奮い立てテキサス・ブロンコ (遊人)
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読み切り墓場
読み切り~喧嘩仮面の正義~


これは作者の頭に浮かんだもうひとつの構想がもったいなかった為に供養として投稿したものです

複数あった為、皆様のアンケートで多かった喧嘩士の話を投稿させていただきます

本編とは関係ありませんのでご了承ください


「改めて再認識させられた!この世に完璧なものがひとつだけある。それは正義超人の友情だ!」

 

富士山にて世界五大災厄(ファイブ・ディザスターズ)との戦いに敗れ命を落としかけたネプチューンマンはカオス・アヴェニールに救われ彼から産み出されたエキゾチック物質により21世紀へと送られていった

 

グワン グワン グワン

 

「このまま負けた記録を残して21世紀に帰るのはシャクだが致し方あるまい。

 

ロートルはここらで退散というところか……。」

 

力場の流れに身を委ねていると…

 

グンッ

 

「なッなんだ!? 」

 

ググググググググ…

 

「な、なにが起きている!?

 

急に力が不自然な方向に…ッ!?」

 

必死に抵抗しようと試みるが力がどんどん強くなり

 

やがて…

 

「う、うおおおおおおおおぉぉぉ……。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…。」

 

気がつくとネプチューンマンは

 

「ここは……なんだ?」

 

一体がゴツゴツとした岩肌むき出しの山岳地帯に倒れふしていた

 

「まったく、一体全体どうなってんだ。」

 

立ち上がり辺りを見渡すネプチューンマン

 

その時

 

コツッ

 

「…ムッ?」

 

足になにかが当たった感触がした為、下を向く

 

「おっと、こいつは……ん?」

 

拾ったのは見覚えのある、いやあまりにも見覚えがありすぎる物が転がっていた

 

「このマスクは……さっきまでひび割れていたはずだが?」

 

自らの強さを誇示してきたマスクが新品同様に転がっていた

 

「フム、まったく訳のわからない事が次から次へと起こるもんだな。

 

まあいい、なんだかわからんが直してくれたってんならありがたく使わせてもらうとしよう。」

 

そう言ってマスクを被ろうとした時

 

「ウンッ?」

 

どこからか声が聞こえてきた

 

岩の影から声がする方を覗いてみれば

 

「おいおい、どういうこった?」

 

明らかに子供と思われる少女二人が仲間と思われる少年一人を人質に取られて両手を挙げさせられていた

 

「フム、どうしたものか?」

 

岩影に身を潜め少年少女の救出へのシュミレーションを行っていたとき

 

ヴォン

 

「……ッ!!」(こ……これは!)

 

己の内になにか力が満ちるような感覚が走る

 

そしてその感覚の正体はすぐに理解した

 

「………………。」スッ

 

ガシャアアアァァァン

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「手ぇ上げろ個性は禁止だ。

 

…使えばこいつを殺す。」

 

この春、雄英高校に入学した耳郞響香は先ほどまでの自惚れに悔いていた

 

入学早々に学校施設内でヴィランの襲撃に合い

 

個性を使われて飛ばされた先に待ち構えていたチンピラヴィラン達を撃退したと一息ついた途端、潜んでいた一人に上鳴を人質に取られてしまった

 

なんとか打開策をと試みるも

 

「気付かないとでも思っているのか?

 

子供の浅知恵なんて馬鹿な大人にしか通用しないさ。」

 

見破られてしまった

 

そこで初めて恐怖が襲って来る

 

人質に取られた上鳴の安否

 

マウントを取られなにも逆らえないこの状況

 

自分が思い上がっていた事をここで悟る

 

私はまだまだとても無力なんだと思い知らされてしまった

 

そこに

 

「俺に言わせりゃどっちも大したことねぇけどな。」

 

「ああ!?誰だ!!」

 

ヌッ

 

「ガキ相手に人質取らなくちゃ吠える事が出来ねぇってのも俺に言わせりゃ下の下って所だ。」

 

その大男は現れた

 

隠れていた岩場をそのまま着こんでいるかと思わせる程に鍛えこまれた筋肉

 

どれ程の修羅場を潜り抜けてきたかを雄弁に語る傷痕達

 

そして発せられる己が絶対的強者だと言う自信

 

まったく闘いなんて知らない私でもわかった

 

この人は……強い!

 

 

「……なんで学校にジジイがいんだよ。

 

まぁいい、おいジジイ!

 

てめぇも動くなよ!こいつがどうなってもいいのか?」

 

人質を取って気が大きくなっているのか男の発するオーラを気に止めることなく強い口調で迫るヴィラン

 

だが…

 

「ふんっ、つまらん。

 

どうやらこの世界の悪党どもは小物揃いだな。」

 

「なにッ!?」

 

ヴォン

 

「うわっ!」グンッ

 

「ウェイ!?」

 

「わからねぇか?喧嘩を売る相手も見定められねえバカだってことだよ!!」

 

急にヴィランが大男の方に引き寄せられその弾みで上鳴が解放される

 

「ヌンッ!!」バコッ

 

「グハッ!」

 

憐れヴィランは無防備な顔面にフロントキックを入れられ岩場に叩きつけられ失神してしまった

 

「…ハッ、上鳴さん!大丈夫でしたか?」

 

「ウェーイ。」

 

突然の出来事の連続に呆けていた八百万が慌てて上鳴の元へ向かう

 

「フーム、まったくつまらん。どうやらこの世界には奴らの様な気概のある者はいなそうだな。」

 

「ねぇあんた。」チャキ

 

ネプチューンマンが声の方へ視界を下ろすと先ほど助けた少女がこちらに武器を向けて構えていた

 

「そんな耳郞さん、せっかく助けていただいたのに…!?」

 

「待ってヤオモモ、それすらこっちを油断させる罠かもしれないし!

 

取り敢えずオッサン、両手を上げて!」

 

「…フフッフフフフフ、ハッハッハッ!」

 

「な、なにがおかしいの!?」

 

「じ、耳郞さん。落ち着いて…。」

 

「なぁに健気だなって思っただけさ。

 

それに俺はお前達に危害を加える事はないさ。」

 

やれやれと男は首を振る

 

「なにを証拠に

 

グンッ

 

あっ!?」

 

先ほどの様に手に持っていた武器が大男に引き寄せられ

 

バシッ

 

「ふんっ!」

 

ボギッ ポイッ

 

無惨な姿に変えられ地面に転がった

 

「な?殺ろうと思えばいつでも出来るからさ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それじゃあなに?あんた別の世界から来たって言いたいの?」

 

「…俺も認めたくはないがどうやらその様だな。」

 

「ウェ~イ。」

 

取り敢えず双方危害を加えないという口約束の元、八百万の提案により皆が集まっている中央広場へと向かう一行

 

一応男手という事で上鳴はネプチューンマンに雑に担がれていた

 

「そろそろ着くはずなんですけど…ッ!?

 

あれは!!」

 

「え!ヤバイじゃん!?」

 

中央では担任の先生が黒い化け物に倒され敵のボスの様な手だらけヴィランの魔手がクラスメートに向けられていた

 

「……嬢ちゃん達、こいつを頼むぜ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(ヤバイッ、ヤバイッ、ヤバイ!!)

 

緑谷出久は今、己の無力に押し潰されそうな心を奮い立たせてヴィランに立ち向かっていた

 

まったくもって制御が効かず使えば自壊してしまう個性だが学友を守るためには四の五の言ってられない!

 

「スマーーーッシュ!!」

 

そう思い放った拳は

 

「オールマイトリスペクトかい?」

 

(手応えがない!?)

 

 

絶望へと吸い込まれていった

 

 

見れば黒い怪物が立ちふさがり拳を受けられていた

 

「邪魔は無くなったし今度こそ!」

 

「や、やめろおおおおおっ!!」

 

絶望が支配しようとしたその時

 

 

 

 

「おい小僧。オイタが過ぎるぜ。」

 

「ッ!?脳無!!」

 

「ギャギャ!!」

 

一人の男により戦況は一変する

 

 

 

グループのリーダー、死柄木弔は今までにない寒気を感じ気がつけば叫んでいた

 

それほどまでに本能が警告をならしたのだ

 

「ギャギャ!」

 

主人に呼ばれ盾として矛として仇なす者を排除しようと動く怪物・【脳無】

 

 

「フム、少しは骨のありそうな奴じゃないか。」

 

目の前にいる大男を葬ろうと組み付くが

 

「…まあまあ、って所かな。」

 

「バ、バカな…!脳無で押し潰せないだと!

 

ッてか、なにもんだてめぇは!!」

 

「……なーに、通りすがりの喧嘩男さ。」

 

自分がイメージしていた物とまるっきり違うリアルに死柄木は驚愕していた

 

「どれ、少し見てやるか。」

 

『審判のロックアップ』

 

「やれ、脳無!そんなワケのわからんジジイなんて潰せ!!」

 

「ギャギャギャギャ!!」グググ

 

「ほうほう、パワーに少しは自信アリってか。

 

それで……どうやらだいぶえげつない事をしてる見てぇだな。」

 

組み合いながら相手の情報を読み取るネプチューンマン

 

「フーム、高い回復能力に衝撃を押さえる体か。

 

どうやら打撃戦に強めに造られているなコイツは。」

 

 

「ああ、そうさ!コイツは対平和の象徴として造られたんだ!貴様の様などこの馬の骨かもわからねぇジジイに敵う筈がねぇんだ!」

 

「その平和の象徴ってのはわからねぇがこんな粗悪品で息巻こうってのはムリがあるな!」

 

バッ

 

ネプチューンマンはロックアップを解き距離を取り

 

「見せてやろう、本物の完璧(パーフェクト)というものを!!」グググクグ

 

自らの左腕を掲げ力を込める

 

「脳無!そんなのは無駄だと教えてやれ!!」

 

「ギャギャ!」

 

死柄木の言葉に脳無は両腕を体の全面に縦に構えた

 

ネプチューンマンはその姿に体の奥底から怒りが沸き上がるのを感じた

 

その構えが自分に(まこと)の完璧を教えてくれた者の取る構えに似ていたからだ

 

「おい、紛い物。

 

その構えはてめぇみたいな下劣な奴が取っていいもんじゃねえぞ!!」ダダダ

 

ネプチューンマンは怒りをのせて猛スピードで走り

 

喧嘩(クォーラル)ボンバー!!』

 

その勢いを乗せたラリアットは

 

「ギャギャ?ギャギャギャギャ!?」グンッ

 

「吹き飛びやがれ!!」カァァァァァ

 

ボシュン

 

なんと脳無の体を吹き飛ばし瞬く間に天井を突き破り姿が見えなくなってしまった

 

「そ、そんなバカなあアアアア!!」

 

 

これは友情の尊さを再確認した喧嘩男が異世界で英雄になる話である!!

 

~完~




本編も更新しましたのでそちらもどうぞ


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本編
転生するテキサス魂 の巻


書きたくなったから書きました

反省していますが後悔はしていません

何でも飲み込める猛者以外は戻ることをおすすめします


病院の一室

 

ここで一人の偉大なる男が最期の時を向かえようとしていた

 

 

ドタドタドタドタ バンッ

 

「テリーマン!!」

 

「病院では静かにしてください!」

 

一人のヨボヨボな男が病室に駆け込んできた、それをナースが制する

 

「この状況で落ち着けるか!テリー、しっかりせんかゴホッグヘッウ~ン苦しい・・・。」

 

「落ち着いてください!あなただって体の調子でいったらいつこうなってもおかしくないんですよ!あまり興奮すると二人で旅立つことに成ってしまいますよ!」

 

「ハハハ、そいつは困るな。」

 

ベッドで寝ている男が口を開いた

 

「入ってくるや病室がニンニクの臭いで充満するようなブタバナ野郎と天国までの道を二人旅とかお断りだぜ。」

 

「テリー・・・、ナツコさん。」

 

ベッドの横で静かに座る彼の妻ナツコ婦人に声をかけるも彼女は悟った目を見せた後目を伏せ静かに首を横にふった

 

「すまないな、キン肉マン。先に迎えが来ちまったぜ。」

 

「・・・なにを弱気なことを抜かしておる。いつものような不滅のテキサス魂はどうした。」

 

「フフッそんなのあのバカ息子が受け継いでいるさ、そしてそれはまた次の世代のものたちが継いでくれる。お前のとこもそうだろ?」

 

「ああ、そうじゃったな。今はあいつらの時代だ。そしてそのつぎの世代たちも順調に伸びておる。」

 

ガチャ

 

「遅れてすまない。」

 

二人が語り合う病室に鉄仮面をつけた男を先頭に複数人が病室に入ってきた

 

「みんな来てくれたんだな。」

 

「当たり前ズラ。」

 

「我らの友情はどれだけ老いても不滅だ。」

 

「コーホー」

 

彼と共に幾多の厳しい戦いを乗り越えて来た戦友達が顔を揃えた

 

「・・・やっぱ俺は幸せ者だ、こんなにも素晴らしい仲間達と愛するワイフに見送られて旅立てるのだから。」

 

彼らの心意気に思わず涙が溢れそれを隠そうと憎まれ口がでできてしまう。そしてそれを誰もが怒る訳でもなく慈愛の目で受け止めた

 

「・・・思えばいろんな奴等と闘ってきたな、悪魔超人、完璧超人、邪神の使いそして始祖。」

 

 

それぞれが脳裏に幾多の激闘を描く

 

「その中で唯一の心残りがキン肉マン、お前と正式な決着をつけれなかったことだな。」

 

良き友としてそして最高のライバルとして互いを叱咤激励しあい高めあった両者だが正式な決闘というのは一度たりともなかった。

 

「そういや一回やろうとして無理やり海を泳いで渡るなんて無茶もしてたな。」

 

大柄な男が懐かしそうに呟く。

 

「今度実現するとしたらあの世でだな、あまり早く来るなよ。あの世で先にトレーニングしまくって強くなって出迎えてやるから。あっ、でもお前は地獄行きか。」

 

「なにおぉ~!!」

 

ドワッハッハッハッハッ

 

「笑い過ぎじゃ!特にお前は!!」ペチ

 

「コーホー」

 

死を前に控えた者の病室とは思えない明るい笑い声が響いた

 

「・・・さて、バカみたいに笑ったところで時間の・・・ようだな。」

 

「テリー!」

 

「先に、行って待ってるぜ。

 

あばよ・・・みんな!!」

 

そう力強く別れを告げると男は目を瞑った。

 

「・・・ご臨終です。」

 

部屋の外で待機していた医師が入ってきて確認してそう告げた

 

「・・・さらばだ、テリーマン。

 

我が生涯のライバルにして最高の友よ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

一人の英傑の死を窓の外から空中で佇み眺めていた男がいた。

 

男は一部始終見終わると飛び上がりどこかへと飛んで消えていった。

 

 

~???~

 

「・・・・・・。」

 

「ザ・マン。」

 

先程空から眺めていた男が降り立つとその先に座している男の背に声をかける。

 

「テリーマンが亡くなりました。予ての約束通り・・・。」

 

「・・・フゥーッ、わからぬものだな。あのジャスティスが一人の超人にそこまで入れ込むなんてな。」

 

男は振り返ることなくぼやく

 

「・・・わかっておる。奴の魂を新たなる世界へと送る。これでよいのだな?」

 

「ありがとうございます。」

 

「しかし聞かせてくれ、何故あの男なのだ?」

 

「あの者の魂はここで終わらせては私が勝ちを譲ったことの賛否を見極めることができません。なればこそ異なる世界でもあの魂が輝くか見届けたいのです。」

 

「フンッ、変わったな。お前は・・・」

 

男はそれだけ告げると立ち上がり水鏡の前に立つ

 

「では始めよう。

 

テリーマンの魂を別の世界へと送る。

 

新たなる歴史を紡いで見せろ、ジャスティスに一度は認められし英傑よ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・・・HEY!

 

・・・HEY!テリー!

 

起きて!テリー!!

 

「・・・ハッ!?」

 

「やっと起きたわね・・・。」

 

辺りを見渡すとここは・・・飛行機のなかだった。

 

そうだ、これから二人はプロヒーローになるためにテリーの母の祖国日本に向かいその国の最高峰【雄英高校】の試験を受けに向かう途中だった。

 

その道中の飛行機で居眠りをしていたようだ

 

「なんだよ。まだ空港に着いてないじゃないか、空港に着陸してから起こしてって頼んだじゃないかポニー。」

 

金髪の男は窓側で自分を起こした女性

 

角取ポニーにぼやくも

 

「だってあなたは寝起きが特別に悪いから早めに起こしてあげたんじゃない、それよりも見て!JAPANが見えて来たわ。」

 

窓の外を指さし可憐な笑顔を見せた。

 

「本当だ・・・それよりも腹が減ってきたな。」

 

「もう!テリーったら相変わらずね!でも私もその意見には賛成よ。JAPANに着いたら私、牛丼ってやつを食べて見たいわ。」

 

スマホで画像を検索し見せるポニー

 

「なんだよ、これ。

 

こんな薄切りビーフの汁かけライスなんざ旨いわけないって、それよりもハンバーガーにしようぜ。」

 

「もう!それはアメリカでも食べれるでしよ、牛丼で決定よ。いいわね!」

 

結局ポニーに押しきられテリーはオーマイガッとぼやいた。

 

 

 

 



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問え!英雄の資質 の巻

「お前のこの世界の記憶は奥底に封印させていただく。」

 

だれだ?

 

「そして、見させてもらおう。お前の持つ不屈の魂とそれにより磨かれゆくーーパワーを、貴様らが培い種の新たなる可能性を広げたーーパワーを・・・」

 

なんの話をしている!?

 

「・・・テリー!!」

 

「ハッ!?」

 

「もう、また寝てたんですか?」

 

空港から一路雄英高校の受験のため最寄りのホテルに向かう二人

 

その道中でまたも寝てしまったようだ

 

「すまない、どうやら時差ボケみたいだな。」

 

「大丈夫ですか?テストは明日ですよ?」

 

そんな会話をしていると最寄りの駅に着いたようだ

 

二人は電車を降り改札にめがけて歩く

 

「テリー、さっき寝てたときとても苦しそうでした。

 

何か嫌な夢でも見ました?」

 

「・・・悪夢って程じゃないさ、ただ不思議な夢ではあったな。」

 

ここ最近になり見るようになった夢

 

内容は目覚めた時にはおぼろげだが誰かに何かを語られている

 

雄英を志望しヒーローになると決めたときから、

 

「大丈夫さ、テリー様はそんなにヤワじゃない。

 

だからそんな心配そうな顔をしないでくれ、ポニー。」

 

不安そうに見つめるポニーの頭を撫でる

 

「あっ・・・もう、また子供扱いして、私達は同い年ですよテリー?」

 

「ソーリー、ソーリー。」

 

むくれるポニーの頭から手を離し歩く二人

 

(リア充爆発しろ・・・!)

 

(なんか日本に来てからやたら視線を感じるな・・・?)

 

ーホテル到着

 

隣同士の部屋をとった二人はそれぞれの部屋に入り荷物を広げ明日の準備をしていた

 

それも一段落した頃

 

コンッコンッ

 

扉をノックされた覗いてみるとポニーがいた

 

「ディナーに行きましょ。」

 

どうやら荷物整理に気をとられ気づけばいい時間になっていた

 

二人はホテルで夕食をとらず外で取ることにした、と言うのも・・・

 

「ここでーす。」

 

牛丼 善野家

 

「ポニー?牛丼は今日の昼に空港のフードコートで食べたじゃないか。」

 

「何でも真の牛丼はここでしか食べれないそうなのでーす。」

 

スマホのページを見せてくるポニー

 

『牛丼愛好会』

 

「な・・・なんだぁ~、このふざけたページは!?」

 

絶句するテリーを横目にオレンジの看板に吸い込まれるように入ってしまったポニー

 

たまらず後を追うことになったテリーだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

雄英高校入試当日

 

「いよいよね、テリー。」

 

「ああ!」

 

さすが倍率300倍という難関高だけあって受講者の数も一際多く、

 

ドン、

 

「きゃあ!」

 

人混みでぶつかってしまうポニー

 

「大丈夫か?」

 

他よりも大柄なテリーにとって人混みはそれほど苦にならなくてもポニーからすれば移動も一苦労という有り様だった

 

そこで

 

スッ

 

「?」

 

「ほら、いこうぜ!」

 

テリーはポニーに手を差し出し先導することにした

 

「センキュー、テリー。」

 

ポニーもテリーの手を取り応じた

 

(なんだあのバカップルは・・・!?)

 

(うらやましい・・・!)

 

(爆発しろ・・・!)

 

(・・・またすごい視線を感じるな。)

 

構わず二人は歩き出し

 

ようやく筆記試験の会場に着き各々の席に着いた

 

 

 

・・・筆記試験終了後

 

やたらテンションの高い説明を聞き終え今度は演習テスト

 

「私達は別々のエリアのようですね。」

 

「ああ、でもポニーなら大丈夫さ。自信を持って行ってきな。」

 

「サンキュー、テリー。あなたもね!」

 

一時の別れ、互いの健闘を祈りハグでお別れをする

 

(はわわ、さすが外国人やなぁ。こんな大胆な・・・)

 

(スゴーい、海外ドラマみたい!)

 

(見せつけやがって!このヤロおぉぉぉぉおおお!!)血涙

 

(・・・もう放っておこう。)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

演習場に足を踏み入れたテリー。

 

中には独特の緊張感が溢れていた

 

当たり前だ。この試験で己の運命が左右されてしまうのだから

 

(・・・しかし、この違和感はなんだ?仮想といえど戦いのフィールドに入っているのに間がありすぎる!まさか、)

 

そう思った瞬間テリー走り出していた

 

「ハイ、スタート」

 

直後聞こえてきた気の抜けた試験官の言葉に大慌てとなる受験生達

 

「ヘイヘイ、どぉした?実践じゃカウントダウンなんてしてくれないぜ!走れ走れ!もう一人先に始めてる奴がいるぜ!」

 

「はあっ!」バコッ

 

次々と仮想敵を殴り壊していくテリー

 

「まだまだ!テキサスの荒野で育まれたタフネスはこんなもんじゃないぜ!」

 

試験会場を縦横無尽に走り回りあれよあれよとポイントを獲得していくテリー

 

そして試験終盤

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

巨大な仮想敵、0P敵が会場に現れた

 

あまりの大きさにパニックになり尻尾を巻いて逃げ出していく受験生達

 

テリーは

 

「ポイントは十分に稼いだし0Pじゃ倒す意味なんてないな。俺は無駄に力を使わない主義なんだ。」

 

そういって背を向け他の受験生と共に安全な場所に避難しようとしたとき

 

「っ!?」

 

みんなと反対にあの巨大な仮想敵に向かって走っていく者が現れた

 

(あのグリーンヘアーは!?)

 

忘れもしない試験の説明時に叱責されていた男だ。

 

気弱そうで頼りなさそうな男だったが歯を食い縛り息を切らしながらも仮想敵に向かい走る少年を目にした瞬間

 

ーキィィィイイイン

 

あの少年の後を追わねばならぬような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の男が対峙していた

 

「まて、ーー、おまえは国外追放者だ!今いけば国防軍の攻撃を受けることになるんだぞ!」

 

???「大和魂が守ってくれるさ!」

 

ダッ

 

そういって男は戦火に身を投じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そうだよな。敵に背を向けるなんざ男のすることじゃねぇ!!

 

俺様は、テキサスで鍛えられたこのハートは何者にも屈しない!逃げることはない!!」

 

そういって再び振り返り少年の後を追う

 

ーーーーーーーーーー

 

試験を受けに来た少年・緑谷出久は気づいたら走り出していた。

 

試験のポイントなど度外視して理由はただ一つあの仮想敵の足元にいた一人の少女が目に入ったからだ

 

ー危ない!!

 

朝自分に話しかけてくれた少女が今、危機に瀕しているこれを助けなくてどうするのか!

 

全速力で少女の近くに駆け寄る

 

「大丈夫っ!?」

 

「あっ足が・・・、」

 

どうやら瓦礫に足を取られ挫いてしまった様だ

 

「なら・・・これで!」

 

少女の挫いた足側に回り込み脇から肩を貸し立たせようとする

 

「ちょっと大変だろうけどこれで・・・。」

 

「そんな!?君まで危ないよ!私の事は放っておいていいから早く逃げて!」

 

申し訳ないと口にする少女だが

 

「助けてって顔をしている君を放っておくくらいなら、僕はヒーローになれなくていい!」

 

少女の体重を支え懸命に安全な場所に運ぼうとする姿に少女の心は揺れ動いた

 

「ふっ、ぐぅ、はぁはぁ・・・。」

 

「頑張って、もうちょっとだから。」

 

少年の心意気にうたれ懸命に足を引きずりながらでも前へ進む少女とそれを寄り添い必死に鼓舞する少年

 

しかし、

 

フッ

 

「「っ!?」」

 

突如として影に覆われる

 

今は室内にいるはずなのに・・・

 

 

二人が目線を上へあげると

 

「うわああああああ!?」

 

「きゃああああああ!?」

 

巨大な仮想敵の足が二人の上から踏み潰さんと落ちてきたのだ

 

ガッ ドサッ

 

更に視線を上に向けたことに寄りこけてしまう二人

 

 

(不味い、このままじゃ・・・。)

 

(あかん、二人とも・・・。)

 

ついに二人は目を瞑り最悪のシナリオに備えた

 

「「・・・?」」

 

しかし来るはずの衝撃が来ないことに疑問を感じる二人は目を開けたそこには・・・

 

「グウウウウウウウウ・・・」

 

金髪の偉丈夫が踏ん張り足を塞き止めていた

 

「ハリーアップ!!ボーイアンドガール!!」

 

偉丈夫の言葉にハッと我に帰った二人は体勢を建て直し再び影の外へ向けて進みだした

 

そして二人が影の外へ出ると

 

「まったく、とんだじゃじゃ馬だぜ!だかなぁテリー様にかかれば!!」

 

グググ・・・

 

「乗りこなせない馬はないのさ!」

 

グオッ ドドドドドン

 

テリーは仮想敵の足をそのまま押し返し転倒させてしまった

 

しかし・・・

 

ギギギギギ・・・

 

再び立ち上がり暴れ回ろうとする仮想敵

 

「ハンッ、だったら今度は立てないようにッ!?」

 

すると近くのビルからなにかが飛び出してきた

 

(あれはさっきのグリーンヘアーボーイ!?)

 

「SMAAAAAASH!!」

 

引き絞られた拳から放たれた一撃は仮想敵を木っ端微塵に破壊してしまった

 

(しまったあああアアア!降りることを考えてなかった!)

 

仮想敵を豪快にぶっ飛ばした後少年は重力のままに落ちていた

 

このままでは地面にぶつかる!

 

そう思っていたとき

 

「ハッ!」

 

ガクンッ

 

何者かが自分を受け止めくれた

 

(さ・・・さっきの外国の、)「エ~ッサ、サンキューベリーマッチ・・・。」

 

たどたどしく英語でコミュニケーションをとろうとする少年

 

「ハハッ、日本語で大丈夫だよ。」

 

その気遣いに感謝しながら尋ねる

 

「しかし、あのあのガールを助けようと真っ先に動き出したかと思えば最後はあのデカブツを一撃K.O.かよ!最高に熱いぜサムライボーイ、気に入ったよ!名前教えてくれよ。」

 

(サ、サムライボーイ・・・。)「い、出久(いずく)緑谷 出久(みどりや いずく)。」

 

「ミーはテリー!翔野(しょうの)テリーだ!よろしくなイズク!!」

 

 

 

