなる。どう考えても、やばい大きさだ。

 

「なにこれ! アリス、何かしたでしょ!」

「え? 私?」

「アリスしかいないからね!」

「……ち、地形効果? ここ、ゴーストタイプやエスパータイプは強化されるから。特にゴーストタイプは……」

 

 周りのエネルギーはメガジュペッタに入っていっている。なんていうか、主ポケモン化してそうな感じだ。

 

「避けて!」

「サイコキネシスで撃ち落として!」

 

 放たれたシャドウボールが空中でサイコキネシスに迎撃されて黒い奔流の爆発を起こす。それをうけて吹き飛ばされそうになる私達の身体を、ゴーストが入った人形達が身体を押しとどめてくれる。前をみると、メガジュペッタはおらず、メタングの後ろに移動していた。

 

「呪いからの祟り目だよ!」

 

 シャドウボールの余波だけで特防が下がっているところに呪いでステータスを下げ、そこから瞬時に祟り目によって攻撃する。祟り目は状態異常の時、威力が2倍になるので65が130の攻撃になる。しかもそこで呪いによってHPが四分の一ずつ削られていく。本来なら。

 

「だが、残念。メタングはクリアボディ持ち」

「そうだけど、倒せちゃったよ?」

「弱点だしね」

 

 男の子達は悲しそうにして、メタングに謝っていた。罪悪感が半端ない。それに周りをみれば子供達のほとんどは気分が悪そうにしている。シャドウボールの余波のせいだろうし、仕方がない。

 

「マッドスウィートケイク」

 

 聖夜の旅人アリスの力を使って大量の魔力を消費し、回復効果のあるケーキとケーキテーブルが無から生み出された。普通に回復魔法だと思っていたら、ケーキが生み出されるとかナニコレ。とりあえず、一口食べてみると普通に美味しい。大丈夫そうなので皆に配って食べてもらう。

 

「美味しい!」

「なにこれ、こんなのはじめて!」

「うまー!」

「おかわり!」

「はいはい、沢山あるから食べてね」

 

 大量に現れたケーキはポケモン達も食べられるようで、食べたら傷とかが綺麗に治った。うん、確かに狂っている。

 

「アリス、これって……」

「作ってみたの。食べてみてよ」

「大丈夫?」

「大丈夫だよ。たぶん」

「アリスぅ~?」

「毒味はしたよ!」

「まあ、いいか。ん、美味しい~」

 

 私も食べてながら、人形達にお願いしてお茶を淹れていく。そう、今は人形やゴースト達、メルク達と一緒にマッドティーパーティーを開く。アリスらしい楽しいお茶会だ。

 

 

 

 お茶会をしていると、マザーが卵を持って来てくれた。どうやら、ちゃんとできたようだ。何の卵かはわからないが、ヒノヤコマ達に任せて期待しよう。

 

「そういえば、アリスは今日戻ってくる?」

「どうしようかな……」

「戻ってきた方がいいよ」

「どうして?」

「だって、臭うし」

「……え?」

「お風呂入った?」

「……あ……」

「服の洗濯は……」

「そういえば、していない……」

「はい、強制連行~」

「……はい……」

 

 こればかりは仕方がないので帰るとしよう。ここに風呂場も設置したらいいだけだけどね! そうだ、どうせなら露天風呂を作ろう。屋上に作れば柵もいらないし、火はヒノヤコマ達に出してもらえばいい。

 

「あ、あとアリス」

「ん?」

「人形の値段っていくら?」

「いらないよ?」

「いや、ここまでの腕だと売り物になるんじゃない?」

「たぶん。でも、大事にしてくれる娘にあげても、売り物にはしないと思う」

「そっか。売れると思うんだけどな~」

「人形劇とかならいいと思うけれど、場所がね……」

「場所ならあると思うけど……」

「正直言って、人前にでたくない。人形劇はしたいけど人前じゃ恥ずかしいし……」

「それなら動画配信とか、どう?」

「……その手があった」

 

 ノートパソコンを取り出して調べてみると、確かにできるようだ。それにこのノートパソコン、最新機種なだけあって録画機能もマイクもしっかりと取り付けられている。後はサイトに登録して動画を作成、アップロードするだけでよかった。登録自体はトレーナーカードがあればできるようなので必要な道具は人形劇だけだ。

 

「ありがとう。できそう」

「良かった。人形劇、アセロラ達にも見せてね」

「もちろん。そうと決まれば材料を注文しないと……」

 

 人形を作る材料と舞台を作る素材を集める。人形劇の内容は東方の異変にしよう。紅霧異変にしようかな。アレが一番最初だし……いや、待て。勝手にやるのはまずい。東方世界に行って許可を取って、人形をしっかりと作らないと絶対に後々殺される。止めておこう。今は赤ずきんにしよう。狼はルガルガンの真夜中の姿にすればいい。赤ずきんは今作っている子でいいし、お婆さんは最悪いなくてもいい。狩人はどうするか……蓬莱でいいか。手持ちの人形達でやればそこまで準備に時間はかからないし。

 

「それじゃあ帰ろうか」

「あーもうちょっと待って。今日、荷物が届くから」

「それじゃあ、もうちょっと遊ぼうか」

「そうだね。でも、何して遊ぶの?」

「泳ごう」

 

 皆で海で戯れることにした。ついでなので水ポケモンも捕まえる。ぺリッパーを捕まえて、アセロラとの連絡手段にしてもいいしね。あ、スーパー跡地から出たらジュペッタのメガ化は戻って普通のジュペッタになったよ。

 

 

 

 

 海で遊んでいたら業者の人が搬入してくれた。水着姿での対応だけど、きっと大丈夫。何か目が怪しかったけど、きっとたぶん大丈夫。

 管理人室に発電機を設置し、電気部分の工事も追加でしてくれた。ポケモンの治療装置も設置したので、ポケモン達が自分達で回復も可能。使い方はしっかりと教え込んだし、大丈夫。例え泥棒が入っても、どう考えてもその人の方がやばいし。警備がゴーストが入った人形達で、メタングやダンバル達もいる。メルクやマザーも当然いるし、最悪な時はファイヤーを解き放てと言ってある。その前に地形効果でゴーストタイプやエスパータイプはかなり強化されているし、ゴーストタイプに限ってはすぐに回復するので倒すのは困難を極めるだろう。

 

 

 さぁ、侵入者諸君は私の可愛いポケモン(人形)達に勝てるかな?

 

 

 ちなみに可愛いアリスだけが住んでいる家に侵入して襲ってくる人に容赦することはありません。警告し、それでも侵入してくる者は容赦しなくていいと言ってある。最悪、殺されはしないけれど廃人になるだろうね。ちなみに小さい子供は適応外だよ。といっても、基本的に悪戯好きなゴースト達の判断次第だけど。

 

 

 エーテルハウスに戻り、お風呂に入っていたらアセロラと小さな女の子達が乱入してきて、皆で洗いっこになった。流石に断ろうとしたけれど、泣かれたら仕方がない。小さい子には勝てない。それにアリスちゃんも幼女だから大丈夫。大丈夫。あ、といっても私はノータッチだよ。上海と蓬莱にお願いしたからね!

 

 

 




 スーパー・メガやす跡地

 可愛い金髪幼女が一人で住む人形の家。コウモリの羽が生えた無数の人形が飛び回っており、侵入者を容赦なく撃退する。幼女を狙った者達は悪夢を見せられて自我が崩壊し、次の日には悪戯されて発見される。酷い時はホモになっていたら、虚ろな瞳でぶつぶつと喋るだけになる。
 討伐しようと頑張ったトレーナーもいたなが、無尽蔵に回復してくる上におかしな威力の技を複数から放たれるので対処不可。気が付けば背後を含めた360度、全方位からも強襲されてまずトレーナーが潰される。続いてポケモンから入る。見つかった瞬間、瞬時に数が現れるので大変危険。
屋上から侵入しようとしても、ヒノヤコマ達が警備にあたっており、見つかったら中から大量のゴースト達がでてくる。そして、最奥に到達するとファイヤーが解き放たれるとかなんとか。その前にヒノヤコマやぺリッパーから通報を受けた警察とかがくる。

戦いはドズル閣下の言う通り、奇襲と数だよね。byアリス

PS.襲撃者のポケモンは警察に渡された後、アリスちゃんが引き取って再教育を施し、自軍の戦力に加えられます。やったね!


  ま  き  え  さ  で  あ  る

 


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ポケモン世界のアリス

令和での初投稿!


 

 アセロラ達とキャッキャウフフなお風呂タイムを終えて、子供達と一緒に眠る。今回、エーテルハウスに連れて来たのは上海と蓬莱。それと作りかけの人形だけ。ファイヤーすら置いてきている。

 それでも大丈夫だと思う。警備は過剰だと思われるぐらい設置してあるし、私の人形を操る程度の能力を使って人形に入ったゴースト達に警備計画を教え込んである。そのゴースト達を通じてメルクやマザー、全ポケモンに伝えてある。

 

「んー」

 

 パチリと目が覚める。寝る必要はないのであんまり眠くならない。隣にいるアセロラや女の子達の顔をみると、しっかりと寝ている。暇だし、起きて魔法の勉強でもしようか。上海と蓬莱を動かして家事をしてもらいつつ、私は魔導書を開いて勉強していく。

 膝の上に魔導書を置いて、人形にページを捲らせる。同時に別の人形でノートパソコンを立ち上げ、必要な物を注文する。基礎魔法を改良して武器にエンチャントできるようにしたい。後は錬金魔法で武器を作れるようにもしたいけど、流石にそんなのは載ってない。まあ、これは後で作るとしよう。魔力はレベル9になって潤沢になってきたが、まだまだ基礎知識が足りないしね。

 赤ずきんを作るにあたって火の魔法は必須。狼を作るのは影の魔法でいいけど、これも作らないといけない。まずはやっぱり火の、炎の魔法。この世界で作れる可能があるのは炎の石。ポケモンが進化するアイテムだけれど、これを武器に加工すれば使えるかもしれない。いや、流石に武器は無理か。瞳ぐらいならできそうかな。

 ああ、人形達の服も縫わないといけないし、時間がない。アリスお母さんは全部自分の手でやっていたけれど、人形達の力を借りた方がいいか。私には時間がないのだし。

 トランクケースに糸を放ち、中で寝ている人形達を起こし、針仕事をしていく。でも、やっぱりまともな物が作れないので、子供達に上げる破れてもいい服を作って練習していく。そんな風に過ごしているとアセロラが起きてきた。

 

「また寝てないの?」

「眠くないしね」

「本当?」

「本当」

「何しているの?」

「皆の服を作ってるの。アセロラの服も作ってあげるよ」

「いいの?」

「いいよ。その代わり、私が居ない時にあそこを見てくれないかな?」

「何処か行くんだよね」

「うん。電話も通じなくなるからね」

「そっか。でも、戻ってくるよね?」

「もちろん」

 

 生きていればだけどね。アセロラと話ながら、彼女に好きなデザインを聞きながら、一緒になって服を作っていく。こういうのも楽しい。そう思いながら二人で話し続けた。

 

 

 

 朝、気がついたらアセロラが寝落ちしていて、周りをみると女の子達が起きていて、問題が発生していた。彼女達の周りにはあげたぬいぐるみが浮いていたのだ。

 

「何故に?」

「お人形さんだー」

「アリスお姉ちゃんと一緒~」

「え~?」

 

 慌てていると、外から扉が開けられる。

 

「姉ちゃん、変なのが見えるようになった!」

「俺達も!」

 

 え~なにこれ?

 

「どうしたの?」

「ねえねえ、なんか皆がおかしいんだけど……」

「ああ、うん。えっと……アリスがやってるんじゃないのよね?」

「やってないよ」

「そっか……じゃあ、アリスのせいだね! なんか、私の力も強くなってるし」

 

 どうやら、アセロラの話では昨日のポケモンバトルで受けたシャドウボールの余波が影響しているらしい。それで霊力やら魔力やらで一時的にチャンネルが入れ替わったみたい。あそこは結界で魔力や怨念を集めて閉じ込めているので、霊感などが発達しやすいようだ。それと子供達は怖がるどころか、むしろ大喜びで受け入れて楽しそうにしている。

 

「アセロラお姉ちゃんと一緒~」

「やったー」

「これで見える~」

 

 アセロラと一緒の物を見たり、感じたりしたいみたいだ。良い子達のようで何よりだと思う。ただ、アセロラは反対しているので説得は任せることにする。私はどっちでもいいしね。

 

「霊感ってあっても困るんだよ?」

「一人なら疎外感とか爪弾きとか、虐められたりするでしょうけど……」

「皆が一緒なら大丈夫!」

「そうだよー!」

「ん~」

「それにポケモンバトルとかに有利に働きますしね。テレパシーとかサイコキネシスとか、相手の思考を読むとか」

 

 朝食を食べながら話していく。超能力って本当に便利。

 

「ポケモンバトルでそれは駄目だよ?」

「……試合は駄目か。野生ポケモンとか襲撃された時とかはいいと思うけどね」

「それはまあ、そうだね」

「まあ、力が欲しい人はあそこで過ごせばいいと思うよ? ただ、負の感情が多いから入り浸るのは問題かもしれないけど」

「それ、大丈夫じゃないよ!」

「いや、基本的にゴースト達の餌ですから、純粋なエネルギーしか残らないはず。一応、警戒はして体調の良い時だけにしてね。悩んでる時に来たら駄目だから」

「そうだね、うん。メンタルチェックはちゃんとするよ」

「それがいいかな」

 

 アセロラとのお話が終わった後、子供達に服をあげて最終調整を行う。みんな嬉しそうに新しい服を着て見せびらかしている。フリルのついたワンピースを基本的にして、古着で刺繍や花を飾りを作った。男の子は動きやすいシャツと短パンでポケモンの絵を刺繍してある。

 

「アリス、お弁当を作ったから持っていくよ」

「ありがとう。一緒に行くの?」

「うん。ポケモンと遊びたいって言ってるから……本当、止めてもきかないから困っちゃう」

「あははは。勝手に行かれるよりはいいから……あ、ここの子達も連れていこうか」

「ここのポケモン達も連れていけばもっと楽しいかも」

 

 アセロラ達とピクニック気分で工房に向かって歩いていく。

 

 

 

 工房に戻ったら、数人の人が倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 侵入者

 

 

 

 

 可愛らしい金髪の幼女が一人で住んでいて、レアなポケモンを持っているとの情報を得た。その上、その幼女はサイキッカーと呼ばれる超能力者のようで、金になる。だから、俺達はレアポケモンを手に入れ、色々と楽しんだ後は本人も含めて売り払ってやろうとやってきた。

 

「兄貴、ここがスーパーメガやす跡地です。情報では今、金持ちの餓鬼が一人で住んでるはずですぜ」

「よくやった。こっちの情報とも違っていない。確か、ここはゴーストポケモンが多いって聞いたが、処理したんだろうな……」

「そうでしょうな」

 

 跡地のはずが、綺麗に片付けられていて、瓦礫は敷地の境界部分に積み上げられている。ここからこっそりと中を覗いたら建物には()()()()()()()()

 

「居るな。行くぞ」

「へい、兄貴」

 

 手袋をしっかりと嵌め、ポケモンを呼び出す。まずはヘドロポケモンのベトベトンだ。ガスマスクを装着してから、毒ガスを放たせる。手下の奴等もベトベトンを出して、毒を吐かせていく。即効性の毒だが、死にはしないし確実に動きを封じることができる。

 

 

 

 しばらくしてから建物の中に入る。毒はしっかりと効いているようで、ズバットなどのポケモンが倒れている。俺は手で指示を出してそいつらを袋に入れさせる。モンスターボールで捕まえたかったが、こいつらはすでにモンスターボールで捕らえられている奴のようで弾かれた。だから、一定期間外に出して待つかコイツのモンスターボールを手に入れないといけない。そんな時間はないのでこのまま進んでいく。

 進んでいくと、扉があった。鍵がしっかりと掛かっているから、部下がアシッドボムで鍵を溶かしていく。溶かしてから扉を開き、中に入る。中の毒ガスの濃度はかなり低い。キノコポケモンであるパラセクトを呼び出し、毒ガスと一緒にキノコの胞子を放って室内にも充満させる。

 

「よし、いくぞ」

「「へい」」

 

 中に入ると、まず見えたのは左右に置かれた棚に飾られている人形達。ライトで照らしてみると、まるで生きているかのようにみえるほど精巧な人形だ。

 

「兄貴、こいつは売れそうですぜ」

「ああ。後で回収するぞ」

「へい」

 

 指示を出して部下に先に行かせる。ちゃんと退路も確保しているし、逃げる手段もしっかりと用意している。ここからは慎重に行かないといけない。灯りが灯っている場所に向かう。

 その場所には誰もいない。灯りすらなかった。おかしい。確かに灯りがあったはずだ。

 

「おい、そっちはどうだ?」

「居ません。もしかして、逃げられましたか?」

「ありえん。ここは包囲しているはずだ。一応、連絡をしてみろ」

「へい……」

 

 そう言って電話をかける部下を見てから、俺も探索する。すると後ろから肩を叩かれた。

 

「連絡がついたのか?」

「いえ、まだです」

「そうか。なら、邪魔をするな」

 

 そう伝えたのにまた肩を叩かれる。いらつきながらもう一度声をかける。

 

「おい、繋がったのか?」

「駄目です! 繋がりやせ――」

「ん?」

 

 声が途切れて振り返ると、そこには――

 

 眼から血液を流し、真っ赤に染まった瞳でこちらを見詰める部下の姿だった。

 

 ――すぐに距離を取ろうとした瞬間、肩を叩かれる。

 

「っ!?」

 

 急いで振り返ると、そこには誰もいなかった。先に送り込んだ部下もいつの間にか消えている。必死に探していると、奥に灯りがみえた。そこに金髪の幼い少女の姿が見え、俺は咄嗟に走ろうとした。そうしたらまた肩を叩かれる。振り返っても誰もいない。

 

「なっ、なんなんだこれっ!」

 

 落ち着け。落ち着くんだ。ここはゴーストポケモンが多いはず。だったら、原因はわかる。

 

「ウルガモスっ、見破れっ!」

 

 出した虫ポケモンであるウルガモスに卵技の見破るをさせる。これで原因が判明するはずだ。ウルガモスが光り、周りに衝撃が走る。だが、何もでてこない。周りにあるのは精巧に作られた人形だけ。他には何もいない。

 

「くそっ」

 

 他にも手持ちのポケモン、ニューラやマニューラを出して警戒させる。しかし、何もでてこない。嫌な汗をかくだけだ。

 

「クスクス」

 

 何処からか沢山の笑い声が聞こえてくる。それなのに姿が見えない。燃やしてやりたいが、それをすると俺まで死ぬことになる。胞子や毒ガスが充満している室内では炎なんて使えない。

 

「ウルガモス、戻れ」

 

「クスクス、クスクス」

 

 モンスターボールにウルガモスを戻し、笑い声が聞こえる中、奥に進んで女の子の所に向かう。灯りがついているところから、少女の影が見える。

 そこにいるはずだと思って踏み込むと、誰もいない。蝋燭の灯りがついていて、壁一面に人形が飾られているだけで、他には机ぐらいしかない。当然、誰もいない。いや、蝋燭がある机の上に人形が飾られているぐらいだ。もしかしたら、さっきの影は人形の影だったのかもしれない。

 

「馬鹿な、動いていたぞ……そうか、ニューラ、人形に切り裂くだ!」

「ニャッ!」

 

 ニューラが斬り裂こうと鋭い爪を振るった瞬間、人形は手に持っていた盾で爪を防ぐ。

 

「やはりか!」

 

 ニューラに指示を出そうとした瞬間、嫌な予感がして後ろに飛ぶと、俺が居た場所に青い服を着た無数の人形が人形にとっては巨大な槍を持って突っ込んできていた。そいつらは空中に浮きながら、武器を構えている。ニューラの方をみれば、串刺しにされて空中に縫いつけられていた。

 

 

「クスクス」

「クスクス、クスクス」

「クヒヒヒヒヒッ」

「ミツカッタ」

「クスクス、アソビマショ」

「アリス、アリス、イッショニ、あ~そぼ?」

 

 

 ニューラは痙攣し、槍を抜かれたのに宙に浮かんで虚ろな瞳にでこちらを見詰めてくる。意味がわからない。なんだ、なんなんだ。こいつらはいったいなんだ! こんなのがレアポケモンだというのか! 聞いていたのと違う!

 

「ニャっ」

 

 マニューラが飛び上がり、俺の背後から何かを弾く音が聞こえる。振り返ると、赤い服を着た人形が包丁くらいの大きさの大剣を持って浮かんでいた。そいつらは明らかに殺す動きをしていた。

 

なんで避けるの?

避けちゃ駄目でしょ?

抱きしめてよ

 

「ふざけんなぁあぁああああぁぁぁぁっ!」

 

 こちらに突撃してくるニューラをモンスターボールに戻そうとするが、できない。すぐに俺は逃げることにした。

 

「パラセクト、痺れ粉!」

「セク!」

 

 ばら撒かせる痺れ粉に沿って走る。モンスターボールからウルガモスを呼び出し、背中にくっつかせて天井を飛んで突破する。予想通り、連中は下に向かって斬りかかっていた。突破したら、モンスターボールにマニューラとパラセクトを回収し、ベトベトンにはヘドロばくだんを放たせる。

 必死に入口を目指すと、人影が見えた。それは部下の連中だった。そいつらは虚ろな瞳で身体中から血を流しながら、両手をふらふらとあげてこちらに向かってくる。

 

「あ、あにき、たすけてくだせえ。身体中が痛くて、身体が勝手に動いて……」

「痛い痛い、死にたくないっ、怖いっ、怖いいいいいっ!」

「いやだっ、いやだっ、血がっ、血が吸われてっ!」

 

 中にはズバットやゴルバット達に群がられて血を吸われて青白い奴までいる。

 

鬼さん、どちら~?

鬼さんはあそこ~

 

 振り返ると、無数の人形が飛んでいた。いや、前の方も同じだった。飾られていた大量の人形が宙に浮かび、武器を持っていたり、シャドウボールを放ってくる。

 

「あ、あにきっ!」

「はっ、離せっ! 俺だって死にたくないんだ! お前達はもう手遅れだっ!」

「そっ、そんなっ、兄貴いいいいいぃぃぃっ!」

 

 上下からゴースト達が湧いてきて攻撃してくる。そんな中をボロボロになりながらもどうにか突破して外に出る。外には流石にあいつらはいない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。待て、待て、まてぇえぇぇっ!

 

「赤い月ってなんだ!」

 

 驚いていると、ウルガモスがそのまま必死に外にでようと瓦礫の塀を超える。

 

「へぶっ!?」

「がもっ!」

 

 そのはずだったが、見えない壁にぶつかった。手で触っても出れない。恐怖にかられながら、必死に積み込んで逃げるために用意したトラックを見る。運転席座っている部下は倒れていた。それもトラックの天井がひしゃげていて、上から襲われたかのような状態だ。トラックの上に視線をやると、そこには部下の身体を持ちながら、複数の人形を乗せたメタングの姿があった。

 そいつは部下達を塵か何かのように捨てると、即座に移動してこちらに突っ込んで来る。

 

「逃げろっ!」

 

 急いでウルガモスに指示をだして逃げる。メタングは地面から浮かび、滑るように高速で追ってくる。その上、乗っている人形達がシャドウボールを放ってくるので、こっちは反撃する暇もなく逃げに徹するしかない。

 

「がもっ!」

「止まる、な……」

 

 ウルガモスが止まり、上を見ると……そこには絶望が広がっていた。ヒノヤコマやズバット、無数のゴースト達が色違いとノーマルのメタングに率いられて空を飛んでいる。背後を見れば室内の窓や扉から無数の人形達が飛び出してきて、建物からはゴースト達がでてきていた。

 

「あははは、なんだよ、なんだよこれっ! ふざけんなぁあぁああああぁぁぁぁっ! 殺す気満々じゃねえか! 上等だっ! ウルガモスっ、炎のう――」

 

 指示を出そうとした瞬間、ズバットやゴルバットから無数の超音波が放たれる。声が出せない。そんな中、メタング達に光が集まっていく。破壊の光に黒い光達。それが放たれ、ウルガモスは混乱しながらも火炎放射で対抗するが、あっさり貫かれてダメージを負う。そのまま落下していくと、メタングが超音波の中、接近してきて俺とメタングを掴んでくる。これで落下死することはなかったが、何時殺されるのかわからない。そう思った瞬間、手足を折られた。

 激痛に苛まれる中、後悔する。たった一人の小娘を相手にするだけの簡単な仕事だった。相手は一人だが、優秀なトレーナーと考えて数を揃えたはずだった。だが、相手は更に数を揃えて警備に充てていた。それもこちらの命など気にせず、死んだらそれまでだという恐ろしい考えでだ。とても小さな子供がする考えじゃない。

 

 

 

 

 

鬼ごっこ、終わっちゃった

また遊ぼうね、アリス

おやすみなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、ナニコレ?」

 

 褒めて褒めてとやってきたポケモン達を可愛がりながら状況を確認していく。

 

「不審者みたいだね~警察よぼうか」

「いや、その前に救急車じゃないですか?」

「悪い人、たおしたの?」

「みたいですね……あ、すいません。警察と救急車をお願いします。」

「アリスお姉ちゃん、ケーキ食べていい?」

「ケーキ? いいですけど……って、なんでこんなにいっぱいあるの? 昨日、なくなってたはずなのに……」

 

 不思議に思っていると、ケーキがどんどん自動的に作られていく。術式を調べると、どうやら魔力が溜まると勝手に作られていく仕組みみたい。そういえば、解除していなかった。ケーキスタンドがある限り、無限に湧いてくるみたいだ。ここはエネルギーがいっぱい集まってくるし、それで復活したのか。

 

「まあ、いいか」

「?」

「なんでもないよ。それより、この人達のポケモンだけど……治療しよう」

「そうだね。ポケモンは悪くないし……」

「再教育は必要だろうけど、ジュンサーさんにお願いして引き取りたいな。特にウルガモスとパラセクト」

「強いの?」

「強いよ」

 

 やってきた警察と病院の人に全部任せて、ポケモンだけ引き取らせてもらうようにお願いした。ただ、ジュンサーさんにやり過ぎだと言われた。でも、一人だし、悪い人に捕まりたくないからって涙眼で訴えたら許してくれた。巡回も強化してくれるらしい。やったね。それに訴えられても私有地であり、危険で凶暴なポケモンを放しているので許可がない限り、入らないようにと警告文を出している。私の電話番号まで載せてあるので、大丈夫だ。侵入者に容赦はしない。私が命懸けで捕まえたファイヤーや人形達を狙ってくる悪い奴等に天誅を下すのに躊躇など微塵もない。

 

 

 

 

 




本当は通路から滲み出るようにゴースト達が襲ってくる。そんな展開にしようかと思ったけど、スーパー跡地に通路なんてない。なのでこんな形になりました。
あ~かいつ~き、あかいつき~こよいはだあれが~
という感じ。因みに赤い月は結界で流入してくるエネルギーのせい。効果はなし。そう見えるだけ。なぜこんな風にしたかというと、ルナティックな状況を再現してみようと思っただけ。
逃がしてメタングとのカーチェイスならぬポケチェイスとかもいいかと思ったけれど、そこまでする気力がなかった。

次は少し時間が空きます。別のもあげないとね。

最後に令和になっても平和でありますように。


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23話

 警察の人達に不審者を引き渡し、事情聴取を受けて現場検証とかも終わらせ、手続きをして彼等のポケモンを損害賠償として引き取らせてもらえないか、お願いしておいた。結果はまだわからない。何せ、色んな所からポケモン達を盗んでいたみたいだし、裏付け捜査とかが大変らしい。

 さて、私、アリスはポケモン世界に来て一週間が経ちました。本日は帰るための準備中というわけです。

 まず連れて帰るポケモンはメルク、マザー、ファイヤー、メタング、メタモン、カゲロウ、ゴース、ゴースト、ミミッキュ、ヒノヤコマなどなど。もちろん、ここにも何体か置いていくし、連れていくのは警備に支障がでない程度。

 人形達も一部は置いていく。この子達はカゲボウズやジュペッタとして扱われているのか、不安だ。ひょっとしたら図鑑だとミミッキュやゴースト達と同じとされているかもしれない。

 

「アリス、卵はもっていくの?」

「そのつもりだよ」

 

 ここで生まれた卵は二つ。一つはマザーとメルクの卵。もう一つはマザーとカゲボウズの卵。この二つは初めての卵なので持っていく。でも、卵は何時の間にかできていたので本当にわからない。ちなみに人形の数は数えてみたら減っていなかったけれど、ほぼ完成していた赤ずきんが消えていた。このことから、おそらくポケモン世界固有の生命体として再構築されているのかもしれない。生まれてくるのが上海人形と同じ姿なら、外装という考えは間違っていない。でも、上海人形の姿でなければ先に言った通り、再構築されて生まれてくるのだと思う。赤ずきんが作り直しになったので悲しんだけれど、新しい命として生まれてくるのでよしとして祝福しよう。それに数をこなした方がいいのができるしね。

 

「そっか。アリス、準備はもういいの?」

「お弁当は持ったし、持って帰る荷物のチェックも終わってるよ」

 

 机の上に置いてあるトランクケースに必要な物を全部入れてある。確認はしたし、大丈夫。回復装置は留守番をしてくれるアセロラ達のために置いていくし、そこまで荷物はない。

 

「お土産は?」

「ちゃんと入ってる」

「ならよし。それじゃあ、ポケモンバトルをしよう!」

「そうだね。アセロラと戦うのは初めてかも」

「負けないよ」

「こっちこそ」

 

 工房内に作ったバトルフィールドに向かい合うようにして立ち、互いに見つめ合う。アセロラは身体を揺らしながら二つのモンスターボールを構える。私も上海と蓬莱を前方に出し、腰からモンスターボールを取り外して構えを取る。

 

「勝負は二体二のダブルバトル。私はミミたんとジーたんだよ!」

「私は上海と蓬莱です」

 

 アセロラと私はボールを投げたりせずに普通に仕舞う。だって、すでに出ているし、そもそも上海と蓬莱はボールに入らないしね。

 

「その子達ってポケモンなのかな?」

「違うけれど?」

「ポケモンバトルがしたかったんだけど……」

「駄目?」

「ううん、別にいいよ。その子達がアリスの中で一番強いんでしょ?」

「そうだよ。この子達は私の切り札なの。だから、鍛えないといけない」

「なら全然大丈夫! 戦えるのはかわらないからね!」

「ありがとう。じゃあ、行くよ」

「うん!」

 

 コインを中央に投げて落ちるまで待つ。落ちてチリーンと鳴った瞬間、私達は互いに行動を起こす。まず初手は互いに弾幕を展開する。ジュペッタのジーたんがシャドウボールの小さい奴を複数生み出す。何度か戦っているうちにアセロラも弾幕の大切さを理解したみたい。

 それに対してこちらは上海と蓬莱の二体で弾幕を生み出すことで対抗する。数はこちらの方が多いので、互いに激突し合って爆発する。

 

「ミミたん、危ない奴だけぶつけて相殺!」

 

 煙によって周りが見えなくなる。おそらく、これで仕掛けてくるはず。相手はミミッキュとジュペッタ。接近戦も遠距離戦もできる。しかし、アセロラからしたら弾幕で防がれるのは目に見えているから、遠距離はなしと考えるだろう。そうなると接近戦に持ち込む方法としてこの煙に任せて突破してくることだろう。ゲームと違ってターン制なんて存在しないし、連続攻撃も当たり前のこと。もっと言えば事前に攻撃力などのランクを上げる補助技を積んでいても、問題ない。そもそもゲームと違って四つの技指定は公式しか存在しない。バリエーションがあればそれこそ四つを越すことになる。

 

「なら、やることは一つ」

 

 上海に盾を構えさせて突っ込ませる。後方に蓬莱を潜ませて一直線に向かう。光の壁という名のバリアを展開しつつの突撃。蓬莱はその間に火力を上げつつ接近。

 煙を抜けると上海の視界にミミたんの姿が見える。ジーたんは離れた位置からシャドウボールを連打してくるので、そちらは無視して接近する。まずは一体を落とす! 

 

「そうくるとわかっていたよ。だからね、ミミたん!」

「え?」

 

 ミミたんが突っ込んでくる。それを上海の槍で串刺しにしようとした瞬間。ミミたんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やばっ!?」

 

 それは急速に周りの物を吸い寄せていく。アセロラの手には何時の間にかつけていたのか、腕輪が存在した。そこには菱形の黒い物が添えられている。

 

「ブラックホールイクリプス! ずるいっ!」

「ふふ、騙し討ちは悪タイプの基本だってアリスが教えてくれたもん。実践しなきゃね?」

「それでもZリングごと隠すかぁっ!」

「あっはっは、古代のプリンセスたるアセロラがルール!」

「くっ、でもまだ……」

 

 上海と蓬莱はバリアもあって対抗できている。吸い寄せる力と離れる力が拮抗しているので、このまま時間が経てば解除される。

 

「ううん、詰みだよ」

「?」

 

 小首を傾げると、上を指さすアセロラ。私はそちらに目をやると、無傷のミミたんとジーたんがいる。ミミたんがブラックホールイクリプスを維持しているとして、じゃあジーたんは? 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「でもっ、まだっ! 上海!」

 

 速度の乗った片手のシャドークローでバリアが粉砕され、上海の盾で防ごうとしたら消えた。相手は消えた。影分身のようで、気付いたら上海の後ろに現れていた。騙し討ちに不意打ちを合わせられていたのか、背後に回られ蹴られて上海が弾き飛ばされる。相手はその反動を利用して蓬莱に突撃する。そうなると蓬莱も武器の大剣でシャドークローと切り結ぶ。だけど、背後に吸い寄せられながら、相手の方が上から来ているので力負けする。ブラックホールイクリプスによるダメージとシャドークローによるダメージで、蓬莱は倒された。正確にはまだ大丈夫だけれど、蓬莱に設定していた許容量を超えるダメージにバリアが発動したので、そのまま大人しくさせる。

 

「二体一だけど……まだだっ!」

 

 上海をミミたんへと突撃させて槍で串刺しにしようとすると、ミミたんは自分から突っ込んできて串刺しにされて倒れた。

 

「きゅきゅ」

「み・ち・づ・れ」

「みぎゃーっ!」

 

 上海がビクンッとした後、床に落ちていく。私は慌てて走って落ちてくる上海をスライディングしてキャッチする。

 

「アセロラちゃんの外道! 鬼畜!」

「なんとでも言うがいい。おじさんやアリスだって勝てば官軍負ければ賊軍だって言ってたもん。二対一になったらそりゃするよねー?」

「くぅ~」

「ミミたん、ジーたん、お疲れ様。完全勝利だよ!」

「きゅ~」

「じゅ」

 

 フラフラのミミたんを抱きしめてボロボロになった外装の上から撫でてあげながら、私が作り出したケーキを食べさせている。ジーたんもだ。

 

「完全勝利じゃないでしょ。だって一体は落ちてるし」

「作戦だもん」

「くっ、言い返せないけど、完全勝利と言うよりは完封だと思うよ」

「完封か。うん、そっちだね」

 

 蓬莱と上海のダメージを確認する。蓬莱の方はポケモン世界の常識範囲内のヒットポイントゲージを消費したと判断して、バリアが発動したからそこまで治療するのは手間じゃない。問題は上海の方。こちらはで道連れのせいで機能不全を起こしている感じなのでオーバーホールした方がいい。賢者の石に暴走されたらかなわない。

 

「上海はしばらくお休みだからね。これからお母さんのところに行くから、そっちで直してもらおう」

「シャンハーイ」

「蓬莱は護衛をお願い」

「ホラーイ!」

 

 上海はしょんぼりしているが、身体が動かないのでぐったりしている。蓬莱はそんな上海の手を握ってしきりに頷いていた。

 

「ポケモンバトル、難しいなあ……」

「そもそも人形でやるもんじゃないからね? ポケモンなら回復できるけど……」

「ミミたんにもいえるね」

「そうだね」

 

 ボロボロになった外装は回復できないので、ミミたんは外装を外して普通に浮いている。何個か用意はしてあげているし、ここに居たらその内実体化ができるようになれるかもしれないしね。

 

「どうするの?」

「んー予定通りに行くよ」

「まあ、お母さんに会いたいよね」

「うん」

 

 アセロラにはお母さんが見つかったので、そっちに向かうことを伝えている。それで私が居ない間、ここの管理をお願いしてある。また戻ってくるしね。カイオーガを狙うまで一年はあるし、実力を上げるには色々としておきたい。

 

「まあ、ここはアセロラに任せて。むしろ、次に来る時はアセロラがここのボスになってるかもしれないよ」

「期待してるよ」

 

 アセロラにここの鍵を渡して、残りのお金も渡しておく。これでポケモン達の餌を買っておいてもらう。結界の維持に私の魔力ではなく、ここに集まった力をエネルギーにするようにしたし、マッドスウィートケイクはほぼ使えないと思う。結界の維持すら足りないかもしれないので、その辺りはゴーストタイプの子達に補充してもらうように頼んでおいたから本当に大丈夫だと思うけどね。

 

「身体に異変があったら来るのは暫く空けた方がいいからね」

「わかってるよ。皆が聞くかはわからないけど」

「確かに」

 

 アセロラと話していると、時間を知らせるためにポケギアが鳴りだした。

 

「じゃあ、そろそろ行くね」

「またね、アリス」

「またね、アセロラ」

 

 最後に握手してから、外に出てメルクを出してトランクケースを置いてから乗る。上に乗ったら、肩ではなく頭に蓬莱を置いて手を振る。アセロラも手を振り返してくれた。

 

 

 

 

 

 しばらく電磁浮遊で移動するメルクの上で海を眺めながらぼーとする。島が見えなくなり、周りに誰も居なくなったらGrimoire of Alice(アリスの魔導書)を開いてクトゥルフ神話の世界へと転移する。

 視界が暗転し、異世界転移の広場に到着した。円形の広場には何か言い知れない雰囲気が漂い、廊下の先には鋼鉄の扉があって相変わらず時計の針が動いていた。しかし、なにも起きない。ほっとしながら、警戒を続けながらポケモン世界の扉を見る。残り七日十三時間と開かれるまでの時間が書かれている。どうやら、居た分とプラス一日だけのクールタイムが発生しているみたいだ。

 東方世界の扉を見ると、こちらはまだクールタイムが終わっていない。だから一日はここに居ないといけない。なんだか嫌な予感がするから早くここから逃げだしたい。暇を潰そうとして重く感じる執務室の扉を開けて入った瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

わ た し は し ん だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Bad Ending

 

 

 

 

 

 

 

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 →TITLE

 

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 オオ、アリスヨ。シンデシマウトハ、ナサケナイ。ツギハキヲツケルガヨイ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 TITLE

Continue

 

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 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 TITLE

 →Continue

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室。そこには壁に激突して、全身の骨が粉々になって死んでいるアリスだった物の残骸が埋まっている。その傍らには体長二から三メートルはあろう巨大な怪物が佇んでいる。その怪物は一見蟻のようだが触角は短く、人間のような皮膚と目、爬虫類のような耳と口、肩と尻の付根辺りにそれぞれ鋭い鉤爪が付いた手足を左右二本一対ずつ持っている。尻には磁気を操るフーンという器官があった。

 この怪物によってアリスは殺された。この怪物は地球の大気圏内では時速七〇キロメートル程度だが、気圧が下がればさらに早く飛ぶ事ができ、宇宙では光速の一〇分の一程度の速度が出せる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その怪物は跪いて臣下の礼を取り、壁に埋まっているアリスを見詰める。壁に埋まっているアリスの顔が真っ黒になり、身体が急速に再生していく。それが終わると同時に壁が強力な風によって吹き飛ばされ、()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――――」

「――、――――」

 

 アリスが地球に存在する言語以外の物を発し、怪物が答えていく。そして、アリスは隠されていたハスターの印が刻まれたブローチを回収し、身に着ける。それからトランクケースよりマザーとカゲボウズから生まれた卵とメルクとマザーから生まれた卵を取り出す。

 

「――――」

「――」

 

 化物はアリスの指示により、メルクとマザーの卵に光の粒子となって入っていく。すると卵が黄色に変化して、ハスターの印が小さく刻まれる。

 

「我が力を使うのなら大人しく印を持っておけばいい物を……そんなに嫌なら、お前ではなくこちらに与えてやる。それでも結果は変わらぬ」

 

 アリスはブローチに力を籠めると、それをカゲボウズの卵へと押し当てる。すると卵の中に吸い込まれるように消えていった。

 

「しかし、罰は与えねばならぬ。嫌でも理解させればよいか。ふむ、これにしよう。ちょうど召喚が行われているからちょうどよい」

 

 その言葉と同時にアリスの顔に仮面が現れ、手には一冊の本が虚空から出現する。その本、四聖武器書が開かれると、残ったのは壊れた人形やトランクケースだけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 95だったから仕方ないね。もっとも、でなくても死んでました。黄衣の外套だけ使わせてもらって、聖印を身に着けないとか、神様からしたらふざけるなってことですよねー。力だけ貸す訳ありません。
 化け物はハスターの眷属、蜂蜜酒の大好きな僕等のヒーローさん! いえ、あれはネームレスカルトのとは違うか、まあいいです。

 さて、ここで一つ考えているんですが……ポケモン世界の時間、キンクリするしかないんですよね。どう考えて二年も暗躍できない。無理。
 東方世界を旅してもいいんですが、そこはちょくちょく入れていくつもりですが、こちらも異変を起こすまでは魔法の森から出られません。考えているのは八雲紫に連れていってもらって紅魔館や冥界ぐらいですね。
 そして何より、擬人化ジュペッタって可愛いですよね。でも、擬人化にする理由ってどうやるんだって考えたところで、アマゾンプライムに盾の勇者の成り上がりが……これって成長させるのにベストじゃないかなーと。ふぃーろちゃん、鳥から天使になってますし。ジュペッタとかに適応したらいいんじゃないかと。しかし、そうなるとガンダムがおそくなるのです。
ガンダムは今のところ、オルフェンズで話を考えております。オルガ団長には生きてて欲しいからね!

という訳で短期アンケートです。よろしくお願いいたします。


ハスタージムリーダーと書かれていますが、これはミスです。普通のジムリーダーです。修正できないのでこのままで。

1.ハスター印のカゲボウズとジムリーダーを倒しにいってスキルポイント集め。
2.東方世界での旅。紅魔館短期ホームステイ。パチュリー様に魔法を教えてもらい、フランドールと遊ぶ(死亡フラグ有り)。
3.東方世界での旅。冥界短期ホームステイ。薙切アリスの能力が大変な料理人生活。冥界の為怨霊いっぱいでカゲボウズのレベル上げもできる。(疲労で死亡フラグ)
4.物凄く可愛いメガジュペッタやメタグロスなどポケモン擬人化の為に盾の勇者の成り上がりへ。魔導書の勇者になる予定。(死亡フラグ有り)
5.オルフェンズに止まるじゃねえぞを防ぎ、団長の運命を変えに行く。死亡フラグ及び人類の敵フラグ有り。(死亡フラグ有り)

詳しいアンケート内容です。アンケート、修正できたらいいのになー。


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盾の勇者の成り上がり世界で修行1
岩谷尚文


短期アンケートで盾の勇者の成り上がりに決定!

前の話は後で少し弄ります。具体的にはあのままハスターとした状態で盾の勇者の成り上がり世界に召喚されました。優しいハスター様ですが、お仕置きも用意されております。


 

 

 

 

 図書館でラノベを探していると、四聖武器書という本をが落ちて来た。その本を拾って読んでみたら気が付けば意識を失い、別の所に飛ばされていた。倒れていた床には魔法陣が光り輝いており、前方を見ればローブを着た男達が何やらこちらを見詰めている。

 

「「「おお……」」」

「なんだ?」

 

 感嘆と驚愕する声に俺はハッと我に返り、纏まらなかった周りを見渡せばと俺以外にもこの状況を飲み込めていないだろう男が三人いる。一体どうなっているのか、首を傾げる。

 俺はさっきまで確かに図書館に居たよな、なんで……ていうかここはドコだ? 

 キョロキョロと天井や壁を見渡すと煉瓦で作られただろう石造りの壁が目に入るが、まったく、見覚えの無い建物だ。間違っても図書館ではない。下を見ると蛍光塗料を塗られて作られたかのような幾何学模様が書かれた魔法陣と祭壇。その祭壇に俺達は立たされていた。

 

 でだ……なんで俺、盾を持ってるんだ? 

 妙に軽く、ピッタリと引っ付く盾を俺は持っていた。何で持っているのか理解に苦しむので地面に置こうとするのだけど手から離れない。

 

「ここは?」

 

 とにかく、どうなっているのか気になっている所で前に居る剣を持った奴がローブを着た男に尋ねた。

 

「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

「「「「はい?」」」」

 

 異口同音で俺達は喋っりながら考える。このフレーズはネット小説とかで読んだ事があるような気がしないでもない。そう思っていると、異変は更に起こった。祭壇にある魔法陣であろう物が更に光出したのだ。

 

「なっ、なんだこれは……」

「もしかして帰れるのかもしれませんね」

「そ、そうか。それは嬉しいな」

「俺は……」

 

 すぐに三人魔法陣から出てしまった。俺はどうしようかと考えているうちに光が強烈になってくる。ローブの男達が慌てて詠唱を開始していくが、どうやら効果がないようだ。いや、待て。連中が詠唱しているのはやばい呪文だ。それに目が虚ろだ。

 

「「「いあ いあ はすたあ はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ いあ いあ はすたあ」」」

 

 やばいやばいやばいやばいっ! 何かはわからないけれどまずい! ハスターってクトゥルフ神話の奴だろっ! そんなのを召喚するとか、勇者とか言って生贄する気満々じゃねえか! 

 俺は必死に魔法陣から出ようとすると、光の壁に邪魔をされる。

 

「あははは、終わった……」

 

 そう思った瞬間。光は中心部に収束していき、だいたい110センチ前後になった。その光が失われると、中にはボロ布めいた黄色い衣を身に纏い、青白い仮面をつけている小さな可愛らしいと思われる女の子がいた。白いシャツに青いフリルのついたスカート。頭部には青いヘアバンドをしている。胸にはハスターの紋章が刻まれた縞瑪瑙のブローチをつけていて、彼女の手には大きな本と卵が二つ握られていた。

 

「―――」

 

 その女の子は意味のわからない言葉を発しながら、周りを見渡す。そして、俺に気が付いたようでこちらによってきて、手を差し出してくる。俺は恐る恐る手に触れると、身体中が調べられるかのような悪寒に襲われた。

 

「大丈夫か?」

 

 悪寒が終わると、彼女は可愛らしい声で()()()()()()()()()()()聞いてきた。周りを見渡せば何時の間にか魔法陣も沈黙しているので、ローブの男達が答えていく。

 

「ああ、ありがとう」

 

 起き上がり、恐る恐る彼女を見詰めると、その装備はクトゥルフ神話と呼ばれる物に出てくるハスターの化身に似ていた。ボロボロになった黄衣に青い仮面。なにより縞瑪瑙のブローチをつけている。いや、あれはつけていれば襲われるのだったか。つまり、この子は被害者であり、ハスターの器となっているのか? 

 

「まさか、もう一人の勇者を召喚できるとは……」

「これは何かの間違いでは……」

「いやいや、それよりも……」

 

 ローブ達の結論はでないようで、俺達は放置されて話し合いがされている。召喚した時の記憶は存在しないようだ。

 

「そこの美しいお嬢さん。そのような無粋な仮面を外してはいかがかな?」

「阿保か、止めろ!」

「なんだお前。俺はその子に話しかけているんだ、邪魔をするな」

 

 金髪のロン毛が彼女をナンパしようとしているのか、話しかけるが、わかっていないのか? 下手をすればこの世界が消滅する危機かもしれないんだぞ? 仮面を取っただけで正体が露見して全員が狂気に犯されて直葬されちまうんだぞ! お前の自殺に俺を巻き込むなっ! 

 

「まあまあ、お嬢さんは勇者か巻き込まれた者ということでいいのではないですか?」

「そうだな。何れにしてもすぐにわかるだろう。それに仮面に関しては何かるかもしれないからな」

「ちっ、わかったよ」

「ふふ」

 

 彼女は笑うだけで何も答えない。むしろ、持っている本に何かをしているようだ。そんなことをしていると、ローブの男達は結論に達したようだ。

 

「こほん。勇者の皆様。この世界は今、存亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」

 

 ローブを着た男が深々と俺達に頭を下げるが、確かに現在進行形で世界の危機だろうよ。邪神の現身が隣に召喚された可能性があるんだからよ! だが、こいつらは気付いていないみたいだから仕方がない。召喚呪文を唱えた記憶もないみたいだし。

 

「まあ……話だけなら――」

「嫌だな」

「そうですね」

「元の世界に帰れるんだよな? 話はそれからだ」

 

 俺が話を聞こうと喋っている最中、遮るように他の三人が言う。

 

 はい? 

 

 必死に頭を下げている奴になんて態度で答えるんだよコイツ等。話だけでも聞いてから結論を述べれば良いだろうに。俺が無言の眼力で睨むと三人は俺に視線を向ける。

 ……なんで半笑いなんだよ。微妙にテンションが上がってるのが分かるぞ。

 こいつら、実は嬉しいんだろ。まあ、これが真実なら異世界に跳躍できたという夢を叶える状況だけどさー……。お前らの態度も常套句だよな。でもさ、だからこそ話を聞いてやれよ。特に今回はデストラップがあるんだぞ。ご本人様は我関せずといった感じで本を読んでいらっしゃる。いや、いつの間にかペンを呼び出しているので書いているのかも知れない。

 

「人の同意なしでいきなり呼んだ事に対する罪悪感をお前らは持ってんのか?」

 

 剣を持った男、パッと見だと高校生くらいの奴がローブを着た男に剣を向ける。

 

「仮に、世界が平和になったらっポイっと元の世界に戻されてはタダ働きですしね」

 

 弓を持った奴も同意してローブの男達を睨みつける。

 

「こっちの意思をどれだけ汲み取ってくれるんだ? 話によっちゃ俺達が世界の敵に回るかもしれないから覚悟して置けよ」

 

 槍を持った奴が下手をしたら敵に回ると宣言する。これは、アレだ。自分達の立場の確認と後の報酬に対する権利の主張だ。どれだけたくましいんだコイツ等は、なんか負けた気がしてくる。女の子はまたもや完全無視だ。

 

「ま、まずは王様と謁見して頂きたい。報奨の相談はその場でお願いします」

 

 ローブを着た男の代表が重苦しい扉を開けさせて道を示すが、納得できる内容だ。下っ端に決められることでもないだろうしな。

 

「……しょうがないな」

「ですね」

「ま、どいつを相手にしても話はかわらねえけどな。お嬢さん、行きましょう。この国の王様が話してくれるらしいです」

「わかった。ついていってやろう」

 

 女の子は偉そうに言いながら、たくましい奴らに付いて行く。俺も置いて行かれないように後を追うのだった。

 それから俺達は暗い部屋を抜けて石造りの廊下を歩いて階段を登っていく。

 ……なんだろう。空気が美味しいと表現するだけしか出来ないのは俺の語彙が貧弱だからだろうか。

 窓から覗く光景に俺達は息を呑む。

 どこまでも空が高く、そして中世ヨーロッパのような町並みが其処にはあった。思わず見とれていると、他の奴等が海外に旅行した時のことを言ってくるが、そんなの俺は行ったことなんてない。

 

 

 

 

 

 そんな町並みに長く目を向ける暇は無く、俺達は廊下を歩き、豪華な扉がある謁見の間に辿りついた。扉が開かれ、絨毯が引かれた中を歩いて立ち止まる。

 

「ほう、こやつ等が古の勇者達か」

 

 謁見の間の玉座に腰掛ける偉そうな爺さんが俺達を値踏みして呟く。どことなく印象が良くない感じがする。人を舐めるように見る奴を俺はどうも好きになれない。それにそんな視線をやると、何時殺されてもおかしくない。そう思ったのだが、女の子は王様の言葉も完全無視である。

 

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ顔を上げい」

 

 さげてねーよ! と、突っ込みを入れたい衝動に駆られたが一応は目上の相手だし、王様らしいからグッと我慢する。それよりも彼女が爆発しないか気が気でない。

 

「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向かいつつある」

 

 王様の話を簡単に纏めるとこうだ。この世界には終末の予言と言うものが存在し、いずれ世界を破滅へ導く幾重にも重なる波が訪れる。その波が振りまく災害を撥ね退けなければ世界は滅ぶというのだ。

 

 その予言の年が今年であり、予言の通り、古から存在する龍刻の砂時計という道具の砂が落ちだしたらしい。この龍刻の砂時計は波を予測し、一ヶ月前から警告する。伝承では一つの波が終わる毎に一ヶ月の猶予が生まれるとのことだ。当初、この国の住民は予言を蔑ろにしていたそうだ。しかし、予言の通り龍刻の砂時計の砂が一度落ちきったとき、災厄が舞い降りた。

 

 次元の亀裂がこの国、メルロマルクに発生し、凶悪な魔物が大量に亀裂から這い出てきた。その時は辛うじて国の騎士と冒険者が退治することが出来たのだが、次に来る波は更に強力なものとなるのは予言で知らされてわかっていた。このままでは災厄を阻止することが出来ない。そこで国の重鎮達は伝承に則り、勇者召喚を行った。というのが事のあらましだ。ちなみに言葉が分かるのは俺達が持っている伝説の武器にそんな能力があるそうだ。だが、このことを考えると彼女は勇者ではないのかもしれない。何せ、最初は言葉がわからなかった。だが、今では俺達と普通に話せている。まるであの時に適応したかのように。まさか、俺に触れられた時に調べられたのか? 

 

「話は分かった。で、召喚された俺たちにタダ働きしろと?」

「都合のいい話ですね」

「……そうだな、自分勝手としか言いようが無い。滅ぶのなら勝手に滅べばいい。俺達にとってどうでもいい話だ」

 

 先ほどの笑い方から、内心は大喜びの癖にぬけぬけと何を言っているのやら。まあ、俺も便乗するか。今のところ、特大の爆弾は大人しくしてくれているし、情報を集めた方がいいだろう。

 

「確かに、助ける義理も無いよな。タダ働きした挙句、平和になったら、さようならとかされたらたまったもんじゃないし。というか帰れる手段があるのか聞きたいし、その辺りどうなの?」

「ぐぬ……」

 

 王様が臣下の者に向けて視線を送る。

 

「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です」

 

 俺を含め、女の子を除く勇者達はグッと握り拳を作った。よし! 話し合いの第一歩。

 

「他に援助金も用意できております。ぜひ、勇者様たちには世界を守っていただきたく、そのための場所を整える所存です」

「へー……まあ、約束してくれるのなら良いけどさ」

「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」

「……そうだな」

「ですね」

 

 どうしてコイツ等は常に上から目線なんだよ。現状、王国が敵になったら一番困るのは俺達だぞ。まあ、ここはしっかりしておかなきゃ骨折り損のくたびれもうけになりかねないからしょうがないか。

 

「では勇者達よ。それぞれの名を聞こう」

 

 ここで俺は気が付いた。これ、さっきまで読んでいた本。四聖武器書に似ていないか? 

 剣に槍に弓、そして盾。女の子はイレギュラーっぽい召喚の仕方がされたし、この際関係ないと判断すれば、勇者という共通項もあるしな。という事は俺達は本の世界に迷い込んでしまっているのかもしれない。

 考え事をしていると剣の勇者が前に出て自己紹介を始める。

 

「俺の名前は天木錬だ。年齢は16歳、高校生だ」

 

 剣の勇者、天木錬。外見は、美少年と表現するのが一番しっくり来るだろう。顔のつくりは端正で、体格は小柄の165cmくらいだろうか。女装をしたら女の子に間違う奴だって居そうな程、顔の作りが良い。髪はショートヘアーで若干茶色が混ざっている。切れ長の瞳と白い肌、なんていうかいかにもクールという印象を受ける。細身の剣士という感じだ。だが、高校生といっても彼等にはわからないだろう。

 

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前は北村元康、年齢は21歳、大学生だ」

 

 槍の勇者、北村元康。外見は、なんと言うか軽い感じのお兄さんと言った印象の男性だ。錬に負けず、割と整ったイケメンって感じ。彼女の一人や二人、居そうなくらい人付き合いを経験しているようなイメージがある。髪型は後ろに纏めたポニーテール。男がしているのに妙に似合っているな。面倒見の良いお兄さんって感じだが、彼女に声をかけた時のことを考えるとそうでもないのかもしれない。純粋に心配してならいいのだが……

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は17歳、高校生です」

 

 弓の勇者、川澄樹。外見は、ピアノとかをしていそうな大人しそうな少年だ。儚げそうな、それでありながらしっかりとした強さを持つ。あやふやな存在感がある。髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。大人しそうな弟分という感じ。みんな日本人のようだ。これで外人とかだったら驚くけどさ。おっと、次は俺の番か。

 

「次は俺だな、俺の名前は岩谷尚文。年齢は20歳、大学生だ」

「ロリコンさんですよね」

「違うわ!」

「でも、その子をよく見てますよね?」

「それには理由がある。後で話す」

 

 王様が俺を舐めるように見る。背筋が何かむず痒い。

 

「……」

「そこな少女よ、名前を……」

「……」

 

 完全に無視され、王様が目に見えて機嫌が悪くなってくる。すると、恐ろしいことに元康が彼女に話しかけていった。今回は止めなくていいだろう。どうなるかふからないしな。

 

「美しいお嬢さん、お名前は?」

「……名前? 我に名を問うのか」

「あっ、ああ、教えてくれないかな?」

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「アリスちゃんだね。良い子だ」

「中二病という奴でしょうか?」

「かもしれん」

 

 アリスと名乗ったハスター。これはいよいよやばいかも知れない。ただの中二病だったらありがたいが、違えば世界の破滅だ。それに俺は身体の中を精査されたからか、本物だとわかる。

 

「ふむ。レンにモトヤスにイツキ、アリスか」

「王様、俺を忘れてる」

「おおすまんな。ナオフミ殿」

 

 まったく、抜けた爺さんだ。そりゃあ……なんとなくこの中で俺は場違いな気もするが其処はこう、忘れないで欲しい。

 

「では皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい。こちらとしては四人のつもりが五人というので、ステータスで判断させてもらいたいのです」

「へ?」

 

 ステータスってなんだっ!? 

 

「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

 

 樹がおずおずと王様に進言した。いきなりステータスとか何の話だよ。そんなゲームみたいなことある訳ないだろう。

 

「何だお前ら、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」

 

 レンが、情報に疎い連中だと呆れたように声を出す。知るか! というか、何だその情報通ですって顔は。

 

「なんとなく視界の端にアイコンが無いか?」

「え?」

 

 言われるまま、俺は何処を見るでもなくぼんやりとすると視界の端に何か妙に自己主張するマークが見える。

 

「それに意識を集中するようにしてみろ」

 

 ピコーンと軽い音がしてまるでパソコンのプラウザのように視界に大きくアイコンが表示された。

 

 

 岩谷尚文

 職業 盾の勇者 Lv1

 装備 スモールシールド(伝説武器)

 ストームシールド(未開封)

 異世界の服

 スキル 無し

 魔法 無し

 

 

 さらっと見るだけで色々な項目があるけれど割愛する。ステータスとはこれの事か。っていうかなんだよこれ! 妙にゲームっぽいな。まさか本当にゲームなのか? 

 それにストームシールドって何だ。直訳すると嵐の盾か。未開封になっているが、それでもかなり強力な物のようだ。もしかして、ハスターに身体を調べられた弊害か、プレゼントなのだろうか? 

 

「Lv1ですか……これは不安ですね」

「そうだな、これじゃあ戦えるかどうか分からねぇな」

「というかなんだコレ」

「勇者殿の世界では存在しないので? これはステータス魔法というこの世界の者なら誰でも使える物ですぞ」

「そうなのか?」

 

 現実の肉体を数値化して見ることが出来るのが当たり前なのか、これは驚きだ。

 

「それで、俺達はどうすれば良いんだ? 確かにこの値は不安だな」

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」

「強化? この持ってる武器は最初から強いんじゃないのか?」

「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」

「伝承、伝承ね。その武器が武器として役に立つまで別の武器とか使えばいいんじゃね?」

 

 元康が槍をくるくる回しながら意見する。それもそうだ。というか俺は盾。武器ですらない物を持たされているのだから必要なものだ。

 

「そこは後々、片付けて行けば良いだろ。とにかく、頼まれたのなら俺達は自分磨きをするべきだよな」

 

 異世界に勇者として召喚されるという燃えるようなシュチエーション。是が非でもやってみたいという思いが沸々と湧いてくる。なんていうか夢一杯の状態で興奮が冷めそうに無い。それは他の連中も同様でみんな己の武器に御執心だ。

 

「俺達五人でパーティーを結成するのか? 子供を危険な旅に連れていくのはどうかと思うが……」

「お待ちください勇者様方」

「ん?」

 

 これから冒険の旅に出ようとしていると大臣が進言する。

 

「勇者様方は別々に仲間を募り冒険に出る事になります」

「それは何故ですか?」

「はい。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様たちだけで行動すると成長を阻害すると記載されております」

「本当かどうかは分からないが、俺達が一緒に行動すると成長しないのか?」

 

 ん? なんか武器の所に伝説の武器の使い方とかヘルプがついていた。みんな気が付いたようで目で追っている。

 

 注意、伝説の武器同士を所持した者同士で共闘する場合。反作用が発生します。なるべく別々行動しましょう。

 

「本当みたいだな……」

 

 というか何このゲームっぽい説明は。まるでゲームの世界に入り込んだみたいだ。ズラーっとこの武器の使い方が懇切丁寧に記載されているけれど、今は全部読んでいる暇はなさそうだ。

 

「となると仲間を募集した方が良いのかな?」

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」

「ありがとうございます」

「サンキュ」

「さて、勇者様達はよいとして、問題はそちらの少女だ。本当に勇者かどうか、ステータスを見せてもらえぬかな?」

 

 王様の言葉に今度はそちらに視線をやる女の子。

 

「断る。我が親類の内を知ろうなど不敬にもほどがある」

「なんだとっ!」

 

 王様相手に逆に不敬だと言い切る彼女の言葉に、王様が手を上げると騎士達が剣を抜いていく。これはやばい。

 

「おいおい、子供に剣を向けるとか何を考えているんだ!」

「そうですね。これはないでしょう」

「ああ、そうだな」

「見せてもらわねば勇者かどうか判断できぬ! こればかりは勇者様方でも聞いてもらいますぞ! ステータスを見せるだけでよいのですからな!」

「それは……そうですね」

「断る。貴様等に見せる必要性を感じない」

「ならば、捕らえて無理矢理にでも見せて貰おう」

 

 王様の言い分もわかる。どう考えてもイレギュラーな存在だからな。だが、ハスターの機嫌がかなり悪くなり、彼女を中心として周りに風が集まりだしている。これは仕方ない。

 

「ど、どうかお心を鎮め、無知蒙昧な我等にお教えください」

 

 俺は土下座して懇願する。このままじゃ俺達は全滅し、世界も終わる可能性が非常に高いからだ。

 

「おいおい、幼女に土下座とか……笑うんだけど」

「ないですね」

「馬鹿野郎! いいから、お前らもしろ! 殺されるぞ!」

「そんな訳……」

 

 話している最中にパンッと開かれていた大きな本が閉じられる。彼女の方を向けば俺の方をみていた。

 

「貴様には借りがあったな。いいだろう、尚文、貴様に免じて貴様には見せてやろう」

 

 そう言うと、俺の視界にしっかりと表示された。

 

 アリス(ハスター憑依状態)

 職業 旧支配者   Lv計測不能

 人形師    Lv26

 魔導書の勇者 Lv1

 装備 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)(伝説武器)

 黄衣の外套(神器)

 アリス専用魔導服(魔導具)

 スキル 《捨食》《捨虫》《魔力Lv.9》《人形を操る程度の能力Lv.10》《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》《鏡の世界の紅き祭典》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》《神話知識Lv.10》《風神》

 魔法 《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》

 

「どうなんですか?」

「予想通り、や、やばすぎる……」

「そんなになのか?」

「俺達が瞬殺されるレベルだ。今、彼女には神様が宿っている。絶対に手を出すな」

「いやいや有り得ないだろう」

「神様って、ロリコンの神様ですか?」

「こほん。それで神というのは間違っているとしても、勇者だったのか?」

「それは間違いない。魔導書の勇者と表示されている」

「そんな勇者は聞いたことがないが……」

 

 議論を仕出す王様達。俺達はその間にメイドさんに別の部屋に案内された。ハスターは女の子なので別の部屋で助かった。俺達は与えられた部屋で、召喚される前のことについて話していく。それから、俺達は日本人ではあるが、別々の時代から召喚されたことが判明し、彼女について話していく。

 

「お前達はクトゥルフ神話というものを知っているか?」

「いや、知らない」

「俺も知らない」

「僕もです」

「そうか。それならあの態度も納得できる。いいか、クトゥルフ神話というのはだな……」

 

 彼等にも詳しく説明し、旧支配者である邪神ハスターに憑依されていることを伝える。すると、樹達は彼女を助けようと話し出す。

 

「無理だ。俺達ではどうあがいても勝てない。それにハスター自身が親類だといった。つまり彼女も人間でない可能性が高い」

「それがどうした! 可愛ければいいじゃないか!」

「元康さんはどうかと思いますが、事実なら力をつけて助けましょう。いいじゃないですか、邪神討伐」

「ああ、燃えるな」

「ああ、もう。真面目に考えろ! 世界の危機だぞ!」

「いやいや、冗談もそこまでいくと笑えませんよ?」

「冗談だと思っているのか?」

「はい」

「……わかった。もう好きにしてくれ。俺は彼女のご機嫌をなんとかとってみる」

 

 頭の痛い展開だが、こいつらは全然信じていない。何故わからないんだ。神様が転生した子供に憑依してついてくるとか、よくある展開だろうが! 

 

 

 

 

 次の日、俺達は王様の前に集められて旅の仲間を紹介された。俺達が選ぶのではなく、相手が選んでいくとのことで俺とハスターは何故かゼロだった。アリスの方はいったが、彼女は生贄かと言ったのが原因である。俺の方には全然こない。

 どうやら、昨日の話を聞かれていたみたいで、俺の事をこの世界の理、ゲームに詳しくない存在な上、助けてやったのに幼女に土下座したりしたことで評価が下がったようだ。狂信者だと思われた可能性すらある。俺のところには一人、きてくれた。その女性と一緒に旅をすることになり、ハスターもついてくるとのことで、一緒に街を案内してくれるらしい。鍛冶屋でくさび帷子を購入し、街の外に出る。

 

「あ、良い物を作ってやるからお金を渡せ」

「良い物?」

「ああ、とっても良い物だ」

「わかった」

 

 俺は残った金から少しを除いて全てを渡す。

 

「勇者様、子供にお金を渡すなんて危険です。ここは私が……」

「必要ない。俺達は外で戦えばいい」

「それは……って、もういない」

 

 それからオレンジバルーンと頑張って戦ったが、滅茶苦茶大変だった。その日、ハスターは戻ってこずに二人で食事をして眠ったら、俺はくさび帷子が盗まれてあの女、ビッチに嵌められて強姦した犯罪者とされた。ハスターも行方不明で、ハスターことアリスにも資金持ち逃げの嫌疑がかけられた。

 

 

 

 

 

 鍛冶屋に外套を貰って外に出て、連中を恨みながら必死に倒していると何時の間にか夜になっていた。

 

「随分と惨めだな」

「お前は、ハスターか」

「そうだ」

 

 風が吹いて集まると、そこにはアリスの姿をしたハスターが木の枝に座ってこちらを見降ろしていた。

 

「どこに行っていたんだ?」

「少し我が星や寄るべき所に戻っていただけだ。ここで作れなかったのもあるしな」

「そうか、騙したわけじゃなかったんだな……それよりも……」

「ふむ。願うのなら、この世界を滅ぼしてやろうか?」

「……いや、いい。それよりも作った物をくれ」

「いいだろう。提供できる品は二つ。我が願いを聞き届け、信者として我が恩恵を受けるか、我が願いを聞き届け、ましな装備を受け取るか、だ」

「願いを聞くのは確定なのか」

「直接の神託である。それにあの程度の金では足りぬ。そもそも、アレはあの女の企みに関する意趣返しである」

「待て。その言い方だと知っていたのか!」

「当然だ。この地上で風が吹かぬところはあるのか?」

「そういうことか! 何故教えてくれなかった!」

「聞かれなかったからな」

「くそっ」

 

 確かにそうだ。聞かれなかったら答えなかった。そう言われば仕方がないのかもしれない。相手は神である超越存在だし、人間のことなどわからないんだ。

 

「信徒になったら、俺の魂を喰らうのか?」

「貴様が我が願いをしっかりと聞き届ければに何もせぬ」

「なら、その願いを教えてくれ」

「簡単だ。この身体の持ち主、アリスと話し、世話をしてくれればいい。後はこのブローチを必ず着けさせろ。それだけでいい。簡単なことだろう?」

「世話と言っても、俺達勇者は互いに一緒になれないだろう」

「言い換えよう。彼女にはこの世界における目標が与えられる。その達成を手伝ってくれればいい」

「そういうことなら、わかった。ただ、死んでもしらないぞ」

「死んだところで我が甦らせるだけだ。この小娘はすでに二回死んでいるからな」

「そうか。じゃあ、俺も信者になってやる。で、何をくれるんだ?」

「アリスと同じ黄衣の外套をくれてやる。死んでも復活ができる力を付与してある。ただし、一度だけだと心得よ」

「蘇生アイテムか。それは確かにありがたいな。でも、何度も使えないのか?」

「何度も使えるが人からグールに変化する。後遺症がないのは一度だけだ。もし使ったのなら、我に祈り続けろ。そうすればほんの100年ぐらいで回復するだろう」

「いや、死んでるって」

 

 流石は神様だな。しかし、これであの糞ビッチに金を奪われることがほとんどなく、いい装備が手に入ったな。蘇生アイテムなんて神話級の物だろう。

 

「さて、我は帰るとしよう。この愚かな小娘に我をちゃんと信仰するように言い聞かせてくれるとありがたい」

 

 トランクケースを渡されたが、この中に報酬も含めて入っているとのことだ。ただし、開けられるのはアリスだけなので起きたら開けさせろとのことだ。

 

「親類と言っていたが、どんな関係なんだ?」

「直接の関係はないが、人間でいう娘が養子にした孫にあたるか。本人は孫とは思っていないがな」

「なるほどな。そういうことなら理解できる。頼まれよう」

「では、さらばだ」

 

 ハスターが魔導書を取り出し、そこに仮面を入れる。すると身体から力が抜けたのか、倒れてくる。受け止めて地面に寝かせていく。

 

 

 

 

 彼女の傍で寝ずの番をしていると、ようやく目覚めたようだ。

 

「だ、だだだだだ誰ですかっ! もしかして、アリスにエロいことをする気ですか! エロ同人みたいに! 駄目ですからね! アリス、こう見えても男なんですから!」

「やかましい!」

「痛いっ!」

 

 容赦なく拳骨を入れて落ち着かせる。誰かに聞かれたら困るからな。

 

「んで、落ち着いたか」

「ごめんなさい。でも、アリスは悪くありません。起きたら知らない男性に抱きしめられていたんですよ? 直前の記憶は……なんとなく殺されたのだけは覚えていますが」

「死んだの二回目らしいな」

「なんで知っているんですか? ストーカーですか? いくらアリスが可愛くても……」

「餓鬼に興味はない。それよりも……」

 

 ハスターから聞いた話をしていくと、印が刻まれたブローチを着けて何度も謝りだすアリス。どうやら、良い子ではあるみたいだ。彼女の話を聞いてみると、俺と似たような感じな上に召喚されたのはクトゥルフ神話の世界。そこでTS転生させられたとのこと。こちらも話していると、お互いに苦労しているんだなって意気投合した。それに聞いた限り、だいたいアリスとして侵食されている感じは35%らしい。50%までは平気だろうと言っていたが、それは本当だろうか? 

 まあ、とりあえず一緒に活動することになった。

 

「さあ、尚文さん。アリス金融にようこそ! トランクケースの中を漁ったら、お爺ちゃんからお小遣いか知りませんが、金塊がでてきましたよ! あと名状しがたき魔導書たち!」

「いや、待て。金を借りるのは流石に……」

「今なら融資を受ける条件にこの世界の理を教えちゃいます! 楽してレベルアップとか!」

「……乗った」

 

 俺は邪神と小悪魔との契約を行った。

 

 

 

 

 



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25話

 

 

 私、アリス。気が付けば殺されていて、知らない人の前にいた。だから、つい色々と言ったらぐーで殴られた。私の記憶からしたら、執務室に入って何かがぶつかってきた瞬間。死んだと確信したらここに居た。ここはどこで、なんなのかわからないので目の前の大学生くらいの男の人に聞いてみた。

 すると、ここはどうやら、メルロマルクという国みたいで、私も召喚された勇者らしい。勇者、わくわくする響きだ。だけどそんなことは知らないので、更に詳しく聞いていく。私はハスターに身体を乗っ取られたみたいだ。その理由も納得できるものだったので私が悪いのだろう。確かに恩恵だけ受けるのは許されない。それにハスターからしたら、私は娘の子供みたいな扱いのようらしい。確かによくよく考えたら、あの黄衣の外套だって次のアリスに託されたものなのだ。おかしくはない。しかし、何も企んでいないということはないとは思う。

 さて、色々と話を聞いた限り、私への説明役として彼を利用したみたいだ。そのおかげで私は助かった。ハスターから預かったというトランクケースは私が持っていた物に違いない。中を開けてみると、大人用の黄衣の外套と縞瑪瑙のブローチがあった。これは話を聞く限りは彼の物なので、そのまま譲り渡す。嘘かも知れないけど、私には必要がない物だからだ。

 一応、自分の黄衣の外套にも縞瑪瑙のブローチが取り付けられている。他にトランクケースの中身には、見たことがない金塊と替えの下着を含めた服などがあった。モンスターボールなどはほとんど無くなっていた。あるのは二つだけで、ダンバルとカゲボウズだけが入っている。マザー達はもちろん、ファイヤー達もない。それに加えて上海や蓬莱達、人形も全て無くなっていた。

 絶望を感じる中、服に手紙が入っていた。それによるとアリスお母さん達が預かっているらしい。どうやらハスターが届けてくれたみたいだ。意外と優しい。ちなみにアリスお母さんはお怒りで、ハスター曰く修行としてこの世界に送り込んだらしい。戻るには一定の成果をあげればいいらしい。ただ、トランクケースの中に宿題として大量の魔導書が入っていた。その中にはクトゥルフ系の魔導書もある。黄衣の王とか、セラエノ断章とか、ナコト写本とかがあった。オリジナルだったら無茶苦茶怖い。だから押し付けることにした。

 

「さあ、尚文さん。アリス金融にようこそ! トランクケースの中を漁ったら、お爺ちゃんからお小遣いか知りませんが、金塊がでてきましたよ! あと名状しがたき魔導書たち!」

「いや、待て。金を借りるのは流石に……」

「今なら融資を受ける条件にこの世界の理を教えちゃいます! 楽してレベルアップとか!」

「……乗った」

 

 相手も乗り気みたいだから、やったね。

 

「今ならなんと、黄衣の王、セラエノ断章からお好きな方をプレゼント!」

「いらんわっ!」

「やっぱり?」

「それが世界の理というのなら、要らないぞ」

「まあ、正直に言いましょう。尚文おにーさんは倒したモンスターを含めた様々な素材を伝説の武器である盾に吸収してその力を高めていきます。それなら、魔導書を叩き入れてもいいと思います」

「それは嫌だな。何が起こるかわからない」

「なら、私が倒したモンスターを引き渡してもいいですよね?」

「だが、それだとそちらにメリットはないじゃないか」

「まあ、そうですね。もう一つ提案なんですが、やはり仲間を入れてはどうですか?」

「裏切られらるのは御免だ」

「でしたら、魔物とか奴隷とかを使うのはどうでしょう」

「あるのか?」

「あると思いますよ。中世なら普通にあることですし、魔法がある世界ですから、裏切り防止機能とか絶対にありますよ」

「子供のくせにえげつないことを考えるな」

「見た目は女の子、中身は男性。その名は不思議なアリス!」

「コナンかよ」

「それはあるんですね」

 

 さて、そんな訳で話しながら地面に敷物引いて座り、トランクケースの中を整理する。食料もあるし、テントとかもちゃんと入っている。ただ、人形達はやっぱり一切無い。道具も無いので頑張って自分で作るしかないみたい。

 

「まあ、この金塊で奴隷を買えば使えるんじゃないですか?」

「おい、お前、何してやがる!」

「え? セラエノ断章とかをコピーしています。せっかくもらったので」

 

 セラエノ断章や黄衣の王、ナコト写本を突っこんでいく。伝説武器は勇者が所持した当初、弱い初心者用の武器の形をとっているが、魔物や素材を吸収することで新たな武器が解放され、その武器に変化する事ができる。

 他にもウェポンコピーという既製品でも同じ系統の武器を手にすることでコピー可能な機能がある。また同じ武器でも品質の良い武器をコピーするとボーナスが掛かる。開放した武器はステータス画面で、スキルツリーとして表示されている。ただし武器を開放するには、必要なLvや必要個数があり、数回吸わせる必要がある。魔物によっては細かく解体することで部位ごとの武器が解放される。

 武器ごとに技能やスキル、ステータスアップ等の装備ボーナスがあり、一定の熟練で能力開放され、永続的なボーナスを得る。技能等が他の武器で重複している場合、ステータスアップ等に置き換わるらしい。今回の場合は武器のコピー機能を利用する。

 これらの知識は全部、この世界の原作で知った情報だ。私はこの世界のことを知っていた。彼、尚文の名前と伝説武器の盾から、この世界が盾の勇者の成り上がりという作品だと理解した。実際にコピーできたので間違いない。私というイレギュラーこそ存在するが大筋は変わっていないようだ。ちなみにこの世界を知っているといっても、私はそこまで詳しくは知らない。途中で読むのを止めたからだ。ただ、それで色々な強化法は覚えている。

 確か、伝説の武器には精霊がいるらしい。私の伝説の武器はGrimoire of Alice(アリスの魔導書)。つまり、精霊=私である。あはははは、ナンダコレ! そのせいか、吸わせた魔導書の知識が頭の中に強制的に入り込んでくる。

 セラエノ断章。プレアデス星団の恒星セラエノ(ケラエノ)の大図書館にあったらしい破損した石板。石板には外なる神やその敵対者に関する秘密の知識が刻まれていた。内容は、旧き印やクトゥグア召喚の術法、黄金の蜂蜜酒の製法が記載されている。蜂蜜酒は美味しそうなので作ってみよう。クトゥグアさんには会いたくないので放置。

 黄衣の王。美しくも恐ろしい言葉で埋め尽くされた一種の詩劇であるとされ、ヒアデス星団のカルコサの地を舞台にした、黄衣を着る王の存在が書かれている。この黄色の装丁の本は、読む者を狂気へと誘うと言われており、特に第二部まで目を通した者には恐ろしい運命が待ち受けていると言われている。本当になんで書いた。

 ナコト写本。クトゥルフ神話で言及される書物の中でも最も古いもの。人類の誕生するおよそ5000年前に地球を支配していた種族の残したもので、内容はイースの大いなる種族やツァトゥグァ、イタカ、カダスに関する言及、後催眠による精神操作の方法、時間遡行薬の製法、アフーム=ザーの地球到来までの詳細、写本の一部には外なる神(蕃神)の印やナコト五角形といったものが記されていて、第八断片には無窮にして無敵の神性ラーン=テゴスに関する詳細な記述が存在する唯一の書物でもある。

 

「ど、どうだ?」

「あばばばばばば」

「SANチェックに失敗しやがったか」

 

 全てを理解した私は漏らしてしまっていた。恥ずかしいので、すぐに移動して着替えてから戻る。尚文は紳士だったようで、場所を移動してくれた。

 

「で、それは言ってた理か?」

「まず、伝説の武器にはコピー機能があります。触るだけでこの通りコピーが可能です。質の良い物ならボーナスがつきますし、武器ごとに熟練度が存在します」

「本当なのか?」

「信じてください。いいですか、信じないとできません。強化法を知っていると、それだけで強化される比率が上がりますからね。それに私が尚文おにーさんを騙す必要はありません。私は貴方の味方ですよ。なんなら、私がその女を呪ってあげましょう」

「わかった信じてみる。武器屋の親父のとこに行ってみるか」

「この金塊を処理したいですしね」

「本当に貸してくれるのか?」

「いいですよ。私もやらなければならないことがあるし、それの協力をしてくれたらいいですから」

「了解だ」

 

 この世界から抜け出す条件はまだわからないけれど、最低でも波は経験しないといけないだろう。その為に力をつける。今の私ははっきり言うと魔術師としても魔法使いとしても三流や四流だ。下手をしたらそれ以下ですらありえる。私が魔法をちゃんと使えていたのは、アリスお母さんという稀代の人形師が作り上げた上海と蓬莱という賢者の石を搭載した補助機があったからこそだ。それがなくなった私など膨大な魔力をろくに制御できない小娘でしかない。だから、これは私に対する罰であると同時に試練なのだろう。だから、頑張って試練を終え、イエローさんやアセロラ、アリスお母さんや魔理沙お母さんに会いに行こう。それまで絶対に死ねない。

 

「あ、尚文おにーさん。おんぶして」

「はぁ? 何を言ってんだ?」

「いや、私って今、お金を持ち逃げした犯人として追われているんですよね?」

「ああ、糞ビッチのせいでそうなったぞ」

「うん。後でキッチリお返しはするとして、その被害にあったのっておにーさんですよね?」

「そうだな」

「で、私ことハスターはただ装備を作りにいっていただけでおにーさんにもう渡している。でも、このまま街に行っても捕まると思う。そこで私がおにーさんに乗っていたらどうかな? ただの勘違いで終わるよね? だって、あのお金はおにーさんの支度金なんだから」

「それもそうだな。だが、俺が誘拐したと思われないか?」

「私がおにーさんに頭の上で本を読むから大丈夫」

「それっておんぶじゃなくて肩車だろう。まあ、いいか」

 

 朝になったので草原を二人で歩く。オレンジ色のボールみたいなのが浮遊して複数現れたので、風の魔弾を放って叩き斬る。一撃で倒れたので魔導書に吸わせてみる。すると浮遊魔法1/100とでてきた。私の魔導書はその名の通り、魔法に関する技能が増えるみたい。ちなみにナコト写本とかはまだレベルが足りなくて解放されていないし、使えない。ただ神話知識だけは手に入った。ちなみに最初の魔導書は初心者用魔導書だった。

 

「どうだ?」

「経験値は入っていないけれど、素材を入れたから浮遊魔法を覚えさせられるみたいです。でも後九十九枚必要とのことです」

「魔法だから必要数が多いのか」

「かと思います。よっと」

 

 尚文おにーさんに肩車をしてもらいながら、初心者用魔導書を読んでいく。

 

「人の上で本を読むというのはどうなんだ?」

「まあまあ、いいじゃないですか。邪魔な敵は迎撃しますから」

「それもそうだな」

 

 鬱陶しい奴を弾幕で滅ぼし、一部はおにーさんの希望で身体の下に入れて移動していった。

 

 

 

 

 メルロマルクの城下町に到着すると、門番が私とおにーさんを見て驚いた表情をするが、無視して一緒に入っていく。街の人々が凄く注目してきて鬱陶しい。

 

「おにーさん、凄く見られてますね」

「そらそうだろうよ。性犯罪者の俺が幼い女の子を肩車しているんだからな」

「ましてやこの可愛らしい容姿ですからね」

「自分でいうのか」

「事実ですからね。あ、問題が発生です」

「どうした?」

「この魔導書、この世界の言葉で書かれていますね。読めません」

「おい、だったらどうやって魔法攻撃をした」

「私、これでも魔法少女なので、別世界の魔法なら使えます」

「……中身が男なのに言ってて悲しくならないか?」

「あははは、なるに決まってるじゃないですか。嫌ですね~もう」

「だろうな」

 

 そんな話をしながら、武器屋を目指している街中を歩いていると、前方に兵士達がやってきた。そいつらが私達の前にやってきて、包囲してくるが無視しておにーさんと話す。

 

「この国って亜人をあんまり見かけませんね。もふもふしたいのに……」

「ケモナーかよ。まあ、触ってみたいのは確かだがな」

 

 一応、危ないかも知れないからバリアを張っておこう。今だとシールドでもいいんだけどね。あ、槍の勇者とビッチ姫が来た。

 

「尚文、マインの次はアリスちゃんまで犯すつもりか!」

「その者は資金を持ち逃げした犯人です。引き渡してもらいましょうか」

「阿保か、お前達は」

「なんだと!」

「なんですってっ!」

「こいつは資金を持ち逃げなんてしてない。その証拠に俺の上で本を読んでるだろうが。それにこんな餓鬼とやる趣味なんてない。お前と違ってな」

「俺だって子供には手を、手を……」

 

 槍の勇者が私の顔を見てくるので、私は小首を傾げて可愛らしく笑ってみる。

 

「て、天使だ……」

「お前、何かした?」

「? 何もしてないですよ? 笑ってあげただけです」

 

 でも、たしか槍の勇者ってフィーロのことが好きなんだったな。だったら、同じ金髪で天使のように可愛いアリスに見惚れても仕方ない。

 

「どうでもいいわ。そんなことより捕まえるわよ!」

「だからなんでだよ」

「資金を持ち逃げした罪だと言っているでしょう!」

「いや、アレは俺が依頼した品物を作るのに離れていただけだしな」

「そうなのか?」

「そうですよ? 設備も何も無いところで作れるわけないじゃないですか」

「ぐっ……」

「それに俺の資金を持ち逃げしたというのなら、お前もそうだろが。むしろ、お前を捕まえないとなぁ」

「なんですって!」

「俺の金を持っていったのは事実だろう?」

「それはあなたが……」

「そうだとしても、没収するのはお前ではなく判決がでた後の事だ。だから、あの時点でお金を持っていったお前は犯罪者なんだよ」

「確かにその通りですね」

 

 そう言いながら、おにーさんから降りる。しかし、いっそ魅了して白状させてやるのも面白い。いや、もっと虐めてやろう。尚文おにーさんの唯一の仲間、マイン・スフィアとして旅立ち、おにーさんをその日に眠らせて全財産と装備を奪い取った後、おにーさんを強姦魔にでっち上げた張本人だから。

 

「そもそも、その強姦って本当なんですか? 私、おにーさんがそんなことをする人には思えませんが……」

「そんなことはない! そうだろ、マイン!」

「はい。私は犯されそうになりました。事実です。うう……」

「そうなんですね。可哀想です」

「おい」

「それが本当なら、ですが」

「マインが嘘をついているとでも言うのかな?」

「私にはわかりませんが、あなたの評判は調べた限り、とても悪いですよ。人を騙して貶めることが大好きなようですね。マイン・スフィア。いえ、メルロマルク第一王女、マルティ=S=メルロマルク」

「嘘よ! 私はそんなことをしません! 信じてください!」

「ああ、もちろんだ。嘘はよくないよ、アリスちゃん」

「第一王女なのに第二王女の方が王位継承権が高いということから、事実でしょう。実際に調べてみましたか? もっとも、口止めはしているでしょうが」

「それは……」

「後、証拠はでたんですか? 例えばその人が処女喪失しているとか、尚文おにーさんが童貞であるとか」

「おい」

「それはないが、されていないならマインが悲しむはずないだろう!」

「いえ、人を騙して陥れることが好きなら普通にやりますよ」

「私はしていないわ! そっちこそ、そう言うのなら、私が嘘をついているって証拠を出しなさいよ!」

「わかりました。証拠は出せませんが、嘘をついているかどうかは判明できます」

「え?」

「本当か?」

「ええ、本当です。というわけで、やってみせましょう。そこの兵士の人、少し借りますね」

 

 おにーさんに持ってもらっていたトランクケースの中から、ただのお水を取り出します。

 

「では、すいませんがこの水を飲んでください」

「は? なんで俺が?」

「大丈夫です。少し手足が動かなくなるぐらいですぐに回復する濃度にしておきますから」

 

 ニヤニヤしていたビッチの取り巻き兵士の人に魅了の魔眼を使って支配する。

 

「わかった」

 

 水を飲ませてからしっかりと質問する。

 

「あなたは人間ですね?」

「そうだ」

 

 この質問には何もしない。

 

「あなたはモンスターですか?」

「違う」

 

 そう答えた瞬間に身体の自由を奪う。

 

「な、なんだ、身体が動かないっ!」

「では、次の質問です。今回の尚文おにーさんによるそこの人の強姦事件はでっち上げだと思いますか? あ、嘘をついたら自分の顔を殴ってください」

「でっち上げじゃな――ぐはぁっ!?」

 

 思いっきり殴った。ガントレットを装備しているので、歯がボロボロになったね。

 

「ああ、なんてことなんでしょう。やっぱり嘘だったんですね!」

「ちっ、違うわっ! そいつがおかしいのよ!」

「でしたら、続いての質問です。彼女はこういうことをよくしますか? あ、次は強力な物で自分を刺すことになります。場所が悪ければ死にますよ? 正直に答えてくださいね?」

「うわぁ、鬼だな。いい気味だが」

「や、やめたまえ!」

「何故ですか? 冤罪を証明してみせろと言ったので、証明しているだけです。私は何も悪い事をしていませんよ?」

「だが、自分で自分を刺すなんて……」

「そうですね。ここはご本人にしてもらいましょう」

「ふざけないで! そんなの飲めるわけがないでしょう!」

「何故ですか? あなたが言っていることが事実であれば、なんの問題もないことは最初の質問で証明されています。つまり、飲めない理由はあなたが嘘をついているからということですね。以上、QED。証明終了です」

 

 両手をあげてできていた野次馬の皆に宣言する。

 

「なななっ!」

「今回の事件はマルティ=S=メルロマルクのでっち上げによる冤罪です。性格が悪くて王位継承権を下げられたのも納得ですね。第二王女は素晴らしい人だと聞いているのですが、なんでこんなのが生まれたんでしょうか。残念でありませんね」

「ふざけんな! 私はやってない!」

「なら、飲んで証明してください。私は言われた通りに証明しました。反論があるのなら、次はそちらが証明してください。できれば、ですが」

「お、おい……」

「えっと、アリス?」

「あはははは、できないですよね? もうこうなったら幽閉でもされるか、死刑になってください。貴女がやったことはこの国どころか、全世界に対する反逆ですよ? 波による世界滅亡の危機にただの嗜好によって勇者の関係を崩壊させる。ましてや協力し合わないと勝てないと伝承に残っている終末の波へと着々と時間が過ぎているという時に、自分の嗜好を優先して世界中の人々や動物達を危険にさらして道連れに死のうとするなんて、あなた正気なんですか? 自殺したいなら勝手に一人で死んでください。それともここに居る皆さん自殺志願者なのでしょうか? それだったらごめんなさい。私とおにーさんは付き合いきれないので、皆さんの敵になります。生き残りたいですから、当然ですよね?」

 

 大勢集まった民衆の前で堂々と宣言し、流布する。自らを自殺志願者だと言われた民衆はどうなるかと言われたら、当然のように否定する。

 

「死にたくないなら、そこの元凶を皆さんでどうにかしましょう。王様は家族には甘いですから、おそらく注意だけするか、それともこのまま野放しにして世界滅亡まで放置するでしょう。ですから、皆さんでこの国の真の支配者である女王陛下のところまで届けてやろうではありませんか! 民の総意として世界を危機にさらした大罪人として処刑しろと! そうすれば勇者達は互いに協力して世界を救ってくれるでしょう!」

 

 くるくると回るように話し、片っ端から反論しようとする三勇教の連中であろう連中を魅了し、サクラに変える。三勇教は本来なら、四聖教という宗教だ。だが、数代前の盾の勇者が人族と対立する亜人に味方したため、メルロマルクでは四聖教から分派して他3人の勇者を神格化した三勇教という宗教が成立しており、盾の勇者だけは一段低くみられている。極端な三勇教関係者からは悪魔呼ばわりすらされている始末である。そして何より、波に関することは誇張でもなんでもなく、事実である。本当に世界滅亡の危機なのだ。

 

「ふざけるなぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!? 私は王女なのよ! それを処刑ですって!」

「では、貴女は自分の命よりも世界の方が軽いというんですね?」

「そうよ! 私が――」

 

 私が聴いた言葉がなんだったのか、はっとして気付いたようだ。でも、もう遅い。

 

「聞きましたか? この人、今、自分で認めましたね。世界を滅亡させることよりも、自分の嗜好を優先すると!」

 

 上げ足を取って論点をすり替える。先導した民衆たちは憎悪を滾らせ、王女や兵士に向かう。いや、兵士も王女に武器を向けている。

 

勝った

「悪魔か、お前」

「私は本気ですよ。この世界と心中する気はありませんからね。いざとなればハスターだろうが、クトゥグアだろうが召喚してやります」

「頼もしい限りだな」

 

 槍の勇者はオロオロして、どうしたらいいのかわかっていない。今や、城下町のほとんどがビッチを排斥しようとしている。

 

「そこまでだ! 何をしている!」

 

 城から沢山の兵士達が来たので、私は尚文おにーさんと一緒に前に出る。ついでに魔弾を配置して何時でも潰せるようにする。コントロールはできなくても、過剰魔力で爆発させるぐらいはできる。

 

「お前達は……これは貴様等の仕業か!」

「いえ、王女の自爆ですね。私は彼女が盾の勇者の無実を証明しろと言われたので、しっかりと証明しました。その結果、彼女は世界を滅亡させようとする敵の先兵であることが判明しただけです」

「なんだと?」

「違うわ!」

「ですが、自らの嗜好で世界を滅ぼそうとしているのは事実です。ですから、女王陛下に直接引き渡してお願いしようと皆で話していました。王様はこの現状を放置するという甘すぎな判断をしました。それによって世界が滅亡することが確定しかけているなど、失礼ですがさっさと引退なさったほうがいいでしょう」

「きっ、貴様等っ、不敬であるぞ!」

「不敬もなにも、世界が滅んだらそれどころじゃないでしょう? それとも、貴方達が責任をとってくれるんですか? それならどうぞ、次の波の時にその先に行って敵を滅ぼしてきてください」

「っ!?」

「な、なにもそこまで言わなくても……」

「槍の勇者。貴方はこの世界がゲームだと思っているのですか? 言っておきますが、本当に死にますよ? それに生半可なことでは勝てません。敵は波なんて次元を操れる神様のような存在なんですからね? 言ってしまえば初期装備でラスボスに挑むようなものです。ご都合主義なんてありませんよ? もし、そう思っているのなら、今すぐ死んでその武器を次代に託してください。邪魔です」

「そ、そんな……」

 

 いざとなればそれも視野に入れて行動する。仮死状態にしておけば、保存は容易だ。だから、尚文おにーさんだけ助けて、他は殺してもいい。こっちは遊びじゃない。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)によって強制的に戻されるかどうかもわからないんだ。だから、生き残るために必死に頑張る。

 

「そこまでにしておけ。お前が俺のために色々と言ってくれたのは助かった。でも、このままじゃクーデターにならないまでも、反乱になるぞ」

「それも必要でしょう。女王陛下が戻れば全てを任せればいいのです」

「そんなに凄い人なのか?」

「ええ、とっても優秀な人です。第二王女もそうです。彼女達は味方だと思っていてください。ただ、王女の方は甘いですが……」

「よく調べられたな」

「ハスターからの情報ですからね」

「なるほど。でも、これどうやって収めるんだ?」

「私に考えがあります。女王陛下に仕える影。今すぐ女王陛下に伝令を送って帰還してもらうようにしなさい! さもないとこちらの判断で世界の敵を処理すると。それと今回の件は他の国にも通達させてもらいます! そうなれば勝手に四聖勇者を召喚してこの国はどうなるか、聡明な女王陛下ならお判りになるでしょう! さて、皆様。今回は女王陛下にご判断を仰がせてもらいましょう。それまでこの女は彼等に任せましょう。彼等の行動次第で私達勇者は世界の為にこの国を討つことも検討します」

 

 というわけで、尚文おにーさんを連れてさっていく。武器屋に入ると、私はへたり込む。

 

「あ~疲れました」

「やりすぎだろ、アレ」

「聞いてたが、そこの嬢ちゃん。やばいな」

「詐欺師だな」

 

 詐欺師とは失礼だが、こちらの手札を知っているのだから、尚文おにーさんは間違っていない。アリスちゃんは悪い子です。

 

「ふっふっふっ、クトゥルフ神話の魔導書三冊分に冒されたアリスちゃんが良い子だと思ったのですか?」

「あー発狂状態か。精神分析がいるな」

 

 正気なんて時の彼方ですよ。だって、この場で殺さない限り、ビッチ姫はこれからどんどん酷い事をしてきます。まず、第二王女の暗殺。勇者が駄目だとみると、三勇教と組んでクーデター。その後も鞭の勇者と組んで色々とおこす。本当に、まごう事なき世界の敵なのだ。そんな奴がこれからどうするかなんてわかりきっている。私達を暗殺しようとしてくるだろう。

 

「ああ、もう。本当にどうしましょう? 暗殺者が送られてきますよ? いや、尚文おにーさんへの敵意を分散できましたし、街の人は味方につけましたけど……」

「魅了して送り返すか、手駒に加えたらいいじゃないか。というか、俺の為だったのか」

「それもありますよ。私は多分、死なないですからね。痛くて怖いですが、頑張ってみます」

「アリス……」

「この嬢ちゃん、いろんな意味で本当にすごいな」

「はいはい、この話は終わりです。それよりも、次の話をしましょう。おにーさんに盾を見せてあげてください。それと奴隷商を教えて欲しいの。えっと、黒い帽子を被った眼鏡をかけた人で、服も黒いタキシードで、羽がいっぱいついている人」

「そいつは多分、アイツだな。しかし、奴隷を買うのか?」

「私達は一緒に居ても経験値が入らないし、おにーさんは攻撃力がないから奴隷を使うしかないの。仲間はあの糞女の手が入ってるかもしれないしね。私は魔物を使うつもりだから」

「まあ、それなら教えてやるよ。で、盾を見せるのって……」

「コピーするんだよ」

「なんだと……金払えよ」

「まあまあ、触れるだけだから安くしてください。銀貨1枚くらいで」

「勝手にコピーされるよりは保管代として考えたらいいか。だが、もうちょいくれ」

「贔屓にしてやる。だからタダで見せてくれ」

「出世するからお得ですよ?」

「嬢ちゃんなら、本当にそうなりそうだから、いいか」

 

 それから、武器屋の親父さんことエルハルトさんに尚文おにーさんが武器を見せてもらい、私達は奴隷商に向かっていく。外では討論が繰り返され、ビッチの王女のことが話し合われて彼女の罪が色々とでてきている。何時襲われてもいいように反射のバリアだけは使っておく。コントロールが難しいし、倍以上の魔力を使うけれど仕方がない。

 

 

 

 奴隷商は大きなテントがある場所で、まるでサーカスみたいなところだった。

 

「いらっしゃいませ。これはこれは今を時めく盾と魔導書の勇者様ではないですか! 先程の演説を聞かせていただき、とても感銘をうけました。彼女は確かに世界の敵ですな」

「そういう貴方は女王陛下の手の者ですよね」

「そうなのか?」

「おやおや、これは末恐ろしいお嬢さんですな。その通りです。私は女王陛下から盾の勇者様達を支援するように仰せつかっております。ですので、色々と勉強させていただきますとも、はい」

「まあいい。俺は奴隷が欲しい」

「私は魔物を使役しているので、魔物紋とかに使うインクが欲しいです。それと換金をお願いしますね。こちらです」

「金塊ですね。かしこまりました。すぐにご用意させて頂きます。それと魔物を見せていただけますかな?」

「わかりました」

 

 トランクケースに入っていた二匹のポケモン。その子達を呼び出して見せてあげる。

 

「おお、このような魔物は見たことがございません! できれば売っていただきたいのですが!」

「絶対に嫌です」

「そうですか。しかし、不思議な物に入れておられるのですね。魔導具でしょうか?」

「そんな物です。魔物紋がなくても言うことを聞いてくれますよ」

 

 二体を撫でながらそういうが、奴隷商の人は顔をしかめる。

 

「失礼ですが、魔物紋は入れなければなりません。これは法律で決められておりますし、街に入れることができなくなります」

「なるほど。痛いけど我慢できる?」

 

 二体が頷いてくれたので、入れてしまおう。

 

「それ、ポケモンか?」

「知っているんですか?」

「ああ、俺もやったことがある」

「そうです。ポケモンです、この子達は6Vかどうかわかりませんが、親は6Vメタモンです」

「廃人じゃねえか」

「あっはっはっ、現実になった状態で伝説ポケモンに挑むんですよ? 選別しないとやばいです」

「……ご愁傷様」

「なんのお話をしているかわかりませんが、ご案内いたしてよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」

 

 そのまま奥に行って奴隷を見せてもらう。中にはラフタリアもいたけど、お金に余裕があるからか、どうするか悩んでいる。ここは手助けをしないと駄目かもしれない。

 

「あ、尚文おにーさん。私が貸すお金であの子を買ってあげてください」

「あの女の子か?」

「はい。尚文おにーさんの盾なら、治療できるはずですし、いいと思いますよ」

「だが、お前はどうするんだ?」

「私は魔物しか買いません。そういうわけで、魔物を見せてください」

「かしこまりました」

 

 さて、何の魔物を買おうか。竜帝狙いでドラゴン? 空を飛ぶのは便利だけど、それって私にはこの子がいるし、進化したらいらなくなる。じゃあ、チョコボっぽいフィロリアル? ちょっと、かなり興味がある。でも、フィロリアルクイーンになったら少し困るな。ドラゴンが嫌いだし、ボーマンダとかも嫌いなんだろう。竜帝の核だけ集めた方がいいかも。うん、やっぱりドラゴンにしよう。尚文おにーさんがフィロリアルに行くし、私はドラゴンだ! 

 

「ドラゴン、いますか?」

「ドラゴンはお高いですよ?」

「ですよね。おいくらですか?」

「そうですなあ、金貨が必要ですな」

「よし、買います」

「残念ながら、他の勇者様が買っていかれました」

「そうなんですね……」

 

 やっぱりフィロリアル買おうかな。いや、ここは卵ガチャをしようかな。

 

 

 

 




なんでこうなった。気が付いたら扇動していました。アリスちゃん、発狂モード。

魔物ガチャどうしようかな。



 ―――――――――――――――――――――――――――――



 ネーム:Grimoire of Alice
 ベーシック:東方・旧アリス
 アリスポイント:0
 スキルポイント:0
 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.9》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》
 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》
 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》
 魔導書の勇者:《神話知識Lv.10》《セラエノ断章》《ナコト写本》《黄衣の王》


 ――――――――――――――――――――――――――――― 


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26話

卵ガチャ
0.ドラゴン
1.フィロリアル
2.サーペント
3.グリフォン
4.ラビット
5.フェアリー
6.アント
7.スパイダー
8.リザードン
9.ウルフ

アリスは2を出しましたのでサーペント。


 

 

 

 外れなしだったと思う卵ガチャを選んだ。一つだけ、手に取ると奥で音が聞こえてきた。そちらに行ってみると、奴隷商と尚文おにーさんが話していた。

 

「契約できましたか?」

「ああ、できた」

「次はお嬢様ですな」

「はい。お願いします」

 

 カゲボウズとダンバルに魔物紋を刻んでもらう。最初から高い方を刻んでもらって、安い方と高い方、二つのインクと筆を注文しておいた。筆は三つで、インクもそれぞれ三つ。

 

「用意できました。こちらに血液をお願い致します」

「どうぞ」

 

 口で指を切って血をインクの入った皿に流し込む。その皿のインクを使って魔物紋を描いていく。これによって二体の身体にしっかりと魔物紋が現れた。

 

「よく頑張ったね。ありがとう。これからよろしくね」

「がぁっ」

「ろー」

 

 二体を抱きしめて撫でてあげる。それから、卵の処理もしてもらう。

 

「じゃあ、尚文おにーさん。この瓶を二つ、盾に吸わせてください。それからあの中から卵を選んでくださいね」

「卵か?」

「これはモンスターの卵です。便利ですよ」

「コイツだけでいいんじゃないか?」

「いえ、二人じゃ限界がきますし、効率が悪いです。魔物は移動にも使えますから、荷物持ちに使っても効率がいいです」

「そうか、確かにそうだな。金は後で返す」

「はい」

 

 さて、インクを魔導書に入れるとインフォメーションが流れてきた。

 

 

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 魔物使いの魔導書・初級と中級が解放されました。

 

 魔物使いの魔導書・初級(未解放)

 装備ボーナス:効果は魔力上昇(小)、魔物成長補正(小)、魔物強化(小)

 

 魔物使いの魔導書・中級(未解放)

 装備ボーナス:魔力上昇(中)、魔物成長補正(中)、魔物強化(中)

 

 

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 後は装備して熟練度をあげていけば効果が永続してくれる。詳しい内容はヘルプにあったのでそれを見る。

 

 

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『武器の変化と能力解放』

 武器の変化とは今、装備している伝説武器を別の形状へ変える事を指します。

 変え方は武器に手をかざし、心の中で変えたい武器名を思えば変化させることが出来ます。

 能力解放とはその武器を使用し、一定の熟練を積む事によって所持者に永続的な技能を授ける事です。

 

『装備ボーナス』

 装備ボーナスとはその武器に変化している間に使うことの出来る付与能力です。

 例えばエアストバッシュが装備ボーナスに付与されている武器を装備している間はエアストバッシュを使用する事が出来ます。

 攻撃3と付いている武器の場合は装備している武器に3の追加付与が付いている物です。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 これを考えると、モンスターボールを吸わせてみたらどうなるだろうか? 試しにやってみよう。どうせこの子達は魔物紋を入れたからいらないし。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 モンスターハウスの魔導書(未解放)

 魔物収納、魔物回復(小)、捕獲(小)

 

 

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 なんか予想していたのよりも凄いのがでた。これならいろんな魔物を連れ歩くこともできるかもしれない。

 

「アリス、そっちはどうだ?」

「魔物使いの魔導書を手に入れました」

「俺は盾だな」

「よかったですね。奴隷紋のインクや奴隷の血を入れるだけでも色々と効果が生まれますよ」

「わかった。本当に助かる」

「いえいえ、こちらも助かりましたから」

 

 奴隷商で買い物は他にないので、残りのお金を貰って移動する。

 

「これからどうするんだ?」

「私はこれから狩りに行くつもりです」

「それは俺達が一緒に行くわけにもいかないな。先に武器屋だし」

「ですね。あ、私は手早くこの国から出るつもりです。下手をしなくても王女に狙われるでしょうから」

「俺のせいですまないな」

「いえ、私なら大丈夫ですからね」

「まあ、クトゥルフ神話の世界で生き残ってたら、この辺じゃ大丈夫か」

「はい。といってもしばらくはこの辺りにいるので一緒に遊びましょうね、ラフタリアちゃん」

「は、はい……」

 

 尚文おにーさん達と挨拶をしてから別れる。まずは協会に行って波の参加登録を行う。三勇教の人達は鬱陶しいけれど、私に何かをするのなら魅了するだけだ。

 

 

 

 

 

「魔導書の勇者様ですね」

「波の参加登録に来ました。それと龍刻の砂時計の砂を頂けませんか?」

「それはできません」

「わかりました」

 

 まあ、貰えるとは思っていない。そんな訳で案内だけしてもらって参加登録だけしておいた。これで何処に居ても飛ばされる。後は布や裁縫道具を買ってでよう。

 色々とお店を回って買い物をしていく。魔法書は高いので正直言って買ってられないので今はいい。やっぱりお金を稼がないといけない。

 

 

 さて、街から出てオレンジバルーンを狩ることにしよう。同行者設定はしてあるし、ダンバルとカゲボウズに頑張ってもらおうかな。

 

「っと、その前に名前を決めないとね」

 

 ダンバル、メタング、メタグロス。ルクスかな。カゲボウズは、ジュペッタからジュカでいいか。呪いとか使いそうだし、うん。女の子だから、呪歌という感じかな。

 

「ダンバル、貴女はこれからルクス。カゲボウズはジュカ。これでいいかな?」

 

 二体とも嬉しそうに頷いてくれるので、良かったと思う。さて、これで準備はできたし、まずはレベル上げだ。取り敢えずやることは一つ。

 上空に爆発する弾幕を打ち上げる。周りに物凄い音が響き、大量のオレンジバルーンがこちらに向かってくる。それに対して私は真っ赤なお口のトナカイさんで全面爆撃を行う。召喚されたトナカイさん達が、空からプレゼントを落としていく。それは聖夜の奇跡。聖なる光の爆発。モンスター達に死のプレゼントを配る使者。

 集まってきた敵は全滅した。周りの地形も抉れてしまったけれど、これは仕方ない。だって、知らなかったもの。ごめんなさい。こんな攻撃なんて思わなかったの。魔力がすっからかんになってしまったので、座って休憩する。敵が460体いたようで、経験値がそれなりに入った。レベル9に上がったし、魔物使いの魔導書のおかげでルクスとジュカはレベル19になった。私より成長が速い。

 

「じゃあ、私は休憩しているから、素材を集めてきて」

 

 二体が頷いたので、ゆっくりと深呼吸をして魔力を回復する。魔導書のお陰で魔力自体が増えているので数をこなした方が良い。ただ、一回使用した扱いにしかなっていないので、全体攻撃は熟練度集めには向いていない。

 

「~♪」

 

 休憩中は暇なのでこの世界の文字の勉強を……って、誰が教えてくれるんだ? いないじゃん! これは奴隷を買うしかない。私の情報を漏らさない為に奴隷の方がいいし、どうせならモフモフを買おう。それに小さなラフタリアとも遊びたい。

 まあ、今は魔法の勉強をしようかな。人形を作りたいけれど魔法の方が必須だ。ちなみにクトゥルフ神話の魔導書は解放するのに特殊な条件がいる。例えば生贄が必須だとかね。魂を回収し、捧げなければいけないのが多い。基本的に邪神の魔導書だから仕方がない。

 コピーしたから、ナコト写本とかの文字はわかる。なのでセラエノ断章から黄金の蜂蜜酒を造る方法でも調べてみるか。後催眠による精神操作の方法、時間遡行薬の製法でもいいけどね。やっぱり蜂蜜酒にしよう。そうなると蜂の魔物を捕まえないといけない。まあ、今はいいから普通にお母さんから渡された魔導書を読んでいく。巨大化とか使えるから。

 

「ガァ!」

「カゲ」

「ああ、ご苦労様。どんどん集めてきてね。敵がきたら倒していいし、危なかったら逃げてきて」

 

 指示を出してから、魔導書に吸わせる。すると浮遊魔法の魔導書が出現した。装備ボーナスは浮遊魔法。空中に浮かんだり、浮かばすだけの簡単な魔法。ただ、これは使えそうなので後で使おう。

 

 

 

 さて、一時間が経ったので場所を移動する。もはやここに敵はいない。なので、浮遊の魔導書に変えてみる。浮遊魔法を使う意思をみせると、身体が浮きあがってくる。ただそれだけで移動方向は決められない。

 

「引っ張ってくれる?」

「ガァ」

「カゲ」

 

 二体に引っ張ってもらって移動する。奥にはもっと強い敵がいるはずだし、私に睡眠は必要ないから寝ないで狩りをしていく。もちろん、ポケモン達は寝かせるけどね。

 次の敵は兎系のモンスター。森の中だから、爆撃は使えない。一体一体精密なコントロールで魔弾を撃って潰す。

 ルクスとジュカにも戦わせるけれど、ルクスは何故か突進攻撃が無茶苦茶速くて、木を貫通していく。ジュカはゴーストタイプで、基本的に騙し討ちや影打ちを使うが、嫌な音で相手の防御力を下げて、そこにルクスを突撃させれば大ダメージになる。そして、相手が怯んだら影打ちとかで止めを刺す。そんな感じで戦ってもらう。

 

「個々は大切ですが、連携はもっと大切ですからね。ルクスはもうすぐ進化するはずですから、そうなれば強くなれますよ」

 

 襲ってきたウサギ型の魔物を倒し、確実にレベルを上げていく。しかし、やはりこの辺りは弱い。でも、移動手段確保の為にはルクスをダンバルからメタングに進化させないといけない。兎の魔導書は脚力上昇(小)なので使えるからいいけどね。

 一時間ほど狩ったら、ようやく覚えられた。次の魔物に向かう。まるで努力値を上げているみたいだ。そう思うと少し楽しくなってきた。

 しかし、効率が悪い。魔物がいっぱい湧いたらいいのに……あ、そうか。波を利用したらいいんだ。後、確か悪魔の軍勢が砂漠に居たはず。そいつらを利用して経験値を吸い上げることが可能だったはず。でも、隔離されているし、あーそうだ。魔導書を解析したら掠めとることができるかもしれない。

 やってきた兎を魔弾で迎撃し、倒す。死体の処理も考えないといけない。そもそも私の伝説の武器としての特殊能力ってなんだろう? 尚文おにーさん、盾の勇者からコピーしたらしいから、それと同じ? 

