けものフレンズR ・君と歩く道・ (yatagesi)
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第1話 始まり

*これはニコニコの祝詞兄貴が立案(でいいのか?)した「けものフレンズR」の三次創作になります。
*筆者はけもフレはアニメ1期、アニメ2期1話、9話、10話しか見てません、あとはウィキとかニコニコ大百科とかで知識を得たにわかです
*その関係で舞台は1期と同じ島です。
*それでもいいなら、お読みください。


*これはニコニコの祝詞兄貴が立案(でいいのか?)した「けものフレンズR」の三次創作になります。

*筆者はけもフレはアニメ1期、アニメ2期1話、9話、10話しか見てません、あとはウィキとかニコニコ大百科とかで知識を得たにわかです

*その関係で舞台は1期と同じ島です。

*それでもいいなら、お読みください。

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

あたたかくなったら、いっしょに旅をしましょう

うん、いろんなもの、見に行こうね

約束ですよ

うん、約束だよ

 

・・・・・

・・・・

・・・

 

 

薄暗い多たものの中、何かが開く音がする。

その音がした部屋からは、光が漏れていた。

光を出しているのは、人一人が入れる大きさのカプセル、それが開いて、中から一人の少女が身を起こす。

 

???「あれ・・・ここは?」

 

少女は、何もわからず、あたりをきょろきょろと見まわすが、誰もいない。

あるのは無機質な機械と、扉の先の廊下だけ。

何か夢を見ていたような、けどそれ以上は思い出せない。

それだけではない、自分のことも、何も。

 

???「これは」

 

自分の眠る場所のすぐそばにあったのは小さなかばん、手に取って開けてみれば、入っているものが何かわかった。

 

???「スケッチブックに、動物図鑑・・・」

 

どちらも大切なもの、なぜかわからないが、そう思えた。

少女はそれをカバンに戻し、カプセルから出て、歩き出す。

ここを出なくてはいけない、行かなくてはいけない、でも、どこに?

あてもなく歩き出す少女は、やがて扉を開ける、外に出れば、少し肌寒い風が吹いていた。

 

???「うわぁ・・・」

 

外は晴れていて、ところどころに雪が積もっている、少し出て、後ろを振り返れば、崖にくっつくように自分のいた建物が建っていた。

看板のようなものには、この場所の名前が書いてあった。

 

「ジャパリパーク・・・なんだろう、読めない」

 

ジャパリパーク、それが今いる場所の名前、どこかで聞いた、でもどこで聞いたか思い出せない。

少女は頭を振って思考を切り替える、今は歩こう、そうしないといけない気がするから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しばらく歩くと、少女もおなかがすいてくる、でも何かあるわけでもない。

どうしようか、そう考え始めた時であった。

 

???「なんだろう、このにおい」

 

何処からか漂ういい匂い、それにつられて歩いていけば、そこは柵にかこまれた、丸い建物がいくつかある場所で、建物の1つ、窓が少し空いていて、匂いはそこからしていた。

 

???「誰か、居るのかな?」

 

少し背伸びをして中を覗く。

中では、灰色に白混じりの髪で、同じ色合いの服、白いマフラー、頭には耳、お尻に尻尾のある少女がポットにはっぱを入れていた、傍らには、おいしそうなお饅頭も。

じーっと見ていたら、少女がこちらに顔を向けて目が合った。

青い右目と金色の左目、どこかでみたような、思い出せないけど、大切なこと。

しばしの沈黙の後、それを破ったのは耳のある少女であった。

 

耳のある少女「・・・あっ」

???「あ?」

耳のある少女「会いたかったー!」

???「わぁぁ!」

 

耳のある少女は目を輝かせ少女のいる窓へと突撃する。

無論、少女の方も驚き窓から落ちてしまう。

それを見て耳のある少女のほうが悲しい表情を浮かべる。

 

耳のある少女「ご、ごめんなさい、うれしくて、つい」

???「だ、大丈夫だよ」

耳のある少女「あの、中に入ってもいいですよ、ケガしてないか心配ですし」

???「いいんですか?」

耳のある少女「はい」

 

耳のある少女に招かれ家に入る、椅子に座ると、少女は先ほどのポットとお饅頭を持ってきた。

 

イエイヌ「私、イエイヌって言います、ずっとヒトを待っていたんです」

???「ヒト?」

イエイヌ「はい!」

 

イエイヌと名乗る少女は、しっぽをちぎれんばかりに振っていた。

 

イエイヌ「ヒトのそばで生きるのがイエイヌ、フレンズになってもそれは変わりませんから」

???「フレンズ?」

イエイヌ「はい、ところで、お名前は」

???「それが・・・わからなくて」

イエイヌ「わからない、持ってるものに何か書いてないんですか?」

???「えっと」

 

イエイヌに指摘され、少女は自分の持ち物を調べる、するとスケッチブックの裏に、何か書いてるのを見つけた。

 

???「と・・・もえ? 字がかすれてて」

イエイヌ「ともえさん、ですか?」

ともえ「わからないけど・・・無いと不便だから、あたしのことはともえ、うん、それでいいよ」

イエイヌ「ともえさん、わかりました、あ、ジャパリまん、食べます?」

ともえ「ありがとう、イエイヌちゃん」

 

ともえはイエイヌが出してくれたジャパリまんをほおばり、カップの葉っぱを入れた水を口にする。

 

ともえ「これ、紅茶だ、おいしい」

イエイヌ「こうちゃ? これは紅茶っていうんですか?」

ともえ「そうだよ、おかわり、もらってもいいかな?」

イエイヌ「・・・はい!」

 

イエイヌから紅茶のお代わりをもらうと、ともえは彼女からパークとフレンズに対する説明を受けた。

 

ともえ「つまり、ここは動物がヒト化したフレンズがすむジャパリパークで、ヒトは昔いたけど今はいない、イエイヌちゃんはここで大切なヒトを待ってるんだね」

イエイヌ「はい、もしかしたら、ともえさんがそのヒトのことを知ってるかもって、ごめんなさい、勝手に」

ともえ「いいんだよ、あたし、気にしてないから」

イエイヌ「ともえさん」

 

イエイヌはしっぽを振る、ともえの視線は次第にそのしっぽへと移っていく。

イエイヌも、それに気が付いた。

 

イエイヌ「あの、ともえさん、さっきからしっぽに」

ともえ「あの、イエイヌちゃん」

イエイヌ「はい」

ともえ「そのしっぽ、モフモフしてもいいかな?」

イエイヌ「いいですよ」

ともえ「ありがとう!」

 

いうが早い、ともえはイエイヌのしっぽにすぐにとびかかると、顔をすりすりし始めた。

これにはイエイヌもくすぐったそうにして、すぐに逃げ出してしまった。

 

イエイヌ「と、ともえさん!?」

ともえ「・・・はっ! ごめん、なんだかこう、抑えられなくて」

イエイヌ「いえ、こちらこそ、命令なのに逃げてしまって」

ともえ「そんな、謝るのはこっちだよ! イエイヌちゃんが嫌がってるのに、あたしわからずに」

 

お互いにしゅんとする二人、だがともえはスケッチブックを開き、色鉛筆を手に取ると、絵を描き始めた。

 

イエイヌ「ともえさん?」

ともえ「ちょっと待ってて・・・」

 

集中して鉛筆を走らせるともえ、しばらくして、スケッチブックを見せた。

 

ともえ「ごめん、これしかできないけど」

イエイヌ「これ、描いてあるのは私ですか?」

ともえ「うん、紅茶を持ったイエイヌちゃん」

イエイヌ「わぁ、ありがとうございます! ともえちゃんもタイリクオオカミさんと一緒で絵が描けるんですね!」

 

ともえが描いたのは、紅茶をもって、ジャパリまんをふるまうイエイヌちゃん。

これには彼女も大喜びでしっぽを振る、それでともえも笑顔になる。

 

ともえ「顔でもしっぽでも、喜んでもらえてうれしいよ」

イエイヌ「いえ、そんな、あれ?なんでしっぽでもうれしいって」

ともえ「えっとね、あれ・・・たしか」

 

ともえも少し不思議に感じつつ持ち物を調べると、そこには動物図鑑。

めくってみれば、いろんな動物の写真と、シールを張ってねと書かれた余白。

あまり迷わず、目的のページを見つけられた。

 

ともえ「ほら、ここ、イエイヌちゃんの」

イエイヌ「本当です、いろいろ書いてあります、これのおかげなんですね」

ともえ「そうみたいだね」(あれ?)

 

図鑑を戻そうとした時、いままでてで隠れていたところに、何か書いてあることに気が付いた。

 

ともえ(大切な、ともだち?)

 

イエイヌのページに書かれたそれは、自分にとって大事なことなのかもしれない、ただ、それが誰のことなのか、友恵にはわからなかった。

でも、何かしないといけない、そう思った。

 

ともえ「・・・」

イエイヌ「ともえさん」

ともえ「あぁ、ごめんなさい、イエイヌちゃん、今日はありがとうございました」

イエイヌ「ともえさん?」

ともえ「うん、私、行かないといけない場所があると思うの、どこだからわからないから、それを探しながらだと思うけど、だから、行くね」

イエイヌ「そんな、ここにいましょうよ、ここは昔ヒトが住むための場所だったんですよ」

ともえ「イエイヌちゃん」

 

ここを出ようとするともえ、それを引き留めるイエイヌ。

気まずい空気が流れる中、突如として家が揺れる、その揺れに、イエイヌは怖い顔になる。

 

ともえ「い、今の揺れは」

イエイヌ「セルリアン」

ともえ「え?」

イエイヌ「だいぶ近くにいる、ともえさんはここに隠れていてください!人を守るのも私の務めです!」

ともえ「イエイヌちゃん!」

 

飛び出していったイエイヌ、友恵は言われた通り家の中にいるが、窓から外を見。

そこには、何か丸い、青い一つ目の存在がいた。

 

ともえ「あれが、セルリアン」

 

さっきイエイヌからパークについて説明されたとき、怖いのがいると聞いていた。

その怖いのがセルリアンだと、ともえは理解した、そして、そのセルリアンの前には。

 

ともえ「イエイヌちゃん! なんで!」

 

セルリアンの前にいたのは、イエイヌだった。

イエイヌはうなり声をあげながら、セルリアンと対峙する。

 

イエイヌ「なんでここに来たのか知りませんが、容赦はしません!」

 

セルリアンは丸い胴体から口のようなものをイエイヌ目掛けて飛ばすが、イエイヌはそれをジャンプで避ける。

イエイヌも爪で攻撃するが、セルリアンは傷つけてもすぐ回復する。

だが、イエイヌもそれはわかってるはず、何かを探すように動いている。

 

ともえ「イエイヌちゃん」

 

見てることしかできない、それがともえには苦しかった。

せめて、何か助けになれば、そうおもい始めたとき、セルリアンの背中に何かがあるのが見えた。

 

ともえ「あれは・・・石?」

 

セルリアンの背中にある石のようなもの、あれは何のだろうか?

その疑問は、イエイヌの言葉が答えになった。

 

イエイヌ「石さえ壊せれば、倒せるのに!」

ともえ「石、あれが弱点なんだ」

 

あの石が壊せれば、そう考えたともえは部屋を見渡す、みつけたのは頭に金属のついた時計だった。

それを手に取ると、ひっくり返してつまみをいじる、そして。

 

ともえ「イエイヌちゃん!」

イエイヌ「ともえさん!? 隠れててください!」

ともえ「いま、助けるから!」

 

ともえはそういうと時計を窓から放り投げる、セルリアンはそれを気にも留めない、そのはずだった。

その時計が、けたたましい音をだすまでは。

 

イエイヌ「な、なんですかこの音」

ともえ「イエイヌちゃん、セルリアンの背中!」

イエイヌ「へ? あっ! たあぁぁぁ!」

 

時計の音に反応したセルリアンはイエイヌに背中を向ける、その無防備な石を。

それを逃さずイエイヌは拳を叩き込む、石にそれがめり込むと、パッカーンという音と共にセルリアンはブロック状になり、消えていった。

 

ともえ「イエイヌちゃん、大丈夫!?」

イエイヌ「だ、大丈夫ですけど、さっきの音は」

ともえ「あぁ、これね」

 

そういうとともえは、先ほどけたたましい音を出していた時計を拾った。

 

ともえ「めざまし時計っていうの、前もって決めた時間になるとさっきの音で起こしてくれるんだ」

イエイヌ「そうなんですか? でも、いままでそんな音は」

ともえ「鳴らないようになってたからね」

 

ともえはそういって目覚まし時計をしまうと、はっと思い出したようにイエイヌの体を見る、あちこちボロボロになっていた。

 

ともえ「大変、早く手当てしないと!」

イエイヌ「大丈夫です、これくらいなら、自然に治りますから」

ともえ「でも」

イエイヌ「それよりも、ともえさん」

ともえ「なんですか?」

 

傷の手当てを断ったイエイヌ、次に出た言葉に、ともえは驚かされた。

 

イエイヌ「もうセルリアンもいませんし、もう、行ってもいいですよ」

ともえ「イエイヌちゃん?」

イエイヌ「あれだけできれば、セルリアンも大丈夫ですし、私は、ここでお留守番しないといけませんから」

 

そう言えってイエイヌは笑顔で話す、だが、ともえはわかってしまった。

その笑顔が、懸命に作った物で、本心ではないと。

だから、ともえはそれを受け止めるわけにはいかなかった。

 

ともえ「イエイヌちゃん」

イエイヌ「ともえさん」

ともえ「あの、よかったらでいいんだけど・・・あたしと一緒に、きてくれないかな」

イエイヌ「と、ともえさん?」

 

ともえの提案に、イエイヌも驚く、ともえは言葉を続ける。

 

ともえ「行かないといけない場所も、全然わからないし、それはフレンズちゃん達に聞きながらになると思うの」

イエイヌ「それなら、ともえさん一人だけでも」

ともえ「あたし、まだフレンズじゃないから、パークのことも、決まりも、何も知らないから、だから、先輩のイエイヌちゃんが一緒にいたほうがって、わがまま、だよね」

イエイヌ「ともえちゃん」

ともえ「それに、ね、イエイヌちゃん、寂しそうだから」

イエイヌ「あ」

 

イエイヌも、隠せたつもりでいた、久々に会えたヒト、でもすぐに分かれることになる、今までだって一人だった。

でも、また寂しい日々が続くと、もういちどと。

 

ともえ「イエイヌちゃんを寂しがらせちゃダメって、なんでかわからないけど、だから・・・いい、かな?」

 

ともえの提案、それに対するイエイヌの答えは、決まっていた。

 

イエイヌ「・・・わかりました、さっき助けてもらいました、だから、こんどは私が助ける番です」

ともえ「イエイヌちゃん、ありがとう!」

 

ともえは、イエイヌに抱き着き、イエイヌもそれを受け止めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、二人はこの場所の入り口に立っていた。

あの後は旅の準備をして、今日から、二人の旅が始まるが、その前にやることがあった。

 

ともえ「これで、イエイヌちゃんが留守だってわかるよ」

イエイヌ「ありがとうございます」

ともえ「いいよ、あたしのわがままだし」

 

入口にともえが建てたのは、イエイヌの待っているヒトあてに留守のむねを伝えた看板であった。

これで、行き違いになっても大丈夫。

 

ともえ「それじゃあ、行ってきます」

イエイヌ「はい!」

 

二人はゆっくりと歩きだす・・・が、すぐに止まった。

 

イエイヌ「そういえば、どこへ行くんですか?」

ともえ「・・・考えてなかった、とりあえず、あたしがいた場所とか、どうしていたのか知りたいから・・・知ってそうなフレンズがいる場所?」

イエイヌ「なら、フレンズがたくさん集まる場所ですか?」

ともえ「そうだね、そっちの方がいいかも」

イエイヌ「それなら、一つだけ知ってます、こっちです!」

ともえ「イエイヌちゃん、まって!」

 

走り出すイエイヌ、追いかけるともえ、二人の旅が、あわただしくも始まった。

 



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第2話 おんせん

ジャパリパークで目覚めた少女、イエイヌと出会いともえと名乗ることに。
セルリアンに襲われたりもして、そのあと二人は旅立つことに。
最初の目的地は、イエイヌちゃんが知ってるみたいだけど・・・。



イエイヌちゃんの案内の元、雪山を進んでいくともえ。

風が少しあるくらいなのだが、結構寒い。

 

ともえ「綺麗だけど、少し寒いね、イエイヌちゃん」

イエイヌ「そうですか? でも、あそこにつけば関係ないですよ」

ともえ「あそこって、フレンズちゃん達がたくさんいる場所の事だよね」

イエイヌ「はい!」

 

声も尻尾も元気一杯に答えるイエイヌ。

寒いところが平気で羨ましと思うともえ。

二人は進んでいくが、次第に風が強くなり、雪も舞い始めた。

 

イエイヌ「吹雪いて来ましたね」

ともえ「どうしよう、吹雪になったら」

イエイヌ「任せてください、でも、急ぎます」

ともえ「うん」

 

足を早める二人、だが吹雪は徐々に強まり、視界も狭くなっていく。

ともえは不安でイエイヌの服の袖を握っていた。

 

ともえ「イエイヌちゃん」

イエイヌ「大丈夫です、もうすぐです」

 

そういって進むイエイヌ、その言葉の通り微かに雪と違う匂いがし始め、更に明かりも見える。

 

ともえ「灯り、あそこなんだね」

イエイヌ「はい! おんせんは匂いが独特なんで、このくらいなら鼻が効きますから」

ともえ「ありがとうイエイヌちゃん、速く行こうよ」

イエイヌ「あ、ともえさん、こけると危ないですよ」

 

明かりが見えて安心したともえは走りだし、イエイヌも追いかける。

着いたのは屋根のある平屋の建物で、不思議な匂いがしていた。

 

ともえ「ここは?」

イエイヌ「おやど、と言う建物だそうです、この辺りを通るフレンズの休息所にもなってるんですよ」

ともえ「それなら、フレンズさんがたくさんいそうだね」

 

期待して中に入ってみたものの、フレンズの気配はなく、静まり返っていた。

 

ともえ「あれ?」

イエイヌ「どうしたんでしょうか、いつもは狐さん達がいるのに」

ともえ「狐さん? 狐のフレンズさん?」

イエイヌ「そうですよ」

ともえ「・・・もふもふしたかった」

イエイヌ「ともえさん、何言ってるんですか?」

 

謎の言動は無視しつつ、イエイヌは知った素振りで奥へ。

布をくぐり、棚の沢山ある部屋を抜けると、そこには湯気が立ち込める池、そこに浸かる誰かがいた。

 

イエイヌ「カピバラさん、お元気そうですね」

カピバラ「イエイヌちゃん、久しぶりだねねね」

ともえ「カピバラ、ちゃん?」

イエイヌ「はい、いつもここに居るんですよ」

カピバラ「そっちの子は」

ともえ「ともえって言います、えっと、たしか」

 

ともえは図鑑を取り出すと、カピバラのページを開く。

そしてカピバラと図鑑を交互に見る。

 

イエイヌ「ともえさん?」

ともえ「イエイヌちゃん、ここゆきやまだよね?」

イエイヌ「そうですよ」

ともえ「図鑑だとカピバラちゃんはもっと暖かい場所に」

カピバラ「細かいことは気にしたら駄目だよ、それよに温泉に入りなよよよ」

イエイヌ「そうしましょう、さ、ともえさんも」

ともえ「へ、あ、うん」

 

取り敢えず考えるのをやめたともえは、イエイヌと一緒に服を脱いで、温泉にはいる。

 

ともえ「あったか~い」

イエイヌ「ぽかぽかしますね」

カピバラ「サンドスターが溶け込んでるんだよよよ」

 

温泉は温かく、体の疲れもとれていく。

ある程度暖まった所で、ともえがカピバラに尋ねる。

 

ともえ「カピバラちゃん、いつもは狐のフレンズさん達が居るって聞いたんだけど」

カピバラ「あの二人なら、てーきけんさ?に、行ってるよ、吹雪いてるから、帰ってこれないのかも」

イエイヌ「さっきより、吹雪いてまね」

 

外を見れば風が強くなっている、吹雪はやむ気配はない。

不安な顔のともえを、カピバラがじっと見つめていた。

 

カピバラ「・・・」

ともえ「え、えっと」

カピバラ「あぁ、ごめん、ヒトもフレンズみたいに髪の色がみんな違うんだなって」

ともえ「そうなんですか?」

カピバラ「この前会ったかばんさんは黒だったよ」

ともえ「そうなんだって、かばんさん!? あたしの他にヒトが居るの!?」

イエイヌ「ともえさん!?」

カピバラ「居たんだよ、でも友達と旅に出ちゃった」

ともえ「そう、ですか」

 

がっかりした様子のともえ、イエイヌは急ぎはげます。

 

イエイヌ「だ、大丈夫ですよ、みんな違うのがフレンズですし」

ともえ「違うの、イエイヌちゃん」

イエイヌ「ともえさん?」

ともえ「髪の色とか、爪とか、目とか、なんか違う気がしてたけど、今は違うし、目はイエイヌちゃんとお揃いだし」

イエイヌ「お揃い」

ともえ「うん、ただね、かばんさんと会えたら、最初は何処にいたのか、ヒトが何処に居るかとか、昔はどうだったのか、色々聴けたのにって、そしたら、イエイヌちゃんの大切なヒトもわかったかなって」

イエイヌ「ともえさん、そこまで」

カピバラ「かばんさんは最近のパークうまれだよよよ」

 

せっかくのいい空気がカピバラの一言でなんとも言えない空気になった。

 

カピバラ「二人とも、上がった方がいいよ、のぼせるから」

ともえ「はい、そうします」

イエイヌ「カピバラさんは」

ともえ「カピバラちゃんは水は慣れっこだし、温泉も慣れてるんだよ、たぶん」

カピバラ「そういうことだよ、よよよ」

 

温泉から上がり、服を着ようとする二人、だがともえがあるものに気がつきイエイヌを止める。

 

ともえ「待って、イエイヌちゃん」

イエイヌ「どうしました?」

ともえ「あのね、こっちの服をきて欲しいの」

イエイヌ「いいですけど」

 

イエイヌはともえから受け取った服に袖を通し、ともえに助けて貰いながら着る。

 

イエイヌ「ど、どうでしょうか?」

ともえ「イエイヌちゃん」

イエイヌ「えっと」

ともえ「めっちゃ絵になるー!」

イエイヌ「ともえさん!?」

ともえ「いい、いいよ、浴衣、浴衣イエイヌちゃん、凄く尊い、手が止まらない!」

 

目を輝かせ、素早い手捌きで色鉛筆を走らすともえの姿に、流石にイエイヌも引いていた。

絵を描き終えたところで、ともえもそれに気が付いた。

 

ともえ「ご、ごめんね、イエイヌちゃんがかわいかったからつい」

イエイヌ「いえ、いいんですよ、ただ、突然だったんで」

ともえ「本当にごめんね」

 

あやまるともえ、イエイヌとしてはこれから苦労しそうな予感があったが、悪い気はしなかった。

浴衣からいつもの服に着替えたイエイヌは、ともえとともに旅館の休息室へと移動した。

 

イエイヌ「いつもなら、温泉上がりの子がいるんですが」

ともえ「吹雪いてたから、誰も来てないのかな?」

イエイヌ「そんな、吹雪始めたらここへ避難するのに」

ともえ「別の理由があるのかな?」

イエイヌ「だと、いいんですが」

 

吹雪が止むまでの間、二人は横になり、いつしか眠っていた。

起きたときは朝日が昇り、吹雪もやんでいた。

 

イエイヌ「ともえさん、起きてください、吹雪が止みましたよ」

ともえ「うぅん・・・おはよう、イエイヌちゃん、もふもふ」

イエイヌ「ひゃあ! いきなりしっぽをモフモフしないでください!」

 

寝ぼけたともえはイエイヌのしっぽに顔をうずめるが、堪能すると目も覚めていた。

二人で休息室をでると、お宿の入り口でカピバラがきょろきょろとあたりを見回していた。

 

ともえ「カピバラちゃん、おはようございます、何かお探しですか?」

カピバラ「ともえちゃん、うん、ちょっと、ね」

イエイヌ「力になりますよ」

カピバラ「それなら、頼み事なんだけど」

 

カピバラは少し考えた後、頼みごとの内容を離し始めた。

 

カピバラ「実は、こういう吹雪の後、一番にくる子がいるんだけど、まだ来てないんだよ」

ともえ「そうなんですか?」

イエイヌ「その子は、いつも?」

カピバラ「うん、いつもはここから左に行った先の施設からやってくるんだけど、今日は来てないんだよ」

 

カピバラの指さす方向には、何があるかわからないが何かあるらしい。

 

カピバラ「だからさ、二人に、見てきてもらえないかな?」

ともえ「いいですよ、イエイヌちゃんもいいよね?」

イエイヌ「はい、カピバラさんにはお世話になってますし」

カピバラ「二人とも、ありがとうね、その子は赤いから入れ違いにはならないと思うよ」

 

カピバラに見送られ、二人は人探しに出発する。

積もった雪に足跡をつけるのは楽しいけど、いまは人探しのほうが先である。

 

ともえ「イエイヌちゃん、フレンズのにおいはする?」

イエイヌ「いえ、ただこっちからも、お宿と似たにおいがしてます」

ともえ「じゃあ、こっちにも温泉が?」

イエイヌ「わかりません、でも何かあります」

ともえ「ありがとう」

イエイヌ「いえ、これくらい・・・待ってください、かすかにフレンズのにおいがします」

ともえ「それって!」

イエイヌ「誰かがいるとは思いますけど、温泉のにおいのせいで」

 

イエイヌの鼻も温泉のにおいが混ざると効きが悪くなるようで、誰かがいるということしかわからなかった。

そうして慎重に進んでいくと、何かの建物が建っていた。

 

イエイヌ「あれは、何でしょうか?」

ともえ「あれって、建物だと思うよ、タンクとかあるから、工場かな?」

イエイヌ「たんく?」

ともえ「水の入れておく建物だよ」

 

工場と思われる場所は、白い建物とタンクが組み合わさってできていた。

だが近づいていくと、いろいろ壊れてたり、地面がえぐれていたり、壁がへこんでいたり、ボロボロであった。

 

ともえ「なにか、あったのかな?」

イエイヌ「私もお家とお宿しか知らないので、ほかの施設は」

ともえ「とにかく、手分けして探そうよ」

イエイヌ「そうですね、ともえさん、何かあったら目覚まし時計を」

ともえ「わかった」

 

ともえとイエイヌは別れ、施設の中でカピバラから頼まれたあの子を探す。

だが施設は意外と広く、あちこちで壊れたりしていた。

 

ともえ「なんだか、すごいことになってる」

 

配管が曲がっていたり、タンクが破けて中から温泉が漏れていたり。

こうなると、カピバラさんが言っていた子が無事かどうか不安になってきた。

そんな時、ともえの視界の端に、何かが映った。

 

ともえ「あれ、今のは」

 

ともえはその視界の端に移って物を確認するべく、奥へと進んでいった。

一方のイエイヌも鼻を頼りに探すが、こちらもうまくいってなかった。

 

イエイヌ「あちこちから温泉のにおいがするせいで、鼻が」

 

こちらでもタンクや配管から温泉が漏れていて、その匂いがイエイヌの鼻を鈍らせる。

そうして歩いていると、何かを蹴ってしまった、慌てて蹴った物を確認した時、イエイヌは驚愕した。

 

イエイヌ「セルリアンの残骸! もしかしてセルリアンが、ともえさんが危ない!」

 

イエイヌは必死に鼻を鳴らして、ともえのにおいをたどる。

彼女のにおいはなぜかわかる、そして、スケッチブックをひらいてなにかをスケッチしているともえを見つけた。

 

イエイヌ「ともえさん、大変です!」

ともえ「イエイヌちゃん、静かにして、今いいところだから」

イエイヌ「どうしたんですか、いった・・・」

ともえ「うん、めっちゃ絵になる」

 

ともえが何を熱心にスケッチしているのか、イエイヌがその視線の先を見たとき、思考が停止した。

そこにいたのは体にキラキラした光をまとう、虎のフレンズであった。

 

ともえ「はぁ、すっごくもふもふしてる」

 

ともえは心に従うままにスケッチしていたが、イエイヌは顔から血の気が引いていた。

あのフレンズはまずい、しかもこっちを見ている、相手も意味が解らず泊まってるだけ、そんな思考が相手にあるかわからないが、イエイヌのすべきことは一つだった。

 

イエイヌ「ともえちゃん!」

ともえ「うわぁ!」

 

イエイヌはともえの手をつかみ強引に連れて走り出す、次の瞬間。

 

虎のフレンズ「ぐがぁぁぁぁ!」

ともえ「うわぁ!」

イエイヌ「ひゃあ!」

 

虎のフレンズの咆哮が響き、さっきまでいた場所に拳を振り下ろしていた。

イエイヌとともえは必死に逃げるが、虎のフレンズは追ってくる。

 

ともえ「い、イエイヌちゃん、あの子は何なの!?」

イエイヌ「あれはビースト、なんでも壊すんです!」

ともえ「なんでも」

イエイヌ「さっきセルリアンの残骸もありました、きっとあいつとセルリアンがここで戦ってたんです!」

 

ビースト、初めて聞くが、ともえにもそれが危ない存在だと理解できた。

なぜなら、すぐ後ろでビーストの拳が振るわれるたびに、施設が壊れ、地面がえぐられるのだから。

二人は走って逃げるしかない、だが、ともえは何度か躓きそうになる。

 

イエイヌ「ともえさん・・・わたしが囮になりますから、その間に逃げてください」

ともえ「だめだよ! そんなことあたしにはできないよ!」

イエイヌ「ヒトを守るのは私の務め、だから」

ともえ「でも!」

 

一人でビーストの相手をするというイエイヌの提案を受け入れられないともえ、だが、このままでは二人ともビーストの一撃を食らうかもしれない。

ほかに方法は無いのか、でも、そう思っていた時だった。

 

???「コッチダヨ」

ともえ「! イエイヌちゃん、こっち!」

イエイヌ「ともえさん!?」

 

声が聞こえた、ともえの耳にはっきりと声が聞こえた。

その声のした方へ、こんどはともえがイエイヌを引っ張っていく。

そこはいくつかの配管が通ってる場所だった。

 

ともえ「こっち、こっちから声が」

イエイヌ「こえ? でも、私には」

ともえ「いいから」

 

ともえはイエイヌを引っ張って、小さな箱のような物の裏に身を隠す。

ビーストもすぐ近くまで来ている、その時だった、突如としてメキメキと何かこわす音と共に、大量の蒸気があたりに広がったのである。

 

ともえ「これ、温泉だよ!」

イエイヌ「すごいにおい、私の鼻が利きません」

 

イエイヌの鼻も利かないほど濃い温泉の蒸気は、二人の姿を包んで隠す。

ビーストもこれであきらめたのか、どこかへと去っていたようだ。

誰がしたのか、確認しようとしたとき、何かが二人の前に落ちてきた。

それは赤く、頭には耳があり、腕のようなしっぽが生えていて、サングラスをしていた。

 

ともえ「えっと、だれ?」

イエイヌ「ボス・・・に似てるけど」

???「ハジメマシテ、ボクハラッキービーストダヨ、ミンナカラハ「ラモリ」ヤ「ボス」トヨバレテルヨ、キミノナマエハナニカナ?」

ともえ「えっと、ともえです、ラモリさん」

イエイヌ「あ、あ・・・」

 

ラッキービーストの問いにすなおに答えるともに対し、イエイヌはまるでお化けでも見たような顔をしていた。

 

ともえ「イエイヌちゃん?」

イエイヌ「ボスがしゃべった! しかも赤いです! 普通は青いのに!」

ともえ「そうなの?」

ラモリ「ソウダネ、フツウノラッキービーストハアオイイロダケド、ボクハユキヤマミタイナバショデモメダツヨウニ、アカイイロヲシテルンダ」

ともえ「そうなんだ・・・ねぇ、イエイヌちゃん」

イエイヌ「なんですか、いま、すごく驚いてるんです」

ともえ「カピバラさんの言ってた子って、この子なんじゃない? 赤いよ」

イエイヌ「そういえば、赤い子って」

ラモリ「セルリアンニビーストガイタカラネ、オンセンヤドヘイケナカッタンダ、デモダイジョウブ、スグニジュンビスルカラマッテテ」

 

そういってラモリはどこかへ行ってしまう、少しすると袋に包まれた何かが入った籠を腕みたいなしっぽにつかんで帰ってきた。

 

ラモリ「ソラジャア、シュッパツスルヨ、ツイテキテ」

ともえ「はい、行こう、イエイヌちゃん」

イエイヌ「は、はい」

 

ラモリに道案内され、二人は宿に戻ってきた。

入り口にはカピバラがいて、ラモリと二人に気づいて駆け寄ってきた。

 

カピバラ「ボス、心配したんだよ」

ラモリ「ゴメンネ、デモダイジョウブ、ハイ、温泉ジャパリマンダヨ」

カピバラ「ありがとう、二人も食べるといいよ、おいしいよ」

ともえ「いただきます」

イエイヌ「私も」

 

ラモリからもらった温泉ジャパリまんは、いつも食べてるジャパリまんよりおいしかった。

 

ともえ「おいしいです!」

イエイヌ「はい、いつも食べてるのと違います」

ラモリ「温泉水ヲツカッテルシ、ナカミモソレニアワセテアルカラネ」

カピバラ「普通のもおいしいけど、温泉なら温泉ジャパリまんがさいこ~だよ」

 

温泉ジャパリまんに舌鼓を打つ3人、しばらくすると、カピバラが思い出したように口を開いた。

 

カピバラ「そうだった、お礼がまだだったね」

ともえ「お礼なんてそんな」

イエイヌ「そうですよ、フレンズなら助け合いは」

カピバラ「そうはいっても、そういえば、普段家から出ないイエイヌがどうしてここに?」

イエイヌ「実は」

 

イエイヌは、ともえと旅に出た経緯、そしてここへなぜ来たのかを話す。

 

カピバラ「人がいたころ、ねぇ」

ともえ「はい、それを知ってるフレンズさんがいればと思って」

イエイヌ「でも、ビーストが出てるなら、ほかのちほーのフレンズはこれませんよね」

カピバラ「そうだねぇ~ でも、私知ってるよ」

ともえ「本当ですか!」

イエイヌ「そ、そのフレンズはどこにいますか?」

カピバラ「どこにいるかは知らないけど、守護けもさんなら、ヒトのいたころにすごく詳しいよ」

ともえ&イエイヌ「「守護けもさん?」」

カピバラ「うん」

 

聞けば、守護けもさんは島のどこかにいて、人がいたころのことにとても詳しいらしい。

けど、カピバラは守護けもさんがどこにいるのかは知らなかった。

 

ともえ「そうですか、ありがとうございます、教えてくれて」

イエイヌ「はい、一歩前進です」

カピバラ「私は知らないけど、フレンズの集まるところに行けば、知ってる子がいるかも」

ともえ「でも、フレンズが集まる場所なんて」

イエイヌ「私も、ここくらいしか」

ラモリ「ソウイウコトナラ、ボクノデバンダネ」

ともえ「ラモリさん?」

イエイヌ「ボスさん?」

 

どこへ行けばいいのか悩む二人に、声をかけたのはラモリだった。

 

ラモリ「フレンズノアツマルバショニハ、ジャパリまんヲモッテイッテルカラ、アンナイデキルヨ」

ともえ「でも、それだとここにだれがジャパリまんを」

イエイヌ「それに、施設だってボロボロに」

ラモリ「ダイジョウブ、ナカマガヒキツグカラ、カピバラ、ソレデイイカナ」

カピバラ「大丈夫だよ、それなら、あれもつかうの?」

ラモリ「ソウダネ、アルイテパークヲマワルノハタイヘンダカラネ」

ともえ「あれ?」

イエイヌ「それって、なんですか?」

ラモリ「ツイテキテ」

 

ラモリの案内でお宿の裏手に、そこには大きな扉のついた建物があった。

そこを開けると、中には見慣れない機械があったが、ともえはそれがなぜかわかった。

 

ともえ「これ、バイク、だよね?」

イエイヌ「バイク?」

ともえ「うん、乗り物だよ、でも、右側に何かついてるね」

ラモリ「コレハ『ジャパリバイク』トイッテ、サイドカーガツイテルカラ二人カラ三人ノレルヨ、バッテリーモジュウブンダカラスグニシュッパツデキルヨ」

ともえ「でも、いいんですか? 勝手に持ち出して」

イエイヌ「そうですよ、あのお二人が」

カピバラ「あぁ、それはそのボスの持ち物だから」

ともえ「そうなんですか?」

ラモリ「温泉ジャパリまんノコウジョウヨリ、コッチノホウガホカンニテキシテルカラネ」

カピバラ「そういうことだよ」

 

