IS-問題児なオリ主の生活 (柳命)
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0話 プロローグ


はじめまして。

暇を持て余した衝動に駆られて始めてしまいました。反省も後悔も考えていない。

駄文となりますが、暇潰し程度にお付き合い頂ければ幸いです。




 

ーside???ー

 

 時は4月。春の陽気に充てられ、この身に当たる穏やかな風。晴れ渡る大空・・・・

 

 こんな日は普段の洗濯のみ為らず、家中の布団類までまとめて天日干ししたい気になる今日この頃・・・・・・

 

 

「・・・・で、まだ続けんのかよ?」

 

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

 

 なんで俺はこんな場所(IS学園)で、ISを使って戦わなきゃいけなくなってんだか・・・・

 

 目の前には俺に対し鋭い視線を向けたまま片膝を着く、日本鎧の様な機械にその身を包む黒髪の巨乳美人。

 

 その向けられた視線からは怒りにも驚きにも似た感情が込められながら、今の状況が信じられない様に俺の事を睨み付けている・・・・

 

 

 いやいやいや、そんな睨まれても知ったこっちゃねぇんだけど。敢えて言うなら、試験だなんだと絡んで来たそっちが悪い。

 

 

 ・・・・・・いや、そもそもの原因は全て、家のばかウサギ(天災)のせいか・・・・・・

 

 

「・・・・・・はぁ~あ。我が儘なんか聞かねぇで、無視しちまった方が良かったかなぁ・・・・?」

 

 

 そうぼやきたくなる気持ちを抑える事も出来ず、取り敢えず俺にはISスーツ越しに覗く巨乳美人の巨乳を視界に収め、こんな状況に貶めてくれたばかウサギ(天災)に溜め息を吐く他なかった・・・・

 

 

side??? out

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 二週間前・・・・

 

ーside千冬ー

 

 

 私は今、近隣の漁師の協力を得て、船に乗りとある島へと向かっている。

 

 全ては一週間前。全国で一斉に行われていた男性のIS適性検査、その一部の会場で起きた騒動が発端だ・・・・

 

 

 《IS(インフィニット・ストラトス)》。それは本来

女性にしか扱う事の出来ない物。それを我が愚弟が偶然にも起動させ、《世界初の男性操縦者》なんて世界を震撼させる事態を引き起こしたのが始まりなんだが・・・・まぁ今はそこは割愛しよう。

 

 

 兎も角、一人見つかったなら他にもいるのでは? そんな考えの元に世界中で行われた男性を対象にした一斉IS適性検査。殆どが空振りだったにも関わらず、たった一人だけ居たのだ。我が愚弟・・・・織斑一夏以外にも、ISを起動出来た男性が。

 

 

 しかし政府は、そんな二人目となる男性操縦者の確保に失敗した・・・・・・

 

 

 私もその時の状況を詳しく聞いた訳ではない。だが、聞かされた内容には思わず耳を疑ったものだ。

 

 

「(身柄を拘束しようとした職員への反撃行為。果ては、強行策に出たISの撃退、か・・・・)」

 

 

 職員に対する反抗はまだ分かる。突然身柄を拘束され掛けたんだ、抵抗するのは当然の反応だろう。

 

 

 だが、強行策に出たISを撃退したと言うのは話が別だ。

 

 

「(ただの一般人が、生身でISを撃退する? 馬鹿げてる。それが出来ないからこそ、こんな女尊男卑なんて風潮が広まっていると言うのに・・・・)」

 

 

 撃破されたISは1機。搭乗者は適性検査の補佐として政府から派遣されていた者とは言え、生身の一般人に墜とされる事などあり得ない。

 

 

 故に政府はそのイレギュラーの確保に対し、わざわざ私を交渉役として派遣した訳だが・・・・・・

 

 

「お~い嬢ちゃん。もう直ぐ目的の島さ着くでよ~」

 

 

 私はもう直ぐ到着する二人目の男性操縦者が暮らしていると言う島に対し、猛烈に嫌な予感がしてならない・・・・・・

 

 

 これは・・・・・・そう。

 

 

「また、面倒な事に巻き込まれなければ良いが・・・・・・」

 

 

 行方不明中の幼馴染み(天災)に、面倒な事に巻き込まれた時の感覚に似ていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 





ルビとかちょっと馴れない。
改行のスペースとか読み難くないかな~?


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第1話 自己紹介ーまだ出ないオリ主ー


 各話の文字数はノリと気分で変わる。



 

ーside一夏ー

 

 前略千冬姉。藍越学園へ受験に行った筈の俺がうっかりISに触れてしまってから早幾日・・・・

 

「(し、視線が辛い・・・・)」

 

 

 あなたの弟は、女性しかいない『IS学園』へと入学を果たしてしまいました。

 と言うか、周りからの視線が辛い。辛過ぎる。

 

 

「(当然って言えば当然なんだけど、女の子しかいないよなぁ・・・・とほほっ)」

 

 

 右を向いても左を向いても、果ては後ろを向いても女の子ばかり。

 

 分かってはいたけど、男が一人しかいないってのは精神的にキツイよ。

 

 ただ、窓側の方の席に、なんか見覚えのある娘が一人いる気がするんだけど・・・・

 

 

「織斑君・・・・織斑君? 織斑一夏君!」

 

 

「はっ、はい!?」

 

 

 と、今の状況に項垂れてたら突然誰かに呼ばれた!?

 

 あっ・・・・なんか、眼鏡を掛けた女の人が目の前に・・・・

 

 

「あ、大声出しちゃってごめんね。でも、自己紹介『あ』から始まって今『お』なんでよ。だから、自己紹介してくれるかな?だ、駄目かな?」

 

 

 えっ? いつの間にか自己紹介なんか始まってたのか!?

 

 全く聞いてなかった・・・・

 

 

「い、いや、自己紹介しますから・・・・先生も落ち着いてください。」

 

 

「ほ、本当に! 本当ですね? 約束ですよ。絶対ですよ!」

 

 

 なんでこの人、自己紹介にこんな必死なんだろう・・・・? 目尻にうっすら涙すら浮かんでるから、正直変な罪悪感が辛い・・・・

 

 

 取り敢えずこの変な罪悪感を拭う為にも自己紹介を済ませなきゃ。

 

 

「おっ・・・・織斑一夏です。よろしくお願いしますっ!」

 

 

「「「「・・・・・・・・」」」」

 

 

 ま、周りの視線が痛い・・・・ なんでなんの反応もないんだ? 俺、変な事でも言ったか?

 

 

 で、でもこれ以上この視線に晒されるのキツイ・・・・よしっ!

 

 

「・・・・以上です!」

 

 

 ここはもう、次の人に回そう!

 

 

ーーードンガラガッシャーンッ!

 

ーーーバチコーンッ!

 

 

「いっ、てぇぇえっ!?」

 

 

 周りが芸人顔負けに転げ落ちたと思ったら、いきなり頭に激痛がっ!?

 

 

 つか、なんなんだよこれ・・・・!?

 

 

「てててっ・・・・げ、げぇえっ! 関羽ぅ!?」

 

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者!」

 

 

 な、なんでここに千冬姉がっ!? ま、まさか俺を心配して追い掛けて来た訳じゃ・・・・

 

 

「ち、千冬姉!」

 

 

「学園では織斑先生と呼べ」

 

 

ーーードゴッ!

 

 

 うごっ!? 出席簿で殴られた・・・・ って、さっきのも出席簿だったのか?

 

 もはや出席簿の痛みじゃないぞ!?

 

 

「諸君、私が貴様らの担任である織斑千冬だ。まずはこの一年でヒヨっ子共にISの全てを理解させる。逆らっても構わんが、私の言うことは絶対に聞け。はいかイエスしか受け付けん、分かったな」

 

 

 いや、それは横暴が過ぎると思う・・・・

 

 

「きゃああああああっ! 素敵ぃ! 本物の千冬様をこの目で見られるなんて!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に北九州から来ましたぁ!」

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しくて死んじゃいそう!」

 

「私、お姉さまの命令なら何でも聞きます!」

 

 

 マジかぁ・・・・ あんな横暴受け入れちゃうんだぁ・・・・

 

 

「・・・・はぁ。毎年毎年、よくもこれだけの馬鹿者共がたくさん集まるものだ。ある意味感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ問題児共を集中させるように仕組んでいるのか?」

 

 

 あっ、千冬姉なんかスゲェ疲れてる。てか毎年って、こんなのが毎年起きてんの・・・・?

 

「きゃあああああっ! お姉様! もっと、もっと叱ってぇ!」

 

「でも時には優しく囁いてぇ!」

 

「そしてつけあがらないように毎晩調教してえぇ!」

 

 

 ええぇ~え・・・・ なんでみんな、そんなテンション上がってんの・・・・?

 

 なんか最初とは違う意味で辛くなって来た・・・・

 

 

「織斑先生、会議の方は終わったんですか? それに、その頬の傷は・・・・」

 

「ああ、挨拶を任せてて済まなかったな山田先生。それと、この傷に関してはまぁ・・・・気にしないでくれ」

 

 

 傷? ・・・・あっ、確かに。千冬姉の頬にうっすらと傷が付いてる。

 

 千冬姉、嫁入り前だってのに・・・・ 寝惚けてぶつけたのかな?

 

 

「さて諸君。あまり時間もないんだが、このクラスにもう一人、紹介しなければならない者がいる・・・・入って来い」

 

 

 千冬姉がそう言った瞬間、教室の扉が開かれた。もう一人って事は、入学式に遅れて来たのかな? そう思って俺も扉の方に視線を向けてみると・・・・

 

 

「・・お、男・・・・?」

 

 

 そこには、俺以外の男が立っていた・・・・・・

 

 

ーside一夏 outー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーside千冬ー

 

 

「んじゃ嬢ちゃん。俺は此処で待ってるから、用事が終わったら言ってけろ」

 

「はい、送って頂きありがとうございます」

 

 

 漸く目的の島に着いた。島と聞いていたからてっきり港も無いかも知れないと思っていたが、そんな事はなかった様だ。

 

 船こそ一隻しかないが、小さいながらも港もある。目的の人物が居る場所が無人島の類いでなくて良かったと安堵するべきか。

 

 

「しかし、妙だな・・・・」

 

 だが、それだけだ。確かに小さいながらも港はある。港に船もある。だが、周囲からは人の気配が全くしない。

 

 此処まで送ってくれた漁船の人が来られるくらいだから、日常的にも人の出入りくらいはある筈だが・・・・その気配すら希薄だ。

 

 

「考えても仕方ないか・・・・」

 

 もしかすると普段は別側の港でも使っていて、此方側はあまり使われていないのではないか? そう思いながら私は、目的の人物を目指しその場から歩き始めた。

 

 幸いにも目的の人物の住まいは漁船の人に大まかな場所を聞けていた。港から真っ直ぐ、島の中心部を目指す途中に住んで居ると・・・・ 徒歩にして30分程の場所らしい。

 

 それから暫く港を出てから歩き続けているが・・・・やはり、この島は何かがおかしい。

 

「ここまで人の気配がしないものか・・・・?」

 

 港を出てからここまで、全く人に会っていない。道こそ鋪装されて人の手が入っているのが分かるが、普段から人に使われている気配が感じられなかった。

 

 これはもしや、政府もガセネタを掴まされたのではないか・・・・? と、そんな事を思い始めた時・・・・

 

「・・・・誰だあんた?」

 

 漸く、この島の住民らしき人間と遭遇する事が出来た・・・・

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 





 未だにオリ主の名前すら出せない不思議。
 まぁ次話には出せるでしょう。


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第2話 自己紹介ー俺の名はー


 キャラ紹介のページって必要かな?

※4/14 誤字脱字修正。



 

ーside千冬ー

 

「貴様は、一体・・・・?」

 

「貴様じゃなくて、先ずはあんたが誰だっての」

 

 漸く出会えた島の住民らしき少年。その表情は私の溢した言葉に対し、不機嫌に眉をしかめていた。

 

 いや、確かに出会い頭に貴様と言われれば不機嫌になるのも仕方がないか。

 

「あ、ああ、すまない。私は織斑千冬。この島にISを起動させた男性がいると言う事で話をさせて貰いたいんだが・・・・」

 

「織斑・・・・千冬? 」

 

 ぬっ? 名乗ってみれば不機嫌な表情から一転、なにか考え込む様な表情に変わったか。流石に私の名前は知っていた様だが・・・・ まぁ、そこら辺は複雑な所だ。

 

 しかし・・・・目の前の少年は一体なんなんだ?

 

 クセが強いのか少しボサッとした肩まで掛かる、私や一夏の様な黒髪。その黒髪の隙間からは真っ赤な瞳が覗いている。

 

 背は目視で見るに、大体170cmと言った所か。それに、着ている黒いTシャツから覗く細身にも見える体つきは、だいぶ・・・・ いや、かなり鍛えている様だ。

 

 だが・・・・・・

 

「・・・・それよりも、お前・・・・」

 

「う~ん・・・・あん? ああ悪りぃ。なんだ?」

 

「お前・・・・歳は幾つだ?」

 

「俺の歳? 17だけど?」

 

「ならその口に咥えたタバコはなんだっ!? 貴様、未成年だろうがっ!」

 

 そう。さっきからこいつは大胆にも、私の目の前でタバコを咥えていた。

 

 挙げ句、未成年だと? ふざけるなよ!

 

「今直ぐそのタバコを捨てろ! 未成年の喫煙など、私は許しはせんぞ!」

 

「はぁ? 嫌に決まってんだろ。従う義理はねぇよ」

 

 こいつ・・・・! ならば実力行使だ!

 

「それを・・・・捨てんかっ!」

 

「うおっ!? 危ねぇなっ!」

 

 こいつ、今の踏み込みを避けるだと? どうやら身体能力は高いらしいな・・・・ならば、此方も多少本気で行かせて貰おう!

 

「待たんかっ! この不良少年!」

 

「誰が待つかよっ!」

 

 くっ! これでもまだ捕まえらないか。本当になんなんだこいつは?

 

 隙を突き踏み込んでも、動きを先読みして仕掛けても、尽く避けてみせるか!

 

 これは本格的に此方も本気を出して行くべきか・・・・!

 

「ちっ! ホントに・・・・しつけぇぞ! ちーちゃんさんよぉ!?」

 

「誰がちーちゃんだぁ! お前にちーちゃんと呼ばれる謂われは・・・・っ!?」

 

 ・・・・待て。今こいつは、なんと言った?

 

 ちーちゃん? 馬鹿な。幾ら私が先に名乗ってるとは言え、最初からそんな呼び方をする様な奴はいない。

 

 そんな呼び方をするのは、私の知る限り只一人・・・・

 

「貴様、まさか・・・・ 束の関係者か・・・・?」

 

「・・・・・・」

 

 そう呟く様に言った直後、奴は私との間に距離を取りながらその足を止めた。

 

 その行動の示す意味はひとつ。つまりこいつは・・・・

 

「・・・・ちっ。勘の良い奴だな、あんたは。まぁ逆に、あんたに知られるくらいならまだマシって事か」

 

「やはり、そう言う事か・・・・」

 

 間違いない。こいつは奴の、『篠ノ之 束(天災)』の関係者か・・・・!