 

「何かないかな?」

 

 ヘルプ項目を参照して必死に探していく。そうしたら、とんでもないことが書かれていた。これは素晴らしい。もっとヘルプをしっかりと読もう。そう思ったら、森の奥から沢山のウルフがでてきた。空には鳥系のモンスターが多く、そいつらも私を狙っている。

 

「ルクスとジュカはウルフと戦ってて」

 

 私は動いたら戦えない。運動音痴だから、その時点でこけて怪我をする。だから、動かずに魔弾を撃っていくスタイルのシューター。ワールドトリガーのメテオラみたいにして、魔弾を放っていく。

 弾幕を展開して一斉に放つ。今の私が放てるのは36発が限界。でも、魔力が上昇しているから、連射は可能。空に向けて相手が突っ込んできたところに放つ。翼がやられれば後は放置でいい。

 ルクスとジュカも頑張って狼と戦っている。ルクスが盾となり、ジュカが後衛として援護だ。やはりさっさと進化させないときつい。

 

「がぁ!!」

 

 ルクスが光ると、防御力がかなり上がった。どうやら鉄壁を覚えたみたいだ。ジュカは鬼火で火傷を負わせてから祟り目で威力を2倍にして確実に倒していっている。成長補正が凄く仕事をしてくれている。しかし、レベルは上がらなかった。やっぱり弱い敵は駄目だね。

 ウルフを魔導書に入れると、狼の魔導書が現れた。ボーナスは敏捷上昇(小)と嗅覚上昇(小)。臭くなった。凄く困る。

 スカイイーグルという鳥は鳥の魔導書。飛行補正(小)、鷹の眼がもらえた。

 

「あ、レアアイテム」

 

 手に入れたのは何かの結晶体だった。手に持ってみると、脱出アイテムと書かれている。これは私の能力ととても相性がいい。いや、むしろ能力があるからこそ、これがないと駄目なのか。

 

「脱出アイテムは手に入れたから、行きましょうか」

 

 二体が頷いたのを確認し、私は能力を発動する。これは私が様々な世界を旅するアリスであるがゆえにハスターが用意してくれた能力だろう。

 

「インスタントダンジョン作成。形成アイテムはGrimoire of Alice(アリスの魔導書)!」

 

 目の前に巨大な渦が出てきた。二体を抱きしめて中に入る。これが私の成り上がりの第一歩! 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 そこは湖の周辺にある深い深い黒き木々が生い茂る樹海。森の中央部には顔の無い無定形の生物達や名状しがたき者共の楽園。土の精によって管理されているン・ガイの森。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 そう思っていた時もありました。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)の中に入ったら、何故かニャルラトホテプの住処に居た。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)が開いてセラエノ断章の解放条件。ニャルラトホテプの討伐。

 

「無理じゃぼけぇっ!」

 

 ニャルラトホテプってハスタークラスの邪神であり、土を司る存在だ。地球上の聖地、ン・ガイの森に存在している。あくまでもクトゥルフ神話での話だけど。待てよ? なにも私が倒す必要はないのか。ここはン・ガイの森なんだ。それにあくまでもGrimoire of Alice(アリスの魔導書)の中の世界。私の伝説の武器としての能力。依代を基にしてのインスタントダンジョン作成。それならクリア方法がちゃんと設定されているはず。ン・ガイの森だったら、勝利方法はクトゥグアを召喚し、ニャルラトホテプにぶつけること。これで勝てる。

 問題はクトゥグアの召喚方法。フォーマルハウトが地球の地平線上に姿を現したとき、召喚の呪文を唱えればいい。召喚の呪文はセラエノ断章に載っているから、知っている。

 フォーマルハウトは南の魚座の口に位置する白い一等星。現在の星空に存在したので後は呪文を唱えるだけでいい。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ! ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ! ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ!」

 

 呪文を唱えると、何もでてこない。おかしい。これでいいはずなのに。空を見ていると、巨大な火の塊が一定の位置で動かなくなっている。まるで何かに阻まれているみたいだ。

 

「よし、行ってみるか」

 

 っと、その前に脱出アイテムの使用条件を確認する。調べてみると砕いたらいいだけみたいだから、歯に挟んで移動する。

 少し森の中に入ると、ぬかるんでいる地面に足を取られてこけた。そして、目の前にはこちらをニコリと微笑む不定形の化け物。

 

「てぃけりり」

 

 躊躇なく噛み砕く。そして、気が付けば入った場所に戻っていた。うん、アレは無理だ。少なくとも運動音痴をどうにかしないといけない。そうじゃないと話にもならない。

 

「さて、狩りの続きをしようか」

 

 いくら怖くても頑張るしかない。二体も頷いてくれたので、次の場所に移動して狩りをしていく。もちろん、採取も平行して行って基礎能力を増やしていく。

 

 

 

 さて、次にやって来たのはメルロマルクの城下町近くの草原を抜けた先にある森。更にその先にある村、ラファン村。ここには初心者用ダンジョンが存在している。私の能力、インスタントダンジョンとは違い、本物のダンジョン。ちなみにぶっちゃけると魔界大地のアイテム界みたいな能力だと思っていたのだが、微妙に違うようだ。修羅界というのなら、納得だけれど。

 

「何者だ」

「初心者用のダンジョンに来ました」

「こんな子供がこの時間に……?」

「私、魔物使いなので」

「そうか。それならここの冒険者ギルドで仲間を募るといい」

「ありがとうございます」

 

 ラファン村に入ったら、そのままダンジョンに入る。私に仲間は必要だけれど、生半可な奴はいらない。それに私にはルクスとジュカがいるから大丈夫。

 私は暗くてあまり見えない。鷹の眼を使える鳥の魔導書にしたらいいのだろうけど、まだ魔物使いの魔導書が終わっていない。なので、二体を使い魔とする魔術儀式を行って彼女達の視界をもらうこととする。ジュカはゴーストタイプだから普通に見えるし、ルクスは磁力で探知できるからね。つまり、私だけが暗闇の影響を受ける。

 そして、ダンジョンの中では敵を引き寄せるので灯りをつけるのは控えた方がいい。暗視がなければ仕方がないけどね。

 確か、尚文おにーさんは来たことないはずだし、何が出てくるか楽しみ。真っ暗な中、歩いているとオレンジバルーンがやってくる。コイツラは相手にもならないので、私が倒して進もうとしてふと気付いた。

 

「倒しておいて。私は魔法を使うから」

「めっ」

 

 二体にやってくるモンスターの相手をさせつつ、物探しと人探しの魔法を使う。ダンジョンで調べる物といえば、まずは敵の宝箱! といいたいけれど、優先するのはモンスターの配置。続いて人の配置。イメージとして頭の中に電磁波によって習得した情報を立体的な映像で表示するようにする。続いて動いている物と止まっている物を映像に配置。上下左右から視点を切り替えられるようにしてみた。

 情報量が過多になるかもしれないけれど、スムーズに処理できた。後に考えてみれば私は三人分のアリスの処理能力があるわけだし、どうにかできたのかも知れない。他にも情報を追加したいので熱源探知や超音波エコーも取り入れる。超音波と電磁波で調べられるのは同じかもしれないけれど、どちらか片方を誤魔化せる存在がいるかもしれないからだ。一応、これを探査の魔法として作っておく。

 

「行くよ」

 

 作成したマップデータをGrimoire of Alice(アリスの魔導書)に展開しつつ、もう片方の手にトランクケースを持ちながら進んでいく。よくこけそうになるのはルクスとジュカに支えてもらう。

 歩いていると、出っ張りが在ったのでわざと離れた位置から魔弾を放って押してみる。すると壁から矢が射出されてきた。

 

「やっぱりトラップだったね」

「めっ」

「がぁ」

 

 撃ちだされた矢やトラップの部分の壁を破壊して、弓の部分も回収して魔導書に入れると、罠の魔導書が解放された。装備ボーナスは罠魔法。罠を作ったり解除したりできるとっても便利な魔法。

 こんなのを手に入れてしまったので、ダンジョンの一階層をくまなく探査してどんどんトラップとモンスターを吸わせていく。

 

 

 

 この初心者用ダンジョンは全部で五階層みたいなので、四時間で最奥までは容易くいけてしまった。最奥では待ちに待ったボス戦だ。

 相手は蛇の魔物だった。口を大きく開けた大蛇と呼ばれるべき存在。人ぐらい丸呑みにしそうな数十メートルもある紫色の蛇。

 

「蛇は冬眠する。寒さに弱い。氷結せよ! な~んてね」

 

 氷をイメージして放った弾幕は口を開け、毒を滴らせながらこちらに向かってきた蛇に命中して身体を凍らせていく。周りの温度が下がって息が白くなってしまった。絶望的な状況に大蛇は動く顔だけをこちらに向けてくる。

 

「このままルクスとジュカで倒してもいいけど、勿体無いよね」

「ねえ、君。私と一緒に来る気はある? そうしたら倒さないで置いてあげるけど」

「シャーッ!」

 

 口から大量の毒液を吐き出してくる。ふむ、残念ながら拒否されたようだ。

 

「殺っちゃえ、ルクス! ジュカ!」

「カゲェェェェェェっ!」

「がぁ!」

 

 ジュカが嫌な音で防御力を下げ、ルクスが磁力を使用して猛スピードで突進する。私の強化された視力でも微かにしかみえない。そんな速度で突進したら、身体が凍っていた蛇は即死した。ドロップアイテムとしてポイズンスネークの牙が手に入った。それを魔導書に吸わせてみる。今度は蛇の魔導書だった。ボーナスは熱源探知と毒魔法。どちらも使える。私は毒を使うのに抵抗がないからね。

 

「がぁぁぁ!」

「ん? ああ、レベルが上がったみたいだね」

 

 初心者用ダンジョンとはいえ、ボスなので経験値はそれなりだったみたい。ダンバルからメタングに進化したルクスは親のメルクと同じ姿となった。高さ0.6メートルから1.2メートルまでの急成長。重さも95.2kgから202.5kgまで増え、特性としてクリアボディを覚えているので、防御力を下げる効果は効かないし、大分硬くなってくれた。鋼鉄タイプはいい。

 ルクスも進化に大喜びで、ジュカも嬉しそうにしている。私も嬉しい。これでようやく足が手に入った。

 

「あれ?」

 

 いいことは重なるようで、トランクケースから異音が聞こえてきた。慌てて開けてみると卵が孵化しだしていた。ケースに入れられた卵を取り出して、私とルクス、ジュカでワクワクしながら見守る。卵がひび割れて中から現れたのは蛇だった。

 

「白い蛇だッ!」

 

 白蛇は白化現象、アルビノを起こした蛇だけど、その希少性により日本各地で縁起のいい動物として信仰の対象となっている。また、弁才天の使いとして富をもたらすものとして有名だが、水神としても有名である。これはその他多くの蛇神と関係ある。東方でいうところの諏訪子様の操るミシャクジ様みたいな感じだね。目指すはアレかな? いや、なんでもいいか。

 

「この子の名前はなんにしようかな」

 

 ステータスでみる感じ、サーペントという種族に変わりはないのでやっぱりアルビノみたい。アルビノ、ホワイト、サーペント。単純でシロでいい気がしてきた。シロにしよう。

 

「貴女はシロ。よろしくね」

「シャー」

 

 シロを首に巻いてから、これからどうするか考える。これで用が無くなったから、この部屋の宝箱を回収して帰るのがいいんだろうけど……待てよ。少し試してみよう。

 罠魔法を使って効率よい経験値を稼ぐ。

 罠魔法で作るのはモンスターハウス。これを発動すると即座にモンスターが復活し、周りのモンスターが転送されてくる。つまり、狩り放題になる。

 発動すると、目の前にモンスターが現れる。それはボスのサーペントと一緒に他の雑魚まで大量に現れてくる。

 

「よし、倒そ――」

 

 っと、シロも同行者設定してから弾幕を放ち、粉砕していく。護衛としてルクスを残し、ジュカは私と一緒に攻撃していく。シロは私と一緒に待機。レベルはまだ低いからね。

 倒したらドロップアイテムを回収して、次を呼び出す。次第に良い物が落ちだしてきたので、数を倒したらいいのかもしれない。あ、お肉はどうしようかな。シロ達が食べるかはわからないし、試しに与えてみるか。後、卵の殻を魔導書に与えておく。

 皆で必死にレベル上げをする。罠魔法を8個くらい用意して同時に発動し、弾幕で排除する。ルクスはメタルクローで弾き飛ばし、ジュカはシャドーボールを放っていく。レベルが上がりにくくなるまでは狩りまくろう。脱出アイテムも欲しいし、良いアイテムは脱出アイテムと蛇系モンスターの強化アイテムだったから、回収不可避である。

 

 

 三日間、寝ずに他にボスを倒しに来た人がいる時以外、ほぼ休まずに狩り続けた。結果、3703体ほどぶち殺してしっかりとレベルを上げさせてもらった。

 

 

 

 




 インスタントダンジョン。異空間にダンジョンを作成します。そのダンジョンは依代にした物によって難易度が変わってきます。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)はクトゥルフ神話の魔導書も含めて難易度がかなり上がっております。普通にやっても勝てません。条件を達成しない限り、最低でもレベル四桁の後半は必要です。ちなみに宝箱はその分、かなりいい物が入っています。
 


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27話

 

 アリスがボスマラソンをしている頃、王城では会議が行われていた。出席者はこの国の王であるオルトクレイ=メルロマルク32世とその娘であるマルティ=S=メルロマルク。そして、貴族や大臣達である。議題はアリスによって巻き起こされた問題だ。

 

「結論は決まってるでしょう! 不敬罪や騒乱罪で魔導書の勇者と名乗るあの小娘を捕まえて殺しなさい!」

 

 マルティが叫ぶが、皆は暗い表情をしている。それも仕方がない。

 

「ですから、それはもうできません」

「なんでよ!」

「何度も説明している通り、今彼女や盾の悪魔を殺そうとすれば即座に反乱と戦争が起きます」

「滅ぼしてやればいいじゃない! こっちには勇者三人にお父様がいるのよ!」

「うむ。わしが直々に討ち滅ぼしてくれる」

「陛下がいたとしても無理です。現状、盾の勇者はどうにかなりますが、この二人が組まれた場合、王都の被害が計り知れないでしょう」

「被害なんかよりこっちの方が大事よ」

「彼女は戦略級魔法を使うのですよ? 王都の前の平原が陥没していることはお知らせした通りです。アレはもはや他の勇者とは違います。最初からそうでした」

「だが、討伐することは可能だろう?」

「ええ、可能です。ですが、その場合は民を殺すことになります」

「いいじゃない。平民なんてどうなろうが、後から増えてくるでしょう?」

「それ以前の問題です。平民を殺せば三人の勇者も敵になるでしょうし、勇者と戦うことになれば国境線に配備されたシルトヴェルトが攻めてきます」

「そちらの対処もせねばならぬか、忌々しい」

「それだけではありません。先の演説によって彼女は僅か一日足らずでこの世界の国々のことも把握しているようです」

「まことか?」

「はい。つけていた影の者が彼女の姿が消えたことを確認しています。おそらく転移魔法を使うのでしょう。そうなると他国に逃げられる可能性が高くなり、国々を扇動して攻めてくるでしょう。何せ我々はそこの王女様のせいで世界の敵をかくまっていると認識されます」

「なんですって!」

「事実がどうであろうと、他国がどう思うかです。陛下は女王陛下の指示を無視して四聖勇者の召喚を行いました。これによって我が国は他の国々から恨まれており、戦争する口実を探されている現状です。女王陛下が頑張られておられるでしょうが、それが台無しになされましたな。今回の件は致命的ですよ。相手はこれ幸いとして世界の敵を匿う我が国そのものを敵として連合軍で攻めてくるでしょう。なにせ、国を滅ぼせば四聖勇者を国々で分けても問題ないのですから」

「わしが居ても攻めてくると?」

「他の勇者を連れて来るでしょうね。魔導書の勇者によって疲弊させられていると考えるかもしれませんし」

「あなた……」

「後、最善策を言わせてもらうのなら、王女を処刑するしかないでしょう」

「ふざけるな!」

「そうよ!」

「では、奴隷にして権力を剥奪。盾の勇者達に引き渡せばなんとか大丈夫でしょう」

「そんなことはできぬ!」

「そうよ! 私は王女なのよ、それがなんで奴隷なんかにならないといけないのよ!」

「決まっています。貴女は嵌めようとして嵌められた。それだけでしょう。今までやってきたことが返ってきただけです」

「私は悪くないわ!」

「……そこまでか?」

「はい。今回の件が商人達から他国に伝わったのか、我が国の国境線に兵を集結させております。早急に対応せねば滅ぼされるでしょうな」

「少し考えさせてくれ」

「お父様!」

「はっ」

 

 今回、アリスがやらかした件の影響はとても大きい。王都で民衆を味方につけたのがいけなかった。本人は脅しのつもりだったが、この国にも当然のように間者である影が入り込んでいる。その者達から国に情報が伝えられたのだ。ここ以外の国は四聖勇者を信仰する四聖教の国々が多い。また盾の勇者を信仰するの者達の国であり、メルロマルクの敵国であるシルトヴェルトは激怒し、他の国々を扇動して世界の敵を討とうと準備していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリス、悪くないもん! 

 

 

 はっ!? 何故か言わないといけなかった気がした。これはやっぱり、結構浸食されてアリスになりだしている気がする。怖い。凄く怖い。これ以上浸食を増やさないために頑張らないと。でも、正直、アリスの能力は色々と必要なんだけどな。うん、今はまだ大丈夫だ。きっと多分。自分が男だということをしっかりと意識しよう。

 

「シャー!」

「あ、終わった?」

「ガァ!」

 

 シロは私にスリスリと顔を擦り付けてくる。ホワイトサーペントとして生まれたこの子は、ここで手に入れた蛇系の強化アイテムをひたすら与えて潜在能力を解放し、ステータスを補強してあるし、レベルも結構上がった。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)もレベル32まで上がり、人形師は43まで上がった。シロは25で、ルクスとジュカが29。多分、シロは眠ったったら脱皮して大きくなりそうな予感がする。

 

「ジュカも食事、終わった?」

「かげ」

「そっか」

 

 テントの外にあるテーブル。その上にあるケーキスタンドからケーキを取って皆に食べさせてあげる。これは私の魔力の塊でもあるので、使い魔契約をしているこの子達にとってはとてもいい物だ。それにここのボスの怨念をしっかりと食べたジュカも、口直しとして食べている。

 

「よし、帰ろう」

 

 シロの強化アイテムはこれ以上は使えませんと表記がでるまで徹底的に強化した。それに目的の脱出アイテムも手に入ったので、ここに用はない。

 

 

 

 

 

 王都に戻ると、前とは雰囲気がかわっていた。兵士はピリピリしているし、民からはビッチ姫の処罰を求める声があげられている。そんな中、私は外套を深く被って皆を魔導書の中に入れて街の中に入る。それから、宿をとってお風呂に入って汗を流す。今まで上海達に洗ってもらっていたけれど、今回は自分で洗う。

 目を瞑りながらアリスの柔肌を洗い、ぷにぷにすべすべで変な気持ちになりつつ洗い終えたら、湯を張りながら皆を出して順番に洗っていく。気持ち良さそうに洗われるルクスとシロとは対照的にジュカは風呂だとわかったらすぐに逃げた。まあ、あの子の身体はぬいぐるみだから仕方ない。浄化魔法を使えばいいし……って、私もそれで洗えば良かった。

 まあ、すぎた事はいい。綺麗に洗ってあげてから私は湯船に入る。するとシロも入ってきて、一緒に温まっていく。スベスベの肌が気持ちいいけど、身体に巻き付いてくるのは少し困った。ルクスは湯船の近くにいるので、背中を撫でてあげる。そんな風にしていると、ジュカが恐る恐る入ってきた。

 

「おいで。浄化の魔法を使うから、湯船に入らなくてもいいからね」

「カゲ」

 

 浄化の魔法を使ってあげると、私の頭に乗ってきたのでそのままにさせてあげながら、これからの事を考える。次の波は問題ない。その次は確か、別世界から扇子の眷属器を持った人がやってきて大変なことになる。そして四霊だったかな。ああ、その前に三勇教を滅ぼさないといけないのか。ん~三勇教か、ああ、そうだ。あの武器、貰っちゃおう。でも、使われる前になんとかした方がいいよね。あーそうだ、いいことを思い付いちゃった♪ 

 っと、いけないいけない。また嗜好まで変わってきている。でも、考えるのは楽しいし、やってみよ。とりあえず三つ目の波の直前だったか直後だったかまでは大丈夫なはず。それまで教会をしっかりと調べて準備すればいい。今は別の事をしよう。

 まずは戦力を増やす。それも数が欲しい。尚文おにーさんみたいに奴隷や魔物を集めて鍛え、戦力にしないといけない。正直、この世界の兵士のレベルが低すぎるしね。しかし、そうなると土地がいるし、できれば容易く私の味方になってくれて裏切らないちょろい人が仲間になってくれた方がいい。そんな都合のいい人……居たや。

 これでやる事は決まった。じゃあ、後は少し趣味に走りつつ、男性としての心も保つために可愛い女の子の奴隷を買おう。男を買ってメス堕ちさせられたら最悪だし、女の子ならまだましだ。後、傍に居させるのは小さい子かな。大きい人だと理性がやばいことになりそうだし、そっちの趣味の人だとマウント取られてこちらもメス堕ちさせられそう。あれ、考えれば考えるほど死亡フラグあり? 

 でも、やるしかないか。私なら、奴隷達を治療して恩義を感じさせて育てることができる。ただ、これにはお金の問題がある。うん、そうだ。パトロンを作ろう。

 やることが決まったので、外に出て魔法で水分を飛ばして着替える。今日は白いワンピースに麦わら帽子にしよう。ルクスのピカピカな背中を見てもとっても似合っている。

 

「皆、出掛けるから魔導書の中で休んでいてね。危なくなったら呼ぶから」

 

 皆の返事を聞いてから、魔導書に戻してから本を()()()()()()()。伝説の武器は武器を隠せない? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何時もの感覚で念じれば身体の中に消えるし、大丈夫。それに私のはハスターが用意した紛い物でしかないのだから。

 トランクケースを持って……って、このトランクケースを持ってたらばれるか。置いていくのもなんだか嫌だし、まあいいか。

 

 

 

 トランクケースを持って外に出て奴隷商のところにやってきた。来る途中は色んな人に見られたけれど気にしない。バリアは常時展開してるしね。

 

「こんにちは」

「おやおや、これはこれは……魔導書の勇者様ではありませんか! どうなさったのですかな?」

「奴隷を買いに来ました。それと色々とお願いがあります」

「お願い、ですかな? 勇者様には出来る限り格安で商品をお売りしておりますが……お願いとはなんですか?」

「儲け話しを持ってきました。乗る気はありますか?」

「ほほう、儲け話とな! ぜひ、ぜひともお教えください!」

「信じていますが、情報を漏らしたり、私や尚文おにーさんを騙したら……」

「それでしたら心配ありません! なんでしたら、例のお薬を飲んで嘘をつけなくしてもらっても構いませんです!」

「……わかりました。呪いをかけましょう」

「この信じているといいながら、容赦なく縛ってくる慎重さと呪うことに一切の抵抗がない恐ろしさ。私、脱帽でございます!」

「私、魔導書の、魔導の勇者ですから。魔に通じる者ですよ?」

「なるほど、ごもっともですな。それでは、こちらで儲け話について、詳しく聞かせていただきましょう」

 

 奥に案内され、座りながら説明していく。

 

「私は大規模な治療魔法が使えます。全状態異常を治療し、肉体の負傷を35%程度は治療できますので、怪我や病気をした奴隷を格安で他の奴隷商から買ってきてください」

「なるほど、不良債権として格安で引き取ってこちらで治療して販売するのですな!」

「はい。ただし、私にも欲しい奴隷がいます。それはこちらがもらいます」

「それはなんですかな?」

「フォックス種です」

「なるほど、かなり高いですが、死にかけなら安くなりますな」

「子供がいいです。女の子なら構いません」

「ふむふむ。確かに女性同士の方が安全ですし、世話をさせるのにもいいでしょうな」

「ただ、小さい時にレベルを上げると急に成長すると聞きました。それは困ります。どうか、小さいままでいさせられませんか?」

「小さいままがいいのですか?」

「私、大きい女の人は怖いので」

「なるほどなるほど。それでしたら、そういうお薬があるので与えればよろしいかと」

 

 そういったことが設定できるのなら、いいかな。初めて知ったけれど。

 

「で、この奴隷達ですけど、問題ありそうなのは売っていいです。でも、問題ない人達、奴隷狩りとか攫われたり、借金を負わされて無理矢理奴隷にされた人達は売らないでください」

「それはどういうことですかな?」

「私が引き取って育てます。これからの波の戦いで戦力が要りますので、それに使わせてもらいます」

「ですが、それでは私は儲けられませんが……まさか、世界の為に出血を強いろと!? なんと素晴らしい!」

「違います。儲けは用意してあげます。私の能力はインスタントダンジョンを作成すること。つまり、そこから手に入るアイテムは私とあなたで独占して販売できる。その探索にも奴隷を使うから、鍛えられて一石二鳥」

「これは、なんと素晴らしいのでしょうか! 考えるだけで震えが止まりませんぞ!」

「でしょ? それで、内訳だけど、私と貴方で三割ずつもらう」

「残り四割はどうなさるので?」

「奴隷達の装備や食料、新たな奴隷の購入などにあてます。つまり、経費。私達の三割は純利益と考えてください」

「素晴らしいですぞ! ですが、私が三割は貰いすぎではないでしょうか?」

「私が土地を手に入れるまでは基本的な管理はそちらに任せるので、その分も含まれています。それとモンスターも同様に成長補正を与えられます。私はむしろそちらが専門ですよ。それと私が自ら手塩に掛けて育てた子達は売りません。ですが、そちらで用意したモンスターを連れてレベル上げをするのは問題ありません」

「なるほど。育て屋になってくださると」

「条件としては大切にしてくれる主であることですね。飼いきれなかったから捨てるとなれば、魔境となってしまいます。それなら私が引き取りますから」

「ふむふむ。でしたら、モンスターの買取もやりましょう。いやはや、可愛い顔に似合わずに悪いお人ですね」

「いえいえ、奴隷商さんほどではありませんよ」

「いえいえ、勇者様の方が……」

 

 二人で笑い合ってから、契約書を交わす。ちなみに悪巧みだけど、悪い事なんてしていない。これは人助けも含んだれっきとした事業だ。どれも合法だしね。

 

「ああ、そうでした。知りたい情報が二つあります」

「なんでしょうか? なんでもお答え致しますぞ。あなたは私のパートナーですからな」

「まず、メルロマルク北部。そこの没落貴族である娘の居場所を早急に調べて欲しいんです。この国の領地貴族で畑が荒らされたり、色々と困っているはずです。それと違法な奴隷商、知っていたら教えて欲しいです」

「最優先ですかな?」

「最優先です。彼女を私は欲しています」

「奴隷になさるのですか?」

「奴隷にはしますが、強くするためです。本人の意思によりますね」

「なるほど。わかりました。して、もう一つはどうするつもりで?」

「私は勇者ですので、悪い事をしている人達はしっかりと懲らしめないといけないでしょう?」

「なるほど、なるほど。恐ろしい方ですな」

「これもこの世界を助けるためですから」

 

 悪い人達に奴隷にされている人を助ける。これは間違いなく、いい仕事だ。ジュカのご飯の確保でもあるんだけどね。

 

「では、ご案内いたします」

「お願いします」

 

 奴隷商さんと二人で楽しい楽しいお買い物だ。ちゃんと服装を変えて黄衣の外套まで着ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 王都に存在するスラム。そこの奥深くに存在する大きな奴隷市場。そこに私は連れられてこられた。男女区別なく、売られている。中には盗品だってある。

 

「ここがこの国最大の奴隷市場です。他にも盗品なども取り扱っております」

「取り締まりは?」

「貴族と癒着しておりますので、はい。その資金は三勇教にも流れており、彼等に助けを求めた人が返ってくることもたまにあります」

「マッチポンプですね」

「はい。ですので、どうぞお好きになさってください」

「なら、やっちゃいます」

 

 犯罪者に容赦する必要はない。それにここは便利だ。まずは警備の兵士達に魅了の魔眼を使って支配下に置く。他の警備の人達を紹介させ、そいつらも支配下に置いて下から偉い人のところにどんどん進んでいく。

 

「これは、魔眼ですか」

「魅了の魔眼ですよ」

「詐欺ですな」

「詐欺なんてしていません。アリスは嘘をついていません。私が言ったのは嘘かどうかを判別できると言って、水を渡して魅了の魔眼を使っただけです。嘘はついていませんし、騙してもいません。全て相手が勝手に勘違いしただけです」

「くっくっく、まことに、まことに素晴らしい! 私の大好きなお人だ!」

「あー男の人は遠慮します」

「いえ、そういう意味ではありませんから。ですが、辛辣ですな。っとついたようです」

 

 奥にある豪華な部屋を魔弾で粉砕して中に入る。中に居た肥え太った男達は慌てている。魔導書からルクスを呼び出し、腕に掴ませる。

 

「な、なんだお前!」

「勇者です。貴方を捕まえに来ました」

「俺が捕まったところで、すぐに解放されるだけだ。むしろ、お前達の方が……」

「ああ、そういうのは結構です。貴方は罪を告白して、退場するだけですので。いえ、予定を変えましょう」

「何をする気ですかな?」

「この市場、まるまる貰って健全な方に変えるのはどうでしょうか?」

「いいですな」

「というわけで、生かしてはあげます。ただ、全財産はもらいますが」

「ふざけ……あ、あぁぁ……」

「いただけますか?」

「もちろんです! どうぞ差し上げます!」

「これはもう、魔王ですね」

 

 オリジナルのロリアリスって魔界に住んでたから、魔王っていうのもあながち間違っていないんですよね。

 

「残念。勇者です」

「これは手厳しい!」

 

 司法に委ねても今は女王陛下がいないのでろくなことにならないだろう。だから、全財産を頂いて奴隷にされた人達の買い戻しや自立支援をさせてもらおう。

 

「客はどうしますか?」

「魅了して犯罪行為があったら、そのままにして心を入れ替えさせて働いてもらいます。上の挿げ替えだけでは意味がないですから。女王陛下がお戻りになられたら、ちゃんとした人を派遣してもらいます。どうですか?」

「女王陛下を信頼なさっているのですね」

「あの人はおそらく大丈夫ですから」

 

 この国の膿は排除してあげます。尚文おにーさんではなく、異邦人であるアリスが。尚文おにーさんにはできる限り幸せになってもらってハッピーエンドを迎えてもらいましょう。悪事をした人にはそれ相応の罰を。今回の私、アリスはこの国に関しては自重を捨てます。何故なら、私は私のために最悪、尚文おにーさん達を殺します。この世界のほとんどの生命を皆殺しにしたとしても、この世界の破滅を防ぐ。それが私に与えられた使命ですから。神々にはまだ、逆らえませんから仕方ないですよね。

 

「どうしましたか? 気分が悪そうですが……」

「頭が痛いだけです。こんなに魔眼を使ったことはないので……」

「なるほど。手続きはこちらにお任せください」

「お願いします」

 

 私はソファーに座ってゆっくりする。その間にここの権利書や財産の譲渡など、全部奴隷商の人がやってくれた。表向きのれっきとした財産は私に譲ってもらって、裏の財産は彼等に持たせたままになった。彼等自身を奴隷にして監禁し、時が来るまで奴隷商に管理してもらう。

 

「さて、奴隷をもらっていきましょうか」

「ですな」

 

 奴隷達を集め、マッドスィートケークで全員を治療する。皆が回復に喜ぶけれど、すぐに不安そうにしている。

 

「初めまして。私はアリス。魔導書の勇者です。此度、四聖勇者と共に召喚され、ここにやってきました。そして、皆さんを助けさせていただきました。ですが、残念ながらすぐに解放するわけにはいきません」

「な、なんでだ?」

「彼等は貴族と繋がっており、皆様が無罪だと、攫われて奴隷にされた立証できないからです。ですが、女王陛下がご帰還なさった時には事情を説明し、奴隷から解放してもらいましょう。例えそれが認められなかったとしても、私と盾の勇者で解放して皆様を自由にします」

「おお、勇者様……」

「さて、もちろんですが、犯罪をしていない方や仕方がなかった人のみです。それ以外の人は奴隷のままになります。これは諦めてください。次にこれからのことを説明します。現在この世界には波がやってきています。それに対抗するため、私と盾の勇者は戦力を欲しています。ですので、ここで提案があります。どうせこれから暇になりますし、一度奴隷になった皆さんがまた職をつけるのは大変でしょう。ですが、私達と一緒に戦ってくれるというのなら、貴方達が奴隷から解放されたとしても食べていける実力を与えます。これは任意なので嫌な人は断ってくださって結構です。よく考えてから判断してください」

 

 彼等に伝えてから、亜人の人達が纏まっているところに移動する。

 

「亜人の方々は一部を除いて自由にしてください」

「い、一部ですか?」

「はい。私の世話役としてフォックス種の女の子を連れていかせてもらいます。私のお世話係や、友達ですね。ちゃんと鍛えますし、むしろ他の人よりも強くなれます」

「フォックス種限定ですか?」

「私が好きですからね。あの尻尾のモフモフ、最高じゃないですか!」

「あ、はい」

 

 亜人の人達が呆れているけど気にしない。それに女の子限定の理由も伝える。だって、私が怖いし嫌なのだ。

 

「フォックス種というと……」

 

 少しすると、押し出されてくるのは金髪と銀髪の二人の幼いフォックス種の子供。それと金髪の子の親であろう女性。どちらも美少女で、とても可愛らしい。けれど金髪の子の方は私を睨み付けてくる。銀髪の子の方は身体はまだボロボロで、無表情だ。

 

「勇者様、子供となるとこの二人になります……」

「私は嫌! 私達を捕まえて酷いことをした人間なんかに仕えるなんて絶対に嫌! ましてやお母さんと離れるなんて……」

「こらっ、なんてことを言うの! も、申し訳ございません……」

「ソイツが行ったらいいじゃない! ソイツの、忌み子のせいで、私達は……」

「……わかった……私がご主人様の奴隷になる……」

 

 こちらにやって来たボロボロの子。改めて見詰めると、彼女は顔や身体中に痛々しい拷問の跡が残っているし、尻尾も耳も斬られている。

 

「忌み子、ですか?」

「はい。この子は白狐と黒狐の間に生まれた子供です。黒弧は恨みによって狂った狐に悪魔が憑依してなる存在と言われています。この子は人間が面白がってその黒狐と白狐の間に産ませた子供です。そして、捨てられたようで村にやってきたので、私達は里から少し離れた場所に一人で住まわせてあげました。ですが……」

「この恩知らずが私達の里に施してあった結界を解いたのよ! それで人間共がやってきて!」

「本当なんですか?」

「解いた。お母さんを返してくれるっていってたから……」

「なるほど」

 

 母親に会いたいが為に結界を解いたのか。なんていうか、里の人からしたらたまったものじゃないけど、彼女の年齢からしたら一人での生活はきついし、人肌が恋しくなるのもわかる。私もなるし。それに里の人が受け入れて里の中に住まわせていたら、人間と接触することもなかったのかもしれない。

 

「で、お母さんとは会えたんですか?」

「これ……」

 

 それは舌の上にある小さな白い綺麗な石だった。彼女は口に入れてずっと守っていたみたいだ。

 

「それは……?」

「殺生石と言われるもので、強いフォックス種が死んだ時に力を結晶化させて次代に受け継がせる物です」

「つまり、死んでたと……」

「生きてた。でも、目の前で殺された」

 

 話を聞くと、ラフタリアが売られた場所の貴族のところに連れていかれ、そこで拷問されて目の前で母親が殺されたみたい。本人も拷問されていたけれど、託された殺生石の力で耐えていたみたい。ただ、そのせいか表情は完全に死んでいて、ラフタリアと同じように飽きられて売られたのだろう。この国の貴族、ろくでもないのが多い。

 

「あの、この子では駄目ですよね? 尻尾もあれですし……」

「いえ、この子さえ良ければ貰っていきます。貴女は私と一緒にきてくれますか?」

「構わない。それで皆が助かるなら、使い捨ててくれてもいい」

「わかりました。では、徹底的に死ぬまで使い切ってあげます。あ、ただその石はもっててもいいですが、口には入れないように。食事がとれませんし、ペンダントか何かにしましょう」

 

 欲しいけれど、流石に彼女から取るつもりはない。あれは彼女に残された母親からの唯一無二の形見なのだから。

 

「ん。待たせてくれるならなんでもいい」

「ふん」

「世話になった。さようなら」

「ええ、元気でね」

「勇者様にちゃんと尽くせよ」

「頑張る」

 

 大人達は責任が自分達にもあることがわかっているようで、比較的優しい態度だ。ただ、子供達は睨み付け、彼女を恨んでいる。

 

「奴隷商さん」

「はいはい。その子の契約を書き換えるのですね」

「お願いします」

「お任せください」

「っ!?」

 

 痛みに苦しそうにする中、無事に胸の中心に奴隷紋が刻まれた。

 

「あ、インクをください。それと貴方の血も。いえ、全員の血ももらいましょう。数滴でいいので」

「まあ、どうせこれから書き換えなくてはいけませんからな、問題はないでしょう」

「私はひたすら治療して情報を纏めますね」

「お願いします。ただ、服の手配などはしましょう」

「いえ、ここで適当に漁ります」

「盗品ですよ? 死んでいたら問題ないのですが……」

「流石に嫌ですね。新しい服を用意しましょう」

「かしこまりました」

 

 目利きできる人に任せてしまおう。ただ、持ち主に返す必要がない物は使わせてもらう。これも世界の為。ドラクエの勇者みたいに! 

 

 

 

 さて、商品や備蓄されていたSP回復ポーションでスキルポイント、私でいう魔力を回復してひたすらマッドスィートケークを生み出していく。

 

「怪我をしている人、体調が悪い人から食べさせます。魔力がある限り、いくらでも作れますが、軽傷の人は譲ってあげてください。あなたはしっかりと食べるように。っと、名前はありますか?」

「前の名前はアイツにつけられた番号だからいらない。捨てるから、新しいご主人様につけて欲しい」

「じゃあ、そうですね」

 

 ぱっとしたイメージは白と黒。でもシロはいるからクロ? でも、全体的に白というより銀色。シクロ? クシロ? クシロは名前として使えなくはないけどなんか駄目だ。狐、九尾、仙弧。く、く、く……あ、あれにしよう。

 

「貴女には私の名前の一つである、久遠寺アリスから、クオンという名前をあげます。どうでしょうか?」

「いいの? ご主人様からの名前を私なんかに……」

「なんかじゃありません。貴女にあげたいのです。久遠の時を共に過ごし、幸せにするという意味も込めてです」

「……」

 

 重いかもしれませんが、この子って手放したら死んじゃいそうな気がする。それに暴走の危険があるなら、しっかりと面倒をみないといけない。

 

「ありがとう。嬉しい」

「それは良かったです」

「ん」

 

 頭を撫でてあげるけれど、やっぱり切られた狐の耳が痛々しい。というか、他の人のは再生しているのにこの子のは再生してくれない。黒弧だったか、その血が聖なる力による再生を妨げているのかもしれない。欠損だって状態異常なのに回復しないなんておかしい。ひょっとしたら魔法や魔術などに関する抵抗が高いのかもしれない。こればかりは頑張って解決するしかないか。

 

「ほら、食べてください」

「ん、美味しい……けど、いいの?」

「かまいません。これからいっぱい働いてもらいます。基本的に最初は私の愛玩動物として扱います。次に勉強したて覚えたら従者です。戦闘もしてもらうことになりますが、いいですか? あと、ペットというのはこの国では仕方がないことだと思ってください。対外的な扱いです。もちろん、他に人がいないときは友達として接しますからね」

「大丈夫。しっかりと覚えるし、むしろペットがいい」

「わかりました」

 

 ペットがいいということなので、そういう感じにしよう。ペットをどう扱うかは主人の自由なのだから、思いっきり可愛がってやる。奴隷契約以外にも使い魔契約をしてしまおう。

 召喚したケーキスタンドを置き、食べさせていくと傷がみるみるうちに消えていく。しかし、やっぱり完全な再生には時間がかかる。

 

「クオン、今から魔法を使います。これは奴隷契約以外に私とクオンを繋ぐものですから受け入れてください」

「わかった。どうすればいい?」

「了承してくれるだけでいいです」

 

 使い魔というより、どちらかというと式神だ。八雲紫が藍さんにしたのと同じ事ををこの子にもする。といっても、使い魔の術式を私なりに改造した奴だから、そこまで上手くいくかはわからない。これで私の魔術回路をコピーできたらいいんだが……。

 

「ん、わかった」

「では、儀式をしましょうか」

 

 一応、トランクケースから魔導書を出して使い魔の項目を参照して、主人である私と繋げて色々とたしていく。ある意味ではFate/のサーヴァント契約に近しい感じかも知れない。絶対命令権は確保して、死んでも大丈夫なように死霊魔術と躁霊魔術、降霊術などクトゥルフ神話の魔術知識も使って、ついでにプロイキッシャーにも繋げてみる。魔法少女まどかマギカみたいに魂を引き抜いて、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)に収納して守る。ただ、これをやると死ぬから、プロイキッシャーとして認識させて人形にしてしまう。身体が死んだら霊体として身体を構築させれば私だけのサーヴァントの出来上がり――って、そんな非道なことできるか! 

 急いで構築していた術式を破棄する。代わりに普通の使い魔契約にクトゥルフ神話の魔術と合わせて奴隷紋を利用して私の魂と繋げる。これで彼女の身体に私の魔力を流しつつ、ケーキでも食べさせればいい。

 契約の儀式は無事に終わっったので、ケーキを食べさせてみる。これで再生してくれたらいいけれど……

 

「どう、ですか?」

「身体は大丈夫。ご主人様を感じられる。尻尾や耳はムズムズする。でも、それだけ……」

「成長させれば治癒するのではないでしょうか?」

「大きくなる?」

「く……私より身長を高くするのですか……」

「護衛にもなるなら、大事。後、高いところ取れない」

「妥協して少し成長してもらいましょう」

 

 耳と尻尾がないなんて許せませんしね。これはそっち系の魔導書もいりますね。設定を弄って11歳から12歳くらいにしましょう。金色の瞳でこちらを不思議そうにしているけれど、持つ者にはわからないのです。

 

「まあ、いいです。いっぱい食べてくださいね」

「ん」

 

 さて、魔力を大分使ったので少し休もう。とりあえずのやるべき事である治療は終わった。クオン以外の再生は終わっているし、クオンに関しても成長で回復させるか、エリキシルぐらいを取ってくるしかないかも。可愛いクオンのためなら頑張れる。

 

「お嬢様。そろそろ休まれますか?」

「いえ、やることがいっぱいありますからね。というか、非常に大切なことを忘れていました」

「なんでしょうか?」

「この子に座る場所を取り付ける馬具みたいなのが欲しいのです」

 

 魔導書からルクスを呼び出してみせる。

 

「できれば二人乗り……いえ、大人一人と少女一人、幼女一人が乗れる感じでできますか?」

「可能だと思います。すこし用意に時間がかかります」

「そうですか。では、お願いします。それと炊き出しと衣服の配布。風呂で身体を洗うこと。食事前には手を洗う。これを徹底しておいてください。石鹸があればなおいいです」

「かしこまりました」

「お嬢様はどうしますか?」

「この子の採寸が終わり次第、一人で少し行くところがあるのです。ですから、クオンもここで待っていてください」

「一人で大丈夫?」

「戦闘はありませんから、多分大丈夫です。それに夜に紛れていきます」

「どこに行かれるのですか?」

「カルミラ島です」

「ふむ。カルミラ島でしたら……」

 

 奴隷商が地図を出して教えてくれるので、そのルートをしっかりと覚える。ルクスで行けばかなり速くいけそうだ。私の狙いは例のアレだ。

 

「採寸が終わったようですね。はい、もう自由にしていいですぞ」

「早いですね」

「お褒め頂き恐悦至極でございます」

「では、少し行ってきます。できる限り早く戻るのでよろしくお願いしますね」

「お任せください。しっかりと買い付けも行っておきますよ」

「買い付け……ああ、そうでした。少し行く時間を遅らせます」

「おや?」

「カルミラ島でよく売れる物とこちらで売れる物を教えてください。どうせ行くのですから儲けましょう」

「商売人としては正しいですな! 少しでも利益を上げようとする行動に脱帽です、はい」

「嘘ですね。商人としては当然のことでしょう」

「本心ですぞ。まあ、カルミラ島は島国ですので、足りない物は内陸の物ですね。後はお酒とか、武器ですね。鉱石は駄目です」

「了解しました。私は今回、運び屋になるので、そちらで集めてください。指定の場所と指定の値段で売ってきます。ですが、くれぐれも相場通りにお願いします。すぐに戻るので時間がありません」

「かしこまりました。しばしお待ちを」

 

 聞いてみると、だいたい50分ぐらいかかるらしいので、私はクオンに風呂に入って身体を綺麗にするように言ってから、炊き出しをする。食料はいっぱいある。

 檻を撤去して解体し、細かく切って窪みができるようにしてから洗浄の魔法で綺麗にする。続いて炎の魔弾で焼いて更に洗浄。ルクスとの共同作業。

 続いて空中に水の魔弾で大きな水球を作る。そこに炎の魔弾を叩き込んで一気に温めて沸騰させる。続いてトランクケースから大量の蛇の死体を取り出して風の魔弾を刃に変えて皮をはがし、肉を斬り刻んでから水球に入れる。これでスープの完成。

 私が仕出したことに気付いた人が次々と鍋を持ってくるとそこにスープを入れる。容れ物はさっきのでもいい。続いて壊した鉄格子を使って横に置いて、皮を剥いた蛇の肉を置く。塩胡椒でぱっと味付けしたら、しっかり火を通していく。

 

「蛇の肉ですかな」

「初級ダンジョンでボスマラソンしていたから、蛇の肉はいっぱいあるんです。せっかくだから食べさせてあげれば食費の節約になります」

「なるほど。しかし、魔法を料理に使うなど、考えたこともありませんでした」

「便利な力は使ってなんぼですよ」

「なるほど。確かにその通りです。あ、それと亜人は生肉でも大丈夫ですよ」

「……」

 

 トランクケースからある程度の蛇肉を取り出して渡す。

 

「まだあるけどいります?」

「カルミラ島で売った方がいいかもしれませんな」

「知り合いの商人がいますから、紹介状を書きましょう」

「ありがとうございます」

「あの、私達自身で料理しますよ? その……」

「わかりました。料理は不慣れなので任せます」

 

 明らかにほっとした奴隷の皆に任せる。人手はいっぱいあるし、これでいいだろう。しかし、暇になった。そうだ。武器屋のおじさんと洋裁屋の人に服を発注しておこう。巫女服にするか、それとも洋服にするか悩ましい。和服はまた今度でいいか。洋服にしよう。

 

「クオン、今から買い物に行きますよ」

「はい。わかりました」

「少し遅れるかもしれませんが、用意しておいてください。ルクス、ジュカ。手伝ってあげてください」

「ガァ!」

「カゲ」

 

 これでよし。クオンの手を引いて奴隷市から出て、停まっているフィロリアルをお願いしてちょっと借りる。それに乗って武器屋のおじさんに会いにいく。

 

 

 

 

 

 

 

 扉を開けて中に入ると、おじさんが暇そうにしていた。

 

「武器屋のおじさん、この子の武器と服屋を紹介してください」

「……その亜人の子はアレか? 奴隷か?」

「そうです。手に入れちゃいました」

「フォックス種か。高かったんじゃないか? というか、嬢ちゃんまで奴隷か」

「切られているから、わかりますよね」

「あー。悪い。それで、武器か。何を使わせるんだ?」

「クオンは何が良い?」

「槍がいいです」

「槍か」

「狩猟で使っていたので」

「こんな小さな子がか……まずはショートスピアからだな」

 

 ショートスピアは私達からしたら普通の大きさになる。こちらは難なく振れたようなので、他にも試させよう。次は普通の槍も持たせてみる。少し重そうにしながらもちゃんと突いている。

 

「まあ、最初は見学だし、これでいいですね。どうせ後衛は私がいますし」

「スピードアタッカーだよな」

「そう。速さで突く」

「前衛が嬢ちゃんだけだとやばくないか?」

「私の手持ちに硬い鋼鉄の身体を持つモンスターがいます。その子が盾となってくれますので、クオンは遊撃ですね。他に二匹いますので大丈夫です」

「なるほど、それなら大丈夫か」

「はい。ありがとうございます。この子に服を買ってあげたいので」

「わかった。それとメインウェポンだけじゃなく、サブウェポンも買った方がいいな。鎧は邪魔になるかも知れないが、グローブとブーツは買ったほうがいい」

「わかりました。お願いします」

「任せな」

 

 結局、ここでは魔鉄の槍と黒狼のグローブとブーツ、ベルトと鉈のようなナイフを二本購入した。これらは基本的に黒色で青色の紐が取り付けられている。

 

「服は洋裁屋に冒険者用の特殊な装備が売ってるからそれを買ってやれ。代金はまけて銀貨400枚でいいぞ」

「あ、お金はないです」

「おい」

「素材でお願いします」

 

 トランクケースを置いて、中からダンジョンで取れた素材を大量に出していく。みるみるうちに溢れてきた。蛇の鱗や牙が沢山。後毒袋とかもある。

 

「毒袋はここじゃ無理だ。というか、どんだけ狩ってるんだよ」

「三千は超えていましたね」

「これ、ボスだろ?」

「ボスですね」

「あ、尚文おにーさんにいくらかあげてもいいですからね。多分、ここのダンジョンはいかないでしょうから」

「わかった。槍は持ち手を調整するから、先に服屋に行ってくるといい」

「はい」

 

 紹介状と場所を教えてもらったのでそちらに向かう。そこで店に入ったら、店員の女の人に襲われた。

 

「ぜひ、服を作らせて!」

「わかりました。早速デザインを決めましょう。ブーツとグローブがこれなので、こんな感じで」

 

 デザインは黒いチャイナドレスに水色の線を入れたような感じで腰まであり、左右をコートのように残して前の部分はばっさりと切る。下半身は白い短パンと黒いニーソックス。茶色いベルトを取り付けて腰にサブウェポンのナイフを配置。斬られた耳が痛々しいので、おしゃれとして耳の部分に飾り布を取り付ける。簡単に言えば肩から手首まで全て露出させ、絶対領域を確保して、スカートじゃないのでそれが全て曝されている。もちろん、脇も首元も見える。

 

「全体的に黒いけど、髪の毛とか尻尾が銀色だから大丈夫ね」

「はい」

「クール可愛い感じね。何か魔法付与はするのかしら?」

「付与はこちらでやっておきます」

「わかったわ。明後日くらいになるわ」

「わかりました。代金なんですが……他の服や布に付与するのでどうでしょうか?」

「付与? 何ができるの?」

「火、水、風、土。全属性できますよ」

「流石は勇者様。じゃあ、火でお願いしようかしら」

「火属性耐性でいいですよね?」

「ええ、それでお願い」

「すぐに終わらせます。それといくらか服を頂いてもいいですか? 料金は量を増やして頂ければいいので」

「わかりました」

 

 用意された布にエンチャントを施していく。上海達の服を作るのに耐火性能や防刃などは必要だ。これはしっかりと覚えている。

 

「ご主人様、私のも付与してくれるのですか?」

「もちろんです。風を基本的に付与しますが、それだと火力不足になるかも知れない。だから火属性も付与するつもり。ピーキーになるけど使いこなせば強いから」

「大丈夫。フォックス種は火も得意」

「それはいい。使い方は後で教えるよ」

「ん」

「はい、確認できたわ。それじゃあ明後日にあいましょう」

「少しずれるかも知れないけれど、次の波までには来ます」

「ええ、いらっしゃい。頑張ってね」

「はい」

 

 さて、服を受け取ったので次は魔法屋だ。ここでは簡単に魔法が覚えられる水晶玉を買って魔導書に吸収させる。すると予想通り、水晶の魔導書が手に入った。水晶玉の作り方はわかったので、よしとする。本当は魔法書も欲しいけれど、そこまではお金がないので諦める。

 

「ご主人様、そろそろ帰らないと」

「そうでしたね。戻りましょう」

 

 戻った私はクオンを預けて護衛としてジュカを残し、ルクスに乗ってカルミラ島へと向かう。バリアを張ってから100キロで移動し、全速力で向かった。

 

 

 カルミラ島を無事に発見したので、地上に降りて奴隷商に指示されたお店に商品を降ろしてお金を受け取る。その人にお願いして、肉を全て食堂に降ろしてもらう。他に海産物を集めてもらって、私はそのまま寝ずに海に潜る。

 ルクスと共にバリアを張って海中を進み、よさそうな物は採取して真珠とかも回収していく。そうしていると、灯りの関係もあって9時間もかかって目的の建物を発見した。

 私が探していたのはカルミラ島の近海に沈んでいる海底神殿。ここは忘れられた神殿であり、誰も管理していない。つまり、好きに使っても問題ない場所だ。

 龍刻の砂時計もあるので、そこから少し砂を拝借する。魔導書に吸わせると転移の魔導書が解放された。効果はワープゲート。これが凄く欲しかった。それにこれを使えばランクアップが40レベルで可能。私はすでに人形師が43レベル。でも、これは認識されなかったみたいで、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)は32。残念ながらまだランクアップは不可能だ。そんなわけで、続いて海底神殿を探索する。なにか良い物が残されていないか調べる価値はある。

 調べてみたが金銀財宝はなかった。でも、もっと価値ある物があった。それは地図や残されていた古文書、そして武器だ。この神殿は1000年前から今までの間に沈んだ物なので、私が行きたい神殿の内部情報が書かれていた。古文書の方はわからなかった。読めないから魔導書に吸わせてやったら、魔法言語を習得できてしまった。ごめん、尚文おにーさん。もっとも、翻訳ではなく、直接転写されるので無茶苦茶痛かった。それと本の内容もしっかりとわかったので、古代魔法も習得できたし、四聖武器を複製する方法もわかった。

 武器の方は四聖や七星の武器を複製しようと研究されていたようで、その実験データから試作品まで置かれている。それらを回収して私が完成させてあげよう。なに、この世界の技術でできなかったのなら、異世界の技術を使えばいいだけだ。私なら、アリスならできる。素材になる龍刻の砂ももっと回収しておこう。

 結論から言って、この忘れられた神殿は極秘情報が転がっていた。おそらく、逃げる暇も処分する暇もなかったのだろう。それが私の収穫に繋がった。

 もちろん、中には破損している本もあったが、大切な本や書類、アイテムには保管用の魔法がかけられていたし超美味しかった。

 外に出てから、カルミラ島に戻って頼んでおいた物をもらい、ワープ先を増やすために移動する。まず、奴隷商から借りた地図をもとにいろんな国の龍刻の砂時計に登録しに行く。一日で行けたのは三つだけど、まあよかった。

 結局、戻ったのは二日後で手に入れた海産物などは全部売り払うように頼んだ。その後、私はクオンを抱きしめて一週間ぶりに眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、アイツ。アレはドラゴンよりもっとやばい。とっても邪悪な気配がする。調べなきゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、誤字報告、評価、ありがとうございます。続ける励みになっております。

本当は出すつもりがなかった奴隷のフォックス種。でも、仙弧さんみたせいで、あのもふっもふの誘惑に勝てなかったぁぁぁっ!

奴隷さん達はこれからの戦力増強。四霊戦で明らかに弱かったのを知っているから、事前事前の準備。

次回はロリラフタリアちゃんとボール遊び。楽しい楽しい幼女三人の遊ぶ姿。ただし、周りは――


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28話

感想、お気に入り登録ありがとうございます。



 

 

 

 

 久しぶりに眠ったはずの私が気が付けばどことも知らない場所。そこは牢屋のようで、私は天井から吊るされていて金髪の太った変な恰好をした男に鞭を打たれていたり、焼き鏝を当てられて泣き叫ぶ。目の前で濁ったプラチナブロンドであっただろうフォックス種の女性が嬲られて殺されていく。女性が死んだあと、その死体を最悪な方法で処理させられた。その女性はそれでも最後まで優しく私の頭を撫でてくれる。

 その後はひたすら拷問されて、ペットとして教育されていく。ただ媚びさせられて身体を玩具にされる日々。何もしなくても殴られ、肌を焼かれる。しまいには大事な耳や尻尾も切られる。そんな地獄を体験して壊れそうになり──唐突に白い閃光が世界を塗り替えた。

 

 

 

 

「っ!?」

 

 がばっと起き上がり、荒い息を吐く。身体中からでていた汗がぶかぶかのYシャツにへばりついて凄く気持ち悪いけれど、ベッドをみる。隣で苦しそうに眠っているクオンの姿があった。

 そういえば昨日はクオンを抱きしめて久しぶりに眠ったんだった。

 

「シャー」

 

 蛇の声が聞こえて、周りが黒くなった。慌てて視線を上げて上を確認すると、そこにはとってもおおきな白い蛇がいた。高さ1メートルはありそうな顔から、口を開いて分厚い牙を見せてくる。そんな中から舌が伸びてきて私の頬を舐める。食べられると普通なら思うのだけど、この子はそんなことをしない。

 

「大丈夫。ありがとう。もう心配いらないよ」

「シャ」

 

 改めて視野を広げて周りを見渡す。すると白蛇、シロによって周りを囲まれていた。全長20メートルぐらいかな。昨日まで2メートルくらいだったのが10倍だ。中には脱皮した抜け殻もある。その奥に……というか、シロの下にルクスがいて、シロの身体を浮かせていた。シロの上に乗っているジュカの姿が見える。

 

「成長補正、やっぱりすごい……」

 

 クオンを撫でながらそんなことを考える。さっきのはおそらく、クオンの記憶。私と使い魔契約したことによって伝わってきたのだろう。サーヴァント契約をしたらよくあることだ。サーヴァントじゃないけどね。

 

「しかし、そうか。あの貴族、さっさと滅ぼすか」

 

 クオンの経験したことと私が経験したこと。許せない。売られた喧嘩は買わないとね。ああ、どうしてくれようか。そうだ。クトゥルフ神話の魔術で使う生贄にしよう。死者蘇生の反魂魔術を使うには代価が必要だからね。それから死体はグールにして私の操り人形にして、奴隷を買い取る拠点にしてもいい。怪しまれずに奴の金で集められる。

 

「シロ、ごめん。ちょっと身体が大きすぎるから魔導書の中に入ってて」

「しゃ、しゃあー」

「ごめんね」

 

 シロが悲しそうにしながらも大人しく魔導書の中に戻ってくれた。よくよく見たら、この部屋は壁に穴が空いていた。倒壊しないようにルクスが重量を軽減してくれていたのだろう。感謝だね。

 

「ゆ、勇者様っ! 建物を壊されては困ります!」

「ご、ごめんなさい。弁償するので許してください」

 

 シロが居なくなったので、通れるようになったのか、こちらにやってきた人に怒られた。まあ当然だようね。壊した分の弁償代は昨日の輸送費でかなり貰っていたので支払えるだろう。

 

「ん、ご主人様……」

「おはよう、クオン。早速だけでど、外に出るよ」

「わかった」

 

 着替えてから外に出ると、奴隷商さんが呆れていた。いや、これは喜んでいるのかな? 

 

「素晴らしいですな。ここまで大きなサーペントは見た事もありませんです、はい」

「でしょうね。初級ダンジョンのボスくらいには成長していますし。それよりも建物を壊してしまいましたが……」

「ああ、一度壊して区画整理をして作り直しますので構いませんよ」

「一応、お金は支払っておきますね」

「わかりました。今日の御予定は?」

「座れるようにする道具はできましたか?」

「それは完成しております、はい」

「では、尚文おにーさんを探してきましょう」

「盾の勇者様ですな。わかりました」

 

 ルクスに設置してもらう間に食事をさせて、新しいケーキを追加して出しておく。ケーキはクオンにも食べさせる。あと、集めておいてもらった奴隷の血液とかを魔導書にいれた。奴隷の魔導書が発生し、奴隷の成長補正がゲットできた。全員の血を入れさせたから、成長補正(大)という素晴らしい本。流石100人を超えるだけある。

 

「貴族に関しては判明しました。アイヴィレッド家のご息女、リーシア=アイヴィレッド様のようです。位置はこちらになります」

「ありがとうございます。では、すぐに向かいます」

「はい」

 

 食事が終わり、ルクスにクオンと二人で乗ってみる。座り心地もいいし、大丈夫だろう。

 

「どうですかな?」

「大丈夫です。ありがとうございました」

「いえいえ、それではお帰りをお待ちしております」

「はい」

 

 奴隷商の人に見送られながら、ルクスで飛び上がって移動する。ジュカは私の膝の上に座り、クオンが後ろから抱き着いてくる。シロは魔導書の中なので拗ねないか心配だ。

 

 

 

 

 尚文おにーさんを探しつつメルロマルク北部を目指す空の旅。高速で流れる景色の中、まともには探せない。でも、私には魔法がある。尚文おにーさんの盾を探知して彼等のいる場所に移動した。

 尚文おにーさんは山の頂上付近にいた。これから鉱山に入るのかもしれない。そこでぼーとしながら何かを考えているみたい。ラフタリアはフィロリアルとボールで遊んでいる。上空から飛び降りて突撃してみた。そして、シロを呼び出して頭に着地する。

 

「くえー!」

「なんだ? アレは……」

「ひぃっ」

 

 巨大な大蛇にラフタリアは驚いているけれど、尚文おにーさんはそこまででもない。フィロリアルはかなり警戒している。

 

「アリスか、どうした?」

「ラフタリアちゃんと遊びにきたよ!」

「は?」

「というわけであ~そ~び~ま~しょ~」

「まじか」

「まじです」

 

 ルクス達を降ろし、クオンとシロを紹介する。

 

「この子はクオン。私の買った奴隷だよ。こっちはシロ。買った卵からでてきたの」

「よろしく、お願いします」

「シャ!」

「ラフタリアです」

「尚文だ」

「この子はフィーロです」

「クエ!」

「そっちのはダンバルがメタングになったのか」

「そうだよ。それよりも遊ぼう」

「まじで遊びにきたのかよ」

「うん!」

「あの、ご主人様……」

「まったく、いいぞ。遊んでやれ。俺は飯の用意をしておく」

「はい!」

 

 というわけで、ラフタリアちゃんと私、クオン、フィーロ、ルクス、シロ、ジュカでボール遊びをする。まずはボールを蹴って、互いに落とさないように遊ぶ。円になって順番に回わしていく。

 

「へぶっ!?」

「アリス様っ!」

「ご主人様、大丈夫?」

「だ、大丈夫……ま、まだいける」

 

 ボールを追いかけて転んで思いっきり頭を打った。血が出たけれどすぐに再生したので平気へっちゃら。

 

「いくよ!」

「ん」

「がぁ!」

「くえ!」

「フィーロっ!」

「ひぎぃっ!?」

 

 私はとんできたボールを目測を誤って顔面キャッチ。涙がでてくるほど痛い。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「だ、だいじょばない……でも、まけない!」

「やり方変えよう」

「お願い」

 

 次はあまり動かなくていいドッチボールをすることにする。山肌を魔弾でふっ飛ばして均して平地を作る。そこで真ん中に線を引いてコートを作り、ルールを説明してやると、私はボコボコにされた。

 

「ま、まだだ!」

 

 魔術による身体能力を強化して頑張る! 限界を超えてその先に……

 

 

 

「飯ができたぞ……って、アリスがボロボロなんだが……」

「うぅ……運動音痴の呪いには勝てなかったよ……」

「おい、大丈夫か?」

 

 ハイライトが消えてる感じの眼をしながら、フラフラと尚文おにーさんの所に行って座り、地面にのの字を書いていく。他の子達は手を洗いにいった。

 

「てか、戦いで運動音痴って致命的じゃないか?」

「そうだよ! いくら再生能力があっても痛いし辛いよ!」

「落ち着け」

「ふーっ、ふーっ……」

 

 深呼吸して落ち着く。子供達と童心に帰ってキャッキャウフフを楽しもうとしたら、そんな資格が私にはないといわんばかりの仕打ち。次第に最後なんて私を狙わず、ボールを取って渡してくれるようになった。そんな介護のような遊びなんて嫌だ。

 

「一応、お前達の物も用意したが……食べるよな?」

「おいくらですか?」

「銀貨一枚でいいぞ。借金から減らしておいてくれ」

「お金は支払います。それはこれからやる奴で完済してもらいますからね」

「……やっぱり遊びにきたのがメインじゃなかったのか」

「何を言っているんですか? ロリのラフタリアちゃんと遊びに来たに決まってるじゃないですか。もうすぐ成長するはずですし、ここじゃないと遊べません」

「そうなのか?」

 

 不思議そうに聞いてきます。あ、あとコイツロリコンだと思ってますね。正解ですよ、私は自分以上に大きすぎる女の人に子供扱いされたくない。わかる? 今まで大人の男性だったのに、ある日いきなり子供扱いされて頭を撫でられたり、偉いねー、お使い? とか言われることを想像するといい。絶対に嫌だ。それに大人の女性同士の話なんてわからない。子供だったらこの容姿だし、混じっても違和感がないだろうからいいだろう。可愛いは絶対正義だからね。

 

「獣人はすぐに成長するからね。だから、そろそろ一緒に寝るとかは止めた方がいいかもね」

「……だが、金がな……」

「子供ならまだしも、18歳、女子高生ぐらいになる? そんな子とベッドで一緒に寝ているのを想像してみて?」

「……やばいな」

「一緒に寝たいなら奴隷紋を利用して成長の抑制もできるけど……」

「本人に聞いてみるか」

「それがいいよ。それと私はいらないから、他の子に食べさせてあげて」

「食べないと成長しないぞ?」

「私、寝なくてもいいし、食べなくてもいいんだよ。そういう魔法を持ってる」

「へぇ、俺も欲しいな」

「欲しいの? 種族が人間から魔法使いになるけど……」

「種族が魔法使い。それもいいな。教えてくれるか?」

「わかった。報酬に加える。でも、まずはご飯を食べさせてあげて。その間に説明するから」

「よし、お前ら。食事にするぞ!」

 

 尚文おにーさんと皆が食事をしていく。ラフタリアちゃんもクオンと仲良くしてくれている。というか、一緒の所に居たから気付いたんだろう。イドルの所に居た話もしている。

 

「さて、尚文おにーさん以外は聞かなくていいから、食べ終わったら好きに遊んでいいですからね。ただ、合図を空に打ち上げるから、それに合わせて戻ってくるようにお願いします」

「わかりました。クオンちゃん、フィーロに乗って遊びましょう!」

「ん、レースする?」

「クエ!」

「がぁ!」

「ルクスもフィーロもやる気みたい。やろう」

「いいですね」

 

 アチラは大丈夫みたい。シロはなんだか鉱山の方が気になるみたい。ジュカと一緒に行かせればいいか。

 

「それで、頼みたいこととはなんだ?」

「次の波は大丈夫なんですけど、これからの事を考えて、私は私達勇者に与えられた力をフル活用して戦力を揃えようよ思います。それこそこの国を叩き潰せるくらいの戦力を、です」

「そこまでする必要があるってことなんだよな?」

「はい。この国、メルロマルクの国教は三勇教。剣、槍、弓を信仰し、盾は悪魔と呼ばれています。前の勇者が亜人の味方をして戦ったからですね。王様はこの連中と組んでいます。家族を亜人に殺されたという私怨からですね。本当、為政者としては失格です。この点を考えると女王陛下も落第ですね。さっさと始末しておくか、それこそ奴隷にしてしっかりと縛ってから他国に出向けばよかったのですが……」

「なるほど。俺を罠に嵌めて冷遇している理由はわかった。国が敵になる可能があるから、戦力を集めようとしているんだな?」

「そっちはあくまでもついでですね。一番のメインは私達の役目、この世界を波の驚異から護るということです」

「勇者だけでは足りないのか」

「その勇者が使い物になればいいのですが、私の予想では四聖勇者が心の底から互いに信頼し、協力し合って仲間達と力を合わせて一つのことを目指す。そうでなければ、敗北すると思います」

「……相手は波を発生させる、空間を操る存在か」

「はい。つまり、こう言い換えましょう。下手をしたらヨグ=ソトースやアザトースが相手であると」

 

 旧神の中でもとびっきりの連中。ハスターよりももっとやばい奴等。時間や空間を操る存在。この世界に現れたらそれだけで終わる。

 

「絶望的じゃねえか」

「まあ、私もそこまではないとは思います。ただ少なくとも空間を操る存在であることは否定しません。さて、そんな相手に四聖勇者がバラバラの状態で、他の兵士まで弱かったらどうなりますか?」

「……俺達は滅びるな」

「はい。そのために今から被害を減らすための計画に尚文おにーさんも参加して欲しいのです」

「他の勇者には持っていかないのか?」

「槍と弓は論外。剣はまだ矯正が可能ですね。正直残り二人はそれこそ、殺して再召喚した方がましでしょう」

「そこまでか」

「あ……いや、手間暇をかけてかなり鬱陶しいことになるのなら、槍はいけますね。弓は……私には手段を考えられません。正直、そんなことをするなら四聖武器に匹敵、或いは超える武器を作った方が手っ取り早いですね」

「できるのか?」

「尚文おにーさん、私は不思議な世界を旅する旅人、アリスですよ。異世界の技術を使えば不可能ではありません。東方世界の魔法、クトゥルフ神話の魔術、この世界の魔法。それらをもとに劣化品でも量産して皆に持たせればいいと思いませんか?」

「できれば最高だろうな」

「四分の一程度を再現した武器ならあるそうです。それの設計図などは手に入れました。素材に関しても頑張れば手に入ります。だから、私と勇者軍団、作ってみませんか?」

 

 インスタントダンジョンなら、おそらくレプリカや伝説武器を起点にして作ればその素材が手に入るだろう。もし、あのゲームと同じ仕様なら100階で確実に同じ装備を持った奴が待ち構えている。そいつから奪えばいい。まあ、これは持ち帰られたら、という話なんだけな。

 

「俺の地位はどれぐらいだ? もう嵌められるのは御免だ」

「総司令官。私が作る部隊の全てを差し上げます」

「お前! 面倒なことを全部任せるつもりだろ!」

「あはははは、アリス、子供だからわからな~い」

「ふざけんなよ!」

「まあ、冗談は置いておいて、尚文おにーさん。私はイレギュラーなんです。何時他の世界に移動するかわからないんです。全てはハスターとこの魔導書、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)次第なんですよ? そんな人を総司令官に置けますか?」

「無理だな。そう言われたら納得するしかない」

「それにこれは剣や他の勇者には任せられません。何故なら指揮官は最後まで立っていないといけないからです。刻々と変化する状況に適切に対応するために前線で指揮を取りつつとなりますので、防御力がかなり必要です。後ろでぬくぬくなんてできませんよ。オンラインゲームでギルドを率いての大規模戦闘だと思ってくださればいいと思います」

「攻城戦とかだな。了解した。裏切られることは?」

「兵士は全て奴隷とモンスターです。モンスターは私達が卵から育てれば裏切られることはないでしょう」

「だが、それだと文句がでないか?」

「波の解決と共に奴隷から解放……するかどうかは後々考えればいいです。領地や報酬を差し上げることは確定とします。それに奴隷といっても、恋愛の自由や給料はしっかりと支払いますし、家族を作ることも認めます。つまり、私達は波の終息という目的に沿った一つの群れ、いえ、一つの生命を作り上げるのです。文字通りの運命共同体。仲間や家族の為になら死ぬことすら厭わない。そんな手足を作ります」

「それは問題なんじゃないか?」

「問題ですね。でも、勇者が使えなかったらこれぐらいはしないと勝てませんし、被害を押さえるにはこれしかないと思います。被害を気にしないのであれば1000年の安定を約束できますが、たしか7割前後の生命を殺さないといけなかったかと思えます」

「それは無理だな」

「最終手段といった感じですね。私はバッドエンドは嫌いです。ノーマルエンドも嫌いです。ハッピーエンドは大好きです。もちろん、悪人のバッドエンドは大好きですけどね」

 

 言っていることは本当だけど、私は自分のハッピーエンドがいい。だから、私は私が好きな人のためにもできる限り頑張る。

 

「ハッピーエンドね。だが、そんな都合よく行くのか?」

「行くんじゃなくて行かせます。まず奴隷達は基本的に育てますが、振るいにかけて少数精鋭に鍛え上げます。モンスターと時間は有限ですから」

「確かにな。だが、モンスターの数は足りるのか?」

「私の能力はインスタントダンジョン作成。ダンジョンを作り出せます」

「レベル上げは最低でも可能か。なるほど……それならこんな無茶な計画もできるか」

「そして、この能力は……おそらく尚文おにーさんも使えます」

「盾の力は強化方法の共有か。つまり、そのインスタントダンジョンも装備の強化に繋がるんだな」

「アイテムを依代に発動しますので、そのアイテムが強化されるかと。そうですね、装備品その物にレベルを付与すると考えていただければいいかと」

「わかった。どうするか考えさせてくれ」

「はい。とりあえずもう鉱山は行ったんですか?」

「行った。犬の魔物に襲われた」

「わかりました。それなら、これから波が始まるまで奴隷達を率いてインスタントダンジョンに行ってみてくれませんか?」

「お試し期間か」

「そうです。今から王都へとポータルを開きますので、奴隷達を選別して武器を与え、盾を持てるようにしておいてください」

「その言い方だと、アリスはこれから用事があるのか?」

「はい。二人、欲しい人材がいるのですが、今は一人だけ確保しに行こうと思っています。早くしないとあの使えない勇者に取られますからね。あ、待てよ。これは私の仲間にするよりも……駄目ですね。後で考えましょう」

「まあ、なんでもいいが任せる。で、ポータルだったか。転移だな。教えてくれるのか?」

「報酬として用意しておきます。それとステータスの名前の横に星がついたらクラスアップできますので、その時は私が確保した龍刻の砂時計まで案内します。どうせこの国だと妨害が入りますからね」

「クラスアップ……知らなかったな。助かる」

「はい。では皆さんを呼び戻しますか」

「頼む」

 

 空に魔弾を上げて合図を送る。少しすると皆が集まってきた。

 

「これから尚文おにーさん達を王都に送ります。クオンは案内してあげてください」

「わかった」

「では、開きます。ポータルゲート」

 

 黒い渦のゲートを作り出して入ってもらう。一応、私も入ってちゃんと例の場所についたか確認する。

 

「まじで王都か」

「です。では、お願いします」

「ああ、任せろ」

 

 全員送った後、私はクオンを置いて戻ってからルクスでメルロマルク北部へと目指す。一時間ほどで予定通り、到着して弓の勇者が来ていないことを確認していると、枯れた畑で緑色の髪を三つ編みにした14歳前後に見える少女と両親、村人達が項垂れていた。

 

「こんにちは」

「ふえ?」

「も、モンスター?」

「あ、ごめんなさい」

 

 飛び降りて、浮遊魔法を使いながらゆっくりと降りる。私の姿をみてほっとしたようだ。ルクスがちゃんと使役されているからだね。

 

「お、お嬢さんは……?」

「私はアリス。魔導書の勇者をしています。今回、こちらに全部の属性を使える方がいるとのことで伺わせていただきました」

「ゆ、勇者様?」

「き、聞いたことがあったか?」

「まあ、私はイレギュラーですからね。勇者の証拠としてこんなことができます。チェンジ、古代の魔導書」

 

 武器を変えて勇者であることをしっかりと説明し、リーシアさんを世界の為に欲しいと説明する。

 

「申し訳ございませんが、このような状況でして……」

「では、こうしましょう。リーシアさんを私達が身受けし、育てあげます。その代価として今回起きている事件の解決。護衛の貸し出しをします」

「ふ、ふえええ」

「み、身受けですか?」

「こちらをご覧ください」

 

 私はステータスから奴隷の魔導書の項目を見せる。

 

「私達は奴隷への成長補正を持っています。これを使って世界を救える人材を育てあげるところです。そのメンバーに是非とも、リーシアさんを入れたいと思っております。もちろん、奴隷といっても形ばかりのものです」

「断らせて……」

「なっ、なります!」

「リーシア?」

「わ、私なんかが皆や波の役にたつのなら、頑張らせてもらいます! それに私も貴族なんだから、領民の為に頑張らないといけないの」

「リーシア……」

 

 計画通り。彼女は童顔だが、実年齢は17歳。悪徳貴族によって身売りされそうになったところを樹の正義の世直しで助けられ、感銘を受け彼の仲間になるが、いくらレベルを上げても弱かった事とカルミラ島の波で活躍した事で樹とその仲間から冤罪をかけられ解雇される。それで自殺を図って尚文に諭され樹に認めて貰えるほど強くなるため尚文の仲間になった。頭もかなり良く、別の異世界の言語も数日勉強して完全に覚えたほど。さらに魔法以外にも気を留める体質で、正直天才といえる。問題は大器晩成型でレベル70を超えないといけない事。それさえクリアしたら大丈夫。だが、成長補正で低レベルから確実にあげたらどうなるだろうか? 決まっている。逸脱者と呼べるほどの、下手な勇者レベルになるだろう。

 

「あの、アリスちゃんは私が奴隷になれば民達を助けてくれるんですよね?」

「いえ、奴隷にならなくても助けますよ。ただ、その後のアフターケア。護衛などの手配はしません」

「そ、それなら……」

「ただし、こう言いましょう。一度奴隷に身を落としてでも、世界を救うために頑張ってみるつもりはありませんか? 嫌になったら何時でも帰っていただいても構いません。また領地の開発なども手伝って差し上げます。ただ、こちらは皆さんが亜人を受け入れることができることが前提となります」

「いきます!」

「そ、それはちょっと……」

「なあ……」

「リーシアさん、どうですか? 私と契約して世界の味方になってみませんか?」

 

 魔法少女を作るマスコットさんみたいに告げると、リーシアさんは私の奴隷となることを完全に受け入れた。

 

「勝手にでていくから! お願いします、師匠!」

「はい。任せてください。では、少し犯人捜しをしましょう」

 

 まずは畑を探査魔法で調べ、証拠品を確保して隣町まで移動する。そこで領主の方々とお話しして、平和的に解決させていただきました。その後はリーシアの家に戻って、隣町の領主に告白してもらう。

 

「申し訳ございませんでした! かくなる上は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もちろん、損害は弁償させていただきます」

「は、はぁ……」

「わ、わかりました……」

「ふぇぇぇぇっ、師匠すごい……」

 

 隣町の領主に弁償させ、私が確保した町で三勇教や邪魔な連中は今回の件に関わったとして処分する。王都に居る必要なんてないのだし、王都に大量の奴隷を持って育てていると反乱を疑われて面倒なのである程度まで押さえる必要がある。だが、このメルロマルク北部で拠点を作ればどうだろうか? 他の連中が気付く前にこちらの戦力は手を付けられないぐらいまで育っているわけだね。

 

「さて、行きましょうか、リーシアさん」

「はい、師匠」

「娘をよろしくお願いいたします」

「はい。彼女の才能を伸ばして英雄の一人にしてみせます」

「私が英雄……ふえええぇぇぇっ」

 

 ゲートを使って尚文おにーさん達のところに戻ると、参加を決めた奴隷の人達がしっかりと割り当てられて武器を装備していた。

 

「ただいま戻りました」

「ああ、戻ったか。ソイツが欲しかった人材か」

「た、盾の勇者っ! ふぇぇぇぇっ!」

「ああ、大丈夫ですよ。三勇教の言っていることは全て出鱈目ですから。それより、奴隷商さん」

「はいはい、ここに」

「奴隷契約を行ってください。主人は尚文おにーさんです」

「ええええええ」

「私も教えますが、育てるのは尚文おにーさんの方がいいので。研究と装備開発などで忙しいですしね」

「俺なのか?」

「はい。あなたはリーシアさんを襲ったりしないですよね?」

「しない!」

「ということです。大丈夫です、何も問題ありません。そうですね、性的に襲われたり、何か有れば伝えてください。私がお仕置きしますので」

「わ、わかりました」

「ったく、コイツは使えるのか?」

「え? 使えませんよ。大器晩成型なので、後半になるほど強いです」

「そうか」

「ふええええ」

「そうですな。でしたら主人を二人にすればよろしいかと思われます。ここの奴隷達は皆、そのように致しましたので、はい」

「なるほど。それなら解決ですね」

「だな」

 

 涙目で逃げようとするリーシアを説得して奴隷紋を入れて私達二人の奴隷となった。これで次に一番の問題を確認する。

 

「ではインスタントダンジョンですが、前は死にかけましたが、今回はもっと軽い物です。まずは盾からいきましょう。このアイアンシールドから。これを鍛え上げたら、ウェポンコピーしたらいいですからね」

 

 さて、インスタントダンジョンを作成する。皆が驚いているなか、アイアンシールドが光って渦が形成された。

 

「今回、経験値は入りません。まず、私と尚文おにーさんの二人で調査のために入りますからね」

「それがいいな。脱出アイテムはそれぞれが持っていたらいいな」

「はい。何時でも砕けるように最初は歯に挟んでいきましょう」

「それがいいな。他は待ってろ。すぐもどる」

 

 二人で同行者設定してから、渦を通る。

 

 

 

 

 視界が入れ替わり、なんとそこは岩山だった。目の前には嫌になるくらいのアイアンゴーレムがいる。それも盾や剣を装備してだ。数は101体くらいいる。

 

「これ、どうみる?」

「一当てしてやばければ逃げますか」

「それでいこう」

「では、まいります」

 

 口から外していた結晶をまた口に入れてトナカイさん達の全力攻撃を行う。大量の爆撃にゴーレムさん達は粉々になって粉砕されてしまった。

 

「おい」

「初手に全力攻撃したのですが、余裕でしたね」

 

 全滅させたからか、宝箱と脱出用の青いゲート。それに次の階層に進む赤いゲートが現れた。罠を調べて開けてみると、アイアンシールドが入っていた。どうやら、同じランクのアイテムがクリア特典として出るようだ。

 

「ドロップアイテムと素材を回収して持って出れるか試すぞ」

「はい」

 

 アイテムを回収したら、青いゲートで外にでてみる。すると無事に出られた。インスタントダンジョンは消滅し、依代となったアイアンシールドを確認するとレベル10になっていた。流石100階とかはないのか、1/10と書かれている。

 

「次、入ってどこに行くかだな」

「ですね」

 

 確認してみると2階からスタートだった。次に2階を弾幕で滅ぼして宝箱などを回収して脱出アイテムで外に出て、また入ると今度は2階からになっていた。このことから、ゲートを通ればその階層はクリアしたとみなされるみたい。ただ、ゲートを通らないと素材や宝箱は持って出れないことも判明した。

 

「よし、こいつはレベル上げに使えるな」

「ですね」

 

 手に入れた大量のアイテムは持ちだせたのでそれを預ける。

 

「ガァ!」

「欲しいの?」

「ががぁ!」

「いいよ」

 

 ルクスが欲しがったので、アイアンゴーレムの残骸をあげたら美味しそうに食べていく。他にはこの鉱石で武器などを作ってもらうようにお願いしよう。

 

「あ、そうだ。町を手に入れました。そこに移動しましょう。王都だとあまり派手に動けませんから」

「町か」

「はい。リーシアさんの隣の町が悪さをしていたので、ちょっとOHANASHIをして、快く協力して頂くことになりました」

「おまえ、絶対アレを使っただろ」

「駄目ですか?」

「できる限り使うのは止めておけ。依存するぞ」

「っ!? やばいです。結構抵抗なく使っていました。大義名分があるからって、駄目ですよね。気を付けます」

「それがいい」

 

 その後、皆で北部にあるグレーデンの町に移動し、町の外にテントを張って生活することにする。流石に住民を追い出すことはできないからね。ちなみにポータルは制限があるので何回も往復した。

 

「アイアンゴーレムの死骸で壁を作る。だから、アリス。馬車馬のように働け」

「わかりました。そちらはどうします?」

「俺はまずテントや食事などの用意をする。だから、奴隷を鍛えてくれ。そっちの方が効率がいい。アリスの魔力が回復するまでは俺が替わるが、ゴーレム相手だと無理だから肉が取れる兎とかからだな」

「了解です」

 

 私の子達とリーシアさん、それに奴隷の人を40人連れてインスタントダンジョンに入る。もう一つ試さないといけないことがあった。誰か一人でも脱出アイテムを使ったら全員が出れるかどうかだ。そして、倒して素材を回収してから使うと全員が出られた。って、そういえば尚文おにーさんと一緒の時も出られていたじゃないか。うん、これはいける。てなわけで、入っていけるとこまでいってみる。

 

「盾部隊は入ったら即座に展開。次、弓と魔法で攻撃。近づいてきたら盾の隙間から槍で攻撃してください」

 

 基本的に私が滅ぼすけれど、何回か訓練させる。とりあえず10階層までは楽に行けた。10階層のボスはシルバーゴーレムで、取り巻きにアイアンゴーレムがいた。こいつはすこし面倒だ。

 

「ふえええ、師匠~~~」

「安心してください。蹴散らしますから」

 

 ゴーレムは魔法使いにとってはただの鴨でしかない。ミスリルとか反射能力があれば別だけどね。取り敢えず、シルバーゴーレムは弾幕三回で死んだ。宝箱はシルバーシールドだったし、アイアンゴーレムが装備していた装備も含めるとかなりの収入になる。なにせ奴隷達に武器を配布するのも大変だ。

 外に出てから確認するとアイアンシールドはレベル100でかなり強くなっていた。これ以上インスタントダンジョンは作成できなくなっていたので、尚文おにーさんにコピーしてもらってから、奴隷の盾役の人に持たせてあげる。

 

「さあ、皆さん。マラソンの時間です。とりあえずアイアンシールドを10階層10週します。ついてきてください。ついてこれない方はお仕置きです」

「お、お仕置きですか?」

「お仕置き? 鞭?」

「はい。鞭ではありません。腕立て伏せ100回。腹筋100回。外周10週です。さぼったら私が魔弾を撃ちます」

「っ!?」

「返事は?」

「「「はい!」」」

 

 本当は馬車で突撃した方がいいのかも知れないけれど、これも訓練。10周が終わったら、奴隷の皆が地面に倒れた。しかし、そのおかげで一桁から36まで上がった。ルクスとジュカは36なので、もう少しでジュカがジュペッタに進化する。

 

「尚文おにーさん、奴隷さん達は使えるようになってきたから、交代しますね」

「ああ、ご苦労。それで次だが……盾は11個できたんだよな?」

「そうです。そろそろ武器でいいと思います」

「だな。問題は何から強化するかだよな」

「アイアン系なら剣とか槍ですね。弓や杖は木材ですし」

「そっち系統の方が楽に倒せるかもしれないな」

「炎が使えますからね。まあ、あれです。私がレベル上げをしますので、尚文おにーさんは戦い方を教えてあげてください」

「わかった。奴隷商に剣技ができる奴隷がいないか聞いてみるか」

「ああ、それならいい人がいます。城の牢屋に反逆罪で捕まっている凄腕の剣士がいるので、その人をお金を出して買い取ってくるように頼んでおきます」

「奴隷商に伝えてモンスターの卵も貰ってきてくれ。俺達はその間に食料を確保してくる」

「はい、いってらっしゃい」

「行くぞ、ラフタリア、フィーロ!」

「はい!」

「くえー!」

 

 尚文おにーさんが奴隷の人達を連れてインスタントダンジョンを作成し、入っていったので私は奴隷商の人に会いに転移する。そこで、頼み事をしてから卵ガチャごと貰ってかえった。その後はひたすら奴隷の人達のお世話をしていく。

 シロ達もここでなら伸び伸びと過ごしているので、楽しそうにしている。私も魔力回復のために少し寝させてもらった。

 次の日は私の組と尚文おにーさんの組を交換してまだアイアン系を回るのだけど、その前に私のパーティーメンバーとリーシアさんだけでちょっとシルバーシールドに潜ってみる。

 

 

 

 今度は鉱石の洞窟だった。探索魔法を使うと、そこには50体のシルバーゴーレムが動き回っている。

 

「クオンは役立たず」

「ふえええ、わ、わたしも無理ですぅうぅ」

「わかってます。今回は少しずつ私達で殺るので二人は見学です。支援魔法ぐらいはお願いしますね」

「は、はい」

「わかりました」

 

 進んでいくと、採掘ポイントがあった。採掘の魔導書に変えて掘り出してみる。目利きはもっていないから、後で鑑定してもらおう。

 

「綺麗ですね」

「欲しければあげますよ」

「これだけもらっても……」

「んぐ」

「「「あ」」」

 

 ルクスがぱくりといってしまた。まあ、いいか。そのまま進んで一体だけいるシルバーゴーレムを襲うことにする。まずはルクスに乗って突撃し、ルクスがシルバーゴーレムの盾と槍をメタルクローで取り押さえているところで、頭に魔弾を炸裂させて吹き飛ばす。すると、身体を残して機能停止した。

 

「シルバースピア、使いますか?」

「使う」

「ではどうぞ」

「ありがとう」

 

 シルバースピアを楽しそうに振っているクオン。次に身体をどうするかだけど、ルクスがまたもやパクパクと食べていった。そこまでお腹が空いているのだろうか? あ、進化前のせいかも? まあ、どっちでもいいか。まずはジュカをあげることが先だ。

 支援をもらいながら、しっかりと狩っていく。途中でレベルが上がってジュカがジュペッタに進化して、1.1メートルになったので、思いっきり抱きしめてスリスリしたら、なんだか生温かい目で見られた。

 

 

 そんなことがあって最下層。大量の装備と銀をトランクケースに入れてほぼいっぱいになった。最後のボスはゴールデンゴーレム。何故か盾を持ってガトリング砲を装備していた。放たれるのは金の弾丸。命中した物を金に変えるというとんでも能力。

 金のトナカイさんがいっぱいできた。爆撃した瞬間にルクスが接近して顔面を殴打。シロが足に巻き付いてガトリングを持つ手に噛みつく。ジュカが差し押さえをしたのか、装備が使えなくなったみたいで、私も含めてその間に全員で攻撃する。まず厄介なガトリングから貰う。ガトリングを持つ腕に触れながら、魔弾の弾幕を発動して全弾を叩き込んで破壊する。

 

「マッ!」

 

 ゴールデンゴーレムが口を開けて光線を放ってくる。狙いは私とルクスで、これはまずいと思ったら──

 

「させない」

 

 ──放たれる前にクオンが突撃して、口にシルバースピアを突っ込んでくれた。光の爆発が起きてゴールデンスピアになってしまった。

 

「ルクス、槍を思いっきり殴って貫通させてください! リーシアさんはルクスに強化魔法!」

「はい! 力の根源たる私が命じます。ツヴァイト・パワー!」

「がぁぁぁぁっ!」

 

 柄を殴りつけて槍を叩き込む。それでも倒れずに拳を振り上げてくる。ジュカが狙われ、私は自分の身を投げ出してジュカを押し出す。吹き飛ばされてシロの身体に激突し、ジュカが切れて呪いを発動する。ルクスは一旦離れると、光を纏って凄まじい速度で接近して激突し、ゴールデンゴーレムを吹き飛ばした。シロは口からブレスを吐き出し、ゴールデンゴーレムを石に変えていく。待って、それは止めてほしい。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「ご主人様、生きてる?」

「平気ですよ、再生しますし」

 

 あばらが粉々になって、結構体内に突き刺さったけれど、急激に再生して元に戻る。これから攻撃しようとしたら、ルクスの手が光り輝いて、帯電させた手が高速で放たれゴールデンゴーレムの身体を貫いた。コメットパンチを覚えたようだ。

 ゴールデンゴーレムはそれでも最後の足掻きか、身体を光らせる。嫌な予感がする。けど、その前にルクスがゴールデンゴーレムの胸を開いて光っている核を食べていく。その光はメタングの全身に移り、メタグロスに進化した。

 

「やったー! これで進化した!」

「お、おめでとうございます? こんな姿がかわるモンスターがいるんでしょうか?」

「目の前にいる」

「そう、ですね」

 

 やっぱり、成長補正が最高すぎる。テンションが上がってルクスに抱きついてスリスリする。他の子達も撫でろ、可愛がれとやってくるので皆を撫でまくる。

 

「あの、宝箱が……」

「?」

「確認してみますね」

 

 テンションを下げて罠魔法で罠の有無を確認して開ける。中身は種だった。なにかわからないので、とりあえず鑑定がてら魔導書に突っ込んみる。系統樹の魔導書。装備ボーナスは進化の奇跡を習得。進化の奇跡はよくわからないが、系統樹というのはおそらく生命の設計図のこと。つまり、生命に対してなんらかの影響を与えるのだろう。私は生命かどうか怪しいし、ルクス、ジュカ、シロ、クオンに使ってみよう。リーシアさんはちょっとわからない。そう思ったけど、これ自動発動だったようですでに発動している。あんまり変わってない気がするけど、どうなんだろう? 

 とりあえず、ゴールデンゴーレムの素材と武器を回収して魔導書に入れてみる。ゴールデンゴーレムの素材でなんと錬金術の魔導書が手に入った。もちろん、装備ボーナスは錬金術。やったね。

 

 

 

 

 





 あの種は03なので出しました。系統樹。進化の奇跡。効果は多分、予想できると思われますが、擬人化のためのもの。擬人化はもう少しお待ちください。ちなみにこの世界は一旦、二の波で戻されます。

描写はしていませんが、フィーロは順調に大きくなっています。


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第一の波

 

 

 

 

 波まで残り一日。準備は最高ではないけれど、ある程度は整った。まず、私達の奴隷の中で波に参加してくれる奴隷が68人。亜人が56人で、普通の人が12人。戦闘に参加してくれない奴隷が32人。この32人の中には10歳以下の小さな子供や老人なども含まれている。それ以外は、実力が足りなかったり、薬などを用意する後方支援要員だったり。

 戦闘に連れていける奴隷の68人はシルバーゴーレムから手に入れた装備を使い、盾役と槍役、弓と魔法などの遠距離攻撃部隊としてわけている。荷馬車や場所で治療薬や予備の武器も持っていくので、たぶん大丈夫だろう。

 

「アリス、今いいか?」

「構いませんよ」

 

 野外で丸まったシロに背中を預け、クオンに膝枕をして頭を撫でてながら考えていると尚文おにーさんがやってきた。

 

「波の場所ってわかるか?」

「基本的に一定範囲内をランダムですよ」

「でも、アリスなら知ってるよな? この世界に詳しいみたいだし」

「……あくまでも予想ですが、それでもいいですか?」

「ああ、それでいい」

「では、リユート村です」

「炭鉱がある場所か……」

 

 考え込むようにしてから、尚文おにーさんは地図を広げていく。

 

「召喚場所は少し遠いですから、すぐに駆けつけるのは無理でしょう」

「なら、一部の部隊を連れていく設定から外して先に派遣しておくのはできるか?」

「それなら、確かにできます。でも、その場合……もし場所が違ったら大変ですよ」

「ああ、それでもやる価値はある。そうだな、例えばだがアリスの転移で今から移動し、波の前に避難所を作っておくのはどうだろう? 俺達にはゴーレムの死体が大量にある」

「……可能、ですね」

「ならやるぞ。少しでも被害が押さえられる方がいい」

「わかりました。クオン、起きてください」

「ん~」

 

 起きたクオンは寝ている間に少し成長していて、私の身長を越えた。140センチくらいに成長していた。私より結構伸びてしまった。いや、まだ希望はある。せめて140。それが無理でも130……120は欲しい。110って五歳くらいだし、うん。

 

「尻尾と耳は再生したのか」

「うん。モフモフですよ!」

 

 先端が黒色になっている銀色の尻尾をモフモフする。顔を埋めたり、頬擦りしていくと、クオンが顔を真っ赤にして喘ぎだす。

 

「んっ、んんっ!? あっ、激しっ、んんっ!」

「止めてやれ」

「この魅力には勝てないです」

 

 モフモフを堪能したら、ブラシでしっかりと毛繕いをしていく。浄化と回復の魔法をかけ続けて銀色に光る綺麗な髪の毛と尻尾、耳を実現した。ちなみにそれ以外は普通の女の子と変わらない。微かに膨らんでいる胸以外は美少年と見えなくはないけれど、髪の毛を伸ばしているのでやっぱり美少女だ。

 

「まあ、準備だけしてくれ。リュート村を守るために少しでもいい物を作っておきたい」

「了解しました。どうせ今日はダンジョンに入りませんしね」

「ああ、明日が本番だからな」

 

 今日は上がったレベルで上昇した運動能力に馴らす調整をするだけで、基本的には休息日の予定だった。でも、追加でお仕事が入ってしまった。

 

「では行きましょうか」

「悪いが頼む」

「はい」

 

 頼まれたので、トランクケースにゴーレムの残骸を詰め込んで……って、一つ思った。ゴーレムって人形、伝説は色々とあるけど……操り人形なんだよね。これって、私が操れるのではないだろうか? 

 

「尚文おにーさん、少しダンジョンに行ってきます。もしかしたら、とってもいいことができます」

「わかった。ただ、俺達は先に送ってくれ」

「了解です」

 

 ある程度の人数を送って、ゴーレムの残骸を渡した後、ゴールデンゴーレムの剣を使ってダンジョンを作成する。

 今回のフィールドは遺跡だった。その中には沢山のゴールデンゴーレムたちが存在している。そいつらに魔法の糸を伸ばして操作できるか試してみる。居た一体に糸を伸ばす。弾かれた。

 

「ルクス、押さえて」

 

 ルクスが突撃して、四つ足で相手の手足を封じる。背後からの奇襲で押し倒し、頭部に魔法の糸を放って接続する。今度は上手くいった。彼等の命令は侵入者の撃退とされていたので、それを消して私の指揮下に入るようにする。

 

「これは、結構使えますね」

 

 経験値は入らないけれど、とても便利だ。ただ、ゴールデンゴーレムじゃ弱いかもしれない。もっと強いゴーレムが欲しい。そんなわけで、ゴーレムを捕獲して、それを戦力にしながらどんどん進んでいく。人形であるなら操ってみせるのがアリスなのだし。

 ゴールデンゴーレムの次はミスリルゴーレム、アダマンタイトゴーレム、オリハルコンゴーレムを確保。また基本的にこれらは遺跡か鉱山にいるので、そこで素材や武器などが確保できた。

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

「遅かったな」

 

 戻ったのはリュート村です。そこではすでに町の外に奴隷さん達、私達の部隊が穴を掘って土で壁を作っていました。その壁にゴーレムの装甲を取り付けています。

 

「尚文おにーさん、これを見てください」

「なんだ?」

 

 私はモンスターハウスの魔導書からゴーレム達を呼び出して整列させる。

 

「こいつはテイムしたのか?」

「はい。私はアリス。人形のスペシャリストです。ゴーレムだって操れるようです」

「命令はどうなっている?」

「書き換えてありますので、私達の指示には従います」

「ゴーレム兵は重機としても使える。これなら作業も捗るな」

「はい。避難所はどうですか?」

「地下に作る予定だ。俺達に従ってくれるかは微妙だけどな」

「いざという時は従うでしょう」

「そうだな」

 

 ゴーレムを分けて一部は堀を作らせ、一部は町の中心部に大きな穴を掘って足場を組み、魔法で固めていく。そこにゴーレムの装甲を貼り付けて溶かして溶接し、全員が隠れられるようにしておく。時間がないので突貫工事になるけれど、皆が避難できる場所はできた。

 

「勇者様方、本当にここに波が来るのですか?」

「その可能性が高いってだけだ。それに今回は来ないかも知れないが、次に来た時や盗賊に襲われた時にあれば便利だろう」

「は、はい。確かにおっしゃる通りです」

「まあ、いざという時に避難してくれればいいです」

「わかりました。それとせめて食事くらいはご用意させていただきます」

「お願いします」

「ラフタリア達、沢山食べるからな」

「尚文おにーさんはその前に鎧を買いにいかないと駄目ですね」

「鎧か……やっぱりいるよな」

「もちろんです。そんなわけでラフタリアさんとフィーロと共に王都に送りますね」

「わかった」

 

 ラフタリア達が手伝いをしているので、そちらに移動してから王都に送っておいた。私も服屋さんによってクオンの服をもらってから戻る。クオンがいなかったので、今度連れてくるように頼まれてしまった。まあ、一着じゃ足りないし他にも肌着とか買わないといけない。どちらにせよ、これで尚文おにーさんは原作通りの鎧を着てくれるだろう。いや、時間的にやばいかもしれないけど、まあいいや。

 

「村長さん、護衛としてゴーレムを配置させておきます。基本の命令は町の中で攻撃する人を敵として認識するようにしていますので、くれぐれも攻撃しないようにお願いします。指揮権は村長さんにも渡しておくので、護衛としてもお使いください。それと波の開始前にはできるだけ避難を完了させておいてくださいね」

「はい、もちろんです。あの、このゴーレムは頂けるのでしょうか?」

「購入になりますので、代金は頂くことになります。それは終わってから相談しましょう」

「ありがとうございます」

 

 他にも色々と注意事項を伝えていると、若い人達がこちらにやってきた。

 

「あの、俺達も戦いたいです!」

「波に参加するのですか?」

「「「はい!」」」

「それなら戦闘の参加は次回からにしてください。邪魔になりますので」

「そんなことは……」

「なります。戦闘は連携を組む訓練や武器をしっかりと扱う特訓がいります。やっていないですよね?」

「それは……でも……」

「はい。皆様の思いはとても理解できます。自分達の村を自分達で守りたい。ですから、戦闘は参加してもらうことはできませんが、それ以外に協力してください」

「それ以外?」

「私達は所詮、余所者です。ここのことを詳しく知りません。ですから、波の間、逃げ遅れた人を探す案内役をお願いします。護衛はつきますが、これも大事なことです」

「わかった」

「よろしいのですか?」

「警戒すべきは空の敵ぐらいですね」

「ゴーレムなら、投石をなされたらよろしいのでは?」

「投げる物がありませんからね」

「でしたら、丸太などどうでしょう。火をつければかなりの威力になりそうだと思うのですが……」

「それで行きましょう。ただ、火は止めますが」

「そうですな」

 

 こちらの準備はおおむね完成。空の対策はまだまだ不安だ。

 

「ご主人様」

 

 向こうの方から私目掛けてクオンが走ってきた。クオンの耳の間にはジュカがいて、遠くの方からシロがこちらを見詰めている。ルクスも空から私の後ろにやってきていた。

 

「皆、どうしたの?」

「ちゃんと、できるか……心配……」

「大丈夫だよ」

 

 不安なようなので抱きしめてあげる。身長の関係で胸に顔を埋めることになるけど、気にしてはいけない。決して柔らかくて少し硬いなんて思ってはいない。ぷにぷになだけだ。

 

「ご主人様?」

「なんでもないよ。それより、波のことだね」

「本当に強くなってるのか、わからない」

「クオンは本格的に戦ってないしね。シロもか。でも、レベルは上がったし、私の力で随分と強さは成長しています。ただ、これからしっかりと戦う技術と鍛錬をしないといけませんが、次の波なら今のクオン達でも十分に対抗できるはずです。それにクオン達が戦えなくても、私達がいますから、自分のできることを精一杯にやってください。ただ、軽い怪我はいいですが、大怪我は駄目ですからね」

「ん、わかった。気をつける」

「シロもあんまり頑張りすぎないようにね」

「シャー!」

「ジュカはクオンを、ルクスはシロの護衛をお願いします。私は上空の敵を対処しますから」

「ガァ」

「ジュペ!」

 

 返事はしてくれたけれど、やっぱりまだ不安そう。それなら軽く訓練をしてあげるか。

 

「では、少し私と遊んでみましょう。今までのクオンならできなかった遊びです」

「?」

「でてきて、ゴーレム」

 

 出したのはシルバーゴーレム。それを操り、武器を構えさせる。

 

「このシルバーゴーレムと一対一で戦ってください。ゴーレムの弱点は頭部です。そこに頭脳、制御術式が収納されています。では、行きますよ」

「わかった」

 

 ゴーレムの剣を振り下ろす。大剣のような物なので、それだけでクオンに当たれば終わりだ。クオンは余裕をもって回避し、攻撃を行う。でも、装甲によって簡単に弾かれる。クオンの勝ち筋は攻撃を回避して頭部に攻撃をするしかない。もちろん、私がフルコントロールしているので、盾で防いだり、剣で土を巻き上げて攻撃したりする。突破したとしても、わざと倒れるようにして身体を回転させて振り落とし、そのまま押し潰す。クオンが逃げると腕の力だけで飛び上がって立ち上がる。

 

「……シルバーゴーレムの動きじゃない!」

「前のクオンならあっさり負けていましたよ」

「むぅ」

 

 剣を振れば野生の勘なのか、こちらの攻撃をアクロバティックな動きで回避していく。ゴーレムはどうしても大振りな動きになり、素早い動きにろくに対応できない。だから、容易く懐に入られて切られる。でも、ダメージはない。次第に体力が無くなってクオンがばて出した。

 

「はい、ここまでですね。明日は今の動きで試してみてください。そうしたらクオンの実力がわかりますから」

「むぅ」

「ここまで戦えたのですから、大丈夫です。そんなに心配なら、今日は一緒に寝ましょうか」

「? いつも一緒に寝てる」

「成長したから、別に一緒に寝なくてもいいかな、と」

「嫌。一緒がいい。一人は怖い」

「わかりました」

 

 イルドに飼われていた時のことを思いだすのかもしれない。本当はそろそろ寝る時は別の方がいいのかもしれないけれど、まあ、傍から見たら子供だし大丈夫大丈夫。

 

 

 

 

 

 波の時間がやってきた。もうまもなく転送される。

 

「これより、波での初めての戦いになりますが、各自、しっかりと役割を実行するように。目標は被害ゼロです。ましてや貴女達が殺されるのは許可できません。必ず生きて帰るように!」

「「「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」」」

 

 雄叫びが上がり、少しすると転移した。私達は崖の上にでて、周りを見渡せば予定通りのリュート村。隣にはクオンが不安そうに私の服の裾を握ってくる。その先に尚文おにーさんや他の勇者達がいて、こちらを見て驚いている。なにせ連れてきたのは50人の奴隷で、そのほとんどが亜人だ。全員がほぼ40になっていて、クラスアップが可能になっている。

 

「なっ、なんなのよコイツラ!」

「これはどういうことだ?」

「ふむ」

 

 私は魔導書からルクスを呼び出してクオンと一緒に飛び乗る。

 

「第一から第三部隊は、まずリュート村の部隊と合流して安全を確保する! 付いて来い! 残りはアリスと共に迎撃だ!」

「「「はっ!」」」

 

 30人の人達が一斉にリュート村を目指す。残った20人の人達は弓や魔法使いだ。せっかく高台にいるのだから使わせてもらう。

 

「空中にいる敵を優先して攻撃してください」

「あ、アンタ達、シルトヴェルトの連中を引き込んだの!」

「あれ、まだ生きていたんですか。さっさと死んでくれた方が世界の為なんですが……」

「なんですって!」

「落ち着け。それよりも、彼等はなんなんだ?」

「見てわかりませんか? 私達に協力して世界の為に伝説の武器も持たずに命懸けで戦ってくれる勇者さん達です」

「勇者はボク達でしょう」

「えっと、勇者の意味ってわかっていますか? 国語の勉強、ちゃんとしましたか?」

「わかってますよ!」

「いや、だからなんであいつらを連れてきたんだ?」

「それは簡単ですよ。一重に戦力が足りないからです。むしろ、国の援助を受けているそちらが何故、兵士の人達を連れてきていないのですか? この時点で伝説の武器があったとしても貴方達にこの国の勇者を名乗る資格はありませんよ」

「なんだと?」

「どういうことだよ!」

「いや、勇者が被害を出したら駄目でしょう。少なくとも波の近郊を制圧し、残敵を掃討するのは当然なので人手がいます。近くに村があればそれを守ることも役目のうちです。なにせ援助を受けているのですから」

「まて、それは兵士の仕事だろう」

「そうですね」

「ああ、その通りだ」

「あなたの言っていることは間違っていますわ」

「いえ、ですからその兵士はどこですか? なんで連れてきていないんですか? 一緒に転送させれば、チャリオットに乗せた攻城兵器まで持ち込めるんですよ?」

「そんな被害がでるはず……」

「ゲームだと思っているのなら、設定されていることは最低限、読みましょうよ。町の襲撃イベントなんて定番中の定番ですよ? 村が襲われて被害がでたらそれだけで税収は下がりますし、後々辛くなってくるのは私達ですよ? もしかして、ゲーム初心者のにわかな方々でしたか。それならごめんなさい。懇切丁寧に教えてあげますから、クリアランクSを目指しましょう」

 

 思いっきり煽ってあげたら怒り心頭だ。ちなみにこの間にもこちらの手勢は防御陣地を構築し、攻撃を開始している。ゴーレムの腕力を使った遠距離攻撃。ルクスが飛行して突撃していっている。

 

「ランクSだと?」

「住民の被害0、町への被害も0、侵入される前に敵を討ち滅ぼします。一人でも犠牲を出したらその時点でリセット案件ですよ。そして、この世界でリセットはできません。あんまり調子に乗ってると、殺されますよ。私達勇者にはいくらでも代わりがいるということをお忘れなく。すくなくとも、私は世界の為にならない勇者なら、殺してでも次の勇者にしてしまおうとする人を知っています。その内の一人は貴方達ではまず勝てません。何せ千年は生きていますからね」

「その通り。フィトリアは貴方達を滅ぼすことは容易」

「てっ、天使さまああああああああああああぁぁっ!」

 

 空から翼を広げて降って来たのは世界のフィロリアルを統括する女王。遥か昔に四聖勇者が育てた伝説のフィロリアル。無茶苦茶強い存在だ。

 

「あなたからは邪悪な気配がする。だから、フィトリアは調べにきた。貴方は何者?」

「私はアリス。不思議な世界を旅する旅人です。今回は、勇者として召喚されました」

「嘘」

「嘘じゃありません。魔導書が伝説武器です」

「違う。フィトリアにはわかる。それは盾の勇者のコピー品……もっとえげつないもの。世界に災いを齎す物だと、フィトリアは思う」

「それは貴女だけの判断ですね。私はどちらかといえば貴女側ですよ。この世界で修行するように言われました。修行するのに世界が滅んでは困ります。ですから、この世界を救済しますよ。例え、それで例のシステムが使われたとしても」

「……わかった。でも、世界のためにならないと判断したら、殺す。そこの勇者達も同じ。四聖勇者は仲良くしないと世界が滅びる。猶予はすくない。貴方達が勇者というのなら、世界中の波に参加するように」

 

 言うだけ言って、崖から飛び降りて霧に包まれて消えていった。さて、めんどくさくなった。邪悪な気配と言われてしまえば納得できることが多々ある。

 

「やっぱり、盾と貴女は邪悪な存在なのよ! 勇者様、今こそ討ち滅ぼしてくださいませ!」

「いや、無理だろ」

「ですね」

「……これは、やばい気がする」

 

 私の後ろには20人の我が兵や、大量のゴーレム達。そして、シロとクオン、ジュカ達がフィトリアと戦う準備をしていた。

 

「邪悪な存在って、まあ、魔導書の勇者なんですから、邪悪ですよ」

「認めましたわね!」

「はい。魔導書の魔とは魔法です。魔法は世界によって違いはあれど、世界の法則を書き換えて、自らの思いを実現するものです」

「確かに世界側からしたら邪悪と言われるのもわかるな」

「あと、彼女はフィロリアルです。フィロリアルはグリフォンやドラゴン等、他の騎乗可能生物と仲が悪いです。だから、その関係で邪悪と言ったのかもしれません」

 

 まあ、十中八九、クトゥルフ神話の魔導書や私のGrimoire of Alice(アリスの魔導書)でしょうけどね。

 

「まあ、どちらせよ、協力しなければ殺されます」

「そんなに強いのですか?」

「100人単位のカンストプレイヤーと戦うレイドボス、それと一対一で戦うといえばわかりますか?」

「わかりません」

「わかる」

「うわ~まじかよ」

「弓の勇者にはわかりませんか。まあ、ラスボスに近い戦闘能力を持っていると考えてください。私達が倒すのはラスボスですけどね」

 

 さて、そろそろいいかな。尚文おにーさんからの合図がでたし、村人の無事は確保できた。

 

「クオン達は狩りに行ってください。私の護衛はシロだけで充分です。全軍、攻撃を開始してください。森の被害はひとまず気にしなくていいですが、火だけは使わないように」

「行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

「亜人ごときに後れをとってはいけませんわ!」

 

 クオン達が森に入っていたのを見て、ビッチが叫んでどんどん向かっていく。私はこの場から動かずに弾幕を展開して空の敵に放ち続ける。しかし、ゴーレムと私兵の導入で楽になるかと思ったら、物凄い数がでてきてる。村の上にも直接出られてるから、面倒だ。幸い、既に一般人は避難所、シェルターに入ってくれているから気にせず撃てるけど、これはまずい。

 ルクスが飛び回って敵を連れてきてくれるので、こちらは弾幕を展開するだけでいい。ルクスに命中しないように気をつける。ルクスは気にせず突撃してきて、私達の上空を通過する。

 

「シロ、やっちゃえ!」

「シャァアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!」

 

 石化のブレスが放たれ、コウモリのモンスター達は身体が固まって落ちていく。鳥系の魔物はすぐに私が弾幕を展開して撃ち落とす。そして、シロがチャージしてルクスが集めてくる。これを繰り返していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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30話

 

 

 クオン

 

 

 

 

 ご主人様に言われてシルバースピアを持って、ジュカと一緒にボスを目指す。木々の隙間を縫うように進んでいると、左右から襲ってくる。それを速度をできるだけ落とさずに槍をしならせるように振るって切断する。反動で身体を回転させて、近くの木を蹴って速度を戻す。もう一体はジュカが腕から伸ばした黒い爪で切断してくれたから大丈夫。

 私の背後には亜人や獣人の人達が続いてくる。あの市場で一緒に居た人達がほとんどで、私のことを恨んでいる人もいると思う。でも、今の私達にはやらなければいけないことがある。私達は協力して皆の為に波を終わらせて世界を救う。それが何よりも最優先されることだから、恨みつらみはおいておくことにしている。

 

「見つけた」

 

 臭いを嗅ぎながら走っていると、ここを抜けた先にいるボスをみつけた。相手は獅子の頭と山羊の頭、竜の頭を持ち、尻尾に双頭の蛇をつけている。

 

「援護する」

「お願い」

「「「神よ、我等が願いを叶えたまえ。ツヴァイト・パワー」」」

 

 ツヴァイト・パワーの次はスピードもかけてもらう。これで更に加速して突撃する。でも、前からの攻撃には対応されてしまう。だから、槍を地面にさして反動で上に飛びながら、相手の上を取る。腰に留めたベルトからナイフを取り出して投擲して、蛇の頭を串刺しにする。そのまま背中に降りる時に首の付け根に槍を突き刺す。

 

「GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 竜の頭がこちらに向いてくる。ブレスが放たれるので、即座に槍を手放して逃げる。ジュカが黒い球体を口に叩き込んで爆発させる。飛び降りていたおかげで、爆風で転がって軽い切り傷だけですんだ。起き上がって口元を拭うと、少し血がでている。でも、この程度は気にしない。残りは獅子の頭と蛇だけ。

 

「そこまでですわ! 亜人共は下がっていなさい! 勇者様が──」

 

 後ろを見ると、女や他の連中がやってきていた。でも、関係ない。突撃していく。

 

「ん、ちょうだい」

「どうぞ」

 

 魔法を付与されて投擲された無数の槍が相手を串刺しにしていく。彼等の背中にはいっぱいの槍がある。獅子が前足で弾く。その内の一本を取って突撃する。振るわれる前足に身体を滑り込ませて槍の反対側を地面について固定して振るわれた腕に合わせる。相手の力も合わさって串刺しになった。

 

「何をしていますの! さっさと攻撃してくださいませ!」

「だが、あの子が接近していて、手を出せない」

「だな。これはマナー違反だ」

「先に取られましたしね」

 

 仲間から支援魔法をもらい、抜け出して下がる。今度は蛇から毒のブレスが吐かれた。

 

「もう良いか?」

「ん、ここまで。やっちゃって」

「心得た。うおぉおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」

 

 仲間の一部が服を吹き飛ばしながら巨大化する。熊の獣人の人が持つのは巨大な槍。それから、皆で囲んで串刺しにしていく。そうしていると、後ろから火の魔法が飛んできた。ジュカが黒い玉で迎撃して爆発する。

 

「何をするんですか!」

「ふん。私はアイツに攻撃しただけですわ。亜人共が邪魔をするのが……ぎゃああぁああああああああああああぁぁぁぁっ!」

 

 視線をやると、女の顔の半分が黒くなって変な文様が浮かんでいる。更に腕や足まで黒くなって動かなくなったみたいで倒れこんだ。

 

「じゅぺぺ」

 

 ジュカが楽しそうに笑っている。怖い。多分、呪いをかけてから祟り目をしたのだと思う。

 

「何をしている。無視してこいつを倒すぞ」

「ん、了解」

 

 皆で囲んで確実に串刺しにする。事前の準備で毒のブレスを吐く事もわかっていたから、それの対策もしてある。

 

「お前、女の子の顔になんてことしやがる!」

「じゅぺ」

 

 手足や尻尾を槍で串刺しにして地面に固定し、頭も動かないようにする。それから、私は串刺しにする。

 

「じゅぺ」

 

 ジュカがご苦労様といった感じで鳴いてから私の上に乗ってくる。槍の勇者様は私達に槍を向けてくる。

 

「攻撃されたから反撃しただけ。この子は私の護衛。仕事を果たしただけで何も悪くない。むしろ、なんでソイツがまだ生きてるのかわからないって、言ってる」

「言葉がわかるのか?」

「なんとなく」

 

 そんな話をしていると、そらが真っ赤に染まった。不思議に思うと、町の中に火の魔法が放たれていっている。

 

「私は行く。それを持ってきて」

「わかった。気をつけろ」

「ん」

 

 すぐに町の方に走りだす。ご主人様達の無事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 上から映像を録画していると、騎士団の人達が味方ごと村を攻撃している。すでにモンスターが討伐し終わっていて、攻撃する必要もないのに執拗に攻撃している。

 

「ああ、なんて愚かなのでしょうか。シロもそう思いますよね? フィトリアさんはどう思いますか?」

「……気付いていたの……?」

 

 声をかけると後ろから滲み出るように霧と馬車が現れ、そこから出てくるのは先程帰ったと思ったフィロリアルの女王、フィトリア。銀色の髪の毛を持つショートヘアの小さな女の子。まあ、私よりは大きいけどね! 

 

「貴女は私や四聖勇者の監視をする。この場で姿を消しても、どこかで見ていると思っていましたよ」

「そう。それで貴女はどうするつもりなの?」

「波に参加しますよ。沢山。だから、貴女には場所を案内して欲しいです」

「……わかった。他の勇者達はどうするの? 勇者は仲良くしないといけないのに……」

「はい、その通りです。ですから、その勇者の一人を味方に引き込むためにお願いがあります」

「何? 勇者達が仲良くするのなら、少しは聞いてあげる」

「フィロリアルのアリア種が欲しいです。できれば卵。まあ、あなた自身でもいいですが……」

「なっ、何をさせる気?」

「槍の勇者がフィロリアルの人間形態が好きなんですよね。ですから、こちらの陣営に率いれるためにアリア種が欲しいんですよ」

「な、なるほど……」

「だから、こんなふうにして抱き着いて上目遣いでお願いしたらいちころです」

「きゃっ!? な、なにするっ」

 

 抱き着いてスリスリし、頭を撫でていく。

 

「や、やめてっ」

「これも世界の為ですよ?」

「絶対に嘘! これは貴女がしたいだけ!」

「正解です。私はフィトリアが好きですから」

「うっ、うぅぅ~~」

「で、どうですか? 用意できますか? できれば金髪で青い瞳、白い翼がいいのですが……」

「……ある。でも、本当に大事にしてくれるか、わからないと渡せない」

「わかりました。その辺は調整しましょう」

「お願い。勇者の仲違いは最悪の結果を生む」

「弓の勇者だけ再召喚というのは……」

「できない。やるなら四つ全部」

「なるほど……やっかいですね」

 

 フィトリアの協力は取り付けられた。彼を説得するには……まず、やらかしてもらう。必要な犠牲ということで可哀想ですが、犠牲になった方は諦める。クーデターに参加したはずだから、その後の状態を確認してから彼を連れていって、自分がやったことを直視させる。影の人達も協力してもらって……映像を記憶させていけばいい。それが無理なら……心を壊してしまおう。おそらく勇者は奴隷紋が効かないのかもしれない。でも、それはあくまでもこちらの世界の理。異世界の理を利用して、クトゥルフ神話の魔術で心を壊して作り変える。こんなこと、したくないけど一人の命と数百を超える命ではどちらが重いかなどわかりきっている。私が対象だったら抵抗するけど、私と私の大切な人達の命がかかっているのだから、赤の他人、嫌いな奴の命で助かるのなら、躊躇も後悔もするけれど構わない。

 

「邪悪な気配がする」

「うん。強制的に四聖勇者を仲良くさせようと思ってるだけですよ」

「そう、それならいいか。世界の為になら、個より全を優先するのが当然」

「ですよね。っと、それじゃあ私は鎮火しにいってきます」

「行ってらっしゃい。貴方にも監視の為にフィロリアルを一体、渡すわ」

「私、ドラゴンも育てますよ? 竜帝の知識が欲しいですし」

「……ドラゴンは駄目」

「あれ、世界の為なら個よりも全を優先するんですよね? 世界の為にこの世界の全戦力を集めるのは当然じゃないですか」

「…………わかった…………嫌だけど、本当に嫌だけど我慢する…………」

「よろしくお願いいたします。ルクスっ!」

 

 呼ぶとこちらにやってくる。私はルクスに飛び乗って町の上空まで移動し、水の弾幕を展開して爆発させる。それによって雨のようになって火が鎮火していく。尚文おにーさんも無事で、ラフタリアさんと一緒に騎士の人達と睨み合っている。一触即発の感じだ。そこに私が思いっきり水をぶっかけたことになる。どうしようか考えながら、ふとフィトリアの方に視線をやると、そこでシロと何かを話していた。

 

「アリス、降りてこい!」

 

 降りてこいと言われたから、浮遊魔法で光の魔弾を展開して降りてくる。背後に虹を背負って。太陽の光と合わさって後光がさしていることでしょう。

 

「さて、兵士の皆さん。貴方達の愚かな蛮行は全て録画してあります。これを世界中に公開させていただきます。おめでとうございます。皆さんも世界の敵になりました。これからまともな人生が送れるとは思わないことです」

「そんなっ」

「俺達は悪くない!」

「そうだそうだ! 盾の悪魔を攻撃して何が悪い!」

「三勇教ではそうでしょうね。ですが、この国の外は四聖教です。たかだか、マイナーの国の宗教に神が殺されかけたとなると、この国の運命は決まりでしょう。おめでとうございます。貴方達はこの国の終わりの引き金を引きました」

「やめてやれ」

 

 泣き崩れた人達や顔を青くしている人達。怒り心頭な人達。そんな彼等を見ていい気味だと思う。だって、味方のはずの私の仲間達を攻撃したんだ。私だって、まさか終わってるのに攻撃するなんて思わなかった。

 

「それで、尚文おにーさんの用はなんですか?」

「この町の再建をさせるから、ゴーレムを貸してくれ」

「わかりました。それでこの人達をどうするかですね」

 

 録画した映像はしっかりと保存と複製をしておきます。むしろ、これは勇者さん達の説得に使えますからね。

 

「ふえ、あんまり酷いことは……」

「わかっている。とりあえず、コイツラはこのまま復興支援を手伝わせる。壊した物を直すのは当たり前だよな?」

「もちろん、サボりは許しません」

「ききき、貴様等、こんなことをしてただで済むと……」

「済むと思っていますが」

「だな」

「ふえええ、来るところ間違えたかもしれません……」

 

 こんな話をしていると、クオンが走ってやってきた。彼女は私に抱き着いて無事を確認すると嬉しそうに尻尾をふっている。顔は無表情だけど、可愛い。こちらも身体をペタペタと触って怪我がないことをしっかりと確認する。その間にクオンの頭にいたジュカが私の頭に移る。

 

「これは何事だ?」

「兵士の人が捕まっていますね」

「反乱ですわ!」

「あれ、ビッチ姫。随分とお似合いになりましたね」

「そうだな。良い顔になったじゃねえか」

「このっ! そこの気持ち悪い人形がしたんでしょ! 責任取って死刑よ!」

 

 どうやら呪いみたい……まて、コイツ今、ナンテイッタ? 

 

「ナンテイッタノカナ? カナ?」

「お、おい……」

「ひっ!?」

「気持ち悪い人形っていったのよ! アンタごと燃やして塵屑にしてやるわ!」

 

 私の魔導書が黄色い魔導書に変わる。同時に聖印も輝き出す。

 

「よし、殺します。今すぐ殺します。皮を剥いで中身を入れ替えて人形の素晴らしさを教えてあげましょう。いえ、ソノマエニ、イカニニンギョウガスバラシイカ、オシエテサシアゲマショウ」

「待て待てまてぇぇぇぇっ!」

 

 私は黄色い魔導書、黄衣の王を開き内容を歌っていく。自動で世界が劇場に書き換わり、人形が現れる。演奏も始まり、今上映が始まった。

 

「邪悪な気配!」

「ちっ」

 

 思いっきり蹴られて、その場を下がる。相手は6メートルはある大きな鳥。飛び退りながら、歌は続ける。

 

「この歌詞を聞いては駄目」

 

 結界を張られたけれど、壊れるのは時間の問題。

 

「ぐっ、頭が痛いっ! なんだこれはっ!」

「あっ、ああぁあああっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

「樹、どうした! しっかりしろ!」

「元康、お前はなんともないのか?」

「ただの歌がどうしたんだ?」

「理解できていないのが幸せ。それよりも馬車に乗って。ここから逃げる。このままじゃ全滅する」

「あ、あの、アリスちゃんはどうしたんでしょう?」

「あの糞女が特大の地雷を踏み抜きやがっただけだ! これは歌詞を理解したら狂って死ぬような呪歌だ! おい、何か知ってるなら教えろ! どうすればいい!」

「あの本が原因で暴走してる! カースシリーズ!」

 

 さあ、もうすぐ第一幕が終わる。第二幕にまいりましょう──

 

「駄目」

「シャァァァァッ!」

 

 クオンが抱き着いてきて、そのままシロに飲み込まれた。

 

「それ、駄目。ご主人様がご主人様じゃなくなっちゃう。それは私達は望んでない。それにジュカは気持ち悪い人形じゃない。可愛くて頼りになる子。このまま全部を壊すと、認めた事になるよ? いいの?」

「駄目ッ!」

「ね?」

「でも、でも、詠いたい。詠って滅茶苦茶にしてやりたい!」

「シャァァァァッ」

 

 シロの声で身体から黒い物が消えていく。それにシロの身体の中も大きくなっていっていっている。まるで誰かに干渉されているみたいに。

 

「私の力、分けた」

 

 気がつくと目の前にフィトリアがいて、私の魔導書に触れてきた。すると黄衣の王が普通のGrimoire of Alice(アリスの魔導書)に変化した。

 

「封印した。これでしばらくは大丈夫なはず。気を付けた方が良い。この邪悪な魔導書達からかなり浸食を受けている。それに碌に寝ていない。人間らしい行動をしないと、心が浸食されていくのは当然のこと。気を付けて」

「ありがとう」

「世界を守ってくれるのなら、それでいい」

「……ん……」

 

 だんだんと意識が途切れて、そのまま倒れてクオンに抱きしめられてしっかりと眠ることに‥‥なった‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、気持ち悪い‥‥?」

「そんなこと、ない。マスターが、そう言ってる」

「ご主人様以外の有象無象など気にする必要はないです」

「……それもそう……」

 

 

 

 

 

 

 

 誰かの話し声が聞こえたきがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クトゥルフ神話の魔導書は読むだけで狂うのが大半です。アリスちゃんはその知識を全部もっています。つまり、それだけ発狂し、影響を受けているということで、廃人になってもおかしくはありません。
でも、アリスになっているので廃人にはなりません。アリスは人形をばかにしたら激怒します。沸点が低かったのは相手がビッチだからです。他の人なら精々無視されるぐらい?