問題ないということもわかり、ともえとイエイヌはラモリの指示のもと、ヘルメットをして、バイクを宿の一口まで移動させた。

ともえがバイクにまたがって、イエイヌはラモリを抱えてサイドカーに納まっている。

 

ラモリ「コマカナソウサハボクガスルケド、オオマカナソウサハトモエガシテネ」

ともえ「わかりました、かぴばらちゃん、お世話になりました」

イエイヌ「また来ますね」

カピバラ「気を付けてね」

ラモリ「ソレジャトモエ、エンジンヲカケテ」

ともえ「はい!」

 

ともえは足の部分の金具を押し込んでエンジンをスタートさせると、バイクはゆっくりと進み始める、サイドカーに乗ったイエイヌはカピバラが見えなくなるまで手を振っていた。

 

ともえ「カピバラさん、いい人でしたね」

イエイヌ「はい、で、次はどこに行くんですか?」

ともえ「そういえばそうですね、ラモリさん、どうするんですか?」

ラモリ「ソウダネ、トモエノバイクレンシュウモカネテ、ヤマヲイチドオリタラ、ハイウィエイニムカウヨ」

ともえ「ハイウェイ?」

ラモリ「ソウダヨ、ドンナバショカハツイテカラセツメイスルネ」

ともえ「わかりました」

イエイヌ「ハイウェイ、どこかで聞いたような・・・」

 

二人を乗せたバイクは雪にわだちを残しながら、山を下りていく。

次の目的、ハイウェイはどんなところなのか、二人は期待しつつ、風を楽しんでいた。

 





・・
・・・

カピバラ「二人とも、行っちゃったね」

カピバラ「それにしても、ヒトと会えるなんて」

カピバラ「なか、良さそうだったな」

カピバラ「これなら、あの人たちに伝えたほうがよさそう」

カピバラ「二人とも、喜ぶだろうねねね」

・・・
・・


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第3話 ハイウェイ

イエイヌちゃんの案内で雪山を登るともえちゃん。
吹雪いてきたけど、イエイヌちゃnの鼻で目的地の旅館に到着、だけどフレンズちゃんはほとんどいなかった。
お風呂にいたカピバラさんからこの島に少し前までいたヒトの話を着て、浴衣イエイヌちゃんを満喫。
吹雪が晴れた後、カピバラさんの依頼で人探し、たどり着いた工場はなぜかボロボロ。
それはビーストのせい、襲われたけど、赤いラッキービースト、ラモリさんのおかげで助かった二人。
そしてカピバラさんからのご褒美、ヒトのいたころに詳しいフレンズ、守護けもさんがいるとか。
ラモリさんからバイクをもらって、ともえちゃん、イエイヌちゃん、ラモリさんの三人で出発、


バイクの練習もかねて走るともえとイエイヌ、ラモリ。

森の小道を進みながら、ともえは少しずつバイクに慣れていく。

 

ともえ「イエイヌちゃん、お尻は大丈夫?」

イエイヌ「ふかふかだから大丈夫ですよ」

ともえ「よかった、ラモリさん、次はどうすればいいですか?」

ラモリ「コノママミチナリニススメバモクテキチダヨ、デモヒガクレテキタカラ、キャンプヲオススメスルヨ」

イエイヌ「暗くなると危ないんですか?」

ラモリ「ヒトハクライトヨクミエナクナルシ、ヤコウセイノフレンズトブツカルトアブナインダヨ」

ともえ「あたしもフレンズちゃん達を傷つけるのは嫌です」

ラモリ「ナラ、ハヤクバショヲキメヨウ、コノサキニアルタイヒジョガオススメダヨ」

ともえ「ありがとう、ラモリさん」

 

ラモリのアドバイスに従い、ともえは少し先にあった道が膨らんでいるところでバイクを止めた。

バイクから降りて伸びをするともえとイエイヌ、その間にラモリはバイクに積んでいた棒を地面に刺していた。

 

ともえ「ラモリさん、それは」

イエイヌ「棒と布、ですよね?」

ラモリ「コレハテントダヨ、スコシテツダッテモラッテモ、イイカナ?」

ともえ「いいですよ」

イエイヌ「わかりました」

 

三人はラモリが組み立てた布が張られた部分を持ち上げると、先に刺してあった棒と繋げる。

出来上がったのはバイクが入る広さの布製の屋根、さらに四方の丸めた布を下ろすと布の家になった。

 

ともえ「これがテントなんですね、まるで小さなおうちみたい」

イエイヌ「これがバイクに積んであったんですか?」

ラモリ「テントハチイサクテモチハコベルイエダカラネ、コレデアメガフットモダイジョウブダヨ」

ともえ「ありがとうございます、ラモリさん」

イエイヌ「ともえさん、ご飯にしませんか? お宿でもらったお湯がありますから、紅茶も飲めますよ」

ともえ「ありがとうイエイヌちゃん、ラモリさんは」

ラモリ「ボクハタベモノヤノミモノハイラナイカラダナンダヨ」

ともえ「そうなの?」

イエイヌ「そう言えば、ボスがジャパリまんを食べてるのは、見たことないですね」

ともえ「なら、ごめんね、ラモリさん」

ラモリ「キニシナイデ、ソウジャナイトボクタチダケデジャパリまんヲタベツクシチャウカラ」

 

ジャパリまんを食べて、紅茶を飲んで、暫くしたら二人は夢の中。

 

ラモリ「オヤスミ、イイユメミテネ」

 

ラモリは二人にそっと毛布をかけて、自身も省電力モードにいこうした。

 

・・

・・・

 

ーーちゃん、ーーちゃん。

 

誰だろう?あたしを呼んでるのは。

 

しっかりしてください、いっちゃダメです!

 

駄目? 何処に?

 

もう少し、もう少しですから。

 

何が、もう少し?

 

約束したんです、だから

 

約束?

 

・・・

・・

 

ともえ「・・・あれ、ゆめ?」

 

目覚めたばかりのともえは目を擦りつつ横を見る。

イエイヌが毛布にくるまってすやすやと眠っていた。

 

ともえ「かわいい、めっちゃ絵になる」

 

ともえは静にイエイヌの寝顔をスケッチする。

描き終えると、目覚めときから被っている青い羽のついた帽子をかぶり、静にテントを出た。

 

ともえ「朝の森って、何かありそう」

 

朝もやが広がる森は神秘的で、ともえの好奇心を刺激する。

 

ともえ「フレンズさんは・・・皆、まだ眠ってるのかな?」

 

木の上に寝てる子が居ないか、草むらのなかで寝てる子が居ないか、あちこち覗きながら進んでいくともえ。

そうして進んでいくと、彼女は水辺に出た。

そこは川や池ではなく、沼であった。

その沼には、生き物の気配はあったが、フレンズの住んでいる様子はなかった。

 

ともえ「さすがに、戻った方がいいか・・・な・・・」

 

戻ろうとした時、ともえは沼の淵にたたず女性に気が付いた。

黒いコートを羽織り、黒い日傘を手にしている。

顔はよく見えないが、耳と、コートの下からわずかにしっぽが見えていた。

急ぎ図鑑をとりだし調べてみれば、その耳はアードウルフのそれによく似ていた。

沼のほとりで静かにたたずむ、違和感がある、それが目を引き付けて離さない美しさにもなっている。

ともえは、声をかけずにはいられなかった。

 

ともえ「あの、そこで何をしているのですか?」

黒アードウルフ「何かしていなければ、ダメなのかしら?」

ともえ「へ?」

 

質問に質問で返され、戸惑うともえ。

だが、ここで続けなければもう話せない、なぜかそう思い、言葉を紡ぐ。

 

ともえ「えっと、沼に落ちたら危ないのに、なんでそこにいるのかなって」

黒アードウルフ「そうね、危ないかもね、でも」

ともえ「でも?」

黒アードウルフ「沼の底に沈んだものは、長い時を経てもそのまま、保存されることもある」

ともえ「?」

黒アードウルフ「飲み込まれれば危ない、でも、それゆえに変わらずに残る」

ともえ「えっと」

イエイヌ「ともえさーん! どこですかー!」

 

何を言っているのか聞こうとしたところで、イエイヌが自分を探す声に気が付いてそちらを見るともえ。

再び視線をアードウルフに戻したとき、彼女はそこにはいなかった。

 

ともえ「あれ、どこに」

イエイヌ「ともえさん! ここにいたんですね!」

ともえ「イエイヌちゃん」

 

ともえを見つけたイエイヌの顔は、安堵と怒りが混じっていた。

 

イエイヌ「起きたらいなくなってるんですから、心配したんですよ!」

ともえ「ごめんね、でも好奇心は抑えられなくて」

イエイヌ「もぅ、次からは私も一緒ですよ」

ともえ「うん、そうするね」

イエイヌ「わかってもらえてよかったです、さ、バイクに戻りますよ、ボスが待ってます」

ともえ「うん」

 

イエイヌに手を引かれバイクへと戻るともえ、時折振り返るが、あの黒いアードウルフの姿はなかった。

 

-----------

-----------

 

イエイヌとともにバイクまで戻ると、ラモリが出発準備を終えていた。

二人は朝食を済ませるとすぐにバイクに乗り込み、一路ハイウェイを目指した。

 

ともえ「ところでラモリさん、ハイウェイって、どんな場所なんですか?」

ラモリ「ソレハツイテカラノオタノシミダヨ」

ともえ「もう、そればっかり」

 

ともえはハイウェイのことが知りたいのだが、ラモリは教えてくれなかった。

 

イエイヌ「あの、ハイウェイなら、すこしだけ」

ともえ「イエイヌちゃん?」

 

意外な提案にともえは驚くが、イエイヌは話し始めた。

 

イエイヌ「たしか、フレンズが生まれる前にできたおっきな道、でも、パークにとってあまりよくないって、どこかで聞きました」

ともえ「そうなんだ、でも、いまはフレンズがいっぱいって」

ラモリ「イエイヌノセツメイモマチガッテナイヨ、ホラ、アレガハイウェイダヨ」

ともえ「あれ、ですか?」

 

ともえ達の目の前に現れたのは、無機質で灰色の、橋のようなものであった。

それが山の間にある、なんだかパークに似つかわしいものであった。

 

ともえ「これが、ハイウェイ?」

ラモリ「ソウダヨ、コノパークヲジュウダンスルジドウシャセンヨウドウロ、ジャパリハイウェイ計画デツクラレタドウロノイチブダヨ」

ともえ「こんなのがパーク中に?」

イエイヌ「なんだか、いやですね」

ラモリ「アンシンシテ、キョウシュウエリアダトココニシカナイヨ、トモエ、ヨコノミチヲススンデ」

ともえ「わかりました」

 

ともえはラモリの案内でハイウェイよこの道へと入っていく。

その道はハイウェイより高い場所にあるらしく、ハイウェイの全貌がよく見た。

 

ともえ「山を割ってる」

ラモリ「掘割ダネ、ハイウェイノチジョウブブンハパークノチケイヲオオキクカエテシマウンダ」

イエイヌ「それだと、フレンズさんたちに」

ラモリ「ソウダネ、ダカラ計画ハナクナッテ、ハイウェイハゆきやまチホートしんりんチホーヲみずべチホーヲトオラズニヌケルミチデシカナカッタンダヨ」

 

ハイウェイは道が四つあるが、そこは何とも寂しげであった。

使う人がいない道、パークにとっての負の遺産、だが、ラモリは言葉を続ける。

 

ラモリ「デモ、イマハチガウヨ」

ともえ「違う?」

イエイヌ「あ、誰か来ますよ」

ともえ「どこどこ!?」

イエイヌ「まえから、右の道」

 

ともえが目を凝らすと、ハイウェイ右側を疾走するフレンズの姿が。

全体的に白と黒の縞々、図鑑を広げて調べれば、それはシマウマであった。

装甲してる間にシマウマのフレンズは二人の横を走り去っていった。

 

ともえ「は、早かったね」

イエイヌ「はい」

ラモリ「イマハアアシテ、カケッコズキナフレンズガアツマルコースニナッテルンダ」

ともえ「い、痛くないんですか?」

ラモリ「フレンズダカラネ、ハイウェイノロメンハヘイタンデ、コースモキフクガオサエテアルカラ、ニンキナンダヨ」

イエイヌ「すごいです、そんなことまで知ってるなんて」

ラモリ「トクベツダカラネ、ジャア、ハイウェイノイリグチニムカオウカ」

ともえ「わかりました、案内、お願いします」

ラモリ「マカセテ」

 

シマウマを追うようにハイウェイ横の道を進んでいくと、大きな建物が見えてくる。

そこには広場があって、ラモリの指示でそこにバイクを止めると、二人は建物横の簡素なゲートをくぐる。

そこはさっきまでよりも広く、たくさんのフレンズが集まっていた。

 

ともえ「すごい! すごいよイエイヌちゃん! 絵になる子がいっぱい!」

イエイヌ「ほんとです、こんなにフレンズが集まってるなんて」

 

広場に居るのはゆきやまちほーのフレンズばかりでなく、先ほど見かけたシマウマのようなサバンナのフレンズに鳥のフレンズ、海のフレンズもいる。

目を輝かせるイエイヌ、それ以上に目を輝かせスケッチするともえ。

そのうちフレンズの中から、ともえ達に気が付き、近寄って来る者がいた。

そのフレンズはすらりとした体で、長い髪をポニーテールでまとめている、足元には左耳に布を巻いたラッキービーストを数体連れていた。

 

???「お、見ない顔だね、ここは初めてかな?」

ともえ「たぶん、あなたは?」

あおかげ「私はあおかげ、サラブレッドだ」

イエイヌ「さらぶれっど?」

ともえ「えっと、ほら、この子だよ」

 

ともえは図鑑をめくり、サラブレッドのページをイエイヌに見せた。

 

イエイヌ「足が速くて、きょうそうば?」

ともえ「かけっこが特異な子だよ」

あおかげ「その通りだよ、本当は芝生の上がいいんだけど、パークにはここみたいな走りやすくて観客のいる場所は少ないから」

イエイヌ「ボス、そうなんですか・・・って、ボスは?」

ともえ「あ、ラモリさんは、バイクの充電と、じょうほうしゅとく?で離れるって」

イエイヌ「私に一言言ってくれてもいいのに」

あおかげ「ちょっとまて、ともえ、といったか? 君はラッキービーストと話せるのか?」

ともえ「はい、それが?」

 

あおかげは、ともえに抱きつき頬擦りし始める。

突然のことでともえもイエイヌも反応できなかった。

 

あおかげ「この感覚、この匂い、やっぱりヒトだ!」

ともえ「えっ、えっ?」

あおかげ「フレンズかな?違うのかな?調べたいから私と」

イエイヌ「ともえさん!」

あおかげ「あ、ちょっと!」

 

イエイヌはあおかげとともえを強引に引き離すと、ともえの腕をつかんで連れて行ってしまった。

 

 

あおかげ「行っちゃった、あの子がフレンズだといいんだけど」

 

だから、あおかげがもしら言葉を聞くこともなかった。

一方のイエイヌはともえをつれて広場にある大きな建物の前にいた。

ここにもたくさんのフレンズが集まっていたが、広場ほどでもなかった。

 

ともえ「イエイヌちゃん、ごめんね」

イエイヌ「まったく、あおかげさんも悪気はないと思いますけど、気を付けてくださいよ」

 

怒られつつもほほえましい話をしていると、またもともえの好奇心が動き始める。

 

ともえ「あ、あそこにいる子、めっちゃ絵になりそう!」

イエイヌ「あ、行ってるそばから」

 

ともえはスケッチブック片手に当たらく見つけた子に接近する。

頭に立派な角をもち、オレンジのジャージを羽織り、健康的な脚部をもつ彼女は、堂々としていた。

 

???「おや、私に興味があるのか?」

ともえ「はい! スケッチさせてください!」

???「・・・え?」

ともえ「いいですよね!」

???「いや、顔が近いぞ、少し離れろ」

 

顔を近づけ、鼻息荒く頼み込むともえ、さすがの相手も引いていた。

そんな時であった。青色で変な文字の書いてるTシャツに短パンの少女が怒鳴りながらやってきたのは。

 

???2「てめぇ、プロングホーン様に何してやがる!」

ともえ「うわぁ」

プロングホーン「ロードランナー、助かった」

ロードランナー「いえ、プロングホーン様のためなら」

イエイヌ「すいません、ともえちゃんが迷惑をかけて!」

 

追いついたイエイヌが二人に頭を下げる、冷静になったともえも頭を下げる。

 

ロードランナー「この」

プロングホーン「私は気にしていない、見とれて暴走してしまったんだ、よくあることだ」

ロードランナー「プロングホーン様が言うなら」

ともえ「本当にすいません、改めまして、あたしはともえ」

イエイヌ「私はイエイヌです」

プロングホーン「私は」

ロードランナー「こちらのお方はプロングホーン様、このロードランナー様のお師匠様だ」

プロングホーン「・・・ゴマ、挨拶は一人でもできるぞ」

ロードランナー「ご、ごめんなさい、後そのあだ名は」

ともえ「ゴマ?」

プロングホーン「頭の斑点がゴマに見えたからな」

イエイヌ「言われてみれば」

 

プロングホーンに言われまじまじとロードランナーの斑点を見つめる二人、ともえはさりげなくスケッチもしている。

 

ロードランナー「ちょ、そんな近くで見るな、後離れろ、これからプロングホーン様の為の準備が」

プロングホーン「そう言えば二人とも見ないか顔、ここは初めてか?」

ともえ「たぶん」

イエイヌ「私も」

プロングホーン「そうか、ゴマ、二人に個々を案内してやってくれないか?」

ロードランナー「プロングホーン様!?」

プロングホーン「準備は一人でもできる、しっかり案内してやってくれ」

ロードランナー「プロングホーン様の頼みとあらばぜひ」

ともえ「ありがとうございます、ロードランナーちゃん、よろしくお願いします」

ロードランナー「プロングホーン様の頼みだからな」

 

ロードランナーに連れられ、二人はこの施設を見て回ることになった。

 

ともえ「ここは、元々はなんだったんですか?」

ロードランナー「さーびすえりあって言ってたそうだぜ、今はレースの運営本部だけどな」

イエイヌ「運営?」

ロードランナー「かばんってのが提案したんだって、プロングホーン様が教えてくれたんだ」

イエイヌ「かばんさんが?」

ロードランナー「好きなだけかけっこができる場所、それでここを見つけて、いろいろルールを決めたんだって」

ともえ「かばんさんは、優しい人だったんですね」

ロードランナー「まぁ、俺はあったことないけどな」

 

運営本部には外ほどではないが、いろいろなフレンズ、そしてラッキービーストがいた。

みな腕には布を巻いて、スタッフであることをアピールしていた。

 

ともえ「いつもこんなににぎわってるんですか?」

ロードランナー「かけっこにばすてき競争、いろんな勝負があるからいつも誰かいるぜ」

イエイヌ「いつも、それはすごいです」

ロードランナー「まっ、今回ほどじゃないけどな」

ともえ「今回?」

ロードランナー「おぅ、なんたって、今回は商品があるからな、ほら、あれだ」

 

ロードランナーの指さす先、一段高くなったそこには、深紅の色を持つ、美しい羽根が透明な箱の中に入っていた。

二人は、その美しさに目を奪われていた。

 

イエイヌ「きれい・・・ゴマさん!あれはなんですか!」

ロードランナー「ゴマじゃねぇ!・・・あれは、その」

ともえ「ねぇ、あれ近くでスケッチしていい!?」

ロードランナー「いいわけないだろ!」

 

興奮気味の二人に押されるロードランナー。

あれは何か書いていいか、そうやって騒いでいると、別のフレンズが近づいてきたのにロードランナーが気が付いた。

そのフレンズは、ワイシャツとミニスカート、なにより腰には細長いものを下げていた。

 

ロードランナー「いいところにきたじゃねぇか、サーベルタイガー、助けてくれ!」

サーベルタイガー「おや、ゴマちゃん、珍しいね、プホンと一緒じゃないなんて」

ロードランナー「この二人の案内をプロングホーン様に頼まれたんだよ」

サーベルタイガー「なるほど、そこの二人、少しいいかな?」

 

声を掛けられ、サーベルタイガーの存在にようやく二人は気が付いた。

だが、ともえは彼女を見て震えていた、サーベルタイガーもその理由に気が付いた。

 

サーベルタイガー「・・・あぁ、はじめまして、そんなに怖がらないで、このサーベルはあくまで身を、大切なものを守るためのものだから」

ともえ「へ、あ、は、はじめまして、ともえです」

イエイヌ「イエイヌです、あなたは?」

サーベルタイガー「サーベルタイガーよ、普段は流れのハンターだけど、今はレースと浄炎の羽根を警備してるの」

ともえ「浄炎の羽根、それがあのきれいな羽根の名前ですか?」

イエイヌ「不思議な名前ですけど、なんだかしっくり来てますね」

サーベルタイガー「そうね、でも、その由来も不思議なのよ」

 

サーベルタイガーは、浄炎の羽根について説明を始めた。

 

サーベルタイガー「あの羽根は砂漠のさらに先で見つかったの、そこは火山がたくさんあって、フレンズもいない場所」

ともえ「フレンズがいない場所、そんな場所があるんですか?」

イエイヌ「ともえさん、いくらパークでもそういう場所はありますよ」

ロードランナー「長から入るなって言われてる場所もあるしな」

サーベルタイガー「そうね、でもそこは昔、特別なフレンズの縄張りだったとか、それに見つかった場所も併せて、あの羽根は悪いものと、火から持ち主を守ってくれるって言われてるの、あれそのものが、火の化身だからって」

ともえ「火の化身、あ、だから浄炎の羽根、悪いものからも火からも守るから」

サーベルタイガー「その通りよ」

イエイヌ「火は怖いですもんね」

ロードランナー「まっ、その羽根はもうすぐプロングホーン様のものになるけどな」

サーベルタイガー「そうなるといいわね」

 

話を聞いて、もう一度羽根を見ると、確かに神々しさがあるきがしてきた。

そこでふと、ともえは思い出した。

 

ともえ「あ、サーベルちゃんは、流れのハンター、でしたよね?」

サーベルタイガー「そうだったけど、それがどうしたの?」

ともえ「えっと、守護けもさんって、どこにいるのかとか、知りませんか?」

イエイヌ「そうでした、ともえさんと私は、それが知りたくてここに来たんでした」

ロードランナー「かけっこやプロングホーン様がみたくてきたんじゃねぇのかよ」

サーベルタイガー「そうね・・・ごめんなさい、知らないわ、でも私から聞いておくわ」

ともえ「いいんですか?」

サーベルタイガー「誰かを探すというのは、大変なことだもの、協力するわ」

ともえ「ありがとうございます」

イエイヌ「あとで聞きに来ますからね」

 

サーベルタイガーに何度も頭を下げて放れるともえとイエイヌ。

ある程度離れたところで、ともえはこっそりとイエイヌに質問する。

 

ともえ「ねぇイエイヌちゃん、ハンターって?」

イエイヌ「知らなかったんですか? ハンターはセルリアンを退治してるフレンズで、本当は数人でチームを作ってるんですよ」

ともえ「そうなんだ、サーベルちゃんも、チームがいるのかな?」

イエイヌ「どうなんでしょう、私もよく知らないんで」

ロードランナー「二人とも、何の話をしてるんだ?」

ともえ&イエイヌ「いえ、何も」

 

誤魔化しつつ、ともえは話題を変える。

 

ともえ「そうだゴマちゃん、プロングホーンさんって、かけっこが凄いの?」

ロードランナー「あったり前だろ、なんせプロングホーン様と張り合えるやつを探す方が難しいんだぜ」

イエイヌ「そんなにですか?」

ロードランナー「信じてないな? よーし、特別にこのロードランナー様がプロングホーン様の凄さをお前達に教えてやる」

ともえ「お願いします」

イエイヌ「ありがとうございます」

ロードランナー「まず、その走りが最高なんだ、足だけじゃなくて全身を使って走るんだ、それがとっても美しくてな」

イエイヌ「えっと」

ともえ「へぇ、それで」

・・・

ロードランナー「それでな、そのときなびく髪の毛がだな」

ともえ「絵になる、絶対絵になる!」

イエイヌ「あの」

・・・

ロードランナー「で、細かな変化にも気づくロードランナー様はそれは素晴らしくて・・・って、もうすぐレースが始まる時間だ、いそがねぇと!」

ともえ「そうだったんですか、いそうごう、イエイヌちゃん!」

イエイヌ「は、はい・・・(やっと終わった)」

 

ロードランナーによるプロングホーンの自慢は長々つづき、ともえちゃんは満足そうだがイエイヌは疲れていた。

広場に戻ると、そこには木でできた階段のようなものが出現していた。

 

ともえ「これは?」

イエイヌ「おっきいですね」

ロードランナー「湖畔のビーバーとプレーリーが作った観客席だってよ」

ともえ「大丈夫なの?」

ロードランナー「あんいん橋を造ったコンビだぜ、大丈夫に決まってるだろ」

イエイヌ「あ、あそこにボスが」

ともえ「あ、ラモリさんが」

ロードランナー「なんだ? あの赤いボスはお前らの知り合いか?」

ともえ「はい、一緒に旅を」

 

ともえ達はラモリのもとへ向かう、観客の一人としてみているようであった。

 

ともえ「ラモリさん、バイクはもういいんですか?」

ラモリ「仲間ニマカセタカラナ、今ハココデフレンズノ今ヲ記録シテイルンダ」

ともえ「そうですか、あれ? ラモリさん、しゃべり方変わってません?」

イエイヌ「なんだか、聞き取りやすくなった気がします」

ラモリ「データノ整理、バージョンアップ、エラーノ改善ヲシテキタカラ、前ヨリモ自然ニ会話ガ出来ルンダ」

ともえ「よくわかんないけど、凄い!」

ロードランナー「おい、このボスしゃべってるぞ」

イエイヌ「ともえさんが居るとおしゃべりできるみたいで」

ロードランナー「そういえば、ヒトとは喋れるって、プロングホーン様が言ってた」

 

そんなことを話していると、周囲に耳障りな音が一瞬響き、ついではつらつとした声が響く。

 

???『あー、テステス、おっし、良好やな、只今より、ハイウェイレースを始めるで、司会は美人お姉さんヒョウと」

黒ヒョウ『解説のクロヒョウやで、よろしゅうなー』

ヒョウ『今日はみずべちほーを超えて、しんりんちほーまで走るロングラン、出場選手の入場や』

クロヒョウ『カルガモのお姉ちゃん、頼むでー』

 

クロヒョウの合図で、黄色い旗を持つカルガモを先頭に、選手たちが一列に並んで入場してくる。

同時に観客席から黄色い声が上がる、当然、ともえちゃんとイエイヌの隣でも。

 

ロードランナー「プロングホーン様! ぶっちぎってください!」

イエイヌ「ゴマさん、少し声を抑えて」

ともえ「あおかげちゃんに、プロングホーンさん、それに見たことない子も、めっちゃ絵になる―!」

イエイヌ「ともえさんはいつも通りですね」

 

二人より少し冷静なつもりのイエイヌだが、レースに対するわくわくがどんどん大きくなっていた。

 

ヒョウ『ここで選手の紹介や、先頭はシマウマ、サバンナから出張やな」

クロヒョウ『人気もなかなかやけど、新人やから未知数やで』

シマウマ「がんばるですぅ」

 

ヒョウ『続いてはサラブレットのあおかげ、長距離に現れたニューウェーブ、一番人気や』

クロヒョウ『でもまだ試合数が少ないから、区間部門の王者は狙えへんで』

あおかげ「すぐにそのタイトルは私のものになるよ」

 

ヒョウ『3人目、短距離の王者、チーターや・・・って、大丈夫かいな?』

クロヒョウ『持久力も大切な長距離のロングランは不利なんやけど、なんで出てるんやろ?』

チーター「聞こえてるわよ、そんなの、走りたいからに決まってるじゃない」

ヒョウ&クロヒョウ『・・・』

 

ヒョウ『き、気を取り直して4人目いくで、長距離の現在王者、プロングホーンや』

クロヒョウ『あおかげに地位を狙われてるけど、試合数の関係でまだまだ安全やね』

プロングホーン「王者とかには興味はない、走るのが好きだから走ってる、それだけだ」

 

ヒョウ『さぁ最後行くで、飛び入り参加のイタリアオオカミや』

クロヒョウ『露骨な賞品狙いやな、てか、手に入れてどうするん?』

イタリアオオカミ「それはもちろん、タイリクお姉さまにプレゼントするにきまってます!」

ヒョウ『あー、ほな、頑張りや』

クロヒョウ『賞品の話が出たさかい、ここで今回の賞品について説明するでー』

 

その言葉とともに、観客席からよく見える場所に、サーベルタイガーが浄炎の羽根が入ったケースを押してきた。

 

ヒョウ『今回の賞品はこれ、浄炎の羽根、こんなきれいな赤い羽根、見たこと無いで!』

クロヒョウ『これは山火事や炎から守ってくれるっていう噂もある、とってもありがたい羽根なんやで』

ヒョウ『砂漠の向こうの火山地帯でも燃えずに残ってたからな、ほんとにありがたい羽根やったりして』

クロヒョウ『そういうわけやから、皆さん頑張りやー』

 

賞品の登場で選手のテンションも上がっている・・・と思いきや、上がっているのはイタリアオオカミだけやった。

 

ともえ「皆さん、賞品よりも走ることが好きなんですね」

イエイヌ「本当です、イタリアオオカミさん以外は、体をほぐしたりしてます」

ロードランナー「当たり前だろ、走るのが好きじゃないやつが、参加しても長続きしないっての」

 

そんな話をするうちに、レース開始の時間になった。

いつの間にか選手達の左斜め前に、謎の木箱が置かれていた。

 

ヒョウ『そんじゃ、カウント始めるで、ゴー』

黒ヒョウ『よん』

 

カウントと共にラッキービーストが木箱の裏から飛び出る。

 

ヒョウ『さん』

黒ヒョウ『にー』

ヒョウ『いち』

ヒョウ&黒ヒョウ『『スタート!』』

 

ヒョウ姉妹、そして五体のラッキービーストが一斉に尻尾を振る。

待ってましたとばかりに、選手達が勢い良く駆け出していく。

 

ともえ「うわっ、皆速い!」

イエイヌ「スタートから飛ばしてますね・・・あれ?」

ともえ「あ、ゴマちゃんは?」

 

二人がロードランナーを探すと、彼女は空中にいた。

 

ともえ「ゴマちゃん、どこいくの?」

ロードランナー「どこって、ゴールに決まってるだろ」

イエイヌ「今からですか?」

ロードランナー「今からじゃないと間に合わないんだよ、それじゃ」

 

それだけ言うとロードランナーはゴールに先回りするため飛んでいく。

見れば他にも鳥のフレンズが仲のいい子を抱えたりしながら飛んでいた。

 

ともえ「どうしよう、でもレースの様子や解説も聞きたいし」

イエイヌ「その前に、追い付けますか?」

ラモリ「安心シロ、解説ハラッキービーストノ通信機能ヲ利用シテイル、バイクノラジオカラナガス」

ともえ「ありがとうラモリさん、そうと決まれば行くよ、イエイヌちゃん!」

イエイヌ「ともえさん、待ってくださーい!」

 

ラモリを脇に抱えて走り出すともえ、それを追いかけるイエイヌ。

バイクに飛び乗ると、ゴールを目指し走り出す。

 

ともえ「ラモリさん、ルートは?」

ラモリ「バイクナラ先回リデキルルート、山越ルートダナ」

イエイヌ「大丈夫ですよね?」

ラモリ「二車線道路ダカラ、今ノトモエデモ安心ダ」

イエイヌ「それなら」

 

二人のバイクが山越の道に入る頃、ロードランナーはゴールを目指し飛んでいた。

 

ロードランナー「レースはあおかげが先頭、プロングホーン様が二番手、シマウマがぴったりついてチーター、イタリアオオカミ、プロングホーン様、ぶっちぎってください!」

 

聞こえてなくとも声援を送るロードランナー。

右手の山との距離を見たとき、見たくないものが視界に入った。

 

ロードランナー「あれは・・・大変だ!」

 

ロードランナーは急いで見たくないものへと向かう。

同じ頃、ともえ達にも良くない知らせがきていた。

 

ラモリ「警告、サンドスターローノ濃度ガ上昇、付近ニセルリアガイル恐レアリ」

イエイヌ「セルリアン!? 何処に!」

ラモリ「濃度上昇率カラ、コノ山ヲ越エタ先ト推測」

ともえ「近くにフレンズちゃんは?」

ラモリ「不明ダガ、ココデヤリ過ゴスベキダヨ」

ともえ「どうして」

ラモリ「トモエハヒトダカラネ、フレンズノ生命ヨリ優先サレルンダ」

ともえ「でも」

イエイヌ「ともえさん、自分の身は自分で守るのがパークの当たり前なんです、やり過ごすのも悪くはないんです」

ともえ「イエイヌちゃん・・・」

 

確かに、イエイヌの言う通りかもしれない。

だが、ともえはそれで納得できるほど大人じゃなかった。

 

ともえ「なら、フレンズちゃんがいないか、見てからでも」

イエイヌ「ともえさん?」

ラモリ「推奨デキナイ」

ともえ「いなかったら、隠れるから」

イエイヌ「・・・わかりました、見るだけですよ」

ともえ「うん、約束、バイクを出すよ」

ラモリ「推奨ハシナイ、ガ、トモエガソウシタイナラ」

 

バイクを走らせ、山を越えると道は下り坂に。

そのまま降りていくと、突如土煙が轟音と共に巻き上がった。

その土煙の中にいたのは、セルリアンだった。

 

ともえ「今のは!」

イエイヌ「間違いない、セルリアンです!」

ラモリ「データ検索、大型ガブノミセルリアンニ酷似」

ともえ「ガブノミ?」

ラモリ「昔さばくちほーデ確認サレタ、危険ナセルリアンダヨ」

イエイヌ「誰かが対峙してます、あれは」

ともえ「あれ、ゴマちゃん!」

 

トリケラテプスの様な外観を持つセルリアンの周りを飛んでいるのは、先ほど別れたロードランナーだった。

 

ともえ「どうして・・・まさか!」

イエイヌ「ともえさん、どうしました?」

ともえ「ラモリさん、ガブノミセルリアンが進む方向に、何がありますか?」

ラモリ「ガブノミセルリアンノ進路予測、ハイウェイガアルヨ」

イエイヌ「ハイウェイって、今レースの最中ですよ!」

 

あの大きなガブノミセルリアンをロードランナー一人でどうにかするには限界がある。

それにレース中のハイウェイにガブノミセルリアンが突っ込んだら、そうでなくてもハイウェイが壊されたら。

そう思うと、ともえはじっとしていられなかった。

 

ともえ「助けに行かなきゃ!」

イエイヌ「だめですよ!」

ラモリ「アノ大型セルリアンヲ倒セル確率ハ低イ、今ハトモエノ生命ヲ優先スル」

ともえ「でも!」

 

ともえもわかっている、二人は自分を思って止めていることを。

でも、ともえにも貫きたい思いがあった。

 

ともえ「ゴマちゃんがあそこにいるのに、何もしてあげれないなんて、見捨てるなんてしたくない!」

イエイヌ「ともえさん、でも」

ともえ「イエイヌちゃんも、ゴマちゃんが心配じゃないの!?」

イエイヌ「・・・助けに行きたいです、でも、それでともえさんがけがをしたら意味がないんです、自分の身は自分で、助けるのも、残酷でも、それがパークで生きるということなんです」

ともえ「イエイヌちゃん・・・あたしは大丈夫だから」

イエイヌ「でも、でも」

 

 

イエイヌは、ともえが傷つくのを見たくない、悔しいが、あのセルリアンに自分では勝てない。

勝てない相手に挑まない、それも身を護るすべだ、でも。

短い間でも一緒に過ごしたロードランナーを見捨てたくなかった。

 

ラモリ「トモエ、チョットイイカナ?」

ともえ「ラモリさん?」

ラモリ「今ロードランナーヲ助ケタイ、ソレナラ聞カナイトイケナイ事ガアル」

ともえ「いけないこと?」

ラモリ「今後モ、タトエトモエト仲良クナイフレンズデモ、トモエハ助ケラレル?」

ともえ「・・・」

 

