ネタ帳 (三和)
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ダイの大冒険の主人公ダイに義理の弟がいたら

一発ネタ


また置いてかれた…!

どうしてなんだ…俺はそんなに頼りないのか…!

 

俺はダイの大冒険のファンだ

いつも少年ダイや彼の仲間達の活躍を見て興奮していた

だからこそあの最終回

ダイが世界を救うため一人で消えたあのオチは感動はしたがだからこそ許せなかった

何故だ!?

今までダイは頑張って来た!

だからこそあいつは幸せにならなきゃならない!

そんな想いを抱いた

その後俺の想いが届いたのか俺の願いが叶うチャンスが訪れた

 

ある日買い物の帰り赤信号を飛び出す子供を見た

トラックが走って来る

テンプレにも程があるが気が付けば俺は子供を助けに行きトラックに轢かれてしまったらしい

 

その後白い世界で俺は目覚め神を名乗る人物に出会った

特典付きで転生をさせてくれると言うそいつに俺は言った

ダイの大冒険の世界にダイの弟として転生させて欲しいと

ダイと同じ竜の騎士バランの息子ならダイの助けになれる

そう思ったのだ

願いは聞き届けられ俺は転生した

だが…

 

向こうに着いた俺は最悪の事実を知った

俺は確かにブラスにダイの弟として育てられたが俺はダイの少し後にダイのように小船に寝かされた状態で島に流れ着いていたらしい

……そう、俺は竜の騎士とは血縁関係の無い

ただの一般人だったのだ

 

その事実を知った俺はそれこそ我武者羅という言葉が似合う程身体を鍛えまくった

デルムリン島は割と広く今の俺のような子供が暴れるのにはもってこいだ

島でランニングを行ったり、仲良くなったモンスターを組手を行ったり知識にある魔法の契約を試みたりしてみた

 

結果剣技も体力も遊んでいただけの筈のダイに負けた……

しかもダイにとって俺は庇護の対象らしく無茶をやる度に窘められた

……というか何かダイが原作よりしっかりしてるような……

どうも俺がいた事で精神の成熟が原作より早いらしい……

これではいけないと更に自分を追い詰めるもダイとブラスに止められてしまい過度に自分を鍛えるのは止めさせられた

 

ちなみにダイの方は魔法を早々に諦め剣技を磨いている

将来は戦士を目指すそうだ

我流の筈なのに明らかに洗練されていってるのはやはり血筋なのだろうか……

 

俺はどうすればいいんだ……

 

やがてニセ勇者でろりん一行が来た際俺はダイにどう扱われているのか改めてはっきりと自覚した

そう俺はダイに置いていかれたのだ

半ば消えかけている原作知識を頼りに島を飛び出し勘で海を進み何とかロモスに辿りついた俺を待っていたのは友人のモンスター達と協力し実力ででろりんを下したダイの姿だった




設定

主人公 ダイの大冒険の世界にダイの弟として転生した一般人
ダイを助けるためダイの弟として転生したが竜の騎士との血縁関係は一切無かった
武術の才能はダイやヒュンケルに遠く及ばず(それでも比較的素質はある方)
魔法は紋章の力を使わないダイより可能性があるがポップの方がはるかに上
結果ダイにとっては守るべき存在として定着してしまった
基本ダイには無意識に足手纏いとして扱われるため旅の最初の時点から置いていかれた
おぼろげに残っている原作知識を使い追いかけるもその度に撒かれている


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パラサイト・イブ×ブラック・ブレッド

クロスの方が書きやすい不思議


照準をスコープの向こうにいる怪物に合わせ引き金を引く

怪物が崩れ落ちたのを確認し次の標的に照準を合わせる

 

『…おい。私は暇だ。構え』

 

……うるさいわね、見ての通り仕事中よ

 

『毎日毎日良くも飽きもせずそんな事ばかりしてられるな』

 

私の中で居候してるあんたと違って私は仕事をしないと生きていけないのよ

……もしかしてあんたがいるから私のカロリー消費が増えてるんじゃないの?

 

『心外だな。そもそも今の私はお前の精神にのみ働きかける事が出来る存在で実体は無い。そんな事はお前も良く分かっているんじゃないか?』

 

……彼女の言葉を無視し私は再び引き金を引く

 

全ての怪物を片づけたところで連絡をする

 

「私よ。今終わったわ。ええ。これから戻るわ……迎え?別にいらないわ。問題無いわよステージⅢ程度なら単独でも片づけられるし。ええ。それじゃ」

 

「帰るわよ。近くに敵はいる?」

 

『……ああ。いるとも。ミトコンドリア・クリーチャーに四方を囲まれているぞ』

 

どうしてそういう大事な話を今頃……

 

『聞かれなかったからな』

 

要するに拗ねてたと

 

『…さあ?なんの事かな?』

 

私は彼女との会話を打ち切った

 

ミトコンドリア・クリーチャーか…

まあアレの相手なら私程の適任はいないだろう

 

私は再び連絡を入れる

 

「…私よ。ごめんなさい。不測の事態が起きて……ええ。少し戻るのは遅くなるわ…だからいらないわよ。それじゃ」

 

見れば連中はもう目視出来る距離にいた

奴らと目が合う

 

「さあ、来なさい」

 

私は持っている銃からマガジンを抜きパラニウム製の弾薬から敢えて普通の弾薬に取替え再びマガジンを装填……奴らの内の一体が向かってきたので身を躱す

 

「…せっかちねぇ……少し待ちなさい。」

 

マガジンを詰め直しこちらを見失った一体に引き金を引く

 

数発打ち込むと動かなくなった

 

『…アヤ』

 

何よ

 

『数が多い。応援を呼ぶべきではないのか?』

 

……問題無いわ

 

『……そうか』

 

再び引き金を引く……が、その瞬間別の一体が飛びかかって来て照準を外してしまう

 

油断した

 

私は意識を集中する

 

P.E(パラサイトエナジー)と呼ぶこれは現状この世界では私だけが使える力だ

今から撃とうとする一発に力を込める

 

この一撃を放つには溜めと言うタイムラグが必要になる

 

敵はこちらに真っ直ぐ向かって来る

間に合って……

 

そうしているとその敵に向かって何かが飛んできた

 

あれは……

 

「大丈夫か?アヤ?妾達が来たからにはもう安心だぞ!」

 

彼女は……

 

「…ええ。助かったわ、延珠。後里見君もありがとう」

 

見れば別方向の敵も彼に銃で撃たれている

 

「…何かついでみたいで釈然としねぇなあ…つかアヤ、無茶すんなって言ったじゃねぇか。何で一人でこんな数とやり合おうとしてんだ!」

 

そんな彼の説教を聞き逃しながら今夜は永くなりそうだと心の中で独りごちた




設定

アヤ・ブレア
パラサイト・イブの世界で死亡した後ブラック・ブレッドの世界で姿も前世とは似てもにつかない姿で転生した

二度目の子供生活を満喫していたがある日友人と共にガストレアに遭遇

友人を逃がした後ガストレアに襲われその瞬間彼女は前世で使っていたミトコンドリアに由来する力P.E.を使いそのガストレアを倒してしまう
その直後に彼女の中で目覚めた彼女の宿敵Eveにより自分がミトコンドリアを自らの意思で暴走させてしまった事を知る
更に姿も前世のアヤの子供時代(要はMAYAの姿)に変わってしまった

彼女はそのまま行方を晦まし現在は如何なる方法で手に入れたのか民警ライセンスを特定の民警に所属しないまま手にし
傭兵アヤ・ブレアを名乗りあちこちの民警を渡り歩く

最近の悩みの種は一度仕事をして以来執拗に自分を勧誘して来る天童民間警備会社の面々

原作との相違点
この世界にはガストレア以外にミトコンドリア・クリーチャーが何故か存在している
ただ現れるようになったのはアヤが襲われるようになってからのため何らかの関係があるのかもしれない
ミトコンドリア・クリーチャーの存在を民警は認知しているが対応は多少後手に回っている(パラニウム製の弾丸、武器の効果が薄いため)

現状アヤのP.E.や普通の金属製弾薬、武器、ガストレア因子を持つ者の攻撃が有効である


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ソードアートオンラインの世界にソウルシリーズのヴォルドファンを転生させてみた

メジャーネタにマイナーネタを合わせてみる


「ヴォルド!そっち行ったぞ!」

 

リーダーの声を聞きながらこちらに向かって来るMobを手に装備したカタールで連続で切りつける

見た目は型もクソも無いだろうが実際は俺としては今まで何度もなぞった動きをしている

 

「すまねぇヴォルド!一体逃しちまった!」

 

仲間の声に反応し俺の背後から突進して来る敵を振り向きざま左のカタールで切りつけ叩き落とす

 

「何やってんだ!バカヤロー!ヴォルド大丈夫か!?」

 

リーダーに向けて右のカタールを左右に揺らし問題無いとアピールする

 

「ヴォルド!ワリィ!」

 

さっきと同じようにそいつに向けてカタールを左右に振る

 

「良し!一気に片付けんぞ!」

 

リーダーの声に反応し俺はペースを上げる

カタールは威力が極端に低い

手数を稼いで無理矢理ダメージを与えつつ目の前のMobを屠っていく

 

「よっしゃ!こいつでラ、ス、ト、だ!」

 

最後のMobがリーダーの攻撃で破砕音を立てて消滅していく

 

「…ふぅ。何とか片付いたな」

 

「ヴォルド、さっきは悪かったな」

 

律儀にまた謝ってくる仲間に俺は問題無い。気にするな。とメッセージを送る

 

「全く気をつけろよ、ヴォルド、キツかったらいつでも言ってくれよな。お前動きまくりだからなあ。ダメそうだったらこっちがちゃんとフォローすっからよ」

 

俺は了解。と今度はリーダーにメッセージを送る

 

「行くぞ。とりあえず今日中にもう少しマッピングしておかないとな」

 

リーダーの先導で再び探索に戻る

 

そして俺は彼らの一番後ろを歩きながらなんとなくこの世界に来るきっかけを思い起こして

いた

 

俺は前世の記憶を持っている

いわゆる転生者って奴なんだろう

この世界が何らかの創作物の世界なのかは知らないが

 

前世では俺は身寄りも無く孤児院で育ちある程度の年齢まで行ってから孤児院を出た

 

当然高校なんて行ってない

そんな俺に出来るのはせいぜい職人見習いといったところ

 

そして日々頑張っていた俺の悲劇の始まりはあるものにハマった事だ

ある日フラっと入ったゲーセンで見つけた物、それは格闘ゲームだった

 

実はゲーセンに入ったのも初めてだった俺はすぐ虜になった

 

そして俺は人生を自分で台無しにした

ゲームにハマり過ぎて私生活はガタガタになった

毎日のゲーセン通い、家に帰ってからもゲーム、気付けば生活費はすぐに底を突く

 

給料は割と良かったから真面目に働いてれば巻き返せたんだろうが

夜も徹夜でゲーム、しかも食事もほとんど摂ってないし、風呂も入ってない

精彩を欠いた俺は問題を起こしすぐにクビになった

 

ボロボロの中俺が覚えてる最期の記憶はなけなしの金を参加費として払い店員やギャラリー、対戦者がドン引きする中地元のゲーセンの格闘ゲームの大会にエントリーし結果見事準優勝し、その帰りに力尽き倒れ込んだところまでだ

 

……恐らくあの後俺は死んでしまったのだろう

 

 

次に気付けば俺は赤ん坊の姿で病院にいた

今世ではちゃんと両親がおり俺は少し過保護じゃないかと思うくらい愛された

しかも親はかなり稼いでいるらしく大抵の物は買ってもらえた

 

さすがに申し訳無くなった俺は勉強に打ち込み親に少しでも恩返しをしようと頑張った

 

そんな俺を心配したのか親は俺にナーヴギアと話題のVRゲームソードアートオンラインをプレゼントしてくれた

 

俺は親に気を遣わせた事に気付き更に落ち込んだが幸い俺はまだ高1

別にゲームをしててもほどほどにすれば問題無いだろうと親を安心させる為に喜んで受け取った

 

……この時は思わなかったんだ。まさかリアルに帰れなくなるなんて……

 




主人公

転生者。ただし別に特典は貰ってないしそもそもソードアートオンラインを知らない
存在しなかったのか本人がたまたま見かける事が無かったのかは不明
前世で死亡した後ソードアートオンラインの世界にそのまま転生した(死因は衰弱死)

前世では親がおらず孤児院育ちで高校も行けなかったが今世は割と裕福な家に誕生
優しい両親の為に心を入れ替え勉強し見事進学校に入学した

今世では真面目な人柄故か友人も多い

ソードアートオンラインでは前世で好きだったソウルシリーズのヴォルドロールをしている
ギルド風林火山に所属。

メッセージやジェスチャーで会話してるのは実はロールプレイではなく出産の際に声帯を損傷
今世では生まれた時からほとんど声を出した事が無いためゲーム内では恐らく話せるのだろうが意思疎通をリアルでは筆談やジェスチャーで行っていたためそれが癖になってしまっている


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とあるの世界にガレリアンズのリオンが来たら

今更誰がわかるんだ、こんなネタ


「僕と、アッシュのデータを、完全に、破壊、して、くれ」

 

リリアが死んでいると聞いたとき僕はもう現実世界に帰ろうとは思わなかった

彼女がいないなら僕に帰る意味は無いし

そもそも僕の役目は多分もう終わっている

 

だから僕はパッドからの救いの手を取らなかった

最期に気になったのは世界がどうなったか

……パッドの言葉を聞いて僕はやはりここで消えるべきだと思った

 

僕が帰ればきっとまた争いが起きる

僕を最後のガレリアンとして二度と誕生させてはならない

だから僕は帰らない

 

その選択に後悔は無かった

心残りがあるとすればリリアの最期を看取れなかったこと

後少し早かったなら…

……身体が崩れていくのを感じる

リリア、もしかしたら今から君に会いに行くかもしれない、待っていてくれ

そうして僕の意識は完全に消えた……はずだった

 

「…ん?」

 

再び僕が目を開けると…白い天井、照明、部屋を見渡すとそこには他には何も無かったが僕がさっきまでいた世界とは明らかに違う

 

バーチャルの世界ではなく明らかに僕は現実の何処かの部屋(ベッドがあるから病院かな?)にいてベッドに寝かされていた

 

「僕は……」

 

「気が付いたか?……とこの言葉じゃわからないか」

 

人の声が聞こえ僕は顔をそちらに向けた

……派手なシャツを来てサングラスを掛けた金髪の胡散臭いとしか言いようの無い笑顔を浮かべた少年がいた

……彼は何と言ったのだろうか?

聞き覚えの無い言葉だった

 

『俺は土御門元春。お前さんの名前を聞かせてもらっても?』

 

今度はわかった。普通に僕も使っている言葉だ

何が起きてるのかわからないが僕は答えた

 

『僕はリオンだ。』

 

僕は迷ったが結局ファーストネームだけ名乗った

 

『…そうかい。それでいくつか質問させてもらっても構わないか?』

 

『その前にここは一体何処なんだ?どうして僕はここに?』

 

『混乱してるのはわかるがまずは俺の質問に答えて欲しい、頼む』

 

驚いたことに彼は頭を下げてきた

僕は慌てて言った

 

『わかった。わかったから頭を上げてくれ』

 

彼は頭を上げてくれた

 

『ありがとな。まあ最初の質問には答える。ここは学園都市にあるとある病院だ』

 

学園都市?

 

『聞き覚えが無いって顔だな。とりあえず質問するぞ』

 

僕は彼に聞かれた事に答えて言った

完全にこちらの身分を確認されてるのは気付いたが今更隠すようなことも無いので包み隠さず答えた

 

「まさかとは思ったがマジでそうなのか……ミケランジェロシティ……ドロシーにガレリアンズ……参った、キャパオーバーだぜぃ……」

 

『まだ俺の仮説の段階だが多分お前は異世界から来たんだろう』

 

彼にそう言われ僕は目を見開いた




リオン

ガレリアンズ:アッシュの直後(リオンの体感で)
アッシュと共にデータを破壊されこの世から消えたはずが何故か生身で学園都市の道端に倒れてるところを学生に発見された

彼に対する情報が無く上層部が頭を抱える中(そもそも内部の人間が痕跡無く侵入した事実が一番問題)たまたま手の空いていた土御門に案件が回り彼が尋問することになった
日本人では無いのは一目でわかったので試しに英語で話しかけたら通じた上に人懐っこそうに見えたので内心ホッとしていた

持ち物はビージェクト(銃器型携帯注射器)と薬が少々
……学園都市の闇を知ってる土御門に話が回ってきた理由がこれである
少なくとも完全に薬物の売人を疑われている状況だった


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とあるの一方通行に親友がいたら

この手のネタは何番煎じか


「うるせェ……わかってンだよ……!ンなことはよ……!」

 

俺はイラついてた

このツンツン頭の三下が発した言葉に

 

「テメェに何がわかるってンだ!俺はアイツを助けてぇンだ!そのためには力が必要なンだよ……!」

 

気圧されるたように一歩下がるソイツに俺は告げる

 

「とっととそこをどきやがれ!じゃねェと本当に殺すぞ……!」

 

コイツが俺を散々ぶん殴ったせいであちこちから出血してやがるが関係ねェ……!

 

俺はソイツに向かって歩を進める

 

「やれよ。」

 

「ア?何言ってやがる、テメェ……」

 

「やってみろよ!俺はそう簡単に死なねぇ!お前がどうしてもあいつを殺さなきゃダチ一人助けらんねぇって言うなら……」

 

ソイツの喋りが続く

聞きたくねぇ。俺は遮ろうと

 

「うるせェぞ!三下!いい加減黙りやが「その幻想をぶち殺す!」テメェ!」

 

俺はキレた。この身の程知らずは殺す!そして俺は力を得る。そうして向かって行った!

 

 

 

「チッ!テメェの勝ちだ三下ァ……」

 

俺は目の前に横たわるソイツに向かって言う

何てスタミナだ

何回潰しても向かって来やがった

 

「テメェの言いたいことはわかった。もういい。こんなクソみてェな実験ヤメだ。アイツは俺が止める。ハッ!誇っていいぜ。テメェはこの学園都市第一位に勝ったんだからな」

 

俺はソイツを放置して行くことにした。待ってろよ。今ソッチ行ってやっから

 

「おい。待てよ……」

 

幻聴だ。そうに決まってる

 

「待てって言ってんだろ!」

 

間違いなく聞こえた

俺が振り返るとソイツが立ち上がろうとするのが見えた

バケモンか、コイツ!

 

「まだ立てンのか、で、何か用か?俺は実験はもう止めるって言ってンだ。テメェに他に用はねェだろ」

 

俺は必死に平静を装って聞く

 

「お前これからどこ行くんだ……?」

 

「何処でも良いだろ、テメェには関係ねェ」

 

うっとおしい。時間が惜しいンだ。とっとと黙れ

 

「俺も連れてけ……」

 

「ンだと?」

 

「俺も行く!お前のダチを助けにな!」

 

「そんなボロボロの身体で何言ってやがる「それはお前もだろ」チッ!」

 

「お前も身をもって知っただろ?俺の右手なら能力を無効化出来る。損はさせないぜ」

 

「アイツは俺が止めンだ。テメェの力なンざ借りねェ……!俺は学園都市第一位一方通行だ!」

 

「もう黙れ!俺は一人で……!」

 

その時懐かしい気配を感じた。

 

「オイオイ、何だよ……!自分から来たってわけかよ……!」

 

俺に対して相変わらず何か言ってやがる三下がいるがもう関係ねェ

 

「三下ァ……手ェ出すんじゃねェぞ!向こうからお出ました」

 

俺は上を見上げる

奴が空から降りてくンのが見えた

 

「ヨォ、久しぶりだな、引きこもり。今度こそ俺がぶっ殺してやっから覚悟しろや……!」

 

俺はアイツを睨みつけた




設定

ワンシーンしか出てないが一応一方通行の幼馴染みの少年の話
磁力を操る力を持ちそれほど力は強くないが機転が利きかつては暴走した一方通行を唯一止められる存在だった
能力向上のためとある研究所に呼ばれ脳に磁界増幅装置を埋め込まれた
ある時若い研究員が出力調整をミスり暴走

それを知った一方通行が止めに来たが強い磁力を逸らすことしか出来なかった

既に脳死寸前であり意思疎通は不可
長らくかつて自分のいた研究所に隠れていたが今回何故か一方通行の前に自分から現れた

ちなみにある漫画の敵キャラがモデルである


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艦これ世界にGUILTY GEARのカイ・キスクの容姿と能力を持ったオリ主を入れてみる

本当に本人だった場合シーレーンの解放割と早いかもしれん


「スタンエッジ!」

 

私(俺)は目の前にいる化け物に小型の船の上から攻撃を仕掛ける

 

「クソ!ダメか……!やはり私ではダメなのか……」

 

私(俺)は弱音を吐きつつも更に攻撃を加えていく

 

「グリードセバー!」

 

やはり効果が無い。こうなれば……

 

「究極奥義!ライジング……ぐっ!?何をする離せ……!ぐあああああ!」

 

私(俺)の腕が……!

 

「!?ああああ!」

 

足も失った

 

「ああああ……来るな……来るなぁ!」

 

完全に私(俺)は戦意を失い狼狽える

 

「やめろ!やめてくれ!うわあああ……!」

 

とここでベッドから落ちて目が覚めた

 

「…はあっはあっ……またあの夢か……もうあれから三年も経つというのに……」

 

私はとりあえずベッドに手を付き立ち上がる

とふと右足に目が行くそこには金属製の……直ぐに目を逸らす

 

「いい加減慣れなくては、な」

 

もう一度私は右足を見る。そこには金属製の義足があった

 

「…ウブッ!」

 

吐きそうになった私はすんでのところで飲み込む……その際右手で抑えそこも義手だったのを見てまた吐きそうになるが堪える

 

「はあっはあっ……」

 

私は口直しに近くの机に置いてあった水差しからコップに水を注ぎ一気に飲む

 

ドタバタと音が聞こえる……彼女か

 

「提督!?大丈夫ですか!?凄い音がしましたが……」

 

「…大丈夫ですよ。赤城さん。ちょっと夢見が悪かっただけです。」

 

「…そうですか。それなら良かったです……」

 

そんなに彼女を見ながら私は言う

 

「ええ。大丈夫なので、出ていってもらえると……着替えたいので」

 

「あっ、そうですよね。失礼します」

 

彼女がそう言って出ていったのを見届け私は近くにある衣類掛けからハンガーごと制服を取り着替え始める

 

慣れなくては……慣れなくては……

 

頭の中でそればかり唱えながら私は制服を身につける

 

仮眠のつもりが三時間も眠ってしまった早く仕事を片付けなければならない

 

制服を身につけ姿見を見ながら髪型を整える

 

記憶にあるカイ・キスクの髪型に整えて行く

 

少し癖が付いてしまったのか上手くいかない

 

何とか見れる状態にする

 

改めて帽子を手に取り被る

 

そして私は部屋の外に出た

 

部屋の外は直ぐ執務室である

 

私は先程部屋に入ってきた艦娘赤城に挨拶するためデスクに近づく

 

「あっ、提督。もういいんですか?」

 

「ええ。すみません。仕事を押し付けてしまって……」

 

「いいんですよ。提督は働きすぎです。本当ならもう少し休んで頂きたいぐらいです」

 

「…そう言ってくれるのは有難いですが私はこんなことしか貴女達に報いることが出来ませんから……」

 

困ったような顔をする赤城を見ないようにしながら私は自分のデスクに掛ける

さて、残りの仕事を片付けようか……




主人公

GUILTY GEARのカイ・キスクの容姿、能力を持った一般人

神様転生でなく気が付いたら艦これ世界にカイ・キスクの姿でいた
GUILTY GEARはよくやっていたため自分がカイ・キスクになってしまっていたのはすく気付いた
前日は普通に自分の部屋で寝ていたはずで何故そうなっているのか見当も付かなかった
しかも自分がいた場所は何処かの港でそこから見覚えのある物が見えた
深海棲艦だった

自分は何故かカイ・キスクの姿で艦これの世界に来たことに気付いた彼は自分でも何を思ったか港にあった漁船を勝手に持ち出しそのまま戦いを挑んだ

幸い見様見真似でカイ・キスクの技は使えたが威力が足りないらしくあまり効果が無くそもそも本人は戦いとは無縁な身の上かつ多対一のノウハウも無かった(ちなみに当人はgg2やジャッジメント、イスカ、DSは未プレイである)

結局すぐにジリ貧となり右手と右足を失い失神していた所を出動していた海軍に拾われ一命を取り留める

しばらく海軍に保護されながら彼の戦闘を見ていた海軍にカイ・キスクの経歴を話し異世界から来たと信用してもらう事に成功

そのまま海軍に志願した
その後艦娘が誕生した後提督の適正があることが判明

現在は赤城を秘書官にある鎮守府の提督をしている

実は先の四作品に加えXrdも未プレイ
従って彼がカイ・キスクを演じる時はその前までのカイ・キスクがモデルになっている

深海棲艦に襲われる悪夢に今でも悩まされているが原因はストレスで生真面目すぎるカイ・キスクを演じてるせいであることに気付いていない


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The child wants to come into its mother's arms.

マザーベースのような閉鎖的環境で子供が産まれるのって何番煎じどころじゃねぇな


「何?妊娠?」

 

「そうだ」

 

「誰がだ?」

 

「ワイルドキャットだ」

 

「……お前の子か?」

 

「違う。父親はライノだ」

 

「まるで美女と野獣だな。性別が逆だが。それで?何でお前はそんな顔してる?結構なことじゃないか」

 

「ボス!赤ん坊を育てるのは簡単な事じゃない!それぐらいアンタにだってよくわかってる筈だろう!」

 

「…俺には何でお前がそんなに目くじらを立ててるのかわからん。育てるのはワイルドキャットとライノであってお前じゃない。俺達がすべき事はあいつらを家族としてサポートすること、それから新しい家族の誕生を祝うことだ。違うか?」

 

「だから!ここは赤ん坊を育てるには「何を騒いでるんだ」オセロットか」

 

「何だ?取り込み中か?」

 

「いや。問題無い。何だ?」

 

「報告書だ。ここに置いておくぞ。」

 

「ん?おい、オセロット!こいつは何……行っちまった「カズ」何だスネーク?」

 

「その袋、開けてみろ」

 

「……!これは、ベビー用品?」

 

「カズ。もういいだろう。多分この基地で産むのを反対するのはお前だけだ。改めて歓迎しようじゃないか、新しい家族の誕生だ」

 

「…わかった。俺も別に新しい家族が誕生するのを喜んでないわけじゃないからな。何か問題が起きたら俺達でカバーすればいいか……」

 

「とりあえず俺はコイツを二人に届けて来る。後でまた話そう、スネーク。これから忙しくなるだろうからな」

 

「ああ。わかった」

 

「…ところでカズ?」

 

「……と、何だ?」

 

「本当にお前の子じゃないんだな?」

 

「……ああ、そうだ」

 

「何だその間は……」

 

「……いや。何でもない。俺の子じゃないはず、多分、きっと、恐らく」

 

「……カズ、お前また手を出したな?」

 

「……何のことだ、スネーク?」

 

「それで通ると思うか?」

 

「…ほっ、ほんの数回くらいだ、だから多分問題無い。第一向こうから誘ってきたんだ、俺は悪くない」

 

「……子供のDNA検査が必要か」

 

「待っ、待てスネーク!そっ、それはさすがに無粋というか邪推が過ぎるというか」

 

「こういう事はハッキリさせた方がいい……ん?待てよ、まさかお前……」

 

「なっ、何だ?」

 

「実は本当はお前の子供で秘密裏に処理しようとしてるんじゃないだろうな?」

 

「スネーク!それは心外だ!俺はそこまでクズじゃない!」

 

「お前の下半身事情だけみたら十分クズだと思うがな」

 

「……さっ、最近はちゃんと抑えている!「それは普通人として当たり前だ」スネーク……」

 

「さて、洗いざらい吐いてもらおうか……」




赤ん坊のあの字も出てこないな


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固体蛇の帰結

メタルギア愛再燃

案外見かけないなあこういうの


俺の人生は波乱の連続で息付く間も無い戦い、戦い、戦いが続く時間だった

色んな死を経験した

親友も殺し、果ては自分の親まで殺した

正に悪夢だった

神と言うものを信じた事は一度もないが本当にいるなら俺の前に現れてくれ

そして救ってくれ……と思ったこともある

 

そして駆け抜けた人生の終着点は驚くほど穏やかなものだった

静謐な老衰とは程遠いものだったが若き日の戦いの時間に比べたら平和過ぎて拍子抜けするほどだった

たとえ人より生きた時間が短かかろうとベッドの上から動く事が出来なかろうと多くの“家族“に看取られて死ぬ

俺には過ぎた幸せであり決して訪れる事の無いと思っていた幸せだった

悔いは無かった

 

「…ありがとう……」

 

そう言って俺は目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは……嘗て命令や考え方の相違から殺すしか無かった者達

 

今からそっちに行く。待っていろ……

 

そして俺は眠りについた

 

本来ではあれば俺の物語はこれで終わりだ

ならばこれは何だ?

 

マスターの受け売りだが東洋には輪廻転生という宗教概念があるらしい

端的には人生の終着点を迎え息絶えた生物は膨大な時間をかけ前世の記憶が消えたまっさらな状態で再びこの世に生を受ける

新たな姿は人かもしれないし動物かもしれないし植物かもしれない……

ただ共通しているのは前世の事は覚えていない……ということだ

でなければその生物は前世と今世の乖離に苦しんだまま生きなければならなくなるから……だそうだ

最も例外的に前世の記憶を持ったまま新たな生を受けてしまう者もいるらしい

 

……つまりこれはそういう事だろうか……

気付けば俺の視界は低くなり何処かの家の中にいるようだ

俺は周りをキョロキョロと見回し

目的の物を探す

 

あった。鏡に近づき覗き込んだ

そこには見知らぬ子供の姿が映っていた

 

結論から行けば俺は普通の家庭の普通の子供として誕生していた

よく考えれば今世の記憶も確かにある

だがこの記憶……かつてのソリッド・スネークとして激動の人生を駆け抜けた記憶が今の俺にはある

 

忘れていた前世の記憶が戻ってしまった……それが俺の出した結論だ

 

その後若い頃から戦いの連続、果ては自分の死すら記憶している俺がまともな幼少期を送れる筈もなく

 

親やそれまでいた友人からは距離を置く感じで育ち青年期に入って俺は荷物をまとめた

さっさと家を出た俺が軍の門戸を叩くのは自然の流れだった

 

自分で言うのも何だが昔から組織に馴染めず一匹狼気質だった俺が真面目に軍人をやっているのはなかなかに新鮮だった

 

そして或いはこの出会いは必然だったのかもしれない

今が未来ではなく年代は過去なのはわかっていた

当然”あの男”がいることも

 

「…いいセンスだ。若いのになかなかやるな。だが、まだ甘い」

 

「クッ、早く殺せ」

 

俺は目の前の侵入者に対して抵抗を辞めた

この男は強い……俺が前世で培った戦いのノウハウ全てを活かしても御しきれない程に……

……いや。待て。俺はこの男を知って、いる?

……!まさか……

 

「…いい目だ。新兵の目ではなく、まるで歴戦の兵士の目だ。殺すには惜しいな……良し!」

 

「…!何を……?」

 

「何。ちょっと空の旅にご招待だ」

 

「何を言って!うっ、うわああああ……!」

 

俺の身体は上空に舞い上がる

文字通り飛んだのだ

 

驚いて下を見るとあの男のムカつく笑顔が見えた

 

「…良き空の旅を。」

 

 

 

「…カズ、聞こえるか?今一人そっちに送った。確認してくれ」

 

「ああ。こっちでもモニターしていた。しかし……凄いな。アンタは手加減していたんだろうがアンタにあれだけ食いつけるとは……」

 

「……いや。俺は本気だった」

 

「……冗談で言っているのか?」

 

「さあ?どっちだろうな?……丁重に扱えよ、そいつはかなりの狂犬だ」

 

「了解。ボス」

 

 

後にそんな会話をされていたと聞いた

 

さて俺はあの伝説の男と再び出会ったわけだが……

かつては敵対し果ては殺してしまった

俺の死の直前改めて俺の前に現れた奴はすぐに息絶えてしまった

 

俺があの男に抱く思いは複雑だ

苦手だった?嫌いだった?或いは憎んですらいたのかもしれない

だが、そんな確執は向こうに置いてきた

だから……

 

「…お前、名前は?」

 

「…スネークだ。ソリッド・スネーク。よろしくな、BIG BOSS」

 

今度は本気でアンタの下に付くのも悪くない。そう思える

 

 

 

「ところで葉巻は飲るか?」

 

「俺は煙草派だ」

 

「……何だと?」

 

 

 




切実に文才とまともに書く時間が欲しい


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イレギュラーハンターアトム

オリキャラではなく故手塚治虫先生が生みの親の十万馬力の彼です


「アトム調子はどうだ?」

 

「大丈夫だよ。ゼロ。」

 

「…みたいだな。次からは一人でも大丈夫そうか。」

 

 

 

俺は目の前にいる少年の姿をした“ロボット“とそんな会話を交しながらこいつに初めてあった時の事を思い起こしていた

 

「エックス。レプリロイドを一人保護したと聞いたが?」

 

「ああ。」

 

「……別に構わないが何で民間のメディカルセンターじゃなくてこっちに連れてきた?」

 

「それが……見たこともない型のレプリロイドなんだ」

 

「……どういうこった、そりゃ?なら尚更こっちに連れてきたらマズイだろ」

 

「大勢のイレギュラーに襲われててね、姿も子供だったからつい気になってしまって……」

 

「…助けたはいいものの製造元の不明なレプリロイドである以上民間のメディカルセンターなら騒ぎになるか。全くお前は……」

 

「すまない……ゼロ……」

 

「…いいさ。お前の性格はよくわかってるつもりだ。長い付き合いだしな、と、着いたな」

 

 

「……エックス、こいつが?」

 

「ああ。」

 

「……確かに見たことのない型のレプリロイドだな。」

 

「動力源は核らしい」

 

「おいおい、勘弁してくれ……厄介事の予感しかしないぞ。他にわかったことは?」

 

「後はブラックボックス。メカニックによると不確定要素が多すぎて手が出せないとか。ただ、やけに古い部品が使われているらしい」

 

「例えば?」

 

「……真空管。」

 

「……冗談にしては質が悪いぞ。」

 

「いや、本当だ。部品が古すぎて下手に弄れないという事情もあるらしい」

 

「……一応聞くが捜索願は?」

 

「今の所出されてない」

 

「当然か。どちらかと言うと博物館に……いや。それでもまだ古いな、現役稼働してるわけじゃない以上捜索願も出てるはずないか」

 

「…」

 

「エックス。これは俺達の手に負えんかもしれんぞ。せめてこいつがイレギュラーで無い事を祈るばかりだな。だが、もしもの時は……」

 

「わかってる。俺が責任持って止める」

 

「そう気負うな。俺も手を貸す。正直予感はあるんだ。こいつが暴走したらお前だけでは多分止められない……そんな予感がな」

 

「…わかった。頼むよ、ゼロ」

 

「任せろ。俺達二人なら多分止められるさ。まあこいつが善良ならこんな心配もいらないが」

 

「そう願いたいな。正直子供を破壊するのは少し……」

 

「まあな。俺も気持ちはわかるよ」

 

「……んっ……」

 

「……!ゼロ!」

 

「…ここは?」

 

「気が付いたか?俺はゼロ。こっちはエックス。お前、自分の名前は言えるか?」

 

「…僕はアトム……それが僕の名前だ」

 




アトムのキャラが掴めん……エックスとゼロも口調怪しいけど

一応アトムがタイムスリップして来た体で考えてる


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キリトさん(オリ主憑依)ラフコフ入り

どれだけキモイ文章書けるか試したがこれが限界
伏せ字は自主規制


「行くぜ、キリト」

 

「了解。poh」

 

俺は憧れの男と共に戦場に躍り出る

 

俺は今生前大好きだった作品の世界にいる

死んだのはわかるが経緯はよくわからない

ただ俺が覚えているのは生前何度も読み返すほどソードアートオンラインという作品が好きでオタクの友人達がキリトやアスナなどの王道キャラにハマる中一人だけ悪役のpohに傾倒していたこと

 

それはもう客観的に見ても以上なほど好いていた、憧れていた、そのイカれているのにどこか人間味を残しその癖主人公への思いは当初ことごとく自分の邪魔をする復讐心かと思っていたらまさかのの歪んだ愛情である事を知り周りがドン引きする中俺は更にこの男が好きになった

 

別に俺はホモじゃなかった

だがこの一件で目覚めたと言ってもいい

俺はpohに全てを捧げたいとさえ思った

 

そして俺は気付くと桐ヶ谷和人としてこの世界に生を受けていた

俺は歓喜した、もう少し歳を重ねてから自我を持っていれば■■……いや。■■すらしたかもしれない

これでpohの傍に行くことが出来るのだから

 

とりあえずsaoが手に入るまでほぼ原作通りに行動した(ベータテストは落ちた)

 

そして仮想世界に来た日

俺はすぐに動いた

俺がまずしないきゃならないことは自分を鍛えることだ

pohの傍にいるためには自分を鍛える必要がある

幸いpohは後からsaoにログインする筈だし時間は腐る程ある

 

ちなみにクラインイベントは起こしてない

野武士ヅラに興味は無い

最もディアベルのようなイケメンがいいわけでもないあくまでも俺が好きなのはpohだけだ

最もゲームそのものもある程度進める必要があるだろう

とりあえずディアベルはほっといても必ず死ぬだろうがキバオウは目障りに過ぎる

まあ後で人数集めて殺しゃあ済む話か

 

pohには幸い誰よりも早く接触出来た

実力を示し彼がラフコフ結成を出来るように働きかけもした

今は仮想世界に閉じ込められてから一年と半年というところ

到達階層は未だ五十層

これは早いのか、遅いのか?

既に原作知識は薄れつつあるのでわからない

 

俺は現在攻略組に所属していない

ドロップアウト組の振りをしてラフコフの活動範囲の拡大に務めている

俺のラフコフでの肩書きはサブリーダーと言ったところ

メンバー内では唯一pohを名前呼びで許されている立場だ

仲間には信頼されてるし彼からは信頼は恐らくされてないが信用はされているだろう

 

今はそれでいい

考えてみれば俺は原作キリトのように敵の立場ではないし奴ほどの実力はさすがに無いのだからこのままではpohから情愛を抱いて貰えないのはわかっている

 

今はそれでいい

俺は必ず彼を堕とす

それは決意であり確かな事実としてあるのだ

そして彼を堕とした先は俺にとってゴールじゃない

 

正直ラフコフ結成もついでだしゲームのクリア状況すら興味も無い。何なら目的さえ果たせればその後の自分の命すらどうでもいい

 

俺は彼を堕とし信頼と愛情を勝ち得た上で殺したいのだ

 

その時彼がどんな顔をするのか、俺はどんな想いを抱くのか

 

……ああ考えただけで……

 

「…キリト?どうした?」

 

「……いや。何でもない。行こうか、poh」

 

かりそめのはずの仮想の肉体が疼いて仕方無いのだ……

 




推しキャラはシリカとユージオとリーファです


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おっさんが頑張るsao

saoでもう少し年長者に活躍して欲しかったという願望


「たっ、頼む!殺さないでくれ!何でもするから!」

 

私はそう言って私から距離を取ろうと這いつくばって逃げようとする若者の背中を踏みつける

 

「ぐえっ!」

 

蛙に似た鳴き声だ

 

「……君はそう言って助けを求める者を何人殺したのかね?五人?十人?いや。もっとだろうな」

 

「いや。だって、それは……!わかるだろ!?大体ここで死んだって現実で死ぬかどうかなんてわからないだろう!?」

 

ふむ。正論だな

 

「……良いだろう。」

 

「!…たっ、助けてくれるのか!?あっ、ありがとう!」

 

私は背中から足を退けずに所謂処刑人の剣エクスキューショナーズーソードを彼の首に当てがう

 

「……え?」

 

「良いだろう。君をこの世界から解放してあげよう」

 

「まっ、待ってくれ……!助けてくれるんじゃないのか!?やっ、やめてくれ……!俺はまだ死にたくない!」

 

耳障りだな

 

「ここで死んでも現実で死ぬかどうかわからないと言ったのは君だろう?もしかしたら現実世界に帰れるかもしれないぞ?ついでに確かめてくるといい」

 

「……ひっ!やっ、やめ……!」

 

私は剣を一気に振りかぶり首を飛ばした

しばらく雑音が響いたがやがて破砕音を立てて害虫が消えるのが見えた

 

「……これで五人か。先は長いな」

 

連中の残党はまだ残っている。こんな所で休んではいられない

 

「……ああ。攻略も進めないとな。また彼に無理をさせてしまう。やれやれ……若い者に任せられないのは辛いものだ」

 

私は剣をストレージに仕舞うと歩き出した

 

ソードアート・オンライン……それは仮想現実にて剣一本で冒険が出来るというかつてモニターの向こうから眺めるしか無かったゲームの世界を体感出来る夢のゲームだった

 

私は妻を失ってから男手一つで息子を育て上げた

私は実は娘が欲しかったが実際に授かってみると可愛いものだった

息子なんて父親に反抗してなんぼ……が普通かもしれないが私達は比較的仲がいいほうだったと思う

 

そんな息子から誘われたのがこのソードアート・オンラインだった

私は当初断ろうと思っていた

ゲームは若い頃以来やっていないし決して上手い方じゃなかったから

 

ただあいつの友人の父親……つまり私の同僚も自分の息子と参加すると言う

熱心に誘われた事もあり私は参加することにした

 

それに最近息子との時間もなかなか取れなかったから丁度良いと思ったのだ

 

息子はベータテストに受かったが私は落ちるという笑い話もあったが私は何とか自力でナーヴギアとソードアート・オンライン……略してsaoを手に入れる事が出来た

 

正式サービス開始当日息子の方が用事でログインが遅れる事になった

 

「父さんは先に楽しんでてくれよ。絶対損はさせないからさ!」

 

そう言われた私は

 

「ああ。先に行って待ってるぞ」

 

……今ではほっとしている。息子が遅れたおかげでこのデスゲームに巻き込まれずに済んだのだから

 

惜しいことに私の同僚は自分の息子とログインしてしまった

しかもベータテスターではなかった彼はデスゲームだと知る前に死んでしまった

 

私は絶望する彼を何とか立ち上がらせデスゲーム宣言を受け狼狽える若者達を何とかまとめあげた

 

……現実での経験がこんな所で役に立つとは思わなかった

 

あれから随分時間がたったものだ

初心者だった私が今では攻略組の一員だ

かつてはギルドを率いたこともあったが今はソロだ

 

……同僚も部下も奴ら……ラフィンコフィンに殺されてしまった

 

今の私は攻略組のプレイヤーにして史上最悪のPKKだ

 

こんな私を見て息子は何を思うのだろう……?

……正直に言えばそう考えてももう何も感じない

 

……今の私に出来るのは汚れ仕事を一手に引き受け若者を導くことだけだ……

 




主人公

現在高校生になる息子を持つおっさん(年齢は考えてない)
若者を導くと言いながら空回りしてるのが現状
しかも面倒な事を全て一人で片付けて仕舞うので攻略組の戦闘レベルは原作より低い(例外はキリト)
攻略組トッププレイヤーにして最凶のPKK
両手剣使いでPKKの際はプレイヤーメイドの処刑人の剣を好んで使う

攻略組の父親と呼ばれその優しすぎる人柄から割と慕われているが自分のギルドを全滅させられた経験からPKに対しては沸点が低くかつ冷酷

キリトに自分の息子を重ね合わせ無理をする彼を気遣う(実際は原作より多少ペースを落としてるキリトより攻略とPKKを兼任してる主人公の方がオーバーペース)


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最凶の私

これどういうルートを辿ったほむらなら勝てるんだろうか


私はまどかの力を奪い【悪魔】となった

皆、特に美樹さやかには敵視されてるしもしかしたらまどかとも敵対するかもしれない

でも今更悔いはない

 

さあ、私の前に最初に立つのは誰かしら……?

 

「まどか、待っていて。次こそ貴方を救ってみせるから。」

 

私は魔女化したまどかを見て涙を堪えながら再び時間を巻き戻す

 

今度こそ……

 

……様子がおかしい……いつもの巻き戻しと違う…!?

 

「あら?……成程。こういう可能性もあるのね……」

 

今私の前にいる人は……

 

「……私?」

 

「そう。私は貴女よ。」

 

「…違う!貴方は誰なの!?」

 

目の前にいる自分と同じ顔をした人物から発せられる気配は明らかに人の気配じゃない……魔女とも違う……一体これは……?

 

「……そうね。私は貴女が辿るかもしれない可能性の一つよ…」

 

「……!」

 

私は咄嗟に持っていた銃を構えた

 

「いきなりご挨拶ね。」

 

【彼女】は明らかに危険……!

先手必勝で決める……!

時間を……

 

「…!どうして…?」

 

「言ったでしょ。私は貴女。貴女が出来ることは私にも出来る。そして……」

 

「うっ!」

 

何処から攻撃が……

 

「貴女に出来ない事も私には出来る。そういう事よ」

 

私は地面に手を付き立ち上がる

 

「…確かに加減はしたけどまだ立ち上がれるのね」

 

「貴方はここで止める……!」

 

「…私の目的はもう達したわ。これ以上は何もするつもりは無い。それでも私と戦うの?」

 

私は【彼女】を睨みつける

 

「そう。……眩しいわね。きっと、まだ貴女は全てを諦めていないのね……私にも案外そういう道もあったのかしら?」

 

「でも私には勝てないわ。魔法少女どころか魔女すらも超えた私には」

 

「もう黙って!」

 

私は拳銃を【彼女】に向けて撃つ

何となくイラついて仕方ない

訳知り顔で宣う彼女の姿がとにかく癪に障るのだ……!

 

「何の奇策もなくそんな事をしても私には届かないわ。」

 

あっさり躱されて……

 

「うぐっ!」

 

また見えなかった……一体何処から……?

 

「…そろそろ鬱陶しくなってきたわね。」

 

「!それはこっちの台詞よ…!」

 

私はまた拳銃を構える

今の私にはこれしか手持ちが無い……!

 

「…」

 

どうして届かないの……!

 

「相手がまどか達ならともかく私は…」

 

再びその訳知り顔に向けて発砲……当たらない……!

 

「自分にはこれ以上手加減出来ないわよ」

 

「がふっ」

 

これは……まさか!

 

「私の攻撃に予備動作は要らないわ。そもそも攻撃とすら私は思ってない」

 

「今の私は、最早、ただ思うだけで魔法少女の肉体を傷付けることだって出来る」

 

そんな……

 

「帰りなさい。貴女がこの世界に来れたのは恐らく単なる偶然。」

 

「今ならもう一度時を戻せば帰れるでしょう」

 

「……嫌よ。私はこの場で貴方を倒す」

 

「…」

 

「そしてその力を手に入れて今度こそまどかを助けるのよ!」

 

 

「…そう。面白いわ。なら奪ってみなさい、この力」




何とも言えないコレジャナイ感……
せめて文章力が欲しい
というかさすがに誰かこういうの既に書いてそうだ


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スプリガン×シンフォギア

時代背景、遺物に関わる設定、などなど超えなきゃいけないハードルが山程


特異災害対策機動部二課……主にノイズに相対する者達が所属する組織

今ここに潜入を試みる者がいた

 

「…たくっ。ティアの奴、こんな警戒厳重な場所に潜入しろとか人使い荒すぎるだろ……こちとら昨日まで南米でゲリラとドンパチしてたから久々に日本で休暇取ろうと思ってたのによ……」

 

頭をガシガシと掻きながらボヤく青年の名は御神苗優

大財閥アーカムが有するエージェントスプリガンの中でも超一流の実力を持つ

 

「ノイズは正直俺でも手を出せねぇ……遺物を扱う癖に内情を悟らせないからってアーカムが介入するのはおかしいだろ、絶対。」

 

「…はぁ。しかもここ……リディアン音楽院って女子高じゃねぇか!こんな所に本当に二課の本部があんのか?……ティアの奴……間違いでしたじゃすまねぇぞ……」

 

「…いや。確かに二課の本部はここにある。」

 

「!誰だ!テメェ!」

 

この俺が気配を感じなかった!?何なんだ!?このおっさん!?

 

「自己紹介をしよう。俺は風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課の司令官だ。リディアン音楽学院へようこそ。スプリガンの御神苗優君」

 

「…こっちの事はお見通しって訳か」

 

「君は裏の世界では割と有名だ。俺もこんな仕事をやっていると嫌でもそういう情報が入って来る。……さて、それじゃあ聞かせてもらおうかな、こんな夜更けにこそんな物騒な格好をして何をしに来たのか?」

 

「…そう簡単に答えると思うかい?」

 

「いや?思わない。君はまだ若いがプロだ。そんな君が簡単に目的を喋るとは思えない」

 

「…んじゃ、どうしようってんだい?」

 

「あまり子供を痛めつけたくは無いが力づくで口を割らせる事にしよう。君は拳法を嗜んでいるんだったな?師匠はあの朧だとか」

 

「…朧を知ってんのか?」

 

「面識は無い……だが彼もまた裏の世界ではよく語り継がれる存在だ。最もこっちは君と違って本当に噂程度しか語られていないが。朧も本名じゃあないらしいしな」

 

「朧と比べられちゃあ形無しだが俺も弱いつもりは無いぜ?司令官なら現場にあまり出ないんだろう?退いてくれると助かるんだけどなー。今日はこれで帰るしそれじゃあ駄目か?」

 

「…今日日上の者も戦えてなんぼだ。それに俺は実は期待している。裏世界で名を轟かせる君の力を直に見れることを。では始めようか?」

 

……!早っ!

 

「でやぁ!」

 

直感で迎撃。ってこのおっさんAMスーツを着た俺の拳を素手で止めやがった!?マジで何なんだこのおっさん!?

 

「…おう!まだ荒削りだが悪くない!アーカムなんて辞めてウチに来ないか!?歓迎するぞ!」

 

「ワリィな!断るわ!てかアンタの身体どうなってんだ!?何で身体強化してる俺の攻撃をこうもあっさり止められるんだよ!?どんな鍛え方してんだ!?」

 

「メシ食って映画観て寝るッ!男の鍛錬は、そいつで十分よッ!」

 

「んなわけねぇだろ!?」

 

マジでバケモンだ、このおっさん!何とか隙を見て逃げないと……!

 

「おいおい。そう釣れない態度取らなくても良いだろ。もっと男の語らいといこうじゃないか!」

 

「断固拒否する!」

 

ティア……マジで恨むぞ……!

 

 




何だろう……このカオス……

もう少しマシなネタ思い浮かべてた筈だったのにいつの間にかOTONAが暴走してた……


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ALOにロマサガの敵キャラが殴り込み

キリトに是非あの戦闘をやって欲しかった


ALOに最近出されたイベント告知で多数のネームドボスが配置された

 

ALOの全プレイヤー参加型のイベントでコイツらを討伐しなければこの妖精達の住む世界アルブヘイムが滅ぼされると言う

 

大半のプレイヤーは純粋にクエストとして楽しんでいるだろうがカーディナルの性質を知る俺達からしたら到底これが単なるイベントの謳い文句だとは思えない

 

なので恐らく俺達だけはガチに攻略を進めている事になるだろう

 

このイベントで討伐しなければならないボスは以下の通り

 

サルーイン、七英雄、四魔貴族

 

この内サルーインは現在発見されておらず、七英雄は各地でちまちまと暴れていたり何やら情報を集めていたりと色々な奴がいるがすぐさまアルブヘイムに影響があるとは思えないのでコイツらに関しては後回しだ

 

問題は四魔貴族の方だ

 

魔戦士公アラケス、魔龍公ビューネイ、魔海候フォルネウス、魔炎長アウナス

 

この内アラケスとアウナスに付いては既に居場所も割れており特に派手な動きをしてないのでコイツらも後回しだ

 

ちなみにもう何人かのプレイヤーが挑んだらしいが未だに未討伐だ

コイツらアビスとかいう異世界からアビスゲートを通してこちらの世界に送られてくるあくまで本体の影みたいな物らしいから正直それで勝てないとか本体がどれくらい強いのか想像もつかない

 

脱線したが結局問題は残りの二体ビューネイとフォルネウスの方だ

 

ビューネイは現在アルブヘイムの上空をとてつもないスピードで飛び回っているらしい

ゲートの場所は分かっているからそこで待ち伏せしていたレイドパーティがいたが総崩れになったことで今はシルフ、ケット・シー、サラマンダーの三勢力が協力し空からの討伐を試みているが歯が立たないとか

 

そして最後のフォルネウス……コイツが一番厄介かもしれない。

コイツのゲートは何と海の中にあるらしい

コイツ自身は動く様子が無いがコイツの率いてるMobが曲者だ

 

何と町に入り込んでくるのだ

現在圏内ですらALOに安全な場所は無い

 

……心底SAO時代にコイツらがいなくて良かったと思う。圏内に入り込んでくるMobがいたらどれほどの被害が出たか想像も付かない

 

今俺は仲間にはフォルネウスのいる海底宮に侵入する方法を調べてもらい俺はビューネイ討伐の方法を探っている

 

実はイベント告知には無かったが連中以外に何体かのネームドの出現が確認されているのだ

俺はその内の一体の場所に向かっている

 

危ない事はしないようにとアスナに釘は刺されているがこればっかりはゲーマーの性ってやつだ。正直上手くいけばこのまま直接ビューネイとの対決になるだろう

結構ワクワクしている

 

……着いた

俺は眠っている巨大なドラゴンの元に向かって行く

 

「…何だ妖精か。帰れ」

 

凄まじい威圧感。だがここで臆する訳には行かない

にしてもまさか最初から言葉を発するとは嬉しい誤算だな。正直最初は一戦交える羽目になるだろうと思っていたから

 

「グゥエイン!俺はお前に話があって来たんだ!」

 

「妖精如きがこの俺に話だと?」

 

「ああ!そうだ!」

 

言いながら俺はストレージに武器を納める

 

「…ほう。面白い。良いだろう。言ってみろ」

 

「…ビューネイの事だ。」

 

「アイツの話を持ち出してくるとはいい度胸だ。」

 

やべっ!怒らせたか!?

 

「…で?奴に関して何の話があると言うのだ?」

 

ふぅ……

 

「…簡単な話だ。ビューネイを倒すのに力を貸して欲しい。」

 

「…ほう?」

 

コイツがビューネイと戦っているという目撃談は多数ある。後は乗ってくるかどうか……

正直アルゴが調べて来たコイツと妖精との因縁を聞く限り難しいかもしれないが……

 

「お前にとってもアイツは目の上のたんこぶの筈だ。悪い話じゃ無いだろう?」

 

「…我が母ドーラはかつて妖精と共にビューネイを倒した。」

 

「だが最後にはその妖精に殺されたのだ。妖精とは勝手なものだ。」

 

「だがビューネイが空を我が物顔で飛び回るのはガマンならん。協力してやっても良いぞ」

 

「さあ乗れ!」

 

俺はグゥエインの上に飛び乗り再びストレージから剣を取り出し装備する

 

「…妖精。貴様名は?」

 

「キリトだ」

 

「…良し。では行くぞキリト!」

 

「おう!」

 

正直興奮が抑えられない

こんな浮ついてて勝てるのだろうか……

 

 




ゲームやってないと分からないな、これ


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新しい家族

正直イタチいても浮くんだよなあ


俺は目の前の少年に最愛の弟の未来を託した

本当は弟の行く末を見届けたいが俺はもう死んだ人間だ

これは本来有り得なかったことなのだ

 

『…ナルト……サスケを頼んだぞ』

 

後悔はあるが未練はもう無い

 

そして俺は目を閉じる

 

俺は別に何かを望んだ訳じゃない

少なくとも新たな人生など望んじゃいなかった

 

「…■■■?どうかしたのか?」

 

「…すまん達也。少し眠ってしまったようだ」

 

「入学式まではまだ時間があるから気にするな。にしても珍しいな■■■が居眠りとは……」

 

「まあたまにはそんなこともあるさ」

 

俺は今国立魔法大学附属第一高等学校を訪れている

俺はあの時確かに二度目の死を迎えたはずだった

 

だが俺は気が付くと再びこの世に生を受けていた

ここは俺が前世でいた世界と違い忍術では無く魔法が一般的に認知された世界

 

そんな魔法を駆使する者達を魔法師と呼ぶという

俺は今世は孤児院で育っていた

親は不明。ある日孤児院の前に俺は捨てられていたらしい

 

そして孤児院にて過ごしていた所を俺に宿っていた魔法師としての才能を期待され司波家に養子として引き取られた

 

ここにいる司波達也とこの場にはいない妹の司波深雪とは義兄妹の間柄という事になる

 

「昨日眠れなかったのか?」

 

「…いや。睡眠はきちんと取ったはずだったんだが……」

 

「…疲れているなら寝てていいぞ。入学式まではまだ時間がある」

 

「いや。大丈夫だ。これ以上寝るとかえって入学式の最中に寝てしまうかもしれん」

 

俺はスリープモードになっていたタブレットを点け読みかけだった電子書籍の画面を呼び出した

 

「そうか。」

 

達也はそう言うと自分も読書に戻ったようだ

 

……本の内容は頭には入っていない

俺の思考を占めているのは先程まで見ていた夢の内容だ

 

前世の事を夢に見たのは久しぶりだ

最も今世を歩み出してからずっとゴタゴタしていて落ち着けたのは本当に最近になってからという事もある

 

俺は横にいる義弟の顔を盗み見る

正直司波家に引き取られてからというもの

一見するとサスケよりは手のかからないはずの達也と深雪に苦労させられっぱなしなのだ

 

第一所詮養子でしかないはずの俺より何故司波家の正式な子供である達也が疎まれているのか……

 

俺は才能を買われて養子にされたわけだが純粋な魔法師としては凡庸だ

 

前世の忍術の名残か

いくつかの術を使えるが結局の所この世界ではあまり実用性は高くない

 

そもそも今世の肉体の総チャクラ量が低いのだ

これではほとんど役には立たん

 

……だが俺は家族を守る

結局それが俺の存在理由なのだろう……




司波■■■(名前未決定)
前世でのうちはイタチ
今世では司波達也と司波深雪の義理の兄(ただし達也とは同年代)
司波達也と司波深雪と比べているため本人は魔法師としては大したこと無いと思っているが実際はかなり優秀
体術では達也どころか八雲すら凌ぐ

出オチだな


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ブシドーブレード×ハイスクールDxD

分かりづらいネタ


「…うっ、空蝉さん……」

 

「スマンな。辰美。陰の事を知られた以上お前には死んでもらうしかない」

 

「がっ、うっ……」

 

急所は外した。儂にはこれぐらいしかしてやれん。後は……

 

「空蝉さん。」

 

「来たか、曹操」

 

「…彼がそうですね?」

 

「うむ。」

 

「…本当にこれで良いんですか?」

 

「それがこやつの為だ。奴等は今力を付けている最中だ。いずれは攻めてくる。その時こやつには背負わせたくない。」

 

「それで俺たちに預けると。しかし彼は多分自分から首を突っ込むと思いますが?……それに俺たちも闘争とは無縁ではない」

 

「…その時はその時だ。どちらにせよ、今は何も伝えん。それにそうなればこやつは身内を斬ることになる」

 

「貴方方と連中の因縁は聞いています。ですが部外者である俺が知って彼が知らないというのは……」

 

「それで良い。事情も伝えず貴様らに預ける訳にも行かん。それに全てを忘れて純粋に剣の道を歩んで行くのがこやつの幸せであろう」

 

「俺は貴方がどうなのかと聞いているのですがね…まあ良いでしょう。俺たち英雄派は鳴鏡には借りがある。引き受けましょう。……応急処置は済みました。」

 

「ああ。早く連れて行ってくれ。儂は奴と決着を着ける」

 

「…鳴鏡館師範代…彼に一体何があったんですか?以前お会いした時は野心こそあれど立派な人物だったと記憶しているのですが…」

 

「儂にもわからん。だが奴はもう妄執に堕ちた。アレはもう人とは呼べん。ただの獣だ」

 

「死なないで下さいよ?俺たちはまだ貴方に借りを返しきっていない。ましてや俺と貴方との決着もまだなんですから」

「当たり前だ。儂はまだ死なん。捨陰の事もある。若い連中だけには任せられん」

 

「ええ。信じていますよ。俺たちの方でも奴らの動きを押さえておきましょう。ではいずれまた…」

 

「うむ。……曹操!伏せろ!」

 

「!……こいつらは!?」

 

「捨陰の手の者じゃ!もうここまで……貴様らの目的は辰美か!?」

 

「…」

 

「黙りか。しかし貴様ら如きに儂が斬れると?舐められたものだ」

 

「空蝉さん。手助けは必要ですか?」

 

「要らぬ。辰美を連れて早く行けい!」

 

「…分かりました!ご武運を!」

 

「貴様ら何処を見とる?貴様らの相手は儂だ!さあかかってくるがいい。ここは通さん!」

 

ここを死地にするつもりは無い

 

全て切り捨てる!

 

やはりこれはあやつにはとても背負わせられんな

出来ればあやつが戻る前に因縁を終わらせたいものだな……

 

柊大納……この分だと奴を先に片付けるべきかもしれん……

 

 

 




基本タイトル通り
しかし結構無理があるな。このクロス


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いしのなかにいる!

あの悪夢よ再び


いしのなかにいる!

 

……何言ってんのかわかんないって?

OK!!説明しよう

俺はレトロゲームマニアだ

特に古き良き時代のダンジョンゲームが大好きだ!

 

そう!その日も普通に徹夜でゲームしてたんだ!

……そこ!ニートとか言わない!俺はまだ学生だ!

つーかすねかじりは認めるがゲーム代ぐらいは自分でバイトして稼いでる!

ボッチもやめろコンチキショー!

 

そうだよ!ボッチだよ!何か悪いのかよ!?(泣)

 

……すまない取り乱した

要約するとだな……現代のゲーマーには珍しくオフラインのゲームで寝落ちしたんだhahahaha!

そんな顔するなよ!ジョージィ!?

 

ウザイって!?hahahaha!

……ごめんなさい!謝りますから帰らないで!マジで話聞いて!

ちょっと現実直視出来なくて逃避してただけなんです!

仲間ともはぐれてるしマジで心細いんです!ホント助けられなくてもいいから話だけでも聞いて!

何でもしますから!

 

……サンクス!話を続けるぜ!

んで寝落ちしちまって目が覚めたらこうだな……中世風の街にいたんさ!

いやあ……ビックリしたねえ!

でもそれと同時に歓喜したよ!

やっと憧れた世界に来れたんだから!

 

二次創作にありがちな異世界転生か転移ってやつだ!

hahahaha!

……失敬

とまあせっかく異世界に来たんだからまずは何処の世界か確認しようと思ったんだ

……え?いや。そりゃあオリジナルの可能性もあったけどさ……閃いたんだよ!俺のオタクとしての勘だろうな!

そう!ここは何らかの作品世界だと!

んで確認しようとしたんだ!

 

さあここは何処の世界かなあ!?ドラクエか!?

それともFF系か!?

もしかしたらSAOみたいな仮想現実系かなあ!?

 

……うん。何が言いたいかはわかるよ。期待しすぎたんだよねぇ……

 

しばらく散策して分かった。ここは……

 

「…ウィザードリィじゃん。」

 

そう!ダンジョン攻略系の中でも歴史あるゲームでありその難易度は鬼畜とも言うべきあれだ!

 

haha!ワロス!

 

うん。まあ、好きだよ。ウィザードリィ

 

でもねぇ……生身で体験したいとは思わないよねぇ……

 

「茅場がウィザードリィ基準で迷宮区作ってたらSAOクリア者いなかっただろうなあ」

 

とか一時間ほどどうでもいい事考えてたよ

で、どうしたのかって?

 

いやあそりゃあやるでしょ!鬼畜だろうがなんだろうがせっかくゲームの世界に来たんだから!

 

大丈夫!異世界転生したんだから特典みたいの貰ってるはずとか言って武器も金もないまま酒場直行!仲間集めようとしたんよ!

もうねぇテンション振り切りまくり!気分は正しくこのすば!或いはダンまち!

 

……うん。集まったよ。何か弱そうなのが……

 

……そんな目で見ないでくれ。集まるわけないだろう!

今までロクな友達いなかったしそもそもまだ何の特典貰ったか分からなかったんだからさあ!

 

んでダンジョンに入ってしばらく散策してモンスターが出てきたから俺の秘められた能力よー!……とかやってたんだけど何も出来なくてさあ……

結果お荷物見る視線に耐え切れなくて逃げ出してその先で宝箱見つけたから何か良いもの入ってないかと思って宝箱開けたらテレポーターに引っかかったんだ……

 

……うん。状況説明おしまい。

んで何か助かる方法知らない?

ゲームだとこういう時リセットか、死亡扱いによる蘇生だったんだけど蘇生される気配もなくて……マジでどうにかなんない?

てっ、ああ!?帰らないで!マジで助けて!?あああああ……!

 

 




文字稼ぎの練習
こんなん載っけたら怒られそうな上既にありそうだが


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上条当麻になってしまった

タイトル通り


「かみやん…おい……かみやん!」

 

「うわっ!なっ、何!?」

 

「何?じゃないぜよ。さっきから読んでたんだぜい?」

 

「ごっ、ごめん…」

 

「…なあ、かみやん。何かあったのか?最近変だぞ?」

 

「ごっ、ごめん…」

 

「別に謝らなくていいぜよ。」

 

「うっ、うん。それで何?」

 

「…遊びの誘いぜよ。ゲーセン寄っていこうぜい」

 

「ごっ、ごめん。今日は……いや。今日も駄目なんだ。また今度!」

 

「あっ!おい!かみやん!?」

 

 

 

「どないしたんや?かみやんすごい勢いで教室出てったけど…」

 

「…」

 

かみやん…一体どうしちまったんだ……

 

 

 

「ハア…ハア…」

 

「僕は上条当麻じゃない……上条当麻になんかなれない……」

 

半月前

 

「…かっ、上条さんだ…!」

 

僕は昨日確かにいつもの様に自分の部屋のベッドで寝たはずだった

でも起きたら見知らぬ部屋にいたのだ

とりあえず起き上がろうとすると違和感を感じた

 

……僕は肥満体型だったはず

でも今僕の身体はがっしりしている

いわゆる細マッチョと言うやつだ

 

慌てて起き上がり身体に走る痛みを無視し腕に付いてる点滴を見てここが病院だと気づいた

僕は点滴スタンドを引きづり洗面所に向かった

 

そして鏡に映っていたのが上条当麻の顔だった

 

とある魔術の禁書目録は僕が読んでいた本だ

後でゆっくり読もうと思ってまだ序盤を流し読みしかしてなかった

 

ちなみにその時点で僕はインデックスに心奪われていた

ここがとあるの世界だとしたら……

そこでノックが聞こえた

 

ドアの方を見るとドアが開かれていくのが見える

 

「…わっ!?何してるの!?まだ寝てないとダメだよ!」

 

そこに天使がいた

そう僕が憧れた少女がそこに居たんた

 

「インデックス…」

 

「!わっ、私が分かるの!?」

 

「うん。分かるよ。無事だったんだね」

 

序盤は読んだ。彼女が僕に対してこう答えたということは本来上条当麻の記憶は消えていたということだろう

なら…

 

「インデックス、君が無事で良かった。」

 

歯の浮くような台詞がスラスラ出てくる

僕はいつこんなに軽薄になったんだろう?

……いや。僕はそもそも女性を口説いたことなんて無かったな

 

「…とうまー!」

 

僕は飛び込んできたインデックスを受け止めようして踏みとどまれず倒れ込んだ

 

その後僕は彼女を何とか宥めアパートの部屋に帰って行くインデックスを見送った

 

僕はこれはチャンスだと思った

そうこれは好きな子と同棲してるも同然

ましてやこのスペックの高い肉体

 

「ハーレムすら狙えるかも……」

 

僕はベッドの中でほくそ笑んでいた

 

……そのせいだとは思いたくない。僕だって本当にハーレムなんて望んだわけじゃなかったのに

 

これが僕の地獄の始まりだった……




主人公
上条当麻に憑依転生した中学生
インデックスが推しヒロイン
こちらに来る前は肥満体型の典型的ないじめられっ子だった
不登校で勉強は絶望的
上条当麻に憑依した事で薔薇色の人生を送れると思っていた
中学の勉強が分からないので能力開発どころか通常授業すらついていけない
コミュ障を患っており土御門、青ピは苦手
極度のビビりで喧嘩は全く出来ない
人助けなんて以ての外
土御門に不信感を抱かれている
生まれてこの方一度も家事をやったことがなく生活力が無い
掃除すらしないでいたらインデックスが主婦に覚醒した
現在家庭内ヒエラルキーはスフィンクス以下
メンタルは豆腐どころか最早液体
胃潰瘍による吐血を起こしている

こんな面倒な主人公扱えない


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炎使い異世界に行く

これ誰のことか分かんねぇな


「邪魔するぜ」

 

俺は依頼人の部屋の前のドアを開ける

 

「…ノックくらいしたらどうですか?相変わらずガサツなのですね」

 

ドアを開けてすぐ銀髪の女が青筋立てて小言を言ってくる

 

「…良いだろ、別に。大体そっちが呼び出したんだろうがよ。それともアレか?二人きりの時間邪魔されてキレてるとかか?」

 

俺はその女を煽る

正直これが割と楽しいのだ

向こうでは感じられなかったことだな

 

「!あなた……!」

 

おーおー怒ってる怒ってる

 

「グレイフィア。私の顔に免じてここは退いてくれないか?エルクも会う度彼女を怒らせるのは辞めて欲しい。それに彼女は僕の女王で妻だ。あんまりからかわれると黙っていられなくなるのだかね」

 

「サーゼクス様がそう仰るなら…」

 

「…悪かったよ…で、依頼の内容は?」

 

俺は形だけ謝罪を入れると用件を聞く

 

「私の妹の事は覚えてるかな?以前話したと思うんだが?」

 

「…ああ。確かリアスとかって言う名前だっけ?それがどうした?」

 

「うん。彼女は今日本の駒王町という場所で領主をしている」

 

「ほう…それで?」

 

「彼女の護衛をしてもらいたいのだ」

 

「…どれくらい?」

 

「期間は特に決めてない。まあ彼女が一人立ちするまでと言ったところかな」

 

「待てよ。確かそいつ学生だろ?さすがに四六時中張り付いてるのは無理だぜ?大体俺は長期依頼は受けるつもりは無いんだが?おまんまの食いあげだからな」

 

「君の駒王町での生活費は払おう。それから何も一日中監視してろとは言わない。空いてる時間は他の依頼を受ければいいしね」

 

「いや。だからどうやって護衛すんだよ?俺は部外者だ。学生の護衛なんて…」

 

「その点は心配要らない。もう君の転入は決定しているからね」

 

「……は?」

 

「ほらこれが生徒手帳だ。」

 

「…ふざけんなよ。俺はまだ受けるなんて…」

 

「頼む。」

 

俺に頭を下げるサーゼクス。チッ!

 

「わぁーったよ。……てか何から守れって?仮にも一人前になるため奮闘してる奴に横から手助けは不味いんじゃねぇのか?」

 

「…うむ。そうなんだがどうにも駒王町で異変が怒っているようなのだ。彼女では手に余るかもしれない。」

 

「過保護すぎじゃねぇのか?俺はそいつの思う通りにやらせるべきだと思うがな」

 

「そうは言ってもだな……身内としてはやはり心配なのだ。エルク頼む」

 

「…だから頭下げんなって。へいへい。分かりやしたよ。だが一つ条件がある」

 

「何だい?」

 

「俺は俺のやり方でやる。それが条件だ」

 

「ああ。それで良い。頼んだよエルク」

 

「んじゃ必要なもんは後で送ってくれ。俺も準備しとくわ」

 

 

「…彼に任せて大丈夫なんですか?」

 

「彼は信用出来る。それに実力は知っているだろう?」

 

「…」

 

「彼なら必ずリアスの成長を促してくれる。何せ背負ってるものが違うだろうからね……」




エルク
アークザラッドシリーズのキャラ
とある遺跡を調査中にハイスクールDxDの世界に転移した
現在は依頼を受けはぐれ悪魔を狩りながら生計を立ててる

設定に無理が……


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俺に彼女がいるのは間違っている

クロスオーバー…クオリティ考えれば自分で書くのではなく誰かに書いて欲しい所


「比企谷、何だ?これは?」

 

「…何とは?」

 

「私は作文の提出を課題として出したはずだ。テーマは……」

 

「高校生活を振り返って…ですよね?それが何か?」

 

「…ほう。このような文章を書いて提出しておいてそれで済ませるか。」

 

「…正直に高校生活を振り返って書いたはずですが不服ですか?であれば書き直しますけど……」

 

「……いや。もういい。君は放課後暇だろ?暇だよなあ?」

 

「…暇ではありません。今日も人を待たせているので早く帰りたいんですが…」

 

「却下だ。君には部活に所属してもらう。」

 

「拒否します。ではこれで…!いきなり殴りかからないでくださいよ」

 

「あー…すまない。つい手が出てしまったあ…!で、部活に所属してくれるね…?」

 

「ですから用があると「八幡君」卜部…」

 

「卜部。さすがに勝手に入ってくるのは感心しないな」

 

「八幡君と一緒に帰る約束をしてたのになかなか来ないもので……お話は聞いていました。八幡君に部活に入ってもらいたいんですね。でしたら私も所属します」

 

「…おっ、おい卜部?」

 

「ほう?何故かね?」

 

「彼氏と一緒にいたいというのは普通のことだと思いますけど」

 

「…おや?二人は付き合っているのかね?」

 

「……ええ。まあ……」

 

「八幡君。もっと自信を持って言ってもらいたいわ」

 

「……すまん。」

 

「まあ二人で入りたいと言うならそれも良かろう。ちょうど部員は一人しかいなかったしな。」

 

「え!?ちょっと待ってください!一人だと部活として成立しないはずじゃあ…?」

 

「その辺は色々訳ありだ。では行くとするかね」

 

「分かりました。行きましょう。八幡君」

 

「おっ、おう」

 

「…ここだ。入るぞ、雪ノ下」

 

「…平塚先生。ノックをしてくださいとあれほど……」

 

「君は返事をしないだろう?」

 

「いつも返事をする間もなく入って来るじゃないですか。それで何の御用でしょうか?」

 

「入部希望者だ。二人とも自己紹介しろ」

 

「……比企谷八幡だ」

 

「……卜部美琴よ」

 

「……先生。卜部さんの方はともかくこの男は駄目です。この腐った目……身の危険を感じます」

 

「ああ、その辺は大丈夫だ。彼は小心者だからな。それに彼は卜部と付き合っているそうだ」

 

「……冗談ですか?」

 

「生憎と冗談ではないようだ。私もとても信じられないが」

 

「…卜部さん、この男に何か弱味でも握られてるの?」

 

「いいえ。私は私の意思で八幡君と付き合っているわ」

 

「…そう……」

 

「さてと。後は若いものに任せる。三人で親睦を深めたまえ」

 

 

 

 

 




謎の彼女Xの卜部美琴……かなり前から思い浮かべてはいたがそもそもキャラが掴めない。実際には八幡と相性悪そうだしなあ


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リアリストな正義の味方

唐突に思い付いたネタ


始まりは些細なことだった

 

正義の味方の味方になると誓ったあの日からしばらく経った頃の話だ

 

重い荷物を持って酷く疲れているらしいおばあさんがいた。

俺は持ちましょうか?と声をかけた

初めは渋っていたが彼女はやがて折れた

荷物を持つだけでなく俺は更に彼女を背負った

 

結局俺は彼女の家まで荷物と彼女を運んだ

その時彼女は執拗にお礼がしたいと俺を家に上げようとしたのだ

結局断りきれず彼女にお茶とお菓子をご馳走になり彼女の家を辞するとき俺がポロッと漏らした今は一人で暮らしているという話を覚えていたのか彼女は俺に半ば強引に俺に自分が作ったという惣菜を渡したのだ

 

それからというわけでは無いが俺は明らかに変わったのだ

俺もどこかで気づいていたのだろう

 

無償で人を救い続けるなんて不可能だって

 

人を助けていくには必ず先立つ物が必要になってくるのだ

 

俺には金が無いわけじゃない。でも湯水の如く使っていれば直ぐに底を突く

俺が倒れれば人を救えない、それは許容出来ない

 

だから……

 

「遠坂、俺と同盟を組まないか?報酬は要相談って事で。これなら未熟者の俺と組む理由が出来るだろう」

 

「……いいわ。同盟成立よ」

「慎二、俺と組もう。メリットは……分かるだろ?」

 

「……ふん。僕じゃ半端者のお前相手でも勝てないな。ましてやお前は取引で嘘は付かない。何を考えてるかはしらないけど。いいさ、乗ってやる。僕もあの爺さんの顔を見るのに飽き飽きしていた所だ」

 

「キャスター…お前はマスターといられればそれでいいんだろう。なら俺の手を取れるだろう。俺は聖杯に興味が無いからな。最もセイバーは別だろうが」

 

「……坊や、貴方には甘さがある。少しでも油断したら貴方の首を取るわ」

 

「アーチャー!これが俺の答えだ!我武者羅に周りを顧みず戦闘機械となったお前とは違う!」

 

「御託を並べる暇があるのならその力を証明して見せろ!」

 

「英雄王。お前から見て俺はどうだ?薄汚く生き足掻く俺はどう見える?……答えろよ!裁定者!」

 

「吠えたな!身の程知らずの贋作者が!」

 

「セイバー…俺はお前の願いは否定しない。過去をやり直したいと思うのは英雄でも人間でも変わらない自然な事だ。……唯、俺はそうしたいと思わないだけだ。何か間違ってるか?」

 

「シロウ…貴方は…」

 

「言峰…お前には分からないだろうな。人として壊れているお前には」

 

「……衛宮士郎、何を考えている?」

 

 

「聖杯は破壊する。皆、力を貸してくれ」

 

多くの敵だった者さえとも肩を並べられる

ああ……きっとこれが本当の……

 




衛宮士郎の魔改造
要するに救う目標に自分が入っていることと救うために手段を選ばなくなっただけ
ついでに言えば魔術も多少上方修正入ってるから原作以上に無茶が出来る
単なる俺TUEEEE系
実は途中で何を書きたいのかわからなくなったのが本音
最後のシーンは普通に言峰やギルガメッシュ、アーチャーまでいたり
……実際どうすりゃこういう展開になるんだろうか?


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ブラック・ブレットの世界に新羅カンパニーがあったら

ただし作ったのはオリ主(本人は設定如何に関わらず扱いづらい)
タイトル詐欺になるのだろうか


私はショットガンを弄びつつ目の前の怪物……ガストレアを挑発する

 

「何だ?来ないのかね?」

 

言葉が分かるわけでは無いだろうが突進してくるガストレアに動じずショットガンを構える

 

「それでは的だ。」

 

片手で撃つ

反動を気にせずリロード

ふむ。弾には余裕があるな

後から来る別のガストレアを宙返りをしてショットガンを撃ち込みながらそんな事を考える

 

髪をかきあげる

 

「全員で来たまえ。何。遠慮は要らんよ。」

 

遊んでいる場合では無い

そろそろ別の民警が来るはずだ

報酬を山分けする気は無い

 

それから体感で30分程でカタはついた

結局ショットガン以外の武装まで出す羽目になったのは業腹だが

 

「さて、報酬を貰えるかな……ああ、後から来たガストレアについては追加報酬を貰うのでそのつもりで」

 

私は苦々しげに頷く警官の肩を軽く叩く

 

「ん?もしもし?ああ、私だ……ほう?わかった。その仕事受けるとしよう」

 

「すまないが用が出来た。報酬は後で来る部下に渡しておいてくれ。」

 

私はそう言い歩き出す

……聖天子直々の依頼とはな

報酬は恐らく破格

怪しいが受けない理由は無い

 

第一会議室……ここか

私はドアを開け他の民警の面々がこっちを見てくるのを無視し自分の席を探す

 

新羅カンパニー……ここだな

私は机に足を乗っけて座る

 

周りの連中が睨んでくるが殺気を込めて睨み返し黙らせる

多くの民警が目を逸らすのを見て鼻で笑いつつ目を逸らさなかった数名を観察する

 

伊熊将監……確か三島ロイヤルガーターの所属だったか、天童木更……天童民間警備会社社長、それから社員の里見蓮太郎……こんな所か

 

後はイニシエーター位か

この程度の殺気で怯むとは情けない

 

そう考えてる内に伊熊将監がこちらに向かってくるのが見えた

 

来るか……そうしているうちに備え付けのモニターが点き聖天子が映った

依頼の内容はある民警に奪われたケースを取り返して欲しいとの事

 

私は話を聞きつつ先程入ってきた仮面の男を注視した

さっき普通にドアを開けて入りとある民警の社長が座るはずだった席に座ったのだ

 

私はその男に見覚えがある……蛭子影胤。かなり腕のいい民警で腐れ縁でもある

コイツが絡んでると知った時点で帰りたくなったのは言うまでもない

 

私は溜息を付いていたがどうせコイツは仮面の下でウインクでもしているのだろう

 

私は席を立ち徐にショットガンを構えると奴に向けて撃つ

 

「……久しぶりだと言うのに鉛玉を最初にぶつけるのは酷くないかい?」

 

「…おや?君への対応としては何ら間違って無いと思うが?」

 

奴は斥力フィールドを展開し防いでいる

周りの喧騒をバックに奴と会話する

 

「どうせ今回の一件は君の仕業だろう?今回は出直したらどうかね?こちらも忙しいのでね」

 

「そうしたいのは山々なんだがちょっと声をかけたい子がいてね」

 

「…そうか。では私は帰る」

 

依頼内容も敵も分かっている以上残る理由は無い

私が帰ろうとすると彼の娘蛭子小比奈が小太刀を持って向かってくる

 

ショットガンで受け止める

 

「…どうして帰るの?」

 

「私は、忙しい、から、ね!」

 

そうして彼女の腹を蹴り距離を取らせる

 

「…娘の躾がなっていないな」

 

「私の自慢の娘だ」

 

話が噛み合わん。付き合いきれんな。私は呆気に取られる他の民警を無視して会議室を出た

 




ルーファウス(中身はオリ主)

前世で死んだ時目の前に現れた神にブラック・ブレットの世界に転生させると言われファイナルファンタジーVIIのルーファウスの容姿とソルジャーの身体能力、新羅カンパニーの社長としての立場を望んだ
民警新羅カンパニーの社長を名乗っているがそもそも部下は全員事務仕事専門で現場に出ているのは専らルーファウス本人である。イニシエーターは付けていない
ルーファウスに似せようと日々の努力は怠らない(ある意味遠ざかっているが気にしていない)

迷走の産物(暴走とも言う)


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剪定事象の世界

「……今この世界にブリタニアという国は存在しない」

 

これは有り得ざる可能性

 

「……お前の力、私たち魔術師の間では魔眼と呼ばれる物だ。幾人もの魔術師がどんな非人道的な手を使っても欲しがる極上の神秘だよ。まあお前のそれは厳密に言えば違うようだが…ふむ。お前に興味が湧いた」

 

少年は魔術師と出会った

 

「…お前、私の弟子になる気は無いか?」

 

「…お前には驚かされる。天然とは思えないほどの潤沢な魔力にパンクのありえない強靭な魔術回路、そしてその得意魔術の異質性と不可思議な起源」

 

向こうの世界では力及ばなかった少年

 

「……お前はこちら側だ。そもそもお前が世界を渡れたのも偶然では無いのかもしれないな」

 

「……私がお前に出来ることはもう何も無い。その力好きに奮うといい。私の邪魔さえしなければ私も何も言わない。」

 

「……死に目に来られるとは師匠冥利に尽きると言ったところか…まあこの身体……もう何体目かも分からん……まだストックがあるのかも」

 

「……スカウトだと?生憎だが私は誰かと組む気は無いんだ。お前の共犯者にはなれないよ、ルルーシュ」

 

「……復讐に囚われるなとは言わない。私は言ったはずだ。好きにやれ、と。全てはお前の道だ」

 

そして少年の前に現れる新たな魔術師

 

「その強い心、面白い。私が手を貸してやろう。貴様の名は?」

 

「……ルルーシュ・ランペルージだ」

 

嘗て妹の望んだ優しい世界を作る為に悪に殉じた少年は再び暗躍する

 

「…日本国民よ、我が名はゼロ。」

 

「全ての国は私にひれ伏せ。」

 

少年とサーヴァントの圧倒的な力の前に全ての国家は消えゆく

 

「我が目的は全世界統一。敵対するものは容赦しない、だが我が支配を容認する者は全てを受け入れよう。」

 

異世界で少年はその手腕を奮い続ける

 

「……サーヴァント…これ程とはな。あの時俺の世界に彼らがいれば……今は詮無きことか」

 

「……既に国家統一は成った。だがあの男の話ではいずれ俺を止めに来るもの達がやって来るという」

 

「……人理保証機関フィニス・カルデア……」

 

「来るがいい。俺は逃げも隠れもしない。」

 

「俺はこの世界を守る。これこそナナリーが望んだ優しい世界。お前達に壊させはしない」

 

「……久しぶりだな、ルルーシュ」

 

「……蒼崎橙子。貴方はあちら側か。」

 

「……ああ。そうだ。」

 

「貴方とは敵対したくなかった」

 

「……私は遅かれ早かれ何処かでこうなる気がしていたよ」

 

「……始めよう。ルルーシュ。これは戦争さ。人理を守る者と焼却する者との」




亜種特異点合衆国日本的な
特異点って言うかほとんど異聞帯だな


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あやつり左近×ひぐらしのなく頃に

「ふー…暑いなあ……」

 

昭和58年6月…バスを乗り継ぎ都会を離れ僕はここ雛見沢村にやって来た

 

お爺様のお知り合いで僕もお世話になったことのある前原伊知郎氏の依頼でもうすぐ雛見沢村で行われる夏祭り「綿流し」にて人形芝居をやってもらいたいのだという

 

僕は話を聞いてたまたま予定が無かったこともあり引き受けた

……そもそも雛見沢村は人口2000人もいない村で娯楽もあまり多くないのだとか

観光地としての整備もされておらず村人も気の良い人達ばかりなのだがどことなく外部の人間を排斥する雰囲気があるらしい

 

前原さんはこの村を訪れてすぐに気に入りそんな村がこのまま徐々に衰退していくのがどうしても見過ごせないのだという

 

この村が生き残るには観光地化しかないというのが彼の持論だ

で、外の人間を集めるのに必要な行事を行う者として白羽の矢が立ったのが人形師の家橘家だったという訳だ

 

最も父は客寄せパンダにするつもりか!と憤慨していたけれど

 

僕としては前原さんの言い分は間違っていないと思うし割と高いお金を払って目の肥えたお客様の前で演じるよりはこういう場で芝居をする方が気楽だしなによりそちらの方が僕は好きだ

 

結局橘家としてでは無く僕一人がこの仕事を受けることになった

思いの外遠くて時間がかかったけれど…

 

「空気が美味しいなあ…」

 

良いところだ。都会の喧騒はここでは聞こえない。自然が溢れている。まあ……

 

「…このセミの鳴き声はちょっと…」

 

僕は苦笑した。ただでさえ暑いのに余計に暑く感じる。

 

「…あっ!忘れてた……」

 

僕は背中の木箱を下ろすと箱を開け中から"親友"を取り出す

 

「…右近」

 

「…ぷはっ!窮屈だった!……おい左近!着いてたならもっと早く出してくれよ!…暑!」

 

「大丈夫ですか?右近」

 

「大丈夫なもんか!左近。ここ暑すぎるぜ!」

 

「圭一君が迎えに来るまで少し時間がありますね。取り敢えず日陰に移動しましょうか」

 

圭一君は前原さんの息子さんで僕も何度か会ったことがある。最後に会ったのは小学生位だったな。今は確か中学生の年代のはず…

 

「そうしようぜ。暑くてかなわねえよ」

 

僕は右近と共に日陰に移動する

……涼しい

 

しばらくしゃがんで右近と談笑していると見覚えのある少年が歩いて来るのが見えた

 

「…あっ!左近さんに右近!」

 

圭一君だ。こっちに駆け寄ってくる

 

「久しぶりですね。圭一君」

 

「よう!圭一!相変わらずパッとしねぇ顔してんな!」

 

「お久しぶりです左近さん!うるさいぞ!右近!」

 

僕は綿流しのお祭りよりある程度早く来ている。滞在中は前原さんの家にお世話になる

僕は彼の案内で前原家に向かう

 




ひぐらしのなく頃に原作との相違

前原家は鬼隠し事件を把握している

圭一は事件を起こしていないが精神的に病んでしまったため彼の治療の為に前原家は雛見沢に移り住んだ

問題点

あやつり左近の連載時期と本編の日時が連動していた場合、昭和58年の時点で左近が一人で雛見沢村に来ている可能性は年齢的に低い

左近と右近のコンビはそれなりの数の事件を解決しているが戦績考えるとひぐらしのなく頃にはキツイかもしれない

古手梨花の警戒を解くのに何周すればいいか想像もつかない

そもそも左近自身が雛見沢症候群に陥る可能性あり

左近と右近の会話を書くだけで文字数を埋めれるが確実に作者も読者も混乱する

外部の人間を受け入れ難く歳の離れてる上に人形師という得体の知れない職業の左近は雛見沢部活メンバーと相性がいいか微妙

……挙げてったらキリがない

今更左近の口調を修正
会話時は基本誰に対しても敬語だった記憶(汗)


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盾に命を賭けるプレイヤー

ソードアート・オンライン……仮想世界にてモンスターと疑似的な命のやり取りが出来るはずだったそのゲームは本物の殺し合いと化した

 

HP全損=死……という非常な世界で用意された武器を敢えて使わず徒手空拳すら捨てて身を守るはずの盾に文字通り命を賭けるバカがこの世界にいた……

 

 

さて、盾では攻撃は出来ない……というのが今SAOにログインしているプレイヤーの常識だろう。(最も神聖剣というチート以外の何物でもない例外も存在するがここでは割愛する)

もちろんシールドバッシュという手もあるがそれはあくまで敵から少しでも距離をとるための苦肉の策であるのが普通である……否、そうでなくてはならない。

 

では今、この俺……キリトが見せられている光景はなんだろうか?

 

「死ね!オラ!」

 

……今、俺の目の前……盾でモンスターを蹂躙するプレイヤーがいた

 

敵の攻撃を躱しつつ鎧も着けていないそのプレイヤーは左右どころか上下にすら動き回りながら攻撃を捨てたタンク専門プレイヤーが持つだろう大型の盾で敵をひたすら殴るという暴挙に出ていた

 

鎧を着けた剣士のモンスターリザードマンが剣をろくに振るうことも出来ず盾でボコボコにされている。……いや。鎧を着ているからカンカン金属音が聞こえているしHPは減ってないから効いてはいないんだろうが攻撃?が激し過ぎて身動きが取れないようだ

 

「立ってんじゃねぇ!さっさとクタバレ!クソが!」

 

……リザードマンに理不尽過ぎる罵りをしているプレイヤーは俺に気づいてないようだがリザードマンは先程から俺をじっと見つめている

 

助けてくれと言っているように感じるがこちとらモンスターまで助ける博愛精神は持ち合わせてない

つーか……

 

「何で死なねぇんだよコノヤロー!死ね!死ね!」

 

……ボキャブラリーの欠片も感じられない罵りを続けるこの如何にも沸点の低そうなプレイヤーに声一つだってかけたくなかった

 

「死ね!死ね!死ね!……」

 

……声がだんだん小さくなってるところを見ると疲れてきてるらしい

 

……リザードマンが攻撃をしようと隙を伺っているのが手に取るように分かる

 

……モンスターを助ける義理はないがプレイヤーは別である

 

会わなければ良かったんだろうが見てしまった以上このまま放っておくのは非常に目覚めが悪い

取り敢えずもう少し様子を見ることにする

 

「…早う死ねや畜生!」

 

……そろそろ盾で鎧の着ているモンスターを倒せるわけないだろうと教えるべきだろうか……?

 

 




タイトルでオチてるので説明無し
中身も何もない三秒で浮かんだ話
SAOでやるべきネタじゃない気がしたのは粗方書き終わったあと


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悪徳の街にいるジャッカル

「どうぞ。ご依頼の品です。お改め下さい。」

 

私は目の前の男の前にアタッシュケースを置く

 

「…おう。悪いな。」

 

私は椅子から降りアタッシュケースに伸ばされた手を掴みそのまま床に組み伏せる

 

「!テッ、テメェ何を……!」

 

「…」

 

私は男の首筋にメスを当てがいそのまま男の耳に顔を近づけ囁く

 

「ちょっと貴方に聞きたいことがありまして。これ、中身は何です?……私もこの手の仕事をするようになって長い。詮索すべきでないのは重々承知しています。ええ。……ですが、依頼人の方に不義理があった以上話は別です。」

 

「…」

 

「ここロアナプラでフリーの運び屋というのは疎まれ狙われても仕方ない。しかし…今回これを運んでいる最中に絡んできたのは明らかに別件だ。」

 

「答えて頂けませんか?」

 

私はメスを少し横に引く

 

「ヒッ!おっ、俺は何も知らない!ホントだ!頼む!助けてくれ!」

 

どうやら本当に何も知らないようですね

私は彼の上から退いた

 

「…まあ良いでしょう。取り敢えず報酬を頂きましょうか」

 

屋敷から出る

外は夜になっていた

 

「…おっ、ジャッカルじゃねぇか!」

 

「おや、ダッチ…この時分からどちらに…?」

 

「イエロー・フラッグだよ。アンタも来るか?」

 

「…そうですね。同行しましょう」

 

ダッチ……私と同じくここロアナプラを根城にする運び屋ブラック・ラグーンの代表だ

私とは基本相手にする客層が異なるので仕事中にぶつかる事はほとんど無い

 

「そうか。……丁度いい。アンタに話があったんだ。」

 

「そうですか。では店に着いてから聞きましょう。ゆっくりと……ね。」

 

「…そう言えばダッチ、今日は一人ですか?」

 

「まあな。正直に言えば他の連中といたらアンタに声はかけなかったよ。特にレヴィがいたら、な。」

 

「彼女と私は合いませんでしょう。恐らくこれから先も」

 

「だろうな」

 

イエロー・フラッグの前に立ちダッチがドアを開ける

 

「バオ!邪魔するぜ!」

 

「…何だダッチか…お前一人……ゲ…ジャッカル……」

 

私は彼に笑顔で声をかける

 

「私がいては不服ですか?少なくとも私はこの店にあまり迷惑をかけた覚えはありませんが?」

 

「お前はダッチより色んな奴に嫌われてんだろうが。オマケに毎回殺しに使ったメスを回収しないで帰りやがって……」

 

「それは失礼しました。」

 

言ってる事は事実なので私は素直に頭を下げる

 

「…カウンターでなく奥に座ってくれ。問題を起こすなよ。」

 

そう言って適当に酒瓶を押し付けられる

 

 

テーブル席に付き店主から受け取った酒を並べる

 

「それで話とは?」

 

 



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魔法陣グルグル in 動かない大図書館

「お師匠様!私行ってきます!絶対に勇者様と魔王を倒します!」

 

「はいはい達者でねー」

 

私は自分の弟子を見送る……と、

 

「…パチュリー、何をしとる?お前も行け」

 

「……は?」

 

「いや~これで厄介払いが出来るわい。」

 

「オイコラジジイ、せめて聞こえないように言えや。つか何だ厄介払いって?今日までテメェの面倒見てやったの誰だと思ってんだコラ」

 

「良いからはよ行けはよ行け。今日まで育ててやった恩を返すのじゃ。勇者一行と旅をしてあわよくば金持ちになってワシを楽させとくれ。」

 

「…今までだって不自由させとらんだろうが。家に連れて来て早々家事全般やらせやがって。……良いわよ。出ていってやるわよ。今日までお世話になりました。」

 

「おう。行ってら行ってら~」

 

……突然だが自己紹介をしよう

 

私は東方Projectのキャラクターパチュリーの容姿と能力を持った元一般人である

いわゆる転生者というやつである

 

自称神から、「間違って殺しちゃった☆めんごめんご(笑)」

……という一件の後半ば強引に転生特典を選ばされそのまダーツで行く世界を決められてしまった

 

「異世界ダーツの旅www」とかやってた神をぶん殴ろうとして踏みとどまったあの時の私を褒めてやりたい

……というか手伝わされる天使の皆様の目が死んでるのを見てその気が無くなったというのが正しい

 

そしてパチュリー・ノーレッジの容姿、能力を持った私が着いた世界は魔法陣グルグルの世界

 

……あれ?私ここいていいの?

どう考えても私一人で魔王倒せるわよね?

……結局目立ちたくないはずの私は変なジジイに家に連れ込まれ家事をさせられるという事案待ったなし展開の後ジジイが連れて来たククリの師匠ポジションとなった

……この出来すぎな一連の流れ……絶対あの糞神の仕業だと思った

とはいえ私がやらなくて済むなら楽な事この上ない

 

ということでククリ自身のレベルとこの世界のレベルにあった魔法を適当に叩き込んだ後いざ送り出して肩の荷が降りたと思ったらこの仕打ちだ

 

「あの糞神……私が勇者一行にくっついて行ったら二人の出番が無いでしょうに。」

 

良いわよ。やればいいんでしょやれば。こうなったら派手に原作ブレイクしてやるわ。

 

そう意気込むと私は本家パチュリーにあるまじきスピードで森を猛ダッシュ!ククリ達を追いかける事にした

 

しばらく走ると散々見た黒いローブの後ろ姿

……ただ声をかけるんじゃ面白くないわね。少し脅かしてやろうかしら……

 

そう考えた私はスピードを落としククリとの距離をゆっくり詰めて行った……



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黒の剣士と守りし者

「…ククク。キリト君、ゲームの世界で勝ったからといって調子に乗らないでくれるかな。この力があれば現実世界では負けない。」

 

「くそっ!……この化け物め……」

 

「…その言い方は心外だ。これは神の力なのだよ!選ばれた者だけが持つことの出来る!お前のような凡人には一生手に入らない力だ!さあそろそろそこで転がってる魔戒騎士共々終わりに…いや。ただ終わらせたんじゃ面白くないな。散々人を嬲ってくれやがって!」

 

須郷が近付いてくる……何か!何か手は無いのか!?

 

「キリト!これを使え!本来は魔戒騎士しか使えない剣だが…きっとお前なら使いこなせる!ぶちかませ!あの世界で手にした全てを!」

 

「ライハ!魔戒剣を一般人に渡す気か!?何を考えてる!」

 

「うるせぇ!黙ってろザルバ!悔しいけどな、駆け出しの俺より剣の腕はあいつの方が上なんだよ……!さあ、受け取れ、キリト!あいつを倒すにはこの剣を使うしかない!」

 

「ライハ……分かった!借りるぞ!」

 

俺は剣を受け取っ……グッ!

 

「…何だこの剣!?信じられないくらい重いぞ!?お前こんなの振り回してたのか!?」

 

俺は剣を掴むことは出来たが持ち上げられなかった。

 

「やっぱり駄目なのか……!」

 

「だから言っただろ!あれは修行に修行を重ねた者だけがその手に持ち振るうことの出来る剣だ!あいつの剣技がどれほど優れてようとそう簡単には使えん!」

 

「ぐおおお……!」

 

持ち上がらない!くそ!もうこれしか手は無いんだ!

俺の身体がどうなろうと構わない!こいつは今この場で……!

 

「ああああ!」

 

「もう止せキリト!俺が悪かった!お前には無理だ!」

 

「無茶をするな!ただではすまないぞ!さっさとこのバカに剣を返せ!」

 

「大丈夫だ……!お前は俺を信頼してこの剣を預けてくれたんだろう!?なら応えなきゃな……!」

 

腕の事は気にしない!そうだ!前にテレビで見たバーベル上げの要領だ!一時でも良い!持ち上がりさえすれば……!

 

「…それを僕が黙って見ていると思うのかい?」

 

「…!キリト!剣を捨てて避けろ!」

 

「…なっ!」

 

俺に向かって来る光弾が……もう間に合わ……!

ここまでか……畜生!

俺は目を閉じた

 

「キリトぉぉぉぉ!」

 

……?未だ何の衝撃も襲って来ない事を不思議に思った俺は目を開け……!

 

「…無事か?キリト?」

 

「…ライハ……お前何で!?」

 

「知るかよ…!身体が勝手に動いたんだよ!」

 

「俺がここまでしてやったんだ……負けたら承知しねぇ…ぞ…!」

 

「…!ライハ!」

 

ライハが崩れ落ちる

 

「…これは滑稽だね。まさか仮にも魔戒騎士が単なる一般人を庇って致命傷とは!いや~馬鹿な事をしたもんだ!」

 

親友の献身を目の前のクズが笑うのを見て俺は身体が熱くなるのを感じた。目の前が赤く染まる……

 

「…笑うなよ。」

 

「…ン?何だ?何か言ったのか?」

 

「笑うなって言ったんだよ。」

 

いつの間にか腕の震えが止まっていた。あれだけ重かった剣がまるで羽のようだ。今ならやれる。

 

「…須郷、お前は殺す。俺の全てと引き換えにしても」

 

俺は刃を目の前のクズに向けた




ライハ
ソードアート・オンラインが出来た年代の魔戒騎士。
黄金騎士GAROの鎧を受け継いでいるが魔戒騎士としての実力はまだ若いこともありそんなに高くない。
魔戒騎士としては珍しく俗世間にどっぷり浸かっており廃人レベルのゲーマーでもある
どこからか魔戒騎士の話を聞きつけた茅場晶彦からソードアート・オンラインのモーションアクターの依頼を受けテスター権とナーヴギア、製品版SAOを報酬に飛び付いた
リアルではキリトの親友でもあるが実は自分の正体に関しては隠し通していた

コレジャナイ感の文章……正直熱血物は書きづらい
キリトが魔戒剣をあっさり持ち上げたのは出来ればスルーで。本来は絶対無理だろうな
そう言えば鎧無しでホラーって狩れるのか…?(今更)


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ギャスパーくんのはじめてのおつかい

『…ギャスパー、聞こえる?』

 

「はっ、はい!聞こえてますぅ!」

 

『…確認するわよ。貴方のミッションは貴方が今抱き抱えてるその子を親御さんに返すことよ』

 

「…リッ、リアス部長!やっ、やっぱり僕には無理ですぅ!」

 

『…ごめんね。貴方を知らない人に会わせるのは不安だし代わってあげたいけど……貴方も知っての通りその子は貴方にしか懐いていないの。だからその子をお家に返せるのは貴方だけなのよ。大丈夫。貴方は優しくて強い子よ。きっとその子を親御さんに返してあげられるわ』

 

「リアス部長……はい!分かりました!僕頑張りますぅ!」

 

『いい返事ね。私たちは貴方に声を飛ばすことしか出来ないけどちゃんと状況は確認してるからね。何かあったらすぐに連絡しなさい。それじゃあ頑張ってね』

 

 

 

「…部長、本当にあいつに任せて大丈夫なんですか?凄く不安なんですけど。」

 

「…イッセー……不安なのは私も一緒よ。でもあの子私は愚か、イッセーも祐斗も朱乃も小猫にすら懐かないどころか顔見ただけで泣き出すんだもの。何故かギャスパーには物凄く懐いてるのにね」

 

「…そうですね。俺も初めてお客さん家で見かけたとき大泣きされて困惑しましたから」

 

「…僕も……あんなに泣かれたのは初めてなのでビックリしました」

 

「……うふふふふ……」

 

「…」

 

「…朱乃、ショックだったのは分かったからそろそろ立ち直りなさい、後小猫は無言で睨まないの。」

 

「…ギャー君の次に見つけたのは私なのに……」

 

「…あの時は驚いたわね。朝早く貴方から電話があったから何事かと思ったわ。それで来てみたら……思わず笑っちゃったわね。あの子……ギャスパーにコアラみたいにしがみついて離れないんだもの。それに困惑したギャスパーがひたすら悲鳴あげてるから可哀想だったけど。……そう言えば未だに不思議なのよね、あの子別にギャスパーと接点は無かったんでしょう?」

 

「ええ。そのはずですよ。そもそもギャスパーはあいつが生まれる前からずっと旧校舎から出てきてないんでしょう?会う方が難しい気がするんですけど」

 

「…そうよねぇ……そう言えばあの子どうやってここまで来たのかしら?あの子の家からここまで1キロくらいはあるわよね?」

 

「…そうですね。あの時俺と木場は自転車で向かいましたから。あいつどう見てもまだ2、3歳くらいだよな、本当にどうやって来たんですかねぇ……?」

 

「…まあ来れた理由は今は置いておきましょう。取り敢えずギャスパーが失敗しないように見守りましょう。あの子には厳しいかもしれないし、子供を待ってる親御さんには不謹慎だけどこれが成功したら絶対あの子に自信をつけさせることが出来る。何としても失敗しないようにサポートするのよ。」

 

「…そうですね。それにしてもいい人達なのは分かってたけどまさかギャスパーの体質に合わせて夜中に返しに来るのを了承するとは思いませんでしたね……」

 

「そうね……おかげで子供をスムーズに返すことが出来るわ。本当に頭が上がらないわね。こうなったら絶対に成功させないと」

 




ギャスパーっていつから旧校舎にいるんだっけ…?


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異説黒の剣士

「…終わった…のか」

 

俺はその一言と共に俺の突き出した剣が刺さり消えていくヒースクリフを後目にメニューを出しログアウトを選択する。

 

「…ハア……」

 

目覚めた俺は余韻に浸りつつもアミュスフィアを外す

 

「…こんなの……ただの自己満足じゃないか……何やってんだろうな、俺は……」

 

SAO事件……そう呼ばれた事件からもう10年が経つ

俺はアインクラッド75層でのボス戦の後、ヒースクリフ=事件の犯人茅場晶彦と看破し一騎討ちの末……奴を踏破。死者は多数出ていたものの二年余りの時を経て多くのプレイヤーはようやく現実世界に戻ることが出来た……なんて事実は無かった

 

「いっそ……死ぬか狂えれば楽なのに……」

 

どう妄想しようと現実は変わらない。実際にあったのはこうだ

 

75層……そこで俺達はボスを倒すことこそ出来たものの多数の死者を出し攻略組は壊滅

 

最愛の人……アスナは守りきれず死亡。エギルもクラインも攻略組で俺が親しかった奴はみんな死んじまった

 

その後少なくなったプレイヤー達をヒースクリフと共に俺は半ば脅迫し無理矢理攻略を続行。

 

 

……この時点で俺はなんとなくヒースクリフの正体に気付いていたのかもしれない。当時の事はもう朧気になりつつあるがそれは言い切ってもいい

 

だが俺は口に出す事無くヒースクリフ達と共に攻略を進めていき……やがて悪夢のあの日がやって来た……

 

圏内エリアにmobが侵入したあの日に俺は攻略組以外の友人まで失ってしまった。

 

助けには行かなかった。俺はあいつらを見捨てた。攻略を進めるのが先決と自分に言い聞かせて……

 

その後95層……俺とヒースクリフしか残らなかったあの場所で俺は言った。決着を着けよう…と。

 

ヒースクリフは待っていたと言わんばかりの表情で了承。相討ち覚悟で戦ったが思いの外あっさりあいつは俺に敗れた

 

……多分あいつももう終わらせたかったのだろう。そこまで登るのに結局どう急いでも4年……しかももう俺とあいつしかあの世界にプレイヤーはいなかったのだから……その後俺は奴から世界の種子<ザ・シード>を託された。

 

俺はそれを世に公開せず自分のために使った。あの世界を模した世界を当時覚えてる限りで反映させ俺は作ったあの世界を。

 

そして俺は未だに自分を慰め続けている。層の行き来が出来るのは当然俺だけ。それぞれの層にはプレイヤーを模したNPCを配置した。そしてあの時の出来事をループし再現しつづけている。

 

変えたのは75層の出来事だけだ。俺はアスナもエギルもクラインも失いたくなかったから。

 

今日はもう終わりだ。……でも俺はきっと明日も自分の作った箱庭の世界にログインし続けるのだろう。きっと死ぬまで……




後にザ・シードをネットに流し茅場二号となり同じ事件を起こし勇者と魔王の二役を演じ今度こそ英雄になる妄想をするキリトの話
一時期良く言われていたニューロリンカーの開発者=キリトという説から来ている話だがニューロリンカーで人は殺せるのだろうかという問題が残る


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橋の下の弓兵

私の朝は早い。

寝袋から這い出ると身支度をし、朝と言っても実際はまだ深夜だが二時にはここ荒川の河川敷に設営したテントを出て早朝ランニングを兼ねて5km先の職場に向かう

 

「おはようございます!」

 

……私はこの販売所にて新聞配達をしている

大量の新聞に予め用意されているチラシの束を挟み、販売所から借りた自転車に積む

 

出発前には念のため雨避けの可能な武具を投影し、自転車自体に強化魔術をかける

 

ここから一時間半かけて100部程の新聞を運び戻ってくると今朝の仕事は終わりだ

 

販売所に戻り終了報告をし、辞した後、再び5kmの道のりを行きより急いで河川敷に戻るのだ

 

テントに入ると調理器具を出してきて食材の確認

……P子の作った野菜とニノが取ってきて私が前日仕込みをしておいた魚を不法投棄されていて私が修理した冷蔵庫から引っ張り出し調味料を棚から取る

 

河川敷まで行きそれらを並べる。

……幸い今日は雨が降っていない。このまま外で調理するとしよう

 

火を出せる武具を投影……おっといけない。私としたことが自己紹介がまだだったな

 

私は嘗て義父、衛宮切嗣の夢を継ぎ正義の味方として世界中を駆けずり回った果てに世界を回るため世界と契約。

 

その後その代価として守護者という薄汚い掃除屋となり沢山の無辜の民を殺しその後嘗て憧れたこともある赤の良く似合う少女にサーヴァントとして呼び出され、過去の自分を殺そうとして失敗したもののかけがえの無い何かを得、次に再びサーヴァントととして呼び出され、人類最後のマスターとなった人物と再び世界を救う旅に出、一応の一段落を着けた後……

 

……ここ、俺のいた世界に比べれば呆れるほどに平和なこの世界に何故か受肉した人間として改めて呼び出され、今はここ荒川橋の河川敷で生活を営む人呼んで……!

 

錬鉄の英雄……!エミ……

 

「おはようジョンソン。今日も早いんだな。」

 

「…おはようニノ。君も早いな。」

 

ヤ……!……失礼。改めここ荒川橋河川敷の住民のジョンソンだ。以後お見知りおきを!

 

ハッ!私は何を!この場所に住むようになって変な電波を受信するようになってしまった……さて、この世界に来て初めて会ったのが私と同じくここ荒川橋の河川敷に住み私にとっては先住者に当たるのが今この場にいるニノだ

 

私は彼らを初めて見たときいくらいわゆるホームレス生活をしているとはいえ何故か社会常識の著しく欠け生活環境も余りに悲惨な彼らに絶句したものだ。聞けば近隣住民とのトラブルも絶えないと言う

 

すぐに私もここに住みたいと申し出、村長を名乗る河童(着ぐるみを着た人間ではない。断じて違う)にこのジョンソンの名を頂いた。

 

そして私はここの住民になってすぐ彼らの意識改革と社会常識を叩き込み住民のホームレス脱却のために就職活動を無理やり推し進めようとした……あのときの事は今でも後悔し、反省している。……私が余計な口を出すべきでは無かった。……彼らには彼らの事情があり信念があるのだから。

 

私はその事を知って以来彼らに余計な口出しをしなくなった。ただ……

 

「…ニノ、その格好という事はこれから入浴かね?」

 

「ああ。朝風呂だ」

 

「朝風呂もいいが人目には気を付けてくれ。また通報されて村長と一緒に警察に事情説明なぞしたくないからな」

 

「大丈夫だ。ちゃんと水着を着ている。」

 

「…それでもだ。ちゃんと見えない所で入ってくれ」

 

「う~ん。分かった」

 

……ここで暮らす以上最低限の社会常識は覚え、守ってほしいものだ。私のここでの仕事は家事全般だけの筈なのに毎回余計な仕事が増えている……



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八幡の賭博黙示録

俺比企谷八幡の目の前には生きてる内に乗ることが無いだろうと思っていた豪華客船……俺はこいつにこれから乗り込まなければならない

 

乗るのでは無い、乗らなければならないのだ……

 

「何してんだよ八幡?早く行こうぜ?」

 

主にこの腐れ縁の穀潰しのせいで。

 

俺には幼馴染みがいる……落ち着け。残念だが男共が血涙流すような話じゃない。俺の幼馴染みは男だからな。

 

幼稚園と小学生の頃はまあ子供だったし普通に遊んだこともなくは無い。ただ、中学の時俺がやったあることで俺が虐められるようになってから関係性は変化した。

 

あいつは俺と距離を取るようになった。……始めは困惑したが最終的に人間なんてそんなものと思うようになりやがてそいつは中学卒業を待たずして転校していったから結果顔も録に思い出さなくなった。

 

だが俺が高校を卒業し無事に大学を出、上京したあとしばらくして俺たちは再会した。

 

んでわだかまりは無くは無かったものの取り敢えず久しぶりの再会だったので酒を飲み、その席での俺の冗談が切っ掛けで……俺のアパートの一室に居候が増えた。

 

……そう居候だ。断じて最近流行りのルームシェア等ではない。

……こいつ伊藤開司は俺の部屋に転がり込んだ後、一切働こうとしなかったからな。

 

元専業主夫志望の俺が社畜として世間の荒波に揉まれるなかこいつはひたすら放蕩の限りを尽くした。……追い出さなかった理由?……家賃はともかくこいつ、自分の食費は一応出してたからな、親からの仕送りで。

 

だが、こいつは強くも無いギャンブルに手を出しスッカラカンなんてのもざらだったから俺から借金もしていた。

 

大した額でも無かったがそろそろ我慢も限界だった。

いい加減出ていけと言おうとしたところに現れたのが借金の取り立て。

厳密にはこいつの借金じゃなくバイト仲間の借金の保証人になったんだと。……自分で返す宛ても無いのに保証人になるとか…俺はもう呆れちまった。

 

そんなこいつに持ちかけられたのがとあるギャンブル勝負。

……真面目に働いて金稼ぐのなんざこいつの性に合わんらしいからな。あからさまに怪しい話だったが最終的にこのバカは受けた

 

んで、無関係の筈の俺は何故か今会場に引っ張り出されてるワケだ

 

「…随分偉そうだな。お前が土下座してどうしても一緒に来てほしいって頼むから来てやったのに。泊まり込みだって言うからわざわざ有給も取ったんだぞ。しかも急な話だったから部長にも睨まれるし…そんな態度取るなら俺は帰るぞ」

 

そう言って踵を帰そうとした俺の手を掴むバカ

 

「悪かったって!マジで怖いから一緒に来てくれよ!大金稼げたら奢るからさ!」

 

奢らなくて良いから帰らせて欲しいという俺の呟きはこいつの耳には入らなかったようだ



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脳筋ぐだ男のFGO

「マスターは…私が…守ります…!」

 

「マシュ…!」

 

そのあまりにも小さく見える背中を見つめる俺。…何やってんだよ…!本当に俺に出来る事は何も無いのか…!?考えろ!俺はマシュのマスターだろ!?ある筈だ!ここでマシュに守られるだけなんて男として最低だ!

 

…少年は考える。少しでも目の前の健気な少女を助けられる方法を。…しかし悲しいかな、普通の日常を謳歌しその実、殺し合いの経験以前にまともな勉強をサボり、意地の悪い友人に騙され(筋肉着ければモテるぞと言われた)身にまとった肉の鎧以外彼には無かった。……彼は脳筋だった…。

 

「…そうだ!コレだ!」

 

俺はマシュの背中に向かって走る…!

唸れ俺の足…!

 

……知識も無く着けた彼の筋肉はボディビルダー程異様な着き方こそしてないものの、運動の阻害には貢献した。彼は百メートルを二十秒で走る…。

 

 

 

「ぜー…はー…ぜー…はー…!マッ…マシュ…!」

 

「先輩!?何をやってるんですか!?早く下がって下さい!」

 

「そんな事出来るか!俺は…俺はマシュのマスターだ!戦えなくたって君を支える事は出来る!」

 

「キャッ!…せっ、先輩何を!?」

 

彼は少女を抱き抱えた。お姫様抱っこの体勢で。

 

「あっ、あの!下ろしてくだ「このまま突っ込むぞ!」は!?」

 

「マシュ!盾を構えろ!」

 

「はっ、はい!」

 

彼はその鈍足を唸らせ走る!

 

「……良いだろう。我が宝具の力受けてみるが良い!」

 

茶番を見せられ少しイラついていた黒き騎士王はその身に持つ人々の願いによって存在する聖剣を掲げ、解放!

 

「!せっ、先輩宝具が!」

 

「そのまま盾を構えてるんだ!大丈夫だ!俺たちなら突破出来る!」

 

「はっ、はい!」

 

「うおおおお!」

 

彼は走る!全力で!

 

「!いっ、いけます!先輩押し返せてます!」

 

「ぜーぜー!コヒュー!コヒュー!…」

 

「先輩!?大丈夫ですか!?」

 

「ウプ!オロロロロ!」

 

「ヒイイイ!下ろして!下ろして下さい!?」

 

一つの事に集中し過ぎるきらいのある彼は自分の後輩の言葉も聞こえず酸欠で意識の朦朧とする中、走り続ける…。

 

「……」

 

そんなゲロ男とその男に抱き抱えられる盾を持つデミ・サーヴァントという珍コンビが超スローペースで突っ込んで来るのを黒き騎士王はただ黙って見詰めていた…。

 

 

 

「もう良いです!もう良いですから下ろしてくだ「オロロロロ!」ヒィ!また!?」

 

「……」

 

……いっそ、とっとと二撃目の宝具を撃ってやった方があの少女には幸せなのかもしれないと、黒化し、反転した精神ながらも同じ女として彼女に同情していた。




前日酒飲んで、朝になったらこいつがスマホのメモ欄に残ってた…。


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デビルメイクライの居候

「…おいおい爺さん、ここはモーテルじゃねぇぞ」

 

「堅ぇ事言うなよ、兄ちゃん。ほれ、家賃代わりにどうだ、一杯?」

 

「…生憎安い酒は口に合わねぇんだよ。……おい!寝る前にせめて空き瓶位片付け……寝ちまった。」

 

椅子に座り雑誌を開く。……いい加減こいつは読み飽きたな…。

 

「おい爺さん、俺ぁ出かけるからな。留守番頼むぜ」

 

寝転がったまま片手を上げるジジイ。……たくっ。マジで頼むぜ……

 

……適当に買い物して戻ってみりゃ…

 

「…何であんたがいるんだ?つーか爺さんは?」

 

「お前さんに仕事を持ってきたんだがな、留守なもんで爺さんに頼んだ。んで俺が代わりに留守番してた訳だ」

 

「おいおい。この店の店主は俺だぜ?」

 

「お前さん、気分で仕事をサボるじゃないか。ああ見えても仕事はちゃんとするからな、あの爺さんは。」

 

嫌味ったらしく言うこの男はモリスン。便利屋としての俺に仕事を持ってくる男だ。

 

「…というかダンテ、お前さんまだあの爺さんを住まわせてるのか?」

 

「住まわせてるんじゃねぇ。あの爺さんが勝手に入り浸ってんだ。全く。居候の癖に酒瓶を床に並べやがって……」

 

「放っておいたら事務所を直ぐゴミ屋敷にしかねないお前よりマシだろう?あの爺さんが占有してるのはいつも事務所の隅だけだしな。しかし……俺もあの爺さんとは長い付き合いだがこうも人に懐くのは初めて見るぜ。」

 

「…ha!美女ならまだしもジジイに好かれて喜ぶ趣味はねぇよ。」

 

俺は椅子に座り雑誌を広げ始める

 

「まあいい。お前さんが帰ってきたなら俺は帰る。じゃあな、ダンテ。……ああ爺さんに仕事取られたくないなら携帯の料金位払え。お前さんに連絡取れないから爺さんに頼んだんだからな」

 

小言を飛ばしてくるモリスンをシッシッと追い払い俺は雑誌を読み進めて行く

 

 

 

「おう!戻ったぞ兄ちゃん!」

 

三日後爺さんは帰ってきた。……何だその手に持ってるもんは?

 

「…ん?おお!こいつか!ほれ、挨拶しろ!」

 

そう言って手に抱えた紙袋から短剣をって……は?

 

『お初に御目にかかる。我が名は「ちょっと待て!」む?』

 

「おいおい何だ兄ちゃん。人が話してる時に遮ったらいけない事ぐれぇ分かんだろ?」

 

「んたこたぁどうでもいい!何だそいつは!?」

 

俺は短剣から悪魔の姿になった奴を指差す。おいおいまたやったのか!?この爺さん!?

 

「何だも何も俺の新しい相棒だが?」

 

「だから何であんたはそう毎回悪魔を従えて帰って来るんだ!?」

 

「お前もよくやってるじゃねぇか。実力を示したら忠誠を誓われただけだが?」

 

相変わらずの爺さんの態度に俺は頭を抱えるしか無かった……

 

 

 

 




主人公

名前や年齢は不明。(ただし、首にはドックタグを下げている)
くたびれたアメリカ将校服を羽織った精悍な顔立ちの老人
隻腕で左腕が無く右目には眼帯をしている
根無し草だったがある一件でダンテに知り合った後デビルメイクライに入り浸るようになった。
元々ダンテより先にフリーの便利屋をしておりモリスンとは古い馴染み
実は腕利きのデビルハンターでありそちらの面でもダンテより(自称)先輩。

普段はデビルメイクライ事務所の隅で呑んだくれて寝ている事が多い。
生物学上純粋な人間の筈だが上級悪魔と互角に戦える身体能力の持ち主

どういう訳かダンテと同じ位悪魔との遭遇率が高く(引退したと言い張りながら)毎回単独でダンテの代わりに仕事に行ったりすると悪魔を従えて帰って来るのでダンテの頭痛の種になりつつある。

元軍人で部隊の隊長をしていた頃行軍中に悪魔に遭遇。部下を全員殺され本人は右目と左腕を失いながら撃退に成功しその後責任を取り軍を辞め便利屋を始めたという裏設定を考えていた


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高橋家の末っ子

カリカリとシャープペンでノートに書付ける音が部屋に響く…うん…そろそろ切り上げて寝るかな…そんな事を考えていたら部屋のドアが叩かれた…この聞き逃しそうな丁寧なノックの仕方…涼介兄か?

 

「えと、もしかして涼介兄?」

 

「…ああ、俺だ…入って良いか、洋介?」

 

「良いよ。そろそろ寝ようとしてたし…」

 

ドアが開かれ、涼介兄が部屋に入って来る…

 

「何か用?」

 

「…そうだな、勉強の方は順調か?」

 

「まずまずってとこ。それで、何か用?」

 

「…いや何、今夜俺たちは走りに行くが、お前は来るか?」

 

「あのさぁ涼介兄?免許こそ取ったけど、俺はこれでも受験生だよ?」

 

「フッ…お前なら少し羽目を外しても問題無いだろう。大体、前に無免許で勝手に人の車持ち出して走りに行ったのは何処の誰だ?」

 

「!…あっ、あれは若気の至りって言うか何ていうか…もっ、もう許してくれよ涼介兄!?もう二年も前の話だし、バイトしてちゃんとガソリン代だって出しただろう…!?」

 

「…まだ二年だろう?それに、あの時にも言ったが俺は最初から怒ってはいない。」

 

「なら…何で…」

 

「お前には走りの才能が有るからだ。」

 

「…涼介兄まで…啓介兄みたいな事言うの止めてくれよ…アレは本当にただのマグレだよ…あの時だって…まさか本当にアレに啓介兄が乗ってるなんて思いもしなかったし…」

 

「嘘を言うな、ナンバーは見えた筈だろう?」

 

「…抜いてから…ドライバーウィンドウに目が行って初めて気付いたんだよ…その後、驚いた啓介兄がハンドル操作ミスって危うく事故りかけるなんてのも想定してなかったし、怒られるかと思ったら…『もっかい走るぞ』なんて詰め寄られるし…」

 

「断りつつも…微妙に乗り気だったとも啓介から聞いてるがな。」

 

「だから言ってるじゃんか。俺も若かったんだよ…」

 

「…で?結局来るのか来ないのか?」

 

「行かないって。俺は受験生なんだから…」

 

「……そうか、分かった…」

 

涼介兄が背を向けて部屋を出て「洋介。」

 

「…何?」

 

「俺は待っている…気が向いたら、いつでも声をかけろ。」

 

ドアが閉められる…

 

「……無理だって涼介兄…怖いから…嫌だ…」

 

歳の離れた兄二人が夢中になる愛車で峠を攻めるという事…どうしても興味があったけど…二人の会話には入って行けなかった…二人は俺の事を構ってはくれたけど…それでも、俺だってその世界を知りたかった…ある日どうしても我慢出来無くて…涼介兄が車を使わず出かけたあの日…俺は涼介兄の車に乗った…涼介兄の持ってる本を読んだりしてたから運転の仕方は何となく分かったけど…初めは真っ直ぐ走るのすら難しくて…スピードなんて出せなくて…でも気付いたら…自分でもコレかな?と思える走りが出来てた…

 

……そうして走っている内に見えて来た黄色い車の背中…気付いたらギアも入れて、クラッチ踏んで…アクセル踏み込んで…スピードを上げて追い掛けてた…見覚えの有るその車…俺はそれに追い付きたくて…追い掛けて…そのまま追い抜いた…そして見えた啓介兄の驚いた顔…思わず逃げる様にスピードを上げた…

 

怖かった…後ろから追ってくる啓介兄の車が…啓介兄が…ただただ怖くて…怖くて怖くてたまらなかった…

 

一気に走り抜けた時見えて来たたくさんの人たちを尻目に走り切って…俺は家に帰って来た…

 

それから少しして部屋に駆け込んで来た…興奮した啓介兄も怖くて…家を飛び出した…

 

その後…俺を探しに来てくれた涼介兄の話もろくに聞かず必死で弁解だけした…『バイトしてガソリン代は払う』と約束して…

 

要領が悪くて先輩や店長に怒られながら貰った金でガソリン代を涼介兄に払った…その後もバイトを続けて…少し前に免許を取って自分の車も買った…でも…それから一度も車には乗ってない…あの時の事が頭を過って…走れなかった…

 

単なる移動の足としても使う気になれなかった…勝手に俺の車を兄貴たちが色々弄ってるのは知ってる…

 

兄貴たちが俺に走る事を望んでるのは分かってる…でも…!

 

「俺は走りたくない…!絶対嫌だ…!もう…あんなのは嫌だ…!」




車の知識が浅いので続きが書けません


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落第騎士と城砦の聖女1

「我が盾は魔を弾く城砦なり」

 

僕はその人に一目で魅せられた

そして僕に無い強さを見た

圧倒的にして豪快

 

銀行強盗達をあっさりねじ伏せ去っていこうとする彼女に僕は声をかけた。

 

「待ってください!」

 

「…君は…さっきの銀行にいた……私に何か用?」

 

足を止めこちらに振り向いてくれた彼女に僕はその場で正座し衆人環視の中驚く彼女を気にせず僕は土下座し言う…

 

「僕を弟子にしてください!」

 

少し長めの沈黙の中僕に向かってくる足音

 

「わっ、わかったから…!取りあえず立ちなさい!」

 

彼女に手を引かれた僕は彼女が呼んだタクシーに彼女と共に乗りそのまま彼女が泊まっているホテルの部屋へ

 

そこで僕は再び土下座する事に

考えてみれば道端であんな事をすれば僕はいいが彼女にも迷惑がかかってしまう…

 

「本当に申し訳ありませんでした…」

 

「もういいから頭を上げてくれ。それでどうしてあんな事を?」

 

僕は説明した。

高ランク騎士を輩出する名家に生まれたものの才能が無く家では疎まれいないものとして扱われていること

伐刀者になるため修行の旅に出たが思うようにいっていないことなどを…

 

「…それで私の弟子にねぇ……勘違いして貰っては困るが私も伐刀者のランクは低いんだ。それでも私の弟子になりたいのか?」

 

「はい。僕は力が……護る力が欲しいんです。」

 

「…そう。わかった。なら今日から君は私の弟子だ……そう言えば名前を聞いていなかった。私はリーズバイフェ・ストリンドヴァリ。君の名は?」

 

「…一輝。黒鉄一輝です。」

 

「一輝。わかった。君には私の戦い方をこれから叩き込む。唯私は不器用で加減が苦手だ。それは覚悟していてくれ。それと……私はあくまで長期任務でこの国に来ただけだからずっとは見れない。それでいいか?」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「…いい返事だ。さてとまずは食事にしようか。修行はそれから始めよう」

 

そうして彼女との特訓が始まったのだが……

僕はそこで地獄を見た

彼女がやったのはほとんど実戦レベルの模擬戦

加減が苦手だと言う言葉通り女性とは思えない膂力で何度も叩きのめされた

ちなみにこれでも彼女は手を抜いているらしく

本気でやれば僕の身体は肉片と化していると言われ正直背筋が凍った

彼女から課せられたのはこれだけ

後は基本は自分で押さえるように言われた

 

そして僕は早朝のランニングの他にもう一つ日課が出来た

僕は彼女と同じ部屋に寝泊まりしている

こう言うと誤解されそうだが相部屋を断ろうとした僕に彼女が「学生が遠慮しなくていい」と提案した事によるものだ

僕は何も金銭の問題だけで言ったわけでは無かったが真剣な彼女の様子に断りきれず僕は同じ部屋のソファに寝ることになったが実際一日目の時点で間違いは起きようがないと確信した

 

何せ彼女は朝は極端に弱く生活力も全く無かった

正直ドン引きするレベルでだ

これでは百年の恋も冷めてしまうだろう

 

そう僕のもう一つの日課とは彼女の身の回りの世話である

とはいえ二日目の時点で彼女の髪に櫛を通していた辺り僕も相当神経が太いのかもしれないとは思ったが…

 

結局朝は彼女の世話、日中は夕方まで彼女に完膚なきまでに叩きのめされ、夜も彼女を寝かしつけるまでの世話という日常がしばらく続いた……

 

 

 




型月の住人では無くあくまで落第騎士の世界にいたリーズバイフェの話

とある組織に所属しある任務で日本を訪れた際にたまたま立ち寄った銀行で銀行強盗達を圧倒、制圧する
そしてその銀行に武者修行をしていた一輝も訪れており事件解決後に彼の頼みを受け彼を弟子として引き取った
一輝の初恋の女性だがあまりの生活力の無さに二日目で冷めた

型月自体はともかくリーズバイフェ自身は落第騎士の世界と相性が良さそう


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落第騎士と城砦の聖女2

「リーズさん…今までお世話になりました。」

 

僕は目の前の彼女に向かって頭を下げた。

 

「うん…取り敢えず…私が出来る事はもう無いから…一輝、後は君次第だよ…これからも頑張って。」

 

「はい。」

 

「……本当は君が正式に伐刀者になれるまで見届けたかったけど…」

 

「大丈夫です…僕はこれからも貴女に教わった事は忘れずに…」

 

今まで彼女と過ごして来た日々が走馬灯の様に……走馬灯…

 

『ぐあっ!』

 

『…一輝、今の君と私では力の差が大き過ぎる…受ける事より、躱す事を心掛けた方が良い。』

 

『はい…』

 

そう言われても、速すぎて…受けるのが精一杯…

 

 

『‪ごふっ!?』

 

『あ!?ごめん!大丈夫!?』

 

み、鳩尾にモロ、に…

 

 

 

『リーズさん、朝ですよ?今日仕事って言ってましたよね?起きて下さ…っ…』

 

この人はまた下着姿で…僕を男と思ってないのか?

 

『う~ん…』

 

『っ!?』

 

肘がこっちに…!?

 

『ん…ふわぁ…おはよう…一輝…』

 

『……おはようございます…』

 

『うん…』

 

ぎ…ギリギリで躱せた…

 

 

 

「…一輝?」

 

何かこの人と一緒にいて死にかけた以外の思い出が全然浮かんで来ないんだけど…いや…他にも何か…そうだ…

 

 

 

『そう言えば聞くのを忘れていたんだけど…』

 

『え?』

 

『君、学校は?』

 

『っ…行ってないです…』

 

『…義務教育…教育を受けられるって言うのはとても幸せな事なんだよ、一輝…修行に費やすだけじゃなくてね…』

 

『でも…僕は…』

 

『あ…ごめん…そうだったね…君は…う~ん…そうだ、一輝、君の家の電話番号教えてくれる?』

 

『え…?』

 

 

 

『一輝、話は着けたよ。君はこれからはこの部屋から学校に通うと良い。』

 

『え…でも『大丈夫だから…ね?』…はい…ありがとうございます…』

 

 

 

そうだ…この人のおかけでまた学校に行けるようになって…う…

 

 

 

『一輝~♪』

 

『っ…!?』

 

ど、どうしてこの人が来てるんだ!?公開授業の日程を知らせるプリントはちゃんと処分した筈…しかも私服じゃなくて…よりにもよってあの格好のまま来てるから浮いてしまっている…!

 

『すみません…保護者の方ですか?』

 

『はい!黒鉄一輝君の『もう少し静かにお願い出来ませんか?』…す、すみません…』

 

頼む!頼むから大人しく…あ、また大声上げたから追い出された…本当に何をしに来たんだ…あの人は…!

 

 

 

「一輝?お~い?」

 

考えれば考える程ろくな思い出が浮かんで来ない…いや、嬉しかった事もちゃんとあった筈…そうだ…

 

 

『はい。』

 

『え?これは『今日は一輝の誕生日だったよね?プレゼントだよ』…え?本当に?』

 

『うん。』

 

『…開けてみても?』

 

『良いよ。』

 

『…あの…これは『目覚まし時計』…えっと…何でですか?』

 

『ん?君、昨日寝坊したでしょ?』

 

『……ありがとうございます。』

 

『あっ、あれ…!?気に入らなかった!?』

 

『いえ…嬉しいですよ?』

 

『棒読み!?』

 

……昨日、僕が寝坊したのは……仕事先で酒を飲んで泥酔した状態で帰って来たこの人が絡んで来て寝かし付けるのに時間がかかったからなんだよなぁ…本当にこの人は…

 

 

 

「一輝!」

 

「っ!?何ですか!?」

 

「何って…さっきから呼んでるんだけど…」

 

「すみません…今まであった事を思い出してまして…」

 

「そっか…」

 

リーズさんが僕の頭に手を置くと撫で始めた…

 

「っ…あの…何を…?」

 

「ん?何か、感慨深いなって…」

 

「あの…さすがに恥ずかしいんですが…」

 

「良いじゃない。君が甘えられるのも多分、これが最後だよ?私は当分日本に戻れそうもないし…それに、君はこれから歩むのはとても辛い道になると思うから…」

 

「リーズさん…」

 

「さて、そろそろ飛行機の時間だ…頑張ってね、一輝「あの!」何?」

 

「教えてください…結局リーズさんの仕事って…もしかして「駄目だよ一輝」っ…」

 

「うん。もしかしたら君が考えてるのは正しいのかもしれない…でも駄目だよ。何度も言ったけど教えられない…例え、今君が言う事が正解だったとしても私は答えられない。」

 

「っ…リーズさん…」

 

やっぱりこの人は…

 

「そうだね…その代わりと言っては何だけど、一つ約束しよう。」

 

「…何ですか?」

 

「君がもし、伐刀者として一人前になったらまた会おう…ううん…多分君と私は絶対にまた出会う…私はそう思う。」

 

「僕は…なれるでしょうか…?っ…リーズさん…?」

 

僕はリーズさんに抱き寄せられた。

 

「うん。なれるよ…だって君は…私の弟子なんだから…」

 

リーズさんが僕から離れた…

 

「じゃあ、またね…一輝。」

 

「はい!また…何時か…」

 

リーズさんは僕に背を向けて歩いて行った…



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Sherry Belmondo of Destiny 1

名前だけネタ


私は杖を握り締め、その城を見上げる

高い…

更に言えば遠い…

正門から城の姿は立ち込めている明らかに夜霧とは違う霧のせいもあり余計に霞んで見える

 

私の家ベルモンド家はフランスの貴族の家柄

地位は確立されているものの取り立てて特に秀でているものがある訳では無い

それほど歴史も無い何の変哲もない普通の一族。そう思っていた

 

ある時家の書庫を整理していて一族に関する歴史の本を見つけた

 

かなり古い……そして読んだ私が知ったのは全く予想外の事実だった

 

ベルモンド家は元々本家はルーマニアにありしかもその一族は100年の周期を持って復活する吸血鬼ドラキュラと対峙してきたと言うのだ

 

……眉唾もいいところだと思った

私はそれほど娯楽に触れてきた訳では無いがドラキュラのモデルはかのヴラド三世

 

15世紀のワラキア公国の君主であり侵略国オスマン帝国の兵士に対して行った所業から串刺し公の異名で呼ばれる人物だ

 

やり方はどうあれ彼は自分の国を守ろうとしただけだし少なくとも現在の本国ルーマニアでは彼は英雄として慕われている

 

近年では小説や映画などで彼の性質は捻じ曲げられ不死の血を吸う化け物として描かれるのは私としては娯楽として楽しめない訳では無いけれどあまり良い気はしない

 

私はその本を閉じ再び書庫の整頓に戻った

 

その晩私の夢に現れたのがレオン・ベルモンドなる男性

彼はベルモンド家の一族の一人でベルモンド家では初めてドラキュラと戦ったと言う

彼によればあの本に書かれていたのは本当の話であり近いうちに再びドラキュラが復活すると伝えに来たという

 

とても信じられない……それに何故私なのか?

 

「今は信じられなくても仕方が無い。だが、いずれ奴はまた復活する。これは厳然たる事実だ」

 

「何故君になのか?それは既にベルモンド家関係者の多くはヴァンパイアハンターとしての力を失っているからだ。……そう君には力がある。言わば先祖返りというやつだな」

 

「別に君以外に出来ないと言う訳では無い。だが現代の人間で命懸けの戦いを制したのは君だけなのだ」

 

「…」

 

「奴は100年の周期で必ず復活する。私も子孫に押し付けることはしたくないが……」

 

私は引き受けると言った

まだ信じたわけでは無かったけれど……彼は嘘を付いているようには見えなかったから

「…すまない……何も出来ない私だがせめて君の事を見守らせてもらおう」

 

そして私は目を覚ました。朝だった

 

それから数ヶ月後私はルーマニアに飛んだ

信じる信じないの問題では無い。私には分かったのだ。これがベルモンド家の血の呪いなのだろう……

 

正門の前で私は立ち尽くす

ここに来た事は誰にも知らせていない

正直怖い…

あの戦いよりも…

せめて"彼"がいてくれたら

「…いいえ。そんな事は無いわね。あの戦いの方がずっと…」

 

ここまで来たのだ。覚悟を決める

私は魔物ブラゴのパートナー、シェリー

彼の隣に立つ者として情けない姿は晒せない

 

私はベルモンド家としてではなく私自身の意思でドラキュラを討つ

 

私は鉄製の門に手をかけた…




矛盾の山
というか現在最期のベルモンドのユリウスの設定をどうしたら…


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Sherry Belmondo of Destiny 2

「良かった…何とかなりそうね…」

 

持って来た自分の武器を下ろしながら胸を撫で下ろす…鉄製の門を開けて入った先は庭園だった…ろくに手入れこそされた形跡こそ無いものの、その広大な庭はそういう物を見慣れている筈の私でさえ見事だと感じていた…

 

きちんと手入れがされていればもっと素晴らしかったに違いない。そんな事を考えていた私が思わず狼狽えたのはその庭園を歩き始めてすぐの事だった。

 

「っ!何!?」

 

足元の地面から手が突き出して来て思わず飛び退く…一体何が…!

 

「嘘でしょう…!?」

 

手と共に頭が出て来て、次に肩、そして胴体部分が…

 

「っ!はあ!」

 

咄嗟に手に持っていた物を突き出す…一見すると短い杖にしか見えないそれの先端が伸び、化け物の頭に当たった。

 

「…案外脆いのね…」

 

化け物の頭はそれだけで吹っ飛び、胴体の動きも止まる…横切り、飛んで行った頭の方へ向かった…

 

「…何これ…!」

 

それはどう見ても嘗て人間だった物だった…そしてその腐敗した顔を見る限り絶命してかなりの時間が経つ事を示していた。

 

「…ゾンビ…本当にいるなんて…」

 

思わず前に見た映画に出て来たクリーチャーの名前が口から飛び出す…

 

「…考えが甘かった…こんな物までいるなんて…」

 

さっきは恐怖の余り思わず手にある杖を振ったが、人型である以上、今の心境のままではもう戦えないかも知れない…それにこの杖では…

 

「持って来て良かった…本当に必要になるなんて思わなかったけど…」

 

何時も着ているドレスのスカートをたくし上げ、足に手をやる…

 

「……この杖よりはマシね…」

 

私はそれを前方に構える…黒く、無骨なその物体は色々な呼び名があるけど…一番有名な言い方は拳銃だろうか…?

 

「…最も弾は余り無いから…少なくともさっき見た化け物程度には使えないわ。」

 

この杖の先端が当たっただけで終わる程には脆いのだ…後は私自身の問題…

 

「…こんな所では止まれない…」

 

銃を足に着けているガンベルトに仕舞うと、再び杖を握り、私は歩き出した。

 

 

 

「安堵している場合じゃないわ、先に進まなければ…」

 

庭園を歩いている最中出て来たゾンビを殺し続け、漸く城の入口へ…

 

「跳ね橋…本当に城なのね…」

 

跳ね橋はまるで入って来いとでも言うように降りたまま…上がっていたら入れないから好都合だけど…

 

「これ程の城が突然出現して、一般的にはほとんど認知されてないなんて…」

 

ここ、実質ルーマニアの一部であるトランシルヴァニアは吸血鬼ドラキュラ伝説が色濃く残り、人々は実際に信じている…外の国にも伝わっているものの、それが事実だと思っている人は何故か誰もいない…

 

「…気にならない訳じゃない…でも、理由なんてどうでも良い。私が終わらせるだけ…」

 

私は城内に足を踏み入れた…



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Sherry Belmondo of Destiny 3

城内に入ってみれば、てっきり廃墟の様になっていると思っていたのだが…中は意外と綺麗だった。

 

「…ここまでの規模の城が…たった一人の魔力で形成されているなんて…」

 

改めてドラキュラの力が企画外である事を思い知らされる…

 

「今度は何!?」

 

考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのか…私の目の前まで白い物体が飛んで来ているのが見えて慌てて杖で叩き落とした。

 

「…さっきのゾンビよりは見ててショックも少ないかしら…」

 

地面に落ちた物は何処の部分かは知らないが、崩壊の無い完全な形をした骨で、投げて来ているのは骨だけの怪物…

 

「骨格標本がそのまま動いている様にしか見えないわね…」

 

数こそ多かったが伸びた杖の先端を身体のどの部分でも良いから当て続けてていれば破壊出来、恐らく頭部を破壊しなければ動き続けるだろう外のゾンビより寧ろ楽かも知れない。

 

「この骨は当たり所が悪かったら死ぬでしょうけど…」

 

大して遠くまで飛ばず、スピードも無い骨は避ける事も、叩き落とす事も容易く…防ぐのは全く問題無かった。

 

 

 

 

「…扉ね。」

 

しばらく歩くと木製の大きな扉が見えて来た。

 

「今の所他に扉も無ければ特に通路も無かった…ここしか行けないわ。」

 

扉に手を当てて軽く力を込めてみれば、多少抵抗は感じたものの、特に鍵はかかっていない様だ。

 

「……」

 

もう一度力を入れて扉を押す…独特の軋んだ音を立てながら扉は開いて行った…

 

 

 

通路内は薄暗く、多少狭く感じたが…別に敵はいない様…脅威の無い以上、今更歩みを止める理由は無いのでそのまま進んで行く。

 

「また扉…ここは連絡通路か何かなのかしら…」

 

この城は基本的にはドラキュラが人であった頃に住んでいた城を模しているらしいが…ドラキュラと共に復活する毎に構造が大幅に変わる事も多いらしく…一応ベルモンドの本家に行った時、嘗てドラキュラに挑んだ歴代のハンターたちが残したと言う地図を借りて来たものの…この分ではやはり役には立ちそうも無い。

 

「…ふぅ。参ったわね…」

 

懸念事項はもう一つある…ベルモンド家のハンターたちは基本的にヴァンパイアキラー…ドラキュラに特攻能力を発揮する鞭を使って戦ったとか…

 

「先祖代々受け継がれている筈のヴァンパイアキラー…まさか所在が分からないなんて…」

 

ベルモンド本家にヴァンパイアキラーは無かった…何処に行ったのか…ハンターたちの記録も時と共に失われた物が多いとかでそこから最後の所有者を探る事も不可能…ベルモンド家の関係者だと言うモリス家の者が持っている可能性もあるものの…現在はそちらも何処にいるのか分からないと…

 

「無い物ねだりをしても仕方無いわ…先に進みましょう。」

 

休憩を終えた私は背中を預けていた壁から身体を離し、一度深呼吸をしてから、目の前の扉に手を着いた…



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Sherry Belmondo of Destiny 4

「何なのよ…これ…」

 

扉を抜けた先は目の前は行き止まり…左右に道は続いている様…ただ…

 

「これは…どう考えても足場よね…」

 

壁の手前にある物体はどう見ても足場…しかも空中に完全に静止していた…試しに乗ってみるが特に何も起こら無い…この足場は一体何の為に…いや…まさか…!

 

「これを踏み台に上に行けと言うの!?」

 

ここは塔の様になっているらしく上は吹き抜けで相当高いのか、天井は見えない…

 

「この城は色々仕掛けが用意されてるとは聞いていたけど…」

 

こんなの人間にどうこう出来る訳が無い…!

 

「…いえ。まだ諦めるのは早いわね。」

 

左右に道はある…先ずはそちらに進んでみましょう…さてどちらを先に…!

 

「…っ!何なのこの圧力は…!」

 

取り敢えず右に進もうとしたわたしの背後からとてつもなく大きな気配を感じた…

 

「…誘っているの?こちらに来い、と…」

 

これ程の力を持つ者が敵であるなら戦った所で到底勝てるとは思えない…でも…!

 

「そもそも私は化け物を退治しに来た…こんな所にドラキュラがいるとは思えない…つまり、ドラキュラはもっと強いのでしょう…」

 

なら、ここで尻込みする訳には行かない。私は深呼吸をしてから後ろに振り向き、私の直ぐ後ろには何もいないのを念入りに確認してから、歩きだした。

 

 

 

 

前に進めば、進む程、私にかかる圧力は強くなり、何度も歩みを止めそうになる…気を強く持っていなければ気絶すらしてしまいそう…

 

「っ…扉…」

 

目の前にはまた木製の大きな扉がある…この圧力はここから…?何度も深呼吸してから扉に手を触れ…!

 

「っ!…間違い無い…!気配の主はここに…!」

 

これだけの威圧感を発していながら…分かる…扉の向こうにいる者は私を拒んでいるのではなく…入って来いと、誘っている…!

 

「っ!ナメるな!」

 

侮られてる事が分かった私は気配の主に怒気をぶつける…その瞬間、不思議と少しだけどかか?圧力が薄くなった気がした…

 

「…そっちがその気なら…良いでしょう…こちらから出向いてあげます…!この私を侮った事を後悔させてあげましょう…!」

 

この怒りが消えたら呑まれるのは何となく分かっていたから敢えて強い言葉をぶつける…さすがにこの扉の向こうにいる者には届いているだろう…私は扉を押し開けた。

 

 

 

 

「誰もいない…?」

 

部屋に入った瞬間、感じていた圧力が完全に消え、一瞬体制が崩れそうになるのを何とか堪える…どういう事?

 

「…っ!ふっ!」

 

後ろに殺気を感じ、咄嗟に振り向きながら強引に後ろに飛び、杖を向ける…

 

「…ほう…防いだか。」

 

目の前には化け物が居た…ボロボロのローブに顔がある筈の部分にはドクロ…、そしてそもそも足が無く身体は浮いていた…そいつの手が持つ物、振り上げられた大きな…それこそ本に出て来る死神が持つ様な鎌をたまたま向けた杖が防いだ様だ…

 

「何者!?」

 

「私を知らんのか?お前はベルモンドの者では無いのか?」

 

「っ!」

 

その言い方から察するにこの化け物がベルモンド家のハンターと戦ったのは初めてでは無いと言う事になる……そう考えた私に該当する化け物が浮かんだ…この姿…間違い無い!

 

「デス…!」

 

「知っているではないか。」

 

ギリギリと力を込めて鎌を抑える杖が押し込まれて行く…何て力…!このまま鍔迫り合いをしていたら…!

 

「はあっ!」

 

咄嗟に足を振り上げる…

 

「おっと。足癖の悪い娘よ…」

 

当然躱されるが、距離は出来た…それに足を振り上げた事でスカートがめくれ上がる…私は足のベルトから銃を抜き、更に後ろに飛びながら撃った…

 

「…!…成程、銀の弾丸とは…」

 

躱された…!銃が効かないなら…私にこいつに対抗出来る手段はもう残っていない…ここは一度撤退するしか…!

 

「…どうした娘よ、これで終わりでは無いだろう?」

 

……その前に隙を作らなければ…!



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Sherry Belmondo of Destiny 5

私はブラゴに師事した事で、人を超える相手…魔物とも確かに戦える力を得たと思っていた…そうでなくとも、元々私はそういう訓練を受けていた…

 

「…貴様は本当にベルモンドの者なのか?鞭は持っていない、他に何か手があるのかと思えば使えるのはその杖とろくに当たりもしない豆鉄砲のみ…歴代でもここまで弱いのは初めてだ…」

 

そんな私は今、圧されていた…目の前にいる化け物に私の力はまるで通用しなかった…どれだけ嘲られようとももうすぐには反論する気力さえも湧かない。

 

「…だから、何…?そんな事…貴方なんかに言われなくても…知ってる…私は弱い…」

 

弱いから…私は一度親友を失った…ブラゴやガッシュに清麿、他にも…仲間がいなければ…私一人では何も出来無かった…私一人で成し遂げた事なんて…ほとんど無いに等しい…でも…!

 

「…人間は…強いのよ…貴方が思うより…ずっと…!」

 

私は潰れない…この心だけは屈してはならない…例え一人だったとしても…

 

「…知っている。現に私も、我が主もベルモンドの者以外の人間に敗れた事がある。…だがお前はどうだ?地にみっともなく這いつくばって…そこから何が出来ると言うのだ?」

 

そう、私は奴の隙を作るどころか…満身創痍でこうして横たわっている…足を斬られ、脇腹も深く…足は斬り離されてこそいないけど…多分骨にまで行っている筈…脇腹は…出血が酷い…早急に治療を受けなければ私は確実に命を落とす…と言うか、もうさっきから意識が朦朧として…痛みも余り感じない…

 

「こんなの大した傷じゃない…」

 

喋る事が体力を消耗し、死までの時間が早まるのは分かってる…でも、自他共に認める捻くれ者の私の口は閉じない。

 

「ほう?ならば立ち上がってみせるが良い…どうせ出来無いのであろう?」

 

杖を持っていない方…少し前まで銃を握っていた右手を一度握ってから開く…次に深呼吸…良し。私は右手を床に着け、力を込める…立ち上がる…そして奴を黙らせる…好きに笑えば良い…でもこれが私…清麿たちが知ったら本気で怒るだろう…一人で何をしてるのか、と。

 

……無茶は承知の上。でも、この戦いに皆を巻き込むつもりは無かった。せめて、清麿にだけは知らせていれば何かは変わったのかも知れない…彼は単独では戦えないが、あの頭脳…それはきっと私の助けになっていただろう…でも、だからこそ巻き込みたくなかった…仲間だから…彼らの内、誰一人こんな目にあわせたくなかった…

 

これは私の我儘…でも、だから何だと言うの…?

 

「…これは驚いた。」

 

身体を起こし、膝立ちの状態まで持って行く…気を抜いたらそのまま意識を失ってしまう…だから…一気に立ち上がる…!

 

「意地は張り通してこそ…!デス…貴方だけは私が地獄に連れて行く…!」

 

私は何度だって立ち上がる…例え、敵がどれ程強大でも…だって…その諦めない心…それが最初にブラゴに認めて貰った私の強さだから。



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Sherry Belmondo of Destiny 6

「…いっそ見逃そうかとも思ったが、その負傷でそこまでの啖呵が切れるとは…今は弱くとも、素質はある様だし、やはり貴様を野放しには出来んな…」

 

そう言ってその鎌を構える…強がってはみたけど私に出来る事はもう何も無い。でも、この目は奴から逸らさない。せめて最期まで抗う…奴の隙を探…え!?

 

「消え「ベルモンドの者よ!その首貰った!」しまった!?」

 

奴に油断は無かった…私に向かって来る途中で私の前から消え、次の瞬間には背後から声が…間に合わない…これでは本当に何も…!

 

「っ!何!?」

 

デスの鎌が振り上げられ、身構えた私の眼前で突風が吹き荒れる…私は思わず目を閉じてしまった…

 

「…貴様、何者だ?」

 

「そんな事どうでも良い…テメェ、誰に断ってこの女に手を出してやがる。」

 

この声…私はその強く、荒々しさを感じる声を知っている…ほんの少し前まで毎日の様に聞いていた声…そんな…彼はもう…

 

「…ブラゴ?」

 

「お前、腑抜けたか?この程度の相手にそんな傷を負わされるとは…」

 

目を開けた私の前にある大きな背中…彼が振り向いた。

 

「…ごめんなさい…私「謝るな、休んでろ。後はオレがやる」…分かった。」

 

一瞬迷ったけど…すぐに思い直した…彼なら心配要らない…彼を巻き込んでしまって申し訳無くも思うけど、そんな遠慮をこそ、きっと今の彼は嫌うだろう…そんな事を考えながら私は床に倒れ込んだ。

 

 

 

 

「…久しぶりの再会がこれか。」

 

聞こえる筈の無いシェリーの声を魔界で聞き、オレはそれを頼りにここまで来た…来てみればこの有様…一体何が起きたって言うんだ?分かってるのはここが人間界だって事くらいだが…まあ良い。ごちゃごちゃ考えるのは好きじゃねぇ。先ずは…

 

「テメェは何だ?人間界にテメェの様な化け物が存在するとは…」

 

オレはローブを着て宙に浮く骸骨を睨み付ける…こいつがシェリーを…未知の相手である以上、下手にキレる訳にはいかねぇが…正直、腸が煮えくり返りそうだ…

 

「…貴様こそ何者だ?人間ではあるまい。」

 

「聞いてるのはオレだ。早く答えろ。」

 

「…素性を尋ねるなら貴様から言うのが筋では無いのか?」

 

…分かった。こいつはオレの嫌いなタイプだ。…問答するだけ無駄だ。…だが、こいつのペースに乗せられるのも気に入らねぇ。

 

「…オレはブラゴ…魔物だ…で?オレは答えたぞ?」

 

「…魔物、そんな物がこの世界に…」

 

……正確にはオレは魔界の住人だが、そこまで教えてやる必要はねぇな。

 

「ふむ…では、私も答えねばならんか。我が名はデス…」

 

「デス…死神か。」

 

そんな物が存在するんだな…オレが言う事じゃ無いかもしれないが。

 

「…デス、ここは何処だ?」

 

「…知っていて来た訳では無いのか?」

 

「知らねぇよ。ここに来たのはたまたまだ。」

 

シェリーの声を頼りに歩いていたらここに辿り着いただけだ…

 

「…ここは悪魔城…我が主ドラキュラ様の城だ。」

 

「…城か。」

 

オレは改めて周りを見回す…成程、確かに城みてぇだな。

 

「…シェリーを攻撃したのは何でだ?」

 

「そいつは我が主と敵対する人間だからだ。」

 

「敵対?ドラキュラの目的は?」

 

「愚かな人間共の支配。」

 

成程、こいつはわざわざそれを止めに来たのか……いや、多分それだけじゃねぇ…こいつなりにきっと理由はあった筈だ…こいつの事は良く知ってる…甘さはあったが、見ず知らずの人間の為に命を懸けるようなお人好しでは無かった筈だ。

 

「そうか…良く分かった…テメェはオレの敵だ…」

 

「…人間では無い貴様が人の味方を「違ぇよ」む?」

 

「テメェがこの女を傷付けた…理由はそれだけだ。」

 

「…その女は貴様の何だ?」

 

「…パートナーだ。昔も今も変わらずな。」

 

オレはデスに向かって飛び、その髑髏の顔面を殴り付けた。




ブラゴの口調が意外に難しい…これで良いのだろうか…


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Sherry Belmondo of Destiny 7

オレはデスを殴った瞬間、余りの硬さに驚いていた…

 

…クソが!こんなのを相手してられるか!

 

オレは床に着地すると直ぐにシェリーの元まで走った。

 

シェリーの身体を持ち上げ、抱きかかえる…オレの手に大量の血が着いた…長くはもたねぇな…間に合うか!?いや、そもそも何処に逃げりゃあ良いんだ!?

 

「起きろ!こんな所で死にてぇのか!?」

 

脱出経路はこいつに聞くしか…っ!?

 

「逃がすと思うのか?」

 

後ろから振るわれた鎌を咄嗟に拳で受け止めた。

 

「ほう…止めるか。」

 

「消えろ…!この場で殺されたいか!?」

 

「…出来るのであればやってみるが良い…恐らく出来ないのであろうがな。」

 

「っ!?」

 

「恐らくだが、貴様はその女がいなければ本来の実力は出せないのではないか?…ただでさえ、パートナーが死の危機に見舞われているのだ…貴様が単独でも戦えるなら、私を倒す方が早かった筈だ…だが貴様がやったのは殴り掛かる事だけ…つまり今の貴様には私を倒す決め手が一切無いのだろう?」

 

「テメェ…!」

 

「その女を助けたいのなら、一つ取り引きをしよう…」

 

デスが鎌を退けた。

 

「アア!?」

 

「貴様がドラキュラ様にこの場で忠誠を誓うなら…その女を見逃そう…」

 

「オレがそっちに下っても、このままだとこいつは死ぬだろうが!?」

 

「その女を城の外に連れて行くが良い…その後、貴様は城に戻るのだ。」

 

「だから「この女がここに来た時点でこうなる覚悟は出来ていた筈…で、あるなら見逃されるのは屈辱以外の何物でも無い。つまり、必要以上の手助けはこの女が惨めになるだけ」…全てはこいつ次第って言いてぇのか?」

 

「ほぼ確実に、助からんだろうがな…」

 

「…一つだけ忠告してやる。」

 

「何だ?」

 

「この女は必ず傷を癒し、再びテメェの前に立つだろうよ…そして、テメェを踏み越える。」

 

「その前に貴様の前に現れるのではないか?」

 

「オレすら越えられねぇなら…ドラキュラどころか、テメェにも勝てねぇだろうよ。」

 

心底ムカつくが、認めるしかねぇ…こいつは俺より強い…!

 

「…デス、オレはこの城の構造を知らねぇ…出口に案内しろ。」

 

 

デスの案内で城を出て、村の入り口に差し掛かる…

 

「ここまでだ…」

 

「ああ。」

 

シェリーの身体を地面に降ろす…まだ辛うじて呼吸はしてるが…弱いな…オレはシェリーの身体の近くに自分の本を置いた。

 

「さっきから抱えていたが、結局それは何だ?本の様だが…」

 

「テメェに従うと言った覚えはねぇぜ、デス。オレが忠誠を誓うのはテメェの雇い主だ…テメェの質問に答える気はねぇし、命令も聞く気はねぇ。」

 

「良かろう…」

 

「…戻るぞ。とっととテメェの主の所に案内しやがれ。」



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Sherry Belmondo of Destiny 8

「…ん…っ…」

 

微睡みの中から目を覚ますこの瞬間は私は嫌いでは無い…ブラゴからしたら呆れる以外の何ものでも無いのだろうけど…ブラゴ?

 

「ブラゴ!…ここは…?」

 

目を覚ました時、私の目に入ったのは白い天井、それから一枚の風景画の掛かった壁…ここは何処なの…?

私は何故こんなところに…!

 

「そうだ!ブラゴ!」

 

意識を失う直前の事を思い出す…そうだ…私はブラゴに助けられて…

 

「ブラゴ!何処にいるの!?」

 

部屋の中にブラゴの姿は無い。一緒に城から脱出したんじゃないの…?その時、部屋のドアを叩く音が聞こえた…

 

「誰?ブラゴ…?」

 

「目を覚ましていたか…入って構わないか?」

 

「…ええ、どうぞ。」

 

その声に聞き覚えは無かった…男性の声だと言うのは分かる…一瞬警戒したけど、少なくとも私を助けてくれた人物だろうとは思う…違ってても逃げ場は無さそうだけど…そんな事を考えていたらドアが開いた…

 

「っ…」

 

私は一瞬その顔を見て言葉を失った…綺麗な顔…さっきの声の主だとすれば間違い無く男性である筈なのにその顔は女性と見間違う程に美しかった…

 

「…話は出来るか?」

 

「!…ええ…大丈夫よ…」

 

気が付くと訝しげな顔をした彼がそう声をかけて来ていた…いけない、助けて貰った以上、礼ぐらいは言っておかないと…

 

「貴方が助けてくれたのかしら?ありがとう。」

 

「……別に君を助けたわけじゃない…どちらかと言えば成り行きだ…ここも別に俺の家と言うわけじゃない。」

 

「そうなの…」

 

「さて、話を聞かせてもらおう…先ず、君はベルモンドの者か?」

 

「!…ええ、そうよ。私はシェリー・ベルモンド…貴方は?」

 

「俺の名を聞いてどうするんだ?」

 

「一応はここまで運んでくれたのでしょう?なら、貴方は恩人よ…名前くらい知りたいと思わない?」

「……アルカード、だ。」

 

……嘘…そんな…まさか…

 

「その反応を見るに、俺の事は知っている様だな…」

 

「ええ…ベルモンド家の本家にあった文献で読んだわ…嘗て…ドラキュラの息子でありながら、ベルモンドの人間に協力し、葬った…人の味方をする吸血鬼…」

 

「人間の味方をしたつもりは無い。ドラキュラを倒す…それが俺の宿命だ。」

 

「でも…結果的に貴方は人間を守っている…」

 

「この話に意味は無い…話を戻そう…ベルモンドの一族として君はドラキュラを狩る為にこの地に来た…で、何があった?何故城の外で傷だらけで倒れていた?…応急処置は済ませてあるが、早く医者に見せなければ危険な傷だ…」

 

城の外に倒れていた…?

 

「…私を見つけた時、他に誰かいなかったかしら?」

 

「いや、君だけだ。君は城の外に倒れていた…そこに置いてある本と共にな。」

 

「本?…あ…」

 

彼が指を指した場所には机があり、その上には…!

 

「っ!」

 

「動くな…傷が開く。」

 

「あの本は…!」

 

「俺が取って来る…君はそこを動くな。」

 

机に向かって歩く彼を見ながら考えてしまう…ブラゴ…貴方は…何処にいるの…?

 



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Sherry Belmondo of Destiny 9

「この本が君と共に落ちていた…」

 

そう言って彼が私の手に本を渡してくれる…色は黒く、表紙に独特の模様が描かれたその本はやっぱり…!

 

「悪いが君の寝ている間…先に中を改めさせてもらった…魔導書の様に見えたが、俺はその文字に見覚えが無い…恐らくこの世界の何処にもその文字を使っていた場所は無いだろう…教えてくれ、その本は一体何なんだ?」

 

「この本は…私が戦って来た…その証なの…」

 

そうして私は語り始める…嘗てブラゴと出会い、戦い続けたその日々を…

 

 

 

「千年に一度行われる魔界の王を決める戦い…そんな事がこの世界であったとはな…」

 

私が口を閉じた所で彼は壁にもたれかかりながらそう口にする。

 

「貴方は…信じるの?この話…」

 

「俺が何者だと思っている?吸血鬼だぞ?この世界にどれほど不思議な事があろうと今更そんなに驚かない。」

 

「そう…」

 

「この本については分かった…それでだ、既に君はその戦いで敗退し、戦いそのものも当に終わっていると言ったな?では、何故今この本がこの場にある?君のパートナー…ブラゴが魔界に帰還すると同時に本も消えてしまったのだろう?」

 

「それは…私にも分からない。でも、この人間界に彼が再び現れて私を助けてくれた…それが私の知る全てよ。」

 

「そうか。さて、君の事情も分かった…これから君を街まで送って行こう。」

 

「待って…どういう事かしら?」

 

「ここは既に村人の大半が避難した、医者もいない…君の傷は早く医者に見せなければならない…」

 

「何言ってるの?そんな暇は…」

 

「ドラキュラはまだ復活したばかりだ…すぐには動かない、君は安心して傷を癒すと良い…」

 

「本当にちょっと待ってくれない?…私の足はすぐには治らないわ…」

 

私は毛布を退けて、その中にあった…ベッドの上に乗る、包帯の巻かれた足を見る…

 

「そうだな、君は間違い無く街の病院に入院する事になるだろう…」

 

「その間、ドラキュラは本当に動かないの?」

 

「それについては…もう君が気にする事では無い。」

 

「だから…どういう事!?」

 

「後は俺がやる。もう君の出る幕は無い、と言う事だ。」

 

「勝手に決めないで!私はここにドラキュラを倒しに来たのよ…!このまま病院のベッドで過ごすなんて「はっきり言わないと分からないか?」っ!?」

 

彼が音も無く私のいるベッドに来ると私の前に顔を近付ける…!

 

「足手まといだからもう何もするな、と言っている…分かったら頷け、お前が今するのはそれだけで良い。」

 

彼が私を睨みつける…デスと同等、もしかしたら上かも知れない威圧感を至近距離でぶつけられたからか、身体は勝手に強張り始め、呼吸もままならない…!

 

「早く頷け…どうした?それくらいは出来るだろう?」

 

「…いや…よ…ブラゴは…私を…助けて…くれた…私には…分かる…の…彼は…あの城で…私を…待って…いる…」

 

何とかそれだけを口から絞り出す…ブラゴにもう一度会って…そして…ドラキュラを倒すまで…私は止まれない…!

 

「ならばもっと酷な事を教えてやろう…お前は誰に傷を負わされた?さすがに入り口近くの下級の眷族にやられた訳では無いだろう?」

 

「…デス…よ… 」

 

「そうか…ならお前が見逃されたのも頷ける…他の奴はほぼ話は通じないし、ドラキュラならお前は見逃される事は有り得ない。」

 

「何が…言いたいの…!?」

 

「デスはお前をただ見逃す訳は無い…凡百のハンターならまだしも、お前はベルモンドだ。なら、見逃された理由があるとは思わないか?」

 

「どういう…事…?」

 

「お前を助ける為現れた元パートナーの魔物…ブラゴ。見逃されたのは彼が理由だ…彼は単独では魔法を使えない上、退魔の力は無い…なら、お前の為、身代わりになって死んだか、そうでなければ…ドラキュラの下に着いたとしか考えられないだろう?」

 

「っ!?」

 

彼にそう言われ、身体から力が抜けて行く…ブラゴは私の為に…!?

 

「改めてもう一度言う…君はもう何もするな…」

 

彼がそう言って離れ、背を向けて部屋を出て行った…



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Sherry Belmondo of Destiny 10

ブラゴが私の為に…さっきも言った通り、彼が死んでないのは分かる…縋りたいのではなく、何となくでもなくはっきりと分かっている…

 

「ダメね、それで折れたらそれこそ彼には失望されるわ。」

 

デスに切った啖呵も嘘にしてしまう…彼にも、もちろん自分にも私はもう嘘をつきたくない…例え、無謀だとしてももう一度あの城に…!

 

「…何かしら?」

 

ノックが聞こえ、私はそう返した。

 

「…答えは出たか?」

 

「ええ。」

 

ドアが開く…

 

「さて、君にはもう何もするな、と言った訳だが…」

 

「貴方は優しいのね…」

 

「……どういう意味だ?」

 

「私の身を…案じてくれたのでしょう?」

 

「…そんなつもりは無い。…その様子だと引き下がるつもりは無い様だな…」

 

「私は…ここで終わりたくない。彼にもう一度会うの…絶対に。」

 

そう言うと彼は溜め息は吐いた。

 

「頑固な物だ…これも血筋か「違うわ」む…?」

 

「これは私の意思…ベルモンドであるかなんて関係無い…私の譲れない想いよ。」

 

「…パートナーと戦う事になってもか?」

 

「彼と戦うのは初めてじゃないもの…昔に戻っただけよ。」

 

「…そうか、君に修行をつけたのは彼だったな…」

 

「彼は…手は抜かないわ。最初はともかく、最後の方はほとんど殺し合いと変わらないレベルになっていたもの。」

 

「君の覚悟は分かった…で?その傷でどうするつもりだ?…まさか這ってでも城まで進む、と言うわけでもあるまい。」

 

私は彼から目を逸らした。

 

「何も考えて無かったわけか…ご立派な覚悟だな。」

 

「現実的に無理なのは分かってる…でも、私はどうしてもここで終わりたくないの…」

 

「まあ良い…受け取れ。」

 

そう言って彼が投げて来た物を手で掴む…

 

「……これは?」

 

私の手の中には青い液体の入った瓶があった。

 

「ポーション…と言っても分からないか…自然治癒力を高める薬だ…時間はかかるだろうが、その腹部の傷と足は確実に治るだろう…」

 

「こんな物…一体何処で?」

 

このレベルの傷が自然に治る程の薬なんて…聞いた事が無い…

 

「こんな物、城に行けば普通に手に入る…最もそれはかなり上等な品で、そう何本も手に入る物じゃないが。」

 

「待って…城にあったの?……本当に私が飲んでも大丈夫なの…?」

 

「それは人間用の薬だ…別にそれほど不思議な話では無い。ドラキュラに限らず吸血鬼を神秘的なものとして崇め、更に外法を学んだ異端者は一定数必ずいる…それは恐らく城に集まった異端者たちがドラキュラに並び立つ為造った不老不死の秘薬の失敗作だ。」

 

「不老不死…」

 

「どうした?飲まないのか?それは別にお前に限った話では無く、歴代のベルモンドや、他のハンターも誰もが通る道だ。」

 

これを飲めないならベルモンドどころかハンターと名乗る資格すら無い、という事ね…私は瓶の口に嵌っている栓を引っこ抜いた。

 

「…んぐ…!?」

 

飲んだ瞬間から、明らかに異質な甘さを感じた…それと同時に身体が熱くなる…!?

 

「ちょっと!?これ本当に大丈夫なの!?」

 

「普通の人間には強過ぎる代物だ…最も君には飲む以外の選択肢は無い筈だが?」

 

「くっ…」

 

その内、少しだけど身体の熱さは引いて行った…

 

「傷はどうだ?」

 

毛布を退ける…

 

「痛みは無いわ…本当に効くのね、この薬…」

 

「…傷の規模が規模だからな…体力の消耗もある筈だ…少し休め「待って」何だ?」

 

「どうして…私にここまでしてくれるの?」

 

彼にここまでする理由は無いはず…そもそも私を放っておいて城に向かっても良い筈なのに…彼はこうして私の気持ちが固まるのを待ち、貴重な筈の薬までくれた…

 

「俺は約束を果たしているだけだ…」

 

「約束…?」

 

「……そうだな、君には聞く権利はあるか…教えてやろう、俺を友と呼んだあるベルモンドの話だ…」




設定はオリジナルで行きます…悪魔城本編にシェリーを入れる隙間が無いので…あくまでこれはifの話という事で…


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Sherry Belmondo of Destiny 11

「さて、奴の話だが…」

 

壁にもたれかかった彼は、胸の前で腕を組みながら少し上の方を見上げ、目を閉じ…そのまま黙り込んでしまった…しばらく待ってみたけど…それきり彼は口を開こうとしない…焦れったくなった私は声をかけた。

 

「どうしたの?」

「いや、何…何処から語れば良いのかと思ってな…奴とはそう長い時間を過ごしたわけじゃないが…こうして思い起こして見れば、色々と奴に関するエピソードが多くてな…」

 

彼は…笑っていた…今まで何処か刺すような雰囲気を纏っていた彼が…今は警戒を完全に解いている…それきり、私は何も言えなくなり、彼の顔を見詰めていた…やがて彼が目を開いた。

 

「…そうだな…先ずはここからか…奴との出会いだが…正直第一印象は最悪だったな…何せ奴は寝ている俺を無理矢理起こしたのだからな…」

 

「無理矢理起こした?寝ていた?」

 

どういう意味かしら?

 

「俺は基本的に普段は眠りについている…俺の存在は世界を悪戯に混乱に貶める事にしかならないからな…」

 

「……」

 

「奴はそんな俺を起こした…そして自分はベルモンドの者だと言い、俺に力を貸して欲しい、と。」

 

「それで貴方は彼に力を貸す事に?」

 

私がそう言うとクックッ…と笑い始めた…

 

「そんな簡単な話じゃないな…そもそも仮にもベルモンドを名乗る者として、俺の様な者に力を借りたいなど言うのは本来前代未聞だ…どう取り繕ったところで、俺も吸血鬼なのだからな…更に言えば、問題はそれだけじゃ無かった…」

 

「問題?」

 

「俺の様な吸血鬼は血の臭いに敏感だ…特に出血などなくても分かってしまう程に…そして…奴にはベルモンド特有の血の臭いが無かった…」

 

「え?じゃあ…」

 

「…こいつはベルモンドでは無い…それが当時俺の下した判断だった…」

 

「……」

 

「俺は奴を問いただした…どう言うつもりだったにしろ、俺を起こしたのだ…きちんとした理由が無ければ、俺はその場で奴を殺すつもりだった…そして奴は自分の素性を語り始めた…」

 

「結局彼は何者だったの?何故ベルモンドと偽って?」

 

「ベルモンドの名は英雄の名だ。騙りたがる者は多い…だが、結論から言うと奴は名を偽ってはいなかった。」

 

「奴は養子だ…ベルモンドの家に迎え入れられた孤児だったんだ…」

 

「養子…」

 

「奴の家はそもそも、ベルモンドに限らずハンターの使う装備を作っている職人の家だった…そして幾人ものハンターと懇意にする中、奴の父は当時のベルモンド…つまり後に奴の義理の父親となる者と特に付き合いが長かった…」

 

「そしてそんな家に産まれた奴も本来そうなるのが筋だったのだろう…だが、奴には物心ついた時点で既にその気は全く無かった…奴は子供のうちからベルモンドの家に入り浸り、戦う術を学んでいた…ベルモンド家の正式な嫡男と共にな。」

 

「自分の友人の家に行き、自分の家の仕事とは正反対な技術を学んで行く息子をどう思っていたのかなど、今となっては分からん…とにかくだ、奴の家は強盗に入られ、父親も母親もその凶刃にかかり死亡…奴だけが生き残った…その強盗を殺害してな…それが俺の聞いた奴の幼少期の話だ…」

 

「強盗を…殺した…?」

 

「そうだ、子供だった奴が大人の男数人をな…」

 

「そんな…そんなの「信じられないか?」ええ…とても信じられないわ…」

 

「そうだろうな…俺も奴と剣を交えて見るまで信じられなかった…だが、俺が奴と戦って分かったのは…純粋な剣での勝負なら吸血鬼としての膂力があって漸く互角に持ち込めるレベルだったと言う事だ…時間をかけて磨いた俺の剣がまるで通用しなかったんだ…納得もしよう。」

 

「ただ…その癖、俺に頼るのも合点がいった…俺が吸血鬼としての膂力を振るえば、耐えていた奴も何れは疲弊する…ベルモンドの者は身体能力もそもそも人を超えている者が多い…その上で更に修行を積む…並のハンターではどれ程努力しても追い付けまい…そしてそんな凡百なハンターにしかなれない奴がベルモンドの名を背負ってしまっている…」

 

「同情はした…だが、だからこそ分からない事もあった…」

 

「……彼にはいるはずよね?兄か、弟か分からないけど、正式なベルモンドの血を引く兄弟が…」

 

「それも聞いた…奴の兄は奴と共にドラキュラでは無い別の吸血鬼を狩りに行って、奴を庇って死亡している…」

 

「そんな…」

 

「ここまで来ると最早滑稽にすら感じたな…だから聞いた…俺や君の様な者と違い、奴に血の縛りは無い…身内を片っ端から失い、それでも人の為に戦うのは何故だ?何故逃げ出そうとしない?」

 

「彼は…何て答えたの?」

 

「『託されたから』…奴はただそれだけ答えた。」

 

「……」

 

「異常だ…こいつは間違い無く人間として何処か壊れている…」

 

「俺にこんな奴に手を貸す義理は無い、が…ある程度は見守るくらいはしよう…そう考えた俺は奴に名を聞き、俺は結局最後まで見守る覚悟をした。」

 

「え?名を聞いただけで…だっ、だってそれまではそんなつもり無かったんでしょう?」

 

「奴とあの時した会話はこうだ…」

 

『良いだろう…では、行こうか?ベルモンドの者よ…』

 

『…その呼び方は止めてくれ。俺にその名は重い…』

 

『ほう…では何と呼べば良い?』

 

『…ラルフだ、ただそう呼んでくれれば良い。』



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Sherry Belmondo of Destiny 12

「ラルフ…?それって確か…」

 

「…俺の事を文献で読んだなら、恐らくその名も出てきた筈だな…説明はしないぞ。」

 

ラルフ・C・ベルモンド…嘗て目の前にいる彼と共にドラキュラと戦ったベルモンドの…

 

「ちなみに後で聞いたら奴はこの話を知らなかった…最も奴と同じく、ベルモンドに迎え入れられた奴の実の妹の名はサイファ、だったからな…恐らく奴の父親は知っていたのだろう…先代のベルモンド家当主と友人だったのだからそう不思議な話でもないが…仮に奴の父が存命だったなら、その内話していたのだろうが…」

 

「彼に他に兄弟は…?」

 

そう言うと彼はまた笑い始めた…

 

「いない。仮に弟がいたなら、グラント…と、名付けられていただろうがな。」

 

彼が笑うのを止めると壁から離れ、椅子に座った…

 

「奴の父がどう言うつもりで名を付けたのかは分からん…だが、自分が死に、自分の息子がベルモンドの養子になり、本来の当主候補が亡くなって当主になり、果ては俺と出会うなど予想もしていなかっただろうがな…」

 

「だが、俺自身は運命的な何かをその時感じた…だから、俺は奴に力を貸そうと決めた…と言ってもだ…問題は山積みだったがな…」

 

「何かあったの…?」

 

私がそう言うと彼は溜め息を吐いた…

 

「俺が奴に出来る事など…何も無い、という事だ…何せ奴は剣技は俺を遥かに超えており、吸血鬼の俺の能力について行けない、と言う問題についてはどうする事も出来ん…奴は…結局剣の才能がある以外は何処まで行っても普通の人間だからな…」

 

「だが、奴は諦めようとしなかったんだ…奴は自分に修行をつける事を俺に頼んで来た…それで奴の気が済むのなら、と思い…俺は承諾した…」

 

「修行って…ドラキュラは… 」

 

「言い忘れていたが、奴が俺を起こしたのはドラキュラの復活する二年も前だ…その頃は予兆すら感じられなかった…起こされた俺の機嫌が悪かったのはそれも理由だ…」

 

「その後は…二年間奴の修行を見ていたよ…最も既にある程度の域にあった剣技に変化は…特に無かった様に俺には見えた…奴は何やらヒントを貰った、とか言っていたがな…それから…奴の歳の離れた妹に妙に懐かれたのは記憶にある…この話は関係無いな…止めよう。」

 

聞きたくなったけど、私はさすがに口には出さなかった…

 

「二年の間、奴とは何度か吸血鬼を狩りに行った…現代を生きる君からしたら到底信じられないだろうが、嘗てはドラキュラに限らず、真祖クラスの吸血鬼はゴロゴロいた…いや…誕生しやすかったと言うべきか…そもそも真祖ですら、元は人間の成れの果てだからな…」

 

「何故吸血鬼に…?」

 

「そもそも吸血鬼になるのも素質の問題らしいが…残念ながら俺も詳しい事は分からん…現代医学ならその分野から調べられるかもしれんが…検体の入手など不可能な上、元々現代人の多くは吸血鬼の存在自体を信じていない…これから先も実現は無いだろう…」

 

「さて…長々と話してしまったが、コレが最後だ…これから奴の終わりについて話そう…」

 

「終わり…?」

 

「全てはあの日…ドラキュラが復活した日から始まっていた…」



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Sherry Belmondo of Destiny 13

「その日は、ある吸血鬼を狩るため俺たちは村を出ていた……奴の妹を留守に残してな。」

 

そこで私は口を挟んだ。

 

「そもそもさっきの話で気になっていたのだけれど…その妹さんって…当時歳はいくつくらいだったのかしら?」

 

「12だ…」

 

そんな…まだ子供じゃない…

 

「……たった12歳の少女を残して吸血鬼狩りを?」

 

「…誰かがやらなければならなかったんだ…その当時ベルモンドには既に分家はいくつかあったが、基本本家には誰も寄り付かなかった…モリス家のみ例外で極偶に訪れる事はあったがな…」

 

「何故…?」

 

「正式なベルモンドの血を引いてない二人はそれなりに疎まれていたからな…これ以上言い訳はせん。奴の妹が割と歳の割にしっかりしていた事もあり、置いて行っても問題無い、と俺も奴もお互い自分に言い聞かせる様にして…それが悲劇に繋がったのは確かだからな…話を続けよう…」

 

「その日、件の吸血鬼を仕留めたその瞬間…俺は強大な闇の気配を感じ取った…」

 

「闇の気配…?」

 

「ドラキュラが復活した…俺たちは急いでその場を後にし、村まで戻った…」

 

「村ってまさか…ここ…?」

 

「そう…ベルモンドの本家のある、ここだ…」

 

「俺たちが村に辿り着いた時、既に村は炎に包まれていた。俺たちは村をうろつく眷属たちを狩りながら生存者を探した…」

 

「それで…生存者は…?」

 

「いなかった…少なくとも村には遺体しか無かった…最も大半は避難出来ていたらしく、遺体もそう多くは無かった…」

 

「彼の妹さんは…」

 

「村の広場で見つけた…神への冒涜か、それともベルモンドである奴への挑発か…逆十字の形で立てられた、木の棒に逆さまに磔にされて臓物を引きずり出された状態でな。」

 

私は吐き気を覚えて口を押さえた…何て、惨い…惨過ぎる…

 

「眷属共を片付け、奴の妹と他の村人の遺体を弔っている最中に生存者に聞いた話では、奴の妹は率先して村人の避難に当たっていたらしい…それを聞いて奴はその場に泣き崩れた…」

 

「俺の前で初めて感情的な姿を見せる奴に戸惑いつつ、俺は声をかけた…」

 

『大丈夫か…?』

 

『アルカード…コレが奴の…ドラキュラのやり方か…!?』

 

『奴は…人を…ベルモンドを憎んでいる…奴にとってはコレが当然の報いなのだろう…』

 

『妹は…サイファは…何の関係も…無い…何も…!』

 

『ラルフ…俺は行く…お前は、どうする?』

 

『俺も行くさ…本来これは俺の役目だ…ドラキュラにこの償いをさせる…手を、貸してくれるか…?』

 

『何を今更…二年の付き合いだぞ?お前の頼みならいくらでも貸す。それにだ、俺も今回は憤りを感じている…父を…ドラキュラを許すわけには行かない。』

 

『ありがとう…友よ。』

そこまで言って彼は口を閉じた…

 

「…それで…結局彼はどうなったの…?」

 

この時点で私は…何となく彼の末路は想像がついてしまっていた…

 

「ドラキュラの元まで辿り着いたは良いが…今までが平和だったせいか、俺の方がヘマをしてしまってな…確実に致命傷を受けるところを奴が割って入り、奴は重症を負った…」

 

『何故俺を庇った!?』

 

『友を庇うのに…何の理由がある…?』

 

『俺は吸血鬼だぞ!?しかもお前が憎むドラキュラの息子だ!』

 

『関係無い…お前は俺の友だ…』

 

『馬鹿な…!』

 

「奴はそのまま意識を失い、俺はドラキュラに斬り掛かった…だが、嘗ては倒せたドラキュラに手も足も出なかった…」

 

『くっ…!』

 

『何と情けない姿だ、息子よ…』

 

『何を『お前は弱くなった…人間と友誼を結ぶなど…恥を知れ!』ふざけるな!』

 

「…結局あの時の俺にはドラキュラを倒す事は出来無かった…ドラキュラの言う通り、俺は弱くなったのだろう…ベルモンド家で送る奴と、奴の妹との日々が…俺を弱らせた…」

 

「俺が死を覚悟した時、異変が起きた…瀕死の淵にあった奴が起き上がった…」

 

『ラルフ…』

 

『すまないアルカード…今の俺に近付かないでくれ…お前を傷付けてしまう…』

 

「聖なる力に包まれ、奴の身体は光り輝いていた…奴には力を引き出せないが、ドラキュラを倒せる唯一の鍵として持ち込んでいた鞭…ヴァンパイアキラーと共にな。」

 

『何だその力は!?何故お前は立ち上がれる!?』

 

『声が聞こえた…お前に殺された人たちが…歴代のベルモンドが…妹が…お前を滅ぼせと!』

 

『戯言を…!』

 

「ドラキュラの元へ一歩、一歩と踏み出す毎に奴の身体は崩れ落ちていた…俺は奴に向かって叫んでいた。」

 

『止せ!そのままではお前も!』

 

『アルカード…コレが俺の役目だ!』

 

「俺には奴を止められなかった…そして奴の放った鞭のたった一振りでドラキュラが消滅した…」

 

『ラルフ…!』

 

『アルカード…コレで良い…ドラキュラは死んだ…どうせまた復活するだろうが…後100年は時間がある…』

 

『ラルフ…』

 

『アルカード…お前に頼みがある…』

 

『何だ?』

 

『これから先、産まれてくる新たなベルモンドのハンターを見守って欲しい…そして、俺の様に弱ければ助け、導いて欲しい…』

 

『それが…お前の最期の願いか…?』

 

『頼めるか…?』

 

『……呆れた奴だ…良いだろう…その願い、友として聞き届けよう…安心して眠れ。』

 

『ありがとう…そして、すまない…』

 

「コレが…奴の全てだ…その後俺は奴を弔い、今日までドラキュラとベルモンドの戦いを見守って来た…」

 

「私を助けたのは…彼の願いを果たす為…?」

 

「そうなるな…最も今回はついでだったのだが…」

「ついで?」

 

「君も気付いているだろうが…俺の知る限り今回はいなかったんだ…ドラキュラを倒せる程の力を持ったハンターがな…だから、俺自らが城に向かおうとした…そこで偶然君を見つけた。」

 

「そう…だったの…」

 

私は…彼らにも感謝しなければならないわね…ベルモンドの生まれでも無かったのに、ドラキュラを命懸けで葬った強き心を持ったハンターの兄妹に…



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Sherry Belmondo of Destiny 14

彼の話が終わった…これ以上は余計…そう思いつつも私は口を開いてしまう…

 

「聞きたい事があるのだけれど…」

 

「何だ?」

 

「…さっき貴方は彼と彼の家族は彼が幼少期の頃に強盗に襲われ、彼だけが生き残ったと言ったわよね…でも彼には妹がいた…その妹さんはその時何処に…?」

 

私がそう言うと彼は溜め息を吐いた…

 

「半端に濁したから…余計に気にならせてしまったか…実は奴の妹もその場にいた…最もその時点では母親の腹の中だがな…」

 

「じゃあ…」

 

「奴の妹は瀕死の母親の腹を開けて取り出された…その傷が元で母親は死んだ…最も、母親の方は既に手遅れだったらしいからな…そのままなら母子共に亡くなっていただろう…」

 

「幸い奴が両親の決めた名前を知っており、妹の出生届は無事に出された…親は当時のベルモンド当主で登録してな…」

 

「…もう一つだけ、良いかしら?…彼はラルフ・C・ベルモンドたちの話を知らなかったのよね?なら、彼は何故貴方の事を?」

 

「……俺が奴に会うまでに関わったベルモンドはそいつらだけでは無い…奴が知っていたのはそう言う話だ…」

 

それきり彼は口を開かない…それ以上その内容について語る気は無い、って事かしら…言いたくないなら私からは聞けないわね。

 

「俺からも一つ良いか…?」

 

しばらくしてそんな言葉が返って来た。

 

「ええ、何かしら?」

 

「君はそもそも何故ここに来た?」

 

「…どういう意味かしら?」

 

「君はドラキュラの存在を知っていたのか?」

 

「…いいえ。元々私は吸血鬼ドラキュラ伯爵の事は創作の話だと思っていたわ…」

 

「では何故だ?復活は感じ取れたんだろうが、それでは戸惑う事はあってもわざわざここまで来ようとは思うまい。」

 

「私は頼まれたのよ…あるベルモンドにね…」

 

「誰だ?」

 

「レオン・ベルモンド…彼はそう名乗ったわ…」

 

「……」

 

「聞き覚えがある、という顔ね…」

 

「さてな、俺も正直何処で聞いたのか思い出せん…そいつは現代の人間なのか?」

 

「いいえ、故人よ…恐らくね…」

 

「死人と何処で会えたと言うんだ?」

 

「私の夢の中…そこで私はこの運命を託されたの。」

 

「…君は…」

 

「何か言いたい事でもあるかしら?」

 

「…夢で、見知らぬ男に会い、そしてその男の与太話を真に受け、こんなところまで来るとはな…」

 

「理解出来無い?」

 

「ああ。到底理解出来んな…最も、実際に来てしまった君に対してこれ以上俺から言える事は何も無いがな…いい加減休め、その傷…痛みは消えてもまだ治ってはいないだろう。」

 

彼はそう言って椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。



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妖精王のSAO1

「…ハハハ……何だよ、それ?ふざけんなよ!茅場晶彦ォ!」

 

僕は周囲のプレイヤーが困惑と恐怖で騒ぎ続けるなかあの男へ憎悪をぶちまけていた

 

……この僕、須郷伸之には大嫌いな奴がいる。それが大学の先達に中る茅場晶彦という男だ

 

量子物理学者兼天才ゲームデサイナーの肩書きで知られる。

僕は奴を憎んだ。その理由が天才だと思っていた自分に高過ぎる壁を見せつけ僕が一番欲しかった人まで奪って行った。しかも本人は彼女の好意に全く靡かない所も僕を苛立たせた。

 

ささくれだつ心をなんとか抑え込んでいた僕に奴が直接会いに来たときは本当に驚き困惑した

そもそも僕が勝手に一方的に奴を嫌っているだけで接点なんて無かった。

 

……奴の用は今までに無い画期的なゲームを作りたいから自分が見込んだ人物に声をかけており僕にも手を貸して欲しいとの事だった

 

僕の心は文字通り煮え繰り返った

今こいつは何て言った……?目の前のこいつに勝つために努力を続ける僕にゲームを作りたいから協力しろだと!?

ふざけるのも大概にしろ!?……と、怒鳴り付けてやりたかったが抑えた。

……先輩であるこいつを怒鳴ったり手を出したりすれば今まで僕が築いてきた物が全て失われてしまう。……それに聞けばこいつは元々人の気持ちが分からない奴らしく多少高圧的だったりこうやって間違いなく自分に協力してくれる……いや。協力すべきだ、と自分中心に世界が回って当たり前と言わんばかりの態度も仕方の無いことなのだ

 

……その癖こいつの信奉者が過激なせいで下手にこいつを敵に回すとろくなことが無いのは判断できた

 

渋々僕はその手をとり表面上笑顔を浮かべながら全面協力を申し出た

 

そして地獄が始まった

 

……まずこの茅場晶彦という男、聞いてた以上の人嫌いでコミュ障だった

 

……例えば一度嫌いだと思った相手はこの計画の出資者であっても頭を下げるのを嫌がり僕に押し付ける

 

……生活は雑の一言に尽き、研究室は足の踏み場もなく書類が見つからなくなるや僕に片付けさせる

 

……ゲームの宣伝をしなきゃいけないのにメディア露出を嫌がり肩書きだけプロジェクトの副リーダーになっている僕を代わりにテレビ出演や雑誌取材に出させる

……そもそも開発はせっかくのプロジェクトメンバーの手をほとんど借りずお前が自分でやってんだから説明しろって言われたって分かるわけ無いだろ!?バカか!?

 

……アイデアに詰まった時と腹が減った時だけ声をかけてくる……

 

などなど。とことん僕をバカにしているとしか思えなかった。

 

一応報酬はもらっていたが明らかに労基に照らし合わせれば割に合わない額だった

 

……ある日ついに耐えきれなくなり辞めてやると意気込んで最近自宅から出てこなくなった茅場晶彦の元に向かい見たのは茅場晶彦と僕の愛した女性が眠るように死んでいる姿だった

 

……警察の捜査で茅場晶彦はゲームハードに中る試作品のナーブギアを改造し脳にマイクロウェーブを流し自殺したという結論が出され彼女が後を追って死んだのもあり二重にショックを受けた僕が渡されたのが僕に宛てた茅場晶彦の遺書だった

 

……そこに書かれていたのはまだテスト段階だがそれでも9割程完成させたゲーム僕に託すということ、それから僕の才能が妬ましかったというあの男からの文字通りの敗北宣言だった。そして追記に今までの全ての償いに自分の財産とこれから先発売するゲームの権利を譲るという一文が書かれていた

 

……何なんだよ、それ。意味わかんねぇよ……

 

結局僕は分野の違う内容にめげずに何とかゲームを完成させ稀代の物理学者茅場晶彦の遺作としてソードアート・オンラインを世に出してから燃え尽き自堕落な生活を送っていたがそんな僕を見かねて訪ねてきた同じ開発プロジェクトのメンバーに諭されとりあえずあいつの作ったゲームの世界を見てみようと思い立った

 

……そして運命の日ソードアート・オンラインにログインした僕は茅場晶彦の残した時限プログラムによりGM権限を剥奪されその直後に茅場晶彦を名乗る者からのデスゲーム宣言……そして散々奴を罵倒した僕は……

 

「ハハハ……何だよ何だよ……そこに居たんだな、あんた……!」

 

言いたいことを言い切りスッキリした僕は今度は宿敵と決着をつけられる事に歓喜していた



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妖精王のSAO2

「さて…先ずはレベリングかな?」

 

僕は茅場晶彦の事を良く知っている。あいつが手を抜く筈は無い。どうせ、外部からの助けは来ないだろう…正攻法でゲームをクリアする以外脱出の方法は無いと考えて良いだろう…全く…ふざけた事を考える…常の状態なら迂闊にこんな世界には来なかった物を…!死んでも良いと思ってはいたけど…あいつが作った物で死ぬなんて冗談じゃない…!

 

「愚痴っても仕方が無い…運動にはあまり自信が無いんだが…そうも言ってられないか…」

 

奴が投げ出して、仕上げは僕がしたとはいえ…この世界の大半は奴が作った物だ…取り敢えず完成させる事だけを考えていたからこの状況を打破出来る様な裏コマンドみたいな物は用意して無い…そもそもGMとしての権限も取られてしまった訳だが…そう言えばあいつ、僕がログインするのを読んでいたのか…僕の事はお見通しって訳か…本当にムカつくよ。

 

「取り敢えずベータテスターに接触しよう…教えを請わない事にはどうしようも無い。」

 

僕はこのゲームの要とも言えるシステム、ソードスキルの使い方さえろくに分からないんだ…知識としては製作者の一人として知ってるけど実際に使う為にはどうやって身体を動かしたら良いか分からない…

 

「…ハァ…昔の僕だったら、他人になんて頼らないんだろうけどね…」

 

本物の天才が何時も傍にいたからか、僕は自分がそこまで優れた人間だとか思ってたりはしない…あいつの自殺を受け止められなかったのはそのせいだ…何が僕の才能に嫉妬した、だ…!それは僕のセリフだと言うのに…!

 

「まぁ良いか…取り敢えず片手剣を使うならホルンカまで行けば良いか…」

 

ホルンカの村で受けられる<森の秘薬>クエストの報酬アニールブレードは序盤の武器としては中々強い…強化の仕方にもよるが二層のフロアボスまでは前線で通用する武器の筈…ただ…

 

「場所が分からないな…」

 

こんな事なら、僕も他のスタッフの様にベータテストに参加すれば良かったか…あいつらスタッフ権限でベータテスターに混じってゲームに参加してたからな…完全に職権乱用だろ…まぁチャンスがあったのにやらなかった僕が悪いんだろうけどね…

 

「ん?おや…あれは…」

 

ほとんどのプレイヤーが混乱している中、迷い無くはじまりの街を走って出て行くプレイヤーを見付けた…背中に背負ってるのは片手剣か…そうだ、彼の後を着けてみようか。

 

「…速いな…レベルの差が原因か…」

 

僕がこの世界に来たのはついさっきだ。彼はちゃんと正式サービス開始直後からログインしてレベル上げをしていたのだろう…くそっ…置いていかれそうだ…!

 

「逃がすか。…僕はこんな世界で死ぬつもりは無いんだからな…!」

 

何としても見失わないようにしなければ…後で考えれば彼がホルンカの村に向かう保証は無かった訳だが…まぁ彼がベータテスターなのはほぼ間違い無いし、それ程損は無いだろうと思っていた訳だ。



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妖精王のSAO3

「んで、俺をベータテスターだと思って後を着けたと。」

 

「まあ、そうだね…」

 

数分後、僕は待ち構えていた彼と話をしていた…

 

「にしてもホルンカの場所を聞きたいって…それならアンタもベータテスターじゃないのか?」

 

やらかした…必死過ぎて段階をすっ飛ばしてしまったよ…ここまで来たら無理に隠してもバレるしもう良いか…この少年、中々お人好しに見えるからね…多分素性を言ってもそこまで問題にはならないだろう…

 

「それなんだけどね、僕はテスターじゃないんだ…どちらかと言うと製作者側の人間でね…」

 

「は?…ならアンタもしかして茅場晶彦の「早とちりしないでくれ。僕はあいつの仲間じゃないよ…最も信じて貰える根拠は無いんだけど」…本当なのか?」

 

「ああ。詳しい事情は今は省くけど僕はたまたま知らずにログインしただけなんだ…ほら。」

 

僕は右手を振り、出したメニューを可視化してその少年キリト君に見せる…これぐらいはさすがに知ってる…最もこれぐらいしか出来無いけどね…

 

「…確かにログアウトボタンは無いけど…」

 

「そもそも僕が今回の首謀者茅場晶彦の側の人間で君に何かしようと思うなら、見つかるのは可笑しいだろう?…というか何故僕は君に拘らなきゃいけないんだ?例えばゲームクリアを防ぐ為にベータテスターを狙ってるなら他にもテスターはログインしてる筈だ…少なくとも君に見付かった時点で一旦逃げて他の標的を探す筈だろう?ここで呑気に話してるのは変じゃないか?」

 

「…分かった。アンタを信じるよ、アルベリヒ。」

 

「良かった…助かったよ。製作チームの一人とは言ってもゲームその物はあまりやった事が無くて困ってたんだ…色々教えてくれると助かる…」

 

「……製作チームの人間がやり方教えてくれって言うのはどうかと思うけど…アンタが正式サービス初日に何の為にログインしてたのか知らないけどさ、他に仲間はいないのか?」

 

彼の言う通り多分他にもいるんだろうけど…

 

「……プレイヤーネームが分からなくてね…」

 

「アンタ、ハブられてるのか…?」

 

……歳下に憐れみを込めた目を向けられるのはそれなりにイラッと来るな…まあ僕もそうじゃないかと思うし、今更こんな事で騒いだりはしないけどね…茅場晶彦の方がもっとムカつく人種だしね。

 

「…何か悪い事聞いちまったみたいだな、悪かった…」

 

「…いや、良いよ。」

 

謝られるのは何となく新鮮だな…一度あの男と関わって以来、忙しくてあいつ以外とほとんど関わる時間無かったからな……あいつ僕にどれだけ迷惑かけようと謝らないし。

 

「取り敢えずホルンカまで急ごう、日が暮れると面倒になる。」

 

「一応聞くがどれくらいで終わるクエストなんだい?」

 

「さぁ…でもまぁもしかしたら夜が明けるかも…」

 

「……本当に?」

 

「…逆に製作チームのアンタに聞きたいんだけどさ、ベータテストの時点で異様に確率低かったと思うんだけど?」

 

「……さぁ、行こうか、キリト君。」

 

その辺の話は僕に言われても分からない。その辺のイベント設定もほとんどあいつ一人でやってたみたいだし。

 

「いや、こっちだから…アンタ本当に製作チームのメンバーなのか?」

 

「…すまない。」



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妖精王のSAO4

「何でアンタ、クエストの受け方も知らないんだ?」

 

「……」

 

それから、少ししてホルンカの村に辿り着いた僕はまたも想定外の事態に陥っていた…着いて、クエスト受注場所を聞いて別れようとした時…

 

「ここまで来て別に別れる必要無くないか?俺も同じクエスト受けるしな。」

 

「しかし…このクエストは確か一人しか受けれない筈じゃ…そもそもモンスタードロップのアイテムだから…」

 

僕はその先を濁した…万が一ベータテスターの彼とドロップアイテムの奪い合いになれば僕に勝ち目は無い。

 

「あー…うん。それはさすがに知ってるか。クエスト自体は別に一人ずつ受注しに行けば普通に受けられるから。それとアニールブレードを手に入れるためのリトルネペントの胚珠なら最初はアンタに譲るよ…その後はアンタは先に帰っても良い。」

 

「…何でそこまでしてくれるんだ?」

 

僕は訝る…少なくとも会ったばかりの怪しい男にここまでしてやる理由は彼には無い筈だ…しかもこの世界の絶対的ルールはHP全損=死…僕の為に行動して失敗した場合失うのは彼自身の命…いくらお人好しにしてもそれは度が過ぎてる。

 

「別にアンタの為って訳じゃないよ。アンタが本当に制作チームの一員だったならここで死なせる理由も無いだろ。後で役に立つかもしれないし…後、単純にここで見捨てたら俺が寝覚めが悪い。アンタどう見ても頼りないしな。アンタのクエストが終わるまでは付き合うよ、その後はアンタの好きにしたら良い。」

 

「……」

 

雰囲気で分かるが、多分後の理由が本音なのだろう。本当にお人好しなんだろうな…まぁそういう事なら精々利用させて貰うとするよ。…こっちも手段を選んでる余裕は無いからね。

 

「分かった。そういう事なら僕からも同行をお願いしよう。」

 

「じゃあ、行くか。」

 

 

 

 

そして冒頭の状況に戻る…

 

「…俺に先に受けて欲しいって言った時点で少し引っかかってはいたんだけどさ、まさかやり方を知らないなんてな…」

 

「すまない…」

 

彼のやり方を見れば受け方は分かるだろうと思って先に受けて貰うことにしたんだが…まさか受ける場所が家の中とは…当然中で彼が何をしたのかは分からずじまい…それで仕方無く恥を偲んで彼に頭を下げた。

 

「こうなって来るとアンタが本当に制作チームのメンバーなのか怪しくなって来るな…嘘を言ってる様にも見えないけどな、ベータテスターじゃないのも確かだろうし…ただ、そうすると逆にアンタが本当は何者なのかという疑問に行き着く…リアルの詮索はご法度なのは分かってるけど俺もこのままだとアンタの事を信用出来無い。教えてくれ、アンタ本当は何者なんだ?」

 

……これ以上黙ってるのは無理か、そもそも僕には味方が必要だ…このままだと僕はベータテスター以上に槍玉に挙げられかねないしね…

 

「分かった…全部話すよ、ちょっとこっちに来てくれ…信用出来無いならこの剣は君に渡しておくよ…それなら良いだろ?」

 

他にもいるだろうベータテスターに僕の事を聞かれる訳には行かないからな。

 

「…いや、良い…ここまで来ていきなりアンタが斬りかかるとは思ってない…つーかここは一応圏内だ、斬られても死にはしない筈だ…もしかしてそれも知らないか?」

 

「……いや、本当にすまない…」

 

何で良い歳した大人の僕がこう何度も歳下どころか、子どもの彼に頭を下げなければならないんだ…!?…くそっ!これもあいつのせいだ、茅場晶彦ォォォ!…ふぅ。あいつはもういないし、こうなったら絶対に今回の事件の首謀者に八つ当たりしてやる…!その為に何としても彼を味方にしなければ…!



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妖精王のSAO5

「…とまぁ、こんな理由だよ…ん?どうしたんだい?」

 

何かもう面倒になりキリト君に全てをぶちまけてしまった。話し終え、スッキリした僕がキリト君を見ればやけに顔色が悪い。

 

「…いや、引いてるんだよ…アンタ言ってる事の大半が茅場晶彦に対する愚痴だったからさ…」

 

「いや、すまない。何せ誰もろくに聞いてくれなくてね…」

 

「……茅場晶彦が生活力0の上、変人だったり、アンタがあの須郷伸之だったり、色々衝撃的な話はあったけど取り敢えず一つ聞いても良いか?」

 

「何だい?僕に答ええられる事なら答えよう…」

 

「…なら、聞かせてくれ。アンタをここに来るよう進めた製作チームの人間ってのは誰の事なんだ?」

 

「…う~ん…最近の僕は人と真面目に関わろうとしなかったからね…誰だったかな「聞いたのは俺だけど…アンタは割と真面目に思い出した方が良いと思うぞ?」何故だい?」

 

「いや、だって…そいつは間違いなくこのデスゲームの首謀者側の人間だろ?」

 

「……そうなのか!?」

 

「今の今まで考えてもいなかったって感じだな…」

 

「あっ、ああ…根拠を聞かせてもらっても良いかな…?」

 

「…単純な理由の上、多分アンタには酷な話になるけど…結論から言えば、アンタは製作チームの他のメンバーに嫌われていたのは間違い無いだろうな。」

 

「……確かにろくに話す機会も無かったけど…つまり君は、僕にここに来る様勧めた彼は、この世界がデスゲームと化す事を知っていて、僕を…殺すつもりでこの世界に入れたという事かい…?」

 

「少なくとも俺はそう思うよ。」

 

「そんな…!僕は確かに彼らとあまり付き合いは無かったけど…そこまで恨まれるなんて「アンタには悪いけど客観的に見たら当然の話だと思うよ」何故!?」

 

「それは多分…アンタが製作チームの中で一番茅場晶彦に近い立ち位置だったから。」

 

「それが何故「いや、考えてみろよ…茅場晶彦がどうしようも無いダメ人間である事は製作チームの中ではアンタしか知らないんだぞ?その事実だけ考えたら…どう思う?」あ…」

 

そんな…それが理由なのか…!?

 

「…元々個人的な理由で茅場晶彦に憎しみを抱いていたアンタと違って他の奴らは声をかけてもらえて光栄だとか思ってたんだろう。何せあの茅場晶彦から声をかけられたんだ…だが…茅場晶彦はほとんどそいつらの手を借りないどころか、所詮同じ立場でしかない筈の男が頻繁に彼の近くを彷徨いている…しかも茅場晶彦を差し置いてメディア出演まで…アンタは完全に直属の右腕の様に思われてただろうさ…実際はただの使いっ走りだなんて思いもしない。」

 

「……」

 

「しかもアンタは忙しかったのと、ゲームにあまり興味が無いという理由でベータテストにも参加しなかった…つまりまともに交流が無かったせいで誤解を解くタイミングも無かった…そのうち茅場晶彦が自殺した…製作チームの連中がほとんど自分の実力を示す機会も無く…しかも遺書にアンタの名前はあっても他の製作メンバーの名前は一切無かったんだろ?恨まれて当然だな…」

 

「馬鹿な…!?」

 

「とにかく思い出せよ…アンタをここに呼んだのは誰だ?…まああまり思い出す意味は無いかもしれないけど…」

 

「なっ、何故「アンタはどうせろくに覚えてないんだろうし、そもそもアンタを引っ掛ける理由は全員にあるからな…つまりアンタ以外の製作メンバー全員が首謀者の可能性もあるんだ」そんな…」

 

そんな理由で僕は殺されるのか!?あんなクソッタレの使いっ走りだったなんてふざけた理由で!



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妖精王のSAO6

「ちょっと待ってくれ…!君の言っている事には致命的な矛盾があるよ…!」

 

必死で否定材料を探そうとする僕に彼は溜息を吐いた。くそっ!僕が何で子どもにこんな態度を取られないといけないんだ…!?

 

「…大体想像はつくけど…言ってみろよ、何だ?」

 

「連中は茅場晶彦に目をかけられていなかった…この世界はほとんど茅場晶彦が一人で創ったんだ…!デスゲームのプログラムを彼らが組めるとは思えないし、彼らがここがデスゲームと化す事を伝えられていた筈も無い…!」

 

これならどうだとばかりに鼻息を荒くしてしまう僕を彼は冷めた目で見る…そんな…そんな目で僕を見るんじゃない…!

 

「…先ずアンタに聞きたいんだけど…アンタこのゲームを仕上げる際に構成データに関しては全て確認した筈だよな?でもアンタはゲームを発売する事を決定した…つまりアンタはこのゲームがデスゲームになる事を知らなかったんだろう?」

 

「そっ、そうだよ!それが「残念だけど…アンタが分からない=そいつらが分からないって事にはならないよ。」馬鹿な…!?」

 

そんな筈は…!?

 

「ゲーム音痴のアンタが外側の構成データを見て気付かなくても、ゲームに関してのノウハウを持ってるそいつらが気付くのは何の不思議も無い。…別に茅場晶彦から目をかけられてなくても問題は無いんだよ、彼らがたまたま構成データをアンタが知らないタイミングで閲覧してデスゲーム化するプログラムに気付いた…それでアンタを殺す事を考えた…ただそれだけの話って事だよ。」

 

「しっ、しかし…なら、僕がGM権限を取り上げられた理由は!?こんなもの茅場晶彦にしか作れない!彼らが協力してないと「いや、あのさ…それも連中がたまたま調べて気付いただけだと思うけど」そんな馬鹿な…!じゃあ君はそのプログラムは奴が始めから組んでいたというのか!?何故!?」

 

「アンタ自分で話したじゃないか。遺書に書いてたんだろ、アンタに嫉妬してたって。動機はあった訳だな。」

 

「いや、だが…彼らと奴が協力関係に無かったなら僕がログインするかなんて「茅場晶彦はもう自殺してるだろ?既にどっちでも良かったんじゃないか?別にログインしても、しなくても構わないぐらいの気持ちだったんだろう…最も理由はどうあれ、アンタが確実にログインする自信があったのかもしれないな」そんな…」

 

「要するにアンタはとことん運が悪かったんだな…俺からはそれ以上何も言えないな…まぁ流されるだけのアンタがログインした後にやった事だけは間違ってなかったと思うけど。」

 

「……何がだい?「アンタ、手鏡をオブジェクト化しなかったせいで設定した顔から変わってないんだろ?これから先、ベータテスターと一般プレイヤーとの格差による抗争は避けられないかもしれないけど…もし素顔を晒したアンタがこの世界にいたら…多分、今頃アンタはテスターと一般プレイヤーの両方から糾弾され、最悪殺されていただろうからな。」……」

 

僕はもうその場で項垂れるしか無かった…何で僕がこんな目に…!

 

「で?アンタはどうするんだ?このまま攻略を続けるつもりなら俺は手を貸しても良いけど?」



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妖精王のSAO7

「どうしてそこまで僕に…?」

 

僕は思わず彼にそう聞いていた…こんな物、もうお人好しとかそんなレベルの話じゃない…彼は頭の回転も早い様だし、このまま僕に付き合えば今は大丈夫でも、後々面倒な事になるのは分かってる筈だ…こんな事で死にたくないとはいえ…理由を聞かないと納得出来無い…

 

「あー…そうだな…正直、アンタの話聞く限りどう考えてもアンタの知識は攻略には役に立たないとは思う。」

 

「そうだろうね…」

 

「だからさ、これは俺の自己満足だ。俺は自分の為にアンタを手助けしようと思ったんだよ。」

 

「今の僕を助ける事が何で君の為になるんだ?君は今言っただろう?僕は攻略の役に立たない、と。」

 

「…ここに来る前、俺は仲間を一人置いて来た…だから、ここまで着いて来たアンタは助けようと思ったんだ。」

 

「……」

 

「そういう訳だから…俺はアンタがこの先攻略に参加するつもりなら手を貸すよ…どうする?俺は無理強いはしない。何なら、はじまりの街まで送るけど?」

 

「…いや、良い。僕は攻略に参加する。」

 

逆恨みされて、勝手な思い込みで殺されるなんて冗談じゃない。向こうに帰って連中を叩き潰せる可能性が少しでもあるのなら…僕に逃げるつもりは無い。

 

「そうか。なら、先ずはクエストの受け方から教えるよ。」

 

 

 

 

「キリト君、本当に花付きなんて出るのかい?」

 

「それは俺がアンタに聞きたいんだけど?」

 

クエストを受けてから数時間後…僕たちは植物型Mobのリトルネペントを狩り続けていた…

 

「…僕に聞かないでくれ…ゲームの事は良く分からないんだ…」

 

「……茅場晶彦が何でアンタにこのゲームの権利を託したのか疑問に思うよ。」

 

「それに関しては僕も同感だね。」

 

「…今のをもし、製作メンバーの誰かが聞いてたらアンタこの場で殺されるだろうな。」

 

「そう言われてもね…僕は茅場晶彦に勝ちたかっただけだ…このゲームの売り上げ利益がいくら入って来ても僕は納得出来無いよ…これは勝利じゃない…あいつは僕との勝負から逃げたんだ…!」

 

「何を持ってアンタの勝利になるのか分からないけど…少なくとも茅場晶彦はアンタに勝てないと思ったから自殺したんだろ?やっぱりアンタの勝ちじゃないか?」

 

「……」

 

「つーかアンタ、茅場晶彦が死のうがどうしようが本当はどうでも良いんだろ?アンタは…神代凛子だっけか?その人と付き合いたくて躍起になってたんじゃ「キリト君、それ以上は止めてくれないか?」…そうだな、悪い…俺がどうこう言う話じゃないよな。」

 

リトルネペントにソードスキル、ホリゾンタルを使い、消滅するのを見ながらキリト君に釘を刺す…さて、さすがにこれだけ狩ったら一旦打ち止めかな?

 

「しかし…アンタすごいな…まさか会話する余裕があるなんてな…」

 

「僕も驚いているよ。あまり運動は得意な方じゃないんだが、ここでは何故か身体がとても軽いんだ。」

 

「…多分、仮想世界への適正が高い方なんじゃないかな。俺も良く分からないけど。」

 

「まあ理由なんて何だって良いさ…戦えるならそれで良い。僕はさっさと向こうに戻らないといけないからね。」

 



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妖精王のSAO8

「リトルネペント狩りに協力する…?」

 

「うん、どうかな?」

 

リトルネペントの出現が一旦収まり、休憩していたところ、コペルというプレイヤーが声をかけて来た。……僕らをベータテスターと思って声をかけた様だけど…

 

「これから先、俺の事は気付く奴いるかもしれないからな…一緒に行動する事も増えそうだし、アンタの事もベータテスターだと言っておいた方が良い…アンタ半端に知識あるから、やらかしかねない。」

 

「…成程、分かったよ。」

 

相談の名目で、僕を彼から距離の空いた所まで連れて来たキリト君に釘を刺される…しかし逆に中途半端にしか知識の無い僕がテスターだと言っても良いのだろうか…?

 

「製作メンバーの一人、それもアンタが須郷伸之とバレたら俺としては庇いきれない。糾弾されるのを覚悟の上で言いたいなら止めないけど…俺も自殺志願者を助ける程お人好しじゃないし。」

 

「それは…確かに困るね…」

 

「ちなみに…知識が半端でも知っているという事実さえあればベータテスターだと言い張れるから細かい事は気にしなくて大丈夫だ。…俺も全部覚えてる訳じゃないしな…もちろん一般プレイヤーから責められはするだろうけど、製作メンバーだったとバレるよりマシだろ?」

 

……確かに。テスターと一般プレイヤー両方から責められるより、遥かにマシだ…恐らくログインしてるだろう他の製作メンバーの事も警戒しなきゃならないのに無闇に敵を増やす事も無い。

 

「それじゃ本題だけど…」

 

「手が増えるのは有り難い…けど…」

 

「裏切られるかもしれない…考えられる手段としては実の破壊かな?」

 

実を破壊されて群れで集まって来たらキリト君はともかく初心者に毛の生えた程度の僕はひとたまりも無い…

 

「…断るのが一番安全ではあるけど…」

 

「でも多少なりとも楽になるし、この場で退かせて見えないところで裏切られる方が面倒だと僕は思うけど。」

 

結局、このまま二人でやって仮にその後花付きが出現しても疲れていたら狩るどころじゃないだろうという事で彼の手を借りる事にした…裏切る懸念はやっぱりあるけど、どうせ裏切られるなら見えるところでやられた方がまだ対処もしやすいからね…まあ釘を刺すのは忘れない様にしよう。

 

「そう言えば…コペル君?」

 

「え?何?」

 

「僕もキリト君に聞くまで知らなかったんだけど…リトルネペントには隠蔽スキルが聞かないんだってさ…君、知ってたかい?」

 

「え!?…いや、知らなかったな…そうだったんだ…」

 

……一緒に行動してる以上この状況で実を割ったら自分も巻き込まれるからね…裏切るとしたら先ず間違い無く隠蔽スキルを使って隠れるつもりだろうから。これで彼が裏切る事は多分無いだろう。スキルの説明を聞いた時、たまたま聞いたキリト君に聞いたエピソードだけどこんな所で使える知識になるなんて思いもしなかったよ。…タゲを取らせる関係上、コペル君に先頭を歩かせてるのを良い事にキリト君が立てた親指を見せて来たので僕も返す。

 

……こういうのも案外悪くないな…後はここがデスゲームじゃなかったら最高だったんだけどね…



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妖精王のSAO9

「いた!花付きだ!」

 

コペル君がそう叫ぶ。見れば実付きに囲まれる形で花付きが一体。

 

「…良し、じゃあ手筈通り僕とキリト君がタゲを取るから君が花付きを倒してくれて良い。」

 

「……それは有り難いんだけど…本当に良いのかい?」

 

「ああ、僕は構わない。」

 

「俺も。この後手伝ってくれれば良いさ。」

 

「…そっか、分かったよ。」

 

コペル君に忠告はしたけど、やっぱり不安だったから(そもそも彼には僕が言った事を信じる根拠が無いからね )彼に最初に胚珠を手に入れてもらう事にした…正直、さっきの遠回しの忠告と違ってここまで露骨だと彼も自分がまるで信用されてないというのはもう分かる筈だ…

 

 

 

 

「ハアッ!」

 

実付きの実を破壊しないよう気を付けつつ、攻撃を加えて行く…比較的余裕があるのでコペル君の方をチラ見する…特に問題は無い…彼は僕らから若干離れた所で花付きと対峙している。

 

「…問題は無さそうだね。」

 

僕はキリト君に小声で話しかけた。

 

「そりゃあ無いだろうな、ここまでお膳立てしたのに邪魔をして来るメリットがあいつに無いからな。」

 

「とは言え…おっと。」

 

リトルネペントから伸びる触手を横に飛んで躱す、キリト君が前に出ると触手を切断した。

 

「…もうちょっと気を付けてくれよ…下手するとこの程度の一撃でも死ぬ可能性あるんだぞ?」

 

「…面目無い、助かったよ。」

 

「全く…で、何だよ?」

 

「ん?ああ、話の途中だったね…コペル君の目的は胚珠だから多分この場では裏切らないだろうけど、僕としてはメリットが無くても裏切る奴がこれから先出て来るんじゃないかと思ってるんだ…」

 

「…PKか。」

 

「……何の略だい?」

 

「PK…プレイヤーキラーの略だよ。MMORPGのマナー違反の一つさ。最もPvP…プレイヤー同士の対決を売りにするゲームもあるから一概に悪い事とも言えないけど…このゲームだってデュエルシステムを実装してるし。」

 

「…裏切る想定の話をしたのは僕だけど、そこまでやる奴が出て来ると?」

 

「…金か、レアアイテムか…或いは快楽か…理由は色々有るだろうけどこれから先、珍しく無くなるんじゃ無いかと思う…」

 

「…待ってくれ、そんな簡単に一線を超えるやつが出て来るって言うのかい?」

 

「…現実で人を殺すのとは訳が違うんだ…死体は残らないし、多分何処かでこの世界はゲームだと思っているから…遊び感覚で殺せる奴は出て来ると思う…」

 

「…これはゲームであっても遊びでは無い…」

 

「…あのローブの怪人の言った事はシンプルだ。俺たちは現実と変わらなくなったこの世界でどう生きるのか…そう言う命題を俺たちは否応無しに突き付けられてるんだ…」

 

「…人としての最低限の倫理観を失わずに生きるか…それとも獣になるか…」

 

「アルベリヒ…あんたは…どうするんだ?」

 

「僕は…」



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妖精王のSAO10

キリト君が発した質問…僕はそれに答える事が出来無かった。彼も別に答えを求めた訳じゃないらしく、その後は黙ってしまった。見事胚珠を手に入れ、こっちに戻って来るコペル君が僕らの様子が可笑しいのに気付いたのだろう、何かあったのかと聞いて来たが、僕もキリト君も別に何も無いと答えた。

 

コペル君も自分が聞いて良い事だとは思わなかったのだろう、それ以上何も聞いて来なかった。

 

 

 

その後は特に問題は起こらなかった。…強いて問題があるとすれば、肝心の花付きが全然現れなかった事だろうか…途中から三人共一言も喋らず、黙々とリトルネペントを狩り続けていた。

 

 

 

 

「それじゃあ僕が先で良いんだね?」

 

「ああ…と言うか、早く行って来てくれ…」

 

「…うん、そうして貰えると助かるよ……正直、僕も早く休みたいし…」

 

「…ごめん、そうだよね…分かった、行って来るから…」

 

コペル君が家の中に入って行く…ふぅ。

 

「…キリト君。」

 

「…ん?」

 

「…ベータテストの時もクエストってこんな感じだったのかい?」

 

「…少なくとも、このクエストに関しては倍は時間かかってるよ…ベータテストの時も時間かかったけど…多分ここまでじゃなかった…」

 

「そうかい…」

 

頭を上げ、上に目を向けて見る…既に空は夜を通り越して、明るくなり始めていた…本当に夜が明けてしまった…

 

「…改めて確認するけど、胚珠を渡すだけで良いんだね?」

 

「…中に入ったら向こうが勝手に受け取りに来るからな…その時に渡せば良い、そしたらその場でアニールブレードを渡してくれる筈だ……ベータテスト時から変更されて無ければだけど。」

 

「…そうか。」

 

取り敢えず行ってみるしか無い訳か…そんな事を考えてるとコペル君が戻って来た。

 

「……終わったよ。」

 

「…そうか。じゃあ「あの、ちょっと良いかな?」何だい?」

 

「…二人が出て来た後で良いんだ…時間、貰えないかな…?」

 

コペル君にそう聞かれ、僕はキリト君の方を見た…彼は溜息をつきながら、答えた。

 

「…ま、俺は良いよ…あんたはどうするんだ?」

 

彼がそう話を振って来て少し考える…うん。

 

「…僕も構わない…取り敢えず行って来るよ。」

 

「……ありがとう。」

 

 

 

「ありがとうございます剣士様!これで娘も…少し待っていて下さいね?」

 

先程も出会った女性が僕から胚珠を受け取り部屋の奥に消えて行く…一人になり、僕は改めてさっきキリト君が投げかけた言葉を思い浮かべる…

 

「…僕は…どうするのが良いんだろうか。」

 

そもそも僕は別に善人じゃない…法を犯した事はもちろん無いけど、それなりに色々やって来ている…元々、バレなきゃ何をやっても構わないんじゃないか、と言う考えが良く頭を過ぎる…そういう意味ではこの世界は性に合うのかもしれない……現実に戻った所で今更何をする訳でも無いし。何せ、僕の願いは今ではたった一つ…それはもう叶わない。

 

…なら、いっそここで…

 

「すみません!お待たせしました!」

 

そこで女性が戻って来て我に返る…僕は今何を考えていた…?

 

「…あの…?何処か具合でも…?」

 

「…いえ…何でもありません。」

 

「……本当ですか?」

 

心配そうに僕を見ている彼女を見て、思ってしまう…彼女は本当にNPC…命を持たないAIなのだろうか、と。少なくとも目の前にいる彼女は人間とそう変わらない様に僕には見えた。

 

「…大丈夫です…いえ、強いて言うなら少し疲れただけです…」

 

気付くと僕はそんな事を口にしていた…やっぱりどうしても僕には彼女が生きている人間では無いなんて信じられなかった…

 

「そうですか…すみません、私の「気にしないで下さい。助けたいと思ったのは僕の意志ですので」…でも…」

 

「大丈夫ですから…さ、早く娘さんの所に…」

 

こんな事を言うのは柄じゃないし、似合ってはいないのは分かってる…でも、僕はこれがゲームのクエストだから彼女の頼みを受けようと思った訳じゃない…彼女の力になりたいと思った…それだけは確かな事実だったんだ…

 

「…本当にありがとうございます…大したお礼も出来ませんが、せめてこれを受け取って下さい。」

 

彼女が手に持つそれを僕に差し出す…僕はそれを掴んだ。形の無いデータの塊とは思えないずしりとした重さをこの手に確かに感じ取る…

 

「…ありがとうございます…では、僕はこれで…」

 

「はい。こちらこそ、本当にありがとうございました。」

 

彼女に背を向け、僕は目の前のドアを開けた。



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傍受マニアの艦これ1

「加賀~…次、二時の方向…撃て~……」

 

「了解」

 

俺はイヤホンマイクを指で抑えつつもう片方の手で地図に書き込みをしながら部下に指示を出していく

次は……

 

「…イク~…落とすなら今だぞ~…」

 

「分かったのね!」

 

「ナゼダ!コノワタシガナゼココマデ……」

 

深海棲艦の声が聞こえる。いや、何故って……

 

「…そりゃあ、お前が弱いからだろ~……」

 

「!キサマ……ドウヤッテワタシニ……!」

 

「さ~てね……自分で考えな」

 

「…んじゃ、皆一斉攻撃つうこって」

 

『了解!』

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……」

 

「よし。終…!すまん。残業だ。もう少し踏ん張ってくれ。」

 

新規敵対勢力の接近を確認。この周波数パターンは……!

 

「…ヤバいな。姫だ。……まあやる事は一緒か」

 

無線の周波数を姫級に合わせ傍受

……何だ……体内通信だからって喋りすぎだな。

これなら出し抜くのも容易い

 

「これなら余裕だわ。みんなさっきと同じ手順で問題無いからな。」

 

新しい地図を出しペンを走らせる……う~ん……絶好調…

 

「…ふんふんふ~ん……加賀?そこだと当たるからちょい後ろ下がって~」

 

「…了解」

 

結局それから大して時間を掛けずに平らげた

被害は軽微

俺は機材の電源を切り軽く伸びをすると部下を出迎える為に外に向かった

 

 

「よっす。お前らお疲れさん。各自適当に休んでくれ~。」

 

それだけ言うと俺は背を向ける

明らかに他に何かを言ってほしそうに見えたがスルー

俺は執務室に向かう

 

「…」

 

執務室にて報告書を書くために再びペンを走らせる

執務室の中にサラサラとペンの音だけが響く

 

「…良し。終わり。さてと……」

 

俺はその足で先程までいた部屋にまた向かい機材の電源を点ける

適当に周波数を合わせ……

 

「…んんん~……う~ん。良しと。」

 

周波数を合わせ聞こえてきたのは……

 

「次の連中の動きは、っと……」

 

深海棲艦の通信が流れてくる

メモに書き込み……通信に割り込みたくなるのを堪える

 

「…趣味が講じてこんなことをしているが正直俺は本当にこの国に貢献出来てんのかね~……やっぱ辞めてアマチュアに戻ろうかなあ~……割とハードだしこの仕事……やっぱこういうのは趣味で終わらせておきたいよ……と、そっちがそう来んなら……」

 

次の作戦を敵の通信を聞きながらまとめていく

 

「ほいほいほ~い……っと。……連中まさか自分たちの会話が筒抜けなんて思ってもいねぇだろうなあ……さすがに笑えるわ……さてと、こんなもんか」

 

俺は機材の電源を落とすと執務室へ向かい奥の寝室へ向かい着替えることもなく布団に入った




主人公

無線傍受マニア。ヘマをして艦娘の無線傍受がバレ海軍に投獄されそうになったが妖精が見えていたことで半ば強制される形で指揮官になった
深海棲艦の無線すら傍受することが出来る
性格はどちらかと言えばダウナー系
コミュ障。指揮官になって一年ほど経った今でもろくに艦娘と会話しない


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傍受マニアの艦これ2

俺はペンを動かす手を止めた…

 

「ん~?悪い、聞いて無かったわ…もっかい言ってくれ…」

 

「…聞いてなかったの?今日、叢雲が帰って来るって言ったの。」

 

俺が顔を向けた先でここ数日臨時の秘書艦を務める加賀が溜息を吐く。

 

「そうか…今日だったか…」

 

「…貴方…」

 

呆れ顔を向けないでくれ…忘れてたんだから仕方無いだろう…

 

「…長期遠征だから仕方無いとは思うけど…もう少し気を使ってあげて。」

 

「…悪か「私じゃなくてあの子に言って」……ああ。」

 

俺はペンを動かしながら彼女の事を考える…

 

……駆逐艦叢雲は俺が提督になると決まった日、最初に配属された艦娘で、本来の秘書艦で、そして…

 

「そろそろあの子に返事するのよ?」

 

「……」

 

……俺に想いを寄せてくれている女性である…

 

 

 

「…ここがお前の入る鎮守府だ。」

 

「……ここがねぇ…」

 

艦娘の無線傍受がバレ、独房にぶち込まれほとんど拷問紛いの尋問を受けた後、そのまま更に一ヶ月以上幽閉された俺に待っていたのは…海軍の提督の肩書きだった…

 

「言うまでも無いが…当分の間お前はこちらの監視下に置かれる…定期的にこちらに報告を出せ…外出も基本的に禁止する…」

 

「…分かってますよ。」

 

「呉々も忘れるな…」

 

そうして男は車に乗り帰って行った…

 

 

 

俺は改めて配属された鎮守府を見た。

 

「…廃墟じゃねぇかよ…」

 

その鎮守府はボロボロ…窓ガラスは全て割れ、建物その物は一応残っているが壁は所々焼け焦げた跡が…

 

「…行くか…」

 

俺は地面に置いていたボストンバッグを掴むと肩に掛けた…

 

「……」

 

鎮守府の中を歩く…中は外から見るよりずっと生々しい痕跡が残っていた…壁にこびりつくオイルらしき跡、それから赤黒い染みは…

 

「…チッ…」

 

精神衛生上良くないと思い、それ以上は何も考えない事にした…

 

 

 

「…何もねぇな… 」

 

一つ一つ部屋を覗いて行くが…使える物は大体運び出されたらしく何も残っちゃいない…しばらくの間は本土から最低限の物資は回される事になっているがどの程度期待して良い物やら…向こうは俺を人手不足故に雇っただけで期待してないのがありありと分かる態度だったしな…一応、最低限電気と水は使えるようになってはいるようだが…

 

 

渡された見取り図を頼りに一通り見終わり執務室のドアの前に立つ…?

 

「…誰かいるのか…?」

 

執務室からは確かに人の気配が有った…現状、建造も不可能なここには後日、物資と共に何人かの艦娘が配属される事が確定しているが当然まだ誰もいるわけは無い…深海棲艦の襲撃により壊滅したこの鎮守府は引き払われ…今日まで機能停止していたらしい…誰もいるわけは無いのだが…

 

「……」

 

意を決してドアをノックする…しばらくして…

 

「……誰?」

 

声が返って来た…女性…いや、どちらかと言えば少女の声…なら、艦娘か?

 

「…新しくこの鎮守府に配属された提督だよ…お前はここに配属される艦娘か?入っても構わないか?」

 

「……好きにしなさい…私にアンタを止める権限は無いわ…」

 

そう声が帰って来た。…ふむ、入っても良いのか…

 

「…なら、入らせてもらうぞ?」

 

俺はドアノブを捻りドアを開け中に入った…

 

「……」

 

がらんとした部屋の中唯一置かれた執務机と椅子…その内、机の方に腰掛ける銀色の長い髪をした少女がいた。

俺は彼女に声をかける…

 

「今日からここに着任する事になった宮田だ…お前は艦娘か?名前は?」

 

俺は海軍側から与えられた名前を名乗った…捕まった際に以前の身分は取り上げられてしまっている…

 

「…叢雲よ…艦娘…元、ね…」

 

「元ってのはどういう意味だ?」

 

「…言葉通りよ…私、解体が決定してるの…最後にここを見ておきたかったから…来ただけ…」

 

それが叢雲との出会いだった…



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傍受マニアの艦これ3

「解体ね…何でだ?」

 

確か…艦娘の方も人手不足と聞いたんだがな…

 

「…敵を撃てなくなったからよ…」

 

「どうしてだ?」

 

「…執拗いわね…アンタ、デリカシーってもんが無いの?」

 

「そりゃ失敬…こちらは女性との付き合いがほとんど無いものでね…」

 

そもそも人と普通の会話をするのも久しぶりだ…普段は他人と話をする事が全然無かったし、海軍に捕まってからも穏やかな会話等出来なかったからな…

 

「性別は関係無いでしょう?…しょうが無いわね…話してあげる…私はこの鎮守府に所属してたの。…ある時、深海棲艦に襲撃されて…余り大きな戦闘を行った事が無かった上にここは新人が多くてあっという間にパニックに陥った…司令官が真っ先に負傷して指示が出せない事も災いして…皆が闇雲に撃った砲弾はどれもあらぬ方向に飛んだわ…そして私の撃った砲弾は…他の艦娘に当たった…」

 

「それで?」

 

「私があの子の元に行き、抱き上げようとしたら…顔の半分吹き飛んだあの子の首が落ちた…」

 

「…鎮守府は壊滅したわ…生き残れたのは…私と別の鎮守府に派遣されていた加賀さんだけ…」

 

「…私はその後他の鎮守府に回されたけど…あの時の事が頭にチラついて…撃てなくなったの…演習では撃てるけど……実戦では二度と。」

 

「ふ~ん…」

 

「…それで私の解体が決まったの……満足?」

 

「ああ。」

 

「そう…それじゃ、私は行くわね…提督業務頑張って「ちょっと待て」何?」

 

「解体は止めて…俺の元に来る気は無いか?」

 

「…アンタ話聞いてなかったの?私は敵を撃てないのよ?」

 

「秘書艦の経験は?」

 

「…あるわ…ここでは私が専属だった。」

 

「そうか。じゃあ俺の秘書艦を担当してくれ…俺が解体の中止を上に掛け合ってやる…別に海に出なくても良い。」

 

「…何で…私なの…?」

 

「俺は元々一般人だ。提督業務も漠然とは理解してても具体的に何をやったら良いのかは分からん。だから経験豊富そうなお前に頼みたい。」

 

「それなら…別に…私じゃなくても…」

 

「そうだ。別にお前じゃなくて良い。…で、俺の秘書艦になる気は無いか?」

 

「…口説くのが下手ね…分かった…成ってあげる…」

 

「助かる…それじゃあまずこの着任に関する書類の書き方と解体中止に関する書類の書き方を教えてくれ…全く分からないんだ。」

 

「…本当に一般人だったのね…良いわ…アンタが一人前に成れるようみっちり指導してあげる…これから宜しくね、司令官…」

 

「宜しく、叢雲。」

 

 

 

海を見ていると軈て遠征組の姿が見えて来た…

 

 

 

「全員無事に帰還したわ。」

 

一月振りに会う叢雲が代表して報告して来る…改めて見るとあの頃と全然顔付きが違うな…

 

「司令官?何よ、人の顔ジロジロ見て…」

 

「……何でもない。全員ご苦労だった…報告書は明日で良い…三日間だけだが休暇を付ける…ゆっくり休め…じゃあ解散…」

 

俺は執務室に戻った…

 



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傍受マニアの艦これ4

叢雲は…しおらしかったのは最初だけでそこからは口の悪さが目立ったが、正式な軍人でもない俺も口は悪いし特に指摘しようとも思わなかった…指導その物は丁寧で分かりやすいし、理不尽な事で怒ったりはしないしな。

 

「…基本業務についてはこんな所ね…何か質問は?ある?」

 

「いや、今の所無いな…取り敢えず書類の書き方はどれもさっき言われた通りでいいんだな?」

 

「…概ねそうね……取り敢えず書いてくれる?ここにも許可を取らずに勝手に来てるから処分を受ける事になるわ…」

 

……解体寸前であれば既に軍所属の扱いでは無くなっているだろうから廃墟状態であっても鎮守府に不法侵入した場合…当然このままだと待ってるのは逮捕だろうな…

 

「ああ。」

 

 

 

叢雲の解体中止の書類を出すとあっさり受理された。…肩透かしを食らった気分だったが揉めるのも面倒臭いので良しとする事にした…

 

ところで…

 

「艦娘寮が吹っ飛んじまってるのは分かるが…何故お前はこの部屋で寝る?部屋はいくらでも空いてるだろう?」

 

「何?悪い?」

 

「別に?好きにしたら良い。」

 

初日執務室で雑魚寝をした後、次の日届いた布団を叢雲は何故かこの部屋に敷いた…別にそれは良い…だが…

 

「…何でこっちの布団に入って来る?」

 

「……文句ある?」

 

「……勝手にしろ。」

 

三日目からは何を思ったか叢雲はこちらの布団に潜り込む様になった…これでは布団の意味が無いだろう…

 

「…暑い…余りくっ付くな。」

 

「……」

 

そう言うと余計に強くしがみついて来る…震えている…?何なんだ…一体…?

 

「……怖いのよ…」

 

「何がだ?」

 

「あの子が…時々夢に出て来るの…」

 

「俺にはお前の不安は取り除けないが?」

 

「…居てくれる…だけで…良いわ…」

 

「そうか。…他の艦娘が来るまでな。」

 

「……ありがと…」

 

結局…叢雲は二人目に当たる艦娘…元同僚の加賀がやって来るまで夜はずっと俺にしがみついて寝ていた…

 

 

 

 

「…ん~?んんんん…」

 

無線の周波数調整をしていくが特に良い話は聞けない…向こうも警戒してるのか?

 

「…仕方無い。」

 

俺は電源を落とした。

 

「……」

 

執務机に向かい、書類を書く…ん?

 

「誰だ?」

 

ドアをノックする音が聞こえたので俺は声をかける。

 

「私よ…中に入れて。」

 

……叢雲か。

 

「…構わないぞ、入って来い。」

 

ドアが開き叢雲が入って来る…

 

「アンタまだやってるの?早く休みなさいよ。」

 

「俺は仕事が遅いからな…で、お前こそ何の用なんだ、こんな時間に?」

 

「…今日…」

 

「ん?」

 

「…久しぶりに…一緒に寝ても良いかしら?」

 

「…好きにしろ。…今はまだ書類が残ってるから先に布団に入ってれば良い。」

 

「…ありがと。」

 

……俺は今もあの時の布団と同じ布団を使っている。



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傍受マニアの艦これ5

書類を片付け、寝室に向かおうとしてふと思い当たる…

 

「……」

 

俺は機材のある部屋に向かった。

 

 

 

「…んー…あー成程…やっぱりな…連中も馬鹿じゃなかったか…楽しませてくれる…」

 

改めて調整を行い、クリアな音質で奴らのくぐもった声が聞こえて来る…周波数を変えてくるとは…奴らも中々考える…良いねぇ…やっぱりこの瞬間が一番楽しいぜ…俺がこいつらの体内無線にも艦娘と同じ特定の周波数帯が使われてるのに気付いて以来、ウチの艦娘が全員割と優秀なせいもあって退屈してたが…

 

「元々姫や鬼と違い、通常下っ端は何言ってるか分からないからな…法則に気付いて解読出来た瞬間は興奮したが…やっぱりこっちも暗号を使っての無線使用を打診すべきだな…」

 

そもそも俺が提督になる前から連中はこちらの無線を傍受してる節があった…いい加減このやり方を認めさせるべきだな…

 

「幹部連中は頭が固い…少しは元帥のおっさんを見習って欲しいぜ…」

 

以前ひょっこりこっちに現れた時は本当に焦った…提督になる前にたまたま調べていて素性を知らなかったら…どうなってたか…

 

「最もあの爺さん、幹部連中には老害扱いされてるからな…お前らの方が害悪だろうに。…あー…くそ…何でこんな事で頭悩ませなきゃなんねぇんだ…俺は元々民間人だぞ…」

 

上のパワーゲームに何て興味無い。元々罪人扱いだった癖に俺がちょっと戦果出したら手の平返しやがって…大体、戦ってるのは俺じゃなくて艦娘だっての。

 

「せっかくテンション上がって来たのに下らねぇ事考えてたら萎えて来たじゃねぇかよ「だったらブツブツ言ってないで寝なさいよ」…叢雲、先に寝たんじゃねぇのか?」

 

「せっかくアンタの所に来たのに一緒に寝ないと意味無いじゃない…」

 

「…良いから先に休んでろ。俺はもう少し…どうした?」

 

叢雲が後ろから俺の首に手を回し抱き着いてくる…震えている…?

 

「また例の夢か?」

 

「…うん…」

 

「そんなにキツイなら俺じゃなくて加賀の所でも「アンタが良い」……」

 

「アンタじゃなきゃ…駄目なの…」

 

「……分かったよ。」

 

叢雲を落ち着かせ、離れた所で俺は機材の電源を落とした。

 

 

 

「ねぇ?聞いていい?」

 

「ん?」

 

「アンタは…どうしてあの時私を拾ったの?」

 

……。

 

「…あの時言ったろ。別にお前じゃなくて良い、と。強いて言うなら唯の直感だ。…お前に同情したわけじゃない…」

 

「…それだけ?」

 

「ん?」

 

「理由は…本当にそれだけなの…?」

 

……勘が良いな。

 

「…それだけ、だ…失望したか?」

 

「私はあの日言ったわ。アンタにずっとついて行きたいって。…更に好きになる事はあっても今更失望なんて有り得ない。…何があっても…」

 

「…そうか。」

 

「…こっちを向いて…」

 

「…何だ…?」

 

……暗闇の中でも映える…あの時と変わらない銀色の長い髪をした美しい少女……

 

「…私は…待ったわ…そろそろ…返事を聞かせて…」

 

「……もう少し…待ってくれ…頼む…」

 

「どうして…?私の気持ちを受け入れる気が無いならはっきりそう言ってよ…!」

 

「……」

 

「アンタ可笑しいわよ…!他の提督は複数の艦娘と関係があるのも珍しく無いのに…アンタは誰にも手を出さない…私にさえ…!」

 

「……」

 

「もういい…!」

 

布団を出てドアを開け、叢雲が部屋を出て行く…さて…

 

「…人の情事に聞き耳を立てるのは悪趣味じゃないか…加賀。」

 

「アレが情事?痴話喧嘩の間違いじゃない?」

 

その言葉と共に加賀が入って来て部屋の電気を点ける…眩しいな…

 

「…男女間の恋愛事情全般を示すのが情事の定義だろ?…肉体関係有る無しに関わらずな。」

 

「…そんな話は良いわ…追わないの?」

 

「…追っていいのか?」

 

「私に許可を取る必要なんて「アンタ、俺の監視役だろ」…あら?気付いてたの?」

 

「そもそも俺が来る前からここの内偵をしていた…違うか?」

 

「…その話は明日で良いでしょう?私に許可は要らない…早くあの子を追って…」

 

「はいはい…」

 

俺は布団を出ると上着を羽織り、加賀の横を通り、部屋を…

 

「…あの子を泣かせたら許さない…!」

 

「…約束は出来ない。」

 

俺は執務室を出た。

 



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傍受マニアの艦これ6

「…来たのはお前だけか?」

 

「そうだけど…不服かしら?」

 

「……いや、お前の事はそこに居る叢雲から聞いてる…頼りになる奴だとな…あー…本当に良いんだ…お前が悪いわけじゃない…俺が文句言いたいのは幹部の連中だ…」

 

「それには同意するわね…」

 

叢雲を秘書艦として所属させてから数日…漸くやって来たのは空母の加賀一人…舐めてるとしか思えない。

 

「取り敢えず掃除と模様替えだ…悪いが手伝ってくれ…」

 

「命令してくれて良いわ。私は貴方の部下になるように言われてここに来たから。」

 

「どっちでもいい…早く手伝え。手が足らん…このままだと通常業務すら回らねぇ。」

 

「了解…これから宜しく、提督。」

 

「ああ。」

 

 

 

その日の夜…

 

「ちょっと待って…貴方たち一緒に寝てるの…?」

 

「ああ。…そんな目で見るな…叢雲自身からの希望だ…俺はあいつに手は出してねぇ。」

 

「…そいつの言ってる事は本当よ…自分から布団に入ったんだし、多少身体に触れられる事くらいなら覚悟してたけど…私はほとんど何もされてないわ…せいぜい寝る時に頭を撫でられた位ね…それも私が魘されるのが原因だしね…」

 

「叢雲…貴女の言いたい事も分かるけど…」

 

「分かってる…この状況が問題だって事くらいね…」

 

「……別にそいつじゃなくても良いのね?」

 

「…うん…」

 

「こいつ何度も夜中に悲鳴上げて起きるしな…実際俺が睡眠不足になりかねん…相手してくれるならその方が俺も助かる…元同僚の上に同性だろ?」

 

「……分かったわ。」

 

……まさか数日で俺の所に戻って来るとは思わなかったがな…叢雲曰く…

 

「私も知らなかったんだけどね…加賀さん、凄く寝相が悪いの…正直、悪夢を見るまでもなく私が寝れなくなったわ…」

 

これに関しては加賀も不満そうだったが本人がどうしても嫌だと言うのだから仕方無い……第一、一番不満を言いたいのは俺だ…毎晩の様に恐怖に引き攣った顔して、悲鳴上げて飛び起きる女に手を出す気は無いが…単純に寝不足になっちまう…

 

 

 

「…アンタは…私の事…迷惑だと思わないの…?」

 

「迷惑だな…毎日ここの状況をまともな状態にするだけで一日が終わるのに…お前が毎晩悲鳴上げるから寝られねぇ…」

 

「…嫌なら何時でもクビにしてくれて「断る」…どうして…?」

 

「知るか。下らねぇ事言ってないでさっさと寝ろ。」

 

 

 

鎮守府の廊下を歩く…途中トイレに行ったらしい艦娘に声をかけられ叢雲が泣きながら外に向かったのを見たと言われ礼を返す…うるせぇな…夫婦喧嘩じゃねぇっての。早く寝ろ…お前は明日早いだろうが。…慌てて部屋に向かう艦娘に軽く手を振り、出口に向かった…



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傍受マニアの艦これ7

「お前か?ここの提督は?」

 

「何だ爺さん?…見ての通り俺は忙しい…何か用が有るなら後に…!…ようこそ…執務室にご案内しますよ…」

 

あの日…あの爺さんは突然やって来た…

 

 

 

「荒れておるの…」

 

「申し訳ありません…生憎人手が足りないもので…」

 

「…早く人員を回すよう伝えておこう…」

 

そう言うと爺さんは近くに転がっていた椅子を起こすと埃を払い、腰掛けた…

 

「…お前も早く座らんか。」

 

「はい…それで…この様な場所にどう言ったご用件で…?」

 

「無理をしておるな…敬語を使いづらいなら言葉を崩して構わん。」

 

「…そうすか。で、こんな汚い所に何の用なんだ、元帥の爺さん?…さっきも言った通り俺は忙しいんだ…手短に話してくれ。」

 

「…何故元民間人のお前が儂を知って…いや、言わずとも分かる…まだ出回っておったのか…全て回収した筈なのじゃがな…」

 

「…現物ではなくデジタル化したモンの上に全部は聞けてないがな…俺らの様な奴の間でアンタの事を知らない奴は居ない。アンタは生きた伝説だ…」

 

…深海棲艦がこの世界に突如出現し、まだ艦娘が現れる前…その頃はまだ人間は当然自分達が前線に出て戦っていた…深海棲艦に既存兵器はほとんど効果が無く、大量の犠牲が出た…当時の彼ないし、彼女は皆今現在も英霊として祀られている…そして…

 

「…陸軍出身でありながら後に海軍に転属。…既存兵器は効かないと言われる中、既存兵器で確かに結果を出し、且つ今も生存し、軍に所属してるなんて化け物はアンタだけだ…」

 

俺はこの爺さんを知っている…大戦時の音声データや映像データは最初の敗戦の最中大半が外部に流れた…その中の一部を俺は閲覧する機会が有った…

 

「俺は個人的にアンタのファンでもある…出来ればこの機会にゆっくり話をしたい所だが…さっきも言った通り俺は非常に忙しい…海軍が俺にこんな壊滅した鎮守府の提督業を僅かの人員と共に押し付けたせいでな。」

 

「…早急に人員を回す…後何か欲しいものはあるか?…物資以外でな。」

 

……人を増やす以上、必要物資が増えるのは分かってるから言わなくて良いと言う意味か。

 

「…なら、海軍が俺の所から押収した無線機材だ。アレをこっちに戻せ。」

 

「…アレはどうやら最新の機材では無い様だったが…本当にアレで良いのか?」

 

「余程古い物で無い限り扱い慣れた物の方が実戦では最良だろ?」

 

「…フン…若造が一端の口を利きおる…分かった。それも儂の方で何とかしておく…後はあるか?」

 

「今は無い。」

 

「…では、儂は帰るとしよう…落ち着いた頃にまた来る…」

 

「次に来る時は連絡しろ。酒を用意しておく…退屈はさせない…アンタの話なら一晩中話しても語り尽くせない自信があるからな。」

 

「……楽しみにしておこう。…囲碁は出来るか?」

 

「…出来なくはないが…アンタとは現実の戦争の話をしたいね…。」

 

「…フッ…じゃあな…」



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傍受マニアの艦これ8

風に靡く銀色の髪の後ろ姿…絵になるな…

 

「…加賀さんに言われて来たの…?」

 

「…そうだ…不服か?」

 

「…別に…アンタなら…結局来てくれたと…思うから…」

 

「…なぁ?何でそんなに俺が良いんだ…?」

 

「…さあ?…私にも分からないわ…気が付いたら…好きになってた…不思議ね?他の鎮守府の子にも聞いた事有るけど自分の司令官と恋仲になるのは珍しい事じゃないらしいわよ?でも私が好きになったのは…アンタだけ…何故かしらね…?」

 

「…その答えを俺は持ってねぇな…でもな、お前が嘗ての提督を好きにならなかったのは正しかったと思うぜ?」

 

「…え…?」

 

「不思議に思った事は無いか?何で軍人でもない俺がいきなり提督なんて大層な肩書きを持っているのか?」

 

「…そうね…気にした事はあるわ…教えてくれるの…?」

 

「…俺はそもそも海軍にある理由でとっ捕まった人間だよ。」

 

「…へー…何したの?」

 

「……艦娘、及び海軍の無線傍受。」

 

「…はっ?…何でそこから提督になる事に繋がるの?」

 

「当たり前だが…そんな事で捕まった所で精々しばらく牢屋にぶち込まれて終わりだ…こんなご時世だ…通常よりも更に短い周期で叩き出されるだろうよ…下手すりゃ厳重注意だけで終わる…」

 

「…もう分かるよな?俺はな、飼い殺しにされてるんだよ…ある事実を知っちまったお陰でな…」

 

「何を…知ったの…?」

 

「…今回はお預けにしておこう…そこら辺で聞き耳を立ててんのがいるからな…」

 

「っ…誰!?」

 

叢雲のその声で走ってその場を離れる影が見えた…ありゃあ…

 

「…青葉だな…」

 

「……大丈夫なの?」

 

「問題無い…アイツに今回の一件を新聞にする度胸はねぇ…仮に奴が何処ぞの害悪に報告した所で俺の立場は変わんねぇし。」

 

「…そう…」

 

「…部屋に戻ろうぜ…お前薄着だからな…風邪引いちまうぞ…」

 

俺は上着を脱ぐと叢雲の肩に掛けた。

 

「…アンタ…こんな紳士的な事出来たのね…驚いたわ…」

 

「要らねぇなら返せ「嫌よ。」そうかい…なら、帰…いや、ちょっと先行ってろ…」

 

「…どうしたの…何これ…」

 

俺はポケットからカセットテープを出すと叢雲に渡した。

 

「良いからそれ持って部屋戻ってろ。」

 

「…分かったわよ…」

 

叢雲が鎮守府に戻って行くのを見届けると俺はもう一人に声を掛けた。

 

「…こいつがそんなに欲しいか、加賀…」

 

「…やっぱり貴方、あの時の記録を持っていたのね…あの子に渡したのもそれ?」

 

別のポケットから出したもう一つのカセットテープを加賀が見詰める…やれやれ…

 

「俺の身を守る唯一の方法だからな…と言うか…盗聴器を仕掛けたのはお前だろ?何で音声データを持ってないんだ?」

 

「あの時、結局盗聴器の回収は出来なかったし、肝心の受信機すら訳あって失われたわ…今、あの時何があったのか知ってるのは貴方の持つそれだけ…渡してくれるわね?」

 

「…誰に渡すつもりだ?…いや、言わなくていい。どっちみち俺はこいつをお前に渡すつもりは無い。」

 

「…何故かしら?」

 

「…お前の雇い主を信用出来ないからな。」

 

「…私の事は信じてくれるのね?」

 

「さあな。」

 

「…渡して…私だって当時の関係者よ…知る権利は「ねぇだろ。お前はあの日あの場に居なかった。関係者であっても当事者じゃねぇ。…アレを聞く権利があるのは叢雲だけだ…本来なら俺だって聞いちゃいけなかった。」……」

 

俺はカセットテープの中のテープを纏めて指で摘んで引き出した。

 

「何やってるの!?」

 

「…こいつは処分させて貰う…これでもう…あの時の事を伝える証拠を持ってるのは叢雲だけだ…後はアイツと話しな。」

 

俺はカセットテープをポケットに仕舞った。

 

「…雇い主に伝えろ…ありのままをな…これで俺の身がやばくなろうともう知った事か…そろそろ俺もうんざりなんだよ…これからは俺の勝手にさせて貰う。」

 

俺は鎮守府に向かって歩き始めた。

 



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傍受マニアの艦これ9

元帥の爺さんの口利きがあったのか漸く追加の艦娘がやって来て鎮守府の掃除もやっと捗り始めた。

 

「なぁ提督…」

 

「何だ天龍?」

 

艦娘がやって来た際、かなり適当な挨拶をかましたせいかほとんどの艦娘が命令こそ聴くもののプライベートでやって来る奴は居なかったという状況で良く話しかけて来るのがこの天龍だ…嘗て俺以上の偏屈な提督を相手にしてたので慣れてるらしい…

 

「…他に仕事は無いのか…?こっちは身体が訛っちまいそうなんだが?」

 

建物の補修その物は最終的には専門職に任せるしか無いという状況…鎮守府その物は広いとはいえ、人数が揃えば当然片付け程度なら進むので軈てやる事は無くなってくる…何故か建築の心得がある奴がいたらしく艦娘寮まで建て始めた…そこまで出来るなら建物の修繕もして欲しい所だが分野が違うのか…?

 

「…無いな、お前らが来た時も言ったが…ここはそもそもとっくに壊滅した鎮守府だ…深海棲艦が付近で目撃される事も今の所無い。」

 

仕事、と言われてもな…回されてる物資がまだ最低限しか無い事もあり遠征も儘ならない…

 

「…他の連中はアンタの怠慢でこうなってると騒いでるが…俺はそうは思えねぇな…アンタは多分割とやり手だ…聞かせてくれよ、何でこんな場所で提督やってるんだ?」

 

「…俺の事が聞きたきゃ上にでも聞きゃいい。」

 

…基本俺は海軍から見捨てられる寸前だった叢雲以外を信用していない。俺の口から身の上をベラベラ喋るつもりはねぇ…

 

「…聞いたよ、だけどさ、何かろくな話を聞かなくてよ「なら、良いじゃねぇか。結局お前の聞いた事が全てだ」…う~ん…」

 

上が何て言ってんのかは知らねぇ…だが、天龍のこの顔と艦娘達からの俺への評判を見る限り相当な悪評をまいているようだ…

 

「やっぱ納得いかねぇ。なぁ教えてくれよ提督?アンタ一体何者なんだ?」

 

「知りたきゃ自分で調べな…後の事は保証しないがな…」

 

「チッ…分かったよ。んじゃあな。」

 

天龍は俺に背を向けて去っていった…さてと…

 

「何の真似なんだ龍田?」

 

俺は後ろから槍を首に当てる龍田にそう聞く。

 

「天龍ちゃんに手は出させない…!」

 

「…上の連中どんな噂を流してんだ…?安心しな、何もしやしねぇよ。…見ての通りアイツが自分から俺に寄ってくるだけだ…」

 

「……信用出来ないわ。なら教えてくれるかしら?貴方、本当は何者?」

 

「…お前もか…だから知りたきゃ自分で調べな…」

 

「良いわ。貴方が何者か絶対に暴いてあげる…首を洗って待っていなさい…!」

 

「……」

 

……龍田の情報網がどの程度か知らんが俺の正体を割り出せるとは到底思えねぇな…そもそも俺の元の身分は抹消されてる…要は記録その物が無いんだ、出てくる訳ねぇ。つまりは幹部連中の話を鵜呑みにするしかねぇ訳だが…あっ…

 

「…前評判通りって事なら俺は龍田に殺されんじゃねぇか?」

 

完全にとばっちりじゃねぇか、畜生が。…あー!愚痴っててもしゃあねぇな…さて、とっととこの書類の山を片付けるかねぇ…



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傍受マニアの艦これ10

『…所属してる艦娘が増えたようだが…』

 

「…ええまぁ…で、それが何か?」

 

『…ふん。元帥殿に目をかけられているからといって調子に乗るなよ?貴様はずっとそこの鎮守府の維持に専念してればいいんだ…それ以上何もするな。海に出る必要は無い。』

 

「…ここが復興作業に専念している限り、復興名目に出されてる資金を着服出来ますもんねぇ~?精々復興作業を進めている振りを頑張らせていただきますとも~」

 

「きっ、貴様!?何故それを「ではまた~」まっ、待て…!」

 

通信を切る…ハア…

 

「…胸糞悪い話ね…今書いてる予算申請の書類通るのかしら?」

 

「…最悪爺さんに話を通すさ。」

 

「…アンタはそれで良いの?」

 

「……正直に言やぁ…良くねぇな…あの日約束しちまったからな、"何時か自分の功績で正式に給料貰って"酒を振る舞ってやるってな…」

 

「変な所で律儀よね、アンタ…」

 

「借りは返す主義なんだ…チッ…気分悪いぜ…」

 

俺はケツのポケットを弄る…ん?切らしてたか?

 

「…はい。アンタまたこれ落としたでしょ?何度も言うけど胸ポケットに入れなさい。それなら落としにくくなるでしょ?」

 

叢雲が俺の机の上に煙草とライターを置く…元帥の爺さんの口利きがなきゃ、これすら支給物資に入ってなかったからな…たくっ。借りばっかり増えて行くぜ…

 

「ああ。すまねぇな…」

 

俺は煙草を箱から一本抜き、ライターを…

 

「ああもう…!吸うなら窓くらい開けてよ!」

 

肩をいからせながら叢雲が窓を全開に開ける…おい。

 

「全開にすんじゃねぇよ。網戸がねえから虫入って来んじゃねぇか」

 

「なら、アンタがそれ止めたら良いじゃない?こっちはその臭いがとにかく嫌いなの。大体、そんな身体に悪い物、ストレス発散の名目で吸うアンタの神経が理解出来ないわ…余計に気分悪くなるじゃない。」

 

「…フゥ…ヒデェ言われ様だ。…何なら一回吸ってみろよ?そしたら良さが分かるんじゃ…おい!」

 

叢雲が俺の口から火をつけたばかりの煙草を引っこ抜き、咥えると一気に吸い込む…と、次の瞬間には顔が真っ赤になり、口から煙草を落とすと涙目で噎せ始めた…

 

「ゲホッ!ゲホッ!…何これ!?死ぬほど不味いじゃない!?」

 

俺は仕方無く席を立つと煙草を足で踏み消しながら蹲る叢雲の背中を摩った。

 

「まっ、初めてならそんなモンだろ。そもそも俺が吸ってるのは割とキツい奴だしな。」

 

「…アンタ…これ本当に美味しいと思って吸ってるの…?」

 

「……美味い、不味いの基準で吸うようなモンじゃないからな「要するに不味いのね?」……さあな。」

 

……後に叢雲が俺の前で煙草を吸って見せ、偉そうに「吸えるようになったわよ?」…と、ドヤ顔をかました時は思わず腹抱えて笑っちまった。軽い煙草吸ってそんな事言われてもなぁ…



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傍受マニアの艦これ11

「ふむ…儂の負けか、思ったよりやるのう。」

 

「…それは皮肉か、爺さん?」

 

俺は今、朝から押し掛けてきた爺さんの相手を務めていた…

 

 

 

 

「そんな事は無いぞ?儂は純粋にお前の実力を認めておるんじゃがな?」

 

「…置き石が五つで勝った気になるかよ。」

 

囲碁には実力を均等にする為、事前に弱い方が先にいくつかの石を置いて良いというルールが…んなもんどうでも良いな。

 

「ところでだ、まさかあんた、朝から囲碁をする為にこんな所まで来たのか?」

 

「……中々相手を務められる者がおらんくてのう。」

 

「俺より強い奴なら「儂の周りは現状は若い者ばかり、碁のルールすら分からん者ばかりでな」…あんたが暇なのは分かるが、俺はこれでも忙しいんだがな…」

 

「何、ついでに仕事を持って来ておる。」

 

「……仕事がついでかよ。まあ良い、そういう話なら…チッ、茶が切れたな「はい。」…叢雲。」

 

「お茶くらい言ってくれれば入れるわよ?」

 

「…さっきまでは仕事じゃなかったんだから頼める訳ねぇだろうが。」

 

「別に気にしなくても良いんだけど…と言うか、上官の相手なら仕事みたいな物じゃない?」

 

「ふぅ…まあ良いわ、礼は言っておくぜ。」

 

「…だから気にしなくて良いわよ…それじゃ、何かあったら呼んで。」

 

そう言って叢雲が執務室を出て行く。

 

「…良く出来た秘書艦じゃの。」

 

「…スカウトは成り行きだったがな…それで仕事ってのは?」

 

「ふむ…ま、仕事と言うよりは相談みたいな物じゃが「勿体ぶらなくて良い…下っ端以下の俺にはそれでも仕事だ」そう急かすな…ほれ、先ずはこれを見てくれ…」

 

「…こいつは地図か……なぁ爺さん、この海が色分けされてんのは…」

 

「それは今の、我々の勢力図じゃよ。」

 

「…て、事は青く色分けされてんのが、俺たち人類が取り戻した海域で、赤が…」

 

「奴ら…深海棲艦の支配区域…と思われる海域を示しておる。」

 

「…把握し切れてねぇんだな…これだけの広さなら当たり前か…」

 

俺はほとんど全てが赤く塗り潰された地図を見る…やべぇな…

 

「…聞くがよ、海外の連中とは連絡取れてんのか?」

 

「…通信が出来無くなってから随分経つのう…」

 

「じゃあ、日本以外はそもそもどうなってるか分かんねぇ訳か。」

 

「うむ。」

 

俺は地図を机の上に放った。

 

「…で、相談ってのは?」

 

「現在、我々が取り戻せている海域はこの僅かの範囲のみじゃ。」

 

爺さんが地図の日本の部分を円を描く様に地図の上を指でなぞり囲む…つーか、本当に周りだけだな…

 

「…んで?」

 

俺は煙草に火をつけながら続きを促した。

 

「…最近、資源の量が芳しくない。」

 

「…つまり現在取り戻せてる海域から回収出来る資源が少なくなって来てると、そう言いたい訳か…成程、一大事だな。」

 

俺は艦娘を海に出せていないが、ウチの鎮守府は現在物資の支援を受けている状態なので、決して他人事では無い。

 

「…だから、新たにこのルートに沿って、ある鎮守府から艦娘を派遣する案が出ておるんじゃ。」

 

そう言ってまた指を走らせる。

 

「…要はアメリカさんと連絡取りたいのか?」

 

「そういう事じゃ…。」

 

「…大国に助けて貰う気満々だな、誰の案だ?」

 

ま、名前言われたって分からねぇだろうが。

 

「とある幹部のな「何でこんな案が通った?」…そやつの親がな…」

 

「…成程な。」

 

七光りか。何処も一緒だな。

 

「…で、どう思う?」

 

「そいつが俺への相談か?…どうもこうもねぇよ…やりゃ良いじゃねぇか、それで失敗したらそいつの責任だろ?」

 

「…いや、責任はこの作戦を任された司令官に全て降りかかるじゃろう…」

 

「…あんたはそれを回避したいのか?」

 

「さすがに不憫でのう…」

 

「そこの艦娘の練度は?」

 

「…まだ駆け出しじゃ。」

 

「俺が言う事じゃねぇが、何だこのふざけた作戦…実際にやる奴にとっては完全にいじめじゃねぇか…つーかこれ、無理に回避してもそいつの立場は良くならないぜ?」

 

「じゃろうな…」

 

……良し。

 

「一個思い付いた。」

 

「ほう?」

 

「先ずだ、見てみろこの範囲…こんなの往復して来るの自体一苦労だぞ?補給は必須だな?」

 

「そうじゃな…」

 

「そいつの所だけで賄う事は出来るのか?」

 

「…だいぶ物資を削られていてのう。」

 

相当疎まれてんな、そいつ…

 

「じゃあ、決まりだ。ウチで補給物資を運んでやる。」

 

「…出来るのか?」

 

「出来ねぇ事は口にしねぇよ。」

 

「…ならば任せよう。儂の権限でここの艦娘を海に出られる様にする。」

 

「頼むぜ?」

 

……これがこの鎮守府の初のまともな仕事になった。



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傍受マニアの艦これ12

元帥の爺さんが帰って行った後、執務室に戻って来た叢雲にさっき爺さんと話した事を伝えてみた。

 

「……」

 

「ご機嫌斜めだな、叢雲。」

 

「当たり前でしょ。何であんたは勝手に大規模遠征の仕事なんて受けてる訳?」

 

「…元帥殿の依頼じゃ断れねぇよ。」

 

「…あんたの方から提案してたじゃない「お前…やっぱり聞いてたな?」……」

 

気を遣って出て行った振りをしてずっと外で話を聞いていたのだろう叢雲にジト目を向ける…ま、飲んでいた茶が無くなると同時にこいつが新しく入れたのを持って来た時点で変だと思ってたが。

 

「…良いぜ?文句があるなら言え。全部包み隠さず、な。」

 

「……言って良いわけ?」

 

「…爺さんにはああ言ったが、お前も知っての通り俺は元は民間人だ…実戦経験なんかねぇよ…ましてや指揮官なんてのはこの立場になってから初めてだよ。」

 

「…なら、言わせてもらうわ…馬鹿じゃないの!?経験もなく、安易に遠征任務に付くなんて頭可笑しいんじゃない!?大体、海に出るのはあんたじゃないのよ!?出るのは私たち艦娘…あんたは良いわよね、皆が命懸けで戦ってる間こうやって執務室で書類書いて、煙草吸って、お茶飲んでるだけで良いんだからね!」

 

「そうだな…」

 

「今からでも遅くないわ…任務受諾の撤回連絡して…ここにいる艦娘は大半が寄せ集めで、ここに配属されてから演習すらやった事無いのよ?実戦経験の量もバラけてるみたいだし、連携も取れない…あんた皆を死なせる気な訳?」

 

「…貴重なご意見どうも~…だが、俺は撤回なんざしねぇぜ?」

 

「っ!いい加減にしなさい!」

 

椅子に座る俺の胸ぐらが掴まれ、叢雲の方に引き寄せられる…

 

「…断りなさい…!早く「嫌だ」……理由は?まさかその顔も知らないどっかの提督に同情したとかじゃないわよね?」

 

「同情なんてしねぇよ?ここよりはまともな状況だろうしな「じゃあ、何故かしら?」…ここの連中結構ストレス溜まってるからな、ガス抜きだよ。」

 

「……それだけが本当に理由ならこの場で私はあんたを殺すわ「出来んのか?」…馬鹿にしないで…!無謀な作戦で皆を死なせる位ならそれぐらいやってやるわよ…!」

 

叢雲が艤装を展開し、砲を俺に向ける…この後の言葉を間違えたら多分俺は本当に死ぬな…

 

「…お前はこのままで良いと思ってんのか?」

 

「何が「そもそも戦闘に出られないお前は良い…だが、あいつらはここで軟禁状態のままで納得するのか?」それは…!」

 

「戦いが全てなんて言わねぇ…だが、お前ら艦娘は結局は戦う為に生まれたんじゃねえのか…?」

 

「そうね…そうかもしれない…でも、それはあんたみたいな奴に使い潰される為じゃ「じゃあ、連中に聞いてみるか?」…え?」

 

「戦いに出たいか否か、そして…俺を指揮官として認めるのかどうかを…な。」

 

「…じゃあ…もし、誰も海に出たくないと言ったら?」

 

「その時は、お前の言う通りこの任務を断るさ。それともそれだけじゃ不満か?」

 

「……どういう意味?」

 

「今、お前は俺を警戒している…さっきの話だけ聞きゃあ、俺は無謀な作戦を実行して仲間を殺そうとするクソ野郎だ…お前は…俺をどうしたい?」

 

「…そうね…取り敢えず皆の意見を聞いてから決めるわ。……逃げないでね?」

 

「…俺に逃げる場所なんてねぇよ。」



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傍受マニアの艦これ13

「王手。」

 

「…ふむ、儂の負けか…何じゃ、その顔は?」

 

「いや…囲碁はまだしも将棋…果てはチェスまで出来んだろう?どんだけ暇なのかと思ってよ。」

 

「貴様に言われたくないわい。」

 

「あんたよりは暇人さ…元は一般人だぜ、俺は。」

 

「フン…まあ良いわい。ほれ、もう一戦付き合わんか。」

 

「あんた、本当に何しに来たんだよ…何も海に出てまでこんなんやる事もねぇだろ?」

 

俺と元帥の爺さんは今、艦隊と共に船に乗っていた。

 

 

 

数日前…

 

「あ?全員行くだと?」

 

「そうよ、皆あんたの指揮下に入るって言ってるわ。」

 

「……何かの間違いじゃねぇのか?」

 

「あんたがそれ言う?こっちが聞きたいわよ、あんた何か皆にご機嫌取ったりしてたの?」

 

そう言って叢雲が溜め息を吐く。

 

「そんなもんやってねぇよ…俺がそう言うの苦手なの知ってんだろ?」

 

俺が誰にでもこういう口調なのは会話が苦手だからだ…神経を逆撫でする話し方をしてれば自然と他人は寄って来なくなる…叢雲は一々俺の言う事にキレて、何度も絡んで来て執拗いから話したし、それにどうも元帥の爺さんは気付いてた様だがな…

 

「まあね…でも、だからこそ分からないのよ…」

 

「ま、とにかくだ…同意を得られたんなら仕事だ…もう断る理由はねぇよな?」

 

「……私一人が反対したって仕方無いじゃない。」

 

そして出発当日…元帥の爺さんが信用出来る部下を乗っけた船と共にやって来た…俺の部下になった艦娘の仕事を見届けるという爺さんに俺は連れて行けと頼んだ。そして今はこんな状況になっている…

 

「有事の時以外は休むのも仕事の内じゃよ。」

「艦娘は今も外で働いてるがな。」

 

「交代で休みを取ってるじゃろう?」

 

「ああ。俺の指示とかは無くても勝手にだがな。」

 

外にいる連中は交代で見張りをし、休む時はこの船に普通に乗り込んで来る…結構狭い船の様で時々、俺たちのいるこの部屋にも入って来る。

 

「しっかり固定された机と椅子、それに磁石入りの将棋の駒…あんた、今も普段から海に出てるのか?」

 

「暇じゃからのう。」

 

……この爺さん祀り上げられてるだけで会議でも発言権無さそうだしな。

 

「お茶よ。」

 

「…おう。」

 

「すまんのう。」

 

爺さんがこういう奴の為、叢雲も敬語は使わない…つーか…

 

「お前何でここにいるんだ?戦えないんだろう?」

 

「今更?あんたも海に出るのに私だけ向こうにいても仕方無いじゃない…私は敵は撃てなくてもあんたの護衛くらいしてあげるわよ。」

 

「どうやって?」

 

「弾除け位にはなれるわ。」

 

そう言う叢雲に俺から返せる言葉は何も無かった。



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傍受マニアの艦これ14

執拗く将棋を挑んで来る爺さんに閉口した俺はチェスにしないかと提案した…結果は…

 

「チェック。」

 

「む?ではキングをこちらに「往生際が悪いぜ?爺さん。再度チェック…いや、チェックメイトだな」むむむ…!」

 

「あんた執拗いぜ?どんだけ負けず嫌いなんだ?」

 

「……貴様は…実力を隠していたのか?」

 

「ちげーよ。単純に囲碁の方が苦手ってだけだよ、大体、将棋とチェスは似通った所あるが、囲碁は別物だろうが。」

 

「ならば、次は麻雀でも「相当道楽者だな爺さん…麻雀は二人でやっても仕方ねぇだろ。それともあんたの部下呼ぶ気かい?」不満かのう?」

 

「残り二人はどちらもあんたの部下…信用出来る訳ねぇだろ?つーか海軍元帥が麻雀は不味いんじゃねぇか?」

 

「金を賭ける訳じゃないから良いじゃろう?」

 

「もう勘弁してくれよ…あんた本当に何しに来たんだよ…俺たちはもう深海棲艦のテリトリーに入ってるんだぜ?緊張感無さ過ぎだろ…」

 

「ずっと気を張ってるといざという時に動けんぞ?」

 

「何でそんなに落ち着いてられる?」

 

「簡単な話じゃ…分かるんじゃよ。」

 

「何が?」

 

「奴らが来れば必ず分かる…それはお前でもな…」

 

「今まで一度も戦場に出た事の無い俺でも、か?」

 

「うむ。奴らが来れば分かる…確実にな。」

 

そう言って叢雲の持って来たお茶をズズっと音を立てて飲む爺さん…さっきまでは単に年甲斐も無く遊戯に夢中になり、悔しがる面倒な爺さんにしか見えなかった爺さんがまるで別人の様だ…貫禄が出て来てやがる…

 

「叢雲。」

 

「何かしら?」

 

「お前ら艦娘は深海棲艦の索敵は普通どうやる?」

 

知識はさすがにある程度あるが、一応聞いてみる事にする。

 

「……私たちはソナーやレーダーの反応を見たり、それに後は目視により発見するわ。もちろん人間より目は良いわよ。」

 

「爺さん「何も儂に限った話じゃない」…俺でも分かると言ったな?」

 

「うむ。変わるんじゃよ、空気がな。」

 

「空気だと?」

 

「目に見えるレベルで禍々しさが漂うんじゃ。そして、匂いも変わる。」

 

「匂い?どんなだ?」

 

「…説明が難しいのう、ただ、間違い無く分かる…奴らが来たと、な。そして…一度体験すれば二度と忘れん。」

 

「……」

 

若い頃から深海棲艦と戦い続けて来た爺さんの言う話だ…疑う気はねぇが…

 

「あると思うわよ?」

 

「あん?」

 

「私たちは人間より感覚が優れているけど…それでも先ずは自分の艤装についてる索敵用の装置に頼る…その方が正確だったりするから…でもその分だけ色々鈍くなると思う…その点、感覚的には劣ってる人間の方が逆に勘は鋭くなる…」

 

「……まあ良い。俺にも分かるんだろ?」

 

「うむ。間違い無くな…」

 

なら俺は待っていりゃ良い訳だ。

 

「そういう訳じゃ。ほれ、もう一勝負付き合え。」

 

「勘弁してくれ…叢雲、一旦代われ「パス。私は囲碁も将棋も、もちろんチェスも麻雀も出来ないから」……元秘書艦だったんだろ?」

 

「あんた秘書艦を何だと思ってるのよ…暇潰しの相手をする為にいるんじゃないっての。」



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傍受マニアの艦これ15

「む…」

 

「何だ?どうした爺さん?」

 

爺さんが突然声を出す…どう見ても意味無く声が出たとかじゃねぇ…俺…いや…俺の後ろの壁を睨み付けている…壁の向こうは…外だな…

 

「……来るぞ。」

 

「何が?」

 

「…奴らじゃよ。」

 

「…俺は今の所何も感じねぇな…お前は?」

 

俺は横に控える叢雲に声をかける…この部屋には他に椅子あるし、座ってて良いって言ってんのに横にずっと立ってやがる…はっきり言って鬱陶しい事この上ない。

 

「…私も特に何も感じないわ。」

 

「経験の問題じゃな、儂は何度も何度も奴らの襲撃を味わった…じゃから近付けば分かる…」

 

そう言って茶を飲み、湯呑みを机の上に置…ん?

 

「叢雲、どうした?」

 

「湯呑みが空みたいだから。」

 

そう言って叢雲が部屋の中にある、やかんの元まで歩いて行く。

 

「ほう?さすがじゃのう?」

 

「…こんなのより深海棲艦が近付くと分かるっていう方がすごいと思うわ…」

 

「こんなのは誰でも分かるからのぅ…」

 

誰でもか…少なくとも俺は今現在何も感じ…っ!?

 

「おい爺さん!?」

 

「言ったじゃろう?必ず分かると…」

 

突如感じた悪寒…それと同時に身体が凍り付いた様に動かなくなった…何だ!?何が起きたってんだ!?

 

「ほれ、しっかりせんか。」

 

何時の間に横に立っていた爺さんが肩を叩く…その瞬間俺は椅子から転げ落ちた…身体は動く…俺は床に手を着き、ゆっくり力を入れ、立ち上がった。

 

「爺さん…こいつは「先ずは落ち着かんか。ゆっくり深呼吸せい」あっ、ああ…」

 

爺さんの言う通り、鼻から息を吸い、口から吐く…身体の麻痺は消えても僅かに残っていた強ばりが息を吐く事に溶けて行く…

 

「大丈夫か?」

 

「ああ…それで爺さん「落ち着いたなら次は自分の秘書艦の事を確認せい」叢雲?おい!」

 

爺さんが指を指す方を見ると、床に座り込み、自分の身体を抱く様にして震える叢雲がいた。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

「……」

 

俺が声をかけてもまるで聞こえていないかの様に反応をしない。

 

「…恐く、長く前線から離れた影響で今彼女は人間とほとんど変わらない状態になっているんじゃろう「んな事はどうだって良い!何なんだよこいつは!?」じゃから落ち着けと言っておろう。これは人間なら誰しも感じる感情じゃよ。」

 

「感情…だと?」

 

「誰しも感じる原始的な物じゃ。恐怖じゃよ。」

 

「単に怖ぇと思っただけでこんな風になるって言うのかよ!?」

 

「今儂らは奴らからの殺気を浴びせられておる…恐く計器類はまだ反応しない範囲からじゃのう。」

 

「そんな遠くから殺気を浴びせられてだけでこんな風になるってのか!?」

 

「本来人間にどうこう出来る相手じゃないからのう。…生物であるなら何であれ、格上から睨みつけられればこうなる。」

 

「何であんたは平気なんだよ…!?」

 

「…慣れじゃよ。長年奴らと対峙しておれば自然に慣れる。」

 

舌打ちを零した…この爺さん何度も関わってたせいで危機感てもんがねぇ!?

 

「爺さんこの船に武装は「無い」あ?」

 

「無い。この船には奴らに対抗出来る武装は何一つ積んでおらん。」

 

「ふざけんじゃねぇぞ!?」

 

俺は何時の間にか気絶していた叢雲を床に寝かせると、部屋を飛び出した。

 

 

 

甲板に出れば爺さんの部下がいた。

 

「おいあんた!」

 

「おや?何でしょう?」

 

その声を聞いて違和感を抱く…女?

 

「これから深海棲艦が襲撃「ええ。分かってますよ」何!?」

 

分かってるだと!?

 

「爺さんはこの船に武装は何も積んでねぇって言ってやがった「ええ。この船に武装は何もありません」何でだよ!?」

 

「何でと言われましてもね…我々は派閥からも完全に弾かれてましてね…要するに役職こそあり、ある程度の発言権もありますけど…実質、軍人じゃないも同然の扱いを受けてましてね…まぁそもそもこの船自体軍の物でなく、あの方個人の持ち物みたいな物でして…」

 

その女の肩を思わず掴んだ。

 

「んな事はどうだって良いんだよ!何で武装を積んでねぇのかって聞いてんだよ!」

 

「乱暴な方ですね。…まぁ言ってしまえば我々は武装する事自体を許されてません。海に出るのを許されてはいますけどね。」

 

「馬鹿な!?」

 

今は民間の船でさえ武装してるんだぞ!?

 

「あの、そろそろ離して貰えません?」

 

「チッ!分か…ん?」

 

その女の肩から手を離そうとして気付く…この女の顔に見覚えが…!

 

「お前…」

 

「今度は何でしょう?…それにしても、元民間の方と聞いてはいましたが…私、一応階級上は貴方より上…ちょっと!?」

 

俺はその女が被る軍帽の鍔を掴むとそのまま上に持ち上げ、女から帽子を奪った。

 

「お前、艦娘だな?名前は…そうだ、確か…巡洋戦艦の赤城…」

 

「…あ…あはは…バレちゃいました…」

 

これでも主要な艦娘の顔と名前は完全に暗記したつもりだったんだがな…まさかここまでやらないと気付かないなんてな…俺は逆恨みだと分かっていても目の前で軍服を着て苦笑を浮かべた女を睨みつけずにいられなかった。



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傍受マニアの艦これ16

「つまりお前は…」

 

「…貴方の想像の通りですよ…私は前線から外され、軍人としての階級が与えられた元艦娘です。」

 

「…もう戦えねぇって事か?」

 

「艤装が出せない訳じゃありません。でも上の許可が出ないですから。」

 

「艦娘は不足してる現状で身分を取り上げられた艦娘か……何やったんだ?」

 

「聞きたければあの方にどうぞ。これ以上は私の口からは言えません。」

 

「…この船には他に爺さんの部下が三人いるよな?そいつらも「それも私からは答えられません」チッ…つか、あんたそんなに悠長にしてて良いのかよ?連中が来るんだろ?」

 

「自分の部下を信じたらどうですか?」

 

「あ?」

 

「貴方の部下の艦娘はもう接敵している筈です。後は任せる他無いでしょう。」

 

「俺は何の指示も出してないがな。」

 

「……貴方に信用が無いからでしょうね。さて、ここにいても邪魔になります。部屋にお戻りを…何か動きがありましたらお伝えします。」

 

「チッ…」

 

俺は部屋に戻った。

 

 

 

「戻って来たか…全く…秘書艦を放置して行きおって…」

 

「……」

 

俺は床に寝かされている叢雲の傍に行くとしゃがみ込んだ。

 

……特に異常は無い。緩やかな呼吸音が聞こえる…眠っている様だ…

 

「爺さん…あんたの部下の事だが「気付きおったか」…何で艦娘が普通に軍人やってんだ?つか、艤装を出す事すら許されてねぇって聞いたんだけどよ…」

 

「聞いてどうするんじゃ?」

 

俺は立ち上がり、爺さんの方を向いた。

 

「…いや…言いたくねぇなら良い。」

 

「賢明じゃな。聞いても何も出来んし、貴様の立場が余計に悪くなるだけじゃ。」

 

「チッ…」

 

俺は座っている爺さんの向かいの椅子に座った。

 

「おい。」

 

「む…?」

 

「さっきの話だが…やるわ。」

 

「…麻雀かの?」

 

「あんたの部下がどれくらい打てるのか見たくなった。それに…どうせ他に何も出来る事ねぇかんな…」

 

「良かろう…」

 

爺さんが立ち上がり、部屋を出て行った。

 

 

 

「さて、赤城にはもう会ったんじゃったかのう?」

 

「ああ。」

 

「ふむ…ではこっちが「夕立っぽい!」これ、今儂が紹介しようとしとったじゃろう…全く。」

 

「…確か…駆逐艦白露型の4番艦…だったか?」

 

「…そうよ、宜しく。」

 

「…何か、さっきとテンション違わねぇか?」

 

「そうね…今はこっちが素よ。」

 

「あ?」

 

「艦娘は改装すると性格が変わる事があるんじゃ。」

 

「…成程な。確かにそれも資料に書いてあった覚えがある。」

 

「ま、自己紹介はこんな物で良いじゃろ。そろそろ始めるとするかのう「待って」どうしたんじゃ、夕立?」

 

「その子、放っておくの?」

 

そう言って床で眠る叢雲を指差す。

 

「お前が他人を気にするとは珍しいのう…」

 

「別にそんなんじゃない…」

 

夕立は椅子から立ち上がると上着を脱ぎ、叢雲の身体にかけるとこちらに戻って来て座った。

 

「…じゃ、始めましょうか。」

 

そう赤城が言ったのと同時に俺たちは一斉に机の上の麻雀牌に手を伸ばした。



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傍受マニアの艦これ17

「ロン…これで終わりね。」

 

「ぬぬぬぬ…!貴様…!」

 

「お前ら上官にも容赦ねぇのな…」

 

麻雀は結局何回やっても最後は爺さんが潰されて終わった…読みやすいタイプだったとはいえ、こうも完封されてるとさすがに哀れだな。

 

「貴方に言われたくないわ。」

 

「しゃあねぇだろ、自分で持って来るより楽なんだから…爺さん読みやすいしな。」

 

「ま、この人は元々あんまりギャンブル強い方じゃありませんから。」

 

「くっ…!もう良いわい…」

 

「あっ!テメェ…!牌ぐらい片付け…チッ…あのクソジジイ…」

 

あのジジイ人に片付け押し付けて行きやがった。

 

「私たちも手伝いますから、そう怒らずに。」

 

「…お前ら良くあのジジイの下に着けるな?」

 

「長い付き合いなのよ。…と言うか、そもそも私たちは別に選べる立場でも無かったから。」

 

麻雀牌を集めて専用のケースに詰めて行く。

 

「…でもまぁ「ん?」私も赤城さんも、他の二人も多分嫌ってはいないけどね…時々ああやってワガママになるから少しムカついたりはするけど…」

 

「拾われた恩か?結構義理堅いんだな「違いますよ」あ?」

 

「少なくとも私は拾われた恩で一緒にいるんじゃありませんよ…理由は楽しいからです。」

 

「楽しい?あんな偏屈なジジイと四六時中一緒にいてか?」

 

一瞬下世話な想像をしそうになるが、すぐにそれは無いと思った…あの爺さん、さすがにもう枯れてるだろう…昔はどうだったのかは知らんが。

 

「あの人は賭け事が好きでしょう?私も好きでしてね…特に…」

 

赤城が弓に矢を番え、俺に向ける…

 

「おい。」

 

「特に…命を賭ける博打は大好きです。」

 

「この場で俺を殺すか?」

 

「まさか。そんなの面白くないじゃないですか…せっかくですから私と後一勝負しません?」

 

「勝負方法は?」

 

「そうですね…何が良いと思います?」

 

赤城が弓を下ろし、夕立の方を向く。

 

「……ここで私に振るの?…ポーカーで良いんじゃない?すぐ終わるし。」

 

「…良いですね。で、やります?」

 

「俺が乗らなかった場合、何かあんのか?」

 

「いえ別に。これはあくまで単なるゲームです。貴方がやらなくても私はこれ以上何もしません。」

 

「……良いぜ、乗った。」

 

「あら…本気?」

 

「ああ。で、確認するぞ?お前が勝ったら俺はお前に殺されて死ぬ「冗談だと思ってないんですね」…ああ。ここで俺が負けたらお前は本当に俺を殺すんだろ。」

 

「ええ。」

 

「じゃ、始めよ「待ちなさい。」何だ?」

 

「赤城さんが勝ったら貴方は死ぬ…で、貴方からは何か無いの?」

 

「あ?」

 

「フェアじゃないでしょ?貴方からも何か要求しないと。」

 

「確かにそうですね…何かあります?」

 

「何処まで言って良いんだ?」

 

「何でも良いですよ?さすがに命を賭けて貰うんですから…同じく私の命でも、何ならこの身体でも…何でも。」

 

「…お前普段からこんなのやってんのか?」

 

「ええ。あの人は絶対に付き合ってくれます…そして命がかかってる時のギャンブルであの人は一度も負けた事が無い。」

 

「その際の爺さんからの要求は?」

 

「……何だと思います?」

 

「…見当もつかねぇが…別に答えなくて良い。」

 

身体じゃねえのは想像つくが、な…

 

「そうですか…じゃ、始めましょうか…カードを配って貰えます?」

 

赤城が制服の内側に手を入れ、取り出したトランプを夕立に差し出す…

 

「人使い荒いわね…ま、良いわ「待て。」何よ?」

 

「相手が用意したトランプをそのまま使える訳ねぇだろ…ちょっと確認させろ…」

 

「成程…はい。」

 

夕立から渡されたカードを眺める…パッと見目立つ汚れや、傷は特に無い…ほぼ新品と変わらない物の様だ。

 

「良いぜ。」

 

俺は夕立にカードを返した。

 

「ん。じゃあ配るわよ?」

 

「ああ…いや、待て。」

 

「今度は何「ルールの確認をしてなかった」あー…確かにね。」

 

「そうですね…ジョーカーは無し。勝負は一回…当然降りは無く、交換は一回…それでどうですか。」

 

「それで良い…始めてくれ、夕立。」

 

「はいはい…じゃあ配るわ…」

 

カードをしっかり切り混ぜて、カードを配る夕立…やがて俺の手元にも、赤城の手元にもカードが五枚揃う…

 

配られたカードをひっくり返し、確認する…

 

「…で、交換はどっちから行くの?」

 

「…お前からで良い。」

 

「そうですか?なら、私は三枚換えましょう。」

 

「はい。」

 

赤城がカードを受け取る…赤城の顔から読む事は不可能そうだ…笑顔のまま変わらない…ま、一発勝負なんだから駆け引きの意味自体余り無さそうだがな…

 

「貴方は換える?」

 

「…いや、良い。」

 

「良いんですか?」

 

「ああ。」

 

「相当自信がおありのようで。これは楽しみです。」

 

「じゃあ手札の公開はどっちからかしら?」

 

「貴方からどうぞ?」

 

「……」

 

俺はカードを机の上に置いた。

 

「へー…」

 

「……」

 

カードはキングがそれぞれスペード、ダイヤ、クラブの三枚、次にAがスペードとハートの二枚…

 

「フルハウスね、確かにそれなら交換はしないか。」

 

フルハウスはポーカーの手役の中では三番目の強さだ…一番の特徴は出やすいと言う事だろう。この上、となるとフォーカードや、ストレートフラッシュと言ったはっきり言って運だけでは揃えるのが難しい役しか無い。

 

「それで赤城さん?早く出してくれる?私そろそろ持ち場に戻りたいから。」

 

先程の麻雀の時から思っていたが、夕立の方は余り賭け事が好きではないらしい…真面目な奴にも見えないけどな…

 

「……」

 

先程から赤城は笑みを消して黙っているだけ…怒っているのでは無い…正直、負けが確定してイラついているとかならまだ良かった…その赤城は今、不気味な程、表情が無い…まるで能面の様に。

 

「……」

 

赤城がカードを机に置いた……裏返したまま。

 

「おい、何の真似だ?」

 

「私の負けです。」

 

「あ?…何でも良い。まず手札を見せろ「ですから、私の負けと言っているじゃないですか。」……」

 

何時の間にかまた笑顔を浮かべた赤城がそう言って立ち上がると自分の手札も俺の手札も回収し、山札に重ねるとそのまま制服の内側にトランプをしまってしまった。

 

「おい!」

 

「それじゃ…あ、貴方からの要求を聞いてませんでしたね?」

 

「…保留で良い。」

 

「成程…ではこれをどうぞ。」

 

赤城はまた制服の内側に手を入れると今度はメモ帳を取り出し、ペンを制服の胸ポケットから取ると何かを書き、俺に渡して来た。

 

「こいつは?」

 

「私の個人無線の周波数です。何か頼み事があるなら何時でもご連絡を…一度だけなら何でも手を貸しましょう。」

 

赤城はそう言って俺に背を向け、出口に向かった…どうやら夕立は先に出た様だ…こいつら案外仲が悪いのか…?俺がそんな事を考えてる間、結局赤城はそれ以上何も口にせず、部屋を出て行った。



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傍受マニアの艦これ18

赤城がいなくなってからしばらくして、赤城を追おうとして半ば無意識に立ち上がっていた事に気付いて椅子に…

 

「くっ…!」

 

そこで気が抜けたのか尻をほとんど叩き付ける様にして椅子に座り込んだ…さすがに尻が痛いが正直それどころじゃなかった…

 

「ハア…!ハア…!」

 

酸素を求めて喘ぐ…心臓が…!鼓動が外に漏れるんじゃないかという位に激しく脈打ってるのが分かる…!

 

「…チッ…!クソがァ…!」

 

さっきまで奴の前で平静を保てていたのが不思議でならない…!何で俺はあんな勝負に乗った…!?

 

「…冗談じゃねぇぞ…!?」

 

深海棲艦に殺気ぶつけられた時の方がまだマシだ…!連中はこの船から遠い…!奴はこの卓挟んですぐ前にいた…!

 

「…ハア…ハア…」

 

客観的にさっきの状況を頭の中で思い浮かべる内、多少呼吸は緩やかになって行った…この状況でも未だに寝たままの叢雲に目をやる…

 

「マジでお前、戦場離れてたから弱くなってたんだな…」

 

ここに来る前、執務室で奴に砲を向けられた時はほとんど恐怖なんて感じなかった…こいつはどうせあの場で俺を撃たないなんて分かりきってたしな…だが、奴は本気だった…本気で俺を殺そうとしていた…!

 

「何で…俺を見逃した…!?」

 

奴は手札の開示すらしなかった…あいつの手札が俺より下だったなんて到底思えない…!

 

「怖ぇ…!怖ぇよ…!」

 

呼吸は楽になったが、事態を把握したせいか今度は身体の震えが止まらねぇ…目が潤み、鼻からもドロドロと粘り気のある水が流れ出し、顎まで到達し、机に落ちる…

 

「あああああ…!」

 

嗚咽を漏らしながらも鼻筋に握った拳を叩き付ける…今度は赤い物が垂れたが、痛みと共に自然と震えが収まって行く…

 

「がああ…!」

 

今度は机に頭を落とす…激痛が走り、椅子から転げ落ちたが、震えは止まった…

 

「ハア…!ハア…!クソが…!上等だ…!どういうつもりか知らねぇが…そっちがその気ならこっちもお前を利用してやる…!」

 

何をさせたいのか知らないがあいつは俺に貸しを作ったつもりでいる筈だ…ふざけんじゃねぇ…!俺を利用するのはクソ幹部共だけで間に合ってる…!これ以上良い様に使われてたまるかよ…!

 

俺は床から立ち上がると部屋の扉を開け、外に出た。

 

 

 

 

「近くに奴はいねぇ様だな…」

 

幸い、奴はいなかった…目的の物も近くにある…あいつこの状況想定してたんじゃねぇだろうな…

 

「……」

 

ロープが取り付けられたバケツを海に投げ込み、直ぐに引き上げる…海水の溜まったバケツが上がって来た…

 

「あああああ!」

 

俺はバケツを置き、その場に正座してバケツに頭を突っ込んだ。



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傍受マニアの艦これ19

「どうも…お久しぶりです。」

 

「ああ。」

 

加賀と別れ、叢雲を何とか宥め、眠りについた俺は次の日、執務室で来客を迎えていた。

 

 

 

「相変わらず軍服か、赤城…艦娘として活動出来る様になったんじゃなかったのか?」

 

「出来ますけど、やっぱり私はあの人の下にいる方が性に合ってまして。それに…結構便利なんですよ?階級の事もあり、視察に行った先ではあることないことベラベラ喋ってくれる人が多いんで。」

 

「…夕立に任せた方が良いんじゃねぇか?お前、誰にでも素で接するんだろ?」

 

「…ここまで砕けてるのは貴方だけですよ。後、彼女は向いてないですね、ああ見えて短気なんで。」

 

「見たまんまじゃねぇか。つか、お前よりは遥かにマシだろうが。」

 

「そうですか?」

 

「当然だろうが。この狂人が。」

 

「そこまで言います?これでも行った先の評判良いんですけどね~…」

 

「幹部もそうだが多くの提督が節穴なのが良く分かるぜ…」

 

 

 

「…で、何の用なんだ?あの頃よりマシだが見ての通り俺は忙しいんだよ。」

 

「…ここの艦娘を見に来たんですよ。後は…また一勝負しません?」

 

「断る…何か妙な気分だな…」

 

「あら?何がですか?」

 

「…昨夜、お前らと初めて会った時の事を夢に見てな。」

 

「それはそれは…楽しかったでしょう?」

 

「冗談じゃねぇ。アレは一生忘れておきたいトラウマの一つだ。」

 

散々泣いた上、奇行に走ったせいもあるがな…

 

「残念ですね…私としては一生を捧げられるパートナーに会った気分だったんですけど…」

 

「いきなり引き絞った弓矢向けられる気分…お前に分かるか?」

 

そう言うと赤城は首を傾げ、頬に指を当てて考え込む…少しして…

 

「…楽しそうですね。」

 

「そう言うと思ったぜ。」

 

やっぱりこいつはイカれてやがる…

 

 

 

 

「艦娘の練度が見てぇなら勝手に見て来な、ちょうどやってる筈だ。」

 

「あらあら…では何故貴方はここに?」

 

「そっち方面は今も素人なんだよ、基本的に叢雲に任せてる。」

 

「幹部会に乗り込んで意見具申した方の言葉とは思えませんね。」

 

「ありゃただの飲み会だったじゃねえか。それに俺が言ったのは無線の有用性だ…嘲笑されたがな。」

 

あの時爺さんが止めてくれなかったから俺は連中の頭を一升瓶で殴り付けてたろうな…

 

「私は正しいと思いましたけどね~…」

 

「お前が認めてくれても状況は変わんねぇよ…つか、お前だって暇じゃねぇんだろ?さっさと行けよ。」

 

「そうさせてもらいますね…夜、時間空けといて下さいよ?」

 

「……命を賭けなくて良いなら付き合ってやるよ。」



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傍受マニアの艦これ20

「どうも。お待ちしておりました。」

 

「ああ…」

 

執務室に来てみれば既に赤城がいた…一応この部屋は俺がいない時には施錠する様にしているが…色々スキルを持つこいつに対して今更驚きは無いし、思うところも無い…他の艦娘はともかく、こいつに見られて困る重要書類なんて物も無い。

 

「…夜まで何をしてた?」

 

「叢雲さんと少し…色々と…お話を…」

 

「ふ~ん…」

 

俺は近くにある畳まれたパイプ椅子を出し座る。

 

「おや…内容に興味がおありでは?」

 

「ねぇよ…俺にそんなもんを期待しても無駄なのは知ってんだろ?」

 

「そうですか…フフフ…」

 

「……その反応を見て余計に聞きたくなくなったぜ。」

 

「あらあら…残念ですね…」

 

「良いから本題を先にしろ…何の用だ?」

 

「鍵はかけました?」

 

「ああ…盗聴器は?」

 

「既に回収済みですよ…」

 

そう言って執務机の引き出しを開けるとそこから小さ目な物体を置いて行く…

 

「…十五個か…どんどん増えて行きやがるな…」

 

「外部から来た艦娘の選別…ちゃんとしてます?」

 

「犯人は分かってるよ…その上で放置してんのさ。」

 

「あら?何故です?」

 

「…こういう事をして上に気に入られているのがあいつの存在意義だからさ。」

 

大体、こういう事に疎い俺が見つける時点で確実にあいつは向いていない…だが、わざわざ指摘して、糾弾してやるつもりも無い…実害も大して無いしな。

 

「それは優しさじゃありませんよ?」

 

「優しさでやらねぇよ。」

 

俺に優しさがあるならとっくにスパイからは足を洗わせているだろう…

 

「…ま、良いでしょう…それに…本当は今回に関しては聞かれてもあまり問題は有りませんからね…」

 

「何だ…本当に雑談のつもりで来たのか?」

 

「ええ。今回は休暇です。」

 

「…食えない奴だ。」

 

「貴方に言われたくありませんよ?」

 

「…間違えた、面倒な女だよ、お前は…」

 

「あら酷い…これは明日、叢雲さんに慰めて頂かないと。」

 

「あんまりあいつを揶揄うなよ?俺への愚痴が増える…」

 

「揶揄うとは人聞きの悪い…可愛い可愛い…Girls Talk…を、しているだけですよ?」

 

「…本当にお前の言う通りの内容ならああまで愚痴らねぇよあいつは…大体、Girlって歳か?お前?」

 

「綺麗な発音ですね…それはそうと…女性に歳の話をしてはいけないと教わりませんでした?」

 

「お前もな…つか今更怒ってる振りすんな、白々しい…」

 

「もう少し付き合ってくださいよ~…あの人はこういう話乗ってくれないんですから~…」

 

今日は叢雲には来ない様に言い含めてある…あいつは色々疑いを持っている様だが…実際、こいつとする話なんてこんな感じの腹の探り合いだ…色のある会話からは程遠い…

 

「爺さんが乗ってくれないからって俺で遊ぼうとするな…ところで…」

 

「何でしょう?」

 

「何でそんなに叢雲に構う?」

 

「……あの方に頼まれてるんですよ。見てて焦れったいから、二人の背中を押してこいと…とは言え、貴方に言ってもどうにもならないので…彼女を重点的に攻めようかと…」

 

「まだあんだろ…」

 

「後はそうですね…私個人の事になりますが…可愛いんですよ、あの子…口調こそああですが…何時までも純粋で…いじらしくて…本当に可愛い。」

 

「で…揶揄う、と…趣味悪ぃぞ。」

 

「だから…背中を押してるだけですよ…少し煽ったりぐらいはしますけど。」

 

「そこだろ、問題は…もう良い。本題に行こうぜ、雑談つってもこれが本命じゃねぇんだろ?」

 

「もう…貴方から振ったんじゃないですか…」

 

「嫌なら答えなきゃ良い話だ…で、何の話だ?」



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傍受マニアの艦これ21

「本当にあの時は驚きましたねぇ…隠れて見ていたら、貴方がバケツに頭を突っ込んで、すぐに頭を上げたと思ったら泣き叫びながら甲板を転げ回り始めたんですから…」

 

「お前その話何回すれば気が済むんだよ。」

 

雑談の内容は俺が今朝、こいつとの出会いを夢に見たと言ったせいか、その時の話へ…最初は爺さんと海軍の膿出しをやった時以来、疎遠になっちまった俺と同じく爺さんに協力した提督連中の近況の話だったんだがな…

 

「いやぁ…だって、久しぶりに大声上げて笑ったんですよ、あの時は。」

 

「お前来る度にその話してるじゃねぇか…」

 

お陰で当時ここにいなかった艦娘まであの時の話を知ってしまっている…当時軍内でもあからさまにクズだった連中がいなくなった後、爺さんとこいつが俺の悪評の大半が嘘だった事もバラしてくれた為、今は艦娘連中から睨まれる事も無い。…が、こいつがこの話を面白おかしく語ってくれたせいで連中からは生暖かい視線を送られる事も多い…

 

「マジでそれが本題なのか?」

 

「ああ…大事な事を忘れてましたね…」

 

そう言って赤城が手に持ったままだった湯呑みを机の上に置く…中身は茶では無く、酒だ…出したのは失敗だったか?こいつがこの程度で酔うとは思えないんだが…

 

「あの方は、近々退職を考えています。」

 

「っ!?」

 

驚きのあまり、口の中に入れた物をそのまま吹き出しそうになる…ギリギリで堪え、ゆっくり嚥下して行く…

 

「……マジか?」

 

「ええ。マジです。」

 

「…この状況で辞めるってのがどういう事か分かってんのか?上の粛清はまだ終わってないんだぜ?」

 

「現在残ってるのは全てこの国の事を憂いていてあの方が"使える"と判断した方々ばかりです…貴方を冷遇する人ももう居ないでしょう?」

 

「面倒な仕事回して来る奴ばかりだがな…」

 

赤城の言に一応頷いては置く。確かに今いるのは"比較的"まともな連中ばかりだ…この国を第一に考える行き過ぎた愛国者共…それが今上にいる連中だ…

 

「こっちで抱えてる艦娘にすら見られたら終わる書類を回して来る馬鹿共だ「それでも…あの頃よりはマシな待遇では?」…チッ…かもな…」

 

今自分がいる執務室を見渡す…建っている場所と建物そのものこそ変わらないが、今、俺のいる部屋は荒れ果てていた頃から一転して、最低限仕事をし、来客を迎える事が出来るぐらいには体裁が整えられている…

 

「…まあ良い…それで?どんな心境の変化だ?一生現役とか言い出すタイプだと思ってたんだが?あの爺さんは?」

 

「あの人の役目は本当はもう終わっていたんですよ…自ら前線に立てなくなった時点で。」

 

「艦娘がいるんだから当然だろ?そもそも人間の兵器はほとんど奴らには効果がねぇんだからな。」

 

「それでも戦場に立っていたのがあの方です。だから丁度良くもあったんですよ…今のポストに追いやられ、戦場に出なくて済むようになったのは…身体はやっぱり衰えてましたから…」

 

「休むどころか、今度は人間相手に色々やってたみてぇだがな。」

 

「…あの人に"休む"なんて選択肢はありませんから…」

 

「じゃあ尚更分からねぇ。何で今になって辞める?今の上の連中に任せるのが本当に良いと思ってんのか?」

 

連中は確かに愛国主義だが、見てるのは国そのものであり、"人"を見ていない。それが奴らと接してる俺の意見だ。

 

「艦娘を一兵器や、鬱憤を晴らすサンドバッグ代わりに思っている方はいませんので。」

 

「兵士として馬車馬の様に使われるのがお前の好みか?」

 

「私は元々そういう性格ですから…ただ、ドンパチやってるより他人を出し抜く事の方が好きですけど。」

 

「強かだものな、お前。」

 

あの爺さんでさえ、こいつの手綱を握れていなかった…いや…本当はハナから縛る気は無かったのかも知れないが。

 

「後継者は見つけてるのか?」

 

「将来有望な若者は多いので。」

 

「下から選ぶのか…荒れそうだな「何を他人事みたいに言ってるんですか?」あ?」

 

「貴方も候補の一人ですよ…ちなみに私は貴方を推しています。私は…貴方の下に着くなら悪くは無い、と…そう思っています…」

 

「冗談じゃねぇ。」

 

俺は机の上の湯呑みを掴み、口を付けた。



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傍受マニアの艦これ22

「やっぱり断りますか「勘違いすんな」…どういう事でしょう?」

 

「個人的に嫌なのは認めるが、何もそれだけで言ってんじゃねぇよ。」

 

「では、何でしょう?」

 

「その前に一つ聞かせろ。…お前…さっきの話で意図的に省いた部分…有るよな?」

 

「…何の事でしょう「惚けんな、だから俺はお前が嫌いなんだ…連中は今派閥に入ってる…違うか?」…さすがですね。」

 

先の話に出た提督たちと俺は現在連絡を取っていない…いや、取れない。その理由は単純だ…向こうがこっちとの接触を避けてるからだ…

 

「今上にいる連中は軍人って言うよりは思想は政治家寄りだ…そこに生じ軍人としての思慮があるから厄介だ…」

 

「……」

 

「先の繰り返しになるが…上の粛清は終わってねぇ…この国を憂うあまりに危険思想に傾倒してる奴がそれなりにいるからだ…こいつらを俺を含めた若手の誰かに相手させるつもりか?」

 

「少なくとも貴方は問題無いかと。」

 

「けっ…この盗聴器の量見りゃ分かんだろ、俺を冷遇する奴は確かにいないかも知れない…だが、疎んでる奴は確実にいるんだよ。俺が上に立ったらどれだけ荒れると思う?」

 

「そうですが…それなら私から一つ良いですか?」

 

「何だ?」

 

「楽しみましょう…それを含めて…私は貴方とならまだまだ楽しめる…そう思っているから貴方を推しているんです。」

 

「……そうだったな…俺の周りで一番の危険人物はお前だったな…日本の艦船の生まれ変わりでありながら…」

 

「自覚はありますよ。私はこの国の行く末なんて興味ありません。ただ、楽しければ良いんです…平穏より、動乱を…秩序より、混沌を…それが私の目的とする所です。」

 

「だから、一番場を引っ掻き回せる俺の下に着きたいわけか?」

 

「貴方が仮に何もしなくても勝手に問題の方から寄って来ますよ…上に着けば。」

 

「断る…と言っても任命されたら断れねぇよな…」

 

「ええ。決めるのはあの方ですから。」

 

「じゃあこれは皮算用の域を出ねぇな「でもあの人も貴方を選ぶと思いますよ?」…お前が暴走するのを分かっていてか?」

 

「それも今の停滞しきった状況には必要と思っての事です…何も無いなら有った方が良い…そういう事です。」

 

「爺さんもいよいよ耄碌したか「あ、それと」あ?」

 

「これは暴走じゃありません。平常運転です。」

 

「上の言う事を聞かない部下のスタンスが平常運転か…最悪だな。」

 

「貴方よりはっきり言う私の方がマシでは?」

 

「お前は単に嘘をつかないだけで、都合の悪い事は言わねぇじゃねえか。」

 

「聞かれたら答えますよ?…もちろん上っ面の範囲で。」

 

「……本当に国を憂うなら真っ先にお前を切るべきだったな…ま、俺も軍人としては半端だし、面倒だからやらないが…もっと言えばこの国がどうなろうが今更知った事じゃねぇし。」



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傍受マニアの艦これ23

修復された要人用の部屋では無く、普段俺の寝ている寝室に堂々と向かう赤城に溜め息を吐きつつ、酔い醒ましに夜風でも浴びようと執務室を出る…

 

 

 

外を出れば廊下の電気は最小限にしてあるものの、艦娘用の部屋からはまだ声が聞こえる…

 

あの頃仮に…と言う事で建てられた艦娘寮は人員が増えた事で既に手狭になり、無駄に部屋数だけはあったこの建物も修繕が進んだ事で、ここでそのまま生活する者が大半になった…その癖、俺は別に消灯時間などのルールを一々設けて無い為、こうして夜中でもそれなりに声が響く…

 

 

……しかし…今日のコレはさすがに五月蝿過ぎだな…

 

俺は一際声の響く、部屋の前に立つ…この時間もう寝てる奴もいる筈だ…柄では無いが、注意ぐらいはしておくか…俺はドアをノックした…

 

「はいなのです。」

 

「俺だ…」

 

「司令官さんなのですか?今開け「開けなくて良い…俺は注意しに来ただけだ…」え?」

 

「何を盛り上がってるのか知らねぇが、今は夜中だ…喋るなとは言わねぇが、もう少し声のボリュームを抑えろ。」

 

「はい…ごめんなさい…」

 

「じゃあな…」

 

俺は部屋のドアから離れ、また廊下を歩き出した…

 

 

 

タバコに火をつける…

 

「ふぅ…」

 

「あら?」

 

「あ?」

 

声が聞こえ、そちらを見てみれば…

 

「龍田じゃねぇか。」

 

「提督…」

 

「何してんだ?」

 

「ちょっと…眠れなくて…」

 

「お前がか?」

 

「そんなに不思議かしら?」

 

「天龍からお前は横になったらすぐ寝る、と聞いてるからな。」

 

「そう…私だってそう言う気分の時はあるわ。」

 

「……そうか、邪魔したな。」

 

あれから随分経つが、俺は未だにコイツが苦手だ…殺されかけたからではなく…コイツの場合…

 

「そう露骨に避けなくて良いでしょう?あの頃の話ならちゃんと謝ったじゃない?」

 

「……それが既に有り得ないんだがな…」

 

コイツは多くの艦娘が俺に不穏な疑いを持つ中、真っ先に俺に謝罪して来た…つまり…

 

「はっきり言ってやる…俺はお前を信用出来無い。」

 

「……」

 

爺さんと赤城が俺の正体を明かす前に…コイツは俺の正体に辿り着いていた…

 

「天龍の為なら手段を選ばない上、元々俺から見てお前は得体の知れない奴だ…信じる方がどうかしてる。」

 

「味方が多い方が良いとは思わない?」

 

「今更一人増えたって変わんねぇよ。」

 

「私たち、上手くやれると思うんだけどな?」

 

「お前に手を貸すくらいなら、赤城と組んだ方がよっぽどマシだ…」

 

「海軍トップの座はそんなに魅力的だったり?」

 

「チッ…聞いてやがったのか…」

 

「バッチリとね♪」

 

「……聞いてたなら分かんだろ?俺は受ける気はねぇよ…ただ、お前と組むよりは良いと思うがな…」

 

「あ~あ…嫌われちゃった…」

 

「ふん…」

 

俺は口から吐き捨てたタバコを踏み消し、中に戻る事にした…

 



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傍受マニアの艦これ24

廊下を歩く…またタバコを咥え、火をつける…実は今ここには艦娘にもチラホラ喫煙者がいるんだが、ほとんどの連中は禁煙推進派だ…ま、外と執務室で吸う分には何も言われねぇ。最も、こうやって廊下で吸ってればそれなりに文句を言われる訳だ…今は夜中で廊下に出て来てる奴もそんなにいないから問題もねぇな。

 

 

 

 

執務室に戻り、寝室を覗いてみればこちらに背を向けて布団に横になり、寝息を立てる赤城がいた…床に散らばる軍服を見て複雑な気分になりながらドアを閉める…

 

椅子に座り、中身の入った瓶を掴むと湯呑みに注ぐ…口を着けようとしたところでドアをノックする音が聞こえた。

 

「誰だ?」

 

「私よ。」

 

「…龍田か。何か用なのか?」

 

「用が無かったら来たらいけないの?」

 

「ここはそもそも俺が仕事する部屋であって俺の私室じゃねぇよ。」

 

「そう…でも今日はお酒飲んでたんでしょ?」

 

「…回りくどいな、酒が飲みたいならとっとと入って来い。」

 

「あら?良いの?お相手の「とっくにお休みだよ、どうするんだ?そろそろ片付けるぞ」分かったわ。なら…お言葉に甘えて…」

 

そう言って龍田がドアを開けて中に入って来て、机を挟んで俺の前にある椅子に座った。

 

「お酌、お願いしますわ…」

 

俺は湯呑みの酒を飲み干し、湯呑みを置いて、机の上の瓶を掴むと、自分の湯呑みに中身を注いで置いた…

 

「自分で注ぎな。」

 

「了解…貴方にそう言うのを求めても無駄だったわね…」

 

「そういう事だ…分かったらとっとと飲んで寝ろ。」

 

「ね?さっきの話だけど「お前とは組まねぇ」もう少し考えてくれても…」

 

「お前は天龍の為にしか動かないだろ?」

 

「そういう人の方が、貴方は組みやすいんじゃないの?」

 

「行動は分かりやすいとは思うけどな、めんどくせぇよ。」

 

「何でかしら?」

 

「俺にとって艦娘は部下だ…つまり使い潰すつもりは無いが、非常な命令を降すこともある…お前、俺が天龍に死ねって言ったら冷静でいられるか?」

 

「……」

 

「その沈黙が答えだろうが。そんな危ない奴横に置いとけるか。」

 

「貴方の裁量で、そう命令しないで済むんじゃないの?」

 

「裁量も何も…必要だと思ったら言うさ。」

 

「でも、結局貴方は無謀な作戦を指示した事は無い。」

 

「最初の爺さんからの依頼で誰か死んでても可笑しく無かったし、今までだって運が良かっただけだ…俺の存在を知られたら真っ先にあの化け物はここに一斉に攻めてくるだろうさ…」

 

「…そうね…そうかも…運が良かっただけなのかもね…でも、その運が何処まで続くのか見てみたいって自然な欲求じゃないかしら…」

 

「俺はあんま長く続けたく無いがね「もう辞めようと思えば辞めれるんじゃないの?」さて…どうだろうな?」

 

……結局は俺がどうしたいか、か…

 

「…ふぅ。ご馳走様でした…部屋に戻るわね?」

 

「ああ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら1

中身はオリ主(男)


はぐれ悪魔の攻撃をかわしながら私は手に持つ大剣を振るう

 

種族こそ人間には見えないだろうが力を得た自分の攻撃をあっさり見切り身の丈程もある大剣を振り回す私に驚いているのがなんとなく伝わってくる

 

「わかるかな?これが力の差だ。自分の力に振り回されてるお前とは違うのさ」

 

違う。私は虚勢を張ってる。この身は所詮紛い物

"彼女"には到底届かない。だが、この程度の相手に遅れはとらない、とるわけにはいかない

 

「さあ、そろそろ終わりにしよう。いい加減本気を出してくれ。私も暇じゃないんだ。これ以上醜態を晒すならこのまま叩き斬るぞ」

 

私は目の前のはぐれの腕を大剣で受け止めながらそのまま大剣で無理やり向きを代え圧し切ろうとする

 

「!ふっ、ふざけるなあ!」

 

多腕のはぐれが他の腕を奮ってくるが…

 

「それは悪手だな」

 

私は大剣を振り奴の腕を切り落とす

 

「!ギャアアアア……!貴様アアア!」

 

そのまま手を抜かず私は先程まで大剣で押さえ付けていた腕も落とす

 

奴はもう言葉を話す余裕も無いようだ

 

「…腕は無くなったな。さてどう…おやおや」

 

奴は私から背を向け逃げようと…

 

「逃がさんよ。」

 

私は跳躍し奴の上に馬乗りになるとそのまま奴の頭を上顎と下顎を別ける形で両断した

 

「……あっ、間違えた。首を落とすはずだったのに…」

 

しばらく残った舌が動いていたがやがて奴は動きを止めた

 

「…遊び過ぎたな。これも油断と言うのだろうか…」

 

我ながら滑稽だ。また"彼女"を模倣してる

私はああはなれないのに

 

私は髪をかき揚げる

奴の血がワックス代わりになり髪が固定される

 

私はポケットから携帯を取り出しクライアントに電話をかける

 

「…テレサだ。今終わったよ。迎えを寄越してくれ。」

 

電話を切ると今度は年下の同居人に電話をかける

 

「…クレアか?終わったよ。もうすぐ帰るからな。ああ。そうそう風呂を沸かしといてくれ。……大丈夫だ。怪我はしていない。返り血だからな。うん。うん。わかった。今度何処か…そうだな、遊園地なんかどうだ?うん。わかってるさ、今度はちゃんと予定空けておくから。じゃあ後でな」

 

電話を切る。……同居人相手でさえ"彼女"になりきって会話をするのだから哀れだな、私は…

 

この世界……ハイスクールDxDの世界に転生するとき神とか名乗るあいつに特典は何がいいかと聞かれクレイモアの力がいいと言っただけなのに何故か私は公式チートの"彼女"の姿で転生した

 

親は不明

というか幻想種が数多く存在するこの世界でも私と同じ者は居ないらしい

 

結局追われる身となった私は悪魔と取引をすることで今はこうしてフリーの身で活動している

 

家族も出来たしもっと稼がないと。その点ではこの力をくれた事に感謝はしている

 

自分の自業自得かもしれないが次にアレに会う機会が会ったら一発ぐらいぶん殴らせて貰うことにしよう。でなければ割に合わん…




主人公 クレイモアの中でも最強として名の挙がる人物テレサに転生した男
前世の事は覚えてない
肉体に引っ張られる形になったのか性格もどことなく彼女に似ている
下手な悪魔よりもずっと強いのだが原作での鮮烈な印象から本来のテレサには遠く及ばないと自嘲する癖がある
最近原作主人公のクレアによく似た孤児の少女を引き取った
駒王町在住
普段は悪魔から習った魔法で人間の姿に化けて生活している


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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら2

「やっと見つけたわ!」

 

「ん?…げっ…」

 

私は今、リアス・グレモリーとその眷属と対峙していた。

 

 

リアス・グレモリー…悪魔の中でも名のある家グレモリー家の時期当主の少女だ…ハイスクールDxDの主人公で神器「赤龍帝の籠手」を宿す兵藤一誠を後に眷属にしている…こいつがとにかく変態で女となった私には典型的な天敵なのだが(人外とは言えテレサは普通に美人だしな)まあこの場合一番の問題はリアス・グレモリーだろう…何故なら…

 

「貴女ね?最近この町ではぐれ悪魔狩りをしているのは?」

 

「…ふむ…だとしたら、どうするんだ?」

 

「っ!この町の主は私よ!勝手な真似をしないでくれるかしら!?」

 

「…ハア…。」

 

リアス・グレモリーが面倒な所はこの性格であろう…。主か…少なくともこの町にいる人間は誰もこいつを主とは思ってはいないはずだ。…事情を知るものも含めてこの町には人外より純粋な人間の方がずっと多い筈。

 

「…そうは言うがね、私も仕事でやっているのだよ。…正式な依頼で動いている以上君に指図される覚えは無いんだがな」

 

「…どうやら言っても無駄みたいね。朱乃!祐斗!子猫!」

 

「…乱暴だな。仕方無い、少し遊んでやるよ。」

 

向かって来るリアス・グレモリーの眷属たちを見ながら私は舌なめずりをした…。

 

 

 

「…硬い!」

 

「…生憎この剣は特別製なんだ。その程度の強度では足りんよ。」

 

魔剣を手に向かって来る木場祐斗の剣を受け止める…ふむ。受けただけで折れるとはな。そもそもこいつの剣自体も軽すぎる…。

 

「…何て力…!」

 

「…良い拳だがそれじゃあ届かんよ。」

 

塔城小猫の拳を片手で受ける。…力は強いがまだ振り回されているな…

 

「二人とも退いてください!」

 

姫島朱乃が使う魔術を躱して行く…この身体にどの程度効果があるかは知らんが好き好んで食らいたくはないからな。

 

「…惚けてて良いのか?」

 

「…!しまった!」

 

三人をスピードで置き去りにしつつリアス・グレモリーの方へ向かう…いかに転生悪魔と言えども仮にもクレイモアが元人間に早々速さで負けられん。

 

「…私に向かって来るなんて…!食らいなさい!」

 

「…遅いな。」

 

「…!そんな!」

 

リアス・グレモリーお得意の滅びの魔力を横移動し躱す…改めてこの身体のスペックは凄いな…お陰で使いこなすのに時間はかかったが…くそっ。自業自得とは言え思い出したらイラついて来た…絶対いつかあのクソ神を殴る!

 

「…!何の真似…?」

 

私は大剣をリアス・グレモリーの首に当てると止める。

 

「…眷属を引かせてくれないか?私は元々、別に争うつもりは無いのでね。」

 

私は遠巻きにこちらの様子を伺う眷属たちを見ながら言う。

 

「…卑怯者。」

 

「それはそちらだろう?こちらは一人、そちらは四人もいるじゃないか。」

 

「…皆!私に構わないで!こいつを殺しなさい!」

 

「…良い覚悟だな。お前たちはそれで良いのか?私は本当に斬るぞ?」

 

四人分の殺気を感じながらどうするか考える…これでは私も動けないじゃないか…。クレアが待っている…早く帰らないと。…ん?

 

「……何の音?」

 

「…私の携帯だ。出ていいかな?」

 

「…好きにしなさい、私に決定権は無いわ。」

 

携帯を取り出し…おや?…良かった。これで帰れる。

私は携帯に表示された名前を見て笑った。

 

「もしもし、テレサだ…あー…その前にちょっと良いかな?うん…実は面倒な事になってな…今、お前の妹と一緒にいるんだが…察しが良くて助かる…ちょっと説明してくれ。…ほれ、出ろ。」

 

私はリアス・グレモリーに電話を渡す。

 

「もしもし?…お兄様!?」

 

電話口で慌ててるリアス・グレモリーを見ながら私は剣を下ろ…せないな、これでは…サーゼクス、早くしてくれ…事情をまだ知らないため収まるどころか膨れ上がる一方の眷属三人分の殺気を受けながら私は再び溜息を吐いた…。

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら3

「…その、ごめんなさい…まさかお兄様のお知り合いだったなんて…」

 

「知り合い…と言う程の者じゃないがね…まっ、付き合いは長いがな。」

 

サーゼクスから話を聞いたリアス・グレモリーが頭を下げるのを制す。…早く帰りたいんだが…

 

「…詳しい話を聞きたいなら後日でも良いかな?家族を家に待たせてるから今日はこれで帰りたいんだ。」

 

「えぇ…さっきの番号に連絡すれば良いんですね?」

 

「…そうだな…あー…取って付けたような敬語は要らんよ。堅苦しいのは苦手でね。」

 

「…そう?それなら普通にするわね。」

 

「…さて、獲物を横取りしたお詫び…と言う事でもないが、一つアドバイスと行こうか。」

 

「…何かしら?」

 

「…力の使い方を覚える事だ。お前の使うその力、強力だが、お前が未熟なせいで振り回されている…。」

 

「……」

 

「年寄りの要らぬお節介と思って聞き流してくれても構わないが、心の内には留めておくといい。取り敢えず、そうだな…せめて的には確実に当たるようにしておけ。」

 

先の小手調べの際、私は敢えて躱したが…あれでは躱す必要も無かったのが正直な感想だ。…何せ私の動きを捉えられず在らぬ方向に飛んで行っていたからな…。

 

「…分かったわ。…最後に一つ良いかしら?」

 

「…何かな?」

 

「年寄りって言ってたけど貴女、本当はいくつ位なの?」

 

難しい質問だな…私は一般的な転生者と違ってこの姿でこの世界に来たから正確な年齢が判断出来ん…クレイモアは基本不老不死で見た目が変わらんしな…まあ私が言ったんだが…

 

「…口に出した私が言うのも何だが…同性とは言え、女性の詮索をあまりするものじゃないぞ?」

 

「…そうね。ごめんなさい。」

 

「…強いて言うなら…サーゼクスたち現魔王連中とは割と長い付き合いだとだけ言っておこう。」

 

「…!…そう…それだけ聞ければ十分よ。」

 

「…ではここで失礼する。…ここが私の住むアパートなのでね。」

 

私は同居人と暮らすアパートを手で示す。…すっかり遅くなってしまったな…クレアの奴、へそ曲げて無いと良いが…。

 

「分かったわ…本当に今日はごめんなさい…。」

 

「だから気にする「テレサ~!」…と。」

 

走って来た小柄な影を受け止める…どれ、頭でも撫でてやるか。

 

「もう!遅いよテレサ!」

 

「ははは…すまんな、ちょっとアクシデントがあって…あー…紹介しよう、私の妹のクレアだ。」

 

「…リアス・グレモリーよ、宜しくね。」

 

「クレアです!宜しくね、リアスお姉ちゃん!」

 

…先程の険しい顔から一転して口角の上がるリアス…こうやって愛想を良くして人の懐に入り込むなんてのは私には出来ない芸当だ。…クレアはこれを素でやってるんだから本当にとんでもないな…。

 

「…クレア、リアスはサーゼクスの妹なんだ。」

 

「そうなんだ。サーゼクスおじさんには良くお世話になってます!」

 

「…そうなの。」

 

そう言って軽く談笑を始める二人…丁度良い…原作に関わるつもりは無かったがどうせこうなっては仕方無いしな…

 

「…リアス、この後特に用は無いのか?」

 

「え?別に無いけど…」

 

「家に寄って行かないか?」

 

「…!いやさすがにそんな訳には…」

 

「私、もっとお姉ちゃんとお話したいなぁ…」

 

「…分かったわ、それじゃあ少しだけ…。」

 

私はリアスを家に上げることにした…。

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら4

「さて、何から聞きたい?」

 

あの後夜が遅い事もありクレアはリアスと軽く話してあっさり眠ってしまった。帰ろうとするリアスを引き留めお茶を入れるとそう切り出す。

 

「…え?」

 

「いや、え?じゃないだろう?そちらが事情を聞きたいと言うから急遽とはいえ、こうやって話す場を儲けたんだろう?」

 

「…いや、後日のつもりだったし、唐突だったから…でも、そうね…それなら貴女は何者なのか、から聞かせてもらいましょうかしら?貴女はどう見ても悪魔じゃないし、私の知るどの種族とも違うように見えたから…」

 

「…そこからか。まあ当然だな、では話を…ん?すまん、来客の様だ…ちょっと待っててくれ。」

 

リアスに断りを入れ、私はドアに向かった。

 

「…誰だ?」

 

「…私だ、夜遅くにすまない、そちらにリーアはいないかね?」

 

サーゼクスか。

 

「…ああ、いるぞ。私の事情を聞きたいと言うから取り敢えず上がってもらったんだ。…何なら今夜は止めて帰すが?」

 

「成程。そういう事なら構わない。…いや、私も同席していいかな?どうせなら君の事を知っている者がいた方が良いだろう?」

 

「…それもそうだな。なら、入ってくれ。」

 

私がそう言うとドアが開く。

 

「…久しぶりだね、テレサ」

 

「…そうだな。…最近忙しいのか?クレアがお前が会いに来ないと寂しがっていたぞ?」

 

「…それはすまない。クレアはどうしているかな?」

 

「今は眠っている。時間も遅いからな、今度はもう少し早くに来い。」

 

「…そうする事にするよ、…そもそも君がもう少しクレアと一緒にいるようにしたら良いんじゃないかな?」

 

「…先立つ物が無いと暮らしていけないからな「だから昼間の普通の仕事を紹介しただろう?」…サーゼクス、私は戦士だ。」

 

「…頑固だねぇ。」

 

「…テレサ?家族が出来たのですよ?少しは落ち着いたらどうですか?」

 

「グレイフィア、そう言われてもな、これが私の性なんだよ…。今日は説教は勘弁してくれ。リアスを待たせてる。」

 

二人を部屋に上げる…原作重要キャラがこんな狭い部屋に三人か…私は病気とは無縁の筈のクレイモアの身体なのに胃が痛くなって来たような気がした…。

 

 

 

二人が部屋に来て目に見えて慌てるリアスを宥め話を始める…

 

「…異世界人?」

 

「…私を人に数えて良いのかは知らんが、そうだ。私はこことは違う世界から来た。」

 

転生者と言うと話がややこしくなるので私はクレイモア原作をベースに話をする…世界観についてはともかく、テレサ本人の身の上話は原作でも詳しい描写が無いから創作も混じるが…

 

「…貴女と同じ人は他にいないの?」

 

「…それは私から答えよう。彼女に会った後、人間界も冥界も調査したが今の所彼女と同じ種族の者は発見されていない…天界は分からないが、多分いないだろう…幸い、彼女の言う妖魔も未発見だ。」

 

「…とまぁ、私自身が希少な種族という事もあるのと、そもそも自分で言うのも何だが私自身の戦闘力が他と隔絶しているせいもあり、当初かなり狙われたのだよ。…今はこうして悪魔側の庇護を受けているがね…」

 

「でも貴女、悪魔には転生してないのね…」

 

「その意味が無いからな。」

 

「どうして?」

 

「リーア、彼女は元々不老不死だ。…実は彼女と出会ってもう十年以上経つが、彼女の見た目はあの頃と変わっていない。」

 

「……」

 

「そういう事だ。…この身体は戦うのに非常に都合が良いんだよ。…と言うか、本当は私は特定勢力に余り肩入れしたくなくてね…元々はフリーだったくらいだからな。」

 

「なら、何でこっちに?」

 

「…クレアに会ったからだよ。彼女はクレアを引き取ると決めたものの何も後ろ盾は無かった…」

 

「それまでの私は衣食住にあまりこだわる必要が無かったのだよ…極端に丈夫な身体、傷の治りも早い。食事もほとんど必要無い。精神も戦闘に特化しているからほぼストレスも感じないから娯楽も要らない…これは凄いことなんだがな、私と同じようにクレイモアになった連中の多くは精神が破綻しているからな…。」

 

そう言って自嘲の笑みを浮かべる…そもそも志願者の多くは家族を食われた復讐のためその捕食者の血肉を身体に入れた者たちだ。歪じゃないわけが無い。…そうでない者は親に売られたり、攫われた連中だ。どちらにしろ狂って当たり前だ。

 

「…私が当初彼女に会った時、彼女はとても危なっかしくてね…何度も嗜めたんだが聞かなかった…。」

 

「昔の事だろう?そもそも私は致命傷じゃなければ死なんからな。」

 

「…とまぁ…何度言っても聞かなくてね、だから驚いたよ、家族が出来たから後見人になってくれないかと言われた時は。」

 

「私は戸籍すらないからな…クレアを育てるならどうしても後ろ盾が必要だった…。その点…サーゼクスなら何とか出来ると思ったのさ。」

 

「…嬉しかったよ…私を頼ってくれるのが。純粋に友人として、ね。」

 

「こんな得体の知れない奴を友人呼びだからな、本当にお前の兄は変わり者だよ…。」

 

感謝はしている…もちろん口に出すつもりは無いが。

 

「素直じゃないんですね。」

 

「うるさいぞ、グレイフィア。」

 

クスクス声を上げて笑う女にジト目を送る…こいつ変わりすぎじゃないか?最初の頃は私を物凄く警戒していた癖に。

 

「さて、長くなったが分かったかな?」

 

「…ええ。良く分かったわ…」

 

「…まぁまだ話があるなら携帯に「おや?その必要は無いだろう?」…サーゼクス、黙ってろ。」

 

余計な事を言おうとするサーゼクスを制する…これ以上私は原作に関わりたくないんだが…

 

「…君は普段は駒王学園で用務員をしているじゃないか。」

 

「え!?」

 

あーあ…せっかく気づいてなかったのに。

 

「…そうだ。私はお前の通う駒王学園で働いている。…ちなみにソーナ・シトリーだったか?確か生徒会長の…お前と友人と聞いたが?」

 

「ええ。そうだけど…まさか…!」

 

「…あいつは私の事を知っているぞ?そもそもあいつの姉とも私は長い付き合いだしな…何だ、聞いてなかったのか?」

 

私は笑みを浮かべる。困惑しているな?小娘を揶揄うのもなかなか楽しいじゃないか。

 

「…相変わらずその性格の悪さは変わらないね。改めないとクレアに悪い影響が出るかも知れないよ?」

 

「…問題無い。あいつは私に似ずとても良い子だ。」

 

「…反面教師振ってないでもうちょっと考えたまえ。君は奔放過ぎるよ…とにかくはぐれ悪魔狩りは少し控えたまえ。そもそも君がやり過ぎるからリーアの琴線に触れたんだろう?…用務員の仕事で君ら二人が十分に生きていける分を渡している筈だ。」

 

…痛い所を付いてくるな…

 

「…そう言うな。人生は楽しんでなんぼなのだろう?」

 

「…君からそんな言葉が聞けるとはね…だが、敢えて強く言わせてもらおう…クレアの事を考えるなら戦いは出来るだけ控えなきゃならない…それは君も分かっているだろう?」

 

「分かっているさ。…だが戦いを求めるのは戦士としての本能だ。例え将来的に全てが破綻するとしてもな。」

 

「ねぇ?それどういう意味?」

 

「……」

 

私は口を噤む。これに関しては早々口には…

 

「…リーア、彼女たちクレイモアは妖力…我々で言う魔力を解放してその力を上げて戦う事があるそうなんだが…力を解放し過ぎると暴走し覚醒者という妖魔と同じく人を食らう化け物になるそうなんだ。」

 

「何ですって!?」

 

サーゼクス、何故言うんだ…

 

「……どういうつもりだ。」

 

「何れ言うつもりだろう?なら、良いだろう。…そして彼女は私に頼んでいる…もし、自分が化け物になったら自分を殺してくれとね。」

 

「そんな!?そしたらクレアは…」

 

「…なあ、リアス?私たちクレイモアは何れ覚醒者になる…その際に私たちは親しい同僚に自分を殺してくれと頼む風習があるんだよ。私にとって、サーゼクスが一番の友人なのさ。」

 

「…本当にその友情の示し方は嬉しくないよ。頼むからそんな事を言わないでくれ。…私は君を殺したくない。クレアの為にもね。」

 

「今は大丈夫さ。私はこの世界に来てから妖力の解放をしていない。」

 

「そういう問題じゃない。手遅れになってからじゃ困るんだ。出来るだけ戦いは控えてくれ。」

 

「…分かった分かった。肝に銘じる…と、もうこんな時間か。そろそろお開きにしようか。」

 

「ではリーア帰ろうか。」

 

「…はい。」

 

「リアス、お前は何も気にしなくていい。そう簡単に私も人を辞める気は無いさ…さて、改めて話があるなら学校で話そう…これでも人生経験は豊富でね、進路の事でも、眷属の事でも何でも相談に来るといい…」

 

「…うん。」

 

私は三人を見送った…。

 

 

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら5

「…帰ったぞ。出て来たらどうだ?」

 

三人を見送り完全に気配が遠のいたのを確認してから私はもう一人(一匹?)の同居人に声をかける。

 

「……」

 

そこにいたのは黒い髪に猫耳の生えた妖艶な女性だった…また露出の高い格好をしているな…性別が女性になって以来、女性に大して劣情を抱く事は無くなったがそれでも目のやり場には困るから勘弁して欲しいのだが…。何せ私よりもスタイルが良いから変な対抗心燃やしそうにもなるしな。

 

「…また、サーゼクスに借りを作ったにゃ…。」

 

「…向こうもお前が留守な訳ではなく在宅していたのは気づいていたようだしな…敢えていないものとして扱った様だが…しかし、何故だ?」

 

私は理由を察しつつも敢えてそう問う。…ハイスクールDxDの話はいよいようろ覚えになりつつあるがまだこれくらいは覚えている…。

 

「…あの子、リアスちゃんだっけ?あの子の眷属に「いるのか?お前の妹が?」…そうにゃ…。」

 

「ふむ。…何故言わないんだ?それで妹には再会出来ただろう?」

 

「…私の手配はまだ正式に解かれてにゃいにゃ。…大体、私はあの子を見捨てたにゃ。今更どの面下げて会えば良いにゃ…。」

 

「何を言っている?この顔、この姿で会えば良い、ただそれだけだろう…?」

 

私はニヤニヤ笑いながら彼女に近付くとその頬を摘んで引っ張った。

 

「いひゃいにゃ!止めるにゃ!」

 

「う~ん…スベスベで悪くない触り心地だな、もう少し…」

 

背筋からえも言われぬ寒気が立ち上ってくる…成程、これが背徳感か。美女の顔を崩すのがこうも楽しいとは…!

 

「いいきゃげんにするにゃ!」

 

「…おっと。」

 

爪を振るわれ躱す…本気では無いとは言え、段々私に追随出来るようになってないか、こいつ?

 

「何のつもりにゃ!」

 

「そう怒るなよ、単なるスキンシップだろう…?…なあ、黒歌?何言ったってお前が姉である事実は変わらないだろう?見捨てたのも事実何だろうが、だから何だ? そんなに怖いか?妹に罵声を浴びせられるのが?」

 

「っ!怖いに決まってるにゃ!怖くにゃい方がどうかしてるにゃ!」

 

「それでもお前はその子の家族なんじゃないのか?その事実は覆るまい?」

 

「…あんたはどうにゃの?あんたはあの子の…クレアの姉だって!家族だって!胸張って言えるの!?」

 

「知らんよ。決めるのはクレアだ、私じゃない。そもそも私は人間ですら無いからな。」

 

「そんにゃの関係にゃい!」

 

「あんまり大声を出すな、クレアが起きる「あの子、リアスちゃんが思ったより声が大きかったからとっくに騒音防止用に仙術を使ったにゃ。」そうか。」

 

「…あんたは馬鹿にゃ。それも特大の大馬鹿者にゃ!」

 

「そうだな…。」

 

「…先に休むにゃ。あんたもとっとと寝るにゃ。」

 

そう言ってクレアの眠る部屋に入って行き、ドアを閉める黒歌。…言われずとも分かっているさ、私は馬鹿だ。だから何だ?…ふん。これだけは言わせてもらおうか?

 

「不器用なのはお互い様だろう?」

 

「…あんたに言われたくにゃいにゃ…」

 

そんな不機嫌気味な声が返って来た…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら6

目が覚める…何時も通り二人はもう起きているようだ…私はクレイモアである以上睡眠も最低限で良いため遅く寝て早く起きる習慣が出来ているのだが二人は何だかんだ私より早く起きる…多分二人で朝食の用意をしている事だろう…。

 

「…テレサ!起きてる…?」

 

「ああ、起きてるぞ。」

 

何時ものパターンなのだがこうして律儀にクレアは声をかけてくる。

 

「…良かった…。朝ご飯出来てるから早く来てね。」

 

「分かった、着替えが終わったら行く。」

 

カーテンを開け朝日を浴びる…今日も天気が良い…。

 

 

 

「…テレサ、あんたもたまには手伝うにゃ。」

 

「私は料理が出来ん。…知っているだろう?」

 

「やらないと上手くならないにゃ。」

 

「…分かったよ。…その内にな。」

 

「…何時もそう言ってるにゃ…。」

 

黒歌の小言を流す、何時もの事だ。黒歌も強くは言って来ない…以前はこれに反論したり、私が意味無く黒歌を煽ったりしていたが何度かそれを繰り返している内にクレアが本気で泣き出してしまった為、私たちの間に暗黙のルールが出来た…即ち、三人が部屋に揃う朝は絶対に喧嘩をしないという協定だ。さすがの私もクレアに泣かれるのは辛い…そもそも私も別に黒歌が嫌いなわけじゃないしな…つい揶揄ってしまうだけで。

 

 

 

「…テレサ、髪が寝癖だらけにゃ。」

 

クレイモアは普通横になって寝ないが黒歌とクレアがうるさいので横になって寝るようになった…今は前のスタイルにはとても戻せない…。

 

「…別に良いだろう?この位?」

 

「良くないにゃ。…焦れったいにゃ、ちょっとじっとしてるにゃ。」

 

黒歌が私の髪を整え始める…前世の事はよく覚えてないが私も母親等に髪を整えてもらった事があるのだろうか…?

 

「…終わったにゃ。…ん?クレアもそこに座るにゃ。」

 

クレアも黒歌に髪を整えて貰ってご満悦だ。さて、そろそろ時間だな。

 

「…それじゃあ行ってくるにゃ。あんたもさっさと用意して行く…クレア、ちょっと待ってるにゃ…テレサ、魔術が解けかかってるにゃ、それじゃあ正体がバレるにゃ。」

 

そう言って私の拙い魔術?魔法?を仙術で補強し始める。

 

「…終わったにゃ。それじゃあ行くにゃ。」

 

「ああ、行ってらっしゃい。」

 

黒歌はサーゼクスと交渉して仙術で姿を変えて喫茶店で働いている(どうしても私に養われるだけなのは嫌なんだそうだ)クレアの通う小学校は彼女の通るルート上にあるので送って行くのが何時ものパターンだ…私は駒王学園が反対方向なのと、単純に出勤時間が違うので一緒に行く事は無い。

 

「…平和だな。」

 

ハイスクールDxD原作を知っていると本来とても出ない発言だったが、私の周りは基本、特に大した事件も無い…。退屈そのものだ…原作に関わりたく無いのは本音だが、何か事件が起きれば良いのにとも思ってしまうのだ…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら7

「昨日の今日で本当に来るとはな…まあ確かに何時でも来いとは言ったが…と言うか、今は授業中じゃなかったか?」

 

「仕方無いでしょ。貴女なかなか捕まらないし…。」

 

「…それはすまなかったな…用務員と言うのも割かし忙しいのでね…。」

 

現在絶賛授業中…私の城である駒王学園用務員室を訪れている者がいる…。

 

「…で、何の用なんだ、リアス?」

 

「…昨日の話、申し訳無いんだけどもう一度、今度は私の眷属に話して欲しいの。」

 

「お前から話せば良いだろう?別に必要以上に言いふらさなきゃ話しても構わんしな。」

 

「…私が言うより貴女から言った方が「私が反感持たれているのは容易に想像が着くが…それこそ主のお前が黙らせれば良かろう?それとも何だ?お前そんなに人望無いのか?」…貴女ねぇ…!」

 

笑いながらリアスを挑発する…このままキレるかと思っていたら意外にも怒りは霧散した。

 

「…お兄様から聞いていた通りね。貴女その性格改めないと敵ばかり作るわよ?」

 

そう怒りの雰囲気は全く感じられない笑顔を向けて来る…ふむ。二次創作系では良くドクズ且つ無能扱いされるリアス・グレモリーだが…ここにいるのはそうでは無いらしい…素質が感じられるし見所はある様だ…私は持って生まれた能力以上に上がることは無いからな、少し羨ましい…まあそれはそうと…

 

「…可愛くない奴だ…揶揄い甲斐が無いな。」

 

「…それ、私の眷属の前では止めてね?さっき貴女自身が言ったようにかなり反感持ってるから…」

 

「何だ?私が説明するのは決定事項か?」

 

「良いじゃない。さすがに放課後は暇でしょ?」

 

「…用務員の仕事と後ははぐれ悪魔「…仕事は終わるまで待つけど…そっちは駄目よ。私たちにも面子があるし、何よりクレアを悲しませたくないもの」…ふん。私の勝手だ、お前らが取り逃がした奴は貰うぞ?」

 

「取り敢えず今日は学校に残ってて頂戴。終わったらアパートまで転送するし、何ならクレアも呼んでいいから。…あの子、初対面の相手でも物怖じしないし大丈夫でしょう?」

 

「…卑怯だな。」

 

クレアの話を持ち出されたら断れないじゃないか。

 

「何とでも言いなさい…それじゃあ放課後迎えに来るわね?」

 

「……好きにしろ。」

 

 

 

「…オカルト研究部?」

 

「そうよ。」

 

「…普段はそこで活動してるのか?」

 

「そうだけど…何、その顔?」

 

「…いや、オカルトの塊である悪魔がオカルト研究部を名乗るとは皮肉かと思ってな。」

 

「…返って自然じゃない?」

 

「…言われて見れば確かに逆にバレないかも知れんな…。」

 

あからさま過ぎて逆に自然に見えてくる…。

 

 

 

「…ここよ…悪いけどちょっと待っててくれる?」

 

「…ああ、早目にな。」

 

部屋に入るリアスを見送り、壁に背を預けた…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら8

「…おい、リアス?どう考えても歓迎ムードには程遠いんだが?」

 

「…さっき言ったでしょ?貴女がやり過ぎるから警戒されてるのよ…。…一応言っておくけどチラッとは説明してあるからね、貴女の事。」

 

主の口から説明してこれなら本人とは言え何言っても無駄だと思うがな…。

 

「…テレサだ。私の事は聞いてるとの事だからな…まあお前らが聞きたいのは一つか?…私が敵か?味方か?」

 

「……」

 

誰も何も言わないがその沈黙が雄弁に語っている。

 

「…結論から言えばどちらでも無い。私はサーゼクスの庇護を受けているが、別に悪魔には転生してないし、悪魔陣営に積極的に関わるつもりもない。…サーゼクスと個人的に付き合いがあるだけだ。…つまりお前らが私の邪魔をしないなら私からは何もせんよ。」

 

「…テレサ、貴女…」

 

「リアス、私は歩み寄る気の無い奴におべっかを使う気は無い。…私も暇じゃないんだ、手っ取り早く行こう…今更隠す事も無い…私がどんな種族か教えておく…それで今日は帰る。」

 

私は魔術を解き人に近い姿からクレイモアとしての姿に戻ると、着ているジャージの前を開け、中のシャツを捲り上げる

 

 

「テレサ、貴女何して…!それは!?」

 

「…これが妖魔の血肉を入れる際に着いた傷だ。これだけは何があっても治らん。…それから…」

 

私はポケットに入れっぱなしになっていたカッターを取り出す…警戒度が上がるが気にせず作業に移る。

 

「…悪魔は傷の治りも早いし割と丈夫だそうだな…では…!」

 

私はカッターを腕に当てると力を入れ横に引く。…意識して攻撃に対する耐性を上げなければこんなチャチで大して斬れ味の良くない刃でもクレイモアの身体を傷付けることは出来る。

 

「何してるの貴女!?」

 

「黙って見てろ。…見ろ、もう治り始めて居るだろう?これが妖魔の血肉をその身に取り込んだ人間、半人半妖のクレイモアと呼ばれる化け物の身体だ。…分かったか?」

 

言葉も無い、か。さて…

 

「もう良いか?私は帰りたいん「お待ちなさい!」ん?お前は?」

 

姫島朱乃か。何か言いたい事でもあるのか?

 

「確かに貴女の事をろくに知ろうともせず敵意を向けた私たちが悪いのかも知れません…ですが!説明だけなら斬らなくても良かったでしょう!?自分の身体を傷付けるなんて何を考えてるんですの!?」

 

何を言ってるんだ、こいつ?

 

「…別に良いだろう?治るんだから「そういう問題じゃありませんわ!」何なんだ…?」

 

「貴女は…女性でしょう?」

 

「…私はただの化け物だ。それ以上でも以下でも無い。」

 

「違います!貴女は人間です!人を愛する事の出来る人間です!」

 

「…リアス、何なんだこいつ?」

 

「…ハア…ここまで貴女が自分を蔑ろにするなんて思わなかったわ…言っておくけど朱乃はこうなると長いわよ?クレアを迎えに行くわね?大丈夫。クレアの携帯の番号は聞いてるから…」

 

「何が大丈夫なんだ、おい!?「テレサさん!?聞いていますの!?」…何なんだ、本当に…。」

 

この後私は姫島朱乃に散々説教をされた…途中で逃げようにもクレアが見ているんじゃそうもいかないしな…全く。来るんじゃなかった…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら9

「君は一体何を考えているんだ…!」

 

あれから姫島朱乃や涙目のクレアに説教され、仕事も終わり、家で待機していた黒歌にまで小言を言われて精神的に疲れていた所にやって来た来客にまで説教されていた…全く…何て日だ…。

 

「…そんな事を言うために忙しい中わざわざやって来たのかサーゼクス?…お前は私の親か?」

 

「私は君たちの後見人だ。…では、親も同然だとは思わないかね?」

 

「……」

 

暴論だと反論しようとしたがあながち間違いでも無い事に気付く…。もう今日は説教はうんざりだぞ…。

 

「そもそもだ、テレサ?君の名前を言ってみたまえ…無論フルネームで、だ。」

 

「…テレサ・グレモリー…」

 

満足そうに頷く顔にいっそ拳を叩き込んでやりたくなるが堪える…黒歌だけならまだしも、クレアもまだ起きているし…何より…

 

「……」

 

先程からサーゼクスの横に控えてるグレイフィアから発せられる殺気のせいで下手な動きが出来ん…この状況で無理に動くなら妖力の解放が必要なレベルだろう…魔王とその眷属の女王だとは知っているが、昔から変わらずこいつらの実力は計り知れんな…。そもそもあの頃より上がっている気がするんだが…。

 

「私は言ったね?後見人になるのは構わないがクレアの教育はどうするつもりなんだと?クレアは君が引き取った時から姓が存在しなかった…クレアを学校に通わせるならいっそ君たち二人とも私たちの家族になった方が良いんじゃないかと、ね。」

 

「…ふん。」

 

「…直系としてはさすがに迎え入れるのは難しかったから遠縁と言う事になっているが…私は当然君たちを友人である前に家族だとも思っているよ。…そんな大事な家族が自分の身体を傷付けた…心配にならない方が可笑しいと思うけどね?」

 

「…テレサ?いい加減に答えなさい?どういうつもりなんですか?」

 

「…何度も言わせるな。私は私のやりたい様にやる…お前らに借りはあるがそこまで干渉される謂れは無い。」

 

「テレサ!「グレイフィア、止めたまえ。」しかし!」

 

「…そういう所は変わらないな、君は。」

 

「…私は変わらん。…永久にな。…最も死ぬまでの話だが。」

 

 

「…いや、変わってる所もあるよ…クレアのおかげかな…そして黒歌…君の存在も確かに彼女を変える事が出来ている…」

 

「…この馬鹿は無茶ばかりするにゃ。…まっ、人の事は言えにゃいけどにゃ。」

 

「すまないね、友人を良き方向に導いてくれた礼では無いが何れ必ず君を自由の身にすると誓おう。」

 

「…期待しないで待ってるにゃ。…でもあんたが頑張ってるのは知ってるにゃ。…クレアがそろそろおねむみたいだにゃ。寝かせてくるにゃ。」

 

 

 

「…さぁそろそろ帰れ。クレアも寝た事だしな。」

 

「…また来るよ。帰ろう、グレイフィア。」

 

「テレサ、次こんな事をしたら許しませんよ?」

 

「…分かったよ…。」

 

揶揄いたくなるのを堪えてそう返す…こいつをあまり怒らせると面倒だからな…。私は二人が帰るのを見送り、部屋に戻った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら10

「お前らここを溜まり場にするな…そもそも用が無いなら生徒は立ち入り禁止だぞ、ここは。」

 

「あら?良いじゃない。」

 

駒王学園用務員室…最近昼休みになるとここに弁当を持ち込み、休み時間一杯まで居座る馬鹿共がいる…リアス・グレモリーとその眷属共だ。

 

「…はい、お茶のお代わりですわ。」

 

「……」

 

姫島朱乃のいれた淹れたお茶を飲む…紅茶は飲み慣れ無いが悪くは無い…そうじゃないな…。

 

「…お前もどういう風の吹き回しだ?あれ程私を警戒していただろう?」

 

「今更ですか?貴女を警戒する意味は無さそうなので「私は暴走したら多分お前らを食うぞ?」貴女を戦わせなければ宜しいのでしょう?私もクレアちゃんの悲しむ顔を見たくありませんので。」

 

「ふん。馬鹿な連中だ。」

 

「…僕はまだ貴女を信用しきれません…。ですが剣士として貴女の事は尊敬します…それで、あの「私の剣なら教えんぞ」…残念です。」

 

「いや、何度目だ?このやり取り?」

 

そもそも片手で剣を振るう木場祐斗に両手剣を使う私の剣を教える意味は無い…考えるまでも無い話だ…。

 

「…やっぱり貴女から黒歌姉様の匂いがします…。」

 

「…何度言えば分かる?私は知らん。」

 

黒歌には借りがある。…普段揶揄ったりはするがそう簡単にあいつの事を漏らすつもりは無い。…まあさすがにこいつ、塔城小猫の落ち込んだ顔には来るものがあるが。

 

「……」

 

こちらを見ながら複雑な顔をするリアス…どうやらサーゼクスから事情は既に聞いているらしい…さて、それよりも、だ…

 

「…リアス、そこで見てないでこいつを何とかしてくれないか?」

 

「…無理ね。」

 

「嫌です。貴女から黒歌姉様に似た匂いがします…離れたくありません。」

 

塔城小猫は昼食を食べ終えると大体私の背中におぶさり離れようとしなくなる…。非常に邪魔なんだが…。

 

「…ところでリアス?」

 

「…何かしら?」

 

「…最近授業終わりの休み時間や放課後にここに生徒が来るようになったんだが…」

 

「あら?私が言ったのよ?ここの用務員は面倒見が良くて経験豊富だから悩み事相談に最適って。」

 

「…何をしているんだお前は…」

 

高校生の勉強は分かる。教師に聞けと思わなくも無いが別に教えるのは問題無い。だがな…

 

「…さすがに私は恋愛相談は出来んぞ?後、女性の身体の事情を相談されても困るんだが?この身体になってからその辺の煩わしい問題からは解放されてるし、なる前の記憶もあまり無いしな。」

 

そもそも私は転生前は男だからな…。

 

「…あら?そうなの?」

 

こてんと首を傾げるリアス…殴りたくなったが止めておく…私が殴るとリアスが尋常で無い距離を吹っ飛ぶ事になるだろうしサーゼクスが殴り込みに来る…。

 

「とにかくお前が言って頻度を減らしてくれ。教師程書類仕事は無いが進まないし、そもそも学校内で仕事をしていても話しかけてくるから迷惑だ。」

 

「…仕方無いわね…。」

 

渋々と言った体のリアスに溜息を吐きながらこのままなし崩し的に原作に関わる流れになるんじゃないだろうな…?と私は不安に駆られていた…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら11

「そう言えば聞いていい?」

 

「何だ?」

 

「貴女はぐれ悪魔狩りをしてるのよね?私たちと違って大公から依頼が来る訳じゃないだろうしお兄様が貴女に依頼するわけも無いし…何処からはぐれ悪魔の情報を得ていたの?」

 

「…大分今更だな…まあ答えてもいいが、まずは…お前はぐれ悪魔に賞金がかけられてるのは知ってるか?」

 

「えっ?そうなの?」

 

「…お前らは正式に依頼を受けて討伐し報酬を貰っているんだろうが、私たちの様な個人の言わばハンターは大抵そっち方面の情報を専門の情報屋に流してもらうのが一般的だ…そして狩ったら賞金が報酬として入る訳だ…言っておくが賞金はピンからキリまである…恐らくお前らが貰うよりずっと多くの額を貰っている場合もあるだろうな…あー…これ以上は言わんぞ?このシステムを利用してるのは私だけじゃないのでね。」

 

「…えーっと…その言い方だと貴女以外にはぐれ悪魔狩りをしているフリーのハンターがいるって意味に聴こえるんだけど?」

 

「聞こえるも何もそう言っているんだが?駒王町にもそれなりの数がいるぞ?」

 

「……嘘でしょ?」

 

「嘘を言ってどうする?」

 

「…何処の誰とかは教えてくれないわよね?」

 

「…そもそも遭遇した事はあっても素性は知らん。もちろん知ってても教えられんよ。」

 

「そう、よね…」

 

「言っておくがこれは仕方の無い話だ…お前を無能だと謗るつもりは無いがお前らが動く分じゃ手が足りないんだよ…そもそもお前らは未熟過ぎる…」

 

実際私が相手した中にはこいつらでは荷が重すぎる奴はいたからな…。

 

「…テレサ、頼みがあるんだけど「断る」まだ何も言ってないわよ…」

 

「お前らを鍛えて私に何のメリットがある?大体、同業者を失業させる程私は堕ちて無いつもりだ…」

 

私の様に昼間の仕事が出来てる奴が珍しいんだ…給料も破格だしな。

 

「…と言うか今更お前らを鍛えても間に合わないだろうな…。」

 

「何故?」

 

「…駒王町は魔窟だ…どういうわけか実力の隔絶したはぐれ悪魔が数多く集まる場所がここだ。他の町で名を馳せたハンターが数多く返り討ちにされている…実力的には当然お前らより遥かに上の連中だ…はぐれ悪魔狩りが本業だからな。それで食ってるプロが勝てないのに所詮はぐれ悪魔狩りを他の事の片手間でやってるお前らを鍛えても無駄だ…そもそも私がやるとお前ら…私がどう手加減しても五分とかからずにくたばるぞ?…はっきり言う…諦めろ。」

 

どうせ原作通りに行けばこいつらは勝手に強くなるしな…原作に関わるつもりの無い私が鍛える必要は無い。

 

「…貴女は元々強いからそんな事が「何を言っている?」え?」

 

「私たちクレイモアは半人半妖になった時から与えられる力は決まっている。個人差はあるがな…だから剣の腕を磨くのさ。妖魔も馬鹿じゃない。如何に妖魔を叩き斬れる剣があっても当たらなければ無駄だ。」

 

「……」

 

「その点お前らは違う。お前らは可能性がある。…見た目も能力も変化しない私たちとは違う…焦るな、ゆっくり強くなれば良いんだ。」

 

と、柄にも無くアドバイスをしてリアスを見れば…何だその顔は…?

 

「いや、何か妙に優しいから…その、逆に不気味で「とっとと出てけ」ごめんなさい…。」

 

慣れない事をするものでは無いな…取り敢えずこいつには二度と助言などしないと決めた。そもそも原作に関わりたくないのにこいつに余計な事を吹き込むものでも無い…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら12

原作に関わりたくない…そう言いつつサーゼクスと懇意にしていたり、リアスに助言の様なものをしてみたり、そんな矛盾した事をしていたからかも知れないな…この光景を見てしまっているのは…

 

その日、私は用務員の仕事を休んでいた…と言うか休みを取らされた…

 

クレアの通う学校が授業参観を行うそうなのだが…クレアがそのプリントを私に見せず隠していたのを黒歌が見つけ、私に行けと言ったんだ…無論、何だかんだ行きたいのは山々だが用務員の仕事をどうするのか聞けば、自分が仙術で私に化け行くつもりだと…。

 

基本黒歌は器用なタイプだ…仕事そのものは問題無くこなすだろう…そう考えた私は黒歌に任せる事にした…。

 

学校からの帰り、少し散歩しようと遠出したのもいけなかったかも知れないな…通りがかった公園で兵藤一誠が堕天使に襲われている光景を見てしまっているのは…

 

兵藤一誠の事は原作知識抜きに当然知っている…と言うか何度か女子生徒の頼みで逃げる三馬鹿を捕獲した事すらあるからな…。しかし…

 

「テレサ!イッセーお兄ちゃんを助けて!」

 

「……」

 

クレアが兵藤一誠と面識があると言うのは何の冗談なんだ…?クレアがレイナーレと歩く兵藤一誠に気付く…そんな事が無ければ決定的なシーンを迎える前にさっさと通り過ぎたと言うのに…!これでは助けない訳にいかないじゃないか!?

 

「…チッ!」

 

既にレイナーレから攻撃は放たれようとしている…いくら私でもこの距離を普通に走っては間に合わん…!

 

「仕方無い…。」

 

私は妖力を解放する…良くこの世界に来てからした事が無いと言ってるが…実際の私は正真正銘初めてだ…!やり方は分かる…だが、一体どれくらい解放すれば追いつける!?やり過ぎれば私は覚醒者になる…!そうでなくても勢い余って通り過ぎれば瀕死の重症を負う兵藤一誠の姿をクレアに見せる事になる…!

 

「…ふざけるな。私は…テレサだ…!」

 

兵藤一誠がどうなろうとどうでもいいがクレアを悲しませるつもりは無い!確実に助ける!

 

「…なっ…!」

 

尻もちを着き惚けている兵藤一誠の襟を掴みレイナーレの前を走り抜ける。…上手くいったか…。

 

「…ゲホ!ゲホ!」

 

首が締まったのか噎せる兵藤一誠を公園の植え込みに放り投げる…気絶しなかったのは褒めてやっても良いが何時まで惚けている!?

 

「ボケっとするな!とっとと逃げろ!」

 

「は?…え?」

 

「チッ!クレア!兵藤一誠を連れて逃げろ!」

 

「うん!お兄ちゃんこっち!」

 

「…へ?クレアちゃん?何でここに?」

 

「良いから早くこっちに!」

 

クレアが兵藤一誠を連れ公園を出ていく…さて…

 

「よくも邪魔してくれたわね…!」

 

「個人的にはアレがどうなろうと別に良いんだがな。…妹の知り合いなら話は別でね…まぁとにかくだ…!」

 

私はレイナーレに向かって妖力を解放しつつ一気に踏み込むと顔面を殴りつけた。

 

「…ガハッ!」

 

吹っ飛ぶレイナーレに告げてやる。

 

「…戦争の火種になっても困るからな、殺しはしないがそれなりに痛い目にはあってもらうぞ。」

 

とっととこいつを潰してクレアたちと合流しなきゃならん…今駒王町を訪れている堕天使は恐らくレイナーレ一人では無い筈だからな…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら13

「…くそっ!面倒臭い!」

 

「ほらほら!さっきの威勢はどうしたのかしら!?」

 

私はレイナーレに苦戦していた…。

 

レイナーレを殴り飛ばし、そこから追撃に移ろうとした私の目の前でレイナーレは翼を広げ飛んだ…そう、先程の攻撃は奴が低空を飛んでいたのと奇襲だったから当たっただけで上空を飛び回られれば空を飛ぶ手段の無い私にレイナーレを捉える術は無い…!…いや、一つだけ可能性があるか…。

 

「…駄目だ…それだけは出来ない…!」

 

覚醒者になればと過ぎった考えをすぐに打ち消す…とはいえ私も現在ギリギリの状態だ…妖力解放の制御には何とか成功したがこのままの状態をずっと維持するのは不可能だ…!気を抜けばどちらにしろ私は覚醒者になってしまうだろう…クレアの事も心配だ。これ以上長引かせる訳にはいかん…!

 

「虫のように地面を這いずり回って!良いざまね!あんたは簡単には殺さないわ!このまま嬲り殺しにしてあげる!」

 

「生憎、被虐趣味は無くてね…!」

 

レイナーレが投げて来る光槍を必死で避ける…何か!何か無いのか!?考えろ!この状況をひっくり返す方法を!

 

「…ふん。お前だってその虫を捉えられない間抜けな鳥だろう?…いや、鳥に失礼だったな…お前は羽虫、と言った所か?」

 

「減らず口を…!決めたわ!あんたを嬲り殺しにするのは止めた!今この場で私の全力で屠ってあげる…!」

 

そう言って上空で制止し力を溜め始めるレイナーレ…馬鹿、だな…!

 

「…動きを、止めたな…?」

 

「…なっ!?」

 

私はその場で跳びレイナーレの更に上を取る…

 

「上手く受け身を取るんだな?多分相当痛いぞ?」

 

「…くっ!」

 

逃げようと溜めを止めるレイナーレに向かって踵を振り下ろす…!

 

「遅い!潔く落ちろ!」

 

「があっ!?」

 

女とはとても思えない悲鳴を出すレイナーレと共に地上に落ちる…着地の心配はしなくて良さそうだな。

 

レイナーレをクッションに地面の上に着地する…地面にクレーターが出来てしまった…まあ私のせいじゃないか…さて、レイナーレは…

 

「…あっ…がっ…!」

 

「…生きてる、か。堕天使もなかなか丈夫だな。」

 

まさか上空から地面に叩きつけられても生きているとはな…まあ殺す気は無いからな…正直に言えばやり過ぎたんじゃないかと心配したが…。さて…

 

「…良い格好だな堕天使?地上を這う気分はどうだ?」

 

「…がっ…ゲホッ!…あっ、あんた…私にこんな事して…!」

 

ここで威を借るか…小物だな…大体原作通りの性格ならアザゼルがこいつを庇う訳ないだろうに。盲目だな。

 

私はレイナーレの上に跨ったまま拳を振り上げる。

 

「…何を…?」

 

「私は被虐趣味は無いが一方的に殴るのは嫌いじゃなくて、ね。」

 

「…!まっ、待って!やっ、止め「行くぞ?私が満足するまで耐えてくれよ?」ヒイ!」

 

私はレイナーレに向かって拳を振り下ろした

 

 

 

 

「…やっと気絶したか。まさか地面に叩き落としても死なない所か、気絶すらしないとは思わなかった…。」

 

私はレイナーレの顔のすぐ横に拳を振り下ろした…実際私には被虐趣味も無ければ別に加虐趣味も無い…そもそもレイナーレに時間を取られてる場合じゃない。

 

「…クレア…!」

 

携帯のGPSアプリを作動させ、一箇所から動かないのを確認し走る…間に合ってくれ…!



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら14

GPSアプリが示す場所に向かいながら私は電話をかける

 

「…アザゼルか?」

 

堕天使総督アザゼルとはそもそも古い付き合いだ。最もこいつの人柄はあまり好きじゃないのが本音だが…

 

『おう!どうしたテレサ?電話してくるなんて珍しいじゃねぇか!何だ?とうとう俺に一晩付き合う気に「今、さっき堕天使を一人ボコった」……詳しく話せ。』

 

「悪いが無理だ。クレアが狙われている。」

 

『…成程。好きにしな。』

 

「……良いのか?」

 

『殺さなきゃ別に構わないぜ。お前さんと事を構えるより良いしな…そもそも一応お前中立だから多少無茶してもどうにかなんだろ…何より…お前は結構いい女だからこれからも個人的に仲良くしておきたい。』

 

「悪いが私にその気は無い…だが、今度何らかの形で埋め合わせはしよう。」

 

『頼むぜ。…こっちでも問題起こした馬鹿の事を調べておく。』

 

原作知識が多少あるから敵の事は知っているのだがな…。

 

「ああ、分かった…恩に着る。」

 

『こっちはお前さんに借りがある。…じゃあな、忙しくなるから切るぜ。』

 

「…サーゼクスと違って過干渉はして来ないし話は早いんだがな…。」

 

外道でも無いが善の側にもいない…それが私の抱くアザゼルの印象だ。…最も私も本質は人でなしだからこいつを批評出来んが。

 

『…テレサ?どうしたの?』

 

困惑気味のリアスの声…そもそも私はリアスに電話をした事は無いから当然だな。

 

「クレアが堕天使に追われている『どういう事!?』説明してる時間は無い。…今から言う場所に来てくれれば良い。」

 

『…テレサ、悪いんだけど「何だ聞いてないのか?私は一応グレモリー家の人間と言う事になっているんだぞ」えっ!?』

 

サーゼクスの生暖かい笑顔が浮かんでくる…良し!今度殴ろう!

 

『そっ、そういう事なら確かに私たちが動く理由にはなるわね…』

 

「勘違いするなよ?私は既に現地に向かっている…お前たちにやって欲しいのは後始末だ。」

 

『何言ってるの!?敵の規模は分からないのよ!?それに貴女が戦ってもし暴走したら「手遅れだリアス。私はもう妖力を解放して堕天使を一人倒してるし今も妖力解放して向かってる」なっ!?』

 

「殺してはいない。…だが、もし私が覚醒者になれば相手を殺すだけでは終わらない…お前らはその為の保険だ。…お前たちに倒しきれるとは思えんが…最悪サーゼクスを呼んでくれればいい…私が言ったところでサーゼクスは立場上動けんがお前が言えば奴は戦場に出てくる口実が出来る…!」

 

『…分かったわ、出来れば私たちが着くまで無茶をしないで。』

 

「……約束は出来ん。」

 

私は電話を切る…先程からGPSはずっと同じ場所を示している…逃げ回っている時に携帯を落としてしまったならまだマシだが、恐らく既に敵に会ってしまっていると考えるのが妥当だろう…。

 

「…クレア…私はお前に伝えてない事がたくさんある…!」

 

お前には死んで欲しく無いんだ!私はまだ…お前に何も…!



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら15

漸く現地に着いた私の目に飛び込んで来た光景は…!

 

「…敵は…素肌に着てるようにしか見えないスーツ…カラワーナか…にしてもやるじゃないか兵藤一誠…まさかクレアを身体を張って守るとは…」

 

クレアを庇うようにしてカラワーナに対峙する満身創痍の兵藤一誠を見て評価を上げる…さて、奴の頑張りに答えてやるか…!

 

「良くやった。後は…任せろ…!」

 

「なっ!?」

 

カラワーナを殴り、地面に落とし踏みつける…起き上がる気か…?参ったな、一応私も制御出来るギリギリまで妖力を解放してるのだが…!

 

「…あっ、あんたさっきの…って、もしかしてテレサさん!?」

 

私の正体を看破した兵藤一誠に舌を巻く…何故分かった?私はもう隠す意味も無いだろうと思い姿を誤魔化す魔術を解いて…いや待て。こいつ今、私の何処を見て…成程。そういう事か…。

 

「…兵藤一誠、後で話がある…。」

 

「ヒイ!」

 

兵藤一誠に殺気を向ける…評価を下方修正しなければな…いや、これ以上下がらんか。…先程兵藤一誠が私の正体を看破した理由、それは胸だ。…こいつは私の胸を見て正体に気付いた。…そもそも人の姿をしている時の私は多くの場合ボディラインの分かりにくいジャージを着たりしているのだが…こいつはそれでも見分けが付いたらしい…私が元男であることを鑑みてもこいつの女体…特に胸への情熱はドン引きするしか無い…。

 

「…くそっ!退け!」

 

「退けんよ。そこにいる私の家族とそれを守った馬鹿を殺されたくは無いのでね。」

 

無理矢理私を退けようとするカラワーナ…こいつも気絶させるか?