 

~~~翔野テリー

 

出身 アメリカ合衆国

 

身長190cm

 

体重95㎏

 

個性・・・『超人』

 

 

 

 




キン肉マン連載開始から40周年だそうです。

皆様の好きな超人は誰ですか?

感想・アドバイス・評価その他諸々お待ちしております。


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出会いと衝突 の巻

前回の後書きで皆様の好きな超人を聞いてみた所予想以上の返信が来て驚いております。
やっぱりキン肉マンは偉大だなぁと思う今日この頃。

さて、今さらですがこの小説は勢いやその場のノリなんかを優先して思い付くままに書いています。

ので違和感や変だなと思っても

「都合の悪いことは忘れよ。」

の精神でお願いします。(さすがにあまりにひどいときは教えてください。作者が凹んだ後修正、次に向けての糧にさせていただきます。)


ー春

 

東京、美波里市

 

「ほら、遅れちゃうぜポニー。」

 

「レディの朝は大変なの、第一あなたがなかなか起きないのがいけないんでしょ!」

 

 

新生活の幕開けに世間が動くなかここにも異国で新たなる道を歩もうとする若き二人がいた。

 

アメリカから日本の高校へ留学に来たテリーとポニー

 

今日はその入学初日

 

電車を乗り継ぎ45分

 

今日から通う学び舎に踏み入れる二人

 

「ここね・・・。」

 

「ああ・・・。」

 

これからここで自らを鍛え上げヒーローとして世に出ていく。

 

そんな未来図を描き教室へ向かう二人だが・・・

 

「ここはドコでショー?」

 

「・・・迷ったな。」

 

教室に向かうもさすがマンモス高校だけあり二人は迷ってしまった

 

「このままじゃ初日から遅刻だな・・・。」

 

「あっ、あそこの人たちに聞いて見ましょう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

・・・今日から新学期。

 

遂に最高学年だ、これまでの弱気な自分を捨てて先輩としての威厳を後輩達に示していかねば・・・!

 

「Excus me?」

 

早くもダメそうだ。

 

「あれあれ?誰かな?その新品の制服の感じからして新入生かな?」

 

「Yes、私達1年のヒーロー科の教室にいきたいんですけど・・・。」

 

「校舎が広すぎて迷っちまってな。」

 

「ほら環、しっかりしなよ。道を聞かれているだけだぞ!」

 

「いきなり話しかけられた、それも英語で・・・。

 

俺には無理だ・・・。」

 

ポニーは道を尋ねただけだったが一人はおもむろにうつ向いてしまった

 

「ごめんね。環は少しだけ心が弱いの!こんなかわいい女の子が話してかけてるのに失礼だよね!」

 

「それよりも1年のヒーロー科の場所だよね!ここをまっすぐ行って・・・。」

 

「oh、アリガトウゴザイマース。えっと・・・」

 

「おっと、自己紹介がまだだったね。俺は通形ミリオ。こっちの俯いているのは天喰 環。」

 

「私は波動ねじれだよ。全員三年生だけど私の事はねじれちゃんって呼んでね。」

 

「私は角取ポニー、彼は翔野テリーデース。よろしくお願いしまーす。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「んっ??」

 

「ほらっ、テリーもお礼を言って。」

 

「・・・ああ、センキュー。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

通形達に教えられた道を歩く二人

 

「なんでさっきミリオさんを見ていたんですか?」

 

「ポニー、流石最高峰だよここは・・・。」

 

ポニーは不思議そうにテリーの顔を覗く

 

「あの人達、めちゃくちゃ強いぜ!特に・・・。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

二人を見送った三人

 

「それじゃあ俺らも教室に行こうか。」

 

「あれあれ?ミリオどうしたの?なんかすごい楽しそうな顔してるけど?」

 

ねじれが指摘した表情の変化を幼なじみである環も気づいていた、そしてその理由も

 

「さっきのテリー君だっけ?彼、強いよ!」

 

どこまでも純粋に高みを目指し、ある頂にたどり着きなお歩みを止めぬ強者のみが纏う匂い

 

テリーとミリオ

 

二人は互いにそれを感じ取っていた

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんだこりゃ?」

 

「扉、大きいデース。」

 

 

説明通りに進み教室にたどり着きあまりに大きい扉に目を奪われていた二人

 

「じゃあ俺はA組に、」

 

「私はB組デース。放課後また会いまショーネ。じゃあねテリー。」

 

ハグで一時の別れを惜しみ、そして互いの健闘を祈り各々教室へ入っていった

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

教室へ入ったテリー

 

教室の中には既に何人か人がおり入った瞬間に全員の視線が集まる

 

 

特に異形系個性の見た目でもないのに日本人離れした体躯、金髪碧眼

 

全員あの試験をクリアしていると知っているからこそ互いの個性、実力を測ろうと牽制しあっているのだ、そこにそんな自分が入れば・・・。

 

(まあ、そうなるだろうな。)

 

(いきなり彼女同伴で通学とかうらやまし過ぎるぞ、このヤロオオオォォォ!)

 

一名違った理由で睨んでいる者もいたが、

 

席に着こうと教室に足を踏み入れる、すると・・・

 

スッ

 

一人の女生徒が前に立ち

 

「ハ、ハロー、マイネームイズ ミナ アシド。

 

エ~とっ、ン~とっ・・・」

 

なんとか言葉にしようと手をワタワタと振るいながらコミュニケーションを図ろうとする

 

 

(行ったーーーーー!?)

 

 

周りもそんな様子を固唾を飲んで見守っていた

 

「ア~、に・・・日本語で、大丈夫なんだが・・・。」

 

((((・・・・・・。))))

 

喋りかけてきた女子を含めクラスの空気が止まった

 

「なんだぁ~、よかったよ。

 

私英語めっちゃ苦手だったからさ。」

 

((((よくそれで喋りかけに行ったな!?))))

 

その勇気に驚く一同

 

「じゃあさ、じゃあさ!聞かせてよ!さっきの女の子との話!」

 

「私も聞きたい!あれ彼女?彼女だよね!?

じゃなきゃ教室の前でハグするなんて大胆なことできないよ!」

 

「イヤ、米国(あっち)じゃ普通の挨拶なんだが・・・。

 

というより君達は?」

 

「あっ、私 葉隠 透。見ての通り個性は透明化だよ。」

 

「私は芦戸 三奈!じゃあさ、じゃあさ!」

 

女子二人の質問攻めに困惑するテリー、すると・・・

 

「入り口で突っ立てんなや!」

 

怒鳴り声が響き渡る

 

振り返ると制服を着崩した眉間にシワの寄ったガラの悪そうな男がこちらを睨み付けていた

 

「かっちゃん!?いきなりそんなこと言っちゃ・・・。」

 

その後ろから更に複数人の気配がする

 

「ウルセェ!俺に指図すんな!クソデクがァ!!」

 

入るや初対面に対して喧嘩腰、止めに入った顔なじみにさえ悪態をつく。

 

その悪態をつかれたのは・・・。

 

「イズク!?イズクじゃないか!!」

 

ドンッ

 

「アダッ!?」

 

「お前もやっぱり受かってたんだな!嬉しいぜ同じクラスで!」ガシッ

 

「テ、テリー君・・・久しぶり。これからよろしくね。」ブンッブンッ

 

テリーからの熱烈な歓迎の握手に手をブンブン振られる緑谷

 

その横に

 

「あ、ありがとうございます。あの時・・・。」

 

一人の少女がいた、

 

「君は・・・試験の時の、え~と?」

 

「う、麗日、麗日 お茶子っていいます。あの時のことお礼を言いたくて・・・。」

 

「・・・イヤ、俺は大したことしていないさ。

 

誰よりも先に君のピンチに気付き、救うためにアクションを起こしたのはイズクだ、彼こそが賛辞を浴びるべきだしあの空間では誰よりもヒーローだったさ。」

 

「テ、テリー君!?そんな、僕なんてまだまだ・・・「おいッ!!」へっ?」

 

「人にぶつかっておいて詫びの一つもないとはいい度胸してんな、それに緑谷出久(コイツ)がヒーローだぁ?こんな木偶の坊になにができるってんだ!」

 

「・・・ぶつかった事については謝ろう。

 

だが!友の心を侮辱するのは許さない!今すぐその事についてイズクに謝れ!!」

 

「ハァ!?クソデクの為に頭なんざ下げられるか!!」

 

「だとするならお前は"ヒーロー"にはなれないな。」

 

「・・・てめえ、よっぽど死にたいみてぇだな!」

 

BOM!! BOM!!

 

「ハンッ!喧嘩なら買ってやるぜ!ボンバーマン!」

 

ザッ!!

 

ファイティングポーズに構えるテリー

 

入学初日に突如として教室に蔓延した一触即発の空気

 

それを

 

「元気があるのは結構だが、喧嘩しに来たんなら今すぐ帰れ。

 

ここはヒーローになるための場所だからな。」

 

いつのまにか前の教壇にいた寝袋に入った不審者が制した。

 

((((だ、だれ!?))))

 

「あっ、怪しい者じゃないからな。

 

担任の相澤消太だ。

 

よろしくね。」

 

((((((た・・・担任だった。))))))

 

「喧嘩するくらい体力が有り余ってるならちょうどいい、今すぐこれに着替えてグランド集合ね。時間は有限急げよお前ら。」

 

こうして彼らの闘いのゴングは高らかに鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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いきなり試練!? 合理化教師からの洗礼の巻

多少のいざこざがあったもののとりあえずグラウンドに集合した一同

 

そこで待ち受けていたのは・・・

 

「「「「個性把握テストォォォオ!?」」」」

 

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「そんな悠長な事をしてる暇はないよ。

 

さっきもいったけど時間は有限。早速始めるよ。」

 

全員がまだ疑問に取り残されているなか見本のソフトボール投げに呼ばれたのは

 

「死ねッ!」

 

入試一位のボンバーマンこと爆豪だった。

 

個性解禁の体力測定に興奮する生徒達

 

「面白そう、ね。

 

そんな腹づもりで三年間過ごすのかい?」

 

相澤の冷たい言葉に静まる一同

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断して除籍としよう。」

 

平然と吐かれた言葉に息を飲む

 

眼鏡の少年・飯田が反論するも

 

雄英(ウチ)の校風は自由が謳われている、それは生徒のみならず教師にも適応される。」

 

淡々と言葉を紡ぐ相澤の一言一言に緊張感が高まる

 

「雄英高校はこれから三年間君たちにありとあらゆる壁をぶつけていく。

 

Plus Ultra 全力で乗り越えに来な!」

 

そこで初めて挑発的な笑顔を見せる相澤

 

誰もがいきなりの試練に気圧されるなか

 

「・・・おもしれぇ。」

 

ポツリと告げた声の主に皆の眼が一斉に向く

 

「困難に直面したときほど、俺のテキサス魂は燃え上がるぜ!壁なんざいくらでもぶち壊してやるよ!さっさとおっ始めようぜ、ティーチャー!」

 

目に燃えたぎる炎を宿し手の骨を鳴らしはやる気持ちを前面に押し出すテリー

 

その気迫に触発され先程までいきなりの宣告に面食らっていた生徒の顔も変わる

 

(フッ、なかなか面白そうな奴が入って来たな。)

 

自分の与えた理不尽にすくむどころか歯向かう闘志を見せるテリーに少し興味を見せた相澤

 

しかしそこはプロ、そんなことは表情に出さず

 

「ああ、慌てなくても始めてやるよ。」

 

こうしてテストは開始された

 

各々が自分の個性をフル活用していく

 

テリーもまた、

 

「フンッ!!」バキャ

 

「げえぇぇー、握力計が壊れちまった!」

 

「測定不能。」

 

自分の力を存分に発揮し存在感を放っていた

 

「ふう。」パラパラ

 

壊れた握力計の破片を手から振り落とすテリー

 

「すごいな。流石に俺も少しは自信があったのだが・・・失礼、自己紹介がまだだったな、俺は障子 目蔵、よろしく頼む。」

 

「翔野テリーだ。テリーって呼んでくれ、よろしくな障子!」スッ

 

差し出された手を握り返す障子

 

その光景をみていた葉隠は一言

 

「熱血だね。」

 

そんなとんでも記録が次々打ち立てられるなか

 

「・・・・・・。」

 

一人真っ青な顔色をしていたのは緑谷だった

 

主だった成績は残せず遂に終盤のソフトボール投げ

 

最下位回避の為に是が非でも結果を残さねばならない場面

 

(ここで、やるしかな・・・えっ!?)

 

起死回生に自壊覚悟で個性を放とうとするも・・・

 

記録、46m

 

「つくづくあの入試は合理性に欠く。

 

お前のような奴が合格できてしまうのだからな・・・。」

 

「ま・・・まさかあなたは、抹消系ヒーロー"イレイザーヘッド"!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

自身の測定を終えたテリーは緑谷の測定を見ていた

 

「大丈夫かな・・・。」

 

麗日も不安げに見つめる

 

「なにか指導を受けてたようだが・・・。」

 

「除籍勧告だろ!」

 

相澤と一悶着終えた緑谷が再び投擲を行おうとするが・・・

 

顔色は不安一色でありとてもマトモな精神状態ではなかった

 

(へッ、それでいいんだよ、クソナードが!

てめぇみたいなのがここに来ること事態が間違ってんだよ!)

 

(・・・やはりまだ個性の扱い方が未熟すぎる。確かにあのテストで見せた精神力は買うがそれだけで生き抜けるほどプロ(この世界)は甘くない。残念だが、ん?)

 

「イズク。」

 

不意に肩に手をおかれ驚く緑谷、振り向いた先にいたのは

 

「テ・・・テリーくん。」

 

「なんて顔してんだよ。せっかくのイケメンが台無しだぜ。」

 

「イッ、イケメン!?そんな、僕なんかそんな大層な顔じゃないしモテたこともないし、そもそも友達とかもいなかったし・・・。」

 

テリーに突然イケメンと評され驚きを隠せず早口でまくし立て否定する緑谷

 

「フフッ、まだそれだけ早口でしゃべる気力があるなら大丈夫だな。」

 

「へ?あっ・・・!」(震えが、止まっている!?)

 

「イズク、最後に一つ言っておくぜ。

 

すべての道が塞がれたように見えたとしても道はどこかにあるものだぜ。」

 

パシッ

 

最後に背中を軽く叩き檄を送り下がっていった

 

(テリーくん、ありがとう。)

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・・・・・。」

 

「さて、勝手にアドバイス送ったってことで俺は除籍ですかね、ティーチャー?」

 

「・・・だれもそんな事は決めていない。

 

それに、」

 

 

「SMAAAAAAAASH!!」

 

「除籍はたった今、お前らを奮い立たせる合理的虚偽になっちまったよ。」

 

緑谷出久 ソフトボール投げ 記録705.3m

 

「先生ッ!まだっ、動けます!!」(ありがとう、テリーくん。)

 

(今年は、楽しませてくれそうだな!卵達よぉ!)

 

遂に相澤は堪えきれなくなり口に笑みを浮かべて見せた

 

「コングラッチュレーション、イズク。」

 

再びのぶっ飛び記録に周りも沸き上がる

 

こうして彼らは入学早々の試練を退けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




フルメタルジャケッツ・・・マジ楽しみ!


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未来への一歩目 の巻

短かめですみません


ーテスト終了後

 

「・・・・・・。」

 

「相澤くんの嘘つき。」

 

グラウンドに佇み一人物思いにふける相澤

 

そこに冷やかしを言いながら現れたのは

 

「覗き見とは趣味が悪いですね、オールマイト。」

 

「HAHAHA、許してくれたまえ。

 

去年の君がしたことを思えば気が気でなくてね。」

 

去年、彼の受け持ったクラスは全員見込み無しとしてヒーロー科から除籍させた実績を持つ。

 

そして今回も最下位の者は本当に除籍勧告をしようとしていた。

 

しかし

 

「結局君はそれを取り止めた、それは最下位ではあったが緑谷少年になにか可能性を感じたからだろう。」

 

「・・・、随分と緑谷に肩入れしてますね。

教師としてそれは如何なものかと思いますが。」

 

「グフッ!」

 

痛いところをつかれて呻くオールマイト

 

そんなオールマイトを横目に相澤は校舎へ歩きだした

 

(可能性、ね。感じたさ、ある意味誰よりも。

 

だが故に危うい。付け焼き刃が完成するまで敵は待ってくれない・・・。)

 

冷酷に見える彼の行動もすべては優しさ故にだった

 

下手な力のままで無責任に戦場に送り出すことは出来ない

 

ならば早々に見切りをつけ新たな戦いなど知らない世界で生きたほうが結果的に幸せになれる。

 

その考え方の上での決断

 

相澤自身その考え方が間違いとは思っていない

 

しかし

 

(それでも見たくなった。

 

緑谷と・・・そしてその可能性を引きずり出したこの男の歩む行く末を。)

 

「相澤くーん。待ってくれよー。」

 

相澤は後ろから聞こえた声に振り向きもせず歩き続けた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後

 

いきなりとんでもテストが行われたとは言えどもここは教育機関

 

その後は教室に戻り各種資料やパンフレット等々が配られそれらの説明が行われた

 

小難しい話を聞き終え初日は終了

 

ポニーと合流し帰宅の徒につく

 

・・・なぜか帰り際に複数の視線を感じたが無視することにした。

 

「そういえば・・・なんで、テリーのクラスは入学式にいなかったんデスカ?」

 

視線に無視を決め込んでいるとポニーから声をかけられた

 

「ん?ああ、俺らのティーチャーがなかなかサプライズが大好きでね。」

 

今日あった事のいきさつを話すテリー

 

「Wow!それはベリーハードでしたね。こっちのブラドティーチャーはすごくいい人で私たちに優しく色々教えてくれマシタ。」

 

「まあ、一筋縄ではいかないと思ってたがな。」

 

「テリーくーーーーーん!」

 

不意に後ろから名前を叫ばれ何事かと振り向く二人

 

「イズク?イズクじゃないか、どうしたんだそんな駆け足で?」

 

緑谷は二人の元にたどり着くと息を切らせながら

 

「はぁ、はぁ、今日の、お礼を、言いたくて・・・。」

 

「お礼?」

 

緑谷は改めて息を整えてテリーに向き直る

 

「今日のテストの時、テリーくんのアドバイスがなければ僕は・・・。

 

相澤先生は合理的虚偽なんて言ってたけどあそこでなにも残せず終わっていたら本当に除籍されていたと思うんだ。

 

君は命の恩人だ、本当にありがとうテリーくん!」バッ

 

感謝を述べ勢いよく頭を下げる緑谷

 

「・・・イズク、頭を上げてくれ。

 

俺は対した事はしていない、あそこで道を切り開いたのは君自身の力だ。

 

それに、俺らはもう共にヒーローを目指す仲間だろ。」

 

ハッとなり緑谷が顔をあげるとテリーが手をさしのべていた

 

「テリーくん・・・!」ガシッ

 

緑谷はその手に応え握手をした。

 

すると

 

「テリーとフレンドということは私ともフレンドということデスネ。

 

ヨロシクね、イズクくん。」スッ

 

二人の握手の上に手を重ねたポニーが緑谷に声をかけた

 

「へっ?ファッ!?ええと・・・あなたは・・・?」

 

ポニーが声をかけた瞬間からみるみる顔が赤くなる緑谷

 

「Oh!ソーリー、私はテリーの幼なじみの角取ポニーデス。クラスはB組デス。」

 

ポニーから話しかけられたことにより急上昇した緑谷の心拍数が落ち着くのを待ち三人は途中まで一緒に帰ることになった。

 

すると

 

「失礼、僕もそこに入れていただいてもよろしいかな。」

 

と堅物な挨拶で飯田が

 

「オーイ、私もそこにいーれてー!」

 

明るい爛漫な笑顔で麗日が合流

 

ポニーと自己紹介も済ませると五人で帰ることになった

 

その道中で

 

「・・・ねぇ、テリーくん。一つ聞いていいかな。

 

どうして僕なんかにアドバイスしてくれたの?」

 

緑谷はテリーに尋ねた。

 

除籍を懸けた戦いの中で自分最下位回避の為には誰かを蹴落とさなくてはならない。

 

そんな中で誰かがより良い成績を出すためにアドバイスを送るというのは普通に見ればありえない行動だった

 

「結局最下位だったけど、あのままいけば確実に僕は最下位だった。それを見捨ててもいいはずなのに「イズク。」へ?」

 

「スーパーヒーローの条件ってなんだと思う?」

 

個性が発現してから今や職業として、資格としてヒーローは定着している

 

派手な見た目

 

見映えのする個性

 

それらによって決まる人気

 

これが一つの評価の尺度にされていた

 

でも、翔野テリーの考え方のは違っていた

 

この考え方は翔野テリーが物心つく時から胸の中にあり

 

その事をテリーは一度たりとも間違ってるとは思わなかった。

 

「俺はこう思うんだ。

 

『心に愛が無ければスーパーヒーローじゃない』ってね。」

 

翔野テリーの奥底にある記憶

 

幼い頃テレビで見たものだろうか?

 

いやそんな事は翔野テリーにとって重要じゃなかった。

 

次々と迫り来る巨悪達の魔の手を

 

強い絆を携え退けていく英雄達

 

時には己の命と刺し違えてでも最後まで背を向けることなく戦い

 

残されたものはその姿に涙を流し

 

それを無下にせぬよう奮起し、

 

最後の最後まで諦めることなく立ち向かい奇跡とも呼べる逆転劇を何度も体現していた

 

そんな英雄達の姿が脳裏に浮かぶ度にこの言葉が彼の心に浮かぶ

 

「心に、愛・・・。」

 

「ええ言葉やね。」

 

「ウム。」

 

こうして初日は終了した

 

次の日より本格的にヒーローを目指す勉強が始まり

 

そして数日後

 

「さあ卵たち!戦闘訓練の時間だぜ!!」

 

 

 

 

 

 




アンケート追加しましたのでよろしければ回答願います


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熱き血潮・・・!! の巻

日本で現在人気No.1ヒーロー『オールマイト』

 

その実力、人気は海を越えアメリカにも届いていた

 

そんな男が今本業のヒーローの傍ら新米先生として母校の教鞭を取っていた

 

そして今日はその記念すべき初授業

 

色めき立つ教室に颯爽と現れたオールマイトが本日の授業内容を発表する

 

『戦闘訓練』

 

「それに伴い、皆が提出した個性届と要望に沿って作られた戦闘服(コスチューム)!」

 

後ろから現れた衣装ケースに興奮は更に高まる

 

「これを着て改めて実感するんだ!自分達はヒーローなんだと!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

更衣室にて

 

「ひゃー、やっぱり凄い筋肉しているな!」

 

上半身裸になって着替えていると声をかけられた

 

後ろを振り向くと金髪の男が羨望の目で見ていた

 

「あーわりぃ。許してくれよ。

 

俺は上鳴 電気。

 

やっぱりそれだけ筋肉があると格好いいなって思ってさ!」

 

「チクショー、俺も結構自分の筋肉には自信あったんだけどな!」

 

特徴的な口元だけを出した全身タイツの男も悔しそうに声をあげる

 

「あっ俺 砂糖 力道。

 

よろしくな。」

 

顔の部分のコスチュームをずらし素顔で挨拶する砂糖

 

「あ、ああ。よろしく・・・。」(なんだろうか、初対面な感じがしない・・・。)

 

 

青のショートパンツにリングシューズ上半身は両胸の位置に星の刺繍がある赤の袖無しのベストを着込みカウボーイハットをかぶる

 

「さて、行くか。」

 

指定された演習場に向かうとオールマイトより詳しい内容の説明が行われた

 

「今回の『屋内での対人戦闘』を行ってもらう!」

 

オールマイト曰く真に賢いヴィランは屋内で悪事を計画していることが多くそれを阻止するためにも屋内での戦闘経験は大切だとのこと

 

そしてそんなヴィランの心理を知るためにも今回はヒーロー側とヴィラン側に別れて二人一組で生徒同士で戦うとのことだった。

 

「オールマイト先生!僕らのクラスは21人です。それだと一人余ってしまうのですが・・・。」

 

「一人の者はそのまま単独で戦ってもらう。

相手チームはその時の状況に応じて決めさせてもらうよ。」

 

その言葉に生徒たちに軽い戸惑いが生まれるが

 

「ヴィランとの戦いは常に平等な状況で始まるわけではない。こういった困難に対しすぐ諦めてはヒーローは務まらないぞ!」

 

それに、とオールマイトは今回のシチュエーションを説明した

 

シチュエーション

 

屋内に核兵器を持ったヴィランが籠城

 

ヒーロー側の勝利条件

 

ヴィラン全員を確保

or

核兵器の奪取

 

ヴィラン側の条件

 

ヒーロー

 

ヒーロー全員を確保

or

制限時間まで核兵器を守り抜く

 

確保の条件

確保テープを巻かれた時点で戦闘不能で失格

 

核は本物として扱うこと

ヒーロー側は触れた時点で奪取とみなす

 

ヴィランの10分後にヒーローがスタート

 

「つまり、無理に2対1で戦う必要はないと、戦いかた次第では勝つこともできるというわけか。」

 

「その通りだテリー少年!」

 

かくして始まった屋内戦闘訓練

 

誰と組むかはくじ引きで決まる事になり不運にも一人で戦う事になってしまったのは・・・。

 

「俺か。」

 

「だ、大丈夫、テリーくん?」

 

「ハハハッ、こういった経験も将来の役に立つさ。それにハンデというわけではないがテリー少年の順番は一番最後にしてあげるよ!

 

さて、記念すべき第1試合は・・・!」

 

ヒーロー側A(緑谷・麗日)

ヴィラン側D(爆豪・飯田)

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

屋内演習開始が告げられる

 

開始と同時に独断で速攻を仕掛けた爆豪に麗日を先に行かせ緑谷が応戦する

 

「最初は・・・右の大振り!」

 

先手を取ったのは緑谷だったが爆豪の卓越した個性の使い方と先天的反応速度の前に徐々に劣勢になっていく

 

それでも諦めずに戦う緑谷に業を煮やし爆豪がコスチュームの機能を使い大爆発を起こした

 

その威力は絶大でオールマイトの二回目以降の使用を禁止にさせる程だった

 

仕方なく肉弾戦へと戦いかたをチェンジし好戦的な笑みを浮かべ緑谷に容赦なく攻め込むも

 

「ったく!!しぶてぇな、いい加減俺に倒されろや、くそデクがッ!!」

 

何度目かわからない爆破を緑谷に叩き込むも

 

「まだだッ!絶対、絶対最後まで諦めない!

 

見てるんだ・・・。

 

僕の事をヒーローだって、

 

仲間だって認めてくれる、

 

尊敬する命の恩人が見てくれてるんだ!

 

今はまだ無理だけど・・・

 

いつか、彼の隣に胸を張って立つ為にも、ここで退くわけにはいかないんだッ!!」

 

断固とした意思を示し必死の応戦を試みる緑谷

 

「・・・そうかよ。だったらその夢ごとぶち殺してやらぁ!!」

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

次の一撃で決着をつける!

 

 

双方のあまりの気迫に他のA組と一緒に観戦し監督を務めていたオールマイトが演習の中止を言い渡そうとするも

 

「ダメだ!」

 

それを遮ったのはテリーだった

 

結局緑谷の決死の一撃は爆豪ではなく上の階にいた麗日のアシストに放ったものでありそのアシストを受けた麗日が核を奪取して決着となった

 

が、勝利の代償は安くなく緑谷は保健室へ搬送されてしまった

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

別室でそれを見ていたテリーは自身の拳に無意識に力が込められいた

 

その後、轟がいきなりビルを凍りつかせる等、各人自らの個性を駆使して演習を進めていき

 

ついに翔野テリーの番となった

 

「さて、テリー少年の番になった訳だがやりたいチーム「オールマイト!」むっ?」

 

「俺にやらせろ!」

 

名乗りを挙げたのは爆豪だった。

 

「フム、爆豪少年と飯田少年のペアか。」

 

「ちげぇ!俺とこいつのサシでやらせろ!!」

 

いきなり突拍子のないことを言い出した爆豪にさすがのオールマイトも

 

「NO、それではこの演習の本来の主旨から離れてしまう。それは許可できない。」

 

「すみません、だったら俺も参加していいっすか?」

 

そこに更に参加の意思を示したのは赤髪の少年、切島だった

 

「俺もさっきの演習で消化不良というか・・・。もっと自分でできたことがあったと思うんス、だからもう一度やらせてくださいお願いします。」

 

自らの熱い気持ちを述べ勢いよく頭を下げ懇願する切島

と一歩も引く気のない視線をこちらに向けてくる爆豪を前にどうしたものかとオールマイトが考えるも

 

「別に俺は構わないぜ、オールマイト先生。」

 

意外にもそれを飲んだのはテリーからだった

 

「誰であっても勝利を目指す事には変わらないし、折角やりたいって奴がいるんだ。その厚意を無駄にしたくはないぜ。」

 

「いや、テリー少年が構わないなら、別によいのだが「それに」ん?」

 

「俺もお前とやりたかったんだよ、爆豪(ボンバーマン)!!」パシッ

 

胸の前で自分の手のひらと拳を打ち合わせ指の骨をならし身長の都合で見下しながら睨み付けるテリー

 

「上等だぁ・・・。

 

吠え面かかせてやるよ。金髪野郎。」

 

怒りのあまりの思わず口元に笑みを浮かべた爆豪が見上げてにらみ返す

 

初日の遺恨もあってかその視殺戦は周囲の人間を怯ませるには十分すぎるものだった。

 

「お、おーい。俺もいるぞー!?」

 

蚊帳の外になってしまった切島が声をかけるも

 

「俺がヴィラン側でやらせてもらうぜ。」

 

「上等だ。それなら心置きなくてめぇをぶっ潰せるからな!」

 

二人だけで勝手に話が決まり準備にと先に演習場に向かうテリー

 

完全に主導権を取られてしまったオールマイトは

 

「もうあれだけ自分達で仕切ってできるなんて凄いな、最近の若い子は!」

 

あまり気にしていなかった。

 

 

 




アンケートのご協力ありがとうございました。
いろいろ考えた末にキン肉マン二世の究極の超人タッグ編のマシンガンズのコスチュームを採用させていただきました。

期待に添えなかった皆様や期待していたのとは違う等の思いがあると思いますが一先ずはこちらでいかせていただこうと思います。

これからも本作品に変わらぬ応援よろしくお願いいたします


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燃え滾るは誰だ! の巻

10分後

 

ヒーロー側の二人はテリーが立てこもるビルの前に立つ二人

 

「急遽組む事になったけどよろしくな!

 

おれ、切島 鋭児郞。早速作戦なんだが・・・。」

 

「作戦なんざ必要あるか!

 

俺が突っ込んであいつぶっ倒してそれで終いだ!」

 

そう言ってまともに取り合わずズンズンと歩を進める爆豪

 

「あっ、おい。待ってくれよ。」

 

その後を仕方なしについて行く切島

 

ピタッ

 

「・・・チッ!」

 

ビルの出入り口に近付くと爆豪が立ち止まり舌打ちをした

 

二人の視線の先に本来あるはずの出入り口にはバリケードが張られていた

 

「あっ、あれ!」

 

「ッ!?」

 

二階の窓から姿を見せたテリー

 

ビュン

 

「ウワッ!?」

 

「くそ!」

 

おもむろに二人に向けて何かを投げつけてくるテリー

 

ボゴッ

 

手頃なサイズの瓦礫だったようだがテリーの腕力にかかればそれは十分な速度と威力になる

 

二人は追撃に備え素早く立ち上がりテリーを見るも

 

「なッ!?」

 

 

 

 

「・・・・・・・・。」ニヤッ

 

チョイチョイ

 

人差し指を曲げる動作を繰り返していた

 

完全な挑発

 

こちらの反応を楽しんだのか満足げに部屋の中へ引っ込んでいった

 

ブチッ

 

「あ・の・野・郎~ッ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ヒイイイイイイ!」

 

モニター室に映し出された爆豪の顔にクラスで一番小柄な峰田が悲鳴をあげる

 

他の者もあまりの迫力に息を飲んでしまった

 

「爆豪ちゃん、この顔じゃどっちがヴィラン役かわからないわね。」

 

「し、しかしテリーくんはどういうつもりなのだろうか。あれでは爆豪くんは激昂してしまうことなどわかっているだろうに。」

 

「ああ、更に言えば核の置き場もかなり危うい、意表を突いたつもりかもしれないが諸刃の剣になりかねんぞ。」

 

蛙吹、飯田の会話に常闇も加わる

 

(・・・・・・。)

 

障子もまた一人で静かに見守っていた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

テリーに挑発され完全に頭に来ていた爆豪

 

「上等だ!今すぐ乗り込んでやるから首を洗って待ってやがれ!!」

 

「お、おい!一人で行く気かよ!罠とかあったら・・・。」

 

切島が制そうとするも

 

「だったら罠ごとぶっ殺してやるよ!

 

てめぇは後から入って来やがれ、その間に俺があいつを伸して終いだ!!」

 

そう言い切ると爆豪は自らの個性を使い二階に単身で乗り込んでいった

 

「あっおい!

 

・・・チクショウ、マジかよ!」

 

呼び止めようとした甲斐もなく、仕方なく出入り口のバリケードの除去に取りかかるはめになった切島だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よぉ、てめぇ!

 

さんざん人をおちょくりやがって!

 

覚悟は出来てんだろうな、金髪野郎!!」

 

BOM!! BOM!!

 

「四の五の言わずにかかってきな、ボンバーマン!」

 

ザッ

 

カウボーイハットとベストを脱ぎ捨て入学初日と同じようにファイティングポーズを取るテリー

 

「死ねや!」

 

爆豪が声をあげ飛びかかるが

 

「フッ!」

 

BOOM!

 

素早くステップを切り回避するテリー

 

その後も爆豪が連続攻撃を仕掛けるも悉く避けていくテリー

 

「どうした、どうした!

 

避けてばっかか?

 

チキン野郎がぁ!」

 

しかし

 

「そこだッ!」

 

ガッ

 

「ぐはっ!?」

 

爆破を叩き込むもうと腕が伸びた瞬間

 

逆に懐に入り込みタックルをお見舞いしテイクダウンを奪うテリー

 

そこから素早く立ち上がり爆豪の右足を持ち

 

「ここからはテキサスの風が吹く時間だ!

 

くらえ!!」

 

 

『スピニング・トゥ・ホールドーーーーー!!』

 

 

 

ガッシイイイイイン!

 

自らの足に巻き付かせるように捻りあげた

 

「ぐぅああああっ!?」

 

ギリギリ ギリギリ

 

「まだまだいくぜぇ!!」

 

グワッ ガシッ

 

グワッ ガシッ

 

激痛のあまり悲鳴をあげる爆豪に追撃とばかりに回転を加え捻りを強くしていくテリー

 

一回転、二回転・・・

 

「なめんなぁ!」

 

BOOM!!

 

三回転目の途中で爆豪が引き剥がす

 

「ヌワ!くそ、極めきれなかったか!」

 

「甘ぇんだよ!金髪野郎!!」

 

しかし技をかけられた足のダメージによりなかなか立ち上がれない爆豪

 

好機と構えるテリーだったが

 

 

「くそが!足が少し動かなくても俺の個性ならカバー出来る!」

 

『爆速ターボ!!』

 

個性の力で足を着かずに浮きながら戦闘を再開する爆豪

 

「まだ終わらねぇ!」

 

BOM!!

 

「ハッ!」

 

スライディングで回避と同時に右足を取り足首に腕を絡めてアンクルホールドを極める

 

「グギャアアアアアア!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふぅ~っ、ようやく中に入れたぞ。」

 

バリケードを突破してようやく一階に入れた切島だが息つく暇もなく

 

「グギャアアアアアア!」

 

上の階から絶叫が飛び込んで来る

 

「なっ、大丈夫か!?

 

今行くぞ!!」

 

急いで階段をかけ上がると

 

そこには両手と片足だけで這いつくばって右足首を捻りあげられている爆豪がいた

 

「おっと、動くなよ!

 

少しでも不審な動きをしたらこのまま足首潰すぞ!」

 

ギリリッ

 

「があああ!」

 

テリーが腕に力を込めるとそれに合わせて爆豪から苦悶の声が絞り出される

 

「なっ、卑怯だぞ!」

 

「おいおい、今の俺はヴィランだぜ。

 

それに2対1なんだからこれくらいしたっていいだろ?」

 

「おい、くそ髪!

 

早く核爆弾取ってこい!」

 

額に脂汗をかき苦痛に顔を歪めながら爆豪は切島に怒鳴った

 

「な、なにいってんだよ!?

 

そしたらお前が!」

 

「フンッ!」

 

ググググッ

 

更に強烈に絞り上げる

 

「いぎぎぎ、こんくらい・・・こんくらい屁でもねぇわ!」BOM!!

 

「なにっ!?」

 

爆豪が両手から爆破を放ち生まれた上半身と地面の隙間に腹筋を一気に丸めて体を折り畳む

 

「ッ!!」

 

「食らいやがれ!」

 

BOOM!!

 

テリーと目があった瞬間手を突きだし爆破を見舞う

 

「グハッ」

 

たまらず両手を話して距離を取るテリー

 

「はあはあ、わかったろ!

 

だから早く核取ってこいって!」

 

「けど、バクゴー・・・。

 

お前その足じゃあ・・・!」

 

集中的に攻められた右足のダメージは深刻でありこの戦闘中にベストコンディションに戻すのは不可能に見えた

 

「俺の個性ならカンケェねぇ!

 

俺があいつを抑え込んどくから早く「誰を抑え込むってぇ!」チィ!!」

 

 

爆豪が目を切った隙にテリーが距離を詰める

 

ガシッ

 

そのままロックアップの体勢になる

 

ググググ

 

「くっっっそがぁ!

 

今のうちに行きやがれ!」

 

「くっ、すまんバクゴー!」ダッ

 

切島は背を向けて駆け足で階段を昇っていった

 

「切島残して二人で戦えば楽だったんじゃねぇか?」

 

「なめんじゃねえ!こんくらい、俺一人で押し返してやる!」

 

ググググ・・・。

 

強気な発言も虚しく純粋な力比べではやはり体格で勝るテリーに押し込まれて跪く姿勢になってしまった。

 

 

「くっっっそがぁああ!」

 

「ヘイヘイ!どうしたボンバーマン!」

 

BOM!

 

「はあっ、はあっ・・・。」

 

堪らずに力勝負を諦め至近距離から爆破を放つ爆豪

 

しかしそれは力比べにおいて自分が敗けた事を肯定してしまったようなものだった

 

「まだまだ、こんなもんじゃ俺は怯まないぜ。」

 

爆破を受けロックアップを解いたものの地に倒れることなく爆豪に挑発的な笑みを向けるテリー

 

「・・・うがああああああああ!」

 

これまでNo.1を勝ち取り続けてきた自身の力を全て受け止められている

 

その事実を認めきれずに堪らず無策で突っ込む爆豪

 

「甘い!!」

 

爆豪の体を受け止め股の下に腕を回し担ぎ上げそのまま前方へ体を浴びせるように叩きつける

 

『オクラホマ・スタンピート!!』

 

ドシンッ

 

「ガハッ・・・。」

 

背中に強烈な衝撃を受け前はテリーの体で抑えこまれる

 

爆豪は肺の空気が全部押し出された様な錯覚に陥ったあと、痛みから逃れる様に意識を手放した

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

爆豪とテリーの戦闘の結果など知るよしもない切島は

 

「はあっはあっ、ようやく四階だ!」

 

爆豪を信じて進んだものの四階に向かう階段はまたしてもバリケードにより封鎖されていた

 

爆豪の思いを無駄にしまいと急ぐ心と罠を警戒する葛藤に焦れながらもようやく通路を確保した切島

 

しかし

 

「あ、あれ?核がどこにもねぇぞ!?」

 

「探し物はあったかな?」

 

ギョッとして切島が振り返るとそこにいたのはテリーだった

 

「なっ、バクゴーがやられたのかっ!?」

 

「ああ、今頃下でおねんねしてるよ!」

 

ザッ

 

ビキビキビキ

 

テリーのファイティングポーズに覚悟を決めた切島も自身の〈硬化〉の個性を使う

 

「先手必勝!!」

 

切島が拳を振るう

 

「こっちはもうウォーミングアップは済んでんだ!

 

ハナから全力で行くぜ!」

 

テリーが素早く避けると切島の視界に入ってきたのは先程自分が昇ってきた階段

 

「うおおッ!?」

 

勢い余って転げ落ちそうになるもギリギリで踏みとどまった切島だったが

 

ゴチッ

 

「あだッ!」

 

後頭部へ衝撃を加えられ堪らず前に落ちていく

 

「お前が相手でよかったぜ!

 

これなら多少無茶でも耐えてくれるからな!」

 

切島の後頭部へ膝を叩き込み押し当てたまま髪を掴む

 

切島が慣性に従い階段を何段も飛ばして踊り場へ突っ込む

 

仔牛の焼印押し(カーフ・ブランディング)!!』

 

ゴギャン!!

 

 

「カハッ・・・!」

 

切島が意識を失うと共にテリーの勝利がオールマイトより高らかに告げられた

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その一部始終を見ていたモニター室では

 

「す、すげぇ!」

 

「2対1で勝っちまいやがった!」

 

不利な状況下で勝利を掴みとったテリーに驚愕の声が挙がるなか

 

「なるほどな、どうやら俺らは既にあいつに一歩先に進まれた様だな。」

 

一人静かに観戦していた障子がポツリと呟いた

 

「どう言うことだ?」

 

その言葉を聞いた常闇がその真意を問う

 

「全て計算されていた事だったんだよ。

 

あの爆豪に対する挑発も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・。

 

そして恐らくテリーは今、このクラスのなかで一番のアドバンテージを得ている。」

 

「「「「「「はっ!?」」」」」」

 

障子から放たれた言葉に一同は耳を疑った

 

「テリーの個性は決して特出すべきなにかがあるわけではない恐らくシンプルな増強的なものだろう。

 

だからこそ一人で挑むのは本来不利であると考えるはずだ、事実俺もそう思っていた。

 

しかし・・・。」

 

「順番か。」

 

いきなりそこに口を挟んできたのは我関せずと静かに振る舞っていた轟だった

 

「ああ、そうだ。

 

あいつはオールマイト先生に自分の順番が最後と告げられるや俺らの観察を始めたんだろうな。

 

俺らの個性、性格、連携、思考の癖・・・。」

 

「なるほど、だからあの隠し場所も計算のうちだと。」

 

常闇も納得そうに同調する。

 

「ああ、爆豪の我の強さ、切島の優しさ・・・。

 

そしてそれを遂行するに足る純粋な戦闘能力。

 

まったく大した奴だ。

 

恐らくオールマイト先生もそういった事を教えるために順番を最後にしたんだろうな。」

 

「そしてテリーちゃんはそれを見抜いたと。」

 

(し、しかしそんなたった一回見ただけであそこまで計画を立てるまで観察するとは

 

いや仮に出来たとしても実践するなんてなんて度量だ・・・。)

 

飯田も驚愕のあまりの背中に冷たいものを感じた

 

(なんて、なんて冷静で的確な判断力ですの・・・!

 

さすがは最高峰、既に私たちの今の思考は読み取られてると見ていいですわね。更に研鑽を積み磨き上げねば百戦百敗は免れませんわ!)

 

推薦で入学した八百万もまたテリーという男の登場に心に火が灯り決意を新たにしていた

 

そして

 

(えっそうだったの!?)

 

単純に最後を命じただけだったオールマイトは障子の考察に驚いていた

 

頑張れ新米教師。

 

 

 




有識者によると

スピニング・トゥ・ホールド



スピニング・トー・ホールド

に別れるそうなのですが読みやすい方に脳内変換してお読みください

ちなみに作者の隙なプロレスの間接技は鎌固めとサソリ固めです


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不吉なメッセージ の巻

キン肉マンソルジャーの名(迷?)場面について感想をくださった皆様ありがとうございます。




演習終了後

 

「初めての演習疲れたな!」

 

「てか冷静に考えたら俺らってあのオールマイトに授業してもらってるんだよな・・・。」

 

「帰りにどっか寄らね?」

 

「ならぜひ女子も誘って!」

 

偉大なるヒーローの授業を終え緊張感から解き放たれ更衣室でリラックスして好き勝手に話始める

 

テリーもまた自分のコスチュームから制服に着替えようとしたとき

 

ブチッ

 

「・・・ッ!?」

 

なんと今日初めて履いたばっかりのリングシューズの紐が切れてしまった

 

ズキイィィィッ

 

「ガッ!?・・・グウゥゥ!?」

 

それと同時に鋭い痛みが脳内を駆け巡る

 

ーーーーーザザ・・・

ザザザ・・・ーーーーー

 

 

「ケケケ~~~ッ!」ザッパアアアーーーッ

 

「デビ・・・ト・・・ーイ!」ギシギシギシ

 

「1000万パワーだ!!」

 

 

それと共にテリーの頭によぎる映像

 

「おいっ、テリー!大丈夫か!?」

 

「・・・ハッ!?」

 

急に様子がおかしくなったテリーに気づき障子が声をかけたのだ

 

(な・・・なんだったんだ?今の映像は?)「ああ、すまない。どうやら少しばかり疲れてしまったみたいだ。」

 

「まあ無理もない、初の戦闘演習でしかも一人で挑んだんだ。

あまりにひどいようなら一度保健室にでもいくか?」

 

「サンキュー、でも大丈夫。

 

この程度で音を上げていたらヒーローなんてなれないからな!」

 

障子の気遣いに感謝しながらも着替えを再開するテリーだったが・・・

 

(リングシューズの紐は予備をもらってるから交換するとして、

しかしなんだろうか、あの映像のせいか嫌な胸騒ぎがする。杞憂であってくれればいいが・・・。)

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

帰りのHRも終わり放課後

 

少し緩やかな時間が流れ一部の生徒は教室を後にしたものの多くのメンバーが教室に残っていた

 

「緑谷も誘って親睦会も兼ねて帰りに飯行かね?」

 

上鳴が音頭を取ると

 

「いいね!」

 

「行く行く!」

 

「女子が行くならオイラも!」

 

ガヤガヤと騒がしくなっていく教室

 

すると

 

「テリーちゃん、テリーちゃん。」チョイチョイ

 

クラスの女子

 

蛙吹 梅雨に呼ばれた

 

彼女が教室の扉を指さすとそこには、

 

「テリー、帰りマショ。」

 

ひょっこりと扉から顔を出して手を振るポニーがいた

 

「ありゃ?あの娘って・・・。」

 

「テリー君のガールフレンドやで。」

 

「ああ、よく一緒に見かけるB組の・・・。」

 

「ぐぬぬ、リア充死すべし!」

 

突然のポニーの登場にそれぞれが反応を示す中テリーは

 

「ああ、ポニーちょうどよかった。

 

これからみんなで食事に行くんだがポニーも一緒にどうかな?」

 

「wow!いいんデスカ?ワタシはB組デスケド・・・。」

 

「別に構わないよな?みんなどうだ?」

 

「全然OK!めっちゃ楽しそうだし・・・

 

それに、それに!」

 

「二人には聞きたいことたくさんあるからね!」

切島の呼びかけに目を(葉隠は見えないが)キラキラ輝かせて同意する芦戸と葉隠

 

更に

 

「あ、あれ?みんなまだ残ってたの?」

 

腕を吊った状態で緑谷も教室に帰ってきた

 

「おお、イズク!」

 

「oh!?イズクくん、大丈夫デスカ?」

 

こうして緑谷も誘って食事に行くことになったのだが、緑谷はその前に爆豪に話があると言い既に爆豪は教室を後にしていることを告げると・・・。

 

 

「ちょっと待ってて!すぐに終わらせてくるから。」

 

と言い爆豪を追うために駆け出そうとするが・・・。

 

「おいおい、そんなボロボロで走ったら危ないぜ?」

 

「え?いや、でも・・・。」

 

テリー呼び止められ困惑する緑谷

 

「しょうがない、ここはミーがひと肌脱ぐぜ。」

 

と言うとテリーはおもむろに緑谷を抱き上げ

 

「えっ!?テリーくん、なにを・・・?」

 

「あんまりしゃべるなよ、舌噛むぜ!」

 

ドヒュン!

 

テリーは緑谷を抱えたまま走り出したのだ

 

「エエエエエエエエエエッ!?」

 

あまりの出来事にクラスのメンバーは唖然として見送ったのだった

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

爆豪はひどくイラついていた

 

一日に二度の敗北、

 

自身に土をつけた一人は今まで見下していた幼なじみ

 

もう一人は初対面から喧嘩を売ってきた気に食わない奴

 

そこに追い討ちをかけるように、

 

ドドドド・・・。

 

「ヨーシ、追い付いたぜ!」

 

「あ、ありが、とう・・・。テリーくん。」

 

今、最も顔を見たくなかった二人がセットでやって来た。

 

爆豪は二人と目も合わせず去ろうとするも

 

「あ、かっちゃん!」

 

ピタッ

 

「んだよ、クソデクが・・・今までの仕返しに嫌味でも言いに来たのかよ。」

 

「・・・これだけは言わなくちゃと思って

 

僕のこの力は"人から授かった"ものなんだ。

 

誰かからは言えないけどこの力に導いてもらって僕はここまで来たんだ。

 

だけど僕自身はまだ制御しきれてなくて、だから今回は使わずに勝とうとしたけど出来ずに頼ってしまった・・・だから、いつか"僕の力"にしてから君に勝つよ。」

 

緑谷はごちゃごちゃでまとまりきらないままでも己の意志をどうにか絞り出して口にした

 

「言いてぇ事はそれだけかよ。」

 

爆豪は振り返る事もなく歩き始める

 

「か、かっち「今日っ!!」えっ?」

 

「今日俺は負けた!

 

てめぇにも後ろの金髪野郎にも、そんで半分野郎の個性を見て敵わねぇと少しでも思っちまった!

 

だけどなぁ、こっからだ!

 

俺はこっから一番になる!なってやる!

 

てめぇらの手の届かない遥か先に俺はたどり着いてやる!

 

もう二度と負けねぇ!

 

俺が・・・俺がNo.1になってやる!」

 

そう吐き捨てるように告げると爆豪はそのまま歩き出してしまった

 

「かっちゃん・・・。」

 

ポンッ

 

「イズク、気にするな。

 

勝ったお前がウダウダ迷ってたら逆にあいつを貶める事になっちまうぞ。」

 

緑谷の肩に手を置きテリーが諭す

 

「テリーくん。

 

・・・ありがとう、もう大丈夫。

 

僕もヒーローになるためにいつまでも立ち止まってなんていられないしね!」

 

先ほどの空気を振り払う様に笑顔でテリーに応える緑谷

 

「・・・それはそうと、さっきの話なんだか。」

 

今度は逆にテリーの表情に影が落ちる

 

「・・・うん。

 

いつかテリー君にも言わなきゃって思ってたから。

 

僕の事を仲間だって、ヒーローだって言ってくれた君にあまり隠し事をしたまま付き合って行くのは良くないって思ったから。

 

もちろん、どうしても言えないこととかあるけど・・・。

 

僕達もう仲間だろ?

 

だから僕もなりたいんだ、君の信頼に足りうる男に!」

 

テリーと真正面から向き直り己のまっすぐな気持ちを伝える緑谷

 

「イズク・・・ああ、嬉しいぜ!

 

やっぱりお前はイケメンだよ!

 

よしっ、早く教室に戻ろうぜ!

 

あまり遅いと空腹でみんなの気が立って袋叩きにされちまうからな!」

 

テリーと緑谷は肩を組んで揚々と歩き始めた

 

全てを見届け、終わるのを待っていたかの様に夕日が沈む

 

伸びる影と春の夕暮れに二人の笑い声が吸い込まれていった

 

 

 

 

 

 



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悪意到来・・・!! の巻

戦闘訓練の翌日

 

「oh!?スゴい人デス!?」

 

「こ、これは一体・・・?」

 

登校すると校舎への入口の前は人で溢れかえっていた

 

どうやらオールマイトについての取材のようだ

 

少しでも実になる情報を聞き出そうとジャーナリスト魂を燃やす記者達を押し退け教室に向かった二人

 

「おはようテリー君、朝から凄かったね。」

 

「おお、イズク。」

 

ようやく教室にたどり着きクラスメイトと他愛のない会話をする

 

そして定刻通りに担任の相澤先生が扉を開け朝のHRが始まる

 

「昨日はご苦労だったな、演習の様子は映像で見してもらった。」

 

朝のHRにて相澤からの戦闘訓練の寸評が一通り終わった後に・・・

 

 

「急で悪いが、これから君達には学級委員長を決めてもらう。」

 

突然のイベントにクラスのボルテージはMAXなる

 

銘々好き勝手に手を挙げ主張するなか同じく自らも高々と手を挙げている飯田の提案により投票により決まることになった。

 

 

「ぼ、僕が委員長!?」

 

「なんでクソデクに負けてんだぁ!」

 

「一票差、無念ですわ・・・。」

 

投票の結果委員長は緑谷、副委員長は八百万となった。

 

その日の昼休み

 

「僕が委員長なんて務まるのかな・・・。」

 

せっかくのランチタイムに気もそぞろに自らが委員長に任命された事に疑問を抱く緑谷

 

「・・・・・・。」

 

少し離れた席でその様子を眺めていたテリー

 

「イズクくんが気になりマスカ?」モグモグ

 

一緒に食事をしているポニーがテリーに質問する

 

「一応な、イズクに投票した以上俺にも一定の責任が伴う。イズクなら乗り越えてくれると信じているがいざとなったら相談位のらないとな。

 

・・・というよりポニー、また牛丼食べてるのかよ。

 

あと、こちらのレディたちは?」

 

「あ、お気遣いなく~。」

 

「二人のうらめしい関係を見に来たただのクラスメイトですので。」

 

「ん」

 

「いや~やっぱりハンバーガー食べてる姿が絵になるノコ!!」

 

 

机を挟んで向かい合い座るテリーとポニーの両隣にポニーのクラスメイトと言う女子四人に囲まれてしまった

 

「あっ、自己紹介しとくよ。

 

私が取陰 切奈。」

 

「柳レイ子です。」

 

「・・・小大 唯。」

 

「小森 希乃子でーす。よろしくノコ!」

 

「あ、ああ、よろしく・・・。」

 

「みなさんイイ人たちデス。クラスでテリーの事を話したら会ってみたいと言ったので一緒にランチすることになったのデス。」

 

こうしてB組女子との交流をしていると

 

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!

 

 

けたたましい警報音が校舎中に響き渡る

 

「What!?」

 

突然の警報音と鳴りやまぬ異常事態を知らせるアナウンスに食堂は一気にパニックに陥る

 

我先にと出入口に人が押し寄せる

 

その波に乗り損ねたテリー達は人混みを後ろから眺めて困惑していた

 

「な、なんか大変な事になっちゃったノコ!!」

 

「ん!」

 

「テリー、私たちはどうしまショウ?」

 

「こんな状況で下手に動くのは危ない、ここはひとまず様子見で・・・ッ!?」バッ

 

不意にテリーが窓に顔を向ける

 

すると

 

「大丈ー夫!」

 

「ワオ!アメージング、スゴいデス飯田クン!」

 

飯田がマスコミが入って来たことによるもので焦ることはないと伝えた事で騒ぎは沈静化していったが・・・。

 

「oh、それはよかったデスネ、テリー。

 

・・・テリー?」

 

「・・・・・。」(一瞬、一瞬だが確かに感じたあの異様な悪寒はなんだ!?あの映像となにか関係あるのか!?)

 

回りが安堵の表情を浮かべていく中、一人険しい顔つきのままのテリー

 

その後飯田は食堂での功績を評価され緑谷が自らが委員長の座を譲りたいと申し出があり飯田が受理したため委員長が交代となった

 

帰り道で緑谷からテリーに謝罪があったがそれが緑谷の決めたことなら、と深く追及しなかった

 

テリーの心中を占めているのは見えない悪意達への不安に対して気のせいであってくれと願う祈りだった

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日

 

「突然だが今日のヒーロー基礎学は俺とオールマイト、それに既に現場にいるヒーローの三人で対応する。

 

今回の訓練場所は校舎から離れている為バスで移動だ。

 

内容はレスキュー、つまり救助訓練だな。

 

質問は他にないな、なら速やかに移動だ。」

 

 

こうして手早く準備を済ませバスで訓練場所まで移動する一同

 

「・・・・・・。」

 

一人言い様のない不安を抱え物思いに耽るテリーに

 

「ねぇねぇ、テリーくん。」

 

明るく声をかけてきたのは隣に座っている葉隠だった

 

「テリーくんのコスチュームって結構露出多いよね。」

 

「い、いや君がそれを言ってはダメな気が・・・。」

 

「でも良いよな。見えてるのがこの体ならさ。

 

更にこの顔とこのモデル顔負けのスタイル。

 

そんでもって紳士的で英語はペラペラ

 

ちくしょー!一体幾つモテ属性持ちゃ気が済むんだ!

 

一つ位俺によこせ!」

 

「おいらにも!」

 

「あーあ、醜いったらありゃしない。」

 

上鳴と峰田の願望を一蹴して嘲笑する耳郎

 

「おい、無駄話もそろそろ終了だ。」

 

バスが停車し出迎えてくれたプロヒーロー・13号よりありがたいお話を聞き終え授業を開始しようとしたまさにその時・・・

 

 

ズズズ・・・

 

「先日頂いた教師側のプログラムですとオールマイトも参加しているはずなんですが、」

 

中央の噴水に黒いもやが現れる

 

「なんだ?また入試の時みたいに既に始まってるパターン?」

 

「動くな!」

 

テリーの胸に形なく漂っていた不安が

 

「どこだよ?

 

せっかくこんだけ連れてきたのにさ。

 

いないのかよ・・・。」

 

「あれは・・・・・・(ヴィラン)だ!!」

 

遂に形を成して牙を向いてきた

 

 

「子供を殺せば来るかな?」

 

 

 



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荒馬、USJを駆ける! の巻

雄英高校の実習施設

 

U(嘘の)

 

S(災害や)

 

J(事故ルーム)

 

救助訓練を行おうと訪れたA組の前に現れたのはなんと大量のヴィラン

 

しかも目的は

 

「始めまして、我々は(ヴィラン)連合。

 

僭越ながら今回雄英高校に潜入させて頂いた目的はただ一つ・・・平和の象徴・オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

黒いもやの敵が呼吸をするかのように自然になんの躊躇いや憂いもなくとんでもない事を口に出す

 

生徒がパニックにならないよう注意を呼び掛け自らも臨戦態勢を取り噴水に現れた集団に突撃する相澤

 

しかしイレイザーヘッドと13号、二人のプロヒーローの奮闘も虚しく生徒の一部がもやに飲み込まれていく

 

「ハアッ!」

 

テリーは咄嗟にハットとベストを脱ぎ捨てた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

黒いもやに飲み込まれたテリーだが次に視界がはっきりしたとき目の前に広がったのは炎の海だった

 

「ぐあっ!?クソッ靴紐が示していたのはこの事だったのか!

 

ここは・・・?

 

誰か他にいないのか?」

 

「うわっ!?なんだここ!?」

 

テリーの後ろから声が聞こえる

 

「おい、大丈夫か尾白?」

 

「おお、テリーか。なんとか大丈夫だよ。

 

俺たち二人だけか?

 

他に誰か・・・?」「待て。」

 

二人は互いの無事を確認したあと周囲を見渡すが

 

「どうやらお客様のようだぜ!」

 

「ッ!?」

 

辺りからぞろぞろと柄の悪い輩が現れる

 

「ケケケ、二人か。」

 

「なんだよ、JKいねぇの?」

 

「気を付けろよ、一応優秀な雄英高校の生徒だぜ。」

 

周囲の輩達は二人を敵意むき出しで値踏みするように見てくる

 

「どうする?」

 

背中合わせに構えている尾白が後ろのテリーに問いかける

 

「フッ、決まってる。

 

ここは俺たちの学舎だ。青春をやり直しにきたなら夢の中で続きを見せてやるよ。」グッ

 

拳に力を込め力強く答えを返すテリー

 

「ハハハ・・・、頼もしいね。」

 

半ば呆れながらそれでも尾白もテリーの言葉に同調する

 

「でも、そういうの俺も嫌いじゃないよ!

 

こっちは任せてくれ、君程じゃないけど俺も少しばかり格闘には自信があるからね。」

 

「ああ、頼むぜ。」

 

「ヒヒヒ、いつまで喋ってやがる。」

 

しびれを切らしたヴィランの一人が攻撃をしようと力をためる

 

「食らえ、俺のこせガバッ!?」バギッ

 

が放つ前に一気に距離を詰めたテリーの左ストレートに殴り飛ばされてしまった

 

「こんな所で足踏みしてる時間なんて無いんだ。悪いが速攻で倒してやるよ、安心しな痛いのは一瞬だからな!」

 

「このガキッ・・・!」

 

「なめんなぁ!」

 

テリーの挑発に一斉に怒りながら襲いかかってかるヴィラン達

 

「いくぜ!尾白!」

 

「よし!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうすんだよッ!?どうすんだよぉ!?」

 

「落ち着いて峰田ちゃん。泣いたって状況は変わらないわ。」

 

峰田、蛙吹、緑谷の三人は水難ゾーンの真ん中にある船の上で敵に囲まれていた

 

「これで落ち着けって!?

 

回り敵に囲まれて殺されそうな状況で!?」

 

泣き叫ぶ峰田を蛙吹と共になだめる緑谷

 

(でも確かに状況は良くない、先生が助けに来てくれるのを待つのはリスクが高い、なんとかしてこの状況を抜け出さないと・・・!)

 

必死に起死回生の策を考える緑谷の脳裏にある言葉が浮かびあがる

 

「すべての道が塞がれたように見えたとしても道はどこかにあるもの・・・。」

 

「み、緑谷?」

 

「それってテリーちゃんの・・・。」

 

記憶に新しい恩人の言葉

 

「・・・うん。行ける!

 

これなら助かる、ここから脱出できるよ!!」

 

「ほ、ホントかよ!?緑谷ぁ!」

 

緑谷の言葉にすがるように叫ぶ峰田

 

「うん、だけど僕一人の力じゃ無理なんだ。

 

二人にも協力してもらえるかな?」

 

「ええ、まかせて。私にできることならいくらでも協力するわ!」

 

 

「お、おいらだってやるときはやる男だ!やってやるよ!!」

 

こうして二人に作戦を伝える緑谷

 

そして・・・

 

「行くよ、二人とも!」

 

「ええ。」

 

「お、おうっ!!」

 

二人の声を聞き緑谷は叫びながら甲板を飛び降りた

 

次の瞬間

 

水難ゾーンに大きな水柱が上がった

 

 

緑谷・蛙吹・峰田 水難ゾーン突破

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

その頃、火災ゾーンでは

 

「ぐへぇ・・・。」

 

「く・・・そ・・・ッ!?」

 

一人また一人とヴィラン達は意識を刈り取られていく

 

「ふぅ、これで全員か。」

 

パンパンと手をはらうテリー

 

「サンキューな尾白、援護してくれて助かったぜ。」

 

「ど、どういたしまして・・・。」(8割君が殴り倒したんだけどね・・・。)

 

尾白は呆れてひきつった笑顔を浮かべていた

 

「さてと・・・。」

 

テリーはおもむろに倒れてるチンピラの一人に近寄ると

 

「ウググ・・・な、なんて強さだ・・・。」

 

「Hey、おっさん。」グイ

 

強引に体を起こし詰め寄った

 

「グエェ・・・。」

 

「あんた達の大将はオールマイトを倒すなんて大層な事を言っていたが根拠はなんだ?

 

あんたらだって馬鹿じゃない、勝ちを確信するヤマじゃ無い限りいきなり荒唐無稽な誘いが来たとしても乗るなんて事はしないだろう?」

 

テリーが襟首を掴み冷静に問いかける

 

「グッ・・・へっ、誰が言うかってグホォ!?」ズムッ

 

せめてもの抵抗にと質問に口を閉ざそうとするも無防備な鳩尾にテリーの拳が突き刺さる

 

「おっさん、俺はあまり気が長く無いんだ。

 

早く言ってくれると俺としても非常に助かるんだが・・・。」ググッ

 

穏やかな口調と共にテリーが再び拳を握る

 

「ヒィッ!

 

わかった言う!言うから勘弁してくれ!!」

 

すっかり萎縮してしまったヴィランは敵連合について話始めた

 

「黒い怪物?」

 

「ああ、それがオールマイトに匹敵する強さだって話だ。俺が知ってる話はこれくらいだ。」

 

「そうかい、サンキューな。」トンッ

 

一通りの話を聞き出したあと首に手刀を落とし気絶させるテリー

 

「尾白、お前はこのまま他のエリアを回って他の奴を助けて回ってくれ。」

 

「て、テリーはどうすんだよ?」

 

テリーの視線は中央の噴水を向いていた

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「個性の抹消ね、しかし抹消したところで素の身体能力が下がるわけでは無い。

 

こいつの前では無個性も同然だな。」

 

「グウゥゥ・・・。」

 

 

「ケロォ・・・。」

 

「や、やべぇよ緑谷・・・。

 

あんな怪物、俺たちじゃ敵わねぇよ!!」

 

水難ゾーンを突破した緑谷達はその勢いのままに大量のヴィランを相手に奮闘する相澤を少しでも援護出来たらとやって来たのだか・・・

 

 

「ギャギャギャギャギャギャ・・・。」

 

目の前に入ってきたのは底無しの絶望だった・・・。

 

不気味な黒い巨大ヴィランに完膚なきまでに痛めつけられ抑え込まれる担任

 

そこで始めて緑谷は己が自惚れていたことを悟る

 

「死柄木弔・・・。」

 

不意に黒いもやのヴィランが現れる

 

「黒霧、13号は始末できたか?」

 

「申し訳ありません。

 

無力化には成功しましたが生徒一名に逃げられてプロヒーローを呼びにいかれました。」

 

その言葉を聞き黒霧と呼ばれるヴィランを死柄木弔と呼ばれる男は口汚く罵り首の後ろを血が出るまでかきむしる

 

「はぁ、プロヒーロー何人も来たんじゃゲームオーバーだ、帰るか・・・。」

 

癇癪が収まったのか急に冷めたような口調で撤退を示唆する言葉を呟く死柄木

 

その言葉に安堵の声を出す峰田に二人も少なからず安堵してしまった瞬間・・・。

 

「けども、その前に平和の象徴の心の矜持を・・・少しでも削って帰ろう!」

 

死柄木はこちらに向け手を伸ばし突進してきた

 

標的とされた蛙吹の顔に死柄木の五指が触れるも・・・

 

「カッコいいぜ、イレイザー。」

 

相澤が必死に顔をあげこちらを個性を使いながら睨み蛙吹を守っていた

 

「ギャギャ!!」ドギャ

 

「グオッ!」

 

しかしその抵抗も虚しく上に乗る巨大ヴィランに潰され万事休す

 

(ヤバいヤバいヤバいヤバい!!)「SMAAAAAAAASH!!」

 

頼みの相澤が潰され尚もピンチの状況を打破しようと緑谷が個性を発動し殴りかかるも

 

「・・・脳無。」

 

先程まで相澤を抑え込んでいたヴィラン・脳無が緑谷の拳を体で受け止めていた

 

「なぁっ!?」

 

「オールマイトリスペクトかい小僧?

 

残念だったな、こいつは対オールマイト用に調整された個体だ。

 

そんな生半可な攻撃じゃこいつには通用しないよ。

 

・・・さて、いろいろ邪魔が入ったが、今度こそ!」

 

再び掌を振り上げる死柄木

 

「や、やめろおおおおおぉぉぉ・・・!」

 

己の無力にうちひしがれた心を精一杯振り絞り尚も蛙吹を守ろうと悲痛な叫びをあげる緑谷

 

仮面の下で笑みを浮かべ後は振り落とすだけの手首を

 

ガシッ

 

何者かが掴み制する

 

「てめえ、俺の大切なフレンド達に、なにしてやがる!!」

 

その声に緑谷は自然と涙が溢れて来た

 

そこには彼の命の恩人であり彼が崇拝するオールマイトと同じくらい自分に生きる道標を照らしてくれた、太陽のような男が今、憤怒の表情で立っていた

 

「汚い手で俺の仲間を汚すんじゃねえ!」

 

テリーは左手を回転させ

 

 

『ブロンコフィストーーーッ!!』バキッ

 

豪快なストレートパンチを死柄木の顔面に叩きつけた

 

「ガハッ」

 

あまりの衝撃に死柄木の顔のマスクが落ちる

 

 

「テメェ、よくも"お父さん"を・・・!!」

 

 

「へっ、もっとマシな台詞を吐くんだな!三流ヴィラン!!」

 

 

正義と悪―激突!

 

 

 




次回、脳無VSテリー勃発・・・?


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Go Fight! の巻

「・・・お前は絶対に許さない。」

 

外れた手をモチーフにした仮面を拾い上げる死柄木

 

「脳無!」

 

「ギャギャギャ?」

 

死柄木に呼ばれ横に侍る脳無

 

「この金髪野郎を殺せ、それもただ殺すんじゃない。

 

『惨殺』だ!

 

こいつの自惚れや無力さを、全部!

 

こいつの屍に添えてやれ!」

 

「ギャギャギャギャ!?」

 

「死柄木弔、脳無にそこまで細かい命令はまだ対応できませんよ。」

 

 

 

「イズク、三人で協力してティーチャーを連れて出入口のみんなの所まで避難するんだ。」

 

「じゃあ、テリー君は!?」

 

パシッ ポキポキ

 

「アイツを止める!」

 

「な、なに言ってんだよ!?

 

相澤先生すらあんなにしちゃうんだぜ!

 

あんな化物敵いっこないって!」

 

「そうよ、テリーちゃん。

あなたが強いのは知ってるけど、いくらなんでも危険すぎるわ!」

 

峰田と蛙吹はテリーを止めようとするが・・・

 

「こっちもせっかく来て手ぶらで帰るのはゴメンだ!

 

とにかく殺れ、脳無!」

 

「テキサスの荒馬を舐めるな!!」

 

ゴウッ

 

ダッ

 

ガッシイイイイッ!

 

 

遂に死柄木の号令を皮切りに二人は激突

 

飛びかかる脳無をロックアップで押さえつけるテリー

 

「ぐ、ぐぐっ・・・!

 

は、早く今のウチに・・・!」

 

「~~~~ッ!!

 

ごめんテリーくん、すぐに戻るから!!」

 

「テリーちゃん、無理しないでね!」

 

「し、死ぬなよテリー!生きて帰ってきてくれたらオイラの秘蔵コレクション見せてやるから!!」

 

急に始まってしまった戦闘に三人は歯噛みしながらも相澤先生のもとに退いていった

 

「ハッハッハッ、涙ぐましい友情だな!

 

でも、安心しな。

 

テメェを殺した後にすぐにみんな後を追わせてやるからよ。」

 

「ギャギャギャギャ!」ググググ

 

「グアッ!?」

 

A組では一番の体格を誇るテリーだがそれをも上回る体躯を持つ脳無の腕力の前に押され始める

 

「っ、だが、パワーだけが勝利の要因(ファクター)じゃない!」

 

バッ、ダッ

 

ロックアップを解きすぐに腰にタックルを入れる

 

「ギャギャ!?」ダンッ

 

地面に倒され仰向けになった脳無

 

「いまだっ!」

 

テリーはすかさず脳無に馬乗りになると

 

「ウオオオオ!!」ドカッ ビシッ バキッ

 

そのまま拳を振り落としラッシュをかける

 

「ヘイヘイ!このままおねんねさせてやるぜ!」バキッ ボゴッ ドスッ

 

強気な言葉と共にラッシュを継続するテリーだったが・・・

 

「・・・脳無。」

 

「ギャギャ!」バイイイイン

 

「うお!?」

 

なんとブリッジの姿勢をとる力で振り落とされてしまった

 

「残念だったな、こいつの個性は『ショック吸収』。

 

さっきのガキもなかなかのパンチをしていたがこいつは対オールマイト用に調整されてんだ、お前のパンチじゃ大したダメージにもならねえよ。」

 

「ギャギャギャーーーーー!!」

 

立ち上がり両腕を振り上げいまだ健在を誇示する脳無

 

「さあ、さっさとこいつを仕留めろ脳無!」

 

「ギャギャギャ!!」ダッ

 

「ッ!!」

 

ブオンッ!! ゴオオオオオオオゥ!

 

凄まじい風圧を伴った拳が振り抜かれる

 

「テリーくん!!」

 

「テリーちゃん!!」

 

相澤を搬送中の緑谷達もたまらず足を止めて叫んでしまった

 

「・・・まずは一人めッ!?」

 

「ギャギャギャ・・・!?」ギシギシギシ

 

死柄木は目を疑った

 

なぜか仕留めた側の脳無が苦しんでいる

 

その理由は・・・

 

「・・・ぶっつけ、本番だったが・・・なんとかなるもんだな・・・!」ギリギリギリ

 

なんと、テリーは飛びつき腕ひしぎ十字固めを敢行

 

見事腕を極めていた

 

(しかしなんてパワーだ!いなしていたのにこのダメージとは・・・。)「さあ!あまり動くなよ!下手に動くと腕が破壊されるぜ!!」ギリッギリッ

 

「・・・はぁ、すげェな最近のガキは、こんな器用なマネしやがるのか。」

 

「ッ!?」

 

いくら脳無のパワーが強かろうと片手が破壊されたとなれば戦力ダウンは必至のはずなのに死柄木からはまだどこか余裕が感じられた。

 

「脳無、それくらいどうってことないだろ?」

 

「ギャギャー!!」ブンッ!ブンッ!

 

「うおおおお!?」(な、こいつ・・・無理矢理振り落とそうと!?)

 

死柄木の声を聞いた脳無はテリーに腕を極められていることなどお構い無しに腕を振り回し始めた

 

ボギボギッ ブチブチッ!

 

無理に動く度に何かの砕ける音や繊維がちぎれる感覚が伝わってくる

 

それでも尚も暴れまわる脳無にとうとう・・・

 

「・・・ぐっ、あああああああ!?」

 

テリーは引き剥がされてしまった。

 

「な、なんて事を・・・!?」

 

テリーはすぐさま起き上がるも驚愕に目を見開いていた

 

力ずくで関節技を解いた代償として腕はあらぬ方向に曲がり完全に機能を失っていた

 

 

 

しかし・・・

 

「黒霧。」

 

「はい。」

 

ズズズ・・・バツンッ!!

 

いきなり折れた腕の周りに黒いもやが現れたと思ったらその腕を切断してしまった

 

あまりにショッキングな出来事の連続に絶句してテリー達が見つめるなか

 

 

「ギャギャギャギャ。」グチャメキャクキャグチャ

 

「な、なんだと!?」

 

 

「あ、あれは!?」

 

「そんなッ!?」

 

なんとグロテスクな音と共に切断されたはずの腕が元に戻っていった。

 

その光景にたまらず出入口から見ていたメンバーからも絶望の声が上がる

 

 

「ハッハッハッ、驚いたか!

 

こいつは複数の個性持ちでね、今のは『超再生』だな。

 

お前のご自慢であろう関節技もこいつの前では無意味だ!」

 

自らのおもちゃを自慢するかのように嬉しそうに語りかけてくる死柄木

 

打撃も関節技も封じられてしまったテリーは、

 

「フッ・・・。」

 

それでもなお笑った

 

「なんだ?恐怖のあまり狂ったか?」

 

「いーや、なんともナメられたもんだなって思っただけさ。」

 

さっきまでの笑顔とうって変わって死柄木の表情は険しくなる

 

「大層な個性を見せびらかせばビビって尻尾巻いて逃げてくれると思ったか?

 

生憎と俺様はそんなヤワなハートをしていないのさ。

 

強敵?不可能?そんな言葉が聞こえてくる程、俺のテキサスブロンコは燃え上がるのさ!」

 

「ったく、その年で自殺志願とは感心しないな。

 

脳無、もうそろそろ目障りだ。

 

奴を始末しろ!」

 

「ギャギャギャギャ!」ダンッ

 

「うおっ!?」(なっ、さっきより速い!?)

 

止めを指すべくギアを上げた脳無の攻撃にテリーはなんとか紙一重に避けていたが・・・。

 

「くっ!!」バキィィィ

 

腕をクロスしてなんとかガードしたもののあまりの衝撃に一瞬怯んでしまったテリー

 

「ギャギャ!」シャッ

 

「グフゥッ!!」ドスッ

 

その隙を狙いすまし脳無の拳がテリーのボディを打つ

 

「ギャオ!」ブンッ

 

「ガハッ!!」メゴッ

 

追撃の拳を遂に顔面に受けてしまい吹き飛ばされてしまったテリー

 

「ギャッギャッギャーーーー!!」

 

ここをチャンスと捉えたのか脳無はこれで終いと言わんばかりに吹き飛んだテリーに飛びかかる

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんとか着いたわね・・・。」

 

「デ、デクくん、ツユちゃん!!

 

大丈夫!?」

 

相澤先生を搬送しなんとか出入口に着いた緑谷一行を待出迎えたのは黒霧の個性から逃れてこの場所で奮闘していた麗日達だった

 

「う、麗日さん。

 

僕は大丈夫だから、相澤先生を・・・。」

 

ドゴオオオオオオオオーーーーー・・・。

 

相澤先生を引き渡そうとした矢先に緑谷の後方より轟音が響く

 

緑谷は慌てて振り向く

 

そこにいた皆の視線もその音の出所に注がれるが・・・。

 

そこに映し出されたのは、

 

脳無の振り落とされた拳の下で倒れ伏しているテリーの姿だった

 

打ち抜かれた頭の下にある地面のひび割れがどれだけの衝撃だったかを物語る

 

「え、あれって・・・そんな・・・う、嘘だよね?」

 

芦戸の今にも泣きそうな声に誰も反応できなかった

 

「て、テリーくーーーーーーん!!」

 

衝撃的な映像に頭の処理が追い付いていない緑谷の必死の叫びが木霊した・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあ、ようやく一人目だ。

 

よくやった、脳無!

 

さあ、次はあの階段の上にいる奴等だ!!」

 

「ギャギャ。」

 

脳無は落とした拳をあげ立ち上がると視線を階段の上にいる緑谷達に向けた。

 

死柄木の無邪気な声が届いたのか、脳無と目があったのか次の標的が自分達だと気づいた階段上の生徒達も一応は戦闘体勢をとっているが明らかに腰が引けていた

 

「・・・なんだよ。

 

あの金髪が特殊なだけで後は普通のガキだけみたいだな。

 

脳無、残りは大したこと無さそうだ!

 

全員、徹底的に潰してやれ!」

 

「ギャギャア!!」

 

階段の上に向かおうと一歩踏み出す脳無

 

それだけで緑谷達の表情は絶望に染まる

 

ガシッ

 

「ギャギャ?」

 

「・・・?

 

どうした、脳無早く奴等を・・・!!」

 

「ハアッ、ど・・・どこ行くんだよ。

 

俺はまだ、ハアッハアッ、やられてねえぞ!

 

勝手に、人を殺した気になって、いい気になるのは・・・やめてもらおうか!!」

 

這いつくばりながらも脳無の足を掴み動きを阻止するテリー

 

「おー、おー、あきれた体力だな。全くすげェ奴がガキにもいたもんだ。」

 

「お、俺の悪口ならいくらいってもらっても構わねえ・・・!

 

現に俺は今負けかけているし弱い自分が悪いだけだ。

 

・・・でもな、俺が負けて、アイツらが愚弄されるのなら、俺はそう易々と引き下がる訳には行かない!

 

テキサスブロンコは、友を馬鹿にする奴を許せない性分なんでな!!」グググググ・・・

 

なんとか必死に力を込め這いつくばった姿勢から起き上がり両足で立ち上がるテリー

 

その目に全く衰えない執念を燃やし死柄木達を睨む

 

「ったく、しぶといな。

 

一人目からこれとかクソゲー過ぎるわ。

 

脳無、強がって見せてるが奴はもう虫の息だ。

 

ド派手に止めを叩き込んでやれ。」

 

「ギャギャーーーーー!」

 

「グウッ!?」

 

止めの一撃にと拳を振り上げた脳無

 

それをにやけながら見つめる死柄木

 

ダヒュンッ!!

 

二人の脇を弾丸のような何かがすり抜けていくと

 

「うおおっ!?」ドンッ

 

ズサアァァ・・・

 

「ギャギャ?」スカッ

 

テリーにそのままぶつかり脳無の拳の射程圏から押し出した

 

「ハアッ・・・ハアッ・・・。」

 

「イ、イズク!?

 

何をしているんだ!

 

ここは危険だ、なぜこんな無茶な真似を!!」

 

その正体は緑谷だった

 

彼は個性を使いパワーを駆使して自らの足を砕いてでも超特急で戦いの最前線にテリーを救うべく躍り出たのだ

 

「ハアッ、わ、わかんないや・・・。」

 

トップヒーロー達は学生時代から逸話を残す。

 

「でも、僕も同じ気持ちだから・・・!!」

 

彼らの多くは話をこう結ぶ!

 

「大事な仲間を、かけがえのない命の恩人を!

 

馬鹿にして!

 

傷つける!

 

アイツらが、許せないんだ!!」

 

"考えるより先に体か動いていた"と!!

 

ボロボロの両足で緑谷は立ち上がり脳無達を必死に睨む

 

(怖い、でも・・・!

 

もしここで退いてしまったら僕は、僕の大事な物をすべて失ってしまう気がする!!

 

今度は僕自身で示して認めてもらうんだ!

 

そして僕は胸をはって言う!僕はヒーローだと!!)

 

「っ来い!

 

ここから先は、僕が相手になってやる!!」バリバリバリ

 

緑谷が力強く啖呵を切り、それに呼応するように緑谷の体を閃光が包み込む

 

「んだよ、最近のガキはどいつもこいつも命を粗末にしすぎだぜ。

 

脳無構うことはない。

 

二人まとめて殺せ。」

 

淡々と抑揚のない声で命令する死柄木

 

「ギャギャギャ!!」

 

それに反応して体に力を込める脳無

 

「イ、イズク、ダメだ!

 

そいつは危険すぎ、ゴハァッ!?」

 

テリーは警鐘を鳴らそうとするがこれまでのダメージが大きすぎて吐血してしまった

 

(できるかできないかじゃない、やるんだ!!

 

この力で、今度は僕が救うんだ!)ギリッ!

 

 

 

緑谷は静かに構えた拳に力を込める

 

「イ、イズク・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボァァ・・・




次回、二人は奇跡を起こせるか!?


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闇を貫く力 の巻

「イ、イズク・・・!」

 

テリーを助けようと己の身を盾として脳無の前に立ちふさがる緑谷

 

テリーは自ら命がけで対峙し脳無の強さを肌で感じているため止めようとするも

 

「カハッ・・・!?」ガクッ

 

戦いでのダメージは軽くなく意識を暗闇に落としてしまった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・ハッ!?」

 

テリーが再び意識を取り戻したのは・・・

 

「ここは、リング?」

 

正方形の白いマットの上に四本のコーナーポストと三本のロープが張られたリングの上だった

 

いきなり一変した状況に辺りを見渡していると

 

ーハハハハハハ!

 

「な、なんだ!?この心底不快に感じる笑い声は!?」

 

「どうしたんだテリー今日のお前はドジが過ぎるじゃないか」

 

突如として笑い声が響くとリングの上に影が浮かび上がり人の姿を成していく

 

「だ、だれだ!?」ザッ

 

「フフフ、相変わらずの勇ましさじゃのうテリー。」

 

影は腕を組み全く動じる事無く穏やかに話かけてくる

 

「お、お前は、一体・・・?」

 

顔は完全に影になっており判別できないがおぼろげに見える腕の太さ、胸板の厚さ、足の逞しさがこの男がどれ程の戦士であるかを物語っていた

 

「わしの名は今はどうでもよい。でもそれだと不便だしのう・・・。

 

そうだ!わしの事は名もなき王子とでも読んでくれたまえ。」

 

「お、王子・・・?」

 

「おう、王子の前にイケメンとつけてくれれば尚よしじゃ!」

 

「・・・・・・。」

 

呆れ顔をしているテリーの表情に気まずく思ったのか咳払いをひとつして改めて話始める自称王子

 

「さて、今回わしがここへ来たのはおぬしに忘れ物を届けにきたのじゃ。」

 

「忘れ物?」

 

「そうじゃ、忘れ物と言ってもそれは目に見える物ではない。

 

しかし、確かに存在するものじゃ。」

 

ブォン

 

するとリングの外の暗闇から映像が映し出される

 

そこに映し出されたのは・・・

 

 

 

 

 

「ハアッ、ハアッ・・・ウアッ!?」

 

 

 

ボロボロの体を懸命に動かし脳無の攻撃を必死に避ける緑谷の姿だった

 

「イズクッ!?

 

おい、あんた!

 

今すぐ俺をここから出せ!

 

あんたの問答に付き合ってる暇はないんだ!!」

 

テリーが睨みつけるも全く動じる事無く影はテリーに問いかける

 

「なぜお主はあの化け物達と戦う?」

 

「決まっている!アイツは、いやアイツを従えてる野郎は俺の大切な仲間を危険な目に合わせた、仲間を傷つける奴は許せない!

 

そこにそれ以上の理由なんざ必要ない!」

 

テリーが力強い叫びを影にぶつけた

 

すると・・・

 

ボァァァァァァァァァッ

 

「こ、これは!?」

 

「フフフ、それこそがお主に渡したかった忘れ物じゃ!今こそ解き放つのじゃ、どれだけ時空を隔てようとも消えることのなき思いの力を、ワシらが築き上げた繋がりが生む奇跡を!」

 

カアアアアア

 

 

テリーの体が謎の光を発し始めた

 

「ウオオオオオオオッ!?」(な、なんだこの体から湧き出てくる力は?)

 

「さあ仕上げじゃ。」スッ

 

影が自らの手を顔にもってくる

 

(マ、マスク・・・?)

 

 

パアアアアアアアアアア

 

「こ、この光は!?

 

す、すごい!体の傷が癒えていく!」

 

顔からマスクと思われる物をずらした影の顔は眩い光を発し素顔を隠しながらテリーの傷を治していく

 

「さあ、これで準備は整った。

 

いくがよい、テリー!」スッ

 

マスクを元に戻した影が闇に指差すとそこに光の出口が現れる

 

「あ、あんたは一体・・・。

 

いや、この感覚は・・・。

 

あんた、以前何処かでっ!?」

 

影は手をつきだし言葉を遮る

 

「・・・余計な言葉は今は不要じゃ。

 

今お主がせねばならぬのはなんじゃ、テキサスブロンコよ。」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

「ハアッ、ハアッ・・・諦めるものか!

 

ここでお前らを倒して、皆でなるんだ!ヒーローに!!」

 

 

 

 

 

 

 

暗闇に今もなお奮闘する友の声が響く

 

「・・・そうだな。

 

俺が今しなくちゃいけないのは・・・アイツらを倒して、皆を、イズクを救うことだ!」ダッ

 

テリーは光に向けて駆け出す

 

「誰だか知らないが感謝するぜ!

 

この力でアイツらを倒してくるからみててくれよな、王子様よ!」

 

感謝の言葉を叫びながらテリーは光の中に飛び込んでいった

 

「・・・フフフ。」

 

テリーが飛び込むと同時に光の出口は消えていった

 

「死して尚、別世界で誰かの為に戦い続けておるのか。

 

少しだけ妬いてしまうの、若返った体で()()()を他が為に使えることを・・・頑張れよ、テリー。」

 

影はどこか悲しく、しかし満足そうに呟きリングの上からその存在を虚空へと委ねていった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「満身創痍だってのにしぶといな。

 

いい加減諦めろよお前!」

 

苛立ちを露にしながら死柄木が叫ぶが・・・

 

「ハアッ、ハアッ・・・諦めるものか!

 

ここでお前らを倒して、皆でなるんだ!ヒーローに!!」

 

毅然と不屈の姿勢を示す緑谷

 

その姿は出入口でどうしていいかわからず見守るクラスメイト達の心に感動を与えた

 

そしてこの男にも・・・

 

ボァァァァァァァァァ・・・

 

「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」

 

「き、聞こえたぜ、イズク・・・!

 

そうだよな、俺らはヒーローになるんだ・・・!

 

てめえらみたいな、悪党になめられっぱなしじゃ生きてる甲斐がねぇんだよ!!」

 

「テリーくん!」

 

テリーの体が突如発光したかと思えば足を踏みしめながら立ち上がり

 

「ウオオオオオオオッ!!」カアアアアアッ!

 

叫びと共に両肩に金の星の紋章(スターエンブレム)が浮かび上がった

 

するとテリーの体から発せられた謎の光がそのまま吸い寄せられるように緑谷の体を包み始めた

 

「この光は・・・!!」

 

緑谷は始めこそ警戒したが

 

(・・・ッ!!)

 

やがてなにかを察したかのように身を委ねた

 

すると見るからに重傷だった傷がふさがり

 

バチバチバチバチバチバチバチバチッ!!

 

光から解き放たれた緑谷の体を先程よりも強烈な閃光が迸り

 

バチバチバチバチバチバチッ!

 

(こ、これは!?)

 

 

(OFA(ワン・フォー・オール)が・・・共鳴している!?)

 

緑谷からテリーへと伝播していった

 

 

「なんだよ、ここでパワーアップとか、そんなご都合主義許せるかよ!

 

脳無、さっさとその二人を殺せ!!」

 

「ギャギャギャギャ!!」

 