一時の感情で無謀な助けに行きたいのか、それとも知り合いだから助けに行きたいのか。

理由付けをして助ける、助けないを決めるのか、ラモリからの重い質問。

それを即決でこたえられるほど、ともえは大人ではなかった。

 

ともえ「助け、たい、助けてあげたい」

ラモリ「・・・ワカッタヨ、本当ノ答エハコレカラノ行動シダイダネ、ヤサシクハデキナイヨ」

ともえ「ラモリさん、イエイヌちゃん、あたしの後ろに」

イエイヌ「わかりました!」

 

イエイヌはともえの後ろに移動して側車を開け、ラモリが補助しながら飛び出さないぎりぎりの速度で山道を下っていく。

その間にもセルリアンは前進し、ロードランナーが進路を変えようと奮闘する。

 

ロードランナー「てめぇ、ロードランナー様を、無視すんじゃねぇ!」

 

セルリアンの周りを走りつつ、時折飛び上がっては蹴りを入れ注意を引こうとするがうまくいかない。

セルリアンはロードランナーを意に介さずハイウェイを目指していた。

 

ロードランナー「この、レースの邪魔はさせねぇ!」

 

何度も攻撃するが、セルリアンはびくともしない。

それでも攻撃してくるロードランナーが鬱陶しくなったのか、その歩みを止めた。

 

ロードランナー「やった、諦めたのか?」

 

安堵するロードランナー、だが、セルリアンは上半身を振り上げると、勢いをつけ地面を叩きつける。

その衝撃は凄まじく、ロードランナーは宙をまった。

 

ロードランナー「しまっ」

 

飛べるが上手くない彼女は、体制を変えられず、そのまま地面に叩きつけられた。

 

ロードランナー「がっ・・・ちく、しょう・・・」

 

全身を痛みが覆い、満足に動けない。

そんな彼女を食べるつもりか、セルリアンが顔を近づける。

 

ロードランナー「ぷろんぐ、ほーん、さま、ごめん、なさ、い」

 

助かることをあきらめようとした、その時であった、あたりにけたたましい音が響いたのは。

そして聞きなれない音が聞こえてくる、それは徐々に大きくなっていく。

 

ともえ「ゴマちゃん!」

ロードランナー「とも・・・え?」

イエイヌ「ラモリさん!」

ラモリ「マカセロ、トモエ、ソクドヲイジシテ」

ともえ「うん!」

 

側車にいるラモリがアームを伸ばし、地面に横たわるロードランナーを拾い上げる。

ともえはバイクを操りこけそうになりながらもセルリアンの後ろへと抜ける。

 

ともえ「ゴマちゃん、しっかりして!」

ロードランナー「そんなに、叫ぶなよ、もっと痛くなる」

イエイヌ「寝たら噛み付きますから」

ラモリ「スグニ手当ヲスルヨ、デモ、イソイデセルリアンモ対処シナイト」

 

ラジオから、レースの様子が伝わってくる、ラモリの頭の中にある地図とリンクしているなら、まずい状況だった。

 

ヒョウ『レース前半、皆体力温存で、もうすぐ半分やな』

黒ヒョウ『まぁ、山の曲道の先は走りやすくなるしなー』

 

ともえ「山の先って、ラモリさん、今セルリアンが進んでる先って」

ラモリ「チョウドソコサ、通信モウマクイカナイ」

イエイヌ「なんとか、皆に知らせないと」

ロードランナー「レースを、止めるのか?」

ともえ「セルリアンがこの一体だけって、あたしは思えないの」

ロードランナー「・・・わかった、で、目の前のはどうするんだ」

 

目の前のセルリアンはハイウェイ目指して進んでいる、ともえ達では止めれそうになかった。

何かないか、今の持ち物を思い出すが、使えそうなものがない。

 

ともえ「せめて、視界を遮れたら」

イエイヌ「視界・・・さえぎる・・・知らせる・・・」

ともえ「イエイヌちゃん?」

イエイヌ「!、ゴマさん、足元に筒がありませんか?」

ロードランナー「筒?ちょっと待て・・・これか?」

 

ロードランナーが足元から見つけたのは、赤い筒だった。

それ奪い取ると、イエイヌはキャップを外した。

 

イエイヌ「ともえさん、もう一度セルリアンの前に出れますか?」

ともえ「わかった、ところでそれは?」

イエイヌ「時間がないんです、ゴマさん、ラモリさん、ありったけ足元から出してください」

ロードランナー「わかった」

ラモリ「・・・ソウイウコトカ」

 

ともえはバイクを操り再びセルリアンの前へと出る。

セルリアンは気にも留めていない、今も前進している。

それを確認したイエイヌは外したキャップをひっくり返し、筒の先端にこすりつける。

するとそれは赤い煙を吐き出し始める、イエイヌはそれを横切ってる間は掲げ続け、赤い煙の壁が出来上がる。

セルリアンは、歩みを止めた、それを見たイエイヌは煙を出す筒を風上目掛け投げた。

 

ともえ「イエイヌちゃん、今の何!?」

イエイヌ「教わったんです、パークの乗り物には助けを呼ぶための煙を作る道具があるって、どうやって使うかって」

ラモリ「発煙筒ダナ、パークノ保安車両ニハ複数積ンデアル、セルリアントノ遭遇時ハコレヲ使ウ決マリダッタ、タダ、僕ジャツカエナイカラネ」

 

そういってる間にも、イエイヌは次の発煙筒に着火する、ともえもセルリアンの前を通り支援する。

そうしてるうちにセルリアンは赤い煙に囲まれる。

 

ヒョウ『なんや、あの赤い煙は』

黒ヒョウ『火事? ってボスたちの様子がおかしいで?』

ラッキービースト『緊急事態発生、緊急事態発生』

 

ともえ「皆も気が付いたみたい、そろそろ逃げるよ」

イエイヌ「はい!」

ロードランナー「あいつ、完全に立ち往生してるぜ」

 

セルリアンの存在が伝わったのを確認しともえは来た道を戻り、山の中へ消える。

逃げている間、頭上を誰かが通過したが、それを確認する余裕はなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あの後、レースは大型セルリアンの出現により中止され、セルリアンはハンターにより退治された。

ロードランナーはラモリの治療のおかげでレースの運営本部につくころには元気になっていた。

 

プロングホーン「ともえ、イエイヌ、ロードランナーを助けてくれて、本当にありがとう!」

ともえ「頭を上げてください!」

イエイヌ「そうですよ、私は一度見捨てようとしたんですし」

プロングホーン「それでも助けてくれた、二人はロードランナーの恩人だ」

 

ともえとイエイヌはプロングホーンからずっと感謝の言葉、そして頭を下げられていた。

ロードランナーも頭を下げているが、無言だった。

 

ともえ「あたしは、助けたくて助けたの、ただ、その理由がわからないから」

プロングホーン「なに、それだけで十分だ、助けてもらったのは事実だ」

ともえ「それに、セルリアンを止めたのはイエイヌちゃんだし、そういえばあれって、誰に教わったの?」

イエイヌ「・・・わかりません、ただ、大切なヒトのためだったとは、思います」

ともえ「イエイヌちゃん、ありがとう、思い出してくれて」

 

ともえはゆっくりとイエイヌを抱きしめて、その頭をやさしくなでる。

イエイヌも少し不安な顔から、穏やかな顔になる。

 

プロングホーン「それでなんだが、ともえ、君に受け取ってもらいたいものがあるんだ」

ともえ「いえ、お礼なんて」

プロングホーン「なに、これは私からだけじゃないからな」

 

そういってプロングホーンはともえの首にわっかを通す、そのわっかについていたのは、浄炎の羽根だった。

 

ともえ「これって、レースの」

プロングホーン「ハイウェイを守ってくれたお礼で、皆で決めたんだ、しかし、コースに立ち入る小さめのセルリアンはいたが、あんな大きいのは初めてだ」

イエイヌ「ともえさん、ここで受け取らないと、皆さんに失礼ですよ」

ともえ「いいのかな?」

プロングホーン「これからも旅をするなら、持っていたほうがいい、それと・・・ほら、自分で言うんだろ」

 

プロングホーンが背中をたたいて、ロードランナーを前に出す。

どこか目線を外しつつも、口を開いた。

 

ロードランナー「その、なんだ、二人には助けてもらったし」

ともえ「ゴマちゃん?」

ロードランナー「パークのおきては自分の身は自分で守るで、助けてもらったからには・・・」

イエイヌ「?」

ロードランナー「その、なんだ、恩返しってやつか、ともえ、お前のたびについて行くって、ことで、いいか?」

ともえ「いいの?」

イエイヌ「プロングホーン様とも、離れ離れになりますよ?」

ロードランナー「そりゃ、そうだけどさ、二人はプロングホーン様の恩人でもあるし、それに」

プロングホーン「ここらで旅に出るのもいいだろう、すまないが、君たちのたびに同行させてやってくれ」

ともえ「かまいません、あたしは大歓迎です!」

イエイヌ「私もです!」

ロードランナー「そ、そうか、よし、改めてよろしくな、ともえ、イエイヌ!」

ともえ「こちらこそ、あらためてよろしくね、ゴマちゃん」

イエイヌ「これからは、仲間ですね」

 

笑顔で差し出された手に、笑顔で手を差し出して、握手をする。

こうしてともえ達のたびに、新しい仲間が加わった。

そして・・・。

 

プロングホーン「そうだ、フレンズの集まる場所を探してるそうだが」

ともえ「そうだった、どこか知りませんか?」

プロングホーン「たしか、しんりんちほーで大きなライブ?があるらしい」

イエイヌ「ライブ・・・それなら、フレンズがいっぱい来ますね!」

ロードランナー「さっすがプロングホーン様、頼りになります!」

ともえ「ありがとうございます、なら、次はそこへ」

イエイヌ「はい!」

ロードランナー「おう!」

 

次の目的地も決まり、にぎやかな旅は続く。





・・
・・・

しろげ「ここは、裏資料の通り、シェルターみたいですね」
くりげ「にしては、きれいだけど、足跡があるよ」
しろげ「出て行った足跡はあるけど、入ってきた足跡はない」
くりげ「もしかして、お化け?」
しろげ「そんなわけないでしょ、奥に行けばわかるかも」

しろげ「これって、これって、あれよね!?」
くりげ「誰かが使ったんだ、そうだよ!」
しろげ「動かしたのは、おそらく・・・」
くりげ「それしかないよ、だってこれに入るってことは、誰かが入れたってことだもん!」
しろげ「急いであおかげさんに報告です」

・・
・・・
・・

あおかげ「わかった、こっちも報告したいことがある、みずべのインターで落ち合おう」

あおかげ「これは、ますますまずいことになったわね」
あおかげ「はやくともえを見つけないと」
あおかげ「もし何かあれば、パークの危機よ、ラッキービースト、もう少し付き合ってちょうだい」
ラッキービースト「ワカッタヨ、任務期間延長、引キ続キ君タチノ指示ニ従ウヨ」

・・・
・・


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第4話 音楽祭

ラモリの案内で道を進むともえとイエイヌ。
途中で野宿をしたり、ともえちゃんが不思議なフレンズにあったり。
たどり着いた場所はハイウェイ、そこはかけっこ好きなフレンズのコース。
そこで知り合ったプロングホーン、ロードランナー(愛称ゴマちゃん)、ハンターのサーベルタイガー。
ロードランナーの案内でハイウェイのスタートをめぐり、レースを観戦、っと思ったら、ゴマちゃんは飛んで行っちゃった。
バイクで後を追う二人、でもそこにセルリアンが、ゴマちゃんが一人で止めようとしたけど苦戦、そこに駆け付けたともえちゃんとイエイヌ、ラモリ、バイクに積んであった発煙筒でセルリアンの視界をふさいで足止めできて、ゴマちゃんも助け出せた。
ともえちゃんとイエイヌはレースを助けた恩人、恩返しとゴマちゃんが旅の仲間に。
次の目的地は、音楽祭。

そういえば、賞品になっていた浄炎の羽、お礼にもらったけど、なんだかすごくポカポカしてるきがする。


ともえ、イエイヌ、ラモリ、そして新たに加わったロードランナー、4人での旅は騒がしくも楽しい物になっていた。

が、常に楽しくとはいかなかった。

 

イエイヌ「ゴマさん、交代ですよ」

ロードランナー「さっき変わったばっかじゃねーか、そんなんだと、ライブがおわっちまうぞ」

イエイヌ「約束したでしょ」

ともえ「二人とも、仲良くして、ね」

 

イエイヌとロードランナーの喧嘩に、ともえは苦笑いを浮かべる。

喧嘩の理由は、ともえの後ろ。

最初はロードランナーが座っていたのだが、バイクの性質ゆえにともえに抱きつく形になる。

それにイエイヌが嫉妬、交代制にしたがその度に停車する、それが火種で口喧嘩。

そもそもともえ達はライブがいつ始まるか知らない、ロードランナーの意見も一理あったりする。

 

ともえ「次の休憩所で交代だよ、ラモリさん、次は」

ラモリ「しんりんちほー入口ダヨ、ゲートトハ違ウカラ、注意シテネ」

イエイヌ「ハイウェイ横もゲートも、セルリアンのせいでダメなんて」

ロードランナー「ハンター連中が見て回るのに時間かかりすぎなんだよ」

 

この前ハイウェイにでたガブノミセルリアン程ではないが、セルリアンがハイウェイやゲートの近くに出たらしい。

ハンターが対応しているが、その間は通行止め。

おかげでともえ達は時間のかかる道を揺れながら進んでいた。

 

ともえ「道があるだけラッキーだよ、ね、ラモリさん」

ラモリ「ソウダナ、ナケレバライブハ諦メルシカナカッタカラナ」

ともえ「ね、だから前向きに考えよ」

イエイヌ「ともえさんがそう言うなら」

ロードランナー「まっ、動けるだけましか」

 

前向きに考え進んでいくと、古びた丸太橋の向こうに木の看板、その横には四角い箱の様なものが鎮座していた。

 

ともえ「ラモリさん、あれって」

ラモリ「休憩所ダヨ、タダシ、ツクッタノハパークノスタッフジャナクッテ、フレンズダヨ」

ともえ「あの箱みたいなのを?」

イエイヌ「確かに、手先な器用なフレンズはいますけど」

ロードランナー「あれ、木じゃないよな?」

 

ちかづいてみると、その箱の外板は波打っていて、下にはバイクと同じようなタイヤがくっついていた。

 

ラモリ「キャンピングトレラーダヨ、パークガ営業シテイタコロ、コノ島ニ捨テラレタ物ヲ、フレンズガココマデ運ンデ自分達ノ休憩所ニシタンダヨ」

ともえ「どうしてですか?」

ラモリ「ゲートダケガ道ジャナイカラネ」

イエイヌ「そういえば、ヒトが作った物って、大きな道にしかないですもんね」

ロードランナー「こういうのって、ほかにもあるのか?」

ラモリ「イクツカアルミタイデ、フレンズガ家トシテ使ッテルノモアルミタイダヨ」

ともえ「他のも見れるかな・・・あれ?」

 

よくみると、トレーラーの陰に何かが止まっていた、よく見ればそれは黄色に塗られた、4つのタイヤを持つ乗り物だった。

 

ともえ「ラモリさん、これは?」

ラモリ「ジャパリバギーダネ、バイクト同ジデ保守管理用ノ車両ダケド、コッチハバイクヨリモ荒レタ道ヲ進メルヨ、充電中ミタイダネ」

ともえ「ということは、誰かいるのかな?」

イエイヌ「くんくん・・・たしかに、フレンズのにおいがします」

ロードランナー「これも早そうだな・・・ま、プロングホーン様のほうが早いに決まってるけど」

ともえ「すいませーん、あたし達も休ませてもらっていいですか?」

???「構いませんよ、ここは誰の物でもないので」

 

優しい声を聞いて、ともえ達は安心してトレーラーなかに入る。

そこでは真っ白な耳と髪、尻尾には金色の紐をつけ、白のブレザーにスカート、胸元の赤いリボンがアクセント。

だけど何故か瓶底眼鏡を掛けたフレンズが出迎えた。

 

ともえ「はじめまして、あたしはともえ、こっちはイエイヌちゃんとロードランナーちゃん」

イエイヌ「はじめまして」

ロードランナー「よろしくな」

???「はじめまして、私は・・・そうね、いくつかの名で呼ばれてますけど、ここではミケツと呼んでください」

ともえ「いくつか?」

ミケツ「はい、そういう存在なので」

イエイヌ「あれですね、あだ名が多い、みたいな感じですよ」

ロードランナー「お前らが俺のことをゴマと呼ぶのと同じなんだろ、きっと」

ともえ「そっか、よろしくね、ミケツちゃん」

ミケツ「はい、こちらこそ」

 

ミケツは丁寧にお辞儀をする、一方ともえの視線は尻尾に釘付け。

 

ミケツ「気になるかしら?」

ともえ「はい!」

イエイヌ「ともえさん・・・」

ミケツ「少しなら触ってもいいですよ」

ともえ「ありがとうございます!」

ロードランナー「はやっ!」

 

ともえはミケツの尻尾に優しく触れると、撫で始める。

 

ともえ「ふかふか、もふもふ」

ミケツ「狐の尻尾はいかがかしら?」

ともえ「最高!」

ロードランナー「なぁイエイヌ、やっぱりあれがともえの素か?」

イエイヌ「はい、もふもふ大好きさんです」

ロードランナー「通りで毎朝、イエイヌの尻尾に顔をうづめてるわけだな」

 

堪能すると、ともえはミケツの尻尾から離れた。

 

ともえ「ところで、外のバギーは、ミケツちゃんのですか?」

ミケツ「そうですが、今は動かせなくて」

ともえ「今は?」

 

理由を聞こうとすると、ミケツの後ろにある窓が開いて、大きな耳を持つフレンズが顔を出した。

 

ミケツ「オオミミギツネ、どうでした?」

オオミミギツネ「申し訳ありません、トレーラーの配線は問題ないのですが」

ミケツ「困ったわね」

オオミミギツネ「はい・・・お嬢様、そちらの方々は?」

ミケツ「此方はともえちゃん、イエイヌちゃん、ロードランナーちゃん、今知り合ったばかりよ」

ともえ「はじめまして」

イエイヌ「どうも」

ロードランナー「よろしくな」

オオミミギツネ「オオミミギツネです、お嬢様の従者をさせてもらってます」

ともえ「あの、さっき配線がって」

 

ともえの質問に、オオミミギツネは困った顔になる。

 

オオミミギツネ「実は、このトレーラーには充電設備が有るのですが、壊れていて」

イエイヌ「バギーが動かせないのは、もしかして」

ミケツ「ここで充電する予定でしたが、迂闊でした」

ロードランナー「大変だな」

ともえ「力になってあげたいけど、ラモリさん・・・あれ?」

ロードランナー「そう言やともえ、ラモリどこいった?」

イエイヌ「降りるまでは一緒に居ましたよ」

 

オオミミギツネ「里長様、もしかして」

ミケツ「結論を急いでは駄目よ」

 

ラモリを探すともえ達、すると天井が開き、アームで体を支えながらラモリが姿を現した。

 

ともえ「ラモリさん、どこに行ってたんですか?」

イエイヌ「どうしてそんなところに?」

ラモリ「バギーノ充電ガ進ンデナカッタカラ、屋根ノソーラーパネルヲ点検シテタンダヨ」

ロードランナー「そーらーぱねるって、なんだ?」

イエイヌ「電気を作る板ですよ」

ミケツ「ラモリさん、ソーラーパネルに異常が?」

ラモリ「雑巾1枚デ解決スルヨ」

オオミミギツネ「こちらを」

 

オオミミギツネが雑巾をラモリの耳の間に挟むと、また天井に上る。

しばらくすると、真っ黒な雑巾を耳の間に挟んで降りてきた。

 

ミケツ「これは、私としたことが」

ともえ「うわっ、真っ黒!」

イエイヌ「この汚れって」

ラモリ「ソーラーパネルノダヨ、定期的ニ拭イテオカナイトコウナルンダ」

オオミミギツネ「ですが、それはラッキービーストの役目では?」

ロードランナー「そういえばボスたちは、掃除とか好きだよな」

ともえ「もしかして、ここはフレンズちゃん達が作ったから、管轄外?」

ミケツ「いえ、しばらく来ていなかったので、優先度が下がったのでしょうね」

ラモリ「ソノトオリダヨ」

 

しばらくすると、天井に着いた照明が光だし、車内が明るくなる。

 

ミケツ「充電完了まで1時間、これなら音楽祭には間に合いそうね」

ともえ「音楽祭・・・ライブのことですか?」

ミケツ「はい、この子がペパプのファンで、フィールドワークで近くまで来たので」

オオミミギツネ「お嬢様のご厚意に感謝します」

イエイヌ「その音楽祭、いつ始まるんですか?」

オオミミギツネ「今日の昼頃からですが、どうなさいました?」

ロードランナー「俺たちもそのライブに行くんだ、危なかったな」

ともえ「よかった、バギーで間に合うならバイクでも」

ラモリ「十分間ニ合ウヨ」

 

ほっと一安心のともえ達、ミケツ達も事情があることは理解した。

 

ミケツ「ここで会ったのも何かの縁、会場までご一緒しませんか?」

ともえ「いいんですか?」

ミケツ「旅は道連れ世は情け、大勢での旅は楽しいですよ」

ともえ「ありがとうございます!」

ミケツ「そうなれば、オオミミギツネ、お茶を彼女たちに」

オオミミギツネ「御意」

イエイヌ「私も手伝います」

ロードランナー「俺様は、少し寝させてもらうぜ」

ともえ「目覚まし時計はいる?」

ロードランナー「遠慮しとく」

 

ともえとミケツが二人っきりになると、空気が変わる。

眼鏡の向こうにある目が、厳しいものに変わったように見えた。

 

ともえ「ミケツちゃん?」

ミケツ「貴方は、何時からパークに?」

ともえ「・・・わかりません、目が覚めたのがつい最近で」

ミケツ「目覚めた場所は?」

ともえ「何かの建物、それ以外は」

ミケツ「わからない、覚えていないのね」

ともえ「はい、あの、ミケツちゃん?」

ミケツ「ごめんなさいね、不快な思いをさせて」

 

ミケツの目が優しくなり、空気も戻る。

 

ミケツ「最近、ヒトのフレンズが現れたので、恐らく初めての事例なので」

ともえ「ヒトのフレンズ・・・かばんって名前のヒトの他に?」

ミケツ「いえ、そのかばんと言う方がヒトのフレンズらしいのですが、話を聞く前に旅に」

ともえ「でも、その人、悪いことは」

ミケツ「していませんが、ヒトが全てフレンズに優しい訳ではありません」

 

ミケツはトレーラーの壁に手を添える。

 

ミケツ「このトレーラーがパークに在るのは、ヒトの悪意、無関心ゆえに」

ともえ「悪意、無関心」

ミケツ「ここに捨てても構わない、フレンズにとって毒でも構わない、そんなヒトもいた」

ともえ「でも、ここはフレンズちゃん達が作ったってラモリさんが」

ミケツ「そうね、フレンズを大切に、隣人として愛してくれるヒトもいた、それにフレンズは強いから」

 

捨てられたトレーラーを休憩所に、フレンズはそれが出来る強さがある。

 

ミケツ「ただ、フレンズを愛してくれる、そんな存在だったヒトの中に、無関心の裏切り者がいた」

ともえ「裏切り・・・」

ミケツ「私は、ヒトのフレンズが裏切り者にならないか心配なの、そしてあなたのことも」

ともえ「あたしはイエイヌちゃんもゴマちゃんも裏切らない、裏切りたくない!」

ミケツ「その通りね、できれば、それを貫いて、自分の力で生きるのがパークの掟、でも、誰かと力を会わせる事、助け合う事、それは恥ではないのよ」

ともえ「ミケツちゃん」

ミケツ「私だって、バギー運転出来ませんし」

ともえ「えっ?」

 

オオミミギツネ「皆さま、お茶のご用意ができました」

イエイヌ「ジャパリまんもありますよ」

 

話はお茶で中断され、匂いに釣られ起きてたロードランナーも加えて優雅なひととき。

 

ともえ「凄く絵になる」

イエイヌ「ともえさん、いつの間に」

ロードランナー「まぁ、なんか優雅だし、わかっけど」

ミケツ「紅茶を飲んでいるだけですよ」

オオミミギツネ「後で分けてもらっても」

ともえ「あたし、頑張る」

 

ともえがミケツとオオミミギツネの絵を二枚書き終える頃には、バギーの充電も終わっていた。

 

オオミミギツネ「私達が先導しますので、ついてきてください」

ともえ「わかりました

ラモリ「出発スルヨ」

 

耳の収まる専用のヘルメットをかぶった二人のバギーにともえたちはついて行く。

道はデコボコしているが、それはこれまでの道も一緒だった。

 

ロードランナー「なぁ、イエイヌ」

イエイヌ「なんですか?」

ロードランナー「あいつ等のこと、信用できるか?」

イエイヌ「・・・信用はできますけど、ミケツさんのにおいは変でした」

ロードランナー「におい?」

イエイヌ「何か別のにおいでごまかしてました」

ともえ「それって、香水じゃない?」

イエイヌ「ともえさん」

 

二人はこっそりしゃべってるつもりだったようだが、ともえにはしっかり聞こえていた。

 

ともえ「確か、いい匂いをつけたりするやつだよ、そうだよね、ラモリさん」

ラモリ「間違ッテナイナ」

ロードランナー「それじゃあ、なにか匂いをごまかさないといけない理由があったってことか」

イエイヌ「う~、お話しするかぎりだと、騙してるわけではなさそうですし」

ともえ「ほら、フィールドワークで近くまで来たって言ってたでしょ」

イエイヌ「そういえば」

ともえ「それで、いろいろ匂いがついてたのをごまかしたんだよ」

ロードランナー「そういうもんか?」

ラモリ「ヒトナラソウダロウナ」

 

ラモリの言葉で一応納得したのか、ロードランナーは何も言わなかった。

しばらく進むと、フレンズとすれ違い始めた。

 

ともえ「あの子たちも音楽祭を見に行くのかな?」

イエイヌ「ペパプってよく知りませんけど、人気なんですね」

ロードランナー「ペパプも知らなかったのかよ」

ともえ「ゴマちゃんは知ってるの?」

ロードランナー「ペンギンのアイドルグループ、パークで知らないやつはいないぜ」

イエイヌ「ペンギンの・・・ピップならわかるんですけど」

ロードランナー「まぁ、見ればわかるよ、おれもそんくらいしか知らねーし」

ともえ「ペンギンのアイドル、皆かわいいんだろうなー」

 

しばらく進むと、建物が見えてくる、それは小さな丘の上にあって、その下ではフレンズたちが集まっていた。

バギーを運転するオオミミギツネは邪魔にならない場所に止める、ともえもその隣にバイクを止めた。

 

ともえ「オオミミギツネちゃん、ミケツちゃん、案内、ありがとうございます」

オオミミギツネ「どういたしまして、ペパプのファンが増えるのはうれしいので」

ミケツ「あなたも人探し、頑張ってね」

ともえ「はい!」

イエイヌ「お二人もお気をつけて」

ロードランナー「またどこかで会おうな」

 

ここで別れる二人に、手を振るともえ達。

二人が人ごみに消えると、三人も行動を開始する。

 

ともえ「それじゃあ、始まるまでに聞き込みをしようか」

イエイヌ「そうですね」

ロードランナー「でもこの人数だしな」

ラモリ「チョットイイカ?」

 

たくさんのフレンズにとにかく話を聞いて回ろうとする3人を、ラモリが止める。

 

ともえ「ラモリさん、何かいい方法が?」

ラモリ「仲間カラノ情報ヲ調ベタラ、ココニハ島ノ長ガイルヨウダ」

ともえ「長?」

イエイヌ「それって、図書館に住んでる」

ロードランナー「博士と助手だな」

ともえ「知ってるの?」

 

ともえの質問に、二人は視線をずらす。

 

イエイヌ「知ってはいますけど」

ロードランナー「何度も会いたいとは思わねぇな」

ともえ「?」

イエイヌ「賢い人たちなんですけど、少し意地悪と言いますか」

ロードランナー「めんどくせぇんだよな、いろいろと」

ともえ「うーん、悪い子じゃないだね、じゃあ会いに行こうか、ラモリさん、案内してもらっていい?」

ラモリ「マカセロ」

 

ラモリの先導で会場を進む三人、ステージに着くと、言い争う声が聞こえた。

見れば、赤と白のそっくりな二人とシマシマのフードを被ったフレンズに、耳の先が黒く、薄い赤色の服を着たフレンズが詰め寄っていた。

 

???「だから何度も言いますが、そんなの知らないのです」

???2「カラカルも諦めるのです」

カラカル「何でそうなるのよ、長でしょ、ツチノコもなにか言いなさいよ」

ツチノコ「俺は遺跡はともかく、それは専門外だからな」

カラカル「あぁもう!」

 

ともえ「揉めてるね」

イエイヌ「見たいですね」

ロードランナー「面倒だな」

ラモリ「・・・少シマッテテ」

 

様子を伺うともえ達、ラモリは一人で近づいていく。

 

ラモリ「チョットイイカナ?」

カラカル「何よ、って、ボスじゃない!」

ツチノコ「こいつ、保安課姿容の特別品じゃねぇか!」

???2「喋るラッキービースト、つまりこれは」

???「すぐ近くにヒトがいるのです、カラカル、お前は後回しなのです」

カラカル「何でよ!」

???「ヒトは貴重なのです、早く呼んでくるのです」

ラモリ「トモエ、話ヲツケタヨ」

 

ラモリに呼ばれて出てくるともえ一行、赤と白の二人は姿勢をただす。

 

コノハ「どうも、アフリカオオコノハズクの博士です」

ミミ「助手のワシミミズクです」

ツチノコ「ツチノコだ、あいつ以外にも居たのか」

ともえ「ともえです、よろしくね、コノハちゃん、ミミちゃん」

イエイヌ「イエイヌです、お家の物、勝手に持っていこうとしたの、忘れてないですよ」

ロードランナー「ロードランナー様だ、羽根をむしろうとしたの、覚えてるぞ」

コノハ「お前たち、さすがに長に向かって失礼なのです」

ミミ「そうなのです、失礼です」

カラカル「自業自得よ」

ツチノコ「だな」

 

なんだか威厳のない長だが、コノハ博士とミミちゃん助手はぷんぷんしていた。

 

カラカル「あたしはカラカル、こう見えてもハンターよ」

ともえ「ともえです、あの、カラカルちゃんは」

カラカル「いいのよ、この長達がダメってわかっただけでも十分、他をあたるから」

ともえ「あっ、その」

コノハ「失礼な奴なのです、え、お前はどういった用事ですか?」

ミミ「最近は動く島とか、変なことばっかりなので、内容によっては流しますよ」

ともえ「えっと、ヒトのいたころと、あと、守護けもさんの居場所が知りたくて」

コノハ「ヒトのいたころ、ヒトについてではなくてですか?」

イエイヌ「ヒトについては私が説明しときました」

ミミ「余計なことを」

 

ミミちゃん助手の舌打ち、本当に長なのかともえは心配になってきた。

 

コノハ「まぁ、少しぐらいなら教えてやるのです」

ともえ「本当ですか!?」

コノハ「人がいたことはこのパークは復興中、という状態だったのです」

ミミ「ラッキービーストたちも、この時期に島に持ち込まれました」

ともえ「それで」

コノハ「そのあと、例の事件で人がいなくなり、かばんが現れるまでヒトは絶滅したと考えられていたのです」

ミミ「以上です」

ともえ「・・・へ? どんな暮らしをしてたとか、何をしてたとか、後守護けもさんは?」

コノハ「わからないのです」

ミミ「守護けもさんについては聞いたことないのです」

ともえ「・・・」

イエイヌ「ともえさん、しっかり!」

 

あまりの情報のなさにがっかりするともえ、心配になって駆け寄るイエイヌ。

ため息をついてツチノコが助け舟を出す。

 

ツチノコ「あのなともえ、この島にいるフレンズはヒトがいなくなった後に生まれたやつが大半なんだ」

ともえ「でも、イエイヌちゃんは紅茶を作ってくれたし、ヒトがいたころを」

ツチノコ「ちょっと違うんだ、ヒトのしたこと、人と居たことを覚えてるのと、ヒトのいたころってのは」

イエイヌ「でも、長の二人は図書館が縄張りですし」

ロードランナー「そうだぜ、それに字も読めるんだろ?」

ツチノコ「本に書いてあることはパークに関係ないのも多い、ヒトのいたころなんて書いた文献はないんだ」

ともえ「そうなの?」

コノハ「確かに、パークでヒトがどう過ごしていたかについては」

ミミ「文献そのものがありません」

ツチノコ「図書館は知識を得たり、昔のことを知るために作られたからな、ヒトがいたころはできた時にはふるくなかったから、残ってないんだろ」

ともえ「そうだったんだ、じゃあ、守護けもさんは?」

ツチノコ「すまねぇ、俺もそれは知らねぇ、誰から聞いた?」

ともえ「温泉宿のカピバラちゃんから」

イエイヌ「はい、どこにいるかは知らないけどと」

 

カピバラの名前が出たとき、ツチノコは顎に手を添えた。

 

ツチノコ「カピバラか、このレアなボスもそいつの紹介か?」

ともえ「そういえば」

イエイヌ「そうかも」

ラモリ「ソウダナ」

ツチノコ「あいつ、こんな貴重なのと知り合いだったのか」

ロードランナー「確かに変わってるけど、こいつすごいのか?」

ツチノコ「すごいに決まってるだろ! なんてったてボスの中でもめったにお目にかかれない保安課仕様、保安課ってのは今のハンターみたいなもんでな、しかもしっぽじゃなくてアームなのは初期中の初期、今のパークじゃ絶滅してても当然・・・はっ!」

ともえ「ラモリさん、そんなすごい存在だったんだ」

イエイヌ「すごくすごいです!」

ロードランナー「ハンターのボスか、見直したぜ」

ラモリ「ソンナコトハナ」

ツチノコ「無視すんな!」

 

ツチノコの説明っを聞いて途中からラモリをなでたりしていたともえ達だった。

 

ツチノコ「とにかく、こいつと知り合いってことはどっかにいるんだろ、四神とは違うのか?」

ともえ「ししん?」

コノハ「このパークの守り神ともいうべき4人の神聖なケモノなのです」

ミミ「ですが資料が少なく、謎が多いケモノでもあります」

ツチノコ「そいつら以外にも守護けものって呼ばれるやつはいるんだが、ややこしいからな」

イエイヌ「神聖な・・・そういえばともえさん、浄炎の羽根も、神聖なものでしたよね」

ともえ「これだよね」

ロードランナー「なくすんじゃねぇぞ」

コノハ&ミミ&ツチノコ「「「!!」」」

 

ともえが浄炎の羽根を取り出した瞬間、コノハ博士とミミちゃん助手が驚き、ツチノコが目を輝かせる。

 

ツチノコ「それは、間違いない、ほんもって、こら、離せ!」

コノハ「あの羽根はやばいのです、なんでか知らないが逃げるべきなのです!」

ミミ「早く逃げねば、よくないことが起こるのです!」

ツチノコ「俺を巻き込むなぁー!」

 

ともえ「・・・なんだったの?」

イエイヌ「きっと普段の行いの罰が当たると思ったんでしょうね」

ロードランナー「プロングホーン様みたいに、清く正しく生きないとな」

 

長二人が謎の逃亡のため、手がかりが無くなったともえ達だが、フレンズは沢山いる。

 

ともえ「他のフレンズちゃんにも聞いてみないとね」

イエイヌ「そうですね」

ロードランナー「これだけいるならきっと見つかるぜ」

ラモリ「僕モ仲間ノ情報カラ探シテミルヨ」

 

聞き込みを始めるも、長ですら知らないこと、当然ながら・・・。

 

パンサーカメレオン「もうしわけありません、拙者は忍びについて調べておりますが、ヒトのいた頃は」

 

クジャク「そうですね、守護けもさんについてはなにも、キョウシュウの守護けも様は美しい羽根を持っていたとは聞いてますが」

 

キンシコウ「港で目撃されたのがフレンズがヒトを見た最後、かばんさんはヒトは港に住んでいたのではと、ただ、どんな暮らしだったかは」

リカオン「守護けも様はパークを救ったらしいとしか、守護けもさんについては・・・あの、そのボス、撫でていいですか?」

 

ヒトのいた場所、守護けも様はわかっても、ともえの知りたいことはわからなかった。

 