 

「テレサ!」

 

「リアス?やけに早いじゃないか。」

 

転移出来るとはいえ、てっきり近くに移動してくると思ったのだが…まさか現地に直接来るとはな…。

 

「…そこにいる男の子がたまたま私の配ったチラシを持っていてね。それを目印に来たの。」

 

「…成程な。」

 

「それでこいつが?」

 

「…ああ。敵の堕天使だ…幸いクレアもそこにいる男子、兵藤一誠も無事だ…多少手傷は負っているがな。」

 

「…そう言えば朱乃を公園の方に行かせたんだけど…」

 

「…さすがにやり過ぎか…?」

 

「…他に方法は無かったんだろうし、仕方無いわ…最も後始末はお兄様に丸投げするしか無いのが申し訳ないけど…」

 

「立場が上の者は責任取るためにいるのさ…それはそうとこいつを捕縛してくれないか?そろそろ限界が近いのでね…」

 

「そうだったわね…もう足退けて良いわよ…。」

 

「…ふぅ。…リアス、ありがとう…今日はさすがに助かった…。」

 

「…あら?どういたしまして。…貴女がそんな事を言うなんてね…明日は雨でも降るかしら…?」

 

「…はっ倒すぞ?…そもそも明日の天気予報は雨だ。」

 

「…冗談よ。そんなに怒らないで。」

 

こいつはこいつで私に慣れつつあるな…全く…何でこうも原作キャラと関わりが「テレサ!」おっと。

 

「…大丈夫か、クレア?」

 

「うん…。イッセーお兄ちゃんが守ってくれたから…。テレサは大丈夫?」

 

「大丈夫だ、別に怪我もしてないしな「そうじゃなくて…その」大丈夫だ。私はまだ大丈夫だ…。」

 

私はクレアを抱き上げると惚けている兵藤一誠の元に向かう。

 

「ありがとな、クレアを守ってくれて。」

 

「えっ?えと、はい。…あの…テレサさんですよね…?」

 

「…ああ、そうだ…どうせお前胸見て気付いたんだろう?普段なら殴る所だが…クレアを助けてくれたし不問にしてやる…!」

 

「はっ、はい!」

 

「取り敢えず詳しい事情は明日で良いかしら?もう時間も遅いし…。貴方にも心の準備が必要でしょう?」

 

「…はい…。」

 

美少女のリアスを前にしても腑抜けた返事をする兵藤一誠…無理も無いか、こいつに取っては有り得ない事の連続だったろうしな…。

 

「それじゃあ明日の放課後、貴方のクラスに迎えを出すから…。今日は送って行くわね?」

 

「お願いします…。」

 

怪我を魔術で治してもらいリアスに送って貰う兵藤一誠を見送り、私もクレアと帰路に着いた。

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら16

「今日は大変だったようだね…」

 

「…まあな…」

 

家に帰り、寛いでいるとサーゼクスがやって来た…何れ来るだろうとは思ったが…まさかこうも早く来るとはな…余程暇なのか…と一瞬頭を過ぎったが…さすがに口には出さなかった…

 

「…暇なのか、と聞きたそうな顔をしているね…」

 

「……」

 

口を噤む。一瞬そう思ったのは確かだがそれに素直に答えるのは癪だ。…そもそも…

 

「…結論から言おう…暇では無い…今回の件、思いの外事が大きくなっていてね…後始末に追われている…」

 

「…すまんな…。」

 

あれだけ被害を出したのだ…こいつが暇なわけが無いか…疲れが顔に滲み出ているサーゼクスに謝罪する…さすがにこれは揶揄えんな…。最も今回デカい借りを作ったのは確かだからな…そこまで私も面の皮は厚くない。

 

「…いや、君のせいじゃないからね…幸い君は堕天使たちを殺さないでいてくれたからね…もし一人でも死んでいたら…」

 

「アザゼルが堕天使を引き連れ駒王町に乗り込んで来る…で、行き着く先は泥沼の戦乱か?」

 

「…そこまで大袈裟な話じゃないが…アザゼルも動かざるを得なかっただろうからね…。」

 

「一応アザゼルにも殺すなとは言われたからな…。正直ギリギリだったが…。」

 

そもそもレイナーレに関しては事後承諾だしな…。

 

「…妖力解放をしたそうだね…。」

 

「…ああ。他に方法は無かった…はぐれ悪魔のほとんどは翼を活かせていなかったからな…まさか空を飛ばれるとああも厄介だとはな…。そもそも私もブランクがあった…何度も制御を離れそうになったよ…。」

 

いや、実際は初めて妖力解放をしたんだがな…。

 

「…まあそれに関しては仕方無い。こうして君はここにいる…。それだけで十分さ…。」

 

「…そうやってどんな女も引っ掛けるの控えろよ?そのせいで私は最初の頃グレイフィアに散々目の敵にされたんだからな…。」

 

「…実は最近は忙しくてグレイフィアともご無沙汰でね…」

 

「そんな夫婦間の事情を私に話すな。…話が逸れてる。どうせまだ言いたい事があるんだろう?とっとと話せ。」

 

「…君はリアスに自分がグレモリー家の人間だと言ったらしいね…。」

 

「…ああ…。」

 

「それが何を意味するか分かってるね?」

 

「私は悪魔陣営に属してる事になる、か?」

 

「…リアスもその可能性を考え私にのみ話して来た。」

 

「…今までのように中立を名乗るのは難しい、か。」

 

「そもそも今回の件で君は堕天使陣営の若手には顔を覚えられてしまった筈だ…それに駒王町にいるその他の勢力も君の事を知ってしまっただろう…。」

 

「…お前は改めて私を勧誘しに来たのか?」

 

「…どうするかは君に任せるよ…。ただ、君が何を選んでも私は尊重しよう…。」

 

「…それは本当に選択肢を与えてるつもりか?」

 

「脅しに聞こえたのなら誤解だと言っておこう。…私は君に無理強いをするつもりは無い。」

 

「…ふん。」

 

そろそろ潮時か…。今回の事を期に、私は選ばなければならない…本格的に原作に介入するか、否か…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら17

初の妖力解放をしての戦闘を行った翌日…私は何時も通りの用務員業務をしていた…

 

「おっ、降ろしてくれ~!」

 

「かっ…あっ、頭に血が上って…!」

 

「…お前ら学習能力が無いのか?」

 

最も今やってるのは用務員業務とは全く関係無いがな…駒王学園名物の三馬鹿の内、天井から逆さ吊りにされる二人を見ながら溜息を吐いた…。

 

「…ところで今日はお前ら二人だけか?兵藤一誠はどうした?」

 

「…あっ、そっ、それが何か今日のイッセーはノリが悪くて…」

 

「…そうか。」

 

まああんな事の後にそんな事が出来る程肝っ玉が座った奴には見えなかったからな…ここもある意味原作通りか…。最もあのタイミングで私が介入したせいで兵藤一誠が悪魔に転生してないからもう完全に原作ブレイクしてしまっているが…。

 

 

「いた!テレサさ~ん!」

 

「ん?来たか…。後はあいつらに任せるからな。」

 

「…あっ、そっ、そんな…!」

 

「てっ、テレサしゃん…おっ、お慈悲を…!」

 

「自業自得と言う奴だろ?…まあその、何だ…死ぬなよ?」

 

二人にそう声をかけ、女子たちの元へ向かう

 

「ありがとうございますテレサさん!毎回こいつら逃げ足早くて捕まえるのが大変で…。」

 

「構わんさ…毎回毎回廊下を走り回られても困るからな…。」

 

「本当にありがとうございます!また用務員室に甘い物持って遊びに行きますね!」

 

「…あそこは一応遊びに来て良い場所じゃないんだがな…」

 

そもそも私も一応味覚はあるし、甘い物が嫌いな訳じゃないが…とても食いきれんから困るのだが…まあ家に持って帰ればクレアが嬉嬉として平らげたり、黒歌がカロリーがどうのと文句を言いつつ結局食べるから無駄にはならんが…。

 

掃除用具などの凶器を持って目をギラつかせながら二人の元へ向かう女子たちに軽く引きながら私は業務に戻った…。

 

 

 

放課後、オカルト研究部のドアをノックする。

 

『どなたですか?』

 

姫島朱乃か…。

 

「テレサだ。」

 

『…どうぞ。』

 

「…失礼する…ん?リアスはどうした?」

 

今部室にいるのは塔城小猫と姫島朱乃だけだ…。木場祐斗は兵藤一誠を呼びに言ってるんだろうが…。

 

「今、シャワーを浴びてますわ。」

 

「…この後兵藤一誠が来るんだよな?」

 

「ええ。」

 

「……」

 

原作知識で分かってはいたが…改めて考えるとな…正直あの馬鹿にこんなサービス要らんだろ…。

 

 

「突っ立って無いで座ってくださいな、今お茶を淹れますから…」

 

「ん?ああ、頼む…?」

 

先程から何か姫島朱乃が浮ついているというかソワソワしていると言うか…何だ?…まあ今は良いか。

 

「……」

 

「…塔城、邪魔なんだが…」

 

ソファから下りると椅子に座った私の足の上に無言で座る塔城小猫…重くは無い…寧ろ私がクレイモアである事を鑑みても異様な程軽い…こいつちゃんと飯食ってるのか?

 

「…下りたくないです…。」

 

「……」

 

そんな悲しそうな声で言われるとキツく言う気にはならんな…元々そんなに困っては無いし…良いか。…全く。黒歌、お前がちゃんとフォローしないからお前の妹は色々拗らせているようだぞ…?

 

 

 

「…どうぞ。」

 

「ん?ああ、ありがとう姫島「朱乃」ん?」

 

「朱乃と呼んでください…リアスばかり名前で呼んでずるいです…」

 

「……」

 

あの日より私に対する対応はかなり柔らかくなったが…今のこいつは何時ものそれとは明らかに違う…目元が潤んで熱に浮かされた様な…まるで恋でもしてる様な…まさか…!

 

「姫し…朱乃、すまないが…私に加虐趣味は無い…お前のそれには応えられない…。」

 

「……え?」

 

「公園の惨状と痛めつけられたレイナーレを見て私なら自分を満足させられる…そう思ったんだろう…?」

 

「…どうして…?」

 

これはどっちなんだ?単純に隠していた筈の自分の秘めた想いに何故気付いたのかと聞いてるのか?それとも…自分の期待に応えられないと言われた現実に対して零した言葉か?

 

「…勘、かな?…お前良く男子にはまるで女王様に対するそれの様な願望を向けられるし実際そういう想いに応える事もある様だが…お前、どちらかと言えば被虐願望持ちだろう…?」

 

原作や二次創作では姫島朱乃は良く加虐趣味として描かれるが…原作を丹念に読んでいくとどちらかと被虐趣味の方が大きい様に見えて来る…私の偏見と言えばそれまでだが…少なくとも目の前の姫島朱乃は明らかにそれを求めているように見える…。

 

「…すまない…。」

 

「…残念です…貴女なら、と思ったのですが…。」

 

目に見えて暗い雰囲気を出し始める姫島朱乃にさすがに罪悪感が生まれてくる…仕方無い…。

 

「…まあ、その何だ…何時でも家に遊びに来ると良い…」

 

「……え?」

 

「…クレアが喜ぶし…私も相談にくらいは乗る…それと、もう一人の同居人なら多分お前のそれにも応えられると、思う…。」

 

こいつの事は黒歌に任せよう…姫島朱乃は母親がいない…そもそもこいつのこの歪な関係性を求める感性は愛情に飢えてることから来てるのかもしれん…黒歌なら愛情を与える事も、こいつの劣情を満たす事も出来る筈だ…うん。それが良い…悲鳴を上げ、頭を抱える同居人の姿が過ぎったが私は無視した…。

 

「…ずるいです…私も名前で呼んで欲しいです…」

 

「…分かった、子猫。…これでいいか?」

 

「…はい。」

 

機嫌が良くなって何よりだよ…姫島朱乃の様に劣情は向けて来ないから扱いやすい…もう少ししたら黒歌に丸投げ出来るから気も楽だしな…そう打算的な事を考えながら私はすっかり冷めてしまった紅茶を飲んだ…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら18

「兵藤一誠君を連れて来ま…し…た?」

 

「…ん?こんにちは、だな木場。先に来てるぞ、兵藤も昨日ぶりか?今日はお前を捕まえてないしな。」

 

「…はぁ、こんにちはテレサさん…それでこの状況は一体…?」

 

今私の膝の上に塔城小猫が座り、私の肩に頭を乗せリラックス仕切った姫島朱乃がいた…そりゃ困惑するよな…

 

「…良く分からんが妙に懐かれてな…取り敢えずお前ら入ったらどうだ…?」

 

嘘だ。二人とも理由は何となく把握している…とにかくだ…さすがに何時もこの状況になるのは辛い…絶対に黒歌に丸投げしなければ…

 

「…そう、ですね…」

 

「…お邪魔します…」

 

その後、原作ではシャワールームからリアス・グレモリーが出る際に姫島朱乃がタオルを渡す展開だったが、今回は肝心の姫島朱乃が私の傍から一切動こうとしないため目を閉じた木場祐斗がタオルを渡しに行くと言う器用な事をする羽目になった…。

 

 

 

「兵藤一誠君?貴方悪魔になる気は無いかしら?」

 

夜中の通販番組より酷いリアス・グレモリーの悪魔になる事のメリットをプレゼン…もとい、説明し終わったリアスが兵藤一誠を勧誘する…お前デメリットは言わんのか?堕天使が目を着けたと思われる兵藤一誠の神器が目当てなんだろうが質が悪すぎるぞ…。

 

「…その…悪魔になればハーレムを実現出来るんですか?」

 

「…貴方次第よ。悪魔にに妻は一人なんて法律は無いし、そもそも今の悪魔は絶対数が少ないから寧ろ推奨されるでしょうね。」

 

「…じゃ、じゃあ俺悪魔に「兵藤」…え?」

 

「お前本当にそれでいいのか?…さっき私の事を説明したな…?」

 

私の事情は全て説明した…当然不老不死である事も。

 

「…ええ。聞きました。俺はその上でハーレムの為に悪魔に「お前の好いた女性が悪魔になる保証はあるか?」……え?」

 

「…例えば…お前が悪魔になった後好きになった中に人間の女がいたとする…それでお前は言うわけだ…悪魔になって俺の伴侶の一人になってくれって…承諾が得られなかったらどうするんだ?」

 

「…そっ、その時は諦めて別の女性を「それが本音か?お前女なら…胸が大ききれば誰でもいいんだよな?」ちっ、違…!」

 

「…まあその件で別にお前を責める気は無い…。何故ならお前はお前の都合で女を選ぶというクズの行動をしようとしてるが、リアスはリアスでこう言ってるも同然だ…お前に種馬になれってな。」

 

「テレサ!何を言って…!?」

 

「…俺は…」

 

「そもそもお前、初めて自分を好きだと言ってくれた女に裏切られて昨日殺されかけたばかりだよな?そうも簡単に信じられるのか?人間でも無い女を?」

 

「…あの…やっぱりちょっと考えさせてください…」

 

「それは構わないけど…」

 

「良く考える事だ…。不老不死になれば全てが変わる…お前が思う程簡単な事じゃないんだよ…。」

 

原作でなし崩し的に悪魔になってしまった兵藤一誠と違いこいつはまだ人間だ…にも関わらず簡単に人間を辞めようとするこいつにイラついた。…だから余計な事を言ってしまった…部室を出て行く兵藤一誠を見ながら私は後悔していた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら19

「…テレサ、貴女一体「リアス、昨日兵藤を送って行ったんだろう?親に会ったか?」え?ええ。優しそうなご両親だったけど…?」

 

「…単刀直入に聞く…お前の眷属に親はいるのか?」

 

「それは…」

 

「ここにいる全員色々訳ありだ…違うか?」

 

「……そうよ。」

 

「お前そういう奴としか接してないから麻痺してないか?普通の人間の子を持つ親はな…子供がある日突然事故で亡くなったり、大怪我をして二度と歩けなくなったりしないかと心の何処かで不安になりつつも普通の生活を送り生きていてくれる…いや、そうあって欲しい…そう願うもんなんだよ…だから…種族が変わるなんてのは普通の親に受け入れられる様な物じゃないんだよ…要するにお前はその優しそうなご両親から大事な大事な息子を奪おうとしているも同然な訳だ。」

 

「そんな!?別に悪魔になったからって見た目が大きく変わったりする訳じゃ「何年経っても姿の変わらない息子…周囲には…特に親戚一同には何て説明する?」それは…」

 

「不老不死になれば兵藤一誠は人間社会からおさらばだ。…お前は兵藤一誠の人生をお前の一存で勝手に変えようとしているんだぞ?」

 

「…私は…」

 

「…あの…テレサさん…もうそのくらいで…」

 

木場祐斗に諌められ頭が冷える…私は何を熱くなっているんだ…?私には兵藤一誠がどうなろうと何ら関係無い筈だ…

 

「…すまんな…今日は帰る…子猫、朱乃、退いてくれ。」

 

「…あの…今日家に行って良いですか?」

 

姫島朱乃がそう聞いて来る…別に良いか…

 

「…好きにしろ、今からだと遅いな。泊まりの用意をしてくるといい…」

 

これ以上厄介事はごめんだ…このまま黒歌に押し付けてしまおう。

 

「…ずるいです…私も…」

 

「すまんな。ウチはあまり広くないんだ…悪いが五人もいたら定員オーバーだ…。」

 

塔城小猫はまだ黒歌に会わせるわけにはいかない…本来は姫島朱乃も会わせるのは不味いが放っておくと私がもたないからな…。

 

「…分かりました…」

 

「…じゃあな。…では朱乃、家で待っている…。」

 

「…はい。」

 

 

 

「…あんたは何を言ってるにゃ…。」

 

家に帰り、先に帰って来ていた黒歌に姫島朱乃の事を説明する…何をだと…?

 

「だからこれからリアス・グレモリーの眷属の一人でマゾヒストの女が来るからお前に相手して欲しいと「聞こえないからもう一回言えって言ってんじゃねぇにゃ!何でその子の相手を私がしなきゃならないのかって言ってんだにゃ!?」何でってお前Sだろう?」

 

「私はノーマルだにゃ!」

 

「ゑ?」

 

「その顔止めるにゃ!あんた私を何だと思ってんだにゃ!?」

 

「サディスト猫女。」

 

「良し!表出るにゃ!」

 

「…テレサ、黒歌お姉ちゃん喧嘩してるの…?」

 

「けっ、喧嘩じゃないにゃ!?」

 

「ああ。お前は何も気にしなくて良いからな。」

 

 

 

「…その子が訳ありなのは察したにゃ…。優しくしてやれにゃらまだ分かるし、普通に協力もするにゃ…。何でわざわざ虐めなきゃにゃらにゃいにゃ!」

 

「そいつがMだからだよ。虐められるのがそいつにとっての幸せだからだ。」

 

「ふざけんじゃねぇにゃ!そんなの絶対可笑しいにゃ!」

 

「…まあ接し方はお前に任せる。」

 

私は役割を丸投げ出来れば良いからな。

 

「…あんたも少しは協力するにゃ。」

 

「断る。私はノーマルだ。」

 

「私もそうだってさっきから言ってるにゃ!?」

 

と言うやり取りが結局姫島朱乃が家を訪れるまで続いた…。

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら20

家にやって来た姫島朱乃に渋る黒歌を引っ張って来て自己紹介させる…名前でさすがにピンと来た様だがそこは原作でも聡明な姫島朱乃だ…多少変な所へ振り切っていてもそこは変わらず私が唇に人差し指を当てて、その後首を横に振るという動作のみで察してくれたらしく黙って頷いてくれた…ファーストコンタクトは問題無いな…さて…

 

「それでは改めまして…テレサさん、黒歌…お姉様、今夜は宜しくお願いします。」

 

『…良し、黒歌…後は任せるぞ?』

 

『待つにゃ!?あの子の目を見るにゃ!?明らかに私に変な期待してるにゃ!?』

 

『……頑張れ…』

 

『ふざけんじゃねぇにゃ!?』

 

ここまでアイコンタクトによりほとんど一瞬で交わされた会話だ…同居人と心が通じ合っているようで私は嬉しいよ…

 

『現実逃避するんじゃねえにゃ!?とっ、とにかく今のあの子と二人きりにしないで欲しいにゃ!?』

 

『何とかしろ。今のあいつをクレアに会わせて変な影響受けたら困るだろ?』

 

『だからって私を生け贄にするんじゃねぇにゃ!?』

 

『…安心しろ…骨は拾ってやる…』

 

『お前最低だにゃ!?』

 

「…あの…どうかしましたか…?」

 

「…ん?いや、何でもない。…黒歌、朱乃の事を頼むぞ?…朱乃、今夜は存分に可愛がって貰うといい。」

 

「…はい…。」

 

「…仕方無いにゃ…。取り敢えず私の部屋に案内するにゃ…。」

 

私たちが住む部屋は狭いが二人分の寝室は確保出来ている…要するに私とクレアの相部屋で黒歌が一人部屋だ…と言っても大抵黒歌はクレアにせがまれて私たちの部屋で一緒に寝ているので黒歌はほとんど使ってないが…。

 

 

 

「…もう朱乃は寝たのか?…なかなかテクニシャンじゃないか。」

 

「…誤解を招く様な事を言うんじゃないにゃ…。…あの子、あんたが思ってる通り愛情に飢えてるみたいだったから単に抱き締めた後、リラックスした所で布団に寝かせて子守唄を唄ってあげただけにゃ。…最悪仙術で無理矢理寝かせるつもりだったから、あっさり寝てくれて正直ホッとしたにゃ…。」

 

「…本人も色々気張ってたんだろうさ…リアスは眷属を家族の様に思っている様だし、特に朱乃とは立場を越えて親友でもある様だが…本人はあくまでもリアス・グレモリーの女王としてリアスを立てることの方が多い様だしな。」

 

「…歪だにゃ。」

 

「他に生き方を知らないんだろうさ。」

 

「…この子の相手は私には荷が重いにゃ…。」

 

「…確かお前も母親を知らないんだったか?」

 

「…少しは覚えてるにゃ…私が言ってるのはそういう事じゃないにゃ。そもそも私はあくまでも他人でしかなくて…折り合い付けるのはあの子自身にゃ…こんな関係性絶対あの子に良くないにゃ…。」

 

「…そう言うな。私より人生経験は豊富だろう?」

 

「…あんたがそういう事言うと歳の話で煽ってる様にしか聞こえないにゃ…まあ確かに所詮背伸びしてるだけのあんたより豊富な自信はあるけどにゃ。」

 

「…人間は守る物があるから成長するし身の丈以上の物を求める…それが何か間違ってるか?」

 

「…どの口が言うにゃ…あんたはどうせ自分を人間と定義してないにゃ…そもそもあんたはクレアと必要以上に触れ合おうとしないにゃ…これの何処が守ってるって言えるにゃ…」

 

「…所詮、私に愛情を与える事は出来ない。…人間ではない私には…。」

 

「……それ、クレアに言ったら私はあんたを殺すわ。」

 

「…ああ。私が暴走したら殺してくれ。」

 

「……もう寝るにゃ。今日は自分の部屋で寝るにゃ。」

 

「…ああ…。」

 

最近黒歌と会話するとこんな暗い話ばかりになるな…。

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら21

「黒歌お姉様が…凄く情熱的で…優しくて…」

 

「…良いなぁ、私も黒歌お姉ちゃんと一緒に寝たかったなぁ…」

 

翌朝、朝食の時間にて微妙に噛み合って無い少女二人の会話を聞きながらあくまでも心中でクレア、お前は普段は普通に黒歌とも一緒に寝ているだろうとツッコミつつ同居人にアイコンタクトを飛ばす

 

『おい…お前は姫島朱乃をただ眠らせただけじゃなかったのか…?』

 

『……そうにゃ…誓う神はいないけど何もしてないと誓うにゃ…』

 

『…じゃあ、お前との夜を姫島朱乃が頬を染めながら寄りにも寄ってクレアに語ってるのは何だ?』

 

『私は何も知らないにゃ!?』

 

狼狽えつつも表情に出さず、しかし引き攣った笑顔を浮かべつつもしっかり視線を送って来る同居人に感嘆しながら、私は姫島朱乃を観察していた…

 

…恐らく拗ねてるんだなあれは…結局一晩の間に抱き締められた事以外手を出されてないから…で、分からないのを良い事にクレアに話して黒歌の反応を見ているのか…

 

実際それは効果的と言える…黒歌は必死で取り繕おうとしてるが笑顔は引き攣りまくりだし、テーブルに流れ落ちる冷や汗は止まる様子が無い。…ははは、こいつは手強いな、黒歌に投げて置いて良かったよ…あの表情を見る限り黒歌の焦りには気付いている…と言うかやはり加虐趣味も持ってるのか…本当に面倒だな…

 

『…まあ頑張れ?黒歌お姉様?』

 

『……不幸だにゃ…。』

 

最も、目論見通りとはいえ私以上に懐いてくれたらしく拗ねて黒歌を焦らせていた事で満足したのか艶々していた姫島朱乃が学校に行くのを嫌がって黒歌の働く喫茶店に着いて行こうとした時は私が全力で止めるしか無かったためこれから先も私の苦労は終わりそうにないが…澄まして今夜も泊まる気満々の様だしな…一応現在朱乃は一人暮らしだから実はこのままこちらに住んでしまうつもりなのかもしれん……どう考えてもクレアに悪影響しかないからそれは断固阻止しなければ…

 

 

 

さて、放課後…

 

「このままこちらに向かわず帰るなんて言いませんわよね?」

 

「…もちろんだ…あの空気にしてしまったのは私だし、ここまで来たら兵藤一誠の選択を私も見届けたいからな…」

 

姫島朱乃が迎えに来てオカルト研究部へ…正直に言えば帰りたかったんだがな…本当は兵藤一誠が何を選ぼうと私には関係無いからな…まあ私もそろそろ現実逃避してる場合じゃないだろうしな…これだけ派手に原作ブレイクしてしまった以上無関係ではいられんだろう…

 

前途多難になる予感をひしひしと感じながら姫島朱乃と旧校舎へ…いや、私にその視線を向けないでくれ…それは黒歌に要求すればいい…何だかんだ昨日の黒歌が期待外れだったせいか結局熱っぽい視線を向けられる事に私は辟易していた…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら22

「部長!俺決めました!俺はやっぱり自分の夢を諦められません!俺、悪魔になります!悪魔になって俺のハーレムを実現します!」

 

「良く言ったわイッセー!」

 

「……」

 

…目の前の茶番を冷めた目で見つめる…兵藤一誠の性格を知るならばこの展開は容易に予想出来た筈だ…私は何をしたかったんだろうな…?

 

「…最低です。」

 

「……」

 

さて、すっかり私の近くが定位置になった二人だが…塔城小猫の反応は原作と変わらず…姫島朱乃は…明らかに兵藤一誠に興味を持っていないな…これは後々確実に面倒な事になる気がするぞ…

 

「…あの…テレサさん…」

 

「…ん?何だ兵藤?」

 

兵藤一誠が私に話しかけると二人が一斉に反応した…塔城小猫は精々蔑みの視線を向けている程度だが、姫島朱乃に至っては…

 

「……」

 

「…あっ、あの…?」

 

これは最早殺気を向けているレベルだな…。兵藤一誠は気圧されて喋れなくなっているようだ…仕方無い…。

 

「…止めろ、朱乃。」

 

「…はい。」

 

そう言うと殺気が霧散する…

 

「…すまんな、それで何だ兵藤?」

 

「…あの、すみませんでした…。テレサさんは俺の事を思って言ってくれたのに…。」

 

「……」

 

……勢いで言ったとはいえ、別に兵藤一誠の事なんて考えてもいなかった。それは確かだな…。でもまあ良いか…。

 

「…決めるのはお前だ。お前の好きなようにしたらいい。」

 

「…はい!ありがとうございます!」

 

そう言って空いてる席に座る兵藤一誠…そこに色々話しかけるリアス…一人で離れた席に座る木場祐斗…認めたくないが明らかに女三人、甘い空気の流れる私の座る席…カオスだな…と言うか誰も木場祐斗の事を気にしないのか?かなり寂しそうに見えるんだが…。

 

「テレサさん、お茶のお代わりはどうですか?」

 

「ん?ああ、貰えるか?」

 

甲斐甲斐しく私の世話を焼く姫島朱乃…私の膝の上に何が楽しいのか口角の上がり緩み切った顔で座る塔城小猫。

 

「……」

 

真面目に誰か木場祐斗を構ってやれ…さすがに不憫過ぎる…私が言葉をかけてやりたいが…動けん…。と言うかリアスも長なら何とかしろ…そう思い兵藤一誠との会話に夢中になっている筈のリアスに視線を向ければ向こうもこちらを見ていた…

 

『木場が不憫過ぎるんだが…』

 

『ごめん、無理…そっちにフォローしてもらうつもりだったんだけどダメそうね…』

 

木場祐斗、お前の仕える主は思いの外薄情だぞ…

 

 

 

「テレサさん、今日もお世話になりますわね?」

 

「…お前…悪魔の仕事は良いのか?」

 

「しばらくは他の人に任せますわ。…新しい人も入った事ですし。」

 

どうやら姫島朱乃はもう兵藤一誠の名前すら覚える気が無いようだ…。…最早これは私には修正不可能だな…。完全に原作の流れは壊れてしまった…。

 

「……」

 

取り敢えずはずっと一人でいる木場祐斗の行く末を案じてやる事にしよう…どうせ祈るだけならタダだしな。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら23

「~~~!」

 

「…可愛いですわ…。」

 

さて、姫島朱乃が部屋に来ていざ寝ようとした時…

 

「皆と一緒に寝たい。」

 

…と言うクレアの一言で女四人同じ部屋に寝る事になった訳だが…

 

「っっっ…やっ、やめ…!」

 

「…ふふふ…」

 

完全に私の想定と逆で焦れた姫島朱乃が黒歌を責め立てると言う状況が出来上がっていた…鳴かされつつもクレアが熟睡している所を見れば黒歌が仙術を使っているのは分かる…何故私には使わないのか…止めて欲しいのか、単なる嫌がらせか…ちなみにこれを聞かされてる私はと言えば…

 

「……うるさい…」

 

クレイモアの多くは初期の頃に生まれた男性型と違い、欲情してる描写は原作ではほとんど確認出来ない…極一部にはいるようだがな…そのせいなのか分からないが少なくとも私は同性に興味が無いからとか付き合いの長い同居人だからとか関係無く全く今の状況にそういう反応をする事は無い。…要するにこれは単なる安眠妨害にしかなっていない…時折身動ぎする私に気付いているのか姫島朱乃の視線を感じるがそういう展開を望んでいるのか?

 

結局同居人の喘ぎを聞きながら私は何時の間にか眠りに落ちた。

 

 

 

翌朝…

 

「…テレサ、黒歌お姉ちゃん具合悪いのかな…?」

 

「ん?まあ風邪みたいなものだろう…悪いが店に連絡しておいてくれないか?」

 

「…分かった。」

 

私の言葉を疑うこと無く電話をかけに行くクレア…ああ、お前はまだそのままでいてくれ…

 

「…昨夜の…聞こえていたんでしょう?貴女も参加なされば良かったのに。」

 

「…生憎、私には性欲が無いようでね。」

 

ふざけた事を宣う姫島朱乃にそう返す…まあ出来ないわけでは無いんだろうが…正直私を巻き込まないで欲しい…。

 

「…本当に残念ですわ…では貴女がその気になられるまで黒歌お姉様と楽しませて頂きますわ。」

 

「……程々にな。」

 

黒歌には悪いが私とクレアに影響が無ければ構わないのが本音だ。…頑張ってくれ、私とクレアの安寧の為に。

……私はさっき漸く眠る事の出来た同居人に心中で告げる…。

 

 

 

「……勘弁して欲しいにゃ…」

 

「…ああ、まあそうだろうな…。」

 

昼…黒歌の看病の名目で家に残った私に起きて来た黒歌が発したボヤきに私はそう返す…。

 

「…他人事みたいに言うんじゃないにゃ…あんたがあの子を連れて来たんだにゃ…。」

 

「…いや、まあそうなんだが…敢えて言うなら私には性欲が全くと言って良い程無いのでね…まああれだけ喘いでたんだ、満更でも無いんだろう…?」

 

「~~~!」

 

そう言うと目に見えて狼狽え始める黒歌…ああ、これは堕ちるのも時間の問題だな…。

 

「まあそんなに嫌ならお前が逆に堕とせば良いだろう?」

 

「…あんた、本当にクズだにゃ…。」

 

今更だな。私が人でなしである事など分かりきっているだろうに。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら24

そういう調子で数日間に渡って姫島朱乃に散々鳴かされた黒歌は結果、最も効果的なストライキに出た…

 

「…黒歌お姉様…」

 

「…にゃあ…」

 

黒歌は姫島朱乃の前では本来の姿である黒猫の姿をとるようになった…

 

「…人間態になってくださいませんか…?」

 

「…にゃあ!(絶対嫌にゃ!)」

 

「……」

 

比較的長く付き合って来たせいか私はこの状態でも何となく黒歌の言いたい事は伝わる事が多い…それはそうとこの後何が起こるか大体想像出来る気がしたが、元々黒歌に押し付けたのは私だしな…段々やつれていく同居人を見ていれば思うところも無い訳では無いから、まあ甘んじて受ける事にしようか…

 

黒歌を連れたクレアを黒歌の部屋に行かせ二人で寝かせる…そして私の部屋…

 

「…こうやって二人きりになってくれると言う事はそういう事で宜しいんですわよね…?」

 

「…先に休め。私は睡眠時間が短いんだ。」

 

部屋を出ようとする私の手を引く姫島朱乃…

 

「そう言わずに…せっかく二人きりなんですから…!」

 

「……分かったよ…」

 

…何て力だ…!これでは妖力解放でもしなければ振り解けないな…仕方無いか…

 

布団に入ると隣に敷いた布団を無視して私の布団に入る姫島朱乃…

 

「…狭いんだが…」

 

「…良いではありませんか…一緒に寝ましょう?」

 

「……好きにしろ。」

 

完全に獲物を狙う目だな…まあ良いか…。

姫島朱乃が服越しに私の身体をまさぐるのを感じながら私は溜息を吐いた…

 

 

 

一時間後…

 

「……」

 

「…だから、私に性欲は無いと言っただろう?」

 

黒歌を鳴かすまで手慣れていたからな…恐らく姫島朱乃は元々何度か同性とした事もあったのだろう…そして自信満々で私に手を出した結果がこれだ…私は一声も上げないし、何なら濡れたりする事も一切無かった…男なら問答無用でぶち込めば良いだろうが女性同士ではそうもいかない…攻められてる方に反応が無ければ攻める方に張り合いが無いし仕舞いには冷めてしまうだろう…結局姫島朱乃はそれ以上何もする事無く無言で私の布団から出ると隣の布団に入り横になり寝息を立て始めた。

 

 

 

「…それでは先に向かいますわ」

 

「行ってくるね、テレサ!」

 

「…ああ、行ってらっしゃい。」

 

翌朝、先に学校へ向かうクレアと姫島朱乃を見送る…黒歌はまだ猫のままか…まあこっそり一緒に出て姫島朱乃が見えなくなったら人間態になってクレアに合流するんだろうが…

 

 

「…テレサさん…」

 

「何だ?」

 

「…私諦めせんから…もっと腕を磨いて来ます…!」

 

「…私の身体は元々そういう風には出来ていない。お前がどれほどの腕を持ってようと無駄だ…。だが、それでも良いなら好きにしろ…」

 

「…はい!」

 

……これでしばらく姫島朱乃はウチには来ないだろう…漸く厄介事が一つ減ったな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら25

オカルト研究部の部室…相変わらず塔城小猫と姫島朱乃の二人にくっつかれながら私は考え事をしていた…

 

…この後はどうなるんだ…?

 

ハイスクールDxD原作の始まりは簡単に言えば堕天使レイナーレに主人公の兵藤一誠が殺される所からスタートする…そこにやって来たリアス・グレモリーの手によって悪魔に転生し、と言った所だ…既にこの流れが私の介入で壊れている…そもそもその後平たく言えばアーシア編にて再び対峙する筈の堕天使四人の内リーダーのレイナーレと部下のカラワーナを既に倒してしまっているからな…

 

つまり通常通りアーシア編に移行するか分からない…更に不安要素がもう一つ…残り二人の堕天使、ミッテルトとドーナシークの所在は不明のままだ…アザゼルの話によるとレイナーレとカラワーナ曰く、『アジトにいなければ何処にいるか分からない』だそうだ…

 

ドーナシークはともかく、ミッテルトはそこまで優秀では無かった印象があるのだが…

 

……仮にこの二人が地下に潜るとして…その目的は何だ?次はどう動く?…やはりアーシア・アルジェントの神器「聖母の微笑み」が目的なのか?…駒王町界隈の教会など当にアザゼルが押さえてる筈だ…アーシアをここに呼ぶ名目が無い…分からん…まあ良いか。私は頭脳労働は余り得意な方じゃない…なる様にしかならん…大体今日まで動きが無いんだ…ずっと何も無い訳は無いがしばらくは様子見で良いだろう…

 

「…テレサさん?」

 

「ん?何だ?」

 

「…何か考え事ですか?…それもかなり深刻そうな…」

 

「大した事じゃない…大丈夫だ…。」

 

「…テレサさん…」

 

「ん?」

 

「…何かあるなら何時でも言ってくださいね?…それとも私はそんなに頼りないですか?」

 

「…ありがたいが…まずは自分の事を何とかした方が良いぞ?大体、お前は何時まで私にくっ付いてる気なんだ?」

 

「…良いじゃありませんの。」

 

拗ねたような声音でそう言う姫島朱乃…これで頼りになるわけ無いだろう…取り敢えずオカルト研究部に広がるこの緩み切った空気も問題だな…この後問題が起きても全く対応しきれないぞ…そう言えばこいつら最近はぐれ悪魔狩りはしてるのか?…後でリアスに聞いてみるか…

 

 

 

 

「…依頼が無い?」

 

「…そうよ。…ここの運営程度なら資金源にはそこまで困ってはいないけど…正直このままだと有事の際に対応出来ないわね…テレサ、最近は「最近の私ははぐれ悪魔狩りをしていない」…そう。」

 

最近は姫島朱乃が泊まりに来ていたしな…

 

「…でもそれ以前に今ならはぐれ悪魔にも勝てるかどうか…イッセーはまだ戦った事が無いから他の皆に任せるのは当然としても…」

 

「…今のあいつらは緩すぎるな…そもそも連携も一切取れんだろ。」

 

戦いの際数の利点を活かすにはお互いの事をどれくらい知っているかは戦闘経験と同じくらい重要なファクターだ…緩いのはまだ良いとしても…姫島朱乃と塔城小猫は私にくっ付くばかりで兵藤一誠とも、リアスとも会話しようとしない…木場祐斗は完全に孤立している…相手が弱いなら良いが…格上の相手なら無理だな…

 

「…正直に言えば…チームとしては私に初めて会った時の方がずっと強いだろうな…リアス、どうする気だ?」

 

「……」

 

「早い内に答えを出せ。…何か起きてからでは遅いぞ。」

 

私はリアスにそう告げると背を向ける…私はクレアを守りたい…ただそれだけだ…こいつらに手を貸すのも所詮それが理由だ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら26

「……」

 

「…あの、テレサさん?」

 

「……何だ?」

 

「…何か怒っていらっしゃいます「何でもない」…そ、そうですか…」

 

あれから数日経ったが特に事件は無い…嵐の前の静けさと考えるのが妥当だが、そもそも何も無いに越したことはないのは確かだ…だが…だからと言ってこのオカルト研究部の状況はいい加減目に余る…。

 

そして本来ならそれについて呆れるだけで済ます筈の私はつい、塔城小猫や姫島朱乃が近付かなくなるほどの殺気を垂れ流している…自覚はある…だがこのイラつきはそもそも端的に言えば欲求不満から来たるものだ…私にも抑えようが無い…

 

リアスにはぐれ悪魔討伐の依頼が無い事を無意識に他人事と思っていた私は今、自分の馬鹿さ加減を文字通り思い知らされている…まさか私が狩れるはぐれ悪魔もいないとはな…どうも誰かが片っ端から狩っているらしい…誰だか知らんが余計な事を…!狩りすぎたらどうなるか位分からんのか…実力は一流かも知れんが…ルールを知らん愚か者だ…!

 

リアス・グレモリーが冷や汗を流したり、兵藤一誠が完全に怯えていたり、いよいよ不味いと判断したのか姫島朱乃が顔色の悪い塔城小猫を背負って部室を出て行こうとするのが視界の端に映るが…駄目だ…抑えられん…!

 

「…あの、テレサさん…」

 

「……何だ?」

 

「…僕に剣を教えて貰えませんか?」

 

「……」

 

めげないな…。しかもこの状態の私にすら頼んでくるとはな…ふん。良いだろう…どうせそろそろ何でもいいから暴れたいと思っていた所だ…!

 

「……良いだろう。」

 

私がそう言うと今さっき出て行こうとした姫島朱乃と塔城小猫、それからリアス・グレモリー、そして何故か木場祐斗も反応する…いや、お前は何でだ?お前から頼んで来たんだろうに…

 

「…何だその顔は?私は恐らく二者択一だろう選択肢…平たく言えばはいかいいえで答えられる質問にただお前の希望通りはいと答えただけだが?」

 

「…あの…本当に…良いんですか?」

 

「…さっき良いと言っただろう?…リアス、悪いんだが私の家に行って私の剣を持って来てくれないか?」

 

「…それは構わないけど…どうしたの、突然?」

 

「…ちょっとな…。」

 

一番の理由は欲求不満の解消だが他にも理由はある。

 

「…先にグラウンドに行っておけ。」

 

「…はい。」

 

私は完全に冷めてしまった紅茶を飲み干した…。

 

 

 

「…どうしたリアス?早く持ってこい。」

 

「簡単に言わないで!?何この剣…!信じられない位重いんだけど!?」

 

「…どうしてもこちらまで運べないと言うなら投げろ…ほれ、早くしろ。」

 

「…あーもう!分かったわよ!受け取りなさい!」

 

散々重いなど、情けない事を言っていたが何だかんだ投げた剣は私の頭上を越えていく…何だやれば出来るじゃないか。

 

「…ふん!」

 

私は剣の元まで跳ぶと柄を殴り付け地上に落とす。

 

そして木場祐斗の足元の地面に突き刺さる。

 

「…テレサさん、何の真似「その剣と同じ物を作れるか?」え?」

 

「…初めて私と会い、戦った時…お前の剣は私がただその剣で受け止めただけで折れてしまったのを覚えているだろう?」

 

「…はい。」

 

「…技術を磨くのは戦いの基本だがまず、お前はそれ以前の問題だ…お前の剣は脆すぎる…如何に優れた剣士であっても剣が鈍なら勝てる物も勝てなくなる…だからまずお前はその剣に匹敵するものを作れ…そうだな、まずこれから私とお前の使う剣二種類をその剣を目指して作ってみろ、…あー…気負う必要無い。最初はまず、斬れ味はしょぼくて良いから硬い剣を「それは僕に対する挑戦ですか?」ん?」

 

「作って見せますよ…その剣程じゃなくても最低限硬さと斬れ味両方を有した剣を…!」

 

「ほう?…面白いな、やってみろ。」

 

「…行きます…!はああああ…!」

 

私の見てる前で時間をかけて作られて行く剣…そもそも溜めに時間がかかる以上、実用性は皆無なんだが…今言うのは無粋か…

 

「…ハア…ハア…!出来ました…!」

 

木場祐斗の前の地面に私の剣を挟むように突き立つ大剣、片手剣と言う二本の剣…ふん。さてお手並み拝見と行こう…!

 

「っ!…ほう?」

 

木場祐斗が瞬時に踏み込むと作った剣の内、大剣の方を私に向かって投げつける

 

「…おっと!」

 

顔に刺さる直前で大剣の柄を掴む…成程見れば見る程見た目はそっくりだ…さて…

 

「……」

 

剣を適当に振り回す…少し軽いが振った感じは悪くない…なかなか手に馴染む…まあ後はどれ程使えるかだな…

 

「…さて、こんなものでいいか…。」

 

私は背中の鞘に剣を納める…

 

「…さあ、来い木場…」

 

「…どういうつもりですか?」

 

「…私が剣を抜かないのが不服か?…良いからさっさと打って来い…」

 

「…行きます…!」

 

私に向かって来る木場…なかなか早いな…最もあくまで私の知る中で比較的早い方と言った程度だ…実際私にはかなりのスローペースにしか見えん。

 

「…はあ!」

 

「……」

 

遅いな…!

 

「ふん!」

 

「…なっ!?」

 

自分の剣が弾かれ、更に身体が浮いた事に驚く木場…今のこいつにこの技はもったいなかったな…

 

「…どうした?私が何をしたか分からないか?ならそのまま死ぬだけだ。」

 

「…ぐうっ!」

 

空中の木場に追撃をかける…見えてはいないようだが反射で受けている様だ…良くやる…とは言え、私が使ってる武器が重い大剣で無ければ何回死んでいるだろうな?

 

「…ふん!」

 

「…がはっ…!」

 

斬撃を止めると受けに回した剣ごと木場祐斗の腹を蹴り飛ばす。その一撃で再び剣は折れ、私の蹴りが木場祐斗に刺さる…やり過ぎたか?悪魔の肉体の強度がどれ位か分からんからな…まあそれで死ぬと言うなら所詮その程度かも知れんな…吹っ飛びリアスの張った結界の壁に当た…おいおい…もう罅が入っているぞ…やはりサーゼクスを呼ぶべきだったか?

 

地面に倒れる木場祐斗にリアスが駆け寄るのを見ながらそんな事を考えていた…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら27

「テレサ!?どういうつもりなの!?貴女らしくないわ…何があったか知らないけど…こんなの…ただの八つ当たりじゃない…!」

 

リアスの言う事に溜息を吐く。

 

「…八つ当たり、ね。…多分にその辺りが含まれていたのは否定せんが…何も私はそれだけで木場を痛めつけたわけじゃないさ…。」

 

多少スッキリしたのは認めるがね…

 

「…じゃあ、一体…?」

 

「…そうだな、先ずは…木場は完全に気絶してるから聞けないとして…残りのお前らに聞く。…お前らの中にさっき私がやっていた事が見えていた者はいるか?正直に答えろ…」

 

……ゼロ、ね…

 

「…次の質問だ…では私が何をやっていたか分かる者はいるか…?」

 

……これもゼロ…予想以上だな…

 

「…誰も分からないか…教えてやろう…ただ剣を抜き、振り、また鞘に仕舞った…ただこの三動作を早くやっただけだ…言っておくが私は妖力解放すらしてないからな?」

 

黙りこくる面々…おいおい…そんなに衝撃的か?

 

「…この技を編み出したのは私では無い。私とは違う世代の戦士が編み出した技だ…私は模倣したに過ぎん…実際の彼女の技、風斬りには遠く及ばん。」

 

「…さて、序だから…彼女の強さがどれ位か教えておこうか…クレイモアにはそれぞれNo.47~No.1まで数字が割り振られている…この数字が若くなるほど実力は高いと見て良いわけだ…ちなみにさらに詳しく言ってしまえば…多くの場合No.47~No.10までは実力的には大した事ない。それぞれの実力もある程度どっこいどっこいだしな…最もだからと言ってNo.47がNo.10に追随出来る事はまず無いがな…さて問題はNo.9からの連中だ…主にこいつらが本物の実力者と認識して良い。大抵持って生まれた能力以上を持たないクレイモアだがそれでも勝率をあげるために多くの連中は独自の技を磨く。」

 

まあこのNo.制は実は組織の都合で割り振ってる面もあるし…上位になるほど秘密も増えたりするから一概に実力順とも言えないがな…

 

「…そしてNo.の他に技名にちなんだ二つ名が着くんだ…まあこれは多くの場合同じクレイモアの同僚や後輩が尊敬と畏怖、あるいは友愛で呼ぶものだ…さてここでもう一つ問題だ…この風斬りを使っていた戦士…彼女は何番だと思う?…リアス、答えてみろ…」

 

「え!?う~ん…そうねぇ…その風斬りは同じ戦士にも見えないの?」

 

「…少なくとも序列が下の連中はほとんど見えてない…最も妖力解放をしていない以上、この場合は単なる戦闘経験の有無によるだろうから例外はあるが。」

 

「…No.4位かしら?」

 

「…8だ。」

 

「…え!?」

 

「…彼女は愚直にこれだけをやり続けそしてこの序列を手にした…その後は…」

 

「…どうなったの?」

 

「……考えるまでも無いだろ?私たちは何処まで行っても消耗品だ…長々と語ったが要はこういう事だ…お前らは手を抜いてる私にすら勝てん…という事だ…それでいいと思ったか?…ならばお前たちにこの町を治める実力はこれから先も無かろう…この町に来るはぐれ悪魔の中には私が苦戦した相手もいたからな。」

 

「…嘘!?」

 

「…前にも言った筈だ…ここは魔窟だと。…ここまで言ってもこれから先も今みたいな弛んだ姿を晒すようなら…私が貴様らに引導を渡すぞ?…私が守りたいのはクレアだけだ…これ以上荷物は要らん。」

 

「……」

 

「…じゃあな…木場に伝えておけ、やる気があるなら何時でも相手してやる…だが次もそんな腑抜けた戦い方をするなら…斬る。」

 

私は木場祐斗の出した大剣を地面に刺す。…これだけ言えば事の重大さが伝わる…よな?正直こいつらに関してはとてつもなく不安なのだが…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら28

「……」

 

「テレサ?どうしたにゃ?」

 

「…黒歌、少し出かけてくる…」

 

「え?あっ、ちょっと!?」

 

私は布に包んだ大剣を掴むと家を飛び出した。…感じる…!今まで一度も感じた事の無いはずの感覚だが…分かる。…これは…妖気だ!…しかも…私の様な半端者に分かるという事は…

 

「…誘っている…」

 

一体何のために…?そもそも今の私にはこれが果たして妖魔の物なのか、それともクレイモアの物なのか…或いは覚醒者の可能性もある…

 

「…妖魔なら可能性があるかもしれないが覚醒者では恐らく勝ち目が無いな…クレイモアだとしても果たしてまともに話が出来る相手かどうか…」

 

まずは行ってみるしか無いか…それで答えは出る…

 

 

 

「…誰もいないな…。」

 

妖気を感知した場所は普通の住宅街の一角で特に問題は無い…人気が無いのが気になると言えば気になるが…今が夜間である事を考えるとそこまで不思議な事でもない……!

 

「こんばんは!」

 

私は咄嗟に大剣を抜き振り向…!

 

「…ぬぐっ!」

 

抜いた大剣を挟むようにして横薙ぎに首を狙って来る大剣を受け止める…くっ!…何て力だ…!押し切られる…!

 

「…がはっ!」

 

相手が私の腹を蹴る…勢いを利用し後ろに下がる…衝撃は多少逃がせた筈だが思いの外ダメージがある…!

 

「…あら?少しはやるわね、貴女。」

 

私は突然攻撃して来た人物の顔を見ようと目を凝らす…クレイモアは闇夜でも人間と違い、ある程度は見えるがさすがに相手の顔の識別は出来ん…だが分かることもある…

 

このシルエットに大剣…!こいつもクレイモア…!

可能性は考えていたもののやはり衝撃は大きい…私は今何故か味方に攻撃されているのだからな…!その時良いタイミングで雲が晴れ、月光に照らされて相手の姿が見えて来る…!…こっ、こいつは…!?

 

「…オフィーリア…!?」

 

よりによって何故こいつなんだ…!?

 

「あら?私の事知ってるの?…う~ん、顔に覚えは無いわね…貴女名前は?」

 

言わないと言う選択肢は無さそうだな…まあいい。このまま会話に持ち込んで奴の目的を確認しよう…

 

「…テレサだ。」

 

「テレサ?…何か聞き覚えあるわね~…う~ん…何処だったかしら…?」

 

…一見無防備に見える…が、駄目だ…奴から隙を見つけられない…!これでは攻撃は元より逃げる事も出来ん…そもそも私は絶対にこいつには勝てない!真っ向勝負など以ての外だ…!

 

「…ああ!貴女もしかしてあの微笑のテレサ?歴代最強のNo.1だって言う?」

 

「…同名の別人だよ。私は彼女の足元にも及ばないさ…。」

 

「そうなの?残念ねぇ…どうせなら一度戦ってみたかったんだけど。…最も私の知る限りじゃ死んだって聞いてるけど。…仕方無いわ。貴女、どうも期待外れみたいだけど頑張って私を満足させてね?」

 

その言葉と共にオフィーリアの姿が消え…!違う!奴は今私の周りを高速で動いている…駄目だ!動きが見えない…!

 

「…うがっ!?」

 

次の瞬間顎を打ち上げられその勢いのまま私は後ろに吹っ飛んだ…。

 

「…くっ!先程といい…!何のつもりだ!?」

 

「何って決まってるじゃない。…私、退屈なのよ。この町のはぐれ悪魔は大した事ないし、そしたらある時お仲間がいる事に気がついたのよ。それでちょっと手合わせをお願いしたくてね…もちろん貴女の事よ?まあ本当に暇潰し以上にはならなさそうだけど。」

 

言葉だけなら模擬戦をお願いされてるだけだ…思いっ切り舐められているがそれも仕方無い…私はこいつに勝てないだろうしな…だが…こいつはさっき首を狙って来た…!あの時もし、私が奴の攻撃を防げなければ私の首は飛んでいた…さすがのクレイモアも首を刎ねられれば死ぬ…こいつはそれを知らんわけでもあるまい…つまりこいつは私を殺す気だ…!

 

「…断る。お前は私を殺す気だろう?」

 

「ごめんなさいね、貴女に選択肢は無いの。やらないなら貴女はどっちにしろこの場で私が殺すだけよ。」

 

つまりこのまま棒立ちでも私は殺される…やるしか無いという事か…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら29

オフィーリアはNo.4。この時点でどれ程の実力か分かりそうなものだが…そもそもこいつの厄介な点はその性格だ…こいつは興味を持った相手なら同じクレイモアや人間にすら斬りかかりかねない危険人物なのだ…!その癖…!

 

今こいつは遊んでいる…!

 

「…どうしたの?反撃しないならこのまま殺すわよ?」

 

抜かせ…!お前が私を防戦一方に追い込んでいるんだろうが…!

 

私はオフィーリアの剣を受けるだけで精一杯だった…

こいつは私の実力を正確に測り、私に見えるギリギリのスピードで攻撃して来る…。そして反撃に転じようとすれば一段階早いスピードで攻撃をして来る…私はそれを受け切れず傷を負う…!

 

…そしてその二パターンを想定して受けている際、時折わざと遅い動きで首などの急所を狙う致命の一撃を繰り出して来る…!悪辣な…!下手に前に出れば私は何度死んでいるか…!…まさか私が木場祐斗と同じ気持ちを味わう羽目になるとはな…所詮は私も驕っていた…というわけか…。

 

「…つまらないわ。」

 

「グフッ!?」

 

突然腹に衝撃を受けて後ろに倒れ込む…また蹴られたか…リズムが乱れ、息を荒がせ、喘ぐ…無様だな…いまの私は…

 

「…ねぇ?貴女本当にお仲間?」

 

そんな私を見下ろし声をかけるオフィーリア…何を言っている…?

 

「…どういう意味だ…?」

 

「…言葉通りの意味だけど?」

 

私の傍にしゃがみ込むと私の首に剣を当てがう…動けない…迂闊に動けば私の首は飛ぶ…何でもいいから答えるしか無いか…

 

「…大剣を持ち、銀色の髪に銀色の瞳…これこそ妖魔の血肉を取り込んだ半人半妖の戦士の特徴「分かってないわね~。そういう事じゃないわよ。」何?」

 

「貴女妖気の扱いが下手過ぎるのよ。…ちなみに貴女の使っていた技、確かNo.8のフローラが使っていたって言う風斬りの真似でしょう?」

 

「……」

 

「そうなると単純に貴女は妖力が戦士になった時点で元々少なかった…だから妖力解放の要らないその技を使う様になった…と言うのが考えられる可能性かしら?…それなら妖力の扱いが下手なのも一応は辻褄が合うしね…無理に使うとすぐに限界を超えるだろうし。」

 

「…いけないか?創意工夫をしてこその私たちだが自分で編み出すより先駆者がいるなら無駄な努力を積むくらいなら結局はそれに習った方が効果はあるだろう?」

 

こいつは何を言おうとしている…?一体何に気づいた…?

 

「…私を舐めないでね?戦士を見たら大体どれ位の妖力を持っているのか位分かるわよ…貴女は持っている妖力がかなり多い…つまり風斬りに頼る必要は無い…ましてや貴女は明らかに風斬りを使いこなせてない…多分真似する様になったのも最近じゃない?」

 

「…はっきり言え。何が言いたい…!?」

 

「…貴女は正式な戦士じゃない…というか、そうねぇ…上手く説明出来ないけど…正式に戦い方を学ぶ事無くその姿になったと言うか?…もっと言えば…」

 

まさか…こいつ…私が転生者だと…私が偽物だと気付いたのか?

 

「…これが一番しっくり来るかしら?ガワだけ戦士で中身はまるでつい最近までろくに戦いも知らなかった一般人みたいな…ね?」

 

「…!…何を根拠にそんなわけの分からない事を…」

 

「動揺が声に出てるわよ?…最も顔にも出てるけど。貴女は隠し事の出来ないタイプみたいね?」

 

「……」

 

「…そうねぇ、せっかくだから答えてもらおうかしら?貴女一体何者?…あー、答えないなら別に良いわよ?このまま首を刎ねるだけだし。…どうせ貴女もうろくに動く事も出来ないでしょ?」

 

「…答えたら、私はどうなるんだ?」

 

「殺すわ。…良いわよね、この世界。組織も無いから面倒臭い掟も守らなくていいし。」

 

どっちにしろ私は殺されるのか…

 

「…殺せ。」

 

「…教えてくれないの?」

 

「さっさと殺せ。」

 

「…そう、残念ね…なら、お別れね。」

 

彼女が剣を振りかぶるのを私は黙って見詰めた…ああ…後数秒とかからず私の首は地面に落ちるだろう…クレア…私はお前を…

 

その時何処からか魔力弾が飛んで来てオフィーリアが私の前から飛び退いた…何が起きた?

 

「テレサ!」

 

声の聞こえた方を見ると久々に見る険しい顔を浮かべたサーゼクスが立っていた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら30

「…無粋ね。」

 

私の元まで走って来たサーゼクスが倒れたままの私を起こす。

 

「テレサ、大丈夫か?」

 

「…これが大丈夫に見えるか?」

 

「…いや、見えないね。君は取り敢えず休んでいて「馬鹿を言うな、悪いが私を立たせてくれ」…分かった。」

 

私を支えるサーゼクスの補助で立ち上がる…

 

「…せっかく女同士で楽しんでたのに邪魔するなんて酷いじゃない?」

 

「…すまないね、私もお邪魔だったのはもちろん分かってるよ…ただ、私も友人が殺されるのを黙って見ていられる性分じゃなくてね。」

 

「あらそう。それで色男さん?名前を聞いても良いかしら?」

 

「…これは失礼をした。レディに対する態度では無かったね…私はサーゼクス・ルシファーという者だ、以後お見知りおきを。」

 

「…あら有名人じゃない…まさかこんな所で現魔王の一人に会えるなんて思わなかったわ。」

 

「…知って貰えているとは光栄だよ…それで麗しきレディ?君の名前は教えては貰えないのかな?」

 

「あらごめんなさい、オフィーリアよ。そこにいるテレサの一応お仲間よ。…面識は無いけどね?」

 

「そうなのか。…ところで古い知り合いにしても随分乱暴な交流があったと見えるが…」

 

「…ちょっと退屈しててね、彼女に手合わせしてもらったのよ」

 

「…そうか。見ての通り彼女はもう限界だ…今日はこれで帰っては貰えないかな?」

 

「…そうねぇ。結構良い男だから許すけどそもそも貴方の乱入で私も興が削がれちゃったし、今夜はこれで失礼しようかしら…?…でもその前に…!」

 

「っ!サーゼクス!」

 

「なっ!?」

 

「貴方に一傷位は刻んで行こうかしら?」

 

一瞬でこちらの目の前に到達したオフィーリアがサーゼクスに向けて剣を…!

 

「…くそっ!」

 

「…!テレサ!」

 

咄嗟に私はサーゼクスを突き飛ばし奴の剣の前に立つ…あれは漣の剣か!?

 

「せっかく命拾ったのに…死んだわね、貴女。」

 

「チッ!」

 

剣を抜き、受け…!

 

「…遅いわね。」

 

「…テレサ!?」

 

…鮮血が飛ぶのが見える…あれは誰の血だ…?

 

「テレサ!」

 

倒れ込む私を支える力を感じる…いや、私は何故倒れようとしてる…?

 

「…ぐっ!」

 

痛みで意識が戻って来る…!私は斬られたのか…。

 

「…土壇場で妙な足掻きを見せるのね貴女…まさか身体を逸らして剣を流すなんて…この技で仕留められ無かったのは貴女で二人目よ」

 

「オフィーリア…!」

 

「怖い怖い。それじゃあ私は行くわね?」

 

「っ!待て「駄目だテレサ!傷が深い!もう動くな!」チッ!」

 

私は家の屋根を伝い逃げて行くオフィーリアを睨み付けていた…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら31

「…手酷くやられたね…」

 

「……」

 

私の傷はかなり深い…さすがにすぐには再生しないだろう…

 

「…取り敢えず家に帰ろうか?送って行こう。」

 

「…その前に、一つ良いか…サーゼクス?」

 

「何かな?」

 

「…お前、 何でここにいるんだ…?」

 

「今言わなきゃ駄目かな?」

 

「…ああ…」

 

助けて貰って何だが…さすがにこれは気になる…

 

「…先に謝っておこう、すまない。実は今日は仕事が一段落したんで私とグレイフィアとで君の所に寄るつもりだったんだが、家に着いたら君がちょうど家から出てくる所を見かけてね?どうも君の様子が可笑しかったからグレイフィアに後を任せ、私は申し訳ないが跡を着けさせて貰ったんだ…最もすぐに見失ってしまったが…その様子だと私の尾行に気付いていてスピードを上げた訳じゃないようだね?」

 

「…ああ…」

 

就けられていたのか…全く気付かなかった…

 

「…ん?私を見失ったんなら…どうして、ここに来れたんだ…?」

 

「…戦闘の気配じゃないが力の流れを探ったんだ…魔力はともかく君の言う妖力とやらを探るのは初めてだったが…」

 

「…お前、妖気を…感知したのか…!?」

 

「…そうだね…私にとっても賭けだったが…何とか間に合って良かったよ…」

 

まさか妖気を感知出来る様になるとは…!本当にこいつは底が知れん…一つアイディアが浮かんだ…一人なら試す気にはとてもなれなかったが…妖気感知を身に付けたこいつなら…!

 

「…サーゼクス、頼みがある…」

 

「…それも今じゃなきゃ駄目なのかい?クレアたちが君を心配しているよ?」

 

「…ああ、寧ろ、クレアたちには…見せられない…!」

 

「危ない事なら協力しかねるが…」

 

「…問題無い。この傷を治すのに、妖力解放をするだけだ「何を言ってるんだ!?」サーゼクス、この傷はそう簡単には治らん。…だがお前の懸念通りこのレベルの怪我を治そうとすれば間違いなく覚醒するだろうな…」

 

「ならば手当をすれば良い!魔術による治療は難しいかもしれないがそれなら効果はあるだろう!?」

 

「それ以上に試したい事が一つあるんだ。…サーゼクス協力してくれ…。」

 

「……まずは内容を教えてくれ。」

 

「…半覚醒を…したいと、思う…」

 

「半覚醒?」

 

「…クレイモアの内、何人かは…覚醒が決定的になった者や、完全に覚醒した状態から見た目だけなら、通常時に戻った者が存在する…。」

 

「…見た目だけとは?」

 

「クレイモアとしての能力に、変化が訪れる…今以上の力の底上げが…測れるのは確かだ…デメリットがあるとすれば必ず戻れる訳じゃないことと、メカニズムが不明な事…それから、人を食べたくはならないが食事量が極端に増える事だ…」

 

「…成功するのかい?」

 

「…戻れたのは数人の戦士だけだ。「なら!」待ってくれ。だからこそ、お前に協力して貰いたい。」

 

「……何をすればいいんだい?」

 

「…覚醒者から戻るには…人の側に意識と妖力を調整する必要がある…だが性的快楽にすら匹敵するこれに抗って妖魔側である…覚醒者に傾かないのは難しい…だから妖気感知の出来る様になったお前にそちらの調整をお願いしたい…要はそちら側に引っ張って、欲しいんだ…!」

 

「何を言ってるんだ!?私は君の言う妖気感知が出来る様になったばかりだ…そんな事出来るわけが「奴に勝つならそれしかない!多分奴はまた私の元に来る!私はまだ死ねないんだ…!」テレサ…」

 

「…頼む!協力してくれ…!」

 

「…分かった。」

 

サーゼクスは目を閉じる。

 

「…分かるか?私の妖気が。」

 

「…ああ、分かるよ…」

 

「…今から妖力の制御を離す。…頼むぞサーゼクス?」

 

「…ああ、任せてくれ…テレサ?」

 

「…何だ?」

 

「私はこの場で君を消したくは無い。必ず戻って来てくれ…」

 

「……お前次第だ。…じゃあ行くぞ?」

 

私は妖力を解放した…!



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら32

「アアアアア…!」

 

「テレサ!」

 

サーゼクスの声が遠く感じる…無理だ…これは抗えない…!…これは耐えられないのも納得だ…ダッテ、コンナニモ…

 

『…おい、そっちじゃ無い…こっちだ…』

 

…ダレダ?

 

『良いから早く来い。』

 

コエノスル方へワタシの意識は引っ張ラれる…

 

 

 

「…何時まで寝ている気だ?とっとと起きろ。」

 

目を開く…

 

「…やっと起きたな。…で、お前か?私の身体を使っているのは?」

 

私の身体?

 

「何黙りこくってる?口が無いわけじゃ無いだろ?」

 

「…どういう意味だ…?」

 

「…言葉通りだ…それとも、私が誰か分からないか?」

 

私は目を凝らして目の前の存在を見る…今まで輪郭しか見えなかった物が見えてくる…お前…は…

 

「…テレ…サ…?」

 

「そうだ。私はテレサだ。」

 

「…本物…なのか…?」

 

「…知らん。少なくとも私には組織に所属し戦士として生きた記憶が確かにある…これで満足か?」

 

「…どうしてお前が…」

 

「…何言ってる?お前が人の身体で醜態を晒すからわざわざ出てきてやったんだ。」

 

「……オフィーリアとの戦いか…」

 

「分かったらとっとと剣を抜け。」

 

「…何…?」

 

「早く抜け。…私が戦い方を教えてやる…それとも…」

 

「…っ!」

 

「この場でその首を刎ねてやろうか?…今私はサーゼクスの補助をする形でお前を人間の側に引っ張ってる…つまりここでお前が死ねば手綱は外れる…サーゼクス一人では抑えられないからお前は間違いなく覚醒者になるだろうな…」

 

「……分かった。」

 

私はテレサに向けて剣を構えた。

 

 

 

「どうした?もっと早く剣を振れ。」

 

「…くそっ!」

 

「そもそもお前に私と同じ戦いは出来ないんだよ。…熱くなりやすいお前に妖気を感知しての先読みは向いてない。」

 

「…痛っ!」

 

「…カウンターは出来ない以上もっと早く動け!妖力解放による限界超えを恐れるな!その程度は本来、出来て当たり前なんだよ…自分の意思で捩じ伏せろ!」

 

「…くそっ!簡単に言うな!私はお前じゃない!私はお前の様な…!」

 

「何を今更…私は私でしかないし、お前はお前にしかなれん。…大体私だって別に天才とかじゃない。…妖気感知を使いこなすにはそれ相応の経験が必要だ…居場所を測るくらいならまだしも普通、戦闘中も絶えず感知して相手の次手を見極めるなんて狂気の沙汰なんだよ…出来なくて当然だ。」

 

「だが!お前は出来た!だから…!」

 

「そもそも妖魔のいないお前の世界で妖気感知能力を磨くなど不可能だ。」

 

「…私には真似しか出来ないんだ…!」

 

「だったらそれで良いだろう…模倣も極めれば自分の力だ…お前は何処までも中途半端だ…技の本来の使い手に失礼だと思わないか?」

 

「テレサアアアア!」

 

「…本当に熱くなりやすいな、お前は。何処までも私と正反対だよ。…だからこそお前に興味が湧く…!」

 

「アアアアア!」

 

「どうした?まだ遅いぞ?早くこの首を取って見せろ。」

 

その余裕が私をイラつかせる…!高みから見下ろすその態度がただ、気に入らない…!



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら33

妖力解放による限界を超える恐怖すら忘れ、私はテレサに剣を振り続けた…そして…

 

「…おめでとう、お前の勝ちだ。」

 

気が付くと私はテレサに馬乗りになり大剣を振り上げていた…

 

「…何が起きた…?何故私は…」

 

「…何だ覚えてないのか?締まらない奴だな…結論から言えばお前は私の読みを上回ったんだ…無意識に妖力解放を使いこなしたお前のスピードを追えなくなり、予想外の攻撃を受けた私は一瞬集中が乱れた…そこを引き倒された…」

 

「…どうしてだ?もし、お前が妖力解放をしていたら死んでいたのは私だった筈だ…」

 

「…私はお前に戦い方を教えに来ただけだ…それに私は途中から本気だった…普段私は基本的に妖力を解放しないからな…つまり間違いなくお前は本気の私に勝てた…という事だよ。」

 

「……」

 

「…さあこの首を取れ。それで終わりだ。」

 

私はテレサの首に大剣を当てがい、振り上げ…

 

「やらない。」

 

「…何?」

 

「私はお前を殺さない。」

 

剣を下ろした…。私にこいつは殺せない…何故なら…

 

「…思い出したんだ…私がクレイモアになりたいと言った理由…私はお前に憧れた…お前になりたかったから…。」

 

そうだ…それが私がこの力を望んだ理由…

 

「…本当に締まらない奴だな…だがどちらにしろもう時間切れだ…」

 

「テレサ!?」

 

テレサの姿が薄れて行く…消えて行く…テレサが…!

 

「駄目だ消えるな!私はまだお前と!」

 

「…人の顔で情けない表情をするな。…お前だって分かってるだろ?そもそもこの出会い自体が奇跡の様な物…本来私たちは出会う事が無かったはずなんだ…」

 

「頼む…!待ってくれテレサ!」

 

「だから泣くな…テレサはお前だろ?」

 

「違う!私は…!」

 

「お前はテレサだ。他ならぬ私が認めてやるよ。」

 

「違う違う違…テレサ?」

 

私の頬に手を当てるテレサ…

 

「泣くのはそろそろ止めろ…もう私とお前は出会う事が無いんだぞ?最後くらいしっかりしろ。」

 

「…テレサ…」

 

「…クレアを頼むぞ?…仮にも私を騙るなら守り切って見せろ、身体も、心もな。」

 

「…分かった。」

 

「…じゃあな、そろそろ目を覚ます時間だ。行って来い、お前を待ってる奴がいるだろ?」

 

「…サーゼクス…」

 

「…羨ましいなお前は…」

 

「…えっ?」

 

「私にはついぞ、クレア以上に大事な物は何も見つからなかった…だから守りたいものがたくさんあるお前が少し羨ましい。」

 

「…私にそんな資格は…」

 

「…さっき言った筈だ。仮にも最強の私を騙るんだ…全部守り切れ。…出来ないとは言わせん。」

 

「…分かった、本当にありがとう、テレサ…。」

 

「…礼には及ばんさ、お前は私だからな。…さあ帰れ。」

 

私は彼女に背を向けて歩く。…私は本当に強くなれたのか…?…いや、もうそんな事は考えない。私は…テレサだ…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら34

目を開く…横目に魔力を手に込めるサーゼクスの姿が…

 

「…待て。この通りちゃんと帰って来た…。せっかく戻れたのに消されてはかなわんよ…。」

 

サーゼクスの手を掴む…全く気の早い…いや、それだけ私が長く意識を失っていたのか…。

 

「…君を消さずに済んで良かったよ…。」

 

魔力が霧散するのを見て手を離す…ふぅ…正直肝が冷えた…まさか起きて早々命の危機とは…

 

「…傷の具合は…聞くまでも無いかな?」

 

私は自分の身体を見る…横になった状態で視線を下にやっただけだが…見る限り…

 

「…見ての通り、だ。一応治っている…」

 

戻ってさえ来れれば傷も治る筈だが…改めて見ると安心するな…ホッとする序に腹が減って…!…成程。これが半覚醒の影響か…。…家に帰れば何か残ってるだろう…若しくは途中で何か買うか…そう考えながら立ち上が…!

 

「…さあ、帰ろう…今夜の事も詳しく聞きたいし、皆心配して…どうしたんだ、テレサ?」

 

「…てない…んだ…」

 

「ん?」

 

「立てないんだ…今ので体力を使い果たした…」

 

思ったより疲れるんだな…その前にあれだけの戦闘をすれば妥当とも言えるが…そもそも傷もクレイモアである事を差し引いても重症だったしな…

 

「…仕方無い…さっ、乗りたまえ…」

 

そう言って私に背を向ける形でしゃがみこむサーゼクス…?何の真似だ…?

 

「…何を…している…?」

 

「何っておんぶだが?」

 

「…お前な、仮にもレディを相手にするんだからそこはあれだろ、所謂お姫様抱っことかな…」

 

「…君からそんな言葉が聞けるとはね…どうしてもと言うなら君は私の家族だし吝かでは無いが…この辺りは私が先程結界を張ったから人はいないが結界を出ればまだそれなりに人がいるんだが…」

 

「……冗談に決まってるだろ…勘弁してくれ…」

 

揶揄うつもりで言ったのに私がダメージを受けているな…!…むっ…今まで羞恥などこの世界に来て余り感じた事が無かったはずなんだが…これもテレサと話して吹っ切れたからか…。

 

私はサーゼクスの背に掴まり首に手を回す。

 

「…では行こうか?」

 

「…家までエスコートを頼みますよ、サーゼクスお兄様?」

 

「…君の様に手のかかる妹はちょっとね…正直リアスだけで十分だよ…。」

 

「…何だ、お前が言ったんだろ?私は家族だと。」

 

「…そうなんだがね…まあ君がそう呼びたいなら…構わないが…」

 

「…遠慮しておく。しかし、リアスより手がかかるは聞き捨てならないんだが?」

 

「…強敵に勝手に一人で挑んで重症を負った挙句、暴走寸前まで行って、散々人を心配させた君がリアスより手がかからないって?」

 

「…悪かったよ…もう勘弁してくれ…。」

 

これからはいよいよサーゼクスに頭が上がら…いや、これからクレアや黒歌、更にはグレイフィアにも怒られるんだろうな…どう切り抜けるか…あくまでサーゼクスだからこの程度で済んでいるんだろうしな…気が重くなって来たぞ…

 

「…サーゼクス、私は半覚醒の影響で体質が変わった事で腹が減っているから何処か店に「クレアたちが食事を用意してるんじゃないかな?今夜は私たちも頂く予定だったし、多目に用意してると思うからもう少し我慢したらどうだい?」……」

 

逃げようが無いな…。仕方無い、腹を括ろう。…そうだ、どうせならとことん話をしよう…やっと色々吹っ切れたんだからな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら35

黒歌とグレイフィアからの説教はクレアからの「ご飯が冷めるよ…」と言う涙声で終わりを告げた…それでも一時間くらい私は正座していたんだが…と言うかサーゼクスもミリキャスを連れて来てるならそう言ってくれ…クレアは今更だが余りミリキャスにこういうみっともない姿を見せたくは無かったのだが…ちなみにクレアの機嫌はミリキャスに言われた「クレアお姉ちゃん、泣かないで…」と言う一言で直った。…食事の際、私も皆と食事を共に出来るようになったと伝えればクレアは更に笑顔になった…

 

……実は未だに強くなった実感が無いのだがこの笑顔を見れただけ半覚醒をした甲斐が…おい、お前ら!その生暖かい笑顔を止めろ!?お前らは私の親か!?…クレア、私は笑ってなどいない…そうとも、私は揶揄われて怒ってい…!お前もかクレア!?その笑顔は止めろ!?

 

…と言う一幕もあったが私の記憶には無いな、うん…友人に家族と同居人にも裏切られ、思わず見たミリキャスの表情は……もっと覚えてない…

 

 

 

「…さて、詳しい話を聞こうかな?」

 

「…構わないがミリキャスはどうするんだ?」

 

ミリキャスはクレアと遊んでいる内にクレア共々、寝てしまった…今は部屋に寝かせている…。

 

「無論、後で転移させるよ。…さあ話してもらおうかな?」

 

「…そんな凄味出さなくてもちゃんと話すさ…。…とは言えお前らにはある程度私の事や、私のいた世界の事情は話してるだろう?その上で聞きたい事があるならそちらから聞くといい…私の分かることなら全部答えるさ…。」

 

「…では、二人は君の戦闘を見てないから私が代表して聞こう…まず、彼女…オフィーリアとは何者かな?」

 

「…組織の序列ではNo.4に当たる戦士だよ。それしか分からん…奴も言っていた通り奴とは面識が無いからな…こちらが一方的に少し知ってるだけで。」

 

「…ふむ。実力者という事だね?…で、君の序列はそもそも知らないが…何故初対面で戦う事に?…彼女の言っていた手合わせ、は通らないよ?君は危うく殺される所だったんだからね?」

 

「……別に私が何かした訳じゃない…そもそも聞いた話だったんだが奴には面倒な特性があってな…」

 

「…面倒な特性?」

 

「…戦闘狂。それも自分が興味を持てば仲間はまだしも、人間にすら斬りかかりかねない狂人。…それが奴に関する私が聞いた評判だ…」

 

「…しかも彼女の場合、試合の結果として相手を殺してしまう、か。…友好的には絶対なれないタイプだね…。」

 

「……聞きたいのはそれで全部か?」

 

「…この際だ、君自身の事を聞いておこう。」

 

「…私の事は以前大体話しただろう?」

 

「まだ残っているよ?少なくとも私は君の序列を一度も聞いた事が無い。」

 

「……そうか…そうだな…」

 

…言ってしまうか…もう隠しておく理由も無い。

 

「……サーゼクス、私はお前に今まで隠していた事がある。」

 

「…それは私の質問と関係があるのかい?」

 

「…ある。…実は私には序列が無い…と言うか正式なクレイモアですら無い。私はクレイモアのいる世界が架空の物語として語られていた世界から登場人物の一人であるテレサの姿と力を得て今いるこの世界に転生した…元はただの一般人だ…。」

 

「…成程ね。君のいた世界はもしかしてこの世界にそっくりなのかい?…いや、君から聞いた話だとクレイモアのいる世界はどうもこちらで言う中世の時代背景を想像させたのだが、どうにも君はこちらの世界の常識を分かっている気がしていたのでね…」

 

「…その通りだサーゼクス。私のいた世界は時代背景が現代。つまりこことそう変わらない…最も向こうの事はあまりよく覚えてないが…ちなみにここの事も私の世界では創作物として扱われていた。」

 

「…では、君は未来が分かると?」

 

「…分からない…実はもう私の介入で話は一人歩きしている…。」

 

「…そうか…。」

 

そう言って私に近づくとサーゼクスは私を抱き締めた。

 

「…何を…して…いる…?」

 

「…辛かったんだろう?他人を演じるのが?そして自分が本当は弱い事を知られるのが?」

 

「…だから…何を…!」

 

横からも感触を感じる…黒歌にグレイフィア…

 

「…テレサ、気づいてにゃいのね…あんた、今泣いてるよ…」

 

「…泣いてる…私…が…?」

 

「…泣いても良いんですよテレサ?私たちは貴女の味方ですから…」

 

「…そう…か…ありがとう…」

 

テレサと会った時と良い、今日は私は泣いてばかりだ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら36

「…それで…今の君に聞くのは酷だとは思うが…身体はどうかね…あー…傷の話では無いよ…?」

 

「…そんなに気を使わなくて良い…正直に言えば良く分からない。」

 

「…分からない…?どういう事かな?」

 

「…半覚醒をした場合、まず特徴として今までには無かった飢餓感や基礎能力の向上がある…そして特筆すべき点は限界が分からなくなる事だ…。」

 

「…取り敢えず飢餓感について聞こうか?先程君は私たちと食事したが、特に普通の成人女性と食べる量は変わらなく見えたが…」

 

「…以前話したと思うが…クレイモアはそもそもほとんど食事を必要としない。数日間飲まず食わずでも戦闘を含む活動が出来る程だ…私は一応毎日食事はしていたが…ほとんどが液体で固形物はろくに量を取れなかった…」

 

「…成程。それが半覚醒をした事で空腹を覚える様になりまともな量を食べる様になった…これだけ聞くと寧ろ良い事の様に聞こえるね…クレアも喜んでいたし。」

 

「…実際はそんなに簡単な話じゃない…この飢餓感は本来、完全に覚醒した者が最初に抱く欲求だ…そして覚醒者の主食は…人間だ…転生も含む悪魔や他の種族も対象になるのかは知らないが…」

 

「…君は今…人を食べたいと思うかね?」

 

「…今の所普通の食事で問題は無い。飢餓感が続いてる訳でも無い。さっきので十分だ…寧ろ少し多いかもしれんな…」

 

「…そうか、なら安心だね「良いのか?私は今からでもお前らを食うかも知れないぞ?」何も黙って食われるつもりは無いのでね、そうだな…取り敢えず君が正気に戻るまで殴り付けるとしようか?」

 

「……指を鳴らすな…お前ら二人も身構えるな…冗談だ…。」

 

「…では、次に行こう…基礎能力の向上は取り敢えず置いておくとして…限界が分からないと言うのはどういう事かな?」

 

「…そのままだ。何処まで妖力解放すれば覚醒するのか分からなくなる…」

 

「……それは元に戻れるのかい?」

 

「…戻った例もある…だが、私は次に覚醒したら多分戻れない…」

 

「…先程、私は君の妖力の調整をしたが…君の意思はもちろん、私でも完全には引っ張れなかった様だったしね…成程。現状クレイモアの味方がいない以上君は戻れないか…そう言えばあの時は何故か急に妖力が安定したんだが…何をしたんだい?」

 

「…私は何もしていない…テレサが助けてくれたんだ…」

 

「…それは本物の…と言う意味かな?」

 

「…ああ。あれは恐らくテレサ本人だ…組織の序列はNo.1。それも歴代最強のNo.1…二つ名は微笑。…奴には固有の技が確認出来ず、その代わり微笑を浮かべてる様に見えたから付いた二つ名だ…」

 

「…彼女は私に大き過ぎるこの名とクレアの事を託して消えた…彼女はもういないんだ…。」

 

「…そうか…ん?何故そこにクレアが出て来るんだ…?」

 

「…テレサ本人も少女を拾ったんだ。名はクレア、彼女を守るためにテレサは掟を破り人間を殺した。そして粛清の場で戦士を殺さず無力化し、組織を抜けた…」

 

「…それからどうなったのかな?」

 

「…その後追っ手が差し向けられ、実力的にはテレサの方が遥かに上だったが、その中の一人が覚醒し、油断した所を首を刎ねられ死んだ…」

 

「…君はそうならない事を祈りたいね。」

 

「…クレアのためなら私は殺すだろうな…人間も悪魔も関係無く…正直に言えば私はテレサと…テレサが死んだ後、テレサの後を追うように戦士になったクレアにも憧れていたんだ…だからだろうな…最初はそれだけでそっくりな彼女を拾ったんだ…名前も同じとは思わなかったが…だが、今は彼女を家族として見ている…彼女のためなら全てを投げ出したって惜しくは無い。」

 

「…君とは敵対したくないな…上に立つ者としても、個人的にも…だからこれからも宜しく頼むよ。私は君と当分良好な関係でいたい。」

 

「…もちろん私も味方ですよ。…だからこの場で誓いましょう、私は一度だけ悪魔陣営としてでは無く貴女の求めに応じて個人的に貴女とクレアの味方をします。」

 

「…私もあんたとクレアの味方にゃ…でも、ごめん…白音の方が優先順位は上だにゃ…。」

 

「…私は何時向こう側に堕ちても可笑しくない身だ…だから何かあったら私を見限ってクレアを守って欲しい…。」

 

「…君らしいね…分かったよ…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら37

「そう言えばまだ礼を言ってなかったね、ありがとう…君があの時私を突き飛ばしてくれなかったら私は今どうなってたか…」

 

一通り私の話が終わった後サーゼクスがそんな事を言って来た…

 

「…礼は良い。そもそも最初に助けられたのは私だからな…」

 

それにお前なら多分どうにか出来ただろうという言葉は飲み込む。

 

「…そうかい?…君がそう言うならそれで良いか…君の場合ここで何らかのお礼を用意しても受け取らないしね。」

 

「当たり前だろう?普段から色々して貰ってるのにこれ以上貰えんよ…。」

 

「…そう言うと思ったよ…ああ、そうそう…今日は憎まれ役ご苦労さま。」

 

「…何の事だ?」

 

「…リアスから聞いてるよ、彼女たちに少々キツイ事を言ったそうだね…あー…怒ってるわけじゃないんだ…リアスの事は私も不安視してたからね…」

 

「…止してくれ…あいつの言った通り理由の大半は所詮は八つ当たりだ…それに偉そうな事を言った割に私も未熟である事を今夜の事で痛感した…大体、あいつらはあいつらなりに努力してるんだ…私程度が言って良い事では無かった…」

 

「…そう卑下しなくて良い…今夜は相手が悪かったし、リアスが甘かったのは確かだ…私から言おうとも思ったんだが、私はどうも彼女に甘くなりそうでね…」

 

「…本来はそれで良い筈なんだがな…私の知る限りこの世界のはぐれ悪魔は強過ぎる…確かもう少し弱かった筈だ…」

 

「…君が来た事が原因とは考えにくい…他の誰かの手がかかっている可能性を考えた方が良いね…」

 

「…今のままだとあいつらは死ぬ。…私としても死なれるのは寝覚めが悪い…クレアも間違いなく悲しむしな…」

 

クレアはあいつらに懐いているからな…

 

「…私もこれからの事に警戒しておこう…リアスたちは…自分たちで奮起してもらうしかないね…私もそこまでは今は手は回らない…」

 

「…もしかしてもう、三勢力の協定の話が出てたりするか?」

 

「…ああ。今は何処も戦争を続けられる余力は無いからね…だが、最近は君も知っての通りどうも堕天使勢力がきな臭い…特に総督のアザゼルは最近神器持ちを集めたり…力を蓄えて何を考えているのか…」

 

「…それは渦の団と言うテロリスト集団への警戒の為だ。」

 

「…それは君の知る知識かい?」

 

「…それもあるがアザゼルから聞いてもいる…私は立場上フリーだし、万が一の為に警告も兼ねて伝えられていた…オフレコで、とは言われてるが…オフィーリアが単独か分からない以上お前にも伝えて置いた方が良いだろう。」

 

「…彼女が所属しているとなると厄介な事になりそうだね…ちなみに他の構成メンバーを聞いても?」

 

「……私も正直うろ覚えだし、メンバーが変わっている可能性のある以上余り意味は無いだろう…ただ、私の記憶ではその停戦協定の場が襲われていた…」

 

「成程。協定そのものはもう少し先だし、先に知っておけばある程度対処が出来るね…アザゼルとは情報の擦り合わせをしておくよ…君の正体については取り敢えず黙っておいた方が良いかな?」

 

「そうしてくれ…万が一目をつけられたら面倒だ。」

 

「…分かった。今夜聞いた事は私たちの胸の内に置いておこう…では、そろそろお暇するよ…行こうか、グレイフィア?」

 

「…分かりました。今準備しますね?」

 

「ミリキャスを連れて来る…」

 

部屋に入って行くサーゼクス…ん?何故ミリキャスを連れて来ずにドアを閉める?

 

「…テレサ、二人がお互いにしがみついて寝ている…」

 

「…ふむ、なら良い。明日はちょうど学校も休みだ。ミリキャスはこっちで預かろう。」

 

「…すまないね…。」

 

「気にするな。お前には返し切れない恩があるからな…」

 

「…では今夜はこれで失礼するよ…」

 

「テレサ、あんまり無茶をしてはいけませんよ?」

 

「…肝に銘じよう…今回はさすがに懲りた…」

 

「「「……」」」

 

私にジト目を向ける三人…酷くないか?

 

「…ではこれで…テレサ、今度は何も無い時にゆっくり話そう…」

 

「…ああ。」

 

魔法陣が起動しサーゼクスとグレイフィアが部屋から消えた。

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら38

オカルト研究部…そこのドアに手をかけると私は一気に開く…

 

「…テレサ!?」

 

リアスが大声で私の名前を呼び、他の面子は…固まってるな…

 

「…何だ?歓迎してくれないのか?」

 

「!いえ!どうぞ!?」

 

姫島朱乃の案内で空いた椅子に腰掛け…

 

「…座るか、小猫?」

 

私を見ながらソワソワしていた塔城小猫に声をかける

 

「!はい!」

 

そう言って私の元に走って来ると私の膝の上に座る…何と言うか…案外落ち着くものだな…

 

「…あっ、あの…テレサさん?」

 

「…ん?何だ?」

 

「…何で…私の頭を撫でてるんですか?」

 

「…おっと、悪い…」

 

背丈もクレアとそう変わらないし、ちょうどいい位置にあったから無意識にやっていた様だ…私は慌てて手を引っ込め…

 

「…どうした?」

 

引っ込めようとした手を塔城小猫が掴んでいる…もしや…

 

「…撫でて欲しいのか?」

 

「……はい…」

 

消え入りそうな声だったが私には聞こえた…私は塔城小猫の頭に手を乗せると今度は意識して優しく撫でる…

 

「…ふあ…」

 

……ただ撫でてるだけでどうしてそうも満ち足りた顔してるのか…悪くは無いが…

 

「…紅茶です…!…あの…テレサさん…」

 

「ん?」

 

「…私も撫でて欲しいです…」

 

「…構わないぞ?隣に座れ。」

 

「…はい!」

 

こっちはこっちで物凄い笑顔だな…。

 

 

 

一頻り撫で二人が蕩けきった所で…紅茶のカップに手をかける…何だ…また冷めてしまっているな…まあ良いか…私はカップに口を付ける……さて、本題に入るとしよう…

 

「…木場…」

 

「…え!?なっ、何ですか!?」

 

相変わらず孤立していた木場祐斗に声をかける…何故そんなに驚く…

 

「…先日は悪かったな…さすがにあれはやり過ぎだった…」

 

「え!?いっ、いや…!あれは僕が未熟だっただけですから…」

 

「…そうかもしれないが私はまだ実力差があるのは分かってたんだ…ならば、やはりあれは良くなかった…だから…すまなかった…」

 

私は座ったまま頭を下げる。…私は醜いな…こんな事で許してもらおうなど虫が良すぎる…

 

「いや!?頭を上げて下さい…!確かに荒っぽかったかも知れないですけど…僕としては無駄な時間ではありませんでした…僕は自分の未熟さを知れましたから…!」

 

「…そうか…なあ木場…」

 

「…何ですか?」

 

「…お前が強くなりたいのは…いや、何でもない…」

 

……私は何を言おうとした…?ずっと復讐の為だけに牙を研いできた木場祐斗に…第三者でしかなくこいつの本音を聞いた事も無い私が口出せる事など何も無い…。

 

「…お前らも悪かったな…言い過ぎた…お前らはお前らなりに信念を持っているのに私がそれを否定する権利は無いよな…」

 

周りを見渡したリアスが声をかけてくる…

 

「…良いのよテレサ。私たちも本当は分かっていたの。今のままじゃいけないって…でもそれぞれ皆言い訳つけて甘んじていたのよ…貴女のおかげで目が覚めたわ…実はね、次の週末からはオカルト研究部で合宿をしようと思っているの…実力はすぐには上がらないかも知れないけど…せめてチームでの戦い方は身に付けた方が良いと思って…イッセーも入ってきたしね…」

 

「…そう…か…」

 

原作より早いな…これも私の影響か…

 

「……ねぇ、テレサ…何かあったの?」

 

「…ちょっと色々あってな…」

 

「…何があったの?」

 

「…悪い…今は言えない…私の中でも実はまだ吹っ切れてないんだ…どうしても聞きたいならサーゼクスに聞くといい…」

 

オフィーリアがいつ襲って来るか分からない以上注意を促す為にこいつらに言う必要はあるが…今はまだ私の口から詳しい事は言えんな…どちらにしろ今のこいつらがオフィーリアに出会ってしまえば間違いなく抵抗する間も無く殺される。……なら下手に情報与えて首突っ込まれるより返って知らん方が良いのか…?最も私が教えなかった所でリアスがサーゼクスに聞けばわかってしまう話なのだがな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら39

『よぉ、災難だったな、テレサ…』

 

「…そうでも無い。本当に運が悪ければ私は死んでいた…」

 

『…みたいだな…お前が勝てない相手…となるとこっちも警戒しなきゃなんねぇな…』

 

「…偉そうに言うわけじゃないが…お前ら堕天使陣営の若手は誰も勝てないだろうな…」

 

最もその辺は悪魔陣営も一緒だが…こっちに関しては異質な奴が割といるようだから…どうかね…

 

『…だろうな…俺でも何処までやれるか…何せサーゼクスが不意をつかれる程だって言うじゃねぇか…』

 

「…クレイモアの戦闘方式はこの世界の人外と違い、基本特殊な能力は無いが妖力解放による身体能力強化に特化してる…近接戦が出来ないなら圧倒的に不利だ…余程強大な力をぶつけるなら話は変わってくるがな…」

 

そんな奴若手にそうはいない…それに中途半端に近接戦が出来たところで下手に突っ込めば視認する間もなく斬られる。…単なる脳筋タイプの筈なのに敵だとここまで厄介とはな…しかも何故か私は極微量だが魔力を有してる…仮にオフィーリアも魔力を持っていたら?ましてや私より魔術を使えるとしたら?…不安要素を挙げればキリがない…

 

『…本当に面倒な事になったもんだ…デカい仕事も控えてるってのによ…』

 

「…奴はそんな事は気にしない…渦の団に所属してなくても強い奴が集まる会合の場に確実に乱入して来ると私は思っている…」

 

『…まっ、来りゃ迎え撃つしかねぇけどな…』

 

「…いや、それは私がやる…」

 

クレイモアの相手なら肉体は同類である私がすべきだ…

 

『お前、一度は負けたんだろう?何か手はあんのか』

 

「……」

 

『……まさか無いのか…?』

 

「…なるようになるさ。」

 

最悪奴は刺し違えてでも私が殺す…それで良い…。…テレサとの約束を破る事になるが奴を野放しには出来ん…。

 

「…そう言えば悪かったな…勝手に渦の団の情報を流して…」

 

『ん?ああ…構わねぇよ?事情が事情だしな…それに俺もいずれ協定の前にサーゼクス個人には伝えるつもりだったしな…予定が少し早まっただけた。』

 

「…そうか…。」

 

原作では協定の場で話すんだがな…私の存在を通して二人は個人的に付き合う様になった(友人ではなくあくまでビジネスライクの付き合いの様だが…お互いに嫌ってはいないようだ)……私が例え、兵藤一誠を助けてなくても良く考えればこれはもう原作から乖離していたかもしれんな…

 

『まっ、こっちは今度そっち行くからよ…悪いと思ってんなら一晩付き合ってくれよ…ああ、別にそういう意味じゃねぇぜ?何ならクレアや例の猫又連れてきたっていいしな…』

 

「…お前欲に正直な堕天使だろう?本当に食事だけで良いのか?」

 

『美人や美少女を眺めるだけなのも乙なもんさ。』

 

「……今度、な。」

 

……何だかんだこいつはあまり嘘をつかん。今回は信用しても良いだろう…

 

『…ん?…わぁーった!わぁーった!今戻るって!…悪ぃシェムハザがうるせぇから切るな?』

 

「…ああ、じゃあな…」

 

……今度シェムハザに胃薬でも送ってやるか…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら40

『…で、要はそのアーシア・アルジェントって奴が駒王町に行くようにすりゃ良いのか?』

 

「ああ。」

 

…このまま原作の流れに行くとリアスたちは戦力不足に陥る可能性が高い…そう踏んだ私は多少リスクを侵してもいっそ無理にでもアーシアを引き込んだ方が良いと踏んだ。

 

『…今更お前の情報の出処を気にするつもりは無いけどよ…どういう風の吹き回しだ?』

 

「…何がだ?」

 

『確かにそいつの処遇がお前の言う通りなら俺でさえ思う所はある…だが…お前それで無償で人助けする様なお人好しじゃねぇだろ?』

 

「…打算だよ。このまま駒王町管理者側の戦力不足が目立つと私も困るんでね…回復役がいれば修行も捗るだろう?」

 

『…成程。だがアーシアは悪魔になるかは分かんねぇぞ?…そもそも俺たち側にいるかどうかもはっきりしねぇんだろ?』

 

「…そっちにいたらで良いさ。…別に悪魔にならなくても私が引き取る。」

 

とは言うものの原作と同じ様な扱いをアーシアが受けたなら堕天使側にいる可能性は高いだろう…

 

『まあお前が良いならそれでいいがな…個人的にはその極上の神器、俺がじっくり研究してぇとこだが…』

 

「……手を出すなよ?」

 

『……安心しな。お前を敵に回してまでやる気はねぇよ。』

 

「…どうせ和平条約の際、駒王町に来るんだろう?渦の団への警戒を理由に駒王町に居着けば良いんじゃないか?」

 

『…おっ!その手があったか!それならお前にも何時でも会えるしな!』

 

「…仕事中じゃなきゃ構わないぞ?クレアもお前を気に入ってるようだしな。」

 

私はどうしてこう面倒な奴に好かれるんだろうな?

 

『良し!そうと決まりゃ何時でもシェムハザに仕事を押し付けられる様にしとかねぇとな!』

 

…すまんシェムハザ…強く生きてくれ…

 

『じゃあな。また何かあったら連絡してくれ…アーシアの件は了解した…こっちで探しとく。』

 

「ああ。頼んだぞ…」

 

電話を切る…

 

「…ねぇ、あんたの言ってるアーシアって子…」

 

「ん?…ああ、私の知る限り本来ならもうリアスの眷属になってる筈なんだが私の介入で予定が狂ってしまってな…と、悪かったな…勝手に引き取るなんて言ってしまって…」

 

「今更だにゃ。あんた何時も私に黙って決めるじゃにゃい…私は居候だしそんな事で一々文句言わにゃいにゃ…」

 

「…すまんな。」

 

「そもそも私じゃにゃくてまずクレアに先に相談するのが筋にゃ…」

 

「まだ決定事項じゃないからな…」

 

「…にゃら…私もこの場では何も聞かなかった事にしておくにゃ。」

 

……私の周りは大半が変わり者だが…皆お人好しばかりで本当に助かるよ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら41

私はアーシアに接触するに辺り一つ失念していた事があった…原作で兵藤一誠と普通に会話出来てた印象が強かった為、私が接触しても問題無いだろうと思っていたのだ…

 

「ありがとうございます!本当に助かりました!…誰に話しかけても通じなくて困ってたんです…」

 

「…そっ、そうか…」

 

……そう、アーシアが日本人では無い事を忘れていたのだ…兵藤一誠がアーシアと問題無く会話出来たのは悪魔に転生していた事が原因だった…

 

…原作通り道に迷い途方に暮れていたアーシアを見つけた時、最初私は放っておくつもりだったのだが…既に原作とは展開が変わってしまった今、無事に兵藤一誠と接触出来るか分からなかった為、仕方無く私から話しかけたのだが…そこで日本語で声をかけた際のアーシアの困惑顔を見て私はやらかした事に気付いた…

 

……幸い前世の私は語学が堪能だったらしい…その後のアーシアの言葉は普通に分かり私からも違和感はあまり感じる事無く話しかける事が出来たが…これからはもっと気をつけなければ…

 

「…でも驚きました…てっきり駒王町界隈の教会に赴任したと思っていたのにこの住所がテレサさんの家だなんて…」

 

「…お前のいる堕天使勢のトップとは訳あって昔から懇意にしててな…」

 

アザゼルめ、確かに場合によっては引き取るなんて事を言ったが…何故最初から行き先が私の所なんだ…!…いや、これは寧ろ感謝しなければならんか…原作通りならこの後間違い無く面倒事に巻き込まれていたからな…とは言え認めるのは癪だ。私も食事が出来るようになった事だし、次に奴に会った時には思いっきり高い店を奢らせるとしよう…!

 

「……聞かないんですか?」

 

「…ん?何がだ?」

 

アーシアから話しかけられ思考の海から戻って来る。

 

「…その、どうして人間の私が堕天使の所にいるのかって…」

 

……アザゼルの奴…私の事を話してないのか?

 

「…私からは聞かんよ。色々あったのは想像出来るがな…話したくなったら何時でも話せば良い。」

 

…そもそも私は原作知識があるから知ってるしな…それに情報屋に調べさせれば多分出て来るだろう…奴の情報の出処こそ私は知りたいが…

 

「……どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」

 

……こいつは本当にアーシア・アルジェントなのか?原作であった一見儚げだが芯は強かった鮮烈な印象が全く見受けられないが…いや、そもそも今まで良くしてくれた人間が突然手の平を返して迫害を始めたんだ…普通はこの位人間不信に陥っていても可笑しくないか…

 

「…短い間かもしれないが家族になる…それが理由じゃいけないか?」

 

「…家族…」

 

……吐き気がする…私はアーシアを利用しようとしてるだけだ…こんな事を宣う資格は無い筈だ…!…いや、こんな事を考えるべきでは無い…言った以上は本当にしなければな…私はテレサなのだから…

 

「…そう、家族だ…だから気にするな…大丈夫だ。私の家には他にも二人住んでて一人はお前と言葉は通じないが、きっと二人共お前を歓迎してくれる…」

 

……黒歌は反対しなかったし、クレアは家族が増えるかもしれないと言ったら大喜びしていたからな…やはり寂しいのか…はぐれ悪魔の討伐も今は出来ないし、どうせならもう少し一緒にいるようにしようか…黒歌も何時までもいるとは限らんからな…

 

「…私は…魔女と呼ばれました…今まで私を聖女と呼んでくれた人たちから…私は聖女になんてなりたいわけじゃなかった…ただ皆に笑っていて欲しかっただけ…!」

 

「…そうか。」

 

……敵わんな。兵藤一誠はどうやってこれだけの負の感情を浄化したんだろうな…素行は最悪の一言に過ぎるが…やはり良く言われる主人公補正とは違う何かがあるのか…

 

「…私は生きていても良いんですか…?」

 

「…私はあまり笑えないが…二人は笑ってくれるだろうさ。ただ、お前が生きているというその事実だけでな…」

 

私に泣きながら抱き着いてきたアーシアを受け止める…あまりこういうのは得意じゃないんだがな…クレアや塔城小猫よりは大きい少女の頭を撫でながら私は必死に知り合いが通らない事を神が存在しない事を知りつつも必死に祈っていた…

 

 

 

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら42

原作に介入する…その意味は分かってたつもりだった…そうだ…この状況は予想出来た筈だ…!

 

「あぎゃぎゃ…あんたみたいな化け物が家族ごっこ?俺っち笑いが止まらないよ。腹が捩れそうだ…どうしてくれる?」

 

「…フリード・セルゼン…!」

 

私は今、半壊したアパートの傍らに転がるクレアと黒歌に剣を向けるフリード・セルゼンと対峙していた…

 

アーシアを連れ家に戻って来て飛び込んで来たこの光景に一瞬惚けそうになるのを何とか持ち直し、妖力解放し割り込むと二人に振り下ろされるフリードの剣を掴む。

 

「あらら…何何、俺っちの事ご存知?」

 

「悪名高きはぐれエクソシストだろう?確か殺人に快楽を見出して神の陣営を追放されたと聞いたが?」

 

「…わーお。俺っちも有名人か。特にあんたみたいな化け物に知られてるとは最っ高!」

 

フリードが剣に力を込める…これが本当に人間の力か!?妖力は今は抑えているとはいえ、素の私の身体能力に追い付くとは…!

 

「…なかなかの力だな…!歪んでいるとはいえそれも信仰とやらか?」

 

「あぎゃぎゃ。…信仰?何それ美味しいの?」

 

必死で取り繕うが…多分隠し切れて無いだろう…人間とはいえ奴は一応プロだ…!私に余裕が無いのは分かっている筈…!

 

「…何それ?遊んでんの?本気でやってよ…そいつら殺しちゃうよ?」

 

…駄目だ。今こいつを殺すのは不味い。この場では人目に着きすぎる…!

 

「…良いのか?そんな事をしたら間違い無くお前が死ぬが?」

 

「あぎゃぎゃ。そんな事言っちゃって…あんたこの場では本気出さないつもりでしょ?…化け物の癖に人間の振りしちゃってさぁ。」

 

「その私と渡り合うお前も十分に化け物だろうが…!」

 

ふざけた奴め!…くそっ…アザゼル…アーシアは最悪引き取るつもりだったとはいえこのおまけは聞いてないぞ…!?

 

「止めてくださいフリードさん!何でこんな事をするんですか!?」

 

先程から呆然としていたアーシアがこっちに…!

 

「駄目だ!来るなアーシア!」

 

「あぎゃ!余所見はいけないよ?」

 

「なっ!?」

 

一瞬気が緩んだ所で頭にハイキックを喰らい…吹っ飛ぶ…原作で薬物で身体能力を上げてるのは知ってたが私にダメージを与える程なのか!?

 

「…いってー!ちょ!?おたくどんだけ化け物なの?俺っちの足がやばいんだけど!?」

 

最も奴も無事では無さそうだがな…足が在らぬ方向に曲がっているのが分かる。

 

「フリードさん!」

 

アーシアが仰向けに倒れ込み足を押さえながらのたうち回るフリードの治癒を始める…成程。これが神器「聖母の微笑み」の力か…数分で奴の足は元通りとなった。

 

「…ふぅ。ありがとう、アーシアちゃん「お礼なんて良いです!それより何でこんな事を!?」何言ってんのアーシアちゃん?これは俺っちのお仕事よ?」

 

「…え?」

 

「駄目だアーシア!聞くな!」

 

いずれは言うつもりだったが今言われるのは不味い!フリードの所へ向かおうとしたが足元が覚束無い…!視界も揺れている…!脳を揺らされたのか…!?

 

「そこに転がってる女いるでしょ?それ悪魔よ、悪魔。」

 

「…えっ!?」

 

「チッ!」

 

……これで私が何を言ってももう無駄になった…!こうなれば決めるのはアーシアだ…!

 

「でっ、でもこの人はこんな目に遭わされるほど「アーシアちゃん?悪魔は悪い奴でしょ?狩らなきゃ駄目でしょ?」…なっ、ならそこにいる子は…その子も悪魔なんですか!?」

 

「違うよー?その子はただの人間「なら、何で!?」悪魔と一緒に家族ごっこなんてしてたんだよ?殺されて当然っしょ。」

 

「そんな…。」

 

「…あー…何か凹んでる所悪いんだけどさぁアーシアちゃん?」

 

「…え?」

 

「…そこにいる女も人間じゃないよ?」

 

「…えっ!?」

 

アーシアが私の方を見て来る。

 

「じゃっ、じゃあテレサさんも悪魔「あー違う違う。それねぇ、何か詳しくは知らないけど下級悪魔よりずっとやばい化け物」…えっ!?」

 

「……」

 

…知られてしまったか。これによりアーシアの私に対する印象が変わろうとも私は気にしないが…この場で不安定なアーシアに不信感を抱かれるのは不味いな…

 

「…それでも良いです。」

 

「…んあ?」

 

「テレサさんは私を家族だって言ってくれました!私はテレサさんを信じます!フリードさん!もうこんな事は止め…あぐっ!」

 

アーシアがフリードに殴り飛ばされ地面に転がる…そしてフリードが剣を振り上げるのを見た瞬間、私は地を蹴った…!

 

「あっそ…もういいやー…サイナラアーシアちゃ…ぶごっ!」

 

視界に入るクズの横っ面を殴り飛ばす…間違い無く骨まで行ったな…だがどうでもいい…私はこいつを今この場で殺すと決めた…!

 

「いってー!?マジで痛てぇ!?」

 

起き上がるクズ…まるでゴキブリだな…!だが、その方が良い。

 

「…覚悟は出来てるなエクソシスト?…お前は私の家族に手を出した…安心しろ、本気は出さない…わざと力を抑えて…嬲り殺しにしてやるよ…!」

 

こいつを消し飛ばすのは多分簡単だが…それでは私の気が済まない…!



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら43

「怖い怖い…少々怒らせすぎましたねぇ…では俺はこれで失礼しますよ?…まだ死ぬわけに行かないんで、ね!」

 

「…!しまった!?」

 

奴の武器は剣と銃…今まで剣しか出してないから忘れていた…!…私では無くクレアたちに向けて放たれた銃弾を追って走る…追いつくでは無い…追い抜く!

 

「ぐっ!?」

 

ギリギリで追い付き銃弾を受ける…確か中身は祓魔弾だったか!?私に特に影響は無いだろうが…さすがに普通に痛いな…!

 

「…フリード!…何処だ!?」

 

姿は見えない…!完全に逃がした…!

 

「…仕方無い…とにかくこの場を離れなければ「テレサ!」リアス!?何故ここに!?」

 

「話は後よ。取り敢えず部室に貴女たちを転移させ「駄目だ!そこにいるクレアとアーシアは人間だ!私と黒歌は転移出来るが二人は出来ない!」大丈夫。もうお兄様が動いてるわ。二人の事は任せましょう。」

 

「しかし…!」

 

黒歌が転移すれば塔城小猫に正体が…!

 

「今は一刻を争う事態よ!彼女は人間の病院じゃ治療出来ない!…それに、何時かはバレる事よ…。」

 

「…そうだな…分かった。」

 

間違い無く私は黒歌に恨まれるな…

 

「ほら!早く!」

 

黒歌を背負いリアスの示す魔法陣に向かった。

 

 

 

オカルト研究部の部室に着いてすぐ塔城小猫に反応があったが黒歌の怪我を見て状況を察したのか彼女は何も言わなかった…。これは私が説明しなければならないんだろうな…

 

 

 

「…テレサ、何があったの?」

 

「…サーゼクスたちが来るんだろう?悪いが連中が来てからでいいか?」

 

「…分かった…ちゃんと話してくれるのよね?」

 

「…ああ。お前たちも巻き込んでしまったからな…」

 

 

 

「…テレサ、君がトラブルを引き寄せる体質なのはもう嫌になるくらい理解してる…だけどね、今回の事はまず相談して欲しかった…」

 

「…すまんな…」

 

「…アザゼルから聞いたよ…君が会ったのははぐれエクソシストのフリード・セルゼンだね?」

 

「…ああ…」

 

「…悪魔とそれに関わった人間も殺し、且つその殺害に快楽を覚える異常者との事だが…」

 

「…ああ。合っている…」

 

「…君の知識では先程のアーシア・アルジェントがこちらに来る際、奴はいたのかね?」

 

「…いた。」

 

「では君は奴と遭遇する可能性があったのに一人で動こうとしたわけかい?」

 

「…事態は私の手を離れた…リアスたちが弱いと後々私が困るからな…そもそも奴が出てきたくらいでお前が出張る事も無かった…」

 

「そりゃ駆けつけるさ。クレアは普通の人間だからね?」

 

「…すまん…」

 

忘れていたのだ…私が動く事で家族が…親しい者が…巻き込まれるリスクを…何が守り切る、だ…これでは…!

 

「…ねぇテレサ?」

 

「…何だ?」

 

「…私は、いえ…私たちは頼りない?」

 

先程私の正体を聞いたリアスから投げられる問い…前にも聞いた気がするな…

 

「…いや、そんな事ないさ。私はお前たちに助けられている…確かにまだ戦いの上では実力不足かも知れないが…」

 

「なら…もう少し私たちを頼ってくれても良いんじゃない…?それとも貴女はまだ私たちを物語の登場人物だと思ってる?」

 

「…当初はそう思っていた…でも今は違う。お前たちは確かにこの世界で生きていて…私もこの世界で生きている…本当にすまなかった…次はちゃんと相談する…」

 

「…あまり次が無い事を願いたいね…君は無茶をし過ぎる…」

 

「…分かっているさ…」

 

私はやはりお前のようにはなれないな…テレサ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら44

「ゴタゴタして聞きそびれていたが…君は怪我は無かったかね?」

 

「…足に祓魔弾を食らったくらいだよ…私には影響は無いし、もう弾も取り除いた…とっくに傷も塞がってる…」

 

……頭に蹴りを食らった事については特に語る必要は無い…せいぜい痣が出来る程度だしもうそれも消えた…最もあの蹴りを食らったのが仮に普通の人間であれば首と胴が泣き別れしていただろうが…

 

「…クレアたちはどうだった…?」

 

「…クレアとアーシアは軽傷だよ…クレアは身体のあちこちに傷が出来ていたそうだがそれ程酷くは無いし、傷自体も数日もあれば消えるそうだ…アーシアは君の証言通り殴られていたが…一応相手は加減をしたのか顔が多少腫れたくらいだ…こっちも跡は残らない…ちなみにかなり取り乱していたが今は落ち着いている…現在は別室にてグレイフィアを介して二人で話している事だろう…」

 

「…黒歌、は…」

 

声が震える…分かっているさ…本来なら聞くまでも無い…クレアの傷は見る暇が無かったが私は彼女の姿に関しては確認出来ていた…

 

「…重傷だ…恐らくクレアを庇ったんだろう…具体的な傷の詳細は省くが…万が一の事はあるかもしれない…もちろんこちらも手を尽くしているが助かるかは五分五分だそうだ…」

 

「…助かるさ。」

 

「…何故、そう言い切れるんだ?」

 

「あいつが…黒歌が妹を残して死ぬわけが無い…何だかんだせっかく再会出来たんだ…小猫ときちんと話をするまで死なないさ…」

 

……それは要は話し終えればそのまま黒歌は息絶えると言っているわけだ…

 

「…彼女を信頼しているんだね…」

 

「……長い付き合いだからな…」

 

違う。私がそう一方的に信じたいだけだ…でなければ私は罪悪感に押し潰される…!

 

「…アパートの…他の住人は…」

 

あの時間何人かの住人は部屋に残っていた筈…

 

「…軽傷が二名、重傷者四名…そして死者が二名…」

 

「…そう、か…」

 

それについて出てきた言葉は自分でも驚く程に感情は乗っていなかった…そうだ…私にはアパートの他の住人がどうなろうと本当はどうでもいいんだ…偶に会えば挨拶くらいはするが私はほとんど交流を持っていないからな…名前も知らない…最もクレアと黒歌はそれなりに付き合いのある住人はいたという…死者が二名、か…二人は悲しむんだろうな…私は少なくともクレアと黒歌がこの場では無事で良かったと思っている…あいつは死なない…私はそう信じ…て…

 

「…テレサ、本当は心配なのでしょう?黒歌の事が…ちゃんと助かるか不安で仕方無いんでしょう…?」

 

リアスの指摘に私は何故か慌てて反論していた。

 

「違う。私はあいつを信じている…それに私はクレアが無事なら…」

 

「でも…貴女とても辛そうな顔してるわ。」

 

「…行ってくるといい。詳しい事情はまた聞くとしよう。」

 

「良いのか?行っても私にはどうせ何も出来ないぞ?」

 

……まだ理由を付けて黒歌の元へ行くのを渋る自分がそこに居た…

 

「…こちらはもう手を尽くした。後は親しい者が声をかけて引き戻すしか無い。…今の状態ではとてもクレアや小猫君には会わせられないが君なら良いだろう…行ってあげると良い…」

 

「…そう、か…なら行って、くる…!」

 

そう言うと私は思わず駆け出していた…生きてくれ黒歌…!私はお前に伝えたいんだ…!お前が同居人でも、居候でも無くクレアと同じ家族だと…!だから死ぬな!



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら45

「あの…お兄様?本当にあれで良かったんですか…?」

「ん?何がだい?」

「その、だって…」

「リーア…私は別に嘘は言ってないよ?…黒歌が深手を負ったのも本当だし、生死の境をさまよったのも本当だよ?」

「…でも、黒歌はもう目を覚ましてますよね?あれだと今も意識は戻ってない、みたいに聞こえたんですけど…?」

「そう言ったからね…実を言うとこれはグレイフィアのアイディアでね…」

「…え?」


…黒歌のいるという部屋の前に立つ…どうする?ノックをしてみるか…?

 

「今更迷っても仕方無いな…」

 

私は取り敢えずドアを叩く…返事は無い。私は旧校舎特有の木造の引き戸を壊さないように気をつけながら軽く力を入れ引き開け…

 

「…思ったより抵抗が無いな…手入れはきちんとされてるのか…」

 

中に入り戸を閉める。…私は旧校舎内の清掃等に割り当てられておらず基本オカルト研究部に行くくらいしか来ないのでここの構造を知らない…どうやらここは元は保健室だった様だ…

 

「…黒歌…」

 

幾つかある内のベットの内、カーテンを閉められている方に声をかける…白い、な…今も使われる事があるのか…?私はカーテンに手をかけ、開く。

 

「……」

 

目的の人物はそこに横たわり眠っていた…思ったより穏やかな寝息を立てる彼女を見て…安心…ん?

 

「黒歌。」

 

「…!……」

 

今動いた気がしたが…私は近くにあった丸椅子を引き寄せ座るとベットから投げ出されている黒歌の手に触れ…!

 

「…黒歌…起きてるのか?」

 

「…バレたにゃ…」

 

そう言って目を開ける彼女を見て私は…

 

「…てっ、テレサ?何で泣いてるにゃ…?」

 

「…多分、安心したからだよ…お前が無事なのを見てな…」

 

「…そうにゃの…」

 

「…すまなかった…」

 

「…へっ?」

 

「私が迂闊な事をしたせいでお前にこんな怪我を負わせてしまった…謝って許して貰える「テレサ」…何だ?」

 

「クレアは無事だったの?」

 

「…ああ。お前のお陰でな。」

 

「…そう。にゃら…良かった…」

 

「…何言ってる。お前はこんなにボロボロじゃないか…なぁ黒歌…」

 

「…にゃに?」

 

「…私は今まで素直になれなかった…心の何処かで大切な物を持つ事を恐れていた…クレアだけでも守る…それが私に出来る限界だ…だからお前を何時も邪険に扱って来た。…私自身がお前を大事じゃないと思い込む事で有事の際は情を捨て、切り捨てられるように…そしてお前が私を嫌ってくれる事を期待していた…私ではお前を守り切れないから…」

 

「…それで?」

 

「…だがお前は結局私の手から離れなかったし、クレアの為かと思えば何時もお前は私にも世話を焼いた。…分からなかった…何故こんな私に優しく接してくれるのか…」

 

「…一度結びついた縁はそう簡単に切れにゃいにゃ。それに…あんたみたいな不器用な奴を私は良く知ってる…一人にしたら絶対に潰れる…そう思ったから…クレアの事以上にあんたが心配で離れられなかったにゃ…」

 

「…そうか…」

 

「でも正直に言うとね、何度も出て行こうって思ったにゃ…だけど…その度に昔の世捨て人の様なあんたの姿が過ぎったにゃ…」

 

「……」

 

「答えてテレサ…あんたに取って私は何…?」

 

「…家族だ…お前は…私の家族だ…私には…お前が必要だ…!」

 

「…そう、それを聞けて安心した…」

 

「…クレアも心配しているだろう…元気になったら一緒に帰ろう…新しい家族も紹介したい…」

 

「…うん…楽しみに待ってる…」

 

私は掴んでいた彼女の手を少し力を入れて握る…彼女からも握り返されるのを感じた…ああ…生きている…黒歌は…生きてる…!私の頬にまた水滴が伝うのを感じた…

 

「…ああ…ここは雨漏りが酷いな…」

 

「古い建物みたいだからそんな事もありそうだけど…少なくとも今は雨は降ってにゃいにゃ…」

 

「…お前から窓は見えないだろう?何で分か「私は猫にゃ」……」




「黒歌はね、ずっと不安だったんだそうだ…テレサに取って自分がどういう存在なのか分からないから…家を出たいと言う黒歌にグレイフィアは一つ提案をしていた…いっそそれならしばらくこっちに住んだらどうかと…いなくなればテレサにも貴女のありがたみが分かるでしょう…とね。…まあこの状況は不謹慎ではあるけどテレサの本心を確かめるにはチャンスだったからね…最初は渋っていたけど最後には黒歌も承諾したよ…」

「…そういう事だったんですか…」

「…ちなみにさっきの会話シーンもちろん録画住みだ。黒歌が元気になったら改めて渡す予定だ…実を言うと彼女が余談を許さない状況なのも事実だ…まあ彼女なら心配は要らないだろう…彼女をあそこまで駆り立てる物が小猫君なのか、クレアなのか、それともテレサなのかは分からないけどね…」

「……」

「…さあ、私はクレアとアーシアの様子を見て来るが君はどうする?」

「…小猫の様子を見て来ます…本人は顔に出さないようにしてましたけどあれはさすがにショックだったでしょうから…」


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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら46

「ところでテレサ?」

 

「ん?何だ…あ…」

 

黒歌が無言で私の腕を指差す…見てみればパーカーの袖が破けていた…

 

……この世界に初めて来た頃、私の着るものはクレイモアの装備一式しか無かった…クレイモアの甲冑は全身鎧ではなくパーツタイプで後は薄手の布で出来た服のみである…初期の頃私はこの身体のスペックを活かしきれずはぐれ悪魔の攻撃を何度も食らった…当然の事ながら金属部分以外の部分は妖魔より弱いと思われる下級悪魔の攻撃でも何れは破けて使えなくなる…最終的にはぐれ悪魔狩りで稼いだ金で服を買ったが、はぐれ悪魔の攻撃を受けなくなったところで私の無茶な動きに耐えられる筈もなく服は破ける…

 

「…直しておくにゃ…そこに置いていくにゃ。」

 

「…いや、黒歌…今はあまり無茶をしては「置いていくにゃ」…はい…」

 

……黒歌が来て、毎回の様に服を使い捨てにする(戦闘が無くても普通に用務員の仕事をしているだけで、時折力加減を間違えて破いてしまう…)私を見兼ねたのか今ではこうやって黒歌が服を縫ってくれるのが定番になった…ちなみに使えなくなったクレイモアの甲冑用の服を新しく作っているのも黒歌である…仙術で布の強度を上げているらしく私の動きにもある程度ついてくる…本当に黒歌には頭が上がらない…。

 

「…黒歌…」

 

「…にゃに?」

 

「…いつもありがとう…」

 

「…どういたしましてにゃ。」

 

やれやれ…もう私は彼女を手放せんよ…小猫に何て説明すれば良いんだろうな…?

 

 

 

黒歌のいる部屋を出る…心配だがここにいれば取り敢えず安全だろう…クレアたちの様子を見に行こうか…

 

 

 

…ドアの前に立つ…静かだな…私はノックをした。

 

「…どうぞ」

 

グレイフィアの返事があり私は中に入った。

 

「…テレサ…」

 

「…二人はどうしてる…?」

 

「…さっき漸く眠ったところですよ…大変でした…二人共黒歌の様子を見に行きたいと聞かなくて…」

 

「…そうか…」

 

同じ布団で眠る二人を見る…クレアは分かるが、アーシアもか…こいつなりに責任を感じてしまったのかも知れんな…

 

「…随分仲良くなったんだな…」

 

「…言葉が通じないのはこの二人に取って壁にはならなかった様ですよ…」

 

「…そうか…」

 

どうなるかと思ったが…不謹慎だが返って良かったのかも知れんな…

 

「…しばらくは貴女と黒歌がいれば問題無いし、クレアもアーシアも覚えが早い様ですから何れ通訳は必要無くなるでしょう…ところで…」

 

「…何だ?」

 

「…これからどうするつもりですか…?」

 

「…漠然とし過ぎて分からん…どうするとは?」

 

「…まず貴女たちは住むところが無くなりました…」

 

「……そうだな…。」

 

「…住む所はこちらで用意出来ます…でも、このまま駒王町に戻ればまた狙われるかもしれません…」

 

「……」

 

「…そこで提案です…冥界に来る気はありませんか…?」

 

確かにサーゼクスたちの目の届く所にいた方が安全か…だが…

 

「…私の一存では決めれんよ…転移出来れば学校も変わらなくて済むがクレアたちにはそれなりに苦労を強いることになるしな…」

 

「…では、四人で話し合って決めて置いてください…今日はこの後私たちの所に泊まると良いでしょう。」

 

「…分かった。…すまんな、世話になる…」

 

「…テレサ、遠慮は要りません。私たちは家族なんですから…」

 

「…ありがとう…」

 

私は頼ってばかりだな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら47

結局その日はそのまま旧校舎に泊まった…そして翌朝…

 

「…眠い…」

 

今朝は何やらやけに眠気が強い気がする…何時もと同じ時間に寝た筈なのだが…

 

「…きっと例の半覚醒とやらで睡眠サイクルが変わって来たのにゃ。これからは早く寝るにゃ。」

 

「…分かってる…」

 

「…あの、テレサ?」

 

「…ん…?…何だ…リアス…?」

 

一応大事をとってサーゼクスたちと同じく泊まってくれたリアスが声をかけて来る…何なんだ朝から…

 

「…貴女、朝が弱いのね…意外だわ…」

 

「…私は寧ろ日常生活は弱点だらけだよ…ある意味でお前らの方が優れているだろう…」

 

「…そう…」

 

そう言って私を見詰めるリアス…何だ…?…何か変か…?

 

「…多分リアスちゃんは私に髪を整えて貰ってるあんたを見て驚いてるにゃ。」

 

「…何か変か…?」

 

「…変って訳でもないけど、ね…さすがに前日大怪我した家族に身の回りの事して貰ってるのは問題だと思うわ…」

 

「…分かってはいるがどうも朝は駄目でな…本当に黒歌には頭が上がらないよ…」

 

そう言えば着替えもまだだったな…グレイフィアに私たちの無事な服をアパートに回収しに行ってもらってるが…何時戻って来るかね…?

 

 

 

「…テレサ、服を持って来ました…」

 

「…ああ…すまないな…」

 

私はグレイフィアから服を受け取る…

 

「…テレサ…貴女の服なんですが…」

 

「…何だ…?」

 

「…ジャージやパーカー位しか無かったんですが…」

 

「…何か問題あるか?」

 

「…お洒落に興味は無いん「無い」…即答ですか…」

 

「…こいつ元が良いのを良いことに化粧もほとんどしないからね…本当にもったいないにゃ…」

 

「…別に良いだろう…」

 

前世の記憶がほとんど無いし、今の私の性自認は確かに女だが…元は男性だったせいか、そこら辺は非常に面倒臭く感じる…

 

「今度私と服を買いに行きましょう?」

 

「面倒臭「行きましょう?」…分かったからその笑顔を止めてくれ…」

 

「…もちろん私も行くにゃ。」

 

「分かった分かった…降参だ…」

 

どうして女共はこういう事で団結するんだろうな…そうでなくても私の周りは本当にお節介な奴ばかり…まあ悪い気はしないが…

 

「…さて、黒歌の状態は安定してるようですしクレアたちを連れて来ますね?」

 

「…もう起きてるのか…?」

 

「ええ。リアス様に様子を見てもらってます…では失礼します…」

 

部屋に二人きりになる…気まずいな…さっきはまだ寝惚けていたから気にならなかったが…昨夜あんな事を言ったし…そもそも黒歌がこうなったのは私の…!

 

「…テレサ?」

 

「ん?」

 

「…あんたが気に病む必要は無いにゃ。クレアを庇ったのは私の意思だし、あんたは私たちをちゃんと守ってくれたにゃ。」

 

…私の家族は本当にお人好しだ…私の様な人でなしにはもったいない限りだよ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら48

あれから一週間が過ぎた…黒歌はまだベッドの上だが経過は良好らしい。黒歌がいなくなった代わりに、ではもちろん無いがアーシアは予定通り我が家族の一員となっている…言葉がまだはっきり分かるわけじゃ無いだろうがクレアのジェスチャーの意味は分かるらしく今朝も二人で朝食の用意をしていた(私か?私は皿を並べていた…料理下手では無い。どうせここのキッチンは狭いのだから二人が限度なのだ。…全く入れないわけじゃないし面倒なのも事実だが。)

 

「…ん?」

 

オカルト研究部のドアに手をかけようとすると何やら中が騒がしい…この時期に何かイベントはあっただろうかと朧気な記憶を探る…

 

「…成程。随分時間がズレたな…」

 

これも私のせいなのかね…私はドアを開けた

 

こちらに視線が集中するのを無視して奥に進む…さて…

 

「…何の騒ぎだ、リアス、グレイフィア?」

 

その場で一応当事者で顔見知りのリアスとグレイフィアに声をかける…リアスの手を掴む金髪ホスト風の男はガン無視する…

 

「ん?この女、悪魔じゃないだろう?何で部外者がここにいるんだ?」

 

「…止めてライザー…彼女は私のか…友人よ…」

 

私の事を家族と言おうとしていたリアスに少しだけ殺気を向けて止めさせる…悪いなリアス…それは一応迂闊に言えないんだ…

 

「だから部外者だろう?悪いけどこれは俺たちの問題だ…出て行けとまでは言わないけど黙ってて貰おうか?」

 

「…ふむ、一理はあるな…では私は席を外させて貰おう…」

 

そうして私は出て行こうと…

 

「ん?なぁ、ちょっと待ってくれよ。」

 

「……何だ?」

 

「あんた人間にしちゃ美人だね。俺の眷族になる気は無いか?」

 

人間だと思った割にこういう言い方をするという事は私が関係者ではあると思っているのか…

 

「その美貌、歳取ったら失ってしまうよ…悪魔になればその美しさを保つ事が「他を当たれ」…へぇ…」

 

金髪のホスト風の男…ライザー・フェニックスの雰囲気が変わる…どうも自分の誘いを無下にされたのが余程気に入らなかったらしい…

 

「人間如きが随分な口を「その口を閉じろ」…あん?」

 

強めの妖気を込めた殺気を送ってやる…ほとんどの種族はこれを感じ取れないがある程度の実力者なら力の強さは分かる筈た…

 

「…何なんだお前…!」

 

「若手悪魔風情が…つけ上がるなよ?」

 

下級の悪魔なら当の昔に失神するか、即死してるかもしれない力を浴びせてるのだがな…悪魔には妖気を感知出来ないから防御の術も無い…当初能力上げしか出来無いものと思っていたがこうゆう副次効果もあるのをはぐれ悪魔との戦いで知った。(とは言え本当に弱い奴は自然に出てる妖気でも勝手にビビるのを知ってただけで実際に任意で解放してやるのは今日が初めてだがな)こういう半端な実力で偉そうに振る舞うやつの鼻を折るには持って来いのやり方…

 

「…止めなさいテレサ…!」

 

殺気と妖気を収める…これは後で怒られるか?…参ったな…

 

「……じゃあな…」

 

私は三人に背を向け部室を出た…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら49

その晩、サーゼクスとグレイフィアが部屋にやって来た…(旧校舎の空き部屋を間借りしている…居住スペースが何故あるのか疑問だが)

 

「…貴女は自分が何をしたか分かってますか?」

 

「ああ分かってるさ…」

 

「じゃあ、何故挑発したんですか!?」

 

「…あいつが気に入らなかった。それだけだよ…」

 

「貴女…!分かってるの!?最悪戦争になってたかも知れないのよ!?」

 

あっ、敬語が取れた…これは本気で怒ってるな。

 

「…グレイフィア、その辺にしたまえ。」

 

「…申し訳ありません、サーゼクス様…」

 

……グレイフィアは私から見てもかなりの実力者だ。それをあっさり威圧して黙らせる辺りやっぱりこいつも魔王と言う事か…

 

「…さて、君の事だ、状況は分かってるんじゃないかな?」

 

「…あいつはライザー・フェニックス…リアスの許嫁だろう?最も政略結婚で二人の間に愛など無いが。」

 

「…話が早いね。ではこの後の事も分かってるかな?」

 

「レーティングゲームで婚姻が取り消されるか決まるんだろう?」

 

…どうせなら私もあいつらの特訓をしてやるかな…私もこれで無関係とは行かなそうだ…

 

「…ではこれは君でも分からないね…レーディングゲームをするに辺りフェニックス家から条件が一つ…君が出場する事だ。」

 

「……冗談だろう?私は悪魔じゃないし、もちろんリアスの眷族でもない。」

 

「…そうなると思って挑発したんじゃないのかい?」

 

「さっきも言った。あいつが気に入らなかっただけだと。」

 

「とにかくだ、君が出場すると言わなければこの話は流れる。」

 

「…そうか、良いぞ。」

 

そう言うと目を見開く二人がいた…何だ…

 

「…何故そんなに驚くんだ?」

 

「…そりゃあ驚くさ…どういう風の吹き回しだい?」

 

「忘れたか?そもそも私は多少戦闘狂の気があるからな…しなくて済むならその方が良いが、やれと言うなら否やは無い…私がまいた種だしな。」

 

「分かった…ではリアスたちに伝えておこう「一つ良いか?」ん?」

 

「どうせ明日から奴らは特訓だろう?私も同行させてもらおう。…私があいつらを鍛える。」

 

「…加減はしてくれよ?」

 

「……善処はするさ…」

 

木場の件で懲りてる…

 

「…では私たちはそろそろお暇「サーゼクスおじさん…アーシアお姉ちゃんとご飯作ったけど」そうなのか。では頂こうか、グレイフィア?」

 

「そうですね…」

 

……アーシアは余り騒ぐタイプじゃないし、しかも黒歌の事で自分を責めてるらしくあまり喋らない…クレアも気丈に振舞っているが元気は無い。……その晩の食卓は久しぶりに賑やかになった…

 

「…では、失礼するよ…後は明日、リーアに聞くといい…」

 

「ああ。」

 

泊まって行ったら…というクレアの言葉をやんわり断り(そもそも何処で寝るのか…?)サーゼクスとグレイフィアは帰って行った…

 

「…さて…ん?…やれやれ…」

 

後片付けが終わったのだろう…クレアとアーシアは二人でソファーの上で眠っていた…

 

「仕方無い…運んでやるか。」

 

私は二人を担ぐと部屋に運んで行った…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら50

私は転移魔法陣を使えるがクレアは使えない。

 

…クレアを放置する訳には行かない。黒歌はあの状態だしな…アーシアは元々この為に呼んだのだから置いていく選択肢は無い。もちろん協力するかは本人の自由とは言ってるがな…なので私たちはリアスたちの乗る冥界に行く電車に便乗させて貰った。(人間界の山中だと私が暴れられん…冥界なら良いという意味でも無いがまだマシだ…)…連中に気を遣わせないため一応別の車両に乗ったのだが…

 

「黒歌お姉ちゃん!?」

 

「久しぶりにゃクレア。…と言っても同じ建物にはいたんだけどにゃ…そっちはアーシアちゃん?初めましてにゃ。」

 

「はっ、初めまして…アーシアです…」

 

私たちの乗る車両に乗って来てクレアとアーシアに挨拶する黒歌に私は呆然としていた…何だこのサプライズは…

 

「にゃ?何ボーッとしてるにゃテレサ?早く座るにゃ?」

 

「…お前…動いて大丈夫なのか…?」

 

「…一応日常生活には復帰して良いと言われてるにゃ…あまり無理は出来にゃいけど…今回の目的はリアスちゃんたちとあんたの修行でしょ?…白音に仙術を教えられるのは私だけだから…」

 

「…大丈夫か?」

 

「…うん。どうせ何時かは話さないといけにゃいから…それに!これは家族四人で初めて旅行行くチャンスにゃ!私だけ仲間外れにゃんて嫌にゃ!」

 

「…冥界はお前の嫌いな悪魔の住処なんだが…」

 

「…サーゼクスを見てると分かるにゃ…悪魔でも悪い奴ばかりじゃにゃいって…」

 

…意思は変わらないのか…あ…

 

「お前指名手配されてなかったか?」

 

クレアとアーシアの事を考え黒歌に耳打ちする…

 

「大丈夫にゃ。仙術で姿を変えるし、にゃんにゃらしばらくは猫の姿でいるにゃ。」

 

成程な…そもそも黒歌がここにいるのはサーゼクスの取り計らいだろう…無闇に外出しなければ問題無いか…

 

「…あの…黒歌、さん?」

 

「ん?どうしたにゃ?」

 

「黒歌さんの怪我は私のせいですよね…?怒らないんですか…?」

 

「アーシアお姉ちゃん!それは違「クレア、ダメだ。」何で!?」

 

私はクレアを遮る。これは黒歌が決める事だ…

 

「…怒ってにゃんてにゃいにゃ。…アーシア、あんたはにゃにも悪くにゃんてにゃいにゃ。…強いて言うなら人にろくに相談もせず勝手に話を進めたそこの馬鹿と、部下の事も把握して無いどっかの堕天使のせいにゃ。」

 

…手厳しいな…ぐうの音も出ないが。…ちなみにアザゼルからはあの後ちゃんと謝罪の電話があり自身は出向けなかった様だが、代わりにフルーツの詰め合わせが見舞いの品として贈られてきた…量が多過ぎるのと、重いものを受け付けられないその時の黒歌一人では当然食い切れず結局大半が私たちの口に入った。

 

「おいおい…一応話しただろ?」

 

そう言うと向けられるジト目…何だ?

 

「忘れたにゃ?聞いたのはあんたがアザゼルに引き取る話をした時にゃ。…つまり事後承諾にゃ。」

 

「……」

 

私は顔を逸らした。

 

「だから気にしにゃくて良いにゃ。クレアも私もアーシアに怒ったりしてにゃいにゃ」

 

「…私は…貴女たちの家族で良いんですか…?」

 

「もちろんだ。少なくとも私は最初に会った時そう言ったろう?」

 

「うん!私もテレサに賛成!」

 

「私も歓迎するにゃ。アーシアは家族にゃ。」

 

泣きながら黒歌に抱き着きその背中を撫でられ、クレアに頭を撫でられるアーシアの泣き声を聞きながら、私はは目を閉じ眠り始めた…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら51

グレモリー家に着き、さて、いざ修行開始…と言っても私の出来る事は格上の相手に対してチームとしてどう動けるかを想定した実戦訓練しかない。

 

「木場!剣を壊されようが一々怯むな!何でもいいからとにかく出せ!兵藤!木場が前衛を務めている以上お前の今の役割は補助だ!私を撹乱するようにとにかく動き回れ!役割の交代を何時でも出来る様にしとけ!」

 

「「はい!」」

 

「っ!朱乃!隙を突くのは悪くないが今の密着した状態で雷を使えば二人にも当たるぞ!タイミングを考えろ!」

 

「分かりましたわ!」

 

「小猫!攻撃が遅すぎる!もっと早く動け!」

 

「はい…」

 

「リアス!迂闊に攻撃するな!お前の役割は司令塔!戦場を俯瞰して次手を導き出し、適切な指示を出せ!」

 

「分かったわ!」

 

先ずこいつらの動きは甘い…木場はまだ隙が多いし、実戦経験の無い兵藤の動きは論外…午後は走り込みさせるか。最も木場が器用なせいで連携は取れてる方だがな…朱乃は…時々木場たちを巻き込む勢いで雷を使って来るな…実戦ではそういう戦法もありだが模擬戦でやるのは意味が分からん…リアスはリーダーなのに一々攻撃を入れて来るのが問題だな…しかもまだコントロールが甘い。…しかし全体的に見ればチームとしては機能している…今日までにしていた修行の効果が出ているようだ…ただ、問題は…

 

「…小猫、黒歌の事を気にしているのか?」

 

「…!…分かるんですか…?」

 

小猫は明らかに動きが悪い。…生き別れの姉とようやく再会出来たと思えばそれが瀕死の重傷で今日まで会う事も出来なかったからと考えれば当然だが。

 

「…午後はお前の仙術の習得の為特別講師が着く。…取り敢えずそこで休んでろ。」

 

「…!私はまだやれます…!」

 

「そんな状態で何言ってる。今のお前は戦力外だ。良いから下がってろ。」

 

小猫を睨むつける…罪悪感は多少あるが今の小猫にこの訓練の意味は無い。

 

「…分かりました…」

 

そう言って私に背を向け離れて行く小猫…やれやれ…むっ?

 

「何を突っ立ってる!さっさとかかって来い!」

 

そう言うと一斉に戦闘態勢を整える四人…全く。仲間が気になるのは分かるが…

 

そして昼食…

 

「…テレサ、あんた料理出来にゃいって言ってにゃかった?」

 

「言ったぞ?お前たち程には出来ない、と。」

 

クレアは休憩中連中にスポーツドリンクやタオルを渡し、フォローに走っていたため疲労困憊。アーシアも怪我の手当てをしていて同上。黒歌に無理をさせるわけにも行かないし、私としては敢えてリアスたちとは別の場所で食事を取っているのにグレモリー家専属のメイドに迷惑はかけれないから久々に腕を振るった。

 

「……」

 

「後は面倒だから出来ないっていうのもあるな…すまん…」

 

そもそも私は対して食べなかったから自分で料理をする理由も無いからな…サボる口実にもなった…とか考えてたのがバレたのか黒歌の目がだんだん冷たくなって来たため私は思わずその場で頭を下げた…これからはちゃんと手伝うとしようかな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら52

午後は自主練という事になっている…チームとしての戦術だけ磨いても理論のみで身体が動かなければ何の意味も無いからな…私も念の為自分の鍛錬もしておきたい…一応時折私が様子を見に行く事にはなっている。…サボりそうなのは兵藤位だが他の奴は…特に木場が気になるな、根を詰め過ぎないと良いが…とはいえその前に一つ私は確認したい事があった。

 

 

 

「黒歌姉様!」

 

「ごめん…!ごめんね白音…!」

 

「……」

 

…クレアはあの日少しの間だけ会う事が出来たし、その後今日までまともに顔をも合わせられなかったがそもそも一緒にいた時間はかなり長いし、喪失期間は短い…アーシアはあの日は結局また寝てしまい、今日改めて会えて初めて会話をしたわけで接点は無い。……経過を見に行く名目で怪我人の黒歌に世話されていた(いや、私は本当にその目的で来てたんだが黒歌が勝手にやってただけだ…)私は論外だろう…

 

……今この場で黒歌の身内の中では一番情の深く、一番長い喪失感を味わった小猫が今ようやく姉に再会したわけだ…

 

……良かったな、黒歌…

 

これだけ離れていても黒歌には聞こえてしまうので声には出さなかった…泣きながら抱き合う二人を見ながら私は黒歌との出会いを思い起こしていた…

 

 

 

「テレサ!」

 

「どうしたんだ、クレア?…酷い怪我だな…動物病院はこの時間まだやってたかな?クレア連絡してみてくれ…そう慌てるな…急患が他にいたりしたら後回しにされかねないからな、確認はしといた方が良い…そこが一杯なら他を回れるからな。…後お前も着替えろ、ビショビショだ、風邪を引くぞ?」

 

「分かった!」

 

あの雨の日…ずぶ濡れになったクレアが怪我をして弱りきった黒猫を抱えて来た。

 

私はコートを羽織りつつ黒猫の方を見た…

 

…まさか…黒歌って事は無いよな?

 

ハイスクールDxDの話で黒猫と言えば黒歌を連想する。まさか私もこんなタイミングで原作キャラと関わるとは思ってなかったからその時は一瞬浮かんだ考えをすぐに打ち消した。

 

…幸い黒猫の怪我は一件目の動物病院で問題無く見てもらえ、手当ても無事済み、黒猫は私たちの部屋の一員となった…

 

…最初数日間は特に何事も起こらず、黒猫もクレアに良く懐いていた。……何故か私には一向に懐かなかったがな。

 

そんなある日の夜、黒猫は突如消えた。

 

取り乱すクレアを宥め、二手に別れ探す事にした。…クレアには悪いが私としては見つからなくても仕方無いとその時は思っていた…猫は気紛れだからな、そもそも飼い猫だった可能性もある…

 

夜になり、一度二人で部屋に戻り、黒猫を待っていたものの帰ってくる気配は無い…もう一回探すというクレアを留め私が一人で探しに行った…そして行った先で私ははぐれ悪魔と、それに襲われる黒歌の姿を見た。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら53

「あんた…にゃんで…!?」

 

黒歌に攻撃をしようとするはぐれ悪魔を横から殴りつける…大剣を持ってくれば良かったか…

 

「…私を知っている…という事はやはりあの黒猫か。」

 

「…あっ…」

 

「話は後で聞く…立てるか?」

 

「…うん。」

 

黒歌の手を掴み、立たせると怯んだはぐれ悪魔から逃げた。

 

 

 

「…騙しててごめん…」

 

辿り着いた公園のベンチに二人で座る…

 

「私は別に騙されたとは思っていない。あの黒猫の姿もお前なんだろう?」

 

最も私は原作知識で知ってただけだが。頷く黒歌に先を促した。

 

「私は猫又にゃ。知ってるにゃ?」

 

「定義としては猫が歳を経て変ずる妖怪だろう?」

 

「それで合ってるにゃ。私は猫又で仙術の素質が有ったにゃ、だから同じ才能を持つ妹と一緒に悪魔に狙われたにゃ。…私は妹を守るためにそいつの眷族になったにゃ…でもあいつは散々こき使った末に妹も眷族にしようとしたにゃ…だから私はあいつを殺したにゃ。」

 

「…はぐれ悪魔の黒歌、主を殺して逃亡中…懸賞金は破格。」

 

「…やっぱり知ってたのね…」

 

「お前がただの猫じゃない、とは薄々感づいていた…確信を持ったのはさっきだが。」

 

「あんた、フリーのハンターにゃのね…私を殺すの?」

 

「…お前が家を出たのは妹を探すためか?」

 

「…違うにゃ。私があそこにいたらクレアやあんたが狙われるにゃ。白音の事は気にはにゃるけど…」

 

「…私の強さはさっき見ただろう?家に戻る気は無いか?」

 

「…にゃんで?あんたはぐれ悪魔を狩るのが仕事なんでしょう?」

 

「…帰って来い。クレアが待ってる…クレアならお前を受け入れてくれる。」

 

その時の私にはそんなぶっきらぼうな事しか言えなかった。当時は黒歌に今程の情は湧いて無かったからな…結局黒歌は私と家に帰り家で待っていたクレアに説明し、クレアも私の予想通り黒歌を受け入れた…その後色々あったが無事に今日を迎える事が出来た…

 

…現実に戻って来る…ん?…ハア…

 

「…何してるお前ら…?…いや、隠れても分かるからな…?」

 

そう言うと姿を現すリアス・グレモリー眷族一同とクレアとアーシア…何やってるんだこいつらは…

 

「…何で分かったのかって顔をしてるな?…種明かしはしない、自分で考えろ。」

 

単にこいつらが隠れるのが下手なだけだがな…

 

「行くぞ。黒歌は怒るとヤバいぞ?」

 

実際黒歌も何だかんだ強い。こいつらじゃ足元にも及ばん…あっ…

 

「…どうやら手遅れの様だ…黒歌がこっちを見ている…」

 

そう言うと一斉に逃げ出す面々…全く…せっかく気配を消して見てたのに私もバレてしまったではないか…いや、黒歌の場合、最終的に私の気配も普通に読んだかもしれないから今更か…

 

私に殺気を込めながら睨み付ける黒歌に背を向け私はその場を後にした。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら54

「…で、お前も覗きか、サーゼクス?」

 

私は一人だけ逃げずしかも私の後をつけて来た奴に声をかける

 

「…さすがだね。…しかし覗きとは人聞きの悪い…私は単に、小猫君の後をつける君が気になっただけだよ?」

 

「…ストーカーも十分質は悪いと思うが…そもそも何の用何だ…?お前、少なくとも今日は一日執務だと聞いているが?」

 

「…ストーカーも止めて欲しいね…やってる事はその通りだから反論もし難いが…君はこれから妖力の調整の練習をするんだろう?私なら手伝えると思ってね…ちなみに今は休憩時間だ。」

 

……妖力と言うと黒歌も適任であるように思われるがそもそも私たちクレイモア(恐らく妖魔や覚醒者含む)の妖力と妖怪の妖力は別物らしい…黒歌も私の力を完全に読み取る事は出来ないそうだ…まあ出来てもしばらくは小猫に付きっきりだろうし、こっちはかなり体力を使うから迂闊に頼めないが…つまりサポートして貰うならサーゼクス以上の適任はいない…

 

「良いのか?せっかくの休憩時間だろ?」

 

「…ああ、構わないよ。私にとっても得るものはあるだろうしね。」

 

そう屈託無い笑顔向けるサーゼクス…こいつにも何だかんだ頼りっぱなしだな…しかしこいつは私の何に恩を感じているのやら…?戦争終盤とはいえ介入は出来たはずの私はこいつらの要請を無視して中立を気取ってた位なのに…

 

「…私はね、君がいたから今の自分があると思っているよ…強くなり過ぎても力に溺れなかったのはグレイフィアの存在はもちろんだが、何者にも縛られない君がいたからだよ。」

 

「人の心を読むんじゃない。…全く。良くそんな恥ずかしい事を堂々と言える物だ…」

 

「…そう言うなら少し位照れたらどうかね?」

 

「羞恥心が多少有ってもそうそう感じないからな…」

 

全く何も感じないわけじゃないが私自身は別にそこまで恥ずかしくは無い…今となっては昔の私自体は黒歴史として記憶から抹消したいとも思うが。

 

 

 

「では、始めるが…確認する事はあるか?」

 

「そうだね…取り敢えずゆっくり上げていってくれ。私もまだ感知を出来るようになったばかりだからね。」

 

「…確かにそうだな…私も限界が何処なのかもう分からないしな…了解だ、では行くぞ?」

 

私は妖力を解放した…

 

 

 

「…テレサ、それくらいにしたまえ。」

 

「何言ってるまだ「そろそろ一時間だ。君も疲れている筈だ…」…もうそんなになるのか?…分かった…」

 

妖力を抑える…うっ…!

 

「…と、大丈夫かい?」

 

「…っ!ああ、すまん…」

 

立ちくらみがしてサーゼクスに受け止められる…

 

「無理をし過ぎのようだね…屋敷に戻った方が良い。」

 

「この後は剣の鍛錬の予定だったんだが…」

 

「今日はダメだ。帰ろう。」

 

「…分かったよ…」

 

サーゼクスに肩を貸されながら屋敷に戻る…やれやれ本当に頭が上がらんよ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら55

サーゼクスに肩を借り…というか身体に力が入らなかったので途中から背負われながら帰る(誰にも見られてないと思ったが実はリアスたちにしっかり見られており揶揄われこそしなかったが生暖かい視線を送られ、私は羞恥に悶える事になる…)

 

…私を見て焦ったグレイフィアに言われるまま昼食の残りを適当にパク付き、宛てがわれた部屋のベッドに横たわる…

 

私が黒歌を連れ帰って来た日から、黒歌は家では人間態で過ごすようになった。献身的にクレアの世話をする黒歌を見て、勝手に安心した私はより一層はぐれ悪魔狩りに勤しむ様になった…

 

……当時私はテレサを演じる事に躍起になっておりクレアを引き取ったのもその延長線上にあるという想いが強かった…もちろん大事な存在ではあった…が、引き取られたその日からろくに優しい言葉をかけることも無い私に笑顔を向けてみたり、初日から家事をしてみたり、アパートの他の住人に挨拶してみたりと、色々しっかりしてるクレアに気後れしていたのは確かで…平たく言えば当時私はクレアとどう接したら良いかなんて分からなかった…

 

…長い付き合いの人間とすらコミュニケーションの取り方が分からないのに新たな住人との距離を詰め方なんて分かる筈もない…所か私は黒歌がいるのを良い事に今までは最長で一週間位だった家を開ける時間が二週間になり、三週間と…だんだん家には帰らなくなった。

 

これに黒歌がキレた。

どんな伝手を使ったのか私を探し出し、路地裏で野宿をしていた私を無理矢理家に連れ戻し説教を始めた。

 

『あんたが私を家に連れ戻したくせに何で今度はあんたが帰って来なくなるの!?あんたはクレアの家族なんじゃないの!?』

 

……その時の私は何も答えられなかった…最終的には折り合いを着けたし、今ならはっきり私はクレアと黒歌、そしてアーシアの家族だと言えるのだがな…今思えばクレアにも黒歌にも悪い事をしたと思う。

 

…結局黒歌の言葉に何も返せないまま私ははぐれ悪魔狩りに出かける頻度を減らし、勝手にサーゼクスと話を着けた黒歌に言われるまま駒王学園の用務員の職に就く。

 

……この頃からだ、黒歌と言い合いが絶えなくなったのは。怒号飛び交う家の中(主に私が挑発して黒歌がキレる)は決して健全とは言い難いがお互いに言いたい事を言う様になり多少私たちの距離が縮まったのは確かだ…クレアを泣かせる事にはなったが。…とにかくあの日からまだ家族とは言えないが私と黒歌…お互いに縁が出来たんだ…そしてこれを契機にクレアとの関係性を考え直す事にもなった…今でもつい揶揄う事はあるが黒歌には本当に感謝している…本人には言えないが。

 

「…懐かしい夢だ。」

 

目が覚める…先程黒歌との出会いを思い出していたせいかその後の事も思い出した…やれやれ…あの頃の私は本当に酷かったな…正直記憶から消し去りたいが…それはいけないな。あの頃の私がいるから今の私がいるのだから…

 

「…テレサ?起きてますか?」

 

「…グレイフィアか。ああ、起きてるぞ?で、何だ?」

 

「夕食の支度が出来ました。…起きるのが辛いなら部屋に運びますけどどうします?」

 

「…いや、起き上がれない訳じゃない。そっちで食う。」

 

「そうですか。では外で待ってますので。」

 

「…分かった。」

 

先に行っててくれて構わないんだが…まぁいいか。待たせるのは悪い、急ぐか。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら56

…何なんだこの雰囲気…

 

遅ればせながらリアスたちのいる食卓に着いてみれば(黒歌の存在を隠す理由が無くなったので別々に食事を摂る意味が無い)何やら妙な空気が漂っている…

 

「…あの、テレサ?」

 

「ん?」

 

「…実はさっき貴女がお兄様に…」

 

「…あっ…」

 

みっ、見られていたのか…。

 

「……グレイフィア、私はやはり部屋で食事を「ここまで来てそれも無いでしょう?座って下さい」…はい…」

 

「きっ、気にしないで。理由は聞いてるし、ね…!」

 

「…ああ…」

 

「…あの「ああ」……」

 

「テレサ?」

 

「ああ」

 

「ダメにゃ…完全に自分の世界に入ってるにゃ…」

 

黒歌が何か言っているが私は聞こえない…何も…

 

 

 

「…はっ!?」

 

「今頃復帰ですか…」

 

気が付けば私はグレイフィアに手を引かれ廊下を歩いていた…何が起きたんだ…?

 

「…グレイフィア、私はどうなったんだ…?」

 

「…サーゼクス様に背負われて屋敷に帰った所を目撃されていて貴女が思考停止したんです…ああ、活動も停止してましたね…」

 

「…そうなのか…」

 

恥ずかしいのは確かだが何かだんだんメンタル弱くなってないか、私?…いや、今までどうでもよかった事が気になる様になってしまったのか…

 

「…今は大事をとって私が部屋に送っている所です…ちなみに貴女の恥ずかしい話はこれで終わってませんが…続きを聞きますか?」

 

「…これ以上何があるんだ…」

 

「貴女の分の食事は黒歌が貴女の口に運んでました。」

 

「……あー…それは、まぁ…別に良い。」

 

「はい?」

 

「…いや、普段から黒歌に世話されてるからな、今更感がだな…」

 

「……」

 

「そんな目で見るな…分かっている…」

 

このままではいけないのは分かってるんだがな…

 

「…部屋に着きました。一応今夜は黒歌が着いてくれると言ってましたがあまり無理をしないように。…というかそもそも黒歌自身も病み上がりですからね?これ以上負担をかけないように。」

 

「……分かっている。」

 

「…本当ですか?」

 

「ああ、今日はこのまま寝る。」

 

「…なら良いわ。私はこれで失礼します。…おやすみなさい、テレサ。」

 

「…ああ、おやすみ。」

 

 

 

「…二人きりで寝るのは初めてだったかしら…?」

 

「そうだな…」

 

…黒歌の場合語尾ににゃが着いたり言葉の端々にも混じるが…主に特定の時だけ口調が変わる…それは…

 

「…無茶をしたみたいね…」

 

「…そういうつもりはなかったのだがな…高々あれぐらいで立ちくらみを起こすとは思ってなかった…」

 

真面目な話をする時、奴の口調は変わる。大抵は説教をする時だ(ところでクレアより私の方が黒歌に説教される回数が多いのはやはり問題だろうか…?)

 

「一時間もぶっ通しで集中してれば誰でも疲れるわよ…」

 

「…そういうものか…」

 

前世の人間だった時の記憶は曖昧だからな…

 

「…とにかく明日は無理しない事!良いわね?」

 

「…分かったよ…」

 

「…分かれば良いにゃ。さて寝ると「おい」何にゃ?」

 

「…さっきから思ってたんだが…この部屋はベッドが隣にもあるだろう…何でお前私と同じベッドに入ってるんだ?」

 

「……ダメにゃ?」

 

「…別に構わんが…」

 

「…ならさっさと寝ましょう。明日も早いし。」

 

そういう頼み方をされると断れないんだがな…まぁいい。ベッドの上で目を閉じるとまだ疲れが残っていたらしくすぐに私は眠りに落ちた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら57

「…テレサ、そろそろ起きるにゃ。」

 

「…ん…むっ…眠い…」

 

最近の私は朝が弱い…一度目が覚めてしまえばあまり関係無いが…これでは修行所では無いからな…何せ午前中は私が教える立場だ、黒歌はその辺も踏まえて早目に起こしてくれたんだろうが…やはり眠いな…ん?

 

「…黒歌、何時からその体制何だ…?」

 

私は隣で寝転がる黒歌から顔を覗きこまれていた…近い…起こすためだけならそこまで近づく必要は無いし、別に私が黒歌を抱き枕代わりにしてしまったとかではない様なので何なら先にベッドを出ていても問題無い筈だ…

 

「ん?…んー…ありゃ?三十分位経ってるにゃ。」

 

……何やってるんだこいつは…?

 

「…朝っぱらから人の顔見て何か楽しいのか…?」

 

「あんたの寝顔見るのは割と楽しいにゃ。」

 

…私は普段どんな顔して寝てるんだ…?

 

「…そっちの趣味は無いんじゃなかったのか…?」

 

「そういう意味じゃないにゃ。それより口の端、涎垂れてるにゃ…ああ!?服で拭いちゃダメにゃ!…全く…子供みたいにゃ…」

 

「…顔を洗って来る…序にシャワーも浴びて来るかな…」

 

黒歌が避けるのに合わせ身体を起こす…そう言えば昨日は浴びてない…体質柄、そこまで汚れないとは思うが…まあ気分の問題だ…

 

「…あんたの場合あんまり風邪は引かなそうだけど一応水じゃにゃくてお湯の方にするにゃ。」

 

「…ああ…お前は風呂の方が良いか?この後入るなら湯を溜めておくが…?」

 

「今日は良いにゃ。私もシャワーにするにゃ。」

 

「了解。」

 

「…テレサ!」

 

「ん?…おっと。ん?こいつは…」

 

「…しっかりするにゃ。あんた着替えは愚か、タオルすら持ってかないつもりにゃ?そのまま出て来たらカーペットがビショビショになるにゃ。」

 

「…そうだったな…すまん。」

 

家では普通にやってたから忘れてたな…寝起きなのもあるだろうが。

 

 

 

「…いや、テレサ…何でゴロゴロしてるにゃ?」

 

私の後にシャワーを浴びて来た黒歌が聞いて来る。

 

「ん?いや、まだ時間があるから「せめて髪くらい乾かすにゃ…あんた長いんだからまた癖つくにゃ…」…別に良いだろ?動いたらどうせ乱れるし「傷むからダメにゃ。あんたほっといたら櫛もろくに通さにゃいし」面倒だからな。」

 

どうせならもうバッサリ切るかな、私としてはもうテレサを演じる事に拘ってないからこの髪型の必要も「ダメにゃ。」

 

「何だいきなり…」

 

「…あんた髪切ろうって思ったでしょ。ダメよ。」

 

「長いと手入れが面倒で「あんたどうせ自分でなんてやらないじゃないの。とにかくダメ。」…分かったよ…」

 

正直今は鬱陶しく感じる時の方が多いんだがな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら58

「ところで肝心の進捗はどんな感じにゃ?」

 

黒歌と廊下を出てのんびり歩く。…予定通りならリアスたちは現在、朝のランニングをしている筈だが私には別に参加義務は無い。

 

「…まだ一日目が終わっただけだぞ?気が早いな…でもまぁ、一言で言うなら…駄目だな。」

 

「…やっぱり?」

 

「普段からろくに戦闘をしておらず、模擬戦は愚か、個人的な鍛錬すらここに来るまで出来てなかった連中を高々二週間やそこらで一端の戦士に育てられる程教え上手じゃないんでね。」

 

はぐれ悪魔との戦闘が無いのは厳しい。…堕天使との戦いが無くなったのは完全に私のせいとはいえ、あいつらたるみ過ぎだ…これをどう叩き直せと言うのか…最低限向上心があるのと、ガタガタだった連中の連帯感は戻りつつあるのが救いだな、原作ではしばらく微妙な間柄だった兵藤と木場が思ったより仲は悪くなさそうなのもポイントだ…何があったのか非常に気になる所ではあるが。

 

「参考までに個人の問題点を挙げていくなら…リアスは一々攻撃に参加する癖がある…リーダーのあいつに求められるのはその頭脳だと言うのに。

 

朱乃は味方、特に前衛組の二人、兵藤と木場を巻き込んで雷を落とす…奇襲としてはありだが毎回狙うのはナンセンスだ…そもそも味方を潰してどうするんだか。

 

木場はそれ程問題は無い。剣技は寧ろ私より洗練されているし、素人の兵藤の援護までしている…強いて問題を挙げるなら私以上に熱くなりやすい事と未だに私をライバル視している節がある事。

 

…兵藤は言う事は無い。所詮は素人だからな、寧ろそう考えれば良く動けている方だ。最低限の動きは口頭でも伝えてるし身体にも叩き込んでるがどうなる事やら…基礎体力は結局自分で付けて貰うしかないし、神器の扱いについては私は専門外だ。」

 

そこで私は一息着く…そんな顔するな、ちゃんと話してやるよ…

 

「…で、お前が一番聞きたいだろう小猫だが…昨日はお前の事が気になって身が入らなかったようで評価は難しいが、…先ず攻撃は直線的で単調。せっかく与えられた重い拳と蹴りが活かしきれて無い…あいつの攻撃パターンが分かりやすいせいでその小柄な身体から発せられるスピード、それから視点を下げないと相手からは動きが見づらいという優位性を自分から殺してる…女子に使う言葉じゃないが完全に脳筋だな…」

 

「…褒める所はにゃいのね…」

 

「…いや、脳筋とは言ったが周りはちゃんと見えているらしく他の前衛二人との連携は取れていた。そこは評価出来る…」

 

と言っても本当はそれこそ出来て当たり前なんだがな…

 

「…お前の方はどうなんだ?仙術の教えは順調か?」

 

「…まずまずって所にゃ。滑り出しは本当に順調…期限が二週間じゃなかったらね…」

 

「間に合わんか?」

 

「二週間じゃ基本を教えるのがやっとにゃ…とても実戦で使えるレベルににゃんて…」

 

「…お前もそんな感じか…まっ、私たちは出来る事をやるしか無いだろうさ…」

 

「…他人事みたいに言ってるけどあんたも出るんでしょ?あんたの方は問題無いの?」

 

「…今更若手悪魔の眷属程度に私が負けるとでも?…というか私は当日は積極的に動くつもりは無いよ…あいつらの成長の妨げになる…」

 

そもそも私にはハンデが付きそうだがね…それに…

 

「眷属は問題無くても私には王のライザーを倒す決め手が無いからな…万が一、私が動く事になっても最後はどっちみち神器や能力持ちのあいつらに任せるしか無いがな…」

 

傷を与えても再生するあいつを物理攻撃に特化した私が倒し切るのは不可能だ。…さて、本当にどうするかねぇ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら59

「…結局の所方針は決まってるの?」

 

「…午前は連携を詰める…午後は個人トレーニング…一週間である程度結果が出なければこのままだ。」

 

「…私は白音に何を教えたらいい?」

 

「…身体能力を上げる仙術を教え込め。」

 

「…それだけ?」

 

「後は私の方で小技を教えておく。…どうせ奇襲が苦手なら威力を上げるしか無いからな…」

 

「…私に他に出来る事は?」

 

「…後は小猫次第だ…仮にもし、小猫が一週間の内にさっき言った術を使いこなせる様になったら言って来い…他の連中は…最低限私がどうにか出来るのは木場位だが…お前が担当出来そうなのは…手が空いたらそうだな…リアスと朱乃の様子を見に行ってくれ…お前なら多少なりともアドバイス出来る事もあるだろう…」

 

「…兵藤一誠は?」

 

「…放置だ。そもそも自分がどれ程周りと差があるのか知ってもらわないとな…と、戻って来たか…」

 

屋敷に戻って来たリアスたちに声をかける…ん?

 

「…兵藤は、どうした?」

 

何となく想像はつくが。

 

「…周回遅れでまだ走ってます…」

 

小猫から答えが返って来る…これは予想以上に酷いな…

 

「…後五分して戻って来なかったら朝食は抜きだな。」

 

…さて、どうこの差を埋めるべきか…?

 

 

 

二日目午前の連携訓練に特筆事項は無い。…強いて挙げるなら小猫の動きが昨日より良かった事と小猫に小技、特に正面から突っ込んでも比較的相手の不意を突ける足技を教えた事と、後は朝食を食い損ねたせいか兵藤が訓練どころじゃなかった事位か…

 

 

「…さて、木場。」

 

「はい!」

 

…今日は私の鍛錬を止めて木場が今どの程度動けるのかを見てみる事にした…黒歌にはああ言ったがそもそもこいつのレベルによっては私が教えられる事なんて無いからな…お荷物…もとい、兵藤がいないと何処まで出来るのか見せてもらうことにした…以前やった時は私の蹴りで吹っ飛んで終わったが…あれからどう変わったのか…見せてもらうとしよう。

 

「…では…!…一瞬で作れるようになったか…」

 

木場の作った剣が飛んで来る…作るスピードもさることながら、前回の課題だった重さも悪くない。

 

「…始めるか。好きに打ち込んで来い!」

 

「行きます!」

 

木場が振るう剣を弾き、流す。…ん?

 

右、左、右、左、右、右?

 

…まるでゲームのコマンドの様なこれは奴の振るう剣の軌道だ。敢えて法則性を作ってこっちを惑わす気か?

 

「…っ!」

 

右から振ると見せかけて無理矢理振り戻された奴の剣を…!

 

「…悪いが見え見えのフェイントに乗ってやる理由は無い。」

 

木場に足をかけ、払…!

 

「っ!これが狙いか!」

 

半歩下がり躱した木場が私の足を剣で獲りに来る…!先に私の動きを封じる方針か…しかし…

 

「…甘いな。」

 

「…えっ!?」

 

私はその剣を左手で掴んで止め、右手で持った大剣を振り木場の首で止める…

 

「…どうだ?まだ手はあるか?」

 

「…参りました。」

 

…こういうイレギュラーな戦い方に弱いなら私にも十分教えられる事がある様だな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら60

「…大丈夫ですか…?」

 

「ん?ああ、助かった。ありがとうアーシア。」

 

「いえ、お役に立てて良かったです…それで…」

 

「あー…悪いがクレアと黒歌には内緒で頼む。」

 

「…分かりました。あんまり無理はしないで下さいね?」

 

木場の剣を掴んだ左手の傷は思いの外深く直ぐ塞がらなかった…練習にもなるし妖力の解放をしようとした所、ちょうどアーシアが通りががったので治して貰う事にした。

 

「…それじゃあ私は他の人の所を回りますから…」

 

「ああ。…悪いな、面倒な事をさせて。」

 

そもそもこれは今のアーシアには無関係だ…少なくとも率先してリアスたちの治療のため歩き回る必要は無い…

 

「いえ、好きでやってる事ですし。」

 

去っていくアーシアの背を見送る。

 

「…さて、アクシデントがあったが…続けるか木場?」

 

「はい!お願いします!」

 

 

 

木場の横っ面を狙い、繰り出した拳が躱され…

 

「…そこで終わりだと思ったか?」

 

「…くっ!」

 

拳を開き木場の服の襟を掴み、こちらに引き寄せ頭突きを喰らわせる。

 

「…がっ!」

 

威力は抑えたつもりだったが鮮血が飛ぶ。…怯んではいるが目は死んでない。なら、応えなければな…

 

「…ふん!」

 

「…うごっ!」

 

後退した木場を追い懐に入り大剣の柄を鳩尾に叩き込む…むっ?

 

「捕まえました!」

 

鳩尾に入った大剣を左手で掴み、私の首に向け剣を…

 

「…いや、武器を捨てれば良いだろ。」

 

「…あぐっ!」

 

安易にさっきの私と同じ手を使った木場に半歩下がってから勢いを付けて膝を脇腹に叩き込む。

 

「…今日はこれで終わりだな、大丈夫か?」

 

「…大…丈夫です…ありがとうございました…」

 

「…すまんな、やり過ぎた。」

 

「…いえ…」

 

「…屋敷まで送る。」

 

仰向けに倒れている木場の身体を持ち上げ、担ぐ…軽い…本当に男か、こいつ…筋肉は着いてるし、ガッシリした身体付きだが、余りに軽過ぎる…

 

……明らかに同年代の男子より軽い木場に驚きながらも私は屋敷に向かった…

 

 

 

 

「…アーシア、疲れてる所悪いが…」

 

「…いえ、大丈夫です…」

 

今日は一体何回神器を使ったのか…顔色の悪いアーシアに罪悪感を感じながらも木場の治療をして貰う…やれやれ…途中から少々本気になってしまった…

 

 

 

「…お疲れみたいね…」

 

「黒歌、今日は私に着いてなくて良いんだぞ?」

 

何故か今日も同じ部屋、同じベッドに入ろうとする黒歌に言う。

 

「……ダメにゃの?」

 

「…構わないが…そう言えばクレアとアーシアはどうしてるんだ?」

 

昨日は疲れてて気にならなかったが…二人は何処にいるんだ?

 

「…リアスちゃんたちと一緒だにゃ。」

 

「…そうか。」

 

それ以上考えるのは止めにする…目蓋が重くなって来た…今日も爆睡出来そうだな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら61

「四日目が過ぎたけどどうにゃ?調子の方は?」

 

「…予想外…と言ったら失礼かもしれんが意外に成長が早い。」

 

初日、二日目、三日目と大して結果が出ないまま日にちは過ぎて行った…とはいえ、だ…別に全く成果が無いわけじゃない…レギュラーの特訓でイベントが無いのなら十分なペースで伸びてはいる…が…たった二週間先に格上との戦いが待ってるならこのペースでは遅過ぎる…原作では一度負けた後、特例で兵藤一誠がライザーを下して終わらすなんて贔屓にも程がある展開があった記憶があるが、そこはそれ、この世界でも同じになるとは限らんし、私が教える以上無様な負けを認めるわけにはいかない…そう思って三日目はかなりキツい事を言ったところ…

 

…奮起するものがあったのか、四日目には見違える程に成長が見られた(出来るなら最初からやれと思わんでも無いが今のあいつらにそこまで求めるのは酷だろう…)

が…問題もある…

 

「チーム戦である事を考えればこのままでは駄目だな…」

 

「…兵藤一誠の事にゃ?」

 

「…あいつだけ伸びが悪い…完全に足を引っ張っている…あいつはあいつなりに頑張っているつもりなんだろうが…足りん。」

 

素人である事を差し引いても成長が遅過ぎる…今のリアスたちのレベルに見合わないのだ…

 

「どうするのにゃ?」

 

「…放置、のつもりだったがこのままでは間に合わん…少し仕込みをする…」

 

「…具体的には?」

 

「…ドライグと話す…此方から接触しないと埒があかん…」

 

「…方法は?ドライグは兵藤一誠を相棒と認めてないんでしょう?」

 

「恐らく、な…兵藤は存在を感じてもいないようだ…」

 

「…どうするの?」

 

「…今日のランニングは出なくて良いと言ってある…グレイフィアに用意して貰った薬を使った…まだ眠っている筈だ…そこを突いてドライグと対話する…で、黒歌…一つ頼みがある…」

 

「…何かしら?」

 

「…恐らく今日、私は午前中の修行に付き合えん…お前に代わりを頼みたい…」

 

「頼ってくれるのは嬉しいけど…リアスちゃんたちの相手を今の私が一人でするのは骨が折れるんだけど…」

 

「…心配するな、今日は全員自主トレをしろと言ってある…お前がするのは監督だ…クレアとアーシアと一緒に当たってくれ。」

 

病み上がりの黒歌に無茶はさせられんからな…

 

「…それくらいなら良いけど…あんたは大丈夫なの?」

 

「…さぁな…案外いきなり敵意を向けられるかもしれん…当たってみるしか無いだろう…」

 

実は私は兵藤一誠を含むリアス眷属一同には自分の正体を話していない…即ち、自分が観測世界からの転生者だと言うことを、だ…変な先入観を抱かれても困るからな…ドライグは正体の分からない私を警戒しているだろう…

 

「…あんたはどうせ駄目って言ってもやるんでしょ?」

 

「…すまんな、苦労をかける…」

 

溜息を吐く黒歌に私は苦笑いしか返せない…

 

「…今更ね…行くんなら早く行って来なさい…今日の事は引き受けたから。」

 

「…ありがとな、埋め合わせはちゃんと「要らないからちゃんと戻って来なさい」…ああ、分かった。」

 

黒歌と別れて兵藤一誠の部屋に向かう…さて、鬼が出るか蛇が出るか…おっと、出るのはドラゴンだったな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら62

兵藤の部屋に…ん?

 

「…気配…?」

 

部屋のドアに耳を付ける…防音がしっかりしてるからか音は聞こえない…しかし…

 

「…やはり気配は…ある…起きてるのか?」

 

…寝ていても気配はするが…ここまで濃くは無い…グレイフィアの仕事は疑ってない。つまり自力で起きてきた訳だ。…元々薬に耐性があったのか、それとも…

 

「…それだけ焦りを感じているか…」

 

前者ならまだ良い…だが後者ならば私は兵藤の想いをこれから蔑ろにする事になる…

 

「だがやらない訳にはいかん。」

 

兵藤には悪いが間に合わんのだ…こいつにだけ合わせてはいられん…こいつの実力そのものが伴わない以上これは必須なのだ。

 

「……」

 

そっとドアを開ける…

 

「…ふむ。」

 

ドアの隙間から見える兵藤は身支度をしている様だ…今朝のランニングには少なくとも参加するなと言ってある…この後の修行には参加する気なのか…

 

「…すまんな…」

 

ドアを一気に押し開け、妖力解放をすると即座に兵藤の背後に立ち…

 

「…がっ!?」

 

「…すまん…寝ててくれ…」

 

首に手刀を叩き込み、兵藤を気絶させると同時にドアが閉まる。

 

「……こうやって見ると顔は悪くないのだがな…」

 

念の為完全に気絶している事を確認しつつ目に入った兵藤の顔を見ながら思わず呟く…いくら顔が良くてもこいつの偏執じみた女体への執着が全てを台無しにしている…最も最近は私もこいつも忙しいせいか、あの二人と一緒に行動しているところを見ないがな…

 

「…木場よりは重いな…」

 

気絶はさせたが起きないとも限らない。先日の木場とは違いゆっくり抱き上げるとベッドに乗せる…

 

「…念には念を入れるか…」

 

閉まったドアに向かい鍵をかける…

 

「…何と言うか、まるで夜這いにでも来たかの様だな…」

 

最も今は早朝で、性別的には逆だし、私にその気は全く無いのだが…さてと。

 

「…兵藤は気絶しているが、お前は起きているのだろう…?」

 

ドアにもたれかかり腕を組み、敢えてドライグの名を口にせずそう声をかけてみる…これ以上余計に警戒されたくは無いからな…

 

『やはり貴様は俺の存在に気付いていたか…』

 

気付いていたのではなく知っていた、が正しいが今は言う必要も無いな…

 

「…兵藤一誠の神器に宿る存在だろう?名前は?」

 

『…名を尋ねるなら貴様から名乗るべきでは無いのか?…最も俺は知っているがな…ドライグだ。』

 

「…ドライグ、だな…さて、私はお前に用があったからこの様な場を整えさせてもらった…そっちに行っても良いかな?」

 

『…好きにしろ。所詮今の俺はこいつに宿る神器に封印された存在だ…何も出来ん。』

 

……警戒はされているが話も出来ないという状況はこれで回避された…まずは第一関門突破だな。…部屋にあった椅子を掴みベッドまで行くと椅子に腰掛ける。

 

『…で、この俺に何の用だ?』

 

「…単刀直入に聞く。何故お前は兵藤一誠に力を貸さない?」

 

『……何を言ってる?こいつは神器を使っているだろう?』

 

「違う。確かに兵藤は赤龍帝の篭手を使用しているがそこにお前の意思は介在していない。」

 

『…俺はこいつを認めていない。いや、これからも認める気は無い。』

 

「…何故だ?」

 

……本当は聞かなくても分かっている…こいつが見ているのはその心の強さだ。兵藤の戦う機会を尽く私が奪ってしまった為、こいつが兵藤一誠を信頼する理由が無くなっている事はな。

 

『…こいつは未熟過ぎる…才能も無い。』

 

「…決め付けが早くないか?こいつはまだろくに戦う機会を与えられてないんだ…長い目で見ても良いんじゃないか?…私もそれなりに長く生きているが、それよりも更にお前は長寿だろうに。」

 

『…そういう問題では無い。そもそも俺はこいつが大嫌いなんでね。』

 

「…ふん。ドラゴンの癖に随分人間臭い事を言うじゃないか。」

 

敢えて挑発する…仮にこいつがキレて兵藤の身体を使い襲い掛かって来たら兵藤を傷付けずに止める自信は無いが、この場ではこいつにもう少し語ってもらわなければ先に進まん。

 

『…化け物風情が。この俺を矮小な人間と一緒にするか…!』

 

「…その矮小な人間に使われるのが今のお前だろう?仮にも厄災を起こした存在が落ちぶれたものだな?」

 

『貴様…!』

 

「…怒るなよドライグ。事実だろう?…それにお前は人間を嘗め過ぎなんだよ。…英雄は大抵人間から誕生するものだぞ?」

 

『…気安く呼ぶな。…貴様はこいつが英雄に値すると思っているのか?』

 

「…いや思わん。…そうだな、お前はいつ兵藤の中で目覚めた?」

 

『…こいつがこの世界に誕生した時には朧気ながら意識はあった…が、しっかり状況を認識したのは最近だ。』

 

「…ならば…お前は知っているな?こいつが堕天使に襲われた事を?」

 

『…知っている。無様だったな。歴代でもここまで弱く馬鹿な奴を見た事が無い…何せ襲われた理由が騙されたから、だからな…実際ここでこいつがくたばるのは妥当だとすら思った…寧ろさっさと死ねとすら思った…こいつがくたばれば次の持ち主に俺は宿るだけ…幸い憎たらしい堕天使は俺を使う気が無かったようだしな…それを貴様が邪魔をした…!』

 

「…すまんな…私も知らなければ放置しただろうがこいつは家族の友人だった。助ける理由があったわけだ。」

 

『…理解出来んな、こいつにそんな価値があると?貴様程の者がそう言うのか?しかも貴様の家族は人間だろう?何故それだけの強さを持つ貴様が弱者と群れる?』

 

「…厄災の龍にそう言われるのは光栄だな…だが私は弱い…お前は人間が矮小だと言ったな?人間は強いぞ?私やお前よりもずっとな…」

 

『…何を言ってる?』

 

「…こいつは私の家族を堕天使から守った。…驚いたよ、自分の宿る物を知らず、且つ、まだ悪魔になる前、生身の人間のままこいつは身体を張ってクレアを庇ったんだ…」

 

『…貴様が来るまで一方的に嬲られるだけだったこいつが強いだと?しかも相手は手加減をしていたんだぞ?』

 

「…大切な者の為に例え勝ち目が無くても強大な敵に立ち向かえる強さを持つ者…それが人間だ…お前には弱い者が身の程も弁えずただ吠えてる様にしか見えないだろうが、同時にそれが強さでもある。」

 

『…分からん。貴様が言ってるのは単なる綺麗事だろう…強ければ生き、弱ければ死ぬ…それが自然の摂理の筈だ。』

 

…本当に人間臭いなこいつ…歴代の所有者達がこいつに影響を与えているのか?

 

「…それが全てじゃない。それでも抗い、チャンスがある限り何度も挑み、そして最後には強大な存在を打ち破る…それが英雄と呼ばれる者達だ。…私は信じているんだよ…こいつにも英雄としての資質は今のところ感じられないが、そうなれるかもしれない強さがある、と。」

 

『……』

 

「家族を守ってくれた贔屓目もあるかもしれないがな、だからこそ私はこいつを買っているんだ。」

 

『…成程な。ならば証明して見せろ。…こいつにそれだけの強さがあると言うのならば。』

 

「…どうしろと?」

 

『…今だけ…今だけ俺がこいつに全面的に力を貸す。お前はこいつと戦え。それでもし、こいつがお前に勝てるならば…こいつを認めてやっても良い。』

 

…漸くここまで来れた。この展開は私の望むところ。この状況で必要だったのは兵藤一誠がドライグに認めて貰う可能性を作る事。

 

「…良いだろう。だが知っての通りこいつはまだ未熟。私は多少手を抜かせて貰うぞ?」

 

『…それでいい…だがお前がわざと負ける様なら…』

 

「やるからには必要以上に手は抜かん…そうだな、こうしよう…もしこいつが本気の私に一撃でも入れられたら…その時はこいつの勝ちだ…それで良いか?」

 

『…お前の思惑に乗ってやる…ではこいつを叩き起すぞ?』

 

「…分かった。」

 

…兵藤、お膳立てはしてやった。後はお前次第だ…私を失望させてくれるなよ?…勝手に発動した篭手で殴り付けられ、文字通り叩き起された兵藤を見ながら私はそう考えていた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら63

「がはっ…!」

 

私の蹴りを鎧の上から喰らい、崩れ落ちる兵藤一誠…それを見ながらさっきまでの事を思い出す…

 

 

 

…叩き起された兵藤は赤龍帝の篭手が勝手に発動している事と私が部屋にいることに驚いていたが、時間が惜しい…今しかないのだ…ドライグが気紛れを起こしている今しか、兵藤が強くなる方法は無い…

 

簡単に説明したが奴はあっさり納得した。…ドライグの存在を信じるかどうかの話になるかと思ったのだが奴曰く…

 

『いや、それが…何か起きるなりうるさいくらいに頭の中で声が響いてまして…信じざるを得ないと言うか、何と言うか…』

 

戸惑いはある様だが状況を理解しているなら話は早い…私は兵藤を外に引っ張り出すと剣を向けた。

 

 

 

「…兵藤、それで終わりじゃないよな?勝手な言い分で悪いが、これでも私はお前に期待しているんだ…失望させないでくれ…」

 

「…ゲホッ!分かってます…俺は男です…女性に期待されて応えない訳に行きません…!」

 

…良い目だ。理由はともかくこいつはまだ諦めていない…だが…

 

『急げよ人間、今のお前がその姿を保てるのはせいぜい五分が限度。それ以上は死ぬぞ?』

 

「うるせぇ!分かってんだよそんなの…!」

 

時間限定の禁手…それがドライグの貸す力。…確かに兵藤一誠は私のスピードについてくるようになった…そしてパワーも私と打ち合いが出来るレベルに達してる…

 

『…化け物め。俺がここまでしてやっても互角に持ち込むのがやっととはな…!』

 

「…これでも人を辞めて長い。高々悪魔になって数週間で、しかもろくに戦いをした事も無い奴に負けられん。」

 

例え兵藤一誠がここで負けたとしてもこれ以上譲歩は出来ん…早く私を破れ…兵藤…!

…腕の時計をチラ見し、既に時間が残り三分程になったのを確認しつつ私は構え直した。

 

 

 

「おりゃあ…!」

 

『explosion‼︎』

 

「どうした?闇雲に殴りかかっても当たらんぞ?」

 

兵藤が殴りかかって来るのを横にすり抜ける様にして躱し、肘を側頭部に叩き込む。

 

「…ぎいっ!」

 

兵藤が木を何本かへし折りながら吹っ飛んで行く…ん?

 

「っ!らあっ!」

 

一際太い木に足を着けて着地しその木を蹴飛ばし私に向かって飛んで来る…

 

「…ふむ。」

 

「ゴフッ!」

 

兵藤が眼前に来た所で私は奴にアッパーを叩き込んだ…重い手応えだな…加減はしたが顎に罅位は入って…おや?

 

「…があああ!」

 

空中に打ち上げられ、地面に背中から落下した兵藤一誠はまるでそのダメージが無いかのように立ち上がると私の腹に拳を…

 

「…良く頑張ったな。お前の勝ちだ兵藤…良いよな?ドライグ?」

 

『…ふん。良いだろう、約束は約束だ。及第点を与えてやる。』

 

ろくに力の入ってない拳を叩き込んだというか押し当てた状態でそのまま気絶した兵藤一誠を私は抱き留めた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら64

「何があったんですか!?」

 

ボロボロになった兵藤を黒歌達の元へ連れて行くとアーシアがキレた。

 

「…こんな…ここまでする必要があったんですか…!?」

 

「ほら、アーシアお姉ちゃん…早くイッセーお兄ちゃんを治してあげないと…」

 

クレアに連れられるアーシアにリアス達がついて行き…

 

「…上手く行ったの?」

 

「…一応な、後はあいつの問題だ。」

 

「…そう。」

 

「…お前は向こうに行かないのか?」

 

「私はあんたの方が心配にゃ。」

 

「…私の何を心配する?見ての通りダメージは無い。」

 

「…肉体的にダメージが無くても…あんたは優しいからね、結構キツかったでしょ?」

 

「……ああ…」

 

兵藤を含むあいつらは既に身内みたいなものだからな…やはり一方的に痛めつけるのは答える…

 

「…あいつらに…説明すべきだったと思うか…?」

 

「…間違い無く反対されたわね…あの子たち兵藤一誠の事はもちろん、あんたの事も心配してるから…」

 

「…参ったな…悪い気はしないが…」

 

分かっているんだ…そんな事は…だからこそ私はあいつらを、そして今目の前にいるこいつを守りたくなる…

 

「実力的に隔絶した奴を心配する精神が分からないんだがな。」

 

「…傲慢な事言ってもあんたの本心はバレてるにゃ。」

 

「……うるさい…」

 

照れ臭いんだよ…察しろよ、長い付き合いなんだから…

 

 

 

アーシアの治療で兵藤の怪我は治ったが、体力を使い果たしたのか兵藤は目覚めないまま夕食の時間となった…

痛いくらいの静寂とはこういうのを言うのか…沈黙の中私たちは食事を終えた…

 

 

 

「クレア。」

 

「何?テレサ?」

 

「お前、兵藤とは知り合いだったんだろう?何処で知り合ったんだ?」

 

夕食後、兼ねてより気になっていた事をクレアに聞いていた…クレアは小学生で兵藤一誠は高校生…接点なんか無い筈だ…あいつも別にロリコンじゃなさそうだしな…違うよな…場合によっては私はあいつを抹殺しなければならん…!

 

「…どうしたのテレサ?すごく怖い顔してるよ…?」

 

「…いや、何でもない。それで…」

 

「…イッセーお兄ちゃんと何処で知り合ったかだよね?前に黒歌お姉ちゃんがいなくなった時に公園で会って一緒に探してくれたの。」

 

…黒歌が正体を見せる前の話か…

 

「黒歌は知ってるのか?」

 

「ううん。知らないと思うよ。それからも時々遊んだりしてくれたけど黒歌お姉ちゃんはいなかったし。」

 

……単純に聞けば黒歌と一緒に行動していない時に兵藤に会っていたという意味に取れるがクレアの場合…

 

「……それはそのままの意味か?」

 

「そうだよ?」

 

……クレアは私や黒歌の気配が分かるのだ。(察知の仕方を教えた覚えは無いのだがしかも困った事に本人は誰でも出来る事だと勘違いしている節がある…)要するにクレアは黒歌と行動していない、且つ近くに気配が無い時にしか兵藤の会った事が無いという事だろう…本当に偶然か?やはりあいつロリコンじゃないだろうな…?



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら65

クレアと別れた後私は兵藤一誠の事を黒歌に聞いてみた

 

「イッセーちんがロリコン?多分それはにゃいにゃ。」

 

「…根拠は?」

 

「…あんた…気づかなかった?兵藤一誠は私やあんた、後はリアスちゃんや姫島朱乃ばかり見てるわよ?もちろん見てるのは胸。」

 

「…やはりか…」

 

気にし過ぎだったか…

 

「…にゃんでそう思ったにゃ?」

 

「…それがな…」

 

私はクレアから聞いた事を黒歌に話した。

 

「…成程。確かに割と私はクレアの様子をよく見に行ってたけど兵藤一誠と会ってたのは見た事無かったわね…でもそれこそ偶然でしょ?そもそも兵藤一誠に私やあんたの気配なんか分かりっこないでしょ。クレアが分かるのも不思議だけど…」

 

「……それもそうだな…今更だがお前がクレアに教えたわけじゃ無いんだよな?」

 

「…どうやって教えるのよ…気配の感知なんて経験の問題で普通、理論立てて説明なんて出来ないわよ…最も本能的に察知出来るのはいるけど…クレアはそっちの方じゃない?」

 

「…本能的に気配を察知してると?」

 

「…クレアの場合、近くに知り合いがいるのが分かる程度だけどね…ただ、ある程度隠しても見つかった事あるから本能的だけで説明していいのか微妙だけど…」

 

「…実際お前が見つけられるんだから相当だな…」

 

本格的に隠れられると私にも黒歌の発見は難しい…増してや黒猫の姿で隠れられるとほぼ見つからない…

 

「…何を心配してるのか分からないけど…クレアが私たちの気配を感じられるのがそんなに問題?」

 

「……」

 

「あんたは気にし過ぎ。そんな事で何かがあるわけないでしょ?」

 

「…どうにも嫌な予感がしてな…」

 

別にクレアが私たちの気配を感じ取れる様になったのは最近の話じゃない…今更なのは分かっている…だがどうにも不安なのだ…予感以上に何かを忘れてる気がする…くそっ…何だと言うんだ…この際、懸念事項は出来る限り潰しておきたい所なんだが…

 

「…テレサ。」

 

気付くと顔に柔らかい感触が…

 

「……何の真似だ…?」

 

私は黒歌に抱き寄せられ胸に顔を埋めていた。

 

「…一人で抱え込まないで。あんたは一人じゃないし、私に取ってもクレアは家族よ…心配事があるなら一緒に考えましょ?一人なら無理でもきっと二人なら良いアイディアも浮かぶわよ。」

 

そう言ってくれる黒歌に私は…

 

「…いや、お前猫だから数え方は匹だろう…?」

 

「…ここでそれを言う…?あんたね…照れ隠しにしても酷過ぎない…?」

 

「…照れてない。気になっただけだ。」

 

「…はいはい。もう良いわ。明日も早いんだからさっさと寝ましょう。」

 

「…私は照れてない…黒歌?」

 

「……」

 

……眠っているな…今日は黒歌の方も大変だった様だし疲れたんだろう…

 

「…おやすみ黒歌」

 

私はそう告げると目を閉じた…。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら66

「…ん…むっ…朝か…いや…今何時だ…?」

 

明らかに何時もより多めに寝てしまった事を察知し起き上がろうとして…顔が柔らかい物に触れている事に気付く。

 

「…そうか…昨夜は結局あのまま寝てしまったんだな…」

 

目の前にある物が黒歌の胸である事に気付き昨日の記憶が蘇る…いくら柔らかいとはいえ、ずっと顔に押し付けられていればさすがに寝苦しさで目を覚ますと思うが夜中に目覚めた覚えは無い…つまりこいつは寝ながら私をずっと絶妙な力加減で抱き締めていた訳だな…器用な奴だ…

 

「…ありがとな。」

 

…小さい声で礼を言う…私も面と向かっていい寝心地だったとは言えん。気恥しいにも程がある…さて、このまま惰眠を貪りたい所だが…

 

「…そろそろ起きなければ…く…。」

 

名前を呼んで起こすのを寸前で踏みとどまる…昨日は黒歌も大変だった筈だ…朝食までまだだいぶ間がある筈…ギリギリまでは寝かせてやりたい。

 

「…むっ…!…ダメだな。」

 

力加減が絶妙で身動ぎは出来るがさすがに起きるにはこの手をどうにかしなければ…だが無理に退けようとすれば黒歌は起きてしまうだろう…

 

「…どうすれば「テレサ?黒歌?入りますよ?」あ…」

 

部屋に入って来たグレイフィアと目が合う…気まずい沈黙の後…

 

「…遅いから呼びに来たんだけど…お邪魔だった?」

 

「…ニヤニヤしながら戯れ言を抜かすな…ちょっと手を貸してくれ…」

 

その一言で何をしたいか察したのだろう更に笑みを深くしながらこう言って来た。

 

「あら?もう少し堪能してても構わないわよ?朝食までもう少し時間あるし。」

 

こいつは…!

 

「…真面目に困ってるんだ…!早くしてくれ…!」

 

焦る私を後目に奴はデジカメを…おい!?それどっから出した!?待て!?撮るな!?撮るなよ!?おい!?

 

「記念に一枚♪」

 

やめろ!?

 

……黒歌を起こしたくないが為に大声を上げる事も出来ず結局散々写真を撮られた後「朝食出来たら呼ぶからごゆっくり♪」の一言と共にグレイフィアは出て行った…

 

 

 

「…えっと…何かあったの、テレサ?」

 

「……何でもない。」

 

「…そっ、そう…」

 

リアスが声をかけてくるが私は真面に返事をする気力も無かった…朝食も味がろくに分からなかった…くそっ!どうして私がこんな辱めを…!

 

その日の訓練はついつい力が入った。兵藤や木場が何度か宙を舞ったが…その都度すぐに復帰してくる辺りやはりこいつらも見込みはあるな…私は冷静になってからそんな事を考えていた…

 

 

ちなみに…

 

「おい!あの写真を消せ!」

 

「嫌ですよ♪」

 

結局あの写真はサーゼクスとリアスと眷属全員、それからクレアにもアーシアにも回された…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら67

「…ゴハッ!?」

 

あの写真を見て、揶揄って来たリアスたちをボコ…もとい、特訓を着ける…大体のノルマを果たした様だから多少本気を出しても問題無いだろう。

 

「…ウオオオオ!」

 

「……」

 

後衛と前衛に別れて私の相手をさせる…今は前衛の三人だ。私の攻撃を受け慣れている兵藤が肉盾になり、大半の攻撃を受けつつ、前衛二人の攻撃チャンスを作り、自分もしっかり攻撃を入れてくる…兵藤のダメージがデカすぎるな…アーシアは今回出場しないわけだからこの潰し戦法は改めた方が良いと思うが…指摘はしない。自分で分かるだろうしな…

 

「…お前らな…そんなに分かりやすい攻め方だとすぐ受けられるぞ?」

 

「くっ…!」

 

兵藤の赤龍帝の篭手を大剣で受けつつ、側面から斬りかかって来た木場の顔面に裏拳を喰らわせ吹き飛ばす…背後の小猫の顎を足で蹴り上げる。

 

「木場!小猫ちゃん!「余所見をしてて良いのか?」しまった!?」

 

二人に気を取られ私から視線を逸らした兵藤の腹を蹴り…飛ばされながらも追撃を警戒したのか身構える兵藤を見て私は…

 

「…お前を追うと言ったか?」

 

「…あっ!?」

 

私は妖力解放をすると体制を立て直そうとしていた木場の元へ到達する…

 

「なっ!?「遅い。」がっ、はっ…!」

 

木場が身構える前に鳩尾に私の拳が刺さり木場が沈む…ん?

 

「…良い連携だ、木場、小猫。」

 

木場が自分の身体全体を使って完全に私の腕を掴み止め、そこに後ろから最大まで力を貯めた小猫が殴る…本当に成長したな…更に瞬時に自分の役割を理解したのだろう兵藤が私を殴ろうとむかって来ているのも評価に値する。だが…

 

「…ライザーは再生するんだろう?」

 

「なっ!?」

 

「はっ!?」

 

「えっ!?」

 

私は木場に捕まえられている腕を大剣で切り落とし木場を蹴り飛ばすと背後の小猫に向き直り瞬時に距離を詰めると殴りかかって来た小猫を躱し、カウンターで大剣の柄を鳩尾に叩き込む…!

 

「ガハッ!」

 

大剣を戻すと同時に気絶した小猫を抱きとめ…そこから兵藤に回し蹴りを喰らわせる。

 

「おぶっ!?」

 

あっ…顔面に当たった…まあ、死にはしないか…私は大剣を地面に刺し、小猫を地面に下ろす…さて…

 

「…アーシア、悪いがこいつらの手当をしてやってくれ…」

 

クレアと共にタオルを取りに行っていたアーシアが私を呆然と見ているのを確認しつつそう声をかける…

 

「…アーシア?「何やってるんですか!?」何って修行だろう?」

 

「腕は何処ですか!?テレサさんはくっ付くんですよね!?回復しますから早く腕を「私は自分で出来るからこいつらの手当てをしてくれ」あっ、ちょっと!?」

 

アーシアが説教モードに入りそうなのが分かったので私は腕を持ったまま気絶している木場から腕を回収するとその場から歩き出した。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら68

生来のお人好しとはいえ、一応アーシアが着いてきてないのを確認すると一息付き、切り落とした右腕を見る。

 

「…我ながらあっさり切り落としたな…」

 

躊躇は無かった。痛みは…ある…今もズキズキと訴え続けている…さっさとくっ付けるか。腕を傷口に合わせ、妖力解放をしようとして…ふと思う。

 

「…私は、攻撃型か?」

 

クレイモアには攻撃型と防御型の二種類がおり、攻撃型は腕力等が上がる代わりに、腕や足が千切れるともう生えて来ない(極論だが人間並みの筋力を持った物なら数日時間をかければ生やせるらしい…)防御型は力が攻撃型より劣る代わりにほとんど同じ筋力の手足を生やす事が可能だ。半覚醒をしたものならほぼ瞬時に再生させる事も出来る場合がある…私は見た目は攻撃型だったテレサだがそもそも…

 

「…私は半覚醒をしている…」

 

クレイモア原作で半覚醒をしたのは原作主人公のクレアを含む極数人だけだ(テレサは作中で妖力解放自体ろくにしてないので覚醒の可能性そのものが無かった…)…そしてその共通点は妖魔化した愛する者の血肉を取り入れている事…らしい…

 

「…テレサも半覚醒が出来た可能性はゼロでは無いが…」

 

悩んでいても仕方無いな…試してみるか…

 

「…ふんっ…!」

 

腕を地面に置き、しゃがみこむと傷口を押さえ、妖力を解放する…!

 

 

 

「…ダメそうだな…」

 

しばらく粘ったが腕は生えて来なかった…やはり私は攻撃型の様だ…

 

「…さっさと腕を付け…あ…」

 

腕を付けようとして気付いた…生えてこそ来なかったが傷口は塞がっていた…

 

「…剣を置いて来てしまったな…」

 

場所が分からない…という事は無いが、今戻るとまだアーシアがいるんじゃないだろうか…?

 

「…面倒だな…」

 

……後にしようとも考えたが…切り離された腕は腐るかもしれん…

 

「…何をしているんだ…?」

 

「…!…サーゼクスか…」

 

背後から突然声をかけられ思わず身構えたが…そこに居たのはサーゼクスだった…考え事をしていたせいか、気配をまるで感じなかったぞ…

 

「…何でここが分かった?」

 

さすがに偶然とは考えにくい…

 

「忘れたのかな?私は妖気を感知出来るんだよ?」

 

「…そうだったな…」

 

「…で、何をしているのかな?」

 

「……お前も説教か?勘弁してくれ…」

 

「…私から言ってもどうせ君は聞かないからね。…だが黒歌とグレイフィアには報告させて貰おう。」

 

「…まあ、仕方無いか…そもそもアーシアにはバレてるからな…」

 

今日は寝れないかもしれんな…取り敢えず剣を取りに行こうか…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら69

剣を取りに戻れば、当然の様に未だ目を覚まさない三人を必死に介抱していたアーシアと遭遇…あれから結構経ってるぞ…治したのなら別に放置しても良かっただろうに…

 

戻って来た私に注意をしようとするアーシアをあしらい、傷口を再び作るために剣を掴み切り落としたらそれを見たアーシアが気絶した。…咄嗟に受け止めたから良かったものの、下手すれば大怪我だな…アーシアはここに転がってる連中と違って人間だしな…

 

「…やれやれ…あんまり手間をかけさせないで欲しいものだ…」

 

…と言いつつ、恐らく私の口角は上がっているのだろう…本当に私は丸くなったな…

 

アーシアを下ろし腕をくっ付ける…先程の実験で消耗していた事もあり、覚醒の危惧をしていたが問題無く腕はくっ付いた…気持ち少し腕が短くなった気がするな…

 

「…さすがに四人ともなれば多少重みがあるな…」

 

男子二人を肩に担ぎ、小猫を背負い、アーシアを横抱きにする…

 

「…屋敷に戻る前に二人に声をかけて行くか…」

 

放置するわけにはいかんからな…私は自主練をしているリアスと朱乃の元に向かった…

 

……行った先で事情を説明したら二人にも説教を喰らいそうになったので妖力解放して逃げた。…四人の顔色が悪くなった気がするがスピードはさすがに抑えたし、人間が耐えられるレベルのGしかかかってないし大丈夫な筈だ…

 

 

 

 

さて、屋敷に戻れば当然黒歌やグレイフィアからの説教が待っていた…結局四人が目覚めても終わらず、夕飯時まで続いた…このまま食事抜きの流れかと思ったがそれは免除された…理由を聞いてみれば…

 

『あんたの場合、一食抜いても別に罰にならないでしょ?』

 

…ごもっとも。私の場合、元々三日間飲まず食わずで活動していた時期が永かった上に、最近になって出た食欲も人並みだ…食事に関する価値観も違うからな、食事が無いなら無いで別にそんなに困らん。恐らく飢えを感じる様になった今でも一日位は耐えられるだろう…

 

『それにわざわざ作ってくれたここの使用人の人たちに申し訳無いでしょ?一人前が割と量あるから誰も二人前食べられないし』

 

…この屋敷で現在出されてる食事の中でも夕食はそれなりに量が多い…日中ハードワークをしてるんだから当然だがな…とはいえ、兵藤と小猫が多少多い位で他は一般的食事量とそんなに変わらん…早い話が誰も二人分は食えない量なのだ…つまり私が食べないと食卓に乗ったこの料理は廃棄されるしか無い。…まあせっかく手を付けた料理は既に冷めてしまっていたがな…私に説教をしていた流れで二人も冷めた料理を口にしているのはさすがに申し訳なく思った…

 

…最も今日私がやった事を反省するつもりは更々無いがね。

 

 

 

「サーゼクス、グレイフィア、ちょっと良いか?」

 

就寝前、サーゼクスとグレイフィアの部屋に向かいノックをすると声をかける。

 

「何ですか?」

 

扉から聞こえて来る声は低い…まだ怒ってるのか?

 

「そんなに怒るな、開けてくれないか?真面目な話なんだ…」

 

「…鍵は開いてます、手が離せないので勝手に入って来てください…」

 

…どうもまだ仕事中だった様だ…私はドアを開ける…

 

「…悪いな、こんな時間に…」

 

「…良いさ…で、何かな?」

 

思いの外憔悴しきったサーゼクスを見て止めようかとも思ったがそれでは来た意味が無いな…

 

「…明後日がライザーとの対決だな。」

 

「そうだね。それで君は何をいいに来たのかな?」

 

「…グレイフィア。」

 

話しかけて来たのはサーゼクスだが私は敢えてグレイフィアに声をかける。

 

「…何かしら?」

 

「…私の記憶だとリアスたちとライザーのレーティングゲームは実際にある場所、この場合は駒王学園の旧校舎を模した空間で行われた…今回もそうなのか?」

 

「…隠しても仕方無いわね。ええ、おそらくそうなると思うわ。」

 

「…もし今、それと同じ、若しくは似たような異空間を作れと言ったら可能か?」

 

「…条件次第だけど一応可能ね。…何となく話が見えて来たけど聞きましょう、何かしら?」

 

「…頼みがある…」

 

あいつらの負けを覆す為に一つ布石を打っておく事にしよう…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら70

廊下を歩く…来たか。

 

「…木場、気配を消すのが上手くなったな…だが、攻撃の瞬間に殺気が漏れてる。」

 

近くの教室のドアを破壊して飛び出して来た木場の剣を腕で受け止め、弾く。

 

「…くっ。もっと努力します…!」

 

「…その意気だ。お前の強みはスピードとその剣技だ。腕力は多少足りないが十分に補える範囲だ。それはそうとだ…」

 

「…そんなっ!?」

 

背後から殴りかかって来た小猫の拳を振り向きざま、手で掴み投げ飛ばす。

 

「…私が木場に集中している間に奇襲をかけてくるのは良いが、お前も殺気が漏れてる…いきなり気配やら殺気を消せと言われても分からんだろうがこういうのは経験の問題だ、必ず分かる時が来る。」

 

「「…はいっ!」」

 

「…良い返事だ。では…!」

 

床に叩き付けられた小猫の腹を踏み付け、木場の首に肘を叩き込む。

 

ダメージが許容量を超えたのだろう…二人の姿が光に包まれ、消える…

 

 

 

私がグレイフィアに頼んだのは予行演習の準備だ。私を敵対勢力に見立て、実際のレイティングゲームで使う空間に入り私とリアスたちが戦う。…グレイフィアからは苦言を言われたが本番の空気を体験しておくのは悪くない筈だ。

 

「…さて、時間内迄にあいつらは私に勝てるのか…面白くなって来たな…」

 

あいつらの勝利条件は制限時間である四時間の内に私に三発分攻撃を当てる事。私の勝利条件は生き残る事だ…あいつらは何をしても構わないし、やられても休憩後にまたこの空間の何処かに転送される…要するにいくらでもチャンスはある。

 

「……」

 

時計を見る…既に一時間が経過していた。

 

「…失望させてくれるなよ?」

 

私はまた廊下を歩き始めた…

 

 

 

私の記憶が曖昧だから若干の勘違いがあったが、特に問題は無い…記憶違いの内容はレーティングゲームの異空間の規模だ…旧校舎では無く、駒王学園全体がフィールドとなる。

 

 

「…広いな…さてと。」

 

グラウンドに出れば頭上に気配…思い切った事をするな。

 

「…兵藤、その高さからそのスピードで落下してくるなら確かに気配を感じても手遅れかもしれないが…」

 

「げっ!?」

 

私はその場から飛び退く…校舎の屋上から飛び降りた兵藤の拳が地面に叩きつけられ、一帯が砂煙に覆われる…

 

「…くそっ!何処「……」んぎっ!?」

 

兵藤の背後に立った私は兵藤の襟を掴み近くの木に向かって投げ付ける…

 

「うわぁ!?」

 

兵藤の当たった木はへし折れ、更に…

 

「…きゃあ!」

 

木の影に居た朱乃に当たる…近付いて行けば二人とも気絶していた…二人が転送される…

 

「…大丈夫か?こんなんで?」

 

未だに私は一切ダメージを受けてはいない。先が思いやられるな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら71

連中が少々不甲斐ないのでさすがに冷めて来る…あくまで予行演習とはいえ、もう少し楽しめると思ったんだが…!

 

「…ふんっ!」

 

「わひっ!?」

 

並んでいるロッカーの内、一台を蹴り飛ばす。ドアが変形するのと同時に中から声が聞こえた。

 

「……兵藤、ここは男子更衣室だぞ?そういう趣味もあったのか?」

 

「…ちっ、違いますよ…!そんな事言ったらテレサさんだって…!」

 

ここを通りかかった際、気配を感じた時は何の冗談かと思ったが…

 

「…なら、何でこんな所に隠れた?私が来るとは限らないだろう?」

 

「…テレサさんは俺の気配を読んでるんでしょう?」

 

「…誘いをかけたつもりか?だがお前はこうやって見つかって「いえ、貴女がここに来て俺と話し込んでる時点で俺の作戦は成功です…木場!」何!?」

 

私の背後のロッカーが開き中から木場が現れ斬りかかって来る…チッ。兵藤の気配に気を取られた…!受け止めなくては…!

 

「…成程な。木場の方が囮だったのか。」

 

「…いえ。どっちに最初に対処するのかは賭けでした。テレサさんは一人しかいませんからね、必ずどちらかを先に相手しなきゃならないでしょ?」

 

私の背中には兵藤の拳が当てられていた。

 

「…良いだろう。一ポイント先取だ。…木場、兵藤、この場は見逃してやるよ。」

 

私は手で掴んだ木場の剣を離す。…油断したな、上等だ。もう少し本気を出すとしよう…!

 

私の元を二人が脇目も振らず走りながら去っていくのを見送る…

 

「…殴るのではなく当てるだけ…甘いな…」

 

兵藤のあの甘さは何れ自分の身だけでなく味方も危険に晒すだろう…この戦いを通じて矯正出来れば良いがな…

 

 

 

 

理科室で私に倒れて来た棚を剣で両断する。…いないな。

 

「…私が見失うとは今回一番成長してるのは木場かもしれんな。」

 

木場がここにいるのは間違いないが具体的な場所は分からん…最低でも一クラスが授業を受ける事を想定してるからかある程度の広さはあるがそこまでじゃないんだがな…

 

「…!そこか!」

 

並んだテーブルの内の一つに剣を刺す。

 

「惜しいですね!」

 

僅かに逸れたらしい…木場の近くを刺してしまった剣は抜けなくなった…木場が掴んでいるらしい…

 

「…それではお前も動けないだろう…どうするんだ?」

 

「…部長!」

 

「…ほう?」

 

これまで一度も会わなかったリアスがここで、か。

 

「…ありがとう祐斗。テレサ、悪いけど勝たせてもらうわよ!」

 

入り口から入って来たリアスから放たれる魔力弾を見ながら私は…

 

「…ふんっ!」

 

テーブルを蹴飛ばす…固定されていた筈のテーブルが浮き上がりテーブルに刺さった剣を掴んだままの木場に一緒に空中に…

 

「…なっ!?祐斗!避けなさい!」

 

魔力弾がテーブルに当たる直前に木場は剣から手を離し、テーブルを踏み台に無理矢理その場から飛び退く…

 

「…グフッ!」

 

妖力解放をして剣を引っこ抜くと同時に木場に近付いた私は体勢を立て直される前に側頭部を蹴り、吹き飛ばす…

 

「祐斗!「余所見は感心しないな」しまった!?」

 

吹き飛ぶ木場に気を取られたリアスに近付き剣を横向きにしてリアスの頭に向けてフルスイングした…

 

 

 

 

「…三時間経ったか。」

 

二人が転送されたのを確認しつつ、時計を見る…中々奮戦しているが私に攻撃を当てられたのは先の兵藤の一発のみ…さすがに後一発位は当てて欲しい所なんだがな…私は付近に気配が無いのを確認すると理科室を出た。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら72

「…全員でかかって来るとはな…」

 

制限時間が残り三十分を切った所でまた兵藤の気配を感じ家庭科室に入ったら共に閉じ込められた。異臭がすると思っていたらどうもガスの元栓を開けていたらしい…瞬時に兵藤の元まで距離を詰め、胸ぐらを掴み抱き抱えた後、窓ガラスに突っ込んだ所で後ろで家庭科室が爆発。地面に降りた所で兵藤以外から総攻撃を受けた。

 

「…中々容赦無いな?お前の仲間は?お前を盾にしても躊躇無く攻撃して来たぞ?」

 

「問題ありません…これは俺が考えた作戦です…こんな事しか今の俺は役に立てませんから…!」

 

「……」

 

こいつがここまで劣等感を覚えているとはな…私のせいか…最もこれは私にはどうしようも無いがな…

 

「…その辺はあいつらと話し合え。私からは何も言わん…さて、無茶な作戦だったが一応は合格だ。」

 

兵藤を盾にしたと言っても本当に兵藤に攻撃を受けさせる気は無かったからな…兵藤を抱えたままいくつかの攻撃は弾き、躱したが結局何発か当たってしまった…その分返したから連中は転送されたがな…

 

「…テレサさん…俺は…!」

 

「…取り敢えずお前も帰れ。」

 

私は兵藤を空に放り投げ、地上に落ちる前に蹴飛ばし、転送させた。

 

 

 

 

「……」

 

ベッドの上で眠るアーシアをチラ見する…殺気を感じ一応視線を戻す。

 

「…やり過ぎ。アーシア、あの後倒れたのよ?」

 

目の前にいる黒歌の低い声を聞きながら、また視線を戻す。

 

「…仕方無いさ、あいつらろくに実戦やってないんだ。少しはレーティングゲームの雰囲気だけでも味わって貰わないとな。」

 

「…あんたは連中を痛め付けるだけだから良いけどね…治療しなきゃいけないアーシアの事も考えたら?」

 

「…あれでも加減したんだがな…」

 

顔面に打撃を叩き込んだり大剣の腹で急所殴り付けたり…奴らの身体の強度ならまともにやれば打ち付けられた箇所は斬るまでも無く泣き別れしている…

 

「…それにな、あいつらだって律儀に本気で殺す気で来てたんだぞ?」

 

特に不意を突かれ、リアスからの魔力弾を掠った時とラストの爆発はやばかった…

 

…前者はマントの一部が消失し、後者は逃げる際に背中を焼かれた…手段を選ばないにも程があるだろ…危うく兵藤も巻き込まれる所だったしな…しかも本人の提案である辺り問題の根は深い…死ぬ気だったのか、あいつ…?

 

「…あんたあんなので死なないでしょ?」

 

「…私だって消滅させられたら復活しないし、全身に大火傷を負ったらどうなるか分からんさ…そもそもクレイモア自体首飛ばされたら普通は死ぬんだぞ?」

 

覚醒してる場合ならある程度例外はあるが。

 

「…もう良いわ。休みましょ…あんたも今日は疲れたでしょ?明日は本番だしね…」

 

……お前が説教を始めたんだろう…とは口に出さなかったがジト目を向けて来た所を見ると気付いてはいるらしい…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら73

遂に迎えたレーティングゲーム当日。

 

朝食を早々に済ませ、簡単に自主練を終えた私たちはライザーとの顔合わせの後、ゲームの舞台となる異空間へ入った。

 

「…暇だな…」

 

「なら、貴女も出れば良かったんじゃない?」

 

ここは今ゲームのスタート地点のオカルト研究部だ。…そう、私は事前に行っていた通り、ここから動かなかった。…ライザー側たっての希望で私にハンデは付けられなかったためルール上、別に動けない訳では無いのだが…

 

「…偉そうに言いたくは無いが、私と足並み揃える事は出来るか?」

 

「……無理、ね…」

 

私とこいつらの実力は隔絶している…今回の特訓で確かにこいつらは強くなった。恐らく原作のライザー戦の時より実力はある筈だ(まあアーシアが出場してない等細かい違いはあるが、そこは微々たる差だ…今更ライザーの眷属と戦った所で深手を負うほど生半可な鍛え方はしていない)…だがそれでもまだ私には及ばない。

 

「…でもね…」

 

「ん?」

 

「…私たちは追い付くわ。必ず貴女の隣に立つ強さを手に入れる…だから待っていて。」

 

「…ああ。楽しみにしている。」

 

自信に満ちたリアスの言葉に私はそう返す…良い顔だ。原作と違って不安が全く無いからだろうな…これなら何も心配は要らないだろう…

 

「…冷めないうちにどうぞ?」

 

「…ああ。」

 

リアスの入れた紅茶に口を付ける…ふぅ…

 

「…初めて紅茶を飲んだ…みたいな反応ね?」

 

クスクス笑うリアスにジト目を向けつつ私は切り返す。

 

「…ここ最近は冷めたのばかり飲んでたからな…」

 

「それは別に私のせいじゃないわよ?寧ろ私が文句言いたいわ…人の眷属を誑かさないでって。」

 

「…私はそんな事した覚えが無いのだが…」

 

「…何か黒歌が可哀想ね…」

 

「…あいつはそういう趣味は無いと自己申告してるが?」

 

「貴女それ信じてるの?」

 

「……」

 

「…きちんと確認した方が良いわよ?」

 

私は急激に乾き始めた口を潤す為、もう一度カップに口を付ける…

 

「…このゲームが終わったら聞いてみる…」

 

「…黒歌の事ばかり気にしてないで朱乃と小猫の事も考えてあげてね?」

 

「……ああ…」

 

朱乃はともかく小猫は違う気がするが…

 

「…ふぅ…」

 

眉間に手をやり、揉む…眠い…

 

「…あら?眠いの?」

 

「…ん?ああ、少しな…」

 

「…少し仮眠する?」

 

「さすがにそういう訳にもいかんだろう…」

 

「…入れ直しましょうか?濃いめに入れることも出来るけど?」

 

「…頼む…」

 

「はいはい。少し待っててね?」

 

「…ああ…」

 

…と言ったもの瞼が重い…少し目を瞑る、だけ…と目を閉じると同時に私は眠りに落ちた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら74

「…やってしまった…!」

 

何時の間にか寝ていた私が起きるとリアスは部室にいなかった…寝惚けた頭に原作知識が過ぎった私はすぐさま妖力解放をし、邪魔な部室のドアを蹴破ると走り出した。

 

 

 

「…へぇ…今頃来たのか。でももう手遅れだな。」

 

戦闘の気配を感じ取った私が辿り着いたのはグラウンドのど真ん中。…そこで目にしたのはホスト風の格好をしたニヤケ面のムカつく男…ライザー・フェニックスとそれに相対し、ボロボロになりながらも両の足で立ちリアスを守る兵藤。…他の連中は負けて転送された様だな…

 

「…テレサ…来てくれたのね…でも、もう良いわ…私は降参するから「諦めるのか?」私はイッセーの主人だもの。」

 

それで守ったつもりか?馬鹿が…!

 

「…それはお前のために戦ったこいつや他の奴らの想いを踏みにじる行為だ。…兵藤、何を腑抜けてる?お前の想いはその程度だったのか?そんな雑魚に負けるのか?」

 

「…テレサさん…俺には…無理です…」

 

「…兵藤、お前の願いは何だ?」

 

私には確信があった。こいつならライザーを倒せると。原作知識があるからではなく…今日までのこいつを見ていてそう感じていた…後はこいつが一歩踏み出すだけ。

 

「…俺には無理です「下らない事言ってないで答えろ」っ…!俺はハーレムを…!」

 

「そうだな。だがそれは手段に過ぎんのだろう?ではお前の原点は何だ?何故お前はハーレムを求めた?」

 

「…俺は…!…テレサさん?」

 

私は兵藤の横に立つと肩に手を置く…ヒントは与えた。後はこいつ次第だ。

 

「…自分の本当の願いを思い出せ。…ここは

引き受けてやる…だが、悔しいが恐らく私にはこいつを倒しきれん…お前がケリを着けるんだ。」

 

「…無理よテレサ…!もうイッセーは「リアス」…え?」

 

「お前は主人としてこんなにボロボロになってまで自分を守ってくれた眷属のこいつに報いる気はあるか?」

 

「…あるわ…でも今更私に何が「答えはこいつが出す。」

 

それだけリアスに告げると私は背中の剣を抜きライザーに歩み寄る。

 

「…何だ?待っててくれたのか?」

 

「…正直あんたと戦うのが楽しみでね。…簡単に倒れないでくれよ?」

 

「…お前のお眼鏡にかなうよう努力するさ。最も兵藤が復帰するまでだかね…ところで一つ賭けをしないか?」

 

「そいつが今更復活するわけないと思うがね?…で、何だ?」

 

「…もし、兵藤がお前を倒せなかったら私はお前の眷属になる…というのは?」

 

「…テレサ!?何を言って「リアス、黙ってろ」……」

 

「…へぇ…ちょっと張り合いが出て来たよ…そんなにそいつに期待してるのか?」

 

「…ああ。強いぞ、こいつは。」

 

…そう、私よりもずっとな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら75

「…早いな。それにその剣…俺にも剣士が眷属にいるけど多分あんたの方が上だわ、素人考えだけど。」

 

「そりゃどうも。」

 

私とライザーの戦いは予想通り膠着状態に陥っていた…ライザーの攻撃は全て躱し、私は的確に手やら足やら、何なら首を切り落としたりもしたがこいつは再生するから余り意味は無い…

 

この手の不死の者に勝つ方法は実はいくつかある。

 

一つ、再生が間に合わなくなる程のダメージを与える、二つ、再生してもお構い無しに殺し続けて恐怖を与える、三つ、細胞レベルで完全消滅させる、

 

…こんな所だろうか?…斬るしか能の無い私に出来るのは二つ目の恐怖を与える以外の攻略法は無い…しかし…

 

「…そろそろ理解出来たろ?俺は死なないんだって。あんたはもちろん、そこの眷属君にも俺は倒せないよ?降参したら?」

 

こいつは死に慣れている…恐らく後何回斬り殺したところでこいつの精神は削れない。

 

「…気が早いな。」

 

ライザーから放たれる炎に飛び込み、斬り掛かる…!

 

「…悪魔でも無いのに丈夫だね、あんた。」

 

「お前らが特別だと思わない事だな。」

 

私の移動スピードが早いおかげでそれ程酷い火傷は負わず、特に問題無く治る…が、そう長くはもたない…限界が先に来るのは私だろう…

 

「ああ…ますます欲しくなって来たな…あんたは傷を負って尚美しいぜ。」

 

「…悪いが私の身体は醜いぞ?」

 

「人間と俺たちの美意識は違うんだぜ?大丈夫、あんたもちゃんと愛してやるよ。」

 

「…自分が絶対に愛されると思ってる辺り反吐が出るな…!」

 

妖力解放し、炎を斬り裂く…!

 

「…驚いたな。躱されるとか、防がれるならあるけど斬られたのは初めてだ…本当に面白いな、あんた。」

 

「なら、もっと驚いた顔したらどうだ?涼しい顔して…」

 

…だんだん私の攻撃が当たらなくなっている…本気まではまだ遠いが…!

 

「…そう言えば俺が眷属君に負けたらどうするか決めてなかったな?」

 

「…そうだな…」

 

油断した瞬間に懐に入られ、顎を掴み、持ち上げられる…

 

「…そういう割にもう勝ったつもりか?私はまだお前の物にはなってないぞ?」

 

奴の手を払い除け、離れる。

 

「…お前が負けた場合の条件だが…ゲームの結果としてはリアスとの婚約解消で良いんだな?これは私との個人的な賭けの結果として別で良いんだな?」

 

「…現魔王の一人が見ているのに嘘は付かないさ。」

 

「…ではこうしよう…お前が兵藤に負けた場合、フェニックスの涙をグレモリー家に定期的に供給しろ、もちろん無償でだ。」

 

「…それでいいのか?それだとあんたにメリット無さそうだけど?」

 

「どうせ余興だ。」

 

別に私自身は欲しい物は無いからな…

 



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら76

埒が明かん…私は剣を地面に突き刺した。

 

「ん?何、降参?」

 

「…まさか。」

 

そこから私は妖力解放をして奴への距離を詰める…!

 

「なっ!?消え…ぐえっ!」

 

ライザーの背後に回った私はスピードを殺さず奴の背中を蹴り飛ばし、追い掛ける。

 

「…チッ!お前、今まで手を抜いて…!痛っ!?やっ、止め…ギャアアア!!!!止めろ…!髪が抜ける!!」

 

奴の髪を掴み、引き摺りながら校舎まで走る。適当な教室の窓に放り込み、私も中に入る。

 

「…テッ、テメ…ぶごっ!?」

 

上体を起こした奴の顔面を殴り付け、吹っ飛ばし、また追い掛ける…やはりな、原作の兵藤が何故勝てたのか分かった気がする…奴の身体は普段は炎を纏っているため打撃を受けた経験が少ないのだ…その癖先程より速い私のスピードに対応出来ず、今奴は混乱の極地にいる

 

…ちなみに私は手を抜いていた訳では決して無い…実は今出してるスピードに私自身がまだ対応しきれていないのでこのスピードで動くとかなりの頻度で剣を空振るのだ…斬り掛かる際、一々止まってたら隙になるからな…その点打撃なら慣れてるから問題無い。

 

…ただせっかくこの身はクレイモアである以上剣で戦いたいのだが…まあこうなれば仕方無い…兵藤の御株を奪う事にもなりそうだし、抵抗出来ない奴を一方的に嬲るのは趣味では無いが…一つ、このムカつく男をボコボコにするとしようか…私は舌舐めずりをすると更にライザーに追撃を加えていった…

 

 

 

「っ!?アアアアアア!!!?」

 

眼球に指を突っ込み(自分でやっといてなんだが指先から感じる独特のグチュッとした感触が非常に気持ち悪い…)眼窩に引っ掛け、持ち上げ、放り投げ…胴体が千切れて首だけ飛んで行った…私は残った胴体を首と同じ方向に蹴り飛ばした…どれくらい経った…?私はライザーを追い掛けながら時計を見る…

 

「…三十分程か…チッ!まだか兵藤…!」

 

私には他人を虐めて悦に浸る趣味は無いので単に疲れるだけだ…そろそろ限界なのだが…何時まで迷ってるんだあの童貞は…ただリアスに胸を提供して欲しいと言うだけだろうに…

 

「グアアアアアアア?!?!?!?!」

 

……あれだけ痛め付けられてもまだ立ち上がろうとするライザーに薄ら寒い物を感じながら無防備な下半身目掛けて足を振り下ろし、股間を踏み付けると一際煩い悲鳴を上げ、ブクブクと泡を吹き始めた…全く…一々喚くな、どうせ再生するんだろうが。…ん?やっとか…散々待たせてくれたな…

 

「…テレサさん…あの、これは…?」

 

「やっと来たか。見ての通り前座を務めさせて貰った…私は疲れたから寝る…後は頼むぞ?」

 

私とピクピクと痙攣しつつも何とか立ち上がろうとするライザーを見比べてあからさまにドン引きする赤龍帝の鎧を纏った兵藤の肩をポンポンと軽く叩くと私は半壊した校舎を出た…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら77

「…っ…!やはり無茶だったか…」

 

……数千度の炎を纏ったライザーを殴った私の手は炭化こそしてないが重度の火傷を負っていた…良く見れば先程確認した時計は腕に張り付いている…止まってないのが不思議なくらいだな…

 

「…足は黒歌のおかげで無事だな…こういう時はこの身が人でなくて良かったと思うよ…」

 

最もまた説教されるんだろうな…クレアとアーシアに試合を見せなくて良かった…無茶した事を知られるのもそうだがあんな蹂躙劇見せられん…

「…手を治しておきたいが…まずこの時計を削ぎ落とさなければ…」

 

 

 

「テレサ!?どうしたのその手!?」

 

「ライザーを殴っただけだ…あー…説教は勘弁してくれ…疲れてるんだ…」

 

リアスからの言葉を聞き流し、剣で腕に癒着した時計を皮膚ごと削り落とし、妖力解放をして手を修復する…

 

「…それじゃあ私は寝る。終わったら起こしてくれ。」

 

その場で横になる…さすがに疲れた…スタミナ不足をどうにかするのもこれからの課題だな…

 

「テレサ!?「お休み」…もう…」

 

 

 

その後、兵藤は見事ライザーを屈服させたらしい…と言ってもダメージの七割方は私が与えたものらしく本人はかなり不満そうだったが知らん。…やり過ぎたとは思うが反省はしない。兵藤としてはどうか知らんが私はあいつが嫌いだからな…

 

 

 

「…さて、これをクレアたちに見せるかどうかだが「ダメだ」しかしだね、二人は君の活躍を見るのを楽しみにしてるんだが…」

 

「…黒歌がリアルタイムで見たのは仕方無いとはいえ、あんな物見せられるわけないだろうが。」

 

今、私はサーゼクスの部屋にて黒歌と共に今ゲームの映像を見せられていた…やってる当初はあまり気にならなかったがこうやって改めて見ると私にやられてるライザーがとにかくグロい…こんな物二人に見せられるわけがない…

 

「…私にゃら良いって言うのは納得いかないにゃ。」

 

「そもそもお前まだ病み上がりだろう?無理して動かないで休んでれば良かったんだ…別にこんなの見なくてもだな「家族の晴れ舞台を見に来ちゃいけにゃいの?」…そういう言い方は反則だろう…」

 

「…改めて聞くけど…他にやりようは無かったの?」

 

「…無いな。ライザーは弱くは無い。あの時も何時の間にか私のスピードに追随していた…私が剣で攻撃出来るギリギリのスピードなら何れ攻略されていた…私自身長期戦は苦手だしな、さっさと決めるならあれしか無かった…」

 

「…そもそもあんたはにゃんでライザーとしか戦ってにゃいにゃ?」

 

「私が出るとあいつらの成長の妨げに「理由はそれだけ?」……寝てた…何故かリアスは起こしてくれなくてな…」

 

「リアスちゃんに聞いたら起こしたけど起きなかったって聞いたけど?」

 

「……先にあいつに聞いたなら私に聞く必要無いだろうが…」

 

「その辺の話は今は置いておこうか。…それでどうするのかな?編集しようにも君が参加したのはこの一戦のみだからそれも難しいのだが…」

 

「…二人には見せない。悪いがカメラのトラブルで映像が無いとでも言ってくれ。」

 

「…個人的には私もこれは見せられないと思うからね…二人にそう伝えておくよ…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら78

「私の話はもう良いだろ?元々お前本命は妹の方だろ?どうだったんだ?」

 

「…サーゼクス…映して。」

 

険しい顔をした黒歌の発した言葉に応じてサーゼクスが無言でリモコンを操作し、映像を戻す…何だ、一体…?

 

「…ちょっと見てもらえる?」

 

「ん?……成程。」

 

そこに映っていたのはライザーの眷属が振った剣を紙一重で躱し、相手の腕を掴み、それを支点に無理矢理自分の身体を相手の頭上に持ち上げ、相手の顎に膝を喰らわせ、相手が倒れ込んだ後、更に相手の肘の関節を破壊した小猫が映っていた。

 

「…で、これが?」

 

「…これ、あんたが教えたの…?」

 

「…あいつの場合どう力が上がっても拳の威力はたかが知れてるからな、足の使い方を教えただけだ…あそこまでえげつない手は教えてない…だが、あれが何か問題か?黒歌、お前だって敵対者には容赦ないタイプだろう?小猫は今まで甘かったのさ…寧ろ成長を喜ぶべきじゃないのか?」

 

「……」

 

黒歌は唇を噛み締めたまま黙っている…やれやれ…

 

「…あのなぁ…妹にこうなって欲しくなかった、は今更だぞ?こいつは遅かれ早かれこうなってたさ…」

 

……とはいえこれは原作には無い変化だ…本来は私はもっと気にすべき事なのかも知れない…だが…

 

「…自分の妹とその仲間を信じろ。あいつは道を間違う事は無い。」

 

「…何でそんなに落ち着いてられるの…?」

 

「…あいつがお前の妹だから。それだけで私にとっては信頼に足る。」

 

「…あんたって冷たいのか、甘いのか分からない…」

 

「…私は元々単なる合理主義者だ。…だから本当は感情論より打算が大きい…だが血も涙もある…」

 

「…あんた泣き虫だしね…」

 

「…揚げ足を取るな。…全く…」

 

「…テレサ、打算とはどういう意味かな?」

 

サーゼクスが水を差してくる…どうしてお前はそんなに鋭いんだ…そこはスルーするところだろうに

 

「私は強くなってもらいたいのさ、あいつらに。…私が覚醒者になった時首をはねられる候補は多い方が良い…」

 

「…私たちだけでは足りないと?」

 

「…足りない。この身は最強。もし、覚醒したらお前たちだけで抑えられるか分からん…だからこんな所でつまづいて貰っちゃあ困るんだよ…」

 

だから私はあいつらを徹底的に鍛えた…結果的にあいつらは今原作のライザー戦後より強くなっている筈…問題はアーシアが眷属じゃない事…タイミングがズレている事…挙げてみると不安になって来た…大丈夫なのか?そもそも一番の不確定要素は私だが…

 

「…オフィーリアの事もある…あいつら全員を耐えず私がガードするのは無理だ…と言うかもう一度戦っても勝てるか分からないしな…」

 

…リターンマッチがしたいと思わないでも無い…だが、全てを賭けて戦うには私はもう大事な物を増やし過ぎた…何も無かった昔なら…いや、やはり負けていたかも知れないな…何となくそんな気はする…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら79

「まあ小猫の事は置いといて、だ「もっと真面目に考えるにゃ」…ここまで来て蒸し返すな。そんなに気になるなら姉妹で勝手に話し合え。倫理的な話なら私は専門外だ。私に教えられるのは結局戦いに関する事だけだからな。」

 

「…私だって無理にゃ…」

 

「なら、どっちみちこの場で何言っても無駄だ。…辛気臭い顔するな…取り敢えず会って来たらどうだ?サーゼクス、今小猫は何処に居る?」

 

「隣の部屋でリーアたちと休んでいるよ。」

 

「だとさ。ほれとっとと「後にするにゃ」…なら、好きにしろ。サーゼクス、次だ」

 

「では誰を映せば良いかな?」

 

「…木場だ。」

 

「…ふむ、何故彼なのかな?」

 

「ちょっとな…まず映してくれ。理由は後で話す。」

 

「分かった…では…」

 

サーゼクスが再び操作をし、映像が切り替わる…そして木場祐斗の姿が映し出された…

 

「むっ?サーゼクス、ちょっと止めてくれ。」

 

「…と、どうしたんだ?まだ戦闘が始まってすらいないが?」

 

「黒歌、見てみろ。」

 

「にゃ?…あっ。」

 

映像に映し出された木場は両手にそれぞれ一本ずつ剣を持っていた…成程。こういう風になるのか。

 

「すまない…私にも分かるように説明してくれないか?」

 

「…魔剣使いとしての木場祐斗は多くの場合、剣を基本的に一本しか使わないんだよ。」

 

「成程。この映像では二刀流になってるね。しかし、改めて指摘したのは何故かな?君は既に見てる筈「私との戦いで奴は二刀流を披露していない」成程。」

 

「間違いなく私への対策だろうな…この時点でライザーは既に眼中に無かったのだろう…」

 

実際、私の見立てでは今のあいつらは一体一に持ち込めるなら木場祐斗を含め、全員ライザーの眷属にはほぼ遅れを取らないだろうと見ている…もちろん一番成長の遅れている兵藤一誠も含めてな…

 

「成程。手数で君を圧倒するつもりなのだろうね…」

 

「現状、純粋に腕力で劣る木場では私との打ち合いはほぼ不可能だからな…」

 

まあ私の場合、大剣がまともに振れないなら他の武器を使うか、徒手空拳に切り替えてボコボコにするだけなのだが。

 

「私の記憶では後にある理由から木場は二刀流主体に切り替えるんだ…」

 

「…君の知る歴史と変わって来ている訳だね…君はこれが重大な不確定要素に成りうると?」

 

「…いや、念の為だ。変化なら既に私の存在があるし、ライザーと戦うタイミングもズレてるから今更だ。」

 

…最も本音を言えば…先程小猫の問題をスルーしたからこの場では言えないがここまで変化がある以上、何が起きても可笑しくないと思っている…しばらくは警戒を続けなければ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら80

「さて、次は「もういい。」……まだ残っているが…」

 

「これ以上は無駄だ…残りの三名に関しては本人と直接話した方が早い…そもそも本来であれば兵藤以外は専門外だ…心の問題に関してなら大人としてアドバイス出来なくも無いがな…」

 

……完全に能力頼みの遠距離戦闘を行う二人に関して私から戦術的にこれ以上言える事は何も無い…それに…

 

「私の知る歴史との違いなら尚のこと直接見た方が早い…どうせ当分は修行をつける羽目になるんだ…」

 

しかしこれ以上何を教えたら良いものやら…頭が痛くなって来る…

 

「…成程。ではこれで…?」

 

部屋のドアからノックが聞こえた…誰だ?こんなイベントに覚えは無いが…サーゼクスがこちらに視線を向けて来たので首を横に振る。

 

「…取り敢えず私が出るにゃ。」

 

「…ああ、頼む。」

 

そう言ってドアへ向かう黒歌…その間に私は黒歌にずっと抱き着かれて居て強ばった腕を回し解す…やれやれ…

 

「誰にゃ?」

 

「俺です…兵藤です…」

 

「イッセーちんにゃ?」

 

兵藤?どうしたんだ?黒歌が一応サーゼクスの方を見れば黙って頷いた…まあ私からも特に断る理由は無いが…

 

「待ってるにゃ、今開けてあげるにゃ。」

 

黒歌が念の為かけられていたのだろう部屋の鍵を外し、ドアを開けた。

 

「どうしたにゃ?私たちもそろそろそっちに行こうと思ってたけど?」

 

「…あっ、いえ、俺がと言うか…その…」

 

兵藤が言い淀む…何だ、一体?

 

「…歯切れが悪いにゃ…はっきり言うにゃ。別に私たちもよっぽどふざけた話じゃなきゃ別に怒ったりしにゃいにゃ。」

 

「…それがその…さっきライザーの奴がやって来て…思わず身構えたんですけど…何か俺たちでも部長でもなくてテレサさんに用だ、とかで…」

 

「……ライザーが…テレサに?」

 

どういう事だ?…何だ?この悪寒は…

 

「…一応部長が用件を聞いたんですけど良いから会わせろ、の一点張りで…取り敢えず俺が代表でここに…」

 

「そう…。」

 

黒歌が私に視線を向ける…

 

『どうするの?』

 

『…会うさ。あんな奴でも名家の人間だ、まさか魔王のいるこの場で暴れ出す程分をわきまえない、という事は無いだろうしな…』

 

『…そっ、分かったわ…』

 

「…分かったにゃ。なら、入っても「いや…それがその…二人だけで話したいとかで」……はっ?」

 

黒歌から底冷えのする様な声が聞こえた…

 

「どういう事?」

 

「そっ、それが…俺にも良く…」

 

「とにかく駄目よ。そんなの認められるわけ「構わない。会おう」テレサ!?」

 

「良いのかい?向こうは仮にも魔王である私を蔑ろにして君を指名してきてるんだ…何なら私の口から断っても「問題無い。会うだけだ…そんなに心配するな」…テレサ…」

 

「呼ばれたのは私だ…そこまでお前に面倒はかけられんよ…」

 

私は席を立つ…「テレサ…」

 

「…何だ、グレイフィア?」

 

「気をつけて…」

 

「…ああ。」

 

ドアに向いて黒歌の横を通…おい…

 

「離してくれ黒歌「嫌にゃ。」おい黒歌…」

 

黒歌が私の服を掴んでいるので動けない。

 

「どうしたと言うんだ?大丈夫だ、ただ会って話を「嫌にゃ!」黒歌…」

 

やれやれ…私は黒歌の頬に手を当てた…

 

「……嫌な予感がするにゃ。」

 

ああ…正直私も感じてるよ…いや、多分この部屋にいる全員が感じているのだろう…

 

「…大丈夫だ、私を信じろ。」

 

私はもう片方の手で黒歌の指を一本ずつゆっくり開いて行った…どれほどの力を込めたというのか、黒歌の爪が私の服を貫通し黒歌の手に血が滲んでいた…全く…馬鹿な奴だな…

 

「…グレイフィア、大した事は無いと思うが一応こいつの手当てを頼む、じゃあな、黒歌…行ってくる…」

 

私は兵藤がドアから離れるのに合わせ、部屋の外に出るとドアを後ろ手に閉めた。

 

「…さて兵藤、悪いがライザーの所まで案内して貰えるか?」

 

「はっ、はい!こっちです!」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら81

兵藤の案内で駒王学園旧校舎の廊下を歩く…兵藤がかなり緊張している様だ…そんなに厳しくした覚えは無いのだが…黙っているのもなんだし、少し話でもしてやるか。

 

「…しかし意外だな?」

 

「えっ?」

 

「いや、お前がこうしてライザーの為に私を呼びに来た事だよ。」

 

「…すみません…無理を言って…」

 

……いや、本当に原作と違い過ぎるだろ…何でこんなに卑屈になるんだ?

 

「…気にするな、呼び出したのはライザーだろ?お前がそんなに気に病む事は無いさ…そもそも用があるなら私の所へ直接来れば良いというのに「いや、難しいんじゃないですかね?」…ん?」

 

「実はあいつ、妹に支えられながら俺たちの所に来まして…どうもテレサさんにボコられたのと更に俺の攻撃の影響で再生が間に合わなかったらしくて…」

 

「……成程。そもそも私のせいだったか…すまなかったな…」

 

「いっ、いえ!それなら俺のせいでもありますから…」

 

まさかそんな状態になってるとは…やはりやり過ぎたか…?…いや、奴には良い薬という気もするが…

 

「…まあ…そんな状態ですから実を言うとこっちも毒気抜かれちゃいましてね…頭まで下げられましたし…」

 

「……」

 

そこまで劇的に変化があるとはな…

 

「それで…さっきの質問の答えですけど…部長をライザーのいる部屋に行かせることになるのも抵抗があったし…そうなると直ぐに動けるレベルの軽症の奴は俺しかいませんし…それに…」

 

「それに?」

 

「…ライザーの気持ちも…まあ、男として少しは分かる気がしたんで…」

 

「どういう意味だ?」

 

「…詳しくはライザーの奴に直接聞いてください…元々俺の推測でしか無いですし…どちらにしても俺から口に出すわけにはいきませんから…」

 

 

 

 

「…来てくれたか…あー悪いな、呼び出して…」

 

「構わんさ…こういう事情なら私にも責任がある…」

 

「取り敢えずかけてくれよ…まっ、つっても俺の部屋じゃないけどな。」

 

私はベッドに身体を横たえるライザーの向かいに置かれた椅子に座った…

 

「…で、何の用なんだ?…身体が動かないなら何も、今でなくても良かっただろ?…まあどうしても今恨み言が言いたいとかなら「いや、そういう事じゃ無いんだ」ん?」

 

「これは報いさ…アンタやリアス、そしてその眷属たちの力を侮った…その結果がこれだ…納得こそすれ、俺がアンタやリアスたちを責める事は絶対にねぇ。…もちろん、これは俺の眷属も共通しての意見だ…」

 

「…ますます分からんな…そういう話じゃないなら何だ?」

 

「どうしてもアンタに今この場で言っておきたい事が有ってな…」

 

「…ここまで来たんだ…聞いてやる、何だ?」

 

「…俺はアンタに本気で惚れた。…俺と添い遂げて欲しい。」

 

「はっ?」

 

何を言ってるんだ、こいつ…

 

「…言っておくが…これは嘘でも気の迷いでも無いぜ?俺は本気だ。…まあ眷属たちを手放す気は無いがな…俺が一番愛してるのはアンタさ…」

 

「虫のいい話だな…まあ、しかしだ…仮にもし、お前がこの場で眷属たちを私の為に放逐するとほざいていたら…間違いなく私はお前をさっき以上の力で殴っていただろうよ。」

 

女として見ればクズの論理だろうが…私一人を愛するために仮にも全てを捧げて着いてきた眷属たちをあっさり放り出すようなら最早ただの畜生だ。それこそ塵芥にも劣る…

 

「…さて、私の返事だが…あの時と一緒だ…他を当たれ。」

 

「…やっぱ振られちまったか…何せ出会いも最悪だったからな「勘違いするな」ん?」

 

「もしも今回の様な出会いじゃなくても私はお前を選ばない…お前に教えといてやるよ、一般的に気が多い男を選ぶのは極小数なんだよ…誰もがお前を選ぶと思わない事だ。」

 

「…肝に銘じて置くさ。…まあ…でもさ、想うのも、アタックするのも俺の自由じゃないか?気に入らないならアンタが俺を袖にし続けりゃ良い。」

 

「…好きにしろ…今回のゲームの結果にも、お前との個人的な賭けの内容にも…そんな条項は含まれてない。」

 

「…良かったよ、言わなくて。…まさか俺の方がアンタに本気になるなんて思ってもみなかったからな…本当にツイてるぜ…」

 

「…但し節度は守れよ?…約束出来るなら…二人で出かける位はしてやる。」

 

「マジか?…俄然やる気が出て来たぜ…」

 

…そう言って獰猛な笑みを浮かべるライザー…やれやれ…嫌な予感の元はこれだったのか…また厄介事を背負い込んでしまったな…

 

「…さて、私はもう帰る…あー、そうだ…携帯位は持っているんだろ?…私の番号だ…落ち着いたら一度連絡して来い…まあ暇だったら出てやるよ。」

 

手帳に番号を書くと千切って渡す…何もここまでしてやらなくても良い気はするが…まあ今回、気に入らない相手とはいえ、やり過ぎたと思わないでも無いからな…これぐらいなら良いか…

 

「…ありがとう。今度連絡させて貰うよ。」

 

そう言って爽やかな笑顔を浮かべるライザー…

 

「止めろ。寒気がする…」

 

「…参ったな…これで大抵の女は堕ちるんだが…やっぱアンタ手強いよ…本当に堕とし甲斐があるぜ…」

 

「生憎私はお前が嫌いだがな…まっ、精々頑張れ…じゃあな。」

 

私は席を立った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら82

「…と、忘れる所だった…ライザー?」

 

「何だ?」

 

「こんな状況のお前に言うのも酷な話かもしれんが…敗者としてきっちり約束は守れよ?」

 

「…分かってるさ、当然アンタとの約束も守る。」

 

「…あっちに関しては単なる口約束なんだがな「アンタへの点数稼ぎさ。」…単純な奴だ「それにな」ん?」

 

「何もアンタの為ってだけじゃない…まあ元々アンタには一切メリットの無い話だけどな…正直、結構悔しかったんだぜ?情婦の様に扱っちまう事も多いが、俺の眷属たちは皆一流の戦士だった。それだけは確かに言えた…俺だって何もして来なかったわけじゃない。…だが俺たちは負けた…それも平和な学園生活とやらを送ってる筈の連中に、だ…!」

 

「……」

 

「自惚れて無かったとは言わねぇ。だが、実際俺たちは確かに今までレーディングゲームで勝利を掴んで来たし、相手は初心者、万に一つも負ける事は無かった筈だ…!」

 

「悔しくないわけ、ねぇだろ…!…チッ…熱くなっちまった…まあ何を言っても負けは負けだ…受け容れるさ…だが次は負けねぇ…!更に強くなったあいつらに勝利する…!」

 

「…そうか。」

 

自分の敵を育てる、ね…こいつも戦闘狂か…

 

「…今、この場で宣言する…!次は「水差して悪いが…あいつらは受けるだろうが次は私はもう戦わないからな?」へっ?」

 

やはり私も頭数に入っていたのか…

 

「私はアイツらと違って基本的にあまり成長しないんだよ…そういう種族なんだ…だからやらない。」

 

「……勝ち逃げはさすがに酷くないか?」

 

「何とでも言え。戦うのは嫌いじゃないが、私は負け戦が大嫌いなのさ。…大体、少々鍛えた位では私には届かんぞ?」

 

「……」

 

「まあ次にリアスたちと戦うのを楽しみにしていろ…何せ私が鍛えるんだ…次もアイツらが勝つぞ。」

 

「…冗談。次に勝つのは俺たちさ。」

 

「言ってろ。じゃあな。」

 

ドアに向かい、開ける…

 

「…あっ、テレサさん…」

 

「兵藤、何故ここにいる?戻ってろと言ったろ。」

 

廊下には兵藤が立っていた…まあいたのは当然気付いていたのだが…

 

「いっ…!いやあの…このまま帰ったら黒歌さんに殺されそうですし…」

 

……有り得るな。

 

「…そうか。待たせて悪かったな?…話は終わった。…戻るぞ?」

 

「…はっ、はい…!」

 

 

 

「ところで兵藤?」

 

「えっ?」

 

「……話を聞いていたか?」

 

「…いっ…!いや!もちろん聞いてないですよ!?やだなぁ…!」

 

「…そうか。……ドアの開く音が聞こえたのだが?」

 

「えっ?俺は開けてないですよ?ただドアに耳を付けただけで…あっ!?ちっ、違うんですよ!?…痛ぁ!?」

 

私は横にいた兵藤の頭に拳を落とした。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら83

とまぁ…その後は黒歌にライザーの事を説明して黒歌がブチ切れてライザーの所へ向かおうとするのを私とサーゼクスにグレイフィア、果ては兵藤まで加わって漸く鎮圧したり、リアスにライザーとの賭けについて咎められたり、何とか自力で動ける様になったライザーとサーゼクスたちが冥界に帰るのを見送ろうとした際、ライザーの妹、レイヴェル・フェニックスから「お義姉様とお呼びしても?」と聞かれ、黒歌の機嫌が悪くなる等…ゲームが終わったのにその日は私の苦労が絶えなかった…今更ながら、ライザーを挑発したのを後悔している…

 

……なぁ黒歌?そろそろ機嫌を直してくれないか?お義姉様云々についてはちゃんと断っただろう?……やれやれ…それにしても黒歌がここまでキレるとは…その癖何故か、クレアとアーシアはライザーに会っても居ないのに乗り気だし…勘弁してくれ…

 

 

 

そうして漸く厄介事を片付けたと思っていた私に数日後、また新たな問題が勃発した。

 

『そういやお前、レーディングゲームに出たんだってな?』

 

「……何故堕天使のお前がそんな事を知っている?」

 

原作でもこいつが何らかの方法で他勢力の情報を集めてる描写は有った…そう言えばどんな方法を使ったのかは覚えていないな…もしかしたら記述は無かったかも知れないが…

 

『サーゼクスから聞いたぜ?』

 

「……あの、馬鹿…!」

 

何で非公式のレーディングゲームの結果をよりによって他勢力の人間に話すんだ…?

 

『そんでよ、実はお前が使えそうなもん作ったから試してみねぇか?』

 

「どういう事だ?」

 

『いや…サーゼクスに映像見せられたんだけどよ…お前、炎を纏ったライザーの身体を素手で殴ってただろ…再生するとはいえ、やっぱダメージはあんだろ?』

 

「……まあな。」

 

実際あの時私の手は大火傷を負っており、殴れなくなるのも時間の問題だった…

 

『剣技主体とは言え、ステゴロも使うお前には篭手なんてどうか、と思ってよ、試作品が出来たからちょっと試してみてくれねぇか?』

 

「……耐えられるのか?」

 

当たり前だが普通の装備は私には合わない…大半が壊れる…実際、妖力解放して耐えきれるあの大剣が異常なのだ…そろそろ甲冑にもガタが来てるし、黒歌が作る服も何度か使えばやはり壊れている…せっかく作って貰っても生半可な装備では意味が無いのだ……

 

『その辺は試してもらわねぇと正直分かんねぇな…でもまぁお前さんも何れ替えの鎧が欲しいとか思ったりもしねぇか?』

 

「…専属の鍛冶師に名乗りを上げられてもこっちには返すものが無いんだがな…」

 

『もちろん金なんて要らねぇ。俺が欲しいのはお前との時間だな。』

 

「そんな事で良いのか?…欲深な堕天使の言葉とは思えないな?」

 

『俺にとっては値千金なのさ。それこそ幾ら積んでも惜しくねぇ程にな。』

 

「…金は要らん。今の所生活には困ってない。」

 

黒歌もクレアもアーシアも贅沢はしないし、私も食べる量が増えたとはいえ、十分賄える量だ…いや、まだお釣りが来るな…結局はぐれ悪魔狩りも出来ないしどうせなら今度何処か出かけてみようか…

 

『まっ、そう言うだろうと思ったぜ。俺としては懐が痛まなくて良いがな、趣味で作ってる物を提供するだけでお前と過ごせるんだからな。』

 

「コストはかかってるだろ?全く釣り合ってないじゃないか。」

 

『趣味は金かけてなんぼなんだよ。…で?何時なら都合が付く?迎えに行ってやるよ。』

 

……そして私は後日アザゼルと出かける事に……何事も起こらないと良いのだが…黒歌に聞かれなかったのは救いだな…あいつに聞かれたら多分絶対に面倒な事になる…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら84

「よぅ、テレサ。」

 

「…ああ。…そう言えば顔を合わせるのは久しぶりだったか?アザゼル?」

 

ワゴン車を私の横に停め、助手席のドアを開けて来るアザゼルにそう返しながら私は車に乗り込む。

 

「そういやそうだったか?…つっても結構頻繁に連絡は取ってたからそういう気もしねぇなぁ…」

 

「……単純に考えても一年は顔を合わせてないと思うのだがな」

 

「何だかんだ昔より忙しいからな…戦闘なら歓迎だが、実際は書類仕事ばかりで嫌になるぜ…」

 

「……もし今…この場でお前が暴れたら少なくとも人間界は影も形も無くなるだろうよ。」

 

実際問題こいつが暴れ出したら私では止められまい…

 

「……今更こっちから喧嘩ふっかける気はねぇよ。…最も抑止力は必要だと思ってるがな。」

 

「渦の団、か?」

 

「そういうこった……暗い話は止めるか。さて、何処行きたい?」

 

「……お前がエスコートしてくれるんじゃないのか?」

 

「……そう思ったんだが…まともなコース決める時間なくてよ…それにお前の場合、サプライズで堅苦しい店予約しても下手すりゃ店着いた瞬間帰るだろ?」

 

「……まあな。」

 

予約したアザゼルには悪いがそんな高い店を奢ってもらう謂れは無い。最も…

 

「…ホントもったいねぇよなぁ…お前今でも綺麗なんだから着飾ったら絶対に映えるだろうによ…」

 

「……身体に醜い傷の有る私に露出の高い装いをしろ、と?」

 

「…いんや、普段は露出控え目な奴が良い。…俺はお前の肌を他人に見せたくねぇ。それは二人っきりの時、部屋でじっくり見てぇ。」

 

「……本当に物好きだよ、お前は。」

 

……まあ、一回位はこいつに付き合うのも悪くないかもしれん…。

 

「それはそうと何時出発するんだ?」

 

「ん。」

 

「何だ?…あっ…」

 

アザゼルがミラーを指差すので見れば見覚えのある三人が…

 

「…連れて来ても良いぜ?多分こうなるだろうと思ったからこいつにしたのさ。」

 

そう言ってアザゼルがダッシュボードを指で叩く。

 

「…すまんな、行ってくる。」

 

私は車のドアを開けた。

 

 

 

 

「よぅ…久しぶりだな、クレア?」

 

「…はい、アザゼルおじさん…」

 

「…で、何でお前らここにいるんだ?」

 

……件の三人とはクレアに黒歌、それにアーシアの事である…一応三人には何も告げなかったんだがな…

 

「…勘にゃ。何となくアンタの事が気になったから後をつけたにゃ。」

 

「…私は面白そうだったから…ごめんなさい。」

 

「わっ、私は二人を止めようと思って…!ごめんなさい、テレサさん…」

 

……言い訳はともかく…きちっと謝っているし、取り敢えずクレアとアーシアに関しては良い…ただ…

 

「…お前は他に言う事は無いのか?…黒歌。」

 

「無いにゃ!私はアンタが心配だっただけにゃ!」

 

……まあ野次馬根性でこんな事をするタイプじゃないしな、こいつは。

 

「まあいい…取り敢えずお前らも来るだろ?何せアザゼルが今から私たち四人に何でも奢ってくれるそうだからな。」

 

私は運転席のアザゼルの肩に手を置いた。

 

「…構わねぇが飯だけな。そもそも今日は俺もあんま時間ねぇからな」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら85

「…で、本当にここで良いのか?」

 

クレアの提案で私たちがやって来たのはチェーン店の回転寿司屋だった。

 

「私たちに高級料理の味が分かると思うか?」

 

「お前金あんだろ?お前やそこの猫又はまだしも、クレアとアーシアにはもっと良いもん食わせてやりゃ良いのによ。」

 

「何時までも金が有るとは限らんしな…そもそも二人が将来自分で稼ぐ様になった時、金銭感覚が崩壊していたら問題だろう?」

 

「……この二人に関してそんな心配必要か?」

 

「……」

 

私はクレアとアーシアの方を横目で見ると直ぐに逸らす…クレアが食べたのは比較的安いネタを五皿のみ…育ち盛りである事を考えれば少々少ないのでは無いのだろうか…?…そしてアーシアの方はと言うと…

 

「…美味しいです…!」

 

外国人である(そう言ったらクレアも本来そうなのだろうが)アーシアに生魚は食べられないのではないか、と思っていたが、意を決して口に運んだ所、あまりの美味しさに感動したらしく泣き出してしまった…食べるペースが異常に落ちているので、私たちはアーシア以外はもう全員食べ終えているのに席を立つ事が出来ない…

 

「……確かにこの二人に関しては杞憂かもしれないな…」

 

実際アーシアも大した量は食って無い様だ…

 

「アーシアにはもっと美味い物食わしてやれって、マジで。」

 

「…外食の機会を増やすか。…どう思う黒歌?」

 

「私も別に異論は無いにゃ。…と言うか、アーシアちゃんが来てからまだ一回も行ってないんだけど?」

「……そう言えばそうだったな…」

 

アーシアが来たその日からずっとバタバタしてたのもあって忘れていた…

 

「まだ歓迎会もやってないにゃ。」

 

「お前の時はやっていたな…」

 

「猫の時と人型になってからの二回、ね。」

 

「……私がそう言う祝い事に気の乗らないせいもあるが、二回もやった奴が他にいるのにやらないのは問題か…」

 

「元々提案したのもクレアだけどね…」

 

「何かお前ら、何時もクレアが中心にいるのな。」

 

「…否定はしない。そもそもクレアがいなかったら私たちは一緒には暮らしてなかったかもしれん。」

 

「当時聞いた時は驚いたぜ…まさかお前がガキと暮らし始めるなんてよ。」

 

「…そうだな…」

 

……当時はあくまで"テレサとして"身寄りの無いクレアを引き取っただけだったが…あいつは原作のテレサよりもずっと不器用に接する私と向き合い続けた…今では私自身にとって本当に大事な存在だ。

 

「…アンタが私を拾うわけないし、そもそもクレアを通してのアンタを見ていなかったら、正直私の方からアンタを見限ったと思うわ…」

 

「…だろうな…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら86

「トイレに行ってくる。」

 

そう四人に告げて席を立つ…この手の店は割と広かったりするが特に迷う事は無く辿り着いた。

 

 

 

……特に何があるわけでもなく普通に用を足し、個室を出る。手を洗い、乾かし、外に出る…大抵トイレ近くの通路は比較的狭い。前から来た女性客に会釈しつつ、身体を避けながらすれ違う…

 

「あら?ねぇ、ちょっと貴女…」

 

……後ろから声をかけられた気はするが私は別に彼女に心当たりは無い…無視して歩き続ける。

 

「ちょっと!」

 

後ろの女に肩を掴まれ…!何て力だ…!

 

「何をす…!「Hello♪」お前…!オフ「ハイ、ストップ♪」ウグッ!」

 

振り向いた先にウィッグを外したオフィーリアがいて思わず声を上げようとした私の口に奴の手が置かれ、更に顎を掴まれそのまま壁に叩き付けられる。

 

「お久しぶり♪今は私もプライベートなの…少し静かにして貰える?」

 

「ヌグッ…!」

 

呼吸が…顎が軋む…!

 

「今からこの手を離すわ。で・も・いきなり大きな声出さないでね…約束出来るわね…?」

 

「ウッ…!」

 

どちらにしろここでこいつに暴れられたら一般客はまだしもクレアたちも被害を受ける…私に否やは無い。

 

「…ハイ。喋って良いわよ。」

 

オフィーリアが手を離す…

 

「…ッ…お前、何でここに…!?」

 

壁に背をつけたまま床に座り込み、顎を押さえる私の前でしゃがみこむ奴に問いかける。

 

「だ・か・ら・私もプライベートなの♡あっちではこんなお店無かったからちょっと興味があってね。」

 

「……一人でか?」

 

「いーえ。ちょっと素敵な殿方と一緒に♡ここに行きたいと言ったら彼、すごい面食らってたわね。」

 

そう笑う奴は本当に楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

「…楽しそうで何よりだ…で、私に何か用なのか…?」

 

「別に何も♪久しぶりに会ったんだし、挨拶くらいするでしょ?」

 

「…覚えておけ…久しぶりに会った相手に普通暴力は振るわない…ここはそういう世界じゃないんだ…」

 

まああっちなら良いというわけでもないんだが…

 

「あら?そうなの?」

 

「…分かってて言ってるだろ、お前…」

 

「もちろん。私も本当はそれぐらい知ってるわよ?でも貴女も悪いのよ?いきなりこんな所で大きな声出したら迷惑でしょ?」

 

「…お前相手なら警戒して当たり前だ…!」

 

「あら怖い♪こんなか弱い女の子に向ける殺気じゃ無いわよ、それ。」

 

「…本当にこの場で戦うつもりは無いんだな…?」

 

「さっきそう言ったじゃない。それじゃ、また何時かの夜に…決着はその時着けましょ。」

 

そう言って立ち上がり、私から離れ、トイレのドアに向かって行く…私はその背に向かって何故か声をかけていた。

 

「…今、この世界で送る日常が楽しいなら自分から壊す必要は無いだろ…?…私とお前が戦ったらどちらかが死ぬんだぞ…?」

 

奴は歩みを止めた。

 

「そうねぇ…確かに貴女もあの時より強くなったみたいだし、次は私の方が負けてしまうかもしれない…でもね…」

 

そこで奴が振り向く…

 

「疼くのよ…この身体が…戦いたくて…堪らなくなるの…」

 

……私は先程とはまた違ったその蕩けきった笑顔を直視出来ず目を逸らした。

 

「じゃあね♪」

 

その声に視線を向けるとオフィーリアがドアの向こうに消えて行く所だった。…ドアの閉まる音が聞こえ、私は漸く一息付いた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら87

「さて、何時までもこのままという訳には行かないか。」

 

大してダメージがあったわけでは無いが…精神的疲労か、床に手を付けて力を込めても上手く立ち上がれず、壁に背中を擦りつけながら立ち上がり、軽く深呼吸して首をゴキゴキ鳴らした…そう言えば…

 

「私の記憶が確かなら原作でクレイモアがトイレに行くシーンは無い。…私は半覚醒して以来、何故かこうやって用を足しに行く事が当たり前になったが、オフィーリアもそうだとは考えにくい…恐らく私が特殊な例な筈だ…」

 

原作で書いてないだけで普通に用を足す事もあるかもしれん…単に私が忘れているだけ、という可能性もある…最も今回オフィーリアは男と来た、との事だから化粧直しかもしれんな…何にしてもここに長居して鉢合わせしたくは無い…他の客や従業員に見られるのも面倒だ…考察は帰宅してからにするか…

 

 

 

「随分遅かったわね、テレサ。」

 

「ん?アーシアももう食べ終わっていたか、待たせてしまったな…すまん。」

 

「ねぇ、テレサ…」

 

「…どうした?」

 

「何か…あったの?」

 

……やはりクレアには気付かれてしまうか…だが、クレアには言いたくないな。

 

「…何でもない……いや、久しぶりに出かけたから少し疲れたのかもしれんな…」

 

「…そう…」

 

「まっ、そういう事もあるだろうよ、そろそろ帰ろうぜ、俺もいい加減戻らなきゃなんねぇ。」

 

「すまんな…」

 

アーシアとクレアを先頭に乗って来た車に向かう…と、

 

「…で、何があった?」

 

「……分かるのか?」

 

「恥ずかしい話だけどクレアが聞くまで分からなかったわ。」

 

「……クレアとは一番長いからな…そう簡単には隠しきれんようだ…最もクレアには話したくない…お前らにも…と言っても無駄か…」

 

「当然でしょ。」

 

「悪いけどな、俺はお前のためなら全てを投げ出す覚悟もあんだぜ?」

 

「…勝手に捨てようとするな…私のせいで堕天使たちに何かあったら笑えん。…まぁでも、そうだな…お前らにも無関係じゃないかもしれ…ちょっと待て。」

 

「「どうした(にゃ)?」」

 

「あそこのカップルの女の方…分かるか?」

 

ちょうど店から出て行く男女の後ろ姿を指差す。

 

「見えるけど…」

 

「後ろ姿しか見えねぇが…俺にゃ分かるぜ?ありゃ相当の美人だな。」

 

「…オフィーリアだ。」

 

私の言葉に反応して声を上げようとした黒歌の口に咄嗟に手を当て、黙らせる。…アザゼルの方は顔を顰めて腕を組んだだけだった…さすがだな…ほとんど動じていない。そこで黒歌が私の手を軽く叩いたので手を離した。

 

「…成程な…良く何とも無かったな…お前…」

 

「……幸い奴は変装してまで人間としてのデートを楽しんでいたらしく戦う気は無かったようだからな…最も、警告はされたがな…」

 

「アンタの話聞く限り異常者だと思ってたけど…あれだと普通の人間の女にしか見えないわね…」

 

「異常だよ…本人は戦いの方が好きらしいからな…」

 

私でさえ戦いが全てでは無いというのに…いや…私はさっきあいつの顔を見られなかった…それは…

 

「…まっ、今は戦う気が無いなら、こっちから手を出す事もねぇだろ…逆に言やあ、今ならどうにか…どうした?」

 

「テレサ…顔色が悪いわよ?やっぱりあいつに何かされたの…?」

 

「…大した事はされてない。本当に警告だけだ…少し、疲れたがな…」

 

私も何れ、ああなるかもしれない…そう思えて怖くなったからだろう…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら88

「そう言えば何でクレアはアンタの事、呼び捨てにゃの?」

 

「はっ?何だいきなり?」

 

黒歌の質問により部屋にいる筈の無い者たちが声を上げる。

 

「そうだな、私も気になっていた。」

 

「私も。どうして?」

 

「俺も気になるな、教えてくれよ、テレサ?」

 

私の部屋に現魔王の一人であるサーゼクス、その眷属にして女王であり妻のグレイフィア、残りは堕天使トップのアザゼル…図らずも悪魔、堕天使…実質二大勢力のトップがいるという状態である……何でこうなったんだ…?

 

切っ掛けは…今回オフィーリアが私に接触して来た事実を重く受け止めた黒歌がサーゼクスに連絡する、と言い出した…それは別に良い…アイツが何を考えてるか分からないが奴の言葉から推測するに近日中に再び私と接触して来る可能性は高く、それが私一人の場合なら良いが会談の場を襲撃して来る可能性がある…既に注意喚起はしてあるが一応、改めて伝えておいても良いだろう。

 

……そうだな、黒歌の判断は何も間違って無い…問題は私の事を心配したサーゼクスとグレイフィアの二人が家に来ると言って聞かなかった事、加えて…「あいつが来るなら丁度良い…後々の事考えて俺も直接顔を合わせて話したいと思ってた所だからな…止めても無駄だぜテレサ…これはもうお前一人の問題じゃねぇからな。」…と言ってアザゼルがシェムハザに帰れない報告の電話をかけた事か(あの時電話からはほとんど悲鳴に近い声が響いて来た……私を恨まないでくれることを切に願う…)

 

という事で、狭いアパートの茶の間の狭いテーブルを囲んで二大勢力のトップが非公式とはいえ、揃う事になったわけだ…ちなみにクレアはミリキャスと一緒に部屋で遊んでいる…あー…胃が痛い…これは本当に気の所為なのか…?と、そこで思考を打ち切る…起こってしまった事はもう仕方無い…先ずは…

 

「…今、そんな事気にしてどうすると言うんだ…お前らはこれからの事を話し合うためにこんなクソ狭い部屋に集まって来たんだろうが。」

 

逸れてしまった話の方向性をさっさと元に戻す事…それが私のやるべき事だ…そもそもなぜ私が進行しなきゃならないんだ…私は一応どちらの勢力にも正式には所属していない一介の賞金稼ぎだぞ…戦闘の実力だってこの二人に関しては一応私より上だろうに…

 

「そうは言ってもだね、議題に上がった以上処理すべき案件だと思うのだよ、私は…ほら、議題を上げた、黒歌はもちろん、グレイフィアとアザゼルが興味津々じゃないか。」

 

「おいおいサーゼクス…そりゃねぇだろ。お前だって気になってんだろ?俺たちを出汁にすんじゃねえよ…なぁ?アンタもそう思うだろ、グレイフィアさんよ。」

 

「…本当に馴れ馴れしい方ですね…でも、私も同意見ですわ。」

 

「ほらテレサ、皆気になってるみたいだからさっさと答えるにゃ。」

 

……黒歌め…何時か絶対何らかの形で報復してやるからな…!

 

「…答えてもいいが、別に大した話じゃないんだよ…クレアを引き取る際、私の事を何て呼んだらいいのかとクレア本人に聞かれた。…私は母親なんて柄じゃないし…立場としては姉が良いと言った…そしたらお姉ちゃんと呼ぼうとしたから私が全力で拒否して……何だ、お前ら?」

 

私がそう言うと四人が冷たい目で私を見て来る…何なんだ…?

 

「クレアはお姉ちゃんと呼びたがったのに断ったの?」

 

「テレサ…それは…」

 

「おいおい…そりゃねぇだろ。」

 

「テレサ…貴女…」

 

「……そんな目で見るな…お姉ちゃんなんて呼ばれるのはどうしてもしっくり来なかったんだ…」

 

どうして私がそんな視線を向けられなければならない…?

 

「…さっきも言ったが…今そんな話良いだろ?さっさと本題に戻ろう。」

 

取り敢えず私はこの話を打ち切ろうとしたが、私は結局それからずっと冷たい視線を向けられ続け、いたたまれなくなり…とうとうその場で頭を下げる羽目になった。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら89

私が頭を下げた後、謝る相手はクレアだろうと言う四人からの総ツッコミから派生した雑談を何とか終わらせ…オフィーリア対策についての話を進めることになったがその前に私はアザゼルに話す事があった。

 

「へー…お前、観測世界の住人だったのか。」

 

「ああ…というかここにいるお前ら三人もそうだが…良く信じるな、こんなふざけた話…」

 

オフィーリアが会談の時に来るかは分からないのでこれから先起こる筈のイベントの何処かで奴が襲ってくる可能性を考えると、私がこの世界の未来がある程度分かる事実をこいつに話しておかないと肝心の話し合いが進まないまま終わってしまうからな…話す予定は無かったがこうなっては仕方あるまい…

 

「少なくとも私やグレイフィアが君を疑う事は無いよ、逆に言えばそれだけ君を信頼していると言う事だ…それにあの涙が嘘とは思えなくてね…」

 

「あっ、馬鹿…!?」

 

「ほう…そいつは…ちょっと詳しく聞かせてくれよ。」

 

余計な事を…!アザゼルがニヤニヤしながらこっちを見ているじゃないか…!

 

「アザゼル、悪いがその先は遠慮して貰いたい…家族の話だ。」

 

「家族、か…分かった、聞かねぇ。」

 

そう言って真顔になるアザゼル…普段からそうしてくれたら話が早いんだがな…

 

「…話を進めるぞ?…というか、お前は結局私の話を全面的に信じる、で良いのか?」

 

「この状況でそんな意味の無い嘘つく必要性ねぇだろ。…つか、俺としてはそれが事実の方が面白いんでね。」

 

そういう基準か…こいつらしい…

 

「…信じてるならそれで良い。…まあそもそも信じて貰えなければこの先の話をする意味が無いんだが…さて、オフィーリアの件だが、特徴として奴は私以上の戦闘狂で、性格も文字通り狂っていると考えてくれて良い。」

 

「成程な…しかし、イカれてるタイプなら行動パターンは読めねぇだろ?今回の会談を襲撃して来る理由は何だよ?しかもどう考えても団体行動出来る奴じゃねえだろ?渦の団の連中と組む理由がねぇ。」

 

「…所属してるとは限らんな…あいつの場合、単に派手に暴れられれば良いんだろうからな…」

 

「強敵と戦えるならそれで良いという考えなのは間違いないだろうね…最初にテレサが襲われた時、助けに来た私の正体を知った上でも平気で斬りつけて来たからね…戦争が起きようとも構わないと思っているのは確かだ…」

 

「…最初にサーゼクスにまで斬りかかった話を聞いた時、てっきりこの世界にいる勢力について知らなかったか、何か考えがあっての行動だと思ってたんだが、マジかよ…じゃあ、あいつは本当にただ強い奴と戦いたいだけなのか?」

 

「この町のはぐれ悪魔が弱過ぎて退屈している、と本人は言っていたからな…自ら火種を作ろうとしても何ら不思議は無いな…」

 

「…成程な…じゃあ会談の場に単独でも普通にノリで乱入して来る可能性は高いわけだ…だがテレサ…オフィーリアを封じる対策は何かあんのか?」

 

「無いな「即答かよ…」だがもし、奴が来るなら恐らく正面から来る可能性が高い…」

 

「うへぇ…めんどくせぇな…」

 

「当たり前だが、渦の団の襲撃中にこいつが来たら最悪全滅の危機がある…私も戦いに巻き込まれているだろうし、オフィーリアに構ってる暇があるかどうか分からん…以前お前との電話で私が奴の相手をすると言ったが…良く考えれば私の手が空かない可能性もある…」

 

「…最悪の場合私が相手をしよう…彼女はどうも私にも興味がある様だからね「サーゼクス様!それでは」グレイフィア、彼女は危険すぎる「でしたら私が相手を!」そう言うと思ったよ…だが、駄目だ…現状彼女の相手が出来るのは私とテレサだけだ…」

 

「盛り上がってる所悪いんだけどよ、別に俺でも良いんじゃねぇか?」

 

「そうか!ならお前に任せよう!」

 

「そうだね!適任かもしれない!」

 

「……おい、お前ら何時結託した?」

 

……サーゼクスは割とノリが良いからな…即興でやったのだが見事に汲み取ってくれた。

 

「冗談はさておきだ、結局この三人の内誰かが相手をするというのが一番良いんじゃないか?」

 

「……本音を言えば、三人全員で当たりたいぐらいだな…最もこの面子で、連携を取るのは難しいだろうし、どっちみち手も足りなくなるから論外だが。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら90

「皆さん!お茶が入りましたよ!」

 

「…ん?そうか、なら休憩にするか。」

 

アーシアが来たのでそう言うとグレイフィア以外の三人から緊張が解けていくのを感じた…いや、だから何で私が進行を…もう良いか。

 

「はい、サーゼクスさん。」

 

「ありがとうアーシア。」

 

「はい、グレイフィアさん。」

 

「……ありがとう…」

 

……おいグレイフィア、そんなに引き攣った笑顔を向けるな、アーシアが困るだろうが。

 

「はい、アザゼルさん。」

 

「おう、ありがとよ。」

 

「はい、黒歌さん。」

 

「ありがとうにゃ、アーシア。」

 

「はい、テレサさん。」

 

「ああ、ありがとう、アーシア…面倒な事をさせて悪かったな、クレアたちの所へ行っていいぞ。」

 

「いえ、好きでやってる事ですから…それじゃあ失礼しますね。」

 

アーシアが部屋を出て行った。

 

「紅茶も中々悪くねぇな…アーシアか、ありゃいい嫁さんになるぜ。」

 

「……やらないぞ?」

 

「おいおい早速親バカ発言か?…あいつは元はと言やあ俺の所にいたんだぜ?大体、誰と付き合おうとあいつの自由だろ?」

 

「親では無いが…何処の馬の骨とも分からん男にアーシアもクレアもやるつもりは無い…というかお前はなまじ知ってる分駄目だ…何せ絶対お前女泣かすタイプだからな…」

 

「おいおい…馬鹿言ってんじゃねぇよ…俺は結構一途な方なんだぜ?」

 

「欲に溺れる堕天使が何を言う。…そもそも普段はお前、私にモーションかけてるだろうが…議論は時間の無駄だ…この場で一戦交えるか?アーシアが欲しかったら力づくで奪うんだな…」

 

「良いぜ?お前とは一度やり合ってみたかったからな…」

 

私はその場から立ち上がった…

 

「馬鹿じゃないのあんたたち?…いい加減にしないと引っ掻いて黙らせるわよ?」

 

「怒るな黒歌、冗談だよ…」

 

私は腰を下ろした……ふむ、即興コントはやはり受けが悪いのか…?

 

「ヒヤヒヤさせないでくれ、全く…」

 

「いや、サーゼクス…お前もさっき私と即興でアザゼルを嵌めたろ?なら、このノリも分かると思ったんだが…」

 

「いや、分からないよ…二人とも目が本気だったからね…」

 

「そりゃ、こういうのは本気でやらねぇと面白くねぇだろ?」

 

「先程は私も参加したし、分からないでもないがもう少しおふざけだと分かる範囲でやって欲しいね…」

 

「…悪かった、じゃあそろそろ続きを…どうした、グレイフィア?」

 

「給仕なら私がやれば…何もアーシアにやらせなくても…」

 

「まだ納得してなかったのか?…あのなぁ…さっきも言っただろう?お前、当日は間違い無くサーゼクスの護衛として出席するんだからこの場で席を外すのは可笑しいだろうと。」

 

「…だって…」

 

……メイドとしての矜恃か、それとも子供のアーシア一人にこの頭数の飲み物を用意させた事による罪悪感か…グレイフィアの場合、両方か。

 

「そう言えば、私じゃ駄目だった理由は何なの?」

 

黒歌から有り得ない疑問が飛んで来て危うく紅茶を吹き出しかけた…おいおい…本気で言ってるのか?

 

「…気付いてなかったのか?…お前、立場上会談には参加出来なくても、襲撃の可能性を把握している以上、どうせこっそり来るつもりだろ?…小猫がいるし、何だかんだリアスたちに情が移ってるみたいだしな…なら、当日の私たちの動きを知らせておいた方が良いだろう?」

 

「あー…そういう理由だったの「理由はまだある」えっ?」

 

「サーゼクス。」

 

「全く…こちらにも予定というものがあるのだが「こうなっては仕方ないだろ?早く言ってやってくれ」…黒歌、正式な発表はまだ先だが、君に良い報せだ…君の指名手配は先日、解除された。」

 

「えっ…ええええ!?」

 

……この話を聞かされた時私も本当に驚いた…黒歌が当日暴走する可能性があったため、サーゼクスに相談していたのだが、まさか黒歌の手配が既に解除されていたとは思いも寄らなかった…もう少し時間がかかると思っていたが…

 

「…とまぁそういうわけだ…手配が解除された以上、お前を戦力に組む事が出来るようになったから、参加させたわけだ…とはいえ今のお前にはどうでも良い事だな…こう言おう…喜べ黒歌、お前はもう何時でも妹と一緒に暮らせるぞ。」

 

「本当に…?本当に私は…もう…?」

 

「ああ。私から断言しよう…君はもう罪人じゃない。」

 

「やった!これで私は白音と皆で一緒に暮らせるにゃ!」

 

「良かったな…ん?皆?」

 

小猫と二人で暮らすんじゃないのか?

 

「黒歌お前…小猫と二人で暮らすんじゃ「何言ってるにゃ!私はあんたの家族にゃ!」お前と言う奴は…」

 

全く…この狭い部屋に更に人数が増えたら生活に支障が出るぞ…こうなるといよいよ新しい住居を探さないとならないな…人間界に残るか、それとも冥界に行くのか…さて、どうしたものか…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら91

「話を戻す前に言っておきたいんだが…そもそもお前ら私を信用しすぎじゃないか?私は、嘗ての、三勢力の戦争中に突然現れた、得体の知れない生き物だぞ?」

 

そう言うと三人が顔を見合わせる…頼むからもう少し疑ってくれ…現状敵はお前らの身内にもいるんだから…

 

「…では、先ず私から言わせて貰おうかな?…当時の私たちの君への共通の印象としては…魔力はほとんど感じられないのに何故か強者の風格を漂わせ、どの勢力の誘いにも乗らず、近寄ってくる者を片っ端から基本的に殺さず、打ちのめす謎の戦士…今の若手は単に魔力等、自分たちの身近にある力を感じ取れないだけで弱者だと決め付けがちだが…当時、戦争に参加して他勢力の実力者を見て来た私たちにはハッキリ分かっていたよ…君は強く、気高く…」

 

「何を…言っている…?」

 

「そして…悪人では無い、と。」

 

「馬鹿馬鹿しい…実力云々はまだしも、見ただけで私の性格まで分かっただと?ふざけた冗談だ…」

 

「何故分かるのかと聞かれても分からねぇな…ただ、俺も、サーゼクスも…お前はただ不器用なだけの奴にしか見えなかったんだよ。…後、付け加えるなら俺はすげえ良い女だと思ったぜ?」

 

「お前な…私より良い女なら堕天使勢にも沢山いるだろ…」

 

「私はまた違う意見ですね…私が感じた貴女への印象は一つだけ…覚えてない?…当時、死にかけていた私を救ってくれたのは貴女なのよ?」

 

「……全く…覚えてない…」

 

私は頭を抱えた…原作に関わりたくないと言っていたのは一体何だったんだ…?私はもう原作開始前からやらかしていたのか…

 

「私はそもそもその頃の事を知らないからね…でも、私からしたらあんたは日常生活がだらしなくて、何時も何か問題に巻き込まれて、一緒にいたら面倒臭いって分かってるのに放っておけない…そんな、素敵な家族。」

 

「……お前それ、最後以外はほとんどただの悪口だろ…」

 

「つまりだね、これらの事から…私たちには君を疑う理由が全く無いんだ。」

 

「…主観ばかりじゃないか…もっとマシな理屈を言えよ…もう良い…長い付き合いだし、どうせ今更お前らが私を疑うとは微塵も思ってない…で、何で突然こんな話をしたかだが…お前らにもう少し身内を疑う事を覚えて欲しいんだよ…特にアザゼル。」

 

「おい何だよ、いきなり「忘れたのか?戦争終結してから表面上は今まで大した問題は何も起こらなかったのに、今年に入って私が巻き込まれた事件…アレをやったのは堕天使だったろう?しかもお前の命令ならまだしも完全な独断…お陰で私はこんな警戒をする羽目になってるんだぞ?」……」

 

兵頭を助けに行ったのは結局私の意思だ。だが、そもそもあいつらが余計な事をしなければ私は動かずに済んだ。…原作開始のターニングポイントだから起こらない可能性自体ゼロで完全に八つ当たりだが、正直文句は言わないとやってられない。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら92

「もう良いだろ…勘弁してくれ…こっちも大変なんだぜ?実力も無いのに口だけ達者な連中が多くてよ…」

 

「そんな話をされても知らん…堕天使トップはお前だろ…さて、前置きが済んだ所で私の知る「おい」…何だアザゼル、水を差すな…ただでさえ脱線して話が進んでないんだぞ?」

 

「今更だがよ、聞くのは俺らだけで良いのか?」

 

「……天界陣営の連中がこんな話信じると思うか?」

 

「ミカエルなら信じるだろ。…俺もあんまこの場に呼びたくねぇんだが…」

 

「…意外に思うだろうが私は現トップのミカエルと面識が無い…というか天使自体にあまり良い感情が無くてね…」

 

「戦時下だってのに他の勢力そっちのけで討伐されかけたもんな、お前…」

 

「思い出させるな…確かに当時の私の対応も良くなかったと思うが…あいつら、こっちの言い分は堕天使以上に全く聞かないからな…お陰で私は歳を誤魔化す羽目になってしまった…」

 

今の若手に当時の戦争時の私の行動を知られれば面倒な事になる…特に天界陣営は不味い。

 

「一応、ミカエルもお前の素性の隠蔽には協力してるんだけどな…」

 

「だから味方と思えと?…あいつらは信用出来ないよ…堕天使の方がまだマシだ…欲に溺れてる分、懐柔も比較的しやすい。…また脱線したな…取り敢えずこの場に天使は呼ばない…今から言う話をミカエルに伝えるかはお前の判断に任せる…で、サーゼクス…」

 

「ん?」

 

「今更だが…言って良いのか?今この場でこの話をすると悪魔陣営の情報が堕天使陣営に流れる事になるが…」

 

「…良くはないが、どうせ和平を結ぶからね、それにアザゼルの協力を得られるならそれもアリだ。」

 

「…では、先ず…会談の場を襲撃する渦の団には幾つか派閥が存在し、その上に無限の龍神オーフィスが「おい」…いい加減にしろ…話が進まん…」

 

「マジで言ってんのか?」

 

「…オーフィスは宿敵に勝って住処に帰りたいだけだ…組織運営には全く興味無いし、基本的にはただ奴は加護を貰う為に利用されてるだけだ…最も加護を与えられた者は絶大な力を手にするが。」

 

「厄介さが一気に増したんだが…」

 

「対策については知らんよ…今、私は私の知る事を話しているだけなんでね。…で、まぁ派閥構成について詳しくは言わん…というか私もいい加減記憶が朧気でね…一応今回襲撃の中心になるのは魔王派…サーゼクス、所属しているのは全員お前らの前の旧魔王の者たちだ。」

 

「では、私の方で彼らを「全員を今の段階でどうにかするのか?証拠は揃ってるのか?」…一応きな臭い動きをしているのは掴んでいたが「何にしても待て…下手な事をすると何が起きるか分からない。」それはどう言う意味かな?」

 

「未来を知っている人間が、未来に大きな影響を与えるだろう行動を過去でしても、結局歴史の流れは大きく変わらない、という話を聞いた事は無いか?」

 

「歴史の修正力って奴か…確かに聞いた覚えはあるな。」

 

「起きると既に決まっている事は大抵の場合、必ず起きる…大きく流れは変わらないと言っても当事者である私たちにはどんな影響があるか分からない…」

 

「しかし…敵が誰か既に分かっているのに有事が起こるまで放っておくというのは…」

 

「そうじゃない。こう考えろ、一網打尽にするチャンスだと…若手にも裏切り者はいるだろうからな…それに、私の行動で既に流れはある程度変わっている…こうなると必ずしも私の言う通りの勢力が来るとは限らなくなって来るしな。」

 

「…結局、襲撃はあるという想定はした上で、こちらは対策を立てるしかないのか…しかもこちらから先に大きな行動を起こす事は許されない…」

 

「来るのは分かってるんだからまだマシだろ…仮に何も起こらないならそれで良いからな…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら93

「…で、襲撃とは言ってもだ、三勢力のトップが揃い踏みして一応護衛も付いてる状態でいきなり正面から来る程連中も馬鹿じゃなかった…まぁそれでも特攻かけて来そうな狂人がいるわけだがそれはもう良いな…」

 

オフィーリア…実際一人でも何とかなりそうな実力を持ってるからタチが悪い。

 

「そこで奴らが考えたのが…今、私たちがいるのとちょうど同じ屋根の下にいる…とある転生悪魔の力を使う事だ。」

 

「まさか…!」

 

「おい?どういう事なんだ?この建物にいるってのは…」

 

「サーゼクス、本当に言っていいんだな?…一応考えてから言ってくれよ?…アザゼルは神器マニアだ。」

 

「…この状況で言わないのは無理だろう?構わない。」

 

「本当はリアスにも許可を取りたいんだがな…一応あいつの眷属だからな…まぁ仕方無い…その悪魔の名はギャスパー・ヴラディ。…転生前は言い方は悪いがダンピール…要するに吸血鬼と人間のハーフだ。」

 

「で…問題のそいつの神器ってのは?」

 

「本人の視界に入る者の時間を完全に止める『停止世界の邪眼』…ここまで言えば危険性は分かるな?しかもこいつは現状自分での神器の制御が一切出来無い…だから、今もこの旧校舎の一室に封印されている。」

 

「では、彼が敵に回ったと?…さすがにそれは…」

 

「…いや、本人に制御出来ないのを良い事に利用された…」

 

「…なら、話は早えな…そいつも会談の場に召還すりゃ良いだろ「いや、それが駄目なんだ。」何でだ?」

 

「彼はそもそも極度の対人恐怖症なんだ…だから封印と言っても実際は旧校舎内ならある程度行動していい事になっているんだが…」

 

「本人は自分の部屋に引きこもって絶対に出て来る事は無いんだよ。ちなみに会いに行っても無駄だぞ?時間を止められて逃げられる…本人の恐怖心に同調して無差別に発動するからな…恐らく私たちの誰が行っても話は出来ない。」

 

「参ったな「そう言えば」何だ、まだ何かあんのか?」

 

「良く考えたら私も止まってしまうだろうな…これを何とかしないと私は最悪戦力から外れてしまうな…」

 

「マジかよ…」

 

「しかし、それであればオフィーリアも「そうとも限らない」何故かな?」

 

「前にも言ったが、そもそもクレイモアが魔力なんて持ってる筈無いんだよ…だが、私は微量だが魔力を持っている。」

 

「おい、だとすると…」

 

「私は何も出来ないが、仮にオフィーリアが相当量の魔力を備えていたら、自分で対策を取れるかもしれない、という事だ…つまりだ、私が一切動けない状態のまま、奴と戦わなくてはならない可能性が出て来るわけだ…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら94

頭を捻っていた所、今まで黙っていた黒歌から提案があった

 

「…クレアと話をさせてみたらどうにゃ?」

 

「ん?…あー…良いかもしれんな…」

 

「しかし…クレアは普通の人間だろう?」

 

「身内贔屓に聞こえるだろうが…クレアの場合、ある特性があってな…要は極端に悪意のある者で無ければ基本的に誰とでも仲良くなれるんだ。」

 

「そうは言ってもよ「ひねくれ者の私が丸くなり、自分以外誰も信じられない状態だった黒歌が心を開き、そして…相性はどう考えても最悪の私たちが今も共に暮らしている、という事実だけを見れば…どうだ?」ん…。」

 

「率直に聞こう…元々お前らは、どちらかと言えば人間に近い性質だと思うが…クレアに初めて会った時どう思った?」

 

「礼儀正しくて良い子だと…む…?」

 

「私は優しくて頭の良い…あら…?」

 

「俺は…面白そうな…ん…?」

 

「何でか分からないけど…この子と一緒にいたいって…」

 

「気付いたみたいだな…クレアは初対面でも何故かほとんど悪印象を持たれないんだよ…そして軽く話をするともう好意を抱いてる。」

 

「クレア本人は私に、普段どうやって他人と仲良くなっているのか聞かれてこう答えたよ『その人が嫌がる事を言わない様に気を付けてるだけだよ』…クレアは初見の相手にこれをやってのける…警戒心の強い相手の心に何ら違和感を感じさせず、心の深い所に入って来る。

 

「しかし…彼は悪魔で「それどころか確実に迫害にあっただろう元ダンピール…誰も信じられなくて臆病…こういうタイプはクレアには抗えないよ…言い方は悪いが寧ろ、最もやりやすい手合いだ…」だが、神器の制御が…」

 

「ギャスパーが恐怖を抱かなければ神器は発動しない。…あいつは人間を恐れるが…クレアはほぼ確実にギャスパーを恐れない…それはお前らも断言出来るだろう?…仇となる可能性はあるが、試してみる価値はあると思うぞ?」

 

「…君がそこまで言うなら…では、後日正式に彼の封印を解く許可を出そう…後は君に任せよう…さて、君の時間を止められない様にする対策だが…」

 

「アザゼル、どうだ?」

 

「無茶振りだろ…そいつの神器がどんな物か見て見ねぇ事には何とも言えねぇよ…まあ何とかやってはみるがよ…」

 

「他陣営のトップのお前がギャスパーに接触出来る大義名分はそもそも無いな…要するにリアスの立会いの下、ギャスパーに会う場にお前はいられないって事になるな…」

 

「なら、やっぱ今行くしかねぇだろ。」

 

「慌てるな…話はまだ終わってない…サーゼクス、この後リアスは呼べるな?」

 

「呼べなくも無いが…本当にクレアにやらせるのか?」

 

「なら、他の方法は思い浮かぶのか?」

 

「……」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら95

「アザゼル。」

 

リアスを呼びに行くためサーゼクスがこの場からいなくなった所で私はアザゼルを連れて廊下に出た。

 

「ん?どうした?」

 

「…コカビエル。」

 

「…あいつの事も知ってんのか。…何かやらかしたか?」

 

「監視をしておけ。」

 

時期がズレたからな…果たして聖剣の話まで行くかどうか…

 

「……理由は?」

 

「…時期がズレた為にどうなるか分からんが…近いうちに現在七本存在するエクスカリバーの内、三本が奪われる可能性がある…」

 

「それにあいつが…?」

 

「ああ…そして、コカビエルは駒王町で行動を起こす…再び戦争を起こすためにな…」

 

「…何でさっきの時点で言わなかった?それ、起こるとしたら確実に会談の前だろ?しかも今はサーゼクスがいないんだぜ?」

 

「この話、リアスたちは巻き込まれるだけで本来何の関係も無い。」

 

「…仕掛ける側になる俺が言う事じゃないけどよ、そうも行かねぇだろ…」

 

「リアスの眷属に一人、聖剣に因縁がある奴がいてな…私が知る限りそいつは主のリアスの言う事を聞かず暴走した…結果的に何とかなりはしたが…この世界ではなまじ私が鍛えてしまった為にどういう結末になるか分からない…出来ればこの事件が起こる可能性そのものを潰しておきたい。」

 

「お前…さっきと言ってる事が違うぜ?あっちは放置して、こっちは潰す…そんな事出来ると思ってんのか?」

 

「分かっている…だが…」

 

「……監視はする…だが、事が起きるまで俺は何もしねぇ「アザゼル!」…珍しい物を見たな…普段一歩引いてるお前が他人の為にそこまで感情を出すなんてよ…ちょっと嫉妬しちまうぜ。」

 

「茶化すな…!私は真面目に「テレサ」何だ!?」

 

「お前…ここまで来て、何甘い事言ってんだ…?」

 

「甘い…?」

 

「お前言ってたよな?起こると決まってる事は大抵の場合必ず起こるってな…なら、下手に手を出してどうなるか…結果はきちんと想定してるんだよな…?」

 

「それは…」

 

「お前の言う歴史の修正力が本当にあるとしてだ、そうなると最終的に同じ結果を産もうとも過程は大きく変わって来るだろ…最悪の場合…そいつは死ぬ…それも覚悟の上でこんなふざけた話してんだよな?…仮にその覚悟があるってんなら…良いぜ、昔の誼だ、協力してやる…だがお前はサーゼクスやそいつの主からは確実に恨まれる事になるぜ?」

 

「……」

 

「全然考えて無かったらしいな…悪いがろくに覚悟も出来て無い奴に付き合えねぇ…下手したらこれがまた火種になっちまうからな…とはいえ、戦争は俺ももう起こしたくねぇからな…監視はしてやる…だが、俺はさっきも言った通り事が起こるまで何もしねぇ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら96

「てか、この話…この後サーゼクスだけに話してもどうにもなんねぇな…とはいえ、ミカエルに話してもどうにも出来ねぇが。」

 

「……」

 

「そう睨むなよ。下を締められてないのは俺の責任だがよ…お前のその甘さは今更通らないのは分かんだろ。」

 

私としては木場に戦って欲しく無いのだが…確かにアザゼルの言う通り甘くなったかな…

 

「…すまない…アザゼル…確かにこれは筋の通らない話だな…」

 

「…一つヒントをやろうか?」

 

「ヒント?」

 

「そいつは聖剣と因縁がある…だがそいつは転生とはいえ既に悪魔で、その一件には関われねぇ。当然だな…言うなれば天界陣営と堕天使陣営の話だからな…場所が自分たちの治めてる場所とは言え、な。…で、そいつ離反覚悟で主と仲間から離れて一人で暴走したわけだ…ところでテレサ?」

 

「何だ…?」

 

「お前、自分の身分、分かんだろ?」

 

「私の身分…あっ…!」

 

「お前は便宜上グレモリー家預かりになってるらしいが実際は今もフリーだろ…お前は何処の陣営の問題だろうが関係ねぇ…自分の思うがままいくらでも首突っ込めるってわけだ。…お前がそいつを助けてやりゃ良いんじゃねぇのか?…最も程々にしないとイチャモン付ける奴はいるだろうがな…」

 

「成程…ありがとうサーゼクス。」

 

「俺はまだ何もしてねぇ。戻るぜ、さすがにサーゼクスがもう戻って来てんだろ。」

 

 

 

サーゼクスの案内で旧校舎の中を歩いて行く…

 

「…この場に堕天使がいるのが一番納得出来ないけど、ギャスパーにクレアを会わせるのは「リアス」……何?」

 

「お前、私の話を信じたのか?」

 

「正直、半信半疑よ…あの…何でそんなに嬉しそうなの…?」

 

「…いや、この場にいる連中…まあクレアには話してないが…お前以外は私の話を全面的に信じたから逆に不安になっていてな…お前がそう言ってくれて非常に安心している…そうだよな?こんな話信じられるわけないよな?」

 

「…貴女はお兄様たちが身内に甘いって思ってるんでしょうけど、多分そうじゃないわよ?」

 

「何…?」

 

「貴女だから…信じたのよ…私だって貴女を疑ってはいないわ…あまりに突拍子も無い話だから整理しきれないってだけ…って、今度は落ち込まないでよ…全く信じて貰えないより良いでしょ?」

 

良くない…良くないんだよリアス…本当にこいつらの中で私はどんな位置付けなんだ…?…また胃が…胃薬が必要なのはシェムハザでは無く、私の方では無いだろうか…?最も効かないだろうがな…

 

「えと…私は何をしたら良いの…?」

 

そうこうしているうちに着いたようだ…

 

「いや…この部屋の中に精神的に不安定な子がいてね…それで君に頼みがあるんだ…」

 

「何、サーゼクスおじさん?」

 

今更だがおじさんと言われて地味にダメージを受けているサーゼクスを見ながら少し悦に浸っていると横にいるリアスから「悪趣味よ。」と言われ、我に返る…何でバレた?

 

「…もしかして、気付いてなかった?割と貴女色々顔に出るんだけど…私も分かるようになったのは最近だけどね。ちなみに普段、朱乃や小猫に引っ付かれてる時は面倒臭そうな言動の割に結構嬉しそうな顔してるわよ?」

 

……そうなのか…私も気付いてなかった…

 

「私が話をするの…?でもその子、私が来ても怖がるんじゃ…」

 

「そうだね…だから無理だと思ったら戻って来て良い…ただ、一つだけ良いかな?」

 

「何?」

 

「あの子には自分ではどうにも出来ない力がある…それを怖がらないで欲しい…難しいとは思うが…」

 

「ううん…分かった…行ってきます。」

 

クレアが中に入って行く…私はサーゼクスの所へ向かった。

 

「サーゼクス、ドアを閉めろ。」

 

「何を言っているんだ…?」

 

「良いから閉めろ。鍵をかけろって言ってるんじゃない…ただ閉めろ…後はクレアの仕事だ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら97

「ヒィ!誰ですか!?こっちに来ないで!」

 

「わ!?大丈夫だよ!だから暴れないで!?」

 

私の背後から大声と物音が聞こえる…

 

「本当に大丈夫なの…?」

 

「ああ…クレアなら…問題無い……多分…」

 

「テレサ、せめてこっち向いて言って。」

 

「……断る…」

 

……私は今振り向くと確実に取り乱すからな…

 

「そうにゃ!クレアなら多分大丈夫…な筈…にゃ…」

 

「黒歌、貴女も…それではクレアを信じて無いのと一緒ですよ?」

 

「嫌にゃ…!」

 

黒歌も完全に背を向けてしまっているらしい…というか何で私たちの部屋は防音がしっかりしているのにこの部屋の音は外に丸聞こえなんだ…!不安で仕方無いじゃないか…!?

 

「外には出たく無いですぅ!」

 

「あれ…?……あっ、いた!大丈夫だよ!無理矢理外に出したりしないから!私とお話しよう!ね!」

 

「ヒィ!?何ですぐにバレるんですか!?怖いですぅ!」

 

時間を止めて移動したが思いの外早く居場所に勘づかれてギャスパーが驚いているようだ…そりゃ分かるだろうな…その部屋にはお前の気配しか無いんだから…クレアの場合、無差別に感じ取っている為、対象の識別は出来ないが…他に誰もいないなら間違え様が無い…まあ部屋自体あまり広くないとはいえ、気配を感じ取れるというのが既に異常なんだが…

 

「本当に話すだけですか…?」

 

「うん、私は何もしないよ。」

 

「嘘…」

 

「驚いたな…あれ程警戒心の強い彼が…」

 

「アレがクレアだ…最も私もあそこまでやれるとは思わなかったが…取り敢えず一旦ここを離れるぞ?…ギャスパーにこれだけの人数が部屋の外にいるのに気付かれたらクレアのやった事が無駄になる。」

 

「だが、クレアに何も伝えず離れるのは…」

 

「あいつは自分で気付くさ…それにクレア自身、かなり好奇心の強い奴だからな…しばらくは出て来ないだろう…」

 

 

 

 

「それでね、ギャスパーは可愛い物が好きなんだって!」

 

それから数時間後…一旦リアスたちが引き上げた後で、ギャスパーの部屋から出て来たクレアは自分で私たちの部屋まで戻り、嬉しそうにギャスパーの事を報告して来た。

 

「そうか…楽しかったか?」

 

「うん!」

 

……そうやって満面の笑みを向けられると今更だが罪悪感が増すな…完全にクレアに丸投げしてしまったからな…

 

「それで…どうだ?」

 

「えと…私の事は怖がらなくなったけど…多分まだ他の人には…」

 

「そうか…どうにかなりそうか?」

 

「分からないけど…やってみる…私もギャスパーともっと仲良くなりたいし…」

 

「そうか…悪いが頼む…このままにしておくのはギャスパーの為にも良くなくてな…」

 

「でも、私は無理に外に出さない方が良いと思う…」

 

それは私も分かっている…逼迫した事情があるとはいえ、無理に引っ張り出して神器の力を暴走させられても困るし…何よりギャスパーの事を考えれば当然だ…

 

「ああ…だからもしギャスパーが外に出てみたいと言ったら…お前が手を引いて欲しい…ギャスパーもお前という友達がいるなら不安も薄れるだろう…」

 

……ギャスパーの持つ力は絶大だ…クレアに戦う力は無いが、ギャスパーならクレアを守る事も出来る…下手をするとギャスパーをクレアに依存させる事になるか…我ながら狡いやり方だな…こんな事をクレアにさせなければならない自分の不甲斐なさが本当に嫌になる…

 

「分かった…テレサ?」

 

「ん?」

 

「私は大丈夫だよ?…だから気にしないで?」

 

「…そうか、ありがとう…」

 

……クレアの一言に安心しそうになる自分を呪う…これではギャスパーを依存させるより先に私自身がクレアに依存してしまっているな…私は何時かクレアが自立出来る様になったら、さっさとクレアから離れた方がクレアは幸せになれると常々思って来たが…悠長な事を考えないで早目に離れた方が良いのかもしれんな…クレアはもう自分の足で立てる…結局、離れたくないのは私の方だ…全く…我が事ながら…反吐が出る…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら98

「そう言えばギャスパーって結局どんな子にゃの?」

 

既に夜も更けていた事もありクレアが眠ったので、事の顛末をサーゼクスたちに電話で報告した後、黒歌がそう聞いて来た…そうか…黒歌にはまだ最低限の事しか伝えていなかったな…言おうとして気付く…あいつの事をどう伝えれば良いのだろうか…?……ありのままを伝えるしか無いか…

 

「…女装趣味の男子高校生。」

 

「…えっ…?はっ…?…どういう事…?」

 

「いや、だから今言った通りだよ。特徴を聞きたいんだろう?…ギャスパーは女の子の服を着るのが好きな元ダンピールで、今は転生悪魔の男子高校生。」

 

「……本当にクレアに会わせて良かったの…?」

 

「さぁな…クレアはどうやら普通にファッションとして受け容れた様だ…事前に男だと説明してるから、間違えている、という事も無い。」

 

「いや、さぁなって「ちなみに、本人は一見すると本当に女の子にしか見えないレベルだぞ?つまり、酷いなら問題だが…奴は完璧に着こなしている。」……そういう問題じゃないにゃ…」

 

「異性装はファッションとしては普通にアリだと私は思うが…」

 

というか私も服装は女らしさの欠片も無いからな…

 

「いや、あんたみたいのが男装するのとはわけが…」

 

「同じだよ。結局似合っているかどうかって話だ。」

 

まぁ私が着るのは実質男女どっちでも着れるパーカーやジャージが主だが。

 

「……そんなに似合うの…?」

 

私はクレアの携帯を渡した。

 

「…?…にゃに?」

 

「クレアはギャスパーと写真を撮ったんだ…見ていいぞ?クレアから許可は出てる。」

 

「そうにゃの?にゃら……えっ…!?これ…!本当に…!?」

 

「そう、そのクレアの横に写ってるぎこちない笑顔を浮かべてるのがギャスパーだ……何度も言うが…男だからな?」

 

携帯には所謂ゴスロリ服を着たギャスパーが写っていた…というか、良く見たら横のクレアも着てるんだが…もしかしてこいつの前で着替えたのか?……まぁこいつなら良いか…正直そう思えるくらいこいつに男の要素が無い…ほとんど骨格レベルで女性に近いのだろう…それに本当に目の前で着替えたなら兵藤と違い、寧ろギャスパーの様なタイプにとっては地獄だった事だろう…

 

「…まぁこのレベルにゃら良いかも「お前服買って持って行こうとか思ってないよな?…こいつはまだ他人が怖いんだ…下手に会いに行ったらクレアのやった事は全部パーだぞ?」もちろん分かってるにゃ…少し残念だけど…しょうがないにゃ。」

 

「マジで行くなよ?フリじゃないからな?」

 

「分かってるにゃ!にゃんにゃの!?そんなに私を信用出来ないにゃ!?」

 

「大きな声出すな、クレアが起きる。」

 

「もう…!失礼しちゃうにゃ!」

 

黒歌はテーブルにクレアの携帯を置くと、喚きながら寝室として使っている部屋に入って行った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら99

黒歌も部屋に入り一人きりになる…私はクレアの携帯を手に取り先程の写真を表示した…先に見たのとはまた違った笑顔を浮かべたクレアの隣にぎこちないが一応笑顔を浮かべたギャスパーが写っている…ふと、今更だが転生したとはいえ、吸血鬼は写真に写るのか?…と、いう疑問が頭を過ぎるがはっきり言ってどうでもいいのでさっさと隅に追いやる。

 

「…言ってしまえば私は…ギャスパーの事も利用しようとしているんだよな…」

 

単なる引きこもりではなく、実は今も眷属としてきっちり仕事をこなしているだろう女装が趣味の少年について思い浮かべる…実は昼間も普通に行動出来るのに完全に昼夜逆転生活になってるんだよな…

 

「自分からやると決めた以上、ここで私が痛痒を感じてしまうのは可笑しいな…いや、私はクレアに投げただけだからそれを感じる事も本当は無いわけか…」

 

ギャスパーにだけはせめて事情を話すべきなのだろう…あいつなら信用出来る…もしもの時、私や黒歌が駆け付けられないなら…あいつにクレアを守って欲しいと考えるのは勝手な想いだろうか…

 

「……」

 

私はテーブルに置いたクレアの携帯にまた触れる…そして電話をかけた…

 

『…もっ、もしもし…クレアちゃん?……どうしたの?…あっ、あれ…?もしもし「もしもし」ヒッ!?クレアちゃんの声じゃない…!だっ!誰ですか!?』

 

電話越しなのにも関わらず思いっきり怯えるギャスパーに苦笑しつつ、用件を伝える事にする…クレアがまさか初日でギャスパーの携帯の番号まで手に入れるとは思いもしなかったな…

 

「そう怯えないでくれ…私はクレアの姉でテレサと言う名だ…少しお前と話がしたくてな…」

 

『クッ、クレアちゃんのお姉さん…?』

 

「そうだ…突然知らない番号から電話が来てもお前は出ないだろう?だからクレアには悪いがこの携帯からお前に電話をかけさせて貰っている…」

 

『そっ、そうなんですか…そっ、それで僕に何の用で…』

 

「…そうだな…少し、長い話になる…今、時間は大丈夫か?」

 

『大丈夫ですけど…』

 

電話越しであるお陰か落ち着いて来た様だ…ずっと怯えられても話が出来ないから助かる…

 

「…そうか、実はクレアには内緒の話なんだ…この後私の携帯からかけ直す…出てくれるか…?」

 

『…分かりました…お待ちしてます…』

 

「そうか…では、少し待っていてくれ。」

 

私は電話を切り、通話履歴を呼び出し、削除した…すまんなクレア…お前は最初にギャスパーと電話したかっただろうに…クレアの携帯をテーブルに置くと、今度は自分の携帯を手に取り、私は部屋を出た。

 

廊下を歩きながら、私はギャスパーに電話をかける…しばらく呼び出しが続いたがやがて相手が電話に出た。

 

「もしもし?」

 

『もっ、もしもし…テレサさんですか?』

 

「ああ、私だ…すまないな、忙しいだろうに…」

 

『大丈夫です…』

 

「…さっきも言ったがクレアには内緒の話なんだ…だが、非常に大事な話だ…突拍子も無い話だが、出来れば信じて欲しい…」

 

私はクレアのやろうとしている事を無駄にしようとしているだろうか…?…ギャスパーは嘘は苦手なタイプだろう…私がこうしてギャスパーと話をしてしまった事はクレアにはバレるだろうな…その時、クレアは私の事をどう思うのだろう…

 

『…信じる?…あの…そもそもクレアちゃんは知らないんですよね…?…どうして…僕に?』

 

「…お前は気付いたか分からんがクレアは人間なんだ…出来れば巻き込みたくない…これから聞かされるお前には悪いが…お前からも今から言う事は…クレアには内緒で「あの…」どうした?」

 

『…ぼっ、僕が偉そうに言う事じゃないと思いますけど…そう言うのって良くないんじゃ…家族なんですよね…?』

 

……そうか…こいつも…

 

「…お前にはまだ分からないかもしれないが…家族だからこそ絶対に言いたくない事もあるんだ…仮に伝わる時が来るとすれば…それは…私が死んだ時で良い…」

 

『そんな…そんなの……テレサさん…』

 

「何だ?」

 

『僕が…判断します…僕が…聞いてクレアちゃんに話すべきだと思ったら…話します…それで良いですか…?』

 

臆病な筈のこいつが私に条件を付けてくる、か…いや、こいつは元々強い…今まで表面上現れなかっただけだ…そして…こいつは既にクレアの事を大事に思っている…本当にこいつを選んで良かったな…こいつならクレアを守ってくれるだろう…

 

「構わない…それではまず、私の正体から明かそう…あー…これはクレアも知っている話だ。私は…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら100

『あの…それ、本当なんですか…?』

 

「ああ、本当だ…やはり信じられないか?」

 

廊下をゆっくり歩きながらギャスパーと会話する…信じそうにない雰囲気を醸し出すギャスパーを嬉しく思ってしまう辺り、私ももう重症だな『いえ、信じます』…私はその場で転けそうになり咄嗟に壁に手を付いた…おい、まさか…お前もなのか…?

 

「信じるのか…?私が言うのも何だがかなり出鱈目な話だぞ?」

 

『信じます…貴女はクレアちゃんのお姉さんで、貴女も嘘を付いているようには感じなかったから…』

 

こいつもそういうタイプか…事実では無く、自分の直感に従う…

 

「…そうか…まぁ、それなら話は早い…にしても…驚いたな…?」

 

『えっ?』

 

「お前が私の話を信じたという事は…お前が敵に襲われるかもしれない、という事を受け容れた、という事になるが…」

 

『あの…僕…初めてじゃないんです…狙われるの…僕は元々吸血鬼と人間の子供で…ずっとそれで狙われて来たから…』

 

「そうか…」

 

目的地に着いた…私は足を止める。

 

『…テレサさん?もしかして今、近くにいます…?』

 

驚いた…確かに私は今、ギャスパーの部屋の前にいる…

 

「…分かるのか?」

 

『僕…ずっと狙われて来たから…さすがにそれだけ近くにいたら…分かります…』

 

「すまないな…戻ろう…お前を怯えさせたいわけじゃ『入って来て良いですよ』……良いのか?」

 

『僕…テレサさんに会ってみたくなりました…だから…』

 

「分かった…」

 

私が電話を切ると…部屋の鍵が開く音が聞こえた…私はドアに手をかけた…

 

 

 

「ギャスパー…いるのか…?」

 

部屋の中を見渡す…部屋にあるのは恐らくギャスパーの私物だろう小物や服、それから電源の付いたままのパソコン…その前の椅子に部屋の主は座っていない。

 

「ここです…テレサさん…」

 

くぐもった声が聞こえ、見るとダンボール箱に頭を突っ込み、こちらに尻を向ける形になっているギャスパーらしき物がそこにいた…

 

「ごめんなさい…いざ会うとなったら怖くなって…慣れるまでこのままでも良いですか…?」

 

……私にそういう趣味は無い筈だが、いっそ鷲掴みにしたくなる、異様な程形の良い尻を見ながら答えた。

 

「ああ…構わない。」

 

ギャスパーと言えばコレ…とも言える迷シーンに立ち会えた事に少し興奮して来るな…命のやり取りが無いから安心して楽しめる…

 

「それであの…大体の話は…分かりました…僕も何とか神器を制御出来る様に努力します…それで話の続きですけど…僕にクレアちゃんを守って欲しいというのは?」

 

ギャスパーの尻に見とれていた私はそこで我に返る…そうか…そこまで話したか…

 

「言葉の通りだよ…お前にクレアを守って欲しい。」

 

「でも…テレサさんは強いんですよね?それに…もう一人強い人が家族だって…」

 

「以前…私が不在の時、クレアと黒歌は襲われた。」

 

「えっ!?」

 

そこでギャスパーがダンボール箱から飛び出し、私と対面する事になった……成程な…確かに男には見えない…というか完全に美少女のレベルだ…これは道を踏み外しても何ら可笑しくないな…

 

「クッ、クレアちゃんが襲われたってどういう!?」

 

…そこまで取り乱す程、ギャスパーがクレアを想ってくれているのが本当に嬉しく感じた…こいつなら任せられるな…

 

「…クレアとは別にある少女を引き取った…こちらも特殊な神器を有してはいるが人間だ…その関係で少しな…誤解の無いように言うがそいつ自身は悪い奴じゃない…寧ろ異常な程善人だ…何れ、クレアに紹介されるかもしれんな…追加になってしまうが…出来ればそいつの事も守って欲しい…」

 

「それよりクレアちゃんが襲われたって…」

 

「そうだったな…結局、襲撃者は撃退出来たが、私が遅れた事でクレアは軽傷だったが、黒歌は生死の境を彷徨うほどの重症…」

 

「そんな…それじゃあテレサさんは僕に「まだ話は終わってないぞギャスパー」えっ?」

 

「クレアを殺す可能性があるのは外敵だけじゃない…さっき話したな?私は何れ覚醒者という化け物になると?」

 

「きっ、聞きましたけど…それが一体…まさか…!」

 

「お前に私を殺せなくても、お前が私の時間を止めてくれれば他の奴は簡単に私の首をはねられる…そういう理由もあるんだよ…お前に頼むのは…今言ったのは一応リアスたちにも内緒で頼むな?…話は終わりだ…邪魔したな。」

 

私はギャスパーに背を向けた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら101

「駄目ですよ…テレサさん…」

 

気が付くとその綺麗な顔を怒りに歪めたギャスパーが目の前にいた…さっき私はこいつに背を向けた筈…何が起きた?…いや、もしかしてこれが…

 

「止めたのか?私の時間を?」

 

「はい、止めました…まだ完全じゃないけど少し使い方が分かる様になりました…それにテレサさんにもちゃんと効く様で良かったです…」

 

……予想以上だ…こいつがきっちり神器を使いこなせる様になれば…

 

「…そうか。それを完全に使いこなせる様に頑張ってくれ…じゃあな。」

 

私の立ち位置は変わってない…ギャスパーが目の前に来ただけでドアは今もギャスパーの後ろにある…横をすり抜けようとするとギャスパーも其方へ動く…逆へ行こうとするとギャスパーもまた動く…何のつもりだ?

 

「ギャスパー、退いてくれ。」

 

「僕の話も聞いてください…テレサさんが一方的に話して僕の話は一切聞かないのは不公平でしょう?」

 

「……後日じゃ駄目か?」

 

「さっきの話…クレアちゃんに話しますよ?部長たちにも全部話します。」

 

綺麗な顔して…中々意地の悪い事を言う。

 

「……卑怯だな。」

 

「卑怯でも何でもいいです…僕よりもっと卑怯なのはテレサさんですよ…僕の話も聞いてください。」

 

「それだけ強い事を言えて引きこもりか?」

 

「…自分の不始末を他人に尻拭いさせようとするテレサさんよりマシですよ…僕、これでもちゃんと部長の眷属として仕事はしてるんですよ?」

 

「知ってるよ…それじゃあ悪いが無理矢理通らせてもら「させません!」…何?」

 

「妖力解放しようとしましたね?今なら僕もある程度自由に神器を使える様で、良かった…逃がしません…僕の話を聞くまでは…絶対に。」

 

今のこいつから逃げるには再起不能にするしかないな…恐らく殺しきれない…それに…

 

「分かったよ…降参だ…」

 

私はその場に座り込んだ…別に私はこいつを殺したいわけじゃない…クレアを大事に思ってくれるこいつには好感も持てる。

 

「…この部屋にも椅子と飲み物くらいありますから…持って来ます…」

 

ギャスパーが部屋の奥の暗がりに向かう…今なら逃げられるんじゃないか…私の中でそういう考えが過ぎる「逃げようとしても駄目ですよ?また僕が…止めます…」……無駄だった様だ…

 

 

 

「それで何の話だ?」

 

ギャスパーが持って来た紅茶を飲む…紅茶の味は良く分からないが…朱乃の味に似てる気が「副部長直伝です」

 

「……何で分かった?」

 

「実を言うと…部長からテレサさんと思われる人の話は聞いてたんです…それでよくその人は副部長の入れた紅茶を飲んでると聞いたので。」

 

「そうか…」

 

「…で、僕の話ですけど…嫌ですよ、そんなの…何でせっかくクレアちゃんと友達に成れたのに何で恨まれるような事を僕がしないといけないんですか?」

 

「クレアを大事に思っているならだな「貴女はクレアちゃんの想いを蔑ろにしてます…身勝手だとは思いませんか?」……」

 

「自分の家族が、自分の力に負けて化け物になって、友達に殺された…そんなの納得出来る人いるわけないじゃないですか。」

 

「……」

 

「僕に神器を使いこなせる様に努力しろと言うなら貴女もやってくださいよ…使いこなしてくださいよ…暴走なんてしないように…頑張ってくださいよ…」

 

「もう分かったから…勘弁してくれないか…?泣きながらそんな風に怒られると胃が痛くなって来る…」

 

顔が綺麗だから尚更、な…

 

「知りませんよ…貴女が悪いんです…ねぇ?僕の気持ち分かりますか?せっかく出来た友達の姉を殺す手伝いをしてくれって…その姉本人から言われて…しかも妹である友達には黙ってて欲しいって…分かりますか…そんな気持ち?…何も分からないから…そんな事言えるんでしょう?」

 

「すまなかった…」

 

「クレアちゃんとその子を守る件は了承しました…後日それとなく貴女に聞いた事にしてクレアちゃんに連れて来て貰って、会ってみます…でも貴女を殺す手伝いなんて…出来ません。」

 

「分かった…それだけで十分だ…ありがとう…」

 

「帰ってください…しばらく僕は貴女に会いたくありません。」

 

「ああ…私の事は大いに嫌ってくれ…だが、クレアとアーシアの事は「ふざけないでください…僕が気持ちの整理が着くまでって意味です…永遠に会いたくないなんて意味じゃない…!」…ギャスパー…」

 

「何れ僕の方からそっちに行きます…それまで待っててください。」

 

「頼みを聞いてくれてありがとう…また会おうギャスパー…」

 

私は席を立ち、ギャスパーに背を向けるとドアに向かった。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら102

「……」

 

私は部屋を出て歩き始めた…ギャスパーの部屋からある程度離れたところで私は壁を殴り付けた…妖力解放こそしてないものの思いの外大きなヒビが入り、冷静になる…

 

かなり大きな音がしたのでリアスたちが来るかと思ったが…その気配は無い…今日はいないのか?

 

「くそ…」

 

別に私は自分を殺す手伝いをしろと頼むつもりなど無かった…本当にもしもの時のためにクレアとアーシアを助けて欲しいと頼むつもりはあったが…それだけだ…何故私はあんな事を言った…?…ああ…そうか…

 

「やはり…私には無理だよ…テレサ… 」

 

今までずっと自己暗示をかけてやって来たが…限界が来ているのだ…私は覚醒者になるのが怖い…周りの者を傷付けてしまうのが怖い…そんな風に思ってはいけないのか…なぁ…答えてくれ…テレサ…

 

「ッ!…そうか…有り難い…今日この時を私の終わりにしよう…」

 

私は廊下を歩き、部屋に向かった。

 

 

 

そっとドアを開ける…誰も起きてはいないようだ…私は押し入れからしまい込んでいた剣を取り出した…かけていた布を取り去る…

 

「…すごいな…放ったらかしにしていたのに錆び一つない…」

 

剣には刃こぼれ一つ無い…本当に何で出来ているんだ?

 

「……」

 

眺めていた剣をテーブルに置き、甲冑と黒歌がまた手直ししてくれた戦闘服を取り出し、着替えた…テーブルの剣を掴み…

 

「…じゃあな。…楽しかった…これまでずっと…ありがとう…」

 

私はそう声をかけると剣を背負い、部屋を出た。

 

 

 

オカルト部の部室の前を通るが電気は消えており、誰もいない…何処へ行ったんだ?…いや、どうでもいいか…好都合だしな…

 

私は旧校舎を後にした。

 

 

 

あの場所へ向かう…あの日、初めて奴と戦った場所へ…

 

「…あら?早いわね…誘いを掛けてはいたけどこんなに早く来るとは思わなかったわね…」

 

「そっちこそ。昼間の時点では何時かの夜に…とか言っていたじゃないか?まだ数時間だぞ?もう我慢出来なくなったのか?」

 

「実はそうなの♡貴女に会ったら抑えられなくなっちゃって…」

 

オフィーリアが自分の身体を抱き、恍惚とした表情を浮かべる…

 

「良いだろう…今夜はとことん付き合ってやる…」

 

「あら素敵な顔♡ゾクゾクするわ…ところでそれって…もちろんどちらかが死ぬまでよね?」

 

「それで構わない…ここを離れるぞ…こんな所でやったらまた邪魔が入る…」

 

まあリアスたちにバレるよりも先に一般人にこのスタイルを見られたら通報されてしまうがな…

 

「同感。もう横槍を入れられるのはゴメンだわ…」

 

そこで私が跳ぶと同時にオフィーリアも跳躍し、電柱の上に着地…山の方に向かった。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら103

「あの時と全然違う!素敵よ貴女!」

 

「お前に褒められるとはな!そんなに私は強くなったか!?」

 

奴の剣を力任せに弾き、腹を蹴る。

 

「…ッ…良いわね…甘さが無くなったわ…!」

 

顔を顰めているが咄嗟に後ろに下がられたために、大したダメージは与えられなかった筈だ…やはり私よりも何倍も上手だな…全開でなくては奴に迫れない!

 

「フッ!」

 

突進しての風斬…これならスピードに慣れ切って無い私でもスピードを活かして当てられる…

 

「それじゃあ斬れないわね…」

 

奴の方が私に突っ込んで来て懐に…私は剣を僅かに抜き、力任せに仕舞う。

 

「えっ「悪い…ブラフだ。」剣を仕舞う勢いに身を任せ、斜めに上体を崩しつつ、身を躱し…自分から飛び込んで来てくれたオフィーリアの腹に拳を叩き込んだ…

 

「ゴフッ…やってくれるわね…!」

 

「いや、まさかこんな手が通用するなんて思わなかったよ…やってみるもんだな…」

 

クレイモアの身体を殴るなんてのは初めてだが感想は…悪魔を殴った時とそんなに変わらない、だ…多分人間ともそう変わらんだろう…

 

「なら、これはどうかしら?」

 

奴の腕が動く…波打つように…

 

「漣の剣…」

 

「そう。これは破れる!?」

 

向かって来るオフィーリアを見ながら私は急激に冷めてくるのを感じた…

 

「えっ!?ちょ「お前だって人型だ。剣の間合いの内側に入られたら両刃であっても斬れないだろ?…腕が届かないんだから。」

 

私は自分からオフィーリアの方に飛び込むと懐に入られた事で腕が届かず、慌てるオフィーリアに膝蹴りを入れた…漣の剣を止めれば背中から私を刺せるのにな…まぁこの状況で私を仕留めようとすれば最悪自分にも剣を刺す羽目になるが…

 

思ったより低い呻き声を漏らし、苦しげに身を捩らせるオフィーリアの後頭部に手を当て私の背後にあった木に顔面を叩き着けた…

 

「~~~!」

 

「…悪い…何を言っているか、分からない。」

 

顔面を叩き着け、更に足で頭を踏み付けて木にめり込ませてる状態でペラペラ喋れる奴がいたら見てみたいがな…次いで、私は背中から剣を抜き、オフィーリアの剣を持つ方の腕に向けて振り下ろした。

 

「!?…ンンンン!?」

 

「お前も攻撃型だろ?腕を切り離したら再生しないよな?」

 

落ちた腕に剣を刺し私の方に引き寄せる…負けようと思ってたのにな…まさか勝ててしまうとは…上手くいかないものだな…最期だから…今までは無謀だと思ってやって来なかった事を試したかっただけなんだが…

 

「オフィーリア…屈辱か?…私を殺したいか?…それとも戦いを忘れ…静かに生きるか?…好きな方を選べ。」

 

私は足を離す…オフィーリアが咳き込みながら蹲った…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら104

「ゲホッ…!許さない…!殺す…!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる…!」

 

「ッ…止せオフィーリア!」

 

私の言った言葉にキレたのだろうオフィーリアが妖力をどんどん解放して行く…怒りで頭に血が上ったのだろう…力の上昇が止まらない…!

 

「殺す!アンタは殺す!絶対に!」

 

「止めろ!覚醒者になりたいのか!?」

 

「構わないわ!アンタを殺せればそれで良い!」

 

「馬鹿な…!」

 

……私は何故オフィーリアを止めようとしているんだろうな…このまま放っておけばオフィーリアは覚醒し、私は為す術も無く殺されるだろう…

 

「…あれだけ忌み嫌っていた覚醒者に再びなって、それで私を殺して満足か?しかも私は死にたがってるとしたら…どうする?」

 

「ッ…ナニヲ…!」

 

あの時奴は自分の編み出した漣の剣で殺せなかったのは私で二人目と言った……クレアとの記憶があるのかもしれない…

 

「馬鹿らしいと思わないか?クレアと違って私は死にたがっているのさ…」

 

こいつに私が殺されてそれで終わり…じゃないんだ…こいつはもう戻れない…そしてこのまま街に食い物を求めて彷徨うだろう…そうなればクレアたちは…

 

「…ソウネ…ソンナヤツ…コロスノ…バカラシイ…デモネ…ワタシ…モウ…モドレナイ…アノトキハ…イミガワカラナカッタケド…イマナラワカル…モドレナイシ…アラガエナイ…」

 

「くそっ…!」

 

目の前には異形と化したオフィーリアがいた…

 

「…ニゲナサイ…イマナラ…アナタハ…ミノガシテアゲル…」

 

「…言っただろう?私はもう死にたいんだ…それに…このままお前を逃がしたら、私の家族が食われる。」

 

「…イマサラナンデソンナモノガキニナルノ?…シニタインジャナイノ?」

 

「お前を止めないと家族が死ぬ…家族に死んで欲しいとは思っていない。だから…」

 

私はオフィーリアの腕から剣を抜き、オフィーリアの元へ歩く…

 

「ッ!クルナ!」

 

私の真横を棘の様な物が飛んで行って木に突き刺さる。

 

「何処を狙ってる?私は、ここだぞ…目は、見えているんだろう?しっかり狙え。」

 

「コナイデ…!」

 

今度は掠ったが、致命傷どころが掠り傷にもならん。

 

「だからしっかり狙え!私はここだ!」

 

私は妖力解放すらせずにゆっくり歩く…また当たらない…いや…当てる気が無いのか?

 

「そんな顔するな…大丈夫だ…今のお前なら戻れるさ…」

 

「コナイデ…!コナイデヨ…!」

 

まるで子どもの様だ…その異形と化した顔を歪めて泣く様を見てそう思った…

 

「初めて覚醒者になった時の事を後悔してるのか?…怖かったか?…それとも怖いのは私か?」

 

奴の目の前で剣を地面に刺すとその蛇のようなオフィーリアの身体に抱き着き、目を閉じる…

 

「ナニヲシテ「落ち着け…今のお前なら多分戻れる…戻れ…私が手伝ってやる…」ムリヨ…ムリにキマッテ「出来る!諦めるな!…あの時店で会ったお前は…私には楽しそうに見えた…良いのかオフィーリア…ここで化け物として終わってしまって?」…ワタシハ…モウ…バケモノニナルノハ…イヤ…!タスケテ!」

 

「良く言った!気をしっかり持て!お前ならまだ戻れる!」

 

テレサのお陰でやり方は分かっている…だが、実際に私に出来るかどうかは分からない…やってみるしか無いか。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら105

「…死ぬ気になれば…何とでもなるものだな…」

 

「私…戻れたの…?」

 

「私の目が確かなら…お前はもう化け物の姿はしていないな…」

 

「どういう事…一度覚醒したらもう戻れないんじゃないの…?」

 

「半覚醒…と言ってもお前は知らないか…簡単に言うと一部のクレイモアは覚醒寸前、若しくは完全覚醒した直後に戦士としての姿に戻れる事があるんだ…」

 

「一部…?なら、条件は?知ってるんでしょ?教えて…?」

 

「……さあな、私にも良く分からない…」

 

半覚醒を出来る者の条件は自分の親しい者…特に家族の妖魔の血肉を取り込んでいる事…と、言われている…戻れるかは私にも賭けだったが、こうして戻れた以上オフィーリアもそうだったのだろうか…伝えない方が良いだろうな…今この場では…原作に有ったこいつの過去を見る限り…こいつには刺激が強過ぎる…

 

「ちなみに、お前の世界にいたクレアも半覚醒者だ…私はつい最近そうなった。」

 

「そう…」

 

お前が、原因でな…

 

「ねぇ?礼は言わないわよ?」

 

「要らん…お前何処かの勢力に所属しているか?」

 

「冗談でしょ?せっかく組織から解放されたのに…」

 

「だが、その格好じゃ何処にも行けないだろ?サーゼクスに連絡する…あいつなら悪い様にはしないさ…そのまま保護してもらえ。」

 

今のオフィーリアは覚醒した際に服も甲冑も駄目になってしまい裸だ…これではもう何処にも行けない…

 

「貴女がどうにかしてくれるんじゃないの?」

 

「それこそ冗談だろ?もう私に帰る場所は無い…何処に連れて行けと言うんだ。」

 

「大体、死にたいってどういう事よ?家族がいるんでしょう?」

 

「お前に色々言っといて何だが、私も結局覚醒者になるのが怖いのさ…だが、化け物になるのが怖いのでは無く、私は家族や仲間を食ってしまうのが怖い…」

 

「そう…。」

 

「サーゼクスに連絡する…後の事はあいつに頼れ…私が知っている事は全部あいつに話した…半覚醒について詳しく知りたいならあいつに聞いたら良い。」

 

「私が彼に何かするとは思わないの…?」

 

「思わない「何でよ?」お前、もう一回覚醒者になりたいか?半覚醒状態になったら例えベテランの戦士だったとしても…限界はもう自分では分からなくなる…」

 

「……もう戦うなって事…?」

 

「出来ればその方が良いだろうな…大丈夫だ…お前なら、すぐ他の楽しみが見つかるだろ…私は…昼間のあの店でお前が見せた笑顔は本物だと思っている…」

 

「馬鹿ね…」

 

「これでも昔はもっと冷血だったんだけどな「昔って…貴女何時からこの世界に?」知りたかったらサーゼクスに聞け…あー…サーゼクスか?」

 

『君は今何処にいるんだ!?突然君がいなくなって今も皆君を「オフィーリアを捕まえた」…本当なのか?今、何処に…?』

 

「駒王町近辺の山の中さ。」

 

『成程…なら、すぐそっちに「こいつはもうお前らにも私にも危害は加えない…だから…そっちで保護してやってくれ」…君が言うなら彼女を信じても良いが…彼女が危険なのには変わりない…君が監視を「無理だな」……何故かな?』

 

「私は…もうそっちには帰らない。」

 

『何を言っているんだ!?』

 

「何れ来る筈だった別れを早めようと思ってね、とにかく早くオフィーリアを迎えに来てやれ…じゃあな、今までありがとう…サーゼクス。」

 

『待つんだ!テレ…』

 

電話を切り、放り投げ、落ちてくる携帯を剣で断ち割り、破壊した。

 

「どういうつもりなの…?」

 

「何がだ?」

 

「何故私を助けたの?」

 

「…そっちか。お前を助けたわけじゃない…お前をそのまま放っておいて家族が食われるのは嫌なんでね。」

 

「じゃあ、何でその家族から離れようとしてるの?」

 

「質問が多いな…私にはもう無理なんだ…あいつらを食ってしまうのが怖くてね…」

 

「……」

 

オフィーリアが黙り込む…潮時か…そろそろあいつらも場所を把握してる筈…

 

「じゃあな…私はもう行く…後はサーゼクスに聞け…お前の剣…貰っていくぞ?もう必要無いだろ?」

 

自分の剣とオフィーリアの剣を背負うと背を向けた…

 

「ねぇ?」

 

「…何だ?これで最後にしてくれよ?あいつらが来てしまう…」

 

「貴女…これからどうするの…?」

 

「…そうだな…何も考えてないが…いっそ何処かの勢力に喧嘩でも売るかな?…いや、お前が私を殺してくれてたらこんな事考えないで済んだんだけどな…」

 

「何よ…じゃあ剣を返しなさいよ…今なら勝てる「無理だ…お前気付いてないだろ?」何をよ…!」

 

「お前はもう戦えない…戦うのが…いや、私と戦うのが怖いから。」

 

「……ムカつくわ…早く行きなさいよ…」

 

「お前が呼び止めたんだろ…じゃあな、オフィーリア…」

 

「そこは…またな、とかじゃないの?」

 

「私とお前は…もう会う事は無い…永遠にな…戦いを忘れて…普通に生きてみろ…オフィーリア…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら106

旧校舎の一室…私はそこに閉じ込められていた…ノックが聞こえる…

 

「…起きてる?」

 

「…ああ。」

 

外の南京錠を外す音がして、ドアが開いた。

 

 

 

 

あの日、オフィーリアを山に置いて、さっさと町を出ようとしてある問題に直面した…すぐに遠くへ行くつもりが、そうも行かず…仕方無く路地裏で身を隠していたが…

 

「まさか…三日も経ってまだこんな所にいるなんてね…ハイ、確保♪」

 

「なっ!?オフィーリア!?」

 

何を思ったかサーゼクスたちに協力したオフィーリアに捕まり、私は連れ戻された…そして取り敢えず反省しろと言われ、ここに放り込まれた…

 

「それにしても本当に驚いたわよ…まさか…あんな事言っといて三日も経ってまだ町を出ていないなんて…何、結局寂しくでもなったとか?」

 

私の食事を持って来たオフィーリアが痛い所を突いて来る…黙っているのは無理か…

 

「違う「何が?」……分かってるんじゃないのか?」

 

「ええ、分かるわよ…でも、私は貴女の口から聞きたいの♪言ってごらんなさい?」

 

「……財布も着替えも持ってなかったから町を出られなかった…」

 

それを言った直後にオフィーリアが吹き出した。…くそ…こいつ…!

 

「私がやらかしたのがそんなに可笑しいか?」

 

「…いや、そりゃ笑うわよ…だってあれだけカッコつけてそんな理由で町から動けなかったって言うんだから…」

 

「大体、何でお前がサーゼクスたちに手を貸したんだ…?」

 

「そりゃあね…三日も衣食住世話になった上、他にも色々良くして貰ったらさすがに情も湧くわよ…貴女の事も気にはなったし…だから私から提案したのよ?私なら妖力を探れば貴女を探せるから手伝わせてってね…サーゼクスも一応出来るみたいだけど…当然、私の方が精度は高い…でも本当、三日も経ってまだ町の中にいるなんて…見つからなかったのが不思議な位…どうだったプチ家出の感想は?」

 

「うるさい…お前がいなければ見つかる事は…!」

 

「…いや、私がいなくても路地裏で寝泊まりしてたら何れ見つかるでしょ?あの子たちにとってここは庭同然みたいだし。」

 

「……」

 

「まっ、しばらくはこの中で大人しくしてるのよ?言っておくけど、無理矢理外に出ても捕まえるからね?…それくらいの恩は感じてるし。」

 

そこで椅子に座る私に合わせ、しゃがみこんでいたオフィーリアが立ち上がった。

 

「さてと、それじゃ、また来るわね、お馬鹿さん♪」

 

「…オフィーリア。」

 

「ん?何?」

 

「……楽しいか?」

 

「…そうね…悪くないわ…今まで戦う事だけに執着してたのが不思議なくらいよ…」

 

「そうか…なら、良い…」

 

オフィーリアが部屋を出て行き、再びドアに南京錠がかけられた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら107

閉じ込められてから一週間…さすがに耐えられなくなった私は、今日も食事を持って来たオフィーリアにとうとう声を上げた…

 

「なあ?」

 

「何?」

 

「何で毎回お前が私の食事を持って来るんだ?何の嫌がらせだ?」

 

私がそう聞くとオフィーリアはあからさまに何言ってるんだこいつ…?という顔をした…何でそんな顔をされなきゃならない?

 

「何言ってるんだこいつ…?」

 

「……伝わってるのは分かっただろ?何で口に出した?」

 

「大事な事なので何とやらって、奴ね。…ねぇ?貴女今、だいぶふざけた質問してるの気付いてる?」

 

「どういう意味だ?」

 

「…そんなに聞きたい?なら、順を追って説明しましょう…まず、貴女が戻って来てから一週間…私以外に貴女に会いに来た人はいたかしら?」

 

「誰も来てないから…聞いたんだろ。」

 

「それじゃあまずサーゼクスがどうしてるのか、から行きましょう…と言っても大体想像つくだろうけど…忙しく働いてるわ…聞いたら彼に関してはある意味いつも通りらしいわね。…と言っても本来なら貴女と話を作る時間くらい作るタイプみたいだけど…今はそれも出来ない程忙しい…後はリアスたちね…」

 

「……」

 

そこからならサーゼクスの次はグレイフィアの事を語るのが自然では無いかと思ったが黙っておく。

 

「…と言ってもこっちも会いに来ない理由は単純…禁止されてるからよ…要するに貴女、謹慎中みたいな物だし…さてと最後は貴女の家族の事ね…名前はクレア、アーシア、そして、黒歌…合っているかしら?」

 

「合っている…何故そんなに勿体ぶる?」

 

「彼女たち三人は今、冥界にいるそうよ…貴女の家出で精神的に不安定になったから、身柄を一時、グレモリー家預かりにしたとか。」

 

「……本当なのか?」

 

「…散々家族がどうの言ってて自分が出て行ったらどうなるかの想像も出来てなかったのね、貴女…私はてっきり家族にだけはお別れを済ませてるのかと思ってたわ。」

 

「そんな話は良い…どうなってるのか教えてくれ。」

 

「黒歌は貴女の家出の話を聞いて錯乱状態になって自傷行為をした後、意識を失ったらしいわ…今も昏睡状態だそうよ…アーシアも暴れたりこそしなかったものの意識を失い、眠ったまま…クレアは一人で二人の世話をしてて倒れたとか…たまたま様子を見に来たリアスがサーゼクスに知らせて引き取る事が決定したそうよ?」

 

「……」

 

「もう分かると思うけど…こういう時に貴女を世話する役目を負うだろうグレイフィアは三人の世話に追われて貴女を構う暇は無い…ちなみにサーゼクスが忙しいのはグレイフィアの補助が無いから…こういう理由で私が貴女にご飯を持って来てるわけ…ちなみに、私が作ってるんだけど…気付いてた?」

 

「…全く…分からなかった…」

 

「そっ。まあいいわ…そういうわけだから明日からはもうちょっと味わって食べてね?」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら108

そこから更に一週間…私には外の情報は唯一の接触者であるオフィーリアが話してくれないので分からない…いや、今の私は何を聞かされても受け止められないか…クレアたちが壊れてしまったと聞いて以来、私の方もまともとは言い難いのだから…そして今私は…

 

「ん…中々…上手になったじゃ…んあ!?ちょっと…!?待って…!…ん…!」

 

「クッ…!オフィーリア!」

 

オフィーリアと身体を重ねるのが日課になってしまった…

 

 

 

 

「貴女に言うのはお門違いと分かってるけど…私ももう限界なの…証をちょうだい…この世界に来てからの私は戦いを糧に生きてきた…でも貴女は知ってるのよね?本当は私にはそれは手段に過ぎなかったのを?」

 

「……ああ、お前は家族の敵の妖魔…もとい、覚醒者プリシラを追っていたんだろう…?そしてお前はクレアにプリシラを殺すのを託し、死んだ。」

 

「でも、状況はどうあれ…生きているのなら他人に託す必要は無い…とはいえ向こうに戻れるとしても何時になるのか…何にしても私には戦いしか無かった…でも貴女に取り上げられた…そしてプリシラも既に倒されている事を知ってしまった…私にはもう何も無い…生きている証をちょうだい…私に…」

 

「どうすれば良い…ッ…何だ…?」

 

オフィーリアが私に抱き着き、キスをする…

 

「…分かるわよね?」

 

「お前は私が嫌いなんじゃないのか?」

 

「そうね…大嫌いよ?…でも私の事を理解出来るのはこの世界には貴女しかいないのよ…そして…逆も然りじゃないの?」

 

「止めろ…!私は…!痛っ!何をする!?」

 

「やっぱり…貴女、感じないのね?…クレイモアにも異常な程敏感な子とまるで感じない子と色々いるんだけど、こういう場合は痛い程してあげると感じるのよ。」

 

「痛っ…?止めろ!?」

 

最初の痛みとは違ったものが身体を駆け巡る…もう止めてくれ…!

 

「貴女を堕としてあげる…ゆっくり時間をかけて…ッ!何!?」

 

「私は一方的にやられるのは嫌いでね…確か…こうだったか?」

 

先程オフィーリアが抓り上げた場所を私も抓り、捻じる…

 

「痛っ!?止めて!?私はそこまでしなくても…痛い!あふっ!?」

 

「…声が甘く変わって来てるのは私の気のせいじゃないよな?成程、お前もマゾ気質なのか。」

 

「んっ!?噛まないで!」

 

「勝手な事を言って私に襲いかかって来たが…実は私も辛くてね…何せ、お前以外誰も会いに来ないのだからな…付き合ってくれるのだろう?私の退屈を埋めるのを?」

 

……その日、私はクレイモアの身体でも快楽を得られる事を知った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら109

「…お前、何時までここにいるんだ?」

 

解けた髪を束ね、ズボンを履き、パーカーを羽織り、チャックを閉める…というかそれは上下とも私のだよな?…私の服を勝手に着るのも問題だが、最近は下着も着けない辺り、もう私とするのを楽しみにしている…と、考えてしまうのは自惚れだろうか?

 

「そうね…会談が終わるまではいるわよ?襲撃があるんでしょ?」

 

「戦うのか?」

 

「…これを、最後にするつもりよ…何?借りをそのままにしておくつもりは無いのよ、私。」

 

「今、あいつらはどうしてる…?」

 

そう言うとオフィーリアは黙って私の顔を見詰める……何だ?

 

「今の貴女に何を言っても無駄ね…だから教えないわ。…貴女も分かってるでしょ?聞いてもどうせ何も出来ない、って?」

 

「……」

 

「それじゃ、戻るわね…あー…そうそう、この部屋、防音はしっかりしてるみたいだけど最近はあの子たちが何か感づきそうなの。」

 

リアスたちか…まあ同じ建物にいるしな…

 

「だから明日から頻度を減らしま…あら?」

 

私はオフィーリアに後ろから抱き着いた。

 

「頼む…今夜は…もう一度だけ…」

 

「…今の貴女の弱い姿を見せてれば、貴女はここまで壊れなかったんじゃないかしら?」

 

「そんな事は出来ない…あいつらにこんな姿は見せられない…!」

 

「そっ。まあ良いわ…なら今夜はもう一回だけ…私が貴女を堕とそうとしてたのに、何か私の方が絆されて来てるわね、ある意味…」

 

オフィーリアがパーカーを脱ぎ捨てた。

 

 

 

 

「朝になったわね…あら?寝てる?しょうがないわね…」

 

オフィーリアが私の身体に手早く衣服を着せ、毛布をかけた…

 

「じゃあね♪」

 

オフィーリアが部屋を出て行った…私は目を開け、布団から身体を起こす…

 

「オフィーリア…」

 

名前を呼ぶ…小声だ…奴に届く事は無いだろう…

 

「このままで良いのか…私は…?」

 

…と言っても今の所私は何もする気にはなれないが…オフィーリアの言う通り私も壊れている…クレアたちの事を聞いたあの日から…

 

「……」

 

最近は無限ループしかしなくなった思考を打ち切る…何も考えない…オフィーリアが来るまで…時計を見る…部屋を見渡す…この部屋にも一応最低限、本などは置いてあるが雑誌などは無い(私が興味を示さないのを知っているからだろう)どちらにしても読む気にはなれない…

 

「……」

 

布団に横になり、私は目を閉じる…何だかんだ気を使うからな、あいつは…今日は昼過ぎまで…もう来ないだろう…

 

「オフィーリア…」

 

この感傷が単なる恋愛感情に起因する物なら私も納得出来るのだが…私にはオフィーリアに対する恋愛感情は無いとはっきり言える…全く…本当に厄介なものを刻み付けて行ったものだ…いや、一度や二度の過ちで済ませられなくしたのは私か…最近は私の方から求めているのだから…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら110

「あら?全然食べてないわね?どうしたの?」

 

「これ以上お前の世話になるわけにも行かないからな…」

 

オフィーリアがせっかく作ってくれたのに悪いが…私は食事に手を付けなかった。

 

「…あー…成程ね…断食して今の精神状態をどうにか元に戻そうとしてるわけ?…半覚醒してるとはいえ、私たちはそう簡単に餓死なんてしないから、胃を空にして、精神を安定させるのは難しいと思うわよ?元々私たちにとっては使わなくても問題無い臓器だし「だが、やらないよりは」確かに普段よりまともな目付きしてるけど…正直私も言い難いんだけど…もうそういう段階じゃないのよ…今何時だか、分かる?」

 

……今の時間…?私は時計を見る…なっ…!?

 

「気が付いた?今の時間は午前九時「そんな馬鹿な!私は今朝少し眠っただけの筈」…そこまでは覚えてるわけね…貴女にとっては酷な話になるけど…聞く?」

 

「……聞かせてくれ…」

 

「貴女は"昨日"昼になる少し前に起きて、そのまま暴れ始めた…私が見に行ったら完全に可笑しくなっていた…と言うかアレは子どもの癇癪ね…貴女は幼児退行を起こしてた…止めようとしたけどどうにも出来なくて仕方無く放っておいたら夜になって漸く大人しくなって眠ったの…で、今朝改めて見たら貴女は目を覚ましてて元に戻ってたってわけ。」

 

「まさか…!」

 

「分かった?要するに貴女は、今更食事を抜いた所でどうしようも無い段階に来てるの…一応サーゼクスにも報告してるけどどうしたら良いか決めあぐねてるみたいよ?普通の人間の病院には連れて行けないし、冥界の医師でも今の貴女の症状をどうにか出来るか怪しいそうよ?…というわけでほら、口を開けなさい…今の貴女は食事を削っても体力が無くなって衰弱死するか、飢餓に負けて覚醒者になるかの二択しか無いの…ほら、あ~ん…」

 

私はもう余計な事を考えるのを止めた…ただオフィーリアの言う通り開いた口に運ばれる物を咀嚼して行く…

 

「これが最後よ…はい…それじゃあ歯を磨くわね「それぐらい自分で」貴女昨日の記憶飛んでるのよね?一人で、なんてさせられると思う?」

 

口を開け、オフィーリアの膝の上に横になった私の歯にオフィーリアがブラシを当て、一定の力で動かして行く…情けなくて涙が出そうになるが、堪え「あら?泣いてるの?」られなかったらしい…

 

「ハイ、これで良いわ…それじゃあ私は戻るわね「オフィーリア…その」ごめんね、今日は無理「どうして?」…さっきは濁したけど…昨日貴女、幼児退行したまま私に襲いかかったの…半日以上、無理矢理…されたから…身体がちょっと…まさか頑丈な筈のこの身体で回復が追い付かないなんて思わなかったわ…だから今日は…ごめんなさい…」

 

そう言って頭を下げたオフィーリアが背を向けて出て行く…私はもう…駄目なのかもしれないな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら111

沈んで行く…現実を否定し、全てがもうどうでも良くなった私の意識は何処までも…もう戻る事は…

 

「……ん?…何故私が今更この身体で目覚める?」

 

「いや、突然何を言ってんのよ…?」

 

「……オフィーリア、か…?」

 

「…あら?貴女…誰?」

 

「…成程…そう言う…私はテレサ…サーゼクスに聞いてないか?…私は…奴が本物と呼ぶテレサだ。」

 

 

 

 

「…で、貴女自身も自分は消えたとばかり思ってたのに、実際は心の奥底で眠ってて…あの子の意識が完全に沈んだ事で目覚めたって事?」

 

「そうらしい…肉体というか、脳の防衛本能って奴じゃないか?このままだとこの身体は抜け殻になるからな…全く…私の役目は終わったとばかり思っていたが…」

 

あいつがキツい戦いとなるだろうと予想した和平会談まで…そう日は無いだろう…この大事な時に眠りについているとはな…

 

「目覚めたばかりの貴女には悪いけど…戦力には組み込ませて貰うわね…サーゼクスに伝えて来るわ「その前に一つ良いか?」何?」

 

「あいつの精神へのダメージが原因かは分からないが、読み取れる記憶が穴だらけなんだ…まず、お前が何故こちら側にいるのか説明してくれ。」

 

「貴女の中で私は敵のままなの…?」

 

「そうなるな…その様子だとあいつと深い間柄になったのか?…いや、私が聞く話では無いか。」

 

「そうね…聞かないで…今の貴女には戦いの妨げにしかならないから…理屈だけなら簡単よ…私、負けたの…で、行き場の無い私はここに一時保護されたわけ。」

 

「…で、何故私はこの部屋に幽閉されているんだ?」

 

「詳しい事情は良く知らないけど…何か、自分が暴走するかもしれない恐怖を抑えきれなくなって、ちょうど誘いをかけた私に殺されようと思ってたけど何を間違ったか勝ってしまって…仕方無く旅に出ようとしてたら着の身着のまま出て来てしまったから、お金も持ってない上に格好もクレイモアとしての格好のままだったから町から出られなくなって、隠れてた所を私が捕まえて「いや、だいぶ詳しいと思うぞ?」そう?…まあとにかく反省のためにここに押し込まれたのよ…」

 

「…で、多少反省させるだけのつもりが、あいつが壊れてしまったと…理由に心当たりはあるか?」

 

「家族の方が先に壊れたから…あの子…自分が家族の中でどんな位置付けだったか分かってなかったみたいでね。」

 

「成程…気にはなるが、私が会うべきでは無いだろうな…」

 

「私でさえ分かったんだから…彼女たちには別人だとすぐに分かるでしょうね…もう良い?いきなり出せって言われても無理だから取り敢えずサーゼクスには伝えておくわ…これ、食べて?貴女は気付いて無いと思うけど…その身体、半覚醒してるから…食べた方が良いわ。」

 

「分かった、貰おう…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら112

「なぁ…そうやって見詰められると食べにくいんだが…」

 

「ごめんなさい…つい…」

 

あれから三日程経過したがまだ私はこの部屋から出られない…中身が変わったとはいえ、一応復活した事実をさっさと受け容れて欲しいんだが…私も早く身体を慣らしておきたいからな。

 

「でも不思議ね…」

 

「何がだ?」

 

「見れば見る程、貴女はあの子に似ている…見た目の話じゃないのよ?仕草や口調とかね…」

 

「似ていて当然だな…あいつは初め、自分を私に似せようと努力していたからな…」

 

あいつはあいつにしかなれないのにな…今は…似ている…程度で済んでる以上、演じるのは止めたのか。

 

「でも、やっぱり違うところがいくつか…特に…」

 

「?…何だ…?」

 

オフィーリアが私の顔を両手で包む…

 

「あの子はこんな風に自然には笑えなかった…」

 

「…私があいつに関わったのは短い間だったが…それでも分かる事はあったな…あいつは何があっても笑顔が浮かんでしまう私よりずっと感情豊かだったよ…その癖最後の最後まで笑う事は無く…笑うのが下手くそだった…」

 

「…ッ…ごめんなさい…食事の邪魔したわね…私はもう行くからゆっくり食べて…」

 

オフィーリアが立ち上がり背を向ける…

 

「オフィーリア。」

 

「何かしら…?」

 

「…そんなにあいつが気に入ったのか?」

 

「……いいえ…嫌いよ…殺したくて…殺したくて…堪らなくなる程に…」

 

オフィーリアが部屋を出て行く…嫌い、ね…

 

「…じゃあ…何でそんなに声が震えてる?」

 

私は自分の仕事をするためにいるだけだ…こういうのは専門外だな…私はもう別に身体を返して欲しいとは思っていない…戻ってやれるなら戻ってやりたいが…

 

「下手に潜ると…私も帰って来れない可能性があるな…」

 

あいつが何処まで潜ったのかは分からん…はっきりしてるのはあいつを引っ張るのに失敗したら…次は恐らく私の意識は浮上しない…本当にこの身体は抜け殻になってしまうだろう…今この状況自体がイレギュラーなのだ…

 

「…ここにこうして出て来てしまった以上、最低限の事はしてやる…だからさっさと目を覚ませよ?テレサはもう私ではなく…お前なんだからな?」

 

取り敢えず食事を再開しよう…こうやってまともな量の食事をするのはクレイモアになってからは初めてか…だが、意外な程食べるのに抵抗は無い…味も悪くない…オフィーリアは料理が上手いのか、意外な才能だな…最も食べさせたい相手は私ではなくあいつなんだろうが…不憫な奴だ…そもそもクレイモア同士で恋愛など無理だ…それぐらい分かっていると思うんだがな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら113

更にそこから数日…漸く私は部屋から出され、テレサの部屋でサーゼクスに会う事になった…

 

「オフィーリアから聞いてもまだ信じ難かったが…こうして実際に会うと分かるよ…確かに君は別人だ…」

 

「…そういう事、だ。期待させて悪いな、サーゼクス。」

 

「…いや、勝手に期待したこちらが悪いのであって君のせいでは無いよ…それで取り敢えず会談の際はテレサ…あー…君もテレサだったな…」

 

「ややこしくなるだろうが私もテレサ、としか名乗れないな…使い分けの必要は無いさ…戦力面では同じ物として扱ってくれ…そこら辺はある程度記憶はある様だから多少擦り合わせるだけで済むだろ…最も、あいつと私では戦い方も異なるがね…」

 

「分かった…そういう事であれば…では君は会談の際はテレサとして予定通り護衛として立つ、という事で良いのかな?」

 

「あいつにとってもそれが心残りだろうさ…こうして出て来たんだ、私が代わりに請負う…それ以降は知らないがな。」

 

「それは…どういう意味かな?」

 

「それ以上を求めるのはお門違い…ではさすがに薄情が過ぎるか…いや、どちらにしろ無理なんだよ…私も、恐らく…あまり長くこちらにはいられそうに無いんでね…会談の日までさすがにもうそんなに日数は無いだろ?」

 

「…二週間後だ…持ちそうかな?」

 

「…ギリギリな。話は終わりか?なら、オフィーリアを連れて身体を慣らしに行って来る。」

 

「その前に一つ頼みがあるんだ…聞いてくれないか?」

 

「…何だ?」

 

「クレアたちに「悪いな、断るよ」…何故かな?」

 

「彼女たちに会う気は無い…お前がそう思ったように彼女たちにとっても私は別人なんだ…余計にショックを与える事も無いだろう?…戻れるなら今すぐにでも戻ってやりたいがね…」

 

「…その身体は元は君の物なんだろう?返して欲しいとは思わないのか?」

 

「いや?全く思わないよ?…誤解するな、サーゼクス…私の役目は当の昔に終わっているよ…私はこの非常時に眠ってるあの馬鹿の代わりに最低限の仕事をしておいてやろうとしているだけだ…あいつに戻る気があるなら何時でもこの身体を明け渡すさ…説教くらいはさせて貰うがね。」

 

この体たらく…一度殴ってやらんと気が済まない。

 

「じゃあ行ってくる…いや、しかしツイてるな…リアスたちは万が一に備えて冥界で修行中だったか?戻って来る心配は無いだろうからそれなりに派手に暴れられそうだ。」

 

「…程々にしてくれ…この建物が壊れると「私とオフィーリアは技主体の戦士の様でね…周りにそれ程被害は出ないよ…覚醒者にならない限りはな」……」

 

「冗談だ…じゃ、行って来る。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら114

「オフィーリア…不意打ちは良いが漣の剣は止めろ…サーゼクスに言われてるだろ?出来るだけ相手を殺すなと…その剣では最悪相手を殺してしまう…」

 

「仮にも裏切って侵攻してくる相手を殺すな、なんて甘い考えだと思わない?」

 

「その辺の事情は私は興味が無いよ…首も突っ込みたくない…まあサーゼクスもあくまで処罰出来る大義名分こそ出来るものの、殺してしまっては角が立つ…だから正式に自分たちの法に基づいて裁きたい…大方、こういう理由じゃないかな?」

 

「納得行かない「それはそうと早く腕を治せ、時間が経つとくっつかなくなるぞ」…そうね。」

 

オフィーリアは地面に突立った剣を掴んだまま切り離された腕を修復し始める…

 

「酷いわね…何も切り落とさなくても良いじゃない…」

 

「いや、仮に受け止めてもこちらの腕の方がイカれるか、最悪腕そのものを持ってかれるのが確定している技を止めるなら、相手の腕を落とすか、首を落とす以外の選択肢は無いだろ?…あいつの様な脳筋戦法は私には難しいのでね…」

 

「そもそもどうしてそんなに的確に私の攻撃位置が分かるの?」

 

「…あいつは私の戦い方について話して無かったのか?なら、お前には話しておくべきか…共に戦うわけだしな…私は相手の身体の妖力の流れを読んで次の動きを見極めて対応、攻撃をするんだ…この時点で分かると思うがこの戦い方は妖魔、覚醒者、クレイモア以外には使えない。」

 

「どうするつもり?」

 

「別に妖力を読めない=戦えないなんて事は無いさ…やりようはある。」

 

「…それ、私にも出来る?」

 

「いや、私が教えるまでも無いよ…私は基本に従って戦うだけだからな…連中、自分の強大な魔力を良いことに実技面が怪しいらしい…そこをクレイモアとしてのスピードで突っ込んで叩けば良いだろう?」

 

「貴女もだいぶ脳筋だと思うわよ?」

 

「あいつよりマシさ…さて、続きと行こう…ッ…いきなりか。」

 

私の首を狙って繰り出される剣を受け止める…ん?やれやれ…

 

「あら!?「足元がお留守だぞ」きゃ!?」

 

突然しゃがみこまれ、力をかけていた為に前のめりになり慌てるオフィーリアの足を払う…所謂水面蹴りという奴だ…ふむ…思いの外御しやすいな…アクシデントに弱いのか…これではある程度相手の実力が高いとすぐに付け入れられそうだな…

 

「くっ「いや、終わりだよ…一旦仕切り直すぞ?」…分かった…私の負け。」

 

立ち上がろうとするオフィーリアの眼前に剣を突き付け、クールダウンさせる…やれやれ…こうも相手に気を使いながら戦うのは疲れるな…今まで他のクレイモアと組む、という事があまり無かったからな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら115

「今日はもう止めだ。」

 

私は剣を背中に背負った。

 

「あら?もうへばったの?私はまだ「いや無理だろ、お前、頭の中ぐちゃぐちゃだし」何それ?妙な言い掛かり付けないでくれる?」

 

「言い掛かりじゃないだろ…お前には悪いが私には分かるんだよ。私は妖力を読めると言ったろ?感情が乱れれば妖力も乱れる…そもそも太刀筋からしてブレるんだ…私でなくても気付くと思うぞ?…それとも、自分でも分かってないのか?」

 

「……」

 

「こういうのは柄じゃないし、苦手だからハッキリ聞く…正直に答えろ、あいつが好きなのか?…もちろん、恋愛的な意味でだ。」

 

「……正直、良く分からないの…これが恋愛的な意味でなのか…それとも身体の相性が良過ぎて執着してるだけなのか…」

 

「やはりあいつと肉体関係があったのか…なら…」

 

「えっ…?…ちょっ…!」

 

「身体の相性が良くて執着してるなら、私とすれば済む話だな?何せ、中身が違うだけで同じ身体だ…」

 

オフィーリアの肩を掴み、逃げられない様にしながら、顔を近付けて行く…

 

「止めて!」

 

私の顔を引っぱたき、怯んだ私からオフィーリアが距離を取った…

 

「…あっ…ごめんなさい「答えが出たな」…えっ…?」

 

 

「"私"を拒絶したという事はお前のそれが恋愛感情で無いにしても、お前は肉欲に関係無く、確実にあいつ個人に執着している…という事だよ。」

 

「そう…ねぇ?貴女はどう思う?」

 

「…お前のそれが恋愛感情かどうか、なんてのは私に答えは出せないな、それはお前の抱いている感情で私の物では無いのでね。」

 

「それにしたって…貴女は変だと思ったりしないの?…私たちは同性だけど。」

 

「同性だからと言って別に恋愛感情を抱くのが可笑しい、という事は無いだろ。そもそもそれを言ったら、同性で肉体関係がある時点で既に可笑しいだろうしな。」

 

「…だって…それは「色々鬱屈した物を抱えていても同類でない者には吐き出せない、そもそも同性である戦士としか交流を持つ事が出来ない…組織の者には異性がいるが想いを吐き出す事は出来ない…自分と同じじゃないから…大抵はこんな所だろ?…若しくは戦士になる前、妖魔に陵辱された為に男性恐怖症になってる場合もあるかもしれんが」…詳しいのね。」

 

「これでもこの身体になって長い…色々な奴を見て来たからな「貴女は誰かと深い関係になった事はあるの?」…肉体関係はあったが、恋愛に発展した者はいない…いや、違うな…大抵はそうなる前に死んでいるか、私が殺している筈だ…」

 

「…ごめんなさい。」

 

「気にするな…昔の話だ…。」

 

「せめて男性の戦士がいてくれたら私たちも普通の恋愛を「ん?何だ知らなかったのか?」何を?」

 

「昔は男の戦士がいたんだ…お前、覚醒者狩りには良く行ってたんだろ?男の覚醒者と戦った事は無いのか?」

 

「…いたような気はするけど…大抵はろくに喋らせる事も無く首を落としてたし…それに、てっきりそう見える女性なのかと思って…」

 

「そう言う理由か…実を言うと私も会った事は無いし…そう詳しく事情を知っているわけじゃないが…昔はそう数は多くないが男の戦士は確かに存在していたんだよ…一応、ある程度長くからいる戦士の間では割と有名な話だよ。」

 

「そう…どうしていなくなったのかしら?」

 

「妖力解放自体に快楽を感じて、すぐに覚醒者化するから組織が作らなくなった…という話だ…」

 

ミリアの調べた事実についての記憶はあるし、私自身もっと深く事情は知っているが…まあ別に語る必要も無いだろう…

 

「惜しいわね…せめてまだ男性の戦士がいたら「いや、お前も男性恐怖症のクチじゃないのか?だから同性である戦士に手を出してたんだろ?…本当に異性相手に性欲を満たしたいだけなら、一般人に手を出せば良かった話だ…組織の連中もその程度なら結果さえ出してれば文句は言わないし、私たちの様な身体であっても金を払ってまでしたがる物好きは腐る程いたからな…そもそもお前だって組織の命令で娼婦の振りくらいした事あるだろ?」……」

 

「…と言っても、先に言った通りお前は出来なかったクチなんだろうが「さっきから何で分かるの?」覚醒者狩り専門に回される奴なんて大抵は普通の町中に放り込んだら問題起こす奴しかいないからな…お前自身それを目的としていたわけだから丁度良かったんだろうが。」

 

「それが…何か悪いのかしら…!」

 

「怒るなよ…別にそんな事言ってないだろ。覚醒者狩りだって組織に貢献している立派な仕事だよ……余計な事を知られかねないから疎まれるがな。」

 

「……」

 

「そこまであいつが同性である事実がお前の足枷になっているなら…一つ朗報だ…」

 

「えっ?」

 

……あいつはこれだけは誰にも言っていないんだよな…本来は無理に言う事でも無いんだろうが…あいつもオフィーリアの抱えてる物には薄々感づき始めていた筈だ…にも関わらず、オフィーリアにまで何も言わないのはフェアじゃないだろう。

 

「あいつはこの半人半妖の身体になる前、つまり、私たちのいた世界とこの世界…両方を観測出来る世界にいた頃は…普通の人間の男性だったらしい。」

 

「……本当なの?」

 

「あいつはその時の自分自身の事はまるで覚えて無いようだが、これ自体は本当の話だ…これならお前も少し、心のハードルが下がるんじゃないか?」

 

必死で顔がニヤケない様に堪えようとするオフィーリアに苦笑しながら…こいつに関しての処遇をどうするか考えていた…思考が乱れまくってるのは問題だが、浮ついてるのも駄目だ…最悪、今回の戦いからは降りてもらうしかないな…正直、そんな奴に背中を任せるくらいなら一人でやった方が良い。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら116

「オフィーリア。」

 

「…ッ…何かしら?」

 

私に声をかけられ真顔に…出来てないな、これは…

 

「いや、無理だろ…今のお前を事情の知らない者が見ても十人中、十人が浮かれてると言うだろうよ…」

 

「……」

 

俯くオフィーリア…いや、しおらしくされても面倒なだけなのだがね…

 

「お前…それを抑える気が無いなら今回の件からは降りて貰うしかないが…」

 

「何言ってるのよ…私は戦え「いや、降りてくれ…一緒に戦う私としても困るが…サーゼクスたちの為にも言ってるんだ」…どういう意味?」

 

「さっき言わなかったか?私は肉体関係にあった戦士が大抵死んでいるか、私自らの手で殺している、と。」

 

「……ええ…言ったわね…で、それが「いや、分からないか?…私だって仲の良かった者を突然惨殺する趣味は無いよ…そいつらは覚醒者になったから親しい者として私が手を下したんだ」…そう、それで?」

 

「大抵、離れた場所で覚醒者になりそうになったら組織の者に黒の書を託すのが普通だ…だが、私は…自分の方が私より本当は強いと思い込んだ面識の無い勘違い女からしか貰った事は無い…」

 

「…それじゃあ…もしかして…」

 

「そう…そいつらは大抵私の目の前で覚醒し、その場で私が首をはねている…毎回そんなに都合良く事が運ぶと思うか?…結果として私は妖力を読み取っての戦いのノウハウを得たが…友人をどんどん失って行く辺り、それ程メリットだと思った事は無い。」

 

「…何が…あったの?」

 

「新人の戦士であっても、普通はいきなり大量の妖力解放をしたりはしない…それは怖いからだ…少しずつ妖力を解放して限界を見極めなければすぐに覚醒者になるからな…だが、ベテランであってもタガが外れる事はある…ところで…お前、向こうとこっち、二回も覚醒したな?」

 

「そうね…したわ「原因は覚えてるか?」…それは…ムカついたから…」

 

「普段抑制していても感情の昂りでその留め金はあっさり外れる…お前は怒りが抑制を無くしたが…感情が昂るのは何も怒った時だけじゃない…」

 

「もしかして…そんな…嘘でしょ…」

 

「…私と親しかった者たちは私の想いを語っている最中に覚醒した…私はその場でその首を落とした…お前、自分以外の戦士はクソ真面目だと思った事は無いか?お前は何時もヘラヘラ笑ってたらしいが…」

 

「…そうね…確かに思ってた…」

 

「私たちは感情表現一つで簡単に覚醒する…だから感情を殺している奴が普通は長く戦士として生きられる…もう分かるな?つまり、お前がその情愛を抑えられないなら…私はお前に戦いに出るな、としか言い様が無いんだよ。」

 

「この気持ちを捨てなきゃ駄目なの…?」

 

「別にそこまで言ってないさ…だから戦わないのも選択肢だと言っている…妖力解放自体をしなくなれば、覚醒もクソも無いからな…私たちは老化する事は無いが、腕は使わなければやがて錆び付く…その内弾みで解放する事も無くなるだろう…」

 

「…それが一番良いのは分かってる…でも、無理…私は、これを最後にしたいの…」

 

「なら、その気持ちを一旦しまえ…万が一覚醒しても私にはお前の首を落とすことしか出来ない…あいつはあいつでお前に執着はしているからな…お前を殺したら顔向け出来んよ…」

 

最もアレは本人の感じた通り恋愛感情では無いが…快楽に沈めたのもあいつが壊れた要因の一つだとこいつに言ったらどんな顔をするんだろうな…自分に恥をかかせた相手を自分の物にして辱めてやりたい…という歪んだ想いが比較的まともな情愛に変わるのだから分からない物だな…そして、傍から見ればとても滑稽だよ。

 

「…この戦いが終わればあの子は帰って来るかしら…?伝えたいの…」

 

「…何を?」

 

「色々と言いたい事が出来たから…それまでは私はこの気持ちを抑えるわ…それで…良いんでしょう…?」

 

「出来るのなら私から文句は無いよ。」

 

恐らく私は戦いの途中で戻る事になるだろう…そして…あいつは…恐らく帰っては来ないだろうな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら117

「後でそっちに行くわ。」

 

「…ああ。」

 

フリで顔を近付けただけで引っぱたく程、過剰な拒絶をする訳だから、仮に私といた所でそういう事にはならない…か。

 

「そんなわけ無いだろう…」

 

テレサの部屋にあるソファに触れる…柔らかい…私には合わんな…

 

「すまん…」

 

カーペットを剥がし、床に剣を刺し、その刀身に寄りかかり座る…

 

結局あの後は試合を続けること無くさっさと終わらせた…オフィーリア自身は明日もやる気の様だが…私からしたら二週間で本格的にやっても仕方無いのでほぼ慣らしも終わった今、あまりやる必要は無いように思う…

 

「ッ…あー…成程…この身体になってからは初めての経験だな…」

 

空腹感…これが半覚醒の影響なのか…

 

「わざわざ作らなくても良いと言っているのだが…」

 

オフィーリアがこの後着替えてわざわざ飯を作りに来ると言う…中身が違うのは理解してる筈だが…何であんなに嬉しそうなんだかな…さっき言った事を本当に理解してるのか?

 

「来たわよ…あら?貴女…」

 

「見ての通りだ…あいつやお前と違って私は習慣を捨てれていなくてね。」

 

「…まっ、仕方無いんじゃない?取り敢えず食事の用意するわね?」

 

「手伝おうか?」

 

「…やった事あるの?」

 

「あいつの料理の知識はあるが私はやった事は無いな「なら、座ってて。」…分かった。」

 

オフィーリアの料理をする姿を眺める…

 

「…ねぇ?そんなに信用出来ない?変な物入れたりしないわよ…少なくとももう何度か食べてるわよね?」

 

「そんなつもりは無かったが「さっきの貴女のセリフを返す事になるけど…自分で気付いてないの?貴女のそれは、何の気なしに見てるとかじゃなくて…余計な事をしないように見張ってる、なのよ…」…分かった、向く方向を変えよう。」

 

立ち上がり、剣を刺し直し、座る…テレビがある様だが…特に見たい物は無い…というか、あいつもあまり興味は無かった様だ…

 

立ち上がり、近くの棚から本を取り出す…この本、あいつはもう読み終わってる様だな…一ページ目を見た時点で大体のあらすじからオチまで浮かんで来た…本を閉じた。次の本…これも読み終えてるな…割と本を読む方だったのか?さっさと閉じ、剣を刺している所まで戻る…

 

 

 

「それにしても貴女…着替えないの?」

 

私の今の格好は甲冑を外しただけ…この服、黒歌が縫ってるのか…結構器用なんだな…

 

「面倒でね…というか、お前が着てる服に至ってはあいつの服じゃないのか?しかも下着は身に付けて無いだろ?」

 

「…良いじゃない…別に…」

 

「なら、私も言われたくないな。」

 

そこで会話が途切れる…私からは別に話題は無いからな……いや、あったか…

 

「何でお前も床に座るんだ?お前はもう、癖は抜けてるんだろ?」

 

オフィーリアは私から離れた位置の床で、剣こそ刺して無いものの座り込んでいる…

 

「別に良いでしょ。」

 

それきりまた会話は終わる…今更こいつを警戒するのも馬鹿らしい…やる事が無い以上寝てしまうか…

 

私は刀身に軽く体重を預け、目を閉じ…寝ても大丈夫だよな?このまま意識がまた沈んだりしないよな…?…大丈夫だよな…?しばらく起きてはいたもののやがて私は眠りに就いた様だ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら118

『テレサ…』

 

誰かが私を呼んでいるようだ…

 

『テレサ…』

 

目を開ける…

 

「お前か…どの面下げて私に会いに来た?」

 

私の前にあいつがいた…

 

『すまない…私は…お前に託されたのに…』

 

「謝罪は要らない。さっさと戻れ『それは出来ない』…何だと?」

 

『私はもう戻らない…もう現実を見たくは無いんだ…』

 

「随分…ふざけた事を抜かすじゃないか…!」

 

私はあいつに近付くと胸ぐらを掴んだ…

 

『ッ…テレサ…』

 

「お前、どれだけの人間に迷惑をかけているのか、分かっているのか?」

 

『テレサ…私にはもう無理だ…その身体は…お前に返す…』

 

「…私の言い方が悪かったんだな…この身体は私の物じゃない…正真正銘お前の物だ…」

 

『何を言っている…?だってお前はあの時、私の身体を使ってる、って…』

 

「ああでも言わなければ、お前は抗うのを止めてしまっただろう?…思い出せ…私の本当の身体はどうなったのか…」

 

『あっ…!』

 

「私の身体はクレアに取り込まれてもう無い。つまりこれは本当にお前の身体だ…何故私の意識が宿っているのかは分からないが…」

 

『それならこのまま私が消えさえすれば…!』

 

「お前なら分かると思っていたんだがな…良いか?私の役目はあの日、あの時に既に終わっているんだよ…今更新しい生を謳歌する気なんて更々無い。」

 

『だが私はもう…!』

 

「最低限の仕事はしてやる…その後はお前次第だ…戻るも、戻らないも…お前の自由だ。」

 

『私は戻らない…その身体はお前が…』

 

「所詮、いくら見た目が同じでも別人の身体だ…早い話が合わないんだよ…やがては身体の方から拒絶される。」

 

『でも…私は…!』

 

「お前のその葛藤まで受け止めてられん…お前のお陰でこっちは忙しいんだ…手遅れになる前にどうするか決めておけ。」

 

『テレサ!待ってくれ…!お願いだ…!私は…もう嫌なんだ…!』

 

私の意識が浮上していくのを感じる…

 

「もう朝よ、起きて。」

 

目を開ける…オフィーリアが目の前にいた。

 

「良くその体勢で爆睡出来るわね…」

 

「いや、昔はお前もやっていただろう?」

 

「…そうね…今はとても真似出来ないわ。」

 

オフィーリアが退けたのに合わせ、私は立ち上がる…

 

「グラウンドにいるから、準備出来たら来てね。朝食はテーブルの上にあるから食べて。」

 

「ああ…ありがとう。」

 

「良いわよ…別に…」

 

オフィーリアが出て行くのを見届け、テーブルに向かう…トーストに目玉焼き…オーソドックスな朝食だ…

 

「……」

 

さっさと食べようかと思ったが…思いとどまり、電子レンジにかける…こうやって見ると明らかに私のいた世界より文明は進んでいるな…

 

「…あの馬鹿…!」

 

グルグルとゆっくり回るトーストと目玉焼きの皿を見ながらこの身体の本来の持ち主について考える…元が普通の人間であった事を鑑みてもあまりに腑抜けている…

 

「もう一度会って喝を入れに行っても良いが…最悪次は戻って来れないからな…やるわけにはいかないな…」

 

取り敢えず腹ごしらえと行こう…オフィーリアを待たせている事だしな…私は加熱の終わった皿を電子レンジから出してテーブルに置いた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら119

「昨日の勢いが無いわね!どうしたのかしら!?」

 

オフィーリアの剣を受けとめる…漣の剣は使っていない…力任せ一辺倒の剣だが、仮にも一桁ナンバー…剣の扱いはかなり上手い…

 

だがな…

 

「なっ…!?」

 

「悪いな…これでも、私も一桁ナンバーなんだ…簡単には負けられないな。」

 

それまでして無かった妖力解放を行い、オフィーリアの剣を弾き上げる…無防備になった腹を蹴り飛ばした。

 

「ぐっ…!」

 

モロに食らい、怯むオフィーリアに追撃…さて、一つやってみるか…!