脳無の無慈悲な拳が二人に迫るも

 

「イズクッ!

 

来るぞ、合わせろ!」

 

「ッ!?

 

ウン、テリーくん!」

 

テリーは左の拳を緑谷は右の拳をそれぞれが閃光を纏わせて脳無の拳に放つ

 

『『ツイン・テキサス・スマッシュ!!』』

 

バゴンッ!

 

完璧に同じタイミングで叩き込んだ二人の拳は

 

「ギャギャ!?」グラリ

 

脳無の拳を押し返してしまった

 

「バカなッ!?おい、黒霧!!

 

どうなってやがる、あれはオールマイトの攻撃にも耐える筈だろうが!!」

 

「・・・み、認めたくありません。

 

ですが、あの二人の今のパワーはオールマイトすら凌駕するものだと思われますっ!!」

 

 

「さあ、反撃だ!いくぜ、イズク!!

 

ここからは俺たち"金の卵(ゴールデン・エッグス)"

の力を見せてやろうぜ!」ボァァアアアアア

 

「うん、テリーくん!!」バチバチバチッ

 

 

 




次回、二人のコンビネーションが炸裂!?


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目に見えない力! の巻

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「ギャギャーーーッ!?」

 

自律した思考能力を持ち合わせてない脳無だが今、目の前で起きた事実に本能的に困惑を露にしていた

 

「す、すげぇ・・・。」

 

「あの黒い化け物を力で押し返した・・・!」

 

生徒達もその衝撃に戸惑うが同時に希望が灯り始めた

 

「なんだよそれ・・・ッ!

 

黙っておとなしく殺られとけよ・・・!

 

ガキ一人殺せないで俺たちが負ける?

 

ふざけるな・・・!ふざけるなふざけるなッ!!ふざけるなああああああああああああ!!」

 

ついさっきまで蔓延していた恐怖や絶望感が書き換えられていくのを感じとったのか死柄木は喉が裂けんばかりに絶叫する

 

「し、死柄木!?

 

落ち着いてください!」

 

「殺れ脳無!!この二人を殺せ!!絶対生きてここから出すな!!」

 

黒霧の説得もむなしく死柄木は苛立つ子供のように感情的に命令する

 

「ギャギャーーー!」

 

応えるように逆の手で拳を振るおうと迫る脳無

 

「ッ!!」

 

「怯むな!前に走れイズク!」

 

一瞬脳無に対する恐怖に飲まれかけた緑谷だが、

 

「ウアアアアッ!!」ダッ

 

咄嗟に放たれたテリーの言葉に従う

 

すると

 

「ギャギャ!?」

 

急に間合いをはずされた脳無の動きが鈍る

 

「構うな脳無!そのまま振り切れッ!!」

 

「イズク、タックルの要領でそこから沈み込め!」

 

「ッ!」ビュオ

 

「ギャギャウ!?」スカッ

 

脳無の拳は緑谷の上を暴風のように通り抜けていく

 

「今だ!上を向け!」

 

緑谷が上を向くと無防備な脳無の顎が見えた

 

「両足と右腕に力を込めて打ち抜け!」ダッ

 

アドバイスと同時にテリーも動き出す

 

「SMAAAAAAAASH!!」ガンッ

 

両足に閃光を纏った緑谷が地面を蹴りあげ攻撃動作によりバランスを崩した脳無の顎にカウンターのアッパーが炸裂する

 

「ギャフッ!?」

 

たまらず顔を上に向かされて突き上がる脳無に

 

「ナイスだイズク!」バッ

 

タイミングを合わせてテリーが飛びかかりジャンピング・ネックブリーカードロップの要領で首から叩きつけた

 

『オイルラッシュ・インパクト!!』ゴシャッ!

 

「ギャハッ・・・!」ゴパッ

 

あまりの衝撃に口から血を吐く脳無

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「ウオッシャー!!いけー!そのままやっつけちまえー!!」

 

「瀬呂ちゃんも峰田ちゃんも落ち着いて。」

 

「いける・・・!

 

いけるよ!テリーくん!デクくん!」

 

二人のコンビネーション攻撃に歓声が上がる

 

「なぜだ・・・ッ!?

 

なんであのガキ二人の攻撃が脳無に通じてる!?

 

あんな古臭い技、『ショック吸収』の個性で・・・。」

 

「チッチッチッ・・・。」

 

二人のコンビネーション攻撃に吐血して倒れ伏す脳無に驚愕しながら言葉を紡ぐ死柄木に人差し指を左右に振りあきれ口調でテリーは話し始める

 

「ショックを無効ではなく吸収だろ?ならいくらでも戦えるさ。

 

このデカブツのようなあり余る力を振り回すだけで勝とうなんざ先人達への冒涜だ。

 

この技たちは先人達の高みへ目指す思いが形を成したものだ!その鋭さはどんな個性だろうとこんなんだろうと貫いていく!

 

そして!

 

貴様らのような小悪党には一生わからないだろうな。

 

 

どんな古臭い、過去の遺物と揶揄される技たちに星にも負けない輝きを灯らせる力を!人はその力をこう呼ぶ!!

 

 

『友情』と!!」

 

 

 

ボァァアアアアア

 

 

「ギャギャギャ・・・。」ヨロロッ

 

あまりの衝撃にゆっくりと立ち上がる脳無

 

「何をのんびりしてるんだ脳無!来るぞ!!」

 

脳無を挟んで向かい合うテリーと緑谷

 

「ウオオオオオオオッ!」ボァァアアアアア

 

「ハアアアアアアアッ!」バチバチッ

 

二人の()()()より一層強い光と閃光を帯びる

 

「いくぜッ!」ダッ

 

「テリーくん!!」ダッ

 

そして二人が右腕をかざしたまま全速力で脳無を挟み突進する

 

「ギャッ!?ギャギャ!?」

 

前後からの攻撃にどちらを止めるか悩む脳無を尻目に

 

「今だ、飛べ!イズクッ!」ダダダッ

 

「うんッ!!」バッ

 

二人の超パワーを纏ったラリアットが前後から脳無を襲う

 

『『G(GREEN )G(GOLD)クロスボンバー!!』』ドガァアアアアアアンッ!!

 

「ギャブァッ!!」

 

ガクッ ドサッ

 

膝から崩れ落ちる脳無

 

「ハアッ、ハアッ・・・ど、どうした?生かして帰さないんじゃないのか?

 

ご覧の通りこちらは誰一人死んじゃいないぜ!」

 

全身に力を込め声を張り上げ己の存在を誇示するテリー

 

「・・・脳無いつまで寝てんださっさと起きろ!

 

早く、早くあいつを殺せ!」

 

死柄木が癇癪を起こしたように叫ぶ

 

「テリーくん!」

 

「・・・ああ、下衆もここまでひどいと呆れて言葉もでねぇな。

 

お前に教えてやるよ。

 

俺が、いや!

 

俺とイズクがいる限り、貴様らのような下らない悪意が蔓延る時代など来ないことを!!

 

来い!イズク!!」

 

「うんッ!テリーくん!」バッ

 

テリーの一言で緑谷はテリーの上に肩車のように乗ると

 

「腕をおもいっきり振り抜け!」

 

 

『『テキサス・ツイスター!!』』

 

ビュオオオオオオオオオ!

 

 

テリーと緑谷の超パワーを纏った両腕の力により発生した竜巻が死柄木達を襲う

 

 

「く、黒霧!!」

 

「ッ死柄木、無理です!

 

私のワープホールがかき消されて転移できません。」

 

ギュギュギュギュギュ

 

「ぐっ、なら脳無を転移させろ!」

 

ズズズ・・・

 

「ギャギャギャ・・・ッ!?」

 

ダメージから回復して立ち上がった脳無の前に竜巻が襲いかかり

 

 

ゴオゴオゴオッ!

 

「ギャギャーーー!?」バシュン

 

脳無は何がなんだか分からぬまま竜巻に飲み込まれ上空へ弾き飛ばされてしまった

 

「頼むぞ、イズク!」

 

「ウアアアアアアッ!」ダンッ

 

その脳無を追いかけるようにテリーの肩を踏み台に飛び上がる緑谷

 

(いくぞ!テリーくんがここで僕に託してくれたんだ、今度は僕が応える番だ!!)

 

ガシッ

 

グアアアッ

 

緑谷は脳無の両足を掴み自らの脇にいれフェイスバスターの要領で落下する

 

「脳無、何してやがる!そんな雑魚の技なんか振りほどけ!!」

 

「ギャギャ!」グググ

 

「ッ!?」

 

下からの死柄木の叱責により脳無が脱出しようと抵抗を始め緑谷の体勢が崩れる

 

(くっそぉ、このままじゃ・・・!)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあ、早くみんなの所に行こうぜバクゴー!」

 

「うるせぇ!俺に指図すんなや!」

 

別のエリアに飛ばされた二人はその先で待機していたチンピラ達を一蹴し親玉がふんぞり返っているであろう中央に向け歩を進めていた

 

あと少しでたどり着くというところで

 

バシュンッ

 

「「ッ!?」」

 

中央の広場より何かが空へ打ち上げられ

 

「アアアアアア!」

 

それを追う様に飛び出し組み付く人影があった

 

「あ、あれって!」

 

(デ・・・デク・・・!?)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(緑谷、緑谷 出久・・・。)

 

更に二人とは別のエリアから中央に向け歩いていた少年、轟 焦凍の目にもその戦いの様子が映っていた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ギャ!ギャ!」ジタバタ

 

緑谷の技から逃れようと暴れる脳無

 

「おいおい、なんかやばくねぇか!?」

 

「わ、技が外れかかってきている!」

 

「デク君!!」

 

(こ、ここでやらなきゃダメなんだ!

 

大切な仲間を守るために!

 

僕に道を照らしてくれた人に報いる為に!

 

力を貸してくれ、OFA(ワン・フォー・オール)!!)

 

ボァァアアアアア

 

(こんな力もあったんだね。)

 

(エッ!?)

 

(まったく、俊典はいい後継者に恵まれたな。)

 

どこからともなくこの状況に似合わない優しい女性の声が聞こえてきた

 

(新しい可能性に巡り会えた記念に今回は私たちが助けてあげるよ。

・・・心配するな、九代目。

君と、君を信じる者達の間に生まれる"この"力があればOFAはきっと君に応えてくれる。

君らなら私たちが叶えきれなかった未来を見せてくれると確信している。

頼んだぞ、ヒーロー。)

 

「・・・プルス、Plus Ultra(プルス ウルトラ)ァァァァァァァッ!!」

 

ギュオオ ガシッ

 

ギュオオ ガシッ

 

いきなり緑谷の手から黒い縄のようなものが現れるとそれはまるで意志を持ったように脳無を拘束していく

 

「ギギャギャ!?」

 

脳無の抵抗を削いだ緑谷は再び体勢を安定させると急降下を再開する

そして目が合う

「テリーくん!!」ギュオオオオオ

 

その目は曇りひとつない輝きだった。

 

テリーは微塵の疑いもなく待っていたのだ、緑谷が自分の意志を汲み取りその任を全うしてくれることを。

 

「ああ、待ってたぜ!イズク!!」バッ

 

『テキサス・コンドルキック!!』バギッ

 

テリーもまた飛び上がり脳無に強烈な両膝蹴りを見舞い

 

「まだだ!」ガシッ

 

膝を顎にぶつけたまま両手で脳無の頭部を掴みロックし急降下に加わる

 

「なんだあの技は!?」

 

「なんかわからんがスゴそうだ!!」

 

「いったれー!テリー!緑谷!」

 

「この苦難を乗り越えて、僕たちはヒーローになる!」バチバチバチッ

 

「その腐った眼に刻むといい!

これが俺とイズクの、いや次代を担うヒーローの初陣だ!!」ボァァァァァ

 

『『ビルディング解体落としーーーー!!』』

 

ガガアァァァァァンッ!!

 

バキッメリッゴキッ

 

「ギャペ・・・!」ドサッ

 

「お、おい脳無!?

 

冗談はよせ、早く再生してアイツらを殺しに・・・。」

 

「・・・残念ですが死柄木弔、脳無は機能停止してしまいました。

 

おそらく脊髄や首などの重要器官への集中的なダメージの蓄積に再生のストックが追い付けなくなったと思われます。」

 

黒霧は努めて冷静に今目の前で起きた事実を自身の考察を添えて述べた

 

「お、おい!あの黒い奴動かなくなったぞ!?」

 

「あの二人の技が利いたんだ!」

 

「・・・勝った。

 

二人が勝ったんや!!」

 

ワッ!!

 

出入口で見ていた生徒達が歓喜の声をあげる

 

「テ、テリーくん・・・!」グググ

 

「ああ、俺たちが・・・勝ったんだ!」グググ

 

 

 

「ああ、脳無・・・。

 

そんな、対オールマイト用に持ってきたのに生徒にやられた?

 

こんな事あってたまるか。」ブツブツ

 

「死柄木弔、落ち着いてください。

 

脳無が倒されたとはいえあの二人も相応のダメージがあります。

 

後顧の憂いを断つ為にも私たちの手で二人だけでも始末しましょう。」

 

「「「「ッ!!」」」」

 

安堵に包まれた空気が一気に緊張感を帯びる

 

「ああ、そうだな。

 

脳無の敵討ちだ、ガキに舐められたままじゃ帰れねぇもんな!」

 

脳無が倒されたことにより呆けていた死柄木だが黒霧の提案に賛同し再び殺意を向ける

 

が、

 

「もう大丈夫だ、みんな。私が来た!!」

 

待ちわびた救援(オールマイト)の登場に再び安堵の声が上がる

 

「・・・この状況はいただけないですね。

 

悔しいですが死柄木、ここは撤退を。」ズズズ

 

「・・・くそ。

 

次は必ず殺してやる、待ってろオールマイト!

 

そして、そこの緑と金髪。

 

てめぇらの顔も忘れねぇからな!

 

平和の象徴の次は貴様らだ!」

 

「逃がさん!」

 

登場と同じように黒いモヤを作りそこに入り撤退を開始する二人を阻止しようと振るった拳は空を切った

 

「クッ!逃がしてしまったか!

 

・・・ハッ、それよりも大丈夫か二人とも!!」

 

「・・・ヘッ、ご覧の通り・・・楽勝だった・・・ぜ!」グラッ

 

「オ、オールマイト・・・僕たち・・・やりました・・・よ。」グラッ

 

ドサッ ドサッ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

チュンチュン

 

豪華な宮殿もに朝が訪れる

 

小鳥の囀りが聞こえ、気持ちのいい朝の日差しがカーテンの隙間から漏れ出て顔を叩く

 

そんな清々しい朝の空気が

 

ブウウウウーーーー!!

 

一瞬で消し飛ぶ豪快な一発で男の朝は始まる

 

「う~ん、よく寝たわい。」

 

「大王さま!何事ですか?」

 

「なにか大きな音がしましたが大丈夫ですか!?」

 

ガチャ

 

この男に仕えているであろう二人の男が勢いよく部屋に飛び込んで来たが

 

「「くっさァァ・・・!!」」

 

バタッ バタッ

 

「ハッハッハッ!すまんのう。今日はどうやら珍しく胃腸の調子がよくてな。」

 

「朝からなんの騒ぎ?」

 

男二人が倒れた後から一人の女性が現れる

 

「おお、ビビンバ。おはよう!」

 

「おはよう、あなた。

 

・・・あら、なんか今日はいつもより肌ツヤがいいわね。

 

なにか、いい夢でも見たのかしら?」

 

「フフフ、どうだったかのう。」

 

男は視線をカーテンの向こうに広がる空に移した

 

 

 




次回、激闘を制したテリー達に待つものは・・・。












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思い思われ の巻

ラグビーW杯終了

沢山の感動をありがとう、世界のリアル超人達よ!


雄英高校への襲撃事件

 

前代未聞の騒動は主犯格の二名は逃がしたが彼らに加担したチンピラ数十名は()()()()()()()()()()鎮圧されたと報じられた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・では先程搬送された二人を除く19名の生徒に特に目立った外傷は無し、と。」

 

オールマイトに続き脱出し危機を知らせに奔走した飯田を筆頭に先生であるプロヒーローたちにより残党たちは瞬く間に鎮圧された

 

その後警察による事後処理が行われることになり19人は出入口に集められているところだった

 

「あの、相澤先生は・・・。」

 

「命に別状はないが複数箇所の骨折、特に眼窩底骨の損傷がひどく後遺症が残る可能性がある・・・だそうだ。

 

13号も同様に命に関わるような怪我はないが背中の傷がひどく二人ともここで応急処置をしてから病院へ向かうことになるね。」

 

「デ、デクく・・・緑谷くんとテリーくんは・・・!?」

 

「ああ、あの二人なら心配いらない。

 

おそらく張り詰めた緊張の糸が切れてしまっただけで特に目立った怪我は無し、リカバリーガールの治療を受けた後に保健室で休めば大丈夫さ。」

 

その言葉に安堵のため息が漏れる

 

「ああ、そういえば尾白さん。

 

ありがとうございました。

 

あなたの援護がなければ私たちは危ないところでしたわ。」

 

「そうそう、上鳴を人質に取られたときはどうなるかと思ったけど尾白がその後ろから一撃で倒してくれて・・・。

 

あん時の尾白、めっちゃ決まってたよ。」

 

「え、いやそんな・・・。

 

あれはホントに偶然だし、それに援護に行けたのだってテリーがほとんど敵をワンパンで倒しまくったからであって・・・。」

 

八百万と耳郞にお礼と賛辞を言われ照れる尾白

 

「おい尾白!!

 

てめぇ裏切り者!

 

なに女子の前でカッコいいことしてくれちゃってンだよ~~~!!」

 

「峰田ちゃん、うるさいわよ。」バシッ

 

その姿に嫉妬をむき出しにした峰田は哀れにも舌ビンタの餌食になってしまった

 

自らの安全が約束され和やかな雰囲気が包むなか

 

心中穏やかじゃない者が二人

 

(プロヒーローでも敵わない敵をデクが倒したぁ!?

 

んな訳あるか、あいつがそんなに強いわけねぇ!

 

あいつは、あいつはただの木偶の坊だ!

 

あの金髪野郎もだ、思い知らせてやる誰が上で誰が下かを・・・!!)

 

(緑谷出久、翔野テリー。

 

この力で奴等を越えて頂点に立てたなら、俺は・・・!!)

 

激闘の終幕、それは新たなる火種を蒔いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「まったく、君には驚かされっぱなしだよ。」

 

ベットで眠る緑谷に付き添うガリガリの男・オールマイトは慈愛に満ちた顔で緑谷を見つめていた

 

「弟子思いも結構だけどちゃんと力の使い方を教えときな!

今回は何事もなかったけど、これから先戦う度に傷ついてちゃ早死にしちゃうよ!」

 

「は、はい!恐れ入ります、リカバリーガール・・・。」

 

そんなオールマイトの背中に渇を入れたのが雄英高校の屋台骨と称されるリカバリーガールだった

 

さすがのオールマイトもその言葉に頭が上がらず謝っていると・・・。

 

「・・・オ、オールマイト?」

 

「おや、目を覚ましたようだね。」

 

「緑谷少年、大丈夫かい!?」

 

意識を取り戻した緑谷にリカバリーガールの診察が行われた

 

「フム、特に異常はないようだね。

 

後は・・・ほれ、飴ちゃんをお食べ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

緑谷に飴を食べるよう薦めた後リカバリーガールは別室にいるテリーの様子を見に行くと部屋を出ていった。

 

「・・・緑谷少年、よく無事でいてくれた。

 

私は自分が恥ずかしいよ、本来なら君たちを守るべき立場の人間なのに君たちを危険にさらしてしまった。」

 

オールマイトは拳に力を込めた

 

「そ、そんな!

 

オールマイトそんなに自分を責めないでください!」ガバッ

 

自戒の念に苛まれるオールマイトを気遣い起き上がろうとした緑谷だったが

 

「うっ!?」ズキィ

 

「ああ緑谷少年、無理はダメだ!

 

・・・でもそうだね、過ぎてしまった事を悔やんでもしょうがない。

 

これからもまだしばらく平和の象徴として居続ける為にも足踏みしてる時間はないからな!」ニカッ

 

オールマイトが見せた笑顔に緑谷も安堵の笑みを浮かべる

 

「それはそうと緑谷少年、一つ聞かせてくれたまえ。

 

君とテリー少年はあの黒いヴィランを倒したようだが一体どのように個性を制御したのだい?」

 

オールマイトは緑谷に目立った外傷がないことに安心したと同時に不思議に思ったのだ

 

未だ個性を制御しきれず使えば自壊してしまう緑谷だが今回の襲撃で強大な敵と対峙したとなれば個性の使用は必須

 

何をきっかけに成長したのか?

 

その事について緑谷に訪ねると

 

「それが・・・よく覚えてないんです。」

 

バツが悪そうに緑谷が答えた

 

「最初は初めて人に向けて使うから、っていうので無意識にセーブしていたんだと思うんですけど・・・。

 

テリーくんのピンチに駆け出した後は無我夢中で、でも覚えてるのは2つ」

 

逡巡を挟み緑谷は語り始めた

 

「テリーくんが光始めたと思ったらその光が僕を包んで、そしたら傷も消えて力が増したと言うか・・・。」

 

死闘の記憶を懸命に繋ぎ話す緑谷

 

「あ、それと・・・女性の声が聞こえました!」

 

「ッ!?」

 

「僕のことを九代目って言ったり、叶えきれなかった未来を見せてとかなんとか。

 

あの方はいったい・・・オールマイト?」

 

「・・・ああ、すまない緑谷少年、少し用事を思い出してしまってね。

 

後でまた来るけどその話はまた今度にしよう、今は少し休みなさい。」

 

「は、はい・・・。」

 

緑谷の話を打ち切りオールマイトは部屋から退室した

 

「・・・・・・。」

 

部屋から出たオールマイトの顔は険しくなっていた

 

(女性の声・・・まさか、今もまだあの力の中におられるのですかお師匠・・・?)

 

気づけばオールマイトは目に涙を溜め先程出てきた扉に背を預けたまましゃがみこんでしまった

 

(申し訳ありませんお師匠、そしてありがとうございます。)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「テリー・・・。」

 

「ポニーちゃん、元気だすノコ・・・。」

 

「ん・・・。」

 

生徒の証言で頭に打撃を喰らったと言うのもありテリーは職員用仮眠室にて安静に寝かされていた

 

そこに今回のA組襲撃の事件を聞いたポニーを含むB組女子が駆けつけたのだった

 

未だに目を覚まさないテリーの手を両手で祈る様に握りしめるポニー

 

普段明るく振る舞う事が多いポニーの悲壮に暮れる姿に他の女子達もかける言葉を見失っていた

 

「テリー、お願い・・・目を開けてください。

 

まだ日本に来て少ししか経ってません。

 

まだまだ行ってみたいとこも、見てみたいものも沢山あります。

 

その隣にあなたが居ないのは寂しいです。」ポロポロ

 

少しでも呼び水になればとポツポツと言葉を紡ぐポニー

 

すると・・・

 

ピクッ

 

「ああ!」

 

「・・・ポニー、どうして泣いているんだい?

 

君にそんな顔は似合わないぜ。」

 

テリーが意識を取り戻した

 

「テリー・・・テリー!!」バッ

 

安堵から涙を流しながら寝ているテリーに抱きつくポニー

 

「ウウッ感動ノコ・・・。」グスッ

 

「うち、こういうの弱いんだよね・・・。」ウルッ

 

一緒に見守っていたB組の女子も感動に涙を流していた

 

すると

 

「あっ、よかった目を覚ましたんだね!」

 

テリーの見知った顔しかいなかった部屋に更に女子が二人入ってきた

 

「君らは・・・?」

 

「自己紹介が遅れて申し訳ありません。

 

わたくしは塩崎 茨と申します。」

 

「で、私が拳藤 一佳。

 

B組の委員長をやらせてもらってる。」

 

二人が簡単に自己紹介を済ますと

 

「そうだ!目覚めた事をリカバリーガールに伝えてこなきゃ。

 

茨はここで待ってて、私がすぐ行ってくるから。」

 

そう言うと拳藤は慌ただしくきびすを返して部屋から出でいった

 

「すまないな。他所のクラスの君たちにこんな迷惑をかけてしまって・・・。」

 

「いえ、私たちができたことなど微力なものです。

 

あなたが目覚めるまで見守り片時も手を離すことなく握り続けたポニーさんに比べればとてもとても・・・。」

 

塩崎の言葉にテリーはポニーに首を向ける

 

「テリー・・・。」

 

「・・・。」スッ

 

目が合うやテリーは手を伸ばしポニーの髪を撫でる

 

「すまないな。ポニー、君にまで心配をかけて。

 

ありがとう、こんなに遅くまで・・・。」ナデナデ

 

「あっ、もうテリー!

 

私たちは同い年ですよ、こんな子供みたいな・・・。」

 

ポニーがむくれて抗議するが

 

「ならやめるかい?」

 

「・・・テリーはイジワルです。

 

・・・もう少しこのままでいいです。」

 

この言葉に観念して身を委ねていった

 

「おーい、リカバリーガール連れてきたよ。」

 

拳藤とリカバリーガールが部屋に入ってきた

 

「さて、あんたも大丈夫そうだけど・・・。

 

話によると頭を殴られたそうじゃないか。

 

大事をとって今日は学校に泊まっていきな。

 

私の方で話は通しておくから。」

 

「は、はい。」

 

「あっあの・・・。」

 

「ああ、あんたも付き添ってやんなさい。なにぶん私も歳には勝てなくてね、人手はあると助かるし気心知った人が近くにいた方がいい。」

 

リカバリーガールは手早く話をまとめると拳藤達に向き直り

 

「あんた達もご苦労だったね。

 

もう遅いから早く帰りなさい、おたくらの担任には校門に車を回すように言ってあるから。」

 

と促した

 

「わかりました。それじゃあ・・・。」

 

と拳藤の言葉を皮切りに皆別れの挨拶を告げ退室していった

 

「ふぅ、それじゃ私も仕事があるから職員室に戻るさね。

 

トイレはそこで、晩御飯はランチラッシュに頼んで作らせたお弁当が冷蔵庫にあるから落ち着いたら無理しない程度にお食べ。」

 

諸々の説明を終えるとリカバリーガールはやれやれと呟きながら部屋を後にした

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「すっかり遅くなっちゃったな。」

 

拳藤を先頭に担任のブラド先生が待つ校門へ歩く一同

 

「ええ、ですがあのお方が無事でなによりでした。

 

ポニーさんの悲しみにくれる顔は見ていてこちらも心苦しいものがありましたから・・・。」

 

とその少し後ろを歩く塩崎が答えるが・・・

 

「「「「・・・・・・・。」」」」

 

「・・・そこの四人はどうしたの?」

 

あまりに不自然な沈黙にたまらず拳藤が話しかける

 

「いや、ねぇ・・・。」

 

「ん・・・。」

 

「ええ・・・。」

 

「ノコ・・・。」

 

なんとも歯切れの悪い返しに

 

「なんだよ、すっきりしないなぁ!」

 

「いやさ、拳藤も塩崎も考えてみなよ。」

 

「はて?」

 

「あの二人は間違いなくうらめしい関係にあるわ。」

 

「そんな二人が夜の密室に二人きり・・・。」

 

「さっきの感動も相まって・・・なんてこともあり得るノコ!」

 

・・・ボンッ。

 

「・・・はっ、えっ///・・・いやいや///・・・そ、そんな・・・。」

 

「ああ///、いけません!

 

まだ学生の身分だありながらそのような・・・。」

 

 

四人の言葉の真意を汲み取った二人は顔から火が出そうなほど赤面し慌てだした

 

「・・・・・・プッ、アッハッハッ!」

 

「「・・・ハッ!?」」

 

 

「ヒー、お腹痛い!」

 

「二人とも顔真っ赤ノコ!」

 

「二人とも、なに考えてたのかしら?」

 

「ん。」

 

自分達がからかわれたと気づき

 

「~~~~~~ッ!!」

 

「こらぁ~~~~~~ッ!!」

 

「キャー、逃げろ~!」

 

女子が三人集まれば(かしま)しいと言うが夜の校舎を嵐のように駆け抜けていく一同だった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜も深まった校舎

 

「・・・・・・。」

 

テリーは一人ベッドに横になり天井を眺めていた

 

すると、

 

「テリー・・・。」

 

隣のベッドに寝ていたはずのポニーがベッド脇に立ち話しかけてきた

 

「隣、いいですか?」

 

「・・・おいで。」

 

体を少し端に寄せスペースを作り掛け布団をめくり招き入れる

 

「ありがとうテリー、フフッ。」

 

ベッドに入るなり優しく微笑むポニー

 

テリーがどうしたのかと思っていると

 

「ねぇテリー、こうやって寝てると子供の時を思い出すわ。

 

貴方の家の牧場で二人で干し草の上でお昼寝していたあの頃を・・・。」

 

「ああそうだな、そんなこともあったな。

 

そういえば最初は服が汚れるからって嫌がってたっけ。」

 

幼き日にアメリカで過ごした二人の記憶を懐古するように笑顔で語り合う二人

 

「・・・ねぇテリー。」

 

「ん?」

 

「一つだけ約束してください。なにがあっても必ず私の所に帰って来るって、絶対私を一人にしないって。」

 

「・・・・・・・。」

 

「ごめんなさい、テリーが強いことはよく知ってます。

 

でも、ときどき怖くなります。テリーがどこか違う所を見ている様に感じてしまって、テリーがどこか手の届かない様な所に行ってしまいそうで・・・。」

 

自らの不安な胸中を吐露するポニー

 

その何かに怯える様な姿に

 

ガシッ

 

「・・・約束するよ。」

 

微かに震えているポニーの手を、励ますように力強く握るテリー

 

「これから先どんな困難や恐ろしい敵の牙が待ち受けていたとしても、翔野テリーは必ずポニーの元へ帰って来る!」

 

しっかりと目を合わせ、されど優しい眼差しでテリーは誓いの言葉を伝える

 

「・・・嬉しいです。テリーもうひとつわがままを聞いてくれますか?」

 

「なんだい?」

 

「今夜はこのまま、このまま手を繋いだまま寝させてください。」

 

「ああ構わないさ。」

 

こうして二人の夜は過ぎていった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

襲撃事件の後、休校を挟み

 

再び登校日になり教室に入るテリーを待っていたのは

 

「あっテリー君!よかった、大丈夫だったんだね!」

 

「おお、イズク!!」

 

緑谷を始めとするあの戦いの目撃者たちからの労いの言葉だった

 

「・・・・・・チッ。」

 

「・・・・・・。」

 

 

一部から鋭い視線を向けられるがテリーは完全に無視を決め込んだ

 

それよりも

 

「テリィィィィーーーー、お前どう言うことだ!

 

起きたらB組の女子全員に囲まれてたって話を聞いたぞ!

 

なんじゃその羨ましいシチュエーションは!!

 

そして角取ポニーと校舎に一泊したとか!

 

おい吐け!その日の夜の事を洗いざらい吐かんか!」

 

「そんな人に話さなきゃいけないことなんかないっての!

 

というより制服に変なシミがつくから離れろって!」

 

脱水症状を起こさん勢いで涙を流しながらズボンにしがみつきヤイのヤイのと詰問してくる峰田の対処が先決だった

 

やがて予鈴がなり

 

「おはよう。」ガラガラ

 

全身を包帯でぐるぐる巻きにした担任が入ってきた

 

その姿に生徒達は驚愕し、声をあげるが

 

「俺の怪我のことはどうでもいい。」

 

と一蹴し

 

「それよりもお前ら、戦いはまだ終わってないぞ・・・。」

 

その言葉に教室の空気が張り詰める

 

「・・・"雄英体育祭"が迫っている。」

 

教室が歓喜の声で爆発した

 

 

 

 

 

 

 





次回、燻る火種が・・・。


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喧嘩の流儀 の巻

11/17 アンケート追加しました



"雄英体育祭"

 

個性の発現に伴い公平性が保てなくなり形骸化してしまったオリンピックの代わり誕生したという経緯をもつ一大イベントだ

 

「それだけに一般人のみならずプロヒーロー達からの注目も高い。

 

君たちがここに在籍する上で三回しかないチャンス。

 

これを生かすも殺すも君たちの努力次第だ。」

 

教壇にたつ相澤の言葉は自身もまたプロヒーローと言う立場にあるためとても重みがある

 

しかし、その程度で怯む様な生徒は一人もいない。

 

バチイイイィィィッ

 

既に一部の生徒からは見えない火花が教室内に散っており早くも気合い十分といった様相を呈していた

 

「しかし!それはそれ、授業はしっかりと受けてもらう。

 

体育祭に意識を向けすぎて授業に身が入らないなんて許さないからその辺は覚悟しておくように。」

 

その発言に数名の生徒はがっくりと頭を垂れた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

体育祭の開催を告げられた日の放課後

 

「な、なんじゃこりゃ~!!」

 

「え、なにごと!?」

 

教室を出ようとしたA組を待ち受けていたのは人、人、人

 

「おそらく敵情視察だろ、クソが。」

 

悪態をつきながらズケズケと教室の外に出る爆豪

 

「そんなことしても意味ねぇんだよ、どけやクソモブども!」

 

周囲を威嚇し道を開けようと吠える爆豪

 

 

すると

 

「おいおいなんだよ。

 

ヒーロー科って皆こんな偉そうな奴しかいないのかよ。

 

・・・なんかちょっと幻滅だな。」

 

「ああ!!」

 

 

 

A組の教室を囲っていた集団から一人の男が進み出てきた

 

「なあ、知ってるか?

 

普通科や他の科ってヒーロー科から落ちたから入ったやつ結構いるんだぜ。

 

それでも、今回の体育祭で場合によってはヒーロー科の編入を検討してくれるって話だ。

 

なにが言いたいかっていうと、あんまり調子乗ってると俺らがその席奪っちゃうよ・・・ってこと。」

 

その言葉が終わると同時にその後ろで控えている生徒達の瞳にも力が宿る

 

嫉妬、野心、決意・・・

 

数多の名も知らない同級生達から向けられる思いに圧を受けるA組

 

しかし

 

「ケッ、ごちゃごちゃうるせぇな!モブはモブらしくスッコんでやがれ!」

 

「お、おいやめろよ!

 

これ以上アンチ増やしてどうすんだよ!」

 

全く動じずに一蹴する爆豪に切島が止めにかかる

 

すると

 

「テリー、どこデスカ?」

 

緊迫から一転朗らかな声が通る

 

「おーい、ここだぜポニー。」

 

教室の奥からテリーが出て来る

 

「・・・なぁ、あれって。」ヒソヒソ

 

「ああ、入試の時の・・・。」コソコソ

 

「くっそー、美男美女カップルかよ!」ヒソヒソ

 

「リア充許すまじ!!」コソコソ

 

テリーは教室を出るとそのままポニーの声がする方向へ向かい歩き出そうとすると

 

「・・・いい気なもんだな、俺たちのことなんか眼中にないってか。」

 

ピタッ

 

「俺たちの宣戦布告なんてヒーロー科に受かってかわいいガールフレンドまでいるあんたにしてみれば知ったこっちゃないってことかい?

 

無視されるってのは馬鹿にされるより傷つくぜ。」

 

テリーの態度に皮肉を込めて問いかける、更にその言葉に同調し回り(特に男子)の視線も鋭くなりテリーに注がれる

 

「・・・。」クルッ スタスタ

 

「・・・っ!?」

 

するとテリーは体を反転させ男の目の前に立った

 

「一つ、言いたいのは俺は"あんた"じゃなく翔野テリーという名前がある。

 

それに本気で宣戦布告したいならまず自分の名を名乗るのが先じゃないか?」

 

「・・・心操(しんそう)心操 人使(しんそう ひとし)だ。」

 

テリーを見上げながらも目をそらすことなく名乗る心操

 

「OKだ。

 

心操、君の勇気に敬意を払いその宣戦布告は確かに受け取ろう。

 

・・・だが!」ギロッ

 

 

 

ゾクッ

 

テリーの眼光が鋭くなる

 

「誤解を恐れずに言わせてもらえば()()()()()ってのは本当だ。

 

なぜなら、俺らの視線は常に前を向いているからだ。

 

今回の襲撃事件で俺たちは望まずにヴィランと交戦した。

 

結果こそ君たちも知るように退ける事ができたが、それでも俺たちは知った。

 

俺たちがここを巣立ち向かう先に待つものは何なのか、その恐ろしさと手強さを!

 

君たちが俺たちに挑もうとするのは勝手だか、俺たちはこの経験を糧に更に先に進まなくてはいけないんだ!

 

その為にも今は時間が惜しいんだ、悪いが道を開けてくれないか?」

 

強い決意を滲ませたテリーの言葉が囲っている大衆のみならずA組にまで染み渡っていく

 

「おうおうおう、迷惑になってんだろうが、道を開けろ!」

 

 

囲みの後ろ掻き分けながら男の声が近付いてきた

 

「君は・・・?」

 

 

「おう、俺はB組の鉄哲徹鐵ってんだ!

 

最初はなんか偉そうな事を言ってるのが聞こえて来て怒鳴り込もうと思ってたけどよ!

 

こんだけの人数の前で威勢のいい啖呵を切るのが聞こえたんでな、気が変わった!

 

どうせなら俺らの宣戦布告も聞いてもらおうと思ってな!」ズイッ

 

鉄哲は自らテリーの前に進み出ると

 

「へっ、ポニーからは聞いていたが見かけによらずマジで熱い奴なんだな!

 

海の向こうのこんな熱い奴と戦えると思うと俺も燃えて来るぜ!

 

見てやがれ、てめぇらA組を負かすのは俺たちB組だ!」

 

言いたいだけ言ったのか鉄哲は満足そうに踵を返し揚々と引き揚げていった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(すごい!なんて眩しいんだろう。)

 

皆の前で堂々と言葉を発するテリーの姿に緑谷は尊敬の念を強めていた

 

そして同時に今日のお昼休みにオールマイトに言われた言葉が脳裏に反芻される

 

【"君が来た"と言う所を世の中に知らしめてほしい!】

 

自らの最も身近にいる憧れは更に上を目指すことを宣言した

 

ならば・・・

 

(そうだ、僕だって・・・僕だって立ち止まっている暇なんてない!)バチィッ

 

新たなる決意と共に血潮が体を駆け巡る

 

緑谷の拳は知らずの内に決意と共に固く握りこまれていた

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

鉄哲の嵐のような登場と退出によりなし崩し的に解散の流れになってしまい囲っていた生徒達は各々の目的の為に歩を進めていた

 

「心操!さっきのお前カッコよかったぜ!」

 

「ああ、スカッとしたよ!体育祭頑張ろうな!」

 

同じ普通科の代表の様な形で前に立った心操に皆が賞賛の声をかけてきた

 

「・・・ごめん、ちょっとトイレ。」

 

そんな喧騒を避ける様にトイレへと入る心操は

 

バタンッ

 

「ハアッ、ハアッ・・・!」ガタタッ

 

個室に入るなり呼吸を激しく乱しそのまま閉めた扉にもたれ掛かってしまった

 

(・・・やべぇな。なんだよあれ?)

 

ただ凄んで来るような輩は今までたくさん見てきた

 

だがテリーの発する()()は絶対的になにか違うと心操の本能は感じ取っていた

 

(・・・だからなんだ!俺だって、俺だってヒーローになりてぇんだ!)

 

弱気な自分をふりはらい、ここにも一人決意を新たに滾らせる者が現れた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こうして各々の思いを募らせながら時は進み

 

ーー体育祭当日

 

出店やたくさんの観客、更に警備のプロヒーロー等が続々と集まり徐々に活気が溢れてくる

 

そんな活気が伝わってきたのか控え室の中は緊張感が張り詰めていた

 

落ち着きなく歩き回る者

 

気を紛らわそうと話し合う者

 

そんな中

 

「・・・緑谷。」

 

「えっ?」

 

轟が緑谷に話しかける

 

普段あまり接点が多い方ではない轟からの呼び掛けに緑谷だけでなく周囲も物珍しそうに視線を向ける

 

「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う。

 

けどお前、オールマイトに目ぇかけられてるよな。」

 

「ッ!!」

 

「別にそこをとやかく詮索つもりはねぇが・・・お前には勝つぞ!」

 

「おお!?クラス最強が宣戦布告!!」

 

 

普段クールで物静かなイメージの強い轟のまさかの言葉に周囲も驚きを見せる

 

「おい急に喧嘩腰でどうした?

 

こんな直前に・・・。」

 

 

切島が止めに入るも

 

「仲良しごっこじゃねぇんだ、別にいいだろ。」

 

頑なな態度を崩そうとしない轟

 

「・・・轟くんがなにをもって僕に勝つって言ってるかはわかんないけど、確かに大半の人間が僕と君の力を知れば君が勝つって思うよ。」

 

「お、おい!緑谷もそんなネガティブにならなくても・・・」「でもっ!!」

 

「僕だって、僕だって追い付きたい背中があるんだ!

その為にはこんなところで遅れをとるわけにはいかない、だから」

 

ーーー君に勝つ!

 

「・・・おお。」

 

静かにしかし闘志を秘めた緑谷の言葉に轟は満足そうに呟くが、

 

「・・・それと、お前にもだ。

 

翔野テリー!」

 

全員の視線が控え室の角に向く

 

「・・・・・・。」

 

先程からのやり取りにも我関せず、と言わんばかりに控え室の角に椅子を置きどっかりと座りながら腕を組み目をつむるテリー

 

「お前と直接戦ったことはないが、それでもこのクラスの中じゃかなりの実力だと思っている。だからこそ、今日ここでその決着をつけるぞ!」

 

轟の決意を秘めた視線がテリーに送られる

 

それにつられて皆の関心がテリーに向く

 

クラスでもトップクラスの実力者であり推薦入学者でもある轟からの言葉にテリーはどう答えるのか?

 

 

「・・・プッ。」

 

「ッ!!」

 

「クックックッ、ダッハッハッハッハッハッ!!」バシバシ

 

なんとテリーは腹を抱えて大笑い、堪えきれなくなったのか空いている手で自分の腿を叩き始めたのだ

 

「・・・なにがおかしい!」

 

これにはさすがに轟の顔も怒りに歪む

 

「ヒ~、ヒ~!

 

笑っちまうぜ!

 

こんな喧嘩の売り方も知らない様な温室育ちのチワワに吠えられるなんてな!」ガタンッ

 

一通り笑い終えるとテリーは立ち上がりその椅子を持ったまま中央に歩み寄る

 

「チワワちゃん、君がどうしてそんなに息巻いてるのかは知らないが物事には礼儀ってものがあるんだ。」ガチャガチャ

 

テリーはおもむろに先程まで自身が座っていた椅子を自分の前に置いた

 

「この前の心操と鉄哲の方がよっぽどマシな喧嘩の売り方だったぜ。

 

チワワちゃんよぉ、当然の如くチャンピオンってのは一人だ。

 

誰もが必死に全身全霊をかけて挑み、他人の懸ける思いを飲み込んでこそ、そこに重みが宿る。

 

だが、お前の今の言葉はなんだ?

この俺を片手間で倒すとでも言うのか?

 

そんな戦う相手も目に入れないような輩に!」グォッ

 

「テリーくん!?なにを、」

 

「この荒ぶるテキサスブロンコを止めることなどできるか!」ガンッ

 

バキャン!

 

控え室の空気が止まる

 

なんとテリーは椅子をおもいっきり蹴りあげ天井に叩きつけて破壊してしまった

 

ガタッドタッ

 

天井から無残な姿になったイスが落ちてくる

 

「チワワちゃん、これが俺の答えだ。」ズイッ

 

テリーは更に詰め寄り睨みつける

 

「・・・上等だ。」

 

「・・・テリーくん。僕も、君に!」

 

「おい待てコラァ!なに三人だけで盛り上がってんだ!」

 

そこに触発されたように爆豪も詰めてくる

 

「優勝するのはデクでも金髪野郎でも半分野郎でもねぇ!この俺だ!」

 

「かっちゃん・・・!」

 

「誰であろうと俺の道の邪魔はさせない!」

 

「ヘイヘイ、だったら回りくどいことせずに今ここで決着をつけるかい?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「な、なんかすごいことになっとる。」

 

「あ、あれに混じって戦うのかよぉ!」

 

「まさに修羅の道・・・。」

 

「き、君たち!止めたまえ!もうすぐ入場だぞ!」

 

飯田の言葉の後に入場を促すアナウンスが流れたことでイザコザは終了

 

しかし残りのクラスメイト達は嫌でも理解してしまった

 

(((((この体育祭、ただじゃ終わらない・・・!)))))

 

 

 

 

 

 




次回、注目の第一種目は?


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変えられぬ生き様 の巻

「さあさあお前ら!とうとう始まる年に一回の大バトル!お前らの目当てはこいつらだろ?鋼の精神でヴィラン襲撃を乗り越えた奇跡の新星!」

 

ーーーA組だろぉ!!

 

ワアアッ!!

 

プレゼントマイクの煽りを受け観客の熱が高まる中、入場するA組

 

その後ろからB組、普通科、サポート科・・・と順に入場してくる

 

「さあ!開会式を始めるわよ、まずは選手宣誓!」

 

18禁ヒーロー・ミッドナイトが台に上がり司会進行を務める

 

「18禁ヒーローが高校にいていいのか?」

 

「いい!!」

 

「選手宣誓、1年A組 翔野テリー!!」

 

ガヤを無視して式を進めるミッドナイト

 

呼ばれたテリーは壇上に上がりマイクの前に立った

 

「宣誓!我々選手一同は実力及ばずともその精神はプロヒーローに劣らぬよう正々堂々最後まで戦い抜く事を誓います!」

 

「OKよ!テリーく・・・え?」

 

ガチャ ポイッ

 

ミッドナイトがテリーの宣誓を聞き終え式を進行しようとした時、テリーがマイクをスタンドから外しスタンドを放り捨ててしまった

 

「・・・とまあ、宣誓は果たした訳だし折角こんな皆様の前に出させて頂いたんだ。

 

少し喋らせてもらうぜ!」

 

ザワザワ

 

「テ、テリーくん!?一体なにを・・・?」

 

緑谷の言葉が示す通り、ただの選手宣誓からの出来事に生徒のみならず観客やプロヒーロー達にも困惑が広がる

 

「俺の生まれはアメリカのテキサスって所だ。ここは遥か昔、個性発現以前にメキシコに支配されていた。

 

そこでテキサスの自由と独立を手にする為、名も無き勇者達が命をかけて戦った。

 

・・・この俺の中にも、その勇者達の血が流れている!

 

自由と正義の為に命を賭ける覚悟がある!

 

それが口先だけでないことを今日この大会で証明しよう!

 

私の道を阻む者がそれを上回る覚悟を持って私の前に立つ事を切に望む。以上1年代表、翔野テリー!」バンッ

 

ウオオオオオオオッ!!

 

テリーは言い終わるとそのままマイクを叩きつけて壇上を後に列に帰っていった

 

テリーの発した熱は客席を覆い

 

(これがテリーくんの覚悟!)

 

(ハッ、上等だ!)

 

(その覚悟を越えるのは俺だ!)

 

静かに

 

「まったく、テリーったら・・・。」

 

「フフフ、今の内に好きなだけ吠えておくがいいさ、すぐにわからせてあげるよ!僕たちB組がいかに優秀かって事を、アッハッハッハグヘッ」ビシッ

 

「ハッハッハッ、いいツレを見つけたな!ポニー!」

 

「物間、鉄哲!あんまりうるさいと注意されるよ。

 

でも、そうだね。みんな!見せてやろうじゃない!私たちB組の覚悟って奴を!」

 

しかし確かに

 

(・・・覚悟なんざとうに出来てる、こんな個性になっちまってそれでもヒーローを目指したあの時から!)

 

意志ある者の心に火を着けた

 

「う~~~ッ最ッ高よ!最高の宣誓だったわ!」

 

テリーの発した熱に呼応するように呼び覚まさせれた熱を感じとりミッドナイトもまたハイテンションになっていた

 

「さあ、その熱が冷めない内に最初の競技に移るわよ!

 

最初は~~~コレッ!!」

 

【障害物競争】

 

「計11クラス総当たりのレースよ!

 

全長はこのスタジアムの外周約4キロ、コースを守れば何でもありのサバイバル!

 

スタートはあそこよ!」バッ

 

ミッドナイトが説明を終えてムチを向けた先にはスタート用の門と信号機が置かれていた

 

「あの信号機が青になったならスタートよ!

 

さあ、行きなさい!」ピシィッ

 

振るわれたムチの音が響くと同時に皆我先にとスタートに集まる

 

ワイワイ、ガヤガヤ

 

一瞬にしてスタート地点は少しでもいいポジションを確保しようという生徒達に埋め尽くされる

 

そんな小競り合いが静まらぬ中、信号機が青に変わり

 

「最初のふるい。」

 

いきなり足元に冷気が走ったと思えば大半の先頭で待機していた生徒の足が氷に包まれ地面に縫い付けられてしまった

 

「さあさあ、遂に始まった第一種目!

 

実況はプレゼントマイクが行うぜ!そして解説はよろしく、ミイラマン!」

 

「お前が勝手につれてきたんだろ、少しは休ませろ・・・。」

 

ハイテンションで喋るプレゼントマイクの隣で怠そうに答える相澤

 

「さっそく全員を妨害していきなりトップに躍り出たのは轟!

 

いきなり独走体勢か?」

 

そんな相澤のクレームを無視して実況に移るプレゼントマイク

 

「バカ、よく見てみろ。」

 

集団に妨害を行いながら一人飛び出した轟だったが

 

(同じクラスの奴等すぐに越えてくる。

 

ここで少しでも離しておかねぇと!)

 

微塵の油断もなく冷静に戦況を見つめトップへ向けての算段を考えていた

 

そして案の定

 

「そううまくいかせねぇよ!半分野郎!」

 

爆豪を筆頭にA組が各々のやり方で轟の妨害を破り追走してきた

 

「同じクラスの奴は当然として結構残られたな・・・っと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイジョ、ハイジョ。」

 

 

「来たぜ最初の難関、ロボインフェルノだぁ!」

 

 

コースを塞ぐように現れたのは入試の時にも使われた0P敵

 

だが

 

「もっとすげぇの用意してくれねぇか?」コォォォ

 

パキパキパキッ

 

(アイツが見てんだよ!)

 

轟は個性を使い瞬く間に1体を凍結させてしまいその隙に更に前へ進む

 

「逃がすか!」Bom!

 

「俺もそうしよ。」シュルルル

 

「いくぞ、黒影(ダークシャドウ)

 

 

 

「さあさあ、何人か抜け出したぞ!ここからどうなるって、おいおいマジかよ!」

 

 

「ヌグググググ・・・テリャーッ!!」ゴゴゴゴゴ、ブンッ

 

 

フッ

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

先頭でトップ争いをするメンバー達に不意に現れた影

 

「ナンダ、クモッテクレタゾ。ラッキーダナ。」

 

「ち、違う。これはっ!?」

 

「うっそ!?」

 

「チイッ!」

 

「クソが!」

 

ズドォオオオオン!!

 

「ハイ、ジョ・・・ピージョ・・・ガーイ・・・。」

 

 

 

 

「な、なんと!?0P敵をぶん投げて妨害を行うトンデモ作戦!

 

これを実行したのは・・・

 

あの宣誓は伊達じゃない!1年A組 翔野テリー!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「スゲー、あのでかいの投げちゃたぞ!」

 

「カッコいい!」

 

「スゴいスゴーい!」

 

 

雄英高校体育祭、プロヒーロー達も駆けつけて見守る一大イベントの最前列に座っていたのは幼い子供達

 

「今年もこの様な経験をこの子たちにさせていただきありがとうございます。」

 

「別に構わんさね。それにあんたと私の仲じゃないか、そういうのはいいっこなしだよ。」

 

リカバリーガールに深々と頭を下げるシスター

 

元プロヒーローの彼女が営む孤児院[ガキンチョハウス]

 

観戦している子供達は皆、そこで養われている子供達だった

 

現役時代に交流があったリカバリーガールが奉仕活動の一環として毎年身銭を切り席を確保し招待していた

 

「それじゃ、そろそろあたしは救護室に戻るよ。」

 

挨拶を済ませるとリカバリーガールは自分の職場に戻っていった

 

「・・・さぁみなさん。感謝を忘れずに行儀よく見ましょうね。」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあさあ、いよいよレースも終盤だ!

 

トップ集団は現在三人、いずれもA組だ!」

 

「このまま勝ちきる!」

 

「行かせるか!俺が一位だ、クソが!」

 

「テキサス(スピリット)を侮るなよ!」

 

「そんな奴等を待ち受ける最後の関門はこれだ!一面地雷原怒りのアフガン!!」

 

道が開けたと思えば看板にdangerの文字が三人の目に飛び込んでくる

 

「威力こそないが音と見た目は派手だから失禁必死だぜ!」

 

「人によるだろ。」

 

 

 

「俺には関係ねぇ!」

 

自らの個性で空中を移動する爆豪

 

(くそ、不用意に下を凍らせれば後続に道を作っちまう!)

 

「ウオオオオ!この程度で俺が怯むか!!」ボンッ ドガンッ

 

 

三者三様に我こそはとせめぎ合う三人の後方で不意に轟音が響く

 

「アーッとなんだ!?急に大爆発が起きたかと思えばあれは、A組の緑谷!爆風で猛チャージだ!」

 

「あれは0P敵のパーツだな。最初のロボインフェルノでちゃっかり持っていっていたのか。」

 

 

 

 

「やるじゃないかイズク。だが、簡単にトップを譲るつもりはないぜ!」

 

「クソデクが!俺の前に立つなや!!」

 

「・・・!」

 

突然トップ争いに参戦してきた伏兵の存在に三人は追走を仕掛けるも

 

(追い付いた!でもまだダメだ、このまま降りたらすぐに三人に抜かれてしまう!)

 

やっと手に手繰り寄せた勝利への光

 

逡巡の邂逅を挟み

 

緑谷が出した最適解は

 

(追い越し無理なら、抜かれちゃダメだ!!)ブンッ

 

カチッカチッ

 

ボオオオオン!

 

「なんと緑谷!再び地面にパーツを叩きつけて地雷を強制爆破!妨害と加速を一辺に行ったぜ!こいつはシビィー!」

 

「ハアッ、ハアッ・・・!」

 

そのまま受け身を取り素早く立ち上がると緑谷は勢いのままに駆け抜ける

 

「さあさあ地雷原を抜けたら先はトンネル、そこを潜ればゴールは目前スタジアムの中央にあるゴールを最初に通過するのは誰だ!?」

 

緑谷は必死に息を切らし足を動かす

 

暗いトンネルを駆け抜けた先には[ゴール]と掲げられた簡易的なゴールが置かれていた

 

「オーッと、いきなり衝撃の展開だ!トンネルを抜け出てきたのは誰が予想したかA組緑谷出久!このまま栄光のゴールテープを切る!」

 

「いや、まだだ!」

 

 

 

(最後まで油断するな!絶対来る!)

 

ヌッ

 

「ウオオオオオオオッ!」

 

緑谷がトンネルを抜け出るや間髪いれずにもう一人抜け出る影が現れた

 

「ヒャッハー、喜べお前ら!アイツらは最後の最後まで俺たちを楽しませてくれるらしいぜ!

 

猛追するのは同じくA組、翔野テリー!」

 

「緑谷が逃げ切るか、翔野が差すか・・・。どちらにしろギリギリの戦いになりそうだな。」

 

(やっぱり来たね!テリーくん!!)

 

 

(イズク、悪いが俺も一位は譲れない・・・ハッ!)

 

ダシュ

 

「ど、どうしたんだ!?そっちは、っておい!!」

 

「くっ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ワアアアアッ

 

 

「どっちだ!?」

 

「行け!差せ!」

 

「気張れー!逃げ切るんだー!」

 

最後の直線でまさかの一騎討ち

 

この展開に観客のテンションは第一種目とは思えぬ盛り上がりを見せていた

 

「うわあああ!どっち!?どっちが勝つの!?」

 

「どっちも頑張ってー!!」

 

その波は子供達も関係なしに取り込む

 

子供達も自然と熱をあげて食い入るように見つめ応援にも力が入っていった

 

が・・・。

 

「イケーーーーッ!!」ガタンッ

 

 

 

なんと興奮した観客の一人が勢いよく立ち上がってしまい

 

ドンッ

 

 

「へ・・・?」

 

なんと前にいた子供を観客席からスタジアムの中へ押し出してしまった

 

「う、うわああああああ!?」

 

観客席の高さは個性が及ばないように高めに作られている

 

そこからの急降下

 

更に周囲の人間もレースに集中しているためほとんどの人間が見てすらいない

 

「へ、なんだ?」

 

「あ、あれ!?」

 

「子供が!」

 

仮に見ていたとしても反応がどうしても遅れてしまっていた

 

誰もがすぐに救いの手を伸ばせそうにない状態の中

 

「ヌオオオオオオオオ!!」ダダダッ

 

ガシッ

 

「あああああ・・・へ?」

 

 

「・・・大丈夫かいボウヤ。ちゃんと席に座って観戦しないとダメじゃないか。」

 

成す術なく地面に激突すると言う悲劇を回避したのは

 

他ならぬレースに参加したテリーだった

 

子供が無事とわかるや周囲は安堵に包まれたが

 

ビーッ、コースアウト!!

 

ビーッ、コースアウト!!

 

無機質な音声がスタジアムに鳴り響いた

 




次回、テリー・・・失格!?


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闘いの渦 の巻

ザワザワ・・・

ザワザワ・・・

 

スタジアムはいまざわめきに包まれていた

 

レースは既に終了し順位の発表も済んでいる

 

しかし、止まらない

 

「どうなるんだあの子は・・・。」

 

「行いとしてはこの上なく素晴らしい、たがルールはルールとして守らなくては大会の秩序として示しがつかなくなってしまう・・・。」

 

話題の中心はテリーの判定

 

あの行為をコースアウトとして失格とするか、はたまたその英雄的行動に特例として第二種目へと進ませるのか

 

レース終了後にミッドナイトより協議を行うとアナウンスが流れたため観客はもとより

 

「テリーくん・・・。」

 

彼のクラスメイト達であるA組

 

「テリー・・・。」

 

ポニーを通して一部生徒に面識のあるB組

 

全員が次の闘いに彼が駒を進めてくるのか、その発表に固唾を飲み時を待っていた

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ありがとうございます、ありがとうございます・・・。」

 

「いやいやそんな、もう頭をあげてください。」

 

そんな中テリーはスタジアムの関係者通路にいた

 

救出した子供を保護者の元へ連れていこうと歩を進めていたがシスターもまた引き取りに駆けつけたのだった

 

「そんな、勇敢なあなたの行動がなければこの子は・・・。

 

もう既にヒーローを引退している私には何もあなたにお返しすることはできません。その様な御方に頭を下げぬなどと不義理を働いては私は神はもとより子供達にも顔向けできません。」

 

必死に頭を下げるシスターにテリーは止めるよう言うがシスターもまたその態度を頑なに変えない

 

そんな問答を繰り返していると

 

「・・・お兄ちゃん。」

 

テリーの助けた子供が口を開いた

 

「助けてくれてありがとう。

 

僕も将来、お兄ちゃんみたいなヒーローになりたい!

 

ねぇお兄ちゃん、僕ヒーローになれるかな?」

 

「・・・ああ、絶対なれるさ!

 

シスターの言うことをよく聞いてれば必ずなれるさ!」

 

テリーは子供の問いにしゃがみこみ目線を合わせると力強く答えた

 

そして下からシスターに顔を向け

 

「この子の言葉が、これ以上ないお返しです。

 

ありがとうございました。」

 

テリーは頭を下げたあとそのままその場を後にした。

 

するとその足でテリーはある場所に向かった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ガチャ

 

不意にA組の控え室の扉が開く

 

「ムッ?」

 

その音に反応した障子が目を向けると

 

「・・・よぉ。」

 

ばつの悪そうにテリーが部屋に入ってきた

 

「テ、テリーくん!」

 

緑谷を筆頭に一同が集まってくる

 

「テリーくん、あの・・・。」

 

「ああ麗日、その辺は今から発表がある。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同時刻

 

「・・・会場にお集まりの皆さん。」

 

ミッドナイトの先ほどまでとは打って変わった凛とした声が響く

 

「先ほど協議が終了いたしました。

 

今よりその結果を発表させていただきます。」

 

その声に会場は静まり返る

 

「先ほどの翔野テリー君のコースアウトについて我々教師陣の意見としてはそのヒーローを体現した行動とこちらの警備体制が不十分であった事が原因であるために第二種目へ復帰させるべきと言うのが大半の意見でした。

 

しかし・・・

 

会議中に翔野テリー本人が会議室に訪れ、

 

“どのような理由があれど大会の規定を破った以上けじめをつけるべきだ”

 

と訴えきた為、我々教師陣は彼の意見を尊重し

 

翔野テリー君を

 

 

 

 

失格といたします。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ミッドナイトの言葉が終わると共に起きたどよめきが控え室まで伝わってくる

 

「・・・そういうわけだ。

 

みんな、俺の分まで頑張ってくれ。」

 

「テリーくん、どうして!?」

 

誰もが口を開けない中、緑谷が問いかけるも

 

「なんでだろうな、でもこうしなければいけないと思ったんだ。

 

ここを曲げてしまえば俺は、俺の目指す道から外れてしまう・・・だからこうした。」

 

強い決意を含んだ言葉に一同は言葉を失ってしまった

 

「おっと、次の種目にでない奴がいつまでもここにいても迷惑だな。

 

じゃあなみんな、頑張れよ。」

 

そんな空気を察してテリーは皆に背を向け扉に手を掛ける

 

「ッ、テリーくん!」

 

「イズク、仮に逆の立場にいたのならお前だってこうしたはずだ。

 

だから後悔なんてしていない。

 

あの子を救いに体が動いてしまったことも、このけじめの付け方も

 

・・・じゃあな。」

 

ガチャ バタン

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・さて、席に戻るかな。」

 

A組の控え室を出たテリーは溢れる感情を押し込めて席に戻ろうとすると

 

「テリー!」

 

「ポニー・・・。」

 

後ろからポニーが駆け寄ってきた

 

「すまないポニー。

 

君に何も言わずに・・・。」

 

フリフリ

 

「いいえ、わかってマシタ。

 

テリーなら必ずこうするって・・・。

 

そしてそんなあなたを、私は誰よりも尊敬してマス。」

 

「・・・ありがとう。

 

ありがとう、ポニー。」

 

ポニーの言葉にテリーはまた一つ心が軽くなったように感じた

 

「じゃあ、そろそろ次の種目が始まるからワタシは行きマスネ。」

 

「ああ、わざわざありがとうなポニー。

 

上でしっかり見ているから頑張れよ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こうしてポニーと別れテリーが誰もいないA組スペースの観客席に着くと同時に第二種目が始まった

 

第二種目は騎馬戦

 

第一種目の順位によって振り分けられたポイントにより1万点を与えられた緑谷が終始狙われる展開に

 

途中で物間を筆頭に手を組み順位上昇を狙うB組の攻勢があったものの勝負は緑谷組と轟組の一騎討ち状態に

 

「いくぞ、轟くん!」

 

ここで轟組の騎馬、飯田が奥の手である超加速を披露

 

一気に間合いを詰め一万点のハチマキを奪いにかかるが

 

クイッ

 

スカッ

 

「「っ!?」」

 

 

「オオッと!なんと緑谷、あの目にも止まらぬ攻撃を避けたぁぁー!」

 

 

 

 

「マジで!?すごいやん、デクくん!」

 

「さすがだな、緑谷。」

 

「ナイスダゼ。」

 

「まだ一位をキープ!みてますか企業の皆様!私のドッかわいいベイビー達を!」

 

「う、うん・・・!?」(今のは、体が勝手に反応した・・・!?)

 

 

「おいおいイレイザー、スゲーなあいつ!

 

こりゃ間違いなくこの大会の台風の目だぜ。」

 

一人で実況しながら一観客としても興奮しているプレゼントマイクの言葉をよそに相澤は一人である仮説をたてていた

 

(あの様子じゃあ自分でも何が起きたかわかってないな。

 

轟組の策は間違っていない。

 

事実飯田のあの超加速については誰も知らなかった文字通り秘密兵器、ただでさえ初見で反応が鈍くなる。

 

そこにつけこみあのスピード普通に考えれば緑谷は反応すらできないはずだ。)

 

そして別の場所で観戦しているオールマイトもまたその仮説に行き着いていた

 

(だがそれでも反応した。

 

それも本能とも呼べる感覚で・・・。

 

考えうる可能性としては先の事件。

 

相手の秘密兵器とも呼べるあの脳無という敵と命のやり取りを経た事が大きいのだろう!

 

学校の演習クラスやチンピラ程度では経験できない修羅場、そこを味わい、乗り越えたからこそあの本能的超反応へと繋がったのだろう。

 

本来はあまりすべきではないことだが!

 

ヴィランどもよ、礼を言わねばな緑谷少年はお前らとの戦いで一皮むけたぞ!!)

 

そのまま時間は進みタイムアップ

 

緑谷組は一万点を死守して最終種目進出決定

 

そしてその他の進出メンバー達も発表された。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「お疲れ。残念だったな、ポニー。」

 

「ムゥ、悔しいデス。」

 

第二種目終了後そのままお昼休憩となりテリーはポニーと二人で昼食をとっていた

 

そして

 

「・・・それはそうとなぜ君たちも?」

 

「まあまあ、いいじゃない!」

 

「私たちも負けちゃったから癒しがほしいノコ!」

 

「だからこのウラメシイ空気を吸いにきたのよ。」

 

「ん。」

 

また回りをB組女子に固められていた。

 

すると、

 

「おーい、テリー。

 

少しいいかー?」

 

「こっち、こっち~。」

 

少し離れたところからクラスメイトの峰田と上鳴の声が聞こえてくる

 

どうやら用があるらしくこちらに手招きをするのが見えた。

 

「なんだ?ちょっといってくるよ。ポニー達はここで待っててくれ。」

 

席を立ち二人の方へ向かうテリー

 

それを見送ったポニー達のもとに

 

「あ、あの・・・B組の皆さん。

 

少しよろしいでしょうか?」

 

少し間を置いて八百万が訪ねてきた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ど、どうなってんだ?」

 

テリーは愕然としていた

 

先ほどまで峰田と上鳴に呼ばれ他愛もない話をして別れたと思えば席には誰もおらず

 

そろそろレクリエーションが始まると仕方なしに席に戻ると

 

さっきのメンバー+A組女子がなぜかチアガールの格好をしていた

 

「ウッヒョ~やったぜ!」

 

「眼福、眼福!」

 

どうやら二人の策略らしく八百万を上手いこと騙したようだった

 

それを冷めた目で見る女子一同に騙されたと気づきがっくりと頭を垂れる八百万

 

 

「WAO!!ベリーキュートデスネ。」

 

ポニーはあまり気にしていなかった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そんなこんながあり遂に最終種目

 

最後はトーナメント方式で行われる一対一のガチンコバトル

 

その組み合わせのくじ引きが行われる時に

 

「すみません、オレ辞退します。」

 

「僕も・・・。」

 

なんと二名の生徒が(尾白と庄田)辞退を申し出た

 

急な申し出に周囲の同級生は説得をしようとするも

 

「騎馬戦の記憶、終盤ギリギリまでぼんやりとしかしてないんだ。

 

・・・チャンスだってのはわかってる。

 

それを不意にすることの愚かさも、でも!

 

それじゃダメなんだ!俺のプライドが許さないし、なにより!!

 

こんな形で上に上がったら俺はテリーに顔向けできないし、一生追い付けなくなってしまう気がするんだ!!」

 

「・・・僕も同じです。誰かの為に自ら失格を選ぶような人がいるのに自分だけなんの力も示さずに上に上がるなんてことを飲み込んでしまったら、僕は自分で自分を許すことができなくなります。」

 

二人の言葉に周囲の人間は何も言えなくなってしまった。

 

「そういった青臭い話は・・・好み!

 

二人の辞退を認めます!!」

 

「おいおい、好みで決めちまったぜ、イレイザー。」

 

「まあ、あの辺はミッドナイトの裁量に一任されてるから仕方ないな。」

 

こうして急遽二枠空きができたことにより繰り上がりが発生

 

惜しくも進出を逃した拳藤組から二名となるところだったが・・・

 

「そういう話で来るなら・・・ほぼ動けなかった私らより、がんばって上位をキープしていた鉄哲組からでいいんじゃない?」

 

とB組委員長拳藤の一言で鉄哲チームから二名選出される事に

 

「・・・お前ら、それでいいんだな。」

 

「まっ、しょうがねぇよ。でもさ俺だって男さ、ああいうのカッケェって思ったし。」

 

「いろいろ思うことはあるけど、あれ見せられたらオレらだってこうしなきゃ男として情けないしね。」

 

「ありがとうございます、皆様。

 

・・・ミッドナイト先生!」

 

「ハァイ、それで誰が出るのかしら?」

 

鉄哲組の話し合いが終わり塩崎がミッドナイトに呼び掛ける

 

「はい。

私たちの組からは鉄哲さんが、

 

そしてもう一枠は・・・

 

A組の翔野テリーさんに差し上げたいと思います!」

 

オオッ!?

 

 

 

 

 

 

塩崎の発言に周囲の生徒のみならず観客席まで動揺が走る

 

「あのお方は自らの名誉よりも子供の命を優先して動ける様なお人です。

 

皆の前で力強く勝利宣言をした直後でも他人の為に動くことに迷いなく舵をきれる。

 

そんなお方にもう一度表舞台に立つ機会があって然るべきだ、私たちはそう結論付けました。

 

ミッドナイト先生、よろしいでしょうか。」

 

「・・・まったく、あなた達良い顔してるじゃない!

 

そういうのも好みよ!

 

さあ、オーディエンス!

 

この少年少女達の勇気ある決断に賛成の人は拍手を頂戴!!」

 

ワアアアアアッ!!

 

パチパチパチパチパチパチッ

 

「文句なしの決定ね!

 

翔野テリーくん、ステージに来なさい!!」

 

オオオッ!?

 

周囲の目がステージの出入口に集まる

 

ザッ

 

「・・・・・・。」

 

テリーが姿を見せると観客席はプロヒーロー、生徒関係なく盛り上がりを見せていた

 

ミッドナイトに促されるようにステージに歩を進めるテリー

 

「さあ、こんな事になったけどあなたはどうする?

 

あなたの口から聞かせて頂戴!!」

 

ノってきたミッドナイトはテリーにマイクを投げ渡す

 

「・・・鉄哲、塩崎、そして後ろの二人も。

 

ありがとう。こんな馬鹿な男の事を買ってくれて。」

 

「へッ、礼なら塩崎に言いな!」

 

「これは彼女が発端だからね。」

 

「いえ、私は私の心に従ったまでの事です。おきになさらず。」

 

テリーがマイクを受け取り話始めると観客達は一斉に静かになる

 

「・・・誰もが皆、当たり前のように全力で戦っている。今の自分より上に進みたい、そんな欲求を抑えてまで俺に託してくれた。

 

そんな大切な思い、無下にできるわけないだろぉ!!」

 

ドワアアアアアアアアッ

 

「翔野テリー、その枠ありがたくいただきます。

 

そして、必ず優勝します!!」

 

観客のボルテージは天井知らずに昇っていく

 

テリーはミッドナイトにマイクを返すと

 

「・・・イズク。」

 

緑谷の前に立った

 

「テリーくん!」

 

緑谷もまた視線を外さずに真っ向からテリーを見上げる

 

「こんな形とはいえまた君と闘える機会に恵まれた事を嬉しく思うよ。」

 

「僕も、僕もそうだよ。」

 

二人の目に闘志が燃え上がる

 

「緑谷出久!」

 

「翔野テリー!」

 

「俺は君に勝つ!

誰よりもヒーローとしての心を持ったお前に俺は勝つ!」

 

「僕は負けない!今の僕の全部をぶつけて君に勝って見せる!!」

 

 

「さあ、決定よ!

 

くじを引きなさい!

 

トーナメントを始めるわよ!!」




次回、トーナメント開幕!
テリーの一回戦の相手は・・・?


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No,pain No,gain の巻

遅くなりましたが2020年初投稿です

今年もこの作品をよろしくお願いいたします


興奮冷めぬスタジアム

 

テリーのトーナメントから参戦

 

緑谷と既に視殺戦を始めているテリーの手強さを知るA組は自らの気を引き締めていた

 

(俺も嬉しいぜぇ!てめぇに返さなきゃいけねぇ借りがあるんだからよ!)

 

(テリーくんが来たか・・・!

 

これは一筋縄ではいかなくなったな!)

 

(翔野テリー、その卓越した近接戦闘の強さに目を奪われがちですが警戒しなくてはいけないのはその洞察力と判断力。

 

生半可な手はすべて無駄だと覚悟しておかねば・・・。)

 

(ウェーイ、やべぇ・・・。

 

どうかいきなり当たりませんように。)

 

(是非もない。俺も一度手合わせ願いたいと思ったところだ。我が闇の刃、お前にどこまで通じるか試させてもらうぞ!)

 

(ううっテリーくん、強敵やわ・・・。)

 

一人また一人と順番にくじを引いていく

 

「さあ、組み合わせが決まったわ!」

 

ヴォン

 

ミッドナイトの声と共に電光掲示板にトーナメント表が映る

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第一試合

 

緑谷出久

VS

心操人使

 

 

第二試合

 

轟焦凍

VS

瀬呂範太

 

 

第三試合

 

翔野テリー

VS

飯田天哉

 

 

第四試合

 

鉄哲轍鐵

VS

切島鋭児郎

 

 

第五試合

 

発目明

VS

上鳴電気

 

 

第六試合

 

青山優雅

VS

八百万百

 

 

第七試合

 

芦戸三奈

VS

常闇踏陰

 

 

第八試合

 

麗日お茶子

VS

爆豪勝己

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあ、始まるぜ!!

 

頼れるのは己の身一つ!心技体、すべてを総動員して勝利を掴め!

 

負けたら終わりの一発勝負!!

 

最終種目、ガチンコバトルトーナメントだァァァ!!」

 

 

ワアアアアアアアアアァッ!!

 

 

プロヒーローであり雄英高校の教師でもあるセメントスの個性により作製された正方形の闘技場

 

これから始まる戦いに心踊らせるギャラリー

 

それに反比例するように出場者の緊張の糸は張り詰めていく

 

「一回戦、第一試合!

 

間違いなく今回のダークホース!!

 

このままトップまで登り詰めるか!?

 

A組、緑谷出久!

 

 

VS

 

ごめん、いまだ目立った活躍なし!

 

普通科唯一のトーナメント参加者!

 

C組、心操人使!」

 

 

 

 

「なあ、あの猿も馬鹿な事をしたと思わないか?」

 

「・・・っ!!」

 

「プライドがどうこうとか言ってたけど結局は自分の力に自信がないだけだろ?

 

だからチャンスをドブに捨てるようなことが出来るんだ。」

 

 

心操の挑発的言葉にただ耐える緑谷、好き勝手に言われて鬱憤が積もるが・・・

 

(ここで答えたらダメだ!堪えるんだ・・・!)

 

(・・・チッ、なかなか釣れねぇな。

 

やはり騎馬戦の時に組んでいたあの尻尾の奴から何か聞かされていたな。)

 

心操の個性は『洗脳』、しかし好き勝手に発動は出来ず自分が洗脳するという意識下での問いかけに答えた者のみ発動出来る

 

つまり会話は絶対条件、完璧な初見殺しだか一度知られてしまえば対策は容易なのだ

 

なんとかして相手から言葉を引き出さなくてはならない、そのための挑発。

 

(けど、さっきのを見してもらったぜ。

 

これならどうだ・・・!?)

 

「それにさっきの金髪の奴も、ムカつくと思わないか?」

 

ピクッ

 

遠巻きながらテリーと緑谷を見ていた心操はなんとなく二人の関係性を推測していた

 

(やはりあのテリーって奴のことは効き目が強そうだな。)

 

「第二種目免除でトーナメントだぜ。まったくB組の奴にいくら払ったんだ?

 

それでもってB組の奴の思いも背負って優勝宣言?

 

カッコつけるのも大概にしろってんだよな!」

 

 

「ちがう!!」ドクンッ

 

遂に堪忍袋が切れてしまい声を荒らげてしまった

 

「俺の勝ちだ。

 

・・・悪く思わないでくれ、これが俺の戦い方だ。

 

"振り向いてそのまま場外に歩け。"」

 

 

心操の言葉に従う様に緑谷は振り向いてそのまま場外に向けて足を動かし始めた

 

「正直・・・お前ら二人がうらやましいよ。

 

あんなに笑顔で戦いたいって言い合えるような人と出会えて。」

 

個性のせいで暗い過去を持つ心操にとって緑谷とテリーの視殺戦の様子は目が眩む程に輝いて見えていた

 

(・・・それでも俺はヒーローになりたいんだ!

 

どれだけ(さげす)まれようと、(そし)られようとしても俺はこの個性でヒーローになる!)

 

心操は断固たる決意でもって緑谷の背中を見送る

 

(ダメだ!体が勝手に!

 

まるで頭にモヤがかかったみたいに・・・!

 

負けるのか?こんな呆気なく!?

 

尾白君が忠告してくれたのに、オールマイトとの約束があるのに!

 

そして・・・今の僕の全部をぶつけなきゃいけない人が待っているのに!!)

 

まもなく場外となるところで・・・

 

ザアァッ!!

 

(なんっっっっっっっっっっっだ!?これっ!?)

 

相変わらず体は自分の意思では動かない

 

しかしスタジアムの風景もまるで凍ったかのように動きが止まっている

 

困惑する緑谷の目の前に()()の影が現れた

 

(な、なにが起こって・・・!?)

 

すると影の一人が前に進み出てきた

 

その影は明らかに他の影と比べると異質なものだった

 

他の影は輪郭すら定かではない者も多い

 

しかし今動いている影は違う

 

しっかりとした輪郭とその体が朧気ながら見ることができた

 

まるでおとぎ話の様な冠を頭にのせマントを羽織り見える肉体はどれ程の鍛練を積み重ねてきたかを如実に物語る様に逞しい

 

影はやがて緑谷の前に立ち

 

「・・・・・・。」

 

なにも言わず緑谷の心臓を指差した

 

(こころ・・・!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーースーパーヒーローの条件ってなんだと思う?

 

 

俺はこう思うんだ心に愛がなければスーパーヒーローじゃないってねーーー

 

 

 

 

 

 

 

「アーッと緑谷!?このまま場外か!?」

 

ピクッ

 

「っ!?」

 

バキッ

 

誰もが決着かと思われた時、スタジアム内に一陣の風か吹いた

 

(こっこいつ何をしたんだ!?)

 

自身の個性を無理矢理破られた事に驚く心操だったが

 

「くっ、いいよな!指動かすだけでその威力かよ、羨ましいよ!!」

 

なんとかまた洗脳をかけようと挑発を試みる

 

「なんとか言えよ!」

 

「・・・・・・・。」ザッ

 

緑谷は無言のまま心操に向き直る

 

(オールマイト、ごめんなさい。でも今だけは、この瞬間だけは!)ザッ

 

「なんだぁ!?緑谷の奴、いきなりしゃがんじまったぞ?」

 

(いったいなにをする気だ?)

 

現状の緑谷がどの程度個性を扱えるかを知っている相澤も緑谷の次の一手に注目した

 

スゥゥゥ・・・

 

緑谷が息を吸いながら顔をあげていく

 

「っ!!

 

いかん!マイク、今すぐスタジアムの音響を全部オフしろ!!」

 

(OFAを、喉に!)

 

「ウララーーーーーーーーー!!」

 

ゴオオオオオオ

 

「ワッツ!?これは俺の『ヴォイス』じゃねえか!?」

 

「個性を使って無理矢理再現しやがったな!なんつー無茶を!」

 

 

 

「グウウウゥゥゥゥ・・・!?」

 

緑谷の大声量をもろに浴びている心操は耳を抑え吹き飛ばされまいと必死に踏ん張っていた

 

やがて

 

「グッ・・・ゴハッ!」ビシャッ

 

緑谷の声が止むと同時に吐血

 

「デクくん!?」

 

「おいおい、緑谷の奴大丈夫か!?」

 

A組を中心に心配の声が上がるが

 

(これでいい・・・!!)

 

口から吐いた血を拭い緑谷は満足そうに笑みを浮かべた

 

(こ、こいつ・・・まさか!?)

 

(相変わらず君は私の予想を越えてくるよ!

 

まさかOFAをこんな風に使うなんて!!)

 

 

相対する心操、そしてオールマイトと相澤は驚愕していた

 

 

(さっきの大声は勝利への攻撃じゃない!

 

自らの喉をあえて潰す為に・・・!)

 

 

 

 

「お前・・・なにやってんだよっ!?」

 

心操には理解できない行動だった

 

(これでいい、これで聞ける。)ザッ ザッ

 

立ちすくむ心操をよそに緑谷は近付いていく

 

(これで話せる、君の魂と!)

 

呆けてる心操の目の前に立つと

 

バキッ

 

個性を使わずに拳を叩きこんだ

 

 

「ガァッ・・・ってぇな。

 

テメぇなんで個性を使わねえんだよ!!

 

その個性使えばすぐ終わるじゃねぇか!」

 

「・・・。」

 

緑谷は何も答えない

 

無言のまま拳を振り上げまた叩き込む

 

「グアッ・・・くそ!

 

落ちこぼれをいたぶって楽しいかよ!てめえいい趣味してんな!」

 

心操の悪態にも緑谷は揺らがない

 

三度目の拳を振り上げると

 

「チィッ、なめんじゃねえ!!」ガンッ

 

心操のカウンターがもろに入る

 

それにより一瞬だけ緑谷の動きが鈍る

 

・・・でも止まらない

 

「があっ・・・クッソ上等だよ!

 

そっちがその気ならこっちだってやってやるよ!!」

 

心操が緑谷に掴みかかる

 

「~~~ッ!?」

 

いきなりの攻勢に対応しきれなかった緑谷はそのまま後ろに倒れ肉弾戦に心得のない心操もまた連れて倒れていった

 

ドサッ

 

そこからはまるで子供の喧嘩だった

 

上をとったと思った心操だか固める前に緑谷が回転して上と下が入れ替わる

 

どっちが上をとるかで転がり回る

 

髪を引っ張る

 

頬をつねる

 

引っ掻く

 

殴る

 

蹴る

 

やがてどちらともなく涙を流して二人は戦っていた

 

 

「なんなんだよ、なんなんだよ!お前は!!」

 

何度目かわからない攻防

 

心操が馬乗りになり下にいる緑谷に殴りかかる

 

「お前にはわかんないだろ!

 

こんな個性で生まれて!

 

スタートから遅れちまった俺の気持ちなんて!」バキッ

 

(わかるよ・・・。)

 

「誂え向きの個性で生まれて!

 

認めてくれる仲間がいて!」ドスッ

 

(それは僕の力じゃないから・・・。)

 

「望んだ場所に行ける奴等には、わかんないだろ!!」

 

(そうだ、僕は恵まれただけだ。師に・・・友に・・・。)

 

パシッ

 

(だから!)

 

緑谷は心操の拳を掴むとそのまま押し返した

 

肘が伸びきっていた心操はたまらず後ろに倒れ緑谷の上から退いていく

 

(勝って見せなきゃいけないんだ!

 

無個性(あの頃)の僕がいての今だって!

 

無個性(あの頃)の僕からの自分の力だけで!)

 

その隙に緑谷は立ち上がると

 

「クッソがぁ!」

 

体勢を建て直そうと立ち上がり顔をあげた心操に綺麗なワンツーをねじ込む

 

「グファッ・・・!」フラッ

 

緑谷は脳が揺れ力が抜けた心操の髪を掴み左手を回転させる

 

「あの動きは!」

 

「テリーちゃんの!」

 

 

そのムーブに見覚えがある二人は反応する

 

 

放たれたその拳は

 

(オ、オール・・・マイ・・・ト・・・?)

 

心操に幻覚を伴いながら吸い込まれていった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

______がその比類なき力を使うのは

 

己のためにあらず

 

必ず世のため

 

人のために

 

その力を使うべし

 

しかしその際に決して忘れてはならぬ事がひとつ

 

それは世のため人のため

 

__が力を振るい闘う相手もまた

 

__が救うべき「人」の中に含まれているということである

 

ゆえに世を救い人を救うという行為の真理たるや

 

闘うべき相手をまず救う事にあると心得るべし

 

 

 

~偉大なる先人の言葉より抜粋~

 

 

 




次回、テリー出陣!!


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戦いの懐、花の誓い の巻

激しい殴り合いの末、勝利した緑谷だったが自身もまた相当に傷ついていた

 

よって勝利の余韻に浸る暇なく緑谷も仲良く救護室へと搬送されていった

 

会場には二人への惜しみ無い拍手が上がり一部からは敗北した心操への称賛の声も上がっていた

 

「心操!よくやったぞーっ!」

 

「カッコよかった~!!」

 

「お前は普通科のホープだーっ!!」

 

沈んだ意識にその声が届く筈はない、しかし心操のその顔はどこか笑って見えた

 

◯緑谷VS心操●(ストレートパンチK.O.)

 

緑谷出久 二回戦進出

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

二人の搬送を終えたスタジアムの熱気は先程の戦いの熱を維持したまま第二試合へと突入していった

 

・・・しかしその熱気は

 

「悪ィな」

 

キィン!!

 

突如現れた氷山によって瞬く間にかき消された。

 

「や、やりすぎだろ・・・!」

 

対戦していた瀬呂は哀れにも轟の出した氷山に捕らわれギブアップを余儀なくされた

 

◯轟VS瀬呂●(ギブアップ)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

にわかに会場がざわつき始める

 

それは先程行われた圧巻の瞬殺劇への感想か、はたまた次に出で来る者への期待か・・・。

 

「ヨッシャアァ、テメぇら待たせたな!

 

いよいよ第三試合を始めるぜ!!」

 

 

プレゼントマイクの声に観客が反応する

 

それは観戦する生徒たちも同じ

 

「ま、間に合った・・・。」

 

「デ、デクくん!?

 

大丈夫なん!?」

 

A組の観戦席に治療を終えた緑谷が帰ってきた

 

リカバリーガールの治療を受けたとはいえ体力面の事を考えれば保健室で休んでいた方が・・・

 

と回りは心配するが

 

「うん・・・。

 

普通に考えたらそうなんだけど、どうしても生で見なきゃって思ったんだ。」

 

緑谷の視線は既にスタジアムに向いていた

 

そしてそれは

 

「・・・・・・ッ!!」ギリギリ

 

「・・・・・・。」ググッ

 

両目に力を込めてその一挙手一投足を逃すまいとにらむ轟、爆豪を筆頭にトーナメント参加者達も同じだった

 

「ザ・中堅って感じ!?

 

頼れるけどなんかずれてるA組委員長!!

 

A組、飯田 天哉!

 

 

 

VS

 

 

 

アイルビーバック!

 

不屈の精神にて這い上がり早くも注目株!

 

翔野テリー!」

 

 

 

二人がスタジアムに姿を見せる

 

「テリーくん!第一種目での君の行動は素晴らしいものだ!

 

同じくヒーローを目指すものとして誇らしく思う!」ビシッ

 

飯田は独特の動きを交えテリーを称賛する

 

「・・・だからこそ君を越えたい!

 

この体育祭のなかだけの勝利でもいい!

 

君を越えて僕は高みを目指すっ!」ブォォォォン!

 

「COME ON!」

 

「始め!」

 

ダシュン

 

ミッドナイトの開始の合図と同時に飯田は駆け出し一気に間合いを詰める

 

「おっと!いきなり仕掛けたぜ!!」

 

「飯田は179cm、テリーは190cm他の奴よりはまだましだが体格差はあるからな、相手が構える前に勢いを乗せて仕掛けそのまま押しだそうってところだな。」

 

 

「このままっ!」ダダッ

 

「ふんぬっ!」グゥッ

 

ガッシイイイイ

 

飯田は最初の勢いのまま正面から組み付く

 

ブォォォォォオン

 

足の排気口からけたたましい爆音と煙を吐きながら足を動かそうとするが・・・

 

(なっ、なんだ・・・、この重さはッ!?)

 

「ヌウウウウ・・・ッ!」グググ

 

まるで根が生えたかのように動かないテリーに

 

「っっっ!?」

 

飯田の目にあるビションが浮かぶ

 

それは幾年もの間、風雨にさらされそれでも折れずに生き抜いてきた大樹

 

地に深く根をはり、その幹は太く微動だにしない

 

 

「た、耐えたぁぁぁ!翔野テリー、飯田の突進を真正面から受け止めたぞ!」

 

(くっ、やはり正面は無理か・・・。

 

ならば!)バッ

 

飯田はテリーを振りほどき距離をとる

 

『トルクオーバー・レシプロバースト!』ダシュン

 

「出やがった~~~!

 

委員長の超加速っ!」

 

(あの超加速、さすがのテリーも視界から消えたように感じるだろう。

 

・・・だがお前も無策じゃないだろ、どう対処する?)

 

 

盛り上がるプレゼントマイクの横で静かにテリーの次の一手を見定めようとする相澤

 

(いける!このまま後ろからっ!)

 

「取った!!」

 

加速のスピードを利用して一気に背後に回り込み背中から押し出そうと試みる飯田

 

その手がテリーの背中をとらえた

 

「委員長、そりゃ安易だぜ。」

 

筈だった

 