 

「はぁ~あ、こうなりゃ会わせた方が早いか・・・・ おい、ちーちゃん」

 

「ぬっ! 貴様が束の関係者と言うのは分かったが、そのちーちゃんと言うのは止めろ。仮にも私は歳上だぞ」

 

「へいへい。気が向いたらな。んな事より、ちょっくら付いて来いよ。お目当ての奴に会わせてやっから」

 

 そう軽口を叩く様に言うと、少年は消えかけていたタバコの火をポケットから取り出した灰皿で消し、新たなタバコを口に咥えた。

 

 私の前で再びタバコを吸うなんて行動に思わず睨み付ける様な視線を向けるが、少年は気にも留めずタバコに火を点けた。

 

「ああ。そう言えば、こっちは名乗ってなかった」

 

 そう言われれば、タバコを取り上げるのに夢中で少年の名前を聞くのをすっかり忘れていたな。

 

 それは少年もだったらしく、タバコを咥えたまま思い出したかの様に私へと視線を向けた。

 

「取り敢えず、初めまして織斑千冬。話は束から聞いてる。俺の名は・・・・」

 

 

 

ーside千冬 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーside一夏ー

 

 そいつが入って来て、さっきまで騒がしかった教室の中が途端に静まりかえった。

 

 少しボサッとした肩まで伸びる黒い髪。両目の紅い瞳。両耳に2つずつ付いたカフスに、左耳に付いたイヤリング。

 

 その手には装飾の無いシンプルな指輪も見え、さらに首にはチョーカーの様な物まで身に付けている。

 

 なんかチャラチャラした様な、こいつが・・・・

 

「あぁ~あ、なんだ。渋々ながら此処に(IS学園)入学する羽目になった、『秋風 和也(あきかぜ かずや)』だ。趣味は家事全般、まぁ適当に宜しくっと」

 

 俺と同じ、二人目の男性起動者・・・・・・

 

 

ーside一夏 outー

 

 

 





 名前ひとつ出すのに文字数掛かり過ぎた。
 シンプルに纏めれないもんだわ~。


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第3話 初授業ー狙われるお菓子ー

※4/13 誤字修正。
※4/14 誤字脱字修正。




 

 二人目の男性起動者の入学。

 

 そんな衝撃的な出来事も千冬の一喝により鎮圧されてから数分・・・・ 和也の所属する1年1組の教室では、入学式当日でありながら早々に授業が執り行われていた。

 

「ーーーと言うことでして、ISの基本的運用は現時点では国家の認証が必要となります」

 

 教壇の前ではクラスの副担任・山田真耶が教鞭を振るい、生徒達へとISに於ける基礎となる項目を説明していく。

 

 一般的な学校と違いISと言う専門的な物を主として指導するこのIS学園。一般科目もさることながら、授業にはISに関わる専門的な授業が多く割り振られている。

 

 特に此処は世界で唯一ISについて学ぶ場所である事から入学倍率も圧倒的に高く、当然入学して来る生徒達も高倍率を潜り抜けて来たエリートの卵とも言えるだろう。

 

 そうなれば必然的に、今の授業内容など基礎知識として認識している様な基本的な内容であるのだが・・・・・・

 

「(や、やばい・・・・何を言ってんのか全然分かんねぇ・・・・)」

 

 その中に一人、滝の様な汗を流しながら狼狽えいる少年が居た・・・・そう、織斑一夏その人である。

 

「(な、なんでみんな平然と授業を聞いてられるんだ? 全くなに言ってんのか分かんねぇのに・・・・)」

 

「・・斑く・・・・織・・・・・・君?」

 

「(つーか、もう一人の男の方はこの授業が分かってるのか・・・・?)」

 

「織斑君?」

 

「っ!? は、はいっ!」

 

 一向に頭に入らぬ授業内容に意識を取られていた最中、不意に呼ばれた自分の名前に一夏は慌てる様に返事を返す。

 

 その声がした先では真耶が反応がなかった一夏の事を不思議そうな眼で見ていた。

 

「織斑くん、ちゃんと授業を聞いてましたか? 何か分からない事があったら、遠慮なくいってくださいね」

 

 この真耶の言葉に他意はない。ただ純粋に、女子校である環境の中に数少ない男として入学した一夏を心配した上での言葉だった。

 

 だが、今の一夏にそんな真耶の気配りなど気付く余裕もなく、自然と周囲からは向けられていた視線に耐えられなくなった彼は・・・・

 

「や、山田先生・・・・殆ど、全部わかりません!」

 

 真耶に対し、爆弾を投下する行動を取っていた・・・・

 

「・・・・えっ? ぜ、全部ですか・・・・? あ、あの、他に織斑君以外で分からない人って居ます・・・・?」

 

 この一夏の反応には真耶も面食らった様に慌て、すがる気持ちで他の生徒達へと確認の声を掛ける。

 

 しかし今の授業内容は本当に基本的な事であり、クラスの中には誰一人として首を縦に振る様な生徒はいなかった。

 

 そんな中、二人目の男性起動者である和也はと言うと・・・・・・

 

「・・・・かぁ~・・・・・・」

 

 腕を組んだまま椅子に背もたれ、大口を開けて眠っていた・・・・しかもご丁寧に、アイマスクまで装備して。

 

 その不真面目な授業態度に真耶は心が折れる気持ちを抑えながら眼を向けない様にしている。

 

 ・・・・断じて、話を聞いて貰えてない事に泣きそうになったからではない。

 

 

「織斑、お前参考書はどうした? あれを読んでいれば分かるはずだが」

 

 そこへ教室の後ろで授業の様子を見ていた千冬が一夏へと声を掛ける。

 

「電話帳と間違えて捨てました」

 

「っ! 必読と書いてあっただろうが馬鹿者っ!」

 

 バシンッ!

 

「あだぁっ!?」

 

 直後、一夏の頭部に千冬の手にした出席簿が振り下ろされる。

 

 それはとても出席簿とは言えぬ快音とダメージを与え、一夏は頭からは煙を出しながら机へと突っぷした。

 

「全くっ! 後で再発行してやる、一週間以内に覚えろ。いいな」

 

「い、いやあの厚さは一週間じゃ・・・・」

 

「やれと言っている。い・い・な?」

 

「・・・・はい」

 

 全く隠す事もなく晒けだされる威圧感に、一夏は項垂れながら返事を返すしか出来なかった。

 

 そんな一夏の様子に千冬はこめかみを抑えながら小さく溜め息を漏らすと、次に堂々と居眠りに興じる和也へと鋭く視線を向ける。

 

「貴様も・・・・せめて起きてろ!」

 

 ビュンッ!

 

 そう言うが早く、千冬は手にしていた出席簿をまるで手裏剣の様に和也へと投擲する。

 

 その投擲はまさに豪速球。まるで力も込めた様子もなく手首のスナップだけで投げられたそれは風を切り、一直線に眠りこける和也へと迫って行った。

 

 しかし・・・・

 

「かぁ~・・・・あんっ?」

 

 パシッ。

 

「っ!」

 

「はあぁ!?」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

 迫り来る出席簿を、和也は組んでいた腕を素早く崩し片手で掴み止めた。

 

 その突然の行動に千冬は眼を見開き、一夏や他の生徒達は短くも驚愕の声を挙げ和也へと視線を集める。

 

 そして当の本人はと言うと今ので目が覚めたのか、出席簿を掴んだまま欠伸を溢し、座ったまま背を伸ばし漸くアイマスクを外すのだった。

 

「ふぁ~あぁ・・・・ あん? なんだコレ・・・・? お品書き?」

 

「そんな訳あるかぁ! それは出席簿だっ!」

 

「なんだ詰まんねぇ。返すわ」

 

 そもそも豪速球ばりのスピードでお品書きが投げ渡される飲食店など行きたくなどない。

 

 しかし和也にとってそれは対して面白くもなかったらしく、小さく溜め息を吐くと詰まらなそうに千冬に向かって出席簿を投げ返した。

 

 それは先程の豪速球とは打って変わり風を切る程の速さこそないが、それでも速く、殆どの生徒達の眼からは消えて見えた。

 

 そして生徒達の視界から消えたその出席簿は真っ直ぐと持ち主の手元へと戻り、千冬の手には投げ返された出席簿が戻った。

 

「・・・・秋風。今は授業中だ。アイマスクまでして寝るな。それに貴様、今の授業内容は理解しているのか?」

 

「あん? ・・・・ああ、参考書に書かれてた奴か。これ程度なら普通に覚えてるっての。・・・・まぁ俺には知ったこっちゃねぇ内容だけどな」

 

 そう最後は呟きながら言うと和也はもう一度欠伸を漏らしながら再び腕を組み直す。

 

 だが今度は眠らないのか視線だけは教壇の方へと向いており、それを見た千冬は小さく溜め息を吐きながら真耶へ授業を再開する様に促した。

 

 後には先のやり取りに対する生徒達の微妙な空気と、結局自分だけしか授業内容が分かっていないと言う現実に打ちのめされている一夏の悲壮な溜め息だけが残された・・・・

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside和也ー

 

 仮眠も取れた授業も漸く終わった。とは言っても、まだ二限目。これがまだ三限もあるとか、面倒たらっありゃしねぇ。

 

 これなら、散策も兼ねて授業フケた方が良さそうな・・・・

 

「ねぇねぇ~」

 

「・・・・あん?」

 

 誰だ? このやたら袖の長い、なんか間延びした奴・・・・?

 

「・・・・取り敢えず、誰だ?」

 

「私は~『布仏 本音(のほとけ ほんね)』だよ~。よろしくね、『あっきー』」

 

「いや待て。あっきーって、俺の事か?」

 

「そうだよ~。『秋風 和也』だから、あっきー」

 

 えぇ~え・・・・ 初対面でいきなり変な渾名付けられてんだけど~・・・・

 

 しかもこいつ、全く悪びれる様子すらねぇし。何、天然? 天然なのこいつ?

 

「・・・・まぁ、色々ツッコミたい事はあるけど、名乗られたら仕方ねぇよな。秋風和也だ、あっきーは止めてくれ」

 

「おぉ~お。よろしくね、あっきー」

 

「止める気ゼロか」

 

 ヤバイ。どっかの馬鹿ウサギと似た気配がする。

 

「ところであっきー。お菓子持ってない~?」

 

 なんで?

 

 なんで初対面で変な渾名付けられた上に、お菓子ねだられてんの俺?

 

「一応聞くけどよぉ、なんでそれを俺に聞いてんだ?」

 

「ふっふっふっ~。それは~、あっきーからお菓子の匂いがしたからだよ~」

 

 犬かお前。匂いがしたらお菓子貰いにくんのかよ。

 

 てか、自己紹介はついでかっ!

 

「・・・・・・」

 

「わくわく、わくわく」

 

「・・・・はぁ~あ。ちょっと待ってろ」

 

 こいつ、アレだ。菓子やらねぇと絶対こっから動かねぇつもりだろ。

 

 仕方ねぇけど、素直に分けてやった方が楽そうだ・・・・

 

「・・・・ほれ。キノコとタケノコ、どっちが良い?」

 

「おぉ~お! えっとねぇ、じゃあね~・・・・ キノコっ♪」

 

 クッ! キノコ信者だったかこいつ・・・・!

 

「じゃあキノコやっから、早く席に戻っとけ。俺はもう一眠りすっから」

 

「わぁ~い♪ ありがとね、あっきー♪」

 

 いや、マジでお菓子だけ貰って戻りやがったなアイツ。

 

 まさか、これから菓子持ち歩いてたら毎回来るとか言わねぇよな? ・・・・スッゲェ不安。

 

 兎も角、これ以上菓子をねだられても困っから、昼休みくらいまで寝て過ごしとくか・・・・

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 ・・・・えっ、何?

 

 俺の持ってる菓子、本格的に狙われてんの?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 本音は御菓子で餌付けする。
 これは鉄板事項。



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第4話 クラス代表①ー飛び火先は爆弾ー


 久し振りにスロットのインフィニット・ストラトス打ちたくなって来た。
 割とクソ台の部類で、殆ど残ってない台だけど。


※4/13 誤字脱字修正しますた。
 それに伴い、一部修正。
※4/14 誤字脱字修正。





 

ーside和也ー

 

「ちょっとよろしくて」

 

 よろしくない。俺の持ってる菓子をこれ以上狙われて堪るか。

 

「・・・・これ以上、手持ちの菓子は分けてやらん。帰れ」

 

「まあ! なんですのそのお返事は! わたくしに声を掛けられるだけでも光栄なのだから、それ相応の態度があるのではなくて? と言うより、そんな物など狙ってませんわ!」

 

 なんだ、菓子狙いの輩じゃなかったか・・・・ ならコイツ、何の用で近付いて来たんだ?

 

 てか、なんで声掛けられる事が光栄なんだよ?

 

「そうかい。で、何処のどちらさんか知らんが何の用だ?」

 

「わたくしを知らない!? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」

 

 あっ、駄目だコイツ。此処までのやり取りだけで、所謂女尊男卑思想の奴ってのが分かったわ。

 

「・・・・そもそも、俺は自己紹介の最後ら辺に来たんだ。他の奴等の名前なんぞ知る訳ねぇだろ」

 

「た、確かにそうかも知れませんが・・・・ ですが、わたくしの事ぐらいは知っておくべきではなくて!」

 

「知らんがな。・・・・あっ。でもイギリス出身の操縦者って言うなら、サラ・ウェルキンなら知ってるわ」

 

「ちょっ! なんであの方だけ・・・・いや、でもサラさんなら仕方ない気も・・・・あぁもうっ! なんなんですのあなたは!?」

 

 いや、だって間違いなくイギリスの代表候補生の中ならサラ・ウェルキンが一番だろ?

 

 操縦技術が高過ぎて専用機を貰えてねぇのが納得いかなかったが、事前に見させられた資料の中じゃ一番記憶に残ったし。因みに見たんじゃない。無理矢理に見させられたんだ。

 

 後、良い胸してた。

 

「兎も角! サラさん程ではないにしろ、わたくしを知らないなど・・・・『キーン コーン カーン』っ! また来ます! 逃げないことね!よろしくって!」

 

「よろしくねぇよ、来んな」

 

 チャイムのお陰で退散してくれたが、誰が好き好んで面倒な奴の相手なんかすっか。

 

 もう次から休み時間になったら寝てよ。

 

 そう言や、さっきから視界の隅でもう一人の男性起動者・・・・ 織斑一夏?だかがこっちをチラチラ見てた気がしたが・・・・

 

 正直、これ以上の面倒事は御免だ。

 

 

ーside和也 outー

 

 

 

 

 

 

ーside千冬ー

 

 さて、3限目は私の授業な訳なんだが・・・・その前にやらねばならない事がある。

 

「さて、授業を始める前にクラス対抗戦に出る代表者を決める」

 

 その私の言葉に数人の生徒達が首を傾げる。まぁ開口一番にこんな事を言い出せば首を傾げるくらいの事はするか。

 

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。来月にあるクラス対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・・ まぁ、簡単に言えばクラス委員長だな。因みに一度決まると一年間変更は無いから」

 

 もっと噛み砕いて言うなら、クラスの雑務担当だな。クラス代表の肩書きの代わりに、様々な雑務を押し付けられる訳だし。

 

 とは言っても、そこから得られる利益も多少なりとも有る訳だし、別に不利益の塊と言う訳でもない。

 

「自薦他薦は問わないぞ、意見のある者はいないか?」

 

「はい! 織斑君を推薦します!」

 

 むっ? 早速の推薦が一夏か・・・・ まぁ他クラスと違って男子がいる訳だし、顔は充分に良いからな。小娘共が推薦するのも頷けよう。

 

「私も織斑君が良いと思います」

 

「私も織斑君が良いです!」

 

 一人切り出したら次々と一夏を推薦する声が挙がる。

 

 まぁ尤も、こいつらが推薦する理由が顔の良さと私の弟だからと言う物なのが、些か思慮に欠くと思うがな。

 

「ま、待ってくれよ千冬姉! 俺は代表なんてやりたくな・・・・」

 

「織斑先生だ、馬鹿者。推薦された者に拒否権などない」

 

 正直、嫌ですの理由で擦り付け合いなどされたら時間が掛かるからな。推薦されたら拒否権など許さん。

 

 しかし、そう言われた一夏は余程嫌なのか、何か起死回生の手がないかと視線を泳がし始めたが・・・・ まさか!?

 

「だ、だったら俺は和也を推薦するぜ!」

 

「・・・・ああん?」

 

 こいつ、よりにもよって秋風を推薦しおった・・・・!確かに推薦された者に拒否権はないと言ったが、秋風だけは駄目だ。

 

 一夏の奴はしてやったりと言う顔をして秋風を指差しているが、当の本人は見るからに不機嫌な顔をしている。

 

 流石にこれは止めねばならないか・・・・ そう思い私が口を開こうとしたら、それを遮る者が声をあげた。

 

「待って下さい、納得いきませんわ!」

 

 そう声をあげ立ち上がったのは、イギリスの国家代表候補生のセシリア・オルコット。

 

 イギリスの貴族にして、今年の入学主席。入学試験のひとつであるISの模擬戦では、試験官を倒した実力者でもあるが・・・・

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 その立場か実力からか、女尊男卑の気配がしていた生徒でもある。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿になんてされては困ります! わたくしはこの様な島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ」

 

 おうおう、随分なご高説を垂れてくれるじゃないかオルコット・・・・

 

 今の発言だけで、その島国の出身である生徒達が一斉にお前を睨み付けている事にも気付かないか。

 

 しかしこいつは、自分の立場を分かっているのか? いや、感情的になり過ぎて気付いていないか。これ以上迂闊な事を言われれば余計な仕事も増える。

 

 仕方ない、そろそろ止めるとするか・・・・

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で・・・・」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

 私がオルコットを止めるより早く、オルコットを止める言葉を口にした者が居た。

 

 それも悪い方向で。しかもよりにもよって、私の弟である一夏がだ。

 

「なっ!? あなた、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「先に侮辱したのはそっちだろ!」

 

「なんですってぇ!」

 

「なんだよっ!」

 

 なんだよじゃない。なんでだよ、と私が言いたいくらいだ。

 

 なんでお前等は火の回りで油を掛け合う様な真似をしてくれてるんだ・・・・ 正直、頭が痛くなって来た。

 

「こうなったら、決闘ですわ!」

 

「良いぜ! 受けて立ってやるよ!」

 

 受けて立つな。そもそも何時・何処でやるかまで考えての発言なんだろうな?