 

「嘘っ!これって…!?」

 

「ミリアの様には行かないが…」

 

妖力解放をしての高速移動により、残像を生じさせ、相手を惑わす技…あいつの記憶から読み取った…クレアと仲間であった戦士…幻影のミリアの幻影を再現してみた…この技…相手が妖魔や覚醒者、クレイモアで無くても使えるが燃費が非常に悪い…最終的に本人は妖力解放無しで使える様になった様だが私には出来そうも無いな…

 

「どうだ?お前はミリア本人の幻影を見た事はあるんだろう?…あいつの記憶にあった物を再現してみたのだが…」

 

「そうね…悪くないわ…もしかしたら何れ本人にも迫れるかもしれないわよ?」

 

「それは光栄だな。」

 

オフィーリアの剣は残像を避けて真っ直ぐこちらに向かって来る…

 

「本物はこっち?」

 

「やっぱりバレるか…一応何で分かったのか聞いていいか?」

 

「ミリアの動きは当然ながら幻影とほぼ同じ…でも貴女は幻影と動きが明らかに違う。」

 

「そうか…やはり私には向いてないか。」

 

「そう謙遜した物でも無いと思うけどね。」

 

オフィーリアが力をかけて剣を押し込む…私は力を抜いて、倒れ込んだ…

 

「ちょっ!」

 

「お前アクシデントに弱過ぎないか?あいつに負けたのも懐に入られたのが原因みたいだしな。」

 

前のめりに倒れ込むオフィーリアを地面に背中を付けながら腕を掴み、腹に足をかけ、投げる…変則的ではあるが巴投げの体勢に近いだろうか…

 

「痛っ!?」

 

受け身もろくに取れないまま、オフィーリアが地面に叩き付けられた。…今回の襲撃を行う連中にこんな攻撃をする奴はまずいないだろうが…まあどんな状況にも対応出来る様にしておくのは良い事だろう、うん。

 

「さて、仕切り直しだな?」

 

私が立ち上がりオフィーリアにそう声をかけると、向こうも立ち上がった。

 

「そうね…それにしても貴女、ある意味あの子以上にめちゃくちゃね…」

 

「私は妖力による相手の動きの先読みしか出来ないからな…取れる手は何でも取るさ。」

 

そう言いながら校舎の時計を見る…おっと。

 

「オフィーリア…そろそろ気の早い生徒が来るだろう…ここで止めるぞ?」

 

「あら?もうそんな時間?…仕方無いわね…引き上げましょう。」

 

剣を背中に背負い、旧校舎に向かう…

 

「お昼は何か食べたい物はある?」

 

またこいつが作るのか…

 

「選り好み出来る程食材あったか?」

 

「サーゼクスからいくらか貰ってるし、何なら買ってくるわよ?」

 

「……すぐ出来るもので良い。」

 

「張合いが無いわね…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら120

オフィーリアと別れ、部屋に入り、座る…昼まで数時間はあるな…

 

「……」

 

特にやる事は無い…本来なら私は用務員の仕事があるんだろうが、今の私に出る義務は無い…私がいない場合、誰がやるんだろうな…基本的に何も無ければあいつは毎日出勤していた様だが、あいつが出れない日は誰が?…兵藤一誠を助けた日は黒歌が代わりに出ていたようだが、今の黒歌には無理だろう…

 

「どうでも良いか…」

 

私には関係の無い話だ…

 

 

 

「そう言えば貴女、出かけたりはしないの?」

 

結局退屈になり、本棚から適当に本を引っ張り出し読んだ(良く考えたらあくまであいつが読んだ時の記憶が朧気にあるだけで私は読んでないからな)昼になり律儀にやって来たオフィーリアから質問が飛んで来る…

 

「私、というかあいつは家が無くなる前からこの近辺に住んでいたからな…」

 

「そう言えば…貴女は迂闊に知り合いに会えないのよね…」

 

頷く…あいつが関わった相手の記憶は当然あるが…別人の私が接触して何らかの問題が起きても面倒だからな…

 

「一応サーゼクスからは魔王や、今回の会談にやって来る中で貴女の知り合いに関しては貴女の事情を話しているそうよ…あの子たちを除くけどね…」

 

「リアスと兵藤に木場の三人は何とかなるが、姫島と塔城に関しては確実に面倒事になる…」

 

部屋に乗り込んで来られても私にはどうしようもない。

 

「後、あの時間を止めちゃう子…」

 

「ギャスパーか…あいつも旧校舎にいるようだが会ったのか?」

 

「ええ…すごいのね、あの子…私まで止められるなんて…」

 

オフィーリアは止められたか…あいつの心配は杞憂だった様だな…ん?

 

「あいつは確か引きこもりだと聞いていたが…」

 

「既に旧校舎内なら行動出来るようにはなってるみたいね…だから、あの子は会談に出るつもりみたい…良かったわね、仮にあの子が出て来なかったら最悪私たち二人とも止められて終わりだったわ。」

 

「そうだな…そう言えばあいつはリアスたちについて行かなかったんだな…」

 

「まだ旧校舎からは出れないって。ちなみに遭遇しても良いように貴女の事は話してあるから…で、そのギャスパーから伝言…」

 

「ん?「テレサさんに会えたらありがとうと伝えてください…腹は立ちましたけど…でも、貴女のお陰で少し勇気が出ました…だ、そうよ?」それは私に向けた物では無いな…」

 

「ええ…出来るなら貴女から直接伝えて。」

 

「あの馬鹿なら多分、この場で聞いてるだろうよ。」

 

「……起きてるの?」

 

「恐らく…私を通して色々見聞きしてるだろう。」

 

「戻って来れないの?」

 

「本人にその気があるなら今すぐにでも身体を返すが…今の所戻る気は無い様だ…」

 

「そう…もう戻らないつもりなのかしら…」

 

「戻りたくないとは言っていたな…」

 

「それなら戻るまで貴女がその身体に「いや、この一件の最中に私は精神の奥底に戻るか、追い出されるだろう…つまりその時までに奴がこちらに戻らなければそれで終わりだな…戦いの中で動けなくなったらどういう扱いを受けるか想像はつくだろう?」…そんな。」

 

「それともお前一人で守ってみるか?」

 

「…守るわ。誰にもその身体は渡さない…!渡してたまるものですか…!」

 

「落ち着けオフィーリア…妖力が漏れてる。」

 

「あっ…」

 

「不安になって来たんだが大丈夫か?守るのは勝手だがお前が覚醒したら話にならないぞ…次も戻れるとは限らんしな…」

 

完全覚醒した場合、仮に理性が一時的に残ったとしても妖力の調整が出来る者がいなければ元には戻れない…やがて、強烈な飢餓感と全能感になけなしの理性は消し飛ばされるだろう…

 

「気を付けるわ…それじゃ、私は行くわね…夜にまた来るから…」

 

「ああ。」

 

来なくていいんだがな…オフィーリアが部屋を出て行くのを見ながらそう考えていた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら121

昼食を食べ、本を読み、夕食…そして、部屋に戻らないオフィーリアと敢えてどうでもいい話をしながら生徒がいなくなる時間まで待つ…

 

「オフィーリア。」

 

「何?」

 

「今日が最後で良いな?」

 

「…ええ…本当は分かってたわ…意味は無いって事くらいね…」

 

「…なら何で今日まで続けた?」

 

たった二週間で今更私たちの実力が上がるわけは無い…あいつなら伸び代があるかもしれんが…私は既に用意されたカードで勝負するしか無いし、それはオフィーリアも同じ事。…他に私たちに出来るのはルールが無い、若しくは私たちには守る必要が無いと意識するだけ…当日まで何が起こるかはっきりとは分からない今、少なくとも二人で戦う理由が無いのだ…なのに…

 

「私ね…ずっと戦いたかったのよ、本物の貴女と…あの子の身体だから傷付けたくないと思ってはいても…抑えきれなくて…」

 

「そうか…」

 

実は私が本当にこいつや、あいつが思う本物かは分からないのだがな…本来私の意識はあの世界で戦士となったクレアと共にある筈…本当に私はテレサなのだろうか…

 

「…それで?ここでやるのか?」

 

「サーゼクスと話は着けてあるわ…冥界でやりましょう…」

 

オフィーリアがグラウンドの隅を指差す…魔法陣…

 

「…やはりお前も魔力持ちか。」

 

「ええ…でも、貴女たちと同じよ…私もせいぜい転移が出来る程度の魔力しかない。」

 

魔法陣に近付くと木の影から見覚えのあるメイド服の女…

 

「疲れてるのにごめんなさいね…」

 

「ここで暴れられるよりマシですから…久しぶりね、テレサ…いえ、今の貴女は初めましてかしら?」

 

「そうなるな…だが、あいつもどうせこの場で話を聞いてるし、記憶は共有しているからな…どっちでもいい…テレサの為に聞いておこう…三人はどうしてる?」

 

「最近は三人とも眠ったままです…食事も取ってませんから衰弱が酷いですね…やっぱり貴女は別人なのね…」

 

「ん?」

 

「テレサなら…三人の状況を聞けばきっと…取り乱すから…」

 

「そうだろうな…」

 

「ごめんなさい…貴女に何かを求めても無駄よね…」

 

「そうだな…さっさと始めてくれないか?」

 

「ええ…」

 

魔法陣が光り、私とオフィーリアは足を踏み入れる…

 

 

 

 

「冥界の山中に転移しました…一応結界もかけておくのでご存分に。」

 

グレイフィアが魔法陣に入り、消える…

 

「…始めましょうか。」

 

「ああ。」

 

オフィーリアと向かい合い、構える…

 

「見届け人がいないのが残念だけど…」

 

「必要無いさ。当事者である私たちが結果を知っていれば良い。」

 

「…そう言えば私たち、どうやって帰るのかしら?」

 

「今更だな…だが、今はどうでも良いだろう?」

 

「涼しい顔して…貴女も乗り気じゃない…!」

 

「本当に戦うのが嫌いなら戦士なんてすぐに辞めていたよ!」

 

今の様に後腐れ無く、命令でも無く、心置き無く戦えるシチュエーションすら嫌いなら…すぐに自分の首を落としてたさ!

 

「やる前にもう一つだけ聞きたいの…良い?」

 

「何だ?」

 

「貴女に想いを告げようとした子は要するに皆、興奮し過ぎて覚醒したのよね?」

 

「そうだな。」

 

「貴女…止めなかったの?」

 

「…止めた事は無い…ただの一度も。」

 

「どうして?」

 

「分からなかった…私だって信じたかったんだ…慕ってる相手にただ、秘めた想いを告げるだけで化け物になる程、私たちがつまらない生き物だと思いたくなかった…」

 

「それは言い訳ね…貴女が止めてれば数人、いえ、最後の一人くらいは救えていた筈よ。」

 

「それは分からん…結局止められなかったかもしれない…もう良いだろ?お前には関係の無い話だ…」

 

「そうね…私が口を出して良い話じゃなかったわ…ごめんなさい…それじゃあ始めましょう!」

 

妖力解放し、漣の剣も解禁し、向かって来るオフィーリアを見据える…私が本気を出して良い相手か…今一度見極めさせて貰うぞ、オフィーリア。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら122

「あら?起きた?」

 

「…あいつ程、寝起きは悪くなくてね…」

 

結局、私たちの戦いは夜明けまで続き、実は近くにいたグレイフィアによって人間界に戻された。

 

被害状況は…山が広範囲に渡って更地…地面も相当抉れたので生態系に多大な影響が出た可能性が高いとか…そして私たちの方はと言えば…

 

「…で、日常生活もそうだが、戦いは出来るのか?」

 

「取り敢えず手伝って?食事の支度も難しいの…」

 

「無理に作りに来なくても良いと言ってるんだがな…」

 

斬り飛ばしたオフィーリアの右手が行方不明になった。…私たちは消耗が激しくなければ自前の妖力で回復出来るので大して傷は残らない…なので被害はそれくらいか…

 

「お前攻撃型だったな…」

 

「そうよ…だから再生は難しいわね…」

 

「クレアがイレーネに言われた話だが…時間をかければ攻撃型でも腕は生えるらしいぞ?」

 

「そうなの?」

 

「数日かかる上に、人間並の筋力しか無いらしいが…」

 

「それじゃ、使えないわよ…剣が振れないし。」

 

捜索はされてるらしいが、見つかるか…

 

「サーゼクスの話によると更地になってる事もあって探しやすくはなってるそうよ?ちなみにグレイフィアがあの状況を伝えたら胃薬一瓶一気飲みしたらしいけど…」

 

「そうか。」

 

その感想を聞いてもへー…という感想しか出て来ないな。…まぁその辺はオフィーリアも同じの様で…

 

「お見舞い行く?」

 

「面倒だし、私たちが行っても余計に体調が悪くなるんじゃないか?」

 

「そうよね。じゃあ行かなくて良いか。」

 

サーゼクスの様な奴は普段、机に向かっていて前線に出ない代わりに、最終的な責任を取るためにいる…例えそれが下の我儘に端を発した物であっても…それが組織に所属する戦士として現場で戦っていた私たち二人の共通意見だった。

 

「取り敢えず早く腕が見つからないと不便よねー。」

 

「私たちも探しに行くか?」

 

「サーゼクスからは君たちが行くと更に被害が酷くなりそうだから待っていてくれ…ですって。失礼だと思わない?」

 

「いやそれはさすがに同意する。」

 

私たちはかなり大雑把な方だからな…

 

「えー…何で?」

 

「いや、お前見つかるまで木を切り倒すだろ?」

 

「そりゃ邪魔なんだから当然でしょ?」

 

「…それをされたくないから止められたんだろ。」

 

「えー…別に更地になった所は畑でも作れば良いと思わない?」

 

「掘り返され過ぎた上、そもそも私たちにもどういう力なのか分からない妖力の影響を受けたせいなのか、土の状態があまり良くないらしいぞ?」

 

「…妖力って他の物にも影響出る力だったの?」

 

「知らん…だが、そうとしか考えられないらしい…あの場所はこれから先、百年位は何も生えてこないそうだ。」

 

「ふ~ん…そんなに長い時間じゃないだろうし、そんなに目くじら立てなくても良いでしょうに。」

 

……サーゼクスたち、悪魔は元々長命種だし、私たちは何も無ければほぼ不老不死だからな…百年くらいなら問題無いだろうという結論になるわけだ。

 

「ふわぁ…それじゃあ部屋に戻って寝るわ…この身体、食べてすぐに寝ても太る心配は無いから、そこだけは喜べるわね…」

 

「ああ…おやすみ。」

 

オフィーリアが望んだ通り、ほぼ結果が出た以上…残りの日程は戦う必要は無いわけだが…だからと言って気を抜き過ぎじゃないか…?

 

「いや、そんな事も無いか…」

 

そもそも私たちが本気で爆睡する事はこれから先も絶対に無いからな…どうせ敵が来ればすぐに目覚める…なら、その間は力は温存しておくべきか。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら123

「テレサさん…」

 

「お前、ギャスパーか?」

 

暇なので人気の無い旧校舎を適当に歩いているとギャスパーに出会ってしまった…

 

「…今のテレサさんは僕の事、分からないんですよね…」

 

「…あいつと記憶は共有しているからな、お前の素性は分かるさ…神器の制御は出来るようになったか、ギャスパー?」

 

「あっ…はい、完全では無いですけど…僕が恐怖を抑えれば神器は発動しない事が分かったので「恐怖は抑え込む物じゃない」えっ?」

 

「覚えておくと良い…恐怖は受け容れ、戦う物だ…怖いと思う事は何も恥ずかしい事では無いし、いけないことでも無い…感じて当たり前…だが、全てはそれをただ恐れ、思考を止めるのではなく、どう受け止めるかだ…考える事を止めるな…そうすれば自ずと対処法は見えて来る。」

 

「…はい!ありがとうございます…えっと…」

 

「…テレサだ。私もテレサだよ、ギャスパー…ちなみにここでお前が何を言ってもちゃんとあいつは聞いてる…寝たフリしてるからな。」

 

「はい!ありがとうございますテレサさん!…その…僕の知ってるテレサさんに伝えてください…僕との約束がまだ果たされて無いので早く起きてくださいって。」

 

「私が言わなくても、さっき言った通りちゃんとあの馬鹿には伝わってる。」

 

「はい!それじゃあ失礼します。」

 

ギャスパーが私とすれ違う…ギャスパーはそのまま走って廊下の向こうに消えた。

 

「…お前、ギャスパーと改めて会う約束をしていたな…何時会う気なんだ?」

 

返事は無い…あの大馬鹿者が…

 

 

 

 

「ふ~ん…ギャスパーに会ったの?」

 

「ああ…随分明るくなったもんだな…」

 

「ん?私が会った時は驚かれて一瞬止められただけで、これと言って暗い印象は無かったけど…」

 

「暗いというか、異常な程怖がりでね…クレアがいるだろ?」

 

「……あー…私たちの知ってる方じゃなくて、あの子の家族になったまだ子どもの方の…で、それが?」

「あいつがギャスパーにクレアを会わせたんだが…歳下の、それも人間の少女にビビりまくりだったんだよ…」

 

「……今の姿からはちょっと想像がつきづらいわ…」

 

「それがああだからな…あいつも自分の知らないうちにギャスパーを助けてたわけだ…その癖ギャスパーとクレアをも利用してるのかもしれないと言う罪悪感に苦しんでな…」

 

「利用?二人に友人になってもらうなら、友人として多少依存しても普通じゃない?…性別の問題もあるし、少し歳が離れ過ぎかもしれないけど…」

 

「それがあいつには受け止め切れ無かったみたいだな。」

 

「そんな大した問題じゃない気がするけど…現にギャスパーはクレアの手を借りず、自分の足で歩いてるわけでしょ?」

 

「あいつはそうならない可能性が高いと思っていたわけだ…杞憂だったがな。」

 

最も今現在もクレアが寝込んでいるせいで自分の足で立つしか無くなったのかもしれないが…結果的にあいつの考える可能性はほぼ無くなったわけだ。

 

「あの子普段からそんな事考えて生きてたの?そりゃ壊れるわけね…」

 

……お前も原因なんだけどな…

 

「悩みと言うのは本人にとっては深刻でも傍から見れば大した事じゃなかったりするものさ。」

 

「そうね……ウジウジしてないで早く戻って来れば良いのに…あっ!別に貴女に消えて欲しいってわけじゃ…」

 

「私に気を遣わなくて良い。そもそも私は早く消えたいんでね。」

 

私は既に終わっているんだからな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら124

あまりにも暇な為、用務員の仕事を出来ないかサーゼクスに確認すると、とんでもない事実を聞くことになった…

 

「体調を崩した私は休みを入れている、という事になっている…それは良い…だが、代わりはいないまま、業務はそのままになっている、は不味いだろ…」

 

用務員室に顔を出してみれば書きかけの書類や白紙の申請書類が乱雑に置かれている…いないのだから別に保管すれば良い物を…

 

「半人半妖としての身体能力なら大抵の事は出来るから、逆に代わりがいなくても仕方無いんじゃない?…下手すれば睡眠や食事も削れるからね、私たちの場合。」

 

書類を書く手を一度止め、向かいに座る奴に一言言う事にする。

 

「オフィーリア…何もお前まで付き合う必要は無かったんだぞ?」

 

「部屋で一人でいるのも暇なのよ…寝るのも飽きたし。」

 

最もこの量を一人で片付ける事になっていた事を考えればありがたいのは確かだがな…オフィーリアのサインでは書類を提出出来ないが、書類を整理するだけでも十分役に…いや、待て…

 

「なぁ?」

 

「何?」

 

「お前、私のサイン真似られるか?」

 

「どれどれ…下手では無いけど…結構癖があるのね…出来るか、出来ないかで言えば出来るわよ?…でも何で分かったの?」

 

「勘。」

 

「…貴女のそれはもう一種の能力か何かだと思うわ…」

 

「まあ別に無理にしてくれと言うわけじゃないが…」

 

別に私一人でも片付かない事も無い…恐らく今日一日かければ置いてある書類に関しては終わるだろう…ただ判子押すだけの書類もあるしな。

 

「別に良いわよ、やってあげる。」

 

「助かる…そう言えばお前、こうしてしばらくこっちにいたわけだが、自分の仕事は良いのか?」

 

「ん?とっくに辞めてるわよ…私表向きはフリーターだったの…ちなみに身分の証明が出来ないから雇ってくれるとこ全然無くて…まあこの身体は食費を削れるし、体力は有り余ってるから選り好みしなきゃかなり良い条件の仕事が見つかったけど。」

 

「成程…考えてみれば私の方が可笑しいわけか。」

 

「はぐれ悪魔狩ってる中ではね、どちらにしろとっくにこの町はハンターたちは見切りをつけてるでしょ。私のせいとはいえはぐれ悪魔が来なくなったんだし…それで私たちの話だけど、客観的に見れば人間でないどころか存在しない筈の種族なのに表の仕事で稼いでる私たちが異常なのよ…貴女に至っては偽物とはいえまともな身分付き、しかも高給…考えたら少しムカついて来た。」

 

「私、というかあいつが雇われたのはたまたまサーゼクス…現魔王と古い付き合いだったからだ。」

 

「私も戦争時代にこっち来てれば違ったかしら?」

 

「…お前の場合、何処の勢力とも敵対する未来しか見えんな…その場合同種族のあいつも敵対する事になっていただろうが…」

 

「その癖私と貴女…じゃない、あの子は組まないだろうから泥沼の状況…」

 

「私なら組めたかもしれないが、あいつとは組めないだろうから、そうなるな…」

 

「私、来たのが終わってからで良かった。」

 

「そもそもあいつがここに来たのは数百年は前だからな…文明の進み具合もお察し、だ。」

 

「うん、間違い無く終わって、人類社会が発展してからで良かったわ…今となっては恩恵を受けてるから…ちょっと文化レベル落ちるのなんて考えられない。」

 

「お前は順応が早かったんだな。」

 

「まあね…最初は苦労したけど…」

 

そうなると元々そういう世界にいたのに、身体がクレイモアになってしまい、時間が便利にはなる前に遡ったとはいえ、記憶の中にある文明レベルに時代が追い付いてから、本人がその便利さに再び慣れるまでに十年以上かかったあいつは何なんだろうな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら125

用務員の仕事は本来、学校の見回りが主であり、書類を大量に捌くことでは無い。…見回りと言っても、別に不審者がいないか見るわけでも無い…そもそも滅多に来ないしな…

 

少なくとも昼間あいつがやっていた時は外部から不審者がやって来た事は無いようだ…まあどうせ本当に来た場合、一介の用務員に出番は無いが…制圧出来ない事も無いが、普通は契約してる民間警備会社か、警察に連絡するのが普通だろう……話がズレてしまったが、学校を見回る理由は…

 

「学校内の備品の点検…?」

 

「そうだ…壊れている物があったら後で修理を依頼出来るようにメモしたりだな、後は、自分で修理出来るものならその場でしてしまうわけだ…最も、今の私は回れないがな…」

 

あいつは一般生徒の知り合いは結構多い…特に女子生徒に人気があった様だ…あいつは迷惑していた様だがな…別人だと気付かれかねない以上、会うわけにはいかない…そうでなくても私は休みを取っている事になっているから、授業の始まってしまった今、用務員室からも迂闊に出られないのだが…

 

「それ、私がやっても良いかしら?」

 

「ん…まあ良いんじゃないか?…生徒に聞かれたら臨時の用務員と答えろよ?」

 

「分かったわ。」

 

「一応地図を渡しておく…本当に良いのか?…全部回ったら結構かかるらしいが…」

 

「良いのよ。どうせ暇だし…それより悪いわね…この地図見る限り、どうも今日はもう書類手伝えなさそうね…」

 

「良いさ、これだって仕事だからな。」

 

「そう。じゃあ行って来るわ「オフィーリア」何?」

 

「気を付けろよ?右手はまだ万全じゃないんだろ?」

 

オフィーリアの右手は発見され、グレイフィアの手によって届けられたが、曰く…

 

『発見時は泥だらけの上、その…虫が集っていまして…一応洗いはしましたが…』

 

……オフィーリアも戦士だからな…多少嫌そうな顔はしたものの、それ程気にする事無く腕の修復作業に入った…結果としてくっつきはしたものの、時間がたったせいなのか、それとも不純物が混じったせいか、今もあまり動きが良くないらしい…

 

「大丈夫よ。ただ、学校内を見て回るだけでしょ?それじゃ、行ってくるわね。」

 

「ああ、行ってらっしゃい。」

 

「行ってきます…ふふ。何か良いわね、こういうの。」

 

オフィーリアが部屋を出て行った。書類に目を落とし、止めていたペンを動かす…

 

 

 

 

…携帯の着信音で我に返る…誰だ…?…ん?

 

「オフィーリア?…もしもし?」

 

『ごめんなさい、忙しいのに…』

 

「別に構わない…何かあったか?」

 

少なくともこいつはこっちが忙しいのを知ってて雑談目的で電話する様な奴じゃないだろう…

 

『それがね…どうも女子更衣室に覗きが出たらしくて…』

 

「外部の人間か?」

 

『それが…どうもここの生徒みたいで…どうする?既に女子が追ってるみたいだけど、私も追った方が良い?生徒じゃ下手に警察呼んだらさすがに不味いでしょ…?』

 

まさか…

 

「二人組の男子生徒か?」

 

『いや、男子に決まってるでしょ。人数は確かに二人みたいだけど…』

 

多分、あいつらだな…

 

「すまない、私の言う通りにして貰えるか?」

 

『良いわよ?何をしたら良いの?』

 

「その二人を現在追ってる女子より先に追いついて制圧しろ。」

 

『えっ…?』

 

「大きな怪我さえ負わせず、学校の物さえ壊さなきゃ何をやっても良い…あっ、後多分その二人撮影もしてるな…カメラやカメラになるものは二度と復元出来ないように完全に粉砕しろ。」

 

『えっ…ちょ…本当に良いの…?』

 

「そいつら恐らく常習犯だ…どういうわけかこの学校では覗きと盗撮では退学にならんしな、反省を促す為にも徹底的にやってくれ。」

 

『まあ…そういう事なら…取り敢えず怪我させないのと、学校の物を壊さなきゃ何をやっても良いのね?』

 

「ああ…というか、どうせもう追ってるんだろう?」

 

こいつが一々私の指示なんか仰ぐとは思えない。…ん?

 

「そう言えばお前男性恐怖症だったよな?大丈夫なのか?」

 

『あら…訂正してなかったわね…私、もうある程度克服してるわよ?少なくとも向かい合って会話したり、軽いボディタッチ程度なら問題無し。…そう言えば貴女の記憶には無いの?…私、二度目にあの子と会った時は男連れだったのよ?』

 

「そうだったのか…それなら任せるが…気を付けろよ?記憶にある限りそいつらそれなりに人間離れした動きをするらしいからな…」

 

『冗談…では無さそうね…分かった、気を付けるわ。』

 

「制圧し終わったら、追って来た女子に引き渡すんだぞ?じゃあな。」

 

 

電話が切れる…あの二人ごときにオフィーリアが遅れを取るとは思えないが、万が一という事もあるからな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら126

「本当に驚いたわよ…妖力解放無しの素の脚力だと中々追いつけないし、試しに出してみた蹴りはあっさり躱すし…本当にあの二人、ただの人間なの?」

 

放課後、書類が一通り終わり帰り支度をしている最中に校内の見回りが終わったオフィーリアが戻ってきて先の電話での一件を報告して来た。

 

「…本当に生物学上、純粋な人間だよ…悪魔だったりはしない…何らかの特殊な一族なのかもな…あいつも一々追っかけるのが面倒だから手間かかるのは承知の上でトラップを仕掛けて止めていたらしいな…」

 

「それなら先に言ってくれたら「私もそうだが、お前一々相手の通る場所予想してちまちまトラップ仕掛けるなんて性に合わないんじゃないか?それに発動したトラップも、不発のトラップも自分で片付けないといけないんだぞ?」うっ…確かにそうね…」

 

そう考えるとあいつは本当に面倒な手段を使っていた物だな…ただあの二人には非常に有効だが…あいつら正面からの致命の攻撃はどれだけのスピードであっても確実に躱してくるからな…その代わりアクシデントにはとにかく弱いからトラップには面白いほど引っかかる。

 

「それで?何だその袋は?」

 

オフィーリアが手に持っている袋を指差す。

 

「ああ、これ?…あの子の知り合いだって言ったら、あの子にお見舞いとして渡そうとしていたお菓子を渡されたのよ。ほら…」

 

オフィーリアが袋から出した物を見て絶句する…

 

「お菓子というか菓子折りだろこれ…」

 

外箱入りの和菓子の箱…高校生がお見舞い程度で持って行く物じゃないだろ…

 

「それだけあの子が慕われてたって事ね…というか今どきの高校生のお小遣い程度でも特に懐痛めずに買えるわよ、これくらい。…どうやって渡そうとしてたのかは知らないけどね。」

 

「そうだな…」

 

私の元住んでた家は既に無く、というか生徒は私の元の家の場所すら知らなかった筈…教師連中も私の現在の所在を知らなかっただろうから、オフィーリアに会わなかったら渡せずにいただろう。

 

「取り敢えずこれは渡しておくわね、ハイ。」

 

「…私に渡してどうするんだ?」

 

「貴女が食べたら良いじゃない?…身体は同じなんだし…ある程度長持ちはするだろうけど、放っておいたら腐っちゃうわよ?」

 

「…仕方無い。」

 

私は袋を受け取った。さて、

 

「書類は終わってるの?」

 

「ああ…生徒はまだいたか?」

 

「ええ。…部活の生徒は残ってるけどね。」

 

「むっ…まだいたか…」

 

「いや、そんなにいるわけじゃないし、後は帰るだけだし、何とかなるんじゃない?」

 

「そうだな…行くか。」

 

仮に見つかったらその時考える事にしよう…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら127

「何と言うか、改めて考えるとホントちょっと悔しいわねぇ…」

 

オフィーリアが部屋までくっついて来て夕飯を用意し、食い終わった後も帰らず、愚痴る…

 

「素の力なら上回る人間はそこそこいるだろ?そんなに気にする事も無いだろ。」

 

最もあいつの記憶通りなら多少妖力解放したくらいではあの二人には無傷で逃げられそうだがな…

 

「そうは言ってもねぇ…これでも私No.4まで行ったのよ?」

 

「あー…」

 

そうか、こいつは知らなかったんだったな…

 

「何?その反応?」

 

「んー…まあ、良いか…どうせお前にも私にももう関係無い話だ…」

 

「何よ?何か知ってるの?」

 

「具体的に言うとな、ナンバーが必ずしもそいつの実力を示してるとは限らないって事だよ。」

 

「…どういう事?」

 

「そんな顔するな、お前のそのNo.4は間違い無くお前の実力だ…ただ、このナンバー…どういう基準で付けられるものかは知っていたか?」

 

「それは貴女がさっき否定した…そう、普通に実力順だと思ってたけど…」

 

「そうか…じゃあ何でそれが分かる?」

 

「えっ?」

 

「戦士でも無い組織の連中が何故その振り分けが出来るのか聞いてるんだ。」

 

「それは仕事をこなした数とか…」

 

「仕事をただ淡々とこなすだけなら最下位のNo.47でも出来る…現にクレアはやっていた…だが、結局組織の基準では上がる事は最後まで無かった。」

 

最もクレアの場合、タイミングが悪かったとも言えるが。

 

「それはほら、上に戦士がいたら中々上がれないし…」

 

「私に黒の書を送って来た勘違い女の話をしたろ?」

 

「えっ?ええ、聞いたわ。」

 

「そいつはNo.2で、私の前にNo.1だった奴だよ。」

 

「それじゃ…」

 

「上に戦士がいても実力が下にいる奴の方が上だと感じたら、組織は普通に序列を上げるということだ。」

 

「…ふぅ。降参よ、そろそろ答えを教えてくれない?」

 

「分かった…組織が序列を決める基準だが、お前の言った事も実は間違いじゃない…そもそも仕事がこなせなければナンバーは上がらないからな、だが大きな基準は妖力の大きさだ。」

 

「えっ?いや、それこそ無理でしょ。あいつらに妖力なんて感じられるわけないじゃない。」

 

「そこで最初に言った話に戻って来る…」

 

「ナンバーが必ずしも個人の実力を示した物じゃないって奴?」

 

「そうだ…組織が作る戦士には大きく分けて二種類の戦士がいてな、一つが主に、妖魔を狩り、報酬を出させ、組織の活動資金を稼ぐ奴だ…これは主に私やお前が該当するな。最も、お前は通常の妖魔狩りからは実質外されていたが…それで、二つ目が基本的に妖魔狩りはせず、組織の為に動く奴だ。」

 

「組織の為にって、主に何をしてるの?」

 

「……お前の様な奴の監視。」

 

「えっ?」

 

「お前の様な放っておくと問題を起こし、組織に不利益を与える奴の監視をして、やらかしたと判断したら即排除する役目を負うのがこいつらだ…こいつらは普通に強いが、わざと下位の戦士としてナンバーを振っている。」

 

「ちょっと待って!私、そんな戦士に監視されてるなんて「そりゃ分からないだろうな。」えっ?」

 

「こいつらは私以上に妖力を感じ取るのに優れていてな、超遠距離から妖力を探るという方法で監視する…同じく妖力を感じ取れる奴以外、存在に気付けなくて当然だ。」

 

「そっ、それじゃあ私「お前やらかしても目撃者を消せば問題無いとクレアに語ったらしいな…監視は…付いていた筈だぞ」そんな…」

 

既に終わっている話なのに怖がるオフィーリアを見て少し悪戯心が湧く…もう少し語ろうか…

 

「お前にとってもう一つ怖い話をしようか?」

 

「えっ?これ以上何が「お前とクレアが語った時妙な戦士が現れただろ?」えっ?ええ…「そいつはお前の監視をしていた奴じゃないからな」えっ!?」

 

「あれは高速剣のイレーネと言ってな、私がクレアの為に離反した時に結成された討伐隊のリーダーで…組織の方ももう死んだと思っていた元戦士だよ…つまり、あの場でタイミング良く現れたのはただの偶然、本当にただの通りすがりだ。」

 

最もあの世界での出来事が物語であった事を考えれば、物語の主人公として位置付けられているクレアの危機に突如、クレアに縁のあるイレーネが現れ、クレアを助けたのは必然、とも言えるのかもしれんが…実際にあの世界で生きた記憶のある私としてはそんな風には考えたくないな。

 

「そんな…じゃあ、何で最後まで私の元にはクレアしか「組織の方でもどういうわけかお前らの事を追えなくなった様でな…想定以上の何かが起きてしまったと漸く分かったのがお前の死体が見つかってからだった。」……」

 

そこで私は口を閉じて、傍らのコップを取り、水を飲み、口を潤す。

 

「いや、何かもう整理しきれなくて「もう一つ面白い話があるぞ」まだあるの!?」

 

「イレーネは私の討伐隊のリーダーだと言ったろ。そのメンバーの中にいたのさ…当時戦士だった頃のプリシラがな。」

 

「……」

 

「私との戦闘中にプリシラが覚醒、下位ナンバー…ん?少し違うのか…討伐隊結成時ら既にNo.2に上昇している様だな…経験も少なく、未熟でありながら潜在能力の高かったプリシラは実力者揃いの討伐隊を全滅させ、私の首を落とし、クレアを見逃してその場を去った…当然ながらタイミング的にお前の元に現れたのは「もう良いわ…分かったから」…分かった。」

 

「今日はもう部屋に戻るわね…色々と…考えたいの…」

 

「そうか、じゃあな。」

 

椅子から立ち上がり、オフィーリアは部屋を出て行った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら128

「お昼はお弁当で良い?」

 

「まあ、今日も用務員室には顔を出すからな。」

 

「そっ。分かったわ。」

 

オフィーリアは昨日の話が無かったかの様に私と会話をしていた。

 

 

 

 

「書類仕事は昨日大半終わったんじゃないの?」

 

「…私もそう思ったんだがな…」

 

私は押し入れを開けた…

 

「えっ…ちょっと何これ…?」

 

押し入れには大量の未記入の書類が入っていた…

 

「まだこれだけ有ってね…まあ、今日中には終わるだろう…」

 

「…授業が始まる時間までは手伝うわ。」

 

「助かる…先ず、この書類からだ。」

 

 

 

「それじゃ、見回り行ってくるわね。」

 

「ああ…昨日の二人な…」

 

「ん?」

 

「あれは別に昨日が特別じゃなくてね、基本的には日常茶飯事でね…今日もやると思ってくれ。」

 

「…何で退学にならないのかしら…」

 

「さあな…」

 

いや、本当に何で退学にならないのか…

 

「まあ良いわ、行ってくる。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

「行ってきます。」

 

オフィーリアが部屋を出て行った。

 

 

 

 

『ねぇ?何であの二人、あんなに元気なの?加減はしたけどそれなりに痛めつけたんだけど…』

 

昨日に引き続き鳴った携帯に出る…

 

「そういう連中だ。」

 

『学習能力無いの?私が捕まえに来たら喜んでるんだけど…』

 

苦笑する…あいつも以前そう評したらしいからな…ちなみに今のオフィーリアは金髪のウィッグを付けて、カラーコンタクトをしている…顔は化粧はせず、そのまま。

 

「美女、美少女がとにかく好きだからな、そいつら…」

 

『…取り敢えず制圧は終わったわ…天井から吊るす形になってるけど…良い?』

 

これまた苦笑する…あいつもトラップ仕掛けて逆さ吊りにした事があるからな…

 

「ああ、二人が動けないなら別に構わない…後は女子に任せていい。」

 

『そっ。じゃあ、伝えたら巡回戻るわね。』

 

「了解。」

 

電話が切れる…

 

「オフィーリアの奴、何だかんだ楽しんでる様だぞ…どうする?お前の仕事取られるぞ?」

 

相変わらず返事は無し…答える方法なんていくらでもあるだろうに。

 

 

 

 

「…お前と話したい?」

 

「そうなのよ…何か女子生徒たちから妙に気に入られて…」

 

「……普通にお前の部屋で応対すれば良くないか?」

 

「旧校舎に間借りしてるんだけど良いの?」

 

「別に良いんじゃないか?」

 

一時的な住居では無く完全に自宅として生活しているのもいるんだし。……というか、お前どうせ家賃は入れてないだろ。

 

「お前が会談後もここにいるかは知らないが少なくとも一回は普通に週末が来るんだから、招いてゆっくり話せば良いだろ。」

 

「そうね…そうしようかしら。」

 

「当たり前だが…手を出すなよ?」

 

「……それくらいの分別はつくわよ。」

 

なら、その間は何なんだ?…とは聞かなかった。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら129

「良く考えたら用務員の仕事は当面、私だけ行っても問題無いんじゃない?」

 

「一通り書類は終わってるし、そうなるな…寧ろメインの仕事がこなせない以上、私が行っても仕方無いだろう…」

 

「いっそ本当に就職しようかしら…」

 

「そこら辺は会談が終わってから、あいつとサーゼクスと話せ…私に言われても知らん。」

 

「…あの子の仕事を盗りたいわけじゃ無いのよね…」

 

「交代制が狙いか?どっちみち、あいつが戻らなければお前がやるしか無くなるな。」

 

「戻って来て欲しいわ…貴女と一緒に仕事するの…悪くなかったから…貴女はずっとこっちにはいられないのよね…?」

 

「そうだな…大体、お前が一緒に居たいのは私じゃなく、あいつだろう?」

 

「……そうね…。」

 

「まっ、そろそろ出た方が良いぞ?」

 

「分かった…朝食と昼食は作ってあるから。」

 

「お前、私に相談する気あったのか?」

 

作り置きしてる時点で既に一人で行こうとしてるだろ…それに作らなくて良いと言っているんだが…

 

「あったわよ…でも結論としてはそうなるだろうと思ってたの。それじゃ行ってくるわ…何か困った事があったら電話するから出てね?」

 

「基本、今の私は暇だからな、出るさ…行ってらっしゃい。」

 

「行ってきます。」

 

オフィーリアが出て行き、部屋に残される…

 

「……ギャスパーの所に行くか。」

 

夜に仕事をしている事を考えればまだ寝てても可笑しくないが…まあ良いか。

 

 

 

ドアに掛かってる鍵を力技で破壊…中に侵入した…ギャスパーは…

 

「…寝てるな。」

 

ギャスパーは寝ていた……ダンボール箱の中で身を縮めて。

 

「ベッドが奥にある様だが…こいつは猫か何かなのか?」

 

ダンボール箱好き過ぎだろ…某蛇を思い出す……何で突然蛇が出て来る?…妙な電波を受診し、困惑する私だったが、幸い、あいつの記憶に答えがあった。

 

「ダンボール箱をこよなく愛する凄腕の兵士…?…あまり関わりたくない人種だな…」

 

さっさと思考から追い出し…眠るギャスパーを眺める…何もしないつもりだったが…ダメだ…イタズラしたくなる。

 

「……」

 

部屋の中を見渡し、デスクトップ画面を映すだけで特に何の作業も行っていないPCがある…他に何か無いか…?

 

「おっ。」

 

ペンを見付けた…油性ペンだな。

 

「顔に落書きしてやろう…」

 

キャップを外し、ギャスパーの顔に先端を近付けた所で手が止まる…

 

「こいつは時間を止められるから…下手すると後で報復されるかもしれん…」

 

ペンのキャップを閉め、片付ける…出来るだけ後に残らないイタズラが良いのだが…ん?

 

「ギャスパーの携帯か。」

 

携帯を手に取る…パスワードか…さすが、普段PCを使って仕事をこなしてるだけある…これは無理だな…置こうとしてふと気付く。

 

「携帯にうるさいアラームをセットでもしてやろうと思ったが…」

 

それはPCでも出来るよな。幸い電源は入ったままで、インターネットへの接続までそのまま。…適当にネットを周り、うるさそうな音を探す…チラッと背後を見る…

 

「寝てるな…と、これなんか良さそうだ…」

 

かなりうるさそうな音を見付けた…無料だな…ダウンロードし、PCのアラームとしてセットする…設定時間は…五分後にしておこう。

 

「……」

 

椅子から静かに立つと、ゆっくり足音を出来るだけ立てないように…「んん…」不味い…!

 

「フッ!」

 

妖力解放して即座に出口へ行き、ドアをそっと閉める。鍵は壊れているが気付くのには時間がかかるだろう…再び妖力解放して一気に部屋の前から離れる…外にいるとギャスパーは気付くらしいからな…

 

「何とまあ…多分、今までで一番無駄な妖力解放だったな…」

 

少し凹んだが、気を取り直してそのまま廊下の角で腕時計を見ながら五分が経過をするのを待つ事にした。

 

 

 

 

「後5秒…4…3…2…1…時間か。」

 

ギャスパーの部屋から甲高い電子音が鳴った。

 

「ヒイッ!なっ、何ですか!?」

 

「……」

 

電子音に混じってギャスパーの慌てる声が聞こえる…私は必死に笑いを堪えながら部屋に戻った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら130

私がギャスパーに仕掛けたイタズラは犯人が私であるとバレるのが予想より早かった…いや、元より候補がそういるわけじゃないから、バレて当たり前なのだが…ちなみに怒りが色々振り切ったらしく無表情で静かに怒るギャスパーは私から見てもなかなか迫力があった…顔が整っているから尚更だな…

 

こいつはもう怒らせない様にしよう…ところでバレた理由に気になる点があった。ギャスパーの部屋から逃げる私を目撃した者がいたらしい…誰かは本人の意向らしく教えてはくれなかった…だが、妖力解放をして逃げた私を目視出来る者など限られる…私はサーゼクスに電話をかけた。

 

「サーゼクス…黒歌はどうしている?」

 

『おや?まだそっちに着いてないかい?』

 

やはりか…私を目視出来る可能性のある者はオフィーリアを除けば全員が冥界にいる…何だかんだ仕事は真面目にしているだろうオフィーリアは最初から候補から外れる…後は冥界にいる連中になるが、私は何人か候補がいる中で何故か確信していた…

 

黒歌であると。

 

電話を切り、今度はオフィーリアにかける。

 

『もしもし?貴女からかけてくるなんて珍しいわね…どうしたの?』

 

「黒歌が来なかったか?」

 

『…やっぱり良い勘してるわね…ええ、来たわ…今の貴女の事、色々聞かれたわよ…正直に答えたわ…それでも貴女に会いたいって。…そろそろ着くんじゃない?……妬けるわね…本当に…一瞬…負けそう…って思ったもの…余計な事を話したわね…それじゃ、忙しいから切るわね?』

 

オフィーリアから電話を切られる…携帯をテーブルに置いた所でドアがノックされた。

 

「……」

 

黒歌が来たんだろうな…サーゼクスやグレイフィアにオフィーリア…三人を責めようとは思わない…事情を伝えても本人が会いたいと言うなら…私にさえ止められないだろう…私は歩いてドアまで向かい、そのドアを開けた。

 

「テレサ!」

 

ドアの向こうにいた者の姿がハッキリ見える前にそいつはこっちに飛びかかって来た…戦士の本能で迎撃しそうになるが、ギリギリで堪え、受け止める。

 

「テレサ!テレサ!テレサ!テレサ!テレサァ…!」

 

「……」

 

私の胸で名前を連呼しながら泣きじゃくる黒歌に困惑しながら私はその頭を撫でた。

 

 

 

 

「取り乱して悪かったにゃ…」

 

しばらく泣いて、漸く落ち着いた黒歌はそう頭を下げて来た。

 

「いや…構わないさ…私も気持ちが分からないわけでもないからな…ただ、私の事は聞いてるな?」

 

黒歌には酷だが、ハッキリ言わなくてはいけない…私が別人であると。

 

「聞いたわ…今の貴女は本物の方のテレサだって。」

 

「そうだ「ありがとう」…何がだ?」

 

「貴女はあいつを助けてくれた…だから、ありがとう。」

 

あいつの記憶にある黒歌は強い女性として鮮烈にそこにある…成程…確かに彼女は強い…一時は自傷行為に走る程取り乱したが、彼女なりに折り合いは着けたのだろう…でなければこんな言葉は出てこない筈だ…

 

「そう大した事はしていない…あの時、あいつに本気で戻る気が無ければ私だってあいつを見放していたからな…まっ、今はまるで戻る気は無いようだが…」

 

家族の黒歌と私を通して対面してもあいつからは特に何の反応も返って来ない…

 

「そう…今はどうしてるのか分かる?」

 

「寝たフリだな…あいつに言いたい事があるなら言え…あいつは私を通してしっかり聞いている。」

 

「それなら…私とクレア、それにアーシア…私たちがどれだけ心配したか分かる?…悩んでいるなら言って欲しかった…相談してくれればいくらだって聞いたのに…一人で抱え込む必要なんて無かったのに…私たちはあんたの弱い姿に幻滅したりしない…寧ろ嬉しかったと思う…あんたはずっと私たちの前に線を引いてたから…ゆっくり話がしたいの…だから…戻って来て…」

 

「……」

 

私が言われてるわけじゃないのに結構キツいな…

 

「…本当に届いてるの?」

 

「ああ…間違い無く、な。」

 

「そう…一つ良い?」

 

「何だ?」

 

「私は貴女にも消えて欲しくないと思ってる…何とかならないの?」

 

「ならない。私はまた眠るか、消える以外に無い。」

 

「そんな…」

 

「私の事を気に病む必要は無いさ…あいつが戻って来る事だけを祈っていればいい。」

 

「既に死んでいるから?でも、オフィーリアは今の新たな人生を楽しんでいるのに…」

 

「私とあいつでは事情が違うよ…あいつは納得していなかった…私は…もう納得している…そういう事だよ…黒歌、気にするな…私は…もう良いんだ。」

 

「そんな顔で言われたら…もう何も言えないわよ…」

 

また泣き始める黒歌の頭を撫でる…全く…私の為に泣く必要など無いと言うのに…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら131

「やっぱり私は納得出来ない…貴女は勝手に自分は終わったと思って納得してるけど…私は納得出来ない…何か…考えましょ…絶対に何か方法がある筈…」

 

「お前がどう思おうと勝手だがな…私はもう生を望んでないんだ「それは嘘」……何?」

 

「貴女今日、ギャスパーの部屋から出て来たでしょ?それも凄い急いで…」

 

「……それがどうかしたか?」

 

「ここまで言って分からない?私、全部見てたのよ?」

 

「……」

 

「廊下の角に潜んだ貴女は楽しそうに時計を見てた…それからしばらくしてギャスパーの部屋から凄い音が鳴って…ギャスパーの慌てる声も聞こえて来た…貴女笑いそうになってたでしょ?」

 

「それが…何だと言うんだ…」

 

「生きる事に大層な理由なんて要らない…大事なのは貴女がどう思うか…どうしても理由が欲しいなら何だって良いのよ?…美味しい物をお腹いっぱい食べたいとか、仕事を頑張りたいとか…幸せを感じ取れる事なら何だって理由になるの…そんな、傍から見たら下らない事だって生きる意味になるのよ?」

 

「……」

 

「答えてテレサ…貴女はもっと普通に笑ってみたくない…?ちゃんと生きて…そんな取って付けたような笑顔じゃなくて…自然に笑ってみたくはない?」

 

「……そんな事は無い…と言えば嘘になるな「じゃあ!」黒歌、お前は残酷だ「えっ?」無いんだよ…方法なんてな。」

 

「…ねぇ?その身体は本来貴女の身体なんでしょ?あいつの事を考えてくれるのは嬉しいし、あいつに戻って来て欲しい私が言う事じゃないけど、本来身体を借りてるあいつに遠慮して身を引く事なんて「ああ、そこからか」えっ?」

 

「あいつには最近夢という形にはなるが会う事が出来てな…その時にあいつには説明したんだが…誤解なんだよ…私の言い方が悪かったんだ…この身体はな、私ではなく、あいつの身体なんだ…だから、立場上本当は身体を借りてるのは私の方なんだ…」

 

「えっ…?…でも「あいつに私の身体、という言い方をしたのはそれであいつを奮起させる為だ」そんな…」

 

「自惚れになるがあいつと初めて会った時の出来事はきっと強烈なビジョンとして焼き付いた筈だ…だから、あいつから事細かにその時の事を聞いてる筈だな?…思い出してみろ、私は身体を返せとか、渡せとか言っていたか?」

 

「言ってない…貴女は消えようとしてた…」

 

「その時点で私も消えるつもりだったし、消えた物だと思っていた…どちらにしろ考えてみろ、身体の本来の持ち主では無い私は何れ身体の方から拒絶される…私が何を思おうと消えるのが必然だ。」

 

「そんなの…!絶対に可笑しい…!」

 

「何故、そんなに私の事を気にする?」

 

「あいつから貴女の話を聞いて思うところはあったの…そこにこうして出会ってしまったら…放ってなんかおけないじゃない…!黙って消えるのを待つなんて絶対に出来ない…!」

 

「同情か?一介の猫又如きがこの私に?…それが私に対する侮辱だと分かっているのか?」

 

「睨みつけたって怖くないわ…同情でも良い…貴女がそのまま消えるのを認めたくなんてない…それに多分、あいつが戻って来れない理由の一つが貴女だから…」

 

「何…?」

 

「あいつが戻ったら…今表に出ている貴女の意識は眠りにつくか、消えてしまう…他にも理由はあるだろうけど…きっとそれが一番の理由なんだと思う。」

 

「……黒歌、お前の気持ちは分かった…正直嬉しく思う…だが、何度も言うが無理な物は無理なんだ…」

 

「そんな事無い「そんな事あるんだよ…諦めて…ん?すまん…電話だ…出るぞ」…うん。」

 

オフィーリアから電話が来て…私はこの話題から逃げられた事に安堵しながら電話に出た。

 

「もしもし?どうしたんだ?」

 

『もしもし?それがね…あの二人の内の片割れなんだけど…脳天に拳骨を落としたら妖力解放こそしなかったけどちょっと力入れ過ぎちゃったみたいで…起きて来ないの…一応救急車を呼んだけど、他に私がしなきゃいけない事ある?』

 

「取り敢えず呼吸はしてるんだな?」

 

『ええ…』

 

「なら、対応としては良い…場所が頭だからな…余程苦しそうな体制じゃない限りは救急車がやって来るまで動かすな。…お前の対応だが当然一緒に救急車に乗れ、基本は救急隊員と医者の指示に従うんだ…その後はサーゼクスに連絡して指示を仰げ。」

 

『分かった…ごめんなさい…黒歌と大事な話、してたんでしょ?』

 

「緊急事態なんだから仕方無いだろ。…とにかく後はサーゼクスに聞け…心配するな…そんな事で死ぬ様なタイプじゃないからな。」

 

『分かった…本当にごめんなさい…』

 

電話を切り、携帯を置く。

 

「にゃにかトラブルにゃ?」

 

「ん?ああ…あいつから聞いてないか?例の問題児三人…いや、最近は二人か…主に更衣室の覗きを常習的にしてる連中なんだが…」

 

「あー…確かに聞いた事あるにゃ…それで?」

 

「オフィーリアにはあまり容赦せず制圧する様には言っていたが少々やり過ぎてしまったようでな、一人が昏睡状態に陥ったらしい…」

 

「……大丈夫なの?」

 

「大丈夫だと思うけどな…攻撃を食らったのが頭らしいから万が一の可能性はある…一応救急車に一緒に乗車してその後の対応についてはサーゼクスに指示を仰げと言ったよ。」

 

「それなら、サーゼクスに言わなくて良いの?」

 

「あいつが自分でかけるだろ。今、私が下手にかけると電話相手の競合になるからな…現場にいるあいつからの電話がサーゼクスに届かなかったら不味い。」

 

「確かに…」

 

オフィーリアとその生徒には悪いが助かった…お陰で面倒な話を逸らす事が出来た…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら132

「話を戻すけど「いや戻すな。お前やあの馬鹿がどう思ってくれようと無理な物は無理なんだよ。」やってみないと「何をやる?…その発言は何かアイディアがあって初めて言える言葉なんだがな。」それは…」

 

「仕方無いな…私を生かすのに必要な課題を提示してやる…それをクリアする方法が思い浮かばないなら諦めろ。」

 

「分かった…言ってみて。」

 

「先ず、この身体には二つの意思が宿ってる…これは謂わば一つの器に二つの魂、つまり二人の人間がいると言っていいだろう…当然一つの器に二人の人間は共存出来無い…だからどちらかは消えねばならない…つまり消える前にどちらかを身体から出せば良い。」

 

「出して…どうするの?」

 

「どうやって出すのか?…とは聞かないんだな…」

 

一応…これが第一関門なんだが…

 

「…私の使う仙術は簡単に言えば生命エネルギーを扱う術…心当たりがあるの…それで?出してどうするの?」

 

「…器だ。魂を定着出来る器…つまり死体では無い抜け殻の身体が必要だ…魂の定着が出来るなら、人形で良いだろう…冥界にはいそうだな、そんなの作れる奴。」

 

「…解決してない?多分、サーゼクスなら心当たりが「まだだな」どうして?」

 

「これがそのまま通るのは普通の人間だった場合だ…私は人間では無い…この世界では完全に未知の生物、妖魔と融合した半人半妖…魂だけだから私が戦いを諦めれば良いと思うだろうが、私は魂も変化してる様でね…普通の人間を模した身体では自壊する可能性が高い。」

 

「探すわ…絶対にいるわよ…貴女を受け容れられる身体を作れる人が…!」

 

「期待しないで待つさ…どうせ、サーゼクスに丸投げするしか無いからな。」

 

さて、準備するか。

 

「黒歌、悪いが留守番しててくれないか?」

 

「良いけど何処に行くの?」

 

「いや、ほらさっきオフィーリアがやらかして生徒が病院に行く事になったろう?あいつは所詮臨時で私は正式な用務員だからな…多分私にも声がかかるだろう…と、来たか…もしもし…」

 

『もしもし?…さっきオフィーリアから聞いたが…』

 

「すまないな…私の監督不行届だ…一応オフィーリアにはお前の連絡を優先させただけで病院の場所も聞いてないんだが…」

 

『では迎えに行くからこれから共に向かおう…私もまだ詳しい事情は聞けてなくてね…現地で彼女と落ち合う事になっている…すまないな、今の君を付き合わせる気は無かったのだが…』

 

「お前もオフィーリアもその生徒の事をあまり知らないだろう?素性を知る私が行かないとややこしくなるからな…それに、私にも責任はある…少なくとも出勤さえしていれば現場で対応出来た筈だからな…」

 

オフィーリアはそうやらかすタイプでも無いんだろうが、誰でもミスは犯す…一応私も行っているべきだった…

 

『そんなに自分を…いや、今の君には言うべきでは無いね…もうすぐグレイフィアとそっちに行く…準備をして待っていてくれ。』

 

「分かった…というわけで私も病院に行ってくるから一応留守番を頼むぞ?」

 

「分かったわ…テレサ?」

 

「何だ?」

 

「私は絶対…貴女を助けるから…」

 

「……期待しないで待つさ…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら133

「取り敢えず異常が無くて良かったな…」

 

「それは良いけど…記憶を改竄したのは良かったの…?」

 

「漫画の世界じゃないからね…脳天に拳骨落としたからと言って、普通は昏倒する程の衝撃を受ける事はまず無いからね…」

 

「…まあ…道具を使ったんじゃないかと散々聞かれるのも分からなくないけどね…」

 

結局オフィーリアに殴られた馬鹿は私とサーゼクスが病室に着いた所で普通に起きて来た…レントゲンにも異常は無し…と、なればこちらが責任を負う状況にする事も無かろう…本人は覗きの常習犯でもあるわけだしな。

 

「こっちの正体が伝わるくらいなら無かったことにした方がマシだ…幸い異常は無かったんだからな…」

 

「どちらにしろ…しばらくは今まで通り用務員は不在にした方が良さそうですね…」

 

「そうだな…」

 

グレイフィアの提案に頷く…これでは私か、オフィーリア…どちらが出ても面倒な事になるからな…

 

さて、旧校舎の前に着いた。

 

「では私たちはここで失礼させて貰おう…」

 

「ああ…すまなかったな、二人共…」

 

「ごめんなさい…」

 

「…気にしないでくれ…幸い大きな問題にはならなかったんだ。」

 

「それじゃ失礼するわね…」

 

二人は背を向けて去って行く…何処かで転移するんだろうな…

 

「帰りましょうか…」

 

「そうだな…」

 

 

 

 

「いや、お前はいい加減自分の部屋に帰れよ。」

 

「良いじゃない、別に。」

 

「食事なら黒歌が作ってると思うが…」

 

「じゃあ、お呼ばれするわ。」

 

「呼んでないだろ…」

 

仕方無くオフィーリアと部屋に入った。

 

 

 

 

黒歌は特に嫌な顔をする事無く食事を勧めた…というかそもそも三人分用意していたようだ…

 

食べ終わった後はさすがに気を遣ったのか軽く話して部屋に戻って行った。

 

「何と言うか…あいつが言ってた程、ヤバい奴とはとても思えないにゃ…」

 

「価値観が一気に変わったからだろうな…ちなみにあいつは会談の後は戦いを捨てるつもりらしい…」

 

「…寧ろ仲良く出来そうにゃ。」

 

「それは微妙だけどな「にゃんで?」…オフィーリアはあいつに執着してるからな。」

 

黒歌には伝えておくべきだろう…最も、黒歌があいつをどう思ってるのかは分からないが…

 

「そうにゃの?」

 

「何処まで言って良いんだろうな…まあ良いか…オフィーリアとあいつは結果的に肉体関係まで行ったんだよ…」

 

「……はい?」

 

「聞き間違いでも冗談でも無い…今言った通りの関係性だったんだよ…」

 

「……今、貴女が入ってる身体の話なのに随分淡々と語るのね…それとも貴女もしたとか?」

 

「いや、私はしていないよ。」

 

「あいつ感じないわよね…?」

 

「やりようはあるからな…」

 

「やけに詳しいのね…」

 

「私も嘗て同僚と関係を持った事があるからな…」

 

「……詳しく聞いて良い?」

 

「…ああ、良いよ。」

 

私としては今更隠す様な話じゃないからな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら134

「…とまあ、こんな所だ…少し刺激が強かったか?」

 

「……」

 

「お前は同じ場所に派遣されて共に任務をこなしてるうちに、とか考えたのかもしれないが…そもそも恋愛に発展する方が稀なんだ…所詮は傷の舐め合いだよ…妖魔の血肉を受け容れて、先ずここで適合しない奴は死ぬか処分される…そして、適合した奴は子供の頃から訓練に明け暮れるんだ…この訓練にすらついてこれないのは居たし、卒業試験に至っては本物の妖魔と戦わせるんだ…貴重な青春時代を無駄に消費するんだ…まともな恋愛観なんて持てる筈が無い。」

 

「何で…そんなに辛い道を選ぶの…?」

 

「…選べた奴はまだマシだ…というか、そいつらだって大抵は復讐したい…もう自分には復讐しか無いとか思ってる奴だ…端的に言えば自殺志願者と何も変わらん…後は金銭的問題で親から売られたガキなんかもいる…こっちに至っては選ぶ事すら出来無いな…」

 

「辛い訓練を乗り越えて戦士になっても褒められもせずただ組織の言いなりになって妖魔を狩り続けるだけの毎日…娯楽は肌に合わず、戦いの為に作られた身体だ…欲を持つ事は基本無いが、虚しくはなるんだよ…だから自分で慰めてみたり、慰めあったりするんだ…快楽を感じてる間は、その虚しさすら一時とはいえ忘れられるからな。」

 

「そんな関係性だからな…遊びにしておかないとさっき上げた例の様にろくでもない結果になる…私の場合は好意を持ってくれていた相手が片っ端から覚醒者になったりな…そうでなくても同性、というのは色々トラブルの元になると…あの頃、本当に嫌という程思い知ったよ。」

 

「何が一番タチが悪いって組織の連中も積極的に止めようとはしないんだよ…お陰で仕事で一緒になると、休憩時に他の同行者そっちのけで乳繰り合ってるからな…」

 

「……本当に思ってたより業が深いのね…」

 

「外部のお前らからしたらそうだろうが、私たちからしたら割と普通の話だな…戦いに快楽を求める戦士だって一定数いるが元が人のせいか…そいつらだって結局はこういう方法に最後は落ち着く…思いたくないのさ…殺す事が、全てだと。」

 

「他に楽しみは「さっき言った…見つけようが無い。私たちの身体その物が人間向けの娯楽の大半を拒絶する」……」

 

「戦いが不完全燃焼に終わって興奮状態が続くとそのまま覚醒者になりかねん…だから鎮める為に同行者に襲いかかるとんでもないのもいるからな…」

 

「それは…性的に?」

 

「……お前の思っている通りだ…性的にも、戦いを挑む者もいる…何を話しているのか分からなくなったな…脱線したが良いかな?これがおまえの知りたがった私、及びクレイモアの恋愛事情だ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら135

「余談になるが、同性である以上に私たちはそもそも子供も作れん…そういう身体なんだよ。」

 

「本当に救いが無いわね…」

 

「同性に走るのではなく外で男と交わろうとする奴もいたようだが…お前も知っての通り、この身体を見て勃つのは普通、一種の変態しかいない…それ相応に嫌な思いをした事だろう。」

 

「最初の頃は男の戦士がいたんでしょ?」

 

「…それも聞いてるか。ああ、いたようだ…形はどうあれ、一応…後に女の戦士と結ばれたのもいるらしいな…ただ、男の戦士が全盛の頃は女の戦士自体が少なかったしな…そうでなくても先ず結ばれない理由がある…」

 

「何?その理由って…?」

 

「単純だ…男の戦士にとって性行為より妖力解放の方がより強く…しかも手軽に、快楽を感じられる…つまり女を欲する理由が無くなってくる…で、快楽に抗えなくなるから、どれだけ精神力が強い奴でも軈て覚醒する。」

 

「……」

 

「大体、戦士になった時点で我も強くなる…いくら見た目が良くても、ただでさえ気の強く、自分の思い通りにならない同僚の女としようとする必要も無いだろう…女が欲しくなったら、人間の女を力で屈服させて襲えば良いとか考えるのは道理だ…で、どうせヤッてる最中に覚醒する。」

 

「人間に危害を加えた戦士は粛清されるって聞いたけど…」

 

「そんな掟機能しないだろうな…女性型戦士よりずっと早く覚醒するから手が足りなくなる…」

 

「……」

 

「まあ、こんな所で良いだろう「ねぇ?」何だ?」

 

「その…結ばれた…男の戦士と女の戦士って…」

 

「あいつから聞いてないか?私もこの組み合わせしか知らないが…No,1のリフルとNo.3のダフ…」

 

「それって確か…深淵の者とかって…」

 

「深淵の者、西のリフル…初期の女戦士の中で、最も早く覚醒した者らしいな…詳しくはあいつの記憶でしか知らないが…私も噂を聞いた事はあったよ…」

 

「……さて、こんな物で良いだろう…」

 

私は床に置いていた剣を掴み、着ていたパーカーを脱ぎ、洗濯カゴに入れた…

 

「えと、何してるの?」

 

「寝るんだよ。」

 

黒歌が戻したのだろうカーペットをまた剥がすと剣を床に刺した。

 

「あっ!ちょっと「おっと…説教は勘弁してくれ、私はあいつやオフィーリアと違って布団やベットで寝れなくてね」…もう…」

 

刺した剣の腹に背を預け、目を閉じる。

 

「おやすみにゃ、テレサ。」

 

「おやすみ、黒歌。」

 

黒歌が部屋を出て行く…恐らく自分の部屋で寝るんだろうな…ん?戻って来たぞ?

 

「よいしょ…」

 

黒歌のそんな声と共に床の上に何か乗る音…私は気になって目を開けた。

 

…私の横に黒歌が横たわっていた…身体の上に毛布をかけている…

 

「いや、お前は床で寝る事無いだろう?」

 

「別に良いでしょ…それともダメ…?」

 

「……構わないがもう少し離れろ…剣の近くだと斬れてしまうかもしれないからな…」

 

「分かった…」

 

黒歌が立ち上がり、私から少し離れた床に横たわり、毛布をかけた。それを見ながら私はまた目を閉じた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら136

「…で?まだグダグダ悩んでいるのか?聞こえていたよな?お前に対して投げかけられた言葉が?」

 

『……』

 

その日、再びあいつが現れた。

 

「私を言い訳にして引きこもるのは止めろ…良くギャスパーの事を色々言えたもんだな…あいつは自分の部屋から出て来れるようになったぞ。」

 

『私は…!』

 

「どうした?それ以上何も言い返せないか?…強く振舞って、勝手に壊れて、無様としか言い様が無いよな?」

 

『弱い姿なんて見せられなかった…!私はあいつらのために…!』

 

「それが間違いだ…言った筈だぞ?心を守れと。…それが強い振りして壁を作る事じゃない事ぐらいは分かると思っていたがな…」

 

『……』

 

「挙句、守ると誓った連中を捨てようとする…甘ったれるな。お前は子供か?何でそんな状態になるまで何も言わなかった?自分の闇を曝け出さないことを強さだとでも思っていたのか?」

 

『……』

 

「それが強さでは無い事を少なくともギャスパーは良く分かっている…ところでお前、内心でギャスパーを見下していただろう?」

 

『なっ!?そんな事あるわけが「眠っていたからと言って今現在も身体も精神も共有している私が分からないと思っているのか?」……私、は…』

 

「……これ以上私はお前に何も言わない…早く決断しろ…どうしようがお前の勝手だ…じゃあな。」

 

意識を浮上させていく……

 

「……」

 

目を開ける…黒歌は…眠っているな…時計を見る…夜明けまでまだ少しあるな…

 

「……」

 

私はジャージを着ると部屋の外に出た……一声かける事にする。

 

「…何か用なのか、オフィーリア。」

 

「あら、バレてた?」

 

左側から声が返って来る…やれやれ…

 

「あいつでも横にいれば気付くだろ…というかお前、さっきまで私の部屋にいただろう?」

 

「…そっちもやっぱりバレるのね…そうよ…ごめんなさい…」

 

私たちクレイモアが普通なら絶対に爆睡出来ない体制で寝るのを強いられるのは、敵の襲撃を警戒している為だ…だから本来なら部屋にいる筈が無く、しかも妖力を発しているオフィーリアが部屋に入って来た時点で通常なら私は目覚めそうなものだが…あいつに会っている時は予想以上に深く眠ってしまっているらしい…妖力の残滓が部屋に無ければ私も気付けなかっただろう…

 

「別に謝罪は要らん…何かされたわけじゃないしな…で、何か用だったのか?」

 

「…えと…その…!」

 

オフィーリアがソワソワし始める……成程な…

 

「疼いているのか?」

 

「……」

 

「私は別人だが…良いのか?」

 

「……」

 

「…お前の部屋に行こうか?私の部屋は黒歌がいるからな…」

 

無言で頷くオフィーリア…別に喋るなとは言ってないんだが…そんなに余裕が無いのか…並んで歩きながら私はオフィーリアの肩を抱いてみた。

 

「ッ!…」

 

一瞬ビクッとしたものの、抵抗はせずされるがまま…全く…立場が逆転しているじゃないか…これで仮にあいつが戻って来たらどうするんだ?あいつがこんなに積極的に動くとは思えん…そんな事を考えながら私はオフィーリアの部屋のドアを開けた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら137

「…聞いて、良い…?」

 

「ん?」

 

「貴女は…今までも…何人かの戦士と関係を持ったんでしょ…?」

 

「そうだな。」

 

「…貴女から、誘ったの?」

 

「…私が自分から誘ったのは二人目だけだ…後は…全員相手からだな…」

 

「そう…」

 

「…私の経験人数なんて確認する必要も無いだろう?…あいつは初めてだった様だしな…」

 

……女同士でするのは。

 

「…さて、もう良いか?」

 

「ええ…ホント…悔しい…私ばっかり…」

 

「何言ってる…お前がされたかったんだからそれで良いだろう?」

 

「だって…」

 

「私はもう戻るからな。」

 

ジャージのチャックを閉め、ドアに向かって行く…

 

「ねぇ!」

 

「何だ?」

 

「また…付き合ってくれる…?」

 

「…あいつか、黒歌に頼め。」

 

「あの子はともかく、黒歌は何で…?」

 

「お前割と黒歌を気に入ってるだろ?」

 

「…正直、揶揄うと面白そうだとは思ったわね…」

 

「あいつ自身、同性同士は経験少ない様だからな…中々可愛い反応を返してくれるだろうさ…」

 

「あらそう?…ちょっと楽しみになって来たわ…今夜辺り誘おうかしら…私にあんまり警戒してない様だし。」

 

そう言って舌なめずりするオフィーリア…

 

「程々にしておけよ、色魔。」

 

「あら…ちょっと人聞きの悪い事言わないでよ。」

 

「数日と我慢出来なくて色魔じゃないわけだろ。…ちなみに黒歌はそれを嫌がってるから多分、手を出そうとしたら猫に戻るぞ。」

 

「えー…でもなら、その状態で手を出してみたいわね…」

 

見境の無い奴だ…

 

「どちらにしろ、黒歌に手を出すなら抵抗に気を付けろ…黒歌はあいつとある程度互角に戦えるからな?相当骨が折れるだろうさ…」

 

「え!?…そっ、それって…性的によね…!?」

 

「馬鹿か。戦闘の話に決まってるだろ。」

 

「……」

 

「じゃあな、もう行く。」

 

オフィーリアの部屋を出た。…既に日が昇っている…

 

 

 

「あっ、帰って来たにゃ?」

 

「ん?起きてたか。」

 

「もう朝九時よ?一般的にこの時間起きてなかったら問題じゃにゃい?」

 

…こいつの口調…普段から統一してくれないと気になって仕方無いのだが…最も真面目な話してる時にこの口調だとキツい物があるが…妹の方は基本、標準語だから単なるキャラ付けの為なんだろうな…

 

「ん?にゃに?」

 

「いや?何でもないよ。」

 

「ふ~ん…で、何処行ってたにゃ?」

 

「……分かるんだろ猫又?オフィーリアの所だよ。」

 

出る前にシャワーは一応浴びて来たが、こいつなら鼻が利くから分かるだろ。

 

「……責めるつもりは無かったけど…何かそう開き直られると何かムカつくにゃ…」

 

「同僚…というか後輩を慰めに行っただけだからな、別に責められる謂れは無いな。」

 

「確かに貴女の話聞いたら仕方無いのかもって…思うけど…」

 

「寂しかったなら丁度良かったな、お前に朗報だぞ?」

 

「……寂しかったつもりは無いけど…何?」

 

「オフィーリアは…今夜はお前を誘うそうだ。」

 

「へっ?……えっ!?どういう事にゃの!?」

 

「いや、だから今夜は多分お前がオフィーリアに襲われる事になる、と「いやいやいやいや!?にゃに言ってんの!?」だからだな…」

 

「何回も言わなくても分かってるにゃ!だから何で私がその、オフィーリアと…!?」

 

「あいつがしたいからだろ?嫌なら断れば良い。」

 

「どうやって!?馬鹿な事言ってないで助けて!?」

 

「嫌だ「何で!?」面白そうだからに決まってるだろ。」

 

「お前最低だにゃ!?…あっ、そうだ猫に「オフィーリアはその状態でもヤる気だぞ?」嘘でしょ…!?」

 

「良いから黙って食われろ…その方が…私は楽しい。」

 

「この鬼!悪魔「違う、私は化け物だ。」何言ってるにゃ!?」

 

ギャーギャー騒ぐ黒歌を無視して私は黒歌が作った朝飯を皿に盛り付け、食べ始めた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら138

「ククク…思ったより早く帰って来たな…ククク…」

 

「……」

 

結局昼の時点までは何も言って来なかったオフィーリアは夜になって黒歌に飯を集り、そのまま部屋に誘った…一応着いて行った黒歌は十五分程で帰って来た。

 

「ククク…いや、そうムスッとしないでくれ…結局オフィーリアには何もされ…いや、させなかったんだろう?」

 

「…貴女、こうなるのを予想してたの?」

 

「お前に何も言わなかったのは悪かった…謝ろう…そうだな、この結果は大体予想出来てた…戦闘に関して自信も理由も失っているオフィーリアはお前を組み敷く事は出来無いだろう、とな…そうでなければ私もお前を送り出さないさ…最も、仮にお前が今のオフィーリアをあくまで身体だけの関係と割り切って受け容れるならそれはそれで良いとも思っていたがな…」

 

「確かに一瞬断るのも躊躇する程、壊れ切っていたけど…どうして?」

 

「…お前が聞きたいのは二つか…何故オフィーリアは可笑しくなってるのか?、何故こんな事を計画したのか?」

 

「そうね…オフィーリアを焚き付けたのは貴女なんだろうし…でも、取り敢えず何でオフィーリアが可笑しくなってるのか、から教えてくれる?」

 

「あいつはオフィーリアが単なる戦闘狂として説明したようだがそれが全てじゃなくてね…オフィーリアは強くなりたかったのさ…全ては一本角の妖魔…いや、覚醒者プリシラを殺す為…最も戦いが荒んだ心を癒す一因だったのは確かだがな…」

 

「じゃあオフィーリアが可笑しくなったのって…」

 

「プリシラは既に倒れている…クレア、というか私が殺したからな…それが一つ、もう一つは自分が玩具にしようとしたあいつに恋愛感情に近い物を持ってしまったから。」

 

「そう…哀れね…」

 

「淡白だな。」

 

「他人を弄ぼうとして、好きになったけど手遅れで、やり過ぎて壊してしまった、じゃ同情もしにくいわ…」

 

「まっ、確かに同情の余地は無いな…とはいえあいつが壊れた一番の理由は本当はお前らの事を聞いたからだがな…オフィーリアも原因ではある…と、私は言わなかったが、本人も何となく気付いてはいたのだろうさ…」

 

「じゃあ次は何で貴女はこんな事をしたのか教えてくれる?」

 

「私はあいつを慰める事しか出来なくてね…そもそも近いうちに消えるから支えになってやる事も出来ん。…あいつに任せるのは論外…で、お前に白羽の矢が立ったと。」

 

「勝手ね…で、どうするの?私、オフィーリアを引っ掻いて来ちゃったんだけど?」

 

「それで良い。…戦い以外の生き甲斐を見つけたのは良いが、限度があるからな…あいつは放っておいたらこれしかしなくなるだろう?一度断られた方が懲りるだろうとな…悪かったな、お前にこんな役をやらせて。」

 

「で、この後貴女がまた慰めに行くの?」

 

「誰が行くか、めんどくさい。」

 

「…うん。何となくそう答える気はしてたわ…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら139

「ねぇ…本当に放っておいて良いの…?」

 

「例えばの話になるが…私たちの身体能力で暴れてるならさすがに分かるだろ?物音一つ聞こえない、大人しくしているよ…気配も、妖力も感じ取れるから、部屋にいるのは間違いない。」

 

翌朝、黒歌にせっつかれてオフィーリアの部屋の前に来ていた。

 

「でも、急に暴れ出すのもそうだけど…剣を使われたら…」

 

「オフィーリアの剣は私が預かっている。」

 

「え…何時?」

 

「…お前が来る前。」

 

より具体的に言えば、右手が帰って来た日にお前、剣があったら利き腕の調子が悪くても振りそうだから…と今思えば訳の分からない理屈を捏ねて半ば強引にオフィーリアから取り上げた…あの時点ではこの状況を予測していた訳では無いが、何となくそうした。

 

「じゃあ何処にあるの?部屋では剣は一本しか見た覚え無いけど…」

 

黒歌の肩を叩き、念の為にオフィーリアの部屋から離れた所に誘導し、耳打ちする…

 

「ギャスパーの部屋だ…」

 

「本人に許可は…?」

 

「部屋に入って、オフィーリアの剣を隠しておいてくれって言った。」

 

「……だから…本人の承諾は…?」

 

「嫌がってたな…」

 

「許可取れて無いじゃない…」

 

「良いだろ?置くだけだし…別に魔剣の様なヤバい剣では無いからな。」

 

素材不明の剣だがな…果たしてこの世界に同じ金属は存在するのだろうか…?

 

「オフィーリアの剣技は私でもまともに受けるのは難しいが、肝心の剣が無いならいくら暴れられても鎮圧出来る…というわけで戻ろう…私にカウンセラーの資質は無いからな…今、完全に打ちのめされているだろうオフィーリアに会うのがとにかく、非常に、とてつもなく、めんどくさい。」

 

仮に自分を追い込み過ぎて、自傷行為に走るなどの危うい精神状態だとしても、剣が無ければ首を落とせないのだから死にはせん…死なない限り傷もすぐ直る…まっ、あいつだって戦士だ…立ち直りも早い筈だ……多分…覚醒者になる可能性?ならその程度の奴だったという事だ…その場合はダダ甘なあいつと違って、私はとっとと奴を見限って首を取るだけの事。

 

「…貴女が計画した事でしょ?」

 

「引っ掻いて逃げ出したのはお前だろ?」

 

「……止めた…貴女に口で勝てそうにないもの。」

 

「では、帰ろう。」

 

そう言って来た道を戻って行く…さて、現実逃避はこれくらいにしようかね……意外にも黒歌には聞こえなかった様だが…実は部屋の前に立った時、私の耳には何やらボソボソとオフィーリアが喋っている声が聞こえていた…幸いなのかどうかこっちの声には反応していなかった…内容は分からないが、やはり今は行かなくて正解だったのかもしれん…それにしても精神状態はかなりヤバそうだな……黒歌の言う通り、昨夜フォローに行くべきだったのか…?



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら140

オフィーリアの部屋から離れ、私の部屋で黒歌の作った朝飯を食っている最中…

 

「…ん?」

 

「どうしたにゃ?」

 

「…オフィーリアがこの部屋に近付いている。」

 

「……貴女か私に用?」

 

「若しくは両方か。」

 

さっき部屋の前に来た時、オフィーリアがこちらに気付いている様子は無かったが…

 

「…どうするの?」

 

「来たらさすがに出るさ…会話出来る状態なら普通にするし、夢遊病に分類される様なヤバい状態なら即座に意識を奪う。」

 

「……出来るの?」

 

「当然だ…ちなみに…覚醒する様ならその場で確実に首を落とす。」

 

万が一来て妖力解放する様ならその場で殺る…恐らく今のオフィーリアは抑える事無く覚醒してしまうだろう…あいつの様に引き戻す様なまどろこっしい事はしていられん。

 

「…歩みを止めない…かなり近くまで来てるな。」

 

「この距離なら私も分かるわ…」

 

軈てオフィーリアは部屋の前まで来て……止まる事無く通り過ぎた。

 

「…通り過ぎたみたいね…何だったのかしら?」

 

少し待ってから、そっとドアを開けて廊下を見る…オフィーリアが廊下の角を曲がって行くのが見えた…ウィッグを着けて、あいつのパーカーを着ている…

 

「どう?」

 

その色々な意味が込められた黒歌の言葉に見たままを答える。

 

「…変装用のウィッグを着けて、あいつのではあるがちゃんとした服を着ていた……出かけるんじゃないか?良く考えたら旧校舎を出るにしても、ここを通る必要があるからな。」

 

「放っておいて良いの?」

 

「問題無いだろう。少なくともちゃんと服を着て、変装用のウィッグまで着けてるんだ…まともな思考は出来てるんだろうさ。」

 

「出かけた先でトラブルを起こすとか…」

 

「私が様子を見に行けばさすがに気付く。」

 

まあ…奴が今も戦士であるつもりなら…自ずと何をしに行ったかは分かる気はするな…

 

「恐らく行き先は新校舎。」

 

「えっ?不味いじゃない…大体何しに?」

 

「仕事をしに。」

 

「えっ…?」

 

「私の知る限り、戦士の大半がワーカーホリックだ。うだうだ悩むより行動する連中が大半なんだよ。何の解決にもならなくてもな…しかもそういう時に限って妖魔狩りは普段より上手くやれる。…今のオフィーリアに戦う相手はいないからな…多分用務員の仕事をこなすつもりだろう…」

 

「トラブルを起こしたばかりよね?」

 

「記憶の改竄はされている…当事者も他の生徒もな。」

 

「いや、そうじゃなくて…」

 

「人間と違って余計な事を考えないからな…例え精神状態がガタガタでもな…問題無い…放っておくぞ、どうせ部屋に篭ってるよりは健全だ。」

 

まあ妖魔狩りとはまるで勝手が違うし、本当は見に行った方が良いんだろうが…はっきり言ってめんどくさい…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら141

『いや…本当に申し訳無いが…それはさすがに様子だけでも見に行ってくれないか?』

 

黒歌がサーゼクスにはさすがに連絡した方が良いとしつこく言うので仕方無く電話し、ある程度の事情を説明すると予想通りの言葉が返って来た。

 

「行かないとダメか…?今のオフィーリアに見つかると非常にめんどくさいんだが…?」

 

『事情は聞いたから、下手に君が行くのは不味いのは分かるが…その状態の彼女を放置したら生徒が危険に晒されるかもしれないからね…何も彼女に接触しろと言う訳じゃない…君は離れた所からでも妖力を感知する事で彼女の様子を探れるんだろう?』

 

「あのなぁサーゼクス…私が奴の様子が確実に分かる距離まで近付くと最悪奴もこっちに気付くんだが?」

 

妖力感知による、戦士の監視を専門にやっている奴と違って私はそれ相応の距離まで近付かなかれば、正確に行動を探る事は出来ない…今のオフィーリアの精神状態が一時的にまともな状態なのか、それとも完全に吹っ切れているのか定かでは無いが…気付く可能性は大いにある…

 

『すまないね…グレイフィアの手が空いてるなら様子を見に行かせる事も出来るんだが…』

 

「…グレイフィアの話を出されると私も断りにくいな…分かったよ…行こう。」

 

黒歌が復帰したとはいえ、今もグレイフィアはクレアとアーシア、二人の世話をしているからな…黒歌とアーシアはともかく、嘗て短い間とはいえ、共に過ごしていたクレアには特別な想い入れがある……例えそれが、実質見た目が似ているだけの別人であってもな…

 

『すまないね…仕事があるから申し訳無いがこれで切らせて貰おう…また何かあったら連絡してくれ。』

 

「分かった。」

 

電話を切る…ハァ…

 

「サーゼクスは何だって?」

 

「一応様子を探って来てくれだとさ…全く…面倒だ…」

 

自分がした事の結果とはいえ納得は行かないし、気も進まない。

 

「貴女は妖力を感知して行動を探れるんでしょ?」

 

「チラッと説明したと思うが…私はあくまでも戦闘の際に相手の次の行動を予測するために使っているだけであってだな…問題のある奴の監視を専門にしている連中程に妖力感知が使いこなせる訳では無いんだよ。」

 

連中程の精度なら、距離だけで言えば恐らくこの部屋にいても新校舎の用務員室にいるだろうオフィーリアの事を探れるだろう…最も、実際は建物の中にいる事を考えれば多少精度は落ちるだろうがな…

 

「全く…まさかこうもオフィーリアのメッキが剥がれるのが早いとはな…」

 

「私の事は切っ掛けに過ぎないだろうし、プライドをズタズタにしたのは結局あいつと貴女でしょ?自業自得なんじゃない?」

 

「あいつの件に関しても、私の事に関しても…元々先に絡んで来たのはオフィーリアの方からだぞ?」

 

この件に関してはあいつの擁護もしよう…私も無関係では無いから、というのもあるが。

 

「それはそうだけど…」

 

「まあ、私も通常時ならまだしも、今のオフィーリアに関して大丈夫だという確実な保証があるわけじゃない…やらかして死人でも出されたら面倒だからな…何とかやってみるさ…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら142

「…で、私がヤケになって暴れるかも、とか思って剣まで持って来たの?」

 

「…まぁな…お前の部屋の前行ったら独り言ブツブツ言ってたし、シャレにならんかもしれんと思ってな…」

 

オフィーリアの様子を見に行ったら速攻でバレてしまった…少し凹んだが…まあ当然か…こいつだって私と同類だ…だが正直、教師や生徒に見られず旧校舎から新校舎敷地内に入るの自体は難しくないしイケると思ったんだが…侮り過ぎた…取り敢えず剣を背負い、厚手のコートを羽織り、用務員室が見え、オフィーリアから目視で気付かれる距離ギリギリまで近付き…妖力感知をしようと集中した瞬間に携帯が振動した…

 

『そんな所で何してるの?しかもそんな怪しいカッコで…取り敢えず今は授業中だから廊下にあまり人はいないわ…入って来たら?』

 

そして訪問目的を説明させられた…

 

「少しは信用して欲しいわね…自問自答もしたらダメなの?…色々これからについても悩みたくなったけど…自分のせいとはいえ、あの後だと貴女たちのいる部屋に相談にも行けないしね。」

 

「信頼して貰えないのが分かってる辺り、まだマシだがな…お前、あいつに初めて会ってから、私が出て来て…そして更に今日に至るまでの自分の行動を思い返してみろ…何処に信用出来る要素がある?…ちなみに黒歌も昨夜のお前を壊れる寸前だと評していたぞ?」

 

「……そんな風に見えてたのね…確かに私の自業自得ではあるけど癒しを求めたらいけない?」

 

「お前、限度を分かってないだろ。」

 

「そんな事無いわよ…ただ、貴女に一方的に攻められて悔しかったから…ちょっと気絶するまで黒猫ちゃんを虐めようかな、とか思ってただけなのに…」

 

「……それがジョークじゃないなら完全にアウトだろ…」

 

「ちなみに、貴女に嵌められたのに気付いたのは黒歌にあっさり逃げられてからね…まさか後ろから襲いかかろうとした瞬間に引っ掻かれて逃げられるなんて…」

 

「その状況なら仮に私が黒歌に何も言ってなくても反撃されただろうな…あいつ、一時期は追っ手が付いてたらしいからな…」

 

「あら…理由を聞いてもいい?」

 

「黒歌に直接聞け…最も、あいつはもう当分お前と身の上話をする気になんてならんだろうが。」

 

「そう…残念…過去を聞けたらそこから堕とせると思ったのに。」

 

「黒歌はもう救われている…その方面からお前の入る余地は無い。」

 

「それもあの子の功績?」

 

「いや、あいつとクレアの二人にな…まあその分、少し依存してしまった様だが…どちらにしろ、他人のお前には到底無理な話だ。」

 

「じゃあアーシアも含めて纏めて「無駄だろ。こちらのクレアもかなり精神は強い様だぞ?何せ自分より歳上の家族二人を一人で看病してた様だからな」あー…そう言えばそうね…八方塞がりか…取り敢えず情報どうも…もうあの子とだけ繋がれれば私は良いわよ…欲を言えばせめて貴女も欲しい所だけど。」

 

「だから私は消えると言ってるだろ…取り敢えず大丈夫なんだな?じゃあ私は帰る…仕事なら勝手にやれ…結局誰もいないならやる奴がいた方が色々と良いだろ…言うまでも無いが、もう問題を起こすなよ?」

 

「はいはい…帰るなら早く行ったら?ほら、もう授業終わっちゃうわよ?生徒や教師が出て来たら帰れなくなるわよ?」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら143

「それでそのまま帰って来たの?」

 

「ああ…思考がまともならそれ以上私は何かするつもりは無いよ。」

 

あの後、授業が終わる前に新校舎を出て、旧校舎に戻って来た…仕事は果たした気でいたが黒歌がジト目をむける。

 

「何だ?」

 

「オフィーリアの発言聞く限り、私どころか…クレアやアーシアまで狙ってたみたいなんだけど…本当に諦めたの?」

 

「…私からは保証出来んよ。…不安なら、やはり殺すか?それなら頼んでくれて構わないぞ?得意分野だしな。少なくとも精神安定上はその方が良いと思うが?」

 

別に殺せ、というなら私としては殺っても構わない…本気で身を守りたいならそれが自明の理だ…あいつには多少の申し訳無さもあるが本来の家族が狙われてるんだから納得はして貰わないとな。

 

「物騒ね…何もそこまでしなくても良いわよ…」

 

……ここで自分と家族の為にオフィーリアを殺して欲しいと私に頼めないのが黒歌の優しさであり甘さなのか…あいつを壊した原因の一つが奴だと言うのに…

 

「オフィーリアがまだその気なら、これからも狙われる可能性があるが、良いのか?」

 

「うっ…それは確かにちょっと嫌かも…でも、オフィーリアにだってそこに拠り所を求める理由はあったんだし、普通に友人として仲良くなれるならしたいなと私は思うのよ。」

 

……驚いたな…こいつは甘いが、強い…いきなり後ろから襲いかかられたのは襲撃には慣れていても黒歌にはやはり恐怖でしか無かった筈だ…その相手とこいつは向き合おうとしている…クレアの影響か…それともこいつが元から持っている物なのか…

 

「なら、今夜にでもまた会ってみるか?…会談の後、あいつも私と同じく、ここにはいないかもしれん…本当に友人になりたいならあまりチャンスは無いかもしれんぞ。」

 

「いないって…何で?」

 

「どうなるか分からんが…仮に無事に会談を終えたとしてだ…ライフワークにもなってる戦いそのものをあいつは捨てる、と言ってるんだ…ここにいて得られる物が無いと思えば旅にでも出るんじゃないか?…鬱屈した想いを抱えたままだがな…」

 

「……引き止められないかしら?」

 

こいつは…何故にそんなにオフィーリアに拘るんだ?

 

「何故そこまでアレを気にする?…また同情か?それをぶつけたらあいつもさすがにキレると思うぞ?」

 

「安い同情って言われたら何も言い返せないんだけど…昨夜のオフィーリアの姿を見ると放っておけない、とも思うのよ…本人は自分がそこまで深刻だと思ってなかったんでしょ?」

 

「その様だな…参考までに聞かせてくれ…あいつは一体どんな状態だったんだ?」

 

「……顔はこっちに向いてるのに視線は一度も合わない…それから普通の会話をしてるだけなのに泣いてた…泣きながら笑ってた…私、昨夜、その姿があまりにも恐ろしくて、怖くて…指摘も出来なかったの…」

 

「…本当に殺さなくて良いのか?」

 

本人は気付いてないが会話の相手が恐怖を覚える程異常な状態なら、普通の人間なら問題無いかもしれんが、私たちの場合は本当に不味い…何をするか分からんからな…

 

「だから、良いわよ…私もただ逃げて来たのを後悔してるの。」

 

「分からない奴だ…」

 

強情な黒歌に何かを言うのが面倒になって来たのでそこで会話を打ち切ろうとして、携帯が振動する…バイブにしたままだったな…相手は…オフィーリア……何をやらかしたんだ?

 

「もしもし?……お前、今度は何をやった?」

 

『…いや、私じゃないわよ…それがね、例の二人がまた女子から逃げてたのよ…で、今回、私は積極的には追わなかったんだけど…女子の一人が階段を駆け下りてる内に足を踏み外して…咄嗟に…庇っちゃったのよ。』

 

「それで、大丈夫だったのか?」

 

『彼女を抱き抱えたまま、階段を転げ落ちてね……彼女は大した怪我はしなかったんだけど、私がちょっとヘマしちゃって頭から出血しちゃって…治せるから大丈夫だと思ってから気付いたんだけど…考えてみたら治せないわよね…正体がバレるし…で、救急車呼ばれる事になっちゃって…』

 

「お前、どうやって電話してるんだ?その状況なら電話なんてさせて貰えないだろ?」

 

「一旦トイレに駆け込んだの…悪いんだけど何とかして貰えない?病院で検査されたら終わりだから…そもそも怪我が治せないから不便で…」

 

「サーゼクスに話は通してみるが…どうなるかは分からないぞ?…それなりの騒ぎになるのは覚悟した方が良い。」

 

『了解…取り敢えず救急車来たみたいだから、行ってくるわ…』

 

電話が切れる…

 

「オフィーリア?また何かしたの?」

 

「今回は巻き込まれた側ではあるんだがな…生徒を庇って怪我をしたんだと…それなりに大きい怪我だから救急車を呼ばれてる。」

 

「…それは…不味いわね…というか何でそんなにスムーズに話が進むの?オフィーリアの存在って生徒たちにどういう風に認知されてるの?」

 

「簡単に言えば会えば普通に存在を思い出して臨時の用務員と思って貰えるようになっている…旧校舎に住んでる以上、いつ遭遇しても可笑しくないからな…」

 

「あー…そういう…」

 

「取り敢えず行って来る…」

 

適当に支度して部屋を出る…参ったな、何処の病院か分からないぞ…馬鹿が運ばれたのと同じ病院なら話は早いんだがな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら144

「…という事なんだが…」

 

旧校舎を出て、人目につかないところで私はサーゼクスに電話をしていた。

 

『……彼女は大人しくしてても問題の方からやって来るタイプなのかな…?』

 

サーゼクスの電話口でもハッキリ分かるレベルの疲れた声が聞こえてくる…その嘆きも分かる…あいつでさえ、ここまでの問題を立て続けに起こしてはいない…

 

「…奴の事を私に聞かれてもあいつの記憶の中でしか知らんよ…戦士としての世代が違うからな…ただ、一般人との関わりが比較的少ない覚醒者狩り専門に回されていた訳だから組織でも問題児扱いだったのは確かだろう…」

 

戦士の成れの果てである覚醒者は妖魔と違い、戦士としての経験を持っている為、並の戦士では荷が重い。…しかも戦士時代に強かった奴は往々にして、覚醒者になった時も当然強い…だから組織の方も全滅させられるのも覚悟で一桁台の戦士を筆頭にチームを組ませる。それも覚醒者一人相手にだ…リスクの割にリターンはほぼ無いに等しいのにそこまで躍起になるのはクレイモアが常に妖魔を遥かに超える化け物になる可能性を孕んでいる事実を一般人に隠したいからだ…

 

クレイモアが味方よりも敵になる可能性の方が高いと知られてしまえば…例え、妖魔への対抗手段が基本的にクレイモアしか無いとしても面倒な事にはなる…ちなみに一般人と下位の戦士には覚醒者は異常食欲者、つまり単純に強い妖魔の個体としているが、怪しむ奴は出て来る…だから報酬が出なくても事前に組織の方で、覚醒者を探させ、討伐に向かわせる…

 

『…組織は事実の隠蔽の為に基本、一般人に存在が露見する前に捜索し、討伐に向かわせる…いるのがバレていないので基本的に倒した際の報酬は当然出ない、にも関わらず実力のある貴重な一桁ナンバーの戦士をそれ専門にするのは確かに損にしかならないね…つまりそうしなければならない程一般人との関わりを出来るだけ無くしたいと考える程に厄介な性格という事か…』

 

「そういう事だ。」

 

『……改めて説明されると本当に関わりあいになりたくないタイプだね…まぁ君たちの影響か、ある程度丸くはなった様だが…』

 

「戦う事に積極的にならなくなっただけさ…今でも面倒なタイプである事には変わりない。」

 

『その様だね…ん?…そうか、ありがとう…テレサ、今確認が取れた、彼女はあの少年の時と同じ病院に運び込まれた様だ…』

 

「病院での対応はどうなってる?」

 

『……オフィーリアは昏睡状態を装っている上に頭を打ってるからね、検査をするのが当然の判断だが…幸い、病院内にいる我々の関係者が身内が来るまで待った方が良いと言う方向性に持って行ってくれている。』

 

「つまり、私たちが行けば問題無いと『いや、今回は君は残った方が良いだろう』ん?」

 

『前回の時、敢えて記憶の改竄を甘くしただろう?行けば向こうの医師や看護師は当然中身はカバーストーリーではあるが君の事もオフィーリアに続いて思い出す…君たちの身分はこちらもかなり無理をして用意しているからね…何処から怪しまれるか分からない…』

 

「…行った先で素性を怪しまれて調べ上げられると面倒だから一応身元のしっかりしたお前らだけの方が都合が良い訳か。」

 

『そういう事だね…すまない…』

 

「謝らなくて良い…私もその方が楽だ…すまないな、面倒をかける…」

 

『いや、君のせいじゃないからね…取り敢えず私に任せてくれ…何とかなると思う。…では、失礼するよ。』



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら145

『…で、今回は彼女のせいでは無いが…もう正直あまり自由にしても結局面倒事が起こる予感しかしないからね…会談の日の前日までそのまま入院して貰うことにした。』

 

それから三時間後携帯がなり、私はサーゼクスから事の顛末を聞かされていた。

 

「…それで、奴は納得したのか?」

 

『…特に文句は言って来なかった。彼女も迷惑をかけたと思っている様だし…一応、彼女の世話はこちらの関係者のみにして、更に女性で固めさせて貰った。』

 

「……手を出すかもしれないぞ?」

 

『その点はそこまで問題無い…彼女と同じ趣味の子ばかりだからね…寧ろ皆、彼女の顔を見たら喜んで引き受けたよ…しかも彼女がいるのは関係者以外立ち入り禁止の区画にある病室だ。』

 

「…ほとんど推奨している様な物なんだが…」

 

『……不満を溜めて問題起こされるよりずっと良い。』

 

「成程…理にかなっている…だが、覚醒者になったらどうする?」

 

『……君と私にすぐ連絡が行く手筈になっている…その時はすまないが…』

 

「…そういう事なら分かった。その時はすぐに私がオフィーリアの首を取る。」

 

『すまないね…君にこんな役をやらせたくは無いんだが…』

 

「気にするな、私はあいつと違って奴に特別想い入れは無い…あいつには納得して貰うしか無いがな…」

 

『そうか…さて、もうすぐそちらにグレイフィアが向かう…さっき言った区画に入るにはIDカードが必要なんだ…一応君と黒歌の分を用意させたから受け取ってくれ…最も、私個人としては黒歌をオフィーリアに会わせたくは無いんだが…』

 

「会おうとしてるのは黒歌の意思だ…私はもちろん、お前にも…当然グレイフィアにも止める権利は無い。」

 

『そうか…ところで序では無いが、クレアとアーシアもそちらに連れて行くそうだよ。』

 

「……なぁ?今の私は『グレイフィアの話だと初めはショックを受けていた様だが、もう二人とも、事実をちゃんと受け止めているらしい…だから君は自然体で会ってくれて問題無いそうだ』…本当に大丈夫なのか?黒歌は私の顔を見るなり泣きながら抱き着いて来たんだが…泣き止ませるのにもそれなりに時間もかかったんだが…」

 

『それは…申し訳無いがこちらにもどうする事も出来ない…彼女たちが帰りたくないならこちらとしても考えるが、戻るのを希望しているのは彼女たちの方だ…私たちでは止められない。』

 

「…分かったよ、会ってみる…」

 

最も、私に選択肢は無いようなものだが…

 

『すまないね…』

 

「良いさ、お前らも何時までも二人に構ってもいられないだろう?そろそろ日が無くなってきたしな…ただ、お前が言った通り、私はあくまでも私、として二人に接するだけだ…あいつの様には出来ないからな…」

 

所詮私に取ってあの二人は他人だ…家族としての反応を向ける事は出来ない…その資格も無い…私にとってあいつらが赤の他人である様にあいつらから見た私も、何処まで行っても別人なのだから…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら146

「そう…二人が帰って来るんだ…」

 

「ああ…どうした?何故お前がそんな顔をする?私と違ってお前はあの二人に会いたくて仕方が無いんじゃないのか?」

 

「…だって…向こうにいる間、二人にとても心配かけたから…私、二人と違う部屋にいたの…一緒にするのは危ないからって…だから今日まで一度も会ってないの…どんな顔して会えばいいのか「あいつは言ったらしいな?」え?」

 

私は黒歌の顔を両手で包む…

 

「家族なんだろ?お前はこの顔で、笑顔を浮かべて会えば良い…そして一言、おかえりと返せば良い…記憶の中にあるお前らを見る限り…お前がこれからするのはそれだけで良い。」

 

黒歌の顔から手を離す。

 

「何か貴女…あいつより優しいかも…」

 

「そうか。」

 

……あいつと違って私がこの場で黒歌に何もしないのはそれ程興味が無いからなんだがな…私はクレアが居ればそれで良かった…究極を言えば一緒にいる必要すら無い…クレアが幸せなら…ただ、それで良かった。…そして今からやって来るクレアは私の知るクレアじゃない…一応あいつはあいつなりにクレアにちゃんと、人間としての幸せを与えた…それだけは褒めてやっても良い。…私はクレアを守り切れなかった…まさか戦士になる道を選ぶとは…あの時クレアと話をして、後悔が無いのはもう分かっているがな…

 

「…じゃあ私は引っ込んでるから家族三人感動の再会をだな「何言ってるの?私はまだ諦めてないから…貴女も家族よ。」……」

 

逃げるタイミングを失った…偉そうな事を言っても私もクレアには会いたくない…私は彼女に大して想いが強過ぎる…

 

「クレアの事を考えてるの?あの子は事情を知ってるわ…強い子よ、きっと貴女の事も受け止められるわよ?」

 

「それは…私が会う理由にはならないな。私にとっても彼女は別人だよ。同じ想いを抱く事は絶対に無いし、気持ちを伝える事も無い。」

 

「そう、貴女が知るクレアとあの子は別人…で、それが何?クレアはそれをそのまま受け止められるのよ。」

 

「あんな子供に背負わせる気なのか、お前は?」

 

「例え私やアーシアが何を言ってもあの子は勝手に貴女に手を伸ばすわよ…そういう子なの。」

 

「異常だ…」

 

私が会った彼女も化け物の私に物怖じせず想いをぶつけて来たが…記憶の中の彼女を見る限り、そんなレベルじゃない…間違いなく壊れている…何があった?…そもそもあいつの記憶の中に彼女の過去についての話が無い…あいつの記憶にはただ、雨の中立ち尽くす彼女をクレアに似ているからという理由だけであいつが保護し、サーゼクスに相談した所からしか、彼女についての記憶が無い…挙句、クレアは名前以外の記憶が無いと来てる…サーゼクスが調べても出生記録すら見つからない?……そこまで考えて戦慄する…どうして私は今頃気付いた?何故私は違和感を持たなかったんだ…?

 

「どうしたの?」

 

「クレアの事を考えていたんだが…お前は変だと思わないのか?」

 

「……そういう事。可笑しいな、とは感じる事は私も今まで何度かあったわよ?でも、私がどうこう言う事じゃないわ…クレアが…決める事だもの。」

 

「……何かあったらどうする?」

 

「…貴女もそんな顔するのね…本当に貴女にとってクレアは特別なのね…大丈夫、そのために私たちがいるのよ?でも、無理に守る必要は無いかもしれない…あの子は敵がいないの…あいつの記憶があるなら分かるでしょ?根っからの悪でも無い限り、あの子と接したら自然とあの子に惹かれるのよ。一種の才能ね…そして、あの子自身は悪意が全く無い…悪い方向に向かう事は無いわ。」

 

「馬鹿な…何れ破綻するぞ…!」

 

「もちろんそんな事にはさせない…あの子がその小さな手を伸ばし過ぎないようにする為にも私たちがいるの…あの子、放っておいたら誰彼構わず手を伸ばすから…そうね…話は少し逸れるけど、貴女が残る理由にこれはどう?あの子と一緒に生きていく為…どうかしら?」

 

「私には…無理だ…」

 

成程な…漸く分かった…これならあいつが長年クレアと向き合うのを躊躇ったのも分かる…どうやってそんな奴と接したら良いのか…あいつと違って家族ですらない完全な他人である私にはまるで分からない…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら147

「それでね…アミちゃんは…」

 

私に向かって、あいつも何度も聞かされただろう自分の友達の事を笑顔で説明する、嘗て短い間とはいえ、共に過ごした少女に似ているが、私の知る彼女より少し幼い風貌をした少女…その声は私の知る彼女より高く、何より聞いていて、とても心地好い…知っている話であっても、聞いていて苦では無い…寧ろもっと…もっと…ずっと…永遠に聞いていたい…

 

そう思ってしまう…言葉では決して言い表せない得体の知れない何か…これは…抗えない…癒し…違う…これは毒…心に傷がある者にとっての毒…その壁を溶かしていく甘い毒だ…

 

彼女から私は、すぐ離れるべきだったのかもしれない…だが、最初の言葉…彼女から発せられた言葉のせいで私はその場を離れたくなくなってしまった…

 

アーシアは私を見て、つい、あいつと混同して私に話しかけ、私の反応が思わしく無かった為、気まずげに黙ってしまった…それが普通だ…中身が違うと言われても理解出来る訳が無い…黒歌でさえ、私の事を見ようとしつつ、時折私の中にあいつを見ている…だが、三人の中で一番幼いクレアは私を見てこう言った…

 

『初めまして!私はクレア…貴女の知ってるクレアじゃないけど私もクレアっていう名前なの!』

 

彼女は戸惑う事無くこの一言を笑顔で私に言い放った…彼女はこの場にいるのがあいつじゃなく、別人である事をしっかり理解し、私個人をきちんと見ていた…

 

「あっ、ごめん…私ばっかり喋っちゃった。ねぇ、テレサの事も教えて欲し…あれ?」

 

クレアが私の顔の前に手をかざし、上下に動かす…何を、している、んだ…?

 

「テレサ眠い?疲れちゃった?」

 

「そう、だな…そうかもしれない…」

 

言われて気付く…最近オフィーリアの件で色々あって疲れていたからなのか…それとも…

 

「テレサ。」

 

…彼女の声が…私に…とって…あまりにも…心地好すぎるから…なのか…

 

「すまない…私は…もう休む…明日…また話そう…」

 

「うん。また明日、だね。」

 

眠気に抗えず、その場に横たわる…床から私の頭が持ち上がった…何だ?…その頭が柔らかい物の上に乗った…

 

「おやすみテレサ。」

 

頭の上から声が聞こえる…髪を通る柔らかい手が…とても…そのまま私の意識が沈んで行くのが分かった。

 

 

 

 

『テレサ。』

 

声が聞こえる…私は目を開けた

 

「…お前か。」

 

あいつが私の前に佇んでいた。

 

「…一つ言わせてくれ。良くお前、彼女といてまともでいられるな。」

 

『まともじゃないさ…今なら認める事が出来る…私はクレアに依存している…昔からな。』

 

「……」

 

こいつはそれを認める事の意味が分かっているのだろうか…?最も、私も今は彼女の膝の上で寝ているのだから何も言えないがな…

 

『じゃあな…私はまた眠る…クレアたちの事を頼むぞ?』



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら148

「なっ…ちょっと待て…!立ち直ったなら戻れ…私はもう彼女といたくない…!」

 

『お前は私を救ってくれた…だからお前にも救われて欲しい…というのはいけないだろうか?』

 

「…ふざけるんじゃない…!本来の身体の持ち主のお前と違って私は戻らきゃいけないんだ…!」

 

『そうかもしれない…でも何とかなるんじゃないかな?』

 

「何?」

 

『お前を通してずっと…見ていた…黒歌は救えるよ…そういう奴だからな。』

 

「私は残る理由が無い…!」

 

『嘘だ…お前はもうクレアと離れられない…気付いていたか?…私は外の会話だけじゃなく、お前の思考も届くんだよ…本当はクレアと離れたくないんだろ?』

 

「……」

 

『お前を通して見て…分かった…昔の私もこんな気持ちだったんだって…クレアといるのは心地好い…それがいけない物に思えてしまう…化け物には過ぎた幸せだと…でも化け物でも良いと言うんだよクレアは。私を人間だと言った朱乃と違い、化け物の私と一緒に居たいって言うんだ…だから、私も応えようと思った…臆病な私はそれを貫けなかったが…』

 

『素直になったら良い…仮に身体が用意出来なくても問題無い…時々、私がお前を叩き起こす…身体を貸してやる…何時でもクレアに会える…お前を消えさせたりなんてしない。』

 

『お前の為だけに言ってる訳じゃないんだ…お前の力も貸して欲しい…自信が無くてさ…敵と戦う事よりクレアたちとの穏やかな暮らしを守って行く方が私にはずっと難しいから…私がまた壊れない様に、お前の力を貸して欲しい…』

 

「…変わらないんだなその弱さ…あれだけ言ったのに。」

 

『私は変われない…結局この恐怖を消す事は出来なかった…でも、一生付き合っていくしか無いんだろ?』

 

「……そこまで言えるなら私からは何も言わない…いや…言えない…私も本当は臆病者だからな…その話、受けても良い…お前の中に棲まわせてもらう家賃代わりだ…だが、その前に…」

 

『何だ…?』

 

「先ずは謝って来い。話は、それからだろう?」

 

『それは今じゃない…あいつらには悪いが…』

 

「何故だ?」

 

『お前が表にいないと身体から出せないだろう?』

 

「…余程黒歌を買っているんだな…」

 

『長い付き合いだからな。』

 

そう言って笑うあいつからはもう影は感じられない…全く、さっさと戻れと言うのに…こいつは…

 

「分かった…ギリギリまで待つ事にしよう…では、私は行く…」

 

『ああ…いや、少し待ってくれ。』

 

「今度は何だ?」

 

『先に一つ頼みがある。』

 

「お前…いや、良い…何だ?」

 

『ギャスパー…あいつを導いてくれ…私にはどうにもあいつにかけられる言葉が無くてね。』

 

「お前の方が適任だと思うが…まあ良い…出来る範囲でやってやるさ……クレアと接するよりは気が楽だ…」

 

『ありがとう…じゃあな私…次は外の世界で対面出来るのを願っている。』

 

「早く戻って来いよ…引きこもりの私…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら149

「…まさか本当にこんな時が来るたァな…長生きはしてみるもんだぜ…」

 

「そうか。」

 

今、私は自分の部屋でバスローブ一枚でアザゼルの前に立っていた…

 

 

 

全ては黒歌に相談を受けたサーゼクスから私に電話が来た所から始まった

 

『確かに、そういう人物の知り合いは居ない事も無いけどね…妖力解放は元より、素の身体能力であっても破格の力を持つクレイモアの魂を定着出来る器の身体を作れる程の職人の知り合いはちょっと居ないね…』

 

「まっ、そうなるだろうな『ただ…』ん?」

 

『悪魔の中には居ないがそれ以外なら心当たりはある…』

 

「誰なんだ?私、というかあいつの知ってる奴なのか?」

 

『もちろん彼女の良く知る人物だ…君とは初対面になるがね…アザゼル…彼なら、或いは…』

 

そしてサーゼクスからアザゼルに話が通り、本人曰く…『魂には元々宿ってた肉体の記憶が眠ってるモンだ。…素材はともかく、まるで見た目の違う身体には定着しにくい筈だ…だから身体の型を取る必要があると思うぜ?』

 

それでこういう場が設けられた訳だ。

 

「私としては他人の身体だし、クレイモアになった時点で女としての自分を捨ててるからな…特に見られても気にしないんだが…」

 

「…そういう夢の無い話をすんなよ…こっちは感無量なんだぜ?俺が夢にまで見たモンが今この場にある…」

 

「そんな良い物じゃないんだかな…あいつも言ったように…決して見て気分の良い物じゃない。」

 

「知ってるよ…アンタが知ってるのかは知らないがあいつに散々説明されたからな…この場で改めて言ってやるよ…俺はこの身体を抱けるってな。」

 

そう言って手をわきわきさせるアザゼル…本当に変わり者だな、こいつは…

 

「ねぇ?この場には私もいるの忘れないでね?テレサの身体に変な事したら引っ掻いてやるから。」

 

「……安心しな、猫又。こいつは仕事だ…私情を持ち込むつもりはねぇ…さすがにある程度触って確かめないと身体を再現する所じゃねぇからそれは許してもらうけどな…まぁ個人的には折角の機会にそれ以上何も出来ないのが非常に惜しいんだが…」

 

「その辺はあいつに頼むか、或いは…本当に私の身体が再現出来て、魂の定着が出来たなら…私で良ければ礼代わりに一度位はお前と寝てやるよ。」

 

「ほぅ…!そりゃ、やる気出るな。」

 

「ちょっと!?何言ってるの!?」

 

「黒歌、これぐらいは好きにさせてくれ。私はこの忙しい時にここまで来てくれたアザゼルに感謝しているんでね…何なら、仮に上手くいったらお前ともしてやろうか?」

 

「ふざけないで!「おっと、すまん。お前はあいつが良いんだったな」そっ、そんな事…!ある訳…無いじゃない…!」

 

……その反応だと肯定している様な物なんだがな…脳内であいつが悲鳴を上げてる姿が浮かんで来た…まぁ実は満更でも無いのを私は知っているんだがな?

 

「なぁ?急かしたくは無いが、俺も割と忙しいんだ…早くして貰えると助かる。」

 

「…そうだったな…じゃあ脱ぐぞ…」

 

バスローブの前の紐を解き、前を開け、脱ぎ去る…

 

「…どうだ?私の身体じゃないからあまり言いたくは無いが…予想以上に醜いだろう?」

 

「…んにゃ、確かにその傷は痛々しいが…悪くない…俺は良いと思うぜ…上手くいったら是非お相手願いてぇなって思ったわ。」

 

「…本当に物好きなんだな…分かった、約束だ…上手くいったら本当に一晩相手してやるよ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら150

「…成程…こんな感じなのか…面白いな…テレサ?肉体のベースは人間なんだよな?」

 

「そうだ…私たちは元人間…妖魔の血肉を取り込む事でこの様に変異する…最もこの身体はどうやら最初からこの状態だった様だが…」

 

「…まぁそこについては気にしなくて良いだろ…で、あいつから妖魔の正体も実は元人間と聞いている…その血肉を取り込むだけでこうなるもんなんだな…」

 

「言っておくが、もし、研究なんか始めたら…私かあいつ…若しくは両方が戦争覚悟でお前の首を取りに行くと思え。」

 

「…この消えない傷見てそんな風に思うかよ…そもそも成功例の方が少ないんだろ?コストがかかり過ぎるからこれから先何が起きても手を染める事はねぇよ。」

 

「なら良い。」

 

私は殺気を引っ込めた。

 

「ヒヤヒヤしたぜ…」

 

そう言ってアザゼルは私の胸に置いた手を動かすのを再開する…

 

「いい加減にしなさいよ!アンタ揉む時間長過ぎ!」

 

そう言ってアザゼルの顔を引っ掻こうとした黒歌の手を掴んだ。

 

「落ち着け、黒歌。まだせいぜい五分ぐらいしか経ってない。」

 

「ッ!…貴女の感覚可笑しいわよ!五分も経ってるのよ!?少しは可笑しいと思ってよ!?」

 

「そんなに可笑しいか?」

 

……まぁ正直に言えば私も少々長いと感じなくもないが、何もそこまで目くじら立てる事も無いだろう…ちなみに途中からアザゼルがただ揉む感触を楽しんでるだけなのには一応気付いているが。

 

「…ふぅ……何も言わないんだな、アンタ…俺が途中からつい、仕事忘れて楽しんでたのは気付いてたんだろう?」

 

黒歌が後ろに引っ込んだ所で小声でアザゼルがそう聞いて来る…いや、黒歌は聞こえるからな?…まぁ良いが…私は黒歌を手で制止しつつ、一応アザゼルに習って小声で答えた。

 

「そりゃ分かるさ…さっきも言ったろう?感謝している、と。さすがにこの先を求めるなら今はまだ阻止するが…この程度なら私は何も言わないさ…それに…」

 

相も変わらず胸に置かれ、動く手に軽く触れる。

 

「捨てた、とは言っても私も生物学的にちゃんと女であった様でね…そういう部分が喜んでしまっているんだよ、向こうで私を見た男は先ず、欲情などしないし、したとしてもそれはただの変態ばかりでな、こうも優しい手付きでは扱ってはくれなかったからな…全く…自分の身体じゃない上に、感じにくいのが惜しいくらいだ…」

 

「へぇ…見る目が無かったんだな、そっちの男共は。もったいないぜ…見た目は同じなんだよな?あいつとアンタは…俺だったら絶対にアンタを放っておかないし、アンタが望まないなら乱暴にしたりしないのによ…」

 

そう言って手を動かすのを再開する…私は一度離した手で再び触れ、今度は少し力を入れる。

 

「ただ、限度はある…お前も時間が無いと自分で言っていたし、黒歌がそろそろ限界だからな…お前も、もう作るのは確定事項なんだろ?そろそろ切り上げてくれないか?…先も言った通り、身体に定着さえしたら、時間のある時にお前の心ゆくまでゆっくり相手してやるから。」

 

「…そうだな…名残り惜しいがこんくらいにしとくか…まだどうなるか分かんねぇけどよ…もし上手くいったらその時は…頼むぜ?」

 

「もちろんだ……何せ、私もその時が楽しみになって来たんでね、私からも是非お願いしよう。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら151

「…ふぅ…堪能…いや…計測は済んだぜ…もう服着ても良いぞ?」

 

「結局、半日かかったな…お前、計測より人の身体弄ってる方が長くなかったか?」

 

「…それぐらいは役得「それ以上は止めろ…この後どうやって黒歌を宥めるか考えるだけで頭痛いんだから、これ以上煽るな」悪かった…」

 

黒歌は私の後ろで殺気を発している…私の制止が無ければ今すぐにでもアザゼルに飛びかかりそうだ…

 

「一応散々触わったのにも理由あるんだぜ?妖力解放時の身体の変化を調べられるからな。」

 

「そうか。」

 

その割に触るだけで私に一度も妖力解放をさせず、変化後の姿を見ていないのは突っ込まないでおこうか。

 

「先に言っとくが、理論上、完全解放時にも耐えられる身体を作るのは恐らく不可能だ…どれほど精巧に作れてもやったら自壊すると思え。」

 

「その場合、どちらにしろ終わりだからな…その方が良い…最も私が戦う時が来ないのが一番良いだろうが…」

 

「妖気を抑えて人間並になる事も出来るんだろ?」

 

「…あいつはまだ、どうにも頼りないからな…基本は任せるが、私も何かあったら出られる様にしておきたい。」

 

「…まっ、良いけどよ、多分もうあいつには勝てなくなると思うぜ?」

 

「お前がどの程度の器を作り、魂もどこまで定着出来るか分からんが…ある程度戦える身体なら当分は勝ちを譲るつもりは無いよ。」

 

「意外と負けず嫌いなんだな…あいつに聞いた印象と実際のアンタの性格がどうにも繋がらねぇ。」

 

「…私も変わったのさ…いや、戦士になる前はこんな性格だったのかもしれないな…」

 

「…良いんじゃねぇか?何となくアンタに合ってるって感じするぜ。」

 

「そうか?…なら、良いか。」

 

そこで私の身体にバスローブがかけられた。

 

「もう!貴女何時まで裸でいるのよ!?」

 

「ん?ああ、忘れてたな…」

 

「ホントにもう…」

 

バスローブの前の紐を軽く縛る。

 

「くっ…惜しいぜ…もう少し鑑賞したかったのに「だから止めろ」いや、だってよ…」

 

仕方の無い奴だな…

 

「…そこまで言うなら見るだけでなく、もう少し触れて行くか?……私の身体じゃないしな。」

 

バスローブの紐に手を掛ける

 

「マジか!?「テレサ!アンタもいい加減にしなさいよ!?終わったならさっさと帰ってよ!」チッ…わあったよ。」

 

出していた物を仕舞い込み立ち上がるアザゼルに声を掛ける。

 

「…アザゼル、先の約束は守るから、その時にゆっくり、な。」

 

「…おう。何せ俺が楽しむ為にやるんだ…飛び切り上等な身体を用意してやるぜ…最もどれだけ急いでも会談の日の前日まではかかるな…上手くいったらお前もあいつと会談に出るんだろ?悪いな、慣らしの時間取らせてやれなくてよ…」

 

「気にするな、忙しい時にわざわざ来てくれただけで有難いからな。」

 

「そうか?なら、後は俺がお前の身体を用意するだけだな「早く帰れ!」…わあった!わあった!…じゃあなテレ…そういやアンタの事はこうは呼べなくなるんだな…何て名乗るつもりなんだ?」

 

あいつがいるからな…見た目そっくり、双子として誤魔化すにしても名前も同じでは不味いか。

 

「そうだな…テレサ…テレ…テレーズ…そうだな…では、これからはテレーズとでも名乗ろうか。」

 

「テレーズ、な。良いと思うぜ?じゃあな、テレーズ。」

 

「ああ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら152

「…何度も言うがな、あれはその場限りの言葉じゃなくて本気だ…良いだろう?別に一回くらい「テレサ!じゃなかった、テレーズ!」いや、あのな…まだテレサで良いからな?」

 

まだこの身体から出られんし。

 

「…貴女に自分を大事にして欲しいとか思ったら駄目なの…?」

 

「その辺はあいつに言え…記憶にある限り私以上に自分の事に無頓着だぞ?」

 

「今はあいつの事じゃないでしょ!貴女の話してるの!」

 

「…気遣いは嬉しいがな、そもそも価値観が違うんだ…そう言われてもな…別に普段は安請け合いするつもりも無いよ…聞いてるか?アザゼルは実質的タダ働きになる予定だったらしいぞ?…現状まだ和平に合意してないからな…他種族でまだ敵対している事になっているサーゼクスから正式に報酬を出す事は出来ず、私たちからはろくに金も出せない…代わりにこれくらいの礼はしてやろうという気にはなっても良いだろう?」

 

「そうじゃなくて!「あのな…私は別に出す物が無くて仕方無く自分の身体を差し出すって言ってるわけじゃないんだぞ?」じゃあ何よ…」

 

「だから言っただろ?全部本気なんだよ…これだけ醜い身体が褒められた…女として扱われて嬉しかった…戦士になってからまともな男と接した事がまるで無くてね…そこへああも情熱的に私を求められたらそういう気にもなる…女として当然の欲求じゃないか?良い男と寝てみたい、というのは…お前だって人間じゃないが、性別的にはメスなんだろう?オスを求めた事くらいあるんじゃないか?」

 

「そっ、それは…!でも貴女…そういうの無いんじゃ…」

 

「無かったら同性相手でも寝ないさ…私たちの場合出にくいが普通に性欲もある…いや、そういう奴もいなくは無いんだがな…それは人間でも同じだろう?私の知る限り、逆にほとんどモンスター状態の奴もいたしな。」

 

「でも私は「お前はあいつがいるから良いだろう?あくまで私が身体を手に入れてからの話だ」だからって…!そっ、それに私はそんなんじゃ…!」

 

「いや、お前…さっきは言わなかったが、それはもうほぼしたいって言ってるような物だからな?」

 

「…正直に言えばテレサにそういう好意を持っちゃってるのは確かだと思う…でも同性なんて「そんなに悩む様な話か?」えっ…?」

 

「別に同性としてはいけないなんてルールは無いだろう?お前はただ正直になれば良い。」

 

「でも断わられたら「あいつは既にオフィーリアとしてるから忌避感は薄い…実際、頼めばしてくれるだろうさ…そこから関係を発展させるかはお前次第…精神的には既にオフィーリアに惹かれ始めてる様だがら、寧ろ襲うくらいの気概で行った方が良いぞ?」……」

 

「リードされてる以上、私の事に拘ってる場合じゃない筈だな?お前は私がこの身体から出たら私の事なんて気にせず、さっさとあいつに迫れば良いんだ…私とセッ「何言おうとしてるのいきなり!?」だからセッ「言わせるわけないでしょ!?」ヘタレだな…とにかく誘う気になったら私に言え、何時でも場を整えてやる。」

 

騒ぎ始めた黒歌を無視して部屋を出る…あいつとの約束を果たしておかないとな…私はギャスパーの部屋に向かった。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら153

「それで、黒歌お姉ちゃんはテレサが好きなんだよね?」

 

「ああ…そうだな…」

 

ギャスパーの部屋に行った私はいくら同性でもあの場に二人をいさせる訳には行かないから、という黒歌の配慮で部屋を出たクレアとアーシアの二人が何処に行ったのかを考えていなかった…何も知らずに部屋に来た私は先に来ていたクレアとアーシア、ギャスパーを交えこうしてガールズ(?)トークに付き合わされている…この部屋にいる平均年齢層の割に話が生々しいんだが…クレアに至っては小学生だしな…

 

「なぁ、アーシア…?」

 

「何ですか、テレーズさん?」

 

……アーシアに小声で話しかける…ちなみに三人に一応私が名乗る事になるかもしれない名前を教えたら早速呼び始めた…アーシアに至っては私をどう呼ぶかでずっと悩んでいたらしく、伝えた瞬間から嬉しそうに名前を呼んでいた辺りこいつも相当だな…こういう奴ばかりいるから私が離れられなくなるのだが…まっ、しばらくはいてやるか…あいつがもう少ししっかりして来るまでは、な……一々理由付けないと一緒にいられないのかだと?黙ってろ引きこもりが…全く……さて…

 

「クレアの言っている事だが…」

 

「…クレアちゃんは黒歌さんが、テレサさんに向けている好意がlikeじゃなくてLoveだと気付いていたみたいですよ…私も何となくそうじゃないかと思ってましたけど…テレーズさんが言うなら本当なんですね…」

 

そう言って頬を真っ赤に染めるアーシア…さすがの私でもこの空間には居づらい…というかクレアは何で身内のアレな話を嬉々として出来るんだ…?というかギャスパーは恥ずかしがって俯いてないで何か発言しろ…アーシアでさえ、積極的に話をしてるし、何でお前が一番反応が少女っぽいんだ…?

 

 

…ん?そうか…アーシアは旧校舎で以前たまたま会った兵藤一誠が好きなのか……やっぱりお前はそうなるんだな…いや、あいつの記憶の話は気にするな…その気持ちは今この場にいるお前が確かに感じている物だ。何も気にする必要は無い、大事にしろよ?…ん?アドバイス?そうだな…アレはお前がアタックすればすぐに堕ちるぞ?…真面目に?…いや、お前なら全く問題無い。だからさっさと押し倒せ……何でそこで照れる?

 

 

……私の恋愛体験談?…あるにはあるが……ん?悪い…あいつが全力で話すのを止めるビジョンが脳内に浮かんで来たから止めておく…まぁお前らがもう少し大きくなったら話してやるから待っていろ。

 

 

おい、ギャスパー…お前は何か無いのか?ん?恥ずかしいから嫌だ?…それは少なくとも好きな奴がいると言っているも同然だと気付いているのか?…どうしても無理?私だって話していないんだから良いじゃないか、だと?…では、お前には少し話してやろう、耳を貸せ……その表情で色々と察しました、ごめんなさいだと?……ヘタレが。

 

 

 

 

結局何だかんだ言いつつも、私も途中からノリノリで話に参加してしまい、その内二人が帰ろうと提案して来たが私がギャスパーに大事な話があるから先に帰っていてくれと言ったら顔色を変えて……いや、そんな話じゃないからな?…いや、何でお前はそんなにソワソワしてるんだ…残念ながら違うぞ……おい、凹むな…めんどくさいな…殴るぞ?…そう、それで良い。…やれやれ…やっと話が出来るな。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら154

「…さて、ギャスパー?」

 

「はっ、はい…!何でしょうテレーズさん…!?」

 

少しビビらせ過ぎたか…?

 

「…そんなにガチガチにならなくて良い…少し深呼吸しろ…ほれ、吸ってー」

 

「はっ、はあ…?分かりました…すぅ…」

 

「吸ってー吸ってー吸ってー吸ってー吸ってーはい!止めろ!……「エフッ!何やらせるんですか!?」早いな、もうちょっと頑張れよ。」

 

「いや理不尽過ぎます!?何のつもりですか!?」

 

「そんなに怒るな…少しは肩の力も抜けただろ?」

 

「…釈然としませんけど…まあ、確かに…それで何の用なんですか?…というか忘れてましたけどあの剣、何か怖いので持って帰ってくれませんか?」

 

そう言えばオフィーリアは居ないんだから部屋に持って帰っても良いか。

 

「そうだな…この後持って行こう…それで何だが…実はテレサにお前の事を頼まれてな…」

 

「テレサさんが?」

 

「ああ…あいつが直接話すのが筋だと思うんだがな…まぁあいつはもう立ち直っているが、先も言った通り、私の魂を取り出すまで表には出られない様だしな…取り敢えず私から何か伝えられる事があれば、と思ってな…とはいえ、お前はもうあまり色々言わなくても大丈夫だよな?」

 

「…クレアちゃんやテレサさん、それにテレーズさんのお陰です…それに僕はまだ…この部屋からは出られても旧校舎から出る勇気は出ませんし…でも、部長たちが帰って来たら改めて話がしたいとは思っているんです…」

 

「…いや、私やあいつはお前の背中を蹴り飛ばしただけだ…クレアも自分は何もしてないと言いそうだな…」

 

「…何かお二人に本当に蹴られたら、僕一応不死に近いのに死にそうなんですが…まあそれはそれとしてクレアちゃんは確かにそう言うかもしれないですね…」

 

「本人は新しい友達が出来たと喜んでいたからな…全く気負ってる様子が無い…だが…」

 

「分かります…クレアちゃんは僕の事も含めて皆を無意識に背負っちゃうタイプなんでしょう?…だからテレサさんも僕に守って欲しいって言ったんだと思います…守ります…全員は守れなくてもクレアちゃんとアーシアさんはきっと…」

 

「あいつから聞いてると思うが…私もあいつもクレアに関して想い入れがとても強い…仮に人質にでも取られたらすぐにお前らの敵に回るだろう…その時は「その先は言わせません…僕がクレアちゃんを絶対に守ります…頼りないかもしれませんけど」…いや、十分に心強いよ、お前はただ全力で守れ…お前が取りこぼした分は私かあいつ、若しくは私たち二人がちゃんと拾い上げる。…本当に強くなったな、ギャスパー。」

 

「…ありがとうございます…」

 

「…さて、実は私もあいつもお前に対して大事な事を言うのを忘れていてな…上げて落とすつもりでは無いが、これからちょっとキツイ話になるかもしれないが…聞く覚悟はあるか?」

 

「はい…僕は、もう逃げません。」

 

「良い返事だ…では先ず…今回の会談にお前は出るんだったな?」

 

「はい。テレサさんの記憶だと会談を襲撃されて、その時一人でここにいた僕が利用されて、せっかく戦力が揃っていたのにそのせいで対応が後手に回ってしまうんですよね?だから僕も皆のいる場に出席した方が良いって。」

 

「…そうだな。で、私もあいつもすっかり忘れていたんだが…お前のその神器、当然まだ制御しきれてないな?」

 

「はい…ごめんなさい…」

 

「いや、責めてるわけじゃない…今まで出来なかったのにこの短期間でそこまでやれという方が無茶だ…だが、こうして私と話が出来てる以上、無差別に作動するわけじゃないんだな?」

 

「はい…今の僕はテレーズさんがそれ程怖くないので…ヒィ!?」

 

私はギャスパーに殴りかかった…その瞬間に違和感を感じる…成程、こういう感じなのか。

 

「…ギャスパー…すまなかった…もう何もしないから出て来てくれないか?」

 

私の時間を止めている間に隠れたのだろう…机の下で震えているギャスパーに声をかける。

 

「ほっ、本当ですか…?」

 

「ああ…本当だ。」

 

そして机から出て来たギャスパーが震えながら椅子に座り直す…さすがに可哀想になりつい、その頭に手を伸ばし、撫でる。

 

「テッ、テレーズさん…?」

 

「悪かった…そんなに怯えないでくれ。」

 

「もう大丈夫です…あっ…」

 

手を離すと名残惜しそうな顔をする…いや、そんな捨てられた子犬の様な顔をしないでくれ…話が進まないから…

 

「…そっ、それであの…一体何でこんな事を…?」

 

「まあ…敵が親しい相手に化けて接触してくるかもしれないからもう少し警戒してくれって意味もあるがもう一つ…そうだな…話は変わるが、お前ゲームは好きか?良くあるだろう?ロールプレイングゲームとかシューティングとか…後は、戦略シミュレーションとかな。」

 

「それはまあ…人並みに…でっ、でも仕事の合間に少しだけですよ…?」

 

……こいつ、実はかなりやり込んでいると見た…とはいえ…

 

「いや、責めてるわけじゃない。お前はちゃんと自分の仕事をしてる様だからな…それでだ、そんなお前に聞きたいのだが…今回の会談の様に要人が一堂に会する状況…敵にとっては最高のタイミングだな?さて、お前が仮に敵の側、それも指揮官だったら、どの様に襲撃をかける?…おっと、要人が実力者…または護衛がそうである…或いはその両方…という可能性も踏まえてだ。」

 

「えと…そうですね…味方がどれくらいとか、襲撃する建物にどれくらいの規模の護衛がいるかとかによっても変わりますけど…先ず、部隊をいくつかのチームに分けます。」

 

「ほう。で、それから?」

 

「…分けたチームは見張りがいるだろう入り口を避けて建物を囲む様に配置します…そして会談が始まり、ある程度時間が経って敵が気を抜いてる所を窓を破って、突入させます…もちろん全員じゃありません…そこから時間を置いて第二部隊を同じ要領で突入させて行きます…その方が失敗も少ないので…それから…」

 

「いや、そこまでで良い…良し。概ね正解だ、恐らく今回もそうなるだろう…そして本来であれば更にお前の部屋に突入する別働隊がいたわけだな。」

 

「そうですね…でも今回、僕は皆さんと一緒にいますから「安心するのはまだ早いなギャスパー?」え?」

 

「さっきの状況を思い出してみろ、お前は警戒してない筈の私を何故停止させた?」

 

「そっ、それは…テレーズさんがいきなり殴りかかって来て…」

 

また震え始めているが、今度は何もしない…こいつに現実を教えなければならない。

 

「そうだな…つまりお前は自身に危機が迫れば無意識に神器を発動させる訳だ…そこでさっきの話だ…先ず第一部隊が窓を破って突入…さて、お前はどうする?」

 

「どうするって言われても…僕は制御出来ませんからその場で神器を発動させて…あっ…」

 

「気付いた様だな…第一部隊が会談の場に突入して来たらお前は視界内の者を無差別に停止させる…言っては悪いがこういう時、最初にやって来るのは雑兵…いわば捨て駒…そして主力は第二部隊…ここで問題だ…お前の神器が発動し、敵味方問わず全ての者が停止している中、そこへ主力が投入されたら……どうなると思う?」

 

「どっ、どうなるって、そんなの…!」

 

「お前が続けて神器が発動出来るなら良いが…出来なければ…不意を付かれた仲間たちは最悪、お前の目の前で全員殺される。」

 

「そっ、そんな!僕はどうしたら…!?」

 

まあサーゼクスと一誠に関しては動けてるかもしれないが…こいつらでも全員は助けられんからな…確実に想定外の犠牲者が出るだろう…

 

「落ち着けギャスパー…方法はある。」

 

「何ですか!?言ってください!僕に出来る事なら何だってします!」

 

私はこいつに言わなければならないな…こいつに実質死ね、と。

 

「先ず想定外の事態を避ける為…ギャスパー、お前はこの部屋にいるんだ「でも、それだと…まさか!?」お前はお前を狙って来る連中を…油断して…やって来るそいつらを迎え撃て…恐らく全員は止まらないが、お前の殺れない奴はお前に注目して動けない内に私か、あいつが確実に始末する。」

 

「そんな!?僕がやるんですか!?そんなの僕に「クレアとアーシアはお前と一緒にいる事になるだろうな、会談の場にいさせる方が危険だし、バラけるよりはお前が守りやすい」…ずるいですよ…そんなの断れるわけないじゃないですか…!」

 

「すまないな…これしか方法は無い…お前は多分ただではすまないだろうが…もちろん逃げられるなら時間を止めて二人を連れて逃げても良い…だが、止まらないのは確実にいる。」

 

「……」

 

「ここまで言ってなんだが…断っても良い…対応が遅れるかもしれないが…私たちが別行動を取り迎撃する方法もあるが…」

 

「それだとテレーズさんたちが危ないじゃないですか!」

 

……私たちを心配出来る程のこいつの心の成長が素直に嬉しい…私も本当に丸くなったかな?

 

「やりますよ!僕がやります!…テレーズさんたちが絶対に来てくれるんでしょう?僕、信じて待ってますから。」

 

「……良いんだな?」

 

「僕を信じて下さい…!」

 

「…分かった。私は、お前を信じる。…では、これで失礼する…詳しい打ち合わせは明日しよう。」

 

「…はい。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら155

ギャスパーの部屋を出て、廊下を歩いている最中…頭の中に声が響いて来た…足を止め、壁にもたれ掛かる…

 

『おい、テレーズ…』

 

……お前にそう呼ばれると非常にむず痒いな…そんな物とは無縁の筈だが、蕁麻疹が出そうだよ…

 

『慣れろ。これから先、何度も呼ぶだろうしな…』

 

仕方無いか…さて、さっきギャスパーの部屋でお前の声が聞こえたのはやはり幻聴では無かったか…なぁ、引きこもり?

 

『どっちがだ?お前に至っては仮にこの世界に私が来た時から私の中にいたんだとすれば、百年は引きこもってた事になるんだが?』

 

……めんどくさい事を言ってくれる…その頃は私は目覚めてないんだろうから知らん…で、何の用だ?というか何時から夢以外で私に話し掛けられる用になった?

 

『…知らんよ…まっ、恐らくお前がこちらにいられるリミットが近付いて来た事で私が表に出やすくなったんだろう…で、何の用だ、だと?お前、何故ギャスパーにあんな事を言った?』

 

……お前が忘れていた事を伝えただけだろ?最も、私も今日まで忘れていたし、強くは言えんが。

『……お前はギャスパーに囮になれと言ったんだぞ?』

 

……他にどう言えばいい?既に他の策を講じる時間は無いんだよ…ギャスパーが神器の完全な制御が今日の時点で出来て無い以上、残りの時間で出来るとは思えん。

 

『…そうかもしれないな…だが、お前は嘘をついただろう?』

 

どういう意味だ?

 

『お前はギャスパーを信じていない。』

 

…ああ、そうか…表にいる奴の思考は引っ込んでいる奴に筒抜けだったな…そうだな、私はギャスパーを信用も信頼もしていない…当然だろ?止める以外、現状満足に戦えない奴が敵を殺せるわけあるまい?例え、そいつらが指一本動かせなくなったしてもな…というか何甘い事言ってる?これはな…殺し合いだ…奴らに話し合いに応じる気なんて無い筈だろう?

 

サーゼクスは甘い事を言ってるが間違い無く死人は出る…味方に死人を出す訳にはいかないが、あいつらは殺すしかない…もちろん、後々の事を考えれば全員殺す訳には行かないし、だからオフィーリアに牽制もした…だが、一人も殺さずに済む訳は無い…まさか実際に三大勢力の争いを目にして、はぐれ悪魔を散々狩り続けたお前がそんな甘い事を考えてたりはしないだろうな?

 

『私は…そうだな…確かにそれは甘い考えなんだろう…私自身もそう思うし、昔の私ならすぐにでも一蹴しただろう…』

 

だろう?『だが』ん?

 

『私もその綺麗事を通してみたくなった…私たちなら殺さずに終わらせられるんじゃないか?』

 

……私やお前が殺らなくてもオフィーリアは殺る…オフィーリアが本当に殺さずに終われると思っているのか?

 

『あいつは殺さないさ…その理由が無い。』

 

戦いで殺すのは報復される可能性の排除、だ。…相手は見逃せば、次はもっと強くなるかもしれない…卑怯な手を使って来るかもしれない…お前は守り切れるとでも?

 

『出来るさ…これからはお前がいる。』

 

私が殺さないとでも?仮にオフィーリアが確実に殺らなければいけない理由が無ければ殺らないタイプだとすれば、私は確実に殺れる時に殺るタイプだ…一度それで油断して殺されている…今私が死ぬ訳には行かないだろう?だから殺る。

 

『お前は殺せないよ…いや、今のお前は殺さずにすむならそれで良いと思ってしまっている…だから殺さない。』

 

「何で…そう言える…!」

 

口に出してしまった…何故だ?焦っているのか、私は…?

 

『お前は優しくなったから…』

 

「馬鹿馬鹿しい…!これ以上は時間の無駄だ…!もう黙れ!」

 

私は奴の言葉を無視する事にした。私は殺す…殺さなければ守れない…!



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら156

『…とまぁ色々言った訳だが「ッ!今度は何だ!?」落ち着け、また口に出てるぞ?』

 

誰のせいだ誰の…!お前が下らない事を言うから私は部屋に戻れず旧校舎内をウロウロする羽目になってると言うのに…!

 

『…お前はある意味私以上にクレアに対して想い入れが強いんだな…』

 

当たり前だ…あの子は私の知るクレアよりずっと幼い上に、あまりにも危うい…あいつの行動次第で黒歌やアーシアの運命すらも変わりかねない程にな…私たちと同じく異物でしかない上にこの世界への影響力が強過ぎる…本来なら排除すら考えるレベルだ…だが…

 

『お前にそんな事はもう出来無い…クレアを知った者は大抵が彼女を愛し、守ろうとしてしまう…例え、自分を削っても、彼女を幸せにしたくなる…』

 

……あんな、あんな歪なあり方をする子どもがいてたまるか…!私も、嘗てお前が自分をそう評した様に人でなしだが、アレを放置せず、殺すのではなく、どれ程犠牲を出しても守りたいと思う程にはまともでいるつもりだ…!

 

『……こうして離れて見て良く分かる…あの子は人を変えていく力がある…それは一見、良き方向に変わる様に思えるが…大抵は依存し、他が全て二の次になる…自分の命さえも…お前でさえこうも変わる…冷静になれ、テレーズ。このままではあの子は自分が変えた者に潰される…他ならぬお前が壊してしまう…!力のある私たちだからこそ、あの子をちゃんと正しく見極めなければいけない。……良いか?あの子は確かに異常だが、結局はその手で掴める物の限界も分からない、まだ幼いただの子どもだ…』

 

……分かっている…だが、私にはもうあの子しか見えない…!だからあの時離れたいと言ったんだよ…こうなるのが分かってしまったから…!私は、あの子に会うべきじゃなかった…!あの子の声も、髪も、目も、その歪な在り方でさえも…!その全てが今、私には愛おしい…!もう離れられない…誰を犠牲にしてもあの子だけは救いたい…!……黒歌もアーシアも本当はどうなろうが知った事じゃない…!あの子が二人を大切に思っているからついでに守るだけ…邪魔になるなら何時だって切り捨てる…本当に嫌になる…!あの子はどうせこの歪んだ愛情さえ受け止めてしまうのだろう…!

 

『そうだろうな…今は直接顔を見る事も声を聞く事が無いから良いが…もし対面すれば、私もお前の様になる…いや、戻ってしまうだろう…だが、だからこそ過ちを起こしてはいけない…一度道を外れたらもう戻れない…!後には引けなくなる…』

 

だから殺すな、と?あの子と生きていく為に…それが本当の理由なのか…?

 

『そうだ…あの子にはまだ綺麗事を信じていて欲しい…子どもの世界は広いようで狭い…見える物が限られるから、当然だ…悪意に近付き過ぎればそれが世界の全てであると思ってしまう…普通の子どもなら立ち直れるかもしれないが…純粋過ぎるあの子には刺激が強過ぎる…だから、近くにいる私たちは迂闊に理を外れる訳には行かないんだよ…』

 

そんな事は…無理だ…!



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら157

「下らないわね…」

 

私はしばらく旧校舎内を彷徨き、不毛な議論をした後唐突にやって来た黒歌に無言で部屋に連れ戻された…聞けば私は何度かギャスパーの部屋の前を通っていたらしく、私のデカい独り言を聞いて、さすがに可笑しいと感じたギャスパーは今現在唯一、旧校舎にいる私の関係者で番号を知っているクレアの携帯に連絡…

 

…私を待ち続け、疲れて既に眠っていたクレアの代わりにアーシアが電話に出て、ギャスパーから聞いた内容をそのまま黒歌に伝え、こうして私を探しにやって来ていたらしい…そして今、二人の前で正座させられ、こうしてあいつとの話の内容をそっくりそのまま話したのだが…下らないだと…!?

 

「三時間も二人で議論して、内容がそんな事じゃ、ねぇ…」

 

「黒歌…少なくとも私が大事なのはクレアだけだ…この場でお前を斬っても「好きにすれば?」……はっ?」

 

私の怒りは消し飛んだ…こいつは…何を言っている…?

 

「何?気付かなかったの?私も同じなの。さっき聞いたらアーシアももう、そうなんだって…私はあいつに好意を抱いているけど…そんな想いよりクレアの方が結局大事なの…ハッキリ言うけどクレアに救われてまともなのは多分、もうギャスパーしか居ないわよ?」

 

「私もクレアちゃんが幸せならそれで良いって…そう思ってるんです…どうしてか分からないけど…その為に私がどうなろうと気にならないかな、って。」

 

「…という訳で貴女でも、あいつでも良いけど私たちがあの子の幸せに邪魔だと言うなら、斬れば?…抵抗したいけど本気で来られたら私も厳しいわ…アーシアに至っては戦えないし…そもそもこの場で唯一貴女と戦える私が積極的にアーシアを庇う気、全く無いから。」

 

背筋が凍るのが分かった…こいつらは本当にこの場で私に殺されても構わないと思っている…

 

「…というか、最悪私がアーシアを殺す可能性もあるでしょうね…この状況が可笑しいと思ってるなら貴女は所詮、まだ正常よ。」

 

「私は…悔しいですけど普通にやってもお二方に勝てませんし…最も寝てる時なら、とか考えなくも無いですけど。」

 

吐き気がして来た…何だこれは…!?

 

「…で?殺るの?殺らないの?」

 

「……」

 

……なぁ?お前はこうなると思っていたのか?

 

『…薄々は、な…こいつらが私たち以上にもうイカれてるのは気付いていた…もう戻れない…どうするんだ?』

 

「…私には出来無い…!」

 

結局私はクレアの方が上でも…本当はこいつらだってもう大事なんだよ…!私には殺せない…!

 

『安心したよ…お前がまともで…私なら、斬っていたかもな。』

 

「…あっそ。なら、この話はおしまい…貴女のご飯取って置いてるから食べて…私とアーシアはもう寝るわ。」

 

「お前ら…お互いの気持ちを知って何とも思わないのか…!?」

 

「…私は別に貴女やあいつ、アーシアが嫌いな訳じゃないわ…単にクレアが最優先ってだけ。」

 

「私も…もう皆さんの事は大好きですから…それじゃ、おやすみなさい。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら158

あの一件の直後、よりにもよって遅めの夕食を取る私のすぐ側で横になり、そのまま無防備に寝息を立て始めた黒歌に絶句し、若干の恐怖を覚えながら私は食事を終えた…食器を片付け、さすがにそのまますぐに黒歌とアーシアのいる部屋で眠る気にもならず、私はそっとドアを開け、部屋を出た。

 

さっきと変わらず人気の無い廊下を今度はゆっくり歩く…なぁ?

 

『何だ?』

 

アレは一体何なんだ?私の方が気後れしてしまったよ…

 

『分からん…と言いたいが、推測は出来る…アレは…そうだな、親が子供に向けるそれだな。…多少過激だが。』

 

……どういう意味だ?

 

『…幼い時に家族を亡くしたらしいお前には分からなくても無理は無いし、実は私も親の記憶が無いから理屈しか分からないが…多くの、特に母親は仮に自分か子供、どちらかしか助からないという状況に陥った場合、迷わず子供の方を優先するそうだ。』

 

……私には理解不能か。…だが、黒歌は生きて来た年月、クレアに接した時間もそれなりに長いから分からないでも無いが、アーシアは…

 

『母性本能は幼い時に目覚める事も多いらしいし、クレアが相手である事を考えればそれ自体は不思議じゃない…問題は、明らかに度を過ぎてるという事だ…天秤に乗ってるのが赤の他人なら、子供を選べるかもしれないが、乗ってるのが他の家族だった場合、普通は迷う筈だ…だが二人はその状況で躊躇わない。』

 

これは…ギャスパーとも話す必要があるな…

 

『お前はギャスパーを信じていないんじゃないのか?』

 

…この状況でそんな事言ってられるか。あいつにはクレアとアーシアの事を任せてある…守る対象に生き残る気が無ければ守りたくても守りようが無いんだ…!

 

『それを伝えてどうする?ギャスパーにはどうしようも無い。』

 

それだけの為じゃないさ…ギャスパーが今、クレアにどんな想いを抱いているのか…確かめておきたい…

 

 

 

 

「あの…そんな話されても僕にはどうしようも無いです…申し訳無いですけど…」

 

「だろうな…そう言うだろうとは思っていた…」

 

ギャスパーの部屋に行き、私の事を心配するギャスパーに先の一件を話すと、予想通りの返事が帰って来た…にしても…

 

「お前は取り乱さないんだな…」

 

「え?…あー…僕も色んな人を見て来ましたし、それにあまり面識の無い黒歌さんはともかく、アーシアさんに関しては一目見て危ういのは見て取れましたから…」

 

「そうか…」

 

私もギャスパーを過小評価していたのかもしれないな…

 

「取り敢えず分かりました…僕はテレサさんに頼まれた通り、クレアちゃんとアーシアさんを守るだけです…アーシアさんがそれを望まなくても。」

 

「…なぁ?お前は何でまともなんだ…?」

 

私は思わずそう口にした…先の一件、引き金を引いたのは私だ…あの時余計な事を言わなければこんなにも悩む必要は無かった…そう思っているのに聞かずにはいられなかった…

 

「…あの…?もしかして、テレサさんもテレーズさんも僕の性別忘れてます…?」

 

「『ん?』」

 

「僕男ですよ?母性本能は女性の方が芽生えやすいんじゃないですか?」

 

「『あ…』」

 

「何かショックなんですけど…まあとにかく…僕、確かに女の子の格好しますけど…完全な女性化願望は無いので…クレアちゃんには現状、友だち以上の気持ちは無いです。一緒に暮らしてれば家族と思ったりもするでしょうけど…どちらにしてもそこまで行くとは考えにくいですね。」

 

「私は…どうしたら良いと思うギャスパー…?」

 

「…クレアちゃんが大事なのは二人と一緒なんでしょう?なら、そんなに気にしなくても大丈夫だと思いますよ?」

 

「そうだろうか…?」

 

「テレーズさんは強いんでしょう?守れば良いじゃないですか、二人が何言ってもちゃんと三人とも。もちろんテレーズさんも、テレサさんも一緒に生き残れば良い。」

 

そうか…簡単な事だったんだな…

 

「そうだな…ありがとうギャスパー…お陰で私のやるべき事が分かった。」

 

私は守れば良い…そうだ全員、もちろん私自身も。

 

「序に僕も守ってくれたら幸いです。」

 

それを聞いて椅子から転げ落ちる。

 

「お前なぁ…」

 

「いや、だって僕戦えないですし。」

 

「……決めた、会談が終わったらお前を優先的に鍛えてやる…私とあいつとオフィーリアの三人でな。」

 

狼狽え始めたギャスパーを無視して紅茶を飲み干し、部屋を出た。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら159

黒歌とクレアは勘が良い…だから、私が部屋を抜け出したのはバレているだろうと思って身構えながらドアを開けてみれば二人は普通に寝ていた。

 

……寝てるな。

 

『…先の一件、何だかんだ神経を使ったんだろうからな…疲れてるんだろう…』

 

……寝るか。全く…拍子抜けしてしまったよ…

 

私は毛布を掛け、床に雑魚寝する黒歌の横に立ち、剣を…

 

「……」

 

私は剣を布で包み、押し入れにしまい込んだ…そのまま床に横になった…何だ、硬い床の上なら寝れるんじゃないか…そのまま目を閉じる。

 

『良いのか?剣を置かないで?』

 

……もう覚悟は決まってる…仮に、二人のどちらかが私の首を取りに来ようともう気にせん。

 

『そうか…』

 

そして私は眠りに落ちた…

 

 

 

翌朝、三人が朝食を作るのを眺める…特に変わった様子は無い…ここ何日かと大して変わらん光景だ。

 

「ボーッとしてないで皿ぐらい並べて欲しいにゃ。」

 

「…ん?ああ、分かった。」

 

本性を知っている為、今は取って付けた様にしか感じられない黒歌の猫口調に相変わらず違和感を感じつつ、指示された皿を四人分並べる……女四人はこのテーブルだとギリギリだな…ここにお前とオフィーリアが加わるんだな…テーブルを買い替えるべきか…

 

『それよりいい加減新しく住む部屋を探した方が良いかもしれないな…』

 

……そんなに金あるのか?

 

『使い道無いからな…』

 

 

 

 

四人で食事をする……全く昨日の事を引きずってる様子が無い…クレアの前だから、では無いらしい…私にも二人は何時ものテンションで話を振ってくるからな…これは、やはり…

 

『二人は昨日の一件をあくまで日常の一コマとして流した、という事だろう…』

 

……二人は最悪死んでいたんだがな…何でこうもあっさり切り替え出来るのか…

 

『…自分が死んでもクレアが幸せなら問題無いからだろう…そもそもお前に大して全く警戒していない…』

 

……私はどう動けば良いと思う…?どう考えても問題の根が深そうなんだが…

 

『何だ…随分弱気じゃないか。お前の取るべき腹は決まったんだろう?』

 

そうなんだが……さすがにこの異常事態を目の当たりにしたらお前だって不安になるだろう?

 

『……いや…私だったら…この光景を目にした可能性は低い…』

 

何?どういう事だ?

 

『……私は改めてお前を凄いと思ったよ…昨日言った筈だ…私なら斬っていたかも、と…かもとは言ったが、実際はあの場にいたのがお前ではなく私だったなら……九割方抑えが利かずに斬っていただろう…その場にいなかったから冷静でいられただけで…本当は…私は二人が心底恐ろしかった…』

 

……そうか。なら、お前に意見を求めても無駄という事か。

 

『…まぁ…傍観してた立場から言わせてもらうなら…』

 

…何だ?

 

『昨日の一件を忘れること無く、危ういバランスの上にいる事を認識した上で…こいつらの様に振る舞うしかないだろう…得意なんだろ?そういうの?』

 

……こいつら相手に演技をし続けるのは辛い…そう思える程には大事だ…だが、これ以上引きずっている場合では無いのだろうな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら160

『…そうか…確かに…その可能性を考えていなかったな…』

 

「まぁ私も昨日まで忘れていたからな…リアスたちには予定変更を伝えておいてくれ。」

 

サーゼクスにギャスパーが会談の場に出席する事の問題点を電話で伝える…取り敢えずこれで唐突な予定変更でリアスと揉める事も無いだろう…

 

『しかし…彼だけにクレアとアーシア、自分も含めて三人分の身を守らせるのは不安だね…』

 

「一応、私かあいつのどちらかが、ギャスパーの所へ向かうつもりだ。」

 

『まだ、どちらが行くのか決まって無いのかい?』

 

「そもそも明日、私の魂の定着に成功しなければこの身は一人分しかないからな…最悪そちらの守りはオフィーリアが居れば十分だろう?」

 

そもそもあの場に揃うのは、相当の実力者ばかりだ…私たちの力が必要かどうかも分からん。……それにしても明日か…改めて、もういよいよ時間が無くなって来たと感じるな…

 

『そうだね、戦力的には十分過ぎるくらいだ…最も、ハッキリ言って私はまだ彼女を信頼しきれないからね…監視役として居て貰いたい所だけど…』

 

「黒歌とアザゼルの仕事が上手くいくのを祈れ。…悪いが、私とあいつは基本的に三人を守るのを優先させて貰う。あいつはともかく、私はギャスパーを信頼しきれないからな…」

 

サーゼクスに多少皮肉を込めて返してやる事にする…そもそもギャスパーがどれだけ上手く立ち回ろうとアーシアを守れるかは分からん…クレアの為なら平気で死を選べるのだからな…

 

 

『そうか…まあ仕方無いね「そんなに気にする事も無いだろう?お前ならすぐにオフィーリアを止められるだろう?」…彼女クラスだと最悪殺す必要があるのだが…』

 

「殺せば良いだろう?オフィーリアが本気で暴れたら野放しに出来ないのは想像出来る筈だ…何だ?情でも移ったか?」

 

『…たった三日間彼女と接しただけだが…実は破綻者でも無ければ、単なる悪人でも無い事はすぐに分かってしまったからね…』

 

「そうか…お前がそう言うなら良いんじゃないか?」

 

今の私も十分に甘いからな。

 

『さて、では失礼「悪い…一つ相談しても構わないか?」何かな?あまり時間は無いから出来れば手短に頼むよ?』

 

「実はな…」

 

私は昨日の黒歌とアーシアとの一件を話してみた…

 

『成程ね…そんな事が…』

 

「お前にどうする事も出来ないのは分かるが取り敢えずグレイフィアには話しておいてくれないか?あいつは個人的に黒歌と仲がいいみたいだしな…」

 

『伝えておこう…後でグレイフィアから連絡があると思うから出られる様にして置いてくれ…では、また…』



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら161

電話を切り、左右を何となく見渡す…誰もいない…まぁ存外この学校に通ってる連中は真面目な奴が多いのだろう…わざわざ旧校舎まで来て授業をサボるのは相当物好きに当たるらしい…お陰でこの手の人に聞かれたくない話をするのは楽なのだが…

 

「……」

 

視線を戻し手元の携帯を見詰める…

 

『どうした?』

 

ん?いや…何処ぞの馬鹿があっさり破壊した物がこうしてまた手元にある事に妙な感慨を覚えてな…

 

『……言うな…何か変なテンションだったんだあの時は…良く考えたら破壊する事は無かったと後で気付いたんだから…』

 

…このご時世、電子マネーという便利なサービスがあるそうだな…携帯を壊さなければ、財布が無くても最悪電車には乗れたんじゃないか?…まぁあの格好で電車には乗れないかもしれないかが…

 

……クレイモアの甲冑姿はこの世界ではとにかく目立つ…コスプレで誤魔化すにしても、剣についてはさすがに警察の目に付いただろう…

 

ちなみにこの携帯自体は『頃合を見て、あの子に渡して欲しいってサーゼクスに頼まれたの』と私が目覚めた日にオフィーリアに渡された物だ…

 

『……乗れなかったのは確かなんだから良いだろ…』

 

で?それは壊した事に対する理由にはならんが?

 

『関係性を断ち切りたかった…』

 

お前の携帯の番号、お前の記憶通りだとクレア、黒歌、アーシア、サーゼクス、グレイフィア、それからリアスと姫島にアザゼルの分しか入ってなかったよな?…私の手元に戻って来たと同時に全部連絡先が戻って来たぞ?入ってた写真や動画にしても、黒歌の携帯に入ってた物と大差無かったからそっちもあっさり戻って来たな?

 

『やめろおおお…!掘り返さないでくれえええ…!』

 

うるさい。頭の中で騒ぐな…ん?

 

そうこうしてる内に携帯が再び鳴る…グレイフィアか…

 

「もしもし?」

 

『もしもし…グレイフィアです。』

 

いや、こっちに名前と番号出るから誰かくらいは分かると思ったがこいつが生真面目なのは知ってるので今更突っ込むつもりも無い。

 

『話はサーゼクス様から聞きました。』

「…私は今、あいつと脳内で会話が出来る…で、あいつはアレを母親が自分の子に向ける物に似ていると評した…お前は母親だったな?どう思う?」

 

『そうですね…似ているかも知れません…でも…』

 

「ん?」

 

『私は…自分の命と引き換えにミリキャスを救う事は出来ても、貴女やテレサ…それに、サーゼクス様を犠牲にする事は出来ないわ。』

 

「…そうだな…それが普通だと思う。」

 

『もちろんそれは…クレアや黒歌、アーシアであっても同じです。』

 

「私は…もう何も言わない事に決めた…お前はどうする?」

 

『私は看過出来無いわ。友人として、家族として黒歌にもアーシアにも一言言わないと気が済まない…!』

 

「そうか…私やあいつの言葉は多分もう届かない。お前から言ってやってくれ…一言と言わず、いくらでも…」

 

『ええ。会談が終わったら其方に伺わせてもらうわ…テレーズ?それからテレサ?一つ良いかしら?』

 

「『ん?』」

 

『そろそろ生活の拠点を冥界と人間界…どちらにするのか決めておいてね?』

 

「…決めるのは私じゃない…」

 

『ええ、でも…あの子も聞いているのでしょう?』

 

おい?

 

『分かった…会談が終わってから伝える…』

 

……。

 

「……会談が終わったら伝えるそうだ。」

 

『分かりました。待っています…テレーズ?』

 

「何だ?」

 

『貴女が無事に自分の身体を手に入れる事を願ってる…』

 

「ああ…ありがとう…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら162

震える手で携帯を弄り、目的の人物に電話を掛ける…頼む…!出てくれよ…!

 

『もしもし?どうした、テレーズ?…悪ぃ、俺、今忙しいんだわ…まだ、お前の身体の作成に時間かかってて「アザゼル…」…マジでどうした?そんな深刻そうな声…いや、待て。お前…もしかして…!』

 

「私はテレサだ…アザゼル…」

 

『お前…どうして「すまない…あいつは今寝ている…何故今になって私が主導権を握れてるのか分からないが多分、私が今表に出れてるのは一時的な物だ…詳しく話してる時間は無いんだ…すぐ、本題に入らせて貰いたい」…そうか…で、何の用なんだ?』

 

「お前に一つ、頼みがある…」

 

 

 

 

『…成程な…俺も考えていたし、それぐらいなら出来無くはねぇだろうよ。』

 

「なら頼む『待て。』何だ?」

 

『出来無くは無いが…俺は少なくともお前に言われるまでやるつもりは無かった…理由は二つ…多少とは言え、見た目に変化が訪れるからどんな影響があるか分からねぇのと、もう一つは…あいつがそれを望んでいるか分からねぇからだ…テレサ、お前はテレーズに許可は取ってねぇな?』

 

「ああ『なら、勝手に俺たちがそれをやる事が本当にあいつの為になんのか?』…私はあいつに幸せになってもらいたい…そう考えたらいけないか?」

 

『何でそこまでする?』

 

「あいつは…私にとって憧れの存在だ…本当なら身体を共有するのではなく別の人物として出会いたかった…何も今更、私を選んで欲しいわけじゃない…私も他にかけがえの無い相手を見つけてるからな…ただ…人としての幸せを掴んで貰いたい…どうか…私の頼みを聞いて貰えないだろうか…?」

 

『……良いだろう…さっきも言った通り俺も考えていたからな…最も…俺がその方が楽しめるって理由だからだけどな…』

 

「あいつはお前を割と気に入っている…あいつだって綺麗な身体でお前と繋がりたいと、きっと思う筈だ。」

 

『…お前の言っている事は推測でしかねぇな…そうだったら俺も嬉しいけどよ……まぁ、良いわ…請け負うぜ。』

 

「ありがとうアザゼル…では、私は眠る…」

 

私は電話を切り眠りについた…

 

 

 

 

夜になり漸くアザゼルが布に包まれた身体を携え、やって来た…

 

「遅くなって悪ぃな…注文の品だぜ。」

 

布に包まれている為全容の見えないそれを見ながら私は黒歌に言った。

 

「黒歌…やってくれ…」

 

「本当に良いの?…正直言うと成功するかは「良いさ…私はもうお前を信じた…例え失敗しても私も、あいつも…お前を恨まない。」

 

「分かった…やるわ。」

 

黒歌が目を瞑り、何事かを呟き始める…ボソボソ話しているせいか、内容は聞き取れない…だが、少しずつ私の意識が上に上がっていく感じがする…比喩表現として正しくは無いのだろう…だが、私にはそれしか表現出来無かった…

 

軈て、私は目の前が真っ暗になり、何も分からなくなった…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら163

目を開ける…暗い…目は確かに開いているのに視界は暗い…人の気配を感じる…恐らく腕があるだろう部分に力を込める…動く…右手を上げ、顔の上にかかっている布の様な物を退けた。

 

「おっ。目が覚めたか…身体の調子はどうだ、テレーズ?」

 

視界に入って来たアザゼルの声に応じて、右手の指を握り、開く…左手も同じ様にする…ふむ…動く、な。

 

「…良好だ…良い仕事だな、アザゼル。」

 

「当然だろ、俺がする為に作った身体だぜ?」

 

「フッ…そうだったな…約束は忘れてないから、安心しろ。」

 

床に手を付け、力を入れて上体を起こす…身体の上に掛かっていた布がズレる…何となく下を見る、裸の私の身体が見えて…?

 

「…アザゼル…傷が…無いんだが…」

 

クレイモアは攻撃型でさえ、腕や足を無くす、という致命的な物で無ければ、大抵の傷は治るが…例外として半人半妖の身体に成る前の傷と、妖魔の血肉を肉体に取り込む際に付いた傷は治らない…だが、私の身体には傷が無い…

 

「…下手に見た目を変えてどんな影響があるか分からないから、俺も渋ったんだが…あいつ…テレサの言葉で吹っ切れてな、敢えて傷を付けなかったのさ……あった方が良かったか?」

 

私はその部分を右手で撫でた…

 

「……いや、無いなら無いでそれで良い。…あいつと話したのか?「ああ、昨日の夜にな。」…そう、か…あいつは何と言っていた?」

 

「…憧れていたお前に…人としての幸せを掴んで欲しい…だとさ。」

 

「フッ…ハハハ…あの…馬鹿…」

 

私が幸せになるなら、お前だってそうならなければ私が納得出来無いだろうに。

 

「あの馬鹿に一言言わなければ、な…あいつはどうしてる?」

 

そう言うとアザゼルの顔は曇った…何だ?

 

「どうした?」

 

「いや、それがな…」

 

 

 

私はドアを開けた…

 

「あ…テレーズ「あいつは?」…それが…まだ目を覚まさないの「退いてくれ。」あ…」

 

仰向けに横たわるあいつの前にいた黒歌を押し退ける…全く…

 

「何時まで寝てるんだこの寝坊助が。とっとと起きろ!」

 

「ちょっと!?」

 

私は身体の慣らしも兼ねてあいつの顔に懇親の蹴りを放った…放っておいてもじき、目覚めるだろうが…そろそろやって来るサーゼクスたちと明日の事について打ち合わせをせねばならんからな…

 

「痛あ!?…何するんだテレーズ!?「うるさい。寝坊助を起こしてやったんだ、感謝しろ。」ふざけるな!?」

 

起きるなりあいつが噛み付いて来る…

 

「何だ?それともキスで起こして欲しかったのか?お前、アザゼルに私に人としての幸せを掴んで欲しいとか言ったそうだな?…憧れなのはチラッと聞いていたが…まさか、そういう意味だったとはな…私は鈍感じゃないからな、そこまで聞けは大体分かるぞ?」

 

「な!?アザゼルお前、テレーズに話したのか!?」

 

「おう。別に話すなとは言われてねぇしな。」

 

そこでまた騒ぎ始めた馬鹿の頭を殴り付ける。

 

「痛!?「何時までやってるんだ、そろそろ切り替えろこの馬鹿が。」お前のせいだろ!?」

 

……結局、サーゼクスたちがやって来るまでこの馬鹿は騒いでいた…全く…先が思いやられるよ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら164

「それにしても…本当にそっくりね…まぁ見分けは…何とかつくけど。」

 

黒歌にそう言われて思う…身内がかろうじて分かるレベルなら他の奴は本当に見分けがつかないだろうと。

 

「では、私が髪を切「ダメ!貴女だって切ったら生えてこないんでしょ?」…じゃあどうしろと…いや、そうだな…ではこうしよう…」

 

私はテーブルの上にたまたまあった輪ゴムで髪を頭の後ろで纏める…所謂ポニーテールという奴だ…

 

「おっ、中々似合うじゃねえか、テレーズ。」

 

「ん?こういう髪型が好みなのか、アザゼル?」

 

「おう。結構好きだぜ?」

 

「そうか、好評で何よりだ…お前は…おい?自分と同じ顔相手に一々照れるな…」

 

全く…やりにくいな…

 

「ちょっと!」

 

「何だ?どうしたんだ黒歌?似合わなかったか?」

 

「髪型は似合ってるけど、ダメよ、輪ゴムなんかで纏めたら…リボン持って来るからちょっと待ってて「いや、リボンは勘弁してくれ…せめてヘアゴムにしてくれ…」えー…」

 

戦ってる最中に千切れたり、無くしたりしたらさすがに寝覚めが悪いからな…ん?来たか。ドアがノックされ、あいつが応対する…案の定、客はサーゼクスたちだった。

 

「すまない…遅くなってしまった…ん?どうやら上手くいった様だね。」

 

「良かったですね。」

 

「えと…何で貴女たち増えてるの?」

 

サーゼクスとグレイフィアに続いてやって来たオフィーリアが疑問の声を上げる…

 

「何だ?オフィーリアに話してなかったのか?」

 

「行って、実際に会えば分かると思ってね。」

 

……いや、説明が無いんだから困惑するだけだろ…仕方無い…

 

「簡単に言えば、お前が好きなのがこっち、テレサな、で、私がテレーズだ。」

 

「端折り過ぎにゃ…それじゃ余計に困惑するにゃ…」

 

結局、輪ゴムを外して、櫛で整えながら、リボンで私の髪を纏め様とする黒歌が後ろでそう言う…ヘアゴムにしてくれと言ったのに…

 

 

 

「えーっと…つまり、アザゼルの作った身体に本来のテレサ…テレーズが入ったって事?」

 

「そういう事だ…」

 

何と言うかアレだな…こいつには散々消えると言っていたからいざこういう説明をするとなると気恥ずかしく感じる…

 

「へぇ…じゃあちょっと味見を「……」えっ!?ちょ…んん!?」

 

オフィーリアに口付け、混乱から回復する前に、舌を突っ込む、口内を舐り、舌を吸う。……ふむ、舌の動きも良好の様だな。

 

「え!?何してるのいきなり「いや、オフィーリアへの対処としてはアレで正しい…あいつに主導権握らせると色々面倒だ…私はああも自然に動けないし、あそこまでのテクニックは無いから先にやってくれて助かった」いやそうじゃなくて…!」

 

一通り口内を往復した後舌をさっさと引っこ抜く…名残り惜しげに舌が追いかけて来るが、無視を!?…こいつ、歯を…!危ない所だった…!唾液の糸が垂れ下がり、床に落ちる。

 

「……ねっ、ねぇ…?このまま…続きを「寝てろ、色魔」あ…」

 

首の後ろに手刀を叩き込み気絶させる…倒れ込んで来た身体を受け止め、床に寝かせた…あれだけやってまだ元気とはな…冗談じゃない…この身体、思いの外感度が良いから、あれ以上やってたらこっちまで上がっていたぞ…アザゼルめ、変な所に気合いを入れたな…まぁ元々あいつが楽しむ為の身体なんだからそう文句も言えないが…さて…

 

「…そこの興味津々で見ていた男二人…キスで良ければこの場で付き合ってやるが…どうする?」

 

私はサーゼクスとアザゼルに声を掛けた。

 

「中々情熱的な光景だったな…いや、俺は見てるだけで割と満足したからな…その権利は実際にお前とヤる時まで取っておく。」

 

「サーゼクス様…?」

 

「ちっ、違うんだ…グレイフィア…!」

 

ふむ…二人はしない、と。

 

「お前らはどうする?」

 

「なっ、何言ってるの…!?しっ、しないわよ、私は…!」

 

「……したくないと言えば嘘になるかな「テレサ!?」さっきお前も聞いてただろ?憧れなんだよ、あいつは…私にとって…だが、止めておく…これからいくらでもチャンスはありそうだからな。」

 

「馬鹿か。私は今、気が向いたから言っているだけだ…そう簡単にしてやる物か。」

 

正直、下手すると私の方が抑えられなくなるからな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら165

「さて、それじゃあ明日の動きを「ちょっと待って」ん?どうした黒歌?」

 

「いや…何であんな事の直後に普通に始められるのか聞きたい所だけど…」

 

……前日、最悪死んでたかもしれない状況で次の日、普段通り且つ、自分を殺していたかもしれない人物に普通に接していたお前に言われたくない。

 

「まぁそれは今は良いわ…それで、サーゼクスは怒ったグレイフィアに引っ張られて帰っちゃったし、オフィーリアは気絶したままだし、テレーズは突然部屋を出てそのまま戻って来ないし、この場にはアンタと私とアザゼルしかいないんだけど良いの?後、ギャスパーはこの場に呼ばないの?」

 

「…サーゼクスとグレイフィアには何か決まった事があれば後でも伝えられるし、オフィーリアは元々当日の流れで適当に動いて貰う予定だったから問題無い…テレーズはしばらく戻って来ないだろう「何で?」…お前も女なんだから気付けよ…アザゼル、あいつの身体に細工したな?」

 

さっきのあいつは明らかに普通じゃなかった…それ程好き者というわけでもないのにちょっとキスしたくらいで、ああもあからさまに誘ったりはしない。…しかも誘ってしまってから自分の様子が可笑しいのに気付いたんだろうな。

 

「人聞き悪い事言うなよ。お前の身体感じにくいんだろ?そのまま再現したらさすがに興醒めだから、ちょいと感度良くしただけだぜ?」

 

「ちょっと!?何してんの!?」

 

黒歌が騒ぎ始めたが…私としては…

 

「アザゼル「ん?」……良くやった「テレサ!?」「おう。」「あんたたち!?」」

 

アザゼルに向かって親指を立て、奴も返して来る…初めて奴と本気で気が合ったな。

 

「と、いうわけでテレーズは恐らく今、何処かで一人でシている「言わなくても分かるわよ!」後、ギャスパーの動きは本人にテレーズが伝えたから問題は無いな。」

 

「…ねぇ?じゃあこうして話してる意味って…」

 

……ん?

 

「…良く考えたら…ちょっとした打ち合わせ程度だったとはいえ、全員揃わなかった時点でもう意味は無い。…茶番だな。」

 

「うし。なら終わりだな、明日までの書類が残ってるんだ、帰らせてもらうぜ?」

 

「ああ、じゃあな…明日は宜しく頼むぞ?」

 

「…いや、頑張るのはお前らだろ?明日はあまり俺が動かなくて済むのを祈りたいぜ…」

 

「安心しろ。間違い無くお前にも仕事はあるからな。」

 

「マジかよ…ハァ…しゃあねぇか、じゃあな、テレサ。」

 

「ああ。」

 

アザゼルが部屋を出て行った。

 

「さて…」

 

毛布を引っ張り出して来て、オフィーリアに掛ける…私も寝ておくとしよう…

 

「ねぇ?テレーズの事、放っておいて良いの?」

 

ふむ…

 

「探しに行きたいなら行って来たら良い。ただ、私と違ってあまり弱味を見せたくないタイプだろうから怒るだろうな…で、その勢いでお前に襲いかかりかねないが…良いのか?」

 

「……やっぱり止めとくわ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら166

「そう言えばクレアとアーシアには教えてるのよね…この事。」

 

「…クレアには襲撃の可能性がある、という事にしている…アーシアは確定事項として話している…アーシアはそういうのは当然分かる歳だし、クレアに至っては先に言っておかないと何をするか分からないからな…」

 

「今日はギャスパーの所にいるのよね…」

 

「そうだな…」

 

「……放っておいて良いのかしら…?」

 

「ギャスパーにそんな度胸は無いよ…そもそも仮に手を出したら…私より先にテレーズがブチ切れる…まだ小学生のクレアは論外だし、アーシアは…何にしてもギャスパーには現状責任は取れないからな。」

 

「…何でアーシアに関して濁したの?」

 

「決まってるだろ?年齢。…私はアーシアの親じゃないし、本人たちに責任が取れるなら文句は言わないよ。アーシアだけに関してなら結局テレーズも同意見だろ。まぁ有り得ない訳だが…アーシアも身持ちは固い…ギャスパーもああは言ったが普通に誠実だよ。」

 

最も仮にそうなった場合、産まれてくる子供は吸血鬼の血を引く事になる訳で……止めた。面倒事の予感しかしない。

 

「…テレーズ、遅いわね…」

 

「だから、気になるなら見て来たら良いだろう?」

 

「いや、食われる覚悟では行きたくないわよ…」

 

「……」

 

ここでこいつに私と同じ姿だぞ…と、言ったらどうなるのか、という疑問が湧く当たり、私もやはりクズなのだろう…そもそも何時だって澄ました笑顔のあいつがその顔を快楽に歪めて恥も外聞無く、乱れる事を想像するのが既に楽しかったりするのだから今更か…

 

「アンタ、また妙な事考えてない?」

 

「いや別に?何でそう思った?」

 

「何となく。」

 

「理由がそれで疑われたらたまったものじゃないな。」

 

「そう。で、何考えてたの?」

 

「ん?どんな時でも余裕かますあいつが今、劣情を抑えきれずに自分を慰めてるとか考えたら最高に笑えるな、と。」

 

「……やっぱりアンタ最低だわ。」

 

「今となっては褒め言葉だな。続けて言ってくれとは思わないが。」

 

「じゃあ、褒め言葉じゃないんじゃない?」

 

「一回言われれば伝わるからな、何度も言わなくて良いだろ。」

 

「…アンタ、テレーズに似て来てない?」

 

「私はあんなに口は上手く無いよ「う~ん…」ん?…ああ、起きたのかオフィーリア。」

 

起き上がったオフィーリアを見ながら時計をチラ見してみればあれから一時間が過ぎている…時間はまだあるとは言え結局寝れてないな…

 

「あら?サーゼクスたちは?」

 

「……もう帰ったよ。元々軽い話し合いの予定だったしな。」

 

「…テレーズは?」

 

「あいつなら…あ…」

 

そうだ…こいつをぶつけてみよう。

 

「テレサ、アンタまさか「テレーズなら、アザゼルの用意した身体の感度が良かったせいでお前とのキスで欲情してしまったから慰めに行った「テレサ!」「えっ!?」今ならヤレるんじゃないか?」

 

「…へぇ…そうなの。じゃあ様子を見て来なくっちゃねぇ…」

 

「ああ、行ってこい。」

 

オフィーリアが部屋を出て行った。

 

「どういうつもり?」

 

「お前が行かなくて済んだんだから良いんじゃないか?」

 

「大体アンタ、彼女に憧れてるんでしょう?自分が行けば良かったのに。」

 

「だから言ってるだろ?私はあいつが快楽に溺れる所を見てみたいんだよ…別に私が相手である必要は無いし、それに…それも女としての幸せの一つじゃないか?」

 

「……クズね、そしてヘタレだわ。」

 

「何とでも好きに言えよ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら167

あれから二時間が経過した…明日は朝から行動するつもりだからそろそろ寝ておきたいのだがな…

 

「…なぁ?お前何時まで起きてるつもりなんだ?」

 

「何よ…アンタは寝たら良いじゃないの…」

 

「大体、乳繰り合ってるだけの奴の何を心配するんだかな…餌をやったんだからそろそろ戻って来るんじゃないか?」

 

「餌?どういう意味よ?」

 

あー…成程。

 

「さっき私が言った事が原因か…良く考えてみろ、キスだけでトロトロになる奴が主導権握れる訳ないだろ。オフィーリアは自分の欲望を満たそうとしてケダモノの所に行ったのさ…そろそろ散々オフィーリアを嬲ったあいつが帰って来て「お前の中で私はどれだけ鬼畜な奴なんだ?」ほら、帰って来ただろ?」

 

再び気絶したオフィーリアを肩に担いで帰って来て、床に下ろそうとしたのを黒歌が慌てて受け止めて、そっと床に下ろした。

 

「どうだ?満足したか?」

 

「この馬鹿を寄越したのはやはりお前だったか…冗談じゃない…こいつが勝手に喘ぎまくっただけでこっちは欲求不満だよ…もう良い。シャワー浴びて、寝る…全く…せっかく手を出さずに済むように部屋を出たというのに。」

 

「ほう?手を出さずに済むように、ね。」

 

「……何が言いたいのか知らんが、あの時この部屋には見た目の良い奴が六人もいたからな。」

 

「そ、そうか…」

 

そう言って服を脱ぎ、洗濯機に放り込んで行く…六人、ね…男女問わない上に、ちゃっかり自分と同じ見た目の筈の私が数に入ってる事に対してどういう反応を返せば良いんだ…?

 

「あっ、ちょっと…オフィーリアはどうするの?」

 

そうか…あいつとヤってたならオフィーリアも汚れてる筈だな。

 

「最低限の後始末はしてやった…いきなり問答無用で襲いかかって来る馬鹿にはそれで十分だろ。…本当はいっそ、そのままトイレに放置してやろうかと思ったんだからな。」

 

そう言ってさっさとシャワーを浴びに行ってしまった…

 

「あ…もう…しょうがないわね…テレサ、オフィーリアの服脱がせるの手伝って…まさか嫌とは言わないわよね?」

 

「…分かったよ、確かに私にも責任があるからな。」

 

しかし…まさかここまで面倒な事になるとはな…

 

 

 

オフィーリアの服…と言っても、相変わらず人の服を下着を付けないで着てるだけの状態だったのでそれ程問題は無かった。仰向けのオフィーリアのパーカーのチャックを下ろし、前を開いた所で黒歌の手が止まってしまう…

 

「……」

 

「どうした?身体を吹いてやるんだろう?」

 

「うん…そうなんだけど…」

 

成程な…

 

「どうした?私で見慣れてるだろう?」

 

クレイモア特有のあの傷が気になっているか。

 

「……」

 

「こういうのは淡々とやるもんだ…何時まで経っても終わらないからな…取り敢えずタオルを持って来い…後は私が脱がせておく。」

 

「分かった…」

 

そう言ってキッチンに向かう黒歌を見送る…さて、とっとと脱がすかな。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら168

「酷いわね…」

 

「普通だろ。」

 

オフィーリアの身体を黒歌が拭いていくのを何となく眺める…

 

「だって…あちこち歯型が…怪我まで…」

 

「激しいのをご所望だったんだろうさ。一々気にしてたら終わらないぞ?」

 

オフィーリアの身体はボロボロだった。細かい傷が大半で半人半妖のこいつの身体なら既に治っていても可笑しくない筈だが、意識が無いせいか中々治らない。

 

「あいつも言ってたが、こういうのは先に手を出した方が悪い「けしかけたのはアンタでしょ」…そう言われたら何も言えないが、な…だが、色魔には良い薬になったろ…見境無く手を出せばどういう事になるかいい加減身に染みて分かった筈だ。」

 

それにしても…あいつはもうクレイモアの身体では無いのにここまでやれるとは…この分なら戦闘でも足手まといにはならないだろう…本当に底が知れないな…ん?そう言えば…

 

「何だ?わざわざ身体を吹いてやってるのか?さっきも言った通り後始末はして来たんだがな。」

 

ある事に気付き、考え込んでいた所ちょうどあいつが戻って来た…ちょうど良い、寝られる前に疑問は解消しておこう。

 

「テレーズ!何も…何もここまでやらなくても良かったんじゃないの!?」

 

「…何を言うかと思えば…先に手を出して来たのはそこの馬鹿だ。大体、私はもうクレイモアじゃないんだぞ?こいつにヤられたら私の身体の方がもたなかったかもしれん。」

 

「それは…そうかもしれないけど「なぁ、テレーズ?一つ聞きたいんだが…」テレサ、アンタこんな時に何を「悪い…大事な事なんだ。」…はぁ…分かったわよ…」

 

「何だ?さすがに疲れてるから手短に頼むぞ?」

 

「オフィーリアは…覚醒しなかったのか?」

 

「あっ!」

 

「…成程な、その事か。有り体に言えばアザゼルは人の身体に余計な細工こそしたものの、それ以上に良い仕事をしてくれたんだ…オフィーリアが絡んで来た時、私は敢えて執拗に攻め立てたんだ…主導権握らせたらこっちが潰されかねないからな…で、当然、オフィーリアは妖力解放を始めたが、私自身も妖力解放して抑え込んだのさ。」

 

「無茶をしたな…つまり最悪、オフィーリアが覚醒していた可能性もあったわけだ…」

 

「…正直私も、終わった…と思ったな…地力は向こうが上だから仕方の無い事とは言え…今の私は覚醒者を狩るのは難しいだろうからな…」

 

「良く分かってるじゃないか…お前がいない間にちょっと気になったから、アザゼルに電話でお前の身体はどの程度クレイモアの身体を再現出来てるのか聞いてみたんだよ…そしたらな…『全体の七割程度なら力を解放しても問題ねぇだろ。計測の時採取した、お前の身体の一部から作り上げた特別製だからな。最も、それ以上は保証出来ねぇがな』…だとさ…」

 

「そうか…なら、戦闘でもあまり足を引っ張る事は「後だな」ん?」

 

「その身体…妊娠するそうだ…」

 

「えっ!?」

 

「余計な事を…」

 

「つまりお前は本当にこれから女としての幸せを享受出来るわけだ…良かったな?」

 

「…何処がだ…クレイモアは基本、妊娠しないから楽だったのに…」

 

「どうでも良いが…確か、リフルとダフは子供を作った覚えがあるのだが…」

 

「アレはまた特別なんだろ…そもそも私たちにはアレが来ないんだぞ…ッ…そうか…妊娠するならこれから来る様になるわけか…」

 

「そうなるな…クレイモアになる前の事をどの程度覚えてるのか知らんが、一度レクチャーは受けた方が良いぞ?黒歌…お前、人と同じ生理は来るのか?」

 

「私は元々猫だから、月経が無いから本来は来ないけど…今は人の身体になってるから一応来るわよ「なら、テレーズに教えてやってやれ」…仕方無いわね…何時来るか分からない以上、今晩中に教えておきましょうか…テレサ?オフィーリアの身体を拭き終わったから着替えさせてくれる?」

 

「了解。」

 

「それじゃ、テレーズ?こっちに来て?」

 

「…仕方無いか、分かった。」

 

黒歌と部屋を出て行くテレーズを見送り、オフィーリアに着せる服を出す為、タンスを漁る…服はまぁ、また私ので良いか…問題は下着か……面倒だし着けさせなくても良いか…

 

ジャージを出して来て、着せる…意識の無い奴から服を脱がせるのはそう難しくないが、着せるのは非常に面倒臭い…まさかこれから毎日の様にこんな事しなければならない訳じゃ無いよな?オフィーリアがこれで少しは懲りてくれると良いんだが…さて…布団を敷いてやる必要も無いか…さっきの毛布をそのまま掛けてやれば良いだろう。…疲れた…私ももう寝よう…あの二人の事は放っておいても大丈夫だろう…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら169

翌朝、私たちは新校舎に向かっていた…

 

「…大丈夫か?」

 

「……いや、あの後結局徹夜だったからな…」

 

「私も何か…疲れが取れなくて」

 

「「知るかボケ。」」

 

「酷くない!?」

 

オフィーリアの場合は自業自得だからな…

 

「はぁ…それで何で休業中の用務員業をわざわざ渋ってるサーゼクスに無理矢理許可を取ってまで再開する事にしたの?…別に会談の始まる夜に動いても良かったじゃない…」

 

「仕事はついでさ、一応顔合わせをしておいた方が良い、古い知り合いがいてね…」

 

「ん?…ああ、あいつか…」

 

「え?誰?」

 

私の中にいたテレーズは合点がいった直後にゲンナリした顔をし、オフィーリアは対照的に誰の事か分からないと言った顔をする…まぁ私の身体にいた時に記憶を直接見たテレーズと違い、過去に私が関わった人物の説明すら詳しくしていないオフィーリアが知らないのは無理も無い。

 

「…まぁ会えば分かるさ…かなり個性の強い奴だからな…」

 

 

 

用務員室に入り、相変わらず溜まっていた書類にうんざりしつつ、三人で手分けして片付けて行く…身内の事情も大体終了したし、会談後は通常通り業務をこなしたいから、さっさと終わらせておかないとな…そこまで考えてから気付く…私にも戦いが必要無くなりつつある事に…オフィーリアは元々本気で今回の一件が済んだら戦うのを止める気のようだし、テレーズは元々しなくて済むならそれで良いと思ってる節がある…クレイモアで無くなったせいもあるかもしれないが。

 

……私も平穏な生活を…いや、当分は無理か…

 

 

 

書類をある程度片付け、オフィーリアに留守を任せ(あいつをまだあまり他の奴のいる所に出したくない…)テレーズの紹介を兼ねてちょうど休み時間を迎えている新校舎の廊下を二人で歩く…認識を誤魔化す魔術を黒歌の仙術による補強ありきで使っているが、そっくりには見える様で、生徒に驚かれ、聞かれる度に私が病欠から復帰した事と、テレーズが双子の姉妹だと説明する…にしても…

 

「…何でお前が姉なんだテレーズ?」

 

「後から出て来た方を上にするのが双子の基準だろう?」

 

「…今の法的には逆だぞ。」

 

「身分詐称をしている私たちに今更法律を適用するのか?」

 

「…もう良い。お前とこういう言い合いをしてもどうせ勝てないからな…」

 

いつもの様に覗きをしたのだろう、こっちに向かって走って来る馬鹿二人をすれ違いざま、足を掛けて転倒させる…普段は普通に躱す癖に今日に限って引っかかった事に多少驚きつつも横を見ればテレーズも同じ事をしていた様だ…本当に双子の様だな…

 

二人を逃がさないように首根っこを掴み、後から追い付いて来た女子たちに引き渡す…当然私とテレーズの事で驚かれたが、さっきの説明をして納得して貰う…何気にほとんどの生徒に顔を覚えられてるからな…この説明を今日一日ずっとしなければならないのか、と考えてたら面倒になって来た…校舎の見回りは控えるべきだったか…今更嘆いても仕方無い、か…さて、見回りに戻るか…

 

その後、書類を終わらせる為、早々に切り上げて用務員室に戻って来た。

 

 

 

 

「…で、今日はそもそも授業参観があるんだったか?」

 

「ああ。黒歌が久々に妹に会えると喜んでいたよ…本当はアーシアも今日までに通わせたかったんだがな…」

 

原作のアーシアと比べて、どうにもまだあいつは不安定だ…知らない奴の多くいる学校に通わせるのは非常に不安だった…

 

「今朝までずっと冥界にいたんだったかしら?良く普通に学校に通えるわよね…」

 

「どんな手を使ったか知らんが公欠扱いになっているらしい…最も補習を受ける事は確定してるがな…どうせ、兵藤辺りは今日の授業について行けず発狂してるだろう…」

 

この学校、元々レベルはそれなりに高い様だから、な…あいつに関しては素行も最近は大人しかったとはいえ、かなり悪かったんだから補習だけで済むかどうか分からんな。

 

「さて、そろそろ授業も終わる時間だが、お前ら書類は終わってるか?」

 

「私は終わってるわよ。」

 

「ちょっと待て…私も終わったぞ。」

 

「良し、では朝に言っていた古い知り合いに会いに行こうか。」

 

「本当に会うのか?」

 

「先に会っておかないとうるさいからな…」

 

まぁ…先に会っていてもうるさい奴だが顔合わせをしていないよりマシだからな…

 

「…ねぇ?結局どんな奴なの?」

 

「会えば分かるよ…そろそろだぞ?」

 

体育館に歩を進めるにつれ、人の声が大きくなって来る…相当の人数が集まっている様だ…

 

「えっ!?何この人の数!?何かやってるの!?」

 

「コスプレ撮影会だよ…但し非公式の、な。」

 

体育館にいる人波を掻き分けながら、前に出る…

 

「あっ!テレサちゃん!久しぶり☆」

 

「ああ…久しぶり、だな…!」

 

「えっ!?…きゃあああ!?」

 

横にテレーズがいるのに一直線にこっちに向かって来る魔法少女のコスプレをしたセラフォルーの抱き着くつもりだったのか、広げていた両手の内、左手を掴み、一本背負いの要領で投げて、体育館の床に叩き付けた。

 

「お前ら、撮影会はもう終わりだ、とっとと解散しろ。」

 

睨みを効かせて集まっていた生徒たちを帰す…さて、ゆっくり古い知り合いと昔話でもするかな?

 

……投げられた直後に私に上にのしかかられたせいか、ずっと涙目で呻き声を漏らす昔馴染みの顔を見ながらそう思った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら170

「うう…痛いよ、テレサちゃん…」

 

「学校での無許可のイベントは禁止だ。どうせ許可なんか取れないがな。」

 

「だって…皆に見てもらいたかったから…」

 

「だってもクソも無い。似合うのは認めるが、そもそも歳を考えろ。」

 

「あっ!酷い!?それはテレサちゃんも言えな…痛っ!?いたたたた…!ごめんなさい!謝るから止めて!?」

 

セラフォルーのこめかみに指を掛け、力を込める…歳の事を言われても普段はあまり気にならないが、こいつに言われると何故か非常にムカつくな。

 

「ねぇ?結局アレ誰なの?」

 

「セラフォルー・レヴィアタン…アレでも現四大魔王の一人だ。」

 

「えっ…アレが…?」

 

「あいつに良いようにされてるが、相当強いぞ?」

 

「……」

 

「…戦ってみたいか?」

 

「う~ん…良いわ別に、面倒臭いし。」

 

「おい!…ありゃ?誰もいな…ん?テレサさん?」

 

「ん?匙か、久しぶりだな。」

 

「はい、お久しぶりです…それでこれは…て…テレサさんが二人!?」

 

驚くのが遅くないか、匙?

 

「あっ!ホントだ!」

 

……いや、もっと遅いのが居た様だ…

 

「そうだな…お前ら生徒会メンバーも今夜の会談に出るんだろ?」

 

「えっ?まぁ会長と違って俺たちは裏方ですが一応…あー…テレサさんも呼ばれてるわけですね…」

 

生徒会メンバーは私の正体をある程度知ってるからな、話は早い。

 

「会談の前に少し時間があるだろう?その時に説明してやる…で、ソーナは今来てるのか?」

 

さすがに実の姉のこんな状態を見たくは無いだろう…

 

「えっ?えと…俺が先に様子を見に来て、多分後から「なら、もうイベントは中止させたから帰れ。」えっ、でも今回の一件一応書類に纏めないと「馬鹿か…鈍い奴だな…今、私の下にいるコスプレ女はあいつの姉だ」えっ?…あー…成程、そういう事でしたら…俺は何も見なかった事にします。会長にも連絡して帰しますから。」

 

原作で匙は色々言われる事が多いが、こいつはハッキリ言って有能だ…正直やらかす可能性の高い、リアスの眷属より何倍も使える。

 

「えっ!?ソーナたんが来るの!?会いたい「お前、この姿を妹に見られたいか?」えっ!?そんなのやだ!早く降りてよ~テレサちゃん!」

 

「反省してないらしいな…このまま私にひん剥かれるのと、帰ってまともな格好に着替えて戻って来る、のどっちが良い?」

 

「どっちもヤダ!ソーナたんに会いた…えっ!?ちょっと服引っ張らないで!?本当にこの場で脱がす気なのテレサちゃん!?」

 

「そのつもりだが?安心しろ、これでも給料良いんだ…破いたお前の衣装代はちゃんと払ってやる…おい匙!見てないで早く帰れ!」

 

「はっ、はい!」

 

匙が体育館を出て行った…さてと…

 

「ほら早く選べ…本当にこのまま引き裂くぞ?」

 

「ヒィ!?分かった!着替えて来るから止めて!?」

 

その後…セラフォルーは泣きながら帰って行った…あれが四大魔王の一人なんだから…どうしようも無いな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら171

帰ったと思ったセラフォルーは早々に戻って来た…聞けばそもそも初めは今着てるレディーススーツで妹の授業を見に行っていたらしい…TPOを弁えてるなら妙な事をするなよ…

 

戻って来たセラフォルーが妹に会わせろとうるさいので、生徒会室に案内する事にする…まず私だけが入り、匙を呼び出し、先程の事を口止めした上でセラフォルーたちを連れて中に入る。

 

妹にベッタリなセラフォルーを放置して私が観測世界の住人である事は伏せた上で、私たちの事を説明する…全員いてくれて助かった…後からまた説明するのは面倒だからな…ソーナ以外、会談をするオカルト部の部室には入らないし。

 

 

 

「セラフォルー、そろそろ行くぞ。」

 

「えーやだ「ここにいたらこいつらの仕事の邪魔になる…何ならもう一回投げられてみるか?」うう…分かった。」

 

「さて、取り敢えずお前らセラフォルー連れて用務員室に行ってろ、匙、ちょっと来い。」

 

「え?はい、分かりました。」

 

廊下の角まで行き、匙に話し掛ける。

 

「セラフォルーの事だが…どう思った?」

 

「ちょっとぶっ飛んでますけど優しそうなお姉さんだな、と。」

 

「ほう。…ところで話は変わるが、お前ソーナが好きだよな?」

 

「え?…ええ!?何で知ってるんですか!?」

 

それを聞いて思わず笑ってしまう。

 

「クク…いや、あのな…当のソーナとセラフォルー以外、お前を見てたら全員が分かると思うぞ?」

 

「そ、そうですか…」

 

「さて、そんなにお前に一つお節介をしてやろう…」

 

「何でしょうか?」

 

「お前、ソーナと結ばれる為に強くなろうとして頑張っているようだが「無駄だと言いたいんですか…?」早とちりするな、その心掛け自体は間違って無いし、ソーナはちゃんとお前の努力には気付いている。」

 

「そっ、そうなんですか…!「だが、それが恋愛感情に発展するかはまた別の話だ」…うっ「それと」何ですか…」

 

「お前セラフォルーが優しそうと言ったな「え、はい」とんでもない勘違いだな。」

 

「え?」

 

「あいつは妹を溺愛していてな、妹の為なら平気で世界を滅ぼす奴だ。」

 

「え…あの「冗談では無い。」えっ!?ちょっとマジ「シー。声がデカい」は、はい…すいません。」

 

「今のお前は言っては悪いが、弱い。」

 

「はい…」

 

「そんなお前がソーナを狙っているとあいつが知れば全力でお前を潰しに来る。」

 

「いや、そんな…嘘ですよね…?仮にも四大魔王の一人が「だから言ってるだろ、あいつは四大魔王の一人セラフォルー・レヴィアタンである前に、ただ、ソーナ・シトリーを溺愛するシスコンなんだよ。」マジすか…あの…俺、どうしたら…」

 

「…ソーナを諦めたくないか?」

 

「ッ…はい!俺は諦めるなんて絶対嫌です!」

 

「なら、一つアドバイスをしてやる…お前のその周りにバレるくらいの気持ちをもう少し抑えろ。」

 

「えっ!?」

 

「強い想いはそれだけ力にはなるが、ここぞという時に出すので無ければ逆に戦いの妨げになる…分かるか?」

 

「はい…何となくですけど…」

 

「お前の実力が伸び悩んでいる原因の一つはそれだ…先ずはその想いを、普段もう少し抑える所から始めてみろ。」

 

「はい!やってみます!」

 

「良し、戻って良いぞ。」

 

「ありがとうございますテレサさん!」

 

匙が生徒会室に戻って行く…さて…

 

廊下を歩き、生徒会室を通り過ぎ、空き教室のドアを開けた。

 

「…何でそんなにあいつに目を掛けてるんだ?」

 

「お前は何でそんな所にいるんだ?…テレーズ。」

 

「質問に質問で返すな、とは言えないか…この場合隠れて聞こうとしてた私が悪いしな…何となくお前の事が気になったからここに隠れて見てたんだ…話の内容は良く聞こえなかったが、あの様子を見るに何かアドバイスをしたんだろう?」

 

「…単純な理由さ、あいつには期待してるんだよ、ある意味兵藤以上にな。理由は分かるだろう?私の記憶を見たお前なら?」

 

「…あいつの神器『黒い龍脈』は現状トカゲ頭から伸ばした舌から相手の力を吸い取れるだけで言ってしまえば凡庸…範囲も限られるし、仲間のサポートをするにしても奪える能力の総量もそれ程高くなく微妙…そもそも相手に近付かないと奪えない…正面切ってのタイマンは本人が未熟なのと奪う以外に出来る事が無く、決め手が無いので無理…後々確かな強さは手に入るが…成程、お前としては成長を早めたいわけか。」

 

「その方が私が楽出来るからな。」

 

「確かに私ももう、あまり戦いたくないからな…そもそもこの身体は、な…」

 

「お前が無理に戦う必要は無いさ…オフィーリアは単純に後が面倒だから、戦って欲しく無いな…確実に私やお前の仕事が増える。」

 

「フッ…確かにな…まぁあまり面倒ならサーゼクスに後始末を押し付ける手もあるが。」

 

「あまり無茶をして過労で倒れたり、暴発されると結局最終的に私たちが駆り出されるからな…」

 

「それは…確かに困るな。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら172

テレーズと二人でオフィーリアとセラフォルーが居る筈の用務員室へ肩を並べて歩く…

 

「…で、結局あいつに何を言ったんだ?」

 

「あいつはソーナを好きだろう?とはいえあいつが弱いままだとセラフォルーに殺されるからな、だから強くなれ、とな。」

 

「……具体的には?」

 

「…普段から好きですと、周りにバレるくらい態度に出てる様な奴が普通に修行したとして強くなるとでも?」

 

「…無い、な。強くなるのに必要な感情は先ず怒りだ…それだって普通に爆発しただけなら余程才能が無ければ、敵には勝てん…待ってるのは死だ。好意に関しては邪魔とは言わんが、ただ単に好きな奴にカッコイイ所を見せたいとか思ってるだけの奴はハッキリ言って戦場には要らん…味方の足まで引っ張るからな…昔の私なら問答無用で斬っている。」

 

「実際に組織に所属して戦っていたお前が言うとさすがに説得力が違うな…私は基本一人で好きな様に戦ってたし、良く分からんが。」

 

「良く言う。…まぁあいつに関してだけ言うなら、どれだけ強くなっても味方ありきの力しかないからな、単独でもある程度までの奴なら方をつけれるだろうが、格上なら間違い無く歯が立たないな。」

 

「サポート役としてなら一級だよ。…単独での戦力面は私も初めから当てにしてない。」

 

「…ちなみに肝心の恋愛面はどうだ?お前が来て変化はあったのか?」

 

「…無いな。相変わらずソーナの意識としては言ってしまえばあくまで上司と部下。あっても扱いは弟の様な物…さすがに私も鬼じゃないからな、初めから選択肢に無いから普通にアタックしても先ず無理だ、とは言えなかったよ…」

 

「縁談の数だけならリアスより多いんだったか?」

 

「尽く断ってる様だがな…余計に匙の勘違いが強くなってる様だ…」

 

「現状脈は無い以前の問題なんだがな…言った方が良かったんじゃないか?」

 

「…私からは言えんよ。」

 

「まぁ私は口出しするつもりはこれ以上無いがな…人の恋路に口出しする事程、面倒な事はそうは無いからな。」

 

「言えてるな…私も本来なら何も言いたくないんだがな…」

 

そうして用務員室が見えて来た辺りでテレーズが足を止める…

 

「どうした?」

 

「…いや、この場合私に原因があるが今オフィーリアはセラフォルーと二人きりでここにいるんだなと思ってな…」

 

「あ…」

 

「よりにもよって和平会談当日に魔王の庇護を受けてるにも関わらず、別の魔王に手を出す程アレが馬鹿だとは思いたくないが…」

 

「性格はともかく、黙ってれば普通に美女だからな、セラフォルーの場合…」

 

見慣れた用務員室のドアがまるで異界の入り口の様に見えて来る…

 

「まぁ…この距離でも何も聞こえないし「いや…仮に何も無くても、セラフォルーの性格から考えて初対面の相手でも黙ってる事は先ずない…つまり、これだけ近付いても何も聞こえないということは…それだけこの部屋は防音がしっかりしている、という事だ」…中で実際何が起きてるのかは分からない、か…入りたくないな。」

 

「そうも言ってられんだろう…トップが揃う会談で万が一、セラフォルーが出席しなかったら面倒な事になるぞ…」

 

「手遅れだったらどっちみち会談どころじゃないだろ。そこまで言うならお前が開けろ。」

 

「いや、お前が開けろ…私は…嫌だ。」

 

「状況次第ではオフィーリアを実力で沈める必要がある…今の私では無理だ。」

 

「……仕方無い、私が開けるしかないか…」

 

用務員室のドアに手を掛ける…引き戸だ…立て付けは悪くないのでそれ程力は要らない…ちょっと力を込めれば開く…私は軽く深呼吸して一気にドアを引き開けた…

 

「…あっ!テレサちゃん助けて!私この子に食べられちゃう!」

 

ドアを開けた先に飛び込んで来たのはレディーススーツを脱がされ、下着姿になったセラフォルーの上にオフィーリアが乗ってる光景だった。

 

「あの、馬鹿…!」

 

私は妖力解放し、一気に踏み込むとオフィーリアの顎に膝をたたきこみ、昏倒したオフィーリアの服の襟を掴み、外に放り投げた。

 

「テレーズ!その馬鹿を部屋に持って行って縛っておけ!」

 

「分かった!後を頼むぞ!?」

 

外から聞こえたテレーズの声を聞きつつ、取り敢えず泣きながら抱き着いて来たセラフォルーの頭を撫で、先ずこいつをどうやって宥めるか考えていた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら173

気絶したオフィーリアを肩に担ぎ、窓から外に出る…一応、今日は一般生徒は部活の生徒を除いてさっさと帰るよう話が言っている為か、廊下に人気は無いが、楽観は出来ん…周りに誰もいないのが確認出来たので、さっさと旧校舎に入る…

 

部屋のドアを勢い良く開けると、中には黒歌と塔城がいた…しまった…こいつを連れて来てたのか…

 

「…テレーズ?どうしたにゃ?…その、担いでるの、オフィーリアよね?」

 

「あの…お邪魔してます…」

 

「ああ…それで何だが…」

 

私は塔城の顔を見る…

 

「あ…私は今日はこれで帰ります…黒歌お姉様、また…」

 

察しが良くて助かるよ…

 

「うん、ごめんにゃ、白音…」

 

「すまないな、黒歌は今は基本的にここにいるから、また何時でも遊びに来たら良い…」

 

「はい、それでは夜にまた…」

 

塔城が私に頭を下げ、少し寂しそうに出て行った…

 

「邪魔をして悪かったな…」

 

「…良いわよ。貴女が言った通り、何時でも会えるし。それで…もしかしてまたオフィーリアが何かやったの?」

 

「あー…実はな…」

 

私はオフィーリアを縛りながら先の一件を黒歌に説明した…

 

「それはまた…何と言うか…救い難い大馬鹿者ね…」

 

「とんでもない事をしてくれたよ…幸い、未遂ではあったが、セラフォルーはそれなりにショックを受けていた様だしな…最も今回の場合、手を出そうとしたオフィーリアが悪いとはいえ、こいつだけが原因じゃない気がするが…」

 

「どういう事?」

 

「それがな…」

 

 

 

 

「…落ち着いたか?」

 

「うん…ありがとう…」

 

しばらく泣きまくった後、セラフォルーは自分で私から離れた…

 

「さて、こちらとしては状況を確認しなければならないが…大丈夫か?」

 

「うん… 」

 

「そうか…とはいえ起きた事自体は私とテレーズの見たまんまだろうから、特に詳しく聞く必要は無いだろう…私が確認したいのは一つ…セラフォルー、お前からオフィーリアを誘ったのか?」

 

「…うん…ごめんなさい…」

 

「はぁ…」

 

私はセラフォルーの予想通りの言葉に溜息をついた…

 

 

 

 

「…セラフォルーの方から誘った?…でも、テレサに助けを求めたんでしょう?」

 

「あいつの知ってるセラフォルーには悪癖があってな、気に入った相手は誰でも誘うんだよ…男も稀に誘うが、大抵は女の様だな…実際、あいつ自身も何度か口説かれたらしい。」

 

「…それは分かったけど…自分から誘ったなら何で…」

 

「そこがあいつの面倒なところでな…大抵、相手がその気になると逃げるんだ…要は揶揄ってるだけなんだよ…実際あいつ自身実力は確かだから力で捻じ伏せようとしても返り討ちにあうのがほとんどだ…で、今回もいつもの如くオフィーリアを揶揄おうとしたら思いの外強い力で押さえ付けられてビビってしまったと…普段戦闘で向けてる力をそのまま平気でそれにぶつけられられるのが私たちだ、実際はろくに経験も無い癖に余裕をかましてるだけの奴がどうこうできるわけもない…最も全力で抵抗していれば押し負けたのはオフィーリアの方だった筈だがな…」

 

 

 

 

「お前な、あの頃何度も言ったよな?実際はその気も無い癖に安易に揶揄ったりするのは止めろ、と。…しかも実際はそんな事した事も無い癖にな。」

 

「う…だって…オフィーリアちゃん、改めて見たら結構可愛かったから…つい…まさかあんなに強い力で押し倒されるなんて…」

 

そう言って自分の身体を抱きながら震える…自業自得、とは言いづらいな…それに…

 

 

 

 

「え?オフィーリアは気付いた上で襲いかかったって事?」

 

「当然だろ。一目見て分かった筈だ…そこで止めて欲しかったんだけどな…ん?」

 

「私ね…あっ、テレサだわ…もしもし?…うん、居るわよ?…分かった、今代わるわね?はい、テレサが代わってって。」

 

そうか、私の携帯はまだ無かったからな…私は黒歌から携帯を受け取り、電話に出た。

 

「もしもし、ああ…私だ…セラフォルーは落ち着いたか?」

 

『ああ…で、今回の一件の切っ掛けなんだが「誘ったのはセラフォルーの方から、で合ってるか?」…お前もそう思ったか…そうだ、今さっきセラフォルー本人から確認が取れたよ…』

 

「で、どうするんだ?」

 

『誘ったのがセラフォルーの方からとはいえ、本人はまだ怯えていて、私から離れようとしないんだ…このままだと会談どころじゃない…』

 

「延期は出来ないのか?」

 

『無理だろ。悪魔同士の会談ならまだしも、他勢力が来るんだ…アザゼルには話を通す事も出来るが、もう一方は…』

 

「…取り敢えずサーゼクスには話を通した方が良いか?」

 

『いや、もう少し待て…サーゼクスに話したらここに出向くしか無くなるだろ?…男にヤられそうになったならまだしも、襲って来たのは女だぞ?一緒に来るだろうグレイフィアにすら迂闊に会わせられんよ。』

 

「…お前がどうにかするしかないわけか…出来るのか?」

 

『出来無いとは口が裂けても言えないだろ…全く面倒な事になった…取り敢えずセラフォルーがほとんど経験が無いのにすぐ気付いた癖に襲おうとしただろうオフィーリアはきっちり絞っておいてくれ。』

 

「お前なぁ…簡単に言うが今の私が真っ向からオフィーリアに挑んで勝てるとでも?今、この場で首を落とせ、なら出来無い事も無いが…」

 

幸い、今のオフィーリアはまだ気絶しているからな…

 

『馬鹿か。襲撃があるのは分かってるのに大事な戦力を減らしてどうするんだ…人手不足なんだぞ?…言うまでもないが、遊ばせておくのも論外だ…会談が予定通り行えるなら出て貰わないと困る…だが、その馬鹿が戦闘が始まるまで大人しく出来無いならセラフォルーは会談の場には出て来れない。』

 

「じゃあ、どうしろと『犯せ』…今何て言った?」

 

『その馬鹿が満足するまで犯せ』

 

「正気か?」

 

『正気で言えるか、こんな事…!こっちも余裕が無いんだ…!』

 

「……お前、今セラフォルーと何してる?」

 

『分かってるんだろ!現在進行形で私が襲われそうになってるんだよ!変なスイッチが入ったらしくてな!』

 

「…取り敢えず分かった…何とかしてみよう…お前はお前で頑張れ。」

 

『棒読みで言うな!くそっ!万が一失敗したらお前を殺してやる!』

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ…じゃあな。」

 

私は電話を切り、黒歌に返した。

 

「どうするの?」

 

「……」

 

私は縛られた状態のオフィーリアを担いだ。

 

「えっ?ちょっと、何処行くの…?」

 

「会談までには戻る…」

 

私は部屋を出た。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら174

旧校舎内をセラフォルーと歩く…はぁ…

 

「セラフォルー…そろそろ離してくれないか?」

 

「やだ☆」

 

セラフォルーがずっと私の腕に抱き着いたままなので非常に歩きづらい…

 

「何度も言うがな、私はお前の気持ちには応えられないぞ?」

 

オフィーリアに食われかけたセラフォルーは何を思ったか、私を求めた…散々説得したが聞き入れず、結局そのまま…あれだけ怯えていたセラフォルーがこうして会談に出ようとしているのを考えれば悪い事でも無いのかもしれないが…問題はその後だ…

 

『私はオフィーリアちゃんに襲われそうになった恐怖を忘れたくてテレサちゃんと交わった訳じゃないの。あの時のテレサちゃん、とってもカッコ良かった…』

 

『そうか『それでね』ん?』

 

『これからは貴女と同じ道を歩いて行きたいの……ダメかな?』

 

……無論、断ったがセラフォルーは私から離れようとはしない。

 

「私ね、諦めが悪い方なんだ。今はまだ友だちのままで良いから…だから…もう少しだけ…このままで…お願い…」

 

「……もう好きにしろ…」

 

ここで拒否出来無いのが私の甘さなのだろう…

 

 

 

会談の場所であるオカルト部の部室が近い事を指摘すると漸く離れ…

 

「えへへ…」

 

「……」

 

今度は手を繋ぎたいらしい…さっきよりはマシだから良いか…何と言うか、図体のデカい子どもを相手にしてる様な気分になって来たな…

 

 

 

「あっ!遅いじゃないテレサ!」

 

黒歌が怒って駆け寄って来て私とセラフォルーが手を繋いでいるのを見て絶句する…こいつ、どさくさに紛れて恋人繋ぎに変更しているな…

 

「……どういう事?」

 

「……会談の後に説明する…」

 

黒歌の目から光が消えた…目のハイライトって本当に消えるんだな…

 

…黒歌は一応私に好意があるんだったな…オフィーリアには無反応だったが…あー…そうかセラフォルーはあまりにもあからさまだしな…

 

「その様子だと私たちが最後か?」

 

咳払いしながら黒歌に聞けばすぐハイライトは戻り、返事が帰って来る。

 

「そうよ、相手方はもう来てるし、魔王の一人がいないって事で結構ザワザワしてたわよ…」

 

「……言ってないよな?」

 

「言えないでしょ…原因はこっちの身内なんだし…」

 

「なら、良い…」

 

セラフォルーはまだ手を離す様子は無い…心做しか黒歌を見た時、私の手を握る力が強くなった様な…黒歌が私に好意がある事に気付いたのだろうか…

 

 

 

オカルト部の部室の前に着いて、漸くセラフォルーは離れ、サーゼクスたちに合流した…

 

「その様子だと上手く行ったのか?」

 

「上手く、ね…アレがそう見えたのか?」

 

そう言ってテレーズの方を見れば、オフィーリアが腕にしがみついていた…

 

「…どうしたんだそいつ?」

 

「いや…お前の言う通り仕方無くヤリまくったら今度は完全に気に入られた様でな…」

 

「…ご愁傷様で良いか?」

 

「それはお前にも当て嵌まるんじゃないか?」

 

「…そいつに好かれるより何倍もマシだろ。」

 

「確かにな…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら175

「ねぇ?前から思ってたんだけど、二人して私の扱い酷くない?」

 

「「やっぱり馬鹿だろお前?」」

 

「え!?」

 

「いや、あのな…向こうでやらかした事もそうだが、ここに来てから、お前がした事を考えてみろ…最大のやらかしが今日の一件だ。仮にもし、あのままセラフォルーの精神が安定せず、会談に出席しなかったら、和平会談自体がフイになってたかもしれなかったんだぞ?」

 

いくら三大勢力のトップのほぼ全員が和平に乗り気だったとしても、欠席者が一人いるだけでそれなりに激しい追求がある事は想像に難くない…しかも理由は身内間のゴタゴタで到底他勢力の奴には話せない…

 

「だっ、だって…!向こうから誘って来たし、普段から遊んでるタイプなのかなって「嘘付け。押し倒す前から本当は口だけの奴だと気付いてただろう?」そっ、それは…!初物なんて私からしたら結構レアだし、ちょっとくらい味見したいなって…つい、力が入って予想以上に怯えてくれるから、クラって来て…でも、膜は残してあげるつもりだったのよ?」

 

「……お前のその相手が嫌がっても堕とせばOKの理屈はいよいよ理解出来ん…言っても分からないなら本当に殺すぞ?」

 

「え!?やっ、やだ…!」

 

そう言って一層強い力でテレーズの腕にしがみつくオフィーリア…こいつ、まさか…

 

「わっ、私は本当にテレーズが好きになったの…!だから離れるのは嫌…!」

 

「……テレーズ?」

 

「…私としては…こいつが本気なら応えても良いと思っている…」

 

「正気か?」

 

「あの時言っただろう?私にはクレア以上に本当に大事な物は見つからなかったんだよ…この世界なら私たちの様な者でも普通の恋愛が出来そうだからな。最も、私はもう実質クレイモアでは無い訳だが。」

 

「本当に良いのか?」

 

「ああ。…アザゼルとの約束は果たすが、それ以降こいつ以外とする事はもう無い…お前としてもその方が良いだろう?こいつも大人しくなる事だしな。 」

 

「お前が良いなら別に私は構わないがな…」

 

予想外の結果にはなったが、確かにオフィーリアが大人しくなるならそれは確かに私としても喜ばしい…

 

「というかだな…お前、私の事を気にしてる場合なのか?」

 

「何がだ?」

 

「え?だって…ついさっきそうなったセラフォルーに黒歌、それからリアスの眷属の姫島朱乃だっけ?貴女にそういう気持ちを向けてるのがざっと例を出しただけでも三人もいるのよね?」

 

「あ…」

 

そうだった…私はこいつらに構ってる場合じゃなかった…

 

「まあ下手するとこの面子に加えてオフィーリアがいた訳だ…良かったな?一人減ったぞ?」

 

「ちょっと待て!三人の相手を私にしろと!?」

 

「三人で、良いのかしら?姫島朱乃については良く知らないけど、残り二人に関しては明らかに独占欲が強そうよ?」

 

「クッ!テレーズ「いや、協力しないぞ。私はこいつの相手だけで手一杯でね」いや、しかしだな「アザゼルに関してはテレーズの身体を用意してくれた恩もあるし一回くらいは仕方無いけど…それ以上は私がテレーズを殺しちゃうもの♡これ以上他の子とするなんて私が嫌なの♡」そんな…」

 

お前がそれを言うのかオフィーリア!?

 

「まぁ、お前の自業自得だな「何で、だ…」…いや、お前気付いて無かったのか?割と勘違いしても仕方無い態度をかなりの頻度で取ってるぞ…正直発覚してないだけで私はお前が今まで堕とした奴はこの三人だけじゃないんじゃないかと思っているんだが…」

 

「馬鹿な…!?」

 

「まっ、私はもう降りたから後は頑張ってね、テレサ♡」

 

「取り敢えず今落ち込むのは止めろ。まだ仕事が終わって無いだろ?」

 

「そうね。私も公私は分けるわ…この後どうするにしても、この仕事は確実にこなすつもり。」

 

「という訳で…さっさと立ち直れ…何なら一発殴って喝を入れてやろうか?ん?」

 

「良いわね♡私もやってあげるわよ?」

 

「勘弁してくれ…今お前らに殴られたら多分終わる…」

 

「じゃあしっかりしてくれ。実力的にお前がこっちの守りに付く必要があるからな。私はギャスパーの所に行ってくる…成長著しい塔城と一緒だからな、こっちの事は気にするな。じゃあオフィーリア、後でな?」

 

「うん♡待ってるから♡」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら176

「…退屈ね…欠伸が出そうだわ…」

 

「我慢しろ、とは言えんな。私も同意見だ。」

 

この会談…一応今代の赤龍帝と白龍皇、嘗ての戦争の頃にいた私と今更になって発見された同じ種族のオフィーリアのお披露目、それから私の中にいたテレサもといテレーズの話をした以外は特筆事項も無い…あくまで護衛でしか無い私たちは発言権も無く(別にこの会談に異存も無ければこれからについての意見も無いが)紹介が終わってからは完全に奥に引っ込み、こうして小声でオフィーリアと会話する余裕すらある訳だ…

 

まぁ強いて私の記憶と違いがあるとしたらリアスを含むグレモリー眷属(私がいない間に入ったのだろうゼノヴィアを除く)が私の記憶のそれより強い事、アーシアがおらず黒歌がいる事、それと…

 

「あ…セラフォルーがまた貴女と目が合って照れてるわね。私が横にいるのに全く気にしてないみたい。」

 

「言うな…今は忘れさせてくれ…」

 

あいつがあの反応を見せる度に黒歌からの視線が強くなる…あいつは話せばある程度は理解するタイプだし、先に説明すべきだったか?…ッ!

 

「来たわね…向こうはかなり恨みが強そう…」

 

「奇襲のはずなのにここまでの殺気を送って来るか…相手はただの馬鹿で安心した。」

 

…明らかにはぐれ悪魔の方が強そうと感じる辺り、やはりこの世界には異変が起きている様だ…考察は後にしておこうか…ここにいる連中、実力はともかく長く戦いから離れていたせいか大半がまだ敵襲には気付いていな…いや、サーゼクスとグレイフィア、それにアザゼル、後はリアスたちもゼノヴィアを含め全員気付いている様だ。…正直、少し見ない間に予想以上に兵藤が強くなっている事を嬉しく思う。

 

「…サーゼクス、ちょうど和平は成ったな。…私たちは動いて良いか?」

 

「ん?もう好きに動いてくれて構わないよ?ギャスパー君の事はテレーズに任せているのだろう?ここは私たちに任せてくれて良い…では、話の途中だがここで切らせてもらおう…敵襲だ!」

 

その言葉と同時に校庭から爆音が聞こえる…派手な登場だな…襲撃の基本は奇襲だと知らないのか?

 

……それにしても…時間が止められている様子は無いな…あいつら、別働隊の任務の成功も確認しないで動いたのか?…まあ、そもそもテレーズと私が鍛えた小猫、それから覚悟の決まったギャスパーがいる部屋を襲撃しても無駄だがな。

 

さて、窓を開けてと…

 

「私たちが雑魚を蹴散らすまでお前らここを動くなよ?「まさか私も動くな、なんて言わないでしょうね?」まさか。期待しているよ黒歌、そもそもお前は私が何言っても勝手に戦いに出るだろう?お前とリアスたちにはちゃんと働いて貰うさ。…では、行こうか?」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら177

いざ外に出てみれば、恐らく魔術師であろうローブを被った連中と剣やら、斧やら、武器を持った連中が…?……ここに来るのは魔術師だけでは無かっただろうか?…まあいい、考えるのは後だ。…大した使い手でも無さそうだしな。

 

「…リアスたちはチームを組んで当たれ、最低でも二人以上で行動しろ、黒歌、こいつらのフォローにまわってもらって良いか?」

 

「りょ~かい。…あんた指揮出来たのね…結構板についてるわよ?」

 

「好きでやってるんじゃない…本当は苦手なんだ…私とオフィーリアは好きに動く、巻き込まれたくなかったら手伝おうなどとは考えない事だ…自分たちの獲物に集中してろ。」

 

「適当ねぇ…貴女の指示なら聞いてあげても良いと思ってたのに。」

 

「…お前がいざ戦闘始まってから律儀に指示を聞くとは思えんからな…ッ!来るぞ!散れ!」

 

こっちに魔術師の一団が滅びの魔力を放とうして来るのが見えて、慌てて指示を出し、私もその場から飛び退く…巻き込まれた奴は無し、と。…そこで目を閉じ、意識を切り替える…あの頃、右も左も分からない中、真っ先に身に付いたスキルがこれだ…すぐにでも戦闘に特化した状態に意識を切り替えられなければ、この世界では所詮、中途半端な強さしか無い私などとっくに死んでいた…目を開ける…

 

「……」

 

見える…敵の動きは元より、味方であるリアスたちの動きも…黒歌の動きも把握出来る…?オフィーリアは?

 

「ちょっと?」

 

「…ん?お前、何で横にいるんだ…?」

 

非常時なのに惚けた声が出てしまった…何だ?こいつの性格的にもう真っ先に斬りこんでいると思ったんだが…

 

「…そんな顔しなくても良いでしょ?私だってこの状況でただ暴れれば良い訳じゃない事くらい分かるわよ…聞き忘れた事があったの。」

 

「…何だ?手短にな。」

 

何時の間にか、武器を手に持った連中に囲まれているのに気付き、オフィーリアと背中合わせになりながら会話に応じる…こいつに背中を任せる事になるとはな…疑ってる場合でも無いが。

 

「貴女もテレーズもこの場では基本的に殺すな、が方針の様だけ、ど!」

 

「そうだ、な!」

 

会話の間もこちらを待つ事無く、向かって来る連中を殴り飛ばし、蹴飛ばす…やはり弱い…最も私とオフィーリアにとっては、だが。黒歌はともかく、まだあいつらにはこの程度の使い手でも辛いだろう…

 

「ふぅ…本当に斬らないの?私と貴女、黒歌はともかくあの子たちにはこいつらの相手はキツイわよ?」

 

「…何を言うかと思えば…」

 

こいつに自分や、私とテレーズの事ならまだしも、それ以外の連中を気にしている事に少しの驚きを感じつつもこいつの勘違いを正してやる事にする。

 

「私もテレーズもお前に言ったのは殺すな、という事だけだ…分かるだろ?この場にはクレアもアーシアもいない…だから、現状武器の無いテレーズがギャスパーたちの所に行ったのさ…」

 

「そういう事…難しい注文するわね…」

 

「おや?仮にも元No.4がそれくらい出来無いとでも?」

 

先の攻撃で実力の差が見えたのか、警戒して中々、向かって来ない連中から視線を逸らさず、オフィーリアを煽る…いや、さっさと向かって来いよめんどくさい…

 

「言ってくれんじゃない…分かったわ…じゃあ、私は暴れさせてもらうから、貴女は貴女で頑張ってね♡」

 

ちょうど私が剣を抜いた所で、オフィーリアも剣を抜いていた…堪え性の無いこいつが今まで剣を抜いていなかった事が今日一番の驚きだよ…そしてオフィーリアが先に自分の目の前の敵に突っ込むのが分かった…さて、私も行こうか…!

 

目の前に振り下ろされる武器を躱し、その腕を斬り落とす。上がる叫びを意識から切り離し、もう片方の腕と、両足を切断…序に両目を潰す…要は殺さず、戦う力を削げば良いのだ…ショック死する可能性もあるが、さすがにこいつらそんなヤワな奴らじゃないだろう…さすがにこの場にクレアやアーシアがいたらこんな光景は見せられんがな…

 

囲んでいる敵を、オフィーリアと共に蹂躙しつつ…周りを確認すれば、リアスたちも分かってるらしく、敵を無力化している…本当にお前らの成長が嬉しいよ…ゼノヴィアは元々分かっているようだ…まだ未熟な様だが、木場と同じく、剣の素養があるだけあって良い動きをしている…終わったらあいつの稽古も付けてやるかな…ゼノヴィアが望むのなら、だが。

 

……さて、終わらせようか!

 

無駄な思考に回していた意識をカット。目の前の敵を潰す事だけに集中する…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら178

あいつらと別れ、ギャスパーの部屋に向かう…塔城が守りについているとはいえ、念の為だ…それに今の私には武器が無い…アザゼルめ、せめて適当に硬い剣でも用意してくれれば良かったものを…!…ふぅ…焦っているな…アザゼルも時間のない中、私のこの身体を用意してくれたのだ…感謝こそすれ、責めるのは間違いだな…

 

…と、着いたな…

 

「騒がしいな…」

 

相変わらず防音の緩いギャスパーの部屋からは四人分の騒ぐ声が聞こえて来る…主に女子三人に、ただ一人の男子だが、女にしか見えないギャスパーが色々弄られている様だ…私も入って揶揄ってやりたい所だが…

 

「無理だな…」

 

ギャスパーは敵襲時に唯一闘える塔城すら止めてしまうだろう…フリーで動ける奴がどうしても必要だからな…

 

私は壁にもたれながら目を閉じた…

 

 

 

 

「ッ!来たな。」

 

部屋の中に直接転移したらしく連中の騒ぐ声が聞こえるが、すぐに声が聞こえなくなる…止めてしまったか…

 

「…良し、私が…ッ…無理か…」

 

廊下にいる私の前にも転移して来た奴らがいた…これでは私はここを動く事は出来無い…

 

「…何だ?お前ら?」

 

それに対して奴らの返事は…無言で武器を構える事だった。

 

「ふん。会話する気は無しか。良いだろう…遊んでやるよ。」

 

私はこちらに向かって武器を振り上げ、向かって来る連中を溜息をつきながら見ていた…

 

 

 

「全く…歯応えの無い連中だ。」

 

襲って来た連中が全員床でのびている…まさか素手の私に武器を使って、一太刀も浴びせられないとはな…おまけに狭い場所である事を意識出来無いらしく、何度か味方同士で攻撃する始末である…こんな連中の事はどうでも良い…さっさと部屋に入るか…静かになっているギャスパーの部屋のドアを開け…

 

「…ギャスパー…」

 

「テレーズさん…僕…」

 

ドアを開けてすぐの所に震えるギャスパーとローブを着た魔術師らしき連中が数人倒れていた…こいつがやったのか…?

 

「ギャスパー…これはお前が…?」

 

「はい…」

 

そう言ってギャスパーは俯いてしまう…これだけの勇気を持った奴を私は信用していなかったのだな…本気で情けなくなって来るよ…

 

「…ギャスパー、お前は間違って無い…友人を守る為、動いたお前が間違っている筈は無い…」

 

「でも…僕…」

 

何とも不器用な肯定の仕方だな…この場に居たのがあいつだったなら素直に褒める事も出来ただろうに…。

 

「…そうです、ギャー君は私たちを守ってくれました…間違いだなんて誰にも言わせません…絶対に…」

 

「小猫ちゃん…」

 

「…そういう事だ…塔城、クレアとアーシアはどうしてる?」

 

「クローゼットの中に隠れてもらってます…敵はギャー君が倒してしまいましたし、今の所は安心です…ッ!今の音は…?」

 

「…外の方に会談の場を襲撃する連中が到着したんだろう…ここは私が引き受けるから行って来い。」

 

「え…でも「暴れ足りないんだろう?」…正直に言えば…はい…よりによってギャー君がこいつら皆倒してしまったので…!」

 

「こ、小猫ちゃん…何か怖いよ…!?」

 

守ろうと思っていたら、逆に守られて怒る、か…まあ気待ちは分からんでも無いが…

 

「塔城、それをギャスパーに向けるな、八つ当たりなら連中にして来い…」

 

「…そうですね「今行けば、黒歌と一緒に戦えるぞ?」ほっ、本当ですか!?」

 

「ああ、間違い無くあいつも戦場に出ている。」

 

「分かりました…なら、ここはお任せしま「待って!」…どうしたんですか?クレアちゃん?」

 

「行ってらっしゃい!小猫お姉ちゃん!」

 

「ッ…はい…行ってきます…!」

 

それから私の目でも追い切れないスピードで塔城は走り去って行った…あいつ確かパワータイプじゃなかったか?正直、今のは木場より速かった気がするぞ…途中でバテないだろうな…?最後、クレアにお姉ちゃんと呼ばれて表情も緩み切っていたし……まあ気にしても仕方無いか…今の私はあっちには行けないからな…

 

「クレア、先に部屋に入っててくれ「分かった。」…さて、ギャスパー…こいつらを縛るぞ?」

 

「え…?」

 

「…気付いて無かったのか。こいつらまだ生きてるぞ?」

 

つまり、倫理的な面から見てもこいつは間違って無いのだ…

 

「分かりまし…テレーズさん!」

 

「ん?」

 

私の後ろで武器を振り上げた奴をギャスパーの方を見たまま蹴りあげ落ちて来た所で蹴り飛ばす…気絶したな…

 

「…どうかしたか?」

 

「いえ…何でもないです…」

 

「そうか…あー…取り敢えずロープか何か部屋から持って来てくれ。」

 

「はい。」

 

ギャスパーが部屋に入る…

 

「…そっちは問題ないよな?」

 

私に離れていても味方の事が分かる特殊能力なんてものは無い…無事を祈る事しか出来無い訳だが…

 

「…いや、私が気にする事では無いか。」

 

あいつはテレサなのだ…この程度の連中に遅れをとってもらっては困る…オフィーリアもいるし、黒歌もいる…私が心配する必要も無いだろう…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら179

一通り片付いた所で紫色の魔法陣が現れ、そこからとある人物が出て来る…

 

「…あれが貴女の言ってた先代の魔王?」

 

「ああ…カテレア・レヴィアタン…セラフォルーの前の魔王だよ…どう思う?」

 

カテレアは戦場にいる私たちを無視して旧校舎…いや、中にいるセラフォルーを睨み付け、色々口上を述べているが、ハッキリ言って興味は無いので意識から追い出す。

 

「…どうもこうも…貴女も分かってるんじゃないの?」

 

「まあ、そうだが…戦士としての経験はお前の方が上だろう?その上で聞きたいんだ。」

 

私の言葉に呆れ顔をしながら、オフィーリアが答えた。

 

「良く言うわ。…でも、純粋に私の意見を言わせてもらうなら、セラフォルーの方が強いでしょ、間違い無く。向こうは自分は実力では負けてないと勝手に思っている様だけど。大体、怒り混じりにまだ勝ってもいないのに自分の目的をペラペラ喋る奴なんて三下のそれでしょ。」

 

カテレアは自分がセラフォルーを打倒して魔王に舞い戻る気の様だ…確かに反逆の理由をあっさり喋る辺り皮算用も良い所で、オフィーリアの言っている事にも確かに一理あるが…

 

「中々辛辣だな…」

 

「雑魚を雑魚と言って何か悪い?もちろん、自分の弱さをきっちり分かった上で努力してるなら、見込みもあるけど…アレはプライドが先行して自分が強いと思ってるだけのただの馬鹿ね。」

 

……こいつに馬鹿と言われるなら終わりだな…

 

「…アザゼルが出るな。」

 

「これも貴女の話通り…あら…あー…アザゼルは引っ込めた方が良さそうよ?」

 

「何でだ?「だって、ほら…」ん?…成程な。」

 

オフィーリアが指を指した方向には既に氷の魔力が目に見えるレベルで身体から盛れ出しているセラフォルーがいた…相当怒ってる感じだな…私の記憶では古い付き合いのせいか、ああもカテレアに本気では怒らなかったのだが…

 

「…色々吹っ切れたんでしょ?貴女を好きになった事で。」

 

「あのな…私からしたらアレは事「それは今言わない方が良いんじゃない?ただつっ立ってるだけで、あれだけの魔力が盛れ出してるのよ?セラフォルーの事を考えるなら事故だったなんて言わない方が良いわ…多分貴女の口からその言葉を聞いて心が折れたらあの魔力は全部セラフォルーに帰ってくるわよ?」…まあ、取り敢えずアザゼルには退いて貰おう…アザゼル!」

 

「あ!?何だテレサ「やる気になってる所悪いんだが、お前は退いた方が良さそうだぞ?」何で…チッ…しゃあねぇ…ここは譲ってやるよ。」

 

私が指を指した方向にいたセラフォルーを見て、アザゼルはすぐに退く事に決めた様だ。カテレアが煽って来る…

 

「怖気付いたのですか?まあ、貴方がどうしようと勝手ですが逃がすとでも「自分に酔うのは勝手だけどよ、周りはもっと良く見た方が良いぜ?」なっ、何を…きゃあ!?」

 

アザゼルが飛び退いた所でセラフォルーの放つビームがカテレアに当たる…煙が晴れない中、セラフォルーが無言で更に撃ち込む…

 

「…少なくとも知り合いではあるんだっけ?容赦ないわね?」

 

オフィーリアでさえ引いているようだ…セラフォルーの攻撃は続いているが、カテレアの気配は動いていない…どうやら動けないまま攻撃を食らい続けている様だ…

 

「さっさと終わらせたいのかしら…貴女よっぽど愛されてるみたいよ?」

 

「冗談じゃない…愛が重過ぎて震えて来るよ…」

 

「あー…お前ら、何か知ってるのか?説明して貰って良いか?」

 

困惑したアザゼルがやって来た…あそこまでセラフォルーがキレてる理由を聞きたい様だ…

 

「今のセラフォルーにとって、これは些事って事でしょ。早く終わらせてこの子と話したいのよ。」

 

「どういう事だ?」

 

「…私がセラフォルーから実質プロポーズに近い事を言われてね…断ったんだが…」

 

「…あの見境無く声掛ける奴が本気でねぇ…変われば変わるもんだな…」

 

「…勘弁して欲しいよ…あいつ含めて三人、いや、四人から好意を向けられてるんだ、私は…」

 

今更になってライザーからも好意を向けられてる事を思い出す…結局私が携帯を壊した日でさえ、特に連絡は無かった…身内では無いので今持ってる携帯にあいつの番号は入っておらず、私も番号を覚えていないので連絡は取れない…最も、私から取る気は無いのだが…

 

「おいおい…一人忘れてるぜ?」

 

「誰…お前な…」

 

笑顔で自分を指差すアザゼルを見て溜息をつく…というか…

 

「お前本気だったのか?」

 

「あのなぁ…俺は最初から本気でお前を口説いてるんだぜ?」

 

「テレーズは「姿は同じでも別人だろ?お前はしてくれないから一回くらいして欲しくて約束はしたがな」「一回だけだからね、テレーズは私を選んでくれたから♡」「へぇ…そいつはめでてぇな…じゃあお前、子供作りたくねぇか?」「えっ!?出来るの!?」……」

 

私をスルーして盛り上がる二人に溜息をつく…溜息をつくと幸せが逃げるとは言うが、私は今、現在進行形で不幸な気がする…あっ…

 

「アザゼル…」

 

「ん?どうした?」

 

「お前に言い忘れた事があってな…」

 

「何だよ…嫌な予感しかしねぇんだが…」

 

「この後ヴァーリが裏切る。」

 

「もっと早く言えよお前!?」

 

アザゼルが怒るのも無理は無い…今ちょうどヴァーリが放った物と思われる光弾が飛んで来ているからだ…

 

「…アレ食らったら私たちでもやばくない?」

 

「アザゼル…結界を貼れ、今すぐに」

 

「ざけんな!?」

 

そして光弾は私たちに直撃した。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら180

「起きなさいよ…」

 

……声が、聞こえる…

 

「なら、永遠に寝てたら?…私が首をはねてあげる。」

 

そこで完全に目が覚めた。

 

「…物騒な事を言うな。」

 

「あら?起きた?」

 

「お前の目覚ましが効いてな。」

 

顔を覗き込んでいたオフィーリアが退いたので、立ち上がろうとしたが身体が動かない…?

 

「動こうとしても無理よ。」

 

「何があった…ッ!…この痛みは…?」

 

「あら?もしかして覚えてない?んー…そうね、取り敢えず今の状況から先に言われるのと、そこに至るまでの過程から入るのどっちが良い?」

 

「…私の傷の具合を言え。…まだ頭が回らないが、それなりに酷いダメージを受けたのは分かるが…」

 

「あっそ。なら先に言いましょうか。…貴女は今、真っ二つにされてるの。」

 

「は?」

 

「だから…貴女は今、お腹の所で綺麗に上半身と下半身に分けられている状態なの。」

 

「な、に!?」

 

何でそんな事になってる!?

 

「落ち着きなさい…つまり、さっき言ったのもあながち冗談って訳じゃないの…元はと言えば万が一の為に首を落としておこうと思ったのよ…一応声をかけたら流暢に返事が帰って来てこっちが驚いたわ…」

 

「ッ…この痛みはそういう訳だったのか…」

 

「思ったより冷静ね…取り乱して覚醒でもしたら首を落としてあげようと思ったのに。」

 

「ほう…出来るのか?私は「今の私にとって貴女はテレーズに顔が似た別人でしかない…殺れるわよ?…というか、仮にそうなったら貴女もそうして貰った方が良いんでしょ?」…まあな。」

 

意外に冷静さを保てる自分に驚い…いや、これはアレか…生命の危機を感じて脳が完全な理解を拒んでいるのか…さすがにこの身体でも身体が二分割されては永くは生きられんだろう…

 

「何が…あった…?」

 

「声が掠れてきてるわよ?あまり時間は無いと思うけど…それでも聞きたい?」

 

「ああ…聞かせて…くれ…」

 

「…あの時私たちの所にはヴァーリが放った光弾が飛んで来てた…それは覚えてる?」

 

「…そこまで…はな…」

 

「そっ。じゃあ、その後何があったかね…あの時悪態はついたけど一応アザゼルは結界の用意をしてたみたいなの…でも当然間に合わない…そこでアンタは…!」

 

そこで私は胸倉を捕まれオフィーリアに顔を引き寄せられた。

 

「アンタはね、よりによってアザゼルと私を庇おうとしたの!何考えてるの!?ふざけないで!覚えていないなんて言わせない…!」

 

「…ああ…思い出した…」

 

確かにそんな記憶がある…

 

「答えなさい…!アザゼルはともかく、何で私まで庇ったの!?」

 

「…さぁな…あの時は咄嗟に身体が動いた…理由なんて、無い…」

 

オフィーリアは私をゆっくり下ろした。

 

「…馬鹿な奴…その後どうなったのか聞きたい?」

 

「ああ…」

 

「…貴女の姿を見て、セラフォルーが取り乱してカテレアへの攻撃が止んだ…満身創痍のカテレアはふらつきながらもセラフォルーを攻撃しようとして、貴女が私と同じく咄嗟に突き飛ばしたお陰でほとんど無傷のアザゼルが止めを刺した…黒歌は発狂して敵味方問わず攻撃を始めた所を駆け付けた塔城小猫が泣きながら気絶させた…ヴァーリは兵藤一誠と今も交戦中よ…」

 

「…ヴァーリと…兵藤一誠の戦闘は…どんな感じだ…?」

 

そこでオフィーリアは私から首を逸らし、やがて戻した

 

「…互角、よ…もしかして貴女の記憶では違うのかしら?」

 

「ああ…あいつはヴァーリの足元にも及んでいなかった…それにしても…アザゼルは無傷か…」

 

私の記憶では…アザゼルはカテレアとの戦いで片腕を失っているからな…にしてもまさか兵藤がこの段階でヴァーリと互角…本当に成長したな…もう私では敵わないかもしれんな…

 

「そっ。誇ったら良いじゃない?この結果は、間違い無く貴女が引き寄せた物よ。」

 

「…そうだな…良かった…」

 

「ッ!良くないでしょ!?」

 

そこでまた胸倉を掴まれる…

 

「…オフィーリア…苦しい…離せ…後…唾が飛ぶ「うっさい!」…理不尽だろ… 」

 

「アンタのお陰で、大きな怪我を負った奴は現状誰もいないわ…アンタを覗いてね!」

 

「そうか…なら、良いじゃないか「アンタは!これで良いの!?このままだとアンタは死ぬか、覚醒者になるしかないのよ!?」…後者は…無いだろう…?お前が責任持って…殺してくれるんだろう…?」

 

「何度も言わせないで。ふ・ざ・け・る・な!」

 

「私を含む全員が助かって…!アンタだけが死ぬなんて…私は!絶対に認めない!」

 

「……なら、どうしろと言うんだ!?」

 

この状態で私が生き延びる方法など…!

 

「…決まってるでしょ。貴女の足は幸い消滅してない…修復しなさい…それで…少しは命が繋がる可能性も出て来る…」

 

「馬鹿か…!?そんな事をしたら私は「借りは…返す主義なの…あの時貴女がした様に私が引っ張るわ…貴女を覚醒者にはさせない…少なくとも、完全に覚醒した私を戻した貴女の作業よりは簡単でしょ?」…簡単じゃ…無い…!」

 

あの時私が出来たのは…嘗てテレサ…いや、テレーズが引っ張ってくれた時の事があったからだ…全くの知識ゼロの状態で出来る程、簡単な事じゃない…!

 

「あら?良いじゃない♪難しい作業は好きよ♡しかも命懸けだなんて…!どうしよう…最後の最後で楽し過ぎるわ♪辞めるのが惜しくなりそう♪」

 

「この…異常者が…!」

 

「…異常?化け物の私に今更何を言ってんのよ?とにかく!このままアンタに借りを作ったまま死なれるなんてごめんだわ…意地でもやって貰う…!いい加減アンタも覚悟決めなさい…大丈夫よ。ヘマしたら私も一緒に逝くから♪…後始末はテレーズがしてくれるでしょ。」

 

「クレイモアで無くなったあいつに出来る訳が「なら、貴女が頑張るしかないでしょ?」…くそ…!やれば良いんだろう…!?」

 

「聞き分けが良くて助かるわ♪じゃあ…はいこれ、貴女の足…ここに置くわね?」

 

オフィーリアが視界から消え、置かれた物に手が触れる…これが、そうなのか…

 

「…先に言っておくけど…覚醒したくないからって半端はダメよ?原型こそ残ってるけど、貴女の身体は上半身も、下半身もボロボロなの…くっ付けただけだと、まだ危険よ…覚醒を恐れず、一気に解放しなさい…傷が全て治るまでね。」

 

「分かった…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら181

ッ!…今の、は…?……チッ!

 

私は今、ギャスパーの部屋で何故か、何かあっても中断出来る遊びという事で、四人でポーカーをやっていた現実を思い出しつつ、今感じてる焦りを顔に出さない様にしながら自分の手札を一応、裏返したまま、机の上に置いた。

 

「すまん…ちょっと席を外…す…?どうした?お前ら?」

 

そこで気付く…クレアとアーシアの二人は身体を小刻みに震わせ、泣きそうな顔をし、ギャスパーが、必死で恐怖を押し殺しているのか強ばった顔をしていた…

 

「…テレーズさん…今のは…一般人でも分かります…!」

 

「ッ…そう、か…」

 

「…行って、ください…!二人は…僕が…!」

 

……何だろうな…今にも折れそうに見えるのに、今のギャスパーは多分、誰よりも頼もしいと感じる…

 

「あまり気負うな…多分…もうそれ程強い敵は出て来ないさ。」

 

そんな気休めにもならん言葉を吐きながら立ち上がる…どうにもあいつの様には行かないな…

 

背を向け、部屋のドアに向かって歩く…急ぎたいが、あまりこいつらを不安がらせてもいけない…

 

「テレーズ!」

 

ドアに手をかけ開けた所でクレアの声が聞こえた。

 

「テレサを助けて!」

 

…そうか…分かるのか…

 

「ああ。」

 

私は振り向きそれだけ言うと外に出てドアを閉めた。

 

 

 

 

「しっかりしなさい…!アンタの方でも頑張らないと戻って来れないわよ!」

 

…オフィーリアの声が遠い…私の意識が消えて行くのが分かる…あの時とは違う…ろくに痛みももう感じない…あいつは私の中にいない…私を繋ぎ止める物が…何も無い…

 

「失望したな…」

 

そんな声が聞こえた…

 

「お前はお前だ…だが、私は名を譲った…」

 

足音が聞こえる…

 

「自分で言うのも少々気恥しいが…その名、そんなに軽い物では無いつもりなんだがな…」

 

気配が近付く…

 

「お前の名はテレサ…最強の名なんだよ…譲った私にまで…恥を掻かせる気か?」

 

手を掴まれ、握られる…!

 

「起きろ、寝坊助…お前を待っている奴がいるんだろう?」

 

「ッ!アアアアアア…!?」

 

濁った声で叫んだ…!そうだ…!こんな所で消えられるか…!

 

「それで良い…今からオフィーリアと二人でお前を引っ張り上げてやるよ…もう下らない事で私の手を煩わせるなよ?」

 

今まで自分の意識を食い潰そうとしていた物を気力で捩じ伏せ、手を先程より強く掴む…!

 

「良し…もう大丈夫だな…」

 

そんな言葉が聞こえ、私は意識を手放す…先程の様な意識を食い潰されるのではなく、心地好い睡魔に私は身を委ねる…ッ…眠気に抗い、無理矢理言葉を紡ぐ。

 

「後を…頼む…」

 

「分かった…オフィーリア共々、借りはきっちり返して貰うからな…私はもうお前の中にいた頃と違って一人の人間なのだから…」

 

その言葉を最後に私は目を閉じた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら182

そこで私は言葉を切り、カップに口を付け…温い…その味に少し、懐かしさを感じながら飲み干した。

 

「…私が話せるのはここまでだ…後はお前の方が詳しいだろう?何せ私はあの後、三日も眠っていて、起きた時は全て終わった後だったからな…まっ、どうしても聞きたかったら、テレーズに聞くといい。」

 

私の前に座る少女、ゼノヴィアが何時もとは違う神妙な顔で頷いた。

 

「さて、もう良いかな?外も暗い…お前の場合、大丈夫だと思うが一応送って行こう「あの…」ん?」

 

「テレサさんの昔の話を聞きたいんですが…」

 

「昔の、と言うと…私がこの世界に来たばかりの頃の話か?」

 

上げかけた腰を一旦下ろす…ふむ…

 

「…あまり面白い話では無いんだが…」

 

「私は貴女の強さに尊敬の念を抱いています…その強さの秘訣は何か、私は知りたい…不躾な願いだとは分かっていますが…」

 

「…そんなに聞きたいなら構わないが「本当ですか!?」だが、今日は無理だな…大して話せるエピソードも無いが、こちらもそれなりに長い話になる…気になるなら先にサーゼクスたちに聞いておくと良い…さっきの話にも出したが、私はグレイフィアの危機を救った事など覚えていなかったからな、私が話すより、詳しい話を聞ける可能性もある…さて、支度をするからちょっと待ってろ。」

 

ゼノヴィアの前にあったカップを引き寄せ、ポットから紅茶を注ぎ、またゼノヴィアの前に置くと、席を立つ…座るゼノヴィアの横を通る時に、その頭を軽く撫でてから部屋に向かった。

 

 

 

…先程ゼノヴィアに話さなかった話の続きを思い起こす…あの後は交戦中の兵藤にテレーズ、オフィーリア以外はとても戦闘どころでは無かったらしい…私一人が倒れたくらいでそこまで混乱の極地にいられても困るのだがな…結局最終的に兵藤とヴァーリが相打ちになりかけたところで原作通りに美猴が到着したのだが…ここからが笑った…テレーズとオフィーリアに散々追い回された挙句に、ヴァーリを置いて転移してしまったそうだ…ただ本人は『必ず迎えに来てやるからな!』と叫び、後日反省と称して、アザゼルに軟禁されていたヴァーリを本当に回収に来た訳だから義理堅くはある様だ。

 

…さて、この後の事は今でこそ冷静に思い出せるが…あまりに目まぐるしく変化して当時は状況にまるで着いていけなかった印象がある…まず、私が目覚める前にテレーズとオフィーリアの二人はサーゼクスとグレイフィアと相談して、さっさと二人で住むマンションの一室を決めてしまったらしい…

 

ちなみにサーゼクスとグレイフィア以外、誰にも言わなかった筈なのに何故か今までオフィーリアがこの世界で手を出した女が大量に押し掛けて来て揉めた話を後になってテレーズに散々愚痴られた…あまりに憔悴しきっていたのでそれも覚悟の上で一緒になると決めたんじゃないのか?…とは言えなかった…未だに答えを出してない私より遥かにマシだしな…

 

私は目が覚めた後もすぐには起きれず、一週間入院した…オフィーリアが入院した病院で、しかも同じ病室のある区画だったのは何の嫌がらせだったんだろうな…お陰で毎日貞操の危機を感じていた…もちろん退院後は黒歌とグレイフィア、それに私を含めた三人で入院の手続きをしたサーゼクスを問答無用で半殺しにした…

 

私は結局、人間界に残る事に決めた…決め手はクレアの『冥界だと友達を家に呼べないよ…』だった…セキリュティレベルの高い所を、とサーゼクスに注文したらテレーズとオフィーリアの住む部屋の隣を紹介されたのを行ってから知り、一悶着あった…引越し祝いと称してやって来たサーゼクスをテレーズと二人で風呂場に引っ張り、水の張った湯船に二人で気絶するまで沈めた手の感触が今も残っている…その後、テレーズと二人で何故かハイタッチした感触も…あれから一ヶ月以上経つのだがな…

 

そんな怒涛の一ヶ月の間、特に死人が出る様な事件は起きていない(サーゼクスが何度か私たちに殺されかけてるのはノーカン…そう簡単に死にはしないしな)

 

非常に不安だ…私はもうこの後の事が分からないからな…何故か私は目が覚めた時、和平会談の後の原作の記憶を完全に失っていた…今まで朧気には残っていた筈なのだが…これまでにサーゼクスたちに和平会談の後の事を話していなかったのが災いした…これでは本当にこの後に起きる事に大して対処が出来無い…いくら私の中にあった原作の記憶と、この世界には差異があると言ってもそれはそれだ…まあ、結局成り行きに身を任せる事にした訳だが。

 

更に変化があるとすれば、黒歌の求めで私たちの方で小猫を引き取った事、私たちの部屋の隣(テレーズとオフィーリアの部屋の逆)に朱乃とセラフォルーが住み着いてしまった事だろうか…どうなるか不安だったが、一応仲は良好なのだろう…夜、私の寝室に黒歌を含めた三人全員で乗り込んで、勝手に誰が最初に私とするかジャンケンで決めようとして、私が全員気絶させてそれぞれの部屋に運ぶのが日々のルーチンだからな(クレアとアーシアと小猫は相部屋)

 

そんなこんなで迎えた休日(私とテレーズ、オフィーリアは用務員業を続けている)いつもうるさい面々は部屋に居ない…クレアとアーシアと小猫はギャスパーのところへ遊びに、というか泊まりに行き、黒歌たちはオフィーリアと共にテレーズの服を買いに行ったらしい…買い物が終わった後はこちらも泊まり込みでテレーズの美意識を変えるそうだ(南無…)

 

私も誘われたが断った…何が悲しくて自分と同じ顔の奴が着せ替え人形にされるのを見せられなければならんのか…最も私も行けば同じ目に遭わされていただろうし、後日、結局同じ目に遭うんだろうが…

 

そうして暇を持て余していた今日、最近になって私に無理矢理弟子入りしたゼノヴィアがやって来た…休みの日に何の用かと思えば私の事を聞きたいと…つい、盛り上がって要らん事まで話してしまったな…と、いかん。思考に埋没して思いの外時間が経ってしまった…ゼノヴィアを待たせてる…急がねば…

 

私はクローゼットから適当に一着コートを取り出すと羽織り、ゼノヴィアのいるリビングに戻った。




詰め込み過ぎ感はありますが一旦完結です。


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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら183

番外編です。少し未来の話…縦書きの方が雰囲気出そうだな…


私のお姉ちゃん 3年2組 クレア グレモリー

 

わたしにはお姉ちゃんがいっぱいいます。

 

テレサとテレーズと黒歌お姉ちゃんとアーシアお姉ちゃんと小ねこお姉ちゃん、それからオフィーリアお姉ちゃんにあけのお姉ちゃんにセラフォルーお姉ちゃん、とにかくいっぱいいます。

 

いっしょに住んでいるのはテレサと黒歌お姉ちゃんとアーシアお姉ちゃんと小ねこお姉ちゃんだけだけど、あけのお姉ちゃんとセラフォルーお姉ちゃんはよくあそびに来てくれます。お部屋がとなりなのでわたしもよくあそびに行きます。

 

みんなすごくやさしいです。

 

テレサとテレーズはわたしを見ると頭をなでてくれます。あんまりお話してくれないけどそれでもやっぱりうれしいです。

 

黒歌お姉ちゃんはよくわたしをひざの上に乗せて歌を歌ってくれたり、なでてくれます。

あと作ってくれるご飯がすごくおいしいです。

 

アーシアお姉ちゃんは色々しっぱいもしたりするけどすごくがんばってます。実は外国の人で言葉がまだよく分からないそうです。

 

小ねこお姉ちゃんはテレサとテレーズよりもしゃべらなくて少し悲しいなって思います。でも、わたしを見るとわらってくれます。すっごくかわいくて大すきです

 

オフィーリアお姉ちゃんはよくこわいわらい方をします。でもだきしめてくれます。よく、あんたはいつもすなおでやさしい子のままでいなさい。わたしみたいになったらぜったいにだめよ。と言います。オフィーリアお姉ちゃんはやさしいのに何でってふしぎに思います。

 

あけのお姉ちゃんはよくこうちゃをいれてくれます。はじめは味が無くて苦手だったけどいまではすきです。あけのお姉ちゃんもよくだきしめてくれるけど、むねが大きいので少し苦しいです。

 

セラフォルーお姉ちゃんはいつも元気でわらっています。こすぷれが大すきでよく、家の中でまほうしょうじょのかっこうをしています。わたしもよくいっしょにしています。楽しいです。

 

黒歌お姉ちゃんとあけのお姉ちゃんとセラフォルーお姉ちゃんはテレサが大すきで、夜になるとよく三人でテレサの部屋に入って行きます。何をしてるのかはよくわかりません。でもいつもすぐ三人ともテレサにかつがれて出て来ます

 

オフィーリアお姉ちゃんはテレーズがすきです。三人がテレサがすきなのと同じすきみたいです。それと、オフィーリアお姉ちゃんから、もうすぐ子どもが出来るわ。あんたの弟か、妹になるからかわいがってあげてねと言われました。楽しみです。わたしはテレーズの大きくなったおなかにいつもこえをかけてあげてます、早く生まれて来てねって。

 

ちょっと変わってるかもしれないけどわたしはお姉ちゃんが大すきです。

 

 

 

 

「…うん…良いんじゃないかクレア。」

 

「ホント?」

 

「ああ。テレサたちも喜んでくれるだろう。」

 

「良かった。早くテレサたちに聞かせたいな…」

 

 

 

 

クレアが帰って行った。

 

「良かったの?アレ。」

 

「クレアが純粋な気持ちで書いたものにケチをつけられるのか、お前は?」

 

ソファに座り、最近重くて仕方無いが不思議と不快にはならない腹を撫でながら、オフィーリアに答える。

 

「まさか。でも、私たちの事は今更だけど、アレ学校で他の生徒や、親がいる中で読まれたら、あの四人真っ青になるんじゃないかしら?」

 

そう言ってクスクス笑うこいつに随分自然に笑える様になったんだな、今まであんなに悪意ある笑い方をしていたのに…という感想を抱く…

 

「なるだろうな…ちょっと楽しみだが、惜しいな…発表の日はこいつが産まれる予定日と重なってしまったからな…」

 

「だから来れない私たちのために先に読んでくれたのよね?本当に優しい子よね…どうしてもあの子の面影があるから私としては複雑で…つい、変な対応の仕方をしてしまったけど、まさか私の事を嫌ってないなんて…」

 

「お前の場合、根は良い奴だとバレていたからな…完全にクレアからはツンデレにするのと同じ様な対応をされていたな…本人は無意識だろうが。」

 

「ホント…苦労しそうよね、あの子…将来変な男に引っかかったりしないかしら?」

 

「……下らない男だったら私は冷静でいられる自信が無いな…」

 

「…こうやって愛されるのがあの子の持ってる才能みたいな物よね…少し…嫉妬しちゃう…」

 

何時の間にかソファから立ち上がり、私の首に手を回して後ろから抱き着いていたオフィーリアの腕に力が籠り、首が締まる。

 

「…お前も同意見じゃないのか?」

 

「当然♪クレアを苦しめる様な奴なら殺すわ♪」

 

腕の力が少し弱まる…ふぅ。

 

「その前に私を殺さないでくれよ?私の命はもうお前の物だが…こいつを産むまでは死ねん。」

 

「あら…ごめん、つい力が入っちゃった♪」

 

腕の力が抜ける。

 

「貴女は生きてね?私は何時まで今のまま生きられるか分からないけど「何を言ってる?私がお前をそう簡単には死なせんよ。少なくとも覚醒者にはもうさせん。」…嬉しいけど、これじゃあどう考えても子供を授かるの逆よね…?」

 

「女として大事な物を色々捨ててる自覚はあるがな…仕方無いだろう?まともに使える子宮を宿しているのが私だけだったんだから…」

 

「まっ、私はどっちでも良かったけどね♪貴女と私の子供なら…どちらでも。」

 

「そうか…お前が良いなら、それで良いか。」




書きづらい…二度とやらん。


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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら184

番外編第二弾。


「…で、私、というか私たちの仕事を見学したいと?」

 

「うん!」

 

クレアの授業参観に小猫とアーシアを除き家族総出で行ったら見事赤っ恥を掻いた…ちなみに親たちの反応は生暖かい目で見守り、子供たちの反応もそれ程悪くないという物…クレアが虐められるなどという事は先ず考えられないが、保護者の私たちに向けられる視線にも悪意が無いとはな…それから数日経った今日…今度は親の仕事について書く作文の宿題が出たと…クレアに親はおらず、実は家族は戸籍上記載された姉の私とテレーズがいるだけでサーゼクスたちは親戚になっているため、確かに私の仕事を見に来るのは妥当といえば妥当だが…

 

『おい、どうすれば良い?』

 

『別に良いんじゃない?』

 

たまたま家に来ていたオフィーリアに小声で話し掛けるとそう返事が返って来た…

 

『どういう巡り合わせか知らないけど、明日はクレアの学校、開校記念日なんでしょ?私たちのしてる事って基本は毎日同じ事しかしてないし、口頭で説明しても作文は書けないんじゃない?』

 

『しかし『貴女の懸念はあの変態二人組?』…そうだ。あの二人に関わって欲しくない…』

 

『あの二人もさすがに当日の朝、一言注意すれば分かると思うけど。』

 

テレーズは産休でいないとはいえ、クレアの頼みだと断れない可能性は高い…オフィーリアに期待していたんだが…まさか賛成されるとは…くそっ…お前らも見てないで何か言え。

 

ちょうど私たちとリビングにいた黒歌とセラフォルーに視線を向けると二人で一斉に顔を逸らした…こういう時だけ変な団結するな。

 

「ダメかな?テレサ…」

 

「うっ…」

 

「私は賛成だけど、どうするの?貴女が嫌ならしょうがないけど。」

 

「…分かった。明日は一緒に行こうか「ありがとうテレサ!」っ…」

 

その笑顔を見て断らなくて良かったと思ってしまうのはどうなんだろうな…

 

 

 

その後、クレアが寝たところで私は行動を起こす事に。

 

「…ねぇ?何してるの「見れば分かるだろ。明日はあの変態の存在がクレアにバレないようにしなければならん。」…ふ~ん。」

 

「というかお前はもう帰ったらどうなんだ?身重のパートナーが部屋にいるだろ「部屋は隣だし、さっき電話で貴女の事伝えたら『妙な事しない様に見張っておけ!』って言われたから。」…見張りならそこに二人程いるだろ。」

 

「『二人はどうせ、最初は止めても最後はテレサの意思に流されるだろうから当てにするな。』とも言われたわね。」

 

そう言ってオフィーリアが多少、殺気を込めた笑顔を向けるとまた黒歌とセラフォルーが顔を逸らす。

 

「一応私とテレーズの働いてる職場でもあるし、あまり大事にして欲しくないのよ。」

 

「じゃあ「別に放っておけとは言わないわよ?私もそうだけど、多分テレーズもあの二人はいい加減目に余ると思ってるだろうし、ここらでちょっとキツい灸を据えても良いんじゃないかと思う。」…何か考えがあるのか?」

 

「ちょっと携帯貸して。」

 

「構わないが…どうするんだ?」

 

「電話よ……もしもし?……ええ、そうよ。混乱するのは分かるけどさっさと本題入らせて貰うわ…あのね…」

 

そうしてオフィーリアは電話先の奴に二人の対処を頼んでいる様だ……誰にかけたんだ?

 

「…引き受けて…へぇ?あらそう…じゃあ私にお仕置きされるのと…後でご褒美を貰う…の二択だったらどっちが良いかしら?…うん。物分りの良い子は好きよ?…でも一回だけだからね?私は…そうそう分かってるなら良いわ…じゃあね。」

 

オフィーリアが電話を切り、携帯を私に返して来る。

 

「…誰にかけたんだ「兵藤一誠。私、番号知らないから携帯借りたのよ。」…何故?」

 

「クラスが同じで且つ、あの二人の行動を完全に把握出来て、完膚無きまでに叩き潰せる様な奴なんて他にいると思う?」

 

「…兵藤は引き受けたのか?あいつ割と仲間思いだと思ったが?」

 

「当然♪お仕置きとご褒美チラつかせたら一発よ♡」

 

「……内容は?」

 

「聞きたいの…?」

 

「……遠慮しとくよ。」

 

その笑顔見れば想像がつく。それにしても…

 

「お前、パートナー出来ても変わらないのな。」

 

「あら?人聞き悪い事言わないで。別に誰彼構わず手を出す訳じゃないわ…割とあの子の事は私もテレーズも評価してるのよ?」

 

「……つまりテレーズ公認だと?」

 

「そういう事♪」

 

「…お前「自分を安売りしてる訳じゃないわ。クレアの為ですもの…それに今言った通り、私は兵藤一誠の事を嫌ってないの。」…お前が良いなら、それで良いが…」

 

「気負う必要は無いわ…クレアが大切なのは貴女だけじゃないって事よ。」

 

「……」

 

「それじゃ帰るわね?明日は宜しく。」

 

オフィーリアが部屋を出て行った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら185

翌日、私はクレアを伴って職場に向かう…

 

「ねぇ、テレサ?」

 

「ん?」

 

「オフィーリアお姉ちゃんは?」

 

「後から来る…」

 

「待たなくて良かったの?」

 

「…あいつを待ってたらギリギリになるんだ。」

 

オフィーリアは基本、時間にルーズなタイプの様で…こうして正式に雇われるようになって少しすると時間通りには来なくなった…まぁ朝から来ててもそんなに仕事がある訳じゃないから良いがな…明らかに書類の量が可笑しい時は呼べばすぐに来るし、最近はいよいよテレーズも自力での日常生活が難しくなって来たらしくその世話もあるからあまりうるさくも言えん…

 

「……」

 

「待ちたかったか?」

 

「うん…」

 

「そうか、なら覚えておくと良い…職場に時間通りに来るのは当たり前の事だ…とはいえ、仕事以上に大切な事だってある訳だがな。」

 

「えと…例えば?」

 

「ん?そうだな、例えば…自分の体調の悪い時、若しくは家族の体調が悪い時、後は……家族が死んでしまった時。」

 

「……」

 

「そう暗い顔をするな。私やオフィーリア、テレーズもそうだが、お前の家族は皆、そう簡単には死なないさ…」

 

テレーズはどうなるか分からん…アザゼルが定期的にメンテ(実際はあいつが楽しんでるだけの時が多いらしい…)はしているから問題は無いと思うが…私とオフィーリアは身体の寿命は不明だが、少なくとも他の家族は大半が人間では無いから先ず死なん…寧ろ人のままのクレアやアーシアが先に逝くだろう…クレアが死んだら私は…

 

「テレサ。」

 

「ん?どうした?」

 

考え事をしたまま歩いていたらクレアに声をかけられ、足を止めてクレアを見るが、何も言わない。

 

「どうし…っ…何だ?本当にどうしたんだ急に?」

 

取り敢えずクレアに目線を合わせる為、しゃがんだらクレアがいきなり抱き着いて来た…

 

「テレサ…何か暗い顔してたから…」

 

「何でもない「嘘だよ」…何で…そう思うんだ?」

 

「だって…今も辛そうな顔してる…」

 

「…大丈夫だ…ふぅ。分かったよ…ちょっと、先の事を考えてしまってな…」

 

「先?」

 

「これから先、お前は大人になって、やがてはおばあちゃんになって死ぬ…その時も私はまだ生きているだろう…そしたら私はどうなるのかと思ってな…」

 

口に出してから自己嫌悪に襲われる…まだ子どものクレアに私は何を言っているんだ…

 

「テレサ?」

 

「何…だ…?」

 

「私がもし、悪魔に…えと、転生だっけ?そしたら怒る?」

 

言わせてしまったな…

 

「…ああ。それが例え私の為であってもな…」

 

「そっか…」

 

「不老不死なんてろくなもんじゃない。お前にはそんな道を歩んで欲しくない「でも…テレサもテレーズも、オフィーリアお姉ちゃんだってそうだし…黒歌お姉ちゃんにセラフォルーお姉ちゃん、それに朱乃お姉ちゃん、後小猫お姉ちゃんも…私の周りは皆そうだよ?」…お前には人間の友だちだっているし、アーシアだっている。」

 

最も、アーシアは転生するかもしれんな…兵藤の為に。

 

「なぁクレア?最終的にお前がどうしてもそうしたいなら止めない…だが…それが私の為、というなら…それは駄目だ…お前にはさ、これからも普通に人間として生きて欲しいのさ…私以外の者もそれを望んでいる。」

 

既にこの話は私を含めたクレアを知る者たちの間で結論が出ている。クレアには人のままでいて欲しいと…ただ、そこにクレアの意思は介在していないし、この言い方が卑怯なのは分かっている…私はクレアの人の想いを無視出来ない優しさにつけ込んでいるのだ…

 

「分かった…もう言わない。」

 

「そうか…じゃあ行こうか?」

 

クレアが離れ、私が立ち上がったところで私の手にクレアの手が触れる…その手を軽く握り、歩き出した。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら186

駒王学園の前で一息つく…少々暗い話をしてしまったが、仕事はしなきゃならん…登校して来た生徒が私に挨拶をしつつ、クレアの事を聞いて来る…妹だと言えば、可愛いを連呼され、クレアに抱き着いて来るのもいる…男子ならはっ倒すが、寄って来る奴の大半が女子だ。ちなみにもみくちゃにされてるクレアはそれでも笑顔で応対している様だ…まぁクレアが嫌でないなら良いか…私としても少し誇らし…いや待て待て。ずっとこの状態だと校舎に入れん。私はクレアに群がる人並みを掻き分け、クレアの前に立つと声を張り上げた。

 

「お前らいい加減にしろ!通行の邪魔になるし、私たちが中に入れんだろ!」

 

私がそう言うと、女子たちが私とクレアに謝りながら解散して行く…やれやれ先が思いやられる…まぁお陰で先の気まずい雰囲気なんて吹っ飛んだから良しとしようか…

 

「あの…テレサさん?」

 

「何だ「後でまたクレアちゃんに会いに来て良いですか?」……」

 

今、私の前には良くあの二人を引き渡す時に会う女子の一人がいた…どうも代表として聞きに来たらしい…本来なら断るだろうが…

 

「…休み時間だけだぞ?後、大人数で来るのも禁止だ…それが守れるなら良い。」

 

この後、用務員室行っても書類仕事しかないからな…私がクレアの相手を出来なくなる…

 

「ありがとうございます!クレアちゃんまた後でね!」

 

「うん!」

 

……クレアのこの、誰とでも仲良くなれる…というのは悪い事では無いが、誰彼構わず寄って来させてしまうのでこういう時はあまり宜しくないな…

 

 

 

「クレア、退屈じゃないか?」

 

「ううん。そんな事無いよ?」

 

用務員室に入ったが、私のやってる事は相変わらず溜まってる書類を片付けるだけ…って、これは教師が書く書類じゃないのか?…全く…間違って置かれていた書類を避ける…クレアは当初目を輝かせて何やらメモを取っていたが、今は私が書類を書くところを見詰めているだけ…何なんだ?

 

「…クレア、来る時、黒歌に本を持たされてただろ?暇ならそれを読んでて「ううん大丈夫。」いやしかし、私が書類書いてるところなんて見てても飽きるだろ?」

 

「そんな事無いよ。テレサ、カッコイイ。」

 

「……そうか。」

 

何がカッコイイのか知らんが…悪い気はしない。

 

「おはよう…遅くなってごめんね?」

 

オフィーリアが部屋に入って来た。

 

「謝罪は良いから早く入れ。見ての通りまた書類が溜まってる…手伝え。」

 

「うわ…また一杯あるわね…昨日ある程度片付けたわよね?何でまだこんなにあるの?」

 

「どうも昨日の夜に誰か持ち込んだ様だな…ほれ、確認が甘かったのか私たちの管轄外の書類がいくつか混じってる。」

 

「あら?本当ね…めんどくさいわね…一々避けながらやらないとダメじゃない…」

 

そう言いながらオフィーリアは既に書類に手を付け始めていた…何だかんだ仕事は出来るんだよな、こいつ…

 

「ところでアンタは何してるの?」

 

「テレサが書類書いてる所見てるの。」

 

「…楽しい?」

 

「うん!」

 

「そう……良かったわね?」

 

「……」

 

私に意味ありげな視線向けてないで仕事しろ…

 

 

 

 

休み時間になり女子生徒がやって来てクレアの相手をしてくれている…

 

「正直、貴女の懸念よりクレアがここに来て退屈になるんじゃないかと心配してたんだけど…大丈夫そうね。」

 

「そうだな…」

 

クレアはやって来た女子生徒二人と部屋の隅で楽しそうに会話している…私たちに気を使ってるのか小声だ。内容は……聞こうと思えば聞けるが…まあ、止めておこうか。

 

「あっ、そうだ…また携帯貸してくれる?」

 

「構わないが何でだ?」

 

「一応兵藤一誠に電話をね…」

 

「…確か昨日、お前自分の携帯に番号登録しなかったか?」

 

「……携帯忘れたのよ…だから貸してくれない?」

 

「…仕方無いな。ほら…」

 

「ありがとう…少し出るわね?」

 

「ああ。」

 

クレアに内容を聞かれたくないしな。

 

 

 

 

オフィーリアが退出したのを見た女子生徒が声をかけて来る。

 

「あれ?オフィーリアさんは何処へ?」

 

「トイレだ。」

 

「そろそろチャイム鳴りますけど…」

 

「私たちにはあまり関係無いからな…というかチャイム鳴るならお前たちはちゃんと教室戻れよ?」

 

「はい…クレアちゃん、またね?」

 

「うん。」

 

女子生徒たちが部屋を出て行き、部屋が静かになり、しばらく私がペンを動かす音だけが響く…しばらくしてオフィーリアが戻って来た。

 

「ただいま♪」

 

「おかえ…何でそんなにテンション高いんだ?」

 

「フフ…ちょっと、ね…」

 

そう言って舌なめずりしながら笑うオフィーリアから目を逸らす。

 

「…用件を済ませたならさっさと座れ。」

 

「は~い♪」

 

子どもの様に片手を上げて返事をしながらオフィーリアが座る…聞いて欲しい様だが、聞くつもりは無い…クレアとオフィーリア二人分の強い視線を受け、居心地の悪さを感じながら私は書類を片付けていった。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら187

「お前…兵藤に何を言った?」

 

「…昨日は普通に二人をどうにかするよう頼んだだけだったんだけど「今日は?」…やっぱり渋ってたからやる気を出させる為に渾身の喘ぎ声を電話越しに…ごめんなさい…まさかここまでやるなんて…」

 

昼になり弁当を食おうとしてたらドアをノックされ、開けると良くあの二人を追っかけてる女子の内の一人が立っていた。…弁当をここで食おうとしてたのかと思えばそれもあるが、少し違うらしい…部屋に入れてみるとこう言われた。

 

『今日、あいつらの姿を見かけないんですよ。私、あいつらとクラス違うんで知らなかったんですけど聞いたら、朝はいたみたいなんですよ。いないならいないで平和で良いのは確かなんですけど…何か、気になって…』

 

…既に転入し、兵藤と同じクラスになっているアーシアに確認した所、確かに朝は兵藤も含めて三人ともいたらしい…私の方も嫌な予感がした為、渋るオフィーリアを引っ張り、その女子にクレアを任せて探しに来たところ…

 

「完全に気絶してるな…」

 

三人は体育館の裏で傷だらけで倒れていた。…推測しか出来ないが…

 

「…多分、兵藤が呼び出して注意したら二人が反発してこうなったんだろうな…」

 

「じゃあ…やっぱり私のせい…?」

 

「お前からのご褒美が欲しかったのか、お仕置きが怖かったのかは知らんがな…」

 

「……」

 

「まっ、ここまで結果を出したんだ…責任は取れよ?」

 

「それは当然だけど…この状況、どうしたら良いのかしら…?」

 

「ここまで私たち以外、誰も発見していないのが既に奇跡みたいな物だろうな…」

 

最も生徒がこの光景を見る分には放置する可能性はあるが…

 

「一番穏便に済ますならアーシアを呼んだ方が早いが…」

 

アーシアは兵藤を好いている…間違い無く協力はしてくれる…問題は…

 

「こうなった理由…答えられる…?」

 

「……」

 

アーシアはクレア程では無いが、それなりに無垢なのだ…あまり下世話な話をしたくない、というかこの光景を見せたら確実に泣かれる…

 

「放置したら不味いわよねぇ…」

 

「放っておいても死にはしないだろうが、教師が見付けたら騒ぎにはなるな…」

 

やむを得ん、か…私は携帯を取り出した。

 

「アーシアにかけるの?」

 

「ああ…他に方法は無い。」

 

取り敢えずオフィーリアを用務員室に帰らせ、アーシアに電話をして呼び出す事にした。

 

 

 

 

「一体何があったらこんな事に…!?」

 

「んー…そうだな…男はな、普段仲が良くても譲れない物があってな…たまには殴り合いの喧嘩もしたくなるもんなんだ…」

 

「そんなんじゃ納得出来ません…!大体、イッセーさんはともかく他の二人は普通の人間なんですよね…?」

 

「…こいつらは妖力解放していない素の私たちに追随出来るからな…今の兵藤とならまともに殴り合い出来ても別にそれ程不思議じゃないんだ…」

 

「……」

 

「とにかくこの三人をこのままにしておくのは不味い…何とか治してくれないか?」

 

「…分かりました「アーシア?」はい?」

 

「男には女に語れない事情って言うのはあるものさ…逆も然りだろう?」

 

「はい…」

 

「最も…お前が本気で兵藤と一生付き合っていきたいなら…躊躇する必要も無いがな。思いっきりぶつかって行けば良い。」

 

「でも…それだと私は…」

 

「良く考える事だ…クレアには私の為に転生などチャンスがあってもするなと言っているが…お前はもう自分の道は決められる歳だ…愛する男に合わせたいなら私も反対はしない。」

 

「……」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら188

「…で、アーシアに治してもらった後、ここに運んで来たと。」

 

私は担いでいた三人を旧校舎の私が前に住んでいた部屋の床に寝かせた。

 

「他に場所があるか?」

 

「……無いわね…」

 

あの後アーシアに三人を治療させてから教室に帰し、ここまで三人を運んで来た。外を通り、呼び出したオフィーリアに窓を開けてもらい、そこから侵入したが…校内を通るよりマシとはいえ、良く見つからなかった物だ…

 

「全く…お前が動くと本当にややこしい事になるな。」

 

「あら、言うじゃない。そりゃ確かに面倒をかけたとは思うけど…昨夜、クレアにバレないように二人をどうやって排除するか計画立ててた奴のセリフとは思えないわね…少なくとも貴女がしようとした事よりは穏当な結果になったと思うけど?」

 

まあ、あの時の私が動くとそれなりに二人には大きな怪我をさせてしまっただろう…私が冷静さを欠いていたのは確かだ…

 

それを思えば、個人的な理由で普段仲の良い男子生徒三人が喧嘩をして怪我をした…最近は三人揃う所をあまり見なかったが、この三人の仲の良さを私は良く知っている…この程度で仲違いをする事は先ず無い。…学校側が事態に気づいたとしても、盗撮で退学にならないような学校だ…処分は無い、若しくは軽い…怪我はそもそもアーシアが治してしまった…

 

つまり、ここで酷い目にあった奴はいないのかもしれない…だが…

 

「……お前のやり方は好かん。」

 

私はイラついていた。これが単なる言いがかりに近いのは分かっていても…やはり認められない。

 

「…そっ。まあそれは仕方無いのかもね。で・も!これが私なのよ。」

 

「……今更お前に何を言っても無駄なのは分かっているさ…これは私自身の価値観の話だ。」

 

「そう…ところで聞いていいかしら?」

 

「何だ。」

 

「貴女が気にいらないのはテレーズと一緒に暮らしているのに兵藤一誠を誘おうとしている事なのかしら?」

 

「……」

 

「仮にそうなら私も貴女が気にいらないのよ。」

 

「何がだ「貴女、あの三人に答えは出した?」…突然何を言い出すんだ?お前には関係無いだろう?」

 

「そうね、少なくとも私には何の関係も無い。私はもうテレーズを選んだから。」

 

「なら「でもハッキリさせておきたいのよね。貴女黒歌たちと関係を持つようにはなったんでしょ?」…そうだな。」

 

「貴女なりに責任は取ってると言えるのかもね…三人は今のところそれで満足してるみたいだし。」

 

「何が、言いたい…!?」

 

「…筋が通らないって言ってんのよ。アンタ、黒歌たちに内緒でアザゼルとライザーの二人とも関係を持ってるでしょ?」

 

「なっ!?」

 

何で、知っている!?

 

「三人は今更別に自分たち以外に貴女にそういう相手がいてもそんなに文句は言わないでしょ。貴女とシているだけで今は幸せみたいだし…だけどね、三人に黙って関係を続けてるのは論外じゃない?」

 

「…お前には関係無い…!」

 

「そうね。でも、だからこそ言いたいわけ。貴女に私の事で文句言われる筋合いは無いってね。」

 

「私は…何も言ってない…!」

 

「じゃあ何時までも私を睨んでんじゃないわよ!答えの出ない苛立ちを私にぶつけんな!」

 

胸ぐらを掴まれ、そう怒声を浴びせられて私は漸くイラつきが引いていく。

 

「……クレアを待たせてるわね。私は先に戻るわ…気持ちが落ち着いたら戻って来なさい。」

 

そう言ってオフィーリアは私から離れ、部屋を出て行った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら189

私は部屋に置いてあったソファに座った…落ち着かない。今の私の部屋にはテーブルがある…食事する際は床に座るしか無いが、ソファに座っても前にはテーブルがあるという状況が常なのだ…今、この部屋にテーブルは無い…アレはこちらが持ち込んだ物だったからな…

 

「……」

 

ソファに浅く腰掛け、頭を預ける…黒歌やセラフォルーは硬いと言っていたが、私はこの感触が嫌いでは無い。寧ろ今の部屋にあるソファの方が柔らかすぎて、私は苦手だ。

 

「……苛立ちをぶつけるな…か。」

 

お前のやり方が好きでは無い、は建前だな…そもそもオフィーリアがそういう奴なのは私自身が良く知っており、今更反発する事は無い筈だった…今更になって納得出来ないと言い張った理由はやはり同族嫌悪なのだろうか…?私は何時の間にかあれ程嫌っていたオフィーリアと同じ行動を取るようになってしまった…だが、それ程いけない事だろうか?私は好意を向けて来る相手に身体だけの付き合いとはいえ、気持ちには応えてるとは言えないだろうか…?分からない…

 

昔の私なら悩むどころか唾棄すべき問題に一切答えが出せない…いや…やはり悩んだ事が無い問題だから答えが出せないのだろうか…?……一人で悩んでても無駄か…一つ聞いてみるとしよう。

 

「…兵藤「ッ!」…起きてるんだろう?」

 

「…すみません、テレサさん…」

 

仰向けに寝かされていた兵藤が身体を起こした。

 

「…お前らの状況は把握出来ている。一応、聞いておこうか。何時から、起きてた…?」

 

「アーシアに治療して貰ってる時です…」

 

「……そこから起きてたなら、自分で歩いて欲しかったんだがな。」

 

「すみません。タイミングを逃しちゃいまして。」

 

まぁ状況が状況だったとはいえ、すぐに気付かなかった私も悪いがな。

 

「まぁいい。さっきの話は聞こえていたんだろう「すみません!黒歌さんたちには黙ってますから!」…いや、怒ってはいない…少なくともその資格が私に無いのはお前も良く分かるだろ?」

 

その場で土下座を始めた兵藤に少し戸惑いながら、止めさせる…弱味を握ったと揶揄われたり、批判されるのは覚悟していたがこれはさすがに予想外だ…まさか優位に立った筈の兵藤から土下座されるとは…そんなに怖いのか?私は…割と長い付き合いの兵藤にそういう反応を返されて、少し凹みながら、私は聞いてみる事にした。……こいつなら、答えまで行かなくても、ヒントくらいなら出してくれるかもしれん…

 

「なぁ兵藤?私はどうしたら良いと思う?」

 

「…何で俺に聞くんですか…?」

 

「いや…恥ずかしい話だが…今までこういう事で悩んだ事が無いせいか、どうにも煮詰まってしまってな…お前なら何か意見を出してくれるかと思ったんだ。」

 

「…何で俺なんですか?」

 

「この場にいて聞いてしまったのがお前だけ、という事もあるが、私とオフィーリアとある意味同類のお前なら、と思ってな…」

 

「……あの…俺の正直な意見を言っていいんですか…?」

 

「ん?ああ。私はこれでも本気で悩んでいてな、おふざけは無しで…真面目な意見を貰いたい。」

 

「そうですか…ならハッキリ言わせてもらいます…俺は貴女とオフィーリアさんと同類ではありません。」

 

「んん?」

 

私は困惑した…同類じゃ、無い…?

 

「言っておきますけど…俺がハーレム目指してるだけで、今はそういう事してる相手がいないからとかそんな理由じゃありません…ある意味オフィーリアさんには近いのかもしれませんけどテレサさんと俺は同類じゃありません。」

 

「何故だ…?理由を教えてくれ…」

 

「簡単な話ですよ。…俺は好意を向ける相手が複数います…具体的に名を挙げるならアーシアと部長です…オフィーリアさんは好意をテレーズさんに向けてます…他の人に気持ちを向ける事も無くはないみたいですけど…」

 

「分からん…私と何が違うんだ…?」

 

「だって…テレサさん、黒歌さんたちに恋愛感情向けてないでしょう?」

 

「な、に…!?」

 

否定しようと声を上げようとしたが…出来無い…!私は…兵藤の言ったそれが…否定出来無い…!

 

「やっぱり否定出来無いんですね…テレサさんは多分…黒歌さんたちから向けられている好意に流されるまま…その…身体を重ねてるだけなんです…アザゼル先生とライザーに至ってはもっと酷いですね…多分、無意識だとは思いますけど、完全に遊びと認識してると思いますよ?まあアザゼル先生はそれでも良いって言うと思いますけどライザーには同情しちゃいますね…テレサさんに本気みたいですから…」

 

先生と付いてる事で少し前にアザゼルがどんな手を使ったのかこの学校に教師として赴任した事を頭の片隅で思い出しつつ…私は必死で兵藤の言っていることを否定する材料を探そうとしていた。

 

「俺からは何も言うつもりはありませんけど…テレサさんが本当に本気で悩んでいると言うなら…全員に全てを話して、決着が着くまできちっと話し合いをすべきだと思います…多分それからでないと何も変わらないと思います…」

 

「…私はずっと一人で悩んでいた…この関係性をどうすれば良いのかと…」

 

「すみません…その時間が無意味だったとは思いませんけど…もうその段階をとっくに超えてると思います。一度ちゃんと話し合った方が良いです…大丈夫ですよ、皆テレサさんが好きなんですから、そんなに悪い事にはならないと俺は思います。」

 

「そうか…分かった。検討してみよう…」

 

「あまり偉そうな事言いたくないですけど…早くした方が良いと思いますよ?…後で発覚したりするともう話し合いどころじゃ無くなるかもしれませんし…」

 

「ああ…ありがとう、兵藤。」

 

「い、いえ…俺は何もしてませんし…あーほら!クレアちゃん待たせてるんでしょう?早く行った方が良いですよ。俺たちは放課後、生徒がいなくなった辺りでこっそり帰りますから。」

 

「ああ…こっちが落ち着いたら、声をかけるからまた家に遊びに来い…アーシアが喜ぶ。」

 

「はい!」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら190

『…で、何で私に電話して来た?私にはまるで関係無い話なんだが?』

 

「いや、そのな…」

 

私は兵藤にはああ言ったものの、いざ話すとなると急に尻込みしてしまい、取り敢えずテレーズに電話をかけていた。電話の理由を説明すれば、先の返事が返って来た…真面目に聞け!とは言えないな…私も同じ立場なら同じ様な返事を返してしまっただろうからな。

 

『仕方の無い奴だ…そもそもな、お前が時々二人とヤっているのに最初に気付いたのは私でもオフィーリアでも無いからな?』

 

「まさかそんな…嘘だろう…?」

 

『現実を教えてやる。…最初に気付いたのは黒歌だ。私たちが知っていたのは黒歌の方から私たちに相談して来たからだな。』

 

「そんな…」

 

『お前らの関係性が関係性だからな、黒歌も別に二人と関係があるのは怒っていなかった…分かるよな?あいつが気にしてたのはお前が何も言わない事だ。』

 

「だが、何故あいつは私に何も…」

 

『お前の出自を考えれば分からなくてもそれ程可笑しくは無いが、分からなくても良いわけでは無いな。』

 

「だから、どういう事なんだ…!?」

 

『自分たちに隠れて男と寝ている?もしかして自分たちに満足していない?…捨てられるのかも!?…とか思っても仕方無いとは思わないか?』

 

「しかし、黒歌はそんなに弱くは『そうじゃないからお前に言わないんだろ?』……」

 

『お前の事だ、連中を裏切った…それで自分が殺されるなら仕方無いとか思ってるかもしれんが、それで済めば良いな?』

 

「それ以上何があると言うんだ?」

 

『黒歌に言われた事をそのまま復唱してやる…私たちに何かあったら、クレアとアーシア、それに白音の事を頼んで良い?…だ。』

 

「なっ!?」

 

『このタイミングでこんな事を言う理由は一つしか無いよな?このままお前が黙ってたらあいつら自害しかねんぞ。お前を巻き込んでか、お前を残して死ぬのかは知らんがな。』

 

「それではもう『落ち着け。あいつはギリギリまでお前を待つと言っていたよ…どれくらい我慢出来るのかは知らないが。』私は…!」

 

『取り敢えず今日はもう仕事に戻れ。大体、全員に言うにしても今日から数日、セラフォルーが仕事でいないんだろ?』

 

「何で知ってるんだ…?」

 

『昨日の夜中、人の部屋押し掛けて来てお前に会えないと愚痴って行ったからだが?……ちなみにオフィーリアが敵と勘違いして危うく殴りかかるところだったからな?』

 

「すまん『謝らなくて良いから奴に伝えておけ。夜中に連絡も無く突然来るな、とな。』分かった…」

 

『じゃあ切るからな…最近あまり体調が良くないんだ…下らない事で連絡して来ないでくれ…』

 

「悪かった…ゆっくり休んでくれ。」

 

身重のテレーズに無理させた事を反省しつつ、電話を切った…

 

「…取り敢えず仕事に戻るか…後は帰ってから考えるしか無い…」

 

私は旧校舎の廊下の窓を開け、外に出ると新校舎に向かった…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら191

それからは用務員室に戻り、普通に仕事を続けた…そう言えば、今日は見回りをしてないな…まあ良いか…今日は捕まえなければいけなかったあいつらも結果的に出没しなかったわけだしな…それにしても…

 

「……」

 

私はオフィーリアの方を見る…何も言って来ない。さっきの事は無かった事にするつもりらしい…オフィーリアが戻って来た時点からクレアは眠ったままのようだから、てっきりまた話を振ってくると思ったのだが。

 

「…何?」

 

「いや…何でも「手が止まってるんだけど?用があるからこっち見てるんじゃないの?」……」

 

「…さっきの話なら私からこれ以上何か言うつもりは無いわよ。決めるのはアンタよ。どうせ既にテレーズに電話でもして色々聞いてるんでしょ?その上でどうするか自分で決めなさい。」

 

「……お前の意見を聞きたいと言ったら?」

 

そう言うとオフィーリアがわざとらしいほど大きな溜息を吐いた。呆れ顔をして聞いて来る。

 

「本気で言ってんの?」

 

「……」

 

「なら、言ってあげるわ。とっとと自分の首斬り落として死んだら?…アンタがそんなんじゃ待ってくれてる黒歌が可哀想よ。」

 

「…しかし、ここで私がいなくなったら「アンタに覚悟が無いんだもの、当然でしょ?…心配しないで。黒歌たちはもうどうしようも無いけど、クレアとアーシアと塔城小猫は私とテレーズできっちり守るわ。」……」

 

「どうせ今はもう自害する度胸も無さそうだけど、アンタがただ自殺したいだけなら私は介錯はしないわ。本気で死にたくなったら言って。見届けてあげる…後の事は任せてくれて良いから。」

 

「黒歌たちの事も守ってくれないか「それはアンタが自分でやんなさい。そもそもアンタがいなくなったらあいつらは間違い無く後を追うわ。…黒歌に頼まれてるし、クレアたちは守ってあげるけど自分で決めて死のうとしてる連中を止める義理は無いの」しかし朱乃はまだ「本人がそう決めたなら私は何もしないわ。そもそも、誰が悪いの?」それは…」

 

「取り敢えず集中しなさいよ、手が止まったままよ?」

 

私はクレアの事をチラッと見た後、書類に向き直った。

 

 

 

 

「今日は話し合いは無理よね?だからって帰らないつもり?」

 

「少し考えたくてな…」

 

「そう。クレアは連れてってあげるけど…理由は適当に誤魔化すでも良いから黒歌に連絡はしておきなさいよ?部屋に着いてからわざわざ説明するの面倒だから。」

 

「ああ…」

 

「じゃあ、また明日。」

 

クレアを背負い、オフィーリアが出て行くのを見送った。

 

 

 

「テレサ?どうしたの?ここに来るなんて久しぶりじゃない。」

 

黒歌に仕事をある程度片付けたいから遅くなると連絡し、私はオカルト研究部のドアをノックしていた。中から出て来たリアスと会話する。

 

「ああ…ちょっとな…朱乃と小猫はいないのか?」

 

「…今日は家にいるけど?最近はそれ程大きな仕事も無いし、あまり全員は集まったりしないのよ。」

 

「そうか…」

 

「……帰らないの?」

 

「ここに来たら駄目なのか…?」

 

「そういう訳じゃないけど…何かあったの?」

 

「……」

 

「…良いわ、入って。今は私しかいないから気兼ねしないで良いわよ。」

 

「ああ…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら192

「そこ座って。」

 

「ああ。」

 

リアスに言われ、この前まで良く座っていた席に座る…どうにも妙な気分だ…何だろう、この何と言うか…何かが欠けたような違和感は…

 

「何かソワソワしてるわね、テレサ。」

 

「そうか…?」

 

紅茶のカップとポットをお盆に乗せて持って来たリアスが私を見て笑う。

 

「貴女がその席に座る時、大抵は朱乃と小猫がくっついているでしょ?」

 

「…そうだな、確かにそうだ。」

 

最近の私は仕事をして、家に帰るだけの生活だ…放課後ここに来る事も無い…こいつと他の連中も何時の間にか用務員室に来なくなったしな。

 

「朱乃と小猫は何時でも貴女に会えるし、何より…」

 

「テレーズとオフィーリア、か?」

 

…明らかに考えがバレた事を気にすべきなのかもしれないが聡明なこいつの事だ、今の話の流れから気付いた可能性もあるし、単なる偶然という事もある…

 

「そうね…今はテレーズが休みを取ってるからアレだけど…あの二人がイチャついてるのを見せられるのはハッキリ言ってキツイのよ…」

 

「そうか…」

 

私はいよいよ見慣れてしまったがな…まあ仕事中はオフィーリアでさえ、真面目だから文句も言いづらいのだがな…

 

「で、どうしたの?何時もの貴女ならとっくに帰ってる頃よね?それに今日はクレアが来てた筈でしょ?…一緒じゃないの?」

 

「そうだな…」

 

こいつに言った覚えは無いがな…まぁ朱乃か小猫から聞いたのだろう…

 

「まぁ今更取り繕っても仕方無いか。悩み事と言う奴だよ…」

 

「えっ…?貴女が…?」

 

「そんな驚く様な事か…?」

 

「そりゃまあ…」

 

「私だって悩んだりするさ…」

 

「じゃあここに来たのって…」

 

「意見が聞きたくてな…まぁここにいたのがお前だけだったのは僥倖か…小猫と朱乃には言えんし、兵藤には意見を聞いた。オカルト研究部の連中は残りはお前以外はどうもな…」

 

ギャスパーはこの手の問題は真面目に取り組んでもこれ以上の意見が出て来るかは分からん…ゼノヴィアは正直、斜め上の回答が飛んで来そうだからな…

 

「まあ私で良いなら良いけど…」

 

「頼む!」

 

「ちょ、ちょっと!?何をそんなに悩んでるのか知らないけど頭なんて下げなくて良いから!」

 

「ああ…」

 

「相当に深刻なのね…良いわ、取り敢えず話してみて。」

 

「実はな…」

 

 

 

「え~っと…何と言うか、意外ね…」

 

「何がだ?」

 

「…お兄様と違って真面目だから…貴女がそういう事で悩んでるのがどうもね…」

 

「…そうか…お前にはそう見えたか…」

 

実際、私の知ってるサーゼクスにしてもグレイフィアに会うまで、声をかけた女はかなり多い様だ…無論、私を含めてな。…というかグレイフィアと交際を始めた当初はまだ私に声をかけてたからな…グレイフィアと揉めたのがまるで昨日の事の様に思い出せる…これに関しては今も忘れられん…何かムカついて来たぞ…。

 

「その様子だと貴女もお兄様と色々あったの…?」

 

「巻き込まれただけだよ。あいつが勝手に口説いて来ただけで私は何もしてない…最もグレイフィアには関係無かった様だが。」

 

「じゃあ、その縁が今も?」

 

「ああ…だが、その頃私は色々と荒れていたからな、私の事を調べた後、私の所に来たあいつにまるで関係無い筈の私の私生活の事で散々説教されたよ…」

 

「それで今もお義姉様に頭が上がらないのね…」

 

いや…何で私の昔の話になってるんだ…?

 

「……その話はもう良いだろう?それで「ハッキリ言っても良いの?」…もちろんだ。」

 

「ほぼイッセーと同じね、黒歌たちに言うしか無いんじゃない?」

 

「やはりそう思うか…?」

 

「複数の人と関係あったって悪魔としての私が批判する事は無いけど…身内にもそういうのがいるし、そもそも悪魔の間で伴侶が複数いるのなんて珍しくも無いし…でも本来のパートナーたちが知らないのは不味いと思う。」

 

「やはりそうか「それにね」ん?」

 

「オフィーリアみたいに過激な事は言わないけど…私個人としては気に入らない話よ。」

 

「そうか…参考になった…」

 

「取り敢えず今日はもう帰ったら?きっと皆心配してるわよ?」

 

「そうだな…少し落ち着いた、ありがとうリアス。」

 

「…貴女たちには返し切れない恩があるわ…良いわよ、これくらい…その代わり、ちゃんと黒歌たちと話をしてね?…クレアを悲しませる事になったら私だって怒るから。」

 

「ああ。じゃあな…」

 

席を立ち、オカルト研究部のドアを開け、外に出て、閉める…

 

「……」

 

廊下の窓を開け、外に出た。

 

「フッ!」

 

妖力解放し、家まで走る…着いた…見つかってないよな?まだ人気のある時間だが、さすがに私の姿が見える程の実力者はいないはずだ…

 

「しまった…」

 

部屋の前まで来て立ち尽くす…すぐに会うのは気まずい…普通に歩けば良かったか?

 

「…まあ仕方無い…いい加減腹を括ろうか。」

 

そもそも部屋の前まで来た時点でバレるのだ…そうでなくても短時間とはいえ、妖力解放したのはテレーズとオフィーリアにはバレているだろう…下手をすれば黒歌にも…ここで逃げても私の立場が悪くなるだけ…

 

「……」

 

私はドアを開け中に入った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら193

気合い入れて入って来たのは良いが、今日からセラフォルーがいないので今日私の口から話しても仕方が無いし、そして…

 

「おかえりにゃ、テレサ。」

 

「…ただいま、黒歌。」

 

事前に連絡をしていた為、多少遅くなったところで別に黒歌から文句が飛ぶ事も無く、こうして私は黒歌に笑顔で迎えられながら帰宅してしまっている訳だ……

 

「結構早かったわね、遅くなるって聞いたけど?」

 

「ああ、思ったより早く片付いてな…クレアはもう戻ってるか?」

 

「…ついさっき、オフィーリアが連れて来たにゃ。」

 

「…そうか「テレサ?」ん?」

 

「何で帰って来るだけで妖力解放したにゃ?」

 

やはりバレるか…

 

「…早く帰ってやりたくてつい、な…」

 

「…私としては嬉しいにゃ…でも…」

 

「分かってる…悪かった…」

 

「良いにゃ。でも、テレーズとオフィーリアが話があるからご飯食べたら部屋に来てだって。」

 

「……ああ。」

 

食事をする…黒歌は何も言わない…何を考えてるのかは私にも分からんな…あの後起きたのか食事をしているクレアを含めた残りの面子は気付いても…いや…それも分からないな…

 

クレアが今日、私の職場に来て感じた事を話すのに相槌を打ちながら私はそう考えていた。

 

 

 

 

そして現在…テレーズとオフィーリアの部屋に私はいた。

 

「…で、何の話をしたいのか分かるな?」

 

「ああ…」

 

「じゃあ言ってみろ。」

 

「私が妖力解放した事、だろ?」

 

「戦闘をしていたのか?」

 

「いや…そうじゃない…まぁ強いて言うなら気分の問題だな。」

 

「…別にお前が戯れに妖力解放して加減ミスって覚醒者になろうが私には関係無い。オフィーリアが殺しに行くだけだからな。」

 

「そうね…それぐらいはやってあげる。」

 

「だが…戯れにしろ、訓練にしろ、敵もいないのに町中で妖力解放するのは頂けないな…」

 

「私はね、普通に生きたいのよ…テレーズと一緒にね。貴女が普段、自分の力を抑えられないと見なされたら、テレーズは大丈夫だとしても、私は確実に危険視されるわよね?」

 

「そうだな…」

 

「次にやったら…まぁ言うまでもないな。」

 

「ああ。すまなかった。」

 

「謝罪は……一応受け取っておこうか。今日はお前の電話で起こされて、その後のお前の妖力解放でまた起こされたからな、私は。」

 

「……」

 

「私としてもこの腹に関して日常生活を送れないことにに不便さを感じてはいるが、不快では無い。産まれてくるのが普通の子供でないのは間違い無いが、単なる化け物でない限りは無事に育てたいんだ…これ以上私の心労を増やさないでくれないか?」

 

「本当にすまなかった…こっちの問題もさっさと解決する…」

 

「お願いね……私としても黒歌たちの死体は見たくないから。」

 

「分かった…ッ!…何だこれは…!?」

 

「お前の部屋からだな…相手はかなりの魔力持ちか…?」

 

「すまん…今日はこれで「一応私も行くわ。」助かる。」

 

 

 

 

「…何が起きた?」

 

「それが…女の子が部屋の中に入って来て…」

 

「女の子?」

 

「ゴスロリ服を来た女の子が…」

 

…?何だ?何か引っかかる…そんな知り合いは私にはいない…いや…何か大事な事を忘れている様な…ん?

 

「オフィーリア?どうした?顔色が悪いぞ?」

 

「…アンタはもう覚えてないんだったわね…アンタ、前に私に自分で話したんだけどその記憶も無い?」

 

「…私がそいつを知っていたと?」

 

「多分…オーフィスじゃない…?」

 

「…あ!」

 

しまった!?

 

「そいつは何処に行った!?」

 

「クレアの部屋に…あ…」

 

私は黒歌を押し退けるとクレアの部屋のドアを開けた…

 

「我、クレアの友だち。」

 

「うん!もうオーフィスちゃんは一人ぼっちなんかじゃないから!」

 

「…クレア?」

 

「あっ!テレサ!この子オーフィスちゃんって言うんだ!友だちになったの!」

 

「そっ、そうか…なぁクレア、ちょっとこいつを借りていいか?話が「オーフィスちゃんだよ、テレサ。」…オーフィスに話があるんだ…良いか?」

 

「うん。分かった。」

 

「じゃあオーフィス、一緒に来て貰って良いか?」

 

「我、分かった…テレサについて行く。」

 

 

 

 

「おい…まさかそいつ…」

 

「そう言えば、私と記憶を共有していただけのお前なら原作知識は残っている筈だな…オーフィスだ…あー…慌てるな、多分こいつは今の所は何もしないよ、クレアと話した後だしな…ここにも素直について来た。」

 

オーフィスを連れて、テレーズの部屋に戻って来た…さて、先ずは話をするか。

 

「お前に敵意が無いのは分かるが、一応確認はしておきたい…何をしに来た?」

「我、テレサに会いに来た。」

 

……黙ってついて来た辺り、薄々そうじゃないかと思ってはいたが…私はオーフィスに少し待つ様に良い、テレーズとオフィーリアを部屋の奥に連れ出した。

 

「あいつは私に会いに来たらしいが…」

 

「あいつは確かグレートレッドドラゴンを倒したいらしいからな…その協力を頼みに来たんじゃないのか?」

 

「何故私に?」

 

「私たちの力がオーフィスにとって未知だから…じゃない?」

 

「なら、テレーズは違うにしてもお前でも良かっただろうに…」

 

「言い方が腹立つわね…でもアンタの所に来た理由は分かるわ。」

 

「そうだな…私も分かるな。」

 

「なっ、何故!?」

 

「「今日のお前(アンタ)の妖力解放。」」

 

「は!?」

 

「恐らくは…和平会談の時のお前らの戦いをオーフィスは見ていて興味を持った…で、探してはみたものの普段私たちは力を抑えてしまっていてなかなか見つからなかった。」

 

「…で、今日アンタが久々に妖力解放したから、その力を辿って来たんでしょ。」

 

「…じゃあ…私のせい、か?」

 

「そういう事、だな。」

 

「きっちり話着けなさいよ?こっちは巻き込まれたくないから。…クレアが話してるとはいえ、まだ諦めてないかもしれないわ。」

 

「分かったよ…行ってくる。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら194

「……」

 

オーフィスの前に戻って来てから思った…こいつにどういう話をすれば良いんだ…?こいつの性格を前の私は覚えていたのかもしれないが今の私には分からない…ただ、先のやり取りから察するにこいつはまだ赤子とそう変わりない…感情論を述べても理解出来ないだろう…どうしたものか…

 

「オーフィス?」

 

「何?」

 

「お前は何で私に会いに来たんだ?」

 

結局ストレートに聞くのが一番早い気がした…何となくだが分かる…こいつは聞かれた事には必ず答える…そして絶対に嘘はつかない。

 

「我、テレサの戦ってる所を見た。テレサは私の知らない力を使ってる…だから興味を持った。」

 

「…私に逢いに来たのはそれが理由か。で、会った感想は?」

 

会ってどうするの気だったのかと聞きそうになったが堪える…話を急ぐのはあまり得策じゃない気がした…

 

「テレサの力が何なのかは分からない…でも一つ分かった事があった。」

 

「…何が分かった?」

 

「テレサは弱い、我の方が強い。」

 

「そうか…そうだろうな…間違い無く私はお前より弱い…お前は強い奴を探しているのか?」

 

「そう。」

 

「何の為に?」

 

「我、次元の狭間に帰りたい…でもグレートレッドいる。」

 

「…そいつをどうにかするのに味方を探しているのか?」

 

「そう。」

 

「お前、仲間は?元はいたんじゃないのか?」

 

「いない。我、元々一人だった。」

 

「…グレートレッドを倒してもそこにはお前しかいないんだろう?連れて来た奴が残ってくれなかったらお前は一人に戻るな?寂しくないのか?」

 

「寂しい?クレアにも言われた…良く分からない。」

 

…長い年月、こいつに向き合う奴がいなかったのだろう…寂しいという感情も理解出来無いか…

 

「そうか。クレアの事をどう思う?」

 

「クレアは弱い…でも強い。」

 

「…それは心の話か?」

 

「そう。我が近付くと皆怯える…クレアはそうじゃない。」

 

「クレアと話してどう感じた?」

 

「暖かい。」

 

ここら辺が落とし所か。

 

「お前が向こうに戻ったらもうそれは感じられないかもな…どうする?」

 

「…我、クレアと一緒にいたい。」

 

…次に言う事を想像したら胃が痛くなって来たな…仕方無いか…

 

「なら、一緒にいれば良い…家族になれば一緒にいられる。」

 

「家族…そしたらクレアとずっと一緒?」

 

「そうだ。私たちと一緒に暮らそう。」

 

「我、テレサの家族?」

 

「そうだな、お前は今日から私たちの家族だ。」

 

この日家族が一人増えた…

 

 

 

 

あの後まだ起きていたクレアにオーフィスを引き取った事を伝えたら大喜びしていたが…後の事を考えると非常に胃が痛い…こっそり正体を教えた黒歌も顔色が悪くなったからな…後処理はサーゼクスに丸投げするとしてその後はどうしようか…取り敢えずサーゼクスから胃薬を分けてもらうのは確定だな…自分の事で精一杯なのに何で余計な問題を増やす羽目になるんだ…

 

テレーズとオフィーリアからは家族の一人として接しはするがその他の面倒事はこっちでどうにかしろと言われたし…あー…胃が痛い…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら195

これからの事を考えつつ、クレアをオーフィス(あいつ睡眠取るのか…?)と一緒に寝かしつけてから私はある事に気付き、私はまたテレーズとオフィーリアの部屋を訪れていた…

 

「…で、今度は何だ?」

 

「オーフィスの事なんだが…」

 

「…引き取ったのは良いが、今の状態だと昼間は結局部屋に一人になる、か?」

 

「……」

 

私も黒歌も働いているし、クレアとアーシア、それから小猫と朱乃は学校…普段は家にいるセラフォルーも今は出張中…不味い…非常に不味い…

 

「…寧ろ、何時気付くのかとオフィーリアと話していた所だ。」

 

「いや…さっきはそれが最善だと思ったんだが…」

 

「…そもそもあの子、お飾りとはいえ今は一応渦の団の首領なのよね…間違い無く取り返しに来ると思うわ。あの子が何も考えずに一人で戦ったらこのマンション無くなるわよ?」

 

「それで済めば良いがな…最悪この付近一帯が更地…いや、それ以上の被害が出るかもしれんな…」

 

「…つまり当面は最低でも私たちクラスの人間が残るべきだと?」

 

「いや、私は今戦えないからな?」

 

「というかこっちを巻き込まないで欲しいんだけど?」

 

「そこを何とか…!」

 

「オフィーリア?」

 

「冗談。クレアの妹になるとはいえ、あの子にそこまでする義理無いわよ。」

 

「……」

 

「こっちはてっきり、諸々どうにかする自信あって引き取ったんだとばかり思ってたがな。」

 

「…無茶言うな…もう渦の団に所属してる奴の名前もろくに出て来ないんだぞ…」

 

「…記憶なんて一番当てにならないだろ?今のお前の様に忘れたりするしな。どうしてメモを取っておかなかったのか甚だ疑問なんだが?」

 

「いや…それは…しかし、お前らは私が話した内容は覚えてるだろ?テレーズは私と記憶を共有していたし…」

 

「…確かに私も聞いたけどね…こっちや、サーゼクスたちに話した情報も微々たるものよね。というか…既にあの時の時点であやふやだったわよねアンタ。」

 

「ちなみにお前から共有した記憶なら既に虫食いだらけだったが?良くアレでどうにかなると思ったな…」

 

「……」

 

「話が逸れたな…で、オーフィスの事はどうするんだ?」

 

「…取り敢えず明日からしばらくの間…オフィーリア、お前一人になるが仕事を任せても良いか?」

 

「……別に、出来無くは無いけど。」

 

「何だ?」

 

「いやね、さっきまで二人で話してたのよ、こっちにオーフィスを預けるつもりじゃないかって。」

 

「……実を言うと浮かんではいたな…ちなみにそっちで頼んでたらどうしてた?」

 

「……オーフィスの生活費を入れてくれるなら受けてはいたな…」

 

「……いくら取るつもりだったんだ?」

 

「…さぁな。結局お前は頼まなかったんだから良いだろ。」

 

「…で、明日からしばらく私一人で行けばいいのね?…で、何時まで?分かってると思うけどずっとじゃ困るわよ?テレーズが心配だし。」

 

「アザゼルも成長が異様に早い事以外何も分からないらしいからな…ハッキリしてるのはもう何時産まれても可笑しくないと言う事だ。」

 

「…二週間…いや、一週間くれ。」

 

「ふ~ん…分かった、一週間ね…あっ、先に言っておくけどテレーズに何か起きたら帰るからね?」

 

「いなきゃいないで放置になってる仕事だからな…良いんじゃないか?」

 

「……」

 

「おっと…お前は困るよな、書類が溜まる一方だし。」

 

「産まれた後は悪いけど仕事どころじゃないからね、後はアンタがどうにかしてね…それで良いかしら?」

 

「…分かった…その条件で明日から頼む。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら196

翌朝、オーフィスと二人で部屋に残る事になったものの…私は子どもは基本的に聡明なクレアしか接した事が無い…クレアが学校に行き、他の家族も私以外家に残らない事を聞き分けてくれた時にはホッとしたが…早速私は二人きりになった事を後悔していた…

 

「「……」」

 

私は基本、相手が話しかけてこない限り自分から話を振る事はあまり無い。オーフィスも自分から話を振る気は無いようで気不味い沈黙が続いていた。

 

一週間…咄嗟に私が言った期間だが、あの時一週間でこいつに何をしてやるとも私は考えていなかった…クレアとこいつが少しでも長く一緒にいられるようにするためにはこいつが小学校に通える段階まで教育する必要がある…そうでなければ後見人を務めるサーゼクスたちは納得しないのは確かだ(そもそもまだ引き取った事実も伝えてないがな)オーフィスは地頭が良いのは間違い無いだろうが、こいつは人間社会の常識を知らん。先ずはそこを教えなければならないのだがどう切り出せば良いのかまるで分からん。

 

これならあいつらの言う通り戦闘は私が請け負い、普段の世話はテレーズとオフィーリアに任せるべきだった…生活費さえ入れればあいつらはそこら辺は協力してくれるつもりだった様だしな…失敗した。今更テレーズに協力してくれと頭を下げに行っても無駄だろう…今のあいつはオフィーリアがいないと日常生活を送る事もままならん…私がやるしか無い訳だが…どうしたものか…

 

胃が痛い…昨日チラッと二人に聞いてみたが私のこの胃痛はクレイモアである以上、間違い無く気のせいだろう(クレイモアは基本的に病気とは無縁)と言われたがそうは思えない…私はこの痛みを現実の物として確かに認識している。

 

「テレサ。」

 

「!…どうしたオーフィス?」

 

思索に耽っていたところ、オーフィスに話し掛けられた…何時の間にか近くにいた事に気付き、驚くが何とか顔に出さないようにして返事を返した…胃痛が更に酷くなって来たぞ…

 

「どこか痛い?我、心配。」

 

「……私を心配してくれるのか?」

 

今度のは完全に驚きが声に混ざった…恐らく顔にも出てしまっているだろう…

 

「クレアから家族が苦しんでいたら心配すると聞いた…テレサ、我より弱いから心配…」

 

……見た目が子どものこいつに心配されるのは妙な気分だ…そもそもこいつの事を考えているから胃が痛いのだが…いや、元々の前提が間違っていたんだな…クレアの言葉で仮初でもそういう情緒が芽生え始めているのなら…黙っている方が愚策だろう。ここは一つ正直に語ってみるとしよう…

 

「お前のこれからの事を考えていてな…」

 

「我の事?」

 

「…クレアと家族でいたいならお前は人間として生きなければならない。その為には人を知らなけれはいけないのさ。」

 

「我、クレアと家族でいたい…どうしたら良い?」

 

「一緒に学んで行こうか、オーフィス?実を言うと私も人間を辞めてしばらく経つせいか、クレアと暮らす様になって時間が経った今でも齟齬が生じるのさ。だから…共に学ぼう、オーフィス。」

 

私はオーフィスの頭を撫でながらそう言った。そうだ、時間はまだある…先ずは部屋に篭ってないで何処かに出かけてみようか…渦の団の連中が現れるかもしれんが、ここにいてもこいつに何も教えられない。問題が起きたらサーゼクスに後処理をさせるとして…さて、先ずは何処に行こうかな?



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら197

「…で、色々回った挙句、何で最後に来るのがここなのかしら?」

 

「いや…私の場合、どうも最近の娯楽には疎くてね「貴女、元は人間でここに近い世界の今くらいの時代に生きてた人って言ってなかった?」…数百年は前だからな。当時、何をして楽しんでたかなんてとっくの昔に忘れたよ。」

 

「どうだか…」

 

私はオーフィスを連れて夕方頃まで適当に彷徨いた後、結局、そのまま私の職場の駒王学園・用務員室を訪れていた。

 

「それにだ、仕方無いだろう?今のオーフィスじゃ、何処に行ってもどう楽しむのか説明するだけで終わるんだから。」

 

「…それが本音、ね。どうせ貴女が説明下手なだけでしょ?というか、私はもう帰るんだけど?」

 

「あー…気にするな、この後はオカルト研究部に行くから「もう夕方よ?クレアも帰って来てるだろうし、リアスたちに迷惑かけるぐらいなら家に帰れば良いじゃない」……そうだな。」

 

「忘れてたのね…寧ろクレアの方が会いたがってるんじゃない?本人は妹が出来て喜んでたし。」

 

「そうだな…オーフィス、そろそろ帰ろう。クレアがもう帰っている頃だ。」

 

用務員室の隅で暇そうにしていたオーフィスに声をかけた…予想以上に大人しかったな…

 

「テレサ…我、もうクレアたちに会える?」

 

「ああ。もう皆帰っている頃だ…悪かったな、私と一緒じゃあ退屈だったろう?」

 

正直、オーフィスを普通の子どもとしてすら扱えて無かったな…やはり私に子守りは向いてなかったか…今からでもオフィーリアに頭を下げて…

 

「テレサ。」

 

「ん?どうした、オーフィス?」

 

「…我、今日はテレサと一緒で楽しかった。」

 

……オーフィスが笑っ、た…?

 

「……ホントにすごいわね、クレアは…ほんの短時間話しただけでしょうに…」

 

「そうだな…」

 

「……テレサ…我、何か変だった…?」

 

「ん?何がだ?」

 

「クレアから楽しかったら笑うと聞いた…我の笑い方…変だった…?」

 

悲しそうな顔でそう言うオーフィスに驚いていると溜息を吐きながら私の背中を小突いたオフィーリアが言った。

 

「…いいえ。そんな事ないわ。貴女、今とても人間らしいわよ……私なんかよりずっと、ね…」

 

「…そうだな…お前が学校に通える様になるのもそう遠くないだろう…痛っ…今度は何だ?」

 

「もっと気の利いた褒め方無い訳?」

 

「…良いだろう、本人は嬉しそうだしな「クレアと黒歌の苦労が分かった気がするわ」どういう意味だ?」

 

「貴女が朴念仁だって事よ。」

 

「……口数が少ないのはテレーズ譲りだ「それは貴女のイメージでしょ?それに、貴女よりは良く喋るわよ?」……」

 

「テレサ?オフィーリア?」

 

「「何(だ)?」」

 

「我、早く帰ってクレアたちに会いたい。」

 

「…さっさと帰りましょうか。」

 

「…そうするか。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら198

「…で、君の言ってる事では勝手に引き取ると決めた事や、今日まで私たちに黙っていた事の説明にはなっていないんだが?」

 

「……」

 

結局私はセラフォルーが戻って来る日まで、オーフィスを引き取った事をサーゼクスに切り出す事が出来なかった…

 

「ッ…何をしているんだ…?」

 

私は正座したまま床に手を付き、頭を下げた。

 

「…すまなかった。私はお前たちの事を信じ切れなかった…だから今日までお前たちに何も言えなかった…クレアも懐いている…気に入らないなら、私の首をやっても良い…だから、家族としてあいつの事を見守ってくれないか…?」

 

「私たちが貴女を責めないと分かっているなら何故…!…いえ、そうね…私でも…言えないわね…」

 

「……確かに…幸い、オーフィスが渦の団の首領である事は上の立場の者は私とグレイフィアにアザゼルしか知らないとはいえ、公にするのは難しいだろうね…だが…だからこそ一言、言っておいては欲しかった…」

 

「……」

 

「取り敢えず頭を上げて。悪い様にはしないから…それでは話も出来無いわ。」

 

「……ああ。」

 

「…話を続けるが、私たちに頼みたいのはオーフィスの後見人となってクレアと同じ学校に通わせる事、だね?」

 

「……その通りだ。」

 

「それがどれ程難しい事なのか承知しているね?」

 

「ああ…」

 

「オーフィスは元々その強大な力を危険視されている…譬え今の見た目がいくら子どもにしか見えなくても、だ。」

 

「……」

 

「クレアと君の話を疑う訳では無いが、少なくとも今現在、オーフィスが懐いているのは君たちだけだろう?…セラフォルーに至っては会ったばかりで警戒されている様だし。事は君が命を懸ければ済むという問題では無い。」

 

「……ああ、分かっている…」

 

「なら、これも分かるだろう…?彼女がクレア以外の子どもたちに危害を加えない保証が無い……無理だ。」

 

「…どうすれば良い…?」

 

私には分かっていた…サーゼクスは頭ごなしに否定している訳では無い…必要なのは…

 

「……彼女がその強大な力を迂闊に奮わないという確実な証明、それから、彼女を取り戻しに来る渦の団の追っ手をどうにかする事の二つ…だね。」

 

「……」

 

前者は問題無いと言っていい…既にあいつはクレアと二人きりで行動する事が多くなっている…その間、奴は一度も問題を起こしてない…後は…

 

「…一つ目に関してだが、オーフィスはクレアが学校に行ってる時以外は一緒に行動している。平日は一人で行動しているが今の所問題は起こしてない。もう一つの方は私が何とかしよう。」

 

「どうするんだい?」

 

「私が渦の団を壊滅させる。無論、時間はかかるがな。」

 

「簡単に言うが、君は何処に本拠地があるのか分かっているのかな?」

 

「……」

 

私は口を噤んだ…原作知識の失われている今、私には場所が分からない…いや、違うな…テレーズに聞いてもその知識が欠けてしまっていた事がはっきりしている…だが方法が無いわけでも無い。

 

「オーフィスが知っている。あいつは既に渦の団を見限っている様だしな…聞けば答えるだろう。」

 

「彼女が喋る様なら私の方も彼女を味方だと信じる事は出来る…ただ、彼女が本当の事を言うとは限らないよ?」

 

「言うさ、賭けてもいい…あいつはクレアを選んだのさ…約束を守らない不義理な連中より、本当に自分に必要な物を指摘し、与えると言ってくれた少女をな。」

 

「…そうか。なら君に任せよう…手が必要なら何時でも声をかけてくれ。」

 

「……良いのか?」

 

「魔王として、オーフィスをそう簡単に信じる訳にはいかないが、家族としての君の言葉なら私個人としては信じられるからね。」

 

「私も同じよ…そもそもテロ組織でしかない、渦の団を放っておくわけにも行かないでしょう?」

 

「…分かった。その時が来たらお前らにも頼もう。」

 

「ん?私たちも?」

 

「いや…元々、一人でやるつもりだったんだが…実を言うとな、セラフォルーを含む私の家族が既に渦の団討伐への参加を表明していてね…」

 

セラフォルーどころか、オフィーリアまでオーフィスを助ける為動こうとするとは思ってもいなかったがな…やはりあいつは変わったな…まぁもう戦わないと言っていた事に関しては突っ込んだがね…

 

「そうか…それでは私たちの出番は無いかもしれないね…」

 

「そうでも無いさ…敵の正体が掴めないんだ…警戒し過ぎるという事も無い…お前らにも声はかける。」

 

「…では、私たちも何時でも動ける様に準備はしておこう…行こうか、グレイフィア。」

 

「はい…それじゃ、テレサ…また。」

 

「ああ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら199

「なぁ?」

 

私はここ最近こちらの部屋に入り浸るオフィーリアに声をかけた。

 

「…ん?何?」

 

「お前ここ最近夜になるとこっちに来てしばらくいるが、テレーズの所に戻らなくて良いのか?」

 

「何?お邪魔?」

 

「いや…そういう訳でもないが、な…」

 

私は床で寝ている黒歌とセラフォルー、それから朱乃に目をやる…最近はオフィーリアがやって来て、酒を飲んでこいつらが早々に潰れる…というのが定番になっている。……正直毎晩の様にこいつらに襲われ、相手をするのは精神的にキツいのでオフィーリアの存在に助かっている所はある。こいつはもう私に手を出す気が無いようだから気も楽だ。ただ…

 

「いや…あいつ何だかんだ言っても初めての経験だろ?お前は出来るだけ傍にいてやるべきじゃないのか?」

 

オフィーリアが溜め息を吐き、点けっ放しになっていたテレビをリモコンで消し、持っていたビールの缶をテーブルに置くと新しい缶を開けた。そのまま口を付け、傾けていく…やがて口から缶を放し、テーブルに置いた。

 

「本人の希望なのよ…一人にしてくれって、ね…」

 

「……」

 

「アレで結構ピリピリしてるのよ。私に当たったりはして来ないけど。」

 

「……予定日は当に過ぎたのに未だに産まれる様子が無いからな…」

 

あの授業参観の日…テレーズも行きたかった様だが、出産予定日当日だったので辞退したのだ。…まぁそもそもあれだけ腹大きくして行くのは誰が見ても無茶ではあったが。

 

「今回の話にも参加出来ないし…ちなみに私が行くのはオーフィスやクレアの為というより、テレーズ本人から頼まれたからよ。」

 

「……お前が行くとあいつを守る奴がいなくなるが「仕方ないじゃない。自分が行けない以上、テレーズは私にしか頼めないんだから」…私一人で行くわけじゃなし、別に今回は任せてくれて良かったんだがな。」

 

「本人は割り切れないんでしょ。そう言えば何時行くの?あれからもう一週間は経つんだけど?」

 

「ん…それなんだがな、ちょっと迷ってるんだ。」

 

「迷ってる?」

 

「敵がどんな手を使うか分からないのに、懐に飛び込むのは無謀じゃないかと思ってな…」

 

「あー…言われてみればそうね…でも、だからって向こうからやって来るのを待つつもりなの?」

 

「……」

 

「向こうが万全の準備を整えて来たらそれはそれで不利じゃない?」

 

「こちらが先に動いたからって危険なのは同じだ…後手になるのがこちらになるのは変わらん。なら、こっちのフィールドで相手した方がまだマシだ。」

 

「…確かに一理あるわね…」

 

「まあどうするか結論だけはそろそろ出すからもう少し待て…ついでに言えばその間に子どもが産まれてくれたらこっちの肩の荷も降りるんだかな…」

 

「一応何時産まれても不思議じゃないってアザゼルからは言われてるんだけどね…成長速度も含めて、良く分からない事が多いらしくて頭抱えてたわ。」

 

「……このままの状態が続くと自分で腹を斬って取り出すかもしれんな…」

 

「有り得そうね…私としては止めて欲しいけど……ん…そろそろ帰るわ。」

 

「ああ、テレーズに宜しくな。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら200

「…で、本当に良いのか?」

 

私がそう聞くと電話口からは息を吐く音が聞こえた…溜息か。

 

『仕方無いさ…私の方もクレアの願いなら余程の事で無い限りは出来るだけ叶えてやりたいからね…』

 

「…すまんな。」

 

『良いさ…そもそも自分の子供の願いでもある。』

 

電話の相手はサーゼクスだ、私は今回少々面倒な頼み事をしていた…さすがに状況が状況だ…断られるかと思ったが…にしてもミリキャスも会いたがっていたとはな…

 

「取り敢えずは…そうだな…二週間だ…」

 

『……その期間で全ては終わる…と言う事かな?』

 

「…いや…何となくだ、その間に何も無ければそれでも良い…」

 

『…戦士としての勘とかでは無いのかな?』

 

「……私の勘は戦いの中では働くがな、基本的にこういう時は役に立たない…まあ外れたらまた考える…」

 

『…取り敢えず話は分かったよ…明日、グレイフィアをクレアたちの迎えによこそう…』

 

……私は考えた結果、今回は奴らの襲撃を敢えて待つ事にした…そしてクレアとアーシアを巻き込まない為、サーゼクスの所で匿ってもらう事にした。

 

『しかし…私は良いが…良くリーアが承諾したね…?』

 

「…ギャスパーからの希望もあったからな、私が頼んだだけではさすがにあいつも承諾しないさ…そもそも元はギャスパー本人が言い出した事でね…」

 

そして…そこに、ギャスパーが護衛としてついて行く事になっている…残ると決めた時、どうしても巻き込む事になるだろうリアスたちに今回の話をしたら珍しくギャスパーが部室にいてクレアたちについて行くと聞かなかったのだ…理由を聞けば…

 

『約束したじゃないですか、クレアちゃんにアーシアさんは僕が守るって。』

 

……本人がやる気である以上、主のリアスでも止められん…普通、部下が個人的な目的の為持ち場を離れるなど論外だが、リアスはそこら辺甘いからな…身内に不自由をさせたくないという想いが前面に出る…甘い…だが、その甘さは私個人の感想を言わせてもらえば、嫌いでは無い…加えて今は戦時下では無い…

 

『…私としては、彼が自分でそう言い出した事に驚いているよ…』

 

「背中を押したのはクレアだが…歩き始めたのはギャスパーの意思だ、成長と言ってしまえば容易いが、私はアレがギャスパーの本質だと思っている…」

 

『……では、まだ先があると…?』

 

「…アレが成長ではないならそうだな、つまり奴はこれからもっと伸びる…この程度で驚いている場合では無いと言う事だ。…まあ時間はかかるかもしれないが。」

 

どれ程時間がかかろうとそれが奴のペースなのだ…特に急ぐ事情は無い今、奴のペースで伸びて行ったら良い…仮に時間制限がつくなら私か、それとも他の誰かが、ケツを蹴り飛ばせば良い…奴はもうそんな事で歩みを止めない強さを既に持っているからな…

 

……他の連中には悪いが…今、一番伸びているのもギャスパーだ……まあ私やオフィーリアが度々喝を入れに行っていたせいもあるかもしれないが。

 

「まあ、何にしてもすまなかったな、仮にこの二週間のうちにもし、向こうが動いたら、お前らの出番は無しだ…クレアたちを守ってもらう必要があるからな…」

 

まだまだギャスパー一人には任せておけん…

 

『私はそもそも家族のために今回の話に乗ったからね、それならそれで彼女たちを守るために全力を尽くそう…』

 

「私が言う様な事じゃないだろうが、油断するなよ?お前たちの方に来る可能性もあるからな。」

 

『……肝に銘じよう…と言っても、三人に加えてオーフィスも預かるんだ、油断などしないさ…そちらも気を付けてくれよ?本体はこっちだが、複製はそちらに残るのだろう?』

 

「……ああ、分かっている。」

 

今回冥界で匿ってもらう話をオーフィスにした際…

 

『我、テレサたち心配…』

 

そう言ってこっちに残ると思いの外強固にごねた為、何度か説得し、オーフィスの妥協案が…

 

『なら、我の代わりを残す。』

 

そう言ってその場で自分の複製を用意した……本人曰く本体より弱いらしいが、それでも駒王町を消し飛ばして余りある力はあるようだから味方としてはまあ、心強い…やり過ぎてしまわないか非常に心配だが。

 

……とにかく今やれる事はこれで一通り済んだ(元々、大して出来る事も無かったが)後は成り行きに任せるしかあるまい…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら201

「おうテレサ!何で黙ってたんだよ!水臭ぇじゃねぇか!」

 

グレイフィアが来てクレアたちを引き取り、クレアとアーシア、それにギャスパー(最近になって毎日ではないが、ちゃんと授業に出る様になった)の休学の連絡を学校にして、取り敢えず連中に対する誘いの意味を込めて、複製のオーフィスを連れて出かけようとしていた所、アザゼルがやって来た…

 

「何でって、お前な…自分の立場を考えてみろ。」

 

「俺はお前の「友人、仲間、家族、単なる腐れ縁…後は下品な言い方をするなら愛人か?どれでも今なら私は受け入れるが、それとこれとは別問題だ」…ふぅ。まっ、指摘されるまでも無く分かってたけどよ、一言伝えるだけなら出来たんじゃねぇか?」

 

今回の一件で元とは言え、堕天使総督だったアザゼルが悪魔の土地(ということになっている)の駒王町で勝手な動きをしようものなら、協定も無かった事になりかねんからな…だから敢えて伝えなかったんだが、まさか直談判に来るとは…何処まで本気か知らんが、今この場に黒歌やセラフォルー…それに朱乃…既にアザゼルの事はあいつらに伝えてあるが、もし今この場にいたらどうなってたか…咄嗟にオーフィスを奥にやって良かった…アザゼルを黙らせる為とはいえ、今回は迂闊だった…我ながらとんでもない事を口走った物だ…

 

「どうやって私がオーフィスを匿った事を知ったのかは知らんがな…結局お前何しに来たんだ?…まさか本気で私を揶揄うためだけにここに来たわけじゃないよな…?」

 

アザゼルにケンカを売りたくはないがさすがにふざけた理由だったら今回ばかりは一発殴る。

 

「ああ、もちろんそれはついでだ、本命はこっちだ、ほれ。」

 

アザゼルに紙袋を渡された。

 

「ん?これは「篭手だよ」……今度は使い物になるんだろうな?」

 

「さあな…つか、もうちょい大事に扱ってくれねぇか?いくら何でも壊す頻度が多過ぎるぞ…」

 

何時かのレーディングゲーム…ライザーと戦った私はあいつを素手で殴り、大火傷を負い、さすがにその戦い方を気にしたアザゼルが私の為に篭手を作った。……作ってくれたのは良いが、私の妖力に耐え切れず毎回壊れる…既にこれが四つめだ。

 

「知らんよ、私だって壊したくて壊してる訳じゃない…まあせっかくだ、万が一連中がやって来たら使わせて貰おう。」

 

「おう。じゃあ、俺は帰る、サーゼクスに宜しくな。」

 

「ああ…」

 

アザゼルが部屋を出るのを見送る…さて…

 

「待たせて悪かったなオーフィス?行こうか?」

 

「分かった。」

 

「…すまんな、お前だってコピーとはいえクレアと一緒に「違う」ん?」

 

「我、一緒。」

 

……抽象的に聞こえたが何となく意味は分かった。

 

「本体とコピーは記憶を共有している…?」

 

「そう。我、クレアとテレサ…一緒にいる。」

 

「そうか、なら寂しく「テレサ寂しい?」んん?」

 

「テレサ、我いないと一人…寂しい?」

 

……ふぅ。全く…妙な心配をする物だ。

 

「……そうだな、一人だと寂しいかもしれないがお前がいる、だから私は寂しくないさ。」

 

「そう…」

 

オーフィスの頭に手を乗せ、撫でる……ふむ、やはりこいつは撫で心地が良い…。クレアと良い勝負だな。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら202

オーフィスの手を引き、歩く…今日は平日である為か、一帯に人気は無い…いや、建物の中に気配はあるが。特に私たちに注意を払っている者は無く、つけられていたりもしない。……ふむ、一旦警戒を緩めても良さそうだな。

 

「オーフィス、何処か行きたい所はあるか?何処でも良いぞ?」

 

足を止め、オーフィスにそう声をかける。

 

「……」

 

オーフィスは黙って私を見上げるだけで何も言わない。……?んー…?こいつは自己主張はあまりしないが、聞けば大抵何らかの返事は帰って来るんだがな…仕方無く私はしゃがみ、オーフィスに目線を合わせつつ、また声をかけた。

 

「どうした?クレアたちと色々と行きたい所を話していただろう?残念ながら今日この場には私しかいないが、何処でも付き合うぞ?」

 

「…我、テレサと一緒なら何処でも良い。」

 

……対応に困るコメントを返して来たな…懐かれて悪い気はしないが、そう言われるとこちらはどう反応したら良いか分からないんだが…

 

「…そうか、なら前みたいに適当にぶらつくか?」

 

頷く……参ったな、今更こいつを危険な存在として扱うつもりも無いが、子どもとして見ても接し方が分からん…クレアやアーシア程で無くても良いからもう少し自己主張してくれたらこっちも対応の仕方もあるんだが…同じ喋らないでも小猫なら割と顔見れば何となく分かったりするが、こいつは普段表情があまり無いから分からん…

 

「……」

 

私は頭を掻きながら何処に行くか、考え始めた…

 

 

 

やって来たバスに乗り、たまたま空いていた一人席にオーフィスを座らせる…やれやれ…空いていて助かった…私は良いが、見た目子どものこいつも一緒に立たせておくと目立つからな…

 

「テレサは座れない…?」

 

「ん?ああ、そうだな…見ての通り、他は空いてないからな…あー…気にするな、目的地はすぐだからな。」

 

先に釘を刺しておく…クレアの影響か、こいつは私たちに必要以上に気を使う様になったからな…

 

「……我、下りる。」

 

やっぱり言って来たか…

 

「良い。私の事なら気にするな…すぐに着くからな。」

 

腰を上げかけたオーフィスの肩に手を置き、座らせる…目的地のショッピングモールまでは二つ先の停留所で降りる必要がある…こいつ、それ迄我慢出来るのか?

 

…こいつがこういう感情を持つ事を悪い事だとは思わないが…どうも極端なんだよな…どうやって教えたら良い物か…実際、間違っている訳じゃないしな…

 

「……」

 

私が少し気を抜いた瞬間にまたオーフィスが席を立ちそうになったのに気付き、今度は少し力を入れて座らせる…頼むから大人しく座っててくれ…

 

……私の頭の中で走行中のバスで席を立ち、転けるオーフィスの姿が頭を過ぎり溜息を吐く…こいつがその程度で怪我をするとは思わんが、好き好んでそんな光景を見たいとは思わん。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら203

結局あの後、何度もオーフィスが席を立とうとするので信号待ちの間にオーフィスを抱き上げ私が席に座り、私の膝の上にオーフィスを座らせるという形に落ち着いた……何か…非常に疲れた…初めからこうすれば良かったな…

 

 

 

オーフィスに小銭を渡し自分で料金を払わせる事にする…私がまとめて払っても良いが、今後の事を考えたら覚えさせておいた方が良いだろう…

 

「……」

 

意外と緊張していたのか手つきがたどたどしかったが、特に問題無く小銭を放り込んだ。そのままオーフィスに降りてもらい、私も料金を払って降りる。

 

「…テレサ。」

 

「ん?…ああ、成程…ほら。」

 

先に降りて待っていたオーフィスが私の手に触れて来たのでその手を軽く掴み、繋ぐ…こうして見ると本当に子どもと変わらんな…そう言えば昔は老人の姿だったんだか?……この姿で良かったよ…それで今の様な振る舞いだと厳しい物がある…まあ今の格好もだいぶ目立って…

 

「……」

 

改めてオーフィスの格好を見ながら思い出す…今は普通にゴスロリ系のドレスを着ているが、当初はゴスロリ風だったんだよな…というか、上はガウンを羽織っているだけでほぼ裸、見えてはいけない箇所は隠れていたものの、正直同性の私が連れて歩いても面倒な事になりそうな格好だった…

 

クレアや黒歌の言葉を素直に聞いてくれて本当に助かった…ゴスロリドレスも普段着としては浮くが、元の露出の高過ぎる格好よりマシだ。

 

 

 

モール内の服屋に立ち寄る…今のオーフィスに娯楽品を見せても興味を持つかは分からんから比較的無難な所から行く事にした。

 

「……」

 

「オーフィス、気に入ったのはあったか?」

 

普通の子供服の店舗でも良かったのだが、せっかくだから今オーフィスの着ている様な服を専門に扱った店に来てみた…案外興味津々なのかキョロキョロと店内を見回すオーフィスを横目に、マネキンの着ている服の値札を見てみる……結構値が張るんだな…まあ普段私は散財しないし、これくらいなら払えるが。

 

「……これ。」

 

「ん?それか。」

 

私はオーフィスが指を指した服を手に取る…私はこういうのを選ぶセンスは無いからな…自分で気に入ったのを言ってくれるのははっきり言って助かる。

 

「このまま買っても良いが、試着してみるか?」

 

「……しちゃ、く?」

 

……ん?…ああ…意味が分からないのか…

 

「悪かった。説明しなきゃ分からないよな…一度着てみるかって事だ。」

 

オーフィスのサイズは分からないからな…まあこれが本来の姿じゃないだろうから、自分である程度弄れるのかもしれないが。

 

「……着てみたい。」

 

「分かった、行こうか。」

 

 

 

 

試着室にオーフィスを連れて入る…あ…

 

「それ、脱げるのか?」

 

確か今着てるのはオーフィスが自分の魔力で作った物の筈…

 

「…多分。」

 

「そうか、じゃあ私は外で…どうした?」

 

出ようとするとオーフィスが服を掴んだ。

 

「……脱がせて。」

 

「は?」

 

「脱ぎ方が分からない。」

 

……自分で作った服なのに分からない、は無いと思うが…まあ良いか。

 

 

 

意外と脱がすのが難しく、時間がかかってしまった…やれやれ…普段こういうのを良く着てるギャスパーにでも話を聞いておくべきだったか…

 

「……」

 

漸く脱がせて一息ついてから思う…これは着せる所までやらないといけないのでは…

 

……もちろん、オーフィスは着方も分からないらしく苦労して今度は服を着せた…全く…これなら普通の子供服の店に行くべきだったな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら204

それから十数着程、オーフィスに試着をさせ、全部買ってやった……数着程本人が気に入ったのを購入するつもりが…買ってやると言ってるのにオーフィスがあまりにも渋るから思わずやけくそになってしまった…

 

「テレサ…本当に良いの…?」

 

「何度も良いと言っただろう?駄目なら駄目とちゃんと言うさ。」

 

全く…子どもの癖に妙な遠慮をする…こんな所までクレアやアーシアに似なくて良いと言うのに…まあ実際は私よりも何倍も長生きなんだろうが…

 

「でも…」

 

「あのなぁ…クレアたちにも言っているが、一々妙な遠慮をするな。家族なんだ、もっとワガママを口にしてくれてもいいんだぞ?大丈夫だ、確かに高い服ではあるが、この程度ならもう十着程買ったとしても大して痛手にはならん」

 

……現状、クレアだけでなく、アーシアや小猫の進学費用が出せるくらい、文字通り腐る程口座に金が入っているからな…特にセラフォルーの稼ぎが入って来る様になってからは、更に金が余るようになった…そもそも何であいつは給料を全部黒歌に渡してしまうのか…私でさえ、自分で使う金は残すと言うのに。

 

……まあその私も無趣味だから、実際はほとんど使い道は無いんだが。…ん?私の服の値段?……今持ってる服の十分の一くらいの値段だな。……しかし…これは無駄遣いになるのだろうか…正直、黒歌ならオーフィスの気に入る服を自分で作れそうだからな…こんなに買う必要は無かったかもしれん…

 

 

 

モール内のフードコートに行き、昼食を取る…時間をかけ過ぎたな…もう午後になってしまった…もう少し色々回ろうと思っていたのだが…

 

「オーフィス、まだ何処か行きたい所はあるか?もうあまり時間は無いが。」

 

奴らを誘い出す為とはいえ、これから先オーフィスには人間と同じ生活習慣を身につけて貰わないといけないからな、夜の外出は控えておきたい…

 

「我、本を読んでみたい…」

 

「そうか、なら本屋を見に行こう。」

 

……オーフィスは字は読めるのだろうか…まあ学校に通うなら後々必要にはなる…私が…いや、クレアたちに教えさせようかな…?

 

 

 

オーフィスが指指した絵本を取ってやる…どうやら文字は読める様だ…と言ってもこの絵本は全てひらがなで書いてあるようだから、それ以外は読めるのかは分からないが。

 

「……」

 

しばらく黙々とページをめくっていたがオーフィスが本を閉じ、渡して来る。

 

「もう、戻して良い。」

 

「…気に入らなかったのか?」

 

「ううん…面白かった。」

 

「気に入ったのなら買ってやるぞ?」

 

「良い。」

 

まあ本人が良いならこれ以上グダグダ言うつもりも無い。……改めて考えたらどう考えても服を買い過ぎたからな…これ以上荷物を増やすのは厳しいしな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら205

その後もオーフィスが本を読み、そろそろ日が暮れる時間が近付いて来たのでオーフィスを促し、帰路に着き、"それ"を見た。

 

「ちょっと!何するのよ!?」

 

「良いから良いから。俺たちと遊ぼうよ。」

 

二人組の男に路地に追い込まれて行く駒王学園の女子生徒…しかもよりにもよってその顔に見覚えが…昔の私なら放置一択だが…この場にはオーフィスもいるし…

 

「テレサ…」

 

「ん?」

 

「……我、待ってる。」

 

「……なるべく早く戻る。」

 

私は片手に持っていた荷物を置き、路地に入って行った。

 

 

 

 

「止めてよ!誰か!誰かぁ!」

 

「良いから騒ぐなって!どうせ誰も「さっさと下りろ下衆が」あがっ!?」

 

女子生徒の上に覆いかぶさっていた男の頭を蹴り飛ばした。

 

「やれやれ…怪我は無いか…?」

 

頭を掻きながら女子生徒の方を見る…ふむ擦り傷はあるし、制服も少し破れているが、特に大きな怪我は無さそうだな…

 

「はっ、はい…ってあれ?テレサさん…?」

 

「久しぶりだな、最近は訳あって学園には行けてないからな…と、詳しい話は後にしよう…」

 

さっきの奴が起き上がろうとし、見張りをしていたのか、もう一人の男がこちらに駆けてくるのが見えた…私は着ていたパーカーを脱ぐと、彼女の肩にかけた。

 

「ありがとうございます「先にここを出ろ、外に女の子がいるからそいつと一緒に待っててくれ」え、でも「早く行け、私があの程度の連中に負ける訳が無いだろ?」分かりました…」

 

「テメェ…!何勝手な事を「させると思うか?そんなに溜まってるなら私が相手してやるよ」ぎゃああああ!? 」

 

女子生徒に向かって手を伸ばす男の手を掴み、折る。

 

「この女…!」

 

腕を折られた方は私を睨み付けているが、後ろのもう一人は完全に私にビビっている様だ。

 

「ほら、どうした?喚いてないでさっさと来い。」

 

「この…!」

 

奴がもう片方の手をポケットに突っ込み、折り畳み式のナイフを取り出した。

 

「ほら、どうした!?ビビって声も出ねぇのか!?」

 

出したは良いが奴は突っ込んでは来ず、そのまま歩いて向かって来る…ハァ…

 

「…呆れてるんだよ…女一人にナイフを向けて、優越感に浸る情けなさにな…」

 

「テメェ…!刺せないと思ってんのか…!?」

 

「ほほう…?刺せるのか?」

 

「当たり前だろ!俺は今まで何人もこいつで殺ってるんだ!」

 

……嘘だな、手が震えている…まぁ普通は刃物向けた相手はビビるからな…

 

「そうか、なら…『やってみろ』」

 

「っ!」

 

殺気を向けてやる…どうした?お膳立ては十分だろ?

 

「ほら、私はこの場から動かないからさっさと刺してみろ。その手、治療にはしばらくかかるぞ?私が憎いだろう?」

 

「っ!あああああ!」

 

男が向かって来て、ナイフを突き刺す…私の右腕に。

 

「どうだ!?やって「馬鹿か。こんな所刺しても死なんだろ」うげっ!?」

 

離れようとした男の襟を掴み、引き寄せ、腹に膝蹴りを叩き込み、腹を押さえながら膝から崩れ落ちた男の顔面を蹴る…何だ、もうノビたのか。

 

「そっちのお前はどうする?まだやるか?」

 

「ヒッ!?ヒイイイイ!」

 

悲鳴を上げながら逃げて行った…仲間を放置して行くなよ…

 

「さて、戻るかな…と、いかん。」

 

ナイフを引っこ抜き、妖力を解放し、再生…やれやれとんだ事に巻き込まれた物だ…

 

「警察を呼ぶ気は無いが、事情は聞かなければならないか。」

 

はぁ…めんどくさい。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら206

さすがに強姦されかけた少女、それも恐らく知り合いをもう助けたからと言ってはい、さよなら…出来る程人でなしでも無い…そう考えながら路地を出てみれば、人目を引くのも構わず、オーフィスに抱き着いている、パーカーを来た少女の後ろ姿が見えた。困り顔のオーフィスを見ながら思い出した。

 

 

 

……こいつ、誰かと思えば良く三馬鹿を追っかけている内の一人か。リアスが適当な事言ってやって来るようになった生徒たちよりも前からの知り合いで、出会いも強烈だから、人の顔をあまり覚えない私にも印象に残りやすい…後、学園にクレアを連れて来た時に真っ先に抱き着いたのもこいつだ。…クレアと違ってオーフィスはこういうのは慣れてないだろうし、さっさと解放してやるか。

 

呆れながらも声をかけようとして近付いた時、気付いた。……震えている。自分よりも小さな子に抱き着く程怖かったのか。

 

「…落ち着いた…?」

 

「ごめん…オーフィスちゃん…もう少しだけこのままでも良い…?」

 

「……少しだけ、なら。」

 

「ありがとう…」

 

……面倒な事に巻き込まれたと思ったが、オーフィスの成長を改めて見れたのだから、収穫はあったな。

 

 

 

「あの、ごめんね…オーフィスちゃん…」

 

「大丈夫…」

 

「テレサさんもごめんなさい…」

 

「謝罪は良い、無事で良かった…で、何があったんだ?」

 

近くのファミレスに入り、話を聞く…まあこいつに原因があった訳じゃないと思うが、念の為だ…

 

「…そう言われても…私、帰る前に友人と買い物に行く事になって、買い物も終わったんで皆と別れて帰ろうとしたら…あいつらに声をかけられて…私、早く帰りたかったし、誘いを断ったら腕を引っ張られてあそこに…」

 

そう言って震え始める…これ以上聞いても無駄か、嘘をついているようにも見えない…ん?

 

「……」

 

オーフィスがテーブルの上に身を乗り出し、彼女の頭を撫でていた。

 

「…悪かった。今日はもう帰ろう…家まで送って行く…一応聞くが警察には相談するか?」

 

「いえ…良いです…。」

 

「そうか、少し待ってろ…オーフィス、悪いがそいつの事を頼むぞ?」

 

「分かった。」

 

彼女の肩に手を置き、歩き出す。

 

 

 

三人分のコーヒーの料金を払い、店を出る…外はもう暗くなっていた。さっきの路地に向かう。

 

「まだ気絶してるとはな。」

 

あの女子生徒が平静を取り戻すのに時間がかかったので一時間程経ってる…さすがにこのままにはしておけない。

 

「…生徒が襲われてるんだ、奴も傍観する、とは言わんだろう。」

 

私は携帯を取り出すと、電話をかけた。

 

 

 

『成程ね…確かに放ってはおけないわね…』

 

サーゼクスが忙しくて手が離せないらしく電話にはグレイフィアが出た。

 

「ただなぁ、相手は完全に普通の人間なんだ…」

 

『襲われたのも人間の少女でしょう?大丈夫、私たちは主立って動けないけどやりようはあるわ。』

 

「良い手があるなら頼む…私にはこれ以上何もしてやれないからな…」

 

私がそう言うとグレイフィアが軽く笑い声を上げた…何を笑ってる…!

 

「おい…!笑い事じゃないんだぞ?」

 

『…ごめんなさい。でもね、嬉しいのよ、貴女がそうやって誰かの為に積極的に動こうとするのがね…』

 

「……」

 

『話は分かったわ、何とかしてみる…まず今いる路地からはもう離れた方が良いわ。見つかったら困るでしょう?』

 

「ああ、そうだな…悪いが、後を任せる。」

 

『ええ…ところでテレサ?』

 

「何だ?」

 

『怪我は無かった?』

 

「……女相手にナイフ出す様な輩に私を傷つけられる訳無いだろう?」

 

『……それもそうね、それじゃあ切るわね?』

 

「ああ。」

 

電話を切り、携帯を仕舞おうとして考える。

 

「黒歌にも電話しておこう。」

 

あいつをあのまま自分の家に帰らす訳には行かないからな…一旦私たちの家に連れて行く事にして、面倒を見てくれる様に頼んでおこう。私は既に帰宅しているだろう、黒歌の携帯に電話をかけた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら207

「あの…やっぱり私帰ります「無理強いするつもりは無いが、制服破けてるぞ?家に予備はあっても、家族には間違い無く心配されるだろうが良いのか?」……」

 

幸いにもこいつの家は私の住むマンションから近かった為、流れで家に誘う事は出来た……最も軽く誘いをかけたら断られて、仕方無くこうして少々狡い手を使って部屋の前まで連れて来たんだが。

 

「別に取って食おうってんじゃないさ。ウチに寄って行けば怪我の手当ても出来るし、更に言うと私の家族は裁縫が得意でね…」

 

まあ元はやった事なんて無かったのに、私が毎回服を破くから仕方無く覚えた様だが。

 

「…でも「お前には悪いが、家族には今日の事を伝えてある」っ!?「大丈夫だ、皆口は固い。」そういう問題じゃ…!」

 

「お前が悪い訳じゃないが、今日は帰りが予定より遅くなって…!?痛っ…何するんだオーフィス。」

 

オーフィスに足を踏まれた…子ども並みの筋力には抑えてくれた様だが地味に痛い。

 

「……テレサ、意地悪。」

 

「ハァ…分かったよ…悪かった、これでも私はお前の事を心配していてな…」

 

「いえ…良いんです…分かってますから…。」

 

「まぁ、取り敢えず寄って行け。お前の家には連絡しておくから。」

 

「あ…それなら大丈夫です…」

 

「ん?何故だ?」

 

「私の両親、何時も帰り遅いんで…」

 

……つまりこの後家に帰しても誰もいない訳か。

 

「…せっかくだから今日はウチに泊まっていくか「え!?でもそんな訳には」良いさ、今日は親戚の所にクレアが行っていていないんだ、オーフィスの相手でもしてやってくれ。」

 

「そんな事言われても…大体、何でオーフィスちゃんだけ家に残ってるんですか…?」

 

「……訳アリ、だ。察してくれると助かる…言っておくが、別に私たちもその親戚も、もちろんクレアもこいつを蔑ろにしてる訳じゃない。」

 

「そうは言っても「ねぇ?あんたたち部屋に入る気無いの?」」

 

そこに部屋のドアを開け、黒歌が顔を出した…良いタイミングだ、黒歌。

 

「そんにゃところで立ち話もにゃいでしょ?早く入りにゃさい。」

 

「そうだな…あー…紹介しておこう、私の家族の黒歌だ。」

 

「宜しくにゃ♪」

 

「え!?はい、宜しくお願いします…!」

 

笑顔でウインクする黒歌にものすごい勢いで頭を下げる…その直前、彼女の顔が真っ赤になっていたのが見えた…まぁ同性から見てもかなりの美女だからな、黒歌は…おまけに相変わらず露出が高いから刺激も強いだろう…

 

「……」

 

「ん?どうしたにゃ「自覚しろよ…彼女はお前に見とれてるんだ」……そういう反応されても私は困るんだけど。」

 

彼女は再び顔を上げた瞬間、黒歌の顔を見たまま静止した……部屋の前でこの状態だと私も正直困る…いや、いっそ今の内に部屋に入れてしまおうか。

 

「黒歌、セラフォルーは部屋にいるか?」

 

「今日は仕事で帰れないって言ってたにゃ。」

 

「そいつは良かった…セラフォルーに会った時までこの反応だったら私も困「朱乃ちゃんはいるんだけど…」何とかなるだろ、多分…」

 

取り敢えずオーフィスと黒歌に奥に行ってもらい、私は女子生徒を横抱きにして部屋に運び込んだ。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら208

「ちょ…!危ないからそろそろ離れて欲しいにゃ!」

 

「……」

 

家に彼女を運び込み、しばらくして復活した彼女は私やオーフィス、そして朱乃には目もくれず黒歌を探し始めた。

 

彼女の制服の破れた箇所を繕っていた黒歌は最初は真っ赤な顔をしつつ、食い気味に話しかけて来る彼女に軽く引きながらも対応していたが、やがて彼女の方が我慢出来無くなったらしく、突然抱き着いて離れなくなった…どうも抱き着き癖があった様だ…

 

『テレサちょっと助けて『断る、めんどくさい』っ!ふざけにゃいで!彼女が不安がってるのは分かるし、普通にゃら私だって文句言わないけど、今針使ってるから本当に危にゃいんだってば!?』

 

相変わらずのアイコンタクトで会話を成立させる…まだこれ出来るの黒歌だけなんだよなぁ…

 

『一旦制服と針をどっか置いたら『ダメにゃ、万が一針が抜けて、見つからにゃくにゃったら大変な事になるにゃ』そう言われてもな…』

 

私はまだしも、朱乃にすらまるで反応しないんだ…どうやって引き離せば良いと言うんだ…そもそも朱乃は朱乃で今は夕飯の支度をしているから呼べん。

 

『仕方無い…なら私が気絶させ『ダメにゃ』……お前な、じゃあどうしろと言うんだ…』

 

『だから、あんたから一旦離れる様に言ってよ!』

 

『そいつは今、お前しか見てない。私の説得なんて無駄だ。』

 

『だって私の話、全然聞いてくれないし『そもそも撃墜したのはお前だ、責任持て』そんな事言ったって…私はただ…挨拶しただけなのに…』

 

自覚無しか…本当にタチが悪……巨大なブーメランが向かって来る幻が見えて来た……疲れているんだろうか…?

 

『…仕方無い、取り敢えずその制服を一旦寄越せ。』

 

『それは助かるけど私は一体何時までこのまま『そいつ、今日はさすがに疲れただろうさ…もう少ししたら寝るんじゃないか?』…もう少しって…具体的に何時…?』

 

私はそれには答えず黒歌から制服を受け取ると背を向けた。

 

「ちょっと!?何処に「そいつの事は任せた。」待つにゃ!?」

 

私は部屋のドアを閉めた。

 

 

今日買ってきた服の入っていた袋に制服を放り込み、部屋の隅に置き、椅子に座る……ふぅ。

 

「…アレ、放っておいても良いんですか?」

 

「さあな、どうにかなるだろ…多分。」

 

調理をしつつ、こちらに話しかけて来た朱乃にそう返す…やれやれ…何か本当に今日は疲れたよ…

 

「……」

 

「小猫、今日はさすがに相手する体力無いんだが「だって…黒歌お姉様が」……膝の上に乗るくらいなら許してやる…大人しくしてろよ?」

 

黒歌があいつの相手をしているものだから小猫はこっちに必然的に引っ付いて来る…ハァ…オーフィスは隅で大人しくしているが、こっちを見て、ソワソワしている…ハァ…

 

「オーフィス、こっちに来るか?」

 

そう言うとあからさまに嬉しそうな顔をした…なのでてっきり、こっちに来るかと思えば意外な言葉を口にした。

 

 

「良い「我慢しなくても良いんだぞ?」大丈夫…」

 

大丈夫な顔では無いな、それは…クレアとアーシアに影響されて自分の欲求を抑える事ばかり覚えて行くな…成長、と思っていたが…これは行き過ぎだ…本当にどう教えたら良いのか分からないな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら209

結局あいつは黒歌に抱き着いたまま寝てしまい、取り敢えず黒歌が彼女の携帯から母親に連絡し、今日は泊まらせる事を伝えた。最初はこちらが理由も言わないせいもあり当然渋ったものの…私の名前を出したら承諾が取れたという事で困惑した……普段あいつは母親に私の事をどんな風に話しているんだ…?

 

その後…今いるメンツで話し合い、彼女の事は明日様子を見る事にして、まだ彼女の制服の繕いが終わらない、黒歌を残して私と朱乃、オーフィスが子猫と、別々に眠りに着いた…

 

 

……そして朱乃に抱き枕にされた私は夢を見た。

 

 

 

「やあ、お久しぶり。」

 

「……お前か。」

 

何処とも分からん霧の深い場所…そこにいた私は声をかけて来た奴を見て自然とうんざりした声を出していた。

 

「あれ?あれれれれ?僕、一応君を転生させてあげたんだけど「そうだな。」うわぁ…態度が全然変わらないよ…」

 

そう言って目を擦る…子ども…そう、子どもだ…男か、女かも見た目からは良く分からないが…確かにこいつは子どもの姿をしている…子どもが私の前で泣いている…

 

「…嘘泣きは止めろ。」

 

「…うわぁ…酷い。……いや、確かに泣いてないけどさ。」

 

私はこの世界…ハイスクールDxDの世界に転生する前に短い時間だがこいつと会話した…その時に分かった…こいつはクズだと。

 

「今更何か用なのか?私を転生させた事でお前の暇潰しは終わったんだろう?」

 

「う~ん…まあそうだね、最近はずっと君を見てるけど退屈はしないよ。」

 

「じゃあ何だ?」

 

「これも暇潰しだよ…というか、ちょっと構って欲しくてさ…」

 

「帰れ。」

 

「酷い…」

 

そう言ってまた目を擦り始める。

 

「まあ良い…ちょうど良かった。お前に一つ聞きたい事があったんだ。」

 

「ん?何かな?」

 

「お前は言ったな?自分は神だ、と…」

 

「……それは質問じゃなくて確認だね?うん、そう言ったよ。」

 

「……お前は嘗てハイスクールDxDの世界にいた神と同じ存在か?」

 

「何それ?何でそんな事聞きたいの?」

 

「…良いからさっさと答えろ。」

 

「せっかちだな…まあ良いや。その質問の答えなら、YESだよ。」

 

「……そうか。なら、つ「おっと。質問は一つだけの筈だよ?」チッ。まあ良い。」

 

「舌打ち!?」

 

「前世は覚えてないから分からんがな…こっちは別に神を敬おうと思う程、育ちは良くないんだよ。」

 

「ふ~ん…ねぇ、君…気にならないの?」

 

「何がだ?」

 

「前世の自分はどう「興味無い。」え?」

 

「昔ならいざ知らず…今は気にならん。前世はどうであろうと今こうして生きているのは私だ…この場にいる私が全てで、過去など今更どうでも良い。」

 

「へ~…それはあの黒猫ちゃんや、ハーフの子、それから魔王の女の子のおか「…」!?」

 

私は妖力解放し、奴との距離を一気に詰めると、奴の鼻に拳を叩き込んだ。

 

「ちょ…何を「別に?ただ、強いて言うなら殴りたくなった。」理不尽!?」

 

私は右肩の上に手をやり、握る…"それ"を引っこ抜くと尻餅を着いている奴に向かって振り下ろした。

 

「うわ!?ちょ、え…?それどっから出したの!?」

 

今の私は寝る時に剣を傍には置いてない…眠った時の格好でここに来た私は剣を持ってはいない筈だった訳だが…

 

「当然だろう?ここは別にお前の創った世界とかでは無く、私の夢なのだから。」

 

「嘘ぉ!?」

 

狼狽えつつも、きっちり私の剣を躱す奴にうんざりしながらも剣を振るう…っ!?何だ…?急に目眩が…

 

「時間切れさ。君はもうすぐ目が覚めるんだ…じゃあ、また来るよ。」

 

「……もう来なくて良い。」

 

また泣き真似をする奴を無視しつつ、私は睡魔に身を任せる…夢の中なのに寝るとは妙な物だ…私は最後にそんな事を考えた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら210

「最悪な目覚めだ…っ!?」

 

目が覚めた瞬間そう口に出してしまい、私は横を見る。

 

「…すー…すー…」

 

「良かった…寝ているな…」

 

朱乃が寝息を立てているのを見てホッとする…やれやれ…

 

「…常人なら悲鳴をあげる程度では済まないレベルの力で抱き締められているからな…本来、文句の一つも言った所でバチは当たらないと思うが…」

 

こいつのこれは無意識らしいからな…寝てる訳だし当然と言えば当然か…指摘してこいつが凹むのを見るのは私の精神衛生上、非常に悪い…別に死にはしないし、黙っている事にしよう…

 

「グッ…いっつ…ふん。」

 

とは言え、目覚めて自覚してしまえば私だって痛みは感じるし、自分の身体が軋む音を聞かされれば気が狂いそうにもなる…妖力解放しつつ、起こさないよう、細心の注意を払って振りほどいた。

 

「…たまに寝ぼけ方が酷いと私に電流を流すからな、こいつは…」

 

とは言え、それで離れたいと思わない辺り、私も既に何処か壊れているのだろう…マゾでは無い…断じて違う。

 

 

 

 

「…何だ、まだ起きてたのか?」

 

「…思ったより手間取ったにゃ。」

 

茶の間に行ってみれば結局徹夜したと思われる黒歌がいた。

 

「すまんな…」

 

「……良いにゃ。取り敢えず今日は仕事休んで寝るにゃ…そう言えはあんたは何でこんな早く起きて来たにゃ?」

 

「……朱乃がな…」

 

「あー…大丈夫…?」

 

…そうか…頻度は私が多いが、こいつやセラフォルーも被害にあった事があるんだったな…

 

「大丈夫だ…少なくとも死にはしない。」

 

「そういう事じゃにゃいんだけど…もう良いにゃ…私は寝るにゃ…その子の事頼んだにゃ。」

 

ソファに昨日連れて来たあいつが毛布をかけられて眠っていた…

 

「面倒だが、仕方無いな…分かったよ。」

 

 

 

 

「ご迷惑をお掛けしました…」

 

「良い、気にするな…というかそれは黒歌に言ってやってくれ。」

 

それから二時間程してあいつは起きて来た。

 

「う…」

 

「その様子だと昨日の事はちゃんと覚えてるんだな?」

 

「はい…黒歌さんに何て言ったら…」

 

「…さすがに限度はあるが、あいつは甘えられるのを怒ったりはしない方だ。あまり気にしない事だな…」

 

「何処にいますか?私、謝らないと…」

 

「お前の制服の手直しに時間がかかってな…まだ寝ている…どうしても気になるなら後日…またここに来い。」

 

「はい…」

 

「さて、今日は平日だが、学校には行けそうか?」

 

「はい…あっ、でも制服「お前の制服は今、洗濯している所だ。取り敢えず一旦鞄持って帰れ。お前が今日の授業で使う教科書やら持ってここに戻って来る頃には着られる状態の筈だ」はい…何から何まですみません…」

 

「だから気にするな。それよりお前の家は近くだし、時間もまだ多少余裕あるが一応急いだ方が良いぞ?」

 

「はい…行って来ます…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら211

「…という訳でだ、お前の方で色々フォローしてやって欲しい…」

 

「……いや…何が、という訳なのよ…ケンカ売ってるのかしら?」

 

あいつが部屋を出て行った後、私はオフィーリアを呼び出していた。

 

 

 

「…大体、それを聞いて私にどうしろって訳?」

 

「ほら、私は学園に行かない訳だけだからな、お前にフォローして貰えると「だから!フォローって具体的に何をしろって言うのよ。当事者でもない私が色々言うのはどう考えても余計なお世話よね?」そうかもしれんが…」

 

「…別にね、私だってそれ聞いて何も思わない程クズじゃないけど…少なくとも昨日の今日よ?変に気を遣われる方が彼女には良くないんじゃないの?てか、その子には言ってないみたいだけど、黒歌たちだけじゃなくてよりにもよってあんた、サーゼクスに話してるんでしょ?それも勝手に。」

 

 

「……グレイフィアに言っただけだ「どうせ最終的には伝わるし、同じよ。彼女は間違い無くサーゼクスに言うわ。あんただって今、不味いって思ったから私から目を逸らしたんでしょう?」……」

 

「そもそも…理事長とは言っても、一応悪魔であるサーゼクスがこの一件にどう介入するって言うのよ?アレは慎重なタイプだと思うけど…今回の場合、対応を間違えたらその子、面倒な事になるわよ?」

 

「……お前はどう思う?いっそ殺しておくべきだったと思うか?」

 

色々言われて頭がキャパオーバーになったのか、自分でも驚く程、物騒な言葉を口にしていた。

 

「……死んで当然のクズと思わなくも無いけど、街中で死体の処理なんか出来る訳も無し。…ま、あんたが一度手を出した時点で…もう手遅れ…多分、その後どう行動しても悪手だったと思うけどね。」

 

「……助けない方が…良かったと言うのか?」

 

「そうなるわね。ま、正直な所…実際は私でも助けたと思うけど、ね。」

 

「……」

 

「一番不味いのは学園にそのまま行かせようとしてる事かしら?もし、学園にいる時、些細な事が原因で思い出したりしたら…」

 

……どうなるかなんて…考えるまでも無い、な…

 

「…私なら休ませるわ。…ま、あんたと違って学園に仕事をしに行く私としては余計な面倒事を背負い込みたくないからってのが主な理由だけど。」

 

「…しかし…本人は大丈夫そうだし、普通に行くと…」

 

「多分、一夜明けて、少し落ち着いたってだけでしょ?この後はどうなるか分からないわ。」

 

「……」

 

「まあ、本人が来たら改めて確認したら?ちなみに私は面倒だから、今回の事はこの場では聞かなかった事にしとく…私が手を出した案件じゃないし、積極的に関わるつもりは無いからね。」

 

オフィーリアはそう言うと、こちらが止める間も無く部屋を出て行った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら212

それから少ししてあいつは戻って来たが、表面上問題は無さそうに見えたので制服を渡し、学園に行かせた……朱乃の付き添い付きで。

 

 

 

 

「あり?出かけてなかったにゃ?」

 

「……妙に早い目覚めじゃないか。どうしたんだ?」

 

それから二時間程して、黒歌が起きて来た。

 

 

 

 

「オーフィスはな、今日は家で過ごしたいんだそうだ…さっき部屋を覗いて見たら漫画を黙々と読んでいたよ。」

 

「……良いの?」

 

「…奴らの誘き出しはそもそもついでだ、本来の目的はあいつに人間としての情緒を芽生えさせる事、だ。」

 

「…なら、問題無いのかしらね…」

 

「少々極端ではあるがな…その辺はまあ、おいおい教えて行くしかないさ…とはいえ、問題は山積みだがな…」

 

サンプルになる二人がそもそも極端だからな…

 

「それで?何でこんなに早く起きて来たんだ?ゆっくりしてれば良い物を…」

 

「……あんたの事が気になって眠れなかったにゃ。」

 

「…私の?一体何が気になった?」

 

「……今朝、朱乃ちゃんの事以外で何かあったの?」

 

「……」

 

長い付き合いだからな、気付かれるか…

 

「ちょっとな…夢見が悪かっただけだ…」

 

「どんな夢?」

 

「……気になるのか?」

 

「…あれから時間は多少経ってるし、持ち直してたんなら聞かないけど…」

 

「……調子が悪そうに見えるか?」

 

「…どっちかって言うと、ピリピリしてると言うか、イラついてると言うか…」

 

……成程。間違って無いだろうな…

 

「夢でムカつく奴が出て来てな…そうだな、お前にも言っただろう?私は転生者だと。」

 

「…そうね、聞いたわ。」

 

「…夢にな、私を転生させた自称神が現れてな…」

 

「……何か言われたの?」

 

「…というか、私はあいつが大嫌いなんだ…初対面で既に印象が最悪でな…具体的に言えば…先ずあの時私は目覚めてすぐにあいつから私が死んだ事を伝えられた…」

 

「…それで?」

 

「……前世の事が一切思い出せず、狼狽える私にこう言ったんだ『暇潰しに付き合って欲しい』ってな。」

 

「それって…」

 

「……あいつは暇潰しで寿命を全うしてた筈の私を殺し、強引に転生させた。転生する際にどんな姿になりたいか聞かれて、悔し紛れに『クレイモア…半人半妖の身体に生まれ変わりたい』と言った…せめてもの抵抗のつもりだったが、あっさり受理されてな…そしてこの世界に転生した私はテレサになっていた…」

 

「……」

 

「ムカついたよ…確かにテレサに憧れてはいた…だが、最強になりたかった訳じゃない…この姿になる、という事が私にとって何を意味するのか…奴は考えてもいなかった…私は誓ったよ、神である以上まともにケンカを売ってもどうせ歯が立たない…だが、せめて何時かあいつを必ず殴り飛ばしてやる、と。」

 

「そう…実際殴れたの?」

 

「……殴ったよ。大してダメージは無かったようだがな…幸い、私の夢の中だったからな…剣を取り出す事は出来たが、殺す事は出来無かった…」

 

「そっか…」

 

「……誤解の無いように言っておくが、私はこの世界に転生した事を後悔してはいない…少なくとも今はな…昔は気になって仕方が無かった前世の事も今更興味は無い…奴は教えてやる姿勢を私に見せ付けて揶揄う気だったんだろうがな…実際はもうどうでも良いし、奴の遊びに付き合ってやる気も更々無い。」

 

「…本当に後悔してないの?」

 

「少なくとも私はお前やクレア、他にも大事な物を手に入れた。今更前世を想う事は無い…まあ、どんな人間だったのか全く気にならない訳じゃないが…今より幸せだとは思えないからな。」

 

「そう…なら、良かったんじゃない?」

 

「…だが、奴は許し難い…次に出て来たら絶対に斬り刻む。……聞いてくれてありがとな、少しスッキリしたよ。」

 

「良かった…確かに今のあんた良い顔してる…あら?」

 

携帯の呼び出し音が聞こえる…私のか。

 

「…ん?」

 

「どうしたにゃ、あら?オフィーリア?」

 

「……奴が今更電話?」

 

基本あいつは仕事中に電話はして来ない…何か問題発生か?