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31話

 

 

 

 

「……あれ……?」

「おはよう」

 

 目が覚めたらフィトリアのドアップの顔があった。どうやら、膝枕をされていて、頭を撫でられているみたい。身体を起こそうとすると、身体が動かない。

 

「まだ動くのは無理。大人しくしている」

 

 視線だけを周りにやると、すぐに気付いたのが私の腕を枕にしているクオン。反対側には()()()()()()()()()()が私の腕や身体の上で眠っていた。

 腕で眠っている子は赤紫色の髪の毛で赤瞳をしていた。服装は黒色がメインで金色が装飾された三角の突起が三つあるフードをかぶり、全身を同色のローブに身を包んでいる。ところどころに金色のチャックがあり、中からは紫の服が見える。その紫の服は全身を覆っているのか、広い袖は袋のようになっていてチャックが設置されている。チャックが開けられて、でている両手は紫の布で包まれていた。ワンピースタイプなのか下の方まで同じ感じで、チャックが閉じられていないので赤紫色のワンピースタイプがでている。黒いタイツをはいているようで、足は見えない。靴も赤紫の靴だ。

 身体の上で寝ている女の子は白い肌をした女の子で、髪の毛と瞳の色が紫になっていた。長い髪の毛を後ろで三つ編みをしている。最後の子は水色の長い髪の毛をツインテールにした赤い瞳をした裸の女の子。彼女は肩と足が鉄製の機械でできていて、頭に銀色の十字を土台にし、円形の宝玉が埋め込まれた髪飾りをしている。

 

「この子達に感謝する。あのままだと貴方は大変なことになってた」

「何を、したのですか……?」

「この子、シロに私の力を与えて貴女の武器を封印した」

 

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を呼び出して確認してみると、黄衣の王、セラエノ断章、ナコト写本がロックされていて、アクセスが拒否された。

 

「確かに封印されていますね」

「それは人の扱える物じゃない。必ず破滅を呼ぶ。気を付けて」

「はい」

 

 なんだか頭の中もスッキリとしている。ただ、クトゥルフ神話の魔術知識が思いだせないので、おそらく魔術は使えなくなっている。

 

「それで、この子達は?」

「貴女が連れていた魔物の子達。貴女を止める為にフィトリアの力を上げたら、こうなった」

「つまり、変身能力を習得したということですか?」

「そう」

 

 ログを確認していみると、系統樹の魔導書のスキルの一つ、進化の奇跡が発動していた。フィロリア・クイーンの系譜を手に入れて、そこから変身魔法を習得してそれぞれが覚えたみたい。シロが覚えたら、使い魔のラインを通して他の二人にも共有している。クオンはハブられたみたい。しかし、なんだか凄い勿体ない気がする。せっかくフィトリアの力を変身魔法の習得に使うなんて。ただ、どの子も美少女だ。得にメタグロスとシロなんて小説とゲームのキャラに似ている。

 

「その子達の姿は貴女がイメージした姿でもある。暴走した貴女の力を吸い取った影響で、貴女の記憶を読んで好きだと思える姿をに変化したのだと思う」

「シロの髪の毛の色が変わっていますけど……?」

「それは簡単。本当は全身が白かったけれど、今回の力を吸収したのと、強化アイテムをいっぱい食べさせたせいで、貴女の蛇としての理想となる女の子の姿になった。彼女達が使っているのはあくまでも変身魔法だから」

「なるほど」

 

 確かにシロは思った。メドゥーサと。だから、私の好みからFGOと呼ばれるゲームから、メドゥーサ(ランサー)の姿を取ったのだろう。石化の魔眼とかも使えるし。ただ、髪の毛の先端と肌は白い。メタグロスは機械の中で最強だと思っているのがノーライフ・ノーゲームゼロのシュヴィ・ドーラだから、その姿を模したのだろう。髪の毛の色は身体の色かな。ジュカのはそのままジュペッタが擬人化したらどうなるかというネットで載っていたイメージイラストが印象に残っていたせいか、その姿をしている。身長はルクスが140センチ、シロが130センチ、ジュカが120センチと10センチ刻みで誤差はあるけど揃っている。ルクスとクオンが同じくらいだ。

 それにしても変身魔法ということはある程度姿は変えられるのだろうか? でも、原作じゃフィーロは変えていないし、どうなんだろうか? というか、すでに原作なんてあってないような物だし、これからどう動くか考えないと。

 

「あの、どれくらい寝てました?」

「四時間よ」

「四時間も……」

「普通ならもっと気絶しているはず。貴女の身体が人間じゃないからこんなに早く気付いた」

「そうですか……」

 

 それならもう少し堪能していてもいいかもしれない。フィトリアの膝枕とか、元康がいくらお金を積んで来るかわからないものだし。

 

「そういえば、よくシロに力を貸しましたね。ドラゴン嫌いなのに」

「目的が一致しただけ。本来、魔物に力を貸したりはしない」

「そうですか。ところで他の人は?」

「盾の勇者を除いて帰った」

 

 どうやら、尚文おにーさんは残ってくれているみたい。確かに周りを見ると亜人の人達が復興支援をしている。これからどうするかをフィトリアの綺麗な顔を見上げながら考える。フィトリアたんと呼ばれるのも分かるくらい可愛くていい。あ、表情が死んだ。待って、待って私が悪かったからもう少し堪能させて。

 

「今回の勇者はおかしい。イレギュラーすぎる」

「否定はしません。それで、卵は用意できました?」

「ここにフィトリアの卵がある」

「え、フィトリアの?」

「? フィトリアの卵。指定されたからフィトリア自ら用意した」

「受精卵?」

「受精卵。どうせ勇者に育ててもらうのなら、フィトリアの力を受け継ぐ子が良い」

「なるほど、確かに」

 

 フィトリアが産んだ卵だったら、すごく強力かもしれない。うん、これで元康を頑張って説得しよう。

 

「フィトリア、やっぱり一緒に説得を手伝ってくれない?」

「ん。人には関わりたくないけど、仕方がない。それで勇者同士が仲良くしてくれるならいい……」

「何かあったの?」

「盾の勇者以外と他の勇者が喧嘩して貴女の処遇を巡って争ってた」

「守ってくれたんですね」

「貴女のプランは世界を守るために有効だと判断したから」

「それは助かります」

「そう。それじゃあもう起きて。気持ち悪い」

「え? ちょっ」

 

 口を手で押さえて吐きそうになっているみたいで、慌てて逃げる。生憎、元康と違って吐瀉物をかけられて喜ぶ性癖なんてしていない。慌てて起きようとしたけど、クオンとジュカは軽かった。でもシロとルクスは重たくて動かせない。

 

「わーまって、それは待ってくださいっ!」

「冗談。気持ち悪いのは本当だけど」

「ちょっ!?」

 

 フィトリアに退かされ三人から取り出してくれた。無事に立つと、改めて残り四人を見る。シロ、クオン、ルクス、ジュカは起きたみたい。周りを見ても服みたいな物はない。仕方がない。

 

「フィトリア、服はない?」

「ない。それにもう用は済んだ」

「まだですよ。これから槍の勇者を襲撃するんですから」

「わかった……」

 

 四人を起こしにかかる。しかし、ジュカだけ服はあるのは、これは人形の中に入っていたからなのだろうか? それ以外の二人が裸なのは装甲が肌だと判断されたから? まあ、考察は後でいい。今は黄衣の外套を三人に着せる。クオンは服を着ているからいい。

 

「フィトリア、少し四人を看ていてください。私は着る物を取ってきます」

「ん、わかった。行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 

 さて、移動してリュート村の中を調べると、尚文おにーさん達が作業をしていた。大人版ラフタリアもフィーロいる。予定通り、フィロリアルクイーンになって変身していたのでよしとしよう。

 

「あ、アリスちゃん! 起きたんですね!」

「はい、起きました。心配をおかけしました」

「まったくだ。こっちは死にかけたぞ」

 

 ラフタリアと尚文おにーさんがこっちに声をかけてくる。確かに黄衣の王を発動するのはやりすぎた。

 

「すいません。それよりも私のトランクケースってありますか?」

「ああ、ここだ」

「ありがとうございます」

 

 トランクケースから服を取り出して拡大呪文を使って大きくする。上海人形の服を三人に着せればいい。後々ちゃんとした奴は買おう。今は急場しのぎでいい。

 

「これからのことを相談したい」

「そうですね。でも、後です」

「わかった。まずは防御を固めて斥候を放っておく」

「……え?」

「わからないのか?」

「はい。波は終わりましたよね?」

「ああ、そうだな。だが、あの糞姫、阿婆擦れ共勇者達と帰った。樹はどうなっているかわからない。詳しそうなアイツ、フィトリアだったか。そいつに聞いたら音楽などの才能が高かったみたいで、他の連中よりも深く理解してしまったようだな」

「廃人になりましたか?」

「わからない。どちらにしろ、阿婆擦れの顔があんなことになったら、襲ってくるだろ」

「今はそれどころじゃないと思いますが……そんなことをしたら戦争まったなしですよ?」

「いや、今回は大丈夫だろう。アリスが暴走して樹をあんな風にしたからな。それを大義名分にしたら、不可能じゃないだろう」

「なるほど。わかりました。後で相談しましょう……いえ、ラフタリアちゃん、これを三人に着せてきてください」

「ラフタリアちゃんは止めてください!」

 

 ラフタリアに服を渡して、私は尚文おにーさんとこれからのことを相談する。本当はせっかく人の姿になった彼女達とお話ししたいけれど仕方がない。話していると、王城から使者がやってきた。

 

「今夜、勝利を祝って宴を開きますので、勇者の皆様のみで城までお越しくださいと、王よりのご命令です。また、来なければ援助金はなしとなります」

 

 使者は復興の手伝いや労い、物資も渡さずにさっさと帰っていった。自分達が壊したというのに。

 

「どうします?」

「どうもうこうも、罠だろう。いく必要はないな」

「いえ、ここは行ってやりましょう。ただ、私はやることがあるので、後程、合流します。お城に入る前に武器屋のエルハルトさんのところで合流しましょう」

「エルハルト……武器屋の親父か。わかった。そこでいい。だが、それからどうするんだ?」

「私の人形達はまだまだいますから、戦いになれば解放します。その間に逃げて敵の戦力を引き寄せて城から離した後、城を強襲して制圧します」

「確かに兵力を釣るのは理にかなっているな。だが、俺達だけで戦力は足りるか?」

「私達は複数の強化方法を行っております。盾のレアリティはいくつですか?」

「SSRで+10、レベル100だ」

「同じぐらいですね……って、レベル100?」

「ああ、ダンジョンで強化した」

「いやいや、どうやったんですか! 教えて教えて!」

 

 思わず抱き着いてきいてしまう。どう考えても今のレベルで勝てる物じゃない。相手は600とか900とかそんな相手がでてくるのだ。普通に勝てるはずがない。

 

「それなんだがな、強化して失敗すると最低までなるだろ? なにもかもリセットして強化すると結構弱くて、地形嵌めでいけた」

「その手があったか……」

「私もリセットすれば……」

「無理だろ」

 

 レアリティアップを試してみる。SSRからLRへ……成功。LRからAF、アーティファクトへ……成功。なんで!? 

 

「何やってるの! せっかく封印したのに!」

「え? まさか……」

「あ~クトゥルフ神話、伝説や神話の魔導書三冊にお前の魔導書。どれもレジェンドとかアーティファクトだろうな」

「つまり、解放されただけ?」

「うぅ、また封印し直し……吐き気を我慢して封印したのに……」

「ごめんなさい」

 

 しっかりと封印をしてもらった。基本的に私がもっと成長していって、ゆっくりと力を引き出していく感じにする。封印の解除術式を教えてもらった。全部で10段階用意されているので、魔術師としての位階を上げていかないとね。

 

「あの、着替え終わりました」

 

 ラフタリアの声に振り向くと、可愛らしい女の子達。クオンとシロ、ジュカが私に抱き着いてくる。ルクスは少し離れて、無機質な表情でこちらを観察している。

 

「皆、随分と可愛い姿になったね。私よりも大きくてちょっとジェラシーだよ?」

「これで、いい?」

「「ずるい!」」

「変身、できない」

 

 ジュカだけゴーストだからか、身体を小さくして掌サイズまで小さくなってしまった。シロとルクスは普通に身体があるのでそのような事はできないみたい。

 

「それで、なんで変身能力なんか求めたの? もっといい能力があったはずなのに……」

「……マスター……クオンだけ、可愛がるから……」

 

 確かにこのごろ、モフモフを優先していた気がする。それで嫉妬しちゃったのか。

 

「その通りです。人型になれば私達も可愛がってもらえると思いました」

「ご主人様、独り占め、させない」

 

 ルクス、シロ、ジュカの順番で答えてくれる。ジュカは口元が隠れているけれど、ぽそぽそと伝えてくれた。あんまり素顔を見られるのが嫌みたいでフードを爪で掴んで深く被っている。とりあえず、彼女は私の人形だし、定位置は肩や頭でいいか。もしくは私の影。

 

「モテモテだな」

「ナオフミ様……」

「どうした?」

「フィーロも!」

「うおっ!?」

 

 尚文おにーさんもラフタリアに抱き着かれた。それを見てフィーロも抱き着いている。それを見ながらクオンとシロの頭を撫でてから、ルクスも呼んで撫でる。正直、私よりも身長が高いから浮遊しながらになる。

 

「なんだか背伸びしているみたいで可愛らしいですね」

「うるさいですよ、そこ」

 

 ルクスがこちらに近寄ってきて、私を抱き上げてしまった。その状態で撫でて欲しそうにおずおずと頭を差し出してくる。撫でてあげると嬉しそうに目を瞑る。可愛い。それに温かい場所と冷たい場所があって不思議な感じがする。

 

「そんな感じで他の勇者と仲良くすればいい」

「「無理」」

 

 フィトリアの言葉に私と尚文おにーさんがハモって答える。だって、同じようにってことはあの人達に抱き着いたり、抱き着かれたりするということで、そんなのアリスとして認められない。女の子同士ならまだ認められるけどね。ましてや私は男だ。男に抱きつく趣味なんてない。

 

「お二人とも、完全否定ですね。アリスちゃんなら問題ないと思いますが……」

「そんなの気持ち悪い……です……」

「まあ、お前はとくにそうだろうな。俺も御免だ」

「……ルクスも……嫌……」

「いや」

「ご主人様に従う」

「わかりませんが、ご主人様が嫌ならいいかと」

「残念」

 

 とりあえず、気持ち悪い提案をしてきたフィトリアは後で同じ目に遭わせるとしよう。元康に……って、そういえば原作だと元康は自分で育てたフィロリアルクイーンには手をだしていない。娘だとして。これだと困る。やっぱり、フィトリアにお願いするのは……駄目か。いや、フィトリアの娘を嫁に出すといえばいいか。まだフィーロは人になっていないから、むしろフィトリアのことを好きになっている可能性もある。いや、フロンが好きだからフィーロに靡いただけ。つまり、天使好きでフィーロ似の子で引き込める。なら、計画に変更はない。

 

「おい、あんまり時間はないんじゃないか?」

「そうでした。ジュカ、ルクス、シロ。魔導書に戻ってください。クオンは尚文おにーさんと一緒に行動していてください。フィトリアもそれでお願いします」

「「「「ん」」」」

 

 頷いて魔導書の中に入っていくジュカ達。

「じゃあ、俺達は適当に向かうぞ」

「あ、尚文おにーさん。本当はもうちょっと後に渡すつもりだったんですけど……念の為に渡しておきます」

「なんだ?」

 

 私はトランクケースから小瓶を取り出して尚文おにーさんに渡す。

 

「これはなんだ?」

「龍刻の砂時計に使われている砂です。手に入るスキルは三カ所を登録できるポータル系のスキルです」

「そんな便利な物ならさっさと渡せよ」

「実は尚文おにーさんには行商をして欲しかったので、それを持ってたらあんまりしてくれないかもしれないじゃないですか」

「あ~」

 

 尚文おにーさんが変幻無双流の師範代であるお婆さんを助けてないといけない。私でもできるかもしれないけれど、できれば尚文おにーさんの方がいい。

 

「行商か。確かに金を稼ぐ手段にはいいな」

「同時に薬で人を回復させてあげたり、アクセサリーを作ったりとか色々とできますよ」

「わかった。考えてみる」

「では、お願いします。フィトリアも私の魔導書の中にくるのなら、一緒にきてもいいですよ。王都ですし」

「嫌。大人しく盾の勇者とお話しをして待ってる」

 

 あの夜会話みたいなことが起こるのかも知れない。尚文おにーさんやフィーロはまだまだ弱いけれど、大丈夫なのだろうか? まあ、なるようになるか。

 

「では、行ってきます」

「いってらっしゃい」

 

 挨拶を交わして、ここを登録してからポータルゲートで王都に移動する。三カ所しか登録できないので、これでリュート村と王都、海底神殿の三つになる。古い順番から消えるので、ゲートを開いてから消さないといけない。海底神殿を経由して王都に向かう。

 

 

 

 

 王都の市場に出た私は奴隷商の人に何かあるかも知れないから警戒しておくように伝えて、姿を消して移動する。目的地は三勇教の総本山。ここにこれから侵入するというわけである。しかし、まともに侵入しても私じゃうまくいかないので、教徒の一人から順番に魅了していく。

 

「教皇様はどこにいらっしゃいますか?」

「教皇様はどこにいらっしゃるかわかりません」

「では知っている方を知りませんか?」

「知っております。こちらです」

「その前に子供用の服はありますか?」

「ありません」

「大人用でいいのでください」

「かしこまりました」

 

 用意された大人用のシスター服を着て浮遊魔法を使うけど、身体が浮いているから裾がひらひらする。ジュカを呼び出して普通サイズで肩車してもらい、乗せてもらう。ジュカは視界がきかないけれど、私が操ればいいだけだ。シスター服は髪の毛もでないし、バリアで光の角度を上手いこと反射すれば気付かれない。複数のお偉いさんを魅了して、三勇教のため、盾の悪魔を滅ぼすために必要だと思考を誘導して引き出していた。

 

 

 

 無事に潜入した私は教皇の位置を聞き出し、居場所を確認してから海底神殿で見つけた地図と聞き出した情報に従って移動する。隠し通路を通り、定められた手順で侵入。そこに安置されているレプリカの武器をまねた失敗作の物を錬金術で形だけ整える。それと入れ替えて本物はもらっていく。

 持ち上げた瞬間、警報装置が鳴り響く。流石に昔の警備そのままではないか。建物自体は古い物で、改修を繰り返されているみたいだけど、すぐに偽物と置き換えてもらう。私は弾かれて触れることができないので、ルクスに頼んだ。

 魔力の存在する物を片っ端から回収して偽物と入れ替える。それから、連れてきてもらったシスターに私の事を忘れるように言い、盾の悪魔を殺すために何かいい物がないか探していたらこの武器をみつけて触れたといった感じで伝えるように指示する。

 

「これは教皇猊下よりの極秘任務です。教皇猊下も知らないふりをしますが、それは仕方がないことです。ですので、何を言われても答えるのは盾の悪魔を倒すために必要な物を探していた、と」

「全ては盾の悪魔を倒すために……かしこまりました。アリス様」

 

 洗脳みたいに魅了の魔眼は便利じゃない。あくまでも私の事を好きにさせて、私のためという理由で言うことを聞いてもらうだけに過ぎない。洗脳ほど便利ではないので、しっかりとある程度は誘導しないといけない。簡単に言えばイエスマンを作るだけなのだ。

 欲しい物は手に入れたので、クールタイムが終わっているポータルゲートでここからさっさと逃げる。市場に戻ったら、早速手に入れた武器を解析する。材質や使われている素材と術式。全てを手に入れた資料の知識を確認しながら行っていく。しかし、解析にはまだ時間がかかるので、今は解析魔法を走らせながら、服屋に買い物に行くことにした。

 

 

 

 

「いらっしゃいませー! あ、あの服はどうだった?」

「可愛くて素敵でしたよ。それでこの子達の服をお願いします」

 

 ルクス、ジュカ、シロを呼び出して洋裁屋に見せると、かなり喜んで三人の衣装を決めていく。

 

「どの子も素晴らしいです! どんな衣装にしましょうか……」

「いらない。このままがいい」

「ジュカはいらないんだね。じゃあ、今度何か別の物を用意しますね」

「褒めてくれたらいい」

「何か美味しいのをあげるね」

「楽しみ」

 

 ジュカは小さくなって私の頭の上に乗る。

 

「ルクスとシロは絶対だからね」

「……わかってる……」

「服。ご主人様の好きな服がいい。傍に仕えたい」

「それなら、こんな感じにしましょう」

 

 シロは上海人形が着ている奴と似たような白と黒のメイド服を選ぶ。半袖でスカートは膝くらいまである。手首にも白いフリル付きの黒いリストバンドを装着。ホワイトブリムにも左右に黒いリボンが付けれられていて、可愛らしい。そして、何故か赤い色の首輪をつけている。いや、確かにアナちゃんはつけているけども。

 

「あの、首輪はいらないですよ?」

「これがいい。だめ?」

「いえ、いいですよ」

 

 ルクスもシュヴィのようにオレンジ色のもこもこなパーカーを選んだ。まあ、身体の一部を隠すために使えるし、可愛らしいのでいいと思う。

 

「変身したら破けますよね?」

「破けるわよ。破けないのは特殊な糸で縫わないといけないから」

「わかりました。用意してきます。さて、次は……」

「牙、欲しいです」

「牙?」

「手に持って戦う物です」

「武器か。確かに人型の時は使えるし、いいかも。じゃあ、ちょっと早いけれど、移動しようか」

「はい」

「……武器屋、楽しみ……」

「期待」

 

 四人で移動して、武器屋のエルハルトの所に移動する。扉を開けると、こちらを見て一言。

 

「嬢ちゃん、良い奴隷が入ったからって見せびらかしに来たのか?」

「お、おお……」

 

 まさか私が言われるとは思わなかった。しかし、この人……どう見てもSAOのエギルさんにしかみえない。

 

「どうした?」

「いえ、なんでもありません。この子が武器を欲しがったので、いい物はありませんか?」

「何が欲しいんだ?」

「鎌」

「そんなの取り扱ってないから、オーダーメイドだな」

「でしたら、これらでどうですか?」

 

 トランクケースから色々とと取り出して渡していく。

 

「こいつは……アダマンタイトとオリハルコンか。それに蛇の抜け殻に牙か」

「この子の物ですから、使えませんか?」

「この牙を刃にするのはできるな」

「でしたら、鎌、大鎌の後ろには先端に刃がついた鎖……」

 

 おじさんと相談し、武器を発注する。それにルクス達の靴も買っておく。ルクスはいらないかもしれないけど、一応スパイクつきのを買った。それも底に円形の穴が空いている奴。これは作ってもらった。

 

「アダマンタイトとかオリハルコンとか、余ってるのなら売ってくれ。高く買うからよ」

「いいですよ。そういう契約で安くしてもらいましたし。どうぞ」

「おう。って、多いな……」

「これらで尚文おにーさんやラフタリアちゃん達の武器もお願いします」

「そういうことならお安いごようだ」

「ああ、それとしばらく匿ってください。ここに尚文おにーさんもきますし」

「俺の店を待合場所にするなよな……」

「ごめんなさい。でも、いっぱい買いましたらから……」

「わかってるよ。ただし、奥にいてくれ。ここに居られたら邪魔だしな」

「はい。お世話になります」

 

 納得してくれたようなので、奥で三人をひたすら可愛がろう。本当は騎士団の動向とか調べたいけど、それは無理だし仕方ない。

 

 

 

 

 

 




イメージ映像
シロ 白蛇 外見はFGOのアナちゃん、メイドバージョン。ただ、髪の毛の先端が白い。メイド服はツインテール。
ルクス メタグロス ノーゲーム・ノーライフゼロのシュヴィ。髪の毛の色は水色。
ジュカはジュペッタ 擬人化でぐぐれば碁盤目ぐらいにでてくる感じのイメージです。

なお、あくまでもイメージということでお願いします。参考資料として使わせていただいております。絵心ないもの!
感想ありがとうございます。やる気がでます。

弓の人ですが。音楽の才能があったので、余計にダメージを負いました。元康があんまりうけてないのはそういうのは得意じゃなさそうという勝手なイメージです。錬たちは普通だと思いますので、気持ち悪い程度ですみました。第二膜を聞くと、狂います。他の人よりはましなので、死にはしません。一般人と樹君は、まあ、がんばれ?

ウェブ版読み直していたら、レアリティがアーティファクト、AFまであるので、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)はAFです。ちなみにアリスちゃんはシロ、白蛇のお蔭で幸運ブーストが少しのっています。縁起物ですからね。


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晩餐会は以外に楽しい?

 

 

 

 

 

 武器屋のお店で待っていると、少しして尚文おにーさんがやってきたので、私は尚文おにーさんと二人っきりでお城へと向かう。ジュカは私が持っている人形として連れていく。人形だからバレることはない。シロとルクスは魔導書の中に入ってもらっている。

 

「盾の勇者様と魔導書の勇者様ですね。会場にご案内致します。馬車にお乗りください」

「会場は城じゃないのか?」

「少し離れた庭園にて行わせていただきます」

 

 お城じゃないんだ。これはいよいよおかしくなってきたね。そのまま進んでいいのか疑問だけど、行くしかない。それにこれは望む通りでもある。

 

「どう思いますか?」

「罠だろ」

「ですよね」

 

 尚文おにーさんは常に戦うよう用意をしているので、私も支援魔法をかけてしっかりと準備しておく。

 次第に進み、馬車が停まると、確かに庭園だった。無数のテーブルに飲み物が用意されており、他にも貴族であろう人達がいて談笑している。

 

「これ、本当に罠か?」

「わかりませんが、油断しないようにお願いします」

「当たり前だ」

 

 馬車の扉が開けられると、こちらを見ていた貴族の人達がにこやかに話しかけてくる。彼等からは敵意のようなものを感じない。

 

「ようこそお越しくださいました。盾の勇者様、魔導書の勇者様。此度、我が国の波を解決して頂き、誠にありがとうございます」

「いや、いい。やることをやっただけだ。それよりも、他の勇者が見えないようだが……」

「ええ、私共も驚いておりまして……晩餐会の場所が急に王城から変更になりましたので、まだいらしていないのでしょう」

「そうなのか」

 

 急に変更されたから、まだ料理が来ていないのかな? 

 そう思っていると、ウエイターの人がやってきて飲み物をくれる。

 

「お酒?」

「子供に酒は駄目だろ」

「果物のジュースです」

「ありがとうございます」

「盾の勇者様は飲み物はどちらになさいますか?」

「俺もジュースでいい。酒はいらない」

「かしこまりました。料理は少々お待ちください」

 

 私はグラスに注がれたジュースを少し飲んでみる。舌にピリっとはしない。少し飲んでみるけれど、普通のジュースみたいだ。私の場合は飲んでも魔術回路が起動して勝手に再生するので問題ない。

 

「尚文おにーさん、そっちのと交換してください」

「どうし……」

「そっちのが飲みたいですから」

 

 尚文おにーさんから奪って私が飲んでいた方を渡す。こちらも飲んでみてたけれど、毒物は入っていない。

 

「こちらで今回の活躍を聞かせてくださいませ」

「おお、そうですな」

「俺は……」

「いいじゃないですか、行きましょう」

 

 皆で集まって尚文おにーさんの話を聞いていく。どの人も真剣に聞いていて、侮っている気配はない。それに綺麗なおねーさん達に囲まれて御酌のようなことをされてタジタジになりながらも話している。原作だと絶対に激怒しそうだけれど、こちらじゃ私が、ハスターが介入したことでそこまでじゃない。ビッチは大っ嫌いだけど、女性は嫌いにはなっていない感じがする。召喚された勇者はどの人もハーレム願望とかゲームオタクだったりするから、尚文おにーさんも裏切られて世界全てが敵だと思うようにならない限りはそういうところがある。まあ、この国の貴族は嫌かもしれないが。

 

「美しいお嬢さん、ぜひ私と──」

「あ、私は男性に興味がないので」

「え?」

「で、では女性に……?」

「いえ、()()()()()()です」

 

 ジュカをギュッと抱きしめてスリスリする。今の私だと、子供の趣味としてみられるかもしれない。でも、これは事実なので仕方ないよね。私にとって人形が全てなのだから。

 

「人形なら私も聞きたいです」

「私も、よろしければ……」

「いいですよ」

 

 幼い女の子達が集まってきて、その子達と話していく。マリーちゃんとか、エリスちゃんとかと人形の話でもりあがった。意外と楽しい時間になっている。でも、勇者の人達はこない。弓はともかく、剣と槍は来てもおかしくないのにね。

 

「お待たせしました。料理が到着しましたので、始めたいと思います」

「他の連中がまだだが……」

「他の勇者様はご気分が優れないとのことで、欠席なさいます」

「そうか」

 

 尚文おにーさんがこちらに近付いてきて、私を抱え上げてくる。女性達からキャーという声が聞こえ、私は尚文おにーさんを睨み付ける。すると、耳元で囁いてきた。

 

「ここにいる連中は亜人にたいしてなんとも思ってないようだ。話しを振ってみたら、聞いた限りだと普通だった」

 

 メルロマルクの連中が亜人に普通? いや、そんなの有り得ない。それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()それってまさか、そういうこと? 

 

「それでは勇者様に音頭を取っていただいてから食事を始めましょう……」

 

 グラスを持ち、皆が中心部に集まっていく。私は急いで広域探査を開始する。すると、ここを囲むように警備が配置されているのがわかった。その中に白い服を着た三勇教の連中の姿が見える。用意された食事に毒物判定を行う。すると()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「尚文おにーさんっ、皆っ、食べたら駄目!」

「どうした?」

「毒物が入ってる!」

「なに?」

 

 私の言葉にざわつきだし、慌てて食事から離れていく。そんな中、運んできたウェイターの一人が手をあげる。その手には三勇教の聖印があった。

 

「尚文おにーさんっ、ここにいる人達は味方だから、上に向かって全力の盾を展開して!」

「わかったっ!」

「ジュカ、アイツを倒してっ!」

 

 私の命令でジュカがジュペッタの本来の姿のまま突撃して、シャドークローで切り裂いて倒す。同時に上空に尚文おにーさんがいくつもの盾を展開する。そのタイミングで上空から光が降ってきて、巨大な光の柱が生まれて爆発していく……はずだ。

 

「おい、これはどういうことだ?」

「わ、わかりません!」

 

 尚文おにーさんが他の連中に聞いているけれど、誰もわからない。全員、しゃがみ込んで一塊になり、シールドプリズンの中に入って耐えている。暗くて子供達は泣き出して親に抱きしめられていて、私と尚文おにーさんをみてくる。

 

「多分ですが、ここにいるのは女王派や三勇教に反対する人達でしょう」

「そ、その通りです。私達もここに集められて驚きました」

「つまり、連中は俺達を纏めて消すつもりだと」

「そういうことですね」

 

 魔導書を取り出して受けている魔法を解析していく。一人じゃきついので、ルクスの演算能力も借りている。儀式魔法を一人で撃てると素晴らしいよね。

 

「おい、複数張ったが、かなり破られたぞ」

「仕方がないです」

 

 私もバリアを張ってやる。すると、急に衝撃が軽くなって、次第になくなった。魔力が急激に減って私は少しふらついてしまうけれど、大地からマナを吸収して回復する。たしか、こちらでは龍脈魔法とか言われる奴だっけ? 

 

「もう無理だ……」

 

 シールドプリズンが無くなり、周りをみると私達が居た場所以外に大きなクレーターができていて、周りの建物も消し飛んでいる。少し離れた所には()()()()()()()()()()三勇教の信徒達が存在していた。どうやら反射されたダメージを受けた上に反射で崩れた建物の崩壊に巻き込まれたみたい。

 

「ある程度の解析は終わりましたが……想定より威力が弱いですね」

 

 私は気にせず解析した儀式魔法を調べて確認していく。儀式魔法は単純に必要な工程と魔力が大きいのか。ただ単に規模を多くして放つ攻撃みたいで、増幅されていない。でも、多数の人の魔力を一つに纏めて放つというのは素晴らしい考えだと思う。

 

「おい、自爆しているみたいだが……」

「ああ、私のバリアって反射能力がありますからね」

「一部でも反射できたのか」

「それよりも、来ますよ」

「そうだな。予定通り、逃げて戦力を集めるか?」

「無理ですね。この人達を守りながらでは逃げ切れません」

「二人で12人だしな……」

 

 私達のポータルゲートで移動できるのは私達を含まずに六人まで。つまり、合計で14人になり、クールタイムもあるので30人以上いるここから逃げることはできない。かと言って、彼等を見捨てると、このあと女王陛下に統治してもらう時に困る。

 

「まさか、裁きを受けて生きているとは……流石は盾の悪魔と魔女と言っておきましょう」

 

 瓦礫を吹き飛ばして現れたのは三勇教の服を着た偉そうな眼鏡をかけたお爺さん。彼の手には見覚えがある武器がある。

 

「誰だ?」

「私は三勇教の教皇をしているバルマスというものです」

 

 この人は原作で信仰対象であるはずの三勇者も思い通りに動かないと言うだけで手にかけようとする過激かつ歪んだ狂信者。尚文おにーさんが苦しむ原因になった元凶の一人。彼の周りには三勇教のシスターや神官が立ち上がってずらりと並ぶ。連中は怪我をしたり、死んでいる者もいたりして、無傷の奴は少ない。少ししか返せててないけれど、やっぱり反射は便利だね。

 

「しかし、驚きですよ。まさか、無臭の毒物に気付き、邪教徒共を浄化する裁きを防ぎ、一部とはいえ返してくるとは……」

「ああ、そうだろうな……」

 

 尚文おにーさんが前に出たので、私も前に出てモンスターハウスの魔導書に変える。この魔導書にはモンスターボールの絵が描かれていて、押せば出せる。

 

「それで、これはなんのつもりだ?」

「簡単なことですよ。盾の悪魔と魔女はこの国の人々を惑わし先導しました。ですから、私は神の代弁者としてあなた方を浄化することに決めました」

「魔女じゃなくて勇者なんですが……」

「国民を扇動し、国や国教に反抗しようなど魔女でしょう?」

「いえてますね。いいですね、魔女。はい、私は魔女です」

 

 トランクケースから箒を取り出して乗ってみる。あ、三角帽子もかぶろう。

 

「どうですか、尚文おにーさん。これでどう見ても魔女ですよね?」

「そんなの持ってたのかよ?」

「はい。お母さんの一人から貰いました」

「……」

「あなた方は状況をわかっているのですか?」

「ああ、その程度の兵力でどうこうできると思っているのか? それにこんな物を撃てば国の兵士がすぐに駆け付けてくるぞ?」

「ええ、そうですね。来ました。我が教徒達がね」

 

 その言葉と同時に無数の騎士達がここい乗り込んできて、教皇達の前に立ってこちらに剣を向けてくる。千人ぐらいはいるね。まさか、こんなに動員してくるなんて思わなかった。

 

「おいおい、これは……」

「盾の悪魔と魔女が本性を現し、クーデターを画策していました。彼等はその仲間です」

「「「ふざけるなっ!」」」

「こいつらは女王派らしいから、纏めて消して俺達のせいにしようってことかな」

「そうですね。ご丁寧に三勇教のペンダントもつけていますし……」

「大人しく死になさい。これだけの兵力に勝ち目はありませんよ」

「「だが断る」」

「そうですか。では死になさい」

 

 尚文おにーさんと一緒に答えると、教皇が手に持っていた槍を振り下ろそうとしたタイミングでまず弾幕を展開して放つ。緑、赤の二色の弾幕が襲い掛かる。

 

「甘いですよ」

 

 教皇の前に文様が描かれた菱形の壁が出現して私の弾幕を防ぐ。着弾した弾幕は炎と風の嵐を発生させるが、相手に届かない。

 

「その程度で城壁は破れませんよ?」

「なんだあれ?」

「高等集団浄化魔法だったはずです。魔法を分解する厄介な者ですが、あくまでも魔法だけです。でてきてください」

 

 ゴーレム軍団をモンスターハウスか呼び出す。ミスリルゴーレム3体、オリハルコンゴーレム1体、アダマンタイトゴーレム6体。シルバーゴーレム10体。合計20体の完全武装ゴーレム達に命令を下す。

 

「敵は三勇教の聖印を持つ者達です。殺しなさい」

「ゴーレムですか、モンスターを生み出して操るなど、やはり魔女! 今こそ神の裁きを受けなさい!」

 

 そう言いながら、手に持った剣を振り下ろす。剣の先からぷすっという音と光線がでて……私達に到達することなく消えた。

 

「なんだ? 何がしたかったんだ?」

「ばっ、馬鹿なっ、信者たち数百人分の魔力が込められているはず……」

 

 教皇が持っていた剣は罅が入り、崩れていく。驚愕に染まり、絶望したかのような表情はとっても素晴らしい。

 

「あはっ、あはははははははははははははははっ!」

 

 私はついつい、お腹を抱えて笑ってしまう。

 

「お、おい?」

「か、神の裁きを受けなさい! とか言って、ぷすっですよ、ぷすっ!」

「まあ確かに笑えるよな」

「き、貴様等っ、なにかしたな!」

「俺はしていないが……」

「貴方の探し物はこのレプリカの剣ですか? それもとレプリカの槍ですか?」

「なななななっ、何故それを持っている!」

「親切なシスターさんにもらいましたから。はい、尚文おにーさん。盾として装備してください。それなら持てるはずです」

「わかった。まさか、これを奪いにいってたのか?」

「失礼ですね。借りたんですよ。返すかはわかりませんが」

 

 三角帽子の鍔を押さえて深く被る。同時にこの周りを対象とした広域のバリアを展開する。ベクトルを内側にかかるようにして、中から誰も出さないような結界だ。ゴーレム達は動き出し、彼等を蹂躙するために進んでいく。その姿に相手は狼狽えていく。

 

「三勇教だかなんだか知らないが、世界を救う邪魔をしている上に俺達を殺そうとしているんだ。殺される覚悟はあるよな?」

「狼狽えてはなりません! このままでは彼等に国を乗っ取られます。今、私達が戦わねばならない時が来たようです。そう、今こそ聖戦の時です! 教徒達の高等集団魔法とこの国の勇敢なる兵士達がいればこの国に巣食った悪を打ち払うことは可能! 攻撃開始!」

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」」」

「ちっ、やる気か。アリス。防御は任せろ。ただし、攻撃は頼むぞ」

「お任せ下さい」

 

 敵兵にゴーレムを特攻させている間に私はジュカとルクス、シロを呼び出す。人型ではなく、ポケモンとモンスターの姿で現れた三人。

 

「シロ、私の攻撃の後に前衛に石化のブレスを放って。ルクスは破壊光線の準備。ジュカは私達の護衛をお願いします」

「了解しました」

「……命令、実行。チャージ開始……」

「守る」

 

 彼女達がモンスターの姿に戻る。すると服が破れた。勿体ないけど脱がしている暇もないし、仕方がない。まず私が弾幕を放って後衛を、教皇を狙う。相手は先程の城壁で防いでくるけれど、それでいい。

 

「シャァァァァッ!」

 

 シロが浄化の発動されていない前衛に上から石化のブレスを放つ。前衛に居た連中は石となった瞬間、ゴーレム達の武器によって砕かれていく。そこに防御力など関係ない。

 

「おのれ、魔女めぇぇぇぇっ!」

「おい、殺す必要はあるのか?」

「あります。宗教というのは地球の歴史からわかる通りに根が深いです。ここである程度殲滅しないと、またテロリストのように襲われます。それに殺すことに意味はありますよ。私が持っているのはクトゥルフ神話の魔導書です」

「そういうことか。確かにこれは遊びじゃない。殺し合いだ」

 

 魔導書の封印を限定解除して彼等の魂を魔導書に吸わせて、生贄として次に訪れる世界の危機、波に対応する力とさせてもらおう。世界を救うために彼等の神様の役にたてるなら本望だろう。

 

「しかし、あの壁はどうする?」

「こうしましょう」

 

 弾幕を放ち続けて限界がくるまで待つ。私は龍脈から力を貰っているので生半可なことでは魔力切れがおきない。回復速度も魔力量も上がっているからだ。

 

「攻撃、攻撃しなさい!」

 

 矢や魔法が飛んでくるけれど、それは尚文おにーさんが防いでくれるし、そもそも前衛に巨大なゴーレム達がいるので、ほとんどが防がれる。ましてやミスリルゴーレムは魔法を反射していくし、アダマンタイトゴーレムは単純に硬くて重い。どのゴーレム達も三メートルを超えているし、抜けてきたところを尚文おにーさんが妨害したり、ジュカが素早く移動してシャドークローやシャドーボールで潜り抜けてきた敵を殺していっている。変身して回避し、背後から襲う時などは人型で攻撃する。他にはゴーレムの身体を蹴って立体的な軌道で殺している。

 ジュカの戦闘域を越えたとしても、シロの尻尾で吹き飛ばされ、土の魔法で串刺しにされ、噛まれて殺される。チャージが完了すると前衛に石化のブレスを吐いていく。

 

「がぁ」

「うん、目標は教皇……あの偉そうな眼鏡の人だよ。撃って」

「ガァ」

 

 二本の腕を前に出したルクス、メタグロスの間に収束されていたエネルギーが放たれる。七色に光る破壊の嵐はやはり、高等集団浄化魔法の城壁に防がれる。

 

「破壊光線でも無理なのか」

「やっぱり、火力がまだ足りないのかなあ」

「仕方ない。もう被害がどうのこうの言ってられない」

 

 追加にアダマンタイトゴーレムを七体呼び出す。この子達は特別製で、アーチャータイプだ。背中から丸太のように太いアダマンタイトの巨大な矢を取り出し、弦に添えて射る。ゆっくりとした動作で整えられたはずのそれは、放たれると同時に着弾する。

 城壁は浄化魔法なだけあって、あくまでも魔法を浄化するだけ。物理攻撃までは流石に防げないと思う。というか、城壁とか関係なく壊す物理攻撃だしね。攻城兵器のようなものだ。実際、轟音を響かせながら城壁が砕かれてその先の神官達を吹き飛ばしてしまった。

 

「物理障壁を展開しなさい!!」

「それ、悪手だな」

「ですね」

 

 私が弾幕を放ち、より被害を広げる。そうするとせっかく展開した物理障壁が崩れて矢も受ける。たまに必死で抜けてきた奴は──

 

「死ねっ、魔女めぇぇっ!」

 

 ──即座にルクスにぐちゃっと潰され、飛んできた槍は尚文おにーさんによって防がれる。そんな感じでやってると、前衛のシルバーゴーレムが魔法者集団にとりつき、虐殺を開始する。

 

「勝ったな」

「ですね」

「おのれ、おのれええええええぇぇっ! 全員っ、撤退っ! 覚えていなさい!」

 

 逃げようと走っていくけれど、結界に阻まれてでれない。

 

「知ってたか? 悪魔や魔女からは逃げられないんだぞ」

「安心してください。貴方達の平和を願う意思は私達が引き継ぎ、世界を救うために役にたてます」

 

 私と尚文おにーさんは悪い顔で笑いながら、見学する。ここには止めそうなラフタリアもいない。なのではっちゃけられる。ただ、正直言って気持ち悪いのであまりみないようにしながら、弾幕を撃ち続ける。尚文おにーさんもできるだけ上を向いて見ないようにしていた。

 

「たすけ、たすけてくれぇぇぇっ!」

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 

 さて、投降した奴等を助けるというのは人道的には正しいけれど、助けたところで襲われるのがオチだし、こっちは投降しても許してくれない。なので、全員潰す。そんな風に考えていたら、雷が飛んできた。その雷はシルバーゴーレム達を粉砕し、こちらまで飛んでくる。それを尚文おにーさんが盾で弾いて止めてくれた。

 

「尚文達は一体何をしているんだ!」

 

 どうやら、他の勇者達とその仲間達が結界に侵入してきたみたいだ。まあ、出られないようにしかしていないし、これは仕方がない。

 

「お前達、流石にこれは見過ごせないぞ!」

「そうだぞ! それにマインの顔にあんなことをしただけじゃなく……」

「おお、勇者様っ! どうか、どうかお助けください! 盾の悪魔と魔女が我等に襲い掛かってきたのです!」

「何言ってやがる。襲い掛かってきたのはそっちだろうが」

「いえ、現状を考えればわかるでしょう! 我等は……」

 

 尚文おにーさんが反論していくけれど、勇者の人達は話を聞かない。まあ、傍から見たらどう見ても虐殺だから仕方ないね。

 

「とりあえず、話し合いをするのですか? それとも殺し合いがお望みですか? 私達は貴方達と争う気はありません。私達に襲い掛かってきた世界の敵を排除しているだけなのですから」

「何をいう! 貴様等の方こそ世界の敵だろう!」

「貴方の中ではそうなんでしょうね? ですが、この国から出ればそれは変わります」

「どういうことだ?」

「簡単なことだ。こいつらは三勇教。つまり、剣、槍、弓を信仰している。他は四聖教といって盾を含めたものを信仰しているらしい。で、このメルロマルクの敵対国である亜人を率いるシルトヴェルトは盾の勇者が信仰されている。お前達ならわかるよな?」

「まさか、敵国の神様だから、こちらでは悪魔か」

「そういうことだ。で、そいつらが俺達を殺しにきた。ご丁寧に自分達の邪魔をする政敵の連中を纏めて毒殺し、それができなかったから直接的に殺しにきた」

「嘘です! 我々は……」

「どちらにせよ、邪魔をするなら排除するが、まず話し合おうじゃないか。そいつらを捕まえるか始末してからな」

「信じられない!」

「こっちには証人も証拠もある」

「……元康。今は……」

「いや、俺は彼等を信じるぞ!」

「「勇者達!」」

「そうか。仕方ない。アリス、やれ」

「はい。攻撃を開始してください。錬さんは離れていてくださいね。巻き込まれますよ」

「くっ!」

 

 ゴーレム軍団による蹂躙は止まらない。私が直接操作して、適切な援護射撃もしているから当然だ。勇者二人はわざと通して、私と尚文おにーさん、ルクス、シロ、ジュカで対応する。数の上でも、ステータスの上でも優位なのであっさりと無力化して捕まえることができた。彼等が勝っているのはレベルくらいだ。それにどちらも子供である私を攻撃するのは躊躇して、盾である尚文おにーさんの方に集中して攻撃したから仕方ない。こういう時はアタッカーである私から倒さないといけないのにね? ちゃんと仲間の人達も助けてあげたよ。

 

 

 

 

 



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王様

 

 どうしてこうなった! 我が愛しの娘であるマルティの身体中に浸食していくおぞましい黒い紋様。呪いによって冒された我が娘は教会に運び込まれ、浄化されて一命を取り留めた。浸食を放置すると今日中に死に至ったそうだ。命は助かったが、娘の顔から太股に至るまで、呪いの跡が残り、とても可哀想な姿となってしまった。

 

「お父様っ、あの憎き小娘を血祭りにあげてください!」

 

 マルティが包帯が巻かれた顔を押さえながら、必死に告げてくる。顔は包帯の上からでもわかるほど、醜く変形しており、これでは嫁の貰い手もいないだろう。ましてや子宮も呪いでやられているため、子供を生むことすらできない。女の幸せを永遠に受け入れることができない身体にされてしまったのだ。

 

「うむ、任せよ。あの小娘は盾の悪魔と同じく、我が国の騎士団と三勇教の司祭達が滅ぼしてくれるはずだ」

「そうよ、そうね」

「それよりも、宴はどうする?」

「参加します。勇者様達にもお願いをしないといけませんもの」

「わかった。辛いだろうが、頼むぞ」

「必ずやり遂げてみせますわ」

 

 愛しい娘の手を取って会場に向かう。現在、わしは宴を二つ開いておる。一つは、剣と槍の勇者を招いている本当の宴。ここには本来なら弓の勇者も呼ぶはずだったのだが、弓の勇者は魔女によって負傷し、治療を受けている。回復できるかどうかはわからぬが、呪いみたいな症状らしいからな、三勇教に治療させればよい。

 

 

 

 

 宴が始まり、槍の勇者である元康殿と剣の勇者である練殿を招き、他にも様々な貴族が集まっている。楽しい宴をしており、ワインを片手に談笑している。

 元康殿は我が娘のことを気にかけて世話をしてくれている。メルティは心配ないが、マルティはこの先が心配だ。このまま元康殿とくっついてくれればよいのだが……

 練殿は壁に凭れながら、料理を楽しんでいる。その周りに女達がいるが、興味がないようだ。しかし、弓は残念だったが、これで盾とあの意味のわからんクソガキは殺せるだろう。

 そう思っていると地面が揺れる。どうやら、始まったようだな。

 

「なんだこれは?」

「凄い揺れだな」

「なんでもありませんわ」

「いや、断続的に凄い音がしているが……」

 

 勇者達がテラスに出て外を見る。ここから少し離れた場所に大きな穴がでてきる。砂煙が発生してよくみえない。すこし待つと砂煙が晴れて、そこに盾と魔女が健在なのが見て取れる。裁きですら、倒し切れないとは、驚きだ。だが、甘い。

 わしは手で指示を出して三勇教徒の兵士達を向かわせる。我が兵士と神官達が協力すれば成長しきっていない二人の勇者など容易く倒せるだろう。

 

「あれは尚文とアリスちゃんか?」

「そうだな。微かに見えるが間違いない」

「あ、あの者達は攻めてきたのですわ! 私や弓の勇者様を亡き者としようとして……」

「うむ。奴等は民を扇動して反乱を起こそうとしておった。説得をしたのだが、聞いてくれぬ」

「本当なのか?」

「はい。現に私達は殺されかけたじゃありませんか!」

「そうだな。よくわかってないが、二人が大怪我をしたのは事実だ」

「確かにそれはそうだが……」

「どちらにせよ、すぐに鎮圧されるでしょう」

 

 そう告げた瞬間。魔女が箒に乗りにながら魔導書になにかすると、無数の金属でできたゴーレムが現れ、蹂躙していく。なんだあれは……モンスターを召喚したというのか? いや、それにしては召喚で使われる魔力の消費量が明らかに少ない。それにあれだけのゴーレムを操るなど、できるはずがない。これではまるで波ではないか! 

 

「アレは召喚魔法か?」

「だろうな。魔導書の勇者……それはつまり、魔法そのものを扱うということなのだろう」

「やばいぞ、アレ! ゴーレムの奴、騎士の人達を殴り殺してやがる!」

「っ!?」

「勇者様っ、どうかあの二人をお止めください! このままでは大変なことになります!」

「ど、どうかお願いしますわ!」

「止めに行くぞ」

「おう!」

 

 勇者の二人が飛び出していく。わしはマルティを見る。

 

「これであの二人は確実に敵対致しますわね」

「うむ。わしらが殺したら問題だが、勇者が殺したのなら話は別だ」

「私の顔を、身体をこんなにしてくれたんだから、その報いは受けてもらわないとね」

「そうじゃな。吉報が届くまで宴を続けるとしようか」

「ええ、そうですわね」

「皆の物。今宵は憎き悪魔共を殺せるのだから、大いに飲んで騒ごうじゃないか!」

 

 玉座に座り、酒を飲む。マルティも隣にあるミレリアの席に座って飲んでいく。これで我等は安泰じゃ。

 

 

 

 三十分ほど飲んで騒いでいると、轟音がして窓が吹き飛んだ。

 

「なんじゃ!?」

 

 

 吹き飛んだ窓の場所にできた穴から見えたのは四つの腕のような足のような物がある金属の空飛ぶゴーレム。その上に乗っている盾と魔女。四つの足には勇者二人と教皇が掴まれていた。

 

「くそっ、使えない勇者ね!」

「まったくじゃ!」

 

 見たこともないゴーレムに乗って入ってきた魔女達は、すぐに飛び降りて黄色の外套をはためかせながらこちらに歩いてくる。魔女は魔導書を開き、盾の悪魔は盾を構えて戦う準備をしている。盾の悪魔は楽しそうに笑ってこちらをみていた。わしは怒りに顔が真っ赤になって叫ぶ。

 

「何をしている! 盾の悪魔を殺せ!」

「そうよ、確実に殺しなさい!」

 

 残っていた近衛騎士団に命令し、わしらの前に立たせる。わたしも魔法を準備して何時でも攻撃できるようにする。近衛騎士が突撃し、剣で斬りかかっていく。だが、盾の悪魔に防がれる。他の近衛騎士達も連携していくが、全て弾かれる。攻撃力が足りないようだ。

 

「力の根源たる王が命ずる。真理を今一度紐解き、かの者達に我が国の怨敵を撃ち滅ぼす力を──アル・ドライファ・パワー」

「無駄な足掻きだな」

「そうですね」

 

 開かれた本から白い大蛇が飛び出してきて近衛騎士達の上半身を数人纏めて鎧ごと食い千切る。千切れたた身体が床に落ち、噴き出した血が絨毯を染めていく。

 

「シロ、そんな汚物を食べてはいけませんよ。ぺっ、してください」

「シャっ」

「良い子です」

 

 白蛇は口に咥えていた近衛騎士の上半身を頭を振って吐き出し、他の近衛騎士や貴族達にぶつけていく。それだけで騎士は吹き飛び、貴族は死に絶えていく。

 

「おのれっ、悪魔めっ!」

「こんなことをしてただで済むと思っているの!」

「それはこちらの台詞なんだがな……」

「~♪ ~~♪」

 

 魔女は楽しそうに歌いながら、魔導書を片手にして手に持つを箒を振っていく。すると死んだ者達の身体から青白い光がでてきて箒に集まっていく。それを魔導書に叩くと中に入り込んでいくように光は消えた。

 

「止めるんだアリスちゃん! 君はこんなことをする子じゃないだろう! 尚文の言う事なんか聞かないで、今すぐ止めるんだ!」

「そうだぞ! こんなことをするなんて、勇者として、人として恥ずかしくないのか!」

「そうよ! 何を考えているのよ!」

「そうじゃそうじゃ! この様な行い、勇者として認められぬ! 大方盾に洗脳されているんだろ!」

「くそっ、放せっ、放せ」

「うぉおぉぉぉぉっ!」

「おのれっ、盾の悪魔めぇえええええええええぇぇぇっ!」

 

 捕まっている三人が必死に抵抗する。剣と槍の二人が互いに武器で押さえつけているモンスターを攻撃するが、弾かれている。

 

「鉄壁とリフレクター中のメタグロスにそんな強化もちゃんとできていない武器など効きません」

「防御力を2ランク上げて、ダメージは2/3カットか」

「はい。これで攻撃はほぼ通りません」

 

 言っていることはわからぬが、特殊な魔法でも使ったのだろう。これは騎士達にかけるよりも勇者にかけるべきだったか。

 

「力の根源たる王が命ずる。真理を今一度紐解き、かの者達に力を与えよ。アル・ドライファ・パワー」

「力の根源たるアリスが命ずる。真理を今一度紐解き、かの者の魔力を封じてください。アル・アンチ・パワー」

「むぅっ!」

 

 こちらの魔法が発動したタイミングで消された。前と同じ魔法を唱えたのは失敗だったか。くそっ、杖さえまともに動けば……

 

「こっちも忘れるな」

「ぐっ!」

「お父様っ!」

 

 盾の悪魔に蹴り飛ばされ、壁に叩きつけらる。衝撃で一瞬だけ意識を失ってしまった。気が付くと、見た事がない鉄足のモンスターが空いた手でわしを持ち上げて、盾の悪魔の所まで運んでいった。

 

「離せっ、離せぇぇぇっ!!」

「悪魔めぇぇっ!」

「くそっ、動けねえ!」

「な、尚文っ」

「あはははは、良いざまじゃねえか!」

 

 盾の悪魔は床に押さえつけられた儂の頭を踏みつけて高笑いをしてくる。せめてマルティだけでも逃がそうと視線をやると、そこには死体になった近衛騎士達が起き上がり、マルティを押さえつけていく。

 

「なっ、何をしているんだアリスちゃん!」

「? 何って実験ですよ。死霊魔術って使ったことがなかったので、ちょうど試しているのです。それに死者蘇生を使ってあげたい人がいまして……えい♪」

 

 魔女が聞いた事もない言語で呪文を唱えると、近衛騎士の死体が塩になる。それをもう一度唱えると今度は元の身体に戻った。

 

「お、俺はこ、殺されたはず……」

「なるほど、成功ですね。しかし、完全な蘇生には至っていない。再生させた魂の量は同じですが、身体は欠損部分があるとその分が皺くちゃになる。このままでは使えませんね。なら、あるところから持って来て、後はもう一度唱えたら塩に戻るはずですから、それを防ぐ補強と……」

「おい、普通にクトゥルフ神話の魔術を使って実験するな。俺までおかしくなるだろう」

「あ、すいません。ちょっと生き返らせたい子が居たので……まあ、概ねわかりました。それより、尚文おにーさん」

「なんだ?」

「私、貸しがありますよね?」

「ああ、そうだな。誠に遺憾だがな」

「でしたら、これからする私のお願いに“はい”か“イエス”でお答えください」

「選択肢がないじゃないか」

「そうですけれど、メリットがありますよ。この人を苦しめられます」

「なるほど。いいだろう。具体的には何をするんだ?」

「この世界の為の生贄になってもらいます。この王女様は特別なんですよ」

「そうよ! 私は特別なの! だから、助けなさい! 私だけは絶対に!」

「はい、助けてあげます。王女様」

「おい」

 

 マルティが助かる? 魔女は魔導書を開きながら、何をかを唱えていく。嫌な気配しかしない。

 

「な、なんだ?」

「こ、これは……まさか!」

「やばい気配しかしないぞ」

「な、何をする気よ!」

「尚文おにーさん。この世界の波の秘密って知ってますか?」

「そんなの知る訳ないだろう」

「ですよね。この世界の波は神を自称する不老不死の存在によって巻き起こされています。彼女の目的は酷く身勝手なものです。しかし、彼女のような力ある存在が世界に現れるには土台が必要です。そうでないと世界に入ることができません。入口が小さいからです」

 

 こいつは何を言っている。まるで波の全てを知っているかのように……

 

「では、入口が小さければどうすればいいか……わかりますよね?」

「広げるか、小さくなればいい」

「はい。でも、彼女は小さくなる気なんてありません。ですから、広げることにしました。彼女が通ることのできる穴は一つの世界では足りません。そこで考えました。彼女は世界を融合させ、広げてしまおうと。さて、世界からしたらみすみす侵入されて好き勝手されるわけには行きません。そこで世界は自らの分身となる精霊を宿らせた武器を作成します。これが伝説の武器です。世界一つの力を内包するその武器はまさしく切り札と呼べます。しかし、これだけでは足りないので眷属の武器を二つ作りました。これが世界の限界だったのです」

「まて、その話は俺達が持っている四聖武器の話か?」

「だが、それだと数が少なくないか? 三つあるぞ? それに眷属器?」

「待て、その話だと一つだけしか四聖武器がないはずだ……そうか、広げる。つまり、世界をくっつけたのか」

「そうです。波とは世界と世界が融合する現象。これによって遥か昔にこの世界は別の世界と一つの世界となります。続いて千年前でしたか? よくわかりませんが、また波が起こりました。この時、二つの世界が融合した世界同士が波により融合されます。この証拠にこの国がある場所には過去に遡ると剣と槍の伝説が詳しく載っています。ですが、その反面、盾と弓についてはほとんどありません。これがシルトヴェルトなら逆に弓と盾のことが詳しく載っています」

「元々別の世界だと? そんなことが信じられるはずが……」

「調べてみないとわからないが、どうなんだよ、教皇さんよ」

「それは……」

「どちらにせよ、そいつがやってくるのは八つの世界が融合した時です。つまり、今回の波ですね。四聖武器八星武器。一つは失われているようですが、場所は知っています。簡単に言えばこれが終末の波。そして、それを手助けするために相手は自らの尖兵を送り込んできます。転生者や転移者。また、自らの分身を権力者の娘にします。それがこのマルティ王女です」

「ふざけないで!」

「馬鹿な! そんなこと……」

 

 マルティが波の主犯だと? そんなことあるはずがない! 

 

「まあ、どちらでも構いません。私としては主犯と繋がっていればよいだけです。違っても別に問題はありませんから」

「お前、何をする気だ?」

「相手は神様ですよ。神様。ですから、神様には神様の相手をしてもらいます。空間とか平行世界、概念を操る存在には勝てません。ですから、同じ存在をぶつけます。ここでやったら、危ないのでこっちでやりますが」

「俺へのお願いってなんだ?」

「ああ、それはまた別です」

 

 このままではまずい。そう思っていると、扉が開かれてここにはいないはずのミレリアとメルティが入ってくる。二人は外交の為にでていたはずだ。帰還なんて聞いてない。

 

「お父様っ!」

「誰だ? お父様ってことは娘か」

「お二人が盾の勇者様と魔導書の勇者様ですね。そちらに居るのは剣の勇者様と槍の勇者様。そして、我が夫と娘ですね。私はこの国の女王、ミレリア=Q=メルロマルクです。こちらが娘のメルティ=メルロマルク」

「お、お父様を離しなさい!」

「嫌だね」

「なっ!」

「ミレリア! 助けてくれ! いや、今すぐこいつらを殺すんじゃ!」

「お断りします。そのままで構いませんので話を聞いてください」

「断る。俺達になんの得がある?」

「あります。なぜなら、この国はもうすぐ無くなりますから」

「なんじゃと!」

「シルトヴェルトが国境を越えて攻めてきました」

 

 おのれ、亜人めっ! 今度こそ根絶やしにしてくれる! 我が妹の仇、必ず取らせてもらう! 

 

 

 



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34話

 

 

 この国の女王であるミレリアさんと青髪ツインテール美少女のメルティがやってきた。やっと戻ってきたと思ったら、彼女達が告げられたのは私には想定外のことだった。

 シルトヴェルトが国境を越えて攻めてきた? いやいや、そんなはずはない。だって、そこまで善行は積み上げていないし、食料問題も解決していない。それにシルトヴェルトに向かってもいない。

 

「なんで、なんで……」

「おい、アリス。戦争は起きないんじゃなかったか?」

「そっ、そのはずです。国外に知らせると言っても、あくまで脅しでなにもしていませんよ!」

「それでしたら簡単です。あの場には我が国の者以外にも居たのですよ。その人達が国外に伝えました」

「ああ、確かに演説かましてたな。大通りで」

「あっ、あぁぁっ、私の、アリスのせいですか!」

「だろうな」

「そうよ! 貴方のせいで戦争が起こったのよ!」

「貴様等のせいだ! 大人しく消されておけば!」

「お前等は黙れ」

 

 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。これから霊亀や鳳凰、応竜や麒麟といった連中が控えているのに戦争が起きたら戦力がかなり減ってしまう。私の計画通りに進めば問題はないけれど、うまく行く可能性なんて低すぎる。ただでさえ弓の勇者を再起不能にしてしまたかも知れないのに……ごめんなさい。ごめんなさい。

 

「どうやら、戦争は起こすつもりがなかったようですね。もう少し周りの事を考えて発言はしてほしかったのですが……子供ですから仕方ありませんね」

「ご、ごめんなさい」

「さて、勇者様方。まずは謝罪をさせてください。我が夫と娘が大変ご迷惑をお掛けしました。謹んでお悔やみ申し上げます」

「お父様と姉上がごめんなさい!」

「こやつらに頭を下げる必要など──へぶっ!?」

 

 二人が頭を下げて謝ってくる中、魔法で王様が氷漬けにされた。流石は女王陛下。メルロマルクを導く人だけはある。政治的なことはこの人に任せれば大概はなんとかなる。

 

「で、お詫びされても困るんだが?」

「わかっております。ですが、その前に戦争を止めることの方が先決です。ご理解いただけないでしょうか?」

「わかった。アリスもいいよな?」

「もちろんです。女王陛下がお戻りになられたら、全面的にお任せします」

「信頼度半端ないな」

「そこまで信頼して頂けるのは嬉しいのですが……」

「お母様だから当然よ!」

「メルティ、アリス様。現状でメルロマルクが戦争をせずに回避する方法がございます。それはなんでしょうか? シルトヴェルトが先行していますが、後方にこの世界の最大国家であるフォーブレイも出兵の準備を行っております」

 

 女王陛下が私とメルティ王女に聞いてくる。これは私のせいだし、しっかりと考えて答えよう。まずはシロを呼び戻して、頭を撫でてあげながら考える。

 まず、攻めてきたのはシルトヴェルトの連中。その背後にフォーブレイが居るけれど、これはまあいい。彼等は盾の勇者を助けるためということで侵攻してきている。これは恐らく、信仰の対象である盾の勇者だから。だが、一部の者達はこれ幸いとして攻めてきているはず。なら、やることは簡単。

 

「大義名分を消せばいいのよね?」

「そうです」

 

 メルティの言う通り、大義名分である尚文おにーさんが彼等の前に立って宣言すればいい。一部の者達は拒否するだろうけれど、大多数の者達は信者でしかない。だから、尚文おにーさんの言う事は聞いてくれる。もっとも、偽物扱いをされる可能性があるから、ある程度は戦う必要があるかもしれない。ただ、今の事態から考えてそう簡単にことは運ばない。

 

「でも、それだけじゃ弱いです」

「え?」

「シルトヴェルトだけならそれでいいです。でも、それ以外の国の軍も集まってきているんですよね?」

「そうです。シルトヴェルトを中心にした連合軍です」

「最大国家であるフォーブレイなら、シルトヴェルトのかわりもできるな」

「そういうことですね。では、そのことを踏まえて解決する方法はあるでしょうか?」

 

 女王陛下はメルティの後ろに回り、肩に手を乗せる。これでわかった。私が考えていたことと同じだ。メルロマルクを残し、如何に私達にとって都合よくするかという方法。フォーブレイはできない。あそこには裏切り者である勇者を騙る波の尖兵タクトやフォーブレイの国王である豚さんもいる。彼は敵ではないかもしれないが、問題はタクトの方。奴はグリフォンや竜帝と呼ばれる強力なドラゴン、様々なモンスターを連れている。それにすでに爪と槌の勇者は殺されている。そんなところに行くつもりはない。

 シルトヴェルトはシルトヴェルトで信仰されていることによって様々な鬱陶しいことが起こる。具体的には毒物を使った尚文おにーさんの近くにいる女の暗殺とか、尚文おにーさんを種馬にした後は殺そうとしたりといったことが起こる。なのでシルトヴェルトに行くのも駄目。あそこに行くとハクコの可愛いアトラちゃん達がちゃんと生活できないかもしれない。他には傭兵国も候補に上がるが、権力を手に入れるならメルロマルクが都合がいい。今なら腐敗を一掃はできないまでも綺麗にできるし。

 

「尚文おにーさん、さっきのお願い。まだ有効ですよね?」

「まあな」

「じゃあ、尚文おにーさんには彼女、メルティさんと結婚してこの国の王様になってください」

「「「「はぁっ!?」」」」

「なるほど」

 

 私の提案に本人である二人と王様、マルティ、二人の勇者達が驚く。女王の方はなるほどとか言っているけれど、ニコニコと笑っている。

 

「ああ、裏切られるのが嫌なら、彼女を奴隷にしてもいいですよ。マルティの代わりに好き勝手に虐めてもいいですし」

「ひぃっ!? お、お母様!」

「いいですよ。なんなら私も奴隷になって支えましょう。メルティのことは子供さえ産んでくれれば好きになさってくださって構いませんから」

「ちょ!?」

「狂ったかミレリア!」

「いいえ、正気です。盾の勇者様がこの国の王となることで、シルトヴェルトは即座に軍を引いてくれるでしょう。いいえ、それどころか同盟としてフォーブレイの抑えにも加わっていただけます」

「な、なんで私なの! 姉上だって……」

「あ? こいつと結婚なんて絶対に嫌だな。お前とだってそうだ」

「「私だってお断りよ!」」

 

 王女二人が怒っていますが、まあ残念ながら選択肢はありません。

 

「尚文おにーさんには彼女なら大丈夫ですよ。良い子ですし、姉とは全然違います」

「だが……」

「それによくよく考えてください。この国を、このクズの王様の前で好きなように作り変え、ましてや大事な娘を玩具にだってできるんですよ? これってとっても素晴らしい復讐になりませんか?」

「考え方が下衆だが、確かにいいな。しかし、妹にまで累を及ばせるのか?」

「この時代、連帯責任は当たり前ですよ。それに彼女にとっても得はあります。ですよね、女王様」

「え?」

「いいですか、まずこのままだと確実に我が国は滅びます。そうなるとおそらくシルトヴェルトとフォーブレイに統治されるでしょう。夫はシルトヴェルトの者達に殺されるでしょう。マルティはもちろんのこと、私やメルティはフォーブレイの王に差し出されるでしょう」

 

 その言葉にメルティとマルティが顔を青くして震えだしていく。フォーブレイの王はこの国の王の13歳年上の兄だ。かなり醜悪な外見の持ち主で、メルティからは豚の化け物、女王からは肥え太った豚と内心思われている。女を快楽のために拷問するのが大好きで、フォーブレイの王に嫁ぐことが女貴族の処刑方法になっているのだ。暗躍や保身などその辺りはかなり優秀だ。それとマルティはこれ以上目に余る事を仕出かしたら嫁がせるつもりだったらしく、一万人目の玩具として歓迎しているし、四聖勇者の触媒を三勇教がすり替えて盗み取り、フォーブレイで召喚されるはずだったこともマルティかメルティを差し出すことで許してくれると話はついていた。当然、次期女王として優秀なメルティを残すので、マルティが差し出されることになる。

 

「いっ、いやっ! それだけは嫌よ!」

「あんなのに捧げられるなんて、死んだほうがましよ!」

「なんなんだ?」

「えっと、フォーブレイの王はですね……」

 

 私は尚文おにーさんやこの場にいる人達に説明をしていく。それがただの結婚ではなく、犯されて殺されることもしっかりと。

 

「まじかよ……」

「うわぁ……」

「ないな」

 

 勇者三人で驚いている中、周りをみるといつの間にか教皇の奴がルクスに押さえ込まれて気絶していた。彼の身体を確認してみると、結構な失血をしていた。まだ死なれると困るので、治療だけしておく。王様の方は女王陛下に任せればいい。

 

「というわけで、尚文おにーさんにはメルティ王女を貰ってもらいます。それとも、まさかこっちがいいですか?」

「絶対に御免だ。だが、お前、メルティだったか。お前はそれでいいのか?」

 

 尚文おにーさんがメルティに聞きますが、これはすでに選択肢なんてないのだ。

 

「か、構わない……ううん、お願い。あんなの犯されて殺されるのなんて嫌なの……そ、それにこれは国の、国民のためでもあるし、うん。大丈夫」

「国民の為か」

「それが国民の血税で生きている貴族の、それも王族なら当然だもの」

「わ、私を選んで。そんなちんちくりんより私の方が……」

「はっ? 何言ってんだ。お前なんかを選ぶわけないだろ。地獄に堕ちろ」

「おまぇええええええぇぇぇぇっ!」

「諦めなさい。あなたが仕出かしたことです。大人しくフォーブレイに行きなさい」

「いえ、彼女はこちらでもらいます」

 

 聖印であるブローチを握り、召喚の呪文を唱える。呼び出すのはハスター。願うのは女神と名乗る存在の欠片であるこいつを生贄にしてハスターの父親であるヨグ=ソトースへの仲介。ヨグ=ソトースへの代価は女神の力。ハスターの方で倒せるならそれでもいいけれど、無限とか平行世界とか、即死とか絶対命中とか平気で操ってくる存在だからね。

 

「なっ、なによこれっ! いやっ、いやぁぁぁっ! やめっ、やめなさいいいいいっ!」

 

 私が作り出した魔法陣から無数の触手が現れて、マルティを飲み込んでいく。彼女が消え去った後にはカランッと音が響く。そこにはイスラム美術で使われる奇妙なアラベスク模様に表面が覆われた、長さが5インチ(12.7センチ)近くある大きな銀の鍵が落ちていた。私はそれを拾って魔導書に入れようとすると弾かれた。しかたないので鎖でペンダントとして首にかける。これは私にとって切り札となるだろう。ただし、開いたら最後。多分死ぬと思うし、まともなことはできないだろう。どちらにせよ、ヨグ=ソトースへの門を開く鍵が手に入った。

 

「これは普通に殺されるよりもとんでもないことになったな」

「貴様、マルティをどこにやった!」

「生贄にしました。そもそもアレは波の元凶の欠片ですから、この世界を救うために使わせてもらいます」

「構いません。ですが、フォーブレイをどうするかという問題があります」

「それなら私が交渉してきますので大丈夫ですよ」

「わかりました。それではこの人の処分ですが……」

「それなら、奴隷紋を入れて幽閉しておいてください」

「あとどうせなら名前も変えよう。クズにな」

「わかりました。手配しておきます」

「ミレリア!」

「五月蠅いですよ、クズ。さて、盾の勇者様はすぐにシルトヴェルトを止めに行ってほしいのですが、メルティ。あなたに奴隷紋を入れるので、それから一緒に行ってきてシルトヴェルトの連中に見せてやりなさい。それで相手側は納得するでしょう」

「わ、わかりました」

「入れる必要はあるのか?」

「あります。これは私達が裏切らずに盾の勇者様に隷属することを示すためですから」

「シルトヴェルトの説得に使えるということか。移動は……」

「私のルクスを使ってください。二人乗りができますからね」

「ああ、わかった」

 

 その後は奴隷紋を仕込んで、二人の主人は尚文おにーさんで、クズの主人は女王陛下になった。女王陛下に権限が設定されているだけで、クズは尚文おにーさんのになるかもしれない。ちなみにメルティと女王陛下はほぼ制限を設けていない。

 

「メルティ、頼みますよ」

「はい。任せてください」

「大丈夫だと思いますが、やばくなったらポータルで戻ってきてください」

「そっちはどうするんだ?」

「私は勇者二人の説得と、もう一人の勇者の治療をします。なので戦争を止める方はお願いします。砦の前に立つと砦から攻撃される可能性があるので気をつけてください」

「わかった。行ってくる」

「ルクス、お願いね」

「……任せて……乗って」

「おう」

「お邪魔します」

 

 ルクスに乗って飛んでいく二人を見送り、まずは教皇の捕縛から。こちらも奴隷印を入れて強制的に吐かせるらしい。この辺はもう女王陛下にお任せする。

 

「では、後は全部お任せします」

「そちらも勇者のことをお願いします」

「はい。というわけで、OHANASHIしましょう」

「それでしたら会議室を用意しますので、そちらでどうぞ」

「ありがとうございます」

 

 解放された二人を連れて移動し、しっかりと話していくことにする。まず向かい合って座りながら話していく。どうせ信じてくれないだろう。

 

「まず、錬さんと元康さんには私達の強さの秘密を教えます。聖武器には強化方法が20個あります。これは四聖武器が一つにつき3個。八星武器が一つにつき1個あるからです。イレギュラーな私のを含まずにです」

「そんなのヘルプにはなかったぞ」

「ああ、間違いない」

「それはそうでしょう。まず、これは信頼してあると確信して行わなければできません。ですので、手っ取り早く、私が今から使う魔術を受け入れてください。それで使えるようになりますから」

「断る。そんなことは信じられない」

「俺も嫌だな」

「そうですか。元康さん。ここに天使さんから預かった卵があります。天使さんの育て方、知りたくありませんか?」

「なんだと! 本当か!」

「本当です。私のことを信じて、私達の味方になるのなら、天使さんことフィトリアも紹介しますし、その子供である卵も差し上げましょう」

「うぅ……」

「おい、騙されるなよ」

 

 やっぱり信じてくれませんね。しかたないです。でも、ムカつくのでジュカをぷにぷにして紛らわせる。

 

「騙していませんよ。正直言って、貴方達はこのままだと弱すぎて、レベルが高いだけの役立たずになります。それは困るのですよ。ですから、梃入れさせていただきます」

「俺を騙そうとしてもそうはいかない。お前は怪しすぎる。なぜ波の事に詳しい? それはお前が波を起こしている黒幕だからじゃないか?」

「違いますが、似たような存在かもしれませんね。私は世界と世界を旅する旅人です。この世界には私と関係ある神様が修行として送り込んできました。最初の私がその神様です。神様はこの世界を修行の場にする代わりにこの世界を助けることを頼まれました。ですから、初めから知識を与えられています。ぶっちゃけて言うと、私は攻略本を持っているということなのですよ。お分かりいただけますか?」

「……ずるだろ」

「ずるい!」

「はい、ずるいですね。だから、貴方達にもあげます。尚文おにーさんはこの通りの方法で強くなりましたよ。あと一ついいますが、この世界はゲームではありません。攻略本とかいいましたが、確実ではありません」

「矛盾しているぞ」

「ふむ。もっとわかりやすく頼めるか?」

「わかりました。ゲームに例えると、これはデスゲームです。難易度はハードを越えたルナティック。そこら中に即死トラップが仕掛けられています」

「「っ!?」」

「このルナティックは狂った難易度という説明です。さて、先程世界のことを説明しましたね。なぜ全種類の強化をできるかといえば、アップデートされたからです。世界と世界が融合することで法則もまじりあいます。つまり、私と尚文おにーさんの武器は11段階追加でアップデートされた強さです。お二人のは1段階だけです。で、1世界しか知らない二人はボスもゲーム通りの強さと思いますか?」

「ま、まさか……」

「11回アップデートされたなら、強化されているということか……」

「その通りです。はっきり言って、レベルだけ上げても飾りです。レベルを下げることで資質を向上させてステータスを上げたりできますからね。このままじゃ本当に死にますよ。別にゲームだと思ってくれてもいいですが、ここは知っていることも適応されている未知のゲームだと思ってください。貴方達の知っているゲームが一作目だとしたら、これは12作目です。それも全部を合わせてリメイクされてデスゲームになった作品です。そして、敵には転生者や転移者といった波の尖兵もいます。まあ、私と似たような存在ですね。こいつらは敵から派遣されているので妨害してきます」

「やはりお前が敵の可能性があるじゃないか」

「まあ、否定はしません。私にとって私とアリスの大切な子達が生き残ることが最優先です。ですから、お二人が邪魔になったら殺して再召喚するかもしれません」

「やはり……」

「まあまあ、落ち着けって。アリスちゃん。まずは俺から試す。俺はアリスちゃんのことを信じるからな」

「いいんですか? マルティに騙されたばかりでしょう」

「ああ、構わない。俺は……君を信じる」

 

 元康さんに教えましょう。

 

「わかりました。では、受け入れてくださいね」

「ああ、どんとこい!」

 

 受け入れてくれているので、魅了の魔眼を使って自らかかってもらえた。これで私の言葉を信じる彼ができた。その信じた心で強化していってもらう。

 

「どうですか?」

「できた。本当にできたぞ、錬! ヘルプにも追加された!」

「嘘だろ。信じられない!」

「だったら、戦ってみてください」

「わかった」

 

 インスタントダンジョンを作成してそこに放り込む。そこで二人で戦ってもらうと元康さんが圧勝した。でも、それでも認められなかったので、さらに強化して戦ってもらう。

 

「これで認めてくれますね?」

「わかった。俺も受け入れよう」

 

 流石に受け入れたようなので、こちらも魅了して覚えてもらう。魅了の魔眼を解除しても一度ヘルプ項目にでているので問題ない。

 

「これが前提の敵がでますので、日々精進を怠らないでください。霊亀の封印を解くのはもっと駄目ですからね」

「わかった」

「ああ」

 

 さて、しっかりと二人に言い聞かせて教え込んでいきます。

 

「このインスタントダンジョン、便利だな」

「まったくだ」

「さて、続いてお二人の問題を教えますね」

 

 二人の弱点も伝えて強化していく。錬は駄目なところを任せるために育成を手伝ってもらう。元康さんも同じだ。そう、フィロリアルの育成を……

 

 

 

 



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メルティ

 

 

 

 

 

 フォーブレイに居た私とお母様は影に知らせられた情報からすぐにメルロマルクに飛竜などを使い潰すような速度で戻った。その途中で教えられたのはお父様と姉上がとんでもないことをしでかした事と、勇者のお二人が民を扇動してクーデターを起こすような発言をした事。これにを潜んでいたシルトヴェルトの影が本国に報告し、シルトヴェルトは戦争を開始する。元々何時でも攻められるように準備はされていたのだけど、波によって中止になっていた。中止の間も波対策ということである程度は維持されていました。それだけならまだどうともなりましたが、シルトヴェルトは他の国々にも伝え、勇者様達が姉上を世界の敵認定したことを理由に連合軍を結成。その上で僅かな時間をもって攻めてきたのです。

 私とお母様はそのことを城に到着する直前に知りました。同時に城でも既に勇者様達による戦いが始まっていて、私達が突入するころにはすでに終わっていました。

 それからお母様に言われたのは今回の原因の大半がはお父様と姉上にあり、小さな勇者様がうっかりしていたせいでもあるようです。私とお母様、お父様は奴隷になることでなんとかこの国を助けることができるみたいでほっとしているの。

 

「おい、大丈夫か?」

「は、はい、大丈夫です……」

 

 緊張しながら私を抱きしめている盾の勇者様、私のご主人様に返事をする。私は今、見た事もない使役されたモンスターさんに乗せられ、後ろから抱きしめられるようにして設置された席に座っている。このモンスターさんは空を凄く速くて飛んで驚くことばかり。飛竜よりも速いのがわかる。風圧が凄くて、ご主人様が盾で守ってくれないとすぐに振り落とされてしまいそう。

 

「そうか。方角はこのまま進めばいいのか?」

「そうです。このまま行けばシルトヴェルトとの国境に到着するはずです……」

 

 ご主人様の手は片手が私のお腹に回され、もう片方の手が手綱を持っています。これからどうなるかと思うと不安でしかなく、とっても怖い。盾の勇者様は姉上の事が大っ嫌いだし、それは私も同じだけれど、姉上にしようとしていた復讐を私が肩代わりしなければいけないとなると、心の底から恐怖が湧き上がってくる。でも、我慢するしかない。私が必死に耐えれば、メルロマルクは生き残り、国民は助かるのだから。それが王族の役目。後、豚に犯されて殺されるのだけは絶対に嫌。それならこちらお方がまし……になるといいな……その前に、確認だけはしておかないと。

 

「あっ、あの、ご主人様……」

「なんだ?」

「わっ、私の立場でこんなことを言うのは駄目なのはわかっていますが、お願いがあります……」

「なんだ? 聞くだけは聞いてやる。どうせ暇だからな」

「はっ、はいっ、ありがとうございます……」

 

 と、とりあえず、話は聞いてくれるだけの度量はあって良かった。これから酷い目に合うだろうけれど、こればかりは約束してもらわないと駄目だから。

 

「まず一つ目は亜人の人達だけでなく、人も平等に扱ってください」

「当たり前だ。差別するつもりもない。世界の危機だってのにそんなくだらない事をしている方がおかしいんだ」

「良かった」

 

 ご主人様は怖い人みたいだけれど、優しいところもあるみたいね。敵にだけ容赦しない人なのかも知れない。でも、そうなると一番警戒するのはあの金髪のちびっ子勇者様。子供のせいか、考えが足らずに発言してるし。戦争を起こすつもりがなかったって、それならあんなところで民を扇動なんてしないでよ! せめて城でしなさい! ってすごく言いたかった。

 

「税金とかは……」

「そのへんのことはわからないから、女王に任せる」

「いいの、ですか?」

「国の事など素人の俺がやるより、アリス曰く優秀らしい女王に任せる方がいい結果になるだろう」

「そっ、それもそうよね! あっ……」

 

 つい敬語を忘れてしまった。これは罰を与えられるかも……

 

「敬語とかは使わなくていいぞ」

「いいのですか?」

「ああ、構わない」

「ありがとう、ご主人様」

「ご主人様も止めろ。尚文でいい。俺を裏切らなければそれでいい」

「ナオフミ様……」

「様も止めてくれ」

「わかった。それで、もう一つお願いがあるの。私、その、はっ、初めてだから、最初は優しくして欲しいの……その、その後ならひどいことをしてもいいから……」

 

 考えるだけで涙がでてくる。一度、姉上に拷問をしているところを見せられたけど、あんなに鞭を打たれるのなんて身体が震えてくる。

 

「お前、自分と国民ならどっちを選ぶ? 命令だ。嘘偽りなく答えろ」

「国民だけど?」

「本心でか?」

「うん。それが王女の、王族の役目でしょ?」

「嘘じゃないみたいだな。どうやら、本当にあのビッチとは違うようだ」

「ビッチって姉上のこと? 正直、姉上と一緒にして欲しくないのだけれど……これから姉上のせいで酷い目にあうのに……」

「わかった。名前、なんだったか……」

「メルティ。メルティ=メルロマルクよ」

「わかった。メルティ、お前がどう思っているか知らないが、拷問なんてしない」

「ほ、本当に?」

 

 それが本当なら、凄く嬉しい。後は身体を重ねることだけだし、そっちはいい。子供を生むのも王族や貴族に生まれた娘の役割だし。

 

「ああ。まあ、それに子供だし手を出すつもりもない」

「待って、それは待って」

「どうしたんだ? お前……メルティも好きでもない男の子供を生むのは嫌だろう?」

「何を言ってるの! それだと駄目なのよ! ナオフミがどう思ってるか知らないけれど、ナオフミとの子供ができないとメルロマルクや私は終わりなの! 盾の勇者様の子供を宿すことで許されるようなものなんだから!」

「だが……」

「それに、好きでもない人と結婚するのなんて当たり前なんだから」

「ああ、貴族や王族って政略結婚が当たり前か」

「そうよ。それにこれからの事を考えると私とナオフミの子供は絶対に必要なの。だから、ナオフミは気にせずに私のことを好きにしていいの。私はちゃんとナオフミと子供に愛情を注ぐから……お願い」

 

 私がナオフミの子供を生まないと、延命だけになって禍根が残る。ナオフミが存命中なら、シルトヴェルトとは戦争は起こらないだろうけれど、それが終わった後は恐らくまた戦争になる。

 

「未来の事を考えたら必要か」

「ナオフミが嫌なら、子供さえくれたら捨ててもいいから……」

「メルティにとって、本当に国民の方が大切なんだな」

「そうだけど、悪い?」

「いや、悪くないが……王族って大変なんだな」

「大変なのよ……なのに姉上は……」

「たく、わかったよ」

 

 ナオフミが私の頭を撫でてくる。不思議に思って見上げると、怖い顔じゃなくて、優しい表情をしていた。

 

「望む通りにしてやる。けど、こっちからも条件付きだ」

「なっ、なに?」

「ちゃんと自分の幸せも探せ。いいな?」

「でも……」

「自分が幸せじゃない奴に他人を幸せにできるか」

「……わかったわ。頑張ってみる」

「それでいい」

 

 なんだか心があったかくなってくる。身体を預けて回された腕を握っていると、次第に国境の砦が見えてきた。そこから煙が上がっていて、轟音が聞こえてくる。それにフォーブレイで見た飛行機までやってきている。

 

「戦争が始まっているのか……というか、飛行機まであるのか。仕事しろよ、ファンタジー」

「ど、どうしよう!」

「突っ込んで止める。ルクス、防御は任せてくれ。メルティは魔法が使えるか?」

「つ、使えるわ。水と土が使えて、水が得意よ」

「なら、水で攻撃してくれ。俺が必ず守ってやるから、安心して攻撃してくれ」

「う、うん……」

 

 守ってくれると言われて少し嬉しくなった。

 

「ルクス、砦をかすめるように破壊光線を撃ってくれ」

「ガァ」

 

 光が集まって、七色の光が飛んでいって砦をかすめ、地面に着弾して大きな爆炎を巻き起こす。

 

「メルティ、水を雨の様にしてふらせてくれ。ルクス、そのまま降りてくれ」

「は、はい!」

「ガァ」

 

 言われた通りに魔法を使い、どうにか雨にする。ルクスと呼ばれた子がゆっくりと降下していく。戦っていた人達は全員、こちらを見詰めている。どちらもまとめて攻撃した感じになるから、警戒されている。

 

「俺は盾の勇者をしている岩谷尚文だ! メルロマルクの王女もいる! 戦闘を中止して話し合いの場を希望する! すでにメルロマルクとは話がついている! 戦う必要はない!」

 

 これで戦争が止まる。そう思ってほっとすると、空から光が降ってくる。

 

「ちっ」

 

 ナオフミが何枚もシールドを展開して防いでくれる。ただ、高度は下がっていく。周りをみると、砦にいた連中は私達を狙って攻撃してきていた。

 

「盾の勇者を騙る偽物だ! 殺せ!」

「我等が神の為に!」

「な、ナオフミ……」

「三勇教か。状況のわかってない奴が多すぎるぞ……ちっ」

 

 ナオフミが舌打ちすると、今度はフォーブレイの飛行機からも攻撃された。銃という物から放たれる鉛が飛行機から無数に発射されてくる。ナオフミは私をしっかりと抱きしめて盾で守ってくれる。

 

「や、やめてっ! 私はメルティ=メルロマルクよ! すぐに戦闘を中止なさい!」

 

 声を張り上げて伝えても聞いてくれない。フォーブレイと三勇教、それにシルトヴェルトの一部が戦闘を開始して、三つ巴になっている。

 

「奴は盾の勇者を騙る偽物だ! メルロマルクが用意したのだろう! 全軍、攻撃を休めるな!」

 

 聞き覚えがある声がする。これはフォーブレイであったしつこく私に付きまとってきた鞭の勇者ね。

 

「タクトの声ね」

「タクト……ああ、あいつか。それならいいな」

 

 ナオフミが怖い顔でニヤリと笑う。凄く悪役みたいだけど、頼もしい。

 

「全員に告げる。俺が盾の勇者であることを証明する。だから、一度攻撃を止めて地上で話し合いをしようじゃないか。それとも、話し合いすらできないということは、貴様等こそ世界の敵だということを認めることになるぞ! それとも、俺達が怖いのか? シルトヴェルトはどうだ!」

「全軍、攻撃停止! 我がシルトヴェルトは話し合いに応じよう!」

「メルロマルクも攻撃を中止しなさい! これは女王陛下の命令です! 逆らうのなら逆賊として処分します!」

「偽物の言う事など無視して攻撃を続けよ!」

「ふざけんな! 本物だったらどうしてくれる!」

「俺達を巻き込むな!」

 

 メルロマルクの砦の方では逆に乱闘が発生しちゃった。これはどうしよう? 

 

「無視だ。今はシルトヴェルトを説得して味方にする。それともう一つ、良い手がある」

「わかった。ナオフミを信じる……はやく、戦争を止めないと……」

「そうだな」

 

 私達は攻撃を止めているシルトヴェルトの近くに降りる。降りる時にナオフミがお姫様抱っこをして飛び降り、地面にしっかりと降ろしてくれた。

 

「失礼。私はヴァルナール。今回の解放軍を纏めております」

「シュサク種の方ですね。お久しぶりです。私はメルティ=メルロマルクです」

「はい。確かに本物のようですね。それで盾の勇者様かどうかですが……」

「この方で間違いありません。儀式魔法の裁きを一人で防ぎきったのですよ?」

「確かに……」

「まあ、これを見てくれ。盾を変形させる」

 

 ナオフミが皆の前で色々な盾に変えていく。それを見たシルトヴェルトの人達は頷いていきます。

 

「これで俺が盾の勇者だと認めるか?」

「そうですね」

「待て。盾を変えるだけならトリックかもしれんぞ」

「だが、防御力は確かに……」

「ああ、それならヴァルナールだったか、アンタの武器をかしてくれ」

「わかりました」

 

 ヴァルナールさんから武器を受け取ると、ナオフミが持とうとした武器が弾かれた。

 

「四聖勇者は違う武器を持てない。これが証拠にならないか?」

「いえ、十分でございます。貴方様は間違いなく、盾の勇者様で間違いありません」

「じゃあ、会談の用意をしてくれ」

「かしこまりました」

「メルティ、後は任せる。俺はアリスを連れてくる」

「あの子が必要なんですか?」

「お前は嫌っているかもしれんが、この場では必要だ」

 

 ナオフミが私の耳元で囁く内容に顔が青ざめる。

 

「わかったか?」

「は、はい。お帰りをお待ちしています」

「ああ。すまないが、一人勇者を連れてくる。会談の準備をしておいてくれ。メルティが残る」

「失礼ですが、彼女の扱いはどのように?」

「わ、私は……」

 

 睨み付けられて凄く怖い。でも、言わないと駄目なので奴隷だと言おうとしたら、ナオフミに抱きしめられた。

 

「こいつは俺の女だ。妻として丁重に扱ってくれ。それとメルロマルク側の代表だ」

「かしこまりました」

「じゃあ、すぐに戻る。ルクス、メルティの護衛を頼むぞ」

「……了解……」

 

 ルクスと呼ばれたモンスターが光って人型になる。手足は機械でできているけれど、基本的な部分は女の子で……裸だった。

 

「これを着ておけ」

「……感謝……」

 

 ナオフミが黄色の外套を渡し、彼女がそれを身に纏う。その後は私のすぐ横についた。

 

「その方は……」

「こいつは新しく現れた勇者のモンスターだ。移動の為に借りて来た。一時間で戻ってくる。それまでに用意できるよな?」

「もちろんです」

「では頼む。ポータルシールド」

 

 ナオフミがポータルを通ってこの場から消えた。それを見てシルトヴェルトの人達はやはり勇者で間違いないと納得して準備していく。

 

 

 

 

 一時間後。会談場所は砦から少し離れた草原に椅子と机を用意して互いの軍勢で見守るようにして行うことになった。設営が完了し、少しするとナオフミが金髪の小さな女の子を連れて戻ってきた。その後ろには可愛らしい小さな女の子が人形を抱き、メイドさんを連れて現れた。

 

「お待ちしておりました。こちらにどうぞ」

「ああ、ありがとう」

 

 今回の会談にはメルロマルクとシルトヴェルト、フォーブレイ、その他の方々が座っている。フォーブレイから来た鞭の勇者は私のことをいやらしい目で見てくる。逆に後ろにいる女の子達はこちらを睨んできていた。私達はそれぞれの席に座る。私はナオフミの隣で、魔導書の勇者である女の子も座っている。

 

「さて、まずは呼びかけに応えてくれたことを感謝する。改めて名乗ろう。俺は四聖勇者の一人、岩谷尚文。こっちは魔導書の勇者アリスだ」

「聞いたことがないな……」

「本当なのか?」

「本当ですよ。もう一つ、この世界では失伝しているようですね」

「それが本当なら探さねば……」

「場所は知っています。ただ、あそこは生半可な手段では突破できません」

「どこにあるのだ?」

「プラド砂漠にあります。空間の幻覚が発生していますので、それを破らない限りは無理です」

 

 アリスちゃんの言葉に皆が騒然としている中、タクトだけはニヤニヤと笑ってアリスちゃんを見ている。流石にアリスちゃんに手を出すのは駄目だと思うのだけれど……

 

「さて、アリスが魔導書の勇者としての力があるかどうかは確認するといい。アリス」

「はい、任せてください。反転結界、展開」

 

 魔導書が勝手に開き、この辺り一帯を半透明な円形の膜で覆ってしまった。

 

「これは聖域ですか?」

「それの亜種だと思ってください。これで少なくとも勇者としての実力があると認めてもらえますね?」

「もちろんです」

「ああ」

「では、本題に入らせてもらう。メルティ」

「はい。ご説明させていただきます。まず、我が国は女王陛下と私が外交をしている間に三勇教と我が父、オルトクレイとマルティ=メルロマルクによって乗っ取られました。その後、愚かにも四聖教より三勇教が強奪していた触媒で四聖勇者の召喚を行いました。ここまでは皆様はわかっておられると思います」

 

 皆が頷いたのを確認してから続けていく。

 

「オルトクレイと三勇教は盾の勇者様とそれを庇った魔導書の勇者様を迫害し、他の勇者様を騙して殺そうとしました。それも波を終息させた宴と称して、お二人を集めて教皇率いる三勇教の信徒達と我が国の兵士を動員しました。しかし、盾の勇者様と魔導書の勇者様によって鎮圧され、首謀者達は捕らえられました。三勇教の者達に関しては四聖教の方やシルトヴェルトの皆様に引き渡させていただきます」

「ああ、わかった」

「しかし、それだけではあるまいな?」

「もちろんです。私と女王陛下、オルトクレイは今回の責任を取って奴隷として盾の勇者様にお仕えします。また、私は同時に盾の勇者様と結婚し、メルロマルクを盾の勇者様に全てお任せすることにしました」

 

 恥ずかしいけれど、胸元を開いて普段は消えている奴隷紋を表して皆に見せる。身体を見られて顔が真っ赤になり、涙がでてくる。

 

「もういいだろう」

「あっ」

 

 ナオフミが私を抱き寄せて膝の上に乗せて、開けた胸元を隠してくれる。私はそのまま身体を預けて抱き着く。これで私がナオフミの物になったことの証明となる。予想通り、ざわめきが起こった。

 

「シルトヴェルトは歓迎いたします。盾の勇者様にメルロマルクが治められるのなら、我等に戦う理由はございません」

「はい。シルトヴェルトには後程、正式に平和条約と同盟の締結を打診することになると思われます。その時に互いの国にいる奴隷についてもお話することになるでしょう」

「かしこまりました。そのように調整させて頂きます」

 

 後、伝えないことはあったかな? シルトヴェルトはこれでいいし、あちらも乗り気だ。敵対国がシルトヴェルトの信仰する神が治める国になるのだから、歓迎されるだろうし。でも、タクトはナオフミの事を睨んでいる。

 

「私としてはメルロマルクとシルトヴェルトが将来的に合併してくれる方が嬉しいですね。尚文おにーさんに獣人の方を娶ってもらえば可能ですよね?」

「確かにそうですね」

「待てよ。それはあくまでもソイツが本物の勇者だったらだろ? 召喚した奴等は偽物だと言っているんだし、本物かわからないだろ?」

「それはそうですな?」

「シルトヴェルトはこの方を盾の勇者様だと認めます」

「シルトヴェルトが言うのなら……」

「フォーブレイは認めないぜ」

「フォーブレイが言うのなら……」

 

 どっちつかずは必ずいるのね。こいつら、駄目じゃないの? 

 

「失礼ですが、誰でしょうか?」

「俺はタクト。鞭の勇者だ」

「そうですか。それがフォーブレイの決定ということですか?」

「そうだ」

「たかだか前線指揮官ごときが決められる内容ではないのですが、断言するということは王の名代としての発言と受け取らざるを得ません」

「なんだと!」

「事実です。勇者様を偽物だと断言するのなら、それは証拠を用意し、フォーブレイの王と四聖教の教皇が調べて宣言することであり、ここに居る者達が判断することではありません」

 

 アリスちゃんが言う事はもっともね。確かにそれは前線指揮官が判断することではない。四聖教の教皇様が決めることよね。そう思っていると、アリスちゃんを護衛していた子達がいない。タクトの近くにいる二人の後ろに回っていた。

 

「確かにその通りです。今回の話し合いは戦争を止めることについてで、盾の勇者様が偽物かどうかなど関係がありません」

「そうだな。俺は王として要請する。シルトヴェルト以外の軍は即時退却を頼もう。シルトヴェルトに関してはここに残り、警備していただきたい。外交官などを用意して王都にきて欲しい」

「かしこまりました」

「待てよ! メルティちゃんを奴隷にするような奴が盾の勇者なわけないだろ!」

「それとこれとは関係ありません」

「関係なくはないだろう! そいつは盾の勇者としてこの戦いを止めたんだ!」

「そうですね。ですが、すでに解決しておりますし、大義名分はありません。それに我がシルトヴェルトが外交官を派遣する時に内部調査させて頂きます。それでよろしいでしょうか?」

「構いません。むしろ、半分ほど軍を入れて兵力を貸していただきたいぐらいです」

「よろしいのですか?」

「あなた方は盾の勇者様の顔に泥を塗るような事はなさらないですよね? もちろん、監視はつけさせてもらいます」

 

 絶対にフォーブレイは入れない。シルトヴェルトは入れてもいい。彼等はナオフミを盾にすれば、信仰のために変なことはできない。

 

「いい加減にしろ! そんな奴にメルティちゃんの国を任せられるわけないだろ!」

「だから……」

「どうしても認められないのですか?」

「そうだ!」

「わかりました。では、尚文おにーさんが盾の勇者であることを証明しましょう」

「やれるものならやってみろ!」

「はい。尚文おにーさん、お願いします」

「わかった。だが、本当にいいんだな?」

「くどい!」

「では……眷属器よ。盾の勇者の呼び声に応じ、愚かなる力の束縛を解き、目覚めよ」

「なっ、なんだっ!?」

 

 タクトの身体が光って、眷属器が三つもでてくる。鞭と爪、槌が宙に浮かんでいる。

 

「さて、どういうことか説明してもらおうか」

「どういうことだと! この盗人めっ! 俺の武器を返せ!」

 

 驚いていると、ルクスと呼ばれた子が腕から七色の光線を連続で出してタクトの後ろにいた女の子の胸を撃つ。引き抜かれた場所にメイドさんが腕を突き入れて何かの欠片を取り出した。

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」

「レールディアっ!」

「あっ、あああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「アシェル!」

 

 もう一人の子は赤紫色の髪の毛をしたいつの間にか現れた女の子が逆さまの状態で宙に浮き、彼女の瞳を覗き込んでいた。すると彼女は頭を押さえてかきむしっている。

 

「はい、皆様ご注目。眷属器が三つ。それも二つは他の勇者が所有しているはずのものです。つまり、彼が勇者を殺害して奪ったことは明白です。そして、眷属器に命令できるのは四聖勇者のみなので、これで尚文おにーさんは盾の勇者であることが証明されました。続いて、四聖武器以外で眷属器を不法に所持できるのは波の尖兵である敵だけです」

「返せっ、返せぇええええぇぇぇっ!」

 

 メイドさんが奪った石を持ってこちらに逃げてくる。当然、追ってくるレールディアと呼ばれた子は身体をだんだんと肥大化させて竜の姿にしていく。アリスちゃんが何かをすると空間が開いて、メイドさんはそのまま中に入ると彼女も入っていった。

 

「タクト様! おのれっ!」

「倒せ! タクト様から奪われた物を取り返せ!」

 

 色々な陣営からタクトの方に人が集まってくる。とくにシルドフリーデンからはその国主であるアオタツ種まで参加している。

 

「お帰り、シロ。首尾は?」

「放置してきました」

「ご苦労様です。それはご褒美です。食べていいですよ」

「ありがとうございます」

 

 結晶のような何かを食べると、メイドさんは蹲った。アリスちゃんがその子の頭を撫でる。

 

「きっ、貴様、レールディアをどこにやった!」

「この中ですよ。どうぞ助けに行ってきたらどうですか?」

「おい、その中って……」「え、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)の世界ですが、なにか?」

「うわぁ……」

「あ、私を殺したら閉じて永遠に開けませんからね」

「きっ、きさまあぁあああああああああぁぁぁっ!」

「奴を捕らえろ! 勇者殺しの下手人だ!」

「くっ、離せっ!」

「絶対に逃がすな! いいか、タクトは生かして捕らえろ。そっちの女は……いや、グリフィンか」

「ああ、この子には役目がありますから、殺したら駄目ですよ。ルクス押さえつけてください。手足を塞いでくださいね。ジュカは口を閉じさせてください」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」

 

 暴れているグリフィンにゆっくりと近づいたアリスちゃんは瞳を見詰めながら、何かをする。すると暴れていたのが嘘のように落ち着いていく。

 

「お前っ、アシェルになにしやがった! 離せっ、離せぇっ! 俺こそが女神様に選ばれた真の勇者だぞ!」

「あ、その女神様が偽物で波の元凶。つまりラスボスですよ」

「なっ、なんだとっ!」

「あははは、これは傑作だな。なあ、どんな気分なんだ? 女神様だと思ってた邪神に騙され、いいように操られて世界を破滅に導こうとした魔王様。教えてくれよ」

「ふざけんな! 俺は勇者だ! 貴様等こそが邪神の使いだろ!」

「え、尚文おにーさんは違いますよ。私はそうですが」

「「「っ!?」」」

 

 アリスちゃんの言葉に皆が固まった。

 

「じょ、冗談ですよね?」

「いえ、実際問題、私は波を起こしているのとは別の神様に言われて助けにきましたし、邪神かどうかなんて、そこの信仰している神様によってかわりますよ?」

「あー確かにな。でも、ハスターとかヨグ=ソトースってどう考えても邪神だよな?」

「ですねー。ちなみに信仰してませんけどね!」

「あの、勇者。この方はどういう扱いにすれば……」

「味方だな。こいつは自分の居た世界に帰りたがっている。だから、俺達に協力してくれている」

「なるほど、問題ありませんね」

 

 ナオフミがタクトを殴り倒し、私も援護で攻撃する。他の人達が慌てている中、シルトヴェルトの精鋭達がアオタツ種などを制圧していく。これは事前に通達していたからね。他にも飛行機に襲撃をかけて大人しくさせていっている。中には飛び立とうとしたのもあったけれど、まるで見えない壁に激突したかのように倒れて落ちてきた。それをナオフミが流星盾で防いでくれたのでなんともない。

 

「そうだ。で、これからの事だが、まずは今回の件を洩らさないでくれよ」

 

 ナオフミがタクトの頭を踏みつけて地面に埋め込みながらそう言うと、皆が頷く。もう盾の勇者様であることは間違いないし、そもそも相手になっていなかった。

 

「彼の信者は沢山いますから、これからこの子に集めてきてもらいます。そこを一網打尽にします。なので、悪いですが皆さまはこの結界の中に拘束させてもらいますね。なに、タクトの信者じゃなければ大丈夫です」

「かしこまりました」

「我が国は貴方様に従います」

「こちらもです」

「では、アシェル。タクトの関係者全員にメルロマルクを落としたので、祝ってほしいからここにくるように言ってください」

「任せて! タクトとアリスのために行ってくるね!」

「ああ、結界で通れないですから、送って行きますよ。尚文おにーさん、お願いします」

「わかった。ついでに他の勇者達も連れてくる」

「お願いします」

「メルティはどうする?」

「私はここで協議しているわ」

「わかった。だが、勝手に妻を増やすようなことはするなよ」

「わかってるわよ。その、いってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

 

 ナオフミを見送ってから、アリスちゃんと一緒に各国の交渉を開始する。アリスちゃんはタクトに猿轡をして縛り上げ、ゴーレムの中に入れて閉じ込めてしまった。

 

「は~い、兵士の皆さん! しばらく暇なのでここを開拓しちゃいましょう!」

「え?」

「してくれる人にはご褒美として、アリスとパーティーを組んでダンジョンアタックです! レベルアップ間違いなしですよ!」

「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」」」

 

 まったく、好き勝手にやってくれるわね。まあ、私は私で交渉しましょう。

 

 

 一週間でタクトの仲間を捕まえた。とても沢山の女性が捕まったので、彼女達は全員、フォーブレイの王へ献上して、暗殺計画のことも知らせておく。これで私の国のことは許してもらえた。ただ、タクトを殺す時だけはアリスちゃんが立ち会うと強固に主張したので、彼女に全部任せた。そうしたら、フォーブレイの王と協力して転生者や転移者と呼ばれる波の尖兵を捕まえて処刑したりしだした。その上、ナオフミと一緒にふらっとでかけると、ハクコ種の親戚を見つけてきて、さらに獣人の女の子も連れてきた。彼女達もナオフミのお嫁さんにするらしい。これでラフタリアとフィーロちゃんを合わせると五人。いえ、まだ連れてくるらしいアリスちゃんに呆れていると、次はラフタリアさんのお姉さんを連れてきた。ナオフミがもう勘弁してくれとアリスちゃんに泣いてお願いしたら、やめてくれたので助かった。

 

 

 

 

 

 



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36話

感想、誤字脱字、ありがとうございます。



 

 

 タクトの処理が終わったので、色々と助けにいってみた。タクトの処理に一週間かかったので、その間に樹を治療した。基本的な世話はリーシアに任せていた。治療はマッドスィートケークと魅了の魔眼を使ったし、リーシアの献身的な介護で無事に回復することだろう。やっぱり、リーシアは一途で良い子だ。ただ、樹のことを好きになるかはわからない。

 続いてイドルの屋敷に乗り込んで、イドルは捕らえてわざと封印されているドラゴンを蘇らせて瞬殺しておく。捕らえられていたキール君たちは助け出して村の再建を頑張ってもらう。ここで、親友の死体を発見したラフタリアおねーさんが泣いているので、死者蘇生して蘇らせてあげた。材料は殺したドラゴンさんだ。あと、竜帝の知識を纏めて本にしてあげておいた。

 

「そういえば、クトゥルフ神話の魔術も使えるんだよな」

「えっへん。死が安息だと思わないように。ただ、この呪文を唱えると塩になるから気をつけてね」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとう!」

「なあ、ところで他にもできるのか? 父ちゃんたちを……」

「無理かな。死体がないとね。それに死体があっても、魂が残っていないと無理だし……」

「そっか。まあ、リファナちゃんが蘇っただけでもいいか!」

「それにこれは反則技だからね。そんなに長くは生きられないと思うように」

「それでも助かりました。また会えたのです」

「じゃあ、次にいってみよー」

「おいおい……」

 

 傭兵の国ゼルトブル。そこでアトラとファウルを買って王様の世話をさせる。アトラは王様がああなった原因の娘なので、彼女がいれば敵にはならない。うまいこといけば味方になってくれる。後はラフタリアの名前でメルロマルクの王城にサディナを呼び出したら終わり。こんな感じで頑張って集めてみた。

 

「魔導書の勇者、助けて!」

「フィトリア、どうしたの?」

「フィトリアたん! 何故わからないのですか!」

「増やし過ぎ!」

「あ~」

 

 槍の勇者はフィトリアを正式に紹介して、娘をあげようと思ったら、なんとフィトリアに結婚を申し込んだ。そこで色々と話して、フィトリアにアタックし続けていたから、フィトリアの説得を手伝った。フィトリアも受け入れてくれた。ただ、条件として一緒に世界各地の波を終わらせることと、私達に協力することになった。ある意味では勝利者? ちなみに二人はすでに子供を作っていて、フレオンちゃんがいる。瞳の色以外はフィーロそっくり。原作ではアイツに殺されるはずの子だったけど、よかったよかった。

 

「アリス、遊ぼ~」

「遊びましょう」

「アリスよ、我等とサバトをしようじゃないか!」

「いいですよ」

 

 沢山のフィロリアルキングとクイーンが作られており、今日も元気に天使の集団が形成されている。

 

「アリス、聞いてる?」

「聞いてますが、確かに増やし過ぎですね」

「まだまだ増やしますぞ!」

「だから、食料と土地を考えて、とフィトリアは言っているの!」

「ああ、うん。それならいい場所がありますよ。プラド砂漠。改造しちゃいましょう」

「おお、さすがですなアリスちゃん!」

「アリス……」

「そこに悪魔のドラゴンがいますよ」

「よし、行きましょう。殺してやります」

「他の勇者達も集めましょうねーといっても、すぐは無理ですよ。まずは削らないと」

 

 プラド砂漠にバイオプラントの種を入れたことで手に入れた植物改造の種。それを使って遺伝子改造のスキルを手に入れた。遺伝子改造ですぐに育って食べられる物で食料問題を解決。続いてこれに経験値をどんどん吸い取る機能をつけてプラド砂漠を囲うように配置。経験値の実……不思議な飴をつける木を大量に植えた。そこの警備に槍の勇者とフィトリア率いるフィロリアル達にお願いした。

 

「まずは兵糧攻め。干してからが戦争です」

「そのためにもフィロリアルを増やさないといけないな」

「……わかった。増やす」

 

 ちなみに仲良くしているけど、たまに家出したりもするフィトリアだった。

 

 

 

 

 さて、続いてやってきたのはフォーブレイ。世界最大の国だったのだが、シルトヴェルトとメルロマルクがほぼ合併が確実となってきているので二番手になる。というのも、シルドフリーデンも合併されたからだ。あそこには色々と問題があるが、そこはアリスちゃんが綺麗にお掃除しておいたのでとっても綺麗だ。

 

「お久しぶりです。タクトさん」

「あ~あ~あ~」

「完全に壊れていますね」

「こいつの前で女達を犯して殺しただけなんじゃがな」

「そうですか」

 

 フォーブレイの王様とあって、タクトと転生者や転移者を引き取りにきた。転生者や転移者を発見する方法は私の魔法と遺伝子改造で第二の波で現れたソウルイーターを捕獲して、ジュカに吸わせてその力を手に入れた。これで魂を識別することができたのだ。

 幼少期から天才や神童などと呼ばれる子や急に頭角を現した冒険者などを集めて調査し、マルティと同じ気配や力を感じる存在は魂を回収して力だけを抽出して意識などは焼失するように加工する。ただ、ちゃんとした転生者や転移者もいるので、その辺りはしっかりと見極めてあげる。転生者の人には両親と相談して、記憶を消すか、それともこのまま生きるかを選んでもらう。中には自分達の子供として育てる人や、捨てる人もいる。捨てられた人は尚文おにーさんに任せて預けておいた。しっかりと教育してくれるだろう。

 転移者もしっかりと面談してから、国の監視のもとに動いてもらう。講習が終われば報告を義務付けられるが基本的に解放される。憑依者も同じ感じで、身体の子の事を思ってどうにかしようとしていたら、ホムンクルスで身体を用意して助けてあげる。それ以外は捕らえて加工行き。

 

「こいつらをどうする気なのかの?」

「私、人形が好きなんですよ。だから強い人形を作ろうかなって」

「材料か」

「はい」

 

 だって、この人達って犯罪者で殺してもいい人で、かつ女神を詐称する存在からチート能力をもらっている。つまり、それを人形に搭載したら、それだけで強くならないかな? チート搭載型人形! アリスお母さんには邪道だと言われそうだね。でも、使い捨ての自爆特攻要員としても使えるし、いいよね。

 

「まあ、渡してやるが、波に関してじゃ。元凶を倒す方法があるのじゃろ?」

「あります。ただ、それは私だけでやります。被害が尋常じゃないので」

「わかった。期待しておこう」

「はい」

 

 魂を回収したら、続いていろんな所を見回っていく。それと忘れずに頼んでいた魔法の服を受け取る。

 

 最後にメルロマルクのお城に戻ってラフタリアさん達と尚文おにーさんの集いに参加して一緒に遊ぶ。

 

「アリス、なんだか様子が変だが……」

「なんでもないですよ」

「フィーロとあそぼー」

「はい、いいですよ」

「私も遊ぶの!」

 

 メルティとフィーロと遊ぶ。私の子達も皆と遊んでいく。アトラはやっぱり尚文おにーさんと一緒にいる。

 遊び終わったら、これからの事を考える。あとはもうやることはない。リベレイションの習得はできているし、私が使えるのは全能力向上のオーラと全能力を下げるダウン。これは魔導書だからこの二つなのか、それとも盾をコピーしたから攻撃系が覚えられないのか……まあ、どちらでもいいや。

 

「尚文おにーさん、楽しかったですよ」

「もう行くのか?」

「はい。これ以上留まったら私が死にますからね」

 

 すでに二ヵ月は過ぎている。これってつまり、殺される可能性が大きい。やばすぎる。

 

「波の黒幕はどうするんだ?」

「それはこちらで対処しておきますので安心してください。しばらくしたら、大変になるかもしれないけど任せます」

 

 もしかしたら四霊が蘇るかもしれないけれど、一応封印は強化してあるし大丈夫だと思いたい。

 

「どうするつもりだ?」

「秘密です。駄目だったらお願いします」

「わかった」

「それではさよならです。また機会があれば会いましょう」

「ああ、そうだな」

 

 尚文おにーさんと別れを告げてから波に入る。さて、皆を鞄にしまう。クオンも使い魔としているので中に入れられる。これは勇者の強化の一つ、解放済みの武器同士を合わせることで能力付与できる力で魔物系統や奴隷系統などを合わせた万魔殿の魔導書。これなら使い魔も問題ない。

 準備ができたので波を広げて世界の融合を促進させる。世界がひび割れ、向こうから嫌な気配を発する何かがやってくる。入口にあの女が入ってくる瞬間にインスタントダンジョンを開き、この世界に入ってきた瞬間にその中に入ってもらった。私も中に入る。

 そこは相変わらずのン・ガイの森。その中でマルティによく似た気配の一人の女性が立っている。私は彼女がこちらに気付く前に首からかけた鍵を手に取って前に突き出す。ここはあのセリフで行ってみよう。

 

「時の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約のもとアリスが命じる。レリーズ!」

「なに?」

 

 私の背後で巨大な門が形成され、ヴェールを纏う人間の姿が現れる。

 

「窮極の門へと赴くか?」

「あの人が逝きます!」

「了解した」

「ちょっ!?」

 

 門は開き、無数の触手が彼女を掴み引き摺り込む。抵抗しようとしても無駄だ。時空の制限を一切受けない最強の神格にして、外なる神の副王なのだ。抵抗など無意味! 

 

「どういうつもりか知らないけれど、そっちこそ甘いのよ!」

 

 無数の攻撃が森を薙ぎ払い、私を殺していく。でも、直に再生する。

 

「あっはっはっは、侵食率がなんぼのもんだー! 尚文おにーさん達のためにお前を殺す! この世界に来たことを後悔するんだね!」

「このっ!」

 

 攻撃の余波だけで殺される。でもさ、それってつまりこの世界が壊されるわけで、どんどん敵が集まってくる。で、私は一切攻撃しないので基本的にあっちにあつまる。ショゴスをはじめとした名状しがたき者達が突撃してくる。そんな中、私は彼等をきにせず突き進む。

 ただ、彼等の攻撃の余波で死ぬけど気にしないたら、しない。

 進んでいくと石碑があった。どうやら、これが結界になっているようで、クトゥグアはこちらを見つけられないでいる。そんなわけで、壊したいけど私の力じゃ無理だ。

 

「おばさん、こっちだよ!」

「誰がおばさんだぁぁぁぁ! 平行世界もろとも死ね!」

 

 飛んできた極大の光線。慌てて逃げたりしない。どうせこけるだけなので石板に抱き着きながら魔導書を思いっきり投げる。予想通り、石板は壊れた。私も魔導書の場所で再生していく。私に死なんてない。そう、コンテニューだ! 

 

「フングルイ ムグルウナフ クトゥグア ホマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア!」

 

 倒れた状態で空を見ながら唱える。フォーマルハウトが地平線上にしっかりと現れているのも確認できた。

 

「フングルイ ムグルウナフ クトゥグア ホマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア!」

 

 火の塊がどんどんやってくる。これでどうにかなる。

 

「何を考えているか知らないけれど、時を止めれば……」

「フングルイ ムグルウナフ クトゥグア ホマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア!」

 

 気にせず唱える。銀の鍵を持つ私にそんなものは効かない! たぶん。いや、発動しないだけかもしれない。

 

「あ、ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 それはやってきた。私は思わず叫んでしまう。現れたのは炎の化身。禍々しい気配を放つそれは一瞬で森を焼き払い、女も焼いていく。森の全てが焼き払われ、私の目の前にセラエノ断章が現れた。手に取ってみると魔力が膨れ上がる。そして、セラエノ断章の全てが理解でき、十全に力を発揮できる。でも、おかしい。ここは階層の最上階だったはず。

 

「あ、そっか。あの女、平行世界までとか言ってた。全部壊してくれたんだ……」

 

 門が閉じて消えていく。これであの女は終わりだ。だって、銀の鍵がないと攻略不可なのだ。後はもう、餌になるしかない。

 

()()()の勝ちぃいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃっ! あはははははははははははははははっ!」

 

 身体が光になって消えて()()()は気が付けば見覚えがある場所にいた。

 

 

 

 

 

 

「知ってる天井だね」

 

 

 

 そう思ったら、何も無いところにいきなり本が現れた。それはベッドに寝ている私の上に落ちてくる。

 

「あいたっ!」

 

 目をあけるとそこはネクロノミコンと書かれた魔導書があった。手紙が添えてあり、内容には美味しい餌をありがとうといったことが書かれていた。そのネクロノミコンはどう感じてもオリジナルである。わーい、ネクロノミコンだ。やったーってならないよ! 