 

 だが、ISの基礎すら出来ていない一夏に身を持ってISを理解させて行くには好都合か・・・・ なら、此方の方で舞台だけでも用意してやるか。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い・・・・いえ、奴隷にしますわよ」

 

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

 

 良し、これ以上話が拗れる前に決めてしまおう。今なら秋風の推薦も有耶無耶に出来るかも知れん。

 

「・・・・で、ハンデはどのくらいつける?」

 

「あら、さっそくお願いかしら?」

 

「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」

 

 と、せっかく私が平和的にまとめようとした直後、一夏の一言からクラス中でドッと爆笑の声が巻き起こった。

 

「織斑君、それ本気で言ってるの?」

 

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

 

「織斑君は確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎだよ」

 

「逆に織斑君がハンデ貰わなくちゃ」

 

「・・・・なら、ハンデはいらない」

 

 駄目だ、完全に話が拗れ始めた。

 

 そもそも一夏、お前はISに関しては初心者だろう? それがどうしてオルコットに対してハンデなんて言葉が出て来るんだ・・・・ ホントに、頭が痛くなって来た。

 

 そう思って私がこめかみを押さえていた中・・・・

 

「な、なんで和也はなんも言わないんだよ!? さっきから黙ってて、悔しくないのかよ!」

 

「あら? そう言えばそちらの方は先程から黙ってばかりでしたわね・・・・ まさか、反論すら出来ませんの? 」

 

「・・んだと、馬鹿共が・・・・」

 

 こめかみから痛みが、背筋から軽く血の気が引く感覚が私を襲った。

 

 こ、こいつらぁぁ・・・・ 火にガソリンを注ぎ込むなぁ!?

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 





 変なとこだけど、各話との文字数の差は少し抑えたいので此処でキリ。



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第5話 クラス代表②ー反論? 倍返しだー


 感想を頂き、ありがとうございました。
 嬉しかとです。(≧ω≦*)

※4/13 誤字修正。




 

ーside和也ー

 

 クラス代表だか雑務担当だかの話がちーちゃんから語られ出したり、織斑一夏が俺を巻き込んで来たり金髪がケンカ売って来たり、また織斑一夏に巻き込まれたりなんだり・・・・

 

「反論しねぇんじゃなくて、馬鹿共の馬鹿騒ぎに関わる気すら起きねぇんだよ。身の程を弁えろ、馬鹿が」

 

 つか、最初から巻き込むなって話なんだよ。

 

 ただその言い分が気に入らないのか織斑一夏も金髪も、俺に対し反感の意を込めた視線を揃って向けて来た。

 

「だ、誰が馬鹿なんだよ! そもそもあんだけ言われてんのに、お前がさっきから何も言わないのが悪いんじゃねぇかよっ!」

 

 寧ろ、巻き込んどいて俺のこと忘れて喋ってたよな?

 

 完全に二人だけの世界に入ってたよな?

 

「そもそもあなたごときに身の程を弁えろなどと言われる筋合いはございませんわっ! あなたこそ、男の癖にご自身の立場を分かっていらして?」

 

 いや、お前は先ず真っ先に自分の立場を気にすべきだろ?

 

 自分でイギリスの代表候補生とか言ってたじゃねぇか。

 

 もうこいつら、ホントに馬鹿なんじゃねぇの・・・・?

 

「そもそも金髪。お前、何しに此処に来てんだよ?」

 

「金髪っ・・!? わたくしは、ISの技術の研鑽・修練をする為に此処に来ているのです! そんな事はこの学園に入学した者なら当然の事ですわ!」

 

「へぇ~え、技術の研鑽ねぇ・・・・ こんな、『文化としても後進的』な、『極東の猿』しかいない『島国』へか?」

 

「なっ!? あなた一体なにを・・・・!」

 

「全部テメェが言った事だろうが、呆けてんじゃねぇよ」

 

「っ!?」

 

 そう言ってやれば金髪はさっきまで自分が言ってた言葉を思い出したのか、その顔を段々と青白くさせていく。

 

 だが、巻き込んだ上にケンカ売ったのはテメェだぜ?

 

 加減も容赦もしてやらねぇよ。

 

「どうした、間違っちゃいねぇだろ? 『極東の猿』である『篠ノ之 束』が作ったISの技術を研鑽する為に、ISの発祥国にしてこんな『島国』で同じく『極東の猿』の『織斑千冬』が教鞭をとる場所に来たんだろ?」

 

「そ、それは・・・・」

 

「それに、このクラスのクラス代表なんざになりたいんだろ? 『島国』出身の『極東の猿』が大半を占める学園のいちクラスで、代表をしたいって喚いてんだ・・・・ そんなに『サーカス』でもしてぇのか? ああん?」

 

 おうおう。言われて漸く分かったのか、みるみる顔が青ざめてくな・・・・

 

 そう、そもそもISを作ったのは日本人の篠ノ之 束で、それを広げたのは日本だ。

 

 それにこのクラスもそうだが、この学園にいる生徒はその殆どが日本人。オマケに世界最強とか言われてる織斑千冬もいるってのに、それをこいつは『島国』やら『極東の猿』なんて言ってんだ。

 

 それがどんな意味を持つか分かってねぇ筈はないが・・・・ もう一押ししとくか。

 

「まっ、イギリスが何れは支配下に置こうとしてる国に対してだ。何を言ってこようが知ったこっちゃねぇがな」

 

「っ! イ、イギリスがそんな事を考えてる訳が・・・・」

 

「考えてんだろ。国の代表たる代表候補生がその意志を代弁してんだ。つまりテメェが、今、その口で、イギリスの意志を伝えてんだろ? なぁ・・・・イギリスの国家代表候補生さんよぉ・・・・?」

 

 そこまで言ってやれば後は簡単だ。金髪はさっきまで自分が言ってた言葉の意味が、散々自分から誇示して来た立場がどんなものか理解出来た事だろう。

 

 既に顔面蒼白。身体中に巡らす血も足りないのか、ガタガタと身体も震わせて自分の席に座り込んでる。

 

 これで馬鹿その1は潰す事が出来たが、潰すべきはもう一人・・・・

 

「・・・・それと、織斑一夏。なんでテメェ、人様のこと勝手に呼び捨てにしてくれてんだ? ・・・・ケンカ売ってんのか?」

 

 この、馬鹿その2(織斑 一夏)もついでに潰す。

 

「な、なんでだよ!? 男同士なんだし呼び捨ては普通だろ!」

 

「なんで、一言も喋ってねぇ奴から呼び捨てにされなきゃならねぇんだ? つーかもうはっきり言っとくが、俺はお前が嫌いだからな」

 

「な、なんで!?」

 

 そりゃ勝手に呼び捨てにするわ、関係ねぇ事に巻き込むわ、余計なこと言って話を拗らせたわ、そもそも此処に入学する事になった最たる原因だわ・・・・ どこに嫌わない要素があるよ?

 

「接点すらねぇのに馴れ馴れしい。いきなり人を巻き込むな。挙げ句、最も自分の立場が分かってねぇ。後、なんか生理的に無理」

 

「っ!? そんなの、言い掛かりばっかりじゃないか!」

 

 いや、どこがよ?

 

 最後は兎も角、先の3つは間違っちゃいねぇし。

 

 つーか、金髪相手に喋り過ぎて疲れて来た。ぼちぼちさっきから仕事しねぇ担任様に投げるとするか。

 

「・・・・で、あんたは何時までボケッとしてんだよ? いい加減、事態を収めに掛かったらどうなんだよ」

 

「っ! あ、ああ・・・・ 立候補したオルコットに、推薦されたのは織斑と・・・・秋風の3名。勝負は一週間後の月曜日、放課後に第三アリーナで行う。秋風、織斑、オルコットはそれぞれ用意をしておくように・・・・」

 

 あっ、金髪は立候補扱いなんだ? そして、俺も推薦に入ったままなのな。

 

 ・・・・さっきまでのやり取りで明らかにクラス全体の雰囲気が悪いってのに、よく俺まで勝負に組み込んだな。

 

 まぁでも、ちーちゃんに投げたお陰か織斑一夏もすごすごと引き下がった様だし、良しとしよう。

 

 あっ、つかヒートアップし過ぎて授業時間が残り半分切ってんじゃん。

 

「ちーちゃん、飽きたから後の授業フケるわ」

 

「誰がちーちゃんかっ! ふざけたこと言ってないで席に着けっ!」

 

「だが断る」

 

「なっ!? 秋風ぇぇぇぇぇぇえっ!」

 

 言うも早く、風よりも早く、秋風和也は華麗に教室を去るぜ。

 

 ・・・・・・いやだって、流石に教室の空気悪過ぎだろ? こんな中に居るくらいならどっかで昼寝でもしてるわ。

 

 織斑一夏と金髪? それは知らん。

 

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 これでタグに『セシリアアンチ』って付かないだぜ? 信じられるか・・・・?

 まぁ実際、『セシリアアンチ』は付きませんがね。

 それと感想にて『タグにチートを付けては?』と頂きまして、ちょっと一考中。


[追記]
 kimesawaさん、誤字脱字の修正報告、ありがとうございました。



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第6話 教室訪問ーお届け先は金髪美女ー


 頂いた感想の返信の為の場所をどこにしよう?

 感想、ありがとうございます!

※4/14 誤字修正。


 

ーside和也ー

 

 クラス代表だか下らない問題に巻き込まれた後、授業をフケて学園の散策を始めて早くも1時間弱・・・・

 

 コンコンッ。

 

「失礼しや~すっと」

 

「・・・・えっ? お、男ぉ!?」

 

 大事な用事があったのをすっかり忘れていた俺は今、三年の教室に来ていた。

 

 そんな俺を迎えてくれたのは、見事なまでに驚いた顔をした先輩の方々。まっ、いきなり新入生で、かつ男の俺が現れれば驚きもするわな。

 

 ・・・・まぁ一部には女尊男卑思想の奴等が、嫌悪感を隠しもせず此方を睨み付けて来てるが。

 

「あぁ~あ、っと。俺は1年1組の秋風 和也。悪いんだが人を探しててな、ちょっと聞いても良いか?」

 

「えっ? 1組って確か織斑一夏が居るクラスの・・・・って、他にも居たの!?」

 

 居たよ。逆になんで三年の、このクラスには知られてないんだ? さっきまで織斑一夏目当ての三年とか教室に来てたから、目撃情報とか出回ってないの?

 

「まぁ居た訳なんだが・・・・ 取り敢えず、話を進めて良いか?」

 

「あっ、うん。え~とっ、誰を探してるのかな? 探してる人のお名前分かるかな?」

 

 なんでこの先輩、微妙に俺を子供扱いしてんの?

 

 わざとか? 素か? 判断に困んな・・・・まぁスルーしよう。

 

「ああ、探してんのは・・・・『ダリル・ケイシー』ってんだが、このクラスに居ないか?」

 

「えっ? ダリル? ダリルなら今・・・・」

 

「私なら此処だぜ」

 

 そう声が聞こえて来たかと思うと、一人の生徒が俺の方へと歩いて来る。

 

 金髪碧眼、グラマーにして豊満な胸を見せつけるように大きく開いた制服の胸元。腰まで深くスリットの入ったミニスカート・・・・

 

 成る程。こりゃあ確かに、こいつの()()()()()()わな。

 

 そして、素晴らしい巨乳。ハラショー。

 

「で、噂の男性起動者が私になんの用だ?」

 

「ああ。あんたの()()から手紙を預かっててな。それを渡しに来たんだよ」

 

「っ!? 叔母さんから? なら、あんたがアノ・・・・」

 

 そこまで言った所で人差し指を俺の口の前に宛て、それ以上の発言を止める。

 

 側にいた名も知らぬ先輩さんは全く訳が分かってないみたいだが、ダリルはこれだけで色々と察してくれた様だ。

 

「・・・・悪いな、わざわざ叔母さんからの手紙を届けて貰って」

 

「全くだ。俺はポストマンじゃねぇってのにな。それでいて、報酬は切手代の代わりに頬へのキスだぞ? ネタが微妙に古い」

 

「へぇ~え。軽く聞いてはいたけど、随分と叔母さんに気に入られてんだな?」

 

「一緒の風呂に入ろうとしてくる位にはな」

 

 いやホント、風呂にまで突撃しようとするのは勘弁して欲しいわ。他の奴等も真似しそうになるし。

 

 兎も角そう軽口を叩くと、胸ポケットに入れていた手紙を取り出しダリルへと手渡した。

 

 それを受け取るとダリルは一瞬安堵した様な表情を浮かべたが、直ぐに元の表情へと戻り手紙をスカートのポケットへと入れた。

 

 ・・・・あんなスリットが深いのに、そのスカートにはまだポケットの要素が残ってたのか。噂の叔母だったら迷わず胸の谷間に仕舞ってそうなのに。

 

「まっ、手紙はサンキューな。叔母さんも元気そうだし、私も少しは安心したよ」

 

「そう言うのは手紙の内容見てから言ってくんね? まぁ俺としてもお使いが済んだから良いけどよ」

 

 いやホント。危うく普通に手紙のこと忘れるとこだったわ。暇を見付けて思い出して良かった良かった。授業はフケたが。

 

 と思っていたら、不意にダリルが俺に対し手を差し出して来た。

 

「改めて、アメリカの代表候補生ダリル・ケイシーだ。ダリルって呼んでくれ」

 

 スマン。心の中では既にずっとダリルって呼んでたわ。

 

 だが、心の中だけだからセーフだろ?

 

「秋風 和也だ。俺の事も和也で良いぞ、『ダリルん』」

 

「ちょっと待て! なんか一文字多くないか!?」

 

「気のせいだろ? 『ダリるん』」

 

「いや、やっぱ一文字多いだろっ!?」

 

 はっはっはっ。そんな事はない。ちゃんとダリルって呼んでるじゃないか~・・・・ 心の中でなっ!

 

 と言うか、ふざけてたら握手するタイミング完全に逃した。

 

「な、なんかダリルと秋風君? 早速仲が良いね~?」

 

「クソッ! 年下なのに生意気な奴だった・・・・!」

 

「うん? 何言ってんだ、歳はそんな変わんねぇだろ」

 

「「・・・・はっ?」」

 

 あっ、これ完全に知らないな。

 

 まぁ確かに学年的には1年だし仕方ないか。

 

「そもそも俺、1年として入学させられたが17だぞ? だからそっちと歳は変わんねぇし」

 

「「「「・・・・・・・・はあぁぁぁぁぁあっ!?」」」」

 

 うおぉおっ!? 気付いたら他の奴等まで聞き耳立ててやがった。ビックリした様な声にこっちがビックリだよ!

 

「おまっ、同い年って・・・・ だから後輩の癖にそんな生意気なのかよ!?」

 

「残念、それは元々だ」

 

「も、元々なんだ・・・・」

 

「じゃあ私達とも同い年なんだし、遠慮はいらないよね? なら和也君って呼んでも良い?」

 

「だが好感度が足りない・・・・って、うん?」

 

 そうこうしてる内に気付けば俺とダリル、そして名も知らぬ先輩の周りを他の先輩方に囲まれて・・・・囲まれて!?

 

「な、なんだお前等!? 何時の間に私達の周りに・・・・」

 

「だってダリルだけ噂の男子と話しててズルいじゃない」

 

「そうだそうだ! こう言う機会に私達にも話させなさいよ!」

 

「折角、カモがネギ背負って来てるんだしさ!」

 

 誰がカモか! あっ、ヤベ。そうこうしてる内に着々と逃げ道が塞がれてる。

 

 ・・・・はぁ~あ、仕方ねぇ。

 

「・・・・別に良いけどよぉ、次の授業の用意はしなくて良いのか?」

 

「っ、ヤベ! 次は移動教室の授業だった!」

 

 ほう? それは実に運が良い。

 

「なら早くダリルも移動した方が良いんじゃねぇか? 俺も(サボりに)戻るからよ」

 

「・・・・なんか、真面目に授業に戻る様な感じがしねぇんだが?」

 

「気のせいだろ?」

 

 ちゃんと真面目に、学内の散策に戻るし。

 

 そう言ってもダリルから疑いの眼差しは止まなかったが、取り敢えず次の授業まで時間もないと言う事でこの場は引いてくれる様だ。

 

 それと最後に、ダリルには連絡先を無理矢理交換させられた上に、昼飯を食堂とやらで一緒にする事を強制させられた。

 

 ・・いや、俺は弁当があるんだけど・・・・ その状態で食堂に行けと?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 まだ6話でこれか・・・・早くクラス代表戦は終わらしたい。



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第7話クラス代表決定戦ー開幕ー


 前置きが長いから、クラス代表戦まで飛ばして行くよ~。無理矢理2話分を足した様な感じになったけど。
 ちゃんと後で回収もするけどね~。

※4/14 誤字脱字修正。



 

ーside和也ー

 

 昼休み。ダリルとの強制的な約束の為に、俺は持参した弁当を食堂で食べる事になった。

 

 その時にダリルから二年でギリシャの代表候補生、フォルテ・サファイアと言う奴を紹介された。なんでもダリルの恋人らしい。

 

 ・・・・ダリルと言いその叔母と言い、血は争えないと言う事が判明した瞬間だったな。

 

 後、フォルテはぺったんだった。

 

 ついでに言うとフォルテは女尊男卑思想的な奴かと思ったら、単純に男が嫌いだそうだ。お陰で俺がダリルに絡まれたり、俺がダリルを弄ると直ぐに頬を膨らませて不機嫌になったりもしていた。

 

 そんな同学年の事はガン無視して学年的には先輩達と昼食を過ごしたり、午後からの授業もフケたりしたりして向かえた放課後・・・・

 

 

「あっ、秋風君。丁度良かったです」

 

「あん? 山田先生?」

 

 鞄を忘れてたもんだから教室に向かってたら、不意に廊下で山田先生に呼び止められた。

 

 因みに山田先生はちーちゃんと違って、ちゃんと先生と呼ぶ。何故かって?

