魔法の絆創膏 (アマンダ)
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魔法の絆創膏

トレーナー  1・2・3・4、1・2・3・4…

     ……箱崎、遅れてるぞ。

 

星梨花  は、はい。

 

トレーナー  1・2・3・4、1・2・3・4…

     北沢、もっと周りを意識して!

 

志保  は…、はい!

 

 

―――

 

 

未来  いやー、星梨花も志保お疲れさまー。

     これ、特製ドリンクだよ。

志保   ありがとう。

星梨花  未来さん!ありがとうございます!

 

未来  二人とも、頑張ってるね。

星梨花  はい。…でも全然上達できなくって…。

未来  でも、頑張ってるなら大丈夫じゃないかな?

志保  大丈夫な訳ないじゃない。

     …このままじゃ足手まといよ、星梨花も私も…。

星梨花  志保さん…。

 

志保  ゴクゴク……

     …!!!

志保  未来。このドリンク、いったい何を…

未来  あ、その特製ドリンクはね牛乳をベースに元気が出るようにニンニクと栄養ドリンク、

     それからetc…

志保  ……。

星梨花  わぁ、よく分からないですけど、すっごく利きそうです!

志保   …星梨花、やめといた方がいいわよ。絶対。

星梨花  えっ、そうなんですか?

 

志保   さて、私はもう少し練習するけど、星梨花はどうする?

星梨花  は、はい! 私も、もっともっと上手く踊りたいです!

     志保さん、お願いしますね。えへへ。

 

 

―――

 

 

星梨花  はぁ…、はぁ…。

     す、少しは上手になったでしょうか?

志保   一日の練習じゃそんなに変わらないと思うけど…。

星梨花  そうですか…。

志保   …でも、続けていけば変わるんじゃないかしら?

     明日も、明後日も、その次の日も。

 

星梨花  そうですよね。私、変われるように頑張りますね!

     …でも、今日は疲れました…。

志保   …そうね、今日は終わりましょう。

     明日も朝からここで練習するけど、星梨花はどうする?

     あ、でも別に…、無理はしないでいいわよ。

 

星梨花  ほえー

 

志保   星梨花、聞いてる?

星梨花  …はっ。

     すいませんちょっとボーっとしてました。

志保   大丈夫?

     随分と疲れているみたいだけど?

星梨花  えへへ、ちょっとだけ。

     でも、大丈夫です心配しないで下さい。

志保   そう?それならいいんだけど…。

 

星梨花  あ、そうだ!

     こんな時の為に、未来さんの特製ドリンクがあるんです。

     きっと、疲れなんか一瞬で吹き飛ばしちゃいます!

志保   せ…星梨花! ストップ!

星梨花  ゴクゴク…。

     !!!?

星梨花  こ、これは…何というか…エキセントリックというか

     …不思議な味というか…とにかく、凄い味で……

     ……ピーーーーー

 

 バタン。

 

志保  星、星梨花!?

 

―――

星梨花  …はっ。

P     お、起きたか?星梨花。

星梨花  プロデューサーさん。

     …あれ、私?

     確か、凄い味のドリンクを飲んで

     ……あれ? それからどうなったんでしたっけ?

 

P     倒れて、寝込んだ…って志保から聞いたぞ。

     大丈夫か?

星梨花  そうなんですか?

     うーん…、平気です。

     逆に元気が余ってるくらいです。

P     そうか、それはそれで何か不気味だけど。

     まあ、大丈夫そうかな?

 

 タラー。

 

星梨花  あ、血が…。

 

P     倒れた時に擦ったみたいだな。

     ちょっと、待っててくれ。救急箱持ってくる…。

 

 カサ…

 

星梨花  ? 何でしょう、この袋?

     中には…、絆創膏が一つ入ってます。

     それに、紙が一枚…

     えーっと…

    「この絆創膏は魔法の絆創膏で、体の傷以外にも心の傷も塞げます。

     頑張っている貴女へ、トップアイドルになるためのおまじない。

     バンソウコウの妖精より。」

     って書いてあります。

P     星に、果物、そして向日葵…、見たことない柄だな…。

星梨花  プロデューサーさん、絆創膏お願いしてもいいですか?

P     ああ。

     …これでよしっと。

星梨花  えへへ、この絆創膏すっごくかわいいです。

     それに、実は少し落ちこんでたんですけど、それもなくなりました。

     魔法の絆創膏、凄いです!

P     よかったな。星梨花。

P     さて、もう帰ろうか。

星梨花  はい。

 

P (それにしても、あの絆創膏。星梨花の近くにあったというと…)

     (いや、余計なコトはいいか。)

 

 

―次の日の朝―

 

 

星梨花  おはようございます。志保さん。

志保   早いわね。星梨花…。

星梨花  はい。未来さんのドリンクを飲んでから寝ても覚めても元気いっぱいで。

志保   そう…それは何というか…。

 

星梨花  それから、見てください。

志保   …絆創膏?

星梨花  はい、魔法の絆創膏です。

     これを付ければ、トップアイドルになれるって書いてありました。

     だから、私も頑張ってトップアイドルを目指します!