 

「……出ないの?」

 

「どう考えても厄介事だろうからな…」

 

「…今のオフィーリアが問題起こす事は無いんじゃない?」

 

「…どちらにしろ出ないと止まらなさそうだな…」

 

私はボタンを押した。

 

「もしもし?」

 

『ちょっと、何ですぐ出ないのよ?』

 

「悪かった…で、何だ?」

 

『例の子、ちゃんと学園行っても大丈夫か確認したの?』

 

「本人は大丈夫と言っていたが、何かあったのか?」

 

『あの子、倒れたわよ。』

 

「……確かか?」

 

『…確かも何も…保健室に運んだのは私よ。倒れた現場にたまたま居合わせてね、どうするのよ?あの子の友人や他の生徒もその場にいたわよ。』

 

蟠りが消えたこのタイミングでの厄介事に私は溜め息を吐いた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら213

「取り敢えず状況を教えてくれ。何があった?」

 

『…私が見たのはあの子が悲鳴を上げて、過呼吸を起こして倒れたところで詳しくは知らないわ…一応その場にいたあの子の友人に経緯を聞いてるけど…聞く?』

 

「ああ。」

 

『…その友人の子とあの子が廊下で話してる所に彼女に用があった男子が後ろから肩を叩いたの。彼女が後ろを振り向いて…悲鳴を上げて、そこから過呼吸を起こしたそうよ。……考えるまでも無く自分の身体に触れたのが男だった事にショックを受けたんでしょうね…ちなみに、何処ぞの変態と違ってその男子は比較的まともな方で、あの子とも割と話す仲だったそうよ。』

 

「成程な…」

 

『…親しい男子が軽く肩に触れただけで過呼吸起こして、倒れるなんてどう考えてもヤバいんだけど…あんた本当に確認したの?』

 

「…言い訳はしない。完全に私のミスだ…もっと話を聞くべきだった…」

 

『私に対して非を認めても仕方無いわね。ところでこれからあの子の親が迎えに来るそうだけど…あんたこっちに来るわよね?まさかとは思うけど、又聞きの私に事情を説明させるつもりじゃないわよね?』

 

「…分かっている、そう詰るな…幸い今日は家にいるからこれから向かう…そう時間はかからない筈だ…」

 

『…そっ。じゃあ早く頼むわね。』

 

電話が切れる。

 

「…さて、聞こえていたか?」

 

「一応…ね。」

 

「これから私は学園に向かう…悪いがオーフィスの事を頼む。」

 

「分かったわ…」

 

黒歌の顔色が良くないな…

 

「そう気にするな、別にお前のせいじゃ無い。」

 

「でも…昨夜私がもう少しあの子の相手が出来ていたら「それは違うな」え?」

 

「そもそも私が助けるのを躊躇しなかったら、あいつが傷つく事も無かった……悪いのは私だ…オーフィスの事を気にし過ぎた。」

 

「でも…それは仕方無「だから…違うんだ」え?」

 

「……あの時もしオーフィスが背中を押してくれなかったら……私は多分あいつを見捨てていた…」

 

「でも…迷ったんでしょ?」

 

「そもそも迷う事自体が問題だと思わないか?あの時私が見たのは知り合いが路地裏に押し込まれる光景だけだ…だが、男の方がそういう目的なのは明らかだった…一刻も早く動かないといけないあの状況で…私は動けなかった……迷ってしまった。」

 

「テレサ…」

 

「すまんな…とにかくだ、気にするな…悪いのは私であってお前じゃない…寧ろ…お前はあの時良くやっていた…私じゃ、とてもあんな接し方は出来無いからな…さて、それじゃあ出かける用意をして来る。」

 

私は立ち上がると部屋に向かった。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら214

「…どうだ?変な所は無いか?」

 

着替えを終えた私は部屋から出ると黒歌にそう聞いていた。

 

「……変な所って言うか、にゃんであんたこんな時でもラフな格好にゃの?」

 

「私はスーツなんて持ってないぞ「前に買っといた方が良いって言わにゃかった?」……聞いた気がするな…」

 

「間違い無く言ったにゃ…というか、つい最近もセラフォルーにまで言われてにゃかった?」

 

「……そんな事もあった気がするな…」

 

適当な事を言ったが、実はそっちは良く覚えている……あいつの仕事は主に魔界の外交方面を担当している…要は人に会うのだ…その分仕事の時の服装にはアレでも人一倍気を使っていたな…まあ、ほとんど私服と化してるコスプレ衣装もそれはそれで中々受けが良いらしいが。

 

……とまぁ、そんなセラフォルーからあの時は珍しく真面目なテンションで私の持ってる服について色々言われたが…さすがに説得力はあったな…その後にコスプレの良さについて長々と語り始めたから途中から聞き流していたが。

 

「まあ、良いだろ。どうもあいつの親は私の事を知っている様だし、普段通りでも…て、そんな事は良いんだ…」

 

私は先程から感じていた違和感について聞いてみる事にした。

 

「お前は何でスーツを着ている?」

 

「にゃんでって私も行くからだけど。」

 

……聞き間違いじゃ無さそうだな…

 

「お前にはオーフィスの事を頼んだ筈だが「私も行く気にゃかったけど、オーフィスが行きたいって言うから…ちなみに今、あんたの後ろにいるけど」っ!?」

 

後ろを向くと確かにオーフィスがいた。瞬間、思わず後ろに飛ぶ…振り向くまで一切気配を感じなかった…複製とはいえ、これほどの魔力を持ったオーフィスに気が付かなかったとは…

 

「…オーフィス、本当にお前も行きたいのか?」

 

離れた距離を詰め、聞いてみる…

 

「うん…」

 

「さっきの電話を聞いていたのか?」

 

「ごめんなさい…」

 

「別にそれは良い…で、何で行きたいんだ?」

 

「我、あの子心配…」

 

「……」

 

こいつを連れて行ってどうなるか頭の中で思い描く…案外、そう悪い事にはならなそうではあるが…

 

「……連れて行くか。」

 

「どちらにしろこの子…あんたの許可無くても行くと思うけど。」

 

「勝手に来られる方が面倒ではあるな…」

 

そういう意味では…或いは良かったのかもしれんな…

 

「じゃあ行こうか。」

 

私たちは部屋を出た。

 

 

 

 

学園に向かう道中で、私はオフィーリアと、今回の一件に出て来ざるを得ないだろうサーゼクスに連絡し、オーフィスを連れて行く事を伝える。

 

オフィーリアは特に気にしていなかったが、サーゼクスにはそれなりに渋られた…まあ確かにまだオーフィスの事に関しては不安だが…

 

「……」

 

改めて私と黒歌の手を握って歩くオーフィスを横目で見る…目敏く私の視線に気付き、首を傾げる…

 

「…テレサ?どうかした?」

 

「……いや、何でも無い…」

 

不安が無くなった訳では無い…だが、不思議と今のオーフィスなら大丈夫なのでは無いか?…私はそう感じていた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら215

「そう言えばふと思ったんだが…」

 

「ん?にゃに?…もう着くんだけど今聞かにゃきゃいけにゃい事にゃ?」

 

「…ちょっとした疑問だよ、お前やセラフォルー、朱乃もそうだが、私を連れて服を買いに行くとスーツの話を全くしないが、何故だ?」

 

「…単純に行ってる店の問題よ。場所を選ばず着れる服を探しに行ったら必然的にスーツを扱ってない店になるでしょ。そう言えば少し前に買った服着てくれないのね?」

 

「……私にスカートは似合わん。」

 

「そんな事無いと思うけど…それにしたって、今の格好もどうかと思うわ…」

 

「……最初に質問をした私が言うのもなんだが、何でこのタイミングで言う?」

 

既に学園の傍なんだが…

 

「さすがにラフ過ぎない?」

 

私は改めて自分の格好を見る…上はパーカー、下はジーンズ……不味いか?…いや…

 

「…今回の場合、こっちに落ち度のある話じゃないだろ。」

 

「……あの子が暴行されかけたのを黙っていた事については…?」

 

「本人が嫌がったからな。」

 

「私は知ってる。でも、あの子の親は知らない…」

 

「…今更グダグダ言っても仕方無い…行こう。」

 

 

 

「来たね…」

 

「……あいつの親はまだ来てないのか?」

 

「電車が遅れているらしくてね…」

 

理事長室ではサーゼクスが待っていた。

 

「…どうせあいつの親が来た時に説明するが、グレイフィアから聞いてるか?何なら私の口から改めて話しても良いが。」

 

「……いや、グレイフィアから大体聞いてるから良いよ…ところで「オーフィスか?」…何故彼女が一緒に来たのか聞いても良いかな?」

 

「何故と聞かれてもな…オーフィスと二人でいた時にあいつを助けたんだ…心配なんだと。」

 

「しかしね「あいつは今、色々不安な筈だ…少なくともここにいるオーフィスと黒歌には気を許してるからな…」…むぅ…」

 

「それはそうとオフィーリアは何処だ?少なくともあいつも倒れた現場にはいたんだろう?」

 

「……詳しい話を知ってる訳じゃないから席を外す、だそうだよ。君が来れないなら彼女を引っ張り出す事になっただろうが、こうして来てくれたからね。」

 

「来たくて来た訳じゃないがな…ちなみにあいつの親…そう言えばどっちだ?オフィーリアからは親としか聞いてなかった。」

 

「…母親の方だね、娘の事をとても心配していたよ…落ち着かせるのに苦労した…」

 

「当然と言えば当然だな…事情は何処まで説明した?」

 

「全部だよ、君がグレイフィアに話してくれた事は大体伝えてある…君に一言、礼を言いたいそうだ…」

 

「…罵声じゃないのか?」

 

私はオーフィスがいなければ見捨てていたかも知れない…礼を言われる資格は無い…

 

「何故?」

 

「自分の娘が暴行されかけたのを黙っていたんだぞ、私は。」

 

「君が助けた事実は変わらない…少なくとも向こうはそう思っている、という事だと私は思うよ。」

 

「……」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら216

「さてと。あちらが遅れてるのはある意味、都合が良いかな。」

 

「……どういう事だ?」

 

突然そんな事を言い始めたサーゼクスに私は聞いた。

 

「…テレサ、君の服装だが「不味いか?」…君は一応この学園に雇われているからね、普通に会うだけならまだしも今回の場合は少々ね…」

 

黒歌に続いてこいつにまで言われるか…

 

「……生憎だが、私はこういうのしか持ってない。」

 

そう言うとサーゼクスが笑った…何なんだ、一体…?

 

「そう言うと思ったよ。隣の部屋でグレイフィアが待ってるから行ってみてくれ。」

 

「…行かなきゃ駄目なのか?」

 

笑顔のまま頷くサーゼクスに溜め息を吐く…やれやれ…

 

「そういう訳だ、少し行って来る…」

 

私は黒歌とオーフィスにそう伝え、理事長室を出た…私に何をさせたいのか知らんが、客が来るんだ…それ程時間はかからんだろう…

 

 

 

「待ってたわ。早速だけどこれに着替えて。」

 

「おい、何だこれは?ちょっと待て!おい!」

 

私はグレイフィアが寄越して来た紙袋を突き返そうとしたが、グレイフィアは受け取らず部屋を出て行く……参ったな…本当に着替えなきゃいけないのか?

 

「仕方無い…ん…?これは…」

 

 

 

 

「テレサ、終わったかしら?」

 

「ん?ああ。」

 

数分後…ノックをして、声をかけて来たグレイフィアに返事をする…ドアが開いた。

 

「…似合ってるわよ、テレサ。」

 

「…堅苦しいのは苦手なんだが、な…」

 

私はグレイフィアに背を向けると、わざわざ用意したのか、それとも元々あったのか分からないが、振り向いた先にあった鏡で自分の姿を改めて確認する…

 

「てっきり婦人用だと思っていたがな…」

 

私が着てるのは一見すると何処にでもありそうなビジネススーツだ…だが…

 

「下はズボンでネクタイ付きか…」

 

「貴女、女性物じゃ着たがらないでしょ?」

 

「確かにな…あまりこういうのは好きじゃないが…悪くは無い…いや、寧ろ上出来か。着心地もこういう系統にしては中々だ。」

 

私がそう言うとグレイフィアが笑顔になる…何だ?

 

「それはそうでしょうね。それ、オーダーメイドだもの。」

 

「……そうなのか?」

 

「ちなみに用意したのは私じゃなくてサーゼクス様よ。そのスーツはプレゼントするそうだから、そのまま持って帰って。」

 

「……」

 

そりゃあ私のサイズに合わせて作ってるんだから、私が持って帰らない訳にいかんだろうな…何もそこまでしなくても…

 

「サーゼクス様は貴女の事を家族だと思ってるわ…家族に服をプレゼントするのは普通の事だと思わない?」

 

「人の考えを読むんじゃない…」

 

全く…ん?

 

「グレイフィア、少し気になったんだが…」

 

「何かしら?せっかく服装を整えたんだし、髪も纏めたいんだけど?」

 

「……私はサーゼクスにサイズを教えた覚えが無いんだが…」

 

「あら?そうなの?」

 

「不思議そうな顔をするな…普通親子でもなければ、夫婦でもない関係性の男にサイズは教えないだろう?」

 

「…そう言われてみれば…」

 

「…まあ、後で聞いてみるさ…」

 

別に知られたからって減るもんじゃないからな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら217

疑問はあったが、あまり時間は無いのでさっさと用意された椅子に座る…やれやれ…

 

「しかし…何もこの為だけにスーツを発注しなくても「それは違うわよ?」ん?」

 

「考えてみて。このタイミングで用意するなんて無理だと思わない?」

 

「……言われてみれば確かにそうだな…」

 

あいつが倒れるのは想定外の事態だった…サーゼクスが例え、私のサイズを知っていたところで発注してもさすがに間に合わない…しかし…そうなると…

 

「サーゼクス様は前々から貴女に渡す為に用意していたの。渡すタイミングが中々無かっただけ。」

 

「タイミングなんていくらでもあったと思うがな…」

 

「女性物よりマシとは言っても…普通に渡したところで、貴女は受け取らないでしょう?」

 

「……さすがにオーダーメイドのスーツなら受け取るさ。」

 

金がかかってるのは分かるからな…

 

「はい、出来たわ。」

 

「……普通に縛るだけで良かっただろ。」

 

グレイフィアは私の髪をわざわざハーフアップにしてまとめていた。

 

「綺麗な髪だし、それじゃあ勿体無いわ…本当はテレーズの方も弄りたいくらいよ。彼女、いつも適当に縛ってるだけだし。」

 

「黒歌が渡したリボンを今もそのまま使ってるだけ、あいつには譲歩した方だろう…というか、私じゃなくて本人に言え。」

 

「最近は会えて無いけど、ちゃんと何度か言ったわよ。その度に断られるけど。」

 

「だろうな…」

 

元が男だった私よりマシとは言え、あいつだってオシャレとは無縁だった筈…着せ替え人形扱いされてもあまり文句こそ言わないが、あいつにとってはそれなりに葛藤はある筈…まあ、私はそれすら逃げたいがな…

 

 

 

 

「それじゃあ私は行くわね「お前は来ないのか?」私は学園の関係者じゃないからね、このまま屋敷に帰るわ。」

「そうか…あー…クレアたちに宜しくな。」

 

「ええ、伝えるわ。じゃあね。」

 

 

 

 

「戻って来たね…ふむ…良く似合っているよ、テレサ。」

 

「そうか。」

 

理事長室に戻って来てすぐにサーゼクスからそう言われる。

 

「普段からそうしてたら良いのに。」

 

「勘弁してくれ…面倒臭い。」

 

「どうせ自分でやる訳じゃないでしょ?私がやってあげるわよ?」

 

「……その話は帰ってからな。」

 

黒歌の申し出を必死で断る…いやまあ…黒歌の言う通り自分でやる訳じゃないし、やって貰える分には良いのかもしれないが…ん?

 

「オーフィス?どうした?」

 

私を見詰めるオーフィスの視線に気付く…何だ?

 

「……テレサ。」

 

「ん?」

 

「……似合ってる。」

 

「そうか…」

 

オーフィスはそう言って私から離れ、理事長室にあったソファに腰掛ける…ふむ…

 

「サーゼクス、ちょっと良いか?」

 

「何かな?」

 

私はサーゼクスに近付くとある事を耳打ちする…

 

「しかしそれは「オーフィスがこの場にいても仕方無いからな…そもそもオーフィスはあいつが心配だから来たんだ」う~ん…」

 

「頼む!」

 

私はサーゼクスに頭を下げた。

 

「分かったよ…先に聞くが、本当に彼女を信じても大丈夫なんだね?」

 

「ああ…今のオーフィスなら大丈夫だ…それに、黒歌について行かせれば良いだろう?」

 

「ちょっと?にゃんのはにゃしにゃ?」

 

「黒歌、オーフィスを保健室に連れて行ってやってくれないか?場所は分かるだろう?」

 

「一応分かるけど…」

 

次に私はオーフィスに目を向けた。

 

「オーフィス。」

 

「良いの?」

 

「気になるんだろう?」

 

「……我、行きたい。」

 

「ああ、行って来い。」

 

そう言うとオーフィスはソファから立ち上がり、走って出て行った。

 

「…余程心配だったんだろうね…ただ、彼女は保健室の場所を知らないんじゃないかな?」

 

「…黒歌、頼むぞ?」

 

「…しょうがないわね、それじゃあ頑張って。」

 

黒歌もオーフィスを追って理事長室を出て行った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら218

「娘を助けて頂き、本当にありがとうございました!」

 

オーフィスたちが出て行って、三十分程してあいつの母親がやって来た。サーゼクスの事はさすがに知っていた様なので、私が自分の名前を告げるといきなり礼と共に頭を下げられた……やれやれ…今日は朝から精神的に疲れる事ばかりだな…口を開く前に一応頭の中で言う事を整理する…さて…

 

「…頭を上げてください。私もたまたま通りがかっただけですので…」

 

「でも…娘の恩人ですから「上げてください。それでは話も出来ません…貴女も詳しい事情をお聞きしたいでしょう?」…はい…お願いします…」

 

私がそう言うと漸く彼女は頭を上げてくれた…勘弁してくれ…ただでさえ、この世界に来てから敬語もろくに使った事が無いというのに…

 

「とは言え…申し訳ありませんが、私もこの学園の用務員ではあるとは言え、ここ最近は訳あって休みを取っていまして…彼女が倒れた時の事は知りません…取り敢えず、私は彼女が襲われた時の事しか話せませんが…宜しいですか?……後で彼女を保健室まで運んだ私の同僚を呼びますので…」

 

私が悪いのは分かっているが、私だけがこんな目に遭うのは何となく癪だ…こうなったらオフィーリアも巻き込んでやる…!

 

「はい…お願いします…」

 

さて…先ずはどう話したものかな…?

 

 

 

 

「…という訳です…」

 

取り敢えず私とオーフィスの事情は伏せ、私が見たものをありのまま話す事にした……まあさすがに相手がナイフを出して来た事や、私が刺された事は省いたが…それに…

 

「それで…昨夜の事ですが…」

 

「テレサさんの家に泊めてもらったそうで…」

 

これに関しては当然除く訳には行かなかった…ふぅ…参ったな…

 

「…一応助ける事こそ出来たものの、彼女は怯え切っていまして…聞けば家に帰っても誰もいないとの事で…」

 

「最近は仕事が忙しくて…」

 

「あー…いえ、責めてる訳ではありません…まあ、それで私から半ば強引に泊まって行く様、提案したんです…家は近くとはいえ、彼女を一人にするのは不味いと感じましたので…最も、彼女の制服が汚れていた上に、破れていたという事情もありまして…そう言えば…今朝、彼女は私が貸した服を着て家に戻った筈ですが…」

 

「すみません…今朝は私も家を出るのが早くて…」

 

「…成程…ところで…」

 

「はい?」

 

「こちらこそ申し訳ありませんでした…本当は真っ先に貴女にこの話を伝えるべきでした…」

 

今度は私が頭を下げる…やれやれ…人に頭を下げられるのは落ち着かないのに自分が下げる事に全く抵抗は感じないものだな…まあ、全く悪いと思ってない訳でもないが、な…

 

「そんな…娘の事ですから自分から私に伝えないで欲しいと言ったんでしょう?あの子は何時も私に気を遣いますから…」

 

……子どもが親に"気を遣う"のは多くの場合、親に心配をかけたくないから、というよりも言った所で何も出来無い…若しくはしてくれないから…というひねくれた言葉が何故か浮かんで来たが、この場で口に出したりはしない。

 

「それだけではありません…今朝、私は彼女に体調を聞きました……もっと良く確認すべきでした…まさか倒れるとは…思ってもいませんでした…本当に申し訳ありません…」

 

沈黙が続く……そろそろ誰か何か言ってくれ…首が痛くなって来たぞ…悪いと思ってない訳でもないが、これはさすがに辛い…

「…頭を上げてください…テレサさんのせいではありません…寧ろ貴女は娘を助けてくれたのですから…」

 

「分かりました…私から話せるのはこれくらいです…後はオフィーリア…あー…今回彼女を保健室まで運んだ私の同僚をお呼びしましょう…少し待っていてください。」

 

私は理事長室を出ると携帯を取り出し、現在用務員室にいる筈のオフィーリアに電話をかけた…数回呼び出し音が聞こえた後、声が聞こえて来た。

 

『…もしもし?…何よ、今忙しいんだけど?』

 

「今、あいつの母親が理事長室に来てるんだが…」

 

『……それで?』

 

「お前に話して欲しいんだ、あいつを運んだ時の事をな…」

 

『…あんたにも電話で話した筈だけど?』

 

「実際に運んだお前が話した方が伝わりが良いだろう?」

 

『…ふぅ…仕方無いわね…今から向かうから、先方には少し待つ様に言って。』

 

「ああ。分かった…」

 

私は切れた電話を仕舞うと理事長室に戻った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら219

それから少しして、オフィーリアが理事長室に入って来た…

 

「…まあ、詳しい事情、と言っても私も聞いただけなので…」

 

入って来るなり自己紹介もそこそこに今回の一件について話を始めるオフィーリア……そこでこっちをチラチラ見るな…全く…

 

「…取り敢えずそこの彼女からある程度の事情は聞いた、との事で宜しいですか?」

 

「はい…」

 

「…では、私の知る事をお話しますね?では、先ずは…」

 

そう前置きしてオフィーリアは話し始めた…

 

 

 

 

「…と、こんなところですね…幸い、倒れる時に受け止めるのが間に合いまして、頭は打ってないとは思いますが…そうですね、私は素人なのであまり言及するべきでは無いと思いますが、彼女の倒れた原因は間違い無く精神的な物でしょうね…恐らく症状の程度は分かりませんが、間違い無く男性恐怖症になっているかと…」

 

「…そう、ですか…」

 

「…私からは、しばらく学園を休むべきとしか言えませんね…ここは共学ですから……少々、悪戯が行き過ぎる男子もいますし…仮に多少症状が軽かったとしても親しい筈の男子に触れられただけで気絶するレベルだと正直どんな悪影響があるか…」

 

「そんな…」

 

「さて、申し訳ありませんがこれで私は失礼します。」

 

そう話した後、オフィーリアはこちらが止める間も無く出て行った……大事な事を聞きそびれてしまった…

 

『おい、サーゼクス…』

 

小声でほとんど置物と化してるサーゼクスに話しかける…こいつ…母親がやって来てから結局ろくに喋って無いな…

 

『…何かな?』

 

『さっきオフィーリアが話した件なんだが、現場にいた奴の話をした時一人、気になる奴がいたんだが…』

 

『…奇遇だね、私も気になった人物がいた…』

 

『…赤い髪の女子生徒、と言うのは…』

 

『十中八九、リーアだろうね…』

 

『…その様子だとお前も聞かされてなかったか。』

 

『初耳だね…』

 

本当にこの場に呼んで良かった…あいつめ、大事な事を省いていたな…

 

『……あいつは一誠たちと同じ学年だからな…リアスが誰に用が会ったにしても、別にいても不思議では無いが、何であの時言わないんだ…』

 

オフィーリアに丸投げするつもりが…余計に面倒な事になったぞ…

 

「あの…ところで娘のいる保健室は何処に…?」

 

そう考えてる内にあいつの母親が声をかけてきたので考えを打ち切る。

 

「私が案内します。」

 

理事長室のドアを開け、あいつの母親を廊下に出し、少し待つ様に言って戻る…やれやれ…

 

「それじゃあ行ってくる「やはり私は行かない方が良いかな?」…オフィーリアの話を聞いてなかったのか?男性恐怖症…正直私も同意見だ…お前が来ると面倒な事になる可能性がある…」

 

「…仕方無いね、分かったよ…」

 

「……心配なのは分かるが…あまり思い詰めるな。仮に責任があるとしたらお前にでは無く、私にある。」

 

「…彼女はこの学園の生徒だ…割り切れないさ。それに

、君だけに押し付ける訳には行かない。」

 

「……やはり、お前は変わっているよ。」

 

とても"悪魔"、それも魔王ルシファーを名乗る者とは思えん…私はそんな事を考えながら理事長室を出た。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら220

「では、案内しましょう…こちらです。」

 

「はい…」

 

強ばった顔の母親と横に並んで歩く(先導しようかとも思ったが、間違い無く後ろが気になって仕方無くなるのが予想出来たので止める)それに、だ…

 

「…一つ、宜しいでしょうか?」

 

「え?」

 

「…私が言って良い事でないのは承知していますが…それは娘に向ける顔では無いですね。」

 

「……」

 

これから娘に会おうとするこの女が今浮かべている表情が…見ているとどうにもイラつくのだ。

 

「…色々と思う事もあるでしょう…ただ…今一番不安なのは貴女ではなく、娘さんの方である筈です。」

 

「はい…それは分かっていますが…でも「面倒臭い女だな」え?」

 

あ~あ…遂に敬語が崩れてしまったな…だが、先程からどうにもこの女がムカついて仕方無かった…

 

「別に心に傷を負った娘に無理に笑顔を向けろとか言ってるんじゃない。逆効果になる可能性が高いからな…だが、ただでさえ不安になっている筈のあいつが、母親であるお前の今の顔を見れば余計に気持ちが落ち込むだろうが。」

 

「いや、あの…え?」

 

「グタグタ考えるな…いつも通り接しろ。例えどれだけ娘に罵倒されたとしても…それが"母親"という物じゃないか、と私は思う。」

 

「…私は…本当にそれで良いんでしょうか…?」

 

「…さて。今のはあくまで一個人としての意見です。気に入らないなら無視しても構いません。」

 

「……」

 

それきり黙ってしまった母親に話しかける事無く廊下を歩いて行く…何やら考え込んではいるようだが、彼女は足を止める様子は無い。

 

 

 

「さて、着きましたが…少し待って頂いても宜しいですか?」

 

「え?何故…」

 

「実は私の家族が彼女を心配してここにいるんですが…仰りたい事は何となく分かります…ですが他人だからこそ吐き出せる事、と言うのもあるものです…」

 

「……」

 

「取り敢えず私が先に様子を見て来ます…貴女が彼女の母親だからこそ、見せたくない、聞かせたくないものと言うのもありますから。」

 

「……分かりました…娘の事、宜しくお願いします。」

 

そう言ってまた頭を下げる母親を制し、私は保健室のドアをノックし、中に入った。

 

 

 

「…テレサ。」

 

「オーフィス、あいつの様子はどうだ?」

 

「…今さっき眠った所。」

 

「…そうか。」

 

私はベッドに近付き、ベッド周りを囲むカーテン越しに声をかけた。

 

「黒歌、いるのか?」

 

「ええ。」

 

「…開けても大丈夫か?」

 

「大丈夫よ…でも静かにね。」

 

「了解。」

 

私はカーテンを出来るだけ音を立てないようにゆっくり開いた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら221

「…良く寝ている様だな。」

 

「……あんたはそれしか感想出て来ないだろうけど、こっちは結婚大変だったんだからね?」

 

カーテンを開けてみれば件のあいつはベッドの上で、穏やかな寝息を立てておりその横の椅子に黒歌が眠っていた…

 

「…お前のその皺だらけになったスーツと崩れた髪型を見れば色々あったのは想像が着く。」

 

「…にゃら、その一言で終わらせにゃいで欲しいにゃ。」

 

ベッドの上にいるそいつには表面上変わった所は無い…ただ、黒歌の方は完全に服装が乱れていた。

 

「…相当、壮絶だったんだろうな…すまなかった。」

 

「…あんたが分かってくれるにゃら私はそれでもう良いにゃ。」

 

「…で、こいつの様子はどうだったんだ?」

 

「…私とオーフィスが来た時にはもう起きてて…完全に取り乱してて…咄嗟に抱き締めて落ち着かせたにゃ。」

 

「…保険医はどうした?」

 

「いてもらったらかえって危にゃそうだったから、取り敢えず一旦強引に追い出したにゃ。」

 

「…その後、仙術で眠らせた、か?」

 

「興奮し過ぎてて…にゃかにゃか効かにゃかったけど…にゃんとか。」

 

「…一応聞くが保険医は女性だったか?」

 

「ん?…ああ、そういう事にゃ。女性ではあったにゃ…でも多分この子、保険医の人と面識がにゃかったんだと思うにゃ。」

 

……説明するまでも無く、こいつの状態を何となく把握してくれて助かるよ。

 

「…つまり、男性恐怖症に続いて初対面の人間も駄目だと…思った以上に深刻だな…」

 

「…自分の前にいるのが誰にゃのかも良く分かってない、みたいにゃ感じだったから落ち着けばそっちは大丈夫だと思う…でも…」

 

「男性恐怖症の方は駄目か?」

 

「多分…」

 

改めて自分の罪の重さを自覚させられるよ…

 

「…記憶は消せないのか?」

 

「…サーゼクスはにゃんか言ってた?」

 

「母親が来てから一言も喋ってな…いかん、忘れていた…もうあいつの母親は外に来てるんだ。」

 

「……早く入れてあげなさいよ。実の母親が来たんなら私たちの方が出て行くべきでしょ?」

 

「ああ、呼んで来る…」

 

私は保健室を出た。

 

 

 

 

「おまたせしま…何してるんだ、オーフィス?」

 

廊下に出てみれば屈んで泣いている母親の頭を撫でるオーフィスがいた。

 

「悲しそうな顔…してたから…」

 

「……」

 

こういう姿を見ていると思う…クレアに良く似ている、と…だが単なる模倣では無い…

 

「……」

 

今のオーフィスの目を見てると分かるのだ…ただ、クレアの真似をしているのでは無く、こいつは本当にこの女の事を心配しているのだと…

 

「…少し待っていてやるか。オーフィス、その女が落ち着いたら連れて来てくれ。」

 

「分かった。」

 

だから、そんなオーフィスに私はこの場を任せる気になった。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら222

数分後、母親はオーフィスに手を引かれて保健室に入って来た。

 

「ご迷惑をおかけして…あの、何か…?」

 

恐らく私は今、苦笑いを浮かべているのだろう…何故なら…

 

「…いえ、実は娘さんからも今朝同じ様な謝罪を受けまして、ね…少なくとも私たちは特に迷惑はしてないのでお気になさらず…」

 

「はい…」

 

「ところで…どうします?娘さんをこのまま連れて帰りますか?」

 

「はい…早く帰って休ませてやりたいので…」

 

「…ここにいる黒歌の話なんですが…」

 

「え?」

 

「当初黒歌がこの子、オーフィスと共に保健室に着いた時、暴れて手が付けられなかったそうなんです…なので敢えて彼女と面識の無かったと思われる保険医に出て行って貰った上で寝かし付けたそうで…」

 

「……母親の私に対しても暴れる…そう仰りたいんですか?」

 

「…失礼な事を言っているのは重々承知しています…ですが…一応注意はしておいて下さい。」

 

「…分かりました。何から何まですみません…」

 

「さっきも言いましたが、お気になさらず…では、私たちはこれで失礼します。もし、何かありましたらここにご連絡下さい。」

 

私は携帯の番号を書いた紙を渡し、黒歌とオーフィスを連れ、保健室を出る…やれやれ…やっと一息付ける…私はネクタイを緩めた。

 

「さて、帰るか「テレサ?元々着て来た服はどうしたにゃ?」…そうか。理事長室に置きっ放しだな…仕方無い、取りに行くか。」

 

 

 

 

「…どうやら話は済んだようだね。」

 

「ああ。後は頃合いを見計らって娘を連れて帰るだろう。」

 

私は自分の服が入った紙袋をサーゼクスから受け取りながら答えた。そうだ…さっきの話を聞いておこうか。

 

「サーゼクス、ちょっと聞きたいんだが?」

 

「何かな?」

 

「…あいつの記憶は消せないのか?」

 

「…黒歌、君の意見は?」

 

「…私の仙術でも多分記憶は消せるにゃ…でも…止めておいた方が良いと思うにゃ…」

 

「…つまり君も同意見、という訳だね…恐らく理由も同じだろう…彼女は危機に見舞われていた…最悪命を奪われるとも感じた事だろう…彼女にとっても多分、これから先一生無い程印象に残った出来事だった筈だ…そうなると無理に消しても完全には消えない可能性が高いんだ…」

 

「記憶の異常には多分すぐに気付くにゃ…別の何かがあったと偽の記憶を植え付けても…きっと今回の出来事が印象的過ぎて…それにそれだけならまだしも…最悪、悪夢としてずっと苦しむ羽目になるかも…」

 

「成程な…」

 

安易に消せば済むと言うものでも無いんだな…

 

 

 

 

「…テレサ。」

 

「どうした?」

 

帰り道、オーフィスが声をかけて来た。

 

「あの子の家に行きたい。」

 

「……何故?」

 

「…心配…だから…」

 

「…黒歌。」

 

「…しょうがないにゃ…分かったにゃ。でも今日は駄目にゃ。後日私と一緒に行くにゃ。」

 

「…分かった。」

 

ま、あいつは二人には懐いている様だしな…寧ろ良い影響を与えるかもしれんな…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら223

オーフィスを追って渦の団の連中が現れる可能性を考えれば本来自由に出歩きさせるのは宜しくない…だが、だからと言って閉じ込めておくのはあまりに不憫だ…しかもこいつは他人を心配して行動しようとしている。

 

私に今のこいつを縛る気にはとてもなれない…黒歌とこいつなら追っ手を振り切るのは容易だしな。二人に会う事で彼女の回復に繋がるのなら尚更だ。

 

……無論、最悪の事態を想定していない訳じゃない。考えられる一番最悪の展開は何か?それは、彼女やその母親が連中に捕えられる事だ。その場合はどうするか?決まっている、私が助けに行く、若しくは二人を私が殺す。……単純な二択だ。私にとってあの二人が死ぬのはまるで損失にはならない…所詮、一番優先すべきなのは家族だから…そしてその中にはもうオーフィスが入っているのだ…

 

天秤がどちらに傾くかなど考えるまでも無い…実際、もしもの時はサーゼクスやグレイフィア、それにリアスたちやアザゼル…仲間であるこいつらを殺す覚悟を決めている私にとって全くの赤の他人であるあの二人を殺すのに一切の躊躇など無い。

 

二人で楽しそうに話をする黒歌とオーフィスを見ながら私は自分にそう言い聞かせていた……本当は分かっているさ、どうせ今の私にあの二人を躊躇わず殺す事なんて出来無いなんて事は…全く…儘ならないものだな…

 

 

 

このままただ帰るのも味気無いと言う黒歌の提案でファミレスへ向かう事にした。

 

「…オーフィス、もう良いにゃ?」

 

「うん。」

 

オーフィスは少食だ、恐らくクレアやアーシアよりも更に食べない…家でもあまり食べなかったし、私は外食でも食べる量は少ないのは知っているが、黒歌としては外食ですら食べないオーフィスの事が気になる様だ…

 

『これは…一応言った方が良いのかしら…』

 

『そもそもこいつの場合、人間態の状態で人の食べ物をそんなに食べた経験自体が少ないのかも知れないからな…キツく言った所で困惑するだけだろう…』

 

『別にキツく言うつもりは無いけど…』

 

同じテーブルに着いてる上、人間では無いオーフィスでは小声で話してもどうせ聴こえるんだろうが、そこはそれだ…オーフィスも空気を読んでいるのか話に入って来ようとはしないしな…

 

『最終的にどうするかはオーフィスに任せるさ…無論、これに限った話じゃないが。』

 

『良いのかしら…?』

 

『何が正解かなんて私にもお前にも判断する権利は無い…あるとしたらこいつだけだ…何せ、結局はこいつ自身の事なんだからな…』

 

そう言いながら私はオーフィスの頭を撫でた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら224

学園の生徒に見つかったら面倒なので、軽く話したらさっさとファミレスを出て家路に着く…その間一応気を張っていたが幸い携帯は鳴らず、家に着いてからも鳴る事は無かった…

 

「…結構強めにかけたからね、多分しばらくは目覚めないと思うにゃ。」

 

「…先に言ってくれ。」

 

黒歌にそう言われて私は携帯から目を離した。…全く。無駄に緊張してしまったじゃないか…

 

「案外、気にしてるのね?」

 

「…何かあったら寝覚めが悪いだろ。」

 

「捻くれてるにゃ。」

 

「…他人より家族優先だからな「家族じゃにゃいけどただの他人とも思えにゃい…でしょ?」…ふん…さぁな。」

 

これだとそうだと言っている様な物だな…最近の私は本当に素直過ぎる…前はこんなんじゃなかったんだが…

 

「それで良いのにゃ、あんたは人間に近付きつつあるのにゃ。」

 

「私は「……」…ハア…そうかもな。」

 

考えを読まれた気恥しさもあり、私は化け物だと嘯こうとして黒歌の笑顔を見て何も言えなくなる…私はこれから先、もうずっとこいつに頭が上がらないのだろう…それを悪くないと思ってる今の私がいる訳だがな。

 

「さてと、ちょっと出かけて来るにゃ「ん?何処に行くんだ?」テレーズの様子を見に、にゃ。オフィーリアに時々見に行って欲しいって頼まれたにゃ。」

 

「私は聞いてないが「妊婦の世話にゃんて出来るにゃ?」……」

 

「じゃ、行ってくるにゃ。」

 

 

 

「テレサ。」

 

「…んん…オーフィスか…どうした?」

 

暇でつい、ウトウトしていた私は身体を揺さぶられて目を覚ます、部屋にいる筈のオーフィスがいた。

 

「…これ。」

 

オーフィスが手に持っていた物を私に差し出す…これは…

 

「クレアの絵本か。」

 

クレアは漫画の他に絵本も読むので普通に部屋にある…しかし、これをどうしろと?

 

「…読んで欲しい。」

 

「……私で良いのか?」

 

「うん。」

 

頷くオーフィスを見つつ、少し困惑する…クレアは自分から読んで欲しいなんて言った事が無いからな…さて…どうしたものか…?

 

「……」

 

……悩むまでも無いか。明らかに期待しているオーフィスの目を見て私は腹を括った。

 

「…分かったよ……読むのが下手でも笑わないでくれよ?」

 

私がおどけてそう言えば力強い頷きが返って来る…そういう真面目な返しが欲しかった訳じゃないんだが…今のこいつにそこまで求めても酷か…さて、何々…

 

「じゃあ読むぞ?…昔々、ある所に…」

 

私は精一杯情感を込めて絵本に書かれた文章を朗読し始めた…

 

 

 

 

「…めでたしめでたし…さて、どうだったかな?」

 

「……面白かった。」

 

「そうか「他のも読んで欲しい」…あー…それはそこに隠れてる奴に頼め…おい。」

 

私は玄関に向かって声をかけた…玄関に併設されたトイレのドアが開く…

 

「何やってるんだ?…朱乃。」

 

「…申し訳ありません…出るタイミングを失ってしまいまして…」

 

「…だからと言ってわざわざそんな所に隠れる事も無いだろう?早く入って来い。」

 

「はい…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら225

神妙な顔して入って来た朱乃だが、そもそも私は怒っていないし、何だかんだ子どもが嫌いでは無い朱乃はすぐにオーフィスの相手を始めた…手の空いた私はしばらく二人を見ていた…筈だったのだが…

 

「テレサ、いい加減起きるにゃ。」

 

「ん…黒歌、もう戻って来たのか。」

 

「戻っても来るにゃ。もうオフィーリアも帰って来てるにゃ。」

 

「……マジか。」

 

と、言う事は私は夜まで寝ていた訳だ。朱乃とオーフィスの二人を眺めていた筈だが、そう言えば途中から記憶が無い。

 

「そろそろ夕飯にゃ。」

 

「分かったよ、今…?何だ?」

 

座っていたソファから立ち上がろうとしたが足が動かない…私の足の上に何か乗っている…?

 

「…こいつ、何時から私の膝の上にいるんだ?」

 

下を見れば私の膝の上に頭を乗っけてセラフォルーが寝ていた。

 

「つい、さっきにゃ「その割には本気で爆睡している様だが」…多分、疲れてるんだと思う…動かしても起きないだろうし、寝かせておいてあげたいけど…セラフォルーはご飯食べるか聞いてないのよね…」

 

「成程な、なら私が起こそう。」

 

どちらにしろ、こいつを寝かせたまま退けるのが面倒臭い。私はセラフォルーの身体を揺さぶった。

 

「ん…ふわぁ…何?テレサちゃん「人の膝の上で勝手に寝といて何、も無いだろう?まあ良い、それより飯だそうだが、お前は食うのか?」…う~ん…食べる~…」

 

「だ、そうだ「了解にゃ。」ほら、飯食うんだろ、下りろ。」

 

「う~ん…もうちょっと「取り敢えず私の膝の上からは下りろ、動けないだろ」…う~…分かった。」

 

セラフォルーがノロノロ頭を起こした所で私はソファから立ち上がる…そのまままたソファの上にセラフォルーが頭を落とした。

 

「おい、寝るな。飯食うんだろ?」

 

「う~…もう出来てるの「もう少しかかるにゃ」…出来たら起こして~…」

 

「おい…全く。」

 

「相当疲れてるみたいにゃ。」

 

「それなりに神経使う仕事の様だからな…」

 

「スーツぐらいは脱いだら良いのに…皺になるにゃ。」

 

「こいつの場合、自分でアイロンぐらいかけるだろ。」

 

オーダーでも無い普通のレディーススーツだからな…手入れもそう難しくないだろう。

 

「もう放っておこう。出来たら私が起こす。」

 

「分かったにゃ。」

 

 

 

 

「いい加減起きるにゃ。ほら、口から溢れてるにゃ。」

 

「う~…」

 

飯が出来たのでセラフォルーを起こしたが、こいつは半分寝ており、とても自分一人で食べられる状態じゃなかった。

 

「…もう良い。私が叩き起こす。」

 

私は席を立つとセラフォルーの頭を殴った。

 

「痛あ!?何々!?何が起きたの!?」

 

「テレサ…グーはダメにゃ…」

 

「良いだろ、別に。」

 

「大丈夫ですか?セラフォルー様。」

 

「朱乃ちゃん?今何が「私がぶん殴った」何で!?」

 

「何で?お前が寝ながら食おうとして溢してるからだろ。」

 

「うう…だからって何も殴らなくたって…」

 

「疲れてるのは分かるが、飯くらいちゃんと食え。大体、自分で食うって言ったんだろ。」

 

普段ならなあなあで済ますが、今日は厳しく言う事にする…何せ、ここにはまだ人間社会の常識に疎いオーフィスがいるんだ…

 

「う…ごめんなさい。」

 

「全く…しっかりしてくれ…」

 

説教なんてするのは柄じゃない…ただでさえ面倒事を抱えてるんだからこれ以上問題を増やさないでくれ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら226

「痛っ…!…全く…こいつは…」

 

身体に走った激痛で目を覚ます…朱乃がまた私を抱き枕にして寝ていた…

 

「…人を殺す気かと思う程締め付けるのも問題だが、電流を流されるのも…」

 

どっちかなら良いと思う辺り私ももう手遅れか。

 

「……」

 

幸い、今回は締め付け自体は緩いのでさっさと振りほどき、ベッドから起き上がった…

 

「…ハア…」

 

ベッドの上に寝ている面々と自分の身体を見て溜息を漏らす…あの後、覚醒したセラフォルーは私に襲いかかった…最初はあしらっていたものの、オーフィスがいた事もあり、お預けを食らっていた黒歌と朱乃も加わり…まぁ…ヤッてしまったのだ…オーフィスには黒歌が仙術をかけて眠らせた。正直本当に効くのかと思ったが、オーフィスは寝た…それを確認すると同時に、という訳だ……誰に説明してるんだ私は…

 

「……」

 

取り敢えず床に転がっていた誰のか忘れたパンツを履き、(私の下着が上下とも見つからない…)これまた床に転がっていた自分のパーカーを羽織り、チャックを上げる…次にジーンズを履いた。

 

「…まだこんな時間か…」

 

壁にかかっている時計を見れば二時を指している…深夜か…

 

「……」

 

朱乃が電流を流そうがその程度では私はもう早々、目覚めない可能性が高い(慣れだな…)何か危機を感じ取って起きたのかと思い、一応気配を探るが特に異変は…いや…

 

「…テレーズ?」

 

外にテレーズの気配を感じた…起きてるのか?

 

「…会ってみるか、そう言えば最近はろくに会話してないからな…」

 

私は玄関に向かい、サンダルを履くと外に出た。

 

 

 

 

「……お前か。」

 

「…私だと分からなかったのか?」

 

部屋の外に出てみればテレーズが自分とオフィーリアの部屋のドアに寄りかかりながら立っていた。

 

「…気配を探ろうとしなければ誰なのかなんて分かる訳ないだろう?」

 

「確かに。」

 

それが半ば習慣になっている私が可笑しいのか。

 

「…その様子だと私の気配に気付いて出て来た訳か…何の用だ?」

 

「……」

 

聞かれて気付く…特に用が無かった事に。…ふむ。

 

「別に用は無い「なら、戻ったら良いだろう」良いだろう、別に。」

 

「…ふん。」

 

……思いの外、機嫌が悪そうだな…

 

「何か、あったのか?」

 

「……何も無い…強いて言うなら、お前らが乳繰りあっているのを感じ取っただけだ。」

 

「……悪かった。」

 

何だ、私たちのせいか…

 

「…別に怒ってない「怒ってるだろ」いや…本当に怒ってはいない…少なくともお前らの事ではな。」

 

「じゃあ…何なんだ?」

 

「…こいつの事を考えていた。」

 

テレーズがそう言って大きく膨らんだ自分の腹を撫でた。

 

「相変わらずなのか?」

 

「…ああ。正直、私にももう分かるんだ、こいつは外に出たがっている…」

 

「…何で出てこないんだろうな。」

 

「さあな…それは私にも分からん…」

 

テレーズがそう言って乾いた笑い声を上げる…

 

「さて、私はもう戻る「もうか?」…お前もさっさと戻れ、あいつらが心配するだろう…ましてや、そんな格好ではな…」

 

「分かるのか?」

 

「…我ながらスタイルは良いんだ…パーカーを着た所で身体のラインは出る…お前ブラしてないだろう?」

 

「…ああ。」

 

「…早く戻れ。」

 

「分かったよ、じゃあな。」

 

私は部屋のドアを開け、中に入った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら227

部屋のドアを閉める…む…?

 

「…テレーズが動かないな…戻ると言ったのは私を帰らせる口実だったか…」

 

とは言え、別に指摘しようとも思わん…この後また会いに行った所でどうせ私に出来る事は何も無いだろうからな…

 

玄関を歩く…リビングへ…

 

「…テレーズ大丈夫だった?」

 

声が聞こえて一瞬身構えるが、直ぐに警戒を解く…

 

「…脅かすな…お前も起きてたのか…?」

 

横を見れば黒歌が立っていた…良く考えたら声をかけられるまで気配を感じなかったな…私が気を抜いていたのもあるだろうが…こいつ自身が既にそれなりの領域にいるのを改めて実感し、戦慄した。

 

「…朱乃ちゃんに、ね…」

 

「あー…そうか…」

 

大抵、私がいないと一番に被害に遭うのは黒歌だったりする…何か安心する要素が…いや、あいつの嗜好の問題か…今でこそ黒歌はある程度受け容れているとは言え、何とも言えんな…

 

「…嫌なら嫌と言えば良いだろう「あんたがそれ言うにゃ?」……」

 

……私はもう諦めているからな、と言う言葉を飲み込んだ。

 

「私も結局は受け容れているけど…だからってあんたに言われたくないにゃ…」

 

「…分かったよ、私が悪かった…」

 

今更こんな事で言い争いをするのはめんどくさい…それも、こんな時間に。

 

「別に怒ってないにゃ…それよりテレーズは大丈夫だったにゃ?」

 

先の質問が繰り返される…そう言えば…

 

「何で知ってるんだ「聞かにゃくても分かるんじゃにゃい?」……」

 

そうか…こいつなら…

 

「……気配を探ったのか?」

 

「夜中にあんたがいにゃかったんだから探すのが普通じゃにゃい?」

 

「……ご最も。…悪かったよ。」

 

「部屋の直ぐ外にいただけだし、別に怒ってないにゃ…それでテレーズは大丈夫だったにゃ?」

 

「…お前の思ってる通りだよ、かなり深刻だ…」

 

「子どもの事?」

 

「ん?ああ…正直、私じゃ何も出来無いな。」

 

「…良いんじゃにゃい?変に余計な事を言ったり、やったりしたら間違い無く逆効果ににゃるにゃ。」

 

「…アザゼルの見立てを聞いてるが、とっくに産まれて来てても可笑しく無いそうだ…まあ、人間の子どもの妊娠から出産までの期間を考えたら早すぎるが…」

 

一般的に人間の子どもは妊娠してから出産まで十ヶ月前後かかると言われている…数日の誤差がある場合もあるが、大抵はそれぐらいなのだ…最も一ヶ月程度早まる早産のケースもあるが…あってもその程度だ…だが…

 

「あいつの妊娠が確認されてから、精々、数ヶ月程度だ…十ヶ月には程遠い…」

 

テレーズの腹にいる赤子は成長が早すぎる…間違い無く、人間として産まれる事は無いだろう…

 

「…焦ってるのね…」

 

「焦る?あいつがか?」

 

「…初めての事でしょ?誰だってそうなるわ。」

 

「そういう物か…そう言えばお前は妊娠するんだったか?」

 

「…一応、ね「私との子どもが欲しいと思ったりするか?」…正直、オフィーリアみたいに割り切れないにゃ…」

 

「ん?」

 

「…不安になるの…世間に受け容れて貰えるかどうか分からないから…だって同性同士から誕生する子よ?」

 

「…テレーズとオフィーリアの子どもの話はクレアが広めてしまったがな。」

 

聞いた面々は事情を全く知らない筈なのに好感触だった…まあ、私も実際にはどうやってやったのか、アザゼルに聞いたりはしてないが…

 

「でも…それを聞くって事はあんたは欲しいの?」

 

「さぁな。私も良く分からない…ただ、私は妊娠しない身体だからな…負担は大半がお前に行く事になる…その上でお前が良いなら私は構わない…」

 

「…あんたは別に欲しいって訳じゃにゃいのね?なら、私は良いにゃ。」

「そうか。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら228

「それじゃ、私はもう一眠りして来るにゃ…あんたはどうするにゃ?」

 

「…目が冴えてしまったからな、起きてるさ。」

 

「…にゃら、私も「私に合わせる事は無い。眠いのなら寝て来たら良い」…む…分かったにゃ。」

 

そう言うとあからさまにムッとした顔をする黒歌…黒歌の為を思って言ったつもりだったが…また何か間違えたか、私は…?

 

「そう怒るな……若しくは私を心配してくれているのか?別にこの後何かやったり、前の様に突然消えたりはしないさ。」

 

「……本当に?」

 

「本当だとも。」

 

「…消える時は書き置きを残したり、一声はかけて行く、とかそう言う意味じゃにゃくて?」

 

ふむ…思った以上に信用無いんだな、私は…

 

「分かったよ…ならはっきり言おう…私はもう消えたりはしない。…お前らと離れたくないから。」

 

結局、離れてみて私が感じたのは余りにも強過ぎる喪失感だった…最初は一人であの頃は何も感じなかったのにな…意味無く私を構うサーゼクスや、私に大して色々と世話を焼こうとするグレイフィアを鬱陶しく思っていた程なのにな…私は間違い無く弱くなった…だが、悪くは無い…しがらみが増えて身動きが取れなくなってるのは分かるが、自分でも思ってしまう…

 

もう何一つも手離したく無い、と。

 

「…それを聞いて安心したにゃ。」

 

それを聞いて笑顔を浮かべる黒歌を見て、悪くは無いと改めて思う…残念ながら恋愛感情は今の所無いが、家族としてこれから先も大事にして行きたいと。

 

「じゃ、寝るにゃ。」

 

「ああ、おやす…そう言えば…」

 

「どうしたにゃ?」

 

「お前、どうやって朱乃から離れたんだ?」

 

黒歌は器用な方だが、能力的な相性もあるのか、朱乃を起こさず離れるのは難しい…大抵は起こしてしまい、朱乃が離れるのを嫌がり、元の体勢に戻ってしまう…大抵その事で後で私が文句を言われる(朱乃が私の次に黒歌を気に入っているのを知っていて、押し付けるパターンの多い私はそれについて何も言えないが…)

 

「…セラフォルーに押し付けたにゃ。」

 

「…だからか。さっきからあいつらの気配を寝室から感じるのは。」

 

セラフォルーが朱乃に締め上げらたり、電流を流されて起きない訳は無いからな…

 

「…起きてるの?」

 

黒歌でもさすがにまだ意識して探らないと分からないか…

 

「起きてるな「先に言って欲しかったにゃ…あんたと子どもの話したから、抜け駆けしたって二人から責められるにゃ」…そうなのか?」

 

青い顔をする黒歌を見て、事態の深刻さを知る…いや、待て。

 

「話を振ったのは私からだが「それでも割り切れないモンなのにゃ」…そういう物か。」

 

そう言うのも正直、良く分からないな…そもそも私は元は人間の筈だが…どうにも元の自分の事が曖昧だからか、価値観のズレを感じる…まあ、私が深い付き合いをしている人間は実質、クレアとアーシア位だがな…

 

「こうなったらあんたも来るにゃ。事情を説明して欲し「断る、めんどくさい」…にゃんで?」

 

「あの二人が私との子どもを欲しいかはともかく…今行けば確実にヤる羽目になる…」

 

「……聞こう聞こうと思ってたけど、あんたは嫌にゃの?」

 

「…元々、私に性欲はほとんど無いからな…まぁ、質問に答えるなら、嫌な訳じゃない…ただ、お前ら限度を知らないからな…面倒にもなる。」

 

「それは…あんたが余りシてくれないから…その癖アザゼルたちとは隠れてシてるって言うし。」

 

……和解した気でいたが、まだ気にしていたか。

 

「言い訳するつもりは無いが言わせてくれ…正直、あいつらとヤってる頻度もそう多くないんだ…お前らとの方が多いくらいだよ。」

 

「本当に?」

 

「ああ。…何ならあいつらに聞いてみると良い「それを言えるあんたの神経が分からにゃいにゃ」……悪かった。」

 

最近は理由が分からなくても謝る癖が着いてしまったな…めんどくさい以上に単純にもうこいつを怒らせたくないからだが。…良く挑発して、じゃれていた頃が懐かしい…そんなに時間は経って無い筈なんだが、どうしてこうなったのか…

 

「…にゃんで私が怒ってるのか分からにゃいにゃら謝らないで欲しいにゃ。」

 

「……」

 

バレたか…

 

「とにかく!さっさと来るにゃ。」

 

「分かったよ…」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら229

『…で、こんな時間に何の用かな?…テレサ。』

 

「…お前にとっては真昼間みたいな物だろう?サーゼクス。」

 

三人を何とかあしらった後(眠ったと言うか、半分気絶に近い)結局暇な私は夜中である事を一応気にしつつも、サーゼクスに電話をかけてみた。

 

『…そう思うなら忙しいのも想像がついたと思うが…結局何の用なんだ?』

 

「…目が覚めてしまってな…暇潰し……切るのは待ってくれ、何もそれだけの為に電話した訳じゃない。」

 

『では、何かな…?』

 

「…松田、それに元浜…これらの名前に聞き覚えは?」

 

『…もちろん有るよ。有名だからね、悪い意味で。』

 

「…なら、やっぱり苦情はお前の所まで届いてるんだな?」

 

『…来ているね、生徒はもちろん、教師や保護者からも。』

 

「…だったら何で退学させない?あの二人のやってる事は普通に犯罪だぞ?」

 

『……』

 

「お前らには人間の法律など関係無いのかもしれないが『そうでも無いさ、基本的には遵守しているよ、こうして人間界で活動している訳だからね』では、何故だ?」

 

『…逆に聞きたいんだが、何故今になってそんなに気にするのかな?』

 

「…前から気にはしていた。面倒事に首突っ込みたくないから黙っていただけだ…そもそも連中に関わる事こそ多いが私は教師では無いからな…私が言う事でも無いと思っていた…ただな…」

 

『ただ?』

 

「今回の一件で思ってしまったのさ…あいつらの存在は害にしかならない。…オフィーリアの話を聞いた時に感じたんだ、あいつらがいる限りあいつがまともに学園に来れる訳は無いとな。」

 

『…何も知らない彼らがいつものテンションで振る舞えば彼女に影響があるか…』

 

「そういう事だ、もう一つ聞くが、どうせお前そこまで考えてなかったんだろう?」

 

『……』

 

「都合が悪くなったからって黙るなよ。男としてあいつらの行動に思う所があるのかもしれないが、それで済まされる話じゃないだろう…一回や二回ならまだしも、あいつらの場合は度が過ぎてる。」

 

『…確かにね…』

 

「さっさと追い出せ…それとも何かあるのか?」

 

『どういう意味かな?』

 

「…元はあの二人+兵藤がいた…最近は比較的まともになって来ているし、そもそも今のあいつはリアスの眷属だ…だから放置するのは分かる…だが、あの二人を置いておく必要は無い筈だ…何かあるのか?あの二人に罰を与えられない理由が?」

 

『…そんな物は無い「なら、とっとと追い出せ」…何もそこまで…』

 

「ふざけてるのか?お前は甘過ぎるぞ。」

 

『……』

 

「あいつら覗きだけならまだしも盗撮もしているからな…悪用されたら終わりだぞ?」

 

『…分かった、検討しよう…とは言え、手続きの問題もあるし、いきなり退学には出来無い…そのくらいは分かってくれるね?』

 

「ああ…その返事が聞けただけで十分だ…これ以上、無茶を言うつもりは無い。」

 

『…では、切るよ…』



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら230

「「よろしくお願いします!」」

 

「…良いから早くかかって来い…敵は律儀に挨拶を返すとは限らないんだからな…」

 

 

 

 

渦の団の連中がやって来る前提の話である以上、駒王町を守る事になるリアスたちのレベルアップは必須だ…だから…

 

「「ハアッ!」」

 

「…甘い。」

 

聖魔剣の木場とデュランダルのゼノヴィアの相手を私が務めているのは仕方無い事なのだ……と、自分に言い聞かせなければ納得出来んな、この状況は…

 

結局サーゼクスと話した後も朝まで起きていた私の部屋にやって来たのがこの二人だ…意外な組み合わせ、と思えば二人は使う武器の共通点故か、会った当初は木場が一方的にゼノヴィアに敵意を向けていた物の、改めて話してみればウマの合う所も有ったらしく、最近は二人で模擬戦をする事も多いのだとか。

 

それは良いが、よりにもよってまさか二人で挑みに来るとは…

 

人間界で戦う訳にも行かない私たちは仕方無くサーゼクスに連絡を取り、冥界で戦っている…

 

「…お前らの気質的に仕方無いんだろうが、毎回正面から突っ込むのは止めろ…」

 

「しかし…」

 

「分かっています…でも僕たちは…」

 

「実力が拮抗してるならまだしも、私に傷一つ着けられてないぞ?二人がかりでそれなんだからもう少し考えろ…」

 

二人は自分の今の実力が知りたくて来たらしいが…これではもう続ける理由も無い。

 

「…やる気が無いなら私は帰りたいんだが「もう一度!もう一度だけお願いします!」ハア…」

 

他の連中を連れて来れなかったからな、この場には私たち三人と、グレイフィアしかいない。

 

「グレイフィア、時間は大丈夫か?」

 

「私は問題無いけど…貴女は良いのかしら?」

 

「さて…あいつらが何を考えてるか分からんからな…早く戻りたいのが本音だが…」

 

今日はセラフォルーが休みだった…にも関わらず私だけ冥界に行くと言えば当然ごねたからな…私としても最近は余り構ってやれなかったし、襲われるよりマシだから今日一日は相手してやろうと思っていたのだが…

 

「…分かった。もう一度だけ相手してやるから、今度はもっと真面目にやれ。」

 

「「はい!」」

 

……返事は良いんだけどな…全く…

 

 

 

「テレサさん!私の剣はどうでしょうか!?少しは強くなりましたか!?」

 

そう話しかけて来るゼノヴィアに若干引きつつも答えてやる事にする。

 

「…良くなっては来ているな。今までお前はデュランダルに振り回されるばかりで使いこなせていなかったが、今はある程度お前の手の内にある様だ…木場との戦いはお前にとって得る物があった様だな?」

 

「はい!」

 

ゼノヴィアの質問に答えつつも私は今の状況の異常さについて考えてしまう…絶対に折れず、傷一つ着かない聖剣デュランダルに問題無く打ち込める私の持つ大剣について…ゼノヴィアと戦うのは初めてじゃないのに、どうしても毎回気になってしまう…

 

「っ!やはり止められますか…」

 

「…いや、直前まで気付けなかった…お前も殺気を消せる様にはなっている様だな…」

 

ゼノヴィアに気を取られる私の隙を突こうとして突き出された魔剣を腕で受け止める…いや、何だかんだ本当に成長はしてるんだよなこいつら…まだまだ負けてやれないが。

 

「…そろそろ私も帰りたいからな。お前ら二人の最大の一撃を打って来い。」

 

「え…」

 

「でも、それだと…」

 

「良いからやれ…それで私が負けるならそれまでという事さ。」

 

さて、後は二人次第か…何を見せてくれるんだ?



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら231

「あの…大丈夫ですか…?」

 

「ん?…ああ、問題無い、気にするな。」

 

私の胸に斜めに走る一文字の傷…それを見て心配そうに話しかける木場に私はそう答えた。

 

 

 

 

最初に攻撃して来たのはデュランダルを持つゼノヴィアだった。予想より早いスピードで突っ込んで来るゼノヴィアを見てつい、気を抜いてしまっていた私はすぐに躱せないと判断、大剣で受け止めようとしたが、力任せに振り下ろされたゼノヴィアの剣は剣を持つ私の腕を勢いのまま下ろしてしまった。

 

ガードの崩れた私は追撃を防ぐ為、咄嗟にゼノヴィアの腹を蹴り飛ばした…加減出来ず、吹っ飛ぶゼノヴィアを見てヤバいと思い、追おうとしたら横から割り込む影が…そのまま私は木場に斬られた…恐ろしい事に硬い胸当ての部分ごと斬り裂かれた。

 

「…中々悪くなかったぞ?ただ、次は鎧の隙間を狙え。見ての通りまだ浅いんでな。」

 

出血こそしているが、実際はそう大した傷じゃない。

 

「…そんな顔するな、寧ろ私は嬉しかったんだぞ?お前が確かに成長しているのが分かったからな…まあその辺はゼノヴィアにも言える事だが…と、いかん。木場、私の事は良いからゼノヴィアを見に行ってくれないか?」

 

「え…?」

 

「実はさっきの蹴り、余り力を抜けなかったんだ…」

 

「え!?わっ、分かりました!」

 

「悪いな、私もこの傷を塞いだらすぐ向かう。」

 

私に背を向けてゼノヴィアの飛んで行った方へ慌てて向かう木場を見ながら私は妖力解放し傷を塞ぐ…さて…

 

「グレイフィア、一応アーシアを呼んでくれないか?」

 

「…そんなに酷いのかしら?」

 

「…もちろん全力で蹴った訳じゃないが、正直何とも言えん…最悪内臓破裂位は覚悟した方が良い。」

 

「……分かったわ。」

 

「すまんな、私は先に向かう。」

 

 

 

 

「……大丈夫か?」

 

「…はい、頑丈なのが私の取り柄ですから…」

 

行った先では木場に抱き起こされるゼノヴィアがいた。やれやれ…私とした事が…

 

「…痛むのか?」

 

「…いえ。」

 

そう言いつつもゼノヴィアは私が蹴ったと思われる箇所をずっと摩っている。

 

「無理するな、もうすぐグレイフィアがアーシアを連れてここに来る「いえ、違うんです…」ん?」

 

「私はあの時全力でした…ですがあっさり受け流されて「いや…何言ってるんだ?」え?」

 

何でそんな勘違いをする?

 

「さっきのお前が振り下ろした剣は私のガードを完全に崩した…言ってしまえば私の負けだよ。そして追撃を防ごうとしてな、つい、まともに蹴ってしまったんだ。」

 

「え?でも「お前からしたら受け流された気でいたのか?私は受け止めるつもりだったんだ…剣が下りたのはお前の膂力を私が止められなかったからだぞ?」…そっ、それじゃあ…!」

 

「その後に木場に手傷を負わされてるしな…チームとしてならお前らの勝ち…そうでなくてもお前は私を破っている。」

 

「そうですか…でも、まだそれなら勝ててないですね…私たちは貴女に本気を出させる事は出来無かった筈です…」

 

「あのなぁ…私が本気で蹴っていたらお前は間違い無く死んでいるからな?」

 

「…でも…私は本気の貴女と何れ戦ってみたいです…」

 

「……その内な。」

 

こいつ、私の"本気"がどういう意味なのか分かっているのだろうか…?まあ良い。今の所本気になる必要も無いからな、考えるのはそうなった時で良いか。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら232

グレイフィアに連れられやって来たアーシアはゼノヴィアの治療をしつつ、私に小言を言って行く…やろうと思ってやった訳では無いが、悪いのも私なので甘んじて聞き…流し…

 

「テレサさん!?聞いてるんですか!?」

 

「もちろんだアーシア「じゃあ私はさっき何と言いましたか!?」……」

 

ここで適当な言い訳の一つも思い浮かばないのが私なのだ…やれやれ…これは長くなるか?早く戻りたいんだが…どう見ても既に治療も終わってるのに未だに動けないゼノヴィアが不憫だしな…

 

「分かった…これから気を付けるから…取り敢えず木場とゼノヴィアは帰してやれ…怪我その物はお前が治せるが、失った体力自体は全ては戻らないだろう?早く休ませてやらないか?」

 

アーシアの神器は現状傷の手当てと、体力の回復を同時には出来無い…と言うかほぼ完全に傷の手当てに特化してしまっている…

 

「そう、ですね…それじゃあ私は行きますけど、ゼノヴィアさんも、こんな怪我しない様に気を付けてくださいね?」

 

「あっ…ああ…すまなかったアーシア…」

 

今アーシアがゼノヴィアに向ける笑顔は目が全く笑ってない…笑顔は元は威嚇行為だと言うが、私でさえ一瞬恐怖を覚えるとは…戦いにはほとんど出てない筈なのに、ここまで殺伐としてしまっているのはやはり私のせいなのだろうか…?

 

 

 

 

「そう言えばテレサ?」

 

「ん?」

 

アーシアが屋敷に帰り、木場とゼノヴィアを帰した後、グレイフィアが話しかけて来る…

 

「一応屋敷にはフェニックス家から届けられるフェニックスの涙が大量にあるんだけど、何でアーシアを呼び付けたのかしら?」

 

「……ああ、あいつまだ約束を守ってたのか。」

 

グレイフィアに言われ、漸く嘗てライザーとした賭けの内容を思い出す。あれから結構経っているんだがな…

 

「…あの賭けを持ち掛けたのは貴女だった筈だけど、まさか忘れてたの?」

 

「…正直に言えばな。良いじゃないか、確かアレは外傷以外には効果が薄い筈だろう?」

 

「そうだけど…ちなみに貴女時々ライザーに会ってるのよね?その話しないの?」

 

そう言えば、こいつにも話したな…

 

「……全くしないな…本人は自分の功績を一々口にしない方がカッコイイとか思ってるんじゃないか?そもそも私はまるで覚えて無かった訳だが。」

 

「不憫ね…」

 

「そんなに会ってないが、奴の要求には応えている、それで十分だろう?」

 

「貴女にとっては義務なの?」

 

「そこまでとは言わないさ…ただ私自身にそういう欲求が薄いんでね…」

 

「そう…」

 

「そうジト目を向けないでくれ…私も酷いとは思ってるさ…ただ、さっきも言った通り、私にそういう欲求が薄いんだ…」

 

悪魔の男は一部を除いて性欲は旺盛な方と聞く…ライザーみたいなタイプは特にそうだろうが…私も毎日は相手出来ん…正直黒歌たちだけで手一杯だ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら233

「ちなみにフェニックスの涙の備蓄量についてだが…」

 

「…貴女の想像してる通りよ…そろそろ置く所が無くなるわ…」

 

そんなに余ってるのか…

 

「あいつら一応、普段から修行を怠ってる訳じゃないんだろう?減らないのか?」

 

「毎月、まるで戦争でもやれって言ってるのかって位には送られて来るわね…」

 

「確かにそれなら減らないだろうな…」

 

普段から組んでる連中が実戦形式で本気のつもりで戦ったとしても所詮は模擬戦の域を出ない。真剣を使ったとしてもお互いの動きを知り尽くしている以上、それ程酷い怪我も負わないだろうな…フェニックスの涙は体力の回復には使えないから怪我をしなければ使う事は無い。

 

「渦の団が来る事を「想定したとしても多いわ…そもそも今現在置く所が無くなりつつあるんだから、一旦供給量を減らすか止めてもらわないと処分するしか無くなるわ」…それは勿体無いな…」

 

フェニックスの涙は悪魔以外にも効果があり、致命傷であっても治す事が可能でかなりの高値で取引される事もあるらしいからな…

 

「売ったらどうだ?言いたくは無いが決してグレモリー家の財政状況はよろしくないんだろう?」

 

「……一応、グレモリー家は貴女に援助してるんだけど。」

 

「それは分かってるさ…だからフェニックスの涙を売ったら良いんじゃないかと言っている。」

 

「…ふぅ。そうね、一応貴女の手柄だしね…正直に言うと売ってるわよ?と言っても口の固くて、まともな家の悪魔にしか売れないから…」

 

「余剰分もそんなに売れないか…考えてみれば他の種族には迂闊に話を持って行けないだろうしな…」

 

「そうよ。だから今屋敷にはフェニックスの涙が有り余ってるの。」

 

「分かったよ、今度ライザーに会った時に供給量を減らす様に言っておく。」

 

「お願いね?まあ、戦いが始まったら足りなくなるかもしれないけど…」

 

「なら、戦いの時に優先的に回す様に…は無理か。」

 

「フェニックス家とは今も友好関係にあるわ…戦いが始まったら戦闘の協力要請を出すだろうし、ゴタつくだろうから最悪それどころじゃないかも…」

 

「平時に有り余る程あるのに有事の際に足りなくなったらさすがに笑えないな…」

 

「そもそも笑い事じゃないけどね…救いがあるとしたら長期保存が利くこと位かしら…」

 

「あの時はろくに考えないで言ってしまったが大量にあれば良いというものでも無いんだな…」

 

「当然でしょう?何だってそうじゃない?」

 

「…確かに。まあ、ライザーには言っておく。」

 

「本当に早目にお願いね?そろそろ倉庫が一杯だから。」

 

「…今更だがもっと前に私に言えば良かったんじゃないか?そうでなくてもフェニックス家に直接言えば「ゴタゴタして言う暇が無かったのよ」…悪かった。」

 

良く考えたら普段から割と私が迷惑をかけていた事に気付く…やれやれ…近い内にライザーに会わないとな。全く…面倒だ。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら234

「ところでお茶でも飲んで行く?」

 

「……」

 

時計を見てそろそろ帰ろうと思っていた私にグレイフィアからそう声をかけられる…断ろうとしてふと気付く。

 

 

……実はクレアより長い付き合いのグレイフィアだが、こういう誘いを私にして来た事が今まであっただろうか、と。

 

当時、私のねぐらに勝手に押し掛けて来たのは記憶にあるが、比較的穏やかに話が出来る様になってからですら普通に誘われた事は無かったんじゃないだろうか?…ふむ。

 

「…何か、相談事か?」

 

「別に?他意は無いつもりだったけど?…でも、まぁ良いわ、それなら少し愚痴に付き合ってくれる?」

 

「分かったよ。」

 

 

 

「ここよ。」

 

「お前の部屋か?」

 

「そうよ…と言っても余り使ってないけど。」

 

グレモリー家の屋敷に入り、メイドたちに声かけしつつ歩いていたグレイフィアが部屋の前で止まり、鍵を使ってドアを開けた。

 

手で示されるまま中に入る。

 

「…使ってない割には綺麗にしてるな。」

 

「当然でしょ?私の立場を考えてみてよ…ま、整頓が行き届いてる、と言うより単に物が無いとも言えるけど。」

 

グレイフィアの部屋は小物も含めてほとんど物は無く、ベッドなどの最低限の物しか置かれていなかった。……多分趣味の物は大半が夫婦としての部屋にあるのだろう…と言ってもどっちみちこいつが場所を取るような物を置くとは考えにくいが。そんな事を考えながら私は部屋の奥に向かい、ベッド横にあった机の表面を指でなぞる。

 

「…埃も被ってない。使わない部屋の掃除を一々してるのか?無駄を嫌うお前らしくも無い。」

 

「…私にもあるのよ…一人になりたい時が…ここにはサーゼクスも入れた事無いわ…」

 

「そいつは光栄だ。」

 

グレイフィアは私とサーゼクスしかいない時、それから私と二人きりになると敬語は完全に消える…まぁ別に私が特別な訳じゃなくサーゼクスと二人きりになった時もそうなんだろうがな。

 

「お茶を入れるわ、座ってて。」

 

「……」

 

座れと言われても、この部屋に椅子は机の前に一つしか無く、グレモリー家の屋敷は西洋式なので基本土足だ…グレイフィアが掃除を怠ってないのはさっきので分かったが、さすがに床に座るのは昔ならまだしも、今の私では抵抗がある…仕方無く私は机の前にある椅子に腰掛けた。

 

 

 

「あら?椅子にしたの?」

 

「昔と違って西洋式の屋敷の床に座るのは抵抗があってね…」

 

「成程ね。」

 

そう言いながらグレイフィアが私にカップを渡し、机横にあったベッドに座るのを見ながらカップに口を付ける…っ…これは…

 

「お前…」

 

「あら?口に合わなかった?少しブランデーを足してみたんだけど…」

 

「……」

 

少しじゃない…温い紅茶に混ざる濃いめの味…これはかなりの量が入っている…ハァ…私はもう一度カップに口を付け、カップの中の温い紅茶を全て飲み干した。

 

「あら?お代わりはいる?」

 

「…ふぅ…紅茶はもう要らん…全く…回りくどい事しないで飲みたい気分ならはっきりそう言え。」

 

「…ごめんなさい…そうね、付き合ってくれる…?」

 

「長い付き合いだ、今更遠慮は要らんよ…何ならこの場にあいつら呼んでくれると助かるんだが?」

 

「…後でも良いかしら?先ずは貴女と飲みたい気分なのよ…」

 

「分かったよ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら235

「もしもし?」

 

『もしもし?私だ、グレイフィアは今どうしているかな?』

 

「……」

 

あれからしばらくして明らかに無理をしてると分かるペースでグラスを空けまくったグレイフィアはベッドの上で突っ伏す様にして完全に眠りこけていた…やれやれ…

 

「サーゼクス、普段色々迷惑をかけてる私が言う事じゃないと思うが聞かせてくれ…お前最近、グレイフィアを構えてるか?…一緒に仕事をしてるとかは無しだぞ?」

 

『…それはプライベートな時間を取れてるか、という意味かな?』

 

「ああ。」

 

『…正直に言うと最近は…』

 

サーゼクスの言葉を聞きながらグラスを傾け中の酒を飲む…

 

「……サーゼクス、グレイフィアなら今、酔い潰れて寝ているよ。」

 

『……本当かい?』

 

「…私がお前を責める資格が無いのは分かっているが、言っておく…本当にグレイフィアを大事に思ってるならきちんと二人きりになる時間を取る事だ…敢えて内容を語るつもりは無いがこいつは色々溜め込んでいた様だ…」

 

酒が入ってからのこいつの口は止まらず、ずっと恨み言を吐き続けていた…酔いが回って来ると支離滅裂で言ってる事が良く分からなくなる事もあったが、聞いてる限り、矛先は全てサーゼクスだった…

 

『…すまな「私に謝るな…謝るならグレイフィアにしておけ」…しかし、君は彼女の相手をしてくれたんだろう?』

 

「だから謝るな…こいつとは古い付き合いなんだ…今更迷惑だとは思わん…と言うか、別に迷惑をかけられるのは初めてじゃないから良い。」

 

『ん?』

 

「お前が…グレイフィアとの婚約が決まってからも一時期私を口説こうとしていたせいで、こいつは当時私に文句を言いに来ていた…私のねぐらに乗り込んで来てな…知らなかったのか?」

 

『すまない…まさかそこまで君に迷惑をかけていたとは知らなかった…』

 

「…ま、言わないだろうな…こいつはお前に嫌われない様にずっと努力していたからな…言っておくが、こいつ本当は完璧な様で割とガサツな方だからな?」

 

私は良く知っている…素のこいつはこんな大きな屋敷でメイド長をやっている様なタイプでは無い事を。

 

『…あの頃も今も…私の前では素では無かったんだね…』

 

ま、今はだいぶ素を出す様にはなってる様だがな…

 

「失望したか?」

 

『…いや、嬉しいよ…今まで知れなかった新しい彼女の一面を知る事が出来たからね…彼女本人からでは無く、君から聞いたのが少々残念だが。』

 

「お前は本当に変わっているな…これで惚れ直すのか?」

 

『今更、私が彼女を嫌う事は何があっても有り得ないよ…彼女から私が嫌われる事はあるかも知れないがね…』

 

「そう思うなら普段からちゃんとケアをしろ…こいつはこいつなりにずっと苦しんでいたんだ…分かってるよな?原因は夫であるお前にある…」

 

『ああ…取り敢えずそっちに行くよ…何処にいるんだい?』

 

「グレイフィアの部屋だ。…場所は分かってるんだろう?」

 

『そうなのか…だが、それなら私は「お前、入る許しを未だに貰ってないらしいな?」…実はそうなんだ…』

 

「取り敢えず来い、許可の貰ってないお前を部屋の主でもない私が勝手に入れる事は出来ないが引き渡す事は出来る…後、グレイフィアが寝てるせいで私が人間界に帰れないから早く来て貰えると助かる。」

 

『分かった、すぐに向かうよ。』

 

電話が切れる…私は携帯を机の上に置くと机の上に置いてあったブランデーの瓶を掴み、グラスに中身を注ぎ、瓶を置くとグラスに口を着けた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら236

『テレサ?いるのかな?』

 

ドアの向こうからノックとサーゼクスの声が聞こえた。

 

「ああ、いる。ちょっと待ってろ。」

 

私は手で弄んでいたグラスの中身を飲み干し、次に半端に残っていた瓶に口を着けそれも飲み干すとベッドに向かった。

 

「…む?」

 

ベッドで眠っているグレイフィアを見た瞬間違和感を感じたが、今はサーゼクスを待たせている…私は横たわるグレイフィアの身体の下に手を差し込み、抱き上げた。

 

「っ…」

 

声が漏れる…グレイフィアの身体からは女性特有の柔らかさを感じたが、それ以上に思った事があった…重い…私が抱き抱えた女なんてそうはいないが、一般的に女はこうも重いのか?正直、黒歌や朱乃…それにセラフォルーよりも重く感じるのだが…別に持ってられない重さでもないから良いが。グレイフィアを抱き抱えた私はドアに向かい、開ける。

 

「…やあ。」

 

「……」

 

思った以上に疲れた顔をしたサーゼクスを見て言葉を失ってしまう…ふむ、これからは余り苦労をかけさせないようにしたい所だが…オーフィスの問題が片付くまではそうも行かないか…

 

「ほれ、お前の嫁だ…どうした?」

 

抱き抱えたグレイフィアをサーゼクスに差し出すが受け取ろうとしない…おいおい…

 

「…おい?何してる?早く受け取れ。」

 

「……っ…あー…すまない、思った以上に絵になる光景だったのでね…見惚れてしまっていた…」

 

「…自分の嫁を同性とはいえ、他人に抱かせてアホなこと抜かしてるんじゃない。さっさと受け取れ…ただでさえおも…痛…」

 

重いと言おうとした私の腕に痛みが走る…

 

「どうしたんだい?」

 

「…いや、何でも無い…早く受け取れ。」

 

「ああ…」

 

漸く両腕を伸ばしたサーゼクスに引き渡す…グレイフィアはサーゼクスの腕の中に収まった。

 

「…ふぅ。迷惑をかけたね、本当にすま「さっきも言ったろ。謝るな。」いや、しかし…」

 

「だから、謝るならグレイフィアにだ…そうだな、今日はもう仕事は中断してこのままグレイフィアの相手をしてやると良い。」

 

「…しかし、彼女は眠っているが「グレイフィアの不満の理由は欲求不満だ」…そう、なのか…?」

 

「我慢してるのはお前だけじゃないって事さ…お前だって相当溜まってるんだろう?この後はそのまま襲ってしまえ、こいつもそれを望んでいる。」

 

そう言いながら私はサーゼクスの顔から視線を落とし、サーゼクスの腕の中にいるグレイフィアを見た。

 

……そこにはカタカタと小刻みに震えつつも、頬を赤く染め、口角が上がり涎を垂らした雌がいた…そう、グレイフィアは既に起きていた。はっきり確信したのはさっき重いと言おうとした時だが、サーゼクスが来てこいつを確認した時の違和感…恐くあの時点でもう起きていたのだろうな…と言うかここまで顕著な反応を示してるのにサーゼクスは気付かないのか…?

 

「しかし…眠ったままの彼女を「だから問題無い…こいつも限界なんだ…本当はヤりまくりたくて仕方無い筈だ…」……」

 

少なくともこのグレイフィアの様子に気付けば私が言ってるのが私の勘違いでは無いのは分かる筈だがな…

 

「まぁ、とにかくだ…この後こいつをどうするのかは勝手だが、先に私を人間界に帰してくれよ?」

 

「…ああ、そうだね…分かってるよ…それじゃあ「ちょっと待て。」ん?」

 

私は部屋に戻ると、戸棚を開けて中の瓶を何本か取り出した。良し、行くか。

 

「もう良いぞ。」

 

「テレサ…それは?」

 

「こいつの酒だよ…今日は久々にセラフォルーが休みだったからな、本当はオーフィスとセットと言う形にはなるが、一日相手をしてやる予定だったんだ…このままだと予定はパーになりそうだけどな…」

 

時計を見る限り、そろそろ日が暮れそうだ…休みが続くなら良いが、残念ながら明日からまたセラフォルーは仕事なのだ…

 

「木場とゼノヴィアの相手をしたらすぐ帰るつもりだった…グレイフィアとの一件は予定外だからな…これぐらいの報酬は貰ってもバチは当たらんだろう…と言うか、このまま土産も無しに帰ったら私がタダじゃ済まない。」

 

私がそう言うとまたグレイフィアに反応があった。

 

……小刻みに震えるのは同じだが、口は真一文字に引き結んでいる…どうも怒っているようだな…ま、ここまでお膳立てしてやったんだ、感謝こそされ、怒られる言われは無いと思うんだがな、全く…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら237

私はサーゼクスに貰ったリュックに酒瓶を詰め、背負うと床に描かれた魔法陣の上に立った。

 

「…じゃ、またその内にな。」

 

「その内、なんて言わなくても…別に何時でも遊びに来てくれて構わないよ?連絡してくれれば迎えに行こう。君は…家族だからね…」

 

「……嬉しくない訳ではないし、更に言えば今現在クレアたちを預かって貰ってる以上、言える事ではないが、そんな酷い顔でそんな事言われてもな…」

 

「そんなに酷いかな?」

 

「そうだな…そこで寝てる嫁に化粧の仕方でも習った方が良いんじゃないかと思うくらいにはな…寝不足もそうだが、お前最近ちゃんと飯食ってるのか?」

 

「……君には適わないね…」

 

「ま、その辺の問題もお前の嫁が解決してくれるだろうがな…お前、正直一緒にいるだけでも癒されるくらいには惚れてるんだろう?」

 

「もちろん。彼女の笑顔を見れれば後一週間は徹夜出来るね。」

 

「馬鹿か?一週間も起きてたら寧ろ仕事にならないだろ。この後ヤる事ヤったらとっとと寝るんだな。」

 

「そうしたいのは…山々なんだけどね…」

 

「ま、良いさ…それじゃあ「本当にクレアたちに会わなくて良いのかい?」…どうせ帰ったら疑われるんだろうが、ここで本当に会ったらそれはそれで責められるんだよ…私一人に執着してる様で、あいつら全員普段からクレアたちの身を案じてるからな…」

 

「そこは私も、もちろんグレイフィアも一緒の筈さ。」

 

「じゃ、帰る…と、忘れるところだった…おい!」

 

私は今も寝た振りを続けるグレイフィアの頭を殴った。

 

「テレサ!?」

 

「痛!?何するのよ!?」

 

「全く…何時まで寝た振りしてるんだ…」

 

「寝た振り?「サ、サーゼクス様違「こいつ、お前が部屋に来た時にはもう起きてたんだぞ?」「何でバラすの!?」」

 

「知るか。ほら、サーゼクス早く私を帰してくれ。」

 

「あっ、ああ…「待ちなさい!その前にその荷物は置いていって!」「断る。早くしろ、サーゼクス。」」

 

グダグダ喚くグレイフィアを見て戸惑うサーゼクスを急かす…早く帰らないとどんな目にあわされるか…

 

そして光に包まれ、私の目の前から二人の姿が消えた。

 

 

 

 

「…で、それがグレイフィアの所からかっぱらって来たお酒にゃ?」

 

「ああ。これだけあればしばらくは酒を買う必要は無いな。」

 

私はどちらかと言えばそれほどアルコールが好きな訳では無い。いわゆる酔いたいから飲む、と言うタイプだ…最も体質柄か、並の量だとほとんど酔えないのだが…

 

「ところでセラフォルーは何処だ?明日も早いだろうし、余り起きてられないだろうが、せめて今日の予定が潰れた詫びのつもりで飲もうと思って持って来たんだが…」

 

「……朝から不貞寝してるにゃ…その…オーフィスを抱き枕にして…」

 

「大丈夫なのか?」

 

「にゃんどか様子見に行ったけど…普通に寝てたにゃ。」

 

「……叩き起こすか。さすがに半日以上も寝てるのはな…」

 

「飲むなら夕飯食べた後ね?」

 

「ああ。お前も飲むだろ?」

 

「……付き合うにゃ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら238

「…で、やっぱりこうなるんだな…」

 

「不満な訳?」

 

「…こいつら酔っ払ったら更に性欲旺盛になるからな…お前が来るとそういう雰囲気は無くなるから正直助かる…いや、と言うかお前と飲むのは割と悪くないとも思ってるな。」

 

「…何か、今日は馬鹿に素直ねぇ…」

 

私の向かいでグラスを傾けるオフィーリアが溜息を吐く…

 

「普段私はそんなに捻くれてるか?」

 

「そうね、正直に言えば。」

 

「…そうか。」

 

「何?酔ってるの?」

 

「昼間も飲んでるからな…」

 

そうだ…私は酔っている…先程から、こんなに憂鬱に感じるのはそのせいだ…きっとそうに違いない。

 

「そう…そんなので大した酔わない癖に。」

 

「お前はお前で今日はやけに突っかかるな…私と二人で飲むのはそんなに不満か?」

 

「そうは言ってないけど…何?口説こうとしてるの?それなら私じゃなくて…そこに転がってる三人にした方が良いわよ?」

 

「そんなんじゃないさ…」

 

そう言いながら私は床の上で酔い潰れて寝ている黒歌たちを見回し…溜息を吐く…

 

「…何考えてるか知らないけど…特殊な体質の私たちと同じ様に飲み続けられる生物なんてそうはいないわ…それくらい分かってるでしょ?」

 

「まぁな…」

 

オフィーリアがグラスに入っていた酒を飲み干すと近くの瓶を掴み、自分のグラスに酒を注ぐ…

 

「何か知らないけど…良いわ、暇だし付き合ってあげる。」

 

「そうか…」

 

私は今日何があったのか聞かれ、改めて今朝からの自分の行動を振り返りつつ話し始めた…

 

 

 

 

「ふ~ん…この大量の酒瓶、グレイフィアの所から持ち出して来た奴な訳。」

 

「何か…文句があるのか…?」

 

「別に無いわよ。タダ酒飲んでる身だしね…で、あんたは何を悩んでるの?」

 

「悩む?」

 

今現在私が悩まなければならない深刻な問題は…別に無い筈だ…

 

「…自覚無し…それじゃあ私もどうしようも無いわね。と言うか、そう言うのこそ、そこに寝てる子たちに言ったら良いのに。」

 

「素面じゃ言えんよ。多分な…」

 

「そういう事言って抱え込んでたらまた潰れるわよ?」

 

「…あれはお前も原因だろ?」

 

「…今更私に責任が無いとは言わないわ…でも、うじうじしてるより良いんじゃないの?」

 

「そもそも何が原因なのか私にも分からないんだ…」

 

本当にどうしたんだろうな…今日の私は…

 

「漠然とした不安でも、口に出せばまた違う物よ。言えば良いのよ…家族なんでしょ?聞いてくれるでしょ、彼女たちなら…」

 

「お前じゃ…駄目なのか?」

 

「今更私に相談したい?私にそういう事で語れる言葉は何も無いわね…出来るのは…そうねぇ…身体を重ねる位かしら?」

 

「…それは…結局何も解決してないんじゃないか?」

 

「そこに集中している間は余計な事を考えなくてすむもの…で、どうするの?ヤる?」

 

私は自分のグラスの中身を飲み干し、グラスをテーブルに置いた。

 

「…お手柔らかに頼む。」

 

「…今日は本当に素直ね…でも正直それは無理かしら?だって…」

 

オフィーリアが私の頬に触れる…

 

「今の弱々しい貴女…とても魅力的なのよね…やり過ぎたら…ごめんなさい…」

 

オフィーリアの顔が近づき、頬に置かれた手が後頭部に回り、押される…私は逆らわず、自分の顔を近付けて行った…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら239

「やぁ。」

 

「……お前もマゾだったりするのか?」

 

私は目の前にいる胡散臭い笑みを浮かべた子供にそう言ってやった。

 

「え?何でそうなるの?」

 

「私の前に出て来るとどうなるかくらい分かってるだろ?」

 

「ふふふ…そんな事言っても本当は斬らないよね、君は?」

 

「何だと?」

 

「君は今生きている世界を気に入ってる。分かってるよね…僕の裁量次第で全部無かった事に出来るんだよ?」

 

「チッ…」

 

ニヤニヤしているそいつに舌打ちを返してやる…

 

「早く本題に入れ、どうせ構って欲しい、が本当の目的じゃないんだろ?」

 

「察しが良いね…実は「聞いたのは私だがちょっと待て」何?」

 

「さっきから思っていたが、何でこいつがここにいる?」

 

私は眠っているオフィーリアを指差した。

 

「ああ、それ?」

 

それ…だと…?

 

「う~ん…僕も良く分からないな…何でここにいるんだろ?」

 

こいつは…ぬけぬけと…!

 

「こいつは帰せ「え~…めんどくさい。そもそも今更隠す事無いよね、全部教えてやったら良いのに」…私の勘がはっきり告げているんだよ…それこそ面倒な事になる…と。早く向こうに帰せ。」

 

「無駄だよ…その子起きてるし。」

 

「っ!?」

 

私は片足を上げると、オフィーリアの頭に向かって振り下ろした。

 

「…!…あっぶな…!何するのよ!?」

 

足が頭の直上に来た所でうつ伏せで横になっていたオフィーリアの身体が動き、仰向けになり、目の開けたオフィーリアが私の足を両手で受け止めていた。

 

「それはこっちのセリフだ…起きてるなら寝た振りしてるんじゃない。」

 

「だって…何か変な話してるっぽかったから…タイミング外しちゃって…」

 

「ハァ…もう良い。ほら、早くこいつを戻せ。」

 

「良いじゃん、聞かせてやっても。僕は構わないと思うけど?」

 

「…ふざけるんじゃ「ここまで聞かせといてさよならは無いわよね?」…お前…」

 

「そんな怖い顔しないでよ…それで先ず、この胡散臭い子供は何なの?」

 

「胡散臭い!?」

 

ガーンと口に出しながらそいつはその場に座り込んだ。

 

「…私を転生させた自称神だよ「いや、本当に僕は神なんだけど」……私を転生させた神(笑)だ。」

 

「(笑)!?」

 

「へぇ「ちなみに」ん?」

 

「人であった私を殺した張本人でもある。」

 

「そう…で、何しようとしてるの?」

 

「決まってるだろ?」

 

私は背中から無いはずの剣を取り出した。

 

「あれあれ?何の真似…ヒッ!?」

 

私が奴の股間を斬りつけようとしたら奴はその場で跳んで躱した。

 

「え!?ちょっと何!?」

 

「大丈夫だ、多分死にはしないからその場を動くな。」

 

「ひょえ!?」

 

神とは思えない悲鳴を上げながら逃げようとする神(笑)の後ろ襟を掴んだ。

 

「神だろ?潔く斬られろ。」

 

「どういう意味!?普通に嫌だよ!?」

 

「神は死んだ!!…とか、一度言ってみたいじゃないか?最もこの場合死ぬのはお前の逸物だがな。」

 

「助けて!?」

 

神(笑)がオフィーリアの方に声をかける。

 

「え?嫌だけど?」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

「普段見てる割に理解してないのな…オフィーリアがお前みたいのを助ける訳無いだろ?ほら、動くなよ?」

 

「やめて!?」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら240

「ちょっ、ちょっと待って…!僕言ったよね…!僕を斬ったら…ヒッ…!」

 

その言葉に対する返事として屈んだ私は尻餅を着いた奴の足元に刺した剣を妖力解放した右手で掴み奴の方までスライドさせて行く…

 

「…お前のあの言葉だが…私は人間で言う致命傷になる傷を与えなければ良いと言う意味だと思ったのだが、違うのか?」

 

移動させた剣を奴のアレの有るだろう位置の直ぐ前で止める。

 

「何その拡大解釈!?僕に危害を加えるの全般ダメって意味に決まってるじゃん!?てか普通の人間の男は無麻酔でアレを切り落とされたら普通死ぬと思うんだけど!?」

 

「お前人間じゃないだろ?」

 

「そうだけど…!って違う!とにかくダメ!」

 

「ふぅむ…」

 

私は剣を抜くと背中に持って行き、仕舞う動作をする…背中から重みが消えた。

 

「つまり、私がお前に危害を加えなければ良いんだな?」

 

「そ、そうだよ…!」

 

「そうか…オフィーリア!」

 

「何?」

 

「こいつの最近の趣味は私を通してこの世界の観測をするこ…!」

 

私はその場から飛び退いた。

 

「ヒッ!?何で君が!?」

 

妖力解放をして奴まで一気に距離を詰めたオフィーリアは無言のまま、機敏に動く奴に向けて剣を振るう。

 

「そりゃ怒るだろ…お前今日、いや…もしかしたらもう昨日になるかも知れないが、当然私たちの事を見てたよな?」

 

「そっ…それは…わ!?」

 

夢の中とはいえ、既に酔いの冷めた私からすると黒歴史になるのは確実だが、私はオフィーリアと致してしまっている…そしてこいつはそれを見てた。

 

私は今更だからそれ程気にしないが、いくら奔放なオフィーリアでも、許可も出してない…それもこんな存在自体がふざけている奴に覗き見をされていると知れば普通は心穏やかではいられないだろう…

 

「いきなり漣の剣とは…良かったな、オフィーリアは全力でお前を消す気満々みたいだぞ?」

 

「良くないよ!?わぁ!?」

 

腰が抜けたのか、四つん這いの奴に振るわれた剣を奴はその体勢のまま、跳んで躱す。

 

「はっ、早く止め「断る。今のそいつを止めようとすれば最悪私も斬られる」今日は本当に用があって来たんだってば!早くしないと時間切れに…!あ~もう!」

 

頭の上で振り下ろされた剣を奴が両の手の平を合わせて止めた。

 

「ふ~…やっと止ま「…」ぶげら!?」

 

「白刃取りは勝手だがな…私たちは基本、別に剣士として正々堂々戦う事を信条にしてる訳じゃないんだ。剣が使えないなら他の物を使うだけの話だ。」

 

奴はオフィーリアに顎を蹴り上げられて悶絶していた。それでも剣を止めた手は離れないんだからさすがだな…さて、そろそろ止めるか。

 

「オフィーリア…もう良いだろ?どうせこいつは少々斬った所でどうせ死なんし、この世界には制限時間があるらしい…余り時間を無駄にしたくない。」

 

「あんたがそれ言う訳?…あんまり納得行かないけど…まぁ良いわ…今回はこれくらいで勘弁してあげる。」

 

オフィーリアがそう言うと剣から奴の手が離れ、オフィーリアが剣を背中に刺す…

 

「たっ、助かった…!」

 

「…で、結局何の話なんだ?さっさと話せ。」

 

「む…!その前に謝「オフィーリア」ごめんなさい!」

 

その場で綺麗な土下座を始める神(笑)に溜め息を吐く…最初に攻撃を仕掛けた私に問題あるのかも知れんが…それにしたってこれは酷い…本当に何の為に出て来たんだこいつは…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら241

「えっとねぇ…そろそろ原作きっちり進めてくれないと世界滅ぶから…伝えたかったのはそれだけ。んじゃ、また何時か「「ふざけるな!!」」ヒッ!?」

 

神(笑)が軽い調子で笑いながら言った言葉にブチ切れてオフィーリアと叫ぶ…本当にこいつは…!

 

「どういう事なんだ…!ちゃんと説明しろ!」

 

「どういうって言われても、君のいる世界は元々創作物の世界なんだ…もう君いるし、多少内容変わっても問題無いだろうけど、さすがに話が全然進んでないとそう言う影響も出るって。」

 

「私にはもう原作知識が無いんだ…!どうしろと言うんだ…関わらせたいなら記憶を「あっ、ごめん無理」何だと!?」

 

「だって君の記憶消したの僕じゃないし~。」

 

「…私がいるのはお前が管理している世界では無いのか?」

 

私は嫌な予感がしながらもそう聞いてみた…私は前世での自分がどういう人物だったかは分からないが、向こうで読んだ(と、思われる)小説等の記憶はあるのだ…その中にはネットで定番の異世界転生物や、二次創作物等も含まれる…

 

「ん?そんなのしてないよ?僕はそもそもたまたま下界で読んだ面白い話に君を転生させただけだし~。」

 

「お前…!」

 

「そう目くじら立てないでよ。簡単でしょ?主人公は誰かは知ってるんだし。そいつから目を離さなきゃどうにかなるんじゃない?」

 

「…兵藤一誠か。」

 

「そうそう。」

 

「…何かあいつ、何もしてなくてもそれなりに迷惑かけるのね…」

 

「主人公だからな…そもそも異物でしかない私の周りでばかり問題が起こるのが可笑しいんだ。」

 

「それは単純に貴女がこの世界では強過ぎるからじゃないの?この世界、人外は多いけど実力ははっきり言って皆大した事無いし。」

 

「規格外が極一部いるぐらいだからな…と言うか、お前が知ってる勢力は天使と堕天使と悪魔だけじゃないのか?」

 

「他にもいるの?」

 

「少なくとも日本には妖怪がいるしな…他には北欧神話の勢力なんかも存在していた筈だ…」

 

「北欧神話ってなると…オーディンとか?」

 

「……適当に名前出したみたいだが実際に存在するからな?」

 

「…神は死んでるんじゃなかったかしら?」

 

「それは天界勢力のトップの聖書の神の話だ…他の神話勢力に神と崇められてる者は多くが今もまだ生きてる…と言うか、そう簡単に死んだらそれはとても神とは思えんがな…」

 

「確かに…ちなみに会った事は?」

 

「…一度だけ、な。」

 

「……もう貴女が主人公になってるのかも知れないわね。」

 

「勘弁してくれ…」

 

大体、会ったと言ってもそんなにシリアスな話じゃない…この世界に来たばかりの頃にあいつに背後から胸を揉まれたのと臀を鷲掴みにされただけだ…奴が正体を明かすまで誰か分からなかったし、奴も直ぐに姿を消した…あの時は原作でも大物の人物(神だが)がセクハラの為だけに下界に降りてきたのかと考えたら、頭が痛くなった記憶がある…

 

「…と、時間切れか…」

 

目眩と、強い眠気を感じる…

 

「何よこれ…!」

 

「落ち着け、戻るだけだ…」

 

焦り出すオフィーリアを宥める…ま、私も前回は焦ったしな…

 

「じゃ、またその内に「おい」な~に?」

 

首を傾げるそいつの首を衝動的に絞めたくなったが堪える…

 

「最後に聞かせろ…オフィーリアが転生したのはお前の仕業か?」

 

千歩くらい譲って、私の中に本来のテレサ…テレーズがいたのはまだ納得出来る…だが、オフィーリアは可笑しい…こいつは普通にクレイモアの原作世界に生きていた奴なのは間違い無い…私は一応手順を踏んで外部から転生しているし、そう考えれば本当にイレギュラーなのはこいつの方なのだ…

 

「ん~ん知らない。少なくとも僕がやった訳じゃないよ。」

 

「そうか。じゃあな、もう人の夢に出て来るなよ…神(笑)」

 

「さようなら…神(笑)さん?」

 

「だから!(笑)って何!?」

 

奴が叫んだと同時に私は目を閉じた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら242

……その後の話?別に大した問題は起きてない…強いて問題があったとしたらあの日…目を覚ましたら何時の間に部屋に入って来たのかテレーズがいて、裸の私とオフィーリアをしゃがんで見下ろしていたくらいか…

 

テレーズは完全にニヤニヤしており、別に怒っていたりはしなかった(妙に機嫌が良かった気もする…)

 

『早く服を着た方が良いぞ?』

 

…と、言われた事だけが未だに記憶に残っている…ちなみにその瞬間はまだ呆然としていたが、直ぐそこに黒歌たちが眠っているのを思い出し、オフィーリアとかなり焦りながら服を着た。

 

そう…本当にそれくらいなのだ…それ以上の問題は起こらず、渦の団の連中からは何のリアクションも確認出来ないまま約束の日程が過ぎ、クレアたちが戻って来てしまった…オーフィスのコピーは普通に消えた。クレアがごねる間も無く、本体のオーフィスが戻るのと同時に自壊した。僅かな欠片も残さず完全に消滅したのだ。

 

本体が記憶を共有していたのは間違い無く救いだろう…例の少女に早く会いに行きたいと言っているしな…

 

 

 

そして私は用務員業務に復帰した…渦の団をどうこう出来て無い以上、私が家を離れるのは悪手にしか思えないがオーフィスは大人しくなっているし、それ以上に今は優先すべき事が出て来ている…

 

それはもちろんハイスクールDxD原作主人公である兵藤一誠の動向を見る事…だが、一ヶ月以上経っても何の問題も起こらなかった…と言うか、起きようが無いと言えば無い…何せ中心になるオカルト研究部の活動自体がろくに無いのだから…とは言え、リアスたちは時々は全員で集まり、ちゃんと特訓をし、レーディングゲームには参加しているらしい…

 

…そもそも私には観戦する権利も実質無ければ、参加資格も当然無いのだから、ここで問題が起きていても本当にどうしようも無い訳だ…と思っていたのだが…

 

『いや、別に観戦は構わないよ?』

 

…そうサーゼクスにあっさり許可を出されて拍子抜けした…ま、見れる様になっただけで結局私が何も出来無い事には変わりないがな…

 

何にしても私ももういい加減気付いている…今ある問題を片付けなければ恐らく原作は進まない…そしてその問題の内容も分かっている…もう兵藤一誠がどうの、という段階の話では無いのだ…こういう展開になったのは間違い無く私のせいで、私が動かなければどうにもならない。

 

……もう出方を待つのは止めだ…どうせ奴らはこの世界の都合に従い動かないし、このままなら奴の言う通りこの世界は滅ぶのだろう…ならば…

 

「オーフィス、渦の団の本拠地まで私を案内してくれるか?」

 

その日…私はこの世界に来て、恐らく初めて物語に積極的に関わる選択肢を選んだ。




番外編終了。


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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら243

番外編の番外…前話に繋がらない話です。


「あんたとやるのは何度目だったかな?」

 

「…私がレーディングゲームに参加した時を含めれば…十六回目だな。」

 

私は手を組んで、身体を捻りながらライザーの疑問に答えた。

 

 

「何時もは二人だけでやるが…私の仲間を呼べとはな…そんなに自信があるのか?」

私は改めて周りを見渡しながら、ライザーに聞く…所謂コロシアムを模した空間…観客席の奴の背後側には奴の眷属、私の後ろは私の家族であるクレアにアーシア…それにもちろん黒歌と朱乃、セラフォルーもいる…何故か、リアスたちにテレーズとオフィーリアもいるがな…と言うか、リアスはともかく…サーゼクスとグレイフィアはこっちで良いのか?

 

「惚れた女に何時までも負けたままってのはどうにも男としてさ…やっぱりきっちりケリは着けたいんだ。」

 

「……それが十五敗してる奴のセリフでなければ格好もつくんだがな…いい加減諦めてくれないか?」

 

「そう言うなって。てかもう長い付き合いだから分かるよ。あんたやっぱり押しに弱いだろ?やらないとか言っててこうやって受けてくれるもんな?」

「アホか…お前がしつこいからだ…全く…ガキが…」

 

「目上振るならさ、どうせ身体も許してくれたんだし、これも一回くらい譲ってくんないか?」

 

「ほう…それでお前は良いのか?」

 

「冗談。マジのあんたに勝てないと意味無いさ。」

 

「何時になるんだろうな?」

 

「今日俺が勝つかもしんないぜ?」

 

「言ってろ。そろそろ始めるぞ?」

 

「良いけど…あんた本当にそれで良いのか?」

 

「何がだ?」

 

「…剣を使わないのか?」

 

「お前ごときに抜く必要は…フッ…冗談だ…お前を斬っても時間の無駄だからな…殴った方が早い。」

 

私を篭手を嵌めた片手を奴に向ける…

 

「不服か?」

 

「いや、それならあんたは俺を思いっきり殴れるって事だろ?正直興奮するぜ…」

 

「変態め。」

 

「惚れた女には…男は誰でも変態さ。」

 

「反吐が出る…とでも言えば勃ったりするのか?」

 

「おう!勃つ勃つ!」

 

「……今日はこの後家族サービスだ…お前が余計な事を考えない様に握り潰してやるよ。」

 

「そんなプレイも楽しそうだな!」

 

「…最近お前の眷属にお前の変態度が増してると愚痴を言われるんだが…私のせいか?」

 

「俺は元々あんたの容赦の無さに惚れたかんな。」

 

……何時もの事だが、やる気が失せて来るな…無駄な会話をせずにさっさとやって終わらせば済むんだろうが…ついついこいつと会話してしまうんだよな…

 

「もう良い…始めるぞ。」

 

私は半身になって構える。

 

「あれ?動かないのか?」

 

「良いから早く来い。」

 

「へぇ…じゃ、遠慮無く行くぜ!」

 

奴の足が炎を纏い、地面を滑る様に移動し、私の前に到達し私の顔面に拳を繰り出す…

 

「ハアッ!」

 

燃え上がるその拳を顔に受けた瞬間、私は奴の腹を殴りつけた。

 

「グエッ!?」

 

情けない悲鳴を上げて吹っ飛ぶ奴を私は冷めた目で見詰めた。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら244

「チィ…!」

 

くの字に身体を曲げ、吹っ飛ばされていた奴は燃えた足を振り下ろし、熱で溶けた地面に足を差し込み、止まった。

 

「おー…良く耐えたな。」

 

「痛てぇな…」

 

腹を擦りながら足を抜き、立ち上がる。

 

「やはりお前は打撃の方が効果は有りそうだな?」

 

「ああ…つっても普通はそんなに効かないんだがな…やっぱあんたとイッセーの拳は重たいぜ…」

 

「おいおい…未熟なあいつと比べるな…私はカウンターで打ち込んだだけでろくに力も入れてないぞ?」

 

「こっちは割とギリギリだったのにな…」

 

「案外痛そうだな、止めるか?」

 

「まさか!勝負はこれからだぜ!」

 

一気に私に肉薄したライザーの足が私の頭まで振り上げられる…

 

首を後ろに曲げて躱そうとしたが…間に合わず掠って顔が少し切れた…右手で足を掴み左の肘を落とし、下から右膝を当て、挟み…足を圧し折る…足自体にしか火を纏っておらず脛はそのままだから楽だな…

 

「ぐおおおお…!?」

 

「うるさいな。」

 

「ぶごっ!?」

 

鼻を殴り、そのまま拳を引かずに押し付け、地面に叩き付けた。

 

「痛ってーな…うお!?」

 

踵を振り下ろすと転がって避け、立ち上がった。

 

「あっぶねー…」

 

「そこは受けてくれないか?興が冷める…」

 

「ふぅ…無茶言うなよ…あんなの食らったらすぐ落ちちまうじゃないか…もっと楽しませてくれよ?」

 

そう言って奴が顔に手を翳すと鼻が炎に包まれる…やがて炎が消えると奴の鼻は綺麗に治っていた。私は溜め息を吐いた…

 

「全く…ほんっとうに!面倒な身体だな!?」

 

「便利だろ?あんたは治さないのか?俺がやったとは言え、そのままだと綺麗な顔が台無しだ…」

 

「ほう…顔に火傷を負った私は嫌だと?」

「まさか。そのままが良いならそうしなよ。俺はどんなあんたでも愛してるさ!」

 

「そうかい!」

 

 

 

 

「もう…また顔に傷作って…!」

 

「そう言うな黒歌、どうせ私たちは治るからな…多少の傷は気にならないのさ。」

 

ま、最初のアレは私も無茶だったとは思うが…多分思ったより早くて対応が遅れたんだろう…本当は綺麗に躱してカウンターを叩き込むつもりだったんだろうな…

 

「女性なんだからもう少し気にしてよテレーズ!」

 

「おいおい…私に八つ当たりするな…私は自分の事をちゃんと省みてるぞ?」

 

私は大きな腹を撫でながら言ってやった。

 

「…気にしてるなら…何でこっちなの…?モニター観戦だって出来たのに。」

 

「今日は妙に調子が良くてな…ま、多分私よりもコイツが見たいんだろうさ…」

 

「コイツって貴女の「テレーズと私の、よ…黒歌。」そう、だったわね…」

 

「ま、そういう事だ…何かあったらオフィーリアもいるしな…お前が気にする事は無い。」

 

私は前に向き直る…ちょうどライザーがあいつに投げられて、地面に叩き付けられたところだった…あいつが顔に向かって振り下ろした足をライザーが掴み、地面に引き倒す…

 

「結構やるじゃない、ライザー。」

 

横のオフィーリアがそう言う…

 

「十五回も負ければさすがにあいつの動きは見えて来るだろうさ…」

 

「そうね、でも貴女は自分の半身が負けると思ってないわね…」

 

「半身じゃない…私は居候だっただけさ…それに、お前だってあいつが勝つと思ってるだろ?」

 

「当然!あの程度で負けられたらたたじゃおかないわよ。」

 

「フッ…私も同感だな。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら245

殴りかかって来た奴を地面に叩きつけ、顔面を踏みつけようとしたら足を掴まれ、地面に落とされた。油断したな…そう頭に過ぎった私の腹の上にライザーが跨り座る…

 

「……で?」

 

チャンスにも関わらず、ライザーはそのまま中々動こうとしない。

 

「いや、ここからどうするかなぁと思って…いでぇっ!?」

 

戯けた事を抜かすライザーの股間を鷲掴みにする…

 

「追撃の当てが無いなら…とっとと降りてもらおうか?」

 

「いでででで!?いやじゃあキスだけ!それだけ頼む!?」

 

コイツ…!

 

「試合中に言うなボケが!終わってからならこっそりしてやるから早く降りろ!」

 

「言質取ったぜ!?」

 

「降りろ!」

 

「ぶぎゃ!?」

 

顔面に拳を叩き込み、奴が仰け反ったところで強引に立ち上がり、再び地面に倒れ込んだ奴の顔面を今度こそ踏みつける…

 

「うぎぎぎ…!」

 

「ギブアップか?」

 

咄嗟に顔を横に向け、顔を踏まれるのは避けたライザーの側頭部に乗せた足に力を込める。

 

「しねぇ!…て、おい!?それ以上やられたら抜けなくなるだろ!?」

 

奴の頭が地面に沈んで行く…

 

「地面で溺死寸前なんて中々無いだろ?後で感想でも聞かせてくれ。」

 

「ちょ…!さすがにふざけ…!クソっ!」

 

「お?」

 

突然手に力が加わり、地面に叩き付けられる寸前…地面から出したライザーの顔が目の前にあった。

 

「しゃあ!唇ゲ「させるかアホが」グエッ!?」

 

頭を後ろに逸らし頭突きをする…怯んだライザーのスーツの襟を掴み、耳に口を近付ける。

 

「後で…してやるから…いい加減真面目にやれ…!クレアとアーシアが見てるんだ…」

 

奴のスーツの襟を掴む力を強くして締め上げながら囁く…

 

「待て…!死ななくても窒息はするから勘弁…!?」

 

「…最近相手出来無かったのはこっちも反省してる…だからさっきも言った通り…キスくらいならしてやる…」

 

「……マジだな?」

 

「女に二言は無い。」

 

「もちろん舌入れて良いんだよな?」

 

「好きにしろ…」

 

「よっしゃ。なら、離してくれ…仕切り直ししようぜ?」

 

私はライザーの襟から手を離した…その瞬間奴が飛び上がり、地面に着地する…そして一気に私の方へ距離を詰めて来た。

 

「オラオラァ!」

 

「……」

 

奴の繰り出す拳と足のラッシュを捌いて行く…ふむ…この感じ…全ての攻撃に私を倒す意思が感じられない…スピードはだんだん上がって行ってるがそれだけ…何を狙ってる?

 

「しゃあ!」

 

「っ…ほう?」

 

逸らそうとした右の拳が勝手に横に逸れ、一気に引き戻された奴の右手が捌くために出した私の左腕を掴み…!?

 

「あんたがやるのを見て…ずっと練習してたんだ…」

 

「眷属相手にか?」

 

「ああ、妹もな…感謝してる…まさかあんたをこうして投げられるとは思わなかった…」

 

取った腕を引かれ、奴の背に負われそのまま投げられた…別に投げられるのを防げなかったわけでは無いが、敢えて私は受けた…驚いたのも事実だがな…

 

「で?次は?」

 

当然ながら別に地面に叩き付けられた程度で気絶はしないし、私を倒したいなら追撃がいる…見下ろすライザーに問い掛けた。

 

「いやぁ…それがさ…コレを披露する事ばかり考えてたから他に何も無いんだわ…ギブアップで。」

 

「……お前この後のご褒美が楽しみなだけだろ?」

 

「否定はしないぜ?」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら246

ぴちゃぴちゃと水音が耳に届く…今日は一段とねちっこいな…そんな事を考えながら、私の胸に置かれた手を掴む…やれやれ…私はライザーから離れた。

 

「誰が触って良いと言った?」

 

「いやぁ…それもサービスの範囲で…いでっ!?」

 

ふざけた事を宣うライザーの指を腕を掴んだのとは逆の手で折り畳む…

 

「ちょ!?折れてるって!?」

 

「治るんだから良いだろう?試合の時も言ったが今日はソレの相手は出来ん。」

 

手の甲に完全に張り付いた指を握り締める。

 

「いだぁ!?」

 

「お前にとってはご褒美だろう?」

 

「痛いだけだっての!?早く離してくれ!?治せねえから!?」

 

「何でだ?このまま治せば良いだろう?」

 

「あんたの手が焼けるだろうが!」

 

「今更そんなのを気にするとはな…私もその程度なら治るんだぞ?」

 

「そういう問題じゃねえんだよ!?マジで離してくれよ!?」

 

「うるさい奴だ…サービスで手を握ってやったのに。」

「逆に曲げる事無いだろ!?」

 

「贅沢だな。さて、そろそろ私は行くぞ?お前の方で都合が着いたら連絡して来い。」

 

「あー…もう…細かい傷治すのは時間掛かるんだぞ?」

 

「だから治るんだから良いだろ。」

 

「…本当はあんただって分かってるだろ?そう言う問題じゃないってさ。大体、痛いものは痛いんだぜ?」

 

「はっきり言え、どうしろと?」

 

「今日は出来ねぇんだろ?少しは慰めてくれよ。」

 

「眷属が泣くぞ?」

 

「今、俺はあんたを見てんだぜ?」

 

「それで?お前の望みは?」

 

「舐めてくれ。」

 

「……何処を?」

 

「今日はこの指を舐めて欲しいな。」

 

「それぐらいなら良いが、治してからな。」

 

「このままじゃダメなのか?」

 

「何で出血して血だらけの指を舐めなきゃならん?」

 

「そもそもあんたがこうしたんじゃねぇか。」

 

「ハア…分かったよ。」

 

こういう時…最後は断れないから…こいつとの関係も今日までズルズル続いてしまってるんだろうな…

 

私は床に座るとライザーの手に舌を伸ばした。

 

 

 

 

「……満足か?」

 

「もうちょっと「アホ。この後はクレアたちと出かけると、言ったろうが。」つれねぇなぁ…」

 

「後日付き合ってやるから今日はそれで我慢しろ。じゃあな…」

 

私は部屋のドアを開け「……」!?

 

ドアを開けると目の前に黒歌がいた…また気配を感じなかったぞ…

 

「もう良いにゃ?」

 

「ああ…悪かったな、待たせて?」

 

「私じゃなくてクレアとアーシアに言って欲しいにゃ。」

 

「そう言えば結局今日、小猫の事は良いのか?」

 

今日、何故かこの場に小猫はいない…ついてこなかった。

「あの子も私たちにずっとベッタリじゃ困るし、ね…」

 

「それにしたって一人か…」

 

「あの子も他に友だちいるみたいよ?」

 

「なら、安心…で良いのか?」

 

「どっちにしても本人が行かにゃいにゃら私が無理に連れて行く事はにゃいにゃ」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら247

「そう言えば何で「何でクレアとアーシアを連れて来ようと思ったの…か?」……そうにゃ。」

 

言おうとした事を遮られた上、先回りして言い当てられた為か少しムスッとする黒歌に私は思わず少し笑ってしまった。

 

「ククッ…いや、そう怒るな。長い付き合いなんだ…お前の言いたい事など大体分かるさ」

 

「……それで?私の質問に答えてないにゃ。」

 

「…あの戦いを見たら分かっただろう?ライザーも実力を伸ばしてるんだ、恐らくあまり酷い事にはならないだろうと思ったのさ…」

 

ライザーの最初の攻撃はカウンターできっちり返すつもりが見えなかった……テレーズやオフィーリアには恐らく見抜かれているだろう…この後お小言を貰うかもな…

 

「ちなみに今まではどんな感じだったにゃ?」

 

「……聞きたいのか?」

 

「……大体分かったから遠慮するにゃ…」

 

「その方が良いぞ。」

 

いや、初めの頃は本当に酷かった…ほとんどあのレーディングゲームの時の焼き増しだったからな…その癖、私自身の格闘の技量は上がって行ったからだんだん私は傷を負う事が無くなるし…う…さすがに少し吐き気がして来たな…私は耐性のある方だが、毎回毎回ああ言うのを見せられていればさすがに精神的に来るものがある…

 

「…顔色悪いわね…今日は出かけるの止める?」

 

「大丈夫だ、気にするな…それだけあいつのやられっぷりが酷かったと言う事だ…大体、今日は中止には出来んだろう?私たち全員が休みを取れるなんて滅多に無いんだからな…」

 

少なくとも私と黒歌は比較的容易に休みは取れるが現役の魔王の一人である上、外交方面を担当するセラフォルーはアレでも非常に忙しい立場にある…普段は多少無理をしても私、引いてはクレアとアーシアと過ごす時間を取っているが一日休みを取るのは難しい…

 

逆にあいつが休みを取れても私はテレーズが体調を崩せば、オフィーリアが仕事に出れない以上は出なきゃならんし(ま、出るか出ないかは私の自由だが出ないと嫌がらせの様に片付けなきゃならん書類が増える…)黒歌は喫茶店のウェイトレスと言う事もあり、店が忙しい時期はさすがに出なきゃならん…そもそも聞けば黒歌も自分の店を持ちたいと言う夢があるらしいから、出来るだけ出るに越した事は無いだろう…

 

「具合悪いなら、無理しなくて良いのよ?休みなんていつでも「私やお前はまだ良いが…セラフォルーは取れないだろう?」あー…」

 

「あいつはあいつで…無理をしてまで私たちとの時間を作ろうとしてるのに無下には出来んさ…たまに私たち二人が家にいられない時は強引ににでも家でクレアとアーシアの相手をしてくれる程だしな…それ以上にクレアとアーシアにあまり我慢をさせたくは無い…」

 

「あの子たち、いつも全然ワガママ言わないものね…」

 

「そういう事だ…ま、今回連れて来たのは本当はまた違う理由だがな…」

 

「その理由って?」

 

「…私たちの様なモノと一緒に過ごす以上、結局戦いとは無縁ではいられない…という事さ…大体、今日だってライザーがコレが殺し合いでは無く、あくまで試合である事を意識して引き際を弁える様になったから言い様なものの…あのまま続けていたらお互いにそれなりに傷付く事にはなっただろう…治るとは言え、な…」

 

「それは…あんたがもう止めるって言えば良いんじゃない?…まだまだあんたの方が格上みたいだし。」

 

「若手だからって簡単に花を持たせる気は無いよ、私は。」

 

「相変わらず負けず嫌いね「だが、それ以上に」え?」

 

「私がわざと負けを認めたところで…どうせあいつは反発してしつこく挑んで来るからな…ある程度はこっちもまともに付き合ってやらないと終わらん…」

 

「なるほどね。」




「ところでしつこいって…ベッドの上でも?」

「……生憎お前らよりはずっと淑女だよ。」


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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら248

「そう言えばリアス?」

 

帰りがけ、小猫を除く眷属一同と寛ぐリアスに声をかけた。

 

「何かしら?」

 

「小猫の予定は把握してたりするのか?」

 

「…私は眷属の事を家族の様に思ってはいるけど、プライベートには干渉しないわ…寧ろそう言う貴女は知らないの?一緒に住んでるでしょ?」

 

「いや…分からないな…」

 

「じゃ、貴女もそうって事でしょ?」

 

「……」

 

ま、良く考えればそうなのだが…私たちは休日も割と一緒に過ごす事が多いからな…人見知りの気があるアーシアは当分無いにしても、何れクレアも友人との予定を優先したりするのだろうか…?

 

「テレサ?」

 

「…ん?ああ、何だ…?」

 

「…何だじゃ無くて会話の途中で貴女が黙り込んだんでしょ?どうかしたの?」

 

「いや…何でもない…悪かったな…」

 

私は何を考えていた…?クレアがそれで良いなら…私も良い筈だ…やれやれ…やはり今日は少し疲れているのかも知れんな…ま、今更今日の予定は無しには出来んからな…

 

「…謝る程の事じゃないけど、具合でも悪かったりする…?」

 

「私たちは病気とは無縁だ…」

 

「…人間がなる病気なら、悪魔もあまりかからないけど…種族特有の病なんかはあったりするわ…貴女たちにもそう言うのあったりするんじゃない?」

 

なるほど…

 

「…あるかもな…と言っても私は把握して無い…」

 

「テレーズに聞いてみたら?」

 

「そうだな…」

 

「テレサ、そろそろ行くわよ?」

 

黒歌に呼ばれたか。

 

「ああ…じゃあな、リアス…」

 

「ええ、また…」

 

 

 

現世に戻ろうとしたらゼノヴィアが見送りにやって来た…と言うかあいつら今日は冥界に残るんだな…

 

「皆さん、また…」

 

各々挨拶しながら魔法陣に乗ってアパートの近くに戻ったらふと思い出した事があった…私は歩きながら黒歌に耳打ちする…

 

「黒歌。」

 

「ん?にゃに?」

 

「ゼノヴィアに女らしさを教えてやってくれないか?」

 

「……自分の事棚に上げて良く言えるわね…」

 

私も正直そう思う…だがな…

 

「以前、ゼノヴィアが兵藤を襲おうとした事があったそうでな…」

 

「あの…襲うってまさか…性的に…?」

 

「そうらしい…あの頃よりマシになってるだろうとは思うが…万が一って事もあるしな…頼めないか?」

 

「ん~…分かった…取り敢えず何か考えとく…」

 

「助かる…」

 

「お二人で何か内緒話ですか?」

 

「朱乃、そう怖い笑顔をするな…別に大した話じゃないさ…」

 

「あら、ごめんなさい…そんなつもりは無かったんです…それで何か深刻な話ですか?」

 

「ふむ…どちらかと言えばお前には言った方が良い話だな…ゼノヴィアの話だ…」

 

「あー…なるほど…」

 

「名前を言っただけで何か思い当たる事があったのか…?」

 

「素行が悪いと言う程ではありません…愛嬌の範囲には収まっています…彼女の事を黒歌さんに?」

 

「まぁな…」

 

「そう言う事でしたら私も「「う~ん…」」あの…お二人とも、何か…?」

 

「そうだな…お前は気の着いた辺りで軽く声をかける程度で良い…」

 

朱乃は優秀な奴だが、張り切ると割と空回りするタイプだからな…

 

「基本的に私がやるから大丈夫にゃ。」

 

黒歌もその辺は良く分かっているのではっきり断りを入れている…

 

「はぁ…分かりました。」

 

不思議がってはいる様だが、朱乃は引き下がってくれた。やれやれ…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら249

家で軽く用意をしてから遊園地へ…と言うかこの面子で行ったの初めてじゃないか…?クレアと二人でいた頃は時々来ていたのだがな…

 

「…で?何でお前らも来る?」

 

私は何故かついて来た二人に声をかけた。

 

「お邪魔か(しら)?」

 

テレーズとオフィーリアがそう答えた。

 

「…お前らも家族みたいなもんだから別に良いが、どう言う風の吹き回しだ?」

 

と言うか、オフィーリアも来たらまた書類が…ま、良いか…後日二人で片付ければ…二人がかりなら大した手間でも無い…と良いんだがなぁ…

 

「良いんじゃにゃい?少なくともクレアとアーシアは喜んでいるし。」

 

「お前らは良いのか?」

 

「私は構いませんわ。」

 

「私も良いよ☆」

 

…朱乃はともかく、セラフォルーが良いなら良いか…

 

来たは良いものの…人数がそれなりに多いので結局別れて回ることに…後で合流する事にして私はクレアと黒歌と共に乗り物に乗っていたが、黒歌に一旦クレアを任せて、私は何処かに落ち着く事にした……疲れは無いが、この類いのアトラクションは実はあまり楽しめないのが正直なところだ…クレアは少し残念そうにしていたが、承諾し、黒歌は苦笑いしていた…ま、あいつなら分かるだろうな…

 

ふぅ。昔ならクレアと二人だったからこういう事は出来無かったが、今は何も言わなくても分かってくれる家族がいるから楽で良い…ん?

 

「ちょうど良い…」

 

適当に歩いているとベンチを見つけた…座るとしよう…

 

「っ!?」

 

座ってすぐ違和感を感じた…ベンチそのものには問題は何も無い…この感じは…

 

「おい、そこのお前…」

 

私は後ろに振り向き、さっき後ろを通った人物に声をかけた。顔に見覚えは…ある気がするな…

 

「ん?私か?」

 

この声…少し低めだが女か…間違い無いな…

 

「お前…クレイモアか…?」

 

「どう言う意味だ?」

 

「惚けなくて良い…お前から妖気を感じ取れる…」

 

「ふむ…質問に質問を返す様で悪いが、お前もそうじゃないか?」

 

そこで私は舌打ちをした…そう言えばこいつがそうなら私の事もすぐ分かった筈だ…わざと声をかけさせたのか…

 

「ああ。そうだよ…私も半人半妖の身だ。」

 

「そうか、なら…私はミリアと言う。」

 

…道理で見覚えがある筈だ…

 

「嘗てのNo.6…幻影のミリア、か?」

 

「私を知っているのか?」

 

「別にお前と面識は無いよ…と、私から声をかけてなんだが…一旦立ち去った方が良いぞ?」

 

「何?どう言う「あら?お話中だった?」っ!?」

 

ミリアがちょうどやって来たオフィーリアの声に反応してしまった…不味いな…

 

「ミリア…そいつは…お前の思っている通りの奴だ…だが…動くな…もし…今ここで戦る、と言うなら私はお前を止めなくてはいけない。」

 

「…どういう事だ?奴は死んだんじゃないのか?」

 

「ちょっと…ミリアってまさか…」

 

「お前…覚醒者狩りの仕事で以前組んだ事があるだろう?No.6…幻影のミリアだ…」

 

「あー…なるほどねぇ…で?貴女はどうするの?この場で私と戦いたい?」

 

未だに妖気の漏れ続けるミリアにオフィーリアが声をかける…

 

「馬鹿、煽るな…ミリア、頼むからこの場は引いてくれ…コレは私の携帯の番号だ…それぐらい持ってるだろ?後で落ち着いたら連絡してくれ…」

 

私が差し出したメモを奪う様に掴むと、ミリアは去って行った。

 

「行ったわね…」

 

「全く…心臓に悪い…」

 

「何でここに彼女が?」

 

「知らん。向こうから接触して来たが…お前が来て殺気立ち始めたから用向きを聞けなかった…」

 

「それは…悪かったわね…」

 

「…ふぅ。良いさ、今回は仕方無い…と言うかお前一人か?テレーズはどうした?」

 

「少し離れたところにいるわ…私は飲み物を買いに来たの「あっちには自販機の一つも無かったのか?」テレーズに渡すミネラルウォーターが売り切れだったの…」

 

「なるほどな…取り敢えず、ミリアがこの場であれだけの妖気を撒き散らしたんだ…間違い無くテレーズも気付いただろう…」

 

「そうよねぇ…やっぱり説明しないとダメかしら?」

 

「当たり前だろう?そもそも向こうは私の携帯の番号を書いたメモを受け取った…また接触して来るだろう…テレーズへの説明は任せて良いか?」

 

「…貴女もしかしてここでクレアたちを待ってたの?」

 

「じゃなきゃ、私が一人でいる訳無いだろう?」

 

「…そっ。分かったわ…じゃ、後でね…」

 

「ああ。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら250

ミリアからの連絡は家に帰って少ししてから届いた。

 

「もしもし。」

 

『今、良いだろうか?』

 

「ああ、構わない。」

 

『話がしたい…今から会えないだろうか?』

 

「…それならオフィーリアも交えて話をした方が良いだろう…今度は落ち着いて話せるな?」

 

『ああ…すまなかった…』

 

「…因縁の相手なら仕方無いさ…これから言う場所に来てくれ。」

 

『分かった。何処に行けば良い?』

 

 

 

「お前たちは…!?」

 

話し合いの場をテレーズとオフィーリアの部屋に指定して部屋に入れた後、使っている魔術を解けば予想通り驚かれた…テレサとしての私がいる事も驚きの理由だろうが…何せテレーズと私は…顔はそっくりだからな…

 

「取り敢えず私たちの事について話してやろう…さて、何処から話すか…」

 

 

 

「観測世界からテレサの姿と半人半妖としての力を手に入れこの世界に来た、か…」

 

「信じられないか?」

 

「…そう言いたいが、少なくともテレサが二人いる時点で普通じゃない事が起きてるのは分かる…それで…」

 

「私の事かしら?」

 

「…何故お前は生きている…?」

 

「…生きている、と言って良いのかしらねぇ…少なくともあっちではちゃんと死んだと思うわよ?クレアに負けてね…」

 

「それで…何故ここに…?」

 

「分からない。」

 

「……ふざけているのか?」

 

「そんな事言われてもねぇ…分からないものは分からないのよ…それじゃ、聞くけど…貴女は何故ここにいるの?」

 

「……分からない、気が付いたらここに…」

 

「ほ~ら。私と大して変わらないじゃない」

 

「おい、あんまりからかうな。」

 

「別にからかって無いわよ、正論を言っただけ。 」

 

全くこいつは…!

 

「取り敢えずこいつはお前が思っているよりは丸くなっている…だがまあ…この通り性格が悪辣なのはあんま変わって無くてな…あまり気にしないで貰えるとこっちも助かる…」

 

「…納得は出来無いが、取り敢えず分かった…」

 

「で、話を続けるが…と、その前に…お前何処かの勢力に属しているか?」

 

「この世界で目を覚ましてすぐに堕天使のアザゼルを名乗る男に拾われた…他の二人と一緒にな。」

 

なるほど…だから最近何度か忙しいと愚痴の電話があいつから来るのか…ん?

 

「…アザゼルの事はよ~く知ってるが…二人?」

 

「ああ、私以外にヘレンとデネブの二人が…どうした?」

 

私は今、そうとう酷い顔をしているのだろうな…

 

「いや…お前がこの場に二人を連れて来なくて良かったと思っただけだ…」

 

「…私たちの事は本当に物語として読んだんだな…」

 

「ああ、不快に思うかも知れないが事実だから仕方無い…とにかく二人を連れて来なくて本当に良かった…」

 

「…なるほど。私はまだ納得出来無くも無いが、二人からは相当の反発が予想されるな…」

 

「…私もこれでも平和ボケし始めていてな…それは非常にめんどくさい…テレーズは今戦えんし…」

 

「さっきから思っていたんだが…テレ…テレーズのその腹は…」

 

「ああ、妊娠している…さっきも言ったがあいつの身体は純粋な半人半妖としての身体じゃなくてね…子供を宿す事が出来るのさ…ちなみに言い忘れていたがアザゼルの作った身体だ…」

 

「お前たちの事は…軽くアザゼルからは聞いていた…この世界に来たのもほんの数日前で会う場を整えるとの事だから詳しくは聞かなかったが…これ程複雑な事情だったとはな…安易に接触したのは間違いだったか…」

 

もっと複雑な事情もあるがな…

 

「あー…お前にはあまり関係の無い話だが、テレーズの子供はな「私との子よ!」チッ…テレーズ、ちゃんとそいつを抑えといてくれ…」

 

「無茶言うな、この身体だぞ?いくら今日は調子が良いとは言え、こいつが本格的に暴れ始めたら押さえ付けてなんていられるか。」

 

「ちょっと待ってくれ…どう言う事なんだ?」

 

「…言葉の通りだよ、この腹の中にいるのは…こいつと私の子だ…」

 

「そう言う事♪」

 

「……本当なのか?」

 

「詳しくは知らないが、アザゼルが何かしたらしい…少なくともオフィーリアは男体化したりはしてない…女性の身体だ…」

 

「聞きたいなら別に「「そんな生々しい話聞きたくない」」え~!?」

 

ミリアとハモってしまった…やれやれ…誰が他人の性事情を詳しく聞きたいと思うのか…

 

「アザゼルはあれでマッドなところがあるからな…ま、深くは気にしない方が良い…多少行き過ぎるところはあるが、付き合い方さえ間違わなければ良い奴だよ。」

 

「そう言う面倒な事を言わないでくれ…この後私はそいつのいるところに帰るんだぞ…」

 

「ちなみにあいつに何かされたりとかは?」

 

「…いや、今の所特には無い…寧ろ、私もヘレンもデネブも良くして貰っている…そう聞くと言う事は何かあるのか…?」

 

まぁ良いか…

 

「私とあいつは肉体関係がある。要するに半人半妖の身体に興奮出来る、と言う事だ…気にするかどうかはお前次第だ…誘われるかは別としてお前が嫌ならあいつは無理にはしないよ。」

 

「それは…そもそもどう言う経緯でそうなったんだ…?」

 

「…さて、成り行きの様なものかな…あいつとはそれなりに長い付き合いでね…」

 

「…なら、私たちは恐らく問題無いな。」

 

「ん?何がだ?」

 

「…推測になるが…アザゼルは半人半妖の身体が好きなのでは無く、お前が好きなんだろう…」

 

「お前までそう言うか…?」

 

「長い付き合いの辺りで…ほとんどの奴はそう予想すると私は思うがな。」

 

私は溜め息を吐いた…

 

「どうした?」

 

「いや…結局私が悪いのかも知れないが…好意を向けて来る相手が多くてな…」

 

「私たちの様な身体で抱くには贅沢な悩みだな。」

 

「そう思うか?」

 

「大いに思う。私たちの様な者はまともに男と恋愛など「いや、女性の方が多いんだ」…と言うと?」

 

「男性はアザゼルを含めて二人、後三人は女性なんだ…」

 

「ちなみに一時期私もその中にいたのよ♪」

 

「…テレーズ、話がややこしくなるから黙らせろ。」

 

「拒否する、面倒だからな。」

 

「……取り敢えずお前が見境が無いのは分かった。」

 

「そう言う納得の仕方は止めろ、全員私から手を出した事は無いんだ…」

 

セラフォルーの場合は微妙だが…向こうが求めて来たしな…

 

「受け身は勝手だが、その態度があまり続くようだと刺されるんじゃないか?」

 

「同感だな、寧ろこいつは一度はそうならないと分からないだろうと私は思っている…」

 

「だから…私から手を出した事は…「いや、確かに手は出して無いがどの例もお前の方が好かれる行動を積極的にしている…お前の中にいた私が断言してやる」……」

 

「言っておくが…これから先、そう言う誘いを断らない様ならまだまだ増えて行くぞ?」

 

「そう言うなよテレーズ…これ以上は増やす気は無いよ…」

 

「どうだかな…と、話が逸れたな。」

 

「…いや、聞きたい事は大体聞けた…アザゼルが後回しにしたのが良く分かったよ…相当にお前らの事情は複雑だ…」

 

「これから先、組織立って敵対する事は無いとは思うが…何せ既に和平も結んでるしな…だが、今はまだお互い大っぴらに会える間柄じゃないからな…本来ならば。」

 

「確かにな…取り敢えず今日の事はアザゼル「伝えた方が良いぞ?どうせ奴は知ってる」……監視か?」

 

「さてな、元々知れる筈の無い事を知っている事が多い奴ではあると言っておく。ま、そう警戒するな…堕天使総督は降りたとは言え…奴も立場、と言う物がある…監視を付けている可能性はあるがそれも仕方の無い事だ。」

 

サーゼクスが身内に極端に甘いだけだ…アザゼルも甘さは相当あるが、それ以上に甘い…

 

「分かった…ああは言ったが、正直今日は話せて良かった…では、これで失礼させて貰おう。」

 

「今度は回りくどい事をせず、プライベートで普通に会いに来い…実を言うと、お前に会わせたい奴ももう一人いる…」

 

私はこの世界に来てから出会った少女の顔を思い浮かべた…

 

「分かった、楽しみにしておこう。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら251

「帰ったな…」

 

「そうだな…」

 

ミリアが部屋を出て私が溜め息と共に言葉を吐いたところでテレーズも言葉を零した…

 

「お前はミリアと面識はあったんだったか?」

 

「いや…はっきり記憶にあるのは最後の戦いの時、クレアの身体を通して私が表に出た時くらいだろう…他に接点は無い筈だ…と言うか、あの時もほとんど話した記憶は無い。戦いが終わった後は私もすぐ引っ込んだしな…」

 

「そうか…」

 

「ところで聞いても良いか?」

 

「何だ?」

 

「何故奴にまた来いと言った?次は多分二人を連れて来るぞ?」

 

「……」

 

そう言われ、考える…そう言えば何故だろうな…厄介事になる可能性が高いと言うのに。

 

「…その様子だと特に何も考えてなかった様だな…理由が有ったとしても大方…クレアに会わせて反応が見たいとかそんなところか?」

 

「……」

 

「私がまだお前の中にいた時から…と言うか、この世界に来た頃からそうなんだろうが…お前は口では面倒事を嫌いだと言いつつ…自分から巻き込まれる様な言動、行動を取るよな?矛盾してるぞ?」

 

「…ふぅ…正直、何も言い返せないな。」

 

「ま、今…私とお前は同じ存在では無いし、こちらに飛び火する様な事が無ければこれ以上何も言うつもりも無いがな…それでも敢えて一言言わせてもらうなら…一応自分のスタンスはちゃんと考えた方が良いぞ?」

 

「気を付けるよ。」

 

「私からも念押しするわね、もう少し行動を改めた方が「テレーズは良いが…お前に言われたくは無いな」何でよ?」

 

「私にいきなり攻撃を仕掛けて来たのは何処の誰だったかな?結局謝罪すらされてないぞ?最も今更謝られてどうなる話でも無いんだがな…」

 

「…昔の話を何時までもグチグチと…器が小さいわよ?」

 

「うるさい、これが私なんだ…さて、私はそろそろ帰るからな…と言っても隣だが。」

 

「良いからさっさと行け、割と長々と話していたからな…あいつらがキレても知らんぞ?」

 

「分かってるさ。じゃあな、テレーズ、オフィーリア。」

 

「ああ。」

 

「ええ、またね。」

 

 

 

「…で、大丈夫だったにゃ?」

 

「オフィーリアの十倍はまともだよ…あいつの連れ以外は。」

 

「相当立派な人なのね…」

 

「個人主義者が多いクレイモアの中で、数少ない指揮官適正持ちだからな…」

 

北の戦乱…仮にあの時、私がミリアの立場だったらどうなってたか…正直薬を使って死を偽装させる事すらままならず全滅させていたかも知れん…実際あいつより上手くやれる奴など、そうはいないだろう…

 

「そんなにすごいの…?」

 

「あいつの戦士時代のナンバーは6だが、集団戦ならNo.1以上と言われていたからな…」

 

「テレーズとどっちが…あ、比べる基準が違うかしら…」

 

「あくまで指揮官として、そして乱戦や多人数戦なら最強と言う話だ…それに戦士時代のテレーズは歴代のNo.1とは一線を画している…タメを張れる程では無いだろう…」

 

「何でかしらね、あんたがしっかりお墨付きを出してるのに問題が起きそうな気がする…」

 

「奇遇だな、私もだよ…大体、一緒にこの世界に来た二人はオフィーリア程じゃないが割と問題児だ…確実にこのままでは終わらん…」

 

「そんなに面倒な奴にゃの…?」

 

「……オフィーリアよりは遥かにマシだし、ミリアがいるならあまり暴走はしないだろう……多分。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら252

「テレサの友だちの人、もう帰っちゃったの?」

 

リビングにいたクレアに聞かれ、横にいた黒歌の方を見れば相変わらずアイコンタクトで答えが返って来た。

 

『あんた、そもそも自分が本当はどう言う存在なのかクレアにはちゃんと説明してないでしょう?そう言うしか無かったの…』

 

そう…私は未だに自分が半人半妖で、同じ種族たちがいる世界から来たと言う嘘(全部がそうでは無いが)は伝えても自分がそいつらとはまた別のところから来たと言う真実をクレアに伝えていない…アーシアにはもう言ってあるが。

 

「…友だち?」

 

そして何時帰って来たのか、リビングのソファで寝転がって…と言うか、ソファに座るクレアの太ももの上に頭を乗っけていた小猫がノロノロと身体を起こしながらそう呟く…そう言えばこいつにもまだ言ってなかったな…さて、どう答えるべきか…大体、別にミリアは友人じゃないんだが…そもそもあいつの事を下手に広げていいものか…こいつらが言い触らす事は無いだろうが、サーゼクスに伝わるのは不味い…

 

ミリアの言った通りなら、アザゼルは恐らく正式な場を設けて三人を紹介するつもりだろう…どうするか…

 

『何を悩んでるのか、想像はつくわよ?少なくとも二人は念を押せば誰にも言わないと思う…と言うか、まだ言わないつもりなの?白音はともかく、クレアとは私より長いでしょ?』

 

『まだ…早い気がするんだ…』

 

『早いも遅いも無いわよ…結局あんたが言うか言わないだけ…二人はそれで今更あんたに対して何かが変わる訳でも無いでしょうに…』

 

私はそこで黒歌を見るのを止めた。

 

「…ああ、ま、今度来た時に紹介するよ…あいつら、今はアザゼルのところにいてな…」

 

「え?アザゼルおじさんのところに?」

 

「そうだ…サーゼクスも同席した場で会ってからでないと会わせるのは難しいんだ…悪かったな…」

 

「ううん…分かった…また来てくれるんだよね?」

 

「ああ…」

 

多分、な…

 

「あの…それはどう言う…?」

 

…クレアはこの説明で黙るが、小猫は当然聞いてくるよな…仕方無い、か…

 

「小猫…ちょっとこっちに来てくれ…」

 

結局私の正体を教える以外に無い…まさか、今更になって教える事になるとはな…

 

 

 

「…それが貴女の正体ですか…?」

 

「ああ…」

 

小猫に全て伝えた…私が今の様になる前、男だった事以外は…と言うかコレに関して知ってるのはテレーズだけの筈だがな…

 

「姉様は…知ってたんですか?」

 

「ごめん…言うタイミングが無かったにゃ… 」

 

嘘だ。言うタイミングなら今まで何度もあった…と言うか、この様子だとはなから怪しんでいただろう…そもそもテレーズが私の中にいた別人格などと言う説明は会合の場でされたが…誰が聞いても怪しい…私たちの事を知れば知る程、そんな程度の関係では無いと気付く筈だ…

 

何にしても…さっき黒歌が言った通り全ては私が言うか言わないかそれに尽きる訳だ…私は庇ってくれた黒歌に内心謝罪しつつ、小猫の言葉を待った…

 

「じゃあテレーズさんは…」

 

「本来のテレサだ…恐らくはな。」

 

最も、本来はそれこそ居る筈の無い存在だが…

 

「…そう、ですか…分かりました。」

 

そう言って小猫が口を閉じる…ん?

 

「小猫…怒ってないのか…?」

 

「何を、ですか…?」

 

「それは…」

 

「…黙っていた事に関して思うところが無い訳じゃないです…それどころか、この家で知らないのが私とクレアちゃんだけだったと言う事も…でも…怒れません…私がテレサさんの立場だったら…多分、言えませんから…」

 

「そうか「だけど…許せない事なら一つあります」…何だ?」

 

「どうしてクレアちゃんに言ってあげないんですか?姉様より、ずっと前から一緒にいるんですよね?」

 

「ああ。付き合いは…本当に長いよ…」

 

「言わないんですか?」

 

「まだ…言うつもりは無い…」

 

「じゃあ、何時ですか?」

 

「何れは…言う…」

 

「……分かりました、じゃあ私からは今回の件についてはもう何も言わないです…それでその、今日来た友人の事ですけど…」

 

「お前の考えてる通りだ…友人じゃない…ただ、あいつがクレイモアであると言う事だ…」

 

「クレアちゃんが会って…大丈夫な人ですか…?」

 

「ああ、大丈夫だ。保証する…それとも私の言葉はもう信用出来無いか…?」

 

「…いえ、信じます…信じられないならいくら姉様がいるからって初めから同じ家に住んだりなんてしません…信じます。」

 

「そうか…それで今回の事は「言いません。クレアちゃんはもちろん…部長にも」…ありがとう。」

 

リアスに言えば…サーゼクスには言ってしまうだろうな…

 

「それじゃ私は戻ります…」

 

「ああ、先に部屋に入っててくれ。」

 

万一にもクレアに聞かれない為に、外で話していたんだが…私と違い、部屋着では小猫は少し寒そうだな…本当に悪い事をした…しかも私が黒歌と話そうとしてるのまで察するとはな…

 

私はドアを開けて部屋に入って行く小猫を見送った…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら253

「結局、白音には言うのにクレアに言わないのね…」

 

「そうジト目を向けるなよ…さっきも言った通り何れは言うさ…」

 

小猫が部屋に入ってすぐに黒歌からそう詰られた…

 

「そう言えば朱乃ちゃんとセラフォルーにはあっさり言ったわね…」

 

「セラフォルーはアレで口の固い方だし、サーゼクスが知ってる以上、何処かで知っても可笑しく無いからな…最も、あいつも悪戯に口に出す事は無いだろうがな…」

 

「朱乃ちゃんは?」

 

「……お前やセラフォルーが知ってて、自分が知らないってなると後で知られた時が絶対にめんどくさい…」

 

「あー…」

 

その言葉と共に黒歌がこめかみを押さえた。

 

「あいつ、学園が休みだと割と家にいるよな?私がいない時は家でどうしてる?」

 

「…基本的には良い子よ…基本的には、ね…」

 

黒歌の疲れた顔がそれ以上聞かないでくれと、口にしなくても雄弁に語っていた。

 

「ま、言いたくないなら良い…」

 

「そうして。」

 

そう言って口を閉じ、黒歌が私を見詰めて来る…何だ…?

 

「どうした?お前も寒いだろ?戻ったらどうだ?」

 

「あんたは戻らないの?」

 

「ああ。もう少しいる…飯もまだ出来無いだろうしな。」

 

「…偉そうに言ってないでたまにはあんたもやったら…?」

 

ふむ…

 

「感謝してないわけじゃないさ…そうだな、明日の担当はお前だったか?」

 

「え?そうだけど…」

 

「明日の朝と夜は代わってやろう。」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いや、別に私は有難いから良いけど…本当に良いの?」

 

「自分から言ったのに撤回はしないさ、最も人数も多いし、私では簡単な物しか作れないからあまり期待されても困るが。」

 

「…そんな事気にしなくて良いわよ。」

 

「ん?」

 

「あんたが作ってくれるってだけで皆喜ぶわよ。」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、もちろん私もね。」

 

「そうか…取り敢えずそろそろ部屋に入れよ。」

 

「…ふぅ、分かったわよ…あんたも早く戻って来るのよ?」

 

「ああ。」

 

 

 

「ふぅ。」

 

何となくその場に座り込み、息を吐く…

 

「疲れた…」

 

正直今日のアレは心臓に悪過ぎた…まさかまた今になってクレイモアに会うとはな…しかも、よりによってオフィーリアと因縁ある相手が…いや、良い方に考えるか…あの性格だ…オフィーリアと因縁ある相手なら腐る程居そうだし、たまたま原作知識で知っていた相手だから対処も出来た…ましてやミリアは性格そのものはかなり真っ当だ…仮にオフィーリアより危険な相手だったら…

 

「仮定に意味は無いか…」

 

と言うかこれ以上考えたくない…ミリア以外の二人は性格的に厄介だし、下手すると増えそうだ…それは非常に困る…ま、この程度で済んで良かったと思うべきなんだろうな…ふぅ。さて、戻るか。

 

「よいしょ…ん?…フッ、私もすっかり緩くなってしまったな。」

 

私は立ち上がると部屋のドアを開けて中に入った。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら254

中に入りドアを閉めたところで、うっかりポケットから出すのを忘れていた携帯が鳴ったので取り出してみた。

 

「……アザゼル?」

 

出ようとして、思い留まった…ふむ。

 

「……」

 

私はドアを開けると再び外に出た。

 

 

 

「さて…」

 

しばらく待ってみたが電話は鳴り続けている…これは…やはり出なきゃならんか…

 

「…ねぇ?あんた何してるの?」

 

「!?…何だ、お前か…」

 

私の正面から声が響き、携帯を見詰めていた顔を上げると、黒歌が立っていた…何で最近のお前は一々気配を消して私に近付くんだ…嫌がらせ…いや…無意識なのか?

 

「……アザゼルから?」

 

「ああ「何で出ないの?と言うか…何で外に出たの?」…落ち着けよ。ミリアの事があるだろ?今日の事情を伝えていないクレアとアーシアに聞かれるのは不味い内容かと思っただけさ…」

 

……紛れも無く今の私は浮気を糾弾されている立場だな…と言うかお前はもう私がアザゼルと肉体関係がある事は知ってるだろうに。

 

「……出ないの?」

 

……部屋に戻ってろ、と言ってもどうせ聞かないんだろうな…ま、こいつには聞かれても良いか。私は携帯のボタンを押した。

 

「もしもし…」

 

『もしもし…テレサか?』

 

「…これは私の携帯だが?何だ?間違い電話か?」

 

『…いや…俺が今用があんのはお前だよ。』

 

冗談に乗って来ない、と。ふむ…なるほど。

 

「…それで?何か用なのか?」

 

『今日お前…誰かに会わなかったか?』

 

……妙な聞き方をするものだ。

 

「誰かとは?今日、私は休日で余暇を家族と人の多いところで過ごしたからな…誰とも知れない奴とそれなりの回数すれ違っているが?」

 

『……』

 

思った通りの答えが得られなかったからって黙り込むな…どんだけ余裕が無いんだ…

 

「はぁ…悪かったよ。ミリアだろ?会ったよ。」

 

『……お前ら以外に会った奴は?』

 

「顔を合わせたのは私とオフィーリアとテレーズだけだよ…黒歌たちには事情は伝えているがな…」

 

『セラフォルーにもか?』

 

「悪いが言ってある。どうせ後で悪魔側に正式に紹介するつもりだったんだろ?事情を知ってる奴がこっちにいた方がお前も楽だろう?」

 

『…ま、そうだがよ…』

 

「お前がそんなに責任を感じる必要は無いさ。ミリアはそもそも他人を使わず一人で組織相手にスパイ紛いの事をやってた様な女だ…お前が行動を縛れなくても仕方無い。」

 

『もっと早くに知りたかったぜ…』

 

「…それならせめて私には言っておくべきだったな。ま、今日の事は貸しにしといてやるさ。」

 

『おい、さっき責任がどうとかって…』

 

「悪いが私個人のスタンスとしては違ってね…ミリアはああやって行動力が有り過ぎる以外はお前が匿ってる他の女よりは遥かにまともな性格でね…もう私にもお前にも迷惑はかけないだろうさ。」

 

『なら、何で「ミリアは向こうでオフィーリアと揉めた事があってな…最も非はオフィーリアにあるが」…察したよ、何か悪かったな…』

 

「今言ったろう?貸しにしといてやる、と。」

 

『…あんまり面倒な事は頼まねぇでくれよ?』

 

「その言葉…覚えてはおくさ。まだ何を頼むかも考えて無いしな…で?話はそれだけか?」

 

『おう。今回はこれだけだ…全く最近忙しくてたまんねぇぜ…早くお前に癒して貰いてぇよ。』

 

「…暇が出来たら連絡しろ。愚痴くらいは付き合うさ『俺はお前の包容力に期待してんだぜ?』…気が向いたら相手してやるよ。」

 

『そう言って何だかんだ俺の頼み、何時も聞いてくれるよな?』

 

「…そろそろ切るぞ?」

 

『ん?おい、ちょっと待…』

 

私はボタンを押し、電話を切った。

 

「…これで良いのか?」

 

「…ま、良いわ…いい加減部屋に戻りましょう。」

 

「ああ、そうだな。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら255

遊園地そのものは楽しめなくても家族と共に出かけるのは…その…ま、何だかんだ楽しいものだ……昔の私ならこんな事を思い浮かべる事すら無いどころか、時空を超えて全力で私を殺しに来そうだな…やれやれ…

 

最も本当にそんな事が起きようものなら全力で嘲笑ってやるがな…どう強がったところで本当は寂しいに決まってるんだからな。

 

さて、問題はこの後か…ミリアと会ったのも割と面倒事だったが、奴が性格はまともなおかげで何とかはなった…だが、連れ二人は面倒通り越して厄介だ…ミリアが会った事を知れば大人しくしているとは思えん…何を仕掛けて来るか。

 

「テレサ!朝だよ!起きてる!?」

 

「ああ。」

 

……今考えても仕方無いか。今日は出勤しないとな…昨日はオフィーリアが一緒に来てしまったから書類が…やれやれ…面倒になって来たな…全く…

 

もちろん仮病など使えないから、私は起き上がり部屋を出た。

 

 

 

学園までの道を緩慢に足を動かして進む…相変わらず、睡眠が上手く取れないのか欠伸が口をつく…軽く額を小突き、眠気を覚ます…こんな状態で歩いていたら何か起きても対応出来…!?

 

「…んなっ!?」

 

横から突き出されたナイフを持った手を首を後ろに逸らして躱し、その腕を叩き落とすと、相手がいるだろう私の横に肘を突き込む。

 

「おお…!?スッゲェ…はっや…」

 

その肘はそいつの突き出した掌に止められていた。

 

「…世辞はいらん。…ヘレンだな?」

 

「…正解。何で分かった?」

 

「ミリアから聞いてないのか?…私は…お前たちの事を良く知っているよ…そして…」

 

私の後頭部に向かって来ていた拳をヘレンを攻撃したのとは逆の手を肩越しに伸ばし、掌で受け止み、掴む…

 

「ヘレンがしくじっても、お前が来る…それも、分かっている…デネブ。」

 

「強いな、本当にあのテレサを相手にしてるかの様だ…」

 

「…私は弱いよ?…それに私はただのイミテーションだ。」

 

二人と言葉を交わしつつ、私は二人の姿を観察する…ミリアは現代の衣服を着て、銀髪はそのままに、カラーコンタクトをしていたが…こいつらはコートを羽織って、フードをしっかりと被っている…まさかとは思うが…

 

「そのコートの下…戦士の鎧をそのまま纏ってるとか言わないよな?」

 

「あ~?だってよ、仕方ねぇじゃん?アザゼルがまだあたしらの服を用意してくんなかったんだからさぁ…」

 

「……それで?何か私に用か?」

 

「…お前の実力を知りたい…と、言ったら?」

 

「…この世界で剣を使った戦いがしたいなら…基本的に然るべき場を設けて貰わなければ無理だ…ふぅ…とは言え…そう言われてもお前らどうせ帰る気は無いんだろう?話なら付き合ってやる… ちょっと待ってろ。」

 

私は二人から離れると携帯を取り出した。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら256

今更ながらに今日眠いのはそもそも家族の食事を作る為に早く起きたからじゃないのかと思いながら意外にも大人しく私を挟む様にして、ソファの両端に座るヘレンとデネブの二人を横目で見ながら考える…

 

と言うか案外手間はかかったな…良く考えたら、外で食べざるを得ないセラフォルーと自分の勤めてる店で食べる黒歌に小学校で給食の出るクレア以外は基本的に昼食を作る必要が出てしまう…具体的にメンバーを言えば、朱乃、アーシア、小猫の三人…好き嫌いはあまり無く…そこまで量の食わないメンツだ(少なくとも朱乃と小猫は平均…クレアとアーシアが少な過ぎる…)

 

…だがやるとなればつい、凝ってはしまうわけだがやはり大変なのは大変だ……正直こう言うのはこれからもたまにやるだけにしておこう…

 

「なぁ、まだなのか?」

 

「知らん。文句はサーゼクスに言え…と言ってもあいつも割と忙しいからな…大人しく座って待ってろ。」

 

そう結局サーゼクスにはミリアたちの事をバラした。と言うかただでさえ眠い朝から二人にいきなり襲われた時点でもう知るか、と言う思いに駆られたのが正直なところだ…

 

「あんた私を子供扱いしてないか?」

 

「気の所為だ…」

 

「……」

 

逆方向にいるデネブが…胸のところで腕を組んで、目を閉じたまま黙りこくってるデネブが…とにかく不気味で不気味で仕方が無い…

 

今別室でサーゼクスと話してるミリアとアザゼルが本当に羨ましいな…立場的にこっちの方が面倒だ…

 

 

 

それから更に十分くらいして(体感的には倍は長い…主に横でうるさいヘレンと、黙ったままプレッシャーかけ続けるデネブのせいで)

 

「待たせて悪かったね…」

 

「いや、良い…アザゼルとミリアから事情は聞いたな?」

 

「ま、聞きはしたけどね…」

 

「ふぅ。サーゼクスには先に言うべきだったな?アザゼル?」

 

「……おう。」

 

「すまない…私が会いに来てしまったから…」

 

「ミリア、敵味方の判断がしにくい今のお前の状況じゃ仕方無いだろうさ…」

 

「いや!姐さんが悪いわけじゃ「ヘレン、この状況では私たちが無闇に発言する方がミリアの立場を悪くしてしまう」でもさ!」

 

「はぁ…落ち着けよ、別に私もサーゼクスも…そこで空気読んで黙ってるグレイフィアとアザゼルも別にミリアの事は責めてないさ…もちろん私もな…最も、お前らがいきなり襲って来た事については思うところもあるが。」

 

「…私たちは何をすれば良い?」

 

「デネブ、今責めてないと言ったろう?反省する気があるなら今更グダグダ気にするな…悪い様にはしないさ…そうだな、お前らもこの町…駒王町で暮らしてみないか?」

 

「そんな事…出来るのか?」

 

「可能さ…少なくとも私は出来ている…アザゼル、もう住む場所の目処は立ててるんだろう?」

 

「まぁな…その事を何れサーゼクスに相談しようと思ってたんだけどよ…」

 

「予定が早まっただけだろう?今からすれば良いじゃないか…さて、話が纏まったところで私は行くぞ?仕事があるからな…サーゼクス、悪いが後は任せていいか?」

 

「ああ、構わないよ……この三人は信用して良いんだろう?」

 

「オフィーリアの十倍は信用出来るさ。」

 

「なら、大丈夫だね…」

 

「そういう事だ、じゃあな。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら257

「あら?遅かったわね?」

 

私が用務員室のドアを開けると珍しく私より先に来ていたオフィーリアがそう声をかけて来た。

 

「…確かに何時もより遅いがお前に言われると反論したくなるな。」

 

「何よ、どう言う意味かしら?」

「普段遅刻してる奴が何を言う…どうせ今日だってギリギリだったんだろう?」

 

「もう…悪かったわよ…で?何かあったの?」

 

……すぐに謝る辺りこいつも変わっては来てるな…さて…

 

「何かとは?」

 

「…どうせあんたの家族があんたを寝坊なんてさせないでしょ?だから何かあったんじゃないかと思ったのよ。」

 

「寝坊前提で話を「じゃ、仮に誰もあんたを起こさなくても起きて来るのかしら?」……」

 

反論しようとして、こいつには私が割と朝に弱い事がバレていた為…口を噤んだ…いや、基本的には起きてるんだが、たまに起きれず起こされる事も無くも無い。

 

「ま、それは良いわ。で、結局何があった訳?」

 

私は部屋に入り、床の上に座った。

 

「…昨日ミリアの話に出て来た二人の事を覚えてるのか?」

 

「…ああ、確かヘレンとデネブだっけ?」

 

はしゃいでた割にちゃんと話は聞いていた様で助かるよ。

 

「今朝、あの二人に襲われた。」

 

「…えと、襲われたって言うのは?」

 

「そのままさ。ヘレンがナイフを持ち、デネブは多分…素手でな。」

 

「朝っぱらから随分飛ばしてくるわね、そいつら…」

 

「…夜なら良いって訳じゃないぞ。」

 

「あら?誰の事かしら?」

 

「……」

 

お前に決まってるだろ。

 

「ミリアから半端に私の事を聞いたせいで、余計に興味を持たれた様でな…ま、向こうも本気じゃなかった様だし…さっさと終わらせてサーゼクスに連絡してやったよ。」

 

「……黙ってる筈じゃなかったの?」

 

「ミリアもそうだが、この世界のルールも自分たちの立場もろくに考えずにこうも好き勝手に動くなら何時他の勢力の奴と揉めても可笑しくないからな…もう黙っておく方が悪手だ…あの二人も具体的に事情を話したらさすがに顔色が悪くはなっていたな。」

 

「…なるほど、 そこまでの覚悟は無かった訳ね。」

 

「誰しもお前の様に狂ってないって事さ。」

 

「失礼ね、私はそこまでイカれて無いわよ。」

 

「……」

 

現役の魔王の正体を知った上で斬りかかった奴が何を言う…全く、こいつはまだ何かやらかしそうな気がするな…

 

「話はもう良いか?とにかく今の話は帰ったらテレーズにも伝えておいてくれ。」

 

「了解…ってちょっと待ちなさいよ。結局その二人、処遇はどうなったの?」

 

「ん?お咎め無しさ、幸い、奴らが斬りかかったのも事情を知ってる私だったしな…」

 

「甘いわね…」

 

…ふむ、ちょっと聞いてみるか…

 

「参考までに聞くが、仮に襲われたのがお前だったらどうしてた?」

 

「聞くまでも無いでしょ。殺すわよ、確実にね。」

 

……本当に、襲われたのが私で良かったよ。



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら258

溜まっていた書類を片付けているうちに昼になったので弁当を出そうとして気付く…しまった、自分の分を用意していなかった…ふぅ、仕方無いか…

 

「あれ?テレサさん?どうしたんですか?」

 

立ち上がったところでそう声をかけられた。今でこそオカルト研究部の連中は来ないが、何が楽しいのか他の生徒がわざわざローテーション組んでこの部屋にやって来るんだよな…オフィーリアも何だかんだ面倒見は良いからキツく注意もせんし…

 

「弁当を忘れてな、何処かで食べて来る。」

 

そう言うと部屋にいた三人の生徒が顔を見合わせる…何だ?

 

「私たちのお弁当分けましょうか?」

 

「いや、良い…お前ら昼の量減らすと辛いだろ?私の事は気にするな、じゃあな。」

 

「あ…」

 

部屋を出る直前、女子生徒たちの少し落ち込んだ顔とオフィーリアのしかめっ面が目に入った…やれやれ…

 

 

 

学園を出て近くのファミレスに入…った瞬間、回れ右して帰りたくなったが、向こうにはどうせバレるし、私は嫌々ながらも足を動かす…若い女性の店員が声をかけて来る…どうも昼時と言う事もあり、少々人数が多いと…そこまで聞いたところで私は口を挟んだ。

 

「いや…知り合いがいるから相席させて貰うよ。」

 

店の奥にはなるがここから見える位置なので私が座ったら水を持って来て欲しいとだけ告げてそのテーブルまで向かう…

 

「…今朝ぶりだな?」

 

「…テレサか。」

 

私は席に座ってパスタを食べていたミリアに声をかけた。

 

「食事の邪魔をして申し訳無いが、店が混んでるそうだ…相席させて貰っても構わないか?」

 

「ああ。」

 

私はミリアの向かいに座ろうとしたところで気付く…水の入ったコップが二つ…?

 

「連れがいるのか?」

 

「…ああ。アザゼルがな。」

 

「なるほどな。」

 

ミリアの向かいにはコップが置かれている…私は横にズレて座る事にした。

 

 

 

「ミリア、戻ったぜ…ん?」

 

「よう。トイレか?少し長かったんじゃないか?」

 

「まぁな、ところでどうした?お前平日のこの時間は何時も弁当だと言ってなかったか?」

 

「…今日は家族の分を私が作ったんだが、うっかり自分の分を用意するのを忘れてしまってね…」

 

「そりゃドジな話だな…で、ここに食いに来たと。」

 

「そういう事だ。にしてもお前ら二人だけか?ヘレンとデネブはどうした?」

 

「あの二人なら自主謹慎だ。つっても一応誘ったんだけどな…」

 

「あれであの二人は根は善良だ、少なくともミリアとお前に迷惑をかけたと感じたんだろうさ。」

 

「…私たちの事を客観的に知ってるお前がそう言うと、何と言うか…説得力があるな。」

 

「おっと。あの二人には私がそう言ってたと言わないでくれよ?」

 

「分かっているよ。」

 

「…ふぅ。そろそろ引き上げようぜ、ミリア。」

 

「ああ。」

 

ミリアとアザゼルが席を立つ。

 

「じゃあな……今度は時間のある時にゆっくり会おうぜ。」

 

「時間があったらな。」

 

そう言ってアザゼルが背を向けて歩いて行く。

 

「…忠告するが「ん?」程々にしておいた方が良いぞ。」

 

アザゼルとの関係の話か。

 

「分かっているさ。」

 

「なら良い。それじゃあまた…」

 

「ああ、じゃあな。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら259

せっかく相席したのに私の料理が来る前に二人が帰ったが特別話したい事があった訳でも無いし、元々一人の方が気楽だ…多少腑に落ちない気分にはなるがな…そんな事を考えていたら料理が来た。

 

…そろそろ昼休みも終わる時間だし、誰かが相席しに来る前にとっとと食べてしまおう。私は運ばれて来たドリアにスプーンを差し込んだ。

 

 

 

 

食い終わり、コップの水を飲み干してそのまま席を立ち、レジへ向かう…で、何で釣りを貰った後適当に礼を言って、軽く愛想笑いしただけでこの店員の女は顔を逸らすのかね…単に態度が悪いならそれはそれで別に良いのだが…耳が赤くなっているのが私からははっきりと見える…どうやらさっさと立ち去ったほうが良さそうだな…やれやれ…当分弁当は忘れな…いや、しばらくは自分で作る気も無いから問題は無いか。

 

 

 

学園が見えて来たところで近くの電柱の影に隠れる…おいおい…頼むから見間違いであって欲しいんだが…電柱から顔を出す……見間違いじゃ、無かったか…私は来た道を戻り、角を曲がったところで立ち止まり、携帯を取り出した。

 

「もしもし…アザゼルか?…そっちにヘレンとデネブはいるか?」

 

『…それがよ、ミリアと店から帰ったらいねぇんだ…こうして電話して来たって事はどっかで見たのか?』

 

「いや、学園の前にいるんだ…」

 

『マジかよ…』

 

「あいつら相変わらずコート着込んでるしな…正直かなり怪しい…」

 

『今からそっちに行く…』

 

「そうしてくれ、と言うかお前ここの教師だろ?」

 

『…ミリアを送ってから戻るつもりだったんだよ…あの二人の例もあるし、正直不安だったからな。』

 

「まぁ良い、急いでくれるか?間違い無くあいつら私に絡んで来るからな…と言うか、話したのか?私が学園で働いているのを?」

 

『誤解の無い様に言っておくがよ、言ったのはサーゼクスだぜ?』

 

「……今夜にでも呼び出して半殺しにするか。」

 

『おー怖…サーゼクスに同情するぜ…』

 

「被害者は私だぞ?」

 

『やり過ぎだろ、どう考えても。大体、この場合責められなきゃなんねぇのはあの二人の方だろ?ちゃんと自分たちが今どういう立場なのか説明したしよ。』

 

「…一理あるな。そうだな…そんなに相手してやりたいなら受けてやるか。」

 

『町中でやる気か?』

 

「サーゼクスにセッティングして貰うさ。あいつも原因だしな」

 

『勝てるのか?』

 

「正直に言えば分からないな…」

 

『何だ、そんなに強えぇのか?』

 

「未知数だな…ただ、そもそも決して弱くは無いよ、あの二人は。」

 

『へぇ…そいつは見物だな。』

 

「主催は悪魔側だ。お前堕天使だろ?見物料取るぞ?」

 

『硬ぇ事言うなよ。ま、どうしても払えって言うなら払うけどよ。実際それだけの価値はあるだろうしな。』

 

「お前が実際に見て面白いかは分からんがな。」

 

『ま、とにかくもうすぐ着くからよ。』

 

「ああ、待っている。」



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら260

『それで、本当にやるのかな?』

 

『じゃなきゃ、あいつらは納得しないさ…向こうで戦う必要が無くなったとは言え…あいつらは戦士だったんだ。剣すら大っぴらに持ち歩けず、平和ボケ…した様に見える世界に否応無しに送り込まれ、挙句監視されているかの様な生活…鬱憤も溜まるだろう…私も少しは気持ちは分かるからな…』

 

『勝てるのかい?』

 

『……お前には言っておこうか。はっきり言おう、自信は無い。』

 

『それ程の実力者であると?』

 

『人柄は比較的まともだ、警戒の必要はあまり無い…だが、単純な話…そもそも私との相性が非常に悪い。』

 

『と言うと?』

 

『ヘレンは攻撃型の戦士だ。半覚醒の影響で、手足が自在に伸びる…そして本来なら伸ばした毎に強度が弱まる筈だがそれもほぼ無い…並の覚醒者なら縛り上げて完全に動きを封じる事すら可能だ…デネブは防御型。同じく半覚醒しており、再生が極端に早い…時間さえかければ覚醒しかねない致命傷すら治る程にな…そして何より…』

 

『何より?』

 

『…二人とも激高しやすい割に戦い方は上手い。元々コンビを組む事も多く、公私共に仲の良い二人のコンビネーションは非常に厄介だ…何時もの様に挑発などしようものなら逆に私は不利になる。』

 

『一人ずつ戦うと言うのは…』

 

『無理だろ、正直奴らの内どちらとやっても、仮に私が無傷で勝ったとした所でもう一方と戦う元気は無い…日を改めた所で最悪…今回の繰り返しになりかねん…二人一遍にやるしか無い…オフィーリアが来てくれたらこんなに悩まないで済むんだがな…』

 

今回の一件をオフィーリアに伝え、一緒に戦わないかと聞いた所…

 

『面倒だからパス。』

 

…と言う返事が返って来た。丸くなったと言えば聞こえば良いが、こんな時に協力してくれんとはな…

 

『ふふふ…』

 

オフィーリアのことを考えていたらサーゼクスが吹き出した…

 

『…何を笑っている?笑い事じゃないんだぞ?私はどうやってあの二人とやり合って勝つか考えるので『気が付いて無いのかい?』…何をだ?』

 

『嫌なら断れない事も無いし、何も本気でやる必要など無い筈だ…でも君は本気で彼女たちと戦い、何より勝つ気でいる…それどころか…』

 

『何だ?』

 

『君は今、とても良い顔をしているよ。本当は楽しみなんだろう?彼女たちと本気でぶつかるのが。』

 

『…チッ…まぁ良い。場所は用意してくれるんだろう?』

 

『元々私にも落ち度はある様だし、その程度ならお安い御用さ…存分にやってくれて構わない。後の事は全て私に任せてくれ。』

 

『…頼もしいな。何時もそうだと楽なんだが『何時もはそうでは無いと?』…自分の普段の行いを鑑みて見るんだな。』

 

それだけ告げてサーゼクスに背を向け…おっと、忘れる所だった。

 

『サーゼクス?』

 

『ん?何かな?』

 

『外部の者は呼べるか?』

 

『…構わないが相手による…アザゼル以外に誰か?』

 

『ああ…』

 

 

 

「さて、こうして場をセッティングした訳だが…感想は?」

 

「狭いな…」

 

「同感。やりにくいったら無いぜ。」

 

「…仕方無いさ。この世界で勝手に道端で私闘など出来無いからな、ま、ここはこの通り余計な障害物は無く逃げる場所は無い。ここなら思いっきりぶつかれる。」

 

「…戦いが見世物か、ここでは。」

 

「そういう事だ…生憎やれるだけマシだと思って欲しい。こういう闘技場でさえコネが無ければ使えないんだからな…さて、そろそろ始めるか?審判はいないからな、このコインが地面に落ちた瞬間から始めよう…行くぞ?」

 

手に持っていたコインを親指で弾く…そこで目を閉じる…集中しろ、相手の妖気を感じ取れ…先ずは先手を取らないとこの二人を獲るのは難しい…そしてコインが地面に落ちた音がはっきりと私の耳に届いた…



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら261

『よう。』

 

『ああ…おい何の真似だ?』

 

『イデッ!ちょ、鼻に掌底…!』

 

『治るんだから一々騒ぐな。』

 

『何だよ、キスくらい『調子に乗るな、今日は雑念入れたくないんだ、察しろ 』…嫉妬するぜ、俺相手にももう少し本気になって欲しいってもんだ。』

 

相変わらず似非ホストな格好でニヤけるライザーの足を踏み付ける。

 

『イダッ!?…何だよ、そっちから呼び出した癖に随分邪険に扱うじゃないか。』

 

『空気ぐらいは読めるだろ?何の為に呼び出したのかは分からなくてもだ、もう少し真面目に出来無いか?』

 

『…こんな場所に呼び出すんだ、逢い引きじゃねぇ事くらい分かるさ。ちょっとしたジョークだよ。』

 

『全く…』

 

『で?誰とやるんだ?』

 

『そこの二人だ…』

 

『ん?…なぁ、あいつら『分かるだろ?私の同類だよ』…へぇ…じゃああんたは…』

 

『光栄に思え。お前に今の私の限界を見せてやるよ。』

 

『…限界?本気じゃなくてか?』

 

『私の「本気」がどう言う意味かは知ってる筈だろ?』

 

『…なるほどな、ま、俺もあんたとここでサヨナラなんてごめんだしな…ところで…』

 

『何だ?』

 

『…やっぱり嫉妬するぜ…あんた今本当に楽しそうだもんな…』

 

『そう見えるか?』

 

『取り繕ったって無駄だぜ?俺に限らずあんたと付き合いの長ぇ奴なら誰だって分かるだろうさ。』

 

『……お前にまでバレてると思うと非常に癪に障るな。』

 

『そんなにか!?さすがに傷付くんだが…』

 

『ふん、どうせ心の傷だって傷は傷だろ?治せば良いだろう?』

 

『いや治んねぇよ!あんた俺を何だと思ってんだよ!?』

 

『ゾンビ。』

 

『マジか!?』

 

『お前の身体の修復のされ方…とにかくグロいんだよ。』

 

『あんたが毎回容赦ねぇから修復が中途半端なんだろ!?普通は一瞬で治るんだぞ!?』

 

『騒ぐな…顎と舌を斬り落とすぞ?』

 

『怖ぇよ!?』

 

『全く大の男が騒いで…みっともないな。』

 

『…はぁ…もう何も言わねぇ。あんた今楽しそうである以上に殺気立ってるからな、何言っても怖い返事が返って来そうだぜ…』

 

『ふん、それはそうとお前の眷属はどうした?』

 

『今日は俺しかいねぇよ…あいつらあんたからの呼び出しだって言ったら満場一致で一人で行けって言い出してな…』

 

『……』

 

名前こそきちんと把握してないが、こいつの眷属と話す機会は多い…生じ性格を把握してる分…嫉妬してるのか、私との仲を後押しするつもりなのか分からないな…どっちのパターンでも私には面倒だが…

 

『まぁ良い、そろそろ行くからな?』

 

『おう。客席で目一杯応援『デカい声で騒ぐ様なら半殺しにするぞ』……分かった、静かにするからそう睨まないでくれよ…』

 

『それで良い…後でな。』



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ハイスクールDxDにクレイモアがいたら262

コインが落ちる音が聞こえるのとほとんど同時に、こちらに向けて放たれる妖気を感じ取り、上に飛んだ。

 

「チッ!躱された!」

 

目を開ければ先程まで私の居た場所まで伸ばされたヘレンの腕…危なかった…妖気の感じから察するに、見てから飛んでも間に合ったかどうか…っ!

 

「ヘレンばかり見ていて貰っては困るな。」

 

私を追って飛んでいたデネブの剣を受け止める…くっ!予想していたより重い!これで防御型だと!?ふざけた冗談だ!

 

「悪いが…」

 

「っ!」

 

下から振り上げられたもう一本の剣を咄嗟に上げた足で何とか受け止めた。…そうか、忘れていたな…

 

「私は二刀流だ。」

 

「…ああ、忘れていたよ「良し!デネブ!」…なっ!?」

 

ヘレンの声が聞こえるのと同時にデネブが私から離れ、デネブの後ろにいて死角になっていたヘレンの姿が目に入る…捻れた腕…!不味い!この距離では躱せな…

 

「…と、言う訳でも無いんだな、これが。」

 

「んがっ!?」

 

ヘレンが仰向けに倒れる…何の事は無い、たださっきデネブの剣を受け止める為に上げた足を伸ばして、ヘレンの顔面に足の裏を叩き付けただけ…俗にヤクザキックなどと言われるアレだ。

 

「うごっ!?」

 

「悪いね、私は足癖が悪いんだ。」

 

そのまま前に出て腕の範囲外、ヘレンの頭の横まで行ってから顔面を踏み付け…さて…

 

「…助けないのは意外だったな…デネブ。」

「…咄嗟だったから身体が動かなかったと言えば信じるか?」

 

「いや。」

 

「そうか…そうだろうな…」

 

デネブは自分は技巧派だと口にした事がある…となれば…

 

「…1体1がお前の望みか?」

 

「…テレサの戦いを見た時、敵わないと思いつつ…それでも仮に本当に私が戦ったら何処まで食らいつけるのかと…」

 

「私は別人なんだがな…あまり剣の扱いが上手い方でも無い…それでもやりたいなら付き合うが?」

 

「ちょ!?人の顔踏んだまま会話すんなって!」

 

「ん?ああ、悪い…今足を退けるが…襲って来ないよな?」

 

「…デネブがやる気だし、ここは譲るよ…最もあたし一人で何処までやれるのかは怪しいから別にやって欲しいって事も無いけどさ。」

 

「そうか。」

 

私は足を退けた。

 

「私が踏んどいて何だが、顔が汚れている…細かい傷が治ったら拭いてもらえ。」

 

「へいへい、分かったよ…なぁ?」

 

ヘレンがデネブに声をかけた。

 

「何だ?」

 

「一人でやりたいなら…何で言わなかった?」

 

「抜け駆けするつもりは無いさ。」

 

「…言ってくれればあたしは降りたのにさ。」

 

「正直に言えば…お前がやる気になってたから言い出しにくかった。」

 

「…分かったよ、邪魔なあたしは退散するから。」

 

そう言って私たちから背を向けるヘレンから目を逸らし、私はデネブを見詰めた。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した1

初代の方(作者は基本リメイク前の初代とセカンドしかやってない)


朝……

俺はベッドから身体を起こし伸びをする

ベッドを出てカーテンを明けるとまだ白み始めたばかりの空と家々が目に入った

 

ここはクラトスの町…

とはいえ町と呼んでいいのか分からないほどの田舎だ

俺は寝巻きから動きやすい軽鎧に着替えると二本の剣を手に取り背負う

 

家のドアを開ける

 

「あら?キリトくん。おはよう。今日も早起きね」

 

近所のおばさんが声をかけてきた

 

「おはようございます。今日も良い天気になりそうですね」

 

それから軽く雑談を交わして町の出口に向かう

……かつてはコミュ障の気があった俺だが今となってはこれぐらいの会話は普通に出来る

町の外に出ると俺は指二本を上から下に振る

 

「やっぱり何も起こらないか……」

 

これはいつもの事だ。俺がこの町で拾われてからもう10年以上経つが今でも癖でやってしまう

 

俺はキリト……これは本名では無い

だがあっちでアスナより先に死んでから気付いたら子供の頃の姿でこの異世界にいた

ここではこの名前の方が都合がいいのでこれで通している

 

俺は背中から剣を引き抜く

もちろんあの世界で使っていた物ではなくどこにでもある剣だ

 

後ろから襲ってきた兎の姿をした怪物を躱しそのままレイジスパイクで喉を突く

 

ソードスキルの光は無い

それにあの頃は無かった肉を刺す生々しい感覚

……今は慣れてしまった

 

当時はキツくて仕方なかったが…

口からゴボゴボと血の泡を出しながらのたうち回る兎の首を落とす

 

静かになった所で血払い

と、いつの間にか囲まれていることに気付く

俺は溜息を吐いた

 

兎共の一斉攻撃を躱し

 

「…ワンパターンなんだよ。」

 

一体ずつ確実に仕留めていく

 

「ウォーミングアップにもならないな」

 

あっちでの人生は終わった。アスナ一人残していくことを除けば別にやり残したことは無かった

 

幸せだった。若い時は仕事も充実していたし子宝にも恵まれた

子供も大きくなりやがて自立

俺も仕事もゲームも引退し満足に身体が動かなくなっても家族とはずっと繋がっていた

 

そうしてとうとう深い眠りに着いた俺が次に見たのがこの世界

 

家族もおらずクラトスの町の人達に育てられた俺が思ったのは恩を返したいだった

 

だから幼馴染のラティやドーン、ミリーと共に自警団に入った

 

日々は充実している。だが退屈に尽きる

そもそもこの町娯楽が少ないのだ、極端に

 

自警団としての仕事も時々弱い盗賊が来るくらいではっきり言って歯応えが無さすぎる

……分かっている。平和な方が良いということは

でもせっかく異世界に来たというのにこうまで退屈だと……

 

「やめやめ。こんなこと考えてても仕方ない。さてとそろそろラティを起こしてくるか」

 

俺は幼馴染兼同僚の家を目指して歩く

俺もあまり朝は強い方でも無かったが今では普通に明け方には目が覚める

 

今日はどんな起こし方をしてやろうか……

 

俺の顔には黒い笑みが浮かんでいるだろう

正直娯楽の無い今の身の上ではこれが毎日の楽しみなのだから……

 




プロローグだけでオチるな


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キリトがスターオーシャンの世界に転生した2

「なぁキリト、またあの話聞かせてくれよ?」

 

「…良いけどさ、お前また寝坊するんじゃないか?」

 

「大丈夫だって。…多分。」

 

「…おばさん、もし明日ラティが寝坊したら弁当無しで。」

 

「ええ、分かったわ。」

 

「ちょ!?キリト、それは無いだろ!?」

 

「毎朝お前起こすの大変なんだよ。」

 

「キリトが朝早すぎるだけだろ!?」

 

「…ラティ?キリト君は貴方を起こす一時間前には起きて鍛錬しに行ってるの知ってる?」

 

「…えっ!?嘘だろ!?」

 

「おばさんが嘘つく理由無いだろ。俺はいつも鍛錬行ってからお前を起こしに来てるんだぞ?」

 

「……」

 

「…キリト君、夜食いる?」

 

「…お茶だけお願いします。入れてさえくれれば自分でやりますから。」

 

「そう?遠慮しなくて良いのよ?」

 

「大丈夫ですよ。それが終わったら先休んでくれれば良いですから。後は俺がやります。」

 

「…ありがとう。ほら、ラティもキリト君を見習いなさい。」

 

「えっ!?」

 

ここはラティの家。自警団としての仕事が終わったら大体、四人でここに集まって反省会という名のだべりをするのが一日の最後のルーチンだ。…で、良い時間になったら明日も早いしドーンとミリーの二人は自分の家に帰るのが普通だ。俺はと言えば…

 

「…はい、お茶。」

 

「ありがとうございます。…あっ、俺運ぶんで良いですよ。」

 

「…ありがとう。貴方は昔からいい子ね。」

 

苦笑いをする…この世界に来てから俺はラティのお袋さんと親父さんに世話になりっぱなしだ。昔から良くこの家に泊まりに来てた縁、というか自分の家もあってなんだかんだ身内のいた二人と違い、俺はある程度自分の事が出来るようになった今でも良くこの家で過ごす事が多い…そのおかげでこの人には昔から頭が上がらない。怒ると怖いしな……

 

「キリト君?」

 

「…はい!?何ですか!?」

 

「…余り夜更かししないようにね…?」

 

「…はい。」

 

……照れくさいけど俺にとっては三人目の母親みたいな人だ。

 

 

 

「…で、何処まで話したっけ?」

 

「…キリトが全ての元凶ヒースクリフの正体を暴いた所までだぜ。俺続き聞くのずっと楽しみにしてたんだよ!」

 

「…そうか、じゃあ続きを話すぞ、魔王ヒースクリフの正体を暴いた勇者キリトは……」

 

…俺はあの頃の事を良くおとぎ話としてラティに話している。…辛く思い出したく無いことも多いし、楽しくても人に話すには抵抗のある恥ずかしい出来事も今では客観的に見る事が出来るようなったから…

 

「…キリトは凄いよな…その英雄を目指してるんだろ?」

 

「…どうかな?確かに俺の剣技はその話に出て来るのを元にしたものだけど。」

 

目指すと言うか本人なんだけどな…ラティは俺の話を目を輝かせて聞いてくれる。娯楽が少ないせいもあるだろうが、この何時までも初々しい反応が嬉しくてつい、要らん事まで話してしまう。

 

「…そう言えば、キリトとアスナってその…そういう事してたのか?」

 

何を聞きたいかは分かる…だけどな…

 

「…どうだろうな…親父からはそんな話聞かされてないけど。…所詮おとぎ話だしな。」

 

「…そっか、そうだよな……」

 

……何時ものやり取りだ。そういうのがつい気になるお年頃ってか。

 

「…何かキリトって時々雰囲気がジジ臭いよな。」

 

「…失礼な。大人っぽいと言え。」

 

そんなこんなで夜は更ける。

 



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した3

「…で、話って?」

 

「…ミリーの事なんだけどさ「帰っていいか?」待て待て。いや、本当に待ってくれ、こっちも必死なんだって。」

 

「…ドーン…俺の持論で悪いが一言良いか?」

 

「…ん?」

 

「お前のその普段の態度ってさ、好きな相手にする反応じゃないと思うんだ。」

 

「いや、俺だって分かってるんだけどさ…」

 

今日は休日。俺を家に連れて来たドーンからの相談内容は簡単に言えばミリーと付き合うにはどうしたら良いか?…物凄く帰りたい。これが初めてじゃないし…。大体ミリーの反応見る限りどう考えても脈は無い。と言うか普段から自分をぞんざいに扱う人間を好きになる例って無いと普通は無いと思うんだ。…いや、好きな人に照れくささで意地悪するとかいう感覚は男として良く分かるんだけどな…

 

「…そもそもミリーが好きなのはどう考えてもラ「あ〜!聞きたくない!」あっそ。」

 

「まだだ!まだ俺は諦めない!」

 

「……」

 

勝手に自分から結論出して喚き始めた。…今のうちに帰ろう。…他に用あるし。

 

「じゃあ俺は帰るからな。」

 

ドーンの家を出る時、チラッと机の上のオルゴールを見た。…ドーンの妹さんとは余り接点は無いが話した事は何度かある…幽霊は見えないが何となく謝ってる雰囲気を感じた…気にしなくていい。念じ、ドアを閉める

 

 

 

「…話はラティの事か?」

 

「…うん。」

 

ここはミリーの家。……父親のマルトスさんはさっき出かけた。…年頃の娘と同年代の男を部屋に二人っきりにするのはどうかと思うのだがマルトスさん曰く「昔から一緒だった君たちなら信用出来る」だそうだ。まあ俺も誓って手を出したりしないが。……アスナが怖いし。

 

「…ちょっとキリト、聞いてる!?」

 

「聞いてる聞いてる。で、ラティに振り向いて貰う方法だっけ?…難しいと思うぞ?あいつかなりの鈍感だし。」

 

「…そうだよね~…この前なんて私…」

 

また始まった。…ミリーのアプローチは絶対にラティには効果が無い。…何せ前世で散々アスナに言われた俺より鈍感だし……ミリーはこの町に他に同年代の女子がいなくて良かったよな…ラティは見た目も性格も決して悪くないからライバルは多くなりそうだ…ミリーの愚痴を聞いてるとアスナの苦労が少し分かる気がする……

 

「…なぁミリー、ラティの場合直接言った方が早いと思うんだが「出来るわけ無いでしょそんなの!?」……」

 

「そっ、それにこういうのは男からするものでしょ!?」

 

「……」

 

俺先に告白して良かった~。……いや、まああの時はアスナから身を引こうとしてたから俺が引き止めただけなんだけど……

 

「…ほら!キリトも何か方法考えてよ~!」

 

「ちゃんと考えてるって。ほら、こういうのはどうだ…」

 

今日は帰りが遅くなりそうだな…窓から夕日の光を浴びつつ俺はそう思った。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した4

この世界の識字率は意外な程高い(いや、そもそも俺はここクラトスと比較的近くにあるクール村以外の状況を知らないが。しかもこの世界に来た当初寧ろ俺の方がこの世界の文字を全く読めなかった。…何故か言ってることは通じたのである程度読めるように教わる事は出来たが)

 

店の帳簿はちゃんと紙に手書きで書かれているし、剣技の書かれた奥義書ももちろん文字と図で書かれている。

 

「…キリト君、ちょっと良いかな?」

 

「…はい?」

 

俺はペンを動かす手を止めマルトスさんの方を見る。

ここはミリーの家だ。ちなみに今日は休日でミリーはラティとドーンと共に出かけた。

 

「君は何故法術を教わりたいと思ったのかね?その…こう言っては何だが君は恐らく法術よりも剣技の方が向いている…そちらを磨くべきじゃないか?」

 

「…知識があって困る事って無いですから。」

 

「…ふむ。心掛けとしては正しいがそれだけかね?」

 

「…後は、守る為です。」

 

「守る?」

 

「ミリー…娘さんは良く俺たちの仕事に着いて回ってるのは知ってますよね?」

 

「…君たちには悪いが私は…」

 

「いえ。俺も同意見です。俺もミリーが戦いに出るのは反対です。…二人も恐らく同意見でしょう。でもそれ以上に法術…癒しの力を使えるミリーの存在は仲間として心強いんですよ。」

 

「……」

 

「ミリーが戦いに出ないに越したことはありません。でもミリーの力が必要な場面は少なからず所か俺たちが未熟で何度も傷を負う事もあるせいで多いし、俺たちが止めてもミリーは自分の力が必要だと思えば自分から戦いに出るでしょう…なら、俺に出来ることはそんな彼女を守る事だけです。」

 

「…君の覚悟は分かった。だが、それと君が法術を習う事に何の関係が?」

 

「正直な話、仮に俺が法術を使えなくても構いません。」

 

「何だって?」

 

「本当の所を言えば俺は法術について理解を深めたいんですよ。それがミリーを守る事に繋がります。」

 

「何故だい?」

 

「……もし、俺が敵対者なら、術者であるミリーを真っ先に狙います。」

 

「なっ!?」

 

「ミリーはそれだけ危険な立場にいるんです。ラティやドーンは本能でミリーを庇おうとするでしょう。それで二人に何かあればミリーは一生自分を責め続ける事になる。…だから俺はそうならない様にミリーのサポートに回れるよう法術の特性を理解しておきたい。」

 

「…君は戦場にいた事が?」

 

「いえ、ありません。でも…」

 

「…でも?」

 

「…いや、忘れて下さい。」

 

「…ふぅ…凄いな。やはり君たちなら娘の事を任せられそうだ。」

 

「縁起でもない事を言わないでください。ミリーは口にこそ出しませんが貴方を本当に大切に思っているんですよ?」

 

「…すまない。そんなつもりでは無かったんだが…」

 

「…いえ。俺も過剰に反応してしまいました。」

 

俺は顔を前に戻し再びペンを動かす…

 

「知識欲があると言うならどうだい?私の知り合いに手紙を出すが、彼の元に行ってみないか?何せここにある法術の本には限りがある」

 

「有難い話ですが遠慮しておきます。…俺の仕事はこの町を守る事です。」

 

「…ラティ君やドーン君にも言える事だが君たちはこのままこの町で一生を終えるのは勿体ない。…君たちはまだ若いんだ、全てを放り出して旅に出ても誰も怒らないさ…」

 

「……考えておきますよ。」

 

 



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した5

あの子に初めて会ったのはもう十年以上前になる…。

あの人がこの町を彷徨いていたというあの子を保護したと言って家に連れて来た。

…当時私はあの子を見て首を傾げた。父親とはぐれたと言うあの子はどう見ても息子と同じぐらいにしか見えなかったけどまだ甘えたがりの息子と違い父親と離れ離れになったというのに戸惑いこそあれど特に悲しんだりする事も無く、理知の宿るその目は子供の目というよりまるで大人のそれだった。しかも彼は南門からクラトスの町に入って来たのをあの人が確認しているという…

 

……南門から先は海で町や村は無い。本人は海を渡った記憶は無いと言う。不自然ではあったけどどう見ても子供は子供。自力で父親を探すと言う彼を直に日も暮れるからと言って半ば強引に家に引き止め泊まらせた。

 

その日から自警団の仕事を休みあの人が彼の父親を探したけど何も手がかりは見つからなかった。クール村の先のメトークス山にも行ってみたらしいけど見つからなかったと。……メトークス山を越えれば更に町や村があるけど彼がこの町に現れた以上それほど遠くに行っているとはさすがに考えにくい…。

 

結論としてはどちらも最悪のパターンだが何らかの理由で亡くなったか、彼を捨てて何処かへ行った可能性が高い…。

 

前者はともかくどういう理由があれ子供を捨てるのは私は理解出来なかった。私たちの養子にならないかという誘いをやんわり断り彼は町の中にあった空き家に一人で住み始めた。

 

さすがに子供が一人では…と思い家に泊まらせたのが何度も思い出される…。最もキリト君は人に好かれるタイプの様で私たち以外にもこの町のほとんどの大人が彼の世話を焼いていた。…その度にあの子は苦笑いを浮かべていた。……一体何があったらこんな年端もいかない子供がこんな顔をするようになるのかと本気で心配した。…今思えばお節介だったかもしれない…。でも後にあの子はそれについて聞くと照れくさそうに笑いながらこう言った。

 

「俺はおばさんはもちろん、この町の人たちを誰一人鬱陶しく思った事は無いですよ。ここは俺にとってもう一つの故郷なんです。」

 

その言葉を証明するかのようにあの人が亡くなった後、あの子は息子と友人のドーン君と共にあの人の後を継いで自警団に所属した。

嬉しかった。それ程までこの町を好きでいてくれてることが。

 

「…こんばんは。今日もお世話になります…。」

 

「今更遠慮すんなよ、キリト。」

「そうよ、何時でも遊びにいらっしゃい。」

 

貴方は私にとって二人目の息子も同然だから…。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した6

「…お~い!」

 

「ん?ラティ?どうした?今日はやけに早起きじゃないか。」

 

俺は今さっき倒したモンスターの血が着いた剣を軽く振り血を払い、背中の鞘にしまう。

 

「…それで何か用か?そろそろ出勤の時間だろ?」

 

「…キリト、俺と戦ってくれないか?」

 

「…は?どうしたんだ、急に?」

 

「ほら、二、三日前に盗賊が攻めて来たじゃないか?」

 

「…そうだな。人数は結構いたけど幸い実力は大したこと無かったから何とか追い返せたな。」

 

……殺さずに済んで本当に良かった。…ラティたちはさすがに躊躇うだろうし、俺だって万が一の時は町のために殺る覚悟はあるけど好き好んで人殺しをしたいわけじゃない。……この町の人たちは皆優しいから絶対殺した後に一悶着あるだろうし…。

 

「…お前、あの時剣を二本使ってただろ?」

 

「…そう言えば実際に使ってるのを見せるのは初めてだったか。」

 

あの時俺は盗賊の頭と戦ったが、子分たちと違いこっちは盗賊にしては思ったより手練だったからな…久々に二刀流で戦った。…それにしてもあの乱戦状況で俺の方を気にする余裕があったのか…

 

「…つまりお前は二刀流の俺と戦いたいと。」

 

「ああ!」

 

「……」

 

ラティの剣は中々だ。実際、一刀流の俺とは互角の実力を持ってる。 エダール剣技…俺もラティの親父さんから習えば良かったかな?…まあそれはともかくだ…

 

「…ダメか?」

 

「…まあ別に構わないけど。」

 

問題は無い筈、だ。ただ…

 

「今からか?」

 

「ああ!早く始めようぜ!」

 

あー…こりゃ何言っても無駄だな…絶対にミリーに怒られるな…やれやれ。…俺は背中の剣を抜いた。

 

 

 

「…で、二人が遅刻して来た上に傷だらけなのはそれが理由…?」

 

「「はい。ごめんなさい…。」」

 

俺たちは今二人して正座させられミリーから説教を食らっている…こら、ドーン爆笑するな。…あっ…

 

「…キリトはまだ余裕そうだね。プレス!」

 

「…ぐぅっ!?」

 

俺の膝の上に三つ目の重石が乗った。…ちょ!?ホント地味にキツイぞこれ!?

 

「…二人とも?今日はしばらくそのままね?」

 

「「え!?嘘だろ!?」」

 

「行くわよ、ドーン。」

 

「…頑張れよ二人とも。」

 

「「待ってくれ!?」」

 

結局俺たちは夕方まで放置された…。

 

 

 

「…で?結局どっちが勝ったんだよ?」

 

「…引き分「キリト、お前手抜いてただろ?」…やっぱ分かるか?」

 

ラティの家にて反省会…と言っても今日はいつも通りこれといって事件も無かったから必然的に俺たちの話になる…。

 

「…へぇ。二刀流のお前がそんなに強いとはね。今度の休みに俺とも戦ってくれよ?」

 

「ちょっとドーン!?何言ってるの!?」

 

「ミリー目くじら立てんなって。元々怖い顔が更に怖い顔になるぞ?」

 

「何ですって!?」

 

ドーン…お前なぁ…。

 

「…キリト、早く止めよう。母さんがキレそうだ…。」

 

「…それは一大事だな、さっさと止めるか。」

 

俺たちはラティの家で暴れ始めた二人の仲裁に入った。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した7

「何だ、これ…!」

 

「これは…一体どうなっているんだ?」

 

俺とマルトスさんはクール村を訪れていた。

今、クール村にて奇妙な伝染病が流行っているという。

俺たち自警団の仕事は何もクラトスの町を守るだけじゃない。…ほとんど便利屋に近い事もしていて若者の少ないクール村にも何度か訪れた事がある。…何度かここの人にもお世話になっていた俺はクール村に一人で向かおうとするマルトスさんに護衛の名目で強引に着いてきた。…最も俺の出る幕なんか無かったけど。……病気に関しても医者でも無ければマルトスさんから教えられた法術を全く使えない俺が行っても何も出来ないのは分かってた…。

 

……でも放っておけなかった。医学知識は無くても俺には前世での知識がある。伝染病に関しても多少は知識はあった。……所詮素人のにわか知識だけど少なくとも何か意見は出せると思っていた……でも…

 

「……ダメだ。これはもう人の身体じゃない。完全に石になっている…。何が起こっているんだ?」

 

「……」

 

自分の無力を嘆くマルトスさんに俺は声をかけられなかった……石のようになる伝染病なら俺も覚えがあった。でも、これは……!

 

「…これは石像じゃないか!?本当にこれが人間だったって言うのか!?」

 

「…キリト君、私が言える事じゃないがもう少し声を抑えてくれ…」

 

「えっ!?…あっ…」

 

俺は俯く女性に気付いた。…やってしまった…この人は苦しんでいる。自分の子供が石になったんだから当然だ……そんな人に俺は…!

 

「ご「キリト君、君が今謝ってもどうしようも無い。」……」

 

マルトスさんに言われ俺は謝罪の言葉を飲み込む……何やってんだ、俺は…!

 

「…キリト君、護衛の仕事はもう終わりだ。帰りたまえ。」

 

「でも…!」

 

「すまないが今の君がここにいても邪魔にしかならない。…大丈夫さ、きっと私が何とかしてみせる。娘たちとクラトスの町で待っていなさい。」

 

「…分かりました。…マルトスさん…」

 

「…何かな?」

 

「…気を付けて…」

 

「…ああ。君も道中気を付けて。」

 

 

 

憂さを晴らすかの様に俺は兎のモンスターに剣を振るう。……鬱陶しいな。でもまあいい。少しは気も紛れる。

 

「…向かって来いよ、ゆっくり相手してやるからさ…!」

 

俺は背中からもう一本の剣を抜く。……モンスターの動きが止まる…分かるのか…

 

「どうした?本気で相手してやるって言ってるんだ。早く向かって来いよ…!」

 

兎の化け物が後退りする…逃げんなよ…

 

「…ならこっちから行くぞ。」

 

俺は兎の集団の中に飛び込んだ。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した8

「ねぇキリト?私言ったよね?お父さんの護衛が終わったらすぐ帰って来てって。」

 

「……ああ。」

 

「じゃあどうして帰って来るのが夜中なの!?何でキリトはそんなに怪我をしてるの!?」

 

「……」

 

「答えろよキリト!今回は俺も怒ってるんだぞ!?」

 

「…こいつら程じゃないが俺も怒ってる。取り敢えず答えろ、キリト。…何があった?」

 

「…分かったよ……」

 

俺は口を開く…。

 

 

 

「…で、自分の無力を嘆いたお前は憂さ晴らしにさっきまでモンスターを殺しまくってたのか?」

 

「…そうだ。」

 

「この…!馬鹿野郎「止せ、ラティ。」ドーン!?何で止めるんだ!?」

 

「馬鹿。キリトはもう限界だ。自業自得だがある意味十分罰を受けてる…今日はこれで終わりにしよう。改めて明日話をする。…キリト、今日はラティの所に泊まれ。ラティのお袋さんもカンカンらしいぞ?ちゃんと謝っておくんだ。」

 

「…分かった。」

 

「…ミリーは…寝ちまってるな…。仕方ない…俺が家に…いや、今ミリーは一人だったな…ラティ、悪いが俺たちも泊めて貰っていいか?ミリーは今一人だし、全員で固まってた方が明日話もしやすい。」

 

「…分かった。どの道後はもう寝るだけだからな。ほら、キリト立て。」

 

俺はラティの手を掴み立ち上がる。

 

「…なぁ?」

 

「「ん?」」

 

二人がハモったのを見て思わず笑いそうになったが堪える。

 

「…悪かったな。」

 

「…それは明日ミリーに言ってやれ。俺たちの中で一番心配してたんだからな。」

 

「…分かってる。」

 

「…キリト、まずはどうやって母さんに許してもらうか考えた方が良いぞ…さっきお前が帰る前に様子を見に来てたけど本気で怒ってたからな。……俺たちはさっさと寝るけど最悪お前は朝まで説教コースだ。」

 

そう言われて急に冷や汗が出て来た。

 

「…やっぱ俺自分の家に帰「お前が帰って来たら家に連れて来るよう言われてるんだ。…じゃないと俺たちが怒られる。」さいで。」

 

足取りが重くなって来た。

 

 

 

「…お帰りなさい、キリト君?」

 

汗が止まらない。俺の目の前には今笑顔のラティのお袋さんが…後ろに般若が見えるのは気の所為だよな…?

 

「…母さん、俺たちは先に休むよ。…悪いんだけど明日は昼頃に起こしてくれ。」

 

「…分かったわ。お休みなさい。」

 

「俺も休「キリト君は座ってて」…はい。」

 

 

 

「…キリト君?私がどれだけ心配したか分かる?」

 

「…はい、ごめんなさい。」

 

俺は床に頭を付ける。何とかこれでやり過ごす。

 

「…顔を上げなさい。別にそんな事をしてもらいたい訳じゃないから。」

 

「……」

 

……一瞬顔を上げたが直ぐに戻す。……上げられない。さっきのは見間違いじゃなかった…やっぱりお袋さんの後ろに般若が見える……怖ぇ!

 

「…上げなさい。」

 

「……はい。」

 

一段低くなった声を聞いて思わず顔を上げる……。頼むから長引かせるのは止めてくれ…。

……SAOのフロアボスを遥かに超えるプレッシャーを感じながら俺はそう願った…。

 



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した9

あの日から俺の日課に変化が訪れた。

 

「キリト!後ろだ!」

 

「分かってる!」

 

俺の朝の鍛錬にドーンとミリーが参加する事になった(ラティも来る事になっているが姿は見えない。まあ何時もの寝坊だろう)

 

「…お前何時もこんな無茶やってたのか。」

 

「いや、昔からやってるけど。…そんなに無茶か?」

 

数をこなす。ただそれだけ。SAO時代のパワーレベリングと何ら変わらない。…まああっちと違いここはリアルだから数値による目に見える変化は無いし、敵も変わり映えしないから正直に言えば大して鍛錬になってるのかも怪しい…。まあここがあの世界に似てるから癖になってるのかもしれない…。

 

「一人でこんな事やっても仕方ないだろ?これからは俺たちにも声をかけろ、良いな?」

 

「……」

 

「ちょっとキリト!?返事は!?」

 

「…はいはい。仰せのままに。」

 

「はいは一回で良いの!」

 

…思ったより元気そうだな…そう思っているとドーンが近づいて来て俺に耳打ちした。

 

「…あれでもかなり無理してるんだ…。今日だって多分ろくに寝れてない筈だ。」

 

「そうなのか?」

 

言われて見ればミリーの目の下にはくっきりと隈がある…。

 

「…なら、俺の事を気にしてる場合じゃないだろ?」

 

「こういう時は何かしてる方が落ち着くもんさ。やばそうなら俺が無理にでも休ませる…。大体、お前を心配してるのは俺もミリーも同じだ。…少しは自分の事も気にしろ。」

 

「……分かったよ。」

 

まあ仲間を心配させて迄無理をするつもりは俺も無い。

 

 

 

「結局ラティは来なかったな。」

 

「基本あいつは寝坊するからな。俺からしたら何時もの事だよ。」

 

「全くラティは!早く起こしに行きましょう!」

 

…と、三人でラティの家へ。ミリーの様子を見るにかなりえげつない起こされ方をする事だろう。…どう考えても自業自得だし同情はしないけど。

 

 

 

「……頭が痛い。」

 

「でも、目は覚めただろ?」

 

「逆だよ。まだ目の前を星が舞ってる…。」

 

ラティは結局ミリーお得意のプレスで起こされた。…何と言うか…凡庸性は高いよなぁ…。

 

「何よ!ラティが早く起きないから悪いんでしょ!」

 

「しょうがないだろ。昔から朝は苦手なんだからさ。」

 

「いやさ、ラティ?そんな事言ってたらずっとそのままだぞ?もし、盗賊が夜襲でもかけてきたらどうするんだ?そんなんじゃ対応出来ないだろ?」

 

実際問題向こうからしたら白昼堂々攻めてくるより本当はその方が成功率は高い筈だ…不思議と今までされた事は無いけど。まあ向こうも暗いと襲撃は逆にしづらいんだろうけどさ…。

 

「うっ。…分かってるよ。次からはちゃんと起きるようにする…。」

 

…と言いつつ次も寝坊するんだろうなと俺はラティの顔を見ながら思った。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した10

「…ラティ、起きろ。」

 

「…う~ん…。」

 

「…早く起きないとミリーがまたプレス使うぞ」

 

「え!?分かった!起きる!」

 

「…キリト?「事実だろ?」むー…。」

 

「まあまあ。寝坊助が起きたんだから良いだろ。」

 

鍛錬に仲間がくっついて来てるのは別に良いけど……何で俺は本当に行く気があるのか分からない奴をわざわざ起こしに来なきゃいけないんだ…?

 

「…付き合わせて悪いな。キリト。」

 

「…良いって、気にするな。…ミリーの気持ちも少しは分かるし…様子を見る人間も多い方が良い。」

 

だからってわざわざコイツを起こす意味があるのかは分からないけどな…。確かにドーンはともかく、今のミリーはあまり一人にしたくないけどさ…やっぱり三人で自警団本部に泊まる方針にすべきだろうか?毎朝家に起こしに来るのも面倒だし。

 

「さて、行くか。「寝坊した奴が何仕切ってるんだ?」ごめん…」

 

「おい、冗談だからそんな凹むなって。」

 

「そうそう。リーダーはお前にしか務まらないよ。…だからせめてもうちょっと早く起きて欲しいんだけどな。」

 

「…ごめん。善処する。」

 

それはしない奴の台詞だな。…ラティも有事の際は頼りになるんだけどな…。今回の事件、ラティに近いようで遠いからな…何処か退屈な日常の域を抜けないのかもしれない…マルトスさんを信頼してると言えばそれまでだけど。…正直俺はこの一件はそう簡単に終わらない気がしている…。SAO時代に培った俺の危機察知能力は自分で言うのも手前味噌で恥ずかしいけど確かだと思っている……この世界に来てから感じた事は無かったけど…最近は煩いくらい頭の中で警鐘が鳴り響いてる気がする…。単なる気の所為であって欲しいんだけどな……

 

「キリト?どうした?」

 

「…別に何でもないさ、ドーン。」

 

「…それなら良いが何かあるなら相談しろ。俺で良ければ何時でも聞く。」

 

「普段お前の悩みを聞いてるのは俺なんだけど…。」

 

「茶化すなよ。真面目に言ってるんだ。…確かにその通りだけどさ、俺だって聞いて貰ってばっかりじゃないっての。」

 

「……悪い。そうだな、冗談が過ぎた……分かってるさ、何かあったらちゃんと相談する……」

 

「…なら、良いけどな。」

 

背を向けるドーンに俺は心の中で謝罪する。

ドーン…悪いけどまだ言えないんだ……俺にもこの不安の原因が何なのか分からないから……だから、ごめん。

 

俺はラティたちに追いつくと並んで歩く。

……この時の事を俺は後悔してる…せめてドーンにだけでも言っておけば……あの時の悲劇は防げたのかもしれないと。でもこの時の俺には分からなかった。……俺は何にも気付いてなかったんだ……



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した11

ミリーがいよいよ我慢の限界になったらしくクール村に行きたいと騒ぎ出した。ドーンが宥めてるが効果は無い。…こういう時にまたラティは寝坊だし…。マルトスさんから何の便りも無い以上治療は芳しくないのは明白。……ミリーを行かせるわけにはいかない。ん?ようやくラティも出て来たか。…丁度いい。三人に猛反発されるのは目に見えてるけど俺が代表で見に行く事にしようか…?あれは…鳩だ。ドーンが近付いて行く。……この世界の通信手段は伝書鳩による手紙のやり取りがほとんどだ。……恐らくマルトスさんからじゃないだろうか…?

 

「何て書いてあるの?」

 

ミリーがドーンを急かすのに合わせ俺もドーンの読む声を聞きながら手紙を覗き込む…

 

手紙の差出人はやはりマルトスさん…その文章はあまりにも切羽詰まり文字も歪み…マルトスさんの焦りが伝わってくる……そして内容も俺の想像を遥かに超えていた

 

クール村の伝染病の原因は不明。しかも空気感染の心配は無いが罹患者の身体に触れただけで感染し潜伏期間は僅か一~二時間しかない…。法術も効果は無かったと……そして自分もその伝染病にかかってしまった事実が淡々と書かれていた…最後に、クールにはもう近付くなと…。

 

そこまで読み終えた所でミリーが走り出した。…くそっ!止めるのが遅れた!俺はミリーを追って走り出した。

 

 

「ミリー!キリト!待て!」

 

ドーンの呼び止める声が聞こえるが無視した。……くそっ!俺は分かってた筈だ!簡単には終わらないって!何で俺は放っておいたんだ!?絶対俺にだって出来る事があった筈なのに…!SAO時代の経験を活かして道でないところも走りミリーが外に出た所で何とか追い付いた。

 

「待て!ミリー!」

 

「何よキリト!お父さんが…!」

 

「だから待てって!一人で行くな!俺も行く!」

 

「キリト…ありがとう!」

 

俺はミリーと共に走る…ラティたちが出遅れてるが待ってる暇は無い。

 

「…!チッ!そこを退け!」

 

お馴染みの兎共が道を塞ぐが俺は咄嗟にミリーを抱き抱え、連中の頭上を飛び越える。

 

「キャッ!ちょっとキリト!?」

 

「黙ってろ!舌噛むぞ!」

 

奴らもさすがに驚いたらしく完全に動きが止まっていた。今のうちに…!…ラティ、ドーン…ごめん!

 

この後確実にこいつらに遭遇するだろうラティたちに謝りながら俺はミリーを抱いたまま走った。

 

 

 

「…やっと着いたか……」

 

こういう時に限ってモンスターとの遭遇率の高い自分の不運を嘆きながら俺は一息着く。

 

「…キリト、そろそろ…」

 

「ん?ああ…悪い…」

 

俺はミリーを下ろす。

 

「……」

 

クール村は酷いものだった。村のどこを見ても石像しかない……くそっ!もう全滅してしまったのか…!

 

「…お父さん……」

 

「…ミリー…」

 

俺はミリーにかける言葉が無かった……

 

 

 

「…ミリー、ここが最後の家だ。」

 

「……」

 

「…見てくるといい。俺はここでラティたちを待つ。」

 

「分かった…行ってくるね。」

 

「…ああ。」

 

ミリーの後ろ姿を見送り俺は家の壁にもたれかかった。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した12

「…来たか。」

 

思ったより早かっ…怖っ!まだ距離があるのに怒気が伝わって来るぞ!?

 

「……キリト、俺たちが何を考えてるか分かるな?」

 

「…ああ。俺を殴りたかったら好きなだけ殴るといい。…でも、ミリーは責めないでやってくれ…。」

 

ミリーは父親の事が心配だったから暴走しただけだ。…ここで罰を受けるのは俺だけで良い…。

 

「潔良いな…俺たちだって分かってるさ。お前を責めたって仕方ないのは…だから不問にしてやる……ラティ?それで良いな?」

 

「……ああ。」

 

「…そうか。……ミリーは中だ、行ってやれよ…。」

 

「…お前はどうするんだ?」

 

「見張り。村がこの状態じゃモンスターも入り放題だからな…。」

 

「……分かった。行くぞ、ラティ。」

 

「…出来るだけ早く戻るからな。」

 

「それはミリー次第だろ?ゆっくりで良いさ…。」

 

多分ミリーがマルトスさんに会えるのはこれが最後だからな、悔いを残さないようにして欲しい…。ははは…あの頃と何も変わらない…俺は無力だな…仲間の親父すら助けられない……!

 

「…ごめんな、ミリー…」

 

身勝手だ。こんな保身欲に塗れた言葉はミリーには絶対聞かせられない。

 

 

 

三人でクラトスの町へ戻り今は深夜。……俺は家の屋根の上にいた。

 

「…やっぱりな。」

 

家を出て北に向かうミリーの姿が見えた。

……恐らくメトークス山に向かうつもりだろうな。

 

メトークス山はクール村より更に北にある山だ。ここの頂上には万病に効くという薬草が生えている……が、俺はもちろんそんな事は信用していない。少なくともクール村を襲った石化病を治す効能は無いだろう…。

しかもメトークス山にはフェルウォームというモンスターが棲息している。

 

俺は以前こっそり一人でメトークス山に行ったことがあるがこいつらが案外手強く一体一体はそれほど倒すのに苦労しないものの複数集まると俺でも一人では辛い。増してやミリーは法術使い…一人では不味い。

 

俺はミリーを止めるため下に降り…!ドーン?

ドーンがミリーを呼び止め会話を始める……二人の声は距離があるので良く聞こえない。…!ドーン!?

 

「どうしたの!?大丈夫!?」

 

「…痛!」

 

「どうしよう…!そうだ!私誰か「ミリー!」キリト!?」

 

「取り敢えずラティを呼んでこい!ドーンは俺が見てる!」

 

「わっ、分かった!ドーンの事お願いね!」

 

 

 

「…ドーン?」

 

「近付くな。…お前なら分かるだろ?」

 

「…まさかお前、感染してるのか…!?」

 

「…多分鳩に触った時だ。」

 

そうか!石化病が人間以外の動物に感染しない保証は無い!もちろん逆も…!

 

「…キリト、あいつらには言うな。」

 

「!何言って「分かるだろ!?」くそっ!」

 

多分俺がずっと感じてた危機感はこれだったんだ!あの時ドーンには言っておけば…!俺のせいだ!

 

「……分かった。だけど、いよいよキツくなったら言えよ。俺が無理矢理にでも家に連れて帰る。その条件なら言わないでおいてやる。」

 

「馬鹿を言うな。そんな事したらお前が「俺は仲間を見捨てない!俺は仲間のために石になるなら本望だ!」馬鹿野郎…!」

 

もう俺がドーンにしてやれるのはこれしかない…!



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した13

「…!ミリーたちが来る…!キリト…!」

 

「…ああ、分かってるさ。」

 

「…世話かけるな。」

 

「…そう思ってんならさっさとミリーに告白しろ。何で、毎回人の、それも男の恋愛事情を聞かなきゃならないんだか。」

 

「おいおい、今はそんなの関係無いだろ。」

 

二人で笑う。…今、俺は笑えてるのか…?

 

「…ドーン!?……何してるの?」

 

やって来て早々、呆れを通り越して完全に怒ってるミリー。…連れてこられたラティは意味が分からないのかポカンとしてるぞ…。

 

「…どうしたんだミリー?そんなに血相変えて?」

 

白々しくもミリーにそう話しかけるドーン…。

 

「何言ってるの!?さっきドーンが…!ほら!キリトも見たでしょ!?」

 

俺に振ってくるミリー…そんなに視線送らなくても分かってるさ、ドーン…

 

「…このお騒がせ馬鹿ならこの通りピンピンしてるよ。ちょっと立ちくらみがしたんだとさ…大丈夫だろ、多分。」

 

「おう!俺は元気だぞ!」

 

「…全く。ミリーが凄い焦って呼びに来るから何かと思ったよ…心配したんだぞ?何も無くて良かったよ……」

 

「そうよ!本当に人騒がせなんだから…!」

 

「悪い悪い。それよりラティ?メトークス山の頂上にある薬草を取りに行こうぜ!ミリーの親父さんを助けるんだ!」

 

「…ああ、あれならクールの北か…分かった、行くよ。キリト、ミリー?準備は良いか?」

 

「…寧ろこの中で支度が出来てるか一番不安なのはお前だよ、大丈夫なのか?」

 

「…うっ。…ああ、大丈夫だよ。行こう。」

 

 

 

ミリーを後ろに下げ、ラティ、ドーンと歩く……ミリーはさっさと行きたがっているがメトークス山は多少人の手が入ってるし、頂上への道のりはそう長くは無いものの険しい事には変わりない。…フェルウォームの相手もしなきゃならないし体力は少しでも温存した方が良い…。

 

 

 

クール村を出る直前…

 

「ミリー、親父さんに会っていくか…?」

 

俺はミリーに聞いた。

 

「ううん。お父さんに見つかったら怒られちゃうから…」

 

「それもそうか。」

 

俺たちはクール村を出た。

 

 

 

メトークス山の入り口で一旦足を止め確認する…。

 

「良いか?奴らは手強い、間違っても侮るなよ?囲まれたりもしないように気をつけろよ?後、奴らの卵は孵化したら大変な事になるからな…絶対にくっつけたままにするなよ?」

 

奴らは襲った生物に自分の卵を植え付けてくるんだ。本当に厄介な生態だよな…。

 

「…それは分かったけどさ、キリト?お前、何かやけに詳しくないか?」

 

「!いや、その…」

 

しまった!?

 

「…キリト、お前ここに来た事あるな?それも一人で。」

 

ドーン!?お前の事黙っててやってるっていうのに…。そこは気付いても口に出さない所だろ!?

 

「…キリト…ちょっとそこに正座。」

 

「…いや、急がないとまず「正座。」…はい。」

 

あっちでもそうだったけど…やっぱり女子は怒らすと怖すぎる…!

 



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した14

分かってた。ラティもミリーも馬鹿じゃない。ドーンが感染している事はすぐに気付く。…だから……

 

「…ねぇ…キリトは知ってたんでしょ…?何で言ってくれなかったの…!?」

 

ミリーが俺をひっぱたき、俺を涙目で睨みつけているこの状況は確実に予想の付いた事だったと…

 

メトークス山の道中は比較的順調だった。俺たち四人はしっかりフェルウォームに対応出来ていた。…問題があるとすれば、それは…

 

「ドーン?どうした?」

 

「…いや、…何でもない。」

 

時折様子の可笑しくなるドーンの事だろう。明らかにドーンを怪しんでいる二人と裏腹に俺はドーンの不調の理由を知っていた…俺が二人に伝えようとする度に視線を送ってくるドーン…くそっ。思ったより罪悪感があるな……ああ、分かってるよ…ドーン…ギリギリまで黙っててやる…だから…そんな顔するな…。

 

……俺の選択が間違ってたのかは分からない…でも今、はっきり言えるのは……

 

「何とか言ってよ…!キリトは気付いてたんでしょ!?何で言ってくれなかったの!?」

 

「ミリー…キリトは「ドーンは黙ってて!」…ミリー…」

 

さっき無茶を咎められて正座で説教された時なんかより今、ミリーに涙目で糾弾されてる今の方がずっと堪えるって事だ…!

 

「…ミリー、キリトを責めるのは後にしよう。もう、時間が無い。薬草さえあればドーンも、マルトスさんも、きっと助かる…だから先を急ごう…。」

 

「……分かった。」

 

それだけ言うとミリーは俺とドーンから目を逸らした。

 

「…キリト、悪かったな…俺がお前に「良いんだ、ドーン…」キリト…」

 

「…先を急ごう。」

 

「…ああ。」

 

言葉も無く俺たちは先を進む……鬱陶しい筈のフェルウォームがいる事が少し有難かった…こいつらは手強い…こいつら相手に気は抜けないから…戦ってさえいれば余計な事を考えずに済む…。

 

「…ヒール。」

 

「…ありがとう、ミリー…」

 

「…うん…」

 

……鎧に付いた卵を叩き落としつつミリーに回復してもらいどんどん進んでいく…あと少しで頂上だ…。

 

 

 

頂上付近に着くと連中の姿が無くなった……前回ここまで来たことは無いから知らなかったけど…もしかしたら奴らは頂上付近では生きられないのかもしれないな…。

 

 

「…あれが薬草だ。」

 

「…あれを持って帰れば…」

 

「…ミリー、行ってこいよ、ドーンは俺たちが見ておく。」

 

「…俺は大丈「には見えないぞ。大人しくしてろ」……わかったよ…。」

 

さっきからドーンが立ちくらみを起こす頻度が上がっている…多分そろそろ限界が近いんだろう…。……このままでは…あの薬草が未知の病気である石化病に効くとは思えない…でも俺も信じたくなった…。仲間が目の前でこんなに苦しんでるのに…俺は何も出来ないから…!

 

「……分かった。行ってくるね…?」

 

そう言ってミリーが薬草を取りに…!何だ!?突然目の前で目もくらむ様な強い光が…!俺は思わず目を細める……光の中に誰かいる…?くそっ!一体何が起こってるんだ…!?

 

やがて光が収まるとその場に先程まではいなかった二人の人物が今、俺たちの目の前にいた。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した15

突然現れた二人組の男女は何処か見覚えのある服装をしていたがそんな事は今問題じゃない…!

 

俺は反射的に三人の前に出ると背中の剣に手をかけていた。

 

「…誰だ…!お前らは…!」

 

目の前の連中に襲って来る気配は無い…寧ろ困惑している様だったが関係無い。状況次第で敵になる可能性はある…!警戒を解く訳にはいかない。

 

「…そんなに警戒しないでくれ…。こっちに争うつもりは無い。」

 

男の方が俺にそう言うがそれを信じろと言う方が無理な相談だ。……そもそもこいつらは怪し過ぎる…!

 

「…あんたらが何者なのかは正直に言えばどうだっていいんだ。…単刀直入に聞く、石化病について何か知ってるか?」

 

俺は腹芸は得意じゃない。最も相手は嘘が余り得意なタイプじゃないのか、それとも意外な切り口から攻められて動揺したのかは分からないが奴らからは確かに反応があった…こいつらは今回の件について何かを知っている…!俺は半ば確信していた。

 

「…何か、知ってるな…!」

 

「…話しても構わない…が、まずその手を下ろしてくれないか…?さすがにそこまで警戒されると話せるものも話せない。」

 

「…おい、キリト…。」

 

後ろで話についていけなかったラティから声をかけられる。…仕方無い、か。

 

「…取り敢えず話を聞くだけだ。…妙な事をしたら…斬る…!」

 

俺は背中の剣に手をかけたまま後ろに下が…

 

「…キリト、ちょっと待て。」

 

「…何だ…!…おっ、お前ら…?何でそんな怖い顔して俺を見てるんだ…!?俺が何かした「キリト、正座」はいっ!?「せ・い・ざ」はいっ!」

 

と、その場に正座させられた俺は無茶をするなと三人から散々説教をされた……本日二度目の正座の上、さっきよりも長く座らせられたおかげで精神的にもヤバい…てか、たっ、立てない…!

 

「…コホン。そろそろ話をさせてもらっていいかな…?」

 

と、俺の説教をしている間ずっと放っておかれた男女の内、男の方が声をかけて来た……あー…うん。もう警戒する必要も無いかもな…少なくとも俺が説教されてる間、向こうは何時でもこちらに危害を加えることは出来た筈だ…。つまりこいつらは今の所一応味方と思っていいだろう…最も俺たちの現状を打破出来る存在なのかはまだ分からないけど。

 

「…こいつが勝手に決めたんで不本意ですがこちらも煮詰まってるのは確かなんで…取り敢えず話だけなら…。」

 

ドーンが纏めてくれる…。恐らくこれから始まるのは至極真面目な話な筈だ…何か俺のせい(なのか?)で空気が緩みまくってるけど…。取り敢えず俺は産まれたての子鹿の様に足をプルプルさせながら何とか立ち上がり一応の体裁を整えるため二人を睨み付け…

 

「…キリト、まだ座ってろ。」

 

ラティに肩を押さえられて無理矢理座らせられ…

 

「そうじゃない。正座だ。」

 

「え!?」

 

三人が俺を睨んでいた。おい!?それは今俺に向けるもんじゃないだろ!?……はいっ!座りますごめんなさい!?

 

三人の圧にビビった俺は本日三度目の正座に入った。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した16

結論から言えばそいつらの話は荒唐無稽、且つ意味不明と言った所だった…今、この世界に生きる俺の常識に当てはめればな。

 

「…神様?」

 

「…私たちは神様では無いわ。ただ、貴女たちより少し進んでいるだけの人よ…。…尻尾は無いけどね。」

 

「…あっ!本当だ!」

 

嘗てこことは違う世界に生きていた俺の常識に当てはめればこいつらの話の意味が分かってくる…。

 

ラティたち、この世界の住人は空の向こうには聖域があってそこには創造神トライアが住んでいる…という宗教観が根強い。…こいつらが空の上から来たと言うのを事実とした場合、ミリーの反応通りそれは神様に他ならないだろう…だが、ラティたちこの世界の住人には悪いが俺はそんなものを信じた事は無い。……俺の常識では空の向こうには宇宙がある。…こいつらの話を信じるならそこから来たのだろう…。こいつらが向こうの世界で良くテレビなんかで取り上げられた宇宙人等と言うつもりは無い。

 

…いや、この世界、と言うかこの惑星に来たこいつらは俺たちにとっては宇宙人に他ならないからあながち間違って無いけど…多分、こいつらは俺の知る地球より更に文明の進んだ地球から来た地球人だろう…もちろん違う可能性もあるがまず間違いは無い。道理でこいつらの服装に見覚えがあったわけだ…こいつらの格好は言うならば制服…いや、軍服に近いかな…テレビで見たSF関係の作品に出ていた登場人物たちの服装にも似てる気がする…

 

さて、こいつらの素性についてつい、つらつらと考え込んでしまったが話は聞いている…と言うか今の俺にはどうでもいいんだ…。俺はもう地球の人間じゃないからな。聞きたいのは石化病の原因だ。…いや、だから止めてくれ…銀河連邦とか設定盛りすぎだろ!?考えが脱線するから止めろ!?

 

「私たちに敵対するレゾニアが事もあろうにこの惑星ロークに伝染病の原因となった化学兵器を撃ち込んだ…。」

 

…そう言う事だったのか…ミリーが怒っているが俺は急速に頭が冷えていくのを感じた…それが本当なら俺たちの手に負える相手じゃない…!スケールが違いすぎる…!

 

さて、ここまで話したこいつらは結局何をしにきたのかと思えば俺たちの救済に来たんだとか…。再び黒い感情がもたげたが堪える…俺たちに見つかったのは予想外だそうでドーンや他のこの世界の住人を助ける事を条件にこちらに来ないかと持ちかけられている…ラティたちはもう他に方法が無いからとそちらに行く事を決め始めているが…俺は怒りを抑えるので必死だった…こいつらは俺たちから選択肢を排してる!

 

ここまで聞いた俺たちをこいつらが逃がす訳ない…!機密を守るのが仕事なんだろうしこいつらは多分命令を聞くだけの立場なんだろうがやり方が汚すぎる…!そもそもこいつらと俺たちには何の関係もない。…レゾニアの攻撃は完全にとばっちりだ。…巻き込まれただけの俺たちが何でこんな、デメリットの方が大きすぎる取り引きを持ちかけられなきゃいけない!?

 

しかもこいつらに着いてきたらもうここには帰れないだって!?ふざけるな!

…ラティたちはこの取り引きの理不尽さに気付いていない…!ドーンや他の人たちを助けられるならと承諾の方向に入っている…!くそっ!これじゃあ俺だけが異論を唱えるなんて出来ないじゃないか…!

 

目の前に広がる強い光にまた目をやられながらなし崩し的に今の生活を捨てなければならない事に俺は憤りを感じていた…。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した17

さっきよりも長くしかも至近距離で目をやられたためか、いつの間にか閉じてしまっていた目を開く。…既に視界を遮る光は無くなっており、そこにはあっちでは有り得ないほど機械的な部屋が広がっていた…最も今世で見た事が無いだけで、向こうなら…いや、ここまで近未来的な部屋はGGO位でしかお目にかかった事は…いや、それこそテレビでは見たか…無論創作物の話だが。

 

「ここは何処だ!?」

 

「ここが私たちの船さ。」

 

狼狽えるラティたちを他所に俺は内心多少動揺はしていたものの、付近を油断無く目だけを動かして見回していた。…何も無いとは思うけど、初めての場所に連れてこられて警戒しないようなら俺は生きては来れなかった。…これは最早癖の様な物だ。

 

「では彼をメディカルルームに案内しよう、着いてきたまえ」

 

そう言う男の先導で俺たちは部屋の外…

 

「…んぎっ!?」

 

俺の足に今まで忘れていた痛みが走る…!そう言えばさっきまで正座してたっけ…くっ…!たっ、立てないぞ…。

 

「…大丈夫?」

 

さっきの男女のうち、女性の方が声をかけてきた…どうも待っていてくれたらしい…つーかあいつら俺を置いて行くなよ…。

 

「…大丈夫です「本当に?」…すみません…てっ、手を貸して下さい…。」

 

凹みながらも俺は手を伸ばす…取り敢えず立ちあがれれば何とかなるはず…

 

彼女はニコリと微笑むと俺の手を掴む…ん?この手…俺がその手に軽い違和感を感じていると彼女は思ったより力が強いらしくそのまま俺を引っ張り上げた…

 

「歩けるかしら?」

 

「…すみません、肩も貸してください…。」

 

「ええ。良いわよ。」

 

クスクス笑う彼女に肩を貸してもらいながら歩く…ちなみに少し彼女に見蕩れてしまったのは内緒だ。…と、黙ってるのも何だ、さっき気になった事を聞いてみるか…。

 

「…何か武術の心得が?」

 

「あら?良くわかったわね?」

 

「武術をやってる人は手に特徴があったりしますから…。」

 

「ああ…成程ね。ちなみに私に限らずこの船に乗ってる人は何かしら自営の手段を持っているわよ?」

 

「へぇ…。」

 

何かやっぱり軍人みたいだなぁ…少なくとも民間の人間じゃ無さそうだ。

 

 

 

彼女に肩を貸してもらいながら自動ドアを通る…

 

「…驚かないのね?」

 

「何がです?」

 

「貴方たちの価値観では扉が自動で開いたら天地がひっくり返る程の衝撃じゃないの?現にさっきの彼らは驚いてたし…。」

 

「……」

 

しまった。迂闊だった。どうもこの人は親切の為だけに残った訳では無いらしい…。

 

「…正直に言うと貴方だけ彼らと明らかに雰囲気が違うから私が観察するように言われたの。」

 

はっ?

 

「…バラして良いんですか、それ?」

 

「何か貴方には隠し事しない方が良さそうだし…それに…」

 

「それに?」

 

「少なくとも悪い子じゃないと思ったのよ。…取り敢えず貴方が隠してる事についてはこの場では追求しないわ。…彼らにバレたくないんでしょう?」

 

「…助かります。」

 

俺は少しだけ彼女を信用する事にした。

 



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した18

「遅いわよキリト!」

 

合流してすぐ文句を言うミリー…いや、お前らが正座させたから歩けないんだろうに…と言う言葉は飲み込んだ…また正座させられたくは無い。

 

「…取り敢えずもう良いかしら?」

 

「…あっ、ええ。大丈夫です。ありがとうございました。」

 

そろそろ歩けるようにもなったので女性…イリヤさんから離れる…さっき自己紹介はされたが…あっ、そういや俺たちの名前…

 

「そう言えばまだ君たちの名前を聞いて無かったな。」

 

「ラティクス・ファーレンスです。ラティと呼んでください。」

 

「ミリー・キリートです。」

 

さて、次は俺かな。

 

「キリト・ツーベルクです。」

 

…この名乗りをするのは久しぶりだな…クラトス村には基本余所者は来ないからな…クール村の住人は大体知ってるし。…ラティの親父さんに家に連れてこられた時俺は咄嗟に浮かんだこの名を名乗った…アリス…怒らないよな…許してくれ…他にしっくりくる名前が無かったんだよ…

 

「…ドーン・マルトー…」

 

ドーン…辛そうだな…

 

「艦長、彼の容態が悪化しています。」

 

「うむ、急ごう。」

 

その後何人かここの乗組員らしき人たちが担架を持ってくると手袋越しにドーンを乗せ運んで行く。俺たちはそれに着いていく。

 

 

 

「これは?」

 

「驚くのも無理は無いけどこれが私たちの医療手段なの。」

 

人一人が入る大きなカプセルの中にベッド…今、そこにドーンは寝かされている…メデュキュボイドを思い出してしまった…更に嘗て俺の最愛の人アスナが友誼を結び、その後短い生涯を終えた少女の事も頭に過ぎる…まだドーンが死ぬなんて決まっちゃいない…!

 

「…さて、ここにいても仕方無いだろう。艦の中を見て回ったらどうだ?」

 

「艦長、それは未開惑星保護条約に違反します」

 

「今更それも無いだろう?私はブリッジに行っている。君が案内してやれ。」

 

「あっ!ちょっと…!もう!」

 

ラティたちは彼女に着いていくようだが俺は…

 

「…俺は残「気持ちは分かるけど貴方がいても今は何も出来ないし邪魔になるわ。特に貴方はここに来る前から酷い顔してるわよ?…気晴らしも必要よ」…分かりました…」

 

艦の中を見て回る…ラティたちはドーンの手前少し抑えているようだが何処も彼処も初めて見るものばかりで興奮が抑えられないようだ…

 

「…退屈?」

 

「…いえ、そんな事は…」

 

「…良いのよ。元々ここは民間向けの施設じゃないから…娯楽も少ないしそう思っても仕方無いわ…本音を言えば私もそう思うしね。」

 

「…そうですか…」

 

「そもそも貴方は友人が心配で心配で仕方無いって感じね…」

 

「…俺にとっては友人に留まりません。家族の一人です…。」

 

「…そう。でも貴方がそんな顔してたらダメよ。彼のためにもまずは貴方が、ね。」

 

「…分かってますよ。」

 

どうしても不吉な予感は拭えない。こういう時の俺の予感は何時も当たってしまう…



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した19

「この病気を治療するのは地球の現代医学では無理です。」

 

…そうか…。ミリーが掴みかかっているが俺は何となく予想してたから別に驚きは無い。薄情と言われそうだが、無理なものは無理という理屈は分かる。…もちろん、理解は出来ないけどな。

 

結局の所ドーンを助けるにはこのウイルスの宿主である生物の血液が必要だとか…にしてもまさか石化しても戻せるとは思わなかったな…。まだ何とかなるかもしれない…!ん?警報!?

 

「未確認生物?」

 

「ありえん事だ。行ってみよう。」

 

俺たちは転移室に現れたという未確認生物の確認へ向かった。

 

 

 

「艦長、この生物です。」

 

「なっ、何だこれは!?」

 

「フェルウォームだ!」

 

「そっ、それは何だ!?」

 

「やっぱりメトークス山で卵がついていたんだ!」

 

これは…俺たちのせいか…くそっ!

 

「でも、それなら何故センサーが反応しなかったのでしょう…?」

 

「分からん。だがまずはこいつを片付けるのが先だな。」

 

「でもフェイザーが効きませんよ。」

 

「何!?そっ、そんな筈は!?」

 

こいつらは普通に剣で倒してたけど…まさか兵器が効かないとは思わなかったな…。

 

「俺たちに任せて下さい。」

 

「大丈夫か?」

 

「問題ありません。…ラティ、効率が悪い。二手に別れよう…ミリーは俺たちのフォローを頼んで良いか?」

 

「もう…また無茶言って…」

 

「…でも、確かにそれが良さそうだ。行くぞ、ミリー、キリト!」

 

フェルウォームは一体一なら特に問題は無い…が…

 

「…くっ…やっぱりソードスキルだけだとキツイな…。」

 

あの世界では絶大な威力を誇るソードスキルはここでは平凡な剣技と化す。ラティは今目に見える衝撃波を打ち出している…案外早くドーンどころか俺も超えそうだな。…何かユージオを思い出すよ…。

 

「…ふぅ。何とか倒したか…。」

 

かと言ってそうそう負けられない。…ラティたちの方を見てまだ終わってないのを確認し、少し優越感に浸る。…何時までこうしてられるかな…?

 

 

 

「…終わったか。」

 

「…危ない!」

 

イリヤさんの声を聞き、ラティの方を見ると背後からフェルウォームが…!

 

「ラティ!」

 

「キリト!?」

 

俺はラティを突き飛ばすとフェルウォームに…!

 

「んなっ!離せ!」

 

噛まれた!くそっ!離れない…!

 

「キリト!待ってろ!たあっ!」

 

ラティの一撃でフェルウォームが動かなくなる。…俺は顎を切り離すと腕を何とか外した。

 

「…キリト!大丈夫!?」

 

「…大丈夫だ。ラティが早かったおかげであまり酷くない。」

 

「…脅かさないでくれ。寿命が縮んだよ…。でも助けてくれてありがとな。」

 

「そっちもな、ラティ。」

 

「呑気にしてないの!また無茶して!ヒール!」

 

「…悪い悪い。次は気を付ける。」

 

「次があったら困るわよ!?」

 

「…消えた。」

 

「…えっ?」

 

「彼が噛まれて血が吹き出した時、あの生物が消えたんだ。」

 

何を言っているんだ…?

 

「えっ?いますよ、ほらここに?」

 

「なっ!何!?」

 

「そう。貴方たちには見えるのね…」

 

「…あの…どういう事ですか?」

 

「…ちょっとメディカルルームに行きましょう。」

 

何が起きてるのか分からないまま俺たちはドーンの所へ戻った。

 

 



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した20

「血液の組成があらゆる面で地球人と異なります。色々異なりますが、分かりやすい所では酸素を運ぶヘモグロビンもローク人は銅を基本に作られています。」

 

イリアさんが突然転送室を出て行ってメディカルルームに戻ると忙しそうにしていたドクターを捕まえて地球人とローク人で肉体に違いはあるかどうか聞いていた…ほとんど違いは無いようだがどうも血が違うらしい…ヘモグロビンか、基本元素は鉄だと記憶してたけど…確かに銅なら全然違うな…でも何で今こんな話を?

 

「何が言いたいんだ、イリア?」

 

「あくまで可能性ですが、ローク人を石にする事で何か得られるのではないかと。そうする事でロークに化学兵器を落とした理由を説明出来ますし。」

 

「何かとは?」

 

何だこの不快な感覚は…?

 

「例えば未知の物質とか…」

 

「まさか…兵器か?」

 

「可能性はあります。それもレーダーに映らない未知の物質…」

 

成程。さっき俺の血を浴びたフェルウォームが見えなくなったとロニキスさんは言っていた…。…ステルス機を作るには充分な素材か。ミサイルにコーティングすればそれも見えなくなる…。そうか確かに戦争したい連中からしたら喉から手が出る程欲しい物質だな、今のステルス技術がどの程度進んでるか分からないけど…俺の時代のステルス機と言えばレーダーには映らないけど目視は可能だし自分でレーダーを出せばその電波を探知され居場所がバレていた…。

 

これは有益な資源だろうな…だけど俺たちは…

 

「…ふざけるな!俺たちは人間だ!軍事資源じゃ「落ち着いて。あくまで可能性の話よ、それに私たちは貴方たちをそういう目で見てはいないわ」…すみません。取り乱しました…」

 

そうだ…イリアさんに言っても仕方の無い話だ…。でも、考えるだけで胸糞が悪い…!

 

「…もし、そうならロークから石像が何体か消えているはずだ。調べてみよう、私は艦橋に行く」

 

「ドクター、この血液が石化する事で出来る物質から兵器になりそうな物をシミュレートしてみてください。」

 

「組み合わせは何万通りですよ…?」

 

「やるしかないのよ。」

 

「分かりました。」

 

手伝います…と口が紡ぎそうになるのを堪える…そうだ…俺がこの場でそう口に出す事は出来ない…それに、ここの端末のほとんどに見覚えが無い。使い方が分からない以上足手まといになる…。…待つしかないか…。

 

 

 

「…俺が今の日常を退屈だなんて思ったから…。」

 

「日常に刺激があった方が充実感はあるだろうさ…俺だってそう思ってた…だからお前だけのせいじゃない。」

 

「…二人とも何言ってるの?そんなの関係あるわけないでしょ。」

 

だと良いんだけどな…あの時もそうだった…俺はあの頃、日常が退屈だと思ってたからゲームにハマった。…そして俺は…あの頃と変わってない。俺に力があったら…今度こそ仲間を守ろうとしてたのにな…やっぱり俺には無理なのか…?

 



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した21

しばらく待っていたら、ドクターがロニキスさんが俺たちを呼んでいると言うので、寄り道をする事無く艦橋へ向かう……ここで俺たち全員が楽しめる区画と言えばあの仮想空間のみだろうが、ラティたちも普通にここに所属している人たちと違い、もう二度と帰れない故郷の風景を見る気にはならないだろう…俺に至っては仮想空間ならもっとすごい物を知っているせいか、どうにも子供騙しに見えて来る…

 

 

 

 

行った先で、二千万人分の石像が俺たちのいた惑星から消えていると言われ、衝撃を受けた。イリヤさんは逸るラティを宥めているが、この数が一挙に消えるのはどう考えても第三者が関わっている筈だ…そして、どうせろくな目的には使われない…!

 

俺が自分の無力を責めていると、ロニキスさんが地球でレゾニアとこのウイルスの宿主生物を渡すよう交渉するから報告の為、俺たちに同行して欲しいんだそうだ……下らない。法外な要求をされる以前に相手が乗る訳は無い…向こうに貴重な資源を手放す理由は無いんだからな…!

 

「ロニキスさん。」

 

「何かね?」

 

「その話、断っても良いですかね?」

 

「……何故かね?」

 

「無駄だからですよ。相手が俺たちを資源としてしか見てないのはもう明白です。いくら貰っても手放したりしませんよ。奴らにとって俺たちは金の成る木なんでしょうから。」

 

「しかし「そもそも何でそんなに俺たちの為に動こうとするんです?良心だけで動くには割に合わない話だ…どうせ、其方も資源として俺たちの身体を狙ってるんじゃないですか?」……」

 

「キリト!お前何言い出すんだよ!?」

 

「考えてみろよラティ…この人たちにとって俺たちは他人だ、何の見返りも無く、家族でも無く、友人でも無い奴の為になんて行動するわけが無いだろう?…こいつらは神なんかじゃなく、ただの人間なんだからな…ある意味行動原理は俺たちと同じなのさ…お前だってクラトスに住む人たちの為に命は賭けられても、全く知らない奴の為にその力を奮ったりはしないんじゃないか?」

 

「それは…」

 

「じゃあキリトはこの人たちが私たちを騙してるって思ってるの…?だってこの人たちはドーンを助けてくれたじゃない…!」

 

「そういう可能性もあるって事だよ。ミリー、一応言っておくとこいつらはドーンを助けていない…ただ御大層な容器を用意して、その中にドーンを入れただけだ…助けてない。それに言ってただろう?助けられないって…それが嘘で無いとどうして言える?」

 

「分からない…キリトは何が言いたいの…?」

 

「…レゾニアって連中が本当にいて、俺たちを狙って石化する物質を俺たちの惑星に撃ち込んだのかもしれない…でも、こうは考えられないか?実はそこにいる二人の所属する組織がその物質を撃ち込んだ犯人なんじゃないかってな。」

 

「なっ!?何を言っているんだ!?私たちは「そうじゃないって言い切れる根拠は?」それは…」

 

「言っても理解出来無いとか機密だとか、そういう理屈は抜きにして欲しいですね…そもそも俺たちは皆を救いたくてここに来たんです。アンタらの部下じゃない…!ちんたらやってる場合じゃないんですよ!既に仲間が石化病にかかってるし、ミリーに至ってはたった一人の父親が何時石化しても可笑しくないんです!…こっちは必死なんですよ!分かりませんか!?どうせ分からないんですよね…貴方たちがそうやって悠長な事言っていられるのは所詮他人事だからでしょう?」

 

「しかしドクターが言っていただろう?石化しても「石化しても元に戻せるなんて理屈をどうして俺たちが信じられると思うんです?それに、何らかの理由で石像に損傷があっても戻せるんですか?」……」

 

「話にならないんですよ。貴方たちの言う通りにして皆が助かると言う保証が無い…信頼出来る根拠が無い。」

 

「なら、教えてくれる?どうしたら…信じてくれるのかしら…?」

 

「…レゾニアと其方の情報を全てください…俺たちにも分かる様に編纂した上でだ。」

 

「なっ!?そんな事出来るわけが「本当に貴方たちが俺たちの敵じゃなくて味方なら…出来ると思いますけど?それとも出来無い理由が何かあるんですか?」しかし…!」

 

「…分かったわ「イリア!?」艦長、もう無理ですよ。このまま彼の信頼が得られなかったら…彼、何をやるか分かりませんよ?飲みましょう、彼の要求を…そもそも私たちは私たちのルールの上で勝手に彼らを拘束しているも同然の状態です…彼がどうしても内情を知りたいと言うならそれぐらいはこちらが折れるべきでしょう?」

 

「だが、編纂と言ってもこちらはどうすれば良いか分からないんだが「なら俺が情報を閲覧し、纏めます…もう分かってるんでしょう?俺がある程度其方の話を理解出来ている事を?」…分かった、だが部外者の君一人でそれをさせる訳にはいかん。イリアを同行させても良いか?」

 

「それぐらいは当然でしょうね。良いですよ、それに俺もイリアさんの監視が出来ますから。」

 

俺がそう言った時、イリアさんは少し悲しそうな顔した…目を逸らした。俺は間違えるわけにはいけない。せめてラティとミリーの事は守らないと…そこで、さっきフェルウォームがこの艦で発見された時鳴った音がまた聞こえ、続けて声が聞こえて来た…

 

『艦長、ドーン君の容態が…』



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した22

「重要な器官が石化し始めました…危篤状態です。」

 

ドクターがやって来た俺たちにそう告げた…箱の中で衰弱しきったドーンを見て自分の無力さを改めて痛感する…元々俺にはどうする事も出来無かったという事を分かっていてもこういう考えは無くならない。

 

「艦長…お願いがあります…」

 

「何かね?」

 

「せめて…せめて…最後は家で…」

 

「最後なんて…君はただ、少し眠るだけだよ…」

 

「でももし…もし…治らなかったら…」

 

「……分かった。」

 

「俺たちも「おい」キリト?」

 

「…ロニキスさん、ミリーだけでもお願いします…連れて行ってやって下さい。」

 

俺はラティが何を言うのかを察し、ラティの肩を少し強く掴み、言葉を止めさせるとそう言ってロニキスさんに頭を下げた。

 

「何言ってるんだよ俺たちは「キリトとアスナ」え…?」

 

「そう言えば分かるだろ?」

 

俺は俺とアスナの関係をあくまで架空の話としてだがラティには伝えてる…ここまで言えばさすがにどれだけ鈍感なこいつでも分かる筈だ。

 

「え…?…えぇ「騒ぐな」モガっ!?」

 

漸く意味を察したらしく叫び出したラティの口を手で押さえる…全く、その鈍感さ、それに空気の読めなさ…本当にそろそろどうにかして欲しいな…

 

「…分かった。その代わり、イリアを同行させるぞ。」

 

「仕方無いですね…」

 

…少なくとも、ラティがいるよりは気持ちは告げやすい筈だ。

 

 

 

「分かってるな?ドーン君は確実にベッドの上に転送させるんだ。」

 

「はい。」

 

「ロニキスさん、少し良いですか?」

 

「ああ。だが、手短に頼むぞ?」

 

「はい。」

 

ドーンに別れは既に告げた。…でもまだ言っておく事はある…俺はドーンに近付き、耳元で小声で声をかけた。

 

『ドーン。』

 

『…このお節介野郎。』

 

俺が何をさせたいのかは当然ながら察しているらしい…その察しの良さ…ラティに少し分けてやって欲しいよ…ま、あいつは別に馬鹿って訳じゃないし、事、戦いにおいては本当に鋭い…問題なのは恋愛面が恐ろしく鈍い事か。

 

『うっさい。そろそろお前の相談受けるの面倒なんだ、潔く玉砕して来い。』

 

『…フラれる前提かよ…』

 

『お前だって本当は知ってるだろ?ミリーが誰を好きなのか。』

 

『…ああ。俺だって本当は分かってたよ…勝ち目が無い事くらいは。』

 

『今しか無いんだ。お前はしばらく眠る…その間に二人の間に何も起こらないと思うか?』

 

『……』

 

『ケリを着けろ、もしかしたらワンチャンあるかも知れない。』

 

『……分かったよ。ホント、今までありがとうな、キリト。』

 

『…馬鹿。これでもう会えないみたいな事言うな…さて。じゃ、頑張れよ。』

 

『おう。』

 

「…お待たせしました。無理を言って本当にすみません…」

 

「いや、構わない…始めてくれ。」

 

「はい。」

 

そして三人は光に包まれ、俺たちの前から消えた。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した23

「それにしても驚いたよ…まさか二人がそう言う「あー違う違う」え?でもキリトとアスナって…」

 

三人が向こうに戻った後、ラティがそう言ったのを聞いて誤解しているのに気付いたので、訂正する。

 

「恋愛の話だと伝える為に言っただけだよ…実際ドーンが一方的にミリーを好きなだけで完全に片想いだしな…」

 

「そうなのか…てか、キリトは知ってたのか…全然気付かなかったな…」

 

「……正直、普通ドーンを見てれば分かると思うぞ…」

 

寧ろ、何で分からないのかと聞きたい。

 

「そうなのか?何時も言い争いしてたから…とてもそんな風には思えなかったな…」

 

…聞けば、ラティの親父さんも中々お袋さんの気持ちに気付いてくれなかったらしいからな…親子揃って鈍感か…

 

「そう言うアプローチの仕方もあるって事だよ…ま、大抵は相手に嫌われるのがオチだからあんまりおすすめはしないけどな。」

 

「そっか…ん?そう言えば何でドーンの片想いだって分かるんだ?」

 

「……」

 

そうやって突然察しが良くなるのホント何なんだろうな…全く。お前がもっと早くにミリーの気持ちに気付いてくれていたら、こうなる前にドーンも諦めも着いてだろうに。

 

「俺はずっと相談を受けていた…ドーンとミリーの二人からな。」

 

「じゃ、じゃあお前はミリーが誰を好きなのか知ってるのか?」

 

「ああ。」

 

「教えて「嫌だ」どうして!?」

 

「お前だったらどうだ?ドーンの場合は仕方無かったにしてもだ…通常、相談した相手が勝手に自分の好きな奴を他人にバラしたら?」

 

「それは…俺だって怒ると…」

 

「そういう事だ。」

 

と言うか、ドーンじゃ無かったらミリーが好きな相手は俺か、ラティしかいないと思うんだが…仮にミリーが好きな相手が俺なら俺に相談する訳無いし、自動的にラティしかいないと思うんだが…さっきの鋭い指摘は何だったんだ…?

 

「そう言われてもやっぱり気になるなぁ…」

 

「他人の恋愛事情に一々興味本位で首突っ込むな…仲間であってもその辺は当たり前だ。親しき仲にも礼儀ありって言うしな…ま、どうしても気になるならミリーに直接聞けよ、ミリーが自分で言う分には俺は何も言わないし。」

 

ま、実際は他人どころかラティは当事者だけど。

 

「それもそうだな…分かった。…ちなみにキリトは好きな奴いるのか?」

 

「……今、首突っ込むなって言ったばかりだろうが…」

 

「良いじゃないか、教えてくれよ。」

 

「……その内にな。」

 

本当はもう教えてるけどな…例えもう会えないとしても、俺が愛したのはサチとアスナの二人だけ…それは今も変わらない。

 

「さて、馬鹿話して少しは落ち着いたか?」

 

「…そうだな、これでミリーと話せるよ。」

 

「…よりにもよってこれから眠りに着くドーンから告白されたんだ…多分、ミリーのショックは相当大きい…例えミリーにその気が無いとしてもな…しっかり励ましてやれよ?」

 

「ああ。」



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した24

「反省…してたりなんて、する?」

 

「…軽率な行動をとって迷惑をかけたと思ってはいます。ですが、あいつらを殴った事に関しては反省も後悔もしていません。」

 

「そう…」

 

俺は今、独房でイリアさんと会話していた…

 

 

入れられた理由はそんな大層な話じゃない。ミリーが戻って来た後、当面の間俺たちの仮住まいになるだろう地球に向かう途中…例のレゾニアが接触して来た…よりにもよってステルス機能を着けた艦でだ…俺たちが見えていた辺り、間違いなくローク人の石像を使ったんだろうな…既にその時点でカチンと来ていたが、一応向こうの目的は争う事では無いとの事で急遽予定外ではあったが会談の場を設ける事になった。

 

 

 

 

一室に入って来たそいつらの表情に罪悪感の色は見受けられなかったが、元々顔に出にくい人種という可能性もある…と言うか、人種が違う以上、単に俺が見分けられないだけかもしれない…だが、その顔を見ててイラつくのも確かだったので敢えてそいつらが口を開いてからはずっと目を閉じていた…そいつらの声に少しでも申し訳なさが漂っているならまだ良かった…向こうは惑星一つを消滅させる程の力を持つ第三勢力に脅されてやったとも言っているしな…

 

 

……だが、俺はそいつらに手を出した…そいつらに反省の色は無かった…石化病を治す方法が無いのはまだ良い…予想の範疇だ…納得は当然出来無いが…だが、そいつらの自分たちに罪が無いとも言いたげの口調に俺がキレた。

 

だからそいつらの顔が腫れ上がる程にぶん殴ってやった…そうだな…その後取り押さえられてこうして独房に押し込まれて…改めて周りに迷惑をかけた事に申し訳無いとは当然思ってる…だけど…!

 

「俺からしたら…殺して無いだけ連中には感謝して欲しいくらいなんですよ…ふぅ…あいつらは!自分たちが使った化学兵器のせいで!石化病の蔓延した惑星から来た俺の前で!自分たちは一ミリも悪くないと言った…!殺してやっても良かったんだ…!」

 

「……」

 

「そんな目で見ないでくださいよ。結局ただの八つ当たりでしか無いのは俺だって分かってますよ…」

 

「キリト君…」

 

「…で、結局何の用なんですか?もしかしてもう俺の処分でも決まりました?」

 

「……いいえ。貴方はもうここを出られるわ。」

 

「…何言ってるんですか…?アレだけの事をしでかしてそんな簡単には「良いから…貴方は今から私とここを出るの」…どういう事ですか?」

 

「何がかしら?」

 

「…貴女は今、とても焦ってる様に見える…何を企んでいるんですか?」

 

「…そうね…出てから教えるわ…とにかく早くここを出ないと…」

 

「…もしかして、正式な許可を取れてないんですか?」

 

「そうよ…でも今更でしょ?貴方だって分かってる筈…今、ここを出ないと当分貴方は出られないわよ?」

 

「…出てどうすれば良いんですか…俺にはもう何も出来無いんですよ「ドーン君を助けられるとしたら?」…何か…あるんですか、方法が?」

 

「確約は出来無いわ…でも、ここで燻ってるよりは貴方にとってはマシなんじゃない?」

 

「……どうするって言うんですか…ウイルスの保菌者がいたのは三百年も前…既に生存はしておらず、血清も作れない…方法なんて…ある訳が無い。」

 

「…いいえ。たった一つだけあるのよ…可能性が…もう時間が無いわ…一刻も早くここを出ましょう…」

 

「分かりました…」



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した25

独房を出てイリアさんと横並びで歩く…

 

「惑星ストリームにあるタイムゲートですか…どうしました…?」

 

「…艦長から貴方の反応を確かめる為、一応ストリームについて分かってる事は一通り説明する様に言われたんだけど…やっぱり貴方こっちの話を大体理解出来てるわね…」

 

「…寧ろ今更そんな必要ありました?」

 

俺はもう自分で宣言したのだ…そっちの話が理解出来てる、と。

 

「貴方の事を疑いたくは無いんだけど、ね…」

 

「…仮に俺がスパイとかだったら俺は一体何年前からローク人として生きてるんですかね…」

 

「それは…そうなんだけどね…でも、そもそもそんな返しが出来る時点でやっぱり貴方異質だわ…」

 

「……」

 

この人にはもう言っておくか…正直余り疑われると面倒だしな…それにこの人はやっぱり信用出来る…何せ今からこの人とこの人の上司のロニキスさんはクビどころか、最早犯罪者も同然の扱いを受けるのを覚悟で俺たちを助けようとしてくれている…聞けば俺を強引に外に出した事もそうだが、惑星ストリームはそもそも立ち入り禁止の上、そこに行くのに艦を持ち出す必要すらあるのだ…ここまでされたら俺はもうこの人たちを疑えない。

 

「イリアさん…」

 

「何かしら?」

 

「俺が今から言う話は全て真実です…」

 

「…そう…良いわ、言ってみて。」

 

「俺には…前世の記憶があります…俺は前世では地球人でした…」

 

「……あの…何を言って「俺の前世の名前は…桐ヶ谷和人と言います」え!?じゃあ貴方本当に!?」

 

そう。イリアさんたちの名前も、俺たちの名前も名前が先に来て、次にファミリーネームが来る…つまり、俺が知らない筈の日本人名を口に出来た時点でどれ程荒唐無稽でも信じざるを得ないのだ…

 

「…そう、それなら確かに私たちの話を理解出来てても不思議じゃないわね…」

 

「ええ。とは言え、恐らくそちらの方が文明レベル的には進んでるとは思いますけどね…」

 

「ちなみに向こうではいくつの時に亡くなったのか、聞いても良いかしら?」

 

「…正直に言うと具体的な歳は覚えて無いんですよね…でも、大往生だった筈ですよ?」

 

何せ、仮想世界で出来た娘のユイの他に更に二人子どもがいて孫までいたのだ…しかも孫の方も既に成人していたのは確かだ…

 

「え…ちょっと待って…それならもしかして…貴方、私より歳上…?」

 

「精神年齢的な話にはなりますけど、多分…と言うか、当然ロニキスさんよりも上ですね…正直そう見えないのも分かりますよ?俺自身、この身体になってから精神も肉体に引っ張られるのか自然とガキっぽいというか、短絡的な行動をとってしまう事が多いと感じてるので…」

 

いや…本当にそうなんだよな…この身体に生まれ変わって後になってやらかした事に気付いて凹んだのは一度や二度じゃない。多少マシになったと感じたのは本当に最近だ…

 

「ま、俺の話はもう良いでしょう…あ、ロニキスさんには言っても構いませんけどラティとミリーには内緒でお願いします…」

 

「どうして私に教えてくれたのかしら…?」

 

「…貴女やロニキスさんは信用出来ると感じたからですよ…いや…実を言うと結構初めの方からそう思ってたんですけどね…ラティたちの事を考えたら、俺はやっぱりそう言う役割かなって思いまして…すみませんでした…」

 

「…もう良いわよ。理由も分かったから納得も出来たし…それに、家族を守る為なら間違いなく貴方の行動は正しかった…私はそう思う。」

 

「…ありがとうございます…」



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した26

ラティたちとの待ち合わせ場所に向かう道中イリアさんがこんな事を聞いて来た。

 

「私自身も本当は聞きにくいし…貴方も答えたくないなら答えなくて良いんだけど…」

 

「……何でしょうか?」

 

「貴方は…人を殺した事があるの…?」

 

「……さっき俺が言った事、ですか…?」

 

「それもあるけど…でも、そうね…聞いた時も思ったわ…貴方は多分実際に殺した事があっての上で言っている…でも、それ以上に一つ感じた事があったの…」

 

「……」

 

「…貴方が、まず目の前のテーブルを乗り越えて殴りかかった時、すぐに止めようとした…でも、動けなかった…恥ずかしい話だけど…貴方が…怖かったから…怒ってる筈なのに…貴方は無表情で最短ルートでターゲットの元へ辿り着き、確実に無力化していた…」

 

「やり方が洗練されてると?」

 

「ええ…普通はある筈の躊躇いがまるで無かった…」

 

「一応聞きますけど…俺は今世でも自警団として、盗賊と戦った事もあります…でも…そういう事じゃない訳ですね…?」

 

「私が思ったのは…貴方は前世で何人もの人間を殺したんじゃないかって事よ…盗賊は目先の利益の為に動くでしょう?だから自分の命の危険がある場合は普通は迷い無く撤退する…でも…貴方には明らかに命の奪い合いをした者特有の雰囲気がある気がするの…」

 

「……そんなもったいぶった言い方しなくても答えますよ…答えはYESです…俺は何人もの人間の命をこの手で奪った事がある…」

 

「そう…」

 

「…聞かないんですか?」

 

「ごめんなさい…私は…自分が納得したかっただけなの…それに、貴方の今の顔を見れば後悔しているのも分かるし…殺したくて殺した訳じゃないんでしょう?」

 

「…仲間と大事な人の命を守る為でした…ただ、俺が人殺しなのは事実です…」

 

俺の脳裏にアスナを守る為、殺した男の最後が過ぎる…その顔と俺に残した言葉が今も耳から離れない。

 

「戦争だったの?」

 

「…戦争だった事もあるし、私闘だった事もあります。」

 

ラフコフ討伐戦…あれは間違い無く一種の戦争だった…そしてまたある人物の顔が過ぎる…Poh…俺が後悔すべきは人を殺した事じゃない…奴を…この手で殺せなかった事だ…

 

「軽蔑しますか?」

 

「いいえ。私は…否定しないわ…それにこんな仕事もしてるし…今は良くても…何れはそうなると思ってる…」

 

「意外ですね…そっちの経験無いんですか?」

 

「私たちの戦闘は近代兵器のぶつけ合いが主だもの…直接手を下す事なんて滅多に無いわ…」

 

「……幸せな事だと思いますよ。」

 

「嫌味?」

 

「本心ですよ…本心から俺は貴女を羨んでいる…手を汚さずに済むなら俺だってその方が良かった…」

 

「そう言えば答えてないわね…後悔してる?」

 

「してません。あれは必要な事だった…今でもそれだけは言えます。」

 

「そう…でも言えないのね…ラティたちに。」

 

「その必要はありませんから…」

 

俺の過去は既にラティには話してる…精一杯ファンタジックに脚色して…それが事実だったと言うつもりは無いし、実はもっと血なまぐさい話だったなんてもっと言うつもりは無い。ラティたちが知る必要は無い…これから先もだ。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した27

「グズグズしてる時間は無い。整備士共が気付く前に艦橋に向かうぞ。」

 

ラティたちとは何だかんだ数日くらい会ってなかったが、再会の挨拶もそこそこにすぐに艦まで向かう…整備士を適当に丸め込み、強引に中へ入って行くロニキスさんに呆れ半分、感心半分の複雑な心境になりながらロニキスさんの後について歩く…

 

「……」

 

気を使ってくれたのか、待ち合わせ場所に着くとイリアさんはすぐに俺から離れ、俺はこうして今もラティとミリーの二人と一緒に後ろを歩いてる訳だが…

 

「…ミリーは機嫌悪そうだな…」

 

ミリーは先程会った時からあからさまにムスッとして黙ったままだった…

 

「お前の無茶に怒ってたからな…」

 

「そっか…ちなみにお前は文句無いのか?」

 

ラティは俺に「久しぶり」と声をかけただけ、そこからは普通に雑談と変わらない話をしていたし、奴からはあの一件について触れて来なかった。

 

「…お前がやらなかったら俺がやっていた…いや、これは言い訳だよな…結局お前がやってしまったし…とにかく今回は俺からは何も言う事無いな。」

 

「そうか…」

 

 

 

 

艦橋に辿り着き、イリアさんとロニキスさんが艦を発艦させて行く…ちなみに今回のこれは発案者はロニキスさんらしい…どうもかなり破天荒なタイプの様だ…それに今回助けられてるんだから文句は無いが。

 

「ロニキスさん…」

 

俺はやがて手の空いたロニキスさんに声をかけた。

 

「何かな…?」

 

「あの…ありがとうございました…俺の事、上に掛け合ってくれたそうで…」

 

イリアさんの話によれば俺は厳罰に処される所をロニキスさんが庇ってくれた事で一週間の拘留で済んでいる…結局途中で出て来る事になった訳だが…

 

「良いんだ…結局君の為に私が出来る事はそれくらいしか無かったからね…最も、本当は拘留自体無しにしたかったんだが…」

 

「それは…無理でしょう?無抵抗の相手をあれだけ殴ったんですから…」

 

とは言え、取り調べに当たった奴はそう思っている様だし、俺もそれに特に文句をつけてないがそもそも相手は無抵抗だったのでは無く、俺が抵抗させなかっただけなのだ…客観的に見たら相手は弱く、ろくに抵抗も出来無かった…そう見えても仕方無いが…

 

「…実際は無抵抗だった訳じゃないんだろう?」

 

「鋭いですね…でも、あの状況で相手が仮に反撃していてもそれは正当防衛。先に俺が手を出した事実は変わりませんから…」

 

そう、変わらないのだ…例え、武装放棄した状態での話し合いを提案した側が、普通に武器を持ってあの場に来ていたとしてもだ…俺も殴るまで気付かなかったし、それを理由に使うつもりも無い。ただ、あの状況、相手が動けなくなるまで殴り続けなければ俺は多分死んでいた筈だ…ラティたちが巻き込まれていた可能性もある…俺に途中で止める選択肢はそもそも無かったんだ…



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した28

「ちなみに彼らが持っていた武器と言うのは…」

 

「…二人の内、片方しか確認出来ませんでしたし、俺も実物を見るのは初めてですが…恐らくはコイルガンかと…」

 

あの螺旋状の金属…とは言え、俺もGGOで似た様な物を見てなければ気付いたかどうかは怪しい…ちなみにGGOではかなり旧式なエネルギー兵器という設定だった記憶がある…

 

「…それはまた…随分アンティークな代物だな…」

 

「やっぱり古いんですか?」

 

「…我々人類が本格的に宇宙に進出する少し前に製造された銃だからね…試作品はかなり大きな物で数年後には小型化には成功したが…今ではもっと性能の良い銃を使っている。」

 

「…威力が下がるにも関わらず、古いのを持ち出すメリットって何かあるんですか?」

 

「強いて言うなら、現状採用されているセンサーをほぼ素通りする事かな…」

 

……十分じゃないか。

 

「多分相手が生身の上、至近距離なら殺すのは容易いでしょう…暗殺には持って来いですね。」

 

「確かにな「貴方が失念していた様には思えませんが」そりゃそうだ、上の落ち度だからね。」

 

何処もそんな物か。

 

「…さて、そろそろ着く…準備をしておきなさい。」

 

「はい。」

 

 

 

 

転移の光に包まれ、俺は件の惑星ストリームの地に降り立った…正直まだ慣れない…

 

「…レゾニアの密使によればウイルスを手に入れる為、例の第三勢力はロークに向かった。」

 

「今から考えたら何百年も前の話ですよね…」

 

「そうだ、我々よりもはるかに文明の進んだ連中に違いない。」

 

ロニキスさんたちよりも進んだ文明…正直真っ向からはぶつかりたくは無い相手だ…

 

「私たちもこれから同じ時代に飛び、ウイルスを入手する。」

 

「その前に番人が私たちを受け入れてくれたらだけどね…」

 

惑星ストリームのタイムゲートには番人がいるのだそうだ…AIか何かかと思ったがそうとは感じられないらしい…最も、俺は人とほとんど変わらない超高度なAIを見た事がある訳だが。

 

「番人よ!ゲートを開いて欲しい!我々は三百年前のロークに行きたいのだ!」

 

ロニキスさんがそう声をかけ、番人の声が聞こえ…その時俺は正直それ所じゃない問題を抱えていた。

 

『汝は何者か?』

 

『っ!番人なのか…?』

 

何処からか耳に届く番人の声とは別に俺の頭の中でもう一つの声が響いていた…周りを見渡すがどうも聞こえているのは俺だけらしい…

 

『問いに答えよ…汝は一体何者なのか?』

 

『どう答えれば良い…いや、あんたは一体俺にどんな違和感を感じた…?』

 

『汝はここにいる他の誰とも違う特徴がある。』

 

『それは…?』

 

『今の自分と違う別の自分の記憶…それを汝は持っている。』

 

『そうだ…俺には前世の記憶がある…これで満足か?』

 

『汝はこれから行く場所で一つの重い選択を迫られる。』

 

『何だと?』

 

三百年前のロークに俺にとって重要な何かがあると言うのか?

 

『それはどういう意味だ?』

 

『……』

 

『おい!返事をしろ!?』

 

「キリト?どうした?」

 

ラティが俺に声をかけて来た…横にイリアさんが立っている…

 

「早く行こうぜ、二人はもう行っちまったからな…」

 

「分かった…」

 

二人が俺に背を向けて何時の間にか出現していたタイムゲートらしき穴に飛び込む…

 

「結局俺は何をすれば良いんだ?」

 

返事はもう返って来ない…俺は溜め息を吐くとゲートに飛び込んだ。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した29

「…っ…!…ん…ここ…は…っ!」

 

俺は硬い地面の上で目を覚ました…見知らぬ場所、それも外で寝てるなんて!そう思って一気に身体に怖気が走った俺は飛び起き、周りを見渡す…

 

「…ここは…クール村の近くか…?」

 

よくよく見れば俺が良く見慣れた場所だ…俺は本当に過去のロークに来れたのか…?っ!

 

「誰かが戦っている…!」

 

聞き慣れた金属音…それは明らかに武器と武器がぶつかり合う音…!

 

「あっちか!」

 

俺はその音が聞こえた方向へ走り出した。

 

 

 

「っ!…これは…」

 

ラティたちかと思って来てみたが、そこにいたのは見知らぬ男だった…少なくとも会ったのを忘れてるなんて事は有り得ない…こんな筋骨隆々、逆立った髪なんて特徴的な奴を忘れてるなんて有り得ない…そもそも良く考えたらここに来る前に俺たちは武器を手放した…金属音を立てられる訳は無い。

 

「……」

 

男は大声を上げながら複数の敵と戦っている…あの出で立ちは盗賊か…?何でかこの世界の盗賊は皆似た様な格好してるんだよな…それはまぁともかく…ラティたちでないなら俺がここにいる理由は…っ!?

 

「凄い…!」

 

俺はその男から目が離せなくなった…両手剣を持ったその男は一見適当に剣を振り回している様に見えて実際は相手の急所を的確に捉え、一人ずつ確実に仕留めていた…自分から仕掛けるだけでなく、取り回しのしづらい筈の両手剣で時にカウンターすらやっていた…俺は今までここまで両手剣を上手く使える奴は前世でも見た事が無い…!

 

「くそっ!本当にうざってぇ!テメェらしつこいんだよ!」

 

「不味い…!」

 

男が苛立ったような叫びを上げる…恐らく我慢の限界に達したのだろう…盗賊はまだそれなりの人数が残っている…集中力が切れてしまえば…!

 

「チッ「ヒャハ!貰ったァ!」なっ!?」

 

男が一人の剣を受け止めた時、別の奴が斬り掛かって来た…

 

「っ!止めろ!」

 

俺は思わず隠れていた場所から飛び出すと走り出していた…今の俺に武器は無い…!このまま飛び込んでもあの男を助けられない…!どうすれば…あれは!?俺は盗賊の方に向かっていた足を止め、強引に方向を変えると男の方に向かって走り出した。

 

「新手か!?「借りますよ」なっ!おい!お前!?」

 

俺は男の腰に刺してあった鞘から剣を抜くと男に斬り掛かろうとした奴に向かって走った。

 

「何だお前は!?」

 

「ハアッ!」

 

適当に繰り出した突きは相手の喉を貫き、相手はそのまま俺に向かって崩れ落ちた。俺は剣から手を離し腹を蹴り飛ばした…仰向けに倒れた男の身体を踏み付けながら剣を抜く…ふぅ。

 

「…味方って事で良いのか?」

 

その声に振り向くとあの男が頭の後ろを掻きながら立っていた…足元に一人倒れているからさっきの奴はきっちり仕留めたらしい…

 

「…ええ。」

 

「そうか…取り敢えずもう少し手伝ってくれねぇか?」

 

周りを見ればまだ何人か盗賊は残っている…

 

「…断れませんよ…ここで逃げてもこいつら俺を追って来るだろうし…」

 

「だろうな。」

 

そう言って男が笑う…犬歯の見えるせいでめちゃくちゃ凄味があるが、不思議と恐怖とかは感じられなかった…

 

「俺はシウス・ウォーレン…お前は?」

 

「キリト・ツーベルクと言います…」

 

俺がそう言うとまた男は笑った…何だ…?

 

「堅苦しいのは苦手なんだよ…俺の事は呼び捨てで良い。」

 

俺がこの男を助けたのは間違いじゃなかったのかも知れない。

 

「…分かったよ、シウス。それじゃ、先ずはここを切り抜けるか!」

 

「おう!」



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した30

「改めて礼を言わせてもらうぜ「いや、もう良いって」そうか?」

 

何とか盗賊を片付けた後、シウスが頭を下げて来たので上げさせる…やれやれ…筋骨隆々な身体を見せびらかすかのように上半身は裸だし、口調も荒いから極端にサバサバした奴なのかと思えば、実際はかなり律儀と言うか、義理堅い奴だったみたいだ。

 

その後…一応相手は悪党とは言え、死んでしまったらもう関係無いと二人で意見が一致し、連中の死体を弔った。

 

「あ、今更だけど剣を返すよ「いや、良い。俺にはこいつがあるからな…そいつはあくまで予備だったんだ。ろくに使ってなかったし、お前にやるよ…貸しも出来ちまったしな」…そうか?なら、有り難く…」

 

投げ渡された鞘を受け取り背中に着ける…いや、本当に有り難い…体術もある程度は出来るけど、そこまで自信がある訳じゃないし、武器屋で買おうにも三百年後の金が使える訳も無いだろうから正直助かる。

 

「…つか、助けて貰って何なんだけどよ…」

 

「何だ?」

 

「お前、こんな所で武器も持たずに何やってたんだ?…どうやら体術も達者な様だけどよ…明らかにお前は剣の方が扱い易いだろうと踏んだんだけどよ。」

 

「あー…」

 

そりゃ気になるよな…とは言え、当然詳しい事情は話せない…と言うかそもそも信じて貰える訳無いけどな…

 

「訳ありか。」

 

「え?」

 

「お前の顔見てたら何となくな…言いたくねぇなら別に良い。」

 

「…ありがとな。」

 

やっぱりこいつは悪い奴じゃないみたいだ。

 

「…で、だ…俺としてはお前に酒でも奢りたいくらいだが「いや良いよ…この通り剣まで貰ったし」俺はお前に命を救われたんだぜ?んなもんじゃ足りねぇよ…」

 

参ったな…俺は早くラティたちを探しに行きたいんだけどな…

 

「とは言えだ…」

 

「ん?」

 

「残念ながらここから近い町に酒場はねぇ…その代わりと言っちゃあ何だが…キリト、お前何か困ってる事はねぇか?」

 

「そうだな…それなら…」

 

 

 

 

「仲間とはぐれたか…そりゃ難儀だな…」

 

「多分近くにいるとは思うんだよな…」

 

多分…いる、筈…正直ゲートの仕組みが良く分からないから俺だけ変な所に飛ばされていても何ら不思議は無い。

 

「…で、俺に町に案内して欲しいって訳か?…お前道も分からずに本当に何やって…いや、良い…さっきも言った通り事情は聞かねぇよ。」

 

「ああ、助かるよ。」

 

結局律儀に俺に恩を返そうとするシウスに町に案内して欲しいとお願いした…一応見慣れた道の様に見えて俺が勘違いしている可能性があったからな…正直、ここが本当に三百年前のロークだとしたら地理も変化した可能性も考えなきゃならないし…

 

…とは言えシウスの先導で歩きつつ周りを見るが、俺の記憶と特に差異は無さそうだ…間違いなくここは俺の良く知ってるクール村に向かう為の街道だろう…最もこの先にあるのは町らしいが。

 

「取り敢えず町に着いたら俺は町の人に仲間の事聞くからそこまでで良いよ…シウスだって自分の旅の目的があるんだろ?」

 

「まあ、な…」

 

「なら、町に着いたらそこで別れよう。」

 

「そうだな。」



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した31

「着いたぜ、ここがホットだ。」

 

俺は周りを見渡す…俺が記憶にある村の姿とはとても似ても似つかない…どちらかと言えば、俺の住んでるクラトスに近いだろうか…?

 

「ありがとう、助かったよ…シウス。」

 

「気にすんな。助けられたのは元々俺の方だ…ん?じゃあキリト、ここで良いか?」

 

シウスがそう提案して来る…先程の視線の先から察するに目の前の露天商に興味を持ったのだろう…看板を見るにどうも武器屋の様だが…露天商という事は当然各地を回っている筈だ…ラティたちが近くにいない可能性も考えれば出来る事なら誰よりも先に話を聞きたいが…

 

「分かった、じゃあな。」

 

ここはシウスに譲るとしよう、向こうは俺にこの長剣を渡してくれた事だし…俺はシウスから離れ、近くにいた町の人に話し掛けた…

 

 

 

「そんなもんいるか!ふざけんな!」

 

シウスのそんな怒鳴り声が聞こえて来て溜め息を吐く…ちょうど今話していた町の人は苦笑いを浮かべている…

 

……何があったのかは知らないけど行かないと駄目だろうな…少なくともこの人の位置からは俺がシウスと一緒に町に入って来たのは見えてただろうしな…

 

「…すみません、ちょっと失礼します。」

 

俺は町の人にそう言ってシウスの所まで向かおうとしたがそうするまでもなくシウスはこっちに向かって来ていた…ん?…いや、今はシウスを宥めるのが先かな。

 

「シウス、どうした?」

 

「どうもこうもねぇよ…あのオヤジふざけた事抜かしやがって…!」

 

「詐欺か?」

 

「…そこまでは…言わねぇけどよ…」

 

…大方、売り物の剣を店主が自慢したんだろうが…実際は鈍でそれを経験から見抜いた短気なシウスがキレて叫んだ…って所だろうか…正直、俺もこの短時間でもうシウスの性格は何となく把握出来ていた…それはそうと…

 

「シウス…」

 

「ん?」

 

「紹介するよ…今、お前の後ろを歩いているのが俺の仲間だ。」

 

「お、そうなのか?」

 

「ああ…ラティ!」

 

「え…キリト!?」

 

「え!?キリト君!?」

 

ラティたちがこっちに向かって来た。

 

「お前何処にいたんだよ…!探したんだぞ!?」

 

「悪かったよ…と言ってもこっちもお前らを探してたんだよ…と、紹介するぞ、こいつはシウスだ。」

 

「シウス・ウォーレン…宜しくな。」

 

「ラティクス・ファーレンスです、ラティと呼んでください。」

 

「おいおい…堅苦しいのは勘弁してくれ…俺はシウスで良い。」

 

「じゃあラティと呼んでくれ、かな?」

 

「私はイリア・シルベストリ…私も呼び捨てで良いわ、シウス。」

 

「おう、宜しくな。」

 

 

 

 

狭い町という事もあり、シウスと共に移動する中、イリアさんが俺の肩を叩き、俺が振り向くとイリアさんは自分の後ろを指差していた。ラティはシウスとの話に夢中だから問題無いだろう…俺はイリアさんと共に二人から少し下がった。

 

 

 

「…で?どういう事かしら?」

 

「成り行きだったんですよ…つい、放っておけなくて…」

 

「分かってるわよね?私たちが目立つのは余り「いや、そうでも無いでしょう?」え?」

 

ま、そう思っても仕方無いけど、な…

 

「この時代の人と伝手があった方が色々とスムーズに進むと思いますよ?と言うか協力は必要不可欠でしょうね…」

 

何せ俺たちがこの時代で探さなければならないウイルスの保菌者と言うのは…

 

「魔界の王アスモデウス…素性は分かりませんが、肩書きから考えたら俺たちだけで接触するのは多分無理だと思いますよ?」

 

俺はこの時代の知識がある訳じゃないからな…魔界…今現在人間と友好関係にあるのか、それとも一食触発の危機にあるのか…どっちにしても、だ…

 

「積極的にこの時代の人と交流しましょう…別に素性を無理に言う必要は無いんですよ…どうせ信じても貰えませんしね…」

 

「…案外考えてたのね…」

 

俺は目を逸らした…いや、これは今考えただけで…シウスを助けたのは身体が思わず動いてしまっただけで…正直な話、助けた後どうするかなんてまるで考えて無かったし…



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した32

ミリーとロニキスさんの事を聞こうとして町の人に話を聞いていると、興味深い話を耳にした。

何でもこの町の道具屋の店主が冒険者に頼みたい事があるらしい…店の店主の頼み事だし、恐らく報酬の出る仕事だろう…俺たちの時代の金が使える訳も無いし、路銀は間違い無く必要だ…そう話をまとめる俺たちにシウスは暇潰しとしてついてこようとする…

 

「ちょっと…どうするの?」

 

シウスと話の盛り上がるラティを後目に俺を二人から離れた所に連れ出したイリアさんがそう言う…俺の返事は決まってるけどな。

 

「良いんじゃないですか。」

 

「は?」

 

「…あいつ、相当腕は立ちます…そもそも、仮に武力の要求される仕事だったらこのメンバーで今動けるの下手したら俺だけになるんですよ?」

 

元々、別に俺はシウスの人柄の話をしてはいない……イリアさんはそう思ってたみたいだけどな。

 

「信用出来る、出来無いの話じゃないです…イリアさん、正直に答えて下さい。貴女は武器を使っての戦闘に自信は?」

 

「……銃なら「ありませんね」……」

 

俺たちは武器を一切持っていなかった…俺たちがこの時代に行く条件は武器や通信機を全て置いて来る事だったからな。

 

「…しばらくは俺とラティで交代で戦う事も出来ますが、限界はあります…手が足りないんです。」

 

ラティ自身も体術は出来る…ただ敵を倒す決め手になる程の実力じゃない(その辺は俺も同じだけど)

 

「……」

 

自分の言った事の問題に気付いたのか、若干落ち込んだ雰囲気を出すイリアさんに本当に素直な人だな…という感想が過ぎった。

 

……まだ若いって事もあるんだろうけど、こんなんで組織で今までやって行けてたのかと不思議に思う…現場では既にそれなりの立場だったみたいだし。…さて、と。

 

「それで…改めて聞きたいんですけど、何故それを俺に言うんです?」

 

「え…?」

 

「ラティに言ったら良いじゃないですか。若しくはシウスにはっきり言ったら良いでしょう…信用出来無いからついてこないでくれ、ってね。」

 

「それ、は…」

 

…精神的にかなり強い方、それが俺のイリアさんの評価だ…後は柔軟な様で時々頭は固い…正直上司のロニキスさんがあの性格だし、苦労してるんだろうな、とは思う…そして。

 

「言っておきますが、俺は基本、ラティの方針に余計な口出しはしませんよ?…余程目に余るなら別ですけど。」

 

「え!?何故「今の俺は…あくまでもラティと幼馴染で、仕事の同僚…その立場を逸脱するつもりはありません」でも…貴方は…」

 

「貴女がいようがいまいが、俺にとって…リーダーはラティ…それは変わらない。文句があるなら俺じゃなく、ラティに言うと良いでしょう。」

 

「……」

 

彼女のその表情を見て薄々そうじゃないかと思っていたが、改めて確信してしまう…彼女は歳上に依存しやすいタイプなのだと…この場にロニキスさんがいないせいか、精神年齢が自分より上だと分かった俺に無意識にだろうが彼女は縋ろうしている…全く…俺は余計な荷物を背負い込んだのかもしれない。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した33

ホットの道具屋の店主が頼みたい仕事と言うのはこの町の先にあるメトークス山を更に越えた先にあるポートミスの武器屋からある物を受け取り、ここまで持ってきて欲しいとの事。

 

…で、報酬はそう多い訳じゃなかったがポートミスはそもそも通行証が無いと入れないとの事で金銭報酬にプラスしてそれも付けてくれるとか(そもそも持ってないと荷物受け取れ無い訳だが)

 

ちなみにいざ受けようとしたら店主は微妙な顔をした…そりゃ、四人いる内、武器を持ってるのは何故か二人だけ。…しかも四人の内一人は女性…結果的に仕事は受けれたから良かったが…正直イリアさんは仕方無いにしてもラティは早急に剣を手に入れる必要があるだろう…シウスが持っていた金属製のナックルのお陰で武術を得意とするイリアさんをギリギリ戦力として数えられる様になったから尚更な。

 

……と、いうわけで…通行証の用意に一晩かかると言う店主から頂いた宿代を使い早速宿に入ろうとするシウスに頼み込んでここまで来て貰った訳だ…

 

「おい…マジであのジジイん所から買う気なのかよ…?」

 

強引にここに連れて来られた事より、性能の怪しい武器を買おうとする俺たちを心配してるのが良く分かる辺り、やっぱりお人好しなんだろう…

 

「イリアさんはこれで良いにしても、ラティは剣が無いとこれから先ちょっとな…とは言え、仕方無いとは言え、鈍だと分かってる剣を店主の言い値で買いたくは無い。」

 

宿代を貰った時に気付いたのだが、意外にも俺たちの持ってる金と、この時代の金には見た目それ程差異は無かった…つまりそのまま使っても多分問題無い(筈…)

 

「…要するに俺に値切れってか?」

 

「そういう事…って言っても話すのは基本的に俺がやるから…どっちかと言えば、シウスはいてくれるだけで良いんだ。」

 

シウスみたいな見た目の奴がその場にいれば滅多な事も言えないだろう(既にシウスは店主と揉めてるから下手に会話させられない、と言う問題もあるけど…)

 

「…それは構わねぇけどよ…何でラティを宿に置いて来たんだ?あいつが使うんだろ?」

 

「あー…あいつ、こういう交渉事はどうもなぁ…」

 

「確かに素直な奴だったな…会話してて気持ち良い奴ではあるぜ?全然壁を感じねぇからな…けどよ?」

 

「ん?」

 

「そうやって…お前が毎回あいつ庇ってたら成長しねぇだろ?」

 

何時もやっているのが見透かされている…

 

「分かってんだけどなぁ…」

 

「…ま、俺には関係ねぇし良いけどよ。」

 

そう言って自分から話を打ち切るシウスに正直ホッとしながら俺は先程の露天商の所に辿り着いていた…この町には武器屋はそもそも無いらしく、この人の所から買うしかない。

 

「いらっしゃ…何だ、さっきの奴か…」

 

「さっきはこいつがすみません…あんな事言われて気分は良くないでしょうが、剣を見せて貰えますか?早急に必要で…」

 

「そうか…」

 

そこで言葉を打ち切ると黙って俺の方を見詰める…この男…どうも俺を値踏みしているらしい…

 

「ま、好きに見なよ。」

 

しばらくしてそう言うと俺から視線をズラす…どうもシウスを睨み付けているらしい…お眼鏡にかなったのかどうなのか…それを置くにしてもだ…シウスにムカつくのは分かるが、客である俺から目を離すのはどうなんだ…?そもそもこの爺さんは俺の背中にある剣の事を指摘しなかった…思ってた以上にアレな奴かも知れない…俺の深読みし過ぎなら良いけど…ま、万が一荒事になったらシウスに任せるのが一番良いか。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した34

俺の足元に並んでいるいくつかの武器の内、向かって一番左側にある剣の内の一本を屈んで手に取ってみた。

 

…部類的には見た目は向こうで俺が使っていた長剣とそう変わらないだろう。持ってみた感想としては軽くはないが、重過ぎるという事もない…ラティは特に問題なく振れるだろう。…大抵、ろくな強度の無い剣の代名詞でもある過度な装飾とかも無い(いや、それが悪いと言う訳じゃないけど…美術品と実用品は別物だとは明言しておきたい…)

 

「すみません…」

 

「…何だ?」

 

持ったまま、店主に声をかける…不機嫌そうに視線だけをこちらに寄越して来た。

 

「…少し振ってみても構いませんか?」

 

「あ?何でだ?」

 

…何でって…普通、先ずは試してみないと分からないだろう…

 

「…良いんじゃねぇか。」

 

シウスがそう言う…いや…お前が決める事じゃないだろ…

 

「おい、何を勝手に「あ"?」…っ…好きにしろ。」

 

シウスに睨みつけられて、あっさり引き下がる店主に苦笑を浮かべそうになるのを堪え、二人から離れた所に立ち、剣を剣技連携の要領で何度か振ってみる。

 

……う~ん…ま、使えなくは無さそうだな。

 

結局その剣を一度置き、他も何本か振ったが、それほど変わらない印象だった…

 

 

 

「…で、結局買うのか買わねぇのか?」

 

「…これ、いくらです?」

 

俺は一番最初に持った剣を掴むと店主に見せた。

 

「そいつなら400フォルだ。」

 

……いや…待ってくれ…

 

「おい、テメェ「シウス、待ってくれ」あ?」

 

声を荒らげるシウスを制すと俺は店主に言ってやった。

 

「さて…取り敢えず値切らせて貰いますよ?」

 

「何だと「この剣にそこまでの価値は無いですね…正当な価格で売って貰えますか?」あ!?」

 

「そうですね、せめて半額にして貰えますか?」

 

「ふざけ「うるっせぇ!!つべこべ抜かすんじゃねぇ!!」うおっ!?」

 

「ちょ!?待てシウス!」

 

店主に殴り掛かるシウスを慌てて止める…

 

「おい!離せキリ「いや待てって。こっちから手を出したら駄目だって。」つってもよ!こいつは!」

 

暴れるシウスを何とか宥め、俺は店主の顔を見詰めた。

 

「…半額は払いますからそれでお願いします…理由は…言うまでも無いですね…?」

 

顔色の悪くなった店主が首をゆっくり縦に振った。

 

 

 

 

「おいキリト…」

 

「ん?」

 

「…お前だって分かってたからああ言ったんだろ?」

 

「…剣の相場に詳しい訳じゃないけど、な…」

 

「正直、200でも高ぇと俺は思うけどな。」

 

「そこまで容赦無くも出来無いな…ま、反省はしたんだろうし、良いんじゃないか?」

 

「…ま、お前が良いならもう良いけどよ…」

 

あの剣に400フォルの価値は無い…下手したら数打ちの剣よりも脆そうなアレは…

 

「…取り敢えずポートミスまでもてば良いよ。剣の扱い自体は俺よりラティの方が上だ…もたすさ。」

 

俺はそう言ってシウスとの会話を打ち切った。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した35

「ほら、ラティ、買って来たぞ。」

 

宿に戻って来た俺はラティに買った剣を渡した。

 

「ありがとう、助かるよ。」

 

そう言ってラティは剣を受け取るとベッド近くの机に立て掛け…いや、おい…

 

「…なぁ、ラティ…」

 

「ん?」

 

「…いや、確認しろよ…」

 

一応使えると俺は判断したけど、俺がそう思っただけで実際どの程度ラティが使えるかは分からない…

 

「キリトがもう確認してくれたんだろ?」

 

「一応な。俺としては、取り敢えず実用には耐えるレベルだと思ったよ。」

 

「なら大丈夫だろ。」

 

……いや、何がだよ…何なんだよ、お前のその変な信頼は…

 

「良いからとっとと振って来いって…ほら、まだ外も明るいしな。」

 

「えー…」

 

「…お前な、そろそろ良い歳なんだからそう言うの止めろって。」

 

「ハァ…分かったよ、行って来る。」

 

そう言ってラティはベッドから立ち上がると部屋を出て行った。

 

 

 

 

「…おいキリト。」

 

ラティの様子を見に行こうとして部屋を出た俺に廊下にいたシウスが声を掛けて来る。

 

「ん?」

 

「…何処行くんだ?」

 

「…ラティの様子を見に「止めとけ」…何だって?」

 

「…言うつもりは無かったんだがな…一緒に仕事する以上、見過ごせねぇ…言わせて貰うぜ、お前は過保護過ぎなんだよ。」

 

「…そう、思うか…?」

 

シウスが頷く…本当は言われなくても分かってるんだけどな…

 

「お前…ただ仲間を心配してるだけとか言いてぇんだろ?」

 

「ああ「違う」……」

 

「お前がやってるのはただのお節介…しかも度が過ぎてる…」

 

「……」

 

「その結果が今のあいつだ…お前らにあるのは信頼じゃねぇ…依存だ。」

 

「…そっか…そうだよな…」

 

指摘されるまでも無い…分かってた…でも認めたくなかった…ラティなら最終的に俺がしてやる事なんて何も無くなると思ってた…でも、今日までラティの性格はそれ程変わらなかった…それどころか、ドーンを救えなかった今、俺はもう失いたくない…ラティとミリーは何があっても…守りたい…そう思ってる…でも…

 

「シウス、俺は間違ってるんだよな…」

 

「ああ。」

 

「…じゃあ…どうしたら良いんだ…?」

 

俺は目の前の男にそう問う…俺はそれなりに長く生きた…と、思う…はっきりとは覚えてないけど、人の平均寿命並には生きた筈なんだ…そして全てを覚えてる訳じゃないけど記憶を保ったまま、こうして新たな人生を生きている…でも分からない…何故なんだ…?

 

「知るかよ、そんなモン自分で考えろ。」

 

そして男はそんな俺に答えをくれなかった…

 

「つーかだな、俺はそもそもそんなのどうでも良いんだよ。」

 

「え…?」

 

「今したのは単なる忠告だ…それ以上何も言う気はねぇ。で、俺はお前に用がある。」

 

「何だ…?」

 

「今から俺と戦え。」

 

「は…?」

 

「さっき剣を振ってるお前を見て少し興味が出て来てな、俺と戦え。」

 

「…理由が無い「俺はある…それとも怖気付いたって事で良いのか…?」……」

 

これは…何だ…ああ…そっか…これは挑発だ。何時もぶつけられるのは嘲笑混じりの何かドロドロしたのばかりだし、ラティやドーンなんかになると、身内としての感情を含むしな…今、シウスがぶつけて来てる様な真っ直ぐな戦意なんて…本当に何時以来だろうか…?

 

「分かったよ、やろうか。」

 

そして今この瞬間、俺たちの助けを待ってる筈のドーンの事も、さっきまであれ程心配していたラティの事も俺の頭の中から完全に消えた。

 

……俺は…戦いたい…この男、シウス・ウォーレンと…!それ以外の事はどうでも良い…!



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した36

シウスの背を追い、町を出る…特に話しかけたりはしない。何処まで行くのかも聞く必要は無い…何となく分かるから。

 

シウスはメトークス山に入って行く…後を追う…しばらく歩いて…やがて…湧き水を吐き出す…獣の姿をした山壁が見えて来る…俺は足を止めた。

 

……シウスは俺を置いて歩き、獣の壁を通り過ぎ、更に歩いた後、漸く足を止め…振り向いた。

 

「ここなら邪魔は入らねぇ。」

 

「そうだな…」

 

俺は背中の鞘から剣を抜いた。

 

「…構えねぇのか?」

 

俺は剣を持つ手を下げたまま…下段構えにすらなっていない。だけど…

 

「気にしないでくれ、これが俺のスタイルだ。」

 

「…さすがだな。」

 

「ん?」

 

「それだと俺はお前の狙いが読めねぇ…」

 

「そんなつもりは無いさ…これが一番俺にあってるだけだよ。」

 

「…そうか。」

 

それきりシウスは口を閉じてしまう…狙いが読めない…は、俺のセリフだ…シウスはまだ剣を抜いてすらいない…でも、開始の合図なんて無くても分かる…先程からシウスは俺を睨んだまま、微動だにしない…まるで眠って…いや、確かに眠っているのとは違う呼吸の音が聞こえる…その音は勢い良く流れる水よりも、俺の耳には大きく聞こえる…

 

……剣の柄を握る手を一度緩め、また握り直す…息を吸い、吐く…集中しろ、もう始まっている…少なくともシウスの中では…やるからには無様に負けたくは無い…気合いを入れ直せ…俺たちの距離は今、剣の間合いには無い…俺の剣はもちろんの事、俺のより長いだろうシウスの剣も届かない…だが…油断など出来無い…見る限り、俺なら体感的に三、四步…一気に詰めるから体感的には一瞬…!?

 

「ウオオオオオオ…!!」

 

雄叫びを上げたシウスは何時の間にか、直ぐ前にいた…見えてはいた…でも反応出来無かった…言い訳はしない…シウスが空いていた距離を地面を蹴るようにして、一気に飛び、詰めて来るなんて状況を想定してなかったのは俺が悪い。それより今は…!

 

「オオオオオオ…!!」

 

今も雄叫びを上げたまま、俺の頭上に振り下ろされようとしてるシウスの剣を何とかしないと…アレはヤバい…!多分寸止めなんてシウスはするつもりも無い。どうにかやり過ごさないと俺は今ここで確実に死ぬ!

 

「クッ…!ハアアア…!」

 

ソードスキルをぶつける要領だ…俺なら出来る!絶対に!

 

「…今ので決まったと思ったがな…やるじゃねぇ…おお!?」

 

俺は振り下ろされるシウスの剣の側面に自分の剣を叩き付け、逸らす…そのまま剣を捨て、自分の上体を逸らし、飛ぶ…そして足を一気に振り上げた…やけに軽い感触と共に、シウスの身体が持ち上がるのが視界に入った。

 

体術ソードスキル…弦月。後ろに向かって身体を逸らしながら跳び、相手を蹴り上げる技…完全初見だと躱せる奴は少ない筈なんだが…

 

「…痛てぇな…」

 

シウスが顎を擦りながら両の足でしっかりと地面に着地する…もしまともに当たっていたならよろけたり位はしても良い筈…つまり…

 

「…俺の蹴りに逆らわず、跳んだ、か。」

 

「…基本だろ?見覚えの無い技なら尚の事、モロに食らってやるわけに行かねぇ…んじゃ、仕切り直しと行こうぜ?」

 

初見でそこまでやられたらもう何も言えないな…俺は溜息を吐きながら地面に落ちている剣を拾った…



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した37

「オラアァァァ!」

 

「クッ…!」

 

シウスが横凪に振るってくる剣を跳んで躱…んなっ!?

 

「ああああッ!」

 

咄嗟に足を振り上げた…上昇位置が更に上がり、俺の頭が下に行き、視界が逆さまになる…横に振り切られた筈のシウスの剣は途中でいきなり上に跳ね上がった…もしあのままだったら、俺の足は持って行かれていた…!

 

「っ…ハア…ハア…」

 

無理な体勢だったせいか、着地時の衝撃が足だけでは上手く殺し切れず、尻を地面に着けて座り込む。体力はまだ残っているが、呼吸は荒くなっていた…

 

「これも躱すかよ。」

 

「…足を斬られるだけならまだ容認出来るが…無くなるのは御免だな…」

 

剣を持っていない左手を地面に着け、立ち上がる。

 

「…続けるぜ。」

 

「ああ。」

 

 

 

 

「まさか一太刀も浴びせられないとは思わなかったぜ…」

 

メトークス山を出た所で横を歩くシウスからそんな言葉が聞こえ俺は溜息を吐いた。

 

「…冗談じゃない。お前の剣は全部必殺の威力だった…一太刀でも受けてたら俺が終わってたよ。」

 

「へっ…お前だって俺の喉を突こうとしたじゃねぇか。」

 

「…先に人の頭を割ろうとしたのはお前だろ。」

 

筋肉の鎧に包まれたシウスを倒すには他に選択肢は無かった。華奢な俺は一撃でも食らえば死ぬ…シウスの息の根を止める以外に無かった。結局出来無かったけど。

 

「…何も言わないんだな。」

 

「ん?」

 

「アレは模擬戦の域じゃなかっただろ?」

 

「…いきなり仕掛けて来たお前がそれ、言うか?」

 

足を止め、シウスに目を向ければ軽口を叩いてた割に顔は真剣そのもの。…こいつずっとこんな顔してたのか…

 

「相手がその気なら俺も躊躇わない…それだけだ…それに…」

 

「何だ?」

 

「…命を賭けなきゃ見えないものもある…だからお前も本気で仕掛けたんだろ?」

 

「…ああ。」

 

「…答えは出たか?」

 

「…いや…だがヒントは貰ったぜ…お前はどうだ?」

 

「俺は…何も。」

 

命を賭けての戦いは初めてじゃないから…

 

「そうか…」

 

そう言ってシウスは上を見上げる…俺も頭を上げた。

 

空には満天の星が瞬いている…

 

「綺麗だぜ…そう思わねぇか?」

 

「そうだな…ただな?」

 

「何だ?」

 

「…んー…お前がそういう事言っても正直、まるで似合わないから、止めた方が良いと思うんだ。」

 

シウスが頭を下げ、俺に目を向けた…

 

「…違ぇねぇな。」

 

そう言って笑うシウスに俺は呆れていたが…多分…俺も笑っていただろう…やれやれ…本当に面白いよ…こいつは…あんな事の後なのに嫌いになれない。

 

 

 

宿に戻ってみれば店の前に顔を顰めたイリアさんが立っていた。

 

「何処行ってたの?」

 

シウスと顔を見合わせる…こいつに喋らすと面倒か…顔をイリアさんの方に戻す。

 

「「…野暮用だ(ですよ)」」

 

シウスと言葉が重なり、二人で笑う…イリアさんの怒鳴り声が響いたが、俺は無視して、シウスと二人で笑い続けた。



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した38

人にやれと勧めるつもりは毛頭無い…が、模擬戦ではなくその上…命を賭けての戦いをすると意外に得られる物は多い…一番の利点はそのままの意味になるがそういう経験をしているという事だ…二回目、は無理でも大体三回目以降は元々極端に争い事が苦手でも無い限りは最早作業の様に事を進める事が出来る。

 

…何度も言うがやれと言うつもりは無い。しないで済めばそれに越したことは無い…実際、意味も無く、他人に殺し合いの相手をさせる奴は単なる異常者でしかない(それに応える奴も異常だ…)この考えは比較的平和だったあっちから、こうして日常的に刃を合わせる事が多いこの世界に転生して、生きて来た今も変わらない…いや、気を抜き過ぎればあっさり死んでも可笑しくない世界に生きているからこそ、尚更そう思ってしまうんだろう…

 

「どうしたキリト?ボケっとしてたら危ねぇぞ。」

 

「手は止めて無いだろ?」

 

シウスの言葉にそう返しながらフェルウォームの胴体を穿った剣をこじりながら抜いた。

 

……戦いにおいて経験の有無の差はやはりそれなりに大きい。実力的にも相手が格下であるならこうして片手間に片付ける事も出来無くは無い。

 

「つーか緩みもするさ。お前の姿見たらほとんどの奴が尻尾まいて逃げるしな…」

 

昨日のテンションがまだ抜けてないのかシウスからはずっと殺気とか闘志みたいのが出っ放しだ…いや…比喩じゃなくて見えるんだよ…こう、何て言うか…禍々しいオーラみたいのが…

 

「雑魚と戦っても仕方ねぇだろ?」

 

さっきチラッと聞いたが、シウスの旅の目的は剣の腕を磨く為…要は強くなりたいらしいけど…

 

「…この辺の連中が今のお前にビビらずに向かって来た所で相手にならないだろ?」

 

どう見ても全力の数歩手前程度の実力を惜しみなく振るうせいでほとんどモンスターの屠殺場めいて来ている場の惨状を見て溜息を吐く…と言うか…

 

「お前に聞きたいんだけど…」

 

「あん…?何…だよ?」

 

後ろにいたぶよぶよした不定形モンスター…俗に言うスライムと呼ばれる奴をこちらに目を向けたまま剣を突き刺し、その剣を持ち上げ、自分の前の地面に叩き落とした後、引っこ抜いた剣を何度も振り下ろして削りにかかるシウスに呆れながら、俺は気になっていた事を聞く。

 

「…そこまでの実力持ってて何でこんな所にいるんだよ…てかちょっとは自重しろ…見ろよ、お前に合わせられるのが俺しかいないからあの二人が退屈し始めてるぞ…」

 

こいつ、今朝日課の鍛錬やってた俺の所に乱入して来た癖にまだ足りないのかと思いつつ、俺たちから離れた所にいるラティたちの所に目をやる。

 

……そこにはこめかみを押さえて頭痛を堪えるイリアさんと、全く暴れられないせいか普段の明るさが消えてずっと渋い顔のラティがいた…

 

「良いだろ?仕事無い方が楽だろうが。」

 

「イリアさんはともかく、ラティにはもうちょい割り振ってやれって…」

 

生来かどうかはよく分からないが、元々客観的に見てもイカれてると言える程のバトルジャンキーの俺程じゃないが、ラティもそういう気はある方だ…元々、俺の過去の話を聞くだけで身体が動き出す程に刺激に飢えてる奴だからここまでお預けを食らうとどういう形になるかは分からないが暴発するかもしれない…

 

「つーか、もう一つの質問に答えてないぞ。」

 

「分かんねぇな…何が言いてぇ?」

 

「…この辺のモンスターはどう考えてもお前より弱い…要するにお前はもっと強いモンスターが出没する所にいたんだろ?」

 

「かもな…それで?」

 

「…何でお前はずっとこんな所を彷徨いてたのかって聞いてるんだ。」

 

「俺が長くここにいたって何で「俺をホットに案内したのはお前だ…それにお前は町に酒場が無いと断言した…少なくとも一回は既に訪れた事あるのは間違い無いよな?」……で?」

 

こいつ…

 

「…答えられないのか?」

 

「…答える理由はねぇな。どうしても聞きたきゃ…」

 

シウスはそう言って俺に剣の切っ先を向けた。

 

「…別にそこまでして聞きたい訳じゃない。嫌なら良いさ…」

 

「…そうかよ。」

 

シウスはそう言って剣を背中の鞘に納める…正直、こいつとはあまり何回も戦いたくない…こいつは基本、本気で向かって来るからはっきり言って非常に疲れる…

 

「ただ…一言言わせてくれ。」

 

「何だ「お前の求める答えを俺は持ってない」!…そう、か…」

 

何となく予想はついてる…シウスが強くしたかったのは自分の剣技よりも心なんだと…どちらかと言えば明確な指標があったのでは無く…何かから逃げる様にしてここまで来てしまったのだと…全く。

 

「俺はお前の悩みに答えは出せないけどな?」

 

「ん?」

 

「これからは俺じゃなく、ラティを見ていると良い…多分、それがお前の為になる」

 

「…成程な。」

 

「…という訳で自重しろ…先ずはラティの戦いを見るのが一番の近道だ。」

 

「おう。」



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キリトがスターオーシャンの世界に転生した39

「キリト。」

 

「ん?」

 

「…あいつ、面白ぇな。」

 

「だろ?」

 

俺の話に乗ったシウスがラティの戦う姿を見てそう口にした。

 

 

 

「パッと見、突出して光る物は別にねぇが…中々良い動きをしやがるな。」

 

「ラティの場合、基本的な事をやって来ただけだからな…邪道は無い。」

 

「…横道に逸れなかったからこその強さって訳か。」

 

「ああ。最もそれだけじゃなくてな、頭の回転が早いから突発的なイレギュラーにも対応してのける…応用力は高い。」

 

「矛盾した能力だな…だが、実際に実現している…あいつには隙があまりねぇ。」

 

「あまり、か…」

 

「俺ならまだ付け入る隙はある…つーかお前なら本気でやったら瞬殺だろ?」

 

「…買い被り過ぎだ。そんなに強くないよ、俺は。」

 

「…本当にそうか?」

 

「何だよ、昨日、俺は間違い無くギリギリだったんだぞ?」

 

「俺はまだお前には先があると思ってんだがな?」

 

「何を根拠に「お前、何で盾を使わねぇ?」ん?」

 

「お前やラティが使う剣は両手で扱わなきゃならねぇ程長くもねぇし、そう重くもねぇ。要するにほぼ確実に片手が空く訳だ。」

 

「……」

 

「その片手を遊ばせとく理由が分かんなくてな…お前、何か隠してねぇか?」

 

……六十点位かな?それだと核心は突けてないぜ、シウス。

 

「それも俺のスタイルさ「身体に軽鎧を着けただけなのもか?」…ああ。」

 

惜しいな…それじゃ後プラス五点くらいしかやれないな…まだ合格じゃない。

 

「…ま、機会があったら見せてやるよ…」

 

シウスとはこの仕事が終わればお別れだ。その先は無い…多分。

 

「そうか。んじゃ、楽しみにしてるぜ。」

 

……ん?

 

「お前、この仕事が終わったら「俺はそうならねぇんじゃねぇかと思ってるぜ?」…そうかもしれないな。」

 

ラティなら引き留めそうな気がする…

 

「ねぇ?貴方たち喋ってばかりいるけど仕事は「「誰に言ってる(んですか)?」」……」

 

イリアさんが俺たちに声をかけてくるが心外だ…俺たちはちゃんと戦闘は熟してる…確かにラティに回す為多少手は抜いてるけど。

 

「こっちは気になさらず。」

 

「そういうこった。」

 

「…そう…やってるなら別に良いわ。」

 

その一言と共に俺たちから視線を外したが、直前に一瞬だけイリアさんは俺を睨み付けた。

 

『後で話聞かせてもらうわよ?』

 

『どうぞご自由に。』

 

……別に俺に読心の能力なんて無いが彼女の考えはその目からしっかり伝わって来た。特にやましい事は無いから俺も澄まし顔で気持ちを送ってやる。

 

「……」

 

直前とは言え、こっちの言葉はちゃんと伝わったらしく、あからさまに不機嫌そうな横顔が見えた。

 

「…キリト。」

 

「ん?」

 

「……女は怒らせると面倒だぜ?」

 

「…知ってるよ、良~く…な。」

 

「なら、良いけどよ。」



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら1

いい勝負はしそうでも七夜の暗殺術だと幕末の一撃必殺系の剣術と相性は悪そう


「何しやがる!」

 

入口近くに立て掛けておいた完成品の傘を踏み壊されて俺は思わず声を荒らげた

 

「七夜だな?我々と共に来てもらおう」

 

押しかけてきた警官の一人にそう言われ俺は一瞬反応したがすぐにこう返した

 

「…七夜?誰だ、それは?人違いだ。さあ、早く帰ってくれ。アンタらが売り物をぶち壊してくれたおかけで余計な仕事が増えちまったからな」

 

そうして先程までしていた作業に戻ろうとした

 

「…来ないなら力づくでもと言われている」

 

横目でその警官がサーベルの柄に手を掛けるのを見た瞬間に俺はソイツに肉薄し顎を蹴り上げた

壁にソイツが激突しそのまま呻いていたがやがて静かになった

 

「…貴様!大人しくしろ!」

 

次に別の警官の鳩尾を蹴り付ける

ソイツが呻いて昏倒したのを確認し俺はそのまま入口の戸を蹴破った

 

「待て!待たんか!」

 

俺は夜の闇の中を長屋の間を縫うようにして走る

 

この辺りは俺の庭みたいなものだ

障害物を避けながら時折物を多少崩しただけで奴らの動きは鈍くなった

 

クソ!一体誰が俺の正体を警官に告げ口したんだ!?

もう俺の正体を知ってる奴は生きていないはずだが……

……今はそんな事を考えても仕方が無い

俺は奴らを撒けたのを確認すると長屋を抜ける事にした

 

そんな俺に立ちはだかる影が……

帽子は被ってないがアレも警官か?

 

「…チッ!そこを退け!」

 

俺は速度を落とすこと無くソイツに突っ込みそのまま奴の顔面に蹴りを叩き込もうとして……そこで俺に向かって来る刀の切っ先に気付いた

 

「チッ!」

 

俺は無理矢理速度を落としそのまま横に飛んで牙突を躱した

 

「フン。今のを躱すか。どうやら鈍ってはいないようだな」

 

その時今まで雲に隠れていた月が姿を表し少し明るくなった

 

そしてさっきまで暗くて見えなかったソイツの顔を照らしだした

 

「…壬生浪…新選組三番隊組長、斎藤一」

 

「…久しぶりだな、糞餓鬼」

 

俺は構えた

コイツ相手に加減してたら殺される…!

 

「……一応俺は戦いに来たわけでは無いんだがな」

 

「よく言う。さっきのは躱せなければ俺は死んでいた。大体、戦いに来たわけじゃないんなら今更俺に何の用だ?アンタが警官やってるのも驚いたが俺は別に警官にしょっぴかれるようなことはしちゃいないぜ?」

 

「フン。あの頃貴様が殺した人数は一人や二人じゃない。少なくとも本来であれば貴様は俺がこの場で斬っている」

 

……どうやら本当に戦う気は無いらしい

俺は構えを解いた

……瞬間に再び牙突が襲って来た

 

「…!クソ!」

 

俺は刀を足で滑らせるようにして流しそのままの勢いで奴の腹に蹴りを叩き込もうと……

 

「いい反応だが、甘い!」

 

奴刀を手放し俺の足を止めていた

そのまま投げ飛ばすされ受身をとる俺に奴は告げる

 

「…貴様に仕事を持ってきた。志々雄真実を憶えているか?」

 

今夜は良く死人の名前を思い出す日だ……

 




主人公

七夜志貴に容姿が似た全くの別人
るろうに剣心世界に存在する七夜の里に誕生し七夜一族の暗殺術を学んでいた
ある日退屈した彼は里を飛び出し暗殺により路銀を稼ぎながら幕末の血で血を洗う抗争の続いている京に辿りついた
京で倒幕側、幕府側のどちらにも所属せずその暗殺術を振るい続けた

斎藤一とは一度やり合ったがその時は勝てず隙を見て逃亡

昼間は普通の少年として一見穏やかに生活しており剣心とはこの時に先に出会った
夜の暗殺時は顔を隠しているが剣心には一度戦った後正体を看破されてしまった

ちなみに七夜は七夜一族の体術を使っているためそれを知る者達から付けられた通り名であり彼は七夜を名乗ったことは無い

戦いが激化し暗殺が難しくなると彼は行方を晦ましそのまま明治に入るまで行方知れずだった

現在は東京にて傘職人をしている

七夜の里の設定
人外専門の暗殺一族では無く完全に対人専門になっている
歴史の転換期に彼らが関わっている話が一町民にすらまことしやかに語られてしまっているほど有名である
ただし七夜の里の場所は一族の者以外は誰も知らない


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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら2

「なあ、長い話になるのか?なら、一旦戻っても良いか?煙草…!とっ。……こいつぁ巻き煙草かい?随分洒落たの吸ってんだなぁ?」

 

俺は渡された煙草の箱をしげしげと眺める……へぇ……

 

「吸わないなら返せ。」

 

「いや?有難く頂戴しよう。」

 

巻き煙草を箱から一本抜き口に咥える。

 

「…火はあるかい?」

 

聞くと今度はマッチの箱が飛んで来た……一々投げるなよ。

 

「……」

 

煙草に火を着け、吸ってみる……美味い。

 

「堪能してないでさっさと返せ、糞餓鬼。」

 

俺は煙草の箱とマッチ箱を指に挟みそれぞれ違う方向へ投げてやったが奴はその場からろくに動かず片手で難無く回収した。

 

「…んで?志々雄がどうしたって?あいつは死んだんじゃねぇのかい?」

 

俺は奴との邂逅を思い出す。……噂には聞いてたが会ったのはあれが初めてだったな……

 

「何故貴様がそれを知っている?」

 

「…そりゃああいつが追われる時に出くわしたからだよ。気になって跡をつけたら最終的に油を撒かれて火をかけられたあいつがいるじゃねぇか。……あれで生きてる奴が居たら御目にかかりたいねぇ……」

 

「奴は生きている。」

 

「…!へぇ……」

 

噂以上にしぶといな。

 

「志々雄真実が生きているのは分かったよ。で、俺に何をさせたい?」

 

「……志々雄真実の殺害の協力だ。」

 

「あんた警官だろ?てめぇでやりゃいいじゃねぇか。あいつは悪党で有名だったからな、どうせあんたまだ悪・即・斬とやらを掲げてんだろ?」

 

煙草を地面に吐き捨てる……こいつしばらく火は消えねぇのか?……念の為草履で踏み付け消す。

 

「お前は強い剣客と戦えればそれで良かったんじゃないのか?」

 

「昔の話は止めてくれや。俺ぁ今はしがない傘職人だぜ?……大体あいつが生き残ってたってどうせ寝たきりだろ?」

 

「あいつは健在だ。何人も警官が斬られてる。」

 

「斬り合いから遠ざかった俺が言うのも何だけどよ、今の警官はそんなに強えのかい?」

 

「結局来るのか?来ないのか?」

 

「来なかったらしょっぴく…!いや……この場で俺を斬るかい?」

 

「……」

 

「…そう殺気を込めないでくれ。血が騒いじまう……分かった……と、言いたい所だが……無理だな。」

 

「…何故だ?」

 

「……武器がねぇ。」

 

「匕首はどうした?」

 

「……とっくの昔に質入れしたよ。もう帰っても…!あん?」

 

「そいつを使え。」

 

鞘付きの短刀、ね。……俺の持ってたモンとは違うが握るとしっくり来る……

 

「良いのかよ?廃刀令の御時世だろ?」

 

「俺が許す。使え。」

 

「へいへい。んじゃ、軽く準備して来ても良いかい?何せ突然の誘いだったから店に休業の札も掲げてねぇのよ。」

 

「構わん。そもそも貴様以外にもう一人連れて来る予定だからな。」

 

……もう一人?

 

「へぇ。そいつぁ、誰だい?」

 

「……抜刀斎だ。」

 

「…!緋村?あいつ生きてやがったのか!?」

 

この中では一番早死にしそうに見えたがな。

 

「あんたあいつを殺したがってだろ?何で見逃したんだい?」

 

「……貴様には関係無い。……さっさと行け。猶予に三日やる。」

 

そう言って奴は踵を返す……俺がこのまま逃げ出すとは思わねぇのかねぇ……まあ……

 

「こんな面白い話に首を突っ込まない訳ねぇけどな……!」

 

俺は我が家に足を向けた



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら3

「今夜は満月か。風流だなぁ……」

 

明日は斎藤一から言われた期限だ。……緋村の勧誘に三日ねぇ……根回しは大事かもしんないが……

 

「どうせ趣旨変わって殺し合いしてんだろうなぁ…」

 

緋村が生きてると聞いて所在を確認しようと当たったが……まさか同じ東京にいるたぁな……

 

「俺も行けば良かったかな?」

 

あの二人の殺し合いに乱入したらそれはそれで楽しそうだ……まあ……

 

「今の俺じゃあ、直ぐ斬られるだろうがな……」

 

久々に命のやり取りをしたとはいえ、まさかああも動けないとは……

 

「多少鈍ってるが……身体には問題無い……後は俺の心構えの問題だ。」

 

ろくに人も殺してない俺じゃあ恐らく志々雄真実の足元にも及ばん。……まあ今の緋村も錆び付いてそうだが……

 

「あいつが不殺を選ぶなんてな……」

 

単に斬り合いから逃げた俺と違いギリギリ迄死地に身を置いて出した結論だ……俺とは根本から違う。

 

「…あの頃の俺に戻る必要がある。」

 

俺の目の前にはヤクザの事務所がある……物好きにも嘗て俺を拾った傘職人の爺さんのこさえた借金の貸主だ……元々本気で全額返す気は無かったが……

 

「…俺があの頃に戻るには丁度いい相手か。」

 

煙管の灰を捨て懐に仕舞う。そのまま奴から貰った短刀を出す。

 

「……行くか。」

 

 

 

「…歯応えが無いな。あんたはもう少し楽しませてくれるのかい?」

 

「夜七……!てめぇこんな事してただで済むと思ってんのか!?」

 

……自分の名は捨てたが七夜を名乗る気は無いからな、ただ入れ替えただけだがこの変名は割と気に入っている

 

「…金の話はうんざりだよ…二言目にゃてめぇら金の話ばっかだ。……俺ぁしばらく東京を離れる用事が出来たんだよ。……追ってこられちゃあ困るんでな、ここで全員狩ろうと思った迄よ。」

 

「…糞が!」

 

強面の兄ちゃんが向かって来る……こいつの名前は何て言ったけな、覚えてねぇや。

 

「…今更木刀で俺が殺れるかよ……」

 

「…!」

 

「未熟。……あんた人殺したことねぇだろ?」

 

まさか素手で止めれるたぁな……ここの連中はこんなんばっかりか……まあ数だけはいたから食いではあったし……それに……

 

「あんたらには感謝するよ。おかけで殺人鬼に戻れた……!」

 

「…畜生!離しやがれ!」

 

「おう!これでいいかい!?」

 

奴が木刀を引っ張るのに合わせて手を離す……奴は尻餅を着いた……丁度いい!

 

「…斬る!」

 

閃鞘・七夜……こんな雑魚にゃあ勿体無い技だが……

 

「俺からの礼だ!閻魔に宜しく言っといてくれ!」

 

俺は奴をすれ違いざまに斬り裂いた。

 



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら4

「おらどうしたよ!?お前らそんだけ頭数いて男一人殺れねぇのか!?」

 

逃げて行く連中を壁を蹴り天井を走り追いかけ、仕留める……無抵抗の奴を殺すのは本来趣味じゃないがこいつら誰一人逃がすつもりは無い。

 

「ヒィ!助けて「逝け」……」

 

「…しかし下手だね、どうも……」

 

あの頃と何も変わってない。せっかくの暗殺技が俺は暗殺に使えていない。……俺はただ殺すだけ。……殺人鬼としては相応しいか。

 

「しっかし、誰だ?火の始末をしてねぇのは……」

 

事務所は今炎に包まれている。さっさと逃げたいが……

 

「……そこか。」

 

俺はさっき仕留めた獲物の懐から出した短刀を障子戸に向かい投げる

 

「…ぐはっ!」

 

「……命中。」

 

何処へ行っていたのかは知らんがさっきから事務所に人が何人も戻って来てやがる……警官かと思えば大半がどう見てもここの人間だった。

 

「もう少し粘るか。憂いは断っておきたい。」

 

こうなったらとことん人間狩りを楽しませてもらうとしよう……!

 

 

 

「無為。……話にならん。」

 

眠い。……飽きて来たな、こいつら弱過ぎる。

 

「…そろそろ逃げ……いや、もう遅いか。」

 

外を大量の人間の気配……野次馬と火消しの連中と警官だな。

 

「…遅い。……仮にも暗殺技巧を身につけた者をその程度で殺れると思うな。」

 

死角から短刀で斬りかかって来た奴を躱しさっき回収した短刀で刺し、捻じる。

 

「悪いが留めを刺す暇は無い。まあ運が良ければ助かるだろうよ。」

 

俺は事務所を後にした。

 

 

「…何とか撒けたか。」

 

あの場は警官より火消しが多く、幸い素人しかいなかったからあの場を離れるのはそう難しい事じゃない……ただ……

 

「何であんなに警官がいやがる……!」

 

まさか出て角を曲がった所に警官がいるとは……!俺の格好は血塗れ。さすがに見つかればただじゃ済まん。

 

「…ふいー。びしょびしょだな。」

 

血のついた着物を川で洗い、ねぐらに帰って来た。

 

「…香は何処だ…?」

 

血の匂いを消さないとならん。……俺はあの頃はもちろんの事、今も風呂に入るのを面倒くさがって香油を良く身体に塗りたくっている。

 

「…ああ。あったあった。」

 

俺は香油を身体に塗り始めた……

 

 

 

「…起きろ、糞餓鬼!」

 

「…!待て待て!今起きるから刀を退けろ!」

 

「…!貴様昨夜は何をしていた?」

 

「ん?昨夜なら酒場で軽く引っかけて、帰りに絡まれて少し喧嘩をしただけだが?」

 

「…本当に単なる喧嘩か?」

 

「誓って言おう。……大体血の匂いが気になるから香油を塗ったんだが……気になるか?」

 

「俺たちはその匂いを嗅ぎなれているからな。」

 

「…へぇ。」

 

「まあいい。さっさと支度しろ。」

 

「……緋村は来るのか?」

 

「……」

 

「ふ~ん。まあいい。少し待っててくれ。」

 

俺は戸棚から用意した荷物を出した……



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら5

「…ところで、何処に行くんだ?一応旅支度はして来たが?」

 

「…京だ。」

 

「…!そりゃまた懐かしい……つか先に行ってくれや。俺が旅支度してなかったらどうする気だったんだよ?」

 

「知るか、阿呆。大体貴様の持ち物等、せいぜいその懐の短刀と煙草入れ位だろうが。」

 

「……んまあ、そうだけどよ……。」

 

「しかし貴様、短刀を捨てた割にその召し物は捨ててなかったのか?」

「……この御時世に幾ら警官だからってサーベルでなく刀刺してるあんたに言われたかあねぇよ。」

 

今の俺の格好は幕末時代の暗殺用の衣装だ。……真っ黒な着物と足袋……頭巾は被ってねぇがな。今更顔を隠す必要は無い。

 

「…サーベルは強度が足りないからな。それだけの話だ。」

 

「……そうかい。その癖どうせそいつは無銘なんだろう?強度が気になるならもっと良い刀使えや良いのによ……そいつ三日前に刺してたのと違う刀だろ?錆び付いているのかと思えば緋村は中々良い勝負したらしいな。」

 

「……貴様と無駄話をするつもりは無い。」

 

「良いじゃねぇか。どうせ先は長いんだ。少しくらい…!……相変わらず短気だねぇ。」

 

「……貴様は何も変わって無いな。……悪・即・斬は我々共通の正義だ。思想は異なっても、な。……だが貴様は違う。ただ快楽のままに人を殺した鬼だ。」

 

「で?志々雄も同類だ。だから俺を呼んだんだろう?鬼には鬼って訳だ。」

 

「……余計な事をすれば直ぐに斬る。」

 

「へいへい。指示には従いますよって。……なぁ一つ我儘を良いか?」

 

「……何だ?」

 

「緋村の所寄っていっても…!最後まで言わせてくれませんかねぇ?」

 

「…道草を食う暇は無い。」

 

「良いじゃねぇか。あんたどうせ緋村と殺し合いしたんだろ?卑怯じゃねぇか。俺だって今の緋村の実力を試してみてぇ……」

 

「……」

 

 

 

「…へぇ。ここが神谷活心流道場ねぇ……あんたそんな所で何してんだ?」

 

「……貴様一人で勝手に行って来い。手短にな。」

 

……どうせやらかしたんだろうな……色々と。

 

「……おう。んじゃ行ってくるわ。」

 

 

 

「ん?あれは…!」

 

道場から人目を気にしつつ外に出てくる奴が……

俺はその後ろ姿に懐から抜いた短刀を振り上げた……

 

「…!お主は……!」

 

「よう緋村!元気だったかァ!」

 

……成程。奴が失望したのが良く分かる……これは抜刀斎じゃねぇ……だがこの腑抜けは齋藤に手傷を負わせてる筈、……嗚呼っ!駄目だ。試したいだけの筈なのに抑えられねぇ……!

 

「さあ…!殺し合おう…!」

 

 

 

 



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら6

「どうした緋村ァ!?もっと俺を楽しませろォ!?」

 

「くっ!止めろ!七夜!」

 

奴は俺の攻撃を防ぐのみ。……好い加減にしてくれ。俺はそんな腑抜けたお前を見に来たんじゃねぇ……!

 

「……蹴り砕く!」

 

俺の蹴りを躱す。……あー違う違う!昔のお前なら躱すだけじゃなく追撃してきた筈だ!何呆けてやがる……!

 

「……止めろと言っている!」

 

奴が飛び上がり俺に斬りかかり…!何だ!?その巫山戯た刀は!?

 

「……そんなもんで俺を殺れるか!」

 

俺は奴の刀を足場に更に上空へ逃れる……刃が峰の部分に付いてる刀だと!?こいつどういうつもりだ!?

塀の上に着地しそこから更に飛びかかる。

 

「……」

 

奴が刀を鞘に仕舞い構える……抜刀術か。だが今の貴様に俺が捉えられるものか!

 

「……斬っ!」

 

奴の刀を身体の位置をずらし躱し…鞘!?

 

「……!がっ!」

 

顎に鞘が当たる……糞……視界が……!

 

「……ハッ!遅すぎるんだよ…!」

 

気絶を狙ったのだろう。奴は鞘で鳩尾を狙って来たがそれを手で弾き、定まらない視界の中勘で奴の頭を狙う。

 

「……チッ!外したか……」

 

俺は頭を短刀の柄で叩く……良し。視界が戻って来た。

 

「……どういうつもりでござるか?七夜?」

 

どういうつもり?そんなの決まってるだろ。

 

「……剣客と殺人鬼が出会っちまった……そういう事だろ?」

 

「……拙者たちの戦いは終わった……この太平の世に何故お主はその刃を振るうのでござるか!?」

 

「……世の中がどう変わろうと俺の在り方は変わんねぇよ。」

 

……そうだ。丸くなった振りを幾らしたって変わらない……嗚呼!俺は……!

 

「……俺は殺人鬼。人を狩る鬼だ……!さぁ!俺を狩って見せろ!?人斬り抜刀斎!?」

 

閃鞘・迷獄沙門……さぁ…!これ以上俺を失望させるなよ抜刀斎……!この技を破って見せろ……!

 

「……弔毘「好い加減にしろ、糞餓鬼」痛っ!」

 

後ろを見れば刀を持った斎藤一……鞘で殴られたらしい……

 

「……試すだけの約束の筈だ。貴様、本気で抜刀斎を殺そうとしたな?」

 

「……その辺はお互い様だろ?」

 

「……斎藤、どういう事でござる?」

 

「……この糞餓鬼も俺たちと共に志々雄の元へ向かうと言う事だ……」

 

そう聞くと嫌そうな顔をする緋村。そんな顔しなくても良いだろ?

 

「……まあそういう訳だ。宜しくな、抜刀斎。」

 

「……拙者は人斬りに戻るつもりはござらん。」

 

俺は斎藤の方を見る。無言で首を振る。……何時からこいつはそんなに甘くなったのかねぇ……

 

「……まあいいさ。直ぐにそんな考え改めるだろうよ。」

 

何せこの俺がいるんだからなァ……!

 



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら7

「……ねぇあんたは蒼紫様の居場所知らない…?」

 

「……俺は単なる暗殺者だ。……御庭番衆の頭なんて雲の上の存在と面識があるわけ無いだろ?」

 

「……だよねぇ、ハァ……」

 

「……」

 

……まあ親父はあるかも知んねぇな。江戸城に暗殺者として出入りした事があったらしいからな……

 

「……もうこうなったら頼みの綱はあんただけよ、緋村!」

 

「……何度も言うように拙者にも心当たりが無いでござるよ……」

 

巻町操……あの御庭番衆の人間で今は頭の四乃森蒼紫を探してるんだとか……最近緋村の奴が会ったらしく緋村が今の居場所を知ってるんじゃないかと思って来たらしい……

 

「……」

 

無言の斎藤だが機嫌悪そうだな……

 

「……なぁ小娘「巻町操よ。」……小娘、御庭番衆ってのは忍だろ?もう少し静かに歩けねぇのか?」

 

「だから巻町操だって言ってんでしょ!?」

 

「知るか。俺ぁ人の名前覚えんの苦手なんだよ。」

 

「……お主は覚える気が無いだけでござろう……」

 

そらそうだ。殺す価値すら無い奴の名など一々覚えていられるか。

 

「……何よ!?あんたなんか蒼紫様が「黙ってろ小娘」!……」

 

殺気を飛ばして黙らせる。喉笛を掻っ切って黙らせてやろうか……

 

「……七夜、止めるでござる。」

 

「……チッ。」

 

 

 

 

「……で、何で俺もこんな事に付き合わなきゃならん?」

 

「何よ!?あんた血も涙もない訳!?」

 

「……俺は暗殺者だ。金を貰えない依頼受ける気になるかよ……」

 

瀕死の重症を負った男から頼まれて餓鬼を連れ新月村へ……本当に志々雄がいんのかぁ?

 

 

 

「……緋村、こいつら生かして何の益がある?」

 

「……拙者はお主の様に非道にはなれんでござるよ……」

 

良く言う。……新月村にて遭遇した志々雄一派を逆刃刀とやらで殺さず気絶させる緋村……下らねぇ。

 

「……俺には理解出来ん。こいつらみたいのは地獄に送るべきじゃないのか?」

 

向かって来た奴の急所を突き気絶させる……抑えが効かなくなりそうだ……

 

「……七夜、拙者がいる限りお主に誰一人殺させるつもりは無いでござる。」

 

「……じゃあこの昂りを鎮めてくれないか?もうそろそろ限界なんだ……!」

 

「止めろ、阿呆。」

 

刀の切っ先を俺に突き付ける斎藤……チッ。

 

「……分かったよ。その代わり、志々雄がいたら止めるなよ……!」

 

文句は言わせない。そもそも志々雄は今回の標的だ。……確実に俺が首を貰う……!

 

 

 

「……よぅ先輩、それから新選組の斎藤一だな……お前は?」

 

「……単なる殺人鬼だよ。名前なんて無い。」

 

「……志々雄さん、この人の相手は僕がしても良いですか?」

 

「……好きにしろ。……じゃあな、俺は京で待つ。」

 

「…!待て「諦めろ緋村。」七夜!?」

 

「決着を着けるのはここじゃねぇよ。……それに目の前のこいつはここを通す気が無さそうだ……!」

 

「……ええ。ここを通す事は出来ません。……相手が僕では不服ですか?」

 

「……いや、悪くない。」

 

こいつからは殺気が感じられない……強そうにも見えない……だが分かる。こいつは強い……何より……

 

「……この昂りを鎮めてくれるなら誰でも良い……!」

 

今、この場で……!俺にお前を殺させろ……!

 

 



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら8

「……む…ここは何処だ…?」

 

「……目が覚めたでござるか?」

 

「……緋村…ここは何処だ?」

 

「……葵屋にござる。」

 

「……葵屋……あの小娘の塒か……」

 

「……お主はずっと眠っていたでござる。」

 

「……眠っていた…?俺が…?」

 

「……覚えてないでござるか?お主は「いや…待て。」……」

 

そうださっきのあれは夢じゃない。俺は新月村で志々雄を見た。そしてあの餓鬼と……そうだ!俺は……

 

『この名を覚えて行ってください。■■■■■……貴方を倒した者の名です。』

 

「瀬田宗次郎ォ!」

俺は部屋を飛び出した。

 

「七夜!?」

 

……あの時奴は俺に捉えられるギリギリの速さで俺を囲むようにして斬りかかって来た。……俺は迎撃しようとし、俺の間合いに入った瞬間に攻撃を……奴は身を捩り躱した。それ自体は想定内だ。問題はその後だ……奴は俺の目の前から消えた。……奴は本気じゃなかった。……あの瞬間俺は奴を捉えられなかった……!

 

姿を見失い焦る俺の背後から奴の声が聞こえ、驚き身体ごと奴に向き直った俺は奴に……!俺は着物の襟を開く……

 

「……糞が!」

 

俺の胸には斜めに走る痣が……!

 

「あの餓鬼!俺を見逃しやがった……!」

 

暗殺者のこの俺を必殺の間合いで殺さなかった……!

 

「……殺してやる!」

 

「……七夜!落ち着くでござる!」

 

「離せ緋村!これは俺に対する最大の侮辱だ!」

 

何という屈辱……!あの餓鬼の首を取らないとこの怒りは消えん……!

 

「……今のお主では再び敗北する!」

 

「うるせぇ!やってみなきゃ分からねぇだろ!?」

 

こいつ……!あの餓鬼より先に殺してやろうか!?

 

「……そもそもお主は奴の居場所を知らぬであろう?」

 

「……だから何だ!?このままじっとしてこの屈辱に耐えろと!?」

 

「……どうしても気が済まぬと言うなら……」

 

奴が逆刃刀に手を……

 

「……良いぞ抜刀斎……!予定は変わったがここであの時の決着を着けようか!?」

 

「……来い、七夜。」

 

一気に距離を詰め奴の腹目掛けて……!

 

「……七夜、この技は既に見せた筈でござる……」

 

抜刀術……斬撃を躱しても次に鞘が……そうだな、確かに見せられた……嗚呼……そうか……。

 

「……嘗めるな抜刀斎!この戦いを終わらせたいなら俺を殺せ!」

 

先と同じく顎を撃ち抜かれ同時に崩れ落ちそうになる身体を無理矢理もたせる……!間髪入れずに叩き込まれる鞘を弾く……ここまでは同じだな……だが!

 

「弔毘八仙、無情に服す!」

 

閃鞘・迷獄沙門……今度は決めさせてもらう!

 

「……馬鹿な…!」

 

奴は鞘であっさり俺の一撃を止めた。

 

「……お主はまだ体力が戻っておらぬ……布団に戻るでござる……」

 

「……チッ。……あ〜あ……情けねぇな……」

 

俺はそのまま地面に倒れ込み意識を手放した。



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら9

「……むっ…」

 

「気が付かれましたかな?」

 

「……あんたは?」

 

「……単なる爺ですじゃ「嘘つけ。単なる爺がそんな殺気出せるか。」さすが七夜一族の者ですな。」

 

「……皮肉か?俺は鬼だ。暗殺者の七夜を名乗る資格も無い。増してや生き恥を晒す暗殺者が何処にいる?」

 

「……七夜殿……いや、志貴殿……」

 

「……その名は捨てた。だが、何処で俺の名を聞いた?」

 

「……貴方は覚えてなさらないでしょうが私は貴方に会った事があるのですよ。七夜黄理殿の息子の志貴殿?」

 

「……ふん。……奴は今どうしている?以前見に行った時は里は既にもぬけの殻になっていたが奴がくたばったとは思えない。あんた居場所を知ってるんじゃないか?」

 

「……会いたいですか?」

 

「……瀬田宗次郎……あれを殺すには今の俺では不足だ。改めて七夜の奥義を学びたい。」

 

「……あの方は神出鬼没。普段は何処にいるか分かりませぬ……ですが、貴方は運がいい……これを……」

 

「……こいつは?」

 

「……あの方の友人の居場所です。今はそこに転がり込んでおるとか。」

 

「……ありがとう。すぐに向かうとしよう。」

 

「……そうですか。」

 

 

 

山道を進む。……本当にこんな所に人が住んでいるのか…?

 

……しばらく進むと小屋が見えて来た……あれか?

 

「……何だ坊主?何か用か?」

 

小屋から長髪の男が出てきた……強いな。俺はつい懐に手を入れていた。

 

「……やめとけやめとけ。俺は強いぞ。」

 

「……随分な自信家だな……」

 

俺は懐の短刀を…!この気配……

 

「……やめろ、志貴。」

 

小屋からもう一人男が……!

 

「……久しぶりだな、志貴。」

 

「……チッ。俺は会いたくなかったよ。」

 

「……志貴……成程。こいつがお前が言ってた息子か?」

 

「……ああ。家を飛び出して今日まで顔も見せなかった親不孝者だ。」

 

「……肝心の家には誰もいなかったが?」

 

「……何だ?お前里に戻っていたのか?……里の者は皆山を下ったよ。これも時代だ。」

 

「……お前ら立ち話も何だろう。……坊主、上がっていけ。茶くらいは出してやる。」

 

「……そりゃどうも。……そういやあんたの名前を聞いてないな?」

 

「ん?俺か?俺は新津覚之進。しがない陶芸家さ。」

 

 

 

「……さすがにそりゃ虫が良すぎやしねぇか?」

 

「……分かってるさ。だがあいつを殺すには七夜の奥義が必要だ。教えてくれ……」

 

俺は親父に頭を下げる……

 

「……教えてやっても良い。だが……」

 

「……何だ?」

 

「……まずは見せてもらおう。」

 

そういい懐から短刀を出す親父……へぇ。

 

「……俺には分かる……あんたずっと人を殺してないだろ?そんなあんたが俺に勝てるのかい?」

 

「……その慢心がそのままお前を殺す。」

 

……っ!何だこの殺気は!?

 

「……比古、ちょっと暴れるぜ。」

 

「……そっちの名で呼ぶな。……たくっ。大人気ない奴だな、勝手にしろ」

 

「……着いてこい、志貴。」

 

俺は親父の後に続き小屋から出た。



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら10

「……錆びたな、馬鹿息子。」

 

「……糞が!」

 

どうなってる!?こいつは人を殺した人間特有の臭いが無い。間違いなく殺しをやめて長い筈だ。……何故俺についてくる!?いや、俺より早い!

 

「……斬る!」

 

閃鞘・七夜……こいつなら……!

 

「……遅いな。」

 

斬りつけようとして逆に斬られ……!

 

「……グハァ!」

 

「……馬鹿息子。もうやめろ、お前には無理だ。」

 

「……糞親父……!」

 

短刀の柄を鳩尾に叩き込まれ俺は意識を失った……

 

 

 

「……気が付いたか、坊主。」

 

「……あんた……親父は?」

 

「……さあな。あいつは気紛れだからな。」

 

「……糞!」

 

「追うのか?やめとけやめとけ。お前じゃ無理だ。」

 

「……退け!」

 

「……良い殺気だ。俺の馬鹿弟子よりは見所がありそうだな。」

 

……!何だこの殺気!?

 

「……気が済まないなら来い。俺が少し揉んでやる。」

 

 

 

「……あんた、何者だ…?」

 

「……ただの陶芸家、だ。……今はな。」

 

ただ突っ立ってるだけなのに隙が無い。……いや、この感じに覚えが……!

 

「…!斬る!」

 

「……閃鞘・七夜。良い技だがあいつの足元にも及ばないな……」

 

「…!」

 

躱され……!

 

「……少し頭を冷やせ。暗殺者が熱くなってどうする?」

 

「……俺は、鬼だ……!」

 

「……馬鹿弟子より手が掛かりそうだな、こいつは。」

 

「……馬鹿弟子……そいつが誰だか知らねぇが俺を見ろ!他人と俺を比べるんじゃねぇ……!」

 

「……そいつは悪かった。ならば……」

 

奴が腰に刺した白鞘の刀の鯉口を切る……!

 

「……来い。」

 

俺は奴に向かい走る……!

 

「極彩と散れ!」

 

「……飛天御剣流……九頭龍閃!」

 

……飛天御剣流だと!?…糞!早……!

 

「……ぐあっ!」

 

斬り付ける間もなく連続で斬撃を……!

 

「……どうした?終わりか、坊主。お前の親父はこの技を初見で破ったぞ?」

 

「……チッ!」

 

俺は痛む身体を無理矢理立ち上がらせる。

 

「……やはりお前は馬鹿弟子より見所はありそうだ。さすがあいつの息子だな。」

 

「……あんたの言う馬鹿弟子ってのは緋村の事か…?」

 

「……何だ知り合いか?ああ。そうだ。」

 

「……あいつや親父と比べられても嬉しくねぇ。」

 

「……比較されたくないなら実力で示してみろ。」

 

「…!言われなくても!」

 

俺は棒立ちの奴に肉薄……!

 

「……だからそれでは遅いんだ。」

 

短刀を振るった先にはもう奴は……!

 

「……うがっ!」

 

なっ!?いつの間に背後に!?

 

「……今のが飛天御剣流・龍巻閃。馬鹿弟子は見せた事は無かったか?」

 

「……貴様…!」

 

俺は背後に向き直りそこから……!

 

「せぇい!」

 

「……六兎か。それは悪手だ。」

 

奴はその場に刀を叩き付け……!

 

「……ぬぐっ!この程度の目くらましが……!」

 

奴は何処に!?

 

「……飛天御剣流……龍槌閃!」

 

なっ!?上!?

 

「……があっ!」

 

俺は奴の刀を頭に叩き付けられ倒れた。



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら11

……くっ!どうなったんだ、俺は……

 

『…あっ!お前、何処行ってやがった!?』

 

『散歩だよ。何かあったか?』

 

『お前は自分の息子の相手を他人に押し付けてんじゃねぇよ!』

 

『すまんな、だが頼んだ覚えは無いぞ?……ああ、そうそうお前に客だ…』

 

『客だぁ?……お前…』

 

『師匠…』

 

『…帰んな。』

 

『師匠、俺は…!』

 

『そうつれなくしなくても良いだろ?』

 

『ふん。』

 

『…お前がこいつを見限るなら俺が引き取るが?』

 

『…はん。好きにしろ。』

 

『…!師匠!』

 

『お前も知ってるだろ?あいつはああなったらこっちの話は聞かねぇって。…来な、あいつが折れるまで俺が相手してやるよ』

 

『待ってくれ!結局貴方は一体……』

 

『ん?俺か?そこで転がってる馬鹿息子の父親だよ。』

 

『!七夜!?…では、貴方が…!』

 

『おう。七夜の里の元長の七夜黄理だ。宜しくな。』

 

 

 

「…はっ!」

 

「遅い目覚めだな、坊主……」

 

「あんた……さっき緋村が来てなかったか?」

 

「…お前、意識があったのか…?」

 

「朧気だけどな。」

 

「ますます見所がある。ウチの馬鹿弟子なら三日は気絶してそうだからな。」

 

「親父たちは何処だ…?」

 

「俺の馬鹿弟子を叩き直してる。…あいつは俺と違って手を抜かんからな…行くのか?」

 

「負けたままでいられるかよ…!」

 

「…好きにしろ。だが邪魔はするな。」

 

「…聞けないね。奇襲奇策を弄するのが俺たち暗殺者だ。」

 

 

 

「…そろそろやめようや?馬鹿息子といい、お前といい根本的な所が分かってねぇ。」

 

「まだでござる!」

 

「あのなぁ…早さ勝負で俺に勝てるわけねぇだろ。」

 

「…ガハッ!」

 

「早さで負けて当然。そもそも俺とお前では得物の重さが違う……まあ比古の奴は追随してくるんだがな…」

 

…あの蹴りは刀を頼みにしてる緋村には受けることすら難しいな……しかし何で現役の俺より早いんだか。

 

「っ!飛天御剣流「遅いな」ゴフッ!」

 

さて、いつまでも見てても仕方ない。緋村に集中してる今が奴を仕留める好機…!

 

「……」

 

俺は隠れていた茂みから音を立てずに飛び出す。

 

「……」

 

出来る限り殺気も抑える…!そして緋村に追撃を加えようとする親父の背後に向かい…!

 

「…馬鹿息子、それで殺気を抑えたつもりか?」

 

気取られた!?だがもう止まれん…!

 

「極彩と散れ!」

 

短刀を振り上げ…!

 

「存在を察知されたのに逸るとはな…既に暗殺者としての心構えすら失ったか…」

 

「…!」

 

失望の声と共にこちらを見ずに片手で短刀を持った俺の腕を掴まれた。

 

「ふん!」

 

「なっ!?」

 

そこから片手で投げられ…!

 

「…!七夜!?」

 

投げられた先には緋村!?糞!この体制では避けられ…!

 

「へぶっ!」

 

俺は緋村を押し潰しながら共に地面に落ちた。

 

 



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら12

「軽いな、ちゃんと飯食ってっか?馬鹿息子?」

 

「…大きなお世話だよ、糞親父。」

 

「ゲホッ!七夜!人の上で会話してないでさっさと退くでござる!」

 

「ん?ああ、悪い、ね!」

 

「グホッ!?」

 

俺は緋村の身体を踏み台に飛ぶ。さて、空中からならどうだ?糞親父!

 

「…もう終わりにしようや?なあ、志貴?」

 

「!…は?」

 

空中から蹴りの体制に移行しようとした俺の目の前には親父…!?早すぎる!

 

「…落ちろ。」

 

「馬鹿な…!」

 

俺は親父の蹴りを受け、地面に叩き落とされた。

 

「…ぬぐっ!ぐあっ!」

 

かなり勢いを付けて落とされた為に咄嗟に蹴りが飛んで来た頭は庇えたが録に受け身も取れずに俺は地面に身体を打ち付けていた。

 

「無様だな、馬鹿息子?」

 

「何故殺さない!?」

 

あの蹴りが全力だった訳は無い。増してや地面に叩き付けられた時点で本来なら俺は死んでる。……また手を抜かれた……!

 

「あのなぁ…俺は引退したとはいえ元は暗殺者だぞ?金貰えないのに殺す理由があんのか?」

 

「チッ!その余裕後悔させてやるよ……!」

 

俺は何とか立ち上がり短刀を構え……

 

「…七夜、お主が父親と因縁があるのは分かる。が、ここは拙者に譲って欲しいでござる……」

 

「…チッ。あ~あ……もう好きにしろよ…。」

 

俺は地面に座り込んだ。

 

「…黄理殿、もう一度頼むでござる…」

 

「お前も懲りねぇなぁ……良いだろう、終わらせてやるよ。」

 

緋村は抜刀術の構えに入りその場から動かなくなる……おいおい。親父が動かなかったらどうする気だ?増してや緋村は親父の動きに着いていけていない……

 

「…そう来るのか。良いだろう、引導を渡してやる。」

 

親父が構え……!

 

「…!」

 

「…終わりだ。」

 

緋村は鯉口を切る所までは行った……!ほう。俺でも辛うじて見える程度だったがあいつは見えてたのか。……だが……

 

「…緋村、剣士が刀を失っちゃあ終わりだろ?」

 

「……」

 

今緋村が持つ刀は柄と鍔の部分以外存在しなかった。残りは鞘の中。……神業の域だな。…こいつに勝てる気がしなくなって来たぜ……

 

「…かたじけない。貴方のおかげで少し霧が晴れた。」

 

「おう。役に立てたなら良かったぜ。」

 

「…機会があればまた手合わせ願いたい。」

 

「…気が向いたらな。まあしばらくはここにいる。」

 

「…行こう、七夜。」

 

「…ふん。おい、糞親父。次は仕留める。」

 

「…ああ。期待しないで待っててやるよ。じゃあな、志貴。」

 

俺は緋村の後に続き歩く。…ん?あれは……

 

「…帰るのか、坊主?」

 

「ああ、出直す。ボロボロなんでな。」

 

「そうか。何時でも来い。陶芸で良ければ教えてやる。」

 

「…師匠……」

 

「……」

 

すれ違いざまに声をかければ俺には反応したのに弟子の筈の緋村は無視……露骨すぎるだろ。

俺は動きを止めた緋村の背中を軽く小突き先を進むよう促した。



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら13

「七夜?」

 

「あん?何だ緋村?」

 

「何故拙者に着いて来る?」

 

「んなもん暇だからに決まってんだろうが。」

 

斎藤も今の所動く気が無さそうだしな。

だから今は亡き逆刃刀の作者新井赤空の息子とやらに会いに行く緋村にくっついて来た訳だ…葵屋で寝てると小娘が煩いからな…

 

「拙者はただ、逆刃刀を打ってもらうだけでござるが…」

 

「このご時世に刀を打つ物好きがいるかねぇ…」

 

一悶着あるのは目に見えてる。それにしても…

 

「…逆刃刀があの新井赤空の作だとはな。」

 

「知っているのでござるか?」

 

「直接の面識はねぇ。だが、幕末の頃の刀工の中ではかなり有名だろ。…最も奴の打つ刀は殺傷力を追求し過ぎたが故に癖が強く使い手を選ぶ所か、普通に道場剣法を修めた人間には当然扱えず有名な剣士は誰も手を出して無い事から刀工としては全く成功はしてないとも聞くがな。」

 

俺も以前新井赤空作の一振をたまたま見る機会があったが…剣士では無い俺でも分かった。あれを十全に振るえる者がいるとすればそれは相当な狂人だろう。

 

「…何だって相手どころか、持ち主すら危険に晒す刀を打っていた人間が逆刃刀なんて物を打ったんだ?」

 

「…拙者も詳しい事情は聞いておらぬ。拙者はただ託されただけでござる。」

 

「…人切り包丁を作っていた人間が人斬り抜刀斎に不殺を説いたのか?それはまた滑稽「違う」あん?」

 

「拙者がこの信念を口にしたら赤空殿がこの刀を渡してきたでござる。」

 

「…へぇ。…ん?あの村か?」

 

「…そう。ここに赤空殿の息子が住んでいるとか…」

 

 

 

「…お断りします。」

 

俺は煙管を咥え、吐いた煙を見詰めながら二人の会話を聞く。

 

……新井赤空の息子、新井青空は刀を打つ気は無いそうだ。妥当だな。廃刀令の中、好き好んで刀を打ちたいなんて奴は相当な大馬鹿者だろうさ。……新井青空の女がこちらを所在なさげに見るが俺は知らん。俺は単なるおまけだ。…と言うかこっちは何故か懐いて来るこいつらの息子をあしらうのに忙しい。何度払い除けても寄ってきやがって。

 

「にゃにゃや。」

 

「…七夜だ。何の用なんだ、お前は?」

 

「にゃにゃや、にゃにゃや。」

 

「…用もないのに人の名前を連呼するな。」

 

いっそ灸代わりに煙管の中身でも落としてやろうかと思ったが…さすがに俺もそこまで外道にはなれん。だが鬱陶しくてかなわん。仕方ねぇか…。

 

「…おい緋村、打ちたくない奴に無理強いしても仕方ねぇだろうが。」

 

「しかし…」

 

「帰ろうぜ。最悪別の刀を使えば良い。」

 

勝手に来といてなんかもしれんが…。来るんじゃなかったぜ。何でこんな所まで来て子供のお守りなんぞせにゃならんのだ…。



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら14

「良いんですか貴方…あの人たち何か事情があったんじゃ…何も貴方が打つんじゃなくても…最後の一振の事をお伝えすれば…」

 

「…お前は分からなかったんだな…」

 

「…え?」

 

「…あの連れの男…あれは今でも人を斬りたくて斬りたくて堪らない奴の目だ…!」

 

「……」

 

「…嫌われたもんだな。」

 

緋村を先に帰し、何となくこの場に残った俺は二人の話を聞いていた。

 

「…言ってる事もあながち間違ってないけどな…ん?あれは…」

 

複数本の刀…この明治のご時世にね…しかもありゃ…

 

「…俺の同類か…。」

 

人を殺したくて殺したくて仕方ねぇって奴だな。

 

「そろそろ帰るつもりだったが…面白くなって来やがった…!」

 

俺はガキを刀の鞘に引っ掛け、赤空最後の一振の安置されてる神社に向かう男の後をつけることにした…

 

 

 

「さて、ここに赤空最後の一振が…ん?何や?」

 

「よう。」

 

「…参拝客じゃ無さそうやな?つか何やその殺気?ワイは別にあんたの事なんて知らんで?」

 

「良いじゃないかそんなの。お前は人が斬りたいんだろう?試し斬りの相手なら反撃もして来ないようなガキより相応しいのがいるとは思わねぇか?」

 

「…生憎剣士でも無い奴に興味は無い。それに一回斬ってみたかったんや、赤ん坊をな。」

 

「…ハッ!」

 

俺は地を蹴り、奴の横を走り抜け懐から短刀を抜くと鞘に引っ掛けられたガキの着物を斬り、落ちてくるガキを片手で抱えた。

 

「……」

 

「にゃにゃや!」

 

「…殺される寸前だったってのにうるせえガキだな。」

 

俺はガキを地面に置いた。

 

「…何なんやあんた…正義の味方でも気取ってるつもりかい?」

 

「ハッ!俺はそんなものからは一番縁遠い人種だ。」

 

俺は短刀を構えた。

 

 

 

「…おいおい…曲芸以下だぞ?」

 

「…なかなかやるやないかい…!なら、こいつはどうや!?」

 

奴の突き出した刃が二つ付いた妙な刀を逆立ちの状態から足で挟み、地面に下ろす勢いを利用し、圧し折る…つまらねぇ。

 

「ちぃっ!」

 

俺が顔面に突き出した足を焦って躱す…この程度なら幕末には腐る程いたな…

 

「…俺は曲芸見に来たんじゃねぇ。本気で来る気が無いならもうその首取っちまうぞ?」

 

取れる時に首を取らず、遊んで痛い目に逢うのは初めてじゃないがこればかりは止められない。

 

「ええで。あんたは剣士じゃないけどこいつを見せるに値するわ。」

 

奴の投げつけて来た着物を一応躱しておく。…腹に巻いた金属…いや、あれは…

 

「これがワイの一番の愛刀…殺人奇剣薄刃乃太刀!」

 

「…面白ぇ…!」

 

奴が腹から外したそれは鞭のようにしなる…!おっと!

 

「…ハッ!甘いで!」

 

躱したそいつは俺を囲む様に…!

 

「…グッ!?」

 

「足貰ったで?あんたはこれでもうさっきみたいな速さでは動けんやろ?」

 

「…どうかな…!」

 

「何やと!?」

 

俺は足の痛みを無視して地面を蹴り、すれ違い様に奴を…!

 

「…ゴフッ!」

 

「…危ない所やったわ…もし…あんたの足が傷付いて無かったら見えなかった…そしたら今頃ワイの命は無かったな…」

 

俺は奴の膝を食らってその場に崩れ落ちる…くそっ!さっさと殺しておくべきだった…!



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら15

…手痛い一撃は貰ったがお陰で目は覚めた…

 

「ッ!…アンタ…中々えげつない手を使うやないかい…!」

 

「いやいや…食らったのは本当に俺のヘマだよ?でもさ、ただやられるのは俺は我慢ならないんだ…まっ、俺も足斬られた事だし、お相子って事で。」

 

奴が大腿部の横に刺さった短刀を抜き、投げ捨てる…さて…

 

「お前さ、忘れてないか?ここは…」

 

俺は懐から短刀を取り出し、立ち上がる…あの事務所での殺しの時、何となく一本持ち帰っていたんだが…役に立ったな…

 

「俺の間合いだ!」

 

奴の喉笛を掻っ切る…この距離なら足が斬られてようが関係無い…ここでこいつを確実に殺る!

 

「ッ!…アンタ…本当に怖いわ…まるで獣みたいや…」

 

奴が刀を地面に落とし、短刀を持つ俺の手首を掴んで止める…くそっ!動かん!