「なっ!?」スカッ

 

飯田は訳がわからなかった

 

なぜなら先程正面で感じ取っていた力強さが一転、まるで柳の枝のように軽くなる

 

そしてその溢れた力は前ではなく下に向かう

 

飯田の視界が一気にぶれる

 

『テリー式サムソンクラッチ!!』

 

気がつくと飯田の視界は一面コンクリートに覆われる

 

「くわっ!?」

 

このままでは不味いと飯田は本能的に顔をしたに向ける

 

「っ、これは・・・!」

 

外から見ていた相澤も驚きを露にする

 

「なんだ、なんだ!?後ろを取ったと思われた飯田が一気に仰向けに倒されたぞ!

 

何が起こったんだ!?」

 

「・・・足を後ろに上げたんだ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

同じころ緑谷もテリーの行動への仮説を呟いていた

 

「足を後ろに上げて飯田君の力をすかしたんだ。

 

テリー君の力を知っている飯田君は当然力を込めて押そうとする、すかされた勢いは行き場を失い前に重心がずれる。」

 

急にぶつぶつ話始めた緑谷に驚くがその言葉は聞き逃せずにいた

 

「そして後ろに上げた足を飯田君に絡ませて自由になった手は勝手に迫る足を掴む。

 

そうすると・・・。」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ぐはっ・・・!」

 

勢いよく前回りをするはめになり地面に仰向けになる飯田

 

(不味い!この体勢は!)

 

「遅い!」

 

自らの危機を感じ素早く起き上がろうとした飯田だったが既に足は立っているテリーに取られていた

 

テリーは飯田の足を自らの足に巻き付かせるように捻りあげる

 

『スピニング・トゥ・ホールドッ!!』

 

ガッシイイ・・・!

 

 

「ぐああああ・・・ッ!」

 

 

 

「翔野テリー、エグい技で飯田をとらえたーーー!!」

 

「足首や膝・・・飯田の個性においてまさに急所だ。

 

そこを一斉に極められたな。」

 

 

 

 

 

「ッ!!」ズキッ

 

観客席で見ている爆豪にも自身が極められた経験のある右足に痛みが走ったように錯覚する

 

 

 

 

「まだまだいくぜ!!」

 

グワッ ガシッ

 

グワッ ガシッ

 

更に体を回転させ捻りを強くしていくテリー

 

「ぐはあっ・・・!」(慌てるな、最初の演習の時を思い出せ!)

 

三回転目に入ろうとしたところで、

 

「今だ!」バシッ

 

「クアッ!?」

 

テリーが体を離したところを狙い蹴り飛ばす飯田

 

「ヨシッ、これで・・・!?」ズキッ

 

ガクッ

 

技から逃れ立ち上がろうとするも既にダメージを受けた足に力が入らず

 

「く、くそ・・・こんなときに、はっ!?」

 

一瞬自らの足に目をやってしまった

 

その一瞬が命取りだった

 

『テキサス・コンドルキック!』

 

ガツンッ

 

鈍い音を響かせてテリーの膝が飯田をとらえ飯田の体は完全に脱力してしまった

 

「強烈なヒザが炸裂!

 

勝者、翔野テリー!!」

 

ワアアアアアアアアッ!

 

 

◯翔野テリーVS飯田天哉●(テキサス・コンドルキック)

 

 

(ちぃっ、厄介だな。

 

あのガタイで脳筋なら戦いようはあるが・・・。)

 

 

(戦いのなかでの閃き、そしてそれを体現する術に長けている。

 

あまり悠長に戦ってはいけないが初手を誤れば敗北に直結するか、どうしたものか。)

 

 

(そもそも他の生徒よりも持ってる引き出しの数が多い。

 

これだけ個性という浮世離れした力が一般的になった今だからこそ個性に縛られずに戦っている。

 

この思考に行き着けるのはプロでもそうはいない、一体どんな日々を過ごせばその領域までたどり着けるんだ・・・。)

 

 

爆豪、轟といった戦闘に秀でた面々や同じく近接格闘を主とする相澤もテリーの持つ強さに興味津々だった

 

しかし当のテリーの視線は別の男を捕らえていた

 

「・・・テリーくん!」

 

視線に気づいた緑谷の体は知らずのうちに震えていた

 

それは恐怖か、緊張か、はたまた・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

続いて行われた第四試合も再び殴り合いとなった

 

切島と鉄哲

 

硬化とスティール

 

似たような個性のため必然的にバトルスタイルも被る

 

 

「ま、負けられねえ!俺がB組の名を汚す訳にはいかねぇんだ!」

 

「ッッッ!?」ゾクッ

 

ガンッ

 

ゴンッ

 

 

二人がまったく同じタイミングで繰り出した拳は双方の顔面をとらえた

 

しかし、

 

「があぁ・・・。」ドサッ

 

倒れたのは切島だった

 

鉄哲が最後の最後に見せた気迫

 

そこに怯んだ心の隙が勝敗を分けた

 

●切島VS鉄哲◯(カウンターパンチKO)

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後の試合も各々の色がぶつかり合う闘いが続いていった

 

 

第五試合は上鳴VS発目

 

サポート科から参戦している発目は自らの試作品を勝敗度外視でプレゼンしたいと申し出で対戦相手である上鳴をテスターに指名

 

女子からの指名に気を良くした上鳴はにやけ顔で快諾

 

観客席から「この裏切り者ォォォーーー!!」と声が響いた

 

まんまと発目に利用され商品の実演説明に付き合う破目になった上鳴、やがて

 

「ふぅ、これで満足です!

 

もう思い残すことはありません!」

 

そう言い終えると発目は自ら場外に出ていった

 

「発目、場外!

 

上鳴電気、二回戦進出!」

 

女子と絡めたことと二回戦に進出したということで喜ぶ上鳴だったがヒーロー科、特に女子は頭を抱えていた

 

上鳴はこの時気づいていなかった、自身のアピールを何一つしていないことに・・・。

 

何はともあれ上鳴電気二回戦進出

 

◯上鳴電気VS発目明● (場外)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

続く第五試合は

 

「うっ・・・!?」ギュルル

 

「今ですわ!」バキッ

 

一撃で仕留めようと後先考えずレーザーを放ち腹痛をおこした青山を避けに徹していた八百万がその瞬間を見計らい勝負あり

 

八百万百、二回戦進出

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

麗日は今控え室にいた

 

今頃常闇と芦戸の戦いが始まっている

 

次は自分の番

 

相手は爆豪

 

ヒーローとしては如何なものかと思われるほどの攻撃的性格、それを体現したかのような個性

 

更に選抜されたA組にあっても目を見張る程のセンスの塊

 

間違いなくA組の上位に位置する男

 

緊張で体が震え出す

 

ガチャ

 

「麗日さん。」

 

「デクくん・・・。」

 

対戦相手の爆豪の幼なじみでもある緑谷は少しでもアドバイスを送ろうと控え室へ来てくれたのだ

 

その優しさに心が温まる

 

しかしそれと同時に

 

 

 

ーーっ来い!ここから先は、僕が相手になってやる!!

 

(・・・ッ!!)

 

脳裏に浮かんだのは彼のこの前の勇姿

 

「・・・ごめん、デクくん。

 

アドバイス、別に要らないや。」

 

「え?」

 

本当に自分はまだまだ未熟者だ

 

「これは私の闘いだから、私の力で乗りこえたいの。」

 

目の前にいる彼は命の確証がない戦場へ友を救いたいという一心で飛び込んでいった

 

「・・・来てくれたのは本当に嬉しかった。

 

でも、ここからは自分でやるから。」

 

対して自分はなんだ、高々訓練の一貫で足が震えている

 

情けない。

 

「試合終了~~~!勝者、常闇踏影!」

 

それでデクくんやテリーくん達と並んで先に進もうなどおこがましい

 

「デクくん!

 

・・・決勝で会おうぜ!」グッ

 

上手く笑えてる自信はなかった

 

でももう迷いはなかった

 

彼の様な強さはない

 

けど、だからって逃げてはヒーローではない

 

勝つか負けるかなんてどうでもいい、どれだけ無様だろうと抗ってみせる

 

そして終わったらまた彼らの横に立って歩こう

 

 

 

 




次回、戦いは二回戦へ突入!熱戦は終わらない!


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戦う理由、勝ちたい理由 の巻

一回戦最終試合

 

爆豪勝己VS麗日お茶子

 

双方の事を知るA組は神妙な面持ちでこの戦いを見守っていた

 

単純に考えれば男子VS女子

 

そこだけでは測れないのがこの個性社会

 

先の八百万の様に個性を駆使すれば単純な肉体的性差なんてはねのけられるし、現にプロヒーローの中にも女性ヒーローは活動しておりヒーローチャート上位に食い込む者も存在する

 

しかしそれでも相手が相手だけに気がかりなのだ

 

対する爆豪勝己

 

とある事件をきっかけに一躍有名になった男だが、その個性の有用性はやはり素晴らしく

 

また彼自身もそれに驕ることなく鍛練を重ねている

 

更には初日から周囲に喧嘩腰で接し、そんな不遜な態度を押し通す程の実力を知らしめている

 

現在のA組にあっても上位に位置すると思われる男

 

故に

 

「お茶子ちゃん、大丈夫かしら・・・。」

 

特に親交のある蛙吹の言葉にだれも応える事ができなかった

ーーーーーーーーーーーーー

 

「おい、お前浮かす奴だな丸顔。

 

退くなら今退けよ、痛てぇじゃすまないぞ。」

 

「・・・そんな気持ちでここにはおらん!」

 

棄権を促したのは爆豪なりの優しさだろう、しかし麗日はそれを蹴った

 

「・・・そうかよ、だったら容赦しねぇ!」

 

開戦と同時に双方が仕掛ける

 

速攻

 

これが両者の出した攻略方法

 

麗日は五指で触れて浮かせる事で無力化を図るが

 

BOOM!!

 

「うわっ、エグい・・・。」

 

「女子相手にあれかよ!?」

 

手加減なしの爆破攻撃で宣言通り容赦なく攻め立てる爆豪

 

なんとか一矢報いようと必死の応戦で粘る麗日の姿にやがて観客の気持ちは爆豪へのブーイングとして発散された

 

しかし

 

「今言ったのは誰だ、プロか?何年目だ?くだらない事を言うのなら今すぐ帰って転職サイト見てろ!」

 

相澤の一喝により鎮圧

 

「ありがとう、最後まで油断しないでくれて!」

 

そんな中で試合は最終局面を迎える

 

麗日の秘策

 

爆豪の爆破によって破壊されたステージの破片を個性で浮かしてからの一斉解除

 

まるで流星群の如く爆豪に降り注ぐコンクリート片

 

誰もが期待した

 

麗日お茶子の大逆転劇を

 

しかし・・・

 

「デクのヤロウとつるんでッからなてめぇ、何か企みがあるとは思ってたが・・・危ねぇな。」

 

爆豪は自らの最大出力で正面突破してみせた

 

圧倒的実力、自らの捨て身の攻撃を看破されて打つ手無しの絶体絶命

 

「・・・フフッ。」

 

それでも

 

「・・・なに、にやついてんだよ。」

 

「あ、あの子・・・笑ってる!?」

 

「この状況でか!?」

 

笑顔を浮かべる麗日にプロヒーロー達も驚きをみせる

 

「テ、テリー君が前に言ったやろ・・・困難に直面したときほど、魂が燃え上がるって・・・!

 

ウチもそうなんや・・・いや、そうならないかんのや・・・!!

 

でないと、ウチは・・・みんなと並んで歩けん!!」

 

痛々しい姿で、切なる思いを叫ぶ麗日

 

「・・・そうかよ。

 

だったら、思いっきり叩き潰してやるよ!」

 

その思いを受け止めた上で全力で潰す事を礼儀と一気にとどめにかかる爆豪

 

BOOM!!

 

一際強い爆破が麗日を包む

 

あまりの威力に皆が目を背けるが

 

(手応えが・・・ねぇ!?)

 

麗日は自らに個性をかけ上に回避

 

そこから

 

「解除ッ!!」

 

爆豪の真上から落下すると

 

(この前のテリー君のように・・・!)

 

麗日がヒントにしたのはテリーが脳無に敢行した飛びつき腕ひしぎ十字固め

 

しかし麗日がそれを行うにはパワーが弱すぎる

 

(一ヶ所で極めきれないなら、何個も極める!)

 

左足を右腕に絡ませてフリーの上半身で左腕を手前から絞りあげ腰を無理やり捻る変形の卍固め

 

『未完成版・麗日スペシャル!!』ガギッン

 

「き、決めたー!麗日ここで逆転の必殺技!このままギブアップをもぎ取るのか!?」

 

「・・・いや。」

 

 

「ぐおおおおお・・・ッ!?」ギリギリ

 

(父ちゃん・・・母ちゃん・・・ウチね・・・。)フラッ

 

苦悶にあえぐ爆豪だが不意に解放されることになる

 

「時間切れだ。」

 

ドサッ

 

限界を越えて個性、肉体を共に酷使した麗日

 

あと一歩の所で体力の限界を向かえ脱力し爆豪の上から落ちてしまった

 

ミッドナイトがすぐにかけより

 

「麗日さん、戦闘不能。

 

勝者、爆豪くん!」

 

爆豪の勝ちが告げられた

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

一回戦が全て終了

 

緑谷は麗日の身を案じながらも次の試合に向けて控え室へ向かう

 

「HEY!イズク。」

 

「テリーくん!」

 

自分の次に試合するテリーも控え室へ向かうと言うのだ

 

訳を聞くと

 

「あまり待ちが多くても良くない、少し体を動かしておかないとな。」

 

テリーと二人で控え室へ向かう

 

 

 

その道中で

 

「「「!!」」」

 

勝利を手にし観客席へと戻る途中の爆豪に鉢合わせる

 

「か、かっちゃん・・・。」

 

「なに見てんだ!殺すぞ、クソザコが!」

 

目が合うなり罵倒する爆豪

 

「ハッ、相変わらず騒音公害だなボンバーマン。

 

俺達は次の試合に向けて控え室へいくんだよ。

 

じゃあな、先に上で待ってるぜ。

 

行こうぜ、イズク。」

 

「う、うん。」

 

「おい、待てや。」

 

爆豪が呼び止める

 

「最後の策と技、てめぇらが教えたんか?」

 

「いや、僕たちはなにもしていない。」

 

「ああ、彼女一人の力さ。

 

お前は他の誰でもない麗日お茶子という名のFighterのSpiritに追い込まれたんだ。」

 

二人はそう言い残すと今度は振り返りもせず控え室へ歩き出した

 

その背に刺さるような視線を浴びながら・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二人がまもなく控え室へ着くという所で

 

「お、君達は・・・。」

 

前からエンデヴァーがやって来た

 

「二人一緒とは好都合だ。

 

君達に言いたいことがあってね。」

 

「おいおい、俺はまだしもイズクは次の試合だぜ?」

 

「ハハハッ、それはすまない。

 

しかし、君達の個性は見事だ。

 

オールマイトに匹敵するパワーの持ち主と、卓越した洞察力とテクニックの持ち主。

 

焦凍の同世代にこれ程のレベルの子供がいるとは思わなかった。」

 

「はあ、ありがとうございます。」

 

 

 

「焦凍はオールマイトを越える義務がある!

 

唯一無二の個性、あれを使いこなせればそれも難しくはない!

 

しかし、頑なに左を使おうとしない。

 

そこで、君達との試合はその有益なテストヘッドになるだろう。

 

是が非でもギリギリの状況まで息子を追い込んでほしい、そうすれば彼左を使わざるをえないはずだ。

 

・・・その為にもみっともない試合だけはしないでくれたまえ。

 

言いたいことは以上だ、試合前にすまなかったな。」

 

エンデヴァーは二人を通りすぎた

 

「僕は、オールマイトじゃありません。」

 

「そんなのは当たりま「当たり前のことですよね!」

 

「轟くんも、あなたじゃない!」

 

「安心しな、No.2 。あんたが大事に大事に育てた調教不足のチワワちゃんに、イズクがお灸を据えてくれるってさ。

 

あんたのお望み通り追い込んでやるよ、うっかり勝ってしまうだろうけどな。

 

そんで準決勝のカードは俺とイズクだ。

 

・・・行こうぜイズク。」

 

エンデヴァーは振り返るも二人はそのまま歩き始めた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

控え室

 

「テリーくん。」

 

「ああ、行ってこい。見ててやるさ、お前の英雄魂(ヒーロースピリット)をな。」

 

 

 

「さあ、いくぜ!

 

二回戦第一試合!!」

 

ワアアアアアアアアアアアアアアア!ッ!

 

「今大会トップクラスの成績でここまで来た両雄

 

緑谷

 

VS

 

 

準決勝に進むのはどっちだ・・・START!!」

 

キィン

 

ブオオオ

 

「両者の初手は互いにブッパだーーー!!」

 

轟は一回戦と同様に巨大な氷山での拘束、短期決戦へと持ち込もうとするも緑谷は自らの指を一本犠牲にした攻撃で氷山を破壊

 

しかし轟はそれを見越したように第二波を放つ

 

 

「まだまだッ!」

 

更に指一本犠牲に破壊

 

その隙に轟が接近し近距離からの氷結を試みるも

 

「スマァッシュ!!」

 

「ぐっ!!」

 

無事な腕を丸ごと犠牲に放った高威力の一撃で粉砕

 

なんとか後方に氷の壁を展開し場外を逃れた轟は

 

「守って逃げてるだけでボロボロじゃねぇか」

 

冷静に戦況を見ていた

 

ーーー既に相手は手負い、このまま攻め続ければ勝ちは揺るがない

 

周囲も

 

「もうそこらのプロヒーロー以上だな。」

 

「流石No.2の息子って感じだ。」

 

轟優勢と見ていた

 

だが

 

(・・・震えている?)

 

緑谷は見逃さなかった

 

かすかな逆転劇の糸口を・・・

 

「悪かったな、ありがとう緑谷。

 

お陰で・・・奴の顔が曇った。」

 

「・・・どこを見ているんだ!!」

 

フィニッシュを決めようとした轟へ更に指を犠牲にしての攻撃

 

会場も驚きに包まれる

 

 

「個性だって身体機能の一つだ。

 

君自身も冷気耐えられる限度がある。

 

でもその問題も左を使えば解決できるんじゃない?

 

全力でかかって来い!

 

今の君じゃ、僕には勝てないぞ!!」

 

「・・・親父に金でも積まれたか?

 

お前に勝てない?なにふざけた事を言っているボロボロなのはお前じゃねぇか!」ダッ

 

(また近距離で一気に詰めて凍らせッ・・・!)

 

一気に攻め込もうとした轟に

 

「だあああっ!!」

 

 

「アーッと緑谷のカウンター!

 

生々しいのが入ったぞ!!」

 

 

「なんで、そこまで・・・!」

 

「僕は君の過去は知らない・・・。

 

君の心にあるわだかまりや苦悩は僕なんかじゃはかり知れないし

 

君の決心もわからないよ。

 

でも僕にだって譲れない夢があるんだ!

 

越えたい背中がある!

 

並びたい背中がある!

 

その為にも、僕は君を越える!」

 

緑谷の必死の反撃により会場の空気がにわかにざわめきだす

 

さっきまでの轟の勝利確定の雰囲気は緑谷の逆転勝利への期待へと変わっていく

 

その温度差は轟の心に孤独感として襲う

 

身体のダメージはそれほどでも心のダメージは時に致命傷に勝る

 

なにか打開しようと頭をフル回転する轟の脳裏に浮かぶのは

 

「・・・それでも、俺は、親父をッ」

 

「君の、力じゃないか!!」

 

ーーー(いいのよ、血に囚われことなんてない。なりたい自分になっていいんだよ。)

 

 

ボウ

 

「どうやらイズクのお灸が効いたようだな。

 

しかし、相変わらず無茶するぜ。」

 

 

 

 

「これは!?」

 

何度目かの戦況の変化に会場も食いつくように目を見張る

 

「・・・すっご。」

 

「お前、イカれてるよ。敵に塩を送って、追い込まれてるのに笑うなんて。

 

知らねぇぞ、こっち使うのは久しぶりだから加減が効かねぇ!」ゴォォォ

 

「うん、大丈夫。

 

全部受け止めて、それを越えていくよ!」バチバチバチッ

 

轟の体を炎が

 

緑谷の体を閃光が包み込む

 

最後の一撃

 

二人は声に出さずとも確信していた

 

(今のままじゃ足りないもっと、力を!)バチバチバチッ

 

「いくよ、轟くん!」ダンッ

 

閃光を纏ったまま緑谷は上空へと飛び上がる

 

(ジャンプでの高低差、ここに回転を加えて・・・!)

 

「ウアアアアッ!」ギュルギュルギュル

 

「緑谷決死の一撃だーッ!」

 

「なんてパワーだ、まるで緑谷の体が光の矢のように・・・!」

 

 

「・・・緑谷、ありがとな。」

 

轟も最大出力の炎で迎撃

 

二つの巨大エネルギーがぶつかり

 

会場は轟音と共に一気に霞の中へと姿をかえた

 

「な、なにが・・・?」

 

「会場の冷やされてた空気が今の熱エネルギーで一気に膨張したんだな。」

 

解説席のプレゼントマイクと相澤もあまりの威力に驚きを隠せないでいた

 

やがて霞が晴れると

 

氷の壁を背中に場内に踏みとどまっている轟と

 

「ナイスファイトだ、イズク。」

 

場外へ吹き飛ばされた緑谷とその緑谷が壁に叩きつけられぬ様に壁の前で受け止めているテリーの姿があった

 

「・・・ご、ごめん、テリーくん。

 

き、君との約束、守れなかっ・・・た。」

 

その言葉を最後に緑谷の意識は途切れ

 

轟の勝利が叫ばれた

 

○轟焦凍VS緑谷出久●(場外)

 

「フッ、こんな時までお前は他人の事を思えるんだな。

 

流石、俺の見込んだ男だよお前は!」

 

気を失った緑谷を抱えテリーは救護室へと向かった

 

その様子を見ていたミッドナイトはおおよそメディアに映ってはいけない状態だったとの事だった

 

 

 

 




次回、折れない体と揺るぎない魂、必然の激突!


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アイアンハートとテキサスブロンコ の巻

激しい戦いが行われた為に傷ついたフィールドの修復とミッドナイトの精神状態を安定させる為に小休止が与えられていた

 

「こうなっちゃうのね・・・。」

 

「ん。」

 

「これもまた神の思し召し・・・。」

 

二回戦第二試合

 

翔野テリー

 

VS

 

鉄哲徹鐵

 

電光掲示板に書かれた文字

 

B組の女子メンバー達はなんとも心苦しい表情でいた

 

普通ならB組の代表として目下奮闘中の鉄哲を応援するところだが、対戦相手のテリーはポニーのボーイフレンドだ

 

二人の仲の良さをよく知る彼女達からしたら鉄哲の事を応援するのも少し気が引けてしまう

 

しかし

 

「鉄哲、ファイトイッパツデース!!」フリフリ

 

えらく気に入ったのか未だにチアガールの格好をしたまま鉄哲の応援をするポニー

 

「ね、ねぇポニー・・・。

 

無理して鉄哲を応援しなくてもいいんだよ。」

 

「What?

 

どうしてデスカ一佳(イツカ)?」

 

「ど、どうしてって・・・

 

テリーはあんたにとって大事な人じゃないか、だったらそっちを応援してあげなきゃ・・・。」

 

一佳の言葉にポニーは首を横に振った

 

「それはノープロブレムデス。

 

今のワタシはB組の角取ポニーデス、B組の鉄哲を応援することは不思議じゃないデス。

 

テリーもきっとそうするべきだと言ってくれマス。

 

それに私がなにも言わなくてもテリーは頑張ってくれマスヨ。」

 

「・・・そっか。」

 

「信頼されているのですね。」

 

「ほんと、ウラメシイ関係ね・・・。」

 

「ん」

 

そこへ・・・

 

「アッハッハ、素晴らしい!素晴らしい心がけだよ、ポニーさん!

 

そうとも、そうとも。

 

僕らB組が優秀だと知らしめる為にも鉄哲には優勝してもらわなくては!

 

その為にもB組一丸となっての応援は必要不可欠!

 

さあ、声高らかに応援しよう!」

 

「YES!

 

鉄哲!

 

ボコッちゃってクダサ~イ!!」

 

「なに教えてんだ!!」ズビシッ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあさあ、いよいよ再開だ!

 

 

鉄哲鐵徹

 

VS

 

翔野テリー

 

 

このバトルは確実に熱い展開が待っている!

 

俺の勘がそう告げているぜ!!」

 

二人が会場に出てくるが

 

「・・・・・・。」ザッ

 

「ち、ちょっとテリーくん!?

 

所定の位置で止まって!」

 

 

ミッドナイトの制止の声も意に介さずテリーは更に闘技場の中心に歩み寄る

 

「・・・へッ、なるほどな!」ザッ

 

すると鉄哲も中心に歩み寄ってくる

 

「そうだよな、俺たちの個性は小細工なんてできないんだから最初ッから近寄った方がやり易いもんな!」

 

「話が早くて助かるぜ、鉄哲。」

 

「アーッと、二人とも早くも互いの射程圏内!

 

しかしこれでスタートでいいのか?」

 

「双方がいいって言うなら問題ないだろ。

 

それに・・・。」

 

「ああん!

 

もう・・・なんて青臭い・・・いいわ!

 

許可します、思う存分やりあいなさい!」

 

「Thank You。」バサッ

 

許可が降りるやすぐにテリーは上半身の衣服をまとめて脱ぎ捨てる

 

「ウワッ!?」

 

「ッ!!」

 

「ムゥ・・・!!」

 

露になったテリーの肉体にチャート上位のプロヒーローや近接格闘を主とするプロヒーロー達は刮目した

 

オールマイトもまたその一人だった。

 

(戦闘訓練の時から思っていたがなんと鍛え上げられた肉体だ。

 

私が学生の頃ですらここまでいかなかったのに・・・。)

 

 

 

「さあ、始めようか!」

 

「ウオッシャア!」ガチン

 

「さあ、始まるぜ!

 

男と男の真剣勝負!

 

こっから先は拳で語り合え、てめぇら!!」

 

「始め!」

 

ミッドナイトの合図と同時に

 

「ハアッ!」シャッ

 

「ウリャ!」バッ

 

ガキョオオオオン

 

「ファーストコンタクトは拳と拳ーーーーーー!」

 

互いの右ストレートが衝突する

 

「アッハッハ、鉄哲の個性は【スティール】!

 

生身の拳でぶつかるなんて自殺行為だよ!」

 

ブシュッ

 

「ウオオッ!?」グオォッ

 

 

「な、なんと!

 

押し飛ばされたのは鉄哲の方だ~~~!?」

 

「しかし、テリーの拳も無事じゃないな・・・ッ!?」

 

相澤の指摘した通りテリーの拳から血が流れ落ちる

 

しかし

 

「まだまだ行くぜ!」ガシッ

 

圧力に負け怯んだ鉄哲へ一気に距離を詰めて左手で髪を掴み

 

「ヌンッ!!」

 

ゴキャ

 

血濡れた右拳を顔面に打ち込む

 

「ヌゴッ!」

 

「まだまだぁっ!!」

 

ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ

 

二発、三発、四発・・・と鈍い音をあげながら拳を叩き込み続けるテリー

 

「な、なんてバカなことを・・・。

 

あんなことをすれば彼の拳だってただじゃすまないはずだ!」

 

拳同士がぶつかったとき余裕に見ていた物間の顔が驚愕に染まる

 

「・・・それがテリーなんデス。

 

彼は目の前の勝負にいっつも全力なんデス。」

 

「ウゴッ、んなろ!

 

やられっぱなしでたまるか!」バシッ

 

鉄哲は掴まれた手を振り払い

 

「お返しだ!!」ブンッ

 

全力で振りかぶった拳は・・・

 

「ヌンッ!!」バキャッ

 

「あがっ!?」ガキョッ

 

「な、なんと~~~~ッ!!

 

翔野テリー、頭で迎撃!?」

 

「拳に対して額の一番固いところを合わせたな。」

 

プシュャ

 

パタタッ

 

鉄哲の拳とテリーの額から血が流れる

 

「がっ、あああ・・・!?

 

な、なかなかやるじゃねえか・・・!」

 

「鉄哲よ!

 

俺はいった筈だぞ!

 

命をかける覚悟があると!!」クルクル

 

額から流れ落ちる血に目もくれず、テリーは左手を回転させるムーブを行い

 

『ブロンコ・フィストーーーッ!!』

 

ゲシャ

 

鉄哲の鼻っ柱に左拳を叩きつけた

 

「ブガアッ!?」ズザザッ

 

そのあまりの勢いに鉄哲は背中から倒れていった

 

「どうした鉄哲!

 

そんなものか!!」

 

テリーの一喝がスタジアムに響いた

 




次回、このままでは終われない鉄哲、意地を見せれるか・・・。


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漢が一度背負ったなら の巻

「ウググ・・・。」グググ・・・

 

「フンッ!」バッ

 

テリーは起き上がりかけていた鉄哲の頭を掴み

 

「ほらほらどうした、もう終わりか!」ガシッ

 

「ぐああああ・・・ッ!!」ギリギリ

 

ヘッドロックで締め上げる

 

「つ、強い・・・。」

 

「あれだけ近接戦闘の基礎がしっかりしているなんて、近年稀に見る即戦力だ!」

 

「しかもただ力任せじゃなくて一回戦で見せたテクニックもある、これはまた一人とんでもないのが現れたぞ!!」

 

テリーの戦いぶりをプロヒーロー達は嬉々として見ていた

 

 

 

「う、嘘だろ!?」

 

「鉄哲殿があんな一方的に・・・。」

 

B組もまたテリーの実力を目の当たりにして言葉を失っていた

 

鉄哲が決して弱くない事を皆知っている

 

B組の中でもシンプルながらその個性を生かした前衛としての実力は屈指のものだ

 

「こ、これがA組とB組の差なのか・・・ッ!?」

 

誰かが口惜しそうに呟いた

 

ヒーロー科を合格した41人、倍率300倍とも言われる難関を潜り抜けてきた精鋭であることは間違いないがクラス分けでA、B ときっぱり分けられたことにより学校側が否定しても序列を作られた様に映ってしまう

 

更にA組は入学早々ヴィラン襲撃事件に巻き込まれこれを乗り越えたと世間から注目の的になった

 

同じ難関を突破してきた彼らとしてはおもしろくなかった

 

なんとかしてこの状況をひっくり返そうとこの体育祭に挑み、鉄哲に望みを託したのだ

 

しかし・・・

 

「どうしたどうした! B組の覚悟ってのはそんなものか!?」

 

B組の希望はいまや風前の灯になってしまう

 

「鉄哲よ、お前が背負ったものはそんな軽いものじゃないはずだ!」グググッ

 

テリーは更に頭部への締め付けをキツくすると

 

 

『テキサスブルドーザーッ!』ブンッブンッブンッ

 

そのまま体を激しく左右に揺らしさらに締め付けを強めていく

 

「見せてみろ!B組の魂を!

 

そして拳を通して教えてくれ!お前の背にかかるモノの重みを!」バッ

 

ヘッドロックをかけたままテリーが足を前に投げ出し

 

『ブルドッキングヘッドロックッ!』ゴシャ

 

地面に叩きつけた

 

 

「ヌオオオッ・・・ッ!?」ヨロヨロ

 

「今だっ!」ビシュン

 

『テキサス・コンドルキックッ!』ドキャ

 

顔面を押さえながらなんとか立ち上がってきた鉄哲に間髪入れずにテリーが猛攻を仕掛ける

 

 

 

「おおッ!すごいな彼は!」

 

「前衛としてのタフネスは申し分ないし、サブミッションのテクニックは相手を無力化するのにもってこいだ!」

 

「エンデヴァーの息子に、その対戦相手だった子も凄かったし、今年は豊作だな!」

 

観戦しているプロヒーロー達の目も完全に翔野テリーに向いている

 

彼らの目に映るのはA組の生徒のみだ

 

それが堪らなく居たたまれなくなりB組は一人、また一人と意気消沈していった

 

(つ、強えぇ・・・。

 

俺は、ここまでなのか・・・!?

 

B組の意地を見せれずにこんな・・・。)

 

テリーの猛攻を前に鉄哲の意識が薄らいでいくなか・・・

 

「テーツテツ、テーツテツ!!」

 

声が聞こえてきた

 

その声が自身達のすぐ近くから聞こえてくる為、B組は再び顔をあげ声の主をみると

 

 

「テーツテツ、テーツテツッ!」

 

脇目もふらずにポニーが声を張り上げていた

 

テリーの攻勢に沸く会場のなかで鉄哲の名前を大声で叫ぶ

 

当然周囲の目も向くがおかまいなしにポニーは応援を続ける

 

「・・・鉄哲ーっ!頑張れーーーーーー!!」

 

すると拳藤も立ち上がり声を張り上げ激を飛ばす

 

「ほらっ、みんな!

 

まだ試合は終わってないよ!

 

鉄哲がまだ頑張ってくれてるんだ、あたし達が先に沈んでちゃ鉄哲に会わせる顔がないよ!」

 

「ソウデース、みなさんでで応援すれば鉄哲ももっとFightしてくれるはずデース。

 

彼がそういう人だってみんな知ってるはずデース!」

 

「・・・そうだね。」

 

「ん。」

 

 

「鉄哲殿ーーーーーーッ!ファイトですぞーーーーーーーーーッ!!」

 

「ズバババーって感じでボコボゴってすればドバンッと勝てるぞー!」

 

「・・・そうとも、そうとも。

 

なにを勝手に負けた気になっていたんだ。

 

こっからさ、こっからB組の華麗なる逆転劇が幕を開けるのさ!」

 

一人また一人とB組の目に再び生気が宿る

 

 

そして

 

「「「「テーツテツ、テーツテツッ!」」」」

 

「おっとこいつはシビィ!

 

B組からの熱烈な鉄哲コールだ!」

 

 

「あっ・・・ああ・・・ッ!」グググッ

 

倒れていた鉄哲の耳にも自身の名前を叫ぶ声が届いていた

 

「・・・さあ、鉄哲。

 

お前を呼んでるぞ、お前はどうする?

 

ポニーから聞いていたお前はそこでいつまでも倒れている男じゃないはずだぜ。」

 

鉄哲の四肢に再び力が宿り

 

「んぐぐぐ・・・うおっしゃーーーっ!!」

 

「立ったーーーっ!鉄哲、B組の声援を受けて立ち上がったー!!」

 

ウオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

鉄哲の勇姿に観客も大いに沸き上がる

 

「ハアッ、ハアッ・・・待たせたな。」

 

「まったくだ、このまま終わったんじゃ拍子抜けだったぜ。」

 

テリーはやれやれと肩をすくめた

 

「ヘヘッ、わざわざ待ってくれてたってか!お前良い奴だな!」ガギン

 

鉄哲は固くした両拳を胸の前で合わせる

 

「さあ、鉄哲。

 

第二ラウンドだッ!」ダッ

 

「おうとも!!」ダッ

 

二人は共に距離を詰め

 

「フンッ!」

 

「オリャァ!」

 

 

ドスッ

ゴキッ

 

「まだまだ!」

 

「なんの!」

 

グギャ

ドチッ

 

「テイッ!」

 

「フンッ!」

 

「あ、相打ち!相打ち!相打ち!

 

ここに来て両者防御を捨てて殴りあいだ!」

 

ドワアアアアア!!

 

ワンサイドゲームに終わると思われた試合が急に熱を帯びた乱打戦に突入し呼応するように会場のボルテージも上がっていく

 

「いけ!そこだ!」

 

「顎狙え、顎!」

 

「いや金的を!」

 

「そりゃダメだろ。」

 

先ほどとはうって変わって興奮して激を送るB組

 

「おお、あれだけやられていたのにここに来てあそこまで建て直せるのか!」

 

「B組の彼も中々やるな!」

 

「少し融通が効かなそうだが裏を返せば一本気があるとも言える、いずれにせよ要チェックだな。」

 

プロヒーロー達の目にも鉄哲の勇姿は映り始めていた

 

そして

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

全国放送される雄英体育祭

 

苦渋を舐めさせられた敵連合も次回の対策にとテレビで観戦していた

 

「・・・フフフ。」

 

「先生?」

 

不意に死柄木の近くのモニターから声が聞こえてきた

 

「この個性という超常がありふれた世界で只の殴り合いとはね。

 

なんだか懐かしくなってしまったよ。

 

口惜しな、こんな体じゃなきゃ今頃この溢れる熱を発散しようと走り出してしまっていただろうに。」

 

男は暗がりで笑う

 

知らずの内に自らの拳の固さを確かめながら

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「テリャアアア!!」

 

ガキッ グチッ メキャ

 

「ヌオオオオオ!!」

 

ビシッ ドスッ パゴッ

 

互いにダメージを抑えるよりも相手に如何に多く与えるかを選んだ闘い

 

いつ果てるとも知らない殴り殴られを繰り返す両者だが

 

終わりの時が近い知らせが不意に届く

 

「ヌガアッ!」

 

ドギャッ

 

「グハッ・・・ッ!」

 

何度目かわからないテリーのボロボロの拳が鉄哲の顔面を襲う

 

「グ、グオオオオ・・・ッ!?」ガクガグ

 

(て、鉄分が・・・足りねえ!)

 

「おおーっと、急に鉄哲の動きが止まったぞ!

 

どういうことだイレイザー?」

 

「あいつもタイムリミットが近いな・・・。」

 

鉄哲の個性は発動型

 

時間とあまりの試合の激しさに体内の鉄分が急速に失われてしまっていた

 

「ハアッ、ハアッ・・・ッ!」

(終われねぇ!このままただでやられてたんじゃ・・・漢が廃る!

 

・・・ヨシッ、見せてやるぜ漢の花道を!)グググッ

 

鉄哲は意を決して体を起こす

 

「ハアッ、ハアッ、さ、流石だな!

 

ここまでやるなんてポニーが惚気るだけあってやっぱスゲェよ、お前。」

 

「・・・・・・。」

 

テリーはファイティングポーズを解くことなく肩で息を切らしながら鉄哲の言葉に耳を貸す

 

「このまま続けても、たぶん俺は勝てない!

 

いくら俺がバカでもそんくらいはわかる!!」

 

突然の鉄哲の言葉に観客達も動揺する

 

「でもよ、俺もただじゃ終われねぇんだ!

 

そこでだ!あんたの一番の大技を俺にかけてくれ!

 

それを俺は残りの全部の鉄分かけて耐えてやる!!

 

それがあいつらに今見せてやれる俺の精一杯だ!」

 

「なんと鉄哲ここに来てとんでも提案!?

 

おいおいイレイザー、流石にありゃ不味くねぇか?」

 

「・・・鉄哲の言い分もわからなくはない、勝ちを諦めるなど言語道断だがここはそれだけを競う場でなくアピールの機会でもある。

 

下手に乱打戦を続けて打ち負けて終わる可能性が高いなら、最後に自らの個性の最大値を見せておけば周囲の見る目も変わる。」

 

ミッドナイトもそこは理解している

 

だからこそ判断が難しくなっていた

 

テリーが繰り出す大技が予想以上なら下手をすれば鉄哲の命に関わってくるだろう

 

それは双方に深い傷を与えてしまう

 

しかしここで試合を止めては折角帯びてきた熱が逃げてB組の決意はないがしろにされてしまう

 

ミッドナイトがすぐに判断を下せずにいると

 

ダッ

 

ガシッ

 

「わかったぜ鉄哲!

 

お前の覚悟、翔野テリーが確かに受け取った!」グオッ

 

テリーは一気に鉄哲に掴みかかり、頭を脇の下に入れそのまま逆さまに抱えあげた

 

「おいおい!ありゃヤバくねぇかッ!?」

 

「あれは・・・ッ!」

 

鉄哲の体が上下逆になり垂直に抱え込まれる

 

「鉄哲よ!

 

今から俺が繰り出すのは紛れもなく大技だ!

 

お前の意地と誇りに敬意を払いお前を叩き潰す!」

 

「嬉しいぜ!ならその期待に応えるのが漢ってもんだ!

 

観客全員瞬きせずに見てやがれ!

 

これが鉄哲徹鐵の、いやB組の魂だああぁぁぁーーーーーー!!」ガキッガキッガキッ

 

グオオオオオオオオッ

 

鉄哲の叫びと共にテリーの体が後ろに倒れていく

 

「鉄哲!!」

 

拳藤の叫びが木霊する

 

『ブレーンバスターッ!!』

 

グガギャンッ!!

 

鈍い音が会場に響きその次に広がるのは静寂

 

コンクリートに頭から叩きつけられたのだ、いくら個性が個性だからといって限度がある

 

シュタ

 

「・・・・・・。」

 

テリーは先に立ち上がり振り返り鉄哲の方を向く

 

すると

 

ザッ

 

「・・・ッ!!」

 

「ヌギギギ・・・た、耐えた・・・ッ!

 

耐えたぞオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

鉄哲の絶叫に会場も堰を切ったように歓声に包まれる

 

その反応に満足したのか、鉄哲の体は脱力し前に倒れるが

 

パシッ

 

「見してもらったぜ、B組の(スピリット)をな!」

 

テリーがそれを受け止めた

 

 

○翔野テリーVS鉄哲徹鐵●(ブレーンバスター)

 

 

 





翔野テリーベスト4進出

次回、轟とテリー初対決!


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氷山を越え炎海を渡れ の巻

決着のついたスタジアム

 

「さあ、鉄哲。すぐに救護室に…」

 

テリーは鉄哲の肩を抱えるが

 

「ま、待ってれ…!」

 

鉄哲はそれを振り払い

 

「せっかくお前が俺の要望を飲んでくれたってのに、俺がなにもせずに引っ込むわけにはいかない、だから…!」ガシッ

 

バッ

 

「これくらいはやらしてくれや…!」

 

テリーの手首を掴み高々と掲げた、この試合の勝者が誰であるかを改めて観衆に示したのだ

 

 

敗者が勝者を讃えるこの行動に観客からは万雷の拍手が送られた

 

「ふぃ~、これで満足だ。

 

それじゃ医務室までお願いするぜ。」

 

観客の反応に満足した鉄哲はそこで脱力してテリーに体を預けた

 

「…ああ!」

 

テリーは鉄哲の肩に手を回し抱えながら医務室へと向かっていった

 

二人の姿が見えなくなるまで会場の拍手がなりやむことはなかった

 

「…観客の目が全員二人に向いてくれて助かったな。」

 

「ああ、とてもじゃないが今のミッドナイトさんは人前に出してはおけない。

 

セメントス、すぐにミッドナイトを下げさせろ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「鉄哲ッ!!」バンッ

 

拳藤を先頭にB組全員が医務室へ入ると

 

「おお、みんな…。」

 

ベッドの上で横になる鉄哲の姿があった

 

「す、すまねぇな。

 

せっかくみんなが託してくれたってのに…この様とはな。」

 

「な、なにいってるのさ鉄哲!」

 

「そうですぞ、鉄哲殿!」

 

「最後まで闘い抜いたお前は立派だったぞ!」

 

敗戦を受け少し弱気な姿を見せた鉄哲に皆が励ましの言葉を送る

 

「その通りだ!鉄哲!」ガラッ

 

「ブ、ブラド先生…。」

 

そこにB組の担任・ブラドキングも加わる

 

「鉄哲よ、お前の闘いは何一つ恥じる所なんてなかった。

 

仲間の為に最後の最後まで退く事なく闘ったお前と、」

 

ブラドキングは他の生徒達を見渡し

 

「その鉄哲に惜しむ事なく声をかけ続けたお前達を、先生は誇りに思う!

 

まだ少しの付き合いしかないが、今日の試合で確信した!

 

お前達は絶対に最高のヒーローになれる!

 

今日の試合を見てまだB組をバカにする者がいたら先生が許さない!

 

だからみんな…胸を張れ!

 

君たちは立派に闘った!!」

 

「「「「「「…ハイッ!ブラド先生!!」」」」」」

 

「それと…。」シャッ

 

「………。」

 

「ありがとう、闘ったのが君で良かった。」

 

鉄哲のベッドの横を仕切っていたカーテンの向こう側にはテリーがベッドで寝そべっていた

 

「別に俺は何もしていませんよ。

 

ただ、熱い男と心いくまで殴りあっただけです。

 

…それじゃ次の試合があるので俺はこれで。」

 

そう言うとテリーはベットから起きてそそくさと医務室を後にした

 

「…角取、もういっていいぞ。

 

そして伝えてくれ、B組の思いは託したってな。」

 

「…ハイッ、ブラドティーチャー。」

 

ブラドに促されポニーはテリーの後を追っていった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

壮絶な闘いの余韻覚めぬまま残りの試合が行われた

 

「女子をもてあそぶ様な不貞な輩には、負けませんわ!!」ビシッ

 

「アデッ!!」バキャ

 

絶縁素材の衣類に包まれた状態で棒を武器に怒りのこもった一撃が上鳴に炸裂

 

バキャ

 

バキャ

 

バキャ

 

バキャ

 

「ちょ、ギブギブギブ!

 

ミッドナイト先生、俺ギブっす!

 

ヤオモモ止めプギャ」バキャ

 

「まあ、さっきのやり取り見てた感じだと君に非があるようだしお灸を据えてもらいなさい。」

 

○八百万 百VS上鳴電気● (タコ殴りK.O.)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おらっ死ねや!」ボンッ

 

「ヌオオッ!?」

 

常闇は個性『黒影』をフルに使い善戦するも

 

「相性が悪かったな、同情するぜ。」

 

「……まいった…!」

 

光に弱いという弱点を見抜かれ爆豪の猛攻の前に散った

 

 

○爆豪 勝己VS常闇 踏影● (降参)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあ、さあ、さあッ!!

 

ついに、ついにここまで来たぜ準決勝!!

 

てめぇら体力は大丈夫かっ!?」

 

ワアアアアアアアアアッ

 

控え室でテリーはプレゼントマイクの煽りと観客の大歓声を聞いていた

 

「…さて、行くか!!」

 

「テリー…頑張ってクダサイ!!」フリフリ

 

未だにチアガールの姿でボンボンを振りながらテリーを送り出すポニー

 

「…えらく気に入ったんだな、それ。」

 

「デース!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「行け、焦凍。

 

その二つの力を使えばこの大会を制することなど容易いはずだ。」

 

「………。」

 

轟はエンデヴァーの言葉に目を瞑り沈黙を貫く

 

そしてついに…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあ、時間だ!

 

片や圧倒的な実力を示しながら勝ち上がって来たクールなサラブレッド!

 

片や敬意で勝ち取りその思いを拳に宿しのしあがって来た激闘系ファイター!

 

轟 焦凍!!

 

VS

 

翔野テリー!!」

 

 

スタジアムで向かい合う両者

 

「よお、いい顔になったじゃねぇか轟。」

 

「…もうチワワって呼ばないんだな。」

 

「準決勝第一試合、開始!!」

 

ダッ

 

ゴウッ

 

開戦と同時にテリーのいた場所は氷に覆われる

 

「轟は相変わらず初手ブッパだあぁーーー!」

 

「だが翔野も避けているな。」

 

(こいつ…ッ!)

 

 

 

「おお、避けた!」

 

「あいつもセンスハンパないからな~。」

 

A組一同もテリーが避けた事に賞賛を送るが

 

「…スゴいや。」

 

「デクくん?」

 

(そこかッ!そこが安全地帯か!)

 

テリーが取った作戦

 

それは

 

轟の左側に回り込むように走る事

 

「轟くんの個性は手の動きや足の動きが肝になる。

 

つまり、幾ら広範囲に氷を出そうとも真っ正面に向けて放てば左手側の氷は幾らか手薄になる。

 

あとは…。」

 

 

「フンッ!」バキャ

 

迫ってくる氷を拳で破壊しそこから一気に距離を詰めようとするテリー

 

「くそっ!」ピキキキッ

 

そうはさせまいと体の向きをテリーに合わせて再び氷結を放つテリーだが

 

「テイッ!」バキ

 

再び同じ動きで氷結を突破し距離を詰めようと試みる

 

轟の回りを円を描くように動き回り距離をどんどん詰めていくテリー

 

「おおお、スゲー!」

 

「あとちょいじゃねえか!」

 

「…今までの轟くんならこの作戦は効果的だ、右の個性を連発させれば次第に動きは鈍くなり更に近く事が容易になるし、」

 

(金髪野郎の近接能力なら半分野郎なんざ簡単に仕留めれるだろ。)

 

 

「だがしかし!」

 

「ッ!!」

 

ボオオオオオオウッ!

 

「今の焦凍には左側()がある!!

 

それを使えば片手側の空白地帯も自身の体温の調整もカバーできる!

 

まさに最強!流石は俺の息子だ!!」

 

「え、えぐいィーーー!!

 

距離を詰めてきた翔野テリーに炎が炸裂!!

 

おいおい…大丈夫かよ…。」

 

会場がざわめき出す

 

幾らプロヒーロー達も顔負けの体躯を誇るテリーといえども…

 

ズオッ

 

「~~~ッッ!!」

 

誰かが息を飲んだ

 

当然だ炎の中から手が突き出してきたのだから

 

ガシッ

 

「Hello、轟。

 

元気にしてたかい。」プスプス

 

「…ああ、ようやく体が暖まったとこだよ。」タラッ

 

両者危険地帯(レッドゾーン)突入

 

 

 




次回、両者の次なる一手は!?


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燃える尽きるのは肉体か、魂か。 の巻

「おいおい、マジかよ…。」

 

「火の中を突っ切って来るなんて…!」

 

スタジアムのどよめきが止まらない

 

それは安寧な世界で羽ばたく時を待つ生徒のみならず

 

「おいおい…緑谷といい翔野といいお前のクラスはどーなってんだ!?」

 

「俺が知りたいくらいだ!」

 

数の差こそあれど修羅場を見てきたプロヒーロー達も同様だった

 

「…なんだよ、あんまり驚いてねぇな。」

 

「お前も緑谷と同じ様なタイプだからな…まさか本当にやって来るとは思わなかったが。」

 

轟は先の鉄哲との戦いを観戦して一つのシュミレーションをしていた

 

中・遠距離系の個性を軸に戦いを組み立てる自分に対して近接戦闘最強が挑んだ場合まずは接近することは必須

 

ならどうするか、緑谷と戦った後ならわかる

 

自損覚悟の特攻

 

しかしあまりにもリスキーすぎるため思い過ごしと思考の隅に追いやったが

 

 

それがこの結果である

 

「っと、戦いに目を戻せば!

 

…この状況どっちが有利なんだイレイザー?」

 

「状況としては有利に見えるのは轟の胸ぐらを掴んでいる翔野だ、あいつの近接格闘のスキルそこらのプロヒーロー達を凌駕するほどずば抜けている。

 

だが目に見えてわかるくらいに火傷を負っているあれでベストコンディションの時と同じように動けるとは思えない。

 

対して轟は距離こそ不向きだがここまでほぼノーダメージで来ている

 

両者、次の一手が重要だな…。」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「さあ、いくぜ!」グアッ

 

「…そうはいくか!!」ガシッ

 

ピキキキッ

 

「あ~~~っと!?

 

翔野が殴りかかろうと左手を振り上げた刹那、轟が右手を掴み凍らせていく!」

 

「構うものか!!」

 

バキャ

 

「ぐがっ!」

 

渾身の左ストレートが轟に入るも、

 

「ってぇ…けど、捕らえたぞ。」

 

「……。」ピキキキッ

 

「おおっと、轟!翔野の右手を氷柱で固定した!

 

まさに肉を切らせて骨を断つ、こいつはヤベェぜ!」

 

「右手の肘から先が完全に捕らえられている、これは流石に…。」

 

「翔野くん、行動不の」

 

解説の二人と同じく審判を務めるミッドナイトもまたこれは勝負ありと判断しコールを告げようとしたとき

 

「バカなこといってんじゃねぇ!!」ググググ…ッ

 

ピシピシピシッ

 

怒号と何かに亀裂が入る音がスタジアムに響く

 

「ま、まさかっ!止めなさい翔野くん!!そんなことしたらあなたの腕が!」

 

「構うものか!!」バキバキバキッ

 

バゴォォォン!

 

「お、お前…何を…っ!!」

 

テリーのとった行動はおよそ轟は考える範囲には収まることができないものだった

 

「今度は無理やり引っこ抜いたぞ…!」

 

「腕が…あれで戦えるのか…?」

 

力技で強引に氷柱から腕を抜き出したテリーだがその代償は少なくなく右腕の皮膚は所々が剥がれ血に染まっていた

 

その様相に周囲が絶句するもテリーは関係ないとばかりに笑顔で轟に向き直る

 

「ヘイ、轟…!

 

俺の覚悟を…なめてもらっちゃ困るぜ。

 

勝利の為ならこんなものなんともない!!」ボタタッ

 

「っ!?」ゾクッ

 

痛ましい姿になりながらも笑顔で軽口を言い放つテリーの執念に気圧されたのか轟は無意識に足がすくんでいた

 

「怯むな焦凍!来るぞ!!」

 

エンデヴァーの渇に思考が呼び戻された轟だったが

 

「ヌオおおおっ!」ガシッ

 

 

すぐそこまで迫っていたテリーが今度は無事な左手で轟の髪をわしづかみにし

 

「ガアアアアッ!」

 

血濡れた右手を振り上げる

 

(どうするッ!?右か?左か?いやそもそもあんな状態の拳で殴れるのか!?)

 

咄嗟の出来事に轟の思考が一拍混乱する

 

カッ

 

鋭い痛みと共に目蓋の裏に火花が散った

 

(な、なにが…?)

 

ダラァ~ッ

 

次の瞬間轟は自身の顔が何か温かい者に包まれていることを認知した

 

そしてそのすぐ後に視界が赤く染まる

 

「し、翔野のカミソリエルボーが炸裂ぅぅぅ!

 

轟の額がかっ切られた!」

 

「焦凍ォォォ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

視界が赤に染まる

 

未だに思考回路はまとまらない

 

ガシッ

 

…誰だ?今は頭を整理するのに忙しいんだ。

 

バキャ

 

鼻っ柱が熱くなる、同時に息苦しさも感じる

 

なんか周囲が騒がしい

 

「………ッ、……だ!」

 

耳に入ってくるのは憎たらしいクソ親父(エンデヴァー)の声

 

そして視界にいるのは…

 

ああ、そうだ。

 

俺は今、コイツ(翔野テリー)と戦ってたんだ。

 

迫ってくる相手はヤケにスローモーションに映る

 

でももう遅い、体は既に満足に動きそうもない

 

これで終わり…ッ?

 

ーNo.1ヒーローになるためには如何なる状況も打開できるよう個性以外の技術も持ち合わせなくてはならん!個性がいくら強かろうとそれだけではヴィランは倒せんぞ!ー

 

幼き頃の記憶、忌々しくて消し去っていた筈の記憶がなぜ?

 

ー君の、力じゃないか!!ー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

テリーが止めの一振を繰り出そうとした瞬間

 

「な…ッ!!」

 

ゴッ

 

「カ、カウンター!!もう終わりかと思われた轟のカウンターがもろに入ったぜ!」

 

「と、轟くんが普通に殴った…!」

 

「しかもあの綺麗なフォームはそんなすぐに身につくものじゃない!」

 

葉隠の言葉に格闘技の心得のある尾白も答える

 

「…別に不思議なことじゃない、エンデヴァーだって近接格闘でヴィランを制圧することもある。その息子の轟くんにだって教えていても不思議じゃない。」ブツブツ

 

「デ、デクくん!?落ち着いて!」

 

 

 

 

 

「ハアッ……ハアッ……!!」

 

辛くてキツくて暗い過去の記憶が轟の反撃の一矢となった

 

しかし

 

ガシッ

 

「いいパンチするじゃねぇか轟。次からは()だけじゃなくて()()()も最初から使う気で気な。」タラッ

 

鼻血を流しながらもテリーは嬉しそうに笑い

 

「フンッ……ヌッ!!」

 

ゴヅッ

 

上からヘッドバットを食らわせた

 

 

白目を向き膝から轟が崩れ落ちると共にテリーの勝ちを決める声が響いた

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ざわざわ…ざわざわ…

 

「遂に決勝戦だが…。」

 

「第一試合の少年は果たして戦えるのか?」

 

周囲が疑念に騒ぎ出すなか既に八百万を下し、決勝進出を果たした爆豪は待ちきれないとばかりにそのままスタジアムに残った

 

(ピーちくパーちく騒いでんじゃねぇモブどもが!

 

あいつは必ずここに来る!

 

そんであいつを倒して俺が一位になる!)

 

テリーと一度向かい合った爆豪は確信していた

 

あいつは負けるのは元より、闘わずして負けることが何よりも嫌いだと、故にどれだけボロボロになろうがあいつは必ず自分の前に立つと!

 

(さあ、来やがれ金髪野郎!)

 

 

時を同じく

 

「……。」ザッザッ

 

「止まって、テリー!」

 

戦いの待つスタジアムへと続く道を歩むテリーを後ろから引き留める声がする

 

「なんだいポニー、もうすぐ決勝戦が始まるんだ。」

 

「そんなボロボロの体で何を言ってるんデス!リカバリーガールから聞きマシタ!あなたの体は既に立ってるのもやっとな位しか体力が残ってないって!!

 

これ以上闘えば…どうなるかわからないって!!」

 

準々決勝では鉄哲の鉄と化した拳でのノーガードの殴り合い

 

準決勝では全身にやけどを負い右腕は血みどろの重傷

 

リカバリーガールの個性で回復が間に合っているがそれもテリーの並外れた体力があってこそだった

 

だかそれでも限界がある、これ以上の負傷はすぐに治療できないし何よりも今後に関わってくる可能性がある

 

リカバリーガールの説明を聞いてもなお闘いへ向かう歩みを止めぬテリーにポニーは訴えた

 

「お願いデス、テリー。今すぐリカバリーガールの所へ戻って。決勝戦は棄権しましょう。

 

もう十分デス、テリーはイバラ達の思いも背負って頑張ってくれマシタ。

 

だから…ッ!」

 

ドッ

 

「……………ごめんよ、ポニー。待っているんだよ、今一番強い奴がスタジアムの中で。」

 

「テ…テリ……。」ガクッ

 

食い止めようと説得するポニーへ振り向きざまの当て身で気を失わせたテリーはそのままポニーの体を抱えると

 

「…すまないがポニーの事を頼まれてくれないか?」

 

影から見守っていたB組女子達に声をかけた

 

「あ、あんた!どれだけポニーがあんたの事を心配してるかわかってるのかい!!」

 

「そうノコ!!」

 

テリーの行動に取陰と小森が問い詰める

 

小大と柳と塩崎の三人も言葉にはせずとも目で訴えてくる

 

 

「みんな!止めな!」

 

凛とした一声が響いた

 

「…わかった。B組の委員長として、ポニーの大切な人からの頼みとしてポニーを預かるよ。」

 

「け、拳藤ッ!?」

 

「…すまない恩にきる。」

 

拳藤の一言に納得できないと声を荒げる取陰だが意に返さず拳藤はポニーを抱える

 

「ただ…ただ一つだけ約束して。

 

ポニーを泣かせるような結果にはしないで!

 

この子はとても優しいんだ、そんな子を泣かすような事をするのなら例え地獄の果てでも追いかけて殴りに行くから。」

 

「……約束しよう。」

 

テリーの言葉に満足した拳藤はポニーを抱え不満の残る他の女子達を制して引き返して行った

 

「………いくぜ!」

 

 

 




次回、決勝戦!


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孤狼の雄叫びと荒馬の嘶きの巻

観客席のざわめきを意に返さず持ち前の鋭い目つきのまま沈黙を貫く爆豪の前に

 

ヒュウウウ…

 

「…来やがったな!!」

 

一陣の風を伴いながらその男は姿を現した

 

「待たせたな。」

 

先程までの激闘のダメージを全く見せることなく爆豪の対面に立つテリー

 

「さあ、さあ、さあ!

 

遂に決勝戦だ!

 

ここまで圧巻の闘いぶりでここまで駆け上がってきた唯我独尊を往く神童、爆豪勝己!

 

VS

 

 

テキサスからやって来た義に生きる碧眼の逆輸入サムライ、翔野テリー!」

 

プレゼントマイクの気合いの入ったコールが告げられる中

 

「…ミッドナイト、少しでもヤバイと思ったらすぐにでも試合を止めろ。

 

婆さんの治療があるとはいえ限度がある。」

 

相澤はテリーの体調を考えて隣で静かにミッドナイトに指示を飛ばした

 

「待ってたぜ、金髪野郎!

 

てめえにはどうしても返さなきゃいけねぇ借りがあるからよ!」

 

獰猛な目つきで闘争本能を少しも隠すことなく発する爆豪に食って掛かる

 

「…かかってきな、ボンバーマン。

 

意外とかわいいお前の寝顔を今度は全国の皆様に見せてやれよ!」

 

すました態度でその言葉をいなすテリー

 

「…殺す!!」

 

「やってみろッ!!」

 

 

「試合開始!!」

 

 

ミッドナイトは二人の一触即発の雰囲気を察し早々と開戦を告げた

 

「死ねや!!」

 

「ぐおおっ…!」

 

ワアアアアアアアッ!!

 

「こんな一方的になるとは…。」

 

「やはりコンディションの差が大きいか?」

 

開戦と同時に壮絶な闘いが始まるかと期待していた観衆だが意外にも試合は一方的な展開を見せていた

 

「おらっ!」

 

「ぐわっ…フンッ!」

 

爆豪の攻撃を受けテリーも反撃に拳を振るうが

 

「おせぇ!」ボムッ

 

爆豪は個性を使いすぐに射程外へと退いてしまった

 

「あ~~~っと!!爆豪の個性を巧みに使ったヒット&アウェイ!

 

こんな展開を誰が予想した!?翔野テリー防戦一方!」

 

「爆豪はここまでほぼノーダメージで来ているがテリーは真っ向勝負を続けてダメージの蓄積がある。

 

少しばかり体が重そうだな。」

 

爆豪有利の状況を淡々と実況する相澤だがあることに気がついていた

 

(確かに状況はかなり爆豪に有利だ、だが…。)

 

(焦っている。あのかっちゃんが、まるでなにかに追い立てられているように…!)

 

そしてそれは幼なじみの緑谷の目にもはっきりと見えていた

 

言葉や態度こそいつもと変わらないが時折見せる僅かな表情の強ばり、語尾の震え

 

(まさか、怯えている…?あのかっちゃんが!?)

 

 

 

 

「おらあああっ!!」

 

「ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ!

 

ここを勝機と見たか爆豪、攻撃の手を一切緩めない!

 

このまま優勝をかっさらうのかぁ!?」

 

プレゼントマイクの興奮した実況が耳に入ってくる

 

そうだ、このまま行けば自分の勝ちは揺るがない

 

前回と違い今回は小細工なしのフィールドでの一騎討ち

 

最大限の警戒を払い相手を圧倒してそのまま勝負を決める

 

現に今の戦況は自惚れでもなく自分が押している

 

なのに…

 

なのにっ!!

 

「…………。」ニヤッ

 

その表情に、その(まなこ)の奥に揺らめく希望の灯火が爆豪の神経を逆撫でる

 

「なに余裕ぶっこいてんだごらあああぁぁぁッッッ!!」

 

「え、えぐい一撃が入った~!!

 

おいおい、さすがにやべぇんじゃねぇか?」

 

激情のままに爆撃を叩きつけられたテリーの身体から黒煙があがる

 

ビュンッ

 

「チッ!?」

 

その黒煙を破る反撃の拳をバックステップでかろうじて避けた爆豪は更に距離をとろうと個性を使うが

 

「ッ!?」ガクンッ

 

身体に思いもよらない急ブレーキがかけられる

 

「…へっ、こっから先は俺の時間だ!」

 

 

『叛乱の制服ッ!』

 

 

 

「な、なんと翔野テリー自らの上着を帯状にして爆豪の足に巻き付けた!

 

その姿はまさにカウボーイ!

 

でもこれありなのか?」

 

「自らの着衣を使っているためなにも問題ないわ!」

 

「はっ!」グインッ

 

「ぐあっ!?」

 

力いっぱいに引かれたジャージに導かれるように爆豪とテリーの距離は縮まる

 

「ユ――――スッ!」

 

ゴキャッ!

 

「ぐほあっっっ!!」

 

「こ、今度は翔野テリーのラリアットが爆豪を撃ち抜いた!

 

とんでもない音がこっちまで響いてきたぜ!」

 

テリーの反撃の狼煙となる一撃に会場の熱気も上がっていく

 

胸へ強烈な衝撃を食らい背中から叩きつけられた爆豪が一瞬、思考停止に陥る

 

 

グイッ

 

「はっ!?」

 

その一瞬はテリーが次の技へ移行する為の時間としては余裕過ぎるものだった

 

テリーは未だに片足に巻き付いていた制服を巧みに捌き爆豪の体をうつ伏せにすると両足に制服を一気に巻き付けボストンクラブ(逆エビ固め)のようにクラッチする

 

『ウォールオブテキサス!!』

 

バギィィィィッ

 

「ぐおおおおおおッ!!!?」

 

爆豪の悲鳴が響き渡ると共に観客席も目を背けるものたちが現れた

 

「くっくそがあアアアアアア…!!」

 

爆豪は苦悶にあえぎながらもなんとか脱出を試みようとするが

 

「ふんぬッ!」グググ…

 

そうはさせじとテリーも深く腰を落としていく

 

腰の反りがキツくなる様を見て観客たちも息を飲み、ある者は目を背け更には試合をもう止めるべきだと叫ぶ者まで現れた

 

「爆豪くんギブアップ!?」

 

「だ、れが…するがアアアアアアッッ!?」ギリリッ

 

必死に反攻の意思を示す爆豪だったがテリーが腰を沈める程に苦悶の声が漏れ出てくる

 

ミッドナイトが流石に不味いとレフェリーストップをかけようと思案した特

 

「……グゥッ!?」ズキィッ

 

「ッ!?、おらああッ!!」ガバッ

 

不意にテリーの拘束が弱まりその隙に拘束から抜け出す爆豪

 

「食らえや!!」

 

「ッ!!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「はあっ…はあっ…!」タタタッ

 

「ポニー、起きてそんなすぐ走ったら危ないよ!」

 

テリーに当て身を食らい気を失っていたポニーは医務室で目をさましモニターに映る決勝戦を見るや観客席へと付き添っていた拳藤の制止も聞かず走っていた

 

急いで階段をかけ登り熱狂を産み出している中心が視界に飛び込んできた

 

「ば、爆豪の特大爆破が炸裂~~~ッ!!」

 

 

 

 

 

「テリ――――――ッ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

ピキィッ

 

「づッ!?」

 

テリーへ放った爆撃の威力に手応えを感じた爆豪だか先程までの腰へのダメージは確かに体に刻み込まれていた

 

(だが関係ねぇ!今ので、終いだッ!)

 

「テリ――――――ッ!!」

 

グワッ

 

「ッ!!」

 

観客もそして対戦相手の爆豪ですら息を飲んだ

 

ガシッ

 

爆撃の黒煙をかき分け現れた両手は爆豪の髪を掴み

 

「づあっ!!」

 

続いて現れた頭と頭がぶつかる

 

ドチャ…

 

「て、てめぇ…!」ツゥー

 

「悪いな、ボンバーマン。勝利の女神を…泣かせる訳にはいかんのでな!」ポタポタッ

 

「り…流血!!今のヘッドバッドで互いの額が切れた~~ッ!」

 

 

 

付き合わせた額と額の間から流れ落ちた血がコンクリートに赤く咲き乱れる

 

 

「し、しかしなんちゅう技を…。

 

おいおいイレイザー、今年の1年どうなってんだ?こんな血の流れる大会初めてだぞ!?」

 

「…別にプロヒーローになればそんな闘いなんてよくある話だ、最近プロヒーローになったばかりの奴らにも思い出させるいい機会だろ。」

 

相澤の言葉に嘘はなかった

 

華々しく勝利し人々の支持を集め憧れの的になる。

 

そんなのは副産物であり本来のヒーローとはどんな時でも、どんな相手で勝利を掴みとりに行く者だ

 

そんな言葉を生徒のみならずプロヒーロー達は反芻していた

 

「そらもう一発ッ!」

 

ゴチャッ

 

そんな中で再び額と額がぶつかり水気を含んだ鈍い音が響く

 

 

「グガッッ!」ガクッ

 

たまらず片ひざをつく爆豪

 

(くっ………そ………がぁ……!!)

 

「かっちゃん!」

 

たまらず緑谷が声をあげる

 

ガシッ

 

しかし朦朧としている爆豪の髪をつかんだテリーは

 

「ぬあっ!」

 

ナックルパートをを爆豪の額の切り傷に叩き込んだ

 

「あ~っと、翔野がいった~ッ!!」

 




次回、テリーがこのまま押しきるのか…!


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紙一重の意地比べ の巻

読み切りと同時投稿させていただきました

そちらもよろしければ見てやってください

キン肉マン連載再開万歳!


「ああっと、いった!いった!翔野がいったァァァッ!

 

自らも額から流れる血を気にする事なく爆豪の傷口に拳をねじ込んでいく!」

 

「翔野の拳は防御に特化した個性を持つ鉄哲にも通用する。生身の、しかも傷口にあの拳は流石の爆豪もキツイな。」

 

「ウオオオオオオッ!」

 

ドガガガッ

 

額から流れる血を振り乱しながら一心不乱にナックルを連打するテリー

 

「ぐあああっ……!くそがアアアアアア!!」

 

いつまでも怯んでいられないと爆豪は髪を捕まれた手を叩きどかし

 

「食らえやぁぁぁ!!」

 

ボボボボンッ

 

辺り構わず爆破を行い怯ませた隙に距離をとろうと試みる爆豪だったが…

 

「き、効かねぇな…!」

 

テリーは腕をクロスしてガードをして一歩も下がっていなかったが…

 

「………ッ!」

 

見るからに膝か笑っておりそれが虚勢だとわかる、だがテリーの目はひたすらに希望を携えて燃えていた

 

「……ッだよ!」

 

「…?」

 

「ムカつくんだよ!てめぇのその目が!!絶対諦めねぇってその面が!弱えぇクセに、傷だらけのクセに、絶対勝つって気でいるその心が!俺がNo.1になんだ!てめぇらみてぇな雑魚が、邪魔してんじゃねぇ!」

 

 

爆豪勝己の信条

 

それは圧倒的強さの上に立つ誇り

 

常に先頭をひた走りその背で期待と羨望を集める者

 

かつて幼き日に見たかの英雄(オールマイト)のような!

 

「……確かにお前からみたら、俺は雑魚かもしれん。

 

個性をみれば俺の個性はすぐに埋もれてもおかしくないような物だ。

 

だが、俺にも負けられぬ理由がある!

 

俺をこの舞台に再び呼んでくれた者!魂をかけて殴りあった者!俺にヒーローの心を魅せてくれた者!

 

そして…。」チラッ

 

「頑張って……テリー。」

 

「こんな馬鹿な男を…己の意地のために傷つけた男を!尚も本気で心配してくれる者がいるんだ!

 

その思いが俺を支えている!ならば俺が折れる訳にはいかんのだ!!」

 

翔野テリーの信条

 

それは古来より受け継がれし人を思い合う心が生む力を尊び

 

自らに託してくれた想いを誇りへと変え奇跡へと昇華していく者

 

己の脳裏におぼろげに映るかの英雄達のように!

 

「だからッ!」

 

テリーは爆豪の髪を掴み

 

「俺は!」

 

左手を回転し

 

 

「負けん!!」

 

『ブロンコ・フィストッ!!』

 

爆豪の鼻っ柱に拳を叩き込んだ

 

「グガァッ!!」

 

「は、入った~~~ッ!!

 

強烈な一撃が爆豪の顔面に吸い込まれていった!!」

 

「おっしゃー、いいぞテリー!!そのまま優勝かっさらっちまえ!」

 

テリーの逆転の猛攻に観客席の鉄哲も興奮してエールを送る

 

「「「テリー!テリー!テリー!」」」

 

その熱に当てられた観客達もテリーへ声援を送る

 

ドシャ

 

「……が……ああ……ッ!!」

 

(お、俺ァ……負けるのか……!?

 

こんな惨めに……!?)

 

自らの理想を追い求めて走り続け体現し続けてきた自分が今、背中から地面に倒れ付している

 

思えば入学以来自らのプライドを傷つけられてばかりだった

 

いきなりのテストで一番になれず、対人訓練では路傍の石ころと見下していた男に不覚をとり

 

入学早々に喧嘩を売ってきた奴に2人対1人という変則マッチで叩きのめされ株をあげる踏み台にされてしまった

 

この体育祭でその失った誇りを取り戻すべく捲土重来を期してここまで駆け上がってきたのに……

 

「……かっちゃん!!」

 

「……ッ!!」

 

そんな暗闇へと意識が落ちていく爆豪の鼓膜を揺らしたのは他ならぬ緑谷出久だった

 

「…立てよ!

 

君はもっと強いはずだ!

 

そんな情けない顔をしないでくれ!

 

君は…なるんだろ!?

 

誰にも負けない、No.1ヒーローに!」

 

「そ、そうだぜ、バクゴー!

 

騎馬戦の時のお前はどうした!?」

 

「完膚なき1位をとるんじゃねーの!?」

 

「弱気な顔なんてらしくないよ!!」

 

緑谷に続き騎馬戦で共に戦った切島、瀬呂、芦戸が檄を飛ばす

 

「……どいつもこいつも、うるせぇんだよォ……っ!」

 

爆豪の目に再び生気が宿る

 

自らが歯牙にもかけなかった者達に心配されている、その状況が爆豪の意地に火を着けた

 

「勝手に心配すんな!!

 

なに今さらな事を言ってんだ!

 

んな事は当たり前だ!

 

てめぇらは俺の背中を拝んでりゃいいんだよ!」

 

オオオオオオッ!?

 

「そうだ!それでこそバクゴーだ!!」

 

切島が吠える

 

「マジか!爆豪ここに来て復活!!まだまだ勝負は終わらねぇ!!」

 

両の足で立ち上がった爆豪に実況のプレゼントマイクのマイクも熱を帯び、それにつられて会場の熱気も高まる

 

「HEY、イレイザー!お前はどうなると思う?」

 

「……結果なんぞ予想しても無意味だ。

 

だが、この極限で己の支えとなるものがいくつあるのか、そこが勝利の分かれ目になるだろうな。」

 

「いくぞ!金髪野郎!!」

 

「来いや!ボンバーマン!!」

 

「ま、また始まった!翔野テリー、今度は爆豪と再びのノーガードのしばき合いだー!!」

 

Bom!!

 

バキィ!

 

Dom!!

 

ドゴォッ!

 

「翔野のダメージもさることながら爆豪も腰を痛め付けられ機動力が落ちてしまっている、下手に小細工をすれば翔野の機転に一気に勝利を持っていかれかねんからな。

このノーガード戦法が一番険しいが勝利への近道だろうな。」

 

 

 

「死ねや!!」

 

爆豪が両手を合わせて爆撃を見舞えば

 

「グハッ、やるなボンバーマン……!お返しだ!」ビシッ

 

テリーは崩れた体勢から一気に立て直しトラースキックで顔面を蹴り飛ばす

 

まさに死闘

 

両者共に傷だらけになりながら永久を思わせる一進一退の攻防

 

だが……

 

「ぐっぞがぁ……ッ!!」

 

「アーッと先に膝がおれてきたのは爆豪だ!」

 

「決定打がないままやりあえばどうしたってフィジカルの差が出てきてしまうな。」

 

相澤の言葉を身を持って体感している爆豪は

 

(ちっ、このままじゃ押しきられちまう……だったら!!)

 

爆豪は軋むように痛む体を無理やり動かし酷使した手の平の痛みをくいしばり上空へと飛び上がり

 

「これで終いだ!金髪野郎!」手をクロスして爆破で加速を繰り返し、上空に舞う。

 

 

手をクロスして爆破で加速を繰り返し急降下してきた

 

「ば、爆豪っ、決死の突撃技だぁ!!」

 

「来い!テキサスの男は退かぬぞ!」

 

対してテリーは両手を広げてまるで向かいいれるように立ち臨む

 

榴弾砲着弾!!《ハウザーインパクト》

 

BOOOOOOOOOOOOOOM!!!

 

「ぐおおおおおっハァッッッ!?」

 

「爆豪の最大火力が決まったァ!!爆豪の一撃が翔野を撃ち抜いた!!」

 

あまりの衝撃にテリーは地面に叩きつけられながら吹っ飛ばされた 歓声と悲鳴が大きく響く、とうとう決着だと誰もが確信した

 

 

「負けないで!テリー!!」

 

ズザアアアアァァァァ

 

ダシュン

 

誰もが息を飲んだ

 

爆豪の決死の必殺技をモロに受け吹きと飛ばさていたテリーが、すんでのところで体勢を立て直し爆豪に向かって走っていった

 

「うおおおお!!」

 

『テキサスコンドルキック!!』

 

咆哮と共に繰り出した両膝の蹴りは爆豪を捕らえるも観客席の相澤は気づいていた

 

(やはりダメージを食らいすぎているな、いくらか浅いぞ。

 

ここからどうする……翔野テリー?)

 

そしてその違和感は爆豪も把握していた

 

このまますぐに立ち上がり今度こそ止めをと頭のなかを切り替えるが

 

ガシッ

 

「なッ…!?」

 

テリーは仰向けに倒れる爆豪の()()を掴んだ

 

「……爆豪よ。今から出すのが俺のこの試合、最後の技だ!」

 

(こ、これがテリーくんの本命!)

 

(関係ねえ!あの技(スピニングトゥホールド)なら対応できる!

 

それじゃなくても返してやらぁ!!)

 

「喰らうがいい!」

 

テリーは片方の足を折り曲げ膝の裏へと持っていき足の間から手を通してクラッチを固め

 

相手をうつ伏せにひっくり返して腰を落とす

 

 

『テキサスクローバーホールド!!』グギイイイィィィ

 

「ぐはああああ!!」ギリギリギリギリ

 

「こ、これはキツい!!先ほどまで攻められた腰にエグい追撃!!」

 

「さらには膝や足首も極められているな。ここに来てなんと言う技を…。」

 

「爆豪君、ギブアップ!?」

 

再びミッドナイトが聞くも

 

「……NOだ!くそったれ!!」

 

どうにかもがく爆豪とそれを必死に抑え込むテリー

 

だが

 

「……ぐふっ、ぐふっ……ゴファッ!!」技を極めているテリーが咳こみながら血を吐く

 

「な、なんと!翔野が血を吐いた!?」

 

「…ここまでの蓄積したダメージがいよいよ隠せなくなってきているな。」

 

見れば先ほどの爆豪の「榴弾砲着弾」を食らったテリーの胸板は爆破の火傷のみならず、赤と紫色に変色している

 

テリーも限界が近い

 

それは誰の目にも明らかだった

 

「テリー君があのかっちゃんからギブアップを奪えるか、逆にかっちゃんはテリーくんの体力が尽きるまで耐えられるか……。」

 

「ぬオオオオオオオオ!!」

 

「がアアアアアアアア!!」

 

両者の魂の叫びが交差する

 

スタジアムが固唾をのみ見守るなか

 

「そこまで!!」

 

ミッドナイトの凛とした声が響く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆豪くん、失神により戦闘不能!

 

勝者、翔野テリー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「け、決着だアアアアアアアア!!

 

この死闘を制したのは翔野テリーだ!!」

 

 

プレゼントマイクの声を皮切りにスタジアムは今日一番の熱狂に包まれた

 

 

「ハアッ……ハアッ……。」その声を聞いたテリーは爆豪から技を解き立ち上がる数多の賞賛の声がテリーに降り注ぐなか

 

その声を聞いたテリーは爆豪から技を解き立ち上がる

 

数多の賞賛の声がテリーに降り注ぐなか

 

「…………。」

 

こちらに涙を堪えながら手を振るポニーの姿を捕らえた後テリーの意識は暗闇に落ちていった

 

 

 




次回、強敵現る!?


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動き出した歯車 の巻

「それではこれより表彰式に移ります。」

熱戦の余韻冷めやらぬ中ミッドナイトの小気味いい進行で閉会式が行われたが……皆の目は一位の座は誰も立っていなかった事と

 

「ンンン~~~~ッ!!」

 

コンクリートの柱に体を縛られ両手両足、果ては口まで枷を付けられて尚も暴れる爆豪に向いていた

 

「なお優勝した翔野テリー君ですがリカバリーガールの一存により救護室で絶対安静ということで不在になります。」

その言葉を誰もが納得して受け止める、それほどまでにテリーの闘いは激しいものが多く見るものの脳裏に強烈なインパクトを叩き込んだのだ

 

「しかしそれでは締まらないということで本人たっての希望によりB組の塩崎 茨さんに代理として授与していただきます。」

 

ミッドナイトに呼ばれた塩崎は一位の台の前に来ると深々と一礼をした後に台に上がった

 

「そして今年、メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

 

「私が!メダルを持って来「オールマイトッ!!」せっかくの盛り上がりポイントだったが被ってしまい台無しになってしまった。

 

「んんっ!では気を取り直して、これよりメダル授与を行いますっ!!」

 

「では最初に八百万少女。並みいる生徒達のなかで唯一、女子生徒としてこの座に立った功績は素晴らしいものだ!

昨今女性ヒーロー達も目覚ましい活躍を見せている君も遠からずその一人になれると期待しているよ!」

 

「……ありがとうございます、オールマイト先生。」

 

オールマイトは八百万にメダルをかけると隣の轟の前に立つ

「轟少年、おめでとう。

……これまでの授業で使わなかった左を今回使った。何か心変わりがあったのかな?」

 

「……緑谷がきっかけをくれました。あいつが俺に思い出させてくれました。どうしてヒーローになりたかったのか、親父なんか関係ない…俺の根っこを。

そして翔野が教えてくれました。俺が如何に愚かでつまらないものに囚われていたのかを。」轟は自分の左手を見ながら答えた

 

「……顔つきが以前と全然違う。今の君ならその躓きから立ち上がり自分の望んだ未来へ歩いて行けるさ。もし道に迷っても共に寄り添ってくれる者がいる。

迷わず歩みなさい!いけばわかるさ!」

 

オールマイトの言葉に轟は小さく頷いた

 

「さて惜しかったな!ばくご「要らねえッ!!」ん!?」

 

「二位も最下位も変わんねぇ!俺はあんたを越えるヒーローにならなきゃいけねぇんだ!

こんな中途半端な勲章なんか欲しくねぇ!!

世間が認めても俺は認めなきゃゴミなんだよぉ!!」

オールマイトが口枷を外し開口一番に爆豪の口から出てきたのはメダル授与を拒否する言葉だった

 

「ウンウン、相対評価に晒されるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。

だからこそ受け取っておけ!"傷"として忘れぬように!!」

 

再び口枷をはめて無理やり爆豪にメダルを授与すると塩崎の前に立った

 

「まず授与の前に…すまなかった、塩崎少女。本来なら君たちの成長を見守るべき私たち大人が逆に君たちのチャンスをフイにする原因を作ってしまった。」バッ

オールマイトは悔やんだ顔で頭を下げた

 

「……頭を上げてくださいオールマイト先生。

私たちはこの決断を後悔していません。」

 

塩崎は頭を下げているオールマイトの後ろにいるB組に視線を送る

 

「この大会で私たちB組はまだまだ研鑽が足りないということがよくわかりました。

それは個性という意味でも…そしてヒーローの責務を担う一人の人間としても。

彼の様な道標足る御方を同級生に持つ私たちは幸運です。それを知れただけでもB組の参加した意義はありました。」

 

「……ありがとう、塩崎少女。そしてその決意は必ずや君達を遥か高みへと導いてくれるだろう!」

 

オールマイトはメダルを首にかけるのではなく手渡しで塩崎に送り観客席へと振り向く

 

「さあ、皆さん!ご覧いただいた通り今回は彼らだったしかしこの場の誰もがここに立つ可能性を秘めていた!競い高め合い、そして互いをリスペクトしあう彼らを見ればお分かりだろう、次代の芽は確実に伸びてきている!

 

てな感じで最後に一言!ご唱和ください!」

 

 

 

「「「プルス・ウル「お疲れさまでした!!」

 

 

 

 

 

 

オールマイトが締めの挨拶で盛大に誤爆したのを最後に

「けっ、ようやく終わったか。」プチッ

死柄木は忌々しげにテレビの電源を落とした

 

「おい、黒霧。こっちもそろそろ約束の時間だろ。」

「ええ、ちょうど向こうからもコンタクトがありました。今から迎えにいってきます。」

 

ズズズズ…

 

「グロロロ、ステイン様。お足もとをお気をつけください。」

 

「ああ」

 

黒霧のゲートからやって来たのは明らかに異質な雰囲気を纏った()()()だった

 

先を歩くのは剣道の仮面と胴着に身を包んだ大柄の男

 

「…なるほど、酒場に連れてくるとはまずは客人を迎える最低限の礼儀はあるようだな。」

 

 

「……用件はなんだ?」

そしてその後ろに歩くのは赤いバンダナとマフラーそしてプロテクターを身に付けた男

 

顔は包帯状のマスクを着けているがその影のあるマスクにそぐわない程に鍛えこまれた肉体がプロテクターの下から主張していた

 

「なぁに、簡単な話さ。

俺達は今の社会に嘆いている。

俺達を窮屈な所に押しやる社会なんかくそ食らえだ。

だったら…そんなもんは何もかもぶっこわしちまえばいい。

そこでだ、悪の先輩としてちょっと力を貸してほしッ!!」ビュン

死柄木が言い終わる前に眼前に竹刀が突き出される

 

「口の利きかたに気を付けろ、青二才が。聞けばなんだその稚拙極まりない青写真は?

貴様の様なガキのママゴトに付き合うほど我々も暇ではないぞ。」

 

「し、死柄木ッ!?」ズズズ

一触即発の空気が流れるが

 

「よい。武道。」

「…ハッ。」

ステインの一声で武道と呼ばれた男は竹刀を退いた

 

「…貴様の信念はなんだ?」

マスクを通して射ぬく様な視線が死柄木に向けられるが

 

「はあ?信念?そんな仰々しいもんなんかねぇよ。

ただ、強いていえばオールマイトだな。あんな奴が祭り上げられる今の社会を壊したいと思っているよ。」

 

ゾワッ

 

「…フム、感情のみで動く凡愚かと思ったが歪ながらに信念はあるようだな。」

 

「はあ?」

 

「よいだろう、その芽がどう芽吹くか興味が湧いた。」

 

「で、では、交渉は成立ということに!?」

ステインの言葉に黒霧は問い詰める

「…まずは保須へ戻せ。俺と武道にはまだ為さねばならぬ事が残っている。仔細はその後だ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ザザーン。

 

ザザーン。

 

「この死闘を制したのは、翔野テリーだぁプツッ

 

とあるビーチ

 

一人の男がビーチチェアーからケータイ電話のテレビ機能で観戦していた。老人は決着と同時に携帯の画面を落とした

 

 

スクッ

立ち上がった男は日が照りつけるビーチだというのにパーカーのフードを深く被り素顔を隠していた

 

「フム、これが天命という奴か。」

 

立ち上がり男は歩き出す

 

己の為すことを見つけたその足取りはどこへ続くのか…

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「フフフ、弔は今頃新しい刺激を得ている頃だろう。」

暗い部屋のなかで怪しげな機械の発する光だけが怪しく光る、稀代の悪帝AFO(オール・フォー・ワン)はお抱えのドクターに自らの体の定期メンテナンスを施して貰っていた

 

「ふむ、嬉しい気持ちはわかるが余り興奮してくれるなよ、お前さんが本気を出されたらこの機械達ももたんのだからな。」

ドクターはめんどくさそうにぼやく

 

「フフフ、でもあの大会は見た価値があった。若き目も確実に伸びてきている、それこそ弔の障害に瞬く間になりうる程に……。

そこでだドクター()()をそろそろ起こそうかと思うんだ。」

 

「何?()()をか!?それは幾らか早計すぎると思うが……。」

ドクターは顎に手を置いて渋る

 

「備えはあって困るものじゃないさ、急を要する時にいきなり動かしても本調子じゃなきゃ意味がないさ、頼むよドクター。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュウウウウウ……

 

ここは溶けることのない氷が一面に広がる永久凍土

 

その氷河の中に()()はいた

 

ピシッ

ピシピシピシッ!!

 

ガガゴオォォォン

 

「…パゴッパゴッ…………パオーーーーーンッ!!

 

 

 

 




再投稿させていただきました
活動報告にてテリーのヒーローネーム案を募集しております


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正義に休息無し の巻

~???~

 

 

「ザ・マン、これは一体……?」

 

「フム、どうやらテリーマンが新たに生を受けた事による歪みと見られるな。」

水鏡に映る見覚えのある影達にザ・マンは自らの見解を示す

 

「しかし…どうやらこの影の中で()()()()()()()。後はテリーマンから翔野テリーへと変わる世界の調和を為すために生まれた模倣品(レプリカ)の様な者に過ぎん。

まあ、だからといって実力はそこまで劣化してはいないがな。

………心配か、ジャスティス?」

 

「……いえ、まったく問題ありません。」

「ほう?」

ザ・マンの問いかけにまったく表情を変えずジャスティスマンは視線を水鏡に移すジャスティスを見て

「……フッ。」

ザ・マンもまた水鏡に視線を送った

 

その間にも影は蠢く

やがて邂逅するその時を待ちわびる様に

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

体育祭後二日の休みを挟み登校日

 

「スッゴい声掛けられた!」

 

「俺なんて小学生にドンマイって言われたよ!」

 

流石全国放送と言うこともありA組の面々は登校の道中顔を指され声をかけられ続けて学校にたどり着いていた

 

「私も声かけられちゃった!デク君は?」

 

「ぼ、僕も電車のなかで…。」

 

「グッ、グッドモーニング…。」

 

「あっテリー君おはよって、ええええ!?」

 

テリーの声に振り向いた緑谷が見たのはカラフルなラッピングを施されたプレゼントや手紙の山を両手一杯に抱えているテリーの姿だった。

 

「テ、テリーくん!?どうしたのそれ!?」

 

「なんか来る途中で貰ったんだか参っちまったよ。こんなにあると持ち運ぶのも一苦労だ。」

テリーの何気ない一言で

 

「ぐぞおおおお!」

「ウラヤマジィィィ!!」

峰田と上鳴が癇癪を起こし

 

「やっぱり一位ってのは伊達じゃないね!」

「ウム、それもあるがやはりあのヒーローを体現した行動が皆の心を動かしたのだろうな!!」

 

麗日と飯田の賞賛の声が響くが

 

 

「おはよう」

 

担任の登場により皆瞬く間に席に着き教室は一気に静寂に包まれた

 

「さて、本日のヒーロー情報学はちょっと特別だ。」

 

その言葉に生徒達に緊張が走る

 