 

「まあいいや。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)オープン」

 

 

 

 ────────────────────────────―

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:10

 スキルポイント:10

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.9》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》《運動音痴Lv.6》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》

 

 

 

 ────────────────────────────― 

 

 

「ちょっと待って! え、なにこれ? 修行の成果っててポイントだけ? アリス、あんなに頑張ったのに!」

 

 調べてみると、魔導書の勇者が消えて魔導書だけになっていた。手持ちの魔導書が収納されたみたい。うん、あとはアリスポイントに触れてみると、なんと魔導書の勇者として頑張った魔導書が選択できた。一応、アリスポイントを使えば手に入るのか。それならまあいいや。手に入れるのは万魔殿の魔導書は確定。これがないと皆をこちらに連れてこれない。あとインスタントダンジョンも欲しい。レベル上げに使えるから。選ぼうと思ったらアリスポイントが2点。勇者の強化方法は2点らしい。仕方ないから2点でもいいや。これで残り7点。スキルポイントは10点だけど、これは4点で考える。運動音痴を消すからね。ああ、でもドロップアイテムって使えるんだよねー。うん、やっぱドロップアイテムも手に入れよう。あ、これはアリスポイントじゃない。スキルポイントだ。やったね。

 じゃあ、レアリティアップと資質向上も取って……これでアリスポイントは残り3点。スキルポイントは3点。採取とかも欲しいけど、後はアリスでいかな。

 アリスはどれにしようかなあ~やっぱり死なないためにハードゴア・アリスにしよう。変身して死なないし。というわけで一人は決定。残りを決める前に変身しよう。いや、先に皆を出して安全確保をした方が良い。

 

「万魔殿の魔導書」

 

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)が開き、メニューが表示される。その中からクオン、シロ、ルクス、ジュカを選択する。すると魔導書から光が四つでて、私の周りで姿が変わっていく。クオン以外はみんな魔物姿なのでとってもせまい。すぐに人の姿に変身してくれたので、すぐに場所が空いた。

 

「ご主人様、大丈夫だった?」

「なんとかなったよ。いっぱい死んじゃったけど」

「……痛くない……?」

「平気?」

「大丈夫。皆は大丈夫だった?」

「「「大丈夫」」」

 

 よし、大丈夫みたいだ。それじゃあ警戒してもらおう。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)でアリスを増やすと気絶しちゃうしね。

 

「皆、私を守ってね」

「はい。任せてください」

「……誰にも手出しさせない……」

「頑張る」

「お願いします」

 

 四人に任せてから、ハードゴア・アリスを書き入れる。すぐに激痛が走って意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、心配そうにしている子達を見てから、次のアリスを取る。女神でも取ろうかな。流石にあんなのが相手とか無理だし。よし、人類管理局 女神ALICEにしよう。ランスシリーズの人。生命蘇生と局所時間遡行ができるし……取ろうと思ったらできなかった。アリスポイント10点って、高すぎる。流石は神様系だね。これは仕方ない。そろそろ頭脳もあげたいし、ARMSのアリスを取ろう。使いこなせないだろうけど。後は運動系のアリスが欲しいか……いや、ハードゴア・アリスって魔法少女で、一般人とは比較にならないほど身体能力が強化されているんだった。

 彼女の破壊力は作中でもトップとはいわないでも、かなり強い。建物を破壊するくらいは容易いだろう。少し上の人は大量破壊ができるけど。それを考えると、もっと生存能力を強化しよう。FATEのアリス……正体はサーヴァントのナーサリーライムだけど、彼女は永久機関・少女帝国という自身の物語を巻き戻すことができる。つまり、死ぬことがない。明日を拒絶し、同じ今日を永遠に繰り返す力。諦めない限り、固有結界の中ならコンテニューが約束されている。というわけで決定した。スキルも残りをふろう。

 

 

 

 ────────────────────────────―

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:0

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.10》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.1》《プロイキャッシャーLv.1(左目)》《魅了の魔眼Lv.1(左目)》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 ハードゴア・アリス(魔法少女育成計画):《変身・魔法少女Lv.3》《どんなケガをしてもすぐに治るよ》

 アリス(ARMS):《世界最高の頭脳》《科学者Lv.1》《金属生命体》

 アリスとありす(Fate/EXTRA):《魔力Lv.10》《陣地作成Lv.10》《変化Lv.10》《自己改造Lv.10》《誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)Lv.10》

 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》《万魔殿の魔導書Lv.10》《簡易迷宮作成の魔導書Lv.10》《資質向上の魔導書》《レアリティアップの魔導書》《ドロップ生成の魔導書》

 

 

 

 ────────────────────────────― 

 

 

 

 とりあえず、スキルポイントはアリスマーガトロイドの魔力にふった。残り2は魔法少女のレベルを3に上げることに使わせてもらった。運動音痴は0になったら消えている。魔導書からも魔力が供給されているので、私は魔力70レベルということになる。これはアリスお母さんが7人分いるという脅威の魔力量! 

 アリス(ナーサリー・ライム)のスキルレベルが高いのはしっかりと設定を書いたから。それと存在その者が私と似ているから相性が良かったのだろう。やってることが完全に一緒だ。彼女も魔導書であり、自らの身体を変化させ、自己改造しているのだから相性がいいのは当たり前である。つまり、私がアリスであの子もアリス(ナーサリー・ライム)。何もおかしくないね。(お目グルグル)

 

「いざ、変身!」

 

 変身すると意思を込めると身体が光った後、ゴスロリ衣装になってしまった。鏡を見ると頭にはホワイトブリムがあり、手には白いウサギのぬいぐるみがある。ただし、服装はどちらかというとアリス(ナーサリー・ライム)な感じのようだ。こっちの方がフリルが多くてダメージを受ける。あれ、なんでダメージを受けるんだっけ? アリス、わからな──っ!? 

 

「どうしたの?」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫。うん、大丈夫だよ」

 

 クオンに抱き着いてお耳をモフモフする。

 

「心拍数、異常。不安、恐怖、驚愕?」

「あはははは、ごめんね。ここに居たくないからすぐに移動するよ」

 

 全員に告げてから移動する。

 

 

 

 

やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。やばい! アリスがアリスになってる 侵食率ガァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




簡単ですが、盾の勇者の成り上がりは終わりな感じ。ちょっと長くなりすぎました。
巴葵様、silt様、黒鷹商業組合様、二元論様、梨緒さまに教えていただいたアリスを使用しました。

女神様(笑い)に殺された回数10回。侵食率上昇100%。アリス追加3で15%。元から35%。合計150%。
侵食率低下ダイス、03でクリティカル。しぶとい。クリティカルなので二回振り。10と93.合計103なので基礎値を除いて回復。
現状の侵食率はアリスで50%。やったね、もうすぐ男から女の子によるよ! 平気で魔法少女に変身しちゃいます。

魔導書の魔力はレベル無しは5、レベルアリはそれに基準します。

セラエノ断章レベル10内包スキル:神話知識10、クトゥグア召喚10、旧き印10、黄金の蜂蜜酒10です。
やったね、クトゥグアを何時でも召喚できるよ! なお、被害規模や言う事を聞いてくれるかは不明。火の精ぐらいなら扱えるかもしれない。

次はポケモンか東方か、東方ですね! 上海人形とか回収してきます。

正直、こいつもうどうやったら死ぬんだろうか? 肉片からだって再生するし、魔術刻印ですぐに再生するし……アリスなら魔術刻印のレベルもそろそろ上げだすだろうから……うん、やっぱりディスペルかけるか、魔法少女になってない時、または心を読むか看破して魔法少女だってバレたらいいのか。ふれてませんが金属生命体、ナノマシンで身体が構成されるようになったので、肉片とかちゃちなレベルじゃないほど細胞レベルで消し飛ばさないと駄目ですね。それで固有結界を展開されてたら、時間を巻き戻されて復活。ナニコレ。
あとアリスとありすなので病気とか病弱入れようと思ったけど、マッドスィートケークで回復されるし、意味がない。うん、攻撃力を考えなければ生存能力という意味では一級品になりましたね。


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エピローグ

 

 

 

 頭を抱えて心の中で叫ぶ。そんなアリスに心配したのか、クオンが抱きしめてくる。アリスはクオンの胸に顔を埋めて撫でられていく。ジュカも後ろから抱きしめてくれる。ルクスとシロは警戒して周りをみてくれている。そんな中で頭痛もしてきて、そのまま意識を失っていく。

 

 

 

 周りの争うような声が聞こえて目を覚ます。まず視界に入ったのは鋼鉄の身体。横をみると壊れた扉と床に引きちぎられた触手の残骸が見えた。アリスの上に立つルクスはメタグロスの姿で守ってくれていたみたい。シロとクオン、ジュカが居ないのであちらで戦っているのかな? 

 

「ルクス、退いて」

「がぁ……大丈夫……?」

「うん、大丈夫。頭もスッキリとしてきた」

 

 ルクスが人の姿となって私の横に立つ。彼女は私を抱き起して立たせてくれた。身体の感覚を確認するけれど、問題ない。姿はハードゴア・アリスのゴスロリ状態で力が湧いてくる。変身時間は表示がないので、たぶんずっとなって居られる可能性がある。

 ハードゴア・アリス、魔法少女育成計画の魔法少女は変身中、通常の毒物を受け付けず、寝食を必要としない上に精神的にも強化される。だからこそ、侵食率が下がったのかもしれない。

 魔法少女の身体能力は弱いものでも戦車以上の頑丈さ、自動車以上の機動力を備え、筋力、反射神経も生物の常識をはるかに越えたものになる。一度魔法少女になれば資格と記憶を剥奪されない限り任意で変身と解除を行うことが出来る。

 魔法の力は応用範囲が非常に広く、何の役にも立たないように思える魔法でも使い方次第では一切の抵抗が不可能・当たったら即死など凶悪な攻撃手段となりうるため、その使い方が重要となる。だが、どんなに強力な魔法の力も変身時でなければ使用できないことと、魔法少女の反射神経ならば変身する僅かな時間で誇張ではなく千回は殺害できるため、人間時を襲撃されると抵抗は不可能。これでアリスが得たハードゴア・アリスも殺された。解決策は常に変身したまま人間に戻らないということにつきる。

 

「ルクス、行くよ」

「……了解。マスターはルクスが守る……」

「お願いね。アリスも皆を守るから」

「ん」

 

 寝室から飛び出すと、リビングはほとんどが壊れていた。壁には焼け焦げた跡があり、現在進行形で修復されていっている。どうやら壁は破壊不能なのかもしれない。そんな中、ジュカとシロ、クオンは戦っていた。やはり時間経過でかなりの数が出現しているみたい。

 

「クスクス」

「クスクス、クスクス」

「クスクス」

「クスクス、クスクス」

 

 相手は透明な星の精で、少なくとも四体はいる。今までなら即座に逃げる状況だけれど、今なら戦える。ちゃんと修行してきたのだ。

 

「ご主人様、っ! だい、じょうぶ?」

「平気だよ。相手の攻撃は見えないから気をつけてね」

「うん。頑張るけど、大変」

 

 クオンは耳をピクピクさせながら、音で判断して星の精の触手を短剣で弾いている。でも、足や腕に噛みつかれたのか、少し抉られて血を流している。そんなクオンを守るためにシロが戦っている。ジュカは身体が小さくもできるので、モンスターの姿のまま部屋の中を移動して背後から不意打ち攻撃をしていっているみたい。

 シロは基本的に土の魔法とクオンの槍を使って防御に専念しているので、周りは岩だらけだ。彼女は本来、アタッカーの役割なんだが、ルクスが私の防御に回っていたから仕方がない。

 

「ルクスがこっちに来てたら楽だったのに……」

「ご主人様が優先です」

「その通り。使い魔が主人を危険にさらす訳にはいかない」

「……マスターの……安全確保……大事……」

「多分、この姿なら星の精にやられても死にはしないから、放置でいいんだけど……」

「駄目、絶対」

「……意義、唱える……」

「というわけで、却下です。ご主人様、指示をください」

「まったく……」

 

 アリスを大事にしてくれて嬉しいし、頑張ろう。まずは透明な奴を浮かび上がらせるのが最優先。手段としてはシロが元の姿で石化ブレスを吐けばいける。相手は見えないだけで、そこに実体が存在しているのだから、石化はできる。でも、これはスペース的にできない。成長したシロはとっても大きい。竜帝の欠片を飲んだせいか、高さ3メートル、全長が300メートルを超えているので、ここで元の姿になられると踏む潰される。

 

「ルクス、見える?」

「……周りの景色の……違和感……識別……わかる……」

「クオンは……見えないよね?」

「音で判断してる。見えるのはシロだけ」

「私は熱で判断しています」

「なるほどね」

 

 シロは的確に触手を槍で切り裂き、土の魔法で白い杭を生み出してこちらに向かってくる星の精を串刺しにしようとしているのだろう。でも、避けられているみたい。これならどうにかなる。まずアリスも見えないから、見えるようにしよう。使い魔であるシロの視界をもらい、蛇特有のピット器官で判断する。

 

「ルクス、前にでて鉄壁と守る。シロ、土魔法で砂嵐……前方に隙間なく砂かけをして。クオンは下がって治療。ジュカ、戻ってクオンの護衛」

「……任務、了解……」

 

 メタグロスの姿に戻ったルクスが前に出る。しかし、攻撃は見えていないので、私が身体を操作する。ルクスを意思のある機械人形だと思いこめば可能だ。ゴーレムだってできたのだから、変わりはしない。無数に放たれる触手をシロの眼を通して見ながら、ルクスの身体を操作して受け止めて弾く。思考がクリアで、どこをどのようにすれば効率よく防げるか、計算して実行。思った通りの効果がでずにルクスの身体が攻撃される。でも、高い防御力によってほとんど効かずに弾かれるので大丈夫。その時間で修正して触手を掴んで振り回し、フレイルのように扱ってやる。

 

「砂嵐、準備できました。ジュカさんが戻ってきしだい撃ちます」

「戻った」

「了解です。いきます。力の根源たる白蛇が命じる。真理を今一度紐解き、願いの下、新たなる姿に生まれ出でよ。アル・ドライファ・サンドストーム」

 

 触手や土の杭が分解されて白い砂へと再構築され、嵐となってアリス達の目の前を薙ぎ払う。宙に浮いている星の精達はこちらに触手を伸ばしてくるけれど、サンドストームの勢いで弾き飛ばされていく。

 

「計算通り」

 

 シロの魔法が終われば、壁際に砂の塊がいくつかできている。そこに粘着性のある水でできた弾幕を最大数の280個展開してぶつける。コントロールなんて必要ない全面攻撃。数の暴力に避けたり、弾いたりはできない。

 周りが水浸しになり、砂と合わさることで泥となる。これによって見えない星の精は泥の化け物となった。

 

「見えたのなら、殺してみせましょう。ルクス、サイコキネシスで拘束。シロは土の杭を放って串刺しにして固定。ジュカはアリスと一緒に砕きにいきます」

「前にでるのですか?」

「……危険……」

「二人がちゃんと拘束してくれていたら大丈夫」

「なら、私もいく」

 

 後ろからクオンが声をかけてきたので、振り向くとすでに回復薬を飲んで傷を治していたようで、ぱっと見は大丈夫そうだね。

 

「シロ、槍を返してあげて」

「はい。ありがとうございました」

「こちらこそ助かった」

 

 アダマンタイト製の凄く硬い槍を受け取ったクオンが駆けて飛び上がり、一体の星の精を串刺しにする。すぐに引き抜いて何度も串刺しにして解体している。ジュカも人の姿になって赤紫色の爪で斬り刻んでいく。アリスも負けてられないので、駆ける。走るつもりで足を踏み込んだら、10メートルを一秒未満の速度で接近できて、壁に、星の精に激突した。

 それで星の精は吹き飛んで破片になってしまい、なんともいえない雰囲気になった。思わず頭を抱えるくらいには痛いけれど、言ってしまえばそれだけだ。

 踏み込んだところをみれば足の跡にへこんでいた。それもすぐに修復されていったので、見れなくなった。

 

「大丈夫? 怪我してない?」

「この程度は平気へっちゃらです。それよりも残りを始末しますよ」

「わかった」

「いっぱい倒す」

 

 クオンとジュカと共に拘束した奴等にとどめをさす。試しに全力で殴ってみたらたいした感触もなくゼリーみたいに潰れてしまった。魔法少女、やばい。流石は殺戮系出身の魔法少女。といっても、女神になった魔法少女には叶わないだろうけれど、レベルを上げたらアレクラスになるのかもしれない。

 しかし、あんなに怖かった星の精も、この姿なら怖くない。精神的に強化されているし、やっぱり解除しない方がいいのかも知れない。そう思っていると、殲滅が終わったからか、シロがこちらにやってきて星の精を食べていく。

 

「うわぁ……」

 

 シロはポケモンですらなく、完全なモンスターだからか、人のままでも食べている。あれ、ポケモンって共食いもとい、他のポケモンを食べるのだろうか? 襲って殺すことはあっても食べたり……やめよう。ポケモン達は木の実を食べて生活している。ファイナルアンサー! 

 

「ど、どんな味?」

「あんまり味はしませんね」

「一部は解析するから取っておいてね」

「はい」

 

 回収した星の精は解析しよう。というか、今思ったのだけれど、食べたら自己改造で透明になれたりするのだろうか? なれたら凄く便利だ。隠密系の魔導書はもうないのだし。ええい、()は度胸! 言い間違えた。男は度胸! 

 食べてみると味はしない。自己改造と変化で星の精の透明化のプロセスを解析して身体を構成している物質を変化させる。すると服がどんどん透けていく。素っ裸なアリスになり、恥ずかしくなって身体を隠す。続いて、皮膚が透けた。骨と臓器だけになる。怖いわ! とりあえず、目を瞑って身体が完全に透明になるまで待ってみる。

 

「わ、消えた」

「ん~見える?」

「私は見えない」

「見える」

「私も見えますね」

「……わからない……」

「ルクスは電磁波を放てばわかるんじゃないかな?」

「……わかった……反応がある……」

「なるほど。弱点はあるけどこれは便利かな」

 

 ちょっと怖いけれど、まあよしとしよう。あれ、でもこれって血液も透明になってるのか。自己改造は止めよう。怖すぎる。

 

「まあ、ゆっくりはできないし、さっさと移動しよう」

「わかりました。鞄をお持ちします」

「お願い」

 

 メイド服を着ているからか、シロが取りに行ってくれる。ちなみにメイド服はまだいいけれど、赤い首輪までつけているのはどうかと思う。まあ、それを言うとクオンもだけど。

 

「何?」

「なんでもないよ」

「そう」

 

 クオンの恰好は前と同じ動きやすい服装で、白色の短パンとニーソックスで絶対領域を確保しつつ、上はチャイナドレスのような感じでタンクトップのように脇がでている。黒い生地に青いラインがあり、先端が黒い銀色の髪の毛や耳、尻尾と合わさって似合っている。ジュカを見ると、ジュペッタの姿でこちらに飛んできて、アリスの腕の中に納まった。

 

「……マスター、この辺りに敵影、存在しない……」

「了解。冷蔵庫は……無事みたいだね。電子レンジも大丈夫か。よし、ルクス。これ持ってこう」

「……了解。頑張る……」

 

 冷蔵庫を持ち上げてみたけど、凄く軽い。コンセントは……なかった。何で動いているのか、不明。後で調べてみよう。

 

「お待たせしました。手伝いましょうか?」

「大丈夫。いざとなれば投げるから」

「かしこまりました」

 

 今までは持っていたら転んだはずが、なんともない。とても素晴らしい。鋼鉄の扉から冷蔵庫を出して移動していく。執務室もちょっと気になるけど、置いておこう。いや、軽く見てみよう。冷蔵庫を置いて中に入ると、テーブルの上に一冊の本が置かれていた。題名は四聖武器書。尚文おにーさんの世界の奴だ。試しに読んで……あ、しまった。やばい。致命的なミスを発見してしまった。あの世界、結界を張ってないじゃないか。また神様を名乗る不死者が世界に侵入してくるかもしれない。どうしよう。いや、行くしかない。

 開いてみるけれど、なんともない。内容を読んでみると、それは私が辿った軌跡が書かれている。その後のことも書かれているけれど、一応は問題無さそう。ただ、入れないのでどうしようもない。うん、これは一応持っていっておこう。アリスポイントがないせいかもしれないし。

 さて、ほぼ死なないので探索をしてみようかと思うのだけれど、まずはアリスお母さんと魔理沙お母さんに生存報告をしないといけない。その次はポケモン世界でイエローさんとアセロラに同じく生存報告。うん、探索は後回しにしてまずはそれからだね。

 よ~し、レッツゴー! 

 てくてくと冷蔵庫を持って歩く。東方世界の扉もポケモン世界の扉もどちらもクールタイムが終わっている。盾の勇者の成り上がり世界への扉は存在しない。やっぱり、アリスポイントが必要なのだろう。

 

「皆、今から私のお母さん達に会いに行くからね」

「了解」

「「わかった」」

「わかりました」

 

 扉を潜り、東方世界に入る。そこは懐かしく感じる我が家のような場所。冷蔵庫を置いてから扉をノックする。

 

「は~い。今あけます」

 

 木製の扉が開かれ、中から薄い赤色のフリルがついたワンピースを着たアリスお母さんがでてくる。

 

「マリスっ!」

 

 アリスお母さんは私を抱きしめてくれた、胸に顔を埋められ、思わず変身を解除してしまう。すると、恐怖心が蘇り、星の精や何度も死んだことが鮮明に思いだされて思わず思いっきり泣いてしまう。止めることなどできなくて、ただ泣きわめく。

 

「あら、随分と怖い目にあったみたいね。良く戻ってきたわ。もう大丈夫よ」

 

 頭を優しく撫でられ、心が温かくなってくる。

 

「貴女達は……マリスの新しい使い魔みたいね。どうぞ、入ってちょうだい。歓迎するわ」

 

 困惑している四人に頷いてから、皆で中に入る。良い歳して思いっきり泣いてしまったのが無性に恥ずかしくて死にたくなる。それにアリスお母さんから離れたくなくて、服の裾を無意識に掴んでしまっていた。

 

「あらあら」

 

 どことなく嬉しそうなアリスお母さんは席につくとアリスを膝の上に乗せて抱きしめ、とても甘やかしてくれる。美味しい紅茶を息で冷やして飲ませてくれたり、クッキーをあ~んして食べさせてくれるのだ。なんだかこのままずるずると甘えてしまいそうで怖い。でも、この怖さは幸せでいいかも──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、それでいいの。そのままでいなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のトラップはアリス様。判定は46なのでなんとか抜け出せます。おしい。

どうしようかなあ。異変にグラードン使うつもりなんだけど、もう異変を起こしても良い気がしてきた。
相手は魔法少女アリス。幻想郷の全てがいつの間にか迷いの森になってしまっていた! とか。でもなーこの程度の強さじゃ、確実に霊夢さんにぼっこぼこにされるんですよね。どうあがいても相性が悪い。夢想封印されると、妖怪は即封印のようなもの。魔導書なのでこれも同じ扱いにしますので……封印されたら時間も巻き戻せない。おそらく、戦えるのはクオンぐらい。でも、クオンは空も飛べないのでまだまだ弱い。ポケモンはどうだろう?
天敵だ。当たれば終わる即死攻撃の連打。弾幕ゲームならなんとか……もう少し考えてみます。

古戦場、ERRORおおすぎ! あと魔女兵器、リセマラでSSRでない。FGOのミステリー映画撮影は面白かったです。

誤字脱字、感想ありがとうございます。大変励みになっております。


最後にアリス様は大正義! アリス様が黒いなんて事は無いんだからね! いいね! アリス様が言えば黒でも白になるのです!(空白)


※他はないです。


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東方世界
38話


 

 

 

 安心できる我が家に戻り、アリスお母さんに抱きしめながらゆっくりまったりとする。癒されていると、目に入るのは空を飛ぶ上海達。そこで重要なことを思い出した。

 

「お、お母さん……あ、アリスの上海と蓬莱は……」

「ちゃんと預かって修理しておいたわよ。後でちゃんと起こしてあげなさい」

「ありがとう!」

 

 やっと上海と蓬莱に合える。後で思いっきり可愛がってあげよう。それよりも今は皆を紹介しよう。

 

「アリスお母さん、この子達は……」

「教えてくれる?」

「うん。えっとね、狐耳の子がクオン。奴隷として売られていたところを助けた、になるのかな?」

「ん。違う。買ってもらった」

「それもなんか違うかも。譲ってもらったってことになるのかな?」

 

 アリスお母さんに撫でられながら、世界のことも含めて説明していく。すると呆れられた。

 

「もしかして、本当に魔理沙の子供じゃないかしら……」

「ち、違うよ?」

「そうよね。うん。それでそっちの子は?」

「この子はメタグロスのルクス。クオンを除いた子達はモンスターで、本当の姿は別にあるの」

「そうなのね。メタグロスは確か、ポケモンなのよね?」

「うん。この子、ジュカとルクスがポケモン。二人はマザーとメルク達の子供だよ。こっちにいるんだよね?」

「あの子達なら、迷いの森の近くに作った牧場に居るから、そこに行けば会えるわよ。後で行ってみましょう」

「うん。それでね……」

 

 二人の進化したことなど、色々と話していく。シロについても説明すると、アリスお母さんは何かを考えているみたい。

 

「白蛇ね。まあ、どちらにせよ、マリスのことをよろしくね」

「……了解……」

「ん」

「お任せください」

「さて、次は私ね。私はアリス・マーガトロイド。一応、この子の母親よ」

「アリス?」

「……マスターと……同じ名前……」

「不思議。魂も似ている。同一人物……? 違う、アリスの身体、色々と混じってる」

「魂がわかるの?」

「わかる」

「ジュカは怨霊が中に入っている人形ですからね」

「そうなのね……こっちに来てくれるかしら?」

「いい?」

「おいで」

「ん」

 

 ジュカを呼び寄せ、ぬいぐるみの、ジュペッタの姿になってもらう。アリスお母さんはジュカの身体を持ち上げてしっかりと調べていく。

 

「作りが色々と甘いけど……付喪神とはまた違うし、言う通り中身に怨霊を入れているのね。こういうアプローチもありかしら……でも、使い勝手は悪くなりそうね。怨霊だと特にね」

「ジュカは良い子だよね?」

「ん、良い子」

「普通ならありえないのだけれど、ポケモンというのは……いえ、違うわね。卵から育てたから言う事をきくのかしら? まあ、どちらでもいいわ。それよりもアリス」

「なに?」

「臭うから、お風呂に入りましょう。貴女達も入った方がいいでしょうけど……」

「後で洗ってもらう」

「それがいい」

「はい。決まり。もうすぐ魔理沙も帰ってくるでしょうから、少し待っていてちょうだい」

 

 四人がこくこくと頷くと、アリスは抱き上げられてそのままお風呂に連れていかれた。そこでお母さんに全身を洗われる。背中から身体の隅々まで綺麗にされ、一緒の湯船で……ってっ、アリスは何をしているっ! 現状を正確に把握すると、すぐに顔や身体が真っ赤になってくる。

 

「ちっ」

「舌打ちっ!?」

「あら、気が付いたみたいね。残念」

 

 アリスお母さんは上海が持ってきたバスタオルを身体に巻いて外に外にでていく。そういえば、お風呂では常に先に入ってアリスの背後から洗われていたので、裸は見ていない。残念なような、よかったような不思議な感覚だ。いや、それよりも、あのままいけば完全に女の子になっていた気がする。最後の最後で安全な居場所に帰ってこれたと思ったところで、抱きしめられて温もりを感じて油断した。安心しきって子供らしく泣いて慰めてもらった上に甘やかされて……あのままいけば泥沼に嵌ったはずだ。

 

「うわぁ……最後のトラップが、文字通りの母性を発揮しているアリスお母さんとかない~」

 

 口に出してから冷静になるために頭の先まで湯船に入って考え……慌ててでる。これ、一緒に入ってたお湯な訳で……考えないようにしよう。シャワーを浴びて出よう。

 熱いお湯を浴びてから外に出ると、お母さんの上海と蓬莱が身体を綺麗に拭いてくれて、新しい服を着せてくれる。今回のは黒系のワンピースに白いエプロンで、魔理沙お母さんの恰好に似ている。サイズは私のだけれど。

 着替え終えてから脱衣所を出ると、アリスお母さんの代わりに魔理沙お母さんがリビングに居た。隣にはクオン達がいる。でも、シロが居ない。

 

「よう、無事に戻れたようだな」

「なんとかなりました」

「ふむ。やっぱりアリスの計画は失敗したのか」

「ある意味で最大の敵でしたよ……」

「ま、帰還おめでとうと言っておくぜ」

「ありがとうございます。それで、アリスお母さんは?」

「不貞腐れて出掛けちまった」

「嘘。ちょっと知り合いの所にシロを連れていった」

「シロを?」

「ま、そのうち戻るだろうから気にするなよ。それより、話は聞いたぞ。魔導書を手に入れたって? 見せてくれよ」

「いいですけど、貸しませんよ。ここで読むのなら構いませんけど」

「ちぇ~」

 

 魔理沙お母さんの貸すは、何時か返すだから基本的に帰ってこない可能性もある。まあ、一緒に住んでたら返してもらうのは簡単だけどね。

 

「とりあえず、これです」

 

 ネクロノミコンから取り出して順番に並べていくと、魔理沙お母さんは手を出そうとして止めた。

 

「これは私にはまだ早そうだ。迂闊に開いたら死ぬ奴だろ」

「死にはしないですが、発狂する可能性はありますね」

「ならいいや。普通のはないのか?」

「上から出していっていますからね」

「ふむふむ……これなんかいいな。資質向上の魔導書か。よし、これにしよう」

「それ、レベルの概念があるところでしか役に立たないと思いますが……」

「ま、その辺は試行錯誤だな。レベルはなくても経験値はあるから大丈夫だと思う」

「ならいいですよ」

 

 ネクロノミコンとかは直して、これからどうしようかと考えてみる。ご飯の時間はまだ早いし、お腹も空かないので問題ない。アリスの上海と蓬莱はお母さんから受け取るまではどうしようもない。

 

「どうしようか?」

「……マスター……」

「どうしたの?」

「……身体……洗って欲しい……」

 

 服の裾を掴んできたルクスのお願いは確かに必要なことだった。まあ、浄化の魔法でいけるけど洗ってあげよう。

 

「クオンは外で洗うわけにはいかないし、ジュカと一緒に入っておいで」

「わかった」

「お風呂、嫌い」

「駄目だよ。連行して」

「ん」

 

 クオンとジュカが上海と蓬莱に連れていかれたので、アリスはルクスと一緒に外に出る。外でデッキブラシを使って、メタグロスに戻ったルクスの身体を擦って綺麗にしていく。

 

「ああ、そうだ。異変の事はどうするんだ?」

「まだ力が足りません」

「そんなに急成長しているのにか? 魔力だって馬鹿みたいに上がってるだろ。それに魔導書だってあるんだ」

「まだ勝てませんから……」

「でも、移動制限があるから、面倒だろ」

「それはまあ……あ、そういえばファイヤーってどうなりました?」

「あの火の鳥か? アイツなら今日の夜に招待してるから、来ると思うぞ。紫の奴が宴会を開くって言ってたからな」

「ふむふむ」

「……マスター、そこ……」

「はいはい。ここですね」

 

 魔理沙お母さんが外にあるハンモックで寝ながら魔導書を読んでいっている。ルクスの身体をお掃除して、痒い所をかいてあげる。水の魔法で綺麗にしていく。

 

「そういえば、牧場には行くんだよな?」

「マザーとメルク達と会いたいですし、いきますよ」

「そうか。でも、メルクは居なかったんじゃないかな……」

「え?」

「にとり達、河童が連れていったはずだ。カゲボウズ達ゴースト系は冥界に運ばれたし、ここに居るのはマザー達メタモンとタツベイくらいだな。ちなみに私のポケモンも居るぜ」

「そうなんですか?」

「ああ。にとりがモンスターボールの複製に成功したからな」

 

 そういって、空中にボールを放り投げるお母さん。中からボーマンダがでてきた。パラセクトはもってこれてないし、仕方ないか。

 

「何故ボーマンダ?」

「私と戦ってたら、勝手に進化した。ちなみに翻訳魔法はパチュリーとさとりが協力して作ってる。まだ時間はかかるみたいだがな」

「そうなんですね……できたら教えてください」

「ああ、わかった」

 

 ルクスがふにゃふにゃのように気持ち良さそうな声をだしている。次第に人の姿に戻ると、胸以外の大事な部分は隠れている状態のびしょ濡れ美少女が現れた。不思議そうにこちらを見詰めている瞳が、上目使いでまた可愛らしい。まあ、ルクスがぺたんと座ってるからだけどね。

 

「人の姿になるとか、不思議だよな」

「変身魔法を覚えているからですね。頑張ればそのボーマンダだってなれますよ」

「ん~人の姿になる必要があるのなら、勝手に覚えるだろ。言葉が通じるのなら、必要ないしな」

「……ルクスは……人になれて、嬉しい……マスターがいっぱい、かまってくれる、から……」

「そうかそうか。ないがしろにしたんだ?」

「そんなつもりはないんですが、モフモフを優先しました」

「モフモフか。クオンだったか、後で触らせてくれ」

「本人が良ければいいですよ」

 

 蓬莱が持ってきたくれたタオルでルクスの頭を拭いていく。サラサラと綺麗な水色の髪の毛が太陽の光で輝いている。

 

「やりっ! んじゃ、異変について詰めるか。まず、紫の要望はポケモンを出すことだな。目玉になりそうなのはファイヤーとボーマンダか? その二体とマリスが戦うのでもいいが……弱いな」

「アリスも戦いますが、まだ弱いですね。やっぱりもっと強いのを持ってこないと……」

「あんまりやって幻想郷が壊れるのも困るって言ってたぞ……」

「大丈夫です。アリスの世界、固有結界に案内してからやるので幻想郷に影響はないです」

「そいつはまた豪勢なこったな。なら、その世界にポケモンをいっぱい放つとして……やっぱり数が足りないな」

「数ですか……やっぱり、向こうの世界から連れてくるしかないのか……」

「……マスター、インスタントダンジョン……?」

「インスタントダンジョン……ああ、可能性がありますね。モンスターボールを依代にして作ればいけるかも」

「そのインスタントダンジョンってなんだ?」

「インスタントダンジョンは……」

 

 魔理沙お母さんに説明していくと、凄く乗り気になったので試してみよう。クオンとジュカが戻ってきたので、彼女達も連れて行ってみる。

 

「モンスターボールのインスタントダンジョン作成。完成」

「渦だな。これは確かに面白そうだ。やばくなったら即撤退だったか」

「はい。死んじゃいますからね」

「様子見でいいだろ」

「覗くだけです」

 

 インスタントダンジョンの中に入ると、そこは三つの島だった。周りは広大な海が広がっている。島の中には無数のポケモン達が暮らしていて、それらが一斉にこちらを見詰めてくる。

 相手はニドキングとニドクイン。その親子だろうニドランとニドリーノもいる。それらが一斉にこっちに向かってくる。

 

「マリス、やるぞ」

「はい。ルクスとクオンはアリスと前衛。ジュカはお母さんの護衛。お母さんは後方から火力攻撃でお願いします」

 

 変身しながら伝えると、お母さん達も納得してくれた。さて、ニドキングと格闘バトルだ。そう思っていたのだけど、ニドキング達は必死の形相で逃げてきている。

 

「なにかおかしくないか?」

「みたいですね」

 

 よくよく見ればみんなが逃げているし、その先を確認すると……どんどん凍ってきている。その凍っている場所には雷が放たれていた。

 

「あははは」

「どうした?」

「あれ、サンダーとフリーザーと言って、ファイヤーに近い存在です」

「んじゃ、捕まえてみるか。氷と雷、どっちがいい?」

「あー雷がいいですね。凍らされるときつい」

「あいよ。んじゃ、まずは先制といきますか。喰らえ、マスタースパークっ!!」

 

 いきなり全力攻撃。お母さんが手に持っていたミニ八卦炉から発射される極大の光の奔流はビームのように突き進み、争っていた二体をまるごと飲み込んでいく。余波だけでニドキング達は吹き飛び、ごろごろと転がっている。流石に山は貫通していないけれど、これはチャンスなので近付いて起き上がる前にニドキングに乗って、殴って殴って殴りまくる。

 ルクスもニドクインを同じようにコメットパンチとか冷凍パンチで無力化していく。ちびっ子たちはクオンとジュカで倒してモンスターボールに入れていく。ハードゴア・アリスなので残虐なのです。

 

「さて、このまま放置してもいいんですが、多分……ルギアがでてくるんですよね……」

「ルギア?」

「海の神と伝えられている一体ですね」

「欲しいか?」

「欲しいですが、無理です。神様に勝てますか?」

「できないのか?」

「まあ、できなくはないかもです」

「んじゃ、やってみるか」

「はい。小さな扉、くるくるお茶会、白黒マス目の虹色草原、お喋り双子の禅問答。でもでも、お気に入りはやっぱり一つ。全てを忘れる、名無しの森にご招待!」

 

 まずは固有結界を展開する。名前を奪い、存在を消去してしまう固有結界、名無しの森。ここにまずはフリーザーとサンダーごとこの世界を書き換えて閉じ込める。

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!」

 

 ああ、やっぱりでてきた。マスタースパークを喰らってボロボロのサンダーとフリーザー。そして、森に変化していく海から出てくるのは高さが5メートルちょっとぐらいある巨大なポケモン。翼竜に近い全身は、激しい海流に適応するために丸みを帯び、全身が銀色の羽と称される白い羽毛に覆われていて、翼の先は水をかくのに適した手のような形になっている。

 鋭い目元や背中、尻尾の先からは水中での姿勢制御用と思われる藍色のフィンが生えており、腹部はそれより少し薄い青色となっている。

 海の神と伝えられる存在で、翼を軽く羽ばたいただけで民家を吹っ飛ばす程の力を持ち、力を込めて羽ばたくと40日嵐が続くとも、逆に荒れ狂う海を鎮めるとも云われている。

 

「あーこいつはやべえな」

 

 お母さんが帽子の裾を深く被る。でも、大丈夫だと思う。だって、()()()()()()()()()()()

 

「とりあえず、隠れながら攻撃して疲弊させます。だんだんと名前を失って存在が消えていきますから、そこまで逃げて逃げて、攻撃して弱ったところを捕まえます」

「ま、それしかないか」

「ただ弱らせる敵は出しておきましょう。来て、ジャバウォック!」

 

 呼び出した巨大な怪物に命令させ、ルギア達を襲わせる。この世界は飛行禁止ではないけれど、上下反転の呪いをかけている。だから、空に飛んで行ったら地面に落ちていることになる。さて、ルギアVSサンダーVSフリーザーVSジャバウォック。横やりに私達がいるけど、どうなるかな? ちなみにジャバウォックは魔力がある限り無限復活する。そして、なにより全ステータスがEXランク相当。ただし255であるので、神様がそれ以上ならどうしようもない。ただ、制限が解除されている海の神様がその程度だとしたら、片腹痛い。

 

 

 

 

 

 




なんでこうなった。ルギアは判定クリティカルしたから出た。ルギアちゃん可哀想に。地形の有利が一切ない。ルギアの勝ち目は固有結界を壊さないとない! そして、固有結界を張っているのはハードゴア・アリス。でも、ルギアさん、エスパータイプなんだよねー。あと、このルギアさん、レベル80である。
サンダー57、フリーザー77。レベルの上でも負けているこの二匹に未来はあるのか!


ちなみに今回は空白になにもないです。


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ハードゴア・アリス

残虐な表現があります。腕とか吹き飛びます。下半身消し飛びます。結論はあとがきに書くので、嫌な人はあとがきだけどうぞ。


 

 

 

 

 さてさて、Fate/EXTRAとFGOに登場するキャスターのサーヴァントで、本名はナーサリー・ライム。マスターのありすと同じ姿をして、ありすからアリスと呼ばれる少女。実在する絵本の総称、ナーサリーライム。おとぎ話の概念が、子供の夢を守る英霊としてサーヴァントになったという特殊な存在。

 言ってしまえばおとぎ話の化身であり、サーヴァントが固有結界を作るのではなく、固有結界そのものがサーヴァント。固有の姿を持たず、マスターによってビジュアル・能力を自由に変化させる。

 エクストラなどではマスターであるありすの愛読書であった不思議の国のアリスと自身が物語の主人公だったならという望みから、この様な姿をとっている。

 宝具によって様々な異常現象を引き起こす。瞬間移動を自在に行い、その行動は神出鬼没。氷塊や風の刃、火炎といった三属性の魔術を操る。

 ただし肉体や外見は人間であるありすを鏡合わせにして顕現している為、正面向かっての戦闘能力は極めて低いが、今のアリスの場合はハードゴア・アリスで補える。

 

「……なあ、ところで私は誰だ?」

「貴女は魔理沙。私のお母さんの一人です」

「そうだ。私は魔理沙……」

 

 自分の名前を口にする事で結界から逃れる事ができるが、結界に入った時点で名を失い忘れてしまうため、事前にメモなどを持っておく必要がある。今回は用意していないので、自分の名前を教えてあげる。

 

「教えた名前を言ってね。そうじゃないとこの結界の効果から抜け出せないから」

「わかった。ジュカ。それが名前」

「私はクオン……ん、これでいい?」

「……ルクス……」

「はい、大丈夫なはずです」

「まったく、名前の消失からの存在の消失か……厄介な。やっぱ、これだけでも充分に異変になるぜ」

「でしょうね。でも、今はまずル、……アイツをどうするかです。名前は言わないようにお願いします」

「あいよ」

 

 さて、あちらでは怪獣大決戦が行われている。ルギアが口から破壊光線を放ち、ジャバウォックを倒そうとするが、ジャバウォックも光線を放って互いの中心部でぶつかって激しい爆発を起こす。そこにサンダーが雷を放ち、フリーザーが吹雪を放つ。ルギアの方が出力が高いのか、押し負けて身体を抉り飛ばされるけれども、アリスが時間を巻き戻して身体をもとに戻す。

 戻したジャバウォックはそのままルギアの首に噛みついてそのまま光線を放つ。しかし、ルギアの翼を軽く羽ばたいただけで民家を吹っ飛ばす程の力を持ち、力を込めて羽ばたくと40日嵐が続くとも言われている力で起こされる風で吹き飛ばされ、口からエアロブラストを至近距離で放たれて上半身が消滅させられ、後方の森が広範囲、数キロに渡って文字通り消し飛ぶ。残ったのは抉られた地面だけ。

 

「物語は永遠に続く。か細い指を一頁目に戻すようにあるいは二巻目を手に取るように。その読み手が、現実を拒み続ける限り。ふう……神様半端ないです」

「だなぁ」

「……無理……勝てない……」

「力、違いすぎる」

「ん、これは怖い」

「じゃ、ジャバウォックも負けてませんよ!」

 

 復活したジャバウォックに支援魔法をかけて殴らせる。ルギアが吹き飛び、空の彼方へと飛んでいく前に翼を広げて急制動をかけようとして、上下が反転して地面に落ちる。そこにジャンプしたジャバウォックが両手を合わせて振り下ろす。巨大な拳を合わせた一撃はルギアの周りの地面ごと広範囲に陥没させてすくなくないダメージを与える。そこに冷凍ビームと十万ボルトが放たれるが、ジャバウォックは気にせずルギアの上に乗ってマウントを取って殴り続ける。

 

「避けねえのか?」

「そんな理性はありませんから。ただアリスの命令通りに相手を殺すだけの存在です」

「そうか。で、私達はどうするんだ?」

「まずは逃げてくるポケモンの確保ですね」

「やっぱそれからか」

 

 この島以外にもあった島は森に変化したことで物理的に繋がった。島は山となり、そこに三つの祠があるのだろう。幻のポケモン、ルギア爆誕という映画で出て来たような存在なのだろう。ただ、それよりもこのルギアは強力みたいだ。瞑想して威力を上げて高圧水流を放つハイドロポンプや冷凍ビーム、サイコキネシス、十万ボルトなどでジャバウォックやフリーザー、サンダーを倒しにかかっている。更に自己再生もするので、ジュカに恨みを使ってもらいたいけど流石にあの中に入る気はない。それにここからでも攻撃はできるしね。

 まあ、あちらは今は放置でいい。こちらの問題がある。三島が一体化したことで他のポケモン達が襲い掛かってくるんだよね。このインスタントダンジョンは当然のように侵入者には容赦しない。例え生存競争していても、侵入者は等しく敵になる。今も大挙として押し寄せてくるので、迎撃として魔理沙お母さんが弾幕を放ち、ルクスとジュカ、クオンにお母さんのボーマンダが敵を倒していっている。

 

「アリス、追加の戦力!」

「おいでなさい、トランプ兵!」

 

 40体からなる槍を携えたトランプの兵隊達で構成された軍隊を放ち、弱らせていく。ただ、遠くで戦っている連中の余波だけで台風の中にいるような状況なので、結構吹き飛んだりもしている。そんな状況でも負けずに襲ってくる奴がいる。そいつは黄緑色の鎧を纏ったようなデザインで、怪獣を彷彿とさせる風貌が特徴的なポケモン。肌は緑色の岩のようにゴツゴツとしており、背中はいくつもの鋭い背ビレで覆われている。目つきは鋭く獰猛さを醸し出している。 体の中心が菱形に開いており、そこからサナギラスの名残と思わしき青い模様が見える。これは背中にも同様の模様がある。首元やひざ部分などには黒い穴が開いていた。

 

「これもポケモンか?」

「そうですね。名前はバンギラスです」

「おっきい」

 

 相手は2メートルもあるポケモンで、無数の岩を空中に生み出して放ってくる。ルクスが前にでて弾き返す。その弾き返された岩に乗ったクオンが、そのまま接近して斬りかかろうとすると爪で逆に切りかかってくる。

 

「くっ……」

「クオンっ!」

「大丈夫っ!」

 

 クオンが槍で防御するも、まるで木の葉のように吹き飛ばされて空中で回転して体勢を整えたところで、ルクスの身体に着地する。その間にバンギラスは地面に転がっている丸太を持ち、振り回してくる。

 

「おいおい、鬱陶しいな」

 

 魔理沙お母さんは空に退避したので、アリス達も空に退避する。そのタイミングでバンギラスが足を振り上げて地面を叩き付ける。すると地震が起きて周りに地割れが発生し、周りのポケモン達を飲み込んでいく。

 

「とんでもないな。まあ、飛んだら関係ないか。スペルカード、魔符・ミルキーウェイ」

 

 無数の星の弾幕がバンギラスに降り注いでいく。相手は600族と呼ばれる普通のポケモンでもトップの力を持つ存在。その力は片腕を動かしただけで山を崩し、地響きを起こすなどかなりのパワーを秘めている。ただ、弱点はある。例えばハイドロポンプとか格闘タイプに弱いということだ。

 

「というわけで、いってきます」

「どういうわけだ!」

 

 空間転移を使う。視界が一瞬で入れ替わり、目の前にバンギラスの足がある。アリスは足元に移動してハードゴア・アリスの破壊力と各種支援魔法で底上げしまくった状態でバリアを展開して反射咆哮を逆転させた状態で殴る。そんな破壊の一撃を斜め上から思いっきり足の皿に叩き付けてやった。硬い感触がする鎧のような足に戦車を超える一撃を受けた足は折れて砕けた。地面にクレーターを作ったのに原形が残っている。ちょっと信じられない。

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「マリスってこんな馬鹿力だったか?」

「違いますよ。これはこないだ、アリスポイントを使って手に入れた力です」

 

 空間転移で隣に移動する。先程まで私がいた所に破壊光線が飛んでくる。七色の光線は空中に消えて向きを変えて戻ってきて、撃ったバンギラス本人が受けて激痛に叫び声をあげた。なんだか可哀想になってきた。

 

「便利だな……ちょっと羨ましいぞ。私の魔力をあっさりと抜いていったし……」

「じゃあ、次は魔理沙お母さんに譲りましょうか?」

「いらない。私は私として強くなるからな」

「ですよね。まあ、アリス、マリスとしても困りますしね」

「だよな」

 

 アリスと魔理沙お母さんが話している間に、ボーマンダが空から急降下してかわらわりを頭に叩きつけた。どうやら、剣の舞で今まで火力を上げていたみたいで、その一撃でバンギラスは倒れた。

 

「こいつはどうする?」

「とりあえず、捕獲してどうするか決めましょう」

「だな」

「クオン、お願いします」

「了解」

 

 クオンが飛び降りてから、倒れているバンギラスの瞳にアダマンタイト製の槍を突き付け、何時でも刺せる状態にし、モンスターボールを手に持つ。

 

「選んで。ここで死ぬか、それとも私達と来るか」

「ぐろらぁぁ……」

「ん、良い子」

 

 バンギラスは差し出されたモンスターボールのボタンを自ら押して、中に入った。あの子も死にたくはないようだ。地面の下に落ちたポケモン達もモンスターボールを落として捕まえていく。これでこちらはどうにかなったけれど、あちらは……あ、やばい。気付いたらサンダーとフリーザーがやられている。ルクスやジュカを送るべきなんだろうけど、復活するとはいえ、死なれるのは可哀想だし……それにバレたらこちらを狙ってきそうだから、このままでいいか。

 

「お母さん、ちょっとサンダーとフリーザーがやられたみたいなので捕まえてきます」

「了解。気をつけろよ」

「はい」

「……マスター、ルクス達は……」

「待機です。転移しますから、待っていてください」

「一緒に行く」

「ジュカなら、確かに大丈夫ですね。ルクスは大きすぎるので駄目ですが……」

「……残念……ジュカ、お願い……」

「任せて」

 

 ジュカは小さくなって、アリスの腕の中に納まる。クオンは下の方でポケモン達を捕まえているので、こちらの話は伝わっていない。

 

「では、いってきます」

「おう。こっちは任せな」

「お願いします」

 

 ここはアリスの世界であるが故に中に居る存在もわかるし、天候だって操れる。だから、まずは目くらましとして吹雪を張って、雷を落としてルギアと戦うジャバウォックを支えていく。魔力の消費量がかなりあるけれど、まだ余裕はあるのでさっさと転移する。

 視界が入れ替わり、深い森が燃えている。その中心部で倒れた木々に埋まって瀕死の状態でぐったりとしているサンダー。その横に到着し、動けないサンダーと視線を合わせる。

 

「アリスの声が聞こえる?」

「ギャ……オ……」

「自分の状態はわかってるよね? どうすればいいかわかる? わかるよね? 捕まってくるのなら助けてあげるし、ルギアともまた戦わせてあげる。ううん、アリスはボールを投げるから、あなたが死ぬか生きるか、選んで。嫌なら苦しまないように殺してあげる」

 

 モンスターボールを差し出して、押し付けると大人しく入ってくれた。ポケモンも生命だ。死ぬのは怖くて嫌だろう。中には死を選ぶ子もいるだろうけど……この子達は死を選ばせない。無理矢理回復してまた、ダメージを与えてでも捕まえる。その後は逃がしてあげてもいい。何故って? スキルポイントが欲しいから! 

 

「良い子だね。これからよろしくね、サンダー。さて、サンダーゲットだよ」

 

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を開くとちゃんとスキルポイントが5点入っている。これでまずは魔術刻印のレベルを上げる。瞬間再生能力をもっとあげればどんな傷でも治る魔法とあわせれば超速再生だって夢じゃない。これから火山に生身で突入したりするような感じのことをしないといけないと考えたら必要だ。

 

「次はフリーザーかな」

 

 フリーザーは凍り付いた山を貫通して、山の中に埋まっている。ルギアの一撃で吹き飛ばされたのか、それともジャバウォックかはわからない。どちらにせよ、綺麗な翼は無残に折れてあらぬ方向を向いているし、身体に岩が突き刺さって出血も多い。そんなフリーザーは起き上がってまだ戦おうとしている。

 

「このまま負けたまま死んでいくか、アリスと来て一緒にルギアを倒そう? それとも負け犬のままがいい?」

「ギャっ!」

 

 フリーザーはこちらを睨み付けてくる。

 

「アリスと契約して力を得るか、それともここで倒れるか選ばせてあげる」

「一緒に来た方が良い。強くなれる」

「……ぎゃ……」

「わかったって。ただ、ルギアを倒せなかったら、従わないって言ってる」

「それでいいよ。もし無理だったら逃がしてあげるから、好きにしていいよ」

「ぎゃぁ」

「うん。これに入って」

 

 ジュカがモンスターボールを渡すと、大人しく捕まってくれた。これでよし。またスキルポイントをゲット。これで魔術刻印は10になった。全身に施された魔術刻印がさらに強化されて、ようやく久遠寺アリスと同じレベルの回復力を手に入れた。それに神秘が身体全体に行き渡っているし、だいぶ力も強くなった。残りの1点はプロイキッシャーに振っておこう。伝承防御が欲しい。赤ずきんがうまくいかなかったのはプロイキッシャーと魔術刻印のレベルが低かったからかもれないしね。というか、魔術刻印があったからこそ、プロイキッシャーも動くわけで……単純にレベル不足だったのかも。

 

「よし、でてきて、サンダー、フリーザー」

「「ぎゃ……」」

 

 ボロボロの二匹がモンスターボールからでてくる。二匹は互いを見て、攻撃しようとしているので、慌てて止める。

 

「駄目です。これから協力してもらうんですから。治療しませんよ」

「ぎゃ……」

「わかったって」

「では、まずはこれを食べてください。マッドスィートケーク」

 

 生み出したケーキを掴んで、それぞれの口に運んで食べさせていく。二匹の身体が光ってみるみるうちに傷が治っていく。追加で回復魔法を使ってから、完全に治療してあげると、元気になってこちらを見詰めてくる。

 

「回復したら、これからのことを教えます。まず、ルギアは普通に戦っても勝てません。ですので、アリスが用意した今、ルギアと戦っているジャバウォックを盾にして、遠距離から攻撃してください。それとあなた達は一度、自分の名前、種族でもいいので意識して口にだしてください。これで結界の効果は下がります。そうでないと次第に存在が薄くなっていきますからね」

「「ぎゃ」」

「これ、凄く怖い」

「ですね。さて、こちらも攻撃を仕掛けますが、もう少しダメージを積み重ねます。いいですね?」

「「ぎゃ!」」

「わかったって」

「では行きましょう」

 

 外に出たら、二匹には遠距離から撃たせて、しっかりと確認してからまずは転移で戻る。魔力が足りないので補充しようと思う。ジャバウォックの再生が大変だし。

 

「ただいま戻りました」

「どうだった?」

「無事に捕まえられました。今は相手をしてもらっています。それでミニ八卦炉、貸してもらえませんか?」

「魔力が足りないのか」

「はい」

「いいぞ。というか、アリス用に一個用意してもらっておいたからな。使い方を教えるから、しっかりと覚えろよ」

「お願いします」

 

 魔理沙お母さんからミニ八卦炉を受け取り、使い方を教えてもらう。後ろから抱きしめるようにされて使い方をレクチャーしてまらった。まずはミニ八卦炉に魔力を入れると、円を描くように中心部に向かって循環していってどんどん増幅されていく。中心部から放出するか、また循環させられるかを選べるのでかなり便利だ。

 

「コントロールミスったら、ボンっ! って吹っ飛ぶから気をつけろよ」

「わかってます」

「まあ、マリスなら大丈夫だろうがな。再生するんだろ?」

「肉片からでも再生しますから、平気ですね」

 

 でも、怖いから変身した時にしか使わないようにしよう、うん。さて増幅した魔力を使ってやることは全員に支援魔法をかける。

 

「力の根源たる魔導書の勇者が命じる。今一度真理を紐解き、何者にも負けぬ不屈の力を与えよ。アル・リベレイション・オーラⅩ」

 

 尚文おにーさんが使っていた盾の勇者専用の全能力向上魔法。私は魔法ならなんだって使える。だから、これも使える。カルミラ島はポータルを取ってあるし、ちょくちょく暇をみていって、魔法を習得しておいた。だからダウンも使える。

 

「おお、身体が軽くなったな。それに力が溢れてくるぜ!」

「ん、これならいけると思う」

「……彼我の戦力差は絶大……まだ勝てない……」

「そうなんですよね。ですから、こうします」

 

 まずはジャバウォックとルギアの周りに大きくバリアを展開する。これは内部にベクトルを向けるようにして、内部からは外に出さないようにする。そこに大量の空気を送り込む。フリーザーの冷凍ビームも入って行って、そこにサンダーの雷も降り注ぐ。中のルギアとジャバウォックは相変わらず格闘をして殺し合っているので、ばれてはいない。ルギアが雨乞いやハイドロポンプで水を出しているので、こちらは火の雨を降らしてやる。

 水と火によって水蒸気が発生していく。発生した水蒸気はバリアで逃げることはできずに内部に溜まっていく。そこにルギアはエアロブラストなどを放つために大量の空気を集めるのでさらに密度がましていく。ただ、エアロブラストの余波だけで結界が壊れそうになるので全力で魔力を供給して維持する。増幅がないと話にならない。

 次第に水が気化して限界を迎えて内部が爆発する。爆発の余波の衝撃波だけで吹き飛び、なんとか制御する。ルクスが捕まえてくれなかったらやばかった。ジャバウォックもその衝撃で消滅し、ルギアに少なくないダメージを与えた……と思ったら、相手は無傷だった。いや、ダメージを負っているけれどどんどん回復している。

 

『見つけたぞ。こそこそ隠れずにかかってこい』

「これ、テレパシーか?」

「みたいですね」

「見つかった」

「散開!」

 

 水蒸気爆発でもたいしてダメージが与えられないとなると、これはもう水爆ぐらいしか思いつかない。でも、詳しい原理なんて覚えていないし……いくら世界最高の頭脳を持っていても、使いこなせないと意味ない。やっぱり、徹底的にPPを削るか……でも、ゲームじゃないし、残ってる可能性が多い。

 

「くらえっ、マスタースパークっ!」

『甘いわ!』

 

 マスタースパークとルギアビームが激突して大爆発を起こす。お母さんは帽子を押さえながら、必死に逃げている。仕方ないので、転移して思いっきりルギアの目玉を殴る。

 

『ぐっ、卑怯な!』

「卑怯で結構です。矮小な人間が神様クラスに挑んでいるんですからね!」

 

 拳が降られ、吹き飛ばされる。数々の木々を粉砕していく間ジュカがシャドーボールの弾幕で追撃を防ぐ。その間に転移して、空中に戻る。身体の半分が潰れていたけれど、魔術刻印とどんなケガをしてもすぐに治るよの魔法によって自動で、瞬間再生されていく。すぐに綺麗な腕などが元に戻り、確かめるとちゃんと動く。

 

『貴様、本当に人か?』

「人ですよ。ええ、アリスは男ですから! 来なさい、ジャバウォック、トランプ兵!」

「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!」

『ええい、何度殺しても蘇りよって、鬱陶しい!』

 

 ルギアが攻撃するためにアリスを視界から外した瞬間に転移し、ルクスの下に移動する。メタグロスの姿のルクスに乗り、ジュカを抱きながらクオンやお母さんを確認すると、無事みたい。でも、飛べないクオンは辛そうだ。

 

「ルクスはクオンを回収してください」

「……了解……」

 

 ルギアはジャバウォックを吹き飛ばすと、こちらに一直線に向かってくる。アリスとしても、ルクスが逃げる時間を稼がないといけないので、弾幕を展開しながら突撃する。すると、ルギアの左右から冷凍ビームや十万ボルトが飛んできて、妨害してくれる。

 相手の火力は高く、耐久力も非常に高い。これはどうすれば勝てるのだろうか? 

 考えながら戦っていると、下半身が消し飛んだ。瞬間再生するが、即座に身体が斬り刻まれる。時間を巻き戻して、転移して逃げる。感覚的に風の刃だと断定できる。見えない刃というのは厄介だ。なら、こちらも見えなくしてやる。そう思ったら身体が圧縮されていく。サイコキネシスなのだろう。まあ、関係ない。転移で逃げて再生する。

 

「これ、もう完全に殺し合いですね……」

『当然だ。命を賭けてかかってこい!』

「……なら、生き残ったら私のポケモンになってもらいますよ」

『いいだろう』

「できたら、子供がいいですけどね」

『子供も用意してやろう。勝てればな!』

 

 ルギアは幻ポケモンや伝説ポケモンの中で、子供が確認できている。アニメででてきたからね。私は卵から育てたい。絶対にそっちの方が強くなる。まあ、資質向上でレベルを下げてもいいのだけれど。しかし、こっちの火力が……いや、待てよ。外が駄目なら中からってのが基本か。試してみる価値はある。

 

「卵ってすでにあるんですか? あなたが死んだら、聞けないですし」

『ある。私の身体の中にな! だから、私を殺せば連れていくといい』

「なるほど。わかりました」

 

 座標の計算。周りの座標とルギアの身長5.3メートルからルギアの体内座標を特定。完了。図鑑より0.1メートルほど高い。

 計算している間にハイドロポンプがルギアの身体の周りから無数に放たれる。回避行動を取るも、速度が違い過ぎる。ジャバウォックを盾にして転移しようにも身体が貫かれる。一本一本が大きいので、本当に小さな身体では半分ぐらい吹き飛ばされていく。

 

『貴様、不死身か!』

「ですよ!」

 

 弾幕で迎撃しようにも、相手の攻撃に触れるだけで消し飛ばされるし、バリアだって紙のように貫通してくる。

 

「マリス、手はあるか!」

「ありますけど、止められませんっ!」

「なら、私に任せな!」

「ちょ!」

 

 魔理沙お母さんが箒からマスタースパークに匹敵する極太の光を出しながら高速でルギアに突撃していく。ルギアも複数のハイドロポンプで迎撃するが、まるで見えているかのように高速で移動し、星の弾幕で軌道をずらして避けていく。

 

「彗星・ブレイジングスター! 私を捕まえられるか試してみな!」

『面白い!』

「ああもう! ジュカ、呪い! ダウンⅩ!」

「恨み晴らす」

 

 デバフをかけて相手の能力値を下げる。続いて魔理沙お母さんにバリアを展開して、フリーザーとサンダー、ジャバウォックも突撃させて相手の処理能力を落とさせる。

 

「ルクス、破壊光線! クオンは幻術で魔理沙お母さんのダミーを!」

「……まか、せて……」

「ん!」

 

 無数にでた魔理沙お母さんと破壊光線などの攻撃。これでもルギアは対処してくる。すると空から無数の隕石が落ちてきて、ルギアを目指していく。流石のルギアもこれは迎撃しだした。それに幻影も一々迎撃しないといけないので負荷は確実に大きい。

 

「ボーマンダの流星群ですか」

 

 突撃すら囮、と。流石は巫女でもないのに人の身で異変に参加していたということか。戦い慣れてる。座標の修正も完了。転移。

 

 

 ルギアの体内に転移したアリスはGrimoire of Alice(アリスの魔導書)からアダマンタイトゴーレムやオリハルコンゴーレム、ミスリルゴーレムをだして、身体の内部を広げる。強烈な胃液がでてきて、バリアをあっさりと貫通してアリスの服を溶かしていく。

 探索魔法で卵のような物を探し、発見する。それを回収してからアリスは全力でミニ八卦炉に魔力を通して、増幅に増幅を重ねて臨界点を超えて暴走させる。片腕をゴーレムに斬り落とさせ、爆発の直前に卵を持って転移する。

 

「全員っ、脱出! ミニ八卦炉を暴走させました!」

「うおっ! やべぇ!」

 

 魔理沙お母さんに卵を投げ渡して、脱出アイテムを使ってもらう。クオンは命令して強制的に脱出させる。他はモンスターボールや魔導書に戻す。魔導書も身体の中に戻せばもう残るはアリスだけ。

 

『ぐぅ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!』

「命を賭けてかかってこいとのことでしたので、命を賭けますよ。これで死ね」

 

 ルギアの内部から炎が漏れだす。内部で爆発が起きて一部はミスリルゴーレムに反射されるが、全てのゴーレムが燃やされ、溶かされた状態で爆発によって吹き飛ばされる。それはまさにクラスター爆弾や手榴弾と同じ原理だ。身体中からゴーレムの破片がでてきたルギアの身体は穴だらけで、身体が焼けて肌や内部は一部が……そこまで見たら、そのまま極光のような炎にアリスも焼かれていく。

 

 

 

 

 50分ほどで肉片から再生が完了した。本当、恐ろしい回復能力だ。周りを見渡せば森なんてなくなっている。残っているのは結晶化した地面と、ルギアであろう黒い物体。

 

「勝った」

 

 あの女神(笑)には勝てなくても、普通の神様なら勝てるのかも知れない。そう思ったら、黒い塊が罅割れていき、中から綺麗なルギアがでてきた。

 

「嘘でしょ、ちょっと……」

『再生が貴様だけの特権だと思うなよ』

 

 ばさっと翼を広げるルギアは流石に身長が低くなっていて、4メートルぐらいしかない。だが、そんなことよりも、地面が結晶化するような高温を内部から受けても生きてるってありえない! 

 

「ちっ、こうなったらやるしかないのか……」

 

 首にかけている銀の鍵を握る。今回は生贄なんて事前に用意していない。どんな代価になるのか、怖い。かといってクトゥグアは召喚できない。フォーマルハウトはここにはない。ハスターを召喚するのも、それはそれで怖い。何を考えているかわからないからだ。クトゥルフはない。相手も水の神様だ。ニャルラトホテプ? こないだン・ガイの森を燃やしたばかりなのに? 逆に殺される。

 

『どうやら、手が尽きたようだな。ならば、我の勝ちだ。大人しく死ぬがいい』

「そうですね。大人しく負けを認めて帰るのも──」

「おっと、それは待ってもらおうか」

「え?」

 

 振り返ると、そこには私よりもちょっと身長が大きな蛙の帽子をかぶった可愛らしい金髪幼女の神様がいた。髪型は金髪のショートボブ。青と白を基調とした壺装束と呼ばれる女性の外出時の格好をしている。足には白のニーソックスをはき、頭には俗に蛙の帽子ことケロちゃん帽子などと呼ばれる市女笠(いちめがさ)に目玉が二つ付いた特殊な帽子(ZUN帽)を被っている。市女笠とは、真ん中の高い巾子(こじ)が特徴的な笠であり、これも女性の外出時の格好。上の目玉二つは蛙をイメージした物である。また服の各所には鳥獣戯画の蛙が描かれている。その隣にはメイド服姿のシロが立っていた。

 

「諏訪子ちゃん?」

「あはは、諏訪子ちゃんか~」

「ご、ごめっ、申し訳ございません。諏訪子様」

 

 急いで謝る。この人は見た目と違って、かなりやばい神様だ。山の神様であり、神としての性質はいわゆる土着神、特定の地域でのみ信仰される神であり、その土地を離れると殆ど力を失う。 しかし信仰されている地域内では、ときに最高神クラスの神格をも凌駕する力を持つ。 古くは土着神であり祟り神であるミシャグジ様達を統べる神として祀られていた。今は弱体化しているけれど、言ってしまえば日本最強の祟り神であり、土地神の頂点である。

 

「いや、ちゃんでいいよ。そう呼ばれるのって久しいからねえ~」

「それで、なぜここに……」

「敬語もいいからね。どうせ力を失った土地神だしね。ここに来たのはアリスが紫に頼んだから、向かえにきたんだよ」

「そ、そうなんですか……」

「敬語」

「そうなんだ……何時からいたんですか?」

「ん~と、四半時くらい?」

「待っててくれたんだ。ありがとう」

「ふふふ、アレとも戦ってみたかったしね。それにこの子にも頼まれたし」

「ん」

 

 シロの頭を撫でる諏訪子ちゃん。シロは気持ち良さそうにしている。

 

「えっと、もしかして……」

「アリスが加護を与えてくれって連れてきたんだ。で、話を聞いたら面白そうだったから与えてやった。それに異世界の竜帝だっけ、それを共有することでこの子もミシャグジの一匹にしてあげたの」

「ほ、ほんとうに」

「なりました。竜帝の力は私には合いませんでした。ですので、皆で改造して調整して共有しました」

「そうそう。だから、こう言ってあげる。今日から君もミシャグジ使いだ!」

「ちょっ」

「あはははは、呼べばくるよ? でも、気をつけてね。あんまり蔑ろにしたりして、機嫌を損ねたら祟られるからね~」

「は、はい、気をつけるよ……」

「んじゃ、久しぶりに遊ぼう(殺し合い)をしようか」

「あ、できたら生かしてくださいね。捕まえたいので」

「ふむ。白いから私のペットにするのもありかな~」

 

 ルギアの方を見れば、再生が終わるまで大人しくしていた。いや、諏訪子ちゃんを警戒していたのだろう。感じる気配は小さいけれど、それ以上に地面の下に蠢く者達がやばい。

 

「さあ、神様の遊びを始めようか。君だって異世界では神様と呼ばれているんだから、楽しませてね。スペルカードもない、純粋な楽しい戦いだ。まずは開幕の花火をあげよう」

 

 諏訪子ちゃんが手を叩くと、大地が隆起して地割れが発生。そこから溶岩が溢れて降り注ぐ。彼女の能力は坤を創造する程度の能力。(こん)とは八卦における地のことであり、大地に関することなら創造し、操ることができる。

 

『おのれっ、このような存在を連れてくるなどっ!』

「いやいや、頑張った子供にはご褒美をあげないとね。もちろん試練も与えるけど、そこまでボロボロにされたんだから、神様だったら大人しく負けを認めなよ」

『ふざけるな!』

「そう。じゃあ、地と海、どちらが強いか勝負しようじゃないか! ケロケロ」

 

 その後の戦いは正直、アリスの手には負えない。結果は宴会の席でルギアの上に乗ってお酒を飲んでる諏訪子ちゃんがいるだけ。流石のルギアも島を創造してぶつけるとか、そこから溶岩のシャワーを浴びせたり、ミシャグジさま達にハムハムさせたり、うん。なんというか、圧倒的だった。ボコボコにされたルギアはモンスターボールでアリスが捕まえて、しっかりと登録してから諏訪子ちゃんに献上、譲渡した。代わりに卵だけは貰っておいたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 




 フリーザーとサンダー、ルギアの卵ゲット。シロちゃんは竜帝の欠片というなの塊を差し出して諏訪子様の加護をもらい、ミシャグジさまの一体になれました。ルギアのアリス・マーガトロイドの要請できた諏訪子様のペットになりました。

ちなみにこのルギアさん、五段階変身! アリスが削ったのは一段階目。小さくなると防御力と火力は下がるけど速度は上がっていく。ただし、数百匹のミシャグジさまや面攻撃をしてくる諏訪子様には勝てない。

逆に言えばそれだけなので、アリスだったら頑張ったら勝てるかも。ジャバウォックとかでちまちま削れば七年くらいで勝てるかもね!

ちなみにルギアの卵は05のクリティカルです、やったね。色違いだよ。これアニメ版ででたから、あると裁定しました。ただし、他のはわからない。ルギアを出した理由はスペシャルの時系列で終わってるからです。

赤色というか、桜色のルギア、可愛いですね。ちっこいのならペットに欲しいです。というわけで、大人は諏訪子様にいきました。倒したの、諏訪子様だしね。でも、捕まえた扱いになるので、アリスポイントは入ります。


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40話

 

 

 

 アリスの目の前で行われているのは宴会。参加者はアリス(マリス)、クオン、シロ、ジュカ、ルクス、メルク、マザー、アリスお母さん、魔理沙お母さん、八雲紫、八雲藍、河童のにとり、諏訪子ちゃん、そのペットになったルギア、後はファイヤーを連れてきた藤原妹紅。彼女は正真正銘の不老不死であり、魂を起点に好きな場所で新しい肉体の再生・再構築が行える。 抜け殻になった魂のない肉体はすぐに滅びる。例え大怪我をしても数日で元通りになる。ただし怪我をすれば痛いし、お腹も空くし、眠くなるし、体は凍死したりする。ただ、肉体が死んでも本人は死なないというだけで普通の人とかわらない。また不死の躰であることから、空腹や体の冷えといった環境でも、栄養を取ったりまめに躰を暖めるより苦痛を我慢した方が自分の性に合うとして不摂生を進んで行う節もある。これ以外にも火の妖術や御札、陰陽系といった妖怪退治に特化したような様々な術をを身に着けている。

 そんな彼女にこちらの思惑通りにファイヤーが渡った。おそらく、ハスターが手配してくれたのだろう。調教してくれていたら嬉しい。そんなことを考えているアリスは魔理沙お母さんと一緒にアリスお母さんの前で正座させられながら、お説教を受けている。

 

「まったく、目を離したらすぐに危ないことをして……反省しなさい。ましてや魔理沙が一緒だったのにこれはどういうことなの?」

「面目ない。ちょっと好奇心がだな……」

「スペルカードルールじゃないのよ? 本当の殺し合いなのよ? わかってる?」

「わかってる。いや、わかってるつもりだったが正しいな。流石にマスタースパークすら、あんまり効かないなんて思わなかったぜ」

「相手は神様クラスですからね……」

「マリスも反省しなさいよ。いくら強くなったとはいえ、痛い物は痛いでしょ」

「はい……」

「まあまあ、それぐらいでいいじゃん。今は飲もうよ~。それに子供には時に試練を与えて鍛えないとね」

「諏訪子……まあ、そうね。諏訪子もありがとう。助かったわ」

「いやー久しぶりに暴れられてこっちも良かったよ。それに乗り物兼、ペットも手に入れたしねー。これなら、早苗にも怒られないと思うし」

「私は知らないわよ。怒られる可能性の方が高いでしょう」

「あーうー」

 

 早苗というのは諏訪子ちゃんの遠い子孫で、かつ巫女。そんなわけで彼女の子供みたいな子だ。幻想郷にある博麗神社とはまた違う神社、守矢神社に住んでいる。

 

「まあ、とりあえず飲もうぜ」

「あ、魔理沙たちはお酒なしよ」

「そんな! 何を楽しみにしろっていうんだよ!」

「キノコでも食べてなさい」

「くっ……」

 

 致し方ないので、アリスはジュースで我慢しながら皆とお話する。ファンとしては嬉しいことこの上ないからね。そんな訳で妹紅たんに突撃だ。妹紅たんはお酒を飲みながら、ファイヤーの炎で肉の串を焼いていっている。なんの肉かは不明。

 

「ファイヤー、どんな感じですか?」

「こいつか? まあ、最初は暴れたが、今は大人しいぞ。この頃は私と一緒に輝夜を燃やしているからな」

「それ、大人しい……」

「どうせ死なないから問題ない。それよりも喰うか?」

「食べる~」

「お前はちっこいからどんどん喰って大きくなれよ」

「なれると思います?」

「さあな。私はもう成長しないからわからん。それよりも、貰った時にたまに貸すよう言われたけど、それはまだいいんだよな?」

「はい。ちょっと向こうで暗躍してくるので」

「暗躍って、まあいいけどね。で、ファイヤーを貸すのは別にいいよ。こいつもまあ、納得するだろう」

「ギャーオッ!」

 

 いいみたい。これでファイヤーは問題ない。フリーザーとサンダーが問題だけど、誰に渡そうか。フリーザーはチルノ? いや、しばらくは私の手持ちでいいか。それにマグマ団かアクア団。どっちに潜入するかも悩んでいるしね。どっちがいいかなあ。グラードンの居場所は火山の中だから、刺激したらでてくる? いや、宝玉で操作して起こせばいいか。ただ、やるのなら漁夫の利が欲しいところ。グラードンとカイオーガ、二体を同じ所に閉じ込めてひたすら戦わせて弱ったところを掻っ攫う。これがベストだろうしね。原作でも二体が戦っている場所にレックウザを入れて撤退させた。でも、これは被害が大きかったからやったことでもある。でも、その被害がない場所だったら問題ない。でも、問題は配置なんだよね。グラードンもカイオーガも動かすとどうしても被害はかなり大きい。それは避けたいところ。やっぱり乗り込んでガチバトルか。こっちにはルギアもいるわけだから、できないことはない。

 

「でも、時間がかかるのか」

「そうですね。しばらくはジム巡りをしますし」

 

 スキルポイントが欲しいしね。

 

「んじゃ、しばらくファイヤーは鍛えるとして……あ、そういえば全力で戦える場所を作れるんだよな?」

「できますよ」

「なら、連れていってくれ。諏訪子もいったんだろ?」

「いいですよ。この子が生まれたらレベル上げに行きますし、皆で行きましょう」

「それがいいな。うし、諏訪子! 卵が孵ったら暴れに行こうぜ」

「え~どこに?」

「ダンジョンだ。私は死なないし、この子供も不死みたいなもんなんだろ」

「あーいいね。いこー!」

「ちょっと?」

 

 妹紅たんが諏訪子ちゃんと一緒にアリスお母さんを説得していく。まあ、あんなの滅多に出ないからいいよね、うん。さて、アリスも食事をしよう。クオンの隣に座ろうと思ったら、八雲藍が色々と世話をやいていた。同じ狐だからかな? 

 そっちはいいや。じゃあ、次にジュカは上海と蓬莱とお話ししてる。シロはミシャグジさま達とお話している。ルクスは河童のにとりに親のメルクとお話しているので、アリスもこっちに混ざろう。

 

「ふむふむ。メタグロスの知能はやっぱり高い」

「……頑張った……」

「がぁ」

「……ん……」

「にとりさん。モンスターボールの複製、できたんですよね?」

「ああ、できたよ。マリスだったか、面白いのを持って来てくれたね。ありがとう」

「こちらこそ。それと、これがモンスターボールの発展型、スーパーボールです」

「こいつか。預かるのかい?」

「いえ、これはまだです。数日後、使いますので」

「そっか。で、何か面白いネタはないかい?」

「ありますよ」

 

 私の計画を説明していく。話していくと大いに笑って賛成してくれた。基礎の素材として少なくなってきたアダマンタイトをはじめとしたゴーレム各種を差し上げた。

 

「この計画には大量のメタグロスがいるね。そっちは大丈夫なのかな?」

「今度、諏訪子ちゃんや妹紅さんと一緒にレベル上げに行ってきますから、大丈夫です」

「そっか。それならこっちはそっちの準備もしておこう。企画書と計画書を作るから、確認してね」

「はい。後、深海でも活動できる潜水艇って作れますか?」

「あーできるよ。じゃあ、それを基本にして開発するか。言っておくけれど、アリスと同じ能力がないと動かせないかも知れないからね」

「それで大丈夫です」

「んじゃ、確かに承ったよ。あ、このルクスって子も必要になるから、そう思っておいてね」

「ルクス、いい?」

「……マスターが望むなら、いい……」

「ありがとう」

 

 そ~と机の上にあるお酒をもって、口に入れようとしたら奪われた。上を見上げると、アリスお母さんがいて、飲もうとしたお酒を持っている。それを飲んでから怒られた。仕方ないので料理を食べていく。

 

 

 

 

 

 翌日から、魔物紋を刻んだ卵が生まれるまで暇なので背中におんぶしながら温めて行動する。といっても、基本的に人形を作るだけだ。余っていたスキルはプロイキッシャーに振った。そうすると魅了の魔眼まで連動して上がった。あくまでも魅了の魔眼は副産物ということなのだろう。

 

「マリス、縫い目が荒いわ」

「あ、本当ですね」

 

 陣地作成を使って作り上げた魔術工房でアリスお母さんに教えてもらいながら沢山の人形を作っていく。しかし、やっぱりプロイキッシャーには上手くならない。まあ練習していけばそのうちなるだろう。

 

 

 

 八日が経った。卵を突き破ってでてきたのは色違いのルギア。翼竜に近い丸みを帯びた全身は、全身が白い羽毛に覆われていいる。翼の先は水をかくのに適した手のような形になっており、鋭い目元や背中、尻尾の先からは水中での姿勢制御用と思われる赤系統のフィンが生えており、腹部はそれより少し薄いピンク色となっていた。

 

「わぁ、色違いだ」

「ぎゃー」

「生まれたみたいね。名前はどうするの?」

「この子はさくらにしよう。あなたはさくら。いい?」

「ぎゃ」

 

 頷いてくれたので、さくらに決定。生まれたばかりなので50センチくらいしかないけれど、しっかりと高位の魔物紋も刻まれている。まだ飛べないようだし、私が抱っこして連れていこう。

 

「じゃあ、明日からレベルあげ?」

「です。今日からしたいけど……」

「駄目よ。まだまだ教えることはあるんだから」

 

 どさりと沢山の問題集が置かれる。ほとんど人形に関する知識とかだ。つまり、お勉強。アリスお母さんが許可してくれたのは、一緒に入ってアリスは戦わずに勉強することが条件だ。つまり、その間に諏訪子ちゃん達がレベル上げ、パワーレベリングをしてくれるとのこと。つまり、アリスはダンジョンを作るだけの簡単なお仕事。ちなみにステータス魔法で諏訪子ちゃんとかを見たら、千を軽く超えて四桁がデフォルトだった。正直、頭がおかしいステータスだった。これで弱体化しているらしいし。

 

「連絡だけ送っておきましょう。シロを使えばいいでしょう」

「そうですね。シロ、ちょっと来てください」

「お呼びですか、ご主人様」

 

 扉を開けて中に入ってきたシロは、相変わらずメイド服を着ていて、紫色の髪の毛をツインテールにしている。手には紅茶が淹れられたお盆を持っている。彼女はここで上海達から家事を習っていて、そのうち幻想郷のメイドさんに会わせるのも面白そう。

 

「ちょっと諏訪子ちゃんと妹紅さんに遊びのお誘いをだしてきて」

「かしこまりました。皆、お願いできる?」

 

 シロがそういうと石でできた白い蛇達がシロの髪の毛から出てきて、空いている窓から外に出て、地面を潜っていく。あの子達はシロが生み出した眷属で、ミシャクジさまの幼体みたいな感じだ。連絡には便利しているみたい。

 

「さて、さっさと仕上げないと上海と蓬莱はあげないわよ」

「うー頑張る」

「ジュカも待ってるでしょ」

「はい」

 

 今はジュカの身体を強化して、より強い身体にしている。というか、この子のスペックは色々とやばい。まず、視線だけで相手を狂気に陥らせたり、飛行タイプに分類される風系の技を高威力で扱える。なにより、少女の時に黒いローブを脱がしてみると両手まで覆うワンピースのような服を着ていた。それをさらに脱がすと綺麗な少女の身体が見れる。ただし、裸にすると胸の中心には第三の眼のような宝石のようなエメラルドグリーンの鉱物があり、ローブを含めて服の裏地は黄色だった。なにより、風を使う時には瞳に黄の印が現れている気がする。

 

「……恥ずかしい……早く、して……?」

「うん、そうだねー」

 

 預かった服に魔法を施していく。外の黒いローブにはルギアの銀色の羽を糸にして黒く染めたものを付け加えた。他にも隠蔽と強固な防御魔法を施し、星の精から手に入れた能力を解析して、それを適応させて光学迷彩のように溶け込めるようにした。逆に赤黒いワンピースは爪も覆っていて、攻撃の起点になるので攻撃力を強化させる。普段はチャックで閉じているので大丈夫。ジュカのレベルは限界突破をさせていないのに460を超えている。この子、結構な数の魂を食べている。三勇教徒やタクト一派の魂をほとんど一人で食べていたし、仕方ないのかもしれない。あいつら、レベルだけは高かったし。

 

「あ、そうだ。ジュカ。レベル下げますからね」

「ん、強化?」

 

 恥ずかしそうにタオルで身体を隠しているジュカに告げる。

 

「それもあるけど、明日はレベル上げだから、そんなに高かったらメリットがないからね。素質強化でレベル1まで下げます」

「了解」

 

 うちのジュペッタはジュペッタの姿をしたナニカ(ハスターの落とし子)だ。彼女は資質強化で個体値は限界を軽く突破しているし、種族値もなぜかやたらめったに高くて伝説ポケモン並み。あと、人を食料としてしか見ていないところもあるので、どちらかというと妖怪かな。

 

「できました!」

「はい、一応は合格ね。魔法の構成は大分上手くなってるし、服を作る技術も高くなってる。肝心の身体を作る能力も、まあ誤差が0.08だったしね。よく頑張ったわ」

「やったー! これで一人前の人形師だよね!」

「そうね。後は精度と魔法の力をあげればまあ、一流とはいかないまでもそれなりにはなれるでしょう」

「でも、目指すのは超一流だよね?」

「当然よ。それ以外は認めないわ。ただ、弟子として外に出しても恥ずかしくない程度にはできたわね」

「ほっ」

 

 ジュカの着替えを手伝ってあげる。強化された服に大喜びだ。というか、彼女にしたらこれは皮膚なのだろうか? まあいいや。本人が喜んでいるし。しっかりとチャックを締めてあげると、抱き着いてきたので撫でてあげる。

 

「おめでとうございます。これで後は人形劇のセットですか?」

「他にもあるわよ。次はゴリアテ人形とか。この子に施すと面白いと思わない?」

「巨大化したジュカ……イメージがわかないです。どちらかというとルクスやシロ?」

「もう巨大化できます」

「やっぱり上海と蓬莱ですね」

「まあ、色々と試すといいわ。それより、休憩にしましょう。マリスはさくらをお風呂に入れてきなさい」

「わかりました」

「ぎゃ」

 

 さくらを連れてお風呂に運ぶ。卵の殻は魔導書に入れようとしたけれど、入らない。もうあの機能はなくなってしまった。まあ、この卵は魔術の触媒になるかもしれないので置いておこう。今はお風呂に入れてからだね。

 お風呂が終わり、その日はさくらの世話をしたり、寝床を用意したりで忙しかった。ただ、一緒に寝るのでよしとする。ちびルギア、とっても可愛いし、すべすべで気持ちいい。

 

 

 

 

 

 次の日。朝から二人がやってきたので、パーティーを組んでからスーパーボールでインスタントダンジョンを作成する。このスーパーボールはルギアがでてきたダンジョンで手に入れた奴だ。今度の場所は広さ87キロとかいうふざけた草原だったので、アリス達は二人を除いて全員のレベルを1まで下げて狩ってもらう。ミシャグジさま達が大暴れだ。

 資質向上でレベルアップをしても下げてひたすら繰り返す。アリスは勉強しているだけでいいし、他のこともシロ達がすすんでやってくれる。色々と勉強をしているけど、ダンジョンはどんどんレベルが上がっていく。スーパーボールがハイパーボールになり、ハイパーボールがガンテツボールになり、大量に連れてきたダンバルやタツベイ、ヒノヤコマ達もどんどんレベルが上がって進化していく。個体値なんて資質向上でどうとでもなるのでもはや気にする必要もない。捕まえた600族のバンギラスやルギア、フリーザー、サンダー、ファイヤーも猛威をを振るっている。

 ジュカは黒い風を操って倒していくし、ルクスはラスターカノンやコメットパンチを使いだしていく。シロは蛇になって石化のブレスを吐いていく。そして、妹紅たんは辺り一帯を火の海にしたり、諏訪子ちゃんは海のフィールドで大地を創ったりとやりたい放題。倒されていくポケモンは捕まえられたり、そのまま消えていったり、しかし、流石に伝説ポケモンはでてこない。途中でやばい気配がしたから、一度帰還したけどでていない。イベルタルなんて見ていない。いいね? 

 あ、ただその時に必死で逃げている人形劇にあう素晴らしい音楽系ポケモンと出会ったので、彼女やその仲間達は捕まえておいた。手に入れることができたのでうはうはだよ。ちなみにその時のヘビーボールは保存してあるので、今度、輝夜さんとか不死組の人や、吸血鬼の人達など武闘派の連中を誘っていくって諏訪子ちゃんが言ってた。巻き込むなって言ったけれど、却下された。神様は横暴である。

 さくらは順調に成長して、1週間とちょっとの狩りで小さなままかなり強くなってくれた。ライドポケモンはルクスがいるから、小さいままでいい。というか、ルクスから猛反発されたので、小さいままの状態にしている。その気になったら魔法で巨大化させればいいだけだし。

 ちなみに大量に捕まえたポケモンのせいで紫ちゃんがとっても大変だった。だって、牧場に入りきらないし、土地の境界を弄ってとても広い空間を用意してもらった。一部はブリーダーである地霊殿のさとり様にお願いするらしい。頑張って欲しいと思いました。

 

 

 

 

 

 





 ポケモンのインスタントダンジョン。
 イベルタル=ファンブル。96
 え……音楽ポケモン=クリティカル。01

 音楽ポケモンはわかるかな~?


 一応、カントー地方、ジョウト地方はジムリーダー巡りをしたことにして飛ばします。続いてメインのホウエン地方からです。


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41話

 

 

 

 さてさて、東方世界に来てから三週間が経った。その間は毎日朝から晩までインスタントダンジョンを開いて諏訪子ちゃん達の遊びに協力した。守矢神社から八坂神奈子という戦神様もやってきて、一緒に参加していったけど、気にしない。アリスお母さんも魔理沙お母さんも参加して、様々な魔法や人形達の実戦テストをしたりしている。八雲さんところの藍ちゃんもうちのクオン達と一緒に参加して実力をあげている。

 アリスはアリスで、外で紫さんのお手伝いをしてポケモン牧場を人形を使って手伝っている。この牧場、家の近くにあるのでそこでインスタントダンジョンを開いているわけだ。

 本体のアリスは人形作りを頑張っている。作っているのは体中に包帯や絆創膏をつけた痛々しい姿が目立つ熊のぬいぐるみ。ただ、縫い目は荒くない。だって、人形師としてそれは認められない。そんな訳で、アリスの周りには沢山の痛々しい熊のぬいぐるみが置かれている。

 この子達は何もしていないのにやられたり、声援を受けても悉く返り討ちに遭うみんなのヒーロー(?)。それなのに喧嘩っ早く、喧嘩を自ら売りに行ってはボコボコにされる。外見に違わぬほど非力でとっても弱い。だけれど、それでも立ち上がってどんな相手にも果敢に立ち向かっていく勇気の持ち主。そして、いつか勝てると信じて頑張る姿が特徴。アリスはこの子のことが大好き。このことはアリスも見習わないといけない。

 

「やってやる~やってやる~や~ってやるぜぇ! いやなアイツをボコボコだぁ!」

 

 ちょっと改造したボコの歌を歌いながら、お腹の中に武器の破片を綿の中に仕込み、その内側にバリアを展開する。バリアの中には空気と水を入れて更に中心に爆炎の術式を設定していく。アリスが魔法を発動すると、水の中で爆炎が生まれて一瞬で水分を蒸発させる。そして気化した液体は体積を急激に増やしてバリアが限界をきた瞬間、爆発して武器の破片を周りにばら撒いていく。ただ、火力は弱いので更に外側に爆発の火力を増幅する術式を仕込んでいる。

 実験もかねてアリスの魔術刻印を再現した再生術式を搭載。これで自爆しても復活してまた突撃していく。まさにボコ! 不屈の闘志で敵に挑んでいく素晴らしさ! いつか来る勝利の日を信じて! 

 

「また変な歌を歌いながら作ってるわね」

「変なのじゃないよ、ボコだよ! とっても弱いんだから!」

「そうなのね。まったく、紫の奴……変なのを入れさせたんじゃないでしょうね」

 

 アリスがこんなのをいっぱい作っているのは簡単だ。ポケモン達と戦っていてわかったけれど、指揮を執る才能がなかった。ちゃんと指示を出しても聞いてくれないのだ。ルギアとかファイヤーとかサンダーとか。まあ、仕方ない。でも、正直に言ってグラードンに対抗するのにカイオーガとルギアは欲しい。それに沢山の人形達を操り、ポケモン達を指揮して戦うのだからやっぱり指揮系統のスキルは必須だ。そう、紫さんに教えられたので、ガールズ&パンツァーの島田愛里寿をアリスポイントで習得した。2点あったので、1点を使った。それに境界を操って浸食率を大丈夫にしてくれるとの話だったのでやってみたら……こうなった。

 

「ボコ~ボコ~♪」

 

 島田愛里寿は島田流戦車道師範・島田千代の一人娘で、13歳の可愛らしい女の子。飛び級して大学生の天才少女。優れた指揮統率能力を持ち、日本戦車道連盟・大学選抜チームでは本隊長を務める。 大洗連合チームとの試合では、大隊長として3個中隊を指揮するばかりでなく、単独で相討ち含めて計11輌を撃破して、単騎で戦局をひっくり返すような子でもある。

 性格は内気で人見知りであり、口数は少なく表情は表に出さない。 しかし、戦車道においては、年上であろうとも物怖じせず的確に指示を下し、大洗女子の選手・戦車追加をあっさり認める度量の大きさを見せている。そして、ぬいぐるみのボコられグマが大好き。アリスが大量に作っているのも仕方がない。なにが浸食を押さえてくれる、だ。押さえられていない。まあ、指揮能力はポケモンバトルでも有効だからいいんだけどね。

 

「持ってきてあげたわよ。とりあえず歌うのをやめなさい。頭に残っちゃうじゃない」

「は~い」

 

 アリスお母さんの言う通りに止めて、お母さんがテーブルの上に置いたケースをみる。ケースを開けると、中には綺麗に修復されたアリスの上海と蓬莱が寝ている。その姿を見た瞬間、ボコを退かして上海と蓬莱を抱き上げる。

 

「本当に直ってる……」

「強化もしておいたから、大丈夫よ。魔力を流してみなさい」

「うん」

 

 魔力を流すと、すぐに上海と蓬莱が目を開いてアリスを確認する。すると抱き着いてきて頬擦りしてきてくれた。アリスとしても嬉しくなって指の腹でなでながら可愛がると、横にどけたボコが上海達に喧嘩を売って来てあっさりと弾き飛ばされていった。

 

「このボコっていうの、もしかして自動制御なの?」

「ゴーレムの術式をメインにして組んでみたんだけど、バグだらけ」

「まあ、最初は仕方がないわ。教えてあげる。どうせ明日には出るんでしょうしね」

「ありがとう!」

 

 上海と蓬莱のことも含めてお礼を言ってから、少し照れて顔を赤らめているアリスお母さんに教えてもらう。

 

 

 

 

 夜。ボコを含めたぬいぐるみと人形だらけの部屋。そこでアリスはボコのパジャマを着てポケモン世界に戻るための準備をする。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を確認してしっかりと適応されているかどうかを調べようとしたら、アリスの部屋の中にクオンとシロが入ってきた。

 

「ご主人様、話がある」

「私もです」

「どうしたの? 一緒に寝る?」

「そのことじゃない」

「えっと、私達はここに残ろうと思います」

「え? なん、で……?」

 

 もしかして嫌われた? 嫌われることなんて……いや、思えば結構ある。いっぱいモフモフもしてるし、ほぼ無理矢理連れてきたみたいな感じだし。

 

「次に行くのはポケモン世界ですよね。そこでですと、クオンは種族的に問題があります」

「なるほど……」

 

 よかった。嫌われてはいないみたい。怖いから聞けないけど。それにしても、理由は納得できる内容だ。あの世界に獣人はいない。完全な人間とポケモン世界だけだし、連れていったら大騒ぎになる。耳を帽子で隠せばいいかもしれないけれど、尻尾がある。どちらにせよ、今から行うのはジム巡りで、それが終わったら、ホウエン地方でカイオーガとグラードンを手に入れるために暗躍する。下準備とかも含めてしばらくは大丈夫だし、うん。寂しいけれどなんとかなるか。

 

「その、待っている間に藍さんに色々と教えてもらえることになったから、頑張って人に変身できるようになる。だから、その、ね?」

「うん、楽しみに待ってるから、頑張って」

「頑張る」

「シロは……」

「私も残ります。まだ力のコントロールが上手くいってないですし、学ぶことがいっぱいあるので」

「わかった。二人はここに残って修行とお手伝いをよろしくね」

「「はい」」

 

 当面、連れていくのはポケモンであるジュカとルクスか。この二人なら連れて行ってもなんの問題もない。人型でもポケモン形態でもどちらにもなれる。ポケモンとして連れていく手持ちはさくら(子供のルギア)、サンダー、フリーザー。ファイヤーはまだ借りなくていい。この子達でジム戦をしたら……余裕だろうね。手持ちとして後一体は連れていけるけど……メタグロスか、ボーマンダか、悩む。

 

「あの、それとこの子は行きたいって」

「え? マザー?」

 

 水色の身体を持ったメタモン。この子はアリスが一番最初に捕まえたポケモンだ。その子がクオンの後ろからでてきた。クオンから飛び降りてアリスのもとまでやってくる。

 

「一緒に行きたいの?」

「めたぁ」

「でも、メタモンじゃ……辛いよ?」

「それでも行きたいと言ってますね」

「う~ん、簡単に死んじゃうから……」

 

 相手が相手だから、今のマザーだと実力不足は否めない。殺したくないし、連れていかない方が無難なんだけど……

 

「めためたぁっ!」

「なんでもするって言ってる」

「なんでも、か……メタモンは確かに便利だけど……」

 

 足はルクスがいるし、大抵のことはもう魔法でどうにかできるようになった。じゃあ、やっぱり戦力として考えるべき。メタモンの特性はへんしん。なんでも姿がかわるということ。でも、戦闘能力は相手次第な上に属性が被るので与えるダメージは低くなる。

 

「資質強化と万魔殿もあるし、底上げはできるとは思うけど……」

「強さが問題なら魔法で強化したらどうですか?」

「魔法か」

 

 考えてみると、メタモンとは言ってしまえばスライムであり、不定形だ。それならば魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの使用する魔術礼装、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)として運用できないだろうか? 

 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)は水銀に魔力を充填し形状を自在に操作するというもので、つまるところ魔術で動く液体金属だ。メタモンの身体に魔術的な強化を施し、液体金属の塊にしてしまえば体積に比例して威力があがる。ただ、倫理的には問題がある。

 

「マザー、あなたを強くする方法はあります。ですが、それはとても大変なことです。頑張れるというなら、一緒に行きましょう」

「めたぁ!」

「行くっていってる」

「メタモンから逸脱し、もう戻れなくなるかもしれませんよ」

「めっ、めたぁ!」

「それでも行くって」

「では連れていきましょう。まず小さい身体のまま体積を増やして……」

「良かったね」

「これでいいですね」

「メルクはこないんだよね?」

「あの子はここで子供達をみると言ってました」

「わかったよ」

 

 さて、そうと決まったら諏訪子ちゃんに頼んで水銀を作ってもらおう。しばらくマザーの餌は水銀かな。ゆくゆくはアリスの武器や護衛となってもらうのもいいかもしれない。魔導書があるから武器は持てないけれど、メタモンなら話は別だと思う。あれ、本当に持てないのかわからないや。今度試そう。

 

 

 次の日、アリスは皆に見送られてクトルゥフ神話の世界を通過し、ポケモン世界へと旅立った。メンバーは上海と蓬莱、マザー(メタモン)、ルクス(メタグロス)、さくら(子供ルギア)、ジュカ(ジュペッタ)、サンダー、フリーザーという手持ちポケモンだ。レベルは20から30ぐらいに下げてあるので、ジムリーダー戦で学ばせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:1

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.10》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.10》《プロイキャッシャーLv.2(左目)》《魅了の魔眼Lv.2(左目)》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 ハードゴア・アリス(魔法少女育成計画):《変身・魔法少女Lv.3》《どんなケガをしてもすぐに治るよ》

 アリス(ARMS):《世界最高の頭脳》《科学者Lv.1》《金属生命体》

 アリスとありす(Fate/EXTRA):《魔力Lv.10》《陣地作成Lv.10》《変化Lv.10》《自己改造Lv.10》《誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)Lv.10》

 島田愛里寿(ガールズ&パンツァー):《戦術指揮官Lv.1》《騎乗Lv.1》《カリスマLv.1》

 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》《万魔殿の魔導書Lv.10》《簡易迷宮作成の魔導書Lv.10》《資質向上の魔導書》《レアリティアップの魔導書》《ドロップ生成の魔導書》

 

 

 

 ────────────────────────────

 

 

 

 

 




ガルパンのアリスちゃんもまた可愛い。
たぶん、カリスマと書いてマスコットもある。騎乗は戦車に乗って戦うから。戦術指揮官は戦車で局地戦という扱いです。戦略はもっと多くないと。

55%になったので、得たキャラの好みが反映されました。ボコが大好きになったぐらいです。寝間着がボコの着ぐるみに強制的に固定されました。


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グラードンとカイオーガ
42話


 

 

 

 

 さて、ポケットモンスタースペシャルの世界に戻ってきた。場所はどこだろうと思ったら、海の上だった。そうなると自然と重力に従ってアリスの身体は落ちていく。すぐに身体に魔力を通してバリアを使って浮遊する。護衛としてアリスの肩に乗せていた上海と蓬莱が手伝ってくれたし、持っているトランクケース横の部分に座っているジュカもいるし大丈夫。

 

「少し驚いたけど大丈夫だったね」

「ん、平気」

「シャンハーイ」

「ホラーイ」

 

 海の上は見られたら困るので、周りを見渡してから、腰に手を回してすぐにルクスのモンスターボールを取って放つ。でてきたルクスは浮遊して、状況を見ていたようでメタグロスの姿のままででてきてくれた。ルクスに乗って、トランクケースから座る場所を作る鞍を取り出して設置する。こちらでいうライドギア用の奴だね。

 前の席にトランクケースを置いて縛って固定し、次はさくらを出してあげる。さくらはそのまま海に飛び込んでこちらを見ている。

 

「少ししたら移動するから、遊ぶのはいいけど呼んだら戻ってきてね」

「きゅー」

 

 一応、マザーをサポートにつける。マザーもルギアの姿になって一緒に遊んでくれる。さて、思えばすでに結構な月日が経っている。なので、ポケギアを起動してから知り合いに電話をしないといけない。といっても、イエローさんとアセロラだけだ。っと、その前に確認することがあったね。

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 不思議な世界第一世界・ポケットモンスターSPECIAL

 アリスポイントの入手方法:指定された伝説ポケモンの捕獲

 指定ポケモン:ゲンシグラードン、ゲンシカイオーガ、メガレックウザ、ディアルガ、パルキア、ギラティナ……

 スキルポイントの入手方法:ジムリーダーバッチの習得

 連続滞在可能時間:二ヵ月

 スキル制限:インスタントダンジョン、固有結界。

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 滞在可能時間は二ヶ月。スキル制限はインスタントダンジョンと固有結界。これはあれかな。世界構築系や空間系は駄目ってことか。アルセウスやディアルガ、パルキアが防いだりしているのかもしれない。といっても、この世界そのものがダンジョンみたいな感じだからいいけどね。草むらに入った瞬間、襲われたりもするし、インスタントダンジョンは必要ないだろう。東方の世界でできたのは、もしかしたら幻想郷の管理者、紫さんの許可があったからかもしれない。

 二ヶ月だから、それでジム巡りをしたらいいし、確認完了。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を閉じて光に変えながら、ポケギアの電源を入れる。すぐにシステムアップデートが入り、その後に沢山の電話の履歴やメールが確認できた。

 

「あははは」

 

 とりあえずイエローさんに連絡を入れてみる。数コールしてから、すぐにイエローさんはでてくれた。

 

『アリスちゃんっ、無事なの!』

「無事です。ご心配をおかけしました」

『そっか。無事なら良かったです。それで、なんで連絡がつかなかったの?』

「ちょっと電波が届かない所に行っていたんです。これからも定期的に届かないところに行くことになりますが、無事なのであまり心配しないでくださいね」

『うん。でも、心配はするよ。それで今はどこにいるの?』

「海の上ですね。これから知り合いの所によってから、カントー地方に行こうかと思っています。ジムリーダーを倒したいですし」

『そっか。それじゃあこっちに来たら案内してあげるね』

「ご迷惑でなければお願いします」

『うん。じゃあ、楽しみに待ってるからね』

「はい。また」

『また』

 

 イエローさんはこれでよし。次はアセロラかな。でも、アセロラといより、エーテルハウスにかけた方がいいかも。そうしよう。

 

『はい、こちらエーテルハウス』

「アセロラ?」

『その声はアリスだね。久しぶり! 元気してた?』

「してましたよ。そちらはどうでしたか? こちらは予想以上に戻ってくるのが遅くなってしまいました」

『ん~子供達もポケモン達も元気だよ。皆、楽しそうに遊んでるしね。あ、アリスの家も問題ない……のかな?』

「どうしたんですか?」

『うん、なんかいっぱいいるの。だから早く来て欲しいな~って』

「わかりました。すぐに行きます。ちょっと待っていてください」

『皆と待ってるね』

「はい。マザー、さくら、行きますよ!」

 

 電話を切ってからすぐにさくらとマザーを呼ぶ。すると海からでてきた。二匹は充分に遊んだみたいなのだから、モンスターボールに戻す。マザーは普通に戻ったが、さくらは嫌がった。

 

「仕方ない。おいで」

「きゅ!」

 

 飛んできたさくらを抱きしめてタオルで身体を拭いてあげる。それから魔法で水分を飛ばしてから抱きしめてルクスに移動を指示する。

 

「ルクス、エーテルハウスに向かってください」

「了解」

 

 きゃっきゃっと楽しそうにしているさくらを連れてアリスはバリアを展開し、時速500キロで高速移動を行う。うちのルクスはお尻の方にも突起があって、そこから物凄い力を出して加速している。この子もジュカと同じく通常の個体とは随分と違う進化をしている。勇者の力があってのものだねだろう。それにしても、さくらの肌はやみつきになる。

 

 

 

 

 

 

 しばらく海の上を走行し、エーテルハウスに到着した。流石にさくらはルギアなので出していたらまずい。なので、モンスターボールが嫌いなこの子には万魔殿の方に入ってもらった。あっちなら広いし、海もあるので大丈夫らしい。

 

「きゅー」

「はいはい、また後でね。寝る時に出してあげるから我慢してね」

「きゅ!」

「ふう。ルクス、喋らないように」

「がぁ」

 

 さて、ルクスに乗って下に降りると子供達がポケモンバトルをしている。使っているのはゲンガーとジュナイパー、マーシャドーとジュペッタなどゴースト系やエスパー系で戦っている。というか、普通に念力かなにかで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ほぼ全員が超能力者みたいになっている。

 

「あ、アリス! お帰りなさい!」

 

 エーテルハウスの中から、こちらを見付けたようで駆け寄ってきて抱き着いてくる。アリスは彼女を受け止めて、しっかりと降ろす。

 

「ただいまです。これは……」

「みんな強くなった。アリスのせいだよ?」

「アリスの……?」

「一人称がかわってるね。どうしたの?」

「……呪い、だよ」

「呪い!? 大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。それ以外にとくに問題は……あるけど大丈夫」

「そう、なの? まあ、アリスは魔法を使えるし、大丈夫かな? それで、アリスの家なんだけど……」

「あ、その前に子供達にお土産を渡しますね」

 

 いつの間にかアリスとアセロラの周りに皆が集まっていた。なので、マッドスィートケークを使ってお菓子をふるまい、同時にトランクケースから、作りまくった普通のボコのぬいぐるみを渡していく。

 

「そういえば、そんなに急がないといけませんか?」

「それは大丈夫。ちゃんと管理してたからね」

「そうなんですか?」

「子供達が交代しながらやってるからね。もう皆、本当に強いよ」

「そうですか……」

 

 ステータス魔法で皆を確認すると、だいたい平均40以上で、中には60レベルのポケモンもいる。確かに本当に強かった。

 

「それじゃあ、人形劇をしようか」

「「「人形劇」」」

「見せるって約束だったしね」

 

 トランクケースから舞台となる台を設置する。最初なので予定通りに赤ずきんの話にする。狼はルガルガンのぬいぐるみにして、赤ずきんは蓬莱を使う。

 

「音楽はこの子、出てきてメロエッタ!」

「ロメッタ!」

 

 ボールを投げて出したのは、五線譜を思わせるような長い髪や、音符やト音記号などの音楽記号のような部分が随所に見られる。音符の部分がある通り、歌やダンスが得意だ。その歌声やダンスでポケモンの感情が変化するという不思議な力をもっている。この子がアリスが捕まえられた旋律ポケモンで、幻のポケモン。彼女を捕まえられたからアリスポイントがもらえた。

 

「では、はじめます。良い子にして聞いて見てね」

「「「は~い」」」

「昔々、あるところにとても可愛らしい女の子がいました」

「ホラーイ!」

 

 蓬莱が手をあげて挨拶し、スカートを持って挨拶する。メロエッタも良い感じのメロディーを流してくれる。

 

「ある時、その女の子のおばあさんが赤いビロードの布で、女の子のかぶるずきんを作ってくれました。そのずきんが女の子にとても似合っていたので、みんなは女の子の事を、赤ずきんと呼ぶ様になりました」

 

 お婆さん役の上海が蓬莱に渡す。それをアリスが操って着せていく。

 

「ある日の事、お母さんは赤ずきんを呼んで言いました。赤ずきんや、おばあさんがご病気になってしまったのよ。おばあさんはお前をとっても可愛がってくださったのだから、お見舞いに行ってあげなさい。きっと、喜んでくださるから」

「はい、お母さん」

「それじゃあ、このケーキと、上等なブドウ酒を一本持ってお行き」

 

 上海が蓬莱に小道具の籠を渡していく。

 

「赤ずきんがおばあさんの所へ一人で行くのは初めての事だったので、お母さんは心配でたまりません。

 でもお母さんには用事があって、一緒に行けないのです。いいですか、途中で道草をしてはいけませんよ。それから、熊に用心するのですよ。熊はどんな悪い事をするかわからないから、話しかけられても知らん顔しているのですよ。赤ずきんの少女は答えます。はい、お母さん。でも大丈夫! ちゃんと準備をしていくから! 赤ずきんは、お母さんを安心させるように元気良く、「いってきまーす!」と、言って、出かけて行きました」

 

 そして、道草をしてボコ熊と出会い、ボコ熊は蓬莱に喧嘩を売ってきました。

 

「へっへへ、その美味しそうなブドウ酒とケーキだな。ここを通りたければ寄越せ! と、いってきます。赤ずきんの少女、蓬莱は──()()()()()()()()()()()()()()。そう、蓬莱はしっかりと準備をしてきたのです。それを見たボコは驚きます! なぜなら彼女は身の丈もある大剣を構えたからです」

「ホラーイ!」

 

 蓬莱が魔法を使い、身体が光っていく。メロエッタの歌も激しめのものに変わっていく。

 

「赤ずきんの少女は剣の舞を使い、攻撃力を上げていきます。そう、彼女はどんな相手にも容赦はしません。何故なら、狩人だからです。ボコはそれを見て後退りますが、すぐにやる気を出して突撃してきます」

 

 ボコを突撃させる。

 

「オイラは負けない! 気に食わないお前をボコボコにしてやる!」

「ホラーイ!」

「果敢に攻めるために突撃し、拳を振り上げるボコ。赤ずきんの少女は突撃してくるボコの横を避けながら、一閃します」

 

 スパッと切断し、背後で爆発する。

 

「赤ずきんの少女、蓬莱は大剣を振ってから背中に戻してお婆さんの家に進みます。彼女は一直線に目的地へ向かいます。そして、切られたボコは立ち上がりました。おのれ、今度こそ勝ってやる! そう言って赤ずきんの少女の目的地に先に向かっていきます。そんなことを知らない赤ずきんの少女は熊について母親に言われた通り、警戒して剣の舞を積んで攻撃力を最大まであげた状態ですすんでいきます。そんな少女に対して熊のボコは仲間を呼ぶことにしました。そう、スピアの巣に突撃して巣を壊して持ってきたのです。スピアを引き連れてやってきたのですが、それも赤ずきんの少女にとってはあっさりと倒してしまいます。何故なら、攻撃力がすでに最大ランクだからです。それに対して相手は補助技を使っていない突撃ばかり。もはや敵ではありません」

 

 出したスピアたちを片付ける。

 

「赤ずきんの少女はボコを捕まえて、スピアの巣まで案内させました。そして、スピアたちにボコを差し出して赤ずきんの少女は帰っていきました。ボコはスピアー達に刺されながらも、なんとか逃げ出して最後の手段にでます。それはお婆さんを倒し、入れ替わって油断した赤ずきんの少女を倒すことです」

 

 場面を切り替えて、お婆さんの家にする。そこに侵入するボコ。

 

「ボコはこっそりと侵入し、寝込んでいるお婆さんのところまでやってきました。ですが、そこにはすでに赤ずきんの少女がいました。当然です。赤ずきんの少女がした寄り道はボコをスピアー達に渡しただけなので、先に到着していたのです。ですが、ボコは諦めません。やられても立ち上がり、決してあきらめずに突撃していきます。赤ずきんの少女は段々と面白くなってきて、ついにはボコを捕まえてしまいました。捕まったボコにボルトチェンジと腹太鼓を覚えさせました。それによってボコはとっても使える子になったのです。皆もしっかりと補助技をつみましょう。戦いが決まっていれば事前に準備をしてから挑んだ方がいいですからね」

「「「はーい」」」

 

 ポケモンを合わせた人形劇をしてみたけれど、やっぱり声優役が欲しい。まあ、人形達が自由自在に動き回るのはうけた。特にボコがやられるシーンは爆発もありなので結構笑ってくれた。でも、語り部の能力はアリスにはない。やっぱり歌えるようになった方がいいかもしれない。

 

「ボコちゃん頑張ってたね!」

「うん!」

「そうか? でも弱いじゃん」

「確かにそうだな」

 

 女の子達はボコを好きになり、男の子はそうでもない感じ。とりあえず、ボコを渡しているので抱きしめてくれている。なんというか、駄目な子を応援している感じかな。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「うん。いってみよう」

「皆で行くよ~」

 

 移動してアリスの工房に移動すると、そこは禍々しい雰囲気が漂っていた。それに沢山のポケモン達がいて、子供達が世話をしている。みんな、ゴーストやエスパータイプの子達を連れているようで、レベルも高い。

 

「このポケモン達は?」

「ここを襲ってきた人達を捕まえたんだよね~その人達が持ってたポケモンだよ」

「襲撃者ですか。愚かですね」

「ここに珍しいポケモンがいるって聞いてきたみたい。でも、ここだとゴースト系やエスパータイプ、悪系がすごく強いから……相手にもなってないのがほとんどなの」

「一応、警備を強化しておきましょう」

 

 結界に加えてここを管理している子供達やポケモン達に支援魔法がかかるように調整して、結界の力も強化しておく。他にも魔力を補充したり、陣地作成Aを使ってどちらかというと工房ではなく神殿を作成する。これで大丈夫だと思う。

 

「ポケモン達はどうする?」

「一度連れていきますが、今はいいです。フリーザー、サンダー。でてきて」

「「ギャオ!」」

「二人にはここの管理と防衛を任せます。子供達が危なくなったら出てきて倒してください。それ以外はこの敷地内でしたらある程度の自由は認めます。ですが、他のポケモン達に迷惑をかけないようにお願いします」

「「ギャ!」」

 

 この二匹はしっかり鍛えられているので、ここの警備は任せておけばいい。

 

「この子達ってファイヤーとは違うんだね」

「ファイヤーと似たような子達です。護衛としてはいいです」

「わかった。お願いしておくね」

「あ、アセロラ。これからアリスはカントー地方とジョウト地方でバッジを集めに行きますが、一緒にきますか?」

「う~ん、でも……」

「行ってきていいよ! ここは私達だけで十分だし!」

「俺達にもポケモン達がいるからな。それにここの子達、少しもらってもいいだろ?」

「ええ、構いませんよ」

「なら、大丈夫だよ」

「うんうん」

「それじゃあ、旅も興味がないって言えば嘘になるし、行ってみようかな。でも、準備に時間がかかるよ?」

「アリスもちょっと用事があるからいいよ」

「それじゃあ、後で合流しよう。それに今日は泊ってくよね?」

「それでお願いします」

「あ、それじゃあ人形劇みせてー」

「いいですよ。他のにしましょう」

 

 人形劇をみせて子供達の世話をしたりし、仲良く皆でご飯を食べる。彼女達を寝かしつけてからアリスはある場所に移動する。そこはここに来た時に入った場所で、野生のメタグロスがいる。アリスはハードゴア・アリスとなって突撃し、全員で倒していく。狙いは最奥にあるメタグロスナイト。

 

「ルクス、やっちゃってください」

「……任務、了解……攻撃を開始する……」

 

 同じメタグロスでも、ルクスの方が速くて強い。それにアリス達も何もしないわけではない。全員で攻撃していく。するとあっさりと倒せた。前とは全然実力が違うし、こちらにはルギアのさくらがいる。アリス自身もメタグロスと殴り合いをして親交を深めて倒してからゲットし、メタグロスナイトも手に入れた、ダンバル発生の理由も調べてみたら、ここは磁力を帯びた鉱石がいっぱいでるみたいなので、色々と回収しておく。ひょっとしたら、キーストーンもあるかもしれない。まあ、アリスは使い魔契約を通してメタグロスナイトさえあればおそらくキーストーンなしでもメガ進化はできると思うけどね。

 

 

 

 



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43話

宣言通り、かなり飛ばします。


 

 

 メタグロスナイトとキーストーンであろう鉱石。その塊を取り出して回収し、トランクケースの中に入れる。魔法を使って解析して調べるけれど、残念ながらわからない。何処かで本物のキーストーンとメガストーンを手に入れて調べないといけない。メタグロスだけでなく、ダンバルやメタング達を確保してトランクケースに仕舞って戻っていく。

 

 

 

 エーテルハウスに戻ってから一眠りして、朝起きたらみんなの朝食を用意していく。それが終わったら、エーテルハウスを浄化魔法で綺麗に掃除し、アセロラの部屋に向かう。扉を叩くと、アセロラはすでに起きているのか返事がきた。

 

「はい」

「アリスですけど、入っていいですか?」

「いいよ~」

 

 許可を貰ったので中に入ると、ベッドの上に荷物を確認していた。なんだかいっぱい服が置かれている。

 

「ちょうどよかった。アリス。持っていくのはどの服がいいと思う?」

 

 そう言って、数着の服を見せてくれる。アリスは男なのでよくわからない……といいたいが、人形達の服を作るので色々と覚えたので色々とわかる。

 

「アセロラならこっちかな。それと動きやすい服装がいいけれど、基本的にメタグロスで空を飛ぶから、あんまり気にしなくていいです。ただ靴はブーツで、日焼け対策や寒さ対策とかはした方がいいです。一応、ポケモンを探しに行ってもいいでいいですが、ジムからジムへと」

「なるほど、なるほど。それじゃあ、ポケギアとか? あ、テントとかもいるね」

「テントとかはアリスが持ってるからいりませんよ」

「じゃあ、何がいるの?」

「食器と寝袋、毛布、防寒具、あとはハンカチやタオルなど生活用品ですね」

「それじゃ、こんな感じかな~」

 

 お手伝いして旅の準備を行う。どちらかというと旅行に近いしね。準備ができたら皆を起こして食事をしていく。その時にアセロラが居ない時のことを確認していった。

 

 

 外に出てメタグロスの姿ででてきてもらう。アセロラと二人で背中の椅子に座り、エーテルハウスの皆に見送ってもらう。

 

「行ってきます」

「皆、お土産を楽しみしていてね~」

「期待している~」

「またね~」

「毎日電話するからね」

「は~い」

 

 さて、挨拶が終わったのでルクスに指示を出す。

 

「ルクス、出発」

「がぁ」

 

 浮遊して高度を上げると加速していく。アリスがバリアを展開すると全力で移動。すぐに時速500キロまで到達してもっと速く移動する。

 

「すごく速いね! それに風もこないし、ふっしぎ~」

「来ないように魔法を張ってますしね。それよりも、これからカントー地方のジムを回っていきます。日程は二週間です。続いてジョウト地方に移動し、こちらも二週間で攻略します」

「二週間で各地を回ってジム戦、って大変じゃない?」

「そうかもしれませんが、アリス達はすでに鍛えたポケモンがいますから……」

「そうなんだ。でも、アセロラはジムリーダーが何かもよくわかってないからね~」

「あらら……ジムリーダーというのはですね……」

 

 このポケモン世界にはポケモンリーグという全トレーナーでその地方最強の存在を決める大会がある。そこに参加するためにはポケモンジムと呼ばれるポケモン協会公認の強力なトレーナーをポケモンバトルで倒す。するとジムバッジを貰える。その地域のもの全てを手に入れるとポケモンリーグへと進むことができる。

 

「つまり、そのリーグに参加するの?」

「いえ、しませんよジムバッジが欲しいだけですね。というか、その大会だって一年に一度だけになりますしね。ただ、バッジはトレーナーの強さを現しますからね」

「必要なの?」

「ホウエン地方で必要なんです」

「そうなの? 不思議」

「そこで必要なの。実はね、ホウエン地方には古代ポケモンが眠っている場所があるの。アリスの狙いはその子達」

「古代ポケモン! アセロラ、凄く興味があるよ!」

「ですよね。ですから、アセロラさえ興味があるなら一緒に暗躍しませんか?」

「暗躍?」

「はい。ホウエン地方にはマグマ団という存在とアクア団という存在が暗躍しています。その二つの組織はグラードンとカイオーガという超古代ポケモンを狙っているというわけです。ちなみにグラードンは大地を増やし、グラードンは海を広げます」

「マグマ団とアクア団……もしかし、その二匹を使って何かをしようとしているの?」

「ですね。マグマ団はグラードンで大地を広げて人類の生存圏を広げようとしています。アクア団は母なる海を広げようとしています。ですので、二つの団体は争い合っているわけです。これはグラードンとカイオーガもかわりません」

「その二匹の特性からして、そうだろうね。で、アリスはどうするつもりなの?」

「そこなんですよね」

 

 本来は固有結界を使って閉じ込めて戦うつもりだった。これで被害が押さえられると思ったのだけど、そうはいかないようだ。さて、被害を抑えるためにはグラードンとカイオーガ、どちらから目覚めさせるかが大事になる。グラードンの居場所はわかっているから、活性化させないようにフリーザーを使って火山を凍らせてしまう。その間にカイオーガを復活させて……いや、カイオーガを海で倒す方が賢いか。違う。コントロールしきってしまえばいいんだ。マグマ団とアクア団の団長はあくまでも普通の人間だ。でも、アリスは違う。なら、あの二つの宝玉を改造して出力を上げて誘導すればどうだろうか? いい感じにならないか? 