 

「もう動かせんみたいやな。どうやらアンタは基本、打ち合いには向いてない様やな。」

 

「…いや、ご推察の通り…俺はこう、土壇場になるとどうしても踏ん張りが利かない。」

 

だから大抵は出会い頭にいきなり殺る…刀を抜かせず…幕末の頃の俺はそうだった…まあ、大半は殺れるんだけど…一定数いるんだよな…思わぬ反撃をする奴が…所謂…本物の連中が。あ~あ…こいつは…どうだったんだろうな…この結果は明らかに緩み切ってた俺のせいだ…相手が強いと楽しくなっちゃって…暗殺だって事、完全に忘れて手の内見せまくるのはあの頃と全然変わらないけど。

 

「何のつもりや!?」

 

左足を振り上げ、奴の横っ面に足を叩き込んだ…地面に倒れ込んだ奴の顔面を蹴り飛ばす。

 

「ヴェッ!?」

 

思いの外飛んでった奴の上に乗り、喉に短刀を当てた。

 

「まぁ…少しは楽しめたよ、お前の曲芸。最期に聞いてやる…名は?」

 

「…先ずはアンタの方から名乗んのが筋やろ。」

 

「それは失礼…だが、俺は化生の類でね、生憎と人の名を持ち合わせて無いんだよ…俺はただの…人を殺す鬼だ。」

 

「何やそれ…ならこっちも答える義理は無いわ「ただ…」ん?」

 

「七夜、と呼ばれた事はあった…地獄でこの名を出せば少しは良い酒が飲めるんじゃないか?」

 

「…アンタの名、知っとるわ。…人斬り抜刀斎に次いでよう聞いた名…まあアンタの武器は短刀やさかい、あまり興味は無かったけどな…アンタに習って通り名だけ教えたる…ワイは張…刀狩の張や。」

 

「そうか…じゃあ、逝け。」

 

短刀を横に引…

 

「もう止めるでござる。」

 

「…無粋だぜ、緋村。」

 

その手を緋村に上から押さえられる。

 

「既に勝負はついているでござる。」

 

「チッ…興が冷めた…離せよ、殺しやしねぇ。」

 

「本当でござるな?」

 

「ああ。」

 

緋村が手を離す…俺は張の首に手を掛けた。

 

「七夜!何を!?」

 

「慌てんな…気絶させただけだよ。」

 

張の意識が無くなった所で、這うようにして身体から下りる…少々、血を流し過ぎた…

 

「緋村…後、頼む。」

 

俺は地面に寝転がり目を閉じた。



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るろうに剣心の世界に七夜の里があったら16

「…フゥ…。」

 

「……七夜、いい加減吸うのを止めて欲しいでござるよ…」

 

刀狩の張とか言う奴に足を斬られて歩けない俺は、よりにもよって緋村に背負われていた。

 

「…プカァ…てな。」

 

「ゴホッ…だから止めろと…!」

 

「…フゥ…暇なんだから仕方無いだろ…これぐらい好きにさせろ。てかお前遅いぞ。もっと早く歩けねぇのか?…日が暮れちまうぜ…」

 

張は警察に引き渡した…お陰で余計に時間がかかっている…

 

「アンタねぇ!怪我したアンタを運んでくれてる緋村に感謝ってもんは無い訳!?」

 

「…うるさいぞ、小娘。」

 

「怪我してる今のアンタなんて怖くないわよ!つーかアンタの我儘の方がうるさいわよ!大体、あたしは巻町操だって何回も言ってんでしょうがぁ!」

 

相変わらず鬱陶しい小娘だ…

 

「…ゴホッ!七夜、わざわざ拙者に煙を吐きかけないで欲しいでござる!」

 

「…そりゃ…風向きの問題だろ。」

 

まあ、実際は緋村の頭に向かって直接煙を吐いてんだけどな。

 

「…根に持っているのでござるか、七夜。」

 

「…あー?どういう意味だ?」

 

「拙者があの男を殺すのを止めた事でござる。」

 

「…当たり前だろ。」

 

「足の傷の話ならお主もあの男の足に短刀を刺したのでござろう?」

 

「…俺はまだ満足してねぇんだよ…お前だって分かるだろ?」

 

「…分からないでござる…拙者は一度も人を殺すのを楽しいと思った事はござらん。」

 

「…そうでもねぇだろ。お前だって戦いを楽しんだ事はあるだろ?」

 

「…無いとは言わんでござる…だが、殺人に快楽を見い出していたお主とは永遠に相容れる事は無いでござる。」

 

「…なぁ、話は変わるが…何なんだ?お前のその口調?気になって仕方無いんだがよ…」

 

少なくとも幕末の頃、こいつはこんな口調はしていなかった。

 

「……お主に言われたくないでござる…お主も良く、特殊な言い回しをするでござろう?」

 

「…俺は元からだろ?…お前は昔はそんな口調はしていなかった…だから聞いてんだよ…」

 

「拙者の勝手でござる。」

 

「…そうかよ…兎に角もっと早く歩け…いや、走れ緋村!」

 

俺は緋村の頭を叩いた。

 

「痛っ!?いい加減にするでござる七夜!お主は我儘が過ぎる!」

 

「…何言ってる?お前の腰の逆刃刀…手に入ったのは俺のお陰だろ?」

 

あの二人が話していた新井赤空最後の一振りは俺が新井青空の息子を助けた礼に渡された…俺が欲しい物は別に無かったとはいえ…感謝して欲しいのはこっちの方なんだよ。

 

「だからと言って拙者はお主の奴隷でも何でもないでござる!」

 

「…フゥ…違う。お前は馬だ…走れ緋村!」

 

「痛っ!止めるでござる七夜!」

 

まあ…何せ俺の邪魔をしたんだ…しばらくは遊ばせて貰うさ。



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錬鉄の英雄の居る店1

冬木市郊外の住宅街の一角にその店はある

 

店構えはお世辞にも大きいとは言えなく外から見ても大量の貼り紙や看板のカオスっぷりによりそもそも何の店かも初見では判断できない

注意深く見て辛うじて飲食店と分かる程度である

 

一見さんお断りどころか普通はまともな感覚なら訪れようとも思わないその店

 

……だがこの店、実は冬木市どころか市外からも人が訪れる程の隠れた人気店であり夜毎人の声が絶えない場所なのである

 

店に入ると体格の良く肌は日焼けとは思えない程の褐色と白一色の頭髪でとても日本人には見えない店員が流暢な日本語で迎えてくれる

 

そして厨房に立つのは無精髭の目立つ若者

 

 

 

「……店主、三番テーブルからの注文でお子様ランチとポトフとパスタ、それから六番テーブルからカレー、次に八番テーブルから麻婆豆腐、それと……」

 

「いい加減にしろ!衛宮!注文は一遍に取ってこないで一つずつ持って来やがれ!コッチは一人しかいねぇんだぞ!?…後八番テーブルの奴は奉山に行けと言え!」

 

「仕方なかろう?この店に居るのは私と君の二人だけだ。どちらかが注文を受けどちらかが料理をしなければ店は回らん。そうまで言うなら人を雇い給え。そうすれば私も料理に集中出来る。……それから八番テーブルの客はあくまで君の麻婆豆腐をご所望だ」

 

「……阿呆。何処の世界に俺とお前に着いてこれる奴が居るって言うんだ。使えない奴雇ったところで余計に手間が増えるだけだろうが。」

 

「……あら?ここに一人いるわよ?店主さん?」

 

「遠坂凛!何勝手に厨房に入って来てやがる!客なら客らしく座って待ってやがれ!」

 

「中々注文の品が来ないから手伝いに来たんでしょ。……この私が手伝うんだからバイト代は弾んでもらうわよ。後、今日の夕食は店の奢りね」

 

「……ああ。助かるよ、凛。では私は今来た客を案内して来る。」

 

「……チッ!衛宮!そろそろ店はキャパオーバーだ!その次の客は帰ってもらえ!遠坂!テメェが勝手に手伝うつったんだ!バイト代は時給950円!そしてテメェが働くのは三時間だけだ!後飯は賄いで良ければ後で食わしてやる!」

 

「……シケてるわね。まあ良いでしょう。それで手を打つわ。……ああ、それから私は中華しか担当しないからね。」

 

「安心しな。他には期待してねぇよ。俺か衛宮が作った方が美味いからな。」

 

「……言ってくれるじゃない。良いわ。いずれ絶対美味いって言わせてみせるから覚悟しなさい!」

 

「無駄口聞いてねぇで手を動かせ!コッチは一杯一杯なんだ!さっさとしねぇと叩き出すぞ!」

 

口の悪い無精髭の目立つ店主と紳士的な褐色の店員と臨時の美人バイト。店は今日も賑やかで平和である




当然ながら店主はオリ主

戦場で衛宮士郎と最悪の出会いをし後に意気投合(出会いのエピソードは何となく浮かんでいるが長くなるのでパス)

正義の味方を廃業した衛宮士郎と二人で冬木市で多国籍料理を出すレストランのような居酒屋のような大衆食堂のような店を開くと言う話

遠坂凛は自分の出来なかった事をした店主に少し嫉妬しているものの感謝はしている(恋愛感情は無い。店にはどちらかと言うと衛宮士郎に会いに来ている)

前話の伸びの速さに驚愕と困惑


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錬鉄の英雄のいる店2

ようやく客の捌けた店内にて私は古い友人と盃を交わす

 

「……あんたたちいつもこんな調子なの…?人雇いなさいよ、私がいても手が足りて無いじゃない…」

 

グッタリしてテーブルに突っ伏している凛

 

「……そう言われてもだな……」

 

私は相棒の方を向く。先程からわざとらしく執拗に鍋を洗う彼は……

 

「……俺らについてこれる奴がいねぇよ。」

 

「……この調子だからな。」

 

「……まあそれは分からないでも無いけど。そう言えばあんたはあいつとどうやって出会ったの?」

 

「……むっ。話したことは無かったか?まあ話しても良いんだが……」

 

私はいつの間にかキッチンから出て来た相棒を見る。話の内容は聞いていたようで……

 

「……好きにしろよ。」

 

そう言うと私たちが飲んでいた酒の瓶を掴みそのまま瓶に口を付け残りを飲み干してしまった。

 

「……新しいのを持って来る。」

 

そう言って奥に入って行く奴の背中を見送ると凛の方を見る

 

「……さて、何処から話したものかな……」

 

「……何よ?そんな勿体ぶるような話…?」

 

「……あいつとの出会いは戦場だからな。そもそも私にとっても恐らくあいつにとっても愉快な話では無い。」

 

「……」

 

「……私が初めて奴と会ったのは私が外人部隊にいた時の事だ。……一応補足しておくと、そもそも私は切嗣のコネを利用しすぐにでも一人で活動を始めるつもりだったが出来なかった。……内戦をしている国は普通の方法では入れない。コネが必要だが利用しようとした切嗣のコネは先方が既に死亡していたりで使えなかった。……結局後ろ盾と実績を得るため私は雇われの身となった。」

 

「……その時同じ部隊に所属していたのが奴だ。奴は炊事班で私は戦闘担当だった。」

 

「……その時は意気投合した。……私より前から戦場を渡り歩いた彼の料理は斬新で素晴らしかった。朝から晩まで戦闘の無い日はずっと料理について語っていた。」

 

「そしてしばらくその部隊で経験を積んだあと私は部隊を抜けた。後から聞いた話だがその後少しして奴も部隊を辞めたらしい」

 

「……次に会った時は敵だった。……ある魔術師を追っていた時、その魔術師が雇った傭兵の中に奴がいた。」

 

「……目を疑ったが友人と戦うことになろうと私のやる事は変わらん。私は他の傭兵を片付けるといち早く私の攻撃から逃れた奴を追った。……そして私は奴に敗北した。」

 

「……はあ!?あいつ普通の人間でしょう!?」

 

「……まあその時は正攻法で負けたわけじゃないからな。」

 

「……奴が逃げた先が森だったんだよ。……奴が仕掛けた即席の罠が思いの外効いてな……いや。あの時はさすがにヤバいと思った。」

 

「……酒持ってきたぜ。」

 

「……ふむ。では乾杯しようか。まあ私と凛は既に飲んでいるが。」

 

私は一旦話を中断し盃を掲げた



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錬鉄の英雄のいる店3

「……おいおい…俺も飲むのか?お前ら会うの久々だろ?古い付き合い同士水入らずでやれよ。」

 

「……うわぁ…」

 

「……何だ遠坂、その顔は?」

 

「……何かあんたがそういう事言うと不気味だわ。」

 

「……おう。喧嘩売ってんなら買うぞ。」

 

「……くだらん事で喧嘩するな二人とも。今話してるのは我々の過去の話だ。君もいた方が話は分かりやすいだろう。」

 

「……ハッ。別にお前の口から喋っても一向に構わないんだがな。……で、何処まで話したんだ?」

 

「……私と君が二度目にあったところだ。」

 

「……ああ。あん時か。あれは傑作だったな。俺の仕掛けた罠をほとんど突破した癖に一番構造的に簡単な逆さ吊りに引っかかったんだったな。いや〜あれは笑ったぜ。」

 

「……」

 

「……ねぇ、士郎?あんたそれで負けたの?あんたなら普通にロープ切って脱出出来るんじゃ……」

 

「……そりゃあ無理だな。」

 

「何でよ?」

 

「……この男は私が引っかかったと同時に矢じりに毒を塗った矢を放ってきてな……それで身動きが取れなくなったんだ……」

 

「南米の先住民族から調合の仕方を習った特製の毒だ。普通なら三日はまともに動けん代物だ。最悪並行してでる発熱や下痢などの症状で死に至る代物だな……恐ろしい事にこの人外はしばらく意識があったんだが。」

 

「……そんな事されてよく一緒に居られるわね……」

 

「……あのなぁ……昔のよしみで即効性は無いがちゃんと解毒剤を置いていったし、三度目の時は俺も反撃されてんだぞ。」

 

「……へー…何したの、士郎?」

 

「……私が作った落としに穴に落ちた所に汚物を上からぶっかけただけだ。」

 

「……汚物って?」

 

「……聞かねぇ方が良いぞ?」

 

「……あー…何となく察しちゃったわ…」

 

「……ちなみに四度目は組んだ。あん時俺は正規軍と連携してあるテロ組織の壊滅をする予定だったんだがたまたまこいつの標的がその追跡を逃れてそのテロ組織に合流した。その縁でこいつが共闘の話を持ち込んできたのさ。」

 

「……一応聞くけどどうなったの?」

 

「……ほとんど俺たち二人だけでテロ組織を壊滅させちまったよ……おかげで正規軍の連中や同業者は皆機嫌が悪かったがな。」

 

「……うわぁ……」

 

「……失礼な想像してるみたいだがその時は俺らは誰も殺してないからな?」

 

「……私が追っていた魔術師も含めてな。」

 

「……まあ死んだ方がマシな目にはあわせてやったがな」

 

「……何したのよ?」

 

「……身動き取れない状態にして顔に落書きしただけだぞ?」

 

「……めちゃくちゃえげつないじゃない……」



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錬鉄の英雄のいる店4

「……さて、五度目の時は……」

 

「……ちょっと?何処行くのよ?」

 

「……凜。ほっといてやれ。……話していいんだな?」

 

「……好きにしろと言ったぜ。」

 

「……何なの?あいつ急に……」

 

「……やはり奴はまだ吹っ切れてないんだな……」

 

「……何があったのよ?」

 

「……あの時は我々は別行動だったが偶然にも同じ国に居てな。始まりは奴から私の携帯に連絡があったんだ。」

 

「……四度目の共闘の際に連絡先を交換したがそれからしばらくは何の連絡も無かったから面食らったよ。それで電話に出た私が聞いたのは初めて聞く奴の必死な声だった……」

 

「……相当切羽詰まっていてな、当初要領を得なかったから何度も落ち着くように言ったが効果が無くてな……苦労して聞き出したんだが内容が……魔術師に愛する女性を攫われたから救出に手を貸してくれと言ってきた。」

 

「……え!?あいつそんな人居たの!?」

 

「……さすがにその驚き方は失礼じゃないか?まあいい。」

 

「……まともな魔術師相手だと奴には荷が重い。幸い私は同じ国に居たし奴の突き止めた魔術師のアジトは私の居た場所の近くだった。だから私が行くから待っているように言ったが聞かなくてな……仕方なく合流したんだ。」

 

「……で、さっきのあいつの態度で何となく分かるけど、結果は……」

 

「……その女性を助ける事は出来なかった……だがその魔術師の実験材料になったわけじゃない。……現地に駐在していた正規軍に犯され殺されていた。」

 

「……」

 

「……私の制止を聞かず奴はその場でそいつらを射殺した。」

 

「……そして私は奴を連れその日のうちにその国を脱出した。」

 

「……で、どうなったの?」

 

「……奴はこれ以上借りを作りたくないと言った。だから私は奴と別れた。……その後再び出会った時は今度は奴自身がテロリストになっていたよ。」

 

「……私は正規軍と協力し奴の所属していたテロ組織を潰した。」

 

「……各国からお尋ね者になった奴は顔を変えこの国に帰って来た。奴が何で外人部隊に入りその後傭兵になったのかは知らないが元は日本人だったらしい。そして奴の愛する女性を救えなかった私は自分のやっている事に限界を感じ遂には投げ出し私もこの国に帰って来た。そして奴に連絡を取り……その後は君も良く知る通りだよ。」

 

「……何と言うか……あんたが辞めた理由って別にあいつが何かしたとかじゃないのね……」

 

「……切っ掛けではあるがね……まあ奴が心配ではあったが奴が帰国する時はまだ私は正義の味方を名乗っていたしな……」

 



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錬鉄の英雄のいる店5

翌朝…

 

「……で、このお嬢様を乗っけてきたのは良いがそろそろ起こさなくて良いのか?」

 

「……ああ。そうだな……凛、そろそろ起きろ。」

 

「……ふわぁ……痛っ!あれ?士郎……ここ何処!?」

 

「……朝っぱらからうるせぇな……俺の車ん中だよ。お前また明日から仕事で海外なんだろ?次いでに空港まで送ってやろうと思ってな。」

 

「……いや。ありがたいけど……それはさすがに……ん?次いで?」

 

「……二週間前に台風の直撃を受けた国があっただろう?大分現地の状況が安定してきたそうだから我々もこれから現地に飛んで一足先に着いて支援活動を行っているNGO法人と合流する予定だ……昨晩話したはずだが……」

 

「……あんだけ飲んでりゃ記憶も飛ぶだろうよ……にしても飛行機の乗り換えあって単なるボランティアでしかない俺たちと違って飛行機一本で行ける国に仕事で行く人間が二日酔いとはな。」

 

「……くっ。返す言葉も無いわね……イタタタタ……」

 

「……取り敢えず凛、薬と水だ。」

 

「……ほれブレスケア。こいつも使いな。酒の臭いがヤバいぞ。」

 

「……ありがとう。」

 

「……申し訳ないが部屋を改めさせて貰った。荷物はこれで全部か?」

 

「……あんたらは変な事しないでしょ。別に良いわよ……うん。これで全部ね。」

 

「……にしても良く男しかいない所に平気で泊まれるな。お前も知っての通り衛宮は自分の家があるしあの店には俺しか居ないんだぞ。」

 

「……あら?私を襲いたくなる…?」

 

「……んな引きつりまくりの笑顔でんな事言われてもな。大体何で俺がお前みたいなガサツな女襲わにゃならんのだ。」

 

「……へぇ……それは私に女としての魅力が無いと?」

 

「……酔っ払って絡み酒してどれだけ辛辣に返しても絡んで来てしまいに大泣き始めたり服脱ぎ出したりバランス崩して酒もツマミも床にぶちまける女の何処に魅力があると言うんだ。……あの後片付けるの大変だったんだぞ……」

 

「……何よ!大体あんたらが強すぎんのよ!何であれだけ飲んでケロッとして……イタタタタ…!」

 

「……凛、静かにしていたまえ。大人しくしてないと吐くぞ。」

 

「……ここは高速だ。サービスエリアまでまだかなりある。生憎エチケット袋なんてこの車に無いから吐きたくなったら窓開けてその場で吐いてもらうことになるからな。」

 

「……うぷっ……ごめん限界。」

 

「……窓は開けてやった。存分に吐け。衛宮、きっちり撮影しとけよ。後でこの女をからかうネタに出来るからな。」

 

「……君は私に死ねと言うのかね?」

 

「……ちょっと止めてよ!そんなの撮られたら「お前その女に結構貸しがあんだろ?」待って!?士郎止め「それもそうだな。」ちょっと!?」

 

 

 

「……良く撮れてるか?」

 

「……我慢していたようだが限界に達した様だ。今盛大に吐いてるよ。……後で桜に送るとしよう。」

 

「……お前も大概酷いよな……」

 

「……フッ。君程じゃない。」

 

 



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錬鉄の英雄のいる店6

「……凜……気を付けてな……ククク……いや。失敬。」

 

「……何よ……笑いたかったら笑えば良いじゃない……あっちは今も爆笑してるし……」

 

「……さすがの私も追い討ちかける趣味は……ププ……いや。すまん……やっぱり無理だ……」

 

「……あ~笑った笑った。衛宮は……何だ今頃爆笑してんのか。よぅ遠坂災難だったな?」

 

「……」

 

「……そんな顔すんなって。俺らも別に身内以外には見せねぇからよ。」

 

「……映像を消しなさい……!」

 

「……怖いねぇ。言っておくが俺は今映像を持ってない。撮ってたのは衛宮だからな……あー…でも後々見せられてからかわれるのが嫌とかならもう手遅れだぞ?衛宮がさっきお前の妹に送っちまったからな。」

 

「…!嘘でしょ……」

 

「……こんな所でしゃがみこむな。ほれ立ちな。残念だが嘘じゃない。さっきお前がサービスエリアのトイレに二度目のゲロの為に駆け込んだ時あいつは俺の目の前で送ったからな。」

 

「……そんな……」

 

「……つーかお前妹の所に全然顔出してないらしいじゃねぇか。現地に着いたら連絡した方が良いぞ。」

 

「……そんな醜態見られて連絡出来るわけないでしょ……」

 

「……だから何だ?死んだらそんな醜態所か顔ももう見せられなくなるんだぜ?生存確認なんて言うと無粋だが生きてるなら声くらい聞かせてやれよ。二人きりの姉妹なんだろ?」

 

「……分かったわ。着いたら連絡する。」

 

「……良い顔になったな。……ん?そろそろか。俺たちは先に行くからな、おい衛宮、お前何時まで笑ってんだ…さっさと立て。」

 

「……ああ。すまん。悪かった遠坂。」

 

「……もう良いわよ……気にしない事にしたから……」

 

「……悪いが気にはしてくれや……ほれこれ昨日お前が落として壊した皿とグラスの請求書。アレ自前じゃなくて客にも出してる奴だからな」

 

「……!え!?ちょっとこれ嘘でしょ……!?」

 

「……嘘なもんか。俺たちの場合料理の素材はもちろん皿にもこだわるからな……ついつい高いの選んじまうんだわ。」

 

「……いや。それは君の趣味だろう?私は何度も言っているだろう?客が誤って壊した食器の価値と料理の金額が釣り合ってないから払えないんじゃないか?と。」

 

「……料理の値段に関してはお前の経営努力の賜だな。何処であんな良心的な商売相手探して来るんだか……俺も別にわざと割ったんじゃなきゃ一々請求しねぇよ。だがこいつは酔っ払って割りやがったからな。」

 

「……まあそうだが……と、そろそろ行かないと間に合わなくなるぞ。」

 

「……ん?マジか。じゃあな遠坂。ちゃんとそれ払えよ。」

 

「……待って!?こんな額私払えないわよ!?」

 



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錬鉄の英雄のいる店7

「……何時もすまないな。」

 

「……何だ突然?」

 

「……こうやって私の我儘に付き合ってもらっていることについてだ…」

 

「……良いさ。俺はお前に借りがあるからな。まあ人を救う為には人を殺さなきゃならないという不文律に取り憑かれていた頃よりずっと健全じゃねぇのか?」

 

「……」

 

「……ここはそう治安は良くはないが内戦の起きている国じゃない。最もここまで災害の被害がデカいと恐らくそれどころじゃないだろうが……」

 

「……正直目からウロコが落ちる思いだったよ。君から人を殺さなくても人助けは出来るんじゃないのかと言われた時は。」

 

「……被災地域のボランティアな。根無し草の頃と違い生活基盤は別の所にあると言う感覚もあるから長居はしない。変な情が移ることもない。身も蓋も無い言い方をすればそういう事だ……が、お前から与える善意は結局それくらいドライでも良いんだよ。お前は一々重すぎるんだ。しかも善意を受けた側がどう思うかなんて考えもしないからな。」

 

「……私の言う正義の味方とは単なる自己満足だった。」

 

「……もっと言えば承認欲求の一種だな。……そんな独りよがりの善意……本当にキツイ連中にとって迷惑なだけだ。救われたと感じる連中もいるだろうが実際はお節介通り越してありがた迷惑だとすら思われてるだろうよ。」

 

「……だからこれくらいの距離感で良いのさ。お前は出来るわけもないのに相手の立場に立とうとする。その癖そいつらが本当に求めているものが分からず間違える。」

 

「……私はこれで良かったんだな。」

 

「……あっさり納得してるが別にお前の命題は解決してないだろうに。」

 

「……いや。私はこう思っている。私は君に救われたとな。」

 

「大袈裟な奴だ。お前がそう思ってんならそれで良いんじゃねぇの?」

 

「……そうだな。」

 

「……ところで一つ聞いて良いか?」

 

「……何かね?今は機嫌が良い。何でも答えよう。」

 

「……お前何で遠坂から距離を置いているんだ?」

 

「……どういう意味かね?」

 

「……お前は一見すると遠坂凛を名前呼びし親しげだが……お前今朝遠坂凛を遠坂、と呼んだのに気付いているか?」

 

「……私が凛をそう呼んだと?」

 

「……空港でお前が爆笑し既に復活していた俺が立たせた事があっただろうあの時遠坂凛に謝罪しようとして素が出たんだろうお前は遠坂と呼んでいたよ……」

 

「……」

 

「……そもそもお前のその言葉遣い……外人部隊所属の頃はしていなかったよな?」

 

「……」

 

「……なぁ、何でお前は遠坂から距離置こうとしてるんだ?」



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錬鉄の英雄のいる店8

「……何処までもお節介だな、君は……最も私も人の事は言えないが…」

 

「……別に聞いて欲しくねぇなら聞かねぇよ。答えを出すのは結局お前らだしな。」

 

「……私としてもこればっかりはな……一筋縄ではいかない問題なのだよ……」

 

「……ちなみに遠坂がお前に向けてるもんには気付いているんだよな?」

 

「……散々その辺りでは色々あった。女心そのものは分からなくても愛憎については多少の理解はあるつもりだ……。当然分かるよ……」

 

「……なら俺から言う事はねぇな。……ただ見てて焦れったいんだわ。さっさとケリつけてくれや。」

 

「……善処しよう。」

 

「……そうかい。んじゃ明日も早いからとっとと眠るぞ。ってもう深夜…!衛宮……」

 

「……どうしたのかね?」

 

「……今夜一晩は寝てる場合じゃなさそうだ。見てみろ…」

 

「……これは…!」

 

「……第二波、だ。こりゃあ日本でも中々お目にかかれない規模だな。」

 

「……台風……いや。こちらでは普通…」

 

「…ハリケーンだ。さて、来ても良いように備えをしますかねぇ。」

 

「……」

 

「……衛宮、魔術を使うなよ。お前のその力は自然に反してる。察知されて執行者なんてやって来たら対応出来ないぞ。」

 

「……すまないがそれは約束出来ない……私は使うべきと判断したら迷うことなく使わせてもらう。」

 

「……ハッ。そこまで言える覚悟があるんなら良いんじゃねぇの。」

 

「……すまない。」

 

「……謝る必要はねぇよ。何なら俺は自分に危機が迫ったらお前を見捨てて逃げるからな。」

 

「……ああ。そうだったな。君はそう言う奴だったな。」

 

「……笑いながら肯定されるとすげえ気持ち悪いんだが。」

 

「……いや。こういうのは…そう、なんて言うんだったか……確かツンデ…!そう怒らないでくれ。争ってる場合じゃないだろう。」

 

「……だったら戯けたこと言ってんじゃねぇ。ほれとっとと行くぞ。取り敢えず今いる町の住民を避難させる。……多分法人の連中はまだこの事を知らない筈だ。」

 

「……時間との勝負だな……上陸予定は?」

 

「……今出た。後六時間後……早いのか遅いのか分かんねぇ……」

 

「……後六時間……一応この町の連中の避難には十分か……」

 

「……予定通りにはいかんだろうよ…。どうせ何らかの理由で自力で動けない奴とかいそうだしな…」

 

「……二手に別れよう。その方が早い。」

 

「……了解。あ~あ…こんな事しなきゃならねぇなんて聞いてねぇぞ……無報酬だから尚悪い。」

 

「……人の命がかかってるんだ。そうも言ってられまい。」

 

「……へーへー。んじゃ行きますかねぇ……出来るだけ魔術は使うなよ?」

 

「……さっき言ったはずだが?」

 

「……マジで使わないで欲しいんだがな……仕方ねぇか。さて、行きますかねぇ……」

 

 

 

 



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錬鉄の英雄のいる店9

「……それで、どうなったんですか…?」

 

「……どうとは?」

 

「……だから…!その後の事です……!」

 

私は横で酒を飲んでいる相棒を見る。肩をすくめ、溜息を吐き、顔を背け、私に手を向ける。……そのまま私から言えという事らしい……まあ奴から散々大騒ぎしておいてあのオチでは自分の口からは言いづらいか……

 

「……逸れた。」

 

「……は?」

 

「……ハリケーンは逸れた。つまり雨風は多少酷くなったもののそれ程被害は無かったという事だ。ましてや避難などする必要も無かったという事だな。」

 

私がそう告げると脱力したように力なく椅子に背を預ける桜。

 

「……安心しました。先輩たちに何かあったらと思って……」

 

「……ねぇ桜?あれから一ヶ月も過ぎててこの場にこの二人が揃ってるんだからそれは無いと思うわよ……」

 

「……私も既に終わった話として話していたしニュースも見てるとの事だったから何の気無しに話したんだが……まさかこうも過剰に反応されると思わなかったな……ああ。すまない。桜が心配してくれたのは分かっている……」

 

「……本当ですよ…あんまり危ない事はしないで下さいね……」

 

「……分かっているさ。私はここに帰って来る。ここが私の帰る場所だ。」

 

「……なぁ衛宮?旦那の前でナチュラルに人の嫁とイチャつくの止めてくんない?」

 

「あら?兄さん嫉妬ですか?」

 

「……桜、いい加減その呼び方止めてくれ……何か背筋が寒くなるし罪悪感がやばい……」

 

「……兄さん、この場にいる全員が全部知ってるんですから取り繕っても意味無いですよ?それにこうやって責任を取ってくれてるんですから私は満足です。」

 

「……桜…」

 

「……イチャついてるのはどっちかしらね……」

 

「……言ってやるな。紆余曲折あってくっ付いて未だに新婚気分なんだろう。……もう数年経つわけだが……」

 

「……経緯は聞いたが改めて考えると思いの外業の深い夫婦だよな。元は義理の兄妹だって言うんだからよ。」

 

「……私は何度も止めろって言ったんだけどねー…結局折れて戸籍を一度こっちに戻したわ。」

 

「……義理とは言え兄妹だと結婚は難しいからな。合法的な裏技か。」

 

「……俺はその辺詳しくないんだが元々別の家に養子に行って完全に戸籍から出た人間を本来の姉が後見人になるからってまた戸籍に戻すのは合法なのか…?」

 

「……凛、ちゃんと正式な手続きを踏んだんだろうな?」

 

「……さぁ?どうだったかしら?」

 

「……まあ本人たちが良ければ良いか。」

 

「……追求を諦めやがったな。」

 

「さて、何の事だか。」

 

「……つうか妹に先越された姉よ、お前は何時結婚するんだ?……おいおい怒る場面じゃねぇだろ?」

 

「……何よ…あんたには関係無いでしょ……」

 

「ククク。せっかくすぐそこに意中の相手がいるのによ…!酒瓶で殴ろうとするな、暴力女。」

 

「……凛、落ち着きたまえ。せっかく皆揃ったんだ。台無しにする事も無かろう?」

 

「だって、こいつが…!」

 

「……はん。俺の言いたい事は分かってんだろうが。」

 

「……何よ。人の事気にしてないで自分の事考えたら良いじゃないの……」

 

「考えとくわ。さて、そろそろお開きで良いか?」

 

「……むっ。もうこんな時間か。」

 

「……士郎家まで送ってってよ。」

 

「無論だ。承ろう。」

 

「……桜、忘れ物をするなよ。」

 

「寧ろ忘れるのは兄さんだと思いますけど……」

 

「……おいお前ら!後片付け位してけっての!」



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錬鉄の英雄のいる店10

前日飲んでようが基本休みの無いこの店は今夜も営業中である。……食材の確保などの時間を考えると昼間の営業は今の所断念せざるを得ない……私たち二人は酒が残りにくいのと飲み過ぎない上に同年代と比べても体力があるのが救いか。……そしてその営業スタイルが今私たちの首を絞める要因になっている

 

「……大丈夫かね?」

 

「……捌ききれねぇ…。半分趣味でやってるような店だからあんま大きく取り上げ無いでくれと伝えたはずなのによ……!」

 

閉店後の店内……私たちは息も絶え絶えだった。

取材が来て初めは断るつもりだったのだがあまりに熱心だったため渋々受けた所現在この店は普段の倍以上の客の入りとなっていた。

 

「……さっき慎二が持って来た雑誌に出てるぞ。表紙を飾ってそこをめくると三ページのカラー特集。」

 

「……マジで抗議してやろうか……!」

 

「……止めたまえ。下手に刺激すると我々が不利になる。……客が増えるのは本来は喜ばしい事なのだろうがな。……まあ一週間も前に発売していたのに約束していたサンプルは届かず身内が持って来るまで当事者に内容も知らされないのは問題だと思うが。」

 

とにかくこれはさすがに不味い。現在この店にシェフは一人ならウエイターも一人……これではこちらがもたない……

 

「……人を雇おう。もう我々だけでこの店を回すのは無理だ。」

 

「……しゃあねぇか……来るかねぇ……」

 

「……即戦力になるような者は望めまい……数を雇うのも良いが全員が使えないとかえって邪魔になる……」

 

「……分かってるじゃねぇか。」

 

「……君の言い分もよく分かるつもりだ。人を増やせば私も厨房に入れるが肝心のバイトが役に立たなければ意味が無い。……そう言う意味では今研修をさせるのは問題と言える。」

 

多数の注文と客の案内を捌ききれなければすぐにこの店はパンクする。今の若者にそこまでの能力を望めるか……ふむ。私も歳を取ったかな。

 

「……アテはあんのか、衛宮?」

 

「……私のコネには頼れんよ。知り合いは同年代ばかりだ。……さすがに我々と同レベルの仕事量をこなせる人材はいない。」

 

「……取り敢えず若い連中を中心に募集かけてみるか……衛宮、募集要項は任せるぞ。」

 

「承った。君は営業マニュアルの作成をしたまえ。」

 

「……その辺が妥当だな。やれやれ忙しくなるな……」

 

「……贅沢な悩みだな。」

 

「うるせぇ。他人事みたいに言ってんじゃねぇ。客が増えてんのに運営危機なんざ笑えねぇ話なんだからな。」

 

 



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錬鉄の英雄のいる店11

「……」

 

「ちょっと……どうしたの、こいつ?」

 

「……うむ。雇った若者が意外と有能だった事実にショックを受けている所だ。」

 

「……何人ぐらい来たのよ?」

 

「……一人だ。だが彼は一人で複数人並の働きをしている。……即戦力と言う程では無いかもしれんが少なくとも接客態度には申し分無い。……寧ろお釣りが来る程の逸材だな。……私もつい本気で色々仕込んでみたいと思ってしまったよ。何せ覚えが早い。正しくスポンジだ。聞けば接客業自体は経験があったらしい。……ここ程忙しくは無かったそうだが。」

 

「……思わぬ拾い物をした筈なのに何でこいつは凹んでるわけ…?」

 

「……彼は有能過ぎてね……営業形態にまで口を出して来てな……」

 

「……こいつの性格的に突っ張るだけでしょ、それ?」

 

「……向こうは今時の若者とは思えない程丁寧だししかも飛んで来た要望は彼のやり方を黙認していた私にも耳の痛い正論ばかりでな……すっかり言い負かされたショックとジェネレーションギャップで苦しんでいるところだ。」

 

「……あんたたち、バカじゃない?」

 

「……返す言葉も無いよ……所で今日は何か用かね?帰国するとは聞いてなかったのだが……」

 

「……ああ。その事ね……向こうでやる事は粗方終わったの。私はこっちに戻る事にしたのよ。」

 

「…!そうなのか?」

 

「ええ。それで頼みがあるんだけど……」

 

「……嫌な予感がするな。断っても?」

 

「まずは聞きなさいよ……私は業務を完全にこっちに移したわ。当分向こうには渡らない。……それでね、昼間はともかく夜は暇なのよ、だから……」

 

「…!おい。その先は「私をこの店で雇って欲しいのよ。」やはりか……」

 

「もちろん断らないわよね…?」

 

「……決めるのは私じゃないな。」

 

「……でしょうね。ねぇ?ちょっと?」

 

「……ん?何だ、遠坂?何か用か?」

 

「……あー…改めて注意されるのも分かるわね……これは客に対する態度じゃないわ。」

 

「……うるせぇな。これが俺なんだよ。文句は言わせ「いえ。これからは口に出すわよ」あ?」

 

「私この店で働く事にしたから。文句無いわよね?店主さん?」

 

「……あ?何言ってやがる。文句しかねぇよ。」

 

「何が不満なのよ?」

 

「……何処の世界に上司にタメ口聞くバイトがいんだよ。」

 

「ここにいるけど?」

 

「……ふざけんな。大体お前アレだろ?どうせ衛宮とイチャつきたいだけだろ?」

 

「……あんた…!「凛、止めてくれ。そこで君が怒ると私にもダメージが入る」士郎……」

 

「……お前らなぁ……仕事中にそれやられると困るんだよ、俺は。」

 

「……いや君は基本的に厨房から出て来ないだろう?」

 

「……そうね。何が困るのかしら?仕事が出来ていれば何も文句無いでしょう?」

 

「……チッ!好きにしやがれ。」

 

「……凛、ありがとう。これで私も料理が出来る。」

 

「あんた本当に料理好きねぇ……」

 

「数少ない趣味の一つだからな。こればっかりは早々譲れんよ。」

 

「……接客担当で雇うつもりなんでしょうけど私にも料理させなさいよ?腕を錆つかせるつもりは無いから。」

 

「……ふん。ついて来れるか?」

 

「……ふざけないで。あんたの方こそついて来なさい。」

 

「……ハア…アホなやり取りしてないで取り敢えずお前らもう帰れよ。」

 

 

 

 



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錬鉄の英雄のいる店12

「……で、何だかんだこの店の事を把握してる君に一日彼の教育を担当してもらった訳だが……どうだったかね?」

 

「……いや。あれ私が教える事って何かあるの?あんたの言う通り接客のやり方については文句無しよ?……機転も利くタイプみたいだし言うなら百点満点のテストで百以上を付けざるを得ない……みたいなタイプなんだけど……」

 

「……君もやはりそう思うか?」

 

「……教える方が泣くタイプね。たまに不備があっても自分である程度対応出来るし二度目は同じミスしないし、教えれば一回で覚えてコツも掴む。……居そうでなかなか居ないわね……こういう人材……何でこんな店に来たのかしら…?」

 

「……近くの喫茶店で働いていたんだが店主が年配の方で最近限界が来て店を閉めてしまったそうだ。……残念ながら私は顔を出した事は無いがかなり評判の店だったらしい。……ちなみにそこはバーも兼ねていたようでな……今回君は確認してないだろうが彼は酒の銘柄にも詳しいぞ。」

 

「……もったいないわね……他にもっといい働き場所あるでしょうに……」

 

「……おい、遠坂?さっきから随分人の店を貶すじゃねぇか。文句あるなら何時でも辞めて良いんだぞ?」

 

「……あら?辞めていいの?」

 

「……強がりは止めたまえ。彼女が正式に働くようになって一番恩恵を受けているのは君だろう?」

 

「……チッ!あの若いのといいどうしてこううちの従業員はこんなんばっかなんだ……」

 

「……ほう?それは私にも喧嘩を売ってるということで良いのかね?」

 

「……何だ?今更こんな事で怒んのか?……良いぜ。久しぶりにサシでやるか?」

 

「……良いだろう。吠え面をかかせてやる。」

 

「……ちょっと人巻き込んで喧嘩しないでよ。」

 

「……凛、心配は要らない。私たちが本気で争うと面倒な事になるのでな……」

 

「……要するに直接の殴り合いはしない事にしてんのさ。……以前こいつを煽り過ぎてブチ切れたこいつが宝具出しやがったもんだから店が半壊しかけてな……」

 

「……いい歳して何をしてんのよ……あんたらは……」

 

「……だから……これだ。」

 

「……酒…という事は?」

 

「飲み比べ、だ。……ちなみに俺たちの戦績は……俺が五十一勝、衛宮が五十勝……」

 

「むっ!サバを読むんじゃない!あれは私の勝ちだ!」

 

「何言ってやがる。あん時先に目を覚ましたのは俺だ。」

 

「いや!私が先だ!」

 

「……あんたらねぇ……」

 

「……仕方ねぇ分けにしといてやるよ。今この場で俺が勝ちゃあ良い話だ。」

 

「言ったな。悪いが勝利は私が頂く。凛、審判を頼むぞ?」

 

「……はあ?今日は慎二の奴が遅くなるって言うからこの後桜と飲む約束をしてるんだけど?」

 

「ならば丁度いい。この場に桜を呼びたまえ。店の酒を提供しよう。……店の食材も好きに使うといい。……もちろん飲食代はタダだ。料理は自分でしてもらうがな。……それで構わないか?」

 

「……好きにしろよ。食材や酒の用意してるのはテメェだ。俺は決着着けれりゃ何でもいい。」

 

「……本当にタダなのね?ならいいわ。今桜を呼び出すから」

 

 

 



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錬鉄の英雄のいる店13

「……それでこの惨状、ですか。」

 

「……わざとこの展開に持ち込んだのは気付いてたけどこれは無いんじゃない?」

 

「……言葉も無い。まあ気にせず楽しんでくれ。」

 

「……それならそこで寝てる奴を片付けてよ。てか酒に薬混ぜてまで何でこいつを眠らせたわけ?」

 

「……気にするな……と言っても無理か……そもそも桜が来る前に終わらせるつもりだったのが……まさかここまで奴が粘るとは……」

 

「……何よ?そんなに深刻な話?」

 

「……二人には話しただろう?彼の恋人の話を。もうすぐ彼女の命日なんだ。」

 

「……それと店主さんを眠らせた事に何か関係が…?」

 

「……命日は三日後だ。この時期になると奴は仕事に粗が出始める。……未だに吹っ切れて無いからだろうな。」

 

「…?仕事って……墓参りは…?」

 

「……現地にいる彼女の友人に連絡を取ったが……どうも一度も訪れていないようだ……」

 

「……じゃああんたの目的って……」

 

「……彼女の墓参りをさせる事だ。しかも彼女の両親は存命らしい……滞在中彼も世話になったらしいからな……最低限のケジメは着けさせる。……もちろん私も同道する。……彼女を救えなかったのは私の責任でもあるからな……」

 

「……じゃあ明日出発ですか?」

 

「……もうチケットも手配した。……今まで散々色々やられたが恩もあるからな、私からのお節介というやつだ。」

 

「……迷惑がられそうだけど?」

 

「……今までの仕返しも兼ねてる。」

 

「……士郎……あんた性格悪くなったわね……」

 

「……褒め言葉と思っておこう。」

 

「……先輩……私も一緒に行っていいですか…?」

 

「……桜?」

 

「……何故かね?あちらはあまり治安も良くない。それに今は一旦終結した内戦がいつ再開してもおかしくない状態だ。……更に言えばこれは私たちの問題だ。さすがに遠慮してもらいたいのだが……」

 

「……それでも行きたいんです……ダメですか…?」

 

「……桜……あまり我儘は「良いだろう。」士郎!?」

 

「そこまで言うなら私から言う事は無いさ。だが条件がある。」

 

「……何でしょう?」

 

「……慎二を連れてきたまえ。それが条件だ。」

 

「……はい!分かりました!」

 

「ちょっと士郎?そんなに簡単に決めていいの?飛行機の席は「奴がゴネて暴れる可能性があったからな。一般客に迷惑をかけないように何席か確保している」過保護過ぎでしょ……」

 

「……ねぇどうせなら私も行っていい?あんたらが向こうにどれくらい滞在するか知らないけどその間店は休みなんでしょ?」

 

「……桜に許可を出してしまったしな……好きにしたまえ。」

 



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錬鉄の英雄のいる店14

「……おい、衛宮……何で僕がこいつの横なんだよ?」

 

「……君は自分の妻を他の男の横に座らせたいのかね……?」

 

「……いやおかしいだろ!?何でマイクロバスなんて借りて来てわざわざ僕だけ後部座席でこいつと一緒に座らなきゃいけないんだよ!?」

 

「……決まっているだろう?君の役目は……猛獣を抑える役目だ。私は運転に集中しなければならないのでね、女性陣に被害がいかないようにしっかりと奴を抑えてくれ。」

 

「頼むわよー!慎二!」

 

「すみません、兄さん……」

 

「……朝早くから叩き起こされていきなり旅行とか言われて……僕の意見は……」

 

「あんたの仕事は有給扱いになっているし、あんた新婚旅行以来桜と旅行行ってないんでしょう?丁度いいじゃない。」

 

「……あのなぁ……新婚旅行はお前がくっ付いて来たし僕だってちゃんと計画は立ててたんだけど……」

 

「……兄さん……そうなんですか…?」

 

「……え!?もっ、もちろんだよ!?」

 

「……どう思う?」

 

「……多分考えてはいたが一切形にはなっていない代物だろうな……まあ桜は気付いていてわざと期待の眼差しを向けているんだろうが。」

 

「……まっ結果的にあいつの尻を蹴る事になったのかしらね……」

 

「……そのようだな…」

 

「……ん!?何処だここは!?」

 

「おい衛宮、こいつ起きたぞ。」

 

「……お目覚めかね。随分と早い目覚めじゃないか?」

 

「…!おい衛宮!何だこの檻と手錠は!?足枷まで着けやがって!」

 

「これから君をある所へ連れて行く。その前に逃げられては困るのでね。」

 

「ふざけんな!俺を一体何処に「墓参りをさせようとな」!ざけんな!おい間桐!こいつを外せ!?」

 

「……鍵は衛宮が持ってる。それに話聞いたら僕もお前を逃がそうと思わないさ。」

 

「…!おい遠坂!?」

 

「拒否するわ。」

 

「桜!?」

 

「ごめんなさい。」

 

「いい加減諦めたまえ。」

 

「……チッ!わぁったよ。墓参り位「彼女の両親にも会ってもらおう」あ!?何言ってやがる!俺は顔を変えて「ちゃんと君の今の顔の写真を送ってある」おい!?」

 

「……観念したまえ。私も一緒に行くしな。」

 

「てかあんた人にあれだけ偉そうに説教しといて自分は恋人の墓参りにすら行ってないのね……」

 

「……はっ!何言ってやがる。墓参りになんて行くのなんざ日本人くらいだろうが。」

 

「いや君は生粋の日本人だろう?少なくとも私は君からそう聞いたが?」

 

「というか日本人以外も普通墓参り位は行くわよ?」

 

「うるせぇ!離しやがれ!」

 

「……人に偉そうに言う割に自分はこんななのね……」

 

「……そう言うな。彼は口は悪いがこれでも気遣いの出来る優しい人間なのだよ。「衛宮!適当な事言うんじゃねえ!」ククク」

 

「……あんた、楽しそうねぇ……」

 

「……そうだな。私は今、とても楽しいよ。」



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錬鉄の英雄のいる店15

「……」

 

「……何をしている?早くノックしたまえ。」

 

飛行機を乗り継ぎ現地にて雇った男の運転でこの村にようやく辿り着いた。……その間一悶着所か私の横にいる男のお陰で何度目か分からない程のトラブルに襲われたが割愛しよう……全く。現地の警察に捕まらなかったのが不思議な位だ。まさか現地に着いてからまで逃げようとするとは……

 

「……しゃあねぇな。」

 

奴がドアをノックする。……私は彼女の両親に面識は無い。私は後ろに下がる。……そんな目で見るな。さすがにそこまで面倒見切れんよ。ドアが開けられる……

 

「……!お前今まで何処にいたんだ!?」

 

中から出て来た老夫婦に抱き締められ目を白黒させる奴を見て笑いを噛み殺す……ふと後ろを見ればおまけ三人が全員泣き顔だった。……慎二お前もか……全く。これでは私が薄情な奴ではないか……

 

 

 

「……そうか。」

 

私たちは全員二人の家に招かれ中にいる。私と奴で今彼女の事を話し終えた所だ。

 

「……すまねぇ……俺のせいだ……」

 

「……」

 

口を挟もうとしたが止めた。……私にも責任があるのは確かだがここでは私は発言すべきではないだろう……

 

「……あの子が死んでお前までいなくなって私たちがどんな気持ちだったかお前には分かるまい……」

 

「……ああ。俺は親じゃないからな。」

 

「……お前は言ったな。あの子とこの村に骨を埋める覚悟だと。」

 

「……ああ。あの時は本当にそのつもりだったさ。」

 

「……お前がこの村にボロボロの状態で辿り着き、あの子に拾われ、この家に住んでいた半年間……たったそれだけの期間だが本当に楽しかったよ。……今からでも遅くない。儂らの息子としてここに留まる気は「悪いが無い。もう俺には他にやるべき事が見つかっている。」そうか。」

 

「……邪魔したな。あいつの所に寄っていくよ。」

 

奴が外に出た。

 

「……すまない。せっかく会ったというのにあんな態度で……」

 

「……良いさ。あいつの事は良く分かっている。ところであんたはあいつの何だ?」

 

「……戦友かな?奴とは仲間だった事もあるし争った事もある。……今では同じ店の共同経営者だ……実態はただの雇われ従業員に近いがね……」

 

「……あいつの事を頼んでも良いか?」

 

「……すまないが約束出来ない……奴は本来根無し草の方が性に合ってるタイプだと思う……多分今一つの国に住み店をやってるのも単なる気紛れじゃないかと思っている……」

 

奴はやりたい事を見付けたと言った。だが奴が満足すればまた奴は旅立つだろう。

 

「……あいつは飽きっぽいからな。苦労させられてるだろう。」

 

「……ええ。それなりに……」

 

「……あいつが飽きる迄で良いんだ……宜しく頼む。」

 

頭を下げる老人……ふむ。これでは断れないではないか……

 

「……分かりました。私で良ければ……凛、桜、慎二、そろそろ行こう……」

 

そう言って家を後にしようとする私たちに奥さんが……

 

「……今日は泊まっていって?そろそろ日も暮れるわ。」

 

……言われてみれば時間も時間だ。……そう言えばこの辺は観光地でも無いから宿は無い……ならば……

 

「……お言葉に甘えるとしよう……三人もそれでいいか?」

 

三人は頷く。……特に異論は無いようだ……そもそも選択肢は無いような物だが……

 

「……では奴を呼んでくる。待っててくれ。」



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錬鉄の英雄のいる店16

「……俺の親父は料理人だったんだ……」

 

彼女の墓の前で黄昏ていた奴に声をかけると奴からちょっと聞いてくれと言われ飛んで来た第一声がこれだ……

 

「……何故今そんな話を?」

 

「……取り敢えず聞いてくれ。俺がお前に会う前の話だ。」

 

「……俺の家は定食屋でな、物心着いた頃から母親のいなかった俺はおふくろの味って奴を知らない。俺の原点は親父の作る飯だったんだ。」

 

「……俺は勉強が出来なくてな、他の兄弟たちが俺を置いていくのを指をくわえて見てるしか無かった。……幸い兄貴も弟も親父の店を継ぐ気は無かったみたいだからな、将来は俺が店を継ぐもんだと思ってた……」

 

「……中学三年の時だ。俺は親父と大喧嘩した。……俺は高校なんて行かず親父の元で修行して将来店を継ぐつもりだったんだ……だが親父はどれだけランクが低くても良いから高校に行けって聞かなかった……」

 

「……何なら専門学校でも良いと言う親父に俺は言った。あんたが俺に教えてくれりゃすむ話じゃねぇのかってな。……それに対しての親父の返事が……」

 

「……何と言われたのかね?」

 

「……店は老朽化が激しくもう持たない。それにここは区画整理に入っており立ち退きを言われている、だ。」

 

「……」

 

「……ガキだったのさ、俺は。結局俺と親父の話は平行線を辿り俺はその晩荷物を纏めて店を飛び出し家出した。」

 

「……まさかと思うが君は……」

 

「……俺はそれから親父には会ってない。俺は家を出た後親戚を頼り日本各地を転々とし後に海外に渡った……んで手っ取り早く生活費を稼げる手段として外人部隊に入った。」

 

「……君は何をしたかったのかね?」

 

「……今となっては分からん。当時俺は若かったからな。身一つでも何とかなると勝手に思っていたのさ。……何の根拠も無いのにな。」

 

「……親父さんに会う気は無いのか?」

 

「……去年亡くなったらしい。新聞に載っていた。」

 

「……」

 

「……衛宮、俺はどうすれば良いんだろうな?」

 

「……君は断ったが……迷っているのかね?」

 

「……この村に留まるのも悪くない……そう思ってる俺もいるのさ……」

 

「……私は口を出さない。自分で決めたまえ。」

 

「……めんどくせぇなぁ……」

「……そろそろ日も暮れる。今日はあの家に泊まることになった。」

 

「……なるほどな。まあ確かにこの村に宿は無いからな。……うわぁ行きづれぇ……」

 

先程あんな態度を取っていたからな……

 

「……自業自得だろう?さぁ行こうか?」

 

渋々着いて来る奴を見て今も十分ガキじゃないかと思ったのは黙っておく事にしよう……

 

 



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錬鉄の英雄のいる店17

「そういや衛宮?」

 

「何かね?」

 

「……お前あの二人に写真送ったんだろ?俺の近況について話してなかったのか?」

 

「……私は外人部隊時代から最近迄の私と君が写った写真と共に私が近々君を連れていく旨について書いた手紙を送っただけだ。……まあ君は顔を変えてしまったし私も魔術回路の過剰使用の影響で大きく見た目は変わってしまったが。」

 

「……どうりで荒い歓迎だったわけだ。何で言わなかった?」

 

「……君も良く知ってる彼女の友人に連絡を取り彼女の両親の居場所こそ聞いたが……そもそも私は面識が無いからな……突っ込んだ話をするよりまずは君を連れていくのが先と思った迄だよ。」

 

「……というか良く届くと思ったな?こんな村まで。」

 

「……都市部に住む彼女の友人の話では一応届くとの事だった……まあ治安状況を考えればしっかり配達されるかは賭けだったがな……届いていたようで何よりだ。」

 

「……行き当たりばったりにも程があるだろ……」

 

「……何の計画性も無く日本を飛び出した君に言われたくは「ブーメランって知ってるか?」……」

 

「……言わせてもらうが正義の味方になるって言って高校を卒業しただけのガキがガチの戦場にいきなり身を投じようとするのも十分ヤバいからな?」

 

「……止めたまえ。この話はどちらにも不毛だ。」

 

「了解。俺もこんな所まで来て争いたくは無い。」

 

「……そっちでは無い。こっちだ。方向音痴では無いだろう?」

 

「……遠回りしてんだよ、察しろ。」

 

「……この辺は街灯が無い。日が暮れたら面倒な事になる」

 

「……へいへい。」

 

「……結局君はどうするつもりだ?」

 

「……お前はどうすんだよ?仮に俺が店畳んでこっちに残るって言い始めたら。」

 

「その時は私は正義の味方に戻るつもりだ。……もちろん出来るだけ人を殺さない、な。」

 

「……まっ、良いんじゃねえの?取り敢えず俺は今回は帰る。んで「親父さんの店の合った場所迄行くのだろう?」……言っとくが今度はお節介は要らねぇぜ?」

 

「……その間は私が代わりに店を営業しよう。……帰って来なくても構わないぞ?」

 

「……お前本当に性格悪いな。たまには素直に話せねぇのかねぇ……」

 

「天邪鬼は寧ろ君の特権……いや。君の場合ツンデ「止めろ。気色悪い。」ククク。」

 

「……大体ツンデレならその称号に相応しいのが連れにいんだろ?」

 

「……違いないな。彼女は紛うことなきツンデレだ。」

 

「……で、そんな女がお前は好きなんだろ?」

 

「……うむ。私は彼女を好いている。昔からな「良し!録った!」は?」

 

「今のはしっかり録音させてもらった!これでしばらくお前をからかえるな!」

 

「……まっ、待ちたまえ!まさかそれを凛に!?」

 

「お前らこうでもしねぇと進展しねえじゃねぇか。」

 

「それを渡したまえ!」

 

「やなこった!」

 

 

 

 

 

 



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錬鉄の英雄のいる店18

理由付けてごねる奴を引っ張って来て一時間……普通に行けば十五分もかからない場所でこれだけ無駄に過ごし、今は……

 

「……暗くなってしまったな…」

 

「……悪かったよ。つっても何度も俺は言ったぜ?先行ってろって「君は一人にすると戻って来ないだろう?」……」

 

「せめて否定してくれ。」

 

「……お前なぁ…同じ立場なら戻りたいと思うのか?」

 

「論点のすり替えをするな。さっさと戻るぞ。」

 

「……方向分かんのか?「誰に言ってるのかね」だよな。」

 

隙を見て逃げようとする奴を引っ張る。……ようやく見えて来た……

 

「……おい。もう離せよ……ここまで来たら逃げねぇって。」

 

私は手を離……!

 

「……往生際が悪過ぎるぞ、君は……」

 

家を目の前にしてまだ逃げようとする彼の首に後ろから干将を当てる。

 

「……何も宝具出さなくたって良いじゃねぇか……下ろしてくれ。もう逃げねぇって。」

 

私は干将を消した。

 

「……ハア…なぁ何て言って入りゃいいんだ?」

 

「……子供かね、君は?普通にただいまで良いだろう。」

 

「……お前先「断る」……」

 

しばらく私とドアを睨んでいたがやがて奴はドアを開けた。

 

「……ただいま。」

 

「……おかえりなさい。」

 

あっ、泣き出した。良し。ここは写真を「衛宮、その携帯を仕舞えばさっきの音声消してやるよ」なっ…!?

 

「それは卑怯だぞ!?」

 

「何とでも言え。」

 

というかもう涙が止まってしまっているでは無いか!?

くっ!しくじった!

 

「……つーかもう送ったんだけどな~……遠坂に。」

 

「……は!?」

 

何という恐ろしい事をするのだこの男は!?

 

「……士郎…」

 

今私の目の前には何と言うかとても潤んだ目をしたあかいあくまが……!

 

「急用を「お前ここの人間じゃないだろ。何処にお前の用事があんだよ。」私は先に「ここら一帯は治安が悪いから今夜は泊まる事になったんだろうが。」……」

 

「お前自分の事になるといきなり日和るよな。」

 

「僕も同感だな、ここらで責任を取れ。お前の義弟なんて癪だけど今回は納得してやるよ。」

 

「先輩……姉さんをちゃんと幸せにして下さいね…?」

 

くっ!桜が怖すぎる……!私の味方はこの場にいないのか!?彼女の両親もニコニコ顔でこっちを見て……!

 

「こら!?この状況で一人だけ逃げようとするんじゃない!」

 

私はこっそり外に出ようとする奴の襟を掴む。

 

「おいおい俺は独り身だぞ?この場にいたら肩身が狭いだろうが。夫婦同士仲睦まじくやってくれや。俺は外で寝るから。」

 

「私はまだ結婚していない!」

 

奴の心配などしている場合では無かった…!この状況をどうするか考えなければ……!

 



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錬鉄の英雄のいる店19

彼女の両親の家にある食材で手料理を振る舞う……いや待て。何故私が率先してやっているのか…?

 

「……君はせめて手伝ったらどうかね?」

 

「あん?お前料理好きだろうが。」

 

「……そもそもこの場は君が腕を奮うのが筋じゃないかね?」

 

「……めんどくせぇ。金にならないしな。」

 

こっ、この男は……!

 

「……衛宮、放っておけよ。」

 

「そうそうやる気の無い奴に何言ったって無駄よ。」

 

この場で何もしてないのは奴だけだ……慎二でさえ手伝っていると言うのに……

 

「……兄さん手が止まってます。」

 

「ヒィ……」

 

……率先してやっているという事にしておいてやろう。慎二の名誉の為に。少なくともここでゴロゴロしている奴より何倍もマシだ……

 

「……ふむ。では君は飯抜きで良いのだ「良し!やるか!」……」

 

現金にも程があるだろう……

 

「……おう!衛宮、何ボサっとしてやがる!俺は汁物を担当してやる!お前もそのメイン早く仕上げろや!」

 

『……』

 

三人で(慎二は今脇目も振らず作業中だ)かなり冷たい目を向けている筈だがこいつには堪える様子が無い……とっとと作るか……

 

料理が仕上がり運ぶ……

 

「君は何をしているのかね?こっちはもう出来たが?」

 

「何って仕上げだろうが!良いから先持ってけよ!」

 

……デザートでも無い以上普通メインと同時に持っていくものでは無いだろうか…?

 

「……急ぎたまえ。」

 

私は呆れつつも料理を運んだ。

 

 

 

 

結局奴が料理を持ち込んだのはこちらが粗方食べ終わってからだった……何をやっているんだ……

 

「……美味い。」

 

思わずそう口に出てしまい奴の方を見る……ドヤ顔か。こういう顔なのだな。そしてとてつもなくイラつくというのを今理解した。

 

「……どうだ?衛宮、美味いか?」

 

「……ああ美味いとも。少なくとも和食以外は君に勝てないと思っている。」

 

チッ!と舌打ちする音が聞こえた。……貴様の行動パターンは分かっている。わざわざからかうネタを提供するつもりは無い……

 

「……二人は本当に仲が良いのね。」

 

奥さんが聞いてくる。

 

「……んなんじゃねぇさ……ただの腐れ縁だ。」

 

憎まれ口と周りは思っているようだが違うだろうな……奴は多分本気でそう思っている。まぁ私としても同感だし思う所は無いが。

 

 

 

「……んじゃあ俺は外で「逃がさん。」チッ。」

 

外で寝ようとする奴を捕まえる。あかいあくまが私を狙っているのだ……何としても道連れを増やさなければ。

 

「……往生際悪いのはどっちだっての「君は調子に乗って酒を飲みまくり出来上がる所か顔色が土気色になって今にも吐きそうにしている女性に絡まれたいと思うのか!?」……」

 

「……し~ろう~!早くこっち来なさい!?」

 

「……ほれご指名だ。逝って来い。」

 

「嫌だ!食われる!」

 

さすがにああも酔っ払った女に関わりたくない!何であの暴走を誰も止めてくれんのだ!?誰でも良いから助けてくれ!?



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錬鉄の英雄のいる店20

「……もう帰るのか?」

 

「店があるからな。じゃあな…!イテ!?何しやがる衛宮!」

 

「君という奴は……別れの挨拶くらいちゃんとしたまえ。」

 

「……世話になったな。次はもう少し長めに休みを取る……昨夜の話だが考えとくよ……ああ後この国は今きな臭いからな、何か起きたら呼んでくれ。すぐにそっちに向かう……衛宮が…!イテ!」

 

「……行くのは吝かでは無いが……そこは君が率先して動くべきだろう。」

 

「うるせぇな。行かねぇとは行ってねぇだろ!?人の頭を何度も叩くんじゃねぇ!お前は俺の母親か!?」

 

「……一応義理の両親から君の事を見ているよう頼まれたのでね。今まで放置した分、これからは厳しく行くぞ。」

 

「……チッ。こっちは頼んでねぇ。……まあいい。帰るぞ、衛宮。」

 

「……君を連れて来たのは私なんだがな。」

 

彼女の両親に見送られ村を後にする。

 

飛行機に乗り一息吐く。……横のバカが爆睡してるのを見て今度は溜息が出てきた。

 

「……全く。呑気なものだ……」

 

まあ私以外のメンバーは皆寝てるのだが。……私も寝るとしようか。さすがにこの後問題が起きたりもしないだろう……私は目を閉じた。

 

 

 

「……士郎……士郎……士郎!」

 

「…むっ……凛?」

 

「……やっと起きたわね。日本に着いたわよ。」

 

「……そんなに寝てしまったか……」

 

「……ほら、早くして。あんた以外は皆降りる準備出来てるんだからね。」

 

「……すまない。」

 

 

 

「……おい!何でまたこの扱いなんだよ!?」

 

「このバスとその檻をレンタルするのに割と費用がかかっていてね。要は元を取りたいのだよ。」

 

「ざけんな!出しやがれ!」

 

「……お前ら仲がいいのは良いんだけどさぁ、集中出来ないからもう少し静かにしてくれない……?」

 

「……それはすまなかった。だが主に騒いでるのは私では無い。」

 

「そんなの分かってるよ。だからそいつを黙らせてくれ。」

 

「承った。では、黙れないならこいつを口に貼る。」

 

「ふざけ…!ンー!ンー!」

 

私は奴の口にガムテープを貼り塞ぐ。

 

「……これでどうかね?」

 

「……まだ煩いけど妥協してやるよ。」

 

「……すまないな。バスの運転を任せた上に騒がしくて。」

 

「良いさ。そいつの見張り役よりは気が楽だ。」

 

「……姉さん……あれはさすがにやり過ぎなんじゃ…?」

 

「あいつはあれくらいで良いのよ。」

 

……そう言えば行きは何とか高速をパスしたがこれではさすがに不味いのでは無いだろうか……と疑問が頭に浮かんだが気にしない事にした。……まあ何とかなるだろう……



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錬鉄の英雄のいる店21

「……またお前らか!?」

 

「……」

 

今私の目の前には怒り顔の現職の刑事がいる……いや。私は何もしていない。やらかしたのは奴だ。

 

 

二時間前

 

「おい!金を「うるせえ!こっちは忙しいんだ!強盗ごっこなら他所でやれ!」ごっ、ごっこ……」

 

店の営業中堂々と黒のフルフェイスヘルメットを被ったまま入店……唖然とする私や凛、バイト君、客をスルーし厨房に直行。厨房内のやり取りがこれである……

 

「……ちょっと士郎?放っといて良いの?」

 

「……ん?彼の強さは「見た事は無いわよ?」そう言えばそうだったな……まあ彼に任せ「ふざけんな!ぶっ殺してや…ぶぎゃ!?」「うるせえって言っただろ!」……」

 

「……今凄い音したけど?」

 

「……恐らく強盗の脳天をフライパンで殴ったんだろう……」

 

「……ずっと悲鳴が聞こえるんだけど?」

 

「……凛、この番号に電話をしてくれ……多分虫の居所が悪かったんだろう……殺してしまう前に止めてくる。」

 

「……ちょっと!これ誰の番号よ?」

 

「……知り合いの刑事だ。電話をして、アレがやらかしたと言えば通じる。」

 

「……分かったわ。なら私は連絡を「僕は客のフォローをしておきます。」分かったわ、任せるわね。」

 

「……帰りたい客にはお詫びとしてこれを渡してくれ、店の無料クーポンだ、それと今夜の料金はタダでいいと伝えてくれ、それから残る客にもアルコールをサービスしてくれればいい。」

 

「……分かりました。お酒のチョイスは?」

 

「……君に任せる。」

 

「……分かりました。」

 

……優秀なバイトで助かった……

 

 

 

「……おい!俺は被害者だぞ!?」

 

「……君がやったのは過剰防衛だ。存分に絞ってもらいたまえ。」

 

「……おら!行くぞ!」

 

「……離せコ…ぶごっ!……おい!警官が一般市民殴ってタダで「お前の何処が一般市民だ!良いからさっさと来い!」クソッタレが!」

 

 

 

「……どうなるのあいつ?」

 

「……全治二ヶ月の大怪我だからな、一週間は留置所だろう……」

 

「……というかそれで済むの?立派な傷害だけど?」

 

「……だから彼に頼んだ。彼なら何だかんだ厳重注意で収めてくれるだろう……それに我々には優秀な弁護士の知り合いがいるだろう?」

 

「……哀れね慎二……完全にタダ働きじゃない……」

 

「何を言う。ちゃんと報酬は払うさ。この店の一週間のタダ券だ。」

 

「……」

 

「……さて、明日の仕込みをするか!」

 

「……嬉しそうね、士郎……」

 

「……久しぶりに私の料理を客に振る舞えるからな。……明日から忙しくなる。……凛、頼むぞ?」

 

「……私はバイトでしょ?バイト代は弾んでよ?」

 

「もちろんだとも。さて今晩の夕食をご馳走しよう……君も食べるだろう?」

 

私は離れた所にいるバイト君に声をかける

 

「遠慮します……と、言いたい所ですが衛宮さんの料理は興味あります。頂きましょう。」

 

「うむ!遠慮せず食べるといい。」

 

私は二人を連れ店に戻った。

 

 



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錬鉄の英雄のいる店22

「ねぇ、士郎?何なのこれ?」

 

「見ての通り食器だ。…奴の用意する食器だとトラブルの元になるからな…安物を購入して来た。」

 

「これほとんどキャラ物だけど?」

 

「…一般客用ならそれ程デザインに凝る必要も無いし足りなくなっても私が投影すれば済むが、子供には受けが悪いだろう?私は昨今の人気も良く分からないからな、こうして大量購入して来た訳だよ。」

 

「…慎二か桜に聞けばある程度絞れたんじゃない?」

 

「!あっ…」

 

「身近に子持ちの身内がいるんだからそっちに聞いた方が早いじゃない……どうするのよ、こんなに皿買って来て?どう考えてもこんなに子供連れの客来ないでしょ…」

 

「…まあ良い。これはあくまで予備だ。最悪一般客用にも使え「この皿に盛れる量なら普通の大人には少ないんじゃない?」……」

 

「あんたねぇ…」

 

「フッ。気にするな、凛」

 

「…まあ良いわ。店主代理はあんただからね。…あっ、そろそろあいつ来るんじゃない?」

 

「むっ…バイト君の来る時間か……!いかん。これを隠さなければ……!」

 

「力関係逆転し過ぎでしょ……もっと堂々と出来ないわけ?」

 

「そうは言うがな、凛。彼は基本正論しか言わないからな…こういう浪漫を少しは分かって「無駄遣いを浪漫とは私は呼びたくないし少なくとも昔のあんたよりずっとユーモアあるわよ、あいつ」……」

 

「…いや、拗ねないでよ、別にあんたよりあいつが良いって訳じゃないから。」

 

「……拗ねてなどいない。」

 

「突っ込まないからね?というかさっさと開店準備しないと。」

 

「分かっている。…!覗きとは趣味が悪くないかね?」

 

「…すみません。出るタイミングを失ってしまって……」

 

「まあ良いさ。今回はこっちに落ち度があるからな「それはそうとその皿の山はどうする気です?今から片付けてる時間あるんですか?」……」

 

「…仕方無いですね、僕がやっておきます。」

 

「すまない。給料に上乗せ「貴方はあくまで店主代理でしょう?あんまり勝手な事をしては不味いのでは?」問題無い。奴なら私が黙らせて「別にこの程度の事でそこまでして貰わなくても大丈夫ですよ。」そ、そうか……」

 

「士郎、あんたねぇ……ハア…取り敢えず私はOPENの札掛けて来るから。」

 

 

 

「衛宮さん、さっさと仕込みをお願いします。さっきも言った通りこれは僕が片付けますから。」

 

「……」

 

「…あー…人にやらせるより自分でやりたいタイプでしたっけね、確か。僕の手際、悪いですか?」

 

「…いや、問題無い「でしたら仕込みをお早く。そろそろ最初のお客が来る頃でしょう?」うっ、うむ。分かった、そっちは頼む。」

 

「了解しました。」



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錬鉄の英雄のいる店23

「よし、こんなものか。」

 

チキンもケーキも準備良し。もちろん通常料理も準備済みだ。

 

「…そっちはどうかね?凛?」

 

「万事抜かりないわ。まあ中華担当の私の出番がどの程度あるかは分からないけどね。」

 

「無くは無いだろう。クリスマスには割と中華を食べる家庭も多いんだぞ?」

 

「…日本だけよね、割と多国籍で料理が並ぶのって。ほとんどの国は大体定番料理が決まってるし、クリスマス自体祝わない国もあるしね…。」

 

「宗教にも寄るがね。そもそも日本は自由な多神教だからな。…後は商業的なイベントに取り入れられるならなんでも祝うだろう。」

 

「そう言うと身も蓋もないけどね。…というかせっかくの祝い事の前に何でこんな俗っぽい話しなきゃならないのよ…。」

 

「…人手が足らないからな。君がいても三人しか料理を作れる者がいないのに我が店の店主は未だ留置所の中だからな、必然的に私の比率が増える……」

 

「ボヤかないボヤかない。…私も中華以外も作れるから手伝うわよ。というか、何で例のバイト君を寄りによって休みにしたのよ?」

 

「…実家でクリスマスパーティーだそうだ。一応引き止めたが、ね。」

 

「…何か、それ…恋人と二人きりとかと違って強く言いづらいわね…。」

 

「私たちは二人とも親がいないからな…それを大事にしたい彼に強くは言えないさ…。」

 

「…でもまあ、私はずっと捕まえられなかった奴が今目の前にいるからね、今夜はこの後一緒に過ごしてくれるんでしょう?」

 

「うむ。エスコートさせて頂こう。」

 

「期待してるわよ?…ところであんた衣装は?」

 

「…私も着るのか?君が着てるからいいと思うのだが?」

 

「何で一人で着なきゃいけないのよ。店員が着ても店主代理が着てないと不自然でしょうが。…ちなみに似合うかしら…?」

 

「……ああとても良く似合っているとも。最もミニスカートで大丈夫かね?一応店の暖房は強めにしてあるが…」

 

「似合ってるなら良かったわ。…少し寒いけど、こういうのは少し我慢してこそなの。」

 

「…君が良いなら良いが…とは言え、足はともかく露出した肩は見過ごせんな。こちらを着たまえ。」

 

「…赤いコート…」

 

「ちゃんと衣装に合うデザインで投影したぞ。」

 

「…案外センスあるじゃない。それじゃ有難く。…ほら士郎?あんたもとっとと衣装着なさい?そろそろ開店時間よ?」

 

「……着ないと駄目か…?」

 

「何でそんなに嫌が「奴の色だからな」あー…でも、良いじゃない。アーチャーの事が分かるのは私だけ「今日は桜たちも来るんだが」良いじゃない。あの二人が笑ったって他の客には何の事だか分からないんだから開き直れば良いのよ。ほら時間無いんだから観念してさっさと着る着る!」

 

「分かった分かった!着てくる!すまないが先に来た客がいたら相手をしておいてくれ。」

 

「了解よ。…士郎?」

 

「?何かね?」

 

「今夜は楽しみましょうね?」

 

「…ああ。そうだな…だがまずは仕事を終わらせよう…」

 

クリスマスか…この私が戦場以外の場所でしかも好いた女性と迎える事になるとはな…



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錬鉄の英雄のいる店24

「…で、遠坂とはしたのか?」

 

「……いやさ、もうちょっとオブラートに包めよ。」

 

「右に同「衛宮、ちょっと黙ってろ」理不尽だ…。」

 

現在十二月二十五日、昼。

 

店は休みにして今日は男四人とことん呑もうとなり早朝からグラスを傾けている。…かなりの量の瓶が転がっているが全員酔っては「間桐、お前だって気になるだろ。こいつが遠坂の」「止めろって。今は昼間だ。…夜なら良いって訳じゃないけどね。」「据え膳食わぬはと言いますしさすがに衛宮さんも一晩二人きりでいたんでしょ?それはやってるでしょ。」

 

……酔ってはいないはずだ。つまり慎二が二人に突っ込んでるのは気の所為だ。

 

「そこのバイトはともかくよ、俺は素で言ってるぞ?」

 

「何ですか?僕が酔ってるとでも?」

 

「相当酔ってると思うよ。もうその瓶空だし…。」

 

「……君たち、もう少し静かに呑めないのかね?特に君は出所したばかりだろう?少しは大人しくしたらどうかね?」

 

「ハッ!クリスマスに辛気臭く呑めるか!」

 

「同感ですね。」

 

「衛宮、僕を頭数に入れるな。」

 

「つか話が逸れてんだよ!だからよぉ!お前は遠坂としたのか!」

 

「ええ!そこの所を是非!」

 

「…癪だけど僕も気になる。どうなんだよ?」

 

「…黙秘権を行使する。」

 

「間桐、どうだ?」

 

「どうなんです!?」

 

「何で僕に振る?…でも、これはそうだな……遠坂に同情するよ…。ヘタレたな?」

 

「なっ!?何を言う!この私が一晩女性と過ごし手を出さないわけが「お前戦場時代からヘタレだろ?何プレイボーイ気取ってんの?」……」

 

「はっ?戦場まで行ってヤッてないの?こいつ?」

 

「正規の兵士も良く現地で女犯したり、戦場専門の娼婦もいたりするから普通はとっくに経験人数豊富な筈だけどな、こいつは天然記念物さ。」

 

「衛宮さん…さすがにそれは……。」

 

「何かね!私はそんな邪な気持ちで行ったわけでは「戦場で助けた女のアタックに気付かず、埒が明かなくて裸で抱きついて来た女に肌冷やすなって説教した馬鹿だぞ、こいつは。」…くっ!」

 

「「うわぁ…」」

 

「止めろ!止めてくれ!そんな目で私を見ないでくれ!」

 

ヘタレでそんな悪いのか!?

 

「衛宮、もしかしてお前不能なのか?」

 

「……そんな事は無い…。」

 

私はセイバーとしている…。

 

「…いや、もしかしたらこいつホモだったのかもしれんぞ…戦場に出るまで自分がそうだと知らずに普通に女としていた奴が軍に入り男所帯でそうである事に気付いたり目覚める奴もいるしな」

 

奴がそう言うと他二人が一斉に席を立った。待ってくれ!?

 

「風評被害は止めろ!私は普通に女が好きだ!」

 

何で私はこんな目に遭わなければならないんだ!?

私は酔ったわけでも無いのに頭痛を感じていた…。

 

 



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錬鉄の英雄のいる店25

我が店は基本年末年始は休みを頂いている。

…その代わりと言っては何だが予約制のおせちを毎年千食限定で販売している…ちなみに営業終了日は毎年十二月三十日であり予約終了もこの日までとなる。…必然的に休みの開始日である大晦日から正月にかけておせちの用意と配達に追われることになる……

 

「…あんたたち、毎年これ、二人だけでやってた訳?」

 

「……」

 

「…何も言うな、凛。毎年の事だから我々は慣れているのだ。」

 

「…そこの馬鹿が上の空だけど「気にするな」気にするなって言われても「気にするな」…はいはい。まぁあんたらが良ければ別に良いけどね。」

 

「…いや、僕からは言わせてもらいます。はっきり言って無謀です。大体今年は数を千食から千五百食に増やしましたよね?僕や遠坂さんがいなかったら多分正月過ぎてましたよ?」

 

「……」

 

「…私からはノーコメントだ。」

 

「来年は予約終了日と店の営業日をずらしましょう。間に合いません。…後、千食に戻しましょうね?」

 

「…やだ。」

 

「…あー…通訳しよう。割と高い額取っても注文が来るからせっかく儲かるのに販売数を減らしたくないそうだ…。」

 

「…そもそも間に合わなくてキャンセルなんてされたら無駄になりますが?」

 

「…キャンセル料を取っている。」

 

「アコギ過ぎるわよ…。」

 

「…キャンセル料を取るのは勝手ですが、余ったおせちは完全に無駄です。…処分に費用がかかりますから結局赤字になります。」

 

「…嫌だ。」

 

「…子供じゃないんだから…。」

 

「…やだったらやだ。」

 

「…ねぇ、こいつ何か可笑しくない?」

 

「…奴は疲れると駄々を捏ね始めるんだ。」

 

「…良い大人が…。」

 

「やだじゃありません。ちゃんと聞いてください!」

 

「やだやだ!」

 

「…幼児退行してない?」

 

「…正月は毎年こうだよ…。もう慣れた。」

 

「…慣れちゃ駄目でしょ…。」

 

そうは言うがな、こんな姿を毎回の様に見せられば慣れるしかなくなる…。

 

「…君もその内慣れる。」

 

「だから慣れたら駄目でしょ。良い大人なんだから…。」

 

「どうせこんな状態じゃ言う事を聞かないからな。」

 

「…ちゃんと聞きなさい!貴方のためを思って言っているんですよ!?」

 

「いや~だ!」

 

「…え~っと…。」

 

「…そもそも彼自身も疲れて可笑しくなってる様だな…。」

 

「…どうするの?」

 

「…さっさと眠らせよう…。二人とも気絶させるからすまないがバイト君の方を車に運ぶのを手伝ってくれ…。」

 

「…まぁ良いけど…。」

 

「すまないな。その代わりバイト代を弾もう。」

 

……そんな何時もより騒がしい正月。

 



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錬鉄の英雄のいる店26

「…何をしているのかね…?」

 

「…見ての通り菓子作りだよ。」

 

「…なかなか良く出来ているな、どれ一つ…」

 

「あっ!おい!?」

 

「…味も上々だ。店で出せば売れるぞ?」

 

「…この店にわざわざ菓子食いに来る物好きはいねぇだろ。…つか、俺はガキが嫌いだからメニューに乗っけたくねぇ。」

 

「…この味なら普通に大人も来る思うが…」

 

「スイーツ目的のうるせぇ女どもにはもっと来て欲しくないね。…てか、甘さ抑えてんのは当然だ。俺ぁ甘い物嫌いなんだよ。」

 

「…なら、何故いきなりこんな物を?」

 

「…親父が良く作ってたんだよ…。親父は俺と違って子供好きだったからな…最も強面でガキに顔見せると大体ギャン泣きされるから、基本厨房からは出て来なかったがな。」

 

「それはまた意外な一面だな…。君の話だと職人気質の頑固親父に聞こえたからな。」

 

「その認識に間違いはねぇ。…おかげで来るバイトも長続きしなかったよ。最も…今ここに来てるあいつなら辞めないんだろうけどな。」

 

「ちょっと賄いはまだなの…あら?これ、クッキー?」

 

「…あっ!遠坂テメェ!」

 

「…結構美味しいわね。これ、あんたが作ったわけ?」

 

「…悪いか?」

 

「何で喧嘩腰なのよ…。」

 

「…ちょうどいい。遠坂、君もこいつを説得してくれ。こいつはこれだけ菓子を作れるくせにメニューに乗せる気が無いそうだ。」

 

「…もったいないわね。子供にも大人にも大好評よ、これなら…」

 

「…気が向いたから作っただけだよ。面倒だからレギュラーでなんか作りたくねえっての。」

 

「…そもそもレパートリーがクッキーだけならどうしようもないな。」

 

「…ハッ。見くびんじゃねぇよ。焼き菓子なら大体作れるぜ、俺は。」

 

「やる気十分じゃないか。やはり店で出すべきだろう。」

 

「そんなに出したきゃお前が作りゃあ良いだろうが。」

 

「生憎と菓子は君ほど上手くなくてね。君が作るのが適任だろう。」

 

「大嘘こくなっての。」

 

「…ねぇ?いつまでこの話続ける気?そろそろ開店時間よ?賄いはまだなの?」

 

「…もう出来てる。そこにあるから勝手に食え。」

 

「あら?出来てたの?なら、最初から言いなさいよ。」

 

「お前が出来てないと勘違いしたんだろうが。ほれとっとと持ってけ。」

 

「…そこのクッキーも持ってっていいかしら」

 

「そいつは俺のだ。お前さっき食っただろうが。」

 

「良いじゃない。少し貰ってくわね。」

 

 

「ふむ。では、私も少し…。」

 

「お前ら!少しと言いつつ鷲掴みにして持ってくんじゃねぇ!このクソッタレどもが!」

 

 

 



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錬鉄の英雄のいる店27

「…美味しいですわ…年々腕を上げていきますわね。」

 

「…そいつはどうも。」

 

ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト…我々共通の知人で友人である。

 

「…このジンジャークッキーとも良く合いますわね。…やはり私の屋敷に来ませんこと?」

 

「…以前断っただろうが。」

 

「…本当に惜しいですわね…シェロと良い…貴方と良い…そんなに私がお嫌い?」

 

「衛宮はどうだか知らんが…ああ。大嫌いだね。…そもそもお前馴れ馴れしいんだよ。俺とお前は戦場で数度会っただけだろうが。おまけに店に来る時も何時も閉店間際に来やがって…何処に好く要素があんだよ。」

 

「…二人きりになりたい乙女心をご理解頂きたいですわ…それにしても、そうも意固地になられますとますます欲しくなりますわね。」

 

「…とっとと食って片付けて帰んな、屍肉喰らい。んで、二度と来んじゃねぇ。」

 

 

 

「…ねぇ?何時まで見てるの?」

 

「…仕方無いだろう…あの二人が本気で暴れると店が無くなる。」

 

あの二人は仲が悪いのでは無い…奴が一方的に嫌っているのだ。…奴も彼女も語ろうとしないがどうやら二人の出会いは彼女にとっては鮮烈な、そして奴にとっては最悪の出会いだったらしい…

 

「…奴はキレると女だからと容赦はしないからな…最もさすがに本気で殴るのは彼女だけだが…」

 

「…ルヴィアの場合…寧ろそれを愛情表現と捉えて反撃しそうね…」

 

「…以前それで店が無くなりかけた…正直私と奴が争った時より規模はやばいかもしれん…」

 

「…そんなに?」

 

「…うむ。」

 

正直私一人では厳しい…あの二人は横槍を入れても無視して戦い続けるからな…店内では宝具も使えんしな…

 

「…しょうがないわね…もしもの時は私がルヴィアを止めてあげるわ…あんたはあの馬鹿をどうにかしなさい。」

 

「…助かる。…すまんな、手間をかける…」

 

「良いわよ。…まあ強いて不満があるとすれば…今夜のデートの予定が潰れた事かしらね。」

 

「…すまん。後日埋め合わせはする…」

 

「期待してるわ。…さて、どうなるかしら…?」

 

 

 

「やはり諦め難いですわ…今夜こそ私に付き合って下さいませ。…貴方の言う通り私はハイエナ。欲しい物は必ず手に入れる主義でしてよ。」

 

「…なら、屍肉喰らいらしく死体でも相手にしてろや。戦場行けばいくらでも転がってんだろうが。…つーかお前は衛宮が好きだったんじゃないのか?」

 

「…彼の事を諦めたわけではありませんわ…でも、ある日気付いてしまったのです…これは…恋心では無く、憧れだと。」

 

「憧れだろうが何だろうが欲しいという欲には変わりねぇんだろ?お前は遠坂に負けた訳だ。」

 

「…私はあの勝負の場に立てていませんでした…私が好きなのはシェロでは無かったのですから…ですので、無効です。…私が好きなのはあの日私に敗北を刻みつけた貴方ですわ。」

 

「…イカレ女が。やっぱあん時殺しときゃ良かったか。」

 

「貴方に殺されるなら悪くありませんが…まだ死ねませんわね。まだ私は貴方を手に入れて無いのですから。」

 

 

 

「…臨戦態勢?」

 

「…の様だな…止めに行くぞ凛。」

 

「はいはい。気を付けなさいよ?」

 

「君こそな。では、行くとしよう。」

 



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錬鉄の英雄のいる店28

「…参ったな…」

 

「…悪ぃ…さすがにやり過ぎた…」

 

現在店は跡形も無い…私と奴が戦った時もここまでの被害は無かった…

 

「…やってくれたわねルヴィア…」

 

「…申し訳ないですわ。つい、本気になってしまいました…」

 

「…君たち謝るのは良いがどうするのかね?」

 

彼らがどう反省しようと店は既に無いのだ…。

 

「…再建費は我がエーデルフェルト家で持ちますわ…もちろん貴方の宿代も。」

 

「……お前、日本に滞在する気だよな…?部屋は別なんだろうな?」

 

「…いや、君はそんな事言える立場かね?」

 

「お前も当初こいつにモーションかけられてただろ?なら、俺の言いたい事も分かるよな?」

 

「……頑張りたまえ。」

 

「おい!?」

 

元はと言えば君らが暴れたからだろう…。知らないぞ私は。

 

「…ねぇ?逆に聞いていい…?あいつの何処が良いの…?」

 

「リン…貴女がそれを聞きますの…?では貴女はシェロの何処が好きになったのですか?」

 

「…ッ!…そっ、それは…」

 

「…彼の、全てではなくて?」

 

「…ふぅ。…完敗よ…。そうね私はあいつの全てが好きよ…。あんたも…そうなのね…。」

 

「…当初私はこの気持ちはシェロに向いてるものだと思っていましたが…結局はそれは少し違いました…正直に言えば今も全く気が無いわけではありませんわ…勘違いなさらないで下さいましね?私はそれを思い出に出来るくらいあの方を…」

 

「…あいつ、手強いわよ。そもそも相手がいた「彼女の事なら良く存じております。良き友人でした。」…そう。」

 

「…彼女とあの方が添い遂げるなら私は身を引くつもりでした。…ですが私はハイエナ。彼女がもうこの世にいないのであれば躊躇はしません。」

 

「…それはエーデルフェルト家として、なわけ?」

 

「もちろん…ルヴィアゼリッタ個人としてですわ。」

 

 

 

「…あいつら…聞こえないと思ってるのか…?」

 

「聞こえるように話してるのかも知れんぞ?」

 

「…お前、遠坂から告白されたも同然なのに気にしないのか…?」

 

何を今更。

 

「君が変な焚き付けをしたおかげで当に腹を括った。」

 

「…チッ。あーあ…お前らを揶揄えなくなっちまった…」

 

そう何度も揶揄われてたまるものか。

 

 

 

「…親友として止めるべきなのかしらね…。あいつの性格を思えば…。」

 

「…そう言ってくれるのは嬉しいですが…男の欠点を受け入れてこその女でしょう?もちろん、その分こちらも我を通させて頂きますが。…せっかくのお言葉ですが突っぱねさせて頂きます。…貴女と再びいがみ合う関係になったとしても私は止まりませんわ。」

 

「…頑固ねぇ。」

 

「その言葉、そっくり返させて頂きますわ。…それに…厄介な…という事であればシェロも大概でしょう?」

 

「…確かに、ね。」

 

 

 

「……」

 

「…あいつら俺らがいるの忘れてないか…?」

 

「…かもしれん…。」

 

「…このままどっかに呑みにでも行こうぜ。さすがにそうでもしねぇとキツいわ。」

 

「…今の君がそれを言うのか…?…しかし、今回は同意しよう…。」

 

 



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錬鉄の英雄のいる店29

「…何故私たちの部屋もあるのだ…?」

 

「あんたらがいなくなった後ルヴィアと盛り上がっちゃってね、何だかんだ会うのも久々だったから積もる話あったし…どうせあんたも私も店が再建されるまで暇になるでしょ?」

 

「その間はホテル滞在か…。…腕が訛ってしまうな…。」

 

「…くれぐれもホテルの食事に口出ししないでね。…よっぽど酷いなら別だけど。」

 

「……分かっている。」

 

「…その間は何よ…。」

 

「…ところで奴はどうしてる?当然ルヴィアと相部屋なのだろう…?」

 

「…ええ。私たちと違って最上階のスイートルームに二人でね…ちなみに桜たちも来てるわ。」

 

「…この扱いの差は「言わなきゃ分からない?」……」

 

「…これはあんたに早く責任を取れって言うルヴィアなりのお節介よ。…まあ私からリード取りたいのかも知れないけど。」

 

「君たちは和解したんじゃないのか…?」

 

「それはそれ、これはこれ。…というか、昔から女はどっちが先に相手を見つけるとか、どっちが早く結婚するとかで争う生き物なの。…こればっかりは親友でも変わらないわ…しっかりしてね士郎。綾子には先越されたからね…。」

 

「一成と結婚したんだったな…。」

 

「…私も驚いたわ。まあ喧嘩するほど仲が良いって言うしね。…そうなると私たちも「異議あり」…何よ?」

 

「…聖杯戦争の時の事を言ってるなら違うだろう?私たちは結果的にとはいえ争う事は無かったからな。」

 

「…何よ、敵同士の関係性を乗り越えて恋仲になったって方が盛り上がるでしょ。」

 

「…何で盛り上がる必要があるんだ?そもそも俺は元々遠坂の事は気になっていたのだが?」

 

「…不意打ちは止めてよ、照れるじゃない…。」

 

「…本当に魅力的だな。あの頃、もっと早くに声をかけるべきだったかな?」

 

「…そこで似非アーチャーに戻るのね…。正直に言えば私もあんたを気にしてはいたけど靡いたかは分からないわよ?」

 

「…お互いに憧れだったと言うわけか。…ところで似非は止めてくれ。そもそも私と奴は並行世界上の同一人物だ。…辿った道が多少違えど似ることもあるだろう。」

 

「…学生時代の恋愛なんて多くがそんなものでしょ。もちろん例外もあるだろうけど。…あんたの場合自分から似せて行ってるのよ。自覚しなさい、あんたとあいつは何処まで行っても別人よ。」

 

「…それもこれも奴のおかげか。」

 

「認めるのは業腹だけどね…」

 

「…正義の味方として自分をすり減らすのを止めたおかげで私は今の幸せを掴んだ…選んだのは私だが切っ掛けは奴だ。だからこそ…」

 

「…幸せにはなって貰いたい、でしょ?あいつの事はあんまり好きになれないけどあんな話聞いちゃうとね…」

 

「…あれを全て私の責任と言い切れば奴にも彼女にも失礼だ。だが、だからこそ友人として奴の幸せを願いたいのだ。」

 

「…あいつに会う女性なんているのかと思っていたけど…まさかルヴィアがあいつを好きなんてね…初耳だったけどあいつなら問題無いわ。…親友としては非常に心配だけど…」

 

「私にとっても彼女は友人だからな…奴を任せるのはかなり心苦しいが…」

 

「…本人がノリノリだからね。私たちが口出す事じゃないわ。…まああいつに浮気の心配は無いからそこは心配してないけど。」

 

「奴についていける女性などそうはいないからな「ブーメランだからね、それ」分かっている。だからこそ私は君を求めるのだ…私には君こそ相応しい。」

 

「…どうしてそういう事を素で言えるのかしらね、この男は…」

 

「…言える時に言わなければ、な。何時失わないとも限らないのだから…」

 

「…私はそう簡単にいなくならないわ。あんたが嫌って言ってもしがみついてあげるわよ。」

 

「頼もしいな。私も君に相応しい男になれる様、精進し続けよう…。」

 

「そうしなさい。追うのはあんたで先にいるは私よ。ついてこれるかしら?」

 

「…フッ。嘗めないでくれ。君の方こそ私についてきたまえ。」



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錬鉄の英雄のいる店30

「…すまんな、付き合ってもらって。」

 

「…別に良い。と言うか今回は寧ろ感謝してるぜ。名目上、ここでこうしてる限りはあいつと一緒に過ごす必要が無いからな。」

 

ここはホテルのレストランの厨房である。朝食を一口食べた瞬間に我慢出来なくなり奴と慎二を連れて突撃した。今はシェフ全員を怒らせてしまったため私たちだけで料理をしている…。にしても…

 

「…彼女の気持ちを受け容れる気は無いのか…?」

 

「…今の所俺にその気はねぇ。」

 

「…君の恋人と彼女は友人だったと聞いたが本当か…?」

 

「…ああ。見てる限りでは仲が良かったと記憶してるぜ。…つか、俺もさすがに恋人が死んでその友人に乗り換える程クズじゃねぇつもりだ…そもそも俺はあいつが嫌いだしな…。」

 

「…一体何があったのかね…?」

 

「…今回ばっかりは言いたくねぇ。どうしても気になるならあのイカレ女に聞きな…最も奴も話すとは思えないが。」

 

「そうか。」

 

そもそもそこまで興味も無いが。

 

「…お前ら良いから手を動かしてくれよ…。そろそろ料理を運ばないと客が暴動を起こすぞ…。」

 

「ん?すまない…今、ペースを上げる…」

 

「…全く。しっかりしてくれ…人巻き込んどいて…。」

 

「すまんな、埋め合わせはする。」

 

「…良いから早く作ってくれ。…これは出来てるのか…?」

 

「ん?それならもう出来てる。」

 

「…そうか、なら運「おう慎二!こいつも運べや」そんなに運べるか!ちょっと待ってろ!」

 

「…君も人使いが荒いな…。」

 

「夫婦水入らずでホテルに来てたのを引っ張って来たお前が言う事じゃねぇだろ…。大体人手が足りねぇんだ。立ってるものは親でも使う主義だぞ俺は。」

 

「…なら、何故凛たちには手伝わせないのかね…?」

 

「……お前、あの空気の中踏み込めるなら行って来いよ。」

 

私は彼女たちの座る席を見…

 

「…止めておこう。」

 

「…ヘタレめ。」

 

「……」

 

目に見える程怒りで黒いオーラを漂わせる女性陣に手伝わせる勇気は無い。…と言うか一般人にもヤバさが分かるのか…彼女たちの周りのテーブルに誰も座ってないんだが…。

 

「…そもそも、お前が自重しなかったからこうなってんだからな。」

 

「…返す言葉も無い。…だが、あの味は君も気になるだろう…?」

 

「…一流ホテルのレストラン=シェフの腕も一流って限った話じゃねぇ。割り切れ、そのくらい。…まあ立場に胡座かきすぎだとは思うけどよ…。」

 

「…一日に相手する人数が多い、どうせ客に違いは分からない…そういう理屈を持ち出す輩を私は看過出来ないのだよ。」

 

「…お前のそれは病気だよ。」

 

「…褒め言葉と思っておこう。」



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錬鉄の英雄のいる店31

「にしても…あの女や桜が機嫌悪いのは分かるが…遠坂がああまでキレてんのは妙だな…お前何をしたんだ…?」

 

「……」

 

「…だからお前ら手を動かしてくれって!お前らの店の収容人数よりずっと多いんだぞ!?…つか理由は簡単だろ!?どうせこいつの事だから一晩同じ部屋にいて手を出さなかったとかそんな理由だろ!?」

 

「…お前、どんだけヘタレなんだ…?」

 

「良いだろう、別に。私の勝手だ。」

 

「…とにかく手を動かせ!後がつかえてる!…この料理持ってくからな!?」

 

「…ヘタレめ。」

 

「……」

 

私は黙々と手を動かす事しか出来なかった…。

 

 

 

 

「…ねぇ?料理にケチつけないでって、私言わなかった?」

 

「すまんな、どうしても我慢出来なくなってな…。」

 

「…まああんたの性格にはもう慣れてるけどね…。」

 

「…すまん…。」

 

「…明日は付き合ってくれるんでしょうね…?」

 

「…分かっている。エスコートさせてもらおう。」

 

「…期待するわ。…ところで今夜は期待していいのかしら?昨日はあんた、私に手も出さなかったから、ね。」

 

「…もちろんだとも。私もそろそろそちらの方も我慢出来なくてね…」

 

「私は良かったのよ?あからさまにこっちは誘ってるのに何で我慢するのよ?」

 

「…その、だな…私は君を満足させられるか分からなくてな…。」

 

「くだらない。結局するか、しないかの話でしょ。しなきゃそんな話以前の問題でしょうが。…良いわ。ならあんたは動かなくて良いわよ。私が勝手に動くだけだから…。」

 

「待ちたまえ。最初は私がリードさせてもらおう。」

 

彼女の程の女性が相手ならすぐに攻守逆転しそうだがこればかりは譲れない…!

 

「……出来るのね?」

 

「…自慢では無いが私はそもそも童貞では無いのでね…。」

 

「……一人だけでしょ。」

 

「そうだ。…むっ?何故分かった?」

 

「あいつが言ってたわよ、あんた今まで向こうで一人も手を出してないって…未遂はあったみたいだけど。」

 

「女性の方から手を出して来たのに手を出さないのは私もどうかと思ったが…どうしてもチラつくものがあってな…」

 

「……セイバーの事?」

 

「…そうだ。私は何処かで今も彼女を引きずっている。」

 

「……私はセイバーじゃないわよ?」

 

「…吹っ切るためだけじゃない。これは俺が遠坂を愛してる証明なんだ。」

 

「……信じて良いのね…?」

 

「もちろんだ。俺はこれから遠坂…いや、凛。お前だけを愛する事をこの場で誓う。」

 

「……重いんだけど。」

 

「…人が一世一代の告白をしているというのにお前は…」

 

「…言葉は大切だけど…それだけで伝えられるわけ無いでしょ。…行動で示して頂戴。」

 

そう言って目を閉じる凛に俺は口付けをする…。今までチラついていたセイバーの影が消えていくのを感じる……いや、お前はずっと俺の傍にいたんだな…俺を後押ししていたのか…。分かってるさ、セイバー。俺は絶対に凛を不幸にはしない。

 

「…これでどうかな?」

 

「……及第点、ね。…残りは身体に刻んでくれる?」

 

「承ろう。ではこれからお前が俺の物で俺はお前の物だとお互い身体に教え込むとしようか…?」



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錬鉄の英雄のいる店32

「…何故赤飯が来るんだ…?誰が頼んだんだ…?」

 

「…誰も頼んでねえっての。サービスだろうよ…。」

 

「…サービス?」

 

「…お前らにな。」

 

「…どういう事かね「言わなきゃ分かんねぇか?」…まさか…!」

 

「先に言っておくが、俺は別にお前らの関係をホテル側に言ってはいねぇ。」

 

「僕も否定するよ。」

 

「私もそんな事はしておりませんわ…。昔ならいざ知らず、今はリンもシェロも大切な友人ですから。」

 

「もちろん私もですよ、先輩。」

 

「…では、何故「そんなに言って欲しいのか?…そもそも俺らは似たような経験有るから雰囲気で分かるが…俺たちと違ってお前ら一般客室だろ?ランクの高いホテルとは言えラブホテル並にダダ漏れじゃなくてもそこまで壁が厚いわけでもねぇだろ。少なくともしてる最中の声は多少響いてたんじゃねぇか?んでもってそれだけ初々しい雰囲気出してりゃあ昨夜ようやく結ばれたカップルだと判断出来るだろうよ…。」……」

 

「…しかし、何故わざわざこんなサービスなど…」

 

「お前昨日何したか忘れたか?普通こんなデカいホテルでこんな下世話な事しねぇだろうけどよ、あれだけやらかしゃあここのシェフ共は尊敬半分、やっかみ半分みてぇな心境になるだろうよ。つまり純粋に祝っているのであり、嫌がらせでもあるんじゃねぇのか…?」

 

まるで奴の言葉を肯定するかのように忍び笑いが聞こえる…と言うか他の客も…

 

「…こういう事を言うのね…穴があったら入りたいって…」

 

「…好き好んだ者同士がずっと抱えてたものを吐き出す勢いでヤりゃあデケエ声も出んだろ、気にすんな。」

 

「…あんたに慰められるなんてごめんよ…」

 

「そりゃ失敬。」

 

「…ストレートに言うのは相変わらずとして…揶揄ったりしないのだな…」

 

私は意外に思っていた。この男の事だからてっきり全力で弄りに来ると思っていたのだが…

 

「そんなに外道じゃねぇよ。…てか俺は寝不足なんだよ、そこの色魔がしつこく迫ってきたんでよ…」

 

「そんな色魔だなんて人聞きの悪い。私は貴方に好意をぶつけてるだけでしてよ?」

 

「…言葉ならまだしもお前、何回裸のまま俺のベッドに入って来やがった…?この痴女が。」

 

「私は貴方にしかしませんわ。」

 

「どうだか。少なくとも衛宮にはしたんじゃねえのか?」

 

私に振るな…答えられるわけ無いだろう。

 

「ノーコメ「私も聞きたいわ。そこの所をゆっくりと、ね…」……」

 

何故ルヴィアでなく私をそんな目で見るのだ凛…私は悪くないだろう…。

 

「気になります?ご想像にお任せしますわ。」

 

何故そこで意味深な事を言うのだ!?

 

「お前の性遍歴に何か微塵も興味ねぇよ。…まっ、どうせ耳年増だろうけどな。たくっ。いい歳してよ…。」

 

「聞き捨てなりませんわ。では私がどれほど経験を積んだか今から部屋で「しねぇよ。朝から発情すんじゃねぇよ痴女が。」つれないですわね。余計に燃えますわ!」

 

「士郎?黙ってたら分からないけど?」

 

「兄さん、飲み込むのが早いですよ?もう少ししっかり噛んで食べてください。」

 

「桜、お前は僕の母親か…。」

 

「君たちもう少し静かに出来ないのかね?追い出されてしまうぞ…」



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錬鉄の英雄のいる店33

「…はい、バレンタインのチョコよ?」

 

そう言い、ハート型の小さなチョコを口に咥える凛…ほう?それは私を侮ってると言う事で良いのかな?

 

「ほら~早く取り…!んん!?…んちゅ…くちゅ…ん…」

 

…どうも私が照れる所を見たかったようだが…私が今更躊躇するわけなかろう…お望み通り濃厚なのを与えようではないか!

 

「…はあ…あんた…さすがに…今のは…無いんじゃ、ない…?」

 

「…息も絶え絶えか。そんな所もそそるぞ、凛。」

 

チョコが溶けきり離した口からアーチが出来る…赤く火照り上気仕切った遠坂の顔とも相まって…うむ…多少下品な表現だが…エロいな。

 

「…慣れてるじゃない…?セイバーともしてたわけ?」

 

何とか回復した凛が聞いてくる…だから今更そんな事で動揺するわけ無かろう?

 

「セイバーとは色々段階すっ飛ばしたからな…まあこんな甘く濃厚なキスは多分無いかな…?」

 

…あった気はするが…ここは余計な事を言う必要は無いな。

 

「…さて、まだチョコは残ってるが…まだするかね?」

 

「……冗談でしょ。まだ明るいのに歯止めが効かなくなるわ…」

 

「ふむ。残念だ…」

 

「そんなに残念がらなくても夜にはちゃんと付き合ってあげるわよ…」

 

そう言ってチョコの入った皿を部屋にある冷蔵庫に仕舞う凛…。そそる後ろ姿だな…さっきので私も少し昂っているようだが…さすがに手を出すわけにはいかんか…

 

 

 

「…ホテル暮らしも大分板についたわね…」

 

「そうだな…時々、厨房も使わせて貰ってるから腕も鈍らんですむ。」

 

「それは普通ホテルでの過ごし方じゃないけどね。…そう言えばあれから結構経つけど店は今どうなってるのかしら?」

 

「…あー…実は私たち二人が厨房に入ってる日に奴と桜たちで見に行ったらしい…」

 

「何それ…?私聞いてないんだけど…?…というか歯切れ悪いわね、何かあったわけ?」

 

「察しが良いな。実は見に行った所…六割程完成した三階建ての大き目の建物を新店舗として見せられたらしい…」

 

「……デカすぎでしょ…ルヴィアはその辺の常識未だに知らないのかしら?」

 

「いや、どうも奴を煽るためわざとやったらしい…」

 

「何でまた…あー…成程。あいつ、ルヴィアに対して示す感情怒りのみだしね…」

 

「しかも店の隣に勝手に大きな屋敷が建ってたのも気に触ったらしい…」

 

「エーデルフェルト家…こっちに住む気なのかしら…?」

 

「…本気で奴を堕とす気の様だからな…まあ結局キレた奴とルヴィアが喧嘩を初めて…桜が鎮圧したらしいが…余波で店も屋敷も消滅したらしい…」

 

「…現場の人たちに同情するわね…」

 

「現場は阿鼻叫喚だったらしい…怪我人がいなかったのが幸いだな…とにかく少なくとも奴とルヴィアは当分ホテル暮らしだ…私たちはどうする?仕事の都合もあるから桜たちは一度家に戻るそうだが…」

 

「そうねぇ…もう少ししたら私たちも一旦戻りましょうか。」



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錬鉄の英雄のいる店34

「…相変わらずパワフルな人だったわね…」

 

「…そうか、最近は店にも来なかったし、君はずっと海外にいたから藤ねぇに会うのも久しぶりか…」

 

私たちは先程藤村邸を辞した所だ…ホテルを出て自宅へ…とは思ったものの…最近姿を見せない藤ねぇの事を気にした私を見かねた凛が行こうと提案してくれたのだ…

 

「…にしても信じられないわね…あの藤村先生がもう長くないなんて…」

 

「…雷画さんが亡くなって随分になる…私がこっちに戻って来た時は既にこの世にいなかったが…あの時もすっかり糸が切れたかのように静かになっていたからな…しばらくして吹っ切れたのか昔のように元気になり店にもやって来るようになったが…」

 

「…その当時は私はずっとあっちにいたから見てないけど…それもとても信じられないわね…」

 

「…まさか癌になって更に元気を取り戻すとは、な…寧ろ私は昔以上に感じたよ…」

 

「…それでももう布団から出られないのね…」

 

「…末期だからな…後はそれこそ話に聞く例の封印指定の魔術師に頼むしかないが…」

 

「そんなの藤村先生は望まないでしょ。…大体、今の私たちじゃ代価も払えないし。…出来ればそうしたいけどね…桜の事も本当は頼みたいし。」

 

「…桜も望まないだろう…どれだけ人の身体にそっくりでも所詮は作り物の身体。自分の手で子供を抱ける事を心底から喜んでる彼女には…」

 

「でもこのままじゃ…桜も…!」

 

「…二人が話し合って決めた事だ…子供には悲しみを強いる事になるが…何、心配は要らんよ…桜は強い女性だ…それは君が一番良く分かっている筈だ…ましてや今の桜は母親だぞ?」

 

「…分かってるわよ…分かり過ぎる位に、ね…」

 

「…そろそろ湿っぽい話は止めるとしよう、もうすぐ柳洞寺だ…」

 

これもまた遠坂の提案だ…確かに私もずっと顔を出してなかったからな…

 

「…そうね…あんたもしばらく来てないんだっけ?」

 

「うむ。忙しくてついな…」

 

「…私はそれでも定期的に行ってたけどね…あんたもあいつの事言えないんじゃない?」

 

「…逃げてただけの奴と一緒にしないで欲しいのだが…」

 

「…どっちもどっちだと思うけど…あんたも桜から逃げようとしてたクチでしょ?」

 

「…そう、だな…そうかもしれん…」

 

 

 

「…着いたわね…それじゃあ私はお父様とお母様の方行くからごゆっくり「一緒に来ないか?」…私は遠坂家の当主よ。外様のそれも外道の魔術師殺しと交わす言葉は無いわ…最もあんたと正式に婚姻を結んだらそれも良いかもね…私にとっても義理の父親になるんだし。…あ、その時はあんたもこっちに来てもらうわよ?」

 

「…ああ、分かっている…ではな…」

 

 

 

……墓石の並ぶ中を進む…ここに来るのはもう冬木を出る直前のあの日以来だ…随分時間がかかったものだ…しかし、まだ道は覚えている…そして私はある墓の前で足を止め向き直る。

 

「…来たよ…久しぶり切嗣…遅くなってごめん…」

 

私は義父の眠る墓石に声をかけた…



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錬鉄の英雄のいる店35

柳洞寺の一室…隣の部屋から女性二人の笑い声が響くのと対照的にそこは異様な程静かだった…

 

「…久しぶりだな、衛宮…」

 

湯呑みを置いた目の前の男、柳洞一成が声をかけてくる。

 

「…そう、だな…十年は経ったか?」

 

「…どうかな、俺はもう数えるのを止めてしまったよ…」

 

……柳洞寺を出る時、一成と美綴から(いや、今は彼女も柳洞だったな…)声をかけられた…来た時は気配を感じなかったのだが…私が切嗣の墓にいる間に戻って来ていたのだろう…そして凛と、美綴は二人で話をしに行き…残った私と一成も部屋に…

 

「…こっちに戻って来ていたなら連絡位しろ…あの遠坂でさえちゃんと近況報告に来ていたというのに…まあ奴の場合、家族の墓参りのついでに綾子に会いに来ていたんだろうがな…」

 

「…すまんな…」

 

私は…いや、俺は一成に会いたくなかった…。あの日言われた言葉をまだ俺は覚えている…

 

「…道は見つかった様だな…」

 

「…!……分かるか…?」

 

「…まあな…こんな仕事してると色んな奴を見る…」

 

…昔から洞察に優れたタイプだったが…更に拍車がかかったようだ…

 

「…あの日俺がした問を覚えているな?」

 

「…ああ…。」

 

「…お前が父親の墓に寄った後、俺にお前はこう言った…『正義の味方になる』…と。そして俺はこう問うた…『それは本当にお前の夢か?』…とな。」

 

「…俺は何も答えられなかった…」

 

「そして俺は言った。『自分の道を探せ』…見つかった様だな?」

 

「…見つけたよ…少々遠回りをし過ぎたがな…」

 

「そうか…」

 

「…今度ここに来ると良い…私が今やってる店だ…残念ながら店主は私では無いし、訳あって店は再建中だがね…」

 

俺は持ち歩いてる手帳に店の住所と私の携帯番号も書くとページを千切り一成に渡す。

 

「…有難いが俺はもう仏門に入った身だ「ウチなら精進料理も対応出来るぞ?」…そう、か…なら店が再建されたら連絡をくれ…ほら、携帯の番号だ…」

 

一成の方も手帳に番号を書き手渡して来る…

 

「…積もる話もあると思って誘ったが…案外何も話題が無いものだな…」

 

「…そう、だな…隣は騒がしいが…」

 

嫌な沈黙では無い…せいぜいお互い苦笑が滲み出る程度だ…会いたくなかったのも事実だが俺が身構え過ぎたのかもしれんな…

 

「…衛宮…」

 

「…ん?」

 

「妙な遠慮をするな…お前が自分をどれだけ卑下しようと俺はお前を友人だと思っている…」

 

「…やはり…分かるか…?」

 

「…俺には見えている…お前に憑いてる物がな…だが俺はお前を否定せんよ…」

 

「…そう、か…」

 

敵わないな、こいつには…それにしても…

 

「さっきから思ってたんだが何かお前丸くなったんじゃないか…?」

 

「……俺の伴侶は、どんな奴だ?」

 

……成程…

 

「…察した。お前も苦労してるんだな…」

 

「…お前程じゃない…遠坂と結婚するんだろう…?俺以上に苦労するだろうよ…」

 

「…違いない…」

 

その話を皮切りに俺たちの話は昔話に移行して行き、俺は漸く目の前の旧友と腹を割って話せた気がした…



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錬鉄の英雄のいる店36

「…で、昔の友人とはちゃんと話出来たわけ?」

 

「…ああ。」

 

そこで私ははたと思い当たる…

 

「…凛…もしかして…お前は気付いてたのか…?」

 

「何を?って聞くのはわざとらしいか…ええ。あんたが妙な事考えてたのはね。」

 

「……」

 

「本当に馬鹿ね…学生時代の面倒臭いあんたから何があっても離れなかったあいつがあんたを理解してないわけないでしょうが。」

 

「…そうか。」

 

俺は良い友人を持ったな…そして良きパートナーを得た…見てるか切嗣?…俺はこの通り幸せだよ…だからもう安心して眠ってくれて良い…

 

 

 

「…ただいま。」

 

凛と別れ、誰もいない衛宮家に帰って来る…やはりこの家は俺には広すぎるな「おかえり、シロウ。」…私は声の聞こえた居間へ走る…!有り得ない…!彼女を私は救えなかった!今になってこの声を聞くわけが無い…!

 

 

居間の襖は閉じられている…中からは確かに人の気配がある…!よりによって彼女を真似るとは、な…!何者か知らんが…貴様は私の逆鱗に触れた!…私は剣を投影すると…一度深呼吸して激情を抑え込む…怒りのまま踏み込むなど愚の骨頂…!解析したところ中にいるのは寸分違わず彼女だという結果しか出なかった…だがそんな事は有り得ない!

 

……何故なら彼女はあの時確かに死んだのだから!…よってこの中にいるのはそれなりに手練。怒りに飲まれれば勝てないかもしれん…!

 

「…ふぅ…良し…!」

 

私は襖に手をかけると一気に引き開けた…!

 

 

 

「…久しぶりシロウ。」

 

その少女を見て身構えていたのが全て霧散していく…違う!彼女の筈は無いんだ…!

 

「…その姿を真似るのは止めろ…!何者だ?…どういうつもりか知らんがこれ以上は…!」

 

剣を握る手に力が籠る…!

 

「…やっぱり信じて貰えないか…私は、本物だよ?本物の「黙れ!イリヤは死んだ!俺の前でな!」…そうだね。私は確かに死んだ。」

 

白々しい事を…!私は目の前の少女の姿をした…イリヤの姿を真似る不届き者を斬りたいのを必死で堪える…!私の知らない所で何かが起こってる可能性もある…!まだこいつを殺すべきでは無い…!

 

「…取り敢えずその剣を下ろしてよ。そんなんじゃ話も出来ないし。」

 

「……分かった。」

 

取り敢えずこいつの言う通りにするか…妙な真似をすればまた剣を投影して即座に首を落とせば良い…!

 

「…さて、これでどうかなレディ?」

 

私は剣を消すと両手を振って丸腰を一応アピールする…最もわざわざ彼女の姿をとってここに来る程俺の事を知っているなら…

 

「…良く考えたらシロウは何時でも剣を出せるんだったね…でもこれ以上はどうしようもないし「何なら自己強制証明でも使ったらどうかね?人の神経を逆撫でする外道の魔術師にはお似合いの手段だろう?」む~!シロウ酷い!ちょっとお姉ちゃんを疑い過ぎじゃない!?」

 

…当然私の得意魔術も知っている、と…にしても本当にこれは演技なのか…?何となく疑ってる私が馬鹿みたいに思えて来たんだが…

 

「……分かった。君を信じても良い…だが保険はかけさせてくれ…この場に凛を呼びたい…構わないか?」

 

「…リン、ね。良いわよ?私も久しぶりに会いたいし。」

 

「そうか、なら少し待っていろ。」

 

私は少女に注意を向けたまま携帯を取り出し凛の携帯にかける…ややあって凛の慌てた声が聞こえて来る…また何かやらかしたのか…それにしても未だに携帯の扱いが苦手とは…まあ機械の大半がまともに使えなかった事を思えばこれも進歩か…取り敢えず手短に用件だけを伝え私は電話を切った。



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錬鉄の英雄のいる店37

「…あんたねぇ…気持ちは分からないでもないけどもっときちんと説明しなさいよ…ただ、イリヤスフィールが家に現れた…なんて言われてもあんたの頭がおかしくなったとしか思えないわよ…」

 

「…すまん、な…」

 

俺に呼び出され正しく着の身着のまま駆け付けた遠坂は一目見て状況をある程度把握したらしく俺に小言を言い始めた…私も慌てていたようだな…いや、怒りに我を忘れたか…

 

「…で、あんたは結局何なわけ?」

 

「何って言われても私はイリヤだとしか言い様が無いんだけど…」

 

……遠坂の方は取り敢えず彼女にあまり警戒はしていないようだ…

 

「…そう。でもあんたは自分が死んだのは自覚あるのよね?」

 

「…そうね。私は殺された…英雄王に。」

 

「…じゃあ幽霊、とか…?」

 

虚勢を張ってるが顔の強ばる凛…

 

「…いや、私の解析したところ彼女は確かに生身だと出てる。」

 

「……あんたが言うなら間違いないか…なら答えは一つでしょ。ここにいるイリヤスフィールは多分…ホムンクルスじゃないの?それも何故か第五次聖杯戦争の記憶を持った、ね…」

 

「…成程。それが妥当だな。…しかし誰がそんな事を…」

 

わざわざ死んだイリヤスフィールの記憶を植え付けた理由は何だ?しかも死んだ時の記憶まで植え付けるなぞ悪趣味に過ぎる…!

 

「…さて、と。結論も出たし私は帰るわよ。…家の中片付けないと「彼女の事はどうするんだ?」…今の所害は無さそうだし私には関係無いわよ。はっきりしてるのは今この瞬間ここにいるのは確かにイリヤスフィールで、現状アインツベルン家は当に無くてそいつにはあんた以外身内がいないってことだけ。という訳で任せるわ。何か分かったら教えて頂戴。…それじゃあ悪いけど今日は忙しいから帰るわ…また今度話しましょ、イリヤ。」

 

「うん。またね、リン。」

 

「……」

 

「…え~と…シロウ?」

 

「…何かね?」

 

「…これからお世話になります。」

 

そう言って頭を下げる彼女…イリヤを見ていると何だかさっきまで警戒していたのが本当に馬鹿らしくなった…そうだ、な…これはあの時の続きか。そう思って良いのかな…?

 

「…こちらこそ宜しく頼むよ……姉さん。」

 

とにかく今の私に言えるのは彼女を拒むつもりは無く、寧ろこの再会を喜んでる俺がいる…という事だろうか…

 

 

 

「取り敢えず食事にするか?」

 

「うん!わぁ~!シロウの料理久しぶりだから楽しみ~!」

 

「あの時よりもずっと腕前を上げたと自負している。まあ大いに期待してくれたまえ。」

 

最悪の別れをした少女とのざっと数十年越しの再会を噛み締めつつ私はキッチンに向かった…。



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錬鉄の英雄のいる店38

嘗て私が救えなかった人々…その中でも特に思い入れの強く…忘れる事の出来ない存在…それが私にとってのイリヤスフィールだった…いや、過去形では無い。私は今でも彼女の事を引き摺っている…そんな彼女が今再び目の前にいる…

 

「…それで何故、君はここに?」

 

「それが…実は良く分からないの…気が付いたら私はここ、シロウとキリツグの家にいた。混乱したわ…私の最後の記憶はあの時自分が死んだ時の物だけ…部屋の中を回って更に驚いたわ…カレンダーを見たら私が死んだ時よりずっと時間が経ってるのが分かったから…」

 

「…ふむ。」

 

……罪悪感はあるが彼女の全てを信じるわけにもいかない。彼女自身が確かにイリヤスフィールだとして、彼女本人に害意は無くとも…彼女を創った魔術師がそうとは限らない…だから何かヒントになりそうな事は無いかと思って聞いたが…この分だと本当に彼女は何も知らないようだ…

 

「でもね…少し安心した所もあるの。」

 

「何がだね?」

 

「シロウの事だから…リンや皆の事を置き去りにして擦り切れるまで…壊れるまで走り続けると思ってた…そしてここには帰って来ないと思った…バーサーカーもいないしここに一人でいる心細さも感じてたけど…それ以上にシロウが心配だった…でも安心したの。この家にはつい最近まで確かに人の生活してる形跡があったから…」

 

「ここで、大事な物を見つけた…いや、最初からあったのに気付かなかった…でも、気付けた…大丈夫だ…私は…いや、俺はもうアーチャーの様にはならない…」

 

「…良かった…私ね、自分が殺される瞬間もずっとシロウが心配だったから…」

 

「安心してくれ。俺はもう心配要らない…」

 

「…うん。」

 

俺は…彼女の為に何が出来るだろうな…?

 

 

 

翌日…

 

「…で、私に買い出しに行って来いって?」

 

「すまない、頼めるか?」

 

今のイリヤは実質戸籍も無いも同然。しかも彼女を創った魔術師の動きが分からない以上、下手に外に出すわけにはいかない…ただ、外に出られないからと言ってイリヤにずっと着の身着のままでいさせる訳にはいかないし、家に篭っている間の食事を作るための食材もずっとホテルにいたため無い…保存の効く食材もまだ残りはあるがそう量がある訳でも無い…まさか普段自炊をしていたのがここで仇となるとは…なので彼女が生活するのに必要な物の買い出しを凛に頼む事にした…

 

「まあ私にとっても身内みたいなものだし、あんたに女の子の服とか下着とか買いに行かせるのも不安しかないから私が行くのは当然かもしれないけど…まさか一人で行けって?」

 

「…シロウ…私は大丈夫だから…」

 

「すまないな、今のイリヤを迂闊に一人に出来そうも無いのでね…」

 

今のイリヤは魔術が使えないらしい…ホムンクルスは大抵魔術回路を持った状態で創るものでは無いのだろうか…?創った奴の思惑がまるで分からないな…

 

「…そういう事なら仕方ないか…なら、桜誘って行くわね。」

 

「…すまないな、彼女にも伝えておいてくれ、親子の時間を邪魔してすまないと。」

 

「はいはい。じゃあ行ってくるわね。」

 

「…ごめんね、リン…」

 

「気にしなくて良いわ。…どうせ文句は全部こいつに言うから。」

 

「ああ。ちゃんと埋め合わせはするとも。」



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錬鉄の英雄のいる店39

「…ただいま…」

 

「…おかえり。随分遅かったじゃないか?」

 

「…あのねぇ…この辺の服屋じゃあイリヤが着れそうな服無かったからわざわざ新都まで行ったんだけど?」

 

「…むっ…そうだったのか…それはすまなかった。」

 

「…何も知らないわけね…私が行って良かったわ…この界隈の服屋はもうほとんど子供用の服扱ってないのよ。何せ子供が全然居ないからね…」

 

「…少子高齢化…と言う奴か。これも時代かな…」

 

「…私も何時も子供の服探すの割と苦労してて…兄さんに車出して貰う事も多いんですよね…」

 

…世知辛い世の中になった物だ…

 

「…まあとにかくありがとう。今から夕飯を用意するから待っていてくれ。」

 

「私も手伝うわ…これ冷蔵庫に入れたいし…ああ、イリヤ?これ、あんたの服…取り敢えずこれだけあれば一週間は保つでしょ…新都に売ってる服も碌なのなかったら可愛いの無いけど我慢してね?」

 

「もう…あんまり子供扱いしないでよ。このなりだけどそもそも私十代後半だからね?」

 

「…今の私たちからしたら普通に歳下だし、まだ十分子供よ。…というかせっかく買って来たのに憎まれ口だけ?とても大人のやる事じゃないわよ?」

 

「分かってるわよ…ありがとう…」

 

「宜しい。今ご飯作るから桜と座って待ってなさい。」

 

「さぁイリヤさん…私とこの子と大人しく待ちましょう?」

 

「サクラまで…まぁいいか…ねぇその子、サクラの子供なんだよね?私に抱かせてくれない?」

 

「良いですよ、ほら、イリヤお姉ちゃんに抱いてもらいましょうね…」

 

「…ちょっとあんた…何時まで見てんのよ…」

 

「…ん?ああ…すまない…」

 

「まあ気持ちはものすごく分かるけどね…」

 

「…だろう?」

 

「…そのドヤ顔何かムカつくから止めなさい。さっさと作るわよ。」

 

凛に促されキッチンに向かった…

 

 

「…そう言えば提案があるんだけど…」

 

「何かね?」

 

「ここにいるよりホテルに戻った方が守りやすくない?ここに留まったら襲撃してくれって言ってるような物よ?…まあ食材買いこんでから言うことじゃないけどね…」

 

むっ…言われてみればそうか…

 

「確かに普通の魔術師は一般人がいる場所で戦闘を行おうとはしないか…」

 

「…最もイリヤの素性を確固たる物にする前提なら一週間はかかるでしょうから都合は良いかもね…」

 

「……戸籍の偽造を頼んでも良いか?」

 

「あんたは外に出られない物ね…手数料払ってくれるなら良いわよ?」

 

「……いくらだ…?」

 

「この位…」

 

そう言って彼女がそろばんを弾く。そして彼女が示した額は…

 

「……高くないか?」

 

「…ボロが出ないレベルならこんな物でしょ…」

 

どう考えてもぼられている気がするのだが…イリヤの為だ…。



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錬鉄の英雄のいる店40

「ところで…藤村先生には言わなくて良いの?」

 

「何故…あ…」

 

「…気付いた?」

 

「…う、む…」

 

「ああいう家は不義理を犯すと身内相手でも制裁が怖いわよ…?遠坂家は裏側にもそれなりに顔が利くけどこの冬木では少なくとも表向きはあっちの方が力は上だからね…例え唯一のトップの命が風前の灯火でもね…」

 

「…むぅ…」

 

「大体あんた、後見人は今でも藤村家のままでしょ?先に相談位はして置かないと万が一あんたに何かあった時、イリヤを守ってるくれる人いなくなるわよ?」

 

「今の私の身分はどちらかと言えば被保護者では無く切嗣と同じ客分だ…しかし…藤ねぇはイリヤに会った事があるから不味いと思うのだが…」

 

「それこそ今更でしょ…そもそも聖杯戦争の時だって藤村家としては何が起きていたのか裏側の事情を詳しく知らなくても自分たちの守っている場所が戦場になってるのは知ってたと思うわよ?」

 

「…それは…そうだろうな…藤ねぇは何も言わなかったが…」

 

雷画さんはかなり聡明な人だ…藤ねぇもああ見えて勘は良い…何故二人は黙っていたんだ…?

 

「…あんたを信じていたからでしょ?」

 

「…そう、なのか…?」

 

「じゃなきゃ一度も介入しようとしなかった…なんて可笑しいでしょ?」

 

「…確かに。」

 

「多分…藤村先生は待ってるのよ…あんたが全部話してくれるのを…」

 

「…ホムンクルスであるイリヤの事を説明しろ、と…?」

 

「あの人がそんな事でイリヤに偏見持つと思う?」

 

「…そうだな…藤村家の人間も誰一人気にしないだろうな…」

 

「明日話しに行きましょう…そうでなくてもあんたが冬木に戻って来てから藤村先生の代わりにずっと藤村家の人が様子見に来てるんでしょう?…事情を知らない人からしたらあんた完全に誘拐犯よ?」

 

「それは…不味いな…」

 

「でしょ?というわけで明日一緒に話しに行きましょ。」

 

「何故君も来るんだ…?」

 

「…私は遠坂家の人間よ…聖杯戦争を始めた家の人間として、そして第五次聖杯戦争に参加した人間として全てを話す義務があるわ。」

 

「…そう、か…なら頼む…「先輩、私も行きます」…桜…」

 

「桜、あんたは「私も聖杯戦争の参加者で御三家の一つ、間桐家の人間です。兄さんと一緒に行きます」…分かったわ…」

 

「ちょっと!私も忘れないでよね!私だってアインツベルン家の人間だからね!」

 

「ちょっと!あんたもなの!?」

 

「…凛、仕方あるまい。どちらにせよイリヤを一人にするわけに行かないんだ…全員で行くとしよう…」

 

さて、明日は忙しくなるな…どうやって虎の御機嫌取りをするか考えなくては…



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錬鉄の英雄のいる店41

「え~っと…もっかい最初から説明して貰っていい?」

 

藤ねぇの言葉に溜息を吐きそうになるのを堪える…何度も説明してるが彼女が理解を示す様子は無い…いや、信じていないとかでは無いし彼女は彼女なりに何とか分かろうとしてるのはこっちも理解出来るし、納得もしてる…とは言え…

 

「…既に二十五回目だ…割と長い話だし日が暮れて仕舞うのだが…」

 

「だって~!士郎の話が分かりにくいんだもん!難しい言葉ばっかり使うし!」

 

「いや、これでも専門用語は省いてるし、かなり分かりやすく説明してるつもりだが「私は分からないもん!」ハァ…」

 

藤村組の人たちは概ね理解してくれたらしく皆苦笑を浮かべている…かなり荒唐無稽な話の筈だが、こんな話を信じてくれる辺りやはり善人なのだと思う…自分の生まれ育った場所を時にどんな手を使っても守るという苛烈だけど不特定多数を守ろうとして結局失敗してる俺から見ればこの人たちこそ本当の正義の味方って気がしてくる…

 

「…と言うかさ、今更面倒な話し良いよ…別に士郎たちが悪いんじゃないでしょ?その戦争のきっかけを作ったのはあくまで遠坂さんや間桐さん、イリヤちゃんの御先祖様で、士郎に至っては巻き込まれただけでしょ?」

 

……全く理解してないのかと思えばこうやって本質を捉えてこっちを思いやる発言をして来る…全く…敵わないなこの人には…

 

「…んでそろそろ本題言ってもらって良い?」

 

「……」

 

そしてこっちが油断してると深く切り込んで来る…この辺のやり方は雷画さんの影響かな…?…あの頃から藤ねぇには隠し事が出来なかった…

 

「…もし…俺に何かあったら…姉を…イリヤを藤村家で匿って欲しい…」

 

俺は頭を下げる…横で動く気配を感じたのでチラリと見遣れば四人も頭を下げていた…お前らさっきまで黙ったままだったろ…まあ藤ねぇの理解力を考えれば長い付き合いの俺に丸投げしたくなるのは分かるが…

 

「え~…やだ。」

 

「…!…頼む藤ねぇ…!」

 

やはり断るか…!だが俺には頭を下げる事しか…!

 

「頭上げてよ皆。あのね…私は士郎が自分に何かあるって状況で頼んでるのが嫌ってだけだから。」

 

「…それは、一体?」

 

「まずは士郎が守ってあげなよ。大事な家族なんでしょ?」

 

「…そうだが…」

 

「…取り敢えず戸籍はこっちで用意するよ。イリヤちゃんには申し訳無いけどその見た目で今の士郎の姉は無理があるし、士郎の妹って事で良い?」

 

「…うん。私はそれで構わないよ、タイガ…」

 

「…そうだねぇ…歳は自己申告通り十八って事にしとくから…大丈夫。身長が低くても二十歳越えてる人だっているし…取り敢えずこっちでお金出すから免許取っちゃいなよ、その方が年齢の証明しやすいし。」

 

「…うん。」

 

「待ってくれ藤ねぇ。イリヤはそう簡単に色々出来る状態じゃ「じゃあ士郎はイリヤちゃんをずっと家に閉じ込めておくつもり?」……」

 

「良く分からないけどイリヤちゃん、あまり長く生きられないかも知れないんでしょ?」

 

その可能性は高い。ホムンクルスは大半が極端に短命だ。

 

「だから生きてる間に経験出来ることはしておいた方が良いよ…それに…もしかしたら普通の人と同じ位生きる方法見つかるかも知れないし。」

 

「イリヤは狙われて「悪い人は士郎が退治するんでしょう?」……」

 

「士郎はさ、イリヤちゃんを嘗めすぎだよ。…人ってさ、そんなに弱くないよ。」

 

「シロウ、私は大丈夫。」

 

「…あんたの負けね。認めたら?」

 

「そう、だな…姉さん、俺はあんたを信頼出来てなかった様だ…」

 

「うん。大丈夫、見てて。私は一人でも立てるようになるし、どうしても一人で出来ない事があったら皆に頼るから…」

 

……強いな。あの頃の私にはそれが出来なかった…本当に彼女は強い…

 



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錬鉄の英雄のいる店42

「…へぇ…んじゃあそのちんちくりんをウチで雇えって…?」

 

「…うむ…頼めるか…?」

 

奴がルヴィアと話すイリヤを見る…

 

「…法律問題は免許と戸籍ありゃクリアだろ?使えるなら俺は構わないぜ?」

 

「…いや、良いのか?」

 

「何がだよ?」

 

「…いや、揉め事に巻き込まれる可能性が「俺らが店やってから問題の起きなかった時の方が珍しいだろ?今更だ」…確かに、そうだが…」

 

「…まあその代わり指導はお前がしろよ。後万が一警察来たら説明はテメェがしろ。そんなもんまで責任負えねぇわ…ああ、いっそマスコミに第三者装ってリークしちまうか?話題になりゃ魔術師も手ぇ出して来ねぇだろ?無駄に客が増えそうだけどな…」

 

「…発想はともかく普通客が増えたら喜ぶ物じゃないかね?」

 

「…面倒臭ぇ…」

 

「…客商売でそんな事言うのは君ぐらいだよ…」

 

「趣味だって言ってんだろうが。そもそも俺の傭兵時代の貯金運用して利益出してるから別に汗水流して働く必要ねぇの」

 

「……初めて聞いたんだが…」

 

「言ってないからな。何かあってもこれで安心だろ?」

 

「……」

 

「そんな顔すんなよ、何ならお前も乗るか?遠坂と結婚するし、しばらくあのガキの面倒見なきゃ何ねぇんだろ?金はいくらあっても足んねぇだろ。」

 

「…そうだな…考えておこうか…」

 

藤村家だけに何時までも頼る訳にもいかないからな…

 

「…最低でも一万からだからな。」

 

「…フッ…その手の基本は分かっている…と言うかどうせ一枚噛ませてくれるなら私にも手を出させたまえ。」

 

「…まっ、良いけどよ…」

 

これで当面の資金の問題は片付いたかな…

 

「…てか予約すんのは勝手だけどよ、店が再建されんのはもうちょい先だぜ?」

 

「…出来てからで構わんよ。…と言うかどうせ改めてオープンした際は忙しいからまだイリヤに任せられん。」

 

「まあな。さすがにそれは俺も勘弁してもらいてぇわ。」

 

 

 

「…私、シロウのお店で働くの?」

 

「正確には店主は彼だ。」

 

「…そう。よろしくお願いします。」

 

「へーへー。せいぜい頑張ってくれ。」

 

「…あまりに態度が悪くないかね?」

 

「…俺はガキが嫌いだ、つっただろうが。こいつの中身が十八歳でも俺にはそれ以下のガキにしか見えねぇよ。…正直使えるかも怪しいしな。」

 

「…良いよシロウ…私、自分で頑張って認めてもらうから…」

 

「…妙な奴だな、こいつ…」

 

「…それなりに色々見てるからな…見た目で判断しない事だ…」

 

「分かってるさ…まあお手並み拝見と行こうかね…それはそうと…お前「…イリヤよ。せめて名前で呼んでよ」…その内な。…お前本当にウチで良いのか?何だかんだウチは忙しいぞ?面倒な客も来やがるしな。」

 

「…うん、大丈夫。」

 

「…はん。どれくらい持つか本当に見物だな。」



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錬鉄の英雄のいる店43

「こうにん?…ああ、高認か…」

 

「イリヤちゃん学校には行ったこと無いんでしょう?どうせなら大学だけでも行っておいたら良いんじゃないかと思ったの。」

 

イリヤをホテルに残し、私は藤ねぇに呼び出されていた…多少心配だが遠坂たちもいるから大丈夫だろう…しかし…高認ね…

 

……高等学校卒業程度認定試験…昔は大学入学資格検定と言うのがありそれを廃止し、現在行われているのが高等学校卒業程度認定試験…通称高認という物だ…要するに何らかの理由で高校に行けなかった人間が高卒認定、及び大学受験資格を得るための試験の事だ…これに合格すると同時に一応義務教育過程を卒業した扱いにもなる。

 

「…一応イリヤには聞いてみる…と言うか免許も取らなきゃならない事考えると割とハードになりそうだが…」

 

そもそも高認はあくまで高卒認定を取れるだけでその後の大学受験を受けて合格しなければ大学には入れない…イリヤの立場を考えると専門学校に行く手もあるが。

 

「…そうなんだけどさ…やってみる価値はあると思うよ…あ、別に無理強いするつもりは無いからね?一応イリヤちゃんが受けたいって言えばこっちもバックアップはするから…」

 

「…どっちにしろ勉強漬けだな…イリヤは魔術の勉強はしていても普通の勉強は最低限しかしてないようだからな…最も記憶力は良いようだからそれ程苦労はしないだろうが…」

 

 

 

「…え?学校?シロウが行ってたみたいな?」

 

「イリヤの場合だと高校は定時制だな…それとも高認は受けずにそっちに行くか?」

 

基本的にはイリヤの意志を尊重したい…別にどちらに行かせるにしても費用は出せるし、申し訳無いが一応藤村家からも資金は出る…

 

「う~ん…」

 

「良く考えて決めると良い…仮に行かないのであればそれはそれで構わない。」

 

「ううん。せっかくだから行くよ…それに私も学校行ってみたかったから…でもどっちにしようかな…」

 

喜んでいる所悪いが釘は刺さなければな…

 

「…ただ、行くのであればそれなりに勉強はしないといけないが…」

 

「…ある程度はセラから教わってるけど大半が魔術の事ばかりでそう言えば普通の勉強はあまり自信が無いかな…」

 

「良ければ私がお教えしますわ。」

 

ん?ルヴィアか…珍しいな、奴の所にいないのは…

 

「え?良いの?ルヴィア?」

 

「もちろんですわ。貴女がアインツベルン家の人間だった頃なら有り得ませんが…今や貴女にあるのは私の友人シェロの妹と言う肩書きだけ。…シェロの身内なら私の身内も同然。…但しやる以上は厳しく行きますわよ?」

 

「…ありがとう、ルヴィア…ならよろしくお願いします…」

 

ルヴィアなら安心だな…

 

「…一応リンにも声をかけておきますわ…私だけだと厳しい可能性もありますし…後、高認を受けるのか、定時制高校に行くのか早目に決めておいてください…それによって教え方も考えなくてはなりませんので。」

 

「…うん。分かった、決めておくね?」

 

……これは私の出る幕は無さそうだな…後は藤ねぇにそれとなく話だけしておくか…



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錬鉄の英雄のいる店44

「あ?学校?」

 

「うむ。」

 

「…何でその話を俺にすんだよ。本人が勝手に決める事だろ?」

 

「君は彼女の雇い主になるだろう?」

 

「あのガキの人生まで責任持つ気はねぇっての。シフト調整の話ならお前が勝手にしろよ…俺は関知しねぇ…つかよ?」

 

「ん?」

 

「通信制じゃ駄目なのか?」

 

「……あ…」

 

「忘れてやがったな…」

 

そうか…通う事を前提にする必要は無いのか…とは言え…

 

「本人は乗り気だからな…」

 

「…選択肢には入れるべきなんじゃねぇの?」

 

「…確かに…」

 

イリヤに伝えておこう…

 

「…あー…今は気分が良いからよ、いくつかアドバイスしてやるよ…」

 

そう言う奴の傍らにはいくつかの酒瓶が転がっている…全く。暇にしても程がある…

 

「…飲み過ぎじゃないかね?」

 

「うるせぇなぁ…お前さ、あのガキに定時制やら通信制やら進めんのは勝手だけどよ、現状これらの授業事情知ってんのか?」

 

「…どういう意味かね?」

 

「簡単に言うとだな、この二つの共通事項として、高校卒業資格は取れるが、仮に卒業しても一般的な高校の授業範囲は終わらねぇつってんのさ」

 

「何?何でそんな事になってるんだ?」

 

「…本当に何も知らねぇんだな…これら二つの学校の事情としてはな…誰でも高卒認定を取れると言う前提の元、どんな奴にでも門戸を開くと言うのが不文律で仮に小、中の学が足りなくても卒業出来るように基本しかやらねぇのさ、存在意義としては申し分無いが将来の役に立つかは別の話なんだよ…」

 

「…そうだったのか…」

 

「まああいつらが教えるならその辺は抜けめねぇだろうさ…ちゃんと高校の範囲の不足分を教えんだろ。」

 

……確かに二人なら心配要らないか…それにしても…

 

「やけに詳しいな…」

 

「…知ってるだろ?俺の最終学歴は中卒だ…こっちに戻ってから自業自得ではあるがあまりに格好付かねぇと思ったから高卒資格だけでも取ろうと思って調べたんだ…授業事情見る限りあまり意味無さそうだから独学で高校の範囲を学んだがな…店開くには最低でも食品衛生責任者になれれば問題ねぇから結局高認も受けなかったしよ。」

 

「……」

 

これは本当にイリヤに進めて良いのだろうか…?

 

「深く考える必要ねぇだろ?あいつらが教えるなら問題ねぇんだしよ…結局はあいつがわざわざ学校行きたいかどうかだろ…後はあのガキが勝手に決めんだろうよ…要はお前はただ、選択肢を提示すりゃ良いだけだ…」

 

そうだな…今更私がとやかく言う事でも無いか…

 

 

 

「…で、私たちにイリヤの気持ちを尊重した上で勉強教えて欲しいって?」

 

「…ああ…面倒だとは思うが…」

 

「…あの…シェロ…?」

 

「ん?」

 

「…ハア…あのねぇ…私たちはそれくらいの事知ってるからね?あんたが知らなかっただけ。…先ずは進める前にちゃんと調べなさいよ…」

 

「…面目無い…」

 

何だ…イリヤと私以外は知っていたのか…



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錬鉄の英雄のいる店45

「おい!返せ俺の酒!」

 

「飲み過ぎですわ。これは没収しますわね。」

 

「クソ女が…」

 

「…あいつはもう、ルヴィアがいれば問題無さそうね…」

 

「うむ。何だかんだ奴も喧嘩腰にならない所見ると奴は奴でルヴィアへの嫌悪感は払拭されて来てる様だな…さて、これで肩の荷が一つ降りた…後は…」

 

「イリヤの事?それならもう定時制に行きたいって言われたわよ?」

 

「……そうか…」

 

「何拗ねてるのよ…お金出すのはあんたや藤村家なんだから何れ頼みに来るでしょ。…私たちはそれでカリキュラム組まなきゃならないから決まったら先に伝えてって言っておいただけよ?」

 

「……拗ねてなどいない…」

 

「…あんた何か本当に子供っぽくなったわね…歳考えなさい?さすがにキツいわよ…」

 

「歳の話なら君も「何か言った?」…何でもない…だからその宝石を仕舞ってくれ…私が悪かったから…」

 

こんな所で魔術を使う気なのか…ここはホテルのロビーだぞ…

 

「分かれば良いわ…あっ、そうそう。藤村先生から連絡あって明日にはイリヤの戸籍出来るそうよ。」

 

「私は聞いてないんだが…」

 

「あんたがまた厨房入ってたからよ…私が代わりに携帯出たの。」

 

「…そうなのか…」

 

勝手に出てる事について突っ込みを入れようと思ったが止めた…特に出られて困る相手もいない。

 

「やけに時間がかかったな…」

 

「…アインツベルン家が日本に来た時の書類偽装がかなり適当だったみたいでね…詳しくは言ってなかったけど相当苦労したみたいよ…」

 

「…成程。これで取り敢えずイリヤの身分は証明されたな…」

 

「後は免許取れれば完璧ね…あまり時間かけれないだろうから合宿行かせようかとも思ってたけど…」

 

「普通に市内の教習所に通わせて免許を取らせた方が良いだろう…敢えて目立たせた方が襲撃されにくい…ほぼ確実に取れるし、本当はそうしたいのは山々だが…」

 

合宿による免許取得が行われるのは田舎だ…下手に私たちが着いて行くわけに行かない以上、人の少ない所にイリヤを送れば攫ってくれと言ってるような物だ…

 

「一応しばらくは藤村家から人が来てくれるらしいけど…」

 

「荒事は得意でも魔術師では相手が悪いからな…」

 

「そうね…とにかくこれでイリヤの方針は決まったわね…」

 

「そうだな…しばらくは彼女の事で頭悩ませる事になるか…」

 

「あんたは寧ろそれを望んでたでしょ?」

 

「…君たちまで付き合う事無いんだぞ?」

 

「言ったでしょ?私にとっても身内だって。…多分ルヴィアも同じよ、昔ならともかく今のイリヤに対抗心燃やす必要も無いんだし。」

 

「私に手伝える事「あんた高校時代の成績くらい覚えてるでしょ?私とあんたの成績比べてみなさい」…宜しく頼む…」

 

「安心しなさい、やるからには本気でやるわ。後はイリヤが音を上げないかだけど…これは多分心配無いわね…メンタル面なら私やあんたよりずっと上よ、あの子…」

 

「…最終的に頭脳面でも上回るかも知れんな…」

 

「…否定出来ないわね…すぐに教師役の私やルヴィアを踏み越えて行きそうだわ…そもそも私たちもブランクあるし…最近の高校の教科書読んで復習しとかないと…」



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錬鉄の英雄のいる店46

さて、今日はイリヤが初めて教習所と定時制高校に向かう日だ…

 

「必要な物は持った?筆記用具とか忘れてたり…」

 

「もう…大丈夫よ…昨日何度も確認したし…」

 

「…そう…なら後はこれ持って行きなさい…」

 

「えっ?何こ…えっ!?本当に何これ!?めちゃくちゃ重いんだけど!?」

 

「宝石ですわ。万が一何かあったらこれを投げれば「いやいや!?こんな重いの持って行けるわけ」何言ってますの!何かあったら大変ですわ!」

 

「…これは私からだ。この財布に交通費等のお金を入れてある。」

 

「ありがとうシロ…えええ!?これお札の数多くない!?」

 

「お金はいくらあっても困らないからな。三十万程いれてある」

 

……過保護?そんな事は無い。出た先で何があるか分からないからな…何せ私たちはついていけない上に教習所も高校も市外だから何かあってもすぐには駆けつけられないしな…

 

「何やってんだお前らは…こんな大量に宝石要らねぇだろ。後、ガキ「イリヤだってば!」良いからその財布貸せ…ほれこんくらいで良いだろう…五万程入ってる。」

 

「あっ、ありがとう…」

 

「ちょっと!せめて宝石ぐらいは「馬鹿かお前、こんな大金財布に入れて且つ大量の宝石持たせてみろ、魔術師どころか普通の強盗や誘拐犯にすら狙ってくれって言ってるような物だぜ?」うっ…」

 

「しかし実際にイリヤは狙われてる可能性がある…何か他に方法が「防犯ベルぐらい今はあちこちで売ってんだろ。今からひとっ走り買って来いよ。」…しかしそれではイリヤが間に合わなく…「タクシー呼べ。何のための金だよ。」…分かった、行ってこよう…」

 

二次災害の恐れを考えてなかった…私も相当うっかりしているな…

 

 

 

「…行ったわね。」

 

「…ああ…」

 

タクシーに乗り込んだイリヤを凛とルヴィアと共に見送る…あっ…!

 

「いかん…!」

 

「どうしたの?」

 

「奴から金を返して貰ってない…!」

 

「…多分ホテル内のコンビニですわ。お酒を買うつもりでしょう。」

 

「くっ!」

 

 

 

「よう、遅かったな…」

 

奴とルヴィアの部屋に来てみれば大量の酒瓶を並べた奴が…

 

「…金は…どうした…?」

 

「…ほれ…半分は残してある…」

 

「…君という奴は…!」

 

「この場合気付かない方が悪いと思うがね~…おいおい、そんな怒んなって。悪かったっての。」

 

今更奴にこんな事で怒っても仕方無いのは分かっている…分かっているが…!

 

「…だからそんな怒んなって。冗談だ…まだ使ってねぇよ。酒瓶を良く見ろよ…こんな安い酒をこの程度買った所で十数万も吹っ飛ぶわけねぇだろ。」

 

そう言って残りの金を置く。…油断も隙も無いな…後少し私が気付くのが遅れていればこの男は冗談でも何でもなく本当に使っていただろう…

 



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錬鉄の英雄のいる店47

「お前らなぁ…使い魔飛ばしてんだろ?何かあったら分かんだろ?五分おきに様子見んの止めてやれ…」

 

「しかし…!」

 

「少しは信用してやれよ…そもそもこの国で事件や事故に巻き込まれる確率は天文学的数字だ…魔術師の襲撃の可能性が低い以上、そっちは心配し過ぎるだけ無駄だ…遭遇したら単にあのガキの運が悪かっただけの話だっての。」

 

「君は…!」

 

「いきり立つな。俺は一般論を口にしてるだけだぜ?」

 

「くっ!せめて冬木市内なら…!」

 

「仕方ねぇだろ。教習所はともかく肝心の定時制高校が冬木市内に無かったんだからよ。」

 

「何故だ!?あって当たり前の施設の筈だろう!?」

 

「…元々定時制や通信制を受講出来る学校はそう多くはねぇ。…増してやここは子供はいないし、わざわざ歳食ってから今更学校に通いたい奴もそうはいない…無くて当然だろ。」

 

「……」

 

「何で子供が少ないのか…なんて言うなよ?原因は分かんだろ?」

 

ああ…良く分かっているとも…ここ冬木市内の住人がここまで減ってしまったのが私たち魔術師のせいなんてことは…!

 

「あんたは…他人事だと思って…!」

 

「そうだな…だが、もし俺が家出をせず今もあの家で普通に生活していたとして弟が故郷を離れる事になってもそこまで心配はしなかっただろうな。」

 

「それは君が兄弟仲が悪かったからでは「誰かそんな事言ったか?俺自身勉強出来なくて劣等感あったのは認めるが、少なくとも家出るほんの数日前まで俺たちの仲自体は良好だったと今でも言えるぞ、俺は。」……」

 

「あんた、結構薄情ね…」

 

「何言ってんだ?俺がそれ程あいつらの事を心配しないのは単に信頼してるからだよ。…あのガキ、精神面は相当強いぜ?…つか、嘗て殺しあったお前らがそんな事は一番良く分かっているんじゃねぇの?」

 

「…少なくとも私は知りません。」

 

「信頼出来る程、一緒にいた時間が少ないとしても、必要以上に心配するのは別の話だっての。…あいつ十八なんだろ?そろそろ自分で色々決めれる歳だっての。お前らアレをガキ扱いし過ぎだろ。」

 

「それは君の事では「見た目ガキの奴にガキって言って何が悪い?そもそもその辺の大人より色々見てきた自信あるぞ、俺は。」…君はまだ大分子供だと思うがね…」

 

「そうねぇ。考え方しっかりしてるって意味ならイリヤの方が大人だと思うわ。」

 

「…十八のガキに高々一日出かけるだけで三十万も渡す程金銭感覚崩壊した奴に言われたかねぇ。後、持って行けるわけも無い大量の宝石渡す奴にも言われたくないね。」

 

「…本当に口が減らないな、君は…」

 

「その辺はお互い様だろ。」



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錬鉄の英雄のいる店48

三月十四日 早朝

 

私が厨房に向かうとそこには先客が…

 

「…何をしているのかね?」

 

「ん?見りゃ分かんだろ。」

 

「…クッキーか…ルヴィアにかね?」

 

「ああ…何だその顔は?」

 

「…いや、意外だと思ってね…君ならお返しをするどころか受け取りすらしないと思っていたからね…」

 

「失礼な奴だな…お返し位普通するだろ…つか食い物に罪はねぇ。くれるなら貰うさ…ましてや普段細かい雑用は人にやらせるあいつがわざわざ並んで買ってきたってんだから受け取らざるを得ねぇだろ…最もその次に自分を渡そうとしてドレスに手を掛けた時は即座に気絶させたがな…」

 

溜息を吐く…ルヴィアも余りに早急だと思うがこいつは一体どれだけ彼女を嫌っているのだろうか…?…何があったのか少し興味が湧いて来たな…

 

「…しかし…クッキーかね…君は焼き菓子なら大体作れると言ってなかったかね?」

 

「…何言いたいかは分かるぜ?俺にとってあいつは単なる腐れ縁だ…これから先もそういう仲になるつもりはねぇ…それ程作るのも難しくねぇしよっぽどマシュマロでも用意してやろうかとも思ったけどな…」

 

……ホワイトデーに送るお菓子には意味があり、クッキーは「友達のままでいましょう」マシュマロは「あなたが嫌いです」…と、なる…

 

「…そんなに嫌いなのか?」

 

「…そんなに不思議か?」

 

「……」

 

ルヴィアは凛に良く似ている…どちらも破天荒でありながら魔術師らしからぬ…確かな人間らしさを持っている…

 

「……嫌いさ、大嫌いだね…」

 

そう言う奴の顔はまるで何かを堪えるかのように歪んでいた…

 

 

 

「…んで、ここに来たのは特別料理の仕込みかい?いくら何でも早すぎるだろ、まだ四時だぜ?…大体お前昨夜だって日付変わる頃まで色々やってただろ?」

 

……今日はこのホテルでホワイトデーのイベントが行われる。そのための料理の一部を我々は任されている…

 

「…君と同じだよ。最も私の場合は大事なパートナーにサプライズで用意しようとね…」

 

「お前菓子作れんの?」

 

「…失敬だな、普段作らないだけで私も菓子くらい作れる。」

 

……君には及ばないが。

 

「あっそ。俺は後、焼き上がれば終わりだからな、好きにやれよ。」

 

それきり奴は黙る…ん?

 

「…最近酒の量が増えてないか?」

 

奴はクッキー作りで余ったのだろうラム酒をあおっていた。

 

「…あの女、四六時中俺に迫って来るんだ…」

 

「…はっきり嫌いならば嫌いと言えば良いのでは無いかね?」

 

ルヴィアは凛と同じく割とサバサバしたタイプだ本気でこいつが嫌がればそれで諦めると思うが…

 

「……あの女はそんなに殊勝な奴じゃねぇよ…文字通りのハイエナだ…」

 

そう言う奴の言葉に色々込められているのが分かる…私は追求を止めさっさと自分の作業を進める事にした…



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錬鉄の英雄のいる店49

「お前らさ…もう三回目だぞ…まだそんなに不安か?」

 

「「「……」」」

 

…相変わらず私たちはイリヤの様子を見続けている…分かってはいる…だが、未だに不安になる…せめて私たちの内誰かでも着いて行ければ…!

 

「あのガキ、断るだろ。」

 

「心を読むな「口に出してたぜ?」…本当か?」

 

「「……」」

 

二人の方を見れば無言で頷かれた…そこまで私は余裕が無いのか…

 

「気分転換にちょっと出かけて「ここは割と広いし散歩ならホテルの中でも良いだろ?…そもそも今日は雨だぞ?」……」

 

今日は朝から雨が降り続いている…てっきり通り雨だと思ったんだが…

 

「良いから座れ。ウロウロされると鬱陶しい…。」

 

「…分かった…」

 

私は部屋の中の椅子に腰かける(前まではロビーにいたが今の私たちはいるだけでもあまり空気が良くなくなる。見兼ねた従業員に注意され、必然的に客室にいる羽目になった。今はルヴィアと奴の部屋にいる)

 

「トイレに行って「さっき行ったじゃねぇか。…つか、部屋にトイレもシャワーもあるのに何で部屋の外に出ようとしてやがる」お腹空いたから何か「ルームサービス使えよ、ここはホテルでしかもスイートルームだぞ?」……」

 

「仕事の電話を「何のために部屋にいんだよ。ここは部屋数だけなら腐る程あんだ、空き部屋ですりゃ良いだろ」……」

 

「あのよ…お前らあのガキが学校行く度にそうするつもりか?いい加減慣れろ。」

 

「慣れるわけが無いだろう…!」

 

家族を心配して何がいけないと言うのか…!

 

「なら、割り切れ…普通の生活を送らせる前提ならお前らのやってるのは余計な事だ…」

 

「……」

 

「今は仕方ねぇけどよ、何れあいつは自分で立つつもりなんだろ?…こうもお前らが色々やってたらあいつは永遠に自立出来ねぇぞ?」

 

「ふざけるな…!彼女は長くないかも「なら尚のこと好きにさせろよ。…それとも何か?お前らは例えば、余命半年とか言われた人間に一生ベッドの上で寝てろと言ってんのか?それはそいつの意志を尊重した事になんのか?」論点を摩り替えるんじゃない!」

 

「騒ぐなよ。俺の言う事が気に入らねぇならそれはそれで良いけどよ、グダグダ悩むくらいならせめてあいつの意志を先に確認しろよ。…それで過度の干渉は止めて欲しいと言われれば最低限の事意外、お前らは手を引く…それで良いんじゃねぇのか?」

 

「「「……」」」

 

「…要らねぇと言われんのがそんなに嫌か?お前らだって元は自分の手で道を切り開いて生きて来た人間だろ?…なら、お前らに自分の足で歩きたいと言うあのガキの言い分を否定する権利はねぇんだよ。」



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錬鉄の英雄のいる店50

『えっ?シロウたちの事?…う~ん…もうちょっと私の事を信用して欲しいとは思うかな…』

 

「…っと、言われましたが…」

 

ホテルに戻って来た桜に事情を説明し学校の休み時間を迎えてるイリヤに電話で私たちの事を聞いて貰ったのだが…

 

「これは…どう判断すれば良いんだ…?」

 

「正直、これはイリヤさんの優しさだと思いますよ…?言葉自体はともかく口調はそれなりにうんざりしてるって感じだったんで…」

 

「……そうなのか…」

 

「…だから言ってるだろ?お前ら干渉し過ぎなんだよ。」

 

「今回は私も店主さんに賛成ですかね…」

 

「…分かった…使い魔を付けるのは止めないが監視は止める「後行く度に金持たすのを止めろ。あいつ余った金をどうしたら良いのか分からないってよりによって俺に相談して来たんだぞ。」…ん?君はまさかその金受け取ったりしてないだろうね?」

 

「…ここにあるぞ…返すぜ…何だよ、この状況で使い込む程終わってねぇよ。」

 

「…金関連の事で君を信用するのは難しいね…」

 

「…そもそも昔と違って金には困ってねぇ。無闇矢鱈に使い込む理由はねぇよ、せいぜい俺の使い道は酒くらいだ…ここにいりゃ尚更な。」

 

 

 

結局イリヤには専用口座のキャッシュカードが本人に渡された…向こうへ行く交通費や昼食代(私が弁当を作るので必要無い)授業料等以外の必要な金は自分で下ろさせるのが一番良いという奴のアドバイスだ…言われてみれば理にかなってる気がするな…

 

 

 

「…イリヤ、虐められたりしてないか…?」

 

「…いや、シロウ…何か兄というより父親みたいなんだけど…大丈夫だよ、皆優しいし。」

 

使い魔を飛ばしておりイリヤに危害が加えられればすぐに分かるがつい聞かずにいられなくなってしまう…

 

 

 

そうして一ヶ月が過ぎた…

 

「…漸く明日からこの仕事に復帰だな…」

 

私は元通りになった店のテーブルで奴と差し向かいで杯を傾けていた…

 

「…おまけが二人くっ付いて来るけどな…」

 

イリヤに加えてまさか、ルヴィアまでこの店で働こうとするとは私も予想外だった…余程奴にご執心と見える…

 

「…ここまでされてるんだ、少しは考えたらどうかね…」

 

「……そうするか。」

 

……ん?

 

「あれ程嫌っていたのにどうしたと言うんだ?」

 

「一ヶ月も同じ部屋で寝起きすりゃ印象も変わるさ、良くも悪くもな…」

 

「…そもそも彼女と何があったんだ?」

 

「…言っちまえば実は大した話じゃねぇんだがな…要はあいつは傭兵時代の俺の商売敵だったのさ…あいつ魔術師の癖に傭兵紛いな活動してやがってな、良く行った先で顔合わせんだよ、んで目的も被るから大体報酬の受け取りで揉める…当初はあいつも何度か俺を罵ってたんだが…気づきゃあんな感じだ…どうなってんだか…」

 

「…切っ掛けは分からないのかね?」

 

「全く思い当たらねぇ…恩がどうのってなら傭兵なら良くあんだろ、いがみ合ってる場合じゃない時が。助けた、助けられたなら俺にもあいつにも良くあったし、結果的にそうなったとしてもお互い一々礼も言わねぇしよ…実際、酷い時だと自分の戦いに水を差したってキレたあいつに追い回された事もあるぞ。」

 

「……」

 

「だから分かんねぇ…何が起きたらこの関係性で恋愛感情に変わるんだか…」

 

……いくら普段からいがみ合っていても生死を共にすればそういう事もあるんじゃないかと思ったが敢えて指摘はしないでおいた…恐らくそれ以上に決定的な理由もあるんだろうがそれはこいつが気付かないと意味が無いだろうな…



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錬鉄の英雄のいる店51

「ねぇ、ちょっとこれ教えてくれない?」

 

「あ?勉強ならあいつらに聞けよ…チッ…貸せ。」

 

「……何か私たち避けられて無い?」

 

「そんな筈…ありません、わ…」

 

「……」

 

「…あの…?店主とイリヤさんは仕方ないにしても貴方たちは片付けを手伝ってくれませんかね…?」

 

「おい、いい加減にしろよ…。僕はこの店の従業員じゃないのにやってるんだぞ「兄さん…喋ってたら終わりません、手を動かして下さい」ヒィッ!?」

 

「これなら…こんな感じだな…」

 

「……何か学校で教わったやり方と違うんだけど…ホントに合ってるの?」

 

「疑うなら聞きにくんじゃねぇよ。こういうのはな、公式に必ずしも当てはめりゃ良いってもんじゃねぇんだ…実際、こっちの方が楽だろ?」

 

「確かにね…ありがとう…」

 

「礼なんて要らねぇ。つか、ただでさえ忙しいんだから下らねぇ事で話しかけて来んじゃねぇよ。次からはクソ忙しいのにそこで石像になってる馬鹿共に聞け…お前ら今月の給料減らすかんな…ガキ、お前は給料アップだ…」

 

「…え?…良いの…?」

 

「…不本意だが…そこのクソ共より倍は役に立ってる…養う筈の奴らが使えねぇんだからお前の給料上げないとシャレになんねぇだろ…」

 

「…ごめんなさい…」

 

「…お前が謝る必要はねぇ…寧ろお前も不幸だな、保護者がまるでお前の事を信用してくれねぇんだからよ。」

 

「むっ…それは聞き捨てならんな…」

 

「誰がイリヤの事を信用してないって?」

 

「撤回を要求しますわ…!」

 

「…お前らだよお前ら…お前らが毎日の様にこの店で働いてる時のガキの一投足を見詰めてるからだ。…働いて数日なら未だしも一週間以上も経ってまだコイツの事を注視してるってのは信用してねぇ証拠だろ?…正直、今のお前らは使いもんにならねぇ…マジでクビにするぞ?」

 

「クッ…!しかしだな…!」

 

「…以前、俺が言った事をまるで聞いていなかった様だな…コイツは普通の人生を送りたがってるんだろ?今のお前らはコイツの保護者じゃねぇ…枷だ…コイツの自己申告通りならコイツはもう十八なんだろ?なら、後は大抵の事は自分で決められる筈だ…お前らがする事は基本的に金を出す事だけだ…一々コイツのやる事に過剰に反応するな、コイツが相談して来るまで口出しすんじゃねぇ。」

 

「しかし…彼女は一人で抱え込むタイプで「ガキ、今のコイツらに将来の事を相談したいと思うか?正直に答えて良いぜ?」……」

 

「…ちょっと…嫌かな…」

 

「そんな「黙れ。結果は出ただろ?今回は電話越しじゃなくてコイツ自身の口から出たんだ、諦めろ…つーかな、コイツ抱え込んでなんかねぇぞ?少なくともそこのバイトや俺には色々相談に来るからな?」……そうなのか?」

 

「ええ…まあ…大抵貴方方の過保護っぷりに引いてると言う愚痴がほとんどですが…」

 

「私も…相談されました…」

 

「本当にいい加減にしろよ?僕にまで言いに来るんだからな?」

 

「…つーわけだ。いい加減自重しろ。…てか明日もその状態ならお前ら全員本当にクビにするぞ?…分かったな?」



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錬鉄の英雄のいる店52

「ねぇ?何なの、それ?」

 

「…肥後守、だ」

 

「…いや、名前は書いてるから分かるわよ…何でそんなの持ってるの?」

 

私は手で弄んでいたナイフをテーブルに置いた。

 

「いや何、イリヤが…イリヤが!こいつの話を学校で聞いてな、是非見てみたいとの事でな。」

 

「…嬉しそうにイリヤの部分強調しなくても良いわよ…何?喧嘩売ってるの…?…つまりアンタはイリヤにせがまれてこれを出してやったって訳?」

 

「違う。こいつ出せなかったんだよ。」

 

「なっ!?貴様、何を余計な事を「余計も何も事実だろ」くっ…!」

 

「…出せなかったって…こいつが?」

 

「こいつが出せる物は見て、触れて、内部構造を解析出来てるものだけだろ?多少知識があった所で見た事無いものは出せないだろ。」

 

「…こいつが見た事の無い刃物「肥後守が初めて作られたのは明治時代、全盛期は第二次世界大戦期。当時は大人も子供も誰もが持ってる代物だったらしいが…今じゃこいつの商標権持ってる所は一箇所しかないらしいからな…要するに出回ってる数も少ないわけだ」へぇ…」

 

「くっ…!しかし今はこうして手元にある「売ってる場所の情報出してやったのは俺だろうが。」……」

 

「大体ただ、何も無い所から出せるってだけで何でお前がマウント取れんだよ。どうせなら実際にナイフの作り方でも教えてやれや、その方が実用性あんだろ。」

 

「…ほぼノーコストで出せるって凄い事だと思うんだけど「びっくり人間って視点で見りゃぶっ飛んでるが…現実的に他人が一切コストかけずに出した武器で結局何処まで命賭けられる?」…う~ん…」

 

「それよりお前、これ、ちゃんと買ったんだろうな?投影品じゃねぇよな?」

 

「…あっ、当たり前だ!君は私を何だと「見て、触れれば実質、自分の中にストック出来る奴をどう信用しろって言うんだ?」くっ…!」

 

「てか今更だが、出せないなら出せないでそれで終わりゃ良いのに…こんなの買って来てどうするんだ?使い道ねぇだろ。…ガキにやるのか?」

 

「……」

 

「しかもこれ安いやつだな…肥後守は安物でも切れ味は悪くないが、保管の仕方間違えると簡単に錆びるらしいぞ。」

 

「安いって…そんなに値段の差があるの?」

 

「何だ興味あんのか?高いのなら一万円クラスのがあるらしいな、確か専用の箱付きとか聞いたぜ?…まあどちらにしても単なるコレクターズアイテムだな…実際に使えないわけじゃないが…少なくとも今の一般人がわざわざナイフで鉛筆削ったり、手紙をナイフで開けたりしねぇだろ?」

 

「確かに…」

 

「つか、さっさとそれ片付けて開店準備付き合え。今日はあのガキとバイトがいねぇんだからな。忙しくなるぜ?」



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錬鉄の英雄のいる店53

「そう言えば今思い出したんだが…」

 

「あ?何だ、突然?」

 

私は珍しく奴と二人きりで飲んでいたが、ふと気付いた事があり、口元まで運んでいたグラスを一度テーブルに置いた。

 

「以前、イリヤの学校をどうするかという話になっただろう?」

 

「……んー…ああ、あったな、そんなの…」

 

奴はしばらく首を捻っていたがやがて思い出したらしく軽く指でテーブルを叩いた……そう言えば奴はあの頃、ルヴィアとの事でストレスを感じていたらしく相当飲んでいたからな…今でこそ和解したようで…前向きに検討はしている様だが…

 

「とはいえ俺何か言ったか?…実を言うと酔っ払っていてあんま覚えてないんだがよ…」

 

「…昼夜問わずかなりの量を飲んでいたからな…今思えば良く倒れなかったものだ…」

 

「そりゃあな…今でこそ歳も歳だからアレだが…部隊にいた頃や傭兵時代はあの倍は飲んでいたからよ…当然だが、ルヴィアの痴態を見せられるより…現地で死体の山を見る方がキツかったからな…」

 

「……」

 

私ももちろん同じ物を見た…どうやっても救えない命に絶望した…最も死ぬ直前まで正義の味方を貫いたアーチャーの味わった絶望とは到底比べ物にならんだろうが…

 

「まっ、そんな話はいいわな…で、結局何が聞きたい?」

 

「……答えてくれるのか?」

 

「あのなぁ…お前、俺の経歴大体知ってんだろうが。他の奴がいるならまだしも、この場にお前しかいないのに今更何を隠す事があんだよ?」

 

「…確かに。ではまず君の本当の出身が何処なのかを「そっちは却下だ。」……」

 

部隊にいた頃から頑なに話さなかったから気になっていたのだがな…結局答えないのか…言っている事が矛盾している…

 

「……分かった、言ってみな、それ以外は答えてやるよ。」

 

「なら、本題だ、君はあの時、定時制高校や通信制高校の説明をしただろう?」

 

「…したのか?覚えてねぇが…」

 

「…その時、君はそれを調べた理由として日本に戻った際の最終学歴が中卒だったからだと言った。…ただ、私はそれより前だったと思うが…君から聞いた話では…確か、君は中学卒業後に高校へ行く、行かないという話で父親と喧嘩しその晩家出し、親戚を頼り日本各地を転々とし、やがて海外へ渡り、部隊に入り、その後除隊し、傭兵になったと。」

 

「…それで?」

 

「…君は顔を変え、経歴を捨てた筈だろう…?なら、学歴はそもそも存在しない事になるんじゃないのか?」

 

私がそう言うと奴はグラスの酒を飲み干し、グラスを置くと頭を掻き毟り始めた…

 

「…余計な事言っちまったぜ…」

 

「…で、どういう事なんだ?」

 

「…失踪宣告制度については知ってっか?」

 

「…簡単に言えば長期間行方不明だった者を死亡したと認定する法律の事だろう?」

 

「そうだ。俺の場合、十年以上行方不明だったからな…法律上はとっくに死亡扱いになってたんだよ。んで、俺は死んだ自分の戸籍情報を元に新たに身分を用意して貰ったんだ…その方が矛盾を少なく出来るからな。」

 

「…一つ聞きたいのだが…」

 

「何だよ?」

 

「君は身内に自分が生きている事を知られたくないようだが…それではさすがにバレるのでは無いかね?」

 

「…どうかねぇ…つかな?」

 

「ん?」

 

「言ってなかったが…常連客の中にいるんだよ…俺の兄貴がな…」

 

「……本当かね?」

 

「ああ。」

 

「……バレていないのか?」

 

「知らね。向こうは何も言わないし、仮にこれから先向こうが気付いたとしても白を切るつもりだ…俺は大量殺人犯だぞ?…部隊にいた時や傭兵だった時の話ならまだしもな…俺はテロリストだったんだ…言えるわけねぇ…このまま墓場まで持って行くつもりだ…」

 

「それで良いのかね?」

 

「……余計な事を言ったら……殺す。」

 

私は両手を上げた…彼なら相打ち覚悟なら私を殺せてしまうからな…全く…儘ならないものだな…



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錬鉄の英雄のいる店54

「悪かった…」

 

私がそう言うと奴は傍らにあった新しい酒を開け、そのまま口を付け、一気に飲み干し、空になった瓶をテーブルに置くと息を吐いた…奴から殺気が消えていく…

 

「…あいつの両親は知っての通り豪胆なタイプだし、俺の過去を知っても普通に俺を息子と呼ぼうとするお人好しだ…そもそも人の死が身近にあった連中だしな…だがな、兄貴は平和なこの国の生まれで…本当に真面目で…大馬鹿者なんだ…腕っ節は親父譲りで俺も…弟も…悪さする度にぶん殴って反省させられた…その癖親父に報告する時は自分も一緒になって頭を下げやがる…それでいて自分は絶対問題を起こさねぇ…冗談じゃねぇ…兄貴が俺の過去を知ったら勝手に責任取って自殺でもしかねねぇんだよ…」

 

そこまでなのか…

 

「だから…今回は間違っても変な気は回すんじゃねぇ。…俺はお前を何が何でも殺すしか無くなる。」

 

「ああ。例え君の兄が誰か分かっても、私からは何も言わないと約束しよう…私たちが共に死ぬ分には勝手かもしれんが…無関係な君の兄を死なせるわけには行かない。」

 

「その言葉、信じるぜ?……シラケちまったな…今日はもうお開きにしようぜ。」

 

「…そうだな…時間も丁度いい…後はやっておこう…君はもう休み「ざけんな。ここは俺の店だ。」…そうか、そうだな…」

 

私たちは酒瓶を袋に入れ、グラスを洗うと、明日の仕込みに入った…

 

 

 

 

「…何かアンタたち…今日はギクシャクしてると思ってたけど…昨日私がいない間にそんな事になってたのね。」

 

「ああ…」

 

翌日…店の閉店後…私は凛と共に家に帰り昨夜の事を話していた…

 

「…敢えて言わせてもらうけど…全面的にアンタが悪いわよ。」

 

「やはり…そうなのか…」

 

「アンタ、人の事に首突っ込み過ぎなのよ。何時かこういう時が来るんじゃないかと思ってたわ…良かったわね、相手が身内で。これがもし、赤の他人の話だったら…多分もっと拗れてたと思うわ。」

 

「……」

 

「あ~もう!辛気臭い顔しないの!あいつの事なら大丈夫よ。」

 

「…何故…そう言い切れる…?」

 

「忘れたの?今日はルヴィアがいたのよ?」

 

…あっ…

 

「勘の良いルヴィアがあいつの様子が可笑しいのに気付かないわけないし、放っておくわけないわ。」

 

「…一つ不安な事があるのだが…」

 

「何よ?」

 

「ルヴィアは…私以上に余計な気を回すんじゃないか?…どうなるかは…分からんぞ…?」

 

「あいつが無関係な犠牲を出すわけないでしょ。最もあいつらは意見が平行線を辿るだろうから…明日はまた店が無くなってるかもしれないわね…」

 

「なら、止めた方が良いのでは無いか…」

 

「あの二人の戦いに乱入して被害を拡大させない自信あるわけ?」

 

「……」

 

「良く言えば、被害は店が無くなるくらいで済むのよ…後のことはそこで考えましょう。」



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錬鉄の英雄のいる店55

翌朝、私たちは店のある筈の場所で足を止める…

 

「…店、有るわね…」

 

店はパッと見、何処も壊れた様子は無かった…。

 

「…特に物音は聞こえんな…」

 

「…結界は…無いわよね…」

 

「…当然、だ…仮に遠くから見て何ともないのに…客が実際に店の敷地内に入ったら店が火事になっていた…という状況であれば面倒な事になる…だから結界は張っていない……つまり、今、私たちが見ているものは正常だ。」

 

仮にも自分たちが、普段、普通に働いている場所でここまで警戒するのは可笑しいだろう…という冷静な考えを持っている自分がいるが…前日あの二人が戦っていたのならここまで綺麗に建物の外観が残っているわけない…だから何かある…それが思考の大半を占める…いや、そもそも前提が間違っているのだろう…

 

「……凛、これを説明出来る可能性が一つだけあるだろう?」

 

「…まさか…そんな事、あるのかしら…」

 

「…私は昨日ルヴィアに私と奴にあった出来事を話していない…だが、私も彼女が気付かなかった可能性は低いと考えている…つまり昨日二人は…」

 

「…冷静に話し合いが出来たって事…?」

 

「……どちらにしろここにいても分からん…入ってみよう…」

 

 

 

「おはようございます…シェロ、リン…」

 

店に入るとエプロン姿でテーブルを磨くルヴィアがいた…特に変化は…いや…

 

「おはよう、ルヴィア…少し、辛そうね。」

 

「…これぐらい問題ありませんわ…まぁ…店を開くまで時間がありますから…今やってるこれが終わったら仮眠を取らせてもらうつもりですが…」

 

「あいつと…冷静に話せたのね?」

 

「今回、私は彼と争う理由はありませんわ…お節介だとは思いましたが…昨日の様な状態が続くようなら困るのは彼の方ですから…シェロと一体何があったのか…お聞きしただけです…」

 

「すまないルヴィア、面倒をかけた…」

 

「お慕いしている殿方の事ですから…シェロ?」

 

「何かね?」

 

「…その様子だともうリンから似たような事を言われてるかもしれませんが…今回の話を聞いて私が感じた事を一応言わせていただきます…」

 

「人にはそれぞれ、踏み込まれたくない事情というものがあります…それは例え、家族や友人であっても…」

 

「間違っているのなら止めるのも、近しい者の務めかもしれませんが…やり過ぎ、という事も確かにあるのです…」

 

「線引きをきちんとしてください…それを怠れば、結果…何れはもう一人の貴方であるアーチャーと同じ運命を辿ってしまうかもしれません。」

 

「…以上。お節介では有りますが、貴方に友人として忠告致しました…彼は厨房にいますわ…行ってあげてください…彼なりに今回の事を気になさってた様なので…」

 

「…分かった…ルヴィア、ありがとう。」



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錬鉄の英雄のいる店56

「よぅ…衛宮…」

 

朝の仕込みをしている奴が厨房に私が入って来た事に気付き、声を掛けて来た…

 

「…ああ…おはよう…」

 

「おう…」

 

それ切り奴は何も言わないし、そもそも一切こちらを見ようとしない。私は取り敢えず自分の作業に取り掛かる事にした。

 

「衛宮…」

 

そこで奴がまた声をかけて来た…奴の方を横目で見れば今度はこちらに顔を向けている…作業を中断すると私も奴の方に顔を向けた。

 

「何かね…?」

 

「悪かった…」

 

……驚いた…主語が抜けている以上、普通はここで何に関しての謝罪か聞くべきなのだろうが、私は驚きの方が大きくそれを指摘する事が出来なかった…

 

「…何だよ…その顔は…俺が謝ったのがそんなに不思議か?」

 

「…すまない…正直に言うと非常に驚いているんだ…君がまさか一切の悪態抜きに私に謝るとは思わなかったのでな…」

 

「ケッ…そうかよ…」

 

…とはいえ奴が言ってきたのであれば…

 

「…では、私も言わなければならないな…本当にすまなかった…余計な事を言ってしまった…君の事情を一切考慮せず勝手な事を言ってしまった…」

 

私は頭を下げる…しばらくそのままでいると…

 

「頭上げろっての。お前はただ、それで良いのかと確認しただけなのに脅しなんてかけた俺が悪い…そもそも自分の経歴を家族に言えないのは結局俺の自業自得だしよ…」

 

…これは…

 

「…一体ルヴィアに何を言われたんだ…?」

 

「……内容は勘弁してくれや。ただ、あいつには正論を言われたのさ…全く…少しでも穴があったら反論してやったとこだが…何も言えなかったぜ…本当に面倒な女だよ…」

 

「…君はルヴィアが相手で良かったのだろうな……恐らくお前を支えられるのはアイツしかいないだろうな。」

 

「その言葉、そのまま返してやるよ…遠坂以外にお前を引っ張れる女は世界中探しても何処にもいねぇだろうよ。」

 

「そうだな…」

 

 

 

「余計な事、だとは思うがやはり言わせて貰っても良いか?」

 

「ああ…言っていいぜ?今ならよっぽどの事じゃなきゃ俺は怒らねぇ。」

 

「…では一つ…君の兄が君がそこまで言う程の傑物ならさすがにもう君の正体に気付いているんじゃないか?」

 

「お前もやっぱそう思うか?…実はルヴィアにもそう言われた。…一応心の準備をしておいた方が良いってな…もう良いさ…過去は変わらねぇ…自分から言う気はねぇが向こうから聞いてくるなら全部話すつもりだ…無論死のうとするなら全力で止める…」

 

「そう、か…それで良いんじゃないか…」

 

…もう私がこの件について気を使う必要は無いだろう…



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錬鉄の英雄のいる店57

「…全く…戦地にいた割に大して変わってないな…向こうで一体何を見て来たんだ…?」

 

「るせぇ!テメェに何が分かんだ!」

 

「…ねぇ?そろそろ止めなくて良いの…?」

 

「……二人に致命傷を与えずに止めるのは難しい…奴は条件次第とはいえ、私を圧倒する事が可能だし、相手はその奴とほとんど互角だからな…どうせ店を開けるまでまだかなり時間がある…気の済むまでやらせてやろう…」

 

 

一時間前…

 

「…?…すまない…まだ準備中なのだが…」

 

「ああ…それは分かっている…店主に用があってね…休みの日にも何度か来ているのだが居留守を使われるのでね…こうして営業日に来てみたわけだ…」

 

「奴に用…?」

 

「…あいつの兄だと言えば分かるか…?」

 

「…成程。そういう事なら…奴なら今は厨房で仕込みをしている…行ってくると良い…」

 

「忙しい時にすまない…」

 

 

 

その後彼が何を言ったのか分からないが奴がキレてこうして喧嘩が始まったわけだ…

 

「そうは言っても…ちょ…!アレ目潰し!?」

 

「それなりのスピードのコンビネーションを同じ組み合わせで何度も繰り出して、覚えさせてから更に速いスピードで混ぜてきたな…相当にタチが悪いが…」

 

「何だ?この指は…?…全く…お前と言う奴は…」

 

「いってぇえええ!!!?てんめぇえええ!!!?」

 

「…あの程度の小細工が通用する様な相手なら当の昔に沈んでいるだろう…」

 

「容赦無く折ったわね…」

 

「兄弟だろうが何だろうが、あそこまでタチの悪い攻撃をする相手に手心を加える必要は無いだろう…これで奴はしばらく厨房には立てんな…」

 

「クソが!殺してやる!」

 

「やってみろ…そう簡単に私は死なんぞ?」

 

「…殺すとか言ってるけど、アイツ確か、自分の兄を死なせたくないから過去の事を黙ってたんじゃ…」

 

「…奴の場合、相当度数の高い酒でもそれなりの量を飲まなければ記憶が飛んだりしないが…頭に血が上ると数分前に言った事でさえ、忘れるタイプだからな…」

 

「…あの?何の騒ぎですか、これ?」

 

声をかけられ、振り向くとバイト君とイリヤが立っていた…

 

「…来てくれたか。イリヤも一緒だったんだな…」

 

「すぐそこで会ったの。で、本当に何なの、これ…」

 

「……簡単に言えば長年生き別れだった兄弟が殴り合いの喧嘩をしている所だ。」

 

「ちょっと…そんな雑な説明「「あー…」」今ので納得したのアンタたち!?」

 

「いやまあ…あの人の性格的に身内に殴られるくらい疎遠であっても全く不思議では無いですし…」

 

「私も…そういう事もあるかなぁって…」

 

「…とまぁそういうわけだ…それで申し訳ないんだが…」

 

「大体分かります…どうせ仕込みも途中でしょう?…後はイリヤさんと二人でやっておきますから…」

 

「…すまんな…この場を離れてもし、何かあっても困るからな…取り敢えず万が一営業時間になっても既にルヴィアが認識阻害の結界を張っているから問題は「ちょっと!?」どうした?」

 

「イリヤはともかくこいつ一般人でしょ「言ってなかったか?…彼は魔術師の家の生まれだぞ?…私も聞かされたのはつい最近だが」嘘!?」

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。とっくの昔に没落して本来の家名すら分からなくなってる家ですし…ちなみに家族と違い、僕は先祖返りらしく一応魔術回路を持ってますが、正式に習ったわけじゃないから魔術は一切使えませんしね。…それじゃあ行きましょうか、イリヤさん。」

 

二人は店に入って行った。

 

「…何かもう色々驚き過ぎて…」

 

「深く考えなければ良い…ありのままを受け入れるのが結局一番楽だぞ?」

 

「そんな簡単に納得出来ないわよ…」



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錬鉄の英雄のいる店58

「ねぇ?アンタさっき…ルヴィアが既に認識阻害の結界を張ってるとか言ったけど…それなら何でアイツ…」

 

「気付いたか。…実は彼自身は本当に魔術が使えないが…どういうわけか認識を誤魔化す系統の魔術がまるで効かないらしい…理由は分からんがな…以前フリーの魔術遣いに会った時にとても驚かれたと話していたよ。」

 

「アイツがこの店に働きに来たのって何か意味があるのかしら?」

 

「それは穿ち過ぎじゃないか?…とはいえ、この店には現在魔術関係者が四人…いや、彼自身も含めれば五人働いているわけだからな…関係無いとも言い切れんわけだが…」

 

「店主に至っては魔術の存在を認知してるしね…」

 

「戦場で長く傭兵なんてやってれば嫌でも知る事だ…それ以外の職業だと普通はまず魔術の存在に気付く事が無い…戦地で多数の行方不明者が出ても誰も気にもとめないからな…最も奴の場合、関わる回数が異常に多かった気もするが…」

 

「魔術師に護衛として雇われたり、逆に殺害や捕縛しに行ったり、恋人を攫われたりとかね…アンタに関わったのもその一つだったり?」

 

「というより、元はと言えば私が巻き込んでしまった気がしないでも無いが…」

 

「何よそれ?どういう意味?」

 

「部隊所属時代、奴以外の人間とも私は当然関わったが…除隊後に再会した者の多くが大抵魔術師や魔術遣いと何らかの関わりを持ってしまっているからな…」

 

「……一度でも魔術に関わってしまった一般人は魔術と結び付きやすくなる…?」

 

「私はそう考えている…」

 

「そんな事…」

 

「無いとは言い切れんだろう?…最も証明出来ない仮説だがな…普通の軍人以上に不測の事態に慣れている傭兵と違い、完全な一般人は普通魔術師に関わった時点で死んでしまうか、人では無くなるのがほとんどだからな…」

 

「生き残る方が稀、ね…まぁ魔術師は一般人使って魔術を極めようとしたり、そうでなくても神秘の漏洩を防ぐ為に普通に殺す生き物だしね…」

 

「そう考えると申し訳無くもなるのだよ…私が奴の人生を変えてしまったも同然なのだからな…」

 

「関わらない方が良かったって?馬鹿みたい…もし、アンタがアイツと関わらなかったとして…それでアイツがテロリストにならなかったり…アイツの恋人が今も生きててアイツと一緒に暮らしてたかどうかなんて誰にも分からないじゃない…そもそも忘れたの?」

 

「ん?」

 

「アイツの恋人は魔術師に攫われたのが原因で死んだんじゃなくて、行方不明者の捜索に当たっていた…他国から派遣された軍人に暴行されたからでしょ?アンタそう言ったじゃない。」

 

「……」

 

「気にし過ぎ。それこそアイツに言ったら殴られるわよ?」

 

「そうだな…」



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錬鉄の英雄のいる店59

結局二人はずっと殴り合いを続け、既に三時間程が経過していた…良く休み無く続けられるものだ…

 

「あの…シェロ?」

 

「むっ…ルヴィアか…どうしたんだ?」

 

「申し訳ありませんが…そろそろ結界が限界です…」

 

「…そうなのか?」

 

「ろくに準備する時間も無く急遽でしたので…」

 

「何とか止めてよ…いい加減怪我もヤバいわよ、あの二人…」

 

「…そうだな、やってみよう。」

 

家族の問題だし死人が出ない限りは好きにすればいいと思っていたが、この状況が一般人の客に露見するのはさすがに不味い…たとえ、常連客の大半が奴の性格を良く知っていてそれでも店を訪れてくれている者たちだとしてもな。

 

「フッ!」

 

私は干将莫耶を一対投影すると二人の間に投げる…威力を調整した壊れた幻想により二人を気絶させるつもりだったのだが…

 

「馬鹿…!武器用意してどうすんのよ…!」

 

二人は飛んで来たそれをそれぞれ掴むとそのまま斬り結び始めた…

 

「馬鹿な…!何を考えてるんだあの二人は!?本当に相手を殺す気なのか!?」

 

「アレは…もうダメね…温い事考えてないで実力で止めなさい。」

 

「くっ…!簡単に言ってくれるな…!」

 

どうやってあのレベルの戦いに割り込めと言うんだ…!二人を殺す気でやらなければ最悪私が殺されかねん…!

 

「シェロ…私が援護します…爆煙に紛れて二人を気絶させてください。」

 

「……ルヴィア…やるなら二人に当てる気でやれ。恐らくあの二人なら視界不良の中でも正確に相手の位置を把握してしまうだろう。」

 

そもそも私が二人に渡してしまった干将莫耶にはお互いに引き合う性質があるからな…

 

「しかしそれでは…!」

 

「私を…信じろ!」

 

私は干将莫耶を投影すると二人の戦いに割り込んだ…

 

「ッ…!衛宮…!何のつもりだテメェ!」

 

「すまないがこれは家族の問題だ…部外者は口も手も出さないで貰おう。」

 

「悪いがそうは行かない。このまま放っておくと君たちは今後一生後悔する事になるのでね…見過ごす事など私には出来んよ。」

 

二人の持つ剣はギリギリとこちらを押し込もうとして来る…半身で受け止めるのは無理だ…せめてどちらかが倒れてくれなければ…!

 

「くっ…!オオッ!」

 

「チッ!クソが!」

 

「何という怪力だ…!」

 

私は強化した筋力で二人の剣を弾くとその場から飛び退く。

 

着地して二人のいた位置を見れば私の予想通りの光景が有った。…全く…本当に嫌になる!

 

「それが出来るなら…何故話して分かり合えない…!?」

 

二人は横に並び、私と対峙していた。

 

「利害が一致したんだよ衛宮。俺たちが決着着けるのにお前は邪魔だ。」

 

「そういう事だ。腕に自信があるようだが二対一が不利な事くらい分かるだろう?怪我をしたくなければさっさと下がる事だ。」

 

「さっきも言った筈だ…見過ごす事など私には出来ない…全力で来い!気の済むまで付き合ってやろう…!」

 

何とかルヴィアが魔術を使う隙を作らなければ…やれやれ…兄弟揃って私に迷惑をかけてくれるものだ…!



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錬鉄の英雄のいる店60

「くっ…何というデタラメな…!」

 

私の剣技は我流だ…だが、嘗て我武者羅に振り続けた物を戦場での命のやり取りの中、人を殺す事は出来なくとも自分を守れる業として昇華させた物だ…そこに加えて私は強化をして戦っている…その私を二人がかりとはいえ完全に圧倒するなど…!

 

……一体どうなっている!?奴から剣の心得は無いと聞いているし、実際奴の振るう剣は間違いなく素人のそれでしかない…私と同じく戦場にいたとはいえ、何故こうまで私について来れる!?

 

「こんな時に悪いが貴方にお聞きしたい!剣術を習った事は!?」

 

今現在敵対している相手にする質問では無いが私は彼に聞かずにはいられなかった…私と同じく人を殺せる剣では無いものの、奴の振る剣の間隙を縫い、その穴を埋めるように私に向かって来る彼の剣が洗練されているように思えて…!

 

「本当にこんな時にぶつける疑問ではないな…悪いが私自身は剣は全くの素人だ。…強いて言うなら学生時代に空手をかじった経験しか無いよ。」

 

「馬鹿な…!?」

 

では!これは一体何だと言うのだ!?何故彼はここまで私に…いや、奴の動きに合わせることが出来る!?血の繋がった兄弟…長年会っていなかったのにその事実だけで彼にこれだけの剣を振るわせているというのか!?…いや…待て!まさか!?

 

「干将莫耶…!」

 

何故だ!?何故製作者の私にではなく彼らに力を貸す!?私が負ければ彼らは殺し合いを再開してしまうのだぞ!?くっ…!ルヴィア!まだなのか!?私ではこの二人を止める事が…!

 

「何してるのよルヴィア!?早く宝石投げなさいよ!?」

 

「駄目ですわ!今投げれば二人には恐らく躱されて…シェロに当たってしまいます!」

 

「何なのよ!どうなってるのよあの二人!本当に一般人なの!?」

 

やはり二人の内どちらかを沈めなければ…!

 

「おら!余所見してんなよ衛宮!足元がお留守だぜ!」

 

「くっ!舐めるな!」

 

奴が出して来た足払いを片足を上げて躱す…

 

「では、後詰めは私が務めよう。」

 

「なっ…!?」

 

そこへ割り込む様にして奴の兄が突っ込んで来る…馬鹿な…!強化している私より速い…!?

 

「…ゴフッ!」

 

「馬鹿な…何だ…これは…」

 

脇腹を斬られる直前…咄嗟に体内に投影した剣で致命傷は防ぎきったが…これでは私の方がもたんな…!

 

「…衛宮、もう良い…終わりだ。それじゃあお前が死ぬ。」

 

「…ここで…私が引けば…君たちは…戦いを再開するつもりなのだろう?」

 

「当たり前だ。この頭でっかち一回殺してやんねぇと気が済まねぇ。」

 

「言い方は悪いが、私も同意見だ…何をしたのかは分からないが、その出血では君の方がもたないぞ…下がるんだ。」

 

「ゴホッ…ふざけるな…!人間は…殺したら死ぬんだ!二度と蘇ったりなどしない!そんな事も分からないのか!?」

 

「何を言おうと初めから聞く気はねぇ。邪魔だ、退いてろ。」



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錬鉄の英雄のいる店61

「もう…遠慮する必要は無いな…!」

 

私を無視してまた斬り合いを始める二人を見ながら呟く…これだけは使いたくなかったが…!そして私は口ずさむ…そうあの言葉を…二度と使う事は無いと思っていたのだが…

 

「…アンタ、固有結界を使う気ね。」

 

「ゴフッ…何をしている?早く離れないと君たちも巻き込まれるぞ?」

 

「馬鹿じゃないの?その状態のアンタ放置して外側で待ってるなんて出来るわけないでしょ?」

 

「その通りですわ。そもそも貴方が命懸けで止めようとしているのは私の愛している方ですから。」

 

「まっ、そういう事よ。」

 

「フッ…私も奴も本当に幸せ者だな…」

 

「そうよ…感謝しなさい…アンタは気付いたから良いけど…あの馬鹿にも分からせないと…」

 

「何をだ…?」

 

「生き別れの兄弟だか知りませんが…あの方は自分を愛してくれている女を放置して殺し合いに興じているのですから…教えて差し上げますわ…相手は私にしか務まらないと。」

 

「うわ…その言い方だと殺し合いの相手も出来るって言ってるように聞こえるけど?」

 

「そう言ったつもりですが?…あの方とは元々、そういう関係性から始まったのです…今だって変わってませんわ…自分が今、無視し続けているのがどんな女なのか忘れてしまったのなら改めて思い出させなければ。リン、貴女にそんな覚悟はありませんの?」

 

「いやあるわけないでしょ。前から思ってたけど…アンタ絶対可笑しいわ…私はコイツが敵として向かって来たらぶん殴ってさっさと終わらせるだけよ。」

 

「まあ…私が凛を殺す事は何があっても無いと言えるのだがな…」

 

仮に凛と敵対する事があれば私は無抵抗で彼女の刃を受け入れるだろう…

 

「少し…羨ましいですわね…」

 

「何がよ?」

 

「私も本当はこんな殺伐とした間柄ではなく…そういう普通の関係性を望んでいますの…でも、あの方とはぶつかる事の方が多くて…」

 

そうだったのか…

 

「何よ…イカれてるのかと思えば可愛い所あるじゃない…なら、良い機会よ…アンタの想い、今この場で全部アイツに伝えたら良いわ。」

 

「…ならば私はそれをサポートさせて貰おう…Unlimited Blade Works.」

 

そして世界が変わる…青空の下、地に大量の剣が突き立つ荒野へと…

 

「あん?…チッ…あの野郎…まだ邪魔する気かよ…」

 

「何が…起こったと言うのだ…?」

 

「全く…二人がなかなか聞き分けてくれないのでね…私の世界に招待させて貰ったよ。」

 

凛に肩を借りながらルヴィアと共に二人の元まで歩く…この傷の礼も確りさせてもらわねばな…!

 

「君たちにはこの程度、どうせ攻略は容易いだろう?是非無限の剣舞を堪能するといい…!」

 

私が手を上げたのに合わせ、地に刺さった剣が一斉に宙を舞った。



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錬鉄の英雄のいる店62

「たくっ…こんなもんに構ってる場合じゃねぇってのによ…」

 

「これは…一体…?」

 

「アンタは何時も理屈っぽいんだよ…俺もあんま詳しくはねぇから、簡単に言ってやるよ…そういうもんだと思え。これは、夢でも幻でもねぇ…抵抗しなきゃ、ハリネズミになって死ぬって事だよ…」

 

「…成程。そういう物か…」

 

二人は剣を構えるだけで逃げる様子は無い。

 

「予想はしてたけど、あの二人全然動じないのね…」

 

「奴には…少なくとも一度見せた事がある…」

 

「ですが…あちらもあまり驚いていませんが…」

 

「単なる一般人かと思っていたが、戦っている時の反応と良い、元々かなりの数の修羅場を潜っているのかもしれんな…」

 

さて、二人はどう出るかな?

 

 

 

 

「ちょっと…嘘でしょ?」

 

「まさか…ここまでやってほとんど当たらないとはな…」

 

「そろそろ宝石の手持ちがありませんわ…」

 

上から降ってくる剣…そして私の放つ宝具の矢…ルヴィアと凛の投げる宝石…彼らはその身一つで全てを踏破して行く…

 

「私たちは今、新しい伝説の誕生を見ているのかもしれん…」

 

「妙な感動している場合じゃ無いでしょ?どうするのよ?」

 

「残念だが…もう打つ手無しだ…じき、固有結界も切れてしまうだろう…全く…どうして第三者の攻撃には協力して当たれるのにお互いを排除するのを止められないんだ?」

 

「お互い、譲れないものがあるからこそあの強さなのでしょう…私ではもう立ち入れる気がしませんわ…」

 

「ちょっと…諦めるの?」

 

「私にはもう出来る事がありませんわ…あの方は結局私を見てはくださらなかった…」

 

「すまないな…私の力が及ばないばかりに…」

 

「いえ…シェロのせいでは…」

 

「ルヴィアが悪いわけでも、アンタが悪いわけでも無いわよ…アイツらの力を侮った私たち全員の責任よ…」

 

「小細工は通用しない…そんな事は分かっていたんだがな…」

 

既に固有結界は切れ、二人はまた戦いを再開してしまった…

 

「ねぇ?せめてあの剣どうにか出来ないの?」

 

「先程からやっているのだがな…消せないんだ…」

 

「…あの剣はシェロが作った物では?」

 

「考えられる可能性は一つだ…あの剣自体が意志を持ち、あの二人に力を貸してしまっている…」

 

「そんな事…有り得るの?」

 

「贋作とはいえ、宝具は宝具だからな…しかし…あの剣は一人の使い手がその手に持ち、使う物だと思っていたのだがな…」

 

まさか二刀一対の筈のあの剣がそれぞれ別の人物に力を貸すなど…長年相棒として振るったが、私はあの剣の事を未だに何も分かっていなかったのかもしれないな…



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錬鉄の英雄のいる店63

「…さて、そろそろ店を開けないといけない時間か…私は病院に行って来る…申し訳ないが後の事を頼むぞ?」

 

「それは良いけど…良いの、アレ?」

 

「……良く考えてみればギャラリーが増えて困るのはあの二人の方だ、さすがに衆人環視の中、殺し合いは出来ないだろう…」

 

…そうなると私のした事は…いや、時間稼ぎが出来ていなければ今頃どちらかが死んでたかもしれないからな…ん?

 

「…折れた、か…」

 

音のした方を見ると二人の振っていた干将莫耶が根元からへし折れたのが見えた。

 

「武器が無くなって、また殴り合いに戻ったわね…」

 

「放っておこう…もう心配は無い。」

 

……贋作とはいえ、宝具の剣が折れるほど剣戟が続いたとなると…やはり私がしたのは無駄な事だったのかもしれない…そもそも私が不用意に二人に武器を用意しなければここまで事態がややこしくならずに済んだ筈だ…全く…儘ならないな、本当に。

 

 

 

さて、私の傷だが知り合いの医者に見せたらすぐに入院を言い渡された…そこまで酷いのかと聞いたら散々説教をされてしまった…全て遠き理想郷を既に手放しているのに未だに私は自分の怪我への認識が鈍い様だ…私の性格を良く知っている彼に他人に置き換えて説明されなければ未だに深刻さが分からなかっただろう…

 

……ちなみにあの二人は最後は結局、ダブルノックアウトで二人とも沈んだらしい…全く何と言うか…私はその結末を聞いてため息しか出なかった…

 

 

 

 

「本当にすまない…」

 

「いや、もう良い…入院費も肩代わりしてくれるんだろう?なら、私からこれ以上文句を言う事は無いさ…」

 

……その日の内に運ばれて来て、隣りのベッドに寝かされた患者が奴の兄貴だったのはどんな偶然なのだろうな…

 

「頭は…冷えたのか?」

 

「ああ…無関係の君たちに散々迷惑をかけてしまって本当に申し訳ないと思っている…」

 

そう言って頭を下げる…奴とは似ても似つかない誠実さだな…戦いの歳の苛烈さは良く似ているとも思えるが…

 

「結局…何が原因だったんだ…?」

 

「……命を懸けて止めようとしてくれた君には非常に申し訳ないのだが…実は分からないんだ…」

 

「というと?」

 

「アイツと話をしていた時、突然アイツが激高し始めてね…一体何がアイツの逆鱗に触れてしまったのか…」

 

「……」

 

経緯を聞こうと思ったが、結局私は何も聞かなった…正直…しばらくは奴の問題に首を突っ込みたくない…まあどうせすぐにまた何かやらかすだろう…

 

「ところで聞かないのかね…?」

 

「何かな?」

 

「あの時の世界について。」

 

「聞いたら教えてくれるのかな?」

 

「……」

 

「正直に言えば…あまり興味は無いんだ。難しい話は苦手だしな…」



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錬鉄の英雄のいる店64

「お聞きしたい…結局貴方は何者なんだ?…どうして奴の事に気付いたんだ?」

 

奴の問題にこれ以上、立ち入りたくは無いがこれだけは聞いておかなければなるまい。

 

「…答えられない…では、納得しないか…」

 

「それでは尚の事聞かねばならない。…貴方がいくら奴の実の兄だとしても…奴の事について調べがついてるなら…分かるだろう?」

 

そういうと彼はため息を着きながら傍らに置かれていた自分の鞄を漁り始め…そこから出された物が…

 

「…警官?」

 

「そういう事だ…偽造では無いよ?…嘘だと思うなら…そうだな…君たちが良く連絡する刑事から確認を取ったら良い…今は部署を異動しているが彼は私の上司だった方でね。」

 

「いや…分かった…ありがとう…」

 

私は彼に手帳を返した。

 

「奴はこの国に戻ってからはそう大した事件は起こしてないが「一応言わせてもらうなら…主立ってアイツのやってる事でも十分傷害で引っ張れるんだが」…奴を捕まえに来たのか?」

 

「いや…今回、アイツの方から殴りかかって来たとはいえ…私もアイツに怪我を負わせてるからな…そんな事をすれば私は免職になってしまう…最もアイツが本当に単なる悪党ならそれも致し方無いが…心配するな…アイツを捕まえるつもりは無い。」

 

「…そうか…安心した…私の友人は奴に本気で懸想していてね…私は何もしないが彼女は何をしていたか分からないだろう…」

 

「そうか…そんな人が…」

 

「詳しくは奴から聞いてくれ。」

 

「そうさせてもらおう…さて、一応仕事の様な事もさせてもらおう…君は、魔術師か?」

 

「……魔術遣いだ…貴方はどうして…?」

 

「ここ…冬木市で起きた昔の事件の大半は追って行くとその存在に辿り着く。」

 

「奴ではなく、私を捕まえに来たのか?」

 

「…いや、現在の法律で魔術師を裁くのは難しい…それに実際に戦ってみて思ったが…魔術師が君や、あの女性たちの様な者ばかりなら警察の手にはとても負えない。…職務放棄にはなるが諦めるさ…そもそも上からは魔術師が関わる案件は捜査禁止を厳命されていてね…」

 

「ではこれは?」

 

「ほとんど私の趣味のような物かな…好奇心は猫を殺す、などと良く言うが…まさか本当に死にかけるとは…」

 

「言わせてもらうが…貴方の傷は大半が奴に殴られたのが原因ではないか?」

 

私たちの攻撃は大半が躱されるか、防がれたからな…

 

「……そうだったかな…?」

 

「真面目なのかと思えば…相当の狸の様だな…」

 

「アイツからはそう聞いてたのか?…私は実際は昔からそこまで素行の良い方では無いのだが…」

 

「警官なのにか?」

 

「……なれたのが不思議なくらいだな…」



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錬鉄の英雄のいる店65

「ッ…衛宮、丸腰の人間にいきなり剣向けるのはどういう了見だ?」

 

「…では、私の鼻先で止まっている拳は何なのかな?」

 

「…俺は兄貴がこの病室にいるのを知ったからぶん殴りに来ただけだぜ?」

 

「……君の兄のベットは隣だ。…というか、君の事だから私も序に殴ろうとしていて間違えたわけではなかろう?」

 

「…なあ?私は一応、刑事なんだが…」

 

「おっと…では、これでどうかね?」

 

私は剣を消した。

 

「…警察泣かせだな…別件で引っ張るのも難しそうだ…」

 

「それは上に止められているから無理だと自分でさっき言っていただろう?」

 

「一刑事の権限なんて所詮サラリーマンに毛の生えた程度だからな…どうだ?民間協力者として私に手を貸す気は無いか?」

 

剣が消えた事で再び飛んで来た奴の拳を強化した手で受け止め、力を込める…

 

「…私にその気は無いよ。他を当たってくれ…最も魔術師のほとんどは世に出るのを嫌うだろうがな。」

 

「残念だ…手柄を上げればもう少し自由に動けるのだが…」

 

「痛てててて!離せ衛宮!?」

 

「…貴方は上に上がればその権力を使って魔術師を捕まえるつもりなのだろう?協力は出来んよ。」

 

「離せって言ってるだろクソが!」

 

「そうだな…調べた限り出てくる魔術師のほとんどがろくでもない奴ばかりだからな…職務に忠実なつもりも無いが、人として放置も出来ないな。」

 

「職務に忠実なつもりが無いならフリーになる事をオススメしよう…今度は逮捕権限が消えてしまうがな…」

 

「なら、私に辞める選択肢は無いよ…色々繋がりはあるが、個人で動くには少しね…」

 

「グダグダ話してねぇで手ぇ離せって言ってんだ!」

 

「ハァ…分かった…これで良いか?…次に殴りかかったら折るぞ?」

 

「この…!一般人に強化なんて使いやがって…!」

 

「君の何処が一般人なんだ?私の固有結界を破った君が。…喚いてないで一度自分の病室に戻りたまえ。どうせ抜け出して来たんだろう?」

 

「チッ…分かったよ…じゃあな、逃げんなよ兄貴。」

 

……今まで逃げていたのは君だろう…

 

「…逃げんよ…私も入院の身だ。時間は腐る程あるからゆっくり話そう。」

 

奴が病室を出て行く…

 

「…変わらんな…如何に顔を変えようと…何年経とうともアイツは変わらないな…」

 

「……昔からああだったのか?」

 

「…おかけで毎回問題起こしてな…アイツの尻拭いを何度もさせられたよ…だからアイツの中で私は真面目な堅物、となっているのだろう…実際はそんな事無いんだがな…」

 

「私の目から見てもそういう風には見えないんだが…」

 

「私たちの家が定食屋だったのは聞いてるか?」

 

「奴から聞いたよ「アイツ、店の売り上げを盗んで遊びに行ったことがあるんだが、あの時…実は私と下の弟も少し摘んでいてな」…そうなのか?」

 

「二人が怒られた後…親父と二人きりになった時に私もきっちり絞られてな…アイツには内緒にしておいてくれ。」



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錬鉄の英雄のいる店66

「恐らく聞いてるんだろうが…アイツは一人だけ学校での成績が悪くてな…最も素行のせいもあったし、アイツ自身は覚えは悪くなかった様だが、多分、机に向かって黙々と勉強するのが合わなかったんだろう…私も下の弟も気にはしていたが幸い、料理に関してだけは秀でていた…私は料理は壊滅的だったし、下の弟は出来るもののアイツには及ばなくてな…」

 

彼はそこで言葉を切ると置いてあったペットボトルの水を少し飲む…

 

「だからアイツが店を継ぐのが妥当だと思っていた…店に迷惑をかけた事もあるが…中学を卒業する頃には比較的まともになってな、アイツは乗り気だったみたいだし何も問題は無いと思っていた…まさか店が無くなる事が決定していて、アイツがその事で親父と喧嘩して家出して、そのまま行方を晦ますなど…思ってもいなかった。」

 

「…奴からは最初親戚の所を転々としていたと聞くが…」

 

「私もそこまでは調べがついていた…ヤケになって何かされても堪らないからな…最終的に迎えに行った時には…奴が飛行機に乗った事が分かったのはだいぶ後になってからだ…」

 

「貴方はその後の奴の事を?」

 

「…調べられたのはこの仕事に就いてからだがな…最もアイツ自身は単独で動く事も多い様で…戦場という場所柄もあってか、記録はろくに出て来なかった…だがアイツがテロリスト扱いだった事までは調べがついている。」

 

「……」

 

「まっ、見逃すさ…この国では捕まえようが無いし、というかめんどくさい…アイツを犯罪者として捕まえたら私にも影響があるからな…詳しくはアイツから聞くさ…アイツを好いてる女性の事を中心にじっくりと…」

 

「…何となく奴が怒った理由が分かった気がするよ…」

 

「どういう事だ?」

 

「聞いたのか?奴の女性関係について?」

 

「話の流れで少しな…」

 

生き別れの弟に女性関係を聞くのはどんな話の流れだったのだろうか…

 

「本当は私から言う事では無いんだろうが…奴には元々結婚を考えていた女性がいた…ある時彼女は誘拐されてしまった。」

 

「攫ったのは魔術師で、私と奴が救出に行ったが、結局彼女は先に訪れた駐留軍人に暴行され死亡。」

 

「…成程…それならアイツが私に怒っても仕方無いな…待てよ?なら、アイツがテロリストになった理由は…」

 

「……後は、奴から直接聞いてくれ。私の口からはこれ以上語れん。」

 

「…良く話してくれた…ありがとう…今日までアイツを助けてくれて…」

 

「詳しくは言わないが奴には私も助けられたからな…奴が今の生活を見限らない限りこれからも奴と共にいるさ…」



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錬鉄の英雄のいる店67

「一応、本来は損害賠償やら色々請求していた可能性もあった、ということは御理解頂きたいですわね…まあ…負傷したのはあの方とシェロと貴方自身だけで店自体は無傷でしたし、ウチの常連客はあの方の奇行には慣れてますし、貴方はあの方のお兄様であるとの事ですので今回は見逃しますわ…以後、気を付けて…あー…それと…いえ、この手のお話は貴方には…そうそう…釈迦に説法、という奴でしたわね。…そういう事ですので次は無い、という事で…ではこれで…今度は"普通に"お客様として訪れてくれる事を願っていますわ…リン、行きますわよ。」

 

「もう…勝手に話進めて…私もコイツに色々言いたかったのに…まあ良いわ…じゃあね、士郎…また来るから…」

 

「ああ…色々とすまなかったな…」

 

「…別に良いわよ、それじゃ…」

 

「…嵐の様な二人だったな…」

 

「第一声がそれだけなのか?反省は無いと判断するしかないが?」

 

「…申し訳無かった。」

 

今日は凛とルヴィアが私のお見舞いにかこつけて奴の兄に説教をしに訪れた…と言っても喋っていたのは、ほとんどルヴィアだけだが…凛の場合、いきなり彼に噛みつきかねないからな…そういう意味では…正論を並べて理性的に話の出来るルヴィアが話すのが適当では有るだろう…最も自分の言いたい事を一方的に話すだけで彼に一言も反論をさせないというのはどうかと思うが…

 

……それだけ腹に据えかねた、という事だろう…まあ奴と一緒にいられる時間が必然的に減った事と自分で殺ってしまったならまだ納得出来るが、私にも原因の一端があるとはいえ、今のルヴィアには他人でしかない彼に奴が殺されかけた八つ当たりもかなり含まれていたのだろうが。

 

「……もしかして…先程の女性が…」

 

「そう…奴を愛してしまった女性だ。…良かったな、あの程度で済んで…彼女は本気で怒るとある意味私や凛より恐ろしいぞ。」

 

「奴は良い人に巡り会えたんだな…」

 

「言っておくが…ルヴィアは私が昨日話した…奴が当初結婚を考えていた女性の友人でもあるからな…もし、貴方が奴に彼女の事を思い出させた事が今回の騒動の発端だとルヴィアが知ってしまったら…こんなものでは済まないかもしれんぞ…」

 

「……」

 

「彼女は魔術師だ、今回、貴方はギリギリ退ける事が出来たが…条件次第では魔術に関して素人である貴方は為す術も無く殺されてしまうだろう…」

 

「そんなに脅かさないでくれ…本当に反省したから…」

 

「……その言葉が真である事を願うよ。 」

 

…彼だけが槍玉に上がるこの状況は考えようによっては哀れだが…自業自得、という奴だろう。



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錬鉄の英雄のいる店68

「ところで…何故彼女は主立っての制裁の話をしていたのに、私が彼女貴方を殺す可能性について話したかだが…」

 

「…ん?」

 

「そもそも彼女には貴方を法律に基づいて裁く事が出来ないのだよ、その権利自体が無い。」

 

「それは…どういう?」

 

「そうだな…先ずは彼女はウチの店と言ったが、あくまであの店は私と奴の共同経営で、ただの従業員でしかない彼女には例え今回の騒動で建物にダメージがあったとしても、それで貴方に金銭を要求する事は出来ない…怪我については論外だな…怪我をしたのは私と奴と貴方だけでルヴィアには結局傷一つついていない。そして私と…恐らく奴もだが貴方を訴えるつもりは無い。…つまり今回の一件で賠償金の支払い要求が貴方に行く事は無い。」

 

「そうか…いや、しかし彼女話をアイツと婚姻関係では無くても婚約はしているのだろう?」

 

「奴自身は一応前向きに検討しているが今の所その気配は無い。…奴自身は現在ルヴィアを嫌っていない様だが、奴が踏み切れない理由としては…私が考えうる理由としては二つある…一つは彼女が傭兵時代の商売敵で当時は犬猿の仲だった事、もう一つは奴が婚約者の死を恐らくまだ引きずっている事が原因だ…話が逸れたが要は彼女は個人的にも貴方に怒っているが現状主立って制裁を加える事は出来ない…だから貴方を殺す可能性がある、という事だ。」

 

「成程…そうなのか。…納得したよ。」

 

……?…何を言っているんだ?

 

「私の話を聞いてなかったのか?「いや、聞いていたよ」では、納得した、というのは…」

 

「いや、彼女の言葉の通りならアイツや君にに怪我を負わせた事を怒っていると思うのが普通だが…どうも彼女はアイツと戦った事を怒っているような気がしてね…」

 

「分からん…貴方は何を言いたいんだ…?」

 

「気付いてて言っていたのでは無いのか?…彼女はこのままアイツが手に入らないのなら殺す事も視野に入れていたのでは無いかと思ったんだ…自分の手で殺すのは言い換えれば独占欲だからな…だからアイツを殺そうとしていた私に怒ったんじゃないかと…もっと言うならアイツと彼女が犬猿の仲だったなら戦場という場所である事も手伝って何度か戦った事もあるんじゃないか?…その延長戦上で好意を持ったのならそれを愛だと思っている可能性もあるのかと…」

 

「先程のルヴィアの態度と私の今の話だけでそこまで予想したか…確かにその可能性も私はあると思っている…」

 

「まぁ何にせよ、良かったよ。」

 

どうも先程から彼に違和感を感じる…そしてこれは……既視感?……背筋に冷たい物を感じたが、私は疑問をぶつけてみる事にした。

 

「貴方は…死が怖くないのか…?」

 

……遠回しに聞くつもりだったのについ、直球で聞いてしまった…そして私は彼の答えを聞いて後悔することになる…

 

「私にとっては死よりも、免職や経済的制裁の方が何倍も恐ろしいのだよ。」

 

やはり気の所為では…無かったのだな…

 

「理解出来ん…死んでしまったらそんなものに何の意味があると言うんだ。」

 

「良く言うだろう?…地獄の沙汰も金次第、と。」



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錬鉄の英雄のいる店69

……地獄の沙汰も金次第とは要するに死んで地獄に落ちた際も閻魔大王の裁きは金銭である程度減刑可能という事から、転じて世の中の全ては金で解決出来るという事を意味する言葉である。

 

「…今現在喉元まで刃が迫っている人間が口に出来る言葉では無いと思うのだが…まさか本当に現世の金が死後も使えるとは考えていないだろう?それともまさかルヴィアが金で懐柔出来るとでも?」

 

当たり前だがエーデルフェルト家の当主である彼女は資産は莫大だ。守銭奴の気は多少あるとはいえ、一介の刑事が用意出来る程度のはした金ではどうやっても彼女の心は変えられない。

 

「別に私も死後も現世の金が使えるとは思っていないし、彼女が金で転ぶとは微塵も思っていないさ…彼女自身は恐らくそれなりに金持ちなのだろう?…なのに君たちの店でわざわざ働くと言う事は…相当愛されているのだな、私の弟は…話が逸れたがこれは単に私の座右の銘の様なものでね。」

 

「……いや、本当に分からない…貴方は何を言っているんだ…」

 

「…この価値観は私にも説明が難しいのだが、俗に死ななきゃ安いという言葉があるそうじゃないか?私はそんな事は無いと思っていてね…生きていればどうしてもそれなりに金がかかるものだからな…」

 

「それは…恐らく…意味が違う…」

 

「そうなのか?…それはまあとにかくだ、だから私は生きていくための金があるなら問題無いと思っていてね。」

 

「だから…自分の死はいくらでも容認出来る…と?」

 

「結局死んだら金は必要無いからな。最期は死んだ方が楽だろう?最も簡単に死ぬつもりは無いが…」

 

……既視感の正体が漸く分かった…彼は昔の私に似ているのだ…彼は死への忌避感があまりにも薄い…私と違って積極的に死にたがっているわけではないが…

 

「そこまで狼狽える様な話だったのか?戦場にいたら普通に培う感覚だと思うのだが…」

 

「……今の私は積極的に戦地に行く事は無いし、そもそも私は戦いの中で逆に生の実感と死への恐怖を持ったタイプだからな…だから…今の私には貴方の言う事が理解出来ない…」

 

最も昔の私でも到底理解は出来ないだろうが…

 

「成程。恐らくは元々幼少期に全てを失ったトラウマなどが原因で死にたがっていたのに、戦いの中で色々と手に入れてしまい、死ぬのが怖くなってしまったタイプなのか。」

 

「…今の言葉だけでそこまで分かるのか…」

 

「…職業柄、壊れた人間は色々見て来ているのでね…当てずっほうだったのだが、正解だったのか…あー…気を悪くしたのならすまない…第三者でしか無い私が勝手に君の抱えていた物に言及すべきでは無かったな…」

 

「それは構わない…私はもう折り合いをつけていてね…ところで君は…自覚があるのか?その…」

 

自分の方が遥かに壊れている事に。

 

「…もちろん分かっているとも。ちなみにこの価値観はこの仕事に就く前から元々私が持っているものだ。」



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錬鉄の英雄のいる店70

彼が寝静まった後、私は病室を抜け出し奴の病室に向かった。

 

「……」

 

奴の病室のドアを「そんな所に突っ立って何か用なのか衛宮?」「!?」

 

突然ドアが開き、奴が顔を出した。

 

「おい、何でそんな驚く?俺が今更お前の気配を間違えると思ったのか?」

 

「…突然ドアが開いたら驚くに決まっているだろう…寝ていなかったのか?」

 

「…馬鹿かお前?戦場で長く過ごした俺がこんな知らない奴の気配が大量にある場所で爆睡出来ると思うか?…戦場行ったのに逆にまともになる変人のお前とは違うっての。」

 

「……そうだったな。」

 

「…で、マジで何の用なんだ?話なら別に昼間でも…チッ…取り敢えず入れ…看護師に見つかる。」

 

奴に手を引かれ病室に入った。

 

 

 

 

「あん?兄貴の話?…あー…お前…ん?お前には言ってなかったか?兄貴の事?」

 

「真面目だったとは君から聞いたが…」

 

「そこまでしか言ってなかったか…兄貴なら昔からあんなだぞ?」

 

「アレで…何故真面目という印象になるんだ?」

 

「いやいや真面目だろ?アレであの野郎、普通に学生生活出来てたんだぞ?…まあ兄貴がいない時に兄貴の友人に聞いたら知ってて付き合ってるって言ってたけどよ。…つかそんな話どうでも良いんだわ…お前ホント余計な事してくれたな?」

 

「なっ、何…?」

 

「お前あの野郎に武器やったろ…マジで殺されると思ったんだからな。」

 

「彼を殺そうとしてたのは君では「虚勢張ってただけだっての。…野郎、自分では気付いて無かったんだろうが、かなり楽しんでやがったからな?」……」

 

「おまけに固有結界まで使いやがって…あそこで共闘の方向に持って行かなかったらあの野郎とお前らの攻撃両方防ぐ羽目になってたんだからな…だから邪魔すんなって言ったじゃねぇかよ…勝手に割り込んで、んな怪我して…お前本当にアホだな。」

 

「何を言う…君らを止めようとして「それが余計だって言ってんだ…野郎に喧嘩ふっかけたのは俺だ…勝手に横槍入れて怪我するとか有り得ねぇぜ」……」

 

「てかお前、ルヴィアに言っとけよ?あの野郎に手ぇ出すなって。…分かってんだろうがルヴィアじゃアイツには勝てねぇよ…お前でも無理だな…昔のお前ならワンチャンあるかもしんねぇが、今のお前じゃ間違い無く殺されるかんな。」

 

「そんなに危険なのか?」

 

「あの野郎…一回喧嘩始めたら、相手が再起不能になるか、自分が倒れるまで絶対攻撃を止めねぇんだ…しかも自分がそういう気質なのに全く気付いてねぇから更にタチが悪い…アレで現在の職業が刑事なんだから何の冗談かと思うぜ…まぁその辺は俺も一度キレると同じだからあんま言いたくねぇけどよ…だけどな、余程マジでキレねぇ限りギリギリで手を止める俺と違い、アイツは場合によっては相手を殺しても止めねぇだろうよ…」

 

「……それでまともに社会に溶け込んでいるというのか?」

 

「根底の考えは一応、俺よりずっと善人だからな…弟はまともだから幼少期は兄貴に殺されると思ってビビりまくりだったんだぜ?」

 

「……」

 

「とにかくだ…お前からルヴィアに釘刺しといてくれや…俺よりお前から言った方がアイツのヤバさが伝わるだろうからな…」



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錬鉄の英雄のいる店71

「そう言えば…君が事前に言っていた人物像と合わない気がするののだが…」

 

「ん?あー…アイツが自殺する可能性があるのは嘘じゃないぜ?ただ、それはアイツが無意識に理由を探してるからって意味だ…死なせたくないのは本当だ…あんなんでも俺にとっては兄貴なんでね…後、聞いた話と実際のアイツの印象が異なるのは説明がややこしくなるから俺がアイツの基質についての話を意図的に省いた。」

 

「……」

 

「…こんな所だな。そろそろ戻れよ。」

 

「分かった「あ、そういやお前…アイツが寝てから来たのか?」そうだが…」

 

「…なら、一応気をつけろよ?……アイツ、昔から眠りが浅いんだ…多分お前が抜け出したのはバレてるぜ?」

 

「……先に言われた事のせいもあって…そういう事を改めて言われると警戒する事しか出来ないんだが…」

 

「アイツの対処は簡単だ…敵対しなければ良い。先ずはわざわざアイツの本性を俺に聞きに行ったと馬鹿正直に言わない事を進めるぜ?…最もアイツに嘘は通用しないがな。」

 

……面倒な事になった…そう思いながら私は奴の病室を出た。

 

 

 

ドアをそっと開け、病室に入り、ベッドに「長いトイレだったな。」「!?…脅かさないでくれ…全く兄弟揃って…」

 

「それはすまなかった…ん?アイツに会いに行っていたのか?」

 

「ああ…私たちはしばらく入院だからな、店の事について「君たちが入院している以上、恐らくは昼間来た彼女たちが代理、もしくは一時的に店を閉める…という事だろう?で、あれば彼女たちが来た時に話すのが普通じゃないか?…こんな夜中にわざわざ君とアイツの二人だけで店の事を話し合う必要があったのか?」…それ、は…」

 

「と、すまない…仕事柄もあるが、昔からの癖でね…つい、詰問口調になってしまった…謝罪しよう…」

 

「…いや、構わない…刑事だからではなく昔からなのか?」

 

「…嘘が嫌いという程では無いんだが…昔からどうも相手の話に気になる所があったりするとツッコミを入れずにいられない癖があってね…いや、すまなかった…」

 

「先も言ったが構わない…彼女たちに店の事について伝えなくてはならない事をまとめておくのを忘れていてね…明日は朝から来るそうだから今のうちににやっておこうと思ってね…」

 

「…そういう事だったか…今日は私のせいで有耶無耶になってしまったが、もし今日の時点で聞かれていたらどうするつもりだったんだ…あーすまん…別に答えたくなければ「構わないさ…貴方も当事者だ」そうか。」

 

……いや、寧ろここで答えないと面倒な事になると私の勘が告げているのだよ。

 

「その時は仕方ないさ…色々ゴタゴタしていたからな…今日中にまとめておくから明日、また来た時に話すと伝えただけだ。」

 

「成程…そうか…」

 

もう質問は無いよな…?やれやれ本当に厄介な人物と知り合ってしまった物だ…



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錬鉄の英雄のいる店72

「アンタ…こんな所で何してるの?」

 

「いや、君にどうしても話して置きたいことがあってね…」

 

翌朝、私は凛とルヴィアに奴の兄貴の危険性を話すため病室の外で待っていた…

 

「…用があるなら病室で待ってれば良かったでしょうが。何でこんな所で待ち伏せする必要があんのよ?…取り敢えず入っていい?アンタが使う物、さっさと置きたいんだけど。」

 

凛が手に持った袋を掲げながら言う…わざわざ入院生活に必要な物を持って来てくれた凛には悪いが今病室に入れるわけにはいかない。

 

「いや、取り敢えず話をだな…」

 

「…何をそんなに焦ってるのか知らないけど、先ずこっちの話を聞きなさいよ。何でこんな所で荷物持って立ち話しなきゃいけないのよ?早くドアを開けてよ、両手塞がってるのが見えないの?」

 

「…確かにその状態で立ち話をさせるわけにはいかんな…ではこっちに…」

 

私は凛の腕を引っ張った。

 

「ちょ…!何すんのよ!痛い!引っ張らないで!」

 

「…と、すまなかった…」

 

そんなに強く引っ張ってしまったのか…私は凛の腕から手を離した…

 

「…本当にどうしたのよ?アンタさっきから変よ?昨日何かあったの?」

 

「すまない…」

 

「謝らなくて良いから何があったのか…あ~もう…分かった…話なら聞くから、とにかく病室じゃなきゃ良いんでしょ?何処か座れる所に行きましょ。」

 

 

 

 

「そう言えば、ルヴィアはどうしたんだ?」

 

「…アンタ今日頭の回転鈍くない?アイツの病室行ったわよ…アイツの病室は個室だし、何だかんだアイツはルヴィアの事避けてるから今日は多分、ここぞとばかりに居座るでしょうね。」

 

「そうか…」

 

ルヴィアには特に話しておかなければならないのだが…後で凛に話してもらえば良いか。

 

「いや、さっさと本題入ってよ。一体何?」

 

「…そうだったな、実は…」

 

私は奴の兄の事を話し始めた…

 

 

 

 

「……」

 

「…とにかくだ、しばらくは私の病室には近寄らない方が良い…じゃあ、私は戻る「ちょっと待って」ん?」

 

「勝手に話進めないで。アンタ、その話何か可笑しいと思わないの?」

 

「何がだ?」

 

「…いや…何が、じゃなくて可笑しいでしょ。」

 

「…何処が可笑しいんだ?」

 

「いや、本当に分からないの…?どう考えても一連の話に整合性が取れて無いんだけど…」

 

「何処ら辺がだ?」

 

「……アンタ今日は本当に鈍いわね…それじゃあ先ずアイツの兄の話だけど、本人の口から出たんだし、死生観についての話については問題無いでしょ…あっ、先に言っておくけど異常か、正常か、とかの話はこの場ではしないからね?…問題は弟であるアイツの話よ。」

 

「奴の話…?何が問題なんだ?」

 

「…他人の事を口頭で説明する場合、主観が入って当たり前だと思うけど…アイツって戦場にいただけあって割とリアリストよね?」

 

「…確かに…そうだが…それが?」

 

「…ここまで言って分からないの?…アイツは自分の兄の事を自殺志願者で一度喧嘩を始めたら自分が倒れるか、相手が再起不能、もしくは死んでも攻撃を止めないとか言ったのよね?…で、その上で敵対者には本当に容赦が無いからルヴィアに手を出さない様に伝えろとか言ったのよね?」

 

「ああ…で、それが?」

 

「良く考えてみなさいよ…そんなイカれた奴この平和な国にそうそういると思う?…いるとしたら間違い無く真っ当な社会生活送れてるわけないでしょうが。…要するに今回の話はリアリストのアイツにしては現実味が無いのよ。もっと簡単に言うなら話を盛りすぎって事。」

 

「……奴が嘘を付いていると?そんなメリットは「これは多分メリット、デメリットの話じゃないわよ。アイツのトラウマみたいなのが原因じゃない?」何?」

 

「わざわざ注意喚起をすると言う事はそれだけ危険視してると言う事…で、裏を返せばアイツは強がってるだけで今も考え方が異常な自分の兄が怖いのよ。そうなると話半分で聞くのが普通でしょ?人間は自分の苦手な物の理由を説明する時、必要以上に悪い言い方をしたりするじゃない?」

 

「確かに…では奴の話は…」

 

「少なくとも信用出来る様な話じゃないわね…というか、アンタやルヴィアが何を怖がる必要があるの?」

 

「…どういう意味だ?」

 

「…鈍いのは勝手だけど…少しは考えなさいよ…確かにアイツの兄と正面切って戦うのは難しいけど、一介の刑事くらいなら社会的に抹消するのは簡単でしょ?」

 

「あっ…」

 

「つまりアンタもルヴィアも、アイツの兄を大して警戒する必要が無いって事になるわね。」

 

「……」

 

「もう良い?今日は何か、もう疲れたから帰るわ…店開ける準備もしなきゃいけないし、荷物は自分で持って行って。」

 

そう言って席を立つ凛に声をかける。

 

「ルヴィアの所には行かないのか「自分から馬に蹴られに行く趣味は無いわよ。仕込みくらいならイリヤたちもいるから問題無いし…最悪、店開けるまでに戻って来れば取り敢えず私は気にしないわよ。アンタも下らない話をしに行ってルヴィアの邪魔しないようにね」……」



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錬鉄の英雄のいる店73

私は凛に言われた後でも、奴の兄を入院中ずっと警戒していたが…結局何事も起こらず…退院を迎える事が出来た…問題があるとすれば…

 

「おい!何でお前らが退院出来て俺は出来ねぇんだよ!?」

 

「仕方あるまい。」

 

発端は奴の兄からだった。お互い、生活リズムが不規則になりやすい仕事をしている事だし、せっかく病院にいる事だし、健診を受けてみるのはどうかと言われ、私は賛成した…ごねる奴も無理矢理連れて行ったのだが…

 

「共同経営者として情けなくなるよ…まさか奴の身体がボロボロなのに気付かなかったとは…」

 

溜息を吐いた私の肩に手が置かれる…

 

「まっ、どう見ても真っ当な生活送れてるようには見えなかったしね…四六時中一緒にいた訳じゃなし、アンタがそんなに気にしてもしょうがないでしょ。」

 

「おい!俺を無視すんじゃねぇ「貴方の相手は私がしますわ」おい!離せクソアマ!」

 

「しかしだな「良いじゃないですか。幸い、しばらく入院すれば良いとの事ですし…それにルヴィアさんにとっては接近するチャンスを貰ったようなものですしね」そうかもしれないが…」

 

「あいつには良い薬だろ。料理店の店主の癖に自分がまともな栄養摂って無かったのが悪い。」

 

「慎二…そうは言ってもだな…」

 

「あー!もう!面倒臭いわね!アンタのせいじゃないの!分かった!?」

 

「分かった分かった。分かったから病院で大声を出すんじゃない。」

 

「……」

 

私は横でさっきから黙ったままの奴の兄に声をかける。

 

「すまないな、私ももう少し気を付けていれば良かったのだが…」

 

「いや、君のせいじゃないさ。そう気に病むな…と、すまないが先に失礼させて貰う…あいつに宜しく頼む。」

 

「ああ。では店でまた…」

 

「是非寄らせて貰う…では。」

 

「…結局良く分からない奴だったわね…」

 

「君は何度か顔を合わせた訳だが…最終的な印象としてはどうだ?」

 

「…アンタやあいつが言う程の警戒が必要とは思えないけど、得体の知れない奴には思えたわね…掴み所が無いというか、何か会話すればする程…良く分からなくなるのよ。」

 

「私もそんな感じですね…悪い人には思えませんけど…」

 

「そもそも警察の人間だからな。最も、善人=警戒の必要が無い、とはならない訳だが…」

 

彼は魔術師を追おうとしてるからな…我々の様な人間には厄介極まりない。

 

「公の組織に所属している以上、何とかなるだろ。どうしてもヤバいなら声をかけろよ…何か手は用意してやるさ。」

 

「む…妙に協力的だがどうしたんだ?」

 

「別にお前らの為じゃないよ。ただ…桜の敵になるなら僕の敵だってだけさ。」

 

「……分かった。もしもの時はお前の力を借りる。」

 

「言っておくけど、あくまで僕は桜の邪魔になる時しか動かないからな?」

 

「ああ。分かっているとも。」



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錬鉄の英雄のいる店74

「…結局の所、店主がいても、いなくてもあんまり忙しさ変わんないわね。」

 

「言ってやるな。」

 

奴が内科の病棟に入院した初日、つまり私の退院直後から店の仕事に従事したものの特に問題は無かった。

 

「でもシロウ…お客さんは皆良い人だけどあの人いなくても誰も気にしてないよ……シロウの事は聞かれたけど。」

 

「……」

 

奴は客相手でもあの仏頂面の上、口調も荒いからな…だから普段は厨房から出さないのだが…返ってそれが普通になってしまったか。

 

「奴は接客に向いてないからな…」

 

「料理にだけ集中させるのは良いけど、常連さんが店主いなくても気にしないってヤバくない?」

 

「迂闊に客の前に奴を出せんからな…そもそも常連は慣れてるから良いが、新規の客は寄り付かなくなるだろう…」

 

「あの店構えで新規の客、ね…まあ雑誌に乗っちゃったからね……でもその後音沙汰無いみたいだけど。」

 

「正直、無いに越した事は無い…大袈裟に書いてくれたおかげで一時期は客が収容しきれなくなりそうだったんだ…」

 

客が増えるのは良い事…当初、そんな事を宣っていた自分を殴ってやりたい…バイト君と凛がいなければどうなってたか分からん…

 

「私はまだいなかったから知らないけど…そんなに大変だったの…?」

 

「失礼を承知で言わせてもらうが…イリヤの身長だと下手に接客に出せんくらいだったな…」

 

「それは…もしかして待ってる人が多かったって事…?」

 

「そういう事だな。」

 

「料理運んでる私ですら通るスペース無かったからね…お陰で回転率も悪くって。」

 

「うわぁ…二人には悪いけど私いなくて良かったかも…」

 

「そもそもさっきも言った通り、君を接客に出せる状態じゃなかったよ…」

 

「ま、今はこの通り落ち着いてるけどね…あの頃は何だかんだアイツが結構役に立ってたわよね…」

 

「態度が悪い奴には普通に怒鳴るからな…危ない場面も少なくなかったが、結局は奴のやり方が正しかったな…」

 

客は減ったが…お陰でタチの悪い連中は来なくなった…どうにも私は普通に怒る分には少々…迫力にかけるからな…

 

「店主として店に貢献したのにいなくても気にされない「奴は常連の為じゃなく…自分が鬱陶しいと感じたから追い出しただけだからな…自分に矛先が向いて欲しく無い事を考えればそれ程好かれもしないさ……最も、そこまで嫌われてもいないがな…いなきゃいないで良いとは思われるぐらいの好かれ方だが」…まあ、正直不憫とも言い切れないけど…」

 

「というか、アイツ自身は全く気にしてないのよね…」

 

「料理は単なる趣味で、店の経営も元々その延長…立ち行かなくなればすぐにでも止めるな…その後は恐らく、戦場に逆戻りだ。」

 

「アンタが普通に生きられる様になったのに、何でアンタに比べたら普通の生い立ちのアイツが普通の生活出来無いのかしらねえ…」

 

「幸か、不幸か…戦場での生活は奴の性に合っていた様だからな…」

 

本来そうなったら私は止めるべきなのだろう…だが、私には奴を止められない。

 

「でも、ルヴィアがいるから大丈夫じゃない?」

 

「ま、そうかもね…さてと。二人とも片付けは終わった?」

 

「私は終わっている。」

 

「私も。」

 

「じゃあ帰りましょうか……全く…バイト君は仕方無いにしてもルヴィアまでいないから時間かかったじゃない…」

 

「それも言ってやるな…初日くらいは好きにさせてやろう。」

 

「ハァ…仕方無いわね、本当に…」



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錬鉄の英雄のいる店75

「こっちは終わりましたよ。」

 

「…む…早いな。では少し休憩しててくれて良いぞ。「もう開けても良いのでは?」…そんなに早く開けても客は来ないさ。」

 

今日は珍しく(いや、初めてか…)私とバイト君だけが店にいる。

 

 

 

 

「それで遠坂さんは大丈夫なんですか?」

 

「…普通に風邪だそうだ。」

 

「それは良かった。」

 

今日は凛が体調を崩したのだ…私はすぐには気付けなかった…イリヤが言ってくれなかったらそのまま店に出す所だった…

 

「すまないな、今日は君は休みであったのに。」

 

「気にしないで下さい、こっちも急ぎの用事とかは別に無かったんで…」

 

店主は入院中、ルヴィアは奴のところに行っているし(病院内と言う事もあり携帯の電源を切っているので連絡は付かないし、メールは送ったがどうせ奴の所にいる間は確認しない)イリヤには凛の看病をして貰っている。

 

「あれ程、元気な奴がな「接客業である以上、やはり色々気をやってしまいますし、誰でも体調を崩す事だってありますよ。」…そうだな。」

 

気になる事があるとこうやってはっきり意見を言ってくる彼の気質は私は嫌いでは無い…何せルヴィアでさえ評価しているからな…遠坂は早い段階で本来の性格で接し始めたし、イリヤとも仲が良い様だ。それにしても…

 

「君は一人の方が仕事の精度が上がるのか?」

 

「…そうかもしれませんね。何せ僕が前働いていた店は従業員は僕しかいませんでしたし。」

 

「そうだったのか。」

 

一人でやった経験が、彼をここまで成長させた訳か。

 

「ただここより狭い店でしたが…」

 

「確か喫茶店兼、バーだったな。」

 

「ええ。最もマスターは軽食だけでなく、ちゃんとした定食とかも出していましたけどね。」

 

「成程、ちなみに君は料理は?」

 

こうやって話していると意外にまだまだ彼について知らない事が多い事に気付く…せっかくの機会だ、どうせルヴィアは営業開始前にしか来ないだろうし、もう少し親睦を深めたい。

 

「…マスターに習いましたから少しは「今日の賄い、君が作ってみないかね?」…良いんですか?」

 

私は思っていた…彼も実は料理が好きなのでは無いか、と。理由があった訳では無いが…良く考えたら今日、私は本来なら休みである筈の人間に頼もうとしてる訳だが…本人はどうも乗り気な様だ。

 

「構わないさ…私も一度君の腕を見てみたい。」

 

「…貴方にそう言われるとどうも緊張しますね…」

 

「別に何かのテストとかじゃないさ…純粋に君が何処までやれるのか見たいだけだ。」

 

「…そこまで言われたらどっちみち断れないですね。分かりました。」

 

さて、お手並み拝見、と言った所かな。



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錬鉄の英雄のいる店76

彼に出された料理を口にする…ふむ…

 

「…美味いな。」

 

「…良かった。こっちは軽く冷や汗モノでしたよ…」

 

「そう謙遜した物でも無いさ。…客に出すのはまだ少し早いかも知れないが。」

 

「これは手厳しい。」

 

味は悪くないが若い…作りが多少荒い…そう思い、アドバイスをしようと考え…改めて口を開いた所で動きが止まる…私は何をしようとしてるんだ?彼が本気で料理人でも目指してるならいざ知らず、求められてもいないのにアレコレと口を出すのは筋違いだ。

 

……私自身もこの若さで既にここまで出来る人間に偉そうに言える程腕があるとは思えん…彼なら自分でステップアップして行く事だろう…私の助言など確実に不要だ。

 

「何処ら辺が問題でしょうか?参考までに聞かせて貰えませんか?」

 

……彼の方から聞いて来るとは…う~む…

 

「…いや、君は自分で気付いた方が良い。」

 

「そうですか?」

 

「ああ言ったが少なくともある程度の域には既に達している…後は修練あるのみと言った所だ。…最も、趣味の範囲ならこれで十分過ぎる程だが。」

 

「成程、そうですか。」

 

彼の一言と共に自然と話は終わりになった。ちなみに後からやって来たルヴィアにも味は好評だった…ただ、彼女は色々アドバイスした様だが。

 

 

 

 

三人で最後の客を見送り、片付け、店の鍵を閉める。バイト君と別れ、ルヴィアと二人で歩く…近頃はホテルと自宅のどちらかを行き来する羽目になっている…イリヤの事を考えれば心配し過ぎる、という事は無いから仕方無いが…さすがに面倒だな…

 

「彼の料理は中々でしたわね。」

 

「そうだな。」

 

ルヴィアから話を振られ、特に考える事も無く相槌を打つ…まぁ否定する理由も無いのだか。

 

「…皮肉るつもりは無いが、君はあまり料理をしない様だが…」

 

「別に出来無い訳ではありませんわ。今の所披露する理由も特に無いので。」

 

確かに。あの店は結局、料理出来る人間が二、三人もいれば事足りる…彼女の腕がどの程度かは分からんが、彼女が積極的に厨房に立つ理由も無い…今日はスペースも当然あったが、彼女からは特に言い出さなかった。

 

「…リンの具合はどうですか?」

 

急に話が変わったな…

 

「…さっきイリヤからメールがあった。熱が何度か上下していて中々平熱に戻らないらしい…意識はある様だが、危なくて明日も店には行かせられないそうだ。」

 

「…相当タチの悪い風邪の様ですわね…」

 

「そうだな…」

 

そんな話をしながら二人で深夜営業のスーパーに立ち寄り、イリヤがメールで書いて来た物をカゴに詰めて行き、精算を済ませ…

 

「私も出しましょう「有り難いが、現金は持ってるのか?」…カードなら。」

 

「…一応カードは使える様だが…」

 

そうなると二人で分けて払うのは不可能だが…

 

「では、ここは私がそのまま払います「しかしそんな訳には」リンは私の親友です…彼女の為にお金を出すのは可笑しいですか?」

 

そういう言い方をされると断り辛いな…

 

「分かった、なら君に任せよう。」

 

彼女がカードで精算を済ませ、カゴを持って…

 

「待ちたまえ。さすがにそれは私が運ぼう。」

 

「ではこちらを。」

 

彼女はさっさと袋に詰め二つの袋の内、傍らを渡して来る…両方持とうと言ったがやんわり断られた…やれやれ…本当に私の周りの女性は強い者たちばかりだな…



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錬鉄の英雄のいる店77

「だから大丈夫だって言ってるでしょ。」

 

「駄目だってば!」

 

ホテルに入り、すっかり顔馴染みになってしまった従業員に挨拶をしてイリヤたちのいる部屋に入ってみれば、風邪で寝ている筈の凛がイリヤと言い争いをしていた。

 

「…凛、どうしたんだ?」

 

「ん?士郎…あら、ルヴィアもいたの…二人からもイリヤに言ってよ、私は本当にもう大丈夫なんだってば。」

 

「だから駄目だってば!ほらベッドに戻って!」

 

「…二人とも落ち着きたまえ「私は落ち着いてるわよ」…良いから。イリヤ、最後に測った時、凛の体温はどうだったんだ?」

 

一応メールでも見ているが念の為イリヤに確認する。

 

「…メールで送ったのが最後よ。三十八度五分。」

 

「ほら、大して高くないでしょ?」

 

「…つい、二、三時間前までもう少し高かったの。」

 

「ふむ…」

 

普通なら休む一択だが…今の凛は冷静な判断力を失っている様だ…

 

「…シェロ、宜しいですか?」

 

「む…どうしたんだ?」

 

「私がリンを説得しますわ。」

 

「……大丈夫か?」

 

ルヴィアなら間違い無いとは思うが…

 

「…問題ありませんわ。彼女の性格は心得ておりますから。」

 

「…分かった、君に任せよう。」

 

「…はい、お任せ下さい。」

 

ルヴィアがソファに座る凛に歩み寄る。

 

「…リン?」

 

「何よ。」

 

「…貴女なりの矜持は良く分かっておりますが、今回は駄目です。しっかりと休んでください。」

 

「でも、私は「私たちに移す分には良いです」え?」

 

「私たちに移して治るのならお好きに…そうなったら貴女が看病してくれるのでしょう?」

 

「そりゃあ…もちろん「なら、分かるでしょう?借りを作ろうとしない貴女の事を私は尊敬していますが、イリヤスフィールに迷惑をかける今の貴女は頂けません」分かってるけど…」

 

「それに、さっきも言いましたが…私たちに移す分には良いのです…最悪誰も店に出られなくなったら一時店を閉めるだけで良いのですから…ですが…今貴女が無理に店に出てお客様に移してしまったらどうします?」

 

「……それは…」

 

「それに、風邪で判断力の落ちた貴女は確実にミスをするでしょう…細かいミスならまだしもお客様に怪我でもさせたら、貴女は責任を取れるのですか?」

 

「…無理ね…ごめん、ルヴィア…ちょっと「謝罪なら私では無くイリヤスフィールに」…そうね、ごめん…イリヤ…」

 

「…もう良いよ…とにかく分かったなら大人しくベッドに戻って。」

 

「分かった…それじゃあ私、寝るから…」

 

「ゆっくり休むと良い…何、君なら精々二、三日もあれば全快するさ。」

 

「…当然でしょ?こんなのすぐに治してみせるわ「ほら、良いから早く戻って」…ハイハイ。分かったから押さないでよ、イリヤ。」

 

寝室に入って行く凛を見て、私は溜め息をついた…やれやれ…体調を崩しても彼女は変わらないな…



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錬鉄の英雄のいる店78

「では、私はこれで失礼しますわね。」

 

「やはり泊まって行かないのか?」

 

「…店の留守を預かる人間が必要でしょう?」

 

「……」

 

奴が入院して以来、彼女はずっと店で寝泊まりしている…まあ何かあってもエーデルフェルト家は店のすぐ傍なんだが…と言うか、ここの宿泊費は彼女が払っているんだから泊まらないと無意味だと思うのだが…まあ良いか…

 

「では、送って「それは辞退致しますわ。イリヤスフィールとリンに付いていてあげて下さいまし」しかし…」

 

ホテルから店まではそれなりに距離が…

 

「自衛の出来無い女に見えまして?」

 

「…いや…そうだな、君相手ならこの気遣いはかえって失礼か。」

 

「そういう事ですわ。では失礼します。」

 

ルヴィアが部屋を出て行った。

 

「ふー…もう…」

 

それとほとんど同時にイリヤが寝室から出て来た。

 

「…大変だったみたいだな…」

 

「もうホントに…半端に元気だから中々寝てくれな…あれ?ルヴィアは?」

 

「ちょうど今帰った所だが「何してるのシロウ!送ってあげないと駄目じゃない!」…そう言われてもだな、本人が断ったんだが…」

 

「万が一って事があるでしょ!?早く追いかけて!」

 

「分かった!分かったから押さないでくれ!」

 

私はイリヤに部屋から追い出されてしまった…

 

 

 

 

それから私はホテルを出た所で何とかルヴィアに追い付いた…

 

「成程、イリヤスフィールが…」

 

「そういう事だ…とにかくこのまま帰っても部屋に入れて貰えなさそうなのでね…」

 

まあその時は普通に自宅に帰るだけなのだが…

 

「…そういう事でしたら、店までエスコートをお願い致しますわ。」

 

「うむ。無事に送り届けると約束しよう。」

 

さすがに何事も無いとは思うがな…寧ろ私としては部屋に残して来た凛とイリヤの方が心配だ…

 

 

 

 

「そういえば気になっていたのだが…」

 

「何でしょう?」

 

「オーギュストさんを見掛けないのだが…」

 

「…暇を出しましたわ。」

 

「そうなのか…」

 

オーギュスト・ローラン…エーデルフェルト家の執事にして全てを取り仕切る人物…私は彼に紅茶の入れ方の作法等、色々な事を習った…ルヴィアが日本に来たのなら挨拶をしようと思っていたのだが、何故か今日まで会う事は無かった…

 

ルヴィアの性格的に何時も共にいると思っていたし、彼がエーデルフェルト家の執事を辞める事など死ぬまで有り得ないとすら思っていたのだが…

 

「…戦場で負傷したのですわ。それも、私を庇って…当初はそれでも私の為に働いてくれていたのですが…いよいよ身体がまともに動かなくなって来たそうで…」

 

「そうか…」

 

藤ねえと言い、オーギュストさんと言い…残酷とも言える時の流れを意識せざるを得ないな…

 

「そんな顔しないで下さいませ。私はオーギュストとは今も連絡を取り合っていますから…そうですわね、番号を教えますから今度連絡してみると良いでしょう。」

 

そう言ってメモ帳にペンを走らせ、千切り、渡して来る。

 

「ありがとう。」

 

「あ…シェロ、ここで結構ですわ。」

 

気付けば既に店の近くに来ていた。

 

「ではまた明日…いや…今日は本当に助かったよ。」

 

荷物持ちだけなら未だしも、支払いまでさせてしまったからな…

 

「お気になさらず…リンの為ですから…では、失礼します。」



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錬鉄の英雄のいる店79

ルヴィアを送る為に歩いたルートを今度は一人で歩く…そう言えばここ最近は凛やイリヤが必ず横にいた為、一人で、というのは本当に久しぶりの気がする。

 

「…イリヤに何か買って行こうか。」

 

先程の買い物はあくまで万が一の事を考えて急遽、凛の為に用意した物が大半でイリヤが喜ぶ様な物は特に無い…何か買って行ってもバチは当たらない。

 

 

「…しかし、なにを買った物か…」

 

今の時間、近くで開いている店はコンビニくらいしか無く、例えば食べ物等なら私が作れる物がほとんどの為、買いに行く気にはならない(食材が揃えばの話にはなって来るが)そもそもイリヤは年頃の少女…時間を考えれば下手な物を買い与えても口にしないかもしれん…どうするか…

 

 

 

『別に私は何も要らないよ?』

 

「そうか?」

 

『…別にそんなに気を遣わなくて大丈夫だよ。この後もリンの看病は続けるけど、無理はしないようにするし、夜食は要らないわ。』

 

「…ふむ。」

 

奴にも珍しく散々色々言われたし、イリヤ本人からも言われたのだが、私はまだ彼女を心配し過ぎていたようだ…

 

『う~ん…でもそうね、それだったら何か飲み物買って来てよ、さっき買って来て欲しいって言った物って大半がリン用だから、私の分入ってないし。』

 

「承った。では、何が良いかね?」

 

 

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

コンビニ店員の元気な声を背中に受けながら帰路に着く…この時間のコンビニの店員は余りやる気も無さそうな者がやっている物とばかり思っていたのだが、それは私の偏見だった様だ。少なくとも、レジを担当してくれた店員は入ったばかりなのか多少拙さを感じたものの、手際が悪いと感じる程では無いし、口調も丁寧で私としてはかなりの好印象だった。

 

「ああいう精神は私の目指す者としても通ずる物があるかもしれんな…」

 

たかがコンビニ店員、と侮れはしない。あれだって接客業なのだ。

 

……それにしても…

 

「彼女からは確かな資質を感じたな…」

 

う~む…ウチの店で働いてくれないだろうか…と、これから戻って聞いてしまったらさすがに不審者扱いだろうな…

 

「どちらにしてもそれは私だけで決める訳にもいかんか…」

 

奴とも相談せねばならんな…私自身何故ここまで彼女をスカウトしたいと思ったのか分からんが…ただ彼女をここで逃しては後悔する…不思議と私はそう思っていた…

 

 

 

「えと、何でそれを私に相談するのかな…?」

 

「君ももう店で働いてる人間だからな、意見を聞きたいと思ったんだ…」

 

ホテルに帰った私はイリヤに話を振ることにした。

 

「…そう言われても…私まだ働き始めてからそんなに経ってないし…後、そもそも私は会った訳じゃないから…どんな人かも分からないし…判断出来無いよ」

 

「……そう言えばそうだったな…悪かった…」

 

やれやれ…少し、焦り過ぎたか…私にも凛のうっかりが移ったのか?全く…




「…それはリンのせいじゃないと思うけど…」

「むっ…私は口に出してしまっていたか…?」

「…口には出して無いけど…何となくかな?」

「……」


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錬鉄の英雄のいる店80

「…で?何でそれを俺に言う?」

 

「いや…何故イリヤと同じ答えを返して来る?店主は君だろうに…」

 

次の日の朝、奴の病室に向かい、昨日思った事を相談するとそんな返事が帰って来た…

 

「知るか。あのガキの時も言ったろうが。使えるんなら文句はねぇ。お前が勝手に交渉でも何でもして来な。」

 

……全く、とんでもない店主だな…仕方無く私は奴のベッドの前の椅子に座るルヴィアの方を見るが…

 

「私も特に文句はありませんわ。あくまで私も雇われているだけの身なので。」

 

「…分かった…こっちで「ただ」…何かね?」

 

「その方は女性…ですわよね?」

 

「ああ…確かにそうだが…それが?」

 

「…リンには…きちんと伝えるべきですわね。」

 

「もちろん体調が戻れば話すが…何故そんなに念を押す?」

 

そう言うと彼女は目を閉じ、頭痛を堪えるように手で額を押さえた…どうしたと言うんだ、一体?

 

「…確かにな。本来、俺たちよりも先に伝えるべきだったと思うぜ?最も風邪で寝てるんだからしゃあねぇっちゃしゃあねぇがな。」

 

「君までそう言うのか…一体何故「お前な、まさか未だにそう言うの分からねぇって言うんじゃねぇだろうな?」……」

 

「考えても見てくださいな…好意を抱いてる殿方が自分の知らない女性の事を気にしてるのが耳に入ったら…」

 

「なるほど…嫉妬か。」

 

「お前、寝室に遠坂がいる状態でガキに話したんだよな?仮に聞かれてたら面倒な事になるんじゃねぇか?」

 

「…不味いと思うか?」

 

「実際、相当不味いと思うぜ?遠坂の性格的に部屋抜け出してそのコンビニまで行くんじゃねえか?」

 

「しかし…彼女は場所を知らない「どう考えても寝てるべき状況で自分は元気だと騒ぎ出す程、冷静さを失ってるならそれでも出て行くんじゃねえか?」…昨夜は特に動きが無かったが…」

 

「それはそうでしょう…昨夜はイリヤスフィールに加えて貴方がいたのですから…ですが、貴方は今、ここにいる。」

 

「悪い事は言わねぇ。急いで戻った方が良いと思うぜ?」

 

「ああ…」

 

 

 

病院を出た所で携帯が鳴る…イリヤか。

 

「もしもし「もしもしシロウ!?」ああ。どうした?」

 

「リンが「部屋はもぬけの殻か?」そうなの!私、ちょっとウトウトしちゃって気が付いたら…どうしようシロウ!?」

 

二人の話が現実になったか…

 

「落ち着け。私が心当たりを探すから君はそのまま部屋にいるんだ。」

 

「でも私のせいで…!」

 

「イリヤ、君のせいじゃない。看病で疲れていた以上、少し寝てしまっても仕方無いし…それに出て行ったのは彼女の意思だ。」

 

そうだ、イリヤは悪くない…寧ろこの状況を容易に想像出来たのに二人を残して出て来た私に非がある。

 

「とにかく、君は部屋で待ってるんだ…何、彼女だって自分の身体の状態は分かってる筈だ…無茶はしないさ。」

 

イリヤを安心させる為、私はそう口にした…いや…私自身がそう思いたいだけなのだがな…

 

「分かった…部屋で待ってる…」

 

「ああ…大丈夫、すぐに見つかるさ。」

 

電話を切る…さて。

 

「何処を探したものか…」

 

私も昨夜たまたま入っただけで普段コンビニになど行く事は無い…昔ならともかく、少なくとも今はそうだ。

 

「この付近のコンビニを虱潰しに探すしか無いか…全く本当に手間をかけさせてくれる女性だよ。」

 

そんな面倒な彼女が私はどうしようも無く愛おしいのだがな…



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北条悟史のカケラ紀行1

僕が目覚めてから既に半年程の時が経つ。

……今僕は出遅れた時間を取り戻そうと必死だ。

皆は確かに僕を待ってくれているのは伝わってくる。

でも……

 

「よう!俺は前原圭一だ!宜しくな!」

 

僕が目覚め病状が快方に向かい詩音以外の皆が来るようになった時僕は唖然とした。あれだけ衰弱していた沙都子は元気になっているし、毎朝僕に顔を見せに来る詩音はちゃんと園崎詩音として分校に通えるようになったと言う。そして一番の変化は……彼だ。

 

僕が眠る前には居なかった彼を中心に皆の笑顔が絶えなかった。

……あの頃は皆何処か陰を背負っていたのに……今は何もかも吹っ切れたのかのように笑っている。

 

彼の事は嫌いじゃない。彼は戸惑う僕に積極的に話しかけてくれたし身体も気遣ってくれた。……でも複雑にはなる。

……別に彼の立ち位置に僕がいたなんて自惚れるつもりは無い。でも僕には分かった。

 

……たとえこのまま皆の元に戻っても眠る前と何も変わっていない僕は胸を張って皆の仲間だなんて言えないって。

 

最後までいてくれた詩音はさっき帰ってしまった。最近一人になるとこんな事ばかり考えてしまう。

 

「……僕はどうすれば良いんだろう…?」

 

もうさすがに身体のリハビリも佳境に入っている。始めた頃は早く元の生活に戻ろうと必死で余計な事を考えてる暇も無かった……でも……

 

「……元の生活って……何だ…?」

 

沙都子はあの家を出て今は梨花ちゃんと一緒に生活しているという。……村の大人たちと和解しているし時々詩音の助けもあって生活はあの頃よりずっと充実しているらしい。……それに沙都子も言動こそまだまだ子供っぽいけど無理に背伸びをしていたあの頃の僕よりずっとしっかりして見えた。

 

「……帰りたくない…。」

 

もうここには僕の居場所なんか無い気がした。……やっぱりあの時思ったように僕は村を出ていくべきだったんだ。

 

「……今なら……」

 

当初僕には異常な程監視が付いていた。……当時は反感を持ったけど、今なら分かる。あの時の僕にはそれくらい当然だったと。

 

……そして今なら誰も居ない。

 

「……この村を出よう。そうだ。それがいい。」

 

僕は掛け布団を退けるとベッドから降り……

 

「……ノック…?」

 

気のせいじゃない。確かに聞こえた……もう面会時間はとっくに過ぎている。……いや。それよりも……

 

「……もしかして今のを聞かれた……!?」

 

僕は急いでベッドに戻ると何食わぬ顔で告げた。

 

「…ど、どうぞ…」

 

「…失礼しますです。」

 

……聞き覚えのある声だ。この声は確か……

 

「…羽入…?どうしたの?こんな時間に……」

 

入って来たのは古手羽入だった。確か梨花ちゃんの親戚の子とか聞いたけど……

 

「もちろん、お見舞いなのです。……ちょっと時間は遅いですけど、ね。」

 

……彼女は何故か巫女服を来ていた。脇の部分だけ袖が存在しない妙な巫女服だ。

 

「…元気が無いみたいですね。どうかしたのですか?」

 

「……なんでもないよ。」

 

……こんな話彼女には出来ない。

 

「…不安なのですね、悟史。皆の元に戻るのは怖いですか?」

 

「…そうだね、うん。怖いよ……」

 

バレてるなら仕方ない……そう心の中で言い訳しつつ僕は喋ってしまった。

 

「怖いんだ。僕は変わらないのに皆は僕が眠ってる間に変わってしまったんだ……」

 

「…でもきっと皆は悟史を受け入れてくれます。」

 

「…そうだろうね。だけど、駄目なんだ。僕の方が疎外感を感じてしまうから……」

 

失った時間は取り戻せない。僕は何より大事なものを無くしてしまった……

 

「進んだ時間は戻せません。でも、もし……皆が乗り越えて来た時間を貴方も過ごせるとしたらどうですか…?」

 

そんな事出来るわけは無い。でも、もし叶うなら……

 

「僕は皆が見たものと同じものを見てみたい……」

 

「…その言葉に偽りはありませんか…?」

 

さっきから彼女は何を聞いているのだろう…?

 

「…そうだね、うん。僕は皆と同じ時間を過ごしたい。」

 

「……分かりました。では、行きましょう。」

 

彼女が差し伸べる手を僕は戸惑いながら取った。

 

「…え!?」

 

「これは今夜一晩だけの夢です。でも、貴方にとっては長く、辛い時間になるでしょう。今一度問います。貴方は皆が乗り越えて来た辛い惨劇に挑む勇気はありますか?」

 

僕の目の前には見慣れた病室では無く闇が広がっていた……

 



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北条悟史のカケラ紀行2

「…ここは…!?」

 

「カケラの世界なのです。」

 

「カケラの、世界…?」

 

「…雛見沢では今の未来を皆で勝ち取るまでたくさんの悲劇がありました。……ここはそんな悲劇の起こり犠牲者のたくさん出てしまった雛見沢のカケラが集まる世界なのです…」

 

 

「…ここはパラレルワールドの集まる世界…?」

 

「簡単に言えばそうです。……そしてある人物はこの雛見沢の全ての悲劇を見て来ました。」

 

「…そんな……」

 

たった一人で人が死ぬ光景を見続けるなんて……

 

「……」

 

羽入がいつの間にか流れていた涙を指で拭ってくれていた。

 

「…泣かないで下さい。その人はもう仲間と協力して悲劇を乗り越えました。……もう一人じゃありません……」

 

「…その人は、誰…?」

 

羽入が伝えてくれてる時点で何となく分かるが一応聞いてみる。

 

「僕の口からは答えられません……」

 

「…僕はこれから…その人と同じ体験を…?」

 

「…それは……無理です。その人は体感で百年分のカケラを見て来ました。……ここと現実世界は時間の流れが違うとはいえ、一晩では足りません。」

 

「…百年!?」

 

そんな、途方も無い時間をたった一人で……!?

 

「…悟史、貴方にはその中でも特に酷かったいくつかのカケラを見てもらいます。もちろん、当事者として。」

 

「でも僕は……そっちの世界でも眠ったままじゃ…?」

 

「…貴方が叔母を殺した事実は無かった……今から体験するのはどのカケラもそういう前提の世界です……」

 

「……」

 

「…止めたいですか?今ならまだ間に合います……」

 

「…いや、行くよ。……僕は皆と同じものを見てみたい。例えどれほどの悲劇だろうと。」

 

そうだ。そうしなければきっと僕は一歩も前に進めない。

 

「…分かりました。……僕から一つお願いがあります……」

 

「…何かな?」

 

「どうか……彼女を守って欲しいのです……。全ての悲劇の中心にいる彼女を……」

 

「…分かった。約束は出来ないけれど出来るだけ守ってみせる……」

 

「…悟史、ありがとうなのです。……でも無茶はしないで欲しいのです……仮にその世界で悟史が死んでも実際に現実の悟史が死ぬ事はありませんが悟史はその事をずっと覚えているのです……それはとても辛い事なのです……」

 

「…分かった。気を付けるよ……」

 

「悟史、本当に良いのですか…?僕だって本当は悟史に辛い目に…わっ!」

 

僕は彼女の頭を撫でる。

 

「…さっ、悟史?何をしているのですか…?」

 

「何って頭を撫でてるんだけど……嫌だった…?」

 

「いっ、嫌では無いのです……でもどうして、急に…?」

 

「…羽入が悲しそうな顔をしてたから。……ねぇ羽入?大丈夫だよ。僕は挫けない。絶対にその人を守って帰って来るから。そして皆の本当の仲間になるんだ。」

 

「…悟史…」

 

「だから、笑って送り出してよ。僕は大丈夫だから。」

 

「…悟史……分かりました。行ってらっしゃいなのです。」

 

そうして笑顔を浮かべた彼女の顔を最後に僕の意識は途切れた……

 

 



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北条悟史のカケラ紀行3

「……起きて……し」

 

誰かの声が聞こえる……僕を起こそうとしているらしい……こんな穏やかな気持ちで眠れるのは久しぶりだからもう少し寝かせてくれると……

 

「にーにー!いい加減起きて下さいまし!」

 

その言葉共に布団を剥ぎ取られ僕は慌てて起きる

 

「うわっ!……あれ?」

 

「ようやく起きたんですのね!早く用意を……にーにー?何処か具合でも悪いんですの…?」

 

目の前には沙都子の心配そうな顔……

 

「…いや、大丈夫だよ、沙都子。」

 

何が起きてるのか分からないけど沙都子にそんな顔させちゃいけない。

 

「…本当ですの?病み上がりなんですから無理はしないで下さいましね?……さっ、大丈夫なら早く着替えて来てくださいまし!朝ご飯が冷めてしまいますわ!」

 

そう言って沙都子は部屋を出て行った……ふぅ。

 

「…僕、入院してた筈だよな…?」

 

少なくともいきなり退院出来る状態では無かった筈だ……何せ長い間寝たきりだったせいでまともに歩く事すらままならなかったんだから……

 

「…んっ…」

 

取り敢えず立ち上がってみる……異常は無い。僕は部屋を見渡した。

 

「…僕の部屋?」

 

そこは北条家の僕の部屋だ。……一体何が起こってるんだ…?

 

「…着替えるか。」

 

見慣れた部屋だ。勝手は分かる。タンスに向かい、開ける

 

「…僕の服…」

 

雛見沢分校用のシャツとズボンを見つけた。……そう言えば……

 

「…今は夏なのか…」

 

そう認識すると急に暑くなってきた……良く扇風機も無いこんな部屋で二度寝しようと思ったものだ。

 

「…暑い…」

 

……着替えを終え茶の間に向かう

 

「遅いですわよにーにー!急がないと遅刻してしまいますわ!」

 

「みぃ。悟史はお寝坊さんなのです。」

 

そこにいたのは沙都子と……梨花、ちゃん…?

 

「…むぅ…ごめん。」

 

変だとは思ったが待たせたのは事実なので取り敢えず謝る事にする。

 

「もういいですから早く座って下さいませ。冷めてしまいますわ!」

 

「僕はもうお腹ペコペコなのです。」

 

「……別に先に食べててくれても良かったのに。」

 

ついそんな事を言ってしまう。……入院中は一人で食べる事が多かったから……学校がある以上平日は詩音も基本的に食事時にはいないし……

 

「何言ってるんですの!家族なんだから一緒に食べるのは当たり前ですわ!」

 

「…家族…」

 

僕は久しぶりにそんな言葉を聞いた気がした。

 

「…みぃ…早く食べようなのです。」

 

梨花ちゃん……多分気を使ってくれたんだろうな……

 

「…ごめん、食べようか。」

 

『いただきます』

 

三人で声を合わせ挨拶をする……。何となくそれも新鮮だった。

 

朝ご飯は白いご飯に煮物と味噌汁……多分残り物なんだろうけど僕は何時も見た目も何処と無く味気無い病院食が多かったから不思議と凄く美味しそうに見えた。……煮物を箸で摘んで口に入れる……美味しい。

 

「…沙都子、この煮物美味しいね。」

 

「!…なっ、何言ってるんですの!?昨日と同じ味付けですわよ!?」

 

「それは沙都子が作ったのですよ。」

 

「りっ、梨花ぁ!?」

 

……そっか。沙都子が……何となく涙が込み上げて来て二人が軽く口喧嘩してる間に必死で拭った。

……僕が欲しかった物が今ここにある。何が起きてるのかは分からないけど僕は今ここにいる。

 

僕は止まらない涙をこっそり拭いつつ朝ご飯を食べ進めた……



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北条悟史のカケラ紀行4

朝ご飯を食べ終わり取り敢えず冷静さを取り戻す……そうそう僕は羽入に会って……つまりここがカケラの世界…?

 

『悟史……』

 

「…えっ?」

 

声が聞こえ後ろに振り向くと羽入が立っていた……

 

「…羽に『シー。』え?」

 

「にーにー?どうしたんですの?」

 

「…えっ、いや、ここにはに…!いや…何でもないよ。」

 

彼女は口元に人差し指を当て次いで首を横に振った。……どうやら沙都子たちには今の羽入は見えないみたいだ……

 

「なら急いで下さいまし!遅刻してしまいますわ!」

 

「みぃ。僕たちはもう支度が済んでいるのですよ。」

 

「ごめん。鞄取ってくるから。」

 

さっき所定の位置に鞄があるのは確認した……昨日のうちに用意は済んでいる事になっているらしい……

 

「…ふぅ。それで羽入?どういう事なの?」

 

『ここがカケラの世界なのです。ここに来る前の事を覚えてますか?』

 

「…さっきまで少し混乱してたけど……今は、うん、覚えてるよ。」

 

『…そうですか。取り敢えず学校へ行った方が良いですね、詳しい話は後で。……今、私は他の人には見えないので気を付けて下さい。』

 

「ごめん、羽入……」

 

周りに誰も居ない寂しさは僕には良く分かる……増してや今の羽入は周りに人が居ても誰にも姿が見えないのだ……

 

『…大丈夫です。慣れていますから……さっ、早く。』

 

「…にーにー何してるんですの!?先に行きますわよ!」

 

「ごめん!今行くから!本当にごめん、羽入……」

 

『…大丈夫です……でも学校には僕も行きますから……』

 

「うん。誰も居ない時は話しかけるよ。」

 

『…ありがとう、悟史……』

 

僕は鞄を掴み家を出る……

 

二人が話すのに合わせ僕は相槌を打つ。

……沙都子が僕の目の前で笑ってる……その事実が改めてただただ嬉しかった……

 

「悟史君、沙都子ちゃん、梨花ちゃん、おはよう!」

 

レナの姿が見えて来た……彼女は良くこうやって僕や沙都子を待ってくれていることが多かった……

 

「レナさん、おはようございますですわ!」

 

「レナ、おはようなのです。」

 

「おはよう、レナ」

 

「はぅー!沙都子ちゃんと梨花ちゃん今日もかぁいいよー!」

 

「ひぃ!にーにー助けて下さいまし!」

 

「みぃ!?悟史助けて欲しいのです!」

 

レナが二人を抱き抱え頬擦りし始めた……むぅ…久しぶりに見たけどやっぱり強烈な光景だなぁ…

 

「ほらレナ、急がないと遅刻するから。それに魅音が待ってるし……」

 

時計を見れば正直ギリギリだ。……というかこのままだともう一人の待ち合わせ相手である魅音を待たせる事になる……

 

「あっ!そうだね!魅ぃちゃんを待たせちゃいけないよね?よね?」

 

「……」

 

「……」

 

レナの頬擦りですっかり静かになった二人を連れ魅音の所へ向かう……



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北条悟史のカケラ紀行5

「…それで羽入?この世界では何が起こるの…?」

 

『…あぅあぅ…ごめんなさい悟史…実は僕にも分からないのです。』

 

あの後魅音と合流し、思いの外時間が押していたので挨拶もそこそこに学校まで全力疾走する事に…今はこの世界の事を認識してるから良いけど…当初の寝起き感覚だったらさすがにヤバかった…今は一時間目の授業が終わり僕は一人トイレに行くふりをして営林署側の廊下に来ていた。ここには生徒は来ないから内緒話には持って来いだ。

 

「…分からない…?」

 

『…カケラの世界は無数にパターンが存在します…僕にも全てを把握する事は出来ません…最終的にどうなるのかは判断出来ます。…ですが、それは今この場で言ってしまうと…』

 

「僕の為にならない…って所かな?分かった。頑張ってみる。」

 

…と、そうだこれは一応聞いておこうかな?

 

「羽入?無理なら良いんだけどもう一つ聞いていい?」

 

『何ですか?』

 

「…詩音がいないのは何となく分かるけど、圭一は?」

 

『…圭一は今、親戚に不幸があってここを離れていますです…。』

 

「そうなのか…あれ?でも、それって…」

 

僕は意識のはっきりしてから監督に説明された事を思い出していた…。

 

『鋭いですね…そうです…圭一は発症する可能性があります…。』

 

「そうか…なら僕は圭一の事を気にしていた方が良さそうだね。ありがとう、羽入。」

 

この世界での目的を決めた僕は教室に戻った…。

 

 

 

 

「…にーにー?聞いていますの?」

 

「!…ごめん、聞いてなかった…何?」

 

考え事をしていたら何時の間にか沙都子が僕の顔を覗き込んでいた…

 

「…本当に大丈夫ですのにーにー?今日は朝から可笑しいですわよ?」

 

「本当に大丈夫だから…」

 

これは…僕の問題だ…誰にも話せない…。

 

「…なら宜しいのですけど…具合が悪いなら言ってくださいましね?」

 

「うん。分かってる…」

 

「…もうお昼ですわ。早くご飯を食べましょう。」

 

「うん…」

 

そうか…もうそんな時間なのか…正直あんまり食べられる気がしないけど…こういう時こそ食べておかないとね…。

 

 

 

皆と席をくっ付けて座る…圭一がいない以上僕以外は女子しかいないんだけど…昔からそうだからもう慣れちゃったな…。

 

羽入の心配そうに僕を見る姿を視界の端に捉えながら箸を使い口に沙都子と梨花ちゃんの作ってくれた弁当箱の中身を口に運んで行く…味なんて分からない…時折皆が話しかけて来る…どうも僕を心配してくれているみたいだけど僕には相槌を打つことしか出来ない…。機械的に食べているうちに昼食の時間は終わってしまった…。



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北条悟史のカケラ紀行6

放課後僕と沙都子と梨花ちゃんは家に帰っていた。

 

「…にーにー、本当に大丈夫なんですの…?」

 

「…大丈夫だよ…今朝少し夢見が悪かっただけだから…。それより良かったの?別に残って部活に参加しても良かったんだよ…?」

 

この世界でも部活は行われているらしい…もちろん部長は魅音だ…そもそも沙都子のために魅音が始めたのが切っ掛けだったけど…この世界でもそうなのかな?

 

「何言ってるんですの!そんなに辛そうな顔をして…!放っておけるわけ無いじゃありませんの!」

 

「みぃ…僕も悟史が心配なのですよ…。」

 

「…ごめん…。」

 

やっぱり僕って顔に出やすいのかな…?これからは気を付けないと。

 

 

 

「…それじゃあ私と梨花は夕飯の買い物に行ってきますから、にーにーは留守番をしていて下さいませ。」

 

家に着き鞄を置くのもそこそこにそう言う沙都子。…二人だけで大丈夫かな?

 

「…荷物持ち位ならするけど?」

 

「にーにーは今日は休んでいて下さいまし!」

 

「今日は元気の無い悟史のためにご馳走にするのですよ。」

 

「…むぅ…分かった…家で待ってるよ。」

 

…二人を見送る。心配だけどチャンスでもあった…羽入と話さなきゃ。

 

 

 

「…そう言えば羽入?聞き忘れていた事があったんだけど…」

 

『何ですか?』

 

「この世界と向こうとの違い、それから僕の立ち位置かな?」

 

『…そうですね、うっかりしてました…それじゃあ説明しますね?』

 

 

 

『まずこの世界では悟史は叔母を殺してはいません。…悟史の知るところでは別の人物が代わりに捕まったとなっていますね?』

 

「…うん…でも…殺したのは僕だ…。」

 

これは僕の罪だ。当時沙都子を助けるには他に方法が無かったけどそう言って正当化はしない。逃げてはいけないんだ。

 

『……この世界でも悟史はそうするつもりでした…ですが叔母は別の人物に殺されました…』

 

「…そうなのか…。」

 

『…経緯を聞きたいですか?』

 

「…いや、今は良いよ。そうだな…次は…どうして梨花ちゃんが僕たちと一緒に暮らしているの?」

 

彼女が僕や沙都子を家族として慕ってくれているのは分かるし素直にそれは嬉しい。…でも理由は気になる。…それに聞いておかなきゃボロが出るかも知れない…。

 

『…悟史の知る話では叔父はとっくに家に寄り付かなくなり、叔母は死に、悟史もいなくなり、一人ぼっちになってしまった沙都子に梨花が声をかけ二人で一緒に暮らし始めた…そうですね?』

 

「…うん。」

 

そうだ。僕は二人からそう聞いてる。

 

『この世界では逆です。悟史が動く事無くあっさり叔母は亡くなり、叔父は家にはおらず悟史は沙都子と二人で手を取り合い助け合って生きて来ました…そして少しでも生活に余裕が出てきた時、自分たちとは違い一人ぼっちの梨花に目が行きました。…そして悟史が梨花に声をかけこの家で一緒に暮らし始めました。』

 

「…そっか。」

 

『…詩音の事は聞かなくて良いのですか?』

 

「…この世界では詩音は雛見沢に来るの?」

 

『いいえ。この世界では詩音は雛見沢に現れません。』

 

「…なら取り敢えず良いよ。」

 

優先順位を考えなきゃ…僕をずっと支えてくれた詩音の事は気になるけど…今は悲劇を止める事を考えないと…。

 

『…悟史、分かってると思いますがこの世界は…』

 

「…うん。分かってるよ…この世界で僕が何をしても向こうでは何も変わらないって。」

 

ここは言わば記録の世界だ。もう悲劇が起きた世界…でも…

 

「だからって…僕は割り切れ無いんだ…仲間たちが傷つけあうのは嫌なんだ…!」

 

圭一、きっと君ならそうするだろう?例え無駄だとしても君はきっと悲劇を回避しようとする筈…だから…僕も…!

 

「…僕は止めるよ羽入。例え意味が無いとしてもこの世界の人たちを救いたい。」

 

『…悟史…分かりました。もう何も言いません。僕は貴方を応援します。』

 

「…ありがとう、羽入。さて、そうと決まれば…」

 

まずは自分がこれからどう動くか考えないとね…。

僕はこれから起きる可能性がある悲劇のパターンを少しでもまとめて置こうと机に向かった。

 



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北条悟史のカケラ紀行7

「良しっ、と。」

 

僕はノートからこれからの事を書き込んだ部分を千切った。

 

「…ねぇ羽入、こんな感じでどうかな?」

 

『どれどれ…特に問題は無さそうですね…でも…』

 

羽入が不安そうな顔をする…大丈夫だよ。

 

「うん。分かってるよ…僕が動く以上必ずこうなるとは限らないんだよね?」

 

悲劇が起きると分かっている僕がいる以上、そう簡単に事件を起こさせるつもりは無い…と言いたい所だけど…起きると想定して動く僕がいる以上予想も出来ない展開になる可能性は否定出来ない…それに…

 

「…ねぇ羽入?」

 

『何ですか?』

 

「…実を言うと良く分からない事があるんだけど…」

 

『…どうぞ、聞いて下さい…今の悟史になら、大抵の事は答えられますから…』

 

「…それじゃあいきなり核心に触れる事になると思うんだけど…そもそも皆から聞いた話だと昔から雛見沢に存在する山狗っていう組織が一連の事件の黒幕だと聞いてる…裏で始末をしたりもするけど…大抵は僕もかかっていた雛見沢症候群にかかっている人を利用したりするって…」

 

僕は皆から聞いた話を冷静に分析する…いや、皆の場合、僕を楽しませるためなのか、それとも素直にそういう印象だったのか分からないけど…大抵はラストの山狗との肉弾戦の辺りばかり掘り下げて一番大事な切っ掛けの部分をぼかすからこっちである程度考えないといけないんだよね…

 

「それで良く考えたら仮にも訓練された軍人もいたって言う山狗の連中を出し抜いて皆が今回の悲劇を防げたって言うのがどうしても納得行かなくて…でさ、羽入?」

 

そこで僕は一旦口を閉じて深呼吸する…羽入は僕を黙って見ている…まるで推理小説の探偵役をやってるみたいだ…観客は一人しかいないけど、こういうのはやった事無いから緊張する…それと同時に興奮もしてるけど。

 

「すっごい荒唐無稽な事言うよ?もしかして皆には他の世界の記憶があったの…?」

 

『はい。その通りですよ、悟史。』

 

あっさり笑顔で肯定されて、思わず座っていた椅子から転げ落ちそうになる…僕が記憶を持ったままここにいるわけだしそういう事もあるかと思ったけど…えっ?本当に?

 

「…じゃ、じゃあ皆もカケラの世界の事を『それはちょっと違いますかね』えっ?」

 

『皆はカケラの世界の事を認知していたわけではありません…ただ、確かにあったのです…疑心暗鬼により仲間や家族、そして、最期には自分自身すら殺してしまった過去の記憶を…』

 

『僕とずっと世界を渡って来た「梨花ちゃんだよね?」…その通りです…僕と梨花以外、誰も過去の事は覚えてないのだと思ってました…そして梨花が真実を話しても大抵は信じて貰えず、悲劇は起き、生き残った仲間もバラバラのまま、梨花は一人、殺されてしまう…それがずっと続くのだと思っていた…でも、皆の中にも確かにその記憶はあった…そしてそれは梨花と関わった他の多くの人の中にも…皆が悲劇が起きる、そして梨花が殺される…その事実を正しい物であると認識して行動出来たから…私たちは運命を打ち破れた。』

 

「…つまり、僕は…」

 

『皆が勝ち取った未来を一人で手繰り寄せなければなりません。…貴方に出来ますか?一人で悲劇に立ち向かう事が?』

 

……決まってるよ羽入。

 

「…出来るよ。僕は運命に屈しない…でも一人じゃないよ?羽入がいるし、僕には他にも仲間がいるんだ…記憶が無くたって僕が皆を引っ張っれば良い。」

 

……それが出来ないと僕は圭一に胸を張って仲間だって言えないからね…記憶が有ろうが無かろうが皆を纏め上げたのは間違いなく彼なんだから…



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北条悟史のカケラ紀行8

そうして数日が過ぎ、圭一が帰って来た。

 

「よう!悟史!」

 

皆に挨拶して最後に僕にも声をかけてくる。

 

「おかえり、どうだった?久しぶりの都会は?」

 

「う~ん…やっぱり俺はこっちの方が良いな、何か向こうにいる間も落ち着かなくてよ。」

 

「…そっか。」

 

彼の言葉に嬉しさを感じると同時にやっぱり…という思いがあった…後で羽入と話そう。そのうち知恵先生がやって来たので僕は一旦考えるのを止めた。

 

 

 

授業中、僕はトイレに行くと知恵先生に伝えて廊下に出た。

 

「羽入。圭一の事、どう思った?」

 

『…悟史はどう思うのですか?』

 

僕がどう思うのか、か…この問題は先ず僕が答えを出さなきゃいけないって意味なのかな。

 

「…故郷に帰った筈なのに、感想を聞いたら妙に浮かない顔だったね…」

 

今の所根拠はこれしかないけど…

 

「羽入、圭一は雛見沢症候群を発症しているんだね?」

 

『……そうです。』

 

「発症原因は雛見沢から離れた事か…どうしようかな…」

 

『……』

 

「圭一が僕を信用してくれてる間は僕は大丈夫だろうけど…何とも言えないな…味方が僕だけだと判断したら僕以外を攻撃するかもしれない…」

 

『どうするのですか、悟史?』

 

「…今からどうしようか考えてもしょうがないかな…成り行きに任せるよ……鷹野さんの動きを封じられるのならそれで良いんだろうけと…」

 

接触してしまったらそれはどうしようも無い…僕も四六時中圭一に張り付いてる訳にもいかないからね、他の仲間を狙う可能性もあるし。……一番良いのは僕に接触してくれる事だけど。

 

「治療薬を投与されてる僕は現状発症しないからね…僕に接触してくれるのが一番話が早い。」

 

『でも、そうなると悟史は「どうなるかは分からないよ?でも、こうでもしないと今の僕は戦えないからね…仮に向こうの世界の圭一が知ったら止めるのかもしれないけど」悟史…』

 

「そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。僕に接触するかは分からないし、というか目下一番発症しそうなのは圭一なのは鷹野さんたちも気付いてると思う、なら圭一に接触して来る可能性が一番高い…でも、それなら対処のしようもある…」

 

『それは?』

 

「雛見沢症候群を発症した人は疑心暗鬼に囚われ、他人を簡単には信用出来無くなる…だから嘘を吐かず、ありのままを伝え、心の壁を破る勢いで拒絶されても全力でぶつかればこの病気を抑えられる…僕は、圭一たちにそう教わったんだ。」

 

『悟史、それはとても危険な事なのです…口で言う程、簡単じゃありません…本当に貴方に出来ますか?』

 

「……正直即答は出来無い…分かってるよ…僕は怖い…仲間に傷付けられるのが、そして傷付けることが…でも、僕は黙って見過ごすのは嫌なんだ…だから逃げないよ、羽入。」

 

『悟史、貴方がどういう選択をしようと僕は最期まで見届けます…だから頑張って。』

 

「うん…ありがとう、羽入。」



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人類最後のマスターが車椅子だったら1

タイトル通り


「あー!もう!どうしてこうなるのよ!」

 

今、私藤丸立香はつい数分前に会ったばかりの女性オルガマリー・アニムスフィアに背負われてる状態だ

 

「……すみません。所長、足手まといになっちゃって……」

 

「ホントよ!何なのよ!もう!」

 

「所長!口ではなく足を動かしてください!追いつかれます!」

 

前を行く盾を持った少女マシュ・キリエライトが怒鳴る

 

「分かってるわよ!」

 

後ろからは骸骨の戦士スケルトンが追いかけてくる

 

この状況に至るまで本当に大した時間は経ってない

私は何故こうなったのかを改めて思い起こす

 

 

 

「■■■!畜生!」

 

一人の少年が強大すぎる敵に向かって行く情景

ダメだ!勝てない!

そう思ったところで

 

「……あの、先輩、今は朝でも昼でもありませんから起きてください」

 

そんな声が聞こえ私は意識を戻していく

……不思議な夢を見た気がする。そう思いながら私は目を開くとどことなく見覚えのある少女が私を覗き込んでいた

 

「……あの、私の顔に何か?」

 

「……!ううん!違うの!何でもない!」

 

目の前の少女に見覚えは無いはずだ

でも何処かで……

 

「……そうですか。あの私はマシュ・キリエライトと言います。先輩の名前は?」

 

「……え?私?私は藤丸立香。」

 

「……藤丸立香。ええ。覚えました。ところで立香先輩はどうして床で眠っていたのですか?そういう体質とか?」

 

「……え?私?いや。そんな事な……」

 

私は周りと自分を見比べ確かに床の上に寝転んでいることを確認した。というか……

 

「……えーっと、というかマシュだっけ?ここは何処なの?」

 

「……はい。私の名前はマシュで合ってますよ。ここは人理継続保証機関フィニス・カルデアの廊下です」

 

カルデア?それって確か……

 

「マシュ?どうしたのかね?」

 

「あっ、レフ教授。今先輩が床で眠ってるのを見つけたので……」

 

「……ふむ。先輩か、ほうほう……」

 

その人はこちらに近づいて来た

何だろう?親しげに近寄って来てるけど何かこの人は信用しちゃいけない。そんな感じが……

 

「……恐らく初めての量子ダイブの影響だろう。大丈夫かね?私はレフ・ライノール。ここカルデアに務める技師だ」

 

「……あっ、藤丸立香です」

 

「……藤丸立香……君が資料に合った最後のマスター候補だな。ようこそ、人理保証機関フィニス・カルデアへ」

 

「……あっ、はい!よろしくお願いします!」

 

「……ふむ。元気で結構。とりあえず君に用意された部屋に案内しよう。今行っても所長に大目玉を食らいかねないからな……ああ、君は車椅子だったな。ふーむ……あそこか。すまないがマシュ、彼女の車椅子を取ってきてくれないか?」

 

「はい。分かりました」

 

そしてレフさんは私の方でしゃがみこむと身体の下に手を入れて抱き上げた

 

「……すまないが少しじっとしていてくれたまえ。」

 

「はい。すみません」

 

「何。気にするな」

 

「……教授。持ってきました」

 

「ありがとう。マシュ、すまないが先に行って所長に私は遅れると伝えてくれないか?私は彼女を部屋に案内してくる」

 

「分かりました。では先に行ってますね。それじゃあ先輩、また後で」

 

「うん。ありがとね、マシュ」

 

「……さて、行こうか」

 

「……すみません。来て早々迷惑をかけてしまって……」

 

「……気にしなくていい。これから一緒に働く仲間なんだから当然だよ」

 

そして彼は車椅子を押していく

その間黙ってるのも変なので彼と会話をした

と言ってもまだ私には話せないことも多いらしく世間話程度だったが

 

「さっ、ここが君の部屋だ」

 

そう言ってレフさんが扉の横に合ったパネルを操作すると扉が自動で横滑りして開く……

 

「……んあ?げぇっ!レッ、レフ!?なっ、何でここに!?」

 

私の部屋には先客がいた

驚いてレフさんの方を見ると頭痛を堪えるようにこめかみを押さえながら

 

「……ロマニ・アーキマン……貴様こんな所で何をしている……」

 

私の部屋にいた人はロマニと言うらしい

というかレフさん、ちょっと怒ってる……?

 

「……いっ、いや、それは……ほら……そう!あれだよあれ!えーっと……」

 

初対面の私でも分かった

あれは完全に誤魔化そうとして失敗している

 

「……まあいい。私はこれからAチームのレイシフトに立ち会わなければならん。先に行ってるから私が呼ぶまでは彼女の相手をしていてくれ」

 

「えっ!?ちょっ、ちょっとレフ!?」

 

「それでは立香君、また後で」

 

レフさんは有無を言わせず私を部屋の中にいれると部屋を出ていってしまった




藤丸立香(ぐだ子) お馴染み人類最後のマスター
生まれてから一度も歩けたことがなく車椅子である
医学的には異常が無く彼女自身諦めていたが
後にカルデア式検査で魔術的な呪いが原因である事が判明
しかし古代魔術によるもので結局現代魔術では治療不可能であった
呪いによるフィードバックが凄まじいため礼装魔術すら使えない
幼い頃から人の好意、悪意に晒されたため雰囲気でその人物が善人か、悪人か判断できることがある


しょせんネタなのでここで切る
というかどっかで見たことがある事に大半書き上げてから気付いた
まあ文句が来たら消すことにしよう


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人類最後のマスターが車椅子だったら2

「……マスター、起きたまえマスター、こんな所で寝ていては風邪をひくぞ」

 

揺さぶられる感覚で私は目を覚ます

 

「……んあ……エミヤ…さん?」

 

 

「……マスター、また資料を読み込んでいたのか?」

 

「……え〜と……はい。ごめんなさい」

 

「……根を詰めすきだ。時計を見たまえ。もう深夜だ。何時ぐらいからここに居るんだ?」

 

「……あの……夕方から……?」

 

溜息をつかれた

 

「……もう君に何を言っても無駄なのは分かっている。取り敢えず送って行こう」

 

「え?いや。大丈夫ですよ。」

 

拒否をしても有無を言わさず彼はもう車椅子に手をかけている

私は抵抗を止めた

 

無言で資料室を出る

……エミヤさんに迷惑をかけた自覚はあるけど同時に感謝もしていた

というのも……

 

「……マスター、また例の夢を見ていたのか?」

 

「え?そうですけど…何で分かったんですか?」

 

「うなされていたからな。それもあって起こしたんだ。そもそも食事にも来ないから皆心配していたぞ?後でちゃんと謝っておくんだ。特にマシュにはな」

 

「……」

 

「……まあ今の君はマシュには会いたくないだろうな」

 

「……はい。」

 

別に私を先輩と慕ってくれる彼女が嫌いなわけじゃない。これは私の問題だ

 

カルデアに来てからある夢を見ることが多くなった

それは姿のはっきりしない多分サーヴァントと思われる者によってマシュが消されてしまう夢だ

 

……この夢に何か意味があるのかは分からない

でもこの夢を見た後はいつもマシュの顔を見るのがしばらく辛くなる……

 

「……夢の最後はいつも通りか?」

 

「……はい。」

 

夢の最後はマシュが消された事を怒った私と同じカルデアの制服を着た少年がそのサーヴァントに殴りかかるところで終わる

 

「……私からは何とも言えん。夢占いの知識も無いからな。ただ彼女には話すべきだ。私ではなく、な」

 

「……う……それは分かってるんですけど……」

 

理由も無く一方的に避けられるのは相当辛いことだというのは聞くまでもなく分かる

 

「……どうしてもあの姿が頭を過ぎるんです。自分でも折り合いを付けなきゃいけないと分かってるんですけど……」

 

特異点Fから帰ってきて以来所長を助けられなくて塞ぎ込んでしまった私を支えてくれたのは紛れもなく彼女なのだ。

 

「……全く。手のかかるマスターだ」

 

エミヤさんの苦笑を見て申し訳なくなる

 

特異点Fから戻ってから最初に召喚したサーヴァントが彼だったのは僥倖だったかもしれない。でもそれ以上に最初は警戒した

何せ特異点Fで戦ったサーヴァントと同じ姿をしていたのだから……

 

でも彼は厳しいときもあるけれどそれ以上に優しくてマシュとはまた違った形で私を支えてくれた

……あれから何人かサーヴァントを召喚して絆を育んだと自惚れ無しで言えなくも無いけど……やっぱりどうしても彼ばかりに今でも弱い姿を見せてしまう

 

「……さて、着いたぞ」

 

気づいたら部屋の前だった

部屋のドアが横滑りして自動で開く

 

「……人を呼んでこよう。さすがに着替えの補助は私がする訳には行かないからな。」

 

「……あの、エミヤさん……」

 

「何だね?」

 

出て行こうとする彼を呼び止める

 

「……今夜だけ一緒にいてもらう訳には行きませんか?」

 

またあの夢を見るかもしれない。そう考えると怖いのだ。甘えだと分かっていても今夜は一人になりたくない。

 

「……頼む相手を間違えているな。……まあいい。我がマスターの頼みだ。了解した。女性スタッフを誰か呼んでくるから待っていたまえ。」




書いてて甘すぎてむず痒くなった
にしてもこう話が浮かぶなら別にせめて短編で投稿するのも視野に入れるべきか


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人類最後のマスターが車椅子だったら3

「……立香君、検査の結果が出たよ」

 

「……どうでしたか?」

 

「……」

 

「……はっきり言ってくれていいですよ?覚悟は出来てますから。」

 

「……君の言っていた通りだよ。カルデアに来て最初に検査をしたのは特異点Fから戻って来てすぐ。その時は君の自己申告通り爪先から脛辺りまでの筋肉が完全に硬直してるのが確認出来た。物心着く前から足が動かないと言えば医学的には筋ジストロフィーと判断すべきなんだろうが明らかにそれとは症例が違った……」

 

「……」

 

「医学的には完全に原因不明。そこで魔術的な原因を疑ったところ……ビンゴだった。ただ古代魔術によるものだと分かり精通しているサーヴァントが来るまで保留にするしか無かった……」

 

「そして今回の検査の結果……筋肉の硬直は膝元まで確認出来た……」

 

「……そうですか」

 

「……すまない。僕たちでは君を助けることが出来ない……」

 

……幼いときからずっと言われ続けてきた事をこの歳になって改めて宣告される……慣れているつもりだったが全く堪えないと言えば嘘になる

私は血の滲んでるロマンさんの手を両手で包み込む

 

「……大丈夫ですよ。私はここにいる皆に助けられてます。……不謹慎ですけど少し楽しいし嬉しいんです。こうやって外の世界を見て回れることが。多分私はカルデアに来なければこんな体験できませんでした。」

 

「……立香君……」

 

「……だから、良いんです。まあ、でも強いて問題があるとすればこのままだと全ての特異点を修復する前に私が動けなくなることですかね……」

 

「……分かってるさ。そうならないようこっちも特異点の特定に全力を注ぐし君の身体の異常の原因も探る。だから君は自分の身体の事だけを考えていてくれ」

 

「…はい。」

 

「……じゃあ検査はこれで終わりだよ……ああ、そうだレオナルドが車椅子の調整をしたいそうだから研究室に寄っていってくれって。」

 

私は今多分困り顔を浮かべていると思う。

だって……

 

「……そろそろ魔改造されすぎて原型が無くなってきてるんですけど……」

 

「……うーん……まあ彼は彼で君の事を思ってやってくれてるんだろうけどね……いや、まあ多分……あんまりやり過ぎるようなら僕から言っておこうか?」

 

「……いえ。大丈夫です。私から言います。それに便利なのは確かですし……」

 

「……レオナルドお手製の使い捨て礼装システムは画期的だと思うよ、うん。」

 

「私は魔術が使えないですからね……」

 

詳しい事は分からないがなんでも私は魔術回路が一般人とは思えないほど多いんだそうだ。ただ……

 

「……まあ使えないと判断してるなら助かるよ……前みたいに特異点で血を吐いて倒れるとかやられるとこっちは気が気じゃないから。」

 

私にかけられてる魔術の影響で魔術を使用すると私にフィードバックがあるらしい

 

「……はい。気をつけます」

 

あの時はマシュが顔面蒼白で私を静止していたっけ。私は少しでも皆の負担を減らしたかったからあの時は何がなんでも魔術の行使を止めるつもりは無かったけど。

 

「……ただこれもずっと使えるわけじゃないですから」

 

この使い捨て魔術礼装は車椅子内の内蔵バッテリーの電気を魔力に変換して使用しているとか。故に……

 

「……それじゃあダヴィンチちゃんの所に行きますね」

 

私はいざという時は自身の魔力を使っての魔術行使を躊躇うつもりはない

 

……バッテリーの節約のため手動で車椅子を動かす……重い。バッテリーの小形化、軽量化+容量増はエジソンさんやニコラ・テスラさんの担当だが今の所これが限界だという……

 

車椅子を進めていく……別にカルデア内なら補給は出来るがだからと言って自動運転に頼り過ぎて腕が鈍るのも困る……

 

「……あれ?おかあさんどうしたの?」

 

「……あっ、ジャックちゃん」

 

「……おかあさん、どこか行くの?」

 

「……うん。ダヴィンチちゃんの研究室にね」

 

「……じゃあ私たちが車椅子押してあげるね!」

 

ジャックちゃんが車椅子に手を掛ける

 

「……じゃあ、お願いしようかな?」

 

「うん!任せて!」

 

……さすがに断れないかな。こんな純粋な笑顔向けられたら……




特異点修復の難易度は確実にルナティック……
というか時間制限……orz
安易に足治したらタイトル詐欺も良いところだしどうするか……


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人類最後のマスターが車椅子だったら4

「……おはようございます、先輩。」

 

「……おはよう……マシュ……」

 

……最近はこうやってマシュに起こされることが多い。マシュはマシュでカルデアのスタッフとしての仕事を任されているから他のスタッフやサーヴァントの誰かが起こしに来てくれることもあるけど……重要なのはこうやって誰かに起こされるという事だ

 

……つい数日前の検査でとうとう下半身全体が硬直した私はそれ以上に体調にまで変化が表れた

元々は夜更かしをしすぎなければ自力で目を覚まし身を起こす位はやっていた私が今では自分で目を覚ますどころか腕の筋肉こそ硬直していないものの力が入らず自力で起き上がることは困難になった

 

マシュに着替えをさせてもらい抱き抱えられ車椅子に乗せられる

……最近来たばかりのサーヴァントにこんな姿は見せられないから何とかマシュや古参のサーヴァントに世話をして貰って事なきを得ているけど……

 

「……先輩、大丈夫ですか?」

 

「……うん。大丈夫…だよ、マシュ……」

 

私は今どんな顔をしているのだろう…?

最近寝起きは勿論のこと、時々特異点修復に赴いたときでも意識が飛ぶ事が多い。

普段は何とか気を張っているけど……気を抜くと数分経っていたこともしばしばある。

 

「……今日の予定は覚えてますか…?」

 

マシュの問いかける声…私は答える……

 

「……何だっけ…?ごめんね、マシュ……忘れちゃったみたい……」

 

「……いえ。大丈夫ですよ。今日の予定はミーティングだけです。」

 

マシュは力なく笑う。そんな顔しないで……私は貴女にそんな顔をさせたいわけじゃない……

 

「……マシュ、他にも…予定、あるんじゃない…?忘れててごめんね?教えてくれる?」

 

「……今日は午後から私とナーサリーさん達と一緒に絵本を読む事になってます……」

 

「……そっか……ありがとう、マシュ。じゃあ、早くミーティング終わらせないとね……今何時だっけ……?」

 

頭がついてこないのか、最近私は時計を上手く認識できなくなった。口頭で伝えてもらわないと時間が分からない。今が早朝でないのは分かるけど……

 

「……午前十時過ぎですね……先輩、ミーティング前に食事をしますか…?」

 

「……ごめん……食欲無いみたい……マシュはもう食べた……?」

 

「……ええ。私はもういただきました。……先輩、少しでも良いから何か口に入れてください。点滴と薬だけだと限界がありますから……」

 

「……そうだね……分かった。じゃあ、食堂に寄って、くれる……?」

 

そう言うとマシュは少し顔を綻ばせてくれた。良かった。貴女にはずっとそうやって笑ってて欲しいから……



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人類最後のマスターが車椅子だったら5

僕は今点滴されベッドに横たわる少女の傍らに置いた椅子に座り彼女の様子を見ている

 

「……なあ、ロマニ……君がそこに張り付いてても状況は変わらないだろう?後は私が見ているから仕事に戻りなよ。」

 

「……レオナルド……僕じゃ、僕たちじゃあダメなのかなあ……」

 

「……」

 

「……辛いんだよ……こうやって彼女がただただ衰弱しているのを見るのがさあ……」

 

頬に水滴が流れ落ちる……泣きたいのは彼女の方なのに僕は……

 

「……私に聞かれたって分からないさ。……ただ私はそれでも彼女に自分が出来ることをするだけだよ。彼女がどう思おうともね……」

 

「……彼女は……この藤丸立香という少女は……責めないんだよ。誰も。……人や物に当たり散らしても同情こそされ、彼女自身が恐らく責められることは無いはずなのに……自分がどうなろうとも頑張ろうとするんだ……!」

 

両手を握り締める……ああ……何で、彼女は……

 

「……多分彼女は目が覚めればまた自分に出来ることをしようとする。彼女に休めとも言えない僕が許せなくなる……!」

 

「……ロマニ、もういい。もういいから……とりあえず君も疲れてるみたいだから仮眠をとってくるといい。少なくとも今仕事は出来ないだろう?……というか辛気臭い顔ぶら下げてないでとっとと寝て来い。」

 

「……僕に休んでいる暇なんて……!」

 

「……元々サボり癖のあった君が真面目にやるってだけで不安になるんだよ、こっちは。良いから寝て来い、なんだったら添い寝でもしようか?」

 

……急激に頭が冷えた。それは全力で遠慮したい。

 

「……分かったよ。引き継ぎが終わったら寝るよ。」

 

「……もう私が済ませてきたよ。君、どれだけの時間ここにいたか分かってる?」

 

僕はポカンとしていた。……えっ、そんなに?

 

「……分からないようだから言っておこうか?二時間はここにいたよ。……作業が進まないからって私に連絡が来たんだ。後は心配だから様子を見て来てくれとも言われたよ」

 

「……そうか。分かった。寝て来るよ。」

 

気付かないうちに多大な迷惑をかけていたようだ。

 

「そうしてくれ。大丈夫。立香君の事は私が見ておくから。」

 

シッシッと犬を追い払うように送り出される……えぇ……さすがにそれは酷くない……?

 

僕は病室を出る。……仮眠室に向かいながら僕はいるとも思えない神に祈る

 

……どうか、僕が眠っている間に、立香君の、容態が、急変しませんように、と。

 

 

 

「……そこにいるんだろう?出てきたらどうだい?」

 

ロマニのいなくなった病室で私は虚空に向かって声をかける

 

『……よく分かったね、ダヴィンチちゃん。』

 

私の目の前にカルデア制服を着た黒髪の青年が現れた。

 

「……それで?君は誰なのかな?」



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人類最後のマスターが車椅子だったら6

ただ、嬉しかった……こんな私でも誰かを笑顔に出来ることが分かったから……だから……

 

……そんな夢を見た

……サーヴァントは夢を見ない……つまり、これは……

 

 

 

……明日の仕込みをする……何度か手が止まるが首を横に振り作業を再開する……見知った気配だ……

 

「……何か用かね?夕食はもう終わったが?少なくとも君は食べていたはずだろう?」

 

食堂の方に振り返れば青髪の野性味溢れる男が見慣れた独特の笑顔を浮かべていた

 

「……小腹が空いちまってよ。何かねぇか?」

 

そんな彼に溜息をつきながら……

 

「……冷蔵庫の二段目に残り物が入っている。温めて食べたまえ。一段目と三段目には手を出さないように。」

 

「……おう。すまねぇな。」

 

「……食べ終わったら皿を水に漬けて置いてくれ。」

 

……返事が無かったがさすがに問題は無いだろう。

しばらく私が仕込みをする音と食器が奏でる音が響く

 

……やけに静かだな。いつもなら彼はなにかしらちょっかいを入れてくるはずだが……

 

「……ごっそさん。美味かったわ。」

 

「……食べ終わったなら食器を置いてさっさと行くといい。見ての通り私は忙しい」

 

ランサーが食器を水に漬けるのを横目で見つつ作業を再開……ハア…。

 

「……まだ何か用があるのかね?」

 

私は恐らく食堂の席に座ったままこちらを見つめている男に声をかける

 

「……聞かねぇのか?」

 

「……何をだね?」

 

「……嬢ちゃんの事だよ。」

 

私は思わず振り向いていた。そこには卓上に頬杖を付きつつも先程までのニヤけ面が消えた男がいた。

 

……ああ……そんな顔も出来るのだな……

妙な事に感心しつつ私は顔を前に戻す。

 

「……私がマスターの事で何を聞きたいというのかね?」

 

「……いい加減質問に質問で返すんじゃねぇよ。俺が何を言いたいかは分かんだろ?」

 

……声が低い。少し怒っているようだ。

 

「……何の事か私には分からないな。」

 

「……ああそうかい。なら俺は戻るわ。」

 

奴が席を立つのが分かる。私は……

 

「……待ってくれ。」

 

「……その、マスターの様子は、どうなんだ…?」

 

足音が戻って来る。やがてドカリと音を立てて奴が椅子に座ったのが分かった。トントンと卓を叩く音がする

 

「…?何かね?」

 

「……座れよ。」

 

「……見ての通り私は明日の仕込みが……」

 

「……俺が食ってる間もほとんど手ぇ動いてなかったぜ?良いからとっとと座れ。」

 

……仕方なく私は作業を中断し奴の対面の席に着いた。

 

「……待ってろ。」

 

そうして奴は席を立つ。……座れ、と言った癖にそのまま自分は席を立つとはどういうつもりなのか……と、そう思っていると、やがて厨房からグラス二つと、瓶を一本それぞれ片手に持ち戻って来た。そのままテーブル上に二つを置き瓶の栓を指で飛ばすとグラスに中味を注ぐ。

 

「……何の真似かね?」

 

「……見りゃわかんだろ。呑むんだよ……ンな顔すんじゃねぇよ。素面で語れるような話じゃねぇんだわ、これが。」

 

そうしてグラスを無言で掲げる奴に閉口しつつ私ももう一つのグラスを持つ。そのまま無言でグラスを合わせた

そのまま一気に奴がグラスを開けるのを見て私もグラスを干す。

 

「……さて、何から聞きたい…?」



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人類最後のマスターが車椅子だったら7

……正直に言えば一目でいい女だと分かった。

一見儚げで押しの弱そうな雰囲気。だが、実際は確固たる自分を持ち芯はしっかりしていた。

 

一時の逢瀬の相手ならともかく伴侶にするなら結局こういう女が良い。

……惜しむらくはまだ若いってことと俺が生身じゃないこと、……後は宝具を見せた瞬間に正体がバレ、俺のファンとか言って足が動かないハンデをものともせずに腕の力を頼りにこっちに物凄い勢いで這いずってこなきゃ完璧だったな……

 

……気に入ったとは言え状況が状況。気の利いた口説き文句すら並べられないまま別の女に付きっきりという不義理を犯し、かつ野郎の相手をし、そのバカをボコッてきてみりゃ既に決着は着いておりろくに会話も出来ないまま強制退去、だ。

 

……まあいい。次は俺の真骨頂であるランサーで呼んでもらおう。……術士はもう懲り懲りだ。なんて、呑気なことを考えていた。

 

……次に呼び出せれてみりゃどうだ……俺は愕然とするしかなかった。

……俺の気に入ったその女が青白い顔をしてガリガリに痩せ細り、焦点の合わないその目を必死に俺に向け、笑ってたんだ……

 

……俺はマスターへの挨拶もそこそこに何があったのか問いただしちまった。

こんなに取り乱したのは生前以来だろうよ。全く罪作りなマスターだぜ。

 

そして今……

 

「……あの……クーさん?……そうやってずっと見詰められると恥ずかしいんですけど……?」

 

「……ん?…おう。すまねぇ。あんま綺麗なんで見とれちまったわ。」

 

……棒読みにならないよう気を付けたつもりだ。そこにあったのは肌の張りを失い若くして既に女のピークを過ぎつつあるマスターの身体だったからな。……何処ぞのババアならともかくどんな理由があれ若い女を貶すほど俺は鬼畜じゃねえつもりだ。

 

「……そうですか。ありがとうございます……」

 

……どうも俺の気遣いは無用だったようだ。

 

「……なあ、嬢ちゃん、本当に良いのか?ルーンを直接肉体に刻んだ方が確かに効果はある。……だが刻んだルーンは要は刺青と同じだ。一生残るんだぞ?」

 

俺は何度目かも分からない問いを繰り返す。どうせこの嬢ちゃんがなんて答えるかなんて分かり切ってんのによ……

 

「…はい。お願いします」

 

さっきから繰り返される答え。……気に入らねぇ。

……別に元々戦士として生きてきた女や戦場にいる娼婦なら俺もとやかく言わねぇ。

 

……俺の時代には敵を倒す毎に強さの証として刺青を刻む女や客の趣味で刻まれる女なんてざらにいたからな。……つーか刻まなくても元々戦場で付いた傷が数え切れないほどあった……だがな……

 

「……何でそんな簡単に答えが出せる?一生残るんだぞ?現代の皮膚移植とやらでも完全に消えるかわかんないんだぜ?」

 

……戦場にも出たことのなかった女が必要だからってだけで身体を傷付けることをあっさり承諾出来るのが分からねぇ……疑問に思うより先にイラついてきやがる。

 

「……今の私は満足に身体を動かすことも出来ません……それじゃあ役に立てないですから……身体にルーンを、刻めば動くようになるなら……お願いします。」

 

……違う。俺はそんな事聞いてんじゃねぇ……この方法は対処療法にしても最悪だ、それぐらい分かる……今ならあの優男の無力感に共感できるぜ……つーかそれ以上にやっぱ気に入らないし解せねぇ……

 

「……俺は意気込みを聞いてんじゃねぇ。理由を聞いてんだ……さっさと答えな、何でテメェはそこまで出来る?」

 



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人類最後のマスターが車椅子だったら8

食堂まで車椅子を押す

 

「……おはようマスター。今日は元気そうだな。」

 

「おはようございます、エミヤさん。ご心配をおかけしました。」

 

「……元気になったのは良いがあまり無理をしないように。また倒れたらいけないからな。」

 

「…はい。分かってます。」

 

スープ一杯を頼み飲み終わるとエミヤさんと少し話して食堂を後にする

 

 

「……どうだったよ、嬢ちゃんは?」

 

ランサーが食堂に入って来る

……マスターが食堂を出て行くのを待っていたのだろうか……

 

「……元気そう、だったな……」

 

「……そうかい……」

 

「……で、ルーンの効果はどれくらいかね…?」

 

「……呪いの進行を抑えるのと衰弱した身体の補助……もって後二週間ってとこだ……低下した運動能力はもう戻らねぇしそもそも機能停止寸前だった臓器は俺にもどうしようも無かった……恐らくだが効果が切れた後ルーンを掛け直してももう無駄だろうな……」

 

「……そうか。分かった。」

 

「……アーチャー……」

 

「……何だね…?」

 

「……お前、俺より先にここに召喚されたんだろ?この状況についてどう思ってんだ…?」

 

「……質問の意図が掴めないな。」

 

「……そうかい。んじゃ俺は行くぜ。」

 

「……ああ。」

 

ランサーの気配が消える

 

「……どう思っているか?……さあ?私には分からないな。」

 

……私とマスターはそう長い時間一緒にいた事は無い。確かに彼女と接した時間は他のサーヴァントに比べたらマシュを除けば一番長いと言えるかも知れない。

 

……だが別にプライベートな会話をした事は無いしそれこそ恋焦がれている訳でもない。

……彼女を慕うサーヴァントは多い所か、ほぼ全員だろう。彼女の特性は悪い言い方をすれば典型的な人たらしだ。優先順位の全てが他人であることもそれに拍車をかける

 

「……私からすればまるで鏡を見せられているようなのだよ、ランサー……」

 

彼女と私は性格と性別の違いはあれどそのあり方は非常に良く似ている。

そして……

 

「……彼女は嘗ての私よりずっと危うく、脆く、儚い……」

 

気が付くと破戒すべき全ての符を投影してしまっていた

……慌てて消す

 

「……かつての自分を殺そうとしたこともあったが……彼女からは脇目も振らず逃げたくなる……」

 

……マスター……どうして君は……

 

 

 

「……実は聞いてたなんて言えねぇ雰囲気だな。」

 

「……ランサー、悪趣味ですよ。」

 

「……あんたも聞いてるじゃねぇか。騎士王さんよ。」

 

「…!わっ、私はただ……!」

 

「……今回は何言っても説得力ねぇと思うぜ。」

 

「……」

 

「……さてと、マスターの様子を見てくるかねぇ……」

 

ランサーが消えた……恐らく霊体化したのだろう。

 

「……騎士王……そんな肩書きに何の意味があると言うのか……」

 

……私は所詮少女一人救う事が出来ないのだから……

あの時と何ら変わってない。結局私では誰も救えないのかもしれない……

 

「……いえ。やめましょう。そんな私を彼は否定し、救ってくれた……彼女は慈しんでくれた。」

 

決意を新たにする……私はここにいる他の英雄達と何ら変わらない。

 

……人理のためではなく彼女の為に……

……結局私たちは出来ることをするしかないのだから……




ネタ切れ(FGOはエアプ)
というかこれだと全ての特異点修復する前にぐだ子が死ぬ


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人類最後のマスターが車椅子だったら9

私はまたあの夢を見る……この夢は見てて辛い。

 

マシュが消されて……そして彼が生身でサーヴァントに向かって……!

 

……?突然彼が動きを止めた。よく見るとサーヴァントも微動だにしていない。そして……

 

『……初めまして、かな?俺は藤丸立香。平行世界の君って事になるのかな?多分。』

 

彼がこちらを見て話しかけてきたのだ。

 

 

『……ごめん。君が苦しんでいるのは俺のせいなんだ……俺があの時魔術王に向かって行った時かけられた魔術が俺の死んだ後巡り巡って君に呪いとして降り掛かっているんだよ。』

 

私は気にしていないと告げる。

彼は……

 

『……ああ、うん。君なら多分そう言うんじゃないかと思ったよ。……俺も散々お人好しだとか頭がおかしいとか言われてたけど……うん。君の方が凄いと思う。』

 

……褒められているのか、貶されているのか分からない。結局彼は何を言いに来たんだろう?

 

『……ごめん。話が逸れたね。俺が君に確認したいのは一つだけだ。……君が呼んだサーヴァントの皆も気になってる事みたいだけど……君はどうしてそこまで誰かのために動けるの?俺と違ってハンデを抱えてる君の方が辛いはずだよね…?』

 

「……ストレートに聞いてくるんだね。うーん……そうだね……私ね、凄く欲張りなんだよ。」

 

『……欲張り?』

 

「そう見えないって顔だね。私は人の笑った顔を見るのが好きなんだ。大事な人なら尚更ね。お父さんとお母さんや親友、それから良くボランティアで行ってた孤児院の子たち……」

 

『……ボランティアやってたんだ。』

 

「……どっちがお世話されてるのか分かんないだけどねー……あの子たち皆凄く元気なんだよ!行くたびにいつも振り回されて疲れちゃって……本当に可愛くて良い子たちばかりなんだ。」

 

『……本当に楽しそうだね。……でも尚更分からないな。それだけ大切な人たちが待っているならどうしてそんなに自分を蔑ろにするのか……俺でもそこまで酷くは無かったよ。』

 

「……カルデアに来てから人の笑顔も泣き顔も一杯見て来た。……私は泣いてる顔は見たくない。傲慢だと思うけど、どうしても悲しんで泣いてる顔は見たくないんだ。……だから悲しませないように一人でも多くの人を助けたいと思ったんだ。」

 

『……』

 

「……私一人が助けられるのはせいぜい一人、頑張っても多分二人……ううん。もしかしたら一人も助けられないかもしれない……だけどマシュやサーヴァントの皆も協力してくれたらきっともっとたくさんの人を助けられる……!でも……やっぱり全員は救えない……だからね……」

 

『…!まさか……』

 

「……うん。多分貴方の思ってる通り。私はこう思ったんだ……もし、私が『私』の事を諦めたら……後一人は助かるんじゃないかってさ。」

 

 




続いた(白目)


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人類最後のマスターが車椅子だったら10

「……朝か」

 

私は枕元にあるスイッチまで力の入らない手をなんとか動かし押す

 

「……先輩。おはようごさいます……」

 

マシュが入ってくる。私は返事を返す

 

「……おはよう。マシュ……」

 

マシュが水の入った洗面器からタオルを取り出す。

 

「……身体、拭きますね。」

 

「……うん。」

 

マシュは無言で私の身体を拭いていく……

 

「……先輩。」

 

「……何…?」

 

「……何でもないです……ごめんなさい……」

 

彼女の手は膝下に掛かっていた。その先には……

 

「……大丈夫、だよ、マシュ……」

 

その先は何もなかった。

 

……クーさんにかけてもらったルーンは一週間で効果が切れた。そのまま意識を失った私は高熱を出した。

 

医務室にマシュが運ぼうとしたときとんでもないことに気がついたそうだ。

……私の足は爪先からふくらはぎまで腐り始めていた。

 

ロマニさんやサーヴァントの皆が手を尽くしたがどうにもならず私は意識のないまま足を切断された。

 

三日間高熱で生死の境をさ迷った私はやがて三日目の夜中に目を覚ました。

……違和感にはすぐに気付いた。一応手で触れて確認しようとしたが……動かなかった。

 

その後ずっと側に付いていたマシュが目を覚まし、ロマニさんと代表としてクーさんを呼んできて事の顛末を聞かされた。

 

……不思議と衝撃は少なかった。……土下座して床に頭を打ち続けるロマニさんにドン引きしたせいもあるかもしれないけど。

 

……何にしてもロマニさんは私の命を救ってくれたのだ。責めようとも思わなかった。

クーさんには予定より早くルーンが切れたことを謝られた。……気にしてないとしか返しようが無い……。

何より私のためにずっと頭を下げ続ける二人を見る方が申し訳なかった。

 

その後の検査で私の腕はもう動かないことが分かった。

再び土下座を始めそうになるロマニさんを制す

 

「……前に、言った、通りです……。私は、感謝することはあっても、責めたりはしません。……逆に人理復元の出来ないまま……私が死ぬことの方が、申し訳無いくらいですから……」

 

……あのときは混乱も多少あったとはいえもう少し言い方があったのではないかと思う。

あれ以来ロマニさんは私を避けるようになった。

ダヴィンチちゃんが怒ってたけど私はロマニさんを憎めなかった……

 

「……先輩?車椅子に乗せますね?」

 

「……うん……。」

 

マシュの声が聞こえ我に返る。よく見れば着替えも済んでいるようだ……車椅子に乗せられた私の頭に電極が取り付けられる。

……私の腕が動かないことが分かった後ダヴィンチちゃんは私の脳の電気信号を読み取って自動で車椅子を動かす機能を付けてくれた。

……ホントダヴィンチちゃんに頭が上がらないなあ……

 

「……行きましょうか、先輩」

 

「……うん。」

 

私の思考に反応し車椅子が前に進む。……皆が言う。もう休めって。でも私は決めてる……

 

……この命尽きるまで私は止まらない、止まれない。

それが、私がもう一人の自分とした約束であり私の譲れない思いだ……



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人類最後のマスターが車椅子だったら11

部屋のドアを軽く叩いた。

 

「……先輩?入りますね。……おはようごさいます。」

 

……返事は返ってこない。少し寂しいけれどもう慣れてしまった。

 

「……今日は少し顔色が良いですね、先輩……」

 

「……」

 

……少し身動ぎした気がする。もし聞こえていて反応してくれたのだとしたら嬉しいですね……

 

……少し前から先輩は声をかけても、揺さぶっても起きなくなり完全な寝たきりになってしまいました……

時折うっすら目を開けているときもありますが基本的に意識は無いそうです……

 

「……先輩?身体拭きますね?」

 

先輩の服を脱がす……あまりの酷さに一瞬目を背ける……先輩の身体はもうほとんど皮膚と骨だけしか残っておらずその皮膚も爛れてひび割れだらけ。とても若い女性の身体とは思えません……

 

「……」

 

……力を入れすぎないようにゆっくりと拭いていく……

 

「……先輩?髪梳かしますね?」

 

先輩の髪はもうゴワついて普通にやっても櫛が通らないので軽く霧吹きで濡らしてから櫛を入れます……

 

「……」

 

ある意味この時間が一番辛いかもしれません……艶のあって明るい色だった先輩の髪は今ではくすんだ白色ですから……

 

「……はい。終わりました」

 

私は起こしていた先輩の身体をベッドに再び横たえる

 

「……さてと。それじゃあ今日は何から話しましょうか?」

 

……最近の私はあまり先輩の所に顔を出せていない。

先輩が目覚めなくなって以来カルデアでは一命をとりとめた他のマスター候補の人たちの治療に集中し私はその手伝いに回っているからだ……

 

「……それでですね……」

 

話は尽きない。……サーヴァントの人たちは基本的にピークの状態で固定されて召喚されますが……それはあくまで能力の話。日々何かしら騒ぎを起こしていることが多々あります……楽しいです……忙しいだけなら気が滅入ってしまいますから……ドクターも胃薬の量が増えたと愚痴りつつも何処か楽しそうです……その日常に先輩が居ないのが残念で仕方ありませんが。

 

「……先輩、昨日もサーヴァントの方が去って行かれました……」

 

楽しいことばかりではない。最近はサーヴァントの方たちが契約破棄を申し出てくることが多いのです……

 

……その理由を皆さん多くは語らないのですが……理由は何となく分かります。何せ座に帰っていく人たちのほとんどが古参の人たちですから……

 

「……先輩?貴女は皆さんの役に立てないと良く嘆いていましたが貴女はこんなにも皆さんに好かれていたんですよ……?」

 

「……」

 

「……そろそろ時間です。先輩、また来ますね?」

 

先ほどまで座っていた席を立ち椅子を隅に避ける。背を向けドアの前に来たところで振り向きいつものように会釈をしようとして……

 

「……先、輩?」

 

我に返ったときにはもういつもの眠ったままの先輩の姿……でも、私の目には一瞬だけですが確かに先輩がこちらに笑顔を向けているように見えたんです……




一話抜けてた(焦)


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人類最後のマスターが車椅子だったら12

「……ん?ここは……」

 

私はどことも知れない場所で目を覚ます。

……どう見たってカルデアの私にあてがわれた部屋じゃない……これは……石造りの牢屋……?

 

「……目が覚めたか?」

 

声が聞こえた方を見ると見覚えの無い男性がいた

……警戒、しなきゃいけないんだろうけど……身体が動かない……

 

「……無理に動く必要は無い……いや。もう動きたくても動けんか……。どちらにせよ、お前はここで終わりだろうよ……。哀れだな」

 

「……貴方は……敵ですか……?」

 

こんなこと聞いたところで馬鹿正直に答えるとも思えない……でももう頭に靄がかかったみたいで思考も纏まらない……

 

「……どちらでもない。大体俺が敵だとして、お前はどうするつもりだ……?戦うのか?……お前は戦うどころかその場から動くことも出来はしまい。……大人しく受け入れろ……お前はここで終わりだ……」

 

彼の言葉が思考が纏まらなくても染み通るように認識される

 

……そっか……私、もう……

 

「……一つ……聞いても、いいですか……?」

 

「……何だ?哀れな女よ?」

 

「……貴方の、名前を教えて、下さい……。」

 

「……それを聞いてどうする?まあ、答えてやってもいいが、まずは貴様から名乗れ」

 

「……藤丸立香、です……」

 

喋るのも辛い……呼吸が上手く出来ない……でも最後に彼と会話をしなきゃいけない……そんな気がする……

 

「……藤丸立香、か。俺のことは巌窟王とでも呼ぶがいい。」

 

「……モンテ・クリスト伯爵……?」

 

「……驚いたな。俺を知っているのか?」

 

「……こういう言い方……していいのか、わからないですけど……私は貴方の物語を良く読んでいましたから……」

 

「……そうか。」

 

「……どうして貴方はここに……?」

 

「……さあな。俺からすればお前の方が不思議だがな。お前は今、嘗て俺のいた監獄塔を模した世界にいるのだからな。」

 

「……私が…?」

 

……心当たりが無い……レイシフトした記憶もないのに……

 

「……脱出しない、と……」

 

どうやって……?この人の言うことが本当なら私は……

 

「……そんな目で俺を見ても手伝わんぞ。今のお前に最早脱出など不可能だ。ここで眠れ。俺で良ければ付いていてやる。」

 

「……私……私は……」

 

もう彼の顔も見えない……石のように固まっている手をなんとか持ち上げると誰かがその手を掴んでくれた。

 

「……安心して眠れ。もう何も気にする必要は無い。お前は十分に役目を果たした。」

 

優しい声……でも……

 

「……私は……まだ……」

 

言葉とは裏腹に身体からなけなしの力も抜けていくのを感じる……眠い……マシュ……ごめん、ね……




特にアイデア浮かばなきゃこのシリーズは完結


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人類最後のマスターが車椅子だったら13

「…ここ、何処…?」

 

気が付いたら私は見覚えの無い場所にいた…

 

 

 

「……」

 

森の中を車椅子で進む…改めて考えてみる…本当にここ何処なんだろう…?私、確かカルデアの中にいたんだよね…う~ん…それは間違い無いと思うんだけど…何か直前の記憶が曖昧…何となく手を止めて、上を見上げる…

 

「青空…」

 

そこには最近久しく見てなかった青空が見えた…久しく…?カルデアの外には出れなくなってはいたけど青空ぐらいはレイシフト先でも……あ…

 

「輪っかが無い…」

 

そこにはレイシフト先の空に浮かぶ円環が無かった…あるのはあまり強くない陽射しを送ってくれる太陽と白い雲だけ。

 

「……」

 

違和感はまだある…私は今度は下を見た。

 

「車椅子が前のまま…」

 

レイシフト先にも持って行けるようになったこの車椅子はダヴィンチちゃんを筆頭にサーヴァントの人たちの手によって魔改造されまくっている…正直私でも扱いに困るどころか、把握しきれてない上、必要なのか怪しい機能も色々…まぁ電動化してくれたのは素直に有難かったけどね…でも、今私の座ってる車椅子はカルデアに初めてやって来た頃に戻ってる…

 

「良かった…道が整備されてて…」

 

最初目が覚めて、目の前の森を見た時…進もうと思ったのは最早癖に近い…立ち止まってても何も始まらないから…まぁ私は立つことは出来ないんだけど…

 

でも入る時に気付いた…私の足である車椅子が昔の普通の車椅子に戻ってる事に…ホント、道が整備されてなかったら大変な事になってたよ…

 

 

 

 

森を抜けてしばらく車椅子を進めて行くと、建物が見えて来た…何だろう…取り敢えず行ってみよう…ここが何処なのか聞かなきゃ。ここから出るにしてもまずそれから…何でコフィンに入った覚えの無い私がレイシフトしたのか分からないけどね…

 

車椅子を進めて行く…

 

「おや?早かったでちね…もう少しかかると思っていたのでちが…って…お客ちゃま車椅子でちか?ムム…これはいけまちぇんね…」

 

箒を持った女の子が駆け寄りながらそう声をかけて来た。

 

「えと…何か私が来るのが分かっていたような言い方だ…なんですけど…」

 

舌っ足らずの口調と幼い感じの声から子どもに接する様に言葉を発した私は彼女の姿が見えた所で、何故か私は敬語に切り替えていた。

 

「はい。お待ちしておりまちた。閻魔亭にようこちょ。アチキは女将のお紅でち…ささっ、案内するでち。」

 

そう言って私の後ろに付くと、断る間も無く車椅子を前に押し始める…強引だなぁ…サーヴァントの人たちで慣れたのもあって私は彼女に促されるがまま旅館、閻魔亭に連れて行かれたのだった…



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人類最後のマスターが車椅子だったら14

「では、ごゆるりと…あ、御用がありまちたらアチキか、従業員に何でも声をかけてくだちゃい。」

 

……この場合の声をかけてください、は介助してくれるって意味なんだろうね…あれ…?でもここの従業員ってさっき見たけどデフォルメされた丸っこい雀でちょっと私の介助には無理があるし…まさか…女将自ら…?

 

「そんな…悪いですよ…」

 

見た目子どもの彼女に私の介助をさせるのもそうだけど女将、という事は色々忙しいのは間違い無いのだ…さすがにそんな事をさせる訳には…

 

「お客ちゃまに満足ちて帰って頂くのがアチキの喜びでち。」

 

……色々言われて結局押し切られてしまった…うん、何時までいるのか分からないけど、あまり手間をかけさせないようにしよう…まぁそもそも…

 

「……」

 

私は自分の着ている浴衣を見る…部屋に案内されるなり、これを着せられ、それに全く抵抗しなかったんだから今更ではあるんだけど…それに旅館に入る歳も一悶着あった…

 

「結構力持ちだったなぁ…」

 

一般的に旅館ってなると玄関はまず、上がり框付きの段差がある…そこに来た時、彼女は車椅子のタイヤをさっと雑巾で拭き、私の後ろに付くと車椅子のレバーに手を掛け、力を込めたのが分かった…彼女の意図に気付き、見た感じ段差はそれ程高くなかったけど、彼女の体格を思い浮かべ、さすがに止めようと思った私に彼女は…

 

「ちょっとだけ我慢ちててくだちゃいね…よい、ちょっと。」

 

緩い掛け声と共に彼女は改造前の重い車椅子(普通改造した方が重いだろうけどね…)加えて、私の体重による重みを物ともせず持ち上げたのだ…それも、私にほとんど揺れを感じさせなかったから…多分相当に余裕があったのだと思う…絶句する私を他所に彼女はゆっくり私を床に下ろした。

 

「ふぅ…では、お部屋に案内ちまちゅね。」

 

ちなみに後で従業員の雀さんに聞いたら、持ち上げて下ろすだけなら自分たちも出来ると思うとの事…ここの人(?)たちって本当にどうなってるの…?

 

 

 

……もう深く考えない様にしようと思い、私の世話をしようと残ろうとする雀さんを説得して帰し、座椅子に座る……暇だなぁ…外は正直何も無かったし、あまり彼女や雀さんの手を煩わせたくないので喉まで出かかったその言葉を飲み込む

 

備え付けの茶葉を使ってお茶を淹れて飲む…あっ、結構美味しい…梅昆布茶って初めて飲んだけどこんな味なんだ…

 

 

 

部屋でボーッとしていたら紅ちゃん(口に出して呼ぶ時はさん付けだけど内心ではこう呼んでる)が襖を開けて、勧められるまま温泉に…いや…断ろうとしたんだけどさ…何か断り切れなくて…脱衣場まで行って、浴衣を脱がされ…私は紅ちゃんに抱き抱えられながら温泉へ…



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人類最後のマスターが車椅子だったら15

「あの…紅ちゃ…さん…重くない…ですか…?」

 

「アチキのことは好きに呼んで頂いて結構でち。後、敬語も良いでちよ。…ちなみにお客ちゃまは軽いから全く問題無いでちね。」

 

カルデアでは、入浴や着替え程度の事でもマシュや、女性スタッフの介助が必要だったし、それ以外の雑事でも割とサーヴァントの人たちにまで迷惑をかけていたけど申し訳無いと言う気持ちを私が口にしても何にもならないから、出来るだけ言わない様にはしていたけど…彼女が私より幼いせいもあってつい、口をついて出て来てしまう…

 

「何か…忙しいのにごめんね…?私、こんな身体だから…」

 

また…どうしても彼女には言ってしまう…こんなの甘えでしか無いのに…向こうは間違い無く善意でやってくれているんだから困らせるだけなのに。

 

「…遠慮しなくて良いでち。…それに、今日お泊まり頂いているのはお客ちゃまだけでちから。」

 

「え…私だけ…?」

 

こんな立派な旅館なのに?外から見た時はヘンテコな外観だと思ったけど、中に入ったらあまりに内装が豪華でここに泊まるの?って気後れしてた程なのに……ここの宿泊費私のお金で払えるのかなぁ…さっき、通信を試してみたけどカルデアとは連絡取れないし、これじゃあ私が帰れるのも何時になるか分からないのに。

 

「さっ、着いたでちよ。」

 

 

 

案内されたのは露天風呂だった。紅ちゃんに身体を支えられながら、湯船に浸かる…カルデアには大浴場があるけど、私の身体の事情もあってあまり入った事は無い…マシュは言っても聞いてくれないからしかたなく部屋での入浴を手伝って貰ってるけど、せめて他のスタッフの人やサーヴァントの人たちには私に構わずお風呂くらいゆっくり入って欲しいから。

 

……そう言っても連れ出そうとする人たちは結構いたけど。

 

「ふぅ。」

 

声が漏れる…露天風呂は初めて…お湯の温度がちょっと熱すぎるかなって思わなくも無いけど、外にいるせいか、そんなに辛くは無い。

 

「さっ、おちぇ中流ちまちょう。」

 

「え!?」

 

しばらく満喫してたらそんな声が聞こえた…てっきり脱衣場で待ってるのかと…途中から気配も感じなかったし…

 

「うん…じゃあ、お願いするね…?」

 

「はい。」

 

どうせ断っても帰らないだろうし、仕方無いか。彼女に抱き抱えられながら私は湯船から上がった。

 

 

 

 

洗い場で背中を手拭いで軽く擦られる……何か見せるのが今更恥ずかしく思えて来る…さっき浴衣を脱がされた時散々見られた筈なのに…

 

「お客ちゃま?」

 

「え…?」

 

「何か悩んでいる事がおありでちか?」

 

……ある…どうして私はここにいるのか、とか…後はカルデアの…特にマシュは私がいなくなってどうしてるだろうとか…不安で悩んでる事なら色々…

 

「良ければアチキに話ちてみまちぇんか?」

 

「え…でも…」

 

「アチキはここで女将をちゅる様になって長いでち。色々なお客ちゃまを見てきまちた。もちかちたら何か力になれるかもちれないでち。」

 

……かなり幼い見た目に見えたんだけど…もしかしてこの子…サーヴァント…?それだったら見た目と中身が一致しなくても不思議じゃない、かも…確かに旅館の女将を名乗るだけあって口調の割にとても大人びて見えるし…

 

「…そう、だね…聞いて貰おう…かな…」

 

私は後ろの彼女に私が今までやって来た事を話し出した…



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人類最後のマスターが車椅子だったら16

「……」

 

私は全部話した……話してしまった…カルデアに来るまでの自分の身の上から、カルデアに来てからの戦いの日々も…全て。所々暈して伝えるつもりだったのに…紅ちゃんが思いの外聞き上手だったから…

 

「……」

 

先程から紅ちゃんは黙ったまま私の身体を手拭いで擦ってくれている……というか気付いたら前も…何かもう恥ずかしいも何も無くなって来たカンジ…というか、正直恥ずかしい以上に、どれだけ大人びていても幼い子どもとしか思えない紅ちゃんに傷だらけのこの身体を見せるのが本当に心苦しくて…

 

「あの…ごめんね…こんな話して…忘れ「お客ちゃま」え…?」

 

「アチキはお客ちゃまのちゅらさをこうやって聞くことは出来ても…理解ちゅる事は出来まちぇん。」

 

……その舌っ足らずの言葉には子ども、という事を忘れさせる苦悩が滲み出ていた。私の事を本気で案じる響きがそこにはあった。

 

「紅ちゃん。確かに私は、辛くなかったと言えば嘘にはなるよ。」

 

「止めたいと思った事は無かったのでちか?」

 

「…私しかいなかったのもあるけど…正直、投げ出そうと思った事は一度も無いよ。」

 

「何故でちか?」

 

「私は…私の大事な人たちを助けたかった…ただ…それだけ。その為に戦いに行くなら躊躇うつもりは無かったよ。」

 

「……ちょの為にお客ちゃまが傷付くとしてもでちか?」

 

「偉そうに言ってなんだけど…前線に出てるのは私じゃなくてサーヴァントの人たちだからね…戦うだけならまだしも、私を守る役目も…果たしてくれたから。私は今日までこうして生きて来れた。」

 

「……」

 

「だからね、そんな顔しないで。私は…大丈夫だから。」

 

私は……何時も私なんかを先輩と呼んで慕ってくれる大事な後輩のマシュを泣かせてばかりで…そんな彼女と目の前の小さな女将を私は不思議と重ね合わせてた。

 

「……終わりまちたよ。」

 

「あっ、終わった?ありがとう、紅ちゃん。」

 

そう言われてまた、少しだけど恥ずかしさが戻って来る…

 

「身体が冷えてちまいまちたね、湯船に戻りまちょう。」

 

「うん、お願い。」

 

私は両手を伸ばし、今度は抗う事無く彼女に身を任せた。

 

 

 

 

「お客ちゃま?」

 

「ん?何?」

 

また湯船に浸かって寛いでいた私に後ろから声をかけられる。

 

「お客ちゃまのお悩みはちゃっき聞かちぇて貰いました。」

 

「うん…」

 

「何の助言も出来ずちゅみまちぇん。」

 

「……」

 

彼女がその場で頭を下げる……ここまでの間に彼女の性格は分かって来たので多少驚きはしたが、私は慌てる事は無かった。

 

「ううん…そんな事無いよ。私は聞いてくれるだけで嬉しかったから。」

 

カルデアのスタッフの人たちも、マシュだって、サーヴァントの人たちだって…私が弱音を吐いたって聞いてくれたと思う…でも私は言えなかった…それは…皆、私より大変そうではあったから気後れしたのもあるけど…それ以上に私は弱い自分を見せるのが怖かった…紅ちゃんに話したのは、私の事を知らない人だったから…付き合いが長くなったからこそ言えなかった…

 

「だからさ、頭を上げてよ。私は本当に嬉しかったから。」

 

「…ちょれだけでは無いのでちが…分かりまちた…」

 

そう言うとやっと紅ちゃんは頭を上げてくれた…うん…さすがに見た目子どもの彼女に土下座の体勢取らせたままなのは私の精神もゴリゴリ削れて行くからね…分かってくれて良かった…

 

「…もう上がりまちゅか?」

 

「うん…そうする。」

 

私はまた彼女に抱き抱えられて湯船から上がった。



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人類最後のマスターが車椅子だったら17

湯船から上がった私は紅ちゃんに抱き抱えられ、脱衣場にて、浴衣を着せられて、車椅子に乗せられた。

 

「……」

 

その間、紅ちゃんは口を開く事は無かったし、私からも話しかける事は無かった。さっきの話のせいもあるけど、この沈黙自体は不思議と嫌なものじゃなかった…それは多分、この子…紅ちゃんの雰囲気がそうさせたのかもしれない…見た目がこんなに幼いのに明らかに、私とは別のベクトルで過酷な道を歩んで来たが故の貫禄という奴…でもそれ以上に彼女の纏う雰囲気は暖かく、優しかった。

 

……私は色々な人に助けられて来たけど、今まで助けてくれた人の中で、多分…一番幼く、でも年端のいかないこの子が誰よりも優しい…自然と私はサーヴァントの子どもたちとは比べようとは思わなかった…何となく、私はこの子はサーヴァントでは無いんじゃないかと思った。理由は分からないけど…

 

「……」

 

私の事を話したせいか、私はこの子の事を知りたい欲求が湧いてくる…でも、彼女はこの場では話してくれないんじゃないかと思う…だから私は口を噤んだ。

 

……結局部屋に着くまで私も、彼女も口を開く事は無かった。

 

 

 

「着きまちた。」

 

「ありがとう、紅ちゃん。」

 

紅ちゃんが部屋の襖を開け、私を部屋に入れる。

 

「よい、ちょっと。」

 

何度か聞いたそんな掛け声と共に私は座椅子に下ろされる。

 

「ふぅ。ありがとう。後は必要になったら言うから戻って大丈夫だよ?」

 

お風呂に入ったせいか、自分でも気付かない程、溜まっていた疲労が消えたのを感じ、つい声が漏れつつ、最低限の声をかける…ここはカルデアの部屋じゃないし、トイレは部屋には無いから、そう言う時は彼女か、あの雀さんのうちの誰かに声をかけないといけないけど…今はそれ以外の用事は…後はせいぜいご飯を待つくらいかな…お風呂から上がる時既に日は暮れ初めていた…つまりこの後は夕食が来る筈……ちょっと楽しみ。

 

「お客ちゃま。」

 

でも紅ちゃんは一向に部屋から出て行く様子は無い。鬱陶しい訳じゃないけどあまり私の為に彼女の時間を割いてもらうのは心苦しい…明らかにこの子、仕事の範囲を逸脱してると思うしね…私しか宿泊客がいないからって私の事ばかりに構ってる訳にも行かない筈…

 

「どうしたの?忙しいでしょ?戻って大丈夫だよ?何かあったら声をかけるから…」

 

部屋の周りは明らかにおかしいと感じる程雀さんたちが彷徨いてた…業務の範囲にしてもおかしい…旅館に泊まった事が無くてもそのくらいは分かる…あの子たちは私のお世話をしようとここにいるのだ…

 

「……お客ちゃま、アチキに何かお聞きになりたい事は無いでちか?」

 

……彼女からのその言葉に冷水を浴びせられた様な気分になって行く…さっきお風呂に入ったのに身体に走る悪寒が止まらない。

 

「……」

 

言えない…これを口に出したら今の心地好い関係性を壊す事になる…

 

「お客ちゃま。」

 

……そんな焦りを感じている私に見せる彼女の微笑みに揺らいだ…聞いて…良いの…?……でも私も本当は分かってる…この疑問を口に出さないと多分…私は…!

 

「大丈夫でち。アチキはお客ちゃまの敵じゃありまちぇんから。」

 

その言葉に私の心は決まった…聞こう、じゃないとずっとこのまま…

 

「紅ちゃん…私は…どうしてここにいるの…?」

 

私はここに来てからずっと疑問に思っていた事を口に出した。



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人類最後のマスターの車椅子だったら18

「お客ちゃまはちょもちょもここがどういう場ちょか気付いていまちゅか?」

 

唐突な質問…私の質問に答えて貰って無いけど…焦っても仕方無いし…少し考えてから私は口を開いた。

 

「…ただの旅館じゃない、とは思ってたけど…」

 

「ここは迷ひ家なのでち。」

 

……迷ひ家って言うと、普通山道で迷った旅人の前に現れる屋敷の事だよね…でもあれって確か、誰も居ない家の事じゃなかったっけ…?

 

「ここは文字通り"迷った"者がやって来る場所なのでち。」

 

迷った、の部分に何か含みを感じる…

 

「……私は特に道に迷った、という覚えは無いんだけど…」

 

最初に気が付いた場所から旅館までほとんど一本道だったし…あ…

 

「…ここに来るのは、自分に迷いがある時…?」

 

「その認ちきで構いまちぇん。と言っても…元々滅多にここまで来る人間はいないのでちが。」

 

「そうなんだ…」

 

……要するにそれだけ私の悩みの根が深かったって事だね…今まで余計な事は考えない様にしていたつもりだけど…無意識に色々抱えてたのかも…うん、納得。向こうに帰ったらもう少し我が儘を口に出来る様にしてみようかな……皆それを望んでくれてるみたいだし。うん、そうしよっと。

 

 

 

……違う…!そんな簡単な話じゃない…!私は何かを見落としてる…多分とても大きな問題を…もう一度考えてみよう。

 

今までの旅が自分で思ってるより精神的に影響が出てて、それを気付かないでいたが為に私はここに来てしまった…そしてこうして心と身体を癒して貰った…うん、後はちゃんと元気になってカルデアに帰るだけ……違う!違う!何かが可笑しい!

 

ここに初めて来た時…私は直前の記憶が無かった…私はここに来る前一体、何をやっていたの…?少なくとも夜、普通にベッドに入ってここに来たとかじゃないのは確かだと思う……じゃあ何を…?特異点修復中ならきっと、私はもっと焦りを感じてると思う…

 

何でもない日の日中に過労で倒れたとか…?……待って。どうして私は自分が意識を失っている前提で考えてるの…?だって私はこうして…違和感が無くならない……そっか、私自身が答えを出すのを邪魔してるんだね。

 

多分…"私"はもう答えを出してるんだ…それを敢えて無視してる…そう気付いた時、私はまた悪寒を感じた…寒い…さっきお風呂に入ったのに震えが止まらない…

 

「お客ちゃま。」

 

そんな私の身体が暖かい物に包まれる……紅ちゃんだ。私は今、紅ちゃんに抱き締められてる。

 

「大丈夫でち。アチキは…お客ちゃまを見ちゅてたりちまちぇん…最期までアチキは味方でちから。」

 

どうしてそこまで…その言葉は口からは出なかった…答えなんて決まってる…彼女が底抜けに優しいからだ…震えが止まる…私は漸く"それ"を口にする勇気が湧いてきた…弱いなぁ私…本当は最初から分かってたのにね…どうしても認識したくなかった…このまま優しい時間が続いて欲しい…一秒でも長く…でもこの子はそれを許してくれなかった。

 

……恨むつもりは無い。それは厳しさであり、彼女の優しさだから…私が、このままここで無為に過ごすのを…彼女は許してくれない。…息を整える…気持ちも落ち着いて来た。大丈夫、もう言える。

 

「紅ちゃん、私はもう向こうには帰れないんだね…私はもう…死んでるから。」



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人類最後のマスターが車椅子だったら19

「ちんで…?……ああ、ちょう思ってもち方ありまちぇんね…」

 

「え…?」

 

違うの…?

 

「落ち着いて聞いて欲ちいでち…お客ちゃまはまだ生きていまちゅ。」

 

「え…えええええ!?」

 

え!?生きてるの私!?うわぁ…そう分かったら何か今の体勢が急に恥ずかしくなって来た…

 

「なっ、何かごめんね「……」え…?紅ちゃん…!?」

 

紅ちゃんは気絶していた。……多分私が大声出したのが原因だと思う…私は取り敢えず紅ちゃんを抱えながら床を這い、二つ並んだ座椅子に紅ちゃんを寝かせる事にした…ごめんね…まあ起きたらまた言うけどさ…

 

 

 

 

「お見苦ちい所をお見ちぇちまちた…」

 

「わ!?土下座止めてよ!?悪いのは私だしさ!?」

 

相変わらず渾身の土下座をする紅ちゃんの頭を上げさせる…私が思ってる以上に真面目だよね、この子…

 

 

 

 

「こほん…ちゃっきのおはなちの続きでちが…」

 

「うん…」

 

「改めて言いまちゅ…お客ちゃまはまだ生きていまちゅ…でちゅが…」

 

そこで紅ちゃんは言い淀む…しばらく逡巡していた様に見えたけどやがて口を開いた。

 

「お客ちゃまが勘違いちたのも無理はありまちぇん…ここいるお客ちゃまは本当にたまちいだけのちゅがたなので。」

 

ここにいるのは魂だけの私、ね…

 

「…それじゃあ、私の身体は今どうなってるの…?」

 

何となく分かる…きっと私がここにいるのは魂に傷が付いたから…きっとその傷を癒す為に魂だけがここに来てる…普通なら元気になったら肉体に私の魂が戻り、私は日常に戻って行ける…でもそれだけなら紅ちゃんは別にこんなに悩んだりしない。

 

「……ちゅい弱が激ちいでち。…このままお客ちゃまが戻ってもちょのままちんでちまうかもちれまちぇん。」

 

……舌っ足らずな彼女の言葉に少し安堵する…もし、彼女が普通に"死"を口に出来ていたら私はそれを聞いてどうなったか分からない…さっき生きていると言われたから尚更に…彼女の口調のおかけで今、私はまだ平静を保ってられる…

 

「どうにかならない…?」

 

思い出して来た…そうだ…私は呪いのせいで死にかけてたんだ…全部は思い出せないけど…最後は自分で起きる事も出来なかった筈…

 

「申ち訳ありまちぇん…アチキにはどうちゅる事も出来まちぇん…」

 

そう言ってまた土下座しようとする彼女の身体に手を当て、止める。

 

「大丈夫…私も、本当は分かってたから。」

 

多分どうやってももう私は戻って来れない…あ…

 

「そう言えば…紅ちゃんは何で私が来るのを知ってたの?」

 

初めて会った時、紅ちゃんは私を待っていたと言った…まあその割に私が車椅子なのは知らなかったみたいだけど…誰かに聞いたのかな?

 

「ああ、ちょれなら「漸く気付いたか。」来たでちね。」

 

「え…だ「誰か、などと聞こうものなら八つ裂きにしてやるが」……あ!」

 

思い出した!

 

「巌窟王さん!?」

 

そこには何時か出会った覚えのある復讐者がいた。



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人類最後のマスターが車椅子だったら20

「じゃあ貴方が私の事を紅ちゃんに…?」

 

「そういう事だ…」

 

とまぁさっきの私の疑問だけには答えて貰えたんだけど…私には今一番聞きたい事がある…

 

「あの…何ですか…?その格好…?」

 

「……気にする「ここで働いて貰ってるでち」女将!?」

 

ああ…だから雀さんたちが着てるのと同じ着物を…って…何で…?

 

「女将、こいつも自分の事が飲み込めた様だし、俺は仕事に戻るぞ。」

 

「あっ、ちょっと…ハァ…ち方ないでちね…このままだとお客ちゃまも訳が分からないでちょうからアチキから説明ちまちゅ。」

 

「うん…お願い…」

 

「…と言ってもちょんなに大ちた話ちでは無いのでちが…あの方はお客ちゃまの為に働いているでち。」

 

「私の…宿泊費…」

 

「そうでち。」

 

「何で…そこまで…?」

 

あの人は私とほんの少し言葉を交わしただけ…自分の復讐を投げ出してまで私を助ける理由なんて無いのに…

 

「…ちょれは…アチキにもちょう直良く分からないでち…アチキも事情があるお客ちゃまなら、ちょううるちゃい事も言わないのでちが…良いから働かせろと、ちつこかったので…」

 

「理由は分からないけど…それなら私はここでダラダラしてはいられないね…紅ちゃん、明日から私も働くよ。何か私でも出来る事は無い…?」

 

私、もう向こうに戻れないみたいだし…このままあの人に働かせて私だけ何もしないなんて出来無い。

 

「…お前ちゃまに出来る事でちか…」

 

「あー…ごめんね…」

 

まあ車椅子じゃね…魂だけとはいえ、体力自体もあんまり自信無いし…あっ、そう言えば…

 

「紅ちゃんは私の身体の状態は把握出来てるんだよね?」

 

「はい。」

 

「じゃあ私の身体の呪いについても…」

 

「分かっていまちゅ。」

 

「その呪いは今ここにいる魂だけの私にも影響があったりする…?」

 

「……ちょうでちね…お前ちゃまはまだ身体と繋がっていまちゅから…」

 

「……」

 

「でもお前ちゃまの気持ちは分かりまちた。ちょういう事なら何か考えておきまちゅ。」

 

何時の間にか私の呼び方がお客ちゃまじゃなくなってるね…少し寂しいけど…不思議と嬉しくもあるかな…

 

「ともかく今日まではお前ちゃまはここ、閻魔亭のお客ちゃまでちから。そろそろ夕食でち。ちゅこし待ってるでち。」

 

「うん…ありがとう…」

 

そう言って去って行こうとする紅ちゃんが唐突にこちらを向いた。

 

「忘れる所でちた。お前ちゃまのお名前を伺ってまちぇんでちたね。」

 

「あっ、そっか…私は…藤丸立香」

 

「ふじまるりっかでちか。良き名前でち…夕食の時に紙を持って来るので漢字を教えて欲しいでち…それと…」

 

「え…?」

 

「改めて名乗っておくでち。アチキは舌切り雀の紅閻魔…この閻魔亭の女将でち…明日から宜しくでち。」

 

「…はい、宜しくお願いします。」



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人類最後のマスターが車椅子だったら21

そうして閻魔亭初日の夜は過ぎ…朝、私は紅ちゃんに起こされ、従業員用の着物を着せられ、ある場所に連れて来られた。

 

「えっと…私はここにいれば良いんですか…?」

 

「ちょうでち…誤解ちない様に言っておくとこれも大事なち事でちよ?」

 

「……」

 

それはまあ…分かる…旅館閻魔亭の入り口からすぐの場所にあるここはどう考えても受付だしね…

 

「あの…就業初日の私がこんな重要なポジションで良いんですか…?」

 

「…お前ちゃまの身体では事務ち事以外任ちぇられまちぇんので。」

 

あー…うん、そりゃそうだよね…まぁ客商売で一番重要な事務仕事は経理だから…そっちよりはマシかな…事務仕事自体はカルデアに行く前に私が良くやってた仕事でもあるし…

 

「分かりました。精一杯頑張ります。」

 

「…良き心掛けでちが、もうちゅこち肩の力を抜いた方が良いでちね、お客ちゃまの前以外ではアチキに敬語も使わなくて良いでちから。」

 

「…うん、分かった…ありがとう紅ちゃん…」

 

 

 

 

そうして気楽にやろうと思ってた私は早々に心折れそうになっていた。

 

「フン…お前はここを舐め過ぎだな。」

 

「いや…だって…紅ちゃんには悪いけどもう少し楽だと思ってたんですよ…」

 

私は勘違いしていた…人間が滅多に来ない=お客は少ない…だと思ってたのに…

 

「聞いてませんよ…人間以外の客が主流なんて…」

 

漸く客の波が途切れ、受付に突っ伏していた私はちょうど休憩を取り、やって来た巌窟王さんに話しかけられていた。

 

「来てる奴の大半は要は俺の同類だ。今更お前はそれ程プレッシャーも感じんだろう?」

 

「冗談じゃないですよ…普通の英霊なら未だしも…神霊の人たちが来るんですよ…?万が一粗相でもしたらって、不安になりますよ…」

 

私は名簿を開き、改めて書かれた名前を目で追って行く…

 

「そもそもだ…英霊なら素を出しても問題無い、という考えが間違いだとは思ってない訳か。」

 

「そういう訳じゃ無いですけどね…でもやっぱり神霊ってだけで全然違うんですよ…」

 

名簿に乗ってる名前は一見すると普通の人名(多分お忍びで来てるみたいだから偽名)だったり、中にはそもそも読めない、なんてのもあるが…そんな中に紛れて…一度でも神話を読んだ事があれば確実に目にするとんでもない名前がチラホラ…正直こうして勝手に名前をマジマジと眺める事すら恐れ多いと思っちゃうよ…日本神話の関係者は特に。

 

「というか、これは最早本能的な物みたいだし、どうしようも無いですよ…貴方だって自分の出身国の神話の神なら畏れを感じたりするでしょう?」

 

「フン…今更俺が神ごときに態度を変えると思うか?」

 

傲慢な返事が返って来た…確かにこの人はそう言うの無縁そう…でも…

 

「いや下手に出て下さいよ…大半がお忍びで来てるとは言え、皆お客様なんですから。」

 

「フン…俺の勝手だろう…」

 

私の為にここで働こうとしてたみたいだから強くは言えないけど…どう考えても旅館の従業員の態度じゃないよね…というか…

 

「携帯灰皿使ってるだけマシだとは思いますけど…ここ、禁煙みたいですよ。」

 

「フン…俺はそろそろ戻る…精々励め。」

 

そう言ってタバコの火を消さずに向こうに行ってしまう…ここに来るお客様の中には神霊なのに俗世に染まってる人(?)が多いみたいでちゃんと喫煙所が設置されてるし、従業員用の喫煙所だってあるのに(雀さんが吸うのかな?)でも…

 

「ありがとう…巌窟王さん…」

 

知り合いが全然居ない中、こうして私の様子を見に来てくれるのは結構嬉しい…何で復讐の代名詞とも言える物語の主人公が復讐を投げ出して、私の事なんか気にかけてくれるのか分からないけど…紅ちゃんは忙しいみたいで中々ここには来てくれないしね…雀さんたちは自分の仕事の合間に来てくれたりはするけど…やっぱり人の姿をしてる方が…あ!

 

「いらっしゃいませー!閻魔亭にようこそ!」

 

私は思考を打ち切り、やって来たお客様に声をかけた。



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人類最後のマスターが車椅子だったら22

私がここ、閻魔亭で住み込みで働く様になって数日が過ぎた…来るお客の多くが神霊や所謂幻想種(言葉が通じないのすらいる…)それから英霊…と、とんでもないお客ばかりがやって来るここの状況に私は少しずつ慣れ始めていた…

 

『嫌だ!私は美男美女と入るまで出な…って…可愛い子発見!私と温泉入らない!?』

 

「はぁ…光栄ではありますが見ての通りの不自由な身体ですよ?本当に良いんですか?」

 

『全然良いよ!』

 

「……でしたら業務が終わった後なら付き合いますから大人しく待っててください。」

 

『うん!脱衣場で待ってる!』

 

紅ちゃんに追い掛けられてたその人は私が軽く引く程喜んでその場から消えた…

 

「…ちゅまちぇん…あの御仁、出禁にちた筈なのでちが…」

 

「何か良く分からないけど残留思念だけ残っちゃったんだっけ?」

 

「はい…」

 

「…私が一緒に温泉入れば帰ってくれるなら私は別に構わないよ。それに、個人的には話が出来るならしてみたかったし。」

 

いやぁ…でもまさかあの宮本武蔵が女性で、自分も美女なのに美男美女大好きで、ここに滞在してた事があったなんて…どうせなら普通の状態で会いたかったなぁ…どっちみち既に死んでるのは変わらないから普通も何も無いのか…

 

「お前ちゃまがちょう言うならアチキももう何も言いまちぇんが…ならもう上がって良いでちよ?」

 

「え?でも何時もならそろそろ一杯お客さん来る時間じゃ「だからでち」へ?」

 

「あの御仁はこれから来るお客ちゃまにも迷惑をかけてちまいまちゅから…ちょれにお前ちゃまが早く行かないと今ここにお泊まり頂いてるお客ちゃまにも…」

 

「あー…うん…分かったよ…そういう事なら…」

 

あの人、本当に何したんだろう…?私より一足早くここに来ていた巌窟王さんにも声かけてたらしいけど…何か行くの怖くなって来た…

 

「本当に申ち訳「大丈夫だから。気にしないで」……分かったでち。」

 

……とは言え本人には待ってる様に言っちゃったし…紅ちゃんのこの顔見てたら今更嫌とも言えないなぁ…カルデアに帰れるなら小次郎さん連れて来るのに…私一人で行くより遥かにマシだし。

 

私としては介助して貰ってる身の上で今更裸見られてどうの、とか無いしね……こんな傷だらけで、ここに来てから呪いの影響が少し薄くなったのか、自分で食事を取れるようになった分大分マシになったとはいえ、こんな痩せ細った身体に欲情する人も居ないだろうしね…

 

……暗い考えが浮かんで来て、何か凹んだけど序に良い手も浮かんだ…こうなったらこの際巌窟王さんも巻き込んでしまおう。…さて、何処に居るかな?



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人類最後のマスターが車椅子だったら23

「断る。」

 

「そこを何とか…!」

 

私は喫煙所から出て来た巌窟王さんを何とか捕まえる事に成功した。

 

「誘われたのはお前だろう?何で俺が一緒に入らないとならん。」

 

「いや…だって…あっ!なっ、なら介助役って事で「奴はお前の身体の状態を見た上で誘ってきたんだろう?ならお前が自力で風呂に入れないのは分かっている筈、向こうに委ねれば良かろう。」う…そうですけど…」

 

「大体何故俺を誘う?お前、自分と奴の性別すら分からない程馬鹿では無いだろう?」

 

「いやぁ…どうせ巌窟王さんも武蔵さんに誘われてたみたいだしちょうど良いのでは?」

 

「だから性別「少なくとも私は気にしません」歳食ったババアなら未だしもお前は気にしろ!」

 

大声で怒鳴りつけられて耳鳴りがする…あー…紅ちゃんの気持ちが分かった気がする…

 

「急に大声出さないで下さいよ!?耳可笑しくなるじゃないですか!?」

 

「知るか!少しは慎みを覚えろ!」

 

「慎みって言ったって…私にそんな感情あってどうするんですか…何処に行くのも介助してくれる人が必要な身ですよ?」

 

昔なら未だしも、今の私は用足し一つ自力ではこなせないのだ…何が言いたいかと言えば平たく言えば筋力の落ちた私の腕では自分の身体を支えられないから用を足そうとしてトイレまで行っても、車椅子から便器に移れない…まぁこの着物を自分で脱ぐ事は出来るけどさ…

 

「だから!何で俺がその状況で一緒に入らなければならん!?あの女に補助を頼めば良かろう!?」

 

「いや…何か貞操の危機を感じて「俺がいるよりマシだろうが、仮にあの女が両性愛者でも余程の鬼畜でもなければお前の様な身の上で襲う事も無かろう」…そう、ですね…」

 

「話は終わり…何故そんな顔をする?」

 

「……不安なんです…縋ったら駄目ですか…?」

 

別に本当は分かってる…私の身体に魅力は無い…仮に武蔵さんが今巌窟王さんが言った通りの人でも私が襲われる事は無い事くらいは…

 

「…あの女、性根は腐ってないと見た。何も俺になど頼る事は無いだろう。」

 

「そもそも聞きたかったんです…何で私を助けてくれたんですか…?」

 

この世界に一足早く着いただろうこの人は何を思ったか私の為にここで働こうとした…ただあの時、少し言葉を交わした私の為に。

 

「私、気付いてるんですよ?貴方はあの時、本当は私の敵の立場だったって。」

 

サーヴァントは誰一人おらず、私だけが単独でレイシフト…そこにいた野良のサーヴァントが一人…これで怪しいと思わないなら私だってとっくに死んでいた。

 

「……フン…貴様はあの時点で弱り切っていた…あのままなら貴様はあそこを出る事も叶わなかっただろう。」

 

「だから…聞きたいんです…貴方は私の敵だったんでしょう?」

 

「貴様がこの場でマスターを名乗るなら、今でも俺は貴様の敵にはなるだろうな。」

 

「今の私にマスター権はありません。」

 

「…では、俺はお前の敵でも味方でも無い。」

 

「味方じゃないんですか…?」

 

「お前を助けたのは…単なる気紛れだ…そもそも、もうお前は自分で歩く事を決めたのだろう?」

 

そう、そうしようと思ったから私はここで働こうと決めた。だけど…

 

「そうです…でも…不安に駆られたらいけませんか?」

 

「あの女将にでも頼れ「紅ちゃん忙しいですし」俺もここで働いているが?」

 

「もう…!良いじゃないですか!?美女の裸が見れるんですよ「何を言ってるんだお前は!?」だってめちゃくちゃ美人なんですよ、武蔵さん!巌窟王さんって女好きでしょ?」

 

「……お前…俺の事をどんな本で読んだんだ…?」

 

「えっと…確か…あー…すみません…作者の名前忘れました…」

 

「貴様……まあいい…とにかく俺は別に女好きな訳では「えっ!?同性愛者なんですか!?」何故そうなる!?」

 

「あー…だから「何を勝手に納得しているんだ!?俺が投獄される前に婚約者がいたのは知っているだろう!?」いやまぁそうですけど…だっ、大丈夫ですよ…!私別に偏見無いし…アイタァ!?何するんですか!?」

 

巌窟王さんは私の頭に拳骨を落とすと廊下の向こうに行ってしまった…からかい過ぎて怒らせちゃったかな…あ〜あ…これで結局、一人で行かないといけなくなったよ…



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人類最後のマスターが車椅子だったら24

「うえ~ん!!」

 

「……」

 

紅ちゃんの取り計らいか、掃除中の札が掛けられ貸し切りとなった温泉…意を決して脱衣場まで行き、満面の笑みの武蔵さんの前で着物の前を開いた所で、私の身体を見た武蔵さんに泣き出され、私は困惑していた…

 

「あの…すみません…こんな…傷だらけの身体で「え~ん!」あのですね…泣いてないで話を「え~ん!」……」

 

結局いくら声をかけても子供の様に泣き続ける武蔵さんに私は言葉をかけるのは止めた。……それにしても、何でこんな…泣かれる程醜いのかな、私の身体…

 

 

 

「グス…チーン!…ごめんね…はい、ハンカチ返すね…?」

 

「……」

 

美人の鼻水が付いたハンカチを取っておく趣味は無いけど、武蔵さんにあげても多分持って帰れないし、霊体の武蔵さんに洗ってって言っても無理だろうから仕方無く受け取る事にする…後で紅ちゃんに頼んで洗濯してもらおう…

 

「それで…何であんなに…結構ショックだったんですよ、私…」

 

ちょっと恨めしげな声を出してるな、と自分でも思うけどそれも仕方無い…そりゃ醜いのは知ってても泣かれる程嫌がられたら如何に図々しいとか、図太いとか言われてる私でも凹む…

 

「ごめん…でも、まさかあんなに傷だらけだったり、痩せ細ってるなんて思わなくて…」

 

「あー…」

 

そっか…この人、私の身体見て気持ち悪いと感じたから泣いたんじゃなくて、私の事を可哀想に思ったから…

 

「お見苦しい物をお見せしました…私帰り「ううん!一緒に入ろう!」……そうですか?じゃ、後お願いしますね…?」

 

さっきの事は気にしない様にして、私は武蔵さんに介助を頼む事にする…抱き抱えてくれないと、私は温泉まで行く事も、入る事も出来ないからね…

 

「分かった!よいしょ…」

 

着物を脱いで裸になった私を紅ちゃん以上に軽々と持ち上げた武蔵さんに少し驚く…既に裸になった武蔵さんの身体を見る限り、そこまで筋肉が着いてる様には見えないけど(寧ろかなり女性的な体型…スタイルもすごく良い…私程じゃないけどそれなりに身体に傷はあるけど、それも魅力的に見えて来る…)やっぱり重い刀を二本も振り回してるだけあるね…それとも単に私が極端に軽い…?

 

 

 

「ねぇ?聞いても良い?」

 

「何ですか?」

 

「その身体の傷の事…」

 

「……武蔵さんの時代なら珍しく無いのでは?」

 

「いやいや…十分に珍しいよ…私みたいなのもあんまりいなかったしさ…それに…君、私より未来の比較的平和な時代の生まれの子じゃないの?」

 

「……」

 

「いや…話せないなら別に良いんだけどさ、聞いたって私に何か出来る訳じゃないだろうし「良いですよ、話します」良いの…?」

 

「ええ。私も武蔵さんに聞いて貰いたいです…」

 

同性で…多分私より歳上のこの人なら…紅ちゃん以上に甘えても良いのかな…



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人類最後のマスターが車椅子だったら25

「そっ、か…大変だったんだね…」

 

「……」

 

また全部話してしまった…何かここに来てから私、色々緩んでる気がする…

 

「……」

 

湯船に浸かったまま、何かを考える様に目を閉じている武蔵さんを見詰める…視線は顔じゃなくてその結構大きな胸に行ってるけど…デカい…同性の私でもつい目が行く…

 

「うん!決めた!」

 

「っ!…なっ、何をですか…?」

 

突然目を開けて大声を上げた武蔵さんの胸から慌てて目を逸らした。

 

「えっと…確か藤丸立香って名前だっけ?」

 

「ええ…そうですけど?」

 

「良し!私、自分でもガサツな方だと思うけど、こういうのは体裁はきっちり整えるべきだと思うの。」

 

「はぁ…何を言ってるのか…」

 

「サーヴァント・セイバー…新免武蔵。藤丸立香…私は君を支えるよ、今後とも宜しく。」

 

……何か変だと思ったら…そっか、さっき会った時より武蔵さんの存在が濃く感じられるんだ…取り敢えず武蔵さんの宣言は一旦スルーして疑問をぶつける事にする。

 

「武蔵さん、さっきは思念体でしたよね?何時からサーヴァントに?」

 

「ん?それなら、思念体のままだと君の補助をしてあげられるか怪しかったからさっき別れた後直ぐに。」

 

「……どうやってですか?」

 

カルデアでDr…ロマンさんに聞いた事を思い出す…確かサーヴァントの召喚条件はマスター権を得たそれなりの魔力を持つ魔術師からの召喚か、世界の危機によって抑止力から呼び出される以外に無い筈…少なくとも明らかに滅びの危機を迎えてる現実世界と違ってここにサーヴァントが呼ばれる事は無いと思うけど…

 

「思念体の私を依り代にちょちょいっとね♪」

 

「……」

 

どっちでも無かった…言ってる事はむちゃくちゃなのに不思議とこの人なら出来そうに感じる…

 

「すみません…私、サーヴァント契約出来無「大丈夫…ちゃんと分かってるよ、多分君自身の魔力で私と契約したら君の身体にダメージが行くんだよね?」…まあ、恐らくは「なら、大丈夫。ここにいる分には自分の魔力をほとんど使わずに存在出来るから。無理に契約する必要は無いよ♪」そうじゃなくてですね…」

 

私は必死に断わる理由を探す…

 

「武蔵さん、私のサーヴァントじゃなくてカルデアに「悪いけど、今ここにいる私は貴女個人に仕えるって決めたの。他の人に従うつもりは無い…大丈夫。世界の危機でしょう?何れ嫌でも世界か、いるとしたらだけど、貴女の代わりになったカルデアの新しいマスターが私を座から召喚するでしょ…でも"私"はどちらにも従わない。」どうして…」

 

「私が…君を助けたいと思ったの。理由なんて他にいる?」

 

「でも…私じゃあ武蔵さんにしてあげられる事なんて「だ~か~らぁ!私が君を助けたいと思ったの!君は何も気にしないで私に助けられなさい!」……そんな無茶な…」

 

「君、足の呪いはここに来る前のままで、動かないし、腕の筋力は今の所戻る気配は全く無いんでしょう?」

 

「そうですね「なら、しばらくは私の助けは必要でしょう?閻魔ちゃん忙しいしね」……」

 

巌窟王さん、普通に断るしね…雀さんはトイレの度に私を持ち上げようとして死にそうな顔してるし…でも…

 

「……武蔵さん…ここ、出禁になってますよね…?」

 

「……」

 

今まで饒舌に語り、自分を売り込んでいた武蔵さんが突然黙り込む…

 

「まさかとは思いますが、ここに滞在したいから私を助けたいと「違う!私は本当に君を助けたいと思ったから…!」ふふ…分かってますよ。」

 

武蔵さんが嘘をついてないのは何となくだけど分かる…だけど…

 

「私の介助役という名目だけでここにいるのは無理ですね、霊体化してても紅ちゃん気付きそうですし。」

 

「お願い…!私がここに居られるように一緒に閻魔ちゃんに頼んで!」

 

「……」

 

私を助けると言いつつ、早速面倒事をお願いする武蔵さんに若干呆れながらも私は紅ちゃんを説得する方法を考え始めた…



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人類最後のマスターが車椅子だったら26

「ダメでち。」

 

「え~!?」

 

「……」

 

武蔵さんと一緒に紅ちゃんの所へやって来て武蔵さんの事を伝えたら当然の如く突っぱねられた……まあそれも当然だと思ってる私はこの時点で特に反論は無い。

 

「閻魔ちゃんは立香ちゃんの事、心配にならないの!?」

 

「……ちょうでは無いでちが、ちょれとお前ちゃまの出禁を解くかどうかは別のはなちでち。」

 

……紅ちゃんは優しいけど、真面目でルールに厳しい方だ…私の事がいくら心配だとしても、自分で決めた"宮本武蔵は閻魔亭を出入り禁止にする"というルールをそう簡単に反故にする事も無いだろう…

 

「閻魔ちゃん、そんなに私が信用「出来無いでち」即答!?」

 

……紅ちゃんがここまで言うなんて…従業員だったなら未だしもお客さんだったんだよね…?本当にこの人何やったの…?

 

「ちょもちょも、アチキが言ってるのはお前ちゃまのちん用以前の問題でち。」

 

「え?」

 

「お前ちゃまのやらかちた事ちゅべてひっくるめてちん用出来無いのもちょうでちが、ちょれ以前にお前ちゃまはもう出禁にちてまちゅ。おはなちになりまちぇん。」

 

「私だって反省「出禁になったのに思念体がちゃっかり残ってる辺り従って無いんですから、反省してないですよね」ちょっと!?立香ちゃんどっちの味方なの!?」

 

紅ちゃんの武蔵さんへの怒りがどれくらいなのか判断出来無かったからしばらくは成り行きを見守るつもりだったのについ、横から口を挟んでしまった…仕方無い、そろそろ私も喋ろうかな…

 

「紅ちゃん…私は、こんな身体の私を雇ってくれて本当に感謝してるんだ…」

 

「……」

 

「でも…私って、紅ちゃんや雀さんたちに迷惑ばかりかけてるじゃない?」

 

「……ちょんな事は無いでち。お前ちゃまは良くやってるでち。」

 

……即答出来無かった時点でそれは肯定と一緒だよ、紅ちゃん…

 

「トイレ一つ行くのも雀さんか、紅ちゃんの補助が必要だったり、後は夜中…お客さんが大体寝静まった頃に私は紅ちゃんにお風呂に入れて貰ってるけど…本当に迷惑をかけてないって言える?」

 

「……」

 

私が普段やってる仕事は日がな一日受付の前にいるだけ…お客さんに失礼があってもいけないし(そもそもやらかしたら私の首が物理的に飛びそうな人たちがお客だけど)気は抜けないけど、一日中動き回る事の多い紅ちゃんも、雀さんも比べるまでも無く私より相当忙しい筈だ…本来なら私に構ってる場合じゃない。

 

「それに、私が一番体力的には楽な仕事だから…あんまり偉そうにも言えないけど…そもそもここの仕事だって手が足りないんじゃないかな…」

 

「ちょう、でちね…」

 

「だからさ…武蔵さん雇ったら少しは楽になるんじゃないかな?ほら、力仕事なら全般任せられるし。」

 

「え!?立香ちゃん!?「出来ますよね?」う…うん!出来るよ!?」

 

顔色を青くして、冷や汗を流しつつヤケクソの様に叫ぶ武蔵さんから視線を外し、目を閉じ、腕を組んで考え込む紅ちゃんを見詰める…武蔵さんがここに居られるように色々考えたけど…この子相手に正直あんまり変な手使いたくないんだよね…彼女が厳しい以上に、あのアーチャーさん以上のお人好しなのは間違い無いから多少情には訴えたけど……

 

……うう…この子本当に良い子だし罪悪感が…巌窟王さんみたいに大人で、偏屈な性格ならもっとどぎつい手も使おうと考えたかもしれないけど…

 

「……分かりまちた。お前ちゃまがここに居る事を許ちゅでち。」

 

「やった~!立香ちゃんありが「ちゅちゅん!まだはなちは終わって無いでち」…え?」

 

「お前ちゃまの事を認めるのに条件があるでち。」

 

そう言って私の方を真剣な顔で見る紅ちゃん…あ…武蔵さんじゃなくて私に言うんだね…うわぁ…何言われるんだろう…



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人類最後のマスターが車椅子だったら27

「…立香ちゃん。」

 

「武蔵さん?仕事は?」

 

「……休憩中。」

 

武蔵さんが形だけ、私のサーヴァントとして閻魔亭への滞在を許された日から数日…私は死んだ目をした武蔵さんから話しかけられていた。

 

 

 

 

「そもそも私は君に仕えるって言ったよね…?」

 

「…私は武蔵さんのマスターである前に、今はここの雇われ従業員です。……つまり私の雇用主である紅ちゃんは私のマスターです。武蔵さんにとってはマスターのマスターになりますね、武蔵さんがどちらの命令を聞かなきゃいけないのかは明白でしょう?」

 

あの日…紅ちゃんが武蔵さんの閻魔亭滞在を認めるのに私に課した条件は一つだけ…それは、簡単に言えば武蔵さんに私ではなく紅ちゃんの命令を優先して聞かせる事だった。

 

「…妥当な処置だと思いません?」

 

「何で!?だから私は君に「仮に武蔵さんが私からの命令だけ聞きたいなら、改めて言いますよ?『私ではなく紅ちゃんの指示を最優先で聞いて下さい』」…ズルい…」

 

「紅ちゃんが武蔵さんの滞在を認める条件がそれですから飲んでください…紅ちゃんの期限を損ねたら多分、出禁に逆戻りですよ?」

 

元々今の私はマスターじゃないし、こんなにマイペースな武蔵さんの手綱を握っておく自信は私には無いから…紅ちゃんに任せる方が都合が良いのも確か。

 

「というか、四六時中武蔵さんに付いて貰う意味が無いんですよ…ほら、見ての通り私の仕事は私一人入れば十分なんで。」

 

「だから…ほら…!トイレに行きたくなった時とか「私、そんなに頻繁に行きませんし。」う…」

 

その場合はあくまで手の空いてる誰か(と言っても、雀さんか、紅ちゃんか、武蔵さんしかいないけど…巌窟王さんは私の介助役やってくれないし…というか雀さんに至っては一羽では私を運べないから割と大騒ぎになるし、本当はあんまり頼みたくないんだけど…)に頼むだけだし…

 

「ハァ…もう良いや…分かったよ…それにしても…」

 

「はい?」

 

「何か…立香ちゃんって思ってたより押しが強いんだね…もう少し気が弱いのかな、なんて思ったりしたんだけど…」

 

「……英霊ってだけで変に萎縮してたりしたら、誰も私を信じてくれませんし…」

 

私の見て来た限りでは自分で自分を英雄、と称した人はそう多くは無かった。彼、或いは彼女たちはあくまで自分の戦いをしただけ…後の人たちが彼、彼女を英雄として定義したから英霊として存在しているだけで、あくまで等身大の自分を見て欲しがる"人"が結構多かった様に思う…

 

「対等であるなんて…烏滸がましい事は思ってません…でも、真っ直ぐ自分の事を見ない人を信じてはくれないんですよ…」

 

私がいくら自分の方が下だと思っていても、皆はマスター…というか、主としての私だったり…友人だったり、或いは…家族の様に私を見ようとして来る……完全に私の事を玩具か何かだと思っているとしか思えない人たちもいたけど…

 

「私、本を読むのが好きなんです…だから私は最初、物語の登場人物と同じ名前の皆を英雄として…自分とは違う世界の人たちとして見てたんです…でも皆は私に線引きを許してはくれなかった…伝説を知るからこそ眩しく見えて仕方無いのに、私に"自分たち"をしっかり見ろ…ありのままをその目で…と言ってくるんです…私が一歩前に出ないと…皆は指示どころか、話も聞いてくれませんからね…」

 

「立香ちゃん「良い機会だからはっきり言いますね」…え?」

 

「今の私はマスターじゃありません…私は…貴女に頼み事はしても"命令"はしたくありません。」

 

「そっ、か「という訳で紅ちゃんの命令をきっちり聞いて下さい」…え…?…えええええ!?この話そういうオチなの!?」

 

「そうですよ?でも、今までのは嘘じゃありません…武蔵さん、私の頼み…聞いてくれますよね…?」

 

「う…もう…分かったよ…」

 

「良かったです…ところでそろそろ仕事に戻らないと紅ちゃんに怒られるのでは?」

 

「分かってるよ…行ってくる…何か私、とんでもない子をマスターに選んだ気がして来たよ…」

 

そう言って踵を返し廊下の奥に消えて行く武蔵さんを見送る…

 

「……私は…ただの凡人ですよ、武蔵さん。」

 

武蔵さんの姿が完全に見えなくなってから私はそう呟いた。



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人類最後のマスターが車椅子だったら28

「いらっしゃ…んん?」

 

「え?何?」

 

やって来たお客さんは見知った顔…でも少なくとも"彼"は私の事を知らないみたい…ここが特異点化してる様には何となく私には思えないし、たまたまここに迷い込んだとか?……なら、この旅館の従業員の私としては…

 

「…すみません、何でもありません。閻魔亭にようこそ!」

 

取り敢えずは…普通にお客さんとして迎え入れるべきだろう。

 

 

 

 

「並行世界のお前ちゃまでちか…」

 

「そっ。別に特別扱いして欲しい訳じゃないけど念の為、ね…」

 

まさか…並行世界の自分の宿泊受付をする事になるとは…不安が拭えないから丁度やって来た雀さんに一旦受付の仕事を任せてこうして紅ちゃんに報告しに来た。

 

「向こうはここがどういう場所かは知らないで来てるみたいだけど、正直何があっても可笑しくないからさ…一応気を付けてはおいて。」

 

「はなちは分かりまちた。」

 

「それじゃあ私は仕事に戻るね。」

 

……まあ、この場合何か起きるとしたら原因は確実に私になる気はするけど。

 

 

 

 

「チュン!丁度戻って来たでチュン!」

 

「ごめんね、仕事代わって貰って…それで…」

 

そこにはさっき宿泊受付をした青年が立っていた。

 

「このお客様が用があるそうでチュン!」

 

「そう…それでお客様、私に何かご用でしょうか?」

 

「あ、うん…大した事じゃないんだけど…さっきの反応がどうしても気になって…」

 

さっきの、と言われて溜息を吐きそうになるのを堪える…

 

「申し訳ありません、気分を害したのであれば「あっ!違う違う!別に怒ってる訳じゃないから顔上げて」はぁ…でしたら、何でしょうか?」

 

私が一方的に"彼"を知ってるだけで"彼"は私を知らない…特に琴線に触れる物は無かったと思うけど…

 

「うん…それがその…」

 

彼が雀さんと私に視線を彷徨わせる…まあ良いか。

 

「ごめん、もう少し続けて貰って良い…?」

 

「チュン!分かったでチュン!」

 

雀さんにもう一度自分の代わりをお願いして彼に視線を向ける。

 

「…行きましょうか。」

 

「え?」

 

私が彼にそう言うとキョトンとした顔をする…いやいや…二人だけで話したいって意味じゃなかったの…?

 

「二人だけで話したいのかと思いましたが、私の勘違いでしたでしょうか?」

 

「あっ!うん!そうだよ。」

 

「では、こちらです。」

 

……主語を抜かした私も悪かったとは思うけどもう少し察して欲しいなぁ…

 

 

 

「こちらです。」

 

「え?ここ…?」

 

従業員用の休憩室の前に彼を案内した。

 

「俺、入って良いのかな…?」

 

「大丈夫ですよ、私と一緒ですし。」

 

とはいえ一応はノックする…

 

「誰~?」

 

……武蔵さんだ。二人の方が良さそうではあるけどこの人ならまあ、良いかな…ある程度事情は分かるだろうし。

 

「私です。今入っても大丈夫ですか?」

 

「別に良いよ~」

 

許可は出たがまだ入る訳にはいかない。以前とんでもない目にあったからね…

 

「……前みたいに着替え中、とかじゃありませんよね?」

 

「大丈夫だよ~?もう。別に気にしなくて良いのに~」

 

気にするよ!いくら同性でもこっちは目のやり場に困るんだからさ!しかも今は男性連れてるし!

 

「それじゃあ入りましょうか。」

 

「……本当に大丈夫なの?」

 

さっきのやり取りは聞こえてたみたいだから不安そう…

 

「大丈夫ですよ、あの人嘘はつかない方なんで。後、あの人なら事情もある程度分かってくれますし。」

 

「事情?「貴方はカルデアのマスターでは?」え!?」

 

彼の驚いた顔を見て少し笑ってしまう…まあ、何処の特異点行ってもまず自分の素性を分かってもらう所から始まるしね…その癖、理解してくれない人が大半だし。そんな事を考えながら私は休憩室の襖を開けた。



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人類最後のマスターが車椅子だったら29

「あれ?巌窟王さんもいたんですか?」

 

休憩室に入ってみると、そこには武蔵さんだけじゃなくて巌窟王さんもいた…この人休憩の時は大抵喫煙所にいて、ここほとんど利用しないのに(というかお客さんに交じってタバコ吸ってるのは旅館の従業員としてどうなんだろう…?紅ちゃんにこっちに専用の喫煙所用意して貰えないか頼んでみようかな?……駄目だ…間違い無く断られる未来しか見えない…)

 

「フン…俺がいたら不味…チッ…そういう事か。」

 

「りっ、立香ちゃんが男の人連れて来たぁ!?」

 

……巌窟王さんは気付いたみたい(取り敢えず完全に母親みたいな反応してる武蔵さんはスルー)

 

そう言えばスタンスとしてはまだカルデアのマスターの敵ではあるんだよね、この人…会わせて良いのかな…?……今更か。

 

「武蔵さん、先に言っておきますけど別にこの人は私のボーイフレンドとかじゃないんで。巌窟王さん、取り敢えず敵対行動は止めてくださいね?」

 

「フン…分かっている…そもそも今更アレに従う義理も無い。」

 

「ねっ、ねぇ…!?結局その人誰なの!?」

 

取り敢えず(二度目)武蔵さんはまたスルーして彼の方を見る…

 

「エドモンに武蔵ちゃん…?」

 

……二人の事を知ってるって事は彼のカルデアには二人が居るのかな?なら、話はしやすいね。

 

「さて、話そうか?」

 

「え?」

 

「あー…この口調?私、こっちが素なんだ。」

 

「いや、そうじゃなくて…こっちは何が何だか…」

 

……私も鈍い方だと思うけど、この人あまりに鈍過ぎる気が…まあ、性別的な違いなのかな…?女の方が精神の成熟早いとかって良く言うし。

 

「あれ?武蔵さんが私の事何て呼んでたか聞いてなかった?」

 

「え?……あっ!」

 

良かった、これで少しは説明が楽だね。

 

「私は藤丸立香…元カルデアのマスター、簡単に言ったら並行世界の君だよ。」

 

私はそう言った後、その場で自分の耳を塞ぐ……訝しげな顔していた武蔵さんと巌窟王さんだったけど、やがて武蔵さんは目を見開き、巌窟王さんは眉を顰めた……性別が違ってもやっぱり私なんだね…何となく彼が驚きのあまり叫ぶとしたらここだと思ったよ…

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「うっ、うん…ごめん、取り乱して。」

 

すぐ立ち直るのは及第点だね…何を批評してるのかな、私は…多分今も現役でマスターやってる彼と違って私はリタイアした身だし…と、落ち込んでる場合じゃないか…

 

「落ち着くのは良いけど気を付けてね?そこにいる巌窟王さんはまだマスターの敵を宣言してるから。」

 

「え!?」

 

「クハ…そういう事だ…どうする?」

 

うわぁ…巌窟王さんめっちゃノリノリ…すっごい良い笑顔してる…

 

「そっ、そうだ武蔵ちゃん「すぐに頼るのは良くないよ?後、そこにいる武蔵さんは私の命令以外は例え、抑止力の命令であっても従う気は無いらしいから諦めた方が良いよ」え!?「ごめんね?私は世界よりも立香ちゃんの方が大事だから。」嘘だろ…」

 

「ほらほら!落ち込む前に早く自分の所のサーヴァント呼んだら良いじゃん!」

 

私は巌窟王さんが本気で敵対する気が無いのは分かっているので茶番に乗る…まあ、彼を揶揄う事だけが目的じゃないけどね。

 

「それが…俺、一人でここに来てて…誰も…呼べなくて…」

 

……これで分かった。やっぱり彼がここに来たのは事故だね。

 

「そっか。これで君が何でここにいるのかはっきりしたよ「え?」巌窟王さん、そろそろその怖い笑顔引っ込めて貰っても良いですか?」

 

「クハ…良かろう。」

 

「え?え?」

 

困惑してるね…そろそろネタばらししようか。

 

「さっき私は敵対行動しないでって巌窟王さんに頼んだでしょ?何だかんだこの人、私の頼みは大体聞いてくれるから。」

 

「フン…」

 

「え?じゃあ「今のはタダのギャグ♪」え…えええええ!?」

 

うわ…今度のは防げなかったよ…

 

「ただ…本当に気を付けてね?巌窟王さんの今のスタンスは私の敵でも味方でも無いって本人は言ってるし、武蔵さんは嘘じゃなくて本当に私以外に従う気は無いらしいから。」

 

「あー…うん…分かった…」

 

落ち着いた…ていうより開き直ったのかな?……まあ、良いや。

 

「うん。じゃあ、君が気になってるだろう私の事を話そうか。」

 

さて…何から話そうかな?