またとんでもない理不尽な議題が課せられるのか?

それとも忙殺されかねない課題が与えられるのか?

はたまた…

 

「コードネーム、ヒーロー名の考案だ。」

 

「「「胸膨らむヤツきたあああああ!!」」」

 

緊張から一気に解放された咆哮が響いた

 

が、それも担任の日々の教育の賜物か一睨みの内に沈静化し詳しい説明がなされた

 

要はプロヒーロー達によるドラフト指名が関係する

 

先の体育祭を見てプロ達からの指名は既に行われておりそれを元にプロヒーローの所へ職場体験に行かせて経験を積ませようというのが学校の考え

 

 

「――と言っても指名が本格化するのは2・3年……つまりは即戦力になってからだ。一年は大体将来への“興味”によるもので、情けない姿を見せれば一方的にキャンセルも珍しくない」

 

「大人は勝手だ!」

 

憤る峰田の声を無視して相澤は黒板に指名の内訳を映し出す

 

「例年はもっとバラけるんだか今回は片寄ったな。」

 

 

轟:4,123

 

爆豪 :3,556

 

常闇:360

 

八百万:256

 

翔野:96

 

飯田:38

 

麗日:20

 

 

映し出された数字にクラスがどよめく

 

「せ、先生!なぜ翔野君の指名がそんなに少ないのでしょうか!?

彼は名誉欲に捕らわれない高尚な行いを見せた優勝者ですよ!!」ビシッ

 

堪らずに飯田が綺麗な挙手から質問を投げ掛けた

それはクラスの総意であり最大の疑問だった

 

「だからだよ。翔野テリーの活躍は眩しすぎたんだよ、それこそ半端なプロヒーロー達じゃ自分の存在なんてあっという間に塗りつぶされる程にな。」

 

翔野テリーの高潔なる魂とそれにより体現される正義には今の名誉欲や自己顕示欲が先に立つ十把一絡げのヒーロー達には扱いきれないと判断されての数字だった

 

「だが量こそは少ないが質は間違いなくトップだ。

指名したヒーローの殆どがヒーローランキング50位前後、それ以外のヒーローも特定分野に置いて間違いなくトップに君臨するヒーロー達だ。」

 

その言葉に生徒達の間に納得の空気が流れる

 

「良かったなテリー。」

 

「ハッ、大したことない事務所なんかこっちから願い下げだったし選別する手間が省けてちょうど良かったよ。」

 

障子の言葉に軽口で返すテリー

 

「私語を許した覚えはないぞ。

 

さて、話が脱線してしまったが…これを踏まえお前達には指名の有無に関わらずプロヒーローの元へ職場体験に行ってもらう。」

 

「なるほど、その為のヒーローネームか。」

 

「燃えてきたね!」

 

「まぁ仮ではあるが適当なもんは…」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

教室の空気を塗り替える様に入ってきたのはミッドナイトだった

 

「この時付けた名前が世に認知されそのままプロ名になってる人、多いからね!!」

 

「…と言うわけでその辺の査定はミッドナイトさんにやってもらう。

つかぶっちゃけ俺じゃできん。」ゴソゴソ

 

言い終わるや否や相澤はミッドナイトに教壇を明け渡し早々に寝袋に入り始めた

 

(ヒーローネームか…。)

 

配られるフリップを見てテリーは考えを巡らせていた

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

保須

 

「グハッ……!?」ドシャ

 

「……弱い。

 

金、名声…そんなもに目が眩み平和の事を考えないような輩が皆一律に"英雄(ヒーロー)"を名乗る。

まったくもっておかしい、見かけだけを綺麗に着飾り中身は微塵も伴っていない。仮面(これ)をこぞって被ることが何よりの象徴と言えよう。」スッ

 

ガシャアアアン

 

「仰る通りでございます、ステイン様。()()は本来は強者の象徴でなくてはならない代物。

このような有象無象が被りあまつさえ実力も示さずもてはやされるなどこの世界は歪になっております。」

 

ドルルルルルルッ

 

「ッ見つけたぞ!」キキィーーーッ

 

路地裏の暗がりにたたずむ二人組のヴィランをプロヒーロー"インゲニウム"が発見する

 

「お前達が今横行している"マスク狩り"を行うヴィラン達か!!」

 

「いかにもそうだが、それがなにか?」

 

さも当然と振る舞う二人

己の犯罪現場を見られたと言うのにまったく動じる気配はない

 

「ッ!!

プロヒーローインゲニウムがこれ以上の凶行は許さん!喰らえッ!」

 

『レシプロバースト!!』ダシュン

 

急加速で一気に間合いを詰め制圧を狙う

 

「ふん。」スッ

 

「グロロッ!!」ビシッ

 

ステインが首を傾けると後ろに控えていた武道が竹刀を付き出した

 

「グホッ!?」ドスッ

方向転換が効かなくなった体に付きだされた竹刀をモロに胸元に喰らうインゲニウム

 

「……弱い。」スウッ

 

ガシッ グワッ

 

そうして怯んだインゲニウムの後ろに回り込むと

 

「弱い、弱すぎる!!やはり"ヒーロー"と名乗っていいのは……()()()だけだ!!」グググ

 

ステインの感情に呼応するかのように全身の筋肉が隆起を始め

 

『ダブルレッグ・スープレックス!!』

 

「ぐわぁーーーッ!!」ゴシャン

 

膝裏から両太股を抱え上げてスープレックスで叩きつけた

 

「……ぐうううっ、まだだ!まだここで倒れる訳には、」ヨロヨロ

 

頭部への強烈な衝撃を受けながらも必死の思いで両足に力を込めて立ち上がろうとするインゲニウムだったが…

 

「貴様の敗北をもって大々的に発信しよう!

 

我とステイン様が!

 

この"ブラッド・ミッショネルズ"がこの世にのさばる偽善を振り撒く弱者達を淘汰すると!!」グワッ

 

「武道!!」グワッ

 

インゲニウムを挟む様に構えた二人が前後からラリアットで襲いかかる

 

血染めの十字爆撃(レッドロード・クロスボンバー)

 

ガッシャアアアアアアアアアン

 

「グホォア……ッ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「僕のヒーローネームは、」

 

考えたヒーローネームは査定を行うためクラスの前での発表形式となり既にクラスの殆どがOKを貰うなか決めかねていた飯田は

 

「あら、それでいいのかしら?」

 

「ええ、僕の憧れである兄に寄せた名前にしようかと思いましたが、まだ道半ばでそんな凝ったモノにしてしまうのはしつれいな気がして…。」

 

飯田のボードにかかれたのは"天哉"

自分の名前だった

 

「……なるほど、それじゃあ悩みなさい。自分が納得できるまで、それが出きるのも学生の特権よ!

 

それじゃあ次、テリー君。」

 

「はいっ、俺のヒーローネームは……

 

 

 

 

"テキサスブロンコヒーロー・テリーマン"ですッ!」

 

 




次回、テリーのヒーローネーム決定。次回から職場体験編突入 !


ヒーローネームについて返信くれた

いりごま塩 様

ムッシー 様

みみお 様

マーリンZERO人 様


ありがとうございました。


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一筋縄ではいかない職場体験!の巻

「飯田君、大丈夫かな。」

 

「ウム……。」

 

ヒーローネームを決める授業があった日の放課後

 

あの授業のあと大急ぎでやってきたセメントス先生に飯田は職員室へと連れていかれたのだった

 

「なんやろ…。真面目な飯田君の事だから問題とかじゃないと思うけど。」

 

「心配デース…。」

 

いつも帰り道を共にしていたテリー達にとっても不穏ななにかを感じていた

 

「……だが、それに気を取られていては飯田に申し訳ない。期限を守らないと帰ってきたあいつにどやされるからな。」

 

暗く沈みかけた空気を変えようと努めて明るい声で話題を変えるテリー

 

体験先を決める期限は明日

百に満たないとはいえ多数の事務所のオファーを吟味し決めるには手に余る

 

ましてアメリカ出身のテリーからしてみればオールマイト以外のヒーローの詳細などよくわかってない

 

そこで緑谷に協力を求めて、更にそこに麗日、ポニーが加わり今に至る

 

「さて、何処にしたものか…。」

 

机の上に置かれたリストを手に取り一瞥していくテリー

 

「す、すごいや。

エンデヴァーやホークス、ミルコにエッジシットまで……。」

 

リストを見て自他共に認めるヒーローオタクである緑谷は垂涎の気持ちで見ていた。

 

「あとは、ウチが行こうと思ってるガンヘッドとか……やっぱりバリバリ武闘派な事務所が多いね!」

 

「ふーむ、何処にするべきか……ん?」

 

並みいる有名ヒーロー達の中でテリーの目に止まったのは

 

「ハワイアンヒーロー、プリンス・カメハメ……。」ボソッ

 

「プ、プリンス・カメハメだって!?」

 

テリーが独り言の様に呟いた言葉に反応したのは緑谷だった

 

「知ってるのかイズク?」

 

「知ってるもなにも、ヒーロー掲示板ではオールマイトと対等に渡り合えるヒーローとして必ず名前が上がるヒーローさ!

ただ如何せん表舞台を本人が嫌うのか公式の記録があんまりなくて半ば都市伝説的な扱いのヒーローだけどね、ただ数々の武闘派ヒーローの尊敬するレジェンドヒーロー達が口を揃えて師と仰ぐ存在であり、その知識と体捌きの巧みさから "格闘技の賢者(マーシャルアーツ・サヴァン)"の異名があるとか……だけどすごい!!

実在したんだ!これはまたノートを買い足さなくちゃ!」

 

「お、OKだ、イズク。ありがとう、大体わかったからそろそろ帰ってきてくれ…。」

 

このままだと延々とヒーロー講談が始まる事を危惧してテリーは話を打ち切った

 

「ここにするんですか、テリー?」

 

「……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

職場体験当日

 

「コスチュームは持ったな、本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ。」

 

「はーい!」

 

全員が駅に集まりこれから各々が事前に決めたプロヒーローの元へ向かう、みんなが期待や興奮を見せるなか一人、あまりにも静かにしかし凛々しく表情を引き締める者がいた

 

「飯田くん…。

 

本当にどうしようもなくなったら言ってね。」

 

堪らず緑谷は声をかけた

 

普段ならなんら違和感がない事なのだが今回ばかりは事情が違っていた

 

彼の兄、プロヒーローインゲニウムが襲撃される事件が起き一命は取り留めたものの再起不能に追い込まれてしまったのだ

 

凶行を働いたヴィランは自らを"血の伝道師(ブラッド・ミッショネルズ)"と名乗る二人組。

過去彼らの犯行と思われる事件は実に30を越えており、その殆どが素手による近接攻撃で行われていた。そして何よりも注目すべきは彼らに破れたヒーロー達は皆マスクを剥ぎ取られていた

 

その毒牙にかかったインゲニウムのマスクも漏れなく奪われていた

 

この「マスク狩り」と呼ばれる行為はヒーロー達の間でも恐怖を呼び巷では『ヒーロー殺し』と言う異名が出始めていた

 

相手が相手とはいえ自らの兄がそんな目にあった飯田の心中はうかがい知れない、だがせめて支えになればと声をかけたのだが…

 

「ああ、大丈夫だ。心配かけて申し訳ない。

じゃあ、僕はこっちだから。」

 

飯田の表情は逆に不安を感じるほどに穏やかだった

 

「……飯田くん。」

 

「……。」

 

その言葉に、態度にこれ以上言葉を紡げなかった緑谷

そして同じく心配していた麗日とテリー

 

一抹の不安を抱えて彼らもまた別れた

それぞれが思い描く未来を掴む為に…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

電車に揺られ、バスに乗り換え向かった先は…

 

 

 

「もう少し後だったら楽しめたのにな。」

 

視界に広がる大海原にぼやくテリー

 

まだ海開きは先の為、閑散とする砂浜を歩き指定された場所へ向けて歩を進める

 

「…人もいないせいかなんだか涼しいな。

そろそろこの辺りの筈なのだが。」

 

海水浴場の砂浜のほぼ端にやってきた

 

「フイーッ、と」グッグッ

 

するとそこで一人のフードを被った人影がストレッチを行っていた

 

「すみません。ここらで人と待ち合わせをしているのですが、ここらでプリンス・カメハメという御方は…ッ!?」

 

シュオッ

 

ヒュン

 

咄嗟にスウェーバックで反らした鼻先をハイキックが掠めていった

 

「……フム、反応はまずまずできるようじゃの。」

 

「いきなり過激な挨拶だな。プロヒーローの挨拶ってのは毎日こんななのかい?」

 

急な攻撃にファイティングポーズを取りいつでも応戦できる構えを取るテリー

 

「フフフ、それは悪かったのう。

だがダラダラ口で教えるよりこっちの方がワシは性にあうのでな、お主もそうだろ?」

 

バサッ

 

ジーッ

 

フードを外し上着を脱ぎ捨てその素顔が露になる

褐色の肌に立派な髭を蓄え、頭部に特徴的な鶏冠状の突起があり、鍛えぬいた胸板にある巨大な鷲のマークが目を引く

 

「自己紹介が遅れたの、ワシがハワイアンヒーロー、プリンス・カメハメだ。

来てそうそうだが、そこの小屋でコスチュームに着替えてアップを済ませてきなさい。

 

早速一つ揉んでやろう!」

 

「……いいねぇ!話が早くて助かるぜ!爺さん!!」

 

夏の訪れを待たずしてこのビーチに灼熱をも焦がす戦いの幕が切って落とされようとしていた

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

同時刻

 

緑谷出久はオールマイトの師であるグラントリノの元に来ていた

 

「打って来なさいよ。受精卵小僧!」

 

「ッ!?」

 

こちらもまた過酷な試練が幕を開けようとしていた

 




絶好調爺さん二人!乗り越えられるか?


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それぞれの一歩目 の巻

「フム、まずまずと言ったところかな。」 

 

職場体験初日に始まった手合わせは 

 

「ハアッ……ハアッ……チ、チクショウ……。」

 

瞬く間に決着がついた  

 

二人しか人影の見えないビーチには波の音と地面に仰向けに倒れ伏すテリーの声が響くだけだった

 

翔野テリーに微塵の油断も自惚れもなかった 

先の体育祭で頂点に立ったとはいえ相手はプロ、そう簡単に敵う事が無いことはわかっていた、それでも何か一矢報いる事ぐらいはできる筈だ!!

 

そう意気込み挑んだ結果は散々なものだった

 

自身の全力は容易く受け止められ、そこから流れるような投げ技、芸術的とも言えるグランウンドテクニック、そして確実に相手を追い込む鋭利な打撃の前になす術なく敗れ去ったのだった

 

「さあ、今日はここまでにしよう。明日からはビシバシ鍛えて行くぞ。」 

 

「じ、上等だ!!」

 

こうしてテリーの職場体験が幕を開けた

 

 

 

 

同時刻

 

「固いな、そして意識がチグハグだ。

だからこうなる。」

 

同時刻緑谷もまたグラントリノの前に己の力の無さを見せつけられていた

 

「オールマイトへの憧れや責任感が邪魔になっとる。」

 

「……ッ!!」

 

こちらもまたオールマイトを鍛え上げた歴戦の猛者たるグラントリノの前に赤子の手をひねるが如く抑え込まれていた

 

「そ、それなら僕はどうすれば!?」  

 

「……んなこたぁ自分で考えな。それじゃあ俺は飯買ってくるから掃除よろしく!」

 

こちらもまた波乱の幕開けとなった

  

 

ーーーーーーーーーー

 

職場体験二日目

 

早速ヒーロースーツに着替えたテリーにカメハメ流の特訓が始まった

 

「お主のその若さとテキサスで育まれた情熱あふれるファイトスタイルに儂は無限の可能性が秘められていると確信している。だからこそ儂がここまで積み上げてきた技術の全てを伝授したい!!

しかし、その道は過酷なものになるだろう。

しかもその過酷な試練と並行してヒーローとしてのイロハも会得してもらわねばならん!」

 

「フッ、なかなか盛り沢山じゃねぇか!それくらいの方がやり甲斐があるってもんだぜ!!」

 

カメハメの嘘偽り無い宣告にも臆することなく笑顔でやる気を示すテリー

 

「フォッフォッフォッ、その言葉を待っておった!

では早速始めよう!」  

 

テリーの返事に気を良くしたカメハメは手にしていた鳥居の形をした組木を構えた

 

「さぁ!打ってこい!!」

 

「トアーッ!!」

 

カメハメの言葉に呼応してテリーが殴りかかるも

 

「甘いわ!!」ガンッ

 

「な、なにぃ!?」

 

カメハメは手にした組木の縦棒を操りテリーの拳を挟み込み横棒を薙いでそのまま反撃を開始する 

 

ガシィ 

 

「ぐはぁ!」

 

繰り出されるカウンターをなす術なく食らいテリーは突き飛ばされてしまう

 

「ほれ、いつまで寝ている!まだまだ続けるぞ!」   

 

「こ、こんのおおぉぉ!!」

 

カメハメの言葉に躍起になり渾身のラッシュを見舞うも

 

ガキッガキッガギンッ

 

「ほれほれほれほれ!ワキが甘くなっきたぞ!!」

 

「ブホォ!!」

 

その全てが躱され、いなされ、防がれ更には隙をつかれ反撃をモロに食らってしまう

 

「な、なにクソ!まだまだこれからだ!!」

 

「その意気じゃ!カメハメ特訓木人は始まったばかりだからのう!!」

 

こうして人気の無い海岸には鈍い打撃音がしばらくの間鳴り続く事になった 

 

 

そしてこちらも…

 

「ワン・フォー・オール フルカウル!!」

 

 

 

己の成長すべき方向性を見出した緑谷だったが

 

 

「惜しいな」ドフッ

 

「ウゴっ!?」

 

グラントリノに一撃を与えるには至らず壁に叩きつけられてしまった

 

「くっ……そぉ……!」

 

(今の動き、たった一回の試行でここまで持ってくるとは!

 

こいつは、化けるかもな!!)

 

悔しがる緑谷を一瞥して背を向けたグラントリノの顔は満足そうな笑みが浮かんでいた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「間違っている!!こんな世界は間違っている!!」

 

一人の青年の慟哭がむなしく響く

 

その声は決して民衆の耳に届く事なく溶けて消えていく  

 

個性の発現により台頭した【ヒーロー】という職業は一気に子どもたちの憧れの的になった

 

多分に漏れずこの男もその虜になり憧れを実現すべく順調に齢を重ね私立のヒーロー科に入学する

 

しかしそこで彼は驚愕する

 

曰く、億万長者への近道だ

 

曰く、有名人になって世間を騒がせたい

 

誰もが皆、己の欲望を叶える為に【ヒーロー】になりたいと語る

 

男が描く【ヒーロー】とはまるでかけ離れた姿を描く者達が彼にはひどく醜く映った

 

しかし大人達はそんな彼らの欲望など目にもくれず彼らの持つ個性のみで優劣を着け始めた

 

どれだけ高潔な志を持とうとも大人達は評価しない

 

そんな同級生達やそれを先導する教師達に見切りをつけ男は1年の夏、高校を中退

 

以降彼は【ヒーロー】の根本的価値観の腐敗を世間に訴えかけ是正を呼びかける事に青春を注力する

 

しかし自らの言葉がまるで世間に届かず、ますます歪んでいくヒーローの価値観そしてそれを増長させる世論に彼は己の無力を悟るのであった

 

「なぜ俺の様な考えの者が淘汰されアイツらのような見た目が派手なだけの奴等がもてはやされる!

人を救いたいという信念すらなく己の事しか考えず力を行使するような輩達が!!」

 

 

  

自らの正しきを否定され、自らの描くヒーロー像が汚されていく感覚に嫌気が指した男は

 

「無念だ…、次に生まれるときは強い個性で、それこそ世界を変えるほどの力を!!」バッ 

 

遂に橋の上から身投げしてしまった

  

 

(冷たい……苦しい……。嫌だ!やはり死にたくない!なぜ正しい事を言っている俺が死ななくてはいけないんだ!?)

 

沈み行く最中に押し込んでいた憤怒がその身を焦がし始めた

 

しかしもう遅い、その怒りは誰にも届くことなく川底で消えていく

 

 

…はずだった。  

 

 

「グロロ……力がほしいか?」

 

声が聞こえてくる。

自らが吐き出す泡の音しか聞こえないはずの水中で

 

男が川底に目を向けると

 

「…………。」

 

得体のしれない何かがまるで待ち構えていたかの様に立っていた

光が届かなくなり暗くなった水中でさえもはっきりと浮かぶその双眸ひ弱な青年を写していた

 

ーーーーーーーーーーー

 

「ッ!?」

 

「ステイン様、どうかされましたか?」

 

「……いや、なんでもない。少し眠ってしまったようだ。それよりも武道、明日もまた仕掛けるぞ。」

 

「ハハッ!」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

(あいつらは必ず一つの街で4回以上の犯行を重ねている、目的があるかジンクスなのかは定かではないが。

……この街でやられたのは兄さんだけ。

 

奴らは必ずまたここに来る!!

 

その時は刺し違えてでも、俺の手で始末してみせる!!)

 

職場体験先のプロヒーロー・マニュアルの説明などまるで耳に入らず  

 

飯田天哉の全神経はいつか来る戦いの舞台へと向けて張り詰められていた 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

職場体験三日目−夕方

 

「ハアッ……ハアッ……。」

 

沈みゆく夕日が汗まみれのテリーの体を照らす

 

昼、パトロールを行いヒーローの責務済ませ、そこから日が沈むまでの特訓

 

その締めのスパーリングの真っ只中だった

 

「フゥ……少しは様になってきたな。今日はもうお終いにしよう。」

 

「お、俺はまだ出来ます!!」  

 

「そういう事ではない。

……何か嫌な予感がするのだ。杞憂であればいいが用心するに越したことはない。もしもの時に備えて休むのだ、もどかしいがそれもまた大切なことだテリーマンよ。」

 

カメハメの口調にテリーは納得せざるを得なかった

 

 

 

同時刻

 

 

「……ここまでだな。これ以上俺とばっかり戦ってたら変な癖が付く。」

 

「癖とか以前にまだまだ慣れが足りないです。

もっとお願いします。」  

 

「いや、十分だ。

 

それになんの為にここに来たんだ?

 

フェーズ2に行く、職場体験だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………。」  

 

「またあなたはそんな薄暗い所で新聞なんて読んで、目を悪くしますよ。」   

 

「うるせぇよ黒霧、俺は今とてもイライラしてんだよ!」

 

黒霧の小言に苛立ちを露わにして寝そべっていたソファから飛び起きる死柄木

 

「どのメディアもヒーロー殺しの話題でもちきりだ!

このままアイツらのいいように動かれちゃこっちが同盟の主導権を握れなくなっちまう!」

 

死柄木はその怒りのままに新聞紙を握りしめ塵に変えてしまう 

 

「……おい先生。聞いてんだろ。」

 

「どうしたんだい、死がら「脳無をよこせ!ありったけだ!!」

 

 

「ハッ、信念だとか大層な事を言ってるがやってる事は対して変わんねぇじゃねぇか

気に入らなければ壊す!至ってシンプルな話だ…大暴れ競争だ!アイツらの偉そうにタレてくる能書きなんざひっくるめて叩き潰してやる!!」

 

 

赤い瞳が怒りに揺れる

 

その矛先が向けられたのは……関東、保須市。

 

 

 




次回、積り積もった飯田の想いが……


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大混乱の最中に紛れる火蓋 の巻

少し間が空いてしまいました
おそらく年内最後の投稿です


保須市

 

そこは今や混乱の真っ只中にあった

 

突如、夕時の町中に3体の正体不明の怪物が出現

周囲の人やモノを無作為に襲いかかったのだった

 

当然プロヒーロー達が対応に当たるも並のヒーロー一人二人では相手にならなかった

 

それもそのはず、この怪物こそ雄英高校襲撃事件の首謀者が対・平和の象徴として使役していた改造人間"能無"であり能力こそ雄英襲撃時の個体に劣るも並のヒーロー達を相手取るのに何ら不足はなかった

 

「クッ、なんだこいつ等は!!」

 

「し、至急応援を呼べ!!それと避難誘導も早く!!」

 

ヒーロー側が劣勢とわかるや一気にパニックに陥る市民

 

その混乱の最中

 

「天哉くーん!何でこんな時に限ってどっかいっちゃうんだ!!」

 

飯田天哉は姿を消した……。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「……ステイン様、何やら表の方が騒がしいようですな。」

 

「またどこかの阿呆共が悪戯に力を振りまいているのだろう。そいつらもまた粛清の対象だ。

…だがまずは目の前の為すことを為そう。」 

 

同時刻、保須市の路地裏でいつもの如く"粛清"という名のを狩りに勤しんでいた

 

既に一人のプロヒーローが彼らの牙により傷つき、ステインのアイアンクローにより壁に叩きつけられていた  

 

「て、てめぇ等がブラッド・ミッショネルズ……!

ハハッ、てめぇ等をとっ捕まえれば俺のヒーローランニングもうなぎ登りだッ!!

この手を離せ…!そして俺が「黙れ。」

 

「辞世の言葉として慈悲の間を設けたがなんともお粗末なものだ。貴様にこれ以上の慈悲など不要!!」グワッ

 

ステインは頭を掴んだままそのプロヒーローを放り投げる

 

「武道ッ!」

 

「御意!」

 

呼ばれた武道は投げられたプロヒーローを掲げたラリアットで受け止めるとそのまま直進

 

 

 

「ステイン様!」

 

「贋物よ!新たなる正義創造の供物となれ!!」

 

そのままステインも前からラリアットで挟み込む

 

血染めの十字爆撃(レッドロード・クロスボンバー)』ガギイイィィィン

 

「ゴファッ…!」バファ

 

哀れプロヒーローはツープラトンの餌食となってしまった 

 

「グロロ、流石ですステイン様。」   

 

「まだだ、未だ我が理想へは道半ば…、こいつのマスクを剥ぎ取ったら表の騒動を見にッ!?」ビシュン

 

「クソっ、外したか!!」

 

 

振り返りマスクに手をかけようとしたステインの鼻先を何かが掠めていった

 

 

「……子供か?」  

 

「ス、ステイン様!?おのれ狼藉者!!何者だ!?」

 

「……血のような赤い巻物と剣道着を着た男の二人組、ブラッド・ミッショネルズだな!?

僕は、お前達を追ってきた!何者かだと!?教えてやる犯罪者共!!俺はお前たちにやられたヒーローの弟だ…!最高に立派な兄さん(ヒーロー)の弟だ!兄に代わりお前達を止めに来た!!

 

僕の名を生涯忘れるな!

 

"インゲニウム"お前達を倒すヒーローの名だ!!」

 

「……やれやれ、仇討ちか。兄弟揃って贋物とは救いようがないな。」

 

「グロロ、全くですな。」

 

飯田の怒りなど歯牙にもかけずゆらりと体制を整えるブラッド・ミッショネルズだったが

 

「小僧、お前の名前はわかった。そうか復讐か…なら、

死ね」

 

その一言を皮切りに一気に場の緊張感が高まる  

 

(兄さん、見ていてくれ!!)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

保須市脳無襲撃事件直後

 

緑谷出久とグラントリノは新幹線で保須市を通過中に脳無の投げたプロヒーローが車体を直撃市事件に巻き込まれてしまった  

 

「小僧、そこを動くなよ!!」

 

この緊急事態にグラントリノは個性を使い脳無に突撃し交戦し始めた

 

脳無の手強さを知っている緑谷もまた後を追い車両を飛び出て街に降り立つが、そこで知ることになる

 

「天哉くーん!何でこんな時に限ってどっかいっちゃうんだ!!」

 

飯田天哉()の行方がわからなくなっていることを

 

(脳無……保須市……飯田くん……!!)

 

緑谷の思考回路がバラバラに入ってくる情報のピースを瞬く間につなぎ合わせて行き、

 

(ッ、飯田くんが危ない!!)

 

答えにたどり着いた時には既に体は走り出していた

 

同時刻ー

 

「こ、これは…!!」

 

「やはり良くないことが起きてしまったな。」

 

 

プリンスカメハメと翔野テリーも保須市を訪れていた

 

町中に悲鳴と爆発音が交差し混乱の様相が伝わってくるが

 

「……ッ、……………ッ!!」

 

 

ビルの上に止まっていた翼の生えた脳無がこちらを発見したのか獲物と思い飛びかかってきた

 

「クッ………!?」

 

咄嗟に構えたテリーだったがそこで彼が目にしたのは

 

「トアーーーーッ!!」

 

その脳無を迎撃するべく既に飛び出していたカメハメだった

 

「ここら辺がまだまだ青いな。"常在戦場"、この心構えを無くしてヒーローは務まらんぞ!!」 

 

飛び上がりながらもテリーを叱責するカメハメはそのまま横回転して回し蹴りを放つ

 

 

『ローリング・ソバット!!』

 

鋭い打撃が的確に体の真ん中を撃つ、並の相手なら悶絶卒倒の一撃だが…

 

「……………。」

 

プロヒーロー数人と渡り合える実力を持つ脳無には耐えられてしまう

 

ビュオッ

 

反撃に転じようと腕を伸ばす脳無だが

 

「ふむ、打撃には耐えられるようだが…これならどうかな?」ガシィ

 

自身の一打に効き目が薄いと見るやすぐさまカメハメは相手のむき出しの脳の上に手を置き

 

『グローバルプレーンスピン』ギュオオオオ

 

そのまま鞍馬の要領で頭上で回転する

 

「…………ッ、…………!?」

 

むき出しの脳、及びそれを支える首関節へのダメージが蓄積され徐々に羽ばたく力が弱まっていく

 

「す、すごい……ッ!!」

 

この技の多彩さ、つなぎの流暢さにテリーは目を奪われていた

 

「さあ、これで終いだ!」バッ

 

 

 

 

カメハメは相手が弱ってきたと見るやすぐさま技を止め

 

ガシィ

 

ガキッ

 

相手の両腕を外側から脇捉える閂で捉え、更に足も極めて空中で体を入れ替え頭から真っ逆さまに落ちていく

 

『カメハメ仏壇落とし!!』ゴチンッ

 

「…ッ、…………………。」

 

そのまま地面に叩きつけられて脳無は停止した

 

「こ、これがプロの実力……ッ!!」

 

自身で肌を合わせて体感した強さがほんの一端でしかなかった事を痛感したテリー

 

「他愛もない。さて残りの奴らをッ!?」  

 

「ッ!?」

 

ズオオオオオォォォ……ッ!!

 

脳無を倒し次の相手を倒しに行こうとする二人は察知した

 

先程までの脳無とは比べ物にならない程の悪意を、

 

「……テリーマンよ。」

 

「師匠、行きましょう!!」

 

その直感が赴くままに二人は路地裏へと駆け出していった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うおおおおおおお!!」

 

自らに湧き上がる激情に身を任せステインへ蹴りを放つ飯田だったが

 

「させぬわ!」バッ  

 

武道が割って入り盾となる

 

「ふん、小童め!そんなもの、」バシッ

 

武道は飯田蹴りを受け止め脇に抱え

 

「効かぬわ!!」ドゴッ

 

伸びた膝にエルボーを叩き込む

 

「うぐっ!」

 

ガシッ

 

「お前の兄は伝聞の為に生かしたのだ。その警告をわざわざ無碍にして自らの力量すら把握せぬまま感情のままに我々の前に立つとは……。」

 

怯んだ飯田の首を片手で掴み、喉輪のまま飯田の体を持ち上げてしまった

 

「がっ、はっ……は、離せ……!!」

 

「まったく兄弟揃って阿呆よ!!」ブンッ

 

そこから力任せにぶん投げられ飯田の体はビルの壁に激突し

 

「ぐあっ!」ガシャン

 

ドサッ 

 

その後地面に叩きつけられる 

 

「ぐおおっ……!」

 

 

「……つまらん。ふん!!」     

 

そんな無様に倒れふす飯田に武道は無遠慮に歩み寄り、ストンピングで足蹴にする

 

「ぐはっ……だ、黙れ!!お前らが兄の事を口にするな!兄は、プロヒーローインゲニウムは俺の大切な憧れだ!夢だ!それを貴様らの私欲で潰していいものか!」

 

「なら、貴様はどうなんだ?」   

 

武道と飯田の戦闘に無言を貫いていたステインが口を開く

 

「そこに倒れている贋物(プロヒーロー)は虫の息だがすぐにでも病院に連れていけば一命は取り留めるかもしれん。

そんな目の前で助かる命を放棄し自らの復讐心という私欲で潰し、更には己の力を過信し自らの命も危うい。

そんな男がプロヒーローになれるとでも?いや、なれない。だからこそヒーローと名乗るに相応しきは()()()ただ一人なのだ!」

 

飯田の言葉を遮り自らの思想を声高らかに語るステイン

 

そのあまりの圧力に飯田は息を飲むでいた

 

「グロロ……さあ、貴様の復讐ごっこもここまでだ。貴様も兄と同じく我とステイン様の掲げる"正しき社会"の供物になるといい!!」グワッ

 

横たわる飯田の頭を踏み潰そうと武道が巨大な足を上げた瞬間

 

 

SMAASSH!!

 

ビルの上から飛翔した緑谷出久の拳が武道の巨体を打ち抜いた

 

「ぬごぉぉッ!?」ドシャアァ

 

止めを刺すのみと油断し片足の不安定な体制であれば流石の体格差も意味を成さず武道は仰向けに転倒してしまった

 

「……ビンゴだ。助けに来たよ、飯田くん!!」

 

 

「………いいッ!!」ニヤッ

 

 

思わぬ横やりの筈がステインの顔は愉悦に歪んでいた

 

 

 

 

 

ヴゥーッ ヴゥーッ ヴゥーッ

 

「ッ!!師匠、この先です!急ぎましょう」

 

同時刻一本のメールが師弟コンビの元に届く

 

それはさらなる激闘への招待状へとなっていることを二人はまだ知らずに路地裏をかけていくのだった

 



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血の伝道者 の巻

「ヌグググ……。ま、また邪魔が入るとは……。」ググッ

 

 

「み、緑谷くん!?なぜここにッ!?」

 

「ブラッド・ミッショネルズ。彼らの被害者の多くは人気のない街の死角で発見されてる、だから……。

騒ぎの中止からノーマルヒーロー事務所辺りの路地裏を虱潰しに探してきた!」

 

 

 

「"助けに来たよ"、か。いいセリフだ、そのような言葉を聞くのは久しく感じる。」

 

蹴飛ばされ尻もちから起き上がろうとする武道を見てステインの声色は喜びを浮かべる

 

「このままじゃやばい!!まだ動けそうかい、飯田くん!?」

 

「グッ……当然だ!!まだ兄の、プロヒーローインゲニウムの復讐は済んでいないのだから!!」グググッ

 

立ち上がる飯田その表情を見て緑谷を見て緑谷は焦る

 

そこに映るのはいつものクソがつくほど真面目な優等生のクラスメイトではなく、私怨に囚われた復讐鬼の姿だった

 

「な…今はそんなことを言ってる場合じゃない!!

少しでも早くこの状況をプロヒーローにッ……!!」

 

 

 

そこまで言いかけた緑谷の視界の端に倒れ伏したプロヒーローの姿が目に入る

 

(もう一人負傷者がいるのか、飯田くん一人なら無理矢理引っ張って連れていけたのに…!)

 

「君には関係ない!!この怒りというガソリンが尽きるまで僕にはもう後退の文字はない!!」

 

「ククク、つくづくお前は救えないな。そこの緑髪が武道に一撃入れた隙に逃げの一手を踏めばまだ助かる可能性があったと言うのに、みすみす若い命を私欲で捨てるとは到底ヒーローの行いとは思えぬ。」

 

「グロロロ、およしましょうステイン様。この手のバカは死んでも治るものではありません。」ズザッ

 

そうこうしている間に武道が体制を立て直し緑谷と飯田は挟まれる形となってしまう

 

「くぅ、なんとかしてこの状況を切り抜けなくちゃ……!!」

 

「切り抜ける?違う!!アイツ等を倒す!それこそが目的だ!緑谷くんは邪魔しないでくれ!」

 

「なっ……!?今はそんなことを言ってる場合じゃ「敵の前で口喧嘩とは余裕だな。」ッ!!」

 

「グローーッ!!」

 

「フンッ!!」

 

飯田の前に立つステインと緑谷の前に立つ武道が合わせて距離を詰める

 

(ま、不味い!!頭に血が上ってる飯田くんを説得しなきゃいけないのに意思疎通が図れていない、そんな時にコンビネーション攻撃!?)

 

「グロロ、小僧さっきはやってくれたな!喰らえい!」

 

武道がその大柄な体格に似合わず高速の低空ドロップキックを放つ

 

「うわッ!?」

 

緑谷は反射的に開脚飛びで回避し

 

(こ、ここからなら……!) 

 

通り抜けざまの武道に上から反撃を試みようとした矢先

 

「甘いわッ!」

 

「ゴハッ!?」

 

緑谷の背中を不意の一撃が襲う

 

(な、なにが……!?)

 

混乱に陥る緑谷の耳に 

 

「グオッ!?」

 

同じタイミングで飯田も攻撃を喰らった声が聞こえてきた

 

(そ、そうか!あのドロップキックは僕に対しての攻撃じゃない!飯田君に対しての、)

 

必死に視線を向ければ武道の放った低空ドロップキックは飯田の太腿裏にそして自身の背中にはステインのドロップキックが突き刺さっていた

 

なんとか空中で態勢を整え着地した緑谷だか

 

(あの数瞬の間で、ここまでのコンビネーション…、戦いの練度が違いすぎる!!)

 

その背中には冷たい汗が伝う

 

「ククク、どうした。互いに譲れない意志がぶつかり合うのなら弱き者が淘汰されていく。当然の話だ、それでも尚、俺の前で拳を構えるか?」

 

「ッ、当然だ!!」

(そうだ!臆してなんかいられない、一撃入れることが出来れば、まだ勝機はあるはずた。)

 

バチバチバチッ

 

「うおおおお!!」ダンッ

 

緑谷は高速で片方のビルの壁へと飛びそこから速度を落とさず反対の壁へと移り高速かつ立体的な動きでステインの頭上に迫る

 

「き、消えた……ッ!?」  

 

流石のステインもこの超加速には目を見開く

 

(いける!!初見でこのスピードに、反応できてない!)

 

「うおおおお!!」

 

ーーーーーーーーー

 

「くっ、避けたと思ったのに…!」

 

緑谷と同じ様にステインのドロップキックを屈んで避けた飯田だったが後ろから迫っていた武道にまんまと蹴りを喰らうことになっていた

 

「グロロ、そんな甘っちょろい考えだからいかんのだ!!

貴様も!兄も!その弱き身でありながら"ヒーロー"などと不相応な肩書きを冠するからこうなる、当たり前のことだ!」

 

「黙れ!!」

 

武道の煽りにまた頭に血が登り勢いに身を任せて突撃する飯田に、

 

「そういうところが愚鈍なのだよ!」

 

前屈みで懐に入り込み

 

「ヌウンッ!」

 

起き上がる勢いのままに飯田をショルダースルーで後方に放り投げた

 

「ぐおおっ!?」

 

「えっ!?飯田く、あああッ!?」ドゴッ

 

 

飯田が投げられた先にはステインを頭上から強襲しようとしていた緑谷がおり二人は空中で激突

 

「うあッ」  

 

「ぐうっ!」

 

そのまま受け身も取れずに地面に落とされた二人がなんとか体を立たせようとすると

 

「シャア!!」  

 

ステインが開脚式ドロップキックで二人まとめて突き飛ばした

 

「「うわああああッ!!」」バキャッ

 

片足ずつとはいえまともに受け身の取れない体制で喰らった二人は更に後方に突き飛ばされて

 

「ガハッ」

 

「グフッ」

 

ビルの壁に叩きつけられる。

 

(ッ!!距離ができた、ここからどうにか逃げ……。)

 

背に受ける痛みの中で緑谷の思考はなんとか一筋の光を見たような気になるが

 

「くっそおおおおお!!」

 

「い、飯田くんッ!?だめだ!!」

 

そんな緑谷の思惑などまったく気づきもせず飯田はヴィランに向けて突撃する

 

「倒す……お前らを、倒す!!」

 

「フンッ意気込みだけで思いが形を成すのなら俺もここまで苦労はせんわ!!」ビュバッ

 

ステインは猪突猛進に向かってくる飯田の懐に素早く入り込み

 

「ヌン!」

 

そのまま一本背負いで投げ飛ばし 

 

「ハアッ!!」

 

後ろに控えていた武道が逆さまになった飯田の胴を抱えそのままツームストンパイルドライバーで地面に突き刺した

 

「ぐあああああッ!!」ピシピシピシッ

 

その衝撃に飯田のマスクが一気にひび割れていく

 

「よし、いい塩梅だ武道。これでならまだマスクを剥がせる。」

 

「これくらい訳もありません。」

 

そのまま意識朦朧状態の飯田の体を頭をわしづかみにし無理矢理起こす武道

 

「飯田くんを!離せぇぇぇッ!!」

 

明らかに大技を狙う二人に対し阻止すべく緑谷も足に力を込め飯田ばりのスピードで接近し

 

(とりあえず難しいことは考えずここは一発入れ込む!

 

そこから活路を…!!) 

 

OFAを纏った拳でステインに迫るも

 

「甘い!」ズバッ

 

パシンッ

 

「なあッ!?」

 

当たれば大ダメージ確実の拳を放とうとした刹那、ステインの強力な手刀が緑谷の手首を横薙ぎに弾かれてしまった  

 

「お前のパンチ力は確かに強力だが余りにも直線的だ。ならばいくらでも防ぐ手立てはある!」  

 

自らの拳が弾かれて空中で無防備になった緑谷へステインは背を向けた状態で緑谷の頭の下に自らの肩を置き足を放り一緒になって地面に落ちる

 

『ダイヤモンド・カッター!!』ズガギンッ

 

 

「グハアアアアッ!!」

 

「……手加減は加えておいた。

貴様にはそこの贋物と違い期待している。次に相見える時までにそこを克服しておけ。」  

 

ステインの技の前に切って落とされた緑谷は手加減されたとはいえ流石の衝撃で体がすぐに動けない状態になってしまった

 

「さあ、武道。邪魔者は倒した

そろそろこちらも止めを刺すぞ。」スウッ

 

「ハッ!」ググッ

 

二人が示し合わせた様に右腕を掲げる

 

「い、飯田くん………!!」グググッ

 

緑谷が必死に体を動かそうとするが既に飯田の処刑は時間の問題だった

 

「とあァァァーー!」

 

しかし

 

 

「ヌッ!?」  

 

『テキサスコンドルキック!』バキャッ

 

「ぐおおっ!」

 

突如上から飛来した影により失敗に終わる

 

「テ、テリーくん!!」

 

「イズク、またせたな!!」

 

その正体は翔野テリー

 

そして

 

「グロロロッ!一体今日は何なのだ!!なぜこうも今日は邪魔が多い!!」

 

シュサッ

 

「光あるところに影ありとするならばその逆もまた然り…。それだけのことだ。」

 

憤慨する武道に追い打ちをかけるように何者かが肩車の体制で自分の上に乗っかって来た

 

「だ、誰だ!」

 

「外道に名乗ることはしたくないが闘いの礼儀として言っておこう!儂の名はプリンス・カメハメ!平和を愛する戦士だ!!」

 

カメハメは上に乗ったまま足を武道に絡ませて状態を後ろに勢いよく預けていく

 

『リバース・フランケンシュタイナー!!』ズガガン

 

 

 

ーーー技師、一閃!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、師弟タッグの初陣…!?


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目指すは完璧なる正義 の巻

「ガハッ」  

 

「グウウ…!」

 

先程まで意気揚々と必殺技を決めようとしたステインと武道だが再びの乱入者に手痛い一撃をもらってしまった

 

緑谷から見ればまさに友の命が刈り取られようとした瞬間に現れた救世主  

 

その見慣れた後姿に緑谷の心は震えた

 

「ありがとう、ありがとう!テリーくん!!」

 

「待たせて悪かったな、イズク!」

 

「ガハッ、ガハッ…。翔野テリー、そうか貴様が翔野テリーか!」

 

乱入者の正体を知るステインの顔は喜びに染まる

 

「ハアッ、ハアッ!翔野テリー!お前の体育祭での活躍、拝見させてもらったぞ!!名誉も、己の意地も捨てあの場で誰よりもヒーローとしての矜持を見せてくれた、まさに本物!!そんな若人とこうも早く肌をあわせて語らう事ができるとは光栄だ!さぁお前の力を見極めさせて貰おう!!貴様があのお方から次代を引き継ぐに足る存在かを!」

 

「四の五のうるせぇ野郎だ。こっちはそんな大層な物は背負ってねぇよ。

ただピンチの仲間がいる、ならそれを助ける!それだけのことだ。」

 

 

「……やはりいい!!」

 

テリーの言葉にステインの顔に愉悦が広がる

 

「テリーよ、一先ずこっちのデカブツは儂が相手をする、そっちは頼んだぞ。」

 

「老いぼれが!そんな老躯でなにができる!」

 

カメハメの言葉に激昂した武道が突っ込んでくるが

 

「このカメハメをただの老いぼれと甘く見るとどうなるか教えてやろう!!」

 

『フライング・ニールキック!!』   

 

 

迎え撃つ様に体をまるごと浴びせるような回し蹴りが炸裂

 

「グォォ…!」フラッ

 

カウンターで入った打撃に流石の武道の巨体もふらつく

 

「ハアッ!」シュバ

 

その隙を逃さずカメハメはビルの壁を使い三角飛び式の延髄斬りを喰らわせる

 

「グフォッ!」

 

頭部への連続した衝撃に武道の意識は飛びかける

 

「喰らうがいい!これがお前が老躯と蔑んだ肉体に刻み込んだ技の一つ!!」

 

『地獄卍固め!!』

 

「うおーーーッ!?」ギリギリギリ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「さぁ、みせてもらおう!貴様の実力を!」

 

『審判のロックアップ!』

 

こちらも負けじと開戦の火蓋を切るロックアップが始まる

 

「フンッ!」グググッ

 

「ヌゥッ!」グググッ

 

ガッチリと組み合う両者

 

上背と若さで勝るテリーが優位に進めるかと思えば

 

(お、重い!まるで岩と組み合ってるようだ…!?)

 

「クハハハッ……なかなかに強いな。これは楽しめそうだ!」

 

逆に余裕を見せるのはステインだった  

 

組み合いながらも笑みを浮かべ微動だにしない

 

「クッ、だが闘いは単純な力比べでは無い!トリャア!!」ガシッ

 

ロックアップを外すとそのまま体を滑り込ませヘッドロックでステインの頭部を絞め上げる

 

「ヌン!!」

 

しかし締まり切る前にステインはテリーを持ち上げそのままアトミックドロップで切り返す

 

「ぐぉ!?」

 

「シャア!!」

 

尾てい骨の痛みに呻くテリーを尻目にお返しとばかりに

ヘッドロックを後ろから仕掛けるステイン

 

「ヌオォ!!」スサッ  

 

ガチッ

 

しかしテリーもロックが決まりきる前に後ろに頭を抜きながらステインの腕を取りアームロックで後ろに回していく

 

「ぬウゥ…、なかなかやるな。」

 

 

「当たり前だ!こちとら師匠に短期間だがみっちり鍛えられてんだ!」

 

アームロックの絞りを強めていくテリーに

 

「甘いわッ!!」

 

空いている腕でバックエルボーを見舞うステイン

 

「ぐはっ!!」

 

「シャア!」

 

テリーの技が解けたタイミングを見計らい攻勢をかけようとしたステインだったが

 

「ハアッ!!」

 

テリーはその懐にタックルを見舞うと素早く立ち上がり

 

『スピニング・トゥー・ホールドッ!!』

 

得意技で流れを死守した

 

 

「す、すごい…!!」

 

一連の攻防で互角、いやそれ以上のテクニックで相手と渡り合うテリーと、伝説と謳われその話に偽り無しとばかりに自分よりも一回り以上大きい相手を制圧しているプリンス・カメハメ

 

両雄の活躍に体の力が戻ってきた緑谷は安堵した

 

「……ムッ!?」

 

「グロロ。た、確かにこの技の切れはただ者ではなかったようだ…。」

 

不意に技をかけられて続けていた武道が不敵に笑う

 

「だが!!」グググッ

 

武道の拳が握り込まれるとそれに呼応するように筋肉が隆起する

 

「ヌオオオォォォ!!」ブンッ ブンッ

 

すると無理やりに体を捻り

 

「クアッ!?」

 

「タアアアッ!!」バシィィッ

 

力づくで技から脱出してしまった

 

「ムウゥ…。」フラッ

 

決めきれなかった悔しさからか無念そうな声を漏らすカメハメ

 

「やはりそうか。確かにテクニックやパワーの維持はしているだろうが、スタミナの衰えは隠せぬようだなな!感じていたぞ貴様の絞り上げる力が時間の経過と共に弱まっていくのをな!」

 

「クッ!。」

 

 

「し、師匠!」

 

 

「……他人を心配している、余裕があるかな!!」ガッ

 

「グホッ!?」

 

それと同時にステインもテリーの胸板を蹴りつけ技から脱出

 

するとそのまま

 

「シャアァァッ!!」

 

ベシィィィィーーーッ!!

 

空気の膜を切り裂くような逆水平チョップがテリーを襲う

 

「ぐはぁ!」

 

「あぁ、テリーくん!!」

 

そのあまりの衝撃に緑谷は悲鳴をあげる

 

見ればテリーの胸板にはミミズ腫れが出来ていた

 

(な、なんて切れ味だ……、本当に刃物で切りつけられたと錯覚するほどだ……。)ガクッ

 

「イェアッ!」

 

喧嘩(クォーラル)バズーカ!!』ゴスッ

 

「ガハッ!!」

 

 

片膝をつくテリーに容赦ない追撃の膝が顔面を打ち抜く

 

 

「グロローーッ!!こちらも行くぞーッ!!」

 

 

『武道爆裂キック!!』

 

(ま、まずい!いま避けては…!!)バッ

 

ドゴンッ

 

「ぐおぉぉっ……!!」

 

腕をクロスして衝撃を和らげようとするもその武道のパワーは凄まじくガードをいとも容易く超えてカメハメにダメージを与える

 

「グロロロ、後ろには愛弟子とその他三人。

ならば身を挺して守る他ない、素晴らしい判断だ!!流石噂に名高い歴戦のヒーローと言える。

 

 

……だが!」ガシッ

 

武道はカメハメに組み付くと

 

「我々が欲するのはそんな状況を弾き返してしまうほどの圧倒的パワーだ!!その拳一振りで状況を一変させ人を救う!それこそが我とステイン様が求める"完璧(パーフェクト)"!!

そしてその体現者はこの世にただ一人!オールマイトのみ!!」グワッ

 

 

背負い投げを決め

 

「カメハメよ、確かに貴方のヒーローとしての精神は素晴らしい、だが貴方は老い過ぎた!」ググッ

 

握り込んだ拳を

 

「故にあなたにはこの闘いからご退場願おう!

我とステイン様の、彼岸成就の一歩としてそこの偽物を粛清する!その場に全盛期を過ぎた貴方は必要ない!!」ゴスッ

 

カメハメの腹に叩きつけた

 

 

「グッファァ……ッ!!」

 

 

(そ、そんな……、まだ力を残していたなんて……。)

 

またたく間に形勢が逆転されていく様を見せつけられ絶望する緑谷だったが…

 

(……あ、あれ?)

 

ふとあることに気付く

 

 

「さぁ、これで止めだ!!」

 

武道は無理やりカメハメを起こすとリバースフルネルソンの体勢で持ち上げようとするが

 

「さ、せ、るかぁぁぁぁぁ!!」

 

 

閃光を身に纏った緑谷が背後から低空タックルで膝裏を強襲する

 

 

「ヌゴッ!?」

 

「…助かったぞ。さぁてこっからはお主も含めての超実践式職場体験の始まりじゃ!」

 

リバースフルネルソンから抜けたカメハメはそのまま

体を回転させかかと落としを見舞う

 

「クフッ!!」ガクッ

 

「……お前達血の伝道師(ブラッド・ミッショネルズ)などと大層な名前と偉そうな口上を述べているが、その実はなんともお粗末な者だな。」

 

「……なんだと?」

 

カメハメの言葉にステインの片眉が上がる

 

「だってそうだろう、これ程の力があるのならこんな人目のつかない路地裏で草の根運動をせずに早々に存在を公にし自分達の存在を誇示したほうがいいに決まっている。」

 

「なにが言いたい!!」

 

「わからぬか?結局お主らは逃げたのだよ、それ程の力を得ても大衆がなびくか不安だった。だから影から行動しマスコミが不安を掻き立ててくれるのを待った、とんだ臆病者(チキン)だ!」

 

「ヌウウウ……ッ!!」

 

ステインの顔がみるみる憤怒に歪んでいく

 

「もしそうでないと言うのなら……ハアッ!」

 

 

カメハメが何かを上空へ投げる

 

小型のそれはビルの狭間を抜け広い空間へ出ると正方形の浮遊物体と化す

 

それはかつて日ノ本の分け目を賭け幾多の猛者が潰えた関ヶ原で起きたもう一つの闘争、そこで使われた浮遊リングを模した物であった

 

「あのリングの上で勝負してみろ!そこに勝てたのなら儂の命も、小奴らの命も好きにするが良い!!」

 

「ジ、ジジイ!何を好き勝手に「良い。」ステイン様!?」

 

「カメハメ、お前のその安っぽい挑発に乗ってやろう、だが!!

 

…俺を侮辱した事、後悔させてやるぞ!」

 

 

「……勘違いするな、儂はセコンドだ。闘うのは緑谷とテリー(この二人)だ!!」

 

 

「「「「ッ!!?」」」」

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「こちら、保須市上空です!先程出現した正体不明の怪物との戦闘の影響でまだ市内には混乱が広がっています!!どうやら№2ヒーローエンデヴァーも来ているとの事ですが……」

 

急遽発生した未知の怪物とヒーロー達の闘いをカメラに収めようとヘリで上空より撮影するテレビスタッフ

 

刻々と移り変わる景色を実況するアナウンサーはとあるビルの中で異質な物を見つける

 

「ちょっと待って下さい、あれは……リングです!!何故かこのような所にリングが設営されております!!」

 

アナウンサーが混乱していると

 

「トアーッ!!」

「グロローー!!」

 

更に混乱を加速させるべき存在がリングに舞い降りる

 

「あ、あれは……!?間違いありません!!数々の証言が上がりながらも未だに正体がはっきりしていない、今最も世間を騒がせている血の伝道師(ブラッド・ミッショネルズ)です!!」

 

「ハアッ!」

 

「テイッ!!」

 

 

そしてそこに相対する二つの影

 

「さぁ、行こうぜ!!イズク!!」

 

「うん!絶対助けるんだ!!」

 

「……さぁ小僧共よ、覚醒して(目覚めて)みろ!!」

 

そしてそこに付くセコンド

 

テレビカメラはこれから始まる決戦の火蓋が切られた場面をしっかりと映していた

 

 

 

 

 




 
次回、カメハメ流超実践式指南始まる!


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名伯楽、カメハメ の巻

「貴様等覚悟しろ!!この俺の崇高な理念をバカにした罪は重いぞ!」

 

「狼狽えるな!テリーは前に、緑の小僧は横のロープへ走れ!」

 

 

突進するステインに対して

 

「たああっ!」ズサッ

 

テリーが足元に滑り込み蟹挟みでステインを前に転がすと

 

「てえいっ!!」

 

そこにロープの反動を使い加速した緑谷の低空ドロップキックが顔面に突き刺さった

 

「ヌオォーッ!?」ゴロゴロ

 

「ッステイン様!?おのれ!!」バッ

 

リングの外へエスケープを余儀なくされたステインを見て今度は武道が堪らずリングイン

 

「グロロローーーッ!」ドドドッ

 

「敵は熱くなってモーションが大きくなっておる、呼吸を合わせて迎撃だ!」

 

「テリーくん!!」バッ

 

「OK、イズク!!」バッ

 

『『G2カノン砲!!』』バキャン 

 

「ぐおおおぉぉぉっ!!」

 

向かってくる武道に息のあったドロップキックがカウンターで入り堪らず退く

 

「だが!この程度で終わるほど我も柔くはないわ!!」グワンッ

 

武道はよろけたままロープに体を預けその反動を使い加速して再び襲いかかる

 

「危ない、イズク!!」ドンッ

 

とっさにテリーは緑谷を突き飛ばす

 

「グロロロッ!!」ドゴッ

 

「ぐはぁ!」

 

武道の巨体を活かしたショルダータックルが炸裂、あまりの威力にテリーの体はトップロープまで飛ばされたテリーの体はエプロンサイドへと叩きつけられた

 

 

「テリー君!?」

 

「さぁ小僧、これでサシだ!先程の礼をしてやる!!」

 

 

武道が緑谷を潰そうと拳を振るう

 

「うわあぁ!?」

 

一撃喰らえばひとたまりもない武道の猛攻を必死に避ける緑谷  

 

幸いにして体格差があり過ぎるあまりなんとか躱し続けていた  

 

「ヌゥゥ、ちょこまかと!

 

…だが!!」

 

「あっ!?」 

 

とうとう緑谷はコーナーへと追い込まれてしまった

 

「グロロロ、とうとう追い詰めたぞ。」ジリッ

 

(や、やばい、あんな攻撃を喰らえば一撃で終わりだ…。なんとか打開策を……。) 

 

 

窮地を脱すべく必死に知恵を働かせる緑谷に

 

「おい、小僧よ。いつまでも逃げの一手では一向に事態は好転せぬぞ。」

 

リング外からセコンドとしてカメハメが声を掛ける

 

「プ、プリンス・カメハメ…。」

 

「体格的に不利だろうと、個性が不利だろうと関係ないぞ。そんなものを乗り越えても守りたいものがあるからお主はヒーローを目指すのであろう?」

 

「で、ですがこのままでは…。」

 

「安心しろ、策はある!名付けて

 

『赤ちゃん親指チューチュー作戦』じゃ!!」

 

「………へ?」

 

緊迫した状況下にあまりにも不釣り合いな作戦名が飛び出し緑谷の思考が停止してしまった

 

「グロロロ、これで終わりだ!!」

 

武道が繰り出した拳が緑谷にまっすぐ伸びていく

 

「ほれ、来たぞ!つい最近までの赤子の頃を思い出せ!

 

まずは右手じゃ!!」

 

「ええい、南無三!!」バッ

 

 

ズガアッ

 

「アアアッ!?」

 

堪らず上空のヘリから見守るアナウンサーからも短い悲鳴が上がる

 

「な、なんだとーッ!?」

 

 

「ムグググ……。」

 

小柄な緑谷に叩き込まれた拳は右肘のガードにより完全にブロックされていた

 

「ふざけるな!こんなチビ野郎に我のパンチが防がれてたまるか!」

 

目の前の出来事が飲み込めない武道はすぐさま逆の拳を振り上げるが

 

「ほれ、逆もチューチューっと。」

 

「…ッ!!」シュッ

 

ゴキャ

 

「グロオォぉーッ!?」プシュゥ

 

なんと次は防がれたばかりか逆に武道の拳が破壊され血を流す羽目になってしまった

 

「フォーム、呼吸を止めるタイミング、そしてそれを相手の攻撃に合わせる集中力これらが揃ったとき体はダイヤモンドよりも硬い盾となる!そしてその盾は攻撃してきた相手の武器を破壊する矛にもなるのだ!!」

 

「ぐぬぬ、ならばそのガードごと破壊してくれる!!」

 

『武道爆裂キック!』

 

「ほれ溜めの大きい技が来たぞ!」

 

「そこだぁ!」

 

激昂した武道が蹴りを放とうと上げた足の隙間を転がるように抜け出した緑谷

 

「ぐぬぅ、またしてもちょこまか「SMASH!!」ヌガァ!!」

 

蹴りを避けられ振り向いた武道に緑谷のスーパーマンパンチが炸裂

 

さっきまで自分が獲物を追い詰めていた筈のコーナーへ体を押し込められると

 

「ナイスだ!イズク!!」

 

復活していたテリーがそのコーナーの上に登り武道の後ろから

 

仔牛の焼印押し(カーフ・ブランディング)』グシャッ

 

自身の十八番で追撃した

 

「さ、先程から始まった闘いは雄英高校の生徒コンビがなんとあの血の伝道師(ブラッド・ミッショネルズ)を相手に優勢に進めております!!」

 

 

この光景を上空のヘリから眺めるアナウンサーは興奮して言葉を発する

 

「テリーくん!」

 

「おう、待たせたな!」

 

回復したテリーがすぐさま追撃に加わり一気呵成に試合を決めにいきたいところだっだが

 

 

「ヌンッ」ガシッ

 

倒れていた武道が二人の足首を掴むと

 

「シャアアアア!」シュッ

 

 

バッ

 

 

こちらも戦線復帰したステインが二人の後ろのサードロープから飛び上がりテリーの後頭部と緑谷の髪を掴む

 

「武道、引け!」

 

「御意!!」

 

ステインが通過する瞬間に武道が足を引きステインのフェイスバンターに加速をつけ

 

 

Hello、EARTH(ハロー・アース)!』ドシャ

 

「ブハ!!」

 

「ブファ!!」

 

 

リングに二人の顔面が叩きつけられる

 

「確かにセコンドの声で見違えるほどの強さだ、だが所詮は付け焼き刃。そんな小手先の技でやられるほど俺達は甘くはないぞ!」

 

「ぐぅ…!」ヨロヨロ

 

「あうぅ…!!」フラフラ

 

なんとか混濁する意識を立て直し立ち上がろうとする二人

 

 

「もう辞めるんだ!翔野君、緑谷君!!」

 

そこに介入する声

 

 

「これは僕の戦いだ!兄さんの…、インゲニウムの名を継ぐ僕に課された使命なんだ!」

 

声の主は飯田天哉

 

武道のパイルドライバーのダメージから回復した彼は激闘の音に気付きビルの屋上までの駆け上がって来たのだ

 

「これ以上無関係な君たちが傷つく必要はない!だから僕と代わってくれ!!」

 

 

「………だ、だとよイズク。どうするよ?」グググ

 

「そ、そんなこと言ってたら…ヒーローはなにもできないじゃないか!!」グググ

 

 

二人の両の足に再び力が漲る

 

「オールマイトが言ってたんだ!余計なお世話は、ヒーローの本質だって!!」バチバチッ

 

「そうだな!それでこそイズクだぜ!」ボアァッ

 

「な、なんでそこまで……、やめてくれ。これ以上、僕にみじめな思いをさせないでくれ…。」

 

 

「下を向くな、インゲニウムよ!!お主のその姿こそ、インゲニウムの名を貶める事になるぞ!!」  

 

 

「ッ!!」

 

カメハメの喝に飯田は落ちていた頭を正す

 

「お主の兄は私怨に溺れ自らの授かった力をいたずらに振り回したか?

 

インゲニウムとは、お主が憧れたヒーローとはなんだ!」

 

「僕の、憧れた…ヒーロー…。」

 

「…くだらん!どれだけ取り繕うと所詮は偽物。本質はそう容易くは変わらない!!そこの二人を早々に葬って次は貴様だ!」ダッ

 

「舐めるなぁ!!」シュバ

 

ゴカッ

 

決着を急ぐステインに迎え撃つテリーの浴びせ蹴りが炸裂

 

 

 

「うちの委員長の行く末をてめぇらがとやかく語る筋合いはないぜ!!」

 

「グオォォォッ…!!」ボタタ…

 

「あーっと、ステインの顔から出血です!先程の蹴りで顔面が切れた模様です!!」

 

 

 

「ステイン様!?」

 

「お前の相手は僕だ!」バッ

 

救援に行こうとする武道の前に緑谷が立ちふさがる

 

「どけぃ小僧!吹き飛ばしてくれるわ!!」

 

しかし減速することなく武道はショルダータックルで突撃しようとするが

 

「小僧よ、いくらお主が小柄だろうと四肢の一つには勝る筈だ、相手の勢いを利用し片足を軸に持ち上げてしまえ!!」

 

 

「うわぁぁ!!」バッ

 

カメハメの声に習い緑谷は武道の踏み込み足の太腿にタックルに入り持ち上げる

 

「そのままさっきのお返しに後ろに倒れ込んで前に叩きつけてやれ!!」

 

「うおおおお!!」

 

『フラップジャック!!』ズバァンッ

 

顔面攻撃の意趣返しをくらう武道

 

「こ、こちらも体格差を逆に利用した一撃〜〜ッ!!

 

し、しかし先程もヒーロー側が優勢と思われた所からの重い反撃が待っていました、まさに一進一退の攻防です!」

 

アナウンサーの言葉にも熱がこもる

 

「ぐうぅ、まだだ!

 

まだ倒れる訳には……!

 

私欲に塗れた世界を、腐敗した世界を正すまで!この歩みを止めることは許されない!」

 

出血を手で押さえながら尚も衰えぬ戦意を示すステイン

 

「……、その粛清とやらが終わった世界に残るのがオールマイトってことか?」

 

「ハアっ、ハアっ!オールマイト!

そうだ、あの御方こそが真のヒーロー!!

それ以外は全て偽物だ!」

 

 

「確かにオールマイトはすごいヒーローさ、アメリカにまで名が届く程な。

だが時代は移りゆくものだいつかはその役目を誰かに託す事になる、その責を担わんとする数多の可能性を貴様のエゴで潰そうとすることは許されることではない!!」

 

「…場外の小僧もそうだと言うのか?」

 

「無論そうだ。」

 

「翔野くん…ッ!!」ツゥー

 

テリーの言葉に飯田の頬に涙が伝う

 

 

「それにな、ステイン。そう遠くない未来、オールマイトなんか目じゃないヒーローが現れるぜ!」

 

「それは貴様が超えると言う事か?」

 

「いいや、俺じゃない。だがそいつはな力は未だ及ばすとも既にオールマイトを超える輝きを持った男だ!」

 

 

「……もういい、お前の未来予想図は知ったことではない。

彼岸成就に立ちふさがるなら排除するまで!武道!!」

 

「グロロロ、ハッ!!ステイン様!!」

 

 

ステインの声に反応した武道が素早く立ち上がると

 

緑谷とテリーを挟むように立ち

 

「行くぞ!武道!」ダッ

 

「ハハーッ!」ダッ

 

 

一気に距離を詰めていく

 

 

「ま、マズイ!あの技は!!」

 

そのムーブを見て飯田が声を上げる

 

「喰らえ!!」

 

『『HRショット!!』』

 

上を狙う弾丸(ドロップキック)と地を這う弾丸(低空ドロップキック)が一斉に襲いかかる

 

(…これはさっき食らった技!でも今回は違う僕の背中にいるのはテリーくんだ!)

 

「行くぞイズク!死中に活アリだ!!」

 

(そうだ、なにも怖くない!だから逃げるんじゃない!打ち勝つんだ!!)

 

背中合わせの二人が示し合わせたように動く

 

ジャンプして避けた緑谷と屈んで回避しようとするテリー

 

(バカめ!この技は避けることなぞできん!俺の蹴りをよければ武道の蹴りの的になるだけだ!!)

 

先程と変わらず技が命中する!

 

そう確信したステインだったが

 

 

『ローリングソバット!!』バチバチッ

 

地這い脚(アースクリップキック)!!』ボァァッ

 

 

「グロ…ッ!!」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

それぞれが避けの動作と並行して背後の相手へのキックで迎撃

 

「今だ!相手は技を破られて動揺している!!一気に畳み掛けろ!」

 

カメハメの声が飛ぶ

 

 

「おっしゃあ!行くぜイズク!」ガシッ

 

「これで、どうだ!!」ブオッ

 

二人はそれぞれ相手を閂で捉えてそのままスープレックスに移行

 

最高加速地点で血の伝道師(ブラッドミッショネルズ)の頭がぶつかる!!

 

『『NEW・レインボーブリッジスープレックス!!』』ガシャアァァン!!

 

ブシャッ

 

二人の頭から血が噴き出す

 

「も、申し訳ありません…()()()!」

 

 




超えるか、本物の戦場を!?


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怨念溢れるビック・ザ・武道の正体 の巻

「なにっ!?」

 

「えっ!?」

 

 

呟かれた言葉は予想外のものだった

 

 

「……グロロロ、ステインよ。相手を推し量る故に詰めが甘くなるところが悪い癖だと教えた筈だぞ。」ドサッ

 

 

「も、申し訳ありません…。」ドサッ

 

 

互いの頭を強打し出血した中で見えた真実

 

「こ、これは一体……?」

 

「し、主従関係が逆転してる…?」

 

突然の出来事にテリーと緑谷にも戸惑いが生まれる

 

 

「……さて、もうこの姿でいる必要はないな!」ムンズ

 

バキバキバキッ!!

 

 

武道は自らの面を鷲掴み引き裂いていく 

 

「…遙か昔、個性が生まれし時。安寧は崩れ世界は少数派閥を排除しようと争いが生まれた。

 

しかし、やがて世界の大局が覆ればその逆を行い!

 

果てには異能者同士での飽きることのない戦いの日々!!

 

そしてそれをショーと化して煽る不逞の輩共!!」  

 

バサッ

 

隠されていた髪と髭があらわになる

 

「…我が名はネプチューン・キング!いつまでも善、悪と醜い争いを続け、それを煽り真の安寧をいつまでも築こうとしない現世に終止符を打ちに来た超越者也!!」

 

面の下に現れたのはまたしてもマスク

 

「真の平和に導けるのはヒーローではない!!

 

正義も悪も全てを圧倒し制圧することができる完璧(THE・パーフェクト)のみ!!」

 

しかし見た目の変化よりも二人が感じたのは武道、もといネプチューン・キングの纏う空気が一変したことだった

 

「マスク狩りもその一端に過ぎぬ!真に力ある者が世界の覇を得る!その道理をここに復活させる!!」

 

「力を憎み力で持ってそれを抑え込むってか…。」

 

「そ、そんなことしても世界は変わらない!

結局誰かが涙を流して新たな争いの種になるだけじゃないか!!」

 

ネプチューン・キングの声明に声を荒らげる緑谷だったが

 

「やめておけ、この手の奴は理屈や言葉での説得など無意味よ。このリングで、勝利で持って説き伏せるしかない!」

 

カメハメが鎮めた

 

 

「さぁお喋りはここまでだ!行くぞ小童ども!!」グワッ

 

「迎撃だ!イズク!」ボァァ

 

「うん!」バチバチッ

 

『『ツイン・テキサススマッシュ!!』』ドゴォォォッ

 

 

 

再びのキングのショルダータックルとテリー・緑谷組の拳がぶつかる

 

(お、重い…ッ!!)

 

(テ、テリーくんと息を合わせても互角ぐらい…!?)

 

「グロロロ、先程まではステインを立ててやる為に少し手を抜いていたにすぎん!」

 

ガシッ

 

ガシッ

 

「ここからが我の本領発揮よ!!」

 

キングの大きな両手が二人の頭を掴みそのまま足を払う

 

『万砕落とし!!』ゴシャ

 

 

「な、なんと!アイアンクロー式の変形チョークスラムで二人まとめて後頭部から叩きつけてしまった!!なんと言う腕力でしょうか!!」

 

「まだ終わらんぞぉ!!このまま一気に試合を決めてくれる!!」バッ

 

武道は二人の頭から手を離すとそのまま跳躍しエルボードロップを見舞うも

 

「クワッ!」サッ

 

「うわぁ!」サッ

 

ゴガンッ

 

二人は横に転がり回避

 

そこから素早く立ち上がり

 

「今度はこっちの番だ!」

 

「喰らえ!!」

 

『クロス・延髄!!』ドゴォッ

 

エルボードロップからの立ち上がり際、打点が低くなった所を狙いすました蹴りで前後から挟み込む

 

(き、決まった!!)

 

(これなら……ッ!?)

 

 

「グフォッ……

 

 

効かぬわぁッ!!」クワッ

 

ツープラトンを食らってもなお猛然と立ち上がる武道はそのままロープへ走り

 

「お前ら如きのガキ二人が力を合わせたところで我の牙城は崩せんわ!!」

 

加速をつけたまま両腕を広げ二人まとめてラリアットで薙ぎ倒そうとする

 

「くそっ、そう何度も食らうかってんだよ!!」ググ

 

二人が再度迎撃しようとすると

 

「力みすぎた、二人とも。」

 

カメハメが声をかけた

 

「ここぞの場面で必要なのは、大胆ではなく細心、力ずくではなくしなやかな脱力!!

 

ライオンの狩りと同じ、さすれば活路は見えるはずだ!!」

 

「大胆ではなく細心……。」フッ

 

「力ずくではなくしなやかな脱力…。」ダランッ

 

迫りくる武道の丸太の如き剛腕を前にして二人が構えを解いた

 

「グロロ!恐怖のあまり血迷ったか!このまま轢き殺してくれる!!」ドドドド

 

「あ、危ない!!」

 

堪らず飯田が声をあげるも

 

 

「…!

 

見えた、テリーくん!」バッ

 

 

「ああ、任せろ!!」ユラッ

 

 

 

緑谷は声と共に後方へバク宙しロープへと飛んでいく

 

残ったテリーは

 

「グロロ、一人は逃げたか。ならば貴様だけでも死ねぇ!!」

 

 

(ライオンの狩りの如く、その意味する所は細心の観察と)フワッ

 

「なにっ!!?」 

 

武道のラリアットが直撃する刹那、脱力しタイミングを合わせて後方へ軽く飛んだテリーの体は柳の枝の如く武道のラリアットをいなし

 

「しなやかな脱力が生む機を逃さぬ一点の集中力にあり!!」ブアッ

 

そのまま腕に絡みついたと思えば体を横向きに飛びつき背中を超えた両足が逆の腕を絡みとる

 

 

「ぬおぉっ!?」

 

「タイミングはどうだっ、イズク!?」

 

「バッチリだよ!テリーくん!!」

 

そのままロープに降り立ったイズクはしなるロープの反動を利用しミサイルの様に武道にめがけて突っ込んでいく

 

(ここで一気に終わらせる!出し惜しみは……なしだ!!)

 

『デラウェア・スマッシュ!!』バギィッ

 

そのまま緑谷の個性をフル解放した拳がキングに突き刺さる

 

「ブゥフォォッ!!」グラッ

 

そのまま後ろによろめくキングに

 

「まだまだ行くぜ!!」

 

テリーが加速をつけて回転十字固めで後頭部から落としていく

 

 

崩落する教会(コラプス チャーチル)!』ゴチッ

 

後頭部が鈍い音を上げてマットに打ち付けられる

 

「まだまだぁッ!!」サッ  

 

テリーは素早く技を解くとすぐさま立ち上がり次の技へ移行する

 

「イズクもう一度、今度はコーナーに登れ!!」

 

「わかった!」

 

テリーの声に呼応するように緑谷はコーナーへ駆け出す

 

「いくぞ!!」ザッ

 

テリーは相手の脇に足を置くとそのままブリッジをしてキングの体を押え込む

 

「イズク!」

 

「たあっ!!」バッ

 

そこへコーナーへ登った緑谷がムーンサルトプレスでテリーの上へ落ちていく

 

 

『『ジャパニーズ・レッグロール・ホールド!!』』バスンッ

 

 

ギリギリギリ…!!

 

 

「ぐおおおおおォォォッ………!!」ゴキゴキゴキッ

 

 

「むりやり抑え込まれていたヴィランの体がさらに締め上げられていく!!

 

このままいけば確実に相手は堕ちていくでしょう!」

 

テリー・緑谷組の猛攻に勝利の匂いを嗅ぎ取ったアナウンサーも実況に熱が入る

 

 

 

「だああああああああッ!」バシッ

 

「ぐわッ!?」「あだっ!?」

 

しかしここでステインがカットに入りキングを救出

 

 

「武道様!ご無事でしょうか!?」

 

連続攻撃を喰らいダメージを負ったキングに寄り添うステインだったが

 

「…………遅いわ!この愚か者がぁッ!!」ボグッ

 

「グフゥッ…!?」

 

キングはボディブローを無慈悲に突き刺した

 

「なにを呆けておったのだ、このバカ者!

 

お主にその武を授けたのは誰だ!

 

誰のおかげで貴様の野望の歩みは始まったのだ! 

 

さっさと助けにこんか、この恩知らずがぁ!!」ビスッ ドスッ

 

ボディブローを喰らいうずくまるステインに激怒しながらストンピングを叩き込むキング

 

「な、なんて奴だ「やめろぉぉぉ!!」…ッイズク!?」

 

「ムンっ!?」

 

堪らずに駆け出した緑谷のパンチを腕を胸の前でクロスしガードするキング

 

「なんでッ…なんでそんなことができるんだ!?

 

お前を助けてくれたんだろ!?

 

味方なんだろッ!?なんでそんなひどい事ができるんだよ!?」バチバチバチッ

 

「ガキが!知ったような口を叩くな!!」グググ…

 

「み、緑谷…出久……っ!」

 

両者の鍔迫り合いそこへ

 

「ガキだろうが、お前の行いは許してはいけないことぐらいの分別はつく!!」ムンズ

 

ガンッ

 

 

緑谷に気を取られていたキングの髪を鷲掴みテリーのベッドバットが炸裂する

 

「ガキと侮ると痛い目見るぜ!裸の王様よぉ!!」   

 

「お、おのれぇぇぇ!

再三再四、我に楯突くかぁ!!このガキどもがぁ!!」

 

ベッドバットを食らった箇所を押さえながらも立ち上がる

 

「ぶ、武道様…ひとまずここは私が「ええい黙れ!」

 

「元はと言えばステイン!貴様がさっさと止めを刺さぬからこうなるのだ!

そんな奴が我に、指図するな!」ゴガッ

 

ステインの庇うような言葉に苛立ったキングはステインに対しショートレンジのラリアットを食らわす

 

「グフォッ……、ッアアアッ!?」

 

そのあまりの威力にステインの体はトップロープをゆうに乗り越えエプロンの更に外、つまりは空中へと放り出されてしまった

 

「危ない!」 「間に合えっ!!」

 

落下するステインの手首を緑谷が掴みその緑谷の空いた手をテリーが掴む

 

「てぇいやっ!!」ガシッ

 

そしてエプロン再度に捕まり落下を阻止する

 

「な、なぜ助けた…。」

 

 

「……そんなのわかんないよ!!でも気がついたら体が勝手に動いてたんだ!!」

 

「ああ、そうだなイズク!この身の内側にある何かがそうさせるんだ!このリングで相対したのならこのリングで決着をつけろとな!!」グググ…

 

テリーは片腕に力を込めてリングに上がろうとするが

 

「グロロロ。つくづく甘く、つくづく難儀なものだなヒーローと言う奴は!!」ガンッ!

 

「ぐあああああッ!!」

 

「テリーくん!!」

 

キングがテリーの手に向かいストンピングで踏みつける

 

「やめろ!そんなことをすればお前のパートナーであるステインも落ちてしまうぞ!!」

 

テリーが声を荒らげるが

 

「グロロロッ!それがどうした!あんな役立たずはいずれ我の枷になることは明白!ならば遅かれ早かれいずれは切って捨てる運命よ!むしろ、ここで貴様らを葬るのに一役買ったことが唯一の我に対する報いよ!」グリグリ

 

そう吐き捨ててテリーの手の甲を踏みにじるキング

 

(な、なんて奴だ!このままじゃテリーくんが…ッ!!なんとかできないのか!?せっかくオールマイトから力を譲ってもらったってのに!こんなにも僕は無力なのか!!)

 

「……、おい。緑谷出久。」

 

自らの無力に打ちひしがれる緑谷にステインが声をかけた

 

 

 

 

「グロロロ。し、しぶとい奴だ!さっさと楽になればいいものを!!」

 

 

「グウゥッ、テキサスの男ってのはそう簡単にはくたばらねぇんだよ!!」

 

 

散々にストンピングを繰り返しても決して手を離さないテリーに悪態をつく

 

「ならばその意志が途切れるまで踏みつけてやるのみ!!」

 

キングが再びストンピングを再開しようとすると

「スマッシュ!」ブォン

 

ゴウッ!

 

急な上昇気流がキングを襲い

 

「シャアアアア!!」シュバ

 

その勢いに乗じてステインがキングに飛びかかる!

 

『決別のガウジング!!』

 

キングのマスクに爪を立てて掻きむしり首に乗りかかる様にキングにまとわりつく

 

「ス、ステインッ!?貴様!!」

 

「武道様!ここまで育て頂いた大恩、感謝いたします!

 

ですが!あなたのこの闘いでの行いは私が貴方様を粛清の対象にするには十分でした!

 

私の目指す理想のため、貴方に育てられたこの身で持って貴方を処します!!」

 

 

「あーっと!!どうしたことでしょうか!?ここに来てブラッド・ミッショネルズが仲間割れ!!」

 

 

「ええい!この駄犬め!噛みつく相手を間違えればどうなるか!」ガシッ

 

 

「教えやる!!」ドゴオオオンッ

 

「カハッ!!」

 

キングがまとわりつくステインをパワーボムで叩きつける

 

「貴様の様な奴はもう不要だ!我自らの手で地獄に落としてやる!」ガシッ

 

 

ギリギリ、ギリギリ

 

「ガハァ、グッ、グブブブ……ッ!!」ザジッザシュッ

 

キングのチョークにより気道を締め上げられるステインは藻掻く様にキングの手を引っ掻く

 

 

「てめぇの相手は!!」

 

「僕たちだ!!」

 

ドカガッ

 

後方から無防備な背骨にむけてお返しのショルダータックルを当て込む

 

 

「ぬおおおッ!」

 

「があっ!!」バスンッ

 

その威力に耐えかねて手を離したキングによってステインの体はコーナーポストに激突する

 

 

「ヌウウゥゥ!!ならば望み通り貴様らから先に滅してくれよう!!」

 

キングがテリーと緑谷にむけて駆け出すのを確認したステインは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ゾアアァァァ……ッ

 

「グオォォッ!?ス、ステインッ貴様!!」ガクッ

 

「……。」ニヤッ

 

「な、なんだ!?」

 

「動きが鈍くなっている!?」

 

これから決着にむけて最終局面へと来た途端に拍子抜けするほどにキングの動きが止まる

 

「今だ!こいつは今、俺の個性で動けない!ここで決めろ!!」

 

 

「ス、ステインッ!」

 

「早くしろ!この個性も長くは保たない!!」 

 

 

 

「……行くぜ、イズク!!」

 

「……うんッ!!」

 

 

「グオォォォッ、動け!動かんか!」

 

ガシッ

 

「こいっ!イズク」グワアッ

 

「よしっ!」

 

テリーは武道を掴んだまま空中へ飛び上がり

 

「テリーくん!テキサス・クローバー・ホールドをかけてひっくり返すんだ!」

 

「よっしゃ!」ガキッ

 

テリーが空中で足を極めていく

 

クルッ

 

「これでいいか!!」

 

 

「ここから……、こうで、こうなるから、そこでこうすればっ最大限活かしきれる!!」シュバ

 

それと同時に緑谷も首4の字で加わり急降下していく

 

 

「な、なんだこれは!!首折と足折、更には腰折もミックスされた超複合技だ!!

 

雄英高校コンビ、これが決着の一撃になるか!!」

 

 

「こんな…こんな小童共に!我の野望が閉ざされるのか!!」

 

 

「諦めろ!キング!!」ボォォォ

 

「王を騙りながら自らの側にいるものすら大切にできず、歯向かわれる様なものに手に取れる勝利などない!!」バチバチバチッ

 

テリーと緑谷の体からほとばしる光が力強さをます!

 

 

『『アドレナリン・ブリッジ!!』』

 

ベリベリベリッ!!

 

「ゴパッ」プシュッ

 

ピシビシビシッ

 

キングは技の威力に耐えきれず血を吐きマスクは無惨に亀裂が走っていた 

 

「決まった〜〜〜!」

 

アナウンサーも目の前で炸裂した大技にテンションがうなぎ上りになっていた

 

 

ドサッ

 

「あ、ああ……。まだ…お、終わらんぞ……!

 

覇道を……我が手中に覇を得るまでは……ッ!」

 

「いえ、終わりましょう、武道様。」シュッ

 

カッ

 

ステインの空手チョップがキングの面に沈む

 

「あ、あああッ!!」ピシピシッ

 

「私達の描く平和の理想は彼ら描く平和の未来に破れたのです。

 

これ以上の醜態は見逃せません。」

 

 

「ス、ステインッ!貴様!!」バキバキバギッ

 

「先に地獄でお待ちください!私もいずれそちらに向かいます。」

 

バキャン

 

とうとうネプチューン・キングのマスクは破壊されてその素顔が露わになる

 

「あ、ああ……あ…。」

 

そこに現れたのは痩せこけシワまみれのみすぼらしい老人だった

 

「こ、これが…武道の素顔…ッ!!」

 

「あれだけの装備に身を包み完璧を自称するが中身は虚栄と私欲に塗れたミイラだな。」  

 

 

「あ……あ……ッ!」ドサッ

 

緑谷とテリーのつぶやきを聞き終えるとキングの巨体は倒れ伏し完全に動かなくなってしまった

 

そして…

 

「………。」

 

「ステイン……ッ!」

 

こと切れたキングの体を見ていたステインに二人が近寄ろうとするとステインは手を出して制した

 

「……俺は自らの思い描く未来が間違っていたとは思わないし、やってきたことも道こそ踏み外せど誤りとは思わん。

 

だから命乞いはしないし、情けをかけられるつもりもない」サッ

 

「「ッ!!」」

 

二人に向き直ったステインは戦闘の構えを取る

 

「俺は野望を掲げ、自らの野望に殉ずる覚悟の元で闘い様々なものを駆逐してきた!ならば最後の最後まで貫き通すのみ!!」

 

「イズク……。」

 

「……テリーくん!」

 

 

ステインの目を見た二人も覚悟を決める

 

「いくぞ、これが最後だ!!」ダダダッ

 

ステインの捨て身の突進を

 

『ツイン!  ボォォォ

 

 テキサス!』 バチバチバチッ 

 

 

『『スマッシュ!!』』

 

 

ゴウッ

 

 

二人の拳がステインの体に叩き込まれた

 

 

「グフゥッ…………ッ!!」ゴポッ

 

 

ヨロッ

 

ヨロッ

 

 

「み、見事だ……!"真のヒーロー"足る者達よ……ッ!!」

 

ドサッ

 

 

「決着だ〜〜〜!!この激闘を制したのは雄英高校コンビだぁァァァ〜〜〜!!」

 

 

 

 

 




次回、職場体験編終了!


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勝ち取ったもの の巻

「勝った……。」

 

「ああ、俺達の勝ちだ。イズク。」

 

 

激闘の終わりとは裏腹に決着後のリングはひどく静かに思えた

 

ガクン

 

「おわぁぁっ!?」

 

「リングが…。」

 

リングが下降していきビルとビルに架かる様に降り立った

 

 

「よくやった。これで卵に少しばかりヒビが入ったってところかの。」

 

 

「師匠…。」

 

 

 

「今後お主達の前に立ちはだかる者たちの中には歪ながらも強固な情念を纏ってくる者達もいよう。

 

各々の事情はあれどそれが平和を脅かしてよい理由にはならん。

 

お前達は今日、それを上回る信念で制した、これを忘れてはいけぬぞ。」

 

 

「はい。」

 

「あ、ありがとうございます…。」

 

「緑谷くん!翔野くん!大丈夫かい!!」

 

降り立ったリングにカメハメと少し遅れて飯田が入ってくる

 

 

「おお、委員長。」

 

 

「飯田くん…。」

 

「二人とも申し訳ない!僕の心が未熟だったばかりにッ……!」ガバッ

 

飯田は深く頭を下げる

 

「僕は……、僕はッ悔しいがステインの行った通りまるでヒーローとはかけ離れた行動をしていた!

 

復讐という野心に駆られ我を忘れヒーローとして大事な事を見失ってしまっていた……。」

 

「……ごめん。僕も、君がそこまで思い詰めていたなんて知らなくて……。」

 

 

「……ッ!!」

 

 

「……さぁ、反省会はそこまでにしてはよ降りよう。さっさと病院へ行くぞ!」パンパン

 

 

カメハメが手を叩き空気を変え戦いの始末をつけようとしたところに

 

「緑谷!テリー!大丈夫か!!」

 

「轟くん!」

 

「おぉ、轟!お前も来ていたのか!!」

 

「すまねぇな、親父に付き合わされてなかなか離れられなくてよ。

 

もうすぐ親父もこっちに来るからそこの二人は任せてお前らは早く降りたほうがいい。」

 

「あぁ、そうさせてもらおうかな。」

 

そこへ

 

「くおぅらぁぁぁッ!!じっとしとけと言っただろうがァァァ!」

 

「グ、グラン・トリノ……。」

 

「フッ、相変わらずやかましいな、空彦。」

 

グラン・トリノが個性を駆使してリングに現れた

 

「あぁッ!?

 

ってあんたか、隠遁しとったんじゃないのか。カメハメ?」

 

「それはこっちのセリフだ、あれだけ面倒事を嫌うあんたが人にモノを教えるなんてどんな風の吹き回しだ?」

 

「あれがイズクのとこのヒーローか、なかなかファンキーだな……。」

 

「テ、テリーくんのとこもね……。」

 

 

悪態を付き合う二人を見て苦笑いを浮かべる弟子二人だった

 

 

「まったく、いつまでも口の減らない奴だ!

 

……おい、エンデヴァーのとこの倅っ!とりあえずこのヴィラン二人をリングから下ろすのを手伝え!

 

チャッチャッとこのリングを撤収するぞ!」   

 

「は、はいっ。」

 

グラン・トリノの勢いに押された轟は撤収作業に加わることになった

 

「……さぁ僕達も下りよう。」

 

「そうだな。」

 

「うん。」

 

こうして戦いの終わったリングは無人となり撤収されていった

 

更にはそこへエンデヴァーも駆けつけた

 

 

「おっ、やっと来おっな。」

 

「遅かったのう、№2」

 

 

「ええい、やかましい!そこのロートル二人!!」

 

 

グラン・トリノとカメハメの小言に反応しながらもエンデヴァーはステインと武道の元に歩み寄る

 

「むぅ、これがあの血の伝道師(ブラッド・ミッショネルズ)か。世間で噂だけが独り歩きしたヴィランをあの二人が倒した……か。

 

映像が残っているらしいがにわかには信じられんな。

 

まぁ良い、とりあえずこのヴィランを警察に突き出すと……っ!!」

 

 

パシッ

 

 

「なっ…ッ!!」

 

エンデヴァーがステインを掴もうとするとステインはその手を払った

 

「ス、ステインッ!?」

 

「あいつ、まだやろうってのか!」

 

「チィ!」ピキピキピキ

 

「二人とも下がれ、ここは僕が…ッ!」ドルル

 

 

 

「ええい、子供は黙ってろ!

 

ステイン、既に勝負はついているぞ!

 

これ以上の抵抗はこのエンデヴァーが相手になるぞ!!」ボォォォ

 

 

ユラリッ

 

ステインはゆったりと立ち上がると

 

「エンデヴァー、贋物である貴様にこの首を手柄として渡すわけにはいかん!!

 

俺を打ち負かしたのは後ろの二人だ!!

 

俺はその二人に敗れたのだ!!

貴様が警察に突き出し貴様の手柄とされるなど御免被る!!

 

俺を連れて行くのはそこの二人であるべきだ!!」ゾアアァ

 

「ッ!?」

 

 

敗れ満身創痍ながらも吐き出す殺気に怯むエンデヴァー

 

 

そこへ

 

「……個性を消せ、エンデヴァー。

 

おい、二人!

 

……ご指名だ、ヒーローは敵を打ちのめして終わりではない、こうやって警察に引き渡すまで責任を持つものだ。

 

最後までぬかるなよ。」

 

「…はいっプリンス・カメハメ!」

 

「わかりました!」

 

カメハメの声で進み出た二人はステインの腕を抱え警察が待つ所へと連行していった

 

 

「……一連の"マスク狩りヴィランによるヒーロー襲撃事件"の決着が着きました。

 

そのヴィランを倒したのは皆様も記憶に新しいあの雄英高校隊体育祭の優勝者"翔野テリー"と決勝進出者"緑谷出久"のコンビでした!」

 

ヘリコプターの取材班は変わらずに一部始終を収めようと中継を続けていた

 

 

「……おい、小僧共。」

 

ビルから降りて輸送用のパトカーに向け歩くステインは脇を固める自分を打ち倒した二人に声をかける

 