 

「まずは二体の操作装置を手に入れます。アクア団かマグマ団に潜入する予定ですし、もしかしたら犯罪行為もする可能性があります。その二体が復活すれば世界的な危機ですからね」

「犯罪者になるの?」

「そこなんですよね。そこでアセロラが協力してくれるのなら、アリスはスパイとして行動しようと思います」

「スパイ……そっか。アセロラが情報を伝えるんだね。それでアセロラがアリスのことをスパイだって証明するんだね」

「そうです。まあ、一応はポケモン協会に伝えますが、協力してくれるかはわかりませんしね」

「まあ、普通は信じないよね」

「というわけで、報告はしますが勝手に行動します」

「なるほど。で、グラードンとカイオーガ、どっちが被害がすくないの?」

「カイオーガですね。あの子は海に棲んでいますから……先に押さえられるのなら押さえた方がいいです。でも、簡単には近付けません。その点、グラードンが簡単に会えますね」

「……じゃあ、グラードンから実験?」

「そうなりますね」

 

 それに少し考えていることがある。それをやると犯罪者になる確率がとても高い。でも、やる。何故なら、アリスは男に戻りたいからね。絶対にジラーチに願いを叶えてもらう。ふふふ。

 

「なんだかアリスが悪い顔をしているよ」

「ごめんなさい。まあ、アリスは犯罪者になってもカイオーガとグラードンを捕まえます。アセロラはそれでも付き合いますか?」

「ん~そうだね。ならないように頑張ろう。だって、そのグラードンとカイオーガを捕まえて、悪い事をしようとしている人達を懲らしめるのは悪いことじゃないしね。それに信頼してもらうためにジムバッジも用意するんだよね?」

「ですよ。アリスも好き好んで犯罪者にはなりたくないですから」

「まあ、どっちにしても伝手を手に入れた方がいいよ」

「ですね。それならいい人を知っていますから、その人に頼もうと思っています」

 

 イエローさんは図鑑所有者だから、彼女からオーキド博士に伝え、オーキド博士からポケモン協会に伝えてもらおうと思う。あれ、でもこれをするともしかしてグラードンとカイオーガ、取られる可能性もある。まあ、そうなったら戦争になるけどね。

 

 

 

 アローラ地方からカントー地方まで五時間ほど走ると到着した。ジェット機でも七時間から八時間ほどかかるのだけど、魔法なども使ってもっと速く到着することができた。

 

「ここはどこなの?」

「カントー地方のトキワシティです」

「アセロラのところと同じ田舎だね」

「そうですね。あ、先に連絡をしますね」

「は~い」

 

 ルクスを地上に降ろし、ポケギアを起動してイエローさんに連絡する。

 

『アリスちゃん、ついたの?』 

「はい。つきました。今、入口にいます。これからトキワジムに移動しますので、そちらに来てください」

『わかったよ。グリーンさんは強いから気をつけてね』

「ありがとうございます」

 

 電話を切ってから二人で移動する。ルクスを戻し、代わりにジュカを出して抱きしめる。アセロラもミミたんを出して二人一緒に進んでいく。

 トキワジムのジムリーダーはいないようだ。でも、ジムリーダーのポケモンが相手をしてくれるらしい。そんなわけで、アリスとアセロラで簡単に倒せる。相手はピジョットとキュウコン、ドサイドン、ナッシー、ウインディ、フーディンだった。でも、あくまでも一般トレーナー用に調整されているのだし。

 ルクスでさっさと接近して様々なパンチで相手の弱点をついて倒す。アセロラはミミたん、ユキメノコであっさりと倒した。

 やっぱり、ルクスやジュカを出したら簡単に倒せる。アセロラの方もアリスが用意した場所で育ったゴーストタイプだから、とっても強くなっているみたい。まあ、アセロラのポケモン達は平均レベルが60を超えてるし、ミミたんに関してはレベル82になっている。

 

「えっと、簡単に倒しちゃったけど……」

「ポケモンバトルができるようにされていても、それはトレーナーがいないですし……それとレベルが高すぎますね」

「う~ん、これじゃあ訓練にならないよ」

「そんなアセロラにいい知らせがあります。レベルダウンして、素質を強化しませんか?」

「いいね~」

「ですが、手持ちの半分は強いのにしておいてくださいね」

「わかった。じゃあ、ミミたんを強化しようかな」

 

 話ながらジムバッジを貰って外に出る。ちょうど向こうからイエローさんがやってきた。イエローさんは綺麗な金髪をそのまま流して、麦わら帽子を被っている。それに白いワンピースを着ていてとても似合っている。

 

「アリスちゃん!」

「イエローさん、お久しぶりです」

「無事みたいだね。それに思ったよりもジム戦が早いし……あ、そちらの人は?」

「はーい! アセロラちゃんです!」

「アセロラちゃんだね。ボクはイエロー。よろしくね。こっちはチュチュ」

「きゅきゅ」

 

 ミミたんが挨拶してチュチュと仲良く尻尾を合わせている。本当に不思議でしかない。普通、ミミッキュはピカチュウを天敵としているはずなんだけどね。

 

「じゃあ、ボクの家に案内するよ。こっちにおいで」

「「よろしくお願いします」」

 

 イエローさんの案内で彼女の家に移動する。そこでお茶を出してもらって色々と話していく。

 

「へ~ちゃんと家族と会えたんだね、良かった」

「はい。それに珍しいポケモン達と出会えて仲間にしました」

「確かにアリスのポケモンって見たことないよ~」

「珍しいポケモンを捕まえたんだ。見せてくれる?」

「いいですよ。出てきて、メロエッタ、さくら」

「エッタ!」

「きゅぅ~」

 

 メロエッタとさくらを出して彼女達をみせる。

 

「本当に見たことないね。図鑑に登録していい?」

「いいですよ」

「えっとメロエッタ……はわからないけど、こっちの子はルギア……伝説って言われてるポケモンだよね。会ったことあるよ」

「頑張って捕まえました」

「凄いよね~」

「アセロラちゃんのも見た事ないポケモンだけど、ピカチュウに似ているね」

「こっちの子達についても教えますね。それに相談したいこともあります」

「相談? いいよ」

「ありがとうございます。それとトキワシティに泊まるところってポケモンセンターだけですよね?」

「うん。でも、今日はボクの家に泊まっていってよ」

「いいんですか?」

「うん。もちろん、アセロラちゃんもね」

「どうしますか?」

「ここでお世話になろうよ。アセロラ、もう疲れたよ」

「今日は五時間ほどずっと飛んでましたからね」

 

 アローラ地方からずっと座りっぱなしだからね。他のポケモン達も出してみんなで遊ばせる。今、アリスが連れているのはジュペッタのジュカ、メタグロスのルクス、ルギアのさくら、メロエッタ、マザーのメタモン。メタグロス達も全部置いてきたしね。

 

「メタグロス、本当に捕まえたんだね」

「もちろんです。ジュペッタもいますよ」

「そうなんだね。それとその子達は?」

「この子達は上海と蓬莱。人形です」

「ポケモン? 違うのかな?」

「アリスは魔法使いだからね。人形も魔法で操ってるらしいよ~」

 

 にへらと笑顔で答えるアセロラ。彼女もポケモン達を出している。彼女の手持ちはミミたんとジュペッタ、ユキメノコ、ゲンガーを連れている。四体なのはこの旅の間に捕まえるつもりみたい。シャンデラとかいいと思うし、寄り道してもいいかもしれない。

 

「本当に魔法使いなの?」

「ですよ。一つ魔法を見せましょう。ルクス、ジュカ。人型になっていいですし、喋っていいですよ」

「了解。変身します」

「これでいい?」

 

 ルクスとジュカが変身し、人の姿になる。これでいい。

 

「嘘……人になった……」

「それに喋ってる! すご~い!」

 

 ルクスとジュカがお辞儀をしている。

 

「ということで、この子達に魔法を使ってるんです。他にも色々とできます。サイキッカーの特殊だと思ってください。それとこの子達を遊ばせてもいいですか?」

「うん、いいよ。チュチュ、遊んできていいよ」

「ぴか!」

「あ、さくらとメロエッタは外に出たら駄目だからね。攫われちゃうかもしれないしね。ジュカとルクスは二人をみていてね」

「任せて」

「……了解、見張る……」

 

 伝えるとさくらは残念ながら、アリスのところにやってきた。抱き上げてお腹や首元を撫でてあげる。メロエッタは他の子達と歌い出していく。

 

「ミミたん達も遊んできていいよ」

「きゅ!」

「さて、アリス達はお話をしましょう」

「うん」

 

 皆が遊んでいる間にホウエン地方で起こることについて伝えていく。協力してくれたらそれはそれでいい、駄目なら勝手にやるだけだし。

 

「また危険なことを……」

「大丈夫です。アリスは死にませんから」

「むう……」

「アセロラは協力するよ。まず、穏便に済ませられたらいいし」

「それ、絶対に無理だよ。でも、オーキド博士達に相談してみるよ」

「お願いします」

 

 アクア団の団長とマグマ団の団長についてしっかりと教えておく。特にアクア団の団長は報道機関に潜り込んでるしね。

 

 

 

 その後、イエローさんと三人で寝てからアリスとアセロラはカントー地方の町を回ってバッジをゲット。次にジョウト地方に移動して、こちらもバッジをゲット。一地方ジム巡りだけなら二週間もいらなかった。一日で二つから三つのジムを回ったからだ。

 次はホウエン地方の予定だったけれど、先にシャンデラ、ヒトモシを捕まえに行く。イッシュ地方に移動するけれど、こっちは片道6時間もかかるので、結構大変だった。到着したアリスとアセロラはさっそくヒトモシを捕まえた。色違いと通常個体で双子みたいな感じだったから、互いに思ったことは一つ。色違いをアリスが育ててから、アセロラが育てたシャンデラを交換する。アセロラに色違いの子達が、アリスに通常個体がくる。

 二人でイッシュ地方のジムもついでとばかりに全部手に入れて、ヒトモシを進化させて闇の石でシャンデラにした。そしてホウエン地方に戻り、そこでもジムを回って倒しまくった。基本的に戦いはシャンデラを育てるためにさせていたので、時間がかかった。当初の予定の四週間で四つの地方のバッジ、計32個集められた。スキルポイントも同じ。なのでプロイキッシャーを10にしておく。

 

 

 

 

 

 

「で、イエローさんはなんて?」

「やっぱり信じて貰えなかったみたいです」

 

やはりポケモン協会はアリスの言う事なんて聞いてくれないか。むしろ、カイオーガとグラードンを狙う第三勢力と認識されたかもしれない。

 

「じゃあ、仕方ないね」

「そうですね。とりあえず、必要最低限の物は確保していきましょう」

 

 アリスとアセロラは黄衣の外套を身に纏い、フードを被る。口にはマスクをつけている。

 

「行ってらっしゃいアリス。危なくなったらすぐに応援を送るから」

「まかせてください」

 

 透明になって空高くに浮かぶルクスから飛び降りる。どんどん地上に近付いていくなか、空を飛んでゆっくりと細心の気配と人払いなど様々魔術や魔法を使って高い山に降り立つ。そこには二つの宝玉が祀られている。藍色の玉と紅色の玉だ。それぞれカイオーガとグラードンを操る重要なアイテム。

 その二つをこっそりと回収しようと手を伸ばして掴む。するとアリスの中に入り込んでくる存在がある。でも魔法少女になっていて、かつ金属生命体となっているアリスにとってこんなものなんでもない。深淵のような物をみせられたが、()()()()()()()。こっちとら、クトルゥフ神話の神様とお付き合いしているのだ。ただ、グラードンとカイオーガとの精神バトルは起こる可能性はある。で、精神支配は状態異常なわけで、マッドスィートケークで治療できるはず。解析に成功したらそれでもいい。

 

「何をしておる!」

「見えないが、おることはわかっておるぞ!」

 

 振り返るとお婆さんとお爺さん、それに孫であろう小さな子供二人。彼女達はトクサネシティの双子ジムリーダーのフウ、ラン。彼女達はここに来る前にジム戦をした時に無茶苦茶言われた。禍々しいとか、人間じゃないとか、本当に酷いことを言われた奴だ。

その二人を含めて全員が息を切らせながらやってきていた。アリスの姿はみえていないようなので、普通に侵入を察知してやってきたのだろう。仕方ないので藍色の玉と紅色の玉にもとからある機能で体内に収納し、代わりに用意しておいた偽物を元の位置に戻す。この偽物、一応それぞれに水の力と火の力を付与しておいたのでそれなりのマジックアイテムだ。

 

「婆さんや」

「ええ、禍々しい気配がします」

 

 失礼な。アリスは禍々しくなんてない。健全な女の子……じゃない。男だ。これもホウエン地方の平和のため。このまま引かせてもらう。

 

「この気配は……」

「知っておるのか?」

「はい……」

 

対戦したことがあるし、バレても仕方がない。でも、証拠はでないからしらばっくれられる。

 

「そこか! い……」

「お兄ちゃん!」

 

 相手が何かをする前に弾幕を展開して流星群のようにして放つ。空中で爆発させて衝撃波だけを放ち、転がせていく。その間に空高くに飛び上がって逃げる。

 

「藍色の玉と紅色の玉は無事か!」

「あるようじゃが……」

「これは……」

「偽物じゃな」

 

 あっさりとバレるのは仕方ない。ただし、犯行声明だけは残しておいた。

 

「アクア団とマグマ団じゃと!」

「これは……やはり、奴等はあいつらの仲間……」

 

 そう、二つの団体名を出しておいたのだ。ごめんなさい。アリスは悪い子なのです。さて、空に戻ってルクスのところまで戻る。非常に面倒だけど、どこまで結界が張られているかはわからないからだ。

 

「……お疲れ様、マスター……」

「おかえり。お疲れ様。首尾は?」

「成功です。本物をもらってきました。いいえ、借りてきました」

「返す気がない奴だ~」

「えへへ~」

「えへへ~」

 

 二人で笑い合ってから、ルクスに移動してもらう。しばらくホウエン地方には来ない。アセロラは一旦、エーテルハウスに戻ってもらうし、アリスも東方世界に戻る。原作開始までもう少し。主人公達には悪いけれど、蚊帳の外でいてもらう。

 

 

 

 

 

 カイオーガとグラードンを捕獲する目途はついたけれど、問題はレックウザだ。うん、グラードンとカイオーガで争わせてたらくるかな? いや、あれはセンリさんが無理矢理連れてきただけか。来たら、ルギア二体、グラードンとカイオーガ、サンダー、フリーザー、ファイヤーで相手をする。

 

 

 

 

 

 




さてシャンデラ可愛い!

 まあ、それはおいておいて、藍色の玉と紅色の玉は空から狙われたら、くるまでに時間がかかるという判定です。アリス、隕石みたいな速度で落ちて来たしね。
 さて、ストーリー無視してグラードンとカイオーガを手に入れにいくか、それとも真面目にストーリーをやるか。でも潜水艇もにとりに発注してありますし、そもそもバリアして魔法少女になってたらルギアのさくらに普通に運んでもらえるよね。死んでも蘇生できるし。潜水ポケモンのルギアならいける。後は海底洞窟の場所だけ。



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44話

 

 

 

 藍色の玉と紅色の玉を手に入れたアリスはアセロラを送り、東方世界に戻って、そこで諏訪子ちゃんから大人ルギアを借りた。ルギアの調教はしっかりとしてくれていたので、言う事を聞いてくれる。

 にとりさんから潜水艇を作るのは流石に時間がかるらしいので、スキルポイントを使って科学者を最大レベルまであげて手伝う。他にはプロイキッシャーと魔法少女、戦術指揮官を上げておいた。

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:1

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.10》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.10》《プロイキャッシャーLv.10(左目)》《魅了の魔眼Lv.10(左目)》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 ハードゴア・アリス(魔法少女育成計画):《変身・魔法少女Lv.10》《どんなケガをしてもすぐに治るよ》

 アリス(ARMS):《世界最高の頭脳》《科学者Lv.10》《金属生命体》

 アリスとありす(Fate/EXTRA):《魔力Lv.10》《陣地作成Lv.10》《変化Lv.10》《自己改造Lv.10》《誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)Lv.10》

 島田愛里寿(ガールズ&パンツァー):《戦術指揮官Lv.9》《騎乗Lv.1》《カリスマLv.1》

 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》《万魔殿の魔導書Lv.10》《簡易迷宮作成の魔導書Lv.10》《資質向上の魔導書》《レアリティアップの魔導書》《ドロップ生成の魔導書》

 

 

 

 ───────────────────────────────────────

 

 

 

 科学者としての力を使ってにとりと一緒に開発していったけれど、残念ながら開発は難航している。そもそも、幻想郷に海がないからね。そんな訳で、潜水艇は諦めて海底洞窟を調べる装置を作った。人形達、上海を沢山作って大人のルギアと一緒に探させるのだ。これぐらいなら四週間で可能だった。後、お母さん達と藍色の玉と紅色の玉についても調べて強化することにした。紫さんに境界を弄ってもらって、二つの玉を完全に融合させる。これによってアリスはちゃんと操ることができる。それと科学者を最大レベルまで上げた科学技術で人形劇の舞台を作っておく。

 

 

 

 

 

 

 ポケモン世界に戻ったアリスはアセロラと合流して暗躍を開始する。ホウエン地方に到着したら、まずは海に大人ルギアとさくらを一緒にさせて調査をお願いする。

 

「ルギア、さくら、上海と一緒に海底洞窟を探してください」

『心得た。我が主人の命だ。致し方あるまい。行くぞ』

「きゅー」

 

 さくらが大人ルギアに抱き着いて、一緒に潜っていってもらう。アクア団が厄介かも知れないが、さくらとルギアは資質強化をやりまくっているので、相当強くなっているから大丈夫。上海がさくらの上に乗って、さくらがルギアの上に乗って潜っていく。

 

「なんだかちょっと可愛いね~」

「確かに」

 

 ルクスの上でアセロラがルギア達を写真に収めていた。

 

「それで、これからどうするの?」

「相手はマグマ団とアクア団。こちらも二人。というわけでどっちを担当する?」

「ん~やっぱり一緒に、行こうよ。大事なアイテムはもう手に入れているんだよね?」

「うん、アリスが持ってるよ」

「なら気にしないでいいよ」

「そうしましょう。じゃあ、まずはトウカシティに行ってみよう」

「は~い」

 

 

 

 

 

 トウカシティ。アリスはハードゴア・アリスに変身したゴスロリ状態。黄衣の外套は着ていない。アリスとアセロラは二人で毎日公園で待っている。ここはデボンコーポレーションの社長、ツワブキさんの散歩コース。トウカシティを走り回って、該当する噴水がある公園をみつけた。なので、アセロラと交代で見張っている。といっても、ツワブキさんを透明になって空からストーキングして、時間帯は把握している。

 

「ここで社長さんが誘拐されるんだっけ?」

 

 アリス達は公園のベンチで座り、クレープを食べている。アリスはイチゴのクレープで、アセロラはバナナクレープ。

 

「はい。狙いは潜水艇の心臓部に使われる特別起動部品です」

「ふ~ん。じゃあ、その部品を偽物にすり替えたらいいんじゃない? アリスなら侵入するのは簡単だよね~」

「確かにそうですね。では、見張りをお願いします」

「うん。あ、アリス。一口ちょうだい」

「どうぞ」

「ん~美味しい。こっちもどうぞ~」

「ありがとう」

 

 差し出されたバナナクレープを一口齧る。口の中に広がる甘み。女の子の身体になってからというもの、甘いものが本当にとても美味しい。互いに食べさせっこしていると、ふとアセロラが口元に指を当ててからこちらを見詰めてくる。

 

「どうしたの?」

「えへへ~間接キス、しちゃったね~」

「っ!?」

「あれ、赤くなった? 女の子なのに不思議~もしかせて、アリスって女の子が好きなの?」

「うん。女の子が好き、ですよ? 男は嫌いとはいかないまでも、恋愛的に好きじゃありません」

「そうなんだね~」

「だから、こういうことは止めてくださいね」

「は~い。あ、頬っぺたにクリームがついてるね。ぺろっ」

「ちょっ!? あっ、アセロラっ!」

 

 アセロラがアリスの頬っぺたをぺろりと舐めてクリームを取っていく。この行為に顔が真っ赤になって恥ずかしくなる。

 

「ふふふ、こうしていると普通の女の子みたいで可愛いね、アリス」

「アリスは可愛いですよ!」

「自分で自分を可愛いってどうなの~?」

 

 自分のことだけれど、アリスにとっては自分ではない、基となったアリスが褒められている感じもするし、そういう意味で可愛いと断言できる。

 

「事実ですから。違いますか?」

「可愛いよ~」

「アセロラも可愛いですよ」

「えへへ~」

 

 互いに笑い合ってると、周りからなんとも言えない視線が向けられてきていた。大人達以外にも子供達も多い。

 

「こほん。それじゃあ、そろそろ時間なので一緒に準備してやりましょうか」

「うん! は~い」

 

 トランクケースを開けて、中から舞台装置を出す。舞台を広げて設営していく。これはちゃんと許可をもらってやっている。演目は色々とやっているけど、基本的に童話をやっている。許可もちゃんと取っているし、出店もでている。

 

「これは遥か古代に生まれたポケモンのお話。一つは海の化身と呼ばれ、海を広げるポケモン、カイオーガと、大地の化身と呼ばれ、大地を広げるグラードン。相容れないこの二体は互いに戦っていきます」

 

 カイオーガとグラードンの人形が争い合う場面を見せ、カイオーガが雨を降らせ、グラードンが色熱の大地を作る。実際にその力を発揮させる。といっても、あくまでも幻術の魔法で再現しているだけだ。

 

「~♪ ~~♪ ~♪」

 

 メロエッタが古代の歌を歌い、パソコンからそれに合わせた音楽を鳴らす。そして、劇を進めていき、レックウザまで現れて三体の人形が争っていると、一部の人達が祈りを込めて巫女を捧げることでその身を宝珠として争いを止める。

 

「めでたしめでたし。では、次の演目です」

「は~い! アセロラとメロエッタのリサイタルだよ!」

 

 人形達を操作して楽器を持たせ、アセロラとメロエッタの歌に合わせて盛大に歌っていく。全て計算尽くした演奏で、綺麗な音色を奏でる。ポケモン達も一緒に踊っている。

 

「ほら、皆さんのポケモンもどうぞ!」

「メロエッタ!」

 

 皆で仲良く踊っていく。しばらく演奏して踊っていると、曲が終わった。演奏が終わり、駄目なところを修正していく。金属生命体と世界最高の頭脳のおかげで駄目な所がわかるし、ハードゴア・アリスの身体能力で演奏を完璧に再現できる。魔法少女も10にしただけはある。ただし、歌は駄目だった。要練習。

 

「はい、今日の演目はここまでです! ありがとうございました」

「ありがとうございました。代金はこちらにお願いします」

「エッタ」

「きゅきゅ」

 

 皆で渡されたおひねりを貰い、それで美味しい物を買う。そんな感じで過ごしているので、かなり人気がでている。まあ、可愛い女の子二人が幻のポケモンと珍しいポケモンを連れてやっているので話題性はばっちり。メロエッタはもちろん、メタグロスもこんなところにはいない。ミミッキュもだしね。

 

「じゃあ、アセロラ。後は任せるね」

「は~い。行ってらっしゃい」

 

 さて、舞台を片付けてメロエッタ達を戻して、ミミたんたちとアセロラは見張ってもらう。その間にアリスは先程教えてくれた内容を実行するべく、デボンコーポレーションに光学迷彩を使いながら侵入する。

 コンピューターに手を触れて侵入する。金属生命体、ナノマシンの力を使ってハッキングし、例の特別起動部品の保管庫を探す。完成はもうすぐのようなので、人払いの結界を張り、必要な部品を倉庫から拝借して偽物を作り上げる。偽物にはウイルスと発信機、盗聴器を仕込んでおいてこちらの命令通りに自壊するように設置。それ以外は本物と変わらないようにしておいて、入れ替える。本物はこちらで完成させてから、監視カメラなどの全データを切り替えて戻る。

 これで連中は海底にはいけない。海底に進む間に自壊させて水圧で潰れてもらう。そのまま海の藻屑になっちゃえ。もちろん、アリスが指示しないと大丈夫。あ、倉庫の中身を使ったから、どうせバレるか。じゃあ、色々とやってしまえ。まず、デボンコーポレーションが現在開催中の奴を調べて論文などを読んで理論を理解する。続いて企画書を読んで、目的の物を作るのに必要な物と理論を書いておいておく。流石に実証実験は全部はできない。何個かはできたので、そのデータを置いておく。あと、社長あてにメールもしたためておく。

 

 

 

 

 デボンコーポレーションから戻って、夜の公園に入るとアセロラの前に人が沢山居て、ナンパされているみたいに感じる。その人達は蒼い頭巾をかぶっている集団と、赤い頭巾を被っている集団だ。

 

「どうしたの?」

「この人達がグラードンとカイオーガの話が聞きたいって」

「え、嫌ですけど」

「なんでよ!」

「いえ、講演時間を過ぎていますし、許可なくやったら怒られて罰金を支払わないといけない上にこれから許可がもらえません。また明日、昼間に来てください」

「納得の理由ですね」

「確かに……」

「ようはまた明日こればいいだけだろ」

「そうですね。ここは引きましょう」

 

 二つの集団が帰っていくので、アリス達もホテルへと向かっていく。当然、跡をつけてくる者達もいるので、どうしようか悩む。

 

「両方の陣営から人がついてきてるね~」

「どうしよっか」

 

 大人しく明日まで待っていればいいと思うかもしれないけれど、相手がいるかそうはいかない。如何に出し抜いて攫うかを考えているんだと思う。ただ、そうなると大義名分ができるので容赦はしない。

 

「アセロラが倒してこようか?」

「いえ、ここはこのままにしておきましょう」

「は~い。それじゃあ、一緒に寝ようか」

「そうですね。その方が危険がないでしょう」

 

 そんな訳で途中でお店で買い物をしてからホテルに戻る。ホテルのレストランで食事をしていく。彼等はすぐそばで互いを監視している。一応変装はしているみたいだけれど、サイキッカーになったアリス達には楽にわかる。

 

「しつこいねえ~警察に連絡する?」

「それは駄目ですね。どうせすぐにでてくるだけです。ですので、他の方法を取らせていただきましょう」

「ん~じゃあ、ポケモン達をとりあげようか」

「ですね」

 

 食事を終えてから、ホテルの部屋に戻って二人で眠りにつく。護衛としてシャンデラ達とルクス、ジュカを配置しておく。ルクスは人型になっているのでトレーナーにしかみえない。

 

「……マスターたちはこのままお休み、ください……」

「こちらで始末しておく」

「お願いします」

「あ、お風呂どうする? 一緒に入る?」

「え、遠慮します。それに襲っちゃうかもしれませんよ?」

「いいよ、別に?」

「じゃあ、襲っちゃいますね」

 

 アセロラの手を掴んで風呂場に連れていって服を脱がせる。自分も脱いでアセロラの身体を真っ赤になりながら洗って、こちょばす。

 

「あはははは、やめっ、やめてっ、ごめんっ、なさいっ!」

「まいりましたか」

「うん。だから、今度はアリスの番だね!」

「え?」

「えい♪」

「きゃーっ!」

 

 今度はアリスに襲われて身体中をまさぐるように身体をたっぷりと撫でまわされ、耳をカプカプされる。完全に遊ばれているね。

 

「アリスって、虐めるの楽しい」

「くっ、この……ひゃうっ!」

「あははは、アリスってここが弱いよね」

「あうっ!? やっ、やめっ、そこっ、らめぇっ!」

 

 アセロラに玩具にされ、ぐったりとしたところを湯船に入れられて抱っこされる。

 

「アリスの身体ってすべすべでぷにぷにで本当にいい肌だね」

「多分、回復魔法とか再生系の技術で綺麗になってるからだと思います。アセロラのだって綺麗だし撫でていたいよ?」

「え~そうかな~?」

「そうだよ」

「そっか。それでどうする? スパイをするなら、どっちかに入った方がいいけれど、犯罪者になるのはね~」

 

 もう犯罪してますけどね。バレないようにしているけど。でも、流石にスパイ行為は大変だよね。いや、待てよ? 

 

「スパイはスパイでも、本人にスパイと思っていない人を作ればいいですね」

「そんなことができるの?」

「魅了の魔眼を持ってますからね」

「そっか。それでアセロラもアリスにメロメロなのかな?」

「絶対に違う」

「あははは」

 

 アセロラはアリスで遊んでいるだけだしね。その後はゆっくりと風呂に浸かりながら色々と話していく。

 お風呂から出たら身体を拭いて着替えてからお互いの髪の毛を乾かして髪の毛を梳かしていく。ドライヤーを使って綺麗にしてベッドに入る。

 

「アリスのパジャマって可愛いね」

「まあ、着たくてきてるわけじゃないけどね」

「じゃあ、アセロラも着る!」

「いいですよ」

 

 二人でボコのパジャマを着て眠っていく。少し眠っていると周りが騒がしくなってきた。なので、ベッドから視線をやるとルクスが動き始めていて、砲撃のチャージしている。どう考えても過剰威力で、収束されているエネルギー量は山を吹き飛ばす感じ。これはやばい。盾の勇者の成り上がり世界と同じ感覚なのかもしれない。これは危ない。少し遊びも含めて実験しよう。

 

 

 

 

 

 

 アクア団

 

 

 

 

 

 

 公園で人形劇をしている可愛らしい少女二人。それだけなら何の問題もなかった。だが、内容がグラードンとカイオーガについてなら話は別だ。その場に金髪の少女がいなくて、待っているとマグマ団の連中までやってきた。それから明日も講演するということで別れたが、そう簡単にはいかない。俺はホテルのスタッフに化けて彼女達について調べた。

 

「リーダー。例の少女達はホテルの部屋で眠っているようです」

『ホテルですか。ポケモンセンターではないのですね』

「はい。それでマグマ団の連中も突入するつもりのようです」

『何かカイオーガについて重要なことを知っているかも知れません。必ず確保してください。それにこの頃、ホウエン地方近海ではカイオーガかはわからないですが、未確認の存在が確認されています。そのことについても調べないといけませんので、あまり時間はかけられませんよ』

「了解です」

 

 この頃、ホウエン地方の近海でホエルオーとは違う巨大なポケモンが確認されている。それの調査も必要だ。こちらの潜水艦も被害がでているし、早急な解決が求められる。

 

「これより私達で目標の少女二人を拉致します。ウシオさん。シズクさん、いきます」

「「了解」」

 

 他の部下達も合わせてホテルに侵入して、彼女達が泊っている部屋の前に立つ。憎きマグマ団の連中も同じ考えのようで、扉の前で遭遇した。互いに譲るつもりはないので、争うことになる。

 

「……どうしましょうか……ここで争えば対象に気付かれて逃げられることになります」

「……だが、どちらも引くわけにはいかないだろう」

 

 その通りだ。だからこそ、ここは共同戦線を張るべきですね。

 

「共同戦線といきましょう。まずは少女達の確保。最悪、一人ずつわけましょう」

「いいだろう。ここで争っていても利益はない」

「では開けなさい」

「はっ」

 

 部下が扉を開けようとしたら、()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんだとっ!?」

「これは……」

 

 扉があった部分は大きな穴となり、中から四つ足のポケモンがでてくる。その上に可愛らしい薄い長い髪の毛をサイドテールにした少女が乗っている。その姿は目標の少女と少し違う。服装はどちらかというと大人のような感じだ。手には包帯が巻かれた傷だらけのクマのぬいぐるみが抱かれている。

 

「……ルクス、プランに従って。パンツァーフォー」

「ガァ」

「っ! 応せっ!」

「うぉぉぉぉっ!」

 

 浮遊するポケモンから砲撃が放たれる。ウシオさんが前に出て身体を張って防いでくれるけど、身体が吹き飛んできて私達ごと廊下の奥まで吹き飛ばされる。

 

「応戦しろ! グラエナ」

 

 全身が激痛に襲われる中、マグマ団の連中がポケモンを出して対抗しようとしている。出した瞬間、四つの拳に殴られてポケモン達は壁に埋め込まれれる。それを無表情で見詰める少女は、こちらを一瞥してからマグマ団の連中を見詰める。

 

「指向性電磁波を連中に展開。通信機を破壊」

「ガァ!」

 

 連絡しようとしていた通信機どころか、機械が全て破壊された。さらに身体が痺れてボールに触れられない。強さが尋常じゃない。

 

「ルクス、敵は強い……だから、出される前に一撃で落として……貴女は私のセンチュリオン。できる。コメットパンチ」

「がぁ!」

 

 ボールを触れようとした瞬間、殴り飛ばされて腕があらぬ方向に曲がっている。この少女にとっては私達の命など、殺しても問題ないのだろう。

 

「……良い子、それでいい……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……普通の人とポケモンの力はそれだけ離れているから……」

「がぁ!」

「……もう終わり? ボコのように頑張らないの……?」

 

 ぬいぐるみを口元まであげながらそいう彼女。ここは大人しくして、向かえが来るまで待機することがいいか。

 

「……索敵に反応。ルクス、ラスターカノンと破壊光線の準備……」

「ガァ」

「照準完了。ラスターカノンを右に35度。そう、そこ。撃て」

 

 白い砲弾が放たれ、壁が破壊されて空の彼方に飛んでいく。そこには私達のヘリが居て、大爆発を起こす。まさか、気付いていたというの? 

 

「次、左上65度。撃て」

 

 七色の光線が放たれ、また爆発が起こる。マグマ団のヘリも破壊されたようだ。外には沢山のパトカーが集まりだしている。このままじゃ不味い。

 

「拘束は完了。じゃあ、次はお話ししましょう……」

 

 少女が私達に近付いてくる。彼女の眼を見た瞬間、色が変わっていく。その瞳をみていると──―

 

 

 

 

 

 アリス

 

 

 

 

 アクア団とマグマ団、その人員に魅了の魔眼を使ってアリスのスパイになってもらう。こうすればアリスはマグマ団にもアクア団にも入る必要はない。でも、入って嘲笑ってやりたい気もする。

 さて、本当なら彼等のポケモンを頂いてもいいけれど、それはなし。それよりもスパイとして活動して欲しいしね。後、ちょっとホテルを破壊したから、下っ端の人達には自白させて犯罪者になってもらう。

 

「アリス、終わったの?」

「……終わった……よ……」

「なんだか、髪の毛が伸びて色も変わってる? 雰囲気も、身長は……あまり変わってないけど」

「変身魔法です。この子もアリスですから」

「そうなんだ」

 

 変身魔法を解くと元の姿に戻る。魔法少女として変身先を登録すればアリスは習得しているアリスになれる。今回は島田愛里寿ちゃんになった。彼女は戦車乗りだから、メタグロスに乗ってみた。多脚戦車みたいな感じでいい。むしろ、モビルアーマー? 

 

「一部は残して今回の騒ぎを自白させます。残りはスパイとして放ちました」

「そっか。それじゃあ……寝ようか」

「無理ですよ」

「無事ですか!」

 

 警察の人達が突入してきたので、アリス達は仲良く事情聴取です。色々と聞かれたけれど知らないといいはった。ただ、彼等にストーカーされたり、良い寄られたりしていたし、誘拐されそうになったとは伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ツワブキ

 

 

 

 

 

 朝、会社から緊急の呼び出しがかかり、慌てて会社までやったきた。そこで報告を受けると、何者かに侵入されたということだった。

 

「奪われたものはあるのかい?」

「はい。倉庫に保管していた資材が一部なくなっております」

「それだけか?」

「いえ、その減っているのはそれだけです。ですが……」

「減っているのは?」

「はい。その研究成果が置かれているんです。まるで代金だと」

 

 聞いてみると、我々が研究していた物が完成させられていて、実証実験まで行われた状態で置かれていたらしい。ご丁寧に論文まで置かれていたらしい。どう考えても奪われた資材よりも何十倍も価値がある。ただ、研究者達は怒りを露にしたり、自信を失くしたりしているようだ。まあ、無理もない。

 

「犯人は?」

「不明です。監視カメラの映像も全て書き換えられていました。ただ、居た事は消費した電力から確認できております」

「そうか。捜査を続けてくれ」

 

 社長室に到着し、パソコンを起動するとメールがきていた。その中で犯人が残したであろうメールがあった。

 

「ああ、少し待ってくれ」

「はい」

「犯人からメールがきている。読んでみるよ」

「かしこまりました」

 

 メールの内容は置いていった技術は好きにしていいとのことだった。それとアクア団とマグマ団のことが書かれていて、彼等の目的についてもだ。そのことに協力して欲しいことがあるらしい。

 アクア団とマグマ団はダイゴから気をつけるように言われていた奴等だ。つまり、この犯人は……協力する対価としてこの技術を渡してきたのか。また連絡すると書いてあるから、このまま置いておいていいだろう。

 

「ふむ。とりあえず、犯人から技術は好きにしていいとのことじゃ。研究者達にはその技術を解析させ、自らの物とするように伝えてくれ」

「よろしいのですか?」

「ああ、構わん。悔しかったら、その技術を超える物を作れとな。後は荒さがしもしてちゃんとその通りか、実証実験をもう一度行うように。確実に安全だと分かれば発表する。何、最初に予定していた研究費用よりも安いのだしな」

「了解しました」

 

 さて、今日は散歩はなしだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリス

 

 

 

 

 

 一週間経つと、ついに誘拐事件の時が来た。デボンコーポレーション社長のツワブキさんがポワルンを連れて散歩に来ると、噴水の排水口に吸い込まれていく。サファイアだと思われる少女が噴水を弄り出す。

 

「ふんぬぬぬぬぬ」

 

 騒ぎが起こって、アリスとアセロラは二人で見詰めている。他にも野次馬が沢山集まってきている。

 

「これが待ってたこと?」

「そうそう。そんな訳で、アリスは行くね。アセロラは自由に過ごしていたらいいですから」

「じゃあ、ルクスかして。アセロラもちょっと捕まえたいポケモンがいるから、行ってきていい?」

「どうぞ。ルクス、お願いします」

「了解」

「じゃ、借りていくねー」

 

 さて、アリスはトランクケースを持って予定通り、社長はサファイアに連れられて追っていく。森の中に入ると、アクア団の人達を見つけて戦闘を開始する。ただし、彼女達の方が戦力がすくない。相手は三人なので順調に追い詰められていっている。

 彼等の目的は少し前にアリスがデボンコーポレーションで作り上げた品物を回収するのが目的だ。現在、カイナシティ造船所で作られている潜水艇。その心臓部に使われる特別起動部品。これがないと駄目というわけで、奪い取った。そして、追ってきたサファイアたちに姿を見られたので目撃者を消そうとしている。

 

「我等の顔を見たこの者達の口を塞ぐ!」

「いけん! このままじゃ、このままじゃ全員ここでやられる!」

 

 どうやらいいタイミングで来たみたい。

 

「メロエッタ、ステップフォルム。インファイト」

「エッタ!」

 

 メロエッタが駆け抜けて古の歌でダメージを与えて動きを封じる。それからフォルムを変えてルンパッパを蹴り上げる。そのまま落ちる前に追撃して空中でコンボを決めてサメハダーにぶつける。ルンパッパをその上から二度蹴りして、倒して離れてくる。

 

「誰だ!」「女の子?」

「少しお邪魔します。助太刀させてもらいます。少し前に彼等に酷い目に合わされましたので」

「逃げてっといいたいばい。でも、アンタは強そうだから、よろしく!」

「ええ、任せてください」

「こいつは人形師の少女か。丁度いい。我等と一緒に来てもらうぞ!」

「ふふふ、アリスちゃん、たっぷりと愛してあげる」

「ジュカ、シャドーボール。メロエッタ、雷パンチ」

 

 手に持っていたジュカの口が開いて黒い球体を無数に発射する。命中すると中心部に向かって縮小していく。圧倒的なレベルと攻撃力補正に簡単に倒される。メロエッタは雷を纏った拳や足で蹴って殴って効果抜群で倒していく。

 

「う、嘘……レベルが違いすぎるばい……」

「強すぎるでしょ」

「あのポケモン、見た事ないけど……可愛いのに凄い」

「くっ、ここは引きますよ! 撤収!」

「あ、待てぇっ!」

 

 アクア団の三人のうち二人は川の中に飛び込んでいった。もう一人は森に逃げている。追えないことはないけれど、ここは見逃してあげる。その部品を持っていってもらわないと困るから。

 

「追ってくれたい! 大事な物が取られて!」

「え、無理です」

「なんで!」

「移動系のポケモン、持ってきてないですし、今はそちらの人を優先すべきでしょう。それと相手の増援がいないとも限りません」

「それは……」

「確かにそうだね」

「わかったたい!」

「メロエッタ、癒しの歌」

「エッタ!」

 

 癒しの波動を乗せた歌を歌わせて皆の傷を治す。それからツワブキ社長の容態を確認するけど大丈夫そう。

 

「はぁ……はぁ……部品は……潜水艇の部品はどうなった……」

「すまんち……取り返せなかったったい!」

「そうか……」

「私達はホウエンテレビの者です。これから警察やデボン社のかたにこのことを伝えます」

「ああ、頼む……それからサファイアちゃん……ひとつ頼まれてくれないか。ダイゴ……という男を探してこの手紙を渡して欲しい。そして……今日のことを伝えてくれ。君を信頼して頼む。ダイゴは……私の……」

「社長!!」

「よかよ。引き受けたったい!」

「では、貴女達は通報をお願いします。アリスは社長を運んでいきますから」

「わかりました」

「メロエッタ、サイコキネシスで運んで」

「エッタ!」

 

 さて、ツワブキ社長を病院まで運ぶ。看護婦さん達に任せて一旦病院からでて、姿を消してまた戻る。ツワブキ社長に回復魔法を使ってから、島田愛里寿に変身して誰もいない時に横に座ってボコとジュカを抱きながらじーと見詰める。

 

「……ここは……」

「……病院……」

「君は助けてくれた子とは違うようだが……」

「……彼女は帰った。それより、メールの件……」

「君みたいな小さな子がそうだというのか……」

 

 小さい子が駄目というのなら、もう一人のアリスになるか。いや、あちらの姿はできたら残しておきたい。最悪、あの姿でグラードンとカイオーガと戦闘をし、犯罪者として指名手配されても普段のアリスとはかけ離れているから問題ない。

 

「……年齢は関係ない……協力するか、どうか、教えてくれる……? ポケモン協会はせっかく教えたのに……全然聞いてくれなかったの。だから、被害を出さないように手段を選んでいられないんです……」

「奴等の目的を知っているのか」

「はい。それとあの作った部品には細工がしてあります。盗まれた場合を考えて、潜水艇でもぐったら何時でも破壊できるようにしてあります。ですから、アリスが居ない時に乗り込まないようにしてください。深海に潜ると愛里寿からの信号がない時は発動しますから」

「盗まれることも織り込み済みか」

「はい。彼等の狙いからしたら、絶対に必要ですから」

「わかった。協力しよう」

「ありがとうございます。それとごめんなさい。勝手に作らせてもらいました」

「こちらにも利益がでているから、謝罪だけでいいよ。次からは知らせて、堂々とお願いするよ」

「では、身分としてデボンコーポレーションの研究員という肩書をください」

「造船所はどうするんだい?」

「造船所で潜水艇はアクア団なら、守ります。マグマ団なら差し上げます」

「どういうつもりかな?」

「彼等は協力してでも潜水艇に乗って深海を目指します。そこで潜水艇を自壊させれば、まとめて処分できますから」

「戦術的敗北をして、油断させ、戦略で勝利するのか。被害が大きいが、四六時中造船所を守らせるわけにもいかない。一網打尽にできるのなら、その方がいいか」

 

 ごめんなさい。どちらにせよ、グラードンとカイオーガは復活させる。でも、それは嵐とかで津波が襲ってくるということにして逃がせばいい。あくまでも戦う場所は海だ。水中でカイオーガとグラードンを戦わせ、弱ったところでルギア達と一緒に突撃して宝珠から制御して捕獲する。おそらく、これが固有結界を使えない状態でのベストな選択肢。まずはグラードンを手に入れる。カイオーガは後回し。

 

「君も息子のダイゴとあってくれ。あの子は彼等を追っている」

 

 ダイゴさん。死んじゃうんだよな。セレビィが甦らせたと思うけど、できたら死んでほしくないから、このまま助けよう。

 

「そうですね。愛里寿もあってみたいと思います。では、色々と積めましょう」

「ああ、そうだね」

 

 契約条件などを確認し、色々としてもらいました。これでアリスはアリスと愛里寿の身分を手に入れた。愛里寿の方で使うメタグロス達を用意しないと。河童さん達に借りてこようかな。アリスが居ない間はアセロラに任せたらいいし。

 

 

 

 

 

 

 

 




全ての情報がアリスちゃんに筒抜けだよ! ダイゴさんを助けよう! このままいけばグラードンはかなりピンチ!


魔法少女の変身は基本的にハードゴア・アリス。ただし、手に入れているアリスにも短時間なら変身可能。それ以外の変身はできません。アリスはあくまでもアリスだからね。

島田愛里寿の時のポケモン。戦車系でそろえたいけど、それっぽいのいたかな?


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45話

 

 

 

 ツワブキ社長と契約して特別研究社員として、全施設の立ち入りと施設使用許可証を頂いた。そして、何より研究費も結構な額をもらえてしまった。後は島田愛里寿としての身分証。これで色々と作れる。デボンコーポレーションは様々なポケモン関連商品から電話など色々な物を作っている。その中にはポケモンの回復装置もある。これを調べて解析し、小型化して持ち運べるようにすればいい。電力は電気ポケモン達が居ればいいだけだし、とてもエコだ。流石に重症はしっかりとした設備がいるだろうが、トレーナーとしてはとても便利だ。まあ、これは作っても売る気はない。犯罪者に盗まれたらとても困ったことになるし、図鑑所有者あたりには渡してもいい。彼等なら信頼できるし。悪用しようと思ったらいくらでもできてしまう。やっと倒したと思ったら、別のポケモンで時間を稼がれて、全快のポケモン達がでてくるとか目も当てられないしね。そんなの地獄だ。

 他にはデボンコーポレーションの社員を対象にしてアクア団とマグマ団が入り込んでいないか調べたりもして、ついでに不正をしていた人達も証拠を集めて提出しておいた。後は対人地雷などを作ってしまっておく。それからアセロラに連絡を取る。

 

『はいはい、古代のプリンセス、アセロラちゃんだよ~どうしたの?』

「しばらく音信不通になるので任せていいですか?」

『ありゃ~?』

「定期的に戻らないといけないですから。それに必要な戦力を取ってきます」

『そういうことなら了解。確か、捨てられた船と造船所だっけ?』

「そうです。それと船は盗まれても構いませんからね」

『了解だよ。アセロラちゃんにお任せ~』

「ではよろしくお願いいたします。ルクスはそのまま預けますから」

『うん。わかったよ。ルクスちゃんもいい?』

『……マスターの命令なら……』

「お願いします」

『は~い』

 

 アセロラに連絡してから、透明になって海を飛ぶ。ある程度でたら、ハードゴア・アリスに変身してからバリアを展開し、海の底へと沈んでいく。上海とさくらがルギアと一緒なので配置はわかる。しばらく進んでいると、ルギア達がやってきてくれた。海の底は真っ暗で見えないため、怖いので助かった。蓬莱を抱きしめていてもやっぱり怖い。

 

『ご主人様~』

「さくら、喋れるようになったのですね」

『教えてもらった~』

『我が子だから当然だ』

「シャンハーイ」

「そうですか。良かったです。褒めてあげます」

 

 皆を撫でてから報告を聞いていく。さくら達はこの辺りを縄張りにしたようで、いろんな水ポケモンが従っているようで、お友達ができたと報告してくれた。どうせなので、その友達(深海ポケモン達)をゲットしておく。

 

「海底洞窟は見付かりましたか?」

『ああ、あったぞ』

「では、案内してください」

『了解した』

 

 ルギアに乗って海底洞窟に向かっていく。ちょっと水圧でバリアが壊れてしまい、水浸しになりましたが、水圧で息が出来なくてとても苦しかったです。まあ、この程度ではハードゴア・アリスと魔術刻印を持つアリスは死ななかったのですが。

 

『到着~』

「こほっ、ごほぉっ!」

 

 海水を吐き出していく。苦しかったけれども海中を通って進んだところで浮上し、空気が存在する場所に無事に到着できました。ここが海底洞窟なのはアリスの中に融合している藍色の玉と紅色の玉から感じることで間違いありません。

 

『ここであっているだろう?』

「間違いありません。では、少し仕掛けをしておきます」

『了解した』

 

 まずは魔法で洞窟その物を強化して、地面を掘り起こして地雷を埋め込んでいく。

 

「ジュカ」

「なんですか?」

「ここの警備を任せます。侵入者は全て排除してください」

 

 トランクケースからモンスターボールを複数渡す。全てゴーストタイプで浮遊している者達だ。ゲンガーとかね。まあ、いらないとは思うけれど、一応はジュカを配置する。

 

「了解。捨てられるわけじゃないよね?」

「もちろんです。必ず迎えに来ます」

「わかった。それなら待ってる」

「良い子です。こちらに戻ってきたら、直に迎えにいきます。その時にはここの警備はほぼ必要ない状態でしょうから、頼みますよ」

「任せて」

「はい、任せました」

 

 人型になったジュカを抱きしめてから別れる。ルギア達をモンスターボールに戻し、上海も回収してアリスはクトルゥフ神話の世界に戻る。すっごい嫌な予感がしたけれど、星の精に襲われたくらいで問題なかった。ルギアの攻撃でなんとかなった。

 

 

 

 

 

 

 アセロラ

 

 

 

 

 

 アリスちゃんからの連絡で彼女がしばらくいないのはわかった。少し寂しいけれど、ルクスちゃんを借りているし、ミミたん達もいる。シャンちゃんもいるしね。この子達、不思議と凄い成長しているし、強さも問題ない。むしろ、アリスと組んでからは他の子達も含めて私のポケモン達は急成長している。何度かアリスちゃんの力でレベルを下げたのにだ。

 

「……マスターに伝えなくていい……?」

「いいよ。だって、かわらないしね~」

 

 アセロラ達はすでに捨てられた船にやってきている。アリスから聞いた話じゃ、ここに航海日誌と探査機があるらしいから、それをマグマ団が来る前に取りにきたというわけ。

 

「まあ、見つかったのは日記帳だったからアリスの勘違いかな~?」

「……その可能性は否定できません……」

 

 椅子に座りながら新しいモンスターボールを二つ、触りながらアセロラの隣で人の姿をしながら立っているルクスちゃん。水色の長い髪の毛をツインテールにして、オレンジ色のもこもこパーカーを着ている。機械的な部分は髪飾りと首元だけ。瞳もよくよく見たら人と違う。あと、ところどころ服の裾からコードがでている。彼女の手には日記帳があり、その内容を全て覚えたようなので、火をつけて燃やしている。

 

「……それで、その二匹は捕獲しましたが……どうしますか……?」

 

 このモンスターボールに入っているのは、ここに住んでいた兎のような青い耳に、マイナスの記号をモチーフにしたほっぺたと尻尾を持つ子と兎のような赤い耳に、プラスの記号をモチーフにしたほっぺたと尻尾を持つ子。マイナスのマイナンとプラスのプラスル。互いに対になる存在で、黒く真ん丸な目に電気袋を持った可愛いでんきタイプのポケモン。ピカチュウとも似ていて、まるで小さなピカチュウ。

 

「一応、日記帳の人も心配してたから引き取ろうかな~。アセロラはゴーストタイプを使うから、ルクスちゃんが使えばどうかな~? 電気タイプだから相性がいいよ? 無理ならアセロラがエーテルハウスの子達に渡すけど……」

「……ポケモントレーナー、偽装するのに……有効と判断。了解しました……」

 

 ルクスちゃんにモンスターボールを渡すと、さっそく二匹を外に出した。二匹は怯えたようにルクスちゃんと周りに浮いているシャンちゃん達をみている。特にルクスちゃんには警戒しているみたい。ここに来たところで、アセロラに攻撃しようとした瞬間。弾き飛ばされて、飛ばされた腕に瞬時に捕まって地面に押さえつけられ、そのまま握り潰されそうになったし。アセロラが止めなかったら殺されてた。

 

「……これから、ルクスが貴女達のマスター……よろしく……」

 

 二匹も必死でこくこく頷いている。これは危ないかと思ったら、ルクスちゃんが二匹を片手で抱き上げて撫でだした。

 

「ルクスちゃんもその子達、可愛いって思うの?」

「? わからない。マスターがルクス達……撫でてくれる……だからこの子達、撫でる……」

「そっか。じゃあ、アリスちゃんと同じ感じでいいよ。ただ、ルクスちゃんと違って身体が鉱物とかじゃないからね?」

「……了解……身体が有機物で構成されているのは理解している……」

「そかそか。それじゃあ、コレについて、解析は終わった?」

「肯定。探知機の解析は終了。データは移行済み。廃棄可能」

「中身を取り外して……違うか。部品の一部を壊して海につけてから戻しておこう。あ、データを入れ替えることってできる?」

「……可能……」

「じゃあ、実行して」

「了解……」

 

 プラスルとマイナンを床に降ろしてから、ルクスちゃんが探知機を受け取ると彼女の両手から電気が発せられる。おそらく、それで書き換えたみたい。続いてパーツの一部を取り外してからルクスちゃんが飛んで海水につけてきてくれた。その状態で電気を流してもらって完全に部品を壊す。それをケースに戻しておく。

 

「……アセロラ、何時までいる……?」

「ここにマグマ団の人達がくるそうだから、少し削っておくのもいいと思うんだよね。どう思う?」

「賛成。戦力を各個撃破するのは戦いの基本……」

「じゃあ、もう少し待とうか。ここから持ちだす物は全部回収してるし」

「……了解……この子達に木の実をあげる……」

「それがいいね」

 

 しばらくゆっくりとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、捨てられた船が騒がしくなってくる。来たかと思って隣をみる。ルクスちゃんも起き上がってきた。プラスルとマイナンはいないみたい。

 

「どけ!!」

 

 声が聞こえてきたので、二人で扉を開けてでると、二匹がコータスに弾き飛ばされるところだった。それを見た瞬間、ルクスちゃんから光が飛んで、二匹がモンスターボールに戻り、コータスの攻撃は空を切る。

 

「あ? 今度は餓鬼が二人か。こいつの仲間か?」

 

 そういって倒れている男の子を指差してくるので、素直に頭をふる。

 

「違うよ?」

「そうかよ。まあ、どっちでもいいか。見られたからには始末するだけだしな」

「わ~怖い。怖いから、倒しちゃおう~」

「あ? なんだ、変な動きしやがって。おちょっくってんのか?」

 

 こっちにはZ技なんてないもんね。でもさ、油断は大敵だよ? 

 

「ミミたん、ブラックホールイクリプス!」

「きゅ!」

 

 ミミたんから放たれたブラックホールイクリプスは、コータスを中心に命中して周りを吸い込んでいく。

 

「うぉぉぉっ! コータス、火炎放射!」

「きゅきゅきゅ」

 

 このまま吸い込んで終わりかな。殺すのはまずいから、取り押さえよう。そう思ったけれど、ルクスちゃんが接近して大男を殴り飛ばした。大男さんは木々を圧し折りながら飛んでいく。

 

「い、生きてる?」

「生命反応を確認。問題ありません」

「そ、そう」

 

 どうやら、二匹を傷つけられそうになって怒ったのかもしれない。

 

「ホムラ、無事か!」

 

 どうやら、相手は一人だけじゃないみたい。やってきた女性が色違いのキュウコンを出してくる。

 

「金色のキュウコンだ。珍しいね」

「は? 何言ってんだ?」

「でも、マグマ団なのに氷タイプ?」

「キュウコン、大文字」

「こーん!」

「あれ、氷じゃないんだ。あ、そっか」

 

 ここはアローラじゃないから、炎タイプか。なら、ユキメノコでいいか。

 

「ユキメノコ、吹雪!」

「ちっ」

 

 さて、このまま倒していこうかな。

 

「ルクスちゃん、あの人達を助けてね」

「了解」

 

 あっちは任せていい。なので、こっちはこっちでやろう。

 

「ちっ、オオスバメ! ブレイブバード!」

「シャンデラ、オーバーヒート!」

 

 炎を纏って飛んでくる敵にシャンデラ達を出してオーバーヒートを放つ。相手は吹雪でダメージが減っている。でも、こっちはアリスちゃんいわく、伝説級なみの特功145もあるらしいので、焼き払える。キュウコンごと大ダメージを与えてるけど、彼女が何かを地面に投げると煙が発生してなにも見えなくなる。でも、あまい。

 

「そこっ! ユキメノコ、冷凍ビーム!」

 

 指差した方向に冷凍ビームを放たせる。すると相手はマントを投げ捨てて防いできた。それに周りに炎が放たれて火の海になってしまったし、何かが襲い掛かってきた。避けたけれど、かすったみたいで服が切られちゃった。

 ポケモン達は回収され、何時の間にか男もいなくなっているみたい。流石にポケモンが二匹だけってことはなかったか。少なくとも炎を吐くのと、煙の中で攻撃してきたので二体はさらにいる。

 

「ありゃ、逃げられちゃった。ユキメノコ、吹雪で消火して」

「……追撃しますか……?」

 

 何時の間にか、両手に男の子と暴れている女の子を掴んで引き摺ってきたルクスちゃんがいた。

 

「離せ~!」

「あははは、離してくれないかな?」

「いいよ。ルクスちゃん、離してあげて」

「了解」

 

 二人が解放され、すぐにアセロラ達を睨んで来る。この子達からしたら、怪しいよね。

 

「はーい! 古代のプリンセス! アセロラちゃんです! お二人の名前は?」

「はっはっはっ、ボクはルビー」

「サファイア……それで、アンタ達は……」

「さっきの奴等を知ってるの?」

「知ってるよ。彼等はマグマ団。悪い人達だよ。後はアクア団ってのもいるね。アセロラ達は彼等と敵対しているの」

「何言って──むがっ!」

「そうなんだね。で、彼等は何をしにきたのかな?」

「たぶん、これを狙って……あれ?」

「どうしたの?」

「ルクスちゃん、探知機はどこ?」

「……アセロラが持っていたはずですが……」

「ないの」

「スキャンします。確認しました。どんどん船から遠ざかっています。持っていかれましたね」

「あの一瞬でスラレちゃったみたい。敵もやるね~」

「何をゆっくりしているねん! 追わないといけんよ!」

「大丈夫だよ? だって動かないもん」

「え?」

「もしかして、その取られた物に細工をしてあるの?」

「そうそう。海の水につけて電気を流してショートさせてあるし、部品もない。修理して起動できたとしても中身は無茶苦茶に作り変えてあるから大丈夫~」

「えげつない……」

「……アセロラ、ここでのようはすんだ……次、行く……」

「そうだね。じゃ、バイバイ」

「まつね!」

「ごめんね。アセロラ達は忙しいから、すぐに行かないと」

「サファイア、ボク達にできることはない。今はね」

「う……なら、ダイゴって人を知らん?」

「知らないかな。ここではあってないよ~」

「そう……」

 

 お話しが終わったので、ポケモン達をモンスターボールに入れてから移動する。今度は造船所に移動する。そこでまさか、すぐに再開するなんて思わなかったよ。

 

 

 

 

 




普通にカガリ達の手持ちより、アセロラの手持ちとルクスの方が強いです。カガリもブラックホールイクリプスとかいう意味わからない技をみているので、即座に撤退の方を選んでいますが、ぶんどりでアセロラから探知機だけは盗んでいってます。ただ、それも――


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46話

 

 

 マグマ団 カガリ

 

 

 

 

 

「ねえ、頭領(リーダー)……どうする?」

「そうだな……」

 

 あたしはホムラを連れてなんとか逃げ、本拠地の洞窟に戻ってきた。念の為、服は全部処分して身体も綺麗に洗った。ホムラの怪我も見てやって、治療はしてやったが、片手が完全に折れていて、肋骨に多分だけど罅が入っている。痛み止めだけあげたけれど、いくら頑丈だからってアレはないでしょ。

 

「ホムラは行けそうか?」

「この程度の怪我、なんてことはないぜ!」

「いや、病院に行きなさいよ。痛み止めが効いているだけなんだけど」

「まあ、確かにそうだな。ホムラは治療に専念しろ。で、何があったんだ?」

「探知機は手に入れたけど、子供四人にやられたのよ」

 

 グラエナで隙を付いて泥棒を使ってぶんどってやった。

 

「餓鬼か」

「ああ、特にあの二人の餓鬼どもめ……」

「記憶を共有するぞ」

 

 紙に角のライターの記憶の炎をあてて炙り出した顔を共有する。紫色の髪の毛をした奴と水色の髪の毛をした子。それと顔がわからない男の子と黒髪の女の子。こっちはあまり脅威でもない。

 

「こいつは……」

頭領(リーダー)、知ってるのか?」

「この紫の奴は確か、グラードンとカイオーガについて何か知ってそうな奴だ。拉致させにいった部下の一部がやられて捕まった。なんとか逃げた奴もいるが、こいつに全滅させられたそうだ」

 

 そういって薄い金髪の子供が見た事のないポケモンに乗って、うちの連中を瞬殺している姿が見えた。シンオウ地方には行ったけれど。

 

「カガリ、勝てるか?」

「一対一なら勝てる。()()()を使えば特にね」

()()は止めておけ。アクア団に対する切り札だ」

「了解」

「いいなぁ、俺も欲しいぜ」

頭領(リーダー)からもらいなさいよ。あたしのは絶対にあげないわよ」

頭領(リーダー)!」

「あ? アイツを雄雌揃えられただけでも運が良かったんだぞ」

「でも、カガリは持ってるんだろ?」

「アタシは卵でみつけて手に入れたから」

「全然増えてくれねえからな……まあ、増えたら俺らの勝ちは確定だが……まあ、いい。それでその小娘達のどいつにやられたんだ?」

「俺はこの水色の餓鬼に殴り飛ばされた。とんでもねえ威力だったぜ」

「ほう。ホムラの巨体を殴り飛ばすのか。まるでポケモンみてぇだな」

「それ、多分正解」

「なに?」

「あの子が歩いた場所の土が沈んでた。見た目通りの重量じゃないよ」

「そういや、アイツに殴られた時の感触は金属みたいだったな」

「人型のポケモンか……もしくは機械を身体につけてたってところか」

「そうかも。やっぱり、ポケモンって線はないか」

「いくらなんでもないだろう」

 

 それもそうか。

 

「それで、こっちの小娘は何を使ってたんだ?」

「シャンデラ。それも色違いのを含めて二体」

「まじか。よくあんなのを使う気になるな」

「スカウトした方がいいんじゃねえか? 炎も使うんだろ?」

「さて、協力してくれるかね?」

「あ、あとキュウコンの事を氷タイプだと思ってたみたい」

「氷、か。なら、こっちの餓鬼はアローラ地方の出身だろう」

「アローラ地方……」

 

 頭領(リーダー)の話ではあっちだとキュウコンは氷タイプらしい。不思議。

 

「とりあえず、邪魔をされることが確定か。スカウトできるならそれはそれでいいが……」

「戻ったぜ、頭領(リーダー)

 

 のそっとやって来たのはあたし達の仲間のホカゲ。炎の幻影を使う奴。

 

「カイナの造船所で良い感じに仕上がってたぜ。見た感じ、潜水艇は9割5分は出来上がってる」

 

 ふ~ん、それなら襲撃してもいいよね? 

 

「早く暴れたいし、あたしが焼き払って囮になるから、その間にホカゲが奪ってきなよ」

「それがいいな。ホカゲ、お前もコイツらの情報をしっかりと覚えておけ。こいつはゴースト使いだ」

「了解。強いのか?」

「ホムラが物理でやられた」

「マジかよ……」

「ポケモンバトルじゃねえよ! その前にやられただけだ!」

「だけど、それが正解だよね」

「だな」

「ちっ」

「ホムラは留守番だ、傷を癒せ」

「わかった。ホカゲ、コータスを貸してやる。頼むぞ」

「ああ、借りていこう」

「じゃ、行ってこい。俺達の灼熱のマグマがすぐに海なんざ干上がらせてやることを、この世のボンクラ共に教えてやれ!」

「うい~す」

「やってくっか」

 

 あたしはキュウコンに乗って、ホカゲはオオスバメに掴まって移動する。

 

 

 

 カイナシティにある造船所。そこに移動して近くから双眼鏡で調べる。造船所の中に目的の奴はいない。どうやら、何処かに出かけているみたい。サーモグラフィーにも反応はない。他にも人がいるのはわかる。ただ、どう見ても大きさから子供にしか見えない。それが二人。

 

「どうだ?」

「目的の奴は居ないみたい。ただ、あいつらが居るみたい」

「ホムラをやった奴等か」

「多分……ん?」

 

 造船所の扉が開いて、中から紫色の髪の毛をした奴と水色の髪の毛をした奴が外に出てくる。そして、二人の視線が双眼鏡ごしにこちらを見詰めている。

 

「バレた。逃げるよ」

「おいおい、ここからどれだけ離れてると思ってるんだ!」

「一キロ。でも、二人と視線があったから、まず間違いない。ホカゲ、予定通りアタシが暴れるから、アンタは隠れてな。それとオオスバメはこのままボールに納めて。あたしのと勘違いさせる」

「わかった。頼むぞ。こいつを使うといい」

 

 ホムラのコータスを受け取る。

 

「今度はしっかりと用意しているから負けないよ」

 

 ホカゲが地面に寝転んだのを確認して、キュウコンで土をかけて飛び出す。そして、相手はやはりこちらに気付いていたようで、追って……こない。気付いていない? 違う、それはない。一度止まってから双眼鏡であちらを見ると、こちらをしっかりと捕捉していた。

 

「ホカゲ、どうやら連中は造船所から動く気はないみたい。だから、造船所の方を襲撃するけどいい?」

『待て。それなら先に クスノキを確保する方がいい。ポケモンのコンテスト会場にいるみたいだ』

「了解」

 

 コータスを放って、スモッグで気絶させてからヒヒダルマを出す。ヒヒダルマでコータスの上に彼等を乗せて運んでいく。相手の反応は……やはり動かない。

 

「ちっ、連中……潜水艇さえ守ればいいと思っているのかもしれない」

『いや、どうやら意見がわかれているようだ。紫の子は救出に行こうとして、水色の子は動く気がないようだ』

「……どうする?」

『予定を変更しよう。このまま撤収する。人質としてもいいし、作らせればいい。それに監視させておいて、あの子達とアクア団が潰しあってくれる方がこちらとしては助かる』

「いっそ、直接あそこに襲撃をかけるのは?」

『潜水艇が壊れたらどうする』

「わかったよ」

 

 じゃあ、このまま帰るとしようか。邪魔なのは捨てて行けばいい。いや、待てよ……

 

「ホカゲ、このクスノキって奴に自ら潜水艇を運ばせるのはどうだい?」

『人質を取って脅せばいいか』

「そういうこと」

『では、それでいこう』

 

 さて、そうなるとさっさとやってしまおう。移動してから縛り上げ、カイナシティから離れたところで逃げてきたホカゲと合流する。

 

 

 

 四人を木に縛りつけておいたし、後は情報を聞き出すだけ。

 

「ホカゲ、頼むよ」

「お前はどうするんだ? 足止めだね」

「了解した」

 

 後は任せてカイナシティに戻ると、紫の髪の毛をした女の子が一人でこっちにやってきていた。舐められたもんだ。

 

「おねーさん、攫った人達はどこにやったの~?」

「見えてたのか」

「感じてただけだよ」

「そうかい。ところで水色の髪の毛をしたもう一人の餓鬼はどうしたんだい?」

「造船所を守ってるよ。彼女は残るって言ってたから」

「そうか。なら、遠慮なく潰せるね! 行け、ヒヒダルマ!」

「ゲンちゃん!」

 

 やっぱりゴーストタイプ。

 

「フレアドライブ!」

「ドクドク!!」

 

 炎を纏って突撃する。吐き出された紫色の毒をくらいながらも突撃し、ゲンガーを炎で纏った拳で殴りつけて吹き飛ばす。

 

「ゲンちゃん!」

 

 まだ耐えているようだけど、ここからがゴーストタイプの厄介な所だ。道連れをされる可能性が高い。だったら、こちらがやることは一つ。どうせ毒でやられるんだからね。

 

「腹太鼓、とんぼ返り」

「ベノムショック! 避けて影分身」

 

 身体を揺らしながら指示をしてくる。腹太鼓をしている時にベノムショックを受けてもうヒットポイントゲージはない。だけど、とんぼ返りでモンスターボールに戻ってくる。相手は毒を使ってくる。だったら、焼き払えばいい。

 

「キュウコン、炎の渦!」

 

 入れ替えて、腹太鼓の効果で火力を上げた状態で九本の尻尾から特大の炎の渦を放つ。放たれた毒は全て蒸発して気化していく。広範囲を焼いたことで、ゲンガーは落ちた。おそらく、氷タイプを出してくるだろう。

 

「ユキメノコ、吹雪っ!」

 

 やっぱり、そいつを出してきたか。あたしはボールを取って後ろに放つ。ボールからはリザードンがでてくる。

 

「ダブルバトル?」

「ちょっと退避させてもらうだけよ」

 

 リザードンの背中に飛び乗って空を飛ぶ。キュウコンが大暴れすると、アタシまで燃やされてしまうし。日照りの効果で周りは晴れとなり、太陽の光が降り注いで炎タイプの力をあげる。

 

「くっ、冷凍ビームっ!」

 

 冷凍ビームをキュウコンに放つが、その前に溶ける。腹太鼓のお蔭でこっちの攻撃力はかなり上がっている。今のうちにリザードンをメガリザートンXに進化させて、剣の舞を積ませる。反則? 知ったことではない。

 

「ああ、もう! 戻ってっ、ミミたん! ブラックホールイクリプス!」

「きゅきゅ!」

 

 周りの炎ごと黒い球体に吸い込まれてキュウコンが一気に瀕死にされてしまう。まるで鍛え方が他の子達とは違う。まあ、そうくるだろうと思っていたし、リザードンをXで用意していた。

 

「リザードン、ニトロからシャドークロー!」

「ミミたん!」

 

 急降下して上からのシャドークロー。ニトロチャージも使って加速しての一撃。当たれば終わる。そう思ったら、小娘はにやりと笑った。

 

「リザードンっ、止まれっ!」

 

 リザードンは止まれずに相手のポケモンの()()()()()()()()地面に激突。地面を陥没させる。そのタイミングで小娘が声をだす。

 

「ミミたん、呪い。シャドーボール」

 

 リザードンの身体に黒い靄がまきつき、身体の力が阻害させられる。リザードンがすぐに背後に振り向いてあたしを庇う。そこには無数の黒い小さな球体が浮いている。それが一斉にこちらに降り注ぐ。

 

「火炎放射で吹き飛ばせ!」

 

 放たれた火炎放射は黒い球体にぶつかると、吸い取られてていく。その間に迂回してこちらにやってくる。これはまずい。オオスバメを出して、掴んで高速移動で距離を取る。リザードンは途中でモンスターボールに戻して回避させる。キュウコンも戻す。これで一体がやられて一体が戦えるけれどかなりまずい。もう一体はほぼ瀕死。相手は二体やって一体残っている。念の為、あの子は持って来ているけど、これは出すしかないか。

 

「行って、シャンデラ」

『こちらは終わった。ちょうど一緒にいた餓鬼を痛めつけたら快く引き受けてくれた。撤退して構わない』

「了解。どうやら、ここまでみたいだね」

「逃がさないよ?」

 

 身体を揺らしながら、こちらを指差してくる。でも、甘い。ガムを口に入れて風船を作って放つ。

 

「?」

 

 風船は放置して、煙幕を発生させる。だけど、相手は的確にこちらを狙ってくる。どんなにジグザグに飛んだり、方向転換しても意味がない。まるであらかじめ、こちらの位置がわかっているみたいに。だから、閃光弾を投げ込んで目を潰す。それでも放ってくるから、あの子を一瞬だけだして熱風を放たせてせる。それでさっきだしたガムの風船が弾けてできた液体に発火して煙幕を一瞬で炎の壁にしていく。

 

「なにこれ~~!」

 

 オオスバメに掴まれてさっさと逃げる。しかし、厄介だ。あのピカチュウもどき、いったいどうなっているの? いくらゴーストタイプでもシャドークローは当たるはず。あれさえなければどうにかなったのに。

 

 

 

 

 

 

「ただいま。そっちも大変だったみたいだね」

「まあな」

 

 合流場所に向かうと、明らかに戦った跡があって子供が居なくなっていた。ただ、お爺さんと作業着の男はいたので、そこまで失敗ではないのだろう。

 

「クスノキは?」

「返した。予定通りの場所に運んでくれると思うぜ」

「そこを襲撃される可能性は?」

「あるだろうが、こっちには人質がいる。潜水艇が手に入ったらそれでいい。目の前で拷問してやったから、裏切らないだろうよ」

「クスノキの言葉を無視する可能性があるけど? あの水色の小娘は潜水艇を守ることを優先するでしょう」

「ああ、それも考えている。だから、アクア団が襲撃してきた時にそいつで逃がして動かせと言ってある。アクア団にも潜水艇のことは教えてやった」

「潰し合ってもらうってことね。それならいいかな」

「しかし、派手にやられたようだな」

「あの浮いてるゴーストタイプ、アレが反則ね。炎を纏わせても物理系統はいっさい効かないのかも知れない」

「マジかよ……」

「後はあのブラックホールイクリプスとかいうのを調べた方がいいかも。アローラ地方の出身だってわかってるし……」

「ふむ。いっそ両親でも攫って脅してみるか」

「その辺は好きにして。今度はこっちが勝つから。それと頭領に伝えておいて。あたしはしばらく姿を消す」

「そうか。どうするんだ? 」

「修行してくる。もう一体、炎ポケモンを捕まえてくるから、そっち任せるから」

「ああ、わかった。事を起こす前には連絡するから、帰ってこいよ」

「りょ~かい」

 

 マグマ団の服を脱いでオオスバメのモンスターボールと一緒に渡しておく。これであたしがマグマ団だとわかる奴は知り合い以外にいない。リザードンに乗り込み、空を飛ぶ。

 

「どこに行くんだか」

 

 まずはアイツを探して捕まえよう。余裕があったら、アローラ地方とかいうのに行ってあの技を身に着けてみよう。あの振りつけみたいなのは恥ずかしくてやりたくないけれど、それでも力が手に入るのなら、まあいい。っと、その前にポケモンセンターね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アセロラ

 

 

 

 

 

 にーげーらーれーたー! しょんぼり。メガシンカって何! アリスが言ってたけどずるい! アセロラもZ技を使ったけど。それはそれ、これはこれ。後、ずるもちょっとしちゃった。ミミたんは本物の幽霊だから、アセロラの力とアリスの力、それにミミたん自身の力を合わせて実体化させているだけ。だから、実体化を解けば物理攻撃は全てすり抜けるんだよ! うん、アセロラは悪い子! こんなの普通の戦いじゃ使えないよ。

 

「あの最後に薄っすらと見えたリザードンと同じくらいのおっきなポケモン。なんだか凄く嫌な気配がしたし……ミミたん、勝てる?」

「きゅきゅ!」

「ブラックホールイクリプスの直撃ならあるいは? そんな存在なんだね。次、戦ったら勝てるかな?」

「きゅー」

「道連れはさせたくないから、他の方法を考えようかな。でも、まずは移動用にライドポケモンがいるね。やっぱり、サイコキネシスで移動するのは無理があったよ」

 

 サイコキネシスで無理矢理最短距離を進んできたけたけど疲れた。まあ、今は救助の方を優先しよう。

 

「えっと、こっちかな」

 

 思念を感じて走って移動すると、見覚えのある男の子を背中に乗せていたグラエナが倒れている。そんな状態でも少しでも進もうと前足を出して地面をかいていた。確か、ルビーって子だ。なんだか、マグマ団と縁があるみたい。

 

「出血も凄いし、火傷も酷い。今から治療するから、攻撃しないでね」

「ぐぅ……」

「良い子。ご主人様の為に頑張ったね」

 

 撫でながら元気の欠片を食べさせて、凄い傷薬を使ってあげる。これで少しは持つだろう。彼のモンスターボールを取って、グラエナを戻す。それからルビー君の治療をする。スカートや服の裾を破って止血をしてから抱き上げる。念力で浮かせて持っているように見せつつお姫様抱っこで移動する。あ、ポケギアを浮かせて通報して救急車を呼んでもらう。同時に少しでも頑張って向かっていく。

 

「ルクスちゃんが居てくれたら楽なんだけど、ルクスちゃんの言い分も納得できるし……仕方ないよね」

「きゅ。きゅきゅ」

「二人共、こちらに来てたら潜水艇が奪われてたかもしれないしね」

 

 歩いていくと、向こうの方からサイレンが聞こえてきえて、警察と救急車がやってきた。専門の人達に任せてアセロラは他の人達を探しに行こうかな。

 

「何処に行こうとしているのかしら?」

「えっと、他に攫われた人がいるんです……」

「駄目よ。貴女だってひどい火傷じゃない。このまま病院に連れていくから、そこで治療を受けてもらいます。捜索は警察の人に任せたらいいから。それに貴女のポケモンだってだいぶダメージを負っているでしょう?」

「わかりました……」

 

 確かに皆、大分やられてるし、仕方ない。ああ、でもアレだけ啖呵をきってルクスちゃんから反対を押し切って出てきたのに、一人しか助けられなかったって言ったら、軽蔑されるかも……うぅ……それにアリスちゃんにどういえば……どうしよう……。

 

 

 

 

 治療を受けてから造船所に戻ったら、造船所に戻ったらルクスちゃんが潜水艇の上でぼ~としていた。

 

「た、ただいま……」

「……おかえり、なさい……結果は……?」

「一人だけだった。クスノキ艦長は自力で逃げて保護されたらしいよ。でも、二人が行方不明だって」

「……了解。こちらからの報告は監視が増えました……」

「そうなんだ。もっと警戒しないといけないね」

「……はい……」

「それでその、ごめんね?」

「……謝られること、あった……?」

「えっと、怒ってない?」

「その感情は、わかりません」

「そっか。じゃあ……」

 

 話してみると、怒ってないし、合理的に判断したら二手に分かれるのは仕方なかったかも知れないと伝えてくれたので良かった。しかし、あの女の人、本当に強い。

 

 

 

 




カガリの手持ち

キュウコン:レベル80
ヒヒダルマ:レベル70
リザードン(メガシンカ有り):レベル76
オオスバメ:56
不明(やばい予定):未定
あの子(やばい):90



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47話

 

 

 

 

 東方世界に戻ってから、諏訪子ちゃんにポケモン達を預けてインスタントダンジョンを作成し、レベル上げをお願いする。その後はにとりさんが作ってくれた研究所に紫さんに頼んで、移動させてもらってあちらから持ってきた回復装置を渡し、一緒にドッグに置かれている機械の開発を行う。

 河童の皆さんと一緒になって作るのだけど、流石に使いこなせないのでARMSのアリスに変身して全力でお手伝いした。おかげで色々と開発できた

 

「八卦炉を使ったジェネレータも設置したし、武装も増幅して放てるようにしたよ」

「融合時における各パーツの電磁誘導システムの構築も完了」

「テストも問題なし。装甲はオリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネで作った超合金。生半可な事じゃ壊れないよ」

「ただし、コクピットは椅子だけだからね」

「ありがとうございます」

 

 河童さん達からもらった装置を受け取りながら、拡張領域に仕舞いこむ。これがアリスの切り札。これが効かなかったら勝てない。な~んてことはないけどね。だって、趣味だし。

 

「おい、戻るぞ」

「はい。それでは失礼します」

「またきてねー」

「は~い」

 

 にとりさんと挨拶を交わしてから、藍さんに送ってもらう。河童工房から戻ったら、ポケモンセンターが設営された建物に戻る。

 ここは迷いの森にあるアリスお母さんと魔理沙お母さんの家の近くに設置されている牧場の中にある。誰でもポケモンの回復装置を使えるようにしてあるし、無数のモンスターボールも並べられている。

 

「ご主人様、おかえりなさい」

「ただいま、クオン」

 

 ここの管理は藍さんとクオンに任せられている。弟子のクオンが教えてもらいながら頑張っているかんじかな。実力も大分上がってるらしいけれど、まだまだ時間はかかるらしい。

 

「じゃあ、私は紫様のところに戻る」

「ありがとうございます」

「はい。また後で」

「ああ」

 

 スキマが開いて、藍さんが帰っていく。やっぱり転移系スキルが欲しいな。作ってみるか、何処かで覚えるか。どっちがいいかな。って、ポケモン世界の技術でできるじゃないか。モンスターボール限定だけど、彼方から此方まで送られてくるのだから転移魔法と変わらない。それにナーサリー・ライム限定だけど、転移できるのだから、それを解析して使えばできる。そう考えると、ポケモン世界の技術力って凄い。

 

「それで、どうしますか? 回復しますか? 連れていきますか?」

「えっと、クオンを持ち帰ってもふもふしたい」

「あう。わ、私は持ち帰り不可。でも、ご主人様が望むなら……」

 

 顔を真っ赤にして可愛らしいクオンの尻尾に抱き着いてもふもふする。頬擦りしたり匂いをかいだり、撫でまわしたりする。

 

「ひゃうっ! あっ、ああぁぁぁっ!」

「なにやってるの?」

「もふもふしてるの」

「た、たすけ……」

「おー私もする~」

「んひぃいいいいぃ」

 

 やってきた諏訪子ちゃんと一緒にクオンをもふもふしたら、腰が抜けたように座りこんでびくんびくんっと身体を震わせて頬を上気させ、荒い息をだしている。

 

「ありすがいたね~」

「あははは、ごめんなさい」

「諏訪子様、ここにいましたか」

 

 外からメイド服姿のシロが入ってきた。彼女の手には沢山のモンスターボール……ハイパーボールやヘビーボールなどが入った籠を持っている。その数35。

 

「それは?」

「インスタントダンジョンで捕獲してきたポケモン達だよ」

「なるほど。海のポケモン達はどうなった?」

「んとね、きちんと鍛えてレベルも上げてあげたよ」

 

 シロがテーブルの上にハイパーボールを置いていく。アリスも中身を確認すると、結構凄いのが集まっている。この頃、ハイパーボールからやっているので出てくるポケモンも進化しているのが出てきたりしているからか、ドサイドンやキテルグマ。バンギラスなどがいる。

 

「なんか連れてくの? 私としては蛇系がお勧めだけど」

「蛇はシロがいるからいいかな。あ、ギャラドスなら少し連れていきます。海で放し飼いにしますから」

「そっかー」

 

 愛里寿としては戦車系……このさい、重量級とかで選ぼう。後は熊も好きだし。ドサイドンとキテルグマ、ボスゴドラ、カメックス。これにメタグロスを入れていいかな。残り一体は愛里寿だからヒメグマを用意しよう。

 ボコに似ているのはヒメグマだからね。えっと、包帯を腕と頭に巻いて完成になるかな? 

 もちろん冗談だしやらない。普通にぬいぐるみを抱く。だって、本当に無傷なのにそんなのをつけたら見えにくいだろうし、かといって怪我をしていた時は治療してあげないと可哀想だしね。そうなると後一体はバンギラスでいいか。愛里寿はこれでいこう。

 アリスはレジロックとレジスチル、レジアイスを手に入れよう。そう考えるとまず必要なのはホエルオーとジーランス。石板は……そもそも解除できないかな? 

 

「諏訪子ちゃん、シロの仕上がりは?」

「まあ、それなりに戦えるよ」

「だったら、シロも連れていこうかな」

「おっけー」

「かしこまりました」

「そういえば、宝箱から変なのが出たんだけどさ~」

「変なの?」

「これだよ」

「わお」

 

 諏訪子ちゃんに見せられたのはキーストーンと様々なポケモンのナイト。更にZクリスタルとか、Zリングや、ポケモンに使う様々な道具達だった。これは助かる。説明していく。

 相談してから、皆で一緒に食事をする。必要な物は分けてもらう。それからお母さん達に挨拶してポケモン世界に戻る。もちろん、今回は本気なので、ファイヤーも連れていくし、他にも沢山のポケモン達を連れていく。

 

 

 

 

 

 

 クトルゥフ神話の世界で今度はショゴスが現れた。アレには勝てない。だから、身体を壊される覚悟でどうにか逃げた。ちなみに触手で打たれて、全身複雑骨折で腕とかはあらぬ方向に向いたりした。でも、痛いのだけれど我慢すればいいだけだし、囮のためのボコ達を放ったのでなんとかなった。

 

「ご主人様、おかえりなさい」

 

 門を潜って海底洞窟に到着した。するとジュカが抱き着いてきて、頭を擦りつけてくる。抱きしめて撫でまくる。子供姿のジュカも可愛い。彼女にとって身長も自由自在に変えられるしね。

 

「侵入者は?」

「こちらはいない」

「こちらは?」

「ルクスからは連絡がきた。潜水艇は守れた。ただ、誘拐されたのが二名。重症の子供が一名でている」

「どういうこと?」

 

 詳しく聞くと、クスノキさん達が出掛けている時、二人は言われた通りに潜水艇を守っていたらしい。そのタイミングでクスノキさんの方が襲撃を受けたらしい、それでルクスはアリスの命令通りに潜水艇を守ることにして、アセロラだけで救助にでたとのこと。ただ、移動ポケモンが居なくて間に合わなかったらしい。ルクスとアセロラを交代すればいけたかもしれないけれど、ルクスは拒否したとのこと。ルクスにとってアリスの命令が最優先だから、仕方がない。融通が利かないのが難点かな。

 

「その子供には会いにいかないと駄目かな……わかった。それじゃあジュカもアリスと行くよ」

「わかった。シロも改めてよろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 アリスの後ろに控えていたシロとジュカが話しだすので、彼女を解放して好きに話させる。その間にここの警備をもっと厳重にする。まず、持ってきた水ポケモン達を解き放つ。

 

「さあ、皆、でてきて」

 

 大量のハイパーボールをトランクケースを開けて、量産型上海と量産型蓬莱達を使って投げては回収していく。深海ポケモンや普通のポケモン達もレベルアップに資質向上で深海でも理論上は平気で行動できるようになっている。そんなわけで、この子達に警備を任せる。

 

「威嚇攻撃した後、ここに来るのは全部敵だから、ポケモン以外は容赦なく排除して。攻撃してきたポケモンも同じように。それと皆は連携して当たるように。指揮官はルギア、お願い」

『心得た』

『頑張ってね~』

『うむ』

 

 海はこれでいい。ここに陸上ポケモンを置くのもまずい。食料がないし、操られても困る。なので水中で生活するポケモン達だ。ボールは回収して全てトランクケースに仕舞う。

 

「ご主人様、これからどうする?」

「ご主人様は止めて。アリスでいいよ」

「私はご主人様がいいです」

「せめてジュカは止めてね。あなたはアリスのお友達だから」

「ん。わかった。アリス」

「よろしい。じゃあ、まずはここから脱出して病院に行くよ。アリスの不手際で大怪我をさせてしまったみたいだし」

「了解」

「かしこまりました」

 

 二人を魔導書に戻す。さて、これからすることだけどルギアに外まで送ってもらう。それはいい。でも、あれだね。また窒息するのは嫌だし、うん。口の中に入れてもらおう。バリアを展開して口の中に入れてもらえば大丈夫だ。

 

「咥えて連れていって。それでいいから」

『心得た』

 

 ぱっくりと食べられて、しばらく口の中で待機する。そして、海を越えて空に浮上したら口を開けて出してもらう。空に出たら空を飛んでルギア達と別れる。今回はさくらもアリスと一緒でもいい。

 

「さくら、あなたはどうする? 一緒に来るか、こっちで遊んでいるか、好きに選んでいいよ。出番ができたら呼ぶし、それまではずっとボールの中もありえるけど……」

『遊んでる! ボール中、やだ!』

「わかったよ。それじゃあ、また呼ぶね」

『うん! またね~』

「はい、またね」

 

 さて、メタグロス、メルクを呼び出して乗りこむ。普通に女の子が空を飛ぶとか、有り得ないし。

 

「メルク、とりあえずカイナシティに移動して」

「がぁ!」

 

 ポケギアを取り出して電波を確認してからアセロラに連絡する。メルクにはそのままカイナシティまで移動してもらう。

 

『アリス! よかったっ! ど、どうしたらいいっ!』

「落ち着いてくだい。話しは聞きました。それとも今も襲撃されているのですか?」

『ううん、それは大丈夫。アセロラが慌ててるのはルビー君っていう男の子が重症になったことだよ……』

 

 聞き捨てならない単語があった。ルビー君、宝石、いや、君だから男の子。()()()()()()()

 

「待っ、待ってください。ルビー君で間違いないんですか?」

『うん、間違いないよ。親御さんは新しくジムリーダーになったセンリさんで……』

 

 間違っていなかったみたい。でも、なんでルビー君が? 彼の実力なら逃げられ……あっ、そうか。気絶した後、造船所に運ばれたりしていないのか。造船所にはルクスが張っていたわけで、アセロラまでいるわけだし、マグマ団単体では勝ち目がないだろう。ルクスはポケモンだし、人質を無視してでも攻撃するかもだし。彼女の最優先事項はあくまでも潜水艇を守ることだし。アリスがそう命じているし。じゃあ、捨てられた船でも交戦したらしいマグマ団なら……絶対に正面から戦わない。ルクスの存在が不気味すぎる。ましてやアセロラも四天王クラスの実力はあるし、様々な超能力まで使う。念力、念話、霊視とかは少なくともあるわけだし。後なんか直感も凄い。そんなアセロラとルクスから逃げおおせるのは凄いと思う。普通の人間なのによくやるよ。

 

「とりあえず、病院を教えてください。フォローしてきます」

『いいの?』

「これはルクスにアセロラの言う事をちゃんと聞くように言っていなかったアリスの責任ですから。それに相手がルビー君となれば、こちらにもメリットがあります」

『メリット?』

「はい。彼の持っているポケモンが欲しいんですよ。治療の代価に一時的に貸してもらうか、貰えないか交渉します」

 

 借りるだけでアリスポイントが入るかはわからないけれど、貰って返してもいいと思う。どちらにせよ、アリスポイントが手に入る機会があるのだから、見逃すことはない。

 

『わかった。病院に一緒に行くよ。紹介しないといけないし』

「そうですね。お願いします。菓子折りも用意しておいてくれるとありがたいです」

『は~い。合流は病院でお願いね』

「了解です」

 

 これで……あ、このままだとこの姿で会うことになるのか。それだとちょっと困るかな。島田愛里寿の姿でいいか。アセロラには少し前に知り合って、協力してもらっている感じで。それでいこう。人形師のアリスとはまた別の人扱いがいい。島田愛里寿の姿なら、デボンコーポレーションの身分もあるからいけると思う。ボコみたいに負けない精神で頑張って被害を少なくして捕まえてやるんだ。

 

「後は戦力を集めるのに何かないかな?」

 

 口に出してみて考える。ルビー君が負傷しているから、このままだと色々とまずい。でも、彼とサファイアさんの代わりはアリスがするので問題ない。すでに完全に融合させてある。今さら分離させるのは紫さんの境界を操る力ぐらいだろうね。

 さて、考えを戻そう。ルビー君の分、アリスが入っているので戦力的にはおそらくこちらの方が強い。でも、不安がないかと言われたら不安だ。こっちの手札はルギア、ルギア(さくら)、フリーザー、サンダー、ファイヤー、メロエッタ、メタグロス100体、ボーマンダ71、海中に放った水ポケモン97体、ゴーストタイプ83体。シロ、アリス、アセロラ。そしてジムリーダー八人と四天王、チャンピオン。あれ、余裕? 

 どのポケモンも最大レベルとは言わないまでも、資質向上でレベル詐欺はしてある。うん、いけるいける。基本的にアリスとポケモン達だけで決着はつけるつもりではあるけど……ああ、そうだ。イエローさんやレッドさん達、図鑑所有者達にも応援を要請しておこう。旅費とか全部、こっちで持つなら来てくれるかも。うん、イエローさんにメールだけ送っておこう。依頼だけして、捕まったら来てもらう感じで。報酬は彼等が持っているメガシンカのポケモンに使えるナイトとキーストーン。メガシンカの事も書いて送っておいた。

 

 

 そんな風に手を打っていると、病院に到着した。病院の入り口を見るとアセロラが手を振ってくれているので、そちらに降りるように指示をする。あ、変身だけしておこう。それとシロもでてきてもらう。

 

「メルク、あそこに降りてください。シロは使用人として付き従ってください」

「がぁ」

「かしこまりました。お嬢様」

「お嬢様は本当にやめて。それならご主人様がいい」

「わかりました」

 

 メルクが地上に到着すると、色んな人の視線が集まってくる。そこからシロが先に降りて、愛里寿を抱き上げて降ろしてくれる。荷物もシロが持ってくれるので、そのまま進むだけでいい。っと、メルクにお礼を言ってからボールに戻す。

 

「アリス、なんだよね? それとその子は誰?」

「愛里寿は愛里寿だよ。この子は愛里寿のメイドさん。応援として連れてきたの」

「応援……」

「ご主人様のメイドをしておりますシロです。どうかよろしくお願いいたします」

「こ、こちらこそ……」

 

 二人が頭を下げ合って挨拶している中、イエローさんから返事が来て、聞いて見てくれるらしい。これでレッドさんとかが来たら大喜びだ。あ、ルギアの件でなんか言われるかもしれないけど、気にしたら負けかな。

 

「アセロラ、じゃあ、病室に案内して」

「うん、こっちだよ」

 

 やっぱりアセロラはどこか元気がない。しょんぼり状態のようだし、彼女の手を取って一緒に握る。

 

「アリス?」

「大丈夫。アセロラのせいじゃないし、悪いのはマグマ団だよ。それに怪我だってちゃんと治すからね。それにボコみたいに何度やられたとしても、立ち上がってまた挑んでいけばいいんだよ。今度こそ、一緒に倒そう!」

「うん、ありがとう」

 

 少し元気が出たみたいだし、アセロラにキーストーンをプレゼントしてあげる。ネックレスにしてあるので首に手を回してつけてあげる。

 

「これは?」

「それはキーストーン。メガシンカっていう力が使えるようになるとって素晴らしい力だよ」

「……あの人が使ってた力……うん、アセロラも使う」

「アセロラの手持ちだと、ゲンガナイトと、ジュペッタナイトかな」

「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」

「うん!」

 

 良かった。アセロラも元気が少しは出たみたい。アリスのせいでアセロラが悲しむ姿はみたくないしね。手を繋ぎながら病室の前に移動すると、中から怒鳴り声が聞こえてきた。こっそりと覗いてみると、包帯をグルグル巻きになっていたルビー君であろう男の子が、センリさんであろう男性に怒鳴られていた。お母さんであろう女性も怒っている。

 

「こんな状態でもまだコンテストなんかにでるつもりか!」

「そうだっ、ボクは約束したんだ! なんとしてもコンテストにでる!」

「駄目よ。ルビー。貴方は大怪我をしているのよ! 絶対に認めませんからね!」

「だ、だけど……」

「ちゃんと動けるようになるかもわからないのよ……もう家出も旅もさせないからね!」

 

 確か、ルビー君はホウエン地方に引っ越した瞬間に家出したんだったよね。その状態で大怪我したわけだから、納得できるね。

 

「そうだ。すくなくともちゃんと走れて野生ポケモンから逃げられるまで旅は許さん」

「そんなっ!」

「だが、お前が普段の生活に問題なくなったら、俺が空いた時間でコンテスト会場に連れていってやる。しばらくはそれで我慢しろ」

「え……参加していいの?」

「お父さんはもともと貴方のコンテスト参加を誕生日の日に認めるって言うつもりだったのよ? それを貴方は手紙も読まずに家出して……」

「そうだったんだ……ごめん」

「ふん。俺だってコンテストの何がいいかなどわからん。だが、子供の夢を応援するのは父親として当然の事だ。だが、男がこうと決めたら投げだすのは許さん。精々、リハビリを頑張れ」

「うん……頑張る……」

 

 さて、これ、どうしましょうかねえ。ルビー君は泣いているし、いっその事帰ってしまうか。振り返ってみるとアセロラも涙目になっていた。どうしよう。凄く中に入りずらい。

 

「さっきからそこに居る奴等、何の用だ」

「わっ!」

 

 急に扉が開いたので、振り返っていた愛里寿はそのまま後ろに倒れて掴まれる。上を向くと怖いセンリさんの顔があり、こちらを見詰めてくる。

 

「あら、可愛らしい女の子ね。そっちの子は確か、ルビーを助けてくれた子ね。今日はお見舞いに来てくれたの?」

「そうなのか。それなら……いや、あのタイミングで入ってくるのは無理か」

「はい。それでお話しがあるのですが……」

「わかった。入ってくれ」

 

 センリさんに言われて中に入る。さて、ここからは交渉になるかな。

 

 

 

 

 

 



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48話

誤字報告ありがとうございます。助かっております。感想も嬉しくて励みになります。あとアズルレーンをルルイエではじめました。嫁はラフィーです。


 

 

 

 

 愛里寿とアセロラはルビー君の病室に入る。ベッドの上に居るルビー君は全身に包帯が巻かれていて、痛々しい。無事なのは顔くらい。思っていたよりもかなり酷い怪我みたいだ。今も点滴をつけられていて、食事もそれでとっているのだろう。

 

「あらためて、ルビーを助けてくれてありがとう」

「うぅ……」

 

 愛里寿達にルビー君のお母さんがお礼を言ってくれたけれど、罪悪感が湧き上がってくる。アセロラも同じようで、愛里寿達は互いに顔を見合わせてから、頷いてから二人で並んで頭を下げる。

 

「「ごめんなさい!」」

「え?」

「どうしたの?」

「その、ルビー君の怪我……アセロラ達のせいなの」

「どういうことだ?」

「あうあう」

 

 センリさんから殺気のようなものが発せられて、愛里寿達を睨み付けてくる。それによってアセロラは慌てだして震えてだす。愛里寿としてはこれぐらいの殺気なら、普通に耐えられる。正直、もっと怖い者に会ったことなんていっぱいあるしね。

 

「責任者は愛里寿ですので、愛里寿がお話しますね。ですが、その前に……」

 

 ルビー君に近付き、彼に触れようと進むと、センリさんが身体を入れて邪魔をしようと愛里寿の腕を掴んでくる。だけど、その前にシロが愛里寿の前に出てきて、逆にシロに腕を掴まれた。これは仕方がない。順番を間違ったのがいけなかった。

 

「あなた……?」

「父さん……?」

「何をしようとしている」

「……治療。でも、信じられないよね。だから証拠を見せる」

 

 炎の魔法を使って愛里寿の腕を燃やそうとして恐怖が襲ってくる。駄目、怖くてできない。

 

「……シロ、そのまま止めてて……」

「はい。お任せください」

「っ!」

 

 センリさんの手がモンスターボールに触れるけれど、その前に遠距離から治療魔法を行使する。魔法陣を作ってルビー君の身体を鑑定し、彼に合わせて調整した魔法を発動する。

 

「なにこれ……っ、つぅ~~~痛い、いたいいいいっ!」

 

 魔法の光がルビー君を包み込んで身体中を覆って、身体の中に浸透していく。麻酔とかも切れるけれど、そこは頑張れ男の子。

 

「ルビーっ!」

「我慢して。今、傷を治して肌を作っている。次に痒みが来るけれど、かいちゃ駄目。一分耐えて」

「る、ルビーっ!」

「くっ……」

 

 センリさんはこちらを睨み付けているけれど、待ってもらおう。それとマッドスィートケークも使ってさらに回復する用意をする。

 

「アリス、だ、大丈夫なの?」

「治療しているだけだよ。今のままだと、死にはしないけど少しでも動くだけで激痛が襲ってくる。今は麻酔をしているみたいだけど、これだと歩けないし、座ることも眠ることもきついはず。ましてや彼の夢であるコンテストなんて不可能。だから、綺麗に元の身体に戻す」

 

 ルビー君の身体は生きているのが不思議なくらいの酷い状況。あと少し肌が焼けていたらショック死していたと思われる。また、拷問を受けたのか、指は折れていたし、爪もあれだった。もはや一生、ベッドの上は確実だと思えるぐらい。見ただけで交渉とか言っている状況じゃない。諦めた。

 

「そっか、そうなんだね……」

「ほ、本当に治るんですか?」

「治せる。最悪、死んでも蘇らせてあげられる。でも、この方法はお勧めしない」

 

 ルビー君のお母さんの質問に答えながら、シロがセンリさんを押さえるために床に置いたトランクケースから、ティーセットなどの食器を取り出してケーキを切っていく。

 

「かゆっ、かゆいっ!」

「かいちゃだめ」

 

 ルビー君を上海と蓬莱達を呼び出して押さえつける。

 

「なんだこれっ、人形っ!」

「ジュペッタか? いや、それにしては……」

「はい、これで治療完了。後は老廃物の処理。上海、蓬莱。お願い」

「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」

 

 蓬莱と上海が彼の包帯をほどく。すると皮がへばりついている。それを剥がすと綺麗な肌がでてくる。前の肌は火傷でドロドロのジュルを塗りつけていたからかもしれない。とりあえず、裸にして全身を綺麗に布で拭って新しい服……というか、もう浄化の魔法で全てを綺麗に掃除した。その後、愛里寿達は病室から出てから服を着てもらう。

 病室の中ではルビー君達の家族が喜び合うまで待ってから、中に入る。ルビー君は奥さんに抱き着かれていて、ルビー君の方も喜んでいた。そして、センリさんはこちらを見詰めている。

 

「ルビーを治療してくれたことは感謝する。だが、お前達は何者なんだ?」

 

 椅子に座った愛里寿達にセンリさんがさっそく聞いてきた。

 何者かと聞かれたら答えてあげるのが世の情け……っていったら、本当に出そうだからやめる。

 

「愛里寿。デボンコーポレーションの社員。マグマ団とアクア団の目的を防止するために動いている。彼女はアセロラ。協力者」

 

 名刺を渡す。それとバッジも見せる。前のジムリーダーを倒したから、センリさんは知らないと思う。

 

「そうか。それで何故、お前達のせいだと? 先程の言葉から、マグマ団というわけでもないのだろう?」

「違う。愛里寿達は単に、彼を見捨てることになったことを謝った……」

「見捨てる?」

「あ、あの、攫われるところを見ていたの。助けられたはずなのに……」

「助けられたはず?」

「愛里寿はしばらく離れることになった。だから、マグマ団とアクア団が狙っている潜水艇を守るためにアセロラと愛里寿の友達を護衛につけた。だから、アセロラは悪くはない。それに今回の事に関しては後悔はしても間違っているとは思わない」

「アリス?」

「そういうことか。あくまでも潜水艇を守ることが優先だということだな?」

「そう。潜水艇を守らなければ数人の被害ではなく、数十、数百人の被害に繋がる可能性がある。だから、命令通りに守った彼女も間違いじゃない。もっとも、彼女が臨機応変に対応できたのなら、アセロラを造船所に置いて、彼女がいけば助けられる可能性があった。ただ、それは最大戦力を守るべき物から離すことでもある。実際、あの時も陽動の可能性があったし、今も狙われている」

 

 ルクスからの報告では現状では少数のマグマ団と沢山のアクア団が確認されている。

 

「なるほど、理解した。そして、お前が何者かということをちゃんと答えるつもりがないこともな」

「答えてもいいけど、理解できないと思う。不思議な力を使うサイキッカーとだけ覚えておけばいいかと」

「……サイキッカー、なるほど。そういうことなら納得しておこう」

 

 さて、こちらの事情はある程度は教えられた。ルビー君の方をみれば、自分の足で立ち上がろうとしてふらふらしてお母さんに支えられている。

 

「どちらにせよ、息子を助けてもらったことには代わりはない。ありがとう」

「いえ、本当はルビー君と交渉をして代価をもらうつもりだったの……」

「代価? ボクに何か支払えるものがあったかな?」

「ルビーのためならいくらでも出すけれど……」

「いや、ルビーに限定している時点でお金じゃないだろう。おそらく……考えられるのはルビーのポケモンか」

「正解。愛里寿はルビー君の持っているセレビィが欲しい」

「っ!?」

 

 愛里寿がそう告げると、ルビー君の顔が変化した。まだまだポーカーフェイスは甘いみたい。

 

「セレビィだと?」

「そう、時渡りポケモンのセレビィ。幻と呼ばれている。彼がそれを持っているという情報は手に入れていた。先程の反応でそれは確信した」

「そっか、アリスの目的って幻のポケモンや伝説のポケモンを集めることだっけ」

「そう。それらを捕獲して回収してデータを取ること。そして、それらの力を守るために使う。それが愛里寿の目的」

 

 愛里寿の目的は変わっていない。生き残る事。これがまず大前提。そして、もう一つは傲慢で愚かな事だろうけれど、助けたい人を助けるという事。出来る限り、ハッピーエンドを目指す。どうせ、世界から世界へと渡り歩くのだから、自らの欲望(願い)を叶える。これは愛里寿の中のアリス達も納得している気がする。

 

「ルビー、本当に持っているのか?」

「嘘は無駄。その気になれば魅了して、愛里寿の都合のいいように支配だって可能」

「そうなの? まさか、アセロラ達に……」

「アセロラ達にはしていない。愛里寿が使う対象は敵対対象と、愛里寿達の命が脅かされる時、後は荒ぶっているポケモン達に使うくらい」

「敵対対象か」

「だから、こんなこともできる。シロ、ホウエン地方の地図を用意して」

「かしこまりました。こちらです」

 

 テーブルの上にシロがトランクケースからホウエン地方の地図を取り出して広げてくれる。それを見ながらポケギアを操作してある電話番号に連絡をいれる。

 

『誰だ?』

「愛里寿です」

『愛里寿様っ! 申し訳ございません!』

「聞きたいことがあります。()()()()()()()()()()()()()()()()

『もちろんです』

 

 それから、彼等のアジトと人質が監禁されている場所や配置、ポケモンの数や種類、計画などを教えてもらって、それをメモに書いていく。メモとペンはシロが用意してくれた。

 

「はい、ご苦労でした。これからもよろしくお願いします」

『もちろんでせす、はい』

 

 ポケギアを切ってから、今度は付箋に書き込んで駒に這っていく。続いて次はアクア団に連絡をする。そちらからも情報をもらった物をすぐに同じようにする。これによって、地図の上に様々な駒が置かれていく。

 

「その情報、事実なのか?」

「はい。両方に襲撃された時に魅了してスパイを作った。彼等はそのことを知らずにいるから、楽に情報が手に入るの。後はこれを基にして人質奪還作戦を立案して実行するだけ。ただ、アクア団のこともあるから、造船所にも戦力を置かないといけない」

「アリス、アセロラも助けにいきたい」

「わかった。センリさんは協力してくれる?」

「人質の奪還か……」

「子供達で助けに行くのは危険よ! それこそ、センリさんやポケモン協会の人達に協力してもらったらいいじゃない」

「はい。最初はそう思っていたの。だから、図鑑所有者のポケモントレーナーを通してポケモン協会には伝えた。でも、信じてくれなかった。だから、愛里寿達は愛里寿達で行動している」

「それは……」

「でも、センリさんなら動かせる。といっても人質の救助は難しいから、これは愛里寿達でやる。センリさんには煙突山のことを対処して欲しい」

「アクア団か。いいだろう。そちらはこちらで対処する。だが、そちらも任せてもらえないか?」

「人質の確保はこちらでさせてもらうのが条件。それ以外なら好きにしてくれていい」

 

 透明になれば侵入は容易い。それに人質を確保したら一気に戦力を出して内部から制圧すればいい。なんなら、彼等が飲んでいる物に眠り粉でも混ぜたらいいのだし。

 

「ご主人様、紅茶です」

「ありがとう」

 

 シロが淹れてくれた紅茶を飲みながら、話を戻す。

 

「さて、ルビー君……セレビィ、交換してほしい……」

「それは……」

「これはルビー君のためでもある」

「え?」

「貴方はマグマ団の幹部に敗北した。アセロラから聞いたマグマ団の幹部であろう一人はメガ進化まで使いこなすかなり強い人だった。そんな人達がいるのにルビー君がセレビィを持っているのを知ったら、襲われて今度こそ死ぬ」

「確かにあの人、凄く強かったよ」

「それほどか」

「他の地方を含めてジムリーダーを倒してきたアセロラが言うんですから、間違いない。アセロラ、バッジを見せてあげて」

「うん。これだよ~」

 

 アセロラが大量にあるバッジをみせる。愛里寿も一緒にみせてあげる。

 

「なるほど。確かに実力はあるようだ。だが、ジム戦はあくまでもトレーナーを成長させるためのものだ。それがジムリーダーの実力だと思わない方がいい」

「わかってる。それでも、すくなくともジムリーダーより彼女は強い」

「なら、後でバトルしてみよう」

「アリス、いいよね?」

「うん、いいよ。それとルビー君は知らないだろうけれど、時間渡航者って狙われるの」

「え?」

「いい、まず時間を作り変えるということは、決められた過去を消して好きなように未来を作り変えるということになる。これは神の領域。なぜなら、それまで積み上げられてきた歴史や生物達の営みがリセットさせられるということにほかならい。そんな力を持つ者をこの世界の神様は許してくれる? 答えは否。絶対に潰しにかかる。だからこそ、セレビィは世界中の時間を逃げ回っている。それに、まだ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ティンダロスの猟犬はセレビィを感知したら、絶対に襲い掛かってくるだろう。この世界にアリスが来たということは、下手をしたら奴等もくるかもしれない。どちらにせよ、この世界の神々は容赦しないだろう。

 

「そんな連中からルビー君はセレビィを守りきれる? また、セレビィを狙ってくる人達に友達や家族が人質にされたり、殺されたりしても耐えられる?」

「そ、そんなこと……」

「普通にする人はいるよ。例えば友達の家族を人質にして、見せしめに何人か殺して残りの人を助けてやるから、ルビー君からセレビィを奪ってこいっていう人」

「もしかして、ルビー君をこんな目に合わせた人も?」

「それぐらいはすると思う。それほどにセレビィの力は強い。だから、その覚悟があるかどうかはっきりさせて欲しい」

「ルビー」

「ぼ、ボクは……」

「セレビィにもこれは言える。貴女はどうするの?」

 

 そう言うと、ルビー君の荷物から勝手にセレビィがでてきた。

 

「セレビィ……」

「びぃ……」

「まあ、愛里寿としては実験に協力してくれればそれでいいの。愛里寿としてはセレビィのデータが欲しいだけだから、後は二人で決めたらいい。危険性をしっかりと理解した上でだけど」

「それはその通りだな。力を持つ者にはそれ相応の責任がある。ルビー、しっかりと考えるがいい」

「うん、わかった。それで、実験って?」

「ああ、はい。愛里寿の力の一つに伝説や幻のポケモンのデータを力に変える方法があるの。だから、それが得られるのなら、セレビィがどうしようが、ルビー君達なら変な事はしないだろうから、関与しなくていい」

「データを取るだけなら、問題ないの?」

「うん。捕まえたルギアをすぐに友達の神様にあげても問題なかったから、その辺りは大丈夫」

「か、神様と知り合いなの?」

「土地神様だから、位としては下だしね。強さは別だけど」

「それなら、実験は協力してもいい。いいよね、セレビィ……」

「びぃ」

 

 どうやら、協力してくれるみたいで助かる。早速、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を召喚すると、手元に大きな本が現れた。

 

「さて、ではまずセレビィをモンスターボールに入れて貸してください」

「うん、わかった」

 

 預かってみるけれど、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)にアリスポイントは入らない。これは予想通り。

 

「では返します。続いて、交換しましょう。後で返すので同じく幻のポケモンと交換させてもらいます」

「わかった」

 

 そう言って、二人で交換する。こちらが用意するのはメロエッタなので、セレビィと交換してそれぞれの所有権を主張したら、今度は増えた。

 

「交換しなおしてみます」

「いいけど、何をしているの?」

「ポイント形式なんですよ。だから、それがどうなるかを試しています」

「そっか」

「まだ時間かかりそうだから、アセロラはセンリさんとポケモンバトルをしてくるね」

「いってらっしゃい」

「は~い」

「いってくる」

「ええ」

 

 アセロラとセンリさんがでていった後も実験を繰り返す。そこでわかったのは、愛里寿が捕まえずに捕獲すると、交換するしかない。この交換も、貰っていたら大丈夫だけれど交換しなおすとアリスポイントもまた消えてしまった。なので、使って返せばいいと思って実行してみることにした。その時、どのアリスにするか、悩んでいたらルビー君が聞いてきたので説明する。

 

「つまり、アリスって名前ならなんでもいいんだね」

「そうね、一つ気になったのだけれど……アリスって男性名でもあるわよね。なんで男の人を取ってないのかしら? 女の子だから納得できるけれど」

「あっ!?」

 

 目から鱗だった。確かに有栖川とか、アリストテレスとかいる。アリスは男性名でもいける。ルビー君のお母さんの言葉でどうにか女性化を防ぐ手立ができたかもしれない。さっそく試してみよう。

 

 

 

 

 

 

 




男性アリス、どうしようかと考え中ですが、コメントにあった人から選ばせてもらいます。


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49話

今回は短いです。ごめんなさい。


 

 

 

 

 

 

 男性のアリス。やっぱり、思いつくのはアリストテレス。それは地球に突如現れ、無差別攻撃を繰り返す、8体の究極生命体。本来は名前という概念は無く、アリストテレスと地球の生物が呼称した。 その正体は、太陽系8惑星(冥王星を含む)それぞれの系統樹における最も優れた存在。天体それぞれシステムの頂点に位置する唯一最強の存在であることから、アルテミット・ワン(究極の一)とも呼ばれる。

 各アルテミット・ワンは本来、タイプ・ムーンなどと呼称される。ただし、物語上の登場人物には未だ、惑星から派遣された最強種ということは知られていない。だか、物語中ではアリストテレスの呼称のみが通用する。

 アルテミット・ワンはそれぞれ一体で星の全生命体を絶滅させる力を持つ。アルテミット・ワンは星の代弁者のため、自己意思が無い。後天的に知的生命体との接触によって、知能を得るアリストテレスもいた。外見は人型・十字架型・蜘蛛型など、形態はガス状・鉱物・植物など多岐に渡る。

 ちなみに星は意思を持った生命体とされ、かつて地球が人間に殺される寸前、母たる星が死しても生き残る人類に畏怖を覚えた地球が、地上の生命体を絶滅させて欲しいという信号を各惑星に送ったため、それに応じた惑星それぞれから最強種が地球に派遣されたということだ。仕方ないね、うん。

 

「断じて男じゃない」

「どうしたんだい?」

「ううん、なんでもないよ」

 

 さて、ではどうするか。正直、このアリストテレスはタイプ・ムーンとヴィーナス(天使)ぐらいしか変身できないし、ムーンは吸血鬼の真租のオリジナルだ。あの世界ではムーンを基にして吸血鬼の真租を生み出しているから。

 よし、ここは神さまのいない日曜日にでてくるアリス・カラーにしよう。この男子学生の能力はあらゆる可能性を攻撃や防御に用いることができる確率操作。いわゆる運命操作。レミリア・スカーレットが持っている能力に非常に似ている。なにより、これさえあればエンテイ、ライコウ、スイクンとか逃げる連中との遭遇率が上がるし、スロットにだって勝てる! な・に・よ・り、ガチャに勝てる! ごめんなさい。そんなことよりも変なのに会わなくていいようにできるかもしれない。

 

「書き込み完了。シロ、少しの間任せます」

「かしこまりました。ゆっくりとお休みください」

 

 その声と共に意識を失った。

 

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を実行します。

 

ERROR 

 

 再度実行します。

 

ERROR ERROR 

 

 想定されていない内容が書きこまれました。再度実行します。

 

ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR

 

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)に想定されていない、認められない項目が追加されました。負荷の増大を確認。これ以上の実行は術式の暴走の危険があります。

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)はERRORを回避するために自己進化を実行。

 完了。項目のデリートを開始。

 完了。代用能力を検索します……該当のアリスを見つけられず。前所有者から能力(アリス)を付与し、代わりとします。前所有者のアリスを検索。

 検索完了。

 0.アリストテレス(鋼の大地)

 1.黒アリス(PandoraHearts)

 2.魔人アリス(真・女神転生、ペルソナ)

 3.白アリス(PandoraHearts)

 4.女神アリス(ランス)

 5.アリス(ラタトスクの騎士)

 6.アリス・リステル(ウィザーズ・ブレイン)

 7.アリス (神獄塔メアリスケルター)

 8.アリス(Infinite Dendrogram)

 9.アリスの夢(アリスと蔵六)

 これらの中から選択。

 アリス(Infinite Dendrogram)を選択。

 付与のポイントが足りません。

 現在のアリスはナノマシンによる金属生命体。AIであるアリスの付与において問題なしと判断。

 能力も人形に関するアリスを所持しており、付与において問題なしと判断。

 以上のことからポイントを削減してアリス(Infinite Dendrogram)を付与可能と判断。

 アリス(Infinite Dendrogram)より、死した英雄達と同じ性能の人形を量産する冒涜の化身を付与。

 更新開始します。

 

 

 

 更新中。

 

 

 

 

 更新完了。

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:1

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.10》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.10》《プロイキャッシャーLv.10(左目)》《魅了の魔眼Lv.10(左目)》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 ハードゴア・アリス(魔法少女育成計画):《変身・魔法少女Lv.10》《どんなケガをしてもすぐに治るよ》

 アリス(ARMS):《世界最高の頭脳》《科学者Lv.10》《金属生命体》

 アリスとありす(Fate/EXTRA):《魔力Lv.10》《陣地作成Lv.10》《変化Lv.10》《自己改造Lv.10》《誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)Lv.10》

 島田愛里寿(ガールズ&パンツァー):《戦術指揮官Lv.9》《騎乗Lv.1》《カリスマLv.1》

 アリス(Infinite Dendrogram):《冒涜の化身》《管理AI》《無限誕生》

 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》《万魔殿の魔導書Lv.10》《簡易迷宮作成の魔導書Lv.10》《資質向上の魔導書》《レアリティアップの魔導書》《ドロップ生成の魔導書》

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 

 目覚めたら、ルビー君のベッドで寝かされているみたい。

 

「ここは……」

「お目覚めになりましたか?」

「シロ……ルビー君達は?」

「検査です」

 

 ご本人様は検査か。まあ、身体が治ったとはいえ、検査は必要だ。さて、更新されたアリスを確認しないと。ふと手を見ると甲の部分に紋章がある。まるでFateの令呪みたいだ。おかしい。何かがおかしい。Grimoire of Alice(アリスの魔導書)を見てみる。

 そこにはアリス・カラーがGrimoire of Alice(アリスの魔導書)によって書きこまれて……なかった。代わりにアリス(Infinite Dendrogram)ってのが書きこまれている。これって何? 