茜    ほっほー、魔法の絆創膏となぁ?

志保   …。

星梨花  あ、茜さんおはようございます。

志保   茜さん、何しに来たんですか?

茜    んー、茜ちゃんは偶々事務所の前を通りかかっただけだよー。

     いやー、何でかなー、茜ちゃんクラスになると、もはやね事務所の方から…

志保   星梨花、行きましょう。

星梨花  えっ、は、はい。茜さんまた後でー。

茜    …って訳なんだよね。だから、決して朝練が日課だとかそういうんじゃ…って

     志保りん聞いてる? あれ?

 

 

―――

 

 

トレーナー   1・2・3・4、1・2・3・4…

     ……いい調子だぞ、箱崎。

     そのまま、テンポを維持するんだ。

星梨花  は、はい。

トレーナー   1・2・3・4、1・2・3・4…

志保   未来、疲れてきてもしっかり腕は振る!

     …頑張って。

未来   は、はい!

トレーナー   よし、そこまで。皆、お疲れさん。

     箱崎、それから北沢も、大分よくなったな。

星梨花  はい。ありがとうございます!

 

 

―――

 

 

静香   星梨花、凄いじゃない。

星梨花  えへへ、ありがとうございます静香さん。

     志保さんと、いっぱい練習したんですよ。

     それに、トップアイドルになる魔法もかけて貰ったんですよ。

茜    おっ、魔法の絆創膏ってヤツだねー。茜ちゃん知ってるよー。

未来   わあ、かわいい絆創膏。

静香   星梨花似合ってるわよ。

未来   でも、絆創膏ってことは傷が治ったら、取れちゃうのかな?

星梨花  え?

静香   あっ、でも、星梨花のは魔法の絆創膏だから大丈夫よ。ねぇ? 未来?

未来   そうだね。大丈夫だよ星梨花。

志保   …。

 

―――

 

志保  (考えてなかった…。絆創膏なんだから、当たり前なはずなのに。)

    (あれが無くなったら星梨花はどんな顔を…)

    (だって、あの絆創膏は…)

 

星梨花  あっ、志保さん。ここにいたんですね。

志保   星梨花…。

星梨花  今日も一緒に練習お願いしますね。

志保   え、えぇ。頑張りましょう。

 

 

―――

 

 

トレーナー   よーし、全員一端休憩。

全員   はーい。

トレーナー   あ、北沢ちょっといいか。

志保   はい、何ですか?

トレーナー   今回の通しの練習、お前にはどう見えた?

志保   はい。

     全員、指示通りには踊れるようになっていると思います。

志保   …でも、ダンスの上手い人とは少し差があって、まだ統一感が見えないと思います。

     上手い人のレベルに合わせられる様にしていいたいですよね…。

トレーナー   そうか…。ありがとう。参考になった。

志保   いえ。私の意見なんて、まだまだで…。

 

星梨花  あ、志保さーん。

     今日のレッスン後もまたお願いしていいですか?

志保   ええ。でも星梨花、体力は大丈夫なの?

星梨花  はい。大丈夫です。

     えへへ、志保さんとの練習のお陰です。

志保   そう。それなら大丈夫ね。

     星梨花、今日もよろしく。

星梨花  はい。

未来   星梨花ちゃーん、早くご飯食べに行こーよー。

星梨花  未来さーん、今行きまーす。

     それじゃあ、志保さん。 また後で。

志保   ええ。いつものようにまってるわ。

 

 タッタッタッ

 

 

―――

 

 

志保   ……。

     ……遅いわね、星梨花。

    (何か嫌な胸騒ぎがする)

 

 ガチャ

 

志保   星梨花?

静香   あ、志保。ごめん急に入っちゃって。

志保   静香…。何してるの。

静香   実は、星梨花の絆創膏が無くなっちゃって、探してたの。

志保   ! 

     …。

     …そう、星梨花は?

静香   ……今は、茜さんたちが慰めてるけど、すごく落ち込んでるわ。

志保   そう…。

 

静香   ちょっと、志保何処行くの!

 

 

―――

 

 

茜    じゃじゃーん!

     なんと茜ちゃん柄の特製絆創膏だよー。

     普段は貴重で非売品なんだけど、なんと今なら星梨花ちゃんに特別プレゼントーー!!

     いやー、茜ちゃんは実に優しいねぇ。うんうん。

星梨花  ……茜さん、ありがとうございます。

茜    ううぅ…元気出してよ、星梨花ちゃん。

 

志保   星梨花!

星梨花  志保…さん。

茜    おおー、志保りんも茜ちゃん絆創膏が欲しいのかなー?

     ううーん、でもこれは一品物で…

志保   星梨花!

     約束はどうするの…!

星梨花  練習ですよね…。

     ごめんなさい、黙ってサボってしまって。

志保   違う!

志保   ……違うわよ…。

     トップアイドルになるんでしょ?

     頑張るんでしょ!!