「俺は、貴様らに"真のヒーロー"と"新たな平和を成す力"を垣間見た。そこに俺は敗れたのだ。

 

もし貴様らがここらにのたまう有象無象達に飲まれその心を亡き者にしたときは……例え地獄の底からでも這い上がり貴様らの喉元を掻っ切ってくれる!!

 

努々、忘れるなよ。」

 

「……あぁ、お前の目が節穴じゃなかったって俺とイズクは証明し続けてやるよ!」

 

テリーの言葉を最後にパトカーの元へたどり着く一同

 

ステインの身柄は警察に引き渡されパトカーへと乗せられていく

 

「……なぜだろうかな、最後にこんな言葉を思い出すとは。

 

お前らにせっかくだから教えといてやる。

 

古いドイツの諺だ。

 

"二人というのはいいものだ、楽しい時は2倍楽しめ…そして悲しい時は半分で済む"

 

フッどうにも様にならんな……。

 

おいッ警察共!!さっさとブタ箱でもどこでも連れて行け!」

 

 

こうしてステインはパトカーに乗り警察署へと連行されていった

 

 

「テリーくん。ステインの最後の言葉、敵の言う事でこんなのはおかしいけど、僕は絶対に忘れないよ。」

 

「あぁ、俺もだ。」

 

「……さぁ二人ともご苦労だったな!あとの事は№2ヒーロー様に任せてお前らはさっさと病院だ!」

 

 

 

こうして二人はまた一つ死線を越えてヒーローに向けて大きな一歩を踏み出した

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………冷静に考えたらすごいことしちゃったね僕ら。」

 

激闘の次の日

 

 

あの後、テリー・緑谷・飯田は搬送された病院で治療を受け入院する運びとなった

 

 

「ああ、職場体験だってのに実戦をする羽目になるとはな。」

 

「だが君たちが来てくれなければ···僕は今ここにはいない。

本当に感謝してもしきれないくらいだ。」

 

三人が昨日の激闘を思い返すような会話をしていると

 

 

「入るぞ、起きてるか怪我人ども。」

 

グラントリノを先頭にカメハメ、マニュアルと職場体験の責任者ヒーローが顔を揃えて病室に入ってきた

 

「今回の件に関してはグチグチ言いたいところだが、その前に来客だ。」

 

三人に遅れて部屋に入ってきたのは

 

「保須警察署署長、面構 犬嗣さんだ」

 

 

「警察······署長ッ!?」ガバッ

 

「ああ、掛けたままで結構だワン。」

 

 

突然の来訪者に三人にも緊張が走る

 

 

「今日来たのは他でもない、昨日の血の伝道師(ブラッドミッショネルズ)との一戦についてだワン。」

 

曰く

 

「今回の個性を使用しての戦闘行為はこちらのプリンス・カメハメの許可の元で行われた、それに関しては法的には一応問題はないワン。

 

だが倫理的にはと言われれば一考の余地が生まれてしまうワン。」

 

今、世間でもっとも名を響かせているヴィランコンビとの戦いは正に死闘と表されてもおかしくないものであり勝ったからよかったものの負ければ若き命が潰えてしまう恐れもあった

 

 

「しかもその映像はリアルタイムで放送され多くの人に視聴されているワン。

ともすれば厄介なものでリングに立ったのが高校生であると言うことに物申す人もいるわけで······勝ってよかったハッピーエンド。とはいかなくなってしまっているんだワン。」

 

「それじゃあ何か?あんたは俺とイズクが命をかけた行為が間違ってるとでも言いたいのか!?

 

あのまま規則だからルールだからって理由でむざむざ友を見捨てて、自分達の命まで無抵抗で差し出せってのかよ!」

 

「ちょちょちょ、テリーくん·····」

 

「落ち着かんか、テリーよ!」

 

憤慨するテリーだったがカメハメに制される

 

 

「······まったく若いってのはうらやましいワン。

 

さっきも言った通り法的にはなんの問題もないから君達には何も言えないワン。だけど警察としてもこの一部の風評を無視するわけにはいかん、そこで······。」

 

「このプリンス・カメハメが責任をとる、という訳だ。」

 

 

プリンス・カメハメのヒーロー免許剥奪

 

これでこの騒動にけじめをつけようとなったのだ

 

「そ、そんな!!なぜッ!?」

 

「よいのだ、テリーよ。これも上に立つ者の責任だ。」

 

「し、しかしそれでは······。」

 

「それに免許がないからと言って指導者としての道は残されている。

 

もう儂も歳だ、ここらで落ち着かせてもらうとするよ。」

 

「······君達にはしこりが残る結末になってしまい本当に申し訳ないワン。

 

せめて、なんの慰めにもならないかもしれないが······平和を愛する者として、そしてそれを共に守る警察を代表して

 

 

 

ありがとう。」

 

そういうと署長は深々と頭を下げた

 

「ほれ、大の大人がこうして頭を下げてくれとるんじゃ。これでこの話はおしまいじゃよ。」

 

 

こうしてこの騒動は幕を閉じ数日後にはテリー達は退院しそれぞれの体験先へと戻り後片付けを行うことになった

 

 

 

 

 

 

 

職場体験最終日

 

「プリンス・カメハメ、本当にありがとうございました。」

 

 

「おう、これからも精進するのだぞ。」

 

 

「··················。」

 

別れの挨拶を終えてもいまいち釈然としない顔のテリー

 

「テリーよ、今回のことでわかったはずだ。

 

大いなる力には大いなる責任が伴うと。

 

くよくよする暇があったならはよ立派なヒーローになって儂を安心させておくれよ。」

 

「······わかりましたカメハメ!あなたの紡いできた平和の意志、俺が引き継ぎます!!」

 

カメハメの言葉と覚悟を受けテリーもまた己の中で一つけじめをつけたのであった

 

「それではまた!」

 

「達者でな。」

 

 

こうしてテリーはカメハメの元を去っていった

 

pipipi pipipi

 

 

 

「ムッ?」

 

テリーの姿が見えなくなるやカメハメの携帯がなる

 

pi

「······おお、あんたか。

 

久しいな、このタイミングで電話するということは何かあるな、お前との付き合いもそれなりに長い。何かたくらんでる位のことはわかるさ。

それでこの無職になった老いぼれになんの用だ?

 

 

 

 

 

············ホウッ?なるほど、それは一興だな。

 

 

わかった、こちらも支度を整えて近いうちにそちらに出向くとしよう。」pi

 

 

その会話で電話を切ったカメハメ

 

「フフフ、思ったよりも早い再会になりそうだな!」

 

カメハメの視線の先はさっきテリーか去っていった方角を見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそがぁっ、くそっくそっくそっ!!」

 

「··················。」

 

 

死柄木弔は荒れていた

 

自身も脳無を投入し介入した保須市での騒動

 

しかし蓋を開けてみればメディアで取り上げられるのは

 

 

血の伝道師(ブラッドミッショネルズ)の闘いばかり(ヴィラン)連合はおまけ程度の小見出しにあればいい方という扱いだった

 

自分の存在を承認されない苛立ちが死柄木を狂わせていた

 

まるで子供の癇癪のような地団駄に黒霧は無言で見守るしか出来なかった

 

「ありゃりゃ、荒れてるねぇ。お宅んとこの大将は。」

 

「······いらっしゃいませ、義爛様。」

 

 

そこへバーの客として義爛が来訪する

 

 

「············なんだよ、義爛。俺は今すこぶる機嫌が悪いんだ。話だってんなら明日にしてもらおうか。」ギロッ

 

「まぁまぁそう言いなさんな。これから忙しくなるであろう御大将様には早めに心構えを作っといてもらおうと思ってな」

 

 

怒気を孕んだ言葉と視線を飄々と受け流し話を進める義爛

 

 

「保須での一件はあんたにとっちゃ残念だったかも知れねぇが、(こっち)の世界じゃ大きなうねりを生み出してるぜ。」 

 

 

一時的とはいえ一勢力と一勢力が手を結び何か世を転覆させようと企てた

 

未遂に終わったとはいえその行為が闇に新たな潮流を生んだ

 

 

 

「······ムフフ、二人ともカッコいいですねぇ。」

 

 

携帯で動画を見る今時女子というなんの不自然さもない光景

 

しかしそれは周囲の状況で一気に異質な者と変わる

 

裏路地で動画を熱心に見る少女の周りには男達が倒れ伏し血を流し絶命していた

 

 

「こんな軽いナンパ師の血じゃ満足できません!!やっぱりこんなにもキズだらけになるほど戦う男の子の血じゃないと!!」

 

 

言葉の端々に滲む狂気

 

少女はそのまま闇に消えていった

 

 

 

所変わって

 

「ギャハハ、なんだよ!なかなかに骨のある奴らが出で来たじゃねぇかよ!」ズオオオ

 

 

 

「おっといけねぇ、無意識に筋肉が膨れちまった。こんなおもしれぇもん見つけたんだこんなとこで取っ捕まる訳にはいかねぇな。ハッハッハッ!」

 

 

更には

「グフフフフフッ、いい面してるじゃねぇか!そんな顔を粉々に打ち砕いてやるのが楽しみだぜ!」ギュ

 

そういうと男は道着の帯を固く結び直した

 

 

 

 

 

 

 

 

悪意達が一つに集まろうとしていた。

 

 

 

 




職場体験編終了ッ!

これからも頑張って書いていきます


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廻る因縁、いつか来る未来 の巻

職場体験が終わり登校日

 

各々が体験した出来事を話し合う

 

「アッハッハッハッ!」

 

「マ、マジか!マジか爆豪!」

 

「笑ってんじゃねえ殺すぞ!!」

 

 

不本意にも八二分けにぴっちり髪型を整えられた者

 

「へぇー敵退治までやったんだぁ!」

 

「避難指示や後方支援で交戦とかはなかったけどね。」  

 

「私もトレーニングとパトロールばかりだったわ。

一度隣国の密航者を捕まえたくらいよ。」

 

 

わずかながらにも現場の最前線の空気に触れた者

 

 

「コォォォォォ………」

 

何か成長への道筋を見いだした者

 

 

「お、女ってのはよ、元々悪魔みてぇな本性を隠し持ってんのさ!!」ガジガジ

 

なんか色々見てきた者

 

そんな中でも

 

「やっぱり一番すごい経験したのは、お前らだな!」

 

「……別に俺は何もしてねぇぞ。親父から離れて着いたらもう全部終わってたからな。」

 

 

「……僕も誇らしく語れることなんて何もない。自らの心の弱さを知れたことが救いな位だ。」

 

周囲の熱とうらはらに轟と飯田は静かに答える

 

「……ケロケロ、でもみんな生きてて良かったわ。」

 

「あぁ、あいつら敵連合と繋がってたってニュースでも言ってたし、あんなのがUSJの時に紛れていたらと思うとゾッとするよ。

 

事実、緑谷とテリーは登校してるけど保健室でリカバリーガールの検査を受けてるし。」

 

 

「でもさぁ確かに怖かったけどよ

 

あのステインって奴最後は自分の信念を通したってか、散り際まで筋を通す執念ってぇの?

 

なんかちょっとカッコよくね?って思っちゃったんだよね。」

 

 

「おい、バカ!」

 

恐怖の感情を見せるクラスメイトの中で上鳴が続けた言葉に耳郎が反応した

 

「……確かに奴は信念に殉ずる覚悟を持って戦っていた。

 

その信念の為、道を違えたと思うや味方にすら牙を向き結果として翔野くんと緑谷くんを助ける形になった

 

そのぶれぬ姿勢や生きざまをクールと言う人の気持ちも、今ならわかる。

 

だが奴は粛清という手段を選び、生来人の心にある正しくあろうとする力を見限り暴力による改革を目指した。

 

そこは決してヒーローを目指す者として相容れてはいけない所だ。」グッ

 

飯田は自らを戒めるように言葉を紡ぐ

 

ガラガラ

 

「お、おはよう。」

 

「おっ、間に合ったな。」

 

そこへ検査を終えた緑谷とテリーが教室へ入ってきた

 

「デ、デクくん!?大丈夫やった?」

 

「あ、う、うん。麗日さん、だ、大丈夫、大丈夫……。」

 

「翔野くんも、問題なしかい?」

 

「あぁ、委員長。ノープロブレム、何も異常無しさ。」

 

ザワザワ

 

 

「おはよう。」

 

 

サッ

 

 

今や時の人でもあるコンビの登場に教室もあれこれ聞こうとざわつくが担任が現れるや瞬く間に静かに席に着いてホームルームを迎えた

 

 

 

 

 

~保健室

 

「ふぅ、二人とも問題無しと。」カリカリ

 

雄英高校の屋台骨、リカバリーガールは先ほど検査を終えた二人の資料の作成に勤しんでいた

 

「いやはや、こんな短期間に何度もリカバリーガールの手を煩わしてしまい師として大変申し訳「だったらもっとしっかり工夫して教えるなりしな!」は、ハイィィ……。」

 

「まったくオールマイト、あんたはホントにヒーローとしては一流なのになんで教師としてはこんななのかね?」

 

「か、返す言葉もございません……。」

 

「それより、あんたもそろそろ話す時が来たんじゃないかい?」

 

 

「そ、それは……しかし………。」

 

「それがあなたなりの親心だと言うんなら今は私もそこまで無理強いはしないさ。

 

けどねぇわかってるだろうオールマイト、翔野テリーって子と出会ってからのあの子の成長のスピードと顔の売れかたは歴代の並みいるヒーロー達の学生時代を見ても群を抜いている。

 

遅かれ速かれよからぬ力が彼らを標的にする日が来る筈さ。

 

それこそ生半可な覚悟じゃ乗り切れない程のね。

 

それまでに話しときな、OFA(あの力)とそれについて回る因縁を……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして時間は過ぎていき

 

 

「ハイ私が来た、ってな感じでやっていくわけだけどもね

 

ヒーロー基礎学ね!」

 

 

始まったヒーロー基礎学

 

「今回はこの運動場γ、複雑に入り組んだ密集工業地帯ここを使っての競争だ!」

 

 

ひとしきりの説明が終わり組分け

 

その結果

 

第一組

 

緑谷・尾白・瀬呂・芦戸・飯田

 

 

クラスでも機動力に長けた個性の持ち主が揃い

 

二組目以降の面々は誰が一位かと考察し合うが

 

ダンッ!!

 

「うってつけ過ぎる!修行に!!」

 

誰も予想しなかった緑谷の躍進にみんなが驚愕するなか

 

「へぇ、イズク。やるじゃないか!」

 

テリーはとても心地よい刺激を受けていた

 

そして

 

(お、俺の動き方ッ!!俺がバカみてぇな時間を過ごしている間にデクと金髪野郎はッ!!)グググ…

 

 

最終的にゴール直前の足場が崩れ最下位へと沈んだが見たもの全員に確かな成長の芽吹きを見せつけた

 

 

 

 

 

 

授業が終わり放課後

 

「し、失礼します。」 

 

オールマイトから呼び出された緑谷は仮眠室へとやってきた

 

「あぁ、緑谷少年。掛けたまえ。」

 

 

「は、はい。それでオールマイト話しと言うのは……。」(なんでマッスルフォームなんだろう?)

 

 

「あぁ、それについてなんだが……。」

 

 

「HAHAHA、ガールフレンドとのひとときに連れ出して申し訳なかったね。」

 

「いえ、それよりも校長自ら呼び出す程の話しとは一体………」

 

 

(あれ?この声は……?)

 

仮眠室の外で緑谷の聞き覚えのある声が近づいてくる

 

「………来たようだね。」

 

 

 

 

「さぁここだよ、入りたまえ!」ガラッ

 

勢いよく開けられた扉の先で待っていたのは

 

「イ、イズクッ!?と、オールマイト!?」

 

「や、やっぱりテリーくん!」

 

 

「…………役者は揃ったね。」シュウウウ

 

突如オールマイトから発生した白煙に二人は別の理由で目を丸くする

 

「な、なんだ!?オールマイトから煙が………ッ!?」

 

「オ、オールマイト!?なんでッ!?」

 

「いいのだ緑谷少年。翔野少年にも知っといてもらおうと思ってね。」シュウウウウウウ

 

煙は勢いを増しオールマイトを包み込んでしまった

 

 

「君たちの保須での戦いを見させてもらった。

 

素晴らしいコンビネーション、出会って数ヶ月だというのに強靭に育まれた信頼関係。

 

だからこそ、伝えたいのだ。」シュウウ…

 

煙が引いていく

 

 

「いずれ来るであろう困難を前にして君たちの躓きにならぬように。」

 

 

煙の中から現れたのはオールマイトとはまったく別人のようにやせこけ、とてもヴィランとの戦いに耐えきれるとは思えないほど細く弱った男が現れた

 

「掛けたまえ翔野少年。君にも話そう、緑谷少年の『個性』の秘密と断ち切らねばならぬついて回る因縁を!」

 

 

 

 

真の姿(トゥルーフォーム)となったオールマイトは驚く二人を落ち着かせ話を進める

 

 

 

 

 

「さて、まずは……翔野少年。緑谷少年の『個性』についてどう感じていたかね?」   

 

 

「……正直にいえばかなり不思議には思っていました。

超強力な反面自壊してしまう危うさ、使用者本人が把握しきれないほどのパワー。

 

何か従来の『個性』とは違う異質さと言うのは感じてました。」

 

 

 

 

 

 

「…ワン・フォー・オールは、元々ある一つの″個性″から派生したものだ

 

『オール・フォー・ワン』……他者から″個性″を『奪い』、それを他者に『与える』ことができる″個性″だ。

 

 

かつて個性が発現し社会がそれを制御しきれていない超常黎明期

その個性によって人々を纏め上げ圧倒的カリスマ性で悪の支配者として日本に君臨した男がいた。

 

しかしそんな彼に反旗を翻したのは他ならぬ彼の"無個性"の弟だった

 

今となっては動機は不明だがその男は弟に個性を与えた

 

しかしここで不思議な事が起きた

 

個性が変異し混じりあう現象が発生したのだ!」

 

 

「こ、個性が混ざる!?なぜだッ、その人は無個性だった筈では………ハッ!!」

 

 

 

「その考え通りだ翔野少年。

 

有ったのだよ、その弟にも個性を与えるだけとう無意味な『個性』が。

 

 

その弟が持っていた『与えるだけ』の意味のない個性と、兄が無理矢理に弟へ与えた『力をストックする』個性が混ざり合い、『ワン・フォー・オール』が生まれた。

 

 

そしてその個性はその弟を皮切りに受け継がれ続けいつか奴の喉元へと届く剣になるようにと力を培ってきた

 

 

そして、私の代でその因縁を終わらせた…………筈だった。」

 

「ま、まさか………ッ!」

 

 

「そうだ、緑谷少年。奴はまだ生きていておそらく(ヴィラン)連合のブレーンとして暗躍している!

 

その弟の代から成長を止める、遅くする個性を使ってる様な奴だ

 

恐らく治療する個性を持っているに違いない。」

 

 

「そ、そんな奴が日本でまだ生きている。」

 

「こ、こいつはなかなか骨が折れる戦いになりそうだぜ……。」

 

 

 

「緑谷少年、君はいつか奴と…その巨悪と戦わねば、ならないかもしれない。

 

そして翔野少年、この事を君にも話したのはその戦いの時に緑谷少年の隣で共に闘ってほしいと思ったからだ。

 

二人には大変酷な話だが「が、頑張ります!」…ッ!」

 

 

「オールマイトの頼みなら断れませんよ。

 

問題ありません。イズクとならどんな困難も乗り越えていける、そう思わせてくれる男です。それにそんな話を聞いちゃぁ俺の中のテキサス魂が黙ってないんでね!」

 

「ぼ、僕もオールマイトの頼みなら応えます!あなたがいてくれれば… それにテリーくんが横にいてくれるなら何でもできる気がします!」

 

 

「………まったく頼もしい若者じゃないか、オールマイト。」

 

 

嬉しそうに語る根津に

 

「はい。

 

二人とも、ありがとう。」

 

オールマイトもまた感謝を述べた

 

 

 

 

 

~次の日

 

「えー、夏休みが近いが君たちヒーロー課にそのような思い出作りのための余暇なんてものはない訳で、

 

 

 

 

夏休み林間合宿を行います。」

 

 

 

「「「イエーーーイッ!!」」」

 

「ただし、1学期の期末テスト。赤点だった者は………わかってるな。」

 

 

この一言で一気に現実に引き戻されるクラス一同

 

 

 

(何があっても関係ない、強くなるんだ。オールマイトの期待に応えるためにも、テリーくんと肩を並べて戦えるようになるためにも!)

 

 

 

 

 

 

 

こうしてまたヒーローを目指す為の時間が始まろうとしていた

 

 

 

その日の放課後

 

 

「やあやあ、集まってくれてありがとう。」

 

根津校長を中心に会議室には雄英高校のプロヒーロー教師達が集まっていた

 

 

「今回の議題は他でもない、次の期末テストの実技の部分なのさ。」   

 

 

例年ならば入試と同じロボットを用いた実戦訓練の予定だったが……

 

「ヴィラン活性化の動きが今後考えられる中で、ロボット相手では足りないと思われるのさ。」

 

 

「なるほど、それでこの内容ですか。」

 

「ふーん、生徒の二人一組(ツーマンセル)対教師一人ね。」

 

根津校長の話に手渡された書類に目を通しながらセメントスとミッドナイトが納得する

 

 

 

 

「それにA組に関しては既に実戦を経験済み、ましてや二名は大物ヴィランを打ち破る活躍を見せてるのさ。

 

これくらいしないと意味がないと思うしね。

 

ただ、B組には少し過酷なものになってしまうけどね。」

 

 

「いえ、校長先生。お気遣いは感謝しますがB組も日々鍛練に勤しみ成長しております。

 

逆にこのようにA組と同等のレベルを与えれていただき感謝いたします。」

 

B組担任ブラドキングはきっぱりと返す

 

「しかしA組の組み合わせですがどうするんですか?

 

21人で奇数だし………。」

 

 

「ああ、それなら心配要らないのさ。」

   

13号疑問に根津が答えようとしたとき

 

ガチャ

 

「失礼するぞ。」

 

 

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

 

「ちょうどよかったのさ。()()()()。」

 

「まったくこんな年寄りをでしゃばらせんでくれよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説が現れた




次回、期末テスト編


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妥協なき最短ルート の巻

期末テストの存在が間近になり雄英高校は生徒、先生問わず準備に慌ただしく動き始めた

 

「まったく勉強してねぇーーー!」 

 

「あっはっはっは。」

 

そんな中でA組ドベ2である上鳴と芦戸は片や悲痛の叫びを片や諦めの乾いた笑い声をあげるのみだった

 

 

「中間テストは範囲が狭いのもあってなんとかなったが……

体育祭や職場体験ってイベントが重なるときついよな。」

 

「…………。」コクコク

 

「更には演習試験もある。受難が多い過酷な道のりとなりそうだ……。」

 

「まぁ、僕はそんな中でも変わらず輝いているけどね!」   

 

 

二人以外にも中間テストで半分より下になってしまった者は口々に不安を吐き出す

 

「しかも演習試験の内容は不透明……まったくつらいなぁー。」フゥー

 

峰田は口では言うが表情に余裕が見える

 

 

「あんたは同類だと思ってたのに!」

 

「お前みたいのはバカで愛嬌があってなんぼだろ!どこに需要あんだよ!」

 

「ふっ、世界かな。」

 

ドベ2コンビの悪態も強者の余裕か受け流す峰田

 

 

そんな峰田にやきもきする二人に

 

「あ、あのお二方。座学でしたら微力ながらお力添えできるかもしれません。」

 

救世主が現れた

 

「ヤオモモ~!」

 

「女神様~!」

 

中間テスト1位の八百万の言葉に他の面々も少しでも向上しようと集まる

 

「………これが人徳の差って奴だな。」

 

「俺もあるわ!教え殺してやろうか!」

 

 

こうして座学の不安を各々乗り越えようと決意を新たにした

 

 

 

「………とは言っても。」

 

時は昼休み

 

「演習試験の内容が不透明なのが気になるなぁ。」

 

「お米、おいしい!」  

 

緑谷達は食堂で卓を囲み、話す議題はもちろん演習試験の内容

 

「さすがに突飛なことはしないと思うが。」

 

「ケロ、相澤先生も教えてくれないだろうし。」

 

 

「Oh、それならわかりますよ。」

 

 

「「「「えぇッ!?」」」」

 

 

 

唯一B組のポニーから発せられた言葉に他の面々は驚愕する

 

「なになに?教えてポニーちゃん!」

 

「う、うちも教えてほしい! 」

 

「えぇとデスネェ、確かロ「おやおやおやおや、感心しないねぇ!天下のA組様がB組を脅迫するなんてねぇ!」

 

聞き出そうとする葉隠と麗日に答えようとするポニーを遮るように現れたのは

 

「えっと、B組の物間くん!」

 

「その情報は僕たちB組が君たちA組を出し抜く為の大事なアドバンテージ!

 

体育祭、職場体験となにかと目立ちまくっているA組にこれ以上デカイ顔をさせたくないからね!

 

せいぜい演習試験の内容がわからず赤点の恐怖に怯えながら過ごせばいいさ!

 

ハァーッハッハッハッ「みっともないことすんな!」グエッ!?」

 

 

「ワォ、一佳!Wonderfulデスネェ!」

 

高笑いを響かせる物間を鮮やかな手刀で制したのはB組委員長・拳藤だった

 

「アハハ、相変わらず拗れてるね。」

 

「こんな人目の多いところで騒げるこのメンタルはもはや賞賛するノコ。」

 

 

「おお主よ、いつかこの者に心の平穏を与えたまえ。」

 

「ん。」

 

「もはや何か憑いてるとしか思えないわ。」

 

 

拳藤に続きB組女子達が集まる

 

「ああ、さっき言いそびれた演習試験の内容だけどね。入試と同じ対ロボットの実戦訓練みたいなんだよね。

 

うちの知り合いに先輩がいて教えてくれたんだ。」  

 

 

「そうか、先輩に聞けばよかったのか。」

 

「盲点だったな。」

 

 

確実性の高い情報を得た飯田と轟は納得の表情を浮かべる

 

「ねえねえ、それよりもさ!」

 

それを遮るように興奮した声が響く

 

「私達も一緒に座っていい?テリーの横とか空いてるしさ!あ、私はB組の取陰。テリー以外の人ははじめましてだね。」

 

 

「ちょうどいいや、私も一緒にいいかな。言いづらいこととかあると思うけどさ、聞きたいんだ"あの保須市"での出来事をね!」

 

「て、テリーくん………。」

 

「………まぁ話せる範囲なら。」

 

こうして取陰、拳藤の提案によりB組女子達を交えての昼食会になった

 

余談だがB組の女子と話す時に緑谷は終始赤面しており、それを見ていた麗日の機嫌が少し悪そうだった

 

 

あと物間はほっとかれてた、南無。

 

 

 

 

 

 

「なんだぁ!ロボをぼこせばいいだけか!」

 

「やった、やったぁ!」

 

放課後、A組にも演習試験の内容が伝えられると喜びをあらわにする面々

 

「まぁ確かに対人だとお前らは個性の調整が難しそうだしな。」

 

「よっしゃ、ロボ無双だぁ!」

 

「それよりもそのうらやまけしからん昼食会になぜ俺を誘わないんだぁぁぁ!」

 

「いや、冷静考えて誘うわけないだろ…………。」

 

 

放課後と試験内容の判明と言う二重の解放感により浮かれた空気が一部に流れるが

 

「けっ、下らねぇ……。」

 

「おい爆豪、そんなカリカリしなくても………。」

 

「うるせぇなクソ髪!人でもロボでも関係ねぇだろうが!調整なんざ出来て当たり前だろうが!

 

なぁデク?

 

職場体験では大活躍だったな!相変わらず俺の神経を逆撫でするのが上手いなぁ!」 

 

爆豪の脳裏に映し出されるのは職場体験のある日に見たニュースの特集

 

爆豪は更なる強さを求め現場経験が積めると踏んでランキング3位のプロヒーロー・ベストジーニストの元に職場体験に来ていた

 

 

さすがと言うべきかベストジーニストの事務所がある地域はベストジーニストの治世で非常に治安が良く特に目立った事件事故なく、毎日治安維持の為のパトロールで1日が終わると言う日々が流れていた

 

 

完全にアテが外れたと鬱憤が溜まる爆豪の目に

 

 

『アドレナリン・ブリッジーーーッ!!』

 

保須市で起きた事件とその顛末、そして巷で噂のヴィランを倒した高校生コンビの活躍が飛び込んできた

 

 

そして職場体験が明けてのヒーロー基礎学、

 

路傍の石ころと歯牙にもかからない存在だと思っていた者は

 

 

今や何段飛ばしで自身に追い付き、まもなく追い抜かさんと眩い光を纏い駆ける者へと様変わりしていた

 

 

「今回のテストは体育祭とちげぇ、はっきり白黒がつく!完膚なき迄の差でてめぇを叩き潰す!

 

それとお前もだ金髪野郎!今ふんぞりかえって座ってる玉座、俺が奪い返してやる!」

 

並々ならぬ闘志を振り撒き爆豪は教室から出ていった

 

 

「か、かっちゃん……。」

 

「やれやれ、有名人料だな、イズク。」ポン

 

 

その熱量に呆気に取られていた緑谷の肩に手を置くテリー

 

「テ、テリーくん………。」

 

「だが俺たちはもう立ち止まる暇はない。わかってるだろ?

 

あの日のステインの言葉を、そして俺たちが背負った物を。」

 

 

「……………うん、そうだね。」

 

 

「おいおい、青春してんじゃん!」

 

「くぅぅぅ、漢らしいぜ二人とも!」

 

「うむ、僕たちも負けてはいられないな!」

 

 

爆豪の宣戦布告から一気に緊張が走ったクラスだがテリーと緑谷の職場体験を経て得た決意を見てクラスの男子一同もやる気を出し

 

 

「………なんかさ、男子ばっかり熱くなってんのもアレだしさ。うちらも頑張ろうよ。」

 

 

「おっ、耳郎ちゃん熱いねぇ!でもサンセー!私もそろそろ一番になりたいし!」

 

「ケロケロ、そうね。ここまで緑谷ちゃんやテリーちゃんに独占されてるしそろそろ私たちの名前がのってもいいわよね。」

 

 

「うちも爆豪くんへリベンジや!」

 

それに釣られて女子一同も捲土重来を狙い士気を高めていった

 

さらに

 

 

「栄光なるB組のみんな、この期末テストこそ全員合格でもってA組の鼻を明かしてやろうじゃないか!」

 

 

「それはいいんだけど、一番心配なのはお前なんだよなぁ。」

 

 

B組もまた物間主導のもと打倒A組と息巻いていた

 

 

 

そしてテスト当日

 

筆記を終え各々スーツに着替えたA組の前で

 

「さて筆記はご苦労だったな、ここからは演習試験だが」

 

「ロボットでしょ!」

 

「早くやろ~!」

 

前情報から赤点回避を確信したドベ2コンビの言葉を否定するように

 

「例年ならそうだが今年は違う。」ゴソゴソ

 

「ここからはぼくが話すのさ。」ピョン

 

相澤の捕縛布から姿を見せた根津校長が語りだす

 

「君たちも薄々勘づいてると思うけど近年のヴィラン活性化、多様化、及び組織化の動きに伴い、従来の方法では君たちの成長に繋がらないと判断したのさ!

 

 

そこで今回の演習はズバリ!

 

生徒二人一組(ツーマンセル)vs雄英高校プロヒーロー教師

のガチンコ潰しあい

 

なのさ!」

 

 

突如発表されたテストの内容変更

 

完全に不意をつかれた一同

 

しかも内容はとんでもない代物だったため驚きの声をあげる隙さえなかった

 

 

「言った筈だ、雄英高校はお前達に壁をぶつけ続けると。

 

これもその一つだ、理不尽だと嘆くようならこの先未来はないぞ。」

 

有無を言わさず組み合わせ発表が始まる

 

 

「まずは………。」

 

次々とコンビと対戦するプロヒーローの顔合わせが告げられていく中

 

「爆豪と………緑谷。」

 

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 

 

「そして相手は」

 

 

「私だ!」ズオォォォ

 

驚天動地の組み合わせに驚く隙すら与えず明かされる対戦相手はオールマイト。

 

「全力でかかってきなよ!お二人さん!」ニィッ

 

「そして最後、翔野。お前は一人だ。対戦相手は………喜べ、とびっきりの人を用意した。」

 

 

ザッ

 

 

「あまりこんな年寄りを持ち上げんでくれ、むず痒くてたまらんわ。」

 

 

 

「……………なるほど俺の相手ってのはあなたでしたか!

 

プリンス・カメハメ!!」

 

 

 

雄英高校前期末試験

 

 

テキサスブロンコヒーロー"テリーマン"

 

VS

 

伝説のハワイアンヒーロー"プリンス・カメハメ"

 

 

「で、でもどうして?あなた様はヒーロー免許が失効してしまった筈なのに、」

 

「HAHAHA、飯田くん。それについてはぼくが答えよう。

 

初めてお逢いする人たちも多いだろうから紹介しよう。

 

この度雄英高校の用務員兼特別個性育成顧問として配属されたのがプリンス・カメハメくんなのさ!」

 

 

「雄英高校の敷地内及び遠征等、特定環境下ならワシも個性の使用が許可されるという訳だ。よってこの試験、もう一度お主の前に壁として立ち塞がろうぞ!」

 

 

こうしてあるものは有意義な青春を

 

あるものは己の捲土重来を

 

あるものは自らの歩みを誇示するための闘いの火蓋が切って落とされた

 

 

 




次回、開戦

No.1ヒーローの牙城を崩せるか


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タッグの形 の巻

遂に始まった演習試験

 

プリンス・カメハメの闘いを生徒及び先生達も観戦したいとの理由から一番最後に回された翔野テリーを除くメンバー達は各自順番に設定された演習場にて試験を行うことになった

 

生徒側の勝利条件は二つ

 

・どちらか一人でも演習場から脱出すること

 

・先生にハンドカフスをかけること

 

先生側はハンデとして体重の約半分の重量を装着すること

 

 

これにより力の拮抗が生まれる

 

しかし

 

 

(それはつまり逃げか攻めかの判断を常に迫られるということだ。

極限下での判断力とそのヴィジョンを共有するコミュニケーションが求められる。さぁどうする緑谷少年、爆豪少年?)

 

 

開幕するや生徒側はいきなり芦戸・上鳴組、砂糖・切島組が続けて見せ場なく早々に失格になり改めてプロヒーローの本気を見せつけられる形となり

 

迎えた緑谷・爆豪組

 

見学するものも固唾を飲んで見守る

 

幼なじみだと言うのにどこかわだかまりを感じ、事あるごとに相容れない雰囲気を隠すことなく撒き散らす二人が果たしてまともにタッグとして機能するのだろうか?

 

「かっちゃん、作戦なんだけどやっぱり無難に戦闘は避けたほうが……ッ!!」ビュン

 

「うるせぇ!イライラするからこれ以上口開くなクソデクが!」

 

やはり噛み合う筈もなく脱出によるクリアを主張する緑谷と

 

「あの金髪野郎と組んで目立って調子がいいからってごちゃごちゃ口だすな!

 

俺がぶっ殺して終わらせりゃいいだけだろ!!」

 

 

はなから制圧によるクリアを、更に単騎でもっての攻勢を仕掛けようとする爆豪

 

 

タッグとして名手テリーと組み経験値を積む緑谷としては試験クリアへの道筋を描く上でパートナーとの協力は必要不可欠

 

なんとか説得しようと試みるものの

 

「おいおい、敵がいるのに口喧嘩かい?」

 

建造物の向こうから声が聞こえてきたと同時に暴風と破壊されたコンクリートの欠片達が二人を襲う

 

 

「今の私はヴィランだ!周囲の影響なんてくそ食らえと力を振るうぞ!

 

だから二人とも!真心込めてかかってきなさい!」

 

姿が現れるや放たれる堂々たる風格

 

 

「上等だああああああああッ!!」

 

 

「かっちゃん、だめだ!」

 

 

 

しかし其処に臆することなく突撃する爆豪

 

「HAHAHA、元気がいいな!だがッ」キャッチ

 

突撃してきた爆豪の頭を鷲掴みにして押さえ込む

  

「その程度じゃ、簡単に怯まないぜ!」

 

「わはってふよッ!!」

 

BBBBBBBB ッ!!

 

「い、痛たたたたたた!」

 

(顔を捕まれているってのに至近距離からの爆破連打、なんつー胆力だよ!本当に私を倒す、)

 

ドゴッ

 

(つもりしかないようだな!)

 

「ぐふぁっ!」

 

オールマイトは意に介さないとばかりに爆豪を力任せに地面に叩きつける

 

背中から叩きつけられ脳は揺さぶられる爆豪

 

「そんな弱攻撃じゃあどれだけ連打しても倒せないぜ。」

 

「ぐうううッ!!」

 

「かっちゃんを離せ!」ビュン

 

「うおっと!」パシッ

 

爆豪を救出しようと飛び込んできた緑谷の拳を空いている手で防ぐオールマイト

 

「HAHAHA、逃げの一手を主張していたのに打って来るか緑谷少年!」

 

「………"死中に活あり"。ぼくがこの間の闘いで得た教訓の一つです。」バッ

 

防がれるやすぐに距離をあけファイティングポーズに構える緑谷

 

「なるほど、なるほど。君も成長してるってことか!なら君も精一杯叩き伏してあげよう!」ゴウッ

 

爆豪から手を離し次の標的に狙いを定めたオールマイト

 

幾多の敵を屠り栄光を積み上げてきた拳が緑谷に襲いかかる

 

「今こそ体現するとき!これが保須の闘いで得たもう一つの教え!」

 

百獣王之心得(レオ's・ナレッジ)ッ!!』

 

「SMASHッ!!」

 

NO.1ヒーローとして名を馳せるオールマイトの拳が振り抜かれモニターを見ていた生徒達も耐えきれず目を反らす

 

………が

 

 

「…………ムゥゥゥッッ!」

 

吹き上げた砂煙が晴れると拳の先に倒れた緑谷の姿は無く

 

「な、なるほど……確かに君は強くなってるね、緑谷少年!!」

 

オールマイトの前腕部分で倒立をしている緑谷がいた

 

「まだまだッ!!」バッ

 

そこからオールマイトへと飛びかかり

 

ギュルウウウ

 

「ムウッ、これは………ッ!!」

 

「やああああああッ!!」ギリギリ

 

素早く後ろに回り込むと首に腕を回すチョークスリーパーを敢行、しかも回していない腕で目を覆うブラインド付きで視界も奪う

 

 

(な、なるほど……私の攻撃に対し力任せに真っ向から対抗せず、脱力からの柔軟な動きで回避と次の行動への布石を打ったか。

 

だが!)

 

「フフフフ、その程度の力じゃ私は止まらないぜ!

 

こんなもの、すぐに引っ剥がしてやる!」

 

 

「ええ、わかってますオールマイト。これであなたを止めれるなんて思ってません。

 

だから、こうするんです!」サッ

 

 

不意にオールマイトの視界が開かれると

 

 

閃光弾(スタングレネード)ッ!!』

 

今度は強烈な光が瞳を焦がす

 

「ぬおおッ!?」

 

「ぶっ飛べや!!」ピンッ

 

 

BOOOOON!!

 

 

爆豪は籠手のピンを外し個性をフル解放した一撃を見舞う

 

 

オールマイトの姿を覆う程の轟音と爆炎が放たれる

 

「ぬううう、やるじゃない二人ともッ!

 

……ってあれ?」

 

オールマイトは黒煙を振り払うが二人の姿は既になくなっていた

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、なんとか脱出できた。かっちゃんこの後なんだけど「…………ぇ。」え?」

 

「うぜえぇぇぇんだよおぉぉぉッ!!」ゴズッ

 

「うごぉっ!?」

 

 

爆豪は内から溢れる激情を抑えきれなかった

 

孤高であることを良しとし最強の"個"こそ至高であると考える自分が連携を()()()()()()、それも一番気に食わない奴にタクトを握られお膳立てされた上でだ。

 

 

「てめえは俺より上になったつもりか!?あの金髪野郎から学んだ技で俺の手綱をとるな! 

 

俺は一人でもやれるんだ!てめえが端っこでうろちょろされると気が散るんだよ!」

 

 

「そ、そんな言い方ないだろっ!

 

第一、無策で突っ込んで一方的にやられかけていたのはそっちじゃないか!」

 

「うるせえええぇッ!」BON!

 

「ぶあッ!?」ズザァァ

 

怒れる爆豪は緑谷に個性を見舞う

 

「俺はやれるんだ!俺一人の力で最強を証明するんだ!

 

てめえの力を借りるくらいなら、負けたほうがましだ!」

 

 

「……………ッ!」

 

ふっ飛んだ緑谷に背を向け決別を吐き捨てた爆豪だったが

 

「ま、待てよ………!」グググ

 

「ああッ!?」

 

ガシッ

 

「君が軽々しく"負けたほうがいい"なんて、言うなよ!」ゴッ

 

「がぁっ!?てめぇ何しやがるクソデク!!」

 

 

「ぼく一人じゃ、勝つ算段も逃げ切る算段も見えないんだ。

 

けど!二人なら、わずかな可能性を手繰り寄せれそうなんだ!

 

ぼくの知るかっちゃんはどんな時にも勝つことを諦めなかった!

 

だったら、どんな手でも勝利に手を伸ばせよ!それでぼくの案が気に入らないなら、僕を使ってみろよ!

 

出きるだろ!君なら!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

演習場・脱出ゲート付近

 

「HAHAHA、どうせ脱出ゲートはここしかないからここで待ってればいつか来るだろ!

 

っと思ったけど思いの外来ないな!もうストレッチのやりすぎで汗かいてきちゃった!」グイッ グイッ

 

 

笑顔を崩さず伸び伸びとストレッチをするオールマイトの前に

 

ザッ

 

「お待たせしました、オールマイト。」

 

「余裕ぶっこきやがってよぉ!ぜってぇぶっ飛ばす!」

 

 

「HAHAHA、意気込むのは良いが時間内にクリアできるかな?」ダッ

 

 

 

「やったるわッ!!合わせろクソデク!!ミスったら殺す!」

 

「うん!」

 

 

 

『『幻惑・陽炎飛び!!』』ダダダダッ

 

 

「オオッ!?」

 

 

爆豪と緑谷が縦に並びオールマイトの前で高速移動を繰り返し撹乱させる

 

 

(ま、まったく…伊達に幼なじみじゃないってことか。

 

爆豪少年のパターンに捕らわれない無茶苦茶な動きも流石だがそこに息を合わせて一緒に動ける緑谷少年もまた見事だ。

 

緑谷少年の観察力と長年の付き合いが活きているな!

 

だが!)

 

 

「いまだっ!行け!」

 

「やあぁぁっ!」バッ

 

 

(そう、確かに撹乱させるとこまでは見事。だが!)

 

「いつまでもそれでは勝てない、故にどこかで攻勢に転じなければならない。

 

ならばそこを狙い打てば良いだけだ!」

 

「ええ、わかってますよオールマイト。」チャキ

 

爆豪の後ろから飛び出てきた緑谷に対し、待ってましたとばかりに迎撃しようとするが

 

「あんたをそう簡単に出し抜けるなんてはなっから考えてねぇよ!」

 

「イッッッけぇ!」ピンッ

 

BOOOOONッ!!

 

爆豪の籠手を装着していた緑谷がピンを抜き二度目の大爆発がオールマイトを襲う

 

「よし、今のうちにゲートへ!!」バッ

 

「指図すんな!」ダッ

 

 

爆炎により倒れはせずとも怯みはする

 

その間に二人でゲートを突破する

 

そしてそれはまもなく完遂する筈だった

 

 

 

 

 

 

ゾアッ!!

 

「「ッ!!」」

 

 

 

 

だがそれは相手が並の者だったらという話

 

二人の相手は現役No.1ヒーローにして現在"平和の象徴"と崇められる生きる伝説(リビング・レジェンド)

 

「甘い甘い!」ゴウッ

 

 

爆炎を一瞬で搔き消し一瞬で二人との距離を詰めるオールマイト

 

(チィッ、ギリギリ届かねぇ!だったら!)

 

 

爆豪が個性を止めて自らを囮に時間を稼ごうとした時

 

「かっちゃん!止まらずに行って!!」

 

先に動いたのは緑谷だった

 

「だあああああ!」

 

「緑谷少年。」

 

 

ゴズンッ

 

オールマイトはこちらに突っ込んできた緑谷を上から掌底で叩き潰す

 

 

「確かに君は強くなっている。だがそのような自己犠牲がすぎる闘い方を私も教師としてこれ以上見過ごす訳にはいかない!」

 

 

 

 

 

ギュルウウウ

 

「なっ!?」

「そ、それでも僕は貴方を止める!止めて勝つんだ!かっちゃんに自分の道を曲げさせたんだ!落ちこぼれでなにも出来ない木偶の坊に道を譲らせたんだ!

 

なら僕は勝つために捨て石にでもなってやる!」

 

緑谷掌底の下に押し潰されながらもその人差し指に指固めを極め両手で関節の逆方向に曲げようとする

 

(な、なんという反骨魂!緑谷少年、ここまで君の心は成長していたか!だが!)

 

「構わん!次は爆豪少年を追わなくて「オールマイトォォォォォ」なっ!?」

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ッ!!』

 

体育祭で見せた大技で特攻してくる爆豪

 

「おいおい!緑谷少年の犠牲を無駄にするつもりかい!爆豪少年!」

 

(緑谷少年のせいで腰が入らないがそれでも爆豪少年に打ち勝つ位なら訳ない!)

 

「SMASHッ!!」 ゴッ

 

ベキャ

 

「ブガアアアアァァァーーーッ!?」ズザァァ

 

 

オールマイトの拳をモロに食らい吹き飛ばされる爆豪

 

「残念だよ、爆豪少年。

 

他人の心を慮る(おもんぱか)心が君に芽生えればきみは"ヒーロー"として更なる高みへと行け「緑谷・爆豪組クリアだよ。」……へ?」

 

見ればオールマイトの繰り出した腕の手首にはカフスが巻き付かれていた

 

「く、クソデクに借り作られて施された勝利なんざ……いら、ねぇ……ッ!!」ドサッ

 

この言葉を最後に爆豪は気を失った

 

(な、なるほどね。それが君なりの意地とケジメって訳か。だとするならば、半歩前進ってとこかな。)

 

こうして緑谷と爆豪のテストは合格で幕を閉じた

 

 

 

 

 

 

 




次回、
ハワイの英雄
VS
テキサスの荒馬

開戦


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賢者の深淵、海よりも深し の巻

緑谷・爆豪組の合格後も期末テストはどんどんと進行していく

 

常闇・蛙水組

 

「緑谷と爆豪がオールマイト相手に奮戦したんだ。我らもそれに続かなくては戦士として名折れ。越えていくぞ!黒影(ダークシャドウ)!!」

 

「アイヨッ!!」

 

「ケロケロ、サポートするわ!常闇ちゃん!」

 

常闇・蛙水組 クリア!!

 

 

 

峰田・瀬呂組

 

(俺だって!テリーや緑谷みてぇになりてぇんだ!)

 

 

「あぁ!いいわ!その青いながらにも芽吹かんと踠く萌芽!でも簡単には通さないわ、私も一人の教師として貴方に困難を課す為に立ち塞がるわ!」ビュン

 

ミッドナイトの鞭が唸りをあげて峰田に襲いかかるも

 

 

『GRAPE RASH!!』ピタッ ピタッピタ

 

峰田か個性、"もぎもぎ"により鞭とミッドナイトをまとめて地面に貼り付ける

 

 

「み、見たかーーーッ!!俺だって、本気を出せばこんくらいできるんだよ!!」

 

「や、やるわね………ッ!!」

 

 

 

峰田・瀬呂組 クリア!!

 

 

 

緑谷・爆豪のハンデ付きとはいえオールマイト越えという快挙は確実にA組へ良い波として伝播していきその後の組もクリアし無事試験を終えていった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

モニタールーム

 

リカバリーガールの治療も終えテリーを除く生徒がモニタールームに集まった

 

「てか、テリーと闘う人ってだいぶおじいちゃんだったけど強いのか?」

 

 

「さあ?どうなんだ、緑谷?」

 

 

瀬呂と上鳴が緑谷に質問するとその他のクラスメイトの視線も緑谷に向かう

 

「……ネットの中では、オールマイトの対抗馬としてよく名前が上がるヒーローだよ。

 

そして、それは間違いない。」

 

緑谷自身、少しとはいえカメハメが武道相手に対峙したところを目撃し、

 

その後の自分の闘いでも第三のメンバーとしてその力を遺憾無く発揮してる様を経験している

 

自然と吐き出す言葉にも重みが宿る

 

「………うちの親父も言ってた。

 

もし、この世の戦場がすべてリングなら間違いなく世界最強はプリンス・カメハメだと。」

 

 

「何より、僕らが試験している最中も脇目も振らず丹念にウォーミングアップを続けていたテリーくんの姿がその強さを教えてくれている。」

 

轟、飯田の言葉も続く

 

「そ、そんなにやべぇのか……ッ!?」

 

「見た目の年齢に騙されるとは私もまだまだですわね。」

 

 

「全員揃ってるか?」

 

そこへ担任の相澤が現れる

 

その後ろから

 

「みんな、まずはここで見てもらいたいものがある。」

 

ブラドキングに連れられてB組も入室してくる

 

更に

 

「Hey、イレイザー!!他の部屋の後片付けも終わったぜ!」

 

試験官を務めていたヒーロー達も合流

 

50人を超える人数が一部屋に集まりやや手狭な感じになる中、根津校長が話し始める

 

 

「さて、みんなにちょっと窮屈な思いをさせてまでここに集まってもらったのはこれから始まる翔野テリーくんの試験を見学してもらおうと思ったからなのさ。」

 

 

そう告げると後ろのモニターにリングが映し出される

 

「おお!テリー…………と、対戦相手は誰だ?」

 

「見たところかなりお年を召していらっしゃるようですが………。」

 

 

「HAHAHA、彼の名はプリンス・カメハメ!

 

僕の古くからの友人でね、詳しい説明は後でするけども翔野テリーくんの相手を務めれるのは彼しかいないと思ってオファーした訳さ!

 

だが、彼の活躍した年代は古く君たちはもちろん教師の中にも彼の実力を眉唾物扱いする者もいる。

 

 

そこで君たち皆に見て感じていただきたいのさ!

 

オールマイトとは違う、彼が伝説(レジェンド)たる由縁を!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

~特設リング~

 

 

 

 

「さて、そろそろ始めてもよいか?テリーよ。」

 

 

「ええ、大丈夫です。」

 

 

「ではもう一度今回のルールを伝えておく。」

 

 

 

・スペシャルシングルマッチ テリーVSカメハメ

 

30分一本勝負(時間切れは翔野テリーの敗北)

 

ロープエスケープ有、ただし5回すると敗北

 

その他決着は戦闘不能かギブアップのみ

 

「そしてワシの試験は重りは無しだ、お主には悪いが年寄りにはちと重たすぎて敵わん。」

 

 

「そろそろ始めてよろしいかね?」

 

 

スピーカーからモニタールームのリカバリーガールの声が聞こえてくる

 

 

「おう、構わんぞ。」

 

 

その言葉を受け根津校長がどこからともなく木槌を取り出し

 

「では、翔野テリーくんの期末テスト!

 

スタートなのさッ!!」

 

カァーンッ!!

 

 

開始のゴングが鳴り響く

 

 

 

「…………………。」

 

「…………………。」

 

両雄の立ち上がりは静かに時計回りに間合いを計り合うところから始まった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

~モニタールーム~

 

 

カァーンッ!!

 

 

「始まったぜ!」

 

「がんばれー、テリー!」

 

 

A、B組隔てなく応援の声があがる

 

 

「Yeah、遂に始まった雄英高校期末テストスペシャルシングルマッチ!!

 

実況はこの俺、プレゼントマイク、解説はイレイザーヘッドでお送りするぜ!」

 

「なんで俺が……。」

 

いつの間にやら長机とパイプ椅子を用意し勝手に実況解説を始めるプレゼントマイク

 

 

「まぁいいじゃねぇか!こんなこと滅多ないし!それに巷で伝説扱いされてる御方の闘いが見れんだから少し位華やかにしないと逆に失礼って奴だぜ!」

 

 

 

「…………単純にお前が騒ぎたいだけ「おおっと!両者ここで動いた!」、聞けよ。」

 

 

 

 

バッ

 

「テヤァッ!!」

 

「フンッ!!」

 

 

膠着を破り双方間合いを詰めてのロックアップ

 

だが

 

 

「ヌオオオオッ!」ヌバッ

 

「おおっと、翔野テリーロックアップを一瞬で切りバックを取った!」

 

 

 

「熟練者である貴方を出し抜くには正攻法に攻めるては足りない!奇策を持って畳み掛けるのみ!デェイヤァッ!」グワッ

 

 

ゴガァァン

 

 

「テリー、いきなりのジャーマンスープレックス!意外にも先制打はテリーからだ!」

 

 

「まだまだッ!!」ダッ

 

更に手を緩めないテリーは近くのコーナーに登り

 

『ムーンサルトプレス!』ダアァァン

 

 

「入ったぁ!テリーの体が腹部をとらえたぜ!」

 

「あいつ、あんな技も使えたんだな。」

 

 

 

 

「このまま一気に決める!」

 

 

『スピニング・トゥ・ホール「おっと。」ガシッ

 

「「「「ッ!!」」」」

 

 

技を仕掛けようと前傾姿勢になったテリーの髪を腹筋の力で上半身を起こし掴むと

 

「一気呵成に攻める気概は買うが相手の力量を見ずに組つくのは感心せんな。」

 

ガッ

 

「相手を見誤れば」

 

グルッ

 

「このように一気に主導権を奪われかねんからな。」

 

「な、なんとッ!?」

 

「What!?テリーが技を仕掛けたかと思ったら下から絡み付き両者半転させ形勢逆転!!

 

今度はテリーがマウントポジションを取られて一転ピンチに!

 

もはや魔法のようなテクニックだ!」

 

 

 

「今度はこちらの反撃といこうかの!」グワッ

 

上から振り上げられた鉄槌から身を守るべく

 

「くっ!?」バッ

 

両腕を顔面の前にガードを固めるが

 

ニヤッ

 

「ッ!!

 

ダメだ!罠だテリーくん!」

 

 

 

シュバッ

 

 

「ほれ!一丁あがり!」ミシミシミシッ

 

 

「おおおおおおっ!?」

 

 

 

 

 

「が、カードで上げた腕を体勢を変えるとつかみ取り腕十字固めへと移行!テリーの腕を締め上げる!」

 

 

「まずい!右腕が破壊されるぞ!」

 

 

 

 

「くっそぉぉっ!」バッ

 

テリーは呻きながらも即座に足を伸ばしサードロープにかける

 

 

「ロープブレイクだよ、カメハメ。」

 

 

速やかにリカバリーガールの声がスピーカーから流れる

 

 

「ほう、よく状況が見えているな。変に耐えて戦闘不能までいくことよりもポイントを失っても経戦能力を残すよう努める。さすがの判断能力だ。」バッ

 

「そ、そりゃどうも……。」

 

 

技を解き素早く立ち上がるカメハメと脱力した右腕を押さえながら立ち上がるテリー

 

「さぁ実践に待ったはないぞ!」シュバッ

 

バシッ

 

「がアッ!」

 

痛めた右腕を容赦ないミドルキックが襲う

 

「弱みを晒せばそこをつき突く戦場では当たり前の摂理だ!よもやそこを理解してないお前ではあるまい!」バッ

 

「………ええ!わかっています!」バシッ

 

再び放たれたミドルキックを痛めている右腕を使い捕獲すると

 

「ぬああアッ!」ギュルルル 

 

「フォアッ!?」

 

 

錐揉み回転を加えて投げ飛ばす

 

 

「くぅ、やるわい。」

 

 

ガシッ

 

「でやああああぁぁぁーーーっ!」

 

ガッガッガッガッガッ

 

「来たぜ!翔野テリーの十八番!

 

ナックルの雨あられ乱れ打ちだ!」

 

 

「よっしゃぁ!テリーの拳は俺の"スティール"でも響く威力だ!

 

いくら相手がすごかろうと効くぜこりゃあ!」

 

 

(……………確かにテリーの攻撃はいくら相手が百戦錬磨だろうと効くだろう。

 

だがなんだ、焦燥や臆する姿がまったく見えてこない。

 

一体何を腹に潜ませている?)

 

マイクや鉄哲の熱気とは裏腹に相澤は薄気味悪い寒さが消えなかった

 

 

「まだまだッ!!」グワッ

 

「………この時を待っていたぞ!勢いに乗るあまり拳の振りかぶりが大きくなるこの瞬間を!」バッ

 

 

 

ガシッ

 

 

『脇固め!』

 

ズダンッ

 

「おわああああッ!?」

 

 

 

「こ、今度は左腕か切って落とされた!

 

なんという返し技!まるで底なし沼のように翔野テリーの攻撃を飲み込んでいく!」

 

 

「まだ終わらん!食らえ!」グバッ

 

スサッ

 

弓矢式背骨折り!!(ボー・バック・ブリーカー)

 

 

「クブウッッ!」ググググッ

 

 

 

 

「更にそこから次の技へと移行する!どれ程の技がその体に刻まれているのかカメハメ!

 

まさに伝説という名に偽りなしだ!」

 

 

 

「………………カメハメ殺法百手。」

 

不意にオールマイトが口を開く

 

「何ですかそれは、オールマイト?」

 

「彼の持つ48の仕留め技と52の間接技からなる彼の技の総数から付けられた名前さ。」

 

その言葉に生徒のみならずプロヒーローである教師達も驚きを隠せなかった

 

 

「あれでまだ一部しか使ってねぇのかよ……。」

 

「あれと同等もしくはそれ以上の技がまだ90以上も残されてるのか!?」

 

「けっ、技が多けりゃいいってもんでもねぇだろ!」

 

 

「確かに爆豪少年の言う通りヴィランとの戦闘ではヒーローの必殺技の寡多が勝敗を分ける訳ではない。

 

だけど、緑谷少年。彼がなんと呼ばれているか知っているかい?」

 

 

 

格闘技の賢者(マーシャルアーツ・サヴァン)、ですか?」

 

 

「その通り!数多の技を状況、相手の特徴や弱点、流れの中で的確に選択し実行できる!それこそが彼の強さとも言えるだろう。」

 

 

No1ヒーローであるオールマイトにここまで言わしめるという現実が十二分にカメハメの実力の証明になっていった

 

その中で緑谷が尋ねる

 

「お、オールマイトはカメハメさんと闘ったことが?」

 

「42勝 42敗16分。」

 

 

「り、リカバリーガール。それは……。」

 

その答えは意外な所から現れた

 

「今さら見栄はってもしょーがないだろ。

 

それにあの時はあんたは学生だったんだ、この戦績はあんたの栄光に泥を塗るようなもんじゃないよ。

 

 

………学生時代、私が雄英高校に赴任してすぐの夏休みに行われたオールマイト対カメハメの百回組手。

 

その戦績さ。」

 

「そ、それってつまり………。」

 

「ああ、私の生涯で唯一!勝ち越すことが出来ていない高き壁、それこそがプリンス・カメハメなのだよ!」

 

 

 

 

 




判明した過去!この壁を超えれるか!?


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リングという名の戦場 の巻

~XX年前

 

 

「俊典!てめぇにゃまだまだ実践が足りねぇ!そもそもガキの喧嘩止まりのお前では近接格闘のイロハがなってない!」

 

「は、はい!」 

 

 

「そこで特別に!その道のスペシャリストを呼んできた!俺の知り合いだ!粗相するなよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………こうして当時の教師に連れられた私を待っていたのは今日のようなリングとそこに佇むプリンス・カメハメその人だった。

 

そこからは本当にキツかった……。

 

玩具のように投げ飛ばされ、いいように技を極められ、疲弊したところで殴られ蹴られサンドバッグにされ。

 

更には延々砂浜を走り……思い出すだけでも」ウップッ

 

 

 

(か、完全にトラウマになってる。)

 

(あんなオールマイト始めて見た……。)

 

 

 

 

「さぁて!オールマイトのヤバい過去が聞けてシビィ所だがリングの上では相変わらず一方的な展開だ!

 

あの技をどう見るイレイザー?」

 

 

「完全に極ってるな。一見簡単には見えるが、驚異的な肉体のバランスとパワーがあってこそなせる技だ。

 

年齢的なものを鑑みれば正しく"達人"と評するにふさわしい。」

 

 

 

 

 

 

「さあ、さっさとギブアップしろ。このまま背骨を折っていくぞ!」

 

 

「NOだ!!」ギギギ

 

 

「そうか、ならば遠慮なく!」

 

 

 

ゴギギギギ……ッ!!

 

 

 

ますます反りあげられるテリーの体に見ている生徒達からも悲鳴が上がる

 

 

 

「よ、容赦無し!一片の容赦なくテリーの体が絞りあげられていく!

 

おいおい、不味いんじゃねぇの……。止めたほうがいいんじゃねぇ?」

 

 

 

「………それを決めるのは俺たちじゃない。テリー自身か婆さんが決めることだ。」

 

 

 

 

 

「………なるほど、流石の諦めの悪さだわい、ならば!!」グワッ

 

 

『ゴリー・エスペシャル!!』

 

 

 

 

「ぐううぅぅっ!?こんな難技(なんわざ)を立て続けに繰り出せるだとぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだありゃ!?」

 

 

「凄すぎだろ!あのじいさん!」

 

 

「あ、あれこそカメハメの数ある技の中でも最大最高技の連続コンビネーション。

 

"三つの肉爆撃(トリプル・ビーフ・ケーキ)"!!

 

私も何度あの技に煮え湯を飲まされたか……。」

 

 

 

「オ、オールマイトに煮え湯を飲ませた技だって!?」

 

「テリー不味いんじゃ!?」

 

「………大丈夫デス。」

 

 

 

 

オールマイトの言葉にざわめく中で凛とした声が通る

 

 

「テリーは大丈夫デス。」

 

 

「角取少女。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁこれで終わりだ!」ズアッ

 

 

 

カメハメは技を解除すると速やかにテリーを自身の両肩の上にうつ伏せに乗せると

 

 

『バックフリップ!!』バッ

 

 

 

「テリーは、強いデスヨ!」

 

 

 

 

ドガアアァァァンッ!!

 

「感触十分!これで終了だろう!」

 

 

自らの技に勝利を確信したカメハメだが

 

「……ロープブレイク。カメハメ、技を解きな。」

 

「ぐううぅぅっ!」ガシッ

 

 

テリーの必死に伸ばされた右腕がサードロープを掴んでいた

 

 

 

「うおおおおおお!?テリーーーーっ!?」ドパアァァ

 

「最後まで諦めない姿勢!流石の漢っぷりだぜぇぇぇぇぇぇ!!」ドパアァァ

 

 

試合終了かと思われながらも土俵際に残ったテリーに鉄哲と切島が感動の涙を流す

 

 

「さぁ、ロープブレイクで仕切り直しだ!イレイザーお前の教え子がここから逆転するにはどうするべきだと思う?」

 

「それを自分達で考えて乗り越えさせるの為の試験だろうが。」

 

 

 

「ゲホッ、ぐふっ!な、なんとか届いた。首の皮一枚つながったぞ!」ヨロヨロ

 

 

よろけながらもなんとか立ち上がるテリー

 

 

 

「そうでなくてはな。さぁさっさと立てテリーよ!続きを始めるぞ!」グワッ

 

「はい!」ダッ

 

 

「両者再びのロックアップだ!!」

 

 

 

 

「はあっ!」

 

テリーはロックアップを組むや素早くヘッドロックへと移行する

 

 

「なるほどこの技のスムーズなつなぎ、ちゃんとレスリングの基礎訓練は怠っていないようだな!」

 

「お褒めにあずかり光栄です!」ギリギリ

 

頭蓋骨を締め上げられながらもテリーを褒める余裕を見せるカメハメ

 

「だがいつまでも喰らってるわけにもいかんな!」ジリジリ

 

ヘッドロックを極められた体勢のまま後方へと下がり

 

 

「むん!」バインッ

 

ロープの反動を使い

 

「とうりゃあ!」ブンッ

 

テリーを反対のロープへと振る

 

「なんのぉ!」バインッ

 

 

ドドドド

 

「ヌンッ!」ゴガッ

 

「うぼぉ!」

 

 

「これは上手い!ロープの反動を利用してお返しのショルダータックルだぁ!」

 

 

「嘗めてくれるなよ!」バシュ

 

 

背中から叩き伏せられたカメハメはすぐさま軽快な跳ね起きを披露すると

 

 

「なっ!?」

 

「セイヤァッ!!」

 

『ジャンピングハイキック!』ゴズッ

 

 

「な、なんとカメハメ!驚いて振り向いた翔野テリーの顎を撃ち抜いた!

 

てか、なんでオールマイトよりも年上であんな身軽に動けるんだ!?」

 

 

「まったくもって脱帽だな、今の自分が情けなる程だ。

 

それほどまでに強い。

 

いや、強すぎる!」

 

 

 

 

「カファッ!?」ブシャッ

 

「そらそら、こんなものでは終わらんぞ!」

 

ズアッ

 

 

「ああっと!またしてもマウントポジションに取られたテリー!もはや絶体絶命か!?」

 

 

 

 

(ど、どうする!?下手にガードをすればさっきの二の舞だ、だが……)

 

 

「ほれ、リングの上で迷うのは致命的だぞ!」ボグゥ

 

 

「ブオッ!?」

 

 

ボスッドズッポグッ

 

 

 

「て、鉄槌!鉄槌!鉄槌!容赦ない拳がテリーに降り注ぐ!こいつはやべぇ!見てるこっちも肝が冷えるぜ!」

 

「流石にそろそろ止めるか……?」

 

 

 

 

 

「ぐぅぅゥッ!」(このままでは不味い、何か何か打開策を!)

 

 

「さあ、これで今度こそフィニッシュだ!!」グワァァッ

 

 

とどめの一撃とばかりにカメハメの拳が高く振りかぶられる

 

「……………ッ!!」

 

 

シュオ

 

 

ギュルル

 

 

「な、なに!?」

 

 

カメハメの後ろから何が這い寄り体に巻き付く

 

「あ、あれはテリーの足だ!腹筋の力で持ち上げた足がカメハメに絡みつく!」

 

「あいつ、この土壇場でなにを見せてくれるんだ?」

 

 

ギュオオオン

 

 

 

「ぬあぉ!?」グルンッ

 

 

 

『TKシザーズ!』

 

 

「なんと!今度はテリーが攻守を逆転させた!」

 

声を張り上げたマイク、更に観戦していた皆が驚くなか一番驚いていたのは渦中のテリー自身だった

 

(な、なんだ!今の感覚は……体が勝手に反応した!?

 

そして見える!次にどう動けばいいのかが!)

 

ガシッ

 

グイッ

 

ひっくり返った勢いのままに逆さまになっているカメハメの両足を両肩にかけ両腕で相手の両腕を掴み引っ張りあげる

 

 

 

『カ、カンガルークラッチ!!』ピキィィィ

 

 

「ぬううううう………ッ!?」

 

 

 

「おおおっ!テリー、この土壇場で新技の御披露目だぁ!ここまで勿体ぶるとはなかなかのエンターテイナーぶりだぜ!」

 

 

「……いや、違うな。それにしては技をかけた本人が戸惑いすぎだ。」

 

 

 

 

「フフフ、それ!いつまで呆けている!」バッ

 

カメハメは素早くテリーのクラッチを切ると

 

 

「今度はこれでどうじゃ!」グワッ

 

 

 

 

 

「あの技は!」

 

 

「不味い!」

 

 

 

「さぁカメハメ、テリーを担ぎ上げ再びのバックフリップの体勢を取る!

 

これで万事休すか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「………見えた!!」バッ

 

 

 

テリーはカメハメの肩から飛び上がり

 

「バックフリップ、破れたり!」

 

 

『グローバルプレーンスピンッ!!』ギュオオオ

 

 

カメハメの頭を軸にあん馬の要領で圧迫するテリー

 

 

 

「ぐぅぅぅ……」ガクッ

 

 

「ああっと!カメハメの体勢が崩れた!」

 

 

「ここだ!!」スサッ

 

 

テリーは素早く技を解きカメハメの背後に降り立つと

 

ガシッ

 

 

『変形羽根折り固め!』ガカンッ

 

「なんとぉぉぉ!テリーここに来てカメハメのお株を奪う大技の連発!」

 

 

 

「………なるほど、とんでもない爺さんだ。」

 

 

「はあっ、はあっ、この技といい、さっきの技達といい……体が勝手に、それも師匠の技もあったこれはいったい………っ!?」

 

 

「フフフ、どうやら会得したようだな。」

 

 

技をかけられているカメハメが声をかける

 

 

「口で話すよりこちらのほうが手っ取り早いからのう、これでわしはお主に52の間接技を授けることができた!

 

 

………だが!」

 

 

 

ズキィィィッ!!

 

 

「うぐぁっ!?」

 

「まだまだ粗がおおい!そこはこれから鍛え上げよう、ひとまずは及第点といった所かな。」

 

カメハメは立ち上がると

 

ガキャ

 

 

テリーの顎を膝でかちあげる

 

「しかし、リングの上では情けは無用!誠心誠意、決着をつけてしんぜよう!」

 

『ローリングソバット!』ズバッ

 

「グハッ!」ガクッ

 

 

無防備な土手っ腹に蹴りを追撃されテリーの体はロープに寄りかかる

 

「根津からも一切出し惜しみなくやってほしいと頼まれとるからの!」バッ

 

 

カメハメはテリーの向かいのロープに走り反動をつけ

 

「とああッ!!」バッ

 

そのままノータッチ・トペコンヒーローでテリーの頭上を越え

 

 

「刮目せよ!これが我が48の技の一つ」

 

足を首にかけロープ越しに相手の両腕を固める

 

『超人絞殺刑!!』ズバァァンッ

 

 

 

 

 

「バハァッッ………ッ!!」ガクッ

 

 

 

「…………終了だね。根津校長、ゴングを頼むよ。」

 

 

 

リカバリーガールの声にうなずいた根津は試合終了のゴングをならした

 

 

 

 

 

 

 

 




師匠越え、ならずッ!!


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闇の枝葉 の巻

試験翌日

 

 

「み、みんな………お土産ヒッグ、だのじみにしてるからエッグ………ウウッ。」

 

芦戸の嗚咽混じりの声が響く

 

 

期末試験の実技をクリアできなかった4名はこの世の終わりのような顔になっていた

 

 

 

「み、みんなまだわかんないよ!まだどんでん返しがあるかも………。」

 

 

「やめとけ緑谷、それ言うとなくなる奴だから。

 

ってか俺もある意味ヤバイんだよなぁ………。

 

クリアしたけど寝てただけ、兎にも角にも採点基準がわからないことには………。

 

それによぉ、」チラッ

 

瀬呂が視線を向けた先には

 

 

「…………………………。」

 

 

「テリーくん………。」

 

 

静かに腕を組み瞑想するテリーの姿があった

 

 

 

 

「おら、予鈴なったぞ。席つけ。」ガラッ

 

 

そんな悲喜こもごもな教室も担任の到着と同時に静寂を取り戻す

 

 

「あー、期末テストだが………残念ながら赤点が出てしまった。」

 

 

「「「「………………。」」」」ズーン

 

 

 

「よって林間合宿は………………

 

 

 

 

 

全員で行きます!!」

 

 

 

 

「「「「大どんでん返しキターーーー!!」」」」

 

 

相澤の言葉に先ほどまで意気消沈していたメンバーは歓喜の叫びをあげる

 

「筆記の赤点はゼロ。

 

実技で芦戸、上鳴、切島、砂藤そして瀬呂。

 

あとは翔野も……と言いたいところだったが流石に相手が相手だ、今回は合格だ。」

 

 

 

「………………ありがとうございます。」

 

 

合格を告げられたとは言え完敗を喫したテリーの表情がほころぶことは無かった

 

 

 

 

 

昼休み

 

 

「いや~、それにしても良かったね、テリー!赤点じゃなくてさ!」バシバシッ

 

 

「あ、ありがとう。」

 

取陰に背中を張られるテリー

 

 

昼休みにもはや見慣れた光景、テリーとポニーwithB組女子によるランチタイム

 

 

「うちらも全員合格したし、良かったノコ。」

 

 

「だけど、物間サンだけ落っこちてしまいマシタ…………。」

 

「あれだけ息巻いて周りに発破をかけて自分だけ落ちるなんて、やはり何かに憑かれてるわね。」

 

「ん。」

 

 

 

「……だが今回の戦いで気づかされたな。どうやら俺は知らず知らずの内にいい気になっていた。

 

今回は完敗だったよ。」

 

 

「いやいや、今回の場合相手はむちゃくちゃだって!」

 

 

「とんでもない強さだったノコ!」

 

 

「それでもだ、プロになればそんな言い訳は通用しない。まだまだ研鑽を積まなくてはな。」

 

「テリー……。

 

…………そうデスネ!私も頑張って強くなりマス!二人でもっともっと強くなりまショウ!」

 

 

「ああ、そうだな!ポニー!」

 

 

「あーあー、アツい、アッツい。」

 

 

「うらめしさも吹き飛ぶほど眩しいわね。」

 

 

「ん。」

 

 

 

こうして決意を新たに昼休みは過ぎていった

 

 

そして放課後

 

 

「あー、終わった終わった!」

 

「てか、林間合宿の準備しなきゃじゃん!」

 

「結構な荷物になるな……。」

 

「じゃあさ、明日休みだしみんなで買い物行こうよ!」

 

 

期末テスト終了の解放感と来る林間合宿に向けた期待で盛り上がり

 

明日、爆豪と轟を除いたA組での買い出しを行うことになった。

 

「あ、もちろんポニーちゃんも連れて来ていいよ!」

 

「なんならB組女子全員連れて来ても!」

 

「邪心が見え見えよ峰田ちゃん。」

 

 

 

こうして話が纏まり各々が教室を後にするなか

 

 

 

「あっ、デクくん!」

 

「あっ、えっと、ご、ごめん。麗日さん、僕ちょっと用事があって帰るの遅くなるから先行ってて!

 

ほ、ホントにごめんね!」ガラッ

 

 

 

「う、うん………。」

 

 

 

 

あわただしく教室を出ていった緑谷が向かった先は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、今日の仕事もあらかた片付いたかな。」

 

「あ、あのっ!!」

 

 

「ん、お主は?」

 

 

 

「ぼ、僕と………今から、戦闘訓練をしてください!

 

お願いします!!」

 

 

「…………ワシは空彦のように甘くはないぞ。

 

覚悟はできているか、

 

 

 

 

 

緑谷出久よ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「邪魔するよ。」ガチャ

 

 

「義欄さま、いらっしゃいませ。」

 

 

 

ヴィラン連合の拠点に訪れたのは闇のブローカーである義爛

 

 

「…………何しに来た?それと後ろに連れてるのはなんだ?」

 

 

 

「相変わらず機嫌が悪いなぁ、この前話したろ?

 

お宅らの活躍を耳にして連合に入りたいって奴を連れてきたんだよ。

 

ほれ自己紹介。」

 

 

 

 

「トガです!トガヒミコ!生きにくいです!もっと生きやすい世の中になってほしいものです!

 

ねぇここにいればこの間の保須市の二人と|闘()えるんだよね!

 

私、めちゃくちゃ強いから入れてよ弔くん!」

 

まくし立てるように一方的に話始めたセーラー服の少女・トガ

 

 

「言動は今時って感じでちょっと軽いが実力は保証するよ。

 

顔も名前もメディアに守られてるが連続失血死事件の容疑者として追われていて、まだ2、3人の若手ヒーロー程度だが返り討ちにしている。」

 

 

「なんと、その年で既に実績があるとは心強い!」

 

 

 

「…………確かに凄そうだが大丈夫なのかよ、だいぶ人格に難ありだぞ。」

 

はしゃぐトガの横で悠然とフードを被り黙っていた男がポツリと呟くと

 

 

「お前はその人格難ありにも劣るぞ、まずは顔を見せて名乗ってから話すべきじゃないか。」ギロッ

 

苛立ちを隠すこと無く死柄木が問いただす

 

 

「今は荼毘で通してる。」バザッ

 

フードを下ろすと同時に名乗るのはつぎはぎだらけの男・荼毘

 

 

 

「通すな、本名を言え。」

 

 

 

「時が来れば教えるさ。

 

とりあえずステインの意志を継ぐ為にここに来た。

 

今言えるのはそれだけだ。」

 

 

 

「まぁ、こいつはまだ目立った犯歴はないがステインの意志にえらく固執していてな。

 

だが目や風体を見てもらえばわかるがただ者ではないってのはわかってくれるだろう?」

 

 

 

 

 

「確かにそんじょそこらのチンピラじゃないってのはわかるが、クソガキと礼儀知らず。

 

 

俺の嫌いな奴ツートップだ。

 

 

黒霧、そこら辺に捨ててこい。」

 

 

 

「し、死柄木!?」

 

 

ぶっきらぼうに言い放った言葉により室内の緊張が一気に張り詰める

 

 

「おいおい、こんなだだっ子ちゃんがリーダーの組織とか大丈夫かよ?

 

よくステインはこんなのと組んだな。」

 

「うふふ、私は別にいいですよ。私よりも弱っちそうな人の下に着くつもりもありませんし。

 

それこそステインやあの二人みたいなギラギラしたものが見受けられませんし。」

 

 

 

 

その言葉は死柄木の逆鱗に触れた

 

 

「………ステインステインって、てめえらは口を開けばそれしか出さねぇな。

 

気に入らねぇな、まったくもって気に入らねぇ。

 

だから、塵に還れ!」ゴウッ

 

 

 

「ッ!?」

 

 

「アハッ!」

 

 

「いけない、落ち着いてください死柄木弔。」

 

 

溢れた感情が交差するかと思われた刹那、三人の繰り出した腕は黒霧の個性により空振りに終わっていた

 

 

 

「あなたの望むままを目指すなら組織の拡大は必須。

 

奇しくも注目されている今、そこらの有象無象とは一線を画す猛者が我々に興味を示している。

 

 

これはチャンスです、死柄木弔。

 

どうか排斥ではなく受容の心を。」

 

 

静かに諭す黒霧

 

 

「…………チッ、興ざめだ。」

 

 

そう吐き出すと死柄木は拳を収め上着を取り店から出ていってしまった

 

 

 

「…………フゥー、あまりおせっかいは焼きたくないがお宅の大将は若いねぇ、若すぎるくらいだよ。」

 

 

「…………気色悪。」

 

「…………あの殺気、凄かったです。ちょっと、ほんのちょっとだけ"ドキッ"ってしちゃいました。」ゾクゾク

 

 

 

「皆様、せっかくご足労頂き恐縮ですが

 

返事は後日でもよろしいでしょうか。

 

 

彼自身ももう自分がどうすべきかわかっているハズです。

 

必ずや皆様のご納得頂ける解答を出してくれることでしょう。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端、木椰区役ショッピングモール!」

 

 

「「「イエーイ!!」」」

 

 

休日ということもあり大にぎわいな中にA組の姿はあった

 

 

 

轟、爆豪は不参加だったものの代わりにB組からポニーが参加することになりショッピングをすることになったのだが

 

 

「アハハ………。」

 

 

「いやアハハじゃねえよ緑谷!」

 

「なんで試験の時よりキズやら湿布やらが増えてんだよ!?」

 

 

なぜか試験後よりも体がぼろぼろな緑谷の登場に一同は騒然となっていたが

 

「皆、ここは公共の場だ!大声を出してはしゃぐのは周りの皆様に迷惑だぞ!

 

それに緑谷くんは転んだと証言しているんだからいい加減やめないか!」

 

 

賑わうショッピングモールで誰よりもハキハキと通る声で制する飯田

 

 

結局各々買うものがバラバラの為、集合時間と場所だけ決めそれぞれに別れてショッピングをすることになった

 

 

次々と目的が近い者達で別れていく中

 

 

 

残ったのは緑谷、麗日、テリー、ポニーの4名

 

 

「えっと、僕はトレーニンググッズを見に行くけど麗日さんは………。」

 

「う、ウチは虫よ、ッ!?」

 

 

 

不意に今の状況を俯瞰した麗日は

 

 

 

 

ーーー君、彼のことが………。

 

 

「む、虫除けーーーーーーッ!!」

 

「虫ッ!?」

 

 

 

その言葉と同時に人混みのなかへ進んでいってしまった

 

「い、いったいどうしたってんだ?」

 

 

「………テリー、オチャコさんの事は私に任せて二人は先にショッピングしてきてクダサイ。」

 

 

そう言うやテリーの隣を離れるポニー

 

 

「こういうのはレディー同士じゃなきゃダメなのデス。大丈夫時間には戻りマスヨ。」

 

「………わかったよ。頼むなポニー。」

 

テリーに見送られてポニーもまた麗日を追って人混みのなかへ入っていった

 

 

「なんだっただろうね、麗日さん。」

 

「さぁな、女の悩みってのは時に男ではどうにもならん領分があるかな。

 

ま、ポニーが付いて行ってくれたし大丈夫だろ。」

 

 

こうして二人でモール内を練り歩くが

 

 

「なぁ、あれって………。」ヒソヒソ

 

「ステインを倒した………。」

 

 

「"稀代の名タッグ"と呼び声高い………。」コソコソ

 

「なんか既に貫禄あるな。」

 

 

 

「なんか凄い噂されてるね。」

 

「まぁまぁ、言い寄られないだけましさ。」

 

 

群衆の中には既にテレビでヴィランを倒す瞬間を放送されている二人の存在に気付いた者もおり、少しだけ好奇な目を向けられていた

 

 

 

同時刻

 

「……………………。」

 

 

バーを飛び出した死柄木はアテもなく歩き回り、賑わいに引き寄せられるままにショッピングモールに行き着いていた

 

 

ワイワイ

 

ガヤガヤ

 

 

(どいつもこいつも暢気に過ごしてやがる。

 

なぁステイン見てみろよ。お前が騒ごうがこいつらには何も響いちゃいない。

 

だが、同時にお前の知らない所でお前の闘争に心を動かされた者達がいる。

 

この差はなんだ?

 

俺とお前、何が違う!?

 

互いに気に入らないものを壊しているだけなのに!)ギリッ

 

 

ザワザワ

 

コソコソ

 

「?」

 

 

 

自問を繰り返す死柄木だが周囲の微かなざわめきにふと我に帰る

 

そして

 

 

(ああ、そうか。

 

あいつらになら何かわかるかも知れない、敵連合(俺たち)を退け、ステインを破ったお前らなら!

 

恥も何もない、この沸き上がる靄を取り除くためならなんだっていい!)

 

「やあやあ、奇遇だな。こんなところで有名人に出会えるなんてな。」ポン

 

 

 

 

流石の二人も油断していた

 

往来の多いショッピングモールの中にとんでもない不穏因子が紛れているなど霞も考えていなかった

 

 

二人の肩に置かれた不自然に中指だけ浮かされた手

 

誰かと思い顔を見て驚愕する

 

「てめぇは………ッ!!」

 

「し、死柄木 弔…………ッ!?」

 

 

 

「ゆっくり話をしようぜ。最強コンビ様。」

 

 

再びの邂逅、それが何をもたらすのかは声をかけた死柄木にすらわからなかった

 

だがこの問の答えに近く鍵は間違いなくこの二人にあると確信していた

 

 

 

 

 

 




静かなる緊張が二人を襲う!


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千里の一歩目 の巻

時を期末試験に戻し

 

「あとちょっとやのにーーーッ!!」

 

「大☆ピンチ。」

 

ゴールを目前に青山・麗日コンビは相手役のプロヒーロー13号により足止めを食らっていた

 

「ほらほら、吸い込んじゃうぞ!僕は戦闘は苦手だけど捕り物には一家言あるんだ。」

 

 

個性を使用し動きを止めたまま確保に向けて距離を詰めてくる13号

 

(あかん、捕まる!

 

考えろ、考えろ考えろ考えろ!

 

こんなときデクくんなら…………)

 

 

「ねぇ」

 

 

「ちょっと待って、今」「緑谷出久なら、って考えたろ」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

「君、彼のこと好きなの?」

 

 

 

「はあっ!?」

 

 

唐突かつストレートな質問に麗日は試験中であることを忘れ動揺し

 

「「あ」」

 

 

「わわっ!?」

 

 

 

結局それが功を奏し試験合格へと繋がったのだが………

 

 

 

(うぅぅ、青山くんのバカ

 

デクくんとはそんなんちゃうのに、たぶん………。)

 

「オチャコさーーん!」タタタッ

 

一人でぐるぐると思考が散らかる麗日にポニーが追い付く

 

「ポ、ポニーちゃん………。」

 

「ヤット、オイツキマシタ。」

 

自分を追いかけて来てくれたとわかると麗日は自分の行いを恥じた

 

「ご、ごめんね。急に走ったりして………。

 

デ、デクくんとテリーくんにも悪いことしてしもうたわ…」

 

 

「…………オチャコさん、チョット落ち着きマショウ。

 

ワタシもテリーとイズクくんも大丈夫デス。

 

さぁモドリマショウ。」

 

ポニーに促され来た道を戻る麗日

 

 

(そうだ。戻ったら謝らんと……うん、そう別におかしな事なんかないもん

 

別に一緒にお買い物とかそういうんと違うし、テリーくんとポニーちゃんもおるし

 

そもそも同じヒーロー志望としてすごいなってだけやし)

 

 

麗日はどうにか自身の中で整理をつけようと考えを巡らせるが

 

「オチャコさん、イズクくんって凄いデスヨネ。」

 

「へ?」

 

「ワタシはテリーの強さをシッテイマス、それに合わせて動けるイズクくんはカッコいいと思いマス。」

 

「う、ん。そうだね。」

 

 

「それに海外から来た私たちにも優しいデスシ、オールマイトや日本のプロヒーローについても詳しく教えてくれマス。」

 

「………。」

 

「テリーもイツモ、イズクはスゴイ!って言ってクルンデスヨ。

 

ワタシも一度、イズクくんとチームを組むか対戦するかしてミタイデス!」

 

(うん、そうだよね。ポニーちゃんはあくまでもデクくんのヒーローとしての素質の部分を評価しているだけであって

 

そもそもポニーちゃんにはテリー君っていう素敵なボーイフレンドがおるわけで

 

 

……………って、うちはなんでポニーちゃんがデクくんの事をしゃべる時にこんな複雑な感情が湧くんだろう?)

 

楽しそうにしゃべるポニーの後を追いかけながら麗日は答えのない感情の正体を探るべくモヤモヤとした気持ちのまま歩くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、妙な真似をするなよ。俺の個性は五指で触れたものを崩して塵にするんだ。

 

この指を落とせばお前らは1分と経たずに塵になるぜ。」

 

「こ、こんなところでそんなことをすればすぐにヒーローが来るぞ!」

 

 

「…………ハハッ、そしたら来るまで暴れ散らしてやるよ。

 

見ろよ、行き交う誰もが笑顔を絶やすことなく群れていやがる。

 

法やルールなんてのはつまるところ個々人のモラルが大前提だ。互いに"するわけない"って思い込んでいるからさ。

 

こんな中で暴れれば2、30人は殺せるだろうな。」

 

 

「ッ!!」

 

「落ち着くんだイズク。

 

それで?敵の大将がこんなところで俺たちに接触してくる目的はなんだ!?」

 

 

「まぁそう焦るな。そこに座ってゆっくり話そうじゃないか。」

 

 

 

場所を移し死柄木を真ん中にして腰かける3人

 

 

「そもそも気に入らねぇことなんざ腐るほどあんだけどよ。

 

一番気に入らねぇのはステインの野郎の事だ。」ギリッ

 

 

「な、仲間じゃなかったのか?」

 

「俺は認めていないが世間ではそうなっている、そしてそこが気に入らねぇ。

 

なんもかんも話題が奴に喰われた。

 

誰も俺を見ない、何故だ?どれだけ能書きを垂れようが俺もあいつも気に入らないものを壊しているだけなのに何が違う?」グググ

 

 

語尾と共に二人に置かれた指に力が込められていく

 

 

「………そんなのは簡単な話さ。」

 

「ああ?」

 

 

「お前とステイン、破壊という"手段"をとったのは同じだ。

 

それ自体はどちらも納得出来ないが少なくともステインは"理解"できた。」

 

 

「僕もステインも始まりはオールマイトだったから………

 

 

僕たちはステインに助けられた。それでわかった、あいつは壊したいがために壊したんじゃないって。

 

お前のように途中で諦めて徒に投げ出したりもしなかった……。

 

やり方が間違っていようとも、それでも己の理想に生きようとしていた。」

 

 

「俺に言わせればお前の振り上げた拳は軽いんだよ、暴力で訴えるにしても指し示す未来が見えなければそこに人は惹き付けられないだから感情だけしかウエイトが乗らない、そんなものは人に何かを刻むに至らないんだよ。」

 

 

(理想、未来………、そして信念。)

 

逡巡する死柄木の頭にいくつもの言葉や記憶が渦巻き

 

 

シナプスが稲妻の如く全身を駆け巡る

 

 

 

 

ゾアアアアアアアッ

 

 

「「ッ!!」」

 

 

 

「あぁ……スッキリした。点と点が線で繋がったような気分だ。」

 

 

一見すると穏やかな口調と笑みを浮かべる死柄木

 

 

「そうか。そうだよな、簡単な話だった。

 

このイライラもそうだ。始まりは全部

 

 

 

 

オールマイトだ。」

 

 

しかしその(さま)を見ていた二人は息を飲んだ

 

その笑みの奥にある底知れないどす黒い感情が今まさに堰を切った様に溢れ出ていた

 

「ああ。やっぱりお前らと話して正解だった!感謝するよ!

 