イエイヌ「ともえさん、元気だしてください」

ロードランナー「そうだぜ、調子の悪いときもあるんだぜ」

ともえ「二人ともありがとう、いっぱいスケッチさせてもらったし」

ラモリ「コッチモ該当情報ナシ」

ともえ「ラッキーちゃん達でもだめ・・・」

イエイヌ「ともえさん?」

 

ステージの向こう側、バイクを停めた場所の反対側、丘のしたには、木が数本生えていて、その回りにフレンズが集まっていた。

 

イエイヌ「どうしました?」

ともえ「・・・知ってる」

ロードランナー「何をだ?」

ともえ「あたし、あの場所知ってる」

イエイヌ「ともえさん!」

 

ともえは急に駆け出し、イエイヌも続き、ロードランナーもラモリを脇に抱えて追いかける。

着いたそこは、テーブルと椅子があるだけの休憩所だった。

 

イエイヌ「ともえさん、急に走ると危ないですよ」

ロードランナー「そうだぞ、下りでこけると大変なんだからな」

ともえ「ごめんね、でも、思い出したから」

イエイヌ「もしかして最初に仰った、行かないといけない場所?」

ともえ「違う、けど」

 

ともえはゆっくりとステージを見る。

 

ともえ「白い服のお姉さんに連れられて、あそこの舞台の修復が終わったら、このちほーはパークの文化的中心になるかもって」

イエイヌ「文化?中心?」

ロードランナー「ステージならみずべちほーにもあるぜ」

ともえ「図書館があるから、複雑なお芝居が見れるかもって、そこで誰かが呼んで」

イエイヌ「ともえさん?」

ともえ「ごめん、これ以上思い出せなくて」

イエイヌ「気にしなくて大丈夫です、私も大切なヒトの事、思い出せませんし」

ロードランナー「その白いねーちゃんと呼んできたやつは?」

ともえ「わからないけど、呼んできた方が大切な気がする」

イエイヌ「行かないといけない場所と関わりは」

ともえ「たぶん」

ロードランナー「まっ、何にもわかんないよりましだろ」

ともえ「そうだね、うん、がんばろう!」

 

ともえが元気をとりもどす、その時イエイヌは何かのにおいを感じ取ったのか鼻をらした。

 

ともえ「イエイヌちゃん」

イエイヌ「くんくん・・・近くに私の知り合いがいます、この匂いは、そこですね、タイリク先生!」

タイリクオオカミ「やっと気づいてくれたね」

 

木の影から姿を表したのは、黒いブレザーと黒白チェックのミニスカートを着た、オレンジと青の瞳を持つフレンズ。

 

タイリクオオカミ「初めまして、私はタイリクオオカミ、漫画家だよ」

ともえ「初めまして、あたしはともえ」

ロードランナー「ロードランナー様だ」

イエイヌ「お久しぶりです」

タイリクオオカミ「久しぶり、元気そうでよかった」

ロードランナー「知り合いなのか?」

タイリクオオカミ「マンガのアイデアを探してるときにね」

ともえ「そうなんだ」

 

ともえはタイリクオオカミに興味津々、以前イエイヌから絵を描いてると聞いていたので余計に。

 

タイリクオオカミ「おや、ともえは私が気になるみたいだね」

ともえ「はい、あたしも絵が好きなので」

タイリクオオカミ「同好の士だね、見たところヒトのようだし、それだとあの話を伝えておこうか」

ともえ「どんな話?」

ロードランナー「俺も聞いていいよな?」

タイリクオオカミ「もちろん」

イエイヌ「あっ」

 

なにかに気づいたイエイヌが口を挟もうとしたが遅かった。

 

タイリクオオカミ「古い話だけど、サンドスターを作ろうとしたヒトがいてね」

ともえ「サンドスターを?」

タイリクオオカミ「そう、最初はフレンズの力を借りて、上手くいっていたんだ」

タイリクオオカミ「でも、そのうちにヒトはおかしくなっていって、フレンズを追い出してしまったんだ」

ロードランナー「ひでぇじゃねぇか」

タイリクオオカミ「全くだよ、そのヒトはついに人造のサンドスターが完成したと確信して、とんでもないことをした」

ともえ「それは」

 

タイリクオオカミは目をつむり、少しためてから口を開いた。

 

タイリクオオカミ「人造サンドスターで、無理矢理フレンズを作ろうとしたんだ」

ロードランナー「そんなことできんのか!?」

ともえ「ひどい」

タイリクオオカミ「できると思ってたんだろうね、でも、そううまくはいかなかった」

タイリクオオカミ「最初はフレンズの姿になった、ところが、背中や腕からサンドスターの結晶が飛び出して、全身を覆って、最後にはヒトごと」

ともえ&ロードランナー「「キャー!」」

タイリクオオカミ「おっ、いい顔頂きました」

 

悲鳴を上げて抱き合うともえとロードランナー、それを微笑みながらスケッチするタイリクオオカミ。

 

イエイヌ「タイリク先生、恐い作り話は程ほどにしてください」

ともえ「作り話?」

ロードランナー「ってことは、嘘だったのか!」

タイリクオオカミ「全部が嘘じゃないよ、図書館の本やいろんな場所にある昔話からヒントを得てるからね」

イエイヌ「まったく、私もすごく怖い思いさせられたんですよ」

タイリクオオカミ「お詫びと言ってはなんだけど、これをあげるよ」

 

怒るロードランナーにも動じず、タイリクオオカミはともえにいくつかのスタンプが押された細長い紙を手渡した。

 

ともえ「これは?」

タイリクオオカミ「この音楽祭のリハーサル見学チケットだよ、演出を手伝ったお礼でもらったんだ」

ともえ「いいんですか?」

タイリクオオカミ「助手が苦労して私の分のチケットを手に入れたから、そっちは君たちが使ってほしい」

ロードランナー「気前がいいな」

イエイヌ「そういうところがあるから憎めないんですよ」

ともえ「ありがとうございます、あ、あとでスケッチさせてくださいね」

タイリクオオカミ「その時は私も君をスケッチさせてもらうよ」

 

ともえはタイリクオオカミは固い握手をしてから、再びステージへと向かう。

すでに自由に入れないようになっており、ともえたちも白に黒のオーバーオールのフレンズに止められる。

 

ともえ「えっと・・・図鑑だとミナミコアリクイちゃんだね」

ミナミコアリクイ「なんだよ、チケットがないならあっち行ってよぉ」

イエイヌ「はい、チケットですよ」

ミナミコアリクイ「通っていいよ」

ロードランナー「なんだかノリが軽い気がするけど・・・って、リハーサルなのに結構人がいるな」

 

まだリハーサルにもかかわらず、会場にはたくさんのフレンズがいた。

舞台上ではツチノコと、ネコ科のフレンズがリハーサルの真っ最中だった。

 

ツチノコ「スナネコ、これが本番で使うマイクだ、違和感ないか?」

スナネコ「いい感じですよ」

ツチノコ「一曲歌うか?」

スナネコ「ですね」

 

スナネコと呼ばれたフレンズは、ギターをツチノコから受け取ると、それを引きながら歌い始めた。

 

ともえ「いい歌、絵にもなる」

イエイヌ「ほんとですね」

ロードランナー「そーだなー」

 

スナネコの歌は、どこか儚くも、ひきつけられるものであった。

そんなスナネコの姿を描いてると、ともえの視界、その端に見覚えのある黒が入る。

 

ともえ「あれって・・・ちょっとごめんね」

 

ともえはイエイヌにそう声をかけてからその黒のもとへ向かう。

視界の隅は言った黒は、以前、ハイウェイにつく前に出会った黒いアードウルフだった。

今度は顔も見れたが、普通のアードウルフで、羽織ったコートは胸元のきれいな緑の宝石が付いたブローチで止められていた。

 

ともえ「あの、お久しぶりです」

黒アードウルフ「あら? あなたはこの前の」

ともえ「あたしはともえって言います」

黒アードウルフ「そう、アードウルフ、そう呼ぶのが適切かしら」

ともえ「えっと、アドちゃん?」

黒アードウルフ「それでもかまわないわ」

 

黒アードウルフはともえに視線を合わせない、それでも会話をしてくれた。

 

ともえ「アドちゃんも、音楽祭を?」

黒アードウルフ「ここは新しい輝きがたくさん生まれるから」

ともえ「皆、笑顔できらきらしてますね」

 

黒アードウルフの言う通り、ここに集まったフレンズはみんな笑顔で、とても輝いて見えた。

 

黒アードウルフ「かつて人は、この輝きを残そうとした」

ともえ「輝きを?」

黒アードウルフ「ビデオ、CD、フィルム、レコード、音や映像として、人は永遠に残そうと試みた」

ともえ「???」

黒アードウルフ「でも、すべては永遠ではなかった、どれもわずかな時間の経過により、失われた」

ともえ「わずかな時間?」

黒アードウルフ「そう、人の叡智でも、永久に残し、再現は不可能だった」

 

CDやビデオはさっぱりわからなかったが、それがとても難しいことであることはともえにもわかった。

 

黒アードウルフ「だが、あの子すら支配した我等なら」

ともえ「われら?」

黒アードウルフ「少し話過ぎたようね」

 

黒アードウルフはリハーサルの最中にも関わらず、ステージに背を向ける。

 

ともえ「へ、帰っちゃうんですか?」

黒アードウルフ「目的は果たした、不安要素はあるが、上手く行けば貴女も」

ともえ「あたしも?」

 

その意味を訪ねようとしたが、人混みの中に消えてしまった。

ともえがイエイヌ達のところへ戻ると、早速イエイヌに抱きつかれた。

 

イエイヌ「何処に行ってたんですか、もうすぐ始まりますよ」

ロードランナー「全く、どうせスケッチでもしてたんだろ?」

ともえ「そんなところ、かな?」

 

笑って誤魔化しつつ、皆と音楽祭の開演を今か今かと待っていたが。

 

ラモリ「警告! サンドスターローノ濃度上昇ヲ確認、又、付近ノラッキービーストカラノ目撃報告多数!」

ともえ「もうすぐ始まるのに!?」

イエイヌ「ともえさんはラモリさんのそばに」

ロードランナー「ハンターも動き出したぜ」

 

会場にもラモリの警報と同じ音が響く。

会場に居たハンター達も慌ただしく動き出す。

その中の1人、カラカルがステージに上がる。

 

カラカル「ハンターのカラカルよ、単刀直入に言うわ、セルリアンが多くててが足りないから、戦いが得意な子はてを貸して!」

 

それだけ言うと、カラカルはステージを降りて駆けていく。

ステージ前に居たフレンズの中から少しだがついていくフレンズが出た。

 

イエイヌ「ゴマさん、私達も」

ロードランナー「だな」

ともえ「あたしも」

イエイヌ「ともえさんは駄目です、ハンターが足りないくらい多いんですよ」

ロードランナー「それに、ともえは戦いは苦手だろ」

ともえ「そうだけど」

イエイヌ「ここで待っていてください、ラモリさん、お願いします」

ラモリ「マカセテ」

ともえ「まって」

 

ともえも着いていこうとしたが、ラモリに服の裾を捕まれ、かなわなかった。

 

カラカルに率いられた一団が現場につくと、ハンター達の指揮を採る、大きな熊の手がついたハンマーを手にしたフレンズが、キンシコウとリカオンを引き連れてやってきた。

 

カラカル「ヒグマ、協力してくれる子達を連れてきたわ」

ヒグマ「そうか、君達、大型はハンターで対処する、小さいのを相手に、二人以上で当たってくれ」

 

イエイヌ「ゴマさん、聞きましたね」

ロードランナー「お前と一緒にだな」

イエイヌ「はい、ここで倒せば、ともえさんを守れます」

ロードランナー「無茶だけはするなよ」

 

ヒグマ「来るぞ!」

 

ヒグマが叫ぶと共に、フレンズ達は散開する。

木々の間から現れたのは、フレンズよりやや大きいカタツムリに似たセルリアンが5体、フレンズの腰ほどの小型セルリアンがその数倍はいた。

 

ロードランナー「多いだろ!」

イエイヌ「文句を言ってもセルリアンはきいてくれませんよ」

ロードランナー「言わなきゃやってらんないんだよ」

 

ヒグマ「先ずはでかいのから二人ともいくぞ、かばんが見つけた道具もある!」

キンシコウ「了解」

リカオン「了解っす」

 

ヒグマが小型セルリアンを熊手で蹴散らし、その隙にキンシコウとリカオンが大型セルリアンに接近する。

だがセルリアンもカタツムリの胴体部分から生えた触手を、先端をワニの口に似た形にかえ、

勢いをつけて二人に伸ばす。

 

キンシコウ「来ました、構えて」

リカオン「オーダー了解」

 

キンシコウとリカオンは避けずり左腕を向ける。

そこには透明で、フレンズの胴体を覆うくらいの、真ん中にジャパリパークのマークが入った板がくくりつけられていた。

セルリアンのワニグチ触手はその板に噛みつくが、砕く事ができない。

無防備になったセルリアンに、ヒグマの強烈な横からの一撃が入り、セルリアンは砕け散った。

 

ヒグマ「先ずは一体、この調子でいくぞ」

 

イエイヌ「凄い、一瞬で」

ロードランナー「流石、ハンターだな」

カラカル「そこの二人、ぼぉっとしない!」

イエイヌ「すいません!」

ロードランナー「ごめんなさい!」

カラカル「全く、こっちも行くわよ」

 

カラカルに叱られ、ヒグマ達に見とれていたイエイヌ達は小型セルリアンの相手を再開する。

それを確認したカラカルも、行動を開始した。

 

カラカル「見た感じ、石は胴体、ここから見えないとなれば」

 

カラカルは小型セルリアンの隙間を縫って大型セルリアンに接近すると、自慢のジャンプで空に飛び上がる。

 

カラカル「石は胴体と殻の間、それなら」

 

石の位置を確認するとカラカルは腰に刺していたY字型の頭に紐のようなものと、長い半円形のものがついた見た目の道具、スリングショットを取り出すと腕宛を下ろし、丸く削ったサンドスターのかけらをつがえ、石目掛けて放つ。

小さくともサンドスター、正確な狙いで放たれたそれは石を砕き、セルリアン本体も砕け散った。

 

カラカル「どんなもんよ」

ロードランナー「あんなのありかよ」

イエイヌ「あれ、スタッフ用のパチンコです」

ロードランナー「ぱち・・・?」

イエイヌ「投げるより遠くに飛ばす道具です、なんでカラカルさんが」

ロードランナー「そんなのあとにして今はこっちだろ」

イエイヌ「そうでした!」

 

イエイヌは近づいてきた小型セルリアンの頭にある石を爪で潰し、ロードランナーは蹴り飛ばす。

大型セルリアンをハンター達が押さえているお陰で、セルリアンは数が多いだけで何とかなっていた。

 

イエイヌ「・・・この臭い」

ロードランナー「どうしたんだ?」

イエイヌ「間違いない、この臭いは!」

ロードランナー「おい、どうしたんだよ!?」

 

イエイヌは何かの臭いを感じ取ると、唸りながら身構える。

ロードランナーもよくわからないが身構える。

 

そして、ともえも又、この気配に気づいていた。

 

ともえ「・・!ラモリさん、あたし、やっぱりいく」

ラモリ「ダメダヨ」

ともえ「ごめん、行かないと!」

 

ラモリの制止も聞かずともえはバイクに跨がるとイエイヌ達のところへ急ぐ。

ラモリも諦めたのか側車に飛び乗った。

その間にも、イエイヌ達にそれは近づいていた。

 

イエイヌ「この臭い、間違いない」

ロードランナー「一人で納得してないで教えろよ」

イエイヌ「来ます!」

カラカル「!、セルリアンじゃないのが来るわ!」

 

セルリアンの後から影が飛び出す、それはヒグマに迫る。

ヒグマも気がつき備え、直後に鈍い音が響く。

影の正体を知り、ハンター達は驚愕した。

 

ヒグマ「こいつ、ビーストだと」

トラのビースト「ガルルル」

 

イエイヌ「やっぱり、雪山で会った」

ロードランナー「ビーストって、あのヤバイのか?」

イエイヌ「そうですよ」

 

影の正体、それはイエイヌがともえと雪山で出会ったトラのビースト、両腕には切れた鎖のついた拘束具、首には黒い首輪がついていた。

トラのビーストはヒグマから離れると構え直す、ヒグマも建て直そうとしたが、セルリアンがそれを妨害する。

 

キンシコウ「セルリアンがビーストを助けてる、そんなことって」

リカオン「あり得ないっすよ、ビーストは見境なしっすよ!」

ヒグマ「考えるのはあとだ、何とか抑え込むぞ!」

カラカル「手を貸すわ、そこの二人は下がってなさい!」

 

カラカルは赤い玉を手に取るとビースト目掛けて放つ。

ビーストは腕の一振りでこれを防ぐ、直後にキンシコウが如意棒で突くが躱され、逆に如意棒をつかまれそのまま吹き飛ばされる。

間一髪のところでリカオンが受け止めたが、セルリアンに襲われ後退する。

 

カラカル「あいつ、唐辛子液を食らっても平気みたいね」

ヒグマ「動きも早いが、セルリアンが邪魔だ!」

 

カラカルとヒグマは伸びてきたセルリアンの触手をはたき落とす。

セルリアンだけ、ビーストだけなら何とかなる、だが同時に相手をするほど余裕はない。

ハンターでさえこの状況、他のフレンズは自分の身を守るので精一杯だ。

 

ロードランナー「イエイヌ、一旦下がって他の奴等と」

イエイヌ「あの動き・・・っ!」

ロードランナー「おい、待てよ!」

 

林の中まで下がっていたロードランナーとイエイヌだったが、突如としてイエイヌが飛び出す。

ビーストがそれに気が付き殴りかかる、だが。

 

トラのビースト「グガァァァァ!」

イエイヌ「!」

 

イエイヌは体をひねってこれを避けると、ビーストの足を引っかけて転ばせる。

ビーストもただでは倒れまいと爪でひっかきにくるが、これを前転でかわす。

 

ロードランナー「イエイヌ戻れ! あいつはヤバイって」

イエイヌ「私が相手します、ゴマさんはその間にセルリアンを、邪魔されたくないんです」

ロードランナー「あぁもうわかったよ、やばくなったら逃げろよな!」

 

ロードランナーも出てイエイヌの邪魔はさせないとセルリアンにちょっかいを出して注意を引く。

イエイヌはビーストの攻撃を避けていく。

 

イエイヌ「動きが目で追える、これなら」

 

イエイヌはビーストの動きを追えた、回避し続けるならそれで充分だった。

イエイヌが避け続ければ、ビーストにスキが生まれる、そして。

 

キンシコウ「たぁ!」

トラのビースト「!」

 

ビーストはわきから突き出された如意棒を体をそらして避ける、キンシコウは一度距離をとるが、セルリアンを減らしていたリカオンもヒグマもくる。

 

ヒグマ「そろそろ帰ってくれないか?」

トラのビースト「ガルルル・・・」

キンシコウ「帰ってはくれないようなら」

リカオン「少し眠ってもらうっすよ」

 

ハンターとイエイヌに囲まれたビースト。

ジリジリとにじりよる四人、ビーストは逃げる素振りを見せなかったが。

 

トラのビースト「ガアァァァァァ!」

リカオン「!、サンドスターが」

キンシコウ「ビーストに」

イエイヌ「まずい、皆さん離れて!」

ヒグマ「走れ!」

 

咆哮と共にビーストの周りにサンドスターが渦を巻いて集まりだす。

イエイヌとヒグマの警告で動き出すが、僅かに遅かった。

 

トラのビースト「グアァァァァ!」

 

再度の咆哮、ビーストの周りで渦を巻いていたサンドスターが赤く輝き、そして炎になり、天まで貫く柱となった。

 

ともえ「な、なにあの炎!?」

ラモリ「アレハフレンズノ技ダネ」

ともえ「あれが」

 

バイクを飛ばすともえにも、炎の柱ははっきりと見えた。

そして、ともえの胸に不安がよぎる。

 

ともえ「イエイヌちゃん、ゴマちゃん、もっと急がないと」

ラモリ「オソラク、アノ炎ノ近クニイルヨ」

ともえ「補助はお願いね!」

 

さらにバイクの速度をあげるともえ、倒れないようラモリが補助する。

そしてあの炎の近くまで来ると、周りには怯えたフレンズ達、そして。

 

ロードランナー「ともえ、なんできたんだよ!」

ともえ「二人が心配だったから、イエイヌちゃんは」

ロードランナー「ごめん、さっきのよくわかんねぇのではぐれちまった、動けなくなったやつを避難させるので」

ともえ「ありがとう、ラモリさん、ゴマちゃんと動けなくなった子を助けてあげて、バイク動かせるんでしょ」

ラモリ「無論ダ、了解シタヨ」

ロードランナー「お前はどうするんだよ」

ともえ「イエイヌちゃんを助けにいくの!」

ロードランナー「待てって、お前もかよ、ボス、急いで運んで追いかけるぞ」

ラモリ「ワカッテル」

 

イエイヌを探しにいくともえ、止めるのが間に合わなかったロードランナーはラモリと炎の柱で腰が抜けたりして動けないフレンズの救助に回る。

 

ともえ「イエイヌちゃん、いたら返事して!」

 

イエイヌを呼びながら、森の中を駆けるともえ。

周りには火の粉が漂っているが、草木は燃えていなかった。

そんな異様な森の中を、ともえは必死になってイエイヌを探す。

 

ともえ「イエイヌちゃーん!・・・イエイヌちゃん!」

 

木々の間に倒れたイエイヌを見つけて、急いで駆け寄る。

抱きかかえると、少しうめいて、目を覚ました。

 

イエイヌ「ともえ、さん、なんで・・・」

ともえ「心配だったからかだよ、ゴマちゃん達のところまで行くから」

イエイヌ「ともえさ・・・っ!あぶない!」

ともえ「へっ?」

 

肩を貸して立ち上がったとき、ともえはイエイヌに突き飛ばされ一緒に倒れる。

先ほどまでいた場所に、炎が走る。

 

ともえ「あの子って」

イエイヌ「ビースト・・・です」

トラのビースト「ガルル」

 

炎の正体、それはビースト、その両手は炎をまとっていた。

低いうなり声を出しながら、二人をにらみつける。

 

イエイヌ「ともえさん・・・逃げてください・・・」

ともえ「そんなことできないよ」

イエイヌ「ヒトを守るのが、私の使命、約束なんです」

ともえ「やめて、イエイヌちゃん!」

 

イエイヌがふらふらと立ち上がるが、ともえがそれを止めようとする。

それを許してくれるほどビーストはやさしくない。

 

トラのビースト「ウガアァァァァァァ!」

ともえ「!」

イエイヌ「ともえさん!?」

 

咆哮をあげ、襲い掛かるビーストからイエイヌを守るため前に出るともえ。

イエイヌが止めるも間に合わず、ビーストの拳が迫る、フレンズの拳をヒトのともえがまともに食らえば、どうなるかは明白だった。

それを見たくなかったイエイヌは目をつむる、だが、それは来なかった。

 

イエイヌ「・・・え?」

トラのビースト「グルルル」

ともえ「うぅ・・・!」

 

イエイヌが見たもの、それはあとすこしで何かに拳を阻まれるビースト、そして前進から淡い光を放つともえの姿。

 

イエイヌ「これって、ともえさんが・・・」

 

呆然とするイエイヌ、その間にもビーストは一度後ろへ下がるも、防いだなにかはまだあった。

 

ともえ「イエイヌちゃんを、これ以上、傷つけないで!」

トラのビースト「・・・グガァー!」

 

ビーストは再び拳に炎をまとわせ殴りかかる、だがともえを守る何かに触れたとき、炎は引きはがされ、拳は再び止められる。

さらにそれが輝きを増したとき、ビーストの首輪にひびが入る、その時であった。

 

 

・・・タス・・・ケテ・・・

 

ともえ「!」

イエイヌ「!?」

 

何かの声が二人に聞こえる。

ビーストは何かを壊そうともう片方の腕を振り上げるが。

 

ヒグマ「いいかげんに、しろ!」

トラのビースト「!」

キンシコウ「二人から、離れなさい!」

 

どこかに飛ばされていたのか、ヒグマとキンシコウがビーストを引き離す。

ビーストはあきらめたのか、どこかへと走り去っていった。

あたりに、静寂が戻る。

 

ヒグマ「二人とも、大丈夫か?」

イエイヌ「は、はい、ともえさん」

ともえ「よかった、イエイヌちゃんが、無事で・・・」

イエイヌ「ともえさん!?」

 

二人を守った何かが輝きとなって消えると、ともえは意識を失い、イエイヌにもたれかかる。

その時、輝きがともえの胸に下がるお守りに集まっていたが、誰も気が付かなかった。

 

 

ーー

ーーー

 

「もう大丈夫ですよ」

 

誰?

 

「頼まれたんです、あなたを連れ出して、守ってあげてって、ご両親から」

 

お父さんと、お母さんから?

 

「はい、すぐにここを出ましょう、大丈夫、私が守りますから」

 

でも、お父さんもお母さんももう、それに、知らないヒトには。

 

「なら、ほら、これならわかりますよね」

 

これって、もしかして。

 

「ね、知ってるヒトでしょ」

 

うん、ここから、でれるの?

 

「はい、今なら外に出れます、急ぎましょう、眼鏡のガイドさんがすぐ近くまで来てるはずですから」

 

ーーー

ーー

 

ともえ「・・・あれ? あたしは」

イエイヌ「ともえさん!」

ともえ「わふっ! イエイヌちゃん?」

イエイヌ「よかった、なんで、あんな無茶を!」

ともえ「え?だって、イエイヌちゃんが心配で・・・ビーストは? フレンズちゃん達は?」

 

目を覚ましたともえは、涙目のイエイヌに抱き着かれた。

半分寝ぼけてイエイヌの頭をなでていたともえは、意識を失った後のことを尋ねた。

 

イエイヌ「ビーストは行く手をふさぐセルリアンを倒してどこかに行ったと、スカイダイバーズの皆さんがおっしゃってました、残ったセルリアンもカラカルさんが中心になって」

ともえ「そう、助けてくれた二人は?」

イエイヌ「吹き飛ばされただけだったので、リカオンさんがゴマちゃん達を呼んできてくれて、皆でともえさんを運んだんですよ」

ともえ「そうなんだ、ところで、ここは・・・テントの中?」

 

ある程度事態を把握すると、ともえは自分がどこにいるのかに意識を向けることができた。

自分がいるのはいつものテント、だがバイクが見当たらない、どこへ行ったのか見渡していると、誰かが入ってきた。

 

ロードランナー「よぉ、目が覚めたか」

ともえ「ゴマちゃん」

イエイヌ「ゴマさん、お水ありがとうございます」

ロードランナー「もういらなそうだけどな」

 

ロードランナーは片手に水の入った桶を持っていたが、それを地面に置く。

足元には、ラモリもいた。

 

ともえ「ラモリさん」

ラモリ「トモエ、無茶ハダメダヨ、危ナイナラ逃ゲナイト」

ロードランナー「そうだぜ、聞いた話じゃ、セルリアン退治の時、フレンズが相手して、ヒトはその後ろで手助けしてたらしいし、ビーストに挑むなんて無茶だぜ」

ともえ「ごめん」

イエイヌ「そうですよ、今後は、私に任せてください」

ともえ「でも」

ロードランナー「俺様だっているし、道具ならラモリのやつが持ってるんだろ?」

ラモリ「トモエ、今回ハ僕ノミスダヨ、今後モ助ケルタメニムチャスルナラ、対応スルヨ」

ともえ「皆」

 

自分がいかに危険なこと、そして心配をかけたのか、ともえはようやく理解した。

けど、大切な友達が危ないのにじっとしてるのは、やっぱり性に合わない。

 

ともえ「でも、あたし、やっぱり」

イエイヌ「もう、なんで危ない目にあいに行くんですか」

ロードランナー「そうだぜ、さっきハンターと博士が話してたけど、そのお守りがなきゃ危なかったらしい時じゃねえか」

ともえ「お守り?」

イエイヌ「そうですよ、何か壁?ができて、ビーストの拳を防いでた」

ともえ「壁?何のこと?」

イエイヌ「まさか、覚えてないんですか?」

ともえ「ごめん、無我夢中で」

ロードランナー「なんじゃそりゃ」

ラモリ「火事場ノ馬鹿力ダネ」

 

ふいに、笑い声が響き、笑みがこぼれる、話はこれでおしまいと、ロードランナーが口を開く。

 

ロードランナー「おっと、もうすぐライブが始まるぜ」

ともえ「始まるんですか?」

イエイヌ「中止かもって」

ロードランナー「予定変更はあるけど、やるってよ」

ともえ「そうなんだ、あたし行く!」

イエイヌ「あぁ、待ってください」

ラモリ「寝起キダカラ注意シテネ」

 

こけそうになるのをイエイヌに助けられながらも、ライブ会場へ向かうともえ達。

あたりは暗くなりつつあるがすでにお客はいっぱい、見たこともないフレンズもたくさんいた。

ステージはこの暗さを吹き飛ばすように、まばゆい光に照らし出されていた。

 

コノハ「それでは、音楽祭を始めるのです」

ミミ「最初はパークを代表する、この曲なのです」

コノハ「しっかりスタートさせるのですよ」

 

笛のような、ふしぎな音が響き渡ると、ステージが煙に包まれる、そして飛び出してきたのは、白と黒で構成された服をきた、5人のフレンズ。

 

「キャー!ペパプ―!」

「こっちむいてー!」

 

ともえ「あれが、ペパプ」

ロードランナー「パークを代表するペンギンアイドルなんだぜ!」

イエイヌ「初めて見ました!」

 

プリンセス「さぁ、皆行くわよ、ようこそ、ジャパリパークへ!」

 

トモエから見て右端のフレンズの掛け声とともに、パークのテーマ曲が流れる。

ペパプは歌も上手く、振り付けも躍動的、まるでステージを飛んでいるかのようであった。

 

ともえ「すごい、これがアイドル?」

イエイヌ「すっごく、きらきらです!」

ロードランナー「パークの人気者なんだぜ、キラキラで当然なんだよ!」

 

プリンセス「皆ありがとう、でも、まだ始まったばかり、また会うとき、へばってちゃだめだからね!」

 

「もちろん!」

「次もあるのー!」

「ジェーンちゃんこっち向いて―!」

 

歓声の中、ステージの奥に下がるペパプ、ステージのライトが落ち、暗闇に包まれる。

そして再びステージが照らされると、そこには二人のフレンズが。

 

???「我らの歌に」

???2「我らの踊りに」

「「酔いしれるがいい!」」

 

先ほどとは違い、どこか明るいテンポの曲が流れ始める。

二人は踊りはじめ、次第に会場も盛り上がっていく。

 

ともえ「あの二人は・・・暗くて図鑑が」

ラモリ「アレハ‛カタカケフウチョウ’ト‛ゴクラクフウチョウ’ダヨ」

イエイヌ「鳥のフレンズさん? ゴマさんしってますか?」

ロードランナー「知らないぜ」

ともえ「つまり、楽しんでしまえばいいんだね!」

イエイヌ「ともえさん・・・」

ラモリ「オ祭リハ、ノリトイキオイダヨ」

 

二人のことはよく知らないけど、その場のノリに合わせるともえ、イエイヌとロードランナーもそれにつられる。

終わるころには、皆盛り上がっていた。

 

ともえ「次は誰かな?」

イエイヌ「ここに出るってことは、すごいひとですよきっと」

ロードランナー「ボスは何か知らねぇのか?」

ラモリ「知ラナイシ、知ッテイテモ教エナイヨ」

 

次にステージに立ったのは、白い羽に朱が美しい鳥のフレンズと、朱に身を包んだ鳥のフレンズ。

 

ロードランナー「トキとショウジョウトキか」

イエイヌ「知ってるんですか?」

ロードランナー「高山にあるカフェの歌姫だって、サバンナから来た奴が行ってたぜ」

ともえ「歌姫、絵になりそう、あのに暗くて」

 

2羽のトキによるコーラスは、静かに響く。

そして終わったとき、会場は拍手に包まれた。

 

ともえ「すごかった、すごかった」

イエイヌ「胸にきました!」

ロードランナー「最高だったぜ」

ラモリ「・・・ソロジャナクテヨカッタ」

 

拍手は二人が見えなくなるまで続いた。

そして次は、パークを代表する彼女たちがもう一度の登場。

 

プリンセス「皆、待たせたわね!」

イワビー「ばててるやつはいねーよな?」

ジェーン「本当にダメな方は、無理せず医務室へ」

コウテイ「倒れたら、ダメだからな、そうなる前にだ」

フルル「あの木、かばんさんの帽子みたい」

 

「プリンセスー!」

「イワビー!抱いて―!」

「ジェーンさんのやさしさが染みわたるー!」

「コウテイイケメーン!」

「ふるるー!」

 

 

先ほどまでとは違う、何かが違う、ともえ達はそれを感じ取っていた。

 

ともえ「なんだか、熱くなってる」

イエイヌ「これが、うわさに聞くフリッパーの力」

ロードランナー「お、おい、これも勢いで行くのか?」

ともえ「たぶん、それしかない」

 

プリンセス「そりじゃ、大空ドリーマー、いくわよ!」

 

曲が始まるとともに、会場に掛け声が響く。

それはステージにいるペパプをもりあげる。

 

PPP「「「「「そらはー、とべーないけどー、ゆめーの、つばさがあるー♪」」」」」

「「「「ふぅー!」」」

 

ともえ「ふ、ふぅー!」

イエイヌ「ふー!」

ロードランナー「ふ、ってタイミング逃した」

 

この一体感に、ともえ達はついて行くだけでやっとだった。

曲が終わったとき、3人は行が上がっていたが、笑顔だった。

 

ともえ「楽しかったね」

イエイヌ「はい!」

ロードランナー「音楽って、結構大変なんだな」

 

ペパプが下がり、会場の空気が少し落ち着くと思っていたが、そうではなかった。

最後のトリが残っていた。

ステージに上がったのはリハーサルをしていたスナネコ、ツチノコ、そして見慣れないフレンズだった。

そのフレンズは丸い輪っかがたくさんついたものの前に、スナネコはギターを、ツチノコは黒い板のようなものの前に立っていた。

 

スナネコ「スナネコです、歌います」

ツチノコ「ナミチー、合わせるんだぞ」

ナミチー「きひひ、任せて」

 

ともえ「スナネコちゃんとツチノコちゃんと、もう一人は?」

ラモリ「‛ナミチスイコウモリ’ダネ、イタズラズキナフレンズラシイヨ」

イエイヌ「いたずら?」

ロードランナー「そんな雰囲気ねぇぞ」

 

そんな疑問を抱いてるていると、ナミチーの軽快なリズムを合図にに曲が始まった。

 

スナネコ「合縁奇縁一期一会♪、袖すりあうも多少の縁♪」

 

ともえ「これって」

イエイヌ「すごい」

ロードランナー「演奏しながら」

ラモリ「ナミチスイコウモリガドラム、ツチノコガシンセサイザーダネ」

 

ラモリが説明しているがともえ達の耳には届いていない、それほどに会場は盛り上がっていた。

 

スナネコ「たまには二人話し合おう♪嫌なこと全部吐き出そう♪」

 

「スナネコ―!天使―!」

「ツチノコ!こっちみてー!」

「ナミチー!いたずらしてー!」

 

みな、スナネコの歌に夢中であった、そして。

 

スナネコ「つまりはこれからもどうかよろしくね♪・・・・・・・・・満足♪」

 

「「「「ふぅー!」」」」

 

歌い終わるとともに、歓声がとどろく、音楽祭はこうして、たくさんの輝きとともに幕を閉じた。

 

ともえ「たのしかったね、イエイヌちゃん」

イエイヌ「はい! 次があったら、また来たいですね」

ロードランナー「今度はハイウェイでやってくれねーかな」

ラモリ「楽シメテヨカッタネ」

 

音楽祭も終わり、バイクまで戻ってきたともえ達、すでに日が暮れているので、ここで一泊することになった。

 

ともえ「明日から、またフレンズちゃん達に聞いて回らないと」

イエイヌ「そうですね、どこかに知ってるフレンズがきっといます」

ロードランナー「パークは広いからな」

 

島の長も知らない相手を探す、それは難しいかもしれないが、あきらめる気はなかった。

そろそろ寝ようかと支度を始めたとき、訪ねてくるフレンズがいた。

 

カラカル「ここにいたのね」

ともえ「カラカルちゃん、どうしたの、こんな遅くに」

イエイヌ「夜行性の子はこれからが本番ですよ」

ロードランナー「飯はもう食っちまったぞ」

カラカル「そんなんじゃないわよ、その、ごめんなさい」

 

カラカルは頭を深々と下げた。

 

カラカル「危険な目に合わせて、本当はビーストみたいなのはハンターが対処しないといけないのに」

イエイヌ「頭を上げてください、私もともえさんも無事なんですし」

ともえ「そうですよ、それにカラカルちゃんが残ったセルリアンを退治してくれたから、音楽祭だって」

ロードランナー「そうだぜ、頭を上げろって」

カラカル「でも…そうね、なら、あんた達の探してる相手、あたしも探すわよ」

ともえ「いいんですか?」

カラカル「危ない目に合わせたんだから、このくらいは当然よ」

ともえ「なら、守護けもさんって知りませんか?」

カラカル「守護けもさん・・・」

 

ともえの問いに、カラカルは顎に手を当てて考える。

 

カラカル「あいつ、会えないわよ」

ともえ「そうですか」

イエイヌ「残念です」

ロードランナー「手掛かりなしか・・・ん?」

 

ともえ&イエイヌ&ロードランナー「「「会えない?」」」

カラカル「そうよ、ボスの縄張りって場所にいて、取り巻きに門前払いされるもの」

 

カラカルの言葉、会えない、それはつまり、彼女が守護けもさんを知っているから出てくる言葉であった。

そしてボスの縄張り、それは間違いなく、居場所であった。

 

カラカル「ごめんなさい、力になれなくて」

ともえ「そんなことないです!」

イエイヌ「そのボスの縄張りはどこに!」

ロードランナー「おい、早く教えろよ!」

カラカル「顔が近い、落ち着きなさい、あたしが案内してあげるから!」

 

思わぬところからでた手がかり、旅は大きく前進する。






・・
・・・

しろげ「あおかげさん、お元気そうで」
あおかげ「そちらも元気そうだな」
くりげ「そっちも情報あった?」
あおかげ「あぁ、急いで報告しないといけないことがな」

あおかげ「というわけでして、彼女はヒトのフレンズでない可能性があります」
しろげ「それと、例の施設で見つかった使用後は、関係があると思います」
くりげ「だからね、正式に調査の続行をお願いします」

あおかげ「よし、これでもうしばらくパークにいられるぞ」
しろげ「沖の皆さんにも、連絡を入れておかないと」
くりげ「でもうれしそうだったね、博士」
あおかげ「そうだな、もう会えないと思っていた相手が、生きてたんだ、うれしくもなるさ」

・・・
・・



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第5話 クリーンセンター

ゴマちゃんことロードランナーが加わり、にぎやかな旅をするともえ一行。
音楽祭を目指す中、フレンズが作った休憩所で白い狐のフレンズのミケツ、そのお供のオオミミギツネに出会う。
ラモリさんがソーラーパネルを充電して、イエイヌとオオミミギツネがお茶を入れている間、ともえはミケツに人の無関心と裏切り者の話を聞く。
お茶が終わった後、音楽祭の会場まで同行、そこで二人とはお別れ、また会えるといいな。
音楽祭にはたくさんのフレンズ、島の長二人にツチノコちゃん、それとカラカルちゃん、もうたくさん。
その中にこの前会った不思議なアードウルフも、なにかよくわからない話をしてたけど。
もうすぐ始まるというところでセルリアンがやってきた、イエイヌとロードランナーもハンター達とともに戦うも、そこにビーストが加わり大変なことに。
ともえも駆けつけて、イエイヌを助けようとしてビーストの前に立ちふさがる、あわや大けがというところで不思議なことが起きて、二人は無事、でも、あの声は・・・。
音楽祭は大盛り上がりで終了、一泊しようとしたところでカラカルちゃんがやってきた、そしてなんと、彼女が守護けもさんの居場所を知ってるらしい。
いよいよ、守護けもさんに会えるのかな?