 

 間違いなく山田先生は神だからだ。何処がとは言わん。

 

「これ、秋風君が暮らす寮の部屋の鍵です」

 

「ああ、そう言えば入学前にそんなこと言ってたな。その割には一向に説明しないと思ったら、このタイミングなのか・・・・」

 

 これについては一応、入学前に話しは聞いてる。そもそも俺の住んでる島から学園まではかなりの距離があったし、一応学園側に提出した()()()()()()()()()入寮に同意してる。

 

「そう言う訳で部屋の鍵はお渡ししますけど・・・・ 明日からは授業をサボっちゃ駄目ですからね?」

 

「えぇ~え・・・・ 折角サボるのに最適な場所見付けたのに」

 

「駄目ですよ~! 秋風君は学生なんですから、授業をサボっちゃめっ! なんですよ~!」

 

 はっはぁーん。何この神、可愛い。

 

 とまぁ遊ぶのは此処までにして、寮の鍵とやらを山田先生から受け取る。

 

 その後は織斑一夏にも寮の鍵を渡す為に山田先生は早足に去って行き、俺はその胸を・・・・もとい、その背中を見送った。

 

「さて、寮の部屋ね~・・・・?」

 

 本当なら教室に鞄を取りに戻るとこだが、あの感じなら教室にはまだ織斑一夏が居ることだろう。はっきり言って、あいつとは関わりたくない。

 

 そう思ったら俺の心と身体は正直なもので、迷う事なく教室に向かう事を拒否した。

 

 新たに向かう先は、俺がこれから()()()()()()()()()女子寮。

 

「さて、吉と出るか凶と出るか・・・・?」

 

 そう呟きながら俺は、『1049号室』と書かれた部屋の鍵を持って校舎を後にした・・・・

 

 

ーside和也 outー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 時は過ぎ、騒がしかった入学式の日から早一週間。場所は第三アリーナ・・・・ そこでは今日、一年一組のクラス代表を決めると言う試合が執り行われ様としていた。

 

 時刻は既に放課後。そしてアリーナでは噂の男性起動者の戦闘を一目見ようと、多くの生徒達がアリーナの観客席へとところ狭しと押し掛けて来ていた。

 

 その中には二年のフォルテ・サファイアや三年のダリル・ケイシーと言った一部の上級生達の姿もあったが、観客席に詰め掛けた生徒達の殆どは一年生ばかりでもあった。

 

 そんな多くの観客達が今か今かと試合の開始を待ち望む中、戦いに挑む事になっている一夏や和也の待機しているピットでは・・・・

 

「なあ、箒。俺さ、一週間前ISについて教えてくれって言ったよな?」

 

「ああ」

 

「俺、今日まで剣道しかやってない気がするんだ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「目・を・そ・ら・す・な」

 

「お、お前のISがないのだからしょうがないだろう!」

 

 そこでは件の一夏が、一人の少女に対して詰め寄る様にしていた・・・・

 

 少女の名前は『篠ノ之 箒(しののの ほうき)』。一夏の幼馴染みにして、かの天災『篠ノ之 束』の妹。

 

 彼女は今日まで一夏に頼まれ、試合に挑む一夏へとISに於ける基礎を教える事になっていたのだが・・・・ その結果は、一夏の望む様なものとはいかなかった様だ。

 

 何より一夏には使えるISがなかったのだから仕方なかった部分はあったかも知れない。それでも何の試行錯誤もなく、ただ剣道をしていたと言うのは問題かも知れないが・・・・

 

「お、織斑君、織斑君! 着ましたよ、織斑君のISが!」

 

 そんな折り、駆け込んで来た真耶の報せがピット内に響き渡る。

 

 それは一夏にとって待ちわびた報せに他ならない。

 

「織斑、大至急『初期化(フィッティング)』と『最適化(パーソナライズ)』を行う、こっちに来てISに座れ。山田先生は織斑の補助を」

「織斑君、此方に来て下さい」

 

「は、はいっ!」

 

 待望の一夏のISの到着。本来なら此処から専用機と呼べる状態にする為には初期化や最適化と言った行程を挟む必要があるが、それは現状では簡単な話ではない。

 

 早くても30分。それだけの準備時間が初起動となるISには必要となる。だが、今は試合の直前。しかもアリーナが使用出来る

時間にも制限があり、何時までも開始を遅らせる事は出来ない・・・・

 

「・・・・秋風。織斑のISがこの状態でな、予定を変更して最初にお前とオルコットの試合を始めたい。・・・・行けるか?」

 

 と、そこで千冬は先程からピットの壁に背を預けたまま一言も喋らず腕を組んで目を伏せていた和也へと声を掛ける。

 

 その声に和也はゆっくりと両目を開き、凝りをほぐすかの様に首を左右に回すと、壁から背を離した。

 

「・・・・それは時間を稼げって意味に受け取って良いのか?」

 

「そうではない。ただ織斑の準備にはまだ時間が掛かる、それ故に試合を前倒しで行うだけだ」

 

「つまり時間稼ぎって事だろうに・・・・ まぁ構わねぇか」

 

 そうぶっきらぼうに呟くと和也は千冬の言葉に了承した様に、ゆっくりとカタパルトへと足を進める。

 

 そしてカタパルトへと着くと、和也はISを展開せぬままコントロールパネルの操作を始め、そのまま発着口のゲートを開放した。

 

「待て、ISの展開はどうした?」

 

「俺のは最初に展開してくより、向こうで展開した方が良いだろ? でないと俺だって分かんねぇだろしな。まっ、少しは時間を稼いどいてやるよ」

 

 そう言うと和也はそのままカタパルトを歩き出し、ISを展開せぬまま歩を進めた。

 

 目指すは戦闘の舞台、アリーナ。

 

 そこへ向かう和也の口角は、千冬からは見えないが僅かに吊り上がっていた・・・・

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーsideセシリアー

 

 あの日から早くも一週間。わたくしは今、アリーナの中心にて対戦相手が現れるの待っています。

 

 正直、この一週間はわたくしにとってもどかしくて仕方がないものでした。

 

 確かにあの日、わたくしは自らの立場を忘れこの国に対しても、クラスの方々に対しても無礼極まりない発言をしていた事は自覚しましたわ。

 

 それはまさしく、身の程を弁えない発言であったかも知れません・・・・ ですが。

 

「秋風、和也・・・・!」

 

 初めて会った時から無礼で、口にする言葉も野蛮で、ISが起動出来るからと入学して来ただけの男・・・・ そんな男の言葉を素直に受け止める事など出来はしません。

 

 この胸には先の発言に対しての後悔と反省が確かにあります。ですが、それとあの男に対する評価を改めるのは別の問題。

 

 あそこまで好き放題言っておきながら試合で全く手も足も出せないようなら、所詮は口だけの男だった。そう言わざるを得ないでしょう。

 

 故にこの試合はわたくしの実力を示す為のものであると同時に、あの男・・・・ 秋風 和也を計る為の戦いでもあるのです。

 

 その為には先ず、もう一人の男性である織斑一夏との試合がありますが・・・・ 此方も対して心配はしていませんわ。

 

 例え相手が男であれ誰であれ、このセシリア・オルコットの前では敵では無い事を教えて差し上げましょう!

 

ーーざわざわざわっ・・・・

 

 そんな事を考えていれば、不意に周囲が騒がしくなりましたわね? 見れば相手側のピットも開いている様子・・・・ 漸く出てきましたの?

 

 さぁ、大口を叩いたのです。もがいてみせなさい、織斑一夏・・・・っ!?

 

「なっ!? 秋風、和也っ!」

 

 違う、織斑一夏じゃない!? どうして彼が先に? いえ、そもそもどうしてISを展開してませんの!?

 

 

「悪いな金髪。織斑一夏の専用機が今しがた来てな、準備の為に予定変更だ」

 

 専用機が今しがた到着? その為に試合の順番が変わったと言いますの・・・・?

 

 ですが、これは良い機会かも知れませんわ。先に秋風 和也と戦う事で、この胸に燻る遺恨を晴らしてみせますわ・・・・!

 

「・・・・よく逃げ出さずに出て来られましたわね? その勇気は認めてあげましてよ?」

 

「・・・・・・」

 

「ですが、あなたに最後のチャンスを差し上げますわ。このまま戦ってもわたくしの勝利は必然。あなたが不様な敗北を迎えるのもまた必然ですわ」

 

 

「・・・・・・(ごそごそごそ)」

 

「ですので、今この場で謝ればこれまでの無礼を許して差し上げ・・・・」

 

「いい加減うるせぇぞクソガキ・・・・!」

 

 その瞬間、彼に睨まれ背筋が凍る様な錯覚を感じました。それと共に、わたくしの身体が僅かに震え始めた、息も重苦しくなって来ましたわ・・・・

 

「黙って聞いてりゃピーチクパーチクうるせぇ奴だなぁ・・・・ テメェこの一週間、何してやがったんだ? マジで国に帰った方が良いじゃねぇか?」

 

 そう言うと彼は何処から出したか分かりませんが、堂々とタバコを取りだし火を点け始め、口から煙を吐き出し・・・・ って、タバコ!?

 

「あ、あなた一体それは何の真似ですの! 学園の生徒でありながらタバコなど・・・・恥を知りなさい!」

 

「恥を知れとか、テメェにだけは言われたくねぇな。それにこれを止めたきゃ、腕尽くで止めてみろよ? こちとらストレスで吸わなきゃやってらんねぇんだよ」

 

 な、なんなんですのこの男は本当にぃ!?

 

 もう許しませんわ! この男、完膚無き迄に叩き潰してやりますわ!

 

「覚悟しなさい! あなたの様な礼儀も品格も無い人間に、容赦はしませんことよ!」

 

「はっ! そりゃこっちの台詞だ。行くぜ・・・・ 『文月』、力を貸しな!」

 

 そう言うと彼は左耳に付けたイヤリングを右手の親指で弾き、その身を光で包み始めた。

 

 そしてその光が収まった中には・・・・

 

「っ!? フ、『全身装甲(フルスキン)』のIS!?」

 

 そんな、今時『全身装甲(フルスキン)』のISなんて、ふざけてるとしか思えませんわ!?

 

「さぁ・・・・ 口だけじゃねぇのを見せてみろよ?」

 

 

ーsideセシリア outー

 

 





 長くなったけど、漸く戦闘描写まで行ける。逆にここから大変だわい。

 何度も良いますが、『セシリアアンチ』じゃないよ? 寧ろこう言うポジションと扱いこそがセシリアにとって『安置』と思ってるだけです。


 それと箒に関してですが、和也を無理に一夏と絡ませ無いようにすれば必然的に接触もなかったろうから、此処まで出番も無かっただけです。

 では、ターンエンド!



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第8話 クラス代表決定戦②ーvsセシリアー


 どうしよう。和也視点か千冬視点で書くのが凄い楽。




 

ーside千冬ー

 

 私達は今、一夏の専用機の最適化を行いながら秋風とオルコットの試合をピットから観戦している。

 

 本来なら対戦前の一夏に今の試合を見せるのは公平性を欠くとは思ったが、他人のIS戦から何かを学ぶ機会と思い観戦を許可した。

 

 だが・・・・

 

「な、なんなんだよ、あの動き・・・・?」

 

 その試合内容は、決して今の一夏にとって参考と呼べる様なものではなかった・・・・

 

 秋風 和也・・・・ 奴の展開したISは今では殆ど採用される事のない『全身装甲(フルスキン)』タイプのISだ。

 

 展開された手足はどこか『ラファール』を思わせる造形をしているが、それよりも更に人の手足の様にシャープな造り。

 

 腰の両側には畳まれた様なスラスターが付き、腰の後ろにはサバイバルナイフの刃を彷彿させる様な物が2枚・・・・ いや、重なってる? 兎も角、刃の様な物が4枚ほど見受けられる。

 

 そして何より目を惹くのは、背中にマウントされた4対の翼の様なスラスターだ。

 

 それは本当に翼の様に4対の羽根を広げたと思えば、羽根を重ねた様に2対の翼へと姿を変えアリーナを飛び回っている。

 

 それでいて表情を隠す様に頭部全体を覆っているフルフェイス。そこから覗く奴の紅い瞳の様なツインアイは今、オルコットにはどの様に映っているだろうな・・・・?

 

 だが、そこは問題じゃない。いや、此処までも問題だらけだが、一番の問題は・・・・

 

「何故・・・・何故、()()()()()()()()()になっている・・・・?」

 

 そう・・・・ 違うんだ。入学初日に私が()()()()と、今の秋風が使っているISが全く違う物なのだ。

 

「(奴は一人で複数のISを所持している・・・・? いや、確かに束の関係者ならそれくらいおかしくはないだろうが・・・・ 何故敢えて、それをこの場で使う?)」

 

 恐らくこの場に居ない教員達も後に試合の映像を観れば、秋風が複数のISを所持している事に気付くだろう。特に入学試験の際に試験官として秋風と戦った教員などは確実にな。

 

 そう思うと頭痛がしてくるが・・・・ 今はまだ、秋風にその事を問い詰める事は出来ん。

 

「秋風・・・・ お前は一体、何を考えている・・・・?」

 

 今の私にはただ、一夏達に聴こえぬようそう呟く事しか出来なかった・・・・

 

 

ーside千冬 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside和也ー

 

「くっ! どうして、どうして当たりませんの!」

 

 もう何度目になるか。迫り来る攻撃を避け、苛つきを隠さぬまま愚痴を溢す金髪を見るのは・・・・

 

 試合が始まってから早15分。俺は一度も攻撃を行うことなく、今の今まで金髪の攻撃を避け続けている。

 

 奴が手にしたライフルの攻撃も、焦った様に展開した第三世代兵装の『BT兵器』によるオールレンジ攻撃も、その悉くを俺は掠ることなく避けている。

 

 寧ろ逆に・・・・

 

「何時まで棒立ちしてんだよテメェは・・・・ ビット使うならちゃんとテメェも同時に動け! どっちも止まる瞬間があるなんざ、ビット使う意味ねぇだろがっ!」

 

「お、お黙りなさいっ!」

 

 金髪のアラが目立ち過ぎて、ツッコミを禁じ得ない・・・・!

 

「いくらライフル装備だからって、狙いが正確過ぎんだよ! 相手の軌道やら移動やら行動の予想、それ全部を頭に入れて攻撃しねぇと当たるもんも当たらねぇだろがっ!」

 

「う、うるさいですわよ!」

 

 もうね、止まらないんだよ。金髪のIS『ブルー・ティアーズ』が遠距離型のBT兵器運用機とは言え、動きが単調過ぎる!

 

「オマケになんでビットの動きがワンパターンなんだよ!? 2基が前方で2基が相手の背後! これしかしねぇなら、まだミサイル撒き散らしてる方がマシだわっ! 連装式のミサイルポット舐めんなよっ!」

 

 またはガトリングによる実弾の撒き散らしでも可。

 

 あんなライフルをメインにした機体、相手の動きを制限してマウント取らなきゃいけねぇのに、マウント取れてねぇじゃん!

 

 しかもビットの動きも悪いし単純、ちょっと意識すれば動きの予測も出来るしで、宝の持ち腐れ感が半端ないわ。

 

 こいつマジ、良くこの程度であんな威張れてたな!?

 

「もうアレだお前、有線式のビットからやり直せや!」

 

「そ、そんな物なんてありませんわ! 何を言ってますの!」

 

 いや、普通は在るだろ? 俺ですら()()()()()()んだから。

 

 兎も角、こいつはダメだ。元々調子に乗ってるとは思ったが、まさかこの程度で調子に乗ってるとは思わなかった。

 

 気付いたらツッコミと指摘とダメ出しで時間も経ってるし・・・・ 良し、あの調子に乗ったプライドごと潰す!

 

「金髪ぅ! もうテメェの相手は飽きた! こっからは、俺のステージだぁ!」

 

「な、なんですって!?」

 

 そう叫んだ瞬間、背中の各ウィングスラスターの先端に付いていた()()()()()()と、腰の後ろに装備してた()()()()()()()()()()が『文月』の周囲に飛び出す。

 

 今の使ってる機体、『文月』。 そのテーマは・・・・

 

 『ビットによる翻弄と完封』!