俺は何も変わる必要なんてなかった!

 

こいつらがヘラヘラしてるのも!全部!全部オールマイト(あのゴミ)がヘラヘラ笑っているからだ!

 

まるで救えなかった者などいなかったかのようにヘラヘラ笑っているからだ!」グギギギ

 

 

 

バジッ

 

「勝手に悦に入ってもらうのは結構だが力を抜いてもらえないか?

 

イズクの首が絞まっている。」グググ

 

 

一人語りを始めた死柄木の手首を掴みテリーが声を上げた

 

(テ、テリーくん………ッ!!)

 

水を刺され我に帰る死柄木とテリーの目が合う

 

状況的には圧倒的に不利ながらも抗議したテリーと死柄木の間に緊張が走るが

 

「テリー、イズクくん………。」

 

「その人、お友達じゃ……ないよね?」

 

 

そこに割って入ったのがポニーと麗日

 

 

「手、放して?」

 

 

 

「……………….。」

 

不意に死柄木が脱力する

 

 

(こいつ、ここから何か動く気か?)

 

 

(せめて、せめて二人だけでも!)

 

 

テリーと緑谷も覚悟を決めて動こうとするも

 

「なんだ、連れがいたのか。ごめんごめん。」サッ

 

死柄木は一転して笑顔で両手を離して答えると素早くその場からも立ち上がり

 

「いい話が聞けたよ。じゃあな、お二人さん。

 

追って来るなよ、来たら わかってるな?」

 

足早に群衆のなかへ歩を進める

 

 

「ま、待て死柄木…………。

 

オール・フォー・ワンの、目的はなんだ……?」

 

「え、死柄木!?」

 

「知るねぇよ、それよりもお前らも気を付けろよ。

 

今回の礼だ、お前らはお前らの土俵でもって懇切丁寧に潰してやる。

 

次会う時はその準備ができた時だ。」

 

 

こうして三人の邂逅は幕を閉じた

 

 

死柄木にとっては大変実りある時間となり

 

 

「大丈夫デスカ?テリー、イズクくん!?」

 

 

「もしもし、警察ですかッ!?ヴィランが!」

 

 

 

彼らにとっては楽しい思い出になるはずが最悪な形となってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。」ガチャ

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、死柄木弔。

 

どうですか、少しはリラックス……されたようですね。」

 

 

 

バーに帰ってきた死柄木のを見て察した

 

(予想よりも早いですね。目覚めた、いや元来持っていたものが花開いたといったところでしょうか。)

 

 

 

 

 

「ああ。素晴らしき休暇だったよ、俺は何も変わらない!

 

しかしこれからの行動はすべて一つに繋がる!

 

 

オールマイトのいない世界を作り正義がどれ程脆弱なものかを暴く!

 

 

これこそが俺の描く理想であり信念!そのためならいかなる艱難辛苦も飲み干してやる!」

 

 

声を大にして語る死柄木を成長した子供を見るように暖かな視線を送る黒霧

 

 

「さっそく義爛に連絡をしとけ黒霧。

 

あの二人はとるがまだ足りないとな!

 

兎に角腕っぷしに自信がある奴は歓迎すると伝えろ!」

 

 

「わかりました、では早速。」

 

 

(さぁ忙しくなるぜ!

 

緑谷出久、翔野テリー!貴様らも俺の描く未来の贄にしてやる!)

 

 

決意新たに滾る死柄木を

 

 

 

「フフフ。」

 

モニター越しに眺める影もまたほくそ笑むのであった

 

 




まだ未定ですが、ゆで次元の介入により連合メンバーの変更、及び増員があるかもしれませんご了承下さい


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ハードモード の巻

 

死柄木との邂逅は終わりを告げ麗日により呼ばれた警察・プロヒーロー達によりショッピングモールは閉鎖され二人はそのまま事情聴取で警察に連れていかれた

 

「なるほど、これでおおよそ聞きたいことは終わりだね。

 

遅くまで申し訳なかったね。」

 

こうして二人が取り調べ室を出ると

 

 

「テリー!」

 

「ポニー!待っててくれたのか!」ダキッ

 

「彼女は待ってると言って聞かなくてね。

まぁ聞けば君たちは同じアパートに住んでいるみたいだし一人で先に帰らせても心配するだけだろうから君が終わり次第一緒に送ろうと思ってね。

 

あっちに送迎車を手配しといたからそれに乗って帰りなさい」

 

「ありがとうございます。

 

……イズク、また明日学校で会おう。」

 

 

「うん。」

 

 

 

こうして二人は先に警察署を後にした

 

「さて君にも今お迎えを手配してるから少し待っててくれ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

取り調べを担当した塚内警部と話していると

 

「取り調べは終わったようだね。」

 

「お、オールマイト!?なぜここに?」

 

そこにはガリガリのトゥルーフォーム姿のオールマイトの姿があった

 

「彼とは個人的に話すことがあってね。呼んでおいたんだ。」

 

「そういうことだ。緑谷少年。

 

……………すまなかったね、USJに続きまたしても間に合わなかった。平和の象徴の名が聞いて呆れるよ。」  

 

 

「いえ、そんなっ……」

 

オールマイト(あのゴミ)がヘラヘラ笑っているからだ!

まるで救えなかった者などいなかったかのようにヘラヘラ笑っているからだ!

 

「……………あの、オールマイトでも誰かを助けられなかった事ってあるんですか?」

 

 

「……………あるよ、たくさん。」

 

オールマイトは空を見上げる

 

「今も世界の何処かで誰かが傷つき倒れているかもしれない。

 

悔しいが私も"人"だ。

 

手の届かない場所の人間は救えないさ。」

 

「………………。」

 

「だからこそ、笑って立つ

 

"正義の象徴"が人々の、ヒーローたちの、悪人たちの心を常に灯せるようにね」

 

 

オールマイトの"覚悟"に触れた緑谷はその後警察署に到着した母と共に帰宅した

 

 

こうしてショッピングモールでの騒動はひとまずは終了となった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

週があけてのホームルームにて

 

「既に知ってると思うが例の事件に伴いここ最近(ヴィラン)サイドの動きが活発化してきているため、こちらも対策としていつも使わせてもらっている合宿先はキャンセル。

 

当日まで宿泊場所を明かさないようにする。」

 

 

目の前でおそらく配られる予定であった合宿のしおり破り告げる相澤

 

 

「もう親に言っちゃってるよ」

 

「故にですわね……。話が誰にどう伝わっているのか、学校が把握できませんもの」

 

「合宿自体をキャンセルしねぇの英断過ぎるだろ!」

 

突然の出来事にクラスがざわめくなか

 

 

 

「てめぇ、骨折してでも殺しとけよ。」

 

爆豪が後ろの席に向けて呟く

 

 

「ちょっと爆豪くん!

緑谷くんとテリーくん状況聞いてないの!?

 

そもそも公共の場で個性の使用は禁止されてるし!」

 

 

「知るか。だいたい金髪野郎もだ、揃いも揃って敵にいいようにやられてみすみす見逃してんじゃねえよ。」

 

 

「ちょっ、爆豪!それは言い過ぎだって!」

 

 

「いや、いいんだ。切島。」

 

止めようとする切島を制してテリーが口を開く

 

 

「確かに今回は不意を突かれてしまい状況を悪くしてしまった。

 

あの場面、周囲への被害を考えればあれが限界だった。

 

だが俺とイズクは奴から宣戦布告を受けた。

 

そう遠くない未来、奴とは雌雄を決しなくてはならない時が来るだろう

その時は腕の一本、いやこの身命を賭して立ち向かうことになる!

 

その時までにこの生き長らえた体を鍛えあげるさ。」

 

 

テリーの覚悟に教室は静まりかえるが

 

「…………お前ら、まだホームルーム終わってないからな。」

 

 

教壇に全員の視線がいくそこには修羅のような面持ちになった担任の姿があった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

合宿当日

 

A組B組各々荷物を持って学校敷地ないに停められたバスの前に集まっていた

 

 

 

 

「え!? A組、補習いるの? つまり赤点を取った奴がいるって事だね! おかしくない!? おかしくない!? A組はB組より優秀なはずなのにぃ!? あれれれれ!?」

 

「ペチャクチャしゃべっとらんでさっさと荷物の積み込みの手伝いをせんか!」パァン

 

 

物間の嫌味攻撃が炸裂するも手に持っていた竹刀を地面に叩きつけて一喝するカメハメ

 

なぜカメハメがいるのかとテリーが聞けば

 

「そりゃワシも着いていくからに決まっているだろう。」

 

 

と言い返してきた

 

 

今やヒーロー科のみならず教師達も認めるレジェンドクラスの参加……なのだが

 

 

「いや~、やっぱりB組の女子もいいですなぁ。」

 

「ああ、テリーの所によく集まるからこれを機に俺らも少しお近づきに……。」

 

 

「ほれ、そこの二人もだ!さっさと積まないと着く頃には日が暮れるぞ!」パァン

 

 

 

再び竹刀で地面を叩く音が響く

 

「ヒイィィィ!は、はい。やります!」

 

「てか、レジェンドってより一昔前の体育教師みてぇになってるんですけどぉ!」

 

 

「つべこべ言わず手を動かさんか!」

 

 

こうして荷物の積み込みも終わり

 

「じゃあ、今度はムコウデネ、テリー!」

 

「ああ」

 

「A組のバスはこっちだ!みんな席順に並びたまえ!」

 

飯田の先導によりバスに乗り込む一同

 

(今回の合宿、いくらか楽出来るかもしれん!)ピンッ

 

その一連を見ていた相澤はそう閃いていた

 

 

 

 

ーーーブロロロロッ

 

 

 

こうしてバスは出発しどんどん山の中へと進んで行き

 

 

「休憩だ。」

 

 

 

 

休憩エリアに到着して止まるバス。

 

一同はわらわらと体を伸ばそうと外に出ていく。

 

 

 

「つか、パーキングじゃなくね?」

 

 

「あれ、B組は?」

 

 

 

休憩場所としては不自然な程に何もない崖の高台にA組一同は降りていた

 

 

 

「よーうイレイザー!!」

 

「ご無沙汰しています」

 

 

 

そこに声をかけてくるヒーローコスチュームを身に纏った二人の女性

 

まるでその人物が誰であるかわかっていたように頭を下げる相澤

 

「お前らも挨拶しろ。

 

今回お世話になるプロヒーロー」

 

 

 

 

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」

 

 

 

 決めポーズを決めた2人のヒーローがそこにいた。

 

 

「"プッシーキャッツ"の皆さんだ」

 

 

「こ、こいつはまたキョーレツな人達だな。

 

イズクこのヒーロー達知ってるか?」

 

 

 

「もちろん!連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!山岳救助を得意としていて、()()()()()()()1()2()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 

「心は18!!」ボフッ

 

よほど齢のことには触れられたくないのか片方のヒーローが緑谷の説明を物理的に遮り

 

「言ってごらん。心は?」

 

「じゅ、じゅうはち……。」

 

 

鬼気迫る顔で諭していた

 

「……ゴホン、えーと年齢の事を気にしているのがピクシーボブ。

 

私がマンダレイ。

 

言われた通り四人組でね、後の二人はあなた達が泊まる宿泊施設にいるわ。

 

それでその宿泊施設の場所ってのがあの山の麓ね。」ピッ

 

 

「遠っ!!」

 

皆がザワつき始める。

 

「え、じゃあなんでこんな中途半端なところで?」

 

「なんかすごいイヤな予感が……。」

 

「な、バスに戻ろうぜ。」

 

 

 

何人かが何かを察しバスに戻ろうと促すが 

 

「いや、」

 

テリーだけが悟っていた

 

 

 

 

「今は午前9:30。早ければ12時前後かしら」

 

 

 

 その言葉に皆がぞっとした顔をしバスに戻ろうと声をあげ引き返すが

 

「もう遅い。」 

 

 

「12時半までに辿り着けなかったキティは、お昼抜きね」

 

その言葉と同時に急激に盛り上がった土砂がバスに向かい走る皆を崖下へ押し返していく。

 

 

 

「悪いね諸君、合宿はもう………始まっている」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

土砂がクッションになりケガなく降ろされた一同に

 

 

 

 

「おーい!!私有地につき、『個性』の使用は自由だよぉ!今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!!」

 

上からマンダレイの声が響く 

 

その言葉に緑谷達は目の前に広がる森に目を向ける。

 

 

 

「この……魔獣の森を抜けて!!」

 

 

 

 

「なんだよ魔獣って……。」

 

「ゲームじゃねぇんだから……。」

 

 

「まっ、なんだっていいじゃないか。試練を与えられたなら喜んでぶち破ってやろうじゃないか。」パンパンッ

 

砂を払いやる気十分なテリーに対し

 

 

「おーい、一つ忘れておったわ。テリーと緑谷はこれを着けろ。」

 

カメハメの声と共に頭上から何かが2つ落ちてきた

 

「これは……。」

 

「試験の時オールマイトが着けていた……。」

 

 

「二人もそれを着けて宿泊施設まで向かってもらうぞ

 

安心せい、体重の半分位の負荷が増える程度だ。」

 

 

「いやいやいや、十分ヤバいじゃんか!」

 

「距離だってまだ検討つかないのにそんなの「よっと。」おい!?」

 

 

競呂や切島がしゃべっている途中にも関わらずテリーと緑谷は腕に重りを巻き付ける

 

ズシッ

 

「こ、これは……。」

 

「ぐっ、なかなかッ!!」

 

そこへ

 

 

ズザッ

 

物音がした先へ視線を向ければ土色の四足の獣がこちらに牙を剥き出しで現れた

 

 

 

「「マジュウだー!」」

 

 

 

 上鳴と瀬呂が叫ぶ。

 

 

 

「静まりなさい獣よ。下がるのです!」

 

 

 

 口田がすぐさま“個性”を発動するが

 

 

「ウソ、効果がない!?」

 

試験で口田の"個性"が如何に力があるか知っている耳郎が驚く

 

 

まったく静まる気配のない魔獣に対して

 

「なるほどな、そういうことか!!」バッ

 

すぐさまテリーが正面に躍り出して

 

「テヤッ!!」ボゴオッ

 

強烈な右ストレートを繰り出すと魔獣は粉々に砕け散った

 

グラッ

 

(ッ!?

 

体がいつも以上に流れる!腕輪のせいか!)

 

 

 

「気づいたか。お主らにはこれで麓まで来てもらうぞ。

 

ないとは思うが途中で外そうとは思わんようにな。

 

鍵はワシが持っておる、麓まで来たらはずしてやる!」

 

 

「おいジジイ!!」

 

とんでもない追加メニューが発表された直後、爆豪が声を荒らげる

 

 

「俺にも重りをよこせ!あいつらだけ特別扱いしてんじゃねぇ、俺だって重り有でも余裕で麓までいってやらぁ!」

 

 

「……カメハメさん!僕にも頂けないでしょうか!」

 

爆豪の言葉に飯田も声を上げる

 

「お、俺だってやってやるぜ!」

 

「僕も!」

 

「俺だってパワーには自信有りだぜ!」

 

それに呼応し次々と重りを注文する男子達が現れる

 

「フッフッフッ、ならば適当に投げるから着けていくがよい!余った分は後で回収しとく!」

 

こうして落ちてきた重りを一部の男子達は巻いていく

 

そして

 

「……………。」

 

「……………。」

 

「……………。」

 

「……………。」

 

 

着け終わるのを待っていたかのように次々と魔獣が木々の間から現れてくる

 

「流石は師匠だ、最初からやってくれるぜ!

 

行こうイズク!こんな森さっさと抜けて重りを外してもらおうぜ!」

 

「うん、行こう!テリーくん!!」

 

「てめぇら二人だけで勝手に盛り上がってんじゃねぇ!一番に辿り着くのは俺だ!」

 

 

「みんな、テリーくんに続いて行こう!みんなでこの森を突破するんだ!」

 

 

 

 

こうして林間合宿がスタートした

 

 

 

 

 



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増長する表裏 の巻

お待たせしました。


「…………フム、思ってたよりは早かったな。」

 

午後5時半をまわりもうすぐ沈みそうになる西日に照らされ森からぞろぞろと人影が現れてくる

 

誰もが皆、憔悴しきっていた

 

「ど、どうした……。ボンバーマン……俺のほうが先にゴールしちまうぜ……。」

 

「うるせぇ……ッ!!俺のほうが魔獣2体多く倒してんだよ……!だから……いい気になってんじゃねぇ!」

 

 

「あ、あいつら……まだあれだけ言い合えるとかワケわからん……。」

 

 

「てか数えてたんかい……。」

 

先頭を行くテリーとその後ろを着いていく爆豪

 

その様子を呆れて着いていく残りの一同

 

 

 

「ねこねこねこ。やっと来たね」

 

「あ゛ー……腹減ったよ……」

 

「喉乾いた……」

 

「めしー……」

 

 

 

ようやく緊張感から解放され思い思いの愚痴がこぼれていく

 

 

「何が三時間ですか」

 

「ごめんね、

 

あれ、私たちならって意味。」

 

 

「じ、実力自慢ってことか……」

 

 

「おーい、重りの鍵を外していくぞ!」

 

 

カメハメの声に重りを着けていたメンバーがカメハメの前に列を成す

 

テリー、爆豪、緑谷……と次々と外されていくなか

 

「ほう……。」

 

 

「……………ケロッ。」

 

 

「つ、梅雨ちゃんッ!?」

 

 

なんと列の最後にいたのは女子である蛙吹梅雨であった

 

 

「女子で重りを着けてクリアされるとは思わなんだ、天晴れな気概をしておる

 

名前は?」

 

「蛙吹梅雨よ。」

 

ガチャリ

 

「ケロ……流石にちょっと……キツかったわ…。」ガクッ

 

「梅雨ちゃん!」

 

重りを外され緊張感からも解放された中で力が抜けたのかその場で崩れ落ちる

 

それを近くで見ていた麗日を始め女子全員が駆け寄り体を支え宿へと運んでいくのであった

 

 

 

「す、すごいわね。今年の一年達は……。」

 

「そ、そうね。

 

先頭集団の誰かに今のうちにツバつけとこうかなんて考えていた自分が情けなくなるわ。」

 

 

「……下らん。」ボソッ

 

 

 

 

 

 

「なんだとッ!!誰だ今の言葉は!」

 

ポツリと発せられた言葉に反応するテリーに対し

 

 

「下らねぇって言ったんだよ。"ヒーロー"なんて職業も、それを目指すために必死になってる奴らも。」

 

と声を続ける声の主

 

全員が視線をそこにやればそこには角の生えた帽子をかぶった子供だった

 

 

 

「ち、ちょっと洸汰!!

 

ごめんね、この子は私の従甥でね

 

訳あって今は私が預かってるんだけど……」

 

 

「ヒーローなんか目指してる奴らとつるむ気なんてないから紹介なんかしなくていいよ。」

 

 

「確かにヒーローに対しては色々な意見があって然るべきだし、君も一人の人としてどういうスタンスをとるかは勝手だ

 

だが、必死に頑張ってきた仲間に対してそんな言葉を放つのは許すわけにはいかないぞ!」ズイッ

 

 

「まあまあッ!て、テリーくん、落ち着いて!相手は子供なんだし……。」

 

「退いてくれイズク!いくら子供とは言え許せないことだってある!こんな子供はお尻ペンペンしてでもわからせなくては!」

 

 

洸汰の言葉の謝罪と撤回を求めるテリーに対し二人の間に割って入りテリーをなだめようとする緑谷

 

 

「ふんっ」キンッ

 

「ヴッ!?」

 

不用意に背を向けた事が仇となり洸汰の蹴りが無防備な緑谷の股関を直撃

 

「ケッ!」タタタッ

 

 

そのまま宿へと走って逃亡してしまった

 

 

「はっマセガキ」

 

「なんかお前にそっくりだな。」

 

 

 

「おい、さっさと荷物持って宿に入れ。」

 

相澤に急かされ男子も宿へと入っていく

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「「「「「いっただきまーーーす!!」」」」」

 

 

 

 

 

宿に入ったA組の前には豪勢な料理が机いっぱいに広がっていた

 

 

 

 

「ウメー、ウメー!!」

 

「五臓六腑に染み渡るぅッ!!」

 

 

疲れと空腹、更に解放感からか数名のテンションがおかしな事になるが、みるみるうちに料理をたいらげていく

 

 

「まー、世話焼くのも今回だけだし食べれるだけ食べな!

 

あ、洸汰そこの野菜運んどいて。」

 

 

「……フンッ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ふぃー、これがジャパンの"オンセン"か!気持ちいいもんだなぁ。」

 

 

「まぁまぁ…飯とかはねぶっちゃけどうでもいいんスよ。求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺わかってるんスよ、オイラぁ……。

 

 

求められてるのはこの壁の向こうなんスよ…」

 

 

「な、なに言ってるの?峰田くん……。」

 

 

晩御飯も終わり汗を流すべく大浴場へ入り疲れを癒すテリー達だったが峰田が壁に張りつき一人でぶつぶつと呟く

 

 

「壁の向こうから聞こえるは女子の声!

 

このご時世に男女の入浴時間をずらさない!これはもう事故!」

 

 

 

 

「や、辞めたまえ峰田くん!!君のしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!!」

 

 

峰田の企みを察した飯田が注意し止めようとするが

 

 

「壁は越えるためにある!

 

Plus Ultraァァァァッ!!」

 

 

 

 

 

校訓を最低な引用に使いながら個性を使用し壁をよじ登る峰田

 

 

 

あわやもう少しで壁を越えられそうなところで

 

 

ヌッ

 

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ。」ドンッ

 

 

壁の間に潜んでいた洸汰に押し返され

 

 

「クソガキィィィィィィッ!!」

 

断末魔と共に壁から落ちていった

 

「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」

 

「ありがと!洸汰くーん!」

 

 

すると一連の騒動を見ていた女子から感謝の声をかけられ反射的にそちらを向いてしまった

 

「ッ!?」

 

 

それがよろしくなかった

 

当然だが振り向いた先は女子風呂、そこから飛び込んでくる映像の刺激に耐えきれず

 

 

 

 

「わっ………あっ!?」

 

今度は洸汰自身が男子風呂へと落下してしまった

 

 

 

 

「ッ!!」シュバッ

 

「ったく!!」ビュオッ

 

 

緑谷とテリーが反応し洸汰と峰田をそれぞれ救出した

 

「大変だ意識を失ってる!僕、このままマンダレイ達のところへ連れていくよ!」

 

そう言うや緑谷はタオルを腰に巻いただけのスタイルのまま風呂場から出ていった

 

 

 

「ひ~、助かったぜ。サンキューなテリー!」

 

 

「そうか、じゃあ俺たちも行くか。」

 

「へ?」

 

 

 

「へ?じゃない、お前のやったことは普通に考えてヤバい。

 

結果的に未遂に終わったがお前には相応の罰がいるだろう。

 

とりあえず、師匠(カメハメ)の元へ連れていく。」

 

 

言うや峰田の腰にタオルを巻き付け自らの腰にも同様にタオルを巻き

 

扉からでるテリー

 

 

 

「……………ち、ちょっと待ってくれテリー!それは不味い!ほんの出来心なんだ!だから、だからテリー!後生だから…後生だからアアアァァァッ!!」

 

 

我に帰った峰田の断末魔が外から聞こえてきた

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「いや~、もう一度入らせてくれるとはな!しかも俺たちの貸し切りだぜイズク。」

 

 

 

「う、うん。」

 

「……隣からは何も聞こえない。

 

む、無念なり……」

 

 

 

 

 

あの後テリーと峰田はカメハメと相澤の元へ緑谷はマンダレイの元へそれぞれ赴いた

 

洸汰は落下の恐怖による失神でしばらくすれば目を覚ますとの事であり峰田は未遂と言うことで厳重注意に留めるということで戻された

 

が三人の格好が格好だったためマンダレイの計らいでもう一度B組の後に三人だけで風呂に入らせてもらう事になった

 

 

 

 

「ちぇ、隣に誰も入ってないんじゃこれ以上ここにいても虚しいだけだ。

 

オイラは先に上がるよ。」

 

 

トボトボと峰田は上がっていった

 

「……テリーくん。」

 

二人だけになるや緑谷の口から語られたのは洸汰の生い立ち

 

 

プロヒーローの両親の元へ生まれ、そのまま育っていけば例に漏れずヒーローを夢見る子供になる筈だった

 

 

しかし両親はヴィランとの交戦で殉職

 

そんな二人の死を名誉だ誇りだと持て囃す世間を理解できず、彼は『ヒーロー』のみならず『個性』そのものの存在、ひいては社会にすら嫌気が差してしまったのだ

 

 

「……なるほど、あのボーイにもそんな過去があったのか」

 

 

「うん、その時思ったんだ。

 

オールマイトならこんな時なんて言うんだろうって

 

僕はなんて声をかけたらよかったのかな?」

 

 

 

 

 

(まるで救えなかった者などいなかったかのようにヘラヘラ笑っているからだ!)

 

 

二人の脳裏をよぎる重い言葉

 

 

 

「………それは俺たちがこれからの行動で示していくしかないだろう。

 

大事なのはそいつが何をした、何を成した人間に言われるかって所だ

 

俺たちはすぐにオールマイト(No.1ヒーロー)になれるわけでもないし、言葉程度で揺らぐような意志ならあそこまで拗れたりしないさ。」

 

 

 

「………………………。」

 

 

 

 

テリーの言葉に緑谷は思い返す

 

自らの原点

 

あの日始まったヒーローへ向けての一歩目

 

そこへ導いてくれたのは………

 

 

 

「………うっし、明日も早いし俺たちもそろそろ上がるか!」

 

テリーは空気を切り替えるようにわざと声を張り上げる

 

 

 

こうして合宿初日は終わりを告げた

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

合宿二日目

 

 

AM5:30

 

 

朝日と共に起床したA組

 

 

若干名、寝ぼけた表情の中爆豪が呼ばれ相澤よりソフトボールが投げ渡される

 

 

 

 

「今日から本格的に合宿を始めるが、まずは爆豪。それを投げてみろ。

 

前回の記録は705.2m。どこまで伸びるかな。」

 

 

「おお、成長具合がわかるな!」

 

 

「この3ヶ月いろいろ濃い経験してるからな!」

 

「いったれ爆豪!」

 

 

 

「んじゃ、よっこら………くたばれ!!」

 

 

勢いよく放られたボールは放物線を描くが………

 

 

「709.6m 」

 

 

「ッ!!」

 

 

「あ、あれ……思ったより……」

 

 

結果に爆豪はもちろん全員がほとんど結果が変わらないことに騒めく。

 

 

 

「約3か月間。様々な経験を経て、確かに君らは成長している。しかし、それはあくまでも精神面や技術面、後は多少の体力的な成長がメインで『個性』そのものはそこまで成長していない」

 

 

 

相澤の言葉に目を見開く一同。

 

 

「今日から君らの『個性』を伸ばす。

 

死ぬほどキツいが、くれぐれも死なないようにな」ニヤッ

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

少し時間を遅らせてB組も宿舎から出てきて説明を受けている

 

取陰が担任のブラドに話しかける。

 

 

 

「ですが先生。突然“個性”を伸ばすって言っても……20名20通りの“個性”があるのに……何をどう伸ばせばいいのか分かんないんスけど……」

 

 

 

取陰の質問はまさに的を得ている。

 

今話したように個性は誰一人として同じではないのだ。

 

それぞれに得意苦手があり、普通の訓練ではどうしても全員に指導などは出来る訳がない。

 

取陰の質問に同意するように両頬から刃が飛び出している鎌切尖が「具体性が欲しいな……」と続ける。

 

他の面々も同様のようでうんうんと頷いていた。

 

ブラドはそんなB組の面々に対して冷静に説明をしていく。

 

 

 

「筋繊維は酷使することにより壊れて……それ以上に回復した時に倍以上に強く、太くなる……“個性”も同じだ。使い続ければ強くなり、でなければ一気に衰える!」

 

 

 

広い場所へと到着した一同。

 

そこで目にするのは阿鼻叫喚の地獄絵図

 

 

 

ぁぁぁぁああああアアアアアアアアッ!!

 

 

誰もが苦悶の表情を浮かべ、叫び、汗やら血やらが飛び交いながら個性を使い続けたり体を動かし続けていた

 

 

 

「な、なんだこの異常な景色は………。」

 

 

「もはやかわいがりですな。」

 

数名が絶句していると

 

 

「君たちにも同じようにやってもらう!目的はただひとつ!限界突破だ!」

 

 

ブラドは声高らかに宣言する

 

 

「でも、私達を入れると41人になっちゃうしそれを7人でカバーできるのかな。」

 

 

「その辺は心配いらないそのためのこの方達だ。」

 

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「猫の手 手助け やってくる!」

 

「どこからともなくやってくる……」

 

「キュートに!キャットに!スティンガー!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」」」

 

 

 

 ビシィ!とポーズを決めるマンダレイ達。

 

急な登場にポカンとするB組面々。

 

 

 

あちき(ラグドール)の『個性』《サーチ》!見た人の情報100人まで丸わかり!居場所も弱点も!」

 

「そして(ピクシーボブ)の《土流》で各々の鍛練に見合った場を形成!」

 

(マンダレイ)の《テレパス》で一度に複数の人間にアドバイス!」

 

「そこを()が殴る蹴るの暴行よ!」

 

 

(((最後だけなんか違くないか!?)))

 

 

 

「B組もきたか、時間は有限。特訓内容渡すからテキパキ動けよ。」

 

困惑するB組をよそに相澤が声をかける

 

 

 

「あ、あの!!テリーはいったい?」

 

 

 

「あれ?そういやテリーの姿が見えないな!」

 

 

「ああ、彼なら」

 

ボキッ

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

 

ドシーンッ

 

 

「………あの辺りで木を切り倒しまくってるよ。」

 

 

 

「ねぇピクシーボブ。この合宿終わるまでに山に木残るかな?」

 

 

「怖いこと言わないでよ。」

 

 

「あの聡明なカメハメ殿だ、そんな無粋なことはせんだろう。」

 

 

そう言う間にもう一本木が倒れていった

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ………。」

 

「ほれ、何を疲れておる。こんなのは特訓の前のウォームアップだぞ。次はこの木をノコギリで丸太にしていけ。」

 

 

「い、イエッサー……。」

 

 

'こうしてカメハメに言われるまま、丸太を大量に作成し

 

 

ゴウゴウゴウ…………

 

 

それを次々に山奥を流れる滝の麓へと運び込む

 

「これだけあればひとまずは大丈夫だろう。では特訓を始めていくぞ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

B組も加わり苛烈さを増した合宿二日目

 

時間は過ぎていき

 

PM4:00

 

「さぁ!昨日言ったね!世話を焼くのは今日だけって!!」

 

「己で食う飯くらい己で作れ!!カレー!!!」

 

 

 

 ピクシーボブとラグドールの目の前にはカレーの材料や飯盒が並べられていた。

 

 

「い、イエッサ……。」

 

「アハハハハハハ全員全身ぶっちぶち!だからって雑なネコマンマは作っちゃ駄目ね!」

 

 

 

 その言葉に項垂れていた飯田が、ハッとする。

 

 

 

「確かに……災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環」

 

 

 

何やら1人で納得して声を上げる飯田。

 

そして振り返って叫ぶ。

 

 

 

「世界一美味いカレーを作ろう!!皆!!」

 

「オ……オォ~……」

 

(飯田……便利……)

 

その様子を見ていた相澤は自分が諭す手間が減ったことを喜んでいた 

 

 

 

 こうしてカレー作りが始まった。

 

 

 

いざカレー作りが始まると、生徒達は活気づいた。

 

 

爆豪や轟の個性を使用し火をつけ

 

「わ、梅雨ちゃん。料理上手!」

 

「けろけろ、うちは両親が共働きだからこれくらいはできなきゃって覚えたの。」

 

 

「………爆豪は才能マンだからなんやかんやできるとは思ったけどお前も上手いな、砂藤。」

 

 

「ま、まぁ趣味でいろいろ菓子を作るしな。」

 

 

和気あいあいと楽しみながら完成

 

「いただきまーす!」

 

多少料理の経験があった人がいた為もあり、状況も相まって全員が舌鼓を打っていた

 

 

「………あれ、そういえばテリー見てなくね?」

 

 

「あっそういえば。」

 

上鳴の一言で全員が見渡すが確かにテリーの姿はなかった

 

 

「そういえば調理前から姿が見えんかったような………。」

 

「サボりか!?」

 

「いや、彼はそんなことをするようなタイプではないと思うが……。」

 

 

 

「おい!あれを見ろ!」

 

 

テリーがいないことにざわつき始めるなか障子が遮るように声をあげる

 

 

促された視線の先には

 

 

 

カメハメと肩に俵担ぎされたテリーの姿があった

 

 

 

 

ポイッ

 

カメハメは無造作にA組メンバーの前にテリーを放り投げると水場に向かい

 

 

「ほれ、起きぬか。」

 

バシャーーッ

 

 

バケツに貯めてあった水をひっくり返しテリーの顔面にかけた

 

 

「今日はこれで終了だ。明日もまたやるぞ。

 

すまんなみんな、後の世話任せるぞ。」

 

 

そう言い残しカメハメは宿へと入っていった

 

 

「テリーくん!?大丈夫か!誰か手を貸してくれ!」

 

飯田の声に砂藤と障子の大柄な者や切島や瀬呂のように面倒見がいい男子が駆け寄る

 

 

その様を見ていた爆豪は歯噛みした

 

 

(このままじゃ足りねぇ、このままじゃ差が開く一方だ!)

 

テリーが極限まで追い込む特訓をしていると見抜いた爆豪はより一層の努力が必要だと再認識していた

 

 

 

 

 

 

そんな騒動もありながらも夜になり

 

明日の特訓に向け早々に眠りにつき体力の回復に努めるもの、補修を受けるもの、数少ない青春を感じられる一時に枕投げを始めるもの、お喋りに花を咲かすもの

 

それぞれが思い思いの時間を過ごすなか

 

 

一人野外のベンチに座り月を眺めるカメハメ

 

 

「………お主はみんなのなかに入らなくていいのか。」

 

 

自身の後ろに立つ影に問いかける

 

「……………。」

 

影は無言で両膝を地面につけると

 

 

「俺、尾白猿夫って言います。

 

お願いします、俺に稽古をつけてください!」ガバッ

 

 

 

 

まだ振り向いてすらいないカメハメに向けて土下座して助力を乞う

 

 

「……………生半可な覚悟では乗り越えられぬぞ。」クルッ

 

 

「承知の上です。」

 

 

カメハメは振り向き、尾白が顔をあげる

 

 

視線が交錯する

 

 

「……明日同じ時間にここへ来い。補習組と同じ時間ここで稽古をつけてやる。」

 

 

 

 

「ッありがとうございます!!」

 

 

 

 

こうして2日目が終わっていく

 

 

 

 

 

同時刻

 

 

「~~~♪~~~♪︎」

 

「………おい、一応聞くけどそれなにやってんだ?」

 

 

 

ヴィラン連合のアジトであるバーにて鼻唄混じりに作業するトガに荼毘が話しかける

 

 

二人とも現在は正式な連合の一員としてこのバーを拠点として生活していた

 

 

「えー、もうすぐ何か作戦があって出撃するじゃないですか。だから()()をデコってるんですよぉー。」

 

 

「あらぁ~可愛らしいじゃなあ~い。」

 

 

「おう、可愛いな!汚ならしいぜ!」

 

 

 

薄ピンクに光るハートや丸形のシールがあしらわれた()()を見せびらかすトガに反応するサングラスをかけたオネエと黒いマスクを被る口調が特徴的な男

 

 

「バカモノ!作戦は夜だぞ、そんなものを付けてたら相手にバレやすくなるし、なんか締まらないだろ!」

 

 

 

そこへトカゲのような緑の鱗に覆われた男が反対する

 

 

「えー、そんな堅苦しいのはヤですぅ~!戦場であっても可愛いはなくしちゃダメだと思います~。」

 

 

「そうよぉ、戦場にだって可憐な花は必要よ。」

 

「「ねぇ~。」」

 

 

 

トガは既に賛同したオネエと意気投合していた

 

 

 

「やれやれ、大丈夫かね。こんな面子で………。」

 

荼毘が頭を抱えていると

 

「マキマキ~、案ずるな荼毘よ。

 

私の占星術でも次の作戦は必ず成功すると出ている。」

 

 

と隣に座る男が声をかける

 

((((…………………………。))))

 

更に奥に控えてる残りのメンバー達も静かにだが今か今かと開戦の時を心待ちにしていた

 

 

「まぁいいか。目的はもう明確だしな。」ペラッ

 

 

荼毘が手にした紙には赤字でバツを塗られたテリーと緑谷の写真と何も塗られていない爆豪の写真が写っていた

 




その根はより深くより強く。


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強襲、悪意を込めて の巻

合宿3日目

 

山の中には変わらずの絶叫が響き渡っていた

 

「補習組、動き止まってるぞ」

 

 

中でも補習組はギリギリまで睡眠時間を削り補習の時間を捻出しているためかなりの疲労度が見てとれた

 

 

「オッス……ッ!!」

 

 

 

「すみませんちょっと………眠くて………。」

 

「昨日の補習が…………」

 

 

 

「当たり前だ、お前らの課題は期末テストで露呈した立ち回りの脆弱さ。ヒーローの現場は常に臨機応変に考えて動かなくてはいけない。

 

それが出来なければ命を落とすだけだぞ。

 

なぜ今キツい思いをしているのか、その意味を考えて動け。

 

麗日、青山。お前らもだ赤点こそ免れたがギリギリだったぞ。」

 

 

「ギリギリ!」

 

 

「心外☆」

 

「他の奴らにも言える事だかダラダラやるなよ。

 

何をするにも常に"原点"を意識しとけ

 

向上ってのはそういうもんだ、何のために汗かいて何のためにこうしてグチグチ言われるか常に頭に置いておけ。」

 

 

相澤の言葉にそれぞれの頭に沸き上がるイメージ

 

それはヒーローを志した純粋な気持ち、それが新たなエネルギーを生み出し訓練に再び熱を帯びさせる

 

 

そしてそれは……

 

 

「それ、もう一本!」

 

「ヌオオオオオオオオッ!!」バッ

 

バシャッ

 

「グオオッ!?」バンッ

 

何度も滝にのまれ岩肌に体を叩きつけられているこの男も同じだった

 

 

 

 

「ねこねこねこ。でも訓練ばっかじゃストレス溜まっちゃうでしょ? だから今夜はクラス対抗の肝試しをするからそのつもりでいてね。これぞまさにアメとムチってね!」

 

 

必死になって訓練に励む生徒に行き渡る一筋の光がピクシーボブによりもたらされた

 

 

「イベントらしいことも一応やってくれるんだな。」

 

「ふふふ、対抗ってのが気に入ったよ。」

 

「うち怖いのとか無理なんだけど……。」

 

 

「闇の狂宴。」

 

 

 

その言葉をきっかけに疲れた体に再び鞭打ち訓練に集中する一同

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして時間が経過して訓練は終わり、食事も取り、後片付けも終わり、一同は広場に集合してい。

 

理由はというと……、

 

 

 

「お腹も膨れたし、洗い物も終わった。後は……」

 

「肝を試す時間だー!!」

 

 

 

芦戸が嬉しそうにそう叫んだ。

 

 

 

だが、そこは雄英……そんなに甘くはなかった。

 

 

 

「あー……その前に大変心苦しいのだが、補習連中は……今から俺と補習授業だ」

 

「ウソだろ!?」

 

 

そういい終わるや補習組はあっという間に相澤の捕縛布により拘束され

 

 

「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってしまったので、こっちを削る」

 

 

 

「うわぁぁ堪忍してくれぇぇぇ!!試させてくれぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

引きずられて宿舎へ向けての夜道へ消えていった

 

 

「……という訳でさっきの補習組と訓練でダウンしちゃった金髪くんとその介抱でガールフレンドのB組の子は不参加ね。」

 

「ぐううぅ、なんて甘酸っぱい!うらやましいわ!私にも何かあったときに隣で支えてくれる人が欲しいィィ!」

 

ピクシーボブ、いや土川流子の魂の嘆きが夜の森に響く

 

 

「……ごほん。驚かす側はB組でもうスタンバってるわ。

 

A組は二人一組で3分おきに出発、ルートの真ん中に名前の書いたお札があるからそれを持ってくること!

 

 

脅かす側は相手に直接攻撃しなければ何でもOK!個性を使って、個人の創意工夫を凝らして驚かせちゃおう!」

 

「多くの人を失禁させた組が勝利となる!!」

 

「辞めてください…汚い」

 

 

びっくりする系が苦手と公言する耳郎は既にゲンナリしていた

 

 

そして運命のペア決めくじ引き

 

 

(あれ?補習組とテリーくん引いたら奇数だから……。)

 

結果は

 

 

「一人余る……!」

 

 

「ま、まぁクジ引きだから……必ず誰かこうなる運命だから……」

 

 

 

尾白がなんとかフォローするが最後かつ一人で歩く羽目になったのは緑谷だった

 

 

「それじゃ、あちきは中間地点で待ってるねー。」

 

 

何かあったときにの為に、とラグドールはひと足先に森に入っていった

 

 

 

 

こうして始まった肝試しだが5組目の麗日・蛙吹組がスタートした辺りから異変が起きる

 

 

 

「……………なにこの こげ臭いの。」

 

 

「黒煙……!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

同時刻

 

 

 

「さぁ開戦だ」

 

 

林間合宿と同じ敷地の森

 

闇夜に紛れるように黒いローブを身に纏い自身の個性で森の木々を焼き黒煙を発生させる荼毘

 

 

 

「地に落とせ、敵連合"開闢行動隊"」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

舞い上がった煙から三人組が現れた。

 

 

「あら、よかったじゃない。

 

占い通りお目当ての子いるわよ。」

 

 

「ほ、本当だ。なんとも胡散臭いとは思っていたがこうも当たっているとなんか恐くなってくるな。」

 

 

「ハッハッハ!何でもいいじゃねぇか!やることたぁ決まってんだからな!!」ズオオオ

 

バサッ

 

全員が黒いローブを羽織り姿がわからないが一人が待ちきれないのか鬱陶しいとばかりにローブを脱ぎ捨てた

 

「あぁんせっかちねぇ!」バサッ

 

 

「お、おい!まだ名乗ってないじゃないか!

 

ええい……っ!!」バサッ

 

その後を追うように二人もローブを脱ぎ捨てる

 

一人はトカゲのような緑の鱗に紫髪の男、何処となくステインに似た格好をしており彼の思想に感化された者と思われる

 

そしてもう一人は口調こそ女性だが見た目はゴリゴリの大柄な男性

 

赤髪に夜なのにサングラスをかけた奇抜さが目をひく

 

そして

 

 

「ッ!!」

 

「あんたはッ!!」

 

 

「ぬううううッ!!」

 

 

最初にローブを脱いだ男の姿を見たプッシーキャッツの三人の顔に激しい怒りが浮かび上がる

 

 

「何で………安全を期した筈じゃあ……………何でヴィランがいるんだよぉ!!」

 

 

「シャアアアアッ!ようやく暴れられるぜええええ!」

 

峰田の悲鳴をかき消すように叫ぶ大柄の男

 

 

 

 

「しかもお目当てのガキまでいるぜ!緑髪のお前!

 

お前と金髪の外人は率先して殺せとお達しだ!じっくりいたぶってやるから血を見せろ!」

 

 

「「「「ッ!!」」」」

 

 

 

まさかの敵側からの言葉に戦慄が走る

 

「待てい!生徒達には指一本触れさせぬわ!」

 

「それに私達もあんたのこと探してたんだよ!」

 

「洸汰の両親で私達の盟友、"ウォーターホース"の仇ッ取らせてもらうわよ!!」

 

 

「「「血狂いマスキュラーッ!!」」」

 

 

(こ、こいつがッ洸汰くんの両親を!!)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「飴とムチっつったじゃん!飴はぁ!!」

 

 

 

補習組は連れられて暗い夜道を相澤に連れられて歩かされていた。

 

 

「サルミアッキでもいい!飴をください先生!!」

 

 

 

「サルミアッキ美味いだろ。」

 

 

 

施設に着き、補習場のドアを開けると

 

 

 

「あれぇ?おかしいなぁ!優秀なはずのA組から赤点が5人も?!B組は僕だけなのに?!」

 

 

 

既に席について待っている物間がいた

 

 

 

「どういうメンタルしてんだお前!!!」

 

 

 

自身も同じく補習を受ける身にも関わらず物間は壮大に笑っている。

 

 

 

「昨日も同じ煽りしてたぞ。」

 

 

 

「心境を知りたい………」

 

 

 

「ブラド、今回は演習を入れたいんだが」

 

 

 

「俺も思っていたぜ。言われるまでもなく。」

 

 

 

その時全員にテレパシーでの通信が入った。

 

 

 

『皆!』

 

 

 

「マンダレイのテレパス。」

 

 

 

「私これ好き!ビクってするぅ!」

 

 

 

「でも交信出来るわけじゃないからちょっと困るよなぁ」

 

 

 

「静かに。」

 

 

 

相澤先生が注意を入れる。

 

 

 

『ヴィラン3名襲来!他にも潜んでいる可能性アリ!動けるものは直ちに施設へ!!接敵しても決して交戦せず撤退を!!』

 

「は……?なんでヴィランが……!?」

 

 

 

「ブラド!ここ頼んだ!!俺は生徒の保護に出る!」

 

 

 

すぐに相澤は走り出す。外に出ると森から黒煙がものすごい勢いで沸き上がる光景が飛び込んでくる

 

「考えたくもないが…… 」

 

 

 

「心配が先だったかイレイザー?」

 

 

 

その言葉と共に真横から青い炎が相澤に襲いかかった

 

 

「出てこないでくれプロヒーロー。用があるのはお前らじゃない。」

 

 

 

「………そう言われておめおめと引き下がっては生徒達に会わせる顔がないものでなぁ」

 

相澤は二階の鉄柵に捕縛布を巻き付け炎を回避した

 

 

「やっぱ、プロだなぁ…。」

 

そしてそこから個性を発動したまま捕縛布を荼毘に巻き付け

 

ドガッ

 

グシャッ

 

流れるような打撃のコンビネーションから一気に荼毘の体を拘束したまま地に伏せさせた

 

 

「目的・人数・配置を言え。」

 

「なんで?」

 

 

 

ゴキッ

 

 

「こうなるからだよ。」

 

 

 

全くの躊躇いも見せず相澤は荼毘の左腕を折る

 

「次は右腕だ。合理的にいこう。」

 

 

淡々と告げる相澤に

 

 

「それはちょっと止めて欲しいなぁ。」

 

(新手ッ!?)

 

声の主は白い仮面にシルクハット、トレンチコートの男

 

 

 

「付き合いこそ浅いが今は一応仲間なんでね。そんなに痛め付けられると胸がいたくなっちゃうよ。」

 

 

「なら、お前がおとなしく喋ってもらおうか。大事なお仲間がこれ以上傷つきたくないのならな。」グググ

 

 

語気を強めながら力を込めていき脅しで終わらないことを示す相澤に

 

「ふふふ。」ヒュン

 

男は山なりに何かを相澤に投げつける

 

 

「ッ!!」ギッ

 

 

「そうだよな、得たいの知れない何かが投げられれば見ちゃうよな。それも個性を使って。

 

ところがぎっちょん、それこそが狙いだったのでした!」

 

BON

 

 

 

『魔雲天ドロップッ!!』

 

 

空中から現れた巨体がそのまま落下し迫ってくる

 

 

「ちぃっ!!」

 

たまらず相澤は拘束を外し後ろへ回避する

 

 

ズズズズンッ!!

 

 

そのあまりの威力に周囲には地鳴りが発生

 

 

 

「グフフフ、良く避けたな。」

 

(ちぃっ、離しちまった!それよりも加勢に来たこいつらの対象も考えにゃ……。)

 

 

目の前に現れた巨漢から視線を外さずに頭をフル回転させる相澤

 

「すごい揺れがしたぞ!大丈夫か!?イレイザー!!」

 

建物からは戦局を確認しにブラドが出て来るが

 

 

「ッ、来るなブラド!!まだ敵がいる!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

フアァッ

 

相澤の忠告にブラドキングはすぐさま周囲に注意を巡らせるが既に至近距離に明らかに不自然なターバンが宙に浮いて漂っていた

 

 

クイッ クイッ クイッ

 

やがてそれはひとりでに折れ曲がり形を成し

 

「いかんなぁ、プロヒーローともあろうものが……。

 

悪魔の忍び寄る足音を聞き逃すようではなぁ!」

 

ギュルギュルギュル

 

『キバ地獄!!』

 

突然現れた生首がブラドの肩にキバをたて襲いかかった

 

ガブゥッ

 

「ぐわあああああっ!!」

 

 

「ブラドッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「これで大丈夫そうだな。それじゃぁ俺はここら辺で本来の目的に向かうとするよ。」

 

「ああ、抜かるなよコンプレス。」

 

 

荼毘に言われるやトレンチコートの男・Mr.コンプレスはすぐさま森の中へと消えていった

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おっと、飼い猫ちゃん達が出る幕じゃないわよ。これを見なさい。」

 

 

「ッ洸汰!!」

 

 

 

なんと既に敵の手中に洸汰は落ちていた

 

 

特に外傷などは見当たらないがロープでぐるぐる巻きで拘束され恐怖で声すら出せない状態だった

 

 

「卑怯、なんて言わないわよね。だって私達はヴィランだものこれくらいは常套手段よ。」

 

 

 

「安心しろ。手荒な真似は一切していない、リーダーからは別に何人殺しても構わないとは言われているが俺個人としてはいたずらに殺めるのは趣味ではない。」

 

ジロッ

 

「ッ!!」

 

トカゲ男、スピナーは緑谷に視線を向ける

 

 

「俺は見たいのだ!あのステイン様の意志を挫いた者が本当に資格あるものなのか!本当は自ら対角線に立ち矛を交えたかったが……。」

 

 

 

 

「うじうじ言うなよ!あの占い師が俺のほうがいいって言ったんだから俺の獲物だ!俺も味わいたいんだよ!天下に名を轟かすスーパールーキータッグ、その片割れの実力をよぉ!」

 

 

「……、僕が勝ったら洸汰くんを離せ。」

 

「だ、ダメよ!まだ学生の貴方を戦わせる訳にはいかないわ!」

 

 

既にスイッチが入った緑谷をマンダレイは止めるが

 

 

「これは僕が売られた喧嘩です。僕が戦ってる間はひとまずあいつらを止めておけます。」

 

「だけどッ!!」

 

 

「それに、僕は洸汰くんに見せなきゃいけないんです。力をひけらかすだけじゃない、本当の『ヒーロー』を。」

 

 

「……わかった。プロヒーロー虎が許可する。」

 

「ちょっと虎ッ!!」

 

 

まさかの発言にピクシーボブとマンダレイが声をあげるが

 

 

「少年の言う通りこの場は既にあいつらに掌握されている、打開するには少年の手を借りる他ないだろう。

それに…こんな決意を固めた眼で見られれば賭けて見るほかないだろう。」

 

 

 

「話しはまとまったか?早く殺ろうぜぇ!」

 

「まだ答えを聞いていないぞ、僕が勝ったら洸汰くんを解放しろ。」

 

「うふふ、それはどうなるかしら「マグネ。」うん?」

 

 

「いいだろう。このスピナー、ヴィランとしてではなく一人の男として、魂を賭け約束しよう。

 

お前が勝てばこの子供は解放する。」

 

 

「ちょっとスピナー!?」

 

 

まさかの合意発言に今度はマグネが声をあげる

 

 

「奴が真のヒーローを見せてくれるなら俺としてはもう十分だ、それに俺たちの役目も果たしているだろう。

 

ならばこれくらいは大丈夫だろう。」

 

 

「……まったくそんな熱い目をしていたら断れないわ。いいわよ、それで!」

 

 

 

「なんか外野がヤイヤイ言ってるが戦うのは決定なんだろ!ならこいつの出番だ!」

 

マスキュラーが地面に何かを投げるとそれは着地と同時に開き一気にリングへと姿を帰る

 

「シャア、始まりだ!リングに上がれ小僧!ぶっ潰してやる!」

 

 

「……僕は小僧じゃない!ヒーロー『デク』、頑張れって感じの『デク』だ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

宿舎内

 

 

「………何か外が騒がしいデスネ。」

 

 

日中のカメハメの特訓によりダウンしてしまったテリーの介抱の為に肝試しを欠席していたポニーはテリーと二人で宿舎の一室にいた

 

「……………。」

 

疲れからかテリーは泥のように眠り安らかな寝息をたてていたが

 

 

ズズズズッ!!

 

グラグラグラッ

 

 

 

「What ?ナ、ナニがオキテルノ!?」

 

 

外から大きな地鳴りが響き合わせて宿舎も揺れる

 

 

 

「………………ッ!!」カッ

 

 

 

 

 

 




目覚めよ、ヒーロー!


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その拳で切り開け の巻

 

宿舎前でヴィランに襲われた教師二名は窮地に追い込まれていた

 

「フッフッフッ、お前がイレイザーヘッドか。何でも体術には自信あり、だそうだな。そんなモヤシみたいに貧相な体で何が出来るか見せて貰おうか。」

 

(ちぃ異形型の『個性』、しかもそこらのチンピラと違い相当腕がたつな。)

 

 

 

「おい、魔雲天、前衛は任せたぞ。」ボオオッ

 

 

魔雲天の巨体に身を隠しながら個性を発動する荼毘

 

(くっ、厄介極まりない!だが、ブラドも動けない今…俺がやるしかない!)スチャッ

 

不利な状況ながらプロヒーローとして、また教師としての矜持を奮い立てサングラスを装着し戦闘モードに入るイレイザーヘッド

 

 

パリンッパリンッ

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

『THUNDER HORN ッ!!』

 

宿舎の内側から窓を突き破って飛び出してきた四本の角が魔雲天と荼毘に襲いかかる

 

「ぬおおおっ!?」ガガッ

 

「うおっと!」バッ

 

 

魔雲天は腕をクロスしガードし荼毘はその場から飛び退く

 

 

バッ

 

 

「こ、今度はなんだ!」

 

魔雲天がパニックで声を荒らげる

 

「テリャアアアアッ!!」ゴッ

 

続いて飛び出してきたテリーの拳が魔雲天の眉間に打ち込まれる

 

 

「ぐううぅぅ!!」ガクッ

 

「魔雲天!?くそっ!」

 

思わず片膝をついた魔雲天に驚きながらもテリーに向けて炎を放とうとするが

 

「させるかぁ!」ギッ

 

「イレイザーヘッド……ッ!!」ギリッ

 

 

『抹消』の個性がそれを阻止する

 

「先生ッ!!大丈夫ですか?」

 

「翔野、角取……お前らに戦闘許可は、

 

いや、正直助かった。プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いてお前らの戦闘を許可する!」

 

「「はいっ!!」」  

 

 

 

 

「……てめぇが翔野テリーか!!

 

願ってもない!お前をぶっ潰すために連合に入ったんだ!」

 

 

 

「ポニー、こいつの相手は俺がする!お前はブラド先生を!!」

 

 

「大丈夫だ角取!お前らは二人でヴィランと戦え!こいつの相手は俺一人で十分だ!」

 

 

「クッククク!強がりはよすんだなブラドキング!このミスターカーメン、一度捕えた相手は絶命するまで追い詰める男だ!

このまま右肩を食いちぎられたくなければ大人しくしているんだな!」グググ

 

ミスターカーメンと名乗る男の牙がさらに深くブラドキングの肩に沈み血があふれでる

 

 

「……ふっ、俺も見くびられたものだな。教え子達が見ている前でヴィランの言葉に"はいわかりました"なんて言う訳ないだろうが!」グブジャ

 

なんとブラドキングはカーメンの頭を掴み自らの肩の肉ごと無理矢理引き剥がした

 

「な、なんだとォ!!」

 

「いまだ!くらえ!」ビュン

 

 

動揺したカーメンの隙を見逃さずブラドは自身の個性『操血』を駆使し自らの血を固め鞭のようにカーメンの頭の下に向けて振るうと

 

 

バチイッ

 

「ギャアアア!」

 

何もないはずの空間に赤い血が吹き出すとそのままのなかったはずの体が実体を露し始めた

 

「こ、これでわかっただろ!俺は大丈夫だ!」

 

「き、貴様!!よくも俺の体に傷をつけたな!許せん我が秘術でもって黄泉へ葬ってくれる!」

 

カーメンとブラドキングが向かい合う

 

 

「一人でも二人でも関係ないまとめて潰してやる」ドスドスドスッ

 

しびれを切らした魔雲天が大地を揺らしながら突進してくる

 

「ぬんっ!」

 

ゴンッ

 

テリーと魔雲天のショルダータックルが正面衝突するが

 

「な………んだとぉ………っ!?」グラッ

 

なんとテリーに体格で勝るはずの魔雲天の体がぐらつき

 

バッ

 

「ヴィランども!!俺はとても怒ってる!俺たちの林間合宿を邪魔したこと!先生達を傷つけたことそして、仲間達に危害を加えようとしたこと!

 

テキサスブロンコは仲間を傷つける奴に容赦はしない!」グワッ

 

 

そのままテリーは魔雲天の体を担ぎ上げ

 

『ブレーンバスター ~テキサスブロンコ怒りの一撃!!~』

 

ゴズンッ

 

頭から叩き落とした

 

「ポニー!」ザッ

 

 

間髪いれずにテリーはポニーを呼ぶと

 

「テリー行クワヨ!」バッ

 

ポニーが体を半回転しながらテリーの上に乗り

 

「ぐうぅ、ぞがぁぁぁ!!」ヨロヨロヨロ…

 

ふらつきながら立とうとする魔雲天向けて突っ走る

 

 

「テリーと私の合体技(ツープラトン)受けてみなさい!!」

 

 

「きらめきの流血列車!」

 

『『ロングホーントレインッ!!』』ドドドドッ

 

ベギョォッ

 

「ぐほおおおおぉぉぉーーーっ!?」

 

合体技(ツープラトン)を食らった魔雲天の巨体が浮かび水平に吹き飛ばされ

 

バキバキバキバキボキッ

 

森の木を何本も巻き込みながらふっ飛び

 

ドサッ

 

「う、ぞだろ………ご、ごごでおわ、り………?」ガクッ

 

勢いが止まると同時に一言呟くとそのまま気絶してしまった

 

 

「なんと!?魔雲天がああも容易くやられてしまうとは!?」

 

カーメンが驚愕の声をあげる

 

 

「翔野、角取!お前らはそのまま広場に行け!そして会った奴及びマンダレイにお前ら同様にイレイザーヘッドが戦闘許可を出したと伝えろ!」

 

「はいっ!!」

 

「オ二人もキヲツケテ!!」

 

こうして二人は広場に向かい駆けていった

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「シャアッ早速遊ぼうぜ!!さっさとリングに上がってこいや!」

 

 

「………。」ダッ

 

「み、緑谷くん!!」

 

マスキュラーの呼び掛けに応えるようにリングに向けて駆け出す緑谷はそのままの勢いでリングに滑り込むと

 

「さっそくいくぜ!ってぇ!?」

 

 

リングに上がってきた所を叩こうとしていたマスキュラーだが

 

 

「ウオオオオオッ!!」

 

 

SMASH !!

 

 

リングに乗り込んだ勢いのままに緑谷は個性を発動し殴りかかるが

 

 

「っとお!いい速さだが、力が足りてねぇな!」ブンッ

 

 

異常に膨らんだマスキュラーの腕に防がれ振り払われ

 

 

「俺の個性は『筋肉増強』!!皮下に収まりきらねぇ程の筋繊維で底上げされる速さ!力!!」ブンッ

 

「グウウウッ!!」バキョッ

 

薙ぐように振られた拳をなんとか左腕で防ぐも緑谷の体ごと吹き飛ばされ

 

 

「うわっ!?」バインッ

 

緑谷の体はロープに弾き返され再びマスキュラーの元へ

 

 

 

「何が言いてえかって!?自慢だよ!つまりお前は俺の完全な劣等型だ!」ズオオオッ

 

 

(まさかり)

 

「グボォッ!!」

 

 

個性で増強された剛腕から繰り出されるラリアットが緑谷の体を迎え撃った

 

「ガハッゴホッ!!」

 

「おいおい、挨拶代わりの一発でお仕舞いか?つまんねぇな!勝ったら離せとか吠えた割には対したことねぇな!

 

 

やっぱりお前じゃなくて片割れの金髪とやり合いたかったぜ!」グリグリ

 

 

咳き込む緑谷の体を踏みにじりながらマスキュラーはぼやく

 

 

「そ、そうやって……」

 

「ああ?」

 

 

「ウォーターホースも………僕のパパも、ママも、いたぶって……殺したのか……!!」

 

絞り出したような声で捕らわれの洸汰が訴えると

 

マスキュラーは洸汰のほうに向き直る

 

そして何かを思い出したように「ああ」と声を漏す

 

 

「マジかよ、ヒーローの子供かよ?しかもあいつらか。なんだよ運命的じゃねぇの!」

 

 

 

マスキュラーが手で顔の左側を撫でる。

 

「ウォーターホース、俺を義眼にした二人か。」

 

 

「お前の!!お前らみたいな奴のせいで!!いつもいつもこうなるんだ!」

 

 

 

「あらあら、元気一杯ね。」

 

 

 

「はぁぁぁ、よくないぜ、責任転嫁はよ。

 

まるで俺が悪者みてぇじゃねぇか。俺は別に義眼になったことは恨んでねぇぜ。

 

ありゃぁ、お互い同意の元にやった事なんだぜ?

 

俺はぶっ殺したかった。で、あの二人はそれを止めたかった。

 

お互いやりてぇことやった結果さ。

 

恨むなんてお門違いもいいとこさ。

 

悪いのはな、出来もしねぇことをやりたがった!

 

弱わっちいてめぇのパパとママさ!」

 

 

「あ、あんたああああああああッ!!」

 

「許さない、あんたは絶対に許さない!!離して虎ッ!!悔しくないの!!あんな風に好き勝手に言われて!」

 

 

「我だって、我だって悔しいさ!だが冷静になって状況を見直せ!我々が感情のままに動けばその洸汰の命が危ないんだぞ!」

 

 

傍若無人なマスキュラーの言葉に激昂したマンダレイとピクシーボブを虎が必死なって止めていた

 

 

「ハッハッハ、ヒーローってのは窮屈だな!殺したい時に殺せないなんてな!」

 

ザッ

 

「あん?」

 

 

「悪いのは、お前だろ!」バッ

 

マスキュラーが高笑いする間に立ち上がった緑谷は怒りに声を震わせて飛びかかる

 

「いいぜ、いいぜ!!そうこなくっちゃ!」

 

(スピードは負けている、ダメージは与えられない、左腕もほとんど使い物にならない……。

 

こいつは強い!隣にテリーくんもいない!

 

 

だけどッ!!

 

だけどッッ!!)

 

 

ギチッ

 

「ッ!?」

 

「これでスピードは関係ない!」

 

 

(折れてる左腕を筋繊維に巻きつけた!?)

「だがそれがどうした?そんなへなちょこパンチで俺を倒すってか!?」

 

 

「できるできないじゃないんだっ……

 

 

ヒーローは!!

 

命を賭して、綺麗事を実践するお仕事だ!」

 

 

ーーーワンフォーオール 100%

 

 

 

バチバチバチッ

 

(な、なんだ?さっきまでと様子がッ!!)

 

 

 

SMASH !!

 

 

「ブゴアッ!?」ガァッン

 

ブオオオッ

 

 

緑谷の拳をくらいマスキュラーの体はコーナーに叩きつけられた

 

 

周囲に発生した風がその拳の威力を物語る

 

「や、やったぜ!!緑谷!!」

 

峰田が歓喜の声をあげるが

 

 

「ッテテテ、テレフォンパンチたぁやるなぁ緑谷……。」

 

(そんな………)

 

 

「ウソだろ……。」

 

 

「み、緑谷くんのパワーでもってしてもダメなのか……。」

 

 

 

 

(オールマイトの………)

 

 

「残念だったわねぇ、私達もそんな簡単にやられるほどヤワじゃないのよ。」

 

 

「さて、ここからどうするか見定めてやろう。」

 

「うそだ……」

 

 

 

(パワーだぞ………ッ!?)

 

 

 

緑谷のリミッターを外した自損覚悟の一発は確かに届いたが仕留める所までは行かずマスキュラーはまだ戦意を残しその場で立ち上がった

 

ゴソゴソ

 

「訂正してやるよ、てめぇも十分強え。覚えてるか?俺は"遊ぼう"って言ったんだ。

 

だけどそれもここで終わり。ここからは俺も本気で行くく。」

 

マスキュラーはポケットに手を入れて何かを探しだすと

 

 

「ここからは本気の義眼()だ。」

 

 

新たに黒い義眼に付け替えたマスキュラーは

 

ゴウッ

 

(さっきよりも速ッ)

 

 

「行くぜええええええええええッ!!」ブンッ

 

有無を言わさぬ勢いでマスキュラーが拳を振り上げる

 

 

 

「クッ!?」

 

なんとか避ける緑谷だったが

 

 

ボゴォ

 

「り、リングに穴が……」

 

「どんなデタラメなパワーしてんだよ、バケモノじゃねぇか……。」

 

 

緑谷が元いた場所に落とされた拳はリングに突き刺さり穴を開けてしまった

 

 

「おっと、外しちまったぜ。この義眼にすると熱くなり過ぎちまうな。だが次こそは外さねぇ!ピントはばっちりだぜ!」

 

 

 

 

体勢を直すマスキュラーを前に緑谷の頬には冷たい汗が伝う、

 

だが

 

 

「………………ッ!!」

 

 

そのマスキュラーの先にいる捕らわれの洸汰と目が合う

 

その目は恐怖と同時に自らの不甲斐なさ、申し訳なさがこみ上げており涙に溢れていた

 

そしてその目は訴えていた

 

 

(ああ、そうだ。"あの日"も同じだった。)

 

 

それはテリーと出会う前

 

己の"憧れ"に出会いヒーローとしての一歩目を踏み出した日

 

 

(その時もそうだった。あの目に反応して体が動いたんだ。

 

あの時は何もないただの木偶だったけど、もう違う!

 

オールマイトから力と信念を受け継ぎ、そして素晴らしき仲間に出会い

 

僕は、僕は!!

 

 

ヒーロー『デク』になったんだ!)

 

「ハッハッハ、びびってチビるかと思ったらそんな顔で返されるなんて嬉しいぜ!

 

でも結果は変わらねぇ!てめぇの命はここで終わりだ!」

 

バンッ

 

マスキュラーは強化した脚力でもって空中に飛び上がると

 

「これでぶっ潰してやる!派手に血ぃ飛び散らせやぁ!!」

 

 

破城槌(スレッジハンマー)ッ!!』

 

もはや膨れ上がった筋繊維によって球体になった体から重力を纏って振り下ろされる拳

 

 

「絶対に、助けるんだ!!」ブンッ

 

 

「ま、まさか迎撃するつもりか!?」

 

「よ、止すんだ緑谷くん!君の腕はもう………ッ!!」

 

 

 

(関係ないッ!!)

 

ドッ!!

 

既に個性によって自壊した腕を今一度振り上げてマスキュラーに打ち込む緑谷

 

だが

 

 

「ーーーってえぇぇ、が!

 

さっきより弱えぇぞ!」ググググ

 

 

マスキュラーの勢いに飲まれ緑谷の体が悲鳴をあげ踏ん張るもののみるみる押し潰されていく

 

 

(まだ、まだ足りないのか!お母さん、ごめん!!オールマイト!!)

「頑張れ!!」

 

「ッ!!」

 

 

 

「が、頑張れ!!そんな奴に負けんな!!お前、強いんだろっ!」

 

 

グンッ

 

「な、なにぃぃっ!?」

 

緑谷は姿こそ見えていないが応援した声の主が誰かはわかっていた

 

「そ、そうだぜ!緑谷!!お前だってすげぇ奴なんだ!」

 

「君も僕を救ってくれた男の一人だ!だから、君なら勝てる!」

 

「少年!まだ僅かな時間だが我と共に流した汗を思い出せ!」

 

 

呼応するようにこの一戦を見守るメンバーからも声が上がる

 

グンッ

 

グンッ

 

 

「こ、こいつ!?力がどんどん上がってねぇかッ!?」

 

 

その声援に応えるようにマスキュラーの体は押し返されていき

 

 

 

 

[OFA (ワン・フォー・オール)1000000%]

 

 

「飛んでけぇぇっ!!」

 

SMASH ッ!!

 

「ぐおおおおっ!?」

 

 

マスキュラーの体は完全に押し戻され再び空中へ放り出される

 

 

「これで終わりだ!」バッ

 

マスキュラーの圧力から解放された緑谷は自らロープへと飛び乗る

 

 

「………ッ!!」

 

ロープの上で顔をあげると洸汰と目が合う

 

 

 

「………………。」ニッ

 

 

そこで緑谷は笑って見せた、自身の憧れがそうして歩んできたように

 

バチバチバチッ

 

「くらええぇぇッ!!」バインッ

 

 

自身の個性で強化された脚力にロープの反動が合わさり

 

「ぬおおおおっ!?!?!?」

 

 

水平に射出された緑谷の体が落下してくるマスキュラーの体を捉えそのままの勢いでロープへと突っ込んでいく

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

皆が教室でショッピングの計画をしていた日

 

「はぁ、はぁ…………ガハッ、ガフッ……」

 

 

カメハメへ訓練を頼んだ緑谷は案の定徹底的にやられリングの中央で大の字になっていた

 

 

 

「やれやれ、普段とは違いお主はこと戦いに関しては頭が固いのう。

 

動きや攻め手が単調すぎる。」

 

 

無傷の状態でセカンドロープに座り汗を拭くカメハメ

 

「それでは現場に出て苦労するぞ。あのオールマイト(大バカ者)みたいに拳一振でなんもかんもひっくり返せるならともかくまだお主にはそこまでの力はない。」

 

カメハメは立ち上がって緑谷のそばに歩み寄る

 

「このリングをよく見てみろ、ただのキャンパスだけではなく四方にはコーナー、ポスト、鉄柱さらにそれらを繋ぎ囲うようにロープがある。

 

ロープの反動で勢いをつけたり鉄柱に相手をぶつける、または登って高低差を作ることもできる

 

6m50cm四方のリングにすらこれだけの可能性がある、お主が将来出ていくことになる現場はリングの比じゃない程複雑かつ刻一刻と変わる環境の中での戦いとなるのだぞ

 

その無限に広がる宇宙のような可能性を制す事ができた

者が、戦いを制す事が出来るだろう。」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

(わかる、今ならわかる!カメハメさんの言っていた事が!)

 

 

「こ!これは!?」

 

「新技だ!」

 

 

 

『マッスル・ミレニアム!!』ドォゴォッ

 

 

ブチブチブチッ!!

 

 

ロープへと無理矢理押さえつけられたマスキュラーの体から何かがちぎれる音が鳴り

 

 

シュウウウ

 

 

個性が解かれていくマスキュラーの顔から

 

 

「グハアァッ!!」ポロッ

 

コンッ コロココロ…

 

真っ黒な義眼がこぼれ落ち

 

 

ドサッ

 

後を追うように体がリングに倒れた

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あは、こんばんは。」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

肝試しで森に入った麗日・蛙吹組の前に姿を現したのは同世代位の少女

 

だが

 

「ワタシ、トガ ヒミコ。

 

早速だけど、血を見せてください!

 

そして……

 

お友達になりましょう!!」

 

月光を浴びて鈍色に光るナイフと支離滅裂な発言が溢れんばかりの狂気を撒き散らしていた

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

同じく肝試しで森を歩く轟・爆豪組

 

 

「爆豪……ッ!!」

 

「あぁ、驚かすにしては静かすぎるぜぇ!!おい!?」

 

 

あまりの違和感に一気に周囲への警戒心を張り巡らすと

 

「ケケケ~ッ!?」ビヨーン

 

「「ッ!?」」

 

何がが茂みの中から飛び出してきた

 

「……ありゃ?俺が相手する予定の奴と違うな。

 

まぁいいや、どのみち全員俺のボディによってバラバラになるんだしな!」

 

 

 

こちらは体全体が月光を浴びて光る

 

「なんだか知らねぇがてめぇヴィランだろ!ぶっ殺す!!」

 

「ま、待て爆豪!戦闘許可は………ッ!!」

 

 

「お?話が早くて助かるぜ。このスプリングマン様の錆びにしてやる!」

 

 

こちらでも新たな戦いが始まった




勝利の余韻を味わう暇はなく


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決して死んではならぬ の巻

 

 

「ま…まさか、マスキュラーがやられるなんてね。」

 

「トップロープが顔面、セカンドロープが大腿部を押し潰し更には自身が弾丸の如く背骨に突き刺さる。

 

見事だ、あれではいくら筋繊維を肥大化したとて防げまい。」

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ………。」

 

新必殺技を披露した緑谷だが体は既に満身創痍だった

 

「緑谷くん!」

 

飯田がリングに上がり緑谷のもとへ駆け寄る

 

 

「ぼ、僕は大丈夫だから……洸汰くんは?」

 

 

 

「マグネ。」

 

 

「ハイハイ、わかったわよ。」

 

 

激闘の決着を見届けたスピナーの声に反応したマグネが洸汰の拘束を解いていく

 

 

「ほら、よかったわね。さっさとお行きなさい。」

 

「ッ!!」ダッ

 

 

解放された洸汰は一目散にマンダレイの元へと走っていった

 

 

「洸汰!!」ダキッ

 

 

走ってきた洸汰を受け止め安堵するマンダレイ

 

 

 

「本当に解放するとは、ヴィランながらにも戦士としての矜持は捨てるほど落ちぶれてはいないようだな。」ザッ

 

 

 

「無論、この戦いに水を指すほどこちらも無粋ではない。

 

だが!我々の計画はまだ完遂していない!

 

故に、我々はまだ捕えられる訳にはいかないのでな!」チャキ

 

 

「ちょっと余興を挟んじゃったけど私達もそこまでお利口さんじゃないのよね。」バッ

 

 

虎とピクシーボブが構えると同時にマグネとスピナーも自身の得物を取り出し抵抗の構えを示す

 

 

「みんな!」

 

「テリーくん!?」

 

 

そこへ宿舎側からテリーが現れた

 

「えーいっ!!」グオッ

 

「なんのッ!!」シュバッ

 

それを合図にプロヒーローとヴィランが激突する

 

ピクシーボブが『土流』の個性で攻撃しようとするがスピナーがナイフを投げつけこれを阻止

 

「ぬうん!」

 

「きゃ!危ないわねぇ。」

 

 

虎とマグネもぶつかり合う

 

「こ、ここは私たちプロに任せて貴方たちは宿舎に!」

 

「マンダレイ、先生から言伝が!」

 

 

 

テリーが担任から託された言葉をマンダレイに伝えると

 

 

 

「そう、いいんだねイレイザー!」

 

 

 

『A組B 組総員ーイレイザーヘッドの名に於いて戦闘を許可する!』

 

 

テレパシーを用いて森にいる全生徒へ戦闘許可がおりる

 

 

「俺とポニーは森へ行ってみんなの救援に行く!みんなは戻って先生達の援護を!」

 

 

 

「ま、待って!テリーくん!僕も行く!」

 

 

 

 

「な、無理だ!緑谷くん!君の体は既に満身創痍だ!これ以上は命に関わるぞ!」

 

 

 

「それでも、行かなくちゃ!

 

ここで動かないと僕は絶対後悔する!

 

 

だから!」

 

 

「……OKだ、イズク!お前ならそう言うと思ってたぜ!」ガシッ

 

緑谷の覚悟を受けたテリーは緑谷を背負う

 

 

「テリーくん!」

 

 

「……お前らは早く宿舎へ、委員長引率頼むぜ!」ダッ

 

 

そう言い残しテリーは緑谷を背負いポニーを引き連れて森へと入っていった

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あはは、強いですねぇ。」

 

 

「はぁ、はぁ、危なかった。」

 

「流石ね、お茶子ちゃん。」

 

 

ナイフをかざして突っ込んできたトガに対し麗日は職場体験で身につけたG・H・M(ガン・ヘッド・マーシャルアーツ)で制圧していた

 

 

「梅雨ちゃんベロで拘束できる!?」

 

「わかったわ。」

 

 

「テレビで観た時より強くなってますね、さしずめ愛の力って所ですかね」

 

 

地に倒れ付し押さえつけられている筈のトガは不気味に余裕を崩さず喋り続ける

 

「あなた、好きな人がいますよね。」

 

「ッ!?」

 

「わかるんです、乙女ですから。貴女から同じ匂いがするの。」

 

 

「何を言ってッ!?」ズキッ

 

喋るのを止めないトガに恐怖と苛立ちを感じた刹那、麗日に痛みが走る

 

「お茶子ちゃん!!」

 

麗日が痛みを感じた方を見ると

 

自らの足にトガから伸びた注射器が刺さっていた

 

 

「ちゅうちゅう……。」バッ

 

トガは麗日が痛みに怯んだ隙に拘束から抜け出す

 

「ごめん梅雨ちゃん!離してもうた!」

 

「謝らなくて良いわ、お茶子ちゃん。それよりも貴女の足は大丈夫!?」

 

 

 

「アハハ、好きな人ができるとその人みたくなりたいって思いますよね!

 

その人と同じに成りたくなるよね?その人と同じものを身に付けたくなるよね?そして最後にはその人そのものに成りたくなっちゃうよね。」

 

立ち上がりながらも言葉を止めないトガに二人は恐怖で顔が歪む

 

 

 

(これ)があればそれが叶うの。

 

でも、まだ足りないの。

 

よりそのものに成る為にはやっぱりその人自身がいるの。

 

だから、()()があるの。」

 

トガが取り出したの色々なきらびやかなデコシールが貼られた刀の鞘

 

「ナイフなんてもう使わない、だって温もりが伝わらないもの。だからこうするの、これで切ればよりわかるの。だから貴方に成れるの!」

 

 

そこにトガは右腕を差し込む

 

 

『妖腕刀。』

 

そこから再び腕を抜くと右腕自体が刃へと姿を変えていた

 

 

「今の二人、スッゴくいい表情です。

 

だから二人の面、ちょうだい。」ダッ

 

 

「「ッ!?」」バッ

 

再び突進してくるトガを二人は左右に別れて回避する

 

「アハッ!」スパッ

 

ズル、ズルルルルル

 

ドサッ

 

トガの刃は木を綺麗に切断してしまった

 

「う、嘘やろ……。」

 

「ケロ……。」

 

あまりの切れ味に二人も言葉を失う

 

「アハハ、外しちゃいました。」

 

 

振り向くトガの姿に二人は悪鬼羅刹を見た

 

 

間違いなく本物のヴィラン

 

年齢も変わらないほどの少女が放つにしては禍々し過ぎる殺意に麗日と蛙吹の足は本能的にすくむ

 

その一瞬が命取りだった

 

「隙ありです!」バッ

 

距離を詰め刃を振りかざすトガ

 

完全に虚をつかれた二人は反応できずこのまま凶刃の餌食かと思われたが……

 

 

ヒュンヒュンヒュン

 

 

「ッ!?」バッ

 

 

突如飛び退くトガ

 

さっきまで自身がいた場所には無数の角が突き刺さっていた

 

「オチャコさん、ツユちゃん!」

 

ポニーの声に二人も我にかえる

 

 

「あは、邪魔されてイラッとしましたけど、またまた女の子!

 

しかも貴女も恋してますね!これは楽しい女子会の始まりですね!」

 

「お茶子ちゃん、ポニーちゃん。明らかに相手はマトモじゃないわ。戦闘許可が出ているとはいえ無理に闘う必要はないわ、ここは後退戦の構えで行きましょ。」

 

3対1となるも笑いながら刃となった右腕をきらめかせるトガ

 

戦いは次の局面を迎えようとしていた

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「だあぁぁーーーッ!!くそがぁ!当たらねぇ!」

 

爆豪が自身の個性を使い攻撃をするも

 

「よっ、ほっと、なんのッ!!」

 

バネがすごいどころか全身がバネなヴィラン・スプリングマンの前に悉く空振りとなっていた

 

 

「爆豪!!」

 

轟が援護しようと個性を使い地面を凍らせていくが

 

「むんっ!」ビョン

 

スプリングマンは素早く飛び上がると

 

『トペコンバズーカ!!』ボンッ

 

そのまま近くの木の幹に足を乗せ自身の体の特性を生かして水平に飛んで行った

 

「くぅぅ!」(爆豪を巻き込むかもしれないから使いたくなかったが!!)

 

たまらず轟が氷塊で壁を作るが

 

「甘い!」ボゴッ

 

 

なんとスプリングマンはその氷塊をぶち破って突撃してきた

 

「くッ!?」ズゴッ

 

 

 

咄嗟に腕をクロスさせて受ける轟だったが余りの勢いに吹き飛ばされてしまう

 

「まだまだぁ!!」ビョンビョンビヨーン

 

 

その轟を追いかけるように自身も着地の勢いを殺すことなく跳躍を続け

 

「ケケケ~ッ!!」

 

一気に飛びかかり轟の体を自身のバネの中央部分に入れてしまった

 

 

『デビルトムボーイ!!』ギシギシギシ

 

「うわぁぁぁーーっ!?」

 

 

「半分野郎!!」

 

 

 

「おっと、動くなよ。このデビルトムボーイはてめぇらみたいなもやしっ子位ならあっという間にバラバラに出きるんだぜ。

 

てかお前、よく見たらターゲットの写真の奴だな!」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

(ば、爆豪が……ターゲットだとッ!?)

 

「こりゃ棚ぼただな。お前、俺に着いてこい!嫌とは言わせねぇぞ!」

 

 

「ば、爆豪ッ!俺に構うな!逃げッ「勝手に喋るなよ!」グウウウッ!!」

 

 

スプリングマンは自らの体を伸ばし絞りをきつくしていく

 

 

「……チィッ、わかった!!わかったから半分野郎を離せやバネ野郎!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「断……面……。」

 

 

 

「ふん、やっと沈んだか。」

 

「あ、ありがとうございます。カメハメさん。」

 

 

「俺の黒影(ダークシャドー)も抑えてもらってありがとうございます。自らの不甲斐なさを恥じるばかりです。」

 

 

「なーに、たまたまランプを持ってたのが功を奏したまで。

 

兎に角、お主らが無事でよかった。」

 

 

脱獄中のヴィラン・ムーンフィッシュに襲撃された常闇と障子はムーンフィッシュの個性『歯刃』による奇襲を受け

障子の複製腕の一部が切られ出血

 

それを見て常闇が怒りの感情に支配され個性が暴走仕掛けるもそこへランプ片手に合流したカメハメにより沈静化

 

そこからカメハメ主軸の攻勢により瞬く間にムーンフィッシュは倒されるのであった

 

「とりあえず歯を全部折ったとは言え油断は禁物。

 

さっさとコイツの口を縛………ッ!?」バッ

 

 

「ど、どうされたのですか?」

 

「まさか、まだヴィランがっ!?」

 

 

不意に視線を別のところに向けたカメハメを見て一気に緊張感が高まる二人だったが

 

「………、いや驚かせてすまない。勘違いだったようだ。

 

それよりも二人とも手伝ってくれ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カメハメが視線を向けた先では

 

 

「はぁ………はあっ………。」シュコーシュコー

 

「や、ヤオモモ………。余り無理したらダメだよ。」

 

「そ、そうそう!私と耳郎ちゃんもいるんだし!」

 

 

「す、すまねぇ。男の俺が……もっと踏ん張らなきゃいけないのに……。」

 

 

 

 

八百万、葉隠、耳郎はガスマスクを着けて森に取り残されたB 組の救助を行っていた

 

 

森で倒れているB 組を見つけ次第八百万の個性でガスマスクを生成し煙の影響がないところまで引き上げてくる

 

 

しかし、女子3人ではこれはかなりの重労働であり特に個性の関係上一番消費が激しいのは八百万だった

 

今もB 組の男子 泡瀬洋雪(あわせようせつ)を発見し運んでいる最中だった

 

 

 

「ここら辺なら大丈夫かな?」

 

ようやく煙がない場所まで来た一行はマスクを外す

 

「ちょっと待ってね、今ウチの個性で周囲を探ってみるから」

 

 

耳郎は個性『イヤホン=ジャック』で地面にプラグを刺して索敵を行うが

 

 

ヴィイいいいいいいいッ

 

 

「な、なに!?この音っ!?気をつけて何か近くにいる!」

 

「「「っ!?」」」

 

ようやく一息つけるかも、という甘い思考は

 

「ねほひゃん。」

 

儚くも打ち砕かれる

 

ヴィイいいいいいいッ

 

 

現れたのはUSJ や保須市の戦いでも確認された怪人・脳無

 

 

しかしその手は増設・改良が加えられチェーンソーのように高速回転する刃やドリルのようなものが取り付けられていた

 

 

「ねほひゃんッ!!」バッ

 

「ッ!!逃げろみんな!!」

 

有無を言わさず切りかかってくる脳無に反応した泡瀬が力を振り絞り八百万達を逃がそうと押し飛ばす

 

 

 

 

ズバッ

 

「グハアッ!!」

 

その代償として泡瀬の背中が切られてしまう

 

「あ、泡瀬さん!!」

 

「だ、大丈夫だ!八百万!!そ、そこまで深く切られてない!」

 

 

「でもあんた!血がッ!!」

 

「お、俺のことはいいからお前ら三人だけでも逃げろ!」

 

 

背中から出血している泡瀬はうつ伏せに倒れながらも逃げろと促す

 

 

「そ、そんな!そんなこと出きるわけありませんわ!」

 

 

「この出血じゃどの道これ以上は足手まといに成るだけだ!だったらお前らだけでも逃げてくれ!」

 

 

「そんなッ!?」

 

 

泡瀬の言葉に葉隠と耳郎も悲痛な声をあげる

 

 

「………あんまり関わる時間なかったけど最期くらい男らしいことさせてくれ!頼む、早く「ネホヒャン!!」ッ!!」

 

 

言葉をかける泡瀬に振りかざされる凶刃

 

もはやこれまでと覚悟を決めた泡瀬だったが

 

「させません!」バッ

 

なんと八百万がその上に覆い被さってきたのだ

 

「な、何してんだ!早く逃げろ!」

 

 

「出来ません!ここまできて誰かを見捨てて逃げるなんて、ヒーローを目指す者としてそんな事出来ません!」

 

 

「ヤオモモッ!!」

 

「危ない!」

 

そんな事は関係ないと凶刃を振り落とそうとする脳無だったが

 

 

「ホエッホエッ、止めなされ。脳無ちゃんや。」

 

 

「…………ネホヒャン?」

 

 

 

自分に止めろと声をかける者に疑問を感じ脳無が振り向くとそこにいたのは

 

「あれは………?」

 

「おじいちゃん?」

 

 

「殺しを命令されたのは構わんが何もこんな別嬪さんを無残な姿に変えてしまうこともなかろうに。狙うなら他にしなさい。」

 

と森から出てきた老人が声をかけるが

 

 

「………ネホヒャン!!」バッ

 

 

聞く耳を持たぬとばかりに再度凶刃を振り上げるが

 

「まったく、色香の"い"の字もわからんもんを作りおってからに!てぇいっ!!」バッ

 

 

 