 なんでこんなことになっているんだろうか? 

 とりあえず、スキルを調べよう。スキルは《冒涜の化身》《管理AI》《無限誕生》。冒涜の化身は過去の英雄達を人形として蘇らせて操るという能力。なんと素晴らしいのだろう。これってつまり、シャドウサーヴァントやサーヴァントを作り出せるってことだ。無限誕生はリソースがある限り、アバター(人形)を生み出せるということ。まるでビーストのティアマトだ。そう考えると冒涜の化身というのも納得できるかも。なんせ人類悪と同じ能力なんだから。管理AIというのはその通り、人工知能ということか。まあ、生み出したアバターを管理しないといけないから納得できる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()。つまり、VR空間とかでないと意味がない。

 で、なんで男のアリスを選んだはずが、女のアリスになってるんだろうか? 

 男のアリスを入れたはずなのに。もしかしたら、基礎が旧アリスだから、男は受け付けないのかも知れない。他として考えられるのはアリスとは少女の象徴や名詞とされ、永遠の少女や少女の自我の象徴ともされた。そしてなにより、このGrimoire of Alice(アリスの魔導書)は改造されているけれど、作ったのはアリスお母さんだ。そのアリスお母さんが男性を許容するだろうか? 

 無理だね。うん、仕方ない。今は諦めてこれからの為に行動しよう。

 

「ご主人様、目覚めの紅茶です」

「ありがとう」

 

 ベッドの上で身体を起こして差し出されたカップと皿を受け取り、香りを嗅ぐと林檎の香りがする。口をカップにつけて飲み込むと、ほんのりとした甘さが口を潤してくれる。カフェインによって身体が覚醒してきたので、ベッドから出て身体を動かす。

 無意識にボコのぬいぐるみを持っているから、まだ島田愛里寿の姿みたい。とりあえず、増えた能力は後回し。これからのことを考えよう。

 やることはマグマ団が捕らえている人質を救助すること。場所はわかっているし、人数もわかっている。ただ、相手の戦力だけはわからない。ゲームだった時や、漫画の時とは違って明らかにカガリさんが強すぎる。それにマグマ団の人から聞いた感じ、幹部連中しか知らない切り札があるらしいし……うん、これは念の為にこちらも切り札を用意しておいた方がいい。いざとなれば人質もろとも消し飛ばせばいい。ティアン(現地人)なんて別にどうでもいいのだ……し……んなわけないっ! 

 やばい、こわいっ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ! 

 人が路傍の石みたいにどうでもよく感じてしまう! シロ達は大丈夫。大切な子達。アセロラやエーテルハウスの子達も、イエローさんは……たぶん大事。ルビー君達は……普通? これ、絶対に駄目なアリスだ。増えたの凄く駄目だ。善性の、いいアリスがないといけない。なにか、何かないか、何か! 

 

「ご主人様、どうしましたか?」

「もう一度寝る」

「わ、わかりました」

 

 Grimoire of Alice(アリスの魔導書)に追加する。アリスにとって善性であろう女の子のアリス。どれがいいかと考える。アイドルのアリスは嫌だ。ただでさえ、魔法少女とかになっているのにこれ以上許容できない。アリス、アリス、アリス・キャロル。アリア。ARIAのアリス・キャロル! あの子なら大丈夫! 操舵技術と歌がいける! 

 さっそく書き込んでいき、意識を失う。

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:0

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.10》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.4》《弾幕Lv.1》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.10》《プロイキャッシャーLv.10(左目)》《魅了の魔眼Lv.10(左目)》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 ハードゴア・アリス(魔法少女育成計画):《変身・魔法少女Lv.10》《どんなケガをしてもすぐに治るよ》

 アリス(ARMS):《世界最高の頭脳》《科学者Lv.10》《金属生命体》

 アリスとありす(Fate/EXTRA):《魔力Lv.10》《陣地作成Lv.10》《変化Lv.10》《自己改造Lv.10》《誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)Lv.10》

 島田愛里寿(ガールズ&パンツァー):《戦術指揮官Lv.9》《騎乗Lv.1》《カリスマLv.1》

 アリス(Infinite Dendrogram):《冒涜の化身》《管理AI》《無限誕生》

 アリス・キャロル(ARIA):《黄昏の姫君》《天才》《操舵術Lv.1》《歌Lv.1》

 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》《万魔殿の魔導書Lv.10》《簡易迷宮作成の魔導書Lv.10》《資質向上の魔導書》《レアリティアップの魔導書》《ドロップ生成の魔導書》

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 起きてから急いで確かめる。今度はなんともない。普通にルビー君達のことも大切に思うし、人質の犠牲を出さないように思えた。これでどうにかなる。本当に悪によってるアリスは警戒しないと不味い。ただでさえクトルゥフ系統の魔導書でやばいのだ。

 アリス・キャロルのスキルは《黄昏の姫君》《天才》《操舵術Lv.1》《歌Lv.1》。能力としては黄昏の姫君はカリスマとかそんな感じの能力ではなく、案内人。目的地に案内してくれる能力になったみたい。本来は通り名なのだけど。そもそも彼女はゴンドラに乗って、水の星になった火星、アクアを案内する仕事、ウンディーネだ。なので目的地に安全に案内するということだろう。ゴンドラに伴い、操舵術を習得。ただ、これは船にならなんでも有効になるみたいなので便利だ。歌はその通り、歌が得意になる。ゴンドラに乗って歌を客にプレゼントしていたりしたからだ。天才というのは実際に飛び級をして働いているから。でっかい○○ですが口癖。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、平気になったよ」

「それは良かったです」

「って、ここはどこ?」

 

 見渡してみると、そこは見たこともない場所だった。

 

「ここはホテルです。あのままでは問題かと思いまして、勝手ながらアセロラ様が宿泊しているホテルに移動させてもらいました」

「そう、ありがとう。アセロラは?」

「アセロラ様はポケモンセンターでポケモン達の回復をなさっております」

「わかった」

 

 船にも、部品にも仕掛けをしてあるから彼等が海底洞窟に行く手段はない……ジーランス以外は。アレばかりはどうしようもない。でも、行った先はレベル70以上のポケモン達から手荒い歓迎を受けることになる。例えたどり着いても地雷原があるから死ぬと思う。正直、造船所は放置でもいいけれど、ルクスには警備してもらおう。その方が油断してくれるだろうし、後々のデストラップにかかりやすい。一応、死なせないためにその前に確保するとしようかな。

 

「じゃあ、アセロラと合流したら襲撃をかけて助けに行くよ。マザー達の準備は? 役割はないかもしれないけれど、一応準備万端にしておいて欲しい」

「ポケモンの皆様方は回復しておられます。新しく持って来られたポケモン達も、補助技を積んでからバトルできるように調整してありますので問題ありません」

「パーフェクトだよ、シロ」

「恐悦至極でございます」

「まるで執事さんみたい」

「メイドですけど?」

「気にしないで。よ~し……愛里寿の戦車道を始めよう……島田流の力を見せてあげる」

 

 偵察やスパイを出して敵の動向を探り、それを基に確実性の高い殲滅作戦を行う。これが島田流。包囲はポケモン協会の人達に任せて、的確に急所を攻撃して戦果を挙げる。いざとなれば火山活動も休止させることも視野に入れていく。これはグラードンを捕獲して戻せばいいからね。最悪、愛里寿、アリスが戻せばいいだけだし、被害は押さえられる。うん、問題なし。そういえば、もしかしたらあの子の初陣になるのか。相手、強いといいな。

 

 

 

 




次は火山です。火山、本当は今回いくつもりだったの。


さて、男性のアリスにしようと思ったけれど、判定に失敗しました。成功率30%だから仕方ないね。三回ふっても50以上だからアリスちゃん、諦めてね!
ちなみに代わりのアリスは表通りに振って決めました。暗黒面に落ちなくて良かった良かった。魔人とかはやばかった。あと女神もやばい。うん、前任者はクトゥルフ神話の神様の娘です。つまり……どれもヤバイ。白と黒のアリスもやばいし、9番も安全にみえてアリスの夢だからこれもやばい。アリストテレスは紅い月になるのでこれまたやばい。吸血衝動とかもいれますしね。安牌はウィザーズ・ブレインのアリス・リステル。次点でラタトスク。性格が悪いだけだからね。次にメアリスケルター。これは血を浴び続けない限りはたぶん大丈夫。だと思う。
前任者は今のアリスも持っている奴があるので、それらは抜いております。
アリスの夢はワンダーランド固定。制御できると思わないでください。歩くまどマギのワルプルギスの夜(まどかバージョン)や常時発動型でその世界にいる少女達の夢を力に変えて魔法少女にしてくれます。なお、クーリングオフはできません。なぜって? 強制契約なくせに契約書をかわしていないからさ! 無差別無作為に与えられます。世界が大変なことになるので9番です。
話は戻りますが、男性のアリスを付与する30%の成功率を上げるにはアリス・マーガトロイドの心を変化させて許可をもらいましょう。そうしたら20%は上がります。ゆかりんに協力してもらったら、さらに10%。6割成功だよ、やったね! 失敗したら今回の表からかもしれない。

誤字報告ありがとうございます。助かっております。感想も嬉しいです。

次回は火山! 愛里寿ちゃんの無双モードでおこないます。ガルパンの映画見ながら書こう。まあ、場所的にあんな感じには無理ですけど、愛里寿ちゃんにできる限り近づけたいですから。


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50話

 

 

 

 

 

 アセロラと合流したので、まずは海に向かって切り札を回収する。今回は愛里寿として行動するのでポケモンは足のメルクとドサイドン、キテルグマ、ボスゴドラ、カメックス、バンギラス。ただし、ここに追加で切り札を用意しているので規定数がオーバーする。

 ただ、上海と蓬莱に振り分けるので18体まで用意できる。量産型上海と蓬莱もいるのでもっと数も用意できるし、シロやジュカもいる。

 そんなわけで大量のポケモン達を連れて目的の火山にやってきた。ゲームでは登場しない場所で、煙突山の近くにある。ここの洞窟に本拠地があるみたい。

 ポケモン協会の人達はすでに動いているみたいで、包囲を開始している。なので愛里寿も中に入る。

 

「アセロラ、外は任せるね。ポケモン協会の人達と協力して確保をお願い」

「了解だよ。いってらっしゃい~」

「行ってきます」

 

 身体を透明にしてハードゴア・アリスになって移動する。島田愛里寿のゴスロリバージョン。あんまり変わらない気もする。

 

 

 

 

 洞窟の前には見張りが流石にいる。足跡でばれたりする可能性があるので、空を飛んで中に入る。事前に教えられた通りに天井を進みつつ、洞窟の内部を把握していく。複数の分かれ道や、対侵入者用のトラップがそこかしこにあるし、何より火山の近くで熱い。これは少し不味い。汗で光学迷彩がバレる可能性がでてきた。

 できる限り、熱を下げて進もう。

 魔法を使って身体を冷やしながら進み、生活環境が整えられた部屋とかもある。そこではマグマ団が休憩していて、トランプなどしていたり、お酒を飲んでいたりする。こっそりと置かれている箱の中にボコのぬいぐるみを置いて移動する。

 敵の配置は教えてもらった通りみたいだし、問題はない。ただ、念の為にいろんなところにぬいぐるみを置いていく。ぬいぐるみの中にはモンスターボールを仕込んであり、ポケモンを出した後は自爆することだってできる。基本的にはしない。何度でも復活するボコを愛しているから。

 

 

 

 

 

 人質の居場所まで到達した。洞窟の深部にある広い部屋。そこには獣用の檻が用意されていて、その中に成人男性と老人が入れられている。ただ、その部屋の中には他にもマグマ団の人達がいた。奥の方は祭壇みたいに一段上がっていて、そこに神経質そうな男が座っている。そっと中に入ろうとして、嫌な予感がした。まるでこちらが気付かれているみたい。愛里寿がいるところを見詰めている。

 

「お前等、ヘルガーを出せ。ネズミがここまで紛れ込んでるぞ」

「マジっすか。見た限りいませんが……」

「サーモグラフィーを使え」

「了解」

 

 サングラスを着けながら、モンスターボールからポケモン達を出してくるマグマ団の人達。彼等が動く前に一時的に戻る。まさか気付かれるとは思わなかった。でも、これならこれでいい。

 メルクを出して飛び乗り、ボスゴドラを出して時間を稼ぐ。ボスゴドラは鎧で覆われた怪獣のような容姿をした二足歩行のポケモン。身長は2.1mもある。

 

「ボスゴドラ、岩石封じで動きを封じて。それと先端は尖らせて槍のように」

「がぁぁっ!」

 

 ボスゴドラが叫び、周りに岩が浮いてやってくるヘルガー達に向かっていく。ヘルガーにとっては岩タイプは弱点。だから二倍ダメージでしかも全体攻撃。狭い洞窟の通路の中、岩の槍が無数に襲ってくる。ヘルガー達はそれを次々と受けて吹き飛んでいく。

 

「メルク、破壊光線で追撃」

 

 ボスゴドラを戻し、岩石封じに貫かれて動けない所を破壊光線で粉砕する。すでに大ダメージを受けているところに極大の光線を受けたヘルガー達は吹き飛ぶ。そのまま奥へと入った破壊光線は奥の部屋で爆発する。探査の魔法で調べると、コータスの鉄壁で防がれたみたい。

 

「メルク、後退」

「ガァ」

 

 メルクの上で座りながら電磁浮遊をしてもらう。これで愛里寿の身体の一部を金属にすることでくっつける。通路を高速で移動しながら、マグマ団の人達を始末する。

 

「次の曲がり角を右へ出てラスターカノン。そのまま突撃」

 

 曲がった瞬間。メルクが指示通りにラスターカノンを放ち、前方の壁を破壊する。するとそこはマグマ団の人達が休憩していた場所だ。そこに突撃して突入する。

 

「凍える風」

 

 メルクから部屋全体に冷たい風を放つ。相手は驚いて対応ができてない……と思ったら、訓練されているのか、ブーバーやコータスなど炎系ポケモンを出してきた。だから、仕掛けたボコに糸を伸ばしてモンスターボールからポケモンを出させる。

 出て来たカメックスは事前に指示しておいた通り、即座に背中の砲門二つからハイドロポンプを放ち、水流を放って吹き飛ばしていく。水を受けたポケモン達は凍える風によって寒さに動きが遅くなる。

 

「火炎放射っ!」

「遅い」

 

 カメックスが口からも水鉄砲を出し、愛里寿はボコを回収し、メルクとカメックスに後退させながら、ハイドロポンプを連続で撃たせてから、カメックスを戻させる。次にメルクの雷パンチを地面に放たせて、関電させて倒す。元の道に戻ると、立ち直ったのか奥の部屋からギャロップ達がやってくる。

 

「バンギラス、地割れ」

 

 モンスターボールからバンギラスを出して地面を踏ませて地割れを発生させる。こちらに走ってきたギャロップ達は地割れに足を取られて転び、ボロボロになる。すくなくとも動けないだろう。

 

「バンギラス、ステルスロック。メルク、岩雪崩」

 

 ギャロップを埋めてからメルクに乗って後退する。後方に逃げると、流石にこれだけ暴れていたら、相手側も行動してくる。周りを火の海にしだして、愛里寿を逃げられなくする。

 

「そのまま突撃。バンギラス、暴れてていい」

 

 炎の中を突っ切り、前の腕でヘルガー達を掴んで前方の壁に激突させて埋め込み、戦闘不能にさせる。そのまま先に進む。高速で洞窟の中を移動すると当然ぶつかる。でも、壁にぶつかる時には鉄足を壁に打ち付けて進路を変えたりもして、できる限り速度を落とさない。そんな風に暴れながら途中でキテルグマなどを放してこちらも暴れさせる。レベル80クラスの子達なので十分な戦力になるはず。

 そんな風にアジトの中を掻きまわしていると、予定通りの位置に到着した。

 

「ボスゴドラ、穴を掘って道を繋げて。この方角にお願い」

「がぁ」

 

 ボスゴドラに穴を掘らせる。その音はバンギラスとキテルグマの暴れる音によって書き消されていく。何より洞窟もかなり危ない状況だ。メルクを戻して作った穴の中を移動する。土はその辺に固めておく。

 目的地に到着した。上にも穴を掘ってもらう。すると上が崩れてきて檻が落ちてくる。中身もちゃんとある事を確認できた。

 

「檻を食べて」

 

 ボスコドラは鉄を食べるのでこんな檻はペロリだ。

 

「ひっ、ひぃいいいいいぃぃぃ!」

「た、たすけ……」

「助けにきた。大人しくしていて」

「わ、わかった」

「あ、ああ」

 

 恐怖に震えている人達の様子を確認する。怪我はないみたいなので、ボスゴドラを殿にして、メタグロスのメルクを出して二人を乗せて急いで脱出する。愛里寿が先頭ですぐ後ろに二人を乗せてだ。掘った穴から出て、そのまま洞窟の外に出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ外だから、安心して」

「はい、助かりました」

「ああ、本当に……」

 

 言葉と同時に腹部に痛みが走り、下をみる。

 

「え?」

 

 そこには横にされたナイフが突き刺さっていた。二人の瞳をみると、様子がおかしい。まるで操れているみたいに自分が何をしているのかもわかっていない。そういえばホカゲを倒していなかった。アイツは炎で幻術を操る。催眠術だって使ってきてもおかしくない。

 その状態で光溢れる外に出ると、そこは地獄だった。周りは炎で包まれ、集まっていたポケモン協会の人達は大打撃を受けている。それをやったであろう人はアセロラと戦っていた。

 すぐに援護に入ろうとすると、背後で爆発が起きて山が吹き飛び岩が降り注いでくる。中にはキテルグマとバンギラスの姿もある。二匹は戦闘不能になっているみたいで、目を回しているので慌ててモンスターボールへ収納する。

 

「せっかくのアジトが台無しだな」

 

 そんな噴火のような惨状の中を悠々と歩いてくるポケモンに乗った神経質そうな男性。そのポケモンは噴火ポケモンのバクーダだ。

 

「リーダー、侵入者はどうします?」

「殺せ。まあ、そっちの嬢ちゃんは放っておいても死ぬだろうがな」

 

 愛里寿をみてそういう男性。腹部に刺さっているナイフがあった。とりあえず、操られている二人を軽く殴って気絶させる。

 

「メルク、このまま病院まで二人を搬送」

「ガァ」

 

 指示を出しながらメルクから飛び降りる。二人は驚いた表情をしているけど、無視してナイフを引き抜いて捨てる。直に魔術刻印が起動して治療を完了した。

 

「傷が治っただと? まるでポケモンだな」

「そういえば、ホムラを殴ったのも餓鬼だったな」

「アリス、大丈夫なの?」

「平気です。それよりもそっちの相手を……」

「ごめん、アセロラの相手は来たよ」

 

 その言葉と同時に空を見上げると一人の女性が大きな鳥に掴まれて飛んでいた。それはそれはとても綺麗な虹色とも称されるような美しい翼や尾羽を持った、大きな聖鳥の姿をしている。ついでに言うと体の色は炎を連想させるような朱色と黄色だ。

 

「ただいま」

「おう、戻ったか。で、そいつが新しい手持ちか」

「エンテイを捕まえようかと思ったけど、こっちをみつけたから手に入れてみた」

「んじゃあ、こっちも出してやるか。来い、ヒードラン」

 

 出て来たのはシンオウ地方が誕生した際にこぼれだした火の玉からハードマウンテンと共に生まれたとされる伝説の存在。そして、ガムで風船を作りながらとんでもないことをいうカガリが連れてきたのはホウオウ。

 

「伝説ポケモンが二体……?」

「嬢ちゃん達は戦力が結構あるみたいだったから、こっちもそれ相応のを用意してやったぞ」

「ちなみに三体だよ。アタシも持ってるから、ヒードラン」

「……」

 

 冷静に考えよう。楽勝の無双モードだと思ったら、()()()()()()()()()()。これはこちらも切り札を切るしかない。

 

「で、大人しく負けを認めてくれないかねえ?」

「その方が楽になれるぞ」

「ふぅ……止めです」

「諦めたか?」

「指揮官として、普通に戦うのは止めです。アセロラ、ホウオウはどうにかします。普通に頑張って相手をしてください」

「わかったよ」

「諦めるつもりはないと」

「当たり前。出番ですよ、()()()

 

 モンスターボールを投げてルギアを出す。わざわざ海から回収してきたのだから、働いてもらう。

 

『ほう、ホウオウが相手か』

「お願い」

『心得た』

「ちっ、相手も伝説のポケモンを持ってやがったか」

「これは本当に油断できないな」

「勝てると思うんだけどね。ホウオウ、ご指名だ。空でルギアと遊んでおいで」

 

 二匹の伝説が空に飛び上がり、さながら前作の頂上決戦のような戦いを繰り広げる。

 

「アセロラ、手持ちを全部だしてください」

「わかった。アリスを信じる!」

「上海、蓬莱! 貴女達もです」

「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」

 

 魔法を発動して、量産型上海と量産型蓬莱も含めて22体の人形を召喚する。その人形達から6体ずつメタグロスが呼び出される。132体のレベルカンストメタグロス。

 

「なんだそれ!」

「おいおい!」

「ふふふ、グラードンとカイオーガの前哨戦として実験してあげる。シロもジュカもお願い!」

「心得ました」

 

 ジュカは洞窟の方からでてきた。彼等を挟み撃ちにするみたいに。そして、まだ終わらない。

 

「サモン・ルクス!」

 

 使い魔であるルクスもこちらに呼び寄せる。造船所の警備などもはや知ったことじゃない。どうせどう足掻いてもアクア団は洞窟には到達できない。だったら、伝説を相手にするこっちの方が戦力がいる。

 

「あ、あの子だよ」

「明らかに俺達とは別種の力の使い手じゃねえか」

 

 さくら達もだしながら魔法を発動する。

 

「力の根源たる愛里寿が命じる。今一度真理を紐解き、我等に祝福(ギフト)を。アル・リベレイション・オーラⅩ.そして、ダウンⅩ!」

 

 ルギアも含めて味方全員に全能力強化魔法をかけ、相手には全能力を低下させる魔法を発動する。

 

「っ、無茶苦茶身体が重いっ」

「動けない、だと」

「化け物めっ!」

「圧倒的戦力で勝つ! あ、これ島田流じゃない。西住の方だ。まあいい」

「身体が軽い。これなら! そこの人、決着をつけるよ!」

「いいだろう! アタシもそう思っていた!」

 

 身体を重そうにしながら移動するカガリさんと元気いっぱいなアセロラ。ホウオウはルギアと空でバトルしているので放置していい。

 

「バクーダ、限界を超えろ! メガ進化! 大噴火!」

「さくら、カメックス、雨乞い! メタグロス達、撃ち落す!」

 

 空にいる大量のメタグロス達によって、降ってくる岩は全て撃ち落とされる。

 

「マグマッグ、日本晴れ!」

「させません」

 

 空から無数の石柱が降って来て、マグマッグの身体を押し潰す。ついでとばかりにマグマ団の人達にも襲い掛かる。そちらはヒードランが口から光線を吐いて撃ち落とした。平気で魔法を使ってダイレクトアタックをするシロちゃん。強い。ポケモンとしたら地面タイプになるのかな? 

 

「マスター、メタグロス達の指揮を取ります。例のアレは使いますか?」

「いらない」

「了解。これより火砲支援に入る。支援砲撃用意」

 

 ルクスが空を飛んでメタグロス達の指揮を行う。132体のメタグロス達がしっかりと隊列を組んで50体、50体、32体に別れる。そして50体が破壊光線を撃ち、次の50体が破壊光線を撃つ。1ターン動けないのをカバーして、連続で撃ちまくる。これには他のマグマ団達は一瞬でやられていく。32体のメタグロスは上海と蓬莱達の護衛として配置されているみたい。

 

「ヒードラン、熱風!」

 

 フィールドの奪い合い。でも、こちらは支援魔法と支援砲撃が入っているので火力が凄まじいことになっている。破壊光線の一撃は一発が地面にクレーターを作り、大地を破壊する。それが数十発と絶え間なく放たれるのだから涙目だ。

 

「マグマストームで薙ぎ払え! バクーダはスモッグ!」

「ハイドロポンプを空に打ち上げて水の量を増やして。それでスモッグは封じられる。マグマストームはシロ!」

「はい」

 

 シロが石の壁を作り出して溶岩の嵐を防ぐ。その壁にリフレクターをかけさせてさらに頑丈にしておく。

 

「ちっ、身代わり、ラスターカノン!」

「バンギラス、地割れ! ボスゴドラ、ヘビーボンバー!」

 

 地面を裂いてヒードランの体勢を崩し、そこにヘヴィメタルの特性を持つボスコドラのヘビーボンバー。360kgのボスゴドラの体重は720kgになり、重量によってメガ進化したバクーダを押し潰す。

 

「さくら、ヒードランに吹雪。今の間に包囲して」

「きゅー!」

 

 資質向上で通常の100レベルよりもはるかに強くなっているうちのポケモン達。ルギアであるさくらの吹雪で動きを封じて熱を奪い、空から大量の破壊光線が降ってくる。周りは水浸しになっていく。愛里寿はメルクの上に避難しておく。アセロラも乗せてあげよう。あちらのバトルはカガリさんが優勢。アセロラは支援要請をしていないから。

 

「リーダー、ここは撤退を……」

「させてくれねえよ」

 

 メタグロス達でこの辺りを包囲して何時でも撃てるようにしている。PPが無くなればラスターカノンにかわるだけだし、このままで大丈夫。

 

「ロック。セーフティー解除。チャンバー内部のエネルギー充電完了。弾頭をセット。消し飛ばす」

 

 弾丸が放たれる。ヒードランもマグマストームを放ち、防ごうとするが、異世界の魔法まで使って強化された一撃はあっさりと貫通し、ヒードランに着弾。その瞬間、ヒードランの身体にめり込んでいく。止まると同時に大爆発を起こす。それはまるでアリスがルギアに撃ったのと同じような物だ。弾丸の内部で生成されていたのだろう。

 ボロボロになったヒードランはそれでもまだ生きている。そんな彼の真っ正面にさくらがよって、耳元でエアロブラストを放つ。振動を伴って放たれたそれはヒードランの脳を揺さぶる。

 

「アセロラ、やりすぎだと思うな~」

「私もそう思う」

 

 それでも耐えたヒードランの攻撃はさくらを吹き飛ばし、こちらに火炎弾を放ってくる。愛里寿は乗っているメルクを軽く叩いて避けさせる。

 

「くそったれっ、戦力が違いすぎる!」

「当たり前。この子達はカイオーガとグラードンを相手するために用意した。準伝説ポケモンじゃ相手にならない。それに伝説ポケモンのホウオウはルギアが押さえている。まともに戦えばヒードランは凄く強い。でも、まともに戦えばの話」

 

 こちらは全能力を上げて、相手は全能力を下げている。その上で数と質による物量作戦。おそらく、ヒードランぐらいなら削り切れる。でも、カイオーガとグラードンは無理だろう。空にいるホウオウも。

 

「何故だ、何故邪魔をする! 人が住む地を広げるのだぞ!」

「そんな必要はない。今の土地だけでも十分に広い」

「そんなこと認められるか!」

「そうだ。だから、ここで死ね」

 

 ホカゲがいつの間にか愛里寿のすぐ側まで来ていて、首にナイフを刺してくる。だけど、その前にアリスの優秀な護衛はそいつの前にでる。

 

「邪魔だ!」

 

 切られてあっさりと弾き飛ばされる。

 

「ボコぉぉぉぉぉっ!」

「これで終わりだ」

 

 愛里寿が押し倒され、顔を手で押さえつけられる。必死に手を伸ばしてボコを掴もうとするけれど、ナイフが愛里寿の首に届く──

 

「なっ」

 

 ──その前にホカゲが首を斬られ、心臓を刺し貫かれた。倒れてくる彼の背後には宙に浮かび、血塗れの大剣と槍を持つ蓬莱と上海の姿がある。

 

「重い」

 

 ホカゲの死体を蹴り飛ばして立ち上がる。愛里寿の可愛い身体になんてことをしてくれるんだ、このロリコンめ。

 

「アリス、大丈夫?」

「大丈夫。蓬莱と上海が守ってくれたから。ありがとう」

「ホラーイ」

「シャンハーイ」

 

 二人はハイタッチをした後、すぐに護衛に戻る。

 

「アセロラも頑張って」

「うん」

 

 アセロラの方もメガ進化対決をしだしているし、こちらはいけそうだ。

 

「メタグロス全部隊に通達。降下してマグマ団を捕獲せよ」

「イエス、マスター」

 

 ルクス達が一斉に降下してマグマ団を押さえる。愛里寿も空を飛んで移動してマグマ団の棟梁の下へとくる。そのタイミングでさくらの声が聞こえると、ヒードランの上に立って勝利の雄叫びをあげていた。ヒードランは辛うじて生きているようだ。

 

「モンスターボールをもらいます」

「まだだ、まだ終われん!」

「もう終わり。チェックメイト」

 

 ヒードランのボールを取り上げて、瀕死になっているヒードランを回収。他のボールも取り上げて生きているポケモン達を助けていく。

 

『こっちは終わったよ~そっちは~?』

『こちらも終わった』

 

 ルギアが空から降りてきた。その口にはホウオウが咥えられており、ルギアの体積も結構減っている。第三形態くらい? とりあえず、資質向上や諏訪子ちゃんの加護があり、愛里寿の援護もあったルギアが勝ったのは当然の結果。さて、羽はもらっておこう。

 

「ちっ、ここまでか」

「大人しく投降して」

「そうだよ!」

「嫌だね」

 

 カガリさんが何かの木の実を投げる。するとそれが爆発して周りに煙幕を出していく。その煙幕の中から飛び退る姿が見え、追撃を指示する。ほどなくして戻ってきた追撃部隊はオオスバメを連れてもどってきたけれど、カガリとリーダーの姿はなかった。周りを確かめると穴が掘られていて、オオスバメが囮として切り捨てられたこともわかった。

 

「どうする?」

 

 アセロラが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「待って。なんでホウオウのボールを持ってるの?」

「アセロラ、悪い子だから。やられたらやり返すの」

「えっと?」

「探知機、盗まれたんだ。だから、アセロラも盗んであげたの」

「……探知機とホウオウ。随分と高くついたね」

「だね~。それでアリス、いる?」

「いる~!」

 

 必死で手を伸ばすと、アセロラは高くあげてしまった。

 

「でもあげな~い」

「え~」

「だって、足が欲しいんもん」

「贅沢だよ! というか、絶対普段使いには使えないよ」

「だよね~。知ってる。だから、メタグロス10体と交換であげるよ」

「ありがとう」

 

 メタグロス達で、アセロラのところに行っても良い子達を選んで交換してもらう。気分がよくなった愛里寿は生き残った人達を治療して、全員を病院に運んだ。リーダーとカガリさん、それにホムラがいないけれどマグマ団はほぼ壊滅だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 造船所に戻ったら、潜水艇がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ドサイドンとか使えなかった。

ホウオウさん、残念だったな。ルギアの方が強いんだ。
90超えたからカガリの手持ちに伝説が追加されたけど、普通に考えてヒードランでも十分にやばい。アセロラ基準でも。
完封のようにされていますが、愛里寿が持ちだした戦力がおかしいだけです。むしろ、レベル100で素質向上で普通よりもはるかに強いメタグロス達、50体の破壊光線を絶え間なく浴びてもしばらくの間耐えきれるおかしさ。

カガリさんの判定07.スペシャルで成功。でも鳳凰を盗まれたので戦力ダウン。
アセロラは鳳凰をあっさりと渡してますが、ちゃんと危険性を認識しているからです。子供達に被害がでたら困るからです。



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51話

後半、残酷描写があります。前半は基本的にほのぼの?


 

 

 

 マグマ団 カガリ

 

 

 

 あ~くそっ、ホウオウのモンスターボールを奪われた。せっかく木の実とホカゲの炎を使った奴を組み合わせて作った特別製ポロックで捕まえたってのに……運がない。探知機を盗んだ意趣返しをされたってわけだ。

 

「これからどうするんだよ、頭領。皆捕まっただろ」

 

 ホムラが隠れ住んでいる家に私達は逃げてきた。包帯を巻いて療養しているホムラが、片手で飲み物を用意してくれている。私は何もやる気が起きない。

 

「決まってるだろ。グラードンの復活を目指す」

「それは放っておいても、あの子がやってくれるんじゃない?」

「何?」

「だって、あの子の目的もグラードンとカイオーガって言ってたし……」

「確かにそうだが、アイツは蘇らせた後に叩き潰すつもりだろう」

「おいおい、グラードンとカイオーガを叩き潰すって、その餓鬼やばいな」

「実際やばいわよ。ルギアを二匹も持ってたし、それに今度はあっちにアタシのホウオウと頭領のヒードランがいるわけだし」

「伝説ポケモンを使ってくるわけか……なら、確かに勝てるかもしれないな。そいつに頼んで土地を広げてもらうのはどうだ?」

「無理だ。あの餓鬼は伝説ポケモン相手にポケモンを使った戦争をやろうとしてやがる。そうじゃないとあんな運用の仕方はしない」

「あ~」

 

 こっちには被害がなかったけれど、横で見てて寒気がした。絶え間なく上空から放たれる破壊の力。地上に居たら対処なんてできない。ましてや、一つの生命のように完全に統率されていた。それをチャンピオンのポケモンと同種でやられたんだから、たまったもんじゃない。

 

「少なくともこちらも同じ規模の戦力が無いと話し合いにすらならねえよ」

「それでも目指すのか」

「ああ」

「わかった。俺は協力する。カガリはどうする?」

「アタシは……」

 

 正直、勝てる気がしない。それこそ伝説ポケモンを数体用意するレベルだ。正直、それは無理だろう。捕まえられてもエンテイくらいか。他に伝説ポケモンって、別地方に遠征するしかない。いや、いるにはいるし、そいつらを狙いに行くにしても出会う運と捕まえる実力がいるし、無理でしょ。

 

「悪いけど、アタシは一旦ここで抜けさせてもらうよ」

「なんだと?」

「ヒードランしか居ないんだ。勝てない戦いに参加するつもりはない。そもそもアタシの目的は暴れたかっただけだしね」

「てめぇ……」

「まあまあ、どっちにしろ考える時間は必要だろう。俺だって身体を治さないといけないし、頭領だってポケモンを集めないと無理だろ」

「ちっ」

「正直、今は何もやる気も湧いてこないし、適当に旅して考えてみようと思ってる」

「まあ、それがいいだろうな」

「旅に行くのは良いが、ポケモンは置いていけ」

「やだね。これはアタシのだ」

「あ?」

「やるっての?」

 

 頭領と睨み付けてあっていると、ホムラがアタシ達の間に入ってくる。

 

「カガリ、旅に行くのならさっさと行け」

「おい、ポケモンをどうするんだよ!」

「カガリが置いていくはずないって。それに戦いになったら、ポケモンのない頭領や俺の手持ちじゃカガリには叶わねえよ」

「ちっ。覚えてろよ」

「やだね。んじゃ、世話になったねホムラ」

「おう」

 

 外に出てからオオスバメを出そうとして、囮にしたことを思いだした。まあ、あのポケモンはマグマ団から貰ったものでアタシの自前ではないから別にいい。気にはなるけれど。

 

「リザードン、お願い」

 

 取り出したリザードンに飛び乗って空を移動する。しばらく飛んでから適当な人が居ない所でマグマ団の服を脱いで着替える。服は燃やして処分し、今度はキュウコンに乗って移動する。

 

「こん?」

「ああ、どこだっていいよ。適当に頼む」

 

 キュウコンの背中に顔を埋めてそのまま眠る。本当にやる気が起きない。このまま何処かで隠遁生活するのもいいかもしれない。いや、あの小娘との決着はつけないといけないけど。

 

 

 

 

「お姉さん、大丈夫?」

 

 気が付いたら眠っていたみたいで、何処かの誰かに声をかけられて身体を起こす。すると目の前には身覚えるのある奴がいた。

 

「アンタは……」

「ボクはルビー。お姉さんが大丈夫ならいいけど、いくら炎ポケモンの上だとしても寝てたら風引くよ」

「ああ、そうだね……ん~ここ、何処?」

「カイナだけど」

「そう。それでアンタは……」

「ルビー」

「ルビーは何しているの?」

「コンテストの練習だよ。ちょっと前にポケモン達と一緒に大怪我したし、勘を取り戻そうと思ってね。お姉さんは?」

「ボロ負けした上にポケモンを奪われてね。その傷心旅行」

「酷いね」

「まったくだ。今度会ったら取り返してやる。まあ、その気持ちも湧き上がってこないんだけどね。自業自得の部分もあるし」

「そうなんだ。まあ、暇だったらボクの演技を見てくれない?」

「いいけど、辛辣だからね」

「経験者?」

「何個かリボンも取ってるよ」

「それはラッキーだ。じゃあ、行くよ。RURU!」

 

 ルビーの演技を見て、容赦なく駄目だししてやり、改善点も教えてやる。生意気な事を言ってきたから、キュウコンで本物の演技を見せてやる。九つの尻尾から炎を出して空中で爆発させて花火みたいにしてやればとっても嬉しそうにした。

 

「もっと教えてくれない?」

「それはいいけど、何か飲み物を買ってきてから……」

 

 ポケットから財布を取り出そうとして気付いてしまった。やばい。やばいやばいやばいやばい。

 

「どうしたの?」

「……ちょっと着てた服を燃やしたんだけどさ……」

「なんで燃やしたのかは知らないけど、まさか財布も一緒に燃やしたなんてことは……」

「……」

「……」

「し、仕方なかったんだ。何も気にせずやっちゃったから」

「ぷっ、あははははははっ!」

「笑うな!」

 

 顔が真っ赤になってきて、思わずキュウコンに指示しようとしたら、真顔になって地面に正座した。

 

「お姉さん、お願いがあります!」

「なに?」

「師匠になってくれない?」

「やだ」

「お願い」

「面倒」

「授業料を出す」

「……」

「三食と宿賃とかも出す。それとボクの護衛代も出すよ。両親が次に旅に出る時は強い人を護衛につけるって言われててさ、お姉さんなら丁度いいかなって」

「なんでアタシが強いってわかるんだ?」

「さっきの演技もそうだけど、キュウコンの状態を見ただけでわかるよ。これでもジムリーダーの息子だから、その子が激戦を潜り抜けて来たってね。それにお姉さんならコンテストの事も教えてくれるでしょ?」

「だけど……アタシは引退してるしね」

「それでもいいから。それにやる事もなくて、お金もないんだよね? 身分証もないんじゃない?」

「……まあいいか。考えるのも面倒だし。契約内容は緊急時の護衛とコンテストバトルに関して教えること。代わりに金銭とアタシの世話。これでいいんだね?」

「それでいいよ」

 

 つまり、適当に喰っちゃ寝しながら教えるだけ教えて身の回りの世話を全部してもらえば……凄く楽そうだ。考える気もおきないし、もう面倒なことは任せてしまえばいい。これはアタシにとって得だな。ジムリーダーの子供なら、アタシの保証にもなる。

 

「じゃあ、契約成立だ」

「お姉さん、名前は?」

「カガリ。よろしく、ルビー」

「こちらこそ。じゃあ、ちょっと両親に、母さんにお願いしてこよう。行くよ」

「ちょっ、いきなり!」

 

 手を握られてそのまま連れていかれる。キュウコンもやれやれといった感じでついてくるし、助ける気はないみたい。というか、どことなく嬉しそうにしている。もしかして、キュウコンもアタシをコンテストに復帰させたいのか? 

 

 

 

 

「母さん、紹介するね! カガリさん! ボクの大事な人!」

「え? ルビーがお嫁さんを連れてきたの!」

「「違う!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクア団 アオギリ

 

 

 

 

 

 

「それでは無事に潜水艇を奪えたのですね?」

『はい。幾度も邪魔をしてきた水色の髪の毛をしたルクスと呼ばれていた子供が居なくなり、アセロラと呼ばれていた子供もいませんでした』

 

 私達アクア団は二人の子供によって、潜水艇の奪取を阻まれていました。彼女達の一人は人形劇をしていた子供の一人で、もう片方の子供はわかりませんが、普通の人間ではありません。ポケモン達を普通に殴り飛ばし、制圧していましたからね。実力もジムリーダー以上で、まともに戦えばかなりの戦力を消費することになりますが、倒せないことはないと思っていました。ただし、その場合は彼女達が背後にして戦っている潜水艇を傷付けることになります。ここで問題なのは彼女達が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いざという時は攻撃を回避し、潜水艇を盾にしてくるのです。壊れた潜水艇など、私達には不要の長物。しかし、修理する技術も資材もあるわけではないのです。そんな物があれば自分達で作っていますからね。そういう訳で彼女達の隙をついて奪えたのは行幸でした。

 

「艦長の方はどうでしたか?」

『すいません。見つかりませんでした。どうやらポケモン協会に匿われているとの情報は入ってきました』

「わかりました。ご苦労様でした。イズミさんはそのまま潜水艇を持ってきて、ドッグに入れておいてください」

『了解です』

 

 さて、次の問題はウシオさんですね。連絡を入れてみます。

 

「ウシオさん、煙突山の件はどうなりましたか?」

『失敗しました……サファイアとかいう子供は始末できそうな時にジムリーダーの連中が全員で押し寄せてきまして……』

「ジムリーダーが全員ですか……」

 

 これは情報が漏れている事を考えないといけませんね。

 

「残っている人数は?」

『9人です』

「わかりました。戻ってきなさい」

『わかりました』

 

 どちらにせよ、戦力がかなり減りました。補充を考えないといけませんね。

 

「総帥」

 

 部屋にスキンヘッドの男性が入ってきました。なにやら慌てているようです。

 

「どうしましたか?」

「マグマ団が壊滅しました」

「本当ですか? マツブサは?」

「幹部の一人と逃げたようですが、一人は殺されました。残っているのは幹部二人と本人だけかもしれません。それ以外はポケモン協会に捕まりましたので」

「なるほど、吉報ですね。彼等に私達の邪魔をする力はなくなったのですから」

「はい。戦力が回復するまで時間がかかるでしょう」

「では、これより海底洞窟に向かいます。準備なさい」

「はっ!」

 

 これで私の願いがもうまもなく叶いますね。

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに準備をして、部下達と共に潜水艇に乗り込み、起動部品をセットして深海へと目指します。しばらくして目的地に到達しようとした時、起動部品が停止しました。

 

「どういうことですか?」

「プログラムは正常に動いているはず……」

「なんだこれ!」

「どうしました?」

 

 部下の一人がモニターを指差しています。そこを覗き込むと、モニターには姿を消した人形劇の少女の姿がありました。

 

『潜水艇をご利用の皆様。潜水艇は禁止海域に到達しました。パスワードを入力してください』

「ぱ、パスワード?」

「誰かわかりますか?」

「い、いえ……」

『パスワードが確認できません。これより、自壊シークエンスを開始します。自壊シークエンスを停止するにはパスワードを入力してください』

 

 モニターにタイムリミットであろう五分が表示されていますね。電気が消えて赤いランプが点滅しています。

 

「コントロールはできますか?」

「可能ですが、浮上はできないようにロックされています」

 

 やられました。ここで私達を皆殺しにするつもりですか。窓を確認すると、外にはポケモン達がやってきています。彼等は野生ではありえないように隊列を組み、動きの遅いポケモンを背中などに乗せてこちらに向かってきています。明らかにトレーナーの指示を受けています。

 

「水ポケモンで脱出しましょう。酸素ボンベも持ち込んでいます」

「そういうわけにはいかないようですよ。窓を見なさい」

「あれはギャラドス?」

「他にも色々といるようです。普通にでた所で襲われるでしょう……海底洞窟までの距離は?」

「まだかかります」

「ふむ。確か、脱出艇が用意されていますよね?」

「あります。ですが、とても全員が入れる物じゃないです」

「わかりました。賭けになりますが、まずは上を海底洞窟に向けてください。それから酸素ボンベを装着して脱出します」

「ですが、そうなると深海に向かうことに……」

「それでいいのです。このままでは脱出できません。でしたら、一か八か海底洞窟を目指しますよ」

「「「了解です!」」」

「メンバーを決めます。残念ですが、ウシオさんは無理です」

「な、なんでですか!」

「大きさを考えてください。脱出艇に入れません」

「っ! い、嫌だ、死にたくない!」

「ドククラゲ」

 

 ウシオさんに毒を打ち、動けなくします。これで邪魔者はいなくなりました。

 

「では、皆さん。覚悟を決めてください。カイオーガを解放したら助けに来ます」

「……はい……」

 

 全員が準備し、潜水スーツに着替えてから脱出艇に乗ります。五人ぐらいが無茶しては入れるぐらいです。それ以外の人には眠ってもらいました。進路を固定し、脱出艇の発射用意をします。

 最大船速で海底洞窟に向かうと、外のポケモン達から攻撃して船体に穴が空いていく。その状況で海底に垂直に突き刺さりました。そのまましばらく待ち、ポケモン達が離れてから脱出艇の起動スイッチを押します。すると発射された脱出艇はそのまま海底洞窟に向かっていきます。

 海底洞窟の底に到着し、扉をポケモンで壊してからゆっくりと慎重に浮上します。しばらくすると灯りが見えてきました。浮上すると、そこは洞窟の中で空気もあるようです。

 

「どうやら無事に到着できたようですね」

「総帥、これからどうしますか?」

「まずは探索しましょう。誰からいきますか?」

 

 私は後に回りましょう。あの悪辣さから言って、彼女達が既にここに到達していれば絶対に何かを仕掛けています。すくなくとも私ならそうします。外のポケモンは陽動でここが本命でしょう。

 

「ここはレディーファーストで」

「ではイズミさん、お願いします」

「ええ、ありがとうございます。では行きます」

 

 彼女が陸に上がり、しばらく歩くと爆発した。こちらに飛んできた彼女の下半身は存在していなかった。

 

「総帥、これは……」

「わかりません。ですが、トラップが仕掛けられているようです。彼女には悪いですが、陸に上がって彼女の死体を転がしてください。地面の爆発から言って、埋まっているみたいです」

「重量に反応ですか」

「シズクさん、指示をしてください」

「わかりました」

 

 死体を転がすと、案の定、爆発しました。予想通り重量で爆発するのでしょう。

 

「ポケモン達に水鉄砲で地面をぬかるませなさい。それでおそらく大丈夫でしょう」

「わかりました」

 

 部下の一人が先に進み、埋められている物を水で吹き飛ばして爆発させる。次第に感覚がわかってきたのか、埋まっている物を回収してみます。部下がそれを持ち上げると爆発した。重量ではないはずなのに、まさか空気ですら反応するのですか? 

 

「全員、酸素ボンベを着用しなさい! 毒がきます!」

 

 急いで残り三人で着用し、しばらく待つ。

 

「毒はなさそうですね」

「流石に洞窟で毒を使うことはありませんでしたか」

「とりあえず、遠くから処理していきましょう」

「そうですね」

 

 時間をかけてゆっくりと処理をしていく。ただ、中には外れもあったし、毒物のような煙を出す物まであった。三つに一つが本物でそれ以外は偽物という悪辣さ。必死に処理をしていくと、ようやく別れ道までやってこれました。

 

「ここからが問題ですね」

「そうですね……」

「どうしますか?」

「行きますよ」

 

 まず右からですね。右に移動すると、そこにはカイオーガが眠っていた。ついについにやって来ました! 

 

「さあ、眠りから目覚めるのです、カイオーガ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




地雷原「人海戦術とポケモンの力には勝てなかったよ」
海底のポケモン達「倒したと思った。司令塔がいないから、悪い」
アリス「自爆特攻で到達するなんて思わなかった」


地雷原の処理なんてポケモン居たら対処簡単だよね!


ルビーとカガリは私がこの二人が好きなだけです。ルビー君がどっちとくっつくかはわかりません。二人かも知れないし。
カガリさんとルビー君は洞窟事件の前なので、敵としてちゃんと会って居ません。なのでこんな感じになっております。


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52話

 

 

 

 

どうしてこうなったぁぁぁぁっ! 

 

 

 

 

 目が覚めたらグラードンとカイオーガが復活していた。おかしい。おかしいのだ。アリスは昨日、マグマ団の始末を終えて皆とお風呂に入って洗いっこして、一緒の布団で抱き合って裸で寝ていただけなのに! 

 

 

 

 

 

 

 

 マグマ団の団員と一部を除いたポケモン達をポケモン協会の人達に引き渡した愛里寿達は、もう用が無くなったのでさっさと別々に別れてホテルに向かうことにする。島田愛里寿の姿でポケモン協会の追手から逃げていく。

 ポケモン協会が愛里寿を追ってきたのは、愛里寿がルギア二匹を所持しているからだろう。それに準伝説ポケモンのヒードランと伝説ポケモンのホウオウまで手に入れたのだから、狙わないはずがない。アリスが見た目子供なのをいい事に、危険なポケモンだからと言って取り上げることもありえる。特にヒードラン、ホウオウはマグマ団のポケモンだったということで大義名分もあることだしね。もちろん、渡すつもりなんてない。

 お店に入ってから、女子トイレに入って誰もいないことを確認する。個室に入って変身を解いてでてから手を洗ってそのまま外にでていく。すると外に女子トイレを伺っている人達がいたので、警備員の人達に連絡してからホテルに向かうタクシーに乗って戻る。

 ホテルに到着したアリスは部屋までエレベーターで上がり、取っている部屋に入る。部屋の中にはすでに皆が戻っていた。広い部屋の中央にあるテーブルには沢山の料理が並べられているけれど、誰も食べていない。

 

「ちゃんと撒いて来た?」

「撒いて来たよ」

「こちらも問題なく」

「大丈夫」

「そうなんですね。食事はまだみたいですね」

「うん。皆で食べようと思ってたから」

「……マスターを待つの……当然……」

「こちらの席にどうぞ」

「うん」

 

 シロに案内された席に座って、改めて料理をみる。どれもこれもとっても豪勢な料理で、とても美味しそうだ。伊勢海老のような物や美味しそうお肉などが沢山ある。お腹が減っていたので、皆でいっぱい食べていく。

 高級ホテルのスイートだけあって、どれも美味しい。お金はデボンコーポレーションから貰っているので支払っているから大丈夫。ポケモン達も皆だしてあげる。大きい子達は変身魔法を使って身体を小さくしてあげたので、問題ない。一部のポケモン達にはこの方法が大好評だ。なにせ量は変わらないので小さい身体で沢山食べられるからだ。ただ、新入りのヒードランとホウオウに関しては出さない。だしたら大変なことになる可能性もあるからね。

 

「美味しいね~」

「うん。確かに味がいいですね」

「こちらもどうぞ」

 

 シロから差し出された料理を少しだけ食べ、どの料理も少し食べて味わっていく。そんなに食べられないし、食べる必要もないからね。

 

「ん~おいしぃ~」

「こっちも美味しい」

 

 アセロラとジュカが大きな海老の皮をむいてむしゃぶりついている。ルクスとメルクはアリスが用意したアダマンタイトを食べている。オリハルコンとかも食べているけれど、歯ごたえや味が違うらしい。アリスにはわからないので任せる。

 子供の味覚になっているので、辛い物は駄目になっているから甘い物とかを食べていく。皆の世話をしてくれるシロはあまり食べていないので、アリスが食べさせてあげる。

 

「シロ、あ~ん」

「えっと……」

「美味しいから食べてみて。それともアリスのは食べられない?」

「わ、わかりました。あ~ん」

 

 はむっと、差し出したローストビーフを口に入れ、身体を震わせる。

 

「どう?」

「美味しいです」

「それならよかった。じゃあ、こっちね」

「おじょ……ご主人様の食事は……」

「アリスは味見だけでいいから、皆で食べてね。その方が嬉しいから」

「かしこまりました」

「アリス、アセロラにも食べさせて~」

「仕方ないですね。じゃあ、こちらを……」

 

 互いに食べさせっこしていろんな味を楽しむ。女の子同士がよくやっていたけれど、小食なのでこういうのも悪くはない。って、間接キスしている。うん、気にしないようにしよう。それになんだかとっても美味しいジュースもある。それをいっぱい飲んでいくと、うつらうつらとしてきた。

 

 

 

「満腹満腹。あ、アリスちゃん、もう眠い?」

「ん~眠いけど、お風呂は入りたい」

 

 熱で凄い汗をかいたし、埃も大量にかぶってる。幼い子供の身体では特に体力の消耗が激しい。メルクに乗りながらでもそれは変わらない。島田愛里寿に変身していてもそれはかわらない。そもそも彼女は肉体的には普通の幼い女の子でしかない。いや、戦車に乗って、砲撃の衝撃とか耐えているから少し違うかもしれないけど。

 魔法少女としてのスペックはある程度付与されるが、それでも疲れは残るし、気持ち悪い感覚は魔法で綺麗にしても残る感じがする。ただ、これはアリスが普通の人だった頃の感覚を引きずっていて、魔法ぐらいじゃ完全に綺麗にならないと思ってしまっているのかも知れない。

 

「じゃあ、みんなでお風呂に入ろ~」

「ん~」

 

 アセロラがアリスの手を引いて風呂場へと連れていかれる。脱衣所、シロ達に服を脱がされていく。アセロラ達も皆、服を脱いで一緒に入っていくけれど……アレ、どうしてこうなったんだっけ? 

 

「こっちだよ~。ここに座って~」

「わかった」

 

 裸になって風呂場の椅子に座ってアセロラに身体を洗われていく。それでだんだんと意識が覚醒していく。まず、はっきりした視界に入ってきたのは、鏡に映る裸の自分の姿。これはまあ、この頃見慣れてきた。顔は真っ赤になるし、変な気分になってくるけどね。

 本当はいけないことだけど、流石に目を瞑っていてはお風呂なんて入れないし、トイレだってある。上海と蓬莱がいたらからある程度サポートしてくれたけれど、流石に完全介護はない。いくらなんでもそこまで堕落するつもりはないし。そんな訳で自分の身体はなんとかなってきている。

 鏡には鼻歌を歌いながら、アリスの頭を洗っているアセロラの姿。当然、服は着ていない。他にはシロやジュカ、ルクスの姿もあって順番を待っている。ポケモン達も小さなまま入ってきているけど、かなり広いので問題ないみたい。

 

「……どうしてこうなった?」

 

 ポケモン姿やモンスターの姿ならともかく、人型で入るなんてしなかった。なのになんでだろう? 

 

「あ、めがぐるぐるしてる~」

「あ、アセロラ……たしか、ご飯を食べてたはず……」

「アリスが眠そうにしてたから、お風呂に入ってから寝ようと思ってね」

「な、なるほど……でも、いいましたよね?」

「なにが~?」

「アリスは女の子が好きなんですよ。それなのにこんなことをするなんて、襲ってっていってる……わぷっ!」

「襲ってもいいよ? アリスにそんな事はできないと思うけれどね」

「くっ……」

 

 アセロラにお湯をかけられてシャンプーを流される。頭をふって水滴を飛ばして、皆をみないようにする。

 

「それとアリスはお仕事があるよ?」

「え?」

「マスター、いつもの通りに洗って欲しい」

「私も」

「お願いいたします」

 

 確かに人型ではないけれど、外で身体を洗ってあげている。けども、これはまた別だと思う。

 

「ひ、人型で?」

「元の姿になりますと、壊れますから」

 

 彼女達の身体を人型の状態で洗ったら一線を越えてしまう。しかし、洗わないと納得しないのも目を見たらわかるし、皆が待っている。

 

「いいでしょう。洗ってあげます」

「お~恥ずかしがってるアリスちゃんがもっとみれ──」

「来なさい、上海、蓬莱!」

 

 量産型も含めて20体の上海と蓬莱を呼び出し、その子達を使って洗っていってもらう。

 

「この子達はアリスが操作するんだから、アリスが洗ってることにはかわりありません」

「ちょっ!?」

「やってしまいなさい!」

「「「あ~~!」」」

 

 上海と蓬莱を操り、全員をまるっと洗ってあげる。

 

「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」

 

 全員を並べて綺麗に身体を洗っていく。泡だらけにして身体を綺麗にしてあげる。

 

「思ってたのと違う~」

「これはこれで、いい」

「確かに」

 

 きっちりと洗いながら、アリスは外に出ようとするけれど捕まって湯船に入れられた。お湯が気持ち良くてまたうつらうつらとしてくる。

 

「そういえば料理は誰が用意したんですか?」

「シロだよ」

「はい。私が用意しました。メニューは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あちら、東方世界か。そうなると、もしかしてお酒があった? 

 

「シロ、お酒も用意した?」

「はい。御用いしました。ご主人様はよくお飲みしておりましたね。だめでしたか?」

「そっかー。それなら仕方ないね~」

 

 久しぶりに飲んだお酒でいい気分になる。他の子達も入ってきたので湯船に身体をつけてたっぷりと英気を養う。お湯を楽しんでから外に出て、もう眠いのでそのまま皆で着替えずにベッドで寝てしまった。

 

 

 

 そして、目覚めたら隣に裸の皆がいた。皆で抱き合ってそのまま眠っていたみたい。それも服をきずに。まあ、みんなお酒も入っていたみたいだし、しかたないのかもしれない。というか、お酒を飲んでいないアセロラの仕業に違いない。

 

「まったく……」

 

 ベッドから出て着替えようとしたら、グラードンとカイオーガが復活していることが体内に融合している藍色の玉と紅色の玉から伝わってきた。

 

 

 

どうしてこうなったぁぁぁぁっ! 

 

 

 

 

 

 



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53話

 

 

 

 

 

 カイオーガとグラードンが復活した。何れ復活させるはずだったけれど、今はまだ早い。何故ならこちらの戦力が整っていないから。といっても、これはもう整えるしかない。

 レジロック、レジアイス、レジスチルの三体を急いで手に入れないといけなくなった。ただ、アリスはそれよりもやることがある。

 

「アリスが命じる。グラードン、カイオーガ、大海に移動。そこで殺し合え」

 

 藍色の玉と緋色の玉を使ってカイオーガとグラードンに命じ、日本でいう太平洋に移動させ。そこの深海で戦わせる。否、殺し合わせる。なりふり構わず全力で。海底での戦いなら、距離が空いている分、被害は押さえられる……はずだ。

 

「アリス、どうしたの? 裸のまま立って……もしかして……」

「アセロラ、違います。ちょっとやばいことが起きました」

「やばいこと?」

「カイオーガとグラードンが復活しました」

「本当に?」

「うん」

 

 ニュースをつけると、海面温度の急上昇や地震、津波の警報が出されている。それによると、海の近くに住んでいる人達は避難するように伝えられている。

 

「一応、被害が出さないように移動はさせたから、これからアリスも移動します」

 

 綺麗になった服に着替える。もう女の子の服を着るのもなれてきた。旧アリスの服に着替えてから、ポケモン達の状態を確認する。一応、回復させてはいるけれど、完全ではない。皆をボールに戻して携帯式回復装置に繋げて治療させつつ、進もうか。

 

「さて、皆。起きて着替えて」

「ん~」

「ふふぁ~」

 

 起きて来た子達を着替えさせ、ルームサービスで食事を用意してもらう。顔を洗ってから急いで食事をとってもらう。

 

「アセロラ、ここからは本当に危険ですから、逃げ遅れた人を避難させたり、救助をしたりして欲しいんだけど、いい?」

「わかった。海で戦うのならアリスの邪魔になるしね~」

「ルクスはアリスを乗せていって」

「マスターの御心のままに」

「シロとジュカ、上海と蓬莱はアリスの護衛をお願いね。多分、アリスは動けなくなるから」

「任せて」

「お任せください。あらゆる障害は排除してみせます」

「ありがとう」

「皆、ちゃんと戻ってきてね」

「もちろん。では、行きますよ」

「ん」

 

 上海と蓬莱を肩に乗せ、ジュカを抱きしめてホテルの屋上に移動する。そこでルクスが元の姿に戻ってアリスとシロが乗る。用意されている席に座ってしっかりとシートベルトをつける。

 

「じゃあ、アセロラ。行ってきますね」

「いってらっしゃい~」

「ルクス、海上に向かってください」

「任せて」

「では、私はご主人様が落ちないように抱きしめておきますね」

「お願い」

 

 後ろからシロに抱きしめられ、しっかりと身体を固定される。これでアリスが落ちることはない。ルクスが空へと上がり、海の方へと飛んでいく。

 海の方に出ると、高波が何度も港や浜辺に押し寄せているのがわかる。小さなポケモン達が浜辺に押し流され、救助されていたりもするので、本当にやばい状況だと分かる。カイオーガとグラードンはこちらの指示通り、殺し合ってくれている。でも、場所はホウエンからあまり離れていっていない。なのでこちらから念じて指示を出す。

 

 “互いに殺し合いながら移動せよ”

 ““■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!! ””

 

 それぞれの玉を通して二匹の叫びが入ってくる。身体の底から伝わってくる感情に恐怖を覚え、震えてきた。それに二匹が行使している力を使用するために使われているだろう膨大な情報が伝わってきて、パンクしそうになる。海面の温度とか、相手の攻撃予測とか、それらを惑星一つをまるまる計算してしまっている。それほど膨大な領域の計算を二匹分叩き込まれるのだから、たまったものじゃない。そんなの、色んなアリスを取り込んだアリスでも演算領域が足りずに耐えられない。アリスが耐えられるのはARMSのアリスのお蔭……待てよ? 

 ARMSのアリスは人類最高の頭脳。これでアリスは耐えられている。ただ、それはあくまで一つのアリスだけ。アリスの細胞はナノマシンによってできている。つまり機械。なら、もう一つのアリスが使えるし、おそらく使われているナノマシンは脳だけ。今は全身が機械でもあるのだからもっと演算できる場所はあるはず。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」

 

 AIとしてのアリスを使い、全身の演算領域を解放させ、そちらに情報を回していく。世界が広がるような感じがするけれど、気のせいではないと思われる。どちらにせよ、アリスはグラードンとカイオーガに対応できる。

 

「目標海域に到達」

「ご苦労様」

 

 空からみるとまず、海水が消滅していて海にぽっかりと大きな穴が出て生きている。穴の底にはグラードンの姿があり、周りの海水の中にはカイオーガの姿がある。

 グラードンは体色は赤色で、腹部の方は灰色でところどころに黒い模様がある二足歩行の恐竜のような姿をしている。首と尻尾に3本、腰に2本づつトゲが生えており、腕の爪は4本で、足には3本づつある。

 カイオーガはシャチやヒゲクジラ類、ジンベイザメやマンタ、クラゲや深海魚など様々な海洋生物の要素を掛け合わせたかの様な姿をした美しいポケモン。所々に紅いラインの特徴的な模様が描かれていて、大きな胸ヒレの先には2本の大きな手の様なヒレがある。背ヒレは2つ、尾ヒレは4つに分かれている。 体色は青く、腹部は白い。

 どちらも巨大で力強い。グラードンの上空は晴れていて太陽の光が降り注いで水を蒸発させていく。それ以外は逆に雨が降り注いでいて大量の水が流れ込んでいる。蒸発と流入が続き、周りには蒸気が立ち込めてしまっていた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」

 

 グラードンが叫ぶと、海底が隆起してそこから噴火が発生する。内部から放たれたマグマの弾丸がカイオーガへと放たれる。カイオーガはそれを濁流によって押し流してグラードンを逆い攻める。グラードンは地面を踏みしめて地震を発生さて海底を盛り上げて壁を作って防ぐ。それらの攻防がたったの数秒で行われ、余波だけで衝撃波が発せられる。

 

「ルクス、もっと距離を取ってください」

「了解」

 

 ルクスに離れるように指示を出しながらグラードンとカイオーガに指示を出す。現状を考えるとやはり、海の中ということでカイオーガが有利である。このままではカイオーガが一方的とは言わないまでも楽に勝ってしまう。それは困る。かといって、制止せよと言っても止まらないだろう。

 だから、グラードン。あなたに力を貸してあげる。魔法とは神秘。古代の力。それは自然エネルギーにかわりはない。

 

「原始回帰せよ、グラードン」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」

 

 腕の模様にΩ(オメガ)の文字のような物が刻まれ、一段と身体が大きくなって全身に炎を纏う。原始回帰したグラードンはマグマの柱を生み出して、周りの海の中を高速で移動するカイオーガにぶつけていく。瞬時に海水が蒸発し、マグマは固まっていく。さらにグラードンは雄叫びを上げると海底その物を浮上させて足場を作っていく。

 

「本当にとんでもないね」

「確かにそう」

「これ、勝てるんですか?」

「頑張れば?」

「うん、頑張れば勝てるよ」

 

 カイオーガも負けておらず、大量の海水を圧縮して放つ。それはグラードンが作った壁をあっさりと貫通し、グラードンに迫るも巨体で飛び上がったグラードンに回避される。しかし、そのまま渦に激突すると周りの海水を吹き飛ばして遥か彼方まで飛んでいく。それはまるでモーゼが海を割ったかのようにすら感じられる。

 

「このまま見学ですか?」

「しばらくはね。こっちはこっちでやることをやろう」

 

 原始回帰させたお蔭でグラードンはカイオーガとまともに戦えるようになった。けれど、こちらは原始回帰のエネルギーを賄ってあげたのでとても大変。

 グラードンは文字通り、島を作り上げて今度はその山を噴火させて無数の岩石に炎を纏わせて隕石のように海に降り注がせる。しかもそれは海の中に入ると爆発までした。ただ、カイオーガも負けておらず、数十メートルもの津波を作り出して島を飲み込もうとする。

 グラードンは口から光線を吐いてそれを吹き飛ばす。その間に上を取ったカイオーガの口から高圧縮された水の濁流が放たれ、グラードンを吹き飛ばす。吹き飛ばされたグラードンは島の山に激突してそのまま埋め込まれ、山の反対側に押し出された。

 

「これでグラードンは不利ですね」

「分析完了。カイオーガが勝つ確率。76%」

「まあ、場所が悪いです。ご主人様、さらに介入なさりますか?」

「……介入したら勝てる」

「そうだね。よし、もう少ししたらグラードンに交渉を持ちかけてみようか」

 

 グラードンとカイオーガの戦いは熾烈を極める。頻発する地震に津波。まるで世界の終わりみたいにすら感じる。神様と呼ばれるだけはある戦いだ。

 

 

 

 

 




グラードンとカイオーガ。どちらも化け物です。


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54話

 

 

 

 

 ダイゴ

 

 

 

 父さんから手紙を託された少女、サファイア君と出会った。彼女から渡された手紙に書かれていた方法を使い、仲間のホウエン四天王達と共にレジスチルやレジアイス、レジロックを解放し、彼等に乗ってカイオーガとグラードンが戦っている海域に移動していく。サファイア君には残ってもらって、救助の方を頼んだ。流石にこちらの戦いに彼女のような子供を巻き込むわけにはいかないからね。

 

「ダイゴ、目的地はあそこか?」

「ああ、そうだ」

「先客がいるみたいよ」

「報道のヘリか?」

 

 確かにヘリコプターも近くにいるが、あまり近づけていない。激突二匹の間で爆発が起きているようで、爆風だけで吹き飛ばされるので近づけない。だが、そんな危険な領域に先客がいる。

 

「アレはダイゴ君のと同じ物?」

「確かに……というか、子供じゃないか!」

 

 先客は僕と同じく、メタグロスに乗っていた。どうやら小さな二人の子供のようで、このような場所にいるとは考えられない。しかも片方の女の子がメイド服のようだ。その彼女がこちらに振り返り、もう一人の少女に合図を送る。するともう一人の少女が光る。

 

「なんだ?」

「え? 服が分解されてる?」

「ちょっ!」

 

 裸のようなシルエットがみえる。光の加減で大事な所は見えないようで、気が付けば光は収まって服を着ていた。意味が分からない。どちらにせよ、メタグロスを使う小さな女の子。その子は知っている。

 

「おいおい、こんなところに子供がいても大丈夫なのか?」

「おそらく大丈夫だろう。彼女達はポケモン協会から報告のあった者達だ」

「ポケモン協会からとなると、例の伝説ポケモンを連れている子達か?」

「そうでしょうね彼」

「父から聞いた話では、女達もグラードンとカイオーガを狙っている可能性があるらしい」

「なるほど。ここに居てもおかしくないな」

「味方と考えていいの?」

「わからない。だが、被害を抑えるためには協力してもらわないといけない」

「そうだな」

 

 それにもしかしたら、ホウエンの陸地からかなり離れた場所で戦っているのは彼女のお蔭かもしれない。彼女自身もグラードンとカイオーガを狙っていのは確実だろう。アクア団とマグマ団の対処をするには彼女が用意した戦力は多すぎる。話を聞いた限りでは無数のメタグロスにポケモンであろう人形。そして、伝説のポケモンであるルギアの親と子供。そこにマグマ団から奪った伝説ポケモンの鳳凰。後は見たこともないポケモン。確かヒードランと言ったかな。どちらにせよ、彼女達は子供が持つには強すぎる力を持っていることに違いはないが……現状では彼女達と協力すべきだろう。

 

「まずは交渉か」

「そのまま一気に行くのは?」

「止めておこう」

「了解」

 

 四天王の彼等を置いて、僕は先に進む。するとメイド服を着た女の子が振り返る。彼女は紫色の髪の毛をした女の子だ。

 

「当空域は現在、大変危険な状況となっております。即時離脱をお勧めします」

「君達はどうなんだ?」

「私達は現在、この海域でグラードンとカイオーガの捕獲作戦を行っております。ですので、撤退するつもはありません」

「やはり、捕獲するつもりなのか」

「はい。ですので大人しく帰ってください」

 

 やはり捕獲が目的か。

 

「それは断ろう」

「では、戦いますか?」

 

 メイドの女の子がモンスターボールを取り出す。

 

「メイドが決めていいのかい?」

「ご主人様はグラードンとカイオーガを操るのにお忙しいですから」

「待て。操るだと……」

「……失言でした」

 

 どうやら、彼女達はグラードンとカイオーガを自由に扱うすべを持っているということか。

 

「シロの馬鹿」

「うぅ、ごめんなさい、ご主人様……」

「まったく……」

 

 薄い茶色の髪の毛をした少女が立ち上がり、彼女達が乗っているメタグロスがこちらを向いてくる。彼女は僕を見詰めてきた。彼女の服装は黒いスーツのようなもので、帽子を被っている。ここまでは父から聞いた通りの容姿だが、彼女の瞳は変化している。右目が紅色の瞳となり、Ωのマークが刻まれている。左目は藍色の瞳でαのマークが刻まれていた。

 

「まあ、シロはまだ若いから仕方ないよ。経験が足りていない。それで何をしにきたの?」

「決まっている。僕達はグラードンとカイオーガを止めにきた。協力しないかい?」

「協力してもらう必要はない。今行っている作戦を実行していれば捕獲は可能と判断している」

「そうはいかない。被害を出さないためにも早く解決したい」

「わかった。それなら協力しよう」

「本当か?」

「はい。それでは協力して頂きます。その三匹は役に立つ」

 

 レジロック達のことか。彼女、確か愛里寿と言ったか。彼女が掌を上げてこちらを見詰めてくる。

 

「その子達は捕まえたの?」

「ああ、その通りだ」

 

 古代人が作っていた彼等を操る石板の力で彼等を起こして連れてきた。問題はこちらの情報が知られていたことだ。どこからレジロック達の情報を手に入れたのだろうか? 

 

「では、その子達を貰いましょう」

「何?」

「その三体を渡してください。こちらで運用します」

「何故だ?」

「貴方達が普通の人だから。その三体を使って戦ったとしても、余波だけで死んじゃう」

「まるで君達なら大丈夫みたいな言い方だね」

「この子はポケモンみたいな子。愛里寿も普通の人じゃない」

 

 そう言って彼女はナイフで腕を刺した。噴き出る血はまるで自己再生をするかのように治療された。確かに普通の人ではないようだ。

 

「この能力があるから、死ぬことはない。でも、貴方達は違う。死ぬ覚悟があるとしても、無駄死にする必要はない」

「無駄死にだと?」

「そう。何故なら愛里寿達の方法ならこのまま順調に倒せる。その三体の力を使えば被害も抑えられるし、丁度いい」

「な、なんだ!? コントロールが効かない!」

「嘘でしょ!」

「貴方達は戻って愛里寿達が失敗した場合に備えて戦力を集めてくれる方がいい」

 

 レジロック達のコントロールが完全に奪われたようだが、何をしたのかはわからない。彼女の言う通り、その方が安全ではあるだろう。

 

「それに愛里寿達は貴方達に死んで欲しくない。だから、ここは任せくれればいい」

「……では、これだけは答えてくれ。君はグラードンとカイオーガを捕まえて何をする気なんだ?」

「捕まえることが目的。愛里寿はコレクター。伝説のポケモンと準伝説ポケモンを集めるのが目的」

「それだけなのかい?」

「他には犠牲を少なくすること。このまま行けばダイゴさんは死ぬ。それはいただけない。社長とも約束した。だから、ここで帰って避難や救助をして欲しい。それと愛里寿が失敗した時の保険になってくれたら嬉しい」

「悪い事に使う気はないと?」

「ない。むしろいい事に使う。カイオーガとグラードンは特に便利。カイオーガは砂漠化が深刻な問題になっていることを解決できるし、グラードンは陸地を増やせる。これらの力はテラフォーミング、環境の再生にとっても便利な力」

「わかった」

「ダイゴ、いいのか?」

「ああ。それにある程度はグラードンとカイオーガを操れるらしいし」

「それは可能。愛里寿の中には古代人が作った二体の制御装置がある。それを使って二匹に思う存分殺し合わせているところ。弱るところを待って捕獲に入る」

「その制御装置があれば止めることだって……」

「それは無理かな。人の意思では神の意思に飲み込まれる。あくまでも彼等の願いを叶える形で言う事を聞いてもらっているだけ。二匹は元々宿敵同士。だからこそ、この命令が可能になっているの」

 

 完全な管理ではなく、思考の誘導ができるというだけか。それなら確かにこの方法がいいのがわかる。

 

「では、僕達は一度引かせてもらおう。その三体は好きに使ってくれ」

「被害はできるだけださないようにする」

「頼む」

 

 彼女にレジロック達のモンスターボールも渡して、皆と一緒に戻る。

 

「ダイゴ、良かったのか?」

「ああ、アレでいい。最悪、僕達はグラードンとカイオーガだけでなく、ルギア二匹にホウオウの相手をしないといけなくなるかもしれない。そうなると負けは確定だ」

「確かにそうだけど、子供に任せるのは……」

「当然だ。だから、僕達は僕達で戦力を用意する。ポケモン協会がもう一匹の古代ポケモン、レックウザをぶつけようとしている。僕達はそちらに力を貸す。その間に彼女が捕獲できていたらよし、できていなければ乱入させてもらう」

「わかったわ」

「任せな」

 

 僕としては彼女の言葉が色々と気になるが、どちらにしろ一度は戻らないといけない。予想以上にホウエン地方から離れていっているから、食事とかの問題がある。僕達はその用意をしてきていないのだから仕方ない。

 

 

 

 



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55話

 

 

 

 

 人形を操る程度の能力でレジロック、レジアイス、レジスチルを従え、平和的にダイゴさん達から手に入れた。もっとも、完全に信じてくれたわけではないと思う。予想できるのは弱まらせて捕獲しようとした時か、その直後に襲ってくる可能性がある。その辺りは警戒しておこう。

 どちらにせよ、これで更に強化できる。それぞれ準伝説ポケモンなので、スキルポイントは15点も手に入る。前のヒードランと合わせると20点。アリスポイントは1点。グラードンとカイオーガで補充はできるので大丈夫そうではある。

 まずは戦いに使えるバリア4を10にする。これで残り12点。騎乗に9点、戦術指揮官に1点を入れる。残り2点は弾幕に入れておく。これで戦いやすくなる。

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:0

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.10》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.10》《弾幕Lv.3》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.10》《プロイキャッシャーLv.10(左目)》《魅了の魔眼Lv.10(左目)》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 ハードゴア・アリス(魔法少女育成計画):《変身・魔法少女Lv.10》《どんなケガをしてもすぐに治るよ》

 アリス(ARMS):《世界最高の頭脳》《科学者Lv.10》《金属生命体》

 アリスとありす(Fate/EXTRA):《魔力Lv.10》《陣地作成Lv.10》《変化Lv.10》《自己改造Lv.10》《誰かの為の物語Lv.10》

 島田愛里寿(ガールズ&パンツァー):《戦術指揮官Lv.10》《騎乗Lv.10》《カリスマLv.1》

 アリス(Infinite Dendrogram):《冒涜の化身》《管理AI》《無限誕生》

 アリス・キャロル(ARIA):《黄昏の姫君》《天才》《操舵術Lv.1》《歌Lv.1》

 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》《万魔殿の魔導書Lv.10》《簡易迷宮作成の魔導書Lv.10》《資質向上の魔導書》《レアリティアップの魔導書》《ドロップ生成の魔導書》

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 

 騎乗によってルクスに乗りやすくなった。戦闘中でも落ちる心配がなくなったので安心安全。しかし、やはりグラードンとカイオーガは言う事をあまり聞いてくれない。でも、グラードンには声をかけ続ける。

 “カイオーガを倒す力が欲しくないか?”

 と、相手に伝えてある。でも、返事はよろしくない。代価としてアリスのポケモンになることが条件だとは伝えてあるからだけど。まあ、愛里寿としてはどちらでも良かった。このまま弱まるまで待てばいいだけだから。でも、ダイゴさんが来たことでそうはいかなくなった。時間制限が入ってしまった。元から原作のように一ヶ月も戦うつもりはないけれど、これは厄介。

 

「予定を変更。レジスチル、レジロック、レジアイスの三体はサンダー、フリーザー、ファイヤーと協力してそれぞれ三角形を形成。ルクス、上昇して」

「了解」

 

 サンダー、フリーザー、ファイヤーをボールから出してレジスチル、レジロック、レジアイスと協力させ、グラードンとカイオーガを囲ませる。それぞれを起点として六芒星を形成。この子達を起点として使い、陣地作成10とバリア10を使う。これによって魔術師として自らに有利な陣地、工房……否。神殿を作成する。

 この世界に戻ってアリスの固有結界は作れなかった。この世界の神様達が、抑止力が邪魔をしたからだと思われる。でも、バリアで結界作り出し、そこでグラードンとカイオーガが発した力を利用して展開すればこの世界の法則に乗った疑似的な異界を作り出せる。このポケモン世界は破れた世界やウルトラビーストの世界とか色々とあるからね。神殿とはいかないまでも、天候程度は自由に操れる。

 

「天候は晴天。ホウオウ、日本晴れ。ヒードランは熱風」

 

 自分より下の部分からホウオウに日照りを使わせる。グラードンとカイオーガの天候の奪い合いもアリスが手助けすることでこちらに有利になる。ヒードランはグラードンが作り出した地面に配置し、マグマストームや熱風を発動して周りの温度を上げさせ続ける。同時に弾幕を無数に展開して、海から海水を吸い上げていく。結界により隔たれた内部の空間では発生する水も限界がある。回収される水もどんどん蒸発していくが、空気中に含まれた水分も回収していくので問題なし。

 

「海面がどんどん減っていってますね」

「それが狙いだから」

 

 海から海水が渦を巻いて愛里寿の周りに吸い取られていく。その上の方でカバンから上海と蓬莱の量産型を操っていく。ただ、量産型じゃない上海と蓬莱の2体はそれぞれ、レジアイス達のコントロールをしてもらっているので、除外。つまり20体の量産型だけ。この子達からメタグロスを6体ずつ出してもらう。120体のメタグロス。

 

「これから何をやるのですか?」

「不明。説明要求」

「ふふふ、ロマンだよ」

 

 トランクケースから色々と必要な機材を取り出して準備する。使用にはエネルギーが必要だけど、そこはグラードンとカイオーガが戦うことで発生する蒸気の力を純粋な自然エネルギーに変換して利用する。

 そんな風に準備をしていると、海水が無くなってきたことでカイオーガの縦横無尽な動きが封じられ、グラードンがカイオーガに接近して殴り飛ばす。吹き飛ばされたカイオーガは結界に接触して弾き返される。そこをさらに炎を纏った拳で殴りまくり、口から真っ赤なブレスを放つ。カイオーガも口から大量の水を放出して両方の中心で大爆発が起こり、衝撃で弾き飛ばされた二匹は距離が離れる。

 

「■■■■■■■■■■■──―!」

 

 カイオーガは叫び声を上げると、体長は2倍以上に巨大化していく。更に全身にみなぎるエネルギーが澄んだ海水と化してあふれ出し、体の組織も透明度の高い海水そのものへと変化する。深い青色の皮膚はサファイアのような質感で輝くようになり、透き通った体の内部には黄色い発光体のみが見えていく。その姿はまるで、生物というよりは光を帯びた海そのものの様な神秘的な状態を感じさせる。 さらに体に刻まれた模様がαに見える形状へ変化している。

 

原始回帰である

 

 原始回帰したカイオーガから溢れ出す海水が、せっかく吸い上げた量をあっさりと補填していく。補填された海水は吸い上げ続ける水球を内部から次々と破壊し、海水の濁流が降り注ぐ。まるでこちらのことなど歯牙にもかけていない感じだ。いや、ホウオウには海水が意思あるかのように襲い掛かっているので、そこまでではないみたい。ホウオウは距離を取って逃げ、こちらに戻ってきたけどイライラしているようで、声をあげている。

 

「ご主人様?」

「この海水はどうやら、カイオーガと一体化し、あの子の意思が入っているみたい」

 

 カイオーガが操る水は濁流となってグラードンに襲い掛かっていく。グラードンは地面から大量の杭を生み出して海水を防いでいく。

 とりあえずは大丈夫みたいだけど、なんで原始回帰した。グラードンは愛里寿が手伝った。でも、カイオーガには力を貸していない。変わったことと言えば結界と機械を作動させたくらい。もしかして、エネルギーが盗まれた? いや、元からあの子たちのだけれど。

 ゲージを確認してみると、チャージしたのは大丈夫だった。でも、感じる限りだと空気中にあった魔力は減っている。つまり、愛里寿が弾幕で海水を巻きあげたから、その魔力を原始回帰に必要な自然エネルギーとして吸ったってところかな? 

 

「どちらにしても、これはやるしかない」

「どうするのですか?」

「こうする! ルクス、合体! 

 

 120体のメタグロスの足をパーツに接続し、それぞれが一つの部品となって磁力でくっついていく。上下で二体のメタグロスがくっつき、その上に別の二体のメタグロスがくっついていく。

 

メタルナイト・エックス! 

 

 そう、作り上げたのは人型の巨大ロボット。メタグロス100体をパーツを使って連結し、身体を構成する。残り20体を使って砲塔を形成。パーツを含めて100メートルという超巨大ロボット。中心部にルクスが入ることで全てのメタグロス、120体×4のスーパーコンピューター並みの処理が可能という馬鹿な性能。関節部にはマザーをはじめとしたメタモン達を配置し、負荷を軽減。

 

「河童の技術は世界一ぃいいいいっ!」

「な、んですかこれ」

「凄くおっきい」

 

 シロとジュカがそれぞれ感想をくれる。でも、ここからが本番。ここに用意したるは地獄に住んでいる鳥娘さんの力を取り込んでおいてもらった弾頭。なんて物を用意できたらよかったけれど、流石にできないので諦める。ただし、集めるのは太陽光。それを圧縮して増幅して打ち出す。ソーラービームなんてちゃちな物じゃない。サイコキネシスも使ってさらに圧縮する。愛里寿の魔力も大量に注ぎ込んで、そのエネルギーを基に水素を混ぜて熱核融合を作らせる。

 

「ルクス!」

「……弾頭の形成完了。エネルギー充電、64%……」

「100%までチャージして」

「了解」

「これ、大丈夫なんですか?」

「きっと多分平気! ジュカ、どくどくを海に放りこんで。シロ、呪う準備」

「はい。お任せください」

「ん、やる」

 

 さて、これでこっちはいい。後はカイオーガとグラードンに通達を出す。

 

『愛里寿のポケモンになるつもりはない?』

 

 自己改造と変化を使って明確に二つの玉と融合し、グラードンとカイオーガに伝える。

 

 “断ります。矮小な存在に私が仕えることはありえません”

 “邪魔をするな。これは俺達の決着をつける好機”

『どうしても? 力、もっとあげるよ? 楽しいことも教えるよ?』

 ““くどい!””

『なら、愛里寿が勝ったら、言う事を聞いてもらうよ』

 “この世は弱肉強食。勝てば認めてやろう”

 “母なる海に勝てるというのなら、確かに認めてさしあげます”

『わかった。じゃあ、戦争を始めよう』

 

 力の根源たる愛里寿が命ずる。森羅万象を紐解き、愛里寿の可愛さ(かりちゅま)を示せ。あれ、なんだか詠唱が変だけどいいや。リベレイション・オーラを味方にかけ、ダウンを敵の二匹にかける。

 

「ジュカ、真の姿を現せ。メガ進化」

「ん」

 

 すぐにメガ・ジュペッタに進化し、両手を上に上げる。すると大量の風が集まり、球体を形成していく。しかし、そこは禍々しい紫色をしている。

 

「力の根源たるジュカが命じる。生成するは大地を冒す竜帝の毒」

「シロも手伝って」

「はい。力の根源たるシロが命じる。生成するはミシャグジの呪い」

 

 愛里寿も手伝って、三人で儀式魔法を使う。組み合わせるのは竜帝の毒とミシャグジの呪い。それらを弾幕として形成し、雨の様に降らせる。

 

「「「ポイズン・カース」」」

 

 210個の魔法弾を生成し、全てを地上に居る二匹に叩き込む。っと、ヒードランは戻してないので、その子がいる辺りは除外。さて、空から弾幕の雨が降ってくるのに対して、グラードンは地面を隆起させて自らを覆うドームを形成。これによって防いだが、毒に土が冒されて溶かされていく。更に呪いによって土が死んでいく。カイオーガの方も海水を壁にしてくるけれど、毒と呪いがそのまま侵入して()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「■■■■■■■■■■■──―!」

 

 激怒したカイオーガがこちらに向かって大量の海水を圧縮して放ってくる。数百トンを超える水の弾丸はこちらが展開した反射のバリアを貫通して、せまってくる。

 

「ルギア、さくら、防いで」

「きゅ!」

『任された』

 

 二匹によるエアロブラストで弾き返し、大地を、海を汚染していく。補助技を使い、バッドステータスで攻めるのは基本だ。その次に本命を叩き込む。人形を急降下させて、ヒードランを戻してからこっちに戻らせる。

 

「……典開(レーゲン)。チャージ完了しました……」

「撃て」

「……了解……偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)

 

 なんでだろう。確かにルクスの基になったのは機凱種(エクスマキナ)だけど、武装までそれになるのはおかしい。いや、ある意味では同じく世界に影響を及ぼすけど。こっちは熱核爆弾。あっちは世界を構成する精霊を殺して放つ攻撃。威力は後者の方が大きいだろうけどね。

 どちらにせよ、砲塔から放たれたそれは電磁誘導により超電磁砲としても機能し、音速を越えてカイオーガの海水を圧縮した盾やグラードンの大地の壁を貫通して着弾する。同時にサイコキネシスによる何重もの防壁が崩壊し、熱核融合が起きて膨大なエネルギーが解放される。愛里寿はこちらとあちらの間にバリアを展開してしっかりと閉じる。

 

 轟音も何もかも、反射されて内部の空間から光が発せられる。次の瞬間。バリアが吹き飛び、特大の衝撃が襲ってくる。吹き飛ばされた愛里寿達はルクスのメタルナイトに受け止められる。目の前にはとっても大きなキノコ雲があり、下は煙で何も見えない。

 

「太陽の力を再現するのは流石にやりすぎた……? いや、これぐらいじゃやられてくれないか。ルクス、二発目のチャージを開始して」

「了解。二発目、チャージ開始」

 

 バリアを使った結界を再展開して汚染が広がらないようにしておく。ルギア達に指示をしてエアロブラストで煙を吹き飛ばしてもらう。

 巨大な数十キロ以上のクレーターができている場所には海水が溢れ出し、溶岩が噴き出してせめぎあっている。グラードンとカイオーガはどちらも健在で、それなりのダメージを受けてはいるようだけど、まだまだ元気。

 

「伝説ポケモンって本当に化け物。愛里寿なら何度も死んでる威力だよ?」

「ジュカも無理」

「私も無理ですね」

「……当機は今なら耐えられる、かも……?」

『さくらはいけるよー』

『我も問題ない』

『可能』

 

 伝説ポケモンはやっぱり化け物だ。よし、ポイズン・カースを続けて放ちながら空で攻撃を続けよう。あ、その前にレジアイス達って生きてるかな? 

 指示を出すと、無事に耐えていたようでこちらに戻ってくる。その子達をボールに入れて回復装置に配置して回復させる。

 

「ルギア、さくら、ホウオウ、爆撃をお願い。くれぐれも弾幕より下に降りないように」

『まかされよ』

『いってきま~す!』

『りょ』

 

 急降下していった三体の伝説のポケモンはそれぞれ爆撃を開始する。光線や風圧などで攻撃していくが、どの攻撃も戦略級の規模だ。海底は抉れ、地面や海水は吹き飛び、暴風は吹き荒れ、何度も爆発をする。そこに愛里寿達の合作の弾幕が降り注いで毒状態にしていく。

 

「なんと素晴らしき制空権!」

 

 空を飛べないカイオーガとグラードンでは対空攻撃に限界がある。なので余裕をもって回避できる。ましてやこちらはオーラで全能力を上げ、相手は全能力がダウンで下がっている。このような殺し合いではとくに大事な事だ。相手は毒状態でだんだんと体力が減っていっているし。

 これぞ三つ巴の戦い──と思っていたら、グラードンが斜めの崖を作りだし、その上をカイオーガが滑って飛び上がって空中で口から水の光線を放つ。それをさくらが横から突撃して蹴って射線を逸らす。その光線は愛里寿の頬をかすって空へと消えていった。当然、展開されていたバリアは貫かれている。

 

「協力するなんて!」

 “まずは邪魔者を排除する”

 “同意です”

 

 仕方ないことだけどね。そう思っていると、てぃんとんてぃとてぃんと、聞き覚えるのある音がした。回復が終わったようなので、フリーザー達も出して戦わせる。

 

「フリーザーは海水を凍らせて! ファイヤーとサンダーはカイオーガを攻撃! レジアイス達は被害が外にでないように護衛! ルクス、チャージが終わったら……知らせて!」

「はい」

「ご主人様、私も行ってまいります」

「駄目。爆撃できなくなるから」

「うぅ……」

「ジュカも駄目だからね。護衛をよろしく」

「ん」

 

 喰らったら即死のような攻撃のオンパレードだ。敵も味方も伝説は桁違いの火力と耐久力をしているから、本当にありえない。ただ、勝ちは確定だね。こっちには魔改造したルギアとさくらがいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 




熱核爆弾についてはてきとー。気にしないでね。汚染されますが、ちゃんとなおします。
グラードンとカイオーガの戦いで島クラスが浮いちゃうから、これぐらいのエネルギーはでているという……
ちなみにルギアさんはグラードンとカイオーガよりも強いです。資質向上と経験値ブースト、諏訪子の加護もありますから。さくらはカイオーガより少し弱いくらい。鳳凰はグラードンに負ける。メタルナイトはさくらと同じくらい。

この作品を始めた当初から、メタグロスを合体させてロボットにすればいいじゃないかと思っていた。ここからが本当の勝負。だって、まだ乱入してきてない奴がいるからね。いったい誰なんだろうか。
ちなみにダイゴさんが残って居たら、死にます。クリティカル3回連続成功以外死亡。グラードンとカイオーガ、ルクスの攻撃で3回回避判定をどうぞというレベル。無理ですね。


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56話

 

 

 

 

 

 ダイゴ

 

 

 

 

 街に戻ると、そのタイミングで凄まじい衝撃が背後から来た。それに僕達は体勢を崩され、吹き飛ばされていく。すると、ボク以外の四人が複数のメタグロスによって掴まれて事無きを得た。そのメタグロス達は四天王の皆を地面に降ろしていく。視線を探せばトレーナーであろう小さな女の子がメタグロスに乗りながら、他のポケモンに色々と指示を出している。

 大丈夫なのを確認したので、後ろを向くと……巨大なキノコのような雲が水平線の近くに出現していた。おそらく吹き飛ばされたのはその衝撃だろう。それによって襲い掛かってくる10メートルを超える津波は街を飲み込んでしまう。

 

「これは対処しないと駄目だな」

 

 そう思った時、小さな女の子の傍らにいた空飛ぶピカチュウのぬいぐるみが、浮かび上がる。

 

「ミミたん、ブラックホールイクリプス!」

「きゅきゅ!」

 

 不思議なポーズを取る女の子に合わせ、ミミたんと呼ばれたポケモンも同じポーズを取る。するとシャドーボールであろう黒い球体がポケモンから放たれ、大波に着弾すると海水を吸い取ってしまう。小さな波はサイコキネシスなどでしっかりと防いでいるようだ。

 

「おい、ダイゴ!」

「ああ」

 

 遠くで戦いが行われているであろう戦場を見ると、キノコ雲が吹き飛ばされる。そのすぐ後に無数の雷などの閃光や炎の柱、水の柱が確認できた。またこちらに巨大な津波がこようとすると、次の瞬間には光の壁のような透明の壁が現れて津波を防いでしまう。

 

「結界は再展開されたみたいだから、今の内に休憩するよ~。船はしっかりと固定しておいてね」

 

 小さな女の子はポケモンや人に指示を出している。その指示に従って、しっかりと固定していっている。他にもサファイア君がいて、彼女も避難誘導をしてくれていた。そちらは助かるが、今はあの女の子だ。おそらく、アリスという女の子の関係者だろう。

 

「ダイゴ、ポケモン協会から連絡よ」

「わかった」

 

 電話に出ると、理事がでてきた。

 

『チャンピオン。今はどこにいる?』

「港です。カイオーガとグラードンの戦い場から一時的に戻ってきました」

『何故だ?』

「先客が居ました。例の伝説のポケモンを操る子供です」

『彼女か……もしや、彼女が復活させたのか?』

「それはわかりませんが、グラードンとカイオーガの思考を誘導できるようです。それで海の方に移動させたと言っていました。信じられませんが……」

『……おそらく、それは事実だろう。彼女の身体になにかマークのような物がでていなかったか?』

「両目にアルファとオメガのマークがでていました。知っているのですか?」

『それは紅色の宝珠と藍色の宝珠を取り込んでいる証だ』

「その紅色の宝珠と藍色の宝珠とは?」

『古代人が残したグラードンとカイオーガの制御装置だ』

「そのような物を彼女が何故……」

『保管していた場所から盗まれた。マグマ団とアクア団の名前でな。ただ、あくまでもそう犯行声明に書かれていただけで、実際にそうかはわからない。偽物も置かれていたが、フウとラン曰く、ジム戦に来ていたアリスという少女が怪しいようだ』

「では、彼女が……」

『いや、それがそうともいえない。彼女の写真を確認してもらったところ、別人らしい』

「変装の可能性は?」

『それもない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに伝説のポケモンを持つ彼女からは禍々しい気配を感じないとのことだ』

 

 別人か。だが、二人のアリスという少女が同じタイミングで同じ場所にいるなど、あり得るのだろうか? いや、ありえなくはないか。だが、それが二人共、ジムリーダーを倒すレベルだというのなら、話は別だろう。ましてや、二人共メタグロスを使っている。もしかして、この地方では珍しいが、他の地方ではそうでもないのだろうか? 

 

「怪しいですね」

『ああ、そうだ。だが、証拠がない。あくまでもフウとランが感じたことでしかない。それに紅色の宝珠と藍色の宝珠に関して入手した方法をマグマ団のアジトを襲撃して手に入れたと言われたら、どうしようもない』

「理事は彼女達をどう見ますか?」

『それなんだが、なんとも判断が難しい。改めて調べると、マグマ団とアクア団の危険性について、彼女達は二年前から二度も忠告をしていた』

「二年前ですか」

『ああ。一度目は二年前。この当時は担当者が一切取り合わなかったそうだ。妄想や嘘だと断じて手ひどく言ったのだろう。次は少し前。本人達ではなく、図鑑所有者の子からの連絡ということで書類には残していた。だが、その図鑑所有者がいるのはカントー地方だったためにこちらまで連絡がくるのが後回しにされ、そのまま忘れられたようだ』

「それはなんと……」

『当然、その担当者は処断した。といっても、たいした罰にはならないが。一応でもいいから、こちらにしっかりと連絡を入れて欲しかった。まさか、情報が他の地方にあるなどとは思わなかったぞ。どちらにせよ、彼女達はポケモン協会を信じていない』

 

 担当者からしたら子供の妄想やいたずらと思うのも仕方がない。だが、これは運が悪かったということで済ませられる被害じゃない。

 

「ポケモン協会が信じられないから、違法な手段やグレーな手段でも手を染めるか」

『その可能性もある。彼女達の目的があくまでもホウエン地方の救済なら、だ』

「それですが、目的はグラードンとカイオーガの捕獲。いえ、伝説のポケモンの捕獲らしいです」

『そちらの目的が本命か。対抗馬であるマグマ団とアクア団を私達に処理させようと思ったのか?』

「ないとは言えません。ただ、伝説のポケモンに対処するための戦力を保有しているのは確かでしょう」

『無数のメタグロスによる上空からの攻撃か』

「それ以外にも不思議な力をもっているみたいです。ナイフで腕を刺してもすぐに治りました。まるでポケモンの自己再生でしたよ」

『それが撤退した理由か?』

「食事などの準備をしていませんでしたし、彼女にここに居たら確実に死ぬから彼女が敗れた後の為に準備をしておけと言われましたよ。なので、お言葉に甘えて彼女が止めてくれている間に準備を整えさせてもらおうかと思っていたのですが……」

『先程の爆発か』

「あの場にいれば確実に死んだでしょう」

『うむ。こちらでも確認している。そちらの被害はどうだ?』

「彼女の仲間であろう女の子が防いでくれました」

『そうか。やはり、わからないな。一体何が目的なんだ?』

「両方でしょう。ホウエン地方を救いたい。だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。おそらく、両方を目的として動いているのでしょう」

『そんなことがありえると?』

「相手は子供です。それに伝説のポケモンを捕まえることはポケモントレーナーなら誰もが夢見て憧れることでしょう。僕も子供の頃はそうでした」

『その為の準備を着々としてきて……その過程でアクア団とマグマ団について知り、知らせてきたが、ポケモン協会は対応しなかった。だから、自分たちで両方実行したと。ありえるな。どちらにせよ、まもなく上空に到着する。街を守ってくれている少女と一緒に来てくれ』

「わかりました」

 

 被害を最小限に収めてくれている彼女の下に移動し、まずは話をする。といっても、女性の方がいいだろうから、フヨウに頼もう。

 

 少しして説得が終わったようで、代わりに街を守ることで話がついた。彼女と一緒に空を飛んできたポケモン協会の本部である飛行船に搭乗し、周りを見渡すと各地のジムリーダーが集合していた。その中心にいるアフロの髪形をした身長の低い理事と話をする。

 

「よく来てくれた」

「理事、状況は?」

「君達が押さえてくれているお蔭で今のところ人的被害はない。ただ、経済的損失はあるが、これはグラードンとカイオーガが復活したせいだ。そのことについて知りたい。教えてくれないか?」

「条件次第?」

 

 紫色の髪の毛をした女の子がそう言ってくる。ただでは教えてくれるつもりはないようだ。

 

「条件とは?」

「その前に自己紹介をした方がいいんじゃない? アタシは知ってるけど」

「知ってるな。ジム戦にきたし」

「アセロラも知ってるからいらないよ? そこの人達を知らないくらい?」

「なら、自己紹介をしよう」

 

 自己紹介をしてから、彼女の言う条件を聞く。

 

「こちらが要求するのは伝説のポケモンの所持を認めることとグラードンとカイオーガの事に関する被害や損害はポケモン協会とかで補填すること、だって」

「それは……」

「子供があのような力を持つ伝説のポケモンを持つことは認められない」

「じゃあ、教えられないかな~」

「なっ!?」

「アセロラとしてはどっちでもいいし、教える理由もないしね~」

「これだけの事をしておいて!」

「アセロラ達は防ごうと頑張ったよ? 情報も沢山あげたよ? でも、ポケモン協会は動かなかったよね? だから、致命的な失敗を防ぐために必要な物は確保したんだよ。なんていうんだっけ。職務怠慢? 役立たず?」

 

 クルクル回りながら楽しそうに毒を吐いてくる彼女。確かに彼女達のやったことは二つを除いて、なんの問題もないことだ。一つは父が被害届けを取り消したので問題ない。もう一つは紅色の宝珠と藍色の宝珠を奪ったことだが、こちらはグラードンとカイオーガを操ることができるとのことで、致命的な失敗にかかわる。マグマ団とアクア団の危険性と情報を伝え、彼等の妨害をしながら潜水艇を守る。だが、マグマ団に取られた人質を救助するために潜水艇の警備を少しの間、空けたことによりアクア団に奪われた。それに対してジムリーダーやポケモン協会、僕達は後手後手に回ってしまっている。子供が大怪我してから、ようやく動き出したくらいか。

 

「我々とてグラードンとカイオーガの危険性は確認していた。だからこそ、第三の古代ポケモンを捕獲し、研究をしていたが……」

「第三の古代ポケモンとは?」

「レックウザと呼ばれるポケモンだ。だが、宝珠を作っている時に逃げられてしまった。センリ君、レックウザは……」

「見つけられていない」

「何をしていたんだ……」

「大切な息子のルビー君が大怪我して入院したからだよ~? つまり、ポケモン協会のせい?」

「ぐっ」

 

 アセロラと名乗ったこの子は徹底的にこちらを責めるつもりのようだ。

 

「どうしたら協力してくれるの?」

「条件は伝えたよ。まあ、そもそも命懸けでポケモントレーナーが捕まえたポケモンを協会が奪い取るのは間違っていると思うけどね~」

「それは確かに……」

「だが、幼い子供に危険な伝説のポケモンを持たせるわけにもいかない。ただの喧嘩やポケモンバトルで伝説のポケモンを出されて地形が変わりましたではたまったものではない! むしろ、地形が変わるだけならまだましだ。街が滅びたら……」

「どちらの言い分も納得はできるが……」

「まあ、今はどうなってるかだ。どちらにせよ、彼女がやられた時の事を考えて準備しないといけないぞ」

「その通りだ。だが、二つだけは確認したい。一つはグラードンとカイオーガを復活させたのは君達か?」

「多分違うよ。今朝、アリスちゃんは物凄く驚いていたしね。服も着替えずに慌てて陸地から離れて殺し合えって命令してたし、急いで着替えて超特急で飛び出したから……こっちの計画だと、復活させることは復活させるけれど、もっと被害がでないように一体ずつ復活させて、移動させてから被害がすくない場所で戦わせるって言ってたから」

 

 つまり、彼女達ではない誰かがグラードンとカイオーガを復活させた。おそらく、確認されていないアクア団だろう。

 

「緊急報告! モニターをみてください!」

 

 全員がモニターを見ると、そこには煙が晴れて戦っている少女の姿がみえた。空飛ぶ人型の巨人がカイオーガとグラードンと戦っている。女の子は宙に浮かびながら、周りのぬいぐるみを浮かべている。カイオーガとグラードンが協力して彼女を攻撃しているようだ。

 

「あれ、計画と違う。弱ったところを襲い掛かるはずだったのに」

「悪辣……」

「だが、効率的ではある。人が伝説のポケモンに対抗するのに有用な戦術だ」

「しかし、何故その方法を捨てた?」

「たぶん、ダイゴさん達が行ったからじゃないかな。戻ってこられたら余計な被害がでるから、素早く決着をつけようと急いだんだと思うよ。あんなところに参加したら、命がいくつあっても足りないし、被害が増えちゃう」

「僕達のせいか……」

「気にするな。それよりも、常に上を取って戦っているな」

 

 空の優位を捨てるつもりはないのだろう。冷静に状況を判断して攻撃を行い、防御もしっかりとしている。このまま行けば勝てるだろう。伝説のポケモンの数も彼女の方が多い。そう思っていたら──

 

「ちょっと待てっ!」

「こ、これはひどい……」

 

 遥か上空から緑色をした蛇のようなポケモンが急降下してきて、彼女や巨人に激突して地面に激突させる。そのまま悠然と佇むその姿は空の王者を思わせる。

 

「レックウザ? いや、姿が違う!」

 

 顎が幅広な刃状と化して大きく前に突き出した形となり、その顎や角からは元の黄色い模様が尾先まで剥がれたような長い髭が後ろに流れるように伸びていた。この髭から特殊な粒子を発生させているのか、気体の濃度や湿度をコントロールすることで天候を意のままに操る能力を持っているみたいで、天気がころころ変わって混沌とした状況になっている。

 また、全身はエメラルドにも似た質感で輝く緑のような皮膚で、滑らかな光沢を放っているのがみてとれる。胴体部分も各部の羽が流線形となり、模様の丸があった部分は発光する龍玉の様な器官があった。額に紋様があり、それはデルタだ。

 

「なんだあれは……」

「もしかして、メガ進化?」

「メガ進化とはなんだ!」

「一時的な進化だよ。とっても強くなるの」

「というか、彼女の心配はしないの?」

「多分平気だよ?」

 

 レックウザであろう存在が緑の槍みたいなのを無数に生み出し、雨の様に降らせる。それに対して、ルギアとホウオウが飛び上がり、対処していく。そんな中、腕や足が折れ、全身から血を流している彼女の姿がみえる。

 

「ひ、ひどい……」

「流石に大丈夫……?」

 

 アセロラも不安そうだが、これはいよいよまずい。そう思っていたら、彼女が光って服装が黒いドレスのようになった。

 

「「「「はぁっ!?」」」」

 

 次の瞬間。何事もなかったかのように腕や足は元に戻り、怪我の跡は血液だけだ。それからさらにありえないことが起こった。メイド服の少女が見たこともない巨大な白い石でできたイワークやハガネールみたいな姿となり、巨人と共にグラードンと戦いだす。女の子はたった一人でカイオーガに挑み、飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 




アリス達が喰らった技はガリュウテンセイ。つまり、メガ進化したレックウザ。
レックウザさんが現れた理由は簡単。

レックウザ「人の庭で大気汚染してんじゃねえ!」

以上。

核兵器、駄目絶対。




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57話

 

 

 

「嘘っ!」

 

 協力しだしたグラードンとカイオーガ。その二匹を仕留めるために絶対的に優位な上空からの攻撃を行っていると、いきなり結界が空から割られて、降ってきた奴にメタルナイトが弾き飛ばされ、アリス達も纏めて落とされる。

 

「ちっ」

 

 落下しながら振り向くと、そこには絶望があった。確かに相手をするつもりではあった。ただ、それはグラードンとカイオーガを手に入れた後での話だ。今、ここに乱入される予定なんてない。そもそもこの戦いすら予想外の開始だ。

 

「本当にままならないっ!」

 

 下からはグラードンとカイオーガがこれ幸いと無数の水球と石礫を飛ばしてくる。上からは緑の東洋龍、レックウザ……それもメガ進化した奴が無数の槍を飛ばしてくる。ただ、そちらは反転したルクスがリフレクターを展開して防いでくれる。

 下の方はどうしようもない。飛んでくる石礫を足場にして飛んで別の石礫に着地してまた移動する。浮遊しようにもバリアを展開する前に攻撃されるし、結界の再展開をしないといけない。どうにか、被害がでないように結界を再展開できたけれど、その時にはもう地面が近かった。上海と蓬莱がなんとか衝撃を殺してくれたので、即死は免れたけれど両手両足、それに肺などがやばい。

 

「こふっ」

 

 心臓くらいしか無事じゃない。だから、愛里寿の服装から魔法少女としてハードゴア・アリスの衣装に変更する。愛里寿の魔法少女バージョンという意味のわからない状態。ゴスロリ愛里寿ちゃん。

 こちらに変更することでどんな傷でも治療が開始されるし、魔術刻印と併せて瞬間再生されていく。手足は元に戻り、吐血した原因も綺麗に取り除かれた。

 ふらふらになりながら立ち上がり、シロ達の方を見ればあちらもグラードンとカイオーガからの攻撃を受けて、対処しようとしている。無事に地上には降りられたみたい。

 

『ゆるさない~!』

 

 さくらがグラードンとカイオーガに突撃しようとしているので、すぐに周りを見渡して戦術を組みなおす。前のプランは破棄して、メガ・レックウザと合わせてゲンシ・グラードン、ゲンシ・カイオーガの三匹を相手に勝つプランを模索する。愛里寿ちゃんの頭脳とARMSのアリスの頭脳、超級AIの処理能力を利用して戦術を構築する。

 

「無理っ!」

 

 どうあがいてもまともな方法じゃ三匹に勝つことはできない。まず、レックウザ。奴は成層圏を住処にしており、宇宙空間でも活動できる。それは即ち、制空権を取られたことに他ならない。こちらがカイオーガとグラードンを相手に有利に事を運べているのはあくまでも制空権を取っていたからだ。だが、それがなくなり、空から一方的に攻撃されるとなると勝ち目がない。もっとも、結界で覆っているので破られるまでは少しの時間があるだとは思われる。ただ、空という関係で相手をさせるのは決まっている。

 

「さくら!」

『アリス!』

「ルギアとホウオウ、両名と共にレックウザを相手にして! 倒さなくてもいいから、こっちに乱入させないように!」

『カイオーガとグラードンは!』

「こっちで対処する!」

 

 地面から生えてくる杭をバックステップで避け、殴って破壊する。その直後に地面から出てくるので、宙に浮いて上海と蓬莱から弾幕を展開して周りを破壊する。環境破壊なんて気にしない。ここはどうせグラードンが作ったフィールドだからだ。

 破壊すると、今度は地面が割れて、溶岩が溢れ出てくる。海水を使って冷却しようにも、海水の支配権は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なので、自分の魔力で水を生み出してぶつける。空から緑の槍が降ってくるけれど、愛里寿の周りに展開した上海と蓬莱が防いでくれるので放置。

 

「行け」

『わかった!』

 

 さくらとルギア、ホウオウがレックウザの対処に向かったので、次の指示を出す。ルクスはメタルナイトの状態を維持しているけれど、ところどころのパーツに火花が散っている。

 

「ルクスはシロと協力してグラードンを足止めして。シロ、元の姿になっていい」

「「了解」」

「ルクス、皆、限界を超えて。メガ進化」

「「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

 メタルナイトが光輝き、メタグロス120体が全てメガ進化し、メガメタグロスへとなる。更に全長も大きくなり、重量も大幅に増大した。ルクスはその状態でグラードンの身長、5メートルを遥かに超える大きさを利用した踏みつけを行う。つまり、ヘビーボンバー。942.9kgのメガメタグロス、120体分の重量、113,148トン+パーツの重量によるそれはもはや、それだけで大量破壊兵器だ。

 

「■■■■■──ー!! ■■■■■■■■■■■──ー!!」

 

 グラードンは四つん這いになるように大地を両手で殴りつけ、咆哮をあげる。すると大地から数十メートルを超える巨大な溶岩石でできた杭が出現し、メタルナイトの身体を防いでいく。完全に威力を殺され溶岩石の杭は粉々になるが、砕けた場所から溶岩が噴き出してメタルナイトの身体に付着して固まっていく。その状態でミシャクジ様形態になったシロがグラードンに絡みつき、首筋に噛みついて呪いを直接注入する。

 

「ジュカ、グラードンに影縫いと金縛り!」

「カイオーガ、フリー?」

「そっちはこちらで対処するからやって!」

「ん」

 

 ジュカがグラードンの影に爪をたてて突き刺す。これで動きが封じられる。もちろん、少しの間しか拘束できない。この状態でも動けるから。だけど、ルクスがメタルナイトの溶岩をそのままに腕だけ動かして、暴れようとするグラードンを殴りつける。グラードンも逆に殴り返していく。

 

「さて、問題はこちら」

 

 地面を歩きながら順調に水位を増している海へと移動する。現状、この空域は螺旋軌道、終わりの大地、始まりの海という混沌とした天候操作の力が働いているので、自然エネルギーがいっぱいだ。空は荒れて竜巻を発生させ、海は大津波。大地は燃え盛り、灼熱の地となっている。普通の人間がいたら即死間違いなしの現状。海と陸の境界線では大量の水蒸気が発生していて、閉じ込めている結界内に充満していっている。

 

 “来ましたか。諦めましたか?”

「私は諦めない。ボコのように何度だって挑んで、絶対に勝つ」

 

 そう、絶対に勝つ。普通の手段で勝てないのなら、冥府魔道の手段を使うだけだ。それに勝つためにはまだ手がある。例えばハスターの召喚や門を開いてしまうこと。愛里寿にも危険があるけれど、死ぬよりはいい。だけど、問題点はこの世界に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうなればアセロラやイエローさんは人々を助けるために挑むだろう。その結果、発狂して死ぬ可能性が高い。そんなのは御免だ。愛里寿の、アリスの目的は生き残る事と、悪を除いて助けられる人を助けること。違う。アリスが悪と決めることなんておこがましい。人にはそれぞれの正義があるから……うん、こっちだ。

 アリスはアリスが好きな、気に入った人を助けること。これが目的だ。だから、ダイゴさんは助けるし、ルビー君たちも助ける。無関係な人達だって助ける。この世界の人他達は基本的に気にいっているから。

 

 “一人で何ができると……”

「勘違いしないで。貴女が相手をするのは私達(アリス達)

 

 一人一人はか弱い女の子の力でも、集まれば神様だって倒せる。なにせ、神様の力も入っているのだから。

 

 “愚かな。ならばその蛮勇、命を以て償いなさい”

 

 目の前に迫る濁流に上海と蓬莱を離れさせ、そのまま飲まれる。すぐに口の中に海水が入ってきて、身体の中をいっぱいにする。至る所に入っているし、海底に引きずり込まれて手足が捥がれ、圧縮されて激痛を感じる。

 

 “これで終わりです。いくら再生しようが、無駄です。母なる海の力を思い知りなさい”

 

 身体の中から弾け飛び、肉片に変わって海の中を漂う。魔術刻印やハードゴア・アリスの力で身体は再生する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 “出番だよ、アリス(わたし)

 “任せて、任せるの。であろうとわたし(アリス)の注文通り! 私はアリス、愛里寿は私達。変身するぞ、変身したぞ。俺はおまえで、おまえは俺だ”

 “何を言って……っ!? こ、これは……っ!”

 

 自己改造A。自らの身体に藍色の宝珠の特性をつけ、海水(カイオーガの一部)を取り込んで改造する。変化A+。肉体を海水へと作り変えてる。そして、取り込んだ海水(カイオーガの一部)を自己改造でナノマシンの特性を持つ海水へと変化させていく。カイオーガにナノマシンは操れない。

 そして、ナノマシンはアリス(わたしたち)。つまり、藍色の宝珠の効果も持っている。だから、一斉に命令する。

 

 “力を、母なる海を、始まりの海を、身体を引き渡せ”

 “や、やめっ! ありえなっ、ありえないっ!”

 

 カイオーガという個に対して、こちらはカイオーガの支配権と藍色の宝珠による命令。それを数の暴力でクラッキング、ハッキングしていく。いくら個が強くても並列処理した数十トン、数百トンを超える海水がナノマシンに変化すれば、演算領域で上回る。精神力の問題もあるが、ナノマシンは機械だ。だから、無限誕生ができる。無限にアリス(わたしたち)を生み出して、対処させて自爆特攻で相手の防壁を、精神力を削り切る。

 

 “なんていうんだっけ? ああ、人をやめるぞ! だった?”

 “とっくに人じゃないのよ、わたし”

 “意義を申し立てる。私は人。貴女達は違うけど”

 “何人の人がいるのでしょうか?”

 ““さあ?””