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人類最後のマスターが車椅子だったら30

自分でも言うのも何だけど、私の話はそれなりに濃い…マスターとしての心労なら彼も経験してるだろうけど、私の場合、それ以上に抱えてる事があるからなぁ…ん?

 

「…これ、気になる?」

 

「…え!?ごめん!違うんだ「良いって。やっぱり気になるよね」……うん…ごめん…」

 

彼の視線は私の足元に向いていた…まあ、そりゃ気になるよね…

 

「謝らなくて良いよ。そうだね、じゃあこの足の事から話そうか…これねぇ、別に特異点に行って怪我したとかじゃないんだ。」

 

「え?じゃあ…」

 

「これはね、生まれつき。」

 

「生まれつきって「私、物心ついた時には既に歩けなかったの。というか生まれてから一度も歩いた事は無いの。」そんな…何で…?」

 

こうやって普通なら聞きづらい事も相手に少しでも話す気があるならつい、遠慮なく聞いちゃうスタンス…うん、私と同じだね…

 

「原因不明。何処のお医者さんも私の足は治せなかった、というか異常無しって言われるんだよね…でも困っちゃったよ、私としては別に歩く気が無いんじゃなくて本当に足の感覚が無いのに…歩ける筈だって言われてもねぇ…」

 

「……」

 

「そんな顔しないでよ、結局カルデアに来て原因は分かったんだからさ。」

 

「え?何で…まさか…!」

 

「そっ。私の足はね、魔術による呪いがかかってたんだ。」

 

 

「そっ、それなら「でも…そこで終わり」え?終わりって…」

 

「カルデアで原因は分かっても治す事は出来無かった…この呪いはね、近代の魔術による物じゃなくて、古代の魔術による物だったんだってさ。そっちに精通してる人をウチのカルデアは呼べなくてさ…」

 

「そんな「しかもこの呪い…歩けないだけじゃすまなかったんだよねぇ」え?」

 

「一旦話は変わるけど、君はガンドは使える?」

 

「え?うん「私は使えない」え?だって「出来無くはないよ」え?でも今…」

 

「見た方が早いかな『ガンド』」

 

「わ!?」

 

私は指先から赤黒い呪いの塊を撃ち出す…私の場合、ガンド程度ならカルデア戦闘服じゃなくても出るんだよね…っ!

 

「びっくりした…何するんだよいきな…どうしたの!?」

 

「ゴホッ…!ゴホッ…!大…丈夫…すぐに治まるから…ゴホッ…!」

 

私、魂だけの存在って聞いてたんだけど…やっぱり反動あったや…咳が中々止まってくれない…高々ガンド一つでもこうなるんだからなぁ…

 

「立香ちゃん!?何やってるの!?」

 

武蔵さんが慌ててこっちにやって来て背中をさすってくれる…

 

「大…丈夫「何処が!?全然大丈夫じゃないよ!」…ガンドぐらいならそろそろ…ゴホッ…!」

 

いやぁ…何か懐かしいね…武蔵さんも剣士だから…沖田さんの事、思い出すよ…特異点で会っただけでその後、正式な召喚こそ結局出来無かったけど、あの時は散々面倒見てもらったからね…

 

「しっかりして立香ちゃん!」

 

「大…丈夫…ごめん…話はまた後…で…良いかな?」

 

「うっ、うん…」

 

「全く…おい、そいつを奥に行って寝かせて来い。俺は、女将に伝えて来る。」

 

「ちょっと!何勝手に決めて「俺が運んで良いのか?」~~~!分かったよ!」

 

「マスターの小僧「え?何?」自分の部屋に帰れ。」

 

「でも「貴様がここにいても何の役にも立たん」っ…分かった…戻るよ。」

 

「ハァ…ハァ…武蔵さん…大丈夫ですから…もう、咳も止まりましたし…「そんな青い顔して何言ってるの!」……」

 

いやそりゃ顔色も悪くなるでしょ…息苦しかったし…

 

「取り敢えず部屋に運ぶから!」

 

「大丈夫「もう黙ってて!」……はい」



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人類最後のマスターが車椅子だったら31

「いやぁ…ごめんね?」

 

「本当に驚いたよ…」

 

それから二時間程かかって呼吸も漸く安定して来て、身体も起こせる様になったのでずっと傍についてた武蔵さんに改めて彼を呼んでもらう事にした…何せ、肝心な事はまだ何も説明出来て無いからね…

 

「とまぁ、さっき見てもらった通り…私は普通の礼装も含めて魔術を使うと身体にダメージが行くの…で、多分これが原因だと思うんだけど呪いの進行が早くなったみたいでさぁ…完全に身体が動かなくなっちゃった訳。それで、今はここ閻魔亭で働いてるの。」

 

「ん?身体が動かなくなったんなら「ん~とね…私も詳しくは聞いてないんだけど、今ここにいる私は簡単に言ったら霊体なの、身体とはまだ繋がってるらしいけど」いやいやちょっと待って…どういう事?」

 

「すっごい簡単に言ったら今の私は多分、サーヴァントに近い状態なんだと思う…きっと…私はもうカルデアには帰れない。」

 

「そんな…」

 

私の事を気にしてくれるのか、彼が顔を俯かせる…う~ん…私の事気にしてる場合じゃないと思うんだけど…

 

「ほらほら私は今更気にしてないから顔上げて…で、私の事はもう良いよね?多分君もほとんど同じ事をしてたんだろうからさ…」

 

「あー…うん…でも、君ほどキツくは無かったと思うけど「そういうの気にしなくて良いから、今はとにかく君の事だよ」え?俺?」

 

私の話が与えた衝撃が大きかった為に自分の事まで考えてないって、ところかな?……それにしたって鈍い気はするけど。

 

「私の事は今は置いといて、君の今、目の前の現実をちゃんと認識して。」

 

「何を言って「元とはいえ、私はカルデアのマスター藤丸立香…じゃあ君は誰?」俺は……あ!?」

 

やっと気付いてくれたね…何か無駄に時間をかけた気が……あ…私のせいか。

 

「性別こそ違えど君もカルデアのマスター藤丸立香…でもそんな事は有り得ないよね?私がここにいるんだし「ドクター!?ダヴィンチちゃん!?」……」

 

焦ってカルデアと通信を試みる彼を見てつい、溜息を吐いてしまう…まさかこれだけ時間経過して、一度も通信試してなかったの…?私の事が心配だったって言ったら聞こえは良いけど、見知らぬ場所でサーヴァントも連れず一人でいるんだからもう少し警戒しないと…

 

「君はね、多分並行世界に飛ばされちゃったんだよ…特異点と違ってはっきりした座標が分からないなら向こうもきっと君が何処にいるのか分からないと思う…まあ、ここ自体割と特殊な場所みたいだけど。」

 

「……」

 

「取り敢えずちょっと落ち着いてね?……さてと。それじゃあ今までの話を踏まえた上で、私は君に確認しなきゃいけない事があるの。」

 

「…何?」

 

「君、お金は持ってる?」

 

「え「忘れちゃった?ここは旅館だよ?」……」

 

この反応…あんまりお金は持ってないか、無一文の可能性が高いね…まあ、特異点の修復にあまりお金は使わなかったりするし、どうせほとんどの場合使えないからカルデアでマスターやってても正式に給金出る訳じゃないし。

 

「数日程度なら私も紅ちゃんに頭下げてあげるけど…カルデアの方で君の居場所が把握出来ていない以上、このままだと長期滞在せざるを得ないよね?」

 

「……」

 

私もつい最近まで同じ立場だった彼をこんな風に糾弾したくは無いけど…私も今はここの従業員だからね…

 

「まあ、そんなに落ち込まないで。紅ちゃんに事情話しにいこう?多分悪い様にはしないと思うからさ。」



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人類最後のマスターが車椅子だったら32

「ねぇ?立香ちゃん…?」

 

「んー?何ですか?」

 

私は読んでいた本から顔を上げて武蔵さんの方を見た(ここ、お客さん来ない時ははっきり言って本当に全然来ないからこうして暇潰しするしか無いんだよね…私、他の仕事出来無いし…)

 

「どうして彼の事を助けたの…?」

 

あの日…私は彼を連れて紅ちゃんの所へ向かい、彼の事情を話した上でここで雇ってくれるよう頭を下げた。紅ちゃんは最初は渋っていたけど、結局は折れてくれた……彼は今は客室の掃除でもしてるかな…?彼は基本的に仕事が終わった時しか私の所に来ないから、並行世界の自分とはいえ、行動パターンは読みづらい…性別の違いもあるし…

 

「う~ん…?」

 

助けた?私が?

 

「何も知らない彼をいきなり従業員に仕立て上げようとするのって助けた事になるんですかねぇ…?」

 

「そりゃなるでしょ。少なくとも彼は助けられたと思ってるんじゃない?根は立香ちゃんと同じで真面目そうだし…」

 

ハア…やれやれ…困った人だね…

 

「あの…武蔵さん?それなら貴女も同じ立場ですよね?貴女だって私の事を恩人と思ってるべきですよね?何でこうやって一日に何度も絡みに来るんです?…貴女が毎回ここで油売ってる所紅ちゃんに見られたら私が紅ちゃんに申し訳無いんですよ。」

 

そう、私の事を心配してると言えば聞こえは良いけど、武蔵さんは私の所に来る回数が余りにも多い…どう考えてもサボってるよね…巌窟王さんですらアレで仕事は真面目にやってるみたいなのに。

 

「え!?立香ちゃんそんな風に思ってたの!?わっ、私は立香ちゃんの事を心配して「私の心配より自分の仕事してくださいよ…クビになりますよ?」う…分かった…でも質問には答えて欲しいな。」

 

「ん?何でしたっけ「だからどうして彼の事を」う~ん…逆にどんな答えなら武蔵さん満足するんですか?例えば私が彼に一目惚れしたとか言えば良いんですか?」

 

「え!?まさか…本当にそうなの!?」

 

「……いや違いますから。別に彼に関して思う所、そんなに無いですから。少なくとも恋愛感情は皆無です。」

 

まあ、見知らぬ場所に訳も分からず突然飛ばされて、今の所帰る方法も無い彼には同情しなくも無いけど…強いて言うなら…それだけ。

 

「じゃあ…何で?」

 

「……」

 

並行世界の自分だから…じゃあ納得しないのかな、この人は…

 

「強いて言うなら貴女を助けようとしたのと同じ理由ですよ。」

 

「え?「いや…私、紅ちゃんに武蔵さんのフォロー今日までずっとしてるんだけど知ってます?」え!?」

 

「じゃないともう紅ちゃんに追い出されてると思いますよ?」

 

 

「ごめん…」

 

「ハア…だから、まあ…敢えて言葉にするならアレですね、衣食住足りて礼節を知るって奴ですよ…精神的に余裕があるから人の事を構ってられるんです。」

 

何処かから『嘘つけ!』と声が聞こえた気がした……いや、別に私、自分に余裕が無いのに人助け出来る聖人とかじゃないし…

 

「とまぁ、分かったら仕事に戻ってくれると助かります…確かに私は、人の手を借りないと生きていくのは難しいかもしれませんけど、何時も必要って訳じゃないです…」

 

まあ、霊体になってる私を生きているって定義していいのか微妙だけど…身体とのパスは繋がってるみたいだから、そうすると向こうにある身体は心臓は動いてるんだろうから、生きているで良いのかな?……そのお陰か半端に呪いが残ってて不便だけどね…歩けないままだし。寝たきりよりはマシだけど…まあ、今の所魔術は使う必要無いから…このまま使わなくて済むことを祈りたいよ、ガンド一つで咳き込むレベルではあるからね…喀血や吐血するより良いけど。

 

「う…分かった…戻るよ…何か手伝って欲しい事があったら声掛けて。」

 

そう言って踵を返し、廊下の奥に消えて行く…ふぅ。全く…一日に何度、私の事を見に来れば気が済むのか…心配してくれるのは有難いけどそろそろうんざりだよ…それに来るなら来るでせめて自分の仕事くらいは終わらせてから来て欲しい…



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人類最後のマスターが車椅子だったら33

「ほら、起きて…」

 

「…んん…ふわぁ…おはよう、紅…あれ?」

 

「ごめん、俺なんだ…」

 

目を覚ました私の前には彼がいた。

 

 

 

「トラブル?」

 

「うん。何か昨日泊まったお客さんが暴れたとかで…紅ちゃんも武蔵ちゃんも、後エドモンも向こう行っちゃってさ、俺が君を起こして来てくれって言われて…」

 

「ふ~ん…」

 

彼の話を聞きつつ…未だはっきりしない頭の後ろをボリボリと掻く…

 

「そっか…それじゃあ悪いけど着替えるの手伝ってくれる?」

 

「え!?着替えって…」

 

「いや、だから着替えだってば。この就寝用の寝巻きじゃお客さんの前に出れないし。」

 

「いや、でも…」

 

「取り敢えず何処でも良いから着物置いて。その上に私を寝かせてくれる?」

 

そう言っても彼は狼狽えるばかりで動こうとしない…いやいや…勘弁してよ…

 

「無理な事頼んでる自覚はあるよ?でもそうしてくれないと、私、布団からも出られないから。」

 

「……君は気にならないの?」

 

「う~ん…別に気にならないかな?」

 

「何で?俺が「別に君が並行世界の自分だからなんて理由じゃないよ」じゃあ…」

 

「想像してみて…例えば君が私と同じ身の上で、マシュが身の回りの世話してくれるのを恥ずかしいだとか何だとか言って断ったりする?」

 

「……いや…そんな事言ってる場合じゃないし…」

 

「そういう事だよ。今の私はマスターじゃなくて…所詮、受付しか出来無い旅館従業員だけど、女将の紅ちゃんが忙しい以上…私の仕事も一応重要だからさ…」

 

「……」

 

「ほら早く着替え着替え…」

 

「分かった…変な所間違って触ったりしたらごめんね?」

 

……誰かを抱き上げる場合に触れる場所なんて限られると思うけど…本人も気付いて無いみたいだし、結構天然だったり?

 

「お好きにどうぞ?こんな身体に興味が湧くならだけど。」

 

「ッ…これ…!」

 

布団を退けて、既に着物の前を開けている私の身体を見て、彼がそのまま固まった。

 

「……そんなに気になる?君だって身体に傷はあるでしょ?」

 

「いや…俺は男だし…それに…」

 

「サーヴァントが戦ってくれていても、マスターである以上前線にはいる…そこに男か、女か…何て、関係無いよね?」

 

「……俺だってこんなに酷くな「ああ、それなら…私の場合、魔術を使うと身体にダメージが行くのは知ってるでしょ?」……まさか…!」

 

「そう。この傷の大半は自分で着けた物だよ。」

 

「何で…そこまで「君も同じじゃないの?」……え?」

 

「私や、君しか出来る人がいなかった…身体が呪いに犯されて様が関係無い…"自分"が…誰でも無い、私や君が動かないと滅んだ世界を元に戻せないから。」

 

「……俺は君の様に身体が不自由だったり、身体が呪いに犯されてるなんて状態で…マスターなんて出来無い…!」

 

「そう…取り敢えずそれは良いや…早く着替え手伝って?」

 

私がそう言うと漸くノロノロと彼が動き始めた…いや急いで!?あんまり時間かかると業務に支障出るから!?



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人類最後のマスターが車椅子だったら34

「立香ちゃん…"彼"とケンカでもしたの…?」

 

「……変なニュアンス込めるのやめて貰えませんか?」

 

彼に朝起こされ、着替えを手伝って貰って数日後…武蔵さんが私の所にやって来た…最近は見かけないと思ったら…

 

「というか…また仕事中に「いや…だって…最近は彼と仲良さげだったし」話聞いて貰えませんかね…?」

 

噛み合ってるようで明らかに噛み合って無い…別にそういう仲じゃないって。少なくとも最近は気を使ってたから会いに来なかった、みたいな言い分は通すつもりは無い……というか、彼の場合、ちゃんと業務終了後に会いに来てるし。

 

「だって!閻魔ちゃん隙間無く仕事入れるから仕方無いじゃない!」

 

「いや…武蔵さん、サーヴァントだし…本気でやればさっさと終わるでしょう…?」

 

そもそも人間である彼にまで基本業務がちゃんと時間一杯回って来てる時点で明らかにサーヴァント(厳密に言えば巌窟王さんの方は単なる霊体で違うみたいだけど)二人の内どちらかがサボって無いとそんな事は無い……え?私?私はこれしか出来無いし…ちなみに巌窟王さんは彼と交代できっちり仕事はしているみたい…何で知ってるかって?

 

「武蔵さん…本当にいい加減にしましょう?マジで追い出されますよ?紅ちゃん、武蔵さんがサボってるの知ってますから…そろそろ私が庇うのも限界です…」

 

武蔵さんにはそれなりにお世話にはなってるし、こうやって仕事中(お客さん来ないと暇だけどそういう問題じゃない)絡みに来る以外は特に迷惑はかけられてないし、多少フォローするくらいなら良い…でも私がいくら庇っても武蔵さんがこうしてサボってたら何の意味も無い…

 

「う…だって気になったから「別に彼と正式に付き合ってるとかじゃ無いんで」でも仲が「はっきり言ってしまうと同じ立場だから多少話が合うってだけです…友人ですね」…それは分かったけど…じゃあ最近は何で…」

 

「彼が私を起こしに来てくれた日があったでしょう?その時着替えを手伝って貰「まさか…何かされたの!?」……何でそうなるんですか…」

 

「え…違うの「武蔵さん、同性の貴女が引いた身体ですよ?それに女性のサーヴァントも数多く存在するのにそこら辺だらしない人が複数のサーヴァントのマスターなんて出来る筈無いでしょう?」う…確かに…」

 

実際、彼のカルデアにはかなりの女性サーヴァントがいたらしい…明らかにそういう好意を向けて来ている人が何人もいたとか…本来は自惚れにしか聞こえないのに、あれだけ疲れた顔で言われるとね…後、彼と話してる時に時折感じる妙に粘ついた感じの視線……アレは彼に好意を抱いてるサーヴァントの人の物じゃないだろうか…?

 

……私でも分かるレベルであれだけ、嫉妬と憎悪の篭った視線を並行世界のここまで送って来れるなら迎えに来れたりしない物なのかな…?…まあ彼には敢えて伝えてないけど…どう考えても地雷だし。

 

「…何か思い当たる節とかって無い「何でそんなに気にするんですか?」いや、だって…」

 

私としては今の所仕事に支障が出てない以上、特に気にしないつもりである…彼が私を嫌っていたとしても私にどうにか出来るとも思えない。そもそも、同じマスターであってもまず性別が異なる時点で価値観とかも全然違うだろうし…

 

「う~ん…アレじゃないですか?彼に言われたんですよ、俺は君の様に身体が不自由だったり、身体が呪いに犯されてるなんて状態でマスターなんて出来無いとかって。…多分、酷い事を言ったと気にしてるんじゃないですかね?実際、私はその状態でマスターやってた訳ですし。」

 

ちなみに私ははっきり言って全く気にしてない…いや、小さい時から身体の事で色々言われてたから…正直彼より酷い事なんて散々言われたしね…

 

「仲直りしたいとか「そう言われても…彼の方から避けてるなら、私から下手に会いに行くのもアレですし…」

 

というか、私からしたら別に無理に仲良くする必要があるのか、という風に思う…彼は自分のカルデアに何時かは帰るんだろうから……私と違って。

 

「でも、今のままでも良いとは思ってないんでしょう?」

 

「んー…まあ、そりゃ…」

 

まあ別に敵対する理由も無ければ、私が彼を極端に嫌ってるとかでも無い…仲良くするに越したことは無いと思う……またあの視線に晒される事になるんだろうけどね。

 

「そっか、なら私が彼を呼んで「いや、今仕事中ですからね?」でも立香ちゃんだって気にしてるでしょ?」

 

「いや、全然「ええ!?」…そんなに驚きます?」

 

さっきも思ったけど、別に向こうが嫌なら無理に仲良くしたいとも思わないんだよね~…

 

「別に呼んでくれるならそれはそれで構わないですけど…でも仕事終わってからにしてくださいね?後、武蔵さんはいい加減仕事に戻ってくださいね「私は落ち込んでるだろう立香ちゃんを励ましに」別に凹んでませんし、私。」

 

まあそれは良いけど…そろそろ言わないとね…アッチは限界みたいだし…

 

「…というか、さっきから後ろに紅ちゃん立ってるんですけど…」

 

「え…「随分長くおちゃべりちてたみたいでちが、ち事はもう終わったでちか?」閻魔ちゃん何時からそこに!?」

 

武蔵さんはそのまま紅ちゃんに後ろ襟を掴まれて、廊下の奥まで引き摺られて行った…ふぅ…あっ!

 

「いらっしゃいませ!閻魔亭にようこそ!」

 

気を抜いてたせいで、少し声が裏返ってしまった…あっぶな~…常連客の中でも比較的まともな人(?)だったから助かった…接客態度がどうとか、長々と説教始めるお客さんもいるからね…まあ盛大に爆笑されたけど…



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人類最後のマスターが車椅子だったら35

「え?二人と知り合った経緯…?」

 

「うん。」

 

業務が終わり、約束通り武蔵さんが私の部屋に連れて来た彼が開口一番に発したのがそんな言葉だった…う~ん…

 

「武蔵さん、もう部屋に戻ってくれて良いですよ。」

 

「え!?何で!?ダメだよ、こんな時間に男の子と二人きりなんて!」

 

だからアンタは私の母親か!……ハア…まっ、新鮮ではあるけどね…私のお母さん、基本的に私のやる事にあんまり文句言わないし…とはいえ、それはそれだ…

 

「……どうしても聞きたいなら巌窟王さんに許可を取って来てください「何で彼は良くて私はダメなの!?」…彼は巌窟王さんを知ってました、多分、私に似た状況で縁を結んだんだと思います…そういう理由じゃ駄目ですか?」

 

「む…じゃあ私は!?」

 

「武蔵さん、元はこの旅館の残留思念でしょう?そこまで深い付き合いじゃないですし「うわ~ん!」あっ…ちょっと…」

 

武蔵さんは泣きながら部屋を出て行った……嘘泣きじゃないんだろうけどきっちり襖閉めて行ってる辺り律儀だね…

 

「…それじゃあ二人とどうして出会ったか、だったね「あれ放っておいて良いの…?」君も知ってるんじゃない?武蔵さん一度臍曲げたらしばらくは元に戻らないから「確かに…」じゃ、まず巌窟王さんの事からだね…」

 

「出会いはあの監獄塔…君もそこであの人に出会ったんじゃない?」

 

「うん…俺、あの時は一人で何故かレイシフトしちゃっててさ、最初にあったエドモンと契約してしばらく一緒に行動してたんだ…だけど最後は裏切られて…あの時は本当にヤバかったよ…」

 

やっぱりあの人敵だったんだ…

 

「そう…私はね、出会っただけで終わり。」

 

「え?」

 

「出会った時点で…もうまともに動ける体力も無かった…でも、倒れた私を多分彼は助けてくれたんだと思う…そして今はここにいる…」

 

「動ける体力が無かったって「私は呪いに蝕まれてたって言わなかった?」あ…」

 

「多分、あそこに私が来た時点でカルデアの私の身体はもう意識は無かったんだと思う……まあ何で今、私はこんなに元気なのかは知らないけどね…あの時も恐らく、もう既に霊体だったんだろうし。」

 

「……」

 

「その後、再び意識を取り戻した私はこの旅館の外で目覚めた…直前の記憶が曖昧になってて多少混乱はしたけど何とかここに辿り着いた…そして先に来ていた巌窟王さんが私の為にここで働いてるのを知った…」

 

「そうだったんだ…」

 

「見ての通り、今の私はこうして足が動かないだけで比較的体力は戻ってるからね…まあ自分の身体を持ち上げる程には腕の力は戻ってないからアレだけど…まあそんな訳で私でも何か出来る事が無いかと思って紅ちゃんにお願いしたの…それで今はここの受付を担当してる。」

 

「武蔵ちゃんは?」

 

「…ああ、あの人なら…元はここの残留思念だったんだ。」

 

「さっきも言ってたけど…残留思念?」

 

「そう、ここに来るお客さんは多くが英霊や、神霊なのはもう知ってるでしょう?武蔵さんも嘗てお客さんとしてここに来て、数少ない出禁になった人だよ。」

 

「……何をやったの?」

 

「さぁ?私も紅ちゃんに聞いてみたけどかなり疲れた顔してたから、詳しくは聞けなかったんだよね…」

 

「そっか…」

 

「それで、本人は出て行ったんだけど…念いが強過ぎたらしくて思念体が残っちゃったんだって。」

 

「念いって?」

 

「……美男美女とお風呂入るまで帰りたく無かったんだってさ。」

 

「あー…成程。何か言いそうな気がするよ…」

 

「君のカルデアにいる武蔵さんもそんな感じ?それなら苦労しただろうね…」

 

「うん…あれ?でもあの武蔵ちゃんは思念体じゃなくてサーヴァントだよね?」

 

「気付いた?うん、それなんだけど、元はと言えば私、武蔵さんに声をかけられたの。一緒に温泉入らない、って。」

 

「……成程ね。」

 

一体何に納得したんだろうね彼は……まあ良いか。

 

「こんな身の上だし、断ろうと思ったんだけど…本人はそれでも良いって言うし。それで、私は紅ちゃんに色々お世話になってるし、それで紅ちゃんに迷惑をかけてるこの人が帰ってくれるならと思って、一緒に入る事にしたって言うのが半分…もう半分は剣豪"宮本武蔵"って存在に個人的に興味があったから。……まあ今の所、結局生前の話全然聞けてないんだけど…」

 

「そう…」

 

「それで、温泉入る前に脱衣場で私の身体見て、大泣きされてね…その後私の今までを話したら、私の補助をする為、思念体の自分を依り代にサーヴァントになって勝手にまた旅館に来てた武蔵さんが私に仕えるって言い始めて「ちょっと待って。」何?」

 

「今聞き捨てならない事があったんだけど…思念体の自分を依り代にサーヴァントになったって何!?」

 

「……そう言われてもね…深く気にしてもしょうがない人なのは分かってるんじゃない?」

 

「……それは…確かに…」

 

「とにかく、それであの人は今はここで働いてる…筈?」

 

「筈って「私の所に入り浸ってる時間の方が長いからね…お客さん来たらいなくなるし、それ以外はお世話になってる事の方が多いからあまりキツく言うつもりは無いけど…間違い無く仕事はサボってるね…」…あー…」

 

納得顔になった彼を見て溜め息を吐く…

 

「ところで君はそんな話をしに来たの?」

 

「…いや…それは…ずっと気になってたから…」

 

「そう…」

 

「ごめん…帰る「ねぇ!」え?」

 

「私は…別に気にしてないよ、寧ろ、私の方が勝手な事言っちゃったかなって、気にしてたんだから。」

 

「……何が?」

 

「私と君は同じじゃない…並行世界の自分であっても私と君は同じじゃない。」

 

「……」

 

「私と君は…どちらも藤丸立香。でも同じなのは名前だけ…きっと何もかも全部違う。」

 

「…うん、そうだね…」

 

「良かったらまた部屋に来てよ、君のカルデアの事を聞きたいから…私も自分のカルデアの事を君に話したい。」

 

「うん、また来るよ。」



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人類最後のマスターが車椅子だったら36

彼と無事仲直り出来た次の日、閻魔亭に意外なお客さんがやって来た。

 

「いらっしゃいま「マスター?」え?」

 

「私だよ……覚えていないのか?」

 

さっきまで読んでいた本に半分意識を割かれていたせいでちゃんと顔を見てなかった事に気付き、改めて目の前のお客さんの顔を見る……え…?

 

「嘘…エミヤさん…?」

 

「久しぶりだな、マスター。元気そうで何よりだ。」

 

そこには私が特異点Fから帰って来て以来、最初にお世話になった赤い弓兵…エミヤさんが立っていた。

 

 

 

 

「でもどうして…エミヤさんって確か…守護者で基本的に座からは勝手に動けないんですよね?」

 

私は彼から聞いた事を思い出しながらそう尋ねた。

 

「…確かに本来ならそうなんだが、今は抑止力も正常には働いてないからな、せっかくだから私も少し休暇を、と思ってね…前々から聞いていたここに来てみようかと思ったんだ……すまないな…」

 

「え?何がですか?」

 

「私は君が目を覚まさなくなってから、契約を解除してしまったんだ…」

 

そう言って彼は深々と頭を下げた…そんなの、気にしなくて良いのに。

 

「…良いんですよ、エミヤさん…私が目を覚まさなくなった以上、人理修復をしてもらうという契約は切れたも同然ですから…それに、私、嬉しいんですよ。」

 

「む…何がだ?」

 

「今までエミヤさんはずっと働き続けだったんでしょう?……自分のルーツが分からなくなるまで。」

 

「そうだな…」

 

「カルデアに来てからも、皆の為に料理をしてくれたり、私の事も気遣ってくれて…でも、自分は全然休もうとしない…サーヴァントだからって理由で…」

 

「……」

 

「そんなエミヤさんが自分から休暇を取った……偉そうに言うつもりは無いですけどそれが本当に嬉しいんです…」

 

「……何時もろくに休みを取ろうとしないのは君の方だっただろう?私としては自分の事を気にして欲しかったんだがな…」

 

「良いんですよ、だって私はマスターなんですから……エミヤさんが…皆が頑張ってるのに私だけ休んでるなんて出来ません……まあ、こんな身体の私にはそう、大した事は出来ませんでしたけど…」

 

「……そんな事は無い…マスター、君は本当に良くやっていた…」

 

「ありがとうございます…まあ、エミヤさんの事を理由にしちゃいましたけど…私が本当に嬉しいのは…」

 

「ん?」

 

「こうしてまた貴方に会えた…それが一番嬉しいです。」

 

「……全く…君は本当に厄介なマスターだ…」

 

「エミヤさん…だった、ですよ……今はもう…私はマスターじゃありません。」

 

「そうだな…では…君の事は何と呼ぼうか?」

 

「……どうしましょう?」

 

「む…どういう事だ?」

 

「いやぁ…ちょっと厄介な事になってまして…実は今、ここには並行世界の私が働いてるんです…"彼"も藤丸立香なんですよ…だから…」

 

私は本当はエミヤさんに"立香"……ってそう呼んで欲しい…でもそれは出来無いから…

 

「…承知した。では君の事はやはりこう呼ぼう…マスター、と。……まあ、今の私は単なる客で、君はここの従業員の様だから個人的に呼ぶ事は無いかもしれないが。」

 

「そうでした…じゃ、改めて…閻魔亭にようこそ!エミヤさん、ゆっくりして行ってくださいね?」

 

「うむ、世話になる…」



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人類最後のマスターが車椅子だったら37

「え…?エミヤさん、紅ちゃんの料理教室受講するんですか?」

 

業務終了後…本当はいけないんだろうけど私はエミヤさんの泊まった部屋を訪れていた。

 

「うむ…何だ?どうしたんだマスター?」

 

「……」

 

聞いた話とは言え、私は知っている……紅ちゃんの料理教室はとてつもなく過酷である、と。

 

話は"彼"がここで働き始めた頃に遡る…

 

 

 

『えっ?紅ちゃん、料理教室やってるの?』

 

『あれ?知らなかった?…と言っても俺もさっき知ったばかりなんだけどさ、俺料理割と好きだし…ここの料理は実質紅ちゃんが一人で作ってるみたいだからさ…お客さんに出すんだし、ちょっとやったくらいじゃ戦力にはならないだろうけど、受けておけば今後手伝いくらいは出来るかなって思ってさ。』

 

『……だから君もやってみようって?』

 

『うん。基本、お客さん向けの教室みたいだけど、聞いてみたら参加するの自体は構わないって言われたからさ。』

 

『…紅ちゃん、それなら言ってくれたら私も受けたのに…』

 

大して動く事も無い受付の仕事だけやってるのははっきり言って申し訳無いから…

 

『う~ん…そもそもここのお客さんって、大半が英霊や神霊だよね?』

 

『それがどうし…あ…』

 

『多分、相当ハードなんだと思うよ。俺もここ来たばかりだけど、どう見ても紅ちゃんは妥協しないタイプだろうし。』

 

『……それでも…少しでも紅ちゃんの事手伝えるなら手伝いたいのに』

 

『まあ、今回は取り敢えず俺だけ受けてみるから。後でどんなだったくらいは教えるからさ。』

 

そして…一日参加した彼は異常に疲れた顔をして戻って来た…

 

『いや…開始と同時に何かワイバーンとか、所謂…幻想種だっけ?それがいっぱいいるジャングルに放り込まれてさ…正直、マジで死ぬかと思ったよ…』

 

……後で紅ちゃんに聞いてみたらまず紅ちゃんの料理教室は幻術で精神のみを幻想種の闊歩する危険地帯に放り込む所から始めるんだとか。…『先ずは食われる立場になるところから始めるでち』だそうな……そりゃ私に伝えられるわけないよね…私一人じゃ幻想種から逃げ切れる訳無いし…ちなみに彼も向こうであったとある英霊の人がいなかったら精神だけとは言ってもすぐにでも食われてたかもしれないらしい……

 

しかも、これでもまだ最初の方らしくこの空間で先ずは体感で一ヶ月生き残り、そこから更に過酷な試練を用意してるとか…それを聞いた彼は速攻で諦めたのは言うまでも無い…まあ、彼を貶すつもりは無いけどね…英霊の人の助けがあったとはいえ、一応ここは突破したらしいしね…

 

とまぁ又聞きだけど私は一応紅ちゃんの料理教室がどれほどヤバいのか把握しているのだ…さて…ここで問題がある…

 

「マスター…一体どうしたんだ?顔色が悪いぞ。」

 

「エミヤさん…その、料理教室なんですけど…」

 

私はこの事をエミヤさんに伝えるべきか、否か…まあ、エミヤさんなら初見でも対応出来そうではあるけどね…でも、やっぱり心配は心配…本当にどうしようかなぁ…



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人類最後のマスターが車椅子だったら38

結局私は紅ちゃんの方針も考えると言い出す事が出来無かった…

 

「大丈夫だって。生前のエミヤは戦場を回ってたらしいし…幸い、相手も人間じゃないし、あのくらいなら楽勝じゃないかな?」

 

「そうかな…」

 

私は"彼"の部屋に来て愚痴っていた…

 

 

 

「そんなに心配?」

 

「そりゃあ、ね…」

 

「…逆に何で?エミヤはそもそもサーヴァントだよ?」

 

「……」

 

そんな事は改めて言われなくても分かってる…私が心配する必要なんて無い事くらいは…

 

「……俺の勝手な思い込み、って言うなら否定してくれて良いし、俺は謝るけど…聞いて良いかな?」

 

「何…?」

 

「もしかして君は…エミヤが好きなの?」

 

……?

 

「好き…って…?」

 

「あー…そっからなのか。君、確か最初に召喚したのってエミヤだったっけ?」

 

「うん、そうだよ…特異点F…冬木市では召喚に失敗したんだよね…」

 

そう…私は召喚出来無かった…本当に良く生き残れたよね…

 

「…で、君はカルデアに戻って来た後、最初の召喚でエミヤを召喚した…それからエミヤはずっと君を支えてくれたんだよね?」

 

「うん、そうだよ。」

 

エミヤさんがいたから私は立ち直れた…オルガマリー所長を助けられなかった罪悪感…マスター候補が私だけになってしまった事による重圧…皆、私の事を強いって言ってくれたけど違う。私は強がっていただけ…何時だって怖かったし、心細くて泣きそうにもなった…それでもマスターとして強くあろうとして必死で隠していたそれは……エミヤさんには直ぐにバレてしまった…

 

それからだ…マシュが異常なくらい私に構うようになったのは…多分、あの後エミヤさんから何か聞いたんだろうけど。

 

「マシュだって私を助けてくれたけど…最初に私の弱さに気付いてくれたのはエミヤさん…あの人がいたから私は頑張って来れた。」

 

「君にとってのエミヤってどんな存在?」

 

「……お兄さんかな?私、一人っ子だけど兄がいたら…こんな感じなのかなって…」

 

エミヤさん鋭いから私が彼に何を見ていたのかは気付いていたと思う…そのせいか彼は苦笑いばかりしてたけど…

 

「兄か…本当に?」

 

「何が?」

 

「いや…君のそれってさ、歳の離れた兄に抱く親愛の感情って言うより、異性に抱く恋愛感情って感じなんだけど…」

 

「え?……えええええ!?」

 

わっ、私がエミヤさんを好き!?……そっ、そんな訳…!

 

「……否定出来る?」

 

「……出来無い…」

 

改めて考えたら彼の言葉を全く否定出来無かった…そっか…私エミヤさんが好きなんだ…そう考えた時、私に向けられていた粘ついた憎悪の視線が、生暖かい物に変わったのが分かった…そうだ、これについて彼に聞いてみよう…

 

「話は少し変わるんだけど…」

 

「何?」

 

「君と話してる時、何時も何か私に嫉妬と憎悪の篭った視線が向けられるのを感じてたんだけど…何か心当たり無い?」

 

「……あー…それなら多分きよひーだね…」

 

「きよひー?」

 

「安珍・清姫伝説って言ったら伝わる?」

 

「あー…」

 

知ってる…すっごく簡単に言ったら安珍という僧侶を好きになった少女が自分の好意を拒絶された事にキレて、その想いだけで大蛇に変身し、お寺の鍾の中に隠れた僧侶安珍を口から吐いた炎で焼き殺す話…要するに太古のヤンデレ。

 

「知ってるけど…何で君は彼女から好意を向けられてるの?」

 

「彼女にとって俺は…安珍の生まれ変わりらしくて…」

 

……そんな事…本当にあるだろうか…伝説の内容から察するにサーヴァント召喚されたらバーサーカーとして召喚されるだろうから勘違…おっと。生暖かい視線が冷たくなった…殺気を感じる…こんな事で死にたく無いし、これ以上は止めとこ。

 

「それで?何でそれを聞いたの?」

 

「いや…エミヤさんが好きなの自覚したら視線が生暖かくなったんだよね…」

 

「…きよひーのお墨付きって事だね…君は間違い無くエミヤが好きなんだよ、異性として。」

 

「そっか…」

 

自覚したからってどうするつもりも無い……って言いたい所だけど…どうしよう?…自覚しちゃったら恥ずかしくてこの後どんな顔して会ったら良いのか分からないよ…



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人類最後のマスターが車椅子だったら39

「…そう言えば聞き忘れてたんだけど…」

 

「っ!?…なっ、何?」

 

「……大丈夫?俺の前ですらその状態だと、エミヤに会ったら気絶するんじゃない?」

 

「……そんなにヤバく見える…?」

 

「正直、かなり!…ヤバいと思う。」

 

そう言われても…だって今初めて自覚したんだよ…?落ち着けって言われても無理だよ…本当にどうしよう…

 

「とにかくエミヤが戻って来たらちゃんと話はした方が良いよ…多分エミヤならどっちに転ぶにしても悪い様にはしないと思うからさ。」

 

「……何か偉そうに言ってるけど、君は清姫と話しないの?」

 

少しだけど落ち着いた私は話を逸らす意味も込めて水を向けてみる…

 

「う~ん…どうするにしてもちゃんと話はするよ?でもそもそもここには俺しかいないし…第一、人類が滅んでる今の状態じゃ両親に紹介する事も出来無いしなぁ…」

 

そうだった…私と違って今の彼は話し合う事も出来無いよね…

 

「というか…俺の場合きよひーだけじゃないし…」

 

「……発言だけ聞いたら何か、相当ゲスいよね…」

 

「もちろん自覚はしてるよ…皆が何で俺なんかを好きになったのか分からないけど…何れちゃんと答えは出すよ。」

 

彼に問題があったのかは私には分からない…少なくとも責任を取ろうとしてる辺り、女の私からしたらまだ好感は持てるかな…あ…

 

「ところで何を聞こうとしてたの?」

 

「ん?ああ、そうだったそうだった…俺が君に始めて会った時の事なんだけど…君と俺は初対面の筈だよね?でもあの時の反応…もしかして君は俺の名前を知るより先に俺が誰なのか分かってたんじゃないかと思って…」

 

……はて?

 

「あれ?言ってなかったっけ?」

 

「うん。」

 

「……」

 

一瞬説明しようとして迷う…この話をするなら私にかかっている呪いの原因…そして必然的に彼にこれから先の未来を教える事になる…本当に教えて良いんだろうか…

 

「あれ…どうしたの?」

 

「答える前に聞きたいんだけど…君にとってはそれなりに酷な話になるよ?それでも良い…?」

 

別に"彼"とは別の、男の藤丸立香のせいでこの身体になったのは恨んでない…だって彼が悪い訳じゃないから。……でも、目の前の"彼"はとても気にすると思う…でもそれ以上に…私がするのは彼とマシュが敗北してしまう未来の話…私の様に身体が限界を迎えてリタイアするのとは訳が違う…

 

……ここで話しても、多分負けは覆らない…夢なのに感じたあの圧迫感……私はもちろんの事、目の前の"彼"だって…あの規格外の化け物…魔術王ソロモンには絶対に勝てない…

 

「後悔なら…もう飽きる程してるよ…今更、何を聞いたって俺は変わらない。」

 

何て強い目…そっか…どっちにしろ私には無理だったんだね…なら、彼にとっては寧ろ…これは良い話なのかもしれない。

 

「…分かった、じゃあ話すね…今から私がする話を忘れないで…君のカルデアの皆に必ず伝えて…もしかしたら…君なら勝てるかもしれない…」

 

「…君はもしかして…」

 

「私は…人理焼却を行った奴の名前を知ってる…そしてまともに戦ったらどうなるのかを…」

 

「そいつは…そんなに強いの…?」

 

「強いよ…多分ほとんどのサーヴァントが束でかかっても倒せない程に…ここまで言って何だけど…本当に聞くの?」

 

「……聞くよ。君はそいつの真名を知ってるんだよね?」

 

「知ってるけど…でも…勝つ方法は…」

 

「俺は君から聞いた事を忘れない…必ず帰って皆に伝える…伝えて…勝つよ…だから教えてくれ、そいつの名前は?」

 

「…魔術王ソロモン…それが人理焼却の黒幕の名前…」

 

「魔術王ソロモン…どんな奴なんだろう…」

 

「正直に言うと私も良く分からないかな…私が知ってるソロモンは三代目のイスラエルの王だって事くらい…」

 

「それ以上は分からない?」

 

「これ、聖書に載ってる話なんだよね…私もさすがに専門外だから…これ以上は良く知らない…後は向こうで調べて貰って。」

 

「分かった…それで…何で君はそいつの事を?」

 

「うん…これから話すよ…全部ね…」



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人類最後のマスターが車椅子だったら40

「始まりはカルデアに来てから見る様になった夢…」

 

「夢?」

 

「そそ。寝てる時に見るアレ…まあ、そういう顔になるよね…」

 

私がそう言った途端に胡散臭い物を見る様な顔をする彼を宥める。いや、まあ…私もつい最近まで半信半疑だったし…

 

「まあ、取り敢えず聞いてよ…で、夢の内容はサーヴァントっぽい、夢の中なのに妙に威圧感を感じる奴からの攻撃を受け止めて、盾を残して消えたマシュ…その後に彼女の後ろで守られていた人物が殴り掛かる所「待って!」…何?」

 

「そいつにマシュが?」

 

「そう…落ち着いて。これは…あくまで私が見た夢の話だよ。」

 

まあ、何処かの並行世界で実際に有った事みたいだけど…今はそこだけ注目されても困るからね。

 

「私が見るその夢の特徴としてマシュの顔ははっきり見えるのに、対峙してるサーヴァントは霞が掛かった様になってて見えず、マシュと一緒にいるパートナーは視点を向けられないせいで顔を見る事が出来無い…続けて良い?」

 

「うん…大丈夫…」

 

既に彼の顔色が悪い…オチが見えたのかな?まあ、こっちは彼の状態に構ってる場合じゃないからスルーさせて貰うけどね。

 

「…日を追う事にサーヴァントの方は顔が見える様になって行き、パートナーの方はしばらくは一度も顔がフォーカスされなかったのに時折視点が変わって横顔くらいなら見える様になって行った。」

 

「……」

 

「それで、ある日…何時もの様に私に背中だけを見せるマシュのパートナー…その人がこっちに振り向いた。」

 

「え?」

 

「その人はね…その夢の単なる登場人物の様で、実際はずっとこっちを認識していたみたいなの…その瞬間、私もその夢の中の登場人物に…と言っても、その状況がどうにか出来た訳じゃなくて、時間の止まったその世界でその人と短い時間会話しただけ…その時聞いたの…二人が対峙し、敗北したサーヴァント、魔術王ソロモンの事と、私にかけられてる呪いはその人が魔術王ソロモンに殺られた瞬間にかけられた呪いが並行世界の私に干渉してしまっている事が原因である事を、ね…」

 

「……」

 

「この事は私のいたカルデアの誰にも話してない……マシュにもね。」

 

「……何で?」

 

「私自身もこの内容が半信半疑だったから。…だって夢だよ?それ以降は同じ夢を見ても彼とは話せなかったせいもあるけど…」

 

「でも、今は君はそれが本当の話だと確信を持ってる…だから俺に話した…」

 

「そうだよ。」

 

「何で?ずっと信じ切れなかったんだよね?」

 

「うん。でも、今は君の言う通り確信してる…これが本当に有った事だってね…」

 

「だから…何で…!「君は…もう気付いてるんじゃないの?」え?」

 

本当に分からない…?それとも認めたくないだけ?

 

「…じゃあヒント。私が確信を持ったのはつい、最近だよ。……ここまで言えば分かるかな?」

 

「その…マシュのパートナーは…俺だった…!」

 

「そう…私がこの話が厳然たる事実だと思ったのは君がこうして私の前に現れたから「ごめん!」……何で謝るの?」

 

彼がその場で土下座を始める…うわぁ…予想通りだね…

 

「だって…!君がその身体になったのは俺の「君じゃないよ。君とは別の並行世界の藤丸立香」でも、それは…俺だ…!俺の可能性の一つだ…!」

 

「"彼"と話した時も言ったんだけど別に私は恨んでないんだよね。」

 

「何故…?」

 

「"彼"のせいじゃないから…当然、君のせいでも無い。」

 

「俺は「自惚れないで。この身体がこうなったのはたまたまだよ、私の運が悪いだけ」……どうして…そんな…」

 

後ろ向きの筈の彼の言葉が一々私に刺さって少し苛立つ…"彼"の言葉はあまり響かなかったのに…あー…そっか…"彼"も嘘をついた訳じゃなく本当に私に悪いと思ってたんだろうけど…もう自分は死んでるっていう諦めが"彼"の言葉に熱を乗せなかったんだね…

 

「そこまで私に詫びたいなら約束して。」

 

「何を「負けないで、諦めないで、マシュを…絶対、死なせないで。」……分かった、約束する。」

 

その力強い彼の言葉を聞いて安堵する…うん、私は無理だったけど…彼なら…きっと…



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人類最後のマスターが車椅子だったら41

私は彼の部屋から出て廊下に出る…後はエミヤさんと…って…

 

「あの…巌窟王さん…そこで何してるんですか…?」

 

壁に背中を預け、目を閉じ、胸の前で腕を組む彼が目に入って来たので声を掛ける。

 

「クハ、中々面白い話をしていたな。」

 

「…私としては隠す様な話じゃないですし、良いですけど…盗み聞きはさすがにどうかと思いますよ?」

 

「…あれだけ騒いでいれば嫌でも聞こえると言うものだ。」

 

「……」

 

騒いでいたのは主に私じゃなくて彼だと思うけど…というか…さっきの姿見る限りたまたま聞こえたんじゃなくてこの人あからさまに聞いてたよね?

 

「まあ良いですけど…それで?私が人理焼却の黒幕の正体を現役のマスターに教えたというこの状況…貴方はどう処理するんですか?」

 

「……別にどうもせん。俺が請け負ったのはマスターの足止めと始末だけだ…奴にそこまで義理立てする理由も無い…そもそも貴様がやった事に本当に意味があると思っているのか?」

 

「…あー…やっぱりそうなります?」

 

何となくそうじゃないかと思ってたけど…やっぱり駄目なのか。

 

「…並行世界線上の同一人物が同一世界に揃って存在するこの状況は本来有り得ん。奴の言葉を借りるなら剪定事象、という奴だろうよ。」

 

「私と彼の出会いは無かった事になる…」

 

「…既に脱落した貴様の記憶には残るかもしれんが、あいつの記憶は残らん…恐らく向こうに帰ったら頭の中から跡形も無く消え去るだろう…無意味だな。」

 

その言葉に唇を噛み締める…何となく分かっていてはいたけどこうやって言葉に出して言われると…来る物がある…分かってる…だけど…それでも…!

 

「私は無意味だったとは思いません。」

 

「何だと?」

 

「何の為に変に回りくどい言い方をしたと思ってるんですか?」

 

そう、私は彼に敢えて気付かせた…嘗て魔術王ソロモンに挑んだのが"自分"で有った、と。

 

「これだけ印象に残る様な言い方をしたんです、残りますよ…伝えたのが"私"だとは思い出せなくても…きっと伝えられた事柄は思い出してくれます。」

 

「ほう…?根拠は?」

 

「彼が"藤丸立香"だから。私にとってはそれだけでそう信じる根拠になる…」

 

「…ク…クハハハハ!」

 

彼が片手で両目を押さえ、もう片方の手を横に広げ嗤う……うわぁ…

 

「…その芝居がかった表現止めません?すごく痛い人に見えますよ?」

 

「クハハ!これが笑わずにいられるか!?そんな事が根拠だとはな!」

 

私の言った事を無理矢理スルーして彼が嗤う…これがこの人の素?こんな痛い感じの人だったとは…何かものすごくしっくりは来るけど…

 

「好きなだけ笑って下さいよ。今更そんな事で私、凹みませんし。」

 

「お前が凹まなかった所でどうすると言うのだ!?所詮は奴次第だ、貴様にはもうどうする事も出来まい!」

 

「む…別に良いじゃないですか!それぐらいの希望持ったって!私はさっき言った通り恨んでません、"彼"の事も…魔術王ソロモンの事も…でも!悔しくはあるんですよ!?だから…良いじゃないですか、それくらい期待したって。」

 

「クハハ…ふむ、確かに期待するだけなら貴様の勝手だな。」

 

「ええ。私は勝手に彼に期待します。」

 

「…フン、好きにしろ。」



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人類最後のマスターが車椅子だったら42

「さて、エミヤだったか?」

 

「…当然そっちも聞いてますよね?」

 

私が言い切ったらまた目を閉じ、不機嫌そうに黙りこくった彼の前を横切ろうとしてそんな声が聞こえて来て動きを止める。

 

「人の恋愛に興味があるというタイプには見えませんけど…何か言いたい事でも…?」

 

「…いや…俺からは何も言わん。そっちも好きにするが良い…」

 

「ええ…じゃあ…行きますね?」

 

再び車椅子のタイヤ部分に付いているハンドリムに手を掛け、回す…

 

「…俺は何も言わんが…あの剣士は色々と言うのだろうな。」

 

手を止める…

 

「…黙っててって…言ったら承諾してくれます…?」

 

「…貴様に頼まれずとも俺は何も言わん…だが…いや、良い…行け。」

 

「何か歯切れ悪いですね…何かあるんですか?」

 

「……剣士もさっきまでここにいた。」

 

車椅子から落ちそうになった。

 

「はぁ!?」

 

「奴は既にあの男の部屋に向かったぞ。」

 

「そういう事は!先に!言って!くれませんか!?」

 

「貴様が聞かなかっただけだろう?…クハ…何が起こるか楽しみだな。」

 

「悪趣味にも程がありませんかねぇ!?」

 

「そもそも貴様は何を言っているのだ…」

 

「はぁ!?「障害も無く手に入る物に何の価値がある?」…私は普通の恋愛したらいけないんですか!?」

 

「何処が普通だ?相手は生者ですら無い「あの人は今、ここにいるんです!生者か死者か、何て関係ありません」お前がそう思っていても向こうはそう思うまい。」

 

「それは…そうかもしれません、けど…!だからって諦めなくちゃいけないんですか!?」

 

「誰がそんな事を言った?」

 

「はぁ!?だって今「生者か死者か、という理屈は関係無いと言ったな?ならばそんな理屈はねじ伏せてやれ。貴様が横に立てる女だと証明してやれば良い。」…そう、ですね…」

 

何も言わないと言いつつ…何か助言して来たよこの人…前から思ってたけど結構ツンデレさんだったり?

 

「ありがとうございます。じゃあ、行って来ますね?」

 

「早く行け。」

 

シッシッと手を払われる…私は虫か何かか!?もう…さっさと行こう…武蔵さんが何を言い出すか分からないし…

 

 

 

 

「立香ちゃん…」

 

「武蔵さん…すみませんが今構ってる暇無いんです…そこを退いて貰えませんか?」

 

彼の部屋に行く途中の廊下の真ん中で仁王立ちする武蔵さん…真ん中にいられると車椅子じゃ通れない。

 

「やだって言ったら?」

 

「何でですか…そもそもこんな時間にこんな所で何を?」

 

武蔵さん結構寝るの早いんだよね…普段サボってばかりいるのにそんなに疲れるのかな?

 

「…立香ちゃんは何処に行くの?」

 

「質問に質問で返さないで下さいよ…私はエミヤさんに会いに行くんですよ。」

 

多分、さすがにそろそろ部屋に戻ってる筈…

 

「こんな時間に何しに?」

 

「カルデアにいた頃お世話になったんです…会いに行く理由はそれじゃいけないんですか?」

 

「…いけないかな。時間も遅いし…こんな時間に男性の部屋に行くのは不味いと私は思うよ?それに、公私は分けるべきじゃないかな?君はここの従業員で彼はお客さんなんだよ?」

 

……正論だけどさぁ…

 

「普段サボってる武蔵さんがそんな事言います?」

 

「む…私はサボってるんじゃないよ!君が心配だから「これでも武蔵さんより先に働いてるんですけど」そんなに日数変わらないじゃない!」

 

…あんまり時間かけたくないんだけど…本当に会いに行く様な時間じゃ無くなるし。

 

「どうしたら通してくれるんですか?」

 

「用件を教えてよ、内容によっては通すからさ「武蔵さんが気に食わない理由だったら?」…悪いけど止めるよ。絶対に。」

 

私は深く息を吸い込み、吐く…それを何度か繰り返した…気持ちが落ち着いた所で口を開く…

 

「私、あの人が好きなんです…愛してるんです…そこを退いてください…私は…この想いを彼に伝えたい…」

 

「……ごめんね?やっぱり通せないや。」

 

そう言って武蔵さんは刀を抜いた。



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人類最後のマスターが車椅子だったら43

私は武蔵さんに指を向けた。

 

「やっぱり抵抗するんだね…」

 

「当然です。…世界は救えなかったけど、自分の恋愛ぐらいは諦めたくないんですよ…虫の良い話だと自分でも思いますけど。」

 

「…それは違うかな?君はずっと頑張って来た…どれだけボロボロになっても止まらずに…だから…私は君は幸せになっても良いと思う。」

 

「なら…通してくれませんか…?私程度の拙い魔術で貴女をどうにか出来るとは思いませんけど…私はそうだとしても貴女を攻撃したくないんで。」

 

「無理。だって君は彼を選んでも幸せになれないもの。」

 

「…それを決めるのは私ですよ。まあ、例え私が幸せになれても、彼が幸せになれるかは分かりませんけどね…」

 

私があの人にしてあげられるのは…彼が恥じるその生涯を受け入れ、一緒に背負う事だけ…寧ろ私の方があの人の重荷になるかもしれない。

 

「…それならやっぱり通せないね。だってそこまで言うなら君に彼を幸せにするっていう覚悟が無いと。一方的なのは良くないよ?」

 

「そもそもまだ彼が受け入れてくれるのかは分かりませんよ?気持ちを告げに行くのすら許してくれませんか?」

 

「駄目だね。だって立香ちゃん、彼が君の為に身を引こうとするなら意地でも追うつもりなんでしょ?」

 

「当たり前です。彼が私を嫌いじゃないなら、私は引き下がるつもりなんて無いですよ。」

 

「じゃあ駄目。ここは通せない。」

 

「じゃあ…押し通ります…ガンド…っ!?…ガンド!ガンド!ガンド!…ゴフッ…」

 

呪いの塊を指から撃ち出す…一撃目が躱されたのを見た瞬間に気が遠くなったが指を下ろさず連続で打つ…当たってるのかさえ判断出来無い…ここは狭いから撃ち続けさえすれば…とか思ってた私の判断は早々に間違っていたのだと思わされる…これは血?私、また血を吐いてるの…?

 

「全く…君は何をやっている…」

 

そんな声が聞こえ、車椅子から落ちそうになった私の身体が支えられた…

 

「…エミヤさん…?」

 

「そうだが…どうし…!まさか…目が見えないのか!?」

 

「…大丈夫です「何が大丈夫なものか!?君は何時も」大丈夫です…多分…少し休めば…」

 

「とにかく君の部屋に運ぼう…女将、後でそちらに「良いでち。事情はそこの御仁にお聞きちまちゅから…エミヤちゃまは彼女に付いていてあげて欲ちいでち。」すまない…」

 

「謝るのはこちらの方でち…ご迷惑をおかけちて申ち訳ありまちぇん。」

 

「…ごめんね、紅ちゃん…」

 

私は声の方に顔を向けながら謝る…

 

「良いでち。ゆっくりやちゅむでち。」

 

「行くぞ、マスター…」

 

私はエミヤさんの腕の感触を感じながら目を閉じた。



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人類最後のマスターが車椅子だったら44

「ん…ここは…?」

 

重い瞼を開けると妙に薄らとした蛍光灯の明かりが目に入った…知らない天井…何てネタを何処かで見た覚えがあるけど私は残念ながらこの天井を知っている…

 

「目が覚めたか?マスター。」

 

声が横から掛けられ、そちらに目を向ける…

 

「エミヤさん…」

 

「何があったのかは覚えているか?」

 

視線を戻し、目を閉じ、頭を巡らせる…うん、大丈夫…私はちゃんと覚えてる…

 

「ご迷惑をお掛けしました…せっかく休暇でここに来たのに…」

 

「全くだな。とんだ休暇になってしまったよ。」

 

即答で返されて…凹みながら言葉を紡ぐ…

 

「…本当にごめんなさい…」

 

「冗談だ、マスター…もう君がやらかすのには慣れている…まあ、今回は気を抜いていた事もあって少々肝が冷えたがな…ところで、目は大丈夫か?」

 

「えと…はい。まだボンヤリとですけど…視力は戻ってるみたいです…」

 

本当に良かった…このまま視力が戻らなかったらどうしようかと思ったよ…

 

「さて、事情を聞いても大丈夫か?とはいえ、彼女も君もここの従業員だからな…客でしかない私には言えないとの事なら「いえ、良いんです…話します」そうかね?」

 

「はい…それに…エミヤさんも無関係、という訳でも無いので…」

 

「私にも関係がある話だと?」

 

「はい…と言っても私のせいですけど…」

 

最悪の展開にはなったし、断られる可能性も増したけど…ここまで来て言わないという選択肢は私には無い。

 

「と、その前に…武蔵さんはどうなりました…?」

 

「彼女なら女将が気絶させた。」

 

「紅ちゃんが?」

 

あの時武蔵さんは本気では無かっただろうけど…紅ちゃんそんなに強かったの?確かに時々、神霊の人たちが夫婦喧嘩とか初めても仲裁出来る程威厳があるのは知ってたけど…戦っても強かったなんて…

 

「ちなみに君のガンドは一発も当たっていない。威力は中々だったがな。」

 

「あはは…やっぱりそうですか…」

 

まあ、一発目を放った時点で半分意識を持って行かれてたしね…そんな状態じゃ制御も出来る訳無い…そもそも見えなかったし…あれ?威力があったって事は…

 

「あの…廊下の被害は「一発目以外は私と女将で止めた。それでも一発目で壁に穴が空いた」うわぁ…マジですか…」

 

紅ちゃんに何て言えば…いや、その前に…

 

「本当に申し訳ありま「もう良い。二人とも怪我が無くて良かった…それで一体何故争う事になったんだ?二人は仲が良かったと記憶しているが」あー…それなんですけど…」

 

何か余計に言いづらくなった…でも言わない方が不味いよね…

 

「…実はあの時、エミヤさんの部屋に行こうとしてたんですよ。」

 

「私の?」

 

「はい…まあ、紅ちゃんと一緒にいたって事はまだ部屋には戻ってなかったんですよね…」

 

「料理の話で盛り上がってな…それで?」

 

「武蔵さんに止められたんですよ…男性の部屋に行く時間じゃないし…それに…公私は分けるべきだって…」

 

「そうだな…私でも止めるだろう…だが、それで争うのはやり過ぎだ…相手はサーヴァントだろう?何故日を改める事が出来無かったんだ?」

 

「だって…何時帰るか分からないじゃないですか…」

 

「せっかく休暇を取ったんだ…何もそんなに早く帰りはしない…それに、彼女の料理教室も受講した事だしな、この滞在中に終わる事は無いだろうが、キリのいい所までは受けて行くつもりだ…」

 

エミヤさんが帰らないのは紅ちゃんが理由…そう思った時、私に芽生えた得体の知れない感情…そっか…これが嫉妬なんだ…

 

「とにかく事情は分かった…今日はこのまま休むと良い…話なら明日にでも改めて「いえ、今お願いします」ん?何故だ?」

 

「今話したいんです…駄目ですか…?」

 

「…構わないが…手短にな。」

 

「大丈夫です…すぐ終わりますから…」

 

そう、私が一言言うだけ…後は彼次第…私は武蔵さんに言った時のように深呼吸する…

 

「……ふぅ。じゃあ、言いますね?私は貴方が…エミヤさんが好きなんです。」

 

遂に言った…言ってしまった…彼は真っ直ぐ私を見詰めている…

 

「マスター…それは異性として、か?」

 

「そうです「では、すまないが断らせて貰おう」…何故ですか?」

 

「何故ね、聞くまでも無「聞かせて下さい…じゃないと納得出来ません…!」落ち着きまえ…当たり前だろう?私は死者で、君は生きているんだから。」

 

「そんなの関係ありません!貴方は…!貴方は今ここにいるじゃないですか…!こうして私の目の前に…!」

 

「マスター…そうだとしても私はもう死んでいるんだ…その事実は変わらない。」

 

「だから釣り合わないって事ですか?なら、私が死ねば貴方はこの気持ちに応えてくれるんですか…?」

 

「マスター…何を「そうならそうと、言って下さい…私は今この場で命を絶つことだって出来ます」……本気なのか?」

 

「はい。私はエミヤさんが私を嫌ってないなら、何があろうと絶対に諦めないと決めています。」

 

「マスター…君は…」

 

布団から手を伸ばし、私を覗き込む彼の口を押さえる…

 

「私が嫌いなら…そう、言って下さい…それなら…私は…諦めますから…!」

 

彼の口から手を離す…

 

「…マスター…私は君を嫌ってはいない。」

 

「じゃあ「だが、君の気持ちを受け入れる訳には行かない」どうして!?」

 

「私は…君を不幸にしか出来無いからだ…!」

 

「何ですか…それ…何ですかそれ!?不幸?見て下さいよ私を!?私は…貴方に会う前から既に不幸ですよ!?今更これ以上酷い目にあうとでも言うんですか!?」

 

「そうだ!君はそれ以上に不幸になる!」

 

「っ!なら!不幸で良いです!私はそれでも!貴方と一緒にいたい!」

 

「マスター…」

 

「一度だけで良いです…私の気持ちを受け入れてくれるなら…立香って…呼んで下さい…私の名前を…」

 

私は目を閉じ、待つ…しばらくして彼の声が私の耳に響いた。

 

「……本当に…君と言う奴は…立香…これで良いかな?」

 

「はい…ありがとうございます…嬉しいです…とても…」

 

「それは良かった…それではもう休みたまえ…」

 

「あの…エミヤさん…」

 

「心配しなくても明日いきなり発ったりはしない…明日、君の仕事が終わった後で改めて話そう…」

 

「はい…」

 

彼が襖を開けて出て行くのを見送ると私はまた目を閉じた。



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人類最後のマスターが車椅子だったら45

「おはよう…あれ?君なの?」

 

朝、私を起こしに来たのはまた"彼"だった…え?何で?

 

「おはよう。いやさ…俺も紅ちゃんから聞いただけだけど…君と武蔵ちゃん…昨夜、問題起こしたでしょ?」

 

「う…うん…ちょっとね…」

 

「……武蔵ちゃんは刀抜いてるし、君はガンドを連発したんだって?それはちょっと、ですまないと思うけど…」

 

「……」

 

「まあ、説教するのは俺の役目じゃないし…内容聞く限り君を焚き付けた俺にも責任あると思うから…これ以上何も言わないけど…それでさ、その時の事で紅ちゃんも武蔵ちゃんも今、お客さんに説明しに行ってるから、手の空いてる俺が来た訳…まあ、昨夜もある程度説明したらしいけど「え!?ちょっと待ってよ!それなら私も行かないと駄目じゃん!何で私だけ寝たまま!?」だって君、血を吐いたんでしょ?万が一の事考えたら下手にお客さんの前に出せないから、だってさ。」

 

「そんな…」

 

それなら私だって悪いのに…

 

「まあ、起こしに来てなんだけど…そもそも君の仕事今日は休みになってるから「いや…だから何で!?」ほら、騒がない騒がない。当たり前でしょ?血を吐いたんだから…」

 

「……」

 

「それで様子見ついでに体調も見て来る様言われたんだけど…それだけ騒ぐ元気あるなら取り敢えず大丈夫だね?」

 

「うん…」

 

「…まあ…今日は休みだから…ちなみに何か食べる?」

 

「うん…貰える?」

 

「了解。血を吐いたって事だし、お粥で良いかな?」

 

「うん…って、あれ?もしかして君が作ってくれるの…?」

 

「紅ちゃん忙しいから…俺じゃあ不満かもしれないけど「いやいや大丈夫だよ。悪いけどお願い出来る…?」了解、ちょっと待ってて。」

 

彼が襖を開けて出て行くのを見送る…ハア…やっちゃったなぁ…これじゃあ完全に恩を仇で返してるよ…本当に紅ちゃんに何て言ったら…そんな事を考えてたら襖が開いた。

 

「持って来たよ…え~っと自分で身体起こすのは出来るんだったよね?」

 

「うん…まあ、それくらいは出来るよ。」

 

私は上半身を起こす…う~ん…少し辛い…もしかして更に腕の筋力落ちた…?…筋トレでもしようかな…あまり意味無いかもしれないけど…

 

「それじゃあはい、あ~ん…」

 

レンゲで掬ったお粥に彼が息を吹き掛け、私の顔の前に出す…一連の動作に全く淀みが無くて止められなかった…いや…ちょっと…

 

「さすがに自分で食べるよ?」

 

「一応だよ、一応…というか、万が一の事があったら俺が武蔵ちゃんに殺されかねないし…このまま大人しく食べて貰えると助かるんだけど…」

 

「あー…そういう事なら…」

 

私は口を開いた…レンゲが口に差し込まれる…口に入って来たお粥はほとんど形が残ってなかったけど一応少し噛む…

 

「…うん、美味しいよ。」

 

「そう?良かった…」

 

……味が薄目だから少し物足りなく感じるけどね…その後も私は彼の手からお粥を皿が空になるまで食べた。

 

「ご馳走様でした。」

 

「はい、お粗末さまでした。」

 

「…何か思ったよりスムーズだったけど…看病の経験あるの?」

 

「ん?まあ何度かね…」

 

何か含みのある感じ…まあ、聞かないでおこうか。

 

「さてと。俺は仕事に行くから…と言っても、もうエドモンがある程度やってるかもしれないけど。」

 

「ごめんね、迷惑かけて…」

 

「良いって。俺、初日に君に世話になったしさ…これぐらいはお易い御用だよ。」

 

「そっか…」

 

どう考えても彼がしてくれた事の方が大きい気がするけど…まあ、彼がそういうなら…

 

「それじゃあ、お大事に。」

 

彼が立ち上がり、襖を開けて出て行った。



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人類最後のマスターが車椅子だったら46

「起きてる?」

 

「うん…いや、そもそも元気だしね…」

 

暇を持て余していた私の耳に襖越しに本日四度目の彼の声が響いた。

 

 

 

「どうしたの?もしかして本の追加?」

 

彼は今朝、私に朝食を持って来た後、少しして閻魔亭に置かれてる本を持って来てくれた…暇だったのではっきり言って非常に有難くはあった…それはそうと、何の用だろう?昼食をさっき彼が持って来てくれたばかりだからまさかもう夕食を持って来たって訳じゃないよね…新しく本を持ってきてくれたなら有難いけど…

 

「え?もう読み終わったの?…そっか。まあ、確かに追加は持って来てるけど…取り敢えず君にお客さん…中に入っても良いかな?」

 

「うん…入って来て。」

 

その声と共に襖が開けられ、部屋の中に彼と…

 

「エミヤさん…」

 

「…元気そうだな、マスター。」

 

「はい…」

 

「じゃ、これ本ね?それじゃあ俺は行くから…ごゆっくり。」

 

そう言って私が読み終わった本を持って彼が部屋を出て行った。

 

「……彼と何か話したんですか?」

 

昨日の私の告白の話をすぐに口に出す気になれず、かと言って大して話したい事も出て来なかったので、私はそんな事を聞いてみた。

 

「ああ。少しな…」

 

エミヤさんの歯切れの悪さにもどかしさを感じる…いや…全部話して貰えるって考える方が図々しいかな…

 

「…まあ、言っても構わんか。彼に謝罪されてね…」

 

「謝罪?」

 

「昨日の騒動の原因が自分にあると、な…」

 

「あー…」

 

そんな事は無い。私は彼に背中を押してもらっただけ…その後に起きた事は彼とは無関係だ、武蔵さんと戦おうとしたのは結局私の意思…冷静に考えてみたら私は色々早まった気がして来る…明日、武蔵さんと紅ちゃんにちゃんと謝らないと…というかまさか武蔵さん追い出されるとかじゃないよね…?普段から仕事サボってたけど今回の件が原因になるとさすがに…

 

「どうしたんだ?マスター…?」

 

「…!…いえ、何でも無いです…」

 

……取り敢えずそっちは後で考えよう…今はエミヤさんと話さないと…

 

「あの…昨夜の事ですけど…」

 

「…少なくとも私が口にした事に嘘は無いし、撤回はしない…それとも君の方が無かった事にしたいのかね?」

 

「……いいえ。あれは紛れも無い私の本心ですよ。」

 

「そうか…それで?君はどうしたいんだ?」

 

「どう、とは?」

 

「告白してそれから…と、いう事さ。」

 

「……」

 

そう言われても正直昨日は気持ちが暴走していて、勢いで言ったのでその先、なんて考えてもいない…もちろん気持ちに偽りは無いってはっきり言えるけど…

 

「正直…受けて貰えるかも分からなかったし、その先なんて考えてもいませんでした…でも…エミヤさんは確かに私の恋人になってくれた…そういう事で良いんですよね…?」

 

そう言うと彼は溜息を吐いた。

 

「ああ…しかし…本当に私で良いのか?」

 

「エミヤさんが良いんですよ…他の人はちょっと考えられないですかね…」

 

仲の良い男性サーヴァントなら他にもいた…クーさんにもエミヤさんと同じくらいお世話になったし…でもやっぱり私は…エミヤさんが良い…

 

「そうか…さて、君の気持ちが変わらないのも確認出来た…私はそろそろお暇しよう。」

 

「え!?もう行っちゃうんですか…?」

 

「一つ用が出来た…大丈夫だ…また何時でも会えるからな…」

 

「うう…分かりました。」

 

エミヤさんが立ち上がった。

 

「では、また明日。」

 

「はい…」



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人類最後のマスターが車椅子だったら47

昨日のエミヤさんの用事が何かと気にしていたら、翌日になって意外な事を知る事になった…

 

「え?エミヤさんもここで働くんですか?」

 

「…正直、君をこのままにして帰る方が不安になったのでね、昨日女将と交渉した。」

 

エミヤさんがここにいてくれるのは…はっきり言って嬉しい…でも…

 

「あの…でも、それなら…カルデア「忘れてないかね?私は本体では無いぞ」あ…」

 

「案ずるな、座にいる私はちゃんと召喚には応じる。」

 

「良かった…じゃあ、早速ですけど一つ頼んでも良いですか?」

 

私は車椅子を押してくれているエミヤさんに顔を向けた。

 

「何かね?先ずは君を受付に連れて行くのが先では無いか?女将と約束しているのだが「すぐ終わります」…何かね?」

 

先ずは深呼吸しよう…すぅ~……ハァ……良し、落ち着いた…正直この程度でも告白よりはハードル高いから…

 

「えと…その…」

 

改めて周りを見渡す…うん、誰もいない。

 

「…キスして欲しいです…」

 

言った…言えた…うう…緊張する…

 

「……後では駄目なのかね?」

 

「…一瞬だけ…本当に少しで良いんです…お願いします…」

 

私は目を閉じた…断られたらどうしよう…立ち直れ無いかもしれない…ッ…今のって…?

 

「これでいいかね?」

 

その声に瞼を開く…うん、確かに唇に感触を感じた…軽く指で触れる…

 

「はい、ありがとうございます…あの…」

 

「…そんなに不安そうな顔をしなくても別に逃げたりはしない。……何なら更に上を行っても構わないぞ?」

 

「更に上って…!」

 

想像してしまった…身体が熱くなって来る…

 

「…その様子だと今はキスで限界の様だな。」

 

「笑わないでくださいよ…しょうがないじゃないですか…」

 

少なくとも今までそんな経験無い…そう言えばエミヤさんには身体見られた事ないんだっけ…?意識を失ってる事も何度か有った筈だから見られてても不思議は無いけど…

 

「……本当にエミヤさんは…私を受け入れてくれたんですよね…?」

 

「そうだ…信じられないかね?」

 

「何て言うか…実感湧かなくて…」

 

「私は当分ここにいると決めたからな…少しずつ慣れて行ったら良い…」

 

「はい…」

 

 

 

 

「あっ、立香ちゃん!」

 

「武蔵さん、仕事してください…何で受付にいるんですか…貴女の持ち場ここじゃないでしょう?」

 

エミヤさんと一緒に受付に来た私はそこで武蔵さんの姿を見た…話そうとは思ってたけど…これから仕事だし…

 

「だってぇ!「エミヤさん…申し訳無いんですけど武蔵さんの事お願いして良いですか?」立香ちゃん!」

 

「承った…では、後でな、マスター。」

 

「はい。」

 

私はエミヤさんに引っ張られて行く武蔵さんから目を逸らした。



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人類最後のマスターが車椅子だったら48

「ちゃて、詳ちいはなちをお聞きちまちょうか?」

 

「……」

 

仕事が終わり、エミヤさんに車椅子を押され、紅ちゃんの所へ…うっ…怖い…何て言おう…そんな事を考えていたら溜め息と共に威圧感が消えて行くのを感じた…

 

「…顔を上げてくだちゃい…ちゅくなくとも今は怒ってないでち。」

 

「やっぱり怒ってた…?」

 

恐る恐る顔を上げながら聞いてみる。

 

「…当たり前でち。今回お前ちゃまと武ちゃちちゃまがやった事…壁に穴を開けた事はまあ、取り敢えずは良いでち…でも、お客ちゃまを危険にちゃらちた事…これは見ちゅごちぇないでち。ちゃいわい、廊下に誰もいなかったから良かったものの…一歩間違えたら大ちゃんじでち。」

 

「…ごめんなさい。」

 

私は改めて上げていた頭を下げた。

 

「…だから良いでち…とにかく理由をお聞きちまちょうか?何があったでちか?」

 

「うん…実はね…」

 

 

 

「成程…武ちゃちちゃまから聞いた事とちょう違無い様でちね、では本題でち、お前ちゃまはエミヤちゃまと男女のおちゅき合いをちゅる事になった…ちょういう事で宜ちいでちか?」

 

……エミヤさん、言ったんだ…まあ考えてみたらあの人、こういうのは筋通すタイプだよね…

 

「…うん…やっぱり不味いかな、元はお客さんだし…今は同僚になったんだし…」

 

雇い主の紅ちゃんが駄目だって言うなら付き合えない…

 

「…エミヤちゃまにも言いまちたが、アチキはべちゅに反対ちないでち。」

 

「え…良いの…?」

 

まさか…良いと言われるなんて…

 

「ただち!いくちゅか守って欲ちい事があるでち。」

 

「…何かな…?」

 

「まじゅ、ちぇつ度あるおちゅき合いをちゅる事…ちょういう関係になった以上、全く触れ合いが無いのは厳ちいのは理解ちていまちゅ。でちゅが!ここはあくまで旅館でお前ちゃまたちはここの従業員でち…ちょこを弁えて欲ちいでち。」

 

「…うん、分かった。」

 

と言うか私の方がヘタレてるからね…今は正直キスが限界だよ…。

 

「…後は言うまでも無い事でちが、公ちは分けて欲ちいでち…この二ちゅが守れるならアチキからは何も言いまちぇん。」

 

「…分かった「本当に大丈夫でちね?」…大丈夫。」

 

「ちんじるでちよ?」

 

「大丈夫…と言うか告白したのは私からだけど、完全にヘタレてるし「一ちゅ、忠告ちゅるでち」え?」

 

「意外とちょう言う人に限って…一度タガがはぢゅれると止まらなくなるんでち…改めてお聞きちまちゅ、本当に、本当に大丈夫でちね?」

 

「大丈夫。当分は清いお付き合いで行くつもりだから…」

 

「…ちん配でち「えと、何で?」何でって…」

 

普通、こういうのは男性のエミヤさんの方が問題視されるんじゃ…歳も向こうの方が上みたいだし。

 

「…これはアチキの勘でちが、エミヤちゃまは多分、女ちぇい関係で色々あったんだと思うでち。だから、こういう事には間違い無くちん重になると思うでち。」

 

「……」

 

合ってる…私も詳しくは聞いてないけど(本人も記憶が磨耗していてあんまり覚えてないって言うし…)でも、エミヤさんが女性関係でろくな事が無かったのはチラッと聞いてる…

 

「…つまり、単に私が我慢出来るかどうかって話?」

 

「ちょういう事でちね。」

 

もちろん大丈…あれ?何か自信無くなって来た…大丈夫だよね、私…?

 

「…取り敢えず今日はもう戻って良いでち。」

 

「…分かった。今回は本当にごめんね?」

 

私は一旦考えるのを止めて、もう一度紅ちゃんに謝った後、襖を開けて部屋を出た。



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人類最後のマスターが車椅子だったら49

「私がカルデアに来た経緯?」

 

「うん。」

 

仕事終わり…並行世界の私である彼がやって来ていた。

 

…え?エミヤさん?基本的に夜には来ないよ?…ここの仕事が終わる時間ってそれなりに遅い時間だし節度は守る人だからね。そうでなくても仕事が終わると紅ちゃんの料理レッスン受けに行くから。

 

……と言うか…深夜帯って訳じゃないけど夜に二人きりってなるとそもそも私がもたないけどね…色々想像しちゃうし…

 

「君も同じ状況で来たんじゃ?」

 

「いやぁ…多分違うんじゃないかなぁ…いや…答えたくないなら別に良いんだけど…」

 

「特にそういう事は無いけど…それなら君から教えてよ。そう言われると私も気になるし。」

 

本来なら機密になるんだろうけど…彼相手ならあんまり関係無いだろうし。

 

「ああ…そうだね…先ず俺はね、献血をしに行ったんだ。」

 

「献血?」

 

「うん。普通に買い物しに来てたら献血カーが止まってたからさ…」

 

あー…良くショッピングモールとかイベント会場に来てる…あれ?それって何の関係が…いや…もしかして…

 

「ねぇ、それって…」

 

「あ、分かる?要するにカルデア側の人間がレイシフト適正ある人を探してたんだよ。で、そのまま…」

 

「そのままって…まさか直行?」

 

「うん…血を摂られて…渡された飲み物飲んだら眠っちゃって…気付いたらカルデアの中で…起きたらいきなり戦闘訓練やらされて…」

 

「……」

 

あー…うん、やりそうだなぁ…

 

「で、君は?」

 

「あ、私?私はね…普通に新聞の募集広告見て来たの。事務仕事って書いてあったから。」

 

「……マジで?」

 

「うん、マジ。行った先でいきなり検査受けさせられたから驚いたよ…その後はろくな面接も無しに後日、連絡するからって言われて…」

 

ま、後日どころか、その日の夜に連絡来たけど…

 

「…で、採用連絡の際に実際に向かう日の日時指定。と言うか、面接に行った時より驚いたなぁ…場所が場所だし…ちなみに私の身の上を考慮して迎えまで出すって言うし…その後は君と一緒。着いたらいきなり戦闘訓練やれって言われて…この状態じゃろくに動けないし…断ったんだけど、命令するだけで良いって言うから…仕方無く…」

 

「…お互い大変だったね…」

 

「う~ん…そうでも無いんじゃない?君と違って私は一応周りに伝える時間あったし。」

 

「断わろうと思わなかったの?」

 

「…迎えまで出すって言われて、断れた?」

 

「う~ん…」

 

「…正直に言うと…迎えが無くても私はどうにかして行こうと思っただろうね。」

 

「…ん…?何で?」

 

「私の状況で出来る仕事に選り好みなんて出来ると思う?」

 

「……」

 

「ま、これは言い訳だね…私はね、電話で採用連絡受けたんだけど…世界を守る仕事だって言われたから…思ったんだよ…私でも何か、世界に貢献出来るならって…」

 

「つまり…何処までも自分の意思?」

 

「人の介助が必要になる私が…誰かの為に出来る事があるなら…やりたいって思った…本当にやり甲斐のある仕事だって思ったんだよ。」

 

「……」

 

そう私が言うと彼は口を開けて、目を見開いていた…もしかしてこれが鳩が豆鉄砲食らった様な顔って奴かな?

 

「いや…人に言わせといて黙らないで何か言ってよ…恥ずかしいんだから…」

 

「そう言われても…何か圧倒されて…」

 

「…君はまともに意識する時間も無かったし、今更同じ気持ちだったなんて烏滸がましい事言うつもりは無いけど、最終的には似た様な気持ちだったんじゃないの?」

 

「……俺は…初めから君みたいには思えなかったし、特異点をいくつ回ってもそこまで大きな想いは描けなかったなぁ「大事な人を守りたい」え?」

 

「それだって大切な願いだし、想いだよ…それに君は私に出来無い事が出来たじゃない?」

 

「それは?」

 

「…自分を守る事。私の様に自分を省みずに走り続けなかったから今、君はここにいる…ハンデがあったかどうかなんて関係無い…君だって、気を付けてなかったら私に近い身の上になってた筈だよ?」

 

「それは…そうかもしれないけど…でもそれはサーヴァントの皆が守ってくれたからで…」

 

「私も皆が守ってくれた…でも、私は進み続けた…自分が壊れるまで…皆に任せて自分は何もしない…そんな事絶対に出来無かった…だって私にはサーヴァントと戦う力は無くても皆を助けられる力があったんだから…」

 

「……」

 

「何も出来無い…ううん…出来る事があるのに大局を見てそのもどかしさに耐えて動かなかった君を…私は尊敬するよ。」

 

自分でも皮肉に取られるかもとは思う…でも…これは私の本心。

 

「他ならぬ君にそう言われたら…納得するしかないかなぁ…」

 

「そうそう…でもね、悔しくもあるんだよ?」

 

「え?」

 

「初めから私が五体満足なら出来る事ももっとあった筈だって…だから私は君が羨ましく…妬ましい。」

 

「そっか…」

 

「ま、今のは忘れてよ…私もこんな気持ち感じたままこの後、眠りたくないし。」

 

「分かった。なら、俺も聞かなかった事にするよ。」



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人類最後のマスターが車椅子だったら50

ここで話が終わっても別に問題は無かったんだろうけど、何となく流れで話は進んでく…

 

「…で、俺が冬木市で呼んだのはアーサーだったんだよね…」

 

「……アーサー?アルトリアさんじゃなくて?」

 

「そうだね、要するに史実の通りの男の方。ちなみに直後にアルトリアと会ったから驚いたなぁ…」

 

「あー…黒い方の。」

 

……何で今更こんな話で盛り上がってるのかって?実は私と彼は今まで特異点で何をしたのかって話はしていない。基本的にカルデアでの日常の話しかしてない。それにしても…

 

「何か珍しいよね、君が男性サーヴァント召喚してるなんて。」

 

「いや…何度も言うけど別に狙ってた訳じゃないんけど…」

 

そう…彼が召喚するのは大半が女性サーヴァントなのだ…しかも…何故かほとんどのサーヴァントは彼に恋愛感情を抱く…

 

「狙ってなくて、八割が女性サーヴァントで、しかもそのほとんどが君に恋愛感情抱いてて、時々特異点そっちのけで君の取り合いしてたねぇ…」

 

「そうジト目を向けないでよ…それともやっぱり信じれない?」

 

「…清姫みたいな存在を御してたんだし、他の人にまで惚れられても不思議じゃないかも知れないけど…さすがにほとんど全員がヤンデレ化してるのは…はっきり言って何をやってるのかなぁ、とは思うよ?」

 

「う…やっぱり…?でも、俺も特別何かしたとは思えないんだ…きよひーは何故か会った時から好感度フルの状態だったけど…他は全然分からないんだ…もちろん俺としても大切な仲間だとは思ってたけど…」

 

「それじゃない?」

 

今まで何も言わなかったけど、何となく今ならその理由が分かる気がした。

 

「え?」

 

「君が接して来たのは英雄や、反英雄…色んな意味で普通の人として扱われて無いんだよ。でも君はあくまで対等に見てたから…切っ掛けはそこからじゃない?」

 

「…でも…そんな事俺には出来無かった…だって一緒にやって行く仲間だから…皆は物語の英雄でも、過去の偉人でも無い。許してくれるなら俺は戦友と呼びたくて…大抵はそれで喜んでくれたし、最初は特別に扱う様に言っていた人も何時の間にか俺と対等である事を望んでくれた…」

 

……私も同じ様な皆と接して来たから分かる…彼はタラシだ…それも英雄などの逸脱者に限定しての。そうなった理由も…多分、分かる…

 

「君、英雄譚には全然詳しくなかったんだっけ?」

 

「…えと、うん。…そもそも歴史も苦手な方だから偉人についてもよっぽど有名な人しか分からなかったし…」

 

彼は私が何を聞きたいのかをある程度察したのかそう答える…やっぱりね…

 

「……」

 

で、私はそこで言葉を切った。彼が普通で自分たちの事を全然知らなかったという事が彼女たちには新鮮で、それが一番の切っ掛けになっているとは言うつもりはなかった…彼の場合、自分で気付いた方が良いだろうし。

 

「えと、それで君は?確か冬木じゃサーヴァント召喚出来無かったってチラッと聞いた覚えはあるけど…」

 

彼の話が途中だったけど…聞く意味はあまり無いかな…洞窟の奥で待ち構えていたのは性別こそ違えど、同じアーサー王…と、なれば…間違い無く聖剣、エクスカリバーの撃ち合いが主になっただろうし…こうして彼がここにいる時点でどちらが勝ったのかなんて言うまでも無い。

 

「私は…ゴリ押し。」

 

「え?」

 

「さっきの話には出なかったけどキャスターのクーさんが野良で召喚されてたでしょう?」

 

「あー…いたね…て、事は…」

 

「私は盾を構えるマシュの身体を当時まだ出せた腕の力で受け止めてたの…アルトリアさんが聖剣の力を解放し続けてる間ずっとね…何処までマシュの為になったかは分からないけど結果的にマシュは耐え切った。その後は何とかエミヤさんを退けてこっちにやって来たクーさんが霊体化してアルトリアさんを仕留めてくれた…」

 

最も…あの時はわざとクーさんが突き出した杖を躱さなかったんだと今は思ってるけど…多分私たちの見極めが済んでいたからなんだろうね…最初から完全には悪の側に堕ちてはいなかった感じだったし。

 

「…で、その後はレフ教授に…」

 

「うん…悔しかったよ…所長は車椅子が無くて歩けなかった私を運んでくれて、戦い方を教えてくれた…ガンドを教えてくれたの。」

 

「って…まさか…撃ったの…?」

 

「撃ったよ…竜牙兵程度ならアレでケリは着いたね…その分私にもダメージは行ったけど…」

 

「……」

 

「…ほら、そう深刻な顔しないで。君だってもし、アーサーさんがいなかったら駆り出されてたんじゃない?」

 

「そう…かもね…」



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人類最後のマスターが車椅子だったら51

「ちなみになんだけど…」

 

「何かな?」

 

「君、もしかしてずっとごり押しで特異点修復してたとか言わない?」

 

「…鋭いね、そもそもウチのカルデアと言うか、私が召喚する訳だから多分私に原因あるんだろうけど…実を言うと帰って来てから最初にエミヤさん召喚出来た以外は中々、サーヴァント来なくてさ…」

 

何がヤバいってそもそも当初は何回やっても礼装しか出て来ないから冬木の次の特異点の修復を遅らせる羽目になったんだよね…最終的には数は何とか集まって来たけど…

「散々召喚やって、やっと来たと思ったら色々不安がある子が来てさ…」

 

「…あれ?子?」

 

「うん。…君の所にもいない?ジャック・ザ・リッパー…ジャックちゃん。」

 

「あー…いるね、それなら苦労しただろうね…」

 

「あれ?君は大変だったの?」

 

「いや…俺もそれなりだけど…君は女性だから」

 

「あー…そう言う…」

 

ジャックちゃんの正体はこの世に産まれて来る事の出来無かった子供の集合体。その願いはこの世に産まれ落ちる事…その為に1888年のロンドンで女性のみを狙った連続殺人事件を起こしていた…って言う可能性の話から誕生したのがジャックちゃん。

 

え?殺人の理由?…物理的に女性のお腹開けて子宮に入る為。これだけ聞いたらその残虐性と意味の分からなさに吐き気が込み上げて来るけと…仕方無いっちゃあ仕方無いんだよね…あの子、実際は良くも悪くも子供なだけだから…

 

「そりゃまあ危険だよね…男の君と違って普通なら確実に私はターゲットになる筈だし。」

 

「…って事は、普通じゃない何かがあったって事?」

 

「…そもそも正しく産む方法があるなら私は子宮を提供しても構わなかったんだよね…これでも子供好きな自覚有るし…」

 

「…で、結局何が有ったの?」

 

「…召喚された直後、ナイフを向けながら私に自己紹介するジャックちゃんに言ったの…私が貴女たちを産む事は出来無いけど、全てが終わったら、受肉させて私が今の貴女だけでも自分の子供として引き取るってね…」

 

「…本当に凄いね…俺にはとてもそんな覚悟持てないよ…」

 

「…この分だとどうやっても約束、守れそうに無いけどね…と言うか、君だって凄いんじゃない?」

 

「え?何が?」

 

「エミヤさんなんかもそうだけど…あの子たちにとって、自分に優しくしてくれるのは皆、性別関係無くおかあさんなんだよ…君だってそう呼ばれてたんじゃない?」

 

「…それを受け入れるだけなら誰だって「出来無いよ。それだってそれなりに葛藤はある筈だからね。」…その程度じゃ、君には及ばない。」

 

「…そもそも私がその場しのぎでジャックちゃんに嘘を言ったとは思わないの?」

 

「いや言わないでしょ君の場合。」

 

「…ま、確かに本気だったけど。どうせこの身体で普通の恋愛して、将来…パートナーとの子供産んだりなんて考えられなかったし…養子に貰っても良いかなあって…普通にジャックちゃん可愛かったし…それにあの子、倫理観が崩壊しちゃってるだけで駄目な事は駄目だって教えたらちゃんと分かってくれる子だったから…うん。あの子はとっても優しい子だよ。」

 

「…惚れ込んでるね。」

 

「……この場合、その表現って合ってるの…?」

 

「どうだろう?でもさ…君、それこそエミヤと同程度の想いをジャックに抱いてる様に見えるけど?」

 

「う~ん…そう、かもね…」



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人類最後のマスターが車椅子だったら52

「じゃあ、次に来たのは?」

 

「…ナーサリーライム…もとい、アリスちゃん。」

 

「……」

 

人に聞いといてそこで黙られてもなぁ…

 

「……本格的な特異点修復に出るまで相当長そうだね…」

 

しばらく黙った後、そんな言葉が返って来た…う~ん…まだ甘いよ?

 

「ジャックちゃん来るまでも長かったけど、アリスちゃん来るまでにもかなり時間かかったんだけど?」

 

「子供好きとしては本望じゃない?」

 

「普通の状況ならね…でも、戦わなきゃならないから…私は二人をあまり戦わせたくなかったし…」

 

アリスちゃん…ナーサリーライムは戦力として見るなら決して弱くは無い…そもそもサーヴァントであるなら私よりは戦える…ジャックちゃんに至っては女性であるなら誰にでも優位は取れるし、敵であるなら容赦はしない(そういう意識をそもそも持ってないと言うのが正しいかな…)

 

「そう…」

 

「二人を前線に出すぐらいなら私が前に出る…囮なら私にだって出来るから…マスターとしては失格だけど…」

 

「マスターとしては間違ってるかも知れないけど…二人の母親としてなら正しいんじゃない?」

 

「……ジャックちゃんはともかく、アリスちゃんの母親にはなれなかったね…彼女はそれを望まないし、寧ろ怒られたよ…」

 

彼女を見た目通りの子供ではなく、サーヴァントにしてしまったのは私だ…最初は友達の様に接して来てくれた彼女は気付けば一歩どころか、二歩も三歩も引いて接する事が多くなった…私は…今でもその事を後悔してる…

 

「う~ん…」

 

「ちなみに君は?」

 

「ん?」

 

「どうせアリスちゃんもいたんでしょう?君は彼女とどう付き合って来たの?」

 

「…どうかな、少なくとも俺は親になるなんて出来無かったけど…」

 

「そりゃ普通は出来無いよ…私だってつい、そう口にはしたけど、本当にジャックちゃんの母親になれていたかは怪しいし…」

 

「…普通はなれないんじゃない?俺も母さんに聞いた事あるけど…俺を産んでからもしばらくは母親の実感なんてまるで湧かなかったって言うし…必死過ぎてそれどころじゃ無かったとも言ってたけど…」

 

「…私は母親じゃないならそれでも良かった…友達でも良かったの…でもあの子は線を引いたの…自分はサーヴァントで、私はマスター…一度線を引いたらもうそこから先には踏み込んで来ようとしなかったし、私もその線の先には行かせてくれなかったの…」

 

「…それを今でも気にしてる?」

 

「うん…サーヴァントには見た目が子供にしか見えなくても大人の頃の記憶を持っている人はいたけど、彼女はどう見ても子供だった…だからその通りに振る舞って欲しかった…でも…何時の間にか彼女は私の前にいた…何処までも私を守る存在として立つようになった…」

 

「…でもそれは君が気にする事じゃないね。」

 

「え…?」

 

「最終的にその関係を選んだのはナーサリーの意思なんだ…君がそれで罪悪感を感じるのは仕方無いかもしれない…だけど、その選択について君に責任は無いと思う。」

 

「そう割り切れたら良かったんだけどね…」

 

「ここから戻れたら…」

 

「え?」

 

「ここから君のカルデアに戻れたら…ちゃんとナーサリーと話し合ったら良いんじゃないかな?」

 

「何言ってるの…私はもう「戻れないかどうかなんて分からない。そう決めつけるのはきっとまだ早い筈だ」…何で、そう思うの…?」

 

「だって君、本当はまだ諦めて無いでしょ?」

 

「……」

 

その言葉が私の心の深い所まで届いたのが分かった…そうだ、口でどう言ったって変わらない…私はカルデアに戻るのを諦めたくなんて無かった…ここで緩やかな死なんて待ちたくなかった…でも…

 

「そうだよ。私は諦めてない…だけど方法なんて無い…私には何も「まだあるよ」え?」

 

「君のその呪いは…現代の魔術師にはどうにも出来無いんだよね?」

 

「うん「なら、大丈夫だ」だから…!何を言って…!」

 

「俺のカルデアには…メディアさんがいるんだ…あの人ならきっと…」

 

メディア…もしかして…

 

「コルキスの王女…裏切りの魔女メーディアの事かな?」

 

「あ、やっぱり知ってる?」

 

「定番だからね、ギリシャ神話は…でも本当に助けてくれるの?だって…」

 

「色々アレな人ではあるけど…間違い無く君の事を助けてくれると思うよ?」

 

「いや…だから何で…君が頼むから?」

 

「俺が頼むからって言うより…君だから助けてくれると思う。」

 

「意味が分からないんだけど…だって…会った事も無いんだよ?」

 

「う~ん…あの人さぁ…可愛い女の子が好きなんだよね…」

 

「は?」

 

「あ、男より女が好きって意味じゃないよ?」

 

「要するに猫や犬を愛でるのと同じ感じ?」

 

「近いんじゃないかな…特に着飾らせるのが好きなんだ……自分も美人なのに。」

 

「……」

 

最後のは小声で言ったけど私にはちゃんと聞こえていた…そう言う事を臆面も無く言うから毎回相手を増やすんじゃないかな…

 

「それは分かったけど…それで、結局何で?」

 

「いやだからさ…君は可愛いから…間違い無くメディアさんは助けてくれると思うよ?」

 

「……そう言う事を一応恋人のいる私に言う?」

 

「あ!?違うんだよ!?そうじゃなくて…!?」

 

一応私は彼を睨んではいるけど正直それどころじゃなかった…

 

……今、私は背中に視線を感じてる…それもかなりの殺気の込められた視線を…不味いね、この後の行動を間違えたらきっと私はこの視線の主に殺される…!

 

「…ま、聞かなかった事にしておくよ。」

 

「そっ、そう…」

 

……殺気が消えて行く…一応これで正解だったのかな…?…全く…この人やっぱり色々鈍いよね…どうしてこう、危機感って物が無いのかな…?

 



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人類最後のマスターが車椅子だったら 蛇足回

少女がカルデアに向かう前日の話

 

「……そうですか…明日、出発なのですね……」

 

……と、孤児院の先生であるおばあちゃんが悲しげに言う……いや。あの……

 

「何か凄い悲壮感出してくれてますがただ住み込みの短期バイト行くだけですからね!?」

 

私は必死に抗議する。おばあちゃん、孤児院にボランティアに来てる私にも優しい人だけどこういうときは本当に困る

 

「私にとっては貴女も娘の一人なのよ!?ましてや貴女は頑張り過ぎちゃうから余計に心配になるじゃないの!?」

 

「えー…」

 

嬉しいのは嬉しいんだけど……本当の親よりこうやって過保護だからなあ……あれ?良く考えたら仮にも外国行くのに二つ返事でOK出した私の親って……

 

「立香さん!?聞いてるんですか!?」

 

「…!はっ、ハイ!」

 

「良いですか!?貴女はこの前も無理して熱射病で倒れたのよ!?」

 

「…いやそれ一年前の話ですよね!?」

 

マジで今関係無くない!?確かに耐性低い方だと思うけど!大体私が行くのは……

 

「だ、大丈夫ですよ。私が行くの凄い寒いとこだし……」

 

「何言ってるの!?貴女そうでなくても身体弱いんだから風邪でもひいたらどうするの!?」

 

「えー…」

 

うわーい。今日は何か一段と過保護っぷりが暴走してるよー。

 

「…ハア……まあこれだけ言っても貴女はどうせ行くのは止めないんでしょうね……」

 

「…はい。もう決めましたから。」

 

「そうよね。貴女は一度決めた事は絶対曲げないものね。……寂しくなるわ……」

 

私は車椅子を押しておばあちゃんに近づき手を取る

 

「大丈夫ですよ。私はちゃんと帰ってきますって。別に今生の別れとかじゃないですから」

 

「……」

 

「それに、私はここが気に入ってるんです。子供たちは皆可愛いし、そして何よりおばあちゃんの事も大好きですから」

 

……と、必死にご機嫌取りをする。……いや。子供たちやおばあちゃんの事は本当に大好きだけどさ……

 

「…そんなヨイショしても誤魔化されませんよ。」

 

「へっ!?」

 

あっ、あれぇ?イケると思ったんだけどなあ……

 

「私が貴女のためを思って言っているというのに貴女という人は……!」

 

ヤッ、ヤバッ!

 

「おっ、おばあちゃん!?私明日の準備もあるしそろそろ帰らないと……!」

 

「…貴女が来る前に貴女の家に電話しました。貴女は今日はここに泊まることになっています。貴女のお母様が荷物も後で届けてくれるそうですよ」

 

「え゙っ……」

 

おっ、お母さん!?

 

「さっ、今夜はゆっくりお話ししましょうね」

 

「ひっ、ひえ~」

 

私の試練はまだ終わらないようだ……

 

 

 

少女の親友の話

 

「…立香~、カルデアってとこにバイト行くの何時だっけ?」

 

「一週間後だよ~」

 

「……そっか~」

 

「どうしたの?急に?前にも話したじゃん。」

 

「…!ううん。なんでもないよ」

 

「そう?」

 

彼女は間違いなく私の親友だ。でもこの暗い感情は止められない。

……私の家は魔術師の家柄だ。……元がつくが。

彼女に初めて会ったとき感じたものはその莫大な量の魔力とほぼ全身に走る魔術回路

……私は親と違い先祖帰りなのか魔術回路が存在するが家を再興出来る力は無い……

嫉妬に駆られて何をするか自分でも分からなくなりそうになる。

……でも……

 

「…今日は何処行く?」

 

「う~ん……あっ!あそこにしない?ほら新しく出来た……」

 

「そうだね、そうしよっか」

 

彼女の車椅子を押しつつ私が気付いてる事実を反芻して気持ちを圧し殺す

 

……彼女は遠くないうちにその身にかけられた呪いで死ぬ……

 

……そんな事を考えつつ私は今日も彼女の善き友人であろうとする 

 

 

 

錬鉄の英雄の帰還

 

「…エミヤさん、本当に行ってしまわれるんですか……?」

 

悲しげにそう言う少女に胸を締め付けられるがすぐに前を向く……もう決めた事だ……

 

「私の言えた義理ではないが……マスターの事を頼んだぞ」

 

「…!はいっ!」

 

良き返事だ。彼女に任せれば心配はいらないだろう……

……私は眠るマスターに近づきその手を軽く握る

 

「……」

 

……何か声をかけようと思ったが考えてみれば私にその資格は無いな。私は彼女から逃げようとしているのだから……

 

私はその手を離し部屋を出…

 

「…エミヤさん!」

 

足を止める

 

「…何かね?」

 

「…お世話になりました!」

 

「…次のマスターが決まったら呼んでくれ。その時は今度こそ力になると誓おう」

 

今度こそ私は部屋を出る

 

「…で、何か用かね?ランサー」

 

部屋を出れば壁にもたれ掛かる青髪の男

 

「…ハッ、同僚の見送りに来たら悪いのかよ?」

 

……見送り?何を馬鹿な……

 

「…では、何故君は殺気を私に向けているのかね?」

 

「…そうだな、こいつは一種の余興だ。……アーチャー、俺と最後に一戦してけや。」

 

「…ふむ。良かろう。では、被害を出しても問題無い所に行こうか?」

 

私がそう言うと奴は心底驚いたと言った顔を向けてくる……何だ、その顔は……

 

「何か可笑しかったかね?私は君の希望に答えただけだが?」

 

「ん?いや。なんつーか……まあいいわ。行こうぜ」

 

「…今回は勝たせてもらおう。」

 

「抜かせ。勝つのは俺だ」

 

……赤と青のコンビが物騒な笑みを浮かべ無言で練り歩く中カルデアスタッフは戦々恐々としていたという……

 

 

 

優しい子供たち

 

「おかあさん!」

 

「しー。ダメよ、ジャック。マスターは病気で寝てるんだからいきなり大声出したら……」

 

「あっ、おかあさん、ごめんなさい」

 

「……」

 

「おかあさん起きないなあ……」

 

「仕方ないわ。せっかく持ってきたしこの絵本読んでいってあげましょう」

 

「…うん。」

 

「…特に心配無さそうですね……」

 

先輩の部屋から声が聞こえた気がしたので聞き耳を立ててみると中にはナーサリーさんとジャックさんがいるようでした。

……勝手に入ったことに関しては注意しないといけないのでしょうが……

 

「…気付かなかったことにしましょうか……」

 

私は先輩の部屋のドアから離れた。

 

 

 

槍使いの話

 

「…よう。嬢ちゃん、……また痩せたようだな……」

 

椅子を引っ張ってきて座る

 

「なあ、嬢ちゃん。俺さあ帰ることにしたんだわ。悪かったな、助けてやれなくてよ……」

 

サーヴァント連中の大半はさっさと帰っちまった。後は俺とガキどもと変態科学者と盾の嬢ちゃんくらいしかいねぇ。

 

「辛気臭ぇのは嫌いだしごちゃごちゃご託並べるのも好きじゃねぇ。だからこれだけ言いに来た。残りの時間精一杯生きな。最後のプレゼントをやるよ」

 

俺は嬢ちゃんにルーンをかける。……まじないレベルどころか気休めにもなんねぇだろうが苦痛は少し楽になるはずだ 

 

「……じゃあな。マスター」

 

 

 

残った天才の話

 

静かな部屋にキーを叩く音が響く。

 

「……ふぅ。」

 

作業行程を保存しパソコンの電源を落とし席を立つとパソコンから伸びるコードの先へ向かう。

コードは既に乗る者の居ない車椅子に繋がれている。

……私はコードを抜いた。

 

「立香君?君が乗らないと私がこいつを調整しても何の意味も無いんだよ……?」

 

……届くはずの無い言葉を溜息と共に溢す……

 

「う~ん……少しここに長く居すぎたのかもしれないな……」

 

……そうだ。休暇を取ろう。……正直今のカルデアにはあまり居たくない。あの頃比較的肌の合わなかった人物はもう居ないけど残った面子も彼女がああなってから皆魂が抜けたようになってしまって張り合いが無い。

 

「…彼女とあの馬鹿には挨拶していこうかな……?……ああ、その前に……」

 

まずはごちゃごちゃしているこの部屋を片付けないとね……

 

 

 

 

所長代理の話

 

……この部屋に来るのは久しぶりだ。

……僕は部屋に入る

 

「……久しぶり、だね。立香君。」

 

……彼女の姿を視界に入れられたのは一瞬だけ。

直視するには彼女はすっかり変わり果ててしまった……

 

「いや。それではいけないな……」

 

僕はもう一度視線を彼女に向ける

 

「……」

 

彼女に対してかけたい言葉はたくさんあったはずなのに……改めて彼女を見据えたら全て消し飛んでしまった。

 

「本当に、ごめんよ。立香君。」

 

彼女の姿はあまりにも痛々しすぎる……僕が目を背け続けた結果がこれなのか……?これじゃあ僕はもう彼女に何も言う権利は無いじゃないか……

 

「……ごめん。帰るよ。」

 

……こうなったらもう僕に出来るのは人理修復を終えるまで歩みを止めない事しかない。勝手だとは思うけどそれが僕が彼女に出来る唯一の償いだ……

 

 

 

盾の少女と?

 

「貴方は誰なんですか!?今すぐに先輩から離れてください!」

 

先輩の様子を見に部屋に来たら見覚えの無い人物が居たので私はそう声をかけました……まさかこうもあっさり侵入されるなんて……!

 

「聞こえないんですか!?今すぐに離れてください!」

 

私はサーヴァント化しその人物に再び声をかけます。敵のサーヴァントでしょうか……?……今先輩を守れるのは私だけ……!絶対に先輩に手出しは……!

 

『……マシュ。大丈夫だよ。俺は彼女に危害は加えない』

 

私の名前を……!?いえ。今はそれはどうでも良いでしょう。とにかく彼の言葉を簡単に信じるわけにはいきません。彼は侵入者には違いないのですから……!

 

「…とりあえずこちらを向いて下さい。それから事情を話して貰います……!」 

 

彼は振り向いた

 

『……久しぶり。マシュ……いや。ごめん。この世界の君に俺の事は分かるわけないよな……』

 

……彼に見覚えはありませんし言ってる意味も分かりません。でも……

 

「…貴方は一体誰なんですか……?」

 

今にも泣き出しそうな彼の顔……それと彼に手を握られる先輩はとても穏やかな顔をしていて……更に良く見れば彼はカルデアの戦闘服を身にまとっていました……

 

『…うん。今から俺の事について話すよ……それに、彼女についても大事な話がある……』

 

一瞬先輩に目をやった彼が再び私に視線を戻したとき、彼は先程とはうってかわって真剣な顔をしていました……私は警戒は解かないものの彼の話を聞いてみることにしたのです……

 

 

 

復讐者の話

 

俺が手を握ってやった女はそのまま身体から力を抜きそのまま倒れこみそうになり俺は思わずその身体を支えていた……

 

「……」

 

俺は何をやっているんだ……?この女に特別な感情は無い。だが、何となくこの女を放って置くことが出来なかった

 

「…クハ。俺もヤキが回ったものだな」

 

この女が人類最後のマスター……カルデアの切り札であることは把握している。……魔術王とやらは気に入らないがそちら側に俺が所属している以上俺にとってはこの女は本来敵なわけだ。

 

「……」

 

しかし俺はこの女に敵とは名乗らなかった。

 

「……フン」

 

俺は異様に軽いその女を背負った。

 

「…喜べ。貴様を外に出してやろう……」

 

俺は独房のドアを開けた

 

 

 

名もなき魔術使いの話

 

魔術師の家の方針に嫌気が差し家を飛び出した俺は人理保証機関カルデアに招かれた。…ここの代表となる女、オルガマリー・アニムスフィアが当主となっているアニムスフィア家と俺の家はとにかく仲が悪いのだが既に出奔し、名も変えた俺の知った事ではない。

…にしてもあの高圧的な性格は何とかならないものか…?俺の魔術特性そのものはかなり特殊な部類には入るが魔術師としての実戦能力は低い…それは自覚している…。

 

だからと言ってまるで出来損ないを見るかのような目をするのは問題だろう。…出ていってやろうかとも思ったがここは南極のド真ん中。伝手が無ければ出ていくのも難しい…それにあの女がカルデアの技師レフ・ライノールに見せる弱々しい姿を偶然見てしまってからそういう選択肢は完全に消した。…昔から魔術師らしくなく、どうにも甘い気質の俺はああいう奴を放置出来ない。

 

…そこから目まぐるしく時は過ぎレイシフト当日…俺の意識は闇に沈んだ。目を覚ました後に聞いた話だと裏切り者のレフ・ライノールが仕掛けた爆弾の爆発に巻き込まれたらしい…しかもオルガマリーは死亡し現在は人類も滅亡しカルデアの外にも出られない。

 

そして当日になってやってきた一般人のマスター候補がずっと世界を救うため奔走していた…そして今、彼女は…

 

「…あんたが俺の前任か。…中々に幸薄そうな顔してやがんな。」

 

実際はそんな言葉で言い表せない程その女は衰弱しきっていた…辛うじてとは言え、息があるのが不思議な位だ。…ざっと解析するがかかってる呪いは俺にはどうすることも出来ずそもそも手遅れだった…。

 

「…ここの連中はよ、皆俺とあんたを比べやがんだ。…罪作りだよなぁ…俺にあんたみたいな事は出来ねぇよ…。」

 

どうやってこの女はこんな衰弱しきった身体で全てを背負ったんだろうな…現在目覚めたマスター候補が俺しかいないとは言え、はっきり言ってこいつと同じ事なんて出来ねぇ…自分の役目から逃げ出した俺にはな。

 

「…まぁ腐っててもしょうがねぇからよ、そこで見てな。俺は俺のやり方で人類を救ってみせるぜ。」

 

その一言で言い表すなら醜悪な見た目の少女にそう声をかける…不思議だ…こいつを見てると勇気が貰える気がするんだ…。

 

「また来るよ。元気になったらあんたと話でもしてみてぇな…死ぬなよ。」

 




タイトル通りの蛇足(必要か?これ?)

何か浮かんだら追記する予定


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青い巨星のIS1

……前後左右……上下は無いが実質360度から浴びせられる好奇の視線に嘆息しつつ離れた席からそれとは別に露骨にこちらにチラチラ向けられる視線に私はアイコンタクトを返す

 

……なあ、兄貴……俺今めちゃくちゃ帰りたいんだけど……

 

……私に言われてもどうにもならん。諦めろ、一夏。

 

……そんなぁ……

 

落ち込み始めた弟に心の中で同情する。

……私自身は戦場でもっと強い視線に晒されたこともあるため年端もいかない小娘どもの視線など我関せずでやり過ごせてしまう……とはいえあの頃浴びせられた殺気の足元にも及ばないものの一部世論に染まった愚か者からの憎悪を込めた視線も混じっているし決して居心地は良くはない。

 

……一体どうしてこうなってしまったのか……?

 

私の意識は気付けばその場を離れていた……

 

私は前世ではランバ・ラルの名を持つ軍人だった。敵基地内に突入しての戦闘中重症を負い部下も失った私は最後は自爆して果ててやった……大事な忘れ物をしてしまったがあの時死を選んだ事に後悔は無かった筈だった。

 

……だが死んだはずの私は再びこの世に生を受けてしまった……

 

戦争の真っ只中を正しく薄氷を渡るように生を勝ち取って来た私の二度目の生は多少不安定ではあるもののあの世界に比べたら平和と言って差し支え無かった……

 

……戸惑ったものの穏やかに過ごすのも悪くないと思い始めていた……私の様な経験があれば親に捨てられるなどまだ問題無いレベルである……最も生前の歳を考えれば自分の子供のように思ってしまう姉と弟はかなり憔悴していたがな

……そう言えば彼女は私が死んでからどうしただろうか…?復讐など考えてないといいが……

 

……彼女の事を今考えても仕方ない。もう私にあちらへ戻る方法はないからな。……さて、いっぱいいっぱいの生活の中、私の姉の親友の篠ノ之束の作ったISにより私たちだけではなく世界まで変わるとは思わなかったが……

 

女尊男卑の台頭……篠ノ之束は恐らくこんなことがしたかったわけではなかろう……まあ兵器としてのISの影響で我が家の財政は潤ったが。だが問題はここからだ……ISを私の弟一夏が動かしてしまったのだ……

 

……女性しか動かせないはずのそれを男が動かしてしまったために他の男もISを動かせるのか確かめる検査が全国で行われ結局私が二人目のISを動かせる男として話題をさらってしまった……今世は目立つつもりはなかったのだがな……私はせめて姉と弟のために出来ることがあればと思っていただけの筈なのだが……

 

本当にどうしてこうなったのか……全く。機会があれば篠ノ之束に相応の報いを受けてもらいたい所だな……




ガンダム世界出身ならオールドタイプでも普通に無双可能な世界だよなぁ…


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青い巨星のIS2

「……あら?逃げずに来ましたのね?」

 

……私は目の前で戦う前から勝ち誇る小娘に呆れの目を向けている……最も今の私は……

 

「にしてもフルスキンだなんて……そんな時代遅れのデザインのISを使おうだなんて嘗められたものですわね……!」

 

……一人で勝手に怒りを募らせる少女に私は更に冷めていく。そしてこの戦いの原因に思いを馳せた……

 

事はクラス代表を決める場で起こった。クラス代表とは端的に言えば学級委員の様なものだ。クラスの者たちは面白がって私と一夏に票を集め始めた

 

……一夏は猛抗議していたが推薦されたものは断れないとこちらの知らぬ間にIS学園の教師になっていた私たちの姉千冬に告げられていた

 

……私はここまで来たら別にクラスの代表を勤めることに特に異論は無い……軍人時代はどれ程嫌な仕事でも上から言われれば断れないのが普通だったからな。

 

……たかたが一学園、一クラスの雑用など大した手間とも思わん。……最もその直後に「……じゃ、じゃあ俺も兄貴に一票……!」といった一夏には少し思うところはあるがな。

 

……で、そろそろかと思った辺りでこの流れが気に食わないのにひたすら無言を貫き私か一夏のどちらをクラス代表にするか?という方向にまとまりそうになったところでようやく声をあげたものがいた

 

「納得いきませんわ!」

 

彼女はセシリア・オルコット嬢。イギリスの代表候補生との事だ。……その後の彼女は自分が推薦されて当然の状況でのこの結論がとにかくお気に召さないらしく我々二人とひいては世の男性陣、果ては自分がいるこの国まで罵倒を始めた……

 

……不味いな……。

我が弟一夏は今時珍しいくらいこの日本という国が大好きである……しかも沸点が低い。

 

……そろそろ止めるべきか……。

そう思い同じく血を分けた姉に目を向けるとこちらは沸点は高いものの暴発を必死に抑え込んでいる鬼がいたが私が目を向けると途端に無表情になる……そして

 

……私が止めるか?千冬姉さん?

 

…!……頼む。

 

私が動こうとすると

 

「イギリスだって世界一マズイ飯ランキングで何年連続で一位だっつうんだよ!」

 

……と、愚弟がやらかしたのが分かった……。

 

イギリスの飯がマズイ、というのはかつてあの世界にてイギリス発祥の郷土料理を食したことのある私も頷ける話だが今、その事は問題ではない……。

 

……一夏、どうしてお前は話をややこしくする……

このトラブルメーカーの弟のせいで発症した頭痛が襲いかかって来たせいで更に対応が遅れ、その間に二人の口撃の応酬はヒートアップしていく

 

元々イギリス代表候補生が日本を貶した事で国際問題に発展しかねない話だが先程まではあくまでイギリス側のセシリアの失言で済んでいた……だが……

 

一夏……日本人でかつ世界で唯一ISを動かせる男であるお前が言い返したらそれだけで戦争の火種になりかねないと何故わからない……?

 

元々休み時間の女尊男卑に染まったからであろう彼女の高圧的な態度からこういう問題が起こる可能性を危惧していたが……あの時対応を後手にした私を殴り付けてやりたいところだ……まあ、今はとりあえず止めなくてはな

 

私は机を握り拳で叩き教室内が静まり返る中席を立つ

 

「……そこまでにしないかね?二人とも。」



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青い巨星のIS3

「なっ、何で当たりませんの!?」

 

そう叫びその端正な顔を歪ませ続けるセシリア・オルコット嬢

……何で?と言われても

 

「……」

 

私は何も言わない。……望まぬ試合とはいえどうせなら後学のためと思い代表候補生を名乗る彼女の力を早い段階から引き出すためちょっと軍で新兵を教育したときのノリで軽く煽った……当初は彼女が操るビット兵器に苦しめられた。が、私が慣れるまで時間はかからなかった

 

……彼女自身は複雑な挙動をビットにさせていたつもりだったんだろうが……実際はある程度パターン化した動きしかしていなかった……してそれからかれこれ五分はこの膠着状態だ……当人が疲れてきているのだろう。ビットの動きは更に単調になりつつあった……

 

「……ううううー……!」

 

セシリアが泣いてるように見えるのは気のせいだと思いたい……現実逃避は止めようか。

 

「……煽り過ぎたか……?」

 

そこに居たのは国を背負って立つ代表候補生……ではなくただ上手くいかないことがあって泣くだけの少女だった……仮にも代表候補生がここまで煽りに弱くたかだか五分程度で疲労困憊……一般的なアスリートはこの倍は走り回ることもあるはずだが……

 

「いい加減に落ちてください……!」

 

飛んでくるレーザーを危なげなく躱す

……私は別に並列思考が得意な訳ではない。余計な事を考えていても問題無いくらい余裕ということだ

……セシリアはビットに頼りすぎだな……その手に持つライフルは飾りなのだろうか?……恐らくセシリア自身の脳波に反応して動くビット兵器の制御に集中力を割かれ撃てないのだろう……それにしてもこのブルーティアーズというIS本当に実用機なのか?明らかに扱いづらく実験機の粋を出てないとしか評しようが無い……メインを躱されやすいビット兵器にリソースを割くなど無駄でしかない

……しかも操縦者のセシリアは扱いきれずもて余しぎみ。

 

「……ハアッ!ハアッ!……」

 

……これはさっさと倒してやるのが彼女のためだろうか……?

 

私は集中力の切れ始めてる彼女を後目に射撃兵装でビットを一機撃ち落とした

 

「……は?」

 

セシリアが何が起きたか分からないと言った表情で私を見る

……この状況で呆っとしていられるとは余裕だな

 

「…!どうやってこんな……!」

 

後を控える一夏のために場を暖めるぐらいの気持ちでいたが……ダメだな。まさかこうまで彼女が弱いなど想定もしなかった……元とは言え下を導く立場にあった私がしていい発言ではないな……

 

「……どうして…?どうしてなのですか……?何故一発も……?」

 

そして……この間も私は射撃兵装をビットに向け続けていた……



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青い巨星のIS4

「え~と……本当に任せていいの…?」

 

「ええ。大丈夫ですよ」

 

「う~ん……分かった。それじゃあおやすみ、そっちも根を詰めすぎないようにね」

 

「ええ。おやすみなさい」

 

先輩がドアを閉める音を聞きながら私は作業を……

 

「……」

 

私は席を立つとドアを開ける

 

「……ひゃっ!」

 

ドアが急に開いて驚いたのかその場に尻餅をつくその少女に苦笑しながら声をかける

 

「……そんな所で何をしてるんだ、セシリア?」

 

しばらく目を瞬かせた彼女はやがて自分で立ち上がり

 

「……差し入れですわ。ここで貴方が整備をしてると聞いたもので……」

 

「……そうか。有り難う」

 

「……中には入れてくれませんの…?」

 

「……申し訳ないが今は他国の代表候補生の専用機の整備をしている……何か急ぎの用があるのか…?」

 

「……」

 

彼女は何も答えない。……本当にどうしたというのだろうか……

 

「……分かった。少し待っていてくれ。」

 

「あ……」

 

名残惜しそうに彼女が手を伸ばしてくる

私はドアを閉め中に戻る

 

作業工程を保存したPCを落とす

私はドアを開けた

 

「待たせたな。入ってくれ」

 

「……はい」

 

何の疑いもなく入ってくるセシリアに嘆息する

……仮にもここには私しか居ないのだから密室空間で男と二人きりという状況にもう少し警戒して欲しいものだが……

 

「座ってくれ。」

 

私は先程まで自分が座っていた椅子を示す

 

「……貴方の席は?」

 

「……見ての通り無いが気に……どうした?」

 

突如セシリアが席を立つ

 

「……別の部屋から椅子を取ってきますわ」

 

そう言って彼女は部屋を出ていった

今度は私が困惑する。

 

「何だというんだ……一体?」

 

やがて彼女が椅子を持って入ってきて渡してくる

私は嘆息しつつ座る

 

「……それで何の用なんだ?」

 

「……どうして一年の貴方がISの整備を……?」

 

「……それは本題かね?」

 

「……いいえ。単なる私の好奇心ですわ」

 

しれっとそう宣う彼女に更に溜息を溢す

 

「……特例だよ」

 

お茶を濁すことにする

 

「……そうですの。ではもう一つ。貴方の専用機何ですが……」

 

「……こいつか?」

 

私は腕に着けたブレスレット型の待機状態のISを見せる

 

「……そうです……」

 

渋ってはいるが彼女の言いたいことは分からないでもない

 

「……君が聞きたいのはこいつの出所か?」

 

「…!そうです……」

 

「……それは君が個人的な好奇心で聞いているのか、代表候補生として聞いているのかどちらだね?」

 

「……代表候補生としてですわ」

 

「……悪いがその質問には答えられない」

 

「……理由をお聞きしても?」

 

「……色々あるがそもそも私にはこの事について答える権限が無い」

 

「…!それでは……」

 

「……国家機密クラスと思ってもらって構わない。ちなみにこいつ自体は単なる第二世代機だ、名前は無い」 

 

 



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青い巨星のIS5

私は入ってきた二人の転入生を見る

……とりあえずどう見ても女にしか見えない自称男はいい。どうせ私と一夏の専用機の情報を探るためスパイとして送り込まれたのだろう。私は勿論騙されることは無いし一夏にも万が一の事を考えて色々教え込んだ。正体を隠せてもいないスパイにハニートラップ程度で簡単に情報を抜かれる様なら叱りつける所だ。

 

……問題はもう一人の方だ。小柄な彼女から明らかに一夏に向けて殺気が向けられている

……単なる女尊男卑思考というわけでもなさそうだ。私は視界に入れてもいないしな。……それに彼女の雰囲気に覚えがある。……さて、何処だったか?

 

彼女は自己紹介を山田教諭から促されても黙っていたが千冬姉さんに言われようやく自己紹介を……ん?彼女は今千冬姉さんを教官と呼ばなかったか?……情報が少ないな。とりあえず彼女の名前はラウラ・ボーデヴィッヒというらしい……ドイツ系だな。そして千冬姉さんを教官と呼んだと言うことは……まさか……いや。まだ確証は持てない。そうこうしているうちに彼女は一夏の元へ……殺気が膨れ上がっている。一夏は気付いてすらいないが。……恐らく彼女は嘗ての私と同じ軍人。何しに来て何故面識の無い一夏を憎んでいるのか分からないがさすがに一般人に滅多な事は……!

 

「いきなり何すんだ!?」

 

「クッ!避けるな!貴様が!貴様が!」

 

まさかいきなり一般人の一夏に殴りかかるとはな。

 

ん?近くの女生徒からメモが回されてきた

礼を言って受け取る。……セシリアからか。

 

"止めなくてよろしいんですの?"

 

……私は返事を書きセシリアに回してもらう

 

"まだいい。相手はどうやら現役の軍人だろうが相手を素人と思って手加減してるような奴に負けるような柔な鍛え方を私は自分の弟にしていない"

 

……さて、それにしても何故千冬姉さんは止めない……?

これ以上長引くと授業に支障が出る……オロオロしてるだけの山田教諭は正直役に立たなそうだ

 

……仕方ない。また私が止めて……!

 

その時私は見た。彼女が隠し持っていたナイフを一夏に向けて尽き出すのを……!

 

素人に軍人が刃物を使うだと!?一夏の角度からは見えていない!

くそっ!

 

「……一夏!」

 

「えっ?兄貴……」

 

私は一夏の元に駆けつけると一夏を突き飛ばす。床に転がったのを確認しつつとりあえず迫ってくるナイフの刃を左腕で受ける

 

「……グッ…!」

 

「……何だ貴様は!?邪魔するな!」

 

「何やら言っているようだが刃物を使うなら加減はせんぞ……!」

 

私はナイフを抜こうとした彼女の手を掴む

 

「……くそっ!離せ!」

 

「……ナイフを捨てられないか、未熟だな」

 

「何だと!?貴様!」

 

これでいい。まずは怒らせて標的を私に移し更に怒らせる。……素人にナイフを抜くバカだ。ISを起動される前に落とす!

 

私は必死に掴まれた手を抜こうとする彼女の手を更に強く握りそのまま狼狽える彼女の喉元に手刀を叩き込む。

 

「ガッ!?」

 

これで大抵の相手は気絶するだろうが念には念を入れてそのまま今度は拳を作り鳩尾に打ち込む

 

「がはっ!」

 

……少しやり過ぎたかもしれん。まあいいとりあえず気絶は確認出来た。

 

私は彼女を床に寝かせると刺さったままのナイフを抜く……思ったより深かったな。血が少し吹き出る

 

「……」

 

制服の上着を脱ぎ縛り付け止血する

……勿体無いがどうせこれだけの穴が開いて血がついてしまってはもう着れん

 

「……治療をして貰って来ます。後の事はお任せしていいですか、山田教諭?」

 

私はこの騒動を止めなかった千冬姉さんにではなく山田教諭に聞いた

 

「……え?ええ!気を付けて行ってきてください!」

 

「お待ち下さい!私が付き添います!山田先生許可を!」

 

「……え?ええ!行ってらっしゃい!」

 

「セシリア、大した怪我じゃない。付き添いなど……」

 

「……行きますわよ。」

 

勝手に肩を貸すセシリア。……こうなると彼女は話を聞かない。溜息を尽きながら教室のドアに着いた時、私は一度振り返り千冬姉さんの方を睨んだ

 

……姉さん、何で止めなかった?

 

……すまない……

 

……後で理由は聞かせてもらうぞ

 

私はセシリアと教室を出た

 



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青い巨星のIS6

「すまない。わたしのせいなんだ……」

 

……私の怪我は見立て通り多少深いもののそれほど酷くは無かった。ただ、念のため縫った方が良いでしょう……というからてっきり本土の病院に行くのかと思っていたらIS学園内にある医療器具で今まで私を診察していた保険医にそのまま縫われるという斜め上の展開となった……医療器具、それからあの保険医の手際の良さ……生徒が何らかの大怪我を負うことを想定していたのか……?ここには大量のISがあるしここだけで各国との戦争に挑めるんじゃないかと思ってしまった……

 

さて、ここはIS学園の教員用スペースにある千冬姉さんが根城にしている部屋である

放課後呼び出され職員室に向かいそのまま彼女に連れられここにやって来た

……ちなみにこの時部屋を片付けたのは余談である

 

足の踏み場を作り卓を開けた後私は彼女が座る向かいに腰を下ろしラウラの事を聞いたところ……この返事が返ってきたのである

 

……先程から何を聞いてもこれしか言わない。私は時計を見る……あれからもう五分が経過していた。……気は長い方だと自負してるがこのままだと話が一切進まない。

 

……私が切っ掛けを作らないといけないのか……?

私は溜息を吐くとズボンのポケットからあるものを取り出した

 

「……ん?それは……!こら!返「一本貰うぞ」あっ!全く……」

 

私は先の道中彼女からすった煙草の箱とライターを取り出し取り返される前にさっさと火を着けてしまう

息を吸い、溜めて、やがて吐く

 

「……やけに吸い慣れているな。普段吸ってるのか…?」

 

「IS学園内で吸ったのはこれが初めてだな。後は外でなら吸う。……ちなみに一夏の前では吸ってないから私が喫煙者なのは知らないな」

 

「……そうか……さあ、そろそろ返せ。一本だけの約束の筈だ」

 

私は箱の底を彼女に向け煙草を渡す

彼女の手が煙草に届きそうになった所で彼女の前に開封口が回ってくるように持ち替える

……彼女は困惑していたがすぐ意図を察したようだ

箱から一本抜いた

また手を伸ばす彼女に私はライターを渡さず卓から身を乗り出す形で彼女に近づく。向こうも意図を察したようで顔を近づけてきた。私は彼女の煙草に火を着けて身体を戻し煙草とライターを卓の脇に避ける

 

「火の着けかたまで様になっているとは……私は育て方を間違えたのか……?」

 

何やらショックを受けているのでツッコミを入れる

 

「……いや。幼少期からあんたが家を出るまであんたの世話をしていたのはむしろ私と一夏だと思うが?」

 

下手な口笛を吹いて現実逃避を始めたので卓を軽く叩き本題に戻す

 

「……緊張は解れたか?それじゃ、そろそろラウラの事を聞きたいんだが…?」



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青い巨星のIS7

……彼女の話が終わった。

私は既に四本目となる煙草から吐き出される紫煙を眺めながら改めて考える

 

……軍人として戦うためだけに調整され造られた少女。

結果を出すことのみを期待されたが故に結果的に本人の自己表現方法も強さこそ全てとなった。

 

……兵士として高い素質を持ち上の期待通り結果を出し続けたがISの出現により転落した。……IS適合手術の失敗。左目の眼球にIS用のセンサーを移植した所……その瞳の色は金色に変わり見えてはいるものの余りに見えすぎて正常に物を見ることが出来なくなった。

 

……隻眼の兵士が現役復帰するのは難しい。彼女も片目が使えなくなったことでISの操縦は愚か今まで普通に出来ていたことまで出来なくなり優秀から一転して落ちこぼれの烙印を押された、か。

 

……この時点でまともな価値観を持つ人間なら怒るのが普通なのだろう。……だが、私には軍人だった前世の記憶がある……そのフィルターを通して見てしまえば……所詮戦場なら何処にでもよくある悲劇に過ぎない……

 

……そう断じる。そう言い切る事が出来てしまうのだ。

 

……客観的に見て戦争を体験したことも無い筈の真っ当な学生ならあり得ない倫理観に自嘲しつつ更に考える

 

そこで彼女の前に現れたのが我が姉織斑千冬と言うわけだ。……彼女に課した訓練内容をはっきりとは姉は語っていないが片目がまともに見えず遠近感覚が狂い日常生活すら困難な者に戦闘の仕方を教え込むのだ、生半可な事ではなかっただろう。

 

かくして彼女は尊敬すべき教官のお陰で優秀に戻った、と。

 

……姉のせいかどうか判断する前に一つ聞いておくことがある

 

「…なあ、姉さん……あんたはラウラという力しか拠り所が無くそれを失い自分を閉ざした少女の何になろうとしたんだ?」

 

「……何とは…?」

 

「ラウラにとってあんたはどんな存在だと思う?」

 

「…尊敬すべき師、敬うべき目上、見習うべき先達…こんな所じゃないか?」

 

「ラウラは多分、あんたを親、若しくは神に近いものとして崇拝している」

 

「……」

 

「…ちなみに…あんたラウラに俺たちの事を話した事があるか?」

 

「……話の流れでお前のことは話してないが一夏の事は話した事がある。何で教官はそんなに強いのかと聞かれたから守りたいものがあるからと伝えようとして……」

 

「そのときあんたは、しちまったんだろうさ、ラウラにほとんど見せたことの無かった優しげな顔を」

 

「……」

 

「あんたにそんな顔をさせる存在に嫉妬した。ラウラには他に寄り添う人間が居なかったから。それと同時に家族としての拠り所を求めつつあんたを信奉するラウラにはそれがあんたの弱さに映ってしまった。」

 

「……だから、一夏を排除しようとしたと…?」

 

「あのときは半ば嫉妬から来る短絡的な行動で自分の教官を弟だからという理由で自分から取り上げる存在が許せなかった。だから八つ当たりの一つでもしてやろうと殴りかかったが避けられて逆上し怒りのままに刃物を出した……ただ咄嗟に、こいつを殺せば教官は自分を見てくれると思ったのかも知れんがね……」

 

「……何てことだ…」

 

私は落ち込む姉を冷めた目で見ながら五本目の煙草を取りだし……これが最後の一本だったか……気にせず火を着ける

 

 

「……なあ、私はどうすれば良かったんだ…?」

 

私は上を向き自らの口から吐き出される紫煙を見つめながら答える

 

「…知らんよ。別にあんたが間違ってたと一概に言える話じゃないしな。そもそも当事者ではない私が口出せる話でもあるまい。……第一、一つ気に食わんのだ。何故あんたは私だけにこの話をした?本来この場には一夏もいるべきだった筈だ」

 

「そ、それは…」

 

「まあいいさ、そのお陰でこの件の解決にあいつが一役買ってくれそうだしな。」

 

「お前では駄目なのか…?」

 

「私には無理だ。この件は一夏にこそ適任だな。……これからあんたがする仕事は一つ。二人が全力でぶつかれる機会を作れ。私からはそれだけだ……後、一夏には全部終わったら話してやれよ、……ああ、もう一つラウラとも話し合え。……では、私は帰る」

 

私は足早に部屋を去「ああ~!?」れなかった

 

「お前一本とか言って残り全部吸ったな!?」

 

「……これもいい機会だ。禁煙しろ、姉よ」

 

そうして私は部屋を出る

 

「こら!待て!」

 

その日結局自分の部屋には戻れなかった……



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青い巨星のIS8

……私の目の前には文字通り泥で形成された懐かしい物がいる。暮桜……かつて我が姉の専用機だった機体だ。まあ……

 

「所詮擬きだがな。」

 

偽暮桜の斬撃を後退し避ける。

暮桜の武装は単一能力のあるブレード雪片のみだがこいつの零落白夜は仮に当たろう物ならシールドエネルギーをあっという間に削られISは解除される

……確認は出来ないがこいつも同じ能力を持ってると思った方が良いだろう。

 

……厄介だ。

最も私にとっては遅すぎる……これが仮に織斑千冬本人の剣ならとっくに私は戦闘不能だ……

 

しかし我が不肖の弟に丸投げした筈が何で私がこんな事を……!

 

……ラウラと一夏はタッグマッチでぶつかる事になった。……ちなみに私も参加させられる所であったが屁理屈を捏ねて辞退した。

 

パートナーとなった箒と連携を一切取らないラウラと対称的にシャルル・デュノアとペアを組んだ一夏の動きは目を見張る物があった。

 

観客席で眺めている際にそれが顔に出ていたのか隣から…

 

「……貴方も出れば宜しかったのに。」とからかって来るセシリアを軽く睨むが彼女は微笑むだけ。

 

……あれだけ手酷く叩きのめしたのに何故彼女はこうも私に懐くのか不思議でならない……すっかり癖になった溜息を溢しつつ試合を眺めていく

 

箒を連携で潰し(さすがに不憫だな、あれは……後でフォローを入れておくか……)

 

一騎討ちに見せかけシャルルとの連携で油断したラウラを追い詰めて行く……

 

「……えげつないですわね……」

 

苦笑を溢すセシリア……最近のお前も大差無いと言ってやろうと思ったが止めた。まあ…確かにあのシールドピアースは奇襲で使われると対応が難しい……

 

ラウラはもう打つ手は無く……!何だ、あれは!?

 

ラウラのISから泥のような物が吹き出し搭乗者もお構い無しに飲み込んで行く……

 

 

「……くそっ!」

 

私は走り出していた。セシリアの制止の声が聞こえた気もしたが知ったことか!私の勘が確かならこれは一夏には荷が重い……!

 

結局私はISを纏い気付けばこのギリギリの戦場へ……

 

頼みの綱は一夏のみか……私の攻撃はほとんど効いて無い……いや。それ以前に……

 

「…当たらん!」 

 

ふざけたことにこいつスピードは早いのだ。当たりさえすればせめて決め手の無い私でもどうにか出来るのだが……

 

「……くそっ!一夏!まだか!?」

 

「悪ぃ兄貴!こいつ隙が見つからねぇ!悪いけどもう少し動きを抑えてくれ!じゃねぇと当たらねぇ!」

 

くそっ!簡単に言ってくれる!

 

『おい!聞こえるか!?』

 

「千冬姉さんか!?教師陣は何をしているんだ!?」

 

「すまん!まだ生徒の避難が完了していない!もう少し耐えてくれ!」

 

「ふざけるな!職務怠慢にも程がある!?日頃から有事に対する姿勢が緩いからそうなるんだろうが!?」

 

もういつもの取り繕いも無しに怒鳴り付けていた。

これは自分で勝手に飛び出した末の自業自得。だが、八つ当たりだと思ってもここまで理不尽だと前世の私も上官にキレていただろう……

 

「…もういい!後は俺たちでやる!あんたらは手を出すな!後で処分でも何でも受けてやる!」

 

私は通信を切った

 

「兄貴!?援軍無しでどうするって「うるさい!お前はこいつの隙を伺う事に専念してろ!」ちょっ!?兄貴!?」

 

一夏の喚きももう聞くつもりは無い。取り敢えず今は……

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ。悪いが俺は貴様を殺してでもこいつを潰すぞ」

 

搭乗者を殺さずに制圧しようとしたのがそもそもの間違いだ。こんな奴手を抜いて止められるわけがない!

 

「……恨みたければ好きなだけ恨め!」



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青い巨星のIS9

目が覚める……病室?気配を感じて横を見ると……

 

「……何故あんたがここにいる?」

 

「え~怪我したって言うから様子を見に来たのに~」

 

懐から心配!と書かれた扇子を取り出し開く少女

私は溜息を吐きつつ……

 

「……久しぶりだな。更識楯無」

 

「ええ。久しぶりね」

 

……IS学園生徒会長でもあり暗部更識家の現当主更識楯無とは実はこれが初対面ではない。まあ妹とはともかく彼女本人と会話をしたのはIS学園では初めてになるのだが……彼女との出会いの時に意識が飛びそうになったが今は置いておく。それより……

 

「……ラウラはどうなった?」

 

「……それは私から話してやる」

 

図ったように中に入ってくる女性

 

「……千冬姉さんか」

 

「……全く。無茶をしおって。その程度で済んだのが不思議な位だ……」

 

私は改めて自分の身体を見る脇腹に包帯が巻かれているが固定はされてない。思ったより浅かったようだ……

 

「さて、私から説明する前に……更識姉。お前は席を外せ」

 

「…わかりました」

 

 

「……改めて聞こう。自分が何をしたのか分かっているな?」

 

「独断専行に教師への暴言ですか?、後はラウラに対する過剰防衛とでも?」

 

「前者二つに関しては取り敢えず不問だ。問題は後者だな、他に方法は無かった「ありませんね」……」

 

……あのとき激昂した私はあの暮桜擬きの懐に入った

奴の動くスピードは厄介だが如何に単一能力があろうとも肝心の斬撃は遅くて当たらないのだ。つまり私は接近戦を挑んだ。既にこの時点で一夏に期待はしていない。

 

奴を蹴飛ばし怯んだ所で拡張領域から取り出したブレードを取り出し足に突き刺し身動きを封じる

不思議と抵抗が無かった。何故かシールドが効果を発揮していなかったのだ。

 

そこからは見るも無惨な蹂躙戦だ

動けない機体などただの的でしかない

近距離で散々斬りつけ、撃ちまくった

 

最後の瞬間弾切れを見落とし奴のブレードが当たりISの解除される瞬間私が放った機雷の爆風で私自信も怯んだ。しかもその瞬間情けない事に二発目の斬撃を生身に食らい意識を失ってしまった……

 

「……その後ラウラは一夏が助け出したよ……まあ、ISのブレードを貫通させられた足はもう……」

 

「……そうか。」

 

コックピットで人間が操縦するMSと違いISは生身に直接纏っているのだから当然たな。そもそもこちらは殺す気でやったのだ。死んでないだけ御の字という奴だろう

 

 

「……私の処分はどうなる?」

 

「……今協議中だ。まあ禁止されていたVTシステムが搭載された機体が暴れたのだ。ドイツからの抗議は突っぱねたからそちらは問題無いがな。……今は取り敢えず休め」

 

彼女が出ていく。その背に声をかける

 

「……甘い話だな。さっさと厳罰に処せば良いだろう」

 

彼女は動きを止めたが結局何も言わず出ていった

 

「……で、そこで何をしているセシリア?」

 

私のいるベッドの下から動揺する空気が伝わってくる

やがてそこから彼女が出てくる

 

「……気づいてらしたんですの?」

 

「……私だけでなく先の二人も気づいていた。見逃されたな。処分は覚悟した方が良いぞ」

 



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青い巨星のIS10

私に課せられた罰則は反省文二十枚と一週間の謹慎だった

 

……甘過ぎる沙汰だ。恐らく姉がごねたのだろう。事情はどうあれ他国の代表候補生に大怪我を負わせ、教師に暴言を吐いたのだ。……私の今居る部屋は外から一見すると独房だが、私の希望が通り大型の冷蔵庫が置かれて飲み物と食材がちゃんと一週間分揃っている(私が我が儘を言ったわけではなく一週間食堂に行けない私のために姉が腕を奮うと言ったので命の危険を感じた私が文字通り発狂しかけたのを見かねた処置だ。)

 

「……専用機が取り上げられるのは当然として、携帯はそのまま。しかもエアコンがきっちり付いているのは罰則になっているのか?」

 

「……ここは一番良い部屋よ。織斑先生かなり我が儘を通したらしいからね」

 

答える声に溜息を吐くより先に頭痛がしてきた。

 

「……何故貴女がここに居るんです?更識生徒会長?」

 

「今更敬語なんて使わなくて良いわよ~。貴方と私の仲じゃない。」

 

「……そんな事は良い。何故ここに居るかと聞いているんだ」

 

「そりゃ貴方が妙な事をしないように見張りをね…後は身の回りのお・せ・わ」

 

彼女が開いた扇子には監視!と書かれている

 

「……お世話とは具体的に?」

 

「それ聞いちゃう?……そうねぇ…こういう趣向はどう?ご飯にする?お風呂にする?それとも……「あっ布仏さん?」ちょっ!?」

 

「……ほぅ。そういうことですか、分かりました。お待ちしてます。」

 

私は電話を切ると冷や汗ダラダラの生徒会長に声をかける。

 

「……貴女はここに仕事をサボりに来ていた様ですね。もうすぐ、布仏さんと織斑教諭が来ますので覚悟しておいてください」

 

「……三十六計逃げるが勝ち!」

 

投げつけられた逃亡!と書かれた扇子を弾くと背を向け逃げる彼女の腕を掴みそのまま背負い投げる

 

「ちょっ、ちょっとおおお!?」

 

不安定な体制に陥りながらもしっかり足で着地した所をすかさず足払いで転ばせそのまま腕を極め寝技をかける

 

「あは~ん。がっついちゃいやん」

 

「……」

 

私は極めた腕に力を込め更に強く締め上げる

 

「ちょっ!?ギブギブギブ!?本当に痛いから力入れないで!?イタタタタ!?」

 

「……それだけ叫ぶ元気があるなら大丈夫ですね。折角ですから二人が来るまでもう少し技の実験台になって貰いましょうか。いやあ助かります。最近運動不足を感じていたんで」

 

私は今ものすごく良い笑顔をしているのだろう。ここに顔を真っ青にしている少女がいる

 

「あっ、あの、そろそろ勘弁してもらえるとお姉さん嬉しいかなあって……イタっ!?」

 

「……これも身の回りの世話の一環ということで。私の息抜きに付き合って貰いましょうかね」

 

「いやあ~!?」

 

ちなみに二人が来たあと彼女はぐったりしていたが事情を話すとあっさり納得されたので我が姉はまだしも彼女は身内にも信用されてないのだな、という心底どうでもいい事実を知ったのだった

 

 



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青い巨星のIS11

謹慎二日目。

 

私は電話を受けていた

 

「……おう!どうだ!?女子高でハーレム気分は!?この裏切り者が~!?」

 

「……止めろ。切るぞ。」

 

「……ちょっ、ちょっと待ってくれって!悪かったよ!」

 

私の電話の相手は少し前まで通っていて一夏も通うはすだった藍越学園の友人……やらかして謹慎してる私が部外者と電話してるのはどうなんだろうか…?……注意が来ないから大丈夫なんだろうな。取り敢えず余計な事は喋らないようにしておくか。

 

「……で、何の用だ?」

 

「……ハーレム何て作ってる場合じゃなさそうだな。……と、切るなよ?悪かった。久々だったし軽い冗談のつもりだったんだが……」

 

「……いや、良い。私も少し過剰に反応してしまった、すまん。」

 

「……その生真面目さ、本当に変わんねぇな。女子高のノリでそんなならIS学園でも浮いてるんじゃねぇか?」

 

「……まあな。」

 

「……ところで、昼休みだろうと思って電話したんだがやけに静かだな、何かあったんか?」

 

……この友人は私みたいのと付き合ってるだけあって聡明だ。

 

「……いや……そっちは賑やかだな。」

 

「……まあな。今後ろで購買のパンで大食いやってるバカ共がいてよ。」

 

察してくれたようだ。

 

「……楽しそうだな、そっちは。」

 

騒がしいのは嫌いじゃない。私の部下たちも良く騒いでいたしな。……さすがに軍人と高校生では騒ぐのベクトルが違うが決して嫌いでは無かった。

 

「……マジで何かあったんか…?」

 

「……」

 

「……言えない話か…まあ俺からは聞かねぇよ。話せる時が来てお前が話したいと思ったら言えよ、何時でも聞いてやるからさ」

 

「……ああ。」

 

……軍人時代、私にも友人はそれなりにいた。だがこの世界に生まれ落ちて明らかにこの世界に馴染め無かった私にこんな友人が出来るとは思ってもみなかった

 

「……で、マジな話どうなんだよ!?そこの女子は可愛いのか!?いやぁIS学園は女子のレベルが高いって有名だからよ!実際お前こっちでも割りとモテてたから何だかんだ落としたんだろ!?話してみろよ!?」

 

……この下世話な所が無ければ胸を張って親友と言えるのだが……さっきのも冗談では無かったのだろうな…… 

 

「おっぱいデカイのとかいたか!?」

 

「……まあ、いるな。平均しても大半がDカップはあるんじゃないか?」

 

……嘗ても今も男所帯だったので別に私は下の話はそれほど嫌いではない。

 

「……お前の本来の趣味に合ったのもいるぞ」

 

「……え゛マジかよ…!?高校生だろ!?まっ、まさか合法「ねぇ、何の話してるの?」ヒィッ!」

 

私はすかさず電話を切る

……我が友人は女好きであり巨乳好きを公言しているが実は生粋のロリコンでもある。……そして彼女持ちである

 

……私は友人に合掌しつつ都合三十回目の書き直しとなる反省文の続きを書き始めた



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青い巨星のIS12

謹慎三日目

 

「……何しに来たんだ?」

 

私は目の前の意外な来客に少し困惑しつつも敢えて淡白に声をかける……というか私の裁量でこのドアは開くのか……これでは罰則にならないではないか……と、現実逃避をしつつ。

 

「……許可は取っている。取り敢えず中に入れてくれ。ああ…こいつを押してくれると助かる。数日寝てただけなのにすっかり腕が鈍ってしまってな」

 

車椅子に座る眼帯をした小柄な少女がドアを開けた先にいた

 

外に出、無言で車椅子を部屋にいれ、ドアを閉める

 

「……いい匂いがするな」

 

「……昼飯の用意をしていたからな……食うか…?」

 

頷く少女に更に困惑しつつキッチンに戻り料理に戻る

 

……二人分になっても問題無いが……何故家の姉は来客を伝えてくれないんだ…?正直こういうサプライズは御免被りたい。

 

料理を持ってくると机に並べる。

……カレーだ。単に具を刻んで市販のルーを使っただけの物だ

 

「……美味そうだな」

 

「……味付けは中辛だが大丈夫か?」

 

中辛でも辛いのが苦手だと食べられないものもいる……私は多少辛めでも前世では平気だったが今世では少し抑えないと食べられなくなってしまった。肉体年齢に引っ張られているのかもしれんな……

 

「ああ。大丈夫だ」

 

「……そうか。…手を洗わなければならんな、車椅子を押した方が良いか?」

 

「ああ。頼む」

 

私はラウラの後ろに回り車椅子を部屋の流し台まで押していく

 

辿り着いたが良く見れば車椅子に座ったラウラでは手が届かないようだ。こちらに振り向き私を見詰めて来る

……そんな風に見ないでくれ。まあ、確かに彼女が自分の足で立てなくなった原因は私にあるが。

仕方なく私は彼女の身体に触れる

 

「……持ち上げるぞ?」

 

「……ああ。頼む。」

 

一応重さによる反動を考えて少し慎重に持ち上げたがその華奢な見た目に違わずこちらが思わず拍子抜けするほど彼女は軽かった。

……とても軍にいる女性の身体とは思えんな。

 

掴んだ部分は多少ガッチリしていたもののそれほど筋肉が付いてるようには思えない。最もかなり痩せ型(というより痩せすぎだな、これは……)のようで女性特有の柔らかさも然程感じ取れなかった。 

 

彼女は蛇口を捻り手を洗う。

ややあって…

 

「……終わったぞ。下ろしてくれ」

 

「分かった」

 

私は彼女を静かに下ろすとキッチンに来る直前に取ったタオルを彼女に渡す。

手を吹き終わりタオルを私に返してくる

私は適当にタオルを放ると車椅子を押し机に戻ってくる

 

彼女を低いテーブルに合わせるためまた彼女を下に下ろす……あ……

 

「……このまま床に下ろしても大丈夫なのか…?」

 

「大丈夫だ。胡座をかいたりは出来ないがな。」

 

床に下ろされた彼女は足を伸ばして座っている……幸い彼女の足は余り長くないので私は普通に向かいに座れそうだ

 

二人で黙々と食事をする

 

「……で、結局何の用だったんだ?」

 

食事が終わり食器を片付けた私はラウラに聞く

 

「……教か……いや。千冬姉さんに許可をもらって挨拶をしに来た」

 

挨拶だと……いや。待て。今こいつは何て言った…?

 

「……織斑一夏にはもう伝えたがお前にも改めて伝えよう……」

 

そうして私が出したお茶を啜った彼女が次の瞬間言った言葉に私は頭が真っ白になった

 

「……私は昨日付けで正式にドイツ軍人の資格を剥奪された。そして身寄りの無くなった私は織斑家に引き取られる事になった。正式な手続きはこれからだが……まあこれからよろしくな、お兄ちゃん」

 

そう言って笑った彼女から目を反らしつつ私は姉に電話をかけたのだった



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青い巨星のIS13

謹慎四日目

 

「あっ、あの…もう足を崩しても「……」すっ、すまん……」

 

さて、昨日は大変だった。自分が隊長を務めていた部隊の副官からの助言を受け私をお兄ちゃんと呼んだラウラを説得するのに時間がかかったからだ

……ラウラ自身には悪気が無い処か何が悪いのかも良く解ってなかったからな……懇切丁寧に説明して呼び方を兄さんに変えるのに一時間もかかってしまった……。しかも本人はそのまま夜私の寝る時間まで部屋に居座る暴挙に出た。……部屋に泊まろうとする彼女を何とか宥め夜中に自分の部屋に送り届ける羽目になった。(だから私が普通に外に出ていたら罰則にならないだろうに……)

 

そして次の日の朝、私は電話を無視した姉を説教するために姉のいる寮官室を襲撃し正座させた。そして冒頭の状況に戻る。

 

「……そろそろ腹が減ってきたんだが食堂に行かせては……「……」ヒッ……」

 

取り敢えず戯言を言う度に睨み付けて黙らせる。

 

「……さて、姉さん?答えてもらおうか?何故ラウラを引き取ったのを黙っていた?……」

 

「……」

 

……こうまで威圧すれば答えたくても答えられないのは解っている、だが私は圧を緩める気は無い。……下らない理由に決まっているからな。

 

……別にラウラを引き取った事に関して文句は無い。奴は身寄りがないのは解っているし、軍人で無くなったのも私が負わせた怪我が原因だろうしな

 

兄妹が増える事に不満は無い。ただ……

 

「……いい加減に答えてくれないか?何故そんな大事な話を私に伝えなかった?私が謹慎中だったのは理由にならんぞ?あんたは私から携帯を取り上げなかったんだ。電話一本で済む話ということだな」

 

「……」

 

先程からこのループで無為に時間が過ぎていく。……そろそろ答えてくれないと私が部屋に変えれないんだが…ここから部屋まで距離があるからな。さすがに謹慎の身で部屋を抜け出しているのを見られるのは不味い。

 

「……だったんだ」

 

「……ん?何だ?よく聞こえないぞ?」

 

本当は今ので聞こえたが敢えて追及する

 

「……さっ、サプライズだったんだ。わっ、私も家族が増えることになって嬉しくてそれで「本当にそれが理由か?」えっ?」

 

「……なあ、結論から言えば私はこう思っているのだよ。あんたは単に私にこの話を伝えるのを忘れただけでは無いかとな」

 

「……」

 

「どうなんだ?」

 

「……はい。すみません。忘れていただけです……本当に申し訳有りませんでした」

 

綺麗な土下座。弟にこうも綺麗な土下座をかます辺り本当にプライドは無いのか?この姉は?

 

私は彼女の上に水の入ったやかんを乗せ

 

「…!なっ、?何を……?」

 

「……私が朝食を作り終わるまでソイツを落とすなよ?落としたら朝食は無しだ」

 

悲鳴を無視しながら私は牛歩で寮管室のキッチンへ向かう……



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青い巨星のIS14

謹慎が解け私は教室に向かっていた……やはりあれだけやらかして一週間は短過ぎる……割と濃い一週間になったとは言え……本来それは副次的な問題で私の罰則とは何ら関係無い。しかも肝心の謹慎場所のドアの鍵は私が開けることが出来、部屋はとても罰を受けているとは感じられない程快適だった……冷蔵庫は必要だったがな(我が姉の料理は壊滅的だ……あれを食べれば謹慎中に私が食中毒で死ぬ……さすがにあれは罰則には重すぎる……)

 

「……一言言うべきか…?」

 

身内贔屓と捉えられ姉の株が下がるのはさすがに申し訳が立たん。これは言っておかなければ……

 

「……全く…うちの姉は本当に社会人なのか…?」

 

中身はともかく私は歳下なのだが……そもそも私が殺気を軽く当てただけで大人しくなるのは問題だろう……あれで世界最強か……

 

「……この世界は平和過ぎるな……」

 

あの時の教師陣の対応の遅さを含めるとは言え生徒の動きも余りに遅かった……一部代表候補生が避難の為動けて居たくらいで一般生徒は避難までの動きが遅い。ここIS学園は何が起きても可笑しくない場所なのに平和ボケのし過ぎだ……

 

「……万が一姉が何も言わないようなら……」

 

私が釘を刺さねばならん……戦争を知る者として。

 

 

 

「……と、意気込んだものの……入りづらいな……」

 

姉が無理矢理罰則を決めた弊害だろう……肝心の私を外に出す手続きが遅れ……今は姉が授業をしている筈だ。

 

「……授業が終わる迄待つか……」

 

私はそのまま踵を返し、中庭に向かった……

 

 

全く。何をやっているんだ、あいつは……

私はここにいる一夏とは違うもう一人の弟の事を考えていた。先程教室迄辿り着いたあいつは何を思ったが教室に入らず元来た道を引き返し何処かに向かうのが気配で分かった……全く。連れて来ないと「……千冬姉」一夏?

 

「……学校では織斑先生だ。で、何だ?」

 

小声での会話だが他の生徒に聞かれるのは不味い……

 

「……兄貴は俺が連れて来るよ。」

 

「何を馬鹿な事を言ってる……お前は授業が「千冬姉が抜けるのは不味いだろ」……」

 

……仕方無い、か。

 

「……すぐ戻ってくるんだぞ。」

 

「……ごめん。約束出来ないよ……俺は兄貴に言いたい事が山ほどある。」

 

「……仕方無い……次の授業の担当は私じゃ無いからな。それ迄には戻って来い。」

 

「……善処するよ……織斑先生……体調が悪くなったので保健室に行ってきます……」

 

「……分かった。付き添いは必要か?」

 

「……いえ。一人で「私が付き添いますわ。」セシリア……分かった、頼むよ。」

 

こいつさっきの話が聞こえてたのか…?

 

「……セシリア、織斑を保健室に送ったら戻って来るんだぞ?」

 

「……さっ、一夏さん行きましょう?」

 

返事無し、か。……まぁ一夏とセシリア二人に言われればさすがに少しはあいつも堪えるだろう……

私は出て行く二人を見送り授業を再開した。

 



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青い巨星のIS15

「よぉクソ兄貴!」

 

その一言と共に肩を叩かれ振り向いた瞬間殴られ私は倒れ込んだ……ふむ。悪くないパンチだ。ISの操縦技術や剣の腕を磨くだけではなく純粋に徒手空拳を極めておけと口を酸っぱくして言った甲斐があったな。……当時私の部下に欲しかった逸材だ……もちろん下っ端からスタートだがな。

 

「…!一夏さんいきなり何を「良いんだセシリア。」何を言って……!」

 

「……何で避けないんだよ。あんた俺の殴るモーションが見えてたろ。」

 

「……考えてみればラウラにも謝罪出来てないし、お前にも迷惑をかけたろうしな。一発位は貰うべきだろうと思ったんだ。」

 

「!ざけんな!迷惑?そんなもんどうでもいいんだよ!兄弟だろ!?あんたは何時もそうだ!何時も自分だけで何とかしようとする……!俺に頼れよ!そんなに俺は頼りないのかよ!?あの時あんたが斬られて倒れた時の俺の気持ちが……あんたに分かんのか!?」

 

「……一夏さん……」

 

「……」

 

私は答えない……答えられる訳が無い。あの時後先考えず突っ込みやられたのは私の落ち度だ。……だが、それを見て一夏、千冬、周囲の人間がどう思うかなんて考えもしなかった。とは言え……

 

「……立てよ…!まだ俺は殴り足りねぇ!」

 

「……」

 

私の胸倉を掴み無理矢理立たせ襟を片手で掴んだまま再び私の顔面を殴ろうと伸ばされた拳を止める

 

「…!」

 

「受けるのは……一発だけだ。二発目は……余計だ、な……!」

 

「…!ぐふっ!」

 

空いた手で一夏を殴る……それだけであっさり私の襟から手を離し吹っ飛んだ一夏に近づく。

 

「……さっきとは立場が逆だな?どうした?何とか言ってみろ…!」

 

私は反応の無い一夏を蹴る。……呻き声が聞こえたから気絶はしてないらしい。

 

「……やめてください!二人が争って何になりますの!?」

 

「……止めんな、セシリア……!」

 

「……一夏さん……」

 

「……このクソ兄貴はぶん殴ってでもやらなきゃ何も伝わらないんだよ……!」

 

……お前の言いたい事はよく分かってるさ、一夏……だが私の方針は変わらん。

 

「……先の質問に答えてやろう……お前は頼りない。……はっきり言えば弱い。……お前の気持ち等分からん。私は早々身内を傷つけさせる気は無いからな。」

 

「……身内を傷つけられる位なら自分が傷付けばいい……それがあんたの考えか?」

 

「……そうだ。よく分かってるじゃないか。」

 

成長の為に傍観もするが……汚れるのは戦いを知る私だけで良い。

 

「……ふざけんな!だったらあんたの評価を覆してやるよ!俺に実力があるなら俺はあんたの横に立っても良いんだろう!?」

 

私の目の前でISを起動する一夏……仕方無い。

 

「……良いだろう。来い、一夏。」

 

私はその場で構えた。……生身?知った事か。高々戦争のせの字も知らんような若造に兵器など使ってたまるか。

 

「……何だよ……それ…!」

 

「……今のお前を倒すのにIS等要らん。良いからさっさと来い……気に食わないなら私にISを使わせて見せろ。」

 

激高し正面から向かって来る一夏に呆れながら私は迎え撃った……

 

 



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青い巨星のIS16

わっ、私は夢でも見てるんですの…?

私の中で何処か絶対視され神聖化されていたISが……今、武器も持たない生身の人間に翻弄されていた。

……私も人の技術を批評出来る程の腕を持ってはいませんが確かに一夏さんの操縦技術は未熟と言える……でもこんな光景は……!

 

「……有り得ない…!」

 

私はそう呟く事しか出来なかった……あの方は一体どれ程の高みに居ると言うのか…!

 

「……どうした?こんなのは篠ノ之流でも基本の分野じゃないのか?」

 

「……畜生!」

 

今、一夏が私の目の前で宙を舞った回数は既に十回を超えている……私が使っているのは篠ノ之流の技術ではないが篠ノ之流が戦場で誕生した剣術である以上武器を失った状態で武器を持った相手を相手にする合気の技術は必須の筈だ。

 

「……私を殺す気で来い、一夏。」

 

……そもそも純粋に実力で劣る人間が格上に手加減して勝てると思うのが間違いだ。やはり一夏は甘過ぎる……

 

「……うるせえ!俺はあんたを絶対死なせねぇ!あんたも千冬姉も俺が絶対に守ってやる!」

 

……理想論を語るならそれ相応の実力を持って欲しいものだ……最も理想を語り本気でそれをやると言い切る一夏の姿は確かに好ましい……兄として誇らしくもある……だが……

 

「……そこは私の間合いだ。」

 

剣を振る腕をまた掴み…!サブミッションに移行しようとするのを理性で押し止め投げる……人体の構造をある程度とは言え熟知しISの仕組みを知っている私なら容易にISのアーム毎一夏の腕を砕くことが可能だ。……もちろん一夏を壊すのが目的ではないのでやらないが。

 

「……くそっ!何でだ!俺はこんなに弱いって言うのか!?」

 

……一夏自身にあまり投げられた経験が無いのだろう……奴は何度も地面に叩き付けられていた。……当然シールドエネルギーも微々たるものだが減っているだろう。だがこれではキリが無い……そろそろ終わらせるか。

 

「……一夏これで最後だ。」

 

私は拡張領域からブレードを取り出す。

 

「…!やっとその気になってくれたのか兄貴!」

 

「……行くぞ一夏。」

 

一度距離を取りそのまま突っ込む……前世であのガンダムの少年との戦いを思い出される……あの時程の距離は無いし私はISすら身にまとっていない生身の状態だ。だが今私の目の前に居るのは白い機体だ。狙ったつもりは無いが正しくあの時の再現だな。

 

剣を持ち一夏に向かい走り剣を…!

 

「……ここだ!」

 

一夏が私が剣を振り上げるのに合わせて剣を振る……カウンター……本当にあの時の再現だ……だがな……

 

「……!」

 

「…っ!しまっ「遅い」がはっ!」

 

一夏が私の振り上げた剣を食らう……と、同時にタイミング良く一夏のISが解除された。

 

「……一夏、カウンターと言うのは自分の攻撃が相手より早くなければ成立せん。残念ながらISのアシストがあっても私の方が早いようだな。」

 

ISが強制解除され倒れ込む一夏にセシリアが駆け寄って行くのを私は眺めていた……



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青い巨星のIS17

「……謹慎二週間、か。」

 

あの後セシリアと共に保健室へー夏を運んだがISを纏っていたにも関わらずかなりの量の打撲痕があり……特に最後の私の一撃を受けた腹はかなり大き目の青痣があった。

 

当然我が姉に報告されセシリアと二人で何があったのか報告をした所雷が落ちた。画して私は娑婆に出た初日でまた軟禁生活が確定したのだった。しかし……

 

「……罰が緩すぎだ。」

 

無論一夏の話では無い(ちなみに一夏の罰は反省文二十枚。こっちはこっちで緩い気はするがまあいい)戻るのはもちろんあの部屋。

 

「……それだけ貴方が大切なのよ、織斑先生は。」

 

「……更識か。」

 

「……ちょっと話があるの。生徒会室に来てもらえる?」

 

「……私はこれから謹慎の身だが?」

 

「時間は取らせないわ。必要な事なの。」

 

「……良いだろう。」

 

彼女の先導で生徒会室へ……まあ何を言われるかは分かっているのだが。

 

 

 

「……ねぇ…私が何を言いたいのか分かっているわよね…?」

 

私を睨みつける楯無……悪いが怖くも何ともない。

 

「……私はエスパーじゃない。言ってくれなければ分からないが?」

 

……舌打ちの音が聞こえた。

 

「……忘れたならもう一度あの質問をするわ……貴方はその力を何のために使うの?」

 

……やはりか。彼女と初めて会った日に聞かれた質問だ。

 

「……あの時と答えは変わらない。私はこの力を家族の為に使う。」

 

「……なら、何で貴方は弟さんを痛めつけたの?」

 

「……先に手を出したのは向こうだが?」

 

「……貴方ねぇ…!自分の実力なら一夏君を軽くあしらえる事くらい分かっているでしょう!?なのに何であそこまでやる必要があったの!?」

 

「……」

 

「……貴方に私の考えをもう一度伝えるわ……貴方がその力を使ってこの国に害を為すなら……私は貴方を止めるわ……殺してでも。」

 

その言葉と共にISを纏う少女……勇ましいな。だが……

 

「……早とちりするな。私にその気は無い。」

 

「……信じていいのね?」

 

「……当たり前だ。第一、弟と姉は日本人だぞ?」

 

「……そう、よね……」

 

彼女がISを解除する……甘いな…!

 

「…!グッ!何を!?」

 

私は更識楯無の首を片手で締め上げる……暗部の長とは言え小娘ならこんなものか……私は手を離した。

 

「ゲホッ!ゲホッ!……どういうつもり!?」

 

「……お前の役目は私を監視する事じゃないのか?護衛も連れず危険人物と二人きりのシチュエーションを選ぶなど……言語道断だな。」

 

「……何よ…!人を信じる事がそんなにいけないこと!?」

 

「……お前はあの日私を警戒した筈じゃないのか?更識家当主としての名前は余程軽いと見える。」

 

私は踵を返しドアに向かう。

 

「…!待ちなさい!」

 

「……先も言った通り私には今の所この国を裏切るつもりは無い。だが、それはこの国が味方でいる間の話だ。」

 

「……この国が貴方たちを裏切ると言うの?」

 

「……この国の政府はクソだ。有事が起きれば真っ先に我々を売る。」

 

「……私たちを信用してはくれないの?」

 

「……お前の更識家としての役割はそもそもこの国を守ることじゃないのか?」

 

黙りこくった楯無を見ること無く私は生徒会室を出…!

 

「……布仏さん、対応が遅いのでは?」

 

「……私は貴方を信頼していますから。」

 

先のやり取りは聞いていた筈なのにこの対応……確かに優秀な従者だな。

 

「……この手を離してもらっても?」

 

「……あれはお嬢様への警告で良いんですね…?」

 

「……彼女次第ですよ。私はあくまでも家族の味方で……この国の駒になるつもりはありません。」

 

「……そうですか。」

 

彼女が私の腕から手を離す。

 

「……相談があるなら何時でも携帯に連絡をどうぞ。……何を思ったのか今回も姉は携帯を取り上げてませんので。」

 

「……ええ。その時は頼りにさせてもらいます。」

 

私は歩き出した。



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青い巨星のIS18

私は今朝までいた部屋に戻ると床に座る……瞑想をしていると自然と更識楯無との出会いについての記憶が流れ込んで来た……

 

……彼女との最初の出会いは私がまだ中学生の頃、第二回モンド・グロッソの時まで遡る……あの日一夏が誘拐された日……あの日からやはり私の運命もある程度決まってしまったのだろう……

 

用を足しに会場の席を立ったまま戻らない一夏を探しに来た私は意識の無い一夏を運ぶ一団を発見した。

……思えばこの時千冬に知らせるべきだったのかもしれないが私はそうしなかった。……まあ焦っていたのだろうな、家族を目の前で誘拐されそうになっていたのだから……平和ボケしていたのは否めない。あれ以来私はずっと気を張ったままだ。

 

……一夏を連れた男たちの車を拙いドイツ語でタクシーの運転手と交渉し追わせ、倉庫街に辿り着いた私は一夏を助ける為動いた。……幸いな事に連中は素人だった。ならば軍人としての私が制圧出来ない事も無い。

 

……自惚れだったのだろうな、結果男共を気絶させる事には成功したものの戻って来たISを纏った女にやられた。あの女から銃を突き付けられ二度目の死を覚悟した私を助けたのは一夏だった。

 

女にタックルをかまし女は一瞬怯んだがすぐに建て直し手を弾かれた一夏は吹っ飛び気絶。……一夏が作ったチャンスを無駄にする訳にはいかないと打開の手段を探した私が見つけたのが一夏のタックルで怯んだ女から落ちたブレスレット化したIS……本人はISを纏っていたわけだから恐らく予備だったのだろう……真相はもう確認出来ない。その女は咄嗟に拾ったそのブレスレットをISとして展開した私が殺したのだから。

 

後にドイツ軍と千冬が口裏を合わせ処理したが人の口に戸は立てられん。何処からか私がISを起動した事実は外部に伝わる……それを危惧した千冬の口利きで匿われたのが更識家だった。

 

……最も更識家の人間は私がISを使って人を殺した事実は当然伝えられている。なので当初の私の扱いは匿われていると言うより軟禁に近いものだった。……当時の当主だった更識楯無からはそれほど酷い扱いは別に受けていないが滞在中外に出るには更識家の監視が付く。

 

その際主に私の監視任務に付いたのが現当主である更識刀奈だった……当時彼女は私をガチガチに警戒していたのだが今はあの始末だ……あれが暗部の当主なのだから先が思いやられる……

 

「……私は何かしただろうか…?」

 

ああも警戒が緩くなるほどのアクションをした覚えは無い。……まあ理由はどうあれ人を殺すのに躊躇いの無い人間相手なのだから仮にも暗部の長を名乗るなら警戒は怠らないで欲しいものだ……

 

私は溜息を吐きながら立ち上がると食べ損ねた昼食を作るため冷蔵庫を……

 

「……そうだった……忘れていた……」

 

冷蔵庫の中の食材は今朝で切れていた。考えてみれば戻って来る予定は無かったのだから食材が用意されてる筈も無い……

 

「……仕方無い。今日は我慢を…!……この気配は……」

 

私は外のドアを開け「ご飯作りに来たわよ!」

 

私はドアを閉めた。

 

「ちょっと!?開けなさいよ!?」

 

外から声が聞こえるが無視する……何であんな目に遭わされてすぐに下手人の元に来れるんだ……?理解出来ん。

 

その後結局折れた私は彼女を部屋に入れたのだった……

 

 

 



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青い巨星のIS19

「……何?」

 

「……いや。何でもない。」

 

「……そう。」

 

さっきとはうって変わり彼女更識楯無は言葉を発せず黙々と料理をしている……水着エプロンで。

 

「……何?お姉さんに見蕩れちゃっ「百年経っても無いから安心してくれて良いぞ」本当にムカつくわね……!」

 

もちろん私が彼女に視線をやるのは邪な理由からでは無い……目に毒なのは確かだが彼女が自分の容姿を使って私を揶揄うのは何も今に始まったことじゃない……私が見ているのは彼女の首だ。

 

「……痛むか?」

 

「……ん?ああ、これ?誰かさんのおかげで痣が残っちゃったけど別に痛くはないわねぇ……」

 

彼女の首には指の形の痣が残っている。……さっき私が首を絞めたせいだな。

 

「……謝らんぞ?」

 

「……期待してないわよ?」

 

軽口を飛ばせば軽口で返ってくる……認めたくないが私はこの関係性を嫌ってはいないのだろう。……恋愛感情ではないが。彼女から発せられる好意も恋愛感情では無さそうだが。

 

 

 

 

「……で?本題は何だ?」

 

「……貴方の勘違いを質しておきたくてね……」

 

「……勘違い?…!」

 

気付くと私の身体は宙を舞っていた。すぐに彼女に投げられたのだと気付く。……私の想定より早かったな……彼女がずっと私の隙を伺ってるのは気付いていたがまさか懐に入る瞬間すら見えないとは……床に叩き付けられる瞬間、手を床に叩き付け身体に加わるだろう衝撃を殺し「チェックメイトよ。」起き上がろうとした私にISを展開した彼女が上からランスを突きつけていた。

 

「……降参だ。強くなったな、刀奈。」

 

「……今の私は更識楯無よ。やっと貴方から一本取れたわ。」

 

ニヤリと笑った彼女がランスを退けたので私は立ち上がる……更識家に匿われていた頃私を警戒していた彼女が絡んで来る度に彼女を投げ飛ばしていたのを思い出す……何故護衛が私より実力の劣る彼女なのかと当主の楯無さんに聞いたのもいい思い出だ……そうか。追い越されてしまったか。

 

「……何を考えてるのかも分かるし、浸ってるのも分かるけど私は納得してないわよ?貴方今の対応出来たでしょう?」

 

「……バレたか。」

 

そう。私は今の投げは見えてこそいなかったが対応出来ないわけでは無かった。それにここが戦場なら例え無手であろうとも武器を突き付けられた位では私は抵抗を辞めないだろう……

 

「……まあ今はそれは良いわ。……私が言いたいのはこういう事よ……確かに更識家は国を護るのが使命だけど……政府の犬じゃないわ。」

 

「……」

 

「……今の政府が腐敗の一途を辿ってるのは分かってる……貴方よりずっとね。」

 

「……それで?」

 

「……貴方が国に切られたら更識家は貴方につくわ。……私の護りたい国は政府じゃなくて人の事。貴方が日本人で有る限り私は貴方を見限らない。……何より私は見ず知らずの人たちよりも家族を一番先に護りたいの。……貴方と同じでね。」

 

「……君の中では私も家族か。」

 

「……当然よ♪もちろん私にとっては一夏君も織斑先生も家族よ♪」

 

「……暗部の人間とは思えない発言だな。」

 

「……今の更識の当主は私よ。世界は変わろうとしてる。……これからの時代、昔の様に国の礎という名の犠牲を容認するのが暗部だとは私にはどうしても思えないの。……私は誰も諦めたくない!」

 

「……甘いな……だが悪くない。」

 

私は右手を差し出す。

 

「…?何?」

 

「……これは私の決意表明だ……君がその覚悟を貫ける限り私は裏切らないと約束しよう……最もどういう形で君に協力するかは私に一任させてもらうがな。」

 

「……勝手な言い分ね……でも、良いわ!」

 

彼女が私の手を握る

 

「……覚悟してね♪思いっ切り利用してあげるから♪」

 

「……先の言葉撤回「させないわ♪」そうか。」

 

とんでもない契約を交わしてしまった事に今更気付くが私にはもう選択肢は無いようだ……

 



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青い巨星のIS20

「……更識さん…何故私はここにいるのでしょうか?」

 

「……セシリアちゃんの前だからって敬語要らないわよ?」

 

溜息を吐く。……お前が良くても私が困るんだが?大体私たちの関係は説明出来ないだろうに。

 

「……いやぁ助かるわ!仕事が多くて多くて「それはお嬢様がサボるからでしょう?少しは真面目にやって下さい」は~い……」

 

「……一応私は謹慎の身だしセシリアに至っては授業が「二人とも成績良いしちゃんと織斑先生から許可を頂いてるわ♪」……」

 

「……あっ、あの……お二人はお知り合いなのですか…?」

 

「セシリアちゃん、それ聞いちゃう?そうねぇ私たちは将来を「ただの腐れ縁だ」もぅ!照れちゃって!」

 

ややこしい事を言おうとした楯無を遮る……セシリア……お前は私たちが知り合いなのは知っているだろう……何故改めて彼女に聞く…?

 

「……仕事をしないなら私は部屋に戻るが「ごめんなさい」……」

 

見事な土下座披露……我が姉といい、こいつといい、歳上の自覚があるのか?……ここには部外者もいるというのに……

 

「……なら、手を動かせ、大体本音はどうした?あいつも役員だろう?」

 

「……あの子にこんな仕事が「それは分かりますがそれでは甘やかせ過ぎです。身内で役員をかためてしまった以上、きっちり仕事をさせないと示しがつきません。」はい……」

 

一度厳しく言う必要があるか……?

 

「……本音が駄目なら簪はどうだ?彼女なら務まるだろう?」

 

「…!…それは……貴方も分かっているでしょう……!」

 

もちろんよく知っている。私は整備室に出入りするからな。

 

「……あれはお前が悪い。さっさと謝罪しろ「出来たら苦労しないわよ!」お前の勝手だがさっさとしないと取り返しがつかなくなるかもしれんぞ……」

 

今の平和はいずれ崩れる。そして戦いの中心となるのはここ、IS学園。……死んでからでは遅い。

 

「……」

 

「……整備室でよく見るぞ。恨を詰め過ぎて憔悴しきった簪とそれを見詰めるお前をな。」

 

「…!気付いてたの?」

 

「……ああ。」

 

まさかあれは気配を消しているつもりだったのだろうか……なら、暗部の長としては失格だな……

 

「……失礼ですが簪さんというのは……」

 

「……何でもな「この不肖の生徒会長の妹さ」ちょっと!?」

 

もちろん私も考え無しで言ったわけじゃない。……セシリアの言葉なら今のこいつに届く筈だ……

 

「……妹さんとケンカを…?」

 

「……そうよ。真面に口を聞かなくなって長いわ。」

 

「……この方の言う通り早く仲直りした方が良いと思います……私の様に失ってからでは遅いですから……」

 

「…!そっか……貴女はご両親を……」

 

「……ご存知でしたのね……」

 

「…!ごめんなさい……」

 

「……いえ。良いんです。改めて私から言います……妹さんと早く仲直りなさって下さい……お二人が元気なうちに……すみません、生意気を言いました……」

 

虚から責めるような目を向けられている……ああ。私もこんなやり方は卑怯だと分かっている……だが……

 

「……良いのよ……そうね。後で簪ちゃんと話してみる……ありがとう、セシリアちゃん。」

 

「…!どういたしまして。お役に立てたら何よりですわ。」

 

「……話してる所悪いんだが二人とも手が止まっているぞ?」

 

慌てて机の上の書類に向き直る二人……悪いんだが姉妹の未来を考えるのは仕事の終わった後にしてもらわなければな……



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青い巨星のIS21

さて、私は今日も謹慎中で……

 

「……それじゃあ私は戻るわね、ごめん、後宜しくね。」

 

……謹慎中である……そしてここは整備室。……私の禁止事項は授業に出る事だけの様だ……いや。許可は取っているし今回は反省文も課題も課せられていない……普通の高校で言う無期停の状態なのだろう……私は二週間しか無いが……

 

「……立場上退学させられないにしてももう少し重い罰があるだろう……」

 

「……自分から罰則を望むのも珍しいと思いますわよ……」

 

「……セシリア、お前授業は?」

 

「……貴方から整備について学びたいと思いまして……」

 

「……許可は?」

 

「……」

 

「……今やってる授業が終わる迄だぞ。」

 

「…!はい!」

 

何故私はセシリアに強く出られないんだ…?

 

「……そう言えばあの二人は?」

 

「……二人?……楯無と簪か?……気になるなら確認して来ると良い、隣だ。」

 

「…!はい!」

 

退出していくセシリア……お前は何しに来たんだ?……気になるのは分かるが……

 

 

 

「……あの…」

 

「言うな。……分かっている……」

 

あの二人は何も変わってない。楯無よ……お前から歩み寄らないとどうにもならんだろうに……

 

「……私、ちょっと「行ってこい。見ててこっちももどかしい」貴方は行かないんですの?」

 

「……お前の言葉の方が効く。」

 

「……分かりました。行ってきます……」

 

「……ああ。」

 

 

 

「……行ったか…」

 

私は弄っている振りをしていた自分のISを仕舞う……こいつとも長い付き合いだな……あの時以来だ……結局私はこいつをドイツ軍は元より日本政府にも渡してない……

 

「……今となっては英断だ。力の使い方も知らん弟を守るには必要だからな……」

 

奴の言ってる事は人として正しい……だが実力が足らんし、所詮理想論でしかない……

 

「……精進しろ、一夏……」

 

本人に言うつもりは無い……奴は私を憎んでいるくらいが丁度いい……

 

「……ふぅ。」

 

一息吐き、頭を切り替えると私は本来整備する筈だったISを取り出す……

 

「……セシリアの前で他国の人間のISを整備する訳にはいかん……」

 

さて、整備に取り掛かるか……

 

 

 

「……セシリアちゃん、やっぱり私……」

 

「……ここまで来て何言ってるんですの……」

 

整備室の前で立ち往生する楯無さんに声をかける……まさかあれから一度も声をかけてないなんて……

 

「……分かってるのよ……今しか無いのは……でも……」

 

「……そもそもケンカの原因は何ですの?」

 

私は踏み込む事にする……。お節介だとは思うけど何故かこの人を放っておけなかった……

 

「……あまり詳しくは言えないんだけど……私の家は世襲制である仕事をしてるの……私には当主としての責任があるの……私はあの子に何も背負わせたくなかった……だから……」

 

「……」

 

「……私は言ったの……貴女は何も知らないままでいなさいって……」

 

私は呆れの溜息を吐く……不器用にも程があるじゃありませんの……私も人の事は言えませんが……

 

「……姉妹でしょう?多分彼女も待っている筈です……貴女の言葉を……」

 

「……そうかしら?」

 

「……貴女はただこう言えば良いんです……一緒に背負って欲しい。私も貴女の抱える物を背負うからって。」

 

……彼女は結局姉に認めて欲しいから専用機を一人で完成させようとしてると言うのがあの方の見立て……あの一心不乱に打ち込む姿を見る限り正しいのでしょう……

 

「……私にそう言う資格はあるの……?」

 

「……あるに決まってますわ。貴女は彼女の姉で家族でしょう?」

 

「…!そうよね。……ありがとう、セシリアちゃん。私、行って来るね。」

 

「…!はい!行ってらっしゃい!」

 

整備室に入って行く楯無さん……これで私の役目は終わりでしょう……

 

「……戻りましょ「あ、セシリアちゃん?」はい?」

 

戻って来る楯無さん……どうしたんでしょう?

 

「……私は彼を恋愛対象には見てないからね、一夏君と違って今の所彼には他にライバルはいないわよ!頑張って♪」

 

「……はい!?」

 

「……じゃあね♪」

 

整備室の中に入っていく楯無さん……最後の最後で妙な爆弾落として行かないで欲しいですの……

 

「……どうしましょう……これでは戻れませんわ……」

 

私は赤く染まっているだろう自分の顔をどうするか悩み始めた……

 

 

 

「……セシリアが戻って来んな……」

 

何となく嫌な予感がした私はISを仕舞い、さっさと部屋に戻る事にした……セシリアは外にいるようだが上手いこと誤魔化して逃げるとしよう……

 

 



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青い巨星のIS22

「ハアッ!」

 

箒が振りかざすブレードを大剣で流す…!おっと。

 

「嘘っ!?」

 

鈴のISから撃ち出される衝撃砲を後退して躱す。

 

「連携が取れてるのは良いがワンパターンだ。箒、鈴が攻撃しやすいよう一撃離脱をするのは良いが毎回それだと鈴が攻撃してくるのが分かってしまう。鈴、お前は近接戦も出来るのだからいっそ箒の攻撃に続け。それも一つの手だ。」

 

『はい!』

 

返事は良いな……今の所気合いだけだが。……待て。何で私がこんな事をしなければならんのだ?

 

昨日の夜……

 

「箒と鈴の指導をして欲しい?」

 

「うむ。」

 

「…私は生徒だぞ?しかも謹慎の身だ。あんたが教えるのが筋だろう?」

 

「…熱意に負けてつい引き受けてしまったが……そもそも私は忙しいのだ。もうすぐ行事も迫ってるしな。」

 

「…ああ。臨海学校があるんだったな。」

 

まあ期間が謹慎期間に被ってしまっている私には全く関係無いが。

 

「実を言えば二人別々に頼まれたんだが……私は忙しい。そこで連携を鍛える名目で二人纏めて教える事を思い付いた。その指導をお前にやってもらいたい。」

 

「あんたは私を何だと思ってるんだ!?」

 

仮にも一生徒で素人同然の私に国家代表候補生と剣道全国大会優勝者を二人纏めて相手しろと!?

 

「?お前は私の弟だろう?」

 

「そんな事を言ってるんじゃない……」

 

私は頭を抱えた。どうして姉弟揃って私に厄介事を持って来るんだ!?

 

「とにかく!私は引き受けないからな!」

 

「頼む!そこを何とか……!今の状況で二人の指導まで手が回らんのだ!」

 

「他にも出来る人間はいるだろう!?……そうだな、山田先生何かどうだ?彼女なら適任だろう?」

 

「…忘れたか?真耶もお前たちのクラスを受け持っているのだぞ?」

 

「!…そうだったな。」

 

「…さて、という訳で引き受けてくれるな!?」

 

「…私は謹慎の「許可は私が出す!」分かったよ。やればいいんだろう……」

 

「そうか!引き受けてくれるか!」

 

満面の笑みを向ける我が姉……クッ!一発位殴っても許されるんじゃないか……!

 

「…で、何故あんたは座り込む?用事は済んだだろう?」

 

「その、だな、お前の手料理を食べたいと……」

 

人差し指を合わせモジモジする姉……年齢を考えろ……とは言えんな……

 

「…少し待ってろ。」

 

「…!ああ!分かった!」

 

「……」

 

 

 

全くこんな面倒な事を押し付けおって……!

 

「何で、当たら、無いの、よ!」

 

「……」

 

鈴の場合、大型の青龍刀双天牙月の扱いは確かに実戦的だが隙が大きく躱すのはそう難しく無い。

 

「たあっ!」

 

合間に割り込む様にしてブレードによる攻撃を仕掛けてくる箒……元々一撃に重きを置く剣道では鈴の様なラッシュをかけるのは箒自身の癖の問題もあり難しい……そう考えれば悪くない判断だが、な。

 

「…!ちょっと!?何で私に攻撃を当ててるのよ!?」

 

「すっ、すまん!」

 

……とまあ私の方で少し鈴の攻撃のタイミングをずらしてやるだけでこうなる。

 

……やがて鈴に一方的に責められたせいで箒がキレ二人が戦いを始めたのを冷めた目で見ながらどうやって二人を止めるか私は考えていた……



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青い巨星のIS23

「なあ、何で私はここにいるんだ?」

 

「?臨海学校だからだろう?」

 

「私は謹慎処分だろうが。何でここに連れて来た?」

 

「お前だけ学校に残す訳にはいかんだろう?」

 

「私は授業に出られないんじゃないのか?」

 

「自由時間中は好きにしていいぞ?遊ぶなり何なり…」

 

「いやだから可笑しいだろう!?謹慎処分の人間が堂々と学校行事に参加してしかも授業に出なくても良いのに遊んでも構わないと言うのは!?」

 

「いきなり大声を出すな。良いから黙って座ってろ。」

 

しれっと宣う姉の頭をしばきたくなった。…さすがに他の生徒もいるここでは出来ないが。

 

……というか我がクラスメイトたちは私に対して何の蟠りも無いのか!?何時までもムスッとしている一夏が場違いになっているぞ!?あの時も思ったが被害者のラウラまで私に好意的だし……

 

ん?待て!私にマイクを渡すんじゃない!?歌わんぞ私は!?ラウラ!セシリアもか!?期待の眼差しを向けないでくれ……!おい一夏!?ここぞとばかりに囃し立てるんじゃない!なっ!?楯無!?何でお前がここにいる!?学年が違うだろう、お前は!?はっ!?デュエット!?だから歌わんぞ私は!?おい!?腕を組むな!その脂肪の塊を押し付けるのを止めろ!セシリア!?対抗するな!?おい!?私の意見は無視か!?

 

私は狭いバスの中、目的地に着くまでずっと叫んでいたのだった……

 

「全く。何だと言うのだ……」

 

「お前、自分がどれだけ慕われているのか自覚が無かったようだな…」

 

「クラスメイトたちには多少厳しく所か、かなり上から物を言ったりもしたからな、嫌われているとばかり思っていたんだが……」

 

「女尊男卑思考の連中にはともかく殆どの連中には受けが良いんだぞ、お前は。」

 

「……」

 

千冬の言っている事は理解出来ない。私は古い価値観で物を言ってしまったと寧ろ反省していた程なのだが……

 

「ところでお前は遊ばないのか?クラスメイトと親睦を深めるチャンスだぞ?」

 

「仮にも謹慎中の人間に何を言っている。」

 

「それは建前だ。何度も言ったようにお前の罰則はあくまで授業に出ない事、だ。」

 

「だからそれが可笑しいと言ってる。…大体遊ぶと言ったって何をしろと?まさか臨海学校に行く事になるとは思ってなかったから水着も用意してないぞ?」

 

私は前日の夜普通に布団の上で寝ていて今朝目を覚ましたら既にバスの座席の上だった……当然着の身着のまま。荷物は何も無い……これではほぼ拉致ではないか……

 

「お前の着替え等の荷物は全て私と一夏で用意した。後、ほらお前用の水着だ。」

 

千冬の手にあったのは袋に入ったままの新品の海パン。……特に特筆する事の無いシンプルなデザインのトランクスタイプの海パンだ。

 

「誰が用意したんだ、これは。」

 

「一夏だ。後でちゃんと礼を言っておくんだぞ?」

 

「……」

 

「ほれ、とっとと行ってこい。」

 

「ここまでお膳立てされたら仕方無い、か。分かった、行って来る。」

 

私は渡された水着を持って渋々着替えに向かった。



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青い巨星のIS24

そう言えば私は何処で着替えれば良いんだ…?

旅館の廊下を歩きながら考える。

そう、ここは旅館であり海の家では無い。

更衣室の様なものがあるとも考えにくい。

 

「……」

 

今日ここがIS学園の貸し切りになっているのは千冬に聞いた。

当然IS学園の生徒以外の者が歩いている事は無いだろうし恐らく大半が海にいるんだろうから出会わないのは分かるがまさか従業員にも会わないとは……参ったな、従業員がいれば着替えに使える場所を聞いたのだが……

 

「…海に着いてから着替える場所があるかもしれんし何ならトイレの中で着替えても良いが……」

 

下のパンツを海パンに履き替えて置けば海に着いてから脱げば問題は無い事に……!

 

「隙あ…!……ちょ!?待って待って!タンマタンマ!…!ぐえっ……」

 

柱の陰から何を思ったか気配を消して(るつもりで)飛び掛って来た水着姿のアホを躱し、殆ど条件反射的に絞め落とす。……何がしたかったんだ、こいつは……

 

「……従業員や生徒がいなくて良かった…」

 

見られていたら私は吊し上げ、だ。

私は気絶させた楯無を取り敢えず人の気配の無い適当な部屋の襖を開け中に蹴り込む。……顔面から畳に落ちたが奴は目覚めない。……私は無言で襖を閉めた。

 

海に行く前から精神的に疲れたのもあってか結局従業員に聞くのも何となく面倒くさくなりトイレで海パンを履いた。……ついでに道中で見つけた埋まったウサ耳に上から足で砂をかけ見えなくなるまで完全に埋める……こういうのを放っておくと後でもっと面倒な事になるからな…

 

 

 

「クソ兄貴!ISでは負けたけど今回は勝つからな!」

 

「……」

 

何で私は海まで来て一度も泳ぐ事無く一夏からビーチバレー勝負をしかも一対一で挑まれなければならないんだ…?……まあ、良いか。

 

「…良いだろう、相手をしてやる。」

 

盛り上がるギャラリー…貴様らは泳がんのか…?わざわざこんな物を目を輝かせて見る事も無かろう……

 

ちなみに勝敗は途中で乱入して来た千冬のせいで有耶無耶になった。

 

 

 

「どうだ?楽しかったか?」

 

「…あんたが暴走しなければ普通に楽しめたんだがな。」

 

「……」

 

影を背負う千冬……こんな事を話したい訳じゃないんだが……

 

「凹んでる所悪いが厄介事になるかもしれん……」

 

「…ん?何かあったのか?」

 

先程とは打って変わって真剣になる千冬……普段からそうしてくれ……

 

「…篠ノ之束がここに来ているかもしれん。」

 

「!本当か?」

 

「あんた何も聞いてないのか?」

 

「…あいつから特に連絡は無かった。…あいつがここにいる根拠は何だ?」

 

「…ウサ耳を見た。ご丁寧に目立つ所に埋められてな。…彼女とは限らないが警戒した方が良いんじゃないか?」

 

「…成程。気を付けておく。」

 

「明日の午前中は授業だろう?私は出られないが現れるとしたらそこだろうな……」

 

私は嫌な予感が当たらない事を祈りながら眠った。



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青い巨星のIS25

「何?無人軍用ISの暴走だと?」

 

「…うむ。」

 

「……篠ノ之束の仕業か?」

 

「…先程聞いた時は否定していたよ…」

 

「……」

 

千冬の話はこうだ。アメリカ・イスラエル合同開発の無人機IS銀の福音が突如として暴走。現在、この近くまで向かっているらしい……それを…

 

「…軍の訓練を多少なりとも受けているとはいえ、それを所詮、学生でしかない専用機持ちたちに止めろと言うのは可笑しくないか?」

 

「…現状、我々以外対処出来るものはいない。」

 

「…そもそも何故私を呼んだ?私は専用機こそ持っているが所詮、第二世代機。しかも正式には認められていないんだぞ?」

 

「…私の一存だ。…まあ恐らく主立ってお前が動く必要は無い筈だ。」

 

「そういうのをフラグと言うんだ。大体作戦の中心メンバーがどう考えても代表候補生以下の半人前でしかない一夏と専用機を与えられたばかりの箒なのは可笑しいだろう。」

 

「今の所他に方法は「もう一つ聞かせろ」…何だ?」

 

「無人機と言ったな?あんた本当にそれを信じているのか?」

 

「……」

 

「無人機が作れるなら当の昔に女尊男卑は終わっている、違うか?」

 

「…情報を寄越して来た米軍は無人機だと言っていた……だが私だって本気でそう思っている訳じゃない…」

 

「……一夏たちには伝えたのか?」

 

「…まだだ……なぁ、私は最低だと思うか…?」

 

「知らん、自分で考えろ。どうせ責任はあんたが取るつもりなんだろう?」

 

「当然だ。人殺しの罪などあの二人が背負う理由は無い。」

 

「…もしもの時は私が動く。それでいいんだろう?」

 

「何を言っている?」

 

「あんたはそのつもりで私を呼んだ……違うか?」

 

「……そうだ。…すまない……」

 

「薄情だとは言わん。…いっそ胸を張れ。私に頼むのは妥当だ、私は人を殺すのは初めてじゃないからな。」

 

「すまない。責任は私が「要らん。自分のケツぐらい自分で拭ける」……そうか。」

 

「…やはり強いな、お前は。」

 

「…買いかぶるな。私に出来る事などこれくらいと言うだけだ。」

 

人を殺す……言う程簡単な事では無い。大義名分があった所で一生それを背負う事になる。……耐えられるのは私のような何人も殺した記憶を持つものだけだ。

 

「…篠ノ之束に頼んでパイロットの名前を調べて置いてくれ。彼女は人の名前と顔を一致させる事が出来ないがあんたが見れば分かるだろう。」

 

「一応聞くが何故だ?」

 

「殺す人間の顔と名前くらい知っておきたい。」

 

「…分かった。…まあそう気負うな。作戦が成功さえすればお前の出番も無い。」

 

「…そう願うね。」

 

前世で私が殺した人数は数え切れない。戦争だったと言えばそれ迄だがこれは私の罪だ。忘れるつもりは無い。とは言え、まさか今世でも人殺しになるとはな…私は戦いから逃れない運命なのだろうか…?

 



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青い巨星のIS26

「フラグを回収してしまったな…」

 

「……」

 

私の懸念は的中。見事に作戦は失敗。先程一夏が負傷して帰って来た。原因は一夏たちが戦闘を行う真下の海面で避難勧告に応じる事無く密漁を続ける船員を箒が見捨てようとし、それを一夏に指摘され惚けてしまった箒に放たれた攻撃を一夏が受け止め、直撃。……現在一夏は昏睡状態だ。

 

「…私のISを寄越せ。」

 

「……」

 

無言でブレスレットを渡す千冬。私はそれを受け取り腕に着ける。

 

「…行ってくる。」

 

「…!待て!」

 

「…何だ?」

 

「…無事に帰って来るんだぞ。」

 

「……」

 

私は返事をしなかった。

 

 

 

「…どちらに行かれるのですか、兄さん?」

 

「…ラウラか。部屋で待機しろと指示があっただろう?ここで何をしている?」

 

旅館の廊下の真ん中に塞ぐ様にいるラウラ。

 

「…それは兄さんもでは?」

 

「…呼ばれたのは専用機持ちだろう?謹慎中とは言え私も一応専用機持ちだからな。」

 

「…そうですか。それで?取り上げられている筈のISを持ってこれからどちらに?」

 

「…野暮用だ。話はもう良いか?悪いがお前に構ってる暇は無い。…横、通るぞ。」

 

私は車椅子に乗ったラウラの横を通り過ぎ…!

 

「…離してくれ。」

 

「兄さんはこれから銀の福音の所へ向かうつもりでは?」

 

私は腕を掴むラウラの手を解く。

 

「…何の話だ?」

 

「…私はもう軍人ではありません。……ですが、まだ古巣に伝手はありまして「何だ?お前人望あったのか?」……」

 

ラウラがしょげ始めた。…やれやれ。

 

「…すまん。」

 

「いえ、良いんです…」

 

「…で、何の話だ?さっき作戦は失敗し専用機持ちたちには待機命令が出た。…どうせそれも知っているんだろう?」

 

頷くラウラ。

 

「…なら、分かるだろう?私はこれから、それも単独で、銀の福音の元に向かう理由は無い事くらい?」

 

「……私はずっと家族が欲しかった。…軍にすらいられなくなった私を姉さんが拾ってくれた。…嬉しかった。……負傷した一夏兄さんの事は心配ですが今はそれ以上に貴方が気になる…」

 

「……」

 

「…貴方は死にに行くつもりですか?」

 

「……」

 

私はラウラの横を通り過ぎた。

 

 

 

「ここで何をしている?」

 

「それはこっちのセリフ。貴方は一人で何処に行こうとしてるの?」

 

外を出れば今度はISを纏った楯無。……どいつもこいつも…

 

「…目的は分かるだろう?そこを退け、時間が惜しい。」

 

「言ったでしょ?私は誰も死なせない。貴方も、銀の福音の操縦者も。」

 

「…その方針は立派だがな、お前は一夏を守れたのか?」

 

「……そうね。あの作戦には私も参加していたけど一夏君は守れなかった……でも…貴方は守る。」

 

「…退け。」

 

私は拡張領域から大剣を取り出すと楯無に向けた。

 

 

 



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青い巨星のIS27

キツイな…

私の専用機は所詮第二世代機。楯無の駆る霧纒の淑女は彼女、更識楯無専用機であり、且つ第三世代機。…スペック不足は否めない……だが…

 

「…何をしている?私を止めるつもりなら殺す気で来い。」

 

「っ!…ふざけないで!」

 

彼女はランスによる近接戦しかして来ない。…攻撃は全て私が大剣で逸らしているから剣の消耗以外のダメージは無い……何を考えている…?

 

「やる気があるのか?戦う気も無いなら何故ISを展開して私の前に立った?」

 

いい加減面倒になった私は彼女のランスを逸らすついでに足払いをかけ軽く飛んで躱した彼女を蹴り飛ばす……そもそも何故地上での近接戦を挑む必要がある…?彼女のISは遠近両用であり彼女自身はどちらも得意の筈。……純粋な遠距離ならまだしも空中戦の苦手な私相手に空からの射撃なら十分に私を倒せる筈だ……悪いが純粋な地上戦なら経験のある私の方が上だ。

 

「…私は貴方を止めに来たの!」

 

「だから殺す気で来いと言っている!何故遠距離武装を使わん!?それなら私を堕とせる筈だ。」

 

「私は貴方を殺さない!貴方は何で一人で背負うの!?」

 

…煩い小娘だな。

 

「…お前は人を殺した経験があるのか?」

 

「…あるわ。貴方よりもずっと多くね!」

 

ランスを向け突進してくる楯無を躱す……確かに今世で私が殺したのは一人だけだ……だがな…

 

「…足りんな…」

 

「…なっ!?」

 

私は感情に身を任せた突進を躱され一瞬だけ惚けた楯無に瞬時加速で一気に踏み込む…その瞬間に対応しランスを短く持ち替え打突攻撃に移行した楯無を賞賛しつつも本気で振りかぶった大剣で弾きそこから一気に振り戻し、斬る

 

「…分身か。」

 

私が斬りつけた楯無はその瞬間に液体となり崩れた……さて、何処から来る…?

 

「…!……何故、そこを選んだ?」

 

「小細工しても貴方は逃げ切るでしょ?だから私が貴方を捕まえるしかなかったのよ……」

 

彼女は私を背後から抑えていた……で?

 

「…そこからどうする?私はまだ抵抗出来るぞ?」

 

「…分かってるわ。だから…!」

 

彼女が右手を掲げ…!まさか……上を見上げた私の目に大量の水が……

 

「…私と共に自爆する気か?」

 

「そうでもしなきゃ止まらないでしょ、貴方は?」

 

「…良い覚悟だ。やってみろ。私を殺すか気絶させられればお前の勝ちだ。」

 

「!言われなくても…!ミストルティンの槍!」

 

頭上から落ちてくる水…振りほどこうとしたが出来なかった。彼女の覚悟は固いようだ。ミストルティンの槍は確か大量の水の中に含んだナノマシンを振動破砕で装甲を破壊し内部に侵入させ、その後対象を爆破する技……自爆にしてもオーバーキルだな…と言うかこれを受けようものなら私はもうこの任務はこなせないではないか……全く。そこまでするか……私は頭上から落ちてくる水を見つめ……

 

「…?何だ?」

 

私の眼前でただの水に変わり私は大量の水を浴びた

 



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青い巨星のIS28

気付けば私の天地は逆転……投げられたか。

地面に叩き付けられたがISのお陰で肉体ダメージは無い。すぐに立ち上が「降参してくれない?」ランスが突き付けられる。

 

「…分かった…降参だ。」

 

私は地面に横になる……あの時と違い、彼女がランスを避けないから立ち上がれんし…何と言うか……

 

「…何故直前で攻撃を止めた?」

 

「あのねぇ…そもそも私は貴方を殺さないって言ったでしょ?…もちろん私もこんな所で死ぬ気は無いわ。暗部の長としては可笑しいのかもしれないけど……私の命はそんなに安くないわ。」

 

「…完敗だ。お前の演技に気づけなかったとはな……」

 

「当然でしょ♪貴方に素直過ぎるって言われたから練習したの♪」

 

「…そうか。」

 

私は思わず笑っていた。……何と言うか久しぶりに笑った気がするな…

 

「何笑ってるのよ!」

 

「…スマンな。…だがお前も笑ってるぞ。」

 

しばらく私たちは笑っていた。

 

 

 

「…さて、槍を退けてくれないか?もうお前の言いたい事は十分に分かった。」

 

「…本当でしょうね?」

 

ジト目になる楯無。まあそういう反応になるか

 

「…今更嘘は言わん。それに負けたのは私だ、君の方針に従おう。」

 

「…そう。」

 

槍が退けられたので立ち上がる。

 

「…正直に言えばな、私も一人で軍用ISを止められるとは思ってなかったさ…」

 

ラウラの時は暴走していたし、見慣れた動きだったのと攻撃スピード自体は遅かったから対応出来た。要はまぐれと変わらん。

 

「…貴方も含めて動ける専用機持ち全員で当たりましょう…ねぇ?それがいいと思わない、セシリアちゃんに鈴ちゃん?」

 

『!?』

 

近くの草むらが揺れる。……来ていたのは気付いていたのにな…楯無の性格的に私はともかく周りを巻き込む技を使うわけも無いというのに考えが浮かばなかった……要反省、だな。

 

「…さっさと出て来い、いるのは分かっている。」

 

『……』

 

無言で出てくる二人。

 

「…お前らも来るか?私たちと違い罰則が待ってるがな。」

 

二人が頷くのを確認し…!

 

「…俺を置いてくなんて言うなよ、クソ兄貴!」

 

「もう目が覚めたのか?」

 

「…あんたらが戦ってる時にはとっくに起きてたよ。」

 

私の背後に一夏が立っていた……気付かなかったぞ。

 

「…貴方も油断するのね?」

 

笑っている楯無。気付いていたなら言えば良いだろう……

 

「…それじゃあ行きましょうか、もちろん貴方も来るでしょ?箒ちゃん?」

 

「…私は……」

 

これまた隠れていた箒が出て来る。私は一夏に目を向ける。

 

「…分かってるさ兄貴。行ってくる…」

 

箒の元に向かう一夏。…あいつが説得に向かうなら問題無い。…メンバーはこれで十分か。

 

「…行こう、皆。」

 

一夏の号令の元、再び銀の福音に挑む…!



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青い巨星のIS29

銀の福音は射撃特化型ISであり移動スピードが早く高速移動しながらの36門主砲、銀の鐘による全方位射撃が特徴らしい。…早い話が近接戦は愚の骨頂である。そもそも並のISや操縦者ではそのスピードと全方位射撃に翻弄され近づくことすらままならない。故に…

 

「何で兄貴が突っ込むんだよ!」

 

「ならお前はあのISの動きが見えるのか!?」

 

「…くそ!絶対やられんなよ!?」

 

「誰に言ってる。」

 

出力不足や武装の差があるとはいえ前世でMSの高速戦闘の経験がある私が囮になり銀の福音を一夏が仕留めるタイミングを作るのが私の仕事である。他は射撃兵装による援護だ…私では先の理由もあり連携が取りづらいしな、妥当な判断だろう…ちなみに箒も援護担当だがそもそも当人自身も近接特化だから余り期待は出来ん…かと言ってあの場で置いて行けば余計に落ち込むだろうしな、仕方ない……せめてラウラのシュヴァルツェア・レーゲンによる停止結界なら動きが止められるのだがな……原因は私にあるし無い物ねだりは出来ん。

 

「…くそ!早い!」

 

味方が役に立たない(と言えば申し訳ないが)戦闘は初めてでは無いが…ここまで早いとどちらにしろ援護は無意味だ。しかもこのメンバーでの連携は取ったことが無い…即席で連携が取れる楯無がいなけれは余計に邪魔になっていただろう…

 

「チッ!銀の福音のパイロット!ナターシャ・ファイルス!聞こえるか!?」

 

先程から操縦者への通信も行っているが返事は無い。どうも完全に意識を失っているようだ。

 

こちらが近づけば向こうは逃げる…!置き土産に銀の鐘を放って…!

 

「ねえ!貴方のISはまだ持つ訳!?」

 

「こんな時に話しかけてくるな楯無!ジリ貧に決まってるだろうが!?」

 

縦横無尽に動き回る奴の動きを攻撃を躱しながら見極める……そこか!

 

「翼は貰うぞ!」

 

奴の動きを少しでも削ぐため奴の動く方に先回りした私は大剣で片翼を切り落とし…!

 

「チッ!」

 

その瞬間至近距離からの攻撃を躱す。…!掠った!

 

「…エネルギーが!」

 

余り長くは持たんな……!むっ!

 

「…兄貴、ありがとな、タイミングは十分だ。」

 

「…やれ!一夏!」

 

私の後ろから飛び出す一夏…

 

「これで、終わりだあ!」

 

一夏の攻撃で銀の福音が解除される…!

 

「っ!楯無!」

 

「分かってる!」

 

いつの間にか近くにいた楯無にナターシャを回収させる。…間に合ったか……

 

「…銀の福音も回収した。終わったな、帰るぞ」

 

「一夏君♪私疲れたから貴方がこの人運んで頂戴♪」

 

「…えっ!?」

 

楯無の提案にギャーギャー騒ぎ始める箒と鈴を無視してさっさと帰ることにする……やれやれ…当分こんな仕事はしたくないものだ……

 

「…お疲れですの?」

 

「セシリア…まあな。」

 

今回はさすがに疲れた…。

 

「…よっ、良ければ私がマッサージを「遠慮しておく」そっ、そうですの…」

 

セシリアの戯言を流し私は帰ったらどうするか考え始めた…。



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青い巨星のIS30

帰りのバスへ向かう道中…

 

「…ねぇ「断る」まだ何も言ってないんだけど…」

 

「大方、お前の罰則が一週間の謹慎に決まった上、今回の件が生徒会に丸投げされてこのままだと一週間生徒会室に缶詰になるから仕事を手伝って欲しい……じゃないのか?」

 

「…ダメ?」

 

「…私の罰則は謹慎の一週間延長に決まった…ここまで言えば分かるな?」

 

私は晴れて補習を受ける事が決定した…。

 

「…そもそも何で今回の貴方の出撃がISを織斑先生から強奪し、謹慎中の身で勝手に出撃した…になってるのよ?貴方許可取ったんでしょう?」

 

「謹慎中の人間を勝手に実戦に出す権限は姉にも無い。…これ以上責任取らせると減俸がキツイ事になるからな、補習終わった後、わざわざ私の部屋に来て酒が飲めないとボヤキに来るだろう姉の愚痴を聞きたくないんだよ。」

 

「…何で私は処分受けてるんだろう?有事の際には私はある程度自由に動ける権限が「気付いてないのか?」何が?」

 

「お前の処分の理由は待機命令を無視しての出撃では無く、今回の臨海学校に来たことだぞ?」

 

「…えっ!?だって織斑先生何も言わなかったし見逃してくれたんじゃ…?」

 

「出発したバスから放り出すわけにいかんだろうが。」

 

「…ねぇ!お願いだから仕事手伝ってよ~!」

 

「拒否する。こっちも補習受ける身だ、そんな暇は無い。簪に「あの子、やっと人の手を借りる決心が付いてようやく専用機完成の目処が立ったの!邪魔したくない!」……」

 

「…なら、そこで聞き耳立ててる奴に頼め…おい、セシリア?」

 

「…えっ!?」

 

「悪いが楯無を手伝ってやってくれないか?」

 

「お願い!セシリアちゃん!」

 

「…分かりました。私で良ければ……その代わり…」

 

「…何だ?」

 

「貴方の時間が空いたら、その…」

 

「…時間があったらいくらでも一緒に出かけてやる。」

 

「…!はい!ありがとうございます!」

 

「…ニヤニヤするな、楯無。」

 

「え~してないわよ~。」

 

こいつは……ん?あれは…

 

「あら?ねぇ、貴方「初めまして。ナターシャ・ファイルスさん?」あら?私の事を知ってるの?」

 

「…ええ、まあ。」

 

殺すかもしれん相手だから調べて貰ったとは言えん。

 

「…こんな所で何か御用で?」

 

「一夏君に聞いたわ、貴方も私を助けるため頑張ってくれたんでしょう?」

 

「…頑張ったのは一夏ですよ。」

 

私は殺そうとしたのだ。そんな風に言われる資格は無い。

 

「…本当に似てるわね。一夏君もそんな事言ってたわよ?」

 

「…そうですか。それで何か御用ですか?」

 

「あら?お喋りは嫌い?」

 

「申し訳ありませんが出発時刻が迫っておりますので。用件をお早く。」

 

と言うか私も早く座りたい…昨日の疲れが余り抜けておらんからな…。

 

「…貴方にお礼をしたいと思って。」

 

「お礼?…!おっと。…すみません。貴方としては親愛のつもりなんでしょうが日本では頬でも余りキスは…」

 

「もう。兄弟揃って…一夏君にも似たような事言われて止められたんだけど。」

 

セシリアが目を白黒させているし、楯無は更に笑みが深く……彼女には悪いが余りトラブルの元を作って欲しく無いものだ…。

 

「…こちらは依頼をこなしただけですので。…すみません、退いて貰えますか?」

 

「はいはい。まあ、良いわ。これから何時でも会えるしね。」

 

「…はっ?」

 

何を言っているんだ、彼女は?

 

「…私、軍を辞めたの。前々からちょっと考えてたんだけど今回の対応でもう愛想が尽きちゃって。明日からIS学園の教師になるから。宜しくね♪」

 

私はトラブルからは逃げられないのか?頭を抱えながらも何とかバスに乗り込み、姉の横にすぐに座ると目を閉じた。



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青い巨星のIS31

「…で、こんな夜中にお前らがやって来たのはそれが理由か?」

 

「…ああ。悔しいんだけどどうしても良い手が浮かばなかった…」

 

臨海学校から帰って来てから数日経った日の晩、私の部屋を一夏とシャルル、もとい最近正体をバラしたシャルロット・デュノアが訪れていた。

 

「…元とは言えスパイを助ける義理は無いが?」

 

「……」

 

「…兄貴!シャルだってやりたくてやってた訳じゃないんだぞ!?」

 

「…そもそも特記事項を盾にした所で卒業後はお前はフランスに引き渡される。…保留にしたのはいいが今後の当ても無いのにそうしたのか?迂闊にも程があるな…」

 

「…だからそれを何とかしたいって言ってるんだろ!?」

 

「…一夏、もういいよ「何言ってんだよ!?シャルは元々何も悪くないだろ!?」……」

 

「…一夏、一度スパイ行為に加担した以上それは通らんぞ?」

 

「何だよ!?兄貴も千冬姉と同じ事言うのか!?」

 

「…今は夜中だ、防音はされてるが余り騒ぐな…自由になりたいなら何も方法が無いわけじゃない…」

 

「……あるのか?」

 

「…デュノア、帰る場所を失う覚悟はあるか?」

 

「……もう僕に帰る場所なんて、無い。あそこは僕の居場所じゃない…」

 

妾の子だというこいつの立場に思う所が無いわけじゃない。だがそもそも私は関係無い。助言はするが事を起こすなら自分でやってもらわなければな…

 

「…なら問題無い。デュノア、お前の所の会社の違反材料を集めてマスコミと捜査当局にリークしろ。そうすればお前は内部告発者としてある程度の人権は保証される。」

 

「何言ってんだよ兄貴!?シャルにそんな事「デュノアが自由になるには他に方法は無い。」…畜生!」

 

「…それに…デュノア、お前も気づいていただろう?他に方法は無いと。」

 

「…はい。」

 

「…話は終わったな、そろそろ帰れ…どうせお前らろくに許可も取らずにここにいるんだろう?さっさと帰れ。余計な処分を受けたくなかったらな。」

 

「…チッ!兄貴に頼った俺が馬鹿だったよ!行こう、シャル…俺がもっと安全な手を考える。だから心配するな。」

 

「…うん、ありがとう…一夏…。」

 

出来もしない事を簡単に口に出すものじゃ無いぞ一夏…

出て行く二人に背を向けて座る…さて…

 

 

「…楯無、聞いていたな?」

 

「…助ける義理は無いでしょ?」

 

隠れていた楯無が顔を出す。そもそもこいつが今夜の先客だった…と言うか結局私は仕事を手伝ってしまっているな……これでは一夏に甘いとは言えんではないか……

 

「…彼女の話に同情はするけど。更識家は元より、私の利益にもならないからね。積極的に手を貸す理由は無いわ。」

 

「…家族の頼みでもか?」

 

「!…ずるい言い方するのね…でもそれとこれは別。」

 

「そうか。まあ無理にとは言わん。」

 

そもそも私にも無関係の話だ。結論を出した私はしまい込んだ書類を引っ張り出した。

 



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青い巨星のIS32

「ところで、聞いていい?」

 

「手を止めるな。朝までに終わらないぞ?…で、何だ?」

 

「内部告発なら普通にシャルロットちゃんに経営権を持たせる方向に持って行けば良いんじゃないの?」

 

「…何だ…そんな事か。なら聞くが、デュノアの様な者をスパイとして寄越すような会社を延命する意味はあると思うか?」

 

「…!あー…。」

 

デュノアの演技はこう言っては何だが酷いの一言に尽きる…。あんな人間をスパイとして寄越すような会社ならとっとと潰した方が良い。…シャルロット・デュノアという少女に経営の素質があるかは知らないがあれでは誰が乗っても沈む泥船も良い所だ…。

 

「…実際、シャルロットちゃんの演技が下手なのかどうかは分からないけどね…。」

 

「本人は元々田舎暮らしだったとの事だからな、多分同年代の男子と絡んだ事もあまり無かったのだろう…。…本人はあれでも本気で演技していた様だし、演技を仕込んだ者に問題があったのかもな…。」

 

逆に言えばそれだけ経営に余裕が無かったという証左にもなるか。…或いは…

 

「…わざとかもしれんな…。」

 

「え?」

 

「デュノアは相当酷い扱いを受けていたようだからな、上手く行けばIS学園の庇護を受けれると踏んだんじゃないか?…社長か、演技を仕込んだ社員のどちらの考えかは知らんが。」

 

「…あー…。そういう考えもあるのね…。」

 

「最も博打も良い所だがな、そもそも滞り無くシャルロットがスパイとして一夏に取り入る事が出来た可能性もある。」

 

「それは…いやいや…さすがに無いでしょ…?」

 

それがそうでも無いんだよ、楯無…。

 

「一夏は昔から自分の危機にとにかく鈍い。誘拐なんて経験をしているにもかかわらず、だ。」

 

「…確かに平和ボケしてる印象はあるけど…。」

 

「あいつの善性は誇るべきかもしれんが、それは悪く言えばお人好し…という事だ。少なくとも自分に近付いてきたスパイを本人が仕方なくやっていたと言う言葉を信じてしかも自分とは全く持って関係無いのに助けようと奔走するのは異常だ。ここまで筋金入りだとそう言い切るしか無い…。」

 

「……」

 

「あいつの頭の中がどうなってるのか見てみたいよ…。一夏はとにかく人の悪意に鈍感過ぎる…。」

 

私は何時になったら平穏な生活を送れるのかな…。

 

「どちらにせよ、デュノアに倒産寸前の会社の経営権など渡せば、一度助けたのを良い事にまた一夏に泣きついて来かねん…。そのために私が知恵を絞るなどごめんだからな。」

 

一夏を助けるためとはいえISを纏ってしまった時点で真っ当な生活を送れないとは悟っていた…これ以上余計な揉め事を背負い込みたくない……。私は自分の家族の事で精一杯、だ。

 

「…さて、そろそろ戻れ、楯無。」

 

「…え!?貴方の仕事は!?」

 

「お前が私に回して来た分はとうに終わった…さっさと帰れ。私は補習問題の復習と明日の予習をしておきたいんだ。」

 

「お願い!もうちょっと付き合って!?このままじゃ本当に朝までに終わらなくなるから!」

 

「だから無駄話してないで手を動かせと言ったものを…。仕方のない奴だ…。」

 

私は楯無の分の書類の山から半分程を掴むと自分の所に置いた。

 

「…ほれ、後これだけやってやるからさっさと手を動かせ。」

 

「やった!ありがとう!お礼に「要らん。グダグダ言ってないでとっとと手を動かせ。」は~い…。」

 

私は楯無に一度ジト目を向けてから新たな書類に目を通し始めた…

 

 



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青い巨星のIS33

「模擬戦?」

 

「ええ。」

 

「…誰と誰がですか?」

 

「もちろん貴方と私が「断ります。」せめて最後まで言わせて欲しかったな。」

 

「…先日の一夏との模擬戦。」

 

「…え~と…その…」

 

私は目の前の女性ナターシャにジト目を向ける。

 

さて、先日正式にIS学園教師となった彼女、ナターシャ・ファイルスはその奔放な雰囲気から何処と無く不安を感じていた私だったが見事それは的中した。

……彼女の授業には問題は無い。内容も分かりやすかったし相も変わらずチンプンカンプンの一夏に授業後懇切丁寧に説明もしていた。(強いて何かあるとすれば一夏に対して明らかに距離が近い事だろうか。不穏な空気が漂っていたが私は徹底して無視した。…というかあれは青少年には毒だろう。本人は天然の様だから尚更質がわるい…)

 

問題は放課後だ。

彼女は一夏に実力が見たいと言い、模擬戦の誘いをした。…私としては結果も予想が着くし止めようとしたのだが一夏は二つ返事で受けた。

 

結果は当然一夏の惨敗。

馬鹿正直に正面から突っ込んだ一夏の白式がナターシャの駆る銀の福音による銀の鐘で撃ち落とされた。あまりにも圧倒的で銀の福音の性能を知る専用機持ち以外は完全に呆然としていた。…ちなみにその中にはナターシャ本人も含まれる。まさか彼女も白式の武装が実質ブレード一本だったとは思ってもいなかったらしい…。

 

とまぁその一件以来完全に一夏も塞ぎ込んでしまっているのだが恐らく戦闘狂の気がある彼女はあれでは不完全燃焼なのだろう。改めて私に模擬戦を挑んで来たのだ…。

 

「あの時は…まさか、その、あそこまで一方的な展開になるなんて思っても見なかったから…」

 

「教師なら専用機のデータを見れる筈です。模擬戦の相手なのに情報収集もしてなかったんですか…?」

 

「…いや、初見の方が楽しめると思って…ハッ!いや、違うのよ、うん…え~と…その…」

 

仮にも生徒との模擬戦を楽しめる、ね…。教師の台詞とは思えんな…。

 

「だっ、大丈夫よ。今度はちゃんと手を抜く「そもそも軍用だった銀の福音に学生が勝てるとでも?」でも、貴方も専用機持ちで「私のは所詮旧世代の遺物です。最新のISとはスペックが違い過ぎます。それと、私が専用機を持ってる事は一応大っぴらにしないで欲しいのですが」うぅ…」

 

生徒に正論を言われただけで涙目になる教師が何処にいるんだ…?そう言えば束も私が苦手で私に姿を見せないのはそれが理由らしいが…。

 

……私はそんなに怖いのだろうか…。

 

「…条件次第で受けますから泣かないで下さい。」

 

「…本当?」

 

「…まず、私はそもそも謹慎の身です。織斑先生から許可を取って下さい。後、一夏の時と違い、観客は無しでお願いします。」

 

「分かった!織斑先生に聞いてくるわね!」

 

満面の笑み…さっきのはまさか嘘泣きだったのか…?

 

「…どうして私には何時も厄介事が舞い込むんだ…?」

 

私は自分の不運を呪うしかなかった…。



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青い巨星のIS34

「…私は”二人だけ”でと、言ったつもりでしたが…。」

 

「馬鹿か、お前は?立会人のいない試合など認める訳ないだろう?」

 

「…それは、まあ確かに。ですが、一夏たちは何故いるんですか?」

 

「後学の為だ。こいつらはお前が専用機持ちなのは細かい事情はともかく一応把握しているから問題無かろう?」

 

一年生の専用機持ちが全員いるんだが…楯無までいるし……

 

「…予定外ではありますが始めますか?」

 

「私は何時でも良いわよ?」

 

余裕な事で。……勝てないのは分かっている…が、これでも元は軍人だった身でもあるし精神年齢は彼女を超えている。…大人気無いのは分かっていても腹は立つものだ…。

 

「…キャッ!?」

 

「……」

 

つまり油断している彼女に開幕と同時にワンパン入れるのは当然の権利だと言いたい…いや、実際は蹴りだが。

 

「(くっ!油断した!距離を…!)「させると思いますか? 」ちょっと!?」

 

逃げようとする銀の福音に取り付く。

 

「何のつもり!?」

 

「…おや?白兵戦のご経験はおありではありませんか?」

 

「…!まさか…!」

 

「取り敢えずこっちの息が切れるまでは付き合って貰いましょうか?」

 

私は拡張領域からナックルガードを取り出す……整備課にこいつが転がっていたのを見た時は何の冗談かと思っていたのだが……使う時が来るとはな…。

 

「やっ、やめて…!」

 

「貴女が望んだ事でしょう?では、行きますよ?」

 

私は右腕を振り上げた。

 

 

 

「…結局ISが解除されるまで殴り続けるとはな…やり過ぎじゃないのか?」

 

「専用機持ちたちには全く参考にはならないでしょうが……私もああも余裕かまされれば腹も立ちますよ。まぁ…殴り続けてる間こっちのSEも減っていたために勝ちは拾えませんでしたが、ね。引き分けですから私も溜飲は下がります。」

 

「…しかしだな…」

 

「彼女にとっても良い薬では?まさか、気絶するとは思いもしませんでしたけど。」

 

「あんな戦い方は想定してないだろうからな。」

 

「それはまた、甘い事で。」

 

モビルスーツ乗りにもそんな奴がいたな。純粋な殴り合いは苦手と言う奴だ。

 

「…取り敢えずファイルスには謝っておけよ。」

 

「…まぁ思う所が無いわけでも無いですからね。彼女が気が付いたらそうさせてもらいますよ。」

 

私はピットを出た。

 

 

 

「クソ兄貴!」

 

一夏が殴りかかって来る。ハア…またか。

 

「…そう何度も食らってやれん。」

 

私は拳を左手で流すとそのまま腕をとり投げた。

 

「うわぁ!」

 

「……」

 

受け身すら取れんのか…。

 

「…何の真似だ、一夏。」

 

「くそっ!それはこっちのセリフだ!何であんな戦い方したんだよ!?」

 

「彼女のISと真っ向から挑んで勝てる訳が無かろう?それはお前も良く分かってる筈だ。」

 

「…!だっ、だからってあんなやり方…!」

 

「なら、他にまともに戦える方法があったのか?私の専用機はお前よりも更にスペックが低いんだぞ?」

 

最もブレード一本しか使えない白式よりは凡庸性は高いかもしれんがな。

 

「大きな口を叩く前にもっと戦い方を考えろ。お前はどうせ、銀の福音に負けた理由も良く分かって無い筈だ。」

 

私は一夏を放置してその場を後にした。

 



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青い巨星のIS35

「…余り落ち込んではいないようですね…安心しました。」

 

私は意識を取り戻したナターシャ・ファイルスに会いに来ていた。

 

「…まあ、別に初めて負けたって訳じゃないしね…軍に入った当初はそれなりに洗礼も受けてるから…最も気にして無いわけじゃないんだけど…」

 

「…すみません、やり過ぎました…。」

 

「…良いのよ、私も大人気無かったと思うし…。でもまさかあんな手を使われるなんて…軍ではあんなの経験が無かったから…全然対応出来なかった…」

 

「……」

 

そりゃあ軍では習わないだろう…とは言えこの手の所謂ステゴロ戦法はMS乗りには常識だ…まあこの世界ではISを使った戦争は実質起こってないわけだから対応策が浮かばないのも無理は無い…。

 

「…上から目線で恐縮ですが、貴女は銀の鐘に頼り過ぎなんですよ。おまけに貴女は私を侮った。そもそも不意打ちを警戒していればあんな展開にはならなかった。…それこそ、私は一夏と同じ目にあっていたことでしょう…」

 

「…試合の結果としては引き分けになってるけど…私の負けと大して変わらないわ…だから正直言うと助言は有り難いかしら?…立場が逆転しちゃうけどいっそ私が貴方に訓練をお願いしようかしらね?」

 

笑顔でそう言う彼女には悪いが私の返事は決まっている…。

 

「…ご冗談を。…私は所詮ド素人ですよ?…まあ今のアドバイスだけで勘弁してください。」

 

「残念。振られちゃった…。」

 

「…泣き真似はやめてください。確実に面倒な事になるので」

 

ただでさえ身内が原因で胃に穴が開きそうなのだ。これ以上変な火種は要らん。

 

「…えー…散々私を痛めつけたんだから少しくらい付き合ってくれても良いじゃない。」

 

「人聞きの悪い言い方をしないでください。…大体喧嘩を売ってきたのは貴女でしょうに。」

 

「あら?そうだったかしら?」

 

そう言って首を傾げる彼女…これ以上付き合ってられんな。

 

「まあ元気なら私がここにいる意味もありませんね。では、失礼します。」

 

「えーちょっと待って!?私はまだここにいなきゃいけないの!暇だからもう少し話し相手を「私は口下手なので他を当たってください」何処が!?」

 

私は病室を出ると整備室に向かった。仕事が残っているのだ。

 

 

 

「…こちらは大した事が無くて良かった。」

 

私は腕のブレスレットを撫でる…。

 

……銀の福音は現状半壊状態だという。自分でもやり過ぎたとは思わなくもないがあちらはまだ修理出来なくも無いからな(最も束がアメリカから分捕った機体情報が無ければそれ所じゃなかっだろうが。)打って変わって私の専用機は情報が無い。下手に壊れてしまえば修理は難しい。…ナックルガードは壊れてしまったがな…まあ使う人間はいなかったようだから壊れた所で大して問題では無いだろう…。

 

「さて、仕事をするか。」

 

私はしまっていたISを取り出し、整備を始めた。

 



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青い巨星のIS36

「…そう言えば今まで気になっていたのだが…」

 

「…素朴な疑問を持つのは勝手だが私は今あんたの飯を作ってるんだがな…」

 

何故この姉は謹慎させている弟の所に毎度飯をたかりにやって来るんだ…?食堂で食えば良いものを。

 

「…すまん。だが、真面目な話だ。…お前、何でISの訓練をしないんだ?」

 

「ん?何を言っている?私は謹慎中だから授業は受けれないはずだろう?」

 

「…お前に禁止しているのは授業に出ない事だ。放課後の訓練は何時もでは無いが申請すれば受けれるだろう?」

 

その事か。

 

「…改めて自主訓練をする理由も無いと思ってな、正直私はもう変な癖がついてしまっていて「ちょっと待て」ん?」

 

「いや、お前は何を言っているんだ…?」

 

「何って…癖がついてるから余り自主訓練の意味が「そこだ」は?」

 

「その言い分はある程度長くISに触れたものの理屈だろう…。私と違いお前はまだ若いんだから伸び代はあるだろう…?それこそ手の空いている教師に頼めばある程度矯正出来る筈だが…」

 

「…あ…。」

 

そうか。今の私はまだ十代だったな…。無意識にあの頃の自分の基準で考えていた…。

 

「…お前は整備士志望のつもりかもしれないが別にここの教師と兼任するのも悪くないと思うが…無論、将来的に男性のIS操縦者が一定数見つかれば専用の大会枠が作られるかもしれんしそうなれば選手の道もある…少し考えてみてもいいんじゃないか?」

 

「……」

 

将来か…。今世に入ってからは考えてもみなかったが…そう言えば私もいずれここを卒業する…あの頃の様に選択肢が無いわけじゃない…少しは考えてみても…いや、私の勘が告げている…恐らく私は将来を選べる立場には無いと。

 

「…今の情勢は不安定だ。私の将来など…」

 

「馬鹿か、お前は?何のために私たちがいると思っている?そう簡単にお前や一夏に背負わせたりはしないさ…。寧ろ私がそんな事はさせん。」

 

一瞬心に響いたがすぐに冷めていった…あのなぁ…

 

「…私がここに入学してから厄介事に巻き込まれなかった事の方が珍しい気がするんだが…。」

 

「…うっ。分かっている。これ以上お前には背負わせん。」

 

……駄目だ。非常に不安だ。…仮にも普段ポンコツな姉がここまで言ってくれているのだから信用したいが…。

 

「…そこまで言うなら態度で示せ。…大体、今私は何をしている?」

 

「……」

 

何故そこで黙る…。

 

「私は、今、あんたの食事を用意しているんだが…私たちが卒業してからも、あんたは私や一夏に身の回りの事を頼むつもりか…?」

 

「……」

 

話にならんな…私は溜息を吐きながら作った料理を皿に盛り付けた。



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青い巨星のIS37

「…だから私が復帰するのを待ってたの?」

 

「ええ、まあ…」

 

改めてISの指導を誰かにお願いしようと思い立ったものの…実を言えば私は教師陣から余り評判は良くは無い…誰が見ても問題児だから当然だが…それにしたって教えてくれと頼んだら全員が口を揃えて何を教えたら良いか分からないと言われるのは何故なのか?…こうなれば教師一辺倒だった面々より仮にも軍人だったナターシャ・ファイルスに教えを乞うべきか…と思い彼女の銀の福音の修理が終わるのを待っていた…千冬に習うのも良かったんだが…何故か断られたからな…

 

「…そりゃ貴方に教える事なんて無いでしょ。座学は優秀。ISの操縦に至っては確かに癖が強いかも知れないけどこの学校内では一年生の実力を遥かに上回り…所か多分貴方、普通に三年生にも勝てると思う。…正直私も何を教えたら良いか分からないわ…寧ろ私が教えて欲しい位だし…」

 

「…買い被り過ぎですね…と言うか教師がそんな事言って良いんですか?」

 

「優秀過ぎる生徒に貴方の知識を教えて欲しいとか…正直嫌味にしか聞こえないわよ?」

 

「…これでも基本をすっ飛ばした人間何ですが…自業自得とは言え、授業も受けれてませんし…。」

 

「…貴方の現在唯一の欠点よね…正式に授業を受けれてないからISの知識も実践もほぼ独学と補習のみ…確かに学校にいる意味は無いわ…。最も、貴方の場合素行不良と言うよりルールの方が間違っているような気がしないでも無いけど。」

 

「…ルールは守る為にありますから。」

 

「…学生とは思えない言葉ね…。私は必ずしも定められた規律が正しいとは限らないと思うけど。」

 

「普通の教師ならまだ理解出来ますが…元とは言え、仮にも軍人だった貴女がそんな事言って良いんですか?」

 

「…さっきも似たような事言われた気がするけど…良いの良いの。軍人は辞めてるし、別に私立派な教師や、大人目指してるわけじゃないから。…生徒のお手本にはなれなくても、多少緩い方が寧ろ味方にはなれるし。…締める所は締めるけどね?」

 

「……貴女の場合緩すぎる気がするんですが?」

 

「…貴方は貴方で身内だからって織斑先生甘やかしてるでしょ?…それを考えたら私はマシな方だと思わない?」

 

「気を抜いてるとアメリカから招集来た時不味いのでは?」

 

「……その言い方…貴方戦争が起きると思ってるクチ?」

 

「…近い内に大きな戦争が起こる…そう思ってますが…貴女は違うんですか?」

 

「…違わないわ。私もこのままだと戦争は起きると思ってる。」

 

「…出来れば貴女には招集前に何れ原隊復帰して欲しいんですがね、多分再就職可能でしょうし。」

 

「…仮にも味方に殺されかけた人間に軍に戻れって言うあたり貴方鬼ね…。」

 

「…何とでも。今の状況で戦争やっても何処もジリ貧です…パワーバランスは当の昔にひっくり返ってるのにそれも分からず争いの道しか選べない馬鹿が上にいる以上、下が変えるしか無いでしょう?」

 

「…クーデターでもやれってわけ?…物騒ね貴方、本当に学生?…しかも貴方冗談では言ってないわね…」

 

「本気に決まってるでしょう?どちらにしろアメリカがこの国に粉をかけるなら私は戦場に出ますよ?」

 

「……止めましょ、この話。今はまだ仮定の話よ。…それで話を戻すけど…ISの指導だっけ?基本だけなら教えてあげられるけど?」

 

「宜しくお願いします。」

 

「…分かりました。それじゃ…始めましょうか?」



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青い巨星のIS38

「どうぞ…お口に合うと良いのですが…」

 

「…」

 

さて、本来の自室では無く…すっかり自分の城と化した反省部屋…入り口だけを見るなら独房にしか見えないのに、実際は元々宛てがわれた部屋より遥かに良い設備の有る部屋で私はセシリアが机の上に置いた"差し入れ"を見てどうやって断れば良いのかと必死で頭を巡らせていた…

 

スターゲイジーパイ…イワシをジャガイモや卵と共にパイ生地に包んで焼いた、所謂フィッシュパイの一種だ(Wikipedia参照)

 

……現実逃避をしていたら以前たまたまネットで拾った知識を引っ張り出していた…フィッシュパイ自体は日本でも普通に食べられ無い事も無い料理だ…ただ、料理に関して数々の不名誉な逸話を残すイギリス発祥の郷土料理であるコイツはそもそも見た目からして一般的なフィッシュパイとは異なる…コイツの特徴はパイから突き出すイワシの頭だ…魚の頭部を突き出して星空を見上げているように見えることが料理名の由来らしいが…正直この異様な見た目は食欲の減衰効果は抜群だ…

 

「…あの…召し上がっては頂けませんの…?」

 

「……頂こう。」

 

断りたいが…基本せっかく作って貰った物を一度も口をつけること無く残すというのは大変失礼であると私は思っている…見た目はともかく、味は普通のフィッシュパイと何ら変わらない筈だ…問題は無い……シェフがセシリアで無ければな…

 

実は何度か食わされた事があるから分かるのだが…セシリアの料理はとにかく不味いのだ…その酷さたるやあの面倒見の良い一夏ですら匙を投げる程なのだ…千冬と良い勝負だな…さて…行くか…!

 

私は皿に乗せられたパイの一切れを口に運んだ…?

 

「…セシリア、調味料は何を入れた?」

 

「…もちろんお砂糖ですわ。」

 

こいつ、パイ=必ず甘くする物だと思ってるのか?…胸焼けがして来たぞ…

 

「…この手のパイはもうちょっと塩っぱ目でも良いだろう…というか砂糖が多過ぎだ…」

 

パイ生地は尋常でなく甘い…これだけ砂糖の量が多いと焼いた時に焦げ付いて炭に変わりかねないが…ギリギリの量の調整に成功してしまったらしい…というか先程から違和感が止まらない…見た目は悪くないのに、一口口に入れると襲ってくる不快を通り越して吐き気のする強い甘味のせいで今も頭の中を混乱が包んでいる…

 

「…あの、褒める所はありませんの…?」

 

「…焼き加減は見事だった…」

 

……他に褒める所が思い浮かばんな…どうするか…いや、不味いなら不味いとはっきり言ってやるのもコイツの為か…



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青い巨星のIS39

今日も私の部屋にやって来る者がいる……暇なのかと思うくらいに良く来るのは…セシリアとか、箒と鈴のコンビの様な実質身内とか、後は…ウチの馬鹿姉とあの事件以来妙な縁が出来てしまったファイルス…

 

他は仕事をサボりに来る刀奈(私が呼ぶまでもなく数分で虚がやって来て連行していくが…ちなみに場合よってはその場で私に仕事を手伝って欲しいと頭を下げる)一夏は基本来ない…変り種だと回数はそう多くないが本音がやって来る事もある(何か話があるわけではなくお菓子を強請るだけだが…あまり菓子作りは得意じゃないんだがな…)アレだけキツい事を言ったのにシャルロットもこれからの事を相談に良く来る(あいつ…もう答えは出てるだろ…)

 

そしてこの面子プラス一人が部屋に良く来る連中だ…その一人が…

 

「それで兄さんは「すまん…ちょっと良いか?」何ですか?」

 

現在は正式に妹となったラウラだ…軍人で無くなり、ISは当然没収…というか、現在も足が動かないのだから操縦自体出来ないのだが…そう言えば…ファイルスはどうやって国から自分のISを分捕ったんだろうな…?

 

「話を遮ってすまないな…それでだラウラ…何で今更私に敬語を使う?…最初はタメ口だっただろう?」

 

所謂試験管ベビーである彼女は最低限の教育を受けたとはいえ、同年代の子どもとは一切触れ合わず、親の様な者も付かないまま軍人になったためか…人生経験が極端に浅い…それを自分なりに気にしたのか、最近は良く色々私に聞きに来る様になった…私に聞きに来るのは彼女なりに千冬がポンコツだと気付いてしまったのだろう…一夏の事は一応兄とは呼んでるもののあまり当てにならないと思っているのだろうか…お陰でこうやって交流する様になって、それなりに時間が経つ…別に私を頼って来るのは良い…彼女は自分なりに一応考えたり、調べたりして…それでもよく分からない時にしか聞きに来ない。……少なくとも都合の良い時だけ弟として私を頼ろうとする一夏よりずっとまともだ…

 

「それは私の副官…いえ…元副官ですが兄なら目上なので敬語を使うものとお聞きしましたので。」

 

……なまじ、ラウラの使う敬語に穴が少ない物だから、言い難いが…

 

「…いや、今更だろう?兄だからと言って必ずしも敬語を使う必要は無い…ラウラの好きな様に話すと良い。」

 

……ラウラの歳の話をすると怪しくなって来るのでそこら辺は暈す…というか、私だってサバを読んでるような物だしな…

 

「…そう言われても…何時の間にか私の中で定着してしまって…もう戻す事が出来ないのですが…」

 

「…ラウラがその方が楽ならそれでも良い…ところで何を聞こうとしてたんだ?」

 

「はい…それで、兄さんは従軍経験があるのですか?」

 

ふむ…。

 

「お前も知ってると思うが、今の日本に兵役義務は無い…そもそも今の私はまだ学生なんだが、どうしてそう思った?」

 

「…立ち居振る舞いや戦闘時の考え方ですかね…兄さんは割と感情に流される事無く戦う事が多いので…普段もそうですけど取捨選択が異常なまでにはっきりしていると言いますか…それが根拠ですね…」

 

……前世で軍人だったわけだから、一応正解なんだが答えなければならないのか?

 

「…私の場合、昔からこうでな…特に理由があるわけでは無いよ。」

 

少し考えた末、私は前世の事は黙っている事にした…私にとっても良い思い出はあまり無いからな…この世界であの頃の経験がかなり役に立ってるとはいえ、あまり話したくは無いものだ…

 



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偽黒の剣士1

「リーファちゃん、スイッチ!」

 

後ろから聞こえる声を敢えて黙殺し射線も塞ぐ

 

「ちょっと!リーファちゃん!?」

 

無視する

 

私はそのまま相手を攻撃しつづける

集中力さえ切らさなければソードスキルを使っていない私は硬直しない

 

「いい加減にしなさい!」

 

私は襟を後ろから掴まれ強引に下がらせられる

 

「エギルさん、頼みます!」

 

「おう!任せとけ!」

 

私はそのまま隅へ連れてこられる

 

「……どういうつもり?」

 

「何がですか?」

 

「……なんで交代しなかったの?」

 

「……その方が効率が良いじゃないですか。私はソードスキルを使っていませんし」

 

「……ソードスキルを使っていなくても疲れはするでしょ?」

 

「……少なくとも私はまだやれました」

 

「!貴方は……!」

 

「話はそれだけですか?なら、戻りますね」

 

これ以上話す事は無い。

私は戻ろうとして……

 

「リーファちゃん!」

 

「……まだ何か?」

 

「……何を焦ってるの?」

 

「……焦ってなんていません。寧ろそれは積極的に攻略を進めてる貴方の方じゃないんですか?アスナさん」

 

「……キリト君のためなの?」

 

「…」

 

これ以上この人と話す事は無い。

私は戦線に戻った

 

「……リーファ、もう良いのか?」

 

「エギルさん。ええ。もう大丈夫です。」

 

「……そうか。……まあ、その何だ…困った事があったらいつでも店に来い。相談にぐらいは乗る」

 

「……ありがとうございます。」

 

行くことは多分無い。

 

やがてボスは私の攻撃で倒れた

周りの喧騒を無視しアクティベートに向かう

 

「おい!リーファ!」

 

「……何ですか?クラインさん」

 

「……おめぇ大丈夫なのか?」

 

「……ええ。大丈夫ですよ。問題はありません。」

 

「……そうか。」

 

私はそのまま背を向け階段を登りアクティベートを完了させ転移する

 

そのままホームへ向かわずに食料の買い出しをする

今日は……

 

「……シチューにしようかな、あっ、そう言えばアレがあったっけ……」

 

私はストレージを確認しS級食材のラグーラビットの肉のストックを確認する

 

「……思ったより残ってる。ボス戦も終わったし今夜はご馳走にしようかな。えーと……」

 

頭の中で他の献立を決めながら買い物を進めていく

空を見るともう夕暮れだった

 

「……思ったより時間かかっちゃったな……急ごう」

 

ホームへの道を急ぐ

しばらく移動すると我が家が見えてくる

私はドアを開ける

 

「ただいまー」

 

すると奥から黒い服装をした小柄な影が走って来てそのまま私に飛びかかってくる。私はそのまま抱きとめる

 

「……リーファお姉ちゃん!おかえりなさい!」

 

私を笑顔で見上げる少年に私も笑顔で言う

 

「ただいま。キリト君」

 




何番煎じか分からない立場逆転モノ
キャラ説明は要らないと判断


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偽黒の剣士2

夕食を食べ終わり私に甘えそのまま膝の上で寝てしまった弟の頭を撫でながら私も気付くと微睡んでいた

 

 

ソードアート・オンラインというゲームの名前については知っていた。血の繋がらない弟がそれのテスターに選ばれたことも。

 

私自身は最近両親も忙しいしたった二人しかいない姉弟間の会話が減ったことは残念だったが今回に限らずゲームに嵌まってからこの子は本当の意味で笑うことが増えたように思う。

 

両親と共に事故に遭い両親だけが亡くなり家に引き取られた男の子。

彼は表面上少し陰を背負って見えるものの特に変わった所は無さそうに見えた。

 

彼とはきちんと面識があり向こうも事故に会う前から私を本当の姉のように慕ってくれた。とはいえ当時私もまだ幼く余り彼の事を構えなかったけれど。

 

そして家に引き取られたとはいえその関係性は余り変わらないだろうと思っていた。その認識が改まったのは引き取られてすぐの事。

 

元々私の両親は帰りが遅く私と彼は家で二人きりの事が多かったのだがお互いまだ幼いとはいえそもそも部屋は別けているし別段問題が起きる筈もない。

 

ただその晩はいつもと違った。夜中にトイレに起きた私の耳に彼の部屋から悲鳴が聞こえ飛び込んだ私の目に映った光景は……悲鳴をあげながら泡を吹く義弟の姿だった。

 

狼狽えているとちょうど母親が帰宅したためそのまま病院に直行。

 

そんな事がしばらく続いた。

事故の事を夢で見たり、突如再生されるフラッシュバック現象。幼くしてそんな症状に悩まされる彼のために主に尽力したのは私だった。

 

両親を責めるつもりは無いがどうしても家に居ない事の多い二人の代わりに私が忙殺されるのは自然の流れだった。

 

一緒に居て楽しいことより辛いことの方がずっと多かったし出来るだけ彼と一緒にいることを優先したため友人も減った

 

残った友人も色々協力はしてくれたけどやはり辛くはあった。

でもその甲斐あってか彼は段々と昔のような笑顔を見せるようになっていった。

 

その後私の後を追うかのように祖父から剣道を習い始めた。私より才能はあった彼は惜しいことに祖父が亡くなってすぐにゲームに嵌まり始め竹刀を握ることは無くなった。

 

そして彼との会話は少し減った。私自身中学に入って部活が忙しくなったせいもあるけど。実際朝も辛いだろうにわざわざ朝早くに起きて朝練に向かう私の見送りも良くしてくれたし(最もその後二度寝して本人は学校に遅刻するというパターンが多くなったため結局止めさせたが。)

 

まあそんなこんなで会話の減った私たちの間で久しぶりに長く交わされたのが件のゲームの話というわけだ。

 

「スグ姉ちゃん、ソードアート・オンライン一緒にやろうよ!」

 

「あ~…もうすぐ正式サービス開始日なんだっけ?う~ん……正式サービス開始日は特に用事はないかなあ……」

 

実際は予定ありきなのだが弟からの誘いだ。出来れば一緒にやりたい。

 

「でもまああれ高いからね~。さすがに二台も買ってくれるかは分からないかな。」

 

私のお小遣いの大半はおしゃれには余り気を使わないものの主に剣道関連とスイーツに消費されてたりする。

 

「じゃあ俺から頼むよ!」

 

二人は彼を溺愛してるので恐らく二つ返事でOKするだろう。私は苦笑いをしながら……

 

「なら、大丈夫かな。楽しみだねカズ君。」

 

「うん!」

 

嬉しそうな弟の顔を見て私も顔が綻ぶ。

……彼は笑うようになった。でも実際は……彼は嫌なことがあっても作り笑顔をする。

しかも彼と付き合いの少ない人は分からないだろう完璧な笑顔。

 

……そんなこの子に過保護気味になるのも仕方無いよね……

 

私は今は本心から笑っている弟を見ながらそんな事を考えた。



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偽黒の剣士3

茅場晶彦のデスゲーム宣言で私たちの中で一番怯えていたのはカズ君だった。普段どんな時でも笑顔を浮かべている顔が強張っている。

 

……私がこの子を守らないと……そう思っていた私の手をカズ君……もといキリト君がすごい力で引っ張って来た。

 

「……リーファ姉ちゃんこっちに…!クラインも来てくれ!」

 

「何だ!?どうしたキリの字!?」

 

先程知り合った男性クラインさんにも声をかける

 

そして私たちを路地裏に連れてきたキリト君が話す

……ゲームに余り慣れていない私にもかいつまんで話してくれた

 

このゲームのモンスターは所謂Reポップ性。

モンスターは倒されればしばらくすれば復活するしそうしなくてもフィールドにはそれなりの数のモンスターが出没する。しかしそれはこの始まりの街全てのプレイヤーに行き渡る物では無い。HPゼロ=死となった今少しでも死なないようにするためにはレベルを上げて強くなる必要がある。

 

無論同じようにレベルを上げようとするプレイヤーは必ず出てくるだろうしそうなれば始まりの街の周辺のリソースは足りなくなり満足にレベルを上げるのが難しくなる。だから少しでも多くレベル上げをするにはここを出て次の街に向かう必要がある

 

「……俺はベータテスターだったからここから次の街までの最短ルートを知ってるんだ!だからリーファ姉ちゃんとクラインに一緒に来てほしいんた!」

 

私に断る理由はない。でも……

 

「……悪りぃ……キリト、俺はここにダチがいるんだ。置いて行けねぇ……」

 

さっき聞いたがクラインさんには同じようにSAOにログインした友人がいる。

 

「……」

 

キリト君はそもそも親しい友人や身内以外の人と接するのが余り得意ではない。……ただ彼は初対面の人相手でも基本的に笑顔なので第一印象から悪感情を抱かれることは少ないが。

 

反応で彼が渋ってるのは分かるのだろう。躊躇いつつもクラインさんはこう言ってくれた。

 

「……そうだ!お前らも俺らと一緒に行動しねぇか!?人数が多い方が心強いだろ!?」

 

……クラインさんも分かってて私たちの事が心配だから言ってくれているのは分かる。だけど……

 

「……ゴメン、クライン……俺には大人数で行動して全員を守りきる自信がない……」

 

……普通は大人の人が大人数で私たちの側に居てくれるのは喜ぶ事なんだろう……でもこのSAOでは違う。

 

戦う力がものを言うこの世界では初心者は足手まといになってしまうのだ。先程聞いた話ではクラインさんを含む全員がこのゲームの初心者で当然武術の心得も無い。

 

……傲慢な話であるが必然的にベータテスターであるキリト君やリアルで剣道をやっている私が彼らを守らなければならなくなるのだ……

 

「……そ、そうだよなぁ……分かった。大丈夫だ、キリト!俺はテスターであるお前から習ったんだ!それを生かしてあいつらと一緒に絶対生き延びてやるよ!……だからそんな顔すんな!これでも別のゲームではギルドの頭張ってた事もあんだ。何も心配要らねぇって!」

 

「……本当にゴメン、クライン……」

 

この世界では感情を隠す事が出来ないのだと言う。私はキリト君が泣くのをかなり久しぶりに見た気がした

 

「……ほれ泣くな。男のお前が泣いててどうやってリーファを守るんだよ。……リアルでは姉でもここではお前がリーファが守らなきゃな」

 

クラインさんがキリト君の頭に大きな手を乗せる……先程うっかり私が口を滑らせてしまい私とキリト君がリアルで姉弟の関係だとクラインさんは知っている。言い触らしたりしないという誠実な彼の態度は不思議と信じられた

 

「……うん。分かった!じゃあ、俺たちもう行くよ!クラインも頑張れよ!」

 

「クラインさん、お元気で」

 

「おう!お前らも気いつけてな!」

 

駆け出す私たちに再びクラインさんの声がかかる

 

「キリト!お前そんな顔してたんだな!結構好みだぜ!リーファ!もしリアルに帰れたら俺とデートしてくれよ!」

 

キリト君は勇者のような異様に整った顔のアバターにしており私は似合って無いなと思っていた。……どうも親譲りの女顔を気にしてたみたい。私は可愛くて良いと思うんだけどな~……ちなみに私は体型その他を変えると剣を振る時なんかに違和感が出ると思ったから顔を含めて全部リアルのまま

 

「…お前もその野武士面の方が百倍似合ってるよ!後姉ちゃんにちょっかい出すな!」

 

クラインさんはさっきまで明らかに作られたイケメン顔をしていた。確かに今の顔の方が親しみがある

 

「……クラインさん!私はまだ中学生なのでお断りします!」

 

それを聞いたクラインさんが目をぱちくりさせて驚くのを見て私は笑ってしまった

……そんなに年相応に見えないかな、私。

 

「……ね、姉ちゃん……まだって……まさか…?」

 

「さっ、早く行こう!キリト君!」

 

「!姉ちゃんそっちじゃないって!こっち!」

 

キリト君と二人で必ずこの世界から生きて帰る。私はそう誓った



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偽黒の剣士4

さて、次の街に向かう前にキリト君に寄っていこうと言われたのがここホルンカである

 

ここには私たちが今使ってる武器スモールブレードの上位武器に当たるアニールブレードが手に入るクエストが受けられるんだとか。

 

……そう言われても私自身はオンラインのゲームなんてやったことないし、店売りの武器とクエスト報酬の武器の良さの違いなど解るわけがない。

 

そんな私にキリト君が説明してくれたのがそもそもここはゲームの世界であるので戦闘の慣れや経験も重要なファクターだがそれ以前にレベル等の数値が最重要視されるという話である。

 

……簡単に言えばレベルが上がれば能力値数値は上昇しそこに装備品の要素が加わることで更に個別に数値上昇が見こめる。例えば武器を装備すれば攻撃力が上がるし防具を装備すれば防御力が上がる。……数値が上昇すればそれだけ死から遠ざかるのだ。レベル上げには限界があり上げすぎると手に入る経験値はゼロにこそならないが少なくなりその癖レベルを上げるのに必要な要求経験値は上がっていくので第一層でしかレベル上げを出来ない以上どうしても頭打ちになるのだそう。

 

ここ、アインクラッドは全百層。今私たちがいるのが第一層。ベータテストの頃はフィールドボス、その後探索可能になる迷宮区の最深部にいるフロアボスの二体は比較的早く見つかりキリト君を含めたベータテスターの面々はサクサクとゲームを進めて行ったが製品版SAOでも同じような展開になるとは考えにくい。かつ例え見付かったとしても死んで敵の攻撃のパターンを覚え再挑戦する所謂死に戻り若しくはゾンビアタック(前者はともかく後者のネーミングセンスについて一言言いたい)がベータテストでは可能だったがデスゲームと化したここ製品版SAOは死んだら終わりだ。もしかしたら慎重に慎重を重ね、すぐには突入しないかもしれない。

 

……キリト君の考える安全マージンはベータテスト時代の基準と今の状況を鑑みて攻略階層+十

 

……つまりこの第一層ならレベル11が安全のマージンの基準値となる。勿論これはあくまでもまだ想定の話。更にここに装備を充実させたりもう二、三レベルを上げるのも死から遠ざける要因となるのだ。とはいえ……

 

「……私たち安全マージンに達してないね」

 

「……この状況じゃ仕方ないよ。でもベータテストの時はもう少しレベル上がるの早かったんだけどなあ……」

 

私たちの今の到達レベルはレベル6 

 

……これはベータテスト時代に比べると上昇は遅い方なのだとか。聞けば急ぎつつも戦闘は出来るだけ避けない方針で行ったからベータテスト時代ならとうに安全マージンに達してるだろう量の経験値が手に入っているのだと言う

 

「……経験値の量も急激に少なくなったしなあ……やっぱり調整されたのか……」

 

ぶつぶつ言いながら歩みの遅くなるキリト君に声をかける

 

「……取り敢えずそれは良いから早く行かない?ほら、日が暮れそうだよ?」

 

夜になるとそれだけ強いモンスターが出るとか。……私はまだゲーム内の戦闘に慣れてないからそれは避けたい

 

「……そうだね。ゴメン、姉ちゃん。急ごう」

 

キリト君と二人今度は戦闘を避けつつ先を急いで行く。

 



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偽黒の剣士5

「……出ないね、花付き……」

 

「……ベータだともう少し……マシだったんだけど……」

 

さて私たちは今クエスト報酬のアニールブレードを手に入れるため植物型モンスターリトルネペント狩りをしている。

クエストの内容はこう。ホルンカの村の民家にいるおばさんに頼まれておばさんの娘の病気を治す為にリトルネペントの胚種を手に入れること。

……リトルネペントの胚種はリトルネペントの花付きしか落とさず、しかも出現確率の高い実付きの実を破壊するとリトルネペントが大量に現れる。……私たちは二人しか居ない上に今はデスゲーム。慎重にリトルネペントを狩って行っているんだけど……

 

「……」

 

いや。これが二人して言葉も出なくなるほど花付きが出ない。実付きはよく出るんだけど……

 

「……キリト君……」

 

「……リーファ姉ちゃん。何考えてるのかは大体分かるよ。……でも止めた方が良いよ。囲まれたら俺たちの人数じゃ対応出来ないよ……」

 

いっそ実付きの実を攻撃してリトルネペントを集めた方が早いんじゃないか?という提案は言い切る前にキリト君に止められた。……そりゃそうだよね。

 

「……キリト君?時間もそろそろ遅いよ?さすがに寝ないと保たないよ」

 

実際私はまだ大丈夫だがキリト君は明らかに眠たそうにしている……この世界は仮想現実。本来眠くはならないらしいが一種の癖なのかな?

 

「……うーん……でもこのクエスト多分途中中断出来ないからなあ……」

 

「……せめて休憩しよう?私が見張ってるからキリト君は仮眠取った方が良いよ。」

 

「……そんな訳にはいかないよ……」

 

そうは言うがキリト君は明らかに眠そうだ。

 

「……ほら?無理して何かあったら困るしね?」

 

「……分かった。少し休むよ。」

 

そう言ってその場に横になろうとするキリト君の肩を叩く。

 

「……え?何?…! 」

 

私は自分の膝を叩く。

 

「……いや。さすがにそんな訳には……」

 

「……」

 

……焦れったいな。私は小柄なキリト君を抱え上げるとそのまま私の膝に乗せた。

 

……顔を真っ赤にして暴れていたキリト君はやがていよいよ疲れたのか眠り始めた。

 

……今日はずっと大変だった。ちなみにキリト君の話だともう街の宿に着いてる計算だったらしい。

 

「……クラインさん大丈夫かなぁ……」

 

残して来てしまったクラインさんが気掛かりだ。割と慎重な人みたいだし多分大丈夫だと思うけど……今は自分たちの事を考えよう。

 

「……本当に出るのかなあ…?」

 

キリト君の言うリトルネペントの花付きは未だに現れない。というかモンスターがpopしないな。

 

「……空気を読んでくれてる……とか?」

 

そんな機能があるならデスゲームという欠陥を何とかして欲しい所だ。私はキリト君が大好きだし弟との久しぶりの時間を過ごしたいとは思っていたけどそんなゲームの中に二人きりで閉じ込められるなんてシチュエーション望んでなかった。

 

「……星が綺麗……」

 

考えが暗くなるのを感じ気分を変えようと上を見上げると頭上には満天の星空が広がっていた。

……ここがデスゲームじゃなかったら普通に観光でもしたかったのにな……

 



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偽黒の剣士6

近くの草むらがガサガサと音を立てるのに反応して私はキリト君を寝かせたまま私は剣を構える。

 

「……誰!?」

 

「……ごめん。脅かすつもりはなかったんだけど……」

 

「……誰なの?何が目的?……そこで止まって!それ以上近づかないで!」

 

今はこの世界はちょっとの油断で簡単に死ぬ世界。モンスターはもちろんプレイヤーにもそう簡単に気を許すわけにはいかない。

 

「……君たちネペント狩りしてるんだろ?一緒に狩らないか?多分人数多い方が効率が良いと思うんだけど……」

 

「……」

 

彼が言っている事は理にかなってる気はする。確かに私たちも二人だけでこの作業を続けるのは限界の気がしていた。……でもゲームの知識もろくに無い私が決めても良いものだろうか…?

 

「……分かった。ちょっと待ってて。」

 

結局私は彼の提案を受けることにした。キリト君に聞いた方が良いのかもしれないけど今寝たばかりなのに起こすのは忍びない。

 

「……行きましょう。」

 

私はキリト君を背負うと彼と歩幅を合わせる……私みたいに武道を嗜んでいる動きじゃない……でも隙は余り見当たらない。ベーターテスターは伊達では無いと言う事か。

 

「……取り敢えず花付きを見つけたら僕が実付きのタゲを取るから先に君が花付きを取ってくれていいよ。」

 

「……その次はえーっと……」

 

「……ああ自己紹介はまただっけ。僕はコペルだ……頭上に書いてあるはずだけど……もしかして初心者?」

 

「……うん。私は今寝てる弟に誘われただけだから……話を戻すけど次は貴方が花付きを狩って次に弟の分を狩るのに協力してもらうってことでいい?」

 

「……うん。分かったよ。」

 

……彼の言ってることに嘘は感じられない……最も以下に感情の出やすい世界とは言え現実とは違うせいか読みにくいし意図的に隠されたら分からないけど。……試合で駆け引きに慣れてるとはいえここでは余り自分の感覚に頼らない方がいいかもしれない。いずれこっちでも遜色無く読めるようになるかもしれないが。

 

「……いた。花付きだ。」

 

彼の視線の方向を見ると見慣れた実付きのネペントに混じり確かに花の咲いているネペントがいた。……あれが花付きか。

 

「……実付きに囲まれているね。打ち合わせ通りまずは僕が実付きのタゲを取るよ。」

 

「……分かった。任せるね。」

 

私は彼を信用し花付きの元に向かった。……その瞬間何故か私は胸騒ぎのようなものを感じコペルの方を見た。

 

「……ごめん。でもこうしないと……」

 

彼は私の見てる前で実付きの実を破壊した。



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偽黒の剣士7

「……何、してるの…?」

 

私は今見たものが信じられなくて彼に問いかけた。

 

「……本当にごめん。」

 

そう言って彼はその場から消える。……一瞬驚いたけどたまたま私には心当たりがあった。キリト君に聞いた覚えがある。隠蔽スキル……その場で姿を認識出来なくして主にモンスターをやり過ごしたり犯罪行為等にも使える凡庸性の高いスキル……でも……

 

「……コペル君、そのモンスターには効かないみたいだよ……」

 

大量のネペントに囲まれるのを何処か他人事のように認識しながら私の視線は私から離れて近くの草むらに向かう何体かのネペントに向いていた。……多分あそこにコペルがいるのだろう。

 

「……何でこうなったかなあ……」

 

多分私の甘さのせいだ。私は彼を信用し過ぎた。これはその罰なのだろう……

 

「……」

 

私は危機の迫る中何処か凪いだ気持ちで剣を振るう。ソードスキルに頼らずネペントの攻撃を流し反撃し徐々に体力を削って行く。本来なら取り乱す筈の状況で私は今までで一番頭が回って、今までやって来たどの試合の時よりも良く動けていたと思う。

 

……ガラスの割れるような音が聞こえた。

今まで私から離れていたネペントたちがこっちにやって来る。

 

「……そっか。死んじゃったんだね、コペル君……」

 

……私はいくら騙されたからと言ってその死に何も思わない程薄情だったのだろうか?

 

「……」

 

私は思考を切り替え目の前のネペントを見る。集中を切らせば死ぬ。死にたく…無い。

 

「……死にたく無いから殺す。死ぬのは、怖い。」

 

私はコペル君の気持ちが分かった気がする……ああ…君も怖かったんだね。

 

「……でも私だって死にたく無い。死ぬのは怖い。例え貴方が死んでも私は生きる。」

 

他の誰が死んだって私は死にたく無い。私は死なない。キリト君も死なせない。他を殺しても。

 

「……まだいるの……」

 

たかがゲームの戦闘と侮ったかもしれない。キリト君にも言われていたけど思ったより疲労を感じるみたい……

 

「……あっ…」

 

集中が切れる。攻撃を流し切れず食らってしまう。

……思ったより減ってしまった。

 

「……ポーションを使う暇は無い。」

 

敵の猛攻が激しくて飲む暇は無い。そもそもポーションを飲んでも即時回復はしないから……

 

「……あっ…」

 

一度崩したリズムを戻すのは難しい。私は流せなかった攻撃を咄嗟に剣で受けた。

 

「……!そんな……」

 

剣が砕けた。

 

「……耐久値の限界……」

 

ここまで修復もしないで使っていたせいだろう。とうとう限界が来てしまった。……予備はあるけど出す暇は無い。

 

「……ごめん、キリト君……」

 

私は向かってくるネペントの攻撃に対して目を閉じ身を委ねる。

本当にごめん。キリト君……

 

「……リーファ姉ちゃん!」

 

その声が聞こえた瞬間私は目を開けた

私の背から小さな影が飛び出すと私の前に立ちネペントの攻撃をその手に持つ剣で防いだのが見えた。



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偽黒の剣士8

「リーファ姉ちゃん武器は!?」

 

「……え?さっき、壊れちゃって……」

 

「この場は俺が何とか食い止めるからこの世界に来る時買った予備出して!早く!俺も長くは持たせられないから!」

 

「…っ!わっ、分かった!」

 

私はキリト君に教わった方法でメニュー画面を出す。……一通り習っていたけどやっぱり咄嗟にやれって言っても無理……画面をスクロールし装備変更の画面を探す。……焦ったせいか何度か通り過ぎた。

 

「……あった!」

 

私は予備の武器を装備しキリト君の元へ……!

 

「……スイッチ!」

 

その言葉と共にキリト君が一度後ろに下がる。

……さっきまでの戦闘では二人で好きなように戦っていたからキリト君に教わったこの言葉を発する事は無かった。私はキリト君を追い込んでいたネペントの攻撃を弾き離脱したキリト君の元へ戻る。

 

「……キリト君……」

 

「……助かった……正直俺もこの剣限界だから……」

 

そう言って彼も武器を変える。

 

「……リーファ姉ちゃん、連中の攻撃見えるだろ?これからは出来るだけ受けるんじゃなくて避けて。武器が壊れたら俺もリーファ姉ちゃんも戦えない……」

 

「分かった…っ!」

 

再びネペントの攻撃が飛んで来て私は咄嗟にしゃがみキリト君は半身の状態になって避けるとそのままネペントに向かって行きソードスキルを当てる。

私は硬直するキリト君のフォローをするため彼の元に走る。飛んで来るネペントの攻撃をまた弾き下がったキリト君の所まで戻る。

 

「……リーファ姉ちゃん……やっぱりソードスキル使いづらい?」

 

「……うん。やっぱり私には合わないかも……」

 

私は元々剣道をやっているせいかある程度自分の剣が出来てしまっている。……このプレイヤーの動きをアシストしコントロールするソードスキルという機能は私には合わない……

 

「……キリト君、私はどうすれば良いかな…?」

 

「……留めは俺がソードスキルで刺すからリーファ姉ちゃんはタゲ取りと敵の牽制、俺のフォローをお願い。」

 

注文が多いなぁ……でも私ならきっと出来る。いや。やってみせる。

 

「……分かった。やろう、キリト君。」

 

「……無理はしないで。絶対に二人で生き残ろう!」

 

やる事は同じだ。私は敵の攻撃を弾き、流し時折反撃する……そして怯んだ敵を……!

 

「……リーファ姉ちゃん!スイッチ!」

 

キリト君がソードスキルを当て留めを刺す。……やっぱりこの世界ソードスキルを使いこなせければ戦うのは難しい……実際先の私の攻撃ではあまりネペントのHPは減ってなかった……練習が必要だね……

 

「……キリト君!」

 

そう考えながら私はまたキリト君に向かう攻撃を防いだ。

 



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偽黒の剣士9

「……」

 

気が付くとあれだけいたネペントはいなくなっており私はその場で座り込みキリト君は仰向けになっていた。

 

「……あっ……」

 

視界の端に見えた物……あれってもしかして……

 

「……花付きもかなりの数倒したから……」

 

同じ物を見たのだろうキリト君のそんな声を聞きながら私は何とか立ち上がりほとんど足を引き摺るようにしてその場所へ向かう。

 

「……」

 

いつの間にか横にいたキリト君とそれを拾いメニューを開きストレージに仕舞う。……リトルネペントの胚珠……コペル君……君が協力してくれていれば君も今頃これを私たちと手にしていたんだよ…?

 

「……帰ろう、姉ちゃん……」

 

「……うん。」

 

……キリト君は何も聞かない。私にはそれがとてもありがたかった……。

 

戦闘を避けホルンカに戻る。

 

「……キリト君、多分大分遅い時間だけど大丈夫なの…?」

 

私としてはゲームの世界でも夜遅く他人の家に向かうのははばかられたので聞いてみた。

 

「……大丈夫。時間が遅くてもイベント自体は進行するから……まあ俺も正直行きづらいけど……こんなに時間かかるなんて思ってなかったからなぁ……」

 

私たちは疲れもあり重い足取りでその家に着く。

 

「……じゃあ俺が先に行くね。」

 

「……分かった。待ってるね……」

 

イベント戦闘自体は協力して出来てもイベント開始と報酬を貰うのは同時には出来ないそうなので二人別々に家に入る。

 

……しばらくしてキリト君が家から出てきた……?どうしたんだろう…?

 

「……終わったよ…リーファ姉ちゃん……」

 

「……キリト君、何かあったの…?」

 

さっきまでの彼はただ疲れた顔をしていただけだった。……でも今の彼は……

 

「……何でも無い……いや。行けば分かるよ……」

 

彼にそう言われ首を傾げながら家のドアを叩く。……返事が聞こえたので中に入った。

 

中で待っていたおばさんに声をかける。

 

「……胚珠を手に入れて来ました……」

 

「…!ありがとう、剣士さん。これで娘も……」

 

そう言って彼女は奥に行き、少しして戻って来ると……

 

「……これをどうぞ……お礼です。」

 

私はその剣を受け取った。……アニールブレード……これが……

 

「……ありがとう、ございます……」

 

私はその剣を受け取り取り敢えずストレージに入れた。

……おばさんはもう私から離れキッチンで何かをしている。……やがて鍋の中の物を底の深い皿に入れると部屋の戸を開け中に入って行く……

 

「……ちょっとだけ……」

 

悪いとは思ったけど私はおばさんが何をするのか気になってついその戸を開け中の様子を覗いた。

 

「……!……そっか、キリト君……」

 

そこにはベッドに寝ていたおばさんの娘らしい女の子がいて笑っていた。おばさんも女の子を見て笑っていた。

……カズ君には本当の親はいない……両親は二人とも彼を残して死んでしまった。……カズ君は私のお母さんの事を未だに叔母さん、お父さんの事を叔父さんと呼んでいる。……お父さんは仕方の無い事と割り切っているけどお母さんはそう呼ばれる度にショックを受けている。……私から言わせれば二人とは接点が少ないから当然とも言える……。……まあそれはともかく……

 

「……キリト君……」

 

本当の両親が生きていて現実に帰れさえすれば会う事も出来る私と違って現実に帰れても二度と本当の両親に会う事の出来ないカズ君にとってこの光景は酷ともいえる……私はそっと部屋の戸を閉じそのまま家の中を抜け家の外へ……

 

「……終わった…?」

 

彼はそこにいた。

 

「……キリト君……」

 

私は彼を抱き上げた。

 

「……え!?なになに!?「キリト君……辛い時は泣いても良いんだよ……?」!」

 

さっき家から出て来た時彼は今にも泣きそうな顔をしていた。……しばらく躊躇していたみたいだけど彼はやがて私の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らし始めた。

 

 

 

「……行こう、リーファ姉ちゃん。」

 

「……うん。」

 

ホルンカの村で少し休憩を取った私たちは漸く次の街へ向かう。その身に新しい剣を身につけて。



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偽黒の剣士10

それから私はキリト君と共にレベル上げに励みキリト君の指導の元、ソードスキルの練習をした。……いつの間にか安全マージンを突破し辛うじてソードスキルを使えるようになった私はこの街トールバーナにて行われる第一層ボス攻略会議に出席するため広場に立っていた。

 

「……少ないな……」

 

「……えっ、何が?」

 

「……ここに集まった人数だよ。ボスは複数のプレイヤーが揃って大きなパーティを組んで攻略するのが普通なんだ。」

 

「……へぇ。そうなんだ。……でも少ないって?」

 

私の目にはそれなりの数のプレイヤーがこの場に集まっているように見える。

 

「……ここにいるのはボス部屋に入れる上限人数よりも少し少ない……通常ボス戦をする分には問題無いんだけど……」

 

何となくキリト君の言う事は伝わった。それはつまり……

 

「……ほぼ上限人数しかこの場に居ないってことは予行演習の出来ない私たちは一人二人かけてもアウトだし、最悪全滅したらもうボス攻略は出来ない……という事?…」

 

「……そうなる…。」

 

それは確かに問題だ。……つまりそれだけこの場に立てる程のトッププレイヤーが育ってないという事だ。……勝てるならいい……でも、もし私たちが負けたら……?

 

「……はい!五分遅れだけど始めさせてもらいます!……俺はディアベル!職業は気持ち的にナイトやってます。」

 

気付けば青い髪の整った顔の男性が声を上げていた。……職業?

 

「……えーと…キリト君「SAOに職業選択システムは無いよ。中にはそういうゲームもあるけど。」そうなんだ……」

 

何やら笑いが起き和やかな雰囲気になっていた。……キリト君も声こそ出てないけどその顔は少し笑っている。……何がおかしいのか分からない……何か取り残された気分……

 

「……さて、本題だ。……わざわざ皆に集まってもらったのは他でもない……今日俺たちのパーティがボス部屋を発見した!」

 

私の疎外感を他所に彼の演説は続く。ボス部屋の発見……キリト君がボソッと「……随分かかったな…」と漏らしていたからどうもベータの頃に比べて遅れ気味らしい……

 

「……俺たちはボスを討伐してはじまりの街に残っている人たちが俺たちに託している希望に答えなきゃいけない!それがトッププレイヤーである俺たちの義務なんだ!そうだろう皆!?」

 

「……すごい…」

 

私は思わず言葉が漏れた。……この場の皆の士気が上がるのが分かる。かく言う私も少し興奮していた。

 

「ちょお待ってんか!」

 

彼の演説に割り込む声が聞こえた。そこを見るとトゲトゲ頭のプレイヤーがいた。

 

「……皆言うたな?あんさん?」

 

「……そうだけどそれが?何か意見があるならまず名乗ってくれるかな?」

 

彼がディアベルと同じ壇上に上がる。

 

「ワイはキバオウ。今ディアベルはんが言うた皆……そこに混じって普通のプレイヤーとして何食わぬ顔でこの場に立ってる奴!この中におるはずなんや!この場で詫びいれなあかん連中が!まずはそれをはっきりせんとな!」

 

「……キバオウさん、君の言う連中と言うのはベータテスターの事かい?」

 

「決まっとるやないかい。奴らは美味い狩場独占して自分らだけ強うなりおった。情報の共有がされへんかったんや!せやから見てみい!この場に集まれたのはたったこれだけや!テスター連中がちゃんと情報を渡していればこの場にはもっとたくさんのプレイヤーがおったはずなんや!だからテスター連中にはこの場で詫び入れてもろうてたんまり稼いだコルや装備をこの場で還元してもらわにゃあワイらは収まらんちゅうわけや!」

 

和やかな雰囲気だったこの場がまるで罪人を糾弾する場のように私の目の前で変わってしまった。

 

 

 



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偽黒の剣士11

場はどんどんベータテスターに対する炙り出しの方向に向かっていく……まるで話に聞く中世の魔女狩りだ……これはいけない。

 

「……俺のせいなのかな……」

 

「…?キリト君…?」

 

「……俺がクラインやはじまりの街にいたプレイヤーを見捨てたからかな……」

 

「…!違う!それは違うよキリト君!!」

 

「……リーファ姉ちゃん、俺がクラインを見捨てたのは事実だよ……だから……」

 

「……!駄目だよキリト君!」

 

今あの場に出て行ったらどうなるか分からない……謝罪とお金やアイテムを全部渡すだけで済めばいいけど最悪……!

 

「……待ちな、坊主。」

 

「……貴方は?」

 

気が付くとキリト君の傍には大柄の男の人が立っていてキリト君の肩にその大きな手をかけている。黒い皮膚……どう見ても外人さんだ……でも綺麗な発音の日本語……日本に住んで長いのかな…?

 

「……俺のせいなんだ……だから、行かないと……!」

 

「だから待てって。俺に任せな。」

 

そう言ってその人は糾弾の場に向かう。

 

「……発言良いか?」

 

「……なっ、何やあんた…?」

 

「……構いませんよ。それで、貴方は…?」

 

「……俺はエギルってもんだ。さて、あんたキバオウって言ったか?」

 

「……そっ、そや。それがどないした?」

 

「……あんたこいつは貰ったか?道具屋で無料で配っていたこのガイドブックだ。」

 

あっ、あれなら私もキリト君も貰っている。

 

「……もっ、貰うたで。それが何や?」

 

「……こいつはベータテスターが書いたもんだ。」

 

周囲に動揺が広がって行く。キバオウさんの顔色が悪い。

 

「……いいか?ちゃんと情報はあったんだ。……皆口に出そうとしないが既に多くのプレイヤーが亡くなってる。」

 

……そうだったんだ……。その中にはコペル君も……彼は私のせいで死んだ事になるのかな……

 

「……情報はあった。にも関わらず犠牲が出ているのは彼らがきっとベテランのMMOプレイヤーだったからだ。死んでも問題の無い他のゲームと同じ感覚で無茶をして死んでいった。で、その責任の追求をテスターだけに求めるのか?今俺たちにそんな余裕はあるのか?この場はそれを踏まえた上でこの場にいるプレイヤーが同じ目標を見据え今後の事を話す場だと俺は思っていたんだがな」

 

「……キバオウさん、彼の言う通りだ。今はテスターの糾弾をしている場合じゃない。この場でテスターを無理矢理炙り出して排除する。……そんな事をして攻略が失敗したら元も子も無い。」

 

ディアベルさんがエギルさんの発言に乗っかる。キバオウさんは舌打ちをしながら人集りの方に戻って行った。

……私はキリト君を連れてエギルさんの所に向かう。

 

「……ん?どうした?」

 

「……あの……ありがとうございました。」

 

「……ああ。さっきの事か。気にするな。……なあ坊主?お前一人が責任取る必要なんて無いんだ。本当は俺たち大人がもう少ししっかりしないといけなかったんだ……」

 

「……坊主じゃない……キリトだ。……サンキューな、エギル。」

 

「……私はリーファです。」

 

「……おう。そうか。宜しくな、キリト、リーファ。さっきも言ったが気にするな。まっ、次からはもうちょい大人に頼んな。」

 

そう言ってニカッと笑うエギルさん。……見た目は怖いけどすごく優しい人みたいだ。

 

「……さて、実はさっきの攻略ガイドブックだがさっき最新版が配布された!」

 

ディアベルさんが演説を続けていく……取り敢えずこれでしばらくは心配要らないかな……



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偽黒の剣士12

「それじゃあ近くの人とパーティを組んでくれ!」

 

……あっ……私は思わずキリト君の方を見た。

 

「……」

 

……この世界に来るようになってよく見るようになった顔だ。かなり険しい表情をしている。……ホルンカの森で私を助けてくれた時もしていた顔だけど……今回は別に危険な訳じゃない。……私はキリト君の頭を撫でながら話しかけた。

 

「……大丈夫だよ。交渉なら私がするから。」

 

「……ごめん、リーファ姉ちゃん……」

 

……キリト君は他人が苦手なのだ。それでも昔と違い通常なら最低限の会話なら出来るようになったけど今のこの雰囲気の中で初対面の人にキリト君が声をかけるのは難しい。

 

「……と言っても……」

 

私たちはそもそも最後に来ていたらしく既にもう何人かは特定の人員と集まっているようだった。ボス攻略のレイドパーティというのは普通何組かのパーティでチームを組んでいる事を言うらしい……見渡す限り広場にいる人たちはもう四~五人で固まっている。……どうしよう…

 

「……姉ちゃん、あれ……」

 

「……えっ?…あっ……」

 

広場から少し離れた所に一人だけポツンとフード付きローブを来た人が……あの人に声をかけようか。

 

「……あの、すいません……」

 

「……何?」

 

……思いの外棘のある反応が帰って来た。何か気に触って……ううん違う。これは警戒されてる……?というか声が高い……女性だったんだね……

 

「……あの……一人ですか?組む人は?」

 

「……皆もうお仲間と一緒にいたから遠慮したの。」

 

遠慮したって言うかそれって……

 

「……なら私たちと組みませんか?」

 

「……そっちから申請送ってくれたら良いわ。」

 

……妙に上から目線……歳上なんだろうけどそれだけじゃない様な……っていけない!

 

「……キリト君……パーティ申請ってどうやってやるんだっけ……?」

 

そう言えば私はやり方を聞いていなかった。キリト君からパーティ申請を受けてはいるけど自分から送った事は無い。

 

「……俺が送るよ。」

 

そう言ってキリト君は前に来た。……ごめん、キリト君……

 

キリト君がパーティ申請を送り彼女が受諾。パーティに彼女が入ったので名前が表示される。……アスナか……何と言うか……まさか本名じゃないよね……?

 

「……取り敢えず解散しようか。ボス戦は明日みたいだし。」

 

キリト君が纏めてくれる。

 

「……」

 

「……それじゃあまた明日……」

 

何も言わないアスナさんに気まずい空気になりかけたので私は声をかけキリト君と背を向けた。

 

「……さて、帰ったらどうしようか?」

 

「……飯を食いたい。さすがに腹が減ったよ……」

 

会議の時間にギリギリ間に合うようにはしてたけどさっきまでずっとフィールドにいたからね……

 

「……私はお風呂に入りた…!え!?」

 

私は後ろから服を引っ張られた。驚いて後ろを見ると先程の女性アスナさんが私たちの服を掴んでいる。

 

「……あの…何「お風呂あるの?」え?はい。私たちの泊まってる部屋に「案内しなさい」はい……」

 

私たちは頷く事しか出来無かった……



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偽黒の剣士13

「……」

 

「……」

 

今私たちの部屋の奥の扉の向こうでアスナさんは入浴中だ……あっ、ご飯食べそびれた……!ノック?

 

「……私が出るね?」

 

キリト君が頷いたのを確認し私はドアを開けた。

 

「……ヨッ!リッちゃん!」

 

「アルゴさん?どうしたんですか?こんな時間に?」

 

扉の向こうにいたのは通称鼠のアルゴさん。キリト君曰くベータテスト時代から活躍してた凄腕の情報屋なんだとか。私との付き合いはそう長くないのだが初対面で自己紹介した時からあだ名を付けられてしまっている。……キリト君によれば「基本的に何言っても止めないし仕舞いにはコルを要求されるから諦めた方がいい」との事。ちなみに私は人柄は一応信頼出来る人だと思っている……多分。

 

「……ちょっとキー坊に話があってナ……入っても良いカ?」

 

……もしかして例の話かな?私は念の為キリト君の方を見る。

 

「……良いよ。入って貰って。」

 

「オウ!悪いな姉弟水入らずの所邪魔シテ。」

 

「!変な言い方すんなよ!」

 

「……」

 

ちなみに私たちが姉弟なのはバレている。クラインさんの時と同じ私のうっかりと言えばその通りだが……二人の関係性をしつこく追求するアルゴさんに折れたからと言った方が正しい。

 

「ナハハハ。そんな怒んなヨー、キー坊!」

 

「……で、用件は?」

 

基本アルゴさんは相手をからかえるネタがあるならずっと弄ってくる癖があるそうでこちらは気にせずさっさと本題に入るのが吉なんだとか。

 

「……またあの話ダ。今度は倍出しても良いそうダ。」

 

「……アニールブレードをその額で売れって?」

 

アルゴさんの話の内容は簡単だ。要するにキリト君の持つアニールブレードを売って欲しいという人がいるとの事。……しかもこれが初めてじゃない。

 

「……それだけの額出せるならもっと良い装備揃えられるだろ?何考えてるんだそいつは?」

 

「……オネーサンとしてもあんま気進まないんだけどナ……いくら言っても向こうは聞かないんダ。」

 

「……アルゴさん、その人の事を聞いても?」

 

私もおかしいと思う。何とか正体を知る事が出来ないかな?

 

「……ちょっと待ってロ。向こうに確認スル。」

 

……アルゴさんの話によるとこの手の商談は自分が仲介してお互いの正体を分からないようにして進めるのが普通だが向こうが仮に承諾すれば教えても良いんだそう……

 

「……教えていいそうダ。」

 

「……で、誰なんだ?」

 

「……キー坊も知ってる奴ダ。今日の会議で騒ぎを起こしタ……」

 

「……あいつか。」

 

キバオウさん……一体何の目的で……?

 

「……で、どうする?売るのカ?」

 

「……もちろん断る。」

 

「……了解。先方にはそう伝えるヨ。……あーそうだ…寝巻きに着替えたいんダ。奥借りてイイカ?」

 

「ええ。どうぞ。」

 

「サンキュー。」

 

奥に向かうアルゴさん……あれ?何か忘れてるような…?

 

「姉ちゃん奥にはアスナが!」

 

そうだった!

 

「アルゴさんちょっと待「キャー!」あっ……」

 

……そこからの事は覚えてない。

 

 



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偽黒の剣士14

「……あの…アスナさん……おはようございます……」

 

「……おはよう。」

 

「……あの……昨日の夜の事何ですけど「忘れなさい」はい……」

 

あの後の事はキリト君共々覚えていない……その前迄の記憶はあるから何があったのかは当然想像つくけど……ちなみに私たちが気が付くと既に朝で床で目覚めた私たちが部屋を見渡せばアスナさんとアルゴさんは既に部屋にいなかった。……何か初っ端から凄い前途多難になったなぁ……

 

私たち三人は無言で迷宮区を歩く。他のパーティの人たちが和気あいあいとした雰囲気の中私たちだけが明らかに異質な空気を醸し出していた。……ちなみに道中アスナさんが私と同じ初心者でパーティプレイをした事が無くスイッチを知らなかった事もこの気まずい空気を作り出す一因となっている。

 

「……さぁ着いたぞ。」

 

ディアベルさんの声を聞き私たちは足を止める。

 

「……ここがボス部屋だ。皆、良くここまでついてきてくれた。後俺からは言う事は一つだけだ。……勝とうぜ!」

 

そのたった一言に大半のプレイヤーは奮起し雄叫びを上げる……これならイケるかも。

 

「行くぞ!」

 

……私の初めてのボス戦……何だけど……

 

「……何で私たちが取り巻きの相手なのよ……!」

 

「……でも私たち人数も少ないですし……」

 

私たちが相手するのはボス≪イルファンク・ザ・コボルトロード≫……の取り巻きである≪ルインコボルト・センチネル≫である……まぁ仕方ないよね……

 

「……どちらにしても手は抜けないよ。たかが取り巻き相手でもミスったら全滅する可能性だってあるんだから……」

 

「……」

 

その一言がキリト君から発せられた事で少し緩んでいた私の気持ちも引き締まりアスナさんも文句は言わなくなった。私たちが取り巻きを相手する間本隊のボス攻略は順調に進んで行った。

 

「スイッチ!」

 

何体目かのセンチネルを倒し手が空いた時ふとコボルトロードの方を見た私は違和感に気付いた。既にレッドゾーンに到達したコボルトロードは斧と盾を捨ててタルワールと言う剣に持ち替えるというのを昨日攻略ガイドを読んで私は確認していた……あれ?でも今コボルトロードが掴もうとしてる武器って……?

 

「……ねぇキリト君?」

 

「……どうしたの?」

 

「今コボルトロードが出そうてしてる武器って本当にタルワール?私にはもっと見慣れた物に見えるんだけど?」

 

「皆下がれ!俺が出る!」

 

そうこうしてるうちに何を思ったかリーダーであるディアベルさんが単独でコボルトロードに挑もうとしていた。……何で?確かレッドになった直後は強力な攻撃をしてくるからここは大事をとって複数人で囲むのが普通なんじゃ……?

 

「…!ダメだ!全力で後ろに飛べ!」

 

何かに気付いたキリト君が必死な声色で叫んだけどそれにディアベルさんは一瞬動きを止めたものの為す術も無く私の見てる前でコボルトロードの二連撃のソードスキルを受けボス部屋の奥に吹き飛ばされてしまった……



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偽黒の剣士15

私はディアベルさんに向かって駆け出したキリト君を追った。

 

「……何で…あんな無茶を……」

 

「お前もベータテスターなら分かるだろ……」

 

……ディアベルさんがベータテスター?

 

「……頼む…ボスを…倒してくれ……」

 

そして彼は私たちの前で消えていった……私がホルンカの森で聞いたあの音を立てて……

 

「……キリト君…」

 

「……姉ちゃん不味いよ。」

 

「……え?」

 

「このチームはディアベルが率いていた。あいつがいなくなったら……」

 

私は後ろを振り向く。……リーダーが欠け既に他のプレイヤーの人たちは戦意を当に喪失しコボルトロードの攻撃から逃げ回るだけになっていた。

 

「……姉ちゃん手伝って!」

 

「どうするの?」

 

「ボスを倒す!」

 

コボルトロードの前に立つキリト君の横に立つ……え?

 

「……私も。」

 

アスナさんも手伝ってくれるみたい。

 

「……基本はセンチネルと同じだ。俺たちならきっと勝てる!」

 

 

 

……凄い……。この戦闘多分最も光ってるのはアスナさんだろう。ソードスキルにはアシストされるその動きに合わせてタイミング良く動く事で威力を上げるというテクニックがあるらしい……アスナさんは独学でそれを修得している。……おまけに……

 

「……ハァッ!」

 

彼女はさっきボスの攻撃を掠めてしまいフードが無くなってしまったのだがそこから現れた顔は同性の私でも一瞬見惚れる程綺麗だった……このゲーム何でもネカマプレイとやらをしている人が結構多かったとかで女性プレイヤーが極端に少ないんだとか。……ただでさえ貴重な女性プレイヤーの一人でアスナさん程綺麗ならこれから先かなり人気が出るんだろうなぁ……

 

……今アスナさん含む私たちの奮闘で少しずつ皆が士気を取り戻していくのが分かる。これなら……

 

「……キリト君!」

 

集中力が途切れたのか攻撃を失敗し弾かれるキリト君……不味い!ソードスキルには硬直時間が……!間に合わない!

 

「……これ以上アタッカーだけに任せてられるか!」

 

エギルさんだ。

 

「……俺たちが時間を稼ぐ!その間に体勢を立て直せ!」

 

「分かった!」

 

後ろに下がりポーションを飲むキリト君……良かった……

 

……私はHPにも余裕があるので前に出る。

 

「……あのエギルさん……ありがとうございます……また助けて貰って……」

 

「……気にしなくて良いさ……気になったんだがお前らリアルで身内なの……いや、すまん。ここではリアルの話は「姉弟です。」そうか……安心しな、誰にも言わねぇよ。「ありがとうございます」お前も休んでな。何、お前らが休む間は俺たち大人が頑張るからな。」

 

「はい。じゃあ下がりますね。」

 

私はキリト君の方に向かった

 

 

 



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偽黒の剣士16

何度目かの交錯の後キリト君の攻撃によりコボルトロードは消えた……その場に尻餅を着くキリト君の元へ向かう

 

「……リーファ姉ちゃん……」

 

「……終わったんだね…?」

 

「……うん。終わった……俺たちは勝ったんだ。」

 

……それは決して大きな声じゃなかったけどキリト君の一言に呼応する様に場は高揚に湧き喧騒に包まれていった。

 

「……終わったわね。」

 

「……アスナさん……その……顔出しても良いんですか?」

 

「……え?あー…良いわ、もう。」

 

「……Congratulation.やったな。この勝利はお前らのモンだ。」

 

「……エギル…サンキュー。でもそれは違う。」

 

「……皆が頑張ったからですよ。だから勝てたんです。」

 

「……そうね。」

 

「……そうだな。」

 

場が勝利に湧く中その叫びは一際大きく響いた。

 

「……何でや!何でディアベルはんを見捨てたんや!」

 

キバオウさん…?見捨てるって?

 

「……何を言ってんだ?」

 

エギルさんが聞いてくれる。

 

「……だってそうやろがい!そのガキはボスのスキルの事知っとったやないか!その情報を伝えといてくれたらディアベルはんは死なずに済んだんや!」

 

「あのガキ、ベータテスターか。」

 

「……そういやあのガキがボスに止めを刺したんだよな?ラストアタックボーナス狙いじゃないか?」

 

「んじゃあリーダーの手柄を横取りしようとしたって事か?」

 

「そうに違いねぇ!ガイドブックもベータテスターが書いたんだよな?やっぱりベータテスターが情報なんて渡すはずがなかったんだ!」

 

……場はあの会議の時より白熱したベータテスター叩きの流れへ……それにここにはテスターであるとはっきり判明しているキリト君がいる。……このままじゃ……!

 

「……アハハハハ!」

 

キリト君が今までに無く大きな、そして明らかに悪意の篭った声音で笑った。

 

「キリト、君?」

 

「……ベータテスター……そんな連中と一緒にしないで欲しいな。あいつらはさぁガキの俺より大した事無かったんだ。戦い方も何もかも。今ここにいるあんたらの方がマシなくらい酷かったんだよ……!」

 

皆が黙りこくった。……キリト君何を考えているの…?

 

「……俺があのボスのソードスキルの事を知ってたのはベータテスターだからじゃない。あれはもっと先の階で出てくるソードスキルでさぁ俺が他のベータテスターより上の階に行ってたから知ってたんだよ!つまり俺はベータテスターなんかよりずっとこのゲームの事を知ってるんだ!」

 

「……何だよそれ…!そんなのチータじゃないか…!」

 

「……そうだ!ベータテスターのチータだからビーターだ!」

 

「……へぇ…!」

 

キリト君はさっきボスからドロップしていたコートを装備し始めた。黒いコート……

 

「……ビーター……良いな、それ……!これからは俺の事はビーター…そう呼んでくれ。ベータテスター何かと一緒にすんなよな……!」

 

そう言って階段で上に向かうキリト君を慌てて追う!

 

「……ちょっ、ちょっと待てよ!」

 

「……アクティベートはしといてやる。俺を追うなら新しい階でモンスターに殺される覚悟はしとくんだな……!」

 

声をかけた男の人と同じく気圧されたけど私はキリト君を放って置くつもりなんて無い。

 

「……リーファちゃん」

 

アスナさんが私に声をかけて来た……そう言えば名前を呼ばれるのは初めてだな。

 

「……何ですか?」

 

「……キリト君の事頼むわね。」

 

「……当たり前です。私の……大事な弟ですから。」

 

アスナさんなら言っても良いだろう。それにこの場で言ってしまえば私もキリト君の関係者だと思ってもらえる。

 

「……リーファ……」

 

「……エギルさん…」

 

「……頑張れよ。」

 

「……はい。」

 

私の今一番欲しい言葉をくれた。

 

 

 

私は階段の先のキリト君に声をかける。

 

「……キリト君。」

 

「……リーファ姉ちゃん……俺……」

 

「……行こ!キリト君!」

 

私はキリト君の手を引く

 

「…!わっ!?姉ちゃん引っ張らないで!」

 

これからの事は分からないけど私はキリト君と一緒にいる!何があっても最後まで!

……私はそう誓った。

 

 

 

 

 

「……いけない!寝ちゃってた!」

 

私は辺りを見回す。……私とキリト君のホームだ。目の冴えてしまった私は膝の上のキリト君をひとまず下ろす。

 

「……懐かしい夢を見たなあ……」

 

あの後キリト君はビーター、そして私はそんなビーターの姉としてしばらくの間無条件に轟く悪名に悩まされた。……私たちに関して正しい情報を知ってるアスナさんやエギルさん、後に攻略組に入ったクラインさんたちのお陰で何とか悪い噂はある程度消えたけど……

 

「……もう遅いかな……」

 

あの頃ビーターではなく攻略組最強プレイヤー黒の剣士として名を馳せたキリト君はもういない。……今のキリト君は……

 

「……PoH……!」

 

……あいつのせいで今のキリト君は……!

 

「……リーファお姉ちゃん何処…?」

 

キリト君!私はキリト君の方へ向かう。

 

「……キリト君!」

 

「……リーファお姉ちゃん!」

 

泣きながら私の腰にしがみつくキリト君を上から抱き締める。……今のキリト君の精神は実年齢より明らかに幼くなってしまった。……PoH……レッドプレイヤーの生まれた元凶……あいつさえいなかったら……!

 

「……キリト君……私は絶対君を現実世界に帰してあげるから……!」

 

PoHを殺しキリト君をこの命に替えても現実世界に帰す。それが今の私の誓いだ…!



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偽黒の剣士17

泣き疲れまた寝てしまったキリト君をベッドに運ぶ……ノックだ……誰だろう?ここを知ってる人は少ない筈……

 

「……誰ですか?」

 

ここは圏外だが一応剣から手は離さない。……あの日以来私は人をほとんど信じていない……

 

「……リッちゃん……オレッちダ。夜遅く悪いんダがちょっと開けてクレ……」

 

「……アルゴさん…?」

 

私はドアを開けた。

 

「……ワリィなリッちゃん夜遅く……」

 

「……それは良いです。ただ、キリト君が寝てるので静かにだけしてもらえれば……それで何の用ですか…?」

 

「……リッちゃんにお客サンダ……サッちゃん。」

 

そう呼ばれ現れたのは私が忘れたくても忘れられない顔だ。

 

「……何の用ですか、サチさん?」

 

私は先程より棘を込めて話しかける……気を使うつもりは無い。キリト君がこうなったのは彼女にも原因……いや。彼女と彼女の所属していたギルドにも原因があるのだから……

 

「……リーファ、キリトはどうしてる…?」

 

「……聞いてませんでしたか?寝ています。……もう良いですか?帰って貰えます?」

 

「……一目で良いの。キリトに会わせて?」

 

「……勝手ですね。誰のせいでキリト君は壊れたと思ってるんですか?」

 

「……」

 

そう言うと彼女は黙りこくってしまった。

……あの頃と何も変わってない。……もう一年も経つのに……

 

「……リッちゃん。」

 

「アルゴさんどうしてこの人を連れて来たんですか?私たちに何があったかは話しましたよね?」

 

「……スマン、リッちゃん……ナァ取り敢えず外で話さないか?」

 

私は後ろを振り向く。キリト君が起きて来る気配は無い。……この後はレベリングの予定だったけど……

 

「……まぁ良いです。何処にします?」

 

……寝過ごしたせいでどうせ予定時間も過ぎている。

 

「……黒猫団のギルドホームダ。周りに誰もいないのはさっき確認済みダ。」

 

「……」

 

寝ていたとは言えあまり疲れは取れていない。戦闘中は意外と気にならないがこういう何でもない時に疲れは出るものだ……

 

「……そうしましょうか。」

 

月夜の黒猫団と言うギルドに私はいい思い出は無い。行けば余計に気が滅入る事だろう……でも私たちの話はその辺で出来るものじゃないし増してや人に聞かれる訳にも行かない。

 

 

 

月夜の黒猫団のギルドホーム……になる筈だった場所にやって来た私たち。

……今でも使えるという事はサチさんが使ってるんだろうけど私にはその神経が既に理解出来ない。

 

「……お茶飲む?」

 

「結構です。」

 

「……オレッちは貰うよ。」

 

サチさんが台所に立つのを見ながら私は月夜の黒猫団との出会いを思い起こしていた……

 



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偽黒の剣士18

月夜の黒猫団のとの出会いはそう劇的なものじゃない。ありふれた物だった……

 

……あの頃はまだビーターの悪名は下層プレイヤーに迄伝わっており後に攻略組に上がった人たちからも私たちは目の敵にされていた。……攻略組でまともに接してくれたのは極わずか。

 

……私は表面上出さないようにしてたけどそれなりに疲弊していたしあからさまにヒールを演じるキリト君はとうとう笑う事も無くなった。

……彼が笑うのは悪意を出す時だけ。

 

その笑顔にどんな意味があるのかも知らないまま心無い言葉をぶつける攻略組の人たちに私はうんざりしていた。

 

そんな時だった。ギルド月夜の黒猫団との出会いは……

 

攻略組に限らず上レベルのプレイヤーは基本的に下層にてモンスターを狩ることは事情によりけりとは言え普通はマナー違反である……まあ下層プレイヤーのレベル上げの機会を奪っているわけだから当然と言える。それにそもそも上レベルのプレイヤーが下層にてモンスターを倒した所で大した経験値もコルも得られない仕様なのだから本来メリットはあまり存在しない……ただ、例外はある。

 

コルや経験値は潤わなくてもモンスターからドロップする素材は変わらない為職人プレイヤーや単純に素材を持ち込んで武器や防具等の製作をお願いしたいプレイヤーに取って時には下層にて狩りをしなきゃいけないパターンも存在するのだ。

 

20層にあるひだまりの森

 

そこで素材集めをしていた私たちが出会ったのが月夜の黒猫団だった。

……彼らはモンスターに囲まれ完全にパニックに陥っていた。まず言いたい事は色々あるけれど彼らの場合人数が全く活かしきれていなかった。それぞれが勝手に動くせいで全く連携が取れておらず、その中で一人だけいた少女が特に酷い。モンスターに攻撃しようとしているが当たっていない。……それもそのはず、彼女はモンスターを見ていなかった。完全に目を閉じて戦っている。闇雲に槍を振り回しているところから見て彼女はモンスターに対する恐怖心を克服出来ていないのだろう。

 

……私たちとしてはそもそもここにいるの自体がマナー違反だしこれ以上後ろ指を指されるような状況は御免だったけれどさすがに放って置くのも寝覚めが悪い。

私はキリト君に代わって声をかけた。

 

「……あの!大丈夫ですか!?そっち支えましょうか!」

 

「!頼む!」

 

眼鏡をかけた少年から答えが帰って来る。……彼がリーダーか。何処と無く頼りなさそうな印象だ。

 

私とキリト君は彼らの戦闘に加わった……というか主に戦ったのは私たちだ。……良く見たらそもそもこの人たち前衛職いないんじゃない?……

 

 

 



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偽黒の剣士19

「かんぱ~い!」

 

モンスターを倒し終わりその場を離れようとする私たちをどうしてもと引き止め彼らに連れられた私たちは彼らが宿屋で開いた宴に参加させられていた

 

散々感謝を並べられたが別に感謝して欲しくてやった訳じゃない。もちろん悪い気はしなかったけど。

 

「……そう言えば二人のレベルは……ごめん。マナー違反だよな。」

 

ずっと気になっていたのだろうその一言で場が静まり返った。……どうしようかな……

 

「……へーそうなんだ。」

 

結局キリト君が実際よりもある程度低いレベルを答えたので私もそれに合わせた。……今はそれを後悔している。

 

「……それで二人に頼みがあるんだけど……」

 

騒ぎが一段落した後リーダーのケイタ……さん(実は年上だったのはさっき聞いた。特に敬語は要らないと言われたけど私は中々そうもいかない)

 

頼みの内容は何となく予想出来たもの。要するに私たちに自分たちのギルドに入って欲しいという事だった。

現在の月夜の黒猫団の内訳は……

 

ケイタ……棍使い

 

サチ………槍使い

 

テツオ……メイス使い

 

ササマル…槍使い

 

ダッカー…ソード使い

 

……前衛職いたんだ。あまりに動きが酷いから単純にいないんだと思ってた……こう思う程彼らは決して戦闘は上手くない。……というか槍使いは二人も要らないんじゃ?

 

「……取り敢えずサチを片手剣使いにして二人が入ってくれればバランスが取れると思うんだ。」

 

……どうなのだろう?私は刀が発見されたものの最初から使ってることもありキリト君と同じ盾無し片手剣スタイルだ。そこにタンク役も兼ねた片手剣と盾を持ったサチさん……バランスは全く取れてないよね?……一応私たちもタンクの真似事位は出来ないでも無いけど……

 

「……後二人がサチに片手剣の扱いを教えてくれたらな、と。」

 

妥協案も兼ねて、ね。案外抜け目無いのかな……でも周りが全然見えてないみたい。他の人もそうだけど。彼らはリアルでも仲が良いと言っていた。……勝手に皆同じ気持ちだと思ってるんだね……目指すは攻略組……か。

 

「……」

 

私はサチさんの方を見た。……どうして分からないのかな?彼女は今もこんなに怯えているのに。

 

「……リーファ姉ちゃん……」

 

キリト君も気付いてるみたい……ハァ……しょうがないなあ。

 

「……分かった。私もキリト君もこのギルドに入るよ。これから宜しくね。」

 

私のその言葉に場が湧く……声を出してないのは私とキリト君とサチさんだけ。……というかキリト君以外の男性陣は先程からチラチラ胸元に視線をやるのをもう少し控えて欲しい。……大きいのは自覚してるし男性の性について多少は理解もあるけどさぁ……クラインさんもここまで露骨じゃなかったよ……



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偽黒の剣士20

その日から私たちの戦闘訓練が始まった……ちなみに自分でも引くほどのスパルタである……志が高いのは結構だけどそれに実力が伴ってなければ全く持って意味を成さない……攻略組は口だけで成れるほど甘くないのだ。

 

「……ほらサチ、そうじゃなくてこう。」

 

ちなみにキリト君はサチさんと真っ先に打ち解けた。……彼女自身子供と相性が良いのかも。歳不相応に幼い所の抜けないキリト君と怖がりでも芯のしっかりしているサチさんの組み合わせは色々な意味で悪くない様に見えた。……彼女が特に酷い為私より強いキリト君はサチさんに付きっきりだ。そして私はと言うと……

 

「……あの…まだ始まって五分も経ってないんですけど……?」

 

「……もっ、もう勘弁してくれ~!」

 

……ちょっとやり過ぎた…?実戦形式の方が分かりやすいと思ったからただ試合しただけなんだけど……というかこの程度なら攻略組なんて夢のまた夢だ。特にキリト君とサチさんを複雑な顔でチラチラ見るケイタさん……彼ははっきり言って特訓に全く身が入ってない。……気持ちは分からなくも無いけどね……

 

「……ケイタさんはまだいけそうですねぇ…?もう一本行きます?」

 

「……え!?まっ、待って!?もう無理だから!?」

 

まだ一日のメニューの半分も終わってないんだけど……本当に先が思いやられる……

 

 

結局彼らがまともに一日のメニューをこなせる迄一週間かかった……付いて来るだけ立派だと思うけどこのペースじゃ何時まで経っても攻略組に追いつく事なんて出来ない……ちなみに実力に反比例する様にレベルは上がってる。私も出来るだけキツイ事を言わないようにしてるせいか彼らは自分たちが勝手に強くなったと思っている様だ。まあ私たちは攻略組じゃない事になってるから突っ込んだ所まで言えないって言うのもあるけどね……そしてどうにもならない事がもう一つ……

 

「……キリト君、サチさんの様子はどう?」

 

「……全然ダメ。サチはやっぱりまだ怖いみたい……」

 

久しぶりに二人きりの時間が取れた夕暮れ。私たちは二人で特訓の進捗状況について話していた。

 

「……サチさんは見られてると落ち着かないって言うしケイタさんはあからさまに見るから集中出来てない……だからと思って特訓場所を分けたけど返って失敗だったかもしれないね……」

 

私はそもそもゲームでの戦闘は素人。キリト君がいればアトバイスを望めるし根本的に戦うのが怖いサチさんみたいなタイプは本来どちらかと言えば私の領分だろう。

 

「……リーファ姉ちゃん……やっぱりサチは……」

 

「……うん。私もそう思うよ……間に合う、間に合わない以前に彼女は戦闘に向かない。」

 

断じるしかない。戦闘での痛みは一切無いのに攻撃するのもされるのも怖い。しかもHPがゼロになれば死ぬ……向き不向きの問題だ。彼女に戦いは無理。

 

「……私からケイタさんに伝え「おーい!」あれは……ケイタさん?」

 

慌ててこっちに来るケイタさんどうしたんだろう?

 

「ふっ、二人とも!サチを見なかったか!?」

 

「……サチさんですか?見てないですけど……というか一緒にいたんじゃ?」

 

「……それが……いなくなってしまったんだ!」

 

今思えばこれが多分崩壊の始まりだったのだろう……



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偽黒の剣士21

「……姉ちゃん……俺、サチと付き合う事になったんだ……」

 

サチさんが姿を消した次の日。私はキリト君からそう告げられた。

 

昨日サチさんを見つけ出したのは何となく予想出来たがキリト君だった。……その後のキリト君は普段には無い真剣さで次にやって来た私に二人きりにして欲しいと言った。その頼みを聞いた私はケイタさんたちを説得しサチさんの事をキリト君に任せた。

……二人の話が終わり戻って来たサチさんは凄く吹っ切れた顔をしており明日改めて話がしたいと告げその時は心配をかけてごめんなさいとだけ言い私たちはサチさんを伴い宿屋に戻った。

 

……これが昨夜の顛末である。

 

本来なら私は反対したかもしれない……でも…

 

「……そっか。良かったね、キリト君。」

 

……命懸けの世界で芽生える物は歳の差なんか関係無く本物だと思いたい。それに……実は私はキリト君がサチさんに惹かれているのは気付いていた。……ただ気になるのは……

 

「……ねぇ、キリト君?それでどうするの?」

 

「……取り敢えずギルドには正式加入しなきゃならないけど……」

 

……私たちは実は仮メンバーのままである。……正式加入したら本当のレベルがバレちゃうからね……

 

「……それもあるけどさ、これからどうするの?」

 

「……」

 

「……私たちはさ、攻略組だよ?そろそろ攻略に戻らないといけない。……もちろんこのギルドを攻略組に引き上げるならここに残る大義名分も立つけど……」

 

「……」

 

このギルドは正直これから先どれ程時間をかけても攻略組に上がれるとはとても思えない。……ケイタさんは攻略組はその意思さえあればなれるって言ってたけど……私から見てもその意志力自体も足りてない……これをいくら言っても理解出来るとはとても思えない。

 

「……キリト君、私だけ戻ろうか?」

 

「……それは…」

 

「……キリト君も分かってるでしょう?ここの皆は頑張ってるつもりだけど全然足りない。多分攻略組には上がれない。……そもそもスタートの段階から違うんだよ……」

 

「……姉ちゃん……俺……」

 

「……私は待ってるから。自分で、答えを出して。」

 

「……分かった。取り敢えず皆にサチとの事を伝えて来る。……サチと約束したから……」

 

「……うん。行ってらっしゃい。」

 

 

 

……キリト君には伝えなかったけど……懸念事項はこれだけじゃなかった……

 

キリト君とサチさんが付き合う事になって皆は祝福してくれた……一人を除いて。

 

ケイタさん……キリト君はサチさんばかりを見ていたから気付いていなかったみたいだけど、私は気付いていた。……彼はサチさんが好きなのだと。……この事実は多分私とサチさんを除く月夜の黒猫団全員が知っていた筈だ。それでもキリト君とサチさんを祝福する皆を見て嬉しく思うより逆に不安になったけどもう私はキリト君にこれからの事を任せると決めたから。

 

その後私はまだ自分の正体を告げられないキリト君の為にそれとなく考えた言い訳をしてギルドを抜けた。……私は信じていた。キリト君がこのギルドを守る事を。そして、そんなキリト君をサチさんが支えてくれる事を。

 

……そんな私の期待は裏切られた……



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偽黒の剣士22

崩壊の予感があったのに勝手に期待をかけた私が悪いのかもしれない、結局事が起きるまで自分の正体を言い出せなかったキリト君に原因があるのかもしれない、それとも二人が結ばれた事自体間違いだったのか……

 

……これは私の元に戻って来たキリト君が壊れる直前に話してくれた事だ……

 

遂に目標コルが貯まりギルドホームを買う事になった。

……ただ、問題があった。コルはギルドホームを買う分だけで底を尽きまだ家具等は揃えられない。そこで第二十七層の迷宮区でお金を稼いでケイタさんが戻って来るまでに家具を買い揃えてケイタさんを驚かせようという計画を立てたと言う……第二十七層の迷宮区はトラップ多発地帯で攻略組でも多数の死者が出ていた。しかも黒猫団の人たちのレベルはその時安全マージンもギリギリ……。

 

キリト君は反対しようとしたが言い出せずそのまま向かう事になったと言う。キリト君の懸念事項であるサチさんは既に生産職に転向しておりそこだけは解決していた。

 

迷宮区で必要以上に警戒し皆はそんなキリト君を大袈裟な奴だと笑っていたという。そして奥の小部屋で見つけた宝箱。止めるキリト君の言葉も聞かず開けられたそれはトラップでキリト君たちは閉じ込められた。

 

キリト君は皆を守る為必死で立ち回ったが不測の事態に完全にパニックに陥った彼らはキリト君の目の前でどんどん消えていき結局生き残れたのはキリト君だけだった……

 

……ここまでなら月夜の黒猫団にただ同情するだけで済んだ。私がサチさんを責める事も無い。問題はこの後だ。

 

……そもそも何故彼らは行ったことも無い二十七層迷宮区でお金稼ぎをしようということになったのか?

……それは彼らにそこを教えた人たちがいたから。お金稼ぎに有用な場所として。

 

意気消沈したキリト君がギルドホームに戻るとサチさんがおらず代わりに届いたメッセージを見て彼が急いで向かった場所にいたのが当時まだ珍しかった殺人プレイヤーの集団と麻痺毒に陥り動けなくなったサチさんだった。

 

サチさんからのメッセージを見てやって来たキリト君が聞いたのが彼らの計画。そもそも前々から月夜の黒猫団に目を付けており今回トラップだらけの迷宮区の層を教えたのもそれで死んでくれたらという到底理解出来ない理屈だったとか。

 

キリト君の反応を見れば一目瞭然でケイタさんとサチさん以外は死んだと判断出来る。そして予定外にも残ってしまったサチさんを呼び出し殺すつもりだったと聞いてもいないのに語ったとか。計画も何も無い話だが結果確かに皆は死んでいる。そして今この場でサチさんも殺される。

 

激高したキリト君は彼らを殺した。……黒猫団のメンバーと同じレベルだとキリト君を嘗めていた彼らはキリト君に恐怖し最初の下卑た態度から打って変わって命乞いすらしていたと言う。……そんな彼らをキリト君は殺した。

 

そんなキリト君を怖がったサチさんはその場から逃げた。サチさんを追いかけ宿屋に戻って来た所ちょうど戻って来たケイタさんに遭遇。キリト君に怯えてケイタさんの後ろに隠れるサチさんを見ながらキリト君はケイタさんに全てを話した。皆が死んだ事。サチさんを殺そうとしたプレイヤーを殺した事。自分は本当は攻略組でその中でも悪名高きビーターである事。

 

……全てを話したケイタさんがキリト君に送ったのは拒絶と怒りだった。

 

「ビーターのお前が僕たちに関わる資格なんて無かったんだ!」

 

その一言とキリト君と目を一切合わせずその場を去ろうとするケイタさんについていくサチさんに今までギリギリだったキリト君は完全に壊された。

 

 

 

……この話は半ば錯乱したキリト君が話した事だ。もちろん記憶違いもあるかもしれない。今は真相も聞けずじまいだし。でも私はやっぱりサチさんを許す事は出来ない。要らないと言ったのに私の分もお茶を用意するサチさんを見ながら改めてそう思った……



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偽黒の剣士23

「……私はお茶は要らないと言ったんですけど……?」

 

「……うん。でも少し長い話になるから……私たちに何があったのかは知ってるんだよね?」

 

「……ええ。そう言えば聞いても良いですか?ケイタさんは何処ですか?別れたんですか?要するに貴女は男なら誰でも良いんじゃないですか?一度拒絶したのにまたキリト君に戻るんですか?」

 

「…!違うよ!……私は……!」

 

私は席を立つ……もうこの人とは……

 

「……リッちゃん、ちょっと待ってクレ。」

 

「……何ですか?」

 

「リッちゃんは変だと思わなかったのカ?」

 

「……何がですか?」

 

「……キー坊の話サ。何か変だと思わなかったカ?」

 

「…!キリト君が嘘をついてるって言うんですか!?」

 

「違ウ!ちゃんと聞ケ!オイラが言ってるのはだナ!話の内容ダ!オイラだってキー坊が嘘を言ってるだなんて思っちゃいなイ!何かおかしいと思う箇所は無かったかと聞いてるンダ!」

 

そう言われ私は少し冷静になり考えてみる……そう言えば……

 

「……タイミングが良すぎる…?」

 

「……そうダ。そもそもこの話の肝は金稼ぎに有用だと聞かされたキー坊たちがダンジョンに向かいパーティはほとんど全滅。そしてたった一人生き残ったキー坊がギルドホームに戻るとサッちゃんはもう攫われた後だっタ……おかしいダロ?」

 

確かにおかしい。いくらなんでも出来すぎている。

 

「……この話をリッちゃんから聞いた時オイラはどう考えても変だと思ッタ。だからまずキー坊とは違う視点から話を聞こうと思ッタ。だからずっと探してたんだヨ、サッちゃんヲ。」

 

「……今更キリトに私が言える事が無いのは分かってる。でも……せめてリーファ、貴女には聞いて欲しい、あの日、本当は何があったのか……」

 

「……貴女が本当の事を言ってる根拠は?」

 

私はどうしてもサチさんを信用出来ない……あの日どういう理由があれ自分を助けてくれたキリト君に怯え拒絶したサチさんを……!

 

「……私からは信じて欲しいとしか言えないよ……」

 

そう言って俯くサチさん……変わらないなぁ、本当に。この人はあの頃と何も変わってない。歳下の私にすら怖がってる。

 

「……リッちゃん……先にオレっちが聞いたよ……辻褄は合ってる。実を言うともう裏取りは出来ないけどな……当事者はサッちゃん以外皆死んでるから……」

 

「……」

 

アルゴさんがそう言うならそうなのかもしれない。……でも……

 

「……サチさん、やっぱり私は貴女を信用出来ません……」

 

「……リーファ……」

 

「……でも聞きます……ここまで来たら私も真実を知りたいから……」

 

私は席に座り直した



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偽黒の剣士24

「……あの日……私は出かける理由は無かった。でも私は出かけた……呼び出されたから。」

 

「……誰にですか?」

 

「……ケイタ、だよ。大事な話があるってメッセージが来たの。」

 

「……どういう事ですかそれ!?」

 

「……私はケイタに呼び出された。……それで行った先で捕まった。」

 

「……じゃあ……あの事件は……」

 

「……多分ケイタが仕組んだんだと思う。」

 

「……何でそんな事を……!」

 

私は怖気が走った……理解出来ない……分からない……!

 

「……私にも分からなかった……あの後も最後まで何も話してくれなかった……でも……」

 

「……ちょっと待ってください……最後って……?」

 

「……ケイタは死んだよ……自殺したの。この城の外周部から飛び降りて……」

 

「……リッちゃん……オレっちも確認した。気になるなら後で確認するとイイ……」

 

「……それで……何でケイタさんはそんな事を…?」

 

「……リッちゃん……実はここからはオレっちの推測なんダ……それでも聞くカ?」

 

私は頷いた。

 

「……ケイタはキー坊を含む全員を殺す気だっタ……サッちゃんを除イテ。」

 

「……え!?でもサチさんは……」

 

「そう。私もそれが分からなかった……」

 

「……ケイタはずっとサッちゃんが好きだっタ……だから横からかっさらっていったキー坊に嫉妬したんだヨ。だから殺そうとシタ。黒猫団のメンバーも殺そうとしたのはサッちゃんと二人きりになる為ダ……サッちゃんを危険に晒したのも自分が助けるつもりだったからだヨ。」

 

吐き気がする……!理屈は分かる……でも……

 

「……理解したくない……!」

 

そんな事のためにキリト君は壊されたの!?

 

「……リッちゃん…」

 

仮想世界に無いはずの吐き気と目眩に襲われる私の背中をアルゴさんが摩ってくれる。

 

「……リッちゃん……恋愛ってサ……リッちゃんが思っているよりずっとドロドロしてるんだヨ……」

 

そんなの知りたくなかった……!

 

「……リーファ……今まで何も言えなくて本当にごめん……」

 

サチさんが謝ってくる。でも……

 

「……もう遅いです……キリト君はもう元には戻らない……それに……」

 

これじゃあケイタさんの気持ちに気付いていて無視した私のせいじゃない……!

 

「……帰り、ます……話してくれて……ありがとうございました……」

 

私は席を立つ……もうここにはいたくない……!

 

「……リーファ送って「サチさん……私はやっぱり貴女が理解出来ません。この状況で普通にしてられる貴女が……!」……」

 

今私はケイタさんよりこの人が一番怖かった……

 

 

 



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偽黒の剣士25

ギルドホームを出て歩く。……キリト君の事が気になるし本当はもっと急ぎたいけどとてもそんな気力は無かった……

 

「……あれ?リーファちゃんどうしたの?」

 

「……レコン…」

 

そこにいたのはレコン。リアルでの私の友人で……いや。どうも私に好意があるみたいなのは分かってる……でもあんな話聞いた後にレコンとあんまり話したくない……

 

「……何でもな「何でもないって顔はしてないよ、リーファちゃん」……」

 

お節介だ。レコンはリアルでも何だかんだ私を気にかけてくれることは多かった。……それが恋愛感情に根差した物でも感謝の念はやはりある。実際キリト君の事なんかで私がキツかった時期に一番接してくれた時間が長いのは彼だったりする……それで私が彼を好きになるかどうかは別問題だけれども。

 

「……取り敢えず夜も遅い。ホーム迄一応送ってくよ。」

 

「……襲う気?」

 

私は自分の身体を抱きながら聞いてみる

 

「……怒るよ、リーファちゃん……」

 

「……ごめん。」

 

普段やらかすのはレコンが多いんだけど……今回は私が空気を読めなかったみたい……やっぱりさっきの話が私のペースを乱しているようだ……さっきのだって良く考えればサチさんにも事情があったんだろうしあそこまで言うつもりは無かったのに……

 

「……リーファちゃん…本当に何があったのさ?」

 

「……ホームで話すよ……来て、くれる?」

 

「もちろん。……そう言えばキリトはどうしたのさ?」

 

レコンはキリト君と仲が良い。今回のゲームでも一緒にログインする約束をしてたのにレコンが待合せ時間に遅れたので初日では合流出来なかったのだ……レコンとキリト君がお互いのプレイヤーネームを忘れていたことも会えなかった要因だ……にしてもまさかようやく会えたのが本当に最近だなんて……私もログインするのは聞いてたけどてっきり来てないんだとばかり思ってたよ……

 

「キリト君、は……」

 

レコンはどうもキリト君を弟の様に思っているらしい……今のキリト君が不安定なのも知ってる。……さすがに夜遅く一人で置いてきたなんて言えないな……

 

「……何となく分かったよ。急いで帰ろう。」

 

「……ごめんなさい……」

 

「……リーファちゃんにも色々あるでしょ?仕方ないよ。それに謝る相手は僕じゃなくてキリトだよ。さっ、早く帰ろう。」

 

「……うん。」

 

普段は頼りないんだけどどうしてこういう時だけ……レコンに対して私が恋愛感情を持たないのは当然だ。私はレコンに嫉妬しているから……キリト君と仲が良いのも私には羨望を通り越して憎らしく感じる事がある……性別の違いは変えられないのは分かってるけど……



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偽黒の剣士26

レコンを家に入れキリト君の様子を見に行くと眠っていたのでホッとする……そう言えば……

 

「……ねぇ、レコン?」

 

「……何?リーファちゃん?」

 

私はキッチンでお茶を用意しながら気になった事を聞いてみる。

 

「あんた今日……いや。もう昨日ね。ボス戦参加してた?私見た覚えないんだけど?」

 

「……実を言うと前からアルゴさんに内容の確認を頼まれてたクエストがあって……」

 

「……ああ、うん。大体分かったわ。」

 

「……ごめん。」

 

レコンは一応攻略組なのだがボス戦への出席率は悪い。自分の予定を組むのが苦手でもあるらしいけど、そもそも時間には多少ルーズなのだ。……その癖慎重派だったりするからレベル上げしてたせいでボス会議に参加し損ねて仕方無く私がボス戦の開始を告げるメール送ったりしてもボス戦が終わった後に街に帰って来たりなんてこともしばしば……レベル上げしてても肝心のボス戦に来てないなら意味無いでしょうに……

 

「……一応今回のボスに関する情報が出るかもしれなかったから……」

 

「……肝心のボス戦に間に合わなかったから意味無いけどね……ちなみに有力な情報は出たの?」

 

「……ありませんでした、はい……」

 

「……クエスト報酬は?」

 

「……片手剣です……」

 

「……」

 

レコンの使用武器は短剣である。

 

「……そうだ!これリーファちゃんにあげるよ!」

 

「……そう?ちょっと見せて……ごめん。私の剣よりステータス低いから良いわ。」

 

「……そっ、そう……」

 

私の剣もクエスト報酬なのだがやけにステータスは高い……その分要求スペックもやたら高いので初めは中々装備出来なくてやきもきしたっけ……

 

「……」

 

お茶をテーブルに置く

 

「……ありがとう。それで、何があったの?」

 

「……今日アルゴさんとサチさんが訪ねてきて「キリトは!?大丈夫なの!?」大丈夫。キリト君には会わせて無いから。」

 

「そうか。良かった……」

 

「……」

 

この自然にキリト君を心配出来るレコンの気質が羨ましい……昔の私は出来てたのかもしれないけど今の私は一杯一杯でどうしても優先順位は攻略が上になる……まあ早く攻略が終わればキリト君を向こうに帰してあげられるし良いのかもしれないけど……

 

「……で、二人は何の用で来たの?」

 

レコンは怒っている……一応レコンには月夜の黒猫団の事は話している。特にサチさんとケイタさんの事を毛嫌いしているのだ。

 

「……それがね……」

 

私は月夜の黒猫団の真実を話した……

 

 

 

「……そんな話ってあるかよ……!」

 

レコンは第一声からそう吐き捨てた。

 

「……」

 

「……リーファちゃん……まさかサチさんを許した訳じゃないよね……?」

 

「……それは無いよ。私は今でもサチさんが許せない……!」

 

理由が何であれ彼女がキリト君を拒絶したのは事実なんだから。

 

「……彼女を巡る愛憎が全ての原因か。……僕はサチさんが今回の話で被害者面しているのが一番気に食わないな。」

 

「……」

 

「……彼女は多分ケイタさんの気持ちに気付いていた筈だ。なのにケイタさんが暴走するまで何もしなかったのは彼女の責任だよ……少なくともリーファちゃんのせいじゃない。」

 

「…!そっか、そうだね……」

 

私の懸念事項については話してないのに……レコンは正確に当てて来た……こういう所が彼を恋愛対象に見れない一因だ……彼は察しが良すぎる……!何時も彼に負けた気がしてしまう……!……でも……

 

「……正直に言うと気にしてたんだ。ありがとう、レコン。おかげで少し気が楽になったよ。」

 

「……そう?それなら良かったよ……時間も遅いしそろそろ帰るね……」

 

「……待って。今から帰っても朝になるよ?どうせ明日は休みにする予定でしょう?」

 

「……まあ二徹目だしね……」

 

「……なら……泊まっていきなよ。」

 

「……へ!?いやいやそんな訳には……」

 

「……何?レコンは私を「リーファちゃん」ごめん。」

 

「……正直言うとね、まだ少し心細いんだ……」

 

私は自分の身体を抱く。……まだ震えが治まってない……

 

「……そういう事か、分かった。今日は泊まってくよ。」

 

ストレージから寝袋を出すレコン……は?

 

「……ちょっと待って。ここで寝る気?」

 

「……そうだけど?だって空いてる部屋無いでしょ?」

 

「……」

 

このホームに来客用の空き部屋は無い。キリト君と私が使ってる寝室しか無い。

 

「……部屋に来て。」

 

「……え!?いやそれはさすがに「……」分かったよ。」

 

来客用の部屋が無いからってこんな所にレコンを寝かせる気にはならない。

 

「……襲わないでよ?」

 

「……それならもう少しムードのある時を狙うよ。」

 

「……何かカッコイイこと言おうとしてるみたいだけど似合わない。」

 

「……そっ、そう……」

 

凹んでその場を動かないレコンの手を掴み、引きずって私は寝室に向かった。



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偽黒の剣士27

自分から部屋に引っ張って来といて何だけど……実際レコンが手を出して来たら私は間違いなく抵抗していた。……そもそもすぐそばにキリト君もいるんだから尚更である。……だからってさ……

 

「……何であんたは結局ベッドの下に寝袋置いて寝てる訳?」

 

「……いやいや。僕もさすがに同じベッドに寝る勇気無いって。」

 

現在昼過ぎ。私が目を覚ましてキリト君とレコンを起こそうとしたら同じベッドに寝た筈のレコンの姿が無い。

部屋の中を探してたらベッドの下からこのバカが這い出して来てベッドから背を向けていた私に声をかけた。……驚いた私は振り向きざまに剣を振り回した。……連続ノックバックに襲われたレコンは起きてそうそう気絶……圏内じゃなかったらどうなってたか……

 

「……ごめんって。」

 

「……もう良いよ。」

 

一々この程度のポカでレコンを怒ってたらキリがない。……リアルより付き合いが長くなったせいか何か私、レコンに甘くなった気がする……

 

「……お昼ご飯食べてくでしょ?今用意するから……」

 

「……ありがとう。じゃあキリトと待ってるね。」

 

 

 

「……うん。やっぱりリーファちゃんのご飯は美味しいなぁ……」

 

「……料理スキルが高ければ誰でもこんな感じになるけど?」

 

「……いやいややっぱりリアルと遜色ない味が出てるなって「私、リアルであんたに食事作った事あったっけ?」……」

 

レコンとキリト君は仲が良いしレコンが家に来た事もあるけど少なくともレコンはご飯を作らないといけないくらい遅い時間まで私の家にいた事は無い。

 

「……そっ、そうだ……今日はどうするの?ボス戦の反省会でも「あんた昨日のボス戦不参加じゃない」……」

 

何か暗い雰囲気を醸し出し始めたが私は間違った事は言ってない。……レコンが勝手に自滅してるだけ。

 

「……私は今日も攻略。」

 

「……じゃ、じゃあ僕も行くよ。」

 

「……まあ別に良いけど。」

 

……ガッツポーズは見えない所でやって欲しい。

 

 

 

「行ってらっしゃ~い!」

 

キリト君に見送られて家を出る。心苦しいけどキリト君を連れていくわけにもいかない。

 

 

 

「……リーファちゃん、連携取らなきゃ意味無いよ……」

 

「……文句あるなら帰ったら?」

 

「……ごめん。」

 

アスナさんに言われた事を思い出しつい、レコンに八つ当たり。

 

「……リーファちゃん、そろそろ休憩しようよ。」

 

「……何?もうへばったの?」

 

「……適度に休み入れないと続かなくなるよ?」

 

「……分かったわよ。」

 

私はその場に座る……レコンも隣に座った。



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偽黒の剣士28

「ねぇ、リーファちゃん?」

 

「……何よ…」

 

私は閉じていた目を開く…寝ていたわけでは無い。向こうでもやっていた瞑想のつもりだった…でもこっちではあんまり上手く出来ない…まあ上手くいかないからって急に話しかけられて中断させられれば腹も立つわけで…。

 

「…うっ…ごめん、邪魔して…。」

 

「…良いよ…で、何?」

 

話が進まないのでさっさと流す。わざわざ話しかけたんだから何か用なんでしょ?早く言って。

 

「…キリトの事…このままで良いの…?」

 

「……どういう意味?」

 

「…だからこのまま攻略組の誰にも言わなくていいのかって事。リーファちゃんも気づいてるでしょ?だんだんキリトへのヘイトが溜まっていってるの。」

 

「…まあね…」

 

今の攻略組は攻略に出ないビーター、キリト君への悪評がどんどん高まりつつある。…こっちの気も知らないで…!

 

「せめて出られない理由を伝えないと…。」

 

「誰に?アスナさんは論外。他の人はアスナさんを止める発言力が無い。ヒースクリフさんは攻略にしか興味が無い。」

 

「…アスナさんしかいないでしょ「今のアスナさんならキリト君を無理矢理攻略に参加させかねない。そんなの許す訳にはいかない。」…そうかもしれないけどこのままだとキリトが悪く言われるだけだよ…。リーファちゃんがスタンドプレーを繰り返したりしてどれだけ攻略組から不満を抱かれようとキリトの悪評は消えない。…誰か発言力のある人を味方に付けないと変わらないよ…。」

 

分かってる。私がやってる事は無意味だって…でも…

 

「…大丈夫。キリトは僕が守るよ。…伝えよう、アスナさんに。」

 

「…少し考えさせて。」

 

レコンを信用出来ない訳じゃないけど…アスナさんに関しては…。

 

「決心が決まったら何時でも言って。暫くはメッセージを受けられる状態にしておくから。」

 

いやいやちょっと待って。

 

「何で別行動してる前提なの?一緒に行動してればそんな手間かける必要無いでしょ?」

 

「…!えっ!?一緒にいて良いの!?」

 

「…何か勘違いしてない?攻略をするだけだよ?」

 

「うん!もちろん分かってるよ!」

 

物凄い不安…。まあ一人で行動してるより良いか…正直そろそろ限界を感じてたし…。

 

「…そろそろ再開しよ。夜までにフィールドボスまで行っておきたいから。」

 

「…冗談だよね…?」

 

「何?嫌なら帰って「行きます!行かせてください!」…じゃあさっさと行こう。時間無いから。」

 

……本音としてはアスナさんや攻略組のヘイト管理よりレコンのこのテンションの方が面倒臭いって言ったらレコンはどんな顔するかな…?



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偽黒の剣士29

「…そう。話は分かったわ…そんな怖い顔しなくても大丈夫よ、私はそんな状態のキリト君を攻略に参加させようとは思わないから…」

 

今日、私は早朝からアスナさんにメッセージを飛ばした。内容は簡潔、『今日、私のホームに来てくれませんか?』…これにただホームの場所の地図を載せただけ。

 

……朝の早い時間だし、忙しいだろうから来てくれるかはわからなかったけど送って数分もせずに『行くわ。今からでも良いけど、少し時間置いた方が良い?』…返って来たのには本当に驚いた…私は『今からで大丈夫です』と返した…そして今に至る(キリト君の反応は心配だったけどアスナさんが来てすぐに懐いていたからホッとした。突然抱き着かれたアスナさんは困惑してたけど…)

 

「…もっと早く言って欲しかったなぁ、そんなに私信用無い?」

 

「「……」」

 

「…何でレコン君と二人してジト目向けるの…?」

 

……攻略にばかり邁進してる姿見せられるとキリト君の事を聞いても無理にでも攻略に出すと思ってたからね、この辺はレコンと同意見。

 

「もう少し信用してよ!…取り敢えず他にも言いたい事は色々あるけど、今、私からは一つだけよ…貴女たち三人ともウチに入りなさい。」

 

「…ウチにって…血盟騎士団に入れって事ですか?」

 

「そう「お断りします」…無理強いはしたくないから断っても良いけど…それでどうするのリーファちゃん?」

 

「……何がですか?」

 

「…例えば…貴女が攻略に行ってる間、キリト君はどうしてるの?」

 

アスナさんがさっき眠ったばかりのキリト君をチラッと見てから聞いて来る。

 

「…それ、は…」

 

「この状態のキリト君は連れて歩けない、だから貴女はキリト君をホームに置いて、一人で攻略に行ってるんでしょう?」

 

「……そうです…他にどうしたら良いって言うんですか…!こんな状態のキリト君を任せられる人なんて…!」

 

「人を信用出来ないのは分かるけどそれじゃあ何も解決しないわ。だから私たちの所に来なさい。」

 

「……」

 

 

「大体ね、貴女一人で行動しててもし貴女が死んだらキリト君はどうなるの?」

 

「ずるいです…そんな言い方…」

 

「何とでも言ったら良いわ。そんな状態の貴女たちを放っておけるわけないもの。」

 

「…リーファちゃん、もう諦めようよ…アスナさん、こういう時言ったら聞かないのは分かってるでしょ?」

 

奥歯を噛み締める…本当にずるい。私とそう歳は変わらないように見えるのにどうしてこう、私とアスナさんは違うんだろう…?さっきキリト君に抱き着かれて困惑してたのも僅かな間だけで、すぐに笑顔を向けていたし、そのまま寝かしつけてまで見せた…私とこの人と何が違うの…?

 

「…分かりました。宜しく御願いします…でも良いんですか?勝手に決めて?」

 

「…そもそも今日休みが取れたのも前々から貴女たちを勧誘する様に団長から頼まれていたからなの。だから寧ろ大歓迎よ。」

 

本当にこの人には敵わない…



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偽黒の剣士30

血盟騎士団に入って最初の仕事は何かと思えば…

 

「攻略よ…ちょっと?何処に行こうとしてるの?」

 

「え?だから攻略に…」

 

「一人で行かせるわけないでしょう?レコン君は今日はお休みとして…貴女は私とパーティを組むの。」

 

「……」

 

…実を言うと私はもうソロの時間が長過ぎて…パーティ行動は面倒臭い…比較的長い付き合いのレコンとでさえ一緒に行動したくないのに…

 

「…悪いけど反論は認めないわ。…それとも私はそんなに頼りない?」

 

……ここで頼りないから一人で行かせてください…と言い切れたらどんなに楽か…正直、アスナさんの実力だけを見るなら申し分ないと言える…後は私の気持ちの問題…

 

「…リーファちゃん、もう諦めなよ…キリトは今日は僕が見てるからさ…」

 

「…分かったわよ…それじゃあアスナさん…今日は宜しくお願いします…」

 

私はアスナさんにパーティ申請を送った。

 

 

 

 

「…どうかしら?これでも一人の方が良いって言える?」

 

「……まあ、悪くないんじゃないですか…」

 

満面の笑みで聞いてくるアスナさんにそっぽを向きながらそう答える…アスナさんとパーティを組んで思ったのは…認めるのは癪だけど非常に戦いやすい、という事だ…まさかレコンより私と上手く連携取れるなんて…

 

「先に進みましょう。…次は私が前に出るわね?」

 

「……分かりました…」

 

…何処までも主導権を握られてるのはやっぱり気に入らない…私は自分でも不思議な程アスナさんに反感を抱いていた…

 

 

「…ここで一休みしましょう「私はまだ動けますけど」大丈夫だと思ってても意外と疲れが溜まってるものなの。肝心な所で倒れたら困るじゃない?ほら、休憩休憩…」

 

押し切られて渋々片手剣を背中の鞘に納める…ふぅ…仮想の世界で呼吸が必要なのかは分からないけど無意識にそう吐息が漏れるのを感じた…ハッとして口を押さえアスナさんの方を見ればやはり聞こえていたらしくアスナさんがこっちを見て笑っていた…思わず視線を外す…やっぱりこの人苦手…

 

「あっ、こら…地面に直接座ったら駄目よ。今シート出すから…」

 

仕方無く下げかけていた腰を上げるとアスナさんがビニールシートを取り出した。

 

「普段そんなの持ち歩いてるんですか?」

 

「ふっふっふ…良いでしょ?…以前アルゴさんに教えられて買ったんだけど…実は使うの今日が初めてなの。」

 

そんな彼女の笑顔を見てるのが何となく嫌でつい、視線を逸らして憎まれ口を叩いてしまう…

 

「…別に…本当に汚れるわけじゃないしそのまま座っても問題無いと思いますけど…」

 

「良いの。こういうのは気分の問題なんだから…ほら、こっち座って?」

 

そう言われて私はシートに「そんな端っこじゃなくてもっとこっち来て。」…ハァ…

 

「…はい、これ。」

 

アスナさんの隣に座るとアスナさんが紙に包まれた何かを渡して来た…

 

「…?何ですか?これ…?」

 

「何ってお昼ご飯。…どうせ何も用意してないんでしょう?」

 

「…ありがとうございます…」

 

包装紙を開き、現れた、間違いなくアスナさんの手作りだろうサンドイッチに齧り付く…えっ!?これって…!?

 

「…どう?美味しい?」

 

「…美味しい…です…!」

 

それは私も食べた事のある味…ここではもう二度と食べる事が無いと思ってた味…!

 

「…アスナさん…料理スキル…今どうなってます?」

 

スキルの詮索はマナー違反…そんな暗黙の了解も忘れて私は思わずそう聞いていた…

 

「聞いて驚きなさい、つい最近コンプリートしたわ。」

 

「……」

 

私も主に外に出れないキリト君の為に料理スキルを上げてるけど…コンプリートなんてまだまだ先…

 

「…言っておくけどリーファちゃん?料理スキルのレベルをMAXにしても、それだけじゃこれは作れないわよ?」

 

「…分かりますよ、何となく…」

 

アスナさんが自慢げにどうやってこれを作ったか…と説明するのを聞き流しながら、私は久々に食べる某チェーン店のそれに良く似たハンバーガーの味を噛み締めていた…

 



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偽黒の剣士31

「ちょっと~!?話聞いて…あっ…ふふふ。」

 

「…何ですか…?」

 

「別に~?何でもな~い。」

 

気付いたらアスナさんが笑顔でこっちを見てた…何なの…一体…?

 

「まだあるけど食べ「食べます」はい、どうぞ~。」

 

 

 

「ご馳走様でした。」

 

「はい。お粗末さまでした~。」

「…何で…そんなに楽しそうなんですか…?」

 

アスナさんは私が食べる姿を見てずっと笑っていた…そんなに私の食べ方、可笑しいの…?

 

「それはね~…食べてる間、リーファちゃんがずっと笑顔だったからかな~。」

 

「……」

 

私が笑っていた…?

 

「ねぇ、リーファちゃん?」

 

「…何ですか?」

 

「また…こうやって外でご飯食べましょ「そんな暇は」…そうやって意地張ってたら何時か潰れちゃうわよ?」

 

「…貴女に言われたくないです…貴女だってずっと一人で意地張って攻略に勤しんでいたじゃないですか…!」

 

「…うん、そうだね…そうだった…」

 

笑っているアスナさん…どうして!?何でこの人はそんな風に笑っていられるの!?…自分の中の黒い物をぶちまけそうになるのを必死で抑えようとしたけど…出来なかった…

 

「分かってますか?私たちは多分現実では病院のベッドの上で眠ってる状態です…こうやってここでは元気でいられてますけど、現実の肉体は段々衰弱してる筈です…!」

 

運動もろくにせず所か…そもそも食事も取っておらず…栄養は点滴だけ…こんなんで身体が保つ筈無い…!

 

「もうすぐ…あの忌まわしき日から二年が経過します…貴女は二年も寝たきりだった身体が…普通に日常生活に復帰できると本気で思っているんですか!?…そもそも私たちが生きていられるとでも!?」

 

「…そうだね…もちろん分かってる…きっと私たちに残された時間は少ない…」

 

「なら!何で貴女はそんな風に笑っていられるんですか!?焦ってくださいもっと!…まあでも、そうですね!別に貴女はそれでいいのかもしれません。この世界に楽しみを見付けた…希望を持った…貴女はそれでいいのかも…しれません…でも!私は駄目なんです!」

 

「リーファちゃん…」

 

「私は!早くキリト君を現実の世界に帰してあげたいんです!…この世界…で…遊んでる暇なんて…無いんです…!」

 

「リーファちゃん…もう良いから…」

 

「アスナさん…貴女は…諦めてしまったんですか…?なら…もう好きにすれば良い…私を巻き込まないで…!私は…カズ君を現実に帰すために戦い続ける…!…潰れてしまう?…それでも良いです!私は…!カズ君さえ帰してあげられるなら自分の事なんてどうだって「リーファちゃん!」っ!何するんですか!?」

 

私はアスナさんにひっぱたかれた…何のつもりなの!?

 

「キリト君が向こうに帰れて!でも貴女はいなくて!それでキリト君が悲しまないと思ってるの!?」

 

「っ!だったら…だったらどうすれば良いって言うんですか!?キリト君は戦えない!だったら私が戦うしかないじゃないですか…もし…今もキリト君が戦えていたなら…私たち二人で帰る事も出来たかも知れません…!でもキリト君は戦えなくなった…!私が…頑張るしか…ないじゃないですか…!」

 

「リーファちゃん…」

 

「私は弱い…キリト君みたいにはなれないんです…!だから…私は「もう良いから…!一人で…頑張らなくて…良いから…!」…何を…?」

 

私はアスナさんに抱き締められていた…

 

「ずっと…辛かったんだよね…?…一人で…頑張って来て「私は…辛くなんて…」なら、どうしてリーファちゃんは泣いてるの…?」

 

そう言われて私は自分の顔に手をやって、漸く自分が泣いている事に気付いた…

 

「…この世界ではね、感情を隠す事が出来ないんだって。…ねぇ、リーファちゃん?」

 

「なん…ですか…」

 

「…貴女はこの世界が嫌いなのかもしれない…でも、この世界にも良い所はたくさんある…一緒に探しましょ?」

 

「…私に…そんな暇は…」

 

「一人で抱え込まないで。攻略も一緒に頑張るの。…一人で無理なら二人で…二人で無理だったら皆で…一人じゃなきゃ…きっと出来るよ。」

 

私は…良いの…?もう一人で頑張らなくて…甘えても良いの…?

 

「アスナさん…こんな私でも…力を…貸してくれますか…?」

 

アスナさんが私から離れ私の前に手を差し出す。

 

「はい、喜んで。」

 

差し出された手を握る…暖かい…こんなまやかしの様な世界でも…人の体温はちゃんとそこにある…アスナさんも私もここにいる…私はこの世界に生きている…そんな事も私は忘れていた…本当に余裕が無かったんだな~私…私はアスナさんのとても綺麗な笑顔を見ながらそう考えていた。



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偽黒の剣士32

「…それでよ…ん!?わっ、悪ぃ、リーファ…見なかった事にするから「クラインさん?わざとらしい事しなくてもわかってますよ?本当はもっと前から居ましたよね?」……」

 

アスナさんの方を見たままやって来たクラインさんにそう声をかける…顔を出しづらかったのは分かるけど、だからってずっと覗いてたのは許せない。

 

「…悪ぃ「謝罪は良いんで答えてください…何時から…そこに…?」その…オメェが…飯食って笑ってた時から…」

 

「ほとんど最初からじゃないですか!?」

 

嘘でしょ!?そんな前から隠れてるくらいならちゃんと言ってよ!?…確かにそこで声をかけて来たらアスナさんとまともに話も出来なかったかもしれないけど…うん、これは…駄目だね…有罪…ギルティ。

 

「殺る?リーファちゃん?」

 

「…物騒ですよ?アスナさん…でも、同感です。…という訳で…そこを動かないでくださいね?風林火山の皆さん?」

 

アスナさんの手を離すと逃げようとしていた風林火山の面々を抜いて先回りする…逃がすわけない。

 

「おっ、おい!?待てよ、リーファ!?マジで俺たちを殺す気なのか…!?」

 

「大丈夫です。ここは安全地帯圏内…ノックバックはしてもHPは減らないし、モンスターはPOPしない。…そして私の索敵スキルで見る限り他のプレイヤーも居ない…それじゃあ始めましょうか、クラインさん?」

 

「なっ、何が大丈夫なんだ!?謝るから勘弁してくれ!?」

 

「ダメです。」

 

…後にクラインさんたちの上げた野太い悲鳴が迷宮区の怪奇話として語られている事をアルゴさんに聞くのだが…まあ、これはどうでもいいね…

 

 

 

 

「……」

 

「ほら、寝たフリしてないで起きて下さいクラインさん。」

 

「…イテッ!?リーファオメェ散々人ボコボコにしといて更に蹴り入れ「痛みは無いから問題無いじゃないですか。…それとも仮にも攻略組がノックバック程度でどうにかなるとでも?」クソッ…!覚え「何か言いました?」いやっ!?何でもねぇよ!?」

 

……一応聞こえてるんだけどね?クラインさんには一応、い・ち・お・う少しはお世話になってるから不問にしようかな?…そうでなくてもアスナさんと散々攻撃したしね…

 

「…なぁリーファ?」

 

「何ですか?」

 

「…いや、何でもねぇよ。」

 

「何ですかそれ?」

 

もう…人の顔見てそんなに声上げて笑わないでよ…もう一回斬ろうかな?

 

「皆!軍よ!」

 

アスナさんがそう叫んだのが聞こえた…取り敢えず道は開けたけど…軍?…しばらく首を傾げてるとクラインさんが耳打ちしてくれた。

 

「忘れたのかリーファ?…アインクラッド解放軍だよ…覚えてねぇか?」

 

「…あっ!」

 

クラインさんにそう聞かされ漸く思い出した。

 

嘗て…あのキバオウさんが作ったギルド、アインクラッド解放隊…二十五層で壊滅寸前まで行った後、一層に存在する情報ギルドMTDを吸収し大規模ギルドとなった…でも…何で今更迷宮区に?もうずっと一層を拠点にこの世界の治安維持しかやってないって聞いたけど…

 

軈て鎧を着込んだ物々しい集団が見えて来た…

 

 

 

「全員一旦休め!」

 

リーダーの人らしき人の号令で他の人たちが座り…いや、ほとんど皆倒れ込んでるね…どんな無茶したらこうなるの?…私も人の事言えないけどさ…

 

「…この隊の隊長を務める中佐のコーバッツだ。」

 

中佐…本当に軍なんだね…

 

「血盟騎士団副団長のアスナよ。」

 

…歳上の大人にも怯まず堂々と自己紹介をするアスナさんに感心しているとコーバッツさんの視線がこちらを向いた…いや、私の自己紹介要る?…自分で言うのも何だけど…割と有名だと思うんだけど?…大体何でクラインさんの方を全然見ないの?この人だって小規模だけど精鋭ギルド、風林火山のリーダーだよ?

 

…あーもう…しょうがないなぁ…ついつい完全に自分の物になってしまった二つ名、黒の剣士を口に出しそうになってしまった…これ、一応キリト君の為に考えたのになぁ…

 

「…同じく血盟騎士団のリーファ…別に役職はありませんよ?平です。」

 

「…風林火山のリーダー、クラインだ。」

 

自分の方を見ないコーバッツさんにあからさまにイラつきながらそう自己紹介するクラインさん…いやいや…遅いよ?…それなら私が自己紹介する前に言って欲しかった…そしたら多分、私は自己紹介しないで済んだはず…

 

「貴殿らはこの先の攻略を終えているのか?」

 

そう考える私を他所にコーバッツさんは話を続けて来る…

 

「いえ。今は休憩中よ。」

 

「…ならば後は我々に任せて帰るといい、ああ、一応ここまでのマップデータを提供願いたい。」

 

「なっ!?テメェ!マップデータ埋めるのがどれだけ手間か知ってやがんのか!?」

 

「我々は貴様らの為に攻略を進めているのだ!それくらいは当然の義務であろう!」

 

ほとんどコーバッツさんに掴みかかる勢いのクラインさんを止めると私はメニューを開いた。

 

「どうぞ。持って行って下さい…すみませんアスナさん、勝手に決めて…でも街に戻ったら公開する予定ですし良いですよね…?」

 

「私は構わないわ。」

 

「なっ!?良いのかよ!?」

 

「マップデータは平等に開示されるべきものですから…それに、これで攻略が進むなら私も構いません。」

 

「…協力感謝する「あの!」…何だ?」

 

これは言っておかないとね…

 

「…部下の人たちはもう限界です…ここで長めに休みを取るか、一度拠点に戻るべきだと具申します。…多分そろそろボスの部屋も近いでしょうし…」

 

…正直この人たちがボスに勝てるとは思えないけどね…そもそも数人しか居ないし…

 

「なっ!?我が精鋭はこの程度で音を上げたりせん!退け!…何をしてる!?早く立たんか!?」

 

 

 

「大丈夫かよあいつら…」

 

「さっきも言いましたけど…コーバッツさんはともかく部下の人たちは多分もう無理です…最悪、通常のモンスターにすら勝てないかもしれません…」

 

「…しゃあねぇな…俺たちは様子を見てくる…オメェらはどうする…?」

 

……別にあの人たちを助けに行く理由は無い…それに…私はアスナさんの方を見る…今の私は彼女の部下だ。

 

「リーファちゃん?」

 

「…え?」

 

「貴女が決めていいわ。…私は…貴女に付き合うから。」

 

そう言われ少し気が楽になる…そっか…一緒に来てくれるんだ…なら…

 

「行きましょう…放っては置けないです…」

 

助ける義理は無い…でも…見捨てる事だって出来ないから…!



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偽黒の剣士33

「全然見つからないぞ!?もう転移結晶で帰っちまったんじゃねぇか!?」

 

「だったら…!…良いんですけど…!」

 

そもそもこの道を進んだかも分からない…私たちはこの先のマッピングをまだしていないのだ…

 

「一応進める所まで進みましょう!」

 

「すみません…付き合わせて…」

 

「気にしないで、リーファちゃん。わたしは自分で貴女に付き合うって決めたのよ?」

 

「俺は最初から行くつもりだったからな。気にすんな、リーファ…この場合寧ろ、付き合わせたのは俺だろ?」

 

「でも…そもそもこの道が合ってるかどうかなんて…!」

 

「間違ってたらそれはそれで仕方無いわ…でも…私はソロとして長く迷宮区を踏破して来た貴女の勘を信じるつもりよ。」

 

「アスナさんに言われちまったな…俺も同感だぜ。」

 

「そんな…」

 

どうしてそんな、簡単に私の事なんて信じられるの…?…もう!

 

「間違ってても文句言わないでくださいね!?」

 

「問題無いわ!何なら隙間無くマップを埋めましょう!」

 

「趣旨変わってますよ!?そんな暇無いでしょう!?」

 

「俺は気にしないぜ!…後で飯奢ってくれりゃあな!」

 

「歳下にたからないで下さい!もう…!さすがに風林火山メンバー全員はキツいので私が作るでも良いですか!?」

 

「なっ!?オメェが作ってくれんのか!?…おい!オメェらもっと気張れ!」

 

後ろを走っていた風林火山から野太い歓声が…

 

「…物凄く楽しみにしてるみたいだけど…そんなに自信あるの?」

 

「…実はあんまり料理スキルのレベル高くないんですよね、私…」

 

攻略の合間に片手間に上げてるだけだからね…一応…ラグーラビット調理出来るレベルだけど…偶に失敗するし…

 

「…手伝いましょうか?」

 

「是非お願いします…!」

 

背に腹はかえられないかな…

 

「正直言うと…ストックしてる食材の量も余り…」

 

「…変な物出すと暴れるかもよ、あの人達…」

 

「いっそ…麻痺毒盛って大人しくさせるとか…」

 

「うおーい!?聞こえてっからな!?大丈夫だって!俺らもよっぽど不味いモンじゃ無きゃ文句言わねぇって!」

 

「…不味い前提で話されるのもそれはそれで何かムカつきますね…!」

 

これでも現実世界でなら割と自信あるんだけど…!…ってあれ!?

 

「あの扉…!」

 

「…多分…ボスの部屋よ!」

 

「やっぱオメェを信じて良かったぜ!」

 

うっそー!?まさか本当に辿り着けるなんて…「うわあああ!?」悲鳴!?

 

「アスナさん、クラインさん…!」

 

「「何(だ)!?」」

 

先頭を走る私には見えていた…立ちはだかるモンスターの群れが…私は方向転換して壁に向かって走り、跳び着いた。

 

「すみません、先に行きます…後、頼みますね?」

 

二人の返事を聞かずに壁を走るスピードを上げ、モンスターの群れと無理矢理すれ違う…着いた!

 

私は半開きになっていた扉を押し開けた。



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偽黒の剣士34

ボスの部屋に踏み込むと羊の頭をして大剣を装備した文字通り悪魔としか言えない化け物が軍の人たちを壁際に追い込んで居るのが見えた。

 

「何してるんですか!?早く転移結晶を使って下さい!」

 

結晶は基本的に街の道具屋では売られておらず、迷宮区や、攻略に関係無いダンジョンの宝箱にしか入っておらずプレイヤー間で超高額で取引されるアイテムだけど…この状況で使わないのは有り得ない…まさか持ってないとかじゃないよね…?最悪私の手持ちを渡しても良いけど…

 

「駄目だ!結晶が使えない!」

 

「使えない!?」

 

結晶が使えないなんてそんな筈…!…いや、アルゴさんから聞いた事がある…閉じ込め系のトラップ部屋は結晶無効化空間になっている事があるって…でもまさかボスの部屋で設定するなんて…!

 

「撤退は認めない!最後の一人まで戦うのだ!」

 

「何を!?」

 

コーバッツさんがそう叫ぶ…有り得ない…!この状況…もう撤退以外の選択肢は無い!…あっ、不味い!

 

「させない!」

 

コーバッツさんをその場に無理矢理伏せさせ、ボス、グリームアイズの振るう大剣を躱した。

 

「貴様!何の真似だ!誰が助けてくれと「黙りなさい!」何だと!?」

 

「貴方は何を考えてるんですか!?今、貴方の采配ミスで部下の方々は全滅しようとしているんですよ!?この上、貴方が死んだらあの人達はどうすれば良いんですか!?」

 

「貴様!我々が負けると言うのか!?…何処へ行く!?」

 

私はストレージから予備の店売りの剣を出すとグリームアイズに投げ付けた。

 

「来なさい!私が相手よ!」

 

私一人でこいつは倒せない!でも、せめてここにいる人達が逃げる時間を稼げたら…!

 

「何してるの!」

 

後ろからアスナさんの声が聞こえたと思ったら急に身体が引っ張られ…くっ、首が締ま…!イタッ!いきなり放り投げられて私は尻もちを着いた。

 

「…ケホッ…ヒドイじゃないですか、アスナさん「一人で無茶する子にはこれぐらいしないと駄目でしょう?」いや、だって私が一番早いですし…それにあそこでモンスターに構ってたらあの人達全員死んじゃってたかもしれないから…」

 

ここは結晶無効化空間…良く見れば部下の人が一人足りない…てっきり脱出したと思ってたけど…つまりはそういう事…もう少し私が来るのが早かったらあの人は死なずに済んだ…せめて、残りの人だけでも…!

 

「言ったでしょう?一人で出来ない事は二人で…二人で無理なら皆で。…あいつを抑えるのは貴女一人じゃ無理よ。」

 

「そういうこった。せめて三人で当たろうぜ。」

 

「…ありがとうございます。」

 

風林火山の人達が軍の人達を出口に誘導するのを横目に見る…あと少しアイツを抑えれば脱出出来る…!私はもう一度予備の剣を投げた。

 

「余所見しないでね。貴方の相手は私たちよ!」



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偽黒の剣士35

私のやって来た事は無駄だったの…?

そう思える程私のやり方は通用しなかった…ソロである間、私はずっと自分の剣を振って来た…ただ我武者羅に。…その結果が…これ…

 

「リーファちゃん!ソードスキルを使って一度離れて!」

 

「…ごめんなさい…アスナさん…使え、ないです…!」

 

私の攻撃はボスにほとんどダメージを与えられていなかった…指摘されては、いた…この世界ではソードスキルが使えなくては不利…所か、そもそもまともなダメージを与えられないだろうと…手数を増やせば…イけると思ってた…ソードスキルを使った時の技後硬直がソロでは致命的な隙である事も相まって思ってしまったのだ…斬り続ければ同等のダメージを与えられるって…使おうと思えば多少なりとも使えてしまったのもいけなかった…

 

「どうやったら…!どうやったらこんな…!ギリギリの状況でソードスキルを当てられるっていうんですか!?」

 

今までやらなかったツケが回って来た…言ってしまえばそれだけ…心が折れそうになる…でも!

 

「アスナさん…クラインさん…私は…下がりません!このままアイツの注意を引き付けます!援護を…!」

 

この世界ではただ手数を増やせるだけでは勝てないかもしれない…でも、私が倒せなくても仲間がいるなら!

 

「駄目!?リーファちゃん下がって!?」

 

「ハアアアッ!」

 

私はボスの正面を陣取り、剣で何度も斬り付ける…これならアスナさん達は側面から攻撃出来る筈…!大丈夫…!正直ギリギリだけど私はアイツの攻撃に対応出来てる…!後はこのまま…!

 

「ええい!離さんか!?」

 

「あっ!おい!?そっちに行くな!戻れ!」

 

その時私に割り込む様に攻撃を始めた人がいた…!

 

「コーバッツさん!?何やってるんですか!?下がって「喧しい!私は逃げんぞ!そこを退け!我々は攻略に戻らねばならんのだ!」この期に及んで何を!?」

 

割り込んだコーバッツさんが私を無理矢理押し退けて…いけない!

 

「ぬおおおお!?」

 

「駄目!」

 

均衡が崩れた為に自由になったボスがコーバッツさんに剣を振り下ろす!

 

「貴様!?何を…!?」

 

「逃げて…!逃げて下さい!」

 

無理矢理割り込み剣で受け止め…!駄目!アレはソードスキル!このまま受け止めたら…!でも!

 

「リーファ!無理だ!逃げろ!」

 

「出来ません!」

 

見捨てる事なんて出来ない!もし私がこの人を見捨てたら…それは私が彼を殺したも同然になってしまう…そんなの絶対に嫌!

 

「貴様何をやっている!さっさと「嫌です!」馬鹿者が…!」

 

馬鹿でも何でも良い!私は見捨てない!気付けばボスの振った剣は既に目の前にまで迫っていた…私は思わず目を閉じ…

 

「リーファ姉ちゃん!」

 

聞き覚えのある声が聞こえ目を開けると私の目の前には黒いコートを来た小柄な背中があった…嘘…何で…?

 

「オオオオ!」

 

その少年は剣に光を纏わせボスの剣を弾いた。

 

「その人を連れて早く下がって!」

 

「分かった!」

 

喚くコーバッツさんの手を引いて走りながら私は涙を流していた…帰って来た…!帰って来たんだ…!

 

「おかえり…おかえりキリト君…!」

 

私がそう呟くと…

 

「…ただいま、リーファ姉ちゃん。」

 

背後からそう声が返って来た。



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偽黒の剣士36

ボス部屋の入口辺りで待ってくれている風林火山の人の所まで向かう…

 

「離せ!?我々は攻略に「実力が伴って無いんです。大人しくしてて下さい。」貴様!我々が足手まといだと!?」

 

……この人、言わなきゃ分からないのかな?

 

「そうです。…でも足手まといになってるのは貴方のせいですよ?」

 

「何だと!?」

 

「貴方が部隊の隊長として未熟だった…だから、犠牲が出たんです。」

 

「大義の為に犠牲は「貴方の言う大義がどれ程立派な事か知りませんけど…人の死を尊い犠牲なんて言葉で私は片付けたくない。」貴様に何が分かる!?」

 

「分かりません…分かりたくもない…!人の死を言葉で飾って…!人が死んでるんですよ!?どうして…どうして…!それが当然だと…そんな風に言えるんですか!?」

 

「煩い!私は「いい加減にしろよ、オッサン!何時まで年下に迷惑かけるつもりなんだ?…さっさとこっちに来い!」何だ貴様!?離さんか!?」

 

何時の間にかさっき見えた風林火山の人がこちらまで来ていた…名前何て言ったっけ?…思い出せない…

 

「リーファ。」

 

「…えと、何ですか?」

 

突然声をかけられて思わずしどろもどろになりながら答える。…と言うか片手で大柄の上にフル装備のコーバッツさんを…もしかしてこの人結構強い…?

 

「お前の言った言葉、俺にも届いたよ。俺たちも麻痺しちまってた…人の死を当然の物として…こんな世界だから仕方ないって思っちまってた…でも、それじゃいけなかったんだよな…お前がこのオッサンを守ろうとした時も思っちまってたんだ…そんな奴もう放っておけってさ…。」

 

「この世界では命は確かに軽いのかも知れません…でも、私はそれじゃいけないって思うんです…HPがゼロになった瞬間にその人はこの世界から消える…遺体も残らない…だけど、確かにその人はそこにいたんです…忘れちゃ…いけないんです…絶対に…!」

 

ラフコフは潰すと決めてる…もうそのために手を下す覚悟もしてる…だけど、だからって命に関して簡単に考えるようにはなりたくない…それじゃああの人たちと私は何も変わらない…そんなの私は嫌。

 

「それで良い。正しいのは絶対にお前だ…だからこそもうちょっと周りを見ろよ、人が死ぬのはいけなくて自分は死んでもいいって事にはならないだろ?…そもそもお前はまだ子供で俺たちは大人だ…レベル差が全てと言われるこんな状況だからって見くびんなよ、俺たちを。」

 

……私は今まで何を勘違いしていたんだろう…?

 

「…ありがとう、ございます…え~っと…」

 

……どうしよう?本当にこの人の名前が分からない…

 

「…ハハハ。別に良いぜ?俺の名前なんて覚えなくたって。」

 

「えっ?でも「良いから気にすんな。ほら、早く行ってこいよ。…このオッサンは俺が連れてくからよ。」はい…それじゃあ、行ってきます!」

 

「おう。ぶちかまして来い!」



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偽黒の剣士37

身を翻し、キリトの君の所まで走る…さっきは彼が戻って来た嬉しさで忘れてたけど…キリト君はずっと攻略に参加していなかった。命がかかってるこの世界でブランクというのはやはり大きい…それに、単純にレベルだって足りてない…最も、普段から絶えず安全マージンをすっ飛ばす勢いで攻略+レベリングに私とキリト君は勤しんでいたから、今のこの層でもギリギリ戦えるレベルではある筈だけど…

 

「キリト!スイッチだ!」

 

「了解!」

 

……良かった、何とかなりそう…この場には私以外にアスナさんとクラインさんがいる…二人のフォローがあればキリト君もあまり無茶しないです、む…?そこで私は気付いた。

 

「…レコン…?」

 

そもそもキリト君の事は今日はレコンに任せて来たはず…何でキリト君だけこの場にやって来たの…?一度足を止め、そう考えていると私の横に誰かが立った。

 

「…ごめん、リーファちゃん…遅くなって「それより何でキリト君がここにいるの?」それなんだけど…」

 

何時の間にか私の横に来ていたレコンを問い質す事にした。アスナさんやクラインさんだけにキリト君のフォローを任せる訳にはいかないけど、あの状態だったキリト君がどうして戻れたのか聞いてはおかないとね…取り敢えず三人の様子を見つつレコンの話を聞く事にした。

 

「…今朝リーファちゃんたちが出発した後にね、ホームにお客さんが来たんだ…」

 

「…お客さん?」

 

私のホームの場所を現在把握している知り合いはレコンとアスナさんとアルゴさん。それに…サチさんだけ。

 

「…サチさんが来たんだ「まさか…中に入れたの!?どうして!?」僕だって嫌だったさ…!帰ってもらおうとしたら、キリトが、言ったんだ。サチさんと話したいって…僕に…止められる訳無いじゃないか…!」

 

「ふざけないでよ!招かれざる客を通さないのが今回のアンタの役目でしょうが!」

 

「……サチさんを許すつもりは無いよ。でも…あの通りサチさんと二人で話しただけであの通りキリトは元に戻った…僕とリーファちゃんには出来無い事をあの人はやったんだ…!文句なんて言えやしない!」

 

歯を噛み締める…!何時もそう…!どうして私はキリト君に何もしてあげられないの!?