 

「蹂躙、駆逐、虐殺だぁーあっ!」

 

 そう叫ぶが早く、合計12基のビットは一斉に俺と共に動き出す。それらは金髪を取り囲む様に散らばり、不規則な機動を続けながら攻撃を開始する。

 

 前方から、後方から、側面から。上下左右、それこそあらゆる方向から動きを止めず、金髪のSEを削り続けていく。

 

 当然、俺も黙ってビットに任せ続けるつもりもなく、拡張領域(パススロット)から二丁のライフルを両手に出し、金髪を追い立てる様に攻撃を続ける。

 

「そ、そんな!? どうしてBT兵器が、なんでBT兵器を使いながら動けますの!?」

 

「慣れだっ!」

 

 いやホント、単純に慣れだよ。ビットの使い方然り、ビットを使う際の並列思考然り、一言で『慣れ』だな。

 

 ただ金髪はそんな言葉も頭に入ってないのか、次々とビットの攻撃に晒され続ける。

 

 既に金髪のビット4基はブレードビットに破壊され、新品の様に青かった機体もビットの攻撃で煤け、所々に亀裂も走っている。

 

 ・・・・流石にこれ以上はISが可哀想か。

 

「次で終わらせてやる・・・・!」

 

 そうと決まれば話は早い。金髪へ攻撃を続けていた4基のブレードビットを手元に呼び戻すと、俺はそれを全て右腕の肘から先へとくっ付けた。

 

 それはさながら四本の爪・・・・ その爪を腕にしながら、今度は瞬間加速(イグニッション・ブースト)を用いて一気に金髪の懐へと踏み込む・・・・!

 

「ひっ・・・・!?」

 

 瞬間、金髪と目が合うと奴は俺の姿に恐怖に歪んだ表情を浮かべた。だが、そんなんじゃ止まってやらねぇ。

 

「終わりだ・・・・! おおぉぉぉらあっ!」

 

ーーガギィンッ!

 

 大きく勢いを付け、絶対防御すら切り裂かんと下段から振り抜いた四つの爪。

 

 その一撃に意識でも失ったのか金髪は仰け反りながら後ろへと倒れ始め、同時に展開していた『ブルー・ティアーズ』も粒子となってその姿を消し始めていた・・・・

 

「んだよ、あぶねぇなぁ」

 

 流石に気絶したまま地面に落として死なれても後が煩いだろうし、渋々ながら落下途中の金髪の身体を掴む。

 

ーービィーィッ!

 

《ブルー・ティアーズ、SEエンプティー。

 勝者:秋風 和也》

 

「「「「わあぁぁぁぁぁぁあっ!」」」」

 

 と同時にアナウンスから告げられる俺の勝利と、観客席から沸き上がる歓声の雄叫び。

 

 おっ? 管制塔の近くにダリル見っけ。そう言えば今日の話はしてたから来てたのか。

 

 あっ、フォルテが興奮したダリルからヘッドロック食らってる・・・・ いや、ダリルの胸に顔を埋められるならフォルテも本望か。

 

[秋風、聞こえるか?]

 

「うん? どうしたよ?」

 

 おや、ちーちゃんから通信とは珍しい?

 

[お前はそのままオルコットを連れて反対のピットへ向かえ、その5分後に織斑との試合を始める]

 

「その口振りじゃ俺が連戦かぁ? 人使い荒いね~」

 

[無駄口を叩くな。兎も角、オルコットはちゃんとピットまで運ぶんだぞ、良いな]

 

 そんだけ言うとちーちゃんは一方的に通信を切った。

 

 まぁ、金髪がこの様じゃ連戦は出来ないしな。俺が連戦になるのは仕方ないわな。

 

 そう諦めると、俺はちーちゃんに言われた通りに金髪が使っていたピットへと飛んで行く事にした・・・・

 

 

 

 

 

 因みに金髪は、両足を掴んで逆さ釣りの状態で運びました。

 

 いや、だって抱えてやる義理ねぇじゃん?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 これでセシリア戦は終わり。
 次は一夏戦だ!

 取り敢えず和也の使った『文月』のビットは、『ストライクフリーダム』の羽根をイメージして貰えれば。

 尤も、アレ程の性能を持たせるつもりはありませんが。

 さて、次で漸く一夏戦・・・・の前に、入学試験での一幕を書けるかな? アレ、何気に千冬と思われてたんだよね~。

 では、ターンエンド!




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第9話 休憩中ー入学試験回想ー


 普通に仕事と用事で更新滞っちゃったよ。
 それと一応オリモブが登場しますが、そこまで重要なキャラとかそんな事はありませんので悪しからず。




 

ーside千冬ー

 

「無駄口を叩くな。兎も角、オルコットはちゃんとピットまで運ぶんだぞ、良いな・・・・はぁ~あ。」

 

 そう言いつけ秋風へと繋げていた通信を切り、私の口からは自然と疲れた溜め息が漏れた。

 

 それはイギリスの代表候補生であるオルコットに勝利した事か?

 

 それは一個人が複数のISコアを所有している事か?

 

 それとも・・・・

 

「・・・・全く。どうして私のクラスには問題児ばかり集まるんだ」

 

 自分で言っておきながら、再び溜め息が零れる。

 

 分かっている。いや、薄々気付いてはいた。適性検査後に身柄を抑えようとした者達を力で捩じ伏せ、そして入学試験を数分と掛からず終わらせた、その得体の知れなさ。

 

 そんな者がこれから一夏と戦い、そして私のクラスの生徒だと言うのだ。

 

 ・・・・はっきり言って、前途多難だ。そんな者を任されたこっちの身にもなって欲しい。

 

「山田先生。織斑の最適化はまだ掛かりますか?」

 

「いえ、大丈夫です。後5分程で全ての処理が終わります」

 

「そうか。ならそのまま進めてくれ」

 

 後5分。それで一夏の専用機も準備が終わる。そうなれば次は一夏と秋風の試合になる訳だが・・・・ 正直、これは見るまでもなく勝負は決しているだろう。

 

 間違いなく、一夏では秋風に勝てない。代表候補生のオルコットとはまた別に、奴の戦いに関する実力は未だ底が計れん。

 

 何より、一夏と違って秋風は()()()()()()()()()()()。この差はどうにもならないだろう。

 

「・・・・はぁ~あ。この前の様にならなければ良いが・・・・」

 

 そう誰にも聞かれぬようボヤき、思い出すのは一週間前の事・・・・ そう、あの入学試験の事を思い出していた。

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーー 一週間前 入学式当日

 

 

「これは、どう言う事だ・・・・?」

 

 私は今、目の前の光景に自分でも分かるくらい大きく目を見開いているだろう。

 

 二人目の男性起動者。その彼の入学に際し彼には今、入学式ではなくISによる入学試験を受けてもらっている筈だった。

 

 筈だったと言うのも、私の方に少々急用が出来てしまい試験に立ち会う事が出来なかったからだ。

 

 その為、彼の試験には別の教員に試験官を頼む事になっていたのだが・・・・

 

「何故、試験官が山田先生ではない? それに、どうして二年担当の朝倉先生が・・・・?」

 

 目の前に広がるのは、私が予想していた相手とは別の教員が、噂の彼を前に膝を着いている光景だった・・・・

 

 試験に使われた打鉄も装甲がボロボロに傷付き、機体の各部からは煙が上がっている。

 

 対して噂の彼・・・・『秋風 和也』は、全身装甲(フルスキン)のISなんて珍しい物に身を包み、自らが下した相手へと呆れた様な視線を向けている。

 

 ・・・・いや、向けてるよな? フルフェイスだから分かり難いが、向けてるよな?

 

 何故か、フルフェイスからの視線が朝倉先生の胸元を見てる様な気がしなくもないが・・・・ まぁ今は良い。

 

「こちら管制室の織斑。朝倉先生、試験は終わりましたね?」

 

『お、織斑先生!?』

 

「朝倉先生。何故あなたが試験官をしているのかは疑問が残りますが、追及はしません。それで、その様子では試験は終わったんですね?」

 

 私からの質問に朝倉先生は答えない。代わりに悔しさを噛み締める様に管制室側から顔を背けた。

 

 恐らく、朝倉先生は答えたくないのだろう。彼女は所謂、女尊男卑の風潮に染まっている人間だ。そんな彼女にしてみれば、男に負けたなどと認めたくはない筈だ。

 

 しかし、勝敗の結果はこの現状がはっきりと物語っている。

 

「・・・・聞こえるか秋風? 試験は終了、早く更衣室で制服に着替えてアリーナ前へ来い」

 

『・・・・なんだよ、随分と急かすじゃねぇかちーちゃん?』

 

「織斑先生だ。入学式も終わり、そろそろSHRも始まる。その後には授業も始まるからな、私が教室に案内してやる」

 

『いっそ、不合格にして帰るって選択肢は?』

 

「あるか馬鹿者。ふざけたこと言っとらんで、早く着替えて来い」

 

『へーへー』

 

 そこまで言うと秋風はISを展開したままピットへと戻り、フィールドから姿を消した。

 

 後に残ったのは傷付いた打鉄を纏ったままの朝倉先生のみ・・・・ なら今の内に聞いておくか。

 

「朝倉先生。どうしてあなたが秋風の試験官をしていたんです? 確か試験は山田先生に代役をお願いしていた筈ですが?」

 

『そ、それは・・・・』

 

 ふむ。言い淀むと言う事はやはり、試験にかこつけて秋風をいたぶるつもりだったか・・・・

 

 確かに今までISを使える男が居なかった以上、今回入学して来た者達はISに関して知識の薄い初心者であると考えるのが普通だ。実際、一夏も初心者である訳だしな。

 

 だが、今回は相手が悪かったな・・・・ なんと言っても相手が男でありながら()()()()()()()のだからな・・・・

 

「一応、試験自体は問題なく終わった様ですので、私の方からはこれ以上の追及も学園長への報告もしません」

 

『くっ・・・・!』

 

「・・・・では、私はこれで失礼します。お疲れさまでした」

 

 学年が違うから、そう簡単に再会する事もないだろうが・・・・ 一応、朝倉先生の動きは此方でも監視しておくか。

 

 間違って一夏へ標的を変えるかもしれないからな。警戒するに越した事はあるまい。

 

 そう考え、私は朝倉先生を残し管制室を後にした・・・・・・

 

 

 

 

「ぬっ? 私の方が待たせたか?」

 

「いや、俺も来たばかりだ。タイミング的に丁度良かったんだろ」

 

 管制室からアリーナの外へと出れば、着替えに行っていた筈の秋風が既に来て居た。

 

 思わず待たせたかと思ったが、どうやらその心配はなかった様だな。

 

「では教室に案内する、付いて来い。ああそれと、教室に着いたら自己紹介くらいはする事になるだろう。今の内に少しは考えておけ」

 

 そう言って歩き出すと、秋風は返事もせず小さく溜め息だけ吐き、私の後ろを歩き出した。

 

 今の時間なら授業開始までには教室へ着けるだろう。そう思っていると不意に、ちょっとした疑問が浮かんだ。

 

「・・・・秋風、朝倉先生はどうだった?」

 

「あ? 朝倉?」

 

「うん? さっきまで試験をしていた朝倉先生だ。知らん訳でもあるまい?」

 

「・・・・ああ、あの胸だけは良かった巨乳美人か。話しすらしねぇ内に攻撃して来たから、誰の事か分かんなかったわ」

 

 ・・・・こいつ、本当に朝倉先生の胸を見ていたのか?

 

 健全な男子としては仕方ないのかも知れないが・・・・ と言うかこいつ、隠すつもりすらないのか?

 

「・・・・まぁ良い。それで、朝倉先生と戦ってみた感想はどうだ?」

 

 機体の性能差か本人の力量かは分からないが、こいつは試験で朝倉先生に勝っている。

 

 しかも朝倉先生は女尊男卑の思想を持っているとは言え、昔は日本の代表候補生の肩書きを持っていた身だ。

 

 と言ってもその思想がある為に日本代表になる事は出来なかったし、実力としても他の代表候補生達よりは劣ってはいたが。

 

「感想も何もなぁ・・・・ あんな錆びだらけな奴にどんな感想持てっての」

 

「錆びだらけ?」

 

 どう言う意味だ? もしや朝倉先生が代表候補生だった頃の事でも知っているのか?

 

「俺の動きに僅かながら反応だけはしてた。けど、明らかに身体は付いてこれてねぇ。オマケに、微妙に機体に振り回されてるっての? 機体を使いこなせてなかったし、その事に自分自身で苛々してる感はしたからな。

 結論として、『昔はそれなりに凄かったかも知れないけど、今は錆びれた奴』の典型ってのが感想だな」

 

 好きに喋らせてみたが、随分と朝倉先生の事を見ていた・・・・ いや、観察していたと言った方が良いか?

 

 兎も角、こいつの感想としては朝倉先生の実力はお眼鏡に適わなかった様だな。

 

 しかも『今は錆びれた奴』か・・・・ その言葉は朝倉先生だけでなく、他の教員達にとっても他人事とは言えない言葉だな。

 

「そうか・・・・ なら、在学中にお前のお眼鏡に適う相手でも探してみるんだな」

 

「いや、なんでよ? 俺は別にライバル的な相手を探しに来てる訳じゃねぇんだが?」

 

「なに、言ってみただけだ。あまり気にするな」

 

 とっ、少しお喋りが過ぎたな。あまりのんびりしていては授業に遅れてしまう、少々急ぐとしよう。

 

「・・・・まっ、悪い意味でお眼鏡に適う奴が居たら容赦はしねぇがな・・・・・・」

 

 ふと秋風が何か呟いた気がしたがよく聞こえなかった為、私は気にせず教室へと少し早足に歩き出していた。

 

 

ーside千冬 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside千冬ー

 

 あの入学試験から一週間。秋風の戦いを直に見るのは今回が初となった訳だが、今の戦いだけでも朝倉先生が負けたのも納得がいっている。

 

 正直に言って、強い。恐らくオルコット相手にもまだ本気は出していないだろうが、間違いなく一年の中で奴に敵う者はいないと確信出来る程に。

 

 そんな相手と今から一夏が戦う・・・・ 姉としては負け戦に飛び込ませる様で心苦しくはある。

 

「・・・・織斑、準備は出来たな? まもなく秋風も出る、先にアリーナへ向かえ」

 

「ああ、分かったぜ千冬姉!」

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 しかし、妙に一夏の気合が入っている気がしなくもない。

 

 なんだ? 秋風の戦いに触発でもされたか?

 

「織斑先生、準備完了です」

 

「良し。ならば織斑・・・・行けっ!」

 

「おう! 織斑一夏・・・・『白式』、出る!」

 

 そう言うと一夏は自身の専用機となった『白式』を展開し、アリーナの中へと飛び立った。

 

 さて、結果は見えているかも知れないが・・・・ どんな終り方をするのか、見せて貰おうか。

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 





 GW期間中は基本的に仕事が目白押しなんで、また更新が滞ります。

 GWなんてGW(グロッキーウィーク)ですよ・・・・


 では、ターンエンド!



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第10話 クラス代表決定戦③ーvs一夏ー

 気付けばお気に入りが300件越えてましてよ、奥さん。
 (  ̄▽ ̄)




 

ーside和也ー

 

 金髪をピットのベンチに放り投げてから文月のSEを回復してから早10分。

 

 俺は今、アリーナの中心で次の相手である織斑一夏が出て来るのを待っていた・・・・ 無論、ISは展開せずに。

 

「・・・・漸くご登場か」

 

 そうしている内に、漸くお相手が反対側のカタパルトからご登場ときたもんだ。

 

 初見の第一印象は白・・・・ どこか騎士を思わせる様な造形に、真っ白な装甲。それが最初に浮かんだ感想だ。

 

 ただそれより気になるのが、奴さんから随分と気合が篭った雰囲気を感じるってとこか・・・・?

 

「随分と気合が入ってるみたいだが、どうし・・・・」

 

「和也ぁ! なんなんだよお前、あんな戦い方してぇ!」

 

「あん? 一体なん・・・・」

 

「俺はお前を許さない!」

 

「いや、だからなんのは・・・・」

 

「男として、俺はお前みたいな奴には負けないっ!」

 

 ・・・・えぇ~え。さっきからひたすら言葉を遮られたんだけど~・・・・?

 

「あのなぁ織斑一夏。せめて、ちゃんと質問くらい聞・・・・」

 

「女に暴力を振るうなんて間違ってる! だから俺がお前の間違いを正し・・・・」

 

「いい加減に聞けやテメェ!?」

 

 俺まだ二言しか言い切れてねぇんだぞ!? 会話のキャッチボールする気ねぇのかよっ!

 

「でっ! 一体何をそんな怒ってんだよテメェはっ! こっちにしてみりゃ、いきなりいちゃもん付けられてんだぞ?」

 

 やっと聞きたい事を喋れた・・・・ つか、出てくるなりなんでいちゃもん付けられなきゃいかんのか。

 

「それはお前が、オルコット相手に卑怯な真似をしたからだっ!」

 

 ・・・・はぁ? えっ、なに? どう言う事?

 

「・・・・よぉーし分かった。先ずは落ち着け、そして順を追って話せ。俺からの質問はそれからだ」

 

 正直、既に訳が分からん。わざわざ時間稼ぎまでやらされて、なんで俺が卑怯な真似したとか言われなきゃならんのか・・・・ 取り敢えず、奴の話しはこうだ。

 

 曰く、俺が金髪に殆ど攻撃しなかったのが男らしくない。

 

 曰く、攻撃し始めたら始めたで一方的過ぎる。

 

 曰く、トドメに爪による攻撃は女相手にするもんじゃない。

 

 曰く、俺は卑怯な戦い方をした上に、女に接近戦かました男として最低な真似をしていた。

 

 ・・・・・・おう。

 

「お前・・・・本格的に脳ミソ沸いてんじゃねぇか?」

 

「っ!? なんだとっ!」

 

 いや、そう言いたくもなるだろ普通?