星梨花  …。

     はい、頑張りたいんです。頑張りたいんけど…、頑張れなくて…

     私、本当はあの絆創膏が魔法の絆創膏じゃなくても良かったんです。

     あの絆創膏をもらった時、すっごく嬉しくて…。

     本当の魔法みたいに頑張れて!

     だから、いつか無くなっちゃっても…

     頑張らなくっちゃって思ってたのに、

     思ってたのに…!

星梨花  ごめんなさい、志保さん。

     やっぱり、私の心の傷はまだ治ってなかったみたいです。

 

志保   …そう、わかったわ。

 

茜    どわぁーっと、志保りん。何処行くのー。

志保   レッスン場です。

     私は、一人でも練習してますんで。

     もし、来たい人がいるなら拒みませんけど…。

志保   それじゃあ、

茜    行っちゃったよ。

     ま、まぁ、あれは志保りんなりの励ましの言葉だからさ。

星梨花  はい。志保さん…、ありがとうございます。

     茜さんもありがとうございます。

     …私、もう少ししたら、志保さんの所に行ってきますね。

茜    え? え? 大丈夫?

星梨花  はい。

     体はちょっと重くて、泣いて疲れちゃいました。

     もう私には何もないかもしれないですけど…、

     でも、きっと大丈夫です!

 

 

―――

 

 

星梨花  えっと、入ったらまず志保さんに挨拶して、えっとそれから…

 

 ウロウロ…

 

 ガチャ

 

 

星梨花 (ビクン)

     志保さん。こんにちは。

志保   志保?

     ……ああ、この子の名前かしら?

星梨花  どうしたんですか? 志保さん。

志保   うふふ、ごめんね。

     でも、私はその志保って子じゃないのよ。

星梨花  え?

     じゃあ、一体どちら様なんでしょう?

志保   これを見ても分からない?

 

 髪をかき上げる

 

星梨花  絆創膏…!

     それに、星と果物と向日葵の柄…!

星梨花  絆創膏の妖精さん…?

志保   そう、大正解。

 

星梨花  じゃあ、志保さんが妖精さんだったんですか?

志保   うーん、それは違うわ。

     そうね…貴女からそう見えてるだけ。

星梨花  そういうものなんですか?

     あ…、

     あの、私…、せっかく貰った絆創膏を無くしてしまって…。

     その、悪い子…ですよね。ごめんなさい…。

志保   そう?

     傷が治ったら絆創膏は取れる物よ。

志保   ほら、貴女の傷は、体も心もしっかり塞がってるじゃない。

星梨花  …でも、私……。

志保   …願い、

     星、星のように高く輝き、

     梨、果実のように可愛く、

     花、向日葵のように揺るがぬ気高さを…。

志保   大丈夫。

     貴女はちゃんと頑張ったわ。だからここにいるんでしょう?

 

星梨花  私、自分でがんばって見たいんです…。

     私の選んだ道に真っ直ぐに…、

     私、頑張れるでしょうか…?

 

志保   ええ。貴女が望めばきっと叶う。

     そして凄くきっと前よりも成長していくわ。

     そんな貴女に絆創膏じゃ、ちょっと子どもっぽいと思ってね。

志保   目を瞑って…。

星梨花  え、えっとこうですか。

志保   そう。ちょっと待ってね。

 

 

 …

 

 ……

 

 …パチン。

志保   はい出来た。見てみて。

 

星梨花  これは…、髪留めです。

志保   そう。少し大人っぽくなったでしょう?

星梨花  ありがとうございます。

     あ、でも、この木の船は何ですか?

 

志保   うふふ、それはね、『方舟』よ。

     方舟は貴女の夢を乗せて世界を駆けていく貴女だけの箱。

     どんなに大人になっても、夢見ることだけは忘れないでね。

     そんな、私からのメッセージ。

 

星梨花  夢を乗せる方舟…。

 

星梨花  はい!

     私、もっともっと頑張りますね。

志保   うん。それじゃあ、そろそろ行くわね。

志保   そうそう、それから志保さんだっけ?

     その人にもヨロシクね。

星梨花  はい!

 

 

―――

 

 

星梨花  志保さーん。

     星梨花でーす。

     …あれ?いない。

志保   あ、星梨花…。

 

星梨花  志保さん!

 

 

 ギュウゥ

 

 

志保   ちょ、ちょっと抱き着かないで。

     …もう大丈夫なの?

星梨花  はい。志保さん達のお陰です。

 

志保   私?別に何もしてないけど…。

星梨花  そうだ! 志保さん、おでこ見せてください!

志保   えっ、あっ、ちょっ。

星梨花  やっぱり、絆創膏がありました。

志保   それは昨日、頭を打って…

星梨花  あれ?でも、ネコさん柄です。

志保   それは、まぁ…。

     …家にあった物だから。

星梨花  あれー?

 

志保   …もう、変なの。

     それより、練習しに来たんでしょ?

星梨花  はい。そうでした。

     志保さん、またよろしくお願いしますね。

志保   ええ。こちらこそ。

 

 魔法の絆創膏(終)



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