 

 カイオーガの悲鳴を聞きながら、カイオーガの精神を隔離して変換を完了する。この方法は海と同化したカイオーガにしか使えない。あくまでも変化して同化しているだけでしかないから、同化しないグラードンやレックウザには有効じゃない。

 海中で身体を形成し、浮上する。海面から顔と身体を出すと、メタルナイトが吹き飛んできて、空中でパーツが外れて分解されている。水を操ってメタグロス達を受け止めてあげる。ルクスは人型となって、海水をバウンドしながら止まった。

 

「ます、たー」

「大丈夫?」

「……なんとか……」

 

 メタグロスの状態で身体はひしゃげ、表面は砕かれていた。だからか、服は消し飛んでいた。魔法の服を収納してある髪飾りも破損してしまったみたい。下着だけになったルクスを抱きしめ、頭を撫でてあげる。すると頬ずりしてくるので、されるがままにして痛々しい怪我を治療する。

 

「メルク達は……」

「……だめ、みたい……ごめん、なさい……」

 

 泣きながら謝ってくるルクスを改めて抱きしめる。

 

「そもそもメタルナイトの計画がちょっと無茶だったから、仕方ないよ。だから、ルクス達は気にしなくていいよ。皆を休ませてあげて」

「ん、了解」

 

 ルクスを離して、他の子達の治療を任せる。海の中に対してマッドスィートケークと回復魔法を使い、治療してもらう。ルクスがメタグロスやメタモン達の口にケーキを入れていく姿もまた可愛い。

 っと、こんなことをしている場合じゃない。空を確認すると、ルギアとさくら、ホウオウが激しい戦いをしている。レックウザは上に逃げようとするけれど、結界に阻まれてそれができない。結界を破壊しようとしたら、即座に三匹から邪魔が入るので、互いに絡み合いながら戦っている。レックウザといえど、魔改造されたルギアとさくらの相手は大変のようだ。ホウオウは完全に妨害にしか手を出していない。それでも何度もやられては炎から復活している。

 地上の方はシロがボロボロになりながらも頑張っている。シロの特性的に地面の攻撃は無効化されている。飛んでいるとかじゃなくて、ミシャクジとしての力で霊体になって避けたり、逆に吸収したりしている。問題は炎と物理攻撃だ。炎を纏った物理攻撃には霊体化していても意味がないし、力としてはグラードンの方が強い。シロはまだまだ子供なのだから仕方がない。一人ならすぐにやられただろうけれど、ジュカとルクスがいたので耐えられているみたい。ジュカが呪って毒にしたりして遊撃をし、ルクスが攻撃と防御。シロが妨害と防御。二人で耐えていたところが一人になったので、より大変になっている。

 

「助けないと」

 

 海水のナノマシン化は終了した。次にやることは簡単。シロとジュカを助ける。そのための力は手に入れた。まずはグラードンに全力で終わりの大地を止めるように命じる。当然、拒否するだろうけれど、それはこちらの支配力がまだ低いせい。もっとも、一匹に集中できる上に力もかなり増えたので、前よりはましになっている。

 

「それじゃあ、人形劇を始めましょう」

 

 上海を基にしてナノマシンの海水から生み出す。生み出された人形達は浮かび上がり、アリス(わたしたち)の前で整列する。その子達はアルファのマークが刻まれた水色の身体でそれぞれ剣と盾を持つのが2体、槍を持つのが4体、剣だけを持つのが6体存在している。

 

 “これだけじゃ足りない”

 

 愛里寿が追加し、海水でできた上海達の下にA41センチュリオンを作り出す。センチュリオンは重巡航戦車と呼ばれ、前線での機動戦に付いていける程度には足が速く、ドイツの88mm砲に耐えられる程度には装甲が厚く、そして重装甲のドイツ戦車を打ち倒せる火力を備えた新時代の重騎兵である。ただし、第一次世界大戦には間に合わなかった。そんな戦車の蓋の部分に上海が立ち、それぞれが武器を構える。

 

「戦操・ドールズウォー」

 

 海水でできたセンチュリオンに乗った上海達が進んでいくと、シロがグラードンの爪に攻撃されようとしていたので、援護に主砲を放つ。センチュリオンから放たれた弾丸はナノマシンによって作られた物で、それが腕に命中して微かに軌道を変えることができた。そのおかげで、シロは攻撃から逃げられたけれど威力が小さすぎる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■──!」

 

 こちらに気付いたグラードンが、無数の岩を浮かして放ってくる。回避行動をさせようと思った時にはすでに遅く、半数が壊されて水に戻った。

 これでは駄目だ。使えない。回避が間に合わない。なら、それぞれに独自判断ができる分身を配置しよう。無限誕生を使って島田愛里寿を複製し、管理AIとしてセンチュリオンと上海に搭載する。また巨大化呪文を使って上海ごとセンチュリオンも大きくさせる。効果はゴリアテ人形と同じ魔法だが、盾世界の魔法と東方世界の魔法、クトゥルフ神話の魔術、Fateの魔術のハイブリッドで作成。そのため、色々と変化している。

 

「行け」

 

 ビシッ! と敬礼した上海達がボコの歌を歌いながら突撃していく。四両三班に分かれた彼女達は先に左右の部隊を先行させ、三方向で包囲して砲火を放つ。実際のセンチュリオンと同じ大きさになったため、火力は非常に上がっている。

 一撃でグラードンが周りに防御の為に展開しているステルスロックを破壊し、本体に砲弾の雨を降らせる。大元がカイオーガの力で、あくまでも水タイプの攻撃ではあるが、しっかりと物質化しているので少しはダメージになる。そこからナノマシン達が付着して熱さで液体化し、蒸発するまで紅色の宝珠の力で終わりの大地の停止と原始回帰の解除を命じる。

 

「■■■■■■■■■■■■──!」

 

 当然、グラードンも黙っていない。口から火炎放射を放ってくるが、センチュリオンは瞬時にバックして回避する。今度は地震を放ってくる。しかし、揺れなんて水で構成されている彼女達に効きはしない。お返しとして砲弾をプレゼントする。そうなるとグラードンは転がって炎をまき散らし、追いかけてくる。それらをセンチュリオンはドリフトして回避し、至近距離から砲弾を放って距離を取る。

 そのまま追ってくるグラードンは海に誘導され、追っていたセンチュリオンを潰した時には待ち構えていた他の車両に背後から攻撃され、前からはアリスの起こした母なる海によって作り出した巨大な津波に呑まれる。センチュリオン達は水中でも自由に動けるので、縦横無尽に動き続けて砲撃を繰り返す。それも目や口、指の付け根などを狙っている。

 

「シロ達は一時退却。回復に専念して」

「了解です。ジュカ、大丈夫ですか?」

「ん、きつい」

 

 戻ってきた二人は人型に戻り、抱き着いてくるので口に指を入れて、そこからマッドスィートケークを作り出して食べさせてあげる。これで回復はできる。

 

「……マスター、メタグロス達……治療、完了……」

「ありがとう」

 

 回復したのなら、戦線に加わってもらおう。メタグロス達を上海達の部下として配置する。これでそれぞれ10両と隊長1両の部隊になる。グラードンを翻弄しながら、しっかりと削っていく。徹底的に罠に嵌めて海の中に沈める。そのためにはまず体内にナノマシンを侵入させないといけない。

 ルギア達が居れば楽だけれど、あちらはまだ戦えない。ヒードランはともかく、他の子達はきついだろうし、機動戦の邪魔になるからこのままがいいか。

 

「■■■■■■■■■■■■──!」

 

 身体中からマグマを生み出し、襲ってくる。センチュリオンの砲撃でマグマは固まって地面へと変化する。グラードンの周りにだけ溶岩が現れ、それ以外はすぐに黒くなっていく。罠に嵌ったグラードンはセンチュリオン達の十字砲火で身動きができなくなってきている。

 その間に魔法を使って水を増やし、空から雨を降らせる。カイオーガを仕留めたから、囲いを完全に閉じる必要はなく、海中に穴を開けてどんどん海水を呼び寄せる。ただ、汚染されているのもあるので、味方の回復と浄化を同時に行う。まあ、マッドスィートケークを混ぜたらいいだけの簡単なお仕事……うん、もっといい事を思い付いた。

 指示を出してグラードンの爪を重点的に狙わせる。センチュリオンは地面から生えてくる断崖の剣をドリフトや速度を落としたり、早くしたり、主砲を撃ってその反動や背面走行などで回避し、爪を砲撃する。接近すると、上海が飛び出して槍や剣を爪に突き刺して落としにかかる。

 弱い部分を攻撃されて苦痛で暴れ回るグラードンはソーラービームを放って周りを薙ぎ払いにかかる。その一撃によってミラーコートを展開したメタグロス達がその上から消し飛ばされそうになるも、センチュリオンと上海が盾となることで逃げる時間が稼げた。センチュリオンと上海は海水になり、上海だけに再構成されて攻撃を再開する。

 センチュリオンと上海が何体もやられたら、こちらは津波を起こしてメタグロス達と海水を回収。その子達を再構築して戦線に復帰させる。休むことをさせず、ひたすら攻め続ける。

 そして、それが何度も繰り返されていると爪が落ちて手に入った。この爪を解析し、グラードンにしか効かないウイルスなどの汚染物質を作成する。今度はそれを弾丸として放つと、命中した部分から浸食して肌がボロボロに崩れた。その部分に執拗に攻撃を繰り返すとだんだんと防御力が失われていく。

 

「今こそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自らの身体を海水に変化させ数十メートルを超える巨大な大津波に変化させ、グラードンを呑み込み、紅色の宝珠の効果で口を開けさせる。そこから体内に侵入して内部から上海達を作り上げて内と外から攻撃する。

 体内は熱く、肌がすぐに焼けるけれど周りは海水だらけ。ましてやこの中で母なる海を発動し、大量の海水を生み出す。同時にグラードンの血管にナノマシンを流し込み、内部から脳へと侵入。続いて大出力で血管内部を爆破。激痛にのたうち回るグラードンに降伏勧告(交渉)を告げる。

 

 “()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 “わっ、わかった……俺の負けだ……

 “()()()()()()()()()()

 

 外に出てから、原始回帰を解除して涙目になっているグラードンにモンスターボールを当て、大人しく入らせる。これでグラードンはゲットできたし、使い魔にもした。カイオーガはこのままにして後でいい。残りはレックウザだけど……

 

『アリス~みてみて~』

 

 さくらの声が聞こえて振り向くと所々に怪我をしたさくらが元気に降りて抱き着いてきた。その速度は弾丸と言えるほどで、カイオーガと融合したり、ハードゴア・アリスの状態じゃないと死んでいた。そんな風に突撃してきたさくらを適当に撫でながら空を見上げると、翼が折れ、尻尾がとれかかっているルギアとホウオウがメガ進化が解除されたレックウザの頭と尻尾を咥えて降りてきていた。

 

「あは♪」

 

 とっても嬉しい。だから、さくらを抱え上げてくるくると回って歌う。どうやら、さくら達はやってくれたようだ。レックウザを倒すという偉業をこなしてくれた。

 

「ふふ、みんなありがとう」

 

 歌っている間に皆、集まってきた。シロやジュカ、ルクス達はもちろん、結界を維持するのに協力してくれたレジアイス達やサンダー達。もちろん、メタグロス達も。

 

「ルギア、ホウオウ。そのまま押さえていてね。ゲットしちゃうから」

『心得た』

『了解』

『離せっ、離せっ!』

「あ、捕まる気はない?」

『あるわけなかろう!』

 

 レックウザにはグラードンとカイオーガにあった宝珠はない。だから、大人しく捕まってくれたらよかったんだけど、残念だよ、本当に。

 

「仕方ないね。ルギア、口あけて」

『なんだ?』

「マッドスィートケーク」

『美味いな』

「よしよし、じゃあ海の中に行こうか。大丈夫。愛里寿は寛大だから、襲われても殺しはしないよ?」

 

 ルギアと一緒に海に行く前に結界を再展開して、魔法でトランクケースを探して持ってくる。その中から回復装置やポロックなどを取り出し、皆に与える。

 

「シロ、ジュカ、治療と警備をお願い。多分、大丈夫だと思うけどね」

「かしこまりました。こちらはお任せください」

「任せて」

 

 マッドスィートケークのケーキセットを何個か呼び出して、食べさせたりしつつグラードン達にはここの守りをお願いしてから、海へと入る。

 

『さくらも行く~』

 

 ルギア二体とカイオーガによるレックウザの海底ツアー。管理局の白い悪魔がやったお友達になる方法を実践した。レックウザは宇宙でも活動できるから空気とかはいらないっぽいけど、水圧とかマシマシにしたらいいよね。だいたい、さっきはレックウザのフィールドでやったんだから、今度はルギア達のフィールドでやっても問題ない。

 80分ぐらいで快くモンスターボールに入ってくれたし、使い魔契約もしっかりとしてくれた。宇宙空間で活動できるレックウザは便利だしね。使い魔になったからには裏切り禁止。後はカイオーガを分離して、捕獲すれば成功。いや、もうこのままでもいい気がしているけれど……流石にまずい。

 

「解除!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解除されない。やばいやばいやばいやばい! どうしよう。海と同化したカイオーガの身体を変化A+と自己改造Aを利用してナノマシン化して取り込んだわけだけど……あっ! 

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 つまり、もう戻らない? 分離もできない。カイオーガはアリスになった。違う。アリスがカイオーガを取り込んだ。

 

 “うぅ……わ、私、どうなるの……?”

 “新しい身体を用意してあげるから、我慢して”

 “わ、わかった……”

 

 泣き声でカイオーガにそう言われたら、仕方がない。人形を用意しよう。いや、それこそジラーチを狙うのもいいかもしれない。まあ、一応今でも使える身体を用意すればいい。

 さて、とりあえず変化でアリスの身体になってから、魔法少女化で島田愛里寿の姿になる。どうせなので、海水でセンチュリオンを作って変化で金属化。水色から黒い色の金属の装甲へと変化。実物と同じ大きさにしたので乗れるし、水陸両用に加えて潜水もできる。つまり、船でもあるので操舵術も有効。データは愛里寿が知っているから問題なし。

 

「カイオーガ、この中に入ってる?」

 “入ってますね。身体がないと不安だし、あなたの中にはいたくない”

「え、ひどい……」

 “こんな混沌としているのは御免被ります”

 

 まあ、沢山のアリスが混じっているわけだから仕方ない。

 

「わかった」

 

 そんな訳でセンチュリオンにカイオーガを移植。ちゃんとした身体は別に作ってあげよう。海の中から戦車に乗って地上に戻る。うん、やっぱり落ち着くししっくりとくる。愛里寿は戦車に乗らないとね。

 海から出たら服は濡れ濡れなので着替える。魔法少女になっていられる時間も残りすくないから。なので普通に変化で島田愛里寿の姿を取り、黒い軍服みたいなユニフォームに着替えたら外にでる。もちろん、戦車の中で着替えた。

 

「さて、どうしようかな」

 

 周りを見渡すと凄まじい破壊の跡しか残っていない。まず、グラードンによって作られた大地は島となり、あった山は津波で抉り取られている。地面はグラードンの溶岩がそこかしこで固まり、どこぼこになっているし、草木なんて一本も生えていない。ただ、そこかしこに泉や沼ができているし、火山灰がヘドロのようにこびりついたりもしている。

 とりあえず、皆がいるところに移動して戦車から降りる。治療が終わっている子達を確認していく。

 

「うん、みんな元気になったね」

「なった」

「疲れた~」

「よしよし、メタグロスの皆はパーツの回収。場所を伝えるから最後に頑張ろう」

「了解」

 

 ルクスに回収を頼み、レックウザの回復を行う。その間にGrimoire of Alice(アリスの魔導書)の確認を行う。一応、アリスポイントが2点、入っていた。カイオーガも捕まえた扱いにはなっていない。

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 

 ネーム:Grimoire of Alice

 ベーシック:東方・旧アリス

 アリスポイント:2

 スキルポイント:0

 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.10》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.10》《弾幕Lv.3》

 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.10》《プロイキャッシャーLv.10(左目)》《魅了の魔眼Lv.10(左目)》

 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》

 ハードゴア・アリス(魔法少女育成計画):《変身・魔法少女Lv.10》《どんなケガをしてもすぐに治るよ》

 アリス(ARMS):《世界最高の頭脳》《科学者Lv.10》《金属生命体》

 アリスとありす(Fate/EXTRA):《魔力Lv.10》《陣地作成Lv.10》《変化Lv.10》《自己改造Lv.10》《誰かの為の物語Lv.10》

 島田愛里寿(ガールズ&パンツァー):《戦術指揮官Lv.10》《騎乗Lv.10》《カリスマLv.1》

 アリス(Infinite Dendrogram):《冒涜の化身》《管理AI》《無限誕生》

 アリス・キャロル(ARIA):《黄昏の姫君》《天才》《操舵術Lv.1》《歌Lv.1》 

 カイオーガ(ポケットモンスターSPECIAL):《原始回帰》《始まりの海》《根源の波動》

 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》《万魔殿の魔導書Lv.10》《簡易迷宮作成の魔導書Lv.10》《資質向上の魔導書》《レアリティアップの魔導書》《ドロップ生成の魔導書》

 

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 

 カイオーガ追加されている。スキルは原始回帰と始まりの海、根源の波動。根源の波動は氷を作るんだったか。うん、色々と便利。なにせ旅で水に困らないし、暑さ対策にもなる。

 そんな事を考えていると、結界の外に大きな飛行船が現れた。まるでハンターハンターの奴みたい。

 

「……マスター、回収終わった……」

「ありがとう。それじゃあ、疲れた子達はモンスターボールか、魔導書に入って休んで。これから移動するから。ジュカ、お願い」

「ん、皆こっち」

 

 ジュカに連れていってもらう。皆、モンスターボールよりも魔導書を選んだ。ただ、グラードンとレックウザだけは手元に残す。それ以外は全部休ませる。もちろん、カイオーガもこっち。センチュリオンになってるし。

 

「シロとルクスは愛里寿と一緒にきてね」

「……護、衛……?」

「そうだよ。いや、シロは中に入ってて。見られた可能性もあるから」

「かしこまりました。残念です」

 

 シロも中に入ったので、二人だけになった。レックウザとグラードンの治療も終わってるし、敵対しても倒せる。そんな訳で結界を解除しても大丈夫。

 結界を解除すると、結界の前で右往左往していたジムリーダーや四天王の人達がこちらにやってくるので、グラードンを出す。そのグラードンにセンチュリオンを持たせる。愛里寿はグラードンの頭の上に移動して座る。ライドポケモン・グラードン。なんて贅沢で無駄なくせに可愛らしい姿。

 

「本当にグラードンを捕まえたのか……」

「エッヘン」

 

 グラードンに座りながら、メタグロスに乗ってきたダイゴさんに胸をはる。まあ、小さいのでほぼ動いてないけど。

 

「レックウザやカイオーガは……」

「どちらも捕まえた。もっとも、カイオーガは捕まえたとはいいがたいけど。それで、被害は?」

「船が損傷したぐらいだ」

「そう、それは良かった。じゃあ、アセロラを送ってから帰る」

『待ちたまえ。ポケモン協会として話がある。まずは船に乗ってくれないか?』

 

 飛行船から声が聞こえてきた。

 

「嫌」

『なっ……」

「話があるなら、降りてこないと駄目。こちらは別にないし、行く理由もない」

「……マス、ター……排除す、る……?」

「まだいいよ」

「確かに彼女の言う通りだろう。理事、飛行船を降ろしましょう」

『だが……』

「それと、船に乗る理由はあるよ。アセロラ君は飛行船にいるからね」

「……人、質……?」

『違う!』

「まあ、どっちでもいいよ。そんなことをしたら、大変なことになるだけだし」

「……マス、ターがそ、ういうな、ら……」

 

 とりあえず、グラードンは戻して上海と蓬莱を抱きながらセンチュリオンに乗って待つことにする。少しすると、飛行船が停泊して梯子が設置された。そこから小さな人とアセロラが降りてくる。

 

「アリス、大丈夫だった! 怪我はしてない!」

「大丈夫だった。怪我はいっぱいしたよ。というか、死にかけた」

「大丈夫じゃないよ!」

 

 アセロラが駆け寄ってきて、愛里寿の身体を触って確認してくる。こちらはされるがままになる。

 

「こほん。そろそろいいかな?」

「あ、はい」

 

 アセロラが落ち着いたところで、ポケモン協会の人と話をすることになった。面倒だからセンチュリオンに乗って逃げてもいいかもしれない。海底までは追ってこれないだろうし。

 

 

 

 

 

 

 




本当はね、グラードンを味方につけてカイオーガと戦う予定だった。でも、逆になっちゃいました。グラードンと戦うより、カイオーガを下す方が楽だったから。

レックウザとルギア達の戦いはカット。ダイス目は04だったのでクリティカル。ルギア達が勝ちました。こちらの損耗率は46%。ルギアが強かった。

ちなみに感想でありましたが、天撃は本来、水爆を平気で耐えるような奴が放つ攻撃で、火力は数十倍は軽くあります。

次回。カイオーガとグラードン編のエピローグ。交渉はカットするか考えてちゅうです。


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58話

 

 

 

「わふ~!」

「はやいね~」

 

 ポケモン協会の飛行船での話し合いを終え、アリスはアセロラと一緒にセンチュリオンに乗って海を渡っている。目的地はカントー地方。

 ちなみにポケモン協会との話し合いは愛里寿に伝説のポケモンの所持を認めさせ、被害の補填はしない。代わりにグラードンが作り出した土地を譲渡する事で納得してもらった。当然、普通の方法で納得してもらったわけではなく、武力行使をちらつかせての交渉だ。ちゃんと汚染処理もしておいたので問題はない。ただ、伝説のポケモンのデータは求められたけれど、こちらも拒否した。この世界にはミュウツーやデオキシスとか存在するからね。つまり、ポケモン協会としての利益は島だけだ。でも、本来の歴史からいったら、港町は水没し、火山の付近は燃えたりして被害も甚大だったのだから、よしとしてもらう。

 

「あ、マサラタウンだよ~」

「マサラタウンは素通り」

 

 オーキド博士の研究所はちょっと気になるけど、今回は無視する。水面から地面に移っても変わらずにキャタピラで走行している。ただ、周りからはめっちゃ見られているけどね。

 

「メタグロスで行くのもいいけれど、これで行くのもいいね~」

「確かにいいかも」

 

 金属に囲まれているから、防御力的な安心感もある。それに中身も居住性を優先して椅子とかも改造してある。なにより、何も操作しなくても勝手に動く。カイオーガが指示を聞いてくれているだけだけど。

 ミミたんとジュカは二人で遊んでいるし、他の子達は狭いから魔導書の中で遊んでいる。なので、愛里寿とアセロラはここで紅茶とケーキを楽しんでいる。まるでガルパンのダージリンさんみたい。

 

「うん、美味しいね」

「上海と蓬莱が入れてくれたからね」

「ホラーイ」

「シャンハーイ」

 

 小さな上海と蓬莱が動き回り、色々と世話をしてくれる。マッサージもしてくれるし、疲れた身体には丁度いいんだよね。ぶっちゃけ、何度も死にかけて疲れ切ってるからね。

 

「お菓子食べよ~」

「なんのお菓子がいいの?」

「ホウエン地方で買ってきた名物でいいよね」

「うん。なんでもいい」

「じゃあ、餅にする」

「名物……? まあいいけどね」

 

 アセロラはアローラ地方の人だからホウエン地方の料理は珍しい物ばかり。だから適当に買っている可能性が大きい。

 

「はずれはあるのかな……」

「ホテルのコンシェルジュさんに紹介してもらった奴だから、味は保証されているよ?」

「なら大丈夫か……」

「アリス、あ~ん」

 

 わらび餅などを食べさせてもらう。もきゅもきゅと食べてみると、ほんのりとした甘みでとても美味しい。

 

「そっちも食べさせて」

「はい、あ~ん」

「あ~ん。ん~美味しい~」

 

 アセロラと食べさせあいっこしていると、無事にトキワシティに到着した。流石に戦車の大きさは道幅がアレだったけれど、なんとかなっている。大きさも変えられるからね。

 

「お帰り!」

「ただいまです」

「ただいま~」

 

 迎えに出てきてくれていたイエローさんに挨拶する。身体をぺたぺたと触られて無事を確認されていく。

 

「二人共、怪我はしていない?」

「アリスはいっぱい怪我してたよね」

「あっ、言っちゃ駄目なのに……」

「どういうこと?」

「えっと……」

「アリスね~」

 

 アセロラが止める間も無くイエローさんに全てを話していく。そうなると、当然怒られる。

 

「アリス~?」

「ごめんなさい」

 

 しばらくお外で正座してたっぷりと怒られた。怒られた後は家に入れてもらい、椅子に座ってゆっくりと話す。

 

「まったく……無事だったから良かったものの……」

「確かにはたからみてたら何度死んでたかわからないよ~?」

「あははは」

 

 実際、何度というか、何十回くらい死ぬような所だった。とてもじゃないが、普通の人間が行動できる領域じゃない。温度もそうだし、火山ガスとか高温の水蒸気で身体の内側が焼けたり、本当に普通の人なら数分もいられないと思う。

 

「笑いごとじゃないんだけど……それでグラードンとカイオーガ、捕まえられたの?」

「もちろん。見てみる?」

「いいの?」

「うん。でておいで、グラードン」

 

 窓から外に向けてモンスターボールを投げる。するととても大きなグラードンがでてくる。それから周りは晴れになっていく。終わりの大地は発動していないのでまあ大丈夫だ。

 

「大きいね」

「これがグラードン……」

「グラードン、そこでゆっくりとしていていいから。ただ、周りの地形は変えないようにね」

 “わかった”

 

 ゆっくりとイエローさんの家の横で寝そべって、お昼寝をしだした。庭の外だけど、まあ大丈夫だろう。ついでなので、他のポケモン達もだして、皆で日向ぼっこでもさせる。

 

「これからどうするの?」

「ここでゆっくりしてから、アセロラを連れていったら元の居場所に戻るよ。しばらくこっちには来ないと思うし、電話もつながらないかも」

「そうなんだ……」

「どこに住んでるんだろう?」

「秘密の隠れた場所。ここからじゃ普通の方法じゃいけないから、連れていくわけにもいかないの。ごめんね」

 

 流石にクトゥルフ神話の世界で数日過ごすとか無理。東方の世界にすぐ行ったとしても、認められるかわからない。シロ達は使い魔だから認められているだけに過ぎないし。

 

「会えなくなるんだ……」

「まあ、また来ると思うよ。それよりイエローさん」

「お姉ちゃんがいいな~」

「お姉ちゃんには伝えておかないといけないことがあるの」

「何?」

「これから大変な目に合うと思うから、この子達をあげるね」

「え?」

 

 イエローさんにモンスターボールを三つ渡す。不思議そうにしながら、ボールを投げて中身を外に出す。

 

「大きいけれど、不思議なポケモン……」

「その子達はレジロック、レジスチル、レジアイス。準伝説ポケモン。戦力としては一級品だから」

「渡しちゃっていいの?」

「うん。お姉ちゃんに渡すつもりだから、拒否しただけだし。アセロラにはヒードランをあげるから、可愛がってあげて」

 

 レジアイス達の命令系統は書き換えてある。主人であるアリス、アセロラ、イエローさんの言う事を聞くように書き換えてあるし、魔術的に強化も施す。他にももしもの場合を考えて石化しないようにしたり、しても解除できるようなアイテムを作る。

 

「いいのかな~?」

「切り札として持っておいたらいいよ」

「本当にその子達が必要な時が来るの?」

「間違いなく。むしろ、とっても大変になるから居ないと困るよ。これはレッドさん達が巻き込まれる事件だし……」

「……どこから情報を仕入れているのか、気になるけれどアリスの言う事なら本当なんだね。わかった、この子達を預かるね」

「うん、それがいいよ」

「アセロラには何かある~?」

「アセロラはもうわからないよ。凄く強くなってるし。でも、言えることとしたら、一人で解決しようとするんじゃなくて、孤児院の皆で行動することかな。今からアセロラがしっかりと鍛えればかなり強くなるはずだし」

「何時もの通りだね。今回の旅でいっぱい経験できたから、そのことを皆にしっかりと教えないと。それにアセロラちゃんとしてはもっと強くなりたいし……今度こそ、決着をつけるんだ」

 

 カガリさん相手に頑張るつもりみたい。

 

「ライバルだね。でも、アセロラもあんまり無茶したら駄目だからね」

「は~い」

「そういえばカガリさんとかはどうなったの?」

「あの人、調べてみたらルビー君の師匠になって、一緒に旅しているみたいだよ」

「え?」

「マグマ団の人なんだよね? 怪我させたのに?」

「償いかはわからないけれど、ほら、これ」

 

 見せてくれたのはポケギアに映っている写真だ。その写真にはコンテストで優勝した証に撮ったのか、カガリさんの肩を抱いているルビー君が自分で撮った写真みたいだった。カガリさんは恥ずかしそうにしているけれど、二人共笑っている。だからか、二人共の周りにいるポケモン達も楽しそうにしているのがわかる。

 

「本当にいい感じみたいだね」

「こっちもあるよ~」

 

 次の写真はルビー君とサファイアちゃんの写真だった。二人でバトルしている時の写真で楽しそうにしている。

 

「三人で旅をしているの?」

「みたいだよ。なんでも勝負してたらしいけれど、ルビー君が入院しちゃったから、それでルビー君のコンテストを手伝っているみたい」

「そっか」

 

 確かに入院していた間のことがあれば、ルビー君はおそくなるのは仕方がない。それに原作よりもアリス達が動いたせいか、事件自体は早めに起こった。街への被害もないからコンテストなどは通常通り。一時、ジムリーダーが不在になったぐらいでしかない。

 

「そういえば、二人はジムバッジをいっぱい集めたんだよね?」

「そうだよ」

「うん、いっぱいあるよ~」

「だったら、リーグ戦には参加しないの?」

「ナニソレ?」

「あ、おしえてなかったっけ。ジムバッジを8個集めると参加できる大会で、その地方最強のトレーナーに挑戦できる権利を決める戦いなの。つまり、リーグが終わると四天王とチャンピオンと戦えるってこと」

「へぇ~」

「ホウエン地方のチャンピオンはダイゴさんだったよね」

「あ、あの人なんだ。そういえば、何かに参加しないか誘われてたかも」

「多分、それがポケモンリーグかな」

「行ってみようかな? アリスは?」

「アリスはパスです。それまでにあちらに戻りますから、こちらにはいません」

「残念」

「じゃあ、アセロラさえ良ければ残ってここからホウエン地方に戻る? それまでいてくれても全然いいからね」

「イエローさんがそう言ってくれるなら、残ろうかな?」

 

 アセロラはホウエンリーグに挑戦か。こっちの地方はすでに終わってるから、来年になるしね。

 

「じゃあ、イエローさんと一緒に鍛えたらいいよ。相手はレジアイス達がしてくれるだろうし」

「準伝説ポケモンをスパークリング相手にしろと……」

「それぐらい、アセロラならできるよ! 頑張れ!」

「……うん、古代のプリンセス、アセロラちゃんには不可能はない!」

「アセロラは古代に栄えた国の王族の末裔だったけ?」

「そだよ~」

「それなら、レジアイス達ってアセロラが持っていた方がいいと思うよ?」

「あ~確かにそっちの方がいいかも?」

「ん~まあ、その辺りはおいおいでいいよ。それにアセロラよりもイエローさんの方が必要だろうし」

「確かにそれはある。アセロラが残るなら巻き込まれるかもしれないけれど」

「……大丈夫。行き来に二日くらいだから、どうにかなるし、うん。イエローさんはアセロラも手伝うよ」

「いいの?」

「いいの~」

 

 これから起こる事件はデオキシスだったかな。アレに参加できるかはわからないしね。できたら捕獲しておいてほしいけれど、多分無理だよね。いや、戦力を渡しておけばいけるかも? カイオーガクラスと考えると……ルギアとか? うん、駄目だ。言う事を聞いてくれない可能性が高い。

 

「まあ、任せるよ。っと、アリスはこれからポケモン達のお世話をするけれど、皆はどうする?」

「手伝うよ」

「アセロラも~」

「じゃあ、晩御飯は……シロ、でてきて」

 

 シロを魔導書から呼び出す。何時もの通り、メイド服を着たシロが現れて頭を軽く下げてくる。

 

「晩御飯の用意、頼める?」

「お任せください。しっかりと習っています」

「じゃあ、お願いね」

「はい」

 

 シロに任せてから、三人で外に出る。そこでトランクケースから大量の上海と蓬莱達を操作し、モンスターボールから出したメタグロス達の身体をデッキブラシなどで洗っていく。水は思っただけで出せるようになっているし、問題ない。いや、問題はその、全身から出せるから汗やアレみたいに思われる場合もある。びっくりして出してしまったりする可能性もあるし。でも、けっしてアレじゃない。いいね? 

 

「じゃあ、身体を綺麗にしましょう~」

「「お~」」

 

 全部のポケモン達を綺麗に洗っていく。人手は上海と蓬莱で確保しているので、隅々までしっかりと洗ってマッサージをし、オイルを塗ってあげたりする。グラードンもレックウザも、ルギアもホウオウも全員しっかりと綺麗にした。流石に合体はまずかったみたいで、色々と疲れがたまっていたみたい。だから、とても気持ちよさそうにしてくれて、くすんでいた光沢も取り戻してくれた。ルクスとジュカもしっかりと洗ってあげる。

 

「てや~!」

「ちょっ、なにをするのアセロラ!」

「暑いから水かけだよ!」

「確かに。うん、気持ちいいかも」

「いや、服が水で透けて色々と危ないんですけど!?」

「女同士だから大丈夫だよ」

「いや、アリスは……」

「アリスって、女の子が好きだから、興奮するんだって」

「え!? そうだったの?」

「そうですよ。だから、一緒にお風呂とかは入らないといっているのに、アセロラは……」

「それで嫌がってたんだ」

「まあ、アセロラはどっちでもいいけどね。アリスの反応、可愛くて好きだし!」

「まったく……これはお仕置きが必要ですね」

「別に怖くなんて……」

「アセロラ、今回、アリスが手に入れたのはなんでしょう」

「え? えっと、グラードンとカイオーガ、それにレックウザ……まさか……」

「母なる海よ」

 

 アセロラに掌を向けて大量の水を生み出してアセロラにぶちける。局地的なので天候の変更はなし。

 

「ちょっ!? きゃぁああ!」

「大丈夫なの?」

「大丈夫です」

「やったなぁ~!」

 

 ホースの蛇口を絞ってアリスに水をかけてくる。こちらも対応してかけあっていく。次第にキャッキャッと笑い合いながら遊んでいく。

 

「まったく……わっ!」

 

 一人で我関せずだったイエローさんにも水をかけてこちらに入れてあげる。

 

「……ふう。覚悟っ!」

 

 水掛けバトルを楽しんでいると、泥だらけになってしまった。まあ、ポケモン達は上海と蓬莱が綺麗にしておいてくれたし、大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 夜、パジャマに着替えてからアリスのナノマシンの一部と、魔法で地下から取り出した鉱石を使って指輪を二つ作る。一つにはイエローさんの名前を、もう一つにはレッドさんの名前を入れていく。それから魔法を付与して、指輪は装備者の左手薬指にしか装着できなくし、外れないようにもする。外れるのは二人が心の底から望んだ時だけ。

 効果は体力の自動回復と自己治癒力の向上。ペア効果としてイエローさんの指輪は装備者の石化を無効化し、また石化などの状態異常を回復する。相手の位置と状態が常にわかる。これらに加えてレッドさんの方はイエローさんの指輪の装備者からキスをしてもらうことで、互いの効果が直径5メートルにいる存在にも適応できるようにし、発動条件を心の底から相手を想うことにした。それぞれの指輪には宝石として藍色の宝珠を改造して色を黄色に変えた奴と紅色の宝珠の小さい奴を取り付けてある。レッドさんのは黄色で、イエローさんのは紅色だ。

 

「できた」

 

 イエローさんがいるところに移動し、指輪を渡す。

 

「えっと、これは?」

「アリスからのプレゼント」

「告白?」

「間違ってはいないけれど、相手が違うよ」

「えっと、まさか……」

「お姉ちゃん、レッドさんと進展した?」

「そっ、それは……」

「ちょっと詳しく教えて~」

「いいよ」

 

 アセロラにレッドさんとイエローさんのことを教えて、二人で応援しようと握手する。

 

「さて、この指輪は左手薬指にしか装備できません」

「ちょ!?」

「アリスの予言ではレッドさん達が石化する可能性は極めて高いです。ですから、この指輪を装備していればお姉ちゃんは石化しないようにしました。メリットとデメリットの誓約をつけることで強化していますので、これ以上の物は現状では作れません。その時になるまでわかりませんが、常に持っておいてくださいね」

 

 しっかりと指輪の効果も説明していく。

 

「うぅ~」

「これって、昔話にあるように王子様のキスでお姫様が目覚める奴?」

「それです。愛を足していますけどね」

「というか、逆だよね!」

「はい、逆ですが、レッドさんの方から待っていてもしてくれませんよ。だからこそ、こちらから攻めて意識させ、壁をぶち壊すのです」

「聞いた感じじゃ、ライバルが多いからそっちの方がいいよ、絶対」

「くっ、わ、わかりました……頑張ってみる……レッドさんとキス……あ~~~~」

「これは色々と楽しみが増えました」

「だね~」

 

 真っ赤になって悶えているイエローさんを二人で見ながら、皆で仲良く眠る。イエローさんはチュチュを抱きしめ、アセロラはミミたん。アリスはジュカ。シロとルクスも一緒になって皆で眠っていく。

 目覚めたら、レジアイス達に魔法を施してから、別れを告げて白い部屋に戻り、そこから東方世界に移動する。今回はお母さん達には会わない。入った瞬間から、攻勢をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異 変 の 始 ま り だ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 さあ、霊夢とのバトルだ。


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Re.ゼロから始まる幻想郷異変
Re.ゼロから始まる幻想郷異変~二人の巫女~


アリス「異変がはっじまるよ~!」
諏訪子「注意点だよ。今回の異変はえげつないです」
アリス「残虐だよ。いっぱい人が死ぬよ。クトゥルフ神話も入っているから仕方ないね」
諏訪子「でも、安心してね。アタシ達の主人公、博麗霊夢が頑張って解決してくれるから!」

アリス+諏訪子「では、Re.ゼロから始まる幻想郷異変。果たして博麗霊夢は無事に解決できるかな?」

注意。今回の異変中の諏訪子様は最強無敵です。諏訪子さまを相手にするとどんな人でも神様でも絶対に、なにがあっても勝てません。なので容赦なく邪魔な人やルール違反をした人は殺されます。でも、異変のタイトルからわかるように、霊夢ちゃん達が頑張ってくれます。
また、ポケモンは一時終了ということで原作ジャンルを東方projectに変更させていただきました。ポケモン達はかわらずにでますが、メイン世界が東方に映ります。その次はガンダムの予定です。


 

 

 

 

 

 

苦しい。暑い、熱い。身体が、幻想郷が燃えていく。博麗神社が、人間の里が、妖怪の山が地面が割れ、中から溢れ出した赤い物に触れて燃えていく。

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなったのだったか……確か、最初は数日、異常なくらい暑い日が続いた。馬鹿みたいな熱さで、放置していられなくなったんだ。いや、その前に魔理沙が来てたか。

 

 

 

 

 

 

「霊夢。この暑さは何かがおかしいぜ。多分異変だ。解決にいかないか?」

 

 と言われて、私はめんどくさくて勝手にいきなさいと言ったんだった。どうせ誰かが異変を解決するだろう。できなくても、時間稼ぎくらいはできるはず。こっちとら、ろくにご飯も食べていないのだから動きたくない。

 

「そうか。わかったぜ。どうなっても知らないからな! あとコイツはここに置いていく。くれぐれも持ち歩けよ!」

 

 はいはい、と告げて見送った。でも、暑すぎて動きたくない。だから、もう少しだけ寝ようとしたんだ。

 

 

 

 

 数日が過ぎて、寝苦しくて起きて外にでるといやに明るかった。後ろを振り返ると、博麗神社の本殿が燃えていた。

 すぐに霊力を使って炎を吹き飛ばした。どうにか一部は無事だったけれど、私は激怒した。家を燃やされて黙っていられるはずもない。だから、まずは情報収集のために人間の里へと飛んで移動した。何かを忘れている気や違和感がするけれど、そうすると、人間の里は──―

 

 

「たっ、たすけてくれぇえええええぇぇっ!」

「家が、家がぁあああああぁぁっ!」

「畑がぁぁぁぁぁっ!」

 

 

──燃えていた。

 

 

 

 妖怪の仕業? そう思ったけれど違う気がした。ただ単純に周りの温度が異常に高い。熱で視界が歪み、どんどん地面から水分が消えていっている。

 

「頑張れっ、頑張れぇ!」

「お願い、あんたぁぁっ!」

「がめぇえええぇぇ!」

 

 声が聞こえてそちらに向かう。そこでは火事にあっている子供と母親が、家の中にいるであろう男性に声をかけていた。その男性の周りや家に向かって水を放っている亀みたいな見た事もない妖怪が複数いた。その亀は肌の色は空色などの薄い青系で、甲羅は茶系、お腹の色はクリーム色をしている。

 

「なにあれ……でも、害意はないみたいだし……」

「博麗の巫女!」

 

 不思議な状況に考え事をしていると、呼ばれた。博麗の巫女というのは私の事だ。私は博麗神社の巫女と、妖怪退治、今回のような異変解決を生業としている。今回はまだ異変とはわからないけれど、私の勘が異変だと言っているから多分異変。

 下の方を見ると、腰まで届こうかというまで長い、青のメッシュが入った銀髪をした人が声をかけてきていた。彼女は頭の頂に赤いリボンをつけ、六面体と三角錐の間に板を挟んだような形の赤い文字のような模様が描かれている青い帽子を乗せている。

 衣服は胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服。袖は短く白。襟は半円をいくつか組み合わせ、それを白が縁取っている。胸元に赤いリボンをつけている。下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついている。コイツの名前は上白沢慧音。里で寺子屋をやっている。

 

「慧音、何があったの? まさか放火?」

「違う。これは自然現象の発火だ」

「そんなことがありえるの?」

「ああ、ありえる。この暑さで空気が乾ききり、乾燥した状態に加えて降り注ぐ強烈な太陽の光。その光が集まって火が付いた」

「つまり、全部この暑さのせいってことね」

「そうだ。誰かはやく解決してくれ」

「やっぱり異変?」

「そうです。このようなことは今まで確認されておりませんでした」

 

 新しく会話に入ってきたのは若草色の着物の上に、袖の部分に花が描かれた黄色の中振袖の着物を艶姿のような感じで纏っており、赤い袴。髪は紫色で、花の髪飾りをつけている。この子は稗田阿求。人間の里にある名家、稗田家の当主。九代目の御阿礼の子。幻想郷の妖怪についてまとめた書物、幻想郷縁起を編纂するため、千年以上前から転生を繰り返しているから色々と詳しい。それに能力も一度見た物を忘れない程度の能力。これなら全部覚えているんじゃないかと思ったら、転生の際に記憶の大半を忘れてしまい、それを何度も繰り返してきているから、前世の記憶はあまり残っていないという駄目な部分もある。

 

「そうなのね。で、コイツは?」

「わかりません。この子達もここ数百年は確実に存在しません」

「まさか、新しい妖怪?」

「ゼニゼ~ニ!」

 

 頭をぶんぶんと振ってこちらの言葉を否定している。すくなくとも、こちらの言葉がわかるくらいの知能はあるみたいね。

 

「とりあえず、退治してみましょうか。それで異変のことがわかるなら……」

「駄目だよ巫女様!」

 

 子供達が亀の妖怪(?)に抱き着いて私から遠ざけていく。大人達は子供を引きはがそうとするけれど、亀は本当に困っているみたい。というか、コイツ妖怪じゃないわね。

 

「どうしたんですか?」

「阿求、たぶんだけどコイツは妖怪じゃないわ」

「そうなんですか?」

「だって、()()()()()()()()()()()

「博麗の巫女がそういうのなら、そうなのだろう。だったら悪い者ではないのだな」

「おそらくね。動物に近い感じよ」

「それなら警戒しながらでいいか。問題は飼い主が誰かということだ」

「飼い主?」

「こいつの首をみろ」

「ん? 丸い赤と白のボール?」

「そうだ」

 

 なんとなく、触ってみる。するといきなり大きくなった。慌ててボタンを押すと、亀は消えてしまった。残ったのはボールだけ。

 

「ナニコレ?」

「さあ?」

「それ、ボタンを押して投げたらでてくるよ~」

「そうなの?」

 

 試しにやってみると、確かに亀がでてきた。子供達に聞いてみると、()()()()()()家の中にあったらしい。他にもいろんな生物がいるみたいで、鳥や鼠、狐、猫など多種多様みたい。ご丁寧なことに種族まで書かれた紙がボールに貼ってあったみたい。ただ、まあ……これで犯人かどうかはわからないけれど、怪しいのがはっきりした。

 

「手掛かりは見つかった。それじゃあ、私は……あ、里のこと、手伝った方が良い?」

「いや、この子達がいるから大丈夫だ。水を放ってくれるし、風を起こしてくれる。それにほら……」

「うわ、なにあれ……」

 

 手が四つもある鼠色の大きな奴が壊れた家の木材を退かしていく。ソイツの首にもボールがある。

 

「ふむ……ああ、なるほど。連中が関わってるのか」

 

 ボールからはとある神様の神気も感じられた。つまり、この異変は紫と守矢神社の連中が関わっているってことね。まずは妖怪の山に行ってみようかしら? 

 

 

 

 里を出てから妖怪の山に向かう。妖怪の山でも異変が起きていた。ここは完全な戦場だった。白狼天狗や烏天狗達が徒党を組んで妖怪ではない化け物と対峙していた。緑色の大きな鎧のような身体をした奴と黒とピンクの可愛い変な熊が高速で動く天狗達に刀で身体を串刺しにされるのも構わず、そのまま掴んで地面に叩き付ける。天狗達の翼が折れ、別の天狗が助け出す。

 

「くそっ、まただ!」

「きゅ~?」

「がぁ」

 

 刺さった刀が引き抜かれると、傷口がまるで元に戻っていくかのように流れた血が傷口の中に入っていく。数秒で傷が回復し、元気に暴れだす。これは確かめた方がいいわね。

 

「ねえ、ちょっと参加させてもらうわよ」

「お前は博麗の巫女!」

「ど、どうにかできるのならお願いします!」

「どうかしら?」

 

 とりあえず、弾幕を放ってみる。熊たちは両手をクロスさせてガードするけれど、ろくに効いていない。すぐに再生した。じゃあ、身体の中に霊力を叩き込めば? こちらも効果がない。いや、効果がでても巻き戻る。封印系も試してみる。符を使って封印する。これも巻き戻るかのようにして無効化された。ただ、再生しない傷もあるみたい。熊達の身体には少し怪我がある。

 

「あの怪我は誰が負わせたの?」

「それは白狼天狗が……」

「いえ、違いますよ。二匹同士で戦っていた時の傷です」

「……なるほど。もしかして、同士討ちじゃないと傷を負わないんじゃない?」

「「「……」」」

「でたらめなっ!」

 

 本当にでたらめ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「紫、見てるんでしょ! でてきなさい! 博麗の大結界が危ないわよ!」

 

 叫んでみるけれど反応はない。何時もならでてくるはずなのにだ。これはいよいよ、シャレにならない事態が起きているのかも知れない。幻想郷の危機といっても過言ではない。

 

「でてきませんね」

「そうね」

「た、助けてぇぇぇぇっ!!」

「「「!?」」」

 

 皆で声がした方をみると白狼天狗が飛んで逃げてきた。その後ろには巨大といっていいほどの大きな蜂の大群がいた。

 

「全員、逃げなさい。その熊達を盾にするのよ!」

「くっ、勝手に指揮するなど……」

「黙れ。ここでシバクわよ」

「わ、わかった。全員、撤収!」

 

 すばやく熊達を盾にすると、熊達は嬉々として蜂達を襲いだした。二匹はあまりダメージを受けていないけれど、やはり再生はしない。

 

「あの蜂は切った?」

「斬りましたよ! でも、再生するんです! まるで時間を巻き戻したかのように!」

「そう。つまり、あの不思議生物は不思議生物でしか傷つけることはできないのね」

「その通りです!」

 

 声が聞こえ、上から人が降ってくる。胸の位置ほどまである緑の長髪で、髪の左側を一房髪留めでまとめ、前に垂らしている。 衣装は白地に青の縁取りがされた上着と、水玉や御幣のような模様の書かれた青い袴。頭には蛙と白蛇の髪飾りは彼女の特徴ともいえる髪飾り。そう、そいつはこの異変の犯人の一人だと思われる奴、東風谷早苗だ。

 

「よくも顔を出せてわね」

「ひぇっ!? 暴力反対です!」

 

 胸倉を掴んで思いっきりお祓い棒で頬っぺたをぐにぐにしてやる。

 

「アンタの所の神様が関わってるんでしょ?」

「はい、そうです。諏訪子様が関わっておられますが……その、なんといいますか……」

「なによ?」

「止めようとした神奈子様をボコボコにして、ミシャクジ様達で噛みまくって封殺しちゃいました。それから、見た事もない生物に乗って……」

「まって。反乱なの?」

「日頃の鬱憤というか、諏訪子様が出る前に言っていた言葉は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()() でした」

「……待って。洩矢諏訪子の全盛期? 本当に?」

「はい。神奈子様が相手になっておられませんでした」

「はぁ……その言葉が本当ならそうでしょうね」

 

 信仰の衰えた神と、日本の祟り神を統括するような洩矢諏訪子。力の差が歴然となっている。

 

「よし、帰って寝るわ」

「待ってください霊夢さん!」

 

 早苗が私の巫女服を掴んでくるけれど、絶対に嫌だ。なんでよりにもよって、全盛期の祟り神を相手にしなきゃいけないのよ。弾幕ごっこだって守ってくれるかもわからないし。

 

「お願いします、見捨てないでください!」

「嫌よ。私だってまだ死にたくないのよ!」

「大丈夫、大丈夫ですから!」

「なにが大丈夫なのよ!」

「諏訪子様からちゃんと今回の事件の解決策は渡されていますから!」

「は? なによそれ」

「ど、どうやら、今回は規模こそ違えど、八雲紫が承認し、諏訪子様と組んでいる新しい人物が起こした異変みたいです」

「で、その紫は?」

「……諏訪子様曰く、()()()()()()()()()()()()()()()()()とのことでした」

「まじ?」

「マジです」

 

 幻想郷を乗っ取る。なるほど、違和感があった正体はそれか。博麗大結界の方を操作されたのか。あのおかしな生物は全部、ソイツが用意したのね。

 

「それで、一応……解決策はあるのよね?」

「はい、これです」

「冊子?」

「ぽけもんとれ~な~なるものの入門書です」

「どれどれ……」

 

 書かれている内容は、妖怪、魔法使い、人とも違う生物で、ポケットモンスターというらしい。ポケットモンスターの特徴はボールに入り、小さくなるとポケットに入るからとの事。略称としてポケモンというのがあること。で、そのポケモン同士を戦わせることがポケモンバトル。私達はとれ~な~とかいうのになって、ポケモンを戦わせたらいいみたい。

 

「で、肝心のポケモンは? 私、そんなの持ってないんだけど」

「あれ、霊夢さんにも配られているはずですよ」

「は?」

「確か、諏訪子様が魔理沙さんに頼んだと……」

「……あ~~! そうだ。魔理沙がなんか置いていった!」

「それがモンスターボールですね」

「取りに戻らないと駄目なのよね?」

「ですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ほら、ここ」

「確かに書いてあるわね」

 

 現在の幻想郷ではポケモンはありとあらゆる攻撃で死なず、また傷を負ってもすぐに再生する。例外はポケモン同士のバトルであり、この場合は戦闘不能になる。

 

「能力で倒す事は無理です。おそらく、そのように博麗大結界を弄られているのか、それとも上書きされているのかはわかりませんが……」

「……勝ち目あると思う?」

「これはゲームという名を借りた試練です。なら、攻略できる方法は必ずあります」

「ちっ、やるしかないか。まずは博麗神社に戻ってポケモンをとってくるわ。それから調査ね」

「それがいいかと」

「ちなみにアンタはどんなのを持ってるの?」

「私ですか? 私はゲッコウガとジャローダです。かなり強いですよ」

「ふ~ん。諏訪子から渡されたの?」

「はい、そうです。二匹共、凄く鍛えられているそうですよ?」

「……なにその贔屓」

「諏訪子様は私には優しいですから。たまに今みたいに試練を課せられますけど」

「神様は気まぐれだから、仕方ないわね」

 

 とりあえず、天狗達にもモンスターボールを探すように伝え、ポケモン同士で戦わないと駄目だとしっかりと教えておく。

 

「しかし、役に立つのですか?」

「馬鹿ね。小さいのもいるんだから、持ってアンタ達が飛んで攻撃だけさせればいいのよ。回避はお手の物でしょ?」

「なるほど。確かにそれならいけますな。武器だと思えばよいか」

「ただ、あんまり変な事をすると罰としてミシャクジ様に襲われるみたいですから、気をつけてくださいね」

「はい、肝に銘じておきます」

 

 さて、早苗と一緒に博麗神社に戻る。博麗神社をでてから結構な時間が経っているけど、大丈夫でしょう。ん? なんだろう、これは……嫌な予感がする。

 

「急いで戻るわよ!」

「は、はい!」

 

 空を飛んで博麗神社につくと、夜になっていた。だというのに真昼のように明るい。そう、博麗神社は燃えていた。地面は吹き飛び、その中から溶岩が溢れ出し、周りを全て炎に包んでいる。その溶岩の中からソイツはゆっくりと出てくる。恐竜のような姿をした巨大な赤色の鱗を持つ奴。明らかに前にみたポケモンとレベルが違う。

 

「うわ、3メートルから4メートルぐらいはありそうですね」

「わ、私の家が……許さない!」

「霊夢さん、無茶ですって! ここは私がやりますから、ポケモンを探してきてください!」

「わかったわ。お願い!」

「はい、頑張ります。奇跡の力で解決してみせますよ。でてきて、ゲッコウガ! ジャローダ!」

 

 二足歩行の蛙みたいな奴と緑の蛇みたいなのがでてきた。どちらも強そうではあるけれど、たぶんあの親玉にはかなわない。

 

 

 

 

 

 

 家の方に向かい、崩れる縁側から中に入って勘を頼りに探すと、二つのボールがあった。ただ、落ちて来た柱によってどちらも潰されていた。その中身であろう赤と白の狐っぽい子も近くでぐったりとして、血を出している。

 

「ちょっと!?」

 

 慌てて手を当ててみるが、どちらも息をしていない。二匹を抱き上げて急いで外にでる。その時には家が完全に焼け落ちた。

 急いで早苗の所に戻ると、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

「早苗!」

「れ、霊夢さん……にげて」

「なんで、なんでよ! アンタには奇跡の力が……」

「ははは、気づいて……なかったん、ですか……? ちから、なんて……つかえ、ませんよ……」

「う、うそ……でしょ……」

 

 理解してしまった。今、この()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()。飛行ができたのは、それは許可をされているから? それとも、時間が関係している? いや、コイツが現れたから? わからない。わからないけれど、もう早苗が助からないってことだけはわかる。こうなることがわかっていたはずなのに早苗は時間稼ぎのために戦ってくれていた。

 

「早苗!」

「霊夢……さ……あとは……まかせ、まし……」

「ふざけるな! ちょ!」

 

 ゲッコウガと言われたカエルが私を掴んで急速に神社から離れていく。担がれながら見えた世界は真っ赤だった。妖怪の山が噴火し、火の玉が里などのいろんなところに降り注ぐ。魔法の森だけは無事みたい。どちらにせよ、幻想郷はほとんどが燃えている。

 

「あははは、なによこれ……夢なの……?」

「残念、現実だよ~」

「っ!?」

 

 ゲッコウガが止まり、警戒をあらわにする。闇から浮かび上がるように現れたそれは蛙の帽子を被った小さな金髪の女の子。彼女は手には癖のある緑の髪に、真紅の瞳をした女性の頭部だけが握られていた。

 

「まさ、か……風見幽香を殺したの?」

「うん。だって、神奈子も殺ったし、次に暴れられるのって太陽の畑を荒らされた幽香だよね。だから、ポケモンを持たずにポケモンを殺そうとした幽香を、あたしが殺した。いや~強かったよ。何度か死んじゃった。もっとも、すぐに巻き戻るんだけどね」

「っ!?」

「あれ、早苗はどうしたの?」

「早苗は……赤い恐竜みたいなのに串刺しにされて死んだわ」

「……そっか、グラードンに殺されちゃったか。死んじゃったんだ。ざんねん~」

「それ、だけ?」

「うん、だって失敗したんだもん。()()()()()()

「それは……」

「怠惰な博麗の巫女。すぐに異変の解決に動けば、この事態は防げる。これは異変なんだ。つまり、ゲームだよ、ゲーム。勝ち筋はちゃんと用意されている。霊夢が動いたのは最終日。うん、そんなので防げると思うなよ。今回の異変はあの子曰く、博麗の巫女がターゲットだ」

「私の、私のせいだっていうの! この全部が!」

「そうだよ。だからさ、早苗も待ってるし──いっぺん死んでみなよ

「っ!?」

 

 気が付いたら両手両足を白い石の蛇、ミシャクジに食い千切られていた。血が溢れ出し、激痛が身体を襲ってくる。

 

「じゃあ、()()()()()()()。早苗を殺したら、許さないから」

 

 掴まれて溶岩の中に放り込まれ、そんなことを言われる。それが私が聴いた最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

苦しい。暑い、熱い。身体が、幻想郷が燃えていく。博麗神社が、人間の里が、妖怪の山が地面が割れ、中から溢れ出した赤い物に触れて燃えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢が溶岩の中に消えていった。すると後ろから声が聞こえてくる。

 

「あいあむうぃな~」

「あ~う~これでいいの~?」

「ふっふっふっ、いいんですよ、いいの! 早苗さんが死んじゃうのは予想外だったよ。でも、仕方ないよね」

「まあ、仕方ないねえ。あの子もこの頃、奇跡に頼りすぎだから、この辺りで一度懲らしめておかないと」

「紫はどうしてる?」

「大人しくしているよ。だって、どうしようもないし。境界を弄ったら、博麗大結界の方も壊れちゃうかもしれない。だから、今回の異変をヤキモキしながら見ているしかない。後が怖いけど!」

「まあ、本人も納得していたし、大丈夫、大丈夫」

「だよね、だよね」

「じゃ、巻き戻そっか」

「無かったことになるのは残念だね。いっそ……」

「それ駄目だよ。すくなくとも幽香の記憶を消さないと後が大変」

「あ~う~確かにそうだね。アリスお母さんにもいっぱい怒られる」

「それは確定だよ。念入りに記憶を巻き戻してね!」

「は~い。では、物語(異変)を最初からしてみよう」

 

 世界は巻き戻っていく。異変が始まる最初のページまで。一部の人達の記憶を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ!? 

 

 苦しくて苦しくて、身体が焼かれて溶けていく。早苗が殺された姿がみえ、慌てて起き上がる。胸を押さえて、身体を触って確かめる。ちゃんと身体はある。能力をためしてみてもしっかりとある。凄い汗をかいている。気持ち悪い。起き上がって、井戸まで移動し、桶に水を汲んでかぶる。冷たい水によって身体が清められて目が覚めた。

 

「アレは夢? 夢よね?」

 

 しばらく様子をみてみよう。とくに博麗大結界の方はしっかりと調べておきましょう。細工はみつからない。何度入念に検査もした。でも、違和感は拭えない。

 

「……水? 雨ね。やっぱり夢、よね?」

 

 空を見上げると雲っていて、ぽつぽつと雨が降ってくる。

 

 

 そんな感じで数日が過ぎた。相変わらず雨は続いている。続きすぎている。もう六日は雨が降り続けていて、里では近くにある川が氾濫する可能性があるらしい。

 

「霊夢。この雨は何かがおかしいぜ。多分異変だ。解決にいかないか?」

「っ!?」

 

 私はめんどくさくて勝手にいきなさいと言ってしまう。どうせ誰かが異変を解決するだろう。できなくても、時間稼ぎくらいはできるはず。こっちとら、ろくにご飯も食べていないのだから動きたくない。

 

「そうか。わかったぜ。どうなっても知らないからな! あとコイツはここに置いていく。くれぐれも持ち歩けよ!」

 

 はいはい、と告げて見送った。魔理沙が置いていったもの、それは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤 と 白 で 彩 ら れ た 二 つ の モ ン ス タ ー ボ ー ル だ っ た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




諏訪子「皆さまは勤勉ですかぁぁぁぁっ! それとも、怠惰ですかぁぁぁぁっっ! というわけで、怠惰人は食べちゃうよ~。だから、勤勉にポケモンバトルをしようね! 約束だよ!」

東方の子達は皆好きです。でも、霊夢ちゃんはちょっと怠惰すぎると思うの。それがいいともいえるけれど。ごめんなさい。やっぱり異変なので主人公の博麗霊夢には受難を与えないと。クトゥルフ神話が入っているので絶望成分も多めで。


現在の記憶保持者

アリス(マリス):主犯
諏訪子     :実行犯
八雲紫     :指示者
八雲藍     :準備班

一週目
博麗霊夢    :被害者1
東風早苗    :被害者2

二週目
博麗霊夢    :被害者1
東風早苗    :被害者2
○○○○○○  :被害者3



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Re.ゼロから始まる幻想郷異変~破壊の吸血鬼~

 

 

 フランドール・スカーレット

 

 

 そこはとある場所。妖怪の山の麓にあり、霧の湖にある島の畔に紅色を基調とした屋敷がある。門から屋敷へと続く道も紅に染まっている。少し離れた場所には廃館となったプリズムリバー邸もある。

 ここは紅魔館。窓がとても少なく閉ざされ、門の前には門番が立ち、侵入してこようとする妖精や妖怪、人間を撃退する。そう、ここは吸血鬼の姉妹や魔法使いが住まう場所、紅魔館。

 この紅魔館の主、レミリア・スカーレットは頭を抱えていた。またなにか考えてやらかしたみたい。本当に馬鹿なお姉様。何時も偉そうにして、実際に偉いけれど色々と問題を起こす。フランもだけどね

 

「た~い~く~つ~」

「この雨じゃ仕方ありませんよ、妹様」

 

 今は様子が変わっている。現在、幻想郷では雨が異常なくらい降り続いている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これはきっと異変だ。つまり、楽しい楽しい遊びの時間だ。だというのにお外に出られない。吸血鬼にとって雨は天敵だから。でも、弱点だからってこのままではいられない。紅魔館は現在、水没しかけているのだから。

 目の前にある霧の湖の水かさがここ数日の止む事のない雨で水が溢れ、こっちにも来ている。今は図書館に住んでいるパチュリーが魔法で対処している。

 少ない窓から覗いてみる。門の近くの空に浮かんで魔法を行使している女の子が見える。彼女は長い紫髪の先をリボンでまとめ、紫と薄紫の縦じまが入った、ゆったりとした服を着用している。さらにその上から薄紫の服を着、ドアキャップに似たZUN帽を被る。また服の各所に青と赤と黄のリボンがあり、帽子には三日月の飾りが付いている。全体的にゆったりとしたその服装は寝巻きと呼ばれることが多い。彼女がパチュリー・ノーレッジ。精霊魔法を得意としていて、知識と日陰の少女、動かない大図書館とか言われている。

 そんなパチュリーが門の部分から、広い紅魔館の土地を覆うように土壁を展開し、水の流入を防いでいる。普段は図書館から一切でてこないのに、今回は彼女が率先して動いている。理由は自分の大切な本達を守るためだろうけど。

 もう一人、門番である紅美鈴も頑張ってお仕事をしている。紅美鈴は華人服とチャイナドレスを足して2で割ったような淡い緑色を主体とした服を着ている。髪の毛は赤く腰まで伸ばしたストレートヘアーで、側頭部を編み上げてリボンを付けて垂らしている。 目の色は青がかった灰色。

 

「ねえねえ、流石に出ないとまずいんじゃない?」

「駄目よ! 出ていったらフランが死んじゃう!」

「私が死ぬ?」

「お嬢様?」

 

 家のメイドである十六夜咲夜がお姉様を不思議そうにしている。彼女の髪型は銀髪のボブカットで、もみあげ辺りから三つ編みを結っている。また髪の先に緑色のリボンを付けている。時間を止める能力をもっていて、さらに時間と密接に関係する空間を操る力を持っている。

 姉であるレミリア・スカーレットは青みがかった銀髪をウェーブのかかったセミロングにしている吸血鬼のに真紅の瞳。身長は私と同じ人間で言えば10歳にも満たないような背の高さ。背中に大きな翼を持っている。

 白の強いピンクのナイトキャップを被っていて、周囲を赤いリボンで締めている。結び目は右側で、白い線が一本入っている。

 衣服は、帽子に倣ったピンク色。太い赤い線が入り、レースがついた襟。三角形に並んだ三つの赤い点がある。両袖は短くふっくらと膨らんでおり、袖口には赤いリボンを蝶々で結んである。左腕には赤線が通ったレースを巻いている。小さなボタンで、レースの服を真ん中でつなぎ止めている。一番上にはS字状の装飾がある。腰のところで赤い紐で結んでいる。その紐はそのまま後ろに行き、先端が広がって体の脇から覗かせている。 スカートは踝辺りまで届く長さ。これにもやはり赤い紐が通っている。

 

「私が死ぬってどういうこと?」

「いい、今は館の中だから大丈夫だけれど、一度外に出たら()()()()()()

「能力を?」

「そんなことが可能なのですか?」

「相手は自由に世界を改変して構築するすべを持っているの」

「それは凄い能力ですね」

「咲夜も同じだよ?」

「私が見た未来では炎だった。幻想郷を燃やし尽くす炎。これならまだ対策ができたし、してきた。でも、水だけは無理!」

「つまり、お姉様はこの異変のことを知っていたの?」

「そうよ! 知っていたし、支援もしてきた」

「よ~し、きりきり吐いて~」

「ふ、フラン?」

「教えてくれないの?」

「だ、だめよ!」

「そっか。じゃあ、お姉様なんて大っ嫌い!」

「だっ、だいっきらい! う、嘘よね? フランが……」

「咲夜、これからお姉様と会わないようにするから、食事とか全部別にしてね」

「ま、待ちなさい」

「ど、どうしましょう」

 

 本当に教えるつもりはないみたい。なんか、いっぱいついてきそうだし、よ~し、それなら家出しちゃえ。雨の中なら追ってこれないだろう。それに能力が消えるっていうなら、私にとってそれは嬉しいことだ。

 

「ま、待って!」

「あの、お嬢様……」

 

 二人の声を無視して移動する。私の部屋に移動し、雨の、流水の対策を張る。水除けの魔法。身体の周りに結界を展開して流水が直接身体に触れないようにする。五重に展開しておけばこれで大丈夫。

 

「ん? なにこれ」

 

 部屋の中に見なれない熊のぬいぐるみがあった。ところどころ怪我をしていて、手当もされている。名前を見てみると、ボコと書かれている。制作者の名前にはアリスと書かれていることから、アリスが作った奴みたい。なんでこんな所にあるのかはわからないけれど、これを持って行ったら泊めてくれるかもしれない。隣に鞄があるけれど、なんか重いしこれはいいや。

 

「うん、いこう」

 

 部屋から出て、玄関から外に出る。外は大雨で、凄い風が吹いている。風で水を外に飛ばしているのだ。

 外に出て、空を飛んでいく。するとパチュリーがこちらに気づいた。

 

「フラン、外にでるつもり?」

「そうだけど……」

「止めておきなさい」

「やだ!」

 

 パチュリーの制止を無視してお外に出る。霧の湖を進んでいくと、下で何かが光った。その瞬間、慌てて移動すると、目の前を光の光線が過ぎ去った。

 

「なにこれ!」

 

 霧の湖の中には沢山の生命体の反応がある。それはいい。でも、青色の蛇みたいな奴等が、赤色の蛇みたいなのに率いられてでてきた。そいつらは私を狙って口から光線を撃ってくる。回避しながら掌に球体を作って握り潰す。

 

「きゅっとしてどっかーん」

 

 能力を発動させる。これで全部終わり。そう思った。でも、結果は何匹かの身体が吹き飛んだだけ。それもすごい勢いで戻る。なにより威力が弱くなっているし、対象にできる数も減っている。後、疲れる。

 そして、お返しとばかりに水と七色の光線みたいなのを放ってくる。急いで身体を左右に動かして回避する。いくら殺しても、焼いてもすぐに復活する。それにどんどん水が増えて、霧が濃くなってきて厄介極まりない。

 

「どうしたらいいの!」

 

 ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を使っていくと、だんだんと弱まっていく。その分、身体の内側にあった狂気も収まってきているけれど、今はまずい。魔法で対応しようにもこちらも弱くなっている。いや、吸血鬼としての力が弱くなっているといえるのかな。

 

「答えてやるぜぇ!」

「ふぇ!? ど、どこから声が……」

「ここだぜ、麗しのお嬢さん!」

 

 持って来ていたぬいぐるみが私の頭の上から、顔を覗かせる。リアルに作られた包帯が少し怖い。

 

「ぬ、ぬいぐるみが喋った?」

「俺っちはボコだぜ!」

「ボコ?」

「おうよ!」

「ボコはアレを知ってるの?」

「下にいるのはギャラドスの群れだな!」

「ギャラドス?」

「ポケットモンスター、縮めてポケモンだ。今、この世界はポケモンはポケモンでしか倒せないようになっている。お嬢さんの力でも無理だよ。それにだんだんと力が失われていっているはずだぜ!」

「た、確かに……」

 

 何時もならもっと力が使えるはずなのに、威力が低いし疲れるしでやってられない。

 

「えっと、私はポケモンを持ってないけど?」

「大丈夫! 俺っちが持ってるぜ! だが、俺は見ての通り、可愛いぬいぐるみだ!」

「可愛い? 痛々しい気が……」

「いいか、だから俺が初期ポケモンが入ったモンスターボールをくれてやる!」

「どこにあるの?」

「鞄に……あれ、ない?」

「それなら重かったから置いてきたよ」

 

 ギャラドスとかいうやつの攻撃を上に行ったり、下に行ったりして避ける。下からいっぱい撃たれているけど、弾幕ごっこみたいで面白いし、現状でも回避はできる。

 

「あの中に渡すはずのモンスターボールが入っていたんだが……」

「そんなの知らない、よっ!」

 

 宙返りして避ける。目の前に光線が通り過ぎて髪の毛が数本焼けた。仕方ないので、このまま飛んで回避しながら逃げる。相手は水の中だし、多分大丈夫。まあ、水がどんどん増してきていて、周りの林もほぼ水没しちゃっているからどこまで安全かはわからない。ただ、時折、湖の中にとても大きな生物が泳いでいる気配がするけど、多分気のせい。

 

「お嬢さん、前」

「え? うわぁっ、なにこれ……これもポケモン?」

「そうだぜ! それもとっても強い奴だ!」

「うん、それはなんとなくわかる」

 

 目の前に現れたのは綺麗な鳥みたいなの。全身が薄いピンク色で、丸びを帯びた飛竜みたいな感じ? 

 

『遊ぼ~!』

「うん、いいよ~!」

「馬鹿やろう! 相手はルギアだぞ!」

「え?」

『じゃあ、いっくよ!』

 

 そういったら、身体を回転させる。すぐに物凄い風圧に襲われて私は吹き飛ばされる。同時に水が竜巻となって吸い上げられてこちらに弾丸として放たれる。その威力は音よりも早く、とてもじゃないが防御が間に合わない。

 

「フォーオブアカインド!」

 

 四人に分身して、三人を囮にして逃げる。なんとか林の中にある沈んでいない木々の一つに隠れる。枝に座って一息をつき、囮にした三人の方をみると、一体が頭を丸かじりにされて首が捥がれて水に落ちて行った。残り二体の内の一人は吹き飛ばされて身体中の骨が折れている。本来なら再生するはずが、遅々として進んでいない。最後の一人は必死に目を掌に移動させて握り潰してきゅっとしてドカーンを発動させている。でも、全く効いていないみたいで、恐怖に顔が歪んで涙まで流している。

 

「ななななな、なんなのあれ……」

「アイツはルギアっていう伝説ポケモンの子供だ」

「子供ってことは親がいるの?」

「そうだ。親はもっと強いぜ」

「能力が万全なら、壊してやるのに……」

 

 私の能力ならあっさりと殺せるのに。でも、能力が使えないからか、変なことにならないみたいだし、私としてはいいけれど……これはない! 

 

「どうにかする方法はないの?」

「ポケモンもないし……いや、ある」

「なに?」

「あるが……覚悟がいるぞ。また、それをやっても更なる地獄が待っているかもしれない。それでもいいならやろう」

「……いいよ、ここで終わるのなんて嫌だしね! もっと遊びたいもん!」

「いいぜ、なら、俺っちと契約して魔法少女になってくれ!」

「は?」

 

 魔法、少女……? 魔法を使う少女? 

 

「魔法ならもう使えるよ? それと、私、少女だよ? 吸血鬼基準で」

「それは少女といえるの……ぐべぇっ!?」

「なにか言った?」

「いえ、なんでもありません。じゃあ、この言葉をどうぞ」

「えっと、死の風は空に、死兆星は天に、冥光はこの腕に、破壊の心はこの胸に。魔法少女まじかる☆フラン! 邪魔するモノは全壊だよ! ふにゃぁっ!?」

 

 言われた通りに唱えた瞬間、私が着ていた服が分解されて裸になる。それから、黒い光がでてきて足元からゆっくりと登ってくる。恥ずかしくて胸とか隠したいのに手とかは動かない。そのまま黒い物に浸食されていくと、下の部分から黒いのが黒い靴になり、服もゴシックドレスになった。二の腕までしか袖がなく、手首にはフリルの赤黒いリストバンドがある。スカートも黒で、フリルと裏生地は赤黒い。リボンは赤く、頭はY字のような蝙蝠の羽の髪飾りが二つついていて、長くなった髪の毛をツインテールにしていた。

 

「ナニコレ……ナニコレ……」

 

 膝をかかえてず~んとなる。無茶苦茶恥ずかしいし、ポーズまで決めさせられて、決め顔。こんなの絶対にお姉様には見せられない。むしろ、見た奴は殺す。

 

「で、これで勝てるの?」

「無理だぜ?」

「は? ならなんでこんなことを?」

「変身できると思ったからやった。後悔はしていない。フランちゃんの裸シルエットからの変身はすばらしかっ……」

「きゅとして、どかーん」

 

 目の前の奴の目を潰す。ぬいぐるみの身体が吹き飛んで粉々になった。

 

「まけねぇ、まけねえ! オラはこれぐらいじゃまけねえぜっ!」

「……」

 

 無言でもう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。もう一度壊す。でも、すぐに復活した。

 

「まけねぇ! 絶対にまけない!」

 

 もう一度壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。壊す。

 

「止めて! ちゃんと理由があるから!」

「くだらなかったらもっと壊すから」

「真面目に言うと魔法少女になったら、能力も普通に使えないぜ。それほど世界のルールは強固でかわらない。だが、例外がある。それはポケモンを呼び出す魔法なら使える。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり、今回の異変を起こした奴は世界そのものを改変してるってことかな。凄い、そんなの魔女だって普通はできない。パチュリーだったらできるかもしれないけれど。

 

「つまり、ポケモンを呼び出したらいいんだね」

「そうそう。呪文は教えるから頑張って()()()()()

「うん、頑張る」

 

 生き残れ? 頑張れじゃなくて? アレ? まあ、いいか。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の魔法少女。祖には我が大師アリス。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 アリス? やっぱりアリスが関わっているのかな? というか、口が勝手に動いていっているし、両手を空に向けている。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する────―Anfang(セット)

 

 目の前にとっても大きな魔法陣がでてきた。まるでパチュリーがやってる大魔法みたい。とっても期待ができそう。魔法陣の中に凄い力の塊が現れるけど、まだ不定形だ。

 

「──────告げる」

 

 相手に言霊によって形と役割を与えていく。

 

「────告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。アリスの寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 相手の形が定まってきた。それは背面が黒、前面が赤で占められたワシやタカなどの猛禽類、あるいは飛竜のような姿をしており、翼と尻尾がある。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝、我が呼びかけに答え、異界の門より来たれ、破壊の担い手よ──―!」

 

 呪文が完成し、目の前に6メートルくらいはありそうなとんでもない奴が現れた。

 

「ねえ、ナニコレ、ナニコレぇえぇっ!」

「やべえ奴を召喚しやがったな!」

 

 ソイツは翼と尾羽を広げ、真紅に輝く。すると周りのありとあらゆる生き物の命を吸いつくしていく。木々は枯れ、地面は乾燥して砂になっていく。鳥などの動物は落ちて骨となり、やがて砂になる。

 

「アイツはイベルタル! ルギアと同じ伝説ポケモンだ!」

「じゃあ、強いの?」

「とってもな!」

『やーーー!』

 

 そのイベルタルに向かっていく桜色の子。がんばれ、頑張れと応援していると掴まれて食べられた。相手になっていない。泉の中から巨大な気配を感じると、ソイツが現れた。桜色の子供よりももっと大きい。二匹は盛大に戦いを始める。その余波だけで周りは消滅していく。もちろん、私も例外なく余波でボコボコにされる。木々に頭をぶつけたり、足を岩にぶつけて折れて突き刺さったり、首が変な方向に向いたり。そして何より、どんどん体力や魔力が吸われていく。

 

「こ、これって……フラン、死んじゃうの?」

「ああ、そうだぜ。なに、次を頑張ればいい。何度だって立ち上がるんだ! 諦めなければ次がある!」

「おまえ、こうなることがわかっていたなぁぁぁっ!」

 

 ぬいぐるみがその場でくるりと回ると、熊のぬいぐるみから紫色の髪の毛をした小さな女の子になった。腕が顔みたいな袖からでていて、その爪も布で覆われている。

 

「もちろん、わかっていた。楽しく踊ってくれた。良いお土産ができた」

「おみ、やげ……」

 

 吹き飛ばされてころころ転がりながら、木の根に身体を預けながら、平気そうに空を飛んでいる奴をみる。

 

「今回の映像は録画してる。さっきのシーンも」

「……まさか……」

「レミリア・スカーレットは大喜び」

「あいつぅううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅっ!」

 

 理解した。理解してしまった。この件にアイツ、レミリア・スカーレットも関わっている! 

 

「それではさようなら。三週目で会おう」

「覚えてろ~~!」

 

 鋭い爪で身体を抱え上げられ、顔が黒くなった相手に噛みつかれてそのまま食べられていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ!? 

 

 目が覚めると、ベッドに寝ていた。でも、食べられた感触は生々しくてしっかりと覚えている。だから、ぬいぐるみを探してみると、ない。ただし、ぬいぐるみが持っていた鞄は入っていた。中身を覗いてみると──

 

 

赤 と 白 で 彩 ら れ た 二 つ の ボ ー ル だ っ た

 

 

 ──よし、まずはポケモンってのを確認しよう。今思えば、これっていつからあったんだろう? 

 

 

 改めて鞄の中を調べると冊子も入っていた。内容はポケモントレーナー入門書。それを読んでみると色々とわかった。このボールがモンスターボールで中身に何がいるかはわからないけれど、適正にあったポケモンが用意されているらしい。つまり、あのイベルタルとかいうのも私の適正にあっていたから召喚されたのかもしれない。

 まあ、もう召喚しない。というか、現状がどうなっているのかはわからないけれど、冷静に考えると実は死んでなかったか、再生したか。でも、アイツは三週目で会おうと言った。だから、これは三週目なんだろう。じゃあ、一週目はどこにいった? 

 これは色々と調べないといけない。

 

「えっと、このボタンを押して投げるんだったかな?」

 

 ボールを投げると、中からポケモンがでてきた。そのポケモンは双子のようで金色と薄紫色のシャンデリアみたいなので、中心部が丸い。その子達はそれぞれ金色と青紫色の炎をだして周りを揺らしている。

 

「この子達が私のポケモン?」

 

 二匹はすぐに私の周りをくるくると回る。

 

「は?」

 

 その二匹は人型になった。同時に私の中から魔力が消費されて、まるで分身を作っているかのような感じがする。その二人は私とお姉様に似ていて、互いにサイドテールにして服装も色違いなだけで他は同じ。すぐに二人は仲良さそうに両手を合わせてこちらを見詰めてくる。

 

「なにコレ、まるでアイツと同じ……」

 

 薄紫色の子は大人しそうな感じで、金色の子は深紅の瞳を勝気そうな表情で私をみている。

 

「そう、アイツの仕業か!」

 

 二匹はこくこくと頷くと、冊子を捲って自分達の種族を教えてくれた。シャンデラ。色違いみたいだけど、両方とも同じだった。またプレイヤースキルとかいうので、私のスペルカードや能力が一部この子達に影響を与えたり、この子達が使えたりもするみたい。

 

「よし、アイツをぶん殴りにいくよ!」

「(こくこく)」

 

 お姉様の所に行くと、すでに居なかった。だから、咲夜の所に来て聞いて見る。

 

「咲夜!」

「妹様。どうなさいました? そちらの子は?」

「なるほど、咲夜は無関係か。アイツ、お姉様はどこに行ったの?」

「そういえば、おかしいですね。つい先ほどまではお部屋にいらしたはずですが、()()()()()()()()()()()()()

「へぇ~」

「ただ、このような手紙が……」

「かして」

 

 咲夜から奪うように受け取って、読んでみる。

 

 

 

 ──大好きなフランへ。ごめんなさい。お姉ちゃんは失敗した。予想以上にアイツの成長速度がやばかった。平気で未来を変えてきやがる。いい、この世界は──────麗──に──き──

 

 

 まるで手紙を書いている途中で何かあったように震えて、どうにか書いたように文字はもの凄く汚い。それにほとんどが読めない。それでも、必死に何かを伝えようとしているみたい。

 

「咲夜、これを書いた──」

 

 伝えようとした瞬間、手紙が燃えて消滅した。まるで世界から消えるように。

 

「貴女達がやったの?」

「「(ぶんぶん)」」

「私も違います」

「そう。お姉様は敵の手に落ちたのね」

「本当ですか!」

「ああ、いや、敵ではないのか。共犯者の手におちたみたい」

「……共犯者、ああなるほど。これはあの子の異変ですか」

「知ってるの?」

「知っていますが、申し訳ございませんが答えることはできません。ただ、これはお嬢様が妹様が全力で遊べるように用意した異変です。相手も納得して用意しておられたはずです」

 

 つまり、内容がかわった? 違う、さっきの手紙から考えて、相手の考えがお姉様の上を行っただけ。本当はもっと過激じゃないことを予想していたのかな? お姉様が大好きな私を傷付けるのを許容するとは思えないし。どちらにせよ、これは異変だ。

 

「咲夜、()()()()()()

「今日は──」

 

 咲夜の教えてくれた日は私が覚えている日より前だった。それもかなり前だ。だいたい一週間と五日。アイツが言っていた三週目という言葉から考えて、おそらく、この世界のタイムリミットは一週間。私の覚えている暑い日も一週間だった。そして、五日間、雨が降り続いている。

 

「あははははは、この世界はループしている。アリスじゃない。別の誰か。誰かは知らないけれど、世界を巻き戻してまでポケモンバトルをさせようなんて、面白いじゃない」

「お嬢様?」

「難易度はノーマルじゃない。ハード? ううん、殺されたことから考えてルナティック! つまり、これはポケモンを使った弾幕ごっこ! いいねいいね、いくら殺しても大丈夫! 殺しても気にしなくてもいいなんて──―なんて素晴らしい世界!」

「楽しそうですね」

「ええ、楽しいの! だって、全力で遊べるんだもん! アイツもたまにはいいことをするね!」

「お嬢様が悲しみますよ」

「知らない。だって、説明不足のアイツが悪いんだもん! でもまあ、いい。咲夜、今から館中を探してここに載ってる道具を探してきて! 特にモンスターボール! あと、他にもポケモンを持ってる人はいないか調べて!」

「かしこまりました。こちらですね」

 

 タイムラグがほぼない状態で戻ってきた咲夜が、手に沢山の道具を持っていた。うん、冊子を読む限り、この子達にはこだわりスカーフがいいかな。フォーオブアカインドを使わせて身代わりも用意すれば耐久力は誤魔化せる。

 

「私の部屋にはモンスターボールがありませんでした」

「ふ~ん。つまり、咲夜は参加不可。もしかしたら、各勢力一人の参加か。モンスターボールは……」

「6個ありましたが、中身は空です」

「この冊子じゃ、手持ちは三体まで。それ以外は回収されるって書かれているし、うん。他の勢力と協力して解決しろってことは確実だね」

「妹様、大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。だって、殺しちゃっても巻き戻るだけだからね」

「それはどうかと……」

「気楽に接しられるって素晴らしいんだよ? 何時咲夜を壊しちゃうか、怖くて近づくのも気を張っているんだから」

「申し訳ございません……」

「いいのいいの。さて、じゃあ行ってくる。時間は無駄にできないから」

「はい。いってらっしゃいませ。あ、こちらにお弁当と水筒、お手拭きなど必要そうな物を用意しております」

「ありがとう」

 

 受け取ったリュックサックを背負って、館から出る。空は真っ暗で雷がところどころ落ちている。雷鳴が轟いているけれど、吸血鬼にとってはとても過ごしやすい。というか、凄く暑いのと、大雨、雷雲だったらこっちの方がましだ。

 

「貴女達の名前をつけないとね。レミとドールでいいか」

「「こくこく」」

 

 お姉様の嫌がらせも兼ねて、こっちのレミは可愛いがってあげよう。それに性格も全然違うしね。こっちの子は大人しいし。

 

「目が合ったら、ポケモンバトルよ! 来なさい、さいきょーのアタシのポケモン!」

 

 ない。ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないない!!!!!!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……質問です」

 

 とある建物の中、一人の少女が椅子に座らされて固定されている。その隣には女性もいる。一人はレミリア・スカーレット。もう一人は八雲紫。八雲藍もいるが、彼女は紅茶などを用意していた。

 

「な、なによ……」

「おかしいなぁ、なんで、なんで、()()()()()()()()()()()()なんですか!」

 

 ちなみに問題はレベル100だけではない。レミリア・スカーレットは彼女の力、運命を操る力でシャンデラでありながら、メタモンの変身能力を持って生まれるというバグのような存在を作り出した。それでそれぞれ自分と妹の容姿にしてみせたのだ。

 

「そうよそうよ! これなら霊夢にだってもっと強いのを渡せたじゃない!」

「ふ、フランが使うんだから当然よ! というより、なによあれ! あんなのが召喚されるなんて聞いてないわよ!」

「ふ、即死トラップはそこかしこに仕込んであります」

「お前っ!」

「当然です。だって、この異変で主人公達を殺して巻き戻したら、アリスポイントが手に入るんですから」

 

 これは本当。とっても美味しい。でも、調子こいてたら逆に殺されるだろうけど。今回のはあくまでもゲームで、ちゃんと勝ち筋を用意してある。例えば彼女とか。諏訪子ちゃん、洩矢諏訪子はポケモンとして扱わせ、いくらでも即時再生するようにしている。だというのに、遊び半分としても全盛期の諏訪子ちゃんをポケモン無しで殺せる存在が野放しになっているのだから。

 

「だから、容赦なくやっているのね」

「もちろん。勝ち筋は用意していますよ。お助けキャラもそこかしこに配置されています。今回の異変の目的はポケモンを周知させることと、各勢力の困ったちゃん達に仲良く協力させて異変を解決させることにあるんですから」

「フランは困ったちゃんじゃない! 可愛い私の妹よ!」

「可愛いのは認めます。もらいたいくらいです」

「駄目よ」

「残念。ということで、フランちゃんには気にせず遊んでもらって、能力もばんばん使ってもらって慣れてもらいます。アリスの、マリスの世界では絶対に消滅しません。殺そうが、壊そうが、関係ありませんから」

「そうね。ここで慣れてもらう方が助かるわ。ところで輝夜の方はいいの?」

「あちらは勝手に殺し合ってくれますから放置です」

 

 もこたんがファイヤーとホウオウ、ヒードランを持って強襲しまくっているのである。対して、輝夜が持っているポケモンはピカチュウとサンダー。フリーザーはあの子に渡してる。

 

「あ、フランちゃん死んじゃいましたね。残念でした~」

「待ちなさい! なんで妖精ごときにあんなの渡しているのよ!」

「彼女は最強ですから。氷に相性がいいですからね。魔改造フリーザーとの相性のせいか、生半可な伝説ポケモンと同じ強さです。対してフランちゃんの手持ちは火で二倍とはいえ、フィールドを整えられた跡ですからねえ」

「相手があの子だから油断したわね。初見殺しとしては確かに有用でしょう」

「四週目は誰がやらかしてくれるか、とっても楽しみです」

 

 紅茶を飲みながら、この世界の法則をしっかりと握っておく。隙を見せればアリスから八雲紫が奪い返すのが目に見えている。レミリア・スカーレットも狙っているだろうし。

 

「ところで、この魔法少女まじかる☆フランの録画映像、いりますか?」

要る!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 




現在考えている主人公はこんな感じ。
霊夢(レッド)
早苗(グリーン)
フラン(イエロー)
???(ブルー)

ブルーが思いつかないのであの子です。といっても、上三人メインか、霊夢とフランがメインになりそうではある。
魔理沙は基本的に参加しませんし、お助けキャラみたいな感じ。アリスも同じ。何故なら、二人には一切の制限がかけられていません。つまり、ポケモンだろうが人だろうが、容赦なく狩れる。自分は無敵モードで。

イベルタルについて……ダイス目99。はっきりわかんだね。




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Re.ゼロから始まる幻想郷異変~諏訪子様が悪い~

 

 

 

 

 

 

 

 二週目の私はモンスターボールを確保した。とりあえず、方法は早苗に教わった通りにやって開いてみる。ボタンを押して投げると、うん、ちゃんと出て来た。出て来たのは二匹の小さな狐っぽい子狐。焼け落ちた柱に倒され、身体を燃やされていった光景が思いだされ、思わず抱きしめてしまう。

 

「「こ~ん?」」

「なんでもないわ。貴女達が私のポケモン?」

「「コン!」」

 

 どうやらあっているみたい。この子達は赤色と白色をした子達だけど、毛と瞳以外は凄く似ている。身体を擦りつけて甘えてきている二匹を撫でながら考える。まず、調べないといけないことは博麗大結界とこの博麗神社にあのでっかい恐竜みたいなのはいるかどうか。

 

「じゃあ、ちょっと行きましょうか」

「「こーん」」

 

 傘を差して外に出る。嫌な感じがするけれど、仕方ない。土砂降りの雨の中、移動して博麗大結界を確認する。ちゃんと作動しているけれど、やはり別の結界も加えられている。解除は……無理ね。私の力を遥かに超えている。

 

「やれやれ、こいつは本当に……」

 

 そう思った瞬間、身体が、世界が捻じれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊夢。この雷は何かがおかしいぜ。多分異変だ。解決にいかないか?」

「っ!?」

 

 飛び起きると、魔理沙が縁側から登って部屋の中に入ってくる。彼女の手には二つのモンスターボールが握られていた。

 

「それ、貸して」

「ああ、わかった。ほらよ」

 

 中から出すと、二匹の狐が現れた。前の週で会った子と間違いない。つまり、この子達は間違いなく私のポケモン。そうなると、さっきのは巻き戻ったということだ。この分だと、私以外にも巻き戻る条件が存在する。私と誰? 可能性があるのは早苗。でも、彼女が死んでから少し時間があった。それを考えると……違う。これはあくまでも異変。つまり、黒幕が居て、こんなことをしているのだ。そう考えると可能性があるのは、手動ってことなのかもしれない。どちらにせよ、巻き戻る可能性がある人と合流すべきね。

 

「ねえ、魔理沙。アンタはこの異変がどうなってるか知ってる?」

「いや、知らねえよ」

「嘘ね。じゃあ、なんでモンスターボールを持ってきているの?」

「頼まれたからな」

「誰に?」

「諏訪子に」

「そう。まあ、いいわ。お望み通り解決に行きましょうか」

「おう! んじゃ、まずはポケモンについて説明するぞ」

「お願い」

 

 それからポケモンの知識について教えてもらった。トレーナーという入門の知識も含めて教えてもらい、この子達がロコンだと知れた。それも二種類いて、アローラの姿というのと普通のロコンだ。ただ、進化には炎の石というのが必要らしいし、本当に大変。

 

「じゃあ、次はポケモンバトルだな」

「わかったわ」

 

 魔理沙と庭でポケモンバトルを行う。

 

「よし、じゃあノーマルかルナティック。選んでいいぜ」

「ルナティック……いえ、ノーマルで」

「霊夢ならルナティックを選ぶと思ったんだがな……」

「嫌な予感がしたもの」

「ちぇ~勝てると思ったのに、残念。コイツで戦ったのにな」

 

 そう言って大きな存在を呼び出した。ソイツは水色の身体を持つ大きな奴だった。

 

「こいつはボーマンダ。強いぞ」

 

 二匹のロコン達は震えている。どう見ても勝てそうにない。

 

「……」

「じゃあ、ポケモンバトルを……」

 

 魔理沙がそう言った瞬間、また巻き戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 慌てて目を覚ますと、()()()()()()()()()()。もうこれだけでわかった。

 

「で、なにが知らないって?」

「いや、なんのことだか……」

「明らかに関係者でしょうが! アンタは巻き戻る時にはここには居なかった! つまり、私達とも違う。なんせ、私は元居た場所に戻されるのにアンタは別の場所に移動している。それを考えると、関係者でしかないでしょ」

「さらば!」

「ちょっ!」

 

 ボーマンダとか呼ばれる奴に乗って魔理沙が逃げていく。私もロコン達を戻して空を飛んで追っていく。魔理沙の奴も攻撃はできなくなっているみたいで、攻撃してこない。

 

「待ちなさい!」

「待てと言われて待つ奴がいるかよ!」

「それでも待ちなさい」

 

 しかし、このままじゃ逃げられる。今はもの凄く晴れているし、焼けるように暑い。まるで一週目みたいだ。

 

「おっと、ここは通せんぼですよ」

「ちっ、なんでここにいるんだよ!」

「そうよ」

「霊夢さんの家に向かうところだったんですよ。だから、理由はわかりませんが、逃がしませんよ」

「いいわよ、早苗。捕まえなさい」

「抵抗させてもらうぜ。行くぜ、ボーマンダ! 私に勝てると思うなよ!」

「ふふふ、ボーマンダ相手ならこの子です! 我が神社を探索してみつけた諏訪子様の忘れ物! お願い、ルギア」

「ちょっとまてええええええええええええええええぇぇぇぇっ!」

「■■■■■■■■──!!」

 

 私でもわかった。コイツはもっとやばい奴だ。ボーマンダとかいうのも相手にならない。

 

「なんでソイツが野放しになってんだよぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

「諏訪子様の部屋を探したらありましたよ? 他にもありましたし」

「まあ、なんにしてもやってしまえ、早苗!」

「はい! お願いしますね、ルギア!」

『……我はどうすればいいのだろうか』

「言う事をきかないと諏訪子様にいいつけます!」

『仕方あるまい』

「ちくしょぉおおおおおぉぉぉぉっ!」

 

 ルギアと呼ばれるポケモンにボーマンダがあっさりとやられたので、魔理沙を捕獲する。縄でグルグル巻きにして魔理沙を連れて移動する。

 博麗神社に入ると、すでに誰かがいた。

 

「早苗、気をつけて。誰かいるわ」

「わかりました。ほら、歩いてください」

「くそぅ……」

 

 部屋の中に入ると、そこには知り合いがいた。

 

「アンタが来るなんて珍しいわね、フラン」

「この異変、お姉様がかかわってるの。だから、協力しようかなって」

「あ、もしかして二週目と三週目で死んだのってフランちゃん?」

「そ、そうだよ! あんなの勝てるか!」

「まあ、詳しく聞きましょうか。異変に関わってる奴も確保したし」

「魔理沙が? ふ~ん、いいね、聞き出そう」

「あははは」

 

 三人を座らせた後、お茶を用意する。

 

「霊夢さんがお茶を用意してくれるなんて……」

「出涸らしじゃないわよ、新品よ」

「おいおい、これは夢か?」

「いや、多分だけど巻き戻るからじゃない?」

「正解よ」

「それなら納得ですね」

「仕方ないじゃない。うちは貧乏なんだから」

 

 まったく、本当に困ったもんよ。これからは二匹の食費だってかかるのだし……

 

「まあ、とりあえず魔理沙を拷問して話を聞こうよ。だって、この世界じゃ死なないんだし」

「……おいおい、冗談だよな?」

「本気だよ?」

「流石は吸血鬼ですね。さて、霊夢さん。私達は……」

「ええ、何もみなかった」

「霊夢ぅうううううぅぅっ!」

「きりきりはきなさい」

 

 

 

 




諏訪子「ルギアいらないから家に置いて着た。反省も後悔もしていない」
二人「よくやった!」
アリス「ガッデムっ!」


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Re.ゼロから始まる幻想郷異変~ポケモンバトル(?)~

一部東方キャラがおかしな感じになっていますが、ここではそうなんだと思ってください。嫌な人はプラウザバックでお願いします。たまにはこんな彼女も見てみたい。


 

 

【四週目 博麗神社】

 

 

 

 博麗神社にある私の家で私と早苗、フランで魔理沙を尋問を開始する。フランが魔理沙の後ろに陣取り、首筋をペロリと舐めると大人しく全部を答えてくれるだろう。吸血鬼のフランに噛まれて血を吸われると色々と大変だし。

 

「ふっふっふっ、言っておきますけど奇跡はもう打ち止めですからね。二週目と三週目を全て使って身を清めて貯めたんですから!」

「ソイツが切り札?」

「ですね。諏訪子様のペットです」

「なるほどね……で、話しなさい」

 

 ちゃぶ台を囲んで魔理沙の話を聞くことにする。

 

「えっと、まず今回の異変は規模としては結構大きいほうだ」

「でしょうね。時間を巻き戻しているんだし」

「まるで咲夜みたいな能力だよね~」

「私も詳しくは知らねえぞ。こっちに連絡なくいきなり始めやがった。だから、ある意味では私も同じだ」

「それってつまり、前々から知ってたのね?」

「そうだ」

「もしかして今回の異変の首謀者ってアリスの関係者?」

「アリスがかかわってるの?」

「ああ、アリスも関係者だな。アリスと私が引き取った子供が起こした異変だ」

「「「子供!?」」」

「まあ、便宜上だけどな。ソイツ、アリスの小さい頃の姿をしているんだ。だから、アリスの子供というわけだ」

 

 式神とかそんな感じなのね。

 

「その年で子持ちとか、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だって。手とか一切かからないし、魔法とかを教えているだけだしな。アリスは完全に娘扱いする気だけど」

「まあ、それはいいとして、お姉様も関わっているんでしょ?」

「私が知る限り、八雲紫、レミリア・スカーレット、にとり達河童、洩矢諏訪子、古明地さとりだな。いや、守矢神社といった方がいいか。もう一人の神様もたまに参加していたみたいだし」

 

 聞いた限りの情報を整理すると、今回の異変はポケモンが関わっている。おそらく、この子達を周知させ、溶け込ませるのが狙い。幻想郷は来るもの拒まずとは言っているけれど、これは流石にまずくない? 

 

「アイツはなんのつもりでこんなことを許容したの?」

「紫はアレだ。ポケモンバトルをすることで、弾幕ごっこができない奴でも参加できるようにしたいって言ってたな」

「つまり、娯楽というわけか」

「地底の連中とか、暇している奴もいるしな」

「なるほど、なるほど。諏訪子様が牧場がどうのと言っていたのはそのポケモンが関係しているのですね」

「待ちなさい。牧場ってことはそこでポケモンを育てていたのよね?」

「そうみたいですが、どうなんです?」

「あってるぜ。お前等のポケモンも全部そこで生まれさせて育てさせている。いや、ルギアは違うが……」

「うちの子達が人の姿になるのは?」

「それはレミリアがなんかしたんだろ。こっちは知らない」

「オッケー。あとでぶん殴る」

「まあ、いいわ。今はわかっている事を確認しましょう」

「そうですね」

 

 お茶を飲みながら確認する。まず、ポケモン達はポケモン達でしか傷つかないし倒せない。その逆は可能。今回の異変の首謀者はそのアリスの子供。

 

「子供の名前は?」

「アイツもアリスだが、こっちではマリスってことにしているぜ」

「魔理沙さんとアリスさんの子供だからですね」

「なるほど。能力としてはどんな感じですか?」

「アイツ、馬鹿みたいな速度で急成長してやがるからな……とりあえず、自分の世界を構築できて、その中なら時間を巻き戻したり、環境を作り変えたりできる……神様みたいな奴だな。諏訪子よりは弱いけど」

「当たり前ですよ。ですが、アレですね。普通にやって勝ち目はありません。霊夢さんは?」

「博麗大結界が元のままなら勝てる。でもね、改変されてるから無理ね。神というのなら、荒魂として奉納して力を削いで夢想封印いっちゃう?」

「それも有りかもしれませんね」

「あ~それは無理だ。色々と混じってやがるからな」

「純粋な神様ではないと……」

「どうでもいいけど、ルールにのっとって倒せるようにはされてるはずだから、そっちでまずやってみようよ。これって遊びなわけだし」

「……死ぬ遊びね……」

「デスゲームですね! 私、初めてやります!」

「そりゃそうでしょう。まあいいわ、魔理沙、他には?」

「あと、私が知っているってのはおそらくボスが設置されている。そのボスに関してはポケモンと協力しながらなら私達の力も有効ってところか」

「あれ、でも一週目は私、何も出来ずに殺されましたよ?」

「そりゃ、支配力が時間が経つにつれてどんどん強化される仕様だからな。そんなわけで、ボスを見つけたら即撃破がお勧めだぜ」

「無理でしょ」

「無理だねー」

「無理ですね。クソゲーですよ。ルギアぐらいしか勝ち目がない……」

「そら、今の状況なら無理だろ」

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「なるほど、そういうことですか」

「どういうことなの? わかりやすく言ってよ~!」

「協力して仲間を増やせってことですよ。つまり、友達と一緒に遊びましょう!」

「わ~それは楽しそうだね!」

「はい!」

「まあ、先ずはボスの状況を理解しましょう」

 

 それからそれぞれ知っているボスの状況を聞くと、フランの話で笑い転げたら、フランに思いっきり抱き着かれて頬っぺたを引っ張られた。やり返してやろうと思ったけれど、その前に暑すぎて離れた。

 

「もう、遊びはなしでいきますよ。まず、ボスとしては湖にいるルギアの子供、空にいるであろう奴」

「うん。どっちも確認したよ。空のは影だけだった」

「で、あとは強力なポケモンを持ってるチルノね。これがフランが遭遇した奴?」

「あと一匹いるよ。アレは裏かどうかしらないけどね。イベルタルっていうのも」

「それはフランちゃんが魔法少……失礼。それになったからですね。まあ、召喚して戦わせるのも手ではありますが……」

「絶対ヤダ!」

「はいはい、それは無しの方向で。で、博麗神社の裏にある温泉、その地下にいるのがグラードン。これはおそらく間違いないわね」

「今週のびっくりどっきりメカですね」

「なによそれ」

「気にしないでください。さて、これで火、水、雷が揃いましたね。続いて協力者を考えましょう」

「それなら、一人は知っているわ。それもとびっきり強いのを」

「そうなんですか?」

「諏訪子に殺される時に教えてもらったの」

 

 あの時、諏訪子は風見幽香を殺していた。それはつまり、それまでに彼女を味方につけることができれば強力な戦力になる。

 

「幽香さんですか……殺されません?」

「あははは、大丈夫だよ。死んでも蘇るし」

「あたって砕けましょう」

「私はここで待機してるぜ!」

「却下。死ぬ時は一緒よ」

「やめろぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

 

 行き先は決まった。まずは最大戦力を確保しに向かう。

 

 

 

 

 

【四週目 太陽の畑】

 

 

 

 丘一面に広がる黄色い太陽のような向日葵達。妖精達が飛びかい、楽し気な雰囲気をさらしている……なんてことはない。明らかにやばい感じの力が伝わってきている。なぜなら、大量にあったはずの向日葵はなくなり、掘り返され、焼き尽くされた地面しかない。

 丘の頂上にある家の前でぺたんと地面にお尻をつき、女の子の座り方をして涙を流している癖のある緑の髪に真紅の瞳をした女性。白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカートを着用し、その上から同じくチェック柄のベストを羽織っている。首には黄色のリボンをし、いつもさしている日傘は隣に投げ捨てられている。

 

「お、おい、やばいんじゃないか?」

「やばいなんかじゃないですよ」

「ほら、いってきてよ霊夢」

「私!?」

「言い出しっぺは霊夢なんだから、当然よ」

「よろしくな!」

「よろしくお願いします!」

「アンタ達、あとで覚えてなさい」

 

 私は覚悟を決めて近付いていく。すると、彼女、風見幽香が顔をあげる。彼女の顔にはしっかりと涙があり、キッとこっちを見詰めてから手を向けて……即座に地面に倒れる。頭上を極大の光線、まるで魔理沙のマスタースパークを数十倍に巨大化したのが飛んで行き、後方で大爆発を起こす。後ろを振り返ると、フランや早苗達が死んでいた。あと、後ろの山も消し飛んでいるのが巻き戻る時にみえるし、私の髪の毛や背中も悲惨なことになっている。

 

 

 

 

 

 

【五週目 博麗神社】

 

 

 

 

 

 

「死んじまったな」

「手加減なしだとあんな感じなのね。うん、風見幽香は諦めましょう」

「いや、諦めるなよ。戦力としては有用だぞ」

「何回死ぬかわかったもんじゃないわよ」

「いっそ、ルギアをぶつけるか? たぶん勝てるぞ。殺せないからな」

「多分、それが正解なんでしょうけど、ムカつくわね。よし、ちょっと早苗達に……というか、なんでいるのよ?」

「あ~私は霊夢のサポートだからな。協力者になったから、同じ場所でリスタートみたいだぜ」

「ふ~ん」

 

 それを考えると何度も挑戦するのはいいか。

 

「じゃあ、早苗達に連絡をして。私は幽香のところに行ってみる」

「わかった」

 

 さて、もう一度太陽の畑に行きましょう

 

 

 

 

 

【五週目 太陽の畑】

 

 

 

 雨に打たれながら急いでいくと、まだ太陽の畑は無事だった。綺麗な太陽の畑ではないけれど、土砂降りの中、幽香が草花を操って半円形に覆って畑を守ろうとしている。大量の水によって地面が崩れたりしだしているみたいだ。

 

「幽香!」

「あら、霊夢。今は見ての通り、忙しいの。だから、帰ってちょうだい」

「いや、手伝うわ」

「それは助かるわ」

「任せて」

 

 なけなしの御札だだけれど、幽香を仲間に入れるのに使うのならいいわ。四方に札を設置して結界を展開する。水を周りに流すようにする。

 

「幽香、水を川まで行く水路を作れる?」

「それぐらい楽勝よ」

 

 結界から出た幽香が砲撃で地面を破壊し、川の方まで直通の水路を作ったので、そちらに水が流れていく。これでこの周りは補強された大丈夫だろう。

 

「助かったわ。お茶でも入れてあげるから、こっちに来なさい。あなたもびしょ濡れだし、お風呂に入りなさい」

「ええ、ありがとう」

 

 これで第一関門は突破。ここからなのよね、問題は……

 

 

 

 

 家に入ると、幽香がお風呂に入りなさいと言って、私を風呂場に連れていった。

 

「幽香、一緒に入らない?」

「あら、珍しいわね。どうしたの?」

「その方が時間の節約になるから。この異変の解決に幽香の力が必要なの」

「なるほどね。だから、こんな時にきたのね……いいでしょう。まずはお風呂に入ってからよ」

「ええ」

 

 服を脱いで幽香と一緒に入る。すると、身体を持たれて椅子に座らせられる。

 

「ちょ、ちょっと?」

「私に任せなさい。ほら、時間がないのでしょう?」

「ま、まあいいか」

 

 されるがままに優しく身体を洗われていくと、まるでお母さんにされているみたいで、懐かしく感じる。そう思ったら、どんどん死んだお母さんの思い出が湧き上がってきた。

 

「……お母さん……」

「あらあら、博麗の巫女もまだまだ子供ね」

「うるさいっ、幽香だって畑が全壊して泣いてたくせに!」

「待ちなさい。どういうことかしら?」

「あ」

 

 泡塗れの身体を後ろから抱きしめられ、胸を押し当てながら、指で喉を撫でられる。そのまま上を向かせられると、上から覗き込んでくる幽香の顔が鼻と鼻がくっつきそうなぐらいにある。

 

「話しなさい。いえ、話せ」

 

 嫌な予感しかしない。ここで話せば幽香は暴走して破壊の限りを尽くすかもしれない。でも、よくよく考えたら、幽香にもたらされる被害は全て相手にいく。うん、話してもいいじゃない。

 

「わかった。でも、条件があるの」

「なに?」

「全部話すから、異変の解決と私達には被害を出さないで欲しいのよ」

「……あなたたちは関わっているの?」

「魔理沙は関わってるけど、今は仲間よ」

「なるほど、魔理沙ね……いいわ、後で虐めるだけにしてあげましょう。でも、ここで話す内容でもないみたいだし、まずは風呂を終わらせましょう」

「じゃあ、さっさと出て」

「駄目よ。ちゃんと温まらないと。お母さんにも言われたでしょう?」

「は~い」

 

 私の身体を洗ってもらってから、逆に幽香の身体を洗ってあげる。それから二人で湯船に浸かる。幽香は私を抱きしめて後ろから覆ってきているので、落ち着かない。でも、どことなく良い感じもする。というか、いい匂いがして落ち着く。

 

「この身体を洗う奴、いい匂い」

「私が配合した物だもの。そろそろ霊夢も化粧品とかを気にしてもいいころね。いくつかあげるわ」

「いいの?」

「あの子達を守ってくれたもの」

「報酬はもらうわ。協力してもらわないと困るし……」

「じゃあ、話をしてからね」

「うん」

 

 100を数えさせられてから、上がって服を着替える。服は幽香ので、すこしぶかぶかだけど裾とかぱっぱと直してくれたので問題なく動ける。

 

「ほら、座りなさい。髪の毛をやってあげるから」

「お願い」

 

 香料とかも使われてしっかりと綺麗にしてもらえた。なんだか不思議な気分がする。

 

「紫には教わってないの?」

「こういうのは全然教わってない」

「アイツは……」

「まあいいわ。紅茶を入れるから少し待ってなさい」

「うん」

 

 ゆっくりとしていると、紅茶が入ったカップを渡された。口をつけると、身体の底から温かくなってとっても美味しい。

 

「ふぅ~」

「気に入った?」

「うん、これ美味しいわ」

「じゃあ、後であげるから、そろそろ話して。クッキーを食べながらでもいいけど」

「遠慮なく。ん~♪」

 

 紅茶と美味しいクッキーを食べてから、話し出す。

 

「今回の異変の首謀者はマリスっていう子供らしいの」

「子供ね。聞いたことがないわ」

「新しくきたみたいで、アリスと魔理沙からマリスって名前を取ったのよ」

「そいつが元凶か」

「そう。それで、その子が博麗大結界に細工をして、自らの法則を世界に上書きしたのよ」

「それはまた、とんでもないわね」

「世界といっても限定的な異界を作り出すものみたいだから、世界全てを覆っているわけではないみたい。でも、幻想郷ぐらいなら覆える」

「博麗大結界を依代にして、ね」

「そう。そうなるともう私にはどうしようもない。今回の異変は紫も絡んでるみたいだし」

「あの馬鹿、管理者の権限を乗っ取られたのね」

「みたい。そうじゃないと私が死ぬことを許容するはずないわ」

「死ぬの?」

「うん、死んだわ。一回は幽香に殺されたのよ?」

「へぇ~どういうこと?」

 

 紅茶を一回飲んでから、幽香に四週目の事を話す。すると、幽香の持っていたカップが割れて、家のガラスまで割れた。私はクッキーと自分の紅茶を確保しておいた。

 

「……なるほど、それで私が泣いていた、か」

「そうよ。ちなみに一週目では同じような状況になったのか、諏訪子に殺されていたわ」

「私が?」

「幽香が。でも仕方ないわよ。諏訪子、全盛期の力に無限復活みたいだし」

「……確かにそれなら負けるわね。ダメージを気にせずにやられると、いくら私でも、死ぬ気でやって全盛期の諏訪子を何度かは殺せるかどうかでしょう」

「殺せる時点でやばいんだけど」

「これでも大妖怪よ」

「知ってる。さっき、殺されたもん」

「こほん。で、どうするの?」

「もちろん、解決するわ。だから、幽香も手伝ってくれない?」

「いいわよ。戻っているとはいえ、私の大切な子達を滅ぼしてくれたお礼はしないといけないもの。そうね、巻き戻るというのなら全力を出しても問題ないのだし、どうにかできるわ」

「ありがとう」

「ただ、その地面と火の奴は相性が悪いから、手伝ってちょうだいね」

「それはいいけど……待って、一人で狩る気?」

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「弱体化が入ったら?」

「……それはどうなるかしら? あまりやり過ぎると諏訪子がでてくるみたいだし……いえ、ポケモンを使えばいいのよね?」

「そのはずよ」

「いいわ、それなら私もルールに則って潰してあげましょう」

「できるの?」

「あら、私の力を忘れたの?」

「あ~」

 

 幽香の能力は花を操る程度の能力。どこまで操れるかは不明だけど、花を咲かせたり、向日葵の向きを変えたり、枯れた花を元通り咲かせたりすることができるのは確認できている。もっとも、能力は他の強力な妖怪に比べればおまけなのよね。幽香のやばさは純粋な妖力と身体能力の高さにある。それだけでこの辺に住んでいる妖怪では最強なの。神様クラスの存在といえる。

 

「じゃあ、霊夢。モンスターボールを確保して花を持ってるポケモンを捕まえましょう」

「私、モンスターボールは自分の分しか持ってないのよね……」

「それじゃあ、河童の所かしら?」

「それでいいと思う。あ、もしかしたらモンスターボールがこの家の中にあるかも知れないけれど……」

 

 そういうと、幽香が高速で手を振るった。彼女の手には羊皮紙が握られている。

 

「なんて?」

「モンスターボールは香霖堂か、人間の里で売っているみたいよ」

「お金取るの!」

「そのようね」

 

 みてみると、結構安い。でも、これは問題ね。

 

「その、幽香……お金がないの。ごめんなさい」

「いいわ、私が出してあげるから」

「いいの!」

「ええ」

「ありがとう! 幽香優しくて好き」

「こ、こら、離れなさい!」

「はっ」

 

 抱き着いたら、引きはがされた。まあ、いいや。奢ってもらえるし。紫とは全然違う。厳しいけれど、優しいところもあるし。

 

「それじゃあ行きましょう」

「うん」

 

 幽香の傘に入って一緒に歩いて人間の里を目指す。濡れるのが嫌だからだ。太陽の畑から森に入ると、すぐに幽香が止まった。

 

「どうしたの?」

「あれ、ポケモンじゃないかしら?」

 

 幽香が指さした先には球根のような可愛らしい容姿をしたポケモンが恐怖に震えていた。その子がこちらに跳んできている。後ろからは猿の妖怪がやってきていて、ソイツがその子を拾って食べようとしていた。でも、どうせ死なないから手を出す必要はないのよね。

 

「ふむ」

 

 軽く幽香が手を振るうと、その妖怪は消滅した。なんで助けたのかはわからない。

 

「妖怪は普通に食べるだけじゃないわ。恐怖を味合わせて、その感情も糧になるの」

「あ、そっか。それなら殺さずに痛めつけたほうがいいのね」

「ええ。お前、力が欲しいのなら戦って勝ち取りなさい」

「どうするの?」

「霊夢、奢ってあげるのだから、この子とポケモンバトルをしてみせて」

「いいわよ」

 

 えっと、見るからに草だから燃えやすいと思うし、ロコン、ロロで行くべきか……いや、今は土砂降りの雨なのだから、アローラの姿とかいう方のココでいきましょう。

 

「お願い、ココ!」

「こ~ん!」

 

 相手の子もやる気みたいで、互いに睨み合っている。

 

「可愛い子ね」

「そうよ。もふもふなのよ」

「紫の趣味かしら」

「たぶん」

「まあ、いいでしょう。始め」

 

 その言葉と同時に相手が種を飛ばしてくる。それを受けると、身体に蔦のようなものがでて体力が吸われていっている気がする。

 

「面白い種ね。欲しいわ」

「あははは……ココ、冷凍ビームよ」

「こぉぉぉぉ!」

「ちぇりっ!」

 

 ココの口からビームが放たれ、命中すると周りの水分ごと凍っていく。それで動かなくなったけれど、少しすると、氷の中から身体をボロボロにしながらも一生懸命にでてきた。

 

「もういいわ」

「え?」

「この子にする」

 

 幽香が抱き上げると、力を与えたのか、身体の傷が治って更に光り出していく。というか、濁流のように力を流し込んでいる。さっきの猿の妖怪が1だとしたら、今流し込まれているのは1000くらいね。

 

「なにかしら、これ?」

「進化の光かも」

 

 光が収まると、頭には花飾りがあり、下半身にはロングドレスを纏う人間に近い姿をしている。体の部分は芽が伸びた球根のような形状ね。これもポケモン……本当に不思議生物ね。

 

「ほら、行くわよ」

「うん」

 

 進化した子も手で幽香の裾を掴んで、自分の母親だと思っているのかもしれない。幽香は気にせずに進んでいるように見えて、ペースを合わせている。

 それから少しして、無事に里に到着してモンスターボールを購入できた。そのボールでついて来た子を捕まえて、幽香の手持ちになった。調べてみると、この子はドレディアという子みたい。

 

「さて、それじゃあどうする?」

「まずは私の家に戻っていい? こんなに荷物を持って歩きたくないし」

「それもそうね」

 

 皮袋が三つ、一杯になるぐらいモンスターボールや傷薬などの道具を買ったので、重たい。それに里で食料も沢山購入した。全部、幽香の奢りで生活が随分と楽になるかも。

 

 

 

 

 

 

【五週目 博麗神社】

 

 

 

 神社に到着すると、境内でフランと早苗がポケモンバトルをしていた。ダブルバトルみたいで、どちらが有利かというと、早苗だ。

 

「環境が悪いわね」

「炎が雨であまり効いてないし」

「お、お帰り。無事に幽香を説得できたみたいだな」

「当たり前よ! この私にかかったら朝飯前なんだから」

「へいへい」

「魔理沙」

「なん──ひぃっ!?」

 

 縁側に荷物を置いたら、幽香が魔理沙を掴んで外にでた。それに気付いた二人もバトルを止めて急いでこっちにやってきた。

 

「お、お手伝いしますね!」

「そうそう、だから幽香は魔理沙をお願いね」

「ええ、任せなさい」

「た、たすけて──」

「大丈夫。死なないわ。巻き戻るのなら、平気よ。霊夢たちは巻き戻るのは確実みたいだけど、魔理沙でもそうなのか試さないとね?」

「や、やめっ、マリスヘルプ!」

 

 魔理沙がそう叫んだ瞬間、魔理沙の姿が消えた。まるではじめっから世界に居なかったかのように。

 

「確か二人の子供と言っていたわね。親を守るために力を使ったのかしら?」

「た、多分……」

「間違いないと思うよ~」

 

 声が聞こえて振り返ると、いつの間にか縁側に座ってお茶を飲んでいる諏訪子がいた。当然、幽香からマスタースパークが放たれる。私の家が消滅待ったなしだった。これから本殿で寝ないといけないかも。いや、本殿も消し飛ぶかもだから家なし子になるわけ? 

 

「諏訪子様!」

「あははは♪」

 

 そう思っていたら、諏訪子の前に白石の蛇が数体現れてマスタースパークを弾き飛ばしていた。上にいってくれたけど、ミシャグジの何体かは死んだわね。まあ、すぐに元に戻っているけれど。

 

「じゃあ、殺り合おうか~♪」

「ええ、いいわね」

「他所でやれ!」

「だが断る!」

「ええ、コイツは殺す」

「なら、ポケモンバトルでやりなさいよ!」

「……それもそっか」

「ポケモンは手に入れた。いいでしょう」

「ふふん、来いルギア!」

「あっ!」

 

 早苗の服の中からボールが飛び出してきて、ルギアがでてくる。ボールは諏訪子の手にいった。

 

「さて、やりましょうか。ドレディア……いえ、リコリス」

「通常のポケモンなんかに、私のルギアが……ちょい待ち。なんか妖力を発しているんだけど……」

「リコリス、蔓の鞭」

 

 110センチくらいの小さな身体から40本を超える巨大な鞭がでてくる。その先端は蕾がでてきていて、それが開くとどれも凶悪な牙を持っている。

 

「焼き払え!」

「ソーラービーム」

 

 蕾達から一切の溜めなどなく、無数に放たれたそれは空を貫いて雲を消し飛んだ。ルギアの一撃によって蔓はほとんど切り裂かれたけれど周りにのたうち回っている。

 

「宿り木の種」

「空に逃げて!」

 

 のたうち回っている蔓の残骸から無数の蔓が増えてルギアに襲い掛かる。空に逃げることで防がれたけれど、地面は宿り木の種が成長し、まるで林のようになってしまった。

 

「これ、ポケモンバトル?」

「あははは、すごいですね」

「地形がかわるね」

「全然違うから!」

「ポケモンでしかポケモンを傷つけられない。なら、妖力の大半をポケモンに与えてしまえばいいのよ。私とこの子の相性はいいわよ?」

「でも、空を飛べなければ……」

「誰が飛べないといったの? リコリス、こうするのよ。私が戦い方も教えてあげるわ」

 

 リコリスがこくりと頷くと、空に飛び出して瞬時にルギアに接近すると、蹴り飛ばして地面に叩き落した。その状態で宿り木の林に叩き落されたルギアは木々に巻きつかれて動きが一瞬だけ封じられる。すると、空にとっても大きな光が現れた。

 

「ちょ、まっ」

「消し飛びなさい」

 

 どう考えても幽香が操作している。特大のソーラービームは視界一面を光にして、全てを消し飛ばした。そう、全てを。私達も含めて。

 

 

 

 

【六週目 博麗神社 天候・嵐】

 

 

 

 

 

 

「幽香に殺された!」

「ごめんなさいね。でも、リコリスの力は確認できたわ」

「まあ、博麗神社は元に戻ってるからいいか。買ってきた物も無事よね?」

「巻き戻って……いないわね」

「そんな!」

「あ、手紙。ボス戦以外の介入は止めてください、ね。代わりに食料とかも巻き戻すそうだけど、どうする?」

「どうするもこうも、破壊するのは止めて。家がなくなるのとか、まじで勘弁」

「仕方ないわね。わかったわ。戻ったら巻き戻らないかも知れないし、私はここで過ごすわ」

「お願い」

「食事とか用意してあげるから、他の子達もここに集めるように。いいわね、魔理沙」

「ばれてる!」

 

 柱の後ろから魔理沙がでてきた。手には私と幽香が買った道具や食材を持っていた。

 

「当然よ。馬車馬のように働きなさい。そうしたら許してあげないこともないわ」

「わ、わかったぜ……」

「これって無限にふやせたり……」

「あ、それはできるらしいけど、解除したら消えるらしい。諦めろ」

「ちっ」

「教育に問題があるんじゃないかしら、紫」

 

 

 

 

 

 

 




お母さんゆうかりん。

ツンデレ、小さい子供には優しい。母性あり? 霊夢って両親死んでるよね? 成人はしていないし、じゃあ少しは優しくてもいいか。という感じでお母さんゆうかりん。忙しい賢者様より、一緒にいてくれる人の方がね?
ただし、厳しい時はスパルタである。

スーパードレディア。幽香の妖力で超進化。太陽の石なんて関係ない。その分妖力でできている。花なのでゆうかりんに操られる。つまり、ゆうかりんが合法的に戦うためのアバター。ゆうかりんが操りだすとスーパートレディア3になる! 2はリコリス自身が本気で戦う。
スリーの戦闘能力は幽香の全力バックアップも合わせて魔改造ルギアでも叩き潰せる。ただし、後半になると幽香自身のスペックが下がってくるのでそこまではいかないもよう。
お助けキャラ最強のゆうかりん。マジやば。そら、諏訪子に理由をつけて殺される。霊夢ちゃんは判定、16、24、で30以下を二回だしたので説得成功。
グラードンの日は攻略不可。どうあがていも殺し合い。雨の日は太陽の畑を助ける手伝いの判定を30以下で成功すると、説得フェイズ。こちらも30以下で説得できると仲間になる。嵐の場合は運命のダイスロール。太陽の畑に雷が落ちるかによって変わるので、基本的に雨の時しか説得できません。





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Re.ゼロから始まる幻想郷異変~参加していなかった一部の勢力~

 

 

 

 

 

 

【5週目 守矢神社 東風谷早苗】

 

 

 

 

 私、東風谷早苗は、守矢神社に住まわれている八坂神奈子様と洩矢諏訪子様の巫女として、風祝(かぜはふり)をしています。風祝とは諏訪に置かれた神職の一種で、ざっくり言えば(台風)を治めて豊作を守ることが仕事ですね。その中には怪異である妖怪の退治も含まれています。

 そんな巫女な私は現在、諏訪子様の部屋で必要な物を探しています。ですが、やっぱりないですね。

 

「早苗、あったかい?」

「ルギアは回収されていますね」

「そうか。それでどうするんだい?」

「そうですね~」

 

 霊夢さんは幽香さんを仲間に率いれました。なら、私も誰かを仲間に率いれないといけません。同じ巫女として負ける訳にはいきませんしね。信仰が必要ですし。そうなるとこちらも強い人を探さないといけませんが……

 

「神奈子様はポケモンを持ってたり……」

「ないねぇ~。私は今回のことは関与していないし」

「ですよね……」

「ただ、ポケモンかどうかはわからないが、巻き戻っている間に強そうなのを見たことはある」

「本当ですか!」

 

 思わず神奈子様につめよってしまいました。

 

「ああ、竹林だ」

「迷いの竹林ですか……わかりました。行ってみます」

「気をつけて行っておいで」

「はい!」

 

 詳しい事情をポケモン達を連れて移動します。目指すは迷いの竹林! 