 

 攻撃を避けるのは普通だし、隙を攻め立てるのは普通。格闘戦が出来んだから爪を攻撃に使うのも普通だし、戦い始めたら男も女もねぇだろうが・・・・?

 

 因みに今までの会話、オープン回線でだだ流しだったからアリーナにいる観客全員に聞かれてる訳で・・・・ 殆どの奴等が呆れた様な反応をしてる。

 

「なぁ織斑一夏。正直言って、お前のバカ丸出しな戯れ言に付き合って頭痛いんだけど」

 

「だ、誰がバカだよ!」

 

 お前だよ! お前以外の何者でもねぇよ!

 

 あぁ、もう・・・・ 早く帰って風呂入って寝たくなって来るわ。

 

 それくらい、こいつの相手はタルい!

 

「最初は初心者だから、少しくらい指導込みで相手してやろうとか考えてたが・・・・ もうメンドくせぇ。『皐月』、潰すぞ」

 

 そう呟けば右耳に付けたカフスのひとつが反応し、俺の全身にISが展開される。

 

 金髪相手に使った『文月』とは違うが、例に漏れず全身装甲(フルスキン)

 

 丸太の様な両腕と両足。両手の甲には厚手のメリケンの様なナックルガード。剣道の胴の様な胸部装甲に、垂れの様な腰部装甲。バックバックにある9つのブースター。

 

 そして拳闘士を彷彿させるであろうフルフェイスなのに、何故か淡い水色のカラーリング。

 

「来い、クソガキ。テメェ相手に武器なんざ使わねぇでやるよ」

 

「っ! ふざけるなぁーあっ!」

 

『あっ、ちょっ!? し、試合開始ぃ!』

 

 あっ、そう言えば審判とか居たっけか? 忘れてたわ。

 

 そんな事を考えてる内に織斑一夏は怒り心頭のまま、手にしたブレードを振りかぶって一直線に俺へと向かって来る。

 

 はっ? 馬鹿なのか?

 

「馬鹿がっ!」

 

「ぐがああっ!?」

 

 なんの捻りもなく突っ込んで来たから僅かに身体をズラしてボディに拳を叩き込んでやれば、織斑一夏は衝撃のまま声をあげシールドバリアの側まで吹っ飛んで行く。

 

 ふむ? 敢えて生身部分を殴り付けてやったが、今の感じだと4割くらいしかSEも削れてなさそうだな。

 

 搭乗者保護システムと絶対防御の同時発動で6割くらいは削れると思ったんだが・・・・

 

「ゲホッ!ゲホ、ゲホッ!」

 

「ほれ、余所見は禁物だ・・・・ぞぉっ!」

 

 立て直す暇など与えない。瞬時加速で距離を詰めながら右腕を引き絞り、もう一度そのボディに一撃!

 

 ドンッ!

 

「がぁあっ!?」

 

「寝るのは早ぇぞっ!」

 

 肺の中の息を吐き出した所へ、次は左腕からの一撃をボディに喰らわせる。

 

 そしてさらなる追撃に次は腕部のブースターを吹かし、拳を振るうと同時に腕部のブースターだけで小規模な瞬時加速を発動!

 

「っ!?」

 

 続けざまに腹部へ強い衝撃を受け、織斑一夏の口からは最早声すらあがらない。

 

 そもそも絶対防御が発動するレベルの一撃を都合四発も叩き込んでんだ。無防備に受けて耐えられる筈もない。

 

 それに普通なら嘔吐してるだろう猛攻も、絶対防御と搭乗者保護システムのお陰で嘔吐にまでは至らない。ビバ、保護システム。

 

「が、あっ・・・・!?」

 

 そう言い残すと織斑一夏は地面へと倒れ込みながら展開していたISを解除していく・・・・

 

 SE切れと気絶の両方ってとこか? なんにせよ、まともな反撃も何も出来ず四発で撃沈とはな・・・・

 

「・・・・お~い、管制室。試合はどうなんだよ~?」

 

《・・・・えっ? あっ、ひ、白式SEエンプティー!

 勝者:秋風 和也》

 

「まっ、そうなるわな」

 

 管制室のアナウンスまで一瞬呆けてたみたいだが、それ以上に観客がヤバい。

 

 殆どの奴が声を出すことすら忘れて唖然としてるし、それ以外の奴等はなんか敵意が篭った視線を俺に向けて来てるし。

 

 ・・・・まぁ、敵意の視線を向けてる奴等は女尊男卑主義者だってのが直ぐに気付けるがな。

 

 とっ。それよりもう試合も終わったし帰って良いよな? ちょっくらちーちゃんに聞いてみよ。

 

「・・・・お~い。聞こえるかちーちゃん? 試合も終わったし、俺はもう帰んぞ」

 

[・・・・その前に、気絶した織斑をピットまで運べ。貴様にも確認したい事がある。それに、織斑先生だ]

 

「嫌だよメンドクセェ。そもそも、こいつのせいでこんな面倒な状況に巻き込まれてんだ。誰が世話なんかみっかよ」

 

 それと、俺のちーちゃん呼びは諦めてくれ。呼び易くて楽だから。

 

[何? おい、秋風・・・・]

 

「つー訳で、今日はお疲れ~。そのまんま帰るわ」

 

 取り敢えず声は掛けたから、無断で帰った訳にはなるめぇよ。

 

 そう言う訳でピットとの通信を一方的に切り、俺は揚々とアリーナから帰路へと向かう・・・・

 

 勿論ちーちゃんに捕まらない様に、金髪がいるピットからシャワー室すら使わず最短でアリーナは脱出した。

 

 

 

 ・・・・あっ。そう言やこれ、クラス代表を決める為の試合とか言ってたっけ?

 

 面倒だから、負けた奴等に勝手にやらせとこう。

 

 

ーside和也 outー

 

 





 これで和也のISで3機目が登場。
 イメージ的にはなんて言えば良いかな? 脳内だと『サクラ大戦』の『神武・カンナ機』的な感じなんだけど。
 (  ̄▽ ̄)


 では、ターンエンド!



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第11話 代表決定ーセシリアの謝罪と・・・ー


 漸くクラス代表決定戦は終われる。




 

ーsideセシリアー

 

 あの試合の後、わたくしが意識を戻したのはアリーナの使用時間が過ぎてからのことでした。

 

 わたくしと織斑一夏さんが気絶していた為に、残っていた試合は中止。結局、あの方のひとり勝ちと言う結果で幕を閉じてしまいました・・・・

 

 正直、試合の結果に悔しいと感じる気持ちはあります。一撃も攻撃を与える事が出来なかった事も、終盤に使って来たわたくしを上回るBT兵器を扱う技量についても、悔しさを感じずにはいられません。

 

 ですが、そんな感傷に浸って彼を恨む権利など、今のわたくしにはありませんわ・・・・

 

 思い返すのは一週間前の事・・・・ あの日わたくしは、感情的になる余り彼等だけでなく日本を、クラスメートである人達全員を侮辱する様な発言をしてしまいました。

 

 その事を彼からは厳しい言葉で指摘されましたが、当時のわたくしは自らの仕出かした失態と、それによって生じる罰則の事ばかりを考えていて・・・・ 真っ先にやらねばならない事を、完全に失念していました。

 

 それは、謝罪。男に対する嫌悪感は有れど、同性であるクラスの方々には真っ先に謝罪するべきだったと、わたくしは気付かなければいけなかった。

 

 ですがそれも機会を逃し続け、遂には代表決定戦まで謝罪する事すら出来ずにいました。

 

 そして何より、彼はそれを()()()()()()

 

「この一週間、何をしてた・・ですか・・・・」

 

 試合の時は気付きませんでした。彼が『この一週間、何してやがった』と言った言葉・・・・

 

 そう、一週間。一週間も時間があったのに、わたくしは一向にクラスメート達へ謝罪の言葉を口にしなかった。

 

 敗北した事で冷静になり、わたくしは彼が指摘していた言葉を漸く受け入れる事が出来ました。ならば、やるべき事はただひとつ、彼への、クラスメート達への誠意を持った謝罪。

 

 これはわたくしがすべき大切な事なのです・・・・

 

 そしてわたくしは今、それを思い出させてくれた彼の・・・・ 秋風 和也さんが居ると言う、1049号室の前へと来ています。

 

「彼は、許して下さるでしょうか・・・・?」

 

 今更虫の良い事だとは理解しています。ですが、先ずは彼にだけでも謝罪をしなくてはいけない。

 

 そう思いわたくしは部屋の扉をノックしました・・・・

 

『は~い、誰~?』

 

「っ! や、夜分すみません。セシリア・オルコットです」

 

 中から聞こえて来たのは彼のではない、女生徒の声。確か男子は個室がなかった筈だから、彼は他の女生徒と同室なんでしょうか?

 

 そんな事を考えてると部屋の扉が開き、中からひとりの女性が姿を見せました・・・・ 見たことの無い方ですわね? 他のクラスの方でしょうか?

 

「え~とっ、オルコットさん? 何か用なの?」

 

「あっ、はい! こちらの部屋に秋風 和也さんがいらっしゃると聞いて・・・・ 彼はいらっしゃいますか?」

 

 彼の部屋については、山田先生に確認をとって教えて頂きました。

 

 彼に謝罪をしたいこと。ひいては翌日、クラスの方々にも謝罪する為に時間を頂きたいことも、山田先生には説明済みです。

 

 その際に当時の発言に対する注意をされながらも部屋の場所を教えて頂いてるので、彼はこの部屋に居る筈なのですが・・・・

 

「・・・・はぁ? 男なんか部屋に入れる訳ないじゃない? 男と同室なんて、正気を疑うわよ」

 

「・・・・えっ?」

 

 彼女の口から出た言葉に、わたくしは一瞬訳が分からなくなりました・・・・

 

 

ーsideセシリア outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside千冬ー

 

 クラス代表を決める試合から一夜明けた翌日。SHRの為に私は教壇の前に立ち、昨日の結果を伝えねばならんのだが・・・・

 

「おはよう諸君。さて、昨日は試合までしてクラスの代表を決めようとしていた訳だが・・・・ 秋風」

 

「んなもん、俺がやる訳ねぇだろ? 馬鹿二人で勝手にやってろ」

 

 唯一試合に勝利してるこいつは、平然と元も子もない事を言いおってぇ・・・・!

 

 しかし、こいつがクラス代表にでもなったらそれはそれで面倒な事になる可能性は跳ね上がる気もする・・・・

 

「・・・・では、お前は残った2名で代表を選出させると言う事で良いな?」

 

「当然だろ? 俺、勝者。こいつら、敗者。拒否権は無し」

 

 くっ! 面倒事がひとつ無くなる為とは言え、こいつのこの態度は腹が立つ・・・・!

 

 だが取り敢えず今は、残った二人からクラスの代表を決めねばならんからな・・・・暫しの辛抱だ。

 

 と、秋風の態度に苛々していると静かにオルコットが手を挙げていた。

 

「織斑先生、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わん。手短にな」

 

 そもそもオルコットの用件については山田先生から事前に聞いている。

 

 私としても必要な事ではあると思うし、無理に止める必要もない。

 

 そうする間にオルコットはクラス内を見渡すと、深々と頭を下げた。

 

「先日は日本を侮辱する様な発言をし、大変申し訳ありませんでした。クラスの皆様には大変不快な思いをさせてしまった事を、此処にお詫び致します。本当に、申し訳ありませんでした」

 

 ふむ。まだ傲慢な態度が残っているかと思ったが、どうやら杞憂だったか。

 

 オルコットの謝罪には確かな誠意が感じられる。どうやら、先の試合は少なからずオルコットに良い影響を与えたか?

 

 その証拠に最初こそ戸惑っていた生徒達もひとり、またひとりと拍手をする形でオルコットの謝罪を受け入れ始めている。

 

「いやぁオルコットさん偉いね~」

 

「ほんとだよ、私だったら怖くて謝れないもん」

 

「まぁでも、あまり気にしてなかったしね~」

 

「うんうん」

 

「これからよろしくね、オルコットさん」

 

「あ、ありがとうございますわ。つきましては、代表候補生として余りにも未熟な真似をしてしまった事を反省し、わたくしはクラス代表を辞退させて頂きたいと思います」

 

 その可能性も既に山田先生から聞いている。故に、私は朝の時点で決まっていた内容を口にする。

 

「では、クラスの代表は織斑で決定とする。異論はないな? 有っても受け付けん」

 

「ちょっ!? なんで俺なんだよ千冬姉!? 不公平だっ!」

 

「織斑先生だ! 秋風は勝者権限で拒否。オルコットは自身の立場と発言の責任から立候補を辞退。となれば、残っているのは推薦されていたお前だけだ。拒否権などない」

 

「そ、そんなぁ~・・・・」

 

 寧ろ、順当な結果とも言えるだろう。

 

 取り敢えず、これで無駄に時間を掛ける事になった物も決まったんだ。項垂れる一夏には諦めてクラス代表になって貰おう。

 

「ではクラス代表も決まった事だし、授業を始め・・・・」

 

「あっ、織斑先生。もう一件よろしいでしょうか?」

 

 何? まだ何かあるのか?

 

 と思えばオルコットは秋風に視線を向け、秋風は秋風で興味なさげに大口を開け欠伸を漏らしている。

 

「秋風さん・・・・ あなたは今、どちらで暮らしているのですか?」

 

「・・・・はぁ?」

 

「学園内、以上」

 

 ・・・・・・まだ面倒な事が残ってたのかぁーあっ!?

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 





 今まで和也の寮生活を書いてなかったじゃない? その理由がコレよ。

 と言うかセシリアsideもう少し短く纏めたかったけど・・・・無理だった。

 では、ターンエンド!



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第12話 入寮の裏 ー副担任>担任の図ー


 GW前のなけなしの休み、ゴロゴロと書いてったぜい。

※4/29 誤字訂正



 

ー8日前の入学式・放課後ー

 

 その日、真耶と別れた和也は女子寮の一室へと向かい歩いていた。向かっている先は真耶から受け取った部屋の鍵に示された、『1049号室』の場所。

 

 部屋の場所自体は寮入口にあった案内板で大まかに把握しており、和也の足は迷う事なく目的地へと向かう。

 

 まぁその途中、和也の姿を見つけた女子達が遠巻きに騒いでいたが、和也はその事はあまり気にしていない。

 

「・・・・と、此処だな」

 

 と、漸く目的地である部屋の前へと着いた。

 

 ここで自室になるからとは言え、先客がいる事を考えずノックを怠ったりはしない。この男、初動までは礼儀を忘れないのだ。

 

 ・・・・まぁ次動に入れば礼儀は捨て去るのだが。

 

 そうする内に部屋へのノックを済まし暫くすると、部屋の扉が開き中から見知らぬ女生徒が姿を見せた・・・・

 

「はぁ~い・・・・っ!? お、男!? なんで!?」

 

「あぁ~あ、悪いな。俺は秋風 和也、一組の生徒だ。今日からこの部屋に入寮するんだが、山田先生から話は聞いてねぇか?」

 

 最初はまだ冷静に、相手を落ち着かせながら和也は女生徒へと話し掛ける。

 

 もしかするとセシリアと違って話せば分かる部類かも知れないし、無駄に敵対する必要もないと思っての対応だったのだが・・・・

 

「はぁ!? なんで私が男なんかと同室しなきゃいけないのよ? あんたみたいな男なんかお断りよ!」

 

 その期待は、一瞬にして崩れ去った・・・・

 

 向けられるのは相手を見下し、嫌悪感を隠そうともしない侮蔑の眼差し。これだけで和也にとって、目の前の女生徒がどう言った人物なのかは簡単に把握出来た。

 

 詰まる所、女尊男卑主義者なのだ・・・・

 

「・・・・成る程。この様子じゃあ事前に話もしてねぇみたいだな。山田先生、詰めが甘ぇなぁ~」

 

「ちょっと、何時まで此処に居るつもりよ! そもそも男がこの学園に居ること自体が間違ってるのよ! 早く私の視界から消えなさいよ!」

 

 和也が現状の理由に合点を至らせる間も、女生徒は和也への罵倒を止める気配はない。

 

 やれ男の癖に、やれ男なんかがと、聞こえて来るのは単純な子供染みた言葉ばかり。その喧しさに周りの部屋からは騒ぎを聞き付けた他の寮生達が何事かと部屋からは顔を覗かせる。

 

「・・・・まぁ良い。なぁ、テメェは山田先生から同室の話は聞いてなかったんだな?」

 

「当然でしょ! なんで男なんかと同室しなきゃいけないのよ、私はゴメンよ! 男なんて、みっともなく野宿でもしてれば良いのよ!」

 

 確認も踏まえて訊ねた言葉の返答に、和也の口角が僅かに吊り上がる。

 

 そう、和也は待っていたのだ。女生徒が、自らの意思で和也との同室を拒絶する事を・・・・

 

「なら仕方ねぇな。事前に話もなく男女で同室なんて堪んねぇもんな? なら無理に同室なんざするもんじゃねぇよな~?」

 

「フンッ! 当たり前よ! 分かったら早く此処から、いえ、この学園から出ていきなさいよ!」

 

「学園から出て行きたいのは同意だが、まだ初日なんでな。簡単には出るに出れないんだよ。だが取り敢えず、同室についてはこっちから身を退いてやる。貴重な女生徒からの意見だしよ」

 

 そう言うと和也は仕方が無いと言いたげに両手を広げ、わざとらしく溜め息を吐いてみせる。

 

 確かに、仕方が無い。同室になる女生徒が、男である和也との同室を拒否しているのだ。となれば優先されるのは女生徒の意見であり・・・・

 

「じゃあ同室は拒否により不成立。今の貴重な意見を考慮に入れ、俺は()()()()()()()()()()()()()って事で手打ちにしようや?」

 

 和也にとって、都合の良い状況が着々と出来上がって行った・・・・

 

「当たり前よ! 分かったら早く消えなさいよ、男風情がっ!」

 

「はいはいっと。貴重な言質、ありがとさん」

 

 そう言うと和也は手をヒラヒラとさせ、未だ喚く女生徒を後目にその場を立ち去って行く。

 

 その様子を見ていた他の寮生達は本当に今の状況が良かったのかどうか判断しかねオロオロしていたが、当事者である女生徒が喚く様を見せられ深く関わるべきではないと判断し部屋の中へと戻って行った。

 

「・・・・ククククッ。まさか、こうも期待通りの展開になるとはなぁ~。事前になんの対応もしてなかったのは問題だが、山田先生には感謝しなくちゃな・・・・」

 

 そう誰に聞こえるでもなく呟くと、和也は悠々と女子寮を後にした。

 

 これ以降、女子寮や寮の食堂で和也の姿を見る者はいなかったのだが、誰もその事には気付く事がなかった・・・・

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside和也ー

 

 ・・・・と先週の事を思い出してる中で、俺が寮に居ない事がバレた。

 

 しかも、よりにもよってちーちゃんや山田先生も聞いてる教室の中で。

 

 ・・・・いや~、ちーちゃん怒るかな?