すると老人はその見かけとは裏腹に軽やかに脳無の背中に飛び付き

 

「ホエ~~ッ!!」

 

 

そのままチョークスリーパーで脳無を締め上げる

 

 

「ネボビ……ッ!?」

 

急に気管を締められた脳無は動揺したのか動きが止まる

 

「ホエッホエッホエッ……さて、お嬢様方。」

 

「な、なんでしょうか!?それよりも貴方は一体?」

 

 

「ワシはその昔『ジージョマン』として活躍したヒーローじゃ、今は訳あって敵連合に所属しておるが……。

 

お主らのようなナイスバディのかわいい娘達がピンチとあらばそんなものは関係ないわい。

 

それでじゃお嬢ちゃん、ワシと取り引きせんか?」ニマーッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




危険度MAXの取引……。


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魔の手は闇に紛れる の巻

遅くなって申し訳ありませんでした


「おい、霧が晴れてってるぞ!やばくねぇか!?全然余裕だぜ!」

 

「あー、マスタードがやられたっぽいな。」

 

 

 

森を覆う霧が消えていく事に慌てるトゥワイスに荼毘が冷静に答える

 

「まぁ所詮はガキだし、詰めが甘かったんだろ。ここまでやってくれれば上出来だ。

 

あとは、適当にプロヒーローにちょっかいをかけつつターゲットを回収するのを待つだけだ。だからほれ、もう一回俺を増やせ。」

 

 

「簡単に言ってくれるぜ!楽勝楽勝!」

 

(……そろそろアレも一人ぐらいは殺してるか?)

 

「ってか荼毘よぉ。いつの間にか爺さんいなくなってるぜ?」

 

 

 

一人ほくそ笑む荼毘にトゥワイスが声をかける

 

 

「あぁ?たぶんションベンだろ?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「と、取引ですか………?」

 

 

「ホエッホエッ。」

 

 

 

脳無の首を締め動きを封じる老人・ジージョマンの言葉に聞き返してしまう八百万

 

 

「ま、待ってヤオモモッ!!そいつも敵連合だって言ってる!無闇に受けない方がいい!」

 

 

耳郎が声をあげるが

 

「ペチャパイちゃんは静かにしとりなさい、ワシはこのボインちゃんと話しているんじゃ。」

 

 

 

「だ、誰がペチャパイだッ!!このハゲタコジジイが!」

 

 

「じ、耳郎ちゃんッ!?落ち着いて!?」

 

突然コンプレックスを突かれ激昂する耳郎とそれを必死になだめる葉隠

 

さっきまでの緊迫感は何処へやら、カオスな空間が創成されてしまった

 

 

「なぁ~に、そんなに難しいことではないわい。」キッ

 

「………ッ。」

 

顔つきが一気に引き締まり鋭くなるジージョマンの眼光に八百万の顔も強張っていく

 

 

 

「ワシがこやつを倒した後お主ら全員を見逃してやるから、代わりにお主のその立派なお胸に着けておるブラジャーをワシにくれい。」

 

 

 

「………はっ?」

 

名家の生まれで育てられてきた八百万から見ればまったく思ってもいない交換条件を突きつけられ一瞬何を言っているのか理解できずにいた

 

 

「ッッッサイテー!!あんた本当に元ヒーロー!?うちにいるバカ二人と大して変わらないじゃない!」

 

 

「や、八百万ッ!!こんなバカみたいな話に付き合う必要はない!早く俺を置いて先生達の所へ走れ!!」

 

 

「ええい、外野は黙っとれ!

 

ワシだって本当は触らせてくれとか言いたい所を黙って持ち場を離れて時間がないからこれで妥協しとるんじゃぞ!

 

それでどうするのじゃお嬢ちゃん、ワシもそろそろ腕が疲れてきて長くは待てんぞ。」

 

 

「ネボビッ………。」グググ…

 

 

首を絞められ動きを封じられてはいるものの脳無は一切大人しくなる様子は見せずむしろフラストレーションを溜めており解き放たれればここにいる全員が無事では済まないことは明白だった

 

 

「………もし私がその取引を飲んだ場合、貴方が今押さえつけている脳無を倒してくれるという話ですが、貴方にはそれが出来ると?」

 

 

 

「ホエッホエッ、もちろんだとも。このジージョマン例え今はヴィランとして生きてようとも女と交わした約束を破るようなほど男として落ちぶれてはおらんわい。」

 

 

 

「ヤオモモ、まさかッ!?」

 

 

「………わかりました、それで皆さんが助かるのなら。その条件で飲みます。」

 

 

 

八百万が決断を告げると

 

 

 

「ホエッホエッ。任せなさいお嬢ちゃん!」クワッ

 

「「「ッ!!」」」

 

 

戦いに関してほぼ素人同然の四人でさえ感じる程にジージョマンの纏う空気が一変した

 

 

 

「老いてなお益々盛んなり!女の子の為なら百万馬力すらをも凌駕してみせるわい!」

 

 

グワアッ

 

 

『クローズ・オンズ・リブ!!』

 

 

スリーパーを解いたと思うや否や自身のあばら骨の間に脳無の足を挟み込むと

 

「ほれ、ほれ、ほれっ!!」ブォンブォン

 

ふた回り程大きい脳無の体がジージョマンの動きにあわせて前に後ろに連続で叩きつけられていく

 

「ネブビッ……」

 

 

「ホッホッ、これにて仕上げ!」

 

ガキッ ガキッ

 

 

 

『楢山バック・ブリーカー!』

 

 

「グボォォォォォ………ッ!?」ミシミシミシッ

 

 

自らの頭を支点にした強力なバックブリーカーが

 

 

「トアアアアアアアアアアッ!!」グググ…

 

バキッバリバリバリ………

 

「グホラァッ!?」バカンッ

 

ついには脳無の限界を超え本来曲げてはならない方向へと完全に背骨を折りきってしまった

 

 

「………ほれ、できたじゃろう?」ニコッ

 

無残になった脳無の体を投げ捨て返り血を浴びたジージョマンは微笑んだ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぐううう………」

 

スプリングマンの技にかかり苦悶の表情を浮かべる轟

 

 

「で俺ぁどうすりゃいいんだ、バネ野郎!!」

 

「バネやッ…いや確かにそうなんだけど、ヴィランの俺が言うのもなんだがお前口悪いな。

 

まぁいいや、とりあえずお前こっち来い。」

 

(こ、こいつらは爆豪がターゲットだと言った!このままでは爆豪が危ない!考えろこんな状況でもまだなにか手が………ッ!!)

 

 

「………………。」

 

 

「ケケケ、まったく俺様はついてるぜ!あとはどうにかコンプレスと連絡がつけば「喰らえやッ!!」はあっ!?」

 

 

 

 

BOOOOON

 

 

突如爆豪が個性をフルに使い地面が爆ぜる

 

「こ、この野郎!?こっちには人質いるんだぞ!

 

………って、なんだと!?」

 

 

パキパキパキ…

 

 

スプリングマンが轟に意識を向けると轟は自身も巻き込みながらスプリングマンの体を凍らせ

 

「ハアアアアアッ!!」ボアッ

 

 

今度は一気に炎を放出し氷を一気に溶かした

 

その結果

 

 

ジュウウウウウウウ………

 

「い、一体こいつはなにを!?」

 

その答えは

 

ギギギギ……

 

 

「な、なんだ?体が!?」

 

 

 

スプリングマン自らの身体を持って知ることになる

 

 

 

「こ、これは………錆!!

 

なぜだっ!?、いやそれよりもこのままでは俺の身体の弾性が!!」

 

 

「ハッ、昨日風呂で効能を見といてよかったぜ!ここの泉質には塩化ナトリウムが含まれてる!ならここらの土にも多少は漏れでてる筈だ!あとはそれを半分野郎の個性で発生させた大量の水と合わせれば晴れて塩水の出来上がりだ!」

 

 

「多少苦しいが、これ以上動かないのであれば!!」グイッ

 

 

突然の身体の変化に戸惑うスプリングマンを尻目に技から脱出する轟

 

「あッ!!

 

おい、待て!!」

 

 

「よそ見してんじゃねぇ!!」bomッ

 

 

轟に意識が逸れたのを見計らい、爆豪の攻撃が遂にスプリングマンを捉える

 

 

「ま、不味い!ここは一度退いて態勢を整えってげげっ!?」

 

ピキピキピキ

 

 

「………お返しだ。」

 

 

スプリングマンの足元が氷で覆われていく

 

 

 

「ナイスだ!!半分野郎!!」ダッ

 

「お前の為じゃないがな!」バッ

 

ゴガンッ

 

二人は息ピッタリに合わせたドロップキックをスプリングマンに打ち込む

 

「ぐほぉっ!!」

 

身体の弾性を奪われ足を固定されたスプリングマンはその衝撃をモロに浴びて

 

ビキピキピキ…

 

それでも収まらない勢いはスプリングマンを氷から解放し

 

ドシンッ

 

 

後ろに生えている木にスプリングマンの身体は激突し

 

ズルズルズル…

 

 

そのままスプリングマンの意識は途絶えた

 

 

「どうにか気絶したようだな。」

 

 

「ハッ、こんなふざけた見た目の奴にやられる程やわな鍛え方しとらんわ!」

 

「………爆豪、こいつはさっきターゲットはお前だと言っていた。」

 

 

「関係ねぇな、逆に向こうからやられに来てくれるんなら好都合だ!まとめてぶちのめしてブタ箱にぶちこんでやるよ!」

 

 

血気盛んに応える爆豪

 

そこへ

 

「かっちゃん、轟くん!」

 

 

テリーと緑谷が到着した

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「あーん。もっとお話しましょうよ~!」

 

「そんな物騒な腕振り回しとる奴の言葉なんて聞けるわけないやろ!」

 

「お茶子ちゃん、色々言いたいのはわかるけど今は口よりも足を動かして。」

 

 

撤退戦を試みている三人だったが状況はあまり芳しくなかった

 

牽制用のポニーの個性はトガの『妖腕刀』により切るときに足を止める為文字通り僅かな足止めにしかならず

 

またトガ自身も身軽でセーラー服なのに派手に動き下着が見えようとお構い無しに進んでくるのだ

 

 

 

 

「アハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 

「あ、あかん。このままじゃ………」

 

 

「お茶子ちゃん!諦めちゃダメよ!」

 

 

「ソウデス!ソレニそろそろ………。」

 

 

「ポニー!」

 

「麗日さん!蛙吹さん!」

 

 

「あれもヴィランか?」

 

 

「見りゃわかんだろ!あんなヤバそうな物引っ提げて笑ってるなんざ普通じゃねぇ!」

 

 

 

テリー達4人が合流する

 

 

「………流石にこれではこっちが不利ですね。楽しい女子会もここでお開き、ここは逃げるが勝ちなのです!」バッ

 

 

それを見るや形勢不利を察しあっという間に森の中へ消えていくトガ

 

 

「あっ!?」

 

「待て、麗日!ここで

俺たちが無理に追う必要はない!」

 

 

 

 

「と、とりあえず相手の目的がかっちゃんだって事はわかったからこのままみんなで宿舎に向かえば………。」

 

 

「………………?

 

その爆豪ちゃんは、どこにいるの?」

 

 

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

油断なんてしていなかった。皆の意識が森に消えていくトガに向いた瞬間

 

 

「悪いねぇ、彼なら俺のマジックで貰ったよ。」

 

 

潜んでいた仮面のヴィランは手元にビー玉上の何かを手にして木の上から出久たちを見下ろしていた。

 

 

「ッ!!」ゴウッ

 

反射的に轟が捕らえようと氷結を展開するも

 

「残念でした!俺、逃げ足は数少ない取り柄なのよ。」

 

それを上回る反射速度で攻撃を避け無線機を取り出し

 

「開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定道りこの通信後五分以内に“回収地点”へ向かえ!」

 

そう言うと出久たちの前から遠のいて行った。

 

 

「待てっ!?」

 

「麗日!俺とポニー、イズクと轟を浮かせ!ツユはその俺達をまとめてにあっちの方向に投げるんだ!」

 

 

 

逃走を図るヴィランを前にテリーは素早く指示を出す

 

 

テリーの言葉にどうにか落ち着きを取り戻したメンバーは手早く行動に移っていく

 

 

 

「行くわよ四人とも。絶対に爆豪ちゃんを助けてね」

 

 

 

「任せとけ!」

 

 

 

蛙吹にサムズアップするテリーら四人に巻き付いた舌を勢いよく振りかぶって、一閃。

 

四人は砲弾のように宙へと撃ちだされた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ホエホエホエッ、ではではお嬢ちゃん。

 

約束は守ってもらおうかのう。」

 

 

ジージョマンは脳無を倒した事などもう忘れたかのように

八百万に優しく語りかける

 

 

 

「………………………。」スッ

 

意を決した八百万は服に手をかけるが

 

「ちょっと待った!」バッ

 

 

耳郎がジージョマンの視線を遮るように八百万の前に立つ

 

 

「な、なにをしとるんじゃ!?まさか今さら約束を反故にするつもりかのう?」

 

 

「じ、耳郎さん!?」

 

 

 

「別に約束を破るつもりはない、だけどアンタとの約束はブラジャーを渡す事でしょう?

 

 

だったら別に今この時間を見る必要はないんじゃない?

 

あと貴方も背中切られて大変な状況だけど、申し訳ないけど少し目を閉じてて。」

 

 

「す、すまねぇ………。」

 

耳朗が毅然と言い返すと慌てて倒れている泡瀬は目を閉じる

 

「ぐぬぬ、なかなか達者な小娘だわい。

 

こちらも時間が惜しい、それで良いから早う渡しとくれ。」

 

 

「じ、耳郎さん……ありがとうございます。」

 

 

 

同性として尊厳を少しでも守ろうと前に進み出た耳郎に感謝を告げ手早くブラジャーを取り外し

 

「では、これを………。」

 

 

「ホヘホヘホヘ!!現役JKの下着!あぁ長生きはしておくもんじゃワイ。」

 

手渡されるや手にした下着を抱えしみじみと感動するジージョマン

 

すると

 

 

 

『開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定道りこの通信後五分以内に“回収地点”へ向かえ!』

 

 

その声に急いでオムツの中から無線機を取り出し

 

「おお、こりゃいかん!さっさと戻らんと置いていかれてしまう!

 

それではお嬢さん方また今度どこかでお茶でもしよう!」

 

 

そう言い残し見た目にそぐわない程のスピードで走り去っていった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふぅ、ふぅ、なんとか間に合ったわい………。」

 

 

「ああ……?爺さん今まで何処行ってたんだ?」

 

茂みから現れたジージョマンに荼毘が問いかけるが

 

 

「ホヘホヘホヘ、すまんのぅ。ちとトイレに………。

 

何せ年をとるとすぐ催してな、それなのになかなか出ききらないと言う厄介なもんでな。」

 

 

「おいおい、いきなり汚ねぇ会話すんなよ。清潔だな。」

 

「………まぁいい、とりあえずアンタが来ればあとはコンプレスだけだ。」

 

 

荼毘もめんどくさいと深くは問わず話を打ち切ると

 

「あら、来たみたいよ。」

 

マグネが指さす方向からコンプレスが向かってくるのが見えるがどうにも様子がおかしかった

 

「ムムム、なにやら慌てている様子だな。」

 

「どうしたんですかねぇ?」

 

 

カーメンとトガが呑気に話していると

 

「すまねぇ、振り切れなかった!すぐにターゲットの二人とオマケが来る!迎撃用意を!」

 

 

 

コンプレスが必死に叫ぶと同時に集まった輪の中に転がり込んでくると

 

 

 

 

ズドン!

 

「ハロー、エブリワンッ!!早速で悪いが全員ここでノックアウトさせてもらうぞ!」

 

 

三人を担いだテリーが着地した

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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痛く、苦く の巻

 

「こ、こいつらはッ!!」

 

「おお、願ってもない!鴨が葱を背負って来た!」

 

 

テリーと緑谷の登場に困惑と歓喜が入り交じる敵連合

 

 

「なら、ここでついでに始末してやる。」ゴオオオッ

 

 

荼毘が炎を放つも

 

ビキピキピキ

 

テリーか素早く降りた轟の放つ氷にぶつかり相殺される

 

 

「ついで程度で倒されるほど俺達は甘くないぞ。」

 

「チイッ」

 

 

「下がってろ荼毘!前に出ろ!」

 

 

「ここは私達が!」

 

 

トゥワイスとマグネが接近戦に持ち込もうと得物を構え突撃するが

 

 

 

SMASH!

 

 

「グオオ!?」

 

「イヤンッ!?」

 

 

緑谷の超パワーを用いたデコピンの衝撃波で吹き飛ばされてしまった

 

「イズク、無理するなよ。」

 

「こ、これくらいなら………大丈夫だよ!テリーくん!」

 

 

マスキュラー戦の負傷が残るなかでも戦闘に参加する意志を見せる緑谷

 

その姿に

 

「…………あは。」シュバッ

 

 

「「ッ!!」」

 

 

「カッコいい、カッコいいです!!そのボロボロな感じ!

 

でも、もっと血を流した方がカッコよくなりますよ!」

 

 

興奮したトガが既に妖腕刀を発動して切りかかってくるが

 

「サセマセン!!」ビュン

 

 

「ッ!!」キンッ

 

 

ポニーが横から角を飛ばし迎撃する

 

 

「ならば下から崩すのみ!」シュババ

 

『サブマリンタックル!』ドガッ

 

上に全体の意識が向いた隙を逃さずジージョマンの超低空タックルがテリーに炸裂するが

 

ググググ……

 

 

「ホエッ!?」

 

「テキサスの大地が育んだ腰の強さをなめるな!」バッ

 

テリーは素早くタックルを切ると

 

「トアーーッ!」ゲシッ

 

前蹴りでジージョマンを吹き飛ばす

 

 

 

「ホーーーーーーッ!?」ゴロゴロゴロ

 

 

 

 

「いやいや、参ったな。まさかこんな感じで追われるとは」

 

「あいたたた……

 

アンタねぇ!敵も一緒に連れてきてどうするのよ!?」

 

「まったくじゃ!!」

 

コンプレスが軽口を言うと吹き飛されたマグネとジージョマンが怒鳴る

 

「だがそろそろ……。」

 

 

ズオォッ

 

 

「………合図がありましたのでお迎えにあがりました」

 

 

荼毘の言葉後すぐに辺りには黒いモヤがいくつも現れた

 

 

「ワープのッ!!」

 

「させるか!!」ピキピキピキ

 

「無駄だぜ、轟焦凍。」

 

今度は轟の氷を荼毘が迎え撃つ

 

「お前ら、さっさと撤退だ!」

 

「じゃあね、イズクくん!」

 

荼毘の言葉を皮切りに次々とモヤの中へ入っていく

 

 

「逃がすかぁ!」ダッ

 

せめてコンプレスだけでも捕らえようとテリーは緑谷を背負ったまま走ってくるが

 

「退いていろ荼毘、コンプレス。

 

マキマキ~~、ハアッ!!」ピカーッ

 

『怪光線!!』

 

「な、なんだぁ~~ッ!?」

 

「う、動きが……遅く……ッ!!」

 

 

「すげぇ技持ってるなカーメン。」

 

「ハアッハアッ、だが長くは効かんぞ。」

 

 

「いや、十分だ。

 

コンプレス一応確認する、“解除”しろ。」

 

 

コンプレスが指を鳴らすと

 

ビー玉は形を変え敵連合の手には爆豪がいた。

 

「問題無し。」

 

「かっちゃん!」

 

 ワープに引きずり込まれ、首を掴まれている爆豪に声を張り上げるも

 

「来んな、デク……」

 

 その直後、爆豪はワープの先に消えていった。

 

 

 

 

この日緑谷達はヒーローとしての"敗北"を喫した

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ヴィランの襲撃を受け合宿は強制的に打ち切り

 

その後到着した警察により被害の全貌が明らかにされていく

 

 

 

敵のガスで意識不明の重体になった生徒15名

 

交戦の結果、重・軽傷を負ったもの生徒14名

 

無傷だった生徒12名

 

行方不明になった生徒 1名

 

 

更には引率のプロヒーローも1名重症、1名大量の血痕を残し行方不明となっていた

 

 

それに対し捕まえたヴィランは3名

 

 

まさに悪夢とも呼べる結末であった

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

この結果を受けて世論は大バッシングとなった。

1度目の襲撃から間を開けず2度目の襲撃を許し、生徒も誘拐されるという安全を守るヒーローを育成する機関として前代未聞の事態に雄英高校の前には多くの報道陣がおしよせていた。

 

 

 

その追及の声が飛び交う雄英高校では会議が開かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「敵との戦闘に備えるための合宿で襲撃…恥を承知でのたまおう。

『敵活性化の恐れ』という我々の認識が甘すぎた。奴らは既に戦争を始めていた。ヒーロー社会を壊す戦争をさ!」

 

 

「認識していたとしても防げていたかどうか…これほど執拗で矢継ぎ早な展開…『オールマイト』以降、組織立った犯罪はほぼ淘汰されてましたからね…」

 

 

「要は知らず知らずの内に平和ボケしてたんだ俺ら。備える時間があるっつー認識だった時点で」

 

 

根津の言葉を皮切りに言葉を放つミッドナイトとプレゼントマイク、当然のように普段のような明るさは鳴りを潜めてしまっている

 

 

 

「己の不甲斐なさに心底腹が立つ…彼らが必死で戦っていた頃、私は…半身浴に興じていた…っ!!」

 

 

「襲撃の直後に体育祭を行う等…今までの『屈さぬ姿勢』はもう取れません。

生徒の拉致…雄英最大の失態だ。

奴らは爆豪と同時に我々ヒーローへの信頼も奪ったんだ。」

 

 

「現にメディアは雄英の非難でもちきりさ!爆豪くんが狙われたのは恐らく彼の粗暴な面が体育祭で周知されていたこと、またそんな彼が体育祭で2位と言う結果に不満を露にしていた所が原因と思われるのさ。

 

もし彼が敵に懐柔されでもしたら教育機関としての雄英はおしまいだ。」

 

 

「信頼云々ってことでこの際言わしてもらうがよ…今回で決定的になったぜ。

 

いるだろ…内通者。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレゼントマイクの内通者という言葉にその場の空気が凍る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「合宿先は教師陣とプッシーキャッツしか知らなかった!!怪しいのはこれだけじゃねぇ!!ケータイの位置情報なり使えば生徒にだってッ!!」

 

 

「マイクやめてよ。」

 

 

「やめてたまるか!!洗おうぜ!この際徹底的にー!!」

 

 

「お前は自分が100%シロという証拠を出せるか?ここの者をシロだと断定できるか?

お互い疑心暗鬼となり内側から崩壊していく。内通者探しは焦って行うべきじゃない。」

 

 

「Umm・・・!!」

 

 

「少なくとも私は君たちを信頼してる。その私がシロだとも証明しきれないワケだが…とりあえず学校として行わなければならないのは生徒の安全保障さ。

内通者の件もふまえ…かねてより考えていたことがあるんだ。それは……『でーんーわーがーーーー来た!!』」

 

 

重い空気を切り裂く場違いな声が会議室に木霊する

 

 

 

「すいません…電話が。」

 

 

「会議中ッスよ!!電源切っときましょーよ!」

 

 

(着信音ダサ…)

 

 

その発生源であるオールマイトはゆっくりと扉を開けてそそくさと外に出ていく

 

 

 

 

 

そして電話を耳に当て話し始めると

 

 

 

 

 

 

「ーーーすまん…なんだい塚内くん。今会議中で、」

 

 

 

 

「忙しいところ悪いね。今イレイザーヘッド、ブラドキングの2人から調書を取っていたんだが思わぬ進展があったぞ!

敵連合の居場所…!突き止められるかもしれない。」

 

 

 

 

 

塚内の口から出たのは地道に足で稼いだ情報達、思わず聞くだけとなるオールマイト…そして話し終えたところで口にする。

 

 

 

 

 

 

「私は…素晴らしい友を持った…奴らにあったらこう言ってやるぜ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"私が…反撃に来たッ!!"ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

今…ヒーローと警察の間に、爆豪の救出・敵連合掃討作戦が始まろうとしていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

同日

 

 

生徒達が緊急搬送された病院にほぼ無傷ながらもヴィランと交戦したということもありテリーとポニーも病院にいた

 

 

 

 

「テリー、緑谷。」

 

 

二人の病室に他の動けるA 組のメンバーが入ってくる

 

カメハメに助けられほぼ無傷だった障子や常闇、ヴィランであるジージョマンに助けられた耳朗、八百万、葉隠などもいた

 

そして

 

「わかっているとは思うが、爆豪くんはいない。ヴィランに連れ去られて行方不明だ。」

 

飯田の口から改めて伝えられる事実に二人は

 

「オールマイトが言ってたんだ、手の届かない人は救えないって……、でも僕はッ!!救える場所にいたッ!!手の届く場所に居たのに……!!」

 

 

「いや、イズクは悪くない。全ては俺が不甲斐なかったからだ!

 

何がテキサスブロンコだっ!!みんなが必死に戦っているなか一人悠長に寝ているような奴が!」ギリッ

 

 

怒りと悲しみがない交ぜになった二人を見て

 

 

「爆豪を助けに行ける計画は一応はあんだよ」

 

 

 

その一言がその場にいる全員に行き渡って全員はどういう事かを発言者である切島に問う。

 

 

 

「どういうことだ切島? 爆豪を助けに行けるってのはどういうことだ?」

 

 

 

当然、テリーはすぐにその話に食いついた。

 

切島は昨日あった出来事を全員に説明するように話し出す。

 

 

 

「実は俺と……轟は昨日にも面会に来ていたんだよ」

 

「ああ」

 

「そこで……」

 

 

 

切島は昨日あった話をする。

 

内容としては、同じく無傷ながらもヴィランと交戦したと証言したため入院中となっていた八百万がオールマイトと塚内に話をしていた。

 

襲撃してきた連合員の一人、ジージョマンと名乗る老人がなぜか自分達を脳無から救ってくれた

 

だがその対価として自分のブラジャーを要求してきたためそのブラジャーを渡す時に発信器を取り付けていたこと

 

 

八百万はオールマイト等に是非これを使ってくださいと受信機を渡していた。

 

 

 

その話を全員に教えて、飯田が口を開く。

 

 

 

「……つまりは、その受信デバイスをまた八百万君に作ってもらう……と?」

 

 

 

飯田の口調は少しであるが棘が含まれていた。

 

当然納得できるわけがない。

 

思い出すのは保須市での独断での行動で痛い目を見た飯田。

 

それも踏まえてこれは自分たち生徒が口を突っ込んではいけない領分だ。

 

だから飯田は咆えた。

 

 

 

「ふざけるな!これはもう俺達のできる際限を越えている案件だ!大人しくプロ達に任せるべきで俺たちの出ていい舞台ではないんだ、馬鹿者!!」

 

「そんなもんは分かってんだよ! でもよ、俺はあんときなんもできなかった……ッ!!

 

みんなが必死に戦ってるのになんも出来なかったんだ!

 

こんな情けない思いを抱えたままじゃ、俺はヒーローになれねぇんだよ!」

 

 

切島もまた自らの胸の内を吐き出すように吼える

 

 

「ちょ、二人とも落ち着けって!ここ病院……。」

 

 

「そうよ、気持ちはわかるけどここは飯田ちゃんが正しいわ。」

 

 

 

上鳴と蛙吹が場を収めようとするが切島は止まらない

 

「飯田が、みんなが正しいさ!でも緑谷、テリー!!まだ手は届くんだ!」

 

 

 

こちらも新たな一歩が踏み出されようとしていた

 

 



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反撃の一矢 の巻

 

切島からの提案があった夜

 

病院の前にて集まる発起人の切島、轟そして作戦の要の八百万

 

そこへ

 

ザッ

 

「き、来てくれたか!」

 

テリーと緑谷が病院から出てきた

 

「あぁ、負けっぱなしは趣味じゃないからな。」

 

「…………。」

 

 

緑谷も言葉こそ発しないがその目には覚悟が浮かぶ

 

 

 

「待つんだ。」ザッ

 

そこへ待ったをかける影が現れる

 

 

 

 

「なんでよりにもよって君達なんだ? 俺の保須での暴走を咎めてくれた……ともに特赦を受けたはずの君達が……! なんで俺と同じ過ちを犯そうとしている!?

あんまりじゃないか……」

 

 

その正体は飯田だった

 

「僕達はまだ雄英の保護下にいる、ただでさえ大変な状況下で…。君らの行動の責任は誰が取るのかわかっているのかっ!」 

 

 

 

 

 

「飯田くん。違うんだよ……なにも僕達はルールを破ろうなんて―――」

 

 

 

 

緑谷が最後まで言い切る前に飯田が緑谷めがけて拳を振るうが

 

ガシッ

 

横に居たテリーによって阻止される

 

 

 

「ぐっ………俺だって、俺だって悔しいさ!! 心配さ!! 当然だ!! 俺は学級委員長だ! クラスメイトを心配するさ!!

 

そして、君達と気持ちは同じだ! 俺だって目の前で爆豪君を拐われてしまい、切島君の言葉に一瞬だが委員長という立場を忘れて『俺も行こう』と流されそうになった……。

 

だが、それと同時に緑谷君のケガを見て床に伏せる兄の姿を重ねて正気を取り戻した……」

 

「飯田……」

 

「だからこそ、一度過ちを侵してしまい、もう破るまいと思った……それなのにまたもや気持ちが揺らいでしまった俺だからこそ言わせてくれ。

 

君たちが暴走した挙句に兄のように取り返しのつかない事になったら……ッ! 僕の心配はどうでもいいって言うのか!?」

 

 

「飯田……落ち着いて聞いてくれ。俺たちは何も正面からカチ込みをするつもりはねぇよ」

 

「ッ!?」

 

「戦闘なしで助け出す。ようは隠密行動だ! それが俺達卵の出来る……ルールにギリ触れねぇ戦い方だろ!」

 

 

 

そこに追い風のように八百万が口を開く。

 

 

 

「私は轟さんを信頼していますわ。ですがそれでも万が一を考えて私がストッパーになれるように、同行するつもりで参りました」

 

「八百万君!?」

 

「八百万!」

 

 

「委員長。仮にみんなを説得できたとしても俺は行く。

決められたルールよりも誰かを助けたいと思う心こそが俺が目指す"ヒーロー"のありかただと思っている。

 

 

 

そんなに規律を守りたいんだったらロボットにでも守らせればいい。

 

どんなに不恰好でも誰かの為に命をかけるJapanではそれを大和魂と言う筈だ。

 

それが突き動かすのなら俺はもう止まらない。」

 

 

 

「………わかった。いや、わかっていたさ。恐らく僕の言葉では君たちを止められない事くらい。

 

だからと言って僕も君たちを行かせる訳には行かない、だから。

 

僕も連れていけ。

 

君たちの行動に納得いかないからこその同行だ、少しでも戦闘行動があれば僕も"覚悟"を持って君たちを引き戻す!」

 

 

 

 

こうして一行の途方もない一夜が始まる

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いや~、助かったぜコンプレス。あんたが居なきゃ俺も今頃ブタ箱だったぜ。」フキフキ

 

 

 

「どういたしまして、俺としてもあんたのそのエンターテイメントに富んだ見た目をみすみす見逃すのはもったいないって思ったからついでに回収しただけだよ。」

 

しれっと救出されていたスプリングマンは自らの身体を入念に拭きながら錆びを落としていた

 

 

「しかし他の四名は逮捕されてしまった…。おい、貴様!何が必ず成功するだ、このニセ占い師!!」

 

 

「心外だな!現に第一目標は達成されている!これを成功と言わずして何になる!」

 

 

「元気ねぇ…、帰って来て早々口喧嘩始めるなんて。」

 

「エヘへヘ、私は満足でしたよ。お友達もできましたし、素敵な殿方にも出会えましたし。」

 

 

「おっ、そりゃよかったな!ぜんぜんよくねぇな!」

 

 

「皆さまお静かに、死柄木弔がしゃべるタイミングがなくて困っております。」

 

 

 

 

「………あー、騒がしくて悪いねぇ、爆豪くん。

 

早速本題だか、俺らの仲間になからないか?」

 

「寝言は寝て死ね。」

 

 

開口一番に飛び出てきた言葉にヴィランながらに固まる一同

 

「………やっぱり口悪いなこいつ。なぁ死柄木さんよぉ、今からでも考え直さねぇ?こんな誰彼構わず噛み付くような奴を仲間にしても痛い目見て終わるだけだと思うが。」

 

スプリングマンは進言するが

 

 

「……とりあえずはこれを見てくれ、そうしたら君も気が変わる筈さ。」ポチッ

 

死柄木がテレビをつける

 

「この度、我々の不備からヒーロー科生徒一年生に被害を及んでしまったこと、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。」

 

相澤が代表して発言し頭を下げると列席した者も続いて頭を下げる

 

そこへ無数のフラッシュが飛び交う

 

「爆豪くん、おかしいとは思わないか?なぜ奴らが責められている!?」

 

 

 

 

そこに映し出された雄英高校の謝罪会見の映像を皮切りに自らの主張を語り始める死柄木

 

 

それを後ろで眺めていた荼毘はあることに気付く

 

(あれ、そういえばまたあのじいさんの姿がないな。またトイレか?)

 

 

 

「ホエホエホエ~。」

 

その当人は確かにトイレに居た

 

しかし目的は用を足す訳ではない

 

「なんかごちゃごちゃ始まりおったが時間もかかりそうだし待ってられんわい。」ゴソゴソ

 

ジージョマンは自らのオムツの中から

 

「せっかく手に入れた現役女子高生の下着!!しかもなかなかのボインちゃんの物ときておる。」

 

 

自身の戦利品を取り出す

 

 

「そのぬくもりが無くなる前にさっさと堪能せねば………

 

ん?なんじゃこれは?」

 

ブラジャーに不自然に取り付けられた異物に気付くと同時に

 

 

 

「どーも。ピザーラ神野店です~~」

 

扉がノックされ、困惑する 

 

 

その思考が停滞した瞬間を轟音が打ち砕く

 

アジトの壁が破られその余波でジージョマンもトイレから皆がいるバーに吹き飛ばされる

 

 

『ウルシ鎖牢』

 

 

突然の出来事に動揺している隙に全員が縛りあげられ

 

「っこんなの俺の個性で!!」ゴンッ

 

カクッ

 

「逸んなよ、大人しくしといたほうが身のためだぜ。」

 

 

 

 

抵抗の芽をグラントリノが茶毘を蹴りで気絶させ潰す

 

 

 

 

 

「もう逃げられんぞ敵連合……何故って!?」

 

ぶち破った壁から悠々とアジトに入ってくる影、その先頭にいる一際大きい影は 

 

「我々が来た!」

 

変わらぬ笑顔とはち切れん怒気を含んだ声を発するNo.1ヒーロー・オールマイトだった

 

 

 

「オールマイト……!!あの会見後にまさか、タイミング示し合わせて―ー―!」

 

「木の人!引っ張んなってば!!押せよ!!」

 

「や〜!」

 

「ホエッ!?ワシだけなんか縛りが厳重すぎんか!?」

 

 

「攻勢時ほど、守りが疎かになるものだ……ピザーラ神野店は俺たちだけじゃない」

 

 

 

エッジショットを先頭に機動隊も突入してくる。

 

 

 

「外はあのエンデヴァーをはじめ、手練のヒーローと警察が包囲している」

 

 

 

 この圧倒的不利な状況に、震える死柄木。

 

 

 

「仕方がない……俺たちだけじゃない……そりゃあこっちもだ。黒霧。持ってこれるだけ持ってこい!!!」

 

 

 

だが、何も起きない。

 

 

 

「すみません死柄木弔……所定の位置にあるハズの脳無が……ない……!!」

 

「!?」

 

 

 

 重なる想定外に、更に混乱する死柄木。

 

 

 

「やはり君はまだまだ青二才だ死柄木!!」

 

「あ?」

 

 

同時刻

 

 

「えぇーーーーいっ!!」ガガガンッ

 

マウントレディの一撃により破壊された建物はもうひとつの制圧目標である脳無の格納庫

 

既に警察の手引きにより近隣住民の避難及び近付かれないよう交通整備も済ませている状態での攻撃を食らい

 

こちらも空いた壁からヒーローが突撃し瞬く間に脳無を拘束していく

 

その先陣をいくNo.3ヒーロー・ベストジーニストは高らかに宣言する

 

「脳無格納庫、制圧完了!!」

 

 

 

「敵連合よ、君らは舐めすぎた。警察のたゆまぬ捜査を。そして

 

 

 

我々の怒りを!!

 

 

 

オイタが過ぎたな!!

 

 

これで終わりだ!死柄木弔!!」

 

 

 

 

「死柄木っ!?」

 

 

黒霧が個性で退避を試みるが

 

ズッ

 

「っ!?」

 

 

 

 

待機していたエッジショットが気絶させる。

 

 

機動隊も次々現れ取り囲んでいく、既に包囲されて逃げ場は無い。

 

「ふざけんな…こんな、あっけなく…!」

 

 

 

唖然とする死柄木にオールマイトは問い詰める。

 

 

 

 

 

 

「まだこれからなんだ、俺の野望は、覚悟は!」

 

 

()は何処に居る!!死柄木!!!」

 

 

 

 

 

死柄木が叫ぶ。

 

 

 

「お前が!!嫌いだぁ!!」

 

バシャッ

 

 

その声に呼応するように黒い液体が現れそこから脳無が現れた。

 

 

 

「これは!」

 

「エッジショット!」

 

「コイツの仕業ではない!」

 

それはアジトの中に留まらず外に控えていた機動隊、No.2ヒーロー・エンデヴァーの前にも現れ現場は一気にパニック状態へと陥る

 

さらに

 

「ゴブゥ!?な、なんだぁ!?」

 

オールマイトが目にしたのはその液体を吐き出し始めた爆豪

 

「爆豪少年!?」

 

吐き出し続ける液体は爆豪の身体を飲み込んでいく

 

「っだこれ、身体が…飲まっれ!?」

 

オールマイトが爆豪の身体を掴もうとするもその腕をすり抜けていく

 

 

更に

 

「あえっ?」ゴポォ

 

トガの口にも同様の液体が現れたと同時に気絶している筈の黒霧、荼毘の口からも液体が吐き出され始める

 

「まずい!全員持ってかれるぞ!」

 

グラントリノの言葉にヒーロー全員が必死に止めようと距離を詰めるも

 

「先生…。」バシャ

 

その液体は死柄木達を飲み込み消えていった。

 

 

 

「すみません皆様!!」

 

「お前の落ち度じゃない!それよりもまずはこの状況を打開するのが先だ!」

 

万全の対策を敷いて行われた作戦は一気に想定外の乱戦へと突入する 

 

「えぇい!!数が多すぎる!!」

 

「ジーニスト!格納庫で何が起きた!ジーニスト!?」

 

アジトの外で待機していたエンデヴァー達も既に混戦状態でありエンデヴァーが豪炎を放つが数が全く減っていない。

 

なんとか塚内が別のアジトの制圧に行ったジーニストに連絡を入れるが繋がらない。

 

 

「な、何て事だ……ッ!!」ギリッ

 

「俊典ッ!!呆けてる暇無いぞ!!」

 

 

救出すべき生徒と捕らえるべき敵の両方を奪われ呆然とするオールマイトへ数体の脳無がと引っ付いて攻撃をしようとするが

 

『Oklahoma ・SMASH !!』

 

 

オールマイトはそれらすべてを振り払うと同時にアジトを崩壊させた。

 

「ジーニストと連絡がつかない恐らく向こうで何らかの想定外が起きた恐れがある!」

 

「ええい!グダグダではないか!!」

 

「エンデヴァー!!」

 

脳無が暴れまわり混乱する現場で、オールマイトは外で戦っているエンデヴァーに声をかける。

 

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

 

 

 

「どこを見ればそんな疑問が出る!?行くならとっとと行くがいい!」

 

「ああ、任せる!」

 

 

 

そうしてオールマイトはもう一つの現場の方へと移動していった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

発信器の情報を頼りに神奈川県神野区まで来た生徒一行だったが

 

さすがに敵に顔が割れている状態で動き回るのは危険

 

 

という八百万の進言により駅前の大型ディスカウントストアにて変装をし更に万全を期して人通りの少ない路地を選びながら発信器の場所へと進んでいたが

 

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

「きゃああッ!!」

 

突然地鳴りと爆発音が辺りに響き

 

 

「ッ!?皆さま、大変ですわ!?」

 

「今度はどうしたんだね八百万くん!?」

 

八百万が不意に声をあげる

 

 

「はっ、発信器の示す場所が移動してしまいました!」

 

「はぁ!?いったいどこに!?」

 

いきなりの出来事の連続で切島の声も荒くなるなか

 

 

八百万が示した場所は

 

 

「ば、場所はここの近くなのですが……、方向的に恐らくさっきの爆発音の発生地と思われます。」

 

恐る恐る口にする八百万だったが

 

「………よし、ならそこへ向かうぞ。」

 

「なぜだ?」

 

迷いなく決断を口にするテリーに冷静な口調で轟が問う

 

「確証があるはずもないし勘めいたものになるが、あいつらの仲間にワープができる奴がいる。そいつの個性で移動しているのなら爆豪も連れて行動している可能性が高い。それに俺たちに今ある道標はこれしかないんだ。悩む時間すら今の俺たちには惜しい。」

 

 

テリーの言葉に従い一行は目的地を変えそこへ急いだ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ベストジーニスト達の手により制圧されたはずの格納庫は一転して地獄の様相を呈していた

 

 

建物はその原形がわからない程に破壊されその場にいたヒーロー達もボロボロになって各々に横たわっている。

 

 

それを引き起こした元凶である男は悠然と拍手をしながら語りかける、

 

 

 

「やるねぇ……No.4ヒーロー、ベストジーニスト。僕は全員消し飛ばすつもりで放ったというのに、全員の衣服を個性で瞬時に端に寄せるなんて……かなりの判断力がなければできない事だ。あっぱれと言っておこうか」パチパチパチ

 

「ぐっ……!」

 

 

 

ベストジーニストはその男を見ながらも作戦会議時の話を思い出していた。

 

連合には恐らく、いや必ずブレーンの存在がいる

 

そいつはオールマイトに匹敵する強さと

 

狡猾で用心深い性格であり己の安全が保証されぬ限り姿を見せないであろう

 

 

 

 

(話が違う!

 

 

……からなんだ!? 

一流はそんなもの失敗の理ゆッ!!)

 

 

 

なんとか個性を発動しようとするベストジーニストだったがすかさず放たれた強烈な一撃を受け、抵抗虚しく沈黙してしまった。

 

 

「やれやれ、君達はいつも良いところで邪魔をする。」

 

男は悠然と周囲が静かになった事を確認すると

 

 

「なんじゃ、、こりゃあ、、」

 

 

 

男の目の前に謎の液体と共に爆豪が現れた。

 

 

 

 

 

「悪いね爆豪君。」

 

 

「あぁん?」

 

 

 

すると周りから謎の液体かいくつも現れ拘束されていた筈の連合メンバーが姿を現した。

 

 

 

「先生…。」

 

 

 

「また失敗したねぇ弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せば良い。こうして仲間も取り返した。

 

この子もね、君が大切な駒と考え判断したからだ。」

 

 

 

男は諭す様に死柄木に語りかけそして手を差し伸べる。

 

 

 

「幾らでもやり直せ。その為に僕らがいるんだ。全ては………君の為にある。」

 

 

「おいおい、助けてくれたであろう人にこんな事言うのも失礼だと思うがあんた誰だ?」

 

「おっと失礼。申し訳ないねスプリングマン。弔の大切なお仲間に名乗るのを忘れていたよ。

 

………だけどそんな暇はなさそうかな。」クルッ

 

男が振り向くとそこには暴風を生み出しながらこちらに突進してくる平和の象徴(オールマイト)の姿があった

 

 

男はその拳を難なく受け止める

 

「全てを返してもらうぞ!オールフォーワン!」

 

この男こそ敵連合の真の首魁にして裏社会のボス"オールフォーワン"であった

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつで最後かぁ!! ボオォォ」

 

 

 

ヒーローとヴィランの頂上決戦の火蓋が切られた時

 

 

元アジトでの脳無との闘いにも終止符が打たれようとしていた

 

 

「良くやってくれたエンデヴァー!今ので最後だ、総員拘束と周囲の確認を急げ!」    

 

 

塚内の指示に従い迅速に作業を進める機動隊員達

 

「よし!負傷者は速やかに撤退、まだ動ける者はもうひとつの現場に向かうぞ!オールマイトに手柄を独り占めさせるなよ「大変です!!」なんだあっ!?」

 

 

「こ、こちらに高速で接近してくる飛翔体あり!まもなくここに落ちてきます!」

 

 

「「「「っ!?」」」」バッ

 

その場に居たものが首を上げると

 

そこには確かに大きな物体がこちらに向かい落下していた

 

「ええい!なんであろうと関係ない、焼きつくしてくれる!」

 

「待つんだエンデヴァー!!」

 

ゴウッ!!

 

エンデヴァーの両手から放たれた炎が落下する物体とぶつかる

 

 

ジュアアアアア………

 

何かが蒸発するような音と共に大量の煙が辺りに広がる

 

ヒュン

 

「………!!」

 

 

そしてエンデヴァーは見逃さなかったその煙に紛れて何かが地上へと降り立ったのを

 

「そ、総員!煙の成分が不明な以上むやみに吸うなよ!」

 

 

 

「いや、問題ない。それよりも………」

 

 

 

ブオオオオオっ

 

突然発生した強風が煙を排除していく

 

「早くお前達警察は退いて避難区域を広げろ!

 

こいつは………」

 

エンデヴァーは何かを感じ取っていた、それは幾つもの修羅場を潜ってきた故かはたまた天性のものか

 

「一筋縄ではいかなそうだぞ。」

 

 

 

「……………パオ~~~~~ンッ!!

 




遂に降臨ッ!!


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激突、神野の長い夜 の巻

 

 

オールマイトやエンデヴァーに見劣りしない巨躯

 

大気を震わす咆哮は本能的恐怖を呼び起こさせる

 

 

突如飛来したこの者はその存在感一つで周囲の空気を飲み込んだ

 

「せ、先手必縛!」

 

『ウルシ鎖牢!!』

 

得体の知れない相手だがマトモではないと一瞬の空白を経て思いたったシンリンカムイは個性を使い速やかに拘束するが

 

「…………?」グンッ

 

 

ブチブチブチ

 

 

「なっ、あんな容易く…………ッ!!」

 

「シンリンカムイ!もう一度だ、今度は俺が奴を気絶させる!」

 

 

『忍法 千枚通し!!』ヒュン

 

自身の個性を使い薄く細い槍の様になった身体で突撃するエッジショット

 

その速度は音速に達し並の相手では視認することなく意識を落とす

 

 

「…………。」シュルシュルシュル

 

「エッジショット!危ない!!」

 

 

塚内が叫ぶも遅かった

 

『ブラインドアリー・イヤー!!』パァン

 

隠していた巨大な両耳が展開されエッジシットの身体を挟み潰した

 

「カハッ………っ!?」

 

開かれた耳から現れたのは圧力によりズタボロの姿に変えられたエッジショット

 

「コノオオオォォォーーーーッ!!」バッ

 

それに激昂した一人のプロヒーローが突進するも

 

『ノーズフェンシング!!』ズオッ

 

「ぎゃああっ!?」

 

鋭く伸びた鼻に無残にも貫かれてしまった

 

 

「貴様ら全員下がれ!ここは俺一人で相手する!」ゴォォ

 

 

エンデヴァーが炎を放つが

 

「パオ~~~ンッ!!」

 

強力な鼻息と

 

『イヤー・ガスト!』バサッバサッ

 

巨大化した耳から産み出される風の壁に阻まれてしまう

 

 

ボオオオオッ    ボガンッ

 

 

(くっ、遠距離攻撃では埒があかん!ならば!!)ダッ

 

防がれた火炎が脳無との戦闘で破損したパトカーから漏れ出たガソリンに引火し要らぬ被害を生み出し始めておりそれに気付いたエンデヴァーは近接戦へ切り替えて距離を詰める

 

 

 

「うおおおっ!」

 

「……。」パシッ

 

エンデヴァーの拳を軽く受け止め

 

「くあぁ……つまらん。これじゃあこの"マンモスマン"のウォーミングアップにすらならないぞ。」

 

No.2ヒーローとして幾多の凶悪犯罪者を倒してきたエンデヴァーを相手にして欠伸をしながらウォーミングアップと言ってのける

 

 

周囲の警察やプロヒーロー達は開いた口が塞がらなかった

 

 

「なめるな!」

 

エンデヴァーはすぐにもう片方の手で殴りかかるが

 

「はぁ……。」パシッ

 

あっさりと受け止め

 

「もうお前の相手は飽きた。」グググク…

 

エンデヴァーを凌駕する膂力で持って

 

「フンッ!」ブンッ

 

エンデヴァーの身体を空中に放り投げると自身も後を追い空中でアルゼンチンバックブリーカーで捕らえると

 

「これで終わりだ!」

 

『マッキンリー雪崩落としーーーッ!!』ゴガンッ

 

 

そのまま身体を横向きにしてエンデヴァーを頭から地面に叩きつけた

 

「ゴブフォッ!?」

 

マンモスマンが技を解くとエンデヴァーはそのまま地面に力なく横たわったまま動けなくなってしまった

 

 

「エ、エンデヴァーが……。」

 

「そんな、こんなことがあっていいのかよ!?」

 

 

No.2ヒーローが殆ど相手に傷を負わす事ができず倒されるというショックに周囲の警察やプロヒーロー達は絶望する

 

 

「………ん?」ゴプォ

 

そんな周囲の事など歯牙にも掛けずマンモスマンは口から溢れ出た黒い液体に飲まれてその場身体を姿を消した

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「随分と遅かったじゃないか、オールマイト。脳無達を送り込んでからゆうに30秒は経過しているよ。あの程度の脳無に手間取る訳はないだろうし、どこで道草を食ってきたんだい?」バシッ

 

オールマイトの拳を振り払い軽口を叩くAFO

 

(あの、オールマイトの攻撃を軽くいなしやがった!?)

 

 

驚愕する爆豪をよそに

 

 

「貴様こそ、なんだその趣味の悪い工業地帯のようなマスクは!?だいぶ無理してるんじゃあないか!?」

 

オールマイトは気にすることなく構える

 

「前回のような過ちは犯さん。

 

爆豪少年を救出し、敵連合もろとも貴様を刑務所にぶちこむ!」ダッ

 

「それはやることが多くて大変だな。 

 

お互いに」グワッ

 

ズッ

 

突進したオールマイトの身体を不可視の衝撃が襲い幾つものビルをぶち破りながら吹き飛ばされる

 

 

 

「空気を押し出す、筋骨発条(バネ)化、瞬発力×4、膂力増強×3

 

この組み合わせは楽しいな、もっと増強系を足すか。」

 

 

No.1ヒーローとして君臨する男が意図も容易く視界から消し飛ばされるという異常事態に爆豪は言葉を発することすら忘れてただ呆然としていた

 

 

「先生ッ!!」

 

 

「弔、

 

ここは逃げろ。その子を連れて」

 

 

 

 次にオール・フォー・ワンは右手指から赤い爪のようなものを伸ばして気絶して倒れている黒霧の体に突き刺す。

 

 

 

「黒霧。皆を逃がすんだ」

 

「ちょ!あなた!彼、やられて気絶してんのよ!?よく分かんないけど、ワープを使えるならあんたが逃がしてちょうだいよ!」

 

「僕のはまだ出来たてでね。マグネ。転送距離は酷く短いうえに……彼の座標移動と違い、僕の元に持ってくるか、僕の元から送り出すしか出来ない。それに送り先は人。なじみ深い人物でないと機能しない」

 

 

 

 すると、黒霧の頭部と両手の靄が巨大化する。

 

 

 

「さぁ、行け」

 

「せ、先生は……!?」

 

 

 

 死柄木がオール・フォー・ワンに声を掛けた瞬間、遠くで何かが飛び上がる。

 

その影は瞬く間にオール・フォー・ワンのすぐ横に降り立つと

 

 

 

「逃がさん!」ゴゥッ

 

「常に考えろ。弔。君はまだまだ成長できるんだ」

 

 

 

影の正体であるオールマイトが死柄木に飛び掛かるがオール・フォー・ワンが割り込む。

 

 

 

「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれている内に!」

 

 

 

 コンプレスが同じく倒れている荼毘に触れて圧縮する。

 

 そして爆豪に顔を向ける。

 

 

 

「駒持ってよ」

 

「めんっ……ドクセーッ!!」

 

 

 

爆豪が構えると同時にヴィラン達が一斉に襲いかかる

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こ、このままじゃあかっちゃんが……。それにオールマイトもッ!!」

 

「あの野郎共ッ!!」

 

 

ガシッ

 

「緑谷くん、テリーくん……ッ!!」グウウウ

 

6人は到着時に見た凄惨な現場、倒壊したビルの壁に隠れている筈なのに感じるオール・フォー・ワンの放つ圧倒的な空気

 

更にはオールマイトの登場と終止呆気にとられていたが救出すべき爆豪の発見により正気を取り戻したが

 

「放せ!委員長!!」

 

「い、いいや離さない!!最初に言った筈だ!僕も"覚悟"を持って君達を止めると!」

 

 

いまだに拭えぬ恐怖を必死に抑えながらテリーと緑谷が戦場に馳せようとすることを引き止める飯田

 

 

八百万もその後ろでなんとか視線だけでも送り制止を促す

 

 

 

(こんなピンチなのに!すぐそこにかっちゃんがいるのに、僕らには戦闘することが、出来ない!)

 

悲観的になる心を必死に打ち砕きなんとか思考を張り巡らせようとする緑谷

 

しかし戦場は刻一刻と動き始めている

 

「もう一度っ!」

 

「そう何度も食らうかよ!」ボンッ

 

「おとなしくしやがれ!暴れろ!」

 

 

取り囲まれながらも天性の戦闘能力で掻い潜り打開策を模索する爆豪

 

しかし時季に行き詰まる可能性は大いに考えられる

 

(どうにか、でも時間が!)

 

「くっそぉ!」グググ

 

フラストレーションが限界に来ていたテリーが飯田の腕を無理矢理にでも引き剥がそうとした時

 

「ここは俺に任せてみんなは救出する方法を考えるんだ!」ブオッ

 

そう言い残し何者かが6人の横を駆け抜けて戦場へと躍り出た

 

「取ったぜ!」バッ

 

「ぐっ!?」

 

一瞬の隙を見計らいコンプレスが腕を伸ばす

 

その場のヴィラン達はようやく終わると思ったが

 

 

「チェアアアーーーーーーッ!!」ゲシッ

 

颯爽と現れた豪脚がその手を蹴り退ける

 

 

「ぐあっ!?」

 

「コンプレス!?くそ!!」

 

「ええいっ!!」

 

突如現れた新手に得物を構え突進するトガとトゥワイスだったが

 

猛虎拳嵐(もうこけんらん)!!』シュババババ

 

 

「アダダダダダダダっ!?」

 

「きゃああああああっ!?」

 

高速の連続チョップを叩き込まれ返り討ちに合う

 

「ちぃ、オールマイト以外のプロヒーローが来たか!?」

 

「じゃ、じゃか何者じゃこいつは?」

 

見ればその者は何一つ己を主張するようなコスチュームには身を包んでおらず上下共に赤い服にフードを被り顔すらもわからない

 

 

だが

 

(ありゃあ……尻尾か……?それにあの服の上からでもわかる筋肉の盛り上がり……こいつはただ者じゃねぇな)

 

コンプレスは蹴られた手を押さえながらも相手を見る

 

「てめぇは……!?」

 

助けられた形とは言え素性もわからない相手に警戒する爆豪だったが

 

「…………もうすぐ君の仲間が君の救出の為にアクションを起こす。君はそれに合わせて動くんだ。

 

それまではこの"救世主(メシア)"が貴様らの相手をしよう」ザッ

 

 

男は顔を明かさぬまま爆豪に言葉をかけるや構えを取り啖呵を切る

 

「メシアかメシヤか知らんが勝手な真似はさせんわい!」シャ

 

『サブマリンタックル!』

 

バリアフリーマンが低空タックルを放つも

 

「なんの!」グアッ

 

両足で飛び上がり背中から地面に倒れていくメシア

 

「ほえっ!?」スカッ

 

突然標的がなくなり驚くバリアフリーマンの頭上を

 

「はあっ」バインッ

 

強靭な尻尾で体を地面から押し返したメシアが飛び越え

 

飛翔龍尾脚(ひしょうりゅうびきゃく)!』

 

「グハッ!」

 

その飛び越えた後頭部に強力な両足蹴りを打ち込む

 

「この!!調子に乗るなよ!」グググ

 

スプリングマンが飛びかかろうと自身の体を縮めると

 

「させない!」シャアアア

 

尻尾の先に生えた毛が伸びてスプリングマンの胴体に巻き付いていく

 

「がっ!?体が伸びねぇ!?」

 

 

身体が収縮した状態で固定されてしまったスプリングマンを

 

「てりぁあ!!」ブンッ

 

尻尾を振り生み出した遠心力で振り回し連合のメンバーが固まっているところで投げ飛ばす

 

「わあああああっ!?」

 

「ぎゃあ!?」

 

「ぐえっ!」

 

 

 

(…………ッ!!)ギリッ

 

自分一人では手一杯だった相手をまとめてあしらう目の前の男に爆豪の自尊心は燃え上がったが

 

 

突如近くの壁の一部が吹き飛び、巨大な氷が出現する。

 

爆豪が驚いてそこに目を向けると

 

 

氷の上を高速で移動する影が

 

 

「来いッ!!」バッ

 

 

手を伸ばし爆豪に向けて叫ぶ

 

 

その正体が飯田に背負われた切島だとわかり、導き出される最善手を理解した爆豪は

 

 

「バカがよっ!」ガシッ

 

 

個性を使い飛び上がり切島の手を掴む

 

 

「よし!このまま離脱する、爆豪君俺の合図に合わせて爆風を……。」

 

「いきなりでしゃばってきて指図すんじゃねぇ!お前が合わせろや!」

 

 

「ちょおっ!?今言い争うなよ!」

 

戦場から遠ざかる卵達を追う余裕のある者は誰もおらず安全区域まで姿が遠退いていき

 

 

「……………。」シュオ

 

そこに全員の視線が向いた隙にフードの男も戦場から離脱していった

 

 

「まったくあの子たちは……だが!これで心置きなく戦える!」ズオッ

 

 

救出すべき爆豪と倒すべきAFOの板挟みにより集中力が分散していたオールマイトだったがこれにより遂に全身全霊を注げる状況になった

 

更に

 

「おい、俊典!お前の教え子達はなに考えてんだ!」

 

オールマイトの師匠であるグラントリノも到着

 

「やられたな、完全に形勢逆転だ。」

 

 

 

オール・フォー・ワンは爪を伸ばして、倒れているマグネに突き刺す。

 

『個性強制発動』

 

 

 するとトガに向かって倒れていたヴィラン連合のメンバーが次々と引っ張られていく。

 

 

 

「「!?」」

 

「イタタタ……って、え?やー!そんな急に来られてもぉ!ぐぇ!?」

 

どうにか立ち上がったトガの元に気絶した男達が押し寄せて激突しその勢いのままに霧の中へと吸い込まれていく

 

 

 

「ダメだ、先生!その身体じゃ・・・・・あんたは!」

 

 死柄木弔には幼いころに手を差し伸べてくれた時の記憶がフラッシュバックした。

 

「俺はまだ戦える!だから!!」

 

「俊典!」

 

「はい!」

 

黒霧の個性に飲まれまいと必死に踏ん張る死柄木目掛けてグラントリノとオールマイトが確保に動くが

 

「やらせはしないさ!」バッ

 

「AFOッ!!」

 

ガシイイィィィッ

 

AFO がオールマイトとロックアップを組む

 

 

 

「おおおっ!」

 

個性を使いそこを通過したグラントリノが一気に肉薄し死柄木村に蹴りを放つ

 

「くっ!」

 

そこにどうにか迎撃しようとする死柄木だったが

 

 

 

 

 

 

バシャ

 

 

 

 

 

 

 

「ヌオ!?」ガシッ

 

「パオ~~~ンッ!!」ブンッ

 

割って入る様に現れたマンモスマンにグラントリノの蹴りは捕まれ、そのままぶん投げられて倒壊したビルに激突した

 

 

ズズズズ……

 

呆ける死柄木を無視し黒霧の個性が更に強まり強引にゲートへと引きずり込もうとする

 

「っ!?先生!だめだ!?俺も一緒に!」

 

「弔、君は戦い続けろ。大丈夫だそこの彼も君の助けとなるはずだ。

 

ここは僕に任せて行きなさい弔。

 

……マンモスマン、頼んだよ。」

 

 

無駄だとわかりながらも声の限り叫ぶ死柄木と共にマンモスマンは黒霧の個性によって何処かへと転移していった

 

「さぁ、これで僕も心置きなく暴れられる!オールマイト、君にも教えてあげるよ!敗北の味って奴を!」ゴォォォ

 

「AFO !!貴様だけはここでケリをつける!!」ズォォォォ

 

 

 

 

 

 



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だから彼なんだ の巻

 

「僕は君が憎くて憎くて仕方がない。本当は弔の為にも君の止めは取っておくべきなんだか……どうやらそこまでこの感情を我慢できそうにない。

 

まったく僕もまだまだ未熟だな。」グググ……

 

 

ロックアップの力比べでオールマイト相手に圧力を強めていくAFO

 

「ぐううぅぅぅ……っ!?」バッ

 

オールマイトは押し込まれると察するやすぐにロックアップを解き

 

 

「ぬおおおおおっ!」

 

 

幾多の凶悪犯罪者達を屠ってきた拳を繰り出そうとするも

 

『転送』+

 

 

オール・フォー・ワンは個性をマンモスマンによりビルの壁に打ち付けられていたグラントリノに発生させると自分の前に出し

 

「っ!?」

 

『衝撃反転ッ!!』

 

更にその衝撃をオールマイト自身に食らわせる

 

幸いオールマイトは自身の超反射神経で力を可能な限り落とした為、なんとかダメージ軽減できたがそれでも決して無視できない程にその右腕は痛々しい姿になっていた

 

「まったく相変わらず情緒のない下品な戦い方だ。その拳で僕の仲間を次々と潰し回り、いつしかお前は平和の象徴と謳われた。僕達の犠牲の上で成り立つその景色、さぞやいい眺めだろう。」ムククッ

 

先ほどオールマイトを吹き飛ばしたのと同じ個性を今度は超至近距離から発動させる

 

「DETROIT SMASH!!!」

 

オールマイトは痛めた腕で素早くグラントリノを救出し無事な拳で迎え撃ち強引に相殺する

 

……がその影響により衝撃波が生まれ、周りの建物に被害が出る。

 

「僕は好きに戦わせてもらうよ。ヒーローは多いよな、守るものが。」ニヤッ

 

マスクの下でほくそ笑むオール・フォー・ワン

 

 

「黙れ。」ガシッ

 

 オールマイトはオール・フォー・ワンの片腕を右手で掴むと骨を握り折る。

 

「お前はそうやって人を誑かし、弄ぶ!奪い!壊し!付け入り支配する!」グワッ

 

(マズい、転送をッ!!)ゴポ…

 

離れようと転送を発動させようとするが

 

「日々暮らす方々を!

 

理不尽に嘲り笑う!

 

私はそれが!

 

 

許せない!!」

 

 

ドゴォッ!!

 

その前にオールマイトの痛々しい姿になった左拳がオール・フォー・ワンの顔に炸裂しオール・フォー・ワンのマスクが木っ端微塵に破壊される

 

シュウウウ…

 

その直後でオールマイトから聞こえる音に気付いたグラントリノの目に右半分がトゥルーフォームに変わっていくオールマイトの姿が映っていた

 

「俊典!」

 

(マズい・・・・・・・活動限界が・・・・・!)

 

オールマイト自身も察していた、自身に残された時間はもう多くないと

 

「嫌に感情的じゃないか、オールマイト。」

 

「っ!?」

 

そしてそれを見抜いたかのようにゆったりと言葉を紡ぐAFO

 

そして思い出したかのように口を開く。

 

「あぁ、同じようなセリフを前にも聞いたな。確か、ワン・フォー・オールの先代後継者である志村奈々から。」

 

「貴様の穢れた口で、お師匠の名を口にするな!」

 

 オールマイトは怒りで体を震わせる。

 

「理想ばかり先行して実力が伴わない女だった。ワン・フォー・オールの生みの親として恥ずかしくなったよ。実にみっともない死にざまだった。どこから話そうか?」

 

「Enough!」

 

 オールマイトは黙らせようと今一度左の拳叩き込もうをとするが

 

ドウッ!!

 

 

怒りに飲まれたオールマイの隙を突いてAFO は個性を発動させてオールマイトを上空へと弾き飛ばす。

 

 

同時刻 各局の報道ヘリコプターが付近に集結しており神野区での一部始終をカメラに収めようと奮闘していた

 

その内の一台が偶然ここを通っていた

 

そこへ突然オールマイトが吹き飛ばされて来たため慌ててカメラを向ける

 

(ッ!!)

 

「俊典!」

 

なんとかトゥルーフォームになっている右側が見られる前にグラントリノがオールマイトを地上に戻し事なきを得た

 

 

「師匠!」

 

「六年前と同じだ!落ち着け!!そうやって挑発に乗って、奴を捕り損ねた!腹に穴を空けられた!」

 

 グラントリノはオールマイトを地面へ降ろす。

 

「ゴホッ!すみません………。」

 

「お前の悪いところだ。奴と言葉を交わすな!」

 

 オール・フォー・ワンはゆったりと立ち上がり、自らのスーツに着いた汚れを払い落とす。

 

「前とは個性も、戦法も違う!前からは有効打にならん!虚をつくしかねぇ!まだ動けるな!?ここが正念場だぞ!!」

 

「………はい!」

 

 グラントリノの言葉にオールマイトは歯を食い縛り全員に力を溜める。

 

「まったくしぶとい男だよ、いくら痛めつけようともなにかと下らない精神論に結びつけて自らを奮い立たせる。

 

もはや一種の変態だな。だったら二度と立ち上がれないよう徹頭徹尾無様に惨めに叩き潰してやらないとなぁ。」

 

AFO の左腕がさっきまで以上に膨らみ個性を発動させて二人に放とうとする。

 

「マズい!でかいのが来る!ここは避けて反撃を!」

 

 グラントリノは個性を発動し射線から外れるも

 

「避けていいのかい?」

 

「っ!?」

 

「ううぅ……。」

 

 オールマイトは後ろの瓦礫の中にいる人に気づき、その場に立ち止まった

 

「俊典!」

 

 その直後、オール・フォー・ワンからの攻撃が放たれる。

 

 オールマイトは先程と同じように左拳を突き出し攻撃を相殺させようとするが

 

「マズい!」

 

 

グラントリノが叫ぶと同時に先程よりも強力な衝撃波が発生し周囲に拡散されていく

 

やがて景色がはっきりとしてきたところを上空のカメラマンは必死にカメラを向ける。

 

 オールマイトの周囲の地面は自身の後ろを残して大きく抉られていた。

 

だがそれ以上に衝撃的な映像がテレビを見るすべての人間の前に現れた。

 

平和の象徴と讃えられ、頼りになるムキムキボディのオールマイトが……

 

 

「まずはケガをおして通し続けてきたその矜持、みじめな姿を世間に曝せ

 

平和の象徴。」

 

ガリガリにやせ細り骨と皮だけのような骸骨のような姿になり全身から血を流した状態で拳を突き出したまま立っていた

 

「ご、ご覧ください……!オ、オールマイトの体が、えっと、体がしぼんでしまっています……。」

 

アナウンサーが改めて言葉にするが誰もがその現実を受け止めるのに時間がかかっていた

 

誰もが疑わない平和の象徴

 

現在の日本において欠かせない平和の支柱が

 

こんなにも弱々しい姿で自分達の目に映し出されていることに

 

 

「頬はこけ、目は窪み!!貧相なトップヒーローだ。だが恥じるなよ?それが本当のキミなんだろう?」

 

「………ああ、確かにそれは事実だ。この状態では否定の仕様もない。

 

だがっ!!

 

私の心は、依然として平和の象徴!

 

どれだけ体が朽ちたとしても一欠片とて奪われはしない!!」

 

 

 

全身に傷を負い、自身の隠し通そうとした姿が晒されても尚、その目に宿る光は煌々と燃えていた

 

「素晴らしい!まいった。強情で聞かん坊なことを忘れていたよ。

 

………なら、()()も君の心には支障はないかな……。」

 

 

 

「…………?」

 

 

「あのね、死柄木弔は志村奈菜の孫だよ。」   

 

 

淀みなく発せられたその言葉にオールマイトは先ほどまでの戦闘で乱れた息がいや世界の時間が止まるような錯覚に陥る

 

 

「君が嫌がることをずぅっと考えていた」

 

 

表情こそわからないがその声色から楽しそうな様子が伝わってくる

 

「君と弔が会う機会をつくった。君は弔を下したね。何も知らず、勝ち誇った笑顔で」

 

自身がかつて打ち倒す前のあの趣味の悪い笑顔が思い出させれる

 

 

「ウソを・・・」

 

「事実さ、僕のやりそうなことだ。」

 

 

 

オールマイトにはその一言で十分だった

 

 

 

「そうだろ?君はそういう僕を倒したんじゃないか」

 

過去に一度、命の取り合いを経ている者だからこそ多くを語らずとも互いの事がよくわかる

 

 

「あれ?おかしいな、オールマイト」

 

 

 

ぐいっと、オール・フォー・ワンが自らの頬に手を当て、持ち上げる仕草をした。

 

 

 

 

「笑顔はどうした?」

 

 

それはオールマイトの師である志村奈菜が愛用していた仕草

 

 

頬に指を当て笑う、在りし日に自分に言葉をかけてくれた人生の恩師の姿がフラッシュバックする

 

 

 

「き、さ、まっ・・・・!!」

 

「ははっ、やはり楽しいな・・・!良い顔だ。一欠片でも奪えただろうか。君から」

 

 

ようやく沸々と沸き上がる怒り、それも後悔や自責の念よるものがオールマイト自身の体を一気に塗り潰していく

 

 

 

ボロボロで極限状態の体を支えていたヒーローとしての精神すら、今まさに決壊の時を迎えようとしていた

 

その時

 

 

「負けないで………。」

 

 

「………ッ!!」

 

 

 

「オールマイト………お願い、(たす)けて………」

 

 

 

AFO が放った衝撃波から身を挺して守った女性が今にも消えそうな程、か細い声で…だが確かにオールマイトに助けを求めた

 

 

「ああ、もちろんさ。お嬢さん!」

 

 

いまだに瓦礫の隙間にかろうじて挟まっている女性に笑みを見せる余裕すらないオールマイトだが、その声に宿る力は正にマッスルフォームの時と遜色ないものだった

 

シュバッ

 

「グオオオッ!行けるか!?」

 

 

「大丈夫ッ!!さぁ掴まって!」

 

 

更に女性の元に救援に駆けつけた者が現れカメラがそれを映すと

 

「あ、あれは……この間の保須市で"血の伝道師(ブラッド・ミッショネルズ)"を破った雄英高校生コンビです!」

 

 

 

「き、君たち……なぜ……!?」

 

その正体は緑谷出久と翔野テリー

 

 

爆豪救出に成功し他の皆がこの場を去るなか殿を務めると二人は少し離れた所で残ったのだ

 

 

 

「僕たちは戦闘は出来ません!だけど貴方の教え子として、貴方の背負うものを少しでも支えることならできます!」

 

「おやおや、涙ぐまし話だね。オールマイト、君が先生として未熟なばかりにこんな勝手を押して無茶をする子どもが現れてきてしまったよ。」

 

 

「シャラップ!

 

おい、そこの薄気味悪いのっぺらぼう!俺たちを未熟な学生と侮るなよ!俺たちが今できる精一杯をお前に見せてやる!」ビシッ

 

「………へぇ、それは楽しみだね。一体何が見れると言うんだい!?」

 

余裕たっぷりに立つAFOに対し二人は拳を上に突き

 

 

 

 

「「オールマイト!オールマイト!オールマイト!」」

 

 

 

声を張り上げてオールマイトの名を叫ぶ

 

「………………?」

 

 

その行為にまるで意味がわからないと拍子抜けしているAFO

 

 

だが

 

(オールマイト!貴方はどんな姿になったとしてもアメリカまで名前が届くほどの、日本が誇るNo.1ヒーローだ!

 

どんな強敵もその拳一つで乗り越えてきた!

 

その姿にポニーも、そして俺も憧れて海を越えてきたんだ!

 

だから……!)

 

 

(オールマイト、あの日貴方に出会う前から貴方はみんなの心にいるんです!

 

 

僕も、かっちゃんもどんな困難も最後は乗り越えてテレビの先にいる僕たちに笑顔を見せてくれる

 

そんな貴方が目標なんです!

 

だから………!)

 

 

 

 

 

 

 

 

『『オールマイト!オールマイト!オールマイト!』』

 

 

 

そんな二人の大声をカメラのマイクは拾い映像と共にメディアにも流れていた

 

「………そうだよ、オールマイト。」

 

 

「あんたが勝てなきゃ、誰があんな化け物倒すんだよ!」

 

「いつもなんとかしてきたじゃないか!」

 

「姿が変わってもオールマイトはオールマイトなんでしょ!」

 

 

「頑張れー!オールマイトーーー!」

 

 

二人の熱は伝播して日本中の人間が心の底から画面に映るオールマイトを応援する

 

「「「「オールマイト!オールマイト!オールマイト!オールマイト!」」」」

 

 

もちろんオールマイトにはその声は届いていないだが二人の必死に応援する二人の後ろに何千何万という人が拳を上げ喉が枯れる程に声を震わせて自分の名前呼ぶ姿が浮かんでくる

 

(八木俊典?)

 

(面白い奴だよ。

 

いわく、犯罪が減らないのは国民に心の拠り所ないからだと

 

この国には今"柱"がないんだって、だから自分がその柱になるんだって)

 

戦闘に参加し負傷していたグラントリノは若き日に志村奈菜と交わした会話を思い出す

 

(俊典………聞こえているはずだ。日本中のお前の勝利を願っているこの声が………。

 

今一度、限界を越えるんだ俊典ッ!)

 

 

「ああ、多いよ。ヒーローは守るモノが多いんだよ……

 

だからッ!!」バチバチバチッ

 

 

オールマイトの右腕に閃光が迸り

 

「負けないんだよ!」ズムッ

 

パンプアップされた豪腕へと再び姿を変えた

 

 

 

 

 

「煩わしいッ!!」ズオッ

 

 

 

その幻影をかき消すように周囲に衝撃波を飛ばすAFO

 

 

 

「精神の話はよして、現実の話をしよう」ザッ

 

 

 

苛立ちを含み静かに声を上げ距離を一歩詰める

 

 

 

「『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3『増殖』『肥大化』『鋲』『エアウォーク』『槍骨』今までのような衝撃波では体力を削るだけで確実性がない」

 

 

 

 ゴキゴキ!と音を立てて、右腕が膨れ上がって変形していく。

 

 

 

「本当は手負いのヒーローが一番恐ろしいと言う事を他ならぬ僕自身が身を持って知っているからね。

 

 

 

用心に用心を重ねて2、3発は打ち合えるようにしといた方がいいんだけど、

 

気が変わったよ!いつまでもそんなチープな茶番劇に付き合わされてちゃたまらないからね!

 

 

 

確実に殺すために。今の僕が組み合わせられる最高・最適の『個性』達で……君を殴る!!」

 

 

 

巨大な上に所々棘や岩のようなものが生えている異形な腕

 

 

その放つオーラと声色からも先ほどの様人を小馬鹿にし見下した態度は消え失せ濃厚な殺気がありありと見受けられる

 

「大変名残惜しいがこれで終わりにしよう、さようなら。

 

"平和の象徴(オールマイト)"。」バシュゥ

 

「ヌンッ!!」

 

 

一気に肉薄し放たれた拳に合わせオールマイトも自身の渾身の右ストレートを叩きつけた。

 

が……

 

「衝撃反転」

 

 

ボソリと声が聞こえた瞬間腕に衝撃が走る。

 

 

抜かりなく個性を使用して確実にオールマイトを亡き者にしようと毒牙を向けるAFOに対し

 

 

「ヌウウウウウウウウウッ!!」ブシュゥ

 

 

骨が折れるような音が鳴り腕がグシャグシャに歪みながらも力を込めなんとか迎撃するオールマイト

 

 

ガガガガガガガッ

 

 

だが踏ん張ろうとするオールマイトの体はAFO の圧力に負け地面を抉りながら滑るように後退していく

 

 

「まったく哀れな男だ。先ほどの手合わせでもう僕は気付いているよ。君の中には既にOFA はない、今君が使っているその力は譲渡した後の残りカス。吹かずとも消え行くその火をなぜこんな無駄なことに使う?」

 

「グウウウゥゥゥ………ッ!!」

 

 

AFO の問いかけにもオールマイトは呻くような声を絞り出すしかできない

 

「緑谷出久、譲渡先は彼だろう?

 

可哀想に資格もなしに戦いの場に引き入れて、まるで制御できていないじゃないか。おまけに戦いに関しても翔野テリーが居なければ児戯同然じゃないか。

 

(翔野テリー)に譲渡した方がよかったんじゃないのかい?まぁなんにせよ手遅れだ、オールマイト。先生としても君の負けだ、存分に悔いて死ぬといい!」

 

 

勝利を確信し饒舌になりそれに比例するように圧力を強めていくAFO

 

だが

 

 

「……ふっ、まるでわかっていないな、AFO ッ!!」ニヤッ

 

「何が可笑しい!?この状況に気でも狂ったかい!!」

 

「違うさ!!私は何もおかしくなってやしない!」グググ

 

 

 

オールマイトの後退するスピードが徐々に緩まっていく

 

 

 

 

「私はあの少年(緑谷出久)に託した事を間違いだなんて思わない!彼は既に持っている!何よりも大事なヒーローの"心"というものを!」

 

オールマイトの目がしっかりとAFO を捉えた

 

 

 

 

 

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」グググ……

 

 

 

「ヌウウッ!?」

 

滑っていた足が止まる

 

「それに()()は既に私にも、お前にも手にする事が出かなかった"力"を宿している」クンッ

 

すかさず押し込まれた腕のワン・フォー・オールを解除する

 

バキボキッ

 

 

 

当然圧力に耐えきれずに右腕が悲鳴をあげるが無視して巨腕をかわしながらがら空きの懐へ踏み込む。

 

 

 

『正面からはまず有効打にならん!虚をつくしかねぇ』

 

バズンッ

 

 

 

グラントリノの言葉に従い、死角から左フックを叩きつける。

 

だが…… 

 

「らしくない、小細工だ。誰の影響かな、浅い!それにその"力"とやらは一体なんだい?オールマイト!」グググ

 

 

 

 

 

 

AFO は顔をへこませながらも攻撃しようと左腕に力を溜める

 

左腕も同様に凶悪化させオールマイトへ打ち込もうとした時

 

 

 

「!」

 

 

 

AFO はオールマイトの右腕に気付く

 

 

 

「そりゃあ!!腰が入ってなかったからなああ!!!」

 

 

 

 オールマイトは血を吐きながらも歯を食い縛り全身を捻じって右腕を振る。

 

 

 

「オオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 そしてオールマイトの拳が、オール・フォー・ワンの顔に突き刺さる。

 

「そしてAFO !その"力"の正体はこれからゆっくり考えるといい!たぶん答えにたどり着く事は無いと思うがなぁ!」

 

 

UNITED STATE OF SMASHッ!!』

 

 

 腕を振り抜いて、地面にクレーターが出来る程の威力でオール・フォー・ワンを地面に叩きつける。

 

 

「カブファアッ……!?」グブシャァ……

 

オールマイトの下で仰向けに倒れたAFO はピクリとも動かなくなり

 

 

 

「………………。」ズオッ

 

立っていたオールマイトの全身は再びマッスルフォームになり血まみれの拳を天に向けて掲げた

 

それは人々に勝利を知らせるポーズであり

 

 

(さらばだ……OFA………。)

 

一人の英雄の最期の雄姿でもあった

 

 

 



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開かれた新時代 の巻

 

神野区での激闘から一夜明け

 

日本中の人々はオールマイトの勝利という束の間の歓喜を味わった後に知る事になる

 

"平和の象徴は もういない"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー警視庁会議室

 

警視総監を始めとした警察の上位役職者やヒーロー公安委員会、更には一部の政府関係者が一同に集まっていた

 

神野区で起きた事件の顛末、被害状況そしてこれから起こるであろう出来事への対策を話し合う場として緊急で設けられたのだが

 

 

「大元は捕えたとは言うものの……。」

 

「実行犯である死柄木以下連合組員はすべて取り逃がした挙げ句謎の増援まで現れた………。」

 

 

「しかも、その増援は並みのヒーローを寄せ付けないどころかエンデヴァーすらも容易く捩じ伏せたと……。」

 

会議室の空気はとても重苦しいものになっていた

 

オールマイトの引退はまだ正式に公表されていないがあの様子を見れば誰もがこれ以上今までと同じように戦える彼の姿を想像出来ないだろう

 

「………平和の象徴の喪失。そして今回の事件によりヴィラン達は気付いた筈だ。馬鹿でも集まりゃここまで事を起こせる。」

 

「我々警察もいつまでも手をこまねいている場合ではない。」

 

「それはこちらとしても同じだ、早急に国民の不安や抑止力的な力を示さなければこの国は瞬く間に崩壊する。」

 

 

「抑止力はエンデヴァーに任せる他あるまい、あの場にいた警察官、プロヒーロー達には箝口令を出している。

 

あの事件の裏で起きた事は表には出てこない様にしてあるだが………。」

 

 

 

「国民の不安と言う点ではな……。」

 

No.2ヒーローであり逮捕件数はオールマイトを越えるエンデヴァーだがファンサービスやマスコミの対応等はお世辞にも良いとは言えず国民の中では不信感が少なからず出るのは火を見るより明らかだ

 

 

 

「それでしたら一つだけ手があります。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

神野区ので起きた戦いからおよそ一週間。

 

 

世間はその衝撃を静める暇なく追い討ちのような情報が次々と投下されていった

 

オールマイトの引退、No.3ヒーロー・ベストジーニストを始めとする一部プロヒーロー達がケガにより長期の戦線離脱

 

数々のヒーローと日本の平和に大打撃を与えた一連の事件は『神野区の悪夢』と呼ばれる程に世間に深い爪痕を残した……。

 

 

 

 

 

 

 

夏休みも残すところ十日程となったこの日

 

雄英高校では合宿以降初めてA組が一同に会していた

 

「さて……とりあえずではあるが1年A組、無事に集まれてなによりだ」

 

相澤が生徒全員に向けて話し始める

 

なぜ彼らがこうして集まっているのかそれは根津校長がかねてより計画していた全寮制導入プランを今回の事件を契機に実行に移した為であった。

 

 

全寮制は今年から我々生徒たちの安全の保障のため、雄英高校が新たに模索した手段の一つとして導入されたものだが

 

 

無論すんなり事が運んだ訳でもなく、雄英にこれからも通わせていいものかという親が半数以上はいたのだが傷もまだ完全に癒えきらない状態を押しての相澤、オールマイト両名の家庭訪問が実を結び

 

全員集まれることになった。

 

それだけでもちょっとした奇跡と言っても過言ではない。

 

 

 

「とりあえずは寮について説明をしたいところだが、まずはこれからについてだ」

 

「これから……?」

 

 

 

それで全員が首を傾げる。

 

 

 

「襲撃事件についてで手ぶら状態であったが、今後は合宿での方針である『仮免取得』に向けて動いていく」

 

 

 

仮免取得という単語が出てくると生徒達は新たなイベントに期待を膨らませるが

 

騒ぎ出しそうになったところで、

 

 

 

「騒ぐのは結構だがここからは大事な話だ。

 

いいか…………飯田、轟、切島、八百万、緑谷、翔野……今言った6名があの晩あの場所へ爆豪救出に赴いた」

 

 

 

一瞬にして場が冷え込んだのを相澤は見越して言葉を続ける

 

 

 

「その様子だとだいたいは把握していたようだな。

 

行った6名はもちろん、止められなかった14名も理由はどうであれ同罪だ、結果として俺たちの信頼を裏切ったのだから。

 

特に緑谷、翔野。お前らは身をもって知ってるはずだ。

 

 

 

色々と棚上げした上で言わせてもらう。オールマイトの引退という騒ぎと"これ"がなければ……俺は迷わずに爆豪以外の全員を除籍処分にしていただろう。」

 

 

 

相澤の目付きが鋭くなり二人を捉えつつもズボンの後ろポッケに押し込んでいた雑誌を広げる

 

 

 

 

 

【月刊ヒーローマガジン・特別号~New ERA(新世代)~】

 

と題されたそれはオールマイトの引退会見の次の日に何の前触れもなく全国の書店やコンビニ等で発売されたもので表紙を飾っているのはテリーと緑谷出久の保須市での激闘の映像を切り取ったものだった

 

その中身は表紙の二人を中心に雄英高校在学中の目ぼしいヒーロー科の生徒の紹介やページ数は少ないものの他校のヒーロー科やデビューして2年以内のヒーローたちの特集でありオールマイト引退後も安泰であると強調されるような作りとなっていた

 

 

(ったく、どうせ国のお偉いさんの仕業だろっ!こんな少年二人に大人の付けを引き渡すなんざ非合理もいいところだ!) 

 

 

相澤は心の中で毒づくも

 

 

「‥‥‥‥今後は正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。──以上」

 

 

浮かび上がってくる色々な感情や言葉を飲み込み集約して発してこの会話を打ちきり、そのまま寮の説明へと移ろうとしたが

 

あまりの空気の重苦しさに耐えかねた爆豪の機転と上鳴の犠牲によって幾らか空気が和らいだ後に相澤による説明が始まった。

 

 

 

 1棟1クラス右が女子棟、左が男子棟と別れていて1階が共同スペースで食堂や風呂場、洗濯機完備と致せり尽くせり。部屋ニ階から1フロアに男女各4部屋の5階建てで一人一部屋、中もエアコントイレ冷蔵庫クローゼット付きと学生という身分を考えれば十二分過ぎる代物に

 

 

「豪邸やないかい」フラッ

 

麗日は気を失いかけていた

 

 

「とりあえず今日は部屋を作ってみろ明日今後の動きを説明する以上解散!」

 

 

「「「ハイ先生!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、テリー達は教室に集められた。

 

 

 

「昨日話した通り、まずは仮免の取得が当面の目標だ。ヒーロー免許ってのは人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然その取得の為の試験はとても厳しい。仮免といえどその取得率は例年5割を切る」

 

 

 

「仮免でもそんなキツイのかよ」

 

 

 

 峰田がゲンナリした様子で呟く。

 

 

 

「そこで今日から君らには一人最低でも二つ...」

 

 

 

「「「必殺技を、作ってもらう!!」」」

 

 

 

 その言葉を放ちながらミッドナイト、エクトプラズム、セメントスがドアから現れた。

 

 

 

「「必殺技!!!学校っぽくてそれでいて、ヒーローっぽいのキタァア!!!」」

 

 

 

 切島と瀬呂の叫ぶと同時にクラスのボルテージも高まる。

 

 

 

「必殺!コレスナワチ、必勝ノ技・型ノコトナリ!」

 

 

 

「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」

 

 

 

「技は己を象徴する!今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」

 

 

 

「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γに集合だ」

 

 

こうして彼らの"日常"は再び始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短いですが今回はここまでとさせて頂きます

次回、特訓開始!


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