 

「キリトから伝言があるんだ『今までありがとう姉ちゃん』…だってさ。」

 

「何よ、それ…!まるで別れの言葉みたいな「事実、そうなんだろうね」……どういう事?」

 

「キリトはさ、血盟騎士団を抜けて今はサチさんしか残ってない月夜の黒猫団にまた入るつもりなんだってさ……本当は口止めされてたけど僕も黙ってるなんて出来ないから、さ…」

 

「それってまさか「キリトはリーファちゃんのホームを出て月夜の黒猫団のホームにサチさんと住むんだって…これからはそこから攻略に参加するつもりだって」そんなの…認め、ない…」

 

「リーファちゃん…僕も勝手だと思うよ。でも…キリトが望んだ事だ。」

 

私はその場に膝を着いた…私は今までキリト君の為に頑張って来たつもりだ…でも、そのキリト君から握っていたその手を離されたら…私は…もう…

 

「リーファちゃん…取り敢えず下がってなよ。今はもう戦える様な状態じゃないでしょ?」

 

「……分かった…レコン…悪いけどキリト君の事、お願いして良い…?」

 

「…もちろん。僕にとっても弟みたいな物だからね、任せて。」



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偽黒の剣士38

「リーファちゃん…終わったよ。」

 

レコンの声が聞こえて私は顔を上げた。

 

「そう…」

 

「…リーファちゃんの事はクラインさんにも、アスナさんにも伝えたから怒られる事は無いから。」

 

「…うん…ごめんね、レコン…」

 

「良いよ、気にしないで。」

 

レコンに気を使わせてしまった…いたたまれなくはなったけど今はまだこの場から動く気にもなれない。

 

「大丈夫…なわけ無いよね…。」

 

「…大丈夫よ…今回の件報告しなきゃいけないでしょ?軍の人たちはどうなったの…?」

 

「…リーファちゃんのお陰でコーバッツさんも、部下の人も皆助かったよ…一人、亡くなったけどね…」

 

「キリト君、は…?」

 

「あそこだよ。今、ギルドの脱退についてアスナさんに話してる…」

 

レコンの指差す方を見ればアスナさんと話すキリト君の後ろ姿が見えた…アスナさんが険しい顔をしてる…

 

「…あんまり話が纏まってないみたいだね…」

 

「そりゃあね…キリトは自分から入った訳じゃない事を考慮するにしても、血盟騎士団クラスの大型ギルドからはそう簡単には脱退出来無いと思うよ。そもそも、副団長とは言ってもアスナさんに人事の決定権無いらしいし。…それに、アスナさんはリーファちゃんの事を考えてくれているみたいだから…」

 

「そっか…」

 

私は何処か他人事みたいな感じでレコンの話を聞いていた…

 

「…取り敢えずホームまで送ってくよ。」

 

「えっ、でも「アスナさんからは許可取ってるよ。報告ならアスナさんと、クラインさん…それに僕がいるから問題無いよ。リーファちゃんは今日はもう休んだ方が良いよ…明日、ホームに行くから。」……分かった。」

 

レコンの手を借り立ち上がる…そのまま動こうとしない私の手をレコンが引いて行く…途中で後ろを向いてアスナさんと話すキリト君の後ろ姿を私は目に焼き付けた…

 

 

 

 

「…着いたよ、リーファちゃん。」

 

そう言われて顔を上げると私のホームの前…何時の間に…ボスの部屋を出て、転移結晶の光に包まれたのは覚えてるけど…そこから先の記憶が無い。

 

レコンに促されるままドアを開け、レコンに手を引かれながら中に入る…椅子に腰掛けさせられた。

 

「…ふぅ。それじゃあ僕は帰る「待って!」どうしたの?」

 

帰ると言ったレコンの手を私は掴んだ。

 

「…レコン。」

 

「何?」

 

「…え…な…で。」

 

「え?」

 

「帰ら…ないで…お願い…だから…」

 

「リーファちゃん…そういう訳には「お願い…私を…一人にしないで…」…分かった…今日は泊まっていくよ。」

 

私、こんなに弱かったんだ…

 

「取り敢えずお茶でも「良いよ…もう休みたい…」そっか。なら「……」ッ…どうしたの?」

 

メニューを出し、操作を始めるレコンの手を掴む。

 

「一緒に寝よう…?」

 

「えっ…?でも「良いよ…今はキリト君もいないし。」…そっ、それってまさか…!」

 

私は自分のメニューを可視状態にして出し目的の項目を見せる…使う事は無いと思ってた項目…アルゴさんに詳細を教えられた時は思わず叫んじゃったっけ…

 

「知ってるよね?これ「倫理コード…」…アンタだってずっと我慢してたんでしょ…?」

 

「……リーファちゃん。僕だってこんな時に「こんな時だから、よ…」…でも「それとも私とじゃ嫌?」いっ、嫌な訳ないじゃないか!僕はずっと待ってた…でも…!」

 

「お願い…私、もう生きてる実感が無いの…だから…!」

 

自覚はある…私はレコンに残酷な事を言ってる…私は理由が欲しいだけ…キリト君が離れて行こうとしてる今、私には攻略に向かう理由が無くなってしまった…この世界で生きる理由が…

 

「…リーファちゃん…僕は「レコン…アンタじゃなくても良いんだよ?」何を言って…!」

 

「今の私を満たしてくれるなら誰でも良いの。アンタを誘ってるのはアンタが私を想ってくれて、単に付き合いが長いからって言うだけなの。だからアンタがしないなら他を当たるだけ。」

 

「何だよ、それ…!「ごめんね…でも私」…分かったよ「え?」」

 

「リーファちゃんを他の男になんか渡してたまるもんか!」

 

そう言って私の手を掴むとレコンは私を寝室まで引っ張って行った。



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偽黒の剣士39

「おはよう。」

 

「…う…うん…おはよう…」

 

ハァ…

 

「あのね、何でアンタの方がやっちゃったみたいな顔してるの?」

 

「う…だっ、だって…」

 

「…アンタがそんなんだとこっちが情けなくなるわ。」

 

「え?」

 

「私はね、アンタで良かったと思ってるの。あんな風に言ったけど本当は他の人じゃ嫌だった…」

 

「じゃあもしかして…!」

 

「勘違いしないで。結局知り合いの中ではアンタが一番マシだったってだけ…赤の他人なら私だって嫌よ。」

 

「……「でもね」え?」

 

「アンタを選んだのは間違いじゃ無かった…私はそう思いたいの。…アンタに出来る?私にそう思わせる事が?」

 

「…うん!僕頑張るよ!」

 

「あっそ。」

 

私はメニューを出し、さっさと装備を整え、ベッドから出る。

 

「え…それだけ…?」

 

「アンタね、たった一晩しただけで何を期待してるの?私にはまだアンタは精々友だちだとしか思えない。」

 

「そんな…!ただの友だちがこんな事するわけ「ある意味便利な世界だよね…何回シても妊娠はしないし、実際の身体は処女のまま…快楽に溺れるプレイヤーが何人もいるって聞いたけどそりゃそうよね…仮に向こうに戻れたらチャラに出来る…本当に戻れるかは別だけと」な…!」

 

「ごめん、怒った?でもね、私はアンタを恋愛対象に見てないんだ…あっちにいた時からもちろん、こっちに来てからも今日までずっとね。」

 

「…僕の何がいけないの?」

 

まだ冷静。本気で怒るかと思ったけど結構沸点高い方なんだ。

 

「そもそも私がアンタを嫌いな理由はキリト君と仲が良いからかな。」

 

「え?何言ってるのさ、それなら姉のリーファちゃんの方が「性別の違いって色々大きいんだよ?お陰でやっぱり距離を置かれてるのは確かだし」でも、それは…」

 

「うん。それはアンタのせいじゃないよね…分かっててもさ、私はどうしてもアンタに嫉妬しちゃうんだ。」

 

今までリアルはもちろんの事、こっちでもレコンに言えなかった事がスラスラと出て来る…こんな気持ちになるのは今だけかな…なら、全部言っちゃおう。

 

「私はずっとキリト君を見て来た…姉として、家族として…でもやっぱり性別が違う以上距離を置かれちゃうの。…言っておくけどキリト君に恋愛感情がある訳じゃないわ。でも、アンタとキリト君が本当の兄弟の様に見える度、思うの…私はどうしてアンタの様にキリト君の力になれないのかってね…!」

 

「リーファちゃん…」

 

「この世界に来て!アンタと再会して以来!キリト君は私よりもアンタに頼る場面が多い気がするの…私じゃキリト君を助けられないって言われてるみたいでどうしてもアンタがムカつくの…!」

 

「……」

 

「でも…キリト君は結局昨夜帰って来なかったからね、お陰でキリト君を通さずアンタを見れた…」

 

「……感想は?」

 

「ん?そうね、アンタがエッチが下手だって事が昨夜分かったかな。」

 

「え…!?マジで…!?」

 

「……いや、本気にしないでよ…私初めてだったからアンタが下手かどうかなんて分かんないって。」

 

「……」

 

「取り敢えず朝ごはん食べない?起きたばかりなのに何故かペコペコなのよ、私。」

 

「…そうしようか。」



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偽黒の剣士40

「キリト君がヒースクリフ団長とデュエル…?何でそんな事に?」

 

朝食をレコンと二人で食べた後、取り敢えず血盟騎士団のギルドホームに向かおうとしたらアスナさんからメッセージが届いた。今からそっちに向かうからホームにいて欲しい、というメッセージに従い、少ししてやって来たアスナさんに言われた事に私は困惑していた。

 

「キリト君はレベル差が多少着いちゃってるけどトッププレイヤーには違いないからね…さすがに入ったばかりでもう出て行きたいなんて勝手はそう簡単には通す訳に行かないのよ。…私個人としても思う所もあるし。」

 

「…私に気を遣わなくても「リーファちゃん、そういう事じゃないの…もちろんそういう思いも無くはないけど…結局は私が気に入らないの。」そうですか…」

 

「サチさんのギルド、月夜の黒猫団に入ったキリト君がどんな目にあったのかも聞いてるから、ね…」

 

「…それは分かりましたけど…結局何でヒースクリフ団長とデュエルする事に?」

 

「悔しいけど…キリト君の意思で入った訳じゃないのも事実だからね…具体的な話はしてないけど色恋沙汰が関わってるのは気付いたのか、団長が言ったのよ『男なら剣で語れ』って。」

 

「それでデュエル、ですか…」

 

現実世界なら、忌避される手段だけど…この世界は意見がぶつかったらデュエルで決めるのが定番になっちゃってるからね…そういう意味では普通の提案…ただ…

 

「攻略組の中でも更に突出した実力者同士の戦いだからね…幹部の人たち…特に会計担当の人が盛り上がっちゃって…既に宣伝も始めてるわ…」

 

「…見世物にしていい物じゃ無い気がしますけど。」

 

「この世界は娯楽はそう多くないから…攻略組は糧にする為、中~下層域のプレイヤーは雲の上の存在である攻略組の実力を垣間見れるチャンスになるから…ごめん…私じゃ、止められなかったわ…」

 

「…まぁキリト君が承諾してるなら私からは何もいいません…ちなみに勝ったらキリト君の脱退が決まるんでしょうけど、キリト君が負けた場合はどうなるんですか?」

 

結果は結果とはいえ、キリト君も万が一負けたら、と思うと受けない可能性は高い…となれば負けても納得の行く条件を設けて貰ってる筈…

 

「…キリト君が負けたらサチさんもウチに入る事になってるのよ「その条件無しに出来ません?」…無理ね…そうでないとキリト君が納得しないから…私としては反対だけど…そもそもね、本当はデュエルする理由も無い筈なのよね…」

 

「何でですか?」

 

「サチさんは元々、ウチに入るつもりだったそうなの…さっきも言った通り、私は反対だけど…それが一番丸く収まる方法だった筈なの…でも、ギルド月夜の黒猫団を残して置きたいサチさんの想いを汲み取ったキリト君がゴネたのよ…で、こうなった訳。」

 

「呆れた話ですね…」

 

本人が承諾してるならそれで良いでしょうに。そもそもたった二人しかいなくて攻略に出られるのはキリト君一人…そんなギルド残してどうするというのか……正直このデュエル自体が茶番に思えて来た…複雑ではあるけど私はキリト君を応援すべきなんだろうね…でも、そんな気にはとてもなれない…

 

「まあ娯楽だと言うなら私も楽しむとしましょうか。どうせ勝敗で賭け事してますよね?私はヒースクリフさんに賭けます。」

 

「リーファちゃん…さすがにそれは「じゃあアンタはレベル差が着いてるキリト君がヒースクリフさんに勝てると思う?」…う~ん…」

 

「何か、変わったわね…リーファちゃん。」

 

「やっと余裕を持てるようになりまして。まあとにかく私は団長に賭けますから「それは当日会場で自分で言って。」えー…」



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堕落したブラウニー1

「衛宮君、また明日ね」

 

「おう。じゃあな」

 

僕はその光景を見て溜息をついた

 

「……盗み見とは感心しないな~慎二」

 

こちらに振り向きニヤニヤしながらそう声をかけてくるアイツ

 

「……そんなんじゃない。たまたま通りがかっただけだ。他意は無いよ」

 

「またまたぁ…それだけじゃないだろ。嫉妬してたんだろ?」

 

相も変わらずニヤニヤしながら近づいて……!

 

「…近い!離れろ!」

 

「つれないな~。ちょっとくらいいいだろ。」

 

奴は更に距離を詰めてくる

僕は壁際に追い込まれた

 

「……男に壁ドンされる趣味は無い!」

 

逃げようとしたら腕を掴まれそのまま壁に押し付けられた

 

「……性差に何か意味があるのか?俺はお前に興味があるんだが?」

 

その手を無理矢理振り払い離れる

全く…

 

「……見境なく手を出すのやめろ。お前の尻拭いをいつも誰がしてると思ってるんだ。」

 

苦言を呈してもアイツはニヤニヤしてるだけだ

本気で笑ったことなんか無いくせに……

 

「……頼んだ覚えはない。俺が誰に手を出そうと勝手だろ。大体…お前だって女子と見れば手を出すじゃないか。お前に言われる筋合いは無いよ」

 

「節度を守れと言ってるんだ。別にお前がどうなろうと知ったことじゃないけどお前に何かあったら桜が悲しむ」

 

こんなことを言うなんてコイツに会うまで考えられなかった。いい変化なのだと思う。最も感謝する気はサラサラないが

 

「……異性だろうが同性だろうが一期一会。俺は特定の相手だけに興味は持たないの。人類皆兄弟。俺にとっては皆穴兄弟、棒姉妹」

 

ニヤニヤしながら宣うクズ野郎

そんな平和論欠片も信じてないくせに……

 

「……いい加減にしないとマジで誰かに刺されるぞ」

 

「……修羅場か。実感湧かないけどどうしても想像すると楽しそうで仕方ないんだよな~。どうせ俺を殺す奴がいたら身内だろうし」

 

コイツの場合多分身内の事しか記憶していないだけだろう。今さっき会っていた女子なんて名前すら覚えていないだろう。

 

「まあやらかしてお前に刺されるのは一番悪くないなあ?」

 

そう言ってまた僕を壁に押し付け……うわっ!力強っ!今度は振り解けなくてそのまま……

 

「……ぶはっ!不意打ちでキスして来るな!」

 

「何だ?不意打ちじゃなかったらいいのか?」

 

「いい加減にしろ!気色悪い!」

 

「ヒドイな」

 

とうとうゲラゲラと下品に笑い始めた。本当に腹が立つ……!

 

「もういい。帰るぞ、衛宮」

 

「何だ?今日は他に約束は無いのか?じゃあこの後俺の家で飲むか?」

 

「食われるって分かってて誰が飲むか!お前どうせまた薬盛るだろ!」

 

「んじゃ素面でこれからやろう。桜も誘って」

 

「肩を組むな!腕を抱くな!離れろ!」

 

……なんだかんだコイツに絆されてる僕も結局何処かおかしいのかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 




たまにこういうのを書きたくなる病気


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堕落したブラウニー2

「……あん?」

 

いい気分に浸っていると突如感じ取った物……

 

「……ハア……何処のバカだよ……」

 

「……んぐっ。衛宮君?どうし「眠んな」……」

 

俺は足元に屈み込んでいた女に軽い暗示をかけ眠らせた。

 

「…放っておくわけにもいかねぇなぁ……」

 

俺は膝下まで下げていたズボンと下着を上げ、半裸だった女に服を着せると教室の奥まで運び寝かせ、近くにあった俺の上着を掛ける

 

「……行くかねぇ。」 

 

俺は先程感じた濃厚な神秘の元凶を確認しにグラウンドに向かった。

 

 

「……人払いもせずにサーヴァントを戦わせるなんてな」

 

俺の目の前ではぶつかり合う二人のエーテル体…もといサーヴァントがいた

 

青いタイツのような服を着た男が振るう槍が気になり解析……ッ!

 

「……こいつぁ驚いた…!ありゃゲイボルクか。んじゃ奴はもしかしてあのクランの猛犬か?なら、ケルトの中でもかなりのビックネームだな。」

 

読書家の女を口説くため蓄えた知識を引っ張り出す。さて、正体が分かった所で元々サーヴァント同士の戦いをどうこうできるわけもない。が、

 

「……男なら死んだところで他を探すが女なら寝覚めが悪りぃなあ……」

 

しゃあねぇ。注意を……!やばっ……!

 

「!…誰だっ!?」

 

クランの猛犬がこっちに気づきやがった!取り敢えず逃げねぇとな…!

 

「……」

 

俺は足に強化魔術を掛けると一気に走り出す……

 

「遅ぇな」

 

気付くと俺の身体をあの赤い槍が貫いていた

 

「……ごふっ…」

 

激痛はすぐに引き身体が冷えていくのが分かる。

 

「すまねぇな。坊主。マスターから目撃者は消すように言われてんだ。まっ、許してくれたあ言わねぇよ。」

 

身体から抜かれる槍を見ながら俺は死の感触を味わう。

恨んだりしねぇよ。寧ろ光栄かもな

 

「……れよ」

 

「何だ?恨み言か?最後に聞いてやるよ」

 

俺はその一言を言うために力を振り絞る

 

「……わっ、悪いと、思ってんならさ、後で一晩、付き合ってくれよ……」

 

「……悪いが俺にその気はねぇな。他を当たってくれや」

 

……あ~あ。振られちまったぜ……

 

 

槍使いが去っていくのを見ながら消え行く意識の中何処か見覚えのある顔がこちらに駆け寄って来て喚いていた気がした……

 

 

「……ん?ここは……俺の家だと?」

 

先程のが夢というわけはない。貫かれた胸の傷を確認する

 

「……無いな。んで、こいつは……」

 

明らかに自分の物ではない大きめの赤い宝石の付いたネックレス……でいいのか?

 

「……最後に駆け寄って来た奴……遠坂か。」

 

遠坂凛……見た目はともかく性格は俺の苦手な奴だ。宝石魔術の大家遠坂家の現当主にしてここ冬木市のセカンドオーナー。

 

「そんなやつが人払いもしないで学校で神秘垂れ流しで聖杯戦争なんざやってんだからなあ……」

 

爺さんの言った通り魔術師なんざ録なもんじゃねぇな。嘲笑しながら立ち上がり……

 

「…!」

 

咄嗟に横に飛ぶ。今俺のいた地点に天井を破って……

 

「よぉ。さっきぶりだな、坊主」

 

青い槍使いが降ってきた

 

 

 

 



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堕落したブラウニー3

俺は目の前の槍使いに笑顔を向ける

 

「……こんな夜更けにこうも情熱的に迫ってくれるなんてな。ちょっとは期待しても良いのかい?」

 

「……ブレねぇなお前さん。俺にその気はねぇって言っただろ?俺の質問は一つだ……坊主、お前何で生きてる?」

 

「……さあねぇ~どうにもお節介な奴がいたみたいでね~」

 

何となく遠坂凛の事を話す気にはなれなかった。まあそもそも確実に致命傷だっただろうからあいつの治療魔術が効いたとも思えない。……心当たりはあるがそれも話す気は無い

 

「……そうかい。まあいい……今度は確実に殺してやるから化けて出んなよ?」

 

そう言って奴が突き出す槍を屈んでやり過ごす

 

「……同じ奴に二度殺されるのは御免被るよ。あんたが一晩付き合ってくれるなら考えるけど?」

 

「……本当に気味の悪い奴だな。個人的に苦手な奴を思い出すから早くくたばってくれや」

 

奴が再び槍を繰り出す所でふと頭に浮かんだ物を投影しピンを引き抜き、これまた直後に投影したサングラスを出し掛ける。部屋の中で強烈な光が発せられる

 

「!テメェ!」

 

「聖杯からこいつは教わらなかったらしいな。さあて追い付いて見な!」

 

ここにいても俺に勝ち目は無い

土蔵に行く。あそこなら俺にも勝ちの目が出てくる

 

「……テメェは俺を舐め過ぎだ」

 

走り出そうとした俺の鼻先を槍が掠めた

 

「うぉっ!まさかあんた見えてんのか!?」

 

「戯けが。目が見えないからって俺がそう簡単に標的を逃がして堪るかよ」

 

俺は足にかなり強めの強化をかけ走る

 

「じゃあ今の俺をその目で捉えられるか試してみな!」

 

「なっ……!何だそのふざけたスピードは!?」

 

俺は簡単な魔術しか使えないがある理由から魔力はほとんど無尽蔵。如何にサーヴァントと言えどそうそう追い付けない。最も今のままならだが。

 

「……ハッ!受けてやるよ、その挑戦」

 

後ろを見れば下手なアスリート所か車よりずっと早く完璧なフォームで走る青タイツの男。……奴の習得しているルーン魔術は能力底上げに特化してる。使われればやはり俺の付け焼き刃の現代魔術じゃあ長くは逃げられないな……というかあの様子だともう視力は回復してるな。英霊ってのは本当に出鱈目だ……!

……土蔵に辿り着けばいい。そうすればこちらもサーヴァントを召喚できる……!

 

俺は手に巻いた包帯を見る。……聖杯戦争に参加する気は無かったが令呪は出てしまってるし巻き込まれたんならしゃあねぇ。

 

「……往生際が悪いぜ、坊主!」

 

「だからあんたが俺と寝てくれるなら殺されてやるって言ってんじゃんかよ!」

 

大英雄と出来るなんざ普通に生きてたらまず無いからな。その条件なら完全に殺されても構わない。……最も奴の呪槍でも俺を殺しきれるか分からんがな。

 

 



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堕落したブラウニー4

「チッ!あんたちょっとしつこいぜ!?俺は追われるより追い詰めて食う方が性に合うんだけど!?」

 

「この状況でそんな口叩けるたぁ上等だ!そこまで言うなら追われる良さを俺が教えてやるよ!」

 

「魅力的な誘いだが目的が俺の貞操じゃなく命なら拒否させてもらう!」

 

土蔵にそのまま行けばサーヴァントを召喚する前に殺られる。先程から障子戸を破壊し敢えて外に飛び出したり壁や天井を走ったりと屋敷をグルグル回っているが一向に奴との距離が離れる様子が無い。

 

「……あ~!しつけぇな!」

 

仕方無く俺は部屋に飛び込むと追って来た槍使いに投影したダイナマイトにライターで火を着け投げ付ける。

 

「……ハッ!バカの一つ覚えか!」

 

奴はそれを槍で反らす……瞬間既に投影し、火を着けていたもう一本を持ったまま全速力で突っ込む。

 

「…んなっ!テメェ!」

 

直ぐに槍を戻し振りかぶろうとした所に爆発寸前の奴を投げつけスライディングで奴の足元をすり抜ける

 

「……グフッ!」

 

爆風で吹っ飛ばされながら部屋を転がり出る。受け身を取りきれなかったせいであちこちを擦りむいた上に背中に火傷を負ったが知らん。どうせ直ぐ治る。無理やり立ち上がり走る。……どうせ足止めにもなってないだろうが少しは時間を稼げたと思いたい。

 

「……有った!」

 

土蔵に辿り着き魔方陣を探し出した。後は召喚をするだけだ……呪文は……!

 

「……鬼ごっこは終わりか?坊主」

 

「……あの爆発で無傷かよ。ダイナマイト二本分の火力だぞ?」 

 

全くの無傷で現れた青タイツに悪態をつく。

 

「……悪くねぇ策だったがな。とっさに結界を張らなきゃ俺も無傷じゃあすまなかったぜ。しかし咄嗟の判断はともかく相手は無傷で自分は重症じゃ……あん?」

 

奴は俺を見て訝しげな顔をする。……そりゃそうか。

 

「……坊主、テメェ傷はどうした…?治療魔術を使ったてんならまだしもお前はそんなことした様子はねぇ。第一あれほどの重症がこの短時間で治るわけねぇ。そういやさっきからやってる魔術も変だったな。お前さっきから使ってる武器は何処から出してやがった?」

 

「……さ~てね。知りたかったら俺と「もういい。」そうかい。」

 

「テメェはどうやら俺と接近戦をする実力は無さそうだ。手品の種は気になるが結局は普通の魔術師と何も変わらねぇ。どちらにせよもうテメェに逃げ場はねぇ。詰みだな」

 

奴はゆっくり俺の元に近付いてくる。

 

「この狭い場所じゃああの爆発は起こせねぇ。んじゃ、今度こそ終わりにしようぜ。」

 

今しか無い。今やらなきゃここで殺される。まだ殺されたくねぇ!

 

「……くそっ!もう誰でもいい!来い!」

 

呪文は思い出せねぇし完全に賭けだが…それも悪くねぇ。何もせず死ぬよりマシだ!

俺は魔方陣に魔力を叩き込んだ。

 

「……くっ!」

 

余りの眩しさに腕で目を覆う……やがて光が収まったのを感じ腕を退け目の前を見据える

 

「……坊主、テメェマスターだったのか?」

 

「……」

 

「……そう殺気立つな。マスターから呼び出しだ。俺ぁ帰るわ。命拾いしたなあ、坊主」

 

「……次は寝てくれねぇか?」

 

「……お前が俺を倒せたら考えてやっても良いぜ。じゃあな、セイバーのサーヴァントのマスター」

 

「…!逃がすか!」

 

「追うな。こっちはクタクタなんだ。ちったあマスター労ってくれや」

 

「……分かりました」

 

「……んで、あいつの言う通りセイバーのサーヴァントで良いのかい?」

 

「……はい。貴方がわたしのマスターですか?」

 

「……ああ。名は衛宮士郎。あんたは?」

 

一瞬俺の名に反応した気がした。何だ?

 

「……シロウですか。私はアルトリアと言います」

 

「……アルトリアか。この戦争が終わるまでだが以後宜しく頼むわ」

 

俺は立ち上がりながら左手でケツを払い埃を落とし右手を差し出す。しばらく俺の手を不思議そうに見ていた彼女はやがて俺の手を掴んだ。

 

「……ええ。宜しくお願いします」

 

「……ところで…アルトリアだったか?」

 

「……はい?何でしょう?」

 

「……今夜俺と寝る気は無いか?」

 

「…!ふざけないで下さい!」

 

「…!剣を振り回すなよ。冗談だ、冗談。」

 

「……次言ったら当てますよ」

 

男なら無理矢理犯しても良いが女じゃあそういう気になれねぇなぁ……まあ諦めるには惜しい美貌だ。聖杯戦争終わるまでには食ってやるさ。

 

 

 

 

 



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堕落したブラウニー5

「……そう露骨に殺気向けないでくれよ遠坂。疼いて襲いたくなるだろ?」

 

「……」

 

さて、俺の目の前には俺の同級生してあかいあくま……もとい、一流の魔術師の家柄である遠坂家の当主にしてここ冬木市セカンドオーナーの遠坂凛嬢がいる

 

……この女、ランサーが逃げた後俺がセイバーとゆっくり親睦を深めようとしたら襲撃してきたのだ。

そう、襲撃だ。訪問ではなく、な。

……俺も聖杯戦争の参加者となった以上別にアポを取れなんて言わない。これは戦争だ。不意討ち上等、何でも御座れだ。正しい、間違っちゃいない。だかな……

 

「……さっきも言ったが俺自身は聖杯になんて興味無いんだよ。ただ巻き込まれたから仕方無くサーヴァントを召喚しただけでな。」

 

「……その話をそっくりそのまま信じろ、と?ふざけないで。あんたは私にすら自分が魔術師だと悟らせなかったのよ?」

 

「……その辺はこっちも事情があってな魔術師には語れなかったんだよ……というか遠坂、キャラ壊れてるぞ」

 

「……放っといてくれる?私はそもそもこれが素なの。……話が逸れたわ。だから私はその事情とやらを聞いてるのよ。」

 

これである。先はサーヴァント同士が一触即発となり何とか止めれば出てきたマスターの遠坂も臨戦態勢。話し合いに持ち込む迄時間がかかってしまった。……もっと言えば……

 

「……俺はお前を……いや。魔術師を信用出来ない。だから話す気はねぇ。後、俺は個人的にお前が大嫌いなんでな。」

 

「……へえ。そう。」

 

とまあ俺も無意識に煽っちまうから話は堂々巡りのままだ。俺も自分の秘密を話したくないんだから仕方無いが。 

 

「……なら話し合いの余地は無いわね。このまま再開しましょう」

 

その言葉と共に殺気を向けてくる遠坂。……チッ!だから魔術師は嫌いなんだ。

 

「……解ったよ。話しゃあ良いんだろ。その代わりこれを話すには条件がある」

 

「……何かしら?でもあんたがその態度を改めないなら確約は出来ないわよ?」

 

「……その態度とは?」

 

「…!それよ、それ!あんたずっとヘラヘラ笑ってるそれがムカつくのよ!」

 

「……そうかい。」

 

それを聞いた俺は目を細め笑顔を止める

 

「……貴様、何をするつもりだ?」

 

「……何もしないさ。お前のマスターが真面目にしろと言ったからそうした迄だが?」

 

先程まで彫像のようだった遠坂のサーヴァントがいつの間にか俺の横にいて首に剣を当ててくる。

……こいつ弓兵じゃないのか?

 

「……貴様、今直ぐそれを止めろ。」

 

「生憎こいつは俺の意志で制御出来ない。この状況を何とかしたいなら先の発言を撤回するように言ってくれ」

 

アーチャーが遠坂の方を見るとそこには顔を蒼白にしている遠坂がいた。彼女が頷くのに合わせ俺は笑顔を作る

 

「……ハア……ハア……あっ、あんた……何なの…?」

 

ようやく体調の戻ってきたらしい遠坂。

 

「……話してやるよ。俺に何があったのか?それとこの聖杯戦争の秘密を、な。」

 

 



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堕落したブラウニー6

「……さて、俺が要求したいのは一つだけだ。俺に協力すること」

 

「…!ふ~ん。やっぱりあんたも聖杯を「違う」どう違うって言うのよ?」

 

「……そもそもこの聖杯戦争の景品である聖杯だが使えない。いや。使わせられない……セイバー、悪いが抑えてくれ。話はまだ終わってない。」

 

今度は俺の後ろのセイバーが反応し始めたので牽制する。……サーヴァントも魔術師も気が短いねぇ。そんな所も似るもんなのかね。

 

「……まずはここから話すか。遠坂、第四次聖杯戦争については知っているか?」

 

「……ええ。とはいえ録な資料も残って無かったけど。」

 

「……具体的には?」

 

「……私の父が参加したこと。それからかなりの乱戦模様になってマスターにも犠牲を出した末結果勝利者は現れなかったこと位かしら。」

 

「……遠坂にはそう伝わってんのか。まっ、概ねその理解で良いぜ。だが一つ違いがあるな。」

 

「……何よ違いって?」

 

「……勝利者はいた。俺の義父にして魔術師殺しの衛宮切嗣。」

 

「……納得いかないわね。私の父は死亡している状況で貴方の父親は生き残り勝利したなんて話……」

 

激昂したいのを必死で堪えるのが伝わってくる。

まあ叫びださないだけ上出来だよ。

 

「……信じろとは言わない。取り敢えず話を続けるぞ。義父は大聖杯の元へ向かい愕然としたんだ。……そこにあったのは話に聞く万能の願望機なんかじゃなく魔力と呪いを帯びた黒い泥を吐き出し続けるデカイ杯「ふざけないで!そんなはず…!」黙ってろよ。まだ話は終わってない。……殺気向けんなよアーチャー。遠坂が黙って話を聞いてくれりゃあ何もしねぇ。……セイバーも何を納得してないのか知らんが大人しくしてろ」

 

……さっき、あからさまに俺の名前に反応したことといいセイバーとは後で話をしないとならないか。

 

「……話を続けるぞ。義父はそれを見た後自分のサーヴァントに令呪を使い大聖杯を破壊させようとした……が、出来なかった。んで破壊しきれなかった代わりに泥は吹き出し冬木市中を覆った。……これが今も魔術協会の連中がひた隠しにしてる冬木市大災害の真実だ。

 

「……何よ、それ……そんな話「信じられないか?」当たり前じゃない!」

 

「……だろうな。で、ここからが俺自身の話だ。俺はその時冬木市の住民だったらしい…」

 

「……らしい?」

 

「……ああ。俺にはあれより前の記憶が無いからな。俺の覚えてる記憶はあの地獄絵図の中生を求め歩き回りやがて力尽き倒れたところに瓦礫と黒い泥が俺の上に降り注いだ…」

 

「……じゃああんたは……」

 

「……そうさ。俺自身が今言ったことが真実の証明だ」



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堕落したブラウニー7

「……ちょっと待ってよ、今の話が本当ならあんたは……「ああ。本来ならさすがに生き残っちゃいないな。」なら……」 

 

「慌てるな。話はまだ少し残ってるぜ。」

 

「……泥と瓦礫が降り注いだ時の事は朧気だ……だが二つだけオボエテイル」

 

……口調が可笑しくなるのを感じる。自分の中の何処か冷静な部分がこれ以上は止めろと警告してくる

 

「……何もミエナイ暗闇の中でただただヒビクンダ、アタナマノナカニ、ソウコウイッテイタナ…シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネアタナマノナカニソレダケが…ナア、トオサカ…シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ「止めて!」脱線したな。すまん。」

 

俺は息を整えた。少し気を抜いただけでこれかよ。

 

「……そんな地獄の中、首から下を瓦礫に潰されほとんど虫の息だった俺を義父が見つけ出した。……一目見て助からないと解ったらしい。だが、この時義父はもう他に生存者を発見できず焦っていた。そこで義父は俺の体内にある聖遺物を埋め込んだ……それが何かなんて聞くなよ?これだけは義父も話してくれなかったからな……さて、その聖遺物は見事に俺の身体に馴染み瓦礫を退かされ身体の大部分を失った俺の再生が始まった。だがここからが問題だった……休憩にするか、遠坂?」

 

「……え?」

 

「……酷い顔してるぜ。ここまで話したんだ。全部聞いてもらうのは決定事項だが疲れたのなら「いいえ。続けて頂戴。最後まで聞きたいのよ…」オーケー。なら続けるぞ」

 

「……再生の始まった俺の身体。だが身体の大部分は既に失っている。特筆するにしても手足に臓器。そこを補うのに身体を覆った聖杯の泥が使われた。」

 

「……まっ、まさかあんた……」

 

「……俺はあの日から真っ当な人間じゃなくなった。俺の身体の大半はあの悍ましい泥で形成されている。見えてる部分はまだ良いが見えない部分は明らかに人と違う。特に内側は酷い。一部の臓器は存在しないんだからな。……だがこうして俺は生きてる。……まあ死の呪いは今も俺を蝕んでるから永くは無いかもな。「何でよ……」あん?」

 

「何であんたはそれでそんなヘラヘラ嗤ってられるのよ!あんたは何で「マスター、止めろ。」アーチャー?」

 

「マスター、こいつはさっき言ったな。死を促す声が聞こえていたと。ならこいつが正気な訳はない。恐らく今も愉しくて嗤っているのではない……」

 

「……鋭いなアーチャー。そうだこの笑みは俺が狂っている証だ。そして既に真っ当な自我が残っていないという意味でもある」

 

「……」

 

「……これが聖杯戦争の秘密と俺の過去だ。ちなみにこれで俺が魔術師が嫌いな理由と自分の事を黙っていた理由も解ってくれたな?」



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堕落したブラウニー8

「……それで?」

 

「ん?」

 

「魔術師を恨んでるあんたは……魔術師である私に何をさせたいわけ?」

 

「……さっきの話しか。あんなのはギアスロールも無いただの口約束だろ?反故しても構わないぜ?……まあ、俺の目的は一つだけだ……大聖杯の破壊。まあ一種の復讐だよ。……取り敢えず明日まで時間をやる。考えといてくれ……」

 

俺は席を立つ。

 

「待ちなさい。まだ話は「遠坂、お前が乗り気でもお前のサーヴァントはどうだ?」そっ、それは……」

 

「……夜食を用意する。……セイバー、悪いが手伝ってくれ。「わっ、私も」高々数人の食いもん用意すんのにそんなに人手は要らん。」

 

「……私は遠慮させてもらおう。食べ終わったら呼ぶが良い。」

 

「……そうかい。セイバーはどうだ?」

 

「……頂きましょう。」

 

「了解。押し付けるようで悪いが遠坂は食えよ?かなり顔色も悪い。胸糞悪い話だったのは解るがな」

 

「……」

 

俺はキッチンにセイバーを伴い向かう

 

 

 

「……さて、話してもらおうか?お前は何を隠してる?」

 

「……私はキリツグのサーヴァントでした」

 

「……初耳だな。親父からはそんな話聞いてないが……ん?ちょっと待て。確かサーヴァントは座にいる本体の分身みたいなもので前の聖杯戦争の記憶は残らないと聞いたが?」

 

「……厳密には私はまだ座に着いていません。私はまだ生きているのです。……私は嘗て聖杯を求め、死の直前世界と契約をしました。だから私は聖杯をこの手にするまで全ての聖杯戦争に呼ばれ続けるのです。そしてその時あった出来事の全ての事を記憶しています」

 

「……アルトリア、お前の願いは?」

 

「……選定の儀をやり直す事。きっと、私が王でなければブリテンは滅びなかった。」

 

「……そうかい。」

 

「……私はもう十分待ちました。シロウには悪いのですが私はどれだけ聖杯が穢れていようとこの願いだけは諦められない……!」

 

「……アルトリア……多分その願いは叶わない。いや。叶ったとしてもこの冬木の聖杯はその願いを滅びと引き換えに叶える」

 

アルトリアが俺の首に剣を当ててくる。……またこのパターンか。

 

「……親父はこうも言っていた。聖杯に取り込まれた際聖杯の本質を知ったと」

 

「……その本質が滅びと共にしか願いは叶えられない、と?」

 

「……剣を下ろせよ。そんなことをしてもお前の願いは叶わないぜ?」

 

「また諦めろと言うのですか「いや。今回だけでなくこれからも、だ」…!」

 

剣を持つ手に力が入るのが解る……参ったな、さすがに俺も首飛ばされたら死ぬんじゃねぇか…?

 

「……貴方だってそんな目にあったならやり直したいと「いや。そんな気は更々ねぇな」なっ、何故です!?」

 

「……自分を確立する物が無い俺にとってあの時もこれからも所詮意味ねぇのさ。俺が気にするのは今この瞬間だけだ。第一、俺は後どのくらい生きられるのかも解らねえからな。……まあ呪いで死ぬのは今日明日じゃねぇだろうが。」

 

「……」

 

「……アルトリア、お前は多分過去を変えても納得しない。何故なら……お前が王になった国はお前しか作れないし守れないから。他の誰かが王になってもお前と同じ国は作れないぜ。」



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堕落したブラウニー9

あの後考え込んでしまったアルトリアを追い出し俺は料理の仕上げにかかっていた。

 

「……しかし俺自身が大聖杯の破壊の為奮闘する事になるとはな……」

 

元々巻き込まれてなし崩し的に聖杯戦争に参加しただけの身。大聖杯のヤバさは分かっていてもわざわざ聖杯戦争に参加して自ら危険を犯して破壊に赴こうなんて気概は無かった。……所詮復讐なんて理由も後付けだ。こうならなければ完全放置を決め込む気でいたのだから。

 

「まっ、言っちまった手前サボれないか。……別に何時死んでもそんなに気にしないがわざわざ自分から命捨てに行くとかバカのする事だよな~……全く何でこんなことしなきゃならんのか……」

 

あいつにムカついたからだ。遠坂凛……やっぱり俺はあいつが嫌いだ。慎二の奴はあの女に執着してるようだが俺には何が良いのか分からんねぇ。まぁ性格以外は女としては極上の部類だがねぇ……あの性格と魔術師っていう二点で俺はあまり食指が動かんな……とは言え……

 

「……散々命賭けさせられて報酬が名誉だけとか割に合わん」

 

こうなったら絶対にアルトリアも遠坂も次いでにアーチャーも食いたい所だな。……ランサーも諦めきれねぇな。マスターに何とか話を着けるとしようかね。

 

「……どうせ三流以下の魔術師擬きと一流の魔術師にサーヴァント二人いた所で駒が足らん」

 

サーヴァント一人で破壊出来なかったからって二人連れて来た所でぶっ壊せるとは到底思えん。……味方は多い方が良い。

 

「……」

 

完成し俺は料理を運ぼうと……

 

「……運ぶの位手伝うわ」

 

「……ん?ああ。サンキュー遠坂。んじゃこの皿を運んでくれ」

 

無言で運んで行く遠坂……ふむ。後ろから見ても隙の無い美女だな。……いっそ料理に薬でも盛れば早いんだろうが……俺のプライドがそれを許さない。そもそもアルトリアと遠坂凛がダウンしてもアーチャーはシラフだ。確実に俺が殺られて終わる。……仮に三騎士から外れたアーチャー相手でも俺は勝てないだろう……

 

 

 

「……衛宮君。」

 

「ん?」

 

「……作って貰ってる身でこんな事言いたくないんだけど……」

 

「……ん?はっきり言ってくれて良いぞ。不味かったか?」

 

ふむ。最近は桜と慎二の兄妹コンビにしか食わせてないからな。腕が落ちたかもしれん。

 

「……いえ。決して不味くは無いけど……その……ちょっと濃いのよね……」

 

「……ふむ。どうも俺の舌に原因があるようだな……」

 

成程。あいつらは何も言わないから分からなかった。というか多分あいつらもそうなんだろうな。

 

「……味覚障害か……案外俺ももう先が無いのかもな。」

 

こいつは傑作だな。俺が思っているよりラストは近そうだぜ。どうやら大聖杯破壊の後の事は考えなくても済むらしい。



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堕落したブラウニー10

「……言峰綺礼?それが今回の聖杯戦争の審判役の名前なのか?」

 

「そうよ。ちなみに私にとっては腐れ縁で……何よ?どうかしたの?」

 

「……いや。何でもない」

 

現在俺は遠坂の案内で審判役のいる冬木教会に向かっている最中である

……先の展開が爆弾を落とした俺自身にも目まぐるしかった為俺も忘れていたがそもそも聖杯戦争の参加者は一度は審判役に会いに教会に行く必要があるのだ。

 

……信心深くなんて無い俺は当然教会の場所なんて知らずこうして不本意にも遠坂に案内してもらっているわけだ。

 

……先の返事は保留のままだ。仮にも敵対する可能性の有る奴とサーヴァントの護衛が着いているとは言えこうして肩並べて歩けるのはどういう心境なのかと俺は呆れた。

 

……さて、先の事を考えないようにする為かやけに積極的にどうでもいい話を振ってくる遠坂に適当に相槌を打ちながら俺は先程引っかかった事を考える。

 

言峰綺礼……俺はその名に聞き覚えがあった。第四次聖杯戦争中義父衛宮切嗣が魔術戦(まあ切嗣のやり方は馬鹿正直に魔術戦を行なうとする魔術師を近代兵器で殺傷すると言う魔術師からしたら外道のやり口だが)ではなく前代未聞の近接戦闘にて真っ向からぶつかり勝利した相手だ。その後切嗣の話では確かにそいつの心臓を撃ち抜いているらしい

 

……心臓を撃ち抜かれた人間が生き残るのは難しい……確率はゼロでは無いし何ならあの時はかなりギリギリの状況だったそうだから切嗣が僅かに照準を外した可能性はある……

 

……会って確かめる必要はあるか……チッ!ただ挨拶をするだけなのにまるで……

 

「……衛宮君?着いたわよ」

 

「……ああ。すまねぇな、遠坂」

 

いつの間にか目的地に着いていたらしい。俺の目の前には夜の闇の中聳え立つ建物……教会があった。

 

「……ねぇ、悪いんだけど衛宮君一人で行ってきてくれない?私長い付き合いではあるけど未だにあいつ苦手なのよねー…」

 

願っても無い。奴の正体が俺の考えてる通りなら今の時点では遠坂は役に立たない。

 

「……ああ、分かった。……セイバー、悪いんだが外で待っててくれ」

 

俺は先程から何故か霊体化(多分本当は生者だからでは無かろうか?)の出来ず姿を隠すためレインコートを羽織り無言で着いてきていたアルトリアに声をかけた

 

「……分かりました。」

 

やけに間があったが……第四次聖杯戦争の事はアルトリアからは自らが切嗣のサーヴァントだった以外何も聞いてない。話してくれるかは分からんが後で情報の共有を行うとしよう……まあアルトリアからも協力の意は得られてないが。

 

俺は冬木教会の門を押し開く。礼拝堂の中をスタスタと歩くと黒衣の聖職服を着た男が見えて来た。

 

「……あんたが言峰綺礼……さんか?」

 

「……そうだが…礼拝の時間はとっくに過ぎている。この様な遅い時間に我が教会に何の用かな、少年よ」

 

「……新たに聖杯戦争の参加者になった者だ。その報告に来た。」

 

「……ほう。では、聖杯戦争の審判者として新たな参加者を歓迎しよう。ちなみに君が今回最後の参加者だ」

 

両手を広げ芝居がかった演出をかます男

 

「……では聖杯戦争の説明を「要らねぇよ。」そうかね?」

 

「俺は聖杯戦争の話とは別にあんたに聞きたいことがあったんだ」

 

「……何かね?私で答えられることなら何でも答えよう」

 

「……俺の名は衛宮士郎。あんたこの名に聞き覚えは無いか?」

 

今まで徹底して表情の無かった奴の顔に変化が訪れる

 

「……懐かしい名だ。では、君は衛宮切嗣の……」

 

「……息子だよ。義理の、だけどな」

 

奴は笑っていた。……元々そういう気質なのかもしれないが俺はその笑顔に覚えがあった。

 

「……あんたにもう一つだけ聞きたい。……あんた、人間か…?」

 

「……どういう意味かね?」

 

「……言葉通りだよ。」

「……どう答えれば君は満足するのだ?」

 

……見透かされてるの、か?

 

「……いや。良い。…… 俺は聖杯戦争には参加する。……願いは大聖杯の破壊だ。じゃあな。」

 

背を向け扉に向かう

 

「……衛宮士郎。」

 

「……何だ?」

 

「……いずれまた会おう。」

 

「……ああ。その時は親父の代わりに俺が殺してやる。」

 

俺の言葉により一層笑みを深めた奴から目を反らし俺は扉を開け放った



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堕落したブラウニー11

「……」

 

「……遠坂、そいつを睨むな。話が進まん。……イリヤスフィール、警戒するなとは言わんがいつまでもその態度だと後悔するのは多分お前だぞ?まあいい。早く食え。話はそれからだ」

 

そこまで言うと取り敢えず少し警戒を解いた彼女は目の前にある俺がさっき作った飯の残りを食い始めた

 

……今夜は来客の多い日だな。俺は先の一件を思い出す……

 

俺たちが教会を辞し夜道を進んでいた時の事だ。目の前にこいつ、イリヤスフィールが現れた。

彼女は自分をアインツベルンと名乗った。

……アインツベルンと言えばこの冬木市聖杯戦争の切っ掛けを作った魔術師の御三家の一つだ(ちなみに後の二家は遠坂家に間桐家。)

そしてアインツベルンは第四次聖杯戦争の際切嗣が外部協力者として呼ばれ出し抜こうとしていた家だ。切嗣はその家で造られたホムンクルスと子供まで成していたという。その子供の名前が……

 

「……初めまして。義姉さん。あんたの義弟の衛宮士郎だ」

 

俺はそう言い、彼女のカーテシーに合わせ頭を下げる。遠坂が驚いているのが分かるが今は放置しておく。

 

「……私の事は知ってるのね……キリツグから聞いたの?」

 

「……ああ。」

 

「……じゃあ私がキリツグを憎んでいるのも、聖杯戦争に参加してる理由も分かるのね?」

 

「……ああ。」

 

「……そう。それじゃあシロウに恨みはないけどこれは戦争だから殺すわ、ごめんね。」

 

……異様な気配を感じる……サーヴァントか?霊体化してて三流以下の俺が気配を感じとれるってどんな化け物だよ……!

 

「やっちゃえ!バーサーカー!」

 

あれは…何だ!?人間なのか!?

そこに現れたのは正しく巨大な肉の塊だった。

良く見れば辛うじて人の形を取りその手には石をそのまま削り出し持ち手を付けただけの石斧……俺はそいつを解析した

 

「…!不味い!遠坂!」

 

「ッ!何よ!?今は話してる場合じゃ……」

 

「アレとまともに戦おうとするな!ヘラクレスだ!」

 

この極東の国でもその名を知らん奴はまず居ないギリシャ神話のビッグネーム……しかも剛力無双で知られるそれが狂戦士として顕現とか笑えない冗談だぜ…!

 

「……シロウは物知りだね。そう私のバーサーカーはヘラクレス。どんなサーヴァントも私のバーサーカーには勝てないわ!」

 

「……遠坂、セイバー、聞いてくれ……」

 

「……何よ」

 

「……」

 

「俺に考えがある。アイツを引き付けててくれ。アーチャー、お前にも協力してもらうぞ」

 

「……ふん。良かろう。今はお前に従ってやる」

 

「……何をする気か知らないけど私のバーサーカーは絶対に倒せない。」

 

「……この世に絶対なんてそうないぜ?俺が証明してやるよ、イリヤスフィール!」

 

……さあ英雄攻略と行こうか……!



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堕落したブラウニー12

「……な?だから言ったろ?絶対なんてそう無いってな。」

 

「……」

 

俺の手には今、バーサーカーのマスターイリヤスフィールが掴まれている。

……そう、俺の取った方法はシンプルだ。ただ、人質を取っただけ。

……とは言えバーサーカーの猛攻が凄まじ過ぎて中々ここまで近づけなかったが、な

 

この作戦の概要はこうだ。まず遠距離攻撃出来る宝石魔術師の遠坂に宝石の大盤振る舞いをさせつつセイバーが近距離でバーサーカーの相手をさせる。(横で崩れ落ち凹んでいる似非金持ち魔術師は知らん。そもそも戦争なんて金のかかるもんだ)

そしてこの作戦の肝はセイバーと遠坂にバーサーカーが気を取られている隙に更に超遠距離からアーチャーの弓で狙撃、目を潰す(俺が爆発物を投影するつもりだったがアーチャーが任せろと言うから任せたらまさか宝具が飛んで来てしかも爆破するとは思わなかったが……しかも俺が動き出したタイミングで撃ち込みやがって……この体質じゃなきゃ死んでたな…)

 

そしてバーサーカーが怯んでいる隙に限界まで足に強化をかけた俺がイリヤスフィールを潰す。

……こんな杜撰な作戦が上手くいくとは俺も思ってなかった。

 

だが、結果的に俺たちは今生きてここにいる。

 

「……それで、そろそろ聞かせて貰えないかしら?何故あんたはイリヤスフィールをそのままここに連れて来たのか?」

 

「……いや。取り敢えずお前一度帰れよ。俺は個人的にイリヤスフィールに話があるんだ」

 

俺の誤算はイリヤスフィールに真実を話すつもりでいたら遠坂が納得せずこの場に留まっていることだ。

……お前にさっき話した話とほぼ同じ話をするつもりなんだが……

一応イリヤスフィールが一番知りたいだろう話もある。身内の話だからあまり遠坂にいて欲しくは無い。

……というかこいつがずっとイリヤスフィールを睨み続けているから明らかに居心地悪そうだしな……

 

味方ならイリヤスフィールが許可すればいてもらってもまあ構わないが俺はこいつからまだ返事を聞いてない。

 

「……分かったわ。今日は帰る」

 

「……明日の放課後返事を聞かせて貰う。その時イリヤスフィールの許可が出たら大体の事は話してやるよ……ああ。アーチャーを残していくなよ?」

 

あからさまに俺の指摘に驚いた反応を返す遠坂……やるつもりだったのか……

 

 

 

「……セイバー、お前も席を外してくれ。」

 

「…!しかし……」

 

「……さっきは仕方なかったが……そもそも今のお前は迷ってる。……言っちゃ悪いが今のお前は役に立たない。部屋を出ててくれ……」

 

「……分かりました」

 

セイバーが部屋を出ていったのを確認し俺は彼女に声をかける

 

「……やっと二人きり……!いや。バーサーカーが居たな……ああ。別にそいつは居てくれて良いぞ。話が通じてるのかは知らんがイリヤスフィールのサーヴァントであるあんたは聞く権利がある。」

 

「……それで何の話をするの?」

 

「……俺の知る聖杯戦争の真実さ、イリヤスフィール、お前には聞く権利、では無く聞く義務がある。聖杯戦争の歪む原因を作った陣営の人間としてな」



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堕落したブラウニー13

「……解析魔術は使えるな?」

 

「何?馬鹿にしてるの?」

 

「……俺に使ってみろ。話はそれからだ。」

 

「……!なっ、何これ!?」

 

「……これが聖杯戦争の真実の一部だ。この先を知る覚悟は?」

 

「……分かったわ。話してくれる?」

 

「……事の発端は第四次聖杯戦争の時に遡る。」

 

俺は衛宮切嗣が見たものを話した。細部に多少の違いはあるが大体遠坂に話したのと同じ内容だな

 

「……」

 

「……遠坂に話したのはここまでだ。……ここから先はアインツベルンの人間であるお前は聞く義務がある。」

 

「……どういう事?」

 

「……そもそもだ。何で聖杯は汚染されていたと思う?少なくとも最初は根源に至るため作られたのが聖杯だ。願いを叶える、というのは後に魔術師とサーヴァントを集めるため付与された後付けの情報に過ぎない。…だが、願望器としては確かに文句の無い逸品だった筈だ。」

 

「……」

 

「……聖杯が汚染されたのは第三次聖杯戦争の時だ。アインツベルンが確実な勝利を狙って英霊では無く悪神を召喚しようとした。」

 

「…!そんなの……」

 

「……そう。明確なルール違反だ。……結局召喚されたのは悪であれという役割を押し付けられ惨殺された単なる若い男だったそうだ。ちなみに英霊としての名前はアンリ・マユ。……ゾロアスター教の悪神だな。」

 

「……」

 

「……当然ながら呼び出された所でそいつは役に立つ筈も無くあっという間に敗退し聖杯に取り込まれた。……で、問題はここからだ……」

 

「……無色の願望器だった聖杯はこいつに課せられた悪であれという願いを汲み取った。」

 

「……それが聖杯が汚染された原因なのね……」

 

「……これは切嗣が後に調べて判明した事実だ。今となっては本当にあった事か実は証明出来ない。だが……」

 

「……分かってる。それが一番可能性が高いんでしょ…?」

 

「そういう事だ。」

 

「……シロウは魔術師を、アインツベルン…ううん。私を恨んでるの?」

 

「……いや?別に。魔術師を好きにはなれないが正直に言えばもうどうでもいい。今更魔術師をいくら恨んでも何も変わらないし変えられない。どうせ切嗣と同じく俺も長くないだろうしな。」

 

「……キリツグはもう居ないのね……」

 

「……ああ、一つ忘れてたな。お前は切嗣が裏切りお前を捨てたと思ってるだろうが少し違う。」

 

「……」

 

「……切嗣は何度もお前を迎えに行っていた。その度にボロボロになってな。」

 

「……呪いで体力も落ち、魔術も使えないキリツグはアインツベルンの結界を突破出来なかった……」

 

「……そうだ。さて、これが俺の知る真実だ。」

 

「……ねぇ、何で私に話したの?」

 

「……真実を話したのは大聖杯破壊に協力して欲しいからだ。何せ手が足りなくてな」

 

「……そう。少し…考えさせて。」

 

「……明日の夜までだ。悪いがそれ以上待てない。……ああ、お前はアインツベルン陣営に帰れないよな。部屋は空いてる、適当に泊まってきな。」

 

「……ありがとう。」

 

「……あんたは俺の義姉だ。気にしなくて良いさ。」

 

「……」

 

 



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堕落したブラウニー14

「……ジジイ、桜の代わりに僕がマスターをやろう。……ああ、何も魔術師じゃない僕がまともに戦えるなんて思ってないさ。言わば僕は囮だよ。」

 

精一杯に卑屈さを出しつつ抜け目ない所もアピールしてやる。どうせ目の前の妖怪ジジイはこうでも言わなきゃ桜の戦闘放棄を承諾しない。……まあこいつからしたら聖杯さえ手に入れば後はどうでもいいんだろうけどな。

 

「……ふん。良いだろう。」

 

そうして蟲たちの凌辱から解放されぐったりする桜。

僕は桜に近付くと抱き起こした。

 

「……桜、大丈夫か?」

 

「……はい。あの…兄さん……」

 

「……取り敢えず部屋に戻ろう。ライダー、着いてきてくれ。」

 

僕が桜を抱き歩き始めると無言で着いてくるサーヴァント……不気味だな。こいつとコミュニケーションを取らなきゃならないのか……ちょっと後悔してきた。

 

「……慎二。」

 

「……何だよ。」

 

「……儂が何も気付いていないと思っとるのか?」

 

「……」

 

僕は何も答えられなかった。

 

 

 

桜の部屋に入り下着とパジャマを出し着替えさせる。

……手慣れてしまったな。

 

「……」

 

僕は桜の頭を撫でる。

 

「……兄さん…」

 

「……何だ?」

 

「……ごめんなさい。私のせいで兄さんが……」

 

「……気にするな。僕は何も別にお前の為だけで偽のマスターの役目を引き受けた訳じゃない。」

 

「……兄さんは、先輩と……」

 

「……あいつも魔術師なのは気付いていた。包帯で隠してるが多分令呪も現れてる。」

 

「……」

 

「……桜、何もこれは自己犠牲とかじゃない。僕はあいつが大嫌いなんだ。一度あいつを思いっきりぶん殴ってやりたいと思っていた。ただ、それだけさ。何れやろうと思ってたのが今このタイミングで抜群の状況でチャンスが巡って来た。ただそれだけなんだよ…」

 

桜を不安がらせてはいけない。僕は嗤う。声を上げて……

 

「……嘘が下手ですね、兄さんは……」

 

「……馬鹿な事言ってないでさっさと寝ろ。怪しまれないためには僕たちは学校に行く必要がある。……何れ行く必要も無くなるかもしれないが今行かなくなるのは不味いからな。」

 

先程より優しく桜の頭を撫でる。やがて桜は眠りに落ちた。

 

「……さて、ライダー?話があるんだけど?」

 

「……何でしょうか?」

 

「……ここは不味い。部屋を出よう。」

 

僕は部屋を出るとそのまま家からも出る。

 

「……」

 

庭の方に回ってみる……ジジイは居ないようだ。

 

「……ここで良いか……本題の前にお前に聞きたい。お前、僕の事嫌いだろ?」

 

「……そんな事は……」

 

「……取り繕う必要は無いよ。何となく分かるから。……僕の事は別に嫌いで良いんだ。でも桜の為にお前に一つ協力して貰いたい。……頼みを聞いてくれるか…?」

 

「……何でしょうか?」

 

「……全部ぶち壊してやりたいのさ。こんな下らない戦争もこの家も何もかもな。」

 

「……何故、そんな事を?」

 

「……桜はそもそもこの家の子供じゃない。養子だ。……この家にやって来た桜はその日のうちにあの蟲蔵に放り込まれた。」

 

「……」

 

「……僕はその頃この家には居なかった。そもそも僕には魔術師としての才能は無い。だから僕は見放されていた。」

 

「……桜はそれからもずっと蟲に凌辱され続けた。しばらくして桜がされた事を僕が知った時は色々取り返しがつかなくなっていたよ……」

 

「……僕はジジイに詰め寄った。これは何なのかってな。」

 

「……そこで僕は告げられた。僕はそもそも魔術師として全く期待されていない事、これは才能溢れる桜の為にやっている事。」

 

「……まあ桜の為と言っていたあのジジイはさっきのように喜色満面の笑みをしていたけどね。」

 

「……その時はまだ僕は自分は魔術師になると信じて疑わなかった。……始めからなる選択肢が無いなんて思ってなかった。……結局ジジイの挑発に乗り蟲蔵に身を委ねる事も出来ず、行き場の無い怒りを桜にぶつけてしまった……」

 

「……」

 

「……いや。はっきり言おうか。……僕は桜を犯したんだよ…それ迄は多少歪でも慈しんでいた筈の義妹をさ……」

 

「……」

 

「……これは贖罪じゃない。単なる自己満足だ。僕はこの戦争をぶち壊してこの家もぶっ壊して桜を解放し、元の家に返す。……桜の本当の姉妹である姉は優秀な魔術師だ、既に普通の身体じゃなくなってる桜を救えるかもしれない。」

 

「……シンジ、貴方は……」

 

「……ライダー…僕はクズだ。それは分かってる。でも、桜の為に僕の自己満足に付き合ってくれないか…?」



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堕落したブラウニー15

「……朝か。」

 

俺にしては珍しく一人で迎える朝だ。

……桜の気配も無い。

 

「……まあ間桐だからな。慎二は素質ゼロだし。」

 

桜を味方に付けるのは難しいだろう……妖怪ジジイは生きていやがるからな。そもそもイリヤスフィールを味方に付けるならアハト翁にも話を付ける必要があるだろう。

 

「……敵マスター以外にアインツベルンにまで狙われたらさすがにキツイ。」

 

それはそうと……肝心のイリヤスフィールは起きているのだろうか…?家の中に気配はあるが。

 

「……セイバー、おはよう」

 

廊下を歩いているとアルトリアに出くわす。こいつ早くないか?

 

「……おはようございます、シロウ。」

 

「……悪いが頼みがある。イリヤスフィールの様子を見て来てくれないか?まだ起こさなくても良いから。」

 

どれだけ見た目が人間に見えようとあいつはホムンクルスだ。ある意味俺以上に今日明日とも知れぬ命。……今は厄介事を背負い込んでいる場合じゃない。……正直に言えば大聖杯破壊後は知ったこっちゃ無いが今人員が減るのは不味い。後の面子はただでさえ味方に引き入れられるか分からないんだからな……そもそもまだ今の面子の誰からも承諾の返事を貰ってないな。

 

……最悪誰も味方になってくれなかったからいっそアルトリアを自害させて逃げる事を視野に入れないと……

 

「……分かりました。……シロウ、昨日の話なのですが……」

 

「……あー……後で良いわ。何せまだ誰からも返事貰ってないからな。」

 

「……そうですか。ではイリヤスフィールの所に行ってきます。」

 

「……おう。」

 

俺はそのまま台所に向かう。

 

 

 

「……食材が足らんな……。」

 

アルトリアが割と健啖家だったからな。そもそもサーヴァントって食事は必要ないんじゃなかったか…?あれ程の量が何処に行くんだか……魔力として供給されるにしても多過ぎだろ……

 

「……しゃあねぇ。後で買い物行かないとな。」

 

取り敢えず今は朝飯を用意して学校に行く用意をしないとな。……戦争状態とは言え、日常をそのまま過ごさなければ後々支障が出る。まあ俺の場合あんま意味無いかも知れないが。

 

「……どうせ聖杯戦争後半になれば学校どころじゃなくなる。」

 

夜にあれだけ派手な戦いしといて一般人に全く悟られないようになんて無理に決まってる。そもそもこの家でさえ半壊気味だ。ランサーの襲撃のせいでな。

 

「……ちょっと!?貴女誰!?」

 

「……あー……虎の存在を忘れていた。」

 

どうもアルトリアと鉢合わせしたみたいだな。どう誤魔化すかねぇ。

 

俺は頭を掻きながら鍋の火を止め揉め事を止めるためキッチンを出た



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堕落したブラウニー16

「……へー、イギリスからホームステイね…。」

 

「……はい。私もまさかキリツグ…さんが亡くなってるなんて思わなかったもので……」

 

時間は流れ今俺たちは俺が作った朝食をつついている。……あの後誤解を解くのに非常に時間がかかったが結局アルトリアは衛宮切嗣の海外の知り合いの娘のセイバーさんで誤魔化した。

 

……切嗣は基本藤ねえにほとんど過去を語ってないからな。こういう話も有り得なくは無いわけだ。問題は……

 

「……それで、その……イリヤスフィールちゃんだっけ…?」

 

「……あー…イリヤで大丈夫よ。長いでしょ?」

 

そう問題はこいつイリヤスフィールだ。虎の声はデカい。寝てようがどうしようが当然イリヤスフィールは部屋から出て来ざるを得ない。……こいつは切嗣の実子だ。……しかし馬鹿正直にそんな話をするのは非常に不味い。しかも実は俺より年上なんて爆弾まで抱えている。

 

結局迷った末に……

 

「……セイバーさんの妹なんだよね…でも……」

 

「……似てないよね。……ちょっと複雑な事情があって……」

 

「……あ、うん。大丈夫だよ。話したくないなら無理に聞かないから。」

 

……先に断っておくがこんな無茶な設定を考えたのは俺じゃない。話の流れを掴んだこの合法ロリが勝手に言い出した事だ。……あー…アルトリアの奴、顔が引きつってるよ。

 

 

 

「……おい、イリヤスフィール?何のつもりだ?」

 

虎が一足先に学校に向かった後俺はイリヤスフィールを問い質した。……確かに一般人が出入りする事を言っておかなかった俺にも問題はあるが少なくともこいつは話をややこしくしたのは事実だ。

 

「……えー…お兄ちゃんヒドイ~!そっちが困ってるみたいだから協力して上げたのに~!」

 

嘘泣きするイリヤスフィール……つーか

 

「……何だ、お兄ちゃんって。あんた俺より年上だろうが。」

 

「……この見た目で誰がそう思うのよ。少なくともタイガの前ではこの方が良いでしょ。」

 

「……そもそも俺はまだお前から返事を聞いてない。少なくとも俺にとってお前はまだ敵だぞ。」

 

こいつ何時までこの家に居着くつもりだ。

 

「……それなら問題無いわ。私はシロウに就く事にしたから。」

 

笑顔でそう言う合法ロリ。そうは言ってもな……

 

「……アハト翁は承諾しないだろうが。アインツベルンを敵に回す気は無いぞ、俺は。」

 

……こいつを味方に付けるならアハト翁の説得が急務だ。人手が足らない以上多少危ない橋を渡る必要がある。

 

「……もう!良いじゃない、そんなの!どうせお爺様はそんなの承諾しないわ。私に期待してるのも聖杯を手に入れる事だもの。ついでだからアインツベルン潰しましょう。」

 

ブーたれながら物騒な事を宣うロリ……こいつ……

 

「……いや。どうやって勝てと?」

 

頭数が足らん。ここにセイバーと遠坂とアーチャーが加わっても切嗣の残した記録の通りの規模なら絶対に無理。

 

「……うーん……まあ何とかなるでしょ。」

 

「却下。」

 

ギャーギャー騒ぐロリは放っておいてアインツベルン陣営を焚き付ける策を考えないとな……あー…その前に学校行かないと。遠坂の返事も聞かなきゃならんし。

 



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堕落したブラウニー17

「……おい、イリヤスフィール……」

 

「……いい加減イリヤって呼んでくれない?で、何?」

 

「……俺たちはもうアインツベルンの拠点の敷地内に入ったのか?」

 

「……まだよ。」

 

「……じゃあこれは何だ?」

 

「……知らないわよ……」

 

俺たちは今アインツベルン保有の戦闘用ホムンクルスに囲まれていた。

 

 

数時間前…

 

「……セイバー、本当に良いんだな?」

 

「……はい。私は聖杯を諦めシロウに協力します。この戦いで私に本当に出来た事、これから出来る事を考えてみます。」

 

「……で、遠坂も良いんだな?」

 

「……昼間学校でもチラッと言ったけど、元々私は遠坂の名を知らしめるために聖杯戦争に参加したの。……そんな汚染された聖遺物を冬木市セカンドオーナーの私が放っておけるわけ無いじゃない。」

 

「……アーチャーは……」

 

「……ふん。私はサーヴァントだ。マスターに従おう。……だが、衛宮士郎……お前が妙な事をしたらすぐにでも私が仕留める。」

 

「……はいはい。取り敢えず協力するでいいわけね。」

 

ホントこいつめんどくせぇ……

 

「……イリヤスフィールからは既に協力を約束されているがまずアインツベルンに話をつける必要がある……第三次聖杯戦争についてもっと詳しい話をアハト翁に聞きたいことだしな。」

 

これがメインだ。少なくとも無条件で協力を取り付けられるとは思ってないがこれは話して貰わないとならない。

 

んで今……

 

「……ここからアインツベルン保有の屋敷までまだ距離があるわ。第一、こんなところでこれだけの数のホムンクルス並べたら神秘の漏洩に繋がるでしょ。」

 

「……今更な気がするがな?じゃあここにこいつらがいるのは……」

 

「……私の処分、ね。そもそも私がアインツベルンと連絡を取れなくなった時点でお爺様はもう私を死んだものと思ってるだろうし……」

 

「……それは少し違いますね。」

 

「……セラ…」

 

「……顔見知りか?」

 

「……アインツベルンのホムンクルスなら全員顔を知ってるわよ。でも、そうね……彼女ともう一人には特別世話になったから。」

 

「……私の役目はお嬢様と貴方方の足止めです。今貴方方をアインツベルン陣営に行かせる事は出来ません。」

 

「……それはどういう意味だ…?」

 

「今、我々の屋敷は第三勢力の襲撃を受けています。……今、我々としてもお嬢様を失う訳にはいかないのです……」

 

「……アインツベルンを脅かす程の第三勢力?」

 

「……正確には一人です。」

 

「……戦闘用ホムンクルス相手にたった一人で無双してるのか、そいつは!?」

 

「……はい。ですので我々は今お嬢様を屋敷まで通すわけには行かないのです。このまま引き返して下さい。我々はその後このまま屋敷に戻ります……」

 

……こいつら死ぬ気だ。従者の鏡だな……気に食わないが俺には関係無い。

 

「……一旦俺の家に戻るぞ。情報源が無くなったのは痛いがやる事は変わらん。作戦の練り直しだ。」

 

俺たちが踵を返そうとするとその場を動かない奴が一人……イリヤだ。

 

「……お前はアインツベルンに反旗を翻すつもりじゃなかったのか?良かったじゃねぇか。アインツベルン謹製の戦闘用ホムンクルスが束になって倒せない程の相手なら既に弱り切ったアハト翁が耐えられるわけが無い。……アインツベルンはもう終わりだよ。」

 

何を思ってこんな極東の地くんだりまで先の無いアハト翁が出張って来たのか知らんが災難だったな。

 

「……そうだけど……でも、こんなのって……!セラ、そこを退きなさい。私はアインツベルンに戻るわ。……ごめん、シロウ……」

 

「……そうかい。じゃあ、仕方ねぇ「それは出来ません。私はお嬢様を絶対に屋敷に行かせないよう厳命されています。」…こう言っているが?」

 

……俺は何をしている…?もう俺には関係の無い話の筈だ。

 

「……退きなさい。退かないなら力ずくで通るわ……!」

 

後ろが一触即発の空気を醸し出していく…あーあ……

 

「……面白くなって来たな。俺も混ぜろよ。」

 

俺はイリヤスフィールの横に立った。

 

「……シロウ…?」

 

「……遠坂、付き合う必要は無いぞ?」

 

「……こんな所で大規模な戦闘が起こるのを見過ごすわけ無いでしょうが。アーチャー?仕事頼むわよ。」

 

「……やれやれサーヴァント使いの荒いマスターだ。」

 

「……セイバー、悪いが手を貸してくれ。」

 

「……私はもう貴方に全てを預けました。改めてこの場で誓いましょう。私は貴方の剣として忠を尽くします。」

 

「……皆、ありがとう……」

 

「……セラって言ったっけ…?女を殺す趣味は無い。ある意味目的は一緒なんだ。こんな所で争わないで共闘しない?」

 

「……」

 

「……分かったよ……んじゃ、始めるか……!」

 

結局こうなるのか……だが、悪くない!

 

 

 



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堕落したブラウニー18

……とまあ…変な気合い入れてアインツベルン陣営救済の為アインツベルンの戦闘用ホムンクルスと戦うというどう考えても意味不明な戦いをする事になった俺たちだったが……

 

「……きりがない、な!」

 

……アインツベルンを一人で潰せる程の実力者が暴れてる所に俺たちだけで行っても無意味な為、こいつらを一時的に無力化させて説得し共闘する事を考えた。

んで、俺は多少なりとも心得のあり複数人を相手可能な六尺棒を投影し、セイバーと共に棒術で奴らと近接戦をする事に。ちなみにアーチャーは遊撃だ。弓で俺たちの援護をしつつ自分も素手でホムンクルスたちの相手をする(遠坂曰く、何故か遠坂自身も使える八極拳で戦っているらしい……本当にこいつどういう英霊なんだ…?)

……あっ、遠坂とイリヤはサポートな。あまり出番無いかもしれないが。

 

「……チッ!しつけぇな!」

 

イリヤの話ではこいつらはアインツベルン主力ではないとか。しかも俺の使う棒術に馴染みが無いらしく素人に毛の生えた程度の実力しか無い俺でも何とか相手出来た。大体今この場で一番面倒なのはこいつらの相手では無い。

 

「……何だもうへばったのか?手が止まっているぞ、衛宮士郎。」

 

俺の死角から攻撃してきて対応の遅れた俺の代わりにそのホムンクルスを殴り飛ばしたアーチャー…

 

「……六尺棒など投影するから余程自信があるのかと思ったが何だ?大した事無いな?」

 

……何故俺は味方に煽られているんだ…?

視界の端に見える遠坂とイリヤがこちらにジト目を向けている。……いや。俺から始めたわけじゃねえから。こいつが勝手に挑発してるだけだから。

 

セイバーは……いや。お前俺の所じゃなくてセイバーの方行けよ。明らかに許容範囲超えの敵に囲まれてるぞ。

 

「……ふん。お前に言われずとも分かっている。」

 

渋々セイバーの方に向かうアーチャー。

……いや。何で俺こんなに嫌われてるんだ?俺はまだあいつに何もして無いんだが……。

 

「……さて、そろそろここを通してくれないか?」

 

手の空いた俺は先程から録に動いていないセラに声をかける

 

「……出来ません。私はここを死守するよう言われています。」

 

「……イリヤから聞いた。お前と仲の良いホムンクルスは残って屋敷で戦ってるんだろう…?こんな事してる場合じゃないんじゃないか?」

 

「……」

 

「……セラ!もう良いでしょう!?早くリズを助けに行きましょう!?」

 

「……私は……!」

 

武器を手に取り俺に向かってくるセラ。……ああ。そうかよ……!

 

「……」

 

俺は棒でセラのガラ空きの腹を突くとそのまま加減せずに流れる様に棒で横っ面を殴って吹っ飛ばしてやった。



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堕落したブラウニー19

「……遅いな?衛宮士郎。」

 

「……お前なぁ……もう良いから遠坂連れて先行けよ。こっちも後から行く。」

 

気絶したセラを背負いイリヤを横抱きにして屋敷までの距離を二人に負担がかからないように走っている俺に遠坂をお姫様抱っこして走りながらマウント取りに来るクソ英霊。マジでうぜぇ……

 

あの後何とかホムンクルス共の鎮圧に成功し共闘を持ちかけ共に屋敷に向かう事になった。

そして俺は倒れたまま未だに意識の戻らないセラの元に向かう

 

「……」

 

……寝たフリかと思ったが本気で気絶してるようだな……

イリヤの気配を感じ声をかける

 

「……なぁ…こいつ戦闘用ホムンクルスじゃないのか…?」

 

「……セラは魔術戦特化だから……」

 

「……白兵戦は苦手と。自分の得意分野も忘れるほど焦ってんならそれこそさっさと投降すりゃ良かったのによ…。」

 

「……セラは人間を憎んでるから。主に原因は……」

 

「……切嗣にあると。息子の俺が尻拭いしなきゃなんねぇか……」

 

頭をガシガシ掻くと俺はセラを背負った。

 

「……どうするの?」

 

「……こんな所に置いていく訳にも行かねぇだろ。」

 

俺はイリヤに近付くと左腕で抱き抱えた。

 

「……何してるの?」

 

「……お前が走るより俺が運んだ方が早い。」

 

「……下ろして。」

 

「……嫌だ。」

 

喚いてるロリは無視し遠坂たちの方へ向かう

 

 

 

「……さて、ここがアインツベルンの拠点か……見事なまでに城だな。半壊して見る影もねぇけど。」

 

俺の目の前には文字通り半分がひしゃげた城があった。……バーサーカー以外にこんな事出来る奴……案外居そうだな。

俺は手加減出来ない可能性を考え先の戦いでは待機させていたヘラクレスを引き合いに出しながら考える

 

「……ちょっと~!?そろそろ下ろしてよ~!?」

 

「……ん?ああ、はいはい。」

 

俺は横抱きから後ろ襟を掴むにランクアップさせていたロリを下ろす。

 

「……服が伸びたわ……」

 

「……あっそ。」

 

ロリの抗議を無視し生き残りを探す。

 

……息があるのは見つからない。大半が息絶えていた。

転がるのはホムンクルスの死体ばかり……ん?あれは

 

「……ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンだな?」

 

「……衛宮の子倅か。裏切り者の息子が何をしに来た?貴様の手には小聖杯がある。既に勝利は確定じゃろうて。」

 

俺は辛うじて息のあったジジイに声をかけた。

……傷は既に致命傷。ほっといても死ぬ。

 

「……今更儂に何を聞きたい?」

 

「……第三次聖杯戦争……」

 

「……あの戦いはアインツベルンは早々に敗北した。それ以外に何を儂に聞く事がある…?」

 

……まさかこいつ自分が仕出かした事を知らないのか…?

 

「……もっと詳しく聞きたいのさ、あんたが召喚しようとした悪神の話についてな。」



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堕落したブラウニー20

結局ジジイからは大した情報は得られなかった。

……そもそもあのジジイ……自分が聖杯戦争を台無しにする切っ掛けを作ったなんて思ってもいなかったみたいだしな……自分はアインツベルンの為にアンリ・マユを召喚しようとしたが失敗して負けてしまった事など自分が話したい事だけ話して何か満足したのかそのまま死にやがった。

 

……結局アインツベルンの城で得られたものは……何の因果かただ一人の生き残りであるリズだけだった。

セイバーたちを先行させていたが既に襲撃者は城を辞していたらしく肝心の襲撃者が何者なのかも分からずじまい。……アインツベルンとしては踏んだり蹴ったりだな。現当主が死んだ上、これだけの被害を出した以上聖杯戦争からは撤退せざるを得ない。……当主候補のイリヤは元々自分では聖杯を欲しいとは思っていない。……小聖杯である以上巻き込まれるのは確定してるが。

 

さて、所変わって……ここは俺の家だ。

 

「……」

 

「……なぁ?取り敢えず何があったのか教えてくれないか?話が進まねぇんだわ。」

 

俺たちと共に屋敷に向かったホムンクルスたちを残しこの家に連れて来た二人のホムンクルス。重症のリズと違い早々に目覚めたセラに何が起きたのか詳しい事情を聞きたいんだが……この通り俺を睨み付けるだけで何も語ろうとしない。

 

……今回は会わずに済んだがいずれ戦うだろう確信のある俺としては少しでもヒントが欲しいのだが……

 

「……シロウ、私が話を聞くわ。」

 

「……了解。頼んだ。報酬はパンケーキな」

 

「……シロウ、貴方私の事なんだと思ってるの?」

 

「ロリババア。」

 

ロリババアのヒステリーを無視し襖を閉める

 

とある部屋に着き襖を挟んで声をかける

 

「……遠坂?入っても大丈夫か?」

 

「……ええ。」

 

中に入る

 

「……どうだ?リズの様子は?」

 

「……何とも言えないわね。私は医者じゃないからここまでの怪我は専門外よ」

 

「……しゃあねぇだろ。普通の病院には連れてけねぇんだから。……冬木市には魔術に理解のある医者はいねぇのか?」

 

「……私の知る限りでは居ないわね。日本は元々西洋魔術の研究自体あまり進んでないから国内の尺度で見ても数える程もいるかどうか……」

 

「……俺たちの足止めに回されたセラと違い襲撃者とガチでやり合った唯一の生き証人だ。何とかならねぇのか…?」

 

「……最善は尽くすけど……セラの方はどうなの?」

 

「……相変わらず黙りだ。今イリヤに代わってもらったとこだ。」

 

「……人選としてはどうなのかしら…?」

 

「……まあ身内だし俺よりマシだろ。」

 

 



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堕落したブラウニー21

「……で、何時までここにいる気?」

 

「……治療風景を見たいんだが駄目か?」

 

「……良いわけないでしょうが。ホムンクルスと言っても相手は女性なんだから。」

 

「……う~ん……俺がいればアドバイス位は「あんた自分で三流以下って言ってなかった?必要無いわよ。」さいで。」

 

「……というかあんた裸を見たいだけよね?」

 

「ああ。そうだけど?」

 

「……とっとと出てけ。」

 

……チッ!ホムンクルスの裸なんて中々見れねぇのによ……しかもあの女明らかに身体は極上と見た。

 

「……セラも悪くは無いんだが胸がなぁ……」

 

俺は別に巨乳派では無い。女の胸の大きさで差別はしない……だがデカい方が良いと思ってしまうのは男の性だ。どうしようも無い。……これは男には無い違いだからな……まあデブか筋肉質かというのも選ぶ基準になるしケツとアレの大きさも違うからやはり選ぶ要素はあるかもしれんが。

 

「……パンケーキ作っとくか。取り敢えず今起きてる奴全員……いや。アーチャーはどうせ食わないな。後セイバーはタワーにしてやるか。」

 

……幸いパンケーキなんて滅多に作らないから材料はある。頭の中でアレな想像をしつつパンケーキの作り方を思い出すというマルチタスクの無駄遣いをしながらキッチンへ。

 

 

 

「……シロウ何してるの?」

 

「……見ての通りパンケーキ作りだが?」

 

「……ふ~ん…」

 

「……セラは堕ちたか?」

 

「……変な言い方しないでよ。一応協力してくれる事にはなったわよ。でも……」

 

「……俺を信用出来ない……だろ?」

 

「……うん。シロウの話が本当なら私たちを恨んでないわけないって。そう言う意味ではまだリンの方が信用出来るって言ってたわ……」

 

「……一つ言わせてもらうとだな……俺を、お前らの理屈で測るな。」

 

「……」

 

「……矛盾しててもこれが俺だ。どれだけぶっ壊れてようとな。……俺は魔術師は大嫌いだ。だが恨んではいない。……お前らどんだけ戦争脳なんだ?やられたらやり返せなんて永久に終わらねぇだろうが。……下らねぇ理屈に俺を巻き込むんじゃねぇ。」

 

「……シロウ、私は……」

 

「……何を考えてるのか知らんが今は何も言うな。俺は何も背負いたくないんだよ。俺が大聖杯を破壊したいのは復讐でもあるが一番の理由はさっさとこの下らねぇ因縁を終わらせたいからなんだよ。」

 

「……そっか。」

 

「……で、あんたも食うか?セラさんよ。」

 

「……セラ!?」

 

「……気配は消していたつもりだったのですが……」

 

「……切嗣にもしもの時に魔術に依らない戦い方を習ったりもしたがそれ以上に俺は良く揉め事に巻き込まれるんでね、いつの間にかその辺鋭くなっちまったのさ……で、食うか?」

 

「……そうですね。貰いましょうか。」



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堕落したブラウニー22

「……うん。セラの方が美味い。」

 

「……遠坂…」

 

「……何よ…」

 

「……リズは予断を許さない状況だったんじゃないのか?」

 

「……魔術による治療も大掛かりで無いと無理なレベルだったから普通に手当てしただけよ……」

 

「……要するにリズが羽織ってるお前のコートの隙間……特に胸元から見えてるのはサラシとかじゃなくて包帯って事で良いのか…?」

 

「……そうよ…」

 

「怪我なんて食って寝れば治るってイリヤの持ってるマンガに書いてあった。だから沢山食う。」

 

俺はマンガとリズが口にした時点で嫌な予感がしていたが一応リズの方を見る。先程突然現れたリズに自分の目の前にあったパンケーキを皿ごと取られ呆気に取られていたリズだったが一応俺の視線の意味に気付いたらしく黙って首を横に振った。……そんな機能は着いてないわけね……次に俺は同じくパンケーキを取られたイリヤの方を見る

 

「……いや。別に私のせいじゃないでしょ……まさか本気にするとは思わないし……」

 

まあ別に責めてる訳じゃない。俺も遠坂も取られたが別に腹減ってたわけじゃないし特に問題は無い……あるとしたら……

 

「……パンケーキ……私の……まだ一口も……」

 

先程からずっと暗いオーラを出しつつブツブツ呟いている暴食騎士王様だろうか……リズにパンケーキタワーを横取りされてからずっとこの調子だ。

 

「……取り敢えず追加を作ってくる。」

 

「……私も手伝うわ。正直あれ見てて居た堪れないし……」

 

「……そうか。なら、頼む。」

 

「……アーチャー、あんたも手伝いなさい。」

 

「……仕方が無い。では、半人前の衛宮士郎程度では作れない極上のパンケーキを作るとしよう。」

 

「……高々パンケーキ作るくらいでマウント取りにくるんじゃねぇっての。……つーか大した食材残ってないから凝ったことは出来ないっての。」

 

「何を言う衛宮士郎。そう言う限られた状況で以下に良い物を用意するかが食を預かるものとして重要なスキルだ。その為私は生前フリーで行動しつつ多くのシェフとメル友に「お前近代の英雄か。」あっ……」

 

「聖杯による知識のバックアップあっても普通メル友なんて単語出て来ないからな?」

 

「……アーチャー、あんた……」

 

「……くっ…私とした事が……」

 

「……なあ遠坂こいつ割とポンコツじゃないか?」

 

「……悔しいけど否定出来ないわ……」

 

「……これで勝ったと思うなよ衛宮士郎……!」

 

「……いや。だからお前と勝負してないし……」

 

「……あの…」

 

「……ん?何か用か?」

 

「私も手伝いを……」

 

「……いや。座っててくれ。我が家のキッチンは狭いから三人でもキツイんだわ。」

 

「……そうですか……」

 

「……何かしたいならイリヤと一緒にセイバーの相手しててくんね?さすがに時間はかかるからな。」

 

「……分かりました。」



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堕落したブラウニー23

学校の屋上。僕はその床の上に念の為羽織って来たコートを敷き寝転がり通学カバンを枕に目を閉じている。

 

「……シンジ。」

 

声が聞こえ。目を開ける。

 

「……ライダーか。どうだった?」

 

「……どうもアインツベルンのマスターも味方に付けたみたいですよ。」

 

「……遠坂、アインツベルン……御三家のうち二家がこれで衛宮と同盟を組んだわけか。完全に出遅れたな……。」

 

「……やはりこちらから打って出るべきでは……」

 

「……衛宮の行動は明らかに情報を得ている者の動きだ。こちらには情報がほとんど無いからな……下手な事は出来ない。」

 

「……ですが…」

 

「幸い、衛宮たちは恐らく間桐のマスターは桜だと思っている。偽とは言え僕がマスターをしているとは気付いて無い筈だ。その分僕に目が出て来る。」

 

「……それではサクラに危険が及ぶのでは……」

 

「……だから予定を変更して桜に学校を休んでもらった。にしても驚いたよ、まさか聖杯戦争初日で遠坂と衛宮が組むなんてさ、そこからあっという間にアインツベルンまで味方に付けた。……正直衛宮を侮っていたよ……まあアインツベルン本陣はほぼ壊滅状態なのが救いだな。ところで……アインツベルンのサーヴァントとアインツベルン本陣を強襲した奴の正体は分かったか?」

 

「……すみません…まだどちらも…アインツベルンのサーヴァントの方は普段霊体化したままのようですし……アインツベルンの屋敷には攻撃が激し過ぎて近寄れませんでした……」

 

「……気にしなくていい。今お前に死んでもらったら困るからな。無理をせずヤバくなったら撤退するよう指示したのは僕だ。……しかし後者はまだしも、前者は絞れるかもしれない。」

 

「…!本当ですか?」

 

「何処の何時代の英雄とかは分からないけどね、普段から霊体化させたままという事は万が一一般人に見られたら困る見た目とか後は下手に実体化させると制御が難しいとか……ここまで言えばその条件に合いそうなサーヴァントが出て来ないか?」

 

「……バーサーカーですか。」

 

「……そうなるな。これは僕の推測に過ぎないがもし当たっていた場合僕らではまともに相手するのは難しい……」

 

「……何か手は無いのですか?」

 

「……無いことも無いが……今やるのは厳しいな……そう言えばお前の宝具には魂食いを出来るものがあるんだったな?」

 

「……他者封印・鮮血神殿の事ですね……」

 

「……どっちみちお前が動くとなればサーヴァントである以上魔力が必要だ。……桜にあまり負担をかけたくない……それこそ蟲の侵食が進んでしまう。」

 

「……しかしそれでは……」

 

「……分かってるさ。僕だって真っ当に魔術師を目指した事もある身、神秘の漏洩の可能性を考えれば一般人を巻き込みたくない…それ以上に桜が望まない。」

 

「……」

 

「……そんな顔するなよ。背負うのは僕さ。お前に手を汚させる代わりに全ての責任は僕が取る。」

 

「……シンジ……」

 

「……でも今はまだ様子見だ。今日また何か状況が動くかもしれない。偵察を続けてくれ。」

 

「……分かりました。……あの、シンジ?」

 

「……ん?」

 

「……サクラを休ませ自分は囮になるつもりなら貴方は普段通りに過ごす必要があるのでは…?」

 

僕は腕時計を見る。既に午前十時を回っている。とっくに今日の授業は始まっている。

 

「……本来はそのつもりだったんだけどな……あの二人の性格からすると昼間だろうとお構い無しに真っ先に僕に当たりに来るだろうからな……僕は家に居場所があるわけじゃないからこうやって登校はしているけど、教室には顔を出せない。……あくまでも僕は偽のマスター……でもそう簡単に僕の正体を悟らせるわけにはいかない。」

 

「……」

 

「……まっ、どうせお前の宝具を使うなら場所として相応しいのはここ、学校だ。……そしてルール違反だとしても時間帯は一般人の集まる時間にしなきゃならない。その際にあいつらの前に顔を出せば僕をマスターとしてアピール出来る、お前に余剰魔力を与えられる、一石三鳥と言うわけさ。」

 

「……行き当たりばったりも良い所の方法だが今これしか僕に出来ることは無い。だが動くにしてもまずは情報が欲しい。もっと上手い手が浮かぶかもしれないしな……取り敢えず追加で偵察を頼む。」

 

「……分かりました。私は貴方を改めてマスターとして信頼します。貴方に必ずや勝利を捧げましょう。」

 

「……その忠義を受ける資格は僕には無い。僕らはあくまで共犯者。その台詞は僕が死んだ時桜に言うために取っといてくれ……この場は聞かなかった事にしておく。じゃあ頼むな。」

 

 



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堕落したブラウニー24

……あの後欠食児童の如く食い続ける露出狂ホムンクルスと暴食騎士王の為に遠坂とパンケーキを作り続けようやく二人が満足した時には夜が開けていた。ちなみにクソ弓兵は人の横で言い続ける嫌味にいい加減我慢の限界に来たので早々に戦力外通告を出しさっさとキッチンから追い出した。……あいつ本当に何がしたかったんだ?

 

「……ふわぁ…」

 

俺は今眠い目を擦り学校に向かっている所である。……遠坂は欠席を決め込んだ。連戦もあったせいで疲れも溜まってるだろうから妥当な判断だな。そして俺は疲労の溜まった身体を押して何故登校しているのかと言えば……

 

「……慎二が休み…?」

 

「……うむ。とはいえ無断欠席だそうだ。言動は不真面目だが学業には真面目に励んでいた筈なのだが……」

 

一時間目の始まるギリギリにやって来た俺にいつものように小言を飛ばす柳洞一成に姿の見えない間桐慎二の事を聞いてみると予想外の答えが帰って来た。……間桐家に探りを入れるため慎二に接触したかったからわざわざ登校したんだがな。

 

「……むっ?何処へ行く衛宮?すぐに授業が始まるぞ?」

 

「……今日の一時間目はサボる。ちょっと昨日色々あって限界なんだ……保健室で寝て来る。」

 

「……貴様と言う奴は……まあいい。そんな状態で授業受けても身に入らんだろう。今回は大目に見る。」

 

「……サンキュー…まあ今日の弁当は期待してくれ。お前の大好きなハンバーグだ。」

 

「……それは楽しみだな。…衛宮、二時間目迄には戻って来るのだぞ?」

 

俺は答えず背を向けたまま手をヒラヒラと振り返事をする。……この真面目一辺倒且つ寺の息子でこの学校の生徒会長である少年とは意外と馬が合う。……二人きりで生徒会室で飯食ってるせいもあるんだろうが時々腐女子勢が騒いでいる程だ。……まあ別にあいつとするのは構わないが俺はあいつには手を出した事は無い。いずれは……と思っているがあいつの家の宗教観のせいかあいつは身持ちが硬い。まあ徐々に落としてやるさ……取り敢えず生徒会長の許可も取れたし保健室に向かうとしよう。

 

保健室に着きノック

 

「……どうぞ。」

 

「……ちーす。寝に来ました。」

 

「……堂々と言われると案外清々しいわね……どうぞ、ベッドは空いてるから好きになさい。」

 

「……どうも。正直限界なんでさっさと寝させてもらいます……」

 

「……一時間目が終わるまでよ。それ以上はダメ。」

 

「……了解で~す。」

 

俺はベッドの前のカーテンを開けベッドにうつ伏せになる。特に抵抗無くすぐに俺は眠りに着いた……

 



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堕落したブラウニー25

「……結局お前はずっと寝ていたな、衛宮……」

 

「そう怒るなって。ほれとっとと飯食いに行こうぜ。」

 

一時間目終了後に保健室を追い出された俺は結局二時間目以降も机の上に突っ伏し爆睡していた。……何度か教師が……どころか何処ぞの虎も俺の頭をしばいたらしいが無反応で寝続けて居たらしい……まあ昼飯には起きれたが……体内時計はきっちり仕事しているようで何よりだ。

 

「おい!まだ話は……仕方の無い奴だ……」

 

一成はとにかく説教が長い……素直に聞いてた日にゃ昼飯を食いっぱぐれるからな……午後に備えてでもなく腹一杯になったらどうせ放課後まで寝るんだろうが。

 

「……ん?」

 

「……どうした?衛宮?」

 

俺は魔術師としては三流以下だが武術の心得が多少あるせいか殺気などには割と敏感な方だ。とはいえ俺には元々それとは関係無く察知出来るものがある。

 

「……悪ぃ一成、飲み物買ってくるから先に生徒会室行っててくれ。」

 

「むっ?そうか?ならば先に行っていよう。」

 

一成を見送ると俺は自販機のある購買とは違う方向へ向かう。……そもそも購買は一階にあるが俺の足は階段を登っている。屋上の扉が見える。俺はドアを開けた。

 

……冬木市は冬場でも昼間は比較的温暖な町だ。最も肌寒い事には変わりないのでこの時期の屋上は人気が無く昼休みでも人はほとんどいない。……だが今日は違った。

 

「……うんうん。やはり俺がこいつの気配を間違えるわけないな!」

 

俺が必ず感じ取れるもの。それは間桐慎二の気配だ。他の連中はてんで分からないのに同じ建物内にいればほぼはっきり居場所が分かる程正確だ。建物の広さで精度は変化するが居ることは分かるし、ましてや学校程度の広さなら俺が居場所を間違えるわけも無い。

 

「……無防備に寝てやがんな……」

 

俺としては朝来てみたらお目当ての人物がいなくて休むつもりだったのに学校に来てしまったという理不尽へのムカつきをこいつにぶつけたくて仕方が無い。八つ当たりだとしてもこれは譲れない。

 

「……おっ!良い物見っけ!」

 

眠っている奴の頭の近くに飲みかけのペットボトル入りのスポーツドリンクがある。

 

「……」

 

俺はそれを掴むとキャップを捻りそのまま少し飲みその後口に含んだ。

 

「……」

 

俺は奴の両足を開き奴を跨ぐようにして屈むとと奴の顔に自分の顔を近づける

……そして奴の口に俺の口が触れた辺りでようやく目を覚ました慎二が暴れようとするがすかさず奴の上に座るとまずは足の動きを止める。次に両手を左手で抑え完全に抵抗を封じると俺は奴の口を無理やり舌でこじ開けると含んでいた飲み物を口に流し込みそのまま舌を絡めてやった。

……しばらくそうして俺は口を開き奴の上から退けてやった。

 

 

「よう。お目覚めのキスの味はどうだ?サボり魔?」

 

「ゲホッ!ゲホッ!最悪だ!てか誰がサボり魔だ!普段授業サボってんのはお前だろうが!」

 

「……そうだったか?まあいい。もう昼飯だ。……そのカバンを見るに道具一式はもちろん弁当も持って来てんだろう?一緒に食おうぜ。」

 

「……きょっ、拒否「させると思うか?」分かったよ……」

 

俺は屋上のドアを開けてやると奴に入れと促す。渋々従った奴の後ろに続き俺は屋上を後にした。

 



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堕落したブラウニー26

「……衛宮、何故そいつがここにいるんだ…?」

 

「……屋上でサボってたのを引っ張って来た。」

 

「……理由を聞いても良いか?お前は授業をサボる様な奴じゃないと思っていたが……」

 

「……生真面目なお前には分からないさ。たまには僕だってサボりたくもなる。」

 

「……分からなくもない。まあ俺からはこれ以上何も言わない。」

 

「……ふん。そうかよ……」

 

修羅場とも行かないが明らかに重い部屋の空気の中俺は笑っていた。いやぁこれが見たかったから慎二を連れてきたんだよなぁ…。

基本的に慎二と一成は俺と違いあまり仲は良くない。寧ろ悪い。普段はお互い必要以上に関わらないようにしてるがこうやって同じ部屋に入れてみればその相容れず具合は一目瞭然だ。恐らく俺がいくら取り成した所でこいつらは当分歩み寄ることは無いだろう。

 

俺が二人に話しかけ適当な相槌を二人に打たせながら俺は飯を食う。そして時折一成に餌付けする……しかし俺が直接自分の箸で食わせてやってる状況にこいつは思う所は無いのだろうか?慎二も微妙な顔をしている。こいつ今この場で押し倒しても抵抗しない気がして来た……まあ今回は我慢しよう。そんな暇は無いからな。

 

三人して粗方食べ終わった所で生徒会の仕事を始めようとする一成に暗示をかけ眠らせる……?何か違和感があったが……まあ今は置いておこう。

 

「……さて、俺が何を聞きたいか分かってるな?」

 

「……何を聞きたいんだよ…?」

 

「……聖杯戦争。」

 

「……気付いてるだろ?僕は魔術師じゃない。僕には素質は無い。……ほら、令呪も無い。」

 

「お前がマスターだなんてはなっから思ってねぇよ。……俺が聞きたいのは間桐家の今回の聖杯戦争でのスタンスだ。」

 

「……」

 

「……本当は桜にも話を聞きたいんだか……」

 

「……今日は休みだ。」

 

「……だろうな。マキリ・ゾォルケンの指示か?」

 

「……体調を崩してるだけさ。お前も気づいてるだろ?桜の身体について?」

 

「……まあな。まあ間桐家の事情を調べたのは俺じゃないが。」

 

「……」

 

「……ジジイは聖杯を欲しがってるのか?」

 

「……答える義務は無いよ。というか僕の立場じゃ口に出来ない。」

 

「……チャンスがあればすぐにでもジジイをぶっ殺したいって顔に書いてあんぜ?」

 

「……言いがかりだな。そんな事僕に出来るわけないだろ?ちなみに桜はお爺様の良いなりだ。味方にでも付けたいと思ってるなら無理だぞ。」

 

「……まあ聞くまでも無いな。でも敢えて聞くぞ。俺に手を貸す気は「無い。」最後まで言わせろよ。」

 

「……何故僕にそれを言う?間桐家に直接出向いてお爺様と交渉するのが筋だろう?」

 

「ご最も。だがあのジジイは首を縦に振らないだろうさ。」

 

「……僕じゃなくて桜に言えよ。電話でもしたらいい。」

 

「……あくまでもお前は当事者じゃないと?」

 

「さっきからそう言ってる。僕にこんな話をするのはお門違いだ。……もう良いか?これ以上は無駄だろう?」

 

「……まだ俺の目的を話してないんだが?」

 

「……お前も聖杯が欲しいんだろう?どっちかと言うとそんな物欲しがるタイプには「違う」ん?」

 

「……俺の目的は……大聖杯の破壊だ。」

 

 

 

 



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堕落したブラウニー27

「……」

 

衛宮との話が終わった僕は生徒会室を出る。……廊下に人気は無い。当然だ、既に午後の授業は始まっているのだから。……これも奴の手か…僕は聖杯戦争のカラクリも冬木市大災害の事を衛宮から聞かされた。……僕は奴の誘いに返事をしていない…。これは奴の手なのだ。多分僕に桜を説得して連れてこさせるため僕に借りを作らせた……忌々しいが確かに今日の僕は他の奴に姿を見られるのは不味い。……まあ巻き添えで午後の授業をサボる羽目になる柳洞一成には同情するが。

 

「……ライダー…」

 

衛宮の事を見張らせていたため近くに居ただろうライダーを呼び出す。

 

「……シンジ、大丈夫でしたか?」

 

……僕はライダーに自分の事はマスターと呼ばせていない。ライダー自身は呼ぼうとしたが止めさせた。……そう呼ばれる資格があるのは桜だけだ……

 

「……ああ。問題無い。」

 

「……本当ですか…?」

 

「……何でだ?」

 

ライダーの目は覆われていて見えない。……不思議な話だが本人は視覚に問題は無いらしい。……僕はそのこちらから見えない筈の目に確かに心配の色が宿るのを感じた。

 

「……問題は、無い……」

 

「……シンジ、顔色が悪いですよ……」

 

「……そう、なのか?」

 

ポーカーフェイスには自信があるつもりだけどさすがにそれはバレるのか……

 

「……中で何が…?」

 

「……何だ?聞いてたんじゃないのか?」

 

「……」

 

「……屋上のを見て勘違いしたのかもしれないが僕と衛宮はそんな関係じゃない……奴はどうか知らないけど少なくとも僕に取ってはそうだ。まあ向こうからちょっかいをかけてくるし既に身体の関係ならあるけどね。第一あいつは色を好むタイプでね、別に僕に限った話じゃない。」

 

「……」

 

「……僕はこう言われた。手を貸せって、ね。」

 

「…!まさか……」

 

「いや。僕がマスターをしている事には気付いていない。……ただ予定を変更しなきゃならないだろうな。……今僕がマスターとして名乗り出るのは難しくなった。」

 

「……手を貸せとは具体的に何を……」

 

「……ああ。内容は……」

 

僕は奴から聞かされた話をライダーに話した。

 

「……シンジ、どうするのですか…?」

 

……ああ。やっぱりこいつもそうなのか。

 

「……さてね。大聖杯をそう簡単に破壊出来るのかは知らないが僕よりずっと桜を救う為のビジョンが見えてくるのは確かだ……でもな……」

 

僕はあいつの話には絶対乗れない……何故なら……

 

「……ライダー、あいつに同情したか?」

 

「……え?」

 

「……正直に言ってくれて構わない。もう一度聞く、あいつに同情したか?」

 

「……正直に言えば少し……」

 

「……だろうな。実際この話を仮に桜に持って行けば間違い無く首を縦に振るだろうな。でも……」

 

僕には出来ない。……さっきの事を思い出し僕は思わずその場にしゃがみ込んだ……思わず自分の身体を抱く……震えが止まらない……

 

「…!シンジ!?」

 

「……大丈夫、だ。」

 

……僕はあいつに手を貸せない。……あいつは自分の身の上話をする間のあいつの目は……あんな……

 

「……あんな…悍ましいを目を、した奴に…手なんて、貸せるものか……!」

 

自分の身の上話をする間奴の目は……あれは自分の不幸を語る目なんかじゃない……しかもその間奴の口元はずっと笑っていた。……あんな悍ましいものに手なんて貸せるわけがない。……昔からそうだ……!あいつは肝心な時に信頼出来ない……!



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堕落したブラウニー28

「……やっちまったな。」

 

笑いが込み上げる……止めらんねぇ……

 

「……あいつの反応が良いんでつい楽しんじまった。」

 

元々間桐家を本気で味方に着けられるなんて思ってないから別にこれで断られても構わないとさえ思える。

 

「……これで慎二とも正式に敵同士か。」

 

奴はマスターじゃないんだろうが間桐家と敵対するという事はそういう事になるんだろうな。

 

「……惜しいねぇ……」

 

俺からすればその身体は極上だ。まだ食ってない一成はともかく俺の知る限り奴の身体はとにかく素晴らしい。

 

「……死姦の趣味は無いんだよなあ……」

 

つまり眠姦の趣味も無いという事だ。俺は一成の方を見る。

 

「……さすがにこの状態で犯す気になんねぇ……」

 

少し悪戯したくなる気もしないでもないが自重する事にする。つーか……

 

「……魔術がかかってるな、誰の仕業だ?」

 

今更ながらに先の違和感について考察する。魔術の種類を見ただけで看破出来る域には達してない。だが……

 

「……どう考えても現代魔術じゃねぇよな……聖杯戦争と無関係とは考えにくいし……可能性があるとすれば……」

 

どうもサーヴァントが一成の近くにいるらしい。てかこいつは……

 

「……バレたな。多分相手はキャスターだから向こうから接触はして来ないだろうが……」

 

こちらからアプローチをかける必要があるという事か。……何れ居場所さえ分かれば接触を図るつもりだったから問題無い。

 

「……思わぬ手掛かりだったな。慎二の事は残念だったがこれからの動きが決まってきたから良しとするかね。」

 

さて、暗示のかかり方を見るに一成が目覚めるとしたら放課後か。……起きた時こいつがどんな顔するか楽しみだぜ。

 

 

 

その後起きた一成は困惑していたが俺が事情を説明すると自分が午後の授業をサボってしまった事を知り大いに凹んでいた。……慰めるのは忘れない。こういった地道な努力が好感度上昇に繋がるのだ。そこは手を抜かない。……正直聖杯戦争さえなきゃもっと本腰入れて口説きたいんだが……

 

「……くそ重てぇ……」

 

さて、俺は今食材の買い出しの帰りである……切嗣の残した金があるから多少無駄遣いした所で問題無いかもしれないがそもそもうちの居候二人はどれだけ大量に買っても賄える気がしない……

 

「……こんだけ買ってもすぐに無くなる気が……次からはセラも連れて行くか。何か手伝いたがってるみたいだし。」

 

お嬢様様育ちだろうイリヤは戦力外だし遠坂の性格的に荷物持ちなんて手伝うとも思えない。食べる専門としか思えない約二名は論外。弓兵はそれ以下だ。……横で嫌味垂れるとか食材に関するうんちく披露とかされた日にゃ発狂モンだ。

 

「……とっとと帰らないと俺が食われそうな気がしてくるぜ……性的にじゃなくて食べ物的意味で。」

 

性的にでも俺がリード取れないならあまり気が進まないし食い物扱いはもっと御免だ。……早く帰るとしようか。

 



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堕落したブラウニー29

「……エミヤシロウ……貴方に聞きたい事があります。」

 

「……無駄口叩いてないで手を……動いているな。で、何だ?」

 

「……貴方は本当に私たちを恨んで無いのですか?」

 

「……またその話か……どうでもいいと言ったはずだが?」

 

「信じられるわけないでしょう…!」

 

「……そもそも忘れてるみたいだが……俺は感情の多くを食われてるんだぜ?恨むも何も無いだろうが。」

 

「!そう…でしたね……」

 

「……下らない事考えてる暇あったら自分たちの身の振り方でも考えた方が良いんじゃないか?アインツベルンの当主はもういないんだぜ?」

 

「……そうですね……ところでエミヤシロウ?」

 

「……フルネームじゃなくて苗字か名前のどちらかで呼んでくれ……何だ?」

 

「……シロウ……貴方は味覚障害なのでしょう?味付けは私がしても?」

 

「……じゃあ任せる。」

 

「……誰かと料理ですか……こういうのも悪くないですね……」

 

「そうかい。なら、これからはイリヤやリズにも手伝わせたら良いんじゃないか?」

 

「……はい。そうですね。」

 

 

 

「……セラとシロウ……何か良い雰囲気……」

 

「……イリヤ、嫉妬?」

 

「違うわよ。義姉として弟の恋愛事情を「アホなことしてないで暇なら手伝え。飯抜きにするぞ。」嘘!?」

 

「お嬢様……何をしてるんですか?リズも。」

 

「……セラ、シロウの事好き?」

 

「……なっ!?貴女は何を!?」

 

「……違うの?」

 

「馬鹿な事を言わないでください!」

 

「……セラ!鍋吹きこぼれてる!」

 

「……っ!いけない!」

 

「……」

 

「……何を見てる?俺に何か用か、リズ?」

 

「……セラを泣かせたら許さない。」

 

「……出来ない約束はしない主義だ。」

 

「……そう。それでも良い。セラを泣かせないで。」

 

「……妙な事を言うな?セラが心配ならこの場で俺を殺せば良いんじゃないか?俺はそんなに安全に見えるのか?俺に任せてどうなるかなんてすぐ分かるだろ。」

 

「……シロウは危険。でも信用は出来る気がする。」

 

「……そうかい。……そろそろ出て行ってくれ。お前食うの専門だろ?」

 

「……そうする。」

 

「……リズ!」

 

「……何?」

 

「……俺はな、人を愛さない主義なんだよ。」

 

「なら、問題無い。私とセラはホムンクルス。イリヤも。」

 

「……そうかい。」

 

「……シロウ、先程のはその……」

 

「……俺は何も聞かなかった。それでいいか?」

 

「……はい。」

 

「……運ぶか。そろそろ暴食騎士王が暴れるかもしれない。……あー…セラ?」

 

「……何でしょう?」

 

「……リズに動けるなら服着てくれるように言ってくれないか?遠坂から服借りたんだろ?」

 

「……その、私は問題無いんですが彼女はサイズが……」

 

「……あー…あいつ胸デカいしな。まあお前は逆に余って…!おっと!危ねぇな。おたまを投げるな。」

 

「……貴方はデリカシーが無さすぎます…!」

 

「……俺は下らん事で一々気使わねぇの。さて、運ぼうぜ。」



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堕落したブラウニー30

「……ねぇ……何なのこれ?」

 

「……何って見ての通り酒瓶だが?」

 

「……これから敵の本拠に乗り込もうって話をしてるのに……景気付けにしても多くない…?」

 

俺は今大きめのリュックに酒瓶を詰める作業をしている……柳洞一成にかかっていた魔術はサーヴァントキャスターがかけたものと判断しこれから奴の住む柳洞寺に向かう所なのだが……こんな時に信用が減るのは宜しくない。一応説明を入れるか。

 

「……本拠かもしれない……程度だからな、まだ?……こいつは飲むためじゃねぇよ。」

 

「……じゃあどうするのよ?」

 

心底不思議そうな顔をする遠坂。……そうか。こういうのは真っ当な魔術師には想像しづらいのか。

 

「……お前火炎瓶って知ってるか?」

 

「……何それ?」

 

……一般常識と宣うつもりは無いが知識としては割と知ってるものだと思うが……

 

「……お前宝石のストックは?」

 

「……悔しいけどあまり無いわ。誰かさんのお陰だけど。」

 

ジト目の遠坂。

 

「……しゃあねぇだろ。あのタイミングでの襲撃はさすがに予想出来なかった。文句ならイリヤに言いな。……まあ今のイリヤの状況じゃ補填も出来ないだろうが。……話が逸れたな。火炎瓶ってのはだな、簡単に言えばあれだ……簡易的な爆発物だ……」

 

「……これに私の使う宝石魔術やあんたが良くどっからか出してる爆弾クラスの威力があるの…?」

 

「……こいつにはアルコールじゃなくて灯油が入ってる。こいつに瓶口から紙を突っ込んでその紙に火を着けて投げ付けて使うんだ。……さすがにお前が言ったレベルの威力は無いがなかなかの威力だぞ。まあ魔力等の節約だな……神秘を含んで無いからサーヴァントにはほとんど効果が無いだろうがキャスターの工房にかかってる魔術によっては打撃を与えられる。……それに建物が火事になればマスターはどうなる……?」

 

「……あんた、本当に魔術師?」

 

「……俺は魔術使いだ。切嗣の教えだが……律儀に魔術戦を挑む魔術師に付き合ってやる必要は無い。自分の得意な土俵に持ち込むのが賢いやり方だ。……つーかこれは戦争だぜ?お行儀の良い戦いなんざやってどうすんだよ?おまけにこの方法での襲撃なら神秘の漏洩は無い。こいつは魔術によらない武器だからな。」

 

付き合ってられない。と言いたげな遠坂に言ってやる。

 

「……それともお前は正体不明のキャスターに正攻法で真っ向勝負を挑む程愚かだったりすんのか?」

 

「……言ってくれるじゃない。良いわ、乗った。私にも一本寄越しなさい。」

 

「……取り扱いには気を付けろよ?万が一手に持った状態で火がついたら簡単には消えねぇからな?」

 

俺はライターと酒瓶を遠坂に渡した。

……まあキャスターの実力次第ではこんな準備自体無駄なんだろうがな。

 



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堕落したブラウニー31

「……悪いが止まってもらおう。拙者はここを通る者を止める役目を仰せつかっておる。」

 

「……あんたアサシンか?」

 

……てっきり聖杯戦争で呼ばれるのは海外の英雄と思っていたんだが……目の前にいるのは和製の顔立ちに着ているものもどちらかと言うと見慣れた服装……まあ時代背景は古そうだが……そしてその手にある得物……刀、か。……セイバーはこの場にいるから当てずっぽうで可能性のあるサーヴァントを聞いてみる。

 

「……いかにも。拙者サーヴァントアサシン……名を佐々木小次郎と言う。」

 

……佐々木小次郎、ね。まさか自分から真名をバラすとは思わなかったが……まあ目の前にいる男の刀は確かにかなり長い。つーことはマジで燕返しの佐々木小次郎か。

 

「……」

 

立ち姿に隙が無い。ここは柳洞寺の入口へ続く石段だ。地の利は向こうにある。入口は奴の後ろ。

……ここを抜けるには……

 

「……シロウ。ここは私が……」

 

「……頼むわ。俺たちは何とかここを抜ける。」

 

少なくとも誰か一人がここで奴を抑えなければならない。……アルトリアなら一応適任だ。

 

「……セイバー、俺たちは同時に突っ込む。お前が抑えてる所を俺たちは飛び越える。……タイミングを合わせろ。」

 

「……分かりました。」

 

強者の余裕ってやつか。奴は隙こそ無いものの石段の上で微動だにしない。……気に食わねぇがこんな所でこいつに構ってる暇は無い。……本命は寺の中だ。贅沢にもサーヴァント一人が守ってるなんて思わなかったがこれで確定だ。……キャスターは中だ。

 

「……行くぞ。」

 

 

 

……結局の所俺が速攻で立てた作戦は無意味だった。あいつは俺たちが突っ込んで来た時点でアルトリアしか見ていなかった。つまり障害は無いも同然だった。

 

「……まさかあんたがここにいるとはな、葛木。」

 

ここにこうして立っている以上こいつがキャスターのマスターなんだろう。葛木宗一郎……か。

 

「……教師を呼び捨てか、衛宮。」

 

「だから何だ?高々十数年先に生まれたってだけだろうが。しかもこれから戦う相手に敬称なんか必要かい?先生さんよ。」

 

……正直苦手なタイプだ。こいつは俺のような素行不良生徒に取って天敵と言えるタイプだ。だが……

 

「……これから戦う相手だからこそだ。お前の態度は路傍の石に対するそれだ。戦いにおいて相手を侮る事は死に直結する。」

 

奴が構える。……やっぱりな。

 

「……ずっとあんたに違和感があったんだよ。あんたは日常に溶け込んでる人間じゃない。……あんたからは血の臭いがする……あんた人を殺してるな?」

 

こいつからはずっと切嗣に似た気配を感じていた。修羅場を潜ってるなんてもんじゃない……こいつは……!

 

「……遠坂、アーチャー……こいつとは俺がやる。お前らはキャスターの相手を頼む。」

 

「……良いの?私たちが援護をした方が……」

 

「……駄目だな。こいつは多分俺が戦った方が良い。」

 

こいつは魔術師の遠坂では多分荷が重い……

 

「……私を嘗めてない?これでも武術の心得はあるんだけど?」

 

「……いや。止めた方が良い。こいつはどちらかと言うと人を殺す拳だ。」

 

俺が適任だ。間違いなく。……勝てるとは思えないが。マシな戦いは出来るはず……

 

「……分かったわ。キャスターは私たちが相手する。……士郎?」

 

「……何だ?」

 

「……死ぬんじゃないわよ。」

 

「……とっとと行けよ。」

 

俺は出来ない約束はしない主義だ。こいつは多分俺の回復を上回る。気を抜けば間違いなく狩られる……。

 

「……行くぞ、葛木。」

 

相手の行動は分からない。……先手を取るしか、ない。

 

 

 

 



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堕落したブラウニー32

「……ゲホッ!ゲホッ!…!」

 

俺は喉に指を突っ込むと詰まっていた血の塊を何とか吐き出し地面にぶちまける。……折れた骨は再生したが…肺の損傷や血が詰まって呼吸困難になるのはやはり避けられないか…!

 

「……」

 

奴は無言で再び構える。……俺が向かってくるのを待っているのか?……くそ!ムカつきやがる……!

 

「……オラァ!」

 

俺は強化した足で奴の懐に入りまずはフェイントで左の拳で殴…!

 

「……くそ!」

 

早すぎる…!フェイントで出した腕を掴まれ投げられる。そのまま地面に叩き付けられる瞬間に関節を破壊された。

 

「……っ!」

 

痛みには耐性があるつもりだしすぐに再生もする。だが、やはり痛いものは痛い。……つーかこれじゃあさっきの二の舞じゃねぇか。

 

「……」

 

無防備の俺の身体を奴が蹴飛ばす。…!また肋骨が砕けて……!

 

「……ガハッ…!」

 

肺まで到達したようだ。……さっきから一方的にやられてばっかりじゃねぇか。……まさかここまで差があるとはな…!

 

「……中途半端だな。お前は。お前の武術はどれも実戦レベルには程遠い。そもそもお前に徒手空拳の才能は無い。……最も仮にお前がどれか一つでも才能が無いなりにでも極めていればこの状況は逆になっていたかもしれんな…」

 

「……チッ。そんなもん俺が一番良く分かってんだよ…!」

 

才能が無いのも半端なのもな…!

 

「……だから何なんだよ?お前は才能の無い半端者を仕留めることすら出来ねぇじゃねぇか。」

 

この手の煽りは奴には全く効かないのは分かっている。だが奴は何度も必殺の一撃を放っているのは間違いない……だが奴は俺を殺せていない。

 

「……お前のその体質は厄介なのは認めよう。しかし仕留めるのは難しくない。」

 

「……へぇ?どうすんだよ?」

 

まさか本当に対処可能なのか…?

 

「……お前は瞬時に傷が治る特異体質。ならば……回復を上回るダメージを与えるか、一撃でその命を狩ればいい。」

 

「……ああ…正解だよクソッタレ…!」

 

普通の人間に今言った事を素手で行うのは難しい……だがこいつは多分問題なくやってのけるだろう。

 

「……心臓への一撃は無意味。だが……例えば切り離された首は再生するのか?」

 

「……」

 

しないだろうな。試した事は無いが多分切り離された部位は再生しない。……心臓が無い以上俺の根幹は恐らく脳……身体から切り離されれば俺は死ぬ。

 

「……来るがいい。次で終わらせる。」

 

「……ハッ!そうかい!」

 

俺はまた正面から突っ込む。

 

「……また正面からとはな。少しは期待したのだが。」

 

頭を蹴ろうと空中で蹴りあげた足を掴まれ叩き付けられる。そこから奴は空いている手で俺の首を掴んできた。

 

「……グッ!」

 

首が締まる。意識が……

 

「……」

 

まだ寝るな。これはそう……予定通りだ!

 

「……喰らえ!」

 

「…!」

 

俺は左腕の中に直接投影した剣を奴に向けて射出する。

……良し!腹に命中!

 

「……まだ離さねぇのか…!」

 

こいつは俺を掴んだままだ……!寧ろ締め付けが更に強く……!ヤバっ……もう意識が……

 

「……ざけんな!」

 

俺は咄嗟にナタを投影しそのまま奴の腕を切り落とした



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堕落したブラウニー33

「……ガハッ!」

 

地面に投げ出され呼吸を何とか整えつつ無理やり立ち上がりナタを投げ捨て奴に向かい走る……チッ!何で腹を剣で貫通されてしかも片腕無くしてまだ立てるんだよ!?マジで化け物か!?

 

「……オラッ!とっとと沈めや!」

 

俺は奴が体勢を整える前に懐に入りラッシュをかける……全部交わすか残りの腕で流されるだと!?

 

「……くそっ!オラァッ!」

 

俺はまず奴の足を止めるため回し蹴りの要領で上げた自分の足で奴の左足を踏みつけるとそこに再び剣を投影し貫通させ止める……っ!くそっ!俺も痛てぇ!だが奴はどうせこうでもしないと止まらん!

 

「……もう逃げれねぇな!」

 

「……逃げる?始めからそんなつもりは……無い!」

 

奴の残った左腕がこちらに伸びる……させるか!

 

「…!うごっ!」

 

片手で首絞めを行う場合下への注意が疎かになる奴が多い……どの師匠が言った事だか思い出せねぇが……本当だったな!奴の腹に叩き込んだ拳は俺の投影した剣の柄に当たり勢いで剣は完全に奴の体外へ……良し!これでもう……!

 

「……んなバカな!?」

 

奴の目は死んでない!っていけね!この状態だと……!

 

「……私の動きを封じたのは良いがこの状況で仕留められなければどうなるか分かるな?」

 

「……ぶごっ!ガフッ!」

 

奴の前から離れられない以上俺は奴の攻撃を食らう……!防ぎ切れねぇ……!

 

「……」

 

もう持たねぇ……バーサーカー組を置いてくるんじゃなかったぜ……特性上俺の指示を何処まで聞けるか分からなかったから後詰めに回したが……三十分経っても戻らなかったら来い、か。こんな化け物相手に三十分も持つ訳が……!

 

「……しゃあねぇ…!セイバー!」

 

俺は令呪でアルトリアを呼び出す。やがて奴の背後に現れるアルトリア……気配に気付いた葛木が振り向くがもう遅い!

 

「セイバー!そいつの首を切り落とせ!」

 

間髪入れず奴の首を落とす為振り下ろされるエクスカリバー……これで!

 

「……嘗めるな!」

 

「……そんな!?」

 

「……化け物が…!」

 

奴は自分の足の力だけで俺の足毎地面に刺さった剣を抜くと剣に沿って傷を広げながら無理やりアルトリアに向き直りエクスカリバーの刀身を左手で握り止めてしまった。

 

「セイバー!構わねぇ!そのまま首を落とせ!」

 

俺にだって分かっている……!アルトリアの剣が進まないのは別にアルトリアが躊躇っている訳では無い事位……!

 

「……くっ!ただの人間がここまでの力を!?」

 

アルトリアは剣を下ろさないのでは無い……葛木の膂力が凄まじ過ぎてあれ以上剣を下ろせないのだ……!



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堕落したブラウニー34

「……くそ!手を離しやがれ!」

 

俺は奴が無理矢理剣を引っこ抜いた反動で倒れ込んだ身体を起こすと剣を投影し奴の脇腹を刺す。

 

「…!ぬぐっ!」

 

「……くっ!その手を離しなさい!もう貴方の負けです! 」

 

「……私はまだ負けてはいない……!私はまだ生きている!」

 

腹に大穴開いて、足に剣が刺さり、そこへ更に脇腹を刺してるのにまだ……!?

 

「……フン!」

 

「…!カハッ!」

 

「…!セイバー!」

 

葛木が鎧を着けたアルトリアを蹴る

 

「……馬鹿な……!鎧を着た私に蹴りでダメージを!?」

 

「……そんな物では私の攻撃は防げん!剣を離さなければ貴様に逃げ場は無い!」

 

アルトリアの奴は剣を離そうとしないため奴から一方的に攻撃を貰っている。

 

「……セイバー、剣を捨てろ!無理だ!一度奴から「それは出来ません!」!何でだ!?」

 

「騎士が剣を捨てるのは死ぬ時だけです!」

 

「ふざけんな!このままだと殺されるぞ!」

 

「剣を捨てられない……それが貴様の限界だ!」

 

「……くそ!とっととくたばりやがれ!」

 

俺は刺した剣を動かす。……何なんだこいつ!?内臓はもうズタズタの筈だぞ!?

 

「……くそ!何でだ!?何でお前は死なない!?」

 

「……私はまだ死なん!」

 

せめて立ち上がれれば奴の心臓まで剣が届く……!

 

「……くっ!」

 

奴の足と共に刺さる剣が邪魔だがここで剣を消せば奴に更なる反撃を許す事になる。今奴は不安定な体勢だからこそこの程度で済んでいるんだ……!

 

「……宗一郎様!」

 

その声と共に俺たちに割り込んだ奴がいた。

 

「……お前は!?」

 

「……キャスター…」

 

キャスターだと!?奴は遠坂が……あいつやられたのか!?

 

「……宗一郎様、ここは撤退します。」

 

「…!この状況で逃がすと思うか!?」

 

「……坊や。今回は見逃して上げる。次は……殺すわ。」

 

その言葉と共に奴と葛木の足元に現れる魔法陣……なっ!?転移魔術だと!?

 

「……逃がすか!」

 

俺は剣から手を離しもう一本剣投影し葛木のもう片方の足に刺す!

 

「……ぬぐっ!」

 

「宗一郎様!でも無駄よ!」

 

その一言共に魔法陣が強い光を発し思わず目を瞑る。

 

「……くっ!キャスター!」

 

俺は剣を投影しキャスターの方向へ剣を投げた。

………そして光が収まったのを感じ目を開けると……

 

「……逃がしたか……」

 

いや。寧ろこちらが見逃されたのか……こっちももう限界だからな……俺は足から剣を抜く。

 

「……うぐっ!…ハア……」

 

邪魔な物を取り除いた為再生が始まる……

 

「……アルトリア……奴らが逃げた場所は分かるか…?」

 

「……申し訳ありません。……既に近くにはいないようです……」

 

「……だろうな。」

 

俺も気配を感じない。

 

「……アルトリア、取り敢えず立たせてくれ……」

 

「現在敵の気配はありません。もう少し休んだ方が……」

 

「……アルトリア、俺は遠坂たちにキャスターの足止めを頼んだんだ。」

 

「……!まさか…!」

 

「……ほら早く立たせてくれ。」

 

とっとと見に行かねぇと……最も俺と違って遠坂はアーチャーと一緒にいたんだ。にも関わらずこの場にキャスターが現れた以上、さすがに最悪の想像をした方がいいかもしれけぇけどな……

 

 



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堕落したブラウニー35

アルトリアに肩を借り立ち上が…!

 

「……あ?」

 

そのまま倒れ込みそうになる……

 

「…!シロウ!」

 

アルトリアに支えられ踏みとどまる。あー……こいつは……

 

「……貧血か。まっ、あれだけ血を流しゃあそうなるか……」

 

「……シロウ、中の様子なら私が見てきます。貴方は休んでいて「アルトリア、このまま肩借りるぞ」……はい。」

 

アルトリアに肩を貸してもらいながらゆっくり歩く……そもそもさっきまで剣を刺してた足に力が入らん。どっちみち自力では歩けなかったか……

 

柳洞寺に足を踏み入れる……特に変わった所は無いようだ……中に人が大量に倒れてる事を除けば。

 

「……シロウ、彼等は……」

 

「……多少衰弱が気になるが寝てるだけだな……柳洞寺以外の人間もいるようだ……」

 

あのキャスター、人間の生気でも吸い取ってやがったのか?……魂喰いの方が手っ取り早いだろうに。

 

取り敢えず命に別状所か外傷すら無いなら今の俺たちに出来る事は無い。……俺は治療魔術は使えんしアルトリアも知識はあるが魔術師では無いしな。

 

眠ってる連中を放置して奥に進む……地下に降りる階段を見つけた。

 

「……シロウ…」

 

「……行くぞ。」

 

大分回復した俺はアルトリアから離れ率先して階段を降りていく…!焦げ臭い!

 

「……遠坂!」

 

地下には倒れた遠坂…!……ここはキャスターの工房か?

 

「……使い所を誤ったか……」

 

現在地下はやけに明るい。既にキャスターの魔術が機能していないのだろう中は火の手が上がっていた。

 

「……シロウ何が…!これは!?」

 

「降りて来なくていい!中の奴を外に運び出せ!」

 

俺は遠坂を背負った。

 

「…っ!分かりました。」

 

俺は遠坂を背負い階段を登る。……火種はこいつに渡した火炎瓶か?だから気をつけろと言ったのに……!

 

寺の外の庭に遠坂を寝かせる。……残りを運び出さねぇと。

俺は中に戻った。

 

「……これで全員か?」

 

「……恐らくは。」

 

確認は出来ねぇな……つか……

 

「……よく考えたら焦って運び出す必要は無かったかもな……」

 

柳洞寺は見かけは今の所健在だ。別に火の手は上がってない。燃えてるのは地下だけなのだろう。

 

「……あれが無駄にならんで済むか。」

 

俺は庭に置いておいたリュックを見る。近付くと中の物を引っ張り出した。

 

「……シロウ?何を…?」

 

俺はそいつに火を着けると寺に向かって投げつけた。

 

「……元は戦う予定は無かったんだがな……ああなるともう交渉は不可能だ。敵対が確実になったのに工房を残しておいてやってる理由も無いからな。このまま寺ごと焼く。」

 

俺は追加の火炎瓶を寺に投げつけた。

 

 

 

「……宗一郎様……大丈夫ですか…?」

 

「問題は無い。」

 

「……」

 

とてもそうは見えない。 彼は重症だ。早急に手当が必要だろう……どうすれば……

 

「……お前は大丈夫なのか?」

 

「……ええ。大丈夫です。」

 

あの坊やが苦し紛れに投げつけて来た剣は私の腹にしっかり刺さっていた。さすがに転移直前では私も交わせない……しかもどういう構造をしてるのか剣は傷口に引っかかり抜く事が出来ず刺さったまま。……これでは治療も出来ない。

 

「……シンジ、見つけました。」

 

「あいつらを張ってた甲斐が有ったな。」

 

……そんな!?こんな時に……!

 

「……キャスター、下がっていろ。」

 

「…!無理です!今の貴方には「問題は無い。」宗一郎様……」

 

「……慌てるなよ。僕らは戦いに来たんじゃない。」

 

「……何を!」

 

「……そういきりたたないでくれ。ちょっと僕たちと話をしないか?僕なら怪我の手当も出来る。」

 

私は提案に乗るしか無かった……

 

 

 



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堕落したブラウニー36

「……シンジ、この技術は何処で…?」

 

「……独学、さ。本気で桜のケアをするならどうしても医学知識が必要でね……」

 

と言っても……葛木の怪我は……これはダメだ。

僕の手には負えない……皮膚だけならまだしも内蔵までズタズタだ……何とか応急処置として傷は塞いだけど……

 

「……まあ後はキャスターに任せるか」

 

丸投げじゃない。適材適所、だ。

 

「……さて、キャスターの所へ向かうか……」

 

 

 

「……宗一郎様は大丈夫なの…?」

 

「…!自分の事を心配しろよ!?」

 

何でこいつ剣を抜いてないんだ!?

 

「……この剣の事かしら…?だったら……無理よ……」

 

「…はっ?どういう事だよ?」

 

「……抜けないのよ。傷口にしっかり引っかかって……」

 

「…!ライダー!」

 

「キャスター!失礼します!……!ダメです!抜けません!」

 

サーヴァントの膂力で無理と。そうなると……

 

「……多分剣の構造上傷口に引っかかる様になってるんだ。外科処置で取り除くしかない。僕がやろう。……ちなみに抜いたら自分で治療出来るか?」

 

「……ええ。大丈夫よ……」

 

「良し。なら、こっちに来てくれ……ライダー、待っててくれ。」

 

「シンジ!相手はサーヴァントですよ!?」

 

「お前を連れて行くとキャスターの信用が得られない。悪いが待っててくれ。」

 

「……分かりました。何かあったら呼んで下さい……」

 

こいつは……僕が本物のマスターじゃないのを忘れてるのか…?

 

「……行ってくる。」

 

僕はキャスターと部屋へ向かう……

 

 

 

「……本当に手際が良いのね……驚いたわ……」

 

「……聖杯は医学知識まで教えてくれるのか?」

 

「……まあね。それで話とは何かしら?」

 

「……簡単な話さ。僕と手を組まないか?」

 

「……論外ね。坊や、貴方魔術師じゃないでしょう?宗一郎様を助けて貰ったとはいえこれは戦争よ?代価としては全く釣り合わないわ。」

 

「……気付かれてたか……そうだ、僕は魔術師じゃない。」

 

「……魔術師じゃない貴方が聖杯を欲しがるの?よっぽど叶えたい願いが「聖杯に願う願いなんて無い。僕は聖杯は要らない。欲しいならくれてやってもいい。」はっ?」

 

「そもそも僕の目的はこの聖杯戦争をぶち壊すことだった。」

 

「……何故?魔術師じゃない貴方にとっても万能の願望器とやらは魅力的でしょう?」

 

「……僕は妹を助けたいだけだ。そんな物必要無い。」

 

「?貴方の妹がどんな状況か知らないけど聖杯なら助けられるんじゃないかしら?」

 

「……聖杯で桜は助けられない。寧ろ聖杯の存在が桜を苦しめているからね。」

 

「……意味が分からないわね。どういう事なの?」

 

「……話を聞くなら約束しろ。例え交渉が決裂しても僕の邪魔だけはしないと。その条件さえ飲んでくれれば話してやってもいい。」

 

「……良いわ。聞きましょう。そこまで言うなら逆に興味が出てきたわ。」

 

キャスターのあいつとはまた違った歪な笑顔を見ながら僕は話し始めた……



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堕落したブラウニー37

「……これがあいつから聞いた聖杯戦争の全てさ……」

 

「……」

 

……座っていた椅子の背もたれに背を預ける。自分の頭の中で気になった事に整理を……いえ、疑問は結局一つしかないわね。

 

「……一つ聞いて良いかしら?」

 

「……ああ、構わない……」

 

「……貴方それ全部伝聞よね?自分で確認した?」

 

「……いや。」

 

「……そう。その話信じる根拠は?」

 

「……あいつは口に出した言葉に嘘は無い。隠し事は多いけどな。」

 

「……」

 

それは坊やの主観ね。客観的判断材料じゃない。……本人は一ミリも信頼していないと言いながらそう言う言葉が出てくる訳ね……しかも本人は気付いてすらいない……

 

「……本来は信じるに値しない話だけど……まあ可笑しいとは思っていたのよ……」

 

あれはすぐ傍に存在する汚染された聖杯による違和感だったのね……近くに工房を構えて気付かないなんて……

 

「……その話は信じるわ……でも……」

 

「……僕に協力は出来ない……か。」

 

この坊やは歪んでいる。それこそこの子の口から出てきたあの坊や、衛宮士郎よりも……私に願いが無ければこの子の側に着くのも悪くなかったかもしれない……

 

「……まあ坊やの邪魔はしないわ……そうね、借りは返しましょう。貴方の妹に会わせて頂戴。多分私なら助けになれるでしょう。」

 

……この辺が妥協案。これ以上は手を貸さない……この子、具体的なビジョンが何一つ決まって無いのよね……ただ衛宮士郎に歪んだ想いを抱いているだけ。……妹を助けたいと言ってるのも多分そんな自分を肯定出来る唯一の事柄だからに過ぎない……

 

「…!桜を、助けてくれるのか?」

 

……甘いわね。餌をチラつかせた途端に鋭く私を見つめていた気配が霧散した……まあ今回は自分の異名を否定しましょう。

 

「……ええ。と言っても見てみないと何が出来るか分からないけど……その子はこの家に?」

 

「……いや。ここは今回の戦争の為に僕が借りたアパートだ。」

 

「……そう。じゃあ貴方の家に連れて行ってもらおうかしら?」

 

「……ああ、分かった。」

 

 

 

「……そういやあいつが見当たらないな……くたばるとは思えないが……」

 

「……アーチャーですか……気配は感じ取れませんね……」

 

「……まあ遠坂の手に令呪は無い……結局それが答えか……」

 

最も弓兵には単独行動スキルがある一概に殺られたとは言い難い……

 

「……まあ奴の事は今はいい。遠坂が目覚めたら聞けば良い話だ。……今はイリヤと合流するぞ。……嫌な予感がするんだ……」

 

合流時間はとうに過ぎた。だがあいつらは柳洞寺には現れていない……無事だと良いがな……

 

 

 

 



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堕落したブラウニー38

「……あん?あんた何やってんだ?」

 

「……その様子だと女狐を降したようでござるな。」

 

石段に差し掛かれば先程のアサシン……

 

「……あんたキャスターの所行かなくていいのか?」

 

「……そもそも拙者のマスターはあの女狐ではござらん。そこの門でござる。」

 

「……あー…成程。考えてみればサーヴァントがサーヴァントを召喚して使役してたら可笑しいものな。」

 

……あっ、閃いた。

 

「……セイバー、アサシンはどうだった?」

 

「……強かったですね。生前もこれ程の手練はそうはいませんでした。」

 

「……光栄でござるな。セイバー、其方も中々のものでござった。また手合わせ願いたいものだ……」

 

「……あー…悪かったな、真剣勝負に水差して。こっちも必死だったもんでな。」

 

「……構わぬ。サーヴァントはマスターに従うものでござろう?いずれまた次の機会を待つとしよう。」

 

「……その事なんだが……あんた、俺たちと来る気は無いか?こっちはとにかく戦力が欲しくてな。」

 

「……それ程のサーヴァントを従えながら拙者の様な者を欲しがると?」

 

「……そうだ。俺はあんたが欲しい。」

 

戦力としても性的にもな。……こいつはどちらにしても魅力的だ……俺には非常に扇情的に映る……

 

「……悪くない誘いでござるが「その石門との契約がネックか」うむ。拙者の役目はこの門を守る事でござるよ。」

 

「……セイバー、中の連中に影響を与えずに石門だけ破壊できるか?」

 

寺からは連中を引き離したがこの石門の爆発に巻き込まれたら本末転倒だ。

 

「……出来なくはありませんが……」

 

「……宝具解放していいぞ?俺の魔力は無尽蔵だ。」

 

「……分かりました。では……!」

 

アルトリアが宝具エクスカリバーを構える。……魔力を思いの外持っていかれ、一瞬クラっと来たが直ぐに持ち直す……やれやれ燃費が悪いな……

 

 

 

「……凄いな。」

 

石門は文字通り消滅した。残骸が多少残ってるがあれでは元が何だったのかも分からん。

 

「……さて、どうだ、アサシン?」

 

「……今拙者の契約は切れた。」

 

「……改めて問おう。俺と契約する気は無いか?」

 

「……良かろう。拙者はこれからお主の剣だ。存分に使うといい。」

 

俺はアサシンと握手をする。……パスが繋がり……!

 

「……うおっ…!」

 

「…!シロウ!いくら魔力に限りが無いとは言えサーヴァント二人との契約はやはり無茶です!」

 

「……悪ぃ悪ぃ。次からは考える。」

 

宝具解放の時より一気に魔力を持っていかれふらついた所をアルトリアに支えられる……これは俺でもキツイな……

 

「……急ぐか。……悪いんだが、アサシン「心得ているでござる。拙者は霊体化していよう」スマンな。」

 

俺はアルトリアと石段を駆け下りた。

 

 

 



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堕落したブラウニー39

「……これは……酷いな…」

 

イリヤたちが待機していた筈の場所は悲惨な事になっていた。アスファルトに大穴が開き、家の塀は破壊されていて、電柱も折れ曲がっていた。

 

「……間違いなく戦闘の跡ですね……イリヤスフィールたちの姿が見えませんが……」

 

「……一応何かあったら家に戻るようイリヤたちには伝えた。……遠坂もこの状態だしな、セイバー、俺たちも戻ろう。」

 

「……はい。」

 

 

 

「……そう言えばもう一つ聞いていいかしら?」

 

「……何だ?」

 

「坊やは何故あの場にタイミング良く現れたのかしら?」

 

「……ああ。初めてあんたたちに会った時の話か……実はあれは偶然なんだ。」

 

「……偶然?」

 

「……信じられないのも無理無いが……そもそも僕とライダーは衛宮たちを張っててね、衛宮が仲間を集めてるのはあいつから聞いて知ってたからあいつらを着けて、交渉が決裂した奴をスカウトしようとしてたんだ。……僕自身も気に食わないやり方だけどどうもこっちは完全に出遅れてるみたいだからね……」

 

「……そう。」

 

……この子本当に歪んでるわね……徹底して衛宮士郎と敵対したいみたい……目的を考えれば手を組んだ方が楽なのにね……本当に面白いわ。宗一郎様に会ってなければ傍から眺めてみたかったわね……

 

「……さて、着いたぞ。」

 

「……ここが?」

 

「……そう。忌まわしき僕の生家、間桐家だ……気をつけてくれ。……多分ジジイはもうあんたの存在に気づいてる……先に手を打たなければ何をするか分からない……!」

 

「……手を打てと言われてもね……」

 

蟲を操る以外、何が出来るか分からない相手に何を対処しろと言うのよ……

 

「……シンジ、ここで手をこまねいても仕方ありません。取り敢えず行きましょう……」

 

「……ライダー……そうだな、行こう。……キャスター、頼むぞ。」

 

「……丸投げしないでせめて頭は使ってね。」

 

「……分かってる。この場で僕に出来ることは他に無いからな……」

 

私たちは家の戸の前に立った……

 

 

 

「…!シロウ!」

 

「…!イリヤか。無事だった様だな。」

 

家の前にはイリヤが立っていた……中に入っていれば良かったろうに。

 

「……シロウ「話は中で聞く。こっちもヘロヘロなんだ……」……分かった。」

 

数時間振りの我が家へ。

 

 

 

「……さて、報告と行こうか。……と、先に紹介しておく、アサシン。」

 

「…!えっ!?」

 

「……拙者、サーヴァントアサシン、佐々木小次郎と言う。宜しく御願い申す。」

 

長身の優男がその場に現れる。……おうおう狼狽えちゃってまあ……変に大人振ってるよりよっぽど可愛げ有るぜ、イリヤ。

 

「……何でサーヴァントの仲間が増えてるの!?」

 

「……詳細は省くが暫定的に俺が契約した。」

 

遠坂は契約が切れてるからな、もしかしたら遠坂に契約させるかもしれん……

 

「……さて、俺からの報告だが……キャスターとの交渉は決裂。敵対し、お互い深手を負い、仕舞いには逃げられちまった……んじゃ、次はイリヤ、お前だ……何があった?」

 

「……実はね……」

 

 

 

「……金髪赤目の男?そいつサーヴァントじゃないのか?」

 

「……うん、多分。でも宝具を一杯出してたの。……それでバーサーカーが四回殺された……」

 

「……また厄介な……勝てたわけじゃないよな?どうやって逃げ切った?」

 

「……それが……アーチャーが助けに来て……それで……」

 

「……どうなってるんだ、それは……」

 

アーチャーと遠坂の契約は切れている。仮にイリヤの危機に気付いたとしてもわざわざ自分の契約を切ってまで救出に向かわせるのは悪手ですらない。

 

「……結局あいつ何なんだ?……セイバー、どうした?」

 

俺は先程から黙ったままかなり険しい顔をしているアルトリアに声をかける

 

「……シロウ、私はその襲撃者の男を知っているかもしれません……」

 

「……円卓の騎士か?」

 

「……いえ。会ったのは第四次聖杯戦争の時です……」

 

「……第四次?……あー…それなら俺も思い当たる奴がいる……でもそれって有りうるのか?」

 

「……そうですね。あの男が再び召喚されたならアーチャーが二人いることになります……」

 

「……ねぇ!二人だけで納得してないで説明してよ!」

 

……そうだったな、この場には第四次聖杯戦争を知らない奴もいたんだった。

 

「……悪かった。要するにイリヤたちを襲った奴の話だが人間でなくサーヴァントなら心当たりがあるって話だ……クラスはアーチャー。真名を英雄王ギルガメッシュ。」

 

「……アーチャーが二人?」

 

「……そこが不思議な点だが……まあエキストラクラスの召喚すら有り得るって話だし同じクラスの奴が召喚される事もあるかもしれん……ただ……」

 

「……あいつは多分人間よ。」

 

「……そもそも複数の宝具を使い絨毯爆撃する奴なんて人間ではまずいない。……この時代にそれ程大量の宝具を一個人が持っているわけ無いからな……」

 

せいぜい魔術師の家に代々伝わる物が一つ。それにしたって所有してるのは一握りだろう……

 

「……まあこの件は後回しだ。今考えても情報が少な過ぎる。……遠坂からの報告もまだだしな。……取り敢えず今日はこれで休もう。」

 

俺は終了宣言をする。……後は明日だな。取り敢えず遠坂の看病でもしてやるか。……正直睡姦の趣味無くてもあの美貌だと欲情しそうなんだがな……まあ今はそんな場合じゃねぇか。

 

 

 

 

 



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堕落したブラウニー40

「カッカッカッ……」

 

「……」

 

今僕の手に握ったナイフはこいつの心臓に刺さっている。……何て、呆気ない……虚勢を張ってはいたけど実は何年も恐怖の対象だった奴が今僕の手の中で急速に命を失おうとしていた。

 

……確実に殺すため余計な事は考えずかつ、僕の手で殺したかったからライダーには控えてもらってキャスターに強化魔術を足にかけて貰い一足飛びにただこのナイフを突き立ててやった……これで終わりか……

 

「……坊や、感傷に浸ってる所悪いけど多分まだ終わってないわよ?」

 

「……えっ?」

 

「……こいつの肉体は坊やが手にかける前からとっくに死んでるわ。恐らく本体は別に……!」

 

「何だって!?」

 

「カッカッカッ!そう。お前に儂は殺せない!」

 

「……ッ!」

 

僕はジジイの腹を蹴り飛ばしナイフを引っこ抜いた。倒れ込むジジイ……!

 

「何だ、これ……!」

 

ジジイの身体は見覚えのある蟲に変わった。

 

「……坊や、特別に最後まで付き合ってあげる。……これは貴方には荷が重いわよ……!」

 

「……くそっ!何がどうなってるんだ!?」

 

訳も分からず僕は叫ぶ事しか出来なかった……

 

 

 

「……う~ん……!ここは……」

 

「……よぅ。気が付いたか、遠坂。」

 

「……衛宮君……ここは?」

 

「……俺の家だ……何があったのか覚えてるか?」

 

「……!そうだ!アーチャー!」

 

「……ここにはいない。……アーチャーは死んだのか?」

 

「……いいえ。キャスターの宝具で契約を切られたのよ……!そもそも本人は裏切る気満々だったみたいだけどね……!」

 

「……」

 

……やっぱそういう話か……。取り敢えずアーチャーがイリヤを助けた事は今は黙っておくか、話がややこしくなる。

 

「……詳しい話は明日の朝聞く。こっちからも報告があるしな、今は休め。」

 

「……そんな場合じゃ……!」

 

「焦るな。いいから休め。」

 

無理に身体を起こそうとする遠坂の肩を押し布団に戻す。

 

「……良い方に考えようぜ。結果だけ言えば俺たちはアーチャー以外に欠けた奴はいないんだ。……あれだけ派手にやり合って被害はこれだけだ。十分な戦果だろう?」

 

「……呆れる程ポジティブなのね……」

 

「……凹んでたって始まらねぇだろ?こちとら地獄から這い上がった身だぜ?この程度絶望する様な話じゃねぇさ……ほれ、寝た寝た。……何か異常があったら起こしてやるよ。」

 

「……分かったわよ……変な事しないでよ?」

 

「……あのなぁ…お前が眠ったままどれくらい時間が経ったと思う?手を出すつもりならとっくに出してるさ……疑うなら確認してみろよ?どうせ処女なんだろ?」

 

「……言い方がムカつくけど何か説得力あるわね……分かったわ。お休み、衛宮君……」

 

「……お休み、遠坂。」

 

俺は再度眠りにつく遠坂を見詰めていた。

 

 



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堕落したブラウニー41

「……シロウ……寝ているのですか?」

 

「……セラか。いや、起きてるよ……」

 

俺は閉じていた目を開く。念の為下を見るが遠坂はぐっすり眠っているようだ。

 

「……代わりましょう。貴方は休んでください。」

 

「そりゃ有難いが……リズは大丈夫なのか?」

 

あの後無茶が祟ったらしくリズは身体から盛大に血を吹いた。遠坂が包帯を締め直し強引に止血し、キャスターの元へ向かう際、セラと留守番を頼んだがイリヤが行くなら自分も行くと言って聞かず、埒が明かないので俺が暗示を掛け眠らせた。

 

……俺が良く使うこれは実は魔術に寄るものでは無く一種の催眠術に近い……自我がしっかりしてる奴や、まともな魔術師なら効かない可能性が高くホムンクルスに効くかは賭けだったが幸い効いてくれたようで直ぐに鼾をかき始めた……

 

「……貴方のお陰でまだ眠っています。今はお嬢様とセイバーに見て貰っていますよ。……あの、シロウ?」

 

「ん?」

 

「……ありがとうございました。ああなるとリズは頑固で私の言う事も聞かないので……」

 

「……良いさ。無理をさせて途中で死なれたら寝覚めが悪いってだけだからな。……まあ大事にならなくて良かったよ……よっと。」

 

俺は胡座の状態から床に手をかけ立ち上がる。

 

「…!待ちなさい、シロウ!」

 

セラが部屋を出ようとした俺の左腕を掴む。

 

「……ッ!……何だ…?」

 

「……貴方はキャスターたちとの戦いで重症を負ったと聞きました……大丈夫ですか?」

 

「……俺の体質は知ってるだろ?さあ、離して「本当ですか?」……」

 

「……正直に言ってください。」

 

「……分かったよ、降参だ……」

 

俺は部屋の中で着たままだったコートのチャックを下ろし中に着ていたシャツを捲りあげた……

 

「…!何ですかこれは!?」

 

「……見ての通りだ。」

 

葛木から貰った打撃は見事俺の回復を上回り今も治り切っていなかった。特に腹には素人目でもはっきり分かるほどドス黒い痣が広がっている……

 

「……何で言わないんですか!?」

 

「……その必要は無い。回復がまだ終わってないだけで今も修復は続いている。」

 

「……治っていても痛みはあるんじゃないですか!?」

 

「……」

 

俺の場合、治り切った傷でさえ痛みは直ぐには無くならない……増してや、今回の場合、治り切って無い傷は今も痛みを訴えてやがる……

 

「……手当します「必要無い。」何故ですか!?」

 

「放っといても治る。」

 

「座ってください「おい。」早く!「ハア…」」

 

「救急箱を持ってきます。じっとしていてくださいね……?」

 

「……分かったよ……」

 

お節介な奴だ……俺は慌てて部屋を出ていくセラを見送った……

 



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堕落したブラウニー42

「……好い加減にそこを退けよ、蟲共め……!」

 

「……悪態ついてる暇があったら走りなさい!私はこんな所で脱落する気は無いわよ!」

 

「……シンジ!早くサクラを探さないと!」

 

「分かってるよ!」

 

こいつらは人に寄生する……!万が一にでも体内に入り込まれたら恐らくジジイの傀儡になってしまう筈だ……!くそっ!

 

「……酷な話だけど……!間違いなくこいつらは単なる足止めね……!本命は多分……!」

 

「……分かってる!ジジイは桜の中にいる!」

 

僕だって分かってる……!桜が無事な訳ないって!

 

「……キャスター、もう一度聞く……!あんたの宝具なら桜からジジイを離せるんだな!?」

 

「……何度も言わせないで!私のこの宝具は契約を切るためのものよ!確実とは言えないわ!……でも可能性は、ある!」

 

「……もう頼みの綱はあんただけだ!」

 

「……勝手に期待しないの!私は貴方を妹さんの元に送り届けるだけよ!この刃は貴方が自分で届かせなさい! 」

 

「そのくらい分かってるさ!」

 

蟲が行く手を阻んでいてそれ程広くない筈の家から中々出られない!早く桜の所に行かないといけないのに……!

 

「……もう地下に逃げるしか……!」

 

「……シンジ!そもそも地下はこいつらの巣窟ですよ!?しかも出口はありません!逃げられなくなります!」

 

「……いや、こいつらと決着を着けるなら他に方法は無い!そこら中から湧いてくるこいつら全部を片付けるには一箇所に集めるしかないんだ!」

 

 

 

蟲蔵の中心に立つ。……まさか桜が苦しんでたこの場所に僕が立つ日が来るなんて……!

 

「……ほら!お前らの大好きな人間の身体だぞ!」

 

一通り蟲を集める!……くそっ!僕の身体の中に入り込もうとしている!

 

「……キャスター!まだか!?」

 

『終わったわ!もう少しだけ動かないで!』

 

やがて僕の足元に魔法陣が現れる……早く転移させてくれ!

 

「……やった!」

 

蟲蔵の外に転移させられた僕はドアを閉める……全部閉じ込めたとは思えないけどこれで大分減った筈……!

 

「……終わったわね。」

 

「……まだだよ。このままにしてもいずれ連中は外に出てくる……!家ごと焼こう。……後は桜を見つけて助ければ終わる。」

 

情けなくも腰の抜けた僕はライダーに立ち上がらせてもらいながら方針を告げる。

 

「……キャスター、もう少し付き合ってもらうぞ。」

 

「……貴方の妹さんに会うまでは付き合うわ。そう言ったでしょ?」

 

「……シンジ、行きましょう。」

 

「……ああ。早く桜を助けよう。」

 

とは言え何処にいるのか……まあそう遠くには行ってないと思うけど。

 



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堕落したブラウニー43

「……客、だな……」

 

かなり急いでこの家に向かって来る者がいる

 

「……一般人な訳ないよなぁ……」

 

少なくとも通りすがりとかでは無いだろう……

 

「……セラが部屋に戻って来る……」

 

鉢合わせすると面倒だ。俺は立ち上がり部屋の窓を開けると外に飛び出した……

 

 

 

「……せっ、先輩……」

 

「……意外な客だな。」

 

外に出てみればそこには桜がいた。

 

「……遅くにすみません。中に入れて貰えませんか…?」

 

「……構わないが、何の用だ?……マキリ・ゾォルゲンさんよ。」

 

そう言うと桜の雰囲気が明らかに変化した。

 

「……小僧、何故分かった?」

 

「……カマかけただけだよ。まさかあっさりバラしてくれるとはな……で、ご用件は?」

 

「……決まっているだろう。貴様の手には小聖杯があるだろう?儂に渡してもらう。」

 

「……生憎、俺は極上の女を簡単には渡さねぇの「桜は儂の手の中だ。この意味が分かるな?」……ハア…」

 

俺は剣を投影すると桜の首に突き付ける。

 

「…!貴様!」

 

「……桜や慎二から聞いてねぇのか?俺はそんなにお人好しじゃねぇぞ?つーか俺は桜から自分のせいで俺や慎二に迷惑がかかる事があったら何時でも斬り捨てて構わないと言われてんだよ。」

 

これは事実だ。……慎二には恨まれるだろうが正に今がその時だろう。

 

「……フン。そんなハッタリを…!」

 

俺は剣を軽く横に動かす……桜の首筋が少し切れ、血が流れる。

 

「……きっ、貴様!?それでも人間か!?」

 

「……あんたみたいな妄執だけで百年以上生きてる奴に言われたくねえんだけど?……まあ俺を人間と定義するのは難しいわなぁ?」

 

「……ぬぬぬ!」

 

俺は視線を少し横にずらす。……ほれ、早く来い。殺しちまうぞ?

 

「……あんたを揶揄うのも悪くねぇけどさ、時間だわ。」

 

「……何だと?…!」

 

桜は横から走って来た影に飛びつかれそのまま倒れ込む。その瞬間、俺はそいつと目が合う……

 

『グットタイミングだ。愛してるぜ、慎二』

 

『やめろ。気色悪い。』

 

「……キャスター!」

 

その一言と共に見覚えのある奴が立つ……俺を睨んでないで自分の仕事をしろよ。

 

「破戒すべき全ての符!」

 

キャスターは歪な形をした短剣を慎二のせいで身動きの取れない桜に振り下ろした……

 

 

 

衛宮家に来たのはただの勘だった。他に思い当たる場所が無かったから……

まさかあいつがジジイの足止めをしてるなんて……!何でこんな時にあいつに借りを作らなきゃならないんだ!

 

「……桜!」

 

破戒すべき全ての符を刺され暴れていた桜が動きを止めたのを見て僕は一旦離れた。

 

「……うっ……うええええ!」

 

えずきながら桜が蟲を吐き出した。……やった!

 

「……坊や!何惚けてるの!」

 

…!いけない!

 

「……ほれ、使え。」

 

衛宮がオイルライターを渡して来る。僕は火を着けるとそのまま地面に落とした……

 

 

 

「……終わりか?」

 

「……ああ。終わったよ……」

 

ジジイの本体の蟲に火が着く。しばらくもがいていたがやがて異臭を残し動かなくなった。

 

「……取り敢えず上がってけよ、詳しい話を聞きたい。」

 

「……拒否権は?」

 

「……さすがに認めらんねぇ。内輪揉めに人を巻き込みやがって。きっちり説明をしてもらうぜ。」

 

「……だよなぁ、ハア……」

 

僕は桜を背負いながら渋々奴の後ろに続き衛宮家に入った……

 



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堕落したブラウニー44

家に入るなりセラのお小言を頂戴した俺……ポカンとする慎二たちを後目に部屋に引っ張って行かれる事に……

 

 

 

「……で、どういう事なんだ?」

 

勝手知ったる何とやら。セラに無理矢理手当てされ取り敢えず茶の間で適当に寛いでいた俺の元に結局勝手に家に上がり空いている部屋に桜を寝かせた慎二と長身の女がやって来た。……?

 

「……キャスターはどうした?」

 

「……桜の事を見てもらってる。」

 

「……へぇ。ところでそこの女はもしかして……」

 

「……ああ。サーヴァントだ。クラスはライダー…」

 

やはり、か。まあクラスについては予想が着いてた。そろそろ粗方のサーヴァントも出尽くしたからな。

 

「……やっぱりお前がマスターだったか。」

 

「……いや、僕はマスターじゃない。こいつの本当のマスターは桜だ。」

 

「……偽のマスターか。ゾォルゲンの支持か?」

 

「……提案したのは僕だよ。」

 

「……へぇ。」

 

後は聞く事は無いか。

 

「……で、お前はこれからどうする?」

 

「……お前には関係無い。……桜を頼むぞ。」

 

「……部屋は空いてる、好きにしろ。」

 

慎二が立ち上がる。

 

 

 

「……あら、終わったの坊や?…!……これは?」

 

「あの部屋の鍵だ。僕はもうあの部屋には戻らないから好きにするといい。……ライダー、桜に着いてろ。」

 

「シンジ!?」

 

「……坊や……それでいいの?」

 

「……僕は魔術師じゃない。別にこれから先狙われる事も無い。」

 

僕は眠る桜に近づき頭を撫でる。

 

「……じゃあな。」

 

僕は部屋を出た。

 

 

 

「……何処へ行くんだ?」

 

「……お前には関係無い。……首洗って待ってろよ。」

 

 

 

「……あーあ…やっぱりこうなるか……」

 

強引に引き止めることも出来たが……まあいい。あいつとの殺し合いを期待しているのも確かだからな。

 

「……あんたも行くのか?」

 

俺はキャスターに声をかける。

 

「……ええ。……二度と会わない事を祈ってるわ。」

 

「……つれないねぇ。」

 

「……私は貴方の邪魔をするつもりは無いけど……あの坊やは多分この戦争中貴方の前にまた現れるわよ……そしたら……どうするの?」

 

「……それを聞いてどうするんだ?何だ?慎二の奴に情でも湧いたか?」

 

「……ライダーと一緒にしないで。正規マスターでも無ければ愛した男でもない奴にそんな物感じないわよ。……これはただの好奇心。」

 

「……ハッ、さあな。……あいつに殺されるならそれも悪くねぇが……」

 

まかり間違って俺があいつを殺しちまいそうだぜ……

 

「……そう。それじゃ。」

 

さっさと出ていくキャスター……自分から聞いた割に素っ気無いねぇ……

 

「……キャスターの言葉通りならライダーもどうせ出ていっちまったんだろうな……桜の様子でも「それは私が行きます。貴方は休んでください。」アルトリア……分かったよ。」

 

今度は素直に従う事にする。……正直に言えば俺も限界だしな



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堕落したブラウニー45

「……何で着いてきてるんだよ、ライダー……」

 

「…!何故分かったんですか?」

 

僕の前に霊体化していたライダーが現れる。

 

「……勘。まあ何だかんだ付き合いも長かったしな。」

 

「……そうですか。」

 

「……桜の所に帰れ「嫌です。」……何でだ?お前は僕が嫌いだろう?」

 

「……確かに貴方の事は嫌いでした。でも、それは貴方と私が生前嫌った人物が似ていたから……それに今は……」

 

距離を詰めてくるライダー……僕は後退る。

 

「……何だ?」

 

「……どうして逃げるんですか?」

 

「……お前の気持ちには答えられない。」

 

……気付いていた。プレイボーイを気取るつもりも無いけどこれでもそれなりに女との付き合いはある。……だからか僕も何となくは気付いていた。……ライダーは僕に好意を向けてくれている……

 

「……何故ですか?私がサーヴァントだから?それとも「お前が言う中に正解は多分無いよ」どういう事ですか?」

 

「……僕に関わる女は不幸になる……いや、不幸にしか出来ない。」

 

「…!それを決めるのは貴方じゃありません!私です!」

 

「……桜の所に戻れ。「嫌です!」僕はお前に死んで欲しくない!」

 

「貴方は死ぬ気でしょう!?」

 

「…!そうだ。僕は衛宮を殺したら死ぬ。」

 

「……どうして!」

 

「……桜を助けた事で僕の役目は終わった。後、僕がしたいのは衛宮を殺す事だけだ。」

 

「……違いますよね?貴方は彼の事が「やめろ!」……」

 

「……違う。そんなんじゃないんだ……!」

 

僕はあいつが……!

 

「……さっさと行け、いや、頼む!桜の所に戻ってくれ……!桜を狙う奴はこれから先大勢出てくる……その時お前がいてくれないと困るんだ……!」

 

「……シンジ……私は…!」

 

「…っ!誰だ!?」

 

「……あの男を殺したいなら私に手を貸さないかね?」

 

「……お前、確かアーチャー……こんな所で何をしている?」

 

「……何。あるサーヴァントのおかげでマスターと契約を切れたがそのサーヴァントはもうこの戦争に参加する気が無いと言うのでね、……どうしようかと考えていたら面白い話が聞こえて来たものでね……」

 

「……お前の目的も衛宮か。何でだ?あいつとお前に何の接点があるんだ?」

 

「……答える必要があるのかね?」

 

「……当然だろ?得体の知れない奴と手を組むメリットが……何だライダー?」

 

ライダーが僕に背を向け僕を守るかのようにアーチャーと対峙する。

 

「……」

 

「……何かね?私は今の所彼をどうこうしようとは思ってないが?」

 

「……ライダー、そこを退け。まだ僕たちの話は終わってない。」

 

「シンジ!貴方はこんな話に乗ると言うのですか!?」

 

「……もうお前には関係の無い事だ。……早く桜の元に戻れ。」

 

「……シンジ……分かりました。」

 

ライダーが消える……

 

「……良いのかね?」

 

「……ああ、これで良いんだ。さて、話してもらうぞ。お前は何なんだ?」

 

僕はアーチャーを睨みつけた。

 



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堕落したブラウニー46

「座っててくれ。今、お茶を入れよう…葉はあるか?」

 

「おい、何を勝手に……ハア…ここには茶葉は無いよ。…そこの棚にインスタントコーヒーの粉が入ってる。」

 

「…むっ、これか?」

 

テキパキと勝手にキッチンの主のように振る舞うアーチャー…何なんだ、こいつ……

 

あの後、「立ち話も何だ、座れる所へ行かないか」と言うから正直僕も一度休みたかったし、取り敢えずキャスターに明け渡したのとは別に借りていた部屋にアーチャーを案内した……着くなりこれだ……何のつもりなんだか……ん?

 

「…コーヒーを入れて来た「アーチャー、悪いがそのまま少し屈んでくれ」む?何かね?」

 

僕は席を立ちアーチャーに近づくと逆立ったアーチャーの髪を手で下ろす……ふん。やっぱりか……

 

「…何の真似かね?」

 

「見た目もそうだけどさ、その喋り方……イメチェンにしても変えすぎじゃないか?なあ、衛宮?」

 

僕は余程こいつと縁があるらしいな……

 

 

 

「さっきは驚いたよ。…何で分かったんだ?」

 

アーチャーが入れて来たコーヒーの入ったマグカップに口を付ける。…大して美味くも無いけど少し落ち着いた気がする……認めるのは癪だけど。

 

「…僕は衛宮とは何だかんだ色々あったからね……」

 

「……すまん。」

 

「良いよ。大体、お前が謝る事じゃないだろ?僕の知る衛宮とお前は違う奴なんだから……」

 

僕は平行世界の衛宮に吐き捨てる様に言ってやる。

 

 

「…僕の事は良いよ。本題に入ろう……お前は衛宮を殺すのに協力してくれると言ったよな?」

 

「…ああ。」

 

「さっきの時点でも理解出来なかったけどさ、余計に分からなくなったよ、ほぼ別人とは言え、この世界にいる衛宮士郎は要は過去のお前だろう?何だって自分を殺したいなんて結論に繋がるんだよ?」

 

「……言わなきゃ駄目か?」

 

「出来れば聞きたいね。いくらお前が衛宮でも…いや、お前が衛宮士郎だからこそ僕はお前を信頼出来ないんだよ。」

 

そう。僕は衛宮士郎を信用しても信頼は出来ない……増してや僕の知る衛宮だって信頼出来ないけど、目の前のこいつは要は自殺したいって言ってるようなものだ。……元が別人である以上この世界の衛宮を殺してもこいつに影響がある訳もないけどさ、こんな遠回しな自殺志願者の事をどう信頼しろと言うのか……

 

「…俺の親父はさ、正義の味方になりたかったんだってさ。」

 

「……」

 

衛宮切嗣か……魔術師殺しの事は調べたし衛宮もある程度僕に話したから人となりは把握してる。……何となく僕の知る衛宮との違いが見えた気がしたが口には出さなかった。

 

「俺は親父の夢を継いだんだ。俺は正義の味方になろうとした……それが何をもたらすかも考えずにな。」

 

……成程。これが僕の知る衛宮との違いか。あいつは間違っても正義の味方なんか目指したりしないだろうからな。

 

「衛宮、もう良いよ……分かった。要するにお前は自分が正義の味方を目指した事実を消したいんだな?」

 

「…ああ。そうだ……」

 

「それが無駄だと分かっていても?」

 

「俺の意思は変わらない。俺は衛宮士郎を殺す。」

 

「…そうか。」

 

……僕はアーチャーと手を組む事に決めた。



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堕落したブラウニー47

「…!」

 

「…シロウ…」

 

「…分かってる。…アルトリア、家で待機してろ。」

 

「…!何を言って「非戦闘員がいる。これだけの殺気を放つ奴に相対して守り切れるわけねぇだろ…!」なら私が…!「却下、だ。」シロウ!」

 

「…別に俺だって勝てると思っちゃいねぇよ。良いか?向こうは殺気を放つだけで今の所動く気配は無い。…つまりこいつは誘いだ。…向こうの用向きは分からんが会ってみるしか無い…アルトリア、何時でも動ける様に待機だ。…分かったな?」

 

「…分かりました。ですが危なくなったら直ぐに私を呼んでください。」

 

「おう。そうさせてもらうわ。」

 

俺は玄関に向かう…やれやれ。今夜は来客がおおいねぇ…。

 

 

 

「…この我を待たせるとはな…」

 

外に出れば金髪の美丈夫。…こいつがイリヤの言っていた奴か。

 

「…別にこっちはあんたを呼んだ覚えはねぇ。そっちが勝手に来といてそれはさすがに理不尽が過ぎるってもんじゃないかい?」

 

「戯け。この我が直々に出向いてやったのだ、直ぐにでも出迎えるのが筋というものであろう。」

 

「傲慢だねぇ…。それで?こんな夜中にそんな殺気を飛ばして人の安眠妨害して何か急ぎの用でも?」

 

「フン。先ずは我をもてなさぬか。」

 

「…悪いがどれだけやんごとなき立場の人間だったとしてもいきなり夜中にやって来て人を叩き起す奴をもてなす程聖人じゃ無いんでね、いやー、悪いな。何せ育ちが悪いもんでよ。」

 

「…そうか。では雑種よ、せめて散り際で我を興じさせよ。」

 

「…!いきなり攻撃かよ…!」

 

俺の直ぐ横に空間に干渉するように配置された金色の波紋から剣が顔を出したのに気付き咄嗟に飛び退く。

 

「…良く躱したな、では次。」

 

「…!くそ!」

 

その言葉と共に次々に現れる波紋から必死に逃げ続ける。

 

「愉快よな!まるで道化よ!」

 

奴の顔が喜色に歪む。チッ!ムカつくぜ。

 

「フハハハハ!そらそら!」

 

「…!…くそが!喰らえ!」

 

射撃の隙を縫って俺は何とか奴に剣を投げつける。

 

「…!ほう?」

 

奴の顔が少し切れる。

 

「…どうだ?ちったァ堪えたかよ…!」

 

ダメージがろくに無いのは分かってるが俺はここぞとばかりに煽る。

 

「…フン。雑種が良く吠えおる…!この場で殺す気は無かったが気が変わった!」

 

その言葉と共に俺を囲む様に現れる大量の波紋。前後左右、上も全てを塞がれた…!もう逃げ場は無い…!

 

『…アルトリア、遠坂たちを連れて逃げろ…!』

 

『シロウ!?』

 

『早くしろ!』

 

「…遺言は伝え終わったか?では、踊れよ、道化…!」

 

俺に向かって来る数えるのも馬鹿らしくなる程の武器武器武器武器…。しかも咄嗟に解析した所によると全部宝具の様だ…

 

「…!」

 

俺は足と目に限界迄に強化をかける…!逃げ場は無い!なら、前に…!

 

剣を肘で叩き落す、槍を蹴り飛ばす、斧を落ちてくる前に走り抜け…ッ!背中を抉った…!…どうせ再生する以上致命傷以外は全て無視だ、無視。

 

強化のし過ぎで視界が赤く染まる…最早足にも感覚は無い…余計な事は考えるな!思考リソースも全て進むことに回せ!

 

後十メートル、九、八…!足を払う様に突き出される槍を踏みつけ、飛び、距離を縮める。後、五、四、三…!

 

「…生憎、俺は、芸人じゃねぇんだ…だからさ…!」

 

あんたが、踊れ…英雄王!

俺は腹に刺さった剣を引っこ抜き、勢いのまま奴に突き出した…



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堕落したブラウニー48

剣を突き出し、奴に当たる直前…奴の姿はまるで空気に溶けるようにして掻き消えた。

……幻影か。…実の所、最初の時点で違和感はあったからそれ程驚きは無い。

 

「……ハァ…」

 

気配は感じない。俺はその場に座り込む。…強化は既に解いているが、今も視界が可笑しい。そもそも抜いた以外にも刺さっている剣や槍なんかが邪魔して血も止まらないからそのせいかもしれんが…

 

「…結局、あんたは何をしに来たんだ…?」

 

気配は無いがどうせ何処かでこっちを見てるんだろうと思った俺は答えを期待してはいないが思わずそう零す……と…

 

『フン。我の前に立って良いのは真の英雄のみ。だから貴様の査定をしていたのだ。』

 

…答えが帰って来た。俺はうんざりしつつも更に言葉を発する。

 

「…何で俺があんたと対立する前提なんですかねぇ…あんた、今回の聖杯戦争には不参加だろ?」

 

最もこいつが八騎目の可能性もあるがな…。

 

『あの様な穢れた杯は我が宝物庫には必要無い。』

 

否定しない…じゃあ何で戦う必要がと思いつつ俺は気付いた。

 

「…成程。あんた、人類を滅ぼしたい口?」

 

『戯け。下らん生を貪る貴様ら雑種を我が間引いてやろうと言うのだ。』

 

間引くねぇ…神代の頃の逸般人ならまだしも、呪いの泥相手に今の人類が何人生き残ると思ってるんだ?

 

「…多分滅ぶと思うけど?」

 

『それで朽ち果てるならそれまでの事よ。』

 

……どんだけ傲慢なんだこいつ?

 

『雑種、今一度問う…貴様は何故あの杯を破壊しようとする?』

 

「…アレの存在が気に入らないから…じゃあダメなのか?」

 

『…フ…フハハハハ!良いぞ道化!仮に理由が世界平和や人類の救済などという理由であればこの場で八つ裂きにしておったわ!』

 

「…んな下らない事考えるかよ。個人的には本当は人類が滅ぼうがどうだっていいんだ。結局、アレが気に食わないだけなんだよ、俺は。」

 

『…良かろう。我は杯の前で待つ。』

 

イリヤの話が出て来ないな。

 

「大聖杯の起動には小聖杯が必要だが?」

 

『ハッ!この我に不可能など無いわ!』

 

なら何でアインツベルンを襲撃したんですかねぇ?

……まあ俺にはどうでもいい事か。

 

「…帰るならこいつら持って帰れよ。」

 

奴が消えると同時に地面に落ちた宝具は消えたが俺に刺さった分は残っている。

 

『戯け。貴様の穢れた血に濡れた物などいるか。くれてやるわ!』

 

太っ腹だねぇ…。ざっと解析したが大半が呪いを断つ系統の宝具だ。…しかもピンポイントで俺に刺さるものばかり…。……俺が持っててもほとんど使えねぇぞ…。

 

「…たくっ。他人の家の前を滅茶苦茶にしやがって…。」

 

…ここまで被害が広がるとさすがに隠しきれねえなぁ…セラ、リズの時も虎と一悶着あったのに(何故か藤ねぇには暗示の効きがすこぶる悪い。…効きにくい奴やレジストする奴もいるがあれはそんなレベルじゃない…)

 

「…シロウ!」

 

…まぁ、まずはこっちに向かって来る泣きたいんだか、怒りたいんだか分からない変な表情をした騎士王様をどうあしらうか考えますかねぇ…。



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堕落したブラウニー49

「くそっ…あの腐れ英雄王が…!」

 

大量の宝具に貫かれ、ハリネズミ状態になった俺の身体は宝具を抜いても再生しなかった。…ちなみに宝具は全部土倉に放り込んである。

 

「シロウ!大丈夫ですか!?」

 

「…問題、無い…向こうに行ってろ…。」

 

「ですが!」

 

「…男の悲鳴を聞くのが…趣味なのかい?」

 

「…分かりました。失礼します…。」

 

アルトリアがいなくなったのを確認すると俺は作業を再開する。

 

「ぬっ…!があああ!」

 

俺は今風呂場で呪いの浄化する宝具により変質した傷口の肉を火で炙ったナイフで削り落としている…が、その都度その都度変質していくのでキリが無い。

 

「…ハア…ハア…やっぱ…ダメか。」

 

俺は除去作業を諦め、傷口を縫い付ける。

 

 

 

 

「…チッ…血が足らねぇ…。」

 

早急に輸血をしないとな…恐らくそろそろ夜が開ける。…さっさと行かねぇと。

 

「シロウ!?その傷で何処へ!?」

 

「…病院だ…血が足らねぇ…」

 

「…なら…私が…!」

 

「…間に合わねぇんだよ。…その場で輸血しないとな。」

 

「…では私も共に「要らね。遠坂たちの護衛してろ」シロウ!」

 

「…うるせぇな…こっちは問答してる余裕はねぇんだ…!いい加減にしねぇと令呪使うぞ…!」

 

「…分かりました。気を付けて…」

 

 

 

病院に残っていた医者や看護婦、警備員を眠らせ、輸血パックを漁る。

 

「…こんだけありゃいいか。」

 

 

 

輸血パックをぶら下げた点滴スタンドを引き摺りながら歩く。チッ!夜が明けちまうぜ…

 

「…何やってんよあんたは…」

 

「…遠坂…お前…サーヴァントも着けずに何しに来た…?」

 

「…何処ぞの馬鹿を迎えにね。」

 

「…誰の事「あんたに決まってんでしょうが。」…そうかい。」

 

「ほら、とっとと帰るわよ。」

 

「…おい…怪我人を労われ…」

 

「普通の怪我人は自分で輸血しに病院に歩いて行ったりしないわよ馬鹿。ほら、いいからキリキリ歩く。」

 

 

 

「…シロウ!良かった…!」

 

こっちに向かって突っ込んで来るロリババアにヤクザキックを食らわす。…何考えてやがんだ、こいつは…

 

「痛いじゃない!?」

 

「お前が重症の怪我人に突進して来たんだろうが…まっ、自業自得ってやつだよ…。」

 

「むー!」

 

頬を膨らませて怒ってるアピールするロリ…うーむ…無いな。

 

「…歳を考えろロリババア。」

 

「私は十八歳よ!」

 

「…いや、酒煙草がやれないだけで世間一般の感覚で普通に大人じゃねぇか…。」

 

「…あんたら漫才してないでとっとと入ったら?」

 

何で家主じゃない奴が堂々と仕切るんですかねぇ…。

俺はもう一回適当にロリババアを揶揄ってから家に入った。

 

 

 



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堕落したブラウニー50

「で、実際傷はどうなの?」

 

「…宝具の効果のせいで再生しねぇ。取り敢えず応急処置で傷を塞いであるだけだ…。」

 

「……」

 

「…明日、円蔵山に向かう。」

 

「はっ!?何言ってんのよ、あんたその怪我じゃ「時間がねぇ」どういう意味よ?」

 

「宝具の効果による呪い除去が原因だ。俺の身体は多分もうもたねぇ…。明日しかねぇんだよ。」

 

「…そう。協力を約束したからね。私は一緒に行くわよ。」

 

「バ~カ。嫌だって言っても引っ張って行ったに決まってんだろ。」

 

「…それを聞いて安心したわ」

 

「…私も行って良いですか?」

 

「桜!?目が覚めたの?」

 

「はい。姉さん、ご心配をおかけしました。…それで先輩?良いですか?」

 

「…ライダーは来るのか?」

 

「…はい。」

 

「なら、好きにしな。こっちも戦力は多い方が良い。」

 

ヘラクレスも来るとしてこれでサーヴァントは四騎…やはり決め手がねぇな…キャスターとの交渉が決裂したのが痛てぇな…まぁいい。

 

「…んじゃお前らは休んどけ。」

 

「…先輩は?」

 

「…この状態じゃ爆睡出来ねぇから起きてる。」

 

「…ねぇ?それ、私たちが交代で様子見てれば寝れるんじゃない?」

 

「…妙なお節介要らねぇよ、良いから寝とけ。」

 

俺は二人を追い出す。

 

「…では、私が見ていましょう。」

 

「…セラ。良いからお前も寝てろ。」

 

「どうせ明日の戦い私の役目は無いのでしょう?」

 

「そうだな。…とは言えどっちにしろ下手に寝ると俺が起きてこなくなりそうなんでな、だから良い。」

 

「…そうですか。」

 

こうも残念そうだとくるものがあるな…俺の知った事じゃねぇか。

 

 

 

 

「…何か用なのか?…アルトリア?」

 

俺は廊下に向け、声をかける。襖を開けアルトリアが中に入って来た。

 

「…シロウ…私は貴方にとって何ですか?」

 

「…サーヴァント。それ以上でも以下でもねぇ。」

 

「…じゃあ何故あの時私を呼ばなかったのですか!?」

 

「…さぁな。俺も分かんねぇわ。」

 

何で俺はサーヴァント?と戦おうとしたんだろうな…?

 

「…もう良いか?」

 

「…ええ。良く分かりました。」

 

アルトリアが一向に動こうとしない。

 

「どうした?部屋に帰れよ。」

 

「…ここにいたらダメですか?」

 

「…好きにしろよ。…そういや魔力はちゃんと供給されてるか?」

 

俺の身体に異常が出てる以上万が一の可能性があるからな…。

 

「…ええ。大丈夫です。今の所問題ありません。」

 

「…そうかい。」

 

「……」

 

「……」

 

俺をじーっと見詰めるアルトリア…落ち着かねぇ…。

 

「…そんなに見てても俺は寝ないぞ。そもそもこの身体になって以来余り寝る必要も無いんでな。」

 

変質はしてるがそこら辺は今更変わらない…要するに俺の終わりが早まっただけの話。…自分の身体の事は自分が一番良く分かってる。

 

「…用が無いなら部屋に行きな。」

 

良いと言ったがこうも見られちゃあな…

 

「…分かりました。」

 

肩を落として去っていくアルトリアを見送る…

 

「アルトリア!」

 

「…何ですか?」

 

「…悪かったな、面倒なマスターでよ。」

 

「…いいえ。私は貴方に出会えて良かったと思っています。」

 

「…そうかい。」

 

 

 

「……物好きな奴だ。」

 

俺は声を上げて嗤った。



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堕落したブラウニー51

「…解析開始。」

 

俺は自分の身体に解析魔術をかける…ずっと可笑しいと思っていた…あの時俺は聖遺物すら無しで召喚した…俺の気質でアーサー王の様な高潔な英霊が呼べるわけねぇ…ならば、答えは一つ。

 

「っ!…チッ…ノイズが邪魔して上手く読み取れねぇ…。…ある筈なんだ…俺の中に…!」

 

切嗣が俺を助けるため埋め込んだ宝具。それを媒体にアルトリアを呼び出した…戦力は多い方が良い…既に長くない俺より相応しい相手がいる…こいつは持ち主に返すべきだ…!

 

「…!これか!……全て遠き理想郷!」

 

俺の手の中に出現した神秘の塊…紛うことなき宝具…こいつはあれか、話に聞くエクスカリバーの鞘か…。

 

「…!…ぬっ…うっ!」

 

こいつも俺の体質に貢献していたのか…取り出すべきじゃなかったか…身体が…!

 

「…まだだ…!まだ死ねるか…!」

 

大聖杯をぶち壊すまで死ねねぇ…!

 

「…くそっ!寿命なんか知るか!決めるのは俺だ!」

 

別に終わったら死んでもいい。だが今は駄目だ!

 

「…くっ!…何とかもちそうだな…。」

 

後は明日こいつをアルトリアに…「シロウ…」

 

「…ライダー…何か用か…?」

 

「…あれだけ騒いでいれば様子を見に行く気にもなりますよ…。」

 

「…今更俺の状況は変わらねぇ。桜の事を心配してな。」

 

「……貴方もシンジと同じですね。」

 

「あん?」

 

「自分の事を悪と称しつつ何時も人の事ばかり気にしている。」

 

「…違うな。慎二は単に身内に甘いだけ。俺は、これが人間だからという不文律に従っているだけだ。…本当は他人も自分の事でさえも俺はどうだっていいんだよ。」

 

「……」

 

「思えば…誰にも同じ態度を取っていたのにあいつだけが俺の本質を見抜き、俺を毛嫌いしていた…だから俺はあいつに惹かれた。…あいつの在り方は素晴らしい。何処までも中途半端な癖に俺の知る限り誰よりも人らしい…俺は奴の価値観に興味を持ち…そして壊してやりたいと思った…。」

 

「…何故私にそんな話を?」

 

「お前の歪みに興味が出たから。…お前俺に嫉妬してるだろ?」

 

「…何を言って…「お前は慎二が好きなんだろ?だから奴が執着する俺に嫉妬してる」…くだらない決め付けですね。そうですね…私がシンジを好きなのは認めましょう。ですが…私は貴方に嫉妬などしていません…ええ、していませんとも。貴方のような人擬きに誰が…!」

 

「殺気が込もってるぜ…説得力0じゃねぇか。」

 

更に膨れ上がる殺気…ああ、まだ死ねねぇのに…止められねぇ…!

 

「…ライダー止めて。」

 

「…サクラ…」

 

「…あんたは何をやってるわけ?」

 

「…もしかしなくてもシロウって馬鹿なの?」

 

「…シロウ、これは怒っても良いですよね…!」

 

「良いじゃねぇか…つい、興が乗っちまったんだよ。」

 

我が家にいる女性陣が勢揃い。またやっちまった…こりゃ朝まで説教かねぇ…

 



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堕落したブラウニー52

「さて、無駄な時間を食ったが「あんた反省してないわけ?」…今更俺が反省なんかするかよ、ほれセイバー、こいつを渡しておくぞ?」

 

俺は鞘を取り出すとアルトリアに放る。

 

「これは…!何故貴方がこれを!?」

 

「俺の体内にあったもんだ…多分、俺がお前を召喚出来た理由だよ…」

 

「…シロウ…これは受け取れません…!…これを渡したら恐らく貴方は…!」

 

「…もう手遅れだ。俺が今更こいつを戻したとこでどうせこの身体は朽ちる「ですが!」戦力不足なんだ。お前が万全でないと困るんだよ…お前がこの戦いの要なんだからな…それと…」

 

俺は手を翳し令呪を輝かせる。

 

「この期に及んで何を…!」

 

「令呪を二つ使って命ずる…俺が万が一途中で終わっても構うな…確実に大聖杯をぶっ壊せ。…令呪が二つしか無いのが痛いが…まあ何とかなるだろ。」

 

パスは繋がったままだし俺は魔力タンクとしては破格な自信がある…俺も戦闘に出るわけだから何時切れるかは分かんねぇがな…

 

「貴方という人は…!」

 

「もう文句は聞かねぇ。何せもう時間がねぇんでな…」

 

鞘を取り出してから肉体の崩壊が早まってるのが分かる…急がねぇと…この戦いが終わる前に死ぬわけには行かねぇ…

 

「あんた…どんだけ馬鹿なのよ…!」

 

「うるせぇ。もう文句は聞かねぇと言った。これはセイバーだけでなくお前らにも言ってんだからな…どうしても言いたきゃ終わった後にまとめて言えや。」

 

最もその頃には俺はもう死んでるだろうがな。

 

「行くぞ…と、その前に確認しとく…俺を含めた俺たちの役目は足止めだ…最悪セイバーだけを大聖杯の前に立たせりゃ良い。」

 

せめてキャスターがいりゃ本当に万全だったかも知れねぇがな…あの時奴の使った宝具は「破戒すべき全ての符」…ならば恐らく奴は裏切りの魔女メディア…あの時代の魔術師なら大聖杯を破壊するには申し分無い…今のセイバーだけで破壊出来るかは五分五分だ…他のサーヴァントには決め手がねぇしな…

 

「一応俺が率先して前に立つ「あんた!」騒ぐんじゃねぇ。俺の方が多少火力は出るし、その癖実力そのものはこの中で一番下だ…使い捨てにするなら妥当だろうが。」

 

「シロウ…」

 

「悪いな、姉さん…あんたは多分一蓮托生だ…この戦いの後は俺と同じく死んでる可能性が高い…それでも来るか?…最悪ここに残ればしばらくは生きてるかもしれんぞ?何せこの戦いが終わる前に途中で死ぬかも知れんしな…」

 

「…ううん。行くわ…私は見届けるって決めたもの!」

 

「…そうかい…で、お前らはどうすんだ?セイバーは来てもらわないと困るが…お前らは残るなら残っても良いぞ?」

 

「…ふざけないで。ここまで来て私が残るわけないでしょ!」

 

「マスターが行くなら拙者も着いて行くだけで御座る。」

 

「…お前らはどうだ?桜にライダー?」

 

「…行きます。先輩を放っておけませんから。」

 

「…私はシンジにサクラの事を託されましたから…」

 

……馬鹿な奴らだ…

 

「…面白そうだな、俺も混ぜてくんねぇか?」

 

そう声が聞こえ俺たちは身構える…

 

「ようランサー…今更何の用だ?…」

 

「そう警戒すんなよ…何か知んねぇけどよ、マスターから御役御免にされてな…要は暇なんだ…どうだ坊主、俺を雇う気はねぇかい?」

 

何故このタイミングで…いや、今はどうでも良いか…これは寧ろ僥倖だ…!

 

「…歓迎するぜランサー…戦力不足で困ってたとこなんだ…」

 

これだけいれば少しはマシな展開になるかもな…!



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堕落したブラウニー53

「…ん?おいおい…良く見りゃお前ら全員サーヴァントがついてるじゃねぇか…」

 

「ああ、それなら問題無い。俺がお前と契約する…セイバーと掛け持ちでな。」

 

「…マジで言ってんのか?自分で言うのも何だが俺もそこまで燃費良くは無いぜ?」

 

「良いから早く手を出せよ。…悪いが時間がねぇんだ…」

 

「…まあ坊主が良いなら良いけどよ…ほれ」

 

差し出された手を握る…アルトリアと違ってガッシリしてゴツゴツした手だな…あっちも剣を振ってきた影響か硬さがあったが明らかに女性特有のしなやかさがあった。…これはこれで悪くないが…っ!

 

「…こいつぁ驚いた…全盛とまではいかねぇが七割程は…おい坊主大丈夫か…?」

 

「…問題無い…」

 

嘘だ。本当はかなり辛い…

 

「馬鹿ね…ほら、これ飲みなさい。」

 

遠坂から投げられた物を咄嗟に掴む…宝石?

 

「…何の真似だ?」

 

「良いから早く飲み込みなさい…高純度の魔力で身体が構成されてるあんたならそれでも多少マシにはなるでしょ。」

 

「…そうかい…なら、貰うぜ…んぐっ…!」

 

かなり異物感があったが何とか飲み込めた…少しは楽になった気がするな…

 

「…行くか。」

 

 

 

柳洞寺に辿り着く…ここまで特に妨害は無かった…全員ここで迎え撃つ気なのか?…どう考えても慎二と英雄王は性格的に相性が悪いと思うんだが…アーチャーとなら組めそうだけどな…

 

「…来たわね。」

 

柳洞寺の前に立つサーヴァント…キャスターか…っておいおい…何で葛木がここにいるんだ…?あれだけ傷を付けたのにもう立てるのかよ…

 

「ここでリターンマッチのお誘いかい?」

 

軽口を叩いているが…実際に挑まれたらヤバい…こんな所で時間食ってる場合じゃないし、こいつらに勝てる明確なビジョンが浮かばない…!…最も英雄王なら勝てるわけじゃないが…無論他も然りだが…魔術師じゃないとはいえ慎二は侮れない…アーチャーは明らかに俺にとっての天敵だしな…

 

「違うわよ。私たちは見届けに来たの。坊やたちの戦いをね…」

 

「そういう事だ…一度首を突っ込んだ以上我々にもその義務はあるだろう…」

 

そう言う葛木の眼光は鋭い…全快なわけは無いが仮に今この場でやり合うことになっても勝てる気がしねぇ…まあやらないなら問題は無いか…

 

「…なら、一つ頼んでも良いか?」

 

「……聞くだけは聞いてあげる…何?」

 

嫌われたもんだな…だが保険はかけないと不味いからな…何とか首を縦に振って貰わなければ…

 

「…万が一俺たちが失敗したら大聖杯の破壊を頼むわ…」

 

「……何で私がそんな事を…って言いたいところだけどあの状態の魔力炉心を放っておけば私もただではすまないからね…良いわ、請け負ってあげる…その代わり相打ち位には持ち込んでね?私もあのサーヴァントに勝てる気はしないから…」

 

「努力はするさ。」

 

俺はキャスターたちに背を向ける…足並みを揃える必要は無い…勝手に二人はついてくるだろう…

 

「一つ言い忘れてたわ…ここに来たのは貴方たちが最後…先に聖杯戦争の監督者と金髪紅眼の男のペア、次に、間桐の坊やとアーチャーのペアが山に入ったわ。」

 

「…了解。慎二たちが入ってからどれくらい経った?」

 

「…一時間位かしらね…多分、当に決着は着いてる頃でしょう…」

 

「…漁夫の利は無理って事か…」

 

最も得体の知れないアーチャーはともかく慎二が英雄王とかち合って生き残れるとも思えないが…そもそも慎二とは契約出来ないだろうからアーチャーも到底勝ち目は無い筈…せめて英雄王の宝具の数だけでも四割程は削って欲しいがね…八極拳に特化した言峰綺礼はともかく英雄王に勝つ方法はほぼ無いも同然だからな…



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堕落したブラウニー54

「…アーチャー、まだもちそうか?」

 

『…五分五分と言った所だな…あまり長時間の戦闘は出来ん…』

 

「…急ぐぞ。あいつらより先に大聖杯に辿り着いて待ち伏せする…」

 

このタイミング以外であいつと決着着ける方法は無い…アーチャーに至っては大聖杯破壊の時点で当然消えてしまうだろう…そもそも僕と契約出来ないせいで単独行動スキルにより動いている状態だ…霊体化して貰ってるとはいえ本当にどれくらいもつのか…

 

 

 

「…坊や。」

 

「…キャスター…葛木!?何やってるんだ!?」

 

僕の前にはキャスターと重症の筈の葛木が…!まだ動けるような状態じゃない筈だ…そもそも僕が出来たのは応急処置だけ…!

 

「…私を救ってくれたそうだな、間桐…礼を言う。」

 

「そんなのいい!早く戻れ!あんた本当に「私は見届けに来たのだ」…見届ける?何を?」

 

「…この戦争の終わりを。」

 

「くだらない。そんなものが命より大事かよ…!」

 

「私がいるのよ、坊や?私が宗一郎様を死なせるわけないでしょう?」

 

「…あーそうかもな。」

 

もうどうでもいい。そもそも僕にはこいつがどうなろうと関係無い…

 

「…僕はもう行く「先客がいるわ」…衛宮たちか?」

 

「…いいえ。監督役と金髪紅眼の男よ…」

 

「…へぇ…」

 

金髪紅眼の男は間違いなくサーヴァント…それと監督役が一緒にいた時点でルール違反だが…どうでもいい。邪魔をするならさっさと排除して衛宮との戦いに臨むだけだ…!

 

 

 

「雑種…誰の許可があって我の前に立つ。」

 

大聖杯のある洞窟の奥にそいつはいた…分かる…こいつは確かに生身…!だけど明らかにその存在感は並のサーヴァントを遥かに超えて…!

 

「…飲まれるな慎二。気をしっかり持て。」

 

「…っ!…分かってる…てか何勝手に霊体化解いてるんだよ…先ずは僕が様子を見る手筈だろ…?」

 

「…すまない。だが君が限界なのが分かったのでね申し訳無いが勝手に出させて貰った…」

 

全くこの男は…!

 

「…僕は大丈夫だ…でも多分あいつは厄介だ…お前にあれの相手をして欲しい…」

 

「…承った…君はどうするのかね?」

 

「…あそこで笑みを浮かべてる男とやるよ。」

 

僕は軽く微笑の様なものを浮かべた監督役を指差す。…勝てる気はしない…あのカソックの上からでも分かる鍛え上げられた肉体は奴が純粋な魔術師ではなく、近接戦闘に優れた武闘家寄りである事を示しているのだと思う…

 

……衛宮の影響で僕も多少武道の心得はあるが…今目の前にいるあれは本物だ…半端な衛宮にすら勝てない僕に勝てるとは思えない…だけど…!

 

「そこを退けよ。そこは僕たちの場所だ。」

 

この場所で衛宮を迎え撃つ。そのために負ける訳にはいかない…!



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堕落したブラウニー55

「さっさと散れ贋作者。我は貴様などよりあの小僧の方が興味がある…」

 

「譲れんよ。アレは私の獲物でね…」

 

「…自殺志願者か…下らぬ歪みだな…貴様には食指が動かぬ…さっさと消え去れ。」

 

あっちの声がはっきり聞こえるのは今も僕が生き残っているから…到底勝ち目なんか無いのに今も僕は意識を保っている…

 

「どうした?その程度の攻撃なら目を瞑っていても捌けるが?」

 

「くそ…ムカつくなアンタ…!」

 

こいつの流派は多分八極拳…それも普通に道場開けるとかそんなレベルじゃなくてこいつは素手で人間を殺せる…!少なくとも僕はこいつの足元にすら達してない…でも僕がほとんど防戦一方とはいえ未だに戦えるのは…

 

「…何で手を抜くんだよ…あんたならすぐ僕を殺せるだろ?」

 

「…それではすぐ終わってしまうからな。」

 

僕の相手は暇潰しかよ…!くそ。こいつをさっさと殺してやりたい…!せめて僕が魔術を使えるなら…!…チラッとアーチャーの方を見る…奴ももう限界が近そうだ…僕もそろそろ限界だ…あの男はその場からほとんど動かず僕の攻撃を捌くだけ…そして僕に対しての攻撃は僕の攻撃の間隙を縫って差し込んでくるカウンター…どう考えても疲れるのは僕の方だ…だが向かわなければ僕に勝ち目は無い…!

 

「敵の前で休憩とは呑気だな…」

 

「なっ!?」

 

いつの間にか奴が目の前にいた。…この距離は不味…!

 

「ゴフッ!」

 

身体に衝撃を受け、吹っ飛ぶ…肋骨からベキベキと音が聞こえた…。

 

「…多少威力は抑えたが確実に入った筈だ…何故、立つ?」

 

…僕は肘を叩き込まれた場所を押さえながらゆっくり時間をかけて立ち上がった…。

 

「…何故…?そん…なの…決まって…る…邪魔なんだ…よ…アンタら…僕は…衛宮を殺すために…ここにいなきゃ…ならない…退けよ…そこは僕の場所…だ…!」

 

「退けんよ。目的は同じのようだからな。」

 

「そうかよ…!」

 

押さえていた手を下ろし今自分が出せる最大スピードで奴に向かって突っ込む…!

 

「…っ!…ゴフッ…」

 

カウンターて折れた肋骨に衝撃が叩き込まれそれが肺に達したのが分かった…血で気道が塞がる…息が…!…呼吸が難しくなり地面を転がる中頭は逆に冷静に医学知識と今の状況を並べ打破の手段を探す…無い…何も…無…

 

『カカカ。それで終わりか。』

 

…んなっ!?ジジイ!?お前は死んだ筈だろ!?

 

『愚かな…本体の蟲が死なん限り儂は健在…それくらい分かっておろう?』

 

……まさか…!

 

『そうじゃ。儂は今お前の中におる…』

 

…化け物が。

 

『カカカ。じゃがお前を助けられるのもその化け物しかおらんぞ?』

 

僕を助ける?何を言ってる?

 

『お前に魔術の才は無い。だが、知識は人一倍ある…後は使う土壌をしっかりさせるだけ。…儂にはその方法がある…どうじゃ?儂にその身体を預ける気は無いか?』

 

……僕を苗床にする気か?

 

『察しが良いのう…そうじゃ。お前の中に蟲を繁殖させる…お前は雁夜よりは良き素材になりそうじゃな…』

 

……良いだろう…乗ってやるよ。

 

『ほう…本当に良いのか?』

 

こいつの思惑は分かってる…どうせこいつは僕を苗床にするだけじゃ飽き足らず…人の身体を使って復活する気だ…なら…

 

それ以外にこの状況をどうにかする術は無いからな。

 

『カカカ…良かろう。蟲を入れるのはすぐだ。ただ、儂の合図一つで…!』

 

こいつの思惑に乗ってその力だけを貰う!

 

『なっ!?きっ、貴様!』

 

……僕がこの状況を読んで無かったと思ってるのか?何時でもアンタを出し抜ける様に想定はしていたよ…

 

『馬鹿者め!儂がいなければお前の身体は雁夜の様に朽ち果てるぞ?』

 

…知るかよ。誰がお前に良いように使われてやるもんか。僕は衛宮を殺せるならそれで良い。ほらさっさと消えろよクソジジイ。この蟲は僕が有効に使ってやるさ…

 

『馬鹿な…!?』

 

……ジジイの声は聞こえなくなった…成功した!僕が奴を食らってやった!

 

「…ほう…」

 

現実に戻って来る…身体を蟲が駆け巡る影響で激痛が走るが無視する…これで僕は魔術が使える!先ずは塞がれた喉を物理的に開き、血を抜き…また塞ぐ。次に肋骨を肺から取り除き…それから…

 

 

 

「…何だ、待っててくれたのか…」

 

僕は立ち上がり先程と立ち位置が一切変わっていない言峰綺礼を見る…

 

「余裕かましてくれたもんだな。アンタはこれで失ったんだよ…僕を殺せるチャンスをさ…!」

 

強化魔術を足にかけ言峰綺礼に突っ込む…ムカつくニヤケ面に向かって拳を突き出した…!



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堕落したブラウニー56

「っ!」

 

「…何かと思えば正面からの特攻。さっきまでと何も変わらんな…」

 

奴の呆れ声と共に拳を捌かれ、同時にカウンターの拳が叩き込まれるのを見逃す…見える。魔術の補助があるならこっちの物!分かる…こいつは多分こちらが達人級なだけで魔術その物は苦手!…鳩尾に叩き込まれる拳を敢えて受ける…!

 

「ガアッ!」

 

ガードも魔術による受けもしない!奴が狙いに気付くかも知れない…!わざと大袈裟に吹っ飛びながら後ろを見る…この位置取りか重要だった…!アーチャーに届くここが!

 

「アーチャー!」

 

僕は相棒に声をかける…後ろを見た奴は自分に向かって飛んでくる僕に驚いた様だが構わず手を伸ばす!

 

「…っ!これは!?」

 

思わず僕の手を掴んで勢いを止めた僕に更に驚く奴に笑いかけてやる。

 

「アーチャー、この場で正式に契約してやるよ!」

 

本当にキャスターには感謝しなきゃならないな!

 

 

 

「…精神を強化する魔術?それを坊やにかければ良いの?」

 

「そうだ。僕の思惑通りに行くかは分からないけど保険はかけたい。」

 

「…仮に上手くいってもその方法を使ったら坊やは死ぬわよ?」

 

「…良いんだ。衛宮を殺すまで生きていれば良い。」

 

「……分かったわ。」

 

 

 

「…慎二、上手くいったんだな?」

 

「ああ!僕は賭けに勝った!…アーチャー、奴を封じる手立てはあるか?」

 

「…一つだけ、ある…だが勝てるかは分からん…寧ろ九割方負ける…」

 

「ゼロじゃないんだろう?ならもう一回ベットするだけさ!」

 

更に保険を掛ける!僕は刻まれたばかりの令呪を輝かせる…一つだけだ…後は衛宮との戦いで使う!

投影した剣で僕と自分に飛んでくる宝具を弾くアーチャーを見ながら僕は叫ぶ!

 

「令呪を使って命ずる!アーチャー!あいつを殺せ!」

 

「承った!必ず君に勝利を約束しよう!」

 

「…気合い入れすぎんなよ!あんなの前座なんだからな!」

 

そうだ僕らの本命は衛宮であってこの二人じゃない!

 

「魔力ならいくらでも持ってけ!宝具で奴を仕留めろ!」

 

「良かろう!」

 

そして奴から放たれる言葉…これは詠唱?このタイミングでの詠唱という事は奴の宝具は…!

 

「I am the bone of my sword…」

 

奴と背中合わせになり向かって来る宝具を奴が弾き、近づいて来た監督役の攻撃を僕が浸すら捌く…見様見真似だけど案外何とかなるもんだな…!最も手を強化してなきゃやろうとも思わなかったけどね…!正直普通にやってたら僕の手の方が破壊されてたな…

 

「Steel is…my body…and fire is…my blood…」

 

…辛い…!一々溜めるなよ…!しかも長い…!

 

「おいアーチャー、まだなのか!?」

 

「I have created over…a thousand blades…話しかけないでくれ!割と集中力が必要で…!…っ!全投影連続層写!」

 

背を向けてる僕の目に映る程の宝具の山を大量の剣で奴が叩き落とす…くそっ!魔力食いにも程があるぞ!?

 

「Unknown to Death…Nor known to Life…」

 

意識が…!早くしろ!

 

「Have withstood…pain to create many…weapons!」

 

咄嗟に奴が弾き損ねた剣を掴み監督役に振り下ろす…弾かれた!扱い切れるわけも無いし邪魔だからそのまま放り投げた。

 

「Yet…those hands will…never hold anything…!」

 

「急げ!」

 

「So as…I pray…待たせたな、これが最後だ…!」

 

「っ!」

 

監督役の拳を上に弾き空いた胴を蹴る…!

 

「UNLIMITED…BLADE WORKS!」

 

アーチャーから放たれる魔力の放出とそれに伴う風に吹き飛ばされ地面を転がる…目を開けてみれば…!

 

「…ハハ…凄いなこれ!」

 

そこにあったのは大量の剣が突き刺さる荒野と赤い空に歯車…!美しさの欠片も無いけど無骨でお前にお似合いの世界だよ…!僕はアーチャーの背を軽く見た後前に向き直り同じくこの世界に来た監督役を睨んでやった。



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堕落したブラウニー57

『アーチャー、これからって時に悪いがちょっと良いか?』

 

アーチャーには悪いがこれは譲れない。

 

『…何かね…君も知っての通り今私は非常に忙しいのだが?』

 

『素手だとこいつの相手は辛すぎる…何か武器『その辺にいくらでもあるだろう?』察しろよ。僕に剣やら、槍やら、斧みたいな武器の素養があるわけないだろ?』

 

『むっ…道理だな…では何をご所望かね?』

 

そう言われ少し考える…刃物以外で僕でも多少なりとも扱えそうな武器…

 

『…トンファーをくれ。』

 

……弓を貰おうかと思ったがこいつにはどうせ当たらないだろう…

 

『承った…そいつが相手なら木製では辛いだろう?金属製で良いかね?何なら宝具に迫る強度の物も創れるが?』

 

『…普通で良いよ、普通で。普通に鉄製のトンファーを出してくれ。』

 

『分かった…悪いが私は手が離せない…後ろ手に投げるからキャッチしたまえ。』

 

…そりゃあそうだろうな…今も空を宝具が舞っている…僕自身も今、監督役の攻撃を捌き続けている…強化しているのに手がめちゃくちゃ痛い…あいつは魔術をほとんど使ってない様だから素の身体能力でこれらしい…全く冗談じゃない。

 

「っ!はあっ!」

 

監督役の足を払い、飛び越えた所を蹴りで迎撃して飛ばす…強化してる僕の足の方が明らかにダメージがデカい…!本当にどうなってるんだよ、こいつの身体…!…悪態をつきながら飛んで来たトンファーを掴み、昔見た映画の真似をして構える。

 

「…扱い慣れない物で私の相手をしようとはな…」

 

…バレてるな…

 

「素手でアンタとやるより何倍もマシさ。」

 

僕はトンファーを構え監督役に突っ込む。

 

「…でやっ!」

 

「……」

 

素手で弾かれ…あ…!

 

「隙だらけだな…」

 

トンファーを持った手を弾かれ、すぐに引き戻せず腹に打撃を貰う…まだだ…!

 

「…捕まえた!」

 

トンファーを持った両手を交差させ奴の腕を止める…このままへし折っ…て…!?

 

「硬っ!?」

 

奴の腕はあまりに硬かった。…可笑しい…筋肉だけでこんなに硬くなるわけないし…骨だって普通ここまで硬くはならない筈…!

 

「…少年よ、武術は身体を硬質化させる所から始まるものだ…!」

 

「…!グフッ!?」

 

油断してる間に腕を引っこ抜かれ勢いで前のめりになる…咄嗟に腕を交差した僕のガードの上から鳩尾に肘が入り、今度は普通に吹っ飛ぶ…!

 

「っ!」

 

地面に、刺さってる剣を掴み、無理矢理勢いを止めた。

 

…っ!胴は何とか無事だが両腕が骨折し上がらない!強化をかけた腕でもこいつの攻撃は防げないのか!?…くそっ!アーチャーが金髪の男を倒せても僕にはこいつを倒せない…!どうすれば…!



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堕落したブラウニー58

取り敢えず気を取り直して腕の治療をする…するまでもなく蟲が既に折れた骨の支えになろうとしてるのが分かる…あのクソジジイがいない以上こいつらの主人は僕という事になる

 

…主が何か言った訳でも無いのにこいつらは勝手に主の状況を判断して最良の状態に持って行こうとする…そう考えると少し可愛く思え…ないな、うん…さっさと魔術を発動し骨を強引にくっつける…蟲が身体を駆け巡り骨折以上の激痛が走る…僕はポケットから薬を出すと呷った…強めの鎮痛剤だけどあんまり効果は無さそうだ…無いよりマシだろうけど…

 

剣を掴む際、落としたトンファーを拾う。

 

「…何で追撃して来ない?」

 

監督役は一連の動作の間一度も動かなかった。

 

「何、次は何を見せてくれるのかと思ってね。」

 

……こいつは完全に僕を嘗めているらしい…だけど啖呵切った割に僕にこいつを倒す方法が無いのも事実…こいつに下手な魔術を使ってもそのふざけた身体能力で対応して来るだろう…現に強化を使ってる僕のスピードに追従して来る位だし…

 

「…あんたは何のためにこの戦争に参加する?」

 

……別にこいつに興味がある訳じゃない…聞くまでもなく分かる…僕にこいつは理解出来ない。

 

「…大聖杯の中にあるのはこの世全ての悪。だが産まれてくるのなら祝福はすべきだろう?これでも聖職者なのでね。」

 

「…普通の聖職者は悪性を肯定しないと思うけどね…」

 

「この世全ての悪とは名に過ぎん…そうであったから名付けられたのではなく、そうであれと願いをかけられただけの事。」

 

「でも悪は悪だろ?そんなの外に出たらこの街も世界も何も残らないよ。」

……僕の言ってることは一般論以下だろう…大体、僕は今更死ぬのを恐れてないし、桜が生きれる世界なら他の誰が苦しんでもあまり関係無い。

 

「かもしれんな…」

 

…とまぁ言葉だけを聞くならそれについて思う所がある…って事なんだろうけど、ね…

 

「あー…あんたやっぱり聖職者としてここにいるんじゃないね…あんた見たいだけなんだろ?世界が壊れる所を?人が苦しむ所を?」

 

身近に人の苦しみを肴にするクズがいたからか不思議とこいつの本性が僕には見えた。……こいつは別に悪党って訳じゃない…単に人の苦しみ、悲しみとか、後は憎しみ?そういった負の感情こそがこいつにとっては生きる糧ってだけだ…マゾって訳じゃないだろうけど罵詈雑言をぶつけてもこいつは悦ぶだろう…要するに単なる変態だ。…そりゃあ衛宮に執着するよな、こいつらは良く似てる…最も衛宮はそれしか無いってだけだけど。

 

「…私の歪みを理解してくれたのは君で二人目、いや、三人目かな?」

 

「…理解なんてしてないよ。別に納得だってしてない。」

 

改めて僕はトンファーを構える。

 

「お前がどんな奴かなんてどうだって良いよ。早くくたばってくれ。…衛宮は僕の獲物なんだからさ…」

 

さっさと終わらせよう…そろそろアーチャーの方も決着が着く頃だ…



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堕落したブラウニー59

『苦戦しているようだな、手助けは必要かね?』

 

『自分の相手に集中しろよ…まだ終わって無いんだろ?』

 

アーチャーとの念話を打ち切る。…直後の監督役の拳をトンファーで弾く…!

 

「…っ…ほう…?」

 

「やっとこいつの使い方が分かってきたよ…ふんっ!」

 

こいつは棒の部分を当てなければ武器としての効力は無い…なら…!

 

「…遅い!」

 

上から振り下ろしたトンファーを弾かれ…!

 

「まだ、だ!」

 

横に弾かれたトンファーをそのまま振り戻し胴に叩き付ける!

 

「…見事。初めて持った武器をそこまで使えれば上出来と言った所だろう…だが…」

 

「…っ!膝!?」

 

今度は奴の上げた膝で弾かれる…硬い…付け入る隙が…無い…!

 

「っ!」

 

油断した瞬間に飛んで来た肘を腕を上げてトンファーで受け…切れない!

 

「…うぐぐ…!」

 

拮抗したのは一瞬…すぐに腕も痺れ、勢いで後ろに下がる…そのまま奴が懐に入るのを認識し、トンファーで…!

 

「…受けない、か…良い判断だな。」

 

「っ…ハア…!良く言うよ…!涼しい顔して捌き切った癖に…!」

 

 

防御したら返って不味いと瞬時に判断し、僕も腹をトンファーで突こうとした…確実にカウンターで入ったと思ったのに…!

 

「意識外の筈の攻撃に対応出来るとかさぁ…アンタ本当に人間?」

 

「それは違うぞ少年。少なくとも今のは見えていたからな…。」

 

……つまりこいつは僕の一挙手一投足が見えるのか…本当に面倒臭い!目にも強化をかけてる僕より明らかに視野が広い…!

 

「……」

 

しかもこうやってお喋りに興じる辺り本当に僕を脅威とは認識してないようだ…ムカつくなあ…ホント!

今更ながらトンファーを出してもらったのを後悔してきた…こいつは地にしっかり足を着けてないと威力は無い…ここは足場が悪いし、そもそも僕もそこまで脚力に自信は無い…寧ろ…

 

「ふむ…」

 

「っ!ガハッ…!」

 

瞬時に相手の懐に入りその勢い全てを破壊力に変えられる八極拳の方がこいつを使うのに向いている…!

 

「痛い、な!」

 

奴に叩き込まれた腕をさっきのように腕を交差させ止め、今度は逃げられる前に頭突きを…!

 

「ぐうっ!?」

 

「狙いが分かれば返すのは容易だ。」

 

硬い…!僕は思わず地面を転がる…何て硬さなんだ!?頭突き自体はタイミングや力の乗せ方で威力は変わる筈だ…でもこれはそんなんじゃなくて…!

 

「…あんたの頭…金属でも入ってるわけ?」

 

「先も言っただろう?武術は身体を硬質化させる所から始まるのだと。」

 

「そりゃそうだろうけどさぁ…そこまで鍛えるのは絶対可笑しい…」

 

マゾじゃないと判断したけど間違いだったかもしれないな…



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堕落したブラウニー60

『…こちらはもう終わった。悪いがもう待てん…』

 

『なっ!?手を出すなって言ったろ!?』

 

『…そいつが前座だと言ったのは君だろう?なら、ここで手こずっている場合では無い筈だ。』

 

『くそっ!…勝手にしろよ…!』

 

『…ではもう少し奴と殴りあっていたまえ。…隙を突いて私が仕留める。』

 

念話を切られる…くそっ…

 

「…相談は終わったかね?」

 

「……相談なんてしてないよ…あいつが勝手に話しかけてきただけだ。」

 

目の前のこいつは相変わらず僕の攻撃をただ避けるか、弾くのが主で、後はカウンターのみ…全然決め手が無いな、だからと言ってアーチャーに取られるのがムカつかないということは無い…!

 

「英雄王は堕ちた様だな…番狂わせというわけか。」

 

「…相性の問題だろ。あいつ武器だけは腐る程出せるみたいだし。」

 

……多分出せるのは刃物くらいだろうけど。宝具は大半が刃物。奴がいくら宝具を出しまくろうがアーチャーは全部返せる…それにしても質量を持った投影品且つ、宝具も出せるとか…どうなってるんだあいつの才能…

 

「サーヴァントが殺られたのに余裕じゃないか。あんた二対一で勝つ自信あるわけ?」

 

「彼はそもそも私のサーヴァントでは無い。ここに共に来たのも目的がある程度合致しただけ。…長い付き合いではあるがね…」

 

と、そこで奴の背後にアーチャーが立ったのが見えた。……見ようともしてない。多分気付いてると思うけど。

 

「……終わりのようだな…」

 

「あんた本当に何がしたかったんだ?」

 

アーチャーが奴の背中に向け突き出した剣は呆気なく奴を貫いた。

…抵抗もしないのか…

 

「私も何処かで終わりを求めていたのだろう…とどめを刺してくれるのが衛宮士郎か、それとも君か…私にとってはその程度の違いに過ぎない。」

 

「今更だけど…あんた名前何だっけ?…教えてくれよ、覚えといてやるから。」

 

「…言峰綺礼。」

 

「…言峰綺礼、ね…似合わない名前だな。」

 

「…私も…そう思う…」

 

アーチャーが剣を抜き言峰がその場にうつ伏せで倒れる…

 

「…お気に召さなかった様だな…」

 

「…獲物を横取りされれば機嫌も悪くなるさ…まあ前菜を食べ残しそうだったし…これ以上文句は言わないよ。」

 

僕は改めてアーチャーを見る…おいおい…

 

「…お前左腕は?」

 

奴の左腕は肩口から無くなっていた。

 

「…最期の瞬間英雄王が持って行ってしまったよ…」

 

「そんなんであいつと戦えるわけ?」

 

「戦うのは君だろう?私は援護するだけだ…ん?来たようだぞ?」

 

アーチャーに言われ、振り返る…そこには…

 

「よう、慎二。」

 

「…やあ。…随分具合悪そうじゃないか衛宮、そんなんで僕に勝てるの?」

 

「…体調悪いのはお互い様だろ?お前も明らかにヤバそうだぞ?」

 

衛宮が立っていた。…顔色が頗る悪いし、ふらついてる…最も僕もボロボロだから条件は一緒だけどね…



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堕落したブラウニー61

強化を足にかけ、一気に踏み込む…!

 

「なっ…!?」

 

慎二の不意をつこうとしたが、気づけば奴も俺の眼前に向かって来ていた。強化をかけた俺とほとんど同じスピードで突っ込んで来たのか!?

 

「おらぁ!」

 

俺はそのまま勢いを殺さず腕を振りかぶった。

 

「でぇい!」

 

奴もトンファーを俺に向かって突き出して来ている…!

 

「…ゴフッ!」

 

思いの外威力のあったそれを腹に受け後ろに下がり膝を付く。顔を上げれば俺の拳を顔面に受けた慎二が仰向けの状態から身体を起こしていた。

 

「何やってんのあんたは!」

 

「来るな!…時間が無いんだ…とっとと大聖杯の元に向かえ!」

 

「…何馬鹿な亊「心配するな、奴はお前らに手を出しては」そんな事言ってんじゃないのよ!あんたそんな身体で「奴は魔術を使っている!」見りゃ分かるわよ!魔術回路の枯れてるあいつが何で使えるかは分からないけど…!とにかくアーチャーだっているんだし、あんた一人この場に残して行けるわけないでしょうが!?」

 

「うるせぇ!時間が無いって言ってんだろ!?そもそもこいつは俺の獲物だ!誰にも譲らねぇ!」

 

俺は地面に手を付き立ち上がる…慎二は向かって来る様子は無く、ただこちらを睨んでいる。

 

「…慎二、この場に俺たち以外の奴らは不要だ、そう思わないか?」

 

「…その話に乗って僕に何のメリットがあるんだよ?少なくともアーチャーには残って貰う…でも、遠坂たちは見逃しても良い。…アーチャー、構わないな?」

 

「私が用があるのは衛宮士郎だけだ…。」

 

「…分かったよ。俺は優しいからハンデとして認めてやる…聞いてたなお前ら?邪魔だ、とっとと大聖杯の所に行けよ?」

 

「あんた「姉さん、ここは先輩の言う通りにしましょう」何言ってるの桜!?」

 

「…先輩は多分もう…もたないですから…先輩の意志を尊重してあげたいんです…」

 

「……分かったわよ…士郎…」

 

「…何だ?」

 

「…生きなさい。こんな所で死んだりしたら私はあんたを絶対許さない。」

 

「…怖い怖い。…分かったよ、精々みっともなく足掻いてやるさ。」

 

「…シロウ…ご武運を。」

 

連中が慎二とアーチャーの横を通り過ぎて行く…

 

「本当に待ってくれるとはな…」

 

「僕たちにも準備があるからね…アーチャー…」

 

「…もう終わる…UNLIMITED BLADE WORKS」

 

その言葉と共に眩い光が辺りを覆う…!

 

「グッ…!?」

 

咄嗟に俺は腕で目を覆う…何時の間にか見えなくなっていた左目にまで強い光を感じる…何だこれは!?

 

「…こいつ如きにこれを使うのは私としてはどうかと思うのだがね…」

 

「こいつを甘く見るな。土壇場でこいつが全部引っくり返して行くのはお前も見ただろう?例え如何に僕らの方が有利だとしても手は抜かない…全力で潰しに行く…!」

 

腕を外した俺の目に飛び込んで来たのは赤茶けた空に、荒野に刺さる無数の剣…そして歯車…

 

「固有結界…そうか。アーチャー、お前生前は魔術師…ククク…アッハッハッハ…!」

 

長年の癖となっていた解析をほとんど無意識に使っていた俺は気付いた…気付いてしまった!

 

「…今更だが…初めまして、並行世界の俺。…そして先に謝っておいてやる…すまねぇな。」

 

俺はその場で指を鳴らす。…それを合図に世界が切り替わる…反転する…!

 

「…な、に…!?」

 

「良い顔をするじゃないか、アーチャー…悪いな、お前の世界…乗っ取らせてもらった。」

 

俺の解析はその辺の魔術師を遥かに凌駕していると自負している…半人前以下の俺でもこれだけは誰にも負けない自信がある…!

 

「衛宮、これがお前の世界か…ああ…お前にはお似合いの世界だ。」

 

「お気に召してくれたかな?」

 

「…冗談。気分は最悪さ、クソッタレ。」

 

赤茶けた空は黒く染まり、空にポッカリ開いた穴から黒くドロドロしたものが流れ込む…そして地面を覆い隠すように徐々に広がる黒い泥…これが俺が唯一覚えてる、今も消えない過去の記憶…俺を形作った原風景だ。



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堕落したブラウニー62

「ああ、安心してくれて良いぞ?その泥はほぼ無害だ…最も…もし飲み込まれた場合、命の保証はしないがな…」

 

奴の世界の仕組みを知り、コントロールを奪った…が、魔力は枯渇しかけ、もう何時終わっても可笑しくない今の俺に出来るのはここまでだ…本来はサーヴァントに効果的なこの泥の力は発揮出来ない…だが…

 

「…所詮、蟲を使ってしか魔術を行使出来ない魔術師擬きと片腕を失ったサーヴァントにはこれで十分だろう…?」

 

「…チッ…気付いていたのか…」

 

「魔術回路の備わっていないお前がこの短時間にいきなりサーヴァントと契約出来るような真面な魔術師になれるドーピングは他には無いだろう?」

 

この大規模魔術…使っているのはアーチャーだが肝心の魔力の供給は契約者の慎二から行われている…蟲を使っての魔術行使が何時まで出来るのかは分からんが限界はある。少なくとも何度もこんな規模のデカい魔術は使えない筈だ。ましてや…

 

「…にしても、お前がそこまでのリスクを冒すなんて考えもしなかったよ…何時までもつんだその身体?どうせ永くは無いんだろう?そこまでして俺を殺したいのか?」

 

髪は真っ白に染まり、片目は白く濁り、半身の痙攣の始まってる慎二…馬鹿じゃないのかこいつ?

 

「俺を殺してそれからどうする?もうお前には先が無い。」

 

「知らないよ、後の事なんて。元々の目的は既に果たしてるしね…今の僕は…ただ、お前を殺したいだけだ。…大体僕を心配してる場合なのか?お前だって…!チッ!」

 

俺は距離を詰め奴に向かって投影した剣を振り下ろした…!

 

「…マスター、人に散々忠告をした癖に自分が油断するとは感心せんな。」

 

アーチャーが横から割って入り俺の剣を投影した剣で受け止めた…

 

「これは余裕さ…お前がいるんだからな。」

 

アーチャーの蹴りを咄嗟に剣を捨て両腕で受け止めたが勢いを殺しきれず下がる…くそっ…自分の世界とは言え厄介だな…!泥に足を取られて思ったより動きにくい…!何とか奴を攻略しなければ…これでは慎二に近付くことすら出来ない…!

 

「…お前と俺はやっぱり別人だ…お前の目的は察してるよ…絶望したか?後悔してるのか?正義の味方を志した事を?」

 

アーチャーを煽って隙を作る…こいつのやってる事は単なる八つ当たりだ…それを自覚させる…!

 

「…さぁな。だがはっきり言えることもある…」

 

「何だよ?」

 

「…今この場にいる私は復讐の為にここに立っている訳では無い。…もう分かっている、俺は例え過去の自分を殺しても人には戻れない。これは俺の罪の証…そうでなくても貴様は別人…だが、衛宮士郎…ここでお前を殺さない理由にはならない。」

 

「何でだ?」

 

「お前は危険だ。嘗て正義を謳った者…いや、抑止の使者としてこの場でお前を止める…!」

 

「…捻り出した理由がそれか?ならば俺より先に止めなきゃならないものがあるだろう?」

 

「彼女たちが居れば大聖杯は破壊出来る。私の今の役目はもう一つの脅威である貴様の排除だ…!」

 

「…慎二、そう言えばまだお前から答えを聞いてないな?何故そんなになってまで俺を殺したい?気付いてるんだろう?お前が何もしなくてもどうせもう俺は終わる…」

 

「だから知らないよ。後の事なんて…お前が放っておいたら何時死ぬかなんてどうでもいい…待ってらんないんだよ…!どうしても僕はお前を、僕のこの手で殺したいんだよ!」

 

片目は白く濁り、残った目は完全に血走り、片頬が引きつった顔で慎二が叫ぶ…ああ…つまらない。

 

「…お前はもっと面白いと思ってたんだけどな…今のお前はとてつもなくつまらないな…」

 

俺は溜息を吐いた

 

 

 

今、こいつは何て言った?…つまらないだって…?

 

「…ふざけるな…お前のせいだよ…!お前のせいで僕はこうなった…!お前が僕を変えた…!なのに何なんだよ、その態度…!…じゃあ聞いてやるよ…何でお前は僕を犯した!?それだけならまだ良い…犬に噛まれたと思って忘れたって良い…!認めるのは業腹だけど!お前といるのは楽しかった…!初めて本当の友だちを手に入れたと思ってた…!お前のおかげで桜とも和解出来たしな…」

 

口が止まらない…!何もかも喋って仕舞いたくなる…!

 

「桜は…あいつはお前を慕ってた…!でもお前は僕を選んだ…!魔が差したとか言うなよ…!?あの日、お前は桜を家に帰した…桜だけを、だ…そしてお前は…!」

 

「…お前の身体の感触は悪くなかった…今まで食ったどんな男より…いや、女より上かもしれないな?」

 

「…僕を犯したのは今更良い…でも分からない…!何でお前はあんな事言ったんだ!?」

 

「……」

 

「お前に犯されて息も絶え絶えになり、友人に裏切られた事にショックを受ける僕に向かってお前はこう言ったんだ…『愛してる』…何でなんだ?その言葉が今も僕の耳から離れない…!答えろ衛宮!?何で僕なんだ!?何で桜じゃなく…僕だったんだ…!?」

 

そう言うと衛宮の顔が変わった…その人を嘲弄した様な笑みが消える…

 

「…ちょっと優しくしたら俺に懐き、依存する…そんなあいつが邪魔だった…だから桜を選ばなかった…お前は俺を避けていた…お前は気付いてたんだろう…?俺が本当は空っぽだって?誰にでも笑みを見せる俺の本性がこんなだって…だからさ。最初に気付いてくれたお前に惹かれた。壊してしまいたいと思った…感情を無くした筈の俺の何処かに火が灯った。…あれに嘘偽りは無い…俺はお前を心から愛している…お前が俺を理解してくれた様にお前の理解者は俺だけだ…ああ…俺は…慎二慎二慎二慎二慎二…!」

 

虚ろな目をして唾を飛ばしながら壊れたラジオの様に僕の名前を連呼する衛宮…ふん。

 

「…それも演技だろ?」

 

「しん…やっぱ分かるか…?本当にお前は凄いな…惜しいな、こんな身体じゃなきゃ今直ぐご褒美をくれてやるのに。」

 

この期に及んでまだそれか…

 

「…止めろよ。僕たちはもう元には戻らない。壊れた生物は治らない。さっさと終わらせよう、衛宮…僕はお前が大嫌いだ…もう一秒だってその顔を見ていたくない…!」

 

僕はまだ動く左腕を持ち上げ、トンファーを向ける…足が使えなくなったら終わりだ…!動けなくなる前に決着を着ける…!

 

「…慎二、俺はお前を心から愛してる…さぁ、早くお前を壊させてくれ…!」

 

衛宮が僕に向かって剣を投げ付けて来た…!



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堕落したブラウニー63

「っ!」

 

衛宮の投げて来た剣を屈んで躱す…ほぼ同時に突っ込んで来ていた衛宮の拳をトンファーを捨てて左手で受け止めた…!

 

「やるじゃないか?さすがに入ったと思ったんだけどな?」

 

「…お前のやり方は知り尽くしてるよ。…ところで僕の方だけ見てて良いのか?」

 

「…おう。余裕だ。」

 

横から斬りつけて来たアーチャーの剣を投影した剣で受け止め…!?

 

「…貴様…!?」

 

「嘗めるなよアーチャー?俺はお前なんだぜ?宝具位ガワだけで良いならいくらでも再現してやるよ。…最もお前の様に真作に迫るものは作れないが。」

 

…そういう割にガワだけの筈の奴の剣は壊れない…強化の重ねがけ…いや、もしかして…

 

「…お前…やっぱりどっか可笑しいよ。」

 

「お前に言われたくないぜ?」

 

奴は恐らく壊れた瞬間に瞬時に剣を投影し直している。強固なイメージ力も然る事乍ら…この状況でそれだけの集中力を発揮してるのか…化け物め。数の不利すらものともしてないのか…。

 

「…だが貴様はそれでは反撃出来ま「何でそう思う?」何!?」

 

「っ!アーチャー!」

 

アーチャーの頭上に剣が出現する…っ!あれは今二人が持ってる物と同じ…!?

 

「…複製にさえ成功すればいくらでも同じ物は出せる…さて、ガワだけの偽物とはいえ宝具は宝具…どう防ぐ?」

 

「…っ!アーチャー「お前がこの手を離したところで間に合わないし、何より足止めの手段が無いとでも?」畜生!」

 

アーチャーの頭上に剣が落ち…!

 

「…許せ慎二…「壊れた幻想!」」

 

「っ!ぐうっ!?」

 

アーチャーの持ってる剣が光り、僕はその場から吹き飛ばされた…

 

「…ゲフッ!…アーチャー!?」

 

僕が目を覚まし、起き上がり見たものは衛宮がアーチャーの胸を右手で貫いた所だった…

 

 

 

 

危ない所だった…まさかこんな状況で宝具を爆発させるとはな…

 

「…手品はしまいか、アーチャー?」

 

「…貴様…何処まで…!」

 

「潔癖なお前には分かんねぇだろうさ。初めから悪性を背負った奴の事なんてさ…」

 

俺の身体は神秘の爆発にすら耐え切った…因果なものだ…俺は異形と化した右手をアーチャーから引き抜いた。

 

「…お前の霊核を貰うぞ?元が同一人物だからな、良く馴染みそうだ…」

 

こちらに向かって倒れて来るアーチャーを蹴り飛ばした…粒子と化して消えて行く…俺は手の中のそれを口に放り込んだ…っ!俺を塗り替えるつもりか?ふざけるな!俺は俺だけのもんだ!誰にも渡しやしねぇ…!

 

「…衛宮…」

 

「…続きと行こう慎二。俺が壊してやるよ。」

 

俺は干将莫耶を投影する…今なら少しだが分かる…こいつの使い方が…!

 



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堕落したブラウニー64

「降参だ…」

 

その二本の剣を突き付ける衛宮を見た時、僕は自然とそう口にしていた…後悔は無い。僕は勝ち目の全く無い相手に挑む程愚かじゃないつもりだ…それに今衛宮が浮かべてる間抜け面を見ただけで溜飲は少し下がった。

 

「…お前…俺を殺したいんじゃなかったのか?」

 

「…ああ。今でもそう思ってる…でも、付け焼き刃でサーヴァントの力を得たお前に勝てるとも思ってないんでね…」

 

僕はその場に座り込んだ…別にこの場で殺されるんならそれでもいい…でも多分こいつは…

 

「ふ~ん…まあ良いわ。」

 

衛宮はその言葉と共に剣を消した…固有結界も切れたのか元の洞窟に戻って来る…やっぱり奴は僕を殺さない。…この状況をチャンスだとは思わない…どうせ返り討ちに逢うのは分かり切ってるしね…

 

「俺はこのまま大聖杯の所に向かうが…お前はどうするんだ…?」

 

奴の向こうに広がる暗がりに視線を移す…しばらく見詰めたあと、奴の顔に視線を戻し言ってやった。

 

「僕は行かない。後はお前の勝手にしたらいい…桜を頼むぞ?」

 

「薄情だな。お前の妹だろ「元は他人だ。あいつは元の家に戻った方が良い」…桜はそう思って無さそうだけど?」

 

「知らないよ。もう僕には関係無い。」

 

そうだ。僕の事なんて忘れたら良い。その方があいつには幸せだ。

 

「ライダーは「そっちはもっと知らないね。どうせ大聖杯が無くなったら消えちまうんだ。」確かにな…それにお前には俺がいるしな?」

 

「…好きに言えよ…もう突っ込む気力も無いから…」

 

「…あっそ。じゃあ俺は行くからな?」

 

そう言って僕に背を向ける衛宮…

 

「衛宮!」

 

奴は歩みを止めた…こっちは向かない。

 

「一つ…答えてくれ…ぶっちゃけお前もう限界なんじゃないのか?」

 

「……」

 

「さっきのアレ、どうせ身体を保てなくて崩れる瞬間に咄嗟に思い付いたんだろ?」

 

真っ当な人間じゃない…高純度の魔力の塊であるこいつがゼロ距離の神秘の爆発に無傷で耐えられたなんて到底思えない。

 

「…お前、アーチャーの力だって本当は馴染んで無いんじゃないのか!?」

 

自分の考えをぶちまける…女々しいな…結局僕はこいつを失いたくないんだ…!

 

「答えろよ衛宮!?」

 

そこで漸くあいつが振り向く…

 

「…愛してるよ、慎二…もし生きて会えたらまた抱かせてくれよ…?」

 

「…死んでもお断りだよクソ野郎。」

 

その顔を見て僕は自分の考えが間違ってないのを悟った…こいつはもう戻ってくる気なんか無い…きっとこいつは…!

 

「釣れないなぁ…」

 

そう言って前を向き歩き去っていく衛宮…僕はその後ろ姿を結局見えなくなるまで見詰めていた…止めようとは…思わなかった。



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堕落したブラウニー65

「…っ…!ハア…!ハア…!」

 

足をほとんど引き摺るようにして前に進む…衛宮に偉そうな事を言ったが…僕だってもう限界だ…蟲は確実に僕の身体を犯している…

 

「…冗談じゃない…こんな所で死んでたまるか…」

 

今更長生きしたいなんて欠片も思わない…でもこんな所でくたばるつもりも無い…!誰がこんな辛気臭い所で死んでやるものか…!

 

 

「…っ!くそっ…!」

 

僕には治療魔術の知識はあるが、それももう無駄だ…気付けばもう魔術もろくに使えなくなっていた…

 

「…まだだ…!やっとあのクソジジイから解放されたんだ…!」

 

桜が助かれば良いなんてカッコつけてたけど意外にもまだ僕にも欲があったらしい…我ながら本当に浅ましい…!こんな自分に反吐が出る…!

 

「…ここを出たら何をするかな…ああ…まずは病院行かないとかな…?」

 

最も普通の医者に僕の身体を治すなんて出来ないだろうけどね…でも気休め程度にはなるかもしれない…

 

 

「……」

 

…思考も段々纏まらなく…いや、これも蟲のせいかな?

 

「…アー!」

 

無言になるのが…何も考えれなくなるのが怖くなって大声を出してみる…どれ程可笑しくなろうが歩みは止めない…機械的に足を動かす…もうすぐ出口だ…

 

「…アー…外に出れたら…少し休もうかな…いやいや…多分そのまま動けなくなるよね…」

 

そもそも僕は何処に行けば良いんだ…?生家はもう無い…

 

「…坊や。」

 

「…ダレダ?」

 

声が聞こえる…顔が見えない…この洞窟…こんなに暗かったっけ…?

 

「…もう休みなさい。」

 

「…イヤ、ダ…!」

 

意識が覚醒する…声の主の提案を飲まない…!それは出来ない…!

 

「休みなさい、坊や…もう、貴方は限界よ「勝手に、決めルナ!」…坊や…」

 

「…僕は…進まなくちゃナラナイ!」

 

マダ…マダ…ダメナンダ…!ボクハイキテ…?

 

「…休みなさい坊や。貴方は充分に頑張ったわ…」

 

カラダガヤワラカイモノニツツマレル…ネムイ…

 

「…キャスター…」

 

「…!…分かるの坊や?」

 

眠気に抗い、何とか声を出す…まだ眠れない…!

 

「…僕が、死んだら、この、蟲は、多分、外に出る…」

 

「…ええ。そうでしょうね…」

 

「…僕を、殺してくれ、この身体をこの世に遺さないでくれ…!」

 

僕を抱き締める腕に少し力が籠る…躊躇っているのが伝わって来る…迷うなよ…!あんたそんなタイプじゃないだろう…!

 

「…良いのね坊や?」

 

「…ああ…こいつらを、外に、出す、わけには、いか、ない…一緒に、連れて行く…!」

 

「…分かったわ…」

 

腕が解かれ、僕の身体はその場に横たわる…

 

「…もう、眠っても、良いかな…?」

 

「ええ…眠りなさい…その間に全て終わってるから…」

 

「…後、頼む…」

 

僕は目を閉じる…こんな風に眠るなんて久しぶりの気がする…ずっと心安らぐ事なんて、無かったから…



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堕落したブラウニー66

「……」

 

俺はその場で足を止め、振り向いた。

 

「…俺ももうすぐ行く…待ってろ、慎二。」

 

あいつらが戻って来る様子が無い。そして絶えず聞こえるこれは…

 

「…まだ俺には仕事がある様だ。」

 

俺は奥へ向かって走り出した。

 

 

 

「…っ!」

 

「士郎!?」

 

俺は遠坂に攻撃をしようとしていた黒い巨体が振り上げているのと同じ剣を投影し、攻撃を受け止めた…って、こいつ…

 

「…バーサーカーか!?何がどうなってるんだ!?」

 

辺りを見やればバーサーカーは別の黒いサーヴァントと戦っている…

 

「…遠坂!何が起きている!?」

 

「…私に聞かれても分からないわ!ただ、ここに辿り着いたらいきなりこの黒いサーヴァントに襲われたのよ…!」

 

「…っ!」

 

バーサーカーの剣を何とか流し、足に強化をかけ、遠坂の手を掴むとその場から飛び退いた。

 

「…桜!イリヤ!一旦下がれ!」

 

サーヴァントたちに混じって何とか応戦していた二人を下がらせる…

 

「シロウ!無事だったのね…」

 

「…先輩…その、兄さんは…」

 

「…死んだよ…トドメを刺したのは俺じゃないがな…」

 

「…そうですか…」

 

「…で、これは何なんだ…って聞いても無駄だよな?」

 

力無く頷く二人…チッ!

 

「…今忙しいんだ…邪魔すんじゃねぇ!」

 

見覚えの無いサーヴァントが振るう剣を干将莫耶を交差させ受け止める…重てぇ!

 

「…でぇい!」

 

強化により腕の力を無理やり上げ弾き、足払いをかける!

 

「…型落ちしてるらしいな…」

 

仰向けに倒れたそいつの霊核を貫くとやがてそいつは消滅した。

 

「…こいつは仮説だが…恐らくこの奥にある大聖杯が原因だ…意地でも俺たちを近づけたくないんだろうよ、無差別に型落ちのサーヴァントを召喚して足止めしてやがる…!」

 

「どうするの?」

 

「決まってるさ、俺が残って「却下、よ」…あん?」

 

「残るのは私たちよ…決着着けて来なさい、あんたとセイバーでね…」

 

「…どういうつもりだ?」

 

「見せ場をあげるって言ってるの。とっとと行きなさい。」

 

「行って、シロウ。」

 

「先輩…私たちは大丈夫ですから…」

 

「…馬鹿な奴らだ…助けになんか来ねぇぞ?」

 

「要らないわ。さっさと行きなさい。」

 

「…んじゃ、お言葉に甘えて…セイバー!」

 

その言葉と共に俺の方を向くアルトリア。

 

「俺を運べ!ここは他の連中に任せて奥に行くぞ。」

 

「……分かりました。」

 

俺を抱き抱えるアルトリア。

 

「全力で行け。俺は耐えられる。」

 

既にガタの来ている身体に強化をかけ、かかるGに耐える…!…もってくれ…!大聖杯を破壊出来るまでで良い…!



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堕落したブラウニー67

「シロウ…」

 

「ハア…お前相手に誤魔化しは効かねぇ…いや、遠坂たちも気づいてるかね…そうだ、俺はもうもたない…」

 

「…戦うな、と言っても無駄なのでしょうね…」

 

「俺はそのためにここにいるんだ…誰にも文句は言わせねぇ…つか…今更止めたところで大して変わんねぇよ。」

 

「……」

 

「…そろそろの様だな…」

 

「…シロウ、やはりここで「良いから、行け」…分かりました…」

 

 

 

「…おいおい…何だよこりゃ…」

 

洞窟最奥部…そこに大量の黒いサーヴァントがいた…そしてその奥…

 

「…聖杯戦争はまだ終わってない…何をしに来た?」

 

「…ふ~ん…こんな所に人間…いや、ホムンクルスか?」

 

奥には女が一人いた…ん?こいつ…

 

「…お前、大聖杯だな?意識は無いと聞いたが…」

 

「ここにいる私はいわば端末だ…本体では無い。」

 

「…へぇ…で、あんた名前は?あんたを何て呼べばいい?」

 

「名前…そんなものに何の意味がある?」

 

「…別に。俺が聞きたいだけさ…さて…!」

 

俺は足に強化をかけるとサーヴァントたちを強引にすり抜け、その女の前に立った。

 

「…おっ、なかなかの感触。泥で出来た偽乳とは思えないぜ。」

 

俺はその女の胸を揉んだ。…思いの外悪くない。これが所詮泥で出来て偽乳だって言うんだからなぁ…うおっ!?

 

「…おいおいこんなんで怒んなよ?」

 

俺は背後のサーヴァントが振るった槍を同じ槍で受け止めた。

 

「…人の胸を勝手に揉む奴に容赦は必要か?」

 

「…ホムンクルスなら人の括りだが泥で出来た化け物に人権なんてあるとは思わないね…つまりどう扱おうが勝手…チッ!」

 

別のサーヴァントの剣が横から振られ…

 

「何をやっているんですか貴方は!」

 

「…良いじゃねぇか。見た目だけなら極上だからつい手が出たんだよ…そんな怒んなって。」

 

サーヴァントの剣を弾いたアルトリアに手を引かれ強引に後ろに下がらせられる…ふぅ。さて…

 

「…脱線したが…要は俺たちはお前を破壊しに来たんだ。意思疎通が出来るなら丁度いい…頼むから黙って壊されてくんね?」

 

そう言うと女を守るように一斉に並ぶ黒いサーヴァント…やれやれ…

 

「それが答えならしゃあねぇな…相手してやるよ…」

 

干将莫耶を投影し構える…横でアルトリアもエクスカリバーを構え…

 

「…貴様らは下がっていろ。」

 

「…くたばったお前が何でここに…ああ、お前守護者だったな…んじゃ、抑止力に呼ばれたのか?」

 

俺の前に背を向けて立つアーチャー…

 

「そいつぁ聞けねえ相談だ。あれは俺たちの獲物なんでね…」

 

俺はアーチャーの横に立ち、構え直した。

 

「ええ。私も聞けません。」

 

アルトリアが逆隣に立つ。

 

「…勝手にしろ。言っておくが、最悪私は貴様ら事あれを破壊するからな?」

 

「…好きにしろよ…俺はもうもたないし、セイバーに至ってはサーヴァントだ、何も問題は無い。」



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堕落したブラウニー68

「…ハハッ!ふざけやがって…笑いが止まんねえぞ畜生が!」

 

俺とアルトリア、そしてアーチャーは黒いサーヴァントを狩り続けていたがその増加は止まらず、追い込まれていた…

 

「…チッ!テメェ今、俺ごと殺ろうとしたろ!」

 

「戯け。貴様の死角の敵を討ってやったのだ。…礼も言えんのか?」

 

死角となっている左側から飛んで来た剣をギリギリで躱す…要は更に面倒な事に俺はあわよくば俺を狩ろうとするアーチャーの攻撃にも気を配らなければならなかった…大聖杯ごと俺を殺しても構わないとは言ったが、このタイミングで俺を殺すとか戦力を減らすだけなのにどんだけ頭悪いんだこいつ…!

 

「いい加減にしないとこの場で私が貴方を斬りますよ?」

 

「…好きにするがいい。だが、この状況で私を殺せば君らも困るんじゃないかね?」

 

「……」

 

どの口が言いやがる…しかもこいつは抑止力のバックアップを受けてこの場にいるはず…普通のサーヴァントでしかない今のアルトリアにこいつを殺し切るのは難しい…!本当に質の悪い野郎だ…!

 

「…クソが!」

 

左から突き出された槍を剣を捨て、上体を逸らして躱しつつ掴み、強化した膂力で無理やり圧しおり、持ち替え、持ち主の霊核を貫き、消滅させる…やれやれ…型落ちだから何とか相手できるが…数が多過ぎて対処しきれねぇ…!

 

「埒が明かねぇ!おい!合わせろ!アーチャー!」

 

俺は投影しなおした干将莫耶を投げる。

 

「戯け!それは元々私の技だ!」

 

俺とアーチャーの投げた剣がそれぞれ回転しながら引き合いサーヴァントたちを囲むようにして斬り付け屠って行く…!

 

「オオッ!」

 

「フンッ!」

 

駄目押しに残ったサーヴァントたちにアーチャーと二人で一撃を叩き込む…!

 

「…ッハア…!ある程度は片付いたな、名付けて鶴翼六連てか!」

 

「ハッ…貴様はネーミングセンスの欠片も無いな。」

 

「るせぇ!テメェの考えた名前と大した変わんねぇだろ!」

 

一々マウント取りにきやがってクソが!悪態を吐きつつも空いたスペースを走り抜ける…

 

「つか着いてくんじゃねぇよ!あれは俺の獲物だって言ってんだろうが!?」

 

「戯け!あれを屠るのは私の役目だ!」

 

横から飛んで来る剣を弾く…クソッ!何処までも鬱陶しい野郎だ…!

 

「本当にうぜぇなテメェ!?お前から先に殺してやろうか!?」

 

「やれるものならやってみるがいい!」

 

アーチャーの飛ばしてくる剣を弾きつつ、逆隣から来た黒いサーヴァントの首を斬り飛ばし、前を塞ぐサーヴァントをアーチャーと二人で蹴り飛ばしつつ走る。

 

「……」

 

「よう!終わらせに来たぜ?」

 

いつの間にか横にいたアルトリアと共にエクスカリバーを構える…まあ俺とアーチャーは擬きだがな。

 

「約束された勝利の剣!」

 

「「永久に遥か黄金の剣!」」

 

眩い光が広がり…俺はその瞬間…何も分からなくなった…



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堕落したブラウニー69

…俺は…どうなった…?

 

『シロウ…』

 

その声が聞こえると共に意識が自然と浮上して来る…

 

「…セイバー…終わったのか…?」

 

目を覚ますと光を放つアルトリアがいた。

 

『…いえ…あれを…』

 

アルトリアの指さす方には…

 

「…原型が残ってやがんな…まさか擬きが二本混じってたとはいえ聖剣三本分ブッパして壊れねぇとは…」

 

大聖杯はしっかり器が残っていた…だが…泥は一応消えてるし、これ以上俺に出来る事は何も無いか…そもそももう時間も無いだろう…

 

「…取り敢えずこれで第五次聖杯戦争は終結だ。…アルトリア…」

 

『何でしょうか?』

 

「…サンキューな、お前のお陰でここまで漕ぎ着けた…礼を言う。」

 

『…いいえ。お礼を言いたいのは私の方です。貴方のお陰で私は自分を見詰め直す事が出来ました…』

 

「…座に行くのか?」

 

『ええ。私はもう聖杯に執着はありません。』

 

「…そうか。…じゃあな、もう二度と会うことはねぇだろう…俺は何処ぞの弓兵と違って英霊になる事もねぇだろうしな…」

 

『…シロウ…最期に貴方に伝えたい事があります…』

 

「…何だよ?」

 

『…生きて下さい…少しでも長く…貴方には待っている人がいるのだから…』

 

「…おいおい…ここは愛の告白とかする流れじゃねぇのか?」

 

『…それは…天地がひっくり返っても有り得ませんね…貴方と私はこれから先、何が起きても相容れないでしょう…』

 

「…ちぇ…そうかよ…」

 

『…そもそも貴方が好きなのはシンジだけでしょう?』

 

「……」

 

『…そろそろ時間の様です…私は…!シロウ!』

 

「…っ!…アーチャー…俺を狙ってるのは分かってたけどよ、不意打ちはねぇんじゃねぇか?それでも英霊かよ、テメェ…」

 

俺は後ろ手に投影した剣でアーチャーの攻撃を受け止める…この体制じゃ、じきに斬られるな…!

 

「…いや何、あまりにも長いから待ちくたびれてしまってね。」

 

「…っ!オラァ!」

 

腕に強化をかけ無理やり奴の剣を弾き、勢いを利用して身体ごと後ろに振り向く…!

 

「…チッ…やっぱテメェは健在か…そんなに抑止力は俺をぶち殺したいのかねぇ…」

 

こっちはもう虫の息だってのによ…!

 

「…残念ながらその様だな…しかし貴様はもう限界だろう?それに貴様は生きてて楽しいと思った事はあるのか?今、この瞬間も死にたいと願ってるんじゃないか?」

 

『シロウ!聞いてはいけません!アーチャーは「分かってるさ、セイバー。」シロウ…』

 

わざわざ退去命令に抗わずにさっさと帰ればいい物を…どんだけお人好しなんだろうな、こいつは…

 

「…どうせそれは生前のお前が思ってた事だろ?一緒にすんじゃねぇよ根暗野郎。」

 

「ならば!ならば貴様は!一度も思わなかったと言うのか!?何故自分が生きているのか!?多くの者が死んだというのに何故自分だけが生きているのかと自分を責めたりしなかったと言うのか!?」

 

「はっきり言ってやるよアーチャー…ねぇよ、そんなもん…俺はな、自分の事で精一杯だったんだ…死んじまった他人の事なんか知ったこっちゃねぇ。…どれだけ健康に気を使って過ごしても所詮、ほんのちょっと運が悪かっただけで死ぬのが人間だ…そんなもんテメェが一番分かってるんじゃねぇのか?なぁどうなんだ?答えてみろよ、衛宮士郎…」

 

「…貴様は…殺す…!お前は生きていてはいけない…!」

 

奴から発せられた魔力の奔流で突風が発生する…!

 

『シロウ!』

 

「さっさと行けよアルトリア!心配すんな!俺はこいつにだけは負けるつもりはねぇからよ…!」

 

今の俺に勝ち目なんかねぇ…もう限界だ…だが、俺を殺すのがこいつなんて事は断じて認めねぇ!

 

『シロウ!これを!』

 

アルトリアが投げて来た物を振り向く事無く受け取る…こいつは…!

 

『シロウ…ご武運を…』

 

アルトリアの気配が消えて行く…

 

「…貴様…!」

 

俺はアルトリアから受け取ったそれ…エクスカリバーの鞘でもあり独立した宝具でもある全て遠き理想郷を胸に当て、押し込む…!再生の止まりボロボロだった身体が僅かにだが修復されていく…!

 

「…さてと…五分とはいかねぇが…マシにはなった…今度こそ決着着けようぜ、アーチャー!」



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堕落したブラウニー70

奴の振ってくる剣を只管弾く。何合目かの打ち合いで奴が口を開いた。

 

「何故だ…!何故貴様は…!」

 

「…それはどういう意味で聞いてる?死角から狙った剣を何故躱せるのかって意味か?それとも何故生きようとしてるのかって意味か?」

 

狼狽える奴の腹を蹴飛ばし、後ろに下げる…

 

「…前者なら簡単だ、俺はこの空間全体に今も絶えず解析をかけ続けている、例えお前が死角から攻撃しようが、何なら背後や頭上からの攻撃でも対応してみせるぜ…!」

 

アーチャーにより頭上に配置された剣が落ちて来る前に同じ剣を投影し、弾く。

 

「馬鹿な…そんな事出来るわけが…!」

 

「出来てるんだからしょうがねぇだろ?さて、一応後者も答えてやるが…これも単純だ…お前に殺されるのだけは我慢ならねぇんだよ…何時までも…死んでからもウジウジしやがって…!要するに、だ…お前が俺の存在を認められねぇように俺はテメェが気に入らねぇ…!元々は単にウザいだけだったがな、正体を知って絶対にテメェを殺したくなった。」

 

「…衛宮士郎…!」

 

「…衛宮士郎ってのは別に悪口じゃねぇぞ?語彙力が無さすぎるんじゃねぇのか?」

 

「…さっさとくたばれ!」

 

「…うるせえ!テメェが死ね!」

 

奴の剣の片方を左手で掴み引き寄せ、奴に頭突きをする…

 

「…ぬっ…う…!貴様…!」

 

「お前はそればっかだな?」

 

干将莫耶を逆手に持ち、足にありったけの強化をかけ、奴の懐に入り下から腕を振り上げ奴の胸を×印に斬る…!

 

「…どうしたアーチャー?攻撃が温いぜ?」

 

「殺す!」

 

振り上げた奴の左腕を斬り落とす。

 

「…馬鹿な…!」

 

「お前は俺を侮ったんだ…俺を確実に仕留めたいなら弓を使うべきだったのさ…」

 

遠距離から宝具で爆撃されれば今の状態の俺には本当に勝ち目は無かった…こいつの怒るポイントは良く分かってるとはいえ、沸点が低くて助かったぜ。とはいえ…

 

「…ククク…甘いぞ、衛宮士郎!」

 

斬り落とした腕が再生し、胸の傷も癒えて行く…やれやれ…やっぱり霊核を潰すか、首を落とすしかねぇ様だな…

 

「…抑止力のバックアップ…」

 

「…そうだ…今の私はこの程度では終わらん…!」

 

胴を斬り付けようとした剣を肘で叩き落とす…

 

「…お前はそれでいいのか?そんな状態で無理矢理生かされて…並行世界の自分を殺して…今更何が変わる?」

 

「…何も変わらん。だが貴様は必ずこの場で殺す!」

 

「…馬鹿が。気に入らないなら抗えば良い。」

 

「何を「良いから聞けよ、どうせお前は諦めてんだろ?守護者になる道を選んだ以上他に選択肢は無いとかカッコつけてんだろ?悲劇に酔ってんじゃねぇよ、気持ち悪ぃ」貴様!」

 

力任せに振られた剣を弾き上げ霊核を突く…!

 

「っ!」

 

「甘いな!」

 

胸の前に宙に浮くようにして投影された干将莫耶に止められる…っ!

 

「…ガハッ!」

 

奴の蹴りを食らって吹っ飛ばされた…奴が弓を…クソ…この体制じゃ避けられな…!

 

「死ね!衛宮士郎!」

 

奴の弓から矢が放たれた…!



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堕落したブラウニー71

「チッ!」

 

この体制では躱すのは不可…迎撃も間に合わない…!

俺は咄嗟に左腕を出してガードした。

 

「っ…!」

 

胴まで到達しようものなら一発アウトだったが幸い左腕を貫通して止まる…

 

「ふんっ!」

 

既に千切れかかった腕を右手の莫耶で迷わず斬り落とす。…爆破されりゃせっかく防いだのに無意味と化すからな…!

 

「っ!オオオオ!」

 

強化した足で後ろの壁を蹴りアーチャーの元まで肉迫する…!壁に罅が入ったな…

 

「させん!」

 

一直線で向かって来る俺を再び弓で狙うアーチャー…!

 

「嘗めんな!」

 

右手の莫耶を投げ、再び投影し投げ、奴の妨害をする…!

 

「っ!まだそれだけの魔力を…!?」

 

弓を消し只管弾き続けるアーチャー…甘いぜ!

 

「…『壊れた幻想…!』」

 

「…!貴様!」

 

奴の目の前で剣が爆発する…!

 

「…フッ…!」

 

奴から少し手前で着地する…自分の技で殺られる馬鹿はそうはいねぇ…少なくともこんなもので奴は仕留められない…

 

「…出て来いよアーチャー…その程度で死なねぇだろ?」

 

煙の中に突っ込むなんて事はしない…少なくとも奴がまだ健在なのは解析により分かっている…

 

「…衛宮…士郎…!」

 

煙の中からアーチャーが歩いて出て来る…

 

「…良い格好になったじゃねぇかアーチャー?さすがに神秘の爆破に対しては再生が追い付かないらしいな?」

 

俺の前で膝を着くアーチャー…着ていた赤いマントの様な物は焼け焦げ、下のボディーアーマーもボロボロ…中の肉体にまできっちりダメージは通ったらしく血塗れ…さて、奴が再生仕切る前に俺は追撃しないとなんねぇんだが…

 

「…何の真似だ、衛宮士郎…!」

 

「見りゃ分かんだろ…?連戦続きでこっちも疲れてんだ…」

 

俺はその場に座り込んだ。

 

「…あれだけの規模の爆発だったんだ…お前も疲れてんだろ?少し休憩しようぜ?」

 

実際、本気で俺を殺したいなら抑止力側はさっさとこいつを回復させりゃ良いはずだが奴の傷の修復は緩やかだ…これを利用しない手はねぇ…

 

「…クッ!」

 

奴が立ち上がりこちらに向かって来る…

 

「…このままやるならそれでも良いけどよ、最悪相打ちだぜ?それでお前は満足出来んのか?」

 

「……」

 

俺を睨んでいたが結局座り込むアーチャー…だろうな、抑止力によって再召喚されたこいつにとって俺を殺す…もとい、勝つのが今のこいつに許された唯一の自由意志だ…相打ちや辛勝なんてのは絶対に許容出来ない事実に違いない…最もここで本当に奴が向かって来たら俺は為す術も無く殺されていただろうが。

 

「…ふん。で、衛宮士郎?」

 

「…何だよ?」

 

「この状況で休戦を提案したんだ…何か私を納得させる話題でもあるのだろうな?」

 

「あー…」

 

そう言われても別に何も考えてない。俺が疲れたから休憩したかっただけで別にこいつと言葉を交わしたかったわけじゃない…とはいえ素直に何も無いと言えばこいつはそのボロボロの身体を押して再び向かって来るだろう…たく面倒な…理不尽にも程があんだろ…さて、どうするかねぇ…何か…こいつを怒らせない話題なんてあったかねぇ…正直、こいつをキレさせても終わりが早まるだろうしなぁ…



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堕落したブラウニー72

良く考えたら奴の言い分に乗ってやる理由は俺には無い。それで奴が激昴しようがそれは仕方の無い話だ…わざわざ下らん問答で残り少ない体力を消費する気は無い。

 

「……」

 

……乗ってやる理由は、無い…奴がだんだんイラついているのは分かるが俺には関係「……」チッ!

 

「…衛宮士郎…」

 

「…あぁ?」

 

こっちが口を開こうとすれば向こうから話しかけて来た…軽くイラッとしたが向こうから話題を提供してくれるならその方がまだ楽か…さて、どんな話かねぇ…

 

「…先の戦いの際、貴様は私の正体を見抜いたな?何故だ…?」

 

「…そもそも不思議だったんだが…やっぱりお前、一回座に帰った筈なのにさっきの事覚えてるんだな?…そんな顔すんなよ…俺の質問には答える気がねぇんだろ?…理由は単純、お前が固有結界を使ったからだ…固有結界ってのは精神世界の具現化だ、それは使用者の起源や送って来た生涯によって変化する…根本的な部分は変わらねぇがな…下らん話をしたが要はこいつを解析出来りゃそいつのそれまで送って来た人生を情報として閲覧出来るってこったよ「そんな事は有り得ん!」お前なぁ、説明の途中で切んなよ、テメェから聞いてきたんだろ?」

 

「人の一生などそう簡単に処理出来る情報では無い!」

 

「…俺だって普通は出来ねぇよ?だけどなぁ…他ならぬ自分の人生を解析出来なくてどうすんだよ?」

 

「…貴様は…!?貴様は一体どんな生涯を送って来たと言うのだ…!?」

 

「…お前と俺との違い、ねぇ…そうさなぁ…例えば…一番の違いはこれじゃねぇのか?衛宮切嗣の死因がこの世界では呪いによる衰弱死じゃなくて…実は俺が殺した…とかな?」

 

「貴様…!」

 

奴が立ち上がり、俺に向けて投影した剣を振り下ろす…だが俺は動かなかった…いや、動く必要が無かった。

 

「っ!…貴様…!何をした!?」

 

奴の投影した剣が俺に当たる直前で掻き消えて行く…上手くいったようだな…

 

「…分からないか?俺はお前の世界すら掌握出来たんだぜ?」

 

「まさか…!」

 

「…当然、お前の肉体くらい自在に操れて然るべきだろうが。」

 

しかしここまで漕ぎ着けるのにかなり時間がかかったな…おまけに魔力の消費がデカ過ぎる…これじゃ本当に相討ちになっちまうな…

 

「…馬鹿な…いつ解析を…!」

 

「確かに普通はその前に気付くだろうし、解析魔術を知り尽くしたお前ならブロックする術すら有してるかもな…でもあっただろ?それも出来なかった瞬間が?」

 

「…貴様…!あの一瞬で…!」

 

「…テメェの左腕を斬り落とした時な。あの時はお前は隙だらけだった…一瞬?あれだけありゃ十分だ。」

 

「…クッ!だがまだ勝負は着いて無い…貴様は私の投影能力を潰したようだが…どうだ?私はまだ動ける!つまり貴様は私の身体能力までは奪えていないのだろう!?…先の言葉の意味は気になるが、終わりだ、衛宮士郎!このまま貴様を殺「いや…終わるのはお前だよアーチャー…俺の仕掛けた罠がそれで終わりだと思ったのか?」何!?」

 

「『壊れた幻想』」

 

俺がそう言うと同時に奴の胸に大穴が空き、血が吹き出した。

 

「ガハッ!?」

 

「お前の左腕が再生する直前に液体レベルにまで変化させた宝具を体内に侵入させた…お前の身体の解析は出来てたからな、後はそいつを循環させてる血液と共に心臓…もとい、霊核まで到達させた。…いや、しかし驚いたぜ…エーテル体という違いはあってもサーヴァントも人間と身体の構造はほとんど変わらねぇんだからな…それとも守護者だからなのか?…いや、答えなくて良いぜ?そんなに興味もねぇし。」

 

『衛宮士郎…!貴様…!』

 

霊核を破壊されてもしぶとくこちらに向かって来ようとするアーチャー…やれやれ…

 

「ボンッ!ってな。」

 

奴の頭が消滅した。

 

「霊核だけでなくちゃんと脳にも到達させてる。じゃあな、並行世界の俺。」

 

奴の身体が倒れ込む…本当はこんな勝ち方は俺も望んじゃいなかった…あくまで保険のつもりで仕掛けてたんだがな…

 

俺は奴に背を向ける…取り敢えず帰るか…一応俺を待ってる連中がいるし…っ!

 

後ろから感じた殺気に飛び退く…干将莫耶!?あの野郎まだ…!

 

「しまった!?」

 

干将莫耶は俺を狙ったもんじゃねぇ!天井に刺さり、そのまま爆発した…!

 

「…クソッ!あの野郎…!」

 

たかが宝具一つ分とはいえ神秘の爆発の規模はデカい…!俺は洞窟が崩れ出す中、足に強化をかけ走り出した。



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堕落したブラウニー73

痛かった…とにかく痛かった…それは身体の痛みなのか…それとも心が痛いのか…それももう分からなかった…

 

痛い痛い痛い痛い痛いいた「大丈夫か!?」…声…?

 

「しっかりしろ!頼む!頼む!目を開けてくれ!?」

 

「ダメか…いや…まだ息はある…!しっかりしろ!助けるぞ!絶対に助けてみせるからな!」

 

その声と共に身体の中に何か暖かいものが…!

 

「があああああ!?」

 

痛い痛い痛い痛い痛い!?意識が無理矢理覚醒させられる!さっきよりずっと痛い!?ああああ!?

 

「頑張れ!あと少し…!あと少しだ…!」

 

その言葉に無性に腹が立った…誰のせいで俺が苦しんでると思ってるんだ…お前だ!お前のせい!?痛い!

 

目の奥で強い光が明滅するのを感じながら俺は意識を失った…

 

 

 

「…ん?ここ、は…っ!ああああ!?」

 

頭が割れそうに痛い!頭の…頭の中で声が…嫌だ!俺は死にたくない!

 

「なっ!?大丈夫かい!?」

 

「っ!触るな!?」

 

自分に伸ばされた手を咄嗟に払い除け頭を押さえ、ベッドの上を転がり床に落ちる…っ!一瞬強い痛みを身体に感じたがそれよりこの頭の痛みが…!

 

「ああああ!?」

 

「くそっ!」

 

その男の人が何をしたのかは分からない…だがその瞬間俺はまた意識を飛ばしていた…

 

 

 

「っ!…痛い…!」

 

さっきよりはマシになったがやっぱり痛い!それに声が…!

 

「気が付いたかい?」

 

「っ!…誰?」

 

「無理に身体を起こさなくて良い。まだ辛いだろう?…さて、少しお話しないか?」

 

「…知らない人と話したら「僕は衛宮切嗣と言うんだ。君の名は分かるかい…?」…俺は…!?」

 

思い出せない…!?俺の名前が…分からない…!?

 

「落ち着いて…!大丈夫だから…ゆっくり…思い出して…」

 

「…しろ、う…。」

 

そうだ…俺は…しろう…

 

「…しろう…それは名前かな?」

 

その言葉に俺は頷く…そうだ…俺はしろうだ…

 

「取り敢えず名前は分かっていると…ああ、実を言うと君の持ち物から名前は分かっていたんだけど…気を悪くしたならすまない…念の為聞いておく必要があったんだ…本題はここからだ…苗字は分かるかい?」

 

「…分かりません」

 

「…そう、か…ご両親の事は分かるかな?」

 

「…分かり…ません…!…一体…一体何があったんですか!?」

 

「君は事故にあってね「本当にただの事故なんですか!?」…そうだ。」

 

嘘だ。絶対に違う。何故だか分からないが俺はこの男が嘘をついてると思った…

 

「君を残してご両親は亡くなった…そこで君に提案だ…」

 

「…何、ですか…?」

 

「…君は知らないおじさんに引き取られるのと、孤児院に預けられるのかだったらどっちが「おじさんの所に行くよ」…良いのかい?もう少し考えて「良いから。それと頼みがあります」…何かな?」

 

「…本当の事を教えてください…事故なんかじゃ…無いですよね…?」



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堕落したブラウニー74

切嗣から全てを聞いても俺は魔術師を…切嗣を恨む気持ちは無かった…いや、強いて言うならどうでも良かった気もする…それより…

 

「がああああ!?」

 

時折襲って来るこの痛みが…!俺の思考を停止させる…!

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいイタイ…!」

 

この苦痛を味わされる間、俺からは断片的な記憶以外にも大事な物を削られて行った気がした…今思えばそれは、多分人間性とかそういう物だったんだろう…

 

この痛みは医者には消せなかった…内側から頭を破壊される様なこの痛みを…医者は精神的な物だと判断し効きもしない薬を何度も何度も処方された…昼夜問わずナースコールを連打する俺を鬱陶しがったのか、軈て看護婦はもちろん医者も呼び出しには応じなくなった。普段の検診も義務的に行われる…

 

時折現れてこっそり切嗣が飲ませてくれる薬だけがこの痛みを和らげてくれた…

 

 

 

 

「士郎、本当に良かったのかい?君の家族を奪ってしまったのは僕だ「どうでもいい」…えっ?」

 

「何も覚えてないんだよ、俺は。家族の事はもちろん、友人、自分の事すら名前以外覚えてないんだ。…俺の事を知ってるのはもうアンタだけなんだよ…」

 

「士郎…」

 

退院の時ですら切嗣以外の人間は現れなかった…切嗣は俺の身寄りをずっと探していたらしいが見つからなかったようだ…そして厄介払いが出来たと露骨に喜ぶ医者や看護婦の顔を俺は…

 

 

 

 

俺が魔術を習うようになった切っ掛けは些細な事だった…そう、それは何処にでもある有り触れた出来事…生活力0の切嗣と時折家に訪れては俺にちょっかいを出して来る料理は愚か、家事全般出来ないし、しようともしない虎の為に飯の一つでも作ってみようかと、退院以来、初めて一人で遠出をした。

 

学校には行っておらず、土地勘も失っていた俺は通りすがりの人間に道を何度も聞きながらスーパーに辿り着いた俺は今度は店員や他の客に手伝われながら何とか買い物を終え、一人で帰路に就いていた…今思えば送って行こうか?という申し出を断るべきじゃなかったんだろうな…

 

横断歩道を渡っている最中、俺はその場に蹲った…

 

薬のお陰と俺自身慣れて来ていたせいか油断していた…今までに無い強い痛みのせいで俺はその場から動けなかった…そして俺は車に跳ね飛ばされた…

 

……その後の事は覚えていない…次に俺が気が付いた時俺はまた病院のベッドの上だった…

 

「気が付いたかい?」

 

声をかけられ横を見るとまた泣いたのか赤い目をした切嗣がいた…

 

「本当に良かった…君が車に跳ねられたと聞いて「切嗣」何だい?」

 

「どうして、俺は、生きているんだ?」

 

あの状態から生き延びたとは俺には思えなかった…それに…

 

「何で、俺は、怪我をしてないんだ?」

 

しばらく切嗣は黙ったまま俺から視線を逸らしたり、また向けたりを繰り返していたが俺が顔を切嗣に向け続けると軈てその口を開いた…。

 

「…そう、だね…すまない、士郎…僕にはまだ君には話していない事がある…」



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堕落したブラウニー75

自分が既に人間では無いと知らされた時、不思議と俺には大した驚きは無かった…今更別に悲しいとも思わない…

 

「…大丈夫だよ士郎。僕はずっと君の味方だからね…」

 

「…うん…」

 

…悲しくないはず…でも俺には何も言えなかった…

 

 

 

肉体それ自体が魔力で構成され、しかも極端に死ににくい俺の末路は…何処まで行っても魔術師の玩具にしかなれない身を守るため俺が魔術を習うのは自然の流れだった。積極的に生きていたいとも思わなかったが人間としての尊厳を奪われるのも御免だからな…ただ、俺の魔術師としての道は物の見事に最初から躓いた。

 

「があはっ…!?」

 

「士郎!?」

 

四肢と胴体の一部があの黒き泥で形成されたせいか、俺の身体は正常に魔術回路を身体に定着させることが出来ず、結局基本の魔術である強化と投影しか使え無かったが無いよりマシの感覚で俺はずっとその練習を続けた…そんなある日の事だ…

 

「士郎、君の投影魔術は異常だ。」

 

「異常?投影って単なる基本中の基本でしか無いんだろ?」

 

投影した木刀を振り回す俺の手を止めて切嗣が言ってきたんだ。

 

「投影魔術で投影した物は大抵ガワだけ再現された偽物で大抵は出してもその場で消えてしまう…指摘するか迷ったが…士郎、君のそれは君にとって最大の武器でもあるが同時に最大の弱点にも成りうるだろうね…それに魔術師としても異端なら…」

 

「狙われる…今更だよ切嗣。あんた言ってたじゃないか。潤沢な魔力を持つ俺は魔術師に取っては格好の餌だってな。」

 

「…そうだね…でも、これから君ははぐれの魔術師だけでなく魔術協会からも…いや、聖堂教会からも追われるかも知れない…本当にすまない…」

 

そう言ってその場で頭を下げる切嗣を俺は制した。

 

「だから変わんないって。どうせ俺はいつかは死ぬんだろ?それは今じゃない…ギリギリまで俺は生きる。その為に邪魔をする奴は皆殺す…そう決めたんだ。」

 

「殺せるかい…?君は本当に…?」

 

「殺すさ。つーかもう良いって。あんたこれ以上俺だけに構っても仕方無いだろ?もうやり方は学んだ。あんた早くイリヤん所行ってこいよ…んでとっとと連れて来りゃ良い。」

 

「しかし…」

 

「早く行けって。俺はあんたの息子なんだろ?んじゃ俺はイリヤの弟になるんだろ?俺だってくたばる前に姉貴を見てみてぇんだ…俺はもう大丈夫だよ。だから早く行って来い。」

 

そうして俺は切嗣を送り出した…とは言え俺以上に目に見えて衰弱してる切嗣がイリヤの元まで生きて辿り着けるとは到底思えなかったし、仮にさらえた所で俺だって生きてる保証は無い…それに、所詮義理の息子でしか無い俺と、実娘であるイリヤ…

 

…普通の親が何方を選ぶかなんて分かり切ってた。…だから結局どう転んでもこれが最期だと思ってた…まさか俺が再び切嗣と再会して…あんな事になるなんて想いもしてなかった…



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堕落したブラウニー76

俺は高度な魔術をどうやってもまともに使うことが出来ず仕方無く基本を詰めていたが事、実戦においては基本に忠実且つ、シンプルな戦術が意外な程綺麗にはまることが非常に多い、と言うのが魔術師殺し衛宮切嗣の教えだ。

 

それも魔術師、第一線で活躍出来る実力の持ち主こそ普通の子供でもまず引っかからないような原始的なトラップが通用してしまうんだそうだ…

 

地位や名誉を持つ魔術師に限って実は実戦経験に乏しく必然的にそういう結果を産んでしまうんだとか。

 

…最も普通の軍人がワンマンアーミー気取って近代兵器で武装して一人で挑んでも全くの未知で特殊な力を持たない人間は通常はそのまま返り討ちに逢うのが関の山…魔術にある程度精通し、体内の固有結界化による倍速移動、そして魔術師にのみ絶大な効果を発揮する起源弾…

 

これらが揃って初めて魔術師に対するジョーカー、魔術師殺し衛宮切嗣が存在出来るのだ…

 

「イツッ…!…チッ、やっぱキツイな…」

 

切り札が存在しないとは言え、そんな事で俺は今更諦めるつもりは無い…固有結界化による倍速移動は出来ないが強化の重ねがけでそれは代用出来る…反動が怖いが魔力は腐るほどあるから使うのには困らないし、傷は直ぐに治る…後は決め手さえあれば…!

 

「うぎっ…!くそっ…!」

 

基本は問題無い筈の俺だがその中でも苦手な魔術はあった…それが…

 

「くそっ!また駄目か!何でだ!?」

 

俺は切嗣が置いていった起源弾を投げ捨て悪態をついた。俺の苦手な魔術…それは解析魔術だ。

 

一度出した物は基本消えろ、とでも言わない限りはずっとその場にあると言う異常な性質を持つ俺の投影魔術だが出したいものの構造を知らなければ結局それはガワだけの偽物どころか単なるハリボテだ…棒切れ一本にしたって振り回しただけの勢いだけで圧し折れそうなそれは相手を倒すどころか威嚇にすらなりはしない…!

 

「駄目だ!分からない!」

 

再び起源弾を掴み解析する…分かる。脳裏にこの弾丸の構造が浮かんでくる…激しい頭痛で一瞬ノイズが走るがそれは本当に一瞬の事だ…少し前までの様に激痛ならまだしも今更この程度の痛みで音はあげない…しかし…!

 

「何で消えるんだ…!?」

 

俺は未だに脳裏に見えてる設計図の通りに起源弾を投影出来ていない!何でだ!?道場に置いてあった竹刀は複製出来た…違いなら分かってる!たかが大量生産か、個人が丹精込めて作り上げた世界に一つだけのオーダーメイドってだけだ!だが物は物だろう!?一体何が違う!?

 

「くそっ…!分からない…!俺は何を間違えてる…?っ!?」

 

そこで俺は屋敷に気配を感じた…藤ねぇじゃない…男の気配だ…間違い無く…いや、それより…

 

「この屋敷には結界が張られているんだぞ!?」

 

侵入者はあからさまな殺気を込めながらここに向かって来ている…結界は未だに反応しない…!

 

「迎撃…いや、敵が俺より弱い保証は無い…だがしかし…」

 

この屋敷に張った結界は余りに敏感だ…知らない人間が来る時はあらかじめ設定して置かないと俺の脳裏にかなりうるさい警報がなるのだ。…一度郵便配達員が手紙を入れるためポストに手を突っ込んだだけでなった事がある位だ…にもかかわらず鳴らない…

 

「……」

 

敵が俺の考えている人物なら小細工を弄したところでどうせ俺の不利は覆らない…ならば…!

 

「結局真っ向から受けて立つしかねぇな…!」

 

来るなら、来い…!どういうつもりか知らないがそっちがその気なら俺は逃げねぇ!最期まで抗ってやるよ…!

 



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堕落したブラウニー77

「相手が格上なのは分かっていただろう?何故この場を動かなかった?」

 

「俺が取れる手はあんたが教えたものだけ。しかもあんたはこの家を知り尽くしてる。俺が何処に隠れても直ぐに見つけ出して遠距離から仕留めるだろう?あんたにとって未知数な事があるとすれば手数を増やせる俺の投影魔術だけ。なら最初はどっちみち、場所を広く取れる庭か、ここ、道場で相手する方がまだ勝率は上がる…なぁ?あんたもそう思うだろ?切嗣?」

 

俺は黒いスーツに黒いネクタイを着けた仮面を着けた男にそう声をかける…奴は黙っていたがやがてその仮面を外した…

 

「やっぱり分かるんだね士郎…すまない…僕は…」

 

切嗣が仮面を放り投げる…すまない、か…

 

「言うなよ、切嗣…何となくは分かるさ…実娘と義理の息子…どちらか一方を切り捨てなきゃならないなら他人に近い方を選ぶさ、誰だって。」

 

「君を取引材料にイリヤを取り戻す…もう僕にはそれしか…!」

 

「良いとも、悪いとも、俺は言わないよ。でも俺は言った…残り少ない命でも奪おうとする奴は皆殺すって…それは…あんたでも同じだよ切嗣…」

 

「本当は…!本当は君を殺したくなんてない…!せめて…!せめて君が何処かに隠れるか逃げ出してくれたなら…!」

 

「悪いけど…結界に反応が無かった時点で逆にその選択肢は消えた…あんたが相手なら出し惜しみ無しで正面から当たるしか…俺に道は無いから…つか、ふざけんじゃねぇよ…!これが最期なんだろ!?なら今だけは俺を見ろよ!?俺の前に姿を見せないまま俺を仕留めようなんて虫が良すぎるだろ!?」

 

「士郎…ちゃんと君の顔を見ながら終わらせる…さぁ魔術を使ってくれ…それでケリがつく…どちらかが…若しくは両方が死ぬ…」

 

そう言って切嗣が懐から出したコンテンダーを構える…中身は起源弾か…!

 

「投影…開始…!」

 

俺は切嗣の頭上に剣を投影する…と、同時に足に強化をかけその場から飛び退く…切嗣が放つ銃弾を躱す…!仮に二撃目を撃とうとしても再装填は時間がかかるからその前に俺は切嗣を仕留められる…!他の銃を使われても問題は無い…!起源弾で無ければ良いんだ…!他の銃弾なら致命傷でなければ再生して…!?

 

「固有時制御…三倍速…!」

 

読まれた!?奴はまだ引き金を引いてない…!くそっ!だがもう止められない!俺は剣を投影すると切嗣に向かって突っ込む…!仕切り直しに意味は無い!ここで仕留めるしか…無い!

 

「終わりだよ、士郎…!」

 

切嗣がコンテンダーの引き金を引い、て…?

 

「えっ?」

 

コンテンダーはカチンと軽い音を立てるだけで弾は出ない…代わりに勢いのまま俺の突き出した剣が切嗣の胸に突き刺さった。



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堕落したブラウニー78

俺が驚き、剣から手を離すと切嗣はそのまま倒れた…俺は駆け寄る。

 

「どういう事なんだ?」

 

俺は切嗣の横にしゃがみこみそう声をかけた

 

「…最初から、君を殺すつもりが、無かったって、訳じゃ、ないさ…この家に着いてから、起源弾を抜いたんだよ…」

 

「……」

 

「イリヤと君を…天秤に乗せてしまった…どちら、も…命は…一つ…でも僕は直ぐに答えを…出せた…出したつもりだったんだ…!」

 

「でも、家に着いて…君を殺そうと考えた時…この手が…急に…震え始めたんだ…!」

 

「誰でも…一度ターゲットにした相手は仕留めて来た…!でも士郎…君だけは…!」

 

俺は切嗣の首のネクタイを掴んで無理やり上体を起こした。

 

「ざけんじゃねえぞ!起源弾をぶち込めばそれで終わる!そんなのは分かってたはずだ!俺を生かしてどうすんだよ!?あんたがこのまま死んだらイリヤはどうすんだよ!?」

 

「士郎…」

 

俺はそう捲し立てた後、ゆっくり切嗣の身体を床に下ろし、立ち上がった。

 

「救急車を呼ぶ…まだくたばんじゃねぇぞ!」

 

…思えばこの時だった…解析魔術を使う切っ掛けが訪れた…あれだけ苦手だった解析が…この瞬間俺の手の内にあったんだ…見える…!俺は医学知識の無い素人だけどはっきり分かった。切嗣の傷は深いが心臓は逸れていた…そうでなくても呪いの影響で俺以上に身体はボロボロだったが、少なくとも今すぐ死ぬ確率は低い筈だ…。医者が適切な処置をしてくれれば…せめて俺が治療魔術が使えりゃどうにかすんのに…!

 

「言った筈だよ士郎…!終わりだと…!」

 

その言葉に嫌な予感がした俺はその足を止め切嗣の方を見た…

 

「なっ!?止めろ切嗣!」

 

俺は切嗣の元へ駆け寄ろうとして…そのまま激しい熱風に吹き飛ばされた…。

 

この時極限状態にあった俺の記憶には切嗣が火を付けたそれ…ダイナマイトの構造がはっきり書き込まれた…そして最期の瞬間の切嗣の笑顔…そして爆発の瞬間、視界端を飛んでいたもの…笑顔を浮かべた銀髪の少女を肩車する笑顔の切嗣が写った写真…これらの物を一瞬で記憶した…

 

「イリヤを…助けて欲しい…僕の代わりに…」

 

 

 

この後の事は良く知らない…気が付いたら藤村家の部屋の布団で目が覚めた…藤ねぇも雷画爺さんも俺に何も言わなかった…切嗣の直接の死因はダイナマイトによる自爆かもしれないが致命傷を負わせたのは俺だ…結局、俺にその後の事は何も語られなかった…やがて道場も再建された…あれ以来…俺の解析魔術は異常な程の精度を今でも誇っている…

 

最期に聞こえた声は幻聴だったのか…それは分からない…分からないが俺にその少女…イリヤを無理をしてまで助ける理由は俺には無かった…だから今日まで探そうだなんて思ってなかった…



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堕落したブラウニー79

あいつとの出会いは今も忘れられない…それだけ衝撃的だったしね…

 

「ん?…なぁ?お前さぁ…」

 

「何だよ…うわ…」

 

当時初対面でいきなり向こうから声をかけられたんだ…今でも理由は分からない…でもあいつの事は知ってた…有名だったしね…

 

「傷付くなぁ…その反応…」

 

「…お前の噂知ってたら誰でもその反応になるよ…」

 

「俺の噂?お前だって女関係でロクな噂聞かねぇけど?」

 

「…お前みたいに見境なくって訳じゃない。同性に手を出したりしないしね。」

 

「…手を出すとは人聞き悪ぃな。俺が口説いたら皆乗ってくれただけだぜ?大体女ばっかりで飽きねぇのか?男の穴も悪くないぜ?」

 

「気色悪いから止めろ。で、何の用なんだよ?僕にはその気は無いからな。」

 

「おう、嫌な…つい最近ボロ雑巾みたいになった女に会ったんだけどな…」

 

「…それが…僕に何の関係が…」

 

…この時僕には心当たりが有った…違う…そんな筈ない…

 

「フェミニストのつもりは無いんだけどよ、つい気になって声かけちまったんだよ…」

 

「……」

 

「したら見覚えある奴でさぁ…いや、食指は動けないけどキープには入れてたんだよ、名前は…そうそう、間桐桜って言ったっけ…お前の妹だろ?」

 

「そうだけど…何が言いたいんだよ…」

 

「…色んな奴見て来たから分かるぜ?お前の家ってあいつに何やってんの?興味あるぜ、教えてくれよ?今夜はそれを反芻しながら誰か犯したいんだ。」

 

……噂以上のクズだった。と言うか今思えば間桐家が魔術師の家だと言う事も知った上で声をかけてきてたんだろうな…ただあいつの性格を把握した今だから言える…あいつはそれを知った上で本当に目的はあれだったと…ただ、桜が何をされてるのかって言う具体的な内容を聞いて愉悦に浸りたいだけだった…でも実際これもこじつけだったんだろうと思う。…お陰で今でも真意は分からない…

 

「…何で…そんな事教えないといけないんだよ…」

 

「良いだろ別に。減るもんじゃ無し。」

 

ニヤニヤしながら聞いてくるあいつに減るんだよ、とは言えなかった…当時僕はあいつの事を一般人だと思ってたから…魔術の教義を外部に漏らすと…みたいな話が出来るわけもない…でも実際はあいつはこっちの事をある程度把握した上で言ってたんだからそう考えると腹も立つ。

 

「そんなに聞きたかったら桜に直接聞けばいいじゃん…別に僕じゃなくても…」

 

まあ桜も答えられないだろうけどね…でも僕は早くこの場からいなくなりたかった。今日はテスト期間中で部活は無いし、トイレ近くのこの廊下は放課後である事もあって人気が無いけどこんな話誰かに聞かれたくもない。

 

「犯された側の話も良いけどよ、やっぱ犯した側の話を一番聞きてぇじゃん?俺タチ派だし。ぶち込まれるのはありっちゃありだけど。で、あの女の穴はどんな具合だったんだ?具体的に教えてくれよ?」

 

その瞬間僕は思わず今もニヤニヤしてるそいつ…衛宮士郎…の顔面を狙って拳を繰り出していた…

 

「なっ!?離せ!」

 

「おっそー…こんなんじゃホテル行く時にヤンキーに絡まれたら女守れねえじゃん…あっ、お前は先に逃げるから問題無いのか。」

 

顔面に拳が届きそうになった瞬間に奴の姿が掻き消えた…そして背後から腕を掴まれて…!

 

「ああああ!?」

 

腕に激痛が走った所で腕を離され、僕はそのまま床に倒れ込んだ…腕が痛い…!まさか…折られた!?

 

「大袈裟にすんなよ、関節外しただけだって。まあ無理矢理外したから相当痛いかもしれないけど…あんま経験無いんだろうし。」

 

そう言って僕の腹を蹴り飛ばす…思わず呻きが漏れた…くそっ…!何なんだよこいつ…!

 

「ゴホッ…桜に…」

 

「ん?」

 

「桜に頼まれたのか…?僕を痛め付けてくれって…」

 

「…は?何でそんな話になるんだ?」

 

「だって…僕にはいきなりこんな風にされる覚えが「何言ってんだ?」えっ?」

 

「俺はお前がいきなり殴り掛かって来たから反撃しただけだぞ?」

「本当にそれが理由なのか…?」

 

「別にあの女に頼まれたりしてねぇ。単なる正当防衛。その証拠に…」

 

「うがっ!?」

 

僕の横にしゃがんだ衛宮士郎が僕の腕を掴むと少ししてまた激痛が走った…!くそっ…こいつ…!

 

「ほら、動かしてみろよ、どうだ?」

 

「…動く。」

 

腕が動く様になった…けど…

 

「ほれ、帰ろうぜ…帰りながらじっくり話を…何やってんだ?」

 

「ゲホッ…お前が、蹴るから…呼吸が上手く出来ないし…腹も痛すぎて…立てないんだよ…!」

 

「モヤシ過ぎだろ…しゃあねぇ…肩貸してやるよ…」

 

 

 

……これがあの馬鹿との出会い…この後アレを親友と呼ぼうとするに至るなんて今も信じられない…最も今なら絶対呼ばないけどな…

 

あいつと居るのは楽しかった…あいつの前では素が出せるからな…桜にすら見せた事の無い顔をしていた事だろう…

 

「慎二。」

 

「…何だよ…僕はこれから弓道部に行かなきゃいけないから忙しいんだけど?」

 

努めて平静を装い返事をするけど僕は口角が上がら無いようにするのに必死だった…

 

「新作出来たからよ、今日桜と食いに来いよ。」

 

「お前まだ料理なんてやってんの?女々しいから止めろって言ったじゃん。」

 

そうは言うが僕はあいつに料理を辞めて欲しく無かった…間桐家ではロクな物食べられなかったし普通に美味かったしね…

 

「…そんなに時間余ってんならさ、弓道部入れよ。お前体力あるし、器用だからピッタリだろ。」

 

……僕としてはこいつと離れたくない本音が有った…少しでも長く一緒にいたいと思ってた…くそっ!これじゃあ女々しいのは僕の方じゃないか…!

 

「面倒くせぇ…」

 

「美綴辺りが聞いたら多分ブチ切れるな…」

 

「知るか、そんな事。で、来るのか?」

 

「…終わったら桜連れて寄るよ。じゃあ、行ってくる…っ…何だよ…?」

 

背を向けたら急に後ろから肩を組まれた…抱き寄せ、顔を近付けて来る…!

 

「行ってらっしゃいのキスがまだ…危ねぇな…当たったらどうする…」

 

「当てる気でやってんだよ気色悪い。」

 

僕は奴の顔面に裏拳を繰り出したがヒョイっと避けられる……女々しく見えても僕にはその気は無いからな…それにしても…奴に手も足も出なかったのが悔しくて始めた格闘技もこのザマか…奴を撃退するのには使えてるから良しとしようか…

 

「全く…僕はもう行くからな?」

 

「おう。浮気すんなよ?」

 

僕はそれを聞かなかった事にした…全く…何であいつにあんなに気に入られてるのかまるで分からないな…最も僕もあいつを嫌ってないからお互い様かもしれないけどさ…

 

 

 

「兄さん?今日は機嫌が良いですね…」

 

「馬鹿な事言ってないで集中しろよ桜…」

 

……桜とこうして普通に話せる様になったのもあいつのお陰、か…まぁ単にあいつと過ごすようになったら、桜に八つ当たりをする事が無くなって自然と蟠りも消えたってだけなんだけどね…

 

「集中してないのは兄さんでしょう…?さっき一本も的に当たってなかったじゃないですか…」

 

「っ!良いから早く行って来いよ…」

 

「はい。じゃあ、行ってきます。」

 

…ちなみに桜は普通に絶好調だったので僕は落ち込んだ…



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堕落したブラウニー80

「っ!……あ?…チッ…気絶しちまってたのか…」

 

俺は仰向けの状態から身を起こした…やれやれ…良く崩落に巻き込まれなかった物だ…いや…

 

「…お前が助けてくれたのか?遠坂…」

 

「感謝しなさいよね…?黒いサーヴァントも私たちが連れてるサーヴァントも消え始めたから漸く終わったんだと思って一応アンタを迎えに行こうとしたらいきなり天井が崩れ始めたんだから…焦ったわよ…」

 

「…ケッ…お人好しだな…俺なんて見捨てりゃ良かったのによ、こんな所で留まってるって事は結局閉じ込められたんだろ?」

 

「…遺憾ながら、ね…というか…今更見捨てられるわけないでしょ?こっちの寝覚めが悪くなるじゃない。」

 

「ククク…その行動のせいでお前は俺と心中だ…満足か?…まっ、俺は悪くないと思ってるぜ?最も…俺ももう限界だからお前を食うことも出来ないがな…」

 

「冗談言わないで。何で私がアンタなんかと一緒に死ななきゃいけないわけ?私だって何も考えてなかったわけじゃないわよ。」

 

「あん?」

 

「ここはね、気絶したアンタを連れて外に出るのは無理だと思って咄嗟に飛び込んだ横穴よ…意外とここは崩れなかったの…ツイてたわ…それに…ちょっとアンタの横の壁叩いてみなさい。」

 

俺は右手を伸ばし、壁を叩いてみた…?

 

「…空洞があんな…」

 

「そういう事。向こうに出口があるかは分からないけどね…最も、私の宝石は尽きてるからこのままだと結局脱出も出来ないけど。」

 

「中途半端な幸運だな…」

 

「うっさい。可能性があるんだから良いでしょうが。」

 

「…俺に賭けてみるか?」

 

「はあ?」

 

「俺ならこの壁を吹っ飛ばせる…その代わり間違いなく再び崩落が始まるだろうし、最悪、俺たちは二人共その爆発で死ぬ…賭けてみるか?」

 

「…良いわ、やって。」

 

そう言われ俺は投影した宝具擬きをぶっ刺す…さてと…「ちょっと待って」…チッ。

 

「何だ?」

 

「アンタ…何してるの…?」

 

「何って宝具を爆発させようとだな「何でアンタがアーチャーと同じ事が出来るのか聞きたい所だけど…取り敢えずこっち来なさい…そんな至近距離でやったら間違いなく死ぬわよ、アンタ?」…へいへい。」

 

俺は遠坂の方に向かう…この程度離れた所であまり意味はねぇな…そう言えば奴の記憶の中に…

 

「…さて、覚悟は良いな、遠坂?」

 

「良いからさっさとやって…」

 

「了解『壊れた幻想』」

 

宝具の爆発により大量の岩が飛んで…!

 

『熾天覆う七つの円環』

 

俺の手の中に花びらのような…七枚の光る盾が形成される…

 

「走るぞ?正面からの岩はともかく、上から落ちてくるものは防ぎきれない…後、こっちも限界が近いんでね…」

 

結局爆発の衝撃で一度は止まっていた崩落が再び始まっていた…急がねぇと…どうもこの盾は魔力消費がデカい…そろそろ休みたいんだかね…さて、もう一踏ん張りと行くか。



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堕落したブラウニー81

「ねぇ!聞いていい!?」

 

「ああ!?何だこんな時に!」

 

洞窟の崩落は止まらない…さっきはたまたま収まったみたいだが…こりゃ急がないと二人して生き埋めになるかも知れねぇな…!

 

「アンタ…その腕どうしたわけ?」

 

「ああっ!?これか!?これならアイツの宝具が刺さったから斬り落とした!」

 

「分かりやすい説明どうもありがとう!ホントに短絡的よね、アンタ!」

 

「うるせぇ!良いから黙って走れ!生き埋めになりてぇのか!?」

 

この状況で下らねぇ事聞いて来やがって…!やっぱこの女好きになれねぇわ!

 

「…チッ!行き止まりじゃねぇか!」

 

「待ちなさい!…この向こうも空洞よ!」

 

「うし!下がってろ、遠坂!」

 

俺は壁に宝具を突き刺し爆破した…

 

 

 

「シロウ!リン!無事だったのね!痛っ!?」

 

「るせぇ!寄るなクソロリ!」

 

こっちの姿を見つけるなり突進して来たロリを渾身の力で蹴り飛ばす…こっちは身体中痛てぇんだ…察しろ、クソが…

 

「姉さん…先輩も…無事で良かった…」

 

「無事じゃねぇよ…腕は無くなるし…満身創痍だぞ、こっちは…」

 

「あのねぇ…他に手が無かったのは分かるけど…結局その腕だってアンタが勝手に自分で斬り落としただけだし、怪我したのだってアンタが一人で無茶した結果でしょうが…自業自得よ。」

 

「チッ…」

 

今まで俺に肩を貸していた遠坂から離れ地面に寝転がる…クソッ…限界だぜ…

 

「汚れるわよ?」

 

「…知るか。見ろ、俺の姿を…汚れまくってるし、服もボロボロ…今更だ…そう言うお前だって唆る格好してるぞ?」

 

遠坂の服はあちこち破れ中々露出の高い格好になっていた…嫌いな女だが、中々どうして悪くない。

 

「……ホント、ブレないわね、アンタ…!」

 

遠坂が顔に向かって振り下ろして来た足を転がって躱す…その位置で足上げられたら余計に性欲を掻き立てられちまうぜ…!

 

「これが俺だ…死にかけようが変わら…ん?」

 

足音が聞こえてくる…この気配は…

 

「終わったのね…坊や。」

 

「……やっぱアンタは消えねぇのな…キャスター」

 

目を向ければ葛木とキャスターがこちらに向かって来ていた……一体どんな手を使ったんだ…この女?

 

「当たり前でしょ?宗一郎様の隣が私の居るべき場所よ。」

 

「…で、何か用か?……俺を殺しにでも来たか?」

 

「…死に損ないを嬲る趣味は無いわ。…最初に言った通り私たちは見届けに来ただけよ。終わったのであればもう用はないわ…じゃあね、今度こそ本当にもう会わない事を祈ってるわ。」

 

「……何処へ行くんだ?」

 

「……さあ?どうしようかしらね?」

 

「…では、な…行こう、キャスター…」

 

そう言うと二人は俺たちに背を向けて街の方に向かって行った…さてと。

 

「俺も行くかねぇ…」

 

俺は近くの木に手を当て力を込めて立ち上がった

 

「そんなボロボロで何処へ行く気?」

 

「親父の所。今回の件の報告にな…」

 

「シロウ…私もキリツグのお墓に行っていい?」

 

「……俺に止める権利は無いぜ、義姉さん?アンタは切嗣の娘だ。…じゃあな、遠坂に桜。」

 

「……ちゃんと戻って来るんでしょうね?」

 

「……」

 

俺は何も答えなかった。



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堕落したブラウニー82

「……」

 

柳洞寺内にある墓地をイリヤと二人、無言で歩く…柳洞寺跡地は現在閉鎖されているがここは開放されている。

 

「……ねぇ?」

 

「……何だ?」

 

「…シロウにとってのキリツグは…どんな人だったの…?」

 

……難しい質問だな。

 

「…俺にとっては命の恩人で、そんで何時もぼーっとしてて…後、ドが付く程の天然だな…」

 

「…そっか。…私の知ってるキリツグとは少し違うんだね「そして…俺に戦い方を教える時…その時の目が怖かった…」……そうなの…」

 

「アレは義理とはいえ、息子に向けるような目じゃなかったな…だけどな?教えた事が出来ると…笑うんだよ、本当に嬉しそうにな…それと同時に悲しそうでもあったな…」

 

「…ねぇ、シロウ?これから、どうするの?」

 

「……」

 

「もし…シロウさえ良かったら…私たちと「イリヤ!」えっ!?」

 

俺は残った右手と足に強化をかけると横にいたイリヤを抱き抱え、その場から飛び退いた…次の瞬間、空から光るものが降り注いだ。

 

それは墓石を貫き、崩壊させる…

 

「何!?何なのアレ!?」

 

「アレは…宝具だ!」

 

地面に突立つ剣……そうか…思ったより早かったな…

 

「よう、アーチャー…数時間振りくらいか?」

 

崩れた墓石の影からアーチャーが現れる…フゥ…執拗いねぇ…

 

「……」

 

俺はイリヤを下ろすとアーチャーの元まで歩「行かせない!」…イリヤに腕を掴まれた…

 

「…何のつもりだ?」

 

「何のつもりはこっちのセリフよ!…シロウはもう戦う力なんか無いんでしょ!?早く逃げましょう!」

 

……そうか。逃げられると思ってんだな。

 

「無理だな「どうして!?」…アイツは普通のサーヴァントとは違う…奴は…守護者なんだよ…世界の求めを受け、人類の絶滅を阻止する為に元凶含めたその場にいる全ての人間を殺し尽くす…それがアイツだ…もう分かるだろ?世界から拒絶されてる俺は何をしても…もう逃げられない。」

 

「だからって「持ってろ」…これ、は…」

 

「切嗣が死ぬ直前に所持していたものだ…残念ながら本物はもう失われて…そいつは俺が今、この場で作った偽物だけどな…」

 

俺はあの時見た写真を渡す…残念ながらイリヤの顔以外はきっちり俺の記憶に書き込まれていないからイリヤを肩車している切嗣の顔は…俺の知る切嗣の物だけどな…

 

「ッ!駄目!」

 

写真を渡した事でイリヤの手が解けたのを確認し、俺はアーチャーの元へ向かう…

 

「…たくっ。イリヤを巻き込みやがって…大義名分があるとはいえ、いよいよ俺一人を殺す為だけに手段を選ばな…おいっ…!お前…何だ…それは…!」

 

こいつの標的は多分俺一人…既に戦う力も無く…どうせコイツとの決着も着いている俺にとってこのままコイツに殺されるのもアリかと思っていた……つい、さっきまではな…!

 

「あー…駄目だ。今のお前には殺されてやれねぇ。単なる操り人形に成り果てたお前にはな…!」

 

世界の意思か…本当に下らねぇ…!今のアーチャーは俺はおろか、イリヤの姿すらその瞳に映そうしていない…それじゃあ駄目なんだよ…俺を殺そうと向かって来た時のギラギラした目付きのお前じゃなきゃ…俺が納得出来ねぇじゃねぇか!

 

「来いよ、アーチャー!」

 

俺は残っている右手で莫耶を投影した。



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堕落したブラウニー83

「ハッ!どうしたアーチャー!?逃げ回るだけか!?」

 

「…」

 

上から降って来る剣を必死に躱しながら武器を構えもしないアーチャーを只管に追う…傍から見れば追い詰めているのは俺に見えるかもしれないがその実、消耗しているのは俺の方だ…アーチャーの意思かは知らないが今の俺にこの戦法は非常に有効…

 

……永久に魔力の供給が行われている今のアーチャーと違い、無限に近くても実際は有限で、既に尽きかけ、それを扱う俺ももうボロボロ…このままの展開が続けば間違いなく倒れるのは俺の方だ…

 

「クソがァ!?まともに戦いやがれ!」

 

…元々色々制約も多く、魔術師としても半人前の衛宮士郎が辿り着いた戦法の一つがこれだったのだろう…決して得意とは言えない接近戦を完全に捨て、宝具の数で相手を消耗させて行く…そして疲れ切った所を仕留める…本来格下である俺と相対して戦っていたのが可笑しかったのだろう…

 

「ッ!…しまっ…!ぐあっ!?」

 

「シロウ!」

 

一瞬意識が飛んだ所で腹に蹴りを入れられ倒れ込む…クソッ!立ち上がれねぇ!

 

「チッ!そんなに気に食わないか!?お前に従わない衛宮士郎の存在が!」

 

アーチャーがこちらに向かって歩いて来る…

 

「何が人類の滅亡を防ぐためだ…!誰かの運命一つ救えなくてよく言えるよなぁ!」

 

アーチャーが俺の前に立つ…

 

「人類の滅亡を防ぐために原因となりうる者全てを殺害する?…何人殺した?…何回衛宮士郎の心を壊せば終わる?…高々数百人程度の人間が生きてるだけで滅ぶ様な種なら…とっとと滅んじまえば良い!」

 

「…ハッ!待っててくれてサンキューな、俺の遺言は終わりだ…だが、俺だけだ…完全に壊せなかったが聖杯の機能は停止したんだ…他は見逃してくれても良いだろ…?」

 

アーチャーが投影した剣を振り下ろす…

 

「ッ!駄目!」

 

「なっ!?」

 

イリヤが俺の前に立って…!

 

「…剣が止まった…?」

 

アーチャーの振り下ろした剣はイリヤの頭上で停止した。

 

「…衛宮士郎…」

 

「…アーチャー…お前…」

 

アーチャーの持っている剣が消える…

 

「貴様に問う…先程貴様は、自分以外は見逃せ、そう言ったな?」

 

「ああ。」

 

「……それに偽りは無いか?」

 

「無い。俺はもう十分に生きた。」

 

切嗣が死んだあの日から俺はずっと後悔して生きて来た…何をしても心が満たされる事は無かった。…聖杯戦争何て言う下らない物に参加してもそれは変わらねぇ……まあ収穫は多少有ったかもな…

 

「…ならば貴様のその身体、私に委ねる気は無いか?」

 

「あん?何を言ってやがる?」

 

「これから一生人間で無くなる覚悟はあるか?」

 

「ハッ!元々俺はもう人間じゃねぇよ。」

「…お前に私の力を託す。」

 

「あ?」

 

「…衛宮士郎であって衛宮士郎では無い貴様なら、私の出来なかった事を出来るかも知れん…私はそれを見たくなった。」

 

「…俺に"正義の味方"になれ、と?」

 

「貴様が絶対に成りたく無い者に成って貰う…それが貴様以外の者全員を助ける条件だ……どうする?」



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堕落したブラウニー84

「ハッ!…お断りだ!」

 

「なっ!?」

 

俺がそう吐き捨てるとアーチャーが目を見開いて驚いていた…あのなぁ…

 

「学習しねぇな、お前…お前の思う"正義の味方"ってさぁ…小を殺して大を活かす…一種の機械だろ?…俺がそんな物に成れると思うか?」

 

「……」

 

「お前…つまり、衛宮士郎には出来なかった事をして欲しい…どうせそんなの建前だろ?お前が見たいのはお前がやった事が間違いじゃなかった証明だ。…要するに俺がお前の意にそぐわない行動をしたら全てをご破算にする気だろ?」

 

「貴様…!」

 

「こんな下らねぇ契約乗れるか!…良いか!?こういうのはこっちの提示する条件とも合致しなきゃ成立しねぇんだよ!良く聞けアーチャー…俺からは一つだ…俺のやる事に口出しするな…こいつを守る事が出来るなら…テメェじゃ絶対に見れねぇ世界を見せてやるよ!……ハァ…さて、どうすんだ?」

 

奴は俺を睨みつけていたが軈て目を閉じ…

 

「…クックック…ハッハッハ…!」

 

突然大口を開けて笑い始めた…こいつ…!

 

「テメェ…!何が可笑しい…!」

 

「…いや、すまん…やはりお前は私とは違うのだな、と思ってな…」

 

「今更かよ…!元はと言えば俺はちゃんとそう言ってるのにテメェがろくに話も聞かず八つ当たりして来たんだろうが…!」

 

この野郎…笑い過ぎて泣いてやがる…

 

「良いだろう…貴様の出した条件を飲む。」

 

そう言って俺の横に行こうとした所でイリヤが回り込む…

 

「…義姉さん、退いてやってくれ…」

 

「でも…」

 

「心配するな…こいつはもう俺を殺さねぇ…」

 

「…そういう事だ…すまないが退いて貰えないか?」

 

「……分かった…でもシロウに何かしたら許さないから…!」

 

そう言われ、一瞬顔を歪めるアーチャー…まっ、こいつにとっても身内だからな…

 

「…心配するな…直ぐに終わる…右手を出せ、衛宮士郎…」

 

アーチャーがしゃがみこみ、右手を差し出す。

 

「はん…そもそももう他に手はねェよ…」

 

俺はアーチャーの右手を掴んだ…

 

「…貴様が何を考えてそうしたのか分からんが…貴様が体内に私の霊核を取り込んでいたからな…そこを起点にすれば力を送り込むのは難しくない…終わったぞ。」

 

アーチャーが手を離した。

 

「……あんま変わったようには思えないが…」

 

俺はアーチャーが離した右手を見詰める…

 

「何れ分かる…いや、そもそももう変化しているぞ?」

 

「あん?」

 

「左腕だ。」

 

「シロウ…手が…生えてきてる…」

 

「ん?…あっ…」

 

俺の左腕が有った場所に褐色の皮膚の左腕がくっ付いていた…。

 

「……おい…腕付けてくれんのは有り難いんだけどよ、色が違うから後々問題になりそうなんだが?」

 

「知らん。…さて、時間だ…」

 

アーチャーの身体が空気に溶けるように薄れて行く…

 

「漸く帰還か…」

 

『私がもう貴様を狙う事は無い…だが、忘れるな…その力を使って人類を脅かせば私以外の守護者がやって来るぞ。』

 

「…俺は…俺の正しいと思った事をやるだけだ…それを邪魔するなら全て殺してやるさ…」

 

『…貴様が何を為すか…楽しみだ…』

 

「じゃあな…衛宮士郎…」

 

アーチャーは消えた。



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堕落したブラウニー85

「…ふぅ…たくっ…あの野郎、好き勝手ぶち壊しやがって…」

 

適当に投影したコートを着ながら呟く…現在、俺とイリヤのいる墓地はめちゃくちゃだった…墓石の多くが崩れている…元に戻すのはめんどくせぇな…取り敢えず…

 

「…切嗣の墓は無事だな…アイツ適当にやってる様に見えてちゃんと考えて剣出してたんかねぇ…」

 

若しくは…偶然か…

 

「…んじゃ行くぞ、イリヤ。」

 

「…それは良いけど…放っておいて良いの?」

 

「知るか。切嗣の墓以外は所詮他人の墓だ…てか、一人で元に戻せるわけねぇだろ。…行くぞ?」

 

「…うん。」

 

イリヤの手を引き、切嗣の墓へ向かう…そういや遠坂時臣の墓もあるんだっけか?…まっ、俺には関係ねぇか。

 

 

 

「…これが?」

 

「…ああ。この下に、切嗣が眠っている…待ってろ。」

 

イリヤの手を離し、切嗣の墓の前に立ち、墓石に触れながら目を閉じた。

 

「……」

 

……聖杯は壊しきれなかったけどよ…イリヤは救えたよ…寿命を伸ばす方法はこれからだが…アインツベルンからは解放された…これで、良かったんだろ?切嗣……

 

「…ふぅ…」

 

『…ありがとう士郎…そして…すまない…』

 

……声が聞こえた気がしたが…そこには誰も居ない…空耳だったのか?

 

「…シロウ?どうしたの…?」

 

「…いや、何でもねぇ…俺の用事はすんだぜ?伝えたい事があるなら言っちまいな、義姉さん?」

 

「…うん…ありがとう…」

 

イリヤと入れ替わるようにして墓を離れる…イリヤは墓の前に立つと何やらブツブツ言い始めた…聞こうと思えば聞けるが…さすがにそれは無粋だな…俺は声が聞こえないように距離を開けた。

 

 

 

軈てイリヤが墓に背を向けたので俺は近づいて行った…

 

「…恨み言は言い終えたか?」

 

「…私はもうキリツグの事を恨んでないわ。…ただ、伝えたかったの…私はもう寂しくないって…セラがいる、リズも…他のホムンクルスの皆も…」

 

…そういや、あの時セラが連れてたホムンクルスは俺たちが気絶させただけだから生きていたな…アインツベルン家の後始末に回したが…あれからどうしただろうか?……後でセラに聞いてみるか…

 

「それに、これからはシロウもいるから…」

 

「…そうかい。」

 

……アイツらがあの家で暮らすのは勝手だが、俺は何れ出ていくつもりなんだがねぇ…イリヤの寿命を増やす方法を見つけなきゃなんねぇ…切嗣の遺言だし、それからあのクソ野郎との約束もある…

 

「…ねぇ?シロウは…居なくならないよね…?」

 

「……出来ない約束はしない主義でね。」

 

「…どう、して…?」

 

「…さっきの話…覚えてるだろ?俺は奴と契約したからな…こんな平和ボケした国に長居してる場合じゃねぇのさ。」

 

「そんな…!シロウは今までずっと苦しんで来たんでしょ?だったら普通に生きたって…!」

 

「元々、長くなかった身体だ。…更にいえばこの戦争に参加した事で限界が早まった…サーヴァントの力を貰ったとはいえ、ベースの身体がボロボロな以上そう長くは生きられねぇっての。」

 

「だったら尚更良いじゃない!私たちと暮らそう!ねぇシロウ「切嗣から…頼まれてるんだ…アンタを助けて欲しいってな…」…私は…もう十分助けて貰ったよ…!」

 

「まだだ…アンタはこのままじゃ近いうちに死ぬ。…そんなの認められねぇ。…そんな顔すんなよ、色々調べる事もあるし、しばらくはこっちにいるからよ。」

 

俺は泣きじゃくるイリヤの頭を撫でた。…チッ…こりゃ多分アーチャーの影響だな…俺にはもうこいつを見捨てる事が出来ねぇ…参ったぜ…



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堕落したブラウニー86

「お前が衛宮士郎か?」

 

そう声をかけられ俺は温くなったクソ苦いコーヒーを飲み干すとそちらへ振り向いた。

 

「ああ、そうだ。…アンタが蒼崎橙子だな?」

 

 

 

 

俺が最初に始めたのはイリヤスフィール以下、ホムンクルスたちを救う方法を探す事…と言っても、俺はホムンクルスについての知識は無いし、瓦礫の山と化したアインツベルンの屋敷からもろくな資料は出て来なかった…そこで俺が考えたのは俺の中に眠るアーチャーの記憶に何かヒントがあるのでは無いか、という事だ。

 

……結論から言えば…ヒント所か、最早答えに近い物が出て来た…人形師蒼崎橙子…彼女ならほとんど人間の身体と違わない人形を作る事が出来る。

 

「電話でも話したがな…私は元々小口の注文は扱ってないんだ「封印指定の魔術師が表で堂々と商売しててそれか?よっぽど腕が良いんだな」…脅しのつもりか?ガキがいきがるとどうなるか教えてやっても良いんだが?」

 

「まさか。スペアが腐る程あるアンタを脅した所で…!…待てよ…俺だって別にケンカ売りに来たわけじゃないんだ…取り敢えず俺の話を聞いてくれないか?」

 

ここは彼女の工房である伽藍の洞…万が一にも俺に勝ち目は無い。

 

「…なら、まず答えろ…私の事を何処まで知っている…大体、どうして私を見つける事が出来た?」

 

「そうだな…長い上に到底信じられない話だろうが…まあ聞いてくれ。…退屈は…させねぇから。」

 

 

 

 

「…成程。確かに俄には信じ難い話だな。」

 

俺の話を聞き終えた蒼崎橙子は腰掛けていた椅子に深く座り直した。

 

「俺だって聞く方だったらそう思うさ…だが、事実だ。」

 

適当に投影した宝具擬きを弄びながらタバコに火をつけ、紫煙を燻らせる蒼崎橙子を見詰める…ん?

 

「…吸うか?」

 

「……貰うわ。」

 

蒼崎橙子が差し出して来たタバコを一本抜くと口に咥える…自分でライターを投影すると火を着けた…不味い…

 

「…クソ不味いな。よくこんなの吸えるな…」

 

「不味いと言いきれる程タバコを吸った経験でもあるのか?…まあ私も不味いと思うが。」

 

「やっぱ不味いんじゃねぇか。」

 

 

 

 

「お前のその依頼、受けてやってもいい。」

 

「…いくら欲しい?」

 

「…お前自分の重要性分かってないだろ。ほぼ精巧な宝具を投影出来る奴から金だけ貰っても仕方無いだろうに。」

 

「…こんな見た目以外ほとんど似てない物を欲しがるとはね…」

 

「私の見立てだが、恐らくお前は今の時点でほぼ七割方再現には成功している…後お前に欠けているものは共感、だ。」

 

「…共感?」

 

「宝具とは元々はその武器に纏わる伝説や込められた念いが形になった物。それが無ければそれはただの希少なだけのガラクタだ…要はお前はその武器の造り手や本来の持ち主の念いを汲み取る事が出来ないんだ。」

 

「…他者の理解なんて俺には最も難しい事でね…」

 

「そこで提案だ…お前、私の弟子になる気は無いか?」

 

「…あ?」



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堕落したブラウニー87

「さて、じゃあ先ずは学校に通ってもらおうかな。」

 

「勝手な事を…俺はまだ弟子になんて…ハア…分かったよ、んで学校ね…時計塔に行けばいいのか?」

 

一般人にとってイギリスの首都ロンドンにある時計塔…ビック・ベンとは単なる観光名所に過ぎないが実はそこは魔術協会の総本山である…ここでは若く有望な魔術師が魔術についての知を深める事が出来るのだ。

 

「違う。…お前そもそも真っ当な魔術師とは確実に合わないだろ。…私が言ってるのはお前がまだ在籍してる筈の高校の話だ。」

 

「あん?」

 

「最後に登校したのは何時だ?…と言うかお前普段からどうせ真面目には通ってなかっただろ。」

 

「座して勉強してる時間なんて俺には無くてね。…つかどうせ弟子にしてくれるならアンタが魔術について教えてくれよ。」

 

「普通の魔術の使えないお前に私から教えられる魔術など無い…大体、魔術師に成りたいなら教えられる事も無くは無いが…お前が成りたいのは魔術使いだろ?しかもそれで世に出るつもりだと…お前には社会常識も著しく欠けている様だからな、しっかり学び直して来い。」

 

「チッ…分かったよ…でも元いた所で無くても良いだろ?こっちの学校に「お前…もしかして家に帰ってないのか?」……別に良いだろ。」

 

家にいると居候組が色々煩いからな…と言うか何でアイツら家主より態度がデカいんだ…

 

「これは相当だな…良し、お前の家に案内しろ。」

 

「あん?」

 

「部屋は空いてるんだろ?私はそっちに住む。」

 

「はあ!?」

 

何言ってやがんだこいつ!?

 

「お前の場合、行動を見張る奴がいないと直ぐに道を外れそうだからな。…さぁ案内しろ。」

 

 

 

「…と言うわけで、だ…今日からこいつがここに住むからな。」

 

「蒼崎橙子よ、宜しくね。」

 

眼鏡をかけた蒼崎橙子が丁寧なお辞儀をするのを見て鳥肌が立ちそうになるのを堪える…眼鏡をかけるかかけないかで口調を使い分けるらしいが…これじゃほとんど別人だろ…

 

「何が、と言うわけ何ですか…と言うか先輩は今まで何処にいたんですか…」

 

居候組の中でも特に煩い三人の内の一人間桐桜がため息を付く。

 

「……何処でも良いだろ。まぁとにかくそういうわけだから宜しく。んじゃまぁ空いている部屋に案内してやってくれ。俺は「イリヤさんたちにちゃんと会ってくださいね?先輩の事を心配してましたから。」……了解。」

 

やっぱこいつには逆らえねぇな…三人の内残りの二人…セラとかクソロリには反発出来るんだが…んじゃまぁ怒られに行きますかねぇ…



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堕落したブラウニー88

あの日、柳洞寺を辞した俺は遠坂家に桜とイリヤたちを残し遠坂とこれからについての話し合いをした。

 

何だかんだ損害状況という括りで言えば第四次聖杯戦争での聖杯の破壊の余波以上の被害を出した今回の聖杯戦争…当然このまま放っておく…などという事は出来るはずも無い。…だが、俺たちだけでは到底どうにか出来るわけもない。…結局遠坂の提案で監督役である言峰綺礼の裏切りの事実を盾に全ての後処理を聖堂教会に丸投げする事にした。ただ…

 

「遠坂、第四次聖杯戦争でお前の親父と言峰璃正が組んでいた話を持ち出されたらどうするんだ?向こうはさすがに気付いてるだろ。」

 

最も件の言峰璃正の息子である綺礼を監督役にした時点で向こうも何を考えているのか理解出来ないが。

 

「…費用の折半なんてさせないわ。ゴリ押しするに決まってるでしょ。どっちにしても全部綺礼が悪いんだもの…どうせお父様と璃正神父を殺したのはあいつだろうし。」

 

…はっきりした証拠は無いが、多分間違いは無いだろうな…。

 

「俺に出来る事は?」

 

「面倒くさがりのアンタにしちゃ殊勝な心掛けじゃない。でも良いわ…寧ろアンタは何もしないで。アンタが矢面にたったら多分代行者か、執行者が来るわ…これ以上面倒事はごめんよ…」

 

「確かに…じゃあそれについては任せるわ…俺はやる事がある…」

 

「…アンタ人の話聞いてなかったの?何もしないでって言わなかった?」

 

「今回の後処理には手を「じゃなくてしばらくは大人しくしてて。…下手にアンタが動いたら桜やイリヤの存在が明るみに出るでしょ」…気付いてるだろ?イリヤは時間が無い。」

 

「だとしても、よ。イリヤを助けたいなら尚更ね…私だって今更あの子を見捨てるつもりは無いわ…関わった以上は最後まで責任持つつもり。」

 

「相変わらず魔術師っぽくないのなお前…」

 

「煩いわね…私だって分かってるわよ…」

 

…まぁ結局の所俺に黙って待つなんて事が出来るわけもなく、ホムンクルスたちにアインツベルン屋敷跡から集めさせた資料を確認した後、直ぐに俺は旅に出ちまった…アーチャーの記憶からあっさり答えが出た事を考えりゃ、遠回り以外のなにものでもないな…最もどうせ家にいても居候の連中が口煩くて俺が耐えられなかっただろうが。

 

「ん?この気配…!」

 

「し~ろ~う!」

 

俺は振り向きざま、振り下ろされた竹刀を手で掴んで止めた…そういや居候組とは別に煩い動物がいたんだったな…

 

「よぅ藤ねぇ…何の真似だ?危ねぇじゃねぇか。」

 

「士郎!今まで何処にいたの!?」

 

…質問に答えねぇ…人の言葉が通じねぇのかこの虎は…いや、虎だから当然か。

 

「俺の勝手だろ「士郎!」…分かった分かった!説明する説明する!取り敢えず手ぇ離すから…竹刀を振り下ろすなよ?」

 

俺は竹刀から手を離し…!

 

「天誅~!」

 

「振り下ろすなって言ったろ!?」

 

俺は咄嗟に振り下ろされる竹刀に向かって回し蹴りを繰り出した…あっ、やば…!

 

「きゃあ~!?」

 

力加減を間違えた俺の蹴りの勢いに押されて障子戸を破り虎は折れた竹刀と共に庭に転げ落ちた…良し、逃げよう!



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堕落したブラウニー89

「アーチャーの力を一部とはいえ譲渡されて、強化を重ねがけしたのとほとんど変わらない筋力になっていたのを忘れていた俺も悪いとは思うけどよ…丸腰の相手に後ろから竹刀で奇襲してきた相手に蹴り入れても正当防衛だと思うんだが…アンタはどう…おい、何笑ってやがる…」

 

あの後俺は結局逃げる間もなく竹刀ごと人間が吹っ飛ぶレベルの力で蹴っちまったのにほとんど無傷の虎に捕まった…そこからは虎に件の三人の内二人が加わっての説教タイムだ…聞き流そうとしたら、更に怒号が増えて…仕舞いには…この仕打ちだ…何も柱に縛りつけなくても良いじゃねぇか…クソ女共が…!

 

「ククク…いや、すまんな…だが一言良いか?」

 

「あ?」

 

「女に男が手を上げる時点でギルティ、だ。」

 

「……あれだけ派手に飛んでって服が汚れたぐらいですむ人外相手でもか?」

 

「当然だな。」

 

チッ…納得行かねぇぜ…

 

「大体、お前なら直ぐにでも逃げ出す事だって出来るのに、そこから動かないのは口だけで無く、本当に自分が悪いと思ってるからだろう?」

 

「…ハッ…まっ、心配かけたとは思ってるさ…つっても書き置き位はちゃんと残していったんだぜ?何であんなに心配するかねぇ…」

 

実際虎はもちろんの事、あの二人に涙目で説教されりゃ俺だって応える…

 

「あいつらから聞いたがな…『出かけてくる』…と一文だけ書かれた紙切れ一枚残して家族が三ヶ月も戻って来なかったら心配するのは人として当たり前の事だと私は思うぞ?」

 

「はん…何時戻るかなんて俺の勝手だろ。」

 

「人の気持ちを理解する努力をしろ。それがお前の為にもなる。」

 

「エゴ通して生きてる魔術師が感情を説くのか?滑稽だな。」

 

「私は人外ではあるが、まだそこまで心を捨てた覚えは無くてね。」

 

「…雑談はもう良いだろ?本題だ…結局アンタは何を教えてくれるんだ?言っとくが俺自身も時間がねぇんだ。下らねぇ話しか出来ねぇなら出てってもらうぜ?」

 

俺はロープを引きちぎり立ち上がると干将莫耶を投影し、蒼崎橙子に突き付ける。

 

「そう慌てるな…私はこれでも以前、お前と同じく魔術遣い志望を弟子にした事もあるんだ。」

 

「……分かった。アンタを信用しよう。」

 

俺は宝具を消した。

 

「全く…本当に跳ねっ返りだな…あいつもかなりの問題児ではあったが、お前ほどアグレッシブでは無かったぞ?」

 

「生きて来た世界が違うんだろ?俺はこうでもしないと何時死んでも可笑しくなかったんでね…」

 

「…命の危機に見舞われるという意味なら多分お前と大差無いがな。」

 

……魔術遣いが命の危機?



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堕落したブラウニー90

「…アンタの言ってる魔術遣い志望の弟子ってのは黒桐鮮花って名前じゃねぇのか?」

 

「…成程。こっちが話した訳でもないのに一方的に知られているというのはやりにくいものだな…そうだ…それも並行世界のお前の記憶か?」

 

「…まともに会話した記憶はねぇみてぇだけどな…ただ、この記憶が確かなら黒桐鮮花ってのは元々、魔術とは何の縁もゆかりも無い普通の家の出身だろ?俺みたいに聖杯戦争に巻き込まれる事も無かっただろうに、何で命のやり取りをする羽目になってるんだ?…少なくとも一般人が相手なら軽く強化でもすりゃ簡単にねじ伏せられるだろ?」

 

「…普通かどうかは、よく分からんがな…まあ確かに本来ならまず有り得ない話だな、で…そんなに聞きたいのか?」

 

「ああ…少しは興味がある。」

 

「…悪いがこの話は本人はもちろん、事件の当事者たちにも許可が取れないと私の口からは話せんよ。」

 

「相当込み入った話みたいだな…分かったよ。」

 

……とはいえ…俺の中にあるアーチャーの記憶が確かなら実際は黒桐鮮花と接触、戦闘まで行った事もある様だ…記憶の損耗が激しく詳しい事情は分からないが…どうやら別件から黒桐鮮花の関わった事件まで行き着いたらしい…事件自体はとっくに終わってるだろうに一体何をして戦う事になったんだかな…そして最終的に黒桐鮮花を殺している。

 

この後に出て来た両儀式という女と戦った所で記憶は途切れている…恐らく負けたんだろう…具体的に何をしたのかは分からんがはっきりしてるのは両儀式の武器はナイフでその戦闘技術はかなり高かったものの、本来その時の奴なら倒せない事も無いレベルだった事…それからその女が魔眼持ちだった事だ。

 

……悔しいが…サーヴァントで無かったとはいえ、ほぼ全盛期の奴が勝てない相手なら俺が勝てる道理は無い…触らぬ神に祟りなし、だ。

 

「そういや、アンタ…例の虎には自分の事、何て説明したんだ?」

 

「ん?住み込みの家庭教師、という事にしたよ。」

 

「……虎は信じたのか?」

 

「……相当勘が良いのか、かなり疑われたよ…」

 

「…だよな。」

 

藤ねぇなら気付いちまうだろう…

 

「まあ嘘は言ってない。」

 

「あん?」

 

「お前どうせ、成績はガタガタだろう?なら、本当に教師役をしてやろうと思ってな…心配するな、私は一流大学レベルの勉強は普通に分かるからな。」

 

「はん、そんな事、アンタに頼む気は「お前忘れてないか?」あ?」

 

「三ヶ月も連絡無しに無断欠席したんだ…高校に籍はあるだろうが、まず間違い無くお前は留年してる筈だ…素行も悪いだろうし、成績自体も元々悪かったんだろうからリカバリーは効かん。…お前、卒業もせず旅に出る事を彼女に許してもらう自信はあるか?…アレは筋を通さなければ恐らく地球の裏側まで追ってくるタイプだぞ?」

 

「…チッ…確かにそうだな…。」

 

今回の一件もある…尚のことその辺厳しくなるだろうな…しゃあねえか…

 

「分かった…世話になる。」



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堕落したブラウニー91

「そう言えば聞いていいか?」

 

「あん?」

 

「お前が言った鮮花や私との関わりというのはあくまでお前の中に眠る並行世界の自分の記憶の一つに過ぎないのだろう?複数の自分の生涯の記憶があるというのはどんな気分なんだ?」

 

「あー…そうだな…普段から認識していたらいくら狂っていると言っても俺自身の今の人格も吹っ飛ぶから普段は意識しない様にしているが…というか何処の世界にでもいて、しかもその在り方はほぼ変わらない、という可能性を持つ者なら俺に聞かなくてもアンタの身近に存在しているだろう?」

 

「…式の記憶もあるのか…」

 

「まあな…で、どうなんだ?」

 

見えて来た記憶を見る限りどうやら衛宮士郎は直接的にも間接的にもあの女との関わりが必ず何処かである様だ…そして、直接的に関わった場合の記憶はどれも大抵…不自然に途切れている…

 

「……アレはまた特殊な例でね…表に出ている式本人は恐らく、ろくに並行世界の認識をしていないだろう…」

 

「……多重人格者なのか?」

 

「察しが良いな…その通りだ…どうも興味津々の様だが…下手に接触しようとは決して思わない事だ。…多分お前は死ぬぞ?」

 

「……目的が出来た以上、まだ死にたくはねぇな…肝に銘じて置く。」

 

通常の衛宮士郎と相性が悪いなら俺はもっと駄目だろうからな…

 

「…で、俺の印象だが…そうだな…アンタ、今の自分とは全く違う人生を送っている自分の夢は見た事ないか?…既に死んだ肉親や、嫌いな相手と談笑していたり、どう考えても今の自分からは想像出来ないような仕事をしていたりだ…」

 

「……私はあまり夢を見る事は無いが…まぁ、言いたい事は分かる……成程。そういう事なのか。」

 

「…普通の人間が夢と考えがちなIFの記憶…というか普通はその通りなんだろうが…俺はそれを起きている時に見ている…自分の意思で見るわけだからそれを確かに何処かの世界で現実にあった事だと認識出来る…まぁ説明が難しいがそんな感じだな…」

 

「夢と表現したのは中々皮肉だな…」

 

「ん?」

 

「普通の人間でも見るその夢は…実は本当に並行世界の自分と意識を共有、若しくは乗っ取っている…と、私は考えているからな…」

 

「…魔術師らしい面白い説だな。」

 

「だろう?少しは私の授業を受けるのが楽しみになって来たか?」

 

「…学ぶ、という事にあまり良い思い出が無いんだが…確かに、な。」

 

「…魔術師殺しは教師には向いていなかったようだな…」

 

「…経験で磨いて来たものを口頭だけで教えるなんて上手くいくわけないだろ。現役時代の切嗣と俺だと事情も異なるわけだしな…というか、俺が問題にしたいのは虎の事だ…」

 

「ん?彼女は現役の教師なんだろう?」

 

「実際、本当に教員免許を取れたのか疑いたくなるくらい虎の授業は雑なんだよ…正直に言えば…アンタが教師役に名乗りを上げてくれて本当に良かったと思っている。」

 

虎の教え方だと一分ともたず寝るか、逃げ出す自信が俺にはある…どうせ逃げ切れねぇだろうがな…



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堕落したブラウニー92

「それにしてもお前は異質だな…」

 

「何だいきなり…って、ちょっと待て…またこの流れか…?いい加減にしろよ、お前質問多過ぎ無いか?」

 

何度目か分からない、蒼崎橙子の遠回しな質問に辟易する…マジでメンドクセェ…

 

「…質問、のつもりは無かったのだが「大方、俺と本来の衛宮士郎との違いの考察の誘いだろ?疑問を投げかける行為を普通は質問って言うんだよ」…いやすまんな…どうにもお前は魔術師として探究心をくすぐる存在でね…」

 

「魔術師ってのは研究者気質とは聞いてたが、目をつけられると本当にうぜぇな…議論はメンドクセェから俺から例を出して説明してやる…そうだな…ちょっとしたおとぎ話だ…アンタそういうの好きなクチだろ?」

 

「どういう意味で言っているのか分からんが…魔術師としては研究の対象でもあるな…」

 

「んな話はどうでも良いっての…で、例えばこんな話があるとする…町に店構えは大きくないが町一番と言っても過言では無い鍛冶師がいた…そいつはお人好しで、自分の仕事とは一切関係無い町の人の困り事の解決に良く奔走していた…相談の内容は、手先が器用だから大抵は家の屋根の修理なんかやってたわけだ…無償で。」

 

「そいつは町の人の為に尽力し、最後は身体の酷使のし過ぎで誰にも気付かれず死んで…三日くらいしてから漸く発見されて、あまりの臭さに罵倒されながら埋葬される…そしてそんな鍛冶師の名前は…衛宮士郎と言う。」

 

「…何の話だ、それは…」

 

「いや分かるだろ?俺の考える俺以外の衛宮士郎の定義。」

 

「いや分からん…お前、仮にも平行世界での話とはいえ、自分の事を貶し過ぎじゃないか?」

 

「衛宮士郎ってのは結局こんな奴なんだよ。他人の為にお節介を焼いて…自分の事は顧みずボロ雑巾の様になって、その姿を助けた奴に罵られながら死んでく。」

 

「救いが無いな…ではお前は何だ?」

 

「俺か?…俺はこうだな…平行世界での同じ町に同じ鍛冶師の建物…一応町一番、まで一緒だな…だが、ギャンブル好きで借金があって、女好き…扱い上はこう呼ばれてんだろ、町の寄生虫ってな。」

 

「…お前、自分自身にもだいぶ辛辣だな…」

 

「何処がだ?こいつは野垂れ死んだりしねぇよ…どっかの女房を寝取ったりするから多分、元旦那とかに刺されて死ぬんだろうが…それ以外なら金に困った末に鍛冶道具を質に入れちまうか、それを凶器に使ってさっき言った衛宮士郎みたいな鍛冶師仲間の店に押し入って、返り討ちにあって死ぬとかだろ。」

 

「聞いててドン引きする内容だな…」

 

「お前が聞きたがったから懇切丁寧に説明してやったんだろ。」



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堕落したブラウニー93

「さて、最後に一つ聞いておこうかな?」

 

「……何だよ。」

 

「…お前のその目と左腕についてだな。」

 

「…あー…やっぱ分かんのな…先ずは目から行こうか?アンタの見抜いた通りだ…こいつは両目とも義眼だよ。」

 

「片方は聖杯戦争の最中に視力を失ったのは聞いた…もう片方はどうした?」

 

「…とある一件に首突っ込んだらこいつを打ち込まれた。」

 

俺はソレを投影した。

 

「黒鍵…代行者と戦ったのか?」

 

「ああ…死人が出たとはいえ、そう規模のデカい事件じゃなかったんだが、そいつが思いの外お人好しでね…本来何の関係も無い筈のその事件の解決に動いていたんだ…で、敵と間違われてな、ミスって食らっちまった…」

 

そこまで喋って俺は黒鍵を消した

 

「目を潰されたくらいではお前は死なない…だが、脳を破壊すれば死んでいた筈だな?何故殺されなかった?」

 

「…だから言ってるだろ。そいつがお人好しだったんだよ…俺の方も事件の解決に動いてると言ったら協力を持ちかけて来てな、最後は見逃してくれたのさ…最も、正式な仕事で会う事があれば殺すと言われているがね…」

 

「…理由は分かった…暈している以上、事件の内容については語る気が無いのだろう…で、お前は今、どうやって物を見ている?」

 

「そりゃもちろんこの目で…と、言いたいところだが、そんな高機能な義眼は作れなかったんでね…解析魔術を使って周りの景色を脳裏に描いてな、後は人の気配を感じ取ればぶつかる事も無い…そもそもここは俺の家だ。目を瞑っていたって歩けるさ。」

 

「…そうか、微妙に納得行かないが、目については分かった…で、その腕だが…」

 

「これな…」

 

俺は着ていた長袖のシャツの袖を捲った…そこには褐色の部分が僅かに残っていた…

 

「そもそも左手自体、普通の肌色に変わっちまってるからな…要は俺自身が逆に侵食しちまったのさ…コレに初めて気付いた時はサーヴァントの腕すら完全に自分の物にしちまうこの身体の呪いに恐怖したぜ…まあ今は便利だと思ってるがな…アーチャーと違って俺は投影をどれだけ行使しても見た目は変わらないかんな。」

 

「だが身体が高純度の魔力と呪いで形成されている以上、その代償は寿命だろう?」

 

「何が言いたい?…口出しされる言われは無いぜ?アンタの目的は俺の投影する宝具なんだろう?…確証は無いが、俺ならエミヤに出来なかった本物…いや、それ以上の投影も出来るかもしれないぜ?…最もその瞬間俺の身体は欠片も残さずこの世から消え失せるだろうがな…あっ、ちなみに聖遺物とかは勘弁してくれよ?あの代行者曰く、呪いの塊である俺には相性最悪らしいからな。」

 

「……お前の事情については良く分かった…では先ず…」

 

「ん?」

 

「……数学から行こうか?お前の部屋に案内しろ。」

 

「この流れで、何で一般教養の話になんだよ…まあ良いか…宜しく頼むわ「ほう、教えて貰う者の言葉では無いな…先ず、言葉使いから」宜しくお願いします先生!」

 

「宜しい。じゃあ部屋に案内して?」

 

殺気を感じて反射的に土下座したらそんな言葉が降って来た…顔を上げてみれば眼鏡を掛けた蒼崎橙子…やっぱこの急激なキャラチェンジ慣れねぇ…



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堕落したブラウニー94

「ところで、別に後払いでも素体は用意出来るが?」

 

「冗談じゃない。アンタに借りを作ると高くつくに決まってる。」

 

「時間が無いんじゃないのか?」

 

「後で面倒な条件突き付けられるより良いからな、これはあくまでビジネス…アンタもそのつもりで聞いてくれ。」

 

「そうか…」

 

身体を用意すると言っても、人数は頗る多いからな…イリヤにセラ、それから遠坂の口利きで再建されたアインツベルンの屋敷に住むリズと数十人程の俺がろくに名前を把握出来ていない生き残りのホムンクルスたち…

 

…さて、何を要求されることやら…更にこいつは間桐桜の主治医をする事を勝手に宣言している…その請求もするつもりなのだろう…後は…

 

「ちなみに今やってる俺の家庭教師としての代価は?」

 

「それは必要経費だ、金は取らん…住む場所と食事を提供してもらっている事でチャラだ。」

 

「あっそ。まあ後で請求しないなら良い。」

 

「…それはそうと手が止まっているぞ、時間を割いてやってるんだ、課題はきっちりこなせよ?」

 

「了解…」

 

……締めるところはきっちり締めるよなこの女…

 

 

 

「今日は一応アンタの歓迎会をやるんだとさ、何か食いたい物あるか?」

 

「一応、という言い方が気になるな…別に嫌なら無理に「そういう意味じゃねぇさ。」ほう?」

 

「作るのも俺じゃねぇからうるさく言う気もねぇが、このアイデア出したの藤ねぇなんだよ…」

 

「……それで?」

 

「藤ねぇは基本、食う専門でな。一切手伝わねぇからな。」

 

「成程な。」

 

 

 

「へぇ~、海外の留学経験があるんですか。」

 

「ええ。それ程長くないですが。」

 

藤ねぇと橙子の会話を聞き流しながらきゅうりのぬか漬けを噛む…薄い…

 

「シロウ、ダメですよ。」

 

テーブルの上の塩の瓶を掴もうとしたら、向かいに座るセラに腕を掴まれた。

 

「離せ。」

 

「では、調味料の瓶に触らないと約束出来ますか?」

 

「……良いから…離せ。」

 

「約束出来ないのであればこの手を離す訳にはいきません。」

 

「味が薄いんだよ。良いじゃねぇか、ちょっとくらい「貴方はちょっとで済まないでしょう?…そんなに塩を足したいなら私が入れますから。」……チッ、分かったよ、じゃあ頼むわ。」

 

そう言うとセラの手が腕から離れ、塩の瓶を掴み、さっきの様に身を乗り出して来たので自分のぬか漬けの入った皿をセラの方まで滑らす。

 

二、三回瓶を振ってから、俺の方へ戻して来た。

 

「……もっと振って欲しいんだが「貴方の注文をそのまま聞いてたら塩分過多で死にますから」俺の勝「……」分かった、分かったよ…」

 

セラに睨まれ、渋々従い、ぬか漬けを噛む…やっぱり味が薄い…塩が駄目なら醤油を「……」…チッ…

 

さっさと結果を出して、橙子にイリヤたちの身体作ってもらったら家を出よう…大体、何で家主の俺が居候に色々言われなきゃならねぇんだ…?俺はこいつらの為にやってるってのに…好き勝手やってるリズたちが羨ましいぜ、全く…



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堕落したブラウニー95

「…で?どういう趣向だ、これは?」

 

「式にお前の事を話したら興味を持たれてしまってな…まあ、魔眼は使わんとの事だから受けてやってくれ…お前の事情は話してあるが、あまり余計な事は言うなよ?」

 

「……どれが地雷か分かんねぇっての。」

 

衛宮家にある道場…俺はそこで目を青く光らせた女と対峙させられていた…

 

 

 

「おしゃべりは終わったか?じゃ、始めようか?」

 

「今更やるのに文句はねぇけどよ、何でそんなノリノリなんだよ…」

 

記憶にあるナイフではなく、竹刀を構える女にそう声をかける…正直、面倒な事この上ない。

 

「さてね。オレも良く分からない…ただ、橙子からお前の話を聞いた時…戦ってみたいと思った。」

 

「…アンタ、戦闘狂の類か?」

 

「別に。そんなんじゃない…ただ…」

 

「…ただ?」

 

それきり口を閉じる…これ以上話す気は無い、か。やれやれ…俺も投影した竹刀を構える…少しでも使い慣れた物を使いたいから敢えて短い竹刀二本を選んだは良いが…失敗したか?正直こいつが届く間合いに入る自信が無い…

 

この女…まるで隙が無い。どうやらナイフよりこちらの方が得意らしい…さて、どうするか?

 

「来ないならこっちから行くぞ?」

 

「っ!?」

 

馬鹿な!?既に間合いに入って来ている!?

 

「ちぃっ!」

 

袈裟懸けに振り下ろされた竹刀を咄嗟に右の竹刀で押し戻し、左の竹刀で喉元を突く!

 

「ふ~ん…」

 

「ちっ!」

 

振り上げられた足が竹刀を俺の手から飛ばす…おい!蹴り有りか!?

 

「オラ!」

 

側頭部に向けた左足が右手で流された…体勢が崩れる!

 

「ふん!」

 

左足を床に着け、踏み締め、後ろに飛んだ…俺の鼻先まで来ていた拳から遠ざかる。

 

「へぇ…これで決まったと思ったけどな…」

 

「冗談じゃねぇ…!殺す気か!?」

 

「…いや、当たっても死なないだろ?」

 

「ざけんな!?死ぬわ!?」

 

「いや、あのさ…それ普通喉を突かれそうにオレのセリフじゃないか?」

 

「…ちっ…それこそ死なねぇだろうが…」

 

「…う~ん…やっぱ柄じゃないな。」

 

「あ!?」

 

「使えよ、宝具とかっての。」

 

「…何だと?」

 

「…だからさ、使えって。」

 

「…それは殺し合いをしたいって意味か?」

 

「いや、オレはやらない。でも、お前は殺す気でオレに向かって来たら良い。」

 

「……」

 

向こうは俺から目を離そうとしない…あの青い眼…アレに見詰められると悪寒が止まらねぇ…俺は目を逸らすと右手の竹刀を放り投げた。

 

「後悔すんなよ。」

 

「するか。良いから早くしろよ。」

 

目を閉じる…意識を深く潜らせる…良し、行けそうだ…

 

「投影…開始…!」

 

俺の手の中に使い慣れた干将莫耶が現れる…やっぱハリボテか…どうもアーチャーの戦った時の様な精度では投影が出来無い…アレだって駄作だが、ここまで酷くはなかった…ま、出来無いものは仕方無い…無い物ねだりは…しない。

 

「行くぞ…!」

 

俺は足を強化し、目の前の女に向かって突っ込んだ。



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親友の妹に転生しました1

負けた。公式の試合で負けたのなんて初めてだ

でも不思議と暗い感情は湧いてこない。全力を出し切ったからかな

 

「……大丈夫か?」

 

膝を着いたまま立ち上がろうとしない私に何か勘違いしたのかそう言って私に手を差し伸べる…がすぐにバツが悪そうにして顔を逸らした。どうか……あー…なるほど。

 

「……日本語なら分かるわよ。」

 

「…!そうなのか?」

 

私は伸ばされたままの彼女の手を掴み彼女に引っ張られつつ立ち上がる

 

「……私ハーフだから。母が日本人なの。」

 

それが彼女織斑千冬との出会いだった……

インフィニット・ストラトス。通称IS。この女性のみ扱えるパワードスーツが世に現れて世界の全てが変わった

 

世界各国の軍は銃などの既存兵器からISを使うようになりISを使ったスポーツも行われるようになった。今は戦闘形式の試合のみだけどいずれ他のスポーツも行われるかもしれない

最も一番の違いは女尊男卑になった事だろうか?

 

私としては男を虐げる女も、虐げられて甘んじている男もはっきり言って見てて良い気はしない。

 

……私の主観は置いといて、今は彼女の事だ

 

モンド・グロッソ……ISを使った試合形式の大会だ

私はその第一回に出場していた

 

私としては詳しいことは分からないが親類にツテがあったらしく知らないうちにエントリーされていたというのが正直な心境

 

……今からは考えられないが当時は最初ということもあって実力如何に関わらずねじ込みやすかったのかもしれない

 

当時私の武装は刺突剣のみ。射撃の素養はどう考えても無かったから実際に扱ったことのある物の方が扱いやすかったのだ

 

教養の一つとして親から言われて習っていたけど私自身は楽しんでやっていた。でもそれは当初だけ。何の気なしに始めたそれは素養があったどころか私にも思わぬ結果を産んだ

 

私はメキメキと頭角を現し気がついたら私と戦える人はいなくなっていた。

 

……退屈していたのは確かだったから勝手に出場が決まっていたとはいえ少しは期待していた。でもすぐに失望した。

この大会でも私をやり込める人は現れなかった。

結局順調に決勝まで到達。

 

刺突剣以外の相手と戦えたのは悪くなかったけれどはっきり言って歯応えが無さすぎた。なので当然決勝の相手にも興味は持てなかった。目の前にいる彼女織斑千冬にも全く期待してなかった。が、すぐにその評価は覆る事になる。

 

彼女は強かった。今まで彼女程の相手には会ったことが無かった。

 

彼女の持つ武器刀と私の使う刺突剣の相性があまり良くなかった事も苦戦の要因になるかもしれないがそれを抜きにしても彼女の実力は頭一つ抜けていた

何より彼女の剣は美しかった

 

時間一杯まで戦って最後に立っていたのは彼女だった

それ以来私には親友が出来た

大会終了後も彼女との付き合いは終わらなかったのだ

 

彼女とは家族ぐるみで付き合うようになった

最も彼女の経済状況の都合上会いに来ていたのは専らこちらだった

 

彼女とは色々な話をし生身の模擬戦をしたりもした。……でも結局一度も勝てなかった。そんな彼女に私は気付けば友愛とライバル心以外の気持ちが芽生えていた

 

……そして運命の日はやってきた

 

第二回モンド・グロッソの数日前

 

「……ごめん。まさかこんなことになるなんて……」

 

「気にするな。身内に不幸があったんだろう?なら仕方ない」

 

この時私は千冬の家にお邪魔していた。二人で大会に出るはずだったのに……

 

「……行ってこい。こちらの事は気にするな。落ち着いたらこっちから会いに行くよ」

 

「うん。……ねえ、千冬……」

 

「どうした?そろそろ行かないと飛行機が出るぞ?」

 

「……私、私ね……」

 

続かない。やっぱり私には言えない。

 

「……大事な話か?……もう時間が無い。次行った時に聞かせてもらおう」

 

「……うん。分かった。またね、千冬」

 

「ああ。またな」

 

私は彼女に背を向け歩く

 

………また言えなかった。でも結構アプローチかけてるつもりなんだけどなあ……

 

実際箒や束、まさかの一夏や柳韻さんにもバレてたから。こうなると千冬が相当鈍いって事なのかな

 

まあいいや。次に会った時は絶対に伝えよう…

 

そう考えながら私は座席に座る

飛行機が離陸し私は目を閉じた

 

……実際この時伝えるべきだった。このせいで私は一生彼女に気持ちを伝えられなくなったのだから……

 

この後のことはよく覚えていない

でもはっきり言えることがある

 

私の乗った飛行機は落ちた

多分私は死んだのだろう

 

そして今の私は……

 

「……姉さん、早く起きて。一夏が作った朝食が冷めるから」

 

「……それはいけないな。今起きる」

 

私は親友の妹になっていた




主人公

前世で千冬と友人になった
フランス人で日本とのハーフ
刺突剣を持たせたら本国で敵はいないほどの実力者だった

千冬との友人付き合いを続けるうち気づいたら恋愛感情に変わっていた
一夏達には気持ちが完全にバレており箒や束は応援、一夏は多少複雑なものの反対はしてなかった

第二回モンド・グロッソの直前に本国フランスに帰るために乗った飛行機がエンジントラブルで墜落しそのまま死去

次に織斑家の一員として転生する
……実は主人公の名前は前世、来世両方考えてたが没にした

遂に着いたガールズラブのタグ
しかし無駄に内容が長い割にBLネタに比べて描写が大人しいのはどうなのか……


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親友の妹に転生しました2

姉さんを起こし私は弟の一夏の元へ戻る

 

「……あっ、十秋姉。千冬姉は起きたか?」

 

「うん。もうすぐ来るよ」

 

「……すまんな。また寝坊してしまった」

 

「……姉さん?そろそろ自分で起きられるようにならないと一人暮らしした時に辛いよ?」

 

「……解っているんだが中々な……。」

 

「……十秋姉、小言は良いから取り敢えず食おうぜ?冷めちまうよ」

 

「……そうだね。食べようか。…頂きます」

 

三人で声を合わせ食べる。基本的に私は食事中は喋らない。何故なら……

 

……ちっ、近いよ、千冬……

 

私は前世で心奪われた千冬の隣に座っているから……正直下手に口を開くと余計な事を口走りそうになる……

この家に千冬の妹として誕生しもう十年近くなるが未だに千冬との距離感に悩む。

 

千冬は警戒心が強い方だったが信用してる人間には素の自分を見せ家族なら更に心を開く

……一夏は弟であり異性であるせいか一定の距離があるが私は同性のせいか物理的にも精神的にも千冬は距離を詰めてくるので非常に心臓に悪い。

……というか千冬?お願いだから私を膝に乗せようとしないで?食事どころじゃ無くなっちゃう……

一夏はニコニコしてないで弟なんだから姉の暴走を止めて?苦笑しながら首横に降らないで!?本当にキツいんだってば!?

 

……というのが千冬が家にいる間の私の状況である。

 

「……では、行ってくる。バイトがあるから今日も遅くなるからな。先に寝ててくれ」

 

「……行ってらっしゃい。姉さん」

 

洗い物をする一夏に代わり見送りをする。……千冬は家事が苦手である。奨学金で高校に行き、かつバイトを掛け持ちし育ち盛りの私たちを養うだけのバイタリティーはあるんだけど家事だけはどうしても苦手らしい。こればかりは前世の時から変わってない。……惚れた弱味と言おうか……毎回彼女の生成する料理に似た何かを口にして寝込んだ苦い記憶が再生される……首を振り考えを切り替える

 

「……十秋姉?俺もう準備出来たけど?」

 

「……ごめん一夏。今ランドセル持ってくるね」

 

……今日は前世の事を夢に見たせいか物思いに更けることが多い気がする……いや。いつもだよね。主に原因は千冬だけど。

 

……同性とはいえ家に私しかいなければ堂々と目の前で着替えるし、一緒に風呂に入ろうと誘ってくる……正直その度に悶絶しそうになるから本当に止めて欲しい。せめて一夏を生け贄にしようと思った事もあるけど……

 

「俺は良いから二人で入ってきなよ」

 

……一夏と私は双子ということになっている……そう、一夏も小学生なのだ。……普通小学生ってもっと年上の家族に甘えるものじゃないの!?お願いだから千冬と二人きりにしないで!?最悪湯船に浸かる前に逆上せちゃうから!?何その母性溢れる笑顔!?小学生男子のする顔じゃないよ!?

 

……実際料理の腕は前世というアドバンテージがあるはずの私より上なので女子力的には負けている事になるのだが。

 

「……姉ちゃん何してんだ!?急がないと遅刻するって!?」

 

「……ごめん!今行くから!」

 

いけない。私のせいで遅刻したらさすがに申し訳が立たない。

 

私は用意していたランドセルを掴むと玄関に向かった。



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親友の妹に転生しました3

第二回モンドグロッソ当日

 

私は一夏と千冬の応援をするために会場入りしていた

……観客席の熱気が凄い。改めて前世で出られなかったのを残念に思う。……あの時もし出場出来てたら私は千冬に勝てただろうか?、それは解らない。でも千冬に想いは告げていたと思う。……結局ここに帰結してしまうのだ。せめて告げていればこんなに悩まなくて済んだと思う。試合の結果は気になるけどそれ以上に私は千冬の気持ちが知りたかった……

 

「……十秋姉?どうかしたのか?試合始まるぞ?」

 

「……ごめん。席はあった?」

 

「……あそこが開いてたよ。出るのが遅れたから座れないかと思ったぜ」

 

「アハハ……ごめんなさい。」

 

私は乾いた笑いを溢すしかない。ホテルを出るのが遅れたのは私が寝坊したからである。お陰で朝食も食べてない。

 

「……十秋姉が寝坊とか珍しいよなあ……千冬姉はしょっちゅうだけど。今朝も俺のモーニングコールで起きたみたいだしな」

 

「……」

 

今回は私は何も言えない。下手に姉さんの事を口に出せば私に返ってくるから。

 

「……取り敢えずこれ買ってきたから行儀悪いけど見ながら食おうぜ」

 

「……」

 

そう言って一夏が取り出した物を見て私は言葉が出なかった。一夏が取り出したのは棒つきのソーセージ。日本でも良くフランクフルトと呼ばれる食べ物である

 

「……姉ちゃん?どうかしたか?」

 

「……!ううん。何でもない。ありがとう一夏」

 

私は一夏からそれを受け取る

……この場合下世話な想像してしまう私が悪いのだと言い聞かせる。……小学生の時ならともかく何気に思春期に差し掛かった一夏を思えばついついそう言う邪推をしてしまうのは仕方無いとも言えるけど。

 

席に座り千冬の試合を見る……特に見栄えは無い。何故なら……

 

「……瞬殺だったな。」

 

「……うん。さすがに相手選手が可哀想になるね。」

 

試合開始からまだ一分も経過していない。千冬の機体暮桜の固有能力零落白夜は今世でもしっかり猛威を奮っているようだ……一時とはいえあれと互角に戦えてた自分が改めて異常だったのだと感じる。……というかあれ前世の時より強いかな。全盛期の私でも瞬殺されそう……

 

放心状態の相手と握手をして試合場から出る千冬に送られる割れんばかりの声援と拍手。……さすが初代優勝者。凄い人気。

 

「……一夏、ちょっとトイレに行ってくるね。ついでに捨ててくるからそれ貸して?」

 

「ん?ああこれか、サンキュー」

 

……私は一夏からフランクフルトの入っていた袋を受け取り会場を出る。

 

「……あった」

 

ゴミ箱より先にトイレを見つけ入ろうとしたら……

 

「……あう!」

 

首に強い痛みを感じてそのまま私は倒れ目を閉じた

 

 



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親友の妹に転生しました4

「……うっ、ここは…?」

 

私は周りを見渡す……何処かの倉庫?

 

「……私確か、トイレを見付けて入ろうとしたら首に痛みを感じて……じゃあ誘拐?」

 

本来は取り乱すのかもしれないが事態を把握すると同時に逆に少し頭が冷えていくのを感じた。

 

「……またか」

 

私は誘拐されるのは初めてではない。……いや。正確には今世では初めてだが前世では二度程経験がある。……私の家は世間一般で言うところのお金持ちの家だったらしく身代金目当で誘拐された。一度目は警察のお陰で救出され、二度目は縄の縛り方が雑だったのであっさりほどき自力で脱出し犯人を制圧した。犯人が一人だったのも幸いした。後ISを持っていない男だったことも。

 

「……今回私が連れ去られたのはISの大会やってた会場。……ISを使える女性がいるかもしれないわね」

 

だとしたら非常に不味い。前世の時ならまだしも私は今ISを持っていない。それに……

 

「……今の私は全盛期には程遠い。」

 

今の私なら何処にでもいる普通の男性にも負けるわね。せめて何か武器になる物は無いかな?

 

「……縛って無いのはそれだけ自信があるからかしら?」

 

やっぱりISを使える女性がいるのかな?だとしたら到底逃げられなさそう

先程から聞こえるのは複数人の男性の声。今は女性はいないのかな?何とか逃げる隙を見付けないと。

 

「……一夏は大丈夫かな。」

 

前世と違い今世の我が家は稼いでくる千冬には申し訳ないけどあまりお金は無い。となれば自ずと理由は限られてくる

 

「……千冬の連覇阻止。」

 

何処かの国の仕業かな。そうなるとISの使える人物は必ず犯人グループにいる。結果的に一夏でなく私で良かったのかもしれない。……ISを使える女性はそれだけ女尊男卑に染まってる人が多いから。

 

「……国が相手なら私は……」

 

どちらにしても何も出来ない。……自惚れじゃなく千冬は間違い無く私を溺愛してたから多分あっさり優勝を蹴るんだろうなあ……

 

「……来ないで欲しいな。」

 

千冬には私の事なんて気にせず優勝を目指して欲しい。……私は強い千冬像を好きになった訳じゃないけどやっぱり目に見える強さはあって欲しいな

 

「……何やってるのあんたたちは!?織斑一夏を拐ってきなさいって言ったでしょう!?」

 

いつの間にか女性が戻って来ていたらしい。男たちに罵声を浴びせているのが聞こえる。……やっぱり私で良かった。ここに連れて来られたのが一夏だったらどんな目に遭わされたのか解らない。

 

「……まあ良いわ。どちらにせよ人質の価値はありそうだからね」

 

……私どうなるのかな?もう一回死にたくなんて無いけど千冬にも来て欲しく無いな。



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親友の妹に転生しました5

「……あら?目が覚めていたのね。」

 

さっきの女性が私に気付いた。こっちに近付いてくる…!

 

私は咄嗟にさっき見つけたガラスの破片を掴んで手を後ろに回し隠す。……手を切ったみたい…痛みと血が流れるのを感じた。

 

「……もうすぐモンド・グロッソの決勝よ。でも貴女の姉は出られないわ。だって貴女がここに居るんですもの。」

 

「……私を誘拐したのはやっぱり姉さんの優勝阻止が目的なの…?」

 

「……賢いわね。そういう子は好きよ。そう。私の目的は織斑千冬が決勝に出るのを阻止する事。だから小憎たらしい織斑一夏を攫うようにこいつらに言ったんだけど、ね……」

 

そう言い彼女は男たちを睨む。

 

「……いやあ。すまねぇな、嬢ちゃん顔が似てるから間違えちまった。」

 

……白々しいにも程がある。確かに今世の私の顔は一夏に似ているけど私と一夏では体格も服装も違う。

 

「……まあ良いわ。人質としてならどちらでも構わないし、何より……」

 

そう言い私に近付くと私の頬に手を這わせる

怖気が走る

 

「……なっ、何…?」

 

「……怯えてるわね。可愛いわ。私は貴女みたいな子が大好きなのよ。」

 

……躊躇してる場合じゃ無さそう。さすがに私も千冬以外の同性に食われる経験はしたくないよ……

 

私は彼女を見る……私に全く警戒していないらしく嗜虐的な笑みを浮かべる彼女はISを纏っていない。やるなら今!

 

「…ッ!このガキ!」

 

私は彼女の顔を破片で切りつけ怯んだ彼女を突き飛ばした。

 

「……何をしてるの!?早く捕まえなさい!」

 

私は突然の事に驚いている男たちの間を走り抜ける。

目指すはあのドア!

私はドアを開け外に出た。

 

……スタミナには自信があるけど何処に逃げれば良いんだろう?

外に出て勢いで適当に走っている私の周りには私が居たのと同じような倉庫が並んでいる。

……そもそもここは何処なのかな?

千冬との交渉が目的ならここは多分ドイツなんだろうけど……

私はドイツの地理には詳しくない。

方向音痴の気は無いけど何処に行ったら良いのか分からないんじゃ……

 

「……とにかく今は走る!」

 

取り敢えず後ろから追いかけてくる男たちを撒かなきゃならない。私はスピードを上げた

 

……私は前世の頃より小柄だ。身体能力の差の出る一因である。実際私はどうしても前世との身体と感覚が合わないせいで運動はあまり得意では無い。

 

……でも小柄だから走るのには自信がある。

コンテナに囲まれたコーナーを録に減速せずに無理矢理足捌きだけで曲がる。

 

「……イタッ!」

 

……失敗した。足に激痛が走り倒れ込んだ身体を起こし立ち上がり再び走ろうとするけど……

 

「……ッ!ダメ。完全に捻った…」

 

走れないどころかただ立ってるのも辛い。足音は遠いけどまだ聞こえる。

 

「……このままだと追いつかれちゃう……」

 

私はキョロキョロと辺りを見回し先程から見えている倉庫のうちの一つに隠れる事にした。足を引きずりながら倉庫まで向かいドアに手をかける

……鍵はかかってない。私は中に入った。

 

中は私が居た倉庫と特にそれほど変わりは無い。

取り敢えず私は積み上がっているコンテナの影に隠れた。

 

ブーブー……

 

携帯のバイブ……そうか。試合中に鳴っても困るからマナーモードにしたんだっけ。

私は携帯を見る……電話だ。

 

「……一夏…。」

 

誘拐についてもう交渉されてたのかな。そうでなくてもさっき外を見たら完全に夜になっていたから普通に連絡は来るだろうけど。……どうしよう…。電話に出れば一夏に助けを呼ぶよう求める事も出来る。でも……

 

「……ここが何処か分からない。それに……」

 

私は千冬や一夏に助けに来て欲しくない。でも……

 

「……私に何かあったら千冬や一夏は悲しむのかな……」

 

電話はまだ鳴り続けている……私は電話を切った

 

「……私が自力で逃げ切れば良い。そんなに難しくない。」

 

私は自分にそう言い聞かせる。やがて私のいる倉庫のドアが開いた。

 

「……ここにいるんでしょう?鬼ごっこは終わりよ。」

 

そこにはさっきの女性がISを纏い立っていた。……うん。そうだよね、分かってた。生身の人間を撒けてもISは振り切れないよね……

 

「……出てきなさい。ここに入って行くのは見えていたのよ。人の顔に傷付けてくれちゃって……今なら謝れば許してあげるわ……」

 

……彼女の表情を見る限り許してくれそうには見えない。……あ〜あ…電話切らない方が良かったかな……



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親友の妹に転生しました6

「……見~つけた。」

 

「…!グッ!」

 

コンテナの陰から私は胸ぐらを掴まれ引っ張りだされた。

 

「……見て?貴女が付けてくれた傷よ?顔よ?跡残ったらどうしてくれるの?」

 

「……」

 

……怖い。彼女は笑ってるけど彼女の目は笑ってない。というか明らかに様子が変。

 

「……うふふふふ。悪い事したらどうなるか知ってる?そう、罰を受けるのよ。」

 

そう言って彼女は私を放り投げた。

 

「……あう!」

 

受け身も取れずにそのまま床に叩き付けられ思わず声を上げた。

身を起こそうとすると身体に重みがかかり床に床に押し付けられた。

 

「……あぐっ!…!痛い!離して!」

 

そのまま髪を掴まれ顔だけ起こされた。

 

「……貴女にも同じ傷を付けてあげるわね…」

 

そこに居たのはISを解除し私にのしかかる女……ナイフ!

 

「……あら?動いちゃダメよ?余計な所まで切っちゃうわよ?」

 

「……!」

 

首筋に当てられるナイフ。

 

「……大人しくしててね……」

 

……私もうダメかも……ごめんね、千冬、一夏……

 

「……十秋!」

 

「……なっ!?織斑千冬!?何故ここが!?」

 

「……貴様!十秋から離れろ!」

 

「……ちふ……姉さん。」

 

思わず千冬と呼んでしまいそうになり言い直した。……どうしてここに……?

 

「……このナイフが見えない?私に近付いたらこの子を殺すわ!……貴女も動いちゃダメよ?」

 

「……貴様ぁ!」

 

私の為に大会を蹴り助けに来てくれて私の危機に何も出来なくなる千冬。……不謹慎だけどちょっと嬉しかった。でも……

 

「……姉さん、大丈夫だよ。」

 

「……十秋?何を言って……やめろ!」

 

私は無理矢理身を起こす。もちろんそんな事をすれば……

 

「……動いちゃダメと言ったわよねぇ…?」

 

当然そのナイフが振るわれ……さよなら、千冬、一夏……

 

「……十秋姉!」

 

一夏の声が聞こえたかと思うとその身が軽くなるのを感じた。見れば彼女は倉庫の床に倒れている。声の聞こえた方を見れば一夏がいた。

 

「……一夏?何でここに…?」

 

「……何でって決まってるだろ!?十秋姉を助けに来たんだ!」

 

そう言う一夏。気を抜いた次の瞬間……

 

「……十秋!大丈夫だったか!?」

 

千冬が駆け寄って来てそのまま私に抱きついてくる。

 

「…!ねっ、姉さん……苦しい……」

 

「……千冬姉?心配だったのは分かるがちと抑えて。十秋姉がおちそうになってる。」

 

「…!すっ、すまん……」

 

「……」

 

私はどんな顔をしているだろう……冷静になってみると千冬の綺麗な顔がこんなに近くに……あっ、ダメ……

 

「……十秋!?」

 

「……十秋姉!?」

 

私はそのまま意識を失った。

 

 

 

 



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親友の妹に転生しました7

「……んんん……あれ?私……そっか。あの後気絶しちゃったんだ……前世だとああまで千冬のパーソナルスペース狭くなかったからなあ……あ…」

 

私は思わず千冬と呼んでしまい辺りを見回す。……病室、だね……一応前世でも入院経験はあるから何となく分かる。そして私の横には……

 

「……千冬。」

 

「……」

 

私の横には千冬が椅子に座っていた。……眠っているみたい……よく見ると隈がすごい……全然眠れてなかったんだろうな……

 

「……今は夜だね……」

 

この病室には時計も無いしカレンダーすら無い。だから私がどれくらい眠ってたのかは知らないけど窓の外は暗かったから夜なのは分かった。

 

「……千冬…」

 

「……」

 

私は何て声をかければいいんだろう……多分私のせいで千冬は連覇を逃してしまった。

 

「……でも貴女は気にするなってどうせ言うんでしょうね……」

 

その光景が目に浮かぶ様……千冬はあくまでも私たちを養うために日本代表なんて大役を背負っていた。……でも千冬は決勝戦は蹴ってしまっただろうし日本の敗退は決定した。

 

……千冬の性格から言って普通に責任取るために引退ぐらいはしそう……そればっかりは止めて欲しいけど……あ……

 

「……そう言えば今ここには私と千冬しか居ないんだよね……」

 

これからの事とか千冬に対しての罪悪感とか色々あるけど……

 

「……ちょっとくらいなら良いよね……」

 

私は身体を起こし……

 

「……痛っ!あれ?これ、ギブス…?」

 

どうも私の左腕は折れてしまっているらしい。良く見ると他の部分もガーゼに包帯だらけ……でも知った事か。

 

「……寝てる間なんて卑怯かも知れないけど今の私は千冬の妹。前世で告白していたら結ばれていたかは分からないけど今はこんなタイミングしか多分チャンスは無いし……」

 

私は自分に言い訳しつつ左腕に負担をかけないように比較的無事な右腕だけで何とか身を起こす。それから眠る千冬に顔を近付けた……

「……」

 

ちっ、近い……また気絶しそう……でも後数センチだから……

 

「……十秋姉?起きてるのか?」

 

一夏…!あっ!千冬が起きる!

 

「……うっ、うん!起きてるよ!?どうぞ~!」

 

「……むっ……寝てしまったか……!十秋!目が覚めたのか!」

 

そう言って私に抱きつこうとする千冬……ちょっと待って!今私怪我人!今の千冬の勢いで抱き着かれたらヤバいって!

 

「……千冬姉ストップ!」

 

千冬を羽交い締めにする一夏……助かった……。

 

「何だ一夏!?十秋が目を覚ましたんだぞ!?」

 

「見りゃ分かるって!取り敢えず落ち着けよ!十秋姉は怪我人なんだぞ!?」

 

「……そっ、そうだったな、すまん。」

 

「……アハハ…ありがとう、一夏……」

 

……ちょっと残念だったけど……まあ良いか。

 

 

 

 



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親友の妹に転生しました8

「……姉さん、その……大会はどうなったの?」

 

「……十秋、お前が気にする必要は無い。」

 

「……千冬姉?十秋姉にはそんな言い方したらダメだって分かってるだろ?」

 

「……そうだな。分かった。はっきり言おう……私はお前を助けに行くために試合を蹴った。当然試合は不戦敗だ。日本では今、私への批判が集中しているらしい。」

 

「……そんな…」

 

やっぱり私が誘拐されたせいで……

 

「……あー…十秋姉?多分気にしなくても大丈夫だと思うぞ?」

 

「……どうして?」

 

「……いやだってそれは……あっ、来たみたいだな。」

 

そう言って一夏はその場で一歩後ろに下がる。その直後に見覚えのある女性が突然現れた。

 

「……やっほー!モガッ!ムグムグ」

 

束だ。ちなみに変な喋りになってるのは一夏が後ろから口を抑えてる為である。……前世でも物理法則無視して突然現れたりしてたけど……もしかして今一夏束の気配に気付いてた……?

 

「……やっぱり来た。……あー暴れないで。ここ病院。それから不本意だったんだろうけどあんた一応指名手配だから大人しくしてて。約束してくれるなら離しますから。」

 

……あの束を完全に抑え込んでる……もしかして私……一夏にも負ける……?ちょっとショックかも……

 

「……ぷはぁー…!もう!いっくん酷いよ!せっかくいっくんたちを助けに来たのに!」

 

「……助けにとは具体的に何でしょうか?内容次第ではこの場で俺と千冬姉が貴女を気絶させて拘束します。」

 

「……え!?ちょっといっくん冗談だよね……!?ちっ、ちーちゃん!?」

 

「……悪いが私も一夏と同意見だ。お前はいつもやり過ぎで話をややこしくするからな。私たちが日本に帰れなくなったらどうするつもりだ?」

 

「……だっ、大丈夫だって!束さん、ちゃんと考えて「仮に文句言う奴を片っ端から消してくとかだったらこの場で俺があんたを殺しますよ……!」ヒィッ!」

 

……私の弟がとてつもなく怖い。一夏ってあんな殺気も出せるんだ……良く見たら千冬も顔色が悪い。……私自身も今身体の震えが止まらない。……あれを直接ぶつけられてる束の状態なんか想像もしたくない。

 

「……一夏それくらいにしといてやれ。束もそこまで馬鹿ではないだろう。……そうだよな?」

 

千冬の確認に物凄い勢いで首を縦に振る束。……涙目通り越してもう涙と鼻水で顔がグチャグチャだ。……というかホントに離してあげて?何か過呼吸起こし始めてるから

 

「……分かったよ。」

 

「……ヒュー…ヒュー……!」

 

……あっ、これダメなやつだ。

 

「……一夏!この馬鹿!やり過ぎだ!」

 

「……一夏取り敢えず紙袋取ってきなよ。束さんがいるんじゃ人も呼べないし……」

 

渋々病室を出ていく一夏。とは言え……

 

「……大丈夫か、束?」

 

「……うん。何とか……」

 

束が過呼吸になった理由は一夏が圧をかけたせいだからこの場合録に殺気を緩めようとしなかった一夏が部屋からいなくなれば症状は緩和される。

 

「……で、お前は何を考えているんだ?」

 

「……うん。ちゃんとちーちゃんもいっくんも十秋ちゃんも普通に暮らせるように考えて来たよ。……と言っても一時は注目を浴びるかも知れないけど……」

 

余談だが束は何故か私には渾名を付けていない。まあ束の渾名の付け方だとアレな呼ばれ方をする事になるから結果として私は良いんだけど……

 

「……やった事がやった事だからな。多少は仕方ないさ。で、何をするんだ?」

 

「……一応今回の誘拐事件は日本政府は伏せようとしてたから余計な事をしないように脅しはかけてあるよ。」

 

「……あの馬鹿共が……!」

 

千冬がパイプ椅子を握り締める……あっ、手の形に凹んだ。

 

「……姉さん、病院の備品壊しちゃダメだよ……」

 

「……あっ、しまった……」

 

「……話を続けるね……誘拐事件の事は明るみに出るから同情票は得られるけど多分ちーちゃんたちはしばらく注目の的になると思う……それに批判はゼロには多分ならない……」

 

「……そうだろうな……」

 

「……しばらくは第三者の護衛が必要かなぁ……こればっかりは束さんにもどうしようも無かったよ……」

 

「……まあ十分だ。理由も知られないまま一方的に責められるよりは良い。……それに私はしばらく日本には帰れないからな。」

 

「……え?」

 

「……千冬姉それどういう事だよ?」

 

一夏……戻ってたんだ……

 

「……そもそも十秋が誘拐されたのが分かったのは一夏が十秋が観客席を出てから戻ってこない事を私に伝えに来たからだが……手掛かりが無かったからな。ここドイツ政府に協力を取り付けるしか無かった……その協力の条件がドイツ軍IS部隊の教官を私がしばらく務めることだからな。」

 

「……千冬姉、何でそんな大事な事黙ってたんだよ……」

 

「……すまなかった……」

 

その場で深々と頭を下げる千冬。……卑怯だなあ……それじゃあ私たちはもう何も言えないじゃない……

 

「……ちーちゃん本当に良いの?連中を黙らせることなら多分出来るよ?」

 

「……もう契約は交わした。約束は守る。……一夏、十秋、後のことは心配するな。しばらく私は帰れないが定期的に連絡はする。」

 

「……ねぇちーちゃん?ちーちゃんがいなかったら二人はどうするのさ?私も様子は見るつもりだけど必ず駆けつけることはちょっと難しいよ?」

 

「……一応護衛については私にアテがある。……まさか本当に使う事になるとは思わなかったがな。」

 

 

 



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親友の妹に転生しました9

「……更識刀奈よ。宜しくね、織斑十秋ちゃん♪」

 

……生活力皆無の姉のドイツ滞在の準備を手伝う為仕方無くドイツに残った一夏。そして私は姉さんの私物を送る為と家の様子を確認する為一足先に日本に戻っていた……ちなみに怪我そのものは日本の病院で治療可能だそうな。片腕はまだ使えないから不便だけど。

 

何度も「何かあったら困るから帰るのは俺の方が…」という一夏の心配を振り切ったのはもちろん千冬の暴走を警戒してである。……というか高々数日だけだとしても間に一夏がいない状態で残されたら私の方が持たないよ……嬉しいけど。

 

そうして我が家に戻って来た私の目の前に不審者……

 

「……十秋ちゃん酷いじゃない……こんな可愛いお姉さん捕まえて不審者だなんて……」

 

「……ナチュラルに心読むの止めて下さい。不審者じゃないなら貴女は何なんですか?」

 

お姉さんと言っても本人は精々私の一つか二つ上程度の年齢に見える。……知り合いじゃないよね……?少なくとも私には覚えは無い。

 

「……あれ?貴女のお姉さんから聞いてない?私の家更識家に貴女のお姉さんが依頼して来たのよ?自分がドイツにしばらく滞在する事になったから貴女と弟さんの護衛をして欲しいって。」

 

「……事情は分かりました。でもそれで何故貴女が…?」

 

護衛という位だから普通はもっと強そうな人が来るのでは?女性ならISが使えるんだろうけどさすがに私とそう歳の変わらない少女は無いと思う……

 

「……信じられないのは無理無いけど私、結構強いのよ?それに……貴女としても多少歳の離れた女性ならまだしも、例えば一回りも歳の差のある男性に四六時中ついてこられたら落ち着かないんじゃない?」

 

「……それはまあ……」

 

それは護衛だと分かってても心情的にかえって襲撃者以上に警戒するかもしれない。

 

「……貴女自身武術の心得はあるみたいだけど……どっちみちその怪我じゃ戦えないでしょ?それに生活にも支障が出る。私はその日常生活のサポートも兼ねてここに来たの。」

 

「……」

 

微妙に納得行かないが彼女の言う事にも一理ある。……一夏が戻るまでしばらくある事だし何より男性の一夏には補助をお願い出来ない事も出てくる……

 

「……そうですか。宜しく御願いします。」

 

「……はい♪お願いされました♪」

 

「……それじゃあ家に入りましょうか?」

 

「ちょっと待って。もしかしてこの家でそのまま生活すると思ってる?」

 

「……え?」

 

「……さすがにこの家に私が通うのは難しいから貴女と弟さんは家で引き取る事になってるんだけど……それも聞いてない?」

 

「……はっ?何ですかそれ!?」

 

そんなの聞いてない。私は護衛が付くことしか聞いてない……!私は携帯を取り出すと姉さんに電話をかけた……。

 

 



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親友の妹に転生しました10

結局私と一夏の更識家入りは覆らなかった。……ちなみに一夏は私が電話して来て初めて事情を知ったらしい……電話口でほとんど半狂乱で千冬を問い質していたようだ。たまたま様子を見に来ていた束曰く……

 

「……ちぃちゃん伝えるのを忘れたみたいだよぉ。」

 

……私は一夏に思いっきり絞っておくよう束さんに伝えてもらった。……一夏は言われなくても状態だったみたいだけど。

 

「……えーと……取り敢えず引越しの荷造りしちゃおうか?貴女の分と一夏君の分、それから貴女のお姉さんの向こうでの荷物ね……ああ。うちの方の人たちでやるから貴女は動かなくて大丈夫よ、指示してくれれば良いから。後、大体の物は家にもあるから消耗品はあまり持って来なくて大丈夫よ。……しばらく家を留守にする以上電気は止めるから冷蔵庫の中は空にしなきゃ行けないけどね……ドイツに長期滞在するなんて予定は無かったんだから食材は色々残ってるでしょ?」

 

「……はい。お世話になります……」

 

千冬ってば……これじゃあ私初対面のこの人に頭上がらないじゃない……荷造りの手伝いすら出来ないなんて……一夏と代わってもらうんだったかな……それはそれで地獄だけど。

 

 

 

「……さて、これで終わりね。」

 

家の中から家族二人分の私物が持ち出され車に積まれる……私のは……

 

「……ねえ?十秋ちゃん?貴女の私物ってこれだけ…?」

 

「そうですけど、何か?」

 

「……化粧品とかは?」

 

「…?化粧水は使ってますけど…?」

 

「……これは磨きがいがありそうかな……十秋ちゃん、楽しみにしてて♪」

 

「……」

 

笑ってるのに目が笑ってない顔って言うのはあんまり目にする機会は無いけど今正にこの場に笑顔の鬼が顕現していた。……私の私物ってそんなにおかしいかな……姉さんみたいに服の九割がジャージって訳じゃないし……

 

「……いや。おかしいからね?いくら中学生でも今どきは最低限お洒落くらいするからね?服は機能性だけじゃなくて見た目の良さも重視するものよ?化粧品持ってないのは分かるけどさすがに中学生で化粧水のみっていうのは、ね?」

 

……そんなにおかしいかな?私自身前世の時は中学生で化粧をするなんて考えもしなかったしそれからも私自身があまり好きじゃなかったから化粧はかなり薄目でしかしなかった。……というかまた心を読まれた?

 

「……十秋ちゃんが分かりやすいだけだからね?……さてと。せっかく素材が良いんだから磨かなきゃね。お姉さんに任せなさい♪」

 

……拒否権は無さそう。面倒な人に目を付けられたかな……一夏!早く帰って来て!?

 

……更識家の車に刀奈と乗った私の中では往年の名曲ドナドナのミュージックが流れていたのだった……

 

 



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親友の妹に転生しました11

出荷される子牛の感覚を味わいながら私がやって来たのは純和風の大きな屋敷。

 

「……わぁ…」

 

口を開けたまま思わず間抜け顔を晒してしまっただろう事実には目をつむって欲しい……いや。嘗ての私の家はお金持ちとは行ったけどそれ程大きな家に住んでた訳じゃないしこんな大きな屋敷に住んでる日本人の知り合いや親戚いなかったし。

 

「…!そうだ荷物!」

 

とまぁ急いで荷降ろしを手伝いに行ったら大人数の女性たちにやんわり断られてしまい断念……男の人だったら気にしたかもしれないけど運んでるのは女性だったしなぁ……

 

「……十秋ちゃんこっちこっち!」

 

「……あっ!はい!」

 

刀奈に呼ばれ向かう。彼女に手を引かれ……そう言えば何か自然に手を繋がれたんだけど……

 

「……はい!ここが貴女の部屋よ!」

 

そう言って案内された部屋はやけに広かった……えっ!ここを私一人で!?