様々な樹が生え、場所によっては日の光りさえ遮るしんりんちほー。

フレンズもあまり使わない道を、ともえ達は進んでいた。

 

ともえ「カラカルちゃん、この道であってるんだよね?」

カラカル「そうよ、だからしっかり運転しなさい」

 

運転するともえの後ろで、カラカルが進むべき道を指示する。

 

ロードランナー「まだつかねぇのかよ!」

イエイヌ「さすがにしんどくなってきました」

ラモリ「定員オーバー、キケン」

カラカル「しかたないじゃない、これに追い付けないんだから」

 

道案内のためバイクの後ろに座るカラカル、イエイヌとロードランナーの二人は側車に体を縮めて入っていた。

一人用なので狭いのだが、カラカルの足ではバイクに追いつけないし、長時間並走することもできない。

仕方がないとはいえ、座り心地はよくなかった。

 

ともえ「もう少しなんですよね?」

カラカル「そうね、あと数本、小川も渡るわよ」

イエイヌ「結構遠いですね」

ロードランナー「なんでこんな不便な場所に住んでるんだ、守護けもって奴は」

ともえ「そうかな? あたしはなんだか雰囲気あっていいと思うけど」

 

細い道の先に住んでいるというのは、なかなか趣があるのではないかと思うともえ。

カラカルの案内で進むと、これまでパークで見てきたのと違う、灰色の橋が架かっていた。

 

ともえ「なにこれ?」

カラカル「コンクリートの橋よ、この辺りはこんなのばっか」

イエイヌ「ハイウェイのと、一緒なんですな」

ロードランナー「なんだ? ここにもハイウェイが通る予定だったのか?」

ラモリ「検索、該当ナシ、ココハ関係者以外立チ入リ禁止エリアダネ」

カラカル「あら、今は関係ないでしょ?」

ラモリ「ソウダネ、パークハ営業シテナイカラネ」

 

木製の橋よりもしっかりしたコンクリート製の橋を渡る。

下が見えなければ地面の上と勘違いしそうなくらい安定していた。

道も土がむき出しの状態から、舗装された砂利道にかわる。

 

ともえ「ここら辺は、手入れされてるんですね」

カラカル「ボスが手入れしてるわよ、ほら、あそこにも」

イエイヌ「何か運んでますね?」

ロードランナー「ほんとだ、なんか薄っぺらいのは混んでんな」

ラモリ「漂着物ダナ」

 

すれ違ったラッキービーストはみな頭に赤茶色のよくわからないものを乗せていた。

なかには壊れたラッキービーストを乗せている子もいた。

 

ともえ「ボスとたくさんすれ違うね」

イエイヌ「たしかに、ここまですれ違うのは珍しいですよ」

ロードランナー「ボスの縄張りは伊達じゃないってことか?」

カラカル「そうね、でも、ここまで奥にくる子は多くないわ」

 

道を進む旅、ラッキービーストとすれ違う、ふとともえは、気になったことをカラカルに尋ねる。

 

ともえ「ところでカラカルちゃんは、どうして守護けもさんに?」

カラカル「それをいうなら、あなた達こそ」

ともえ「えっと、私は記憶がなくて、昔のことを知れば何か分かるかなって」

イエイヌ「昔のヒトの暮しとか、たくさんヒトがいた場所がっわかれば、何かヒントがあるんじゃないかって」

ロードランナー「行かなきゃいけない場所だっけ? それがわかるかもしれねぇ、だっけ?」

カラカル「ふーん、なんだ、私と似たり寄ったりね」

ともえ「カラカルちゃんも」

カラカル「ここで止まって」

 

 

 

カーブに差し掛かる、カラカルが話を遮り制止させるとバイクを降りてその先をのぞき込む。

 

カラカル「やっぱりいるわね」

ともえ「どうかしたの?」

カラカル「いつも門前払いにするやつがいるの」

ともえ「こ、怖い人?」

イエイヌ「ともえさん」

カラカル「まぁ、今はヒト、ともえがいるし、いつもと違うかも」

ロードランナー「適当だな」

カラカル「こっちよ、ゆっくり前進して」

 

カラカルの指示でバイクを前進させる、カーブを抜けた先には鉄のフェンスとゲート、そしてその前には黒いラッキービーストと腰に何かを下げている、眼鏡をかけ灰色の長髪をもち、白を中心として服をまとったフレンズがいた。

 

カラカル「ヘビクイワシ、少しいいかしら?」

ヘビクイワシ「カラカル君ですか、何度も言いますがここは立ち入り禁止です、そちらの方々は?」

ともえ「ともえです」

イエイヌ「イエイヌです」

ロードランナー「ロードランナー様だ」

ヘビクイワシ「ふむ、ヒトがいれば入れると考えたのですね」

 

ヘビクイワシはメガネに手を当てる、知的な空気をまとう彼女に、ともえはついつい筆を取り出しスケッチしていた。

 

ヘビクイワシ「ですが、この施設にあるものは危険なものが多いので、入れるわけにはいきません」

カラカル「なによ、いつもながらけち臭いわね」

ともえ「あの、ヘビクイワシちゃん、あたしたちは守護けもさんに会いに来たの」

ヘビクイワシ「守護けもさん・・・あの方のことですね、ですがあの方はここの施設長も兼任されていますので、急な面会は」

イエイヌ「そんな、少しだけでいいんです」

ヘビクイワシ「できません、私から話は通します、今日のところはおかえりください」

ロードランナー「なんだよ、けち臭いな、会うだけなのになんでそんなに嫌うんだよ」

ヘビクイワシ「ここは危ないものが多い、興味本位で入られたら大変なことになるからです」

 

杓子定規なヘビクイワシに、空気は険悪になっていく。

ともえは場所が分かったので帰ろうとするが、ラモリがヘビクイワシへと向かう。

 

ヘビクイワシ「おや、どうかなされましたか?」

ラモリ「ヘビクイワシ、コノ施設ヲ見学シタイ、ボクノ権限ナラ今スグニデキルハズダヨ」

ヘビクイワシ「上位権限者の専属個体だったのでしょうか? ですが私には確認するすべがありません」

カラカル「なによ、なんでそんなにダメなのよ!」

ロードランナー「そうだぜ、こうなったら、無理やりにでも」

ともえ「落ち着いて、二人とも」

イエイヌ「そうですよ、焦ってはだめですよ!」

ヘビクイワシ「カラカル君、ロードランナー君、無理矢理にでも入るというなら、こちらもそれ相応の対応をしなければなりません」

 

そういってヘビクイワシが腰から下げていて物を手に取る、それは黒い色をしていて、持ち手がついていた。

筒のようなものが上下にならび、下についた持ち手が動くと、ガシャンと独特な音が響く。

 

ヘビクイワシ「この音は、嫌な音ですが、もっと嫌な音が鳴りますよ」

カラカル「くっ、いつもその嫌なので脅してきて」

ロードランナー「なんだかわかんないけど、あんまり聞きたくな」

イエイヌ「あれって・・・って、ともえさん!?」

ともえ「あ・・・あっ・・・」

ヘビクイワシ「ともえ君?」

 

ともえは足を震わせ、顔は真っ蒼になっていた。

慌ててイエイヌがそばにより体を支えるが、ともえは立ってるのがやっとの状態であった。

 

ともえ「あれは・・・あぁ・・・いや・・・いやぁぁぁぁ!」

イエイヌ「ともえさん! 落ち着いて!」

ロードランナー「てめぇ、ともえに何しやがった!」

ヘビクイワシ「わ、私は何も!」

ラモリ「フラッシュバックノ可能性ガアルナ、トニカク救護班ヲ」

ヘビクイワシ「急ぎこちらへ、施設には医療設備があります」

カラカル「さっきはダメって」

ヘビクイワシ「私の責任です、早く」

 

急に暴れだし、かと思えば気を失ったともえは、イエイヌに抱えられ、ヘビクイワシの案内でフェンスの向こう側へと運ばれた。

 

・・

・・・

 

どうして、なんで?

 

『お前が生きてるだけで邪魔なんだ、だから、両親のもとに送ってやるんだ、感謝しろよな!」

 

*******

 

あれ?なにが、あれ?あつい、痛い、痛い・・・。

 

痛い、痛いよ、なんで、なんで。

 

「しっかりしてください、あいつは、あいつはもう何もしてこないから、だから」

 

なんで、まっかに、あぁ、あたしも。

 

「なんで、なんで平然とあんなことを」

 

さむい、さむいよ。

 

「しっかりしてください! 血が止まらない・・・こうなったら、あそこに行きます、あそこなら!」

 

さむいよ、離さいで、一人にしないで。

 

・・・

・・

 

ともえ「う、うぅ」

イエイヌ「ともえさん!」

ともえ「あれ、イエイヌちゃん? ここは」

 

ともえが目を覚ますと、目に入ったのはイエイヌの顔、そしてその向こうには白い天井。

体を起き上がらせると、そこは見慣れない部屋だった。

壁は白一色、小さなテーブルとイス、壁をくりぬいて小物を置いておくスペースがある、なんとも今までのパークとは毛色の違う場所だった。

 

ともえ「あたし、どうして?」

イエイヌ「ヘビクイワシさんが持っていたものを動かしたとき、急に体調を崩したんですよ」

ともえ「あれ、銃の音、だよね?」

イエイヌ「ともえさん、震えて」

ともえ「ごめん、あの音、怖い」

 

ともえがそう言ってイエイヌの顔を見たとき、一瞬だがその顔に赤い色が重なる。

目をつぶり首を振ると、それは消えた。

 

イエイヌ「ともえさん」

ともえ「大丈夫だよ、それより、ゴマちゃんとラモリさん、カラカルちゃんは?」

イエイヌ「三人は外のバイクを移動させてきて、目が覚めたら合流すると」

ともえ「どうして?」

???「その方がいいと、思ったからよ」

 

軽く空気の抜ける音と共に入ってきたのは、薄茶色のショートヘアーに薄茶色と黒色の縞模様に小さなポケットが付いたエプロンをつけたフレンズだった。

 

ともえ「えっと」

フクロオオカミ「フクロオオカミ、医務室の室長、してるわ」

イエイヌ「ともえさんのそばにいるのは私だけって言ったのもこのヒトなんですよ」

ともえ「そうなんですか?」

フクロオオカミ「えぇ、なんだか、二人がそうするのが、一番な気が、したから」

 

そういいつつ、フクロオオカミはともえの額に手を当てたり、目を見つめたりする。

人取り終わると、微笑みを浮かべていた。

 

フクロオオカミ「問題、なし、記憶喪失は聞いてる、から、倒れたのは、トラウマが、原因かも」

ともえ「あたしの知らない、トラウマ」

イエイヌ「ともえさん、大丈夫です、ほら、もふもふのしっぽですよ」

ともえ「イエイヌちゃん、ありがとう」

 

ともえはイエイヌのしっぽをモフモフする、さっきまでざわついていた心は落ち着きをとし戻していく。

堪能し終えたころには、いつものともえになっていた。

 

ともえ「いつモフモフしても、飽きが来ない」

イエイヌ「えへへ、自慢のしっぽですから」

フクロオオカミ「二人、とも、お友達、待たせてる」

ともえ「そうだった、イエイヌちゃん、えっと・・・どこに行けばいいの?」

イエイヌ「医療棟のエントランス、だそうです

フクロオオカミ「案内、するわ」

ともえ「ありがとうございます」

 

フクロオオカミについて部屋を出ると、白い廊下には大きな窓があって明るく、清潔感が漂っていた。

階段を下りて、広い場所に出ると、たくさんの長椅子と受付、そしてロードランナーとカラカルだった。

 

ロードランナー「ともえ、大丈夫か?」

ともえ「おかげさまで」

カラカル「ごめんなさい、あんなことになるなんて」

ともえ「気にしないで、あたしも知らないことだったし」

イエイヌ「そうですよ、ラモリさんは?」

ロードランナー「なんか話をつけてくるって」

カラカル「見学がどうとか、言ってたわね」

 

そういうはなしをしていると、エントランスの入り口からラモリと、灰色のショートヘアーに白いエプロンのフレンズがやってきた。

 

フクロオオカミ「コアラ、ちゃん、お話し、終わった?」

コアラ「はいー、施設長の準備する間、クリーンセンターの案内をするようにとー」

フクロオオカミ「わかった、ここから、は、コアラ、ちゃんに」

コアラ「よろしくですよー」

ともえ「よろしくお願いしますね、コアラちゃん」

コアラ「こちらこそー、では皆さん、こちらですよー」

 

コアラの案内で、エントランスを出る一行。

通路は天井は高く、両側に連なる窓からの明かりで照らされていた。

 

ともえ「凄く綺麗、パークじゃないみたい」

イエイヌ「はい、私のお家とも違います」

ロードランナー「ハイウェイに少しにてるけど、違うところの方が多いぜ」

カラカル「遺跡はいつくか見てきたけど、そのどれとも違うわね」

ラモリ「ココハフレンズノ利用ヲ想定シテナイカラネ」

 

ラモリの言葉に首をかしげつつ、一行は通路を進む。

終わりがあるのか不安になって来た頃、漸く扉が現れた。

 

コアラ「其では、ただ今よりー、クリーンセンター見学を、はじめますー」

ラモリ「僕モ手伝ウヨ」

ともえ「どんな場所だろうね」

イエイヌ「危ないとか、ヘビクイワシさんがいってましたよね?」

ロードランナー「どうせはったりだろ」

カラカル「だといいわね、まぁ、気にしても始まらないわよ」

 

扉が左右に開き、ともえ達はコアラ、ラモリに続いて中に入る。

通路はがらりと代わり、丸く透明の屋根となり、まるで細い管のようであった。

緩い上り坂を進むと、明るい場所に出た。

 

コアラ「ここクリーンセンターは、パークに遺されたりー、流れ着いたフレンズにとって危険なものを、解体処理してリサイクルしてるんですよー」

ともえ「危険なもの? 解体?」

ラモリ「例エバアレダヨ」

 

ラモリがアームで示す先、通路から見えるのは、下に置かれた沢山の赤錆た鉄の箱、周りには沢山のラッキービーストがいて、時折火花が煌めいていた。

 

ともえ「あれは?」

ラモリ「コンテナダヨ、滅多ニナイケド海ニ落チテ漂ウンダヨ」

コアラ「波の力でパークに流れ着くんですよー」

イエイヌ「沢山あるんですね」

ロードランナー「落としすぎだろ」

カラカル「一度に落とす量が多いのかしら」

コアラ「コンテナは、ボスの皆さんが力を合わせて、小さくしていきますー」

 

ともえ達の目の前で、コンテナの一つが屋根を切られ持ち上げらやれると、側面が内側に倒され、それも半分に切られて持ち上げられていった。

 

コアラ「ここ火を使うので、近づけません、次に行きますよー」

ともえ「火を使うなら、ヘビクイワシさんが頑固だったのも」

イエイヌ「わかりますね」

カラカル「それだけかしら」

ロードランナー「すげー!、って、置いてくなよ!」

 

遅れたロードランナーを待って、通路を進む、次のエリアは沢山の箱が並んでいた。

 

ともえ「ここは?」

コアラ「裁断エリアですよー、ここではさっきのコンテナや中身をあの裁断機で細切れにするんですよー」

ラモリ「落チタラ助カラナイヨ」

イエイヌ「本当に危険なものばかりですね」

カラカル「どっかの誰かなら落ちるわね、うん、そりゃ厳しくなるわ」

ロードランナー「スゲー、細かくなってやがる!」

 

ラッキービーストが鉄の板を沢山の牙がついた丸い物が回ってる箱に放り込むと、下から細かくなって出てくる。

あれに食べられたらどうなるのか、想像するだけで恐くなる。

それでも見学は続く。

 

コアラ「次は細かくした鉄を溶かす工程ですよー」

ともえ「あの固いのを?」

ラモリ「ソウダヨ」

イエイヌ「そもそも溶けるんですか?」

コアラ「溶けますよー、ほらー」

四人「「「「・・・え?」」」」

 

四人の目線の先、そこには真っ赤で、ドロドロしたものがでかい鍋から鍋へとうつし変えられていた。

 

コアラ「あれが溶けた鉄でー、とっても危ないんですよー」

ラモリ「サンドスター炉ノ実用化デ、パークデモ金属ノリサイクルガ可能ニナッタンダ」

ともえ「前は出来なかったの?」

コアラ「必要な物が地面の下にあるから、木を切ったり山を崩したりー」

イエイヌ「確実に揉めますね」

カラカル「パークの地下資源はそもそも多くないはずよ」

 

よくわからないが、サンドスターが凄いのはわかった。

 

コアラ「このあと、石油由来品のリサイクルも見学できますよー」

ともえ「鉄で充分です」

イエイヌ「恐いのはちょっと」

ロードランナー「おっかない物が多すぎだろ」

カラカル「一息いれたいわ」

コアラ「残念ですー、では、こちらへー」

 

少し残念な顔をしたコアラに案内され、ともえ達は通路を進む、入口と似た扉を抜けると、そこには長机と長椅子、観葉植物が置かれ、奥にはカウンターのある部屋に着いた。

 

コアラ「ヤブワラビーさーん、フクロギツネさーん、お茶のご用意をお願いしますー」

???「「はーい」」

 

コアラに呼ばれてカウンターの奥から出てきたのはメイド風のフレンズと、パティシエール風のフレンズ。

 

ヤブワラビー「初めまして、わたくしはヤブワラビーと申します」

フクロギツネ「あったしはフックロギツネだよっ♪」

ともえ「初めまして、ともえです」

イエイヌ「イエイヌです」

ロードランナー「ロードランナー様だ」

カラカル「カラカルよ」

コアラ「挨拶も終わったようなのでー。二人とも、お客様にフルーツとお茶をお願いしますー」

ヤブワラビー「かしこまりました」

フクロギツネ「まっかせてー♪」

 

ヤブワラビーはカウンターから出ると手早く机を拭きティーセットを並べる。

席につくとカウンターの奥からは甘い香りが漂い初め、スプーンとフォークが用意される。

 

イエイヌ「凄い速さ、それでいて丁寧」

ヤブワラビー「メイドとして、当然のことでございます」

ともえ「メイド?」

ロードランナー「なんだそりゃ?」

カラカル「世話好きのプロみたいなもんよ」

ロードランナー「適当だな、おい」

 

そうしている間にも、ヤブワラビーはカップに紅茶を注ぎ、フクロギツネの作ったフルーツとホイップクリームがたっぷりのったクッキーが中央に運ばれてきた。

 

フクロギツネ「エプロン愛好会特製フルーツクッキーだよ♪」

ヤブワラビー「心行くまでお召し上がりくださいまし」

ともえ達「「「「いただきまーす!」」」」

 

手に取り、一口食べればフルーツの甘味、それを引き立てるクリーム、サクサククッキーが奏でる優雅なワルツ、紅茶も主役を引き立てる名脇役。

 

ともえ「美味しい! 凄く美味しいよ!」

イエイヌ「どうすればこんな美味しい紅茶を」

ロードランナー「うめぇー!とにかくうめぇー!」

カラカル「流石はフクロギツネね、ともえ達がメロメロに」

 

美味しい美味しいと食べるともえ達に、二人はにっこりご満悦。

少し落ち着くと、ともえが気になった事を訪ねる。

 

ともえ「ところで、エプロン愛好会って何?」

コアラ「エプロン愛好会は、有袋類のフレンズを中心にしたグループですよー」

ともえ「グループ?」

イエイヌ「仲のいいフレンズや共通点のあるフレンズの繋がりや纏まりの事ですよ」

カラカル「図書館を縄張りにしてる長達もグループに属してるわ、グループの仲間が集まると小さなけもハーモニーが出来て特別な効果があるのよ」

ロードランナー「俺は知らなかったぞ!」

ヤブワラビー「今は、グループその物が少なくなっております」

コアラ「残ったのは私達のエプロン愛好会にー、博士達のまったり浮遊部くらいですよー」

ともえ「そうなんだ、あれ? ヘビクイワシさんと守護けもさんは?」

 

入口で出会ったヘビクイワシは鳥類、守護けもさんはわからないが何故か違う気がした。

 

コアラ「お二人は違いますよー、施設長はここを縄張りしていてー、ヘビクイワシさんも私達も一緒に暮らしてるんですよー」

ともえ「ここ、守護けもさんの縄張りなんだ」

イエイヌ「こんな凄い場所が縄張りで、ヘビクイワシさんやエプロン愛好会の皆さんが従ってる、間違いなく凄い人です」

ヤブワラビー「ご主人様はここをクリーンセンターにしたのですから、凄くて当然です」

ロードランナー「おい、いま何て言った?」

ともえ「クリーンセンターにした? じゃあ、最初は違ったの?」

コアラ「そうですよー」

 

最初は違った、それをコアラは否定しなかった。

 

コアラ「たしかそれを話してる人の絵がー」

ラモリ「映像ダネ、アクセススルカラ少シ待ッテネ」

コアラ「やっぱりボスは凄いですねー」

 

ラモリがアクセス中と呟きながら壁の方に体を向ける。

胸元が光ったと思うと、壁には何かが映し出され、次第に鮮明になっていく。

 

ともえ「これって」

イエイヌ「映像記録ですよ」

ロードランナー「なんだ、ボスってそんなこともできるのか!?」

カラカル「静かに、始まるわ」

 

映し出された映像には、白衣を羽織、長い髪をもふもふした尻尾のような髪飾りでまとめてポニーテールにした女性がいて、その後ろには何かの建物が見えていた。

 

女性『私の後ろに見えるのが建設中のマシナリーセンター、パークで運用されるバスやラッキービーストを初めとされる機械の製造、整備、リサイクルを目的とした施設になる予定だ』

 

イエイヌ「マシナリーセンター・・・」

ロードランナー「リサイクルって、いまもやってることだろ」

カラカル「そうだけど、何か違うみたいね」

ともえ「・・・」

 

女性は、表情を変えずに話を続ける。

 

女性『居住区と医療区画は完成、現在は現場の強い要望からリサイクル区画の建設を進めているが』

 

イエイヌ「表情が」

ロードランナー「怒ってるのか」

カラカル「隠そうとしてるけど、出来てないわね」

 

イエイヌ達の言う通り、女性の顔には怒りの色が出ていた。

 

女性『区画が予定よりも小さい、それどころか生産、整備区画の建設が始まってる、まだ処理区画は完成してないのにだ』

 

ロードランナー「処理区画?」

コアラ「汚れた物を綺麗にする場所ですよー」

イエイヌ「それがないと、パークが大変な事になるんです」

 

女性『建設は上層部の一部が独断で進めている、私利私欲で建設範囲を無断で拡大しジャパリ農園も潰すつもりらしい』

 

コアラ「ジャパリ農園はフクロオオカミちゃんが開墾したんですよー」

フクロギツネ「皆に美味しい野菜をって」

イエイヌ「ひどい」

 

女性『内偵がすみ次第、私はパークを離れてこの事を告発する、体調が安定しない私なら申請も通るだろう』

 

そう言ってから、女性の表情に悲しみが現れる。

 

女性『出来るなら、あの子達も連れていきたいたいが、皮肉なことだが・・・』

ラモリ「映像ハココマデダヨ」

ロードランナー「気になるところで終わりやがって」

カラカル「でもいまの状態からすると、告発はうまくいったみたいね」

コアラ「ジャパリ農園も無事ですしー、ここ以外は作りかけだったんですよー」

イエイヌ「なら、さっきの女性が・・・あれ? ともえさん?」

 

話が盛り上がるなか、一番に入ってきそうなともえが黙ったままなのに、イエイヌが気がついた。

 

ともえ「いまの人、知ってる、カコ博士だ!」

イエイヌ「ひゃい、と、ともえさん、カコ博士って、誰ですか?」

ともえ「さっきの映像に映ってた人だよ、それに、この前思い出した白い服のお姉さん、あの人もカコ博士だよ」

ロードランナー「じゃあ、いまの人が」

イエイヌ「ゴマさん、あの時ともえさんは、そのカコ博士より、声だけの人の方が大事だって」

ロードランナー「そうだっけか?」

ともえ「うん、それに、カコ博士の事、名前しか思う出せなくて」

コアラ「なんだかよくわかりませんけどー、大変ですねー」

カラカル「思い出せるだけいいじゃない」

 

手懸かりが増えたかに思えたが、別段そうでもなく落ち込むともえ達。

コアラ達が紅茶を渡して元気付けようとする。

 

コアラ「まー、何も分かんないよりはましですよー」

カラカル「そうよ、そのカコ博士?が分かっただけでも、前に進んでるわよ」

ともえ「コアラちゃん、カラカルちゃん」

ヤブワラビー「何事も一日にしてならず、すぐ解決する方が希でして」

フクロギツネ「そうそう、一日一歩、三日で三歩、ゆっくりこつこつ♪」

イエイヌ「ヤブワラビーさん、フクロギツネさん」

???「例え少しの増加でも、結果は大きく変わるものです」

ロードランナー「ヘビクイワシ・・・って、てめぇいつの間に!?」

ヘビクイワシ「ついさっきです、とは言え、叫ぶ必要はないかと」

 

いつの間にかいたヘビクイワシにともえ達が驚き下がる、特にともえはイエイヌの後ろに隠れる。

ヘビクイワシもそんなともえを見つける。

 

ヘビクイワシ「ともえ君」

ともえ「は、はい」

ヘビクイワシ「知らなかったとは言え、恐い思いをさせて、本当に申し訳ない」

ともえ「へ、ヘビクイワシちゃん!?」

 

ヘビクイワシは深々と頭を下げ謝罪する。

流石にともえも慌て、頭をあげるよう伝えるが、彼女は3分ほど、頭を下げ続けた。

 

カラカル「で、ここに来たのは謝罪だけじゃないんでしょ」

イエイヌ「カラカルさん、言い方」

ロードランナー「いくらなんでもそれは」

ヘビクイワシ「構いません、ともえ君」

ともえ「はっ、はい」

ヘビクイワシ「準備が終わりました、施設長との面会に向かいます」

ともえ「守護けもさんと」

イエイヌ「ようやく」

ロードランナー「随分と待たせやがって」

 

ここまで来た理由、守護けもさんとの面会。

ともえ達の目に期待の色が映る。

 

ヘビクイワシ「カラカル君は、ともえ君達の後になります」

カラカル「構わないわ、ともえ、しっかり聴いてきなさい」

ともえ「うん」

イエイヌ「それでは、お先に」

ロードランナー「じ、じゃあな」

ヘビクイワシ「こちらです」

 

カウンターの突き当たり、その壁にヘビクイワシが手をかざす。

壁が後ろに下がると右に動き、そこには少しくらいが、通路があった。

 

ともえ「隠し扉、カッコいい!」

イエイヌ「ともえさん」

ロードランナー「おめぇ、ぶれねぇな」

ヘビクイワシ「着いてきてください」

 

ヘビクイワシの先導で、薄暗い通路を進んでいく。

 

ともえ「さっきの通路と大分違うね」

イエイヌ「少し空気も淀んでますし」

ロードランナー「それになんか、暖かさがねぇな」

ヘビクイワシ「見学用通路と違い、此方は職員用ですので」

ともえ「そうなんだ」

イエイヌ「ラモリさんは平気ですか?」

ラモリ「問題ナイ」

ヘビクイワシ「階段です、足元にご注意を」

 

足元に注意しながら階段を登り、廊下を進み、また階段を登る。

どのくらい進んだのかわからないまま、ヘビクイワシは止まった。

 

ともえ「ここ、ですか?」

ロードランナー「なんにもねぇじゃないか」

イエイヌ「いえ、ヘビクイワシさんと違う臭いが」

ヘビクイワシ「流石はイエイヌ君、施設長、お客様をお連れしました」

施設長「ご苦労様、いま開けるわ」

 

施設長と思われる声がそう答えると、壁か開き、中から光が漏れる。

ヘビクイワシが此方へとジェスチャーをするので、ともえは中にはいる。

 

ともえ「お、おじゃましま・・・す・・・」

イエイヌ「ともえさん、どうしまし・・・」

ロードランナー「二人ともどうした・・・」

ヘビクイワシ「まぁ、初対面はそうなりますね」

ラモリ「三人トモ、シッカリシロ」

 

ともえ達が固まるのも無理はない。

暖かい色合いのじゅうたんがひかれ、ソファーとテーブルが置かれた応接の準備の先、そこに彼女はいた。

黄緑色を中心にスカートと首もとに黒の斑点があしらわれた服、頭には先端が虹色の翼、髪も黄緑で、その眼差しは凛々しさを感じられた。

だが、彼女がただのフレンズでなく、もっと言えば本来なら危険かもしれない相手だと、三人は感じてしまっていた。

 

施設長「私はセーバル、今は施設長で、守護けもさんの、元セルリアンのフレンズだよ」

 

彼女、セーバルは微笑みながら、ともえ達にそう告げた。





・・
・・・

あおかげ「音楽祭はもう終わってたか」
コノハ博士「来るのが遅すぎるのです」
ミミちゃん助手「もっと早く来るのです」
しろげ「なんか偉そうな方たちですね」
くりげ「そうだね」
コノハ博士「長だから偉くて当然なのです」
ミミちゃん助手「当たり前なのです」
おおかげ「長、だったら」

コノハ博士「会いましたよ」
ミミちゃん助手「来ていましたよ」
あおかげ「本当か、で、そのヒトはどこに?」
コノハ博士「わからないのです」
ミミちゃん助手「ところで、なんでお前らはともえを追っているのですか?」
しろげ「この二人、長なら事の重大さを」
くりげ「しろげちゃん、落ち着いて」
あおかげ「そうだ、ヒトがいなくなって久しいんだ、一から話そう」

コノハ博士「そ、そんな恐ろしい事態になるのですか!?」
ミミちゃん助手「に、にわかには信じられません!」
あおかげ「信じてもらわないと困る、彼女の保護はパークの平穏のためでもあるんだ」
しろげ「ですから、協力してもらえますか?」
くりげ「私達もパークを守りたいの」
コノハ博士「わかったのです、これも島を守るため、ともえを見かけたらお前らに連絡するのです」
ミミちゃん助手「この島の長なので、お前たちもしっかり探すのですよ」
あおかげ「わかってる、それと、もう一つお願いがあるんだけど」

・・・
・・


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第6話 守護けもさん

音楽祭で出会ったカラカルの案内で、守護けもさんに会うためにボスの縄張りに向かうともえ達一行。
最初に出会ったのはヘビクイワシ、彼女の持っている銃の音を聞いて錯乱、気を失うともえ。
目覚めた時には施設「クリーンセンター」の、フクロオオカミが管理する医務室、その後、コアラの案内で施設見学、怖い機械もたくさんあった。
見学の後はヤブワラビーとフクロギツネのおいしいスイーツで舌鼓。
そんななか、施設の過去を今に伝える映像に移る女性、カコ博士のことをともえは知っていた。
ただそれだけだったが、うれしかった。
そしてともえ達は守護けもさんとついに対面することになったが・・・。


セーバル「私はセーバル、今は施設長で、守護けもさんの、元セルリアンのフレンズだよ」

イエイヌ「元、セルリアン?」

ロードランナー「なにが、どうなってんだよ・・・」

 

やっと会えた守護けもさん、セーバルが元セルリアン、イエイヌとロードランナーの二人は理解しきれなかった。

そしてそれはともえも・・・。

 

ともえ「めっ・・・」

イエイヌ「ともえさん」

ロードランナー「これは流石に」

ともえ「めっちゃ絵になる!」

イエイヌ&ロードランナー「「はぁ!?」」

セーバル「あれ?」

ともえ「綺麗な黄緑に頭の翼、それに凛々しさが加わって、今描かないと次はない!」

イエイヌ「お、落ち着いてください!」

ロードランナー「ともえ、冷静になれ!」

ラモリ「トモエ、オチツケ」

 

ともえは目を輝かせ、スケッチブックを取りだし、目に求まらぬ早さでセーバルをスケッチしていく。

ともえが落ち着いたのは、セーバルを書き上げてからだった。

 

ともえ「満足」

イエイヌ「ともえさん、セーバルさんが困った微笑みを浮かべてますよ」

ともえ「あ、ご、ごめんなさい、あたし、つい」

セーバル「いいよ、フレンズの好きなことは皆違うし、押さえきれないときもあるから」

ロードランナー「いいのか?」

セーバル「えぇ、そちらにどうぞ」

 

セーバルに促され、ともえ達はソファーに座り、セーバルが対面に座る。

その姿にも、どこか貴賓な感じがあった。

 

セーバル「貴女達の事は、カピバラから聴いてたよ、昔のパークが知りたいそうだね」

ともえ「は、はい、そうです」

イエイヌ「知ってるんですか?」

セーバル「少しだけど、私の昔ばなしも入るけど、いいかな?」

ロードランナー「抜きはできねぇのか?」

セーバル「できないよ、さて、今は昔の事だけど」

 

