百合ゲーみたいな世界に転生したから全力で女の子のふりをします。 (舞花恋)
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プロローグ
気づけば転生していた。
何か前兆があったわけでもない。トラックに轢かれたということもなければ、通り魔に襲われたなんてこともない。ていうかそもそも死んだ記憶すらない。
なのに何故だか転生した。テンプレ展開なんて訪れる暇すらなく、俺は転生していた。
転生して最初の数日間は、どうにかして元の世界に帰れないかとアレコレ試したりしていたが、結局なんの成果も得ることはできなかった。
これは良くない。非常に良くない状況だ。
俺は別に現実逃避したいと思っていたわけでもないし、なんならまだまだやりたいことがあったのに、わけもわからず違う世界に飛ばされてしまったのだ。
この世界の人間に、俺の事情を知れる人間なんていない。その前に、ここにいる人間が本当に人間なのかすらもわからない。
──この広い世界に、俺は独りだ。
そう考えた瞬間、漠然とした恐怖と不安に身体を支配される。
次から次へと帰れる方法を思考するが、何一つとしてわからないまま。そうして最後には、一つの考えにたどり着いた。
いやまあ、別にいいか。
良く考えてみれば、この世界に来てからずっと一人だったのに、なんだかんだ普通に生きている。案外ここは、優しい世界なのかもしれない。
落ち着いて見てみれば、ここは前にいた世界とそう大きく変わったところはない。あったとしても、せいぜい一部のフィクションが存在しなくなっているだけだ。
だから俺はもう、この世界を受け入れることにした。いろんな思いがあったけど、最後には全てめんどくさくなってしまった。
そうと決まれば心機一転。まずはこの世界を知ることから始めなければならない。
これから自分が生きていく世界なのだ。せめて身の回りだけでも知っておかなければ。
そうして動いた今度の数日間は、今までとは真逆の感情で動いていた。割り切っただけなのに、こうも明るく世界が見えるとは。
転生ってのも、悪いものじゃないのかもしれない。そう思いながら、世界を見て回る。
そうやって見て回って、一つわかったことがある。
どうもここでは、ガールズバンドなるものが流行っているみたいだ。
他の地域がどうなのかは知らないが、この地域では妙にガールズバンドが多い。それに、どのバンドも美少女揃い。
もう少し、じっくりと見て回る。
美少女がよく集まるライブハウスに、美少女がバイトするコンビニにファストフード店。美少女のいるパン屋に珈琲店。さらにこの地域には、近めの距離に二つの女子校がある。
この世界、美少女に支配されているじゃないか。言ってしまえば、美少女パラダイスだ。
そのことに気づいた時、俺の頭に浮かんだ考えは一つ。
──もしかしなくてもこれ、ワンチャンギャルゲー的展開できるんじゃね?
いやもうそれしかないだろう。
数日間側から見てるだけでも、面白そうな女の子は何人も見てきた。ここはギャルゲーの世界だったのか……?
兎にも角にも、これでようやく、俺がこの世界で生きる目的が出来た。
俺はこの世界で、美少女とのギャルゲーのような展開を迎える。
そのためにも俺は、彼女たちに近づけるきっかけを探していた。
この目的を達成するには、なるべく自然な展開で彼女たちの中に入り込まなければならない。俺は焦ることなく、じっくりとその機会を待っていた。
しかし、どんなに待ってもチャンスが見つからない。
妙なまでに、彼女たちに入り込む隙がないのだ。
なんというか彼女たちは、独特な雰囲気を醸し出している。女の子同士の、なんか凄い……アレな雰囲気。
ていうかもう独特な雰囲気というかこれ、あれだ。完全にあれだ。
思考がそこまで来てようやく、俺はこの世界の真実を知る。
それはこの世界がどんな世界なのか。一瞬ギャルゲーの世界かとも思ったが、そうではない。
──ここは、百合ゲーの世界だ。
きっとそれが正解だろう。
この世界の美少女たちの絡みは、どう見ても百合百合なのだ。そりゃまあ、近くに女子校が二つもあれば、自然と百合百合になるわな。
これで俺の、ギャルゲー的展開を迎えるという目的は潰れたことになる。
だがしかし、ここで諦めてはならない。ようやく見つけた目的を、この程度の真実で諦めてはならない。
彼女たちは百合。女の子が恋愛対象。男は恋愛対象外。
その事実を並べていけば、自ずと俺のやるべきことがはっきりとしていく。
そう。彼女たちが百合ならば、俺が女になればいい。そうすれば、彼女たちの恋愛対象に入ることができる。
「──あっ、おーい!
がばっ、と。俺が俺を呼ぶ声に反応する前に、声の主が抱きついてくる。
「もう、どうしたの? 香澄」
俺の名前は
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