 

「……広くないですか?」

 

「……そうかな?そう言えば貴女お姉さんと弟さんと三人暮らしだったみたいだけど部屋はどう分けてたの?」

 

「……姉と相部屋です。カーテンで仕切って隣が一夏の部屋で「あっ、うん。大体分かったわ……」そうですか。」

 

何か問題だろうか?一応部屋は仕切ってたし問題は無いと思うんだけど……というか私としては千冬と相部屋なのが一番の頭痛の種である。……抱き枕代わりにされていつもカチコチになりながら何とか寝てたから……あれ何とか睡眠取れるまで一年近くかかったなあ……

 

「……取り敢えず十秋ちゃん買い物行こう?」

 

「……え?必要な物は大体持ってきましたけど?」

 

遠い目をしていた私に向けられた誘いにそう答える。……特に着いて早々買わなきゃいけないものは無いはずだけど……

 

「……十秋ちゃん用の化粧品や服を買いに行くの!」

 

……ああさっきの……あれ決定事項なんだ……

 

「……でも服は大体揃ってますし第一お金は「貴女のお姉さんからちゃんと頂いてるわ。」でも……」

 

「寧ろお姉さん凄く嘆いてたわよ……自分が不甲斐ないせいで妹にお洒落もさせてあげれず申し訳ないって。」

 

……千冬……私別に気にしてないのに……というか別にお洒落に興味は……

 

「……あっ!簪ちゃん!」

 

私が考え込んでる間に刀奈は部屋を出ると誰かを連れて来た。

 

「……何?お姉ちゃん?」

 

そこにいたのは気だるそうな顔をして眼鏡をかけた女の子……刀奈の妹さん?一瞬地味に見えたけど良く見れば刀奈に負けず劣らずの美少女さんだ。

 

「……十秋ちゃん!この子は私の妹の簪ちゃん!簪ちゃん、今日からこの家に住むことになった織斑十秋ちゃんよ!」

 

「聞こえてたよお姉ちゃん。……更識簪です。」

 

「……織斑十秋です。宜しくね。」

 

姉に似ずダウナー系なのかなあ……でも姉の方は元気過ぎるしバランス取れて良いのかも。



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親友の妹に転生しました12

「お姉ちゃん、私も行く。」

 

「…うん…というか私からもお願いするわ…」

 

私の買い物に更識妹が同行する事になりました…何で?ただ私の私服を見せただけなんだけど…数着見せたら急に顔色悪くなって物凄く真面目な顔で提案してきたんだけど…私のセンスってそんなに酷い!?

 

「お姉ちゃん、人手が要るよ…」

 

「…そうね。これはもう更識家の女性陣全員連れて行きましょう「そんなに人数要らないんじゃ」十秋ちゃん?」

 

「はい?」

 

「「美的センスゼロは黙ってて。」」

 

「…はい…」

 

前世の年齢合わせれば私の方が歳上なのに私は歳下二人に言い切られて撃沈した。……二人とも酷くない!?

 

ちなみにその後やって来た二人のお母さん、更識家の女中さん、たまたま通りがかった更識家当主の更識楯無さんにまで駄目出しされて立ち直れなくなりました。

 

その場で体育座りして動こうとしない私はやって来たワゴン車の後部座席に乗せられそのままシートベルトをされ車は発進。

 

「ドナドナド~ナ、ド~ナァ」

 

「「十秋ちゃん(さん)?煩い(です)」」

 

「……ごめんなさい。」

 

更識姉妹怖い…

 

「…というか人聞きの悪い。別に取って食いやしないわよ。」

 

「ただ買い物行くだけですからね。」

 

「Il était une fois un petit garçon

Qui vivait dans une…」

 

「「何語!?」」

 

フランス語だよ…というかこっちの歌詞は私の状況には別に合って無いんだよね…

 

「十秋ちゃん、いい加減にしてもらえるかしら…?」

 

「……ごっ…ごめんなさい…」

 

更識母が一番怖いよ~!

 

「…あの…ここまでしてもらってなんですけど私別にお洒落に興味なんて……」

 

「十秋ちゃん…貴女のあれはお洒落が苦手どころか最低限のTPOからすら外れてるわよ…」

 

「え!?」

 

遠い目をした更識母からの指摘…そんなに酷い!?

 

「十秋さん…持ってる服の大半がモノトーンはさすがにどうかと思います…」

 

え!?黒ってそんなに駄目なの!?

 

「そもそも黒い服って何と合わせても映えにくいんだけど…」

 

更識姉妹のダブル駄目出し…え~…?今まで指摘された事無かったんだけど…

 

「大人になってからならまだ分かるけど貴女まだ中学生でしょ?もう少し明るい色の服を選んでも良いんじゃない?」

 

「何て言うか…性に合わなくて…」

 

「貴女特に今、怪我も目立つしね…服装位は明るいの着ないと…それから刀奈が化粧進めて断ったみたいだけど…正直、今の貴女は化粧は必須だと思うわよ…」

 

「え?」

 

どうして?

 

「貴女、本当に自分に無頓着なのね…貴女の顔…幸い、いずれは消えるでしょうけど今は傷が残ってしまっているわ…」

 

「……そのためにわざわざ化粧を?」

 

「女の子だからね。」

 

そういうものなのかなあ…私にはどうしてもよく分からなかった…



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親友の妹に転生しました13

そうしてドナドナされてやって来ました、大型ショッピングモールレゾナンス。

 

女性陣だけかと思えば荷物持ちをさせられる予定の男性陣も連れてこられていた。……良くある女尊男卑の雰囲気はしないね……しかし私一人の為の買い物に駆り出されて来る辺りさすがに申し訳なくなってくる……

先にご挨拶を……

 

「……十秋ちゃん?何処へ行くの?」

 

刀奈に捕まった。

 

「……荷物持ちをしてもらう訳ですし先にご挨拶でもと「人数も多いし帰ってからで良くない?」え~と……」

 

「悪いけどそのままフェードアウトしようとしてるのバレバレだからね?はぐれたら貴女一人で帰れるの?」

 

「……無理です、はい。」

 

レゾナンス自体は行ったことあるけど外の景色もろくに見てなかったから更識家の場所は分からない……

 

「さっ、行きましょ。」

 

「……はい。」

 

 

 

「……十秋ちゃん、こっちが布仏虚ちゃん、こっちが妹の布仏本音よ。」

 

「布仏虚です。宜しく。」

 

「布仏本音だよぉ~。本音って呼んで。」

 

「……織斑十秋です。宜しく。」

 

「布仏家は代々更識家に仕えているの。虚ちゃんが私の従者で本音が簪ちゃんの従者なの。……ちなみに虚ちゃんは私の一つ上よ。本音と簪ちゃんは同年代だけどね。」

 

「……私が一番歳上ですがこれから一緒に住む訳ですし緊張しなくて良いですよ。」

 

「そうそう家族なんだから気兼ねせず虚ちゃんって呼んであげてね「お嬢様はもう少し歳上を敬ってください」え!?」

 

「……えーと…」

 

「……気にしないで下さい。二人は何時もあんな感じなんで。」

 

「……そうなんだ…あっ、敬語は良いよ。同い歳でしょ。」

 

「……良いの?じゃあ十秋って呼ぶね。私も簪で良いから。」

 

「私はとーちゃんって呼ぶね~」

 

「……本音はあだ名を付ける癖が有って……」

 

……何処ぞの神出鬼没の天災兎を思いだした。というか遂にそのあだ名で呼ばれる日が……

 

「……貴女たちそろそろ行くわよ?」

 

更識母による号令にて動く。そう言えばこの人の名前聞いてないな……

 

……異様に大所帯で動く為私たちは非常に目立っていた。……うう…恥ずかしい……

 

「……十秋ちゃん気付いた?」

 

「……何がですか?」

 

大所帯に挟まれて動くのが非常に恥ずかしいと言うのはよく分かったよ……

 

「……私たちと十秋ちゃんの格好比べてみて……あー…本音は参考にしなくていいからね。」

 

「……え~…」

 

そう言われ本音以外の人たちの服装を比べてみる……うーん……あっ…

 

「……私、もしかして浮いてます?」

 

「……もしかしなくても物凄く浮いてるわよ……」

 

そんなに酷いかなあ……確かに私を捉える周りの視線はちょっと気になる……

 

「……私たち所か女中さんたちも誰も暗色の服来てないでしょ?本音でさえ子供っぽくはあるけどちゃんと明るい色の服来てるわよ?」

 

「……」

 

改めて見直す……うーん確かに黒い服着てるの私だけみたい……

 

「……野暮ったい訳じゃなく寧ろ似合ってこそいるけどやっぱり中学生で黒のみって言うのわねぇ……」

 

そうなのかな……

 

「……という訳で、十秋ちゃんの為に私たちが明るい色の服を探してあげるから!」

 

「……ちなみに拒否権は…?」

 

「ナイわ♪」

 

清々しい笑顔で言われ私は凹んだ。……そしてここから私にとって地獄の時間が始まる事になる……実は千冬を着せ替え人形にした事はあったけど私がそうなるなんて思わなかったなぁ……



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親友の妹に転生しました14

「……十秋ちゃんすごく似合ってるわ!」

 

「……そうですか。」

 

着せ替え人形にされた私は……既にどの服を見ても同じにしか見えなくなっていた……千冬もこんな気持ちだったのかな…?ごめんね、千冬……

 

「……それじゃあ次を着ましょうか。」

 

「……へ!?」

 

まっ、まだ終わってなかったの!?

 

……とまあ更識家の女性陣に散々振り回され(服は思いの外リーズナブルな値段でそこはホッとした。三、四十着は着た気がするのに買ったのはせいぜいその半分位なのは気になるが)そして今は……

 

「……十秋ちゃん、本当にそれ入るの?」

 

フードコートの席に座った私の目の前には食べ物の乗った皿が何枚か。

 

「……そうですけど……何か?」

 

私は家族の中でも食べる方だ……一夏より食べてたりするから食べ過ぎかなとは思いつつ今回はセーブしてるつもりなんだけど……

 

「……何でもないわ。」

 

反応から察するにこれでも一般的には多い方らしい……これから少し考えようかな……お腹周りが気になるし。

 

「……そんなに食べて何処に行くのかしら……」

 

口を濁したみたいだけど刀奈が何を言いたいかは正直分かってたり……

 

「……私は胸は小さいですから。」

 

「……あっ!?ごめんね、そういう意味じゃないのよ?」

 

「……」

 

その反応はそう思ってたと言ってるも同然なんだけど……前世の因縁なのか私は比較的太りにくいが肝心の栄養は母性の象徴には向かわないのだ……今世は前世と違い背も低い……

 

「……大丈夫。まだ中学生なんだから可能性が「気休め言わなくても大丈夫ですよ?」……」

 

……簪が姉の発言に思う所があるのか睨み付けているのが視界の端に映る……言い出さないのは私がいるからなのか、若しくは私より胸が大きいからなのか……

 

「……それにしてもよく太らないね。…本音みたい。」

 

「ほえ?」

 

……本音は背が低いけど胸は大きい。ちょっと比べられると凹む……いっそ揉んで腹いせでも……いやいや。千冬以外でその気にはならないかな。

 

「……本音食べ過ぎじゃない?」

 

件の本音は私がドン引きする量を口に運んでいる……さっき私の服選びそっちのけでお菓子を大量に買い食いしてた気がするんだけど……

 

「ほえ?そう?」

 

キョトンした目でこちらを見る本音……あっ、可愛い。

……とても私と同年代とは思えない。

 

「……」

 

気が付くと私は本音の頭を撫で始めていた

 

「……ほえ?とーちゃん、どうしたの?」

 

「……はっ!ごめん、嫌だった…?」

 

「……別に嫌じゃないよぉ。もっと撫でてぇ。」

 

……可愛い。何かどっと疲れた感じがしてたけど本音見てると少し癒されるかも。

 

「……十秋ちゃん、本音で癒されるのは良いけど手が止まってるわよ?」

 

「……え!?」

 

言われて見ればもう皆食事の手が止まっている。この場でまだ残ってるのは私と本音だけ……そう言えば更識家のお手伝いさんたちは何処に……と。まずは食べちゃわないと。

 

「……ごめんなさい。急いで食べますね。」

 

「私から言っておいてなんだけど別にそんなに急いで食べなくても大丈夫よ。時間はあるしね」

 

「私たちは待ってるから大丈夫だよ、十秋。」

 

「……ええ。私たちは気にしませんから。」

 

微笑ましい目で見られて少し居心地悪く感じながら私は食事を終えた。

 



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親友の妹に転生しました15

買い物を一通り終え昼食も終えた私は少し遊んで行こうと誘われレゾナンス内のゲーセンへ……私片手使えないんだけど?

ちなみに更識母やお手伝いさんたちは一足先に帰って行った。残ってるのは私たちの乗って来た車の運転手だけ。……運転手さんもそうだけどそもそもお手伝いさんや更識母は本当に私の買い物の為だけに来たみたい……後でお礼言わなきゃ。

 

「……十秋ちゃん、上手いのね……本当にゲーセン初めて?」

 

「……ええ。そうですけど?」

 

家に余分に使えるお金はあまり無い。一夏には付き合いがあるから最低限のお小遣いの範囲内で行ってるみたいだけど私はゲーセンに行った事は無い……今世では。

 

「……まあこういうのはコツが分かると、まあ何とか。ここが良心的な配置なせいもありますけど。」

 

……UFOキャッチャーは前世で散々やった。今更片手だからってこの配置の甘さなら早々ミスしない……ちなみに前世で私の取ったぬいぐるみの大半は千冬にプレゼントしていた……ああ見えて可愛い物が大好きなのだ……あの笑顔を思い浮かべると私も蕩けそうになる……

 

「……十秋ちゃん?どうかした?」

 

「…!いえ、何でもないです。」

 

「……疲れちゃった?そろそろ帰る?」

 

「……そうですね、そろそろ……」

 

はっきり言って着せ替え人形にされるのは堪えた……本当にごめん、千冬……

 

「……そっか。ちょっと待っててね。今まだ簪ちゃんと本音が対戦してるから。」

 

刀奈の見ている方に私も目をやると格闘ゲームに興じている二人が……久しぶりにやりたいけど私は片手使えないしなぁ……

ちなみに二人の対戦は意外と良い勝負だったが簪が最後に勝利を決めた。

 

 

「……十秋、着いたよ?」

 

「……んっ。あれ?私寝ちゃった…?」

 

「……うん。ぐっすりだったよ。」

 

「……あー…ごめんね。今起きるから。」

 

「……ゆっくりで良いよ。」

 

車から降りようとするが片手が使えないと意外と面倒臭い事に気付く。……う~ん……

 

「……大丈夫?手伝う?」

 

「……うん。ありがとう、簪。」

 

「どういたしまして。ほら、ゆっくり降りよう?」

 

簪の介助で車から降りる……うぅ。情けない……

 

「……そんな顔しないで。片手が使えないならしょうがないよ。」

 

簪の優しさが身に染みる……私歳上なんだけどなぁ……

 

「……うん。」

 

そのまま簪に手を引かれ私に宛てがわれた部屋に向かう。

 

 

「……着いたよ、十秋。」

 

「……うん。ありがとう、簪。」

 

「良いって。……私の部屋は隣だから何かあったら何時でも呼んでくれていいから……」

 

「……うん。」

 

私は部屋に入った。

 



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親友の妹に転生しました16

「……十秋?夕飯出来たって。起きれる?」

 

「……えっ!?もうそんな時間?」

 

気が付いたらベットの上。私はまた寝てしまったらしい……

 

「……勝手に入っていいのか迷ったけど呼んでも返事が無かったから……」

 

「……ごめん、簪。」

 

「……良いよ。気にしないで。」

 

「……うん。」

 

「……ところで…起き上がれる…?」

 

「……うん。それくらいなら……」

 

さすがに自分で横になる所まで行ったのだ。それくらい……あれ?

 

「……」

 

「……手伝おうか?」

 

「……お願いします。」

 

「……そんな凹まなくても……」

 

いやいや結構凹むよ……

 

「……案内要るよね?」

 

「……お願いします……」

 

「だと思った。行こう?」

 

部屋の案内はまだされてない……というか……

 

「……覚えられそう?」

 

「……正直直ぐには……」

 

「……大丈夫。言ってくれれば案内するから。」

 

……これはしばらく簪に頭上がらないかも……うぅ。この腕が憎い。

 

 

 

「……着いたわね。食べましょう。」

 

屋敷の広さに反比例する様に食事をする部屋はそれ程広くは無い。

 

「……久しぶりに腕を奮ったわ。せっかく娘が増えたんですもの。少しは母親らしい事をしなくちゃね。」

 

普段はお手伝いさんがご飯を作るそうな。こういう辺り庶民との隔たりが……まあ世間一般の感性で見たら前世の私もお嬢様らしいけど……

 

 

 

「……食べ過ぎた……」

 

「……大丈夫十秋?」

 

「……何とか…」

 

更識母の料理は絶品で普段は作らないというのが勿体無く思える程だった……ついつい食べ過ぎてしまうくらい……

 

「……そう言えば、ごめんね。うちのお母さんが……」

 

「……あー…うん。別に良いよ。何か新鮮だったし……」

 

食事中聞きそびれた更識母の名前を聞いたのだが彼女は少し考えた末に「……お母さんと呼んで?」笑顔に圧力かけて言ってきました……正直めちゃくちゃ怖くて震えながらも「……お母さん……」と呼んだら圧が消えて更に笑顔が深くなりました。

 

……更識母が本当に怖すぎる……怒らせないようにしないと……こうなるといずれこの家に来る一夏が心配だなぁ……

 

「……取り敢えず寝るには早いし十秋は寝てたからあんまり眠くないでしょ?私の部屋寄ってく?」

 

「……うん。そうしようかな……」

 

 

 

「……何か凄いね。」

 

「……えと、変、かな?」

 

「……ううん。そんな事無いよ。」

 

簪の部屋の棚には特撮系やヒーロー系アニメのDVDがズラリ……

 

「……ちょっと引いてる?」

 

「そんな事無いよ。私も割と好きだし。」

 

前世では子供の頃はこういうのは普通に見てたし今世でも一夏と良く家で見ている。

 

「ホント!?じゃあ今から一緒に見ない!?」

 

「うん。良いよ。どれがオススメ?」

 

簪の迫力に圧倒されながら何とかそう答えた……今夜はもう眠れないかも……

 

 

……結局夜中を過ぎ怒った更識母が部屋に乗り込んで来るまで私たちはDVD鑑賞を続けたのだった……

 

 



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親友の妹に転生しました17

「…ん…ふわぁ……もう朝か…「あっ、起きた?おはよう、十秋」へっ?」

 

目を覚ますと簪の顔が目の前……???えっ!?何で!?

 

「……もしかして…覚えてない?昨夜お母さんに怒られた後、十秋、そのまま私の部屋で寝ちゃったんだよ?」

 

うん。それは何となく察したよ。……でも何で簪の顔が目の前に……!

 

「……ごめんなさい。」

 

「良いよ良いよ。別に寝れなかった訳じゃないし……」

 

どうも私は簪の膝を枕にしてしまったらしい……さすがに正座の体制で真面に眠れる訳ない……そう考えた私は動きのぎこちない身体を無理矢理動かして土下座していた。

 

 

「……今朝十秋ちゃん、簪ちゃんの膝の上で目を覚ましたって?」

 

笑い混じりで朝の食卓で話題を持ち出す刀奈。……いや、本当に止めて……さすがに落ち込んでくる……

 

「……私の膝も使います?」

 

虚!?

 

「……え~私の膝も堪能して欲しいなぁ!」

 

刀奈!?

 

「……じゃあわた「あっ、本音は良いや。」何で!?」

 

いや。本音は無理でしょ、どう考えても……って違う違う!

 

「……いやいや!?今朝はたまたまですからね!?今晩からは自分の部屋で自分のベットで「昨日十秋自力でベットから起き上がれなかったみたいだけど?」うぅ……」

 

「……ほら、皆十秋を虐めないの。」

 

……お母さん……あれ?私お母さん呼びが定着した…?

 

「……今晩からは私たちの部屋で一緒に寝ましょう?」

 

ちょっと!?夫婦水入らずの部屋で何て恐れ多いですって!?

……いけない!このままでは私のこの家での立ち位置が弄られキャラで定着してしまう……!

一夏ぁ!早く日本に帰って来てぇ!?

 

 

 

「ん?」

 

「どうした一夏?」

 

「何か十秋姉が俺を呼んだような……?」

 

「……一夏、体調が悪いならもう少し滞在しても……」

 

「……千冬姉は仕事があるんだから俺がいたら邪魔だろ?俺も学校あるし……」

 

「……そっ、そうか……そうだな……」

 

「……時間あったら電話してくれ。もちろん俺たちもするから。」

 

「……ああ。」

 

「……んじゃあ俺行くわ。向こうに迎えに来てくれるのは更識さんで良いんだよな?」

 

「……ああ。更識楯無という名前だ……くれぐれも失礼の無いようにな。」

 

「……大丈夫だって。千冬姉の顔を潰すような真似はしないよ。……じゃあまたな、千冬姉……」

 

「……ああ。身体に気を付けるんだぞ。」

 

「……千冬姉もな。」

 

 

 

……今日は学校はお休みである……私はそもそも療養しなきゃならないんだけど……

 

「……十秋さん、遠慮しなくて良いんですよ?」

 

つまり学校が違っても休みである以上刀奈たちは普通に自宅にいる訳で……

 

「……え~と……」

 

「遠慮しなくて良いんですよ?さあ、どうぞ?」

 

とまあ虚から自分の膝を枕に昼寝を勧められる状況も有り得……そんなわけ無いでしょう!?

 

「……いやいや結構ですから!?私そんなに昼寝が必要な程子供じゃ無いですし!?」

 

「……そうですか……」

 

そんなにしょげられたら罪悪感が……うぅ…仕方無い。

 

「……それじゃあお願い出来ます…?」

 

「…!はい!どうぞ?」

 

私は彼女の膝の上に頭を下ろした。



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親友の妹に転生しました18

「……びっくりしたわ。一夏君って本当に十秋ちゃんにそっくりなのね……」

 

「いっ、一夏……これはその……」

 

「……ハハハ…何か元気そうで安心したよ、十秋姉……」

 

虚の膝の上で目を覚ました私が見たのは刀奈に連れられドイツから帰って来た弟の苦笑顔……どうしよう……一夏に見られた……

 

「……貴方が一夏さんですか?私は布仏虚と言います、宜しく。」

 

「……織斑一夏です。しばらくお世話になります。」

 

狼狽える私を後目に自己紹介を始める二人……えっ!?私放置!?

 

「……もう!硬いわねぇ!私たちは家族になるんだからもう少し砕けた感じでも良いのよ?」

 

「……アハハ…善処します。」

 

「……それじゃあ家の中を案内するわね。」

 

「……はい。お願いします……えと布仏さん?「虚で良いですよ?」じゃあ…虚さん、十秋姉の事お願いしますね。」

 

「……はい。任せて下さい。」

 

そうして私に背を向け刀奈と共に部屋を出ていく一夏……えっ!?会話終わり!?私このまま放置なの!?

 

「……一夏…」

 

「そんな顔しなくても一夏さんもこれからこの家に住むんですし何時でも会えますよ?」

 

そういう話じゃなくて……もういいや。

 

私は虚さんの膝の上で不貞寝を始めた。

 

 

 

「……驚きました。十秋姉のあんな姿、家では見たこと無かったですから……」

 

「……話に聞く限り貴方たちのお姉さん、結構手のかかる人だったみたいだし、今までずっと甘えるタイミングが無かったんじゃないかな?……そうでなくても親御さんもいなかったみたいだし三人じゃ色々大変だったでしょ?」

 

「……まあそれなりに……」

 

「……しばらくここを自分の家だと思って寛いでくれて良いから……って言っても難しいかな?」

 

「……そうですね、中々……何せ千冬姉は家事全般駄目だったので俺と十秋姉の二人でやってましたから……」

 

「……取り敢えずこの家は広いけど手は足りてるわ。でもまあ、何かしたいなら別に良いわよ……十秋ちゃんは当分無理だけどねぇ……」

 

「……十秋姉の事、宜しくお願いします……結構無茶するタイプなんで……」

 

「……一夏君、それは貴方にも言えるんじゃない?……少し顔色が悪いわよ?疲れちゃった?」

 

「……大丈夫ですよ、このくらい……」

 

「……まあ貴方が良いなら良いけど……無理はしないでね?」

 

「……ええ。分かってます……寧ろ十秋姉の事を気にしてくれると……」

 

「……そうね。しばらく彼女からは目が離せないわ……大丈夫よ♪この家の皆はもうあの子の虜だから♪」

 

 

 

「……クシュン。」

 

「……十秋さん大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫です。ただのくしゃみで「風邪をひいたらいけません。毛布をかけますね」いや、あの……」

 

軽い昼寝の筈が何で本格的に眠る状況に……あっ、瞼が重く……

 

「……おやすみなさい、十秋さん。」

 

 

……結局私が起こされたのは夕食が出来てからでした……

 

 



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親友の妹に転生しました19

更識家に来てからの私……何か寝てばっかりの様な……このままではいけない!

……と意気込んだものの……変だと思い相談した更識家専属の医師の見立てによると……そもそも私の睡眠時間が増えているのは恐らく何らかの理由で私は傷の治りが遅くなっており、自然治癒力を高める為身体が睡眠を求めているとかで睡眠をコントロールするのは多分私の意思では不可能だろう……との事。

 

……えっ!?じゃあ私怪我が治るまでこのまま!?

……学校は休学届けを出してるし、ノートも友人が取って更識家に郵送してくれる様にして貰った(何かお礼しないと……)だから、それはまあ良くはないけど良い。でも、でもね……

 

「……何で!?私は今!?簪に!?膝枕されてるの!?」

 

「えっ?今更?」

 

本気でキョトンとする簪……可愛いけど……今やられると私の混乱が増す一方……

 

「……私自分の部屋で寝るって言ったよね!?」

 

「そうだっけ?」

 

舌を出す簪。……可愛いけど貴女はそんなキャラじゃないよね!?

 

「……私重いでしょ?退ける「自力で起きれる?」……」

 

くっ!なんか変だと思ってたら腕が使えないだけならまだしも……治癒に体力回してるから体力が落ちてるなんて……融通の効かない身体が憎すぎる……!そもそも前世ではそんなこと無かったのに……どうなってるの今世の私の身体は!?

 

「……別に十秋は重くないよ。あれだけ食べてるのに寧ろ軽すぎるくらいだよ。」

 

「……」

 

簪が男前過ぎる……もし私が男だったら惚れ……いやいや私には千冬が……

 

「……十秋?どうかした?」

 

「…!ううん!何でもないよ!?」

 

「……そう?」

 

……ちなみにダラダラ過ごす私と違い一夏はあっさり更識家の主夫ポジションをゲットしました……私もそっちが良かったな……

 

前世でも今世でも私は自分が出来る事は自分でやってた……そもそも前世だってお手伝いさんなんて雇ってもいなかったし今世は自分たちでやらないと誰もやってくれなかったから……千冬は家事全般壊滅的だし……

 

「……十秋は今迄頑張り過ぎだったんだよ。きっとその反動が今来てるだけ。」

 

「……えっ!?私今口に出てた!?」

 

「十秋が分かりやすいだけだよ?」

 

今世の友人にもそんなこと言われた事無いんだけど……って、もしかして私に気を遣っただけだったとか!?

 

「……多分ある程度十秋と付き合いのある人は大体分かるんじゃないかな?……もちろん全部分かるって訳じゃないけど。」

 

「……どれくらい分かりやすい?」

 

地雷と察しつつ私は聞いてみる……

 

「……私は多分八割方分かるよ?……ちなみに一夏は大抵分かってて黙ってるんだと……あっ!?十秋!?」

……私は簪の膝に顔を埋めて寝たフリをしながら、今聞いた話を忘れようとするのだった……

 

 

 

 

「……十秋が忘れても私は覚えてるからね?」

 

「止めて!?もう限界だから!?」

 

……忘れようとするのだった……

 

 

 

 

 



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親友の妹に転生しました20

「……じゃあ行って来るわ。」

 

「……行ってらっしゃい、一夏……」

 

「……そんな顔すんなって。元気になったら十秋姉も通えるだろ?」

 

「……うん、そうだね……」

 

一夏たちは学校である。……刀奈たちと学校は違うんだけど車は一緒である……一夏は公共交通機関を使うと言ったんだけど……まあ護衛される人間が一人で歩いてたら問題だよね……

 

「……さて、出る「ごめん、一夏君…ちょっと待って。」刀奈さん?」

 

刀奈が一夏に声をかけて来た……かなり険しい顔をしてる……何かあったのかな…?

 

「……ちょっと居間まで来て……十秋ちゃんも。」

 

「…?はい。」

 

私と一夏は居間に向かった……

 

 

 

「……えっと、どういう事ですか…?」

 

「……ごめんなさい。私たちのミスよ…」

 

テレビは織斑千冬の身内の誘拐事件の報道をしていた……いずれバレるとは思っていた。だから報道される事については問題無い……でも……

 

「……何で誘拐されたのが一夏になってるんですか!?」

 

そう。報道内容は織斑一夏が誘拐されたという事になっている……誘拐されたのは私なのに……

 

「……ドイツから日本のマスコミにリークされたのは確かよ……でも今の世論だと……」

 

女性の私が誘拐されただと叩きにくい……から?

 

「……成程。なら、俺は学校に行かない方が良いんですね……」

 

「……ごめんなさい。」

 

「……じゃあ代わりに家の近くまで送ってください。」

 

「…!何言ってるの一夏!?」

 

織斑家の前は今報道陣が詰めかけている。そんな所に行ったら一夏は……!

 

「……十秋姉に責任がいかないなら都合が良いです。世間には俺が悪いと思わせておけば「駄目に決まってるでしょ!」何故です?」

 

「私たちは貴方たちの護衛を貴方たちのお姉さんに頼まれたのよ?一夏君を危険に晒せるわけないじゃない……!」

 

「……今の十秋姉をあの場に出す訳にいきませんし誰かが話をしなければ拗れる一方でしょう?」

 

「駄目よ!……とにかくしばらくはこの家にいてもらうわ!」

 

「……引きこもっても何の解決にもなりません!」

 

「……貴方の覚悟は分かったわ。いずれ貴方が動く時も来るでしょう……でも今は駄目!」

 

「……一夏、何で一夏が行くの?誘拐されたのは私だよ?」

 

「……俺のせいだから。あの時会場を出たのが俺なら、多分誘拐されたのは俺だった筈だ。」

 

「……だから一夏が行くの?そんなの可笑しいよ……!」

 

私の目から涙が零れ落ちる……前世でもそうだった……

一夏はとても優しかった……何でいつも彼はそうなんだろう……

 

「……落ち着きなさい、一夏君……」

 

「……お母さん…一夏を止めて下さい……」

 

「……すみません。俺はどうしても「十秋ちゃんを見なさい。貴方は彼女を振り切って行けるの?」……俺は…」

 

「……一夏、行っちゃやだよ……」

 

「……ごめん。分かったよ、十秋姉……行かないから泣かないでくれよ……」

 

「……一夏君、十秋ちゃんは私が部屋に連れていくから。」

 

「……お願いします。」

 

私は刀奈に連れられ部屋に戻る事に……一夏、本当に行かないよね……?

……一夏の性格を考えると勝手に出ていきかねない……刀奈に伝え「大丈夫よ十秋ちゃん。」えっ?

 

「……一夏君の性格は良く分かってるから。安心して……大丈夫よ。この家は伊達に暗部を名乗って「お姉ちゃん!一夏が……!」嘘っ!十秋ちゃんは部屋で待ってて!」

 

……一夏、やっぱり……

 

私は追いかける事も出来ず部屋に籠るしか無かった……

 



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親友の妹に転生しました21

結局一夏は更識家の方に確保され戻って来ました……追跡して見つけたのではなく念の為織斑家へ先回りしていた人たちが見つけたそうです……何が恐ろしいって一夏は仮にもプロの方々を煙に巻き誰にも危害を加えることなく逃げ出し、追跡を振り切って家に辿り着いたということです……前世に比べて落ち着いてるなと思ってはいたけどそんなレベルじゃありません。……もしかしたら中学生にして身体能力だけなら千冬を超えているのかもしれません……というか頭も良いかも……

 

「……一夏君!貴方何をしたか分かってるの!?」

 

さて、捕まり戻って来た一夏はご立腹の刀奈のお説教を聞いてる所です。……正座でもう三時間……

 

「……もちろん良く分かってます「本当に分かっているの!?」軽率でした……すみませんでした……」

 

……あれは多分分かってるけど理解したくもないって感じかな……刀奈にもそれは分かっているらしくお説教は続きます……

 

「……いいえ、貴方は分かってないわ。見てみなさい、十秋ちゃん、あれからも泣き通しだったのよ!?」

 

ちょ、刀奈!?私を引き合いに出さないで!?……私の頭は都合のいい事を忘れるように出来てるのか前世の歳は覚えてないけど単純に考えれば今世の歳と合わせて三十路は近かった筈だから年甲斐もなく取り乱したのを後悔してるんだよ!?

……あ~!一夏もそんな目で見ないで恥ずかしいから!?

 

「……お姉ちゃん、十秋の事を言うのはそれくらいに……恥ずかしさで落ち込んでる。」

 

止めて簪!?言われると余計に恥ずかしいから!?

 

「……悪ぃ、十秋姉……心配かけて……」

 

心底から申し訳なさそうな顔を向ける一夏……初めから別に怒ってはいない……心配はしたけど……

 

「……良いよ、もう。」

 

というか部屋に戻りたい……さすがに泣き腫らした顔を晒すのは私もキツイ……

 

「……十秋、行こう。」

 

助け舟を出してくれる簪……そう言えば分かるんだったね……何でもかんでもバレるのは困るけど言わなくても察してくれるのはこういう時は有難いかも……

 

 

 

「……大丈夫、十秋?…」

 

「……うん、大丈夫だよ…」

 

だから一人にして貰えると……

 

「……駄目。今の十秋を一人にしたくない。」

 

……うん。何でも察してくれるのはやっぱり不便だね……正直もう一回泣きそうなんで本気で一人にして貰えると……

 

「……大丈夫。ここには私しかいないから……」

 

……人前でこれ以上泣きたくないんだけど……しかも歳下の前で……というか何で前世についての関連事項を考えてる時は都合良くバレないんだろう……

 

「……どうしても駄目なら私が部屋から出てようか?」

 

ここ簪の部屋だよ?……あっ、もう限界……

 

「……十秋…」

 

私は簪の温もりに包まれながらまた泣き始めました……これ、もう簪に頭上がらないよ……歳上の威厳が……

 

 



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親友の妹に転生しました22

さて、あの一件の後一応大人しくなった一夏は……

 

「……お~い坊主!少し休憩したらどうだ!?」

 

「……いえ。もう少しだけ……」

 

「……無理するな。子供なんだから、少しは大人に甘えろ!」

 

「……すみません。」

 

更識家の庭仕事に精を出してました……何で?

……一夏曰く……

 

「……皆に迷惑をかけたから少しでもこの家に貢献しないと……」

 

……だそうです。これで通常の家事もある程度こなしてるんだから一体どんな体力してるんだか……

 

そして私は……

 

「……まだ無理だね。」

 

「……そこをなんとか。お願いします、そろそろ私も限界で……」

 

「……焦っちゃいけない。君の身体も今頑張ってる最中なんだ。いずれ元気になる迄は無理をしちゃいけない。」

 

体力不足の中なんとか更識家の中で出来る仕事は無いかと専属のお医者様に相談してました……止められましたけど……弟が働いてるのに……

 

「……十秋、終わった?」

 

「……簪……」

 

「……私の部屋に行こう?」

 

「……うん。」

 

簪との力関係も変わってません。いや、簪は単に世話焼いてるだけのつもりなんだろうけどね……

 

「……別に私は無理とかはしてないよ?」

 

「……うん。」

 

一々考えてる事がバレるのも慣れました……と言うか慣れたって事にしてる……

 

 

 

「……まだ無理しちゃ駄目だよ。夕食には起こすからゆっくり寝てなよ」

 

ポンポンと自分の膝を叩く簪……うん。もう慣れた……筈……

 

「……うん。お休み簪……」

 

「……お休み、十秋……」

 

もういいや。ここ最近はそんな投げやりな言葉ばかり浮かびます……ネガティブだと多分傷の治りが遅いのは何となく分かってるんだけどね……

 

「……刀奈さん、何か手伝って欲しい事とか「無いわよ」……そうですか…」

 

「……虚さんは「私も大丈夫です」本音「……」は寝てる、と。取り敢えず部屋に連れて行きますね?」

 

「……私が連れて行きますから大丈夫ですよ。一夏さん朝から動きっぱなしでしょう?今日はもう良いですよ?」

 

「……いえ。まだ俺は元気で「良いから休みなさい。お姉ちゃんの命令です♪」……刀奈さん……お姉ちゃんって……「何?」いや、別に。」

 

「……あのね、私は貴方が心配だから怒っただけだし、別に罪滅ぼしに働いて欲しいとか思ってないわよ?……ここの人たちもそう。別に迷惑をかけられたとか思ってたりしないわ。……私たちも含めてここの人たち皆、十秋ちゃんはもちろん貴方の事ももう家族なんだから♪」

 

「……そう、ですか……」

 

「……あっ、照れてる?」

 

「……勘弁してください。」

 

「……硬いわね~ほらお姉ちゃんに甘えて良いの「遠慮します。」そ、そう……」

 

 

 

「……一夏の姉は私!」

 

「……十秋、どれだけお姉さん振っても一夏の方がしっかりしてると「皆まで言わないで。分かってるから」……」

 

そもそも双子だからそんなに差はないんだよね~……でも改めて言われるとやっぱり凹むよ~……中身は歳上なのになぁ……



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親友の妹に転生しました23

とまぁそんなこんなで更識家での日々はあっという間に過ぎて行った。…身体が治ってからも皆が甘やかすからすっかり体力が落ちちゃったよ…前世の知識もあるし身長も何とか同年代の平均より少し下位まで急激に伸びたからスタミナも無くなったとはいえ、それでも逆に多少マシに動ける様にはなったけど…

 

「織斑一夏です、趣味は料理です。宜しく。」

 

控え目だけど模範的な自己紹介をして一夏が座る。直後に周りの女子が騒ぐ気配を感じたので耳を塞ぐ……まあこの場でただ一人の男子だし身内贔屓無しで見てもやっぱりカッコイイもんね…。…って、あっ…次私だ。……どうしよう、何も考えてなかった……

 

「…十秋姉、普段通り普段通り。」

 

私の不安が分かるのだろう。微笑を浮かべながら小声でアドバイスしてくれる一夏……それが難しいんだって。本当に何かの呪いだろうか?改めて今世の私はやけにポンコツっぷりが目立つ気がする……

 

「…織斑十秋です。そこにいる織斑一夏の双子の姉です……以上です。」

 

このクラスの女子陣が一部を除いてずっこけた。…ノリが良いんだね……嘗ての幼馴染みの篠ノ之箒の呆れ顔や一夏の苦笑から目を逸らし現実逃避をする。

 

「!アイタッ!」

 

「全く。お前は自己紹介位まともに出来んのか?」

 

「…すみません。ね…織斑先生。」

 

私の後ろには笑顔の千冬が立っている。手には出席簿。…あれで叩かれたみたい。……えっと何時まで私を見てるの千冬?…あっ、あの~…?

 

「…千冬姉、仕事仕事。」

 

私がいたたまれなくなっていると一夏か小声で千冬に言う。それではっとした千冬は咳払いをすると教壇に向かう。

 

教壇に立った千冬が自己紹介を始めた

 

「さて、諸君!私が担任の織斑千冬だ!君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ!良いか?私の言う事はYESかはいで答えろ!」

 

……一夏が目元を手で覆い溜息を吐く。千冬…それじゃあ軍隊だよ…本当に教師なんて務まるのかなぁ?

 

と、思っていると一夏がジェスチャーで耳を塞げと促す……何で?そう思っていると一気に黄色い悲鳴が轟いた。うるさ!?

 

……どうもこうやって高圧的にやられても千冬がやると好評な様……てか誰!?抱いてって言ったの!?

 

「全く。どうして毎回私のクラスにはこういう連中ばかり集まるのだ…?」

 

うん。十中八九千冬のせいだと思うよ……ほら、一夏も頷いて……ってやっぱりバレてるんだね、私……

 

 

……さて、ここはIS学園。一年一組の教室。何で私はここにいるんだろう?千冬がここの教師になったのは聞いたけど、今世はISに関わるつもりは無かったんだけどなぁ……

……まあ元はと言えば一緒に学費の安い私立藍越学園に行くために受験会場に向かったら何故かIS学園の試験場に向かってしまい、男性の一夏がISを動かしてしまい、一緒にいた私もなし崩し的にここに来る事になったってだけなんだけど……今思えば何か怪しいね…束辺りが仕組んでたりして…まさかね。

 

「自己紹介は終わってないが時間が無い。後は各自、休み時間の内にやっておいてくれ。ではホームルームを終える。」

 

そうして最初から教室にいた山田真耶先生と教室を出ていく……いや、だからチラチラ私に視線向けないで!?出るならさっさと出て!?ほら、皆気付いてるから!?何事かと思ってこっち見てるから!?

 

私は悪い事をした訳でも無いのにまたいたたまれなくなってしまった……



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親友の妹に転生しました24

「十秋ちゃんは趣味とか無いの?」

 

「え~と…特には…?」

 

さて、困った。私は別に人見知りとかじゃないけど…一応既に二十代を迎えていた前世の記憶が先行するせいか一般的な女子高生との会話は非常に苦手である…いや、私と話題のこう…何と言うか、…そう。フレッシュさが違うんだよね…自分で言うのも何だけど私は流行は追わないタイプだし…。つまり自動的に私と彼女たちには共通の話題は無い事になる…。

 

だからね…好きな芸能人とか聞かれても答えられないわけで!だって最近の若い俳優さんが出るドラマとか一々見ないし…。まあそもそもあの頃から別にテレビ自体あまり見てなかったけど(今世は一夏が多少好きなのと簪の影響でアニメは割と見る。)

 

私は一夏の席をチラ見する…一夏は先程箒が引っ張って行ってしまったのでいない…早く戻って来て!そいで持って私を助けて!?

……私は今、必死に愛想笑いで誤魔化しながら私に取っての救世主である弟の帰還を待っていた。…ちなみに箒はタイプ的に私に近いので戦力外であろう…。

 

「とーちゃん、大丈夫ぅ?」

 

あっ、本音!そうだこのクラスには本音がいた!私を助けて本音!?

 

「…何か忙しそうだねぇ。後でまた話そうねぇ。」

 

自分の席に戻ろうとする本音…。ちょっと待って!?本気で助けて本音!?

 

「…あー…ほら…皆、十秋姉が困ってるから。その位にしてやって。…十秋姉の事で答えられる範囲なら俺が答えるから」

 

一夏!助かった…。

 

「…全く。お前は変わらないな、十秋…。」

 

「…え~と…箒?ブーメランって知ってる…?」

 

私は最近覚えた若者言葉を使ってみる事にする。

 

「ん?手で投げて戻って来るアレの事だろう?それがどうした?」

 

……通じてない。何か前世より脳筋な気がするんだけど…もしかして私のせいだったりする…?

 

「…十秋、さすがに冗談だからそんな微妙な顔されても困るんだが…。」

 

「え!?冗談だったの!?」

 

そんな真顔で言われたら分からないって!

 

「ちなみに今の私は一夏と同じで普通に料理が趣味で、最近のドラマやバラエティ番組も割と見るから同年代の女子と会話のネタにはそれ程困らないからブーメランは刺さらん。…まあお洒落や、今の女子高生に人気のスポットとかには疎いがな。…最も華やかな場所が多少苦手なだけで誘われたら行くのは別に吝かでは無い。」

 

「……」

 

嘘!?箒にすら女子として負けた…だと!?

 

「…ほう?どうやらお前とは一度ゆっくり話をした方が良いかもしれんな…!」

 

しまった!伝わるんだった!?

 

「…そろそろ授業が始まるな、じゃあまた後でな…!」

 

「…まっ、待って…!」

 

どうしよう…!初日からいきなりやらかした…!

何とか箒を宥める方法を考えないと!今世の私じゃ、箒には勝てないし!……うぅ。授業どころじゃ無くなったよ…。

 



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親友の妹に転生しました25

「…うぅ。酷い目にあった…。」

 

放課後。箒にお説教された私は文字通り真っ白になっていた…

 

「…十秋姉は一言多いからな…。」

 

「口に出してはいないんだけど…」

 

「…もうこの際だから言うけど…確かに十秋姉は別に独り言で言ってるとかじゃないんだけど…バレバレだからさ…。」

 

「…あー…うん。簪からも聞いたし、刀奈さんにも散々言われたよ…。」

 

「…まぁドンマイ?」

 

「…そこは言い切ってよ…。」

 

何で疑問系?

 

「…あっ!いたいた!一夏君!十秋さん!ちょっと待ってください!」

 

あれは確か山田先生?

 

「…山田先生?どうしたんですか?」

 

「ハア…ハア…すみません。お二人の寮の部屋の鍵を渡すのを忘れてまして…。」

 

「…あれ?私たちは確か自宅から通う事になってるはずですが?」

 

「…お前らの安全上の為だ。」

 

「ね…!織斑先生。」

 

出席簿を振り上げる千冬が怖い…。

 

「…十秋、次は無いぞ?」

 

「それで織斑先生?どういう事ですか?」

 

「…言葉通りだ。お前ら二人は狙われる可能性が高い。だから学園の寮で過ごしてもらうことになった。」

 

「…と、言われましても荷物とかは…」

 

「…既に一週間分の着替え等は部屋に運んである。後は携帯の充電器もな。…残りの荷物は休みの日に自分で運ぶと良い。」

 

抜け目無い…あれ?荷造りは千冬がしたの…?…何か不安になってきた…今、家はどうなってるんだろう…?

 

「…織斑先生、それは貴方が?」

 

「…私では無い。」

 

一瞬ホッとしてからすぐに血の気が引くのが分かる…え?じゃ、じゃあ誰が!?

 

「…織斑先生、他人を家の中に入れるのは…」

 

「案ずるな。荷造りをしたのは厳密に言えば違うがお前らにとってはもう身内みたいな奴だ。」

 

…え?本当に誰?

 

「…あー、成程。分かりました…でも次は事前に言ってくれると助かるのですが。」

 

一夏は誰なのか分かったみたい…後で聞いてみよう。

 

「…すまんな。実は急遽決まってな…伝える時間が無かったんだ。」

 

あー…なら仕方無いかな。

 

「…そうですか。ところで俺は男なのですが…まさか女子と相部屋じゃないですよね?」

 

「…あー…すまんな。まだお前用の一人部屋が用意出来ていないのだ。しばらくはそうなる…。」

 

「…分かりました。…それで、俺の相部屋の人間は誰です?俺の知ってる奴ですか?」

 

「…ああ。良く知ってる奴だ。…と、先に言っておくが当人にはまだ伝えていない。」

 

千冬…それはさすがに不味いでしょ。

 

「…分かりました。俺が自分で伝えれば良いんですね…。」

 

「…あっ、あの…一夏君…?」

 

山田先生が何か誤解してそう…一応伝えておくかな…。

 

「…すみません。一夏の場合、今更女性と相部屋でもそんなに抵抗無いんです…。私や姉さんと暮らして長いですし…」

 

「ああ。そう言えばそうでしたね…。」

 

…と、忘れる所だった。

 

「織斑先生、私の相部屋の人は誰ですか?」

 

「…そうだな、会ってからのお楽しみという事にしておこう…大丈夫だ。少なくともお前にとっては気の使う必要の無い相手だからな。」

 

えっ?誰?全く心当たりが無いんだけど…?…まあ行けば分かるかな。

 

その後軽く千冬と山田先生と話してから私たちは部屋に向かった。



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親友の妹に転生しました26

「お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た「間違えました」ちょっと!?」

 

私はドアを閉めた…え?今のは何?幻覚?どうしてエプロン姿の刀奈がここに!?しかもエプロンの下に何も着てないように見えた気が…!

 

「もう一度確かめよう…」

 

私は再びドアを開「何で閉めるのよ十秋ちゃん!」

 

「……」

 

向こうから開けられたドアをこちらから閉める。…見間違いとかじゃなかったんだ…。ドアに激突したらしく向こう側で悲鳴を上げる刀奈?を無視しつつ何が起きてるのか考える…

 

「とっ、取り敢えず一夏の様子を見に行こうかな…。」

 

私は悶絶する刀奈?の声を無視し、状況の理解を放棄すると弟の部屋に…と言っても実は隣なんだけどね…

 

 

 

「…で、この部屋に来たと。」

 

「…うん。ごめんね、一夏、箒…」

 

一夏の同室の相手は箒だった…さすがにあの格好の刀奈?のいる部屋に入れなかったから来ちゃったけど迷惑じゃなかったかな…?ちなみに一夏が来たとき箒はシャワーを浴びていて、一夏もあわやトラブルか?と、冷や汗を流したらしいけど箒の方が出る直前に一夏の気配に気付いたので特に問題は起こらなかったらしい…

 

「…迷惑なものか。お前も一夏も私の幼馴染だぞ?別に何時でも遊びに来たらいい…正直に言えば私は今の所まだ友人も作れてないしな…」

 

そもそもここに来るまで何度も引越しを繰り返す羽目になった箒じゃあ今日まで友人は出来なかったんじゃないかな…昔に比べたらだいぶ雰囲気が柔らかくなってたけど今でもあまり愛想の良い方じゃないし…。

 

「…相変わらず一言多いな、お前は。さっき散々言ったし今は流そう。」

 

「…十秋姉…。」

 

あっ!まっ、またやっちゃった!?

 

 

「…ごめん箒…。」

 

「まあ私の愛想が悪いのは今に始まった事じゃないからな…。」

 

ああ!凹まないで箒!?

 

「…大丈夫だ、箒。お前は愛想が悪くなんか無い。そうだな、少し口数が少ないだけだろ?」

 

「…そういうものか…だが、あまり喋らないと言うのも…」

 

「喋り過ぎるのが良いとは限らない。それも箒の魅力だろ?」

 

「…そうか、ありがとう。」

 

俯く箒…耳がかなり赤いけど指摘しないでおこう。

 

「…十秋姉、伝わるんだから気をつけてくれ…」

 

…そんな事言われてもどうすれば良いのか分からないんだけど…

 

「…と、そろそろ消灯の時間だな。戻った方が良いぞ、十秋姉」

 

「…うん…でも…」

 

「…刀奈さんの事だから多分、十秋姉に軽くちょっかいかけようとしただけだろう?さすがにもう何か仕掛ける時間は無いって。」

 

「…そうだね…分かった…それじゃあお休み…一夏、箒」

 

「お休み十秋姉。」

 

「お休み十秋。」

 

私は二人の部屋を出た。

 

 

 

「お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」

 

額に瘤をつけた刀奈が先程と同じ格好で、同じ出迎えをしてきた…さっきと同じ笑顔だけど何か青筋が…私悪くないよね…!?

 

「……」

 

「ヒイッ!」

 

狼狽えてる私の腕を無言で引っ張り刀奈は私を部屋に引きずり込んだ…。



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親友の妹に転生しました27

「…あの…」

 

「…何も言わないで…私が悪かったから…」

 

あれから時間が経ち、既に窓の外は白み始めていた…刀奈に部屋に引きずり込まれた後の事を私ははっきりと覚えてはいない…

 

「…あの…せめて聞かせて下さい…昨夜私たちは…」

 

「…何も無かったわ。誓って言う。私たち二人の間には何も無かった…どんな格好しててもね…」

 

現在私たちはベッドの上にいた…ろくに眠った記憶は無い…そして私は何故か服を着ていなかった。…二人して見ないようにしてるけど多分刀奈もシーツの下は裸だろう…。……本当に何も無かったの…?

 

「…じゃあ、昨夜は一体何が…?」

 

「…覚えてないならその方が良いわ…。…私も忘れたいし…」

 

「……」

 

納得はしてない…でも私もその方が良い気がする…

 

「…先にシャワー浴びて来るから…」

 

「…はい…。…あの…刀奈さん…?」

 

「ん?何?」

 

「…これから宜しくお願いします。」

 

「…はい。宜しくね。」

 

私は同室となる刀奈に挨拶をしておく事にした。

 

 

 

「…今日私は生徒会の仕事があるから先に出るわね。」

 

シャワーを浴び、着替えが終わった後私の作った早めの朝食を食べていると刀奈がそう言って来た。

 

「…刀奈さん、生徒会に入ってるんですか?」

 

「入ってるというか、私は生徒会長よ。ちなみにこの学校では生徒最強の実力を意味する肩書きでもあるわ。」

 

そうなんだ。私としてはすごいなぁという感想しか出てこないけど。…刀奈は今、二年の筈。という事は最高学年の三年より上の実力者という事になる。

 

「…そうそう。もっと褒めて頂戴♪」

 

うん。口に出して無いんだけどまた伝わってるみたい…

 

「私は十秋ちゃんのそれは嘘をつけないって事だから悪い事ばかりじゃないと思うわよ?」

 

「…余計な事まで伝わって酷い目にあった記憶しか無いんですけど…」

 

「…聖人君子じゃないんだから悪意ゼロの人の方が珍しいわよ。…十秋ちゃんの場合、悪口の様で悪気は無かったりするから、相手がどう受け取るかで変わるけどね。…それにしても…」

 

「何ですか?」

 

「…相変わらず純粋だなって思って。そこまでだと逆に心配になるわ…。」

 

「……」

 

首を傾げる…少なくとも前世でも私は特別善人だった記憶は無い。…今世でもそれは変わらない。

 

「…自覚無しと。…これは困ったわね…!いけない!もうこんな時間!それじゃ十秋ちゃん!私先に出るから!」

 

そう言って食器を水に浸け、急いで出ていく刀奈って…

 

「刀奈さん!廊下は走っちゃダメ…って、あ…」

 

ドアから顔を出すと見回りをしてたのか、我が姉がおり刀奈は下にしゃがみこんでいた。…出席簿って人の頭叩いただけで煙って出るものだっけ…?

 

「…見なかった事にしよう…」

 

完全に人間を止めている千冬を視界から外し、部屋に戻った私は自分の食器を片付け洗い物を始めた。

 

 

 



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親友の妹に転生しました28

朝はまだ多少混乱していたけど、授業が始まるまで時間があったせいで冷静な思考が戻って来る…。正直に言えば授業どころじゃなかったけど休むわけにもいかない。

 

「…十秋姉?何かずっと上の空だけど何かあったのか?」

 

「…何でもない。」

 

…が、出たは良いけど私はほとんど授業の内容は頭に入らなかった…気にしすぎと言われればそれまでかもしれないけど…。

 

「…何があった?」

 

箒まで加わり私の事を心配してくる…参ったなぁ…。

 

「…本当に何でも無いよ。」

 

「…そうは見えないがな。…まあお前が言いたくなら私もこれ以上は聞かない。」

 

「ごめん、二人とも。」

 

快く許してくれる二人に罪悪感が…とは言え、こんな事誰にも相談出来ないんだけど…。何も無かったと言えばそれまでだし私が気にしなきゃ済むのかな?少なくとも私の記憶は無いんだし…。

 

 

 

「そう言えばクラス代表をまだ決めていなかったな…学校内で試合をやる際にクラスの代表として出たり、主に雑用をする係だが…自選、推薦は問わない。誰かいないか?…あー…ちなみに推薦された奴はやむを得ない事情が無い限り拒否は出来ないからそのつもりで。」

 

千冬の一言で何人かの手が上がる。

 

「はい!おり…一夏君が良いと思います!」

 

「私も一夏君が良いと思います!」

 

わぁ…一夏、人気だね。

 

「私は十秋ちゃんが良いと思います!」

 

えっ!?わっ、私!?…あんまりやりたくないなぁ…。

…普通の雑用係ならやっても良いけどこのクラスの期待に応える実力があるかは…前世の時とは色々条件が違うし…。

 

「…他には無いか?なら、二人のどちらかに「納得いきませんわ!」……」

 

あっ、千冬が遮られてキレそうになってる…。てか、誰?自己紹介は途中で終わってたし、会話した覚えもないから誰か分からない…。

 

「十秋さんはともかくクラスの代表が男だなんて納得いきませんわ!実力的に相応しいのは代表候補生の私でしょう!それにこんな極東の島国にわざわざ来るのも嫌でしたのに三年間もこんな屈辱を「ストップ。」何ですの!?」

 

「あんたの言い分に関して俺は余り気にしないけど。このご時世に俺もあんまし目立ちたい訳じゃないし「でしたら!」話はまだ終わってない。取り敢えず…そうだな、周りを見てみろ。」

 

「何を…!…えっ?」

 

彼女本人は全く気づいてなかったみたい。一夏に言われて周りを見てようやく今の状況を理解したらしい…今彼女はクラス中から敵意の視線を向けられ針のむしろ状態だった。

 

「…何処の国か知らないけど…あんた、国の代表なんだろ?発言には責任持てよ…ここは何処だ?…この国には郷に入っては郷に従えという言葉もある。…まあ最低限超えちゃいけないラインはあるって事だ「決闘ですわ」…はっ?」

 

「決闘です!こんな屈辱味わわされて黙ってる訳には行きませんわ!」

 

「…いや、何言ってんだあんた…?」

 

私も困惑していた。せっかく暴言を吐きそうになったのを一夏が止めたのに徹底抗戦の構えを見せるならそれは全くの無意味になる…。…受けても受けなくても後が怖いんだけど。

 

「…セシリア、お前の希望を叶えてやろう。後日この三人で試合を行う。」

 

三人って…えっ!?私も!?私関係無くない!?

 

「…織斑先生…俺は受ける義理は無いんですが…」

 

「拒否は認めん。どちらにせよ、クラス代表はある程度の実力が必要になる。良い機会だ、自分が何処まで戦えるのか試してみると良い…。」

 

…千冬、最もらしいけど言ってるけど要は叩きのめせって言ってるよね…?私はもう全盛期の実力は無いし、ISでの実戦が初めてな一夏に代表候補生と戦えとか鬼過ぎるよ…。

 

結局一夏の抗議は通らず私たちは代表候補生のセシリア?さんと戦う事になった…。



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親友の妹に転生しました29

「それで私に?」

 

「…はい…お願い出来ませんか?」

 

夜、消灯一時間前に帰って来た刀奈…もとい楯無に夜食を用意しながら今日の事を話しつつISのコーチをお願い出来ないか聞いてみた。実を言うとまだ朝の事を引きずってるんだけど気にしてる場合じゃない…というか楯無の名前が当主の名前で襲名制なのは聞いてたけど当主になってたんだ…知らなかった…

 

…どうしてまだ学生の刀奈が継いだのか聞きたかったけどかなり苦い顔してたから聞かない方が良さそう…。

 

「…う~ん…」

 

「…あの…ダメですか、か…楯無さん…?」

 

「…刀奈で良いわ。この場には私たちしかいないし盗聴器も隠しカメラも無さそうだし。」

 

「盗聴器!?」

 

何でそんな物が!?

 

「…十秋ちゃん?ここはIS学園。言ってしまえば機密の塊よ。…本来それぐらい警戒して然るべきものよ?…そもそも一般的な学校でも割と仕掛けられたりするものだけど?こっちは目的は単なる盗撮だけどね。」

 

「…ちなみに他の生徒の部屋とかは…?」

 

「…他の生徒にまで手が回らないからざっとしか見てな…おっと。止めておきましょう?聞いたら後戻り出来ないわよ?」

 

「…はい。」

 

「…ちなみに一夏君の部屋には有ったと言っておくわ。…篠ノ之博士の妹さんと世界初の男性IS操縦者の部屋と考えれば当然だけどね…あっ、もちろん回収してあるから安心していいわよ…最も一夏君は勘が良いから自分で気づいた可能性もあるけど。」

 

「…そうですか…。」

 

私はホッとし、思わず胸を撫で下ろす。一夏には普通の生活をして欲しいんだけど…もう無理なのかなぁ…。

 

「…ああ、話が逸れたわね、コーチの話だっけ?別に私は構わないわよ?仕事もあるから余り長時間は出来ないけど…」

 

「はい、お願いします。」

 

「はい!お願いされました♪」

 

「…あっ、夜食出来ましたよ。」

 

皿にチャーハンを盛り付ける…女子力が…とか色々頭が過ぎるけど材料はろくに無かったし、もう余り時間も無い…見回りは千冬らしいからあんまり迂闊な事は出来ない。

 

「ありがとう…ごめんね、朝食に続いて夜食まで…」

 

「いいえ。私が好きでやってる事ですから。」

 

趣味という程では無いけど料理は嫌いじゃない…というか前世にしろ、今世にしろ…千冬に料理をさせてはいけないと言う危機感から一夏と私のどちらかが必ずやらなければならない使命感に繋がっている面が強い…長々言ったけど要は率先してやるのが癖になってる訳で…

 

「…十秋ちゃんは良い奥さんになれそうね♪私が貰っちゃおうかな?」

 

「…私、暗部の人間なんて務まりませんよ?」

 

「…真面目に返されると返しに困るわね…。というか十秋ちゃんそっちの気が?」

 

「…無いです、刀奈さんはあるんですか?」

 

私は女性は千冬しか対象に入らない…最も理想の男性と聞かれても前世は少なくとも千冬に代わるほど余り良い人がいなかったし、今世で見ても一夏くらいしかいない…。

 

「どうかしら?…でも、そうね…十秋ちゃんなら良いかな?」

 

「そっちの方が返しづらいですよ…」

 

今朝の事もあるし冗談に聞こえないよ…。

 

ちなみに寝る前に刀奈からの「一緒にシャワーを浴びましょう?」と言う謎の誘い(お風呂ならまだしもシャワーは二人で浴びる必要無いよね?)は断固拒否したとだけ言っておく事にする…。



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親友の妹に転生しました30

さて、前世と今世では運動能力が違うとは言え何故前世でISを動かした事のある筈の私が改めて刀奈にコーチをお願いする事にしたのか?…最初からある程度動かせたら怪しまれるから?…いやいや。別にそんなの私は気にしないし、動かせるならそれに越した事は無い。…ブランクがあるから?…それも違う。

 

では答えは?…前世で私は結局大会の一度切りしかISを起動した事が無いからだ。…うん。私も言ってて意味が分からない。…私を大会に勝手にエントリーした人、割と豪快な人だったから…仮に私にISの適正が無かったらどうする気だったんだろう…?

 

「…十秋ちゃん?どうかした?」

 

「…!いえ!何でも無いです!」

 

「…そう?…なら、そろそろ始めていい?」

 

そうだった…刀奈にわざわざ予定を空けてもらってるのに…集中しないと!

 

 

 

「…思ったより動けてるわよ?少なくとも動き方については教える事無いんだけどなあ…?」

 

「…そうですか?」

 

前世でも動かしたのが一回なら今世でも一夏と共に受けさせられた試験一回切りである…あの時も辛うじて動けてはいたけど余り満足行く動きじゃなかったから…結局試験官にも負けちゃったし…。

 

「動き方自体は問題無いから今度は戦い方ね、取り敢えず十秋ちゃんは打鉄で良かったの?」

 

「…射撃は自信無いので…。」

 

「…練習しないと上手くはならないわよ?…まあその前に十秋ちゃんは刀じゃない方が良さそうね…。」

 

「え~と…はい…。」

 

前世で私は篠ノ之流剣術を少しかじり、今世で本格的に習ったが余りしっくりは来なかった…。柳韻さんも恐らく刀そのものは向いてないだろうと判断していたから…もしかしたら私の癖に気付いていたのかもしれない…

 

「…ちょっと待っててね?」

 

そう言って一度ISを解除してその場を後にする刀奈…何処へ?

 

 

 

「…有ったわよ十秋ちゃん!」

 

「…サーベルですか…。」

 

実は更識家で改めて剣術を習った際に私は西洋剣術を勧められていた。…あの時は軽く振っただけで刀は向いてないと判断されたから驚いたものだ…。…今世は筋肉とかの着き方も違うと思うんだけどな…。

 

 

 

「…取り敢えず打って来なさい十秋ちゃん!」

 

「…では、遠慮なく…!」

 

私は刀奈に向かって突きを放った…!

 

「…わっと。早いわね十秋ちゃん!…あの頃より早くなってるわよ?何処かで習ってたの?」

 

槍で弾かれそのまま向こうも突きに来る…うわっ、早っ!

 

「…わわっ!…やってませんよ。今日、久しぶりに持ちまし、た!」

 

胸の辺りを突くと見せかけて頭部を突きに行く!

 

「…!見え見えよ、十秋ちゃん!」

 

首をずらして躱されて…突きに来た槍を横に飛んで「そこじゃダメよ、斬ることも出来るんだからね!」

 

「…ッ!」

 

僅かにS.E.が持って行かれる…強い…あの頃も勝てなかったけど…更に強くなってる…!…前世の私はどれだけ自惚れていたんだろう…?…まあ当時の私と今の私じゃあ色々違うけど、ね。

 

「…もう少し時間あるけど続ける?」

 

「…はい!お願いします!」

 

「良いわね♪じゃ、行くわよ!」

 

 

…後に他の生徒が自分の訓練そっちのけで私たちの模擬戦を見物していたと知って困惑するのは別の話…そんなに参考になるのかな…?



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親友の妹に転生しました31

「…じゃあ特に問題無し?」

 

「…うん、刀奈さんには負けちゃったけどね…」

 

「…三年の生徒を抑えて最強なんだろ?そう簡単には勝てないだろ。」

 

「…うん。」

 

そうは言うけど悔しいのは確かだ。そもそも私の戦い方は決め手が無いからこのままだとセシリアに勝つのも厳しいとか。

 

「…今更だけど俺たちには専用機が支給されるらしいぞ。」

 

「えっ!?まだ一年で代表でも無い私たちに専用機!?」

 

「…データ取りのためだろうな。相手も代表候補生だしな。」

 

「…何時来るの?」

 

「未定。本番には間に合うらしいけど。」

 

「…試合当日に来たりして。」

 

「…十秋姉がそういう事言うと当たるんだけど…正直当日に来られてもろくに慣らしも出来ないだろうから、それなら基本機の方が良いかもな。」

 

「…そうだね。私が今日使ったのも武装こそ違うけど打鉄だし…そう言えば一夏は箒と訓練しに行ったんだよね…?」

 

「…訓練、訓練か…。」

 

「…どうしたの?」

 

「…俺さ、剣道しただけだったんだよな…。」

 

「…えっ?何で?」

 

「何でだろうな…。」

 

首を傾げる一夏。…聞いてるのは私なんだけど…。

 

「…そう言えば箒は?」

 

「…先に戻ってるよう言われたんだけど…そろそろ消灯が近いな、見て「私が見てくるよ」そうか?気を付けろよ。」

 

「…大丈夫だよ。ここは学園の中だよ?」

 

「…それも、そうか…。って…十秋姉?道場の場所分かるのか?」

 

「…!あっ…。」

 

「やっぱり一緒に行こう。消灯時間も近いし、良く考えたらこんなタイミングで十秋姉を一人で行かせたなんて千冬姉に知られたら俺が怒られる。」

 

「そうだね…一緒に行こうか…。」

 

 

 

「…ここ?」

 

「…ああ。」

 

「取り敢えず一夏はここで待っててよ。私が見てくる。」

 

「そうだな、じゃ任せる。」

 

 

 

私が中に入ると道場の真ん中で瞑想している箒がいた…凄い。かなり集中してる。…と、いけない見蕩れてる場合じゃなかった…。

 

「…箒?」

 

「…むっ?十秋か?どうしたんだこんな所に?」

 

「箒が戻って来ないから様子を見に来たんだよ。一夏も外にいるよ?」

 

「…そうか…。」

 

「…取り敢えずシャワー浴びて来なよ、多分一夏が行ってからずっとそのままでしょ?風邪引いちゃうよ。」

 

「……分かった。行って来る…。」

 

のそのそと立ち上がる箒…遅い。消灯時間になっちゃうよ…。

 

「外で待ってるから急いでね?」

 

「…ああ。」

 

そう言われても動きの遅い箒…お願いだから急いで!とは思ったけど到底そんな事言える雰囲気じゃなかった…何かあったのかな?一夏に聞いてみよう…。



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親友の妹に転生しました32

「えっ?勝っちゃった…?」

 

「…ああ。…やっぱ、不味かったかな…?」

 

「…いや、手を抜いたら抜いたで怒るとは思うけどね、多分箒程の実力なら分かるだろうし…。」

 

「だよなぁ…。」

 

箒は中学生剣道全国大会優勝者である。…ちなみに私たちは決勝だけだがその映像は見させてもらってるし当然その事について祝福もした…

 

「…まあ先に見ちゃってたのが原因かな…?」

 

「だな。俺自身カウンターは自信あるとは言え隙だらけにしか見えなかったし…。」

 

「…見てる限り速攻で決めてたからね…箒。」

 

「…まさか取り組みの大半が初手からの面狙いだとは俺も思わなかったな…。」

 

「…引っ込みが付かなくなったのかな…?」

 

「…というか何が起こってるのか分からないって感じだったな…確かに早かったけど俺からしたらもっと早いの知ってるから…。」

 

「…あの人早かったからね…柳韻さんと互角かな…?」

 

護身用に体術教えてくれた人もそうだけど…更識家の人たちってどうなってるんだろう…?

 

「…さぁ?見てみたい気はするけど…って…今は箒の事だったな…。」

 

「…ショックは受けてたけど受け容れてる感じだったけど…立ち直るのには時間かかるかもしれないけど…。」

 

「…それ自体は構わないんだけどさ、今はさっさと出て来て貰わないと困るんだけど…。」

 

「…そろそろ時間だね…放っておく訳にもいかないし…。」

 

「…参ったな…。」

 

「…何をしてるんだお前たち?そろそろ消灯時間だぞ?」

 

「あっ、姉さん…それが…。」

 

 

 

「…そういう事か。話は分かった。取り敢えずお前らは帰れ。篠ノ之の事は私が送って行く。」

 

「…でも千冬姉…」

 

「…今の篠ノ之はお前と顔を合わせるべきじゃない。逆効果になる…ほらさっさと戻れ。それとも、罰則覚悟で残るか?」

 

「…分かった。頼むよ、千冬姉…。」

 

「…分かっている。早く行け。」

 

 

 

「…一夏、あんまり気にし過ぎないようにね?」

 

今回の一件一夏に落ち度は余り無い。下手に手を抜けない事を考えると寧ろ模範解答だった気がしないでもない。

 

「…分かってる。お休み、十秋姉…。」

 

「お休み、一夏。」

 

一夏が部屋に入るのを見届け私もドアを「お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも「ご飯は済ませてるのでシャワーを浴びます」もう。もう少し付き合ってよ。」

 

「…そう言われても…と言うか着替えて下さい。目のやり場に困りますので。」

 

「…はいはい。」

 

そう言って刀奈はエプロンを外すとパジャマに着替える。…てか、水着じゃなくて下着だったんだ…。

 

「…随分遅かったけど何かあったの…?」

 

「…はい、ちょっと…。ごめんなさい、夜食用意出来なくて。」

 

「何時もやってもらうわけにいかないし良いわよ。それに今日は早目に仕事終わらせて夕食も済ませて来たし。」

 

「…朝食は「明日の朝食は私が用意するわ。と言うか交代制にしましょう?せっかく同室なんだし。」…そうですね。」

 

「…取り敢えずシャワー浴びて来ます。」

 

「行ってらっしゃい♪」

 

箒の様子は気になるけど私には何も出来ないしなぁ…取り敢えず今日は休もう…。



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親友の妹に転生しました33

「…それは私に相談されてもねぇ…」

 

「…やっぱりそうですか…」

 

次の日、刀奈が作った朝食を食べながら私は昨日の事を刀奈に相談していた…美味しい…。一夏に負けず劣らずの味。…私が更識家にいた頃から美味しかったけど更に腕が上がったみたい…。

 

「…長い間会ってなかったって言っても幼馴染でしょ。なる様になるわよ。…そもそも私は一夏君の人となりは知ってても箒ちゃんの事は良く知らないから何とも言えないし…。」

 

確かに。

 

「…まっ、大丈夫でしょ。一夏君なら。」

 

「そうですね。」

 

不思議と一夏なら何とかなると言う刀奈には共感出来た。…それに、元々箒自身が一夏を嫌う可能性が全く無いから、ね。

 

「…それはそうと今日からは一夏君もこっちに参加するんだっけ?」

 

「…はい…。何か勝手に決めてすみません…。」

 

「…私は別に構わないけど、一夏君ならそれ程手間もかからないだろうし…。…でも箒ちゃんの事は良いの?」

 

「それが…完全に自信を失ってコーチを降りちゃったらしくて…。」

 

「…あらら…箒ちゃんのケアの方が先じゃない?」

 

「私も心配ですしそうしたいのは山々なんですけどあまり時間も無いんで…。」

 

「まあ確かにね…。私としては別に断る理由は無いし良いけど…。」

 

最も一夏なら試合の日までに和解しそうだけど。絶対一夏はタラシだと思う。前世の時も凄かったけど今世は余計に磨きがかかってる気がする…。

 

 

 

「…一夏君も特に問題無いわ。」

 

「…そうですか。」

 

一夏…本当に初めてなんだよね?前世の私並に動けるってどういう事…?一夏とも戦わなきゃいけないんだよね…?勝てる気がしないんだけど…。

 

 

 

「…そう言えば箒はどうしてるの?」

 

訓練が終わった後私は聞いてみた。

 

「…千冬姉の説得は聞いたみたいだけど…まだ落ち込んでるよ…。道場にも行ってないみたいだ…。」

 

「…どうするの?」

 

「…う~ん…」

 

考え込む一夏…回転も早い筈なのに一夏も時々脳筋になるんだよね…。

 

「…まっ、何とかなるよ。部屋も同じだし、話すチャンスはいくらでもあるしな」

 

楽観的なのに不思議と説得力はあるんだよね…。

本人から改めて聞いても多分何とかなるだろうと思えちゃう…。

 

 

「…あ〜そこそこ…!上手いわね、十秋ちゃん。」

 

「凄く凝ってますよ?根を詰め過ぎじゃ?」

 

今私は刀奈の肩を揉んでいた…信じられないくらいガチガチなんだけど…これ十代の肩じゃないよ…。

 

「普通の学校じゃ考えられないくらい忙しいのよ、ウチの生徒会。何故か生徒が処理すべきじゃない案件が回って来たりするし…。」

 

それは教師の怠慢なんじゃ…?

 

「…権力って使いようによっては便利だけど一々責任がついてまわるのが難点かしらね…。」

 

「……」

 

別にマッサージくらいお易い御用だし、愚痴を聞くのも構わないけど…そう言う意見に何て返せば…私としては非常に困るんだけど…。

 

「…十秋ちゃん、生徒会に入る気は無い?」

 

「…考えておきます。今は試合の事に集中したいです…。」

「うん。考えておいて。…ふぅ。ありがとう、楽になったわ。」

 

「どういたしまして。…お世話になってますしこれくらいなら別に良いですよ」

 

その後私たちはお喋りもそこそこにベッドに入った。

 

 



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親友の妹に転生しました34

そして、やって来た試合当日…

 

「さて、最初の試合だが…そうだな、まずは一夏、十秋、お前たちだ。」

 

「…十秋姉が最初の相手か。相手にとって不足は無いな。」

 

とても獰猛な笑顔を私に向ける我が弟…いやいや…待って待って…私、一夏に勝てる気がしないんだけど…セシリアなら勝てるって意味じゃないけど…。

 

「私は後回しですか「自惚れるな」…はっ?」

 

「…お前が後で当然だ。あの二人とお前ではレベルが違う。…言っておくが身内贔屓では無いぞ?この後の試合を良く見ておく事だ…付け焼き刃でも少しは勝率が上がるかもしれんぞ?」

 

どうしてそうこっちにプレッシャーかけるような事を言うのかな…?

 

「…十秋…」

 

「…箒、もう大丈夫なの?」

 

「ああ、大丈夫だ。心配かけたな…」

 

やっぱり試合には間に合ったね、さすが一夏。

 

「箒が元気になったのなら良かったよ。」

 

「…嬉しいが私の事を気にしてる場合なのか?お前の相手は一夏だぞ?」

 

一度負けただけあって実感込もってるね箒…でもね…

 

「…私も遊んでた訳じゃないから。それに私はずっと一夏を見てきたからね…。」

 

「!…お前がライバルじゃなくて良かったよ…。間違いなく強敵だった…。」

 

…それは恋のライバルの話かな?…確かに私は一夏を恋愛対象に見てはいないけどね…一人の少女の姿が頭を過ぎる…。彼女は今どうしているだろう?もしこの学園にいたら箒の最大のライバルだっただろうね…。

 

「…私は一応好きな人いるからね…」

 

十年以上片想いだけど…。

 

「ん?そうなのか?意外だな…。私の知ってる人物か?」

 

「…うん…。」

 

箒も良く知ってる人で今もこの場にいるよ…。

 

「…教えてはくれないのか?」

 

「……そのうちね…。」

 

今世の箒にはまだ言えないかな…あっちでは同性ってだけだけど今世は姉妹の間柄だし…。

 

「…かなり訳ありのようだな…。何かあったら何時でも相談しに来ると良い…私が力になれるとはとても思えないが話くらいは聞くさ。」

 

「…ありがとう…。」

 

いよいよ我慢出来なくなったら相談しようかな…。刀奈でも良いけどやっぱり今世も似たような想いを抱えてる箒に相談したいな。

 

「そろそろ時間だ、二人とも準備しろ。」

 

「分かった。行くぞ、十秋姉。」

 

「うん、行こうか。」

 

一夏たちと別れ私はピットに入る。

 

 

 

目の前にいるのは専用機、白式を纏った一夏…お互い実は一次移行前のぶっつけ本番。…何で本当に当日になって届くのかなぁ…これなら打鉄の方が良いとも思ったけど千冬に押し切られて私も仕方なく専用機を纏ってる…違和感が凄い。こういうのはフィーリングの問題なんだろうけど、ね。やっぱり使い慣れた物の方が良いよ…。

 

「…行こう、シュナイダー。」

 

…取り敢えずやれる所までやってみますか。

私は試合開始の合図と共にサーベルを一夏に向け突進した。

 



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親友の妹に転生しました35

「…くっ!」

 

現状私たちに射撃武装は無い…有ってもどうせ使えないけどね。なので必然的に近接戦闘が主流になる。

 

「…十秋姉!早いだけじゃ俺には勝てないぜ!」

 

こっちが縦横無尽に動き回りつつ何とか連続で突きを繰り返しているけど一夏は尽くを躱してくる…!しかも一度こっちの隙を見つけてからの踏み込みが早い!

 

「…はっ!」

 

回避しつつすれ違いざま無理矢理突きに行く!

 

「…!危ねっ!」

 

「…何であの状況から回避出来るのよ…!」

 

そのまま横に高速で移動する一夏。…本当に出鱈目だ…!ISにはスラスターが付いており主にそれを点火して動くスライダー方式の移動が主流だけど人間は普通いきなり横に体制を敢えて崩しつつスラスターを吹かし攻撃を躱すなんて芸当は出来ない…何故っていくらISを纏ってるからって人体が出来ない動きを咄嗟にしようとは思わない…!無理にやれば通常やった事の無い動きをした事で混乱し完全に体制は崩れるだろう…なのに!

 

「…っと。何とかなるもんだな。」

 

もう体制を立て直してる…!本当にIS乗って数日なの!?でも…!

 

「っ!私だって負けられない!」

 

一夏の姉として今世で生を受けた私だけど別に一夏とは似てないと昔は思ってた…でも違った!

 

「…そう来なくちゃな十秋姉!」

 

「…行くよ!一夏!」

 

私も一夏もきっと千冬でさえ、この感覚は捨てられない!この高揚感!細かい事はどうでもいい!ただ!

 

「一夏!勝つのは私よ!」

 

「譲れねえよ十秋姉!勝つのは俺だ!」

 

今が一番楽しい!一夏と戦ってるこの瞬間が今の私の全てだ!

 

「っ!何!?」

 

機体が光に包まれて…そうか終わったんだね…。

 

「…私に見せて!新しい貴方を!」

 

視界が白く染まる瞬間、一夏の白式も光に包まれるのが見えた…。

 

 

 

「…これは…」

 

私の機体は白式の様に白かった…今は青色に染まり、右手に持つサーベルは変わらないけど左手に…

 

「…短剣?」

 

両刃の短剣が握られていた…この独特の形…

 

「…マン・ゴーシュ…」

 

成程。サーベルで打ち合うには強度が足りなかったからね…これならいけるかも!

 

「…十秋姉も終わったんだな…。」

 

「…一夏、その刀は?」

 

一夏の手にはさっきとは違う刀が。移行後に現れた以上普通では無い筈…!

 

「…さあな。戦えば分かるんじゃないか?」

 

刀を構える一夏。…そっか、誘ってるんだね…

 

「…そうだね…ぶつかれば分かる!」

 

私は二つの剣を手にさっきよりも早いスピードで突っ込んだ。

 

「…くそ…面倒だな、その剣…!」

 

「…そう簡単に食らいたくないからね!」

 

さっきは回避しか出来なかった剣を左手の短剣で弾いて行く…とは言えこのままだと私も攻撃しづらい…!剣が短過ぎる…!あの刀を食らったら不味いと言うのは所詮勘だ。…不確定要素の方が多いのは確かだけど能力が分からない以上迂闊には飛び込めないし…。

 

「…ハア…ハア…!」

 

とは言えこのままだと私の体力が…!そろそろ決めないと…!

 

「…決着を着けるよ一夏…!」

 

「…!おう!来い!」

 

何度目か分からない程刀を弾いた後、私はその勢いを利用し距離を開けるとそのままサーベル向け一夏に突っ込む…!

…フェイントを織り交ぜての連続突きで決めよう…!

 

「…はあっ!」

 

「…ハッ!甘いぞ十秋姉!」

 

嘘っ!?早過ぎ!これじゃあフェイントの意味が…!

ダメ!一夏の刀が当た…!

 

「勝者!織斑十秋!」

 

「…はっ?」

 

「……」

 

試合終了の合図となるブザーの音が聞こえた後千冬の声で私の勝利を告げる千冬の声…私は困惑する中、一夏は何故か苦笑いをしていた…



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親友の妹に転生しました36

「え~っと…つまり、今回一夏が負けたのは…シールドエネルギを使用して発動する零落白夜を途中から発動しっ放しだったからって事?」

 

「ああ…悪かったな、こんなお粗末な終わりで…」

 

「私としてはまあ別に良いけど…。」

 

ちょっと残念ではあるけど…正直私も、もう体力はギリギリだったし…。

それにしても零落白夜ね…。相手のエネルギーを瞬時に0にしてしまうこれは千冬が現役時代使っていた能力だ。これによって千冬は最初の大会で優勝したけど…そもそも千冬程の剣の腕があったから使いこなせるものであって…普通の人はなかなか出来ないよ、相手に当てる瞬間だけ能力を発動するなんて器用な事…

 

「…今度改めて決着着けようぜ?俺もこいつを使いこなせる様にしとく。」

 

そう言ってブレスレットになった白式を撫でる一夏。

つい本気になって戦ってたけど…私はしばらく遠慮したい…今回は本当に疲れた…。

 

「…そういや十秋姉の持ってた短剣だけど…」

 

「…ああ、マインゴーシュの事?」

 

マン・ゴーシュ…俗にマインゴーシュとも呼ばれるこれの由来は前世の私の母国、フランスの言葉で左手を意味するmain gaucheだけど…まあ今はそれはどうでもいいね。多分一夏が聞きたいのはそんな事じゃないし…。

 

「移行後に現れた剣だし、その剣も多分何かあるんだろ?せっかくだから教えてくれよ。」

 

「あー…」

 

やっぱりそう来ますか…。でもね…

 

「…う~ん…そう言われても分からないんだよね…。」

 

「分からない?何でだ?俺はあの刀雪片弐型が出てすぐ情報が表示されたけど…十秋姉は違うのか?」

 

「あー…そういう風になるんだ…私の場合は特に何も出なかったんだよねぇ…。」

 

何かありそうではあるんだけどね…実はこの剣の情報だけ見れないし…マインゴーシュはあくまで剣の分類上の名前だから多分一夏の雪片弐型みたいに正式な名前があるんだろうけどそれも見れないし…。

 

「そうなのか…。」

 

そもそもこのISの名前もシュナイダーだし、(まあ言葉そのものは厳密にはドイツ語何だけど…マインゴーシュが出てる以上そっちの意味じゃ無さそう)こうもフランスで推して来るのは何故なんだろう…?西洋剣術を使う私に合わせるにしても…例えば同じヨーロッパ圏内のドイツ推しとかでも良いはずなんだけど…。ちなみに作ったのは一夏の専用機を作ったのと同じ日本の企業、倉持技研となってるんだよね…。

 

「…十秋、考え込むのは良いがまだ試合は残っているぞ。」

 

「…あっ、ごめ…すみません、ね…織斑先生…。」

 

考え事をして気を抜いていた私は千冬に声をかけられ慌てて返事をしたが気を抜きすぎたのかかなり悲惨な事に…怒られるかな…?

 

「……そろそろ罰則を考えるぞ?」

 

「すみません…。」

 

助かった…とは言えさすがにもう次は無さそうだけど…。

 

「さて、次はセシリアと戦ってもらうが…どちらから行く?」

 

「…俺が先に行くよ、十秋姉は疲れてるだろ?」

 

「…うん…ごめんね?」

 

「良いって。」

 

「…セシリアはもう先に行っている、お前もとっとと行って来い。」

 

「分かった。」

 

「一夏、頑張ってね?」

 

「おう!」

 

そうしてセシリアの元に向かう一夏を私は見送った。



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親友の妹に転生しました37

箒と一緒にモニターを注視する…。

 

セシリアの纏うブルー・ティアーズはBT兵器、所謂ビットを飛ばし、その気になれば相手を他方位から囲み撃ち出来るISだとか…でも…

 

「…セシリアはビットを使いこなせていないようだな。」

 

「そうだね…。そもそも一夏の場合、反応が早いから死角から狙っても撃たれたのに気付いたらすぐ躱せるだろうし。」

 

セシリアはせっかくのビットを動かすだけで精一杯みたい。一夏の牽制は出来てるけど決め手は全く無い。…肝心の射撃もせいぜい二箇所同時が限界。…しかも一度撃ったらそれは同じ方向にしか飛ばず躱されれば終わり…ビームである以上理論上は多分曲げられるはず…一方向にしか飛ばないなら稼働ビットが少ないせいもあり一夏を捉えるのは不可能…。

「しかし…本当に出鱈目だな…私なら躱すのも難しいというのに…。」

 

そう言って項垂れ拳を握り締める箒…

 

「別に一夏と同じ様にやる必要は無いでしょ。決勝の映像を見て思ったけど箒の強みは攻撃スピードだと思うけど…」

 

何も一夏の様に無茶な動きをして躱す必要は無い。箒なら多分ビットを叩き落とせる。…寧ろビームを斬るところまで行くかもしれない。…別にこれはISの適正云々の話じゃない。生身に纏う以上、機械的な要素が加わるとはいえ、ISの動きはその人物の反応と身体能力にある程度依存するのだ。…前世の私がそうだったし。

 

「…そうか、そうだな…。」

 

そう言っては見るもののまだ元気の無い箒…むぅ…別にお世辞言ってるわけじゃないんだけと…一夏、フォローが足りてないんじゃない?

 

「ISの扱いに自信が無いなら箒も刀奈さんに教えて貰いなよ。私が頼んでみるから…」

 

刀奈の名前は本来教えるのは不味いのだが…そもそも私は箒にはもうこの名前で伝えてしまっているし、今更だろう…。

 

「…いや、そういう事なら自分で頼むよ。教えて貰うのは私だからな。」

 

そう言って笑う箒…うん、調子が戻って来たみたい。

 

「ん?決着の様だな。」

 

「…あっ、ホントだ…」

 

いけないいけない。箒の事ばかり気にしてて見逃した…どうも一夏は零落白夜をセシリアに当てる事に成功したらしい…。あっ、セシリアのISが空中で解除されて…

 

「…あいつは一々女子とフラグを立てないといられないのか…」

 

そう言って溜息を吐く箒…。モニターに映るのは落ちてくるセシリアを受け止めた一夏…

 

「…アハハ…まあ今のは仕方無いでしょ、不可抗力だし…。」

 

前世の時から思ってたけど一夏はもうそういう星の元に生まれたとしか思えない…。苦労するね、一夏…。

 

「…笑ってるがお前も人の事は言えないと思うぞ…」

 

「…え?」

 

どういう意味だろう…私は一夏みたいにあまりフラグを立てたりしないと思うんだけど…

 

「…まあ分からないならそれで良いさ…ところで十秋?次はお前じゃないのか?」

 

「…!あっ、そうだった…行ってくるね、箒?」

 

「ああ。思いっきりやって来い。」

 

激励は嬉しいけどあんまり自信は無いかな…私は一夏と違ってセシリアを倒す決め手が無いし…。まあ私なりに出来る戦いをするだけ。

 

「ごめん…もう一勝負付き合ってね、シュナイダー…」

 

私は一夏と同じくブレスレットにした専用機に触れ声をかける…まだ一回しか一緒に戦ってないけど不思議と愛着は湧いていた…まるで昔から一緒だったみたい…。

 

そんな事を考えながら歩くと一夏の姿が見えた…

 

「…十秋姉…」

 

一夏が片手を上げる…成程。分かった…!

 

「…一夏!」

 

二人でハイタッチをする…ちょっと手が痛い…。

 

「…セシリアは強かったぞ…頑張れよ!」

 

「…うん!」

 

私はISを纏うとセシリアの元に向かう。

 



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親友の妹に転生しました38

「来ましたわね…」

 

私の目の前にいるセシリア…さて、どう戦おうかな…?

 

「…あの…十秋、さん?」

「ん?何?」

 

カウントダウンの始まる中、私に真剣な顔で声をかけてくるセシリア…どうしたのかな?

 

「…あの、申し訳ありませんでした…」

 

「え?何が?」

 

「…先日の事ですわ…私は…」

 

…あー…代表を決める時の話かな?

 

「…あー…私は別に気にしてないよ?…一夏もそう言ったんじゃない?」

 

そもそも一夏もあの時の時点で気にしないって言ってたしね。…ぶっちゃけて言えば私は日本は好きだけど別に特別愛国心は無い。…最もフランスにもそれ程執着してないんだけどね…。

 

「…そうですか…」

 

「でもまぁ、謝罪は受け取るよ…オルコットさん「セシリアで。」え?」

 

「…セシリアでお願いしますわ…」

 

「うん、分かった…それじゃあセシリア、始めよっか。」

 

「受けてたちますわ!さぁ踊りなさい!」

 

私の周りを囲むように飛ぶビット…さて、本当にどうしようかな…?正直私には一夏の様な無茶な動きも出来ないし箒程の攻撃力も無い…う~ん…

 

「…まっ、これしかないか。」

 

私はスラスターを吹かせセシリアに真っ直ぐ突っ込んだ。

 

「…なっ!?」

 

「…ごめんね?私遠距離戦苦手なんだ。どうせなら…二人で踊ろうよ!」

 

私はサーベルでセシリアをとにかく突く。…何とか躱すセシリア…うわぁ…セシリアも割と出鱈目…侮ってたかな…?

 

「…くっ!これでは「これだけ近付くとビームは撃てないよね?」…くっ!考えましたわね!」

 

これだけ至近だとセシリアの腕だと自分に当たりかねないからね…後はセシリアに近接武器が無ければ…

 

「生憎でしたわね!私にも武器はありますわ!インターセプター!」

 

「っ!ナイフ…。」

 

振るわれるナイフをマインゴーシュで只管弾き、サーベルで斬り付ける。

 

「…!どうやら貴女には一夏さんのような奥の手は無さそうですね…。」

 

「うん、無いよ。だからこのまま一緒に踊ってもらう!」

 

「…魅力的なお誘いですが御遠慮致しますわ!」

 

彼女はスラスターを吹かし後ろに下がるとナイフ…嘘!?

 

「わっ!」

 

投げ付けられたナイフを躱…しまった距離が…!

 

「今回は私は演出家、もしくは舞台装置。主役は貴女ですわ。さあ、踊りなさい!」

 

「わわっ!」

 

放たれるビームを何とか躱す…うわぁ食らう立場になるとキツイ!良く一夏はこれ躱したなあ…

 

「…逃げてばかりいても勝てませんわ!」

 

「簡単に言わないで!」

 

こっちは逃げるだけで限界だってば!…あー!もう!

 

「こんの!」

 

私はビームを飛んで躱すと今しがた私を狙ったビットに向かって走り、追い付いたところでまた飛ぶとビットを蹴り落とした。

 

「…はっ!?」

 

「…はい!返すね!」

 

「きゃあ!」

 

私は壊れたビットを掴むとセシリアに投げ付けた。

 



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親友の妹に転生しました39

「っ!野蛮な…!」

 

「…泥臭いのは嫌い?」

 

「…いえ、悪くありません…寧ろ燃えてきました!」

 

「うわぁ…。」

 

何であれで逆に火が着くかな…。そう考えつつ別のビットを同じ要領で破壊し、投げる。

 

 

「…同じ手は何度も食いませんわ!…そんなにビットがお気に召さないのであれば、これはどうでしょうか!?」

 

「わひっ!」

 

そうだ…ライフルがあったんだった…こっちはビームじゃなくてレーザー?…っ!射出が早い!

 

「どうしました!?先程の様に私の意表を突いてみなさい!」

 

「っ!…貴女、同じ立場なら出来るの!?」

 

「…この状態で何を言っても負け犬の遠吠えにしかなりませんでしてよ!」

 

早い!躱すだけで精一杯…!でもまぁ何とか躱せてはいる…そもそもセシリアは撃つのに集中し過ぎてビットの操作は疎かになってるみたい…突くならここ!

 

「…ビットの事を忘れてるよ!」

 

再び蹴り壊すと投げ、スラスターを吹かせ突っ込む!

 

「良い的ですわね!食らいなさい!」

 

飛んでくるビットの残骸を躱し、正面から突っ込む私に向かってセシリアが放つレーザーをスラスターを吹かせ、前進したまま上体を逸らして避ける…おおっ…鼻先スレスレ…でも躱せた!やってみるもんだね…。

 

「…!しまっ「遅いよ!」あうっ!」

 

私はマインゴーシュをセシリアに投げる。…予備動作無しでのやり方を習ってて良かった…。本当に武器を投げる瞬間が来るなんて思わなかったけど。…さて、追撃!

 

「…はっ!」

 

セシリアに向かって飛ぶとサーベルで斬り付け、そのまま蹴り落とす!

 

「きゃあ!」

 

下に落ちるセシリア…。やっちゃった事に気付いたけど幸いISは解除されなかった…ホッと胸を撫で下ろしてから気付く…解除されなきゃ終わらないや。

 

「ゴホッ!…こっ、こうさ「ごめんね。ルール上ISが解除されないと終わらないんだ…一夏と違って一瞬ではS.E.を0に出来ないけど我慢してね?」そっ、そんな…!」

 

変な体勢で叩き付けられたせいかむせるセシリアに向かい、私はそう告げる…凄い涙目になってる…ライフルは落としてしまったけど、実は今ならビットで私を狙えるんだけど気付いて無いみたい…あんまり追い討ちをかけるのは気が進まないけど仕方無いか…。

 

「…本当にごめん…出来るだけ早く終わらせるからじっとしてて。」

 

「…まっ、待って…!」

 

私はセシリアに向かってサーベルを突きつけた。

 

 

 

 

試合後、私はセシリアが出て来るのを待っていた。

 

「…やり過ぎたかな…」

 

「ルール上は仕方無いさ、十秋姉が悪いんじゃない。…気になるならフォロー入れに行ったらいいんじゃないか?」

 

あれから私はセシリアに散々攻撃を加えた…決め手が無いとは言えまさかセシリアが意識を失うまでISが解除されないなんて思いもしなかった…

 

「…会ってくれるかな…?」

 

「虚勢を張っているだけで脆くも見えたが…恐らく彼女は芯は強いタイプだ…大丈夫だろう…心配なら私たちも一緒に行くが?」

 

「…ううん。一人で行くよ…。」

 

私はシャワーを浴びに行ったまま戻らないセシリアの様子を見に行く事にした…。

 

 



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親友の妹に転生しました40

シャワーを浴びている筈のセシリアを探す…あっ、シャワーの音が聞こえて…えっ?ちょっと待って。確か私も浴びてから来てるし…多分もう三十分は経つよ?汗流すだけならさすがに長くない?

 

「…えっと、確かシャワーの浴び過ぎって身体に悪いんだよね…一応声はかけた方が良いかな?」

 

主にシャワーやお風呂は女性は長いものだけど…長いということは何か悩んでいる時とか、落ち込んでいる時だったりもするから様子も見た方が良いのかも知れないけど…同性だからってその辺は気を遣うべきだよね…。

 

「…セシリア?随分長く浴びてるけど「うぅぅぅ…」…え?」

 

どう考えても泣いてるよねこれ?やっぱり私のせい…?

 

「…一夏にも負けちゃってるし私だけのせいとも思えないけど…やっぱりそれだけ代表候補生の肩書きって重いのかな?」

 

嘗て私は一応フランスの代表としてモンド・グロッソに出た訳だけど…そんな重圧気にした事も無かった…と言うかとっくに学生ですら無かったし、大人になれば何だかんだ責任は付き纏うから今更だったし…別に負けたからって責められもしなかったしなぁ…まあそれでも一応準優勝だったけどね。…まだ十代の女の子には辛いよね…でもセシリアは何となく他にも抱えてそうな気がする…。

 

「セシリア!」

 

さっきより大き目に声をかけてみる…

 

「…とっ、十秋さん…?そっ、そこで何をしていますの!?」

 

「セシリアが心配だから来たんだよ!」

 

「安い同情は要りませんわ!」

 

飛んで来たのは拒絶の返事…うん、まあそうだよね。私だってろくに事情も知らずにそんな事言われたくない…でもね…

 

「…友人を心配したらいけないの?」

 

「貴女に何が分かりますの!?」

 

あー…うん。当然の反応だよね…と、冷静に受け止めつつ頭の何処が熱を持ち始めた気がした…ちょっとカチンと来たかな…!

 

「何も分からないよ!セシリアは何も話してくれないし!」

 

「何も話す事はありませんわ!出てって下さいまし!」

 

「嫌だよ!だってセシリア泣いてるじゃない!」

 

「なっ、泣いてなど…「そんな声で言われても説得力無いよ!」放って置いて下さい!」

 

埒が明かない!私はセシリアがいるシャワー室に入った。

 

「…なっ!?何のつもりですの!?早く出てって下さい!」

 

「じゃあ話してよ!私はセシリアの事、何も分からないよ!でも、これだけは分かるよ…セシリアは負けたからってだけで泣いてる訳じゃないんでしょ!?」

 

目の前には両手で抱くようにして必死に自分の身体を庇う涙目のセシリア…あー…これちょっと卑怯だよね…逃げ場無いし。でも、私は止まらない。

 

「…出てって、出てって…「セシリア…大丈夫だから…」…!…十秋さん…?」

 

セシリアに歩み寄るとそのまま抱き締める…あー…制服濡れちゃった…まあいっか。

 

「…ねぇセシリア?私はセシリアの事、友だちだと思ってるよ?セシリアは違うの?」

 

「…わっ、私は…!」

 

「…そうやって何でもかんでも抱え込んでたら潰れちゃうよ?話してよ、私には何も出来ないかも知れないけど…きっと楽にはなるよ?」

 

腕の中で啜り泣く少女を宥めつつ…あれ?これもしかして余計に事態悪化させただけじゃ?と思ったけど私にはセシリアが泣き止むまで頭を撫でてあげることしか出来なかった…。

 



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親友の妹に転生しました41

「お見苦しい所をお見せしました…」

 

「良いよ…てかごめんね、私も事情も知らないのに勝手な事言って。」

 

体感で十数分程でセシリアは泣き止んでくれた…まだ目が赤いけど大丈夫そう…

 

「いえ…十秋さんは私の事を思って言って下さいましたから…ところで制服が濡れてしまっていますが…大丈夫ですか…?」

 

「ん?ああ、だいじょ…クシュン…!…あー…ごめんね…」

 

「…いえ。取り敢えず私ももう出ますから…その…」

 

「分かった。外で待って…クシュン!」

 

あー…これヤバいかも…。

 

 

 

「…戻って来たか…ん?何で十秋姉制服濡れてるんだ?」

 

「あー…ちょっと…」

 

「…大体察した。セシリアの事は俺が見てるから、十秋姉と箒は部屋に「私が残るから十秋を部屋に送って来ると良い。」…確かに箒の方が良いか。分かった、任せるよ。」

 

「…ごめん箒…セシリアの事頼むね?」

 

「…ああ、分かった…取り敢えず早く部屋に戻って着替えた方が良い…風邪を引くぞ?」

 

「…分かって…クシュン!」

 

「…急いだ方が良いみたいだな…ほら、十秋姉取り敢えずこれ羽織ってろよ。」

 

そう言って私に自分の制服を渡してくる一夏…

 

「…でもこのまま着たら一夏の制服も濡れちゃうよ…?」

 

「気にするなって。予備はあるし、十秋姉に風邪引かれるより良いから。」

 

「……分かった…ありがとう、一夏…」

 

「…気にするなって。…さて行くか…刀…楯無さんはもう戻ってるかな?」

 

「…分からないけど…多分…。」

 

「戻ってみれば分かるか…」

 

 

 

「…着いたぞ。さて…」

 

部屋の戸をノックする一夏…

 

「は~い。…あら、一夏君じゃない…あれ?何で十秋ちゃんそんなにびしょ濡れなの?」

 

「…先に戻ってて助かりましたよ、楯無さん。見ての通りの状態です。詳しくは十秋姉に聞いてもらえればと…もうクシャミ出始めてるんで万が一十秋姉が風邪引いたら頼んで良いですか?…さすがに男の俺が世話するのは余り…」

 

「もちろんよ♪十秋ちゃんは家族だもの♪」

 

「…それじゃあ俺はこれで…じゃあな十秋姉。」

 

「…あっ!待って。…ほら、一夏制服。」

 

「…あっ…忘れてたな「一夏君、その制服も濡れてるわよ?さすがに着るわけじゃないでしょ?序にこっちで洗ってあげようか?」…そう、ですね…お願いして良いですか…?」

 

「ええ♪じゃあ預かるわね…」

 

「…それじゃあ失礼します…」

 

 

 

「…それでセシリアちゃんを抱き締めたの?十秋ちゃんも結構大胆ね♪」

 

「…いや、だって…私が泣かせたんですし…それに何か放っておけなくて…」

 

「…十秋ちゃんのそれは美点なんだか欠点なんだか悩むわね…。」

 

「…特にお人好しのつもりも無いんですけどね…」

 

「…十秋ちゃん程のお人好しはあんまりいないと思うけどね…さて、今日はもう休んで良いって言われてるんでしょ?ご飯作ってあるけど寝る前に食べておく?」

 

さっきシャワーは浴びた…後は食事するか、寝る位しかやる事無いな…

 

「…そうですね、それじゃあご飯頂きますね?」

 

「そう。なら今用意するわね?」

 

食事は取っておかないと…体力落ちてたら間違いなく風邪引くと思うから…

 

……翌日、私は結局風邪を引き、授業を休んだ刀奈に看病される事になる…。



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親友の妹に転生しました42

「…38度…間違いなく風邪ね…」

 

「…すみません…迷惑かけて…」

 

「病人がそんな事気にしないの。…今日は私がついててあげ「大丈夫ですよ…さすがにそんなわけには」だから気にしなくて良いわ。迷惑だなんて思ってないわよ、でも借りだと思うなら元気になったら返してくれれば良いし。」

 

「…はい…」

 

「あー、そんなに深刻に考えないで。そうね、今度買い物にでも付き合ってもらおうかしら♪」

 

「…そんなので…良いんですか…?」

 

「ええ♪それが良いの♪」

 

何か嫌な予感が…後、悪寒も…って、これは多分…私が風邪を引いてるからだね…

 

「お粥作るわね…食べられそう…?」

 

「…正直…あんまり食欲が…」

 

「…少しは食べた方が良いわ…でも無理せず食べ切れなかったら残して良いからね?…吐いたらいけないし。」

 

「…はい…」

 

「じゃ少し待っててね…あ、さすがに時間はかかるから、寝てて良いわよ?…出来たら起こすから…後喉乾いたらそれ、飲むといいわ。」

 

言われて指されたベッドの近くに置かれたテーブルを見れば良く見かけるスポーツドリンクのペットボトル…

 

「…これ、刀奈さんが…?」

 

「ううん。一夏君よ…今朝貴女が熱出したのを一応一夏君に電話で伝えたんだけど…それからすぐにこれ持って来たわ…多分購買行ったのね…まああの時間はまだ開いてる訳ないから間違いなく怒られたと思うけど…。」

 

「…一夏…」

 

あーあ…一夏にも迷惑かけて…情けないな…私…

 

「…一夏君も別に迷惑だなんて思ってないと思うわよ?」

 

「…そうですかね…?」

 

うん…相変わらずバレてるけど…今は突っ込む気力も無いや…

 

「家族ってそういうものじゃない?迷惑かける時もあれば逆に向こうが困ってるのを助ける事もあるし。…憎みあったりいがみ合ったりする事もあるけど…友人よりずっと深い付き合いの出来るものなんじゃないかと私は思う。付き合いも長くなるものだしね…特に…貴女たち双子なんでしょう?産まれる前から一緒なんだから余計に長いでしょう?」

 

「…そう、ですね…」

 

……前世では付き合いも短いし、私からしたら弟みたいな(私が姉で良いよね?…一夏の方がしっかりしてた気もするけど)存在だったけど…今世では頼りになり過ぎて…ついつい色々迷惑をかけてばっかり…私が一夏を助けた事なんてあったかな…?

 

「…十秋ちゃんはね、一夏君はもちろん、他にも色んな人を助けてるわ。私も救われた一人よ♪」

 

「…私は何もしてませんよ…?」

 

全く身に覚えが無いんだけど…更識家でも一夏と共に色んな人に迷惑かけた記憶ばかりあるんだけど…

 

「…分からないなら良いわ…それも多分貴女の魅力よ♪」

 

「……」

 

「…さっ、そろそろ横になって。…今お粥作って来るから。」

 

「…はい…」

 

横になると自然と瞼が重くなって来た…キッチンに向かう刀奈の後ろ姿を見ながらやがて私は眠りに落ちた…。

 

……あ…セシリアの事…どうしよう…?一夏に任せるしか無いのか…な…駄目…眠い…



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親友の妹に転生しました43

「…はい、十秋ちゃん…あ~ん…」

 

「…あの…自分で食べたらいけない…ですか…?」

 

「…あ~ん…」

 

威圧を感じるレベルになって来たんだけど…仕方無いかな…私は口を開ける

 

「…どうかしら…実はお粥はあんまり作った事無いのよね…」

 

「…美味しいですよ…」

 

……気恥ずかしいのと熱のせいか味が良く分からない…梅干し入りだから酸味は分かるけど…まあ思ったより食べ易いのは確かかな…

 

「…取り敢えず食べる事は出来そうね…もう少し食べる…?」

 

「…はい…」

 

「…じゃ、あ~ん…」

 

「…あの…自分で…」

 

「あ~ん…」

 

「……」

 

 

 

「…全部食べたわね…。大丈夫?」

 

「…ええ…」

 

刀奈の作ったお粥は思いの外スルスル入って行った…今の所身体にも特に問題は無い…途中吹っ切れて来たけど改めて思い出すと恥ずかしさで辛いけど…

 

「…それじゃあ私は仕事があるから…何か用があったら言って?」

 

「…はい…」

 

……寝よう…これ以上迷惑かけたくないし…

 

「…用じゃなくても心細くなったら呼んでくれて良いからね?」

 

「…はい…」

 

……こういう時は普段強く振る舞ってる人でも寂しくなる…と言うのは知識でも知ってるし経験もあるけど…出来れば呼びたくない…邪魔したくないし。

 

 

 

「…十秋ちゃん?起こしちゃった?」

 

「…刀奈さ…ん?」

 

仕事するんじゃ?

 

「…そろそろお昼だけどお粥食べる?」

 

…そんなに寝ちゃってたのか…

 

「…はい…」

 

「…それじゃあ待っててね、今温めて…あ、忘れてた…はい、体温計。一応計っておいて。」

 

「…はい…」

 

 

 

「…40度?…上がってるわね…さっきの薬効いてないのかしら?…多分インフルエンザじゃないと思うんだけど…参ったわね…この状態じゃ迂闊に医務室にも連れていけないし…」

 

「…ごめんなさい…」

 

「十秋ちゃんのせいじゃないわ。…薬貰いに行きたいけど…取り敢えず誰か…ちょっと待っててね?」

 

そう言い電話をする刀奈…誰にかけるのかな…?

 

 

 

「…あ、十秋、起きた?」

 

「…簪…?何でここに…?」

 

「…お姉ちゃんに言われて来たの。十秋が風邪引いて寝てるから自分が薬貰いに行ってる間様子見ててって。」

 

「…そう…ごめんね…?」

 

「…気にしないで。やる事があったのは認めるけど…十秋の方が大事だもん。」

 

「…やる事?」

 

何だろう?そう言えばいくらクラスが違うとはいえ入学してから簪と全然顔合わせなかったけど…それが原因?

 

「…元気になったら教えるよ。せっかく久しぶりに会ったんだしそんな話今は良いよ。」

 

「…うん…でも…私…」

 

あんまり相手は出来ないと思う…また瞼が重くなって来たし…

 

「良いよ。私は今日は十秋の様子見に来ただけだから元気になったらまた話そう?私も時間作るから…。」

 

「…うん…」

 

眠い…

 

「…十秋?眠い…?」

 

「…うん…」

 

「…寝てて良いよ。…おやすみ、十秋。」

 

「…おやすみ…簪…」



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親友の妹に転生しました44

「えーと…うん。下がったみたいね…良かったわ…薬使わないのに越した事は無いしね…」

 

次に目が覚めるともう簪はいなくて刀奈がいた…もう少し話したかったな…

 

「…そうですか…ところで何の薬ですか…?」

 

「ん?解熱剤だけど?」

 

「…解熱剤…」

 

何となく嫌な予感が…

 

「ほら、坐薬♪」

 

……私高校生なんだけどなぁ…普通子供以外で解熱用の坐薬使う例はあまり聞かない。

 

「ちなみにですけど「もちろん私が入れてあげたわよ♪十秋ちゃんに無理させるわけにいかないしね♪」……」

 

熱が下がってくれて本当に良かったと思う…同性相手でもお尻の穴を見られたり、指入れられるのはちょっと…

 

「ん?もしかしてやって欲しかった「違います!」ほら~大きな声出しちゃダメよ…また上がるかもしれないし…」

 

…一応、刀奈が純粋に私を心配してくれてるのは分かるんだけどね…

 

「大丈夫♪十秋ちゃんは多分お尻の穴も綺麗だし♪」

 

「…そういうわけのわからないヨイショ要らないです…」

 

何が大丈夫何だか…心配…してくれてるんだよね…?…私としてはそういうのは千冬が…やっぱり無しで。

 

「…あらノック?ちょっと見て来るわね?」

 

「…はい…」

 

刀奈が部屋のドアを開ける…ここからだと顔が見えないし、少し意識が朦朧としてるのか声も良く聞こえない…

 

「十秋ちゃん?セシリアちゃんが来てくれたわよ?」

 

「…えっ…!?」

 

刀奈の言葉に驚いているとセシリアが刀奈の後ろから顔を出す。

 

「…十秋さん…」

 

「こんばんはセシリア…」

 

身体は起こせないけどせめて笑顔を向ける…今はこんばんはで良いんだよね…?

 

「…こんばんはですわ…申し訳ございません。私のせいで…」

 

「…違うよ。私が勝手にシャワールーム入って濡れて風邪引いただけだよ…セシリアのせいじゃないよ…」

 

「…違います!私が「セシリアちゃん?十秋ちゃんこの状態だしあまり大声上げるなら出ていってもらうしか無いけど…」申し訳ございません…」

 

「…楯無さん、申し訳無いですけど「分かった…私はそうね…隣にいるから何かあったら携帯かけて?」ありがとうございます…」

 

席を外してって言おうとしたんだけど…本当に察しが良いなぁ…それともまた私が分かりやすいだけ?

 

「セシリアちゃん、帰る時は寄ってってね?」

 

「分かりました。」

 

 

 

刀奈が出て行きセシリアと二人っきりになる…

 

「…具合はいかがですか?」

 

「…うん…少し前まで熱も高かったけど今は下がったみたい…」

 

「本当に、申し訳「もう良いってば。気にしないで…」そんな訳には…」

 

「それより…話があって来たんだよね?」

 

何となく分かる…セシリアは一応お見舞いにも来てくれたんだろうけど…多分大事な話があって来たんだと思う…

 

「…大丈夫ですか?込み入った話になります…後日の方が…」

 

「でも…セシリアは決心して来てくれたんでしょ?」

 

絶対、それなりに葛藤があったと思う…

 

「それより良いの?私が聞いても?それは多分セシリアが「良いんです。十秋さんに聞いて欲しいんです」それなら聞くよ…ううん聞かせて?貴女の事を…」



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親友の妹に転生しました45

「…私は両親を亡くしてるんです…」

 

セシリアの話はかなり重い一言から始まった…改めて勝手な事を言った自分に嫌気が差す…いっその事耳を塞ぎたくなったけど…それは、出来ない。セシリアは多分それ相応の覚悟を持ってここにいるから。私は聞かないといけない。

 

「幼少期の記憶では二人は仲が良かったと記憶しています…ですが女尊男卑の風潮が蔓延してその関係性は目に見えて変わってしまいました…私の父は婿養子だったんです…そのせいか、母の顔色を伺う姿ばかり見せられる様になりました…私はそんな父が我慢なりませんでした…!どうしてもっと強く出れないのか、と。」

 

「……」

 

私にはセシリアの気持ちは分からない。今世はそもそも両親がいないし…どうしてるのかは知らない。千冬は話してくれないし、私が自分の事を自覚した時にはもういなかった。前世の両親は覚えてる限りでは良過ぎる位仲が良かった様に思う…

 

「それ以来、私は男性を見下す様になりました。…でも…あるんです…私にはその力強い腕に抱きとめられ、大きな手に頭を撫でられた記憶が…そして両親二人が楽しそうに話す姿も…あれは幻だったのでしょうか…?」

 

「あの日から私は、その腕に抱かれた事も頭を撫でられた事もありません。母は父をどう思っていたのか…当初情けない父を同じく見下しているのだと思っていました…でも変じゃありませんか…二人は同じ列車に乗り死んだんです…随分前から二人は一緒に食事をする事すら無くなっていたのに…!」

 

「…真意はもう聞けません。それに…」

 

「…それに?」

 

「…二人が亡くなってから私が相続した遺産を狙って親戚が私に媚を売ったり力尽くで私から財産を奪い取ろうとし始めたのです…私は両親の死を心の片隅に追いやり戦いました…」

 

「…代表候補生になったのは地位の確立の為?」

 

国の代表…まで行かなくても代表候補生にまでなればそれなりに国から便宜を図って貰え…無いかもしれないけど…確かに有象無象が寄ってくるのは牽制出来ると思う…

 

「そうです…私はその為に生きて来ました。それもこれも家を守る為。…でも分からなくなったんです…私は負けてしまいました…それもろくにISに触れた事の無い筈の素人、しかも男性に…そしていくら同性とはいえ、同じく素人の筈の貴女にまで…」

 

「…セシリア…」

 

「…先程、一夏さんの所に行きました…その時には聞けなかった事を聞いても良いですか…?」

 

「…何かな?」

 

「私は…私のやって来た事は一体何だったんでしょう?私の努力は全て無駄だったのでしょうか…?」

 

「…ごめんね…私には答えられないや…」

 

……セシリアの努力は無駄なんかじゃない。現に血の滲む様な努力をしたからこそ、決して広き門とは言い難いIS選手としての代表候補生の肩書きを手に入れた。…でも彼女は一夏と私に負けた事を重く受け止めてる。彼女のやって来た軌跡を知らない私が一般論でそんな事口に出来るわけない…。

 

「そうですか「でもね」えっ?」

 

「強かったよ、セシリアは…一夏もそう言ってくれたんじゃない?」

 

「……」

 

「…言っておくけどこれは慰めじゃないからね?寧ろ…負け惜しみかな?」

 

「……試合に負けたのは私ですよ?」

 

「…あんなの認められるわけないじゃない…僅かでも集中が切れてたら負けてたのは私なんだからね?」

 

この悔しさはセシリアでも否定はさせない…!あんなの勝利なんかじゃない…!

 

「負けず嫌いってわけじゃないけどさ、そんな風な顔されたらさすがに怒るよ。セシリアは試合には負けたかもしれないけど実力的には絶対私よりはずっと上だからね?」

 

せめて私が全盛期の実力ならまともな勝負になった筈…!

 

「出来れば堂々としてて欲しいな、私はセシリアに私の目標でいて欲しいから。」

 

「…私は遠距離タイプなのですが…」

 

「…私は近距離で確かにタイプは違うよ?でもセシリアの努力を続ける所は見習いたいな。」

 

私にはセシリア程努力した記憶は…多分前世でも今世でも無い…

 

「そしてそれ以上に、セシリアには対等に、本当に私の友人になって欲しいな。」

 

「…私で宜しいんですか?」

 

「セシリアだから…セシリアみたいな真っ直ぐで自信に溢れたその姿に私は憧れる…だから私は貴女に友人になって欲しい。」

 

私は右手を布団から出す。

 

「…何ですの?」

 

「握手。親友になった記念かな?」

 

セシリアはしばらく私の手を見詰めてた…どれくらい時間が経っただろう?軈て…

 

「…私は貴女のその優しさに惹かれました…貴女は私を心配してくれた…私で良ければ是非お願いします。」

 

セシリアが私の右手を掴む…

 

「…温かいね、セシリアの手。」

 

「…十秋さんの手は冷た過ぎますわ…風邪のせいですの?」

 

「う~ん…元々私冷え症の気があって…ごめんね…」

 

これは前世からの持病の様なものだ…何でこの世界に来てまで出るかな…

 

「手が冷たい人は心が温かいそうですわ…きっと、貴女の心はまるで太陽の様でしょう…」

 

「…さすがにそういう褒め方は恥ずかしいんだけど…」

 

顔が熱い…そんな褒め方された事無いよ…

 

「…照れなくて良いですわ。貴女はそう言われるのに相応しいと思います。」

 

「…そんな事無いと思うけどなぁ…」

 

「…自覚が無いだけですわ…と、もうこんな時間ですか…私は戻りますわね…すみません長々と「違うよ」えっ?」

 

「…私たちは親友でしょう?それに私は怒ってないよ。こういう時は…」

 

「…ありがとう、十秋さん。」

 

そう言って去り際に見せてくれた笑顔に私は思わず見蕩れた…千冬がいなかったら惚れてたかも…私って単に同性に惚れっぽいってわけじゃないよね…?…そもそも千冬に会うまではノーマルだった筈なんだけどなぁ…



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親友の妹に転生しました46

「…セシリアちゃん帰ったのね…」

 

「…刀奈さん、もしかして聞いてました?」

 

タイミングが良過ぎるからね…ほとんどセシリアと入れ替わりに戻って来たし…。

 

「……十秋ちゃんなら分かっちゃうか…ごめんね、この部屋は私自身がカメラと盗聴器を仕掛けてるの。…セシリアちゃんには内緒でお願い。」

 

「そもそも言えませんけどね…」

 

余計にセシリアに罪悪感が…刀奈が私の為にしてるのは分かるけど…

 

「後ね…」

 

「?…何ですか?」

 

歯切れが悪い…まだ何かあるのかな…?

 

「…いやね、廊下に織斑先生がいるのよね…本人は気配を消してるつもりみたいなんだけど…」

 

「…あー…」

 

千冬本人、あれだけ存在感あって早々気配なんて消せないと思うけど…

 

「…基本同室の私しか十秋ちゃんの様子見れないから本音から又聞きだけど授業も全部自習にしてたみたい…」

 

「…姉さん…」

 

「…そこまでするくらいなら様子を見に来たら良いのに結局、この時間までずっと悶々としてたんじゃないかしら…?」

 

千冬…気持ちは嬉しいけど授業はちゃんとしようよ…

 

「…どうする?会う?…疲れてるなら帰ってもらうけど…?」

 

「……会います…刀奈さん、明日も私を休ませるつもりですよね…?」

 

「…そうね、十秋ちゃんの場合反動が怖いからね…あー…成程ね、一応元気になったんだから今日会っておかないと明日も自習にしちゃうわね、多分。」

 

「ええ…多分姉さん、かなり大袈裟に捉えてると思うんで…」

 

「分かったわ、それじゃあ呼んでくるわね…私は隣にいるから…大丈夫、セシリアちゃんはまだ信用が出来なかったけれど織斑先生なら聞かないから。ゆっくり話していいわよ?」

 

「…それは…遠慮しておきます…そもそももう消灯時間ですし…私も疲れてますし…」

 

「…それもそうね…まあ、取り敢えず呼んでくるわね?」

 

「はい、お願いします」

 

刀奈が出て行って一息吐く。…千冬、いきなり飛び付いて来たりしないよね…さっきのセシリアとの話で精神的に色々持ってかれてるし、体力も落ちてるから勘弁して欲しいんだけど…あっ、ドアが開いて…

 

「十秋!?大丈夫か!?」

 

「…姉さん、一応消灯時間だから…防音は効いてると思うけど…もう少し…」

 

「…そっ、そうだな…すまん…。」

 

…抱き着かれたりされるより良いけどいきなり大声出されるのも辛い…心配してくれた千冬には悪いけど軽く話して帰ってもらおう…刀奈にも迷惑かけてるし…。

 

 

「…もう大丈夫なのか…?」

 

「うん。心配かけてごめんなさい…念の為明日も休むけどもう大丈夫だと思う。」

 

「…いや、お前が元気になったのなら良いんだ…それに大事を取るのは当たり前だろう…?」

 

「…うん。…ところで姉さん?」

 

「何だ?」

 

「…今日の授業全部自習にしたって聞いたけど…?」

 

「……」

 

千冬が顔を私から外す。

 

「…姉さん、ちゃんとこっち見て。…私を心配してくれるのは嬉しいけど授業休んだら駄目だよ…」

 

「…うっ…すまん…どうしてもお前の事が気になってな…」

 

「……」

 

……初日以外は他の生徒と同じ様に扱われて、凛とした姿ばかり見せられてたから…こういう弱々しい姿を見せてくれて、しかも理由が体調を崩してる私を心配してくれたから…というだけでここまで嬉しいのは自分でも末期だと思う…あー…益々好きになっちゃうな…本人に言える余地も無いのに…

 

「…十秋?どうした?まさかまた調子が…!」

 

「…ううん…大丈夫だよ…とにかく明日はちゃんと授業してね?多分明後日からは出られるから…」

 

「…分かっているさ。…さて、更識姉をこれ以上待たせる訳にはいかんな…消灯時間は当に過ぎてるし一夏と篠ノ之にも迷惑がかかる…」

 

「…そうだね…」

 

さっきまでセシリアが来ててその時も刀奈は隣にいたから正直今更なんだよね…それに私自身も今朝一夏に迷惑かけてるし…。

 

「…じゃあな…一応明日も様子を見にくる…今度はもう少し早い時間にな。」

 

「…うん。じゃあね、姉さん。」

 

千冬を見送る…うん…弱ってるからかやっぱり名残惜しいな…普段ならもうちょっと我慢出来るんだけど…それに、IS学園に入るまで離れて暮らしてて…こうやって漸く普通に会えるようになっても家族らしい会話は全然出来なかったから…あー…今さっきまで会ってたのに…また会いたくなっちゃうな…最も余り長く同じ空間にいたら私がもたないんだけどね…



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親友の妹に転生しました47

翌朝…

 

「え~と…うん、ほぼ平熱ね…良かったわね、十秋ちゃん…」

 

「何でちょっと残念そうなんですか…」

 

「えっ?そんな事無いわよ…うん…」

 

「……」

 

せっかく元気になったのにこうもあからさまに凹まれるとね…悪気が無いのは分かるから本当に複雑…

 

「…と言うか今日も休むつもりですか?大丈夫ですよ、今日は私大人しくしてますし…気にせず授業出てくださ「えー…やだ。」…はい?」

 

やだって…私の聞き違いだよね…

 

「やだって言ったの。」

 

…聞き違いじゃなかった…

 

「あの…見ての通り私、ほぼもう元気ですし…」

 

「い・や・よ。」

 

いや、どういう事なの…

 

「せっかく二日も続けて十秋ちゃんと過ごせるのにぃ…私の楽しみを奪わないで。」

 

「下心有りきで看病してくれてたんですか!?」

 

「人聞き悪い言い方しないで。私は純粋に貴女が大切なだけよ…それにほら、昨日だけで十秋ちゃんの写真もこんなに集まったし…」

 

「普段そんな事してたんですか!?」

 

刀奈が見せてくるデジカメの写真には大量の私の写真が…と言うかこれどう考えても昨日だけで撮れる量じゃ無いんだけど…!

 

「ほらこれなんかすごいお気に入りで…」

 

そう言って刀奈が拡大した写真を見て私は悲鳴を上げそうになった。

 

「めっちゃ際どいじゃないですか!?」

 

その写真は眠る私のパジャマのボタンが全部外れ、見えてはいけない辺りまで見えそうに…!

 

「けっ…!消してください!」

 

「いやよ。それにほら、こんなのも…」

 

「私が着替えてる所じゃないですか!?何時撮ったんですかこれ!?」

 

そう言えばそもそもここには盗聴器とカメラが…!正直下手なストーカーとかより刀奈の方がずっと怖い…とっ…!とにかくこれは消してもらわなきゃ!

 

「早く消してください!」

 

「いやだってば!」

 

…結局病み上がりなのに朝起きて早々刀奈と取っ組み合いの喧嘩をする事になりました…朝から何してるんだろう私…

 

 

 

「うう…酷いじゃない…」

 

「それはこっちのセリフですよ…」

 

結局何とかデジカメを奪い取り普通の写真は妥協したけどあからさまにやばいのは消させてもらった…と言うか良く見たら簪の写真も大量にあったのでそちらも確認して検閲させて貰った…全くもう…

 

「もう隠してませんよね…?」

 

「もう無いわよ…何も簪ちゃんのまで消す事ないじゃない…」

 

「いや消すに決まってるでしょう?」

 

せっかく姉妹仲も良好っぽいのにこんな事でヒビ入る所なんて見たくないしね…

 

……まあ実を言うと私も千冬の秘蔵写真保有してたりするから人の事言えないんだけどさ…



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親友の妹に転生しました48

刀奈は結局散々ごねた末一限の途中で漸く部屋を出て行きました…本当に疲れたよ…

 

「…ふぅ…暇だなぁ…」

 

元気になったので刀奈にいてもらう必要は無いから追い出したけど、やっぱり一人だと暇ではある…どうしようかな?……あっ、そうだ…

 

「よいしょ…」

 

私はベッドから起き上がると部屋の刀奈のスペースを漁る…こういうの本当は良くないんだろうけど…さっきの事があるからね…

 

「あっ、あった…SDカード。」

 

デジカメの記憶媒体はこれが普通なんだよね…私は自分のノートパソコンを出すと電源を入れて、カードリーダーに刺してみた…最近のはカードリーダーが別売りじゃなくて併設されてるから便利だよね。

 

「うわ…やっぱりあった…」

 

大量のデータ容量の割にやけに少ないフォルダ数に違和感を感じて調べたら、見つけた隠しフォルダ…パスワードを簪の誕生日で突破…中にあったのが…

 

「これは…消しておかないと…あっ、これも…ちょっと量多過ぎ…」

 

案の定まだあった私の写真…というかこれ、更識家に来た頃からのもあるね…あっ、これも消しておこう…

 

「…というか…良く見たら簪のも…これはどうしようかな…?……やっぱり消しておこう…」

 

…というか…無駄な事してる感も否めないんだよね…刀奈ならこの部屋に置いておいたら私がこうするのは予想つく筈…う~ん…まあ良いか。取り敢えずあからさまにヤバいのはまとめて消しておこっと。…あっ…

 

「これは…更識家に来た日に撮ったやつか…良く取れてるね…」

 

更識家の前で刀奈たちや一夏と撮った写真が出て来た……まぁ、改めて見なくても写真データは私のスマホにもはいってるんだけどね…何が納得いかないのかカメラマンをかって出たお母さん(更識母)が何度も撮り直してたっけ…ん?…アレ?

 

「何か凄い重いフォルダ…これは…中身はもしかして動画かな…うっ…何か…嫌な予感が…」

 

容量は凡そ確認出来たけどパスワードが突破出来ない…放置しない方が良い気がするけど…開けられないんじゃ仕方無いか…。

 

「…こんな物かな…」

 

SDカードを取り出し、電源を落す…そう言えばこの部屋、カメラがあるんだっけ?

 

「……まあ良いや…」

 

深く考えない事にして私はSDカードとノートパソコンを片付けた。

 

 

 

 

「よっ、十秋姉。」

 

「一夏?どうしたの…突然…」

 

昼、一応刀奈を待ってみたけど戻って来ないから自分で昼食を用意しようとしてたら、ドアがノックされたから出てみたら、そこに何故か一夏が…

 

「今日は刀奈さんがどうしても忙しくて来れないらしいから、俺が代わりにメシ作りに来たんだ。入って良いか?」

 

「刀奈さんの許可があるなら別に良いよ…入って。」

 

ここは私だけの部屋じゃないからね…

 

 

 

「あっ、そうだ…」

 

「ん?何…?」

 

「食ってる最中に話しかけようとした俺が言うのも何だけどさ、口の中の物飲み込んでから喋ろうぜ十秋姉…」

 

「…ふぅ…で、何?」

 

「…そんな焦って大量に詰めたモン飲み込まなくても時間あるって…いや、さっきセシリアに会ったんだけどさ…」

 

「セシリアに?」

 

「ああ、それでさ…十秋姉にお見舞いを兼ねて昼食を持って行こうとしてるって言うから…」

 

「そうなの?なら、一緒に来れば良かったのに。」

 

セシリアは一夏が好きみたいだし。

 

「いや、何となく気になったからさ…料理の皿の上の覆いを取ってもらったんだ…そしたらさ…」

 

何を勿体ぶってるんだろう…

 

「……ちょっと名状し難い物がはみ出したサンドイッチが出て来たから…悪いんだけど適当に理由つけて持って帰って貰ったんだよ…」

 

「はい?」

 

「何か極彩色に光ってたんだよな…何を入れたのか恐ろしくてとても聞けなかったよ…」

 

……IS学園で初めて出来た親友が料理が下手だと知りたくも無い事を知った日。



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親友の妹に転生しました49

「そう言えばセシリアには何て言って断ったの?」

 

「…十秋姉はまだ、具合悪いらしいからあんまり重いのはちょっと…サンドイッチって要はパンだからな…そう言ったら納得はしたみたいだけどちょっと残念そうではあったな…」

 

「いや、その断り方だと多分、明日辺りまた持って来そうなんだけど…」

 

「十秋姉は明日何も無ければ授業に出るんだよな…だから昼休みに教室か、屋上か…」

 

「そんな派手な色で中の具が光ってたサンドイッチ食べる勇気無いんだけど…」

 

「…俺もその場ではキツく言う事はちょっと出来なくてさ…どうせ俺も食う羽目になるんだろうし、それで勘弁してくれないか?」

 

「…分かった。」

 

一夏が食べるなら私だけ食べないわけにはいかないよね…

 

「箒にも多分渡してくるだろうな…後で伝えておくか…」

 

「その方が良いね…それでさ一夏…」

 

「あー…大体分かるよ…セシリアに料理教えるのは別に構わない…ただなぁ…」

 

「厳しそう?」

 

「…アレが後から色付けしたとかじゃなくて自然に出た色なら…どう考えても人間の食べられる物じゃないだろうからな…味覚音痴か、そうでないかで教え方を変えないと…」

 

「そんな見た目の物を持って来るのに味覚音痴じゃない場合って…」

 

「…いや、そう決め付けた物でも無くてさ…俺の知ってる料理下手な奴だと失敗の理由が大抵、途中までは味見してたのに最終確認を忘れるって奴だった…途中まで調味料を少しづつ入れながら調整してて…最後はこれくらいならちょうど良いだろって感じで調味料を入れた後、完成したなと考え、味見はせずにそのまま食べさせる相手に出してしまうんだよ…」

 

「あー…そういう場合もあるんだね…」

 

「取り敢えず俺の手に負えるレベルである事を祈るよ…千冬姉クラスだと俺にも箒にもどうしようも無いし…」

 

「あー…うん…姉さんはね…」

 

料理っていうか、一種の破壊活動というか…出来た物を廃棄するしか無い上に、千冬の場合、散らかったキッチンの掃除も出来ないから…だから一夏は千冬にキッチンに立つのを禁止したんだよね…

 

「ん?そろそろ時間か…じゃあ十秋姉、俺は戻るわ。」

 

「うん、明日には出られると思うから皆にはそう伝えといて。」

 

「おう、分かった。」

 

 

 

「へぇ…セシリアちゃん料理下手なんだ?」

 

「明日は食べなきゃいけないでしょうし…ちょっと気が重いです…」

 

夕方になり戻って来た刀奈に私はセシリアの話をしていた。

 

「う~ん…そんなに嫌なら断ったら?」

 

「友人がせっかく作った物ですから…断れないですよ。」

 

「友人だからこそ、よ。嫌な物は嫌とはっきり言うのも私は大事な事だと思うわよ?」

 

「それはまあ…分かりますけど…」

 

「どうするのかは十秋ちゃんの自由だけど…実際に食べてみてもし美味しくなかったら、ちゃんと言わないとダメよ?最終的に傷付く事になるのはセシリアちゃんだからね?」

 

……精神年齢は私の方が上なんだけど…刀奈には毎回色々と教わる事が多い気がするなぁ…



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親友の妹に転生しました50

翌朝、私は迎えに来た一夏と一緒に教室に向かっていた…

 

「十秋姉、体調は問題無いか?」

 

「大丈夫だよ…もう…別に迎えになんて来なくても良かったのに…」

 

「…いや、元々は俺もちょっと早目に部屋に来て刀奈さんに一言、十秋姉の様子を聞きに来ただけだったんだけど…」

 

「えっ?」

 

「……廊下で何か千冬姉がスタンバってたから…何してるのか聞いたら『更識姉は忙しくて付き添えんだろうし、病み上がりの十秋をそのまま一人で教室に行かせるのは不安だから私が教室まで連れて行こうと思ってな』…とか言うから俺が付き添うからって言って戻って貰ったんだ…」

 

「……ありがとう一夏…」

 

いくら病み上がりでも教師である千冬の付き添い付きで教室まで来るのはちょっと恥ずかしいかな「ちなみに…」えっ?

 

「帰す前に、千冬姉の様子が何か変だったから念の為何時からいるのか聞いたら『昨日の夜中からここにいる』って答えたよ…」

 

……千冬ってば…もう…

 

 

 

「あっ、十秋さん元気になったの?」

 

「うん、心配かけてごめんね?」

 

二日振りに教室に来た私は皆から声をかけられながら席に座った。

 

「十秋、見舞いに行けなくてすまなかった…」

 

「良いよ、気にしないで。…箒に移しちゃったら困るし…」

 

「…実を言うと、その…お前と同室のかた「ああ、楯無さん?」……楯無?」

 

そこで私は箒に近付き、耳打ちした。

 

「刀奈さんは普段は家の事情で違う名前を名乗ってるの。だから皆の前では楯無さんでお願い…」

 

「…そういう事なのか。分かった…それで「もしかして…苦手?」ああ…どうもな…理由は上手く説明出来ないんだが…」

 

…箒が刀奈と会話したのは多分、一昨日にセシリアが部屋に来た時に隣の一夏と箒の部屋で待って貰ってた時だね…この様子だとまだ刀奈の本性については知らないみたい…直感的に合わないと判断したのかな?…私でさえ昔から散々弄られてるんだから、生真面目な箒だと多分、格好のおもちゃにされるし、相性が悪いのは間違い無いね…

 

「…そうだ…戻って来たばかりのお前に言うのも何だが、一つ相談があるんだ…良いか?」

 

「私は別に構わないよ?…もしかして…内緒の話?じゃあ一限の後の休み時間で良い?」

 

「…ああ…すまない…」

 

……何だろう?

 

ちなみに今日のホームルームで私は、徹夜明けのせいなのか、まるで幽鬼の様な雰囲気の千冬に無言でジッと見詰められるという恐怖体験をしました……我が姉ながら本当に怖かったよ…

 

「それで何かな?」

 

一限の後の休み時間…私と箒は授業のやっていない教室に入った…意外とこういう穴場多いんだよね、IS学園…

 

「ああ…実はセシリアの事なんだが…」

 

「…思ったより積極的だった?」

 

「……思いの外一夏と距離を詰めるのが上手くてな…幼なじみというアドバンテージも有って無いような物だし、どうしたら良いかと思ってな…」

 

そういう相談か…今世でも箒が昔から一夏を好きなのは知ってる…と言うか今回は実際に見てたから…でもまさか、長期間会って無かったのにまだ好きなんて…一途だなぁ…私としては箒の想いに共感出来る所もあるし、セシリアには悪いけど箒を応援したい…さてと…

 

「…ちょっと厳しい事言うけど…良い?」

 

「ああ、言ってくれ。」

 

「それはセシリアが距離を詰めるのが上手いんじゃなくて単に箒が下手なだけだと思うよ?…それから別に幼なじみって必ずしも恋愛面で有利な点じゃないと思う…長い付き合いだと逆に恋愛対象から外れる場合もあると思うし。」

 

「そう、なのか…」

 

「距離が近いのはセシリアなりの必死さなんだと思うよ。…一夏との付き合いもまだ短いから、恋愛対象に入れる様に自分の魅力をとにかくアピールしてるんだろうね…」

 

「…私にとっては本当に強敵だ…何か良い手は無いだろうか…?」

 

……セシリアの料理下手を教えてマウント取らせるのはフェアじゃないなぁ…というか一夏も料理上手いから胃袋を掴むのが必ずしも有効か怪しいし…それなら、これかな?

 

「箒がセシリアよりもっと一夏に近付けば良いよ。…悪いけど他に思い浮かばないかなぁ…」

 

「やはりそうなのか…だが、セシリア以上、となると…私はほぼ一夏に密着するしか無いんだが…」

 

「私の思ってた以上に積極的なんだね、セシリア…でもそれなら余計に他に方法無いと思うよ?…ただでさえ一夏は鈍いし、長い付き合いの上に、箒はしばらく一夏と会えてなかったし、そうなると一夏が無意識の内に箒を恋愛対象から外してる可能性もあるから…」

 

「…そこまで危ういのか、私の状況は…」

 

「…一夏の気持ちは私も分からないから断言は出来ないけどね…う~ん…今の所私から言えるのはこれくらいかな?…結論を言えば事故でも何でも良いから一夏に抱きつけば良いって事だよ。」

 

……言ってて思った…これ兄さんの発想と一緒じゃ…もしかして似て来ちゃった…?…うわ…ちょっとショック…

 

「…実行は中々難しいが参考にはなった…ありがとう十秋…」

 

「……どういたしまして…頑張ってね、箒…」

 

私…人の恋愛相談乗ってる場合じゃないよね…?ちょっと悲しくなって来たな…今の私は告白すらはばかれる立ち位置だし…大好きだよ…千冬…この一言がもう私には言えないんだよね…やっぱり前世で告白出来ていたら何か変わったのかな…?IFの話に意味が無いのは分かってるけどやっぱり気にはなるなぁ…

 

「…どうした?」

 

「…えと…何が?」

 

「……気が付いて無いのか?」

 

「…えっ…?いや、本当に何…?」

 

「…見てみろ。」

 

「…えっ…!?」

 

箒の出して来た鏡を見て私は初めて自分が泣いている事に気付いた…



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親友の妹に転生しました51

私は自分が泣いている事に驚きつつも箒から渡されたハンカチで涙を拭いていたが中々止まらず…結局チャイムが鳴ってしまった…私はともかく、箒まで授業サボらせちゃったよ…

 

「…落ち着いたか?」

 

「…うん…ごめんね、私のせいで授業サボる羽目になって…」

 

「…気にするな…幸い、次の授業の担当は山田先生だからな、千冬さんも教室にいるわけだから話も通し易い…ちなみに千冬さんに連絡したら…『今日の二限の単位は無しにするしか無いが、事情は分かった…悪い様にはしない…十秋の事を頼む』…と言われた。それに私の相談が原因の一旦だろうしな…」

 

「そんな事無いよ…本当にごめんね…ハンカチは洗って返すから「十秋」何?」

 

「私はお前がそんな状態になってる原因は例の片想いの件じゃないかと思うんだが…どうだ?」

 

「…うん…そうだと思うよ…」

 

箒の恋愛相談に乗ってるうちに何時の間にか千冬の事考えてて…何か悲しくなって…うん…間違い無くそれが原因だね…

 

「話してみろ…お前が好きなのは誰なんだ?…お前が話してくれるまで待ってるつもりだったが…自分が泣いてる事に気付かない程、不安定なお前をそのままにはしておけない…大丈夫だ、私は誰にも言わないと命を賭けて誓う。」

 

「命なんて賭けなくて良いよ…私は箒に死んで欲しくないし…でも分かった…話すね…私ね…姉さんが好きなんだ。」

 

「…姉さん?…まさか…千冬さんなのか…?」

 

「うん…そうなんだ…」

 

……引かれるかな…もし、箒に気持ち悪がられれたりしたらちょっと立ち直れ無いかも。

 

「…そんな顔するな。」

 

「えっ…?」

 

「大丈夫だ、少し驚いただけだ。…そうか、お前が好きなのは千冬さんか。」

 

「いや、あの…箒…?」

 

「ん?何だ?」

 

「私が好きなのは…同性なんだよ?…しかも…実の姉なんだよ?…気持ち悪いとか…変だとか…思わないの…?」

 

「…私は人の想いを絶対に否定したりしない。例え好きになったのが同性だろうと、実の姉だとしてもだ…十秋、私はお前を絶対に否定しない。」

 

「…ありがとう…」

 

私は今度は自分の意思で泣いた…箒にしがみつきながら…その間箒はずっと私の頭を撫でてくれた…

 

 

 

「…ごめん…制服まで汚しちゃって…」

 

「気にするな。ずっと辛かっただろう?一人でそんな想いを抱えて…大丈夫だ、これからは私がお前を気遣ってやれる…また泣きたくなったら何時でも来るといい…」

 

「それは…ちょっと…恥ずかしいから嫌かも…」

 

箒の制服に付いたシミを見ると本当にそう思う…これ、今世で一番の黒歴史になりそうだよ…

 

「あれだけ泣いておいて今更だな…ちなみに何時からなのか聞いていいか?」

 

「えと…小学生の時から…」

 

……嘘、本当は前世の時からずっと…さすがにこれは箒にも言えないよ…

 

「成程な…それなら本当に辛かっただろう…私の知る限り、千冬さんはあの頃からもうお前へのスキンシップがかなり激しかったからな…」

 

「本当にね…」

 

いや、もう、手を出さない様にするのに本当に必死で…千冬、本当に無防備だしね…例えば抱き着かれた時なんか私の胸に押されて形を変える千冬の胸とか、背中に当たる胸の柔らかさを意識するだけで理性が飛びそうになって…!もし、私の意思が弱かったら何回千冬に襲いかかってるか分からないよ…千冬は私を警戒してないだろうから…もしかしたら最後までヤッてしまっていたかも…



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親友の妹に転生しました52

その後は適当に雑談をして、チャイムが鳴ったので教室を出た。…あっ、そう言えば…

 

「箒、昨日私の所にセシリアがサンドイッチ持って行こうとした話は一夏から聞いた?」

 

そう、さっき私が黙ってようとしたセシリアが料理下手な件…完全に忘れてたけど、一夏が昨日の時点でこの事を箒に話してればもう知ってるんだよね…

 

「…ああ、例の不思議物質が詰まったサンドイッチを持って行こうとしてた話な…」

 

不思議物質って…

 

「一応聞くけど、セシリアとは…」

 

「…私も普通に友人だよ…つまりお前が今日来てなくても私と一夏の口には入った可能性が高い…」

 

「一つ聞くけど、私がいない間って…」

 

「…何故か持って来なかったな…多分、本人は元々料理経験自体が無くて、お前に先に食べさせようと練習してたんじゃないか?」

 

「そっか…」

 

それを聞いたら尚更食べないわけにはいかなくなった…だって親友の初めての料理だよ?そんなに薄情にはなれない。

 

「なぁ?お前は断っても「それは出来ないよ…昨日だって私の為に作ってくれた事を思えば持って帰って貰ったのが申し訳無くて」…確かに…私でも断りにくいが…」

 

「あのさ、箒「セシリアに料理を教えて欲しい、か?」…あっ、やっぱり分かる?」

 

「…まあな…どうせ一夏にもそう聞いたんだろう?…別に私としては問題無いが…」

 

「えと、敵に塩を、みたいのは…」

 

「…そもそも食べさせる一夏自身がかなりの腕だからな…条件が多少イーブンになるくらいで…特に塩を送る事にはならないだろう…大体、友人である以上、本人にやる気があるなら別に私は断らんよ。」

 

……断れない、の間違いじゃないかな…箒って昔から押しに弱いし…

 

「…まあ確かに、基本私は断れないタイプかもな…」

 

「あっ、ごめん…」

 

そうだね…伝わるんだもんね…

 

「…気にするな、この程度では別に怒らない。…ところで…一夏も言ってたと思うが、本人にやる気があってもどうしようも無い場合もあるからな…料理は決まった工程を再現出来れば、誰でもそれなりの物が出来るのが普通だが…私も別の学校に通ってた頃、頼まれて何人か教えた事があるんだが…こっちが全部指示しても、食べられない物が出来上がる矯正不可能な者は確かにいるんだ…」

 

「例えば…どんな…?」

 

「……セシリアの様にカラフルな不思議物質を作った奴はいなかったが…例えば、焦がしてないどころかほとんど生焼けの筈なのに真っ黒とか…一番ヤバイ例だと何故かうにょうにょと生理的に受け付け難い動きをする謎生物を作った奴とか…」

 

「…えと、何で料理を作ろうとして生物が…?」

 

「……理由は寧ろ私が聞きたいな。料理は最終的には才能が必要かもしれないが…余程難しい物を作るのでなければ誰でもまともな料理を作れる物だと思ってたんだが、アレらを見て思い知ったよ…逆の才能を持つ者が確かにこの世には一定数存在する…アレではもうどうしようも無い。正直、失礼を承知で言えば…千冬さんはかなり稀有な例だと思ってたんだが…実際は全くそんな事は無かったな…」

 

「うわぁ…」

 

箒の目が死んでる…

 

「…彼女たちに諦めろ、と…ただ一言言うだけの事が非常に辛かったな…そういう物を作り出してしまう奴に限って努力家だったからな…」



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親友の妹に転生しました53

教室に箒と戻ればクラスの皆からの質問攻め…そりゃあ二日風邪で休んで、復帰したとは言え普通に病み上がりの人間が、一時限分授業すっぽかしたら何かあったと思うよね…とは言え理由を答えられる筈も無く…

 

見兼ねてやって来た一夏と私の隣にいる箒が誤魔化してくれなかったら多分何時までも話が終わらなかっただろうね…

 

「十秋ちゃん、本当に大丈夫?」

 

この子は確か…そうそう、鷹月静寐だったね…実はまだクラスの全員の顔と名前ちゃんと一致して無いんだよねぇ…多分合ってる筈だけど…

 

「うん、大丈夫だよ鷹月さん。」

 

「あっ、名前で良いよ。」

 

「そう?なら、静寐さん…」

 

「う~ん…何か堅いね…」

 

……どうしろと?何か随分距離詰めて来るなぁ、この子。

 

「…じゃあ、呼び捨ての方が良い?」

 

実は私からしたらその方が楽なんだよね…

 

「うん、それが良いかな…私も十秋って呼ぶし…それで本当に…本当に大丈夫?」

 

……私って…そんなに弱々しく見える…?何か本当にショックなんだけど…

 

「もう風邪は治ってるよ。さっきいなかったのは箒に色々相談に乗って貰っただけ…ちょっと色々あって…授業間に合わなかったんだよねぇ…」

 

一応、先に相談を持ち掛けて来たのは箒だけどそこまで言う必要は無いよね…

 

「そっか…何か困った事あるなら私にも相談してくれて良いからね?」

 

嬉しいんだけど、ねぇ…

 

「ありがとう…でもま、一応身内の話だからね…」

 

恋愛話で好きな人が同性、それも実の姉であるなんてとても言えない…と言うかシスコン扱いされるのもちょっと…私からしたら前世は他人だったからそれを引きずってるだけだし…

 

 

 

「十秋さん…」

 

「セシリア…ごめんね、心配かけたみたいで…」

 

今度はセシリアが声をかけて来る…そんな深刻そうな顔しなくても…別にセシリアのせいって訳じゃないしね。

 

「本当ですわ…何せ貴女はかなり無茶をするタイプだと聞いていますので…」

 

「え?誰から?」

 

え?何…その評価…

 

「主に一夏さんからですわ。」

 

「……」

 

一夏の中では私はそう言う評価と…私以上に無茶をする人にそう思われてるとなると反発したくなるなぁ…チラッと一夏の方を見れば今は箒と話してる…箒がベラベラ話すとは思わないけど…ちょっと不安…

 

「とにかく、私はもう大丈夫だよ。」

 

「良かったですわ…では、今日の昼食はご一緒出来ますわね。」

 

あー…そうだった…忘れてた訳じゃないけど改めて言われると…あ、チャイムだ…

 

「あら?では十秋さん…また…」

 

「うん、またねセシリア。」



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親友の妹に転生しました54

「どうぞ…ふふ…何か緊張してしまいますわね…」

 

「……」

 

昼になり、セシリアが渡してくれたサンドイッチ…それを見た私は固まっていた…

 

 

 

昼になりさっき話した静寐とこの子は…相川清香だったかな?二人が昼食をどうするのか聞いて来る…素直に食堂行って食べたい所だけどなぁ…そう思っていたらセシリアが会話に入って来て屋上でセシリア手製のサンドイッチを頂く事に…購買行って戻って来た静寐と清香(この子も呼び捨て希望…)はサンドイッチ見てドン引き…さすがに二人の分を用意出来て無くて謝罪するセシリアだけど…正直私も二人の立場が良い…

 

いやさ…だって…このサンドイッチ…本当に中身が食べ物なのか分からないんだよ…めっちゃカラフルで何か光ってるし…この自然界にあっていいのか分からないこの色…どっかで見た様な…う…多分思い出さない方が良さそう…

 

「どうぞ、召し上がってくださいまし。」

 

そう言われ、出されたサンドイッチをもう一度見た後、横に座る、一夏と箒の方を見る…

 

『どうしよう…?』

 

『食うしかないだろここまで来たら。』

 

『しかし…これを口にしても大丈夫なんだろうか?』

 

……不思議と私は今、二人と目で会話出来ていたと思う…いや、どうせ二人には何考えてるかバレるだろうけど、今回は私も二人の考えている事が手に取る様に分かった…

 

『一夏、対策は?』

 

『大丈夫だ…今日の弁当は辛い物を作った…何かあっても逆に大丈夫だろう…』

 

どうやら一夏の作戦は胃を荒れさせて、強引にこのサンドイッチを体外に排出する作戦らしい…

 

『でも、それを食べる元気があるかどうか…そもそも胃が荒れる程辛い物食べたらそれはそれで…』

 

『下剤使う方が身体には悪い…これなら一応食べ物だからな…』

 

暴論だ…だけど他に方法無いのも事実…せめて千冬の料理の様に食べた瞬間倒れない事を祈ろう…

 

「…あの?食べて頂けませんの…?」

 

「……もっ、もちろん食べるよ…!?」

 

答えた声が裏返る…サンドイッチを手に取る…ツーっと額を汗が流れるのが分かった…セシリアは緊張するとか言ってたけど私も緊張するよ…これ、見た目が既に食べ物じゃない…正直、命の危機を感じる…!もう一度横を見れば一夏と箒もこっちを見ていた。

 

『大丈夫だ…死ぬ時は一緒だから…』

 

『私も付き合おう…』

 

……目を逸らす…二人も命の危機を感じてる事を知り、更に恐怖が増した…と言うか箒は良いよね…好きな人と一緒に逝けるし…もし死んだら千冬を連れて行こう…もう躊躇する必要も無いだろうし。

 

前世では告白すら出来無かった…私がヘタレだったせいもあるけど…今世でも何も告げずに逝くのは耐えられない…そう決めた私はまた二人に視線を向け、頷く…二人も頷きを返してくれた…視線を手元のサンドイッチに戻す…

 

『…せーの…!』

 

私は手元のそれを口に持って行き、先端を齧った…舌の上にそれが乗り…!

 

……あ、これダメだ…

 

私はそのまま屋上の床に倒れ込んだ。



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親友の妹に転生しました55

「心配かけてごめんね…?」

 

「どうして…」

 

私が目を覚まして最初に見たのは目を真っ赤にしたセシリアの顔でした…

 

 

 

 

改めて何があったのかと聞いてみれば、私はセシリアの作ったサンドイッチを食べてそのまま気絶してしまったそうです…うん、確かに屋上の床に倒れ込んだ記憶はあるね…そして幸い、同じ物を食べたけど倒れるまで行かなかった一夏に抱き抱えられ、医務室に直行。

 

同じく倒れなかった箒は取り敢えず静寐と清香に教室に戻る様に指示をし、放心状態のセシリアを引きずって千冬の所へ…

 

……事情を知った千冬はセシリアに殴り掛かり、山田先生を含む他の教師総出で鎮圧されたとか…予想以上の騒ぎに私も正直ドン引き…セシリアは別にわざとやった訳じゃないし、何もそんなに怒らなくても……心配されるのは嬉しいけどね…

 

「どうして…十秋さんが謝るんですの…悪いのは私で…」

 

「う~ん…そう言われてもね…私も聖人君子じゃないし、わざとなら怒るだろうけど…セシリア、私の為に良かれと思って作ってくれたんでしょう?じゃ、私としては責められないよ。」

 

と言うか…そんなあからさまに大泣きした後みたいな顔見せられたらもう何も言えないって。

 

「私、どれくらい寝てた…?」

 

「今はもう夕方ですわ。」

 

「あちゃあ…じゃあ私、午後の授業出れなかったんだね…」

 

「申し訳「あ、ごめん…セシリアを責めてるわけじゃないよ」いえ…悪いのは私で…」

 

「ほら、もう気にしないで。私が良いって言ってるんだし…」

 

「……」

 

そう言ってもセシリアは俯いたまま…もう…しょうがないなぁ…

 

「じゃ、午後やった授業の内容教えてよ。それでチャラって事で。」

 

「そんな事で「そんな事って言うけど割と死活問題だよ?そもそも私、二日も授業出てないんだよ?出席の単位は仕方無いにしても、さすがにヤバいんだって」…そう、ですわね…」

 

ま、事情が事情だし…場合によっては補習受けたりすれば何とかなるかもしれないけど…と言うか私も前世での記憶があるし、ISの知識ならある程度は…本当にヤバいのは普通科目の範囲(この学園一般的な高校よりずっとレベル高いから…ちょっと不安…)

 

「分かりました…私で宜しければ…」

 

「うん、頼むね…?」

 

……セシリアの授業?普通に分かりやすかったよ?問題があるとしたらセシリアがまだ漢字の読み書きが苦手なのが発覚したくらい……うん、一夏に教わって貰おう…もちろん箒も一緒に…と言うか、勉強の後に雑談して行く内に分かったのがそもそもセシリアが日本文化に疎い事(こっちの方が問題かな?三年間って案外長いし…)後、代表を決める際の発言も単に焦ってたからってだけじゃないみたいだね…本人は無意識っぽいけどどうにも日本という国を下に見る癖があるみたい…

 

……ま、その辺はここに来てる多くの外国人の総意の様も気もするけど。それはそうとこれは…ちょっと不味いね…聞けばクラスの皆にもう謝罪は済ませたみたいだけど、このままにしておくとまた何かやらかしそう…本当にどうしたものかな…



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親友の妹に転生しました56

「ところであのサンドイッチ…何を具にしたのかな…?」

「何、と言われましても…普通の具材を使っただけですわ。」

普通とは…?私はそれ以上は何も聞けなかった…

……後に幼馴染だと言うメイドさんが完全に匙を投げる程、セシリアが手の付けようの無い料理下手だった事実を知り、一夏と箒、私の三人で頭を抱えるのは別の話…面識も無ければ、連絡する方法も無かったとは言え、先に教えて欲しかったよ…せめて食べる前には知りたかったな……知っていても私は食べただろうけど。


「…で、取り敢えず異常は無しか?」

 

「うん、二人も大丈夫だったんだよね。」

 

「一応、な。ただ、後々異常が出るかも知れないから何とも言えないが。」

 

私は医務室に迎えに来た一夏と箒と話していた。

 

 

 

 

「…う~ん…二人は大丈夫だったのに何か情けないな…」

 

「…と言っても俺たちも咄嗟に吐き出しただけなんだけどな…どう考えても食べ物じゃない味だったし…」

 

「まさかと思うが…飲み込んだのか…?」

 

「え~っと…多分…一応薬貰って来てるけど…」

 

「……今日はそれ飲んでさっさと休んだ方が良さそうだな…」

 

「え…?そんなにヤバい…?」

 

「吐き出した私も未だに命の危機を感じる程だぞ?大事を取るに越したことは無い…友情とかそういうのを抜きにしてな…」

 

「…あんまり友人の作った物を危険物扱いするのは…」

 

セシリアは先に帰したから、この場にいないのが幸い…

 

「いや…アレ…下手とかそういうレベルじゃないしな…」

 

「私は舌に乗せた瞬間、身体が拒否反応を起こした…正直、味も分からなかった…」

 

「……そこまで?」

 

「「その場で気絶した十秋姉(お前)が羨ましかった」」

 

「え!?」

 

「アレを食べた後に事態の収拾を着ける羽目になった私たちの身にもなって欲しいな…私もセシリアを責めたい訳じゃないが…アレは…さすがに…」

 

箒が自分の身体を抱き、震え出す…トラウマになるレベルなの!?

 

「俺としては…セシリアが味覚音痴じゃないなら正直、殺意を覚えるレベルだ…食わされた方としても、料理を作る人間としても、だ。」

 

「……」

 

一夏も身体が震えているけど…これは、箒の様に恐怖を感じてるんじゃない…一夏は怒ってる…私の知る限り、この世界でここまでキレたのは千冬が最後に料理でやらかした時以来…

 

「…ま、元々お嬢様育ちって話だし、単純にろくに自分でやった事が無い可能性を考えたら有り得なくも無いけど…」

 

「それで済ませて良いのかアレは…」

 

「…本人の態度見る限りわざとじゃないみたいだし…」

 

「…あのレベルを正常に料理作れる様にするのは相当骨が折れるな…」

 

「……セシリアって食堂で食事してなかったの?」

 

……休んでた間のセシリアの食事事情を私は知らない。その前も交流無いしね…

 

「…いや…少なくとも俺らと一緒に食った時は問題無かったな…普通に美味そうに飯食ってた。」

 

「へぇ…あれ?一緒?」

 

「…今でこそクラスメイトとは多少話せる様になってるがな…当初は一人で食べてたんだ…寂しそうにしてたから見兼ねてな、私から声をかけたんだ…」

 

「そっか…てか、あれ?それは分かったけど…それならセシリアって…」

 

「味覚音痴では無いって事だな…多分味見してないんだろう…」

 

「味見って…普通するものじゃ…」

 

「バリバリの初心者だからな…そういう場合もあるんだろ…料理本には手順に一々味見しろなんて書いてないのが大半だし。」

 

「あー…」

 

「…とは言え、普通料理本の手順通りならまともな物が出来る筈だが…」

 

「…調味料も全部目分量だったんだろう…」

 

一夏がそう言って箒も納得した様に頷く…いやいやちょっと…

 

「セシリアを庇った私が言う事じゃないけど…それだけでアレ出来るの…?」

 

そう言うと二人が私から目を逸らす…つまり分からない、と…大丈夫かな、これからの事を考えると不安になって来た(私が教える訳じゃないけど)




「そう言えば味覚に障害のある人に料理教えるのって結局どうやるの?」

「「手順と分量を身体に覚え込ませて、ひたすら練習」」

「……それだけ?」

「味が分からない以上、味見で調整出来無いからな。」

「どうやっても練習あるのみだ…最も、一つ一つの料理覚えるのに通常、それなりの時間がかかるから相当気の長い奴しか無理だろうな…」

「うわぁ…」

私なら教えるのも教わるのもちょっとキツイかな…


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親友の妹に転生しました57

「それで…本当に大丈夫なの…?」

 

部屋に戻り、改めて箒に事情を説明された刀奈がそう聞いて来る(何でも一夏の携帯に連絡あってその際、先にある程度説明したとか…何で知っていたのか…?は、愚問なんだろうね…)

 

「大丈夫ですよ…多分。」

 

私自身は今の所、異常らしい異常は感じない。

 

「寧ろ、胃は頗る元気ですね「要するにお腹空いてるって事?」ええ…まあ…」

 

いや…だって…昼食は結局食べてない様なものだし…夕食はまだだし…

 

「そう。じゃあ今日は私が作るから…」

 

そう言って刀奈が立ち上がる…

 

「良いんですか?」

 

普通に考えて色々忙しい刀奈がこんな早い時間に部屋にいるのは珍しい…それなりに無茶をしてるんじゃ…そう思ってはみたものの、こういう時どうせ聞いても無駄なのはもう分かってたり(付き合いも長いしね…)

 

「ええ…お粥で良い?」

 

「え「下手な物食べさせて、吐いちゃったら不味いでしょう?セシリアちゃんの作ったサンドイッチをちゃんと吐き出した一夏君や箒ちゃんと違って十秋ちゃん飲み込んだって言うし。」…いや…あの…」

 

「今は胃に物が無いから分からないだけで実際に食べ物を通したら直ぐにでも異常が出るかも知れないわよ?」

 

「う…確かにそうですね…分かりました、お願いします。」

 

まぁ迂闊に重い物は入れられないか…ちょっと残念だけど仕方無いかな…と言うか、作って貰う側なのに文句は言えないか…

 

 

 

 

刀奈の作ったお粥を食べ、薬を飲み、刀奈に勧められるままベッドに横になる…眠れない…さすがに時間が早過ぎる…そもそもさっきまで寝てた様なものだし…

 

「……」

 

そう思ってたんだけど…机に向かって黙々とペンを動かす刀奈を見てたら自然と目蓋は重くなって行った…顔をずっと一方に向けてるから負荷もかかってそうだし、そうでなくても意外と普段から疲れが取れてなかったのかも知れない…良いや…もうこのまま寝てしまおう…夜中に起きたりしたら面倒だけど…それはその時考えたら良い…私は目を閉じた。

 

 

 

 

「ん…「あら?目が覚めた?」はい…」

 

自分の出した声に反応し、目を覚ました私に声がかけられた…まだぼんやりしていた意識が覚醒して行く…

 

「今、何時ですか…?」

 

声をかけて来た刀奈にそう質問する…

 

「二時を回ったところね「夜中のですか…?」ええ。」

 

それ以外にある訳無いんだけどね…それにしても…やっぱり変な時間に起きちゃったか…私は頭を起こし…次いで、身体を起こした。

 

「あら?どうしたの?」

 

「…喉が乾いたので。」

 

「私が持って来ようか?」

 

「大丈夫ですよ、そこまで体調悪くないですし。」

 

「そう?」

 

私はベッドから下りるとキッチンに入り、冷蔵庫の前に向かう…取っ手の部分を掴み、開けた。

 

「……」

 

中からミネラルウォーターのペットボトルを掴み、取り出す…キャップを開け、口を付けた。

 

「……」

 

500ml入りのボトルは思いの外早く無くなり、口を離すと息を吐く。

 

……夢は見なかった…元々、何時も見てる訳じゃないけど期待していなかったと言えば嘘にはなる…今を最悪と言うつもりは無いけど…あっちでの生活は確かに楽しかったのだ…千冬と、親友として対等な付き合いの出来ていたあの頃が。

 

「……」

 

今の私は何処まで行っても千冬の妹…あの頃の様に振る舞う事は出来無い…

 

「あ…」

 

気付くと手の中でペットボトルが潰れていた…元々潰せる様に柔らかい作りのボトルだが…少なくとも私らしくは無い…普段は一々潰さない。

 

「十秋ちゃん?」

 

「…何ですか?」

 

声をかけられ、そちらを向く…刀奈がキッチンを覗き込んでいた。

 

「戻って来ないから…」

 

「……何でもないです。」

 

私は潰れたペットボトルをゴミ箱に放り込んだ。



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親友の妹に転生しました58

目が覚めてしまったとは言え、今はまだ深夜…部屋の外に勝手に出るのは当然許可されてない…夜が明けたら多分こっちに来てからも欠かざす朝にランニングしてるだろう一夏の所に行ってもいい(私は基本、一緒には走らない…まだまだスタミナ不足を感じてるし、これを機に本格的に参加しても良いかも)

 

あ…でも…同室だし、箒もやってたりするかな…そうなると私は邪魔になるかな…ま、そもそもまだまだ時間あるからなぁ…

 

チラッとベッドの方に目をやる…ついさっき漸く書類を片付けた刀奈は寝てしまった…私の事を気にして起きてようとする刀奈に寝る様勧めたのは私とは言え、退屈とは感じる…ここは学園の寮なので本格的に時間潰せる様な娯楽は基本、持ち込みは許されてない。

 

…と言っても生徒手帳見る限り、あまり校則できっちり禁止されてる訳じゃないみたいだから、最低限据え置きのゲーム機は禁止と言う辺りが妥当かな…多分簪はお気に入りの作品のDVDBOX持ち込んでるだろうし…

 

ゲーム機に関しては仮に持って来てる人がいたらそれはそれである意味尊敬するけど。かなりの電力使うから、間違い無く怒られ…いや、そんな物じゃ済まないかも…ま、そんな事は良いか…

 

「…あんまり時間経ってないな。」

 

下らない事考えてる間に時間が進んだりしないかと思ったけど、思った以上に時間は進まない…

 

「…千冬。」

 

さっきまで千冬の事を考えてたせいか、ぽつりと彼女の名前が口をついて出た。

 

「…何か意味があるの…?」

 

どうして私は千冬の妹になったの…?死んだ筈の私がこうしてまた千冬に会えてるだけマシと言えばマシなのだろう…でも、あの頃より距離の近くなってる今ははっきり言って生殺しに等しい…千冬は別に暴力を振るってる訳じゃない…寧ろ妹としての私に愛情を注いでくれている…そしてそれは過剰なスキンシップとして表れる…

 

「っ…!」

 

その度に私は自分を抑えなければいけなくなる…アレは同意のサインとかじゃない…千冬にとってはあくまで姉妹としての愛情表現なのだ…千冬は私とそんな関係になる事を望んでない。

 

「っ…!…ふ…!…千冬…!」

 

私はこの気持ちを表に出す事は絶対に出来無い…!今の私は何があろうと千冬の前では妹として振る舞わなければならないのだ…!

 

「いっそ拒絶してくれていたら…!」

 

そんなもしもを口にしてしまう…そんな事は有り得ないのだ…私が彼女の妹として生を受けた時点で…家族に執着してる千冬は何があろうと私を捨てる事は無い。

 

……どうしても耐えられないと言うなら私の方から彼女を遠ざけるしか無かったのだ…でも一緒にいる事を選んだのは私…親がいなくなった時、何とか金を稼ぐ事の出来た千冬と違い、私はただの子供だった…千冬にとっては私は守らなければならない存在で…いなくなったら…多分壊れるのは千冬の方…そう思ったらどうしても離れられなかった…後々、辛くなると分かっていても。

 

初めは良かったのだ…バイタリティに溢れる千冬は多少無理をしても先ず、倒れたりはしない…ただ、家事だけは何があってもやらせてはいけない…私と一夏は必死だった…私は知識があるから何とか…ならなかった…子供の体格である私には出来る事には当然限りがあり、最初の内は失敗もした(そうでなくても、今思えば前世のあの頃から多少そそっかしい方だったのかも知れないけど…)

 

とにかく私は必死だったのだ…千冬と本気で向き合う暇なんて無かった…当時から千冬のスキンシップは過剰な方ではあったけど、何時もそうな訳じゃない…家にいない事の方がずっと多かったのだ…

 

……だから、どんな手を使ったのか生活に余裕の出始めた頃、あの頃は私にとっては毎日が幸せであり、不幸だった…

 

「っ!」

 

何時の間にか頬を流れる物に気付き、洗面所に向かい蛇口を捻る…流れる水を手の中に貯め、顔にかける。

 

「…ハァ…」

 

何度かそうした後、水を止め、近くにあったタオルで顔を拭き取る…一応涙は止まった様だ…

 

「……」

 

タオルを洗濯機の蓋を開け、放り込む…あ。

 

「…後始末しておかないと。」

 

洗面所に飛び散った水滴を布巾で拭き取る…全く…何を夜中にやってるんだろうね私は…

 

「十秋ちゃん?」

 

後ろから声をかけられ、ビクッとする…

 

「刀奈さん?ごめんなさい、起こしちゃいました?」

 

振り向くと刀奈が立っていた…ま、他にいる訳無いけど。

 

「それは良いけど…どうかしたの?」

 

「……何でもないです。」

 

「…本当に?」

 

「ええ。」

 

「……そう、分かったわ。」

 

そう言って刀奈は私に背を向ける…ふぅ。

 

「十秋ちゃん?」

 

「…っ!…何ですか?」

 

「…いえ、良いわ。」

 

そう言って部屋に戻って行く…

 

「……」

 

刀奈はかなり勘の鋭い方だ…間違い無く私の様子が可笑しいのは気付いた筈…でも何も聞かないのは私から言ってくれるのを待っているのだろう…

 

「…ごめんね。」

 

だが、どれ程待ってくれようと言えないのだ…前世の記憶がある上、同性で今は姉になっている千冬の事を姉と言う気持ちを遥かに超えて愛しているとは…言えな…ん?

 

「千冬が好きな事に関しては別に言っても良い様な…」

 

何となくだけど、箒以上に受け入れが早そうな…いや、逆の意味で様子を見た方が良いかも…

 

「取り敢えず保留、かな…」

 

私は部屋に戻った。



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親友の妹に転生しました59

結局その後は全く眠れないまま、朝を迎えてしまった…一応寝てなかった訳では無いから今の所肉体的にどうこうと言うのは無い…懸念してた胃の方も問題は無さそう…

 

……ただ心の中は荒れ狂うまでは行かないが、それなりにモヤモヤはしている訳で…

 

「走って来よう…」

 

そろそろ一夏と箒は出て来る頃だろう…取り敢えず今朝だけは一緒に走らせてもらおう…そう考えて、私は着ていたパジャマを脱ぎ、ジャージに着替えた。

 

 

 

 

寝ている刀奈を起こさないようにそっと部屋を出てみれば丁度二人も自分たちの部屋から出て来た所、話しかけてみれば…

 

「え?今日はランニング行かないの?」

 

「すまないな、私がワガママを言ったんだ…」

 

聞けば今日は一夏に剣道で負けてしまった箒の申し出でこれから道場の方へ向かうと言う。

 

「じゃあリベンジするの?」

 

「あれからそれ程時間は経ってないからな、あまり実力は変わってないだろうが、改めてやったら何処まで通用するのか試してみたいんだ…」

 

「アレは正式な試合じゃないけど…俺も勝ち逃げはどうかと思うし、特に断る理由は無いから受けたんだ。」

 

「そう…あれ?でもこんな朝早くから道場使えるの…?」

 

「私が千冬さんの方に事前に許可を取っている…当然、と言えばそうなのだろうが、朝方道場を使いたがる奴は案外多いらしくてな…今日までかかってしまった…」

 

「そっか…」

 

う~ん…それならさすがに二人の邪魔は出来ないかな…仕方無い、部屋に戻ろう…そう思った時だった。

 

「…で、お前も来るか?」

 

「え?」

 

「このまま帰るのも何だろう?」

 

「…でも、良いの…?」

 

「私は別に構わないぞ。」

 

「俺も特に問題は無いよ。」

 

「それなら…行こう、かな…」

 

 

 

「ん?何だ、お前も来たのか?」

 

「あれ?姉さん?何でここに?」

 

道場に来てみれば千冬がいた。え?何で?

 

「…織斑先生だ…ま、今は良いか。私は審判さ、まともな試合をやるなら必要だろう?」

 

「…確かに…」

 

その後着替えに更衣室に行く二人を待つ間、適当に千冬と話をする…

 

 

 

二人が戻って来た。

 

「よっ、待たせたな。」

 

一夏がこっちに来て声をかけて来る。

 

「…ん?どうしたんだ?」

 

「それ、もしかして一夏の道着じゃない?」

 

「…荷物に入ってたんだ。ここに道場あるの知らなかったから使うのか?とか思ってたんだけどな…」

 

私たちの荷物を用意したのは更識家…既に刀奈と虚が入学してるから道場あるのは知ってる筈だよね…

 

「それはそうと…一夏、ちょっと緩くない?箒は強いよ?」

 

「侮っちゃいないさ。ただなぁ…」

 

そう言って一夏が自分の背後を立てた親指で指す。

 

 

……そこには正座をして目を瞑る箒がいた。

 

「…もしかしてかなり気負ってる…?」

 

「多分な…俺としてはもっと気楽にやりたいんだけど…」

 

「…挑戦する方の箒としてはこれが当然かもしれないけどね…」

 

「俺もあれくらいやった方が良いのかな…?」

 

「一夏は一夏の思う通りやれば良いと思うよ?」

 

この勝負に異常とも言える情熱を向ける箒とあくまでも自然体な一夏…それで良いと私は思う。



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親友の妹に転生しました53

クリスマス…友人からのクリスマスパーティーの誘いを断り、執拗に引き止める家族を振り切って私は日本まで来ていた。

 

「■■?本当に良かったのか?お前には向こうに家族も友人もいるだろう?」

 

「私は千冬に会いたかったの。千冬こそ良いの?一夏君と過ごしたりとか、そっ、そうでなくても恋人とか……」

 

「一夏は出かけたよ。私には恋人なんて甘い関係の相手はいないからな…突然来られて驚いたが暇だったからな、ちょうど良かったよ。…最も次からはちゃんと連絡してから来てくれ。仕事の可能性もあるしさすがに家の前で待ちぼうけさせるわけにいかないからな。」

 

「うっ…うん。ごめんね、千冬?」

 

でもいても立ってもいられなかったから…もし、千冬が誰かと楽しく過ごしてたりと考えたら胸が苦しくなって……暇だったと言う千冬の言葉に私はホッとしていた…更に二人で出かけてくれるなんてちょっと本気で幸せかも。

 

「しかし、まあ何だ…こんな夜に女二人で街を歩くというのも悪くは無いが…少し虚しくなるな。」

 

「…うっ、うん。そうだね…。」

 

周りはカップルばかり…こんな空間に同性二人で歩いていれば千冬の様な反応をするのが普通なんだろう…でも私は幸せだ。……横にいるのは単なる友人じゃなく最愛の人なのだから…。

 

「でも、私は楽しいかな。…千冬と一緒だから…。」

 

「こんな私といて楽しいとは…束といい、お前といい…本当に物好きだな。」

 

「……」

 

やっぱりそういう反応になるんだね…私は友人だから楽しいんじゃないよ?……いや、親友として一緒にいるのももちろん楽しいけど……やっぱり今の私にとって貴女が大好きな人だから…

 

「…そっ、そう言えば束は?」

 

会話が途切れるのを嫌がって私はそう千冬に振ってみた。

 

「…一応あいつはおいそれと顔を出せる状態じゃないからな。何処で何をしているのやら…」

 

「束の性格的に近くにいるんじゃないかな?せっかくのクリスマスなんだし。…もしかしたら会いに来るかも…。」

 

「止めてくれ。ただでさえあいつには手を焼かされてるんだ。…今この場に現れでもしたら面倒な事になる。今日くらいは静かに過ごしたい。」

 

「そうだね…。」

 

私もあまり騒がしいのは好きじゃない…。元々華やかな席は苦手なのだ。

 

「…それで何処か行きたい所はあるか?このまま表を歩くだけなのも何だろう?」

 

「え~と…千冬は何処か無いの?」

 

「私はそもそも今夜は家でゆっくり過ごそうと思ってたからな。特にこれといってしたい事も無い。お前が決めるといい。」

 

「…私はもう少し歩きたいかな。…二人で。」

 

「遠慮しなくて良いんだぞ?」

 

「ううん。私がそうしたいの。」

 

「…じゃあもう少し歩いたら何処かの店で夕食を取ろう。その後は家で呑むか?」

 

「うん。それがいい。」

 

そんな聖夜の忘れられない記憶。嘗ての私のもう戻らない…とても……大切な思い出の日。




フランスとの時差の計算を放棄


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親友の妹に転生しました54

フランスの正月は一日しかない。二日からは平日になるのが通例。

 

「何かすまんな、引き留めたようで…。」

 

「ううん。私は千冬たちと過ごしたかったし…。」

 

まぁ日本の正月に間に合うように来てしまうと帰るのもちょっとめんどくさい…。それに日本の三賀日は母さんからは話には聞いた事があるけどそもそもフランスを出た事が無かった私には馴染みが無いから新鮮。…増してや千冬と一緒に過ごせるから最高。

 

「■■さん、おせち料理は大丈夫か?」

 

一夏君がお重に入ったおせち料理を持って来る…美味しそう…。

 

「うん、多分大丈夫。」

 

「一夏の手作りだ。味は保証するぞ。」

 

千冬、自分で作った訳じゃないんだからドヤ顔する所じゃないんじゃ…。

 

「毎年千冬姉には好評だけどな…。■■さんに食べさせるのは初めてだから緊張するよ…。」

 

「そんな大袈裟な…。」

 

基本私は一夏君の料理の味付けは割と好みだったりする。

 

「…さて、食べようか?」

 

「「「いただきます!」」」

 

三人で手を合わせ挨拶をし、食べる。…あっ、美味しい。

 

「一夏君、これは何?」

 

「ん?これなら筍だけど…もしかして初めて食べたのか?」

 

「…筍…。」

 

これがそうなんだ…。母さんから聞いた事はあったけど…食べるのは初めてだな…。

 

「…もしかして口に合わなかったか…?」

 

不安そうに聞いてくる一夏君に私は慌てて否定する。

 

「ううん。とっても美味しいよ。」

 

「そっか。それなら良かった。」

 

「一夏君、これは…?」

 

「…ん?これなら……」

 

そうやって元旦は過ぎていく…。

 

 

 

初詣に行こうとなり篠ノ之神社へ。

 

「…良く来たな、一夏君、千冬君、■■君。」

 

「あけましておめでとうございます。柳韻さん。」

 

柳韻さんに挨拶をして作法に従ってお参り……結構細かい手順があるんだね…。

柳韻さんに誘われお茶と和菓子をご馳走になる……聞けば束がISを発表して以来、家族がバラバラになってしまい今はここには柳韻さんしかいないとか……やっぱり寂しかったりするのかな…?

 

篠ノ之神社を出て織斑家に戻る道中

 

「ちーちゃん!■ちゃん!いっくん!やっほー!」

 

え!?束!?

 

「…あけましておめでとう束。」

 

「おめでとう束さん。」

 

呆然とする私を他所に束に挨拶する二人。…慣れてるつもりだけど唐突に出て来るとやっぱりびっくりするよ…。

 

 

「ねぇ束、家には帰らないの?」

 

「え~…良いよ、別に。それよりちーちゃんたちと一緒にいたい!」

 

「全くお前という奴は…。」

 

そう言いながらも満更でも無さそうだよ、千冬。

 

「…ふふ。」

 

「■■?どうかしたのか?」

 

「ううん。何でもない。」

 

賑やかで楽しいお正月。…失った遠い記憶。



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親友の妹に転生しました55

「…始め!」

 

柳韻さんの声を聞き、私は千冬に向けサーベルを「はあっ!」って、嘘!?早っ!

 

咄嗟に後に飛ぶ。…やっぱり早い。様子見は止めた方が良さそう…次はこっちから仕掛ける!

 

「…ふっ!」

 

一気に前に距離を詰め千冬を突きに行く。

 

「…まだ早く出来るだろう?」

 

…左に躱され…まだ!サーベルを横に向ける

 

「おっと!…斬る事も出来るんだったな。」

 

また躱された…。早すぎ…。すり足ってあんなに早かったっけ…。…取り敢えず一旦距離を取る。

 

「…これはレイピアじゃないから…当然、斬れるよ。」

 

「…だったな。それで休憩か?お前にしちゃ慎重じゃないか。」

 

「…そりゃそうでしょ。千冬相手に小細工は通用しないし…。」

 

「…話していても私のペースは乱せないぞ?…そちらが来ないならこちらから行く。」

 

「…わっ!」

 

ほぼ一瞬で間合いを詰められ慌てて距離を開ける…やっぱり相性が悪い。レイピアじゃなくて強度のマシなサーベルで挑んだけどこれじゃあ打ち合いは無理。…剣を折られちゃう。

 

「どうした?大会の時と違って随分消極的じゃないか?」

 

「…千冬…分かってて言ってるでしょ。」

 

「…私も負けたくは無いからな。…卑怯と言うなら言うといい。」

 

「言わないよ。それに私だって簡単に負けるつもりは無いから…!」

 

千冬の刀を左手に持ったダガーナイフで弾く…重い!

 

「…その二刀スタイル…。どうやらまだ使いこなせて無いようだな。」

 

「…千冬に勝つために練習はしてたけど向こうではさすがに私と真剣で勝負出来る人もいないからね。人に向けるのは今日が初めてだよ!」

 

千冬の刀を弾きつつ、何とか前に出ようとするけど…早い!届かない…!

 

仕方無い…!私はバランスを取りやすくするためダガーを投げ捨てると千冬に突進した。

 

「…惜しいな。」

 

私の剣は弾き飛ばされ首に刀を突きつけられた。

 

「…参りました。」

 

「…ありがとうございました。」

 

 

 

「…気は済んだかな?」

 

「はい…ごめんなさい柳韻さん、無理なお願いをしてしまって…どうしても真剣で無いと決着が着けづらくて…」

 

「弟子とその好敵手の頼みだ。聞くのは吝かでは無い。…最もさすがにこれっきりにして貰いたいがな。」

 

「…はい。」

 

「…また強くなったんじゃないか?■■?」

 

「…まだまだだよ。千冬から一本取れてないからね。」

 

「…謙遜しなくていい…その様子だと本国でお前を降す奴は若手でもいないだろう。」

 

「まあね。千冬ならともかくそうそう他の人には負けられないよ。」

 

向こうで私に教えを乞う人や、試合を挑む人は多い…にしても勝ったら結婚してくれは無いと思う…。負けたら恥かくだけなのに。…というか、危機感を全く感じないわけじゃないけど…やっぱり私は結ばれるなら千冬が良い…他は男女問わず考えられない。

 

 

 

 

「…■■君、少し良いかな?」

 

「■■、家で待ってるからな。」

 

「…うん。」

 

 

 

「何ですか、柳韻さん?」

 

「…君は想いを告げる気はあるかな…?」

 

「…まだ踏ん切りが着かないです…。」

 

振られたらと考えると怖い、気持ち悪がられて千冬が離れていくのが怖い…理由は挙げたらキリがない。

 

「…私からは無理強いはしない…だが、何時までもそのままでいられるとは思わない方が良い。」

 

「…分かっています。」

 

…私が千冬を好きになった以上、ずっと友人としての関係が続けられる訳が無い…多分いずれ私の方が可笑しくなる…この気持ちに向き合わなきゃ行けない日がきっと来る。

 

「…あの子は昔から不器用な子だ。だが、君の想いを踏み躙ったりはしないと保証しよう。」

 

「…はい。」

 

…何処かで私もそう思っている。千冬は例え私の気持ちを受け入れなくても私自身を拒絶する事は無いだろうと。…でも、やっぱり私は…

 

「…今はまだ大いに悩むといい。時間はあるのだから…。」

 

「…はい。」

 

私は柳韻さんにお礼を言うと篠ノ之家を後にした。



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親友の妹に転生しました56

篠ノ之束は人嫌い…それが世間一般のイメージだろうか?

各国の勝手な都合で指名手配されたとはいえ公の場にほとんど姿を現さない以上、それが定着するのは当然でもちろん私もそう思っていた…。

 

「あっ、ねぇねぇ君が最近ちーちゃんと一緒にいる人?」

 

「…はい?…って、え…?篠ノ之博士!?」

 

これが私、■■と束との最初の出会いだ。

彼女は突然私の前に現れたのだ…。

 

「コーヒーで良いですか?」

 

「ありがとう!…砂糖とミルクもう少し貰えない?」

 

「…はい、どうぞ。」

 

「ありがとう。…美味しい!」

 

私が入れたコーヒーに大量の砂糖とミルクを入れ、最早コーヒーでは無くなっている事と篠ノ之博士が部屋にいる事で私は表面上は何とか平静を保っていたものの内心はかなり混乱していた。

 

「…突っ立ってないで座ったら?」

 

「はい…って、ここ私の部屋だから!」

 

「分かってるよぉ!うんうん、解れてきたね!さっきから思ってたけど敬語要らないよ同い歳だし。」

 

「そう?…ところで何の用なの…篠ノ之さん?」

 

「束で良いよぉ。束さんはね、■ちゃんに興味があって来たんだ。」

 

「はぁ」

 

…■ちゃんって私の事?…天災科学者が一般人の私に何の興味があるんだろう…?

 

「■ちゃんはちーちゃんと戦ったんでしょう?」

 

「…うん。負けたけどね…。」

 

「■ちゃんの事調べたよ…凄いねぇ、フェンシングの大会でジュニア部門から一度も負け無し!」

 

「…ありがとう。」

 

…私は余りそれを誇らしくは思えない。子供の頃はそのせいで人が寄ってこず友達もいなかった…。…今は割り切っているし、友達も何人か出来たし、親友に千冬がいるから良いけど。

 

「…束さんはね、■ちゃんが私とちーちゃんと同類かどうか確かめに来たんだ。」

 

「同類?」

 

どういう意味だろう…?

 

「そう。■ちゃんが私たちと同じ化け物かどうかを、ね。」

 

「…化け物?」

 

「…私たちは人を逸脱してるんだよ。私はこの頭脳と身体能力。ちーちゃんは身体能力のみ私に追い付く。そして■ちゃんは「ちょっと待って」えっ?」

 

「私たちは人間だよ?…私は何処にでもいる普通の人間で千冬と束も人と少し違うだけの人間。」

 

「…あいつらとは違うね。…あいつらはさ、私を何時も化け物を見るような目で見てた…ちーちゃんといっくんだけが私を受け入れてくれた…。」

 

「束は人間だよ、私はそう思うなぁ…。」

 

「…そっか。ありがとう。」

 

「…?良く分からないけどどういたしまして。」

 

…この後挨拶もそこそこに束は帰って行った。…それからちょくちょく束が部屋に来るようになった。…他の家族がいない時を見計らって来てくれるのは良いけど…何時見つかるかと気が気じゃない私からしたら正直勘弁して欲しかった…。

 

「やっほー!■ちゃん、遊びに来たよ!」

 

「はいはい。コーヒーで良いかな?」

 

「うん!」

 

…束の事自体は嫌いじゃないけど、ね。千冬との事も応援してくれたし…。

 

 

 

 

「…ところでちーちゃんのお風呂入ってる時の映像持って来たけど見る「見る!」わーお。おめめめっちゃキラキラしてる…。持って来た束さんが言うのも何だけどドン引きの反応だねぇ…。」

 

私がエロい訳じゃない筈…。意中の人の生まれたままの姿を見たいと思うのは当然の筈…。

私は自分にそう言い聞かせた…。

 

 

 

 

 



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親友の妹に転生しました57

『…■■さん、恋愛相談は私じゃない方が…』

 

「…ごめん、でも箒が一番頼りになりそうだから…」

 

篠ノ之箒…束の妹さんらしい…束がISを発表し世間に兵器として認められて以来彼女とは離れ離れになっているらしいけど束特製の盗聴防止機能付きの専用電話で時々話はしてるとか…。

 

家族の話になった時私も直通電話を束から貰った…何で私に?とも思ったけど…気がつけば自分の姉の紹介という事でどんな変人かと警戒されていたのは今では笑い話。…今はお互いに恋愛相談をする仲だ

 

……いや、千冬との共通の知り合いで似たような想いを抱えてるのが箒しかいないってだけ、という事情もあるんだけどね…仲は良いと思う…会った事は無いけど。束が写真を見せて来たから顔は知ってるけどね…

 

『私も一夏に片想いしてる身なんですが…』

 

だからこそ相談相手としては良いんだよねぇ…そもそも束は恋愛相談には適してないし…。

 

『しかも…■■さんの好きな人は同性の千冬さんでしょう?どう考えても不適任ですよ…。』

 

「…それでもいいの。何か進展する方法は無いかな…?」

 

『…進展も何も千冬さんの気持ちは確かめてないんでしょう?それに千冬さんならストレートに言えばそれで済むと思いますよ…一夏に踏み込めなかった私が言う事じゃないですけど…。』

 

千冬は脳筋の気が強い…しかも束曰くかなりの鈍感らしい…束には人が近寄らなかったらしいけど千冬は学生時代それなりにモテたらしいから…最も束と良く一緒にいる事と本人が鈍感なせいで尽く玉砕したらしいけど…そもそも身近に強い男性である柳韻さんの存在があったことを思えば…多分普通の男性なら告白しても大半が切り捨てられただろうと思う…。

 

「…言えないよ…怖いから…。」

 

どうしても千冬が離れて行くのが怖くなる…今の関係を壊したくない…。

 

『気持ちは分からなくもないですが…少なくとも千冬さんは気持ち悪がったりしないと思いますよ…そもそも千冬さんは学生時代から割と同性にもモテていたそうですし…。今更じゃないですかね…。』

 

「あっ、やっぱりそうなんだ…?」

 

束は余り思い出したくないのか話してくれなかったけど…学生時代からあんな感じだったなら…間違い無く同性にもモテたと思う…。

 

『…私の様に会いたくても会えないわけじゃないんですからさっさと告白する事をオススメします…。』

 

出来たら苦労しないよ…。

 

『まあ私で良ければ話くらいは聞きますから…。』

 

「ありがとう。…また、束来た時にスイーツ持たせるね?」

 

「…ありがとうございます…。」

 

箒は束と違って硬い感じが強いけど…普通の女の子らしく甘い物が結構好きなのだ。…最も本人は和菓子派らしいけどね…。

 

「…束とはどう…?何か話したりする…?」

 

『相変わらず…■■さんに言われて少しでも理解しようと思ったんですけど…』

 

私には兄が一人いる。元が無口な事もあり、歳も離れてるせいですれ違った事もあったけど根は優しく誠実だ。…今では両親に話せぬ恋を打ち明け、応援してくれる人間の一人だったりする…。…だからすれ違い続けてる束と箒の二人にお節介を焼いてしまった…。

 

「…迷惑じゃなかった?偉そうに言っちゃったかなって実はちょっと反省してたんだ…。」

 

後悔はしてない。…家族がすれ違ったままでいるよりは良いと思うから…。

 

『いえ。私たちのためを思って言ってくれたのは分かってますから…それに、私も本当は姉の事を知りたかった…。』

 

「…束もきっとそう思ってるよ。分かり合いたいってね。」

 

…まあ両親とは絶望的みたいだけどね…せめて箒とだけは和解して欲しいな。

 

『…今度、来た時はもう少し話してみます…。』

 

「うん。それが良いよ。頑張ってね?」

 

姉妹が会話するだけなのに変なアドバイスだなと我ながら思うけどこの二人の場合は仕方無いのかな…。何時かは束が家族皆で過ごせる日が来たらいいなぁ…。昔はともかく今は柳韻さんも束と和解したいと思ってるみたいだし…。



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親友の妹に転生しました58

私の目の前には暗く澱み、およそ自然界ではまず嗅ぐことが出来ないだろう異臭を放つ液体の満ちた鍋があった…。

 

「…千冬、これ…何?」

 

「……寄せ鍋だ。…知らないか?」

 

「……」

 

別に知識として寄せ鍋を知らないわけじゃない、どころか母さんは家では日本料理を作る事の方が多いので良く知っている…フランスは冬場でも日本ほど寒くは無かったりするので食べる頻度は少ないが…現実逃避はこれくらいにしておこうかな…。

 

「…■■さん、本当に食べるのか…?教えた俺が言うのも何だけど…どうなっても責任持てないぞ?」

 

小声でそう言ってくる一夏君…一般的に料理下手な人は習っても改善されないパターンが多いけど…それは多くが講師役の指示を聞かず勝手な調味料や食材を使うから、というパターンが多いとか。……私も不器用な方だけど、私の初料理でもこんなに酷くなかったよ…。

 

「…食べるよ…。千冬がせっかく作ってくれたんだから…。」

 

……私に断る選択肢は存在しない。…だって…

 

「惚れた弱みって奴か。本当に罪作りだよなぁ…でも…だからって■■さん、嫌なら嫌ってはっきり言わないと…千冬姉は落ち込むかもしれないけど今更■■さんを嫌ったりしないって。」

 

「…大丈夫。……多分。死にはしない…筈…だから…。」

 

強がってはみるけど…私は別に俗に言う人間ポリバケツなんて言われる人種じゃない…。極々普通の人間である…内蔵が特別丈夫な訳じゃない…。

 

「…あの…出来れば一緒に食べて「あ、俺出かける用があったんだ!■■さんゆっくりしてってよ!じゃあ!」…薄情者…。」

 

物凄い勢いで家を飛び出す一夏君に恨み言を呟く…いくら大好きな人の料理でもこれを一人で食べるのは辛いよ…。

 

「…どうした…?食べないのか…?」

 

「……ううん…食べるよ…。」

 

そんな顔しないで。ちゃんと食べるから…完食出来そうに無いけど…。

 

鍋の中身を皿によそってもらう……凄い…。お玉が中に入っても澱んだまま…中身が全く見えない…。割と距離があっても感じてた異臭が私の顔に…!

 

「……ジーザス…」

 

思わず祈りたくなった…別に信心深い訳じゃないけど…父さんも母さんも支持する神はいないし私も無神論者だ…でも、これは…!

 

「…Au secours…」

 

「…ん?何か言ったか…?」

 

「……何でもない。」

 

思わず助けを求めた…誰に?この場には私と千冬しかいない…あー!もう!

 

「……頂きます…。」

 

私は液体の中に箸を突っ込み中の物を摘むと見ないようにしながら口に運んだ…!

 

 

 

「……あれ?私…?」

 

「気がついたか、■■さん?」

 

「…一夏、君?」

 

そこには床に座った一夏君が…横にタライが置いてあってタオルが入ってるのが見える…?

 

「…何があったか分かるか…?」

 

「…?何があったの?」

 

「…マジで覚えてないのか?千冬姉が作ったもん食って倒れたんだってさ。携帯に焦った千冬姉から電話来たから慌てて戻って来たんだよ…。」

 

「…そうなんだ…千冬は…?」

 

「……リビングで落ち込んでるよ…。呼んで来ようか?」

 

「…うん…」

 

一夏君が部屋を出ていく…千冬には何て声をかけようかな…普通で良いか。

 

「…■■、目が覚めたのか?」

 

「…うん、おはよう千冬…」

 

「…おはよう、もう夜だがな……すまなかったな、まさか倒れるとは思わなかった…。」

 

「…良いよ…また練習して作ってよ…私は食べるから…。」

 

「…しかし、その…良いのか?」

 

「…うん。私はまた千冬の料理が食べてみたい…。」

 

「…物好きだな。なら今度こそ美味い料理が作れる様に練習しよう。待っててくれ。」

 

「…うん、楽しみにしてるね?」

 

 

 

それから何度も千冬の料理を食べさせられてその度に私が寝込み、最終的に千冬は何があっても料理を作らなくなってしまった…。残念だなぁ…。一夏君の料理は確かに美味しいけど私は好きな人の料理を食べたかったなぁ…。



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親友の妹に転生しました59

『…■■さん、本当にあれで良かったのか…?多分千冬姉本命だなんて全く思ってないぞ…?』

 

「…あ、やっぱり…?」

 

今日はバレンタインデー。私は今日は日本に行けなかったので数日前にチョコをエアメールで送った。さっき千冬からお礼の連絡とホワイトデーは期待してくれと言う少し意外だったけど嬉しい言葉を貰った。それで今は一緒に送った一夏君の義理チョコのお礼の電話を受けている所…フランスは日本に比べて比較的温暖な気候だし日数もちゃんと調べてなかったから不安だったけど…幸い無事に届いたみたい…。ちなみに家族や友人には一応渡した…まあフランスは元々男性から女性に送るのが主流だから…兄や父、後は数少ない男友達からも私もいくつか貰ったけど。

 

『…千冬姉は昔から同性にも明らかに本命のチョコ貰ってたけど気付いてなかったからな…どんだけ鈍いんだか…。』

 

「…まあ私も本命だとははっきり書いてなかったからね…」

 

でも一夏君はそれについて本当は言う権利は無いと思う。だって…

 

「…そう言えば箒からはチョコ貰った?」

 

『ああ、さっき束さんが自分の分と一緒に持って来たよ…毎年律儀だよなぁ…』

 

「…そっ、そう…」

 

反応見る限り一夏君も箒からの好意に気付いてないみたい…箒も苦労するね…後で箒に電話しよう…

 

「…それじゃあ、ホワイトデーには休みとってそっちに行くから。」

 

『ああ。分かった。…もちろん別に用意もするけどお返しも兼ねてご馳走用意して待ってるよ、じゃあな。』

 

「うん、千冬に宜しくね。」

 

「…ふぅ。」

 

電話を切り一息つく。

 

「■ちゃん!」

 

「…こんにちは、束。今コーヒー入れるね?」

 

「ぶぅ。何か■ちゃん、最近全然驚かなくなってつまんな~い!」

 

「そんな理不尽な…毎回突然現れてたら慣れるよ。それに一夏君から束が来たって聞いたからそろそろこっちにも来ると思ってたし…というか驚かすためだけに人の部屋にいきなり現れないでよ、心臓に悪いから…」

 

「え~!良いじゃん!」

 

子供のように駄々を捏ねる束を見てると不思議とほっこりしてくる…と、コーヒー入れないと…

 

 

 

「うん!美味しい!■ちゃんの入れるコーヒーはやっぱり美味しいね!」

 

「…インスタントだし、そんなに砂糖やミルク入れてたらかなり味変わってると思うんだけど…」

 

「そりゃあだって、■ちゃんの愛情が篭ってるし当然だよ!」

 

「私が束に向けてるのは友愛なんだけど…」

 

「もちろんそれは分かってるよ!ちーちゃんが好きなんだもんね!」

 

「…うん…。」

 

「…あっ、照れてる■ちゃん可愛い!」

 

「揶揄わないでよ…それで今日は何しに?」

 

まあ大体分かるけど。

 

「そうそう!…え~っとねぇ…あっ、あった!はい!チョコ!」

 

「ありがとう束…あれ?これ二つあるけど?」

 

「それは箒ちゃんからだよ!」

 

「…ああ、ならちょうど良かったかな…はい、私からもチョコ…二つとも中身は一緒だから一個は箒に渡して?」

 

「ありがとう!ホワイトデーは期待してね?」

 

「あはは…うん…。」

 

何か束の場合不安なんだよね…普通の物を送ってくれれば良いんだけど…これだって別にそんなにお金かけてないし…。まあそんな心配出来るのも少し楽しいかな?



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親友の妹に転生しました60

「…進展はどうだ■■?」

 

「…う~ん…あんまり…」

 

私は兄から千冬との仲はどうなのか聞かれていた…

 

「…聞けばブリュンヒルデは寧ろ嘗ての日本男児に通ずる性格と聞く。だが、本人はお前の好意に気付いてない…ならばお前から告白すれば済む話じゃないか?」

 

「それが出来ないから苦労してるんだけど…」

 

簡単に言わないで欲しい…と言うか何時まで続くのこの話…

 

「…断られるのが怖いなら押し倒して既成事実を作ってしまえば良いだろう…大丈夫だ、一度お前に紹介された時に思ったが多分彼女はお前に対して警戒をしてない…何よりお前は兄の私の目から見ても美人だから「いやいや!何言ってるの!?」…何をってお前にアドバイスをだな…」

 

「いや!そんな手段取れないから!?同性でもレイプは駄目だって!?てか絶対無理!」

 

何を言ってるのこの男は!?幼少期は勉強ばかりしててろくに話した事も無かったけど…無口なだけで本人は普通に友人もいるし真面目な好青年って感じだと思ってたんだけど!?

 

「……冗談だ、妹よ。」

 

「いやいやいや…」

 

間が長いし、真顔で言うから冗談に聞こえないよ!?

……この人、要は笑うのが下手なだけで単なるポンコツだったんだ…。…この歳にして家族のこんな一面知りたく無かったよ…。

 

「それにだ、知っての通り母さんと父さんはおおらかだからな…お前の好きな相手が同性だと知っても気にしないだろう…それに篠ノ之博士に頼めばお前かブリュンヒルデにアレを生やしてくれるから孫を見せる事も出来「突っ込みたいことは色々あるけど何で束と私が知り合いだって知ってるの!?」?本人から「君が■ちゃんのお兄さん?こんにちは!」…と挨拶されたが?」

 

「束!?」

 

兄の束の真似が異様に上手いとか(真顔のまま明るい女声出すから非常に不気味だけど)仮にも指名手配犯になってる人と普通に挨拶交わしてる兄の天然振りにとか突っ込みたい所だけどまずは何で束は普通に挨拶しに来てるの!?

 

「大丈夫だ、お前の友人だからな…悪い奴の訳が無い。私は彼女を信じる。」

 

「……」

 

可笑しいな…カッコイイ事言ってるはずなのにさっきまでの発言で台無しなんだよね…。

 

「とにかく篠ノ之博士にお前が生やして貰って襲えばそれでイチコロ「やめて!?」」

 

その!下世話な発想から!いい加減!離れ!ろ!

 

「■ちゃん!呼んだ?」

 

「束!?」

 

確かに名前は叫んじゃったけど別に呼んでない!

 

「…良い所に来てくれたな、篠ノ之博士。妹の恋の成就に手を貸してくれないか?この通り妹は奥手でな…」

 

「おお!■くん妹想い!…で、何か良いアイディアが?」

 

渾名で読んでる!?てか何この茶番!?…脳内ツッコミしてる場合じゃない!早く止めないと私の身が危険だ!

 

「取り敢えず二人とも部屋から出てって!」

 

…それから一時間程かかって私は部屋から二人を追い出した…後で箒に愚痴ろう…。



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親友の妹に転生しました61

フランスには今ぐらいの時期は二つの大きな行事がある…ニースにてカーニバルとマントンでレモン祭りと言った具合だ。

 

特にレモン祭りはレモンやオレンジの巨大なオブジェが練り歩くと言う日本の祭りとはまた違った迫力がある…私は今日は休みを取り、こっちに来れない千冬たちのために動画を撮って送ろうと思ってたんだけど…

 

「…何で私は今ここにいるの?」

 

「いやだって■ちゃん、人だかり凄いよ?これじゃあ携帯やカメラで動画撮っても多分、ほとんど人しか映らないと思うよ?」

 

「…一理あるとは思うけど何も空からじゃなくても良いと思う…」

 

「でもほら、良く見えるでしょ?」

 

私は今マントンの地では無く束謹製の人参型ロケットでマントン上空にいた…

 

 

 

「…お祭り?」

 

「…そう。日本のお祭りとはまた違うし千冬や一夏君は行った事ないって言うから動画に撮って送ってあげようと思って…」

 

「じゃあ私も一緒に行きたい!」

 

「…構わないけど移動は?束は交通機関使うの不味いでしょ?」

 

「大丈夫!ほら!早く行こう!」

 

「ちょっと!?行くから引っ張らないで!?」

 

…とまぁ半ば拉致に近い形でいきなり外に引っ張られ…家の前に堂々と鎮座していた人参型ロケットを見て更に驚愕しあれよあれよという間にロケットに乗せられ思いの外速いスピードに私が軽く悲鳴を挙げつつ今に至る…

 

 

 

「…いきなり乗せてごめんね…それとも高い所苦手だったとか?」

 

「…高所恐怖症なら多分もっとパニックに陥ってるし、行く気はあったから別に怒ってはいないよ。…ただ先に言っては欲しかったけどね…」

 

どちらにしろそんな顔されたら怒れないよ…。

 

「…まあほら…!空撮の方がやっぱり迫力あるでしょ!?」

 

「…そうだね…。」

 

実際束の言う通り地上で普通に撮影してたらほとんど人しか見えなかったのは確かだ…。

 

「…でもどうせなら私も下で見たいなあ…」

 

「…変装してても束なら割と目立つし不味いんじゃない?」

 

文句を言いつつもやっぱり束の事を考えるとね…

 

「う~ん…そうかも…」

 

そもそも束は人嫌いに振舞っているが人嫌い所かそもそも束自身が他人と接するのは苦手な筈だ…こんな人混みに出たら多分キツいんじゃないかな…

 

「…まあ、仕方無いよ…ほら、私はまだ時間あるしニースの方に行かない?」

 

「えっ?何で?」

 

「ニースの方でも別にお祭りやってるの。こっちでもパレードが中心だけどね。…主にたくさんの花を飾った山車が走る花合戦パレードと仮装して練り歩くカーニバルパレードが魅力だよ。」

 

「うわぁ!面白そう!じゃあそっちにも行こう!」

 

そもそも私からしたら世界中を回るなんて簡単な事なのに世界の行事を全く知らない事の方が不思議なんだよね…それだけ人に興味を持たないって事なのかな…こうやって笑ってる束を見ると世間の反応がどれほど間違ってるのかとも思える…少し歳不相応だけど束はこんなに明るくて…やっぱり普通の女の子だ…



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親友の妹に転生しました62

三月十四日 昼 人参ロケット内部…

 

「もうすぐ日本だよ■ちゃん!」

 

「ねぇ束?これって不法入国じゃない?」

 

現在私は束と共に日本上空にいた…

 

 

 

「■ちゃん日本に行くの?」

 

「うん。約束したし…」

 

「じゃあ一緒に行こうよ!」

 

「束は飛行機乗れないんじゃ?」

 

「そりゃあもちろん束さんのロケットに乗って行くんだよ!」

 

 

 

そうして一緒に来てしまった私を殴りつけてやりたい。

 

「だってぇ…束さんはこうでもしないとちーちゃんやいっくん、それから■ちゃんたちに会えないし!」

 

……何時の間にか束は私の両親とも仲良くなっていた…本人曰く、「■ちゃんのお父さんとお母さん面白い人だね~!」…との事…面白いと言う表現にはかなり複雑な物があるけど…まあ変わり者ではあるよね…つい最近、兄が両親を超えるズレた人だと知った事実は頭の片隅に追いやる…。

 

「本当なら箒ちゃんにも会いたいんだけどな~…」

 

「箒はずっと政府の監視が付いてるから…こっそり会える束はともかく接点無いはずの私が会うのは不味いでしょ?」

 

最も普段から電話での会話はしてるけど…それに今日は箒自身が用事があると言っていたらしく束も渋々会うのは諦めたらしい…そうでなくても篠ノ之箒が織斑家を訪れるという状況は問題しか無いけど…

 

「取り敢えず後で私からのお返しは渡してね?」

 

「もちろん分かってるよぉ!」

 

その辺は不安に思ってない。束が箒の事でやらかす事なんて…ダメだ。何かやらかす未来しか見えないよ…

 

「普通に渡してね?箒の友人とかと揉めたりしないでね?」

 

「大丈夫!人いない時に渡すし、そもそも他人に興味無いし。」

 

「……」

 

これ以上言っても仕方無いのでそこから先は飲み込む事にする…

 

 

 

「良く来たな、■■に束。」

 

「久しぶりちーちゃん!」

 

「一ヶ月振り位かな?今回もしばらくお世話になるね?」

 

「良いさ。何時でも来るといい。…最も一夏と違って私は家にいない事が多いが…あれで結構一夏はお前の来訪を喜んでるんだ…割とたくさん食べるから作り甲斐があると言ってな…」

 

「…あー…うん…何か、ごめんね…?」

 

笑顔だが多少皮肉の込められた千冬の言葉にそう返す…初めて織斑家に来た際に私の食べる量で千冬や一夏君にドン引きされたのは未だに記憶に新しい…聞いたら一夏君の同性の友人より遥かに食べる量が多いとか…そう聞いて私がかなりショックを受けたのは言うまでも無い…

 

「良いさ。少なくとも一夏は喜んでるからな…」

 

「…そうなんだ…」

 

私が悪いんじゃないもん…一夏君の料理が美味し過ぎるからいけないんだもん…そもそも私が作るよりずっと美味しいし…女性として本気で負けた気がする…

 

「■■?どうした?入らないのか?」

 

「■ちゃんどうしたの?」

 

私が軽くダークサイドに堕ちてる間に二人はもう家の中…

 

「何でもない。お邪魔します。」

 

家に入るともう良い匂いが漂って来た…そう、私は悪くない…深く考えるのは止めにする…今日も食べまくろうっと。



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親友の妹に転生しました63

Salon du Livre…フランスでは今くらいの時期に開催されている行事。…何の事かと言えば要するに本の見本市の事。…本と言っても硬い本ばかりでなく絵本や漫画まで扱っていてしかも世界中の本が集まるからフランス人はもちろん、わざわざ他の国から遥々訪れる人もいるとか…私自身は本を読むと言っても人並み程度だけど…ジャンル問わず意外と読書量の多い一夏君に本を送ってあげよう(何気にフランス語と英語読めるんだよね…残念ながら話す事は出来ないけど)

 

そう思って来たんだけど…

 

「何で束がここにいるの…?」

 

「えーっと…■■ちゃんが家を出るのを見て…」

 

「……跡をつけて来たの…?」

 

「…はい…」

 

トイレに行こうとしたら何となく覚えのある雰囲気をした人が会場で立ち尽くしていたのを見つけて取り敢えず会場の外まで引っ張って来た…付き合いが長いから分かっただけで一応変装は完璧だけど…あんなに狼狽えてたら警備の人に連れて行かれちゃうよ…

 

「とにかく今日は帰った方が…」

 

前回のお祭りの時と違って私としては束の相手をしている余裕が無い。…と言うか今回は本を買わないと来た意味が無いし…

 

「え~!大丈夫だよぉ!」

 

そう言う束の顔色は悪い。あー…完全に人酔いしてるね…正直この状態の束を連れて歩くのはキツい…会場が混みあってて私も酔いそうだし…とても束の相手はしてられない…

 

「…いや、本当に顔色悪いから止めた方が…」

 

「大丈夫だって!」

 

…何処から出て来るのかな、この自信。…仕方無いか…束は元々頑固だし、これじゃあ何言っても帰ってくれないよね…

 

「…本当に大丈夫…?」

 

「大丈夫だってば!さっ、行こう!」

 

「…待って束!走らないで!人にぶつかるから!」

 

私の手を引っ張って走り出す束を止める…この勢いで会場まで行ったら本当に人にぶつかっちゃうよ…

 

 

 

 

一時間後、私は束を連れてトイレの個室に来ていた…

 

「大丈夫…?」

 

「…ごめん、ダメかも…」

 

私はしゃがんで吐き続ける束の背中をさすっていた。

 

「だから言ったのに…。」

 

「…ごめんね…今日は帰るよ…」

 

「…この場で姿を消すとか止めてね…?外まで送るから。」

 

「……うん。」

 

こんな人の多い所でそういう事されると困る…誰かに見られたら私が説明しなきゃならないし…

 

 

 

 

「それは大変だったな…」

 

「…本当にね…」

 

後日、織斑家に来た私はこないだの一件を千冬に愚痴っていた…

 

「束は、根は悪い奴じゃないんだがな…」

 

「それは分かってるけどね?こうも振り回されるのはちょっと…」

 

何時も突拍子も無い行動を取るから振り回される方は非常に疲れる…私も体力にはそれなりに自信ある方だけどそれでも辛い…

 

「あの、千冬姉、■■さん?」

 

「「何(だ)?」」

 

「さすがに本人の前で色々言うのは止めてあげた方が…ほら、束さん凹んでるし。」

 

一夏君の指差す方には項垂れる束の姿…別に忘れてたわけじゃない。今日、私は束に日本に送って貰ったんだから当然存在は忘れてない。

 

「…酷いよ…ちーちゃんも、■ちゃんも…」

 

「…そうは言うけどさ束、毎回の様に振り回されたら私も色々言いたくなるよ?」

 

「…だったら私に直接言えば良いじゃん…何も私のいる前でちーちゃんに言わなくたって…」

 

「…お前の事だ。どうせ言っても流しただろう?」

 

「うー…」

 

何か唸ってるけど千冬の言う通りなんだよね…実際何度か言ってるんだけど…言っても都合の悪い言葉はスルーするから、束は。……一緒にいて退屈はしないけど疲れるのも確かなんだよね…



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親友の妹に転生しました64

イースター…イエス・キリストの復活を祝う祭りの事で私は別に信心深く無いけれど、恩恵には預かる事が多い(そう言えば、この辺は決まった宗教観の無い日本人の母の血を引いてるからなのかな?…父も全く興味無いみたいだけど…)

 

要するにこの時期は長期休暇が取りやすいのだ。で、私も何時も通り二週間の休暇を取って最初の一週間を家族と過ごそうと思ってたんだけど(もちろん残り一週間は千冬たちと過ごせないかな?とは思ってた。日本ではほとんど復活祭に馴染みが無いし、休みを取る習慣も無いからあまり期待はしてないから連絡もしてなかった)

 

「…■■?何をしている?支度はどうした?」

 

「支度って?私、別に出かける用は無いけど?休みも取ったし。」

 

一人暮らしをしている兄が家に来るなり私にそう言って来た…もう突拍子も無い事を言い出す人だって言うのは分かってるけどやっぱり唐突過ぎて驚くよ…

 

「?…お前はこの二週間日本のブリュンヒルデの家で過ごすのだろう?」

 

「……はっ?…いやいや、そんな約束してないよ?…日本では復活祭を祝う週間も無いし、休みも早々取れないしね。」

 

「いや、篠ノ之博士からそう聞いてるぞ。」

 

「…束「呼んだ?」……どういう事?」

 

「もうちぃちゃんに話通してあるよ。さすがに二週間の休みは取れなかったみたいだけど…いひゃいいひゃい…ひゃめてよ■ちゃん」

 

私は勝手に約束していた束の頬を引っ張る。……どうして勝手な事ばかりするかな…

 

「…ほら、早く支度しろ。ブリュンヒルデは空港で待ってるそうだぞ…」

 

「大丈夫!束さんが送って行くから!」

 

……飛行機で行くと反論したかったけど無理だね…どうせ飛行機のチケットの事なんて束は考えて無いだろうし。…仕方無いか。

 

「…じゃあ父さんと母さんに伝えに「私から伝えたよ!」……」

 

私は無言で束の頭に手刀を落とす。

 

「イタッ!痛いよ■ちゃん!もう!何かさっきから酷くない!?」

 

「…篠ノ之博士、妹は昔からシャイな奴でな「そこっ!変な事言わないでくれる!?」…感情表現が下手なんだ、許してやってくれ。」

 

私はゲシゲシと兄の脛を連続で蹴る…ダメージは無し、か。…兄も千冬に負けず劣らず人外だったのかも…というか感情表現が下手なのは貴方でしょう?さっきからニコリともしない癖に。

 

「…うんうん!ちゃんと分かってるよぉ!」

 

束に蹴りを入れたら今度は普通に避けられた…何か疲れたな…

 

「…取り敢えず支度して来るから待ってて。」

 

泊まりだからね…二週間分の着替え持って行かないと…せめて先に言ってくれたら良かったのに…




ISの作中年代が分からない…(春分の日の後の最初の満月の次の日がイースターなので年毎に変動する…四月中なのは確実だが)


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親友の妹に転生しました65

二週間の休みを日本で過ごす事になったのは良いけれど…

 

「すまんな…仕事がまだ残っているんだ…」

 

「大丈夫だよ。こっちこそごめんね、いきなりやって来て…」

 

「構わんさ、前にも言った通り何時でも来ると良い…最も事前にきちんと連絡があればもっと長く休みも取れたんだがな…」

 

……束が千冬に私を連れて来る話をしたのは何と三日前。…幸い千冬は休みは取れたものの数日間しか確保出来ず、今日も仕事を抜けて来たそうで私と束を家に送った後そそくさと戻って行った…この時期ともなれば一夏君も当然もう学校が始まっている…

 

「暇だね「千冬が休み取れなかったのは束がもっと早く言わなかったからでしょ?私が休み申請したのって一ヶ月前だからね?」…ごめん。」

 

束もしおらしい…というかこれで堂々としてたり駄々こねたりしたらさすがに怒るけどね。

 

「…せっ、せめてどっか出かけない?ちーちゃんから鍵貰ってるんでしょ?」

 

「…まあ、ね…」

 

そうだ…どうせなら…

 

「束、篠ノ之神社に行か「行かない」…そう…」

 

束の雰囲気が変わる…そんなに嫌?…そもそも箒と同じで監視が着いてそうだから面倒な事になりそうな気はするけどね…

 

「…なら、買い物にでも行く「行く!」……」

 

…ただ買い物に行くだけでそんなに嬉しいかな…さっきまでと全然態度が違うなぁ。

 

 

 

変装した束と歩く…う~ん…

 

「…どうしたの、■ちゃん?」

 

「…いや、本当に別人にしか見えないなって。」

 

今の束は髪は金髪でウサ耳は外し服装も私服…ここまでは良い…でも…

 

「…Salon du Livreの時も思ったけど何で顔まで変わるの?」

 

「フッフッフ…これが束さんの技術だよ!■ちゃんにもやり方を「別に良いや」何で~!?」

 

いや、だって別に私は変装する必要無いし。

 

「というか騒がないでよ。せっかく変装してるのに目立っちゃうよ?」

 

「有象無象にいくら見られたって気にしないもん!」

 

「……」

 

目立つと私が困るし、変装の意味が無いんだけど…

 

「…もっと言うとあの時も私が雰囲気で分かったくらいだから昔からこの辺に住んでる人なら気づいちゃうんじゃない?」

 

「……そうかも…」

 

「…取り敢えず大人しくしててよ、私が困るからね?」

 

「…分かった…」

 

織斑家からスーパーまでそう遠くないんだけど…何か行くだけで疲れて来たよ…

 

 

 

「それじゃあ先に帰るね!ちーちゃんといっくんに宜しく!」

 

私と適当にスナック菓子を摘み、駄弁った後、束は何故か千冬と一夏君の帰りを待つことなく帰って行った。

 

「…何だったの…?」

 

束の行動が読めないのは何時もの事なのでそれ以上気にする事無くまたスナック菓子を口に運ぶ…暇だな…私はウェットティッシュで手を拭くとテーブルに置いてあったテレビのリモコンを手に取った。



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親友の妹に転生しました66

フランスでも一応桜の時期に出かけたりはする…でもそもそも暖かければ大抵普通に公園に行くという感覚で別に桜を見に来てるという訳でも無いし、きっちり見栄えを意識したお弁当を用意するという習慣は無い…私は母が日本人だからかちゃんと一緒にお弁当を用意して行ったけどね…

 

「…本当に手伝わなくて良いの…?」

 

「…いや、■■さんはお客さんだからさ…」

 

…織斑家で数日を過ごし、漸く千冬の休みが回って来た週末…私は千冬と一夏君と一夏君の友人の五反田弾君、御手洗数馬君たちとお花見に行く事になった…数日家にいただけでも割と手持ち無沙汰だったのにこういうのもやるなって言われると本当に落ち着かない…

 

「…■■さん、結局晩飯作ったりしてたろ?これくらいは任せてくれって。」

 

…いや、無理言ってここにいるんだし、それくらい当然だと思うけど…と言うか…

 

「…そもそも私も一緒に行っていいの?」

 

私自身は一応一夏君の友人二人と面識はあるけど軽く話した事があるくらいであまり接点は無いに等しい…今回の滞在中でさえ入れ違いだったりして会えてないし…

 

「…何言ってんだよ?■■さんも家族だろ?」

 

……一瞬納得しそうになったけど普通に違うよね…?

 

「…それとも行きたくないとかか…?フランスってそもそも花見の習慣自体あるのか知らないけど…」

 

「…花見では無いけど普通に外で食事したりはするね…後、別に行きたくないわけじゃないよ?寧ろ行きたい…」

 

「…あー…うん。千冬姉が来る以上、■■さんが来ないわけないよな。」

 

「…あはは…」

 

……そう言えば普通にバレてたね、私の気持ち…

 

「…何か悪いな…二人きりでいられるようセッティングしようとも思ったんだけどさ…」

 

「…ううん。大丈夫…」

 

千冬といられるだけで割と幸せだし…それに…

 

「私は一夏君の事も嫌いじゃないからね…」

 

「…それ、あの二人には止めてくれよ?勘違いされるから…」

 

「…?何が?」

 

「だからさ、まあ良いか…にしても千冬姉遅いな…」

 

……千冬は今日遅くなると連絡が入ってる…無理矢理休み入れたせいか、今日までかなりゴタゴタしてたみたい…何か本当に申し訳無いな…

 

「…取り敢えず座っててくれよ、晩飯も今作るから。」

 

「…うん…」

 

結局千冬は夕食が出来ても戻らず…一夏君が寝てから私も少しして眠った…

 

 

 

物音がした気がして意識が登ってくる…泥棒じゃないよね…?

 

「…ん?起こしてしまったか?」

 

「…おかえり千冬…」

 

私が起き上がるとそこには千冬がいた…今は深夜二時過ぎか…

 

「…随分遅かったね…」

 

「…ああ。引き継ぎに時間がかかってな…おかげで漸く明日から休みだが。」

 

「…そっか。」

 

口角が上がるのを堪える…ダメ…どうしてもニヤニヤしちゃう…

 

「…どうかしたか?妙に嬉しそうだが?」

 

「…明日のお花見が楽しみだからかな?」

 

「…そうか。ならさっさと寝るとしよう、明日は寝坊出来んしな…」

 

……私は割と起きれるけど、千冬は良く寝坊するからなぁ…

 

「…しかし…初日にも聞いたがどうしてお前はここで寝るんだ?別に私の部屋でも良いんだぞ?」

 

初日に千冬の部屋を使っていいって言われたけど私は毛布と枕を借りて茶の間で寝ている…だって…

 

「…ううん。寝坊したら困るし…」

 

「…明日はともかく、そもそもお前は休みだろう?ゆっくりしてれば良い物を…」

 

……正直横で千冬が寝てたら歯止めが効かなくなりそうだし…

 

結局私は千冬の勧めを断り、千冬が部屋に入るのを見届けた後、再び床に横になった…



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親友の妹に転生しました67

「…んん…」

 

千冬が部屋に入ってからどれくらい経っただろうか…?再び物音を感じて目を覚ます…私、結構寝付きいい方なんだけど…やっぱりここで寝るのは無理があったかな…?…取り敢えず軽く伸びをして起き上がると音のした台所へ向かった…

 

 

「…ん?ああ…■■さんか?悪い、起こしちまったか?」

 

「…別に良いけど…何してるの?」

 

さっき時計を見れば四時を指していた…今日は午前中から家を出る予定だけど、いくら何でも早すぎる…

 

「…いや、せっかくだからもう少し追加しようかと…」

 

……どうも一夏君は今日食べるお弁当を詰めてたようだ…と言うか昨日作ってた料理を詰めた四段重ねのお重の横にもう一つお重があるんだけど…もしかして…

 

「…私の為?」

 

「……女性にこんな事言いたくないけど…ジト目向ける前に自分の食べる量考えてくれ。」

 

「…ごめん…」

 

「…いや、そんな暗い顔しないでくれよ…別に責めてるわけじゃないから。あれだけ美味しそうに食べてくれたら作る方も嬉しいし…。」

 

「…ごめん…何か手伝おうか?」

 

「もうそろそろ終わりだから大丈夫だよ。…今から寝るには遅いか…この時間大した物もやってないだろうけど何ならテレビでも見ててくれ…あっ、ボリュームは絞ってくれな?多分大丈夫だと思うけどまだ千冬姉起こしたくないし。」

 

「…うん。」

 

私は茶の間に戻り毛布を畳むとテレビのリモコンを手に取る……うん、ほとんどニュースくらいしかやってないね…あっ、天気予報…今日は天気は良いんだね、良かった…私は欠伸を噛み殺しつつボーッとテレビを眺めた…

 

 

 

「…■■、起きろ。そろそろ時間だぞ?」

 

「…んっ…えっ!?千冬!?私寝ちゃった!?」

 

「…ぐっすりな。良くもまあ座ったまま爆睡出来るなと思わず感心してしまったよ。」

 

苦笑を浮かべた千冬から時計に視線を移せばもう八時を回ってる…四時間近くも寝ちゃったのか…

 

「千冬姉?■■さん起きたか?」

 

「ああ。今目を覚ました。」

 

「ごめん、千冬、一夏君…」

 

「…気にしなくて良いって。大体偉そうにしてるけど千冬姉だって起きたのせいぜい十分くらい前だし「一夏!?」おっと!」

 

怒った千冬が一夏君の所へ向かうのを見つつ私は台所に寄り顔を洗うと次に千冬の部屋に向かった(荷物はこっちに置いてるんだよね…)

 

部屋の外から聞こえる喧騒を聞き流しつつ着替える…ウチは割と休みの日でも特に騒がしさは無いから最初に泊まった時は戸惑ったけど今は慣れつつある(主にうるさいのは千冬だけど)

 

「…これにするかな…」

 

バッグの中から適当に黒いシャツと黒の春用カーディガンと黒のボトムスを取り出し着る…今日暑くならないよね…?黒は好きな色だけどどうしても日に当たると、ね…気温はそこまで高くは無かったと思うけど…念の為取り出したキャップを持つと部屋を出た。



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親友の妹に転生しました68

「…■■?」

 

「んぐっ…何、千冬?」

 

「…いや…せっかく花見に来たんだからもう少し桜を見たらどうだ…?」

 

「…あっ…ごめん…」

 

「別に謝らなくても良い。何となくお前はそうなる様な気がしてたからな…」

 

いざ、目的地の公園に着いた私は桜を見るのもそこそこに一夏君の料理を食べ続けていた…いや、だって美味しいから…つい…

 

「…取り敢えず慌てずゆっくり食ってくれよ…俺ら誰も取らないし…」

 

「えっ…?…あっ…」

 

そう一夏君に言われ、周りを見たらもう皆食べ終えたらしく皿は片付けられていた…一夏君を始め、弾君も数馬君も苦笑いをしている…一人だけ今日初めて会う弾君の妹の蘭さんは呆然としている…

 

「…ごめん…」

 

「良いって。…腹一杯になったら言ってくれ、別に残しても構わないから。夕飯に回せるしな」

 

「…うん。」

 

……相当恥ずかしい姿を見せた自覚はあったけど今更だし、まあ良いかと思ってまた私は食事に戻った…

 

 

 

「…全部食ったな…かなりの量があったはずだが…」

 

「……」

 

私は昨夜一夏君が作った料理を詰めたお重とは別に今朝一夏君が用意してくれたお重の中の料理を全部平らげていた…うん…我ながらびっくり…

 

「…お前、年々食べる量増えてないか…?」

 

「…どう、かな?」

 

千冬の呆れ顔から目を逸らす。…美味しいんだからしょうがないじゃない…

 

「取り敢えず私はこれからトイレに行ってくるから荷物を見ててくれ。」

 

「…あれ?一夏君たちは…?」

 

改めて周りを見ると何故か私を見詰める蘭さんと千冬しかいなかった…

 

「……気づかなかったのか?お前が食ってる間に遊びに行ったよ。」

 

……全然気づかなかった…

 

 

 

「…あの、■■さん…?」

 

「何?」

 

「…一夏さんの事で「好きなの?一夏君の事?」えっ!?…えと、はい…」

 

箒の事があるからね…何と言うかすぐに分かった…更に言えば私を警戒してるのも。

 

「…一応言っておくと…私は別に一夏君には恋愛感情は無いよ?」

 

「そっ、そうですか「好きな人は今日この場に来てるけどね」えっ!?だっ、誰ですか!?」

 

「内緒。」

 

「そんな!?ここまで来たらもったいぶらずに教えてくださいよ!」

 

「…え~…やだよ、恥ずかしいから…」

 

「ずるいじゃないですか!?」

 

…いや、そんな事言われても…

 

「…じゃあ当てますね…数馬さんですか?」

 

「…違うよ。」

 

「…まっ、まさか…お兄ちゃん!?」

 

「…ちが…あっ…」

 

しまった…

 

「……千冬さんですか?」

 

「……」

 

…どうしよう…?

 

「…別に私は偏見持ったりしませんよ。…告白しないんですか?あの様子だと多分千冬さん、気づいてもいないですよね?」

 

「…その言葉はそのまま返すよ?貴女は告白しないの?」

 

私個人としては本当は箒を応援したいけどね…

 

「…うっ…それは…」

 

……この子とは仲良くなれそう…でも恋バナは止めた方が良いみたいだね…お互いにダメージ受けるし…



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親友の妹に転生しました69

私と千冬は向かい合わせに立った…

 

「…久しぶりだな、こうやってお前と戦うのは…」

 

「……バドミントンだけどね…」

 

大層な言い方をしたけど要は一夏君たちからラケットとシャトルを借りて二人でちょっとした試合をしようってだけ…ルールは割とフィーリング。…ここは専用コートも無いし…

 

「そう言うな、腹ごなしには丁度いいだろう?何なら本当の決着は次の大会でつけようじゃないか。」

 

「…千冬は優勝者だから間違いなく代表入りだろうけど…私は次は他の候補者破らないと出場出来ないんだけど…」

 

前回はたまたま他にめぼしい候補者がいなかっただけ。次はそれなりの倍率になる筈…

 

「お前が他の奴に負けるとは私には到底思えない。…それとも自信が無いのか?」

 

「…煽っても駄目だよ。私は自分に出来る試合をするだけだから。」

 

…と言うかあんまりハードル上げないで欲しい…変にやる気が出て困るじゃない…!もう…!その期待が嬉し過ぎて…!

 

「相変わらず謙虚だな。それでいて実際の試合では苛烈。…次は私も危ないかもしれんな…」

 

「…そんな事欠片も思ってない癖に。」

 

とはいえ、千冬に褒められるのは普通に嬉しい…顔が火照ってくる…

 

「もう良いから始めよ?それともこれも作戦?」

 

「…バレたか。誘っといてなんだがどうもこういう繊細なスポーツは苦手でな…テニスなら良かったんだが…」

 

「……」

 

……千冬の本気の腕力でバドミントン用のラケット振ったら壊れるからね…確かにこういうのは私の方が得意かな…でも私も本当はあんまり経験無いんだよね…子供時代は友達もいなかったし…まあ昔の話は今は良いや。それより…この昂りを早く千冬に…!

 

「…じゃ、行くね?…手加減はしないから。」

 

私は放り投げたシャトルを千冬に向かって打ち込んだ…

 

 

 

結論から言えば決着はつかなかった…千冬は最終的に力加減に慣れ、バシバシと私にシャトルを打ち返してきた…私は途中から返すだけで手一杯…と言うか何、あのスピード?途中からシャトルどころか千冬の手元すらほとんど見えなかった…千冬のコントロールが抜群に良いのと千冬の癖を知ってるから何とか飛んでくる場所を把握出来たけど…バドミントンってこんなに頭使うんだ…知らなかった…まぁ負けなかったし良いか…それより…

 

「…お腹減った…」

 

「あれだけ食ってもうか?確かに動いたが…」

 

「帰ったら夕飯用意するよ。」

 

そう言われてもちょっと我慢出来ないかな…あっ、そうだ…

 

「弾君?」

 

「何すか、■■さん?」

 

「確か弾君の家って食堂やってるんでしょ?これから行っていい?」

 

「良いっすけど…一夏がこの後飯作ってくれるんじゃ?」

 

「大丈夫。食べられるから。」

 

「……そういう事言ってんじゃないんだけどなぁ…」

 

「お前なぁ…私たちは先に帰るからな?お前だけ行ってこい。」

 

「…弾の所寄るんなら夕飯少な目で良いかな?」

 

「もちろん大盛りで「自重してくれ」……」

 

撃沈した私を後目に二人は帰って行った。

 

「…あの、元気出してください。」

 

あの後急激に仲良くなった蘭ちゃんの慰めがものすごく心地良い…

 

「ほら、取り敢えず立ってくださいよ…数馬、お前も来るか?」

 

「今日は遠慮しとくよ、じゃあな。それじゃあ■■さん、また…」

 

「うん。じゃあね。…ふぅ。それじゃあ案内してくれる?」

 

「復活早いすね…こっちです。」



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親友の妹に転生しました70

「ここです。」

 

「…ここが…」

 

弾君と蘭ちゃんに案内された五反田食堂…これと言って特徴は無いけど…うん、良いお店だね…後、凄くいい匂いが…あ…

 

「…早く入りましょうか…」

 

「…うん。」

 

私のお腹から鳴った音を聞いた蘭ちゃんがそう言ってくれる…うん…もう恥ずかしいも何も無いかな…私は二人とお店に入った…

 

 

 

「んじゃ、■■さん、メニューはそこにあるから「油売ってないでとっとと手伝え!」はいよ!じゃあ蘭と待っててくれ」

 

「うん。決まったら呼ぶから」

 

「ほら、早く行きなよお兄…あ…」

 

弾君に向かって飛んで来た中華鍋を席から立ち上がり、キャッチする…危ないなぁ…

 

「うおっ…!■■さん大丈夫っすか!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「私は大丈夫だけど…」

 

これ、弾君の頭に飛んで来たんだよ?何で私の心配してるの?

 

「…あの…弾君、蘭ちゃん「早く来い!」「分かったって!それじゃあこれ戻して来るんで貸して下さい!蘭!悪いけど説明頼む!」あ…」

 

弾君が中華鍋を持って厨房に走って行った…

 

「ちょっと待って「あー、取り敢えず座って下さい、説明しますから」…分かった。」

 

 

 

「…教育方針?」

 

「と言うかこの店のルールに近いですね、お兄に限らずうるさいお客さんとかなら初見の人にも物投げますから…」

 

私が可笑しいのかな?到底理解出来ないんだけど…

 

「…口頭で注意するとか、どうしても聞かない人にちょっと物投げるとかなら分かるよ?」

 

注意の一環としておたまやらしゃもじやら飛んで来たとかならまだ納得出来なくもない。危なくないとは言わないけど怪我する確率も低いからね(衛生的には多少問題かもしれないけど)…でもね…

 

「…頭に中華鍋は…許容出来ないかな…」

 

漫画の世界じゃないのだ…あんな重たい物投げて…打ち所悪かったら死んじゃう…

 

「…カウンター空いてるね、私そっちに移るね?」

 

「えっ…?ちょっと■■さん!?」

 

色々事情はあるとは思うけど…これは一言くらい文句言わないと…

 

 

 

「はいよ、スタミナチャーハンに、ラーメンに、餃子。」

 

「ありがとう、弾君。」

 

「生姜焼き定食は待っててくれ、つか、多分じいちゃんの方針的にそれ食い終わらないと出ないと思ってくれていい。」

 

「…うん。」

 

「んじゃ、俺は行くから。」

 

私は出された料理に箸をつけた…

 

 

 

「ご馳走様でした。」

 

出された料理を平らげ、一息吐く…美味しかった。だからこそ美味しい料理のお礼じゃなくてこんな事言わなきゃならないのが本当に残念…

 

…周りを見れば他にお客さんは居ない…丁度いいかな…

 

「…巌さん。」

 

「おう、何だ?金が無いのか?「いえ、大丈夫です。」なら、何だ?」

 

「…この家での弾君の扱いについて私からどうしても言いたい事があります…」

 

私が口を出して良い問題じゃないのは分かってる…でも、こればっかりは我慢出来ない…!



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親友の妹に転生しました71

「物を投げつけるの自体余り良い事だと思いませんけど…それ程重くない物ならまだ分かります…でも頭に向かって重たい中華鍋を投げつけるのはやり過ぎです…貴方は弾君を殺す気ですか?」

 

「……」

 

「最も…一番納得行かないのは弾君と蘭ちゃんの反応です…あの状況で私の心配をするという事はそれだけ危機を感じてない、という事でしょうね…つまりこれが当たり前になる程…貴方はずっと同じ事をしてたんですよね…?」

 

口から言葉が止められない…どうしてこの人は平気でこんな事が出来るの…

 

「あの、■■さん、もうそれくらいに「弾君、それじゃ駄目だよ、昔からそうだったからそれが普通だと思ってるかもしれないけど…これはね、可笑しい事なんだよ?…今は影響無いかもしれないけどもしかしたらいずれ後遺症が出るかもしれないの。それだけ頭に対するダメージは危険なんだよ」……」

 

弾君は俯いて黙りこくってしまった…彼を責める気は無かったけど…こればっかりは彼にも知っておいて貰わないと。それと…

 

「蘭ちゃんも。分かるよ?家族だからって色々割り切れない事だってあるだろうし、向ける言動も含めて多少扱いが雑になる事もあると思う…でもね…分かるよね?貴方のお兄さんは一人しかいないんだよ?別にいなくなって欲しいって思う程嫌いじゃないんでしょ?」

 

「…はい。」

 

今日会った時から思ってたけどこの子の弾君に向ける言動はかなり当たりが強い…当初はお互い難しい時期だし、つい邪険に扱う事もあるだろうと思ったけど…どうも初対面の私がいたから遠慮してだけみたいで時間が経つ事に言動の強さはエスカレートして行ってた(最終的に暴力も振るい始めたしね)

 

更に今日ここに来て感じた印象としては家族全員が弾君に対する扱いはかなり酷いと感じた。

 

…その癖、明らかに蘭ちゃんには甘い。多分他の家族全員がこの扱いだから、彼女の弾君に対する扱いもそれに準じちゃってるんだろうね…弾君に原因が無いわけじゃ無いんだろうけどこれは躾の域を超えてる…

 

「先程から黙ったままですけど…何か仰りたい事は無いんですか巌さん?」

 

「……」

 

「小娘が生意気な事を言ってるとは自分でも思います…でも、貴方たちに人並みの良心がもしあるのなら心には留めて欲しいです…弾君が大事であるならもう少し優しさを持って接してあげてください…今のこの家には弾君の居場所がある様には思えません。」

 

そこまで言って一息吐く…一方的に喋ったけど言いたい事は全部言ったかな…?少しは伝わってると良いけど…

 

「失礼な事を言ってごめんなさい。料理美味しかったです…それじゃあ失礼します…」

 

私はテーブルに多めにお金を置くと、お店を出た…

 

 

 

「やっちゃったな…」

 

部外者の私が口出して良い事じゃないのは分かってたけど、どうしても言わずにいられなかった…もちろん行った事自体を後悔するつもりは無いけど…

 

「後で弾君と蘭ちゃんには連絡しないと、ね」

 

何にしてもまずは帰らないと…私は織斑家に向かって重い足を動かした…



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親友の妹に転生しました72

「それで落ち込んでるのか?…お前らしいと言うか、何と言うか…」

 

「…何かごめんね、帰って来るなり愚痴っちゃって…」

 

「気にするな。普段お前は殆ど不満を言わないからな、寧ろ心配になるくらいだ…」

 

私は織斑家に辿り着くと千冬にさっきの話をしていた。

 

「他所の家庭事情に文句を言うのは…やっぱり不味いよね…」

 

「…いや、お前は正しいよ…一応ある程度その状況を知ってて放置していた私が言う事じゃないがな…」

 

「…そうかな…?私は、間違って無かったかな…?」

「…ああ…私が保証する…それでは足りないか?」

 

「…ううん。ありがとう千冬…」

 

千冬がそう言ってくれるなら…私は…

 

「そもそもお前がそこまで言ったんだ…私に同意を求めるまでも無くもう何か考えているんだろう?」

 

「うん…放っては置けないから…」

 

正直、私みたいのが一回ちょっと言った所で昔からやって来た行為を改める様な人には見えなかったし…

 

「ごめんね、迷惑かけちゃうかも知れない…」

 

「今更だな…さっき言ったろう?お前は正しい…何も気にするな…どうせ明日も向こうに顔を出すんだろう?好きなだけ言いたい事を言ってやると良い。」

 

「…ごめん…」

 

「だから謝るな。そうだな、私も休みを取れていることだし一緒に行こう「え!?良いよ!さすがに悪いし!」何を言っている?そもそも私は今回お前や一夏と過ごすために休みを取ったんだぞ?一夏、お前も明日五反田食堂に行くだろう?」

 

千冬が台所で夕食の支度をしている一夏君に声をかける。

 

「ああ。そういう話なら俺も関係者だし、■■さんだけ行かせたりしないさ…」

 

「ほら、な。これでは私は明日、家に一人になってしまうだろう?暇になる…」

 

……普段私より忙しいんだから普通に家で休んでいればいいのに…私に気を遣わせないようにそう言ってくれてるんだね…

 

「そもそも私は一夏と違い、友人の姉として、そして大人としてあの状況に一石を投じる事だって出来た筈だ…今日まで問題を放置していた私には責任がある。」

 

「千冬、それは…」

 

「良いんだ…私は知っていたんだ…弟の友人が家で扱いが余り良くない事を知っていた。だが今日まで私は何もしなかった…私には問題を解決する義務がある…」

 

「千冬姉、そんなに思い詰めるなって。弾はそもそも気にしてすらいないだろうし…つーか明日はそんなに深刻な話にはならないんじゃないか?厳さん、結構頑固だけど真面目な人だし、ちゃんと■■さんの言ったことは伝わってるって。」

 

「そうかも知れんな…」

 

「そうだと良いけど…」

 

「■■さんは厳さんと交流無いからな。大丈夫だよ、多少過激な所もあるけどあれでも話は通じる人だからさ。」

 

…一夏君の言う事を否定したいわけじゃないけど…私は何か嫌な予感がしていた…何となく今回の話はそう簡単に終わらない気がしている…本当に何事も無いと良いけど…



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親友の妹に転生しました73

さて、いざ五反田食堂に来てみると身構えていた私たちはいきなり肩透かしを食らった…

 

「おう!お前ら良く来たな!まあ座れや!」

 

…昨夜、弾君にフォローの連絡は入れたし、今日も一応行く事は伝えてあった…営業時間帯に行くと迷惑になるから夜にお邪魔しようとしてたんだけど…弾君から携帯を受け取った厳さんから「時間空いてるなら昼間に来い!」と言われて…いきなり怒鳴られる覚悟もしてたんだけど…店に入るなり厳さんは飛び切りの笑顔を浮かべて来て私は困惑してた…

 

「あー…取り敢えず入って下さいよ■■さん、一夏に千冬さんも。」

 

苦笑される弾君に促されても私は直ぐには動けなかった…

 

「私はついでか?良い度胸じゃないか。」

 

「いっ!?いや…!そんなつもりじゃ…!」

 

「止めろって、千冬姉。気にすんなよ弾。今日はメインは間違い無く■■さんだろうし、今のは千冬姉なりの冗談だって。」

 

「そっ…そうなのか…?俺はまたてっきり…いや!何でもありません。ささっ!どうぞどうぞ!」

 

「ほら、■■さん。早く入ろう。」

 

「…私たち以外に客がいないようだ。わざわざ貸し切りにしてくれたみたいだな…さっさと入らないとかえって失礼に当たるぞ?」

 

「…分かった。」

 

一番忙しい時間帯の筈のお昼に貸し切りにしてくれた事実に恐縮しながらも私は店に足を踏み入れた…

 

 

 

「で?何食う?」

 

「俺は…ラーメンにしとくかな。」

 

「私は…餃子定食にしておくか。…お前はどうするんだ?」

 

「じゃあ…昨日と同じのを。」

 

「おう!待ってな。」

 

そう言って調理に取り掛かる厳さん…思わず昨日と同じのを頼んじゃったけど…食べられるかな?さすがに緊張で喉通らないかも…

 

「お冷持って来ましたよ。」

 

「ありがとう、蘭ちゃん。」

 

蘭ちゃんが持って来たコップを受け取り、そのまま口を付けて…

 

「…えと…■■さん…?」

 

「…ふー…何?」

 

「…お代わり要ります?」

 

苦笑した蘭ちゃんがテーブルに置いた私のコップを指差しながらそう聞いて来て初めて気付いた…えっ!?私今のでお水飲み干しちゃったの!?

 

「やっぱり気付いてなかったんですね…それで、要ります?」

 

「…ごめん…貰える?」

 

「…ピッチャーも一緒に持って来ますね?」

 

 

 

「大分緊張してる様だな…」

 

「こんなシチュエーションでしない方が可笑しくない?」

 

「私は別にしてないな。当事者じゃないというのもあるだろうが。」

 

「一夏君は…?」

 

「俺か?俺は…厳さんの人となりよく知ってるしな…少なくともいきなり理不尽な事を言ってきたりはしないと思ってるし。」

 

長い付き合いの一夏君はそうかもしれないし、千冬は度胸あるからそうかもしれないけど私は昨日初対面であれだけ色々言ったから不安で仕方ないんだけど…

 

「まあ大丈夫だ。何かあったら私が守ってやる…だから気楽にしてれば良い…そもそもお前は別に何も悪くないからな…」

 

「そうそう。俺だって味方だよ。」

 

「…うん…ありがとう…」

 

少し気が楽になった私は三杯目のお水を飲み干した。



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親友の妹に転生しました74

「昨日も思ってたが…良い食いっぷりじゃねぇか!」

 

「はあ…ありがとうございます…?」

 

料理が来て…不安だったけどいざ口に運んで見ればやっぱり料理は美味しくて手は止まらなかった。…うん。料理は美味しいよ?文句無し。でも…

 

「ほれ!こいつも食え!サービスだ!」

 

そう言って運ばれて来る追加の皿…断ろうとしたが押し切られてしまった…いや、確かにお腹にまだ余裕あるけど…美味しいから文句は無いよ?しかも料金も今日は良いって言うし…でも…でもね?

 

「いやあ!本当に良く食うじゃねぇか!しかもそんだけ美味そうに食ってくれるから作り甲斐があるぜ!」

 

「……」

 

私何してるんだろう…?今日は一応改めて昨日の謝罪と、弾君の家での扱いについて話をするつもりだったのに…まだ何も話せてない…どうしよう?と言うかさっきから一々厳さんが私の食べてる所を見に来るから落ち着かない…

 

「その割には食べるペースが全く変わらないな…」

 

「んぐっ…だって…美味しいから…」

 

とっくに食べ終わった千冬が横からジト目を向けて来る…そんな目で見ないでよ…美味しいんだからしょうがないじゃない…

 

「お前…今日ここに何をしに来たのか忘れてやしないか?」

 

「…そんな事…無い…」

 

さっきまで食べていた料理の一皿が空になり、また厳さんが厨房に引っ込んだ所で千冬が小声で聞いてくる…今この場には私と千冬と厳さんしか居ない…弾君や蘭ちゃんは一夏君と部屋に行っちゃったし、他の家族はそもそも今日は店に出てないみたい…

 

「私は暇だから別に良いが…だからってこのままだと話が進まないぞ?この様子だとお前から言わないと駄目だろうな…お前だって腹具合に限界はあるだろう?キリのいいところで止めて置かないと腹壊しでもしたらもう話どころじゃ無くなるぞ?」

 

「うん…今作って貰ってるの食べたら厳さんと話をするよ…」

 

不気味な程機嫌の良い厳さんの背中を見ながら私はそう言った…

 

 

 

「あの…厳さん?」

 

「おう!何だお代わ「いえ…そうじゃないんです…料理は美味しかったです…ありがとうございます…それで…そろそろ本題に入りたいんですけど」…そうか…そうだな…分かった。」

 

厳さんが厨房からこちらに出て来る…いよいよ、だね…

 

「さて、それじゃあ悪いんだが…」

 

厳さんが私の向かいの席に座ると口を濁しながら千冬の方に視線を向けて来た…あー…もしかして…

 

「…成程。そういう事であれば私は席を外しましょう…■■、私は店の外にいるからな?」

 

「…分かった。…終わったら呼ぶから…」

 

「すまねぇな…一旦この嬢ちゃんと二人だけで話をさせて欲しいんだ…心配すんな、そんなにはかからねぇからよ…」

 

千冬が店から出て行く…ちょっと心細いけど仕方無いよね…そもそもこれは私の問題なんだし…

 

「んじゃ改めて…■■さん、つったか?…悪ぃな、俺は外国語が苦手だからな…ちょっと発音が違ぇかもしれねぇが…」

 

「…気にしないで下さい。昨日ちょっと会っただけなのに名前を覚えていてくれてるだけ光栄ですし…増してや…あんな生意気な態度を取ってしまったのに…」

 

「それこそ気にすんな…あんたの言う通りだよ。俺のやり方が間違っていた。それが事実だ…あんたは正しかった…昨日はついムキになって黙っちまったけどよ…全く良い歳してこんな簡単な事も分かんねぇなんてな…」

 

「人間は完璧じゃないですから…誰でも間違いを犯しますし、失敗もします…私なんてまだまだ失敗だらけで…それに、いくら間違いでも人に指摘されたら大抵反発してしまうのが普通です…増してや私みたいな小娘に言われたら…尚更でしょう?」

 

「まあな。正直に言えば…知ったふうな口聞きやがって!…とか思ったのは確かだ…最もあの場で何も言えなかった時点で完全に俺の負けさ「勝ち負けじゃありませんよ」ん?」

 

「私は勝ったなんて思ってません。人として大事な事だと思ったから…言っただけです…それに帰った後…生意気な事を言ってしまったと落ち込んですらいましたから…千冬や一夏君、弾君や蘭ちゃんに私は間違って無い…そう肯定されてなかったら…きっと今日改めてここに来る事も無かったでしょう…」

 

「そうか…」

 

「聞き辛いけど…お聞きします…もうあんな事は…しませんよね…?」

 

「…伝わったよ…あんたの言いたい事は。あのあと弾とも話したし…謝った。許してくれたよ、あいつは…でも俺は納得出来て無いけどな…」

 

「そうですか…」

 

ここから先は完全に家族間の…厳さんの問題だ…私が口を出す話じゃない。

 

「…それじゃあ今日はもう帰ります…今日食べた料理も美味しかったです…次はちゃんとお客として来ますね?」

 

「…おう。何時でも食べに来い…嬢ちゃんの食べっぷりは見てて気持ちが良いし、作り甲斐がある…次もまたサービスしてやるよ。」

 

「…ありがとうございます…それじゃあ…失礼します…」

 

そう言って私は席を立つ。先ずは外で待たせてる千冬の所へ行かないと…

 

「…なぁ?ちょっと待ってくれねぇか?」

 

「えっ?」

 

そう声をかけられ私は困惑しつつも取り敢えず上げた腰を下ろした…厳さんが私を見詰めてる…何だろう…?

 

「…もう少し話をしねぇか?」

 

「でも…千冬を外で待たせてますし。」

 

「少しで良いんだ…」

 

「…分かりました…なら、少しだけ。」



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親友の妹に転生しました75

「それで、何のお話でしょう…?」

 

「そうだな…あんた酒はイケるクチか?」

 

「えっ?まあ、それなりに呑めますけど…まさか…今からですか…?」

 

「少しだけだ…どうだ?」

 

「…まあ…少しだけなら…」

 

「そうか。ちょっと待っててくれ。」

 

そう言って席を立つ厳さん…こんな時間から呑むだなんて…お酒は嫌いじゃないけど…

 

「悪いな…洋酒は無くてよ…」

 

「…大丈夫ですよ。私、どちらかと言えばこっちの方が好きですし…」

 

とは言え…厳さんが出して来たのは焼酎…えっ?少しなんだよね…?いや、呑めるけどさ…

 

「氷だけで良いか?」

 

「大丈夫ですけど…」

 

どう考えても本気で呑むつもりだよね…どうしよう…?やっぱり断った方が…

 

「乾杯。」

 

厳さんが自分の前にあるコップを持ち、掲げる…仕方無い、か…。

 

「乾杯。」

 

私も自分の前に置かれたコップを持ち合わせ、ええええ!?厳さんそのまま一気に飲み干しちゃったんだけど!?私もやらないとダメなの!?

 

「……」

 

仕方無く私も口を付け、傾ける…うわぁ…焼酎の銘柄はあんまり知らないけどこれ多分結構度数は高い奴だね…参ったなぁ…

 

「おっ…本当にイケるクチだな…飲みっぷりも良い。」

 

「どうも…」

 

飲めなくは無いから私もそのまま飲み干した…うわ…さすがに一気に飲むと回る…しかもこれどう考えてもキツい奴だし…私今日無事に帰れるかな…?

 

「にしても…あんた昨日も思ったけど日本語上手いな。日本で暮らしてるのか?」

 

「いえ…フランスに家族と住んでます。私、ハーフで…父がフランス人で母が日本人なんです。」

 

「そうか…箸の扱いとかは母親に習ったのか?」

 

「ええ。…と言うか、そもそも母が作る料理は大半が日本食ですし。」

 

「そうか…■■さん、あんた日本は好きかい?」

 

「…好きですよ…母の故郷ですし。」

 

厳さんが注いでくれた二杯目に口を付けつつ、私は答える…うっ…一杯目を一気飲みしたせいか何か、もう既に少し酔いが回ってる…

 

「…あんたこの国で暮らす気は無いか?」

 

「…何れは…そう出来たらな…とは思ってますけど…」

 

千冬に会うのが楽になるしね…最も振られたらいるのが辛くなるから…生活基盤を移そうとは中々思えないけど…と、そうだった…

 

「…あの…本題に入って貰えませんか?さっきも言った通り千冬を待たせてますし…」

 

「…おう。そうだったな…」

 

そう言って自分のコップに入った二杯目に口を付け傾けて行く…焦れったい…お酒が入ってるせいかちょっとイライラして来る…

 

「いきなりなんだけどよ、弾…あいつをどう思う?」

 

「…どう、とは…?」

 

私からしたら普通に一夏君の友達以外の印象無いんだけど…別に嫌いでは無いけど、昨日までそんなに会話もした事無かったし。

 

「…男として…どう思う?」

 

「それは…異性として…恋人として…という意味ですか?」

 

「…もうちょい先だな…将来の相手としてどう思うよ?」

 

「…あの…冗談では無いんですか?」

 

急にそんな事言われても歳も離れてるというか…そもそも私千冬が…

 

「冗談じゃない。あいつが男として責任を果たせる歳になったら…ああ…返事はまだ先で良い…そもそもまだ弾にも確認してねぇしよ…」

 

「えっ?弾君にまだ聞いてないんですか?」

 

「ああ。言っちゃ悪いが…あいつどうも将来まともな相手見つけられる気しなくてな…」

 

「…何で、私なんですか?」

 

「あいつの為に本気で怒ってくれたあんたなら…と思ってよ…」

 

「……」

 

断るべきだ。弾君の為にも…そう思ったけど私は何故か何も言えなかった…

 

「…断らないんだな…」

 

「…えっ?」

 

「俺が無茶な事を…つーか非常識な事言ってんのも分かる…だが…あんたは何も言わない。」

 

「……」

 

弾君の事を恋愛対象として見た事なんて無い…私は千冬が…

 

「…少しは脈がある、と判断するぜ…?」

 

「……」

 

どうして何も言えないの?別に千冬の事を言う必要は無い…ただ一言好きな人が居るって言えば良いだけなのに…その日私は何も言えないまま店を後にした…

 

 

 

「どうしたんだ?元気が無いな…」

 

「うん…ちょっと、ね…」

 

家に帰ってから私はソファに座り込んだまま動けなかった…道中千冬や一夏君が色々話しかけてくれたけど私は適当に相槌を打つだけで…そもそも会話の内容も頭に入って来なかった…

 

「ねぇ…千冬…」

 

「どうした?」

 

「私、千冬に言いたい事があるの…」

 

今、一夏君は夕飯の買い出しに出ている…言うなら今しか…!

 

「私…私ね…!」

 

身体が小刻みに震える…怖い…そんな私の肩に千冬の手が乗せられた…

 

「焦るな…ちゃんと聞いてやるから…」

 

「千冬…」

 

顔が熱い…卑怯だよ…そんな風に優しくされたら貴女の事を忘れるなんて出来なくなるじゃない…!

 

「私…!」

 

もう良いや…!振られたって…拒絶されたって…良い…!今この場で千冬に伝えたい!

 

「私…私は千冬の事が好き!友達としてじゃなくて…私は…!」

 

「■■…」

 

「好きなの!好きで好きで堪らないの…!…千冬…返事を聞かせて…?」

 

千冬が目を閉じる…沈黙が…怖い…!早く…早く…教えて…!やがて千冬の目が開いた…

 

「■■…私は…」

 

「何!?聞こえないよ!千冬!?」

 

急に千冬の声が聞こえなくなった…どうして!?

 

「十秋ちゃん!?どうしたの!?」

 

代わりに千冬の声じゃない女の子の声が聞こえて来た…誰!?誰だか知らないけど邪魔しないで!千冬の声を…いや…私はこの声を知って…

 

「ん…ここ…は…」

 

気が付くと目の前には千冬じゃなくて刀奈がいた…

 

「良かった…目を覚ましたのね…」

 

「どうしたんですか…そんなに慌てて…」

 

私はパジャマ姿の刀奈を見ながら言った…まだ頭がボーッとしてるけど…さっきのが夢だったのは分かる…

 

「どうかしたのは十秋ちゃんでしょ!?魘される声が聞こえて来たから慌てちゃったじゃない…何か嫌な夢でも見たの?」

 

「…分かりません…どんな夢を見たのか…思い出せないんです…」

 

嘘だ…ホントは全部覚えてる…刀奈はしばらく黙って私を見詰めていたがやがて溜息を吐いた

 

「…そう…まあ良いわ…顔洗って来たら?まだ少し早いけどそろそろいい時間よ?」

 

「…そう、ですね…そうします…」

 

私は洗面所じゃなくてそのままパジャマを脱ぐとバスルームに向かった…鏡を見る…目が赤い…私はバルブを捻った…勢い良く迸るお湯を浴び、目を閉じる…

 

 

 

…前世の事を夢に見る事は何度かあった…いつもは短い時間を夢に見るだけだけど今回は本当に長く感じた…私はあの日厳さんに好きな人が居ると言えなかった…弾君が好きな訳じゃない…筈だった…でも何も言えなかった…あの日私は不安だった…本当に私は千冬が好きなのか分からなくなったから…そこへああやって優しくされて…少しとはいえ、酔ってるせいもあったと思う…優しくされて…想いが抑えきれなくなって…私は…あの日…!

 

「っ!」

 

私はシャワーを止めた…

 

「何も言えなかった…!」

 

でも結局あの日は…あの日は本当は何も言えなかった。どうしても怖くて…!…そして迎えた第二回モンド・グロッソ…あの時私は予感があったのか絶対に言わないといけないと思った…そう、思ったのに…!

 

「っ…!」

 

私はまたシャワーのバルブを捻った…どうしても刀奈にこの声を聞かれたくなかったから…辛いよ…この世界の事は私は好きになれない…だって…向こうとのズレは多少あるけど…この世界はあっちとそっくりで…千冬も性格は全然変わらなくて…!

 

どうして!?どうして!私は千冬の妹なの!?あっちと同じ私じゃ駄目だったの!?…あっちと同じ私…■■…駄目だ!名前も思い出せないよ…!自分の…名前なのに…!

 

「誰か…助けて…」



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親友の妹に転生しました76

■■ちゃんは…本当にちーちゃんが好きなの…?

 

……私は当初何を言われたのか分からなかった…だから…聞き返した。

 

「…えっ?今、何て言ったの…?」

 

「■ちゃんはさ、本当にちーちゃんが好きなの?」

 

突然来て何を言うのかと思えば…

 

「…好きだよ…何か改めて言うと恥ずか「本当に?」どうして念押し……」

 

今さっきまで私は彼女に顔を向けていなかった…執拗く聞かれて漸く振り向いた時、見えたその顔は……

 

「どうしたの、束?…何か有った…?」

 

「質問に質問で返さないで欲しいな。悪いけどふざけて聞いてるわけじゃないから。」

 

……何でイラついてるの?私は彼女の為に入れたコーヒーをテーブルに置くと改めて告げた。

 

「…好きよ。私は千冬が好き。…愛してる。」

 

「……そう…ねぇ?」

 

「何?」

 

「…私ね、こう思うんだ…■ちゃんが好きなのは…自分なんじゃないかって。」

 

「……はっ?」

 

「■ちゃんが好きなのはちーちゃんに普通の女の子として扱われてる自分なんでしょ?…違う?」

 

「…何を言ってるのか…」

 

「この際だからさ…はっきりさせときたいんだ…本当に■ちゃんがちーちゃんを好きなのかを…■ちゃんは友達…間違いなく大親友だけど…私はちーちゃんの方が結局大事だから…」

 

「…束?」

 

「もちろん■ちゃんが大事じゃないわけじゃない…ねぇ…■ちゃんのお陰なんだよ?こうやって誰かの気持ちを考えてあげられるようになったの…だからね…私ははっきりさせておきたい…本当は私だって■ちゃんの事を応援したいし…」

 

「…矛盾してるよ?束は何が言いたいの?」

 

「…■ちゃんはさ、人を変えていく力がある…ちーちゃんはさ、今まで余裕が無かったんだ…いっくんの事ばかり考えて自分を蔑ろにしてた。」

 

「…うん…」

 

それは私も知ってる…私は最初に会った頃は純粋に友人として千冬の事を心配していた…それが恋愛感情になるなんて思わなかったけど…

 

「でも…ちーちゃんは変わったんだよ、■ちゃんに会って。…知ってるよね?最近のちーちゃん、めちゃくちゃ笑うんだよ?」

 

「…うん…知ってる…」

 

束程付き合いは長くないけど…私は初めて戦ったあの日からずっと彼女の事を見て来た…だから分かる…

 

「でもそれは私のお陰じゃないよ…千冬が自分で変わったんだよ…束だってそう…私の存在はきっと唯の切っ掛けの一つでしかない…」

 

認めたくないけど確かに私は誰かが良い方に変われる切っ掛けになるのかもしれない…私は良く人からそういう感謝を送られる…私には自覚は無い…強いて言うなら私は唯、自分が正しいと思える行動をしてるだけ…

 

「…ううん。■ちゃんのお陰だよ、間違い無く…ちーちゃんだけでなく…私が変われたのも…」

 

「…束…。」

 

「最初に私が会いに来たのはね?ずっとしかめっ面ばかりしてたちーちゃんがほんの少しだけど笑うようになったんだ…だからちーちゃんに■ちゃんの事を聞いてどんな奴か見てやろうって思って来たんだ…まさかちーちゃんと同じくらい大事な人になるなんて思わなかった…」

 

「……」

 

「ちーちゃんが言ってたよ…あいつは人に与えてばかりで自分の事を考えないんだ、って。」

 

「…そんな事…」

 

無い。私は何時も千冬に助けられて来た…ただ会えるだけで良かった…最初の内は…

 

「だからちーちゃんは■ちゃんの為に色々頑張ってたよ…知ってる?ちーちゃん、今はもう■ちゃんが来た時しかお酒飲まないんだよ?今まで唯一の娯楽だって言ってたのに。」

 

「…そう、だったの…」

 

全然知らなかった…

 

「理由は分かるよね?■ちゃんに会うためだよ…こっちに来るのにお金がかかるから、って。…別に何時でも私が連れて行くよ?って言ったけど友人に会う金ぐらい自分で出すって笑ってたよ…」

 

「……」

 

千冬…

 

「ちーちゃんは変わったよ、間違い無くね…自分で言うのも可笑しいかもしれないけど私だって…だから不思議なんだ…ちーちゃんが頑張っているのは気付いてた筈…でも…なら、どうして■ちゃんは変わらないの?」

 

「……」

 

私、は…

 

「■ちゃん、もう一度聞くよ?正直に答えて…■ちゃんが好きなのはちーちゃんなの?それとも、自分なの?」

 

「…私は…」

 

……私はあの時何て答えたのか…今の私には思い出せない…



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親友の妹に転生しました77

「むっ?そうか…君が…初めまして…私は■■の兄で■●と言う…以後宜しく頼む。」

 

「…初めまして…織斑千冬です。」

 

「うむ。…私はもう帰るが君はゆっくりして行くと良い。…■■、またな。」

 

「…うん。それじゃ…」

 

「…こういう言い方が正しいのか分からないが…中々古風な方だったな…」

 

「…うん…そうだね…」

 

「…どうした?」

 

「…うん…正直に言うとね…私、あの人苦手なんだよね…」

 

「……何かされたのか?」

 

心配そうに私を見て来る千冬に胸が高鳴る…でもね…

 

「…いや、そういう訳じゃないんだけど…歳が離れてるせいか、昔からあんまり話した事無いんだよね…普段も仕事が忙しいみたいであんまり家に居ないし…父さんと母さんとは仲良いみたいだけど…」

 

そもそも向こうは一人暮らしだしね…

 

「そうか…」

 

「…向こうも私を大切に思ってくれてるのは最近何となくだけど分かるようになったし…仲良くしたいんだけど…あの通り口数も少ない人だし、普段から人寄せ付けないオーラみたいのが出てる感じがして…どうしたら良いか分からなくて…」

 

「何だ、お前らしくないな。」

 

「えっ?」

 

「偉そうに高説を垂れるつもりもないが…お前はあの時私に積極的に話しかけて来ただろう?…あの人は明らかに私と似たタイプだ…ただ、話をすれば良い。大丈夫だ、お前なら出来る。」

 

「…うん。ありがとう、千冬…」

 

 

 

その後私は兄にせっかく二人きりの兄妹なんだし一度ゆっくり話が出来ないかと連絡をしたら『直ぐに休みを取ろう。』と言って電話を切られ、それから一時間もしないで家にやって来たから本当に驚いた。

 

…後に両親に聞いてみた所、私はそもそも小さい時は兄にベッタリだったらしい…私は欠片も覚えてなかったけど…ちなみに兄は子供の時から元々あんな感じだったらしいから…正直正反対とも言える性格の私が懐いていた絵が全く想像つかなかった…

 

 

 

二度目…

 

「久しぶりだな、ブリュンヒルデ…妹が何時も世話になっている…兄である私からも礼を言おう。」

 

「どうも…いえ、寧ろ世話になってるのは私ですよ…と言うかブリュンヒルデは止めてください…あの名は私はあまり好きでは無いので…」

 

「むっ…そうなのか?すまなかったな…と、もうこんな時間か…せっかく会ったのにすまない…今度時間を作るから良ければ食事にでも行かないか?」

 

「もう兄さん…良いから早く行ってよ…時間無いんでしょう?」

 

「…ああ、そうだったな…それでは千冬、また……■■、今日は父さんも母さんも居ないからな、上手くやるんだぞ?」

 

横を通る時私にそう耳打ちして来た…何だかこの人に話したの間違いだった気がする…

 

「良いから…早く行って…!」

 

最後に私の頭をポンポンと軽く叩きながら去って行った…もう…子供扱いして…

 

「…仲良くなったんだな…」

 

「んー…まあね…と言うか私は覚えてなかったけど元々は普通に仲が良かったらしいから…元鞘に戻った感じかな…」

 

改めて話して、今の印象は無口な人からただの変人になっている…いや、悪い人じゃないのはもう分かってるけどね…

 

「しかし…あの束が変わり者扱いしていたから身構えてしまったが…やはり初対面の時とそれ程印象は変わらないな…まあ正直、あいつの言ってる事はあまり当てにならんしな…」

 

ごめん…それで合ってる…

 

「取り敢えず二人きりの食事は止めておいた方が…」

 

「……そういう意味だったのか?お前の方を見つつ話していたからてっきりお前も一緒に、と言う意味だと思っていたが…」

 

……どっちだろう…?



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親友の妹に転生しました78

「■■…ただいま…」

 

私は鈴を鳴らし、一度位牌を見て、上にあるあいつの遺影を見た後、目を閉じ、両手を合わせた…

 

 

 

 

「最近は中々帰れなくてすまないな…相変わらず忙しくてな…」

 

主にウチのクラスの馬鹿どものせいでな…専用機持ちがISを展開して、周りの被害も考えず暴れるなど…悪夢だ…同じ専用機持ちでも篠ノ乃がまともで良かったよ…仮にあいつも一緒になって暴れていたら……いかんいかん。こんな事を考えていて八つ当たりでもしたら、あいつにも、そしてあいつがまともなままでいるのに一役買ったであろうお前にも申し訳が立たんな…

 

「お前はどうせ、私は何もしてない…と言うのだろうな…知ってたか?あいつはお前の事を尊敬していたそうだぞ?篠ノ乃にとってお前は理想とする女性像なんだとさ…」

 

必死で否定するあいつの顔が浮かんで来る…全く…お前は何時だって自己評価が低過ぎる…

 

「お前がどう思おうと…何度だって私がはっきり口にしてやる…お前は武も、その心も素晴らしかったとな。」

 

 

 

 

「今日と明日は休みを取った…親友の命日だぞ?誰にも文句は言わせん。」

 

仏壇に封を開けたビールの缶を置き、自分のビールを合わせる…

 

「……なぁ?私は未だに分からないんだ…果たして私は…お前の事を友人以上に思っていたのかどうか…」

 

 

 

 

あの日、最初に聞いたのはあいつの乗った飛行機が墜ちた事だった……もう試合の事など綺麗に頭から消し飛んだ。

 

大会を辞退し、私を止める日本政府の連中を殴り付け、一夏と共に向かったフランスで私たちはあいつと対面した。

 

墜ちた際に飛行機は爆発炎上しており、死体は完全に焼け焦げてはっきり言って誰だかまるで分からなかった。

歯の治療痕からあいつだと言うのははっきりしていたが、私はもちろんの事一夏も信じられなかった様だ…何度もあいつじゃないと声高に否定する私たちを宥めたのはあいつの母親だった。

 

 

 

さっさと葬式の準備を始めるあいつの家族に怒りが湧いたが、一夏の説明で冷静になれた…あの人たちはここに長く滞在出来無い私たちの為に早目に済ませようとしてくれているのだ…

 

フランスの葬式は服装の指定が無いとの事だったが、一応一夏共々、最低限服装を整えて出席した…その後だ、一夏からあいつの気持ちを聞いたのは…冗談だろうと思っていた私にあいつの母親から渡されたのが、日記帳だ…フランス語で書かれたそれに、あいつの気持ちは記されていた…

 

生々しい表現こそあったものの不思議と嫌悪感は無かった…ただ、戸惑いだけしか無かった…

 

 

 

「一夏め…普通の男女の恋愛もろくに経験の無い私にどう答えを出せと言うんだ…」

 

これで一夏も答えを出せていないなら文句の一つも言えるのだが、あれだけ見目麗しい連中に囲まれながらもあいつは篠ノ之一人に既に決めているからな…はっきり答えを出しているのに、まるで諦めるつもりの無いあいつらはどうかと思うが…いや、この場合無自覚に好意を抱かせる一夏が悪いのか…

 

まぁ所構わずISを起動して、暴れてるんだから結局あいつらが十割悪いがな…その上何度注意しても反省せんし…学園長は何を考えてるんだ…?さっさと追い出せば良い物を…

 

「…と、悪いな…お前の事が頭から消えていた…せっかく休みを取ったんだ、久しぶりにゆっくり飲もうじゃないか。」

 

……しかし、あいつの気持ちを知ってしまった今…こうして私があくまでも友人として接しているのはあいつを苦しめているのかもしれん…

 

『ううん…私はそれでも嬉しいよ…千冬…』

 

「……そうか。なら、しばらくは今まで通りだな…」

 

……あいつの声が聞こえた気がした…空耳だったのかもしれないが私は言葉を返した。

 

焦る事は無い。待ってくれると言うならじっくりと考えるとしようか…



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親友の妹に転生しました79

「一夏。」

 

「ん?」

 

ベッドに寝転がっていた俺は声をかけて来た箒の方を向いた。

 

「その…本当に私で良かったのか…?」

 

……何度目か分からない質問…だが俺はそれにうんざりするなんて事は無い…寧ろそんな彼女が可愛くて、それでいて不安そうなその顔を早く安心させてやりたくて…俺はそれにはっきりと答える。

 

「ああ。箒が良いんだ…寧ろ…箒じゃなくちゃ駄目なんだ…」

 

俺は心底彼女にイカれている…そうだと断言出来る。

 

「しかし…私以外にも「箒、じゃあ逆に聞くけど…お前が俺の立場だったらあいつらを選びたいと思うか?」……」

 

俺がそう言うと箒は口を閉ざし、目を逸らした……言ってから気付く…しまった…これじゃあ消去法で箒を選んだみたいじゃないか…

 

「悪かった…いや、俺がお前を選んだのはお前がちゃんと"俺"を見てくれたから…そして…俺がお前に惚れているから。」

 

そう言うと頬を真っ赤に染めた箒が俺を睨み付けた。

 

「一夏!お前は…!またそんな事を軽々しく「違う。俺は箒にしか言わない」一夏!」

 

「落ち着けって。俺は本気で言ってるんだから…」

 

「だって…私以上に魅力的な「いや、あいつらは"俺"を見ようとしないからさ」…そう、かもしれないが…」

 

「例えば…セシリアは最初は散々俺を罵倒した癖に、勝手に俺を好きになった…根は悪い奴じゃないのは分かってたし、あいつなりに色々あったのも今は知ってるけど…結局あいつはただ、俺に自分の理想を押し付けてるだけだ。」

 

「なら、鳳はどうなんだ…?」

 

「鈴は思い込みが激しくて…俺を振り回すばっかりで…俺の話を全然聞いてくれない…まあその辺は他の奴にも言える事だけど。」

 

「…酢豚の話は、私もどうかと思ったが…」

 

「そもそも俺は最初にちゃんと断ったんだぜ?…本人は記憶を捏造してたけど…つーか何で中華で色々ある中、日本人が一番苦手そうな酢豚を引き合いに出したんだかな…」

 

「デュノアは…」

 

「シャルはさすがに不憫だったから少し手は貸したけど…それで好きになったって言われてもな…あの中では比較的まともな方ではあるけど…俺の中では友人以上にはならないよ。」

 

「ボーデヴィッヒ「手のかかる妹みたいなもんだな…箒もそう思わないか?」…確かにな。」

 

「後、聞きたいのは簪か?」

 

「…いや、そっちは友人なのは知ってるよ。私も本人からはっきりと聞いたからな。」

 

「…なら、もう不安は「■■さん」……」

 

その名を聞いて黙る…何で今更その名が出て来たのかと思っていたら気付いた…そっか…今日が命日だもんな…

 

「…正直に言えば…憧れた事ならある…でもそれだけだな…箒は結局面と向かって会う事は無かったし、知らないだろうけど…あの人割と色々と残念な人なんだよ…」

 

「残念?」

 

「……千冬姉が絡むと途端にポンコツになるんだよ…ちょっとした事でも照れて悶えるし…千冬姉は全くそんなつもり無かったのにさ…」

 

「…初耳だな…私の知る限りでは比較的しっかりした女性だと思っていたが…」

 

「ある意味、千冬姉と似たタイプだよ…天才肌で、大抵の事は卒無くこなすのに…千冬姉関連だと…どうもな…てか、話した事無かったんだな…」

 

「ああ…その、すまん…」

 

「何が?」

 

「お前はまだ…あの人の事を…」

 

「……俺は…最終的には…別にあの人に恋愛感情あった訳じゃないから…ダメージなら千冬姉の方がデカいんじゃないか…」

 

「…結局…気持ちを知ったのは死んでしまってからか…」

 

「…せめて俺が言ってしまうか、何かフォローしてればなって…お陰で今も千冬姉は色々拗らせてる…」

 

「それは結果論だ…あの日、あの人が死ぬ事になるなんて誰にも予想出来無かった…それに背中を押してれば、という話なら私も同罪さ…私だって定期的にあの人と電話越しとは言え、話はしていたんだ…私がもっと強く告白する様言っていたら…」

 

「…もう止めよう。二人とも悪いで良い…箒、次の休みには家に来いよ、あの人の仏壇があるんだ…」

 

「ああ…結局一度も顔を合わせる事は無かったからな…私も挨拶くらいしておきたい…」

 

「良し。じゃあ話が纏まった所で…そろそろ寝ようぜ?明日も早いしな。」

 

「そうだな。おやすみ、一夏。」

 

「おやすみ、箒。」



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親友の妹に転生しました80

「…ん?」

 

私しかいない筈の家の中に気配を感じる…

 

「…束、隠れてないで出て来い。」

 

私はそう呟いた。

 

「…ごめんちーちゃん…邪魔するつもりじゃ無かったんだけど…」

 

後ろから声が聞こえ、振り向くと部屋の中に束が立っていた。

 

「…お前が今更、そんな事を気にするとはな…」

 

「……」

 

「…別に責めてない。お前も呑むか?お前にとってもあいつは親友だったんだろう…?」

 

「うん…」

 

 

 

「成程な、今日が初めてじゃなかった訳か。」

 

「うん…ごめん…」

 

「全く…何も私や一夏がいない時にわざわざこっそり忍び込まなくても良いだろうに。」

 

「ごめん…」

 

「良い。ただ、次からは私や一夏…どちらでも良い。ちゃんと許可を取れ。」

 

「うん、分かった…」

 

「しかし…何で毎回ここなんだ?あいつの実家に行けばあいつの家族が「行けないよ。」何故だ?」

 

「だって…■ちゃんの葬式にも出てないんだよ…?」

 

「…お前の立場じゃ、仕方あるまい…あの時は身内だけに限定してもそれなりに人数がいたからな…だからと言ってこのまま顔を合わせないつもりか?お前だってあいつの家族に世話になったんだろう?」

 

「そうだけど…」

 

「あの人たちはそんな事気にしないさ。寧ろあいつが死んでから一度も会ってない方が問題だと思うぞ?」

 

「■くんには会ったんだけど「多分だが…会ったんじゃなくて隠れて様子を見ていたのがバレたんじゃないか?」……」

 

「それならあいつの両親にもさっさと会っておくんだな「むぅ…じゃあちーちゃんは?」私か?」

 

むくれる束に懐かしさを感じた…やはりこの方がこいつらしいな…

 

「忙しいからな…だが、ちゃんと定期的に連絡は取ってるぞ?お前はどうせ電話もしてないんだろう?」

 

「…そうだけどぉ!」

 

「明日にでも行け。私が連絡しておく…お前が来ると知ったらすぐにでも休みを取るだろうな、あの人たちは。」

 

「むぅ…分かったよ…それじゃあそろそろ束さんは帰るね?」

 

「む…もう帰るのか?もっとゆっくりして行ったらどうだ?」

 

「ごめんね、クーちゃんを待たせてるから…仏壇に線香だけあげていくね。」

 

「分かった。」

 

 

 

 

「じゃあ、またね…ちーちゃん…」

 

「本当にまたね、か?」

 

「うん。」

 

あいつが死んでから今日まで私は…一度も束と顔を合わせてない…

 

「到底信用出来んな…」

 

「むっ!ちーちゃん、酷い!」

 

「…冗談だ。というか、私の事など気にするな、とっととあいつの両親に会って来い。」

 

「むぅ…分かったよ、じゃあね、ちーちゃん。」

 

「ああ…あいつの家族に宜しくな。」



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親友の妹に転生しました81

「…ねぇ、■くん…」

 

「…何を聞きたいかは分かっている…あの二人の態度、だろう…?」

 

私は■くんの部屋に来ていた…

 

 

 

 

ちーちゃんのお節介で■ちゃんの家に来た私は■ちゃんのお父さんとお母さんに進められるまま、家に泊まった…クーちゃんを待たせてるって言ったのに二人は聞いてくれな…ううん。違う…それどころか…

 

「…束さんとしてはてっきり■ちゃんが亡くなってから一度も家に来なかった事を聞かれるかも、って思ってた…でも二人は全然そんな素振りなくて…最初は、二人が敢えて聞かないんだと思ってた…でも…話してる内に何か変な感じがして来て…」

 

「ふむ…それで?」

 

「……お父さんとお母さんの態度を見ていたら、まるで■ちゃんが死んじゃってるのを認識出来て無いみたいに思えて…」

 

私はそこまで言って言葉を切った。■くんは黙っていたけど、やがて口を開いた。

 

「…束、君の言う通りだ…二人は■■が死んだ事を吹っ切れていない…いや、二人は今もあいつが生きていると思っている…」

 

「そんな…ちーちゃんの話だと自分たちで葬式の準備を進めてたって…」

 

「……あいつが死んだ後、千冬と一夏が滞在している間はまだ良かった…だが、二人が帰った後、プツリと糸が切れるように二人は可笑しくなった…最初は単に間違えて食事を一人分多く用意する程度だったが…段々と、な…」

 

「……」

 

「私はしばらく様子を見る為この家で生活していたが…さすがに見てられなくなってな、自分の暮らしてる部屋に戻ったんだ…今回は君が来ると千冬に聞いたから久しぶりに戻って来たんだ…」

 

「……」

 

「君には悪いが…正直、来てくれて良かったと思っている…」

 

「え?」

 

「あれでも持ち直した方なんだ…最も二人は君を見ておらず、君を通してあいつを見ているだけだがな…」

 

「…ちーちゃんは…この事…」

 

「教えていない。間違い無く気にするからな…」

 

「……どうして…私なら良いの…?」

 

「君は他人に興味が無い筈だ、忘れてくれるだろう?」

 

「っ!忘れたりなんて出来無いよ!だって…■ちゃんのお父さんとお母さんだよ!?」

 

私は声を荒らげていた…どうして■くんがこんな風に言えるのか分からない…確かに昔の私なら忘れられたかもしれないけど…今の私は…!

 

「…君があいつに何を見ていたのかは知らない。だが、あいつはもういない…今、二人と君は他人だ…私もな。」

 

「そんなの…やだ!違うもん!私は二人が大好きだから…だって二人は…私をちゃんと見てくれたから…!」

 

「少なくとも…今の二人は君を正常に認識出来て無い。」

 

「っ!さっきから「二人」って…何でそんな風に言えるの!?■くんのお父さんとお母さんでもあるんだよ!?」

 

「そうだ、二人は私の親だ。」

 

「君は…君は平気なの!?お父さんとお母さんがあんな風になっちゃって…」

 

私がそう言うと■くんが溜め息を着いた。

 

「…平気な訳は無い…だが、どうしようも無い。」

 

「…方法なら、あるよ。」

 

「何?どういう事だ?」

 

「二人が可笑しくなったのは■ちゃんが死んじゃったから…なら、取り戻せば良い。」

 

私がそう言うと■くんは指を三本立てて私に見せた。

 

「…三つ、考えられる…」

 

「え?」

 

「一つは…死後の世界にいるあいつをこちらに連れて戻る事、二つ、過去に戻り、あいつを救う事…最後だ、あいつが生きている並行世界を探し出し、こちらに連れて来る事…」

 

「…■くん…もしかして…」

 

「私だって吹っ切れた訳じゃないさ…だが、自分の死を理由に歩みを止める事はあいつが一番望まない…」

 

そっか…■くんは私よりも先にもう■ちゃんを取り戻す方法を考えていたんだ…

 

「…■くん、私と行こう?君と束さんが協力したら…きっと■ちゃんにまた会えるよ。」

 

「…私からお願いしたいくらいだ、宜しく頼む…篠ノ之博士。」

 

私が差し出した手を■くんが強く握った。



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親友の妹に転生しました82

一目惚れなんて信じない…我ながら可愛くない子供だった自覚はある…でも、私は恋愛というのは時間をかけて徐々に好きになるのが普通で会ったその瞬間から好きになるなんていうのは到底理解出来ない事だった。

 

だから…両親の出会いから今に至るまでの話を何度聞かされても理解出来なかった。そんな私が…初めて会ったその瞬間から心奪われるなんて…それも、同性に…

 

 

 

私の両親二人はフランスで出会い恋に落ちた。母の方が日本人で、元々短期留学で訪れていただけだった母はやがて日本に戻る事になったが、二人は別れる事無く遠距離恋愛になったと言う。…その後、母は妊娠した。父は喜び結婚を考えたがそこで問題が発生した。

 

生活基盤をフランス、日本…どちらにすべきか。

 

二人は悩んだ末に日本を選んだ。父に聞いてみた事はある…自分の生まれた国を離れ、日本で暮らす事に不安は無かったのかと。父は笑ってこう答えた。

 

「不安?もちろんあったさ。だけど、それ以上に母さんと一緒に暮らすのが楽しみでね…」

 

……とまぁそこからはまた惚気が始まったので聞き流した。

 

単純に何時も両親から耳にタコが出来るほど二人の恋愛話を聞いていたのですれていた、とも言えるのかもしれない。まあ何が言いたかったのかと言えば、こうして家庭を築いた父と、寡黙ではあるけどしっかりしている兄と私の同年代の男子を比べてしまえば恋愛にはまるで希望がもてなかったという話だ(いや、別にだから同性に走ったって訳じゃないけど)

 

さて、私立の学校に入り、涼しい顔で学年トップを取り続ける兄(いや、それなりに努力してるのは知ってるけど…暇さえあれば勉強してるしね)と違い平凡な私は公立の学校へ。

 

 

 

……そこで出会ったのが織斑千冬だった。

 

自慢するわけじゃないが私はモデル並の容姿の両親の血を引いたのか見た目は悪くは無い。ただ、容姿のせいで目立つのは子どもの間では決して良いとは言えない。

 

日本人離れした彫りの深い顔立ちに、地毛は金髪…男子からはちょっかい入れられるし、小学校低学年にして女の嫉妬の怖さを知る羽目になった。担任は見て見ぬ振りするし。友だちと呼べる相手がいないわけじゃなかったけど、彼女たちも私を助けようとはしなかった…恨んではいない。私を助けたら当然彼女たちも標的にされるだろうしね…でも、辛くなかった訳じゃない。

 

両親にも何も言えずに放課後、女子たちに取り上げられ、隠された物を探すのが日課になった…ある日、いつもの様に私物を探していた時、声をかけてきたのがちょうど忘れ物を取りに学校に戻って来ていた千冬だった。

 

「どうした?」

 

「……別に…何でもない。」

 

…私は彼女の方を見てすぐに目を逸らした…彼女とクラスの違う私は彼女の顔は見た事があったが話した事は無かった。だから彼女に探すのを手伝って欲しいとも言えなかった。

 

「……床にしゃがみこんで何でもない、は無いだろう?何か探し物か?」

 

「……」

 

「……そろそろ暗くなるな…手伝おう。」

 

「え…?でも…」

 

「気にするな、私が勝手に手伝うだけだからな。」

 

「ありがとう…」

 

「…礼なら見つかってからで良い…で、何を探してるんだ?」

 

 

 

……彼女は別に特別な事をしたとは思ってなかったんだとは思う。でも、私は本当に嬉しかったし…それに彼女の方を見て目を逸らしたのは…それは…

 

夕日に照らされた彼女の顔が本当に綺麗で…美しくて…私は小学生にして悟ったのだ…これ以上に美しい物を見る事はこれから先、私の生涯において二度と無い、と。

 

 

これが私が千冬を好きになった日の話。



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親友の妹に転生しました83

千冬と友だちになった事で日常に変化は無かった…という事は無い。彼女自身もそれなりに整った容姿をしていて、女子の中では浮いてた様で…最も彼女の場合、私と違い直接手を出される事は無く、無視されているだけの様。

 

私は彼女と友人として付き合う様になったお陰で虐められる事は無くなったが、元々いた友人も私の元に来なくなった。…でも、私は気にならなかった…千冬がいればそれで良かった。

 

「千冬、帰ろう?」

 

「ん?■■か。構わないが束が一緒でも良いか?」

 

「うん。大丈夫だよ。」

 

……篠ノ之束は千冬の唯一と言っても良い友人で、本人は親友を自称している。

 

「もう!■■ちゃん!?ちゃんと聞いてるの!?」

 

「ちゃんと聞いてるよ…でも私にはちょっと難しいかな…」

 

小学生にしては堅い喋り方をする千冬とは正反対の束…天真爛漫な彼女がこうして私と千冬の間に入る形でこうして喋ってくれるのはありがたかったりはする…当初は千冬に近付こうとしてる私を目の敵にしてるみたいだったし、千冬と二人きりになりたい私からしたら邪魔に思う事もあったけど…今はこうして色々話してくれるのが嫌では無かったりする。

 

……いや、そもそも良く考えたら千冬と二人きりだと緊張して私は一言も喋れないだろうし、千冬は自分からはあまり喋らないし…それに彼女の話は中々に興味深い。

 

「大丈夫!分かる様に何度でもちゃんと説明して「束、お前の説明は多分課程をすっ飛ばしているから誰が聞いても分からないと思うぞ」え~!?」

 

うん、そうなんだよね…束の場合難しい用語とかの説明とかを一切しないで内容を話すから正直、半分も理解出来ないんだよね…

 

「だって~!面倒だし「その時点で説明する気が無いと言ってる様なものだぞ」ぶー!」

 

……束は私たちにはこうして子供らしい振る舞いをしているけど、クラスではいつも千冬と同じく孤立していて、稀に誰かが話しかけても無視するか、かなりつっけんどんに返すのだとか…更に言えば束は容姿の良さも然る事ながら成績もかなり良いらしいから余計に嫌われているみたい。

 

「まあ私は内容は理解出来なくても、束の夢は応援してるからね?千冬もでしょ?」

 

「まあな。」

 

束の夢…それは”自力で”宇宙に行く事…それがどれほど難しい事なのか私でも少しは分かる…でもその途方も無い夢も束なら実現出来るんじゃないかと思った…所詮まだ小学生だし、数年もしたら諦めてそうと思わなくも無いけど…でも、本当に実現するなら見てみたいと思った。

 

「うん!ありがとうちーちゃん!■ちゃん!」

 

束が抱き着いて来て千冬は避けたが私は避けきれず、そのまま二人で地面に倒れ込んだ。

 

 

 

……私は束の夢が実現するならこの目で…見てみたい…千冬と二人で。



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親友の妹に転生しました84

「ねぇ?アレ千冬だよね?」

 

「……やっぱり分かるか。」

 

私はその日千冬を家に呼び出した。

 

…今、テレビでは何処のチャンネルも同じ物を映していた。

 

世界の主要都市に向かって撃ち出されたミサイル…それはあろう事かそれぞれ自国の軍事基地から発射された物だった。

 

ネットワークの知識が無ければまるで機械が自殺をする為に誤作動を装い起こした事件の様に思えてしまう…まあもちろん原因は別にあったけど。

 

「ハッキング、ね…束の仕業だったり?」

 

「本人は否定していた…私は取り敢えずアレを纏って出て欲しいと頼まれただけだ…一刻の猶予も無いとか言われてな。」

 

各国の軍事基地のコンピュータが外部からハッキングされ撃ち出されたミサイル…それを人型の機械…世間では白騎士なんて言われてるそれが…剣で一本残らず斬り裂いた。

 

「束がそう言ってるなら私は信じようかな。」

 

「私としてはあんな事が出来るのは束ぐらいだと思ってるんだがな。」

 

「ハッキングするだけなら別に束でなくてもできるでしょ。」

 

「それは…そうかもしれないが…」

 

「確かに動機はあるけどね、束が作った例のパワードスーツのお披露目には絶好の舞台になったわけだし…」

 

「着たのは私なんだがな…そう言えば何でアレが私だと分かったんだ?」

 

「……束が協力を頼みそうなのって私か千冬くらいしかいないし…」

 

「確かに「後、あんなに人間離れした動き出来るのなんて千冬しかいないでしょ」……」

 

白騎士はミサイルを全て斬り払った後、事態の収拾にやって来た戦闘機のミサイルまで斬り捨てている。機銃に至っては空中とは思えないほど機敏に動き、躱している。アレが人なら普通の人間には先ず真似出来ない。

 

「まあそもそも白騎士の太刀筋が明らかに篠ノ之流だしね。少なくともこれで第三者に頼んだ可能性は消えるんじゃないかな。」

 

「……先にそれを言って欲しかったな。」

 

篠ノ之家は神社の神主…所謂神職を務めると同時に剣術道場をやっている。戦場で生まれたという実戦剣術…あそこまで使いこなせるのは束の父親の篠ノ之柳韻さんと千冬しかいないと思う…束は両親のどちらとも仲が悪いからね…そういう意味でも千冬しかいないと思う。……そもそも私が千冬の動きが分からない訳無いんだけどね。

 

「大体、人間離れは無いだろう?お前でもアレくらいなら出来るだろう?」

 

「いや、私あんな事出来ないって。」

 

剣道としてなら柳韻さんからもお墨付き…ただ、実戦であそこまでやれるかって言われたらとても無理。

 

「それにしても…これでとうとう夢の第一歩を踏み出したんだね束は。」

 

私の知る限り小学生の時からだから、本当にここまで長かった

 

「……そう楽観的にはいられないだろうな。」

 

「えっ?」

 

「束は宇宙での活動用としてあのスーツを作った…学会では笑い物にされたらしいが、これで証明した訳だ…成層圏であそこまで動けるスーツ…確かに画期的だろうな。私の方も違和感は少なかった。」

 

「うん、だから束の目的は果たせた筈だよね?」

 

「各国は挙ってアレを欲しがるだろうな……兵器として。」

 

「でも…だって束は…!」

 

「私がやり過ぎたのかもしれないが…軍事基地から放たれた大量のミサイルを全て斬り捨て、戦闘機から撃ち込まれたミサイルまで全て斬り捨て、機銃まで躱す…ある程度鍛えた人間なら誰でもアレに近い事は出来るわけだ…これは一軍を単騎で壊滅出来る最強の兵士が作れるという事に他ならない。」

 

「そんな…」

 

「これから先どうなるかは私にも分からん…人間がそこまで愚かだとは思いたくないがな、各国がアレを纏った兵士を使って戦争してみろ、多分泥沼になるだろうさ。」

 

「そうだ…!束「駄目だ。ほら、携帯には私もかけてるんだが出ない」束…」

 

「あいつが身を隠す気なのは明白だ。元々、夢の障害になり得ると判断して両親や妹とも距離を置いていたからな、有象無象が自分の夢と関係無い欲望を持って寄って来るようならあいつは雲隠れするだろう…そういう奴だ。」

 

「でも…何で私や千冬の「分からないか?」えっ…」

 

「私たちに迷惑をかけないためだ。あいつらしいな、本当に。」

 

千冬が立ち上がった。

 

「千冬、何処に行くの…?」

 

「一度家に帰る…後で一夏を寄越すから今夜…いや、二、三日この家で預かってくれないか?」

 

「ちょっと待ってよ!何処に行くの!?」

 

「私も万が一の事を考えて一応身を隠す。あいつは私が関わった痕跡なんて残して無いだろうが、念の為だ。」

 

「千冬…」

 

「一夏の事、頼めるか?」

 

そんな目で見られたら断れないよ…

 

「分かった…ちゃんと帰って来てよね?一夏君の家族はもう姉の貴女しかいないんだからね?」

 

「ああ。分かっているさ、必ず戻る。」



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親友の妹に転生しました85

千冬は結局一週間ほど経って私の所に戻って来た。

自分の意思かと思えば束の連絡があったからだそうな。

 

「じゃあ、結局束は全部自分で引き受けたって事だね…」

 

「そうなるだろうな…」

 

束は今各国が血眼になって探している…見付からないと良いけど…

 

「もう!ちーちゃんに■ちゃん!束さんはここにいるんだから無視しないでよ!」

 

「私は別に無視してないよ。現実逃避してるだけ。」

 

まあその束はそもそも今、普通に私の家でご飯を食べてるんだけど…意外と気付かないものなのかな?

 

「私はいないものとして扱っていたがな…」

 

「ぶー!ちーちゃん酷い!」

 

そんな昔と全然変わらない束の姿を見て安心すると同時に不安にもなる…灯台下暗しなんて言うけど何れは見つかっちゃうよ…

 

「あ!■ちゃん!束さんが見つかっちゃうかもって不安がってるね?」

 

「何で分かるの?」

 

「そりゃ束さんだから「この現状で他に考える事なんて無いだろうが。馬鹿なのか、お前は」ぶー!束さんは馬鹿じゃないもん!」

 

まあ実際束は馬鹿じゃなかったからこうして追われる身になった訳だけど。

 

「それで…大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫!ちょっと見てて…ほい!」

 

束の姿が私の前から消えた…そうとしか言えなかった…えっ!?どういう事!?

 

「■ちゃん!」

 

「うわぁ!えっ!?束!?」

 

背中に何かが張り付いた…思った時には束の声が聞こえ、後ろを見ると束の顔があった…本当にどうなってるの…

 

「とうとう人間を辞めたのかお前は。」

 

「何でそんな結論になるのさちーちゃん!これで姿を消しただけだよ!」

 

束が出してきたのは……腕時計?

 

「ほら!名前はキエールだよ!「ださくない?」ちょっ!酷いよ■ちゃん!」

 

私は思わずそう口に出していた。

 

「いや、誰でもださいって言うと思うぞ。」

 

珍しく千冬が笑いながらそう言った。

 

「ぶー!良いもん!他人が何言ったって気にしないもん!まあとにかく!これで姿を消せるから問題無し!」

 

「それは良いんだけどさ、束?まさかずっと隠れてるつもりなの?」

 

「まさか!ちゃんと今の状況をどうにかする手は考えてあるもん!」

 

「何をする気だ?」

 

「ナイショ。さてと、そろそろ行かないとね、じゃあねちーちゃん、■ちゃん、ご飯ご馳走様。」

 

束がまた消えた…さて…

 

「千冬?」

 

「あいつの気配はもう無い。」

 

「そっか。」

 

姿を消すだけなら気配は残るからね…後は…

 

「……赤外線スコープとかなら見つかっちゃうんじゃないかな…」

 

「そんなに詰めが甘かったらもう見つかってるだろうな…結局私に何の影響も無かったことからしてもあいつの隠蔽は完璧だった訳だな。」

 

「もう私たちには何もしてあげられないのかな…」

 

「あいつは昔から寂しがり屋だからな、会いたくなったら勝手に会いに来るだろう…こっちの都合を無視してな。」

 

「うん…そうだね…」



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親友の妹に転生しました86

束のやる事を黙って見てようと思ったわけじゃない。だけど、あの日から束は私の所にも千冬の所にも姿を見せる事は無かった……束が私の所に久々に顔を見せにやって来た時にはもう世界が変わってしまった後の事だった。

 

先ず最初は各国の政府から国民への白騎士に関する情報開示。

 

開発者は篠ノ之束である事、アレはパワードスーツであり、名称はインフィニット・ストラトス。その情報の後、束がある事を約束した事を伝えた。

 

インフィニット・ストラトス……通称ISにはコアと呼ばれる物があり、それは篠ノ之束にしか作る事は出来ない。そのコアを自分の要求を飲むなら各国に配布する……但し作り、配布するのは限られた数のみである事、そしてその後は二度とコアを作る事は無い、と。

 

この話に、先進国の多くは飛び付いたのだ。アレほどの性能を持つパワードスーツなら利用価値は大いにある。

 

ここまでならほとんどの人たちにはそれほど影響は無かったかもしれない…ただ、ISには束にもどうする事も出来なかったという致命的な欠陥があった……このたった一つの欠点が世界を変えてしまった。

 

インフィニット・ストラトス…ISは女性にしか起動する事が出来なかった。

 

 

 

「それで…千冬?本当に良いの?」

 

「ああ。今まではバイトをいくら掛け持ちしても正直ギリギリだったからな、こっちの方が稼げる可能性はある。」

 

「そっか。」

 

「お前はどうするんだ?」

 

「私は…止めておく。千冬ほどの腕は無いから。」

 

「お前なら相当良い所までいけると思うんだがな…」

 

「それはどう考えても無理でしょ。千冬がいるんだし。」

 

「何だ、その言い方だと私が優勝するのは確定か?」

 

「当然。千冬に勝てる人なんていないと思うよ…だって千冬は世界で初めてISを纏って戦ったんだから……それで思い出したけど、本当に大丈夫なの?」

 

「ん?何がだ?」

 

「またISを纏って戦ったら誰かは千冬の正体には気付くんじゃない?」

 

「…それなら特に問題は無いな。」

 

「何で?」

 

「今回私は基本的に空中戦を一切しない。制空権は全てくれてやる。」

 

「…束の話だと本来空中を制してこそのISだよね?それで勝てるの?」

 

「その束の見立てだが、どうせほとんどの奴が満足に使いこなせないだろうとの事だ…今回は私もあいつの意見に同意だ…やる事は一つ。制空権をくれてやるとは言ったが、簡単には上を取らせない…全て開始早々に斬り捨てる。これなら私はろくに動く必要がないからな。」

 

明らかに言ってる事は無茶苦茶…でも…

 

「普通の人なら無理そうだけど千冬なら出来そうだね…」

 

「……だから一々人を化け物扱いしないで欲しいんだが「ごっ、ごめん…!そんなつもりじゃ…!」冗談だ、お前がそんな風に思っていないのは分かっている。」

 

「それはそれとして、だ…お前が出ないのは本当に残念だな、お前となら良い勝負が出来そうだからな。」

 

「買い被り過ぎだよ。単純に反応の話なら一夏君の方がすごいんじゃない?」

 

「お前はその一夏を試合では完封してるだろうに。」

 

「経験の問題だよ。だから私は千冬には勝てない。試合ならまだしも…実戦では絶対に。」

 

剣術で千冬には勝てない…これから先どうやっても差は埋まらないと思う。多分、同じ武器を選んだ時点でもう駄目なんだと不思議と思う。私が千冬と同じ篠ノ之流を習う事を選んだ時点で…きっと勝つ事は不可能だったんだと思う。

 

「試合には一夏君と応援に行くから。」

 

「ああ。」

 

ISが各国で作られるようになった後(コアは束しか作れないけどIS自体は一応、ある程度の水準の技術者なら作れるんだとか)先ず最初に決まったのは軍事利用をしない事…まあ建前に決まってるけどね。そしてISを纏っての実戦形式の試合をする大会…モンド・グロッソをする事が決まる…これに千冬は出る事にしたのだ。こうして千冬が活躍する様になる事に誇らしく思う反面、不安材料も私の中にある。

 

ISが女性にしか起動出来ない事が分かった事で多くの国で女尊男卑の風潮が蔓延していた…日本もその国の一つ。

 

私は男尊女卑の気質がある日本の状況を良いと思っていた訳では無いけど、今の多くの女性たちの態度も目に余る。大体、束はそんな事の為にISを作った訳じゃない。

 

「どうしたんだ?」

 

「ごめん、何でもない。」

 

……まあでも、こうして千冬が晴れ舞台に上る事になったのは素直に嬉しいけどね。こんな世の中でもそれだけは良い事だと思えるかな。



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親友の妹に転生しました87

改めてモンド・グロッソのルールを調べた私はこれは千冬が言った勝ち方では勝てないんじゃないかと不安になった。

 

モンド・グロッソにて行われるISの試合ルールとして勝敗は基本的にISに設定されているシールドエネルギーがゼロになった者が負け、というルールである…少なくとも一撃で終わらせる事はいくら千冬でも無理な筈…更に言えばルール上、射撃武器を使う事も認められている、というか多分剣以外使う気無いのは千冬だけ…

 

一撃で終わらないなら千冬は剣を当てた直後に相手からのカウンターの射撃で沈む…

 

私は時計を見ながら選手として強化合宿に入った千冬の所に電話をかけた。

 

 

 

「そういうルールなのは私はちゃんと把握しているが?」

 

全く慌てる様子の無い千冬に少し苛立ちを覚えながら私は言った。

 

「なら、どうするの…?」

 

「私はこっちに来る前にお前に言った方針を変えるつもりは無い「いや、だからそれじゃ勝てないんだってば!」いや、本当に大丈夫なんだ。今はお前にも詳しく言えないが私には秘策がある。」

 

「どうしても言えないの…?」

 

「すまんな…その代わり当日は楽しみにしててくれ。見て損をするような試合をするつもりは無いからな。」

 

電話越しでも分かる…千冬は私に楽しみにしていろと言いながら自分が一番昂揚してる…本気であの方法で勝つつもりなんだね…負けるとは微塵も思ってない…他の人なら不安になるけど…千冬は本当に勝てると思った時しかここまで断言しない…それなら私がする事は…

 

「分かった…信じるよ、当日になれば分かるんだよね?」

 

「そうだ。だからお前は何にも気にせず一夏と一緒に私の応援をしてくれたら良い。」

 

そう、それが私のする事…でも、ね…

 

「千冬の中で勝利が確定してるなら私の応援なんて必要なのかなぁ…」

 

当日何があろうと千冬の応援をするのに否やは無い。でも、ちょっとくらい、さ…

 

「何を言ってる?ああは言ったが結構大変なんだぞ?人より速く動くと言うのは…お前や一夏が応援してくれるから私は頑張れるんだ。」

 

「……うん、そう言ってくれると嬉しいかな。」

 

実際は嬉しいなんて物じゃない…動悸が治まらないし、何か顔が熱いよ…多分フォローはしてくれるだろうと思って言ってみたけど…まさかここまで千冬が言ってくれるなんて…!

 

「さて、そろそろ「あっ、ちょっと待って」ん?」

 

「私ばっかり話しちゃったからね、一夏君に代わるからさ、あまり時間無いだろうけどゆっくり話して。」

 

「そうか、すまないな…なら…代わってくれ。」

 

「うん。少し待っててね…」

 

私は一夏君を呼びに、部屋に向かった。

 

 

 

 

「■■さん?お~い…」

 

「えっ…?何…?一夏君…?」

 

「いや、風呂沸いたってさっきから言ってるんだけど…」

 

「あー…ごめんね?」

 

「千冬姉、何か言ったのか?」

 

「うん、ちょっとね…」

 

「あー…それは良いけど早く入ってくれな。」

 

千冬が向こうに行ってる間、一夏君は私の家で暮らしている…別に良いよって言ってるんだけど、こうやって率先して家事をやってる…さすがに週の内、半分は私がやってるけど。

 

「前にも言ったけどそんなに気を遣わなくて良いんだよ?お風呂ぐらい先に入っても良いんだからね?……それとも何なら一緒に入る?」

 

「え!?いっ、いや…良いって…!」

 

……比重は千冬の方が上ではあるけど一夏君の事も嫌いじゃない。というかこういう反応が可愛く見えてついからかいたくなるんだよねぇ。



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親友の妹に転生しました88

「……は?」

 

遂にやって来たモンド・グロッソ当日…待望の千冬の試合を見た私は困惑していた。

 

剣で一度斬りつけた程度ではほとんど減らないはずのシールドエネルギー…しかし今、有り得ない事が起こった。試合開始と同時に千冬は先の宣言通りいきなり急加速で直進し、驚いたのか棒立ちのままの対戦相手は千冬の斬撃を受けた…と、同時に斬りつけられた程度では大して減らないはずのシールドエネルギーはみるみる減っていき……ゼロになった。

 

千冬は突然ISが解除され、呆けた顔をする対戦相手に頭を下げると、背を向け自分のいた位置に戻った。

 

目の前の光景を見たまま、そのまま理解するなら、こうなる……この試合は終了したのだ…千冬の勝利で。

 

さっきまであれほど響いていた歓声が止んでいた。実況をしてる人の声も聞こえない…いや、何やらガサガサ紙を捲る音が聞こえる…しばらくして、咳払いの声と共に千冬の勝利が告げられた。観客がどよめき、千冬と相手選手が退場していく中、千冬のISについての説明がなされた。

 

今回モンド・グロッソに出るISにはそれぞれ単一仕様能力という特殊機能が備わっている…千冬のIS「暮桜」の単一仕様能力の名前は「零落白夜」。刀剣型近接武器「雪片」を使って発動し、発動中は自身のシールドエネルギーが減っていくが、もし相手に一太刀でも浴びせる事が出来れば相手のISのシールドエネルギーをゼロに出来る、という何と言うか、非常に千冬向きの能力だった。

 

 

 

その日の試合全てが終了した後、千冬から電話があり、千冬と外で合流した。

 

「どうだった?」

 

会うなり千冬にそう聞かれ、一夏君と顔を見合わせる…今日の試合内容について聞いてるんだろうけど…

 

「いや…どうって言われても…」

 

「俺も■■さんも今日一日ずっと困惑しっぱなしだったよ…後、強いて言うなら他の奴なら絶対しない戦い方をする辺り千冬姉らしいなぁ…と。」

 

一夏君もそう思ったんだ。今日一戦目で千冬のISの能力は割れたわけだけど…結局誰一人千冬の突進にまともに対応出来た人はいなかったんだよねぇ…

 

「…何かしっくり来んな…というかせっかく勝ったのに言うのがそれだけなのかお前らは。」

 

いや…だってねぇ…

 

「まだ一日目だぜ千冬姉?大体、千冬姉ならあのくらいどうって事ないだろ?」

 

勝ち抜き戦だからね…少なくとも明日からはもう少し強い人が出てき…実質千冬の最初の一太刀を受けなければ良いだけの話なんだけど…そんな人いるかなぁ…正直誰も勝てない気がする…

 

「それは…そうだがな…」

 

そう言うと千冬が不満そうな顔をした…千冬って時々こういう子供っぽい反応するんだよね…

 

「でもまぁ改めて言うなら迫力はあったよ…私はカッコイイって思ったかな。」

 

「……そうか。」

 

そう言うと気持ち口角が上がる程度だけど、確かに千冬が少し嬉しそうにしているのが分かった。……うん、機嫌良くなったかな。

 

 

 

……カッコイイと思ったのは嘘じゃないけど、今回の場合あの突貫を受ける事になる対戦相手が本気で可哀想に私は思えていたり…それにこの大会オリンピック並に力は入ってるみたいだから…千冬に一撃も与えられずに負けた彼女たちがこの後本国でどういう扱いを受けるのか…なんて…考えてしまう…



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親友の妹に転生しました89

大会二日目、初日からあれほどの物を見せられたし、今更千冬のやる事で驚きはしない…そう思ってたんだけど…

 

「…えっと…■■さん…今の見えたか?」

 

「…辛うじて、かな…」

 

「マジか…」

 

その言い方だと一夏君は見えてないんだね…他の観客もそうみたい…

 

 

 

……千冬は正面から突っ込む以外の選択肢を取るつもりが無い…私は何かが引っかかったもののそれが何なのか昨日の時点では分からなかった…それが今日の千冬の初戦で漸く分かった。

 

試合が開始され、昨日と同じ様に千冬が突っ込んで…

 

「…あっ。」

 

そこで昨日とは違う事が起きていた。

 

「…あー…うん、そっか。そりゃそうなるよな…昨日の時点で誰もやらなかったのが不思議なくらいだよな。」

 

千冬の向かいに立つ対戦相手はライフルを腰だめに構えていた…そうだね、正面から突っ込むのは分かってるんだから開始と同時に射撃体勢に入っていれば千冬の突進は防げ…あっ…!

 

「あれ…?何が起きたんだ…?」

 

私も一瞬何を見たのか良く分からなかった…対戦相手のISが解除された事で千冬が勝利した事に気付く……千冬…スゴすぎ…

 

 

 

「…で、結局何が起きたんだ?」

 

「う~ん…私に聞くより、今映像をチェックしてるみたいだから待ってた方が良くない?」

 

「つっても■■さんは見えてたんだろ?」

 

「ん~…まあ一応は…私が見たままを説明すれば良いの?」

 

「ああ。」

 

「そう…えっとね…先ず千冬はライフルの初弾が発射された瞬間に移動スピードを上げたの。」

 

「……それから?」

 

「それからって言われてもね…その状態から無理やり横に動いて、擦れ違い様に相手の胴を斬りつけた…って言ったら良いのかな。」

 

「あー…うん…分かった。納得は出来ないけど理解はした。」

 

正面からの特攻を止めるには普通有効だけど、千冬は例外…ちょっと本当にとんでもない。

 

 

 

 

「さて、今日の試合はどうだった?」

 

ドヤ顔をして聞いてくる千冬…可愛いとは思うけどね…

 

「……■■さんは言いづらそうだから俺が言うよ、正直ドン引きした。」

 

「ちょ、ちょっと…!一夏君…!?」

 

そんな風に言ったら…!

 

「なっ…そうなのか…?」

 

「千冬姉は気付いてなかったみたいだけど他の客も明らかにみんな引いてたからな?まずあれじゃあほとんどの奴が何やったのか分からなかっただろうし。」

 

「……」

 

本格的に落ち込み始めた千冬を私は慌ててフォローした。

 

「だっ、大丈夫だよ。私は見えてたから。」

 

「……一夏は?」

 

「いや、全く。」

 

「……そうか…」

 

フォローにならなかったみたい…私だけが見えててもやっぱりダメか。それに私も完全に見えた訳じゃないしね…



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親友の妹に転生しました90

「ほら、千冬、乾杯しよ?」

 

「……ああ。」

 

千冬はその後も順当に勝ち続け、決勝に進出…見事優勝した。

 

「気の無い返事だなぁ…優勝したのに嬉しくないの?」

 

「…いや…そういう訳じゃないが…」

 

優勝のお祝いを…と思ったけど千冬がやるなら日本が良いとの事で、こうして私の家でこじんまりと祝っている…まぁ向こうでも帰る前にそれなりに良い物食べに行ったけどね…

 

「……千冬には退屈だった?」

 

「!…まあ、な…」

 

千冬があまり、テンション上がってない上、一夏君も既に眠っているから、余計にしんみりしてる気はする。

 

「決勝もつまらなかった?」

 

「…正直に言ったら、な。」

 

千冬の決勝戦の相手は開始と同時に両肩に付いてるガトリング砲と手元のライフルを撃ち続け、広範囲の弾幕を貼った。正面から突っ込む以外の戦法が取れない千冬はそこで遂に猛攻が……止まらなかった

 

「飛ばないんじゃなかった?」

 

「……私は跳んだんだ。」

 

「…それ、口で言われても当ててる漢字違うの分からないよ。」

 

その状況でも千冬は突っ込み、途中で空中に跳んだ…飛んだのでは無い、跳んだのだ。そして相手に向かって落下しながら剣を振り下ろした。

 

相手は頭上の斬撃に対応出来ず、シールドエネルギーはゼロになった。

 

「というか、私が一番嫌なのは身内にすら化け物扱いされた事なんだがな。」

 

「う…ごめんね?そんなつもりじゃなかったんだけど…」

 

「…まあ、良いさ。ただ、やはりつまらなかったな…」

 

「取り敢えず賞金は貰ったでしょ?それに関しては喜んだら?」

 

「……」

 

「ふぅ。仕方無いな…なら、今度久しぶりに試合でもする?柳韻さんなら協力してくれるでしょ。」

 

「……それも良いが…やはりお前が今回の大会に出てくれていたら…」

 

「いや…無理だって…というか終わった事を言っても仕方無いでしょ。」

 

「なら…もし、次の大会が決まったら出てくれるか?」

 

真顔で私を見詰める千冬…ハァ…しょうがないな…

 

「分かったよ。次がもしあったら出るよ。」

 

次の大会の予定はまだ決まってない…恒例行事にならない事を祈ろう

 

「そうか…言質は取ったからな?」

 

何だろう…この悪寒…

 

「ねぇ千冬…もしかして…」

 

「実は次の大会があるのはもう決まってるんだ。」

 

「はい!?」

 

何それ!?何で後から言うの!?ズルくない!?

 

「今更撤回しないよな?」

 

「…ハァ…分かった…もう好きにして…」

 

まぁ私が選手になれるとは限らないし…千冬はシードなんだろうけどさ…

 

「言っておくが、逃がさないからな?第一回の優勝者の権利を主張してでもお前を出場させる。」

 

「……そう。」

 

次はさすがに人も増えるよね…どうせ千冬に辿り着く前に予選で落ちるから問題無いかな。



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親友の妹に転生しました91

千冬のワガママに閉口したものの、後になって良く考えたら私が大会に出るのは普通に無理である事に気付き、胸を撫で下ろした。

 

世界規模でやってるモンド・グロッソ…当然それぞれの国から出られるのは国の代表…つまり一人だけ。日本では次の代表は実質千冬で固定されてる為、大会で私たちがぶつかる事はほぼ無い…まあ良く調べたらハーフである私は父の方の国籍、フランス国籍を取得すれば出られる可能性があるんだけど…最悪日本にいられなくなるし、手続きも面倒そうだからやるつもりは無い。

 

……まあとにかくこの問題はもう終わった、と思っていた私は千冬が持ち込んで来た斜め上の提案で絶望に叩き落とされた。

 

「…ねぇ千冬?これ、どういう事…?」

 

「見ての通りだが?」

 

「いやいやいやいや…」

 

私は千冬の持ち込んだ書類を突き出し、問題の箇所を指差しながら思わず叫んでいた。

 

「特別枠にて出場ってどういう事!?」

 

その言葉に千冬が溜め息を吐いて答える

 

「だからな、そこに書いてあるだろう?次回の大会で初代優勝者の私が推薦した人物が出るんだ…つまりお前だ。」

 

「だからさぁ…!」

 

私は思わず頭を抱え、更に掻き毟る。

 

「私は千冬程の剣の腕は無いって言ったじゃん!」

 

「何度も言うがな…仮に私を剣で上回るとしたら、お前をおいて他にいないと思っている…過度の謙遜は止めた方が良いぞ?」

 

……そうやって評価されてもまるで嬉しくない!……って言うのは当然嘘だ…本当はもう…死ぬ程嬉しい!だけど!

 

「これはね、剣道の試合の話じゃないんだよ!?ISで戦うんだよ!?私は今まで一度もISに触れた事すら無いんだよ!?」

 

「私が初めてISを身に纏ったのはあの事件の時、それからは選手に選ばれるまで一度もISに触れてないし、それに私は大会前に散々ISの経験を改めて積んだ。何も別にいきなり経験ゼロの状態で大会に出ろとは言ってない、お前も練習すれば良いだろう?」

 

「……」

 

反論材料を尽く潰され私は押し黙る…どうしても出なきゃダメなの…?私が一番分かってる…千冬と試合しても絶対に勝てないって…分かってるのに…!……別にどうでも良い相手なら負けたって良い…でも千冬に負けるのは嫌だ…私は千冬と対等でいたい…だから…戦いたくないのに…!

 

「……そんなに嫌なのか?」

 

「え…?」

 

今まで散々私に出ろと言っていた千冬が突然そんな事を言い出す。

 

「いや、思った以上に暗い顔をしているんでな…無理強いをしたなら謝ろう。」

 

「……」

 

「私としてはただ、お前と一度本気で戦ってみたいと思っていただけなんだが…」

 

目に見えてオロオロしはじめる千冬に罪悪感が芽生える…子どもの頃から自分を律して誰からも線を引くように距離を置いてワガママを絶対に言わない。弟の一夏君がいたり、色々とやらかす束と良く一緒にいたせいか、自分自身の願いを口にしない千冬が、私にはいつの頃からか悩みの相談をしてくれたり、ワガママを言ってくれるようになったのが嬉しかった。

 

でも普段からワガママを口にしなかったせいか、時折普通なら悩まない様な事で悩んでいたり、時々私では手に余る頼み事をしてくるのには困ったけど…大抵の事は聞いて来た…私が本気で断ると悲しそうな顔しつつも引っ込める千冬…

 

改めて考えてみる…私は千冬に負けるのが嫌だから戦わない…千冬は私が強いと信じている…うん、これは私が折れるべきなんだろうね…

 

「分かった、出るよ。」

 

「ッ…!…本当か?」

 

「うん。」

 

「そうか…出てくれるか…!」

 

……私が大会に出場する、と言っただけでこんなに喜んでくれるなんて…うん、もうこれからの事は後から考えよう。この笑顔を見れただけで私は満足…後は未来の私に任せることにしようっと。




「では、お前の家族に連絡を「いや、それは待って。」…何故だ?」

次の大会の会場はドイツ…仮に合宿場所もドイツだとして私と千冬に一夏君の三人で向こうに合宿に向かう分には良いんだけど、家族に知らせたら私と同じく日本にいる兄さんはともかく、両親はわざわざフランスからやってきかねないからね…家族の事は嫌いじゃないけど、割と過保護気味だから…大会に来てくれる分には良いけど…私と千冬のサポートするとか言って合宿の時点で仕事ほっぽり出してホテル滞在始めそうだし。

「一応言っておくと、千冬にも干渉して来ると思うよ?」

「……それは…確かにキツイな。」

ウチの家族、子どもの頃から千冬と一夏君の事気遣ってたから…今回も大会の事伝えなかったら、後で鬼のように電話来たし…

「ちなみに小学生の時の運動会の時の事ってもう忘れてる?」

「……」

あー…思い出したみたいだね…

「多分あの時みたいに横断幕作って「黙っておこう」……それが良いよ。」


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親友の妹に転生しました92

「それにしても、何故だ?」

 

「何が?」

 

「いや、一回は承諾したのに今になって執拗に嫌がるから何故なのかと思ってな。」

 

……こういうのを本気で疑問に思う千冬の天然さにイラつくより先に可愛いと思ってしまうのは、色々ともう手遅れなんだろうね…

 

「そもそも私は嫌だって言ってたんだけど…」

 

「そうだが、あの時はあっさり承諾したろう?何で急に気が変わったのかと思ってな。」

 

「……」

 

それは今回の私の参加決定が初代優勝者、織斑千冬のゴリ押しだからだよ…単に通常の選手枠で出て、予選で落ちる分には私も納得出来るからね…他人が何と言おうと私は全く気にしないし。

 

…ただ、千冬の肝いりで、となると話は変わってくる…まかり間違って予選落ちなんてしたら千冬の顔に泥を塗る事になっちゃうからね…最も本人は自分で汚名返上するからダメージを受けるのは私だけになるとは思うけど…でも、それより何より…私は千冬に失望されたくないから…

 

「…もう良いじゃない、結局私は出る事に決めたしさ。」

 

「確かにそうだが…」

 

「心配しないで、もう撤回しないから。」

 

千冬にそう返す…いや、何の気無しに聞こえるように言ってるけど…正直心の中は荒れ狂ってる…千冬の待つ決勝戦には行けなくても、せめて予選は突破しないと……何かこんなに束に会いたいと思ったの初めてかも…

 

 

 

 

「■ちゃん「束!」わ!?」

 

千冬が帰った後、どうするか考えていたら突然部屋の中に束が現れた。……何か思わず抱きついちゃったよ…

 

「…ごめん…」

 

「びっくりした…突然どうしたの■ちゃん?」

 

「……それはそもそも私のセリフだよね…?」

 

まあ束が突然現れるのにはいい加減慣れてきたので特に驚く事も無い…

 

「まあ良いや。実は束に相談があってさ…」

 

「相談?」

 

 

 

「へー。■ちゃん、ちーちゃんと試合するの!」

 

「簡単に言わないでよ…剣道じゃなくてISで試合するんだよ?今の私じゃ多分、予選すら突破出来ないよ…」

 

「う~ん…そんな事無いと思うんだけど…」

 

「そんな事あるよ…私は千冬程早く動けたりしないし…」

 

「……それで?束さんに何を頼みたいかな?」

 

「……」

 

そこで私は黙ってしまった…あれ…?私は束に何を頼みたいんだろう…?

 

「別にさ、束さんは■ちゃんの頼みならいくらでも受けるよ?それこそちーちゃんに勝ちたいなら勝たせる事だって出来ると思う…これは■ちゃんの言う通りISの試合だからさ…」

 

千冬に勝てる…?でも…私は…

 

「……そんなの嫌だよ…私は…自力で千冬に勝ちたい…。」

 

無理なのは分かってる…でもやっぱり…やるからには負けたくない…

 

「うん、やっと本音が聞けた。■ちゃんならきっとそう言うと思ってたよ。それじゃあ改めて…■ちゃんは束さんに何を頼みたいのかな?」

 

「私は…」



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親友の妹に転生しました93

「■ちゃん、本当にそれで良いの?」

 

「うん。変に凝った事するよりも小細工も良い所の方が逆に私の性に合うと思うから。」

 

私が束に望んだ事は二つ…私の乗るだろうISに手を入れて、ある単一仕様能力を付ける事と、千冬に内緒で思いっ切りISの訓練の出来る環境だ。

 

「そもそもさ、私が千冬と一緒に合宿行っても間違い無く差が開いてるだろうし、合宿前にこっそり特訓するくらいは許されると思うんだよね。」

 

既に合宿行ってISを動かし、大会に出た上…誰よりも早くISに触れた千冬と、これまで一度もISを纏った事が無い私の条件が同じな訳は無いのだ。

 

「……場所を用意するのは簡単だよ?ただ…付ける能力は本当にそれで良いの?もっと使い勝手の良い能力も付けれると思うけど?」

 

「私は千冬と違って一芸特化型のワンオフはちょっとね…何か千冬は私を過大評価してるみたいだけど…」

 

「う~ん…まあ、取り敢えず分かったよ、こっちの準備が出来たら連絡するから。」

 

「うん…しばらく宜しくね…」

 

束が消えた。

 

「さて、これで取り敢えず合宿行った先でISを纏えなくて恥かく事も無くなったね…」

 

ISは女性しか纏えない。ただそれ以上にある程度の適性が無いとそもそも展開自体出来無いのだ…千冬は完全に忘れてたみたいだけど…いっそ束に連れて行って貰った先で纏えない事が分かったら気が楽に…

 

「いや、それはそれで何か凹むかも…」

 

せっかく千冬と戦う覚悟を決めたのに出られないとなったらなったで凹む…まあ、出られたところでそもそも勝ち残らないと千冬とも戦えないんだけどさ…

 

 

 

『■■、悪いが明日一夏を預かっては貰えないか?』

 

それから数日後、千冬から電話がかかって来てそう言われた…千冬はバイトを掛け持ちして遅くまで働いてるからね、今までも良く頼まれる事はあった…でもこのタイミングか…選手になっても給料として毎月纏まってお金が入って来ないから千冬はまだ多少バイトを入れてたのを忘れてたよ、えと…束が来るのは…良かった…束が来るのは明後日だ…

 

「明日だけで良いんだね?」

 

『ああ…ん?明後日からは用があるのか?』

 

「いや…あのね千冬?昔の千冬程大変じゃないけど、今は私だって働いてるんだよ?そりゃ忙しい時期だってあるって。」

 

……少なくとも学生時代、バイトに手を付けなかった私と違い、年齢を誤魔化して放課後から明け方まで仕事してた千冬よりは楽な方ではあるけど今の私は普通に社会人である。

 

『……すまん、それもそうだな…』

 

本気で申し訳無さそうな声が…いや、千冬は律儀だから電話口なのに頭も下げてるだろうね…

 

「良いよ。それだけ大変なんでしょう?それくらいで今更私は怒らないよ。で、悪いんだけど私が一夏君を預かれるのは明日だけだよ。」

 

『……何とかならないか?』

 

「何とかって言われても…」

 

まあ、実際は仕事じゃないんだけどね…一週間の休暇を取ってるし……ISの練習の為に。

 

『頼む!埋め合わせはする!』

 

……埋め合わせって言われても、実際は仕事じゃないから私も少し揺れてるけど、仕事だった場合、下手するとやっぱり影響は出て来る…一夏君しっかりはしてるけどまだ子どもだしね、家に一人で置いておくのも不安…というかその条件なら織斑家に居てもあまり変わらない気がするのは気の所為かな?

 

「分かった…ちょっと待っててね?」

 

私は一旦電話を切り、束の番号を電話帳から呼び出した…一夏君を連れて行くのを多分、束は断らない。一夏君、口は硬い方だから私がこっそりISの練習をしてる事を千冬に言わないでって言えば了承もしてくれるだろうし。



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親友の妹に転生しました94

「……どうしよう…?」

 

「う~ん…」

 

一夏君を束謹製の特殊空間に連れて来た日の午後、私は束と二人で頭を抱えていた。

 

 

 

朝、千冬が連れて来た一夏君に事情を説明し、私がこっそりISの練習してる事を黙ってて貰う事に承諾を得て、迎えに来た束と三人で私専用のトレーニング施設と化した空間にやって来た。

 

「……何か、凄いな…」

 

「私も驚いたよ…」

 

如何にも、外界とは違う、って言う感じの色々な色の混じり、歪んだ風景が窓から見える建物の中で、一夏君がそんな語彙力の無い感想を漏らした…まあ私は驚いて絶叫したからね…ホント、束といると驚く事ばかりだよ……

 

「何かごめんね…?」

 

「え?何がだよ?」

 

「突然こんな所連れて来ちゃって…」

 

「…別に良いよ、千冬姉のあの動き見たら、先に特訓しようと思って当たり前だし…別に俺は気にしないって。」

 

「でも…その間、私は一夏君の相手出来無いよ…?」

 

「大丈夫だって。俺、そんなに子どもじゃないから…束さんもいるし、後、さっき紹介された…え~っと…そうそう、クロエ・クロニクルだっけ?あの子もいるし。」

 

クロエ・クロニクル……私が初めてここに来た時に束に紹介された女の子の名前…娘だって言う束に取り乱しつつも詳しく聞いた所、彼女は所謂…試験管ベビーで軍の実験施設にいた子で失敗作として処分されそうになっていたのを束が救出したのだと言う…出自はともかく、彼女は束に良く懐いていて、二人は本当に仲の良い親子に見えた。

 

「…仲良くしてあげてね?」

 

「…何言ってんだよ■■さん。当たり前だろ?」

 

……束と相談して、一夏君には敢えてクロエの出自を詳しく話していない…でも…少なくとも束と血の繋がりが無いのは気付いていると思う…それでもそうやって言い切れる一夏君の気質を好ましく思う。

 

「…というか…何か放っておけないんだよなぁ…朝飯にあんなの出されると…本人はそれしか作れないのを本当に残念がってたし…」

 

クロエの役割は主に束の身の回りの世話…とはいえ大抵の家事を卒無く熟す中、料理だけは千冬並に絶望的に下手なのだ……しかも本人が開き直ってるなら逆に救いはあるけど…本人は大好きな束にどう見たって人の食べる物じゃない物を出す羽目になる事を本気で気にしてる…おまけに束は美味しいって言って食べるから余計に……まあ束は本当に美味しいって思ってるんだろうけど。

 

「頼むね?さてと、それじゃあ私はもう行くから…クロエの事、宜しくね?」

 

「ああ、分かった。」

 

 

 

その後、束の指示を聞きつつ、ISの練習をしていた私の元にクロエと料理の練習の合間に作った差し入れを一夏君が持って来た所で問題が起きた。

 

「まさか…一夏君がISを展開しちゃうなんて…」

 

「やっぱり不味いかな…?」

 

「……今の世の中だとちょっと、ね…」

 

私と束に差し入れを持って来た時、私が解除したISに一夏君は好奇心から触れた…そしてそのままISを展開…纏ってしまった…

 

「まだ原因は分からない…?」

 

「そもそも何で男には展開出来無いのか束さんにも分からないんだよね~…」

 

そう言って唸る束…まあ女性でも展開出来無い人も中にはいるみたいだから、ね…千冬は展開出来る訳だから遺伝子的な問題とか?

 

「束を信用してない訳じゃないけど…一夏君には本当に問題無い?」

 

「さっき調べた限りでは良好だよ~…健康そのもの!」

 

「そう…」

 

なら…後はこの一件をどうするかだよね…別に私はこうして練習してる事が千冬にバレるなら仕方無いと思ってる……私のプライドより一夏君の方が大事だし。

 

「幸い、ここは外部からは誰も見れないから…束さんとしては黙ってても良いと思うけど。」

 

「まあ、普通に生活してたら男である一夏君はISに触れる機会すら無いから、展開出来るのはバレないだろうけど…」

 

本当にどうしたものかな…こういうのって隠してても何れ何らかの理由でバレそうだしね…



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親友の妹に転生しました95

「なぁ…俺が悪いのかな…」

 

「違うよ、一夏君。君は何も悪くない……悪いとすれば、今の世の中の方だよ。」

 

そう、一夏君は悪くない…たまたまISに触れて…それが偶然起動出来てしまっただけ…

 

「最も…今の世の中だと君が文句言われるのは間違い無いね…」

 

しっかりしていてもまだ子どもの一夏君にこんな事言いたくない……でも、一夏君にも事の重大性は教えておかないと…なまじ、しっかりしてるから尚更。……クロエには……今の所伝えなくても良いかな…

 

「そもそも……何でこんな事になってるのかな?束さんには全然分からないんだけど。」

 

「女権のせいだよ。」

 

「女権?」

 

束…ニュースくらいは見ようよ…一夏君でさえ分かってるのに…

 

「女権…女性権利団体…まあ昔から良くある団体なんだけど…今は完全に組織化してるレベルだからね…」

 

「うー…全然分かんないよ!?要するにどういう事!?」

 

「……昔から声高に女性の権利を主張する人たちは一定数いたんだよ…でも、今までは黙殺されてた…どうしても世の中は男性優位から抜けられなかった。」

 

「何で?」

 

「その辺は…まあ諸説あるけどね、昔からそうだったから、って言うのが理由かな?特にこの国は一昔前は家庭内では父親か、長男が絶対で、妻や娘は口答えも許されない時代があったしね…」

 

「え~!?そんなの可笑しい「そうだよ。だから女性の権利を謳う人たちが現れたの。」ふ~ん…」

 

束…あんまり真面目に聞いてないね…まあ余談も良い所だから別に良いけど…

 

「まあ、当初は団体って程じゃなくて一部の個人が声高に叫ぶだけだったし、その後そういう人たちが集まって来てその声をその都度大きくはして行ったものの……あんまり効果は無かったみたいだね…」

 

「何で「昔からそうだからだよ、皆、元々そうだった事柄は簡単に変えたくないものなの。男性は元より、女性にも別に変えなくて良いと思っている人も一定数いたみたいだし。」う~ん…やっぱ良く分かんない!」

 

……あれだけ優秀な頭脳持っててどうしてそこで思考停止するのかな…まあ、束は嫌な事は嫌だって言うし、周りがただのワガママだと思う事もいくらでも主張するし、分からないのも無理無いかもしれないね…

 

「それでまあ…今まではいくら女性の権利を主張してもその声が取り上げられる事が無かったんだけど、ある事を切っ掛けにその声が拾われる様になって来たの。」

 

「切っ掛けって?」

 

「白騎士事件。」

 

「え?何で?」

 

「白騎士は降り注ぐミサイルから世界を守った。つまり英雄だね…その後束は発表したよね?パワードスーツIS…インフィニット・ストラトスが一体どういった物なのか。」

 

「うん「そのせいだよ」え!?何で!?」

 

「インフィニット・ストラトス…ISは女性にしか展開、纏う事が出来無い…つまり今まで戦うのは男だけだと思われていたのが、覆った……しかもその後男が乗るだろう戦闘機まで無傷で退けてる…つまりISに乗れる女は男よりも強い……力関係が逆転したと女性の多くが思ったんだね…次いで、男性の方は女性を怒らせたらただでは済まないと思った…そして、最終的に蔓延したのが今の世論…かつて言われた男尊女卑に次ぐ女尊男卑。」

 

「え~!可笑しいよそんなの!確かにISは女の子にしか乗れないけど、皆が乗れる訳じゃないんだよ!?」

 

「女性なら乗れる、って言う不文律があれば良いんだよ。女はISに乗れるから、女である自分は男より優れた生物である、男は女の奴隷になるべきだって過激な思想が蔓延してる……実態は一般的な普通の女性がただそう思っただけではあるけど。」

 

実際、千冬曰く前回の大会で、ちゃんと訓練してISに乗って大会に出たと思われる人たちは女尊男卑に染まってる様子は無かったそうな……まあ前回までだろうけどね…次からは染まってる人たちも現れると思う…それに…

 

「千冬ね、大会の運営してる人たちに言われたんだって、弟の事を口に出すな、って。」

 

「え~!?何なのそれ!?」

 

「ISに乗れるのは女性の中でも優れた人たち…だから男の事を口にするなんて許されないんだってさ…」

 

「む~!分かった!なら、いっくんの為に束さんが「何をする気か知らないけど…止めた方が良いよ、束」何で!?■ちゃんはいっくんが虐められても良いの!?」

 

「今の世の中で女尊男卑に染まってない女性を探す方が難しいからね…束、何億の女性を殺す気なの?」

 

束は身内と認めた人以外に興味は無い…それ以外は全て他人以下…有象無象でしか無いのだ…そして有象無象が身内に手を出すなら多分束は……殺せる…一人残らず。

 

「全部だよ「やったら世の中は滅茶苦茶…一夏君も、千冬も…多分クロエや束の妹の箒も…そして束自身も…誰も生きては行けない…」っ!じゃあどうすれば良いのさ!?」

 

「分からないよ、私には…」

 

ホントどうしたら良いのか…何でこんな世の中になったのかなぁ…もちろん白騎士…千冬が悪い訳じゃなければ、ISを作った束が悪い訳でも無い……増してやISを展開してしまった一夏君が悪いなんて事は無い…悪いのはこの世の中の方…でもそれをいくら言っても変わらないだろう…

 

「何かヒートアップしてる所悪いんだけどさぁ…今してたのは俺がISを展開してしまって、どうするかって話じゃなかったっけ?何で世の中がどうのって話になるんだよ?」

 

「ん?あー…ごめん、そうだったね…」

 

脱線した上、話を飛躍しすぎたね…

 

「そもそも何も無かったって事にすれば良いんじゃないか?別にこの先、生活してる分には俺はISに触れる機会無い筈だし。」

 

「あー…うん、そうだね…」

 

「■ちゃん、束さんは初めにそう言わなかった?」

 

「そうだね…」

 

結局それが最良か…うん、今はそれで良いや…何れバレそうになったらもうその時考えれば良いや…何か…疲れたし…



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親友の妹に転生しました96

『そうか…一夏がISを…』

 

三人での話し合いが済んだ後、私は兄に電話をかけていた…

 

 

 

本来この一件、どう考えても電話をするなら千冬が先だと思う…でも…

 

「それで?共同開発者としてはどう思うの?」

 

『……何度も言うが、私は精々、一言二言助言しただけなんだが…』

 

そう、私が中学に入る頃にはすっかり私と兄はろくに口も聞かなくなっていたが、ちょうどその頃…束はずっと私の兄と連絡を取っていたらしい…何をしていたのかと言えば…

 

「束曰く、『理論の四割くらいは■くんが口出ししてるよ~』って聞いてるけど…」

 

頭が良いのは知っていたけど…まさかあの束の超理論を理解して、助言出来る程に自分の兄が天才だとは思ってもみなかった…

 

『…彼女は多少理論に穴があっても無理矢理進めようとするからな…お前の友人という事もあるし、そのままにもしておけず少し口出ししただけなんだが…』

 

「じゃあ完成させるとも思って無かったとか?」

 

『…いや、それは無い。私が仮に何も言わなかったとしても彼女は何れ完成に漕ぎ着けていただろう。彼女はそれだけの頭脳と情熱があった…私はどうしても打ち込める物が無かったからな、少し羨ましくもあった。』

 

「……勉強は?」

 

『別に好きだった訳じゃない。他にやる事が無かったからな。』

 

やる事なんて…探せばいくらでもあったでしょうに…まあ、だから一流企業の推薦蹴って、普通の会社に入るとか、反動で捻くれた行動取ったんでしょうけど…

 

『で、私の昔話をしたい訳じゃないだろう?』

 

そうだった。

 

「私が聞きたいのは兄さんの意見。何で一夏君がISを動かせたのか?それだけ聞きたいの。」

 

電話口で唸る声が聞こえる…この人がこんなに悩むなんて…

 

『…そもそも、宇宙空間で活動する為だけに作られたスーツが女にしか動かせない、という時点で欠陥品だろう。バランスを取ろうとしたのかもしれんな。』

 

「……は?」

 

兄は昔から言葉足らずというか、抽象的な表現が多い…その訳分かんなさが一時期距離を置いた理由の一つだったりする…後は千冬の事に関して中学生の私に『襲え。若しくは誘惑しろ(要約)』とせっついて来るから……まあ、それでも高校卒業する頃には和解した…両親がフランスに行っちゃったから…そういう理由もあるかもしれないけど。

 

「それは…もしかしてISに意思があるって言いたいの?」

 

『私はそう考えている。まあ、何故女性ばかりを選ぶのかは知らんが。』

 

「兄さんも展開出来ないもんね。」

 

『まあな…動かせる様なら私も一夏の相談に乗ってやれるんだかな…』

 

「……」

 

全力で止めた方が良い気がする…正直何を言い出すか…両親が向こうに行って以来、千冬や束に言えない事は兄に相談して来たけど基本真面目で、的確なアドバイスをしてくれたりするけど、時々真顔で斜め上の事を言って来るから…特に千冬と私の関係については酷い…聞いてもいないのに勝手に言及して来て、多少内容が変わっても結局は先の二択しか言わない。

 

……そろそろ良い歳なんだから自分の事考えたら良いのに。

 

『ところで、お前たちはこの事を黙っておくつもりの様だが…』

 

「やっぱり不味い?」

 

『当然だ…少なくとも姉の千冬には伝えるべきだ…お前の事だ、今更ISの練習をしていた事がバレるのは仕方無いと割り切ってるんだろう?』

 

「……私たちが黙っていても貴方が伝えるよね…?」

 

『ああ…だが、私はお前の口から伝えるから意味がある…そう思っている…』

 

「……分かった、ありがとう…忙しいのにごめんね?」

 

『気にするな、妹からの相談事だ…増してや一夏も私の弟分だからな、迷惑だとは思わん…何かあったら夜中でも良い、何時でも電話して来い。』

 

「うん、じゃあね。」

 

携帯のボタンを押し、電話を切る…

 

「どうだった?」

 

「兄さん曰く、IS自体の意思じゃないかって。束はどう思う?」

 

「それは…ISに本当に意思があるかって事…?う~ん…作った時はそんな風には感じなかったんだけど…後でコアネットワークを調べてみるよ。何か痕跡があるかもしれないから。」

 

ISはコアが中枢で、コア同士は相互通信出来る様になっている…これによってIS同士が通信出来たり、他にも色々出来るらしいけど私にはそれ以上は良く知らない(説明されたんだけどあんまり理解出来なかった)束は設計者だから当然ここに外部からアクセス出来る。

 

「でもやっぱり■くんは頼りになるね♪」

 

「そうなの?私からしたらただの変人だけど…」

 

「そう言いつつ、■ちゃんも色々相談したりしてるでしょ?」

 

「まあ…確かに…」

 

まあ…たまに変な事言うけど、基本的には真面目な人だし…

 

「そう言えば…一応聞いてみてって、頼んだの束さんだけど…良かったの?」

 

「何が?」

 

「いや…だって■くん、絶対にお父さんとお母さんに言うよね…?」

 

「あっ!?」

 

ヤバい!

 

「……一旦家に帰る?」

 

「そうする…」

 

一夏君を千冬共々、兄と私に続いての自分たちの子供の様に思っているウチの両親は今回の一件を知ったら絶対にフランスから私の部屋に来る…一応兄に電話して止めようとしたけど話し中だった…多分もう連絡してるね…両親の来訪をもう止められないと判断した私は取り敢えず自分の部屋に戻る前に千冬に連絡する事にした…兄さん…せめてもう少し待ってくれたら…これじゃあ私に選択権無いじゃない…



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親友の妹に転生しました97

束はウチの両親を苦手にしている…束のイメージでは親と言うのは上から押さえ付けるのが普通だと思ってるから(柳韻さん、今はやり方を間違えたと後悔してるんだけどね…)

 

だから…多少法に触れたぐらいじゃ絶対に怒らず…夢を全力で応援し、内容を興味津々で聞いて来るウチの両親は昔から天敵な訳で…

 

『■ちゃん、何とかしてよ…!』

 

「……ごめん…無理…」

 

「ほら、出て来なさい束ちゃん…私は別に怒ってないから。」

 

…姿を隠したまま小声で私に助けを求める束を私は見捨てるしか無かった……大体、母さんは何で姿を隠してる束の事が分かるの…

 

「あの…■さん…束さんがいるの分かるんですか…?」

 

一夏君が母さんに恐る恐る確認する…

 

「ええ、もちろん分かるわよ。」

 

あっけらかんと答える母さんに開いた口が塞がらないという態の一夏君…私は以前見破ったのを知ってるから特に驚きは無いんだけど…というか、父さんはニコニコしてないでいい加減母さんを止めて欲しい…このままだと返って束は出て来る気が無くなるし、このまま私の部屋の家探し始めそうだから…

 

早く兄さん来ないかな…千冬はまだ来れないって言うし…後、他にあの人止められるの兄さんしかいないのに…

 

結局、一時間程してやって来た兄さんのお陰で漸く母さんの暴走は止まった…元々天然の気があるせいか、人が入るスペースの無い食器棚開けて呼び掛けるとかとんちんかんな行動取ってたけど…その足元で束が戦々恐々してたり(私は束が渡して来たコンタクトレンズのお陰で何処にいるのか分かる)

 

いるのは分かっても具体的な座標は分からない筈なのに何度かニアミスしてるのが本当に恐ろしい…父さんに至っては母さんを見守ってる振りしてちゃっかりずっと束のいる方をチラチラ見てるし(場所分かってるならさっさと教えて止めて欲しかった…)我が両親ながら本当にとんでもない…

 

 

 

「それで束ちゃん、どういう事なの?」

 

「……」

 

母さんが笑顔で問いただす…特に威圧とかは込められて無いんだけど…束は母さんが苦手だから、完全にビビってるね…束に親の様に接するのはアウトだと知ってる筈なんだけどなぁ…

 

「母さん…それじゃあ束を責めてるみたいだから…」

 

「あら?ごめんなさい…そんなつもりじゃなかったんだけど…」

 

「彼女は干渉されるのが苦手な様だからな、母さんのやり方だと逆に萎縮するんだよ。」

 

兄さんが私に続いてフォロー入れた事であからさまにしょぼんとする母さん…それなりに年齢行ってる筈なんだけど見た目が異様に若いからそんな仕草も妙に様になってる…

 

その後さめざめと泣き始めた母さんを私と兄さんに束、それから一夏君とクロエまで加わって宥める羽目に……だから父さんは娘の部屋のソファで置物やってないで少しは手伝ってよ!この状態の母さん宥めるの大変なんだからさぁ!



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親友の妹に転生しました98

母さんのせいで無駄に疲れたリしたけど…最終的に今回の一件は放置される事が改めて決定した…まあ、確かに今の所は大騒ぎしたって仕方無いし。そして…今は兄さんと束が一夏君だけが何故ISを展開出来るのか意見を出し合い始め、母さんは一夏君とクロエの三人を連れて夕食の買い物へ…

 

というか結局父さんはこのまま放置なの?荷物持ちでもさせたら良いのに。そんな中、束と兄さんの会話は専門用語が飛び交い、何時の間にか私ではほとんど理解出来無いレベルに…とは言え、やる事が無くて暇な私も自然と思考がそっちに…そんな私の中で何となくこれじゃないかって可能性が一つ浮かんでる…ISに本当に意思があるのかは別にして、女性と男性を識別してるのは確かな事実…なら非常にシンプルな答えが浮かんで来る…

 

即ち、一夏君の方に原因があるんじゃないか、って事。…いや、別に悪い事したとかじゃなくて、一夏君にISが女性と誤認する何かがあるんじゃないかって。……まあ確証は何も無いけど…そう言えば…本当に束は何でISが女性しか展開出来無いのか分からないんだろうか…?もしかしてもう気付いていたり…

 

「■ちゃん…?」

 

「わ!?…どうしたの、束?」

 

何時の間にか束の顔が目の前にあって思わず後ずさった…

 

「どうしたの、はこっちのセリフだと思うけど…いや、さっきから黙ったままだったから気になって…」

 

「…ちょっと考え事…束は兄さんとの話は終わった?」

 

「終わったと言えば、終わったかな…■くん、仕事が残ってるとか言って今さっき、帰っちゃったんだよね…」

 

「え…帰った…?」

 

帰るなら一言くらい声掛けてくれればいいのに…本当に良く分からない人…

 

「それで、何考えてたの?」

 

「……」

 

…まあ当然か。何だかんだ束は抜け目無いし…

 

「暇だったからね…私の方も何で一夏君がISを動かせるか考えてたんだよ…」

 

「それで、■ちゃんは何か浮かんだ?」

 

「……私の意見聞いても参考にならないんじゃない…?」

 

「そんな事無いって!話してみてよ!」

 

「単純な話だよ?仮に本当にISに意思が有って、女性のみを選んでるって場合に基づいての話…」

 

「うんうん!それで?」

 

「二人はISの方についての話ばかりしてたみたいだけど…そもそも一夏君の方に原因があるんじゃないかと思ってさ…」

 

「原因?」

 

「…別に一夏君が悪いとかじゃなくてね、ISが女性と男性を識別するのに必要な要素…それがたまたま一夏君に含まれてたんじゃないか、そんな風に思ったの。」

 

「ふ~ん…それだけ?」

 

「え…それだけって…?」

 

「そこまで行ったなら他に思った事あるでしょ?」

 

「……」

 

言いたくは無い…私はさっき束疑っていたのだ…束は既にISが女性しか展開出来無い理由を知ってる、もしくはそれが束の仕込んだ機能で…どちらにしてもこの状況は束が仕組んだ事じゃないかって…

 

「…別に無いよ、私が思ったのはそれだけ…参考になりそう?」

 

「…うん!そうだね、実は束さんもいっくんは健康状態に異常が無いか調べただけだから、詳しくは調べてないんだよね…ありがとう!十分参考になったよ!」

 

急に笑顔を向けて来る束に不安を感じる…束、本当に何もしてないよね…?これは、私の考え過ぎなんだよね…?

 

「そう…一夏君を検査するなら私も協力させてね?」

 

私から言い出して何もしないのは何も知らない一夏君に悪いし…私だって動かせる女性のサンプルにはなるはず…それに束に全部任せるのは…やっぱり疑いが消えない…

 

「うん!ありがとう、■ちゃん!」



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親友の妹に転生しました99

母さんは帰って来ると買ったものが入った袋を持って一夏君とクロエを連れてキッチンに立った。

 

……それにしても、あの袋…

 

「…多い様な「そうでも無いんじゃないか?少なくともお前がいるんだから」……」

 

ついさっき漸く私の部屋に着いた千冬に言われ、そう言われ、少し凹む…自覚無い訳じゃないけど、改めて指摘されるとちょっとね…

 

「…ちなみに千冬としてはどう思うの?」

 

「ん?何がだ?」

 

…落ち込んでても仕方無いし、流れを変えようと思って千冬に今回の事について話を振ってみたけどそんな返事が返って来た…んん?あっ、そっか…

 

「ごめん…今回の一夏君がISを動かした件についてね…」

 

「…それか。何だ、お前も束に似て来たのか?私はエスパーじゃないんだから主語が抜けてたら何の事だか分からないぞ?」

 

千冬にそう指摘され、また落ち込む…もちろん束に似て来たって言われたから凹んだ訳じゃないけど。

 

「うっ…だからごめんってば…」

 

「…それで私の意見か?そう言われても私も今は静観するしかないだろうと思っている。」

 

「千冬としてもやっぱりそう?」

 

「…ISのメカニズムについては私も未だに理解しきれない部分があるからな…無論、不本意ではあるが。」

 

「まあ、製作者側の兄さんですら今回の事は分からないって言うしね…」

 

「…幸い、今の所は特に害になる事も無いからな…」

 

取り敢えず、私と千冬の話は特別進展みたいな物は無く終わった…まあ、千冬は勉強は出来る方だけど脳筋な所があるしね…

 

…それにしても…私はチラッとある方向に視線を向ける…そこには自発的にこの場にいる全員の食器を並べ、一人で席に着きながら母さんたちが料理してる所を笑顔で見詰める束がいた…今の話が聞こえてなかったとは考えにくい…この部屋はそう広くないし、でも口出しして来そうな束は別に何も言って来なかった…う~ん…

 

「どうした?」

 

考え込む私に気付いたらしい千冬が声をかけて来る。

 

「何でも…いや、そうだね…ちょっとこっちに来てくれる?」

 

「ん?」

 

千冬の手を引いて寝室まで連れて行く…こんな時でも無ければドキドキするシチュエーションだったのかもね…まあ、千冬はこの部屋に泊まった事もあるから今更だったりするんだけど…

 

「…どうしたんだ?」

 

「今回の事なんだけど…私は束を怪しいと思ってるんだ…」

 

「…束が?」

 

「…束なら、本当は何でISが女性にしか動かせないか気付いてても不思議じゃないし…」

 

束がそもそもハナから女性にしか動かせない様に造った可能性については話さない…確証が無いし…もちろん今の話だって仮説に過ぎないけど…

 

「つまり、今回の件は束が仕組んだと?」

 

「うん…でも、悪意があってした事じゃないとは思うけど…」

 

「……今の世の中を見る限りではISを動かせる事はどう考えても一夏の不利益にしかならないが、何かメリットがあると言うのか?」

 

「それは…分からないけど…でも束だし…」

 

束はどちらかと言うとその辺、どうにも考えが甘い所があるのは否めない…私も千冬も長い付き合いだから分かる事だけど…

 

「…どちらにしろ、今は様子を見るしかないだろう。取り敢えず今の話は頭の片隅にでも留めておく。」

 

「うん。」



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親友の妹に転生しました100

束に悪意が無い…と言うのは私がそう思いたいだけで、私の単なる願望でしかない。結局何を考えているのかは束本人しか分からない…

 

問いただそうと思ったりしたけど、束の場合、余りプレッシャーかけると逃げてしまう可能性がある…問題を先送りにはしないけど、結果を出した上で姿を消す。それが束のやり方なのだ…それはもうISの一件で良く分かってる…

 

「■ちゃん?どうしたの?手が止まってるみたいだけど…」

 

「!…ごめん、母さん…」

 

母さんに声をかけられて我に返る…取り敢えず今は目の前の事に集中しよう。私は箸を持つ手を動かした。

 

「…何を悩んでたのか知らんが、食事の時は集中した方が良いと思うぞ?」

 

「そうそう。■■さん、そそっかしいから集中してないと何かやらかしそうだし…」

 

私の両サイドに座る千冬と一夏君がそう言って来る…

 

「…二人して酷くない?」

 

「…普段の自分を考えてみれば私たちの言ってる事も正しいと思えないか?」

 

う…確かに…それ以上反論出来なくなった私は取り敢えず卵焼きを口に運ぶ…あれ?これ…

 

「それは私が作った物です…あの…口に合わな「ううん、大丈夫。美味しいよ。」……良かった。」

 

クロエが作った奴だったんだ…細かい所を言えば、ちょっと味が濃すぎる気はしたけど、もちろんそんな事を口に出したりはしない。

 

「クーちゃんは料理上手だもんね♪」

 

「……束様…」

 

「あれ?どうしたの…?」

 

束にそう言われてクロエが落ち込み始めた…いや、だってねぇ…

 

「束、お前なぁ…」

 

「え!?束さん何かした!?」

 

「…なぁ、クロエ、この際、良い機会だからはっきり言った方が良いと思うぞ。」

 

「私は…」

 

「大丈夫だよ、クロエ。束ならちゃんと分かってくれるから。」

 

「そうでしょうか…?」

 

まぁ多分今日初めて言う訳じゃないんだろうけど…こうやって他の人がいる中で、改めて伝える分には効果はあると思う。

 

「うん、大丈夫。」

 

「…分かりました…束様。」

 

「え?何?どうしたのクーちゃん?」

 

「束様…前にも言いましたが、私は料理は不得手です。」

 

「え!?そんな事「お前は少しは空気を読め」痛っ!?何するのさちーちゃん!」

 

クロエの発言を否定する束の頭に千冬がチョップを落とす…拳骨じゃないだけ加減してる方だね…全く…千冬がやらなかったら私がやってたよ…まあ私の位置からだと届かないけど。

 

「…私はいつも束様に、美味しく、栄養のある物を食べてもらいたいと思っています…でも…私には出来ません…」

 

そこで私は横に座る一夏君をつつく。

 

『ん?何?』

 

小声で聞いて来る一夏君に私も小声で返した。

 

『クロエ、結局料理に関してはどうだった?』

 

『…大丈夫。多分、一人でゼロからいきなりやろうとしてたから上手く行かなかっただけだよ…教えてくれる人がいたら直ぐにでも上達するよ。覚えも早かったし。』

 

『そっか…良かった。』

 

視線を束たちの方へ移せば束が泣きながらクロエを抱き締めている光景が目に入る…そんな束を見ながら私は思う…娘の為にこうやって涙を流せる程優しい束が、悪い事を考える筈が無い、と。



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囚われの殺人貴1

「……」

 

ページを捲る…悪くない…手持ちの本を読み尽くしてしまい、適当に普段読まないジャンルの本を注文したが中々どうして…面白い。作者の名前を確認する…ふむ、次からはこの作者の本を買い求めてみようか。

 

「おい志貴!これから将棋でもしようと思ってるんだが、お前も参加しねぇか!?」

 

そんな声が聞こえ、俺は本を閉じ、そちらに顔を向けた。

 

「良いですね、やりましょうか。」

 

本を仕舞い、俺がそちらに向かおうとした時…

 

「521番!遠野!」

 

部屋の外から呼ばれたので俺はそちらに顔を向けた。

 

「はい?何でしょうか?」

 

「面会だ。」

 

看守にそう言われ肩を竦め、さっき声をかけて来た同房の囚人の方を向いた。

 

「すみません、先に始めててください。」

 

「おう!分かった!」

 

「行くぞ。」

 

「はい。」

 

看守に促され、部屋を出る…やれやれ…恐らくまたアイツだろうな…今日はせっかく作業が無かったというのに…

 

「面会に来たのは誰でしょうか?」

 

先を歩く看守にダメ元で聞いてみる事にする…他に可能性は無いとはいえ、出来る事なら違う奴であって欲しい物だ…

 

「…妹さんだ。」

 

そう言われ、盛大に溜め息を吐く…普通こんな事を看守の前ですれば叱責物だが、今日は免業日だし、この人は俺の事情を多少なりとも知っているから苦笑する程度で収めてくれるだろう…

 

「…そういう反応をするな。お前からしたら他人かもしれないが、向こうはお前の事を想ってくれているんだぞ?」

 

「…すみません、それは分かるんですが…」

 

「私は良く分からないが、記憶そのものが無い、という訳じゃないんだろ?」

 

「ええ…ただ、俺にはどうしてもそれが自分の記憶だと思えないんですよ。」

 

今まで生きてきた軌跡…脳裏にあるそれが自分の記憶だと認識出来ない…他人の生涯を記録として見ているのと何も変わらない。

 

「家族であるという実感が無い以上、俺は彼女に他人としての反応しか返すつもりはありません。記憶があるからって彼女の兄としての自分を演じるのは、彼女の為にも良くないし、俺もしたくありません。」

 

「お前がここから出るには彼女の力を借りる必要があるぞ?」

 

「それは前にも言ったでしょう?俺は…ここから出るつもりはありません。俺は…」

 

「まあ意固地になる事も無いだろう。とにかく向こうは遠い所をわざわざ来たんだ…ここにいるのは皆、身内がいないか絶縁状態になってる者が多い…お前は恵まれているんだぞ?」

 

「…分かってますよ、嫌になるくらいには。」

 

彼女が俺に会い自分や、自分の所にいる従者二人、それからかつての俺の友人の近況…そんな話を早々に打ち切り、俺の方から拒絶の意志を示す度見せる…彼女の顔が…俺に罪悪感を抱かせる…

 

「なら、少しは彼女の話だけでも聞いてやれ。お前が彼女の話を遮ってその度に彼女が顔を曇らせているのは分かってるだろう?」

 

「俺みたいのに関わる必要も無いでしょう?さっさと諦めれば良いんです。」

 

そうだ…俺に構う必要は無い…俺は…人殺しなのだから。



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囚われの殺人貴2

看守に促され、部屋に入る…アクリル板の向こうにすっかり見慣れた顔があった…黒く長い髪にカチューシャが特徴の少女、ではなく女性…遠野秋葉…俺の妹だと言い張る女が椅子に座っている…

 

「兄さん、お久しぶりです。」

 

「……ああ。」

 

笑顔で話しかけて来る彼女に気後れしつつ、返事をする…

 

「調子はどうですか?ちゃんとご飯食べてます?」

 

「ああ。ちゃんと三食出てるし、食べてるよ…最近はあまり貧血も出ないんだ。」

 

「そうですか、良かった…それで今日「秋葉、前置きは要らない。時間が無いからさっさと用件を言ってくれ。」…はい…兄さん、屋敷に戻って来て貰えませんか?」

 

「断る。俺は戻る気は無い。」

 

「兄さん…」

 

「今更俺が戻って何か変わるか?遠野家の当主はお前だろう?…学生の時のあの頃とは違うんだ。」

 

「私たちは…家族なんですよ…?」

 

「違う。俺たちは他人だ、血だって繋がってない…俺は、遠野の人間じゃない。」

 

「…なら、他人でも良いです…私は兄さんの事を「お前の気持ちに答えるつもりは無い…もう帰れ。」貴方はここで…一生を過ごすつもりなんですか!?」

 

「そうだ。俺はここを出ない。」

 

「……良いでしょう、分かりました…兄さんがそこまで言うなら私にも考えがあります…!」

 

「遠野家の力はここでは及ばない…何をやっても無駄だよ、秋葉。」

 

「…今日は帰ります…でも…私は諦め「秋葉」ッ!」

 

俺は眼鏡を外し、秋葉を睨みつける…口に出せばこの後俺は懲罰を食らうからな、だがこれだけで伝わる筈だ…今この場で俺はお前を確実に殺す事が出来る、と。

 

「帰れ、もう二度と来るな。」

 

そう言うと、眼鏡をかける…視界にあった線が見えなくなる…くそっ…!頭痛がする…!

 

「ッ!すみません…もう面会終了にして下さい…」

 

俺は後ろを向き、見張りとして立っていた看守に言った。

 

「…まだ時間は残っているが…」

 

「体調が悪いんです…」

 

「……確かに顔色が悪いな…分かった…ではこれで終了としよう…そちらも良いですか?」

 

「はい…」

 

「行くぞ、遠野。」

 

「分かりました。」

 

俺は席を立ち彼女に背を向けた。

 

「兄さん!」

 

足を止める。

 

「私は…諦めませんから…」

 

「……じゃあな。」

 

俺は看守の開けたドアから外に出た。

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

「はい…だいぶ良くなって来ました…」

 

「一応医務室に寄って「いえ、大丈夫です…何時もの頭痛ですから」しかし…」

 

「本当に大丈夫ですから…」

 

「分かった…部屋に戻るぞ。」

 

「はい…」

 

看守の後につき、部屋まで歩く…遠野秋葉…あいつは大体、月に一度のペースでやって来る…俺を屋敷に連れ戻す為に。……前の俺があの屋敷での生活をどう思っていたかは知らないが、”俺”はあんな生活はごめんだ…同じ籠の中にいるにしてもここの方が断然良い。

 

あいつは家族だの何だの、俺に言ってくるが、心が動く事は無い…そんな中身の無い説得は響かない。結局あいつは俺をただ、自分の手の届く所に置いておきたい、単に囲っておきたいだけなのだ。そこに俺の意思は介在していない。



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囚われの殺人貴3

あれから数日後、俺はまた面会室に向かっている……ただ、今回は事情が少々異なる。

 

「久しぶりですね、遠野君?」

 

「どうも…シエルさん。」

 

刑務所には教誨師と呼ばれる人物が良くやって来る…まあ簡単に言えば宗教家だ…日本は他の宗教に比べて仏教が広く浸透してこそいるが、本気で信奉してる奴はそう多くは無い…が、刑務所、という特殊な場所柄故か、ここでは本気で信者になろうとする者が一定数出て来る

 

……とはいえ、別に俺は宗教に傾倒しているわけじゃない…ましてや目の前にいるのは教会の関係者、仏教でさえ本気で信じている訳じゃない俺には無縁の相手だ…本来なら。

 

「昔みたいに先輩…って呼んでくれても良いんですよ?」

 

「公私は別けるものでしょう?第一、そう呼んでいたのだって学生の頃の話だ。」

 

「そうですか…」

 

聖堂教会の始末屋…具体的に言えば人に害成す者…死徒等の化け物、あるいは人には過ぎた力を持ってしまった異端者を神に代わって裁き、狩る者…代行者。それが目の前の女、シエルの肩書きだ。

 

「で?よりにもよって就寝前に何の用ですか?面会時間はとうに過ぎてますけど?」

 

俺は後ろを向く…見張りの看守すらいない…高々教誨師にそこまでの権限があるのか?

 

「遠野君とちょっとお話したくてですね、ちょっと二人きりにさせてもらいました…後、この時間にしたのは他の人に話を聞かれないように、と思いまして。」

 

「俺は別にそこまでして聞いて欲しい話はありませんけどね…」

 

教誨師と話すのは大抵の場合、自分がしてしまった事の許しが欲しいから…その罪の重さを少しでも軽くしたいと宗教に救いを求めるのだ…教誨師は話を聞き、神に代わって許しを与え、死後の安寧を約束する……俺はそんなのはごめん被る…ここは長期刑の奴が多く長く一人で苦しんで来た奴が多い…そんな連中が救いを求める事を俺は否定しない。

 

だが、俺はいらない。これは俺の罪だ…誰にも勝手に終わらせない。俺が、一生背負って行く……許しも、ましてや救いなんて絶対いらない。

 

「分かってますよ。私が一方的に遠野君と話したいだけです。」

 

「それは仕事じゃないですね…人払いまでして一体どんな話がしたいんですか?」

 

「……私はですね、今日は生意気な後輩と昔話をしに来たんですよ。」

 

「……明日も早いんで房に帰って寝ても良いですか?」

 

今更他人同然のかつての自分に関する話など聞きたくは無い…大体、明日は平日、朝から作業がある…

 

「ダメです♪」

 

「……アンタにそんな事言う権限は無いでしょ?じゃ、俺は帰りますから。」

 

席を立ち、後ろを向く…ドアに手をかけ「あっ、言っておきますけど一時間は開けて貰えませんよ?」

 

「チッ…!」

 

この女…!俺は仕方無く席に戻ってシエルを睨み付けた…見張りはいないがカメラはある…あんまり迂闊な事は出来ない…この女は性格悪いからな、これ以上突っぱねると面倒な事になりそうだ…大人しく話を聞くとするか。



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囚われの殺人貴4

「いやー、どうしても長くなって「もう良いでしょう?とっくに一時間なんか過ぎてる筈です」……遠野君、この部屋に時計はありませんよ?」

 

「ここに入って長いんですよ。最早体感である程度時間は分かります…が、どうやら開けられる様子は無さそうですね。ドアの向こうに気配がありませんから。」

 

「……」

 

「本題、入ってくださいよ。本当は何の話をしに来たんですか?」

 

「…もう少し、遠野君と普通のお話がしたかったんですがね…分かりました…ではお聞きしましょう。遠野君?貴方のその記憶を自分の物として認識出来ない症状、何が原因ですか?」

 

「……」

 

「どうしました?答えられま「事故ですよ、単なる事故。」…仮に消えてこそいないものの、記憶に障害をきたしているそれは単なる事故には当てはまりませんよ?」

 

「それは…別に良いでしょ?被害にあった俺が単なる事故と言っているんですが。」

 

「遠野君、いまこの部屋のカメラは停めてもらってます。」

 

……この女、何でここまで自由に出来るんだ?

 

「話してくれませんか?」

 

「……カメラが停めてあろうがどうだろうが…俺の答えは変わりませんよ。」

 

「そうですか。」

 

「話は終わりですか?なら、さっさと連絡取って開けて貰えますか「最後に一つだけ」…分かりました、何ですか?」

 

「アルクェイド。」

 

背筋に冷たいものが走る…

 

「…秋葉さんから聞いた所、貴方はここに来る前の時点で遠野家を出ていたそうですね、それはつまり彼女を選んだ、という事でしょう?」

 

「……」

 

「最後に聞かせてください、貴方は何故一人でこんな所に「答える義理はありませんよ」……何となく、そう言うんじゃないかと思ってました。」

 

彼女が携帯を取り出した。

 

「もしもし…ええ、終わりました…はい、失礼しますね。」

 

「今日の所は帰ります「もう来ないで欲しいんですがね」そう悲しい事言わないでくださいな、次は聞きませんから。」

 

「何度も言うように今の俺にとってアンタは他人です、会っても何の感慨もありません。」

 

「それでも…私は会いたいです…秋葉さんも同じじゃないですか?」

 

「恋愛感情も独占欲も…色々ドロドロしたものがごっちゃになって自分でも整理のついてない女なんて真っ平ですよ。」

 

「奔放な吸血鬼に振り回されるよりは楽かと思いますけど?それとも私が良いですか「アンタだって嫌ですよ。」じゃあ今の遠野君が好きな女の子ってどんな子ですか?」

 

「……俺の過去を気にしない、触れて来ない歳上の女性なんて良いんじゃないですかね。」

 

「あ♪歳上が良いんですか♪なら私「アンタさっきから俺の過去をほじくり返してただろ?死んでもゴメンだよ」あ~あ…ざ~んねん。 それじゃあお迎えが来たようなので帰りますね?」

 

そう言った所でドアが開き、看守が声をかけて来て俺は椅子から立ち上がり、背を向けた。

 

「遠野君?」

 

俺は足を止めた。

 

「またゆっくりお話しましょう?」

 

「……」

 

俺はドアの外に出た。



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囚われの殺人貴5

「チッ!お前!こんな所で本気で一生を過ごす気かよ!?」

 

「ああ、本気だよ。…やっと手に入った平穏な生活だ…邪魔しないで欲しいな。」

 

 

 

この刑務所は年齢層が比較的幅広い…まあ突き詰めれば多分何処も似た様なもんなんだろうけど…より具体的に言えば、基本は二十代の若者から最年長は八十五の爺さんまでいるんだ…そんでこれだけ差がある中、他の刑務所もそうだが、受刑者の不満を減らす為に定期的に行事が行われている…そして今、行われようとしているのが最も盛り上がる行事だ。

 

 

 

「ふー…」

 

「……頑張るのは良いですが、あんまり無理しないでくださいよ?」

 

俺は横で屈伸をしている爺さんに声をかける…年に一度しかない行事の中でも特に人気があるのでこの運動会で、年齢層こそ幅広いと言ったが、実は比較的若い奴の方が圧倒的に多く、高齢者は人数が少ないので年齢毎に別れての競技は必然的に不可能…だから若いのに混ざって高齢者が一緒に走る…で、俺の横で張り切って屈伸やってるのがさっき言った八十五の爺さん…てかこの爺さん普段は所内を杖着いて歩いてるんだが…俺もいよいよ見慣れては来たがまだ慣れない…

 

……刑務官も苦笑いするだけだが…正直怪我されても困るし、見てて落ち着かない…っ!

 

「…志貴、今回はお預けだな。」

 

「…まあ、良いじゃないですか。これも運動みたいな物ですし。」

 

刑務所内に響き渡るサイレンの音…火事、ではなくこれは脱走者が出た合図だ…ここは特殊な事情を抱える受刑者が多く外出も基本的に出来無い…基本、房内が生活基盤にならざるを得ない俺たちが仮に脱走するとしたら…実はこのタイミングしか無かったりする…で、何故これを俺が運動と言ったかだが…

 

「…つってもお前らしか走らねぇじゃねぇか。」

 

「…どうせ一人じゃないでしょうし、連中も気が立ってる筈ですからね…怪我でもされたらこっちは寝覚めも悪くなりますから。」

 

ここは刑務官の数が少ない…だが、不思議な程ここは秩序が保たれており、普段は運営上は余り問題が無かったりする…とはいえ、人数が少ない以上、こういう有事の際は俺たちの様な若い受刑者にもお鉢が回って来るのだ…今回の役目は脱走者の確保になるだろうな…

 

「ほら、大人しく房に戻ってください。」

 

「ふん。ヘマすんなよ。」

 

……俺もお人好しの方かもしれないが、そこを差し引いても不思議とこの爺さんに怒る気になれないんだよな…それは俺の同房の他の奴や、刑務官も同じだろうな…おっと、刑務官が呼んでる…さっさと行くか。

 

 

 

 

で、持ち場を決められて待ってたら、早速やって来た奴がいた訳だ。

 

「…つーかここ、外にこそ出れないが、割とルールも緩いし、そんなに悪くないと思うが「うるせぇ!そこをどけ!」……」

 

こいつ入ったばかりの奴か…なら、キツいかもな…ま、同情はしないが。

 

……殴りかかって来たそいつの頭を蹴飛ばして昏倒させながら俺はそんな事を考えた。



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囚われの殺人貴6

「すまない、助かったよ。」

 

「いえ、気にしないでください。」

 

あの一件の後、俺は刑務官の一人に連れられてやって来た所長室で俺は所長と話をしていた。

 

 

 

「…少々やり過ぎたかと心配していたのですが…相手は大丈夫でしたか?」

 

「…軽い脳震盪と、骨折程度だ…心配しなくても君の責任は問わない、そもそも、元々はこちらの落ち度だからな…」

 

最初に一人やって来た後、その後も数人やって来たが最後の一人がよりにもよって、警棒を持って襲って来た時は何の冗談かと思った…嘗ての記憶を自分の物と思えないとはいえ、人外と数多く戦った経験と、俺の身体に染み付いた人外と相対する為の体術のお陰で何とかなったものの…あまり加減が出来無かった…

 

「…警棒を奪われた奴には「いえ、俺は別に怒ってませんし、そういう事もあるでしょう…あまりキツく言わないでくれると」……いや、そういう訳にもいかない。そいつにはそれなりの罰は与えなければならない。」

 

「そうですか…」

 

ここの受刑者でしかない俺にはそれ以上何も言えないな…

 

「取り敢えず奴は大丈夫なんですね?」

 

「ああ…改めてすまなかった…もう戻ってくれて良いぞ。」

 

「はい。」

 

 

 

「おう!志貴!どうだったよ!」

 

房に戻れば先程の爺さんが声をかけてくる(実は同房の人間の一人)

 

……そこで遠巻きに見てる連中はもう少し何とかして欲しいんだけどな…正直今日は疲れたからあまり絡んで欲しくない…出にくくはなったとはいえ、貧血は無くなった訳じゃないし、体力にもあまり自信ある方じゃないから、あそこまで動くとそれなりに疲れる…

 

「…退屈だったのは分かってますが、疲れてるんで…出来れば明日にして貰えると…幸い、明日は休みですし…」

 

俺は自分のスペースに行くと読みかけの本を取り出し、開く…出来る事なら横になりたいが、さすがに就寝時間前に床に就く事は許されてない…本格的に寝込まなくてはならない程体調は崩してないからな…

 

「何だよ、つれねぇなぁ…」

 

「何なら将棋でもやりますか?静かにしてくれるなら付き合いますよ?」

 

「そうだな…うし!やるか!」

 

……だからそのテンションをどうにかして欲しいんだが…まあ、良いか。本当にこの人は何なんだろうな…何と言うか憎めない爺さんだ…

 

将棋をやっている内に就寝時間を示す音楽が聞こえて来たので片付けを始める…さて、と。

 

「521番!遠野!」

 

「はい?」

 

外から刑務官に声をかけられ返事をする。

 

「お前に面会だ。」

 

「は?就寝前ですよね?」

 

「……そうだ。」

 

ふと思う…こんな時間に来れる奴なんて一人しかいない気が…

 

「断る、って訳には行きませんよね…?」

 

無言で頷く刑務官に溜め息を吐きたくなったが、堪え、刑務官が開けたドアから俺は房の外に出た。



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