 

「ど、どう言う事ですか秋風君!? 学園内ってどう言う事なんですか~!?」

 

 あっ、先に山田先生がテンパった。

 

 ・・・・うむ。今日も我が神はぶるんぶるんと素晴らしく、実にハラショーだ。アワアワしてて、妙に可愛く見える。

 

「どうもこうも、そのまんまの意味だよ。寮には居ないが、学園内には居る。これに何の問題が?」

 

「問題大有りですよぉ!? どうして寮で生活しないんですか? 部屋割りも頑張って調整したのに~!」

 

 可哀想だけど、頑張った結果がアレでしたが?

 

 それに俺は、貴重な女生徒の意見を尊重してあげただけなんだが?

 

「まぁ寮にはいないが、衣食住は確保してる。ちゃんと風呂も入ってるし洗濯もしてる、問題ねぇだろ?」

 

「それでもですよぉ!? 一体どこで生活してるんですかぁ!?」

 

「それは秘密。探してごらんなさい」

 

 実際問題ちょ~っと改築し過ぎたから、あんま他人に知られたくないんだよな。今だって地下に向かって改築続けてるし。

 

 こう言う時は便利だよな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って。格納領域(パススロット)に資材も詰め込んで来てて正解だったわ。

 

「・・・・秋風、どうしてそんな事になった? そもそも、何故教師に一言も伝えてない?」

 

「貴重な女生徒の意見を尊重しただけだよ。それに、これは入学の際に()()()()()伝えてある条件のひとつに抵触しただけだが?」

 

 そう言うとちーちゃんは眉間にシワを寄せ、目に見えて怒ってるのが周囲にも伝わる。

 

 あ~あ、関係の無い奴等まで怯えちゃってるじゃねぇか。山田先生を見てみ? 涙目で震え出して、なんか可愛いじゃないか。

 

「兎も角、俺は学園内には居る。クラス代表はバカ・・・・織斑一夏で決定。これで良いだろ? さっ、早く授業の準備しような~」

 

「・・・・チッ! 秋風、昼休みに職員室に来い。詳しく話を聞かせて貰うぞ」

 

「ダリるんと飯食う予定があるから拒否」

 

「良いから来い!」

 

「そうですよ秋風君! 私も聞きたい事があるんですからねぇ!」

 

「クッ、山田先生が言うなら仕方が無いか・・・・! 取り敢えず、飯は食ってからで良いですか?」

 

「おい待て、なんで山田先生にだけそう言った?」

 

「山田先生=可愛い+副担任、無下に扱う理由がないが?」

 

「担任は私だぞ!?」

 

「親しみ易さが足りない」

 

「なんだとぉぉぉぉおっ!」

 

 いやだって、思わず頷いちゃった奴等がクラスに居るじゃん? バレない内に止めてたけど。

 

 しかし、漸くバレたか~・・・・ 割とバレないもんだな。

 

 それに昼休みには職員室で事情説明とか面倒なんだけど・・・・ あっ、そうだ。ついでに整備室が使えないか聞いとこ。

 

 兎も角、クラス代表は決まったし、金髪のクラスメート達への謝罪も済んだな。

 

 まぁ・・・・ なんか今の騒ぎで大分影が薄くなったけども。

 

 そう言えば、なんで金髪が最初に俺が寮に居ないの気付いたんだ?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 




 まぁそもそも、毎回クラスメートや主要人物ばかりと同室になる訳ないじゃないと言う事で、名前すら無い女尊男卑なモブと同室予定だった和也。
 当然、同室なんか出来る訳がない訳ですよ。
 (  ̄▽ ̄)

 和也の住まいに関しては明確に書いてない協力者の援助により、学園内に確保済み。格納領域って、四次元ポケットみたいで便利よね?

 それにしても、和也が学園長と結んでる裏取引の内容、何処に挟み込ませようかな~? それがあるから分かってる様な動きさせてるんだけど・・・・何処にしよ?

 では、ターンエンド!




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第13話 妥協案ー受け取らぬ謝罪ー


 謝れば全てを許す?
 無理な相談だ。機会を逸した謝罪なぞ、もはや意味はない。

※4/29 脱字訂正、一部修正。


 

ーside和也ー

 

 楽しい俺の隠匿ライフが露見した直後の休み時間。日課の様にのほほんからお菓子をねだられてる最中、そいつは来た。

 

「すいません、少々よろしいでしょうか?」

 

「断る、去れ。・・・・あっ、のほほんテメェ、アル○ォートだけ2つ取ったな!?」

 

「えへへ~、早い者勝ちなのだ~」

 

「ふざけろっ! バラエティーパック分けてやってんのに、ひとりで同じ物を取る大罪を知れ!」

 

「えっ? いや、あの~・・・・?」

 

 まぁ無視するがな。今はのほほんと今日のお菓子争奪戦の真っ最中だ。下らん事にかまけてたら全部持ってかれるわっ!

 

 ああ、そう言えば危惧してた通り入学初日から毎日布仏にお菓子を狙われる日々が続いている。

 

 しかも格納領域に隠してても気付くなんて人間離れした嗅覚を見せてくるもんだから、今じゃ諦めてお菓子を分け与えてる・・・・

 

 いや、ホントなんで格納領域内のお菓子までバレるんだよ?

 

 で、そんな事してたら布仏の事を『のほほん』って呼ばせて貰ってる。

 

「じ、実は先日の事について改めて謝罪をさせて頂きたいのですが・・・・」

 

「興味ねぇ。つか、こんな極東の猿に構ってねぇでどっか行け。目障りだ」

 

 そもそも今さら金髪と話す理由なんざない。話した所で無意味だし、構うだけ時間の無駄だ。

 

 しかし、それでも懲りずに話し掛けようとしてる金髪を見てか、のほほんが微妙にしかめた様な面を浮かべてる。

 

 なんぞや?

 

「う~ん・・・・ ねぇ、あっきー。少しだけセッシーのお話聞いてあげたら~?」

 

「なんでよ? そもそもイギリスの貴族で代表候補生様な奴が、野蛮で品性の低い極東の猿に話なんかある筈ねぇだろ?」

 

 あったとしても、俺に対する恨み事か逆恨みを言いたいだけだろ? そんな事にいちいち耳を傾ける必要性はないだろうに。

 

 しかし、それでものほほんは納得いってない様だ。

 

「む~、取り敢えずあっきーはセッシーとお話すべきだと思うな~」

 

「えぇ~え。どうしてもか~?」

 

「どうしても~」

 

「今日はもうお菓子あげなくなっても?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 いや、そこは躊躇すんなよ。

 

 しっかし、別に相手してやる気がないし、俺の()()()変わらないんだがな~・・・・ まぁ付きまとわれても面倒か。

 

「・・・・はぁ~あ。分かった分かった。おい、何の用だ? 3分間だけ相手してやる」

 

「っ! ありがとうございます!」

 

 いや、そんな大袈裟に礼を言われても迷惑なんだが・・・・ ほら見ろ、気付けば周りの奴等までこっち見てんじゃねぇか。

 

「それでは改めまして。先日はわたくしの発言で不快な思いをさせ、申し訳ありませんでした。特に秋風さんには指摘されていたにも関わらず、謝罪が遅れてしまった事をお詫び致します」

 

 ああ、やっぱりそう言う話しか。と言うかだ・・・・

 

「・・・・で? それが?」

 

「・・・・えっ?」

 

 わざわざそれを、俺に言う必要性があったか?

 

「だから、それがどうしたよ? クラスの奴等に謝罪しとくのは当然だったとして、俺に謝罪する意味は? それを俺が受ける必要性は? ・・・・言っとくが、俺はお前の謝罪なんぞ受け取る気は毛頭ないぞ?」

 

「そ、そんな・・・・!」

 

 いやいやいや、そんなショックですみたいな顔した所で当然だろ?

 

 そもそもが金髪と織斑一夏の下らん喧嘩に巻き込まれたのが切欠だぞ? それなのに散々好き勝手言ったのは何処のどいつだよ?

 

 そう、目の前の金髪と、なんか遠くから恨みったらしい視線を向けて来てる織斑一夏だ。

 

「俺は謝罪を受け取る気はない。ついでに言えば仲良くするつもりもな。ただ安心しな、代わりに俺はお前と関わる気はねぇから。今後は俺の事なんざ気にせず生活しててくれ」

 

「っ・・・・!」

 

 だからこその妥協案は、どちらもこれ以上関わらない事。これが今回の騒動で最も平和的な妥協案だ。

 

 それに対し金髪が悔しそうに俯こうが、この一週間で下した金髪に対する評価の結果だ。俺の知ったこっちゃない。

 

 まぁ周りからは俺の対応に不服と言いたげな視線がちらほら感じられるが、何人かは思う所がある様な奴等も居るみたいだが。

 

 とは言っても・・・・

 

「和也っ! お前、どうしてセシリアの謝罪を受けないんだよっ!」

 

 こいつがどうやっても、俺に突っ掛かって来るのは予想出来てた・・・・

 

「なんだよ織斑一夏・・・・? どう受け応えようと俺の勝手だろうが? 後、呼び捨てにすんじゃねぇよ」

 

「あっきー、それはダメかな~?」

 

 鼻息荒く近付いて来る織斑一夏に振り向き様に中指立てようとしたら、のほほんに止められた。

 

 てか、のほほん? 止めるのは良いけど、中指掴んだまま捻んのは止めてくんない? それはそのまま中指の骨を折るやり方よ?

 

「そもそもセシリアが謝ったのに、なんでお前は謝んないんだよ! そうすれば全部丸く治まってるじゃねぇか!」

 

「のほほん、それ痛い。クッキーあげるからマジ離して」

 

「じゃあコレは止める~?」

 

「止める止める。だから離せや」

 

「っ! 聞けよっ!」

 

 るっさいわ。のほほんの奴、見た目に合わず結構な力で中指押さえてんだぞ? 一般人なら関節のひとつは外されてたわ。まぁ対価にクッキーを提示したら離してくれたから良かったが。

 

 しっかし、金髪が謝ったのに、ね~・・・・?

 

 お前がそれ言うか?

 

「じゃあなんだ? テメェは謝ればなんでもかんでも全て水に流すってぇのか?」

 

「相手が謝ったんだぞ! 許すのが人として、男として当然の事だろ!」

 

「男とかは関係ねぇだろ、馬鹿かテメェ? そもそもこれは俺と金髪の問題だろうが。テメェに首を突っ込まれる筋合いはねぇだろ」

 

「友達が喧嘩してたら止めるのは当たり前だろ!」

 

 ・・・・・・えっ? なに言ってんの?

 

「? なんだよ?」

 

「・・・・なぁ金髪。お前、コレと友達か?」

 

「い、いえ。織斑さんとは別にそう言う関係では・・・・」

 

「そうか・・・・ 因みに俺も、こいつと友達になった覚えはねぇ。ついでに言えば、なりたいとも思わねぇ」

 

「っ!? なんでだよっ!」

 

 いや、勝手に人のこと友達発言されりゃあ誰でもそう思うだろ? オマケにこいつ、基本的に俺に対して敵意しか向けて来てないのに。

 

 つか、どんな思考回路してんだよ? 正直、背筋が凍えて来る様な気色の悪い発言だったぞ・・・・

 

「・・・・オッケー、金髪。俺はお前の謝罪は受け入れない。そして今後は授業以外じゃ互いに関わらない。これでこの話は終わり、良いな?」

 

「なんでだよっ! それがおかしいって話なんだろ!」

 

「ついでに言やぁ! テメェなんかにダチとか呼ばれたくねぇんだよ! なんなんだテメェ? 金髪みたいに他の奴等に詫びる訳でもなく、気色悪いこと言って話しに割り込んで来てよぉ! 迷惑なんだよ、クソッタレがっ!」

 

 ホント、なんなんだこいつ!? 騒ぎは大きくするわ、勝手な考えでいちゃもん付けて来るわ、自分勝手に割り込んで来るわ・・・・ 女尊男卑主義者の相手するよりシンドイわっ!

 

ーーキーンコーン、カーンコーン・・・・

 

「全員席に着け、授業を始めるぞ」

 

「・・・・おう、担任様のお出ましだ。とっとと失せろ」

 

「グッ! 俺は絶対、お前の態度は認めないぞ・・・・!」

 

「知るか! もう話し掛けてくんなっ!」

 

「煩いぞお前等! 何時まで騒いでる!」

 

 お宅の弟さんが原因だよ! ちーちゃんは知らん事だけどっ!

 

 兎も角、授業を始める為にちーちゃんが来たお陰でこの場はお流れになったが、教室の中はクッソ最悪な空気になっちまったじゃねぇか・・・・!

 

 ちーちゃんはちーちゃんで俺や織斑一夏に原因があるみたいな気配には気付いてるみたいだけど、どうしてそうなったかの真相は知らねぇし。

 

 いやホントさ・・・・ 保護者に直接抗議すんぞ!?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 




 繰り返しお伝えします。
 この作品は、『セシリアアンチ』では御座いません!
 (  ̄□ ̄)

 いや、仕方ないんだ。どうやっても代表決定戦後のセシリアとは和解なんぞさせられんのだ。寧ろ、遺恨を残さない方が難しいでしょ?

 と言うか、ハーレムタグが付いてるのにハーレム要素が未だに見えないのって・・・・


 あっ、次話から漸く授業内容とか代表戦に向けて動いて行きますんで。
 (  ̄▽ ̄)

 まぁ、まだ鈴とか出ませんけど。

 では、ターンエンド!




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第14話 実習授業にて ー千冬の受難ー

 授業風景やらで話を進めると言ったな?
 アレは半分嘘だ。

※4/30 誤字訂正


 

ーside千冬ー

 

 なにやら2限目に教室へと戻ったらクラス内の空気が悪くなっていた気もしたが、それ以外は恙なく授業が進んでいた。

 

「さて諸君、今日からISを使った実習が始まる。これは兵器だ、人を殺せる力がある。そしてお前達がISを扱うにあたり、それ相応の責任が伴う事を忘れるな。いいなっ!」

 

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 特に今日からは一年もISを使った実習が始まるとあって、皆真面目に私の話を聞いていた。

 

 ・・・・とは言っても、今日はまだISの実機を使わせる実習ではない為、殆どの生徒がジャージ姿な訳だが。

 

 ジャージ姿でなくISスーツを着ているのはこの中で専用機を持つ一夏、オルコット、秋風の三人だけ・・・・ って、むっ?

 

「秋風、ISスーツはどうした? 専用機持ちはスーツに着替えておけと言った筈だが?」

 

 そう、専用機持ちの中で秋風だけは何故かジャージ姿だった。しかも学園指定のジャージではなく、黒い普通のジャージだ。

 

 確か昨日の試合までは黒い長袖タイプの上と、ジーンズの様な変わったスーツを着ていた筈だが?

 

「この前までは初陣って事でサービスしてたけど、俺はISスーツとか要らねぇんだよ。そもそも全身装甲だし、無くても問題ない様に改良してあるし」

 

 何? 秋風のISはISスーツを必要としないのか?