セーバルは目を閉じ、ゆっくりと昔の事を語り始めた。

 

セーバル「まだ人がいた頃、私はセルリアンとして輝きを奪い、フレンズににた姿になった、そしてある場所に向かい始め、それを当時のガイドと私が輝きを奪ったフレンズ、そしてその二人が信頼するヒトが仲間を増やしながら追いかけて、最後に私はフレンズになったけど、今は置いといて」

ともえ「なんか、大冒険してない?」

イエイヌ「してますよね、たぶん」

 

どうやってフレンズになったのかを省きながら、セーバルは話を続ける。

 

セーバル「女王事件が解決した後、パークは園長やガイドさん、それにフレンズ達の力で復興、制限は付いてたけど外からヒトも沢山来たんだよ」

ともえ「外から?」

ロードランナー「ヒトは飛べないし泳げないだろ」

セーバル「それを補う知恵がヒトにはあった」

ラモリ「船ヤ飛行機ト言ウ乗リ物ヲ使ッテイタンダ」

イエイヌ「今一解りません」

ともえ「あたしも」

セーバル「後で模型を見せてあげる」

 

模型もよくわからない三人だったが、セーバルは気にしていなかった。

 

セーバル「その頃は今と違って、外から来た娯楽、前からあった映画や漫画に加えて、カードゲームやテーブルゲームが人気で、パークの文化に取り込もうとしてた」

イエイヌ「カードゲーム?」

ともえ「トランプやかるたかな?」

ロードランナー「トランプならプロングホーン様もしてたぜ」

セーバル「遠くの地方、今はエリアだけど、今より簡単に行けた、カフェに行くためにホッカイドーエリア、パークの北の端まで行ったりもできたのよ」

イエイヌ「北の端まで!?」

ロードランナー「この島のじゃなくてか!?」

ともえ「こんなに広いのに!?」

セーバル「ゴマントリバー、バードガーデン、ジャパリ大図書館、オアシス01、クレイジービッグヒル、カブキ森、他には」

ともえ「な、なにがなんだか」

イエイヌ「聞いたことのない場所ばっかり」

ロードランナー「どんだけ広いんだよ」

 

三人は驚いていたが、セーバルはあまり気にしていなかった。

 

セーバル「皆で笑って、怒ったり喧嘩したり、泣いたりもあったけど、楽しかった、ずっと続いて欲しかった」

ともえ「セーバルさん」

 

今まで微笑みながら話していたセーバルの顔に、悲しみの色が少し、浮かんでいた。

 

セーバル「人が増えれば、よくないことも増える、人の中に自分の利益を優先する裏切り者が出始めた」

ともえ「裏切り者・・・!」

イエイヌ「ともえさん?」

セーバル「彼らは私達フレンズとの共存よりもパークの独占を考えた、ここもその一つ」

ロードランナー「カコってヒトが言ってたことか?」

セーバル「あれを見たんだね、その通りだよ」

 

さっき見た映像を思い出す、フレンズのための場所が後回しになっている、確かそうだったはずだったと。

 

セーバル「ここは彼等が自分達のために作ろうとした、カコ博士はそれに気がついてパークを離れたら」

ロードランナー「それで、とめたんだな」

セーバル「ううん、止められなかった」

イエイヌ「でも、ここは」

セーバル「その前に、あの日が来た」

ともえ「パークの閉鎖、ですよね」

 

ともえの言葉に、セーバルは静かに頷いた。

 

セーバル「カコ博士が離れてすぐに、新しい女王が現れて、セルリアンが今の姿に変化した、最初はそれだけだと思ってた、けどそれは違った」

イエイヌ「違う?」

セーバル「セルリアンの目的は、自分達の力の源をパークに作ることだった、思い当たること、あるよね?」

イエイヌ「もしかしなくても」

ロードランナー「あの火山だよな」

ともえ「火山?」

イエイヌ「パークのフレンズは、火山から出るサンドスターから生まれるんです」

ロードランナー「けど、セルリアンもあそこから生まれてくるんだ」

セーバル「そう、もし早くに判ってれば、パークには沢山のヒトがいたかも」

ともえ「でも・・・まさか!」

 

ともえは何かに気がついた、セーバルもそれを確認した。

 

セーバル「裏切り者達はそれを隠した、自分達がセルリアンの力を操れると信じていた、それは傲慢だった」

ともえ「そんな」

イエイヌ「ともえさん、しっかり」

ロードランナー「おめぇはそいつらと違うだろ」

セーバル「うん、貴女は私達の側、カコ博士、ミライさんやナナちゃん、園長みたいに」

 

セーバルはそういってともえの頭を優しく撫でる。

ともえが落ち着くと、話を再開した。

 

セーバル「気が付いたときには、セルリアンの火山がパークのあちこちにできていた、パークの守り神の四神獣を筆頭に、守護けも様達が各地で早い段階で封じ込めたけど、キョウシュウ、ここの火山は一筋縄ではいかなくなってた」

ともえ「四神獣?」

ラモリ「東西南北、ソレゾレヲツカサドル守護ケモノノ事ダ」

セーバル「私はその人達と一緒に何とかしようとした、自分を犠牲にしてでも」

ともえ「犠牲」

セーバル「そう、四神の力で蓋をして、私がセルリアンの力の源をサンドスターに作り替える部品になって、フィルターを作った」

 

暫しの静寂、それはとても重いこと、だから何も言えなかった。

それを崩したのは・・・。

 

セーバル「まぁ、上手くいったのを知ったのは、この体をいただいた後だけどね」

ともえ「はい?」

イエイヌ「えっと?」

ロードランナー「どういうことだ?」

セーバル「フィルターになり始めたところまでしか前の体の記憶がないの、てへッ」

ともえ「セーバルさん!?」

イエイヌ「のりが軽いですよね!?」

ロードランナー「てへッ、っですまねぇだろ! つか、じゃあ今はなんなんだよ!」

セーバル「ナイスツッコミ」

 

暗い空気はどこえやら、セーバルはころころと笑うと、ツッコミに答えていく。

 

セーバル「今の体は、四神様達が体の一部を分けてくれたの」

ともえ「分けて?」

セーバル「神様だから」

イエイヌ「?」

ロードランナー「考えたら負けか?」

セーバル「それで、目が覚めたら全部終わって、ヒトの居ないパークで、正直焦った」

ともえ「なんとなく、わかります」

イエイヌ「ともえさんも私と会うまで一人でしたもんね」

ロードランナー「フレンズに成り立てはなんもわかんないしな」

セーバル「暫くはヒトの居た施設を巡って、その途中でヘビクイワシと知り合って、最後にたどり着いたのがここ、ヒトが居ないことはわかったから、お世話になった人達のやり残しを終わらせようとしてたら、近くのジャパリ農園に避難してたエプロン愛好会の子達が来て、今に至るの」

ともえ「あの、セーバルさんが目覚めてから今日までどのくらい」

セーバル「正確にはわからないけど、5年くらいかな、どのくらい寝てたかはわからないけど」

ともえ「そうですか、5年」

イエイヌ「ともえさん」

ロードランナー「どうしたんだ?」

ともえ「そんなに、たってるんだなって」

 

ヒトが居た頃からどれだけか解らない、最低でも5年、ともえは眠って居たことになる。

大切なヒトが、まだいるのかどうか、不安になるのも無理はなかった。

 

イエイヌ「大丈夫ですよ、ちゃんと会えますよ」

ともえ「でも」

イエイヌ「セーバルさん、カコ博士ってヒトは、まだ戻って無いんですよね」

セーバル「うん、戻る前にあの日が来て、フレンズのために外で動いてたみたい」

イエイヌ「なら、次はそのカコ博士に会って聞きましょう、ともえさんが名前を知ってたんですから、きっと」

ともえ「イエイヌちゃん」

ロードランナー「いいじゃねえか、俺もついていくぜ」

 

盛り上がるイエイヌとロードランナー、次の目的が決まったかに思えたが。

 

セーバル「それは違う」

イエイヌ「えっ?」

セーバル「ともえちゃんと話してわかったこと、聞きたいことの答、なんとなくでてるはずよ」

イエイヌ「そうなんですか?」

ともえ「うん、たぶん」

ロードランナー「どういうことだよ」

 

ともえは言いにくそうだったが、確認するように答えた。

 

ともえ「いかないといけない場所、カコ博士に聞いてもわかんないと思う」

イエイヌ「そんな」

ロードランナー「何でだよ、名前思い出した相手だろ」

ともえ「その、何て言うか、カコ博士は知らないの、もっと曖昧で」

セーバル「行かないといけない場所じゃなくて、誰かといきたい場所、じゃないかしら」

ともえ「はい、そんな感じです」

 

ともえの言葉に、セーバルはやっぱりと言う感じの表情を浮かべた。

 

イエイヌ「セーバルさん、どういうことですか?」

セーバル「さっきパークの地名を上げたとき、ともえちゃんの反応が二人と一緒だったからね」

ともえ「うん、何も思い出さなかったから」

ロードランナー「知らないだけじゃないのか?」

セーバル「かもしれないけど、有名どころばかり、カコ博士を知ってるのに、全部知らないはよっぽど」

イエイヌ「それなら、どこにいけば」

ともえ「手掛かり、ないしね」

ロードランナー「どうすんだよ」

 

これからどうするか、悩み始めた三人、そこにセーバルが手を叩く。

 

セーバル「はいはい、手掛かりなら私の方で探すわ、カピバラからともえちゃんが最初に居た場所を聞くから、暫くはここに泊まりなさい」

ともえ「いいんですか?」

セーバル「いいよ、バイクの改造も時間がかかるし」

イエイヌ「ラモリさん、そうなんですか?」

ラモリ「点検モコミダカラナ」

ロードランナー「なら、世話になるしかないよな」

ともえ「うん、他にできることも、あまり無さそうだし」

セーバル「うんうん、だからね」

 

セーバルはウィンクして、クルリとその場で回る。

 

セーバル「さっき話した船の模型を含めて、色々見せてあげる」

ともえ「いいんですか?」

セーバル「もちろん、さっ、着いてきて」

イエイヌ「着いてきてと言われても・・・って、ともえさん!?」

ともえ「イエイヌちゃん、ゴマちゃん、早く早く」

イエイヌ「もう、元気なんですから」

ロードランナー「全くだな」

ラモリ「急ガナイト見失ウゾ」

 

今度はセーバルの後に着いていくともえ達、階段を降りて、さっきより明るい廊下に出ると、突き当たりにある窓からは、木組みで三角屋根の大きな建物が見えた。

 

ともえ「あれだけ、雰囲気が」

イエイヌ「他より暖かそうです」

ロードランナー「こはんで似たようなの見たような」

セーバル「あとから作ったからね、ここからわたれるよ」

 

そう言ってセーバルは窓から外に出る。

よく見れば吊り橋の様なものが木組みの建物まで続いている。

 

ともえ「すごい!秘密基地みたい!」

イエイヌ「け、結構揺れますね」

ロードランナー「こ、このくらい、へいき、へいきだかんな」

 

テンションアゲアゲのともえに対して、恐々進むイエイヌとロードランナー。

わたり終えると、そこは木組みの建物の天井のすぐちかくだった。

 

セーバル「そんなに怖い?」

ともえ「あたしは平気だったよ」

イエイヌ「いつもは地に足つけて生きてますので」

ロードランナー「飛ぶと揺れるは違うんだよ」

ラモリ「改善ノ必要アリダナ」

セーバル「それはあとで、今はまず」

 

セーバルは両腕を広げ、笑顔で告げた。

 

セーバル「ようこそ、セーバルコレクションへ」

ともえ「コレクション?」

イエイヌ「なんですか、それは?」

ロードランナー「どっかで聞いたような」

セーバル「私がパークで集めたお気に入りをここに保存してるの、さぁ、こっちへ」

 

セーバルに案内されなかに入る、そこは天井近くなので高い位置にあったが、そこからの眺めは、それ以上にすごかった。

 

イエイヌ「す、すごい!」

ロードランナー「なんだありゃ、でかいのがいっぱいあるぞ!」

ともえ「機関車にバスに、あれは飛行機にヘリコプター!」

ラモリ「他ニモアルヨウダナ」

セーバル「自慢のコレクションだからね」

 

バス停の横に止まるバス、黒く輝く機関車、透明な台に載せられまるで飛んでいるように見える飛行機。

それらが整然と並べられ、輝いていた。

その光景にテンションが上がる三人に、セーバルも満足げであった。

 

セーバル「もっと近くで見たいでしょ?」

ともえ「はい!」

イエイヌ「ぜひっ!」

ロードランナー「ロードランナー様もな!」

セーバル「うんうん、そうこなくちゃ」

ラモリ「アトラクショント判断、静カニシテオクヨ」

 

セーバルが手招きして、三人を連れて螺旋階段を降りていく。

上で見た機械が、本来の迫力で待っていた。

 

ともえ「おっきい、これは?」

イエイヌ「牛さんみたいな顔ですね」

セーバル「それはジャパリトラック、ヒトがパークの中で物を運ぶために使ってた乗り物よ」

ロードランナー「速いのか?」

セーバル「速くはないけど荷物をたくさん運べるから力持ちね」

イエイヌ「なんだか、バスににてる気が」

セーバル「バスはあっち」

 

セーバルが指差す先にあったのは、ヤマネコのような凛々しい顔のついた乗り物だった。

 

ロードランナー「なんか、噂で聞いたバスと違うような」

イエイヌ「はい、目はもっと下で、耳はもっと大きいような」

ともえ「そうなの?あたしはよく知らないから」

セーバル「二人が聞いたのはラッキービースト対応型、これはパーク開園時に造られた初期型だよ」

 

セーバルが言うには、これはその初期型の一台、かつとても貴重な物らしい。

 

ともえ「あれ、車内に何か書いてある?」

イエイヌ「ほんとです、でも読めませんね」

ロードランナー「絵じゃないのか?」

セーバル「それは落書き、このバスはパークを一週したから、その時に乗ったフレンズが書いたんだよ」

ともえ「そうなんだ、こんなに」

 

バスの座席や壁に書かれた落書きは読めないが、沢山ある。

このバスが特別なのは、それだけで充分理解できた。

 

セーバル「次は、飛行機とヘリコプターを」

ともえ「空を飛ぶ乗り物だよね」

イエイヌ「空を飛ぶ?これが?」

ロードランナー「羽もないし、固いし、こんなのが飛ぶのか?」

セーバル「飛んでいたのよ、こんな風に」

 

セーバルが手をパンパンと叩くと、突然空中にさっきカコ博士の時のような映像が映し出された。

そこには、ここに置かれている飛行機が空を自由に駆け回る姿が写っていた。

 

イエイヌ「す、すごい、自由に動き回ってる」

ロードランナー「まじかよ、あぁ、こっちは奥においてあるやつだよな!?」

ともえ「ヘリコプターって、こんな風に飛ぶんだよ」

セーバル「まぁ、パークの空は飛行機やヘリコプターに厳しかったから、あまり使われなかったけど」

 

セーバルの言葉に3人のテンションが下がったが、そんなことは気にせず、次の展示へと移動した。

それは他のと違い、青い箱がいくつも並んでいて、先頭には黒い機械が鎮座していた。

その機械からは、バイクににた臭いがしていた。

 

セーバル「これは蒸気機関車、パークがパークになる前に島にやって来たの」

ともえ「前?」

セーバル「この島だって、いきなりできた訳じゃないの、だいたい500年前にできて、400年前に最初の人がすみ始めたそうよ」

イエイヌ「500年前?400年前?」

ロードランナー「それってどんくらいだよ」

ともえ「実感が」

セーバル「そうね、苗木が巨木になるくらい、これでも驚異的な早さだとか」

 

そんなこと言われても三人には理解できなかった。

セーバルも気がつき話を戻す。

 

セーバル「と、とにかく、この機関車は古いものなの、パークができてからも使われてたの」

ともえ「働き者なんだ」

イエイヌ「この数字はなんですか?」

セーバル「それはこの機関車の名前が書いてあるの」

ロードランナー「何て書いてあるんだ?」

セーバル「C50 204、愛称はけものフレンズ号」

イエイヌ「この子もフレンズさんなんですか!」

セーバル「ち、違うよ、この子の名前にちなんだものなの」

イエイヌ「そうですか」

 

見るからにしょんぼりするイエイヌ、元気だしてとともえが肩を叩く。

 

ともえ「ところで、これはうごくんですか」

セーバル「動かせるけど、いまは動かせる子が居ないから」

ロードランナー「こいつ、フレンズだけでうごかせるのか」

セーバル「動かし方が記録として残ってたから」

 

セーバルは機関車にそっと手を触れる。

この機関車が大切にされているのは、それだけで充分に理解できた。

 

セーバル「さて、この機関車の後ろに繋がっているのは客車と言うの、この一纏まりはナイトサファリって名前なの」

ともえ「ナイト、夜?」

イエイヌ「夜がどうしたんですか?」

ロードランナー「なんか青いな」

セーバル「それはね」

ヘビクイワシ「この列車は夜行性のフレンズを観察するために始まり、その後は寝てる間に目的地に向かう列車になったのです」

ともえ「ヘビクイワシちゃん!」

イエイヌ「またいつのまに」

ロードランナー「また無音で」

 

再び、いつの間にかいたヘビクイワシ、セーバルは気にしていないようだった。

 

セーバル「ヘビクイワシ、どうしたの?」

ヘビクイワシ「施設長、カラカルがお待ちです、そろそろ」

セーバル「・・・わかった、向き合わないとね、ヘビクイワシ、ともえさん達をよろしくね」

ヘビクイワシ「解りました」

 

セーバルのまとう空気が変わり、ジャンプしたと思うと、そのまま飛んでいってしまった。

 

ともえ「飛べたんだ、すごい」

イエイヌ「ともえさん、落ち着いて」

 

飛び立つセーバルの姿を、ともえは記憶が薄れないうちにスケッチを始めていた。

終わる頃に、ヘビクイワシが声をかけた。

 

ヘビクイワシ「さて、施設長に変わり私が案内しますが、コレクションは一通り見て回ったようですね」

ともえ「はい、すごいですよね」

ヘビクイワシ「なら、私のコレクションも一部ですがお見せしましょう」

イエイヌ「いいんですか!?」

ヘビクイワシ「ともえ君には迷惑をかけましたし、此方です」

ロードランナー「おい、そいつは」

 

ヘビクイワシが案内したのは機関車のすぐ後ろに繋がれた四角い客車、大きな扉の鍵を開けてなかに入ると、外観からは想像できない光景が広がっていた。

 

ロードランナー「なんだよこれ、本だらけじゃねぇか」

イエイヌ「壁一面に本棚、これって」

ともえ「図書館みたい」

ヘビクイワシ「間違ってはいません、ここにある本はジャパリ大図書館から避難した本の一部ですから」

ともえ「これで一部」

 

両方の壁一面に天井まで届く本棚、そして隙間なく詰められた本、これだけでも多いのに、一部とは信じられなかった。

 

ヘビクイワシ「種類としてはパーク内で執筆、発行された各種小説、ライトノベル、情報紙、漫画、絵本が大半を占めます」

イエイヌ「?」

ともえ「つまり、楽しむための本がいっぱいなんだね」

ヘビクイワシ「その通りです」

 

眼鏡をクイッと動かしどや顔を決めるヘビクイワシ。

だが、イエイヌとロードランナーにはいまいちわからなかった。

 

ヘビクイワシ「まずは・・・此方、ジャパリカフェ物語、日常と細やかな友情を描いた作品です、これは・・・イエイヌ君に」

イエイヌ「私にですか?」

ヘビクイワシ「文字が読めることは把握ずみです」

イエイヌ「あ、その」

ヘビクイワシ「次はロードランナー君、君には此方のゼブラの伝説を」

ロードランナー「ちょっと待て、俺は字なんて読めねぇぞ!」

ヘビクイワシ「なら、私と出来るようになりましょう、楽しいことも増えますよ」

ロードランナー「うぅ・・・」

 

本棚から本を手にとってはオススメ攻勢を仕掛けるヘビクイワシ、どこか嬉しそうであった。

 

ヘビクイワシ「最後に、ともえ君には此方、パーク旅日記、正確な時期は不明ですが、蔵書の中では新しい物です」

ともえ「ありがとう、さっそく読んでみるね」

ヘビクイワシ「では、隣の車両へ」

 

書庫の隣に繋げた車両は入ってすぐに狭い通路、それに繋がる個室の用な座席が並んでいた。

 

ともえ「ここは?」

ヘビクイワシ「寝台車です、いまは座席ですが、上を開けるとベッドが4つ、最も、クリーンセンターにはゲストハウスが有りますので、ここは読書スペースです」

イエイヌ「でも、すごくきれいですよ」

ヘビクイワシ「掃除好きが沢山いますからね」

ロードランナー「納得だな」

 

座席に座り、本を開く。

イエイヌは窓際で静に、ロードランナーはヘビクイワシに教わりながら、本の世界へ進んでいく。

 

物語はフレンズのイエネコがもので溢れた倉庫のなかで、冷たい椅子に座る少女を見つけたところから始まり、ピノと言う名前を貰い、イエネコと自分を探す旅に出る。

 

ともえ「なんだか、あたしとイエイヌちゃんみたい」

 

サバンナを越え、ジャングルで砂漠を越えてきたオオミチバシリと出会い、高山では道なき山肌に道を刻む、様々なフレンズと出合い、ボスとも出会う、ピノは喋らなくてもボスと話せる。

 

ともえ「本当に、旅をしてるみたい」

 

図書館に着いたピノ達は長に尋ねる、ピノは何者か?

返ってきたのは、ヒトではない、でもセルリアンともフレンズとも違う。

落ち込むピノに二人は言う。

 

イエネコ『ピノはピノ、私はそれでいいよ』

オオミチバシリ『それでも知りたいなら、島の外へ、海の上だって道になるんですよ』

 

3人は船を作ると古い地図に書かれた海の道を進んでいく、物語はここで終わっていた。

 

イエイヌ「ともえさん、ともえさん」

ともえ「うぅん、あれ? イエイヌちゃん?」

イエイヌ「やっと起きてくれました」

ともえ「あたし寝てた?」

ヘビクイワシ「それはぐっすりと」

ロードランナー「可愛かったぜ」

イエイヌ「添い寝したかったくらいです」

ラモリ「撮影モシタゾ」

ともえ「や、やり過ぎだよ」

 

ともえは顔を真っ赤にして本で隠そうとする。

それもまた可愛らしいので皆笑ってしまう。

 

ヘビクイワシ「疲れも溜まっているようですので、ゲストハウスへ御案内します、こちらへ」

 

セーバルコレクションの正しい入り口と思われる一階の両開きの扉を抜け、施設を囲む森へ向かう。

 

ともえ「何もないよ?」

ヘビクイワシ「上をご覧ください」

ともえ「上? あっ」

イエイヌ「あれって、何でしたっけ?」

ロードランナー「ロッジだよな」

ヘビクイワシ「ツリーハウスです、ロッジが手本です」

 

木の上が家のようになっていて、窓から明かりが漏れていた。

ひときは大きな木についている螺旋階段を上り、建物のなかに入る。

中はこじんまりとしていて、正面に受付のカウンター、窓際には椅子がならび、その一つに、傍らに片手に収まるサイズの本を積み上げて、カラカルが座っていた。

 

カラカル「さっきぶりね」

ともえ「カラカルちゃん」

イエイヌ「お話は終わったんですか?」

カラカル「まぁ、そうね」

ロードランナー「どうした? 元気無さそうだな?」

カラカル「そんな日もあるわよ」

 

カラカルはどこか疲れたようすだった。

詳しく聞きたかったが、その前に彼女は奥に引っ込んでしまった。

 

ヘビクイワシ「ある意味で正常、さて、ともえ君達の部屋は此方です」

ともえ「あの、カラカルちゃんは」

ヘビクイワシ「そっとしておく、それも優しさです」

 

そう言われると、ともえ達もそうするしかなかった。

案内された部屋は扉をくぐって正面に窓があってその左にベッドが並んでいて、その反対側にテーブルがあるだけの、簡単な作りの部屋だった。

 

 

ヘビクイワシ「夕飯のジャパリまんは後程お届けします、洗濯はヤブワラビーに頼んでください」

ともえ「ありがとうございます」

ヘビクイワシ「では、ごゆっくり」

 

そういって、ヘビクイワシが出ていくと、ともえはベッドに倒れこんだ。

 

ともえ「あ、すっごいふかふか」

イエイヌ「ほんとです、ポカポカしていて」

ロードランナー「なんだか、眠くなってきちまった」

ラモリ「ミンナ、疲レテタンダナ」

 

ベッドの上で3人は少しの間起きていたが、すぐに夢の世界へ行ってしまった。

 

 

ともえ「うぅん、あれ?」

 

次に目を覚ましたときには真夜中で、月も高く昇っていた。

寝直そうとしたが、うまく寝付けなかった。

ともえはまだ眠っているイエイヌとロードランナーを起こさないようにベッドから出ると、窓を開けた。

 

ともえ「綺麗」

 

夜空に浮かぶ真ん丸からすこしかけた月は、静にパークを照らしていた。

ともえはスケッチブックと色鉛筆を取り出すと、心に任せて描き始める。

出来上がったのは、いつもと違う絵だった。

 

ともえ「ビースト・・・」

 

怖い存在のビースト、何故これを描いたのか、ともえ自身にも分からない、それに。

 

イエイヌ「なんだか、悲しい顔ですね」

ともえ「うん・・・って、イエイヌちゃん」

 

いつの間にか隣にいたイエイヌに驚くも、声を押さえることにともえは成功した。

イエイヌは何も言わず、隣にいる。

 

イエイヌ「この前のこと、気にしてるんですか?」

ともえ「わからない、何も考えずに描いてたから」

 

なぜビーストなのか、なぜ悲しい顔なのか、ともえ自身にも分からない。

でも、イエイヌはなんとなくがあった。

 

イエイヌ「きっと、ともえさんが優しいからですよ」

ともえ「あたしが?」

イエイヌ「はい、優しいから、あの時聴こえた声が、その絵になったんですよ、きっと」

ともえ「そうかな?」

イエイヌ「そうですよ」

 

音楽祭でビーストと対峙したとき、タスケテと声がした、それはともえとイエイヌにしか聴こえなかった、二人は確かに聴こえた。

 

イエイヌ「私も、ビーストの事何もわかりませんけど、ほっとけません」

ともえ「イエイヌちゃん・・・もう少し時間があるから、ビーストの事、調べてもいいかな?」

イエイヌ「勿論です、でも、今はゆっくり眠りましょ」

ともえ「そうだね」

 

二人はロードランナーを起こさないように静にベッドに入ると、また眠り始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ともえ達がクリーンセンターについて三日がたった頃、ついにバイクの改造が完了した。

 

セーバル「バッテリーを使用回数が少ないものに、モーターもばらして作り直し、サイドカーを二人乗り大型仕様に付け替え、細かなところも点検ずみ」

ラモリ「コレナラ最大四人マデ安全ニ乗レルヨ」

ロードランナー「スピードも出せるんだな!」

ともえ「ピカピカだね」

イエイヌ「はい、とっても綺麗です」

 

バイクは塗り直され、側車が前より大きくなった。

速度は前と同じでも、重くなってるからすごい。

 

ヘビクイワシ「説明書はそちらのラッキービーストに転送ずみですので、すぐに出れます」

ラモリ「行先ハ未定ダガナ」

ともえ「まぁ、気長に回るしか」

イエイヌ「ないですもんね」

ロードランナー「手懸かりがねぇもんな」

 

現時点でともえに関する手がかりはない、最も、今までも似たようなものだったが。

ともえとイエイヌの場合もビーストに関する情報をてに入れることができてなかった。

 

セーバル「此方で調べて見ましたけど、めぼしいものはなかったわ」

ともえ「そうですか」

セーバル「ただ、何もなしではないですよ」

ともえ「え?」

 

セーバルは少し困った顔をしつつも、その手がかりを話し始めた。

 

セーバル「ともえちゃんが眠っていた施設なんだけど、私の古い知り合いが調べていた施設に似てるの」

ともえ「それって、その人なら何か知ってるかもって、ことですか?」

セーバル「そうなんだけど、今は簡単に会えない立場なの」

イエイヌ「セーバルさんみたいにですか?」

セーバル「私より厳しいかな、それだけ責任ある立場ってことなんだけど」

ロードランナー「またかよ、めんどくせぇな」

 

セーバルと会うだけでも苦労したのに、その上と聞くと、ともえもロードランナーと同じ気持ちになった。

 

イエイヌ「あの、どうすれば会えますか?」

セーバル「ともえちゃんが今のまま変わらなければ、そうすれば、ここでは分からないこともね」

ともえ「あたしが」

セーバル「貴女が善き友だとわかれば、彼女も説得しやすくなります」

ロードランナー「どうやってだ?」

セーバル「日頃の行い、としか」

 

セーバルはゆっくりとともえに近づくと、耳元でこっそり呟いた。

 

セーバル「心配要りません、ビーストを助けようとする貴女達なら」

ともえ「な、なんでそれを」

セーバル「守護けもさんですから」

 

セーバルは口に人差し指を当てて、ともえから離れた。

 

セーバル「普段の行いこそ、本質が現れますから」

ともえ「は、はい」

イエイヌ「ともえさん、さっきの」

ロードランナー「おい、何言われてたんだよ?」

イエイヌ「ゴマさん、聞こえてなかったんですか?」

ともえ「う、うん、心配してないよって」

セーバル「なかがよいですからね」

 

セーバルは微笑みながら、ともえ達を眺めていた。

そこに、もう一人やってきた。

 

カラカル「待たせたわねセーバル」

ともえ「カラカルちゃん、カラカルちゃんも出るの?」

カラカル「あたしも探し物をつづけないとだけど」

ともえ「?」

カラカル「もう少しだけ、あんた達と一緒に旅をするわ」

ともえ「いいの?」

イエイヌ「私達、行く当てなんてほとんどない旅ですよ?」

ロードランナー「ちょっと無謀だぜ」

 

三人の心配に対して、カラカルは心配ないといわんばかりに手を振る。

 

カラカル「あたしもにたようなもんよ、それに、これは依頼でもあるの」

ともえ「依頼?」

セーバル「私が頼んだんです、せめて手がかりが見つかるまでは、一緒にいてほしいと」

イエイヌ「でも、どうして」

 

イエイヌの言葉に、セーバルの顔が少し険しくなった。

 

セーバル「いま、この島にはよくない兆候がいくつも出ています、警戒するに越したことはないですから」

ともえ「よくない兆候」

セーバル「島の長達で解決できればいいのですが、そうでないことも考えなければいけません、無論、そうであれば私も動きますよ」

ロードランナー「まぁ、なんだかんだいってそういうことには全力だしな」

イエイヌ「はい、でも、それだけなんですか?」

セーバル「それだけじゃないですよ」

ヘビクイワシ「我々は施設の特性ゆえ締め切ってましたが、今後は島の一員として、共に暮らしていくことに決めました」

ともえ「えっと、それって」

セーバル「島の長達と話し合いながら、島での立場を決めていく、時間はかかりますけど、ゆっくりと」

 

クリーンセンターは危険な機械も多いので外のフレンズは基本追い返していたが、これからは入れるかどうかはその都度判断する、そしてゆくゆくは解放する。

時間はかかるが、実現させると。

バイクはゲートまで移動する間、セーバルはそう語った。

 

ともえ「なら、次に来るときは、もっと賑やかになってますね」

セーバル「そうしなければなりませんね」

イエイヌ「お世話になりました」

ロードランナー「また来るからな」

ヘビクイワシ「また来てください、エプロン愛好会と共に歓迎します」

カラカル「セーバル、元気でやりなさい」

セーバル「・・・カラカルもね」

ラモリ「出発スルヨ」

 

ともえはバイクのアクセルを回すと、前よりもスムーズに走り出す。

 

ともえ「すごい、前より運転しやすい」

イエイヌ「後ろも座りやすいですよ」

ロードランナー「こっちもふかふかだぜ」

カラカル「全く、それより、全く宛もなくさ迷うつもり?」

 

ともえ達は新しくなったバイクに喜んでいたが、カラカルはこれからを考えていた。

 

ともえ「取り敢えずは平原や砂漠にいってみたいなって」

カラカル「またなんで」

ともえ「いろんなフレンズちゃんにあえるかなって」

イエイヌ「ともえさんらしいですね」

ロードランナー「だな」

カラカル「まったく」

ラモリ「ナラ、ルートヲ設定スルヨ」

 

ラモリのナビに従い、ともえ達は旅を再開する。

わかったこと、わからなかったことはどちらも沢山あった、答えを知りたいなら前に進む。

振り返るより、そっちのほうがわかるから。

そんな彼女達の後ろ姿を、セーバルとヘビクイワシは見つめる。

見えなくなったところで、ヘビクイワシがセーバルに尋ねた。

 

ヘビクイワシ「よろしかったのですか?」

セーバル「何が?」

ヘビクイワシ「ともえ君達にご友人の事をお話しして、あそこは今、いつも以上に警戒しています、それにカラカル君もすぐに離れます、万が一があれば」

 

ヘビクイワシの懸念にセーバルは目を瞑りながらも答えた。

 

セーバル「あの子は浄炎の羽根を持ってたし、ダメならまず入らせない、カラカルがいても同じだよ」

ヘビクイワシ「なら何故、話されたのですか?」

セーバル「あそこは始まりの場所、それにともえちゃんの力は私が教えるのは難しいし、なにより」

 

セーバルは目を開き、空を見上げた。

 

セーバル「パークは変わる、だから変わっていかないと、あそこも、ここもね」

 

空は青く、晴れ渡っている。

セーバルは施設へ戻る、ヘビクイワシは何も言わずに、あとに続いた。





ーー
ーーー

しろげ「皆さん、喜んでいましたね」
くりげ「うんうん、やっぱり本場のジャパリまんのほうがおいしいもん」
あおかげ「向こうは缶詰に喜んでたな、あれはあんまりおいしくないが」
しろげ「栄養もサンドスターもとれますが、パークのジャパリまんを食べると」
くりげ「うんうん」
あおかげ「まぁ、これで沖のみんなも大丈夫だろ」
しろげ「あら、ラッキービーストに通信が」
くりげ「なんだろうね」
あおかげ「・・・なんだか嫌な予感がするぞ」

しろげ「え、えぇ」
くりげ「すこし、遅かった?」
あおかげ「まったく、なんでトップがお供を連れて勝手に上陸してるんだ」
しろげ「どうします? こっちで探します?」
くりげ「向こうで探せるの?」
あおかげ「こっちで探そう、あっちは人面魚にゴルゴプスカバがいるから大丈夫だ」
しろげ「探し物が増えましたわね」

ーーー
ーー


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第7話 美術館

対面した守護けもさん、元セルリアンのフレンズ「セーバル」。
昔、パークに起こったこと、そして今を聞いたともえ達。
ともえのいかないといけない場所は、だれかと行きたい場所かもしれない、どこに行けばいいかわからなくなった。
答えのないことを考えるより、楽しいこと、セーバルの見せてくれたコレクションは不思議な機械がいっぱい。
ヘビクイワシの本も面白くて、素敵なものばかり。
ともえとイエイヌ、二人だけの目標も。
そして、バイクの改造も終わって、クリーンセンターを出発、カラカルももう少しだけついてくるみたい。
行先はないけど、とにかく前進。


カラカル「イエイヌ、そっちに回り込んで!」

イエイヌ「はい! たぁあ!」

ロードランナー「やった!」

 

森の中、球体に虫みたいに足が生えたらセルリアンの石がイエイヌによって砕かれた。

危険が去ったことを知ると、隠れていたともえとラモリ、そして荷物を背負ったフレンズが木々の間から出てきた。

 

ともえ「みんな大丈夫?」

イエイヌ「大丈夫ですよ」

ロードランナー「ハンターもいるし、当然だな」

カラカル「あのくらいなら、数で押しきれるわ」

アカギツネ「助けてくれてありがとうございます」

ともえ「当然の事をしただけだよ」

ラモリ「仲間ニコノ辺リノパトロールヲ強化スルヨウ伝エルヨ」

 

何度も頭を下げるフレンズ、アカギツネはつい先程までセルリアンに襲われていた。

偶然にも近くにいたともえ達が助けた、ラモリのお陰でセルリアンがいるかわかるから。

 