 

 

 

 

【5週目 迷いの竹林】

 

 

 

 

 迷いの竹林はいつも深い霧が立ち込め、竹の成長が早く日々変化するためこれと言った目印がありません。また、緩やかな傾斜により方向感覚も狂うため、妖精ですら迷い、よほどの強運が無ければ脱出できないとも言われています。上に飛べば良いのでは? と思うでしょうが、ちゃんと飛行しても簡単には出られないようにされております。

 

「あれ、早苗じゃん。どうしたの?」

「てゐさん」

 

 声が聞こえて振り返ると、そこには癖っ毛の短めな黒髪と、ふわふわなウサミミ、もふもふなウサ尻尾を持つ幼い姿の女の子がいました。服は桃色で、裾に赤い縫い目のある半袖ワンピースを着用していますが、彼女の正体は因幡の素兎伝説の兎だと言われているので、実際の年齢はアレです。そんな彼女の周りには白いや茶色の兎達や()()()()()()()()()()()()。おそらく、これらはポケモン達でしょう。

 

「実はここに強いポケモンがいるって聞いたんですが……」

「強いポケモン? ポケモンかどうかはわからないけれど、強いのはいるね~」

 

 やっぱり、ここであっているみたいですね。問題は協力してもらえるかですね。

 

「というか、それで私達はここに逃げてきてるわけだしね~」

「ど、どういうことですか?」

「や~何時もの輝夜と妹紅の喧嘩だよ。変な生物を使ったね」

「……どこですか?」

「案内するのは嫌だから、自分で行ってきてよ。たどり着けるように使いづらくなってる幸運をあげるから」

「わかりました」

「頑張ってね~」

 

 幸運の兎、てゐに言われた通りに進み、結界を抜けるとそこは──―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地 獄 だ っ た 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──―燃え盛る竹林は黒い炭へと代わり、空から無数の炎の羽が降り注ぎ、地上から溶岩の嵐が吹き荒れています。その中心部にいるのはその二体のポケモンを使っている二人の少女。互いに互いを燃やしながらも、気にせず攻撃し合っています。

当然、この二人も互いに弾幕を展開して殺しにかかっています。

 

「死ねっ、カグヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」

「そっちが死ねぇええええええええええええええぇぇぇぇぇっ!」

 

 空も周りも真っ赤に染まり、地面も焦げて真っ黒。ここだけ世紀末ですね。というか、暑すぎて汗が止まりませんし、服に汗がひっついて透けて気持ち悪いです。

 

「って、あぶなっ!」

 

 直径数十メートルはあろう炎が襲ってくるので、慌てて下がってゲッコウガを取り出してハイドロポンプで消し飛ばします。本当は奇跡で炎なんて気にせず進めるのですが、使いそうになって使えないことに気が付きました。

 

「あの~お二人様、聞こえますか? 戦い止めて~~!」

「「うるさい!」」

「ちょっ!」

 

 二人の攻撃が同時に私の居る場所に殺到して視界一面に広がる炎の壁のような球体と地面の下から溢れ出す溶岩に襲われてなす暇もなく、身体を粉砕されて服が肌ごと燃やされて激痛を感じるまもなく真っ暗になりました。

 

 

 

 

【6週目 守矢神社・早苗の自室】

 

 

 

 

「おお、早苗よ。死んでしまうとは情けない」

「なぜドラクエ風ですか!」

「いや、今やってるから」

「はぁ……」

「で、どうだった?」

「燃やされました。燃やされましたとも。完膚なきまでに」

「相手は?」

「妹紅さんと輝夜さんです。全然、止まってくれませんでした」

「あの二人なら仕方ない。で、どうするんだ? 説得できるのなら、私が力付くで止めてやってもいいが……」

 

 確かに神奈子様ならあの二人を止められるでしょう。でも、その後はしっかりと説得しないといけません。私の言う事なんて聞いてくれないと思います。よし、それなら説得できる人にお願いしましょう。

 

「まずは人を呼んできますので、少し待っていてください」

「わかった。それなら神力を溜めておこう」

「お願いします」

 

 さて、思いついたことは実行できるか、不安です。ただ、お土産はもっていきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

【6週目 人里 天候・嵐】

 

 

 

 

 

 やってきたのは寺子屋です。ここに説得できる人がいるはずです。雨ではない

 ですが、風がきついし雷も鳴っているので少し怖いです。 

 

「すいません、慧音さんはいらっしゃいますか?」

「ん? こんな日になんだ?」

 

 扉を開けると、何故か妹紅さんがでてきました。

 

「何故、ここに? 竹林には行かなかったのですか?」

「何故って、こんな天気だからな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なるほど。記憶は引き継いでいなくても、天気によって行動が変わっていくんですね。これはフランちゃんに伝えないといけませんね。

 

「で、何の用だ?」

「お話しがあるので、中に入れてもらってもいいですか?」

「ちょっと待ってろ。慧音に聞いてくる」

「はい」

 

 少しして、許可がもらえたようで入れてもらえました。慧音さんの自宅の方に案内されて、畳の上で正座してちゃぶ台の上に持ってきたお土産を置きます。

 

「まずはこれをどうぞ。お酒とおつまみです」

「ほう」

「後で飲むか」

「そうだな。それで要件はなんだ?」

「ある意味では解決したのです。妹紅さんの説得を頼もうと思ったので」

「私の?」

「ふむ。この異変か」

「はい。今から言う事は信じられないかもしれませんが、事実です。霊夢さんも認めています」

「博麗の巫女が認めているなら事実なんだろう。聞こう。いいな、妹紅」

「ああ、構わない」

「ありがとうございます」

 

 それから、この世界がループしていることや、ポケモン達のことについて知らせていきます。すると妹紅さんが目に見えて狼狽えました。

 

「知っていたのか?」

「ああ、確かに私は知っているし、預かっている。彼女から異変の協力要請を受け、報酬としてポケモンを貰っている。そうか、これがそうなんだな」

「おいおい、わかっていないのか?」

「ああ、基本的に育てたら貸して欲しい時に貸してくれ、と言われただけだし。後、異変の時は好きに動いていいが、できれば巫女達に試練を与えてから協力してやってくれと頼まれたな。輝夜が持っているのは驚きだが……」

「……試練、します?」

「まあ、ただで協力してやるのも面白くないしな。よし、決めた。試練の内容は私とポケモンバトルで……」

「嫌です! 勝てません! 前の周回で軽く殺されましたから!」

「あ~」

「燃やされたんだったか。よし、それなら私が試練をやろう。妹紅もどうだ?」

「それでいいぞ」

「じゃあ、これから私が問題を出すから、それを答えて50門中、40点以上で合格とする」

 

 100点で考えたら80点で合格範囲。私は高校で勉強していたらからいけるはずです。がんば、早苗! 

 

「では、第1門。妖怪が歩いていますが、どうしますか?」

「退治します」

「はい、駄目」

「なんでですか!」

「良い妖怪と悪い妖怪がいるからな。むやみやたらに退治するのは駄目だ。というか、私の前でよくそれを言えるな」

「訂正します。虐めます。いたっ」

「まったく……よろしい。どうせ時間が巻き戻るんだ。だったら幻想郷の常識をしっかりと教え込んでやる」

「頑張れよ~」

「性格の矯正もしておこう」

「いやぁぁぁ!」

 

 9日もかかりました。ただ、合格がもらえたので、妹紅さんが仲間に入りました。一度、世界は滅びましたけど、その間にフランちゃんに手紙を出しておいたので大丈夫です。

 

 

 

 

 

 

 フランドール・スカーレット

 

 

 

 

【7週目 紅魔館 天気・晴れ】

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはははは、時は来た!」

「お嬢様?」

「咲夜、外にいくよ!」

「え、こんな天気ですよ?」

「だからだよ! これから復讐に行くの!」

「は、はぁ……かしこまりました」

 

 咲夜に全身にクリームを縫ってもらってから、傘を差してもらい外に出る。容赦なく降り注ぐ太陽は私にとって天敵だ。でも、今日しかない。

 

「あ、美鈴」

「おや、お出掛けですか?」

「うん。ちょっと仕返しにね」

「気をつけていってきてください」

「は~い!」

 

 目の前にある湖に移動して、目的の奴を探す。

 

「お嬢様、目的は誰なのですか?」

「チルノだよ」

「チルノですか、少々お待ちください」

「あ、能力はいざという時に置いておいて。使えなくなるから」

「かしこまりました」

 

 歩いて他の妖精達に話しを聞いて調べていくと、居場所が見つかった。湖の近くにある木陰で休んでいるみたい。

 

「チルノみ~つけた♪」

「え? え~と」

「大妖精に用はないよ。それより、ポケモンバトルをしようよ。目と目があったらするんだよね?」

「いいわ、やってゆるわよ!」

「駄目だよ、チルノちゃん! こんな熱さじゃ倒れちゃう!」

「大丈夫ぶ! アタイはさいきょ~だから!」

「じゃあ、勝負!」

 

 互いに距離を取ってポケモンを出す。私はもちろん、シャンデラのレミとドール。ちゃんと瞑想させておいたし、天気の力も充分に受けている。

 

「来なさい、アタイのさいきょーポケモン! ふーちゃん!」

 

 出て来たのは水色の綺麗なポケモン。私を殺してくれた奴。だから、容赦はしない。

 

「あ、最強のポケモンならこっち、二体使ってもいいよね?」

「ふん、当然よ!」

「チルノちゃん……」

「ふふふ、じゃあダブルで小さくなる」

 

 周りは灼熱地獄だから、火力も上がる。瞑想で1ランクあげているし、小さくなるで、回避率が二段強化された。

 

「冷凍ビーム!」

「避けて、レミはサイコキネシスで動きを封じて、ドールは目覚めるパワー!」

 

 サイコキネシスで押さえ、四倍弱点を狙って目覚めるパワーでごりおす。岩にしたので大ダメージ。氷タイプだから、周りの影響でどんどん弱っていっている。

 

「ドール、熱風! レミは炎の渦!」

「あちゅいぃいいいいぃぃぃっ!」

「あははは、殺された恨みを思い知れぇ~! やっぱいいや。私もいっぱい殺してるしね!」

 

 相手の攻撃を回避しながら、着実にダメージを積み重ねていく。最後に傷薬で体力を回復させ、スカーフの効果を掌を向けて握るようにして指示する。

 

「ダブルオーバーヒート!」

 

 直径10メートルの炎がフリーザーを飲み込んで焼き尽くす。綺麗な青い炎によって焼き払われたフリーザーは戦闘不能。これで仕返しは終わり。

 

「チルノちゃんを虐めないで!」

「あ~一回殺したら大丈夫。えい♪」

「チルノちゃあああああああああん!」

 

 ぷちっと踏みつぶしてやる。泣きわめく大妖精を見ながら、モンスターボールを取ってフリーザーを戻す。これでコイツはゲット。

 

「そいつはアタイのだ!」

「あ、もう復活しましたね」

 

 無限復活する妖精ならではの速さ。

 

「返せ~!」

「ふふん、返して欲しければ私達に協力してよ」

「あ、あの、どういうこと、ですか?」

「??」

 

 事情を説明すると、快く言う事を聞いてくれることになった。チルノはわかっていないけど、大妖精ちゃんにお願いして連れてきてもらう。そんなわけでこれでこっちは大丈夫。博麗神社で合流してから迷いの森へと向かおう。

 

「お嬢様、申し訳ございませんが仕事が入りました。ですので、美鈴に後をお願いします」

「わかった。いってらっしゃい」

「はい、いってまいります」

 

 どうせお姉様の命令だろう。どうなるかわからないや。

 

 

 

【七週目 博麗神社】

 

 

 迷いの森に行ったけれど入れなかった。結界みたいなので防がれていた。そのことから、皆で相談したら、あることがわかったので博麗神社に戻ってきた。

 

「んじゃ、やっていいわよ」

「やっちゃえ!」

「アタイに任せなさい!」

 

 チルノとフリーザーを使って、博麗神社の裏手にある温泉を氷らせる。続いて幽香のリコリスがそこから鶴を地下に潜らせてこじ開けさせていく。すると、地震が起きて地面が割れて中から巨大な存在がでてくる。軍神である神奈子の加護ももらって全員で、ガチバトルだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリス

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ。グラードンとのバトルが始まったね。そして、終わった。

風見幽香が強すぎるんだよぉぉぉぉぉぉぉっ! 

 風見幽香のドレディアと早苗のジャローダが草、チルノのフリーザーと霊夢のロコンが氷、水がゲッコウガ。どれも高レベル。いや、霊夢のはまだ弱いか。鳳凰とファイヤーは等倍だけど強いし、うん。

 グラードンはまず、宿り木の種を植え付けられてギガ・ドレインとかでドレディアが壁になって、炎系の攻撃はフリーザーや水系が防いでボコ殴り。まあ、博麗神社が壊れたからリセットで収支はプラス。グラードンはこれで使えない。使える伝説はあとレックウザとカイオーガ(アリス)。

 そう思っていたら、レックウザがコントロールできなくなった。なんで? なんで? なんで? 

 

「マリス、あなたはやりすぎたのよ」

「そうそう。やりすぎよ」

「何を言って……」

「はい、これ」

 

 スキマが開いて映像を見せられると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()

そして、レックウザの頭の上に不機嫌そうに仁王立ちをするアリスお母さんと、操られているであろうジュカとルクスの姿。

 

「なんで、なんで隔離していたはずなのに!」

「ふふふ、なんでかしらね~」

「ふっ」

「お前かぁぁぁっ!」

「まあ、スキマが使えないわけではないしな」

「霊夢を何度も殺されて私が黙って見ているはずないでしょう?」

「フランは楽しそうに遊んでいるけど、やっぱりね」

「くっ、正論すぎる!」

「いいもん、第二ステージに移行させるもん!」

「完全にスネたわね」

 

 第二ステージを発動させる。

 

「にとり!!」

 

 通信機をとって叫ぶと、楽しそうに声が聞こえてくる。

 

『じゃあ、行きますか! メタグロスナイトMk-II、発進!』

 

 数十機のメタグロスナイトが──発進されない。

 

「どうしたの?」

『ごめん、無理になった』

「え?」

『こわ~いメイドさんと天狗達に押さえられた』

「レミリア・スカーレット……」

「くっくく、咲夜も参加させないと可哀想でしょう?」

「ま、まだだ、こっちには諏訪子ちゃんが……」

「ねえ、一つ忘れてない?」

「な、なに?」

 

 嫌な予感がひしひしとしてくる。どう考えても彼女達の手で踊らされている気しかしない。

 

「ここにいるのは私、八雲紫とレミリア・スカーレット。それで、守矢神社はそちらに協力している。で、他にポケモンを持ってる勢力が無かったかしら?」

「……あ……」

「増援や奇襲は戦術的に当然として、戦略的にどのタイミングでいれるかが重要よね。なにせ最終的に勝てばいいのだから」

 

 急いで確認すると、画面には諏訪子ちゃんがガチで戦って苦戦している連中がいた。その人達は額に角を持ち、戦いや大騒ぎが大好きな連中。そして、その人達がいる場所を管理する管理者にして、今回の件で色々とご協力を願った勢力。

 

「地獄の勢力、地霊殿!」

「はい、正解です」

「正解者には私とお姉ちゃんのお友達になってもらうね!」

 

 振り返るとそこにはやや癖のある薄紫色の髪の毛をした子と、薄く緑がかった癖のある灰色の髪の毛した可愛らしい双子の女の子達がいた。薄紫色の髪の毛のボブにした深紅の瞳の少女は古明地さとり。彼女はフリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしており、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカート。頭の赤いヘアバンドと複数のコードで繋がれている第三の目(サードアイ)が胸元に浮いている。ところどころにハートのモチーフを身につけている。

 薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングに緑の瞳した女の子は妹の古明地こいし。鴉羽色の帽子に、薄い黄色のリボンをつけている。結び目は左前辺り。上の服は、黄色い生地に、二本白い線が入った緑の襟、鎖骨の間と胸元とみぞおちあたりに一つずつ付いたひし形の水色のボタン、黒い袖。下のスカートは、緑の生地に白線が二本入っていてラナンキュラスの花柄が描かれている。姉のさとりと同じように、左胸に閉じた目がある。そこから伸びた二本の管は、一本は右肩を通って左足のハートへつながり、もう片方は一度顔の左でハートマークを形作り、そのまま右足のハートへつながる。

 これでわかった。私が彼女達の事を頭から抜け落ちていたのは無意識を操作されていたのだろう。古明地こいしの能力が無意識を操る程度の能力なのだから。

 

「正解です。こいしにお願いして、マリスの思考から無意識に私達を排除してもらいました。鬼達を押さえるのは苦労しましたが、そろそろ目的のポケモンを認識させ、使わせるというのは果たせたと判断しました。ですので、四天王の方々を解き放ちました」

 

 姉のさとりの方は心を読んでくるので、対人戦では滅法強い。対策として考えられることはこんなこと? 

 

「っ!?」

「殺せないのなら、その分戦いが楽しめるって大好評だよ! って、お姉ちゃん?」

 

 さとりんは顔を真っ赤にして両手で手を覆っている。我等、同人誌愛好家達が考え出した必殺、エロいことでさとりんを真っ赤にさせて徹底的に辱しめる○辱作戦! 

 

「おっ、女の子がっ、なっ、ななななんてことを考えているんですかっ!」

「ふはははは、心を読むのが悪いんです! これはこちらの計画を壊してくれた報復である!」

「え~お姉ちゃんにどんなことを読ませたの?」

「それはですね~」

「だっ、駄目っ! こいしは知らなくていいことだから! 教えちゃ駄目っ!」

「何をやっているの。それで、マリスはこれからどうするつもり?」

「勝ち目は消えたでしょう?」

「そうですね。もうこうなったら、有象無象共から皆殺しにしようかな」

「「「っ!?」」」

「ま、待ちなさい! なんてことを考えているんですか!」

「あはははは、もう遅い! 違反者はみんなまとめて死んじゃえ!」

 

 この領域から空間転移して、幻想郷上空に移動する。そこでアリスは幻想郷を見下ろしながら、両手を広げる。

 

「小さな世界、光り輝く地上。真っ赤な大地と暗い洞窟、死者達の楽園。くるくると回り、違反者達がたどり着く場所は見渡す限りの海で、とっても綺麗なお花見会場! まずはラストステージ、第一幕。始まりの(アリス)

 

 世界の舞台を変更する。世界が塗り替えられ、空から大量の海水が降ってくる。それらは瞬く間に幻想郷を埋め尽くし、水没させる。膨大な海水が落ちてくる姿はまるで海その物が落ちてくるよう。

 

「散らせえぇっ!」

 

 無駄なの。世界は改変された。水没した幻想郷へと。続いて無数のゴンドラを配置する。海への変化を耐えきった人達は小舟に乗っていき、アリスを見上げる。だから、笑ってくるくると回りながら宣言する。

 

「命を賭けた戦いが、好きな皆。楽しい楽しい人形劇のはじまりはじまり。題名はゴンドラに乗る人形達のお花見」

 

 指を鳴らし、Grimoire of Alice(アリスの魔導書)片手で持ちながら海水を吸いあげて一つの物を配置転換する。置換魔術はエインズワースが得意だけど、このアリスの世界なら関係ない。幻想郷の中心に大きな、大きな、木が現れてそれは急成長していく。同時にスキマが開いて、無数の攻撃が飛んでくるけれど、アリスは海そのもの。だから、いくらでも現れる。

 

「頼れる仲間と船に乗り、旅は始まり前途は多難。先に待つのは希望の出会いか悪意の罠か。それはともかくあちらの事情は興味津々。ひとりぼっちは寂しいものね。だから、あなたも一緒に遊びましょう」

やめっ、やめなさいっ! それだけはやめてっ! やめなさいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃっ! 

 

 八雲紫が泣き喚きながら必死にこちらを制止しようとしてくる。その泣き顔を見て不思議に思う。八雲紫の願いは叶うのだから、別に問題ないのに。

 

「い・や・よ。契約の時は来たんだよ。アリスは約束を守る。だから、()()()()()()()()()()

 

 スキマから開く八雲紫の悲鳴を聞きながら、海から出てきた無数のアリスは小舟の上にでてきた霊夢達に身体を貫かれながら、両手を広げてくるりと回ってみなに笑う。

 

 

 み ん な で お は な み を し ま し ょ う 

 

 」

 

数百メートルを超える大樹は無数の枝から綺麗な桜色の花を咲かせ、花びらを舞わせていく。それは、それはとても幻想的な光景で、思わず人もポケモンも関係なく皆が見惚れていく。

 

「無限誕生・西行妖」

 

 置換したのは冥界にある桜。それを巨大化させて海と繋げて改造して封印を解いた。ここに封印されているのは多くの人間の精気を吸った妖怪桜であり、幻想郷でも最高クラスの力を持つ八雲紫ですら手出し出来ないほどの力を持っている。でも、西行寺幽々子の亡骸によって封印された。だから、それを解いてあげた。

 そして、この海は液体金属、ナノマシンで作られた海。故に無限誕生が作れる。西行妖の力を使い、その力を小分けにして生み出して解き放つ。

 

「いやぁぁぁぁっ、幽々子ぉぉぉぉっ!!!」

 

 無限誕生を使い、西行妖と幽々子の身体、二つを作って一つは保存する。それ以外は無数の西行妖が他の生物の生命を吸収していく。そうなると始まるのは一大決戦だ。

 

「さあ、さあ、お花見が始まったよ。楽しい楽しいお花見。みんな、頑張って殺し合ってね。大丈夫。安心して欲しい。人とポケモンは巻き戻るのだから、死ぬことはないの。諦めたら永遠に殺されるだけだからね。くすくす」

 

 桜の枝に座りながら、皆に聞こえるように言う。すると鬼達は歓喜し、人々は絶望する。水没して死んだ人やポケモン達もリスポーンしているから大丈夫。精神的な死もちゃんと巻き戻してあげるしね。

 

「ありゃ?」

「あ、お帰り、諏訪子ちゃん」

 

 隣に出現させた諏訪子ちゃんはアリスの隣に座り、一緒に下のパーティーを眺める。シロ達も参加して頑張っている。どんどん殺して欲しい。それこそがアリスの狙いなのだから。

 

「流石に諏訪子ちゃんだけで彼等全員を相手するのは無理だから、そのかわりだよ?」

「それ以外にも目的があるよね~」

「もちろん。紫さんと約束したからね」

「ふ~ん。そんで、あわよくば貰ってやろうってことか~」

「力が欲しいからね」

「まだ力を求めるんだ」

「神様と戦えて滅ぼせるぐらいは欲しいかな」

「傲慢だね、人間」

「傲慢だよ、神様」

 

 けらけらと二人で笑いながらお酒を生み出して飲む。下では生命力を延々と吸い取られていきながら、戦っている人達。足場はゴンドラしかないし、空を飛んで戦っているのが基本だ。延々と殺されては復活することで、人里の無力な人達がポケモンと協力して戦いだす。人とポケモンがしっかりと協力し、巨大な敵に挑んでいくことで絆が生まれる。そして、強さはそのままで巻き戻されるポケモン達はどんどん強力になり、量産型西行妖たちを追い詰めていくことになる。

 

「いつの時代も多種族が協力しあうには共通の敵が必要か~」

「それがベターだしね」

「にしても、収支はどうなってるの?」

「ん?」

「吸収している生命力、全部、マリスが奪ってるよね~?」

「プラスなわけないよ。巻き戻すのも、固有結界を維持しているのもアリス、マリスだよ? いくら、他の人達から徴収しているとはいえ、限度があるし」

「それもそっか」

 

 固有結界をこんな長時間維持し、このような戦い方をするには大量の魔力が必要だ。Extraのアリスは聖杯からのバックアップを受けているから魔力が足りたかもしれないけどね。だからこそ、今回は幻想郷の強い連中から能力や力を封じる過程で魔力を吸い取った。グラードン達からは生命力もだ。それらを魔力または生命力を魔力に変換して使っている。西行妖に関しては吸収した生命力を貰うのはもちろん、身体を用意するのも、こちらで西行妖の力とアリスの力を混ぜてやっているからそこまで負担ではない。でも、作る量が多いのでやっぱり収支で考えたらマイナスになる。それでも計画が成功すれば力が更に増えることになる。

 

「アリスに怒られるだろうねえ~」

「それは……まあ……怖い……」

「あははは、頑張れ~」

「諏訪子ちゃんも危ないかも?」

「あ~う~」

「ふふ、道連れ……」

「よし、今から助けに行こう!」

「あっ、ずるい!」

「とー!」

 

 諏訪子ちゃんが飛び降りて戦いに参加しだした。それも敵側として、ミシャグジ達を率いてだ。これで地霊殿、守矢、鬼、博麗、魔法の森、竹林などなど、様々な勢力がここにやってきて戦っている。次第に空から援軍として他の勢力までやってくる。西行妖(マリス)対幻想郷、否。東方勢力とポケモン達。かってるかな~? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ラスボスのマリスが現れた。
マリスは世界改変を行い、フィールドを海に変更した。
量産型西行妖が現れた。
諏訪子が裏切って敵側についた。
マリスはぼっちになった。




 さあ、西行妖とアリス・ナインのダック対東方+ポケモン勢力。ただしフィールドワークは海と小舟、大樹のみ。そんな状態で360体の量産型西行妖が常に襲い掛かってくる! でも、大丈夫! 死んでもリスポーンするから!
さあ、血桜を鑑賞しよう!





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 ネーム:Grimoire of Alice
 ベーシック:東方・旧アリス
 アリスポイント:9
 スキルポイント:0
 アリス(東方旧作):《捨食》《捨虫》《魔力Lv.10》《人形を操る程度の能力Lv.10》《バリア(反射)Lv.10》《弾幕Lv.3》
 久遠寺有珠(魔法使いの夜):《魔術刻印Lv.10》《プロイキャッシャーLv.10(左目)》《魅了の魔眼Lv.10(左目)》
 聖夜の旅人アリス(幻獣契約クリプトラクト):《鏡の世界の紅き祭典》《マッドスウィートケイクLv.10》《真っ赤なお口のトナカイさんLv.10》《2回行動・強》《滅殺・魔族キラー》《滅殺・ウォーリアキラー》
 ハードゴア・アリス(魔法少女育成計画):《変身・魔法少女Lv.10》《どんなケガをしてもすぐに治るよ》
 アリス(ARMS):《世界最高の頭脳》《科学者Lv.10》《金属生命体》
 アリスとありす(Fate/EXTRA):《魔力Lv.10》《陣地作成Lv.10》《変化Lv.10》《自己改造Lv.10》《誰かの為の物語Lv.10》
 島田愛里寿(ガールズ&パンツァー):《戦術指揮官Lv.10》《騎乗Lv.10》《カリスマLv.1》
 アリス(Infinite Dendrogram):《冒涜の化身》《管理AI》《無限誕生》
 アリス・キャロル(ARIA):《黄昏の姫君》《天才》《操舵術Lv.1》《歌Lv.1》 
 カイオーガ(ポケットモンスターSPECIAL):《原始回帰》《始まりの海》《根源の波動》
 魔導書:《人形師の魔導書Lv.1》《魔法使いの魔導書Lv.1》《セラエノ断章Lv.10》《ナコト写本Lv.1》《黄衣の王Lv.1》《ネクロノミコンLv.1》《万魔殿の魔導書Lv.10》《簡易迷宮作成の魔導書Lv.10》《資質向上の魔導書》《レアリティアップの魔導書》《ドロップ生成の魔導書》




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Re.ゼロから始まる幻想郷異変~西行妖といっしょ1~

 

 

 

 

 なに、これ。本当に信じられない。相手の力は完全に神様クラスじゃない。それも下手したら創造神クラス。世界を書き換えるなんて有り得ないっての。それになによ、あの小さな女の子達。相手はピンク髪のミディアムヘアーに水色と白を基調とした着物を着た小さな女の子達。彼女達は西行寺幽々子を小さくした姿みたいで、こちらに飛んできては身体から花びらを巻き散らかしている。その花びらに触れると体力や霊力、生命力を急激に吸われて死に至る。触れなくてもこの空間に居るだけで同じように吸われて死んじゃう。そして、死んだら元の元気な状態で蘇るという無限に繰り返される地獄。

 

「ココ、吹雪!」

「こ~ん!」

 

 ココの口から冷たい雪のような物が噴き出し、周りの温度を急激に下げると同時に花びらを吹き飛ばしていく。同時に近付いてきていた女の蹴りをお祓い棒で防ぎ、その間にロロの炎で燃やして防ぐ。一体を防いでいる間に後ろから複数体に強襲されて抱き着かれて全ての生命力を吸われて殺される。

 

 視界が暗転し、何度目かの復活を経験して即座に指示をだして周りを炎で覆って花びらを焼き尽くす。周りをみれば無数の女の子がこちらに迫ってきていた。

 

「よっと」

 

 そいつらはすぐに殴り飛ばされて吹き飛んでいく。現れたのは薄い茶色のロングヘアーを先っぽのほうで一つにまとめている真紅の瞳を持つ幼い女の子。彼女の頭には身長と不釣り合いに長くねじれた角が二本、左右に生えている。

 服装は白のノースリーブに紫のロングスカートで、頭に赤の大きなリボンをつけ、左の角にも青のリボンを巻いている。そして、いつもの通り、伊吹瓢という紫の瓢箪から中身のお酒を飲みつつ、腕を振るって三角錐、球、立方体の分銅がついた鎖を放って幽々子モドキを吹き飛ばす。

 

「萃香、助かったわ」

「いいよいいよ。こんな楽しい遊びに参加できているんだからね。まあ、命がかかってないから少し物足りないけどね~ふぃ~」

「鬼って奴はまったくもう」

 

 こんな時でもお酒を飲んで戦いを楽しむなんてね。でも、コイツ等が居るってことは、戦力的には大きいわね。

 

「アンタ、ポケモンは?」

「そんなのいらないよ」

「まあ、そうか」

 

 大きな大樹といえる桜の木を見詰めると、木の枝に金髪の幼い女の子が座っている姿がみえる。彼女がこの異変の元凶で、アリスにとても似ていて、服装は白いブラウスに青いスカート。青いリボンのバンドをつけている可愛らしい姿。でも、感じる力は凄まじく、とても子供が持っていい力じゃない。そしてなにより、とても気持ち悪いぐらいの邪悪な気配がする。

 

「ありゃ、色々と混じってやがるな」

「やっぱり?」

「ああ、本当だ。にしても、紫の奴は何しているんだ?」

「アイツは使えないわよ」

 

 紫は小舟の上で頭を抱えて蹲っている。まあ、それも無理はない。なにせ大切な友達らしい西行寺幽々子を亡くしたんだから、仕方がないか。あの妖怪の特性からして、封印が溶けたら真っ先に生命力を吸われるのは身体を使って封印していた彼女だろう。実際、大樹に埋め込まれている女性の身体はどんどん衰えていっている。

 

「ほら、紫。しっかりしなさいよ。まだなんとかなるかもしれないわよ」

「む、無理よ……どうやってあんなのに勝つのよ! マリスのせいで無限に復活してくるような化け物なのよ! こっちの復活だっていつ切られるかもしれないし、そうなったら西行妖に殺されるわ! もう幻想郷は終わりなのよ!」

「たぶんだけど、アイツの目的は西行妖を倒すこととポケモンを周知することよ。だから、幻想郷を滅ぼすことはないんじゃない?」

「そんなのわからない……」

「いえ、それであっていますよ。彼女の目的は西行妖を取り込み、契約通りに西園寺幽々子を助けだすことにシフトしています」

 

 声に振り向くと、空に浮かびながらこちらにやってきたのは地霊殿の主、古明地さとりだった。彼女のサードアイが開いている。

 

「え、それって助かるの?」

「そうですよ」

「もしかして、これだけの戦力が集まったから、丁度いいって思ったの?」

「心を読む限りはそのようですね。ですので、能力もだんだんと使えるようになりだしていますよ」

「へえ、それはいいわね。それで紫はどうするの?」

「彼女は貴女との契約を守っていますよ」

「……わかったわ。やってやろうじゃない。藍」

「ここに」

 

 背後に現れた藍がうやうやしく頭を下げる。その隣に見た事のない銀髪の狐少女もいた。

 

「シロもいるのね。まあ、いいわ。これから幽々子モドキを排除するわよ。アリス、貴女も手伝ってくれるわよね」

「ええ、もちろん」

 

 空を見上げると、緑の龍が飛んでいて、その背中に女の子が三人乗っている。アリスが飛び降りると後ろの子達も降りてきた。彼女達とも協力して全員で文字通りの死力を尽くして滅ぼす。ついでにあのマリスって奴もしっかりと私が倒してやりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリス(マリス)

 

 

 

 

 

 アリスお母さんが緑の龍ことレックウザを手持ちに加えて他の人達と合流したみたい。とっても怒っているみたいで怖い。でも、仕方ないよね、うん。

 

「あは♪」

 

 声が聞こえて上を見上げると、風見幽香がドレディアと一緒に特大のソーラービームを用意していて、それをこちらに向けて放ってきた。仕方ないので、手をあげて西行妖に指示を出して突撃させ、ソーラービームを複数体で防ぐ。数体が抵抗むなしく飲み込まれていくけれど、その間にチャージを終えた西行妖の本体が砲撃を行ってソーラービームを吹き飛ばしていく。

 風見幽香もそれを理解していたようで、いつの間にかこちらに移動していて、アリスを蹴りつけてくる。咄嗟に両手を交差してガードして、枝の上から吹き飛ばされて海面を何度もバウンドしていく。背中が凄く痛いけれど我慢する。海面をバウンドしている間に風見幽香が追いついてきて上からお腹に向けて蹴りをは成ってくるので、転移して代わりに西行妖の量産型を配置して爆発させる。アリスは空中に戻って最初の蹴りで折れた腕やあばら骨、衝撃で潰れた肺などを再生し、即座に逃げて西行妖の量産型に襲わせてやる。

 

「ちっ、鬱陶しい! リコリス!」

 

 西行妖の量産型を腕を振るうだけで粉々に霧散させて蹴散らし、こちらに向かってくる。同時にドレディアにも指示を出して、無数の鶴を放ってくる。その鶴の一撃は量産型西行妖を軽く貫いて、先端がアリスに迫ってくる。その先端が大きく開いて口になり、襲い掛かってきた。回避行動を取っても間に合わず、片腕が持ってかれて動きが鈍り──

 

「捕まえた」

 

 ──その間に接近してきた風見幽香に首を掴まれてそのままゴキッと折られて、空いている手をお腹に触れられてそこからマスタースパークみたいなので消し飛ばされる。瞬時に時間を巻き戻して再生し、ハードゴア・アリスになってお返しとして横から蹴りを放つ。

 

「甘い」

 

 蹴りを放った足が捕まれて、そのまま西行妖の身体に何度も叩きつけられて埋め込まれ、激痛を味合うけれど転移して逃げる。数秒で魔術刻印とどんな傷でも治る力で瞬間再生し、弾幕を展開して量産型西行妖もろとも弾幕を放つ。

 

「リコリス、種マシンガン」

 

 無数に放たれた種マシンガンはアリスの弾幕をあっさりと貫通し、身体まで到達される。すると種が急速に芽吹いてアリスの力を吸い取っていく。宿り木の種としての効力もあるみたいで、たまったものじゃない。身体を変化させて逆に種を取り込んで自己改造による進化で身体に適応させ、同じようにこちらも放つ。

 

「浸食……いえ、吸収ね。いいわ、やってあげる」

「私も混ぜろ!」

「私もだ!」

 

 気が付いたら足に鎖が絡まっていて、空から海面に引きずり降ろされていく。その先に待ち構えていた鬼、伊吹萃香の小さな拳がアリスの身体の大半を消し飛ばしながら吹き飛ばしていく。瞬時に再生すると、今度は空か無数の六角形の石柱が降ってきて押し潰される。すぐに桜の上に転移して天辺に立ちながら見渡すと、そこには風見幽香以外にも鬼の伊吹萃香、そして軍神の八坂神奈子。

 

「ゆうかりんだけでも大変なのに、軍神と鬼の四天王って無理ゲー……」

「お前が売って来た喧嘩だろう」

 

 八坂神奈子がそういいながら、モンスターボールを放って中からルギアを取り出す。驚いていると、なんてことはないように告げてくる。

 

「諏訪子から貰ってきた。こっちの仲間に入る代わりにな」

「元からその子は守矢の物だから別にいいですけどね」

「そうそう、楽しく喧嘩しようぜ」

「あなたはポケモンを使ってくださいよ」

「やだよ。私は私で戦うのが好きなんだ」

「やれやれ」

 

 桜の大樹から無数の量産型西行妖を数百と生み出して──逃げる。

 

「「「ちょっ!」」」

「誰が戦うか! 勝てない勝負はしないって決めてるの!」

 

 全力で逃走しながら、なりふり構わず攻撃する。もちろん、シロ達や村人は除いて霊夢や妖怪達は攻撃対象だ。

 

「霊夢っ、避けなさい!」

「わかってるっ!」

 

 明らかに視界からの一撃を裂け、霊夢の背後の海が蹴りで割れる。瞬時にスキマが展開されて、中から触手みたいなのがやってくるので、ステップで回避しつつ魔術を複数発動させる。まずは無限誕生で量産型西行妖を作り、霊夢達に放ってから強化魔術で身体能力を上げて転移で奇襲する。

 ゆかりんの背後に飛んで攻撃する直前に転移して前から蹴り飛ばす。背後にはスキマが現れていたけれど、逆に今度は霊夢の障壁符が邪魔をしてたいした威力はでなかったので、上空に転移してから二人の周りにいた量産型西行妖を自爆させて大量の花びらをばら撒いてやる。これによって二人の妖力と霊力はアリスに吸収される。

 そのタイミングで空から無数のミハシラが降って来て、襲い掛かってくるので必死に逃げる。すると目の前には極大のマスタースパーク。転移して距離を取ろうとすると、何故か転移できずにそのまま喰らって肉片となった。

 

「やったの?」

「嫌、まだだぜ、霊夢」

「これぐらいで死んでくれたら楽なんだけど」

 

 肉片から急速に再生して、肉体を取り戻すとドン引きしている霊夢の顔がみえた。自分でも理解できる。でも、再生はできなくても、霊夢の勘は反則だ。さっきの攻撃も勘で防がれているわけだし。まあ、それよりも転移できなかった方が問題だ。すぐに固有結界に綻びがないか調べたけれど、問題はない。

 

「不思議がってるな」

「ああ、なるほど。集められたんですね」

 

 彼女、伊吹萃香の能力は密と疎を操る程度の能力。これはあらゆるものの密度を自在に操る能力だ。物質は密度を高めれば高熱を帯び、逆に密度を下げれば物質は霧状になる性質がある。この特性を使い彼女は霧になることが出来る。この時でも体当たりなど物理的な干渉は可能。おそらく、移動する前にアリスの身体が霧散、移動する前に集められて座標がずれてしまったことで転移が発動しなかったみたい。でも、それなら方法はいくらでもある。

 

「さて、これで逃げられない。たっぷりと楽しもうじゃないか」

「お断りします。しかし、鬼は厄介なのでこの辺りで退場していただきましょう」

「へぇ、やれるもんならやってみな」

「ええ、もちろんですとも」

 

 指を鳴らし、海の性質を変化させる。

 

「これで脱落です」

「あ? 何を言って……あれ、この匂いは……」

 

 伊吹萃香は海の水を手で救って飲んだ。

 

「美味いっ! なんだこの酒! まさか、全部酒か!」

「その通りです。さあ、お好きなだけお飲みください。まさか鬼が酒の勝負から逃げませんよね?」

「上等だ!」

「馬鹿萃香! 今はそんなときじゃ……」

「こんなこともできます」

 

 酒の津波を起こしてそこにいた全員を海中に引きずりこむ。霊夢は紫に助けられてスキマで移動したけれど、萃香や他の人達はお酒を飲んでいく。鬼以外の人はすぐに倒れて溺れたりしているが、鬼達は幸せな表情のまま死んでいく。

 

「鬼は酔わせて退治する。これ、基本です」

「ちくしょうっ、本能には逆らえない!」

 

 能力を使って巨大化し、海を思いっきり吸っていく。これで伊吹萃香は無力化できた。続いて他の連中だ。そう思って振り返ろうとした瞬間、空から巨大な槍が降って来て、受け止めようとしたら身体が消し飛んだ。本当に東方勢力は火力過多だと思うの。

 

「どう、フラン。仇はとったわよ」

「はいはい、お姉様スゴイー」

「そうよ、もっと褒めなさい」

 

 油断している二人の背後に現れて流水で包み込んでやろうとしたら、周りがナイフだらけでいっぱい串刺しにされた。痛い。

 

「メイドさん、ひどい」

「酷くありません。お嬢様方を傷付けようとする相手には当然の行いです」

「なるほど。じゃあ、こっちもやろう」

「咲夜、私達を連れて逃げなさい」

「はい」

 

 周りを一体を流水で押し流そうとしたら、すでに誰もいなくて回避されていた。時間停止は本当にずるいと思うの。だから、世界を改変して全面水中ステージにしてやる。溺れ死ぬがよい。

 そう思っていたけれど、大概の人がスキマで避難され、八咫烏を宿す霊烏路空と呼ばれるさとりのペットの鳥人間が海水を核融合を操る程度の能力で吹き飛ばして蒸発させ、諏訪子がけらけらと笑いながら大地を作りだし、八坂神奈子が乾を創造する程度の能力で天を作る。そして、スキマからでてきた人達が戦いを再開し、アリスが始まりの海を生み出して世界がめぐる。

 

「……化け物めっ!」

 

 天地の想像とか、創造神クラスじゃない。こんなの勝ち目ない。桜の大樹の上からみているけれど、ありえないよね。

 

「お前がいうな!」

「まったくよ」

 

 いつの間にかアリスの周りにアリスお母さんと魔理沙お母さんがいた。二人共、空を飛んでいて、背後にメガ・レックウザとメガ・ボーマンダに乗っている。後ろにはジュカとルクスがオロオロしているけれど、これは仕方がない。二人にはお母さん達を手伝うように指示を出しているし。

 

「お母さん、久しぶりだね」

「ええ、本当にね。で、なんでいきなりこんなことをしたの?」

「異変を起こすのは決まってたけど、どう考えてもポケモン達を受け入れさせるには規模が大きくなる。だったら、徹底的に大きなことをすればいいんじゃないかなって思ったの」

「あははは、確かにコイツは大きいな。幻想郷のほとんどの勢力が参加しているし」

 

 魔理沙お母さんの言う通り、今は戦いがそこかしこで行われている。ほぼ幻想郷内の全勢力との戦いだ。

 

「そして、この状況ならどんな勢力でも協力してことにあたってくる。幻想郷が滅びるかもしれないというのなら、そこに他の意思は入らない。意思のある生命体が結束する一番簡単な方法は共通の敵がいることだから」

「それでも、ここまでやったらマリスは……」

「後々、受け入れられないかもしれないね。妖怪の人はともかく、里の人達は絶対に無理だと思う。でも、それがどうしたの? その程度ならアリスが、マリスが止まる理由にはならない。ましてや今回の異変はマリスが幻想郷に受け入れられるために絶対に必要なんだから」

「いや、それでもやりすぎだぜ。紫もここまでの規模でやるとは思ってもみなかったみたいだし」

「駄目だよ。この規模の異変じゃないと受け入れられない」

「なんでなの? 他の勢力だって受け入れられてきたじゃない」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()西()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、このタイミングしかないの。マリスが無茶をしてもある程度許されて、同時に西行妖を倒す方法は……」

 

 なにせ西行妖ってラスボスみたいな存在だ。あの八雲紫ですら圧倒されて倒せずに諦めるしかない存在だ。境界を操るという反則的な力を持っている大妖怪が、だよ? そんなのに勝とうと思ったら複数の神様に全力を出させるしかない。でも、そんなことをしたら、幻想郷が間違いなく壊れる。実際、諏訪子ちゃんと神奈子さんだけでも、全盛期の力なら天と地を創造できるのだ。幻想郷の他の神々やポケモン世界で神と呼ばれる者達も含めれば勝てるだろう。そう思っていたけれど、やっぱり西行妖は化け物だ。これだけ奴の力を使って量産型西行妖を生み出し、殺させて力を削ぎ、吸われた力は全て奪い取っている。だというのに、ようやく二割が削れたぐらいだ。

 

「マリスっ!」

「え?」

 

 アリスお母さんが切羽詰まった顔をして近付いてきたと思ったら、足に木の枝が巻き付いてきて引きずり込まれていく。転移もする暇もなく、大樹の中に引きずりこまれて真っ暗な場所へ連れていかれ、身体中を枝で絡めとられ、それがさらに成長して増えた枝が腕や足に突き刺さってきて、血が、力が吸われていく。

 そして、目の前に西行寺幽々子の姿をした顔の無いナニカがいた。そいつは、そいつらニヤリと笑い、上から蕾みたいのを降ろしてきた。

 

「クスクス」

「クスクス、クスクス」

「や、やめっ! いやぁあああああぁあああああぁぁぁぁぁっ!」

「クスクス」

「クスクス、クスクス」

 

 頭に蕾に入れられ、中から小さな触手みたいなのが耳などから入ってくる。そのまま脳へと──

 

 

 

 

 

 

 

 




やだなー西行妖さんがそんな弱いわけないじゃないかー


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Re.ゼロから始まる幻想郷異変~西行妖といっしょ2~

おかしい


 

 

 

 

 

 私達の目の前にマリスが大樹に飲み込まれていった。マリスの表情からして、アイツが予定していたことじゃない。

 

「どっ、どどどうしよう魔理沙!」

「落ち着けって。とりあえずここから離れるぞ」

「で、でも……」

「いいから!」

 

 動揺しているアリスを抱きしめてボーマンダに乗って急速離脱を行う。その間に湧いてきた量産型西行妖をレックウザに始末してもらう。

 アリスは大樹に手を伸ばしているが、ここにいるのは私の勘がやばいと告げている。実際、周りにいた人が一瞬で生命力を吸われて灰になった。それどころか、復活までしなくなってしまった。いや、蘇ったな。復活までほぼ一瞬だったのが、数分必要な感じだ。それもどんんどん復活までの時間が長くなっている。

 

「魔理沙……」

「落ち着いたか?」

「ええ……それと、あれをみて……」

「あれ? 海か」

 

 海水がなくなって陸地だけになっている。そこから大樹の根がでてきて、桜の森を作り出していく。その桜からも量産型西行妖がでだしていて、滅茶苦茶やばい状況だ。

 

「魔理沙! 何があったの!?」

「霊夢、やべぇっ、アリスが大樹に飲み込まれた!」

 

 いつの間にか霊夢達のところに到着していたみたいで、詳しいことを伝えていく。他にも紫やさとり、こいし、守矢の連中など様々な勢力がいる。

 

「……最悪ね」

「確かに最悪だな」

「あ~う~飲み込まれちゃったか~」

 

 紫、神奈子、諏訪子の言葉にアリスが顔色を悪くする。私も同じだ。仮とはいえ、あの子は私達の子だしな。

 

「さて、まだ意識はあるみたいですが、どうしましょうか?」

「とりあえず、里の人は全員下げなさい。復活の確約が無くなったのだし」

「それもそうだな。それと私達の力も戻っている」

「全力で叩き潰して西行妖の支配力を下げます。それで彼女に力の使用権限を取り戻すしかありません。時間があればいいのですが……」

 

 三人で色々と決めている中、諏訪子と幽香、萃香たちは今も戦って前線を支えてくれている。

 

「マリスは大丈夫なのよね!?」

「今のところは大丈夫です。ですが、時間が経つとわかりませんよ」

「そう……突撃して救い出すわよ」

「……紫、スキマで大樹の中に移動できる?」

 

 アリスの言葉に霊夢が聞いてくれるが、紫は首を振った。くそ、どうする? どうすれば……

 

「あ、どうやら必要ないみたいですよ?」

「「「え?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリス

 

 

 

 

 

 頭がくちゅくちゅされていく。身体の中にぶっとくて硬いものを刺し込まれて樹液をドバドバ流し込まれて傀儡に調教されていっている。アリスちゃん、最大のピンチっ! メス堕ちして色々とやばいことになる。ただ、現状では助けを待つしかない。アリスには主人公特性なんてない。ご都合主義のように新しい力の覚醒なんてないのだ。

 

 

 そう、ないのだ。

 

 

 あれらは主人公の特権。アリスは主人公ではない。新しい力など目覚めない。どうやっても手持ちの力を使わないといけない。それも身体中を弄られる中で。

 

 

 アリスに覚醒する力なんてないのだ。

 

 ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。ないのだ。

 

 

 うん、無理ゲー。無理ゲー。だから、さ。新しく覚醒はできなくても手持ちでどうにかしたらいいよね? 

 

「ふごぉっ!」

 

 口の中に入ってきた枝が喉奥を通って胃から腸へと抜けていく。こんな状態でも覚醒しない。ここでアリスの冒険は終わり……

 

「……ごふっ」

 

 

 

 

 

 

「……にゅー、コンテニュー……」

 

 ご都合主義? そんなものはない。覚醒する力? そんものはない。 絶体絶命でここで終わる? そんなこともない。

 

 

 

 

 

 なぜなら()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

|()G()r()i()m()o()i()r()e() ()o()f() ()A()l()i()c()e()()()()()()()()()

 

 

 

 アリスの意思によって現れ、ページが捲られる。溜まっているアリスポイントは殺しに殺しまくったお陰で9点と17点で26点。女神が取れるのだよ! それも二体! 

 

「覚醒はないけれど、新しいアリスを降ろすことはできる!」

 

 選ぶのは二人のアリス。一人目は人類管理局 女神ALICE。ランスシリーズででてくる彼女は身長145㎝、生命蘇生と局所時間遡行、運命を見通す能力。趣味は法王の教育で目標はほどよく世界を混乱させること。容姿として頭上に天使のような輪をいただき、背中には三対の翼と光輪、長い金髪とローブをゆったりただよわせて宙に浮かび、長剣と盾をかかげて微笑む。まさしく人智を超えた女神らしい圧倒的な姿である。魔王を超える一級神の力は凄まじく、人類の脅威である最上級の魔人も女神ALICEの前では無力も同然。運命を見通す能力は人間だけではなく自分と同格の神にまで及ぶというすさまじさ。

 これだけで勝てるかもしれないけれど、まだだ! まだいける! 

 二人目のアリスは魔人(死神)アリス。神が起こした残酷な運命によって放たれたICBM。これにより、幼くして死を迎えるが、赤伯爵こと魔王ベリアルと黒男爵こと夜魔ネビロスによって魂を拾われ、魔人として蘇らせられた少女。その不幸な境遇ゆえか孤独を恐れ、永遠の友達(死んでゾンビになること)になってくれる存在を求めている。そして、闇属性の即死攻撃が使える。あとエナジードレインや夢見針など眠らせる睡眠系。さらに眠っていると永遠の眠りにさせることもできる。女神Aliceにくらべたら弱いかもしれないが、即死というのが強い。

 それらのインストールはすぐに終わった。どうやら、複数のアリスを取り込んだことでアリスとして進化しているみたいだ。

 

ねえ、あなた達……死んでくれる? 」 

 

 アリスの身体の中にあった枝達が腐敗して砂になっていくと同時にナノマシン達が取り込んで、新たに増殖を開始、黒い水を大量に生み出す。それに触れた桜の大樹はどんどん腐っていって、ナノマシンの水に取り込まれて増殖していく。増殖を開始したナノマシン達は容赦なく、西行妖の、桜の大樹の力を削いで奪っていく。ただ、それだけでは殺せないのもいるので、アリスとして、ううん。女神Aliceとしてきっちり殺す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 光の長剣で亡霊を斬ってすてる。でも、数が多い。それに非常に面倒だ。これは別の方法を考えよう。まず、アリスとしての手札を利用する。無限誕生によってそれぞれゲンシ・カイオーガの身体をもとにして、ゴシックドレス……ハードゴア・アリスの魔法少女服を着た上海人形と蓬莱人形を作り出す。そこに女神Aliceの光の剣に魔人アリスの即死の力を与えて持たせてる。部隊指揮は愛里寿に一任し、ナノマシンに関してはてARMSのアリスに一任する。

 抵抗は無意味。そもそも、この世界を構築しているのはアリスであり、西行妖の本体はごく小さい。だからこそ、内部の力は元々アリスの力で構成されていて、取り返すのも容易い。また外からも攻撃が加えられている。

 

「外にいる人達にも力を貸しましょう」

 

 女神AliceとInfinite Dendrogramの管理AIアリスの力を使ってスキルを与え、強化する。とくにアリスの人形達やシロ、ジュカ、ルクス、クオン達にはランスシリーズ基準のレベル3技能を与える。

 相手も黙ってやられるはずもなく、無数に枝を伸ばして力を吸ってくるけれど、総量が跳ね上がったアリスの前では吸われる量もたかが知れている。なにせ吸収されてもほとんどがアリスに帰ってくるのだから。

 

「さあさあ、どんどんいきましょう。フングルイ ムグルウナフ クトゥグア ホマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア! フングルイ ムグルウナフ クトゥグア ホマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア! フングルイ ムグルウナフ クトゥグア ホマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。クトゥグアが召喚され、外側から盛大に燃やし尽くしてくれる。外の人達は狂おうが死のうが関係ない。どうせ復活するのだ。ただ、召喚に失敗して生ける漆黒の炎の方がでてしまったけれどご愛嬌。

 

「続きましては銀の鍵。開くのはヨグ=ソトースへの門」

 

 っと、流石にこれはやばい。クトゥグアもやばいけれど、こっちはまだどうとでもなる。いざとなれば世界ごと閉じればいいのだから。あくまで博麗大結界を利用して幻想郷に乗せているだけ。解除すれば廃棄も可能。ヨグ=ソトースの場合は空間とか平気で抜けてくるから無理だろうけど。

 

「さあ、踊りなさい。アリスを凌辱してくれたお返しよ。内側から溶かされ、外側から焼かれなさい」

 

 あっ、コロニー落としというのも楽しそう。まずコロニーを作らないといけないから、非常に面倒だけれど……やっちゃえ! それも核弾頭満載で! ついでにフォーマルハウトも落としちゃえ! 一応、逃げたい人は逃がしてあげよう。

 

 創生せよ、夜空(宇宙)に煌めく、綺羅星(コロニー)よ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西行妖は必死に生命力を吸収して耐えようとした。だが、コロニーに生命力など存在しない。科学によって作られた巨大な建造物で生命は一切いない。つまり、ただの質量弾である。

 

 

 

 

 

 

 

「「「宇宙()が落ちてくる……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうしてこうなった。

はい、ごめんなさい。脳ミソくちゅくちゅされて、自分と他の人の生存をなによりも優先しているアリスが自重なんてするはずがなく、ましてやランスシリーズの女神Aliceや女神転生の魔人アリスなんてインストールしたら、もうね?
西行妖は生命力を吸収するとても巨大で最強クラスの妖ですが、アレ、生命体がいなかったらどうなるの? コロニー落としたら終わるんじゃない? 女神Aliceの力は蘇生。そして管理AIアリスの力は無限誕生。つまり、死んだとしても甦らせることはたやすいですね。駄目だこのアリス。良心はあるので、人や妖怪全員に安全な場所に帰るかこのまま居るかの選択肢が与えられ、帰るを選んだ人は時の止まった幻想郷に転送され終わるまで凍結されます。優しいね(おめめぐるぐる)。


さて、西行妖の次は当然、あの人との戦いです。ラスボスは何時でも主人公!

霊夢「さあ、弾幕ごっこをはじめましょう」
マリス「え、もういやなんだけど」
霊夢「却下。それと夢想封印」
マリス「ふにゃぁぁぁぁぁぁっ!」

だいたいこんな感じ。霊夢ちゃんだから仕方ないね。



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Re.ゼロから始まる幻想郷異変~弾幕ごっこを挑むも~

 

 

 

 空から巨大な炎の塊がふってくる。それを見た瞬間、おぞましい気配を感じた。ただ、それだけ。でも、相手が外からやってきた神だとはわかる。これぐらい、幻想郷では珍しいけれどよくあることだ。問題は次。星と巨大な物体が落ちてきていることに他ならない。それと私達の前にボタンが現れた。この場から即座に撤退し、事が終わるまで待機しているか、このまま参加するかというものだ。

 

「まったく、巻き戻しができるからってやりたい放題ね!」

「紫、どうするの?」

「こうするのよ!」

 

 スキマが無数に開かれて、里の人やポケモン達を捕まえていく。

 

「全員、スキマの中にはいりなさい! このままここにいても死ぬわよ」

「撤退~!」

 

 全員でスキマの中に避難し、外の様子を伺う。外では巨大な丸い物と筒状の何かが落ちてくる。量産型西行妖達が止めようと突撃するが、赤く燃えているそれらに触れる前に消失していく。おそらく、神の力と思われる。それらの一撃は西行妖の本体であろう大樹に触れると、それを押しつぶし、粉塵が世界を覆い、続いて光が塗りつぶしていく。

 

「ここまでね。おそらく、これで西行妖は討滅できたと思われるのだけれど……」

「生命力を吸収するのなら、質量で押しつぶして滅ぼすですか。確かに作戦としてはありですね」

「いやいや、普通に幻想郷の終わりじゃねえか」

「この世界でならありだよ、魔理沙」

「巻き戻るからか……」

「でも、これってマリスは生きてるの?」

「無理だろうといいたいが……」

 

 私の言葉に神奈子が答える。おそらく生きているんでしょうね。

 

「萃香、集めて粉塵を排除してよ」

「別にいいけど、その必要はなさそうだ」

「?」

 

 スキマを確認すると、急速に桜の大樹へと粉塵などが吸い寄せられて視界が張れてくる。だんだんと桜の大樹が見えて、私達の前にその全貌がさらされる。

 

「ボロボロだな」

「幽々子は無事でしょうね……もし、なにかあったら許さないわよ……」

 

 紫が言葉を発すると、同時に桜の大樹が半分に割れて花びらが散っていく。その幻想的な姿とは裏腹に恐ろしい気配が漂ってきている。花びらは中心に吸い込まれ、ボロボロの大樹は割れた先から新しい大樹が急速に育っていく。

 

「マリスが負けて取り込まれたの?」

「安心しなさい。勝つことは勝ったようよ」

「でも、これで終わりじゃないのかもね」

 

 アリスの言葉にレミリアとフランが答えながら、映し出された映像をみていると大樹の中から四枚の翼を持ち、頭に金色の環を持つ幼い女の子がでてくる。

 

「幽々子っ!」「「マリスっ!」」

 

 マリスと呼ばれた幼い女の子の手には幽々子がお姫様のように抱えられているのが見える。どうやら、無事みたいだけど、彼女の前に誰かが現れる。それは半霊の子のようで、その子に幽々子を渡した。それから片手に剣を持ち、それを海に向けると海が光って分解され、新しい世界……元の世界が構築されていく。

 

「ここって博麗神社か?」

「みたいね。どうやら、世界……あの子がいう固有結界を解除したみたい」

「じゃあ、異変は終わりか?」

「どうでしょう。まだやる気があるみたいだけど……」

「藍、ちょっと言って空気とかを確認してきなさい。人が問題ないかね」

「かしこまりました」

「汚染されてたら大変だしね~」

 

 ケラケラと笑う諏訪子を全員で睨み付けると、彼女はさっさとスキマを通ってアチラに行ってしまった。

 

「守矢神社の方でしっかりと躾けておきなさいよ」

「あははは、相手は神様なんですが……」

「関係ないわ」

「まあ、わかりました。神奈子様、お願いしますね」

「仕方ないね」

 

 早苗と話している間に確認が取れたようで、ちゃんと幻想郷で、博麗神社だったみたい。全ては異変が起こる前の状態だった……一部を除いて。何故か家に大きな桜の大樹ができている以外は普通ね。その前に宴会用の祭壇みたいなのが作られていて、お酒や料理が山のように準備されているらしい。

 

「殊勝な心掛けじゃない」

「そうですね~」

「でも、これで終わりじゃないと思うよ?」

 

 皆でスキマから出ると、人里の人達もポケモンも沢山いた。不思議に思っていると、アリスと魔理沙が歩いて行く。

 

「あ、お母さん達はちょっと待っててね。まだやることがあるから」

「マリス……」

「ひぃっ!? ま、待って。大事なことだから」

「なに?」

「博麗霊夢と弾幕ごっこをこれからするの!」

「嫌よ」

 

 マリスの願いを断り、近くにある酒瓶からお酒を飲む。流石は神様が用意しただけあって、とても美味しい。鬼達も妖怪達もすでに勝手に宴会を初めている。人里の人達も早苗に促され、神様達に保証されたことでポケモン達と一緒に飲み食いをしだした。

 

「だって」

「なんで!」

「アンタのせいで疲れたからよ。こんな傍迷惑なことをやってくれて、怒り心頭なのよ?」

「だったら、弾幕ごっこで……」

「それ、喜ばせるだけじゃない。だから嫌。そうね。どうしてもというなら、アリスとやればいいんじゃないからしら? それがいいわ。そうよね、アリス」

「ええ、そうね。私が代わりにやりましょう」

「せ、戦略的撤退!」

 

 逃げようとしたマリス。だけど、彼女の手足がスキマから生えた手によって掴まれ、アリスの前に差し出される。

 

「な、なんでっ! 約束守って西行妖は倒したし、西行寺幽々子も助けたのに!」

「ええ、そのことは感謝していますとも。でも、あなたはやりすぎたのよ。おいたをした子はしっかりと母親に躾けてもらわないといけないでしょう? あ、霊夢。彼女を封印してくれるかしら? 危なかしくて幻想郷で自由に行動させられないわ」

「いいけど……」

「待って! 代わりにこの大樹を迷惑料としてあげるから!」

「え、要らないんだけど」

「この桜は霊力を対価に願い事を叶えてくれるよ! 食料という形で!」

「まじ?」

「ここの料理やお酒だってそれでだしたんだから!」

「ほほう……」

 

 私は桜の大樹に近付いて霊力を注ぎこんでみる。すると目の前に桜餅が桜の葉に乗せられてでてきた。食べてみると美味しい。これは便利ね。食料に困らない。

 

「ちなみに料理済みのを出すのはいっぱい霊力がいるからお勧めしないよ。材料なら少なくてすむけど」

「料理済みのは出せないけれど便利ね」

「そして、なんとなんと! 霊力以外にも色々と対応しています! 神力から妖力、はてはカロリーまで対応しているので、里の人でも安心安全! ポケモンフーズだって、木の実だってだせちゃう! むしろ、こっちがメインだからね。つまり、博麗神社でポケモン関連グッズを売れば人が来る上にお賽銭や道具の売り上げで収入が激増! どうだもってけ! そんなわけで許して!」

「持っていくけど許さないわ。はい、封印」

「あいたっ!」

 

 マリスの額にお符だをペタリと貼って力を封じ……ようとしたら御札が崩れ落ちた。こいつ、やっぱり桁違いの力を持ってる。

 

「ふははは、女神Aliceちゃんを封印しようなど、そんなこと……」

「勝てないとでも思ってるの?」

 

 私は空を飛ぶ程度の能力を使ってあらゆるものから縛られない状態にして、何ものにも触られなくなって彼女の中に手を入れて解除する。

 

「ねえ、心臓に直接封印を打ち込んだらどうなるのかしら?」

「や、やめて、心臓をにぎにぎしないで! 蘇るけど!」

「……本当に?」

「本当よ。肉片からでも再生するらしいわよ」

「……私が言えたことじゃないけど、反則じゃない」

「本当だな!」

 

 能力を使ってから引き抜くと、心臓までぽっかりと開いていた直通の穴が普通に閉じていく。私の手は血塗れでやばい。

 

「こいつ、本当に殺せないじゃない。封印するしか方法はないみたいね」

「許して。さもないと全力の抵抗も辞さない所存です」

「……わかったわ。許してあげる。ただし、アリスのお仕置きはしっかりと受けること。それと後で弾幕ごっこを受けてあげるわ。ルールは私が決めるけれど」

「やった」

「アリス、お願いね」

「任せてちょうだい。じゃあ、まずは正座ね」

「ひぃぃぃ」

 

 正座させられてマリスは人形達にチクチク刺されながらお仕置きされている。その光景を見てから、とりあえず能力を使って、血以外のものを透明にして離れた場所で戻す。これで綺麗になったので私も宴会に参加する。

 紫は蘇った幽々子にベッタリとくっついて世話をしているので、飲み食いしている魔理沙とフラン達のところに行く。そこには幽香達もいて、みんなで今回の異変について話し合っている。

 

「魔理沙、アンタは参加しなくていいの? あれ、アンタの子供でもあるんでしょ?」

「私はいいんだよ。そういうのはアリスに任せてるからな。それよりどうすんだ?」

「もちろん、貰うわよ。便利だもの」

 

 座って袖に入れておいたモンスターボールからロロとココをだす。二匹は私に甘えてきてとても可愛い。それにモフモフだしね。

 

「まったく、今回の異変は大変だったわ。まさかフランを殺すなんて、許されざることよ」

「え~私は久しぶりに本気で殺し合えて楽しかったけどな~」

「そういえばフランは何をしていたの?」

「いっぱいキュッとしてどっかーんしてたの。後、燃やしまくった」

「その点、フランのストレス解消にはなったでしょうね」

 

 レミリアは怒っているけれど、フランは怒っておらず、むしろ楽しそうにしている。まあ、一番楽しそうに馬鹿笑いしながら酒を飲みまくってるのは鬼の連中だけど。

 

「あ、霊夢。今度マリスに喧嘩売りにいこーって思ってるんだけど、いい? あいつとなら再生するし、がちの殺し合いをしても大丈夫だろ」

「駄目に決まってんでしょう」

「萃香とマリスか。どっちが勝つかね」

「私だ! と、いいたいが、決着がつかないかもしれないな」

 

 萃香の能力ならほとんどの攻撃を散らせられるし、物理攻撃を無効にする方法だってある。確かにそう考えると決着はつきにくいのかもしれない。弾幕ごっこなら時間制限があるから別だろうけれどね。

 

「そういえば、マリスが怒られている間に新しく来た奴等も紹介してやらないとな。ちょっと呼んで来るぜ」

「わかったわ」

「あのお人形さん達だね~フランと友達になってくれるかなあ?」

「もちろんよ。もし、そうじゃなかったら……ふふ」

 

 やれやれ、相変わらず妹大好きな吸血鬼ね。そうこうしているうちに魔理沙が四人の少女を連れてきた。その子達は一緒に戦っていた子達だから不思議な気分ね。

 

「シロとクオン、ルクス、ジュカだ」

「シロです。ご主人様のメイドをしています」

「……ルクス……ポケモンのメタグロス……」

「ジュカ、ポケモンのジュペッタ」

「クオン。狐の獣人……です。よろし、お願いします」

「へぇ、人型のポケモンって、私の子達みたいだね」

「魔法で変身してるだけですよ」

 

 シロがフランの質問に答える。私達も気になったことを聞いていく。特になんでマリス側につかなかったのかも気になる。

 

「ジュカは完全に敵だったよね? 他の人は味方?」

「どちらでもあるけれど、最終的には協力するように言われていた。ルクスはにとりと一緒にいたよね?」

「……ん……一緒にメタグロス達を用意してた」

「私は諏訪子様と一緒でした。クオンは確か、妖怪の山に居たはずです」

「天狗と追いかけっこして、倒してた」

「なるほどね。で、今回の異変の目的って、西行妖を倒すことだったの?」

「それ以外にもあるわよ」

 

 聞いた子達の代わりにレミリアが答えてくれた。そういえばこいつも関与しているんだっけ。

 

「マリスは貴女達を殺すことで経験値、力を得ていたの。それを使って神の力を手に入れ、西行妖を倒したということね」

「傍迷惑な……まあ、この大樹があればいいわね」

 

 これだけで儲けものよね。一応、幻想郷に被害はないみたいだし。ただ、ポケモンが増えただけ。うん、これだけで大変なんだけどね。

 

「ん?」

 

 マリスとアリスの方を見ていると、閻魔である四季映姫・ヤマザナドゥまで現れて説教をしだした。それに彼女の手には沢山の紙が握られている。よし、みなかったことにしよう、うん。

 

 

 

 

 

 

 マリス(アリス)

 

 

 

 

 

 

 やばい。なんか四季映姫まででてきて説教された。痺れる足にチクチクされながら、お仕置きされていたら、膝の上に沢山の書類を乗せられる。

 

「ナンデスカ、コレ?」

「神が死者を蘇生するさいに書き、関係各所に出さなければならない必要書類です。キッチリと書いてお願いしますね」

「え? え?」

「色々と予定が狂って困るんですよ。いいから書きなさい。さもないとお仕置きです。あなたも神となり、この世界に所属するのならやってもらいます。所属しないのであれば排除するのも辞さないので悪しからず」

「は、はい」

「とりあえず、後はアリスに任せます」

「ええ」

「あ、あの~」

「なに?」

「もう正座しなくていい?」

「いいわよ」

 

 抱き上げられて膝の上に乗せられる。そのまま抱きしめられながら、宴会に参加することになった。

 

「上海と蓬莱を操って料理をもってきてくれる? 人形の操作がどれだけ上達したか、みてあげる」

「うん」

 

 能力で操作して上海と蓬莱を操り、料理とお酒をもってくる。正直、足が痺れていてまともに操作できないけれど、必死に頑張る。持ってきた料理をアリスお母さんが食べさせてくれる。食べられないなんていえないから、食べるしかない。

 

「その書類って大丈夫なの?」

「これは……面倒だけど大丈夫です」

 

 書かれている内容はわかる。流石は第一級神、女神Alice。神様の文字もしっかりと理解できちゃう。まあ、内容としては経緯の説明や申請書類に罰金などの支払いとか。ただ、幻想郷以外の場所でやると本当はもっと厳しい罰則が与えられるらしい。幻想郷は今も神秘が生きている神話生物の世界といえる場所だからね。一般人がこっちに来たら、発狂間違いなしともいえる。なので死者蘇生だって、神様なら手続きをふめばできてしまう。その手続きが非常に面倒で、書類がとっても多い上に無料奉仕をさせらせる。なにをさせられるか怖いけれど、まあ頑張ろう。幽々子さんが幸せになれる代償としたら、小さいものだ。

 

 

 ちなみに博麗霊夢との弾幕ごっこはボロ負けした。制限時間なしの弾幕ごっこの名を借りた公開処刑だったのでした。こちらの攻撃が一切通らないのはずるい。攻撃してくる一瞬の隙をついて大ダメージを負わせられる実戦ならまた違ったかもしれないけれど、弾幕ごっこでスペルカードの時間制限なしは無理ゲーすぎるよ。逆にポケモンバトルだと圧勝したので、悔しそうな霊夢ちゃんの顔がみれて満足。

 

 

 それと西行寺幽々子を蘇生した罰則として、30日間もの間不眠不休で幻想郷の外の世界で人類の管理のお仕事をさせられたよ。人類管理局の力をみせてやろうとしたら、滅茶苦茶怒られた。ランスシリーズの女神Aliceだから、ちょっと世界に面白おかしく混乱を起こしてやろうとしただけなのに……解せぬ。ま、普通に考えたら怒られて当然なんだけどね。ルドラサウム大陸とは違うのだし、あんな世界の感覚で管理したら、もうね。

 あっ、反省したから追加書類増やさないで。サボってる死神の分とかしらないから!

 

 




霊夢ちゃん、実は能力封じられなかったやばい人。制限時間がある弾幕ごっこなら勝てる可能性がある。

ルドラサウム大陸。ランスシリーズの世界。クトゥルフ神話世界のようにそこらじゅうに地雷原が埋まりまくっていて、即死トラップいっぱい。男は殺され、女は……という世界でルドラサウムという創造神を楽しませるためだけに悲劇をなんども作り出していく玩具な世界。とっても危険な世界で、そこの人類管理局のトップに勤めているのが女神Alice。
どんな世界か気になる人はランスシリーズをプレイするか、はーめるにあるルドラサウム転生と検索して読んでみるといいと思います。面白いです。こちらはまだ悲劇は回避されている方です。原作はもっと……。


サボってる死神はいったい誰でしょう?



 閑話をはさまなければ次回はガンダム。鉄血のオルフェンズに行く予定です。どこから介入するか悩んでます。一番考えているのが第二部の火星にMAが、天使が現れたところ。あそこからならテイワーズの兄貴も助けられますしね。ただ、そうなるとビスケットが助けられないんです。クッキー達が可哀想だし悩ましいところ。あと、本当に最初からやるなら弟君たちも……でも、そこからやりきれるかどうか……最初からになるとかなり飛ばしとばしになるかも。
 


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お知らせのみ

 

 

 

 

 アンケート実地中です。オルフェンズ

 

 

 

鉄血のオルフェンズのアンケートです。どこから介入するか悩んでます。一番考えているのが第二部の火星にMAが、天使が現れたところ。あそこからならテイワーズの兄貴も助けられますしね。ただ、そうなるとビスケットが助けられないんです。クッキー達が可哀想だし悩ましいところ。あと、本当に最初からやるなら弟君たちも……でも、そこからやりきれるかどうか……最初からになるとかなり飛ばしとばしになるかも。

 

オルフェンズのアリス開始時期およびルート

 

火星でMAの登場から開始

ビスケットを助けるため、地球辺りから

女神Aliceの名の下に人類管理ルート

マクギリスと一緒。ギャラルホルンルート

マクギリスの代わりにアリスになるルート

 

こんな感じになりますが、制限が入ります。ガンダム世界なので、魔法が使えません。なので科学技術のみになります。電脳世界を作った場合は別ですが、基本的に神秘はないのでナノマシンや操舵技術、科学者としての力ですね。女神Aliceと魔人アリスは力の一部が封じられますが、女神Aliceと名乗ったりはします。思考などの影響は受けていますからね。

 

どちらにせよ、アリスの搭乗機体はモビルアーマーになりますので、モビルスーツには基本的に乗りません。アリスちゃんは人形師だから、操る方です。行け、Gビット! とかな感じになるかも。

 

後、個人的にオルガを逆行させてみたいかも。あの死んだところから、巻き戻す。女神Aliceの力ならそれができるしね。うん、どう考えても死神や魔女と契約して時間を巻き戻ったRe系統ですね。オルガがどこまで止まるんじゃねえぞ!ができるか期待です。

こちらはどのルートでも配置可能なので、やって欲しい方は例のあの言葉をつぶやいてください。アンケートの枠がすくないもの。

 

 

 

Alice「人類に管理を任せたが腐敗した! 自ら人を虐殺したあの時代より何も学んでいない。よろしい。ならば女神Aliceの名の下に人類管理局を創設しましょう。全ての人類は我が新たに生まれ変わった眷属、天使(モビルアーマー)たちによって管理、運営されます」

 

こんな感じで復活させた天使のモビルアーマー達に高性能AIを搭載し、人類管理ルート。止まるんじゃねえぞ!アクセル全開!

 

地球から始めるとAliceちゃんがビスケットが死ぬ場所に転移して、代わりに撃たれます。そこからモビルスーツを奪って戦うという王道的な展開。鉄火団に参加ルート。人として行動するのでブレーキあり。

 

火星から始める場合は、MAの中に転移して取り込むのでいきなりバルバトスとの戦い。鉄火団敵対ルートの可能性が高い。ダイス次第。

 

マクギリスと一緒のルートは、科学者としてギャラルホルンに入り、色々としているとマクギリスと出会い、革命に誘われるのでそのまま参加。バエル君、超強化。マクギリス君が操り人形になるかはダイス次第。

 

マクギリスの代わりにアリスちゃんルート。マクギリスの代わり=養子として迎え入れられ、18禁的な内容に……嘘です。ナノマシンで脳を浸食して作り変えるだけです。やったね! 家の権力を手に入れたら色々とやらかします。ギャラルホルンという名の人類管理局が生まれます。

 

どのルートでもイオクは処分されます。

 

 

このようなルートとなっておりますので、どうかよろしくお願いいたします。

 

 

 

 



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68話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥っ! び‥‥っ! ‥‥を‥‥っ!」

 

 聞こえないよ、オルガ。行かないと。まだ。こんなところで、俺は死ねない! 全部終わったら、火星に帰ってクッキーとクラッカを学校に入れて、皆で一緒に過ごすんだ。だから、こんなところで死ねない! 死にたくない! 俺にはまだ、オルガとの約束が……あるんだ! 

 手を伸ばし、握られた感触がした。でも、それ以上は力が入らない。目も見えなくなって身体がどんどん冷たくなっていく。足の感覚もない。嫌だ。死にたくない。だというのに声も出せない。クッキー、クラッカ、兄ちゃんは必ず戻って──

 

 

 

 

その願い、聞き届けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこの人。船を出すよ。さっさと乗りな」

「え?」

 

 気が付いたら目の前に癖のある赤髪をトンボでツインテールにした女の子がいた。彼女は赤い瞳でマカガイさんが着ていたような服装をしている。半袖にロングスカートの着物のようなものだから同じとはいえない。それと腰巻をしている。

 俺はそんな彼女に手を掴まれて船に乗せられる。そこで気付いたのだけど、目の前が大きな川になっていた。戦っていたはずなのにこんなところにいるのはおかしい。身体を見下ろしてみると、身体はちゃんとある。

 

「出すよ」

「ま、待って! 俺はすぐに戻らないといけないんだ!」

「アンタは死んだ。ここは死者が来るところさ」

「俺は死んでない!」

「そう思いたいのはわかるけどね。アンタは確かにこの船に乗れた。生きていたらここにはこれても、船に乗ることはできないよ」

「そ、そんなことなんでわかるんだ‥‥」

「私は死神だからね」

「し、死神‥‥」

 

 話している間に小舟は川に出て、霧の中を進んでいく。もう岸もわからない。だけど、そんなの関係ない。クラッカやクッキーの待つ火星に帰らないといけないんだ。

 

「馬鹿!」

「離して! 離してくれ!」

 

 川に飛び込もうとすると、死神と名乗った女の子に押さえ込まれる。それだけで動けなくなった。

 

「まあ、とりあえず落ち着きなって。何があったか話してみなよ。ひょっとしたら、助けられるかもしれない」

「ほ、本当?」

「私には無理かもしれないけど、四季様ならもしかするかもね」

「わ、わかった」

 

 ここがどこかもわからないし、彼女に話してみよう。

 

 

 

 

「あはははは、なるほどなるほど。こいつはレア物だ」

「何を笑っているんだ」

 

 俺が全てを話すと、彼女は大笑いした。話の途中にも色々と常識的なことまで説明させられたというのに酷い。

 

「嘘をついているかはわからないけど、どちらにせよ四季様が決めることだ。アタシとしては楽しませてもらったからいいよ」

「なっ‥‥」

「それに到着したしね」

 

 いつの間にか霧が晴れて周りが見渡せるようになっていた。大きな鳥居をくぐっているようで、目の前には巨大な建物が存在していた。その建物の門が開き、小舟は中に入っていく。

 

「さあ、こっちだ」

 

 案内されていくと、一際大きな扉を潜る。そこには緑色の髪の毛をした女性が居て、俺はその人の前にある列に立たされた。前の人は白い服を着て居て、どんどん裁かれているみたいだ。逃げ出したいのに身体は言う事を聞いてくれない。そして、ついに俺の番になり、大きな鏡の前に立って今まで経験してきたことが映っていく。

 

「ありえない。なんですかこれは‥‥」

「四季様、現実ですよ」

「頭が痛い‥‥」

 

 女性は頭を押さえながら、俺をみてくる。そして、手に持つ棒みたいなので頭を数度、軽く叩くと何かを思いついたみたいだ。

 

「判決を、いえ、判断を告げます。貴方は私達の世界の者ではありません。よって、貴方を勝手に私が裁く事はできません」

「ど、どういうことですか! 私達の世界って……」

「この世界にはそのもびるす~つなるものは存在していません。こちらの世界はこんな感じです」

 

 大きな鏡に映し出された光景を見ると、信じられなかった。俺の知っている技術力より遥かに下をいっている。ましてや火星なんて死の大地のままだ。

 

「そんな……それじゃあ、クラッカやクッキーは……」

「存在していませんね。遥か未来という可能性もありますが、おそらく別世界の事でしょう。さて、ここで問題があります。裁けない貴方をどうするかということです」

「か、帰してください!」

()()()無理です」

「そんな!」

「落ち着きなって。四季様は私にはって言ったんだ。できる人がいるんですよね~」

「おそらく、彼女なら可能でしょう」

「彼女?」

 

 また女性なのか。

 

「彼女は異界の神です。正確にはこの世界で異界の神をその身に取り込んだということが正しいのでしょうが、彼女自身も多数の世界を渡り歩く存在です。その彼女なら、貴方の世界に行けるかもしれません」

「本当ですか!」

「はい。後は彼女と交渉してください。今、こちらに呼びますから。アリス。仕事の依頼です。今すぐこちらに来てください……は? 嫌だ? 忙しい? 炬燵で人形を作っているだけじゃないですか!」

 

 女性が虚空に向かって独り言を言っていく。どうしたのだろうかと思っていると、死神が教えてくれた。

 

「今、アリスっていう女神様を呼び出してるんだよ。ま、拒否されているみたいだけど」

「め、女神様? ほ、本物?」

「そう、本物。人類を管理する仕事をしていた神様らしいよ? どちらかというと邪神だけど

「何か言った?」

「何も言ってないよ」

「アリス、アリス・マーガトロイドに言いつけますよ。現世で好き勝手に遊んでいたことを……え? そんなの問題ないと? 断固として断る? そうですか。わかりました。でしたら、貴女が欲しがっていたこの人形はいらないのですね。せっかく、ご褒美として制作者に無理を言って用意していただいたのにいらないのですか。では、破棄して──」

 

 彼女がそう言った瞬間。目の前に光の塊が現れた。そこから複数の白翼を持ち、金色の環を頭上に掲げた金色女神が降臨した。幼い姿の彼女は手にクジラのような大きなぬいぐるみを抱いている。彼女の美貌が直視できず、顔が真っ赤になってくる。

 

「女神Alice。ここに降臨しました。さあ、その人形を渡すのです。今すぐに。ハリーハリー」

「これは報酬です。その前に彼を見てください」

「? たかがち──」

 

 彼女が俺を見ると、無機質な表情が驚いた表情に変わった。

 

「なんでここにビスケット・グリフォンがいるんですか?」

「俺の名前をなんで……」

「どうやら知っているみたいですね。あえていうなら、これは貴女の案件です。女神Alice」

「え? なにそれ?」

 

 可愛らしく小首を傾げる彼女は不思議そうにしている。俺にもわからない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言って、四季様は彼女のペンダントを指さす。すぐに彼女の顔が嫌そうに歪む。

 

「クトゥルフ神話案件とか、絶対やりたくない!」

「クスクス、クスクス」

 

 どこからか笑い声が聞こえてくる。しきりに周りを見渡すけれど、何も無い。不思議に思って、彼女、女神様をみると──ぬいぐるみを抱きしめて震えていた。

 

「わ、わかりましたよ! やればいいんでしょう! いけばいいんでしょう! ちくしょう、おぼえてろよぉっ!」

「はい、頑張ってくださいね。では、私は次の人を相手しますのでアチラの部屋でお願いします。小町、案内を」

「わかりました」

 

 それから、俺は女神様と一緒に案内されて小さな部屋に通された。そこで対面に座り、頭を下げてお願いする。

 

「あの、どうか俺を元の世界に戻してください!」

「だが、断る!」

「なんでですか! さっきは行くって!」

「うん、君の世界、オルフェンズには仕方ないから行きます。でも、貴方を連れていってAliceになんの得があるっていうんですか?」

「うっ……確かに」

 

 考えろ。彼女が得をする事……案内ができる? 

 

「だいたいですね。Aliceが連れていけるのはAliceの眷属や使い魔になった者達だけです」

「け、眷属?」

「神の使徒ともいえますが、全てをAliceに捧げて力をもらった存在だということです。あなたはAliceのために鉄華団を差し出し、全てを殺す事はできますか? 大切な妹を差し出す事は?」

「そんなことできるはずがない!」

「でしたら諦めてください。提示される条件があっていません」

「それは……」

「まあ、しばらく考えるといいでしょう。Aliceは色々と準備をしなくてはいけないので。小町さん、彼をお願いします」

「はいはい、了解」

 

 女神様は現れた時と同様に瞬時に俺の目の前から消えた。どうしたらいいんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼ばれて飛び出てびっくり仰天。なんでこの東方世界にビスケット・グリフォンがいるんですか? いや、ハスターお爺ちゃんなら可能かもしれませんけどねえ! アリス、びっくり。

 

「というわけで、アリスと契約してロボットの世界にいかない?」

「いいよ、行こうか」

「わぁ、即答ですね。眷属になるけどいいの、にとり」

 

 アリスが準備のためにやってきたのは河童のにとりの所。彼女のスカウトにきたというわけだよ。

 

「別にいいよ。いろんな技術を習得するために私から切り出そうと思っていたところだったし」

「そっか。ちなみにいっぱい人を殺すけど、大丈夫? 大丈夫だね」

「妖怪だからね!」

 

 嬉々として武器類を整備しだしたにとりに笑顔で答えると、彼女も笑顔で答えてくれる。いっぱい殺しちゃおう。

 

「他のメンバーはどうするの?」

「とりあえず、ルクスは確定。行ってみないとわからいし、他は誰がいいかなあ……」

「まずは全員でいいんじゃないかな?」

「何が起こるかもわからないしね」

「そういうこと」

「うん、実際に行ってみて判断を……」

 

 そう思うと、勝手にGrimoire of Alice(アリスの魔導書)が現れて捲られ、新たなページが表示された。そこにはこう書かれていた。

 

 

 ────────────────────────────────────―

 

 

 ワールド:鉄血のオルフェンズ

 目標:全人類の管理

 制限:魔法系使用不可。世界介入を満たす必要有り。

 アリスポイント:目標達成で10。ギャラルホルン崩壊で5。主要キャラクターの殺害又は救出で1。人を千人殺すごとに1。

 世界介入条件:身体を奪い、作り直すこと

 

 ────────────────────────────────────―

 

 

 ああ、なるほど。だからビスケットをこちらに送り込んできたのか。

 

「とりあえず、生贄は決まったね」

「時間を巻き戻して死ぬ直前に呼び出させますしね。こちらの世界……クトゥルフ世界からの干渉はできます。魂に細工を施しておけばそれも可能ですし」

「魂を保護しておいて、新しい身体をあげたらいいんじゃない?」

「魂を持つロボット。いいですね。よ~し、決めました。にとり、アリスと一緒に究極の機体を作りましょう!」

「いいねいいね!」

 

 二人で両手を合わせながら大喜びし、さっそく制作に入る。といっても雛型を造るだけが精一杯だ。作った雛型は女神Aliceとしての提案を聞いて納得してくれて自らを差し出してくれた。どうやら、クラッカとクッキーの幸せを優先するようで、アリスと契約をせまってきた。彼女達の身の安全と幸せだ。なので、頑張ったらご褒美として蘇らせてあげるとも言っておいた。元から助けてあげるから安心していいよ。ちょっとしばらくの間……いや、これから人間を止めてもらうだけだからね。

 ビスケットに入れた上でアリストテレスのTYPE・MOONを修得して彼を眷属にした。そう、人間を止めて吸血鬼になってもらったよ。魂だけの変質だから、そこまで影響はない。

 

「さあ、女神Aliceの人形劇をはじめましょう」

「ふふ、楽しい実験のはじまりはじまり。ところでそのぬいぐるみはなに?」

「ルドべ~ぬいぐるみ! 力作ですよ!」

 

 顔をルドべ~に埋めてもふもふする。宙にも浮かぶし、口から光線を吐いたりもする。ナノマシンで構成されているから大きさも自由! 女神Aliceなのだから、創造神ルドラサウムのぬいぐるみを作ってみた。そうするともう手放せなくなってしまった。ちなみに全力で作ってあるから普通に武器としても使えるし、強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥っ! び‥‥っ! ‥‥を‥‥っ!」

 

 聞こえないよ、オルガ。行かないと。まだ。こんなところで、俺は死ねない! 全部終わったら、火星に帰ってクッキーとクラッカを学校に入れて、皆で一緒に過ごすんだ。だから、こんなところで死ねない! 死にたくない! 俺にはまだ、オルガとの約束が……あるんだ! 

 手を伸ばし、握られた感触がした。でも、それ以上は力が入らない。目も見えなくなって身体がどんどん冷たくなっていく。足の感覚もない。嫌だ。死にたくない。だというのに声も出せない。クッキー、クラッカ、兄ちゃんは必ず戻って──

 

 

 

 

 

 ──きた。女神様の力は本当にすごい。別の世界に移動する扉を使って、俺の世界の扉を開いてくれた。そこから俺は死ぬ直前……直後に戻って召喚の呪文を唱える。それだけで後は勝手にやってくれるとのことだ。身体は殆ど動かないけど、それぐらいなら問題ない。声は出せる。頭の中に浮かぶ言葉を告げるだけだ。

 

「いあ! いあ! はすたあ! ありす くふあやく」

「おい、ビスケット! 大丈夫か! 喋るな! すぐに……」

 

 オルガが何かを言っているが、無視する。これもオルガとの約束を果たす為でもある。

 

「ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ」

 

 血を吐きながら、身体が弾け飛ぶのも無視して唱える。身体の一部が変色していっているのもみえる。

 

「あい! あい! ありす!」

 

 身体の、魂の中に埋め込まれた何かが動き出し、俺の身体を蝕んでいく。次第に自分の身体が別の物に作り替わっていく。意識は塗りつぶされ、全ては──

 

「ビスケットっ! ビスケットぉおおおおおおおおおぉぉぉっ!」

 

 女神Aliceとクラッカ、クッキーのために──

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ビスケットは女神Aliceを召喚した。
ビスケットの身体は埋め込まれていた増殖置換型ナノマシンにより、女神Alice(ロリアリス)の身体が作成された。
ビスケットの身体は性転換をはたして、精神も入れ替わってしまった。でも大丈夫。吸血鬼の真祖より眷属にされたためになんとか生きているので身体さえあれば復活はできる。
オルガ君とミカ君は目の前で親友の身体がぐちゃぐちゃになり、幼女の姿へと変身したことを目撃してSANチェック。
ミカ:02
オルガ:90
ミカは正気度が2点減少した。
オルガは正気度が16点減少した。



ルート選択
1.鉄火団と共に火星まで進む。
2.鉄火団と敵対して暴れる。
3.とりあえず、ギャラルホルンに殴り込んで宇宙船とモビルスーツを奪って火星に行く。


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69話

こっそりと


 

 

 

 

 

――システムコマンドの入力を確認。

――ナノマシンの増殖を開始。

――ナノマシンによる肉体の再構築を開始。

――肉体の再構築を完了。

――記憶データの保存及びインストール開始。

――インストール完了。

――分霊構築完了。

――起動

――起動完了。ゲート展開開始。

――本体との接続を開始。

――完了。融合を開始。

――完了。

 

 

 

Grimoire of Alice(アリスの魔導書)起動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体が予定通りに作成され、視界が戻る。周りを確認し、驚愕しているオルガ・イツカの姿を確認した。続いて自分の姿を確認する。今回は女神Aliceとしてやって顕現しているけれど、姿はロリスのまま。ただ、ルドラサウムのぬいぐるみは持っている。

 

「な、なにが起こってるんだ」

「落ち着いてオルガ。ビスケットが女の子になっただけ」

「いや、その状況で落ち着けるか! というか、明らかに別人だろうが!」

 

近くにあるバルバトス。とても大きくてカッコイイ。やっぱりガンダムはいいな、ガンダムは。ザク系も好きだけど。そのバルバトスがグレイズリッターであろうモビルスーツをペンチみたいな物で挟んで押さえつけていた。

そこに他のグレイズリッターが襲撃してきて、バルバトスを吹き飛ばして下敷きになっていたグレイズリッターを回収していく。このタイミングでグレイズリッターに触れ、アリスの身体をナノマシンへと変化させて壊れたグレイズリッターと融合する。

当然、バルバトスは防ごうとしてくるので、他のグレイズリッターが牽制として120ミリ口径ライフルを撃つ。それもオルガを狙ったので、バルバトスはオルガを守るしかない。

 

「ミカ!」

「駄目だ。オルガを失う訳にはいかない」

「くそっ! おい、お前……居ねえ!」

 

大丈夫。少し待っていて欲しい。復讐は果たさせてもらうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、アリス。今、グレイズリッターになってお船に乗っているの。そこで何をしているかって?

グレイズリッターが触れている場所にある金属とアリスのナノマシンを融合させて増殖。船のコントロールをひそかに奪い、他のモビルスーツにも浸食しているところ。

グレイズリッターは正直言って弱い。ガンダムタイプが欲しいけれど、それはまだ手に入っていないので諦める。ビスケットの身体も用意してあげないといけないし、とりあえずは素材を確保して改修かな。

 さてさて、アリスちゃんとしては船を掌握したので、ネット回線を通じて管理AIアリスの分霊を送り込んでギャラルホルンや世界の至る所にアクセスして、ハッキング。情報を引き抜いて判決を下す。

 

 

 

ギャラルホルンは――有罪(ギルティ)

 

 

 

腐敗が酷い。買収や賄賂、恐喝、人身売買、戦争を起こさせるなどなど、罪状は確定。なので、アリスが女神Aliceとして管理しましょう。それがGrimoire of Alice(アリスの魔導書)に与えられた命題でもあるのだから。

まずはグレイズリッターを全て掌握し、自動操縦できるようにする。ナノマシンで作った小さな人形達、上海と蓬莱を作りあげる。動力はエイハブ・リアクターを集めて融合させ、エネルギーをウェーブで送れるようにプログラムや構造を改変する。金属生命体であるアリスと管理AIとしてのアリスの力を使い、アリス自身がコントロールするので大丈夫だ。

オーダーは一つ。動く存在を皆殺しにする見敵必殺(さーちあんどですとろい)だ。世界に合わせて片手にP90TRを持ち、もう片方の手に剣を持つ上海と蓬莱が船の内部を移動していく。

アリス自身も動き、ブリッジへとやってきた。当然、通信は全て封鎖してあるので何が起こっているか、情報は伝わらずに背後や壁から現れた上海と蓬莱に殺されていく。死体はナノマシンで分解してエネルギーへと変えれば無駄にはならない。

 

「な、子供だと?」

「こ、こいつはどこから入ってきた……」

「そいつはあの時の!」

 

銃や剣を向けてくるけれど、ルドラサウムのぬいぐるみを持ちながら無視して入る。アリスに視線が集まる間に彼等の背後から沢山の上海と蓬莱が床から浮かび上がり、即座に襲う。ある者は剣で心臓を串刺しにされ、ある者はゼロ距離から小さな銃弾を浴びせられる。

即死できたらいい方で、たっぷりと何度も串刺しにされる者達もいる。血を浴びる上海と蓬莱。そして私を恐怖のこもった表情で見詰めてくる人間達。

 

「やめろっ! やめてくれっ!」

「止めなさい! 私にこんな事をしていいと思っているの!」

「ルドちゃん、食べていいよ」

 

ぬいぐるみが大きくなり、空中に浮かびながら大きな口を開けていく。

 

「な、ななななななっ、なんだこれは!」

「化け物め!」

「創造神ルドラサウムを化け物とは……極刑です」

「そ、創造神?」

「その通りです。感謝しなさい。あなた方はルドラサウム世界へと魂を送ってさしあげます」

 

できるかは知らないけれど。

 

「そうそう、この世界はアリスが管理する事にしましたから、安心して死んでください」

「ふざけるな!」

 

カルタ・イシューが懐から銃を取り出し、即座にアリスは発砲してくるけれど銃弾は皮膚に命中して跳ね返る。

 

「ば、馬鹿なっ!」

「貴女には感謝しています。ビスケットを殺してくれてどうもありがとうございました。お陰様でアリスがこの世界にやってこれました。お礼として意識を保ったままちょっとずつ身体が分解されていく感触を楽しんでください」

 

ニコリと微笑んで告げる。

 

「いやぁあああああああああああああああああああああぁぁァァァァァッ!!」

 

カルタ・イシューはルドラサウムぬいぐるみこと、ルドべぇの中に監禁しておく。彼女の姿をナノマシンで生成し、資産から何から何までビスケットへの慰謝料として貰い、アリスが有効に使ってあげます。

 

「さて、隣の船も支配しましょう。お願いしますね、カルタ」

「かしこまりました」

 

命令させて接舷させる。そこから隣の船を支配し、皆殺しを開始。手に入れた船はこちらの船と融合させずに別の船として扱う。乗員は全てナノマシンで作り上げた人形達だ。

艦載機はグレイズリッターからギャラルホルンなどに保存されているデータを利用して別の物に作り変える。やはり、ギャラルホルンとは別がいいしね。何がいいかな……でも、敵がガンダムかもしれないし、究極の機体を作ると決めているから……アレでいいか。MSじゃないかもしれないけど、気にしない。

 

「ま、とりあえずはあれだね」

 

偽カルタを乗せた船は資産を回収させに行き、残ったアリスは船を改造して潜水させる。鉄火団が居なくなるまではこのまま大人しく海底資源を回収して改造しておく。

 

 

 

 

 

 数日後、海底資源や沈んでいる船やMS,MAなどの残骸を根こそぎ手に入れ、ナノマシンを増殖させる。MAまで沈んでいるとは思っていなかったが、壊れた状態で放置されて錆びてはいるけれどそのまま残っていたので災厄戦時代の物が沢山あってウハウハ状態。

 それらを全て取り込んでアリスの体内で解析して技術を吸いだしてビスケットの身体とアリスが使うMSの設計を行う。別にMAでもいいけど、やっぱりMSを動かしたい。はやくにとりをコッチに呼び寄せたいな。

 さてさて、島の方もこっそりと手を出して海から秘密基地に改造している。にとりを呼び出すのにはここを使うのが一番いいからだ。

 

鉄火団が居なくなったタイミングで地上まで繋げて残っている人員を確認してからそいつが犯罪を犯してないかを調べ、問題がなければ脳にナノマシンを注入して記憶を改竄させて普段通り過ごさせる。問題があれば処分してナノマシン人形に入れ替える。

安全を確保して研究施設を用意してから、クトゥルフ世界を経由してルクスとにとりを連れてくる。

 

「ふ~ん、ここが異世界か。それでコイツがロボット、モビルスーツ?」

「そうです。こちらはモビルアーマーですね」

「そっか。じゃあ、早速改造しようか」

「まずはモビルスーツからお願いしますね。こんな感じのがいいです」

「名前は?」

「シナンジュ」

 

ガンダムもいいけれど、やっぱり赤いモビルスーツも大好きだ。青も好きだけどね。

 

「えっと、これは流石に作れないよ? 形だけならできるかもしれないけれど、技術が違いすぎるし。そもそもサイコミュなんてないし」

「その辺はアリスが自分でどうにかするから。一応、武装に載ってないけれどファンネルもちゃんと用意するからね」

「ファンネルねえ……そもそもナノマシン集合体であるマリスにとって簡単に作れるはずだけど……」

「うん。でも、ビームってどうやって撃つのですか?」

「MAから解析すればいけるよね?」

「小型とかはにとりでないと無理だから」

「小型化か……いっそ、上海と蓬莱を乗せて強襲船としても使ってみるのもいいかも?」

「いいですね」

 

MAに使われていた動力とエイハブ・リアクターを合わせて新しい動力炉を作り、それを搭載。サイコフレームの代わりとして全てをナノマシンで代用。ファンネルを情報収集用端末とする事で広範囲を知覚してNT能力の代わりとする。

 

「ま、開発には時間がかかるね」

「マスター、それならルクス達がふぁんねるになればいい」

「なるほど、それができますか」

「確かにそれなら簡単だね」

 

魔法は無理でもポケモンは使える。ファンネルにメタグロスを搭載してラスターカノンや破壊光線とか撃ってもらえばいいんだ。彼等は空気なんていらないし、宇宙空間でも問題ない。ただ、殺される心配だけをしないといけない。火力がポケモンより……いや、伝説とかバンギラスとかと比べたらましか。

クトゥルフ世界で防御と射撃、見切りなどの技能をレベル3で与えておけば自動回避ファンネルの完成だ。とっても強いね!

 

「じゃあ、君は島の改造を頼むよ。マリスもそれていいよね?」

「もちろんです。ビスケット、お願いしますね」

『わかった。火星で行う訓練がてら頑張ってみるよ』

「……手伝う……」

『お願いします』

 

要らなくなった船、戦艦を手に入れたMAのデータを使って再構築した大きな機体。これが現在のビスケットだ。能力としてはナノマシンの増殖と施設開発。ゆくゆくはこの島全てをビスケットの身体へと変化させてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、Gガンダムを知っている人はビスケットの身体を地球再生用ガンダム、アルティメットガンダムと呼ぶ。またの名をデビルガンダム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




来い、がんだぁぁぁぁむ! ビスケットガンダム(アルティメットガンダム)

アリスの機体はなんちゃってシナンジュ。私が好きだから。仮面を付けてシャアや偽物さんごっこだ。
なお、金属生命体のため、自由自在に形が変化する模様。


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70話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、島に籠ってから数日。順調に機体は仕上がっている。にとりが作った機械でナノマシンを固定化させ、さらにそのパーツとして最適解させる事でフレームなどを作成。その形状と役割を記憶させる事で部分的に変化させてもすぐに形を変える事が可能。

 

「まあ、とりあえずこんなもんかな。やっぱり、自由に金属の形を変えられるとかずるいよねえ」

「工作機械とかいらないからね」

 

 アリスの目の前には巨大な赤い機械でできたMSが存在している。そう、シナンジュである。

 シナンジュはガンダムシリーズに登場する架空の兵器。有人操縦式の人型ロボット兵器モビルスーツ。そこの軍人組織ネオ・ジオン軍の残党、袖付きの首魁フル・フロンタルの専用機だ。

 基本的なデータはこんな感じだ。

 

 型式番号: MSN-06S

 搭乗者: フル・フロンタル

 出力: 3,240kW

 推力: 128,600kg

 全高: 22.6m

 センサー 有効半径: 23,600m

 装甲材質: ガンダリウム合金

 

 ちなみにガンダリウム合金はないのでナノラミネートアーマーを使ったナノマシンになっている。ナノラミネートアーマーはエイハブ・ウェーブに反応して鏡面の様な構造の複層分子配列を形成する金属塗料が表面に蒸着されており、これが衝撃を吸収・拡散しビームを反射するため実体弾射撃やビーム兵器に対し、圧倒的な防御力を発揮する。

 このためMSの携行火器サイズのマシンガンやMAの大口径ビーム砲では装甲を破壊する事ができず、決定打にならない。普通なら。だけど、アリスは普通じゃない。だから、相手の複層分子配列を計算して無効化するγナノラミネート反応が起こるようプログラムして放つ。ファンネルを含めてメタグロス達が入り込むので計算は余裕でできる。

 破壊光線を増幅させて収束させたビーム砲は強力なのである。ましてや様々なレベル3スキルを付与する事によってかなり強くなる。

 サイコミュのシステムによる思考制御は阿頼耶識システムで代用可能だし、アリスの能力を使えば全く問題ない。

 

「ん~」

「どうしたの?」

「うん。カルタ・イシューが鉄火団への攻撃を打診されたけれど断ったみたい」

 

 鉄火団を追うよりも、宇宙に離脱できる宇宙戦艦を用意してアリスに引き渡す事が最優先だよね。

 

「まあ、そんなのよりマリスの指令が優先だよね」

「だよね~」

 

 まあ、あちらは放置して武器をもっと作っていく。シナンジュの武器だけでも結構あるからね。

 60mmバルカン砲×2、ビーム・ライフル×1、ビーム・サーベル×2、ビーム・アックス×2、グレネード・ランチャー×1、ロケット・バズーカ×1。そしてシールド×1。これだけいっぱいある。

 

 

 

 

『大変だ!』

「どうしたの?」

「ん~?」

 

 にとりとアリスが武器を作り上げ、改造を施しているとビスケットから緊急連絡がやってきた。それによると、鉄火団とギャラルホルンがエドモントンで戦闘が開始されたらしい。

 予想より早いけれど、カルタ・イシューが拒否したから列車での戦闘が行われなかったのかもしれない。それによって到着が早まったのだろう。

 問題はギャラルホルンがエドモントンに集めた勢力だ。約四個師団。原作では一個師団か多くて二個師団のはず。つまり二倍から四倍の戦力というわけだね。

 なんでこうなったかというと、カルタ・イシューが拒否した事でマクギリスの父親が確実に鉄火団を滅ぼすため、他の部隊からも引き抜いて集めたのだろうね。

 これはマクギリスが到着しても終わりだろう。戦力差が激しすぎるし、指揮官が奴なので普通に滅ぼすために襲い掛かっていくはずだ。

 

「鉄火団壊滅のピンチだね」

『頼む。俺を行かせてくれ!』

「駄目だよ」

「駄目だね。まだ開発は終わってないし」

『そんな!』

「まあ、落ち着きなよ。貴方は行けないけれど、ここに完成した兵器を試したい妖怪と女神がいるんだよ?」

『そ、それじゃあ……』

「いいよね、マリス」

「女神様に任せてください。にとり、シナンジュの発進準備。それと弾道ミサイルの用意を」

「もうできてるよ」

『弾道ミサイル? え、ミサイル?』

「ミサイルって乗り物だよね?」

「乗り物だね~」

 

 うん、どこも間違っていない。

 

「にとりも一緒に行く?」

「あ~私は作る事は好きだけど、戦いは得意じゃないから……」

「実験結果をみられるよ?」

「いや、私が作ったのってあんまりないしね……」

「じゃあ、アリスだけ行ってくるね」

「データの収集だけよろしく~」

「了解だよ」

 

 さて、にとりはここで研究を続けるみたい。MAの復元とかやってるし、お土産を持ってきたらいいか。

 

「ミサイルのデータってこれでいい?」

「うん、ありがとう」

「じゃあ、さっそく取り付けようか」

「は~い」

 

 数十分後。滑走路を開き、電磁カタパルトに弾道ミサイルを配置。そこにシナンジュを配置し、ナデシコにでてくるブラックサレナのように装甲板を配置。先端が円錐状になっているので、空気抵抗を可能な限り減らしていく。

 準備ができたのでコクピットに乗り込む。ノーマルスーツとかは当然、着ないよ。それと現在のシナンジュは副座式で、後ろにはルクスが搭乗している。アリスのハロ代わりだね。

 管制塔にはにとりが居て、改造しながらオペレーターをしてくれる。

 

『発進準備完了。いつでもいいよ』

「うん。アリス・グリモワール、ルクス。シナンジュ、出ます!」

『いってらっしゃい』

『皆を頼みます!』

 

 ビスケットからも通信が送られてきた。それを笑顔で答えてからスイッチを押して発進する。電磁誘導によって高速で空へと打ち上げられ、ある程度上がってからミサイルを点火させて高速で移動していく。

 

「ルクス、目的地への軌道計算はできてる?」

「……完了。命令を……」

「目標、エドモントンにあるギャラルホルン駐屯地。派手な人形劇をしましょう。アリスと踊ってくれる?」

「……了、承……マスターの望、むま、まに……」

 

 超高速移動をしながら、目的地であるエドモントンにあるギャラルホルン駐屯地へと着実に近付いている。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「オルガ、どうする? このままじゃ押し込まれるけど」

「予想以上に相手の戦力が多すぎるからな」

 

 二人の依頼人をここまで連れてきたが、ギャラルホルンの連中が本気を出したようで、圧倒的な戦力差がある。モビルスーツも数十機単位で送り込まれてきたらどうしようもない。ましてや空中に浮かぶ戦艦まで出されているのだ。

 

「オルガ、なんか変だ」

「どうした?」

「バルバトスが……おかしい」

「なに?」

 

 ミカが乗っている機体、バルバトスが空を見上げている。ミカが操作しているのでないとすると、何かがくるのか? 

 

「バルバトスが、警戒している何かが落ちてくるって」

「それが味方ならありがたいが……」

 

 それよりも、ミカまでビスケットのように身体の内側から変なのが出たりしないよな? アイツには、ビスケットをあんなふうにした落とし前をつけさせないといけない。

 

「オルガ……空から何かきた」

「あ? アレは、赤い光か? 大気圏から降りてきたのか?」

 

 その光は途中で分離すると、破片が空を飛ぶ戦艦に命中していく。更に剥がれた装甲の中からミサイルがギャラルホルンの陣地に接近する。ミサイルは対空迎撃されているが、それを全て回避して陣地へ着弾し、大爆発を起こしていく。

 

「おいおい、まじかよ」

「オルガ、チャンスかも」

「そうだな。全員、突撃する準備をしろ!」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ダイナミックエントリー! ミサイルを撃ち落とそうと対空迎撃しても無駄なのだよ。なにせ、それはアリスだからね! つまり、アリスミサイル! 中身は単純な水素爆弾。つまり、核兵器である。作ったのはにとりだよ。あ、ちゃんとナノマシンで制御して放射能とかはないようにしてある。

 

「核兵器禁止条約などアリスは結んでないから合法!」

「……合、法……?」

「うん。合法」

 

 さて、ギャラルホルンが大混乱に陥っているので、アリスもシナンジュで突撃する。

 

「あ、その前にこれをつけないと」

「仮、面?」

「うん。やっぱりつけないとね」

 

 ただ、フロンタルの仮面はいまいちだから、うたわれるものからハクオロさんみたいな仮面にする。

 

「じゃあ行くから、サポートよろしくね」

「……イエ、スマスター」

「通信回線を開いて……こちらは人類管理局。これより、義によって鉄火団に助太刀します」

 

 スラスターの出力を上げて加速して一気に突撃する。生き残っている戦艦の横を通りざまにビームアックスで戦艦をぶった切り、もう片方の手でビームライフルを持って遠くの戦艦を撃ち落とす。

 相手から沢山の銃弾やミサイルによる弾幕が展開されるけれど、機体を高速で移動させてどんどん撃ち落としていく。

 

『モビルスーツ隊に対処させ……』

 

 指揮官っぽい相手がいそうな船は優先して落とす。敵が多いので戦艦を盾にしつつ楽しんでいたら、モビルスーツがいっぱいやってきた。相手は船からジャンプしているようで、ちゃんと空中戦はできないと思う。

 

「まあ、ギャラルホルンのモビルスーツの性能とやらを見せてもらおう」

「もう知っ、ているはず……」

「気にしなくていいよ!」

 

 接近戦を挑まず、的確にコクピットを撃ちぬいて殺していく。エネルギーや推進剤の問題はあるけれど、こちらとら動力炉は河童の超技術で作られている。でも、やっぱり核融合炉とかその辺りも使った方がいいかもしれない。

 

「しかし、ほとんどが近接戦闘武器じゃ、アリスのシナンジュには勝てないか」

 

 アリスちゃんは近接戦闘とか苦手なので、遠距離から一方的に虐殺しているのです。それとエネルギーを回収するために戦艦に突撃して動力炉を貫き、ナノマシンによる浸食と融合を持ってエネルギーを奪って補給したりもしている。

 爆散する戦艦を蹴りながらスラスターを使って加速し、殺して壊して殺して壊していく。地上は降り注ぐ破片などで大変な事になっているけれど、仕方のない事だよね。

 

『速い! 速すぎる!』

『赤い光が襲ってくる!』

 

 相手の攻撃はルクスが予測して弾道線を見せてくれるので、回避もらくちん。そろそろ機体性能で遊ぶのは止めて、次の行動に入る。

 

「行け、ファンネル!」

「ふぁん、ねる射、出」

 

 シナンジュに取り付けられたある場所から複数のモンスターボールが放たれ、沢山のメタグロス達がでてくる。その子達にはアタッチメントが装備されており、ナノマシンの装甲などが設置されていて破壊光線などで虐殺していく。

 

 

 空の殲滅が終われば地上に降りる。地上からも攻撃が飛んでくるけれど、回避しながら戦車を踏みつぶして様々な武器を試していく。中には撃ったら壊れるような物もあったので、それはデータを取ったら分解して別の物に変える。

 

「マスター、接近する機、体を確認」

「また敵なのかな?」

「ガンダ、ム」

「へぇ」

 

 やってきたのはバルバトスだった。その手にはコーネリアとマカナイを乗せている。バルバトスはアリスを警戒して武器を構えてくるけれど、すぐに横にずれて道を譲る。

 

「通、信来てる」

「出して」

『……あ、アンタは……まあいいや。通してくれるの?』

「アリスは宣言した通り、今は鉄火団の味方です」

『今は、か』

「今回はビスケットさんの意思により、鉄火団を助けにきました」

『ビスケットの……もしかして、死んでない?』

「いいえ、死にました。ですが、甦らせる事は可能ですので」

『本当?』

「はい。まあ、それをするかはまだわかりませんが、前向きに検討しております」

『そっか。嘘はついてないみたいだし、いいか。今は時間もないし、行かせてもらう』

「どうぞどうぞ」

 

 バルバトスがシナンジュの横を通り抜けようとした瞬間、ペンチみたいな武器を振るってくる。ルクスが反応して即座に下がりながらスラスターを使ってバルバトスを蹴り飛ばす。

 

「ミカヅキさん?」

『ごめん。なんかバルバトスが言う事を聞かない』

「あ~なるほどです。理由はわかりましたが、掌にいる人達は大丈夫ですか?」

『平気みたい。それで襲おうとしているけど、どうしよう』

「ふむ。ならば止めましょう」

 

 即座に動かしてバルバトスへと接近する。バルバトスも攻撃しようとしてくるけれど、その前にペンチを掴み、もう片方の手で腕を掴んで引き千切る。

 

『ぐっ……痛い……』

「少し我慢してくださいね」

 

 引き千切った部分からナノマシンを注入してバルバトスのシステムにアクセス。管理AIとしての力も使って制御下に置き、ついでにミカヅキさんの身体へも侵入。阿頼耶識システムへと接続し、ミカヅキさんの体内に残っているナノマシンを掌握してアップデート。改造を施して海賊版から正規品へと作り直す。

 

『あれ、痛くなくなった』

「バルバトスの修復を始めますが……邪魔者が来ましたね」

『アイツか』

「私が相手をしますので行ってください。バルバトス、送り届けるように」

『あ、今度は言う事を聞いた』

 

 追ってきた一基のボス。クランク大尉が大好きなアイン君。彼の相手をするためにバルバトスは先に行かせ、立ちふさがる。

 

「マス、ター相手、人、形?」

「そうだよ。まあ人が操る人形には変わりない……ある意味では意思を持つ人形かもね」

 

 正直、この人を助ける理由ってないんだよね。復讐鬼なだけだけど、そのクランクさんが殺されたのは一騎討ちの結果なわけで、互いに了承してやったことだし。クランクさんは助けられたら助けてもいいけどね。

 

「やっぱり、殺さないで適当に倒しちゃおう」

「了、解。戦闘、開始」

『邪魔をするなぁぁぁぁぁっ!』

 

 浮き上がりながらスラスターを使って後ろに下がりつつ、ビームライフルにグレネードランチャーを装備させて放つ。

 相手はしゃがみ込んで避け、そのまま低い体勢で突撃してくるので盾は切る。この盾は縁がビームサーベルと同じシステムを搭載しているので切れるのですよ。

 頭を切断し、盾を返す勢いで裏側を使って殴打して吹き飛ばす。相手は阿頼耶識だけど、こちらは全身がナノマシンによる集合体。演算能力が違うのだよ。

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!』

 

 剣をコクピット目掛けて刺してくるけれど、スラスターを使って横に移動しつつ首のなくなった場所を掴んで地面に叩き付けて埋め込む。

 

「マスター、警告」

「んにゃ?」

 

 不思議に思ってると、道の奥からランスを持って突撃してくるガンダムフレーム。

 

「え、なんで?」

『アインから離れろぉおぉぉぉぉっ!』

 

 相手はボードウィン家のお坊ちゃん。とりあえず、機体をルクスが動かして淀みない動作でウエポンラックからバズーカを取り出してビームライフルに接続。そして撃った。

 巨大のビームに彼は巻き込まれ──る前に飛び上がって回避した。でも、動かせるんだよねー。厳密に言えばバズーカじゃないし。

 上にずらして下半身を焼き払い、胴体になった所でふと思う。このまま復讐仮面になられるのも困るけれど、殺すのもあれだ。あの人妻幼女が悲しむ。どうしようかな、どうしようかな。このまま放置してラスタル・エリオンとかに確保されるよりは連れていった方が安全か。マクギリスにみつかれば殺されるだろうし。

 

「そこのパイロットさん、聞こえますか? 投降すれば命は取りません。武装を解除しなさい」

『その場合、アインはどうなる……』

「そうですね。彼も捕虜として扱いましょう。貴方次第です。投降しない場合、処分します」

『……わかった……投降する……』

 

 さて、お坊ちゃんを掴んで機体を放置し、アインの方は持って帰る。その辺に落ちて炎上している戦艦や機体にナノマシンを打ち込んでミサイルに変えてから分体を作成。本体はシナンジュにミサイルを取り付けて捕虜二名を入れて本拠地である島へと向かう。

 分体ちゃんはこのままここに残り、残骸の回収や救助活動を行うようにお願いしておく。選挙がどうなるかも確認したいしね。

 

 

 

 分体ちゃんで残骸をナノマシンで分解して吸収し、壊れた街を修復する素材へと変えていく。エイハブ・リアクターとか動力はかなり美味しいです。壊れていても使えるし関係ない。

 

「さて、肝心の議会は……」

 

 延期だった。それはそうだよね! 街の至る所に戦艦やMSが落ちていて、炎上までしているのに議会なんて開いてられない。近所にキノコ雲まででたら……うん、延期されるのは当然。

 

 

 

 アリスはやりすぎたのでした。ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

 

 




ミサイルは乗り物。
条約は結ばれていないのでクリーンな核兵器を使用しても問題なし(ありまくり
落ちた戦艦やMSを使って無料で街の修復というなのお片付けをするアリスちゃんは良い子(?)
住民はドンパチやっているので、皆さんシェルターに避難積みなので被害なし。ギャラルホルンは損耗率7割。やったね!
マクギリスは援護に来ても他のギャラルホルンに防がれておられて出番がなし。
アインは……本当にどうしよう?



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