カラカル「で、最近はセルリアンが増えてるのに、一人で飛脚便の仕事をしてたの?」

アカギツネ「長からの急な依頼で手配が間に合わなかったの、ここら辺は平和だったし」

ともえ「飛脚便?」

イエイヌ「荷物や手紙を運ぶお仕事ですよ」

ロードランナー「チーターが始めたんだぜ」

 

カラカルがやれやれと額に指を宛て考えていると、木々の間からラッキービーストが飛び出してきた。

 

ラモリ「森ヲ抜ケルマデ、案内スルヨ」

アカギツネ「ありがとう赤いボス、なら、頼める?」

ラッキービースト「マカセテ」

 

アカギツネはともえ達に一礼してから、ラッキービーストの案内で仕事を再開した。

 

ラモリ「ボク達モ出発シヨウ」

ともえ「うん、今日中には平原に抜けたいし」

イエイヌ「それでは、私はともえさんの後ろに」

ロードランナー「早いなおい、まぁいいけど」

カラカル「急ぐ旅でもないんでしょに」

 

イエイヌはともえの後ろに、ロードランナーとカラカルは新しくなった側車に。

大きくなって座席も増えて、乗り心地もよくなっている。

走り出すと、さっきの戦いが話題になった。

 

ともえ「さっきのカラカルちゃん、凄かったね」

イエイヌ「はい、一番に飛び出して」

ロードランナー「さすがはハンターだな、かっこよかったぜ」

カラカル「ハンター名乗ってるなら、あれくらいできて当然よ、すごくなんてないわ」

 

ともえ達の称賛を軽く流すカラカル。

軽い流れのせいか、ともえはつい余計なことまで訪ねてしまった。

 

ともえ「カラカルちゃんは、何時からハンターなの?」

カラカル「・・・何時からかしらね、知らないわ」

ともえ「あれ? きっかけとかは?」

カラカル「分からないわ、覚えてないもの」

イエイヌ「カラカルさん?」

ロードランナー「どうした?」

カラカル「・・・はぁ、黙ったままじゃダメよね」

 

ともえもさすがに不味いと思ったが、カラカルは自分の事を話始めた。

 

カラカル「セルリアンに襲われて、記憶がないのよ」

ともえ「セルリアンに」

イエイヌ「フレンズじゃ、無くなったんですか?」

カラカル「そうなる前に助け出された、けど、大切なことはごっそり」

ロードランナー「じゃあ、セーバルを知ってたのも」

カラカル「無くした記憶のためよ、ハンターの技術とかは覚えてたのに」

 

カラカルはどこか遠い目をしながらも、話を続ける。

 

カラカル「あのセーバル、何か知ってた見たいだけど、のらりくらりとはぐらかされたわ」

ともえ「そうだったんだ、何か手がかりとかは?」

カラカル「そうね、ただ、たぶん大切なこと、ハンターになったきっかけに繋がることだと思ってる、それだけよ」

イエイヌ「カラカルさん、あの」

カラカル「大丈夫よ、長く付き合ってるし、折り合いもつけてるわよ」

ロードランナー「折り合いって」

カラカル「セルリアンに奪われたら帰ってこない、フレンズで居られるだけ運が良かった、それだけで十分よ」

 

反論を封じるかのように、カラカルは丸くなって眠り始める。

こうなると、ともえ達は何もできない、無理に起こして悪化させたくもない。

 

ともえ「カラカルちゃん」

イエイヌ「カラカルさんが決めたことです、これ以上は」

ロードランナー「カラカルの生き方はカラカルのだ、俺たちの生き方だって俺たちのだ」

ともえ「うん、わかった」

 

 

バイクのエンジン音だけが森に響く、何か話せる空気でもないし、話題もない。

そうしてしんりんちほーとへいげんちほーの境目に近づいたときであった。

 

ともえ「あれ、視界が」

イエイヌ「霧が出てきましたね」

ロードランナー「偉く急にだな」

 

辺りに霧が出始め、瞬く間に視界が白く染まり、遠くが見えなくなる。

それだけなら、問題なかったのだが。

 

ラモリ「今、ルートノ再、コウチ、アッ、エ、エラー、ガ」

ともえ「ラモリさん? ラモリさん!?」

イエイヌ「ラモリさん! しっかりしてください!」

ロードランナー「おい! しっかりしろ、どうしちまったんだよ!?」

カラカル「うるさいわね~、少しは静にって、何この霧」

 

ラモリが突然機能を停止、動かなくなってしまった。

ともえ達はあわてふためき、カラカルも起きる。

カラカルはともえ達を落ち着かせてラモリを診ると、ため息をついた。

 

カラカル「一時的な機能停止、暫くすれば起きるわよ」

ともえ「本当?」

カラカル「本当、ただこの霧の中でナビがないのは」

 

濃い霧の中でもラモリのナビなら大丈夫だったかもしれないがこれでは頼れない。

幸運なのは道の真ん中だと言うこと、動けなくはない。

 

ともえ「進めない?」

カラカル「進めるわよ、お勧めはしないけど」

ともえ「じゃあ、行こうか」

イエイヌ「はい」

ロードランナー「じっとしててもな」

カラカル「あなた達、はぁ、まったく」

 

ともえはバイクをゆっくりと走らせる。

霧で前は見えないが、地面はならされている。

そうして道の上だと確認しながら進んでいく。

 

ともえ「結構走ったかな?」

イエイヌ「そんなにですよ」

ロードランナー「だな、まだちょっだぜ」

カラカル「霧のせいで時間の間隔も曖昧ね」

 

風景は白か木々の影、音はバイクのそれだけ。

時間の間隔が曖昧になるのも当然だった。

そうして暫く道に沿ってると信じながら進んでいくと、前方に木々とは違う影が浮かんできた。

 

ともえ「何だろう、こんなところに」

イエイヌ「建物ですよね」

ロードランナー「遺跡か?」

カラカル「何かしらあるのは確かね」

 

影に近づくにつれ霧も晴れてくる。

見えてきたそれはそれは、灰色の四角いブロックを少し角度を変えたり、変えなかったりして積み上げたような建物だった。

 

ともえ「形からして面白そうだから、入ってみようよ」

イエイヌ「言ってすぐに入らないでください! ゴマさん、追いかけますよ!」

ロードランナー「おう、ともえ、待ちやがれ!」

カラカル「あんた達、まったく」

 

ともえを追いかけ建物に入っていく。

入ってすぐの場所は、先日泊まったクリーンセンターで見かけたカウンターのそれとよくにた受け付け以外、何もなかった。

 

ともえ「あれ? いがいになにも」

イエイヌ「ともえさん、勝手に入ってそれはだめですよ」

ロードランナー「何にもないうちに出ようぜ」

カラカル「いたいた、ほら、でるわよ、こんなにきれいなら誰かの縄張りよ」

ともえ「そういえば」

 

床を見てもゴミ一つ落ちてなく、壁も柱磨かれている。

ラッキービーストが管理してないなら、誰かが掃除しているということで。

そこまで皆が認識したところで、カラカルとイエイヌが何かに気が付いた。

 

カラカル「だれか来るわ」

イエイヌ「はい、一人です」

ともえ「セルリアン?」

ロードランナー「ならまずいぞ」

カラカル「いえ、足音がするわ」

イエイヌ「フレンズだとは思いますが、鼻がうまく効かなくて」

 

カラカルとイエイヌが身構える中、奥からやってきたのは、ともえにとっては顔なじみの相手であった。

 

ともえ「あ、アドちゃん?」

黒アードウルフ「誰が来たのかと思ったら、あなただったのね」

イエイヌ「えっと、お知り合いですか?」

ともえ「顔みしり、なのかな」

ロードランナー「あやふやだな、おい」

カラカル「敵意は、ないみたいね」

 

奥から現れた黒いコートに身を包んだアードウルフ、ともえは音楽祭でもであったが、ほかのメンバーは初対面であった。

アードウルフは一通り確認すると、ともえに近づいた。

 

ともえ「え、えっと」

黒アードウルフ「ここに来たのも何かの縁ね、ついてきなさい」

ともえ「え?いいの?」

黒アードウルフ「今日は機嫌がいいの」

イエイヌ「いいんですか?」

ロードランナー「でも、ともえだけ行かせるのはまずいだろ」

カラカル「行くしかないわね」

 

イエイヌたちは黒いアードウルフを怪しく思いつつも、ともえがついて行くのだから一緒について行くしかなかった。

彼女について進む通路は装飾があるわけではなく、無機質な印象を受けた。

 

イエイヌ「ゴマさん、なんかこう、冷たいですね」

ロードランナー「だな、クリーンセンターにも似たような場所あったけど、こっちのほうがな」

ともえ「二人とも、どうしたの?」

イエイヌ「いえ、なにも」

ロードランナー「だな」

カラカル「あなた達」

黒アードウルフ「入るわよ」

 

通路の先は明るい部屋だった、白い石の床に、白い壁、部屋は照明で明るく照らされていた。

壁には、何か四角いものがたくさんかけてあった。

 

ロードランナー「なんだここは?」

黒アードウルフ「あなたはわからないのね」

ロードランナー「なんだと!」

イエイヌ「ゴマちゃん、落ち着いて、ここにあるのは」

カラカル「これって、そういうことよね」

ともえ「きれい」

 

壁にかかっているのは、森の中の滝、荒野を貫く道、タイガに架かる橋、それらパークの自然が描かれた絵が多数飾っていた。

 

ともえ「ここって、美術館?」

黒アードウルフ「そうよ」

ロードランナー「びじゅつかん・・・って、なんだ?」

イエイヌ「こういった絵とか、見てすごいって思うものを置いてある場所ですよ」

カラカル「図書館や博物館とはまた違う場所っては聞いてたけど、だいぶ違うわね」

黒アードウルフ「あなたたちはわかるのね」

 

黒アードウルフはどこか満足そうであったが、ともえ達は気が付かなかった。

 

黒アードウルフ「ここは美術館、美しいものを永久に残すことを試みた施設よ」

ともえ「永久に残す」

イエイヌ「なんかこう、ここだけでもわかりますね」

ロードランナー「そうか? 俺にはちっともわかんないぜ」

カラカル「あんたは、もう少し場の空気をよみなさいよ」

黒アードウルフ「わかる相手にだけにわかればいい場所でもあるの、ここにあるのは風景画よ」

 

各地の風景が描かれた絵は、写真とは違う、そこで感じたものが記されている、そんな感じであった。

 

ともえ「ここって、どこらへんかな?」

イエイヌ「えっと、ジャングルちほーだと思いますけど」

ロードランナー「この支柱、どっかで見たような」

カラカル「これ、アンイン橋よ、ほら、今のアンイン橋の支柱と同じでしょ」

ともえ「今の? ならこれは昔の?」

黒アードウルフ「そうなるわね」

 

ここにある絵の多くは、昔のパークの風景を描いたもの、いまではなくなってしまった風景もあった。

一つずつ見ていると、いつしか次のフロアの入り口まで来ていた。

 

黒アードウルフ「次は、想像画、というべきかしら」

ともえ「想像画?」

イエイヌ「絵本とか、そういうのですか?」

ロードランナー「漫画ってやつか?」

カラカル「何かしらね」

 

次のフロアに飾られていたのは、先ほどの風景画からがらりと変わり、カラフルだけどインパクトの強い色と柔らかいタッチで描かれた作品でった。

みれば、何か文字も一緒に書いてあった。

 

ともえ「えっと、ガイド募集?」

イエイヌ「フレンズ目線でパークを案内?」

ロードランナー「なかなかきれいじゃねぇか、それに書かれてるフレンズ、どことなくプロングホーン様にそっくりだし」

カラカル「これ、ガイド募集のポスターね」

 

プロングホーンに似たフレンズが書かれたポスターの横には、イルカのフレンズがアイスを食べている絵が描かれたポスター、そこには『ジャパリアイス塩味、新発売』と書かれていた。

フレンズの描かれたポスター、というだけならただのポスターだったが、書かれていたフレンズは微妙に違っていた。

 

ともえ「似てるけど、どこか違うよね」

イエイヌ「はい、こことか」

黒アードウルフ「ここにあるポスターはすべてパークの外で作られた物、作った人間は一度もパークを訪れてないわ」

ロードランナー「なんだそりゃ」

カラカル「実際に見たことは一度もない、だから想像画、うまいわね」

 

一度も本物のフレンズを見ないで描かれたポスター、そこに描かれたフレンズは似ていても、微妙に違っていた。

と言っても、ポスターの目的からすればフレンズは注目を集めるためのもので、大事なのは格好と文字であった。

 

ともえ「えっと、これは」

黒アードウルフ「それは作業員募集のポスター、ビーバーが描かれているわ」

イエイヌ「なんか、似合ってませんね、石造りの建物って」

ロードランナー「水辺からあんまに動かないもんな」

カラカル「それに木を使ってるし」

 

だからこうした、ビーバーが石造りの建物を建てている建設作業員募集のポスターという、ずれた物もあったりした。

 

ともえ「やっぱり、ちゃんと自分の眼で見ないと、こうなっちゃうんだね」

イエイヌ「私って、あんなに濃いですか?」

ロードランナー「いや、あれ別人だろ」

カラカル「あんた以外のイエイヌは見たことないわね」

ともえ「ほかにもイエイヌちゃんが?」

イエイヌ「・・・そんな気もします」

黒アードウルフ「見終えたなら、上に行くわよ」

 

ちょっとずれたパークのポスターをみてあーだこーだ話していたら、黒いアードウルフにせかされ、ともえ達は階段を上る。

外から見たときは大きく見えたのだが、中はそこまで大きくないのだろうか。

 

ともえ「いろんなものを見てたから、狭く感じるのかな?」

黒アードウルフ「保存設備の関係で、見た目より狭いのよ」

イエイヌ「保存設備?」

黒アードウルフ「美術品を永久に残すことは試みられたけど、ヒトの力と技だけでは自然には勝てない」

ロードランナー「そりゃ、ヒトがいたころの道具なんてほとんど残ってないし、遺跡でたまに見るくらいだな」

カラカル「そうね、ジャングルちほーの川も雨季が来るたびに形を変えてるわね」

黒アードウルフ「結局は、ヒト単独では永久に残せない、こういうのは、残るけど」

 

そういって2階に上がって最初に目に入ったのは、フレンズの姿を模した石あった。

どのフレンズも楽しそうにしていて、まるで遊びの最中にその姿をそのまま固めたようであった。

 

ともえ「かわいい! けどもふもふしてない」

イエイヌ「そこですか?」

ロードランナー「お前らしいな」

黒アードウルフ「これは石像、石を砕いたり、削ったり、磨いたりして作られる、石は自然の作り出したものだから、たとえここが土に埋もれても掘り出せばその姿を伝えてくれるの」

カラカル「そう、ちょっと、悪趣味ね」

黒アードウルフ「あら?」

 

ともえ達はフレンズの石像に興味津々だが、カラカルはそうではなかった。

 

黒アードウルフ「こんなにも美しい姿を、永久に残しているのに」

カラカル「だからよ、いまにも動きそうなのに、石だから動かないし、冷たい、その先がない、何がいいのかしら」

黒アードウルフ「そう、フレンズにこの良さはわからないか」

カラカル「あなたもフレンズなら、変わらないから感じる不気味さを理解しなさい」

 

カラカルは興味なさそうにただ歩いていく。

一方でともえ達はというと。

 

ともえ「ところで、このスカートの下は」

イエイヌ「それはだめです!」

ロードランナー「絶対見ちゃだめだ!」

ともえ「いいじゃん、少しくらい」

イエイヌ&ロードランナー「「少しでもダメ!」」

 

スカートの中とか、しっぽの付け根とかを好奇心から覗こうとするともえと、それを止めるイエイヌとロードランナー、にぎやかにしていたのでカラカルと黒いアードウルフの会話には気が付かなかった。

 

ともえ「ぶー、あーあ、これでもふもふだったらよかったのに」

イエイヌ「動かないもふもふは、パークだとあまり良くないですよ」

ともえ「そうなの?」

ロードランナー「なんか聞いたような」

黒アードウルフ「剥製のことかしら? サンドスターがあふれるパークだとすぐにフレンズになるから見ないわね」

ともえ「そうなんだ」

カラカル「あまり見たいものじゃないわよ、ここにある石像と同じだから」

ともえ「カラカルちゃん」

 

カラカルはどこかつまらなそうに石像達を見ていた。

ともえ達は石像を見るのも初めてだったので、カラカルの気持ちはいまいちわからなかった。

黒いアードウルフは不服そうだったが、すぐに隠すと案内をつづけた。

 

黒アードウルフ「次の部屋で最後、私のお気に入りの場所よ」

ともえ「お気に入り、それって、すごいの?」

黒アードウルフ「輝いてはいるわよ」

ともえ「めっちゃきになる!」

イエイヌ「これだけ色々あってのお気に入り、確かに気になります」

ロードランナー「まぁ、たしかにな」

カラカル「悪趣味なのはごめんよ」

 

それぞれに意見をの別つ、ともえ達は黒いアードウルフの先導で、最後のフロアに足を踏み入れた。

そこは今までのフロアと違い、白い壁が部屋のあちこちに生えていて、その壁に展示物が飾られていた。

 

黒アードウルフ「ここにあるのは写真、思い出の切り抜きね」

ともえ「ここにあるのが、ぜんぶ」

イエイヌ「たくさんありますね」

ロードランナー「いったいいくつあるんだ?」

黒アードウルフ「数えられないくらいには」

カラカル「沢山あることはわかったわ」

 

飾られていたのは、パークで撮影された写真の数々、白い壁のおかげで写真はともえ達の目線の高さにある。

写っているのは、何気ないパークの日常だった。

 

ともえ「かわいい、この子は・・・ピューマちゃん!」

イエイヌ「果物を食べてるところですね」

ロードランナー「なんか、腹減ってきたな」

 

リンゴを食べるピューマの写真、ジャパリまんがあっても、甘い果物は別腹。

ロードランナーは口からよだれが少し垂れたが、すぐに拭ってとりつくろった。

 

ともえ「こっちは、水遊びで、コツメカワウソちゃんと」

イエイヌ「トムソンガゼルさんでは?」

ともえ「えっと、あ、ほんとだ、ありがとう、イエイヌちゃん」

イエイヌ「どういたしまして」

 

コツメカワウソとトムソンガゼル、住む場所違う二人が仲良く遊んでいる。

でも、フレンズが住んでる場所から違う場所へ遊びに行くことは、珍しくはない。

 

ロードランナー「これって、かけっこの様子だよな」

イエイヌ「キリンさんと、誰でしょうか?」

ともえ「えっと、オグロスナギツネちゃんじゃないかな?」

 

図鑑を片手にともえが答える、キリンとオグロスナギツネのかけっこの写真、なぜかけっこをしているかはわからないが、ハイウェイでフレンズが集まってかけっこをしているのだから、不思議な光景ではない。

どの写真も、パークでは珍しくない、日常が写っていた。

 

ともえ「なんだか、穏やかっていうか、こういうのがやっぱり大事っていうか」

イエイヌ「当たり前が大事ってことですか?」

ロードランナー「まぁ、プロングホーン様も、いつもの一日が一番大事って、言ってたしな」

黒アードウルフ「ここにある写真は、見る側がその価値を決める物ばかりよ」

 

黒いアードウルフの言う通り、この写真達はパークの日常を映した、平凡な写真ばかり。

でも見る側が何か知っていれば、その写真は違うものになる。

当たり前だから、それが変わってはじめて気づく、そんな写真たち。

ともえ達がいつもの大切さについて考えていると、ある事に気が付いた。

 

ともえ「あれ? カラカルちゃんは?」

イエイヌ「そういば、さっきまで一緒だったのに」

ロードランナー「どこに行ったんだ?」

 

このフロアに入るまで、一緒にいたカラカルの姿が見えなかった。

どこかにいるのだろうけど、白い壁で視界があちこちでさえぎられていて、見まわしただけでは見つからんかった。

 

ともえ「見つけないと」

ロードランナー「イエイヌ、鼻は効くか?」

イエイヌ「カラカルさんのなら、こっちです」

黒アードウルフ「走るのは・・・行ってしまったわね」

 

イエイヌの案内で白い壁の間を縫って進んでいく、道がなくて迂回しながらも、近づいていく。

たどり着いたのは他のと変わらない白い壁、その前にカラカルはいた。

 

ともえ「カラカルちゃん!」

カラカル「ともえ」

イエイヌ「よかった、見つかってって、どうしたんですか!?」

ロードランナー「おい、何で泣いてるんだよ!」

 

やっと見つかったカラカルだったが、その目から大粒の涙をこぼしていた。

何かあったのかともえ達は駆け寄るが、カラカルは大丈夫と首を振った。

 

カラカル「もう、無くなったと思ってたから、もう一度なんてないと思ってたから」

ともえ「カラカルちゃん?」

イエイヌ「どうしました?」

ロードランナー「おい、この写真、ヒトが写ってるぞ」

ともえ「へ?」

 

カラカルが見ていた写真、それは木陰の中、背中を木に預けて座る、黄緑色の髪をした女性。

彼女の膝には、黄色い耳を持つフレンズが、気持ちよさそうに眠っていた。

撮影者に対してだろうか、女性は口に指をあてて、静かにしているよう伝えている。

今までの写真とは、違う写真だった。

 

ともえ「このヒト、どこかで」

カラカル「ミライさん、パークガイド、眠ってるのはサーバルよ」

イエイヌ「ミライ・・・って、カラカルさん、知ってるんですか?」

カラカル「当たり前よ、思い出したのよ、まったく、なんで忘れてたのよ私は」

ロードランナー「カラカル」

 

カラカルが記憶をしていたことは知っていた、もう思い出すこともないと折り合いをつけていたことも。

 

ともえ「大切な、人たちだったの?」

カラカル「当然よ、特にサーバルは親友よ」

イエイヌ「親友」

カラカル「セーバルがいなくなって、ミライさん達がパークを出ることになって、あいつは追いかける方法を探すって出て行くって、でもセルリアンもいたから、あたしは残って、あとで追いかけるって、あいつの分まで頑張って」

ロードランナー「それで、ハンターになったってわけか」

カラカル「そうよ、もう、思い出すこともないと思ってたのに、知らないままだと思ってたのに」

 

カラカルの涙は、悲しい涙ではない、友を、思い出が戻ってきたことの、うれし涙だった。

ともえ達は、そばに寄り添う、それだけで十分だった。

 

黒アードウルフ「そろそろ、泣き飽きたかしら」

ともえ「アドちゃん」

カラカル「そうね、うれしいからって泣きっぱなしはみっともないわね」

イエイヌ「カラカルさん」

カラカル「ありがとう、あたしが、あたしに戻れたわ」

黒アードウルフ「そう、それはよかったわね」

ロードランナー「?」

黒アードウルフ「出口はこっちよ、ここから一回まで戻るわ」

 

黒アードウルフはどういって歩き出す、どこか淡々と、感情が薄い言葉だったが、誰も特別、気にはしなかった。

階段を降りると、再びエントランス、そこからは外へとでる。

 

黒アードウルフ「この道をもどって右にいけば、大きな道へ戻れる、目印は模様入りの岩よ」

ともえ「ありがとうございます」

イエイヌ「いっぱい見せてもらって、ありがとうございます」

黒アードウルフ「気分がよかったからよ」

ロードランナー「またどこかで会おうな」

カラカル「色々あったけど、ありがとう、残していてくれて」

黒アードウルフ「・・・珍しいものが見れた、それでだけで十分よ」

ともえ「また来ますね!」

 

ともえはバイクを始動させると、見送りのアードウルフに振り返って少し手を振ってから、進み始めた。

来た時とは違い霧はなく、少し進むと、アードウルフの言う通り、道案内用に矢印の描かれた岩があった。

 

ともえ「えっと、こっちが森林ちほーだから、こっちだね」

カラカル「なら、ここでお別れね」

イエイヌ「カラカルさん?」

ロードランナー「おい、どうしたんだよ?」

 

カラカルはサイドカーから飛び降りると、森林ちほーへと向かおうとしていた。

急なことに驚く3人だったが、カラカルはそうでもなかった。

 

カラカル「セーバルが言ってたじゃな、あたしは手掛かりが見つかるまでって」

ともえ「そういえばそうだった」

イエイヌ「でも、これからどうするんですか?」

カラカル「そうね、まずはセーバルに一発きつーいのを入れないと、心配かけた分と、何にも教えてくれんかった分」

ロードランナー「災難だな、セーバルも」

カラカル「そのあとは、あいつを追いかける方法を探さないと、たぶん、セントラルに行ってるだろうし」

ともえ「セントラル?」

イエイヌ「それって、遠い場所ですよね?」

ロードランナー「それに、昔のことなんだろ?」

 

遠くに、昔に向かった親友を追いかける、それはどこか無謀にも感じられた。

だがカラカルは、笑っていた。

 

カラカル「あたしが今こうしてるみたいに、あいつがくたばってるとは思えないの、追いかけるって約束したし、追いかけてやるのが筋ってやつよ」

ともえ「カラカルちゃん、わかった、気を付けてね」

イエイヌ「会えるといいですね、親友と」

ロードランナー「あぶねぇことするんじゃねぇぞ」

カラカル「わかってるわよ、ともえとイエイヌも、大事なこと、思い出せるよう祈ってるわ!」

 

カラカルはそう言ってから、森林ちほーへ向かって歩き出す、ともえ達もバイクを走らせ、平原へと抜けるべく森を進む。

 

 

ラモリ「システム、再起動、トモエ、ナニカアッタカイ?」

イエイヌ「あ、ラモリさんが起きた」

ともえ「ラモリさん、大丈夫?」

ロードランナー「今更だな」

ラモリ「大丈夫アイダケド、カラカルハドウシタノカナ?」

ともえ「さっきっ別れましたよ、それよりどうしたの、急にしゃべらなくなって」

ラモリ「原因不明」

イエイヌ「不明って」

ロードランナー「肝心な時に眠るんじゃねぇぞ」

 

やっと起きたラモリだったが、何で寝ていたかはさっぱりであった。

それでも、それを気にすることはない、まだまだ旅は続く、カラカルが思い出せたように、ともえとイエイヌも、思い出せると信じて。

 





ーー
ーーー

黒アードウルフ「きれいだったのに、こんなこともあるのね」

ジャラ ジャラ

黒アードウルフ「あら、ようやく来たのね、派手に暴れたみたいね」

・・・

黒アードウルフ「責めはしないわ、仕方ないことだもの」

・・・

黒アードウルフ「苦しいから、痛いから、責められるべきことではないのだから」

・・・

黒アードウルフ「もう少し待って頂戴ね、もうすぐ、終わらせてあげるから」

ーーー
ーー


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第8話 せんろ

クリーンセンターを出発し、カラカルとともに旅をするともえ達。
途中深い霧包まれラモリさんも機能停止、それでも霧の中を進むと現れる不思議な建物。
そこは美術館、黒い服をまとったアードウルフの縄張りだった。
機嫌がいいという彼女の案内で収蔵品を見せてもらうことに、絵や写真、ポスター、彫刻、どれも見たことないものばかり。
そんな中で、カラカルのなくした記憶が見つかる、セルリアンに奪われていた、大切な記憶が。
アードウルフに見送られ、美術館を後にする、そしてカラカルも記憶を取り戻してここでお別れ、ともえ達はへいげんへ、カラカルは改めてセーバルの元へと歩みを進めた。


森を抜け、平原へと入ったともえ達、草原の中を突き抜ける道を進んでいく。

 

ともえ「む~」

イエイヌ「ともえさん、仕方ないですよ」

ロードランナー「こればっかしはどうしようもないぜ」

ラモリ「キゲンヲナオセ」

 

膨れっ面でバイクを走らせるともえ。

側車のイエイヌ、ロードランナー、ラモリが声をかけても変わらない、と言うのも。

 

ともえ「だって、平原に入ってからフレンズちゃん一人も見てないんだよ!」

イエイヌ「珍しいことじゃないんですよ」

ロードランナー「道も違うし、いつもであるくわけじゃねぇし」

ラモリ「フレンズゴトニ行動範囲、時間ハ異ナルシナ」

 

フレンズが好きなともえにとって、静な平原は退屈だった。

新たな出会いもわくわくもない一本道を耐えれるほどに大人ではないのだ。

 

ともえ「ラモリさん、この近くに面白いのない?」

ラモリ「ナイナ」

ともえ「けち」

イエイヌ「ともえさん」

ロードランナー「今のは無茶ぶりだろ」

ともえ「だって」

イエイヌ「そのうち、誰か出てきますよ」

 

不機嫌なともえをイエイヌとロードランナーが宥めつつ、バイクは進んでいく。

背の高い草が一面に広がり、風が走る姿が見える。

後はフレンズがいれば最高なのに、何処にもいなかった。

 

ともえ「早くフレンズちゃんに会いたい」

イエイヌ「そうは言っても」

ロードランナー「セルリアンもいるしな」

 

このまま何もないかとバイクを走らせていると、草原に切れ目が見えてきた。

 

ともえ「あれ、なんだろってきゃぁ!」

イエイヌ「うわぁ!」

ロードランナー「なんだ!?」

ラモリ「ナニカニ乗リ上ゲタミタイダネ」

 

バイクを止めて確認すると、そこには石とも木ともちがう、どっちかと言うと石よりの棒が二本並んでいた。

 

ともえ「ラモリさん、これは?」

ラモリ「コレハ線路ダネ、セーバルコレクションノ機関車ガ走ル道ダヨ」

イエイヌ「あのおっきいやつが」

ロードランナー「この上を」

 

セーバルコレクションの機関車は凄く大きく、この上を走り回る姿は、イエイヌとロードランナーには想像できなかった。

一方、ともえのテンションは上がっていた。

 

ともえ「ねぇ、この線路、どこに向かってるの?」

ラモリ「サバンナチホーダネ」

ともえ「決めた、ここを走る!」

イエイヌ「ともえさん、そんないきなり」

ロードランナー「走れるのか?」

ともえ「イエイヌちゃん、ゴマちゃん、この先にワクワクが待ってる気がするの、さぁ、行くよ!」

ラモリ「走ル列車ハ無イハズダヨ」

 

ともえはバイクを線路に侵入させると、アクセルをふかして加速する。

砂利道い木材が埋まっていて走り心地はあまりよくないが、ともえのテンションは上がる一方であった。

 

ともえ「たっのっしー!」

イエイヌ「ともえさん!速度出しすぎです!」

ロードランナー「め、めちゃくちゃ揺れてるじゃねぇか!」

ラモリ「線路ハバイクデ走ル場所ジャナイカラナ」

 

速度を上げていくともえ、バイクは上下左右に激しく揺れて、イエイヌとロードランナー、ラモリは飛ばされないように必死である。

 

ともえ「あたしは風、風になるの!」

イエイヌ「何言ってるかわかりません!」

 

もはやテンションがとんでもないところまで上がったともえ、だがバイクの方はそうでもなかったらしい。

急に速度が落ちていくと、止まってしまった。

 

ともえ「あ、あれ?」

イエイヌ「止まっちゃいましたね」

ロードランナー「や、やっと終わった」

ラモリ「接続不良ダネ、再充電ガ必要カモ」

ともえ「直すのは時間がかかる?」

ラモリ「ソレナリニハ」

 

線路の上で立ち往生、何も来ないとはいえともえのテンションは下がり、イエイヌとロードランナーは少しほっとしている。

ラモリはすぐに点検を始めるが、ともえのテンションは落ちていく。

 

ともえ「つまんない」

イエイヌ「我慢してください」

ロードランナー「無茶な走りをするからだぜ」

ともえ「だって」

イエイヌ「・・・!」

 

イエイヌの耳が少し動くと、何かに気がつき来た道を振り返る。

 

ともえ「イエイヌちゃん、どうしたの?」

イエイヌ「何かが来てます」

ロードランナー「セルリアンか?」

イエイヌ「いえ、セルリアンの匂いはしません」

ラモリ「サンドスターローノ濃度モ低イ」

ともえ「じゃあ、なにが?」

 

何かが近づいてくる、それに身構えるともえ達。

少しすると、遠くから何かが近づいてきた。

 

ともえ「あれって、フレンズちゃん?」

イエイヌ「みたいですね」

ラモリ「トリアエズ、バイクヲ移動サセルヨ」

ともえ「そ、それもそうだね」

 

皆でバイクを線路から降ろす、やってきたのは薄グレーの髪をポニーテールでまとめ、おでこを出して、どこか制服のような服を着たフレンズ。

彼女あバイクよりも大きな箱を引っ張っていた。

 

フレンズ「あら、そちらの皆さん、どうしました?」

ともえ「あ、あたしはともえ、こっちはイエイヌちゃんとゴマちゃん、ラモリさん、えっと、あなたは?」

フレンズ「私はロバ、フレンズ車軌道の引き手をしてるの」

ともえ「フレンズ軌道?」

イエイヌ「聞いたことないです」

ロードランナー「俺もだぜ」

ラモリ「該当ナシ」

 

ロバの言うフレンズ車軌道が何かわからなかったが、彼女が引っ張ってるものに似たものを見たことをともえが思い出した。

 

ともえ「あれ? ロバちゃんの引っ張ってるのって、セーバルさんのコレクションにあった客車に似てない?」

イエイヌ「そういえば、短いですけど、後ろつながってる変な屋根のやつはジャガーさんの船にも似てる気が」

ロードランナー「えっと、重そうだな」

ロバ「これは客車、後ろのは貨車、フレンズ車軌道はフレンズが客車や貨車をひっぱる鉄道なんですよ」

ともえ「へー、力もちなんだ」

ロバ「えっへん!」

 

自慢気に胸を張るロバ、ともえは図鑑を取り出し確認すると、たしかにロバはそうした力仕事が得意と書いてあった。

 

ロバ「ところで、皆さん、何か困ってるでしょ」

ともえ「え、うん、じつは」

イエイヌ「旅の途中でバイクが動かなくなって」

ロードランナー「なぁ、その貨車ってのに、乗せてもらってもいいか?」

ロバ「バイクなら、皆さんは客車の方に」

ともえ「いいの?」

ロバ「頼られるのはうれしいので」

ラモリ「僕ハバイクノ修理ガルカラ貨車ニ乗ルヨ」

ロバ「では、急いでください」

 

ロバにも手伝ってもらい、貨車にバイクとラモリさんを乗せると、ともえ達は客車に移動する。

よく見ればこの客車、バスの後ろを向かい合わせに二つつないだものらしい、入り口はバスの展望デッキ。

車内に入ると、ネットがかけられた箱の中に、フレンズが二人座っていた。

一人はグレーのワンピース風水着に手足にカバー、手には牙のようなものが上下二段にくっついた鎌を持つ、薄いグレーの髪を持つフレンズ。

二人目は不思議な色合いのネックウォーマーとリストバンドをして、グレーのカーディガンにダークグレーの半そでワイシャツ、白いライン入りのスカートをはいた、グレーのロングヘア―のフレンズ。

二人の前が開いていたので、ともえたちは向かい合う形で座る。

 

フレンズ「おや、私たち以外にもお客さんが」

フレンズ2「ほえ、団体さんだね」

ともえ「はじめまして、えっと、あたしはともえ」

イエイヌ「イエイヌです」

ロードランナー「ロードランナー様だ」

フレンズ2「私はカワラバト、こちらはセイウチ」

セイウチ「お見知りおきを」

 

カワラバト、そして彼女にもたれるセイウチ。

ともえは無断でスケッチしようとしてイエイヌに止められる。

 

ロバ「座席につかれましたね、発車します」

 

ロバの掛け声のあと、車両がゆっくりと動き出す。

重たい車両を一人で引っ張ってるので遅いが、歩くよりは早い。

 

ともえ「すごい、ロバちゃん一人で動いてるなんて」

イエイヌ「これが鉄道なんですね」

ロードランナー「遅いけど悪く無いな」

セイウチ「歩かなくていいので楽ですわ」

カワラバト「セイウチはもっと運動した方がいいよ」

 

ともえ達は始めての鉄道に興奮しているが、セイウチ達、とくにセイウチはまったりしていた。

 

ともえ「これ、どこまでいくのかな?」

セイウチ「湖畔のはし、砂漠の入り口あたりまでだそうでしてよ」

ともえ「そうなの?」

カワラバト「ロバが言ってたから、私達も始めてだし」

イエイヌ「私達もですよ」

ロードランナー「でもよ、飛べるヤツが乗るのも珍しいな」

カワラバト「セイウチが重いから、この島に来るまでめたいへんで」

 

そこまで言ってカワラバトは何かに気がつきはっとする、ともえがどうしたのか訪ねる前に、変わりにセイウチが話始める。

 

セイウチ「私達はこの島の外から来ましたの」

ともえ「外って、どのあたり?」

イエイヌ「ゴコクですか?」

セイウチ「名前まではしりませんの、パークで通じておりましたし」

ロードランナー「まぁ、そうだよな」

ともえ「どうやってここまで?」

セイウチ「泳ぎと、カワラバトさんに捕まって」

ともえ「・・・」

イエイヌ「・・・」

ロードランナー「・・・」

カワラバト「うん、ありがとう」

 

憐みの目線を向けられてることに気が付いたカワラバトは感謝する、セイウチは相変わらずもたれかかっている。

 

セイウチ「今日は、この列車で湖畔まで」

カワラバト「楽ちんだよ」

ともえ「私達は砂漠まで・・・かな」

イエイヌ「見て回るんですから、そうですね」

ロードランナー「砂漠を超えたジャングルはフレンズもいっぱいいるしな」

ともえ「楽しみ!」

セイウチ「砂漠・・・」

カワラバト「ほよ、運べないよ」

 

新たなフレンズとの出合いの可能性にワクワクするともえ、砂漠越えをしないと告げるカワラバト。

そうして話をしていると、列車は止まってしまった。

 

ともえ「どうかしましたか?」

ロバ「行き違いがあるの、うん、来てますね」

 

ロバの視線の先を見ると、確かに誰か来ていた。

ロバも動き出すと左に列車が動く、よく見ると反対側にも線路がある、ともえはスケッチブックを用意する。

 

ロバ「ヒラコテリウムさん、お待たせしましたか?」

ヒラコテリウム「いえ、わたくしも先ほどついたところです」

 

ともえ「お、お嬢様が増えた」

イエイヌ「でも、セイウチさんと違いますね」

ロードランナー「比べちゃダメだろ」

セイウチ「・・・」

カワラバト「ほよ、ラブ&ピースだよ、今のセイウチに怒る資格はないよ」

セイウチ「ひどいですわね」

 

白いフリル付きの白い長そでシャツと茶色のロングスカートに身を包み、ロングヘア―が風に揺れるヒラコテリウムは、しぐさの一つ一つからお嬢様オーラを醸し出す。

一方でセイウチは、口調はお嬢様だが、ぐーたらで、オーラは無い。

 

ヒラコテリウム「この先でセルリアンが目撃されていますから、お気を付けくださいませ、モウコノウマ様もターパン様も島長様からの仕事で近くにおりませんし」

ロバ「それくらいなら大丈夫、はい、交換」

ヒラコテリウム「では、くれぐれも、無理はなさらないでください、ロバ様には夢もあるのですし」

ロバ「わかってる、それじゃあ、出発!」

 

布がまいてある枝を交換したのち、ヒラコテリウムに見送られ、ロバは出発する。

少しすると、ともえが気になったことを尋ねる。

 

ともえ「ねぇロバちゃん、さっきヒラコテリウムちゃんが言ってた夢って?」

ロバ「ん? そうねぇ、このパークに鉄道を復活させることかな」

イエイヌ「鉄道を、ですか?」

ロバ「うん!」

 

力強い返事の後、ロバは夢を語り始めた。

 

ロバ「パークってジャパリまんをボスが配ってるけど、雨でダメになったり、持ってくる途中で誰かに取られたりすると、どうしても早い者勝ちになっちゃう時があるの」

ロードランナー「普段降らないのに大雨が来るとそうだな」

ともえ「そうなの?」

イエイヌ「そうかもしれません」

ロードランナー「そっか、お前らはそういう経験ねぇのか」

セイウチ「寝て次を待つのは」

カワラバト「待てるのは普段から動かないセイウチぐらいだよ」

ロバ「なんとかできないかなっていろいろ調べてたら、図書館で鉄道のほうがあって、そこに昔の長の集まりで、鉄道ができて食べ物がいっぱいあるところから少ないところに運んでいけるから万歳したって、それがパークにもあれば、ジャパリまんの取り合いもなくせるかなって」

 

謎の施設にいたともえとずっと家にいたイエイヌは実感がわかないが、ロードランナーは違った。

確かに何度かボスがジャパリまんを運ぶ姿は見ている、籠一杯のジャパリまん、小雨程度ならいいが、強い雨でうまくしのげないと、確かに大変なことになりそうだ。

 

ロバ「今はモウコノウマさん、ヒラコテリウムさん、ヤーパンさんとこうやって人が残した線路の一部を使ってますけど、いづれは残りの部分と、機関車も見つけて復活させたいなと」

ともえ「そうなんだ」

イエイヌ「壮大ですね」

ロードランナー「というか、動かせるのか?」

ロバ「そ、そこは気合で」

セイウチ「不安ですわね」

カワラバト「セイウチがそれを言うの?」

セイウチ「なんのことでしょうか」

 

ロバの語る壮大な夢、叶うかどうかわからないが、こうして一部を復活させたのだからかなえてほしい。

ともえ達がそう思っていた、その時であった。

 

ロバ「・・・! お客様は車内で隠れていてください、セルリアンです」

ともえ「さっき言ってた」

イエイヌ「なら、私も」

ロバ「だめです、ここにいてください!」

セイウチ「さすがロバ、頑固ですわね」

 

ロバはそれだけ言うと列車を止めてセルリアンのいる方へ走って行ってしまった。

 

イエイヌ「追いかけないと」

ロードランナー「そうだな」

ともえ「あたしも」

イエイヌ&ロードランナー「「ともえさんはお留守番!」」

ともえ「でも」

セイウチ「一緒に待ちましょう、いっても怒られて、蹴られるかも」

イエイヌ「まさかそんな」

ロードランナー「というか、おまえ、そんなでかいの持ってるなら戦えよ」

セイウチ「ロバは頑固なんです、ヒトのことわざに「ロバのように頑固」とあるくらいでしてよ」

イエイヌ「そんなこと言ってる場合・・・って、ともえさん!」

ともえ「先行くよ!」

イエイヌ「あぁもう!」

ロードランナー「少しはまてっての」

 

ともえがいちばんにぬけだし、イエイヌとロードランナーが追いかける。

ロバの向かったほうへ行くと、そこには身を低くして草の陰に身をひそめるロバがいた。

 

ともえ「ロバちゃん」

ロバ「お客様、なんで来たんですか、客車へ戻ってください!」

ともえ「あたし、ロバちゃんが心配で」

ロバ「戻ってください!」

イエイヌ「ロバさん!」

ロードランナー「やっと追いついたぜ」

ロバ「皆さん、まったく!」

 

ロバの視線の先には、ずんぐりむっくりした蜘蛛のようなセルリアンがいた。

そいつはあたりを見回しながら、少しずつ前に進んでいた。

 

ロバ「線路に向かってる、止めないと」

ともえ「これで注意を」

イエイヌ「目覚まし時計ですね」

ロードランナー「そいつはうるさいからな」

 

ともえが目覚まし時計を準備していると風が吹いて草が揺れる、するとセルリアンは顔の下から何かを撃ち始める。

それを見てともえは目覚ましをしまった、あれに目覚ましを投げても壊さるだけと判断しからだ。

 

ロバ「ですから、客車に戻ってください!」

ともえ「ロバちゃん!」

 

ロバは飛び出すとセルリアンへと向かっていく、セルリアンも顔をロバへと向けるが、それよりも早く彼女の体当たりが決まり、吹き飛ばされる。

 

ロバ「これなら!」

イエイヌ「ゴマさん、私達も!」

ロードランナー「おうよ!」

 

イエイヌとロードランナーも飛び出し、起き上がろうとするセルリアンに攻撃を加えるが、手ごたえがない。

ひっかき傷を与えても、すぐに治ってしまう。

 

イエイヌ「こいつ、見た目より硬い!」

ロードランナー「石を潰すしかないようだぜ」

ロバ「お二人とも下がってください!」

イエイヌ「この状態では無理です!」

 

ロバはセルリアンを前にしてもイエイヌ達に戻るように伝える、本当に頑固であった。

イエイヌ達もセルリアンが目の前にいるのでは下がるわけにもいかない。

そうしていると、セルリアンが3人の目の前から消えた、いや、消えたのではない。

 

ロードランナー「まずい、離れろ!」

イエイヌ「はい!」

ロバ「くぅ!」

 

空中に飛び上がり、そのまま重力したがって落下してきたセルリアン、ロードランナーは空へ飛びあがり、イエイヌとロバはすぐに離れることで押しつぶされはしなかったが、その衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がる。

イエイヌはすぐに起き上がるが、ロバと離れてしまった、そしてロバはまだ起き上がっていなかった。

 

イエイヌ「ロバさん!」

ロバ「いたた、このくらいで」

 

ロバは地面にたたきつけられたらしく、起き上がるのが遅かった、その間にセルリアンは迫っていた。

セルリアンが前足を振り上げる、そこに飛び出したのは。

 

ともえ「ロバちゃんを、やらせない!」

ロバ「お客様!」

イエイヌ「ともえさん!」

 

ロバの前に飛び出したともえ、両手を広げ盾になろうとする、イエイヌも走るが、それよりもセルリアンの前足が振り下ろされるほうが早い。

 

ともえ「ぜったいに、ぜったいに、傷つけさせない!」

イエイヌ「ともえさん、逃げて!」

ロードランナー「くそっ!間に合わねぇ!」

 

セルリアンの一撃が、ともえの目前まで迫った、その時だった。

 

イエイヌ「え!?」

ロードランナー「なんだよ、ありゃ!」

 

ともえの体から光、それもサンドスターの光があふれたかと思うと、それが広がり、セルリアンの前足を押し返す。

突然の光景に、イエイヌもロードランナーも動きを止める。

 

ともえ「傷つけるなら、離れろぉ!」

ロバ「これって」

 

ともえが叫ぶと、ひかりはさらに強くなり、セルリアンの表面が削れていく。

そうしていくと、後ろの一番むっくりしたところから、石が姿を見せた。

 

ロードランナー「! いまだ!」

 

ロードランナーは降下するとその勢いが乗ったキックを石へと放つ、ひびが入り、砕け散ると、セルリアンも砕け散った。

イエイヌはすぐにともえとロバのもとに駆け寄る。

 

イエイヌ「ともえさん、ロバさん、大丈夫ですか!?」

ともえ「う、うん、大丈夫、でも、これ・・・何?」

イエイヌ「わからないでやったんですか!?」

ともえ「うん」

ロバ「・・・」

 

ともえもこれが何かわからないが、落ち着いてくると光も収まり、サンドスターへと戻ると、胸元へと吸い込まれていった。

 

ロバ「胸元に」

ともえ「あ、これのおかげかな?」

イエイヌ「浄炎の羽根」

 

ともえが胸元からそれを取り出すと、まだ光を放っていた。

それも収まると、ロードランナーが下りてきた。

 

ロードランナー「おまえ、何無茶してんだよ、危なかったんだぞ!」

ともえ「ご、ごめん、でも、じっとしてられなくて」

イエイヌ「そうですよ、今回はラモリさんもいないんですし!」

ロバ「それを言うなら皆さん客車に・・・あら?」

ともえ「あれ、雨?」

イエイヌ「でも、晴れてますよ?」

ロードランナー「珍しいこともあるんだな」

 

張れているにもかかわらず、急に雨が降り出した、小雨であるが不思議であった。

ともえ達が見とれている間に、ロバは毛皮についた土を払って立ち上がる。

 

ロバ「そうですか・・・皆さん、客車までお戻りください、運転を再開します」

ともえ「は、はい」

イエイヌ「帰ったらお説教ですよ」

ロードランナー「ちゃんと聞くんだぞ」

イエイヌ「う、うん」

 

ともえ達が列車に戻ると、そのままお説教が始まった、イエイヌはすごく心配したし、ともえも無謀だったので当然である。

 

イエイヌ「ともえさんはヒトなんですから、無茶しないでください!」

ともえ「はい、ごめんなさい」

ロードランナー「あのサンドスターはすごかったけど、よくわかんねぇし、頼れねぇからな」

 

セイウチ「ヒト・・・そう、あの子が」

カワラバト「降りてきてよかったね」

 

そしてお説教が終わるころ、列車はこはんちほーに到着した。

 

セイウチ「それでは、私達はここで」

カワラバト「ともえ達も気を付けてね」

 

ともえ「セイウチちゃんとカワラバトちゃんもね」

イエイヌ「またどこかでお会いしましょうね!」

ロードランナー「元気でやれよー!」

 

動き出した列車から見送るともえ達、少しすると荷物伝いにラモリが客車までやってきた。

 

ともえ「ラモリさん、バイクはどうなりました?」

ラモリ「バッチリダヨ、接続ガ緩ンデ安全装置ガ作動シタダケダヨ」

イエイヌ「じゃあ、まだ動かせるんですね」

ラモリ「放電モナカッタカラネ、スグニ動カセルヨ」

ロードランナー「なら、砂漠の一口までついたら、再開だな」

ロバ「あの、よろしいでしょうか?」

 

バイクが治り、これからの予定を立てていると、ロバに声を掛けられる。

何事かと、ともえ達は前に集まる。

 

ともえ「どうしたの?」

ロバ「実は、皆さん、とくにともえさんに会いたいという方がおられまして」

イエイヌ「へ? いつの間に?」

ロバ「つい先ほどです、そこまでお連れしたいのですが」

ともえ「私はいいけど、皆は?」

イエイヌ「いいと思いますけど」

ロードランナー「まぁ、行く当てもないしなぁ」

ラモリ「トモエガ決メル事ダヨ」

ともえ「じゃあロバちゃん、そこまで案内してくれる?」

ロバ「はい、では、もうしばらくご乗車ください」

 

そういってロバはそのまま進むと、こはんちほーの中ほどで列車を止めた。

外を見れば、線路がまっすぐに続いているように見える。

ロバは客車の下から棒を取り出すと、線路の横で棒をつついたり、回したりする。

すると大きな音がして、さっきまで一本道の線路から、右へと延びる分岐が現れた。

 

ともえ「え、いまのって、魔法?」

ロバ「その類だと思います、普段は隠していますから」

ともえ「隠す?」

イエイヌ「何のために?」

ロードランナー「大丈夫なんだろうな」

ラモリ「該当路線、ナシ」

ロバ「大丈夫です、さぁ、出発しますよ」

 

ロバは列車を分岐の方へと向かって引っ張て行く、この先に何があるのか、だれが待っているのか、ともえ達はまだ知らなかった。

この線路の先に、ともえとイエイヌにとって、大事な過去があることを。





ーー
ーーー

くりげ「あ、船から連絡来たよ、二人から連絡が来たって」
しろげ「通信機を持っていましたのね」
あおかげ「まったく、心配させて」
くりげ「それと・・・ともえを見かけたって!」
しろげ「なんと!」
あおかげ「それで、ともえはどこに?」
くりげ「ちょっと待ってね、今こっちにつないでもらうから」

あおかげ「よりにもよって、あそこか」
しろげ「あそこは、厄介ですわね、ラッキービーストも近づけませんし、全容がわかりませんわ」
くりげ「でも、入っていったんだから、どうにかなるんじゃない?」
あおかげ「そうだな、だがもしもに備えよう、衛星から隠しきる相手だ、そんなことができるフレンズは限られてる」
しろげ「協力者が欲しいですわね」
くりげ「うん、とりあえずこはんちほーまで行くけど、誰かいないかな」
あおかげ「都合よくいないだろ」
くりげ「じゃあ、知ってそうな子に、を、おーい、そこの猫科のフレンズさーん!」
しろげ「おまちなさい、いきなり声をかけるのは」

ーーー
ーー


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第9話 隠れ里 前編

森を抜け、平原へと入り、旅を続けるともえ達。
フレンズに会えずにむくれていたら、線路を発見。
調子に乗って線路を走っていたら、バイクが動かなくなっちゃった。
そこに通りがかったのはロバちゃん、フレンズ車軌道の引き手をしていて、乗せてもらうことに。
客車にはセイウチちゃんとカワラバトちゃん、島の外から来たらしい。
話をしたり、ロバちゃんの夢を聞いたり、楽しい時間を過ごしていたら、そこにセルリアンが!
果敢に立ち向かうロバちゃん、イエイヌちゃんとロードランナーちゃんも加勢するけどセルリアンは強い。
傷ついたロバちゃんを守るため立ちふさがるともえちゃん、セルリアンの一撃が迫るとき、彼女の体からサンドスターの光が。
その光にセルリアンがひるんだところでロードランナーが石を砕いてやっつけた。
勝利を祝福するかのような雨が降るけど、空は晴れている。
運転を再開した列車がこはんちほーにつくと、セイウチちゃんとカワラバトちゃんとお別れ。
次は砂漠…と思いきや、ロバちゃんがどこかへ連れて行ってくれるという、会いたい人がいるというのだが、果たして・・・。


木々が生い茂る森の中、ロバの引っ張る客車はガタゴトと揺れながら、線路を進んでいく。

客車の中のともえ達は、ひそひそと話し合っていた。

 

ともえ「なんだかワクワクするね」

イエイヌ「ですけど、ラモリさんも知らない場所なんですよね?」

ラモリ「該当データハナイナ」

ロードランナー「大丈夫なんだろうな?」

ともえ「大丈夫でしょ、ロバちゃんいい子だし」

イエイヌ「そうですけど」

 

いくらロバがいい子とはいえ、薄暗い森の中を進んでいく、不安になるのも仕方のないことであった。

一方でともえは、この雰囲気すら楽しんでいた。

 

ともえ「ロバちゃん、あとどのくらい?」

ロバ「あの木の間を抜けたら、もうすぐですよ」

 

ロバが指差す先に、両脇から木が生えていて、幹と枝がまるで門のようにも見える。

客車がロバに引かれてそこを潜ると、景色は一変した。

 

ともえ「き、綺麗」

ロードランナー「赤いのがいっぱい並んでる」

イエイヌ「・・・懐かしい」

ロバ「凄いでしょ、赤い鳥居に石畳」

ともえ「うん! 別世界みたい!」

ロバ「別世界、そうかもしれません」

 

左右の木々は剪定され、道は石畳で舗装され、それを跨ぐ幾つもの赤い鳥居。

パークとは思えないほど、美しく整備されていた。

 

ともえ「絵になる、凄く絵になるよこの道」

イエイヌ「ともえさん、落ち着いてください」

ラモリ「フレンズガイナイノニ興奮シテルナ」

ロードランナー「色々越えちまったか?」

 

あまりの美しさに、ともえの色鉛筆は止まらない、イエイヌ達はもうなれてしまったので反応は薄め。

そうして鳥居をくぐっていくと、大きな木の門が見えてきた。

 

ともえ「あれは?」

ロバ「目的地ですよ」

イエイヌ「大きいですね」

ロバ「これが通るくらいですから」

ロードランナー「あれにも赤いのが書いてあるぜ」

ロバ「統一感らしいですよ」

 

赤い鳥居が書かれた木の門、左右には展望台のようなものもついている。

その門の前には、二人のフレンズが立っていて、ロバの足も止まる。

一人は黒い甲冑を身に着け槍を持ち、もう一人は白いフリル付きの服に薄い茶色のファーとピンクのリボン、赤い三角の切れ込みが入った茶色のスカートをはいていて、背中には布に包まれた細長い何かを背負っていた。

その二人が、ロバを止めた。

 

???「ロバか、今日は一体何の用だ」

ロバ「クロサイさん、ヤブノウサギさん、里長様のお客様もお連れしました」

ともえ「ひっ!」

イエイヌ「ともえさん、大丈夫ですよ、わたしがついてますから」

ロードランナー「どうしたんだ、ともえ」

ラモリ「アノ二人、銃ヲ持ッテルヨ」

ロードランナー「なに!?」

 

ともえはおびえていたが、イエイヌが優しく包み込む、ロードランナーもクリーンセンターのことでともえが銃を極端に恐れていることは知っていた。

気絶はしてないが、初めて見るフレンズをスケッチする余裕がないほどであった。

 

クロサイ「客人・・・後ろにいる3人か?」

ロバ「そうですよ」

ヤブノウサギ「ちょっと…怪しい?」

ロバ「天気雨も降りましたよ?」

クロサイ「それはそうだが、今は班長がいないのでな」

ともえ「は、入れそうなの?」

イエイヌ「わかりませんけど」

ラモリ「難航シテルヨウダナ」

ロードランナー「なんか頭堅いのか?」

 

ロバと門番二人が言い争いをしている、どうもともえ達を入れたくないらしい。

長くなるかと思われたかま、そうでもなかった。

 

???「二人とも、何をもめているの?」

ともえ「あれ、サーベルちゃん?」

サーベルタイガー「あら、ともえちゃん、久しぶりね」

 

いつの間にか列車の横にいたのはハイウェイで知り合った流れのハンターサーベルタイガー、彼女の姿を見た門番二人もどこか緊張していた。

 

クロサイ「班長、あの客人と知り合いで?」

サーベルタイガー「そうよ、里長様の天気雨も降ったのだから、早く入れてあげなさい」

ヤブノウサギ「・・・いいの?」

サーベルタイガー「里長様が良いと考えられたのですから」

クロサイ「わかりました、門を開ける」

 

クロサイとヤブノウサギが何かを操作したのち、門を押すとゆっくりと開いていく。

それが開いたことを確認すると、ロバが列車を引いてくぐり、サーベルタイガーも一緒にくぐる。

 

ともえ「サーベルちゃん、さっきの二人は知り合い?」

サーベルタイガー「私の仲間よ、久々に帰ってきたの」

イエイヌ「帰ってきた?」

ロードランナー「つまり、ここが縄張りなのか?」

サーベルタイガー「そんなところよ、ロバ、3人の案内は私がするわ」

ロバ「わかりました」

 

ある程度進むと、ロバが止まり、何人かフレンズがいた、今度はともえもいつも通りに。

 

ともえ「すごい、誰かわかんないけどフレンズちゃんがたくさん、めっちゃ絵になる、絵になるよ!」

サーベルタイガー「ついてこないと、迷子になるわよ」

イエイヌ「ともえさん、行きますよ」

ともえ「あーん、まだ書けてないのにー!」

ラモリ「モトドオリダナ」

 

イエイヌに引っ張られてともえは引き離される。

門を潜って直ぐは石畳と林だったが、道が広くなると両脇には木箱を土台に棒と布で作られた商店や木の壁に板材の屋根でできた家が姿を見せる。

 

ともえ「可愛らしい家がいっぱい」

イエイヌ「そうですね、クリーンセンターでみたセーバルさんのコレクション置き場に似てますね」

ロードランナー「ロッジにも似てるぞ」

ラモリ「材料ハ同ジダカラネ」

サーベルタイガー「ここで驚いてたら駄目よ」

 

進むにつれ、両脇は木々から家に変わり、フレンズ達も見かけるようになる。

少し開けた場所に出れば、中央に台があり、そこを中心として、家や商店が囲むように建っている。

そしてフレンズが何かを買ったり、楽しそうに話していたり。

広場というのが適切な、活気のある場所であった

この光景に、フレンズ好きなともえは興奮し、スケッチしようとして止められる。

 

ともえ「お願い! 後生だから、後生だから!」

イエイヌ「置いてかれてしまいますから駄目です」

ともえ「ケチ―!」

ロードランナー「あんまり騒ぐなよ、視線が」

ラモリ「同感ダナ」

サーベルタイガー「にぎやかね、こっちよ」

 

広場をまっすぐに抜けて、両脇は再び木々に覆われる、道は右に折れ曲がり奥は見えない。

そしてそこを曲がると、そこには入り口と同じように、いくつもの鳥居が並び、その奥にはこれまでの物とは違う、白い壁と黒い瓦、そして厳かさを感じさせるもんがあった。

 

ロードランナー「お、おい、なんか、空気が違うぞ」

ともえ「うん、ゴマちゃんの言うう通り」

イエイヌ「あれは・・・神社、ですか?」

サーベルタイガー「よく知ってるわね、そしてあそこに、里長様がいるわ」

 

そういってサーベルタイガーは歩いていく、ともえ達もついて行くが、どうしても聞きたいことがあった。

 

ともえ「ねぇ、里長様って?」

サーベルタイガー「この里を収めている、私達にとってはとても大切なお方です」

イエイヌ「大切?」

サーベルタイガー「私達が、私達でいることを証明してくる、ここにいていいと言ってくれた方です」

ロードランナー「?」

サーベルタイガー「外の方には、いまいちわかりませんよね、ほら、もうすぐですよ」

 

門の前までつくと、ひとりでに開いていく、ともえ達は驚くがサーベルタイガーにとっては普通の事なのだろう、そのまま入っていき、ともえ達も続く。

門の中は水の流れる場所や、石畳の外は木々が生えているが地面は砂利でおおわれている。

そして木で作られた、どこか倉庫のようにも見える外観の建物の前に、二人のフレンズが座っていた。

一人は大きな耳を持ち、グレーの服に身を包み、もう一人は白い毛並みで、服装も白を中心としていた。

そして大きな耳を持つ方は、ともえ達は知っていた。

 

ともえ「あれ? オオミミちゃん?」

オオミミギツネ「お久しぶりですね」

イエイヌ「どうしてここに?」

オオミミギツネ「私も里長様に仕えてますので、サーベルタイガー、あとは私達が引き継ぎます」

サーベルタイガー「わかったわ」

 

サーベルタイガーは一礼すると、去っていく。

残されたのはともえ達とオオミミギツネ、そして白いフレンズ。

 

オオミミギツネ「ホッキョクギツネ、お客様を里長様のところまで連れて行くから、よろしく頼むわね」

ホッキョクギツネ「わかりました」

ともえ「あの、スケッチ」

オオミミギツネ「時間はとりますので、今はこちらへ」

イエイヌ「らしいので、行きますよ」

ともえ「あーん」

ロードランナー「イエイヌのやつ、今日はなんだか逞しいな」

ラモリ「ダナ」

 

オオミミギツネに案内され、廊下を進んでいく。

最初に見えた建物の裏から、もう一つの建物へ、こちらは屋根に乾燥した植物を使っていた。

 

ともえ「茅葺屋根?」

オオミミギツネ「こちらは住居ですので」

イエイヌ「里長様って、もしかして」

ロードランナー「親とかじゃないのか?」

オオミミギツネ「里長さま、ともえ様一行が参りました」

???「中へどうぞ、靴は脱いでくださいね」

ロードランナー「靴?」

ともえ「足に履いてる」

ロードランナー「これも脱げたのか!?」

イエイヌ「そういえば、脱ぐのはお風呂の時くらいですからね」

ラモリ「フレンズノ靴ハ汚レモ勝手ニ落チルカラナ」

 

ちょっとした新発見もありつつ、屋敷の中へ、中は畳敷きで、奥は高くなっていて、そこにいたのは。

 

ともえ「やっぱり」

イエイヌ「ミケツさん」

ミケツ「お久しぶりですね、ここでは里長のイナリと呼ばれていますので、そちらで」

ロードランナー「変なメガネがなけりゃ美人だったのか」

オオミミギツネ「失礼なことを」

 

白い毛並みにぴんと立った耳、以前音楽祭に向かう際にお世話になったミケツとの再会であった。

その時は変なメガネをしていたが、今はそれを外して美しい素顔を見せていた。

オオミミギツネは右側にさも当然と言わんばかりに座っている。

 

イナリ「さて、皆さんの事、友人たちから聞いていました、ここまでよくたどり着きました」

ともえ「友人?」

イエイヌ「誰でしょうか?」

ロードランナー「セーバルじゃねぇか?」

ラモリ「達ダカラ、複数ダナ」

ともえ「それに、サーベルちゃんは違う気がする」

 

友人たちと聞いて、セーバルの姿を思い浮かべるが、ほかにだれかは思い浮かばなかった。

 

イナリ「ともえちゃんとイエイヌちゃん、ラモリさんは会ったことがあるはずですよ」

ロードランナー「俺だけ会ってないのかよ」

ともえ「ゴマちゃんが知らないとなると」

イエイヌ「カピバラさん?」

ラモリ「ダナ」

イナリ「古い友人なんですよ」

ともえ「顔が広いんだ」

イエイヌ「というより、カピバラさんって、何者なんですか?」

ロードランナー「・・・ってことは、イナリ様も」

イナリ「様をつけるときは里長で、あ、ほかの方も里で私を見かけたらそっちで」

ロードランナー「変なの・・・で、里長様も、セーバルみたいに昔からいるのか?」

 

確かに、あのセーバルと共通の友人がいる、ということは、彼女も昔からいるということかもしれない。

それはつまり、ともえとイエイヌの知りたいことのヒントを知ってるかもしれないということでもあった。

思い出したのである、セーバルが古い友人が調べ物をしてると言っていたことを。

 

イナリ「そうですね、里長としては違いますが、セーバルとは生まれた時から」

ともえ「じゃあ、古い施設を調べてるって」

イエイヌ「ともえさんが眠っていた施設について、なにか」

 

ともえとイエイヌが聞こうとするのを、イナリは手を出して止める。

 

イナリ「そのことについてですが、まだ話す時ではありません」

ともえ「?」

イエイヌ「つまり、話してくれないって、ことですか?」

イナリ「今は、ですが」

ロードランナー「じゃあなんで呼んだんだよ」

オオミミギツネ「それは、里長様の深い考えが」

イナリ「近くまで来ていたので、まっすぐ進んでいましたし」

オオミミギツネ「里長様!?」

 

イナリは一呼吸おいて、話を続ける。

 

イナリ「こうやって直接話してみたかったんです」

ともえ「なんかこう、偉い人って感じ」

イエイヌ「ともえさん・・・」

イナリ「偉いというのはこう流れに乗るもので・・・それはそれとして、時が来たかどうかの判断ですが、しばらくこの里で暮らしてください」

ともえ「暮す?」

ロードランナー「いいのか、それ?」

イエイヌ「それに、お家は」

イナリ「すべてこちらで手配します、里で暮らす民とともに暮らす姿で判断させてもらいます」

オオミミギツネ「何かあれば私に、用事があればホッキョクギツネが伝えますので」

ともえ「なんで別々なの?」

イナリ「オオミミギツネは民の声を私に伝え、ホッキョクギツネは私が決めたことを民に伝える、私がそう決めたんですよ」

イエイヌ「おっきい耳でよく聞いて、きれいな声で伝える」

ロードランナー「・・・見た目で決めたか?」

ラモリ「カモナ」

 

ロードランナーとラモリさんは置いといて、話は進んでいく。

 

イナリ「そういうことなので、この里でしばらく暮してください、転がる石には苔が生えぬという言葉もあります、弾にはとどまることも大事ですよ」

ともえ「そうなの?」

イエイヌ「そういう意味もありますね」

ロードランナー「苔生えるほど動かないなんて」

ラモリ「トラエカタハソレゾレダカラナ」

 

こうして、ともえ達は里にとどまることが決まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

屋敷を出て、今度はホッキョクギツネの案内で里へと戻るともえ達、フレンズ達も増えて、視線が向けられている。

 

ともえ「むー」

ホッキョクギツネ「スケッチはまだ駄目ですよ」

イエイヌ「我慢ですよ」

ロードランナー「暮すって言っても、どんな場所だ?」

ラモリ「イママデハテントダッタカラナ」

 

旅に出てから、日々はテントで寝て、昼間はバイクで移動していて、フレンズの多くは木の下や洞窟などの雨をしのげる場所で過ごしはすれど、家を持ってるフレンズはそこまで多くない。

メインから離れて、中心に入る少し前、この里でともえ達が暮らすことになる家があった。

 

ホッキョクギツネ「こちらの家をお使いください、倉庫でしたが、中は掃除してあります」

ともえ「ほかの家とそっくり、でも屋根は青なんだね」

イエイヌ「わかりやすくていいですね、木の香りがします」

ロードランナー「倉庫ってのがよくわかんねぇけど、なかなかいいじゃねぇか」

ラモリ「シッカリシタツクリニナッテルネ」

 

家の中は玄関の土間と板張りの床、台所というシンプルなもので、広さもそこそこであった。

皆初めての家にあっちを見たりこっちを見たりするが、ホッキョクギツネは微笑みながら説明を続ける。

 

ホッキョクギツネ「玄関の正面にあるあちらの扉は勝手口になっておりまして、この家の裏手には水タンクとトイレが設置してありますので、雨水をためておりますが、必要なら川から組んできてください」

ロードランナー「タンク?」

イエイヌ「台所で使う水をためておく場所ですね、さっそく組んできますね」

ともえ「ずるい、私も行く、裏庭みたい!」

 

勝手口を出て右手に石を積んだ土台に白い筒状のものがあって、それは屋根の淵についた竹と繋がっている。

その奥にある小屋のようなものがトイレなのだろう、するとタンクの後ろからロードランナーが顔を出した。

 

ともえ「ゴマちゃん、どうしたの?」

ロードランナー「いや、隅に扉あるからなんだろうなって開けたら」

ともえ「そこからも行けたんだ」

イエイヌ「ホッキョクギツネさん、増築とかは」

ホッキョクギツネ「材料も施工も自己責任で」

イエイヌ「わかりました」

 

トイレの前の扉で遊ぶともえとロードランナー、それとは別に増築を考えるイエイヌ。

少しタンクを見て、イエイヌは考える。

 

イエイヌ「あの、あのタンクと同じものって、ありますか?」

ホッキョクギツネ「えぇ、この道からなら、広場に入って右手に行けば、道のわきに」

イエイヌ「ありがとうございます」

ともえ「あれ?イエイヌちゃん、どこか行くの?」

イエイヌ「少しやりたいことが」

ともえ「すごい気になる、ついてく!」

ラモリ「コッチハ家ノ掃除ダナ」

ロードランナー「うへぇ、まぁ、いいか」

ホッキョクギツネ「では、私は戻りますので、何かあればサーベルタイガーを頼ってください、広場にある灰色の家に今はいますので」

 

そういってホッキョクギツネは帰っていく、ともえとイエイヌはホッキョクギツネが言っていた場所に向かう。

広場に入ってそのまま右へ、少し進むと丸太で道は塞がれていたが、その脇にはいろんなものが山積みにされていて、申し訳程度に布がかけられていた。

 

ともえ「な、なんだか、怖いね」

イエイヌ「大丈夫です、ここにあるのは匂いからして、危険なものはなさそうですね」

 

怖くてくっつくともえに対して、イエイヌは鼻をくんくんと鳴らして、ガラクタの山から目当てのものを探す。

それは数分もしないで見つかった、家で使われているタンクと同じものであった。

 

イエイヌ「ありました、匂いもついてませんし、新品ですよ」

ともえ「それ、何に使うの?」

イエイヌ「お風呂ですよ」

ともえ「お風呂?」

イエイヌ「はい、ドラム缶風呂っていうんですよ、あと、これがドラム缶です」

 

ドラム缶を抱えて尻尾を振るイエイヌ、ともえはよくわからなかったが、とりあえず持って帰ることに。

 

ラモリ「ドラム缶ダネ、軽ク洗ッタホウガイイナ」

イエイヌ「はい、土台は・・・こんな感じでしょうか」

ロードランナー「風呂って、温泉とは違うのか?」

ともえ「バイク持ってきたよ、置き場も考えないと」

 

裏庭で真ん中を開けた土台にドラム缶を乗せて、その中に水を入れる。

開けた部分にはっぱや木の枝を置いて、イエイヌに頼まれたともえが火をつける。

その間に、ラモリが作っていた隙間の空いた板を中に入れて、これで完成らしい。

 

イエイヌ「できました、ともえさん、入ってみてください」

ともえ「う、うん」

 

服を脱いで、ドラム缶の中に入る、温泉と同じように、ぬくぬくのぽかぽかであった。

 

ともえ「なんだろう、気持ちいい」

イエイヌ「良かった、カコ博士に教わってたんですが、やったことはなくて」

ロードランナー「次は俺が入ってもいいよな?」

ラモリ「火ハ俺ガ見トクゾ」

 

ドラム缶風呂を囲んで、ワイワイとにぎやかな時間、明日からはこの里でこれまでの旅とは違う日々が始まる。

それが楽しみであり、期待もあり、懐かしくもあった。

ともえは気づいていなかった、初めての場所のはずなのに、懐かしく感じてる自分がいることに。

 





ーー
ーーー

イナリ「あの子たちは、家を楽しんでいるようですね」
ホッキョクギツネ「はい、明日からはサーベルタイガーが面倒を見ることになります」
イナリ「そうですか、ところで、資材置き場に向かったようですが、丸太を超えてはいませんね?」
ホッキョクギツネ「はい、それが何か?」
イナリ「時が来たら自然に向かうはずです、それまでは、止めてください」
ホッキョクギツネ「わかりました」
イナリ「・・・サーベルタイガーの報告のことも気になります、もう少し時間があるといいのですが」

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