 

 それは・・・・ 少しばかり羨ましいな。私達はISを使う上で水着の様にぴっちりしたスーツを着なくてはいけないからな。その手間を省けるとは・・・・

 

「・・・・まぁ今日は良い。だが、授業ではISスーツの必要性も教えなくてはならんのだ。次からはちゃんと着て来い」

 

「夏が終わって冬になったらな。夏場は暑いし」

 

「夏でもだ!」

 

 クッ! なんでこいつは毎回素直に返事をしないのか・・・・! まるで束の奴を相手してる様な気分になってくる!

 

 兎も角、こいつに構い過ぎると授業が進まん。今は怒りを抑え、授業を進めなくては・・・・!

 

「・・・・さて、実習へ移る前に専用機持ちには色々と実演してもらおう。秋風、織斑、オルコットの三人は前へ出ろ」

 

「・・・・はい」

 

「は、はいっ!」

 

「見学してちゃ駄目か?」

 

「駄目に決まってるだろ!」

 

 ああぁっ! おちょくられてる様で腹が立つぅ!

 

「秋風から順番にISを展開しろ。目標は0.5秒だ。山田先生、計測をお願いします!」

 

「分かりました。それと前に授業でも言いましたが、ISの展開は訓練次第でその時間を縮められるんです。熟練の操縦者ともなれば展開に1秒と掛からないんですよ。皆さんも覚えておいて下さいね?」

 

 実習の補佐をしてくれる山田先生からの補足を聞かせながら、先に秋風が一歩前へ出る。

 

 が、何故か秋風はISを展開せず何か悩む様に顎に指を当てていた・・・・

 

「・・・・おい、秋風。何をしてる?」

 

「あん? いやな、どっち展開しようか考えててな・・・・ 授業って言うなら『睦月』か、それとも飛ぶだけなら『如月』か・・・・ 迷うな」

 

 そうだった。そう言えばその件に関して昼休みに問い詰めようと思っていたが、こいつは個人で複数のISを所持しているんだったな・・・・

 

 しかも『睦月』? 『如月』? また昨日とは違う呼称が聞こえて来たのは気のせいか?

 

「・・・・うん、まぁ授業だし『睦月』にしとくか。山田先生~、ぼちぼちやるんで計測よろしく~」

 

「は、はい。任せて下さい!」

 

 どうやら使うISを決めたのか? 山田先生がやる気を出して観測用の機材を構えたのを見ると僅かに苦笑いを浮かべ、秋風は漸くISを展開する素振りを見せる。

 

「・・・・『睦月』」

 

「っ!?」

 

「えっ!?」

 

「「「「はぁあっ!?」」」」

 

 ISの名を呟いた刹那、次に聴こえたのは周囲の驚愕の声だった。

 

 馬鹿な・・・・ 予想の遥か上の展開速度だと!?

 

「れ、0.1秒、です・・・・」

 

 これには計測した山田先生も驚きを隠せないでいた。

 

 当然だ。0.1秒など一年が出す様な記録ではない。出せたとして、現役の国家代表、それも上位クラスの者でないと出せない様な記録なのだからな。

 

 それに秋風が展開したIS・・・・ それは入学試験の時に見た全身装甲のISだった。そうか、それが『睦月』か。

 

「す、凄いですね秋風君。まさかこんな記録が出せるなんて・・・・」

 

「うん? いやいや、こんなん慣れだよ。慣れれば大概の奴は出来るって」

 

 簡単に言ってるが、それが出来ない者がどれだけ居ると思っているんだ?

 

 少なくとも専用機を持たぬ者など、待機状態のISを展開する機会すら持つ事が難しいと言うのに・・・・ と、そんな事を考えていたら不意に秋風が生徒達の方へと視線を向けた。

 

「ISを展開すんのに重要なのは慣れもそうだが、イメージだ。展開した後の姿もそうだが、自分が展開する機体の姿。これをはっきりと認識、理解さえしてりゃあ誰でも出来る。

 簡単なやり方で言えば、自分が展開するISの絵を記憶だけで書ける様にする。これだけでも展開するイメージはだいぶ堅められんぞ?

 要は、あやふやなイメージじゃ出来るもんも出来ねぇって事だしな」

 

 ・・・・ほう? 参考にもならん展開速度を見せ付けたかと思えば、そこに至る為のアドバイスをしてみせるか・・・・?

 

 確かに、ISを扱う上でイメージする事は重要な要素だ。機体の動かし方、武器の展開、そして今のISの展開。これらに於いて全てにイメージは必ずや関わりが出てくる。

 

 それは学園の上級生であったり各国の代表候補生であったりすれば気付いている事でもあるが・・・・ それをまさか、秋風(問題児)が実演を交えて説明するとはな・・・・

 

 それにその言葉に生徒達も得る物があったのか、感心した様に頷く者が多く見られる。その中には代表候補生であるオルコットも、あの山田先生すらも・・・・ って、山田先生? 貴女まで感心してどうする?

 

「う、ううんっ! 実演としてはやり過ぎた感は否めないが、上出来だ。次はオルコット、やってみろ!」

 

「えっ? あ、はいっ!」

 

 そう咳払いを挟んでから指示を飛ばすと、次は代表候補生でもあるオルコットにISの展開をさせる。

 

 本来なら一夏にやらせる筈なんだが・・・・ 最初に秋風が不必要な迄の展開速度を見せ付けたからな。予定を変え、明らかに展開速度が遅いだろう一夏を最後に回す事にした。

 

 一夏にとっては晒し者の様になってしまうかも知れないが・・・・ スマン、これも全て秋風が想定以上の事をしてしまったせいなんだ。

 

 そんな諸悪の根源たる秋風は、オルコットの展開など全く興味がない様に、手慰みの様に様々な武装を展開しては収納してを繰り返し・・・・

 

 って、おい! それはこの後にやる実習の内容だぞ!? 暇潰しで先にやるなっ!

 

 それに、高速切換(ラピット・スイッチ)だと!? お前、そんな事まで出来たのか!? と言うか、随分と武装多いなっ!? その武装幾つ目だ!

 

 ああぁ! しかも他の奴等までそれに気付いてオルコットの方を見てないではないかぁ!

 

 お前・・・・さっきまで少しは良いこと言っていただろう!?

 

「秋風ぇ! お前、少しは大人しく待ってられんのかぁーあっ!?」

 

「お腹が空いて、やる気が出ないんだよ・・・・ 早く授業進めようぜ、ちーちゃん?」

 

「お・ま・え・がっ! 授業を妨害してるんだぁーあっ!?」

 

「濡れ衣だと!?」

 

「違うわぁ!」

 

 その後、秋風の暇潰しと称した妨害にもめげず私と山田先生は授業を続けた。

 

 急上昇からの急降下・急停止の実演では一夏が失敗してグラウンドに大穴を開けたり、武器の展開速度を見せる実演では秋風が武器の代わりに多様なパペットを展開したりしたが、どうにか授業は終わらせる事が出来た・・・・

 

 と言うより、秋風は居眠りしている方が平和なんじゃないかと本気で思った・・・・ 主に私が感じる頭痛的な意味で。

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 




 はい、入学試験の時に和也が使ってたISが出ましたよっと。
 しかし、造形に関する説明は何処にも無し。
 いや、なんか入る説明部分が入り込む余地がなかった・・・・

 まぁイメージ的には『ジムカスタム』になると言う事だけは伝えておきたいです、はい。

 では、ターンエンド!



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第15話 お昼の一幕 ー無自覚爆弾の脅威ー


 今日で平成も終わりか・・・・ 新年号になっても暫くは間違えて平成って書いてそうだ。


 

ーside和也ー

 

 織斑一夏から背筋も凍る気色悪い発言をされたり、実習授業でちーちゃんから濡れ衣で文句言われたりした後の昼休み・・・・

 

「・・・・って訳で、ヒデェと思わねぇ? とんだ濡れ衣だっての」

 

「いや、明らかにお前が悪いじゃねぇか」

 

「そうッスね、明らかに秋風が悪いッスよ」

 

「味方じゃなかったかっ!?」

 

 何時もの様に俺はダリルとフォルテ、それともう一人と一緒に食堂で昼食を摂っていた。

 

 まぁ俺は普段通り、食堂に来といて弁当を広げるって迷惑な真似してる訳なんだが。

 

 そして話のネタは今日の午前中にあった出来事に集約されてるんだが・・・・ どうやら二人とも、俺の味方はしてくれないようだ。特に実習授業に関しては。

 

「それにしてもお前、昨日の試合観たけどアレどうなってんだよ? なんで一人で複数のISなんか所持してんだ?」

 

「あ~、それは自分も気になったッスね。と言うか、普通に国際問題が起きるレベルの事してるって自覚あるッスか?」

 

 えぇ~え。ちーちゃんからの濡れ衣より、そんな事の方が気になんの~?

 

「自覚も何も、そんなん俺の勝手だろ? どっかの馬鹿に文句言われようと知ったこっちゃねぇし」

 

「うわ~・・・・ 遠回しにIS委員会やアラスカ条約に喧嘩売ってるッスよ」

 

 知らねぇよ。そもそもIS使って宇宙に行く研究すること自体を禁止してる様な組織なんぞ、喧嘩どころか戦争ふっかけてやっても良いくらいだ。

 

「で、和也。試合で使ってたISはなんなんだよ? イギリスのISでもないってのに、BT兵器とか使ってたろ?」

 

「それに、さっきの実習じゃまた違ったIS使ってたんスよね? 一体何機ISを所持してんスか」

 

「そうですね・・・・ 私もその辺を詳しく聞きたいですね」

 

 と、ダリルとフォルテの疑問にもう一人の同席者が漸く口を開いた・・・・

 

 そう、此方におわすが俺が唯一知っていたイギリスの代表候補生、サラ・ウェルキン先輩であらせられる。

 

 なんで先輩が此処に居るかと言うと、ぶっちゃけフォルテからのツテだ。ダリルと仲良くなった後にクラス代表決定戦の話してたら同学年のフォルテに紹介されて、たまに昼食は一緒してる。

 

 もうね、会った時は感動したね? 映像越しとは違ったお姉さん属性感じる雰囲気に、これぞイギリス!って感じの貴族感溢れる立ち振舞い。

 

 思わず片膝突いてサイン下さい!って言ったのは良い思い出よ。ちゃんとサインもくれたし。

 

 それと、今は本人からの了承も得てサラ先輩と呼ばせて貰ってる。歳的には俺のが上だけど、学年は上って事で。

 

 ・・・・えっ? ダリルとフォルテはどうなるのかって? あいつらは先輩呼びする程じゃない。残念ながら、尊敬度が足りない。

 

「と言っても、別に深い事情も後ろめたい事もしてねぇんだけどな~。ただ単に俺が有線式のBT兵器を作って、それが『二次移行(セカンドシフト)』したら今の仕様になってただけだし、そんな大した事はしてねぇぞ?」

 

「って、二次移行(セカンドシフト)ぉ!?」

 

「アレ、二次移行(セカンドシフト)機だったんスか!?」

 

「? おう。てか、俺の所有してんのは殆んどが二次移行(セカンドシフト)機だぞ?」

 

 そう言ってやればダリルとフォルテは大袈裟に椅子から立ち上がり、サラ先輩に至っては両目を大きく見開いて僅かに口を開いている。

 

 取り敢えず周りに迷惑だからダリルとフォルテは座らせて、サラ先輩の顔は可愛かったから写真を撮っておく。こう言う時は便利よね、ISの記録機能って。

 

「・・・・で、マジでお前のISって二次移行(セカンドシフト)機なのかよ? てか、なんでそんなのが複数もあるんだよ・・・・?」

 

「嘘言ってどうすんだよ? マジだマジ。でなきゃ有線式なんて半端な完成度だった武装やら何やらが満足な完成品になる訳ねぇだろ? 何の支援もない奴の個人製作の難しさ舐めんな」

 

 いや本当、二次移行(セカンドシフト)の際に装甲やら武装やらがISコアによって改めて最適化されるって凄いよな? なんてったって、質量保存の法則とか簡単に無視した改修とかされたりすんだもん。

 

「元々『文月』は遠隔操作系の武装を好んでたからそれに合わせて有線式兵器使ってたら、二次移行(セカンドシフト)の際に今の形になってたんだよ。

 同じ様に格闘戦が好きな『皐月』が近接武器オンリーだった部分が近距離に特化したりな。

 実習で使った『睦月』はどちらかと言うと色んな事が出来たりしたし、ちょっと器用貧乏な奴でな。特出したもんは無いが、量産可能な第三世代機らしい多種多様な装備が楽しめ・・・・」

 

「ちょ、待つッス! なんスか? 量産可能な第三世代機? なんかさっきから変なこと言ってないッスか!?」

 

 えっ? そうか? 俺にとっちゃ普通の事ばっかりなんだが?

 

「和也・・・・ お前、さっきから爆弾発言連発してるって分かってるか? ISを複数所持してんのもそうだが、それが殆んど二次移行(セカンドシフト)機? オマケに一機は量産可能な第三世代機? これだけでも世界中が騒ぎ出すには十分な火種なんだぞ?」

 

「そうですね。それに和也君が何機ISを所持しているかも分からない中、それ以上は余計な騒動すら起こしかねないわよ?」

 

 ふ~ん、そんなもんかね~? 顔も知らない様な有象無象共が騒いだ所で俺には関係ないと思うんだがな~?

 

「つか、何機持ってるかはパッと見で分かるでしょ先輩? こんな分かり易いんだから」

 

「えっ?」

 

 あれ? 本気で気付いてなかったのか? それとも気になってなかったかな。

 

 思わずきょとんとしたサラ先輩の為に俺は先ず右耳に付いたカフス2つを指差した後、左耳の2つのカフス、イヤリングを指差す。

 

 そして両手を肩ぐらいの高さまであげ、左腕の腕時計と小指に付けた指輪、右手首の2つのリングと薬指の指輪を三人に見せる。

 

「ほれ、こんだけ分かり易く待機状態が見えんでしょ? だから何機持ってるかなんて見れば分かるもんだろ?」

 

「「「・・・・はあぁあっ!?」」」

 

 うおっ! 今度はサラ先輩まで声をあげて立ち上がったぞ。これはレアだ、レアな光景だ!

 

 そんな物を見させられたら、俺は迷わず待機状態のカメラ機能を駆使してレアなサラ先輩の驚き顔をバレない様に写真へ納めて行くぅ!

 

ーーピンポンパンポ~ン・・・・ 一年一組、秋風和也。至急、職員室まで来い。良いか、ダッシュで来い、分かったなっ! ・・・・パンポンピンポ~ン・・・・

 

「・・・・ああ、そう言やちーちゃんが昼休みに来いとか言ってたっけ? わざわざ校内放送まで使って呼び出すとか・・・・ 職権濫用じゃね?」

 

 本音を言えば無視しても良いかなとか思ったんだが、恐らく呼び出しの先には山田先生も同席させられてる筈。

 

 そこでちーちゃんを無視して残りの授業をフケると山田先生がちーちゃんの八つ当たりに遇うのは目に見える結末として・・・・それは流石に申し訳ない。

 

 しゃーない。面倒だけど行ってあげますか。山田先生を助ける為にも。

 

「わりぃけど、ちーちゃんから呼び出されから先に行くわ。んじゃサラ先輩、お疲れさんっした~」

 

 そう言って食べ終えてる弁当箱を片付け、未だ唖然とした様子の三人を残して俺は席を立った。

 

 聞かれたから話したって言うのに、そこまで驚く様な事だったかな・・・・? まぁレアなもんも見れたから良しとしよう。

 

 

 

ーside和也 outー

 

 





 取り敢えず次話は『クラス代表就任パーティー』絡みを書こうとはしてる。
 そろそろ鈴も出して行きたいし、箒も出番をあげたいし・・・・ なんの為に箒と無駄に絡ませなかった事かっ!
 (  ̄□ ̄)


 では、ターンエンド!



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第16話 迷子の編入生 ーパーティーの裏でー

※5/1 誤字訂正。
 鈴の名前が間違ってた大罪。


 

ーside和也ー

 

 ちーちゃんから今までの授業態度やら何やらを説教されてから訪れた放課後。何やら織斑一夏がクラス代表に就任した事でクラスメートがパーティーを開くと言う話を耳にした。

 

 場所は寮の食堂、時間は19時。ふむ、場所も時間も実に良いチョイスだ。そして俺ものほほんや相川・・・・ああ、クラスメートの『相川清香(あいかわきよか)』な? で、その二人にも一応誘われてはいる。

 

 ただ、悲しきかな・・・・

 

「俺、寮で暮らしてないんだよね~」

 

 俺、初日以降学生寮に入った事ないんだよね~。いやもう、誘って貰って悪いけど行けねぇんだよね。

 

 で、今の時刻は19時ちょっと前。ちょっと放課後までちーちゃん、と言うか山田先生に課題を出されちまって、今しがた漸く解放されるに至ったって訳だ。誰にも聞かれてない説明終わり。ちょっと虚しい。

 

 で、今は校舎から俺の寝床に帰ってる訳なんだが・・・・

 

「・・・・誰だぁテメェ?」

 

「ひっ! だ、誰よあんたぁ!?」

 

 なんか、見たことない奴を見つけた。

 

 ツインテールに小柄な伸長。それとぺったん・・・・いや、微妙に有るか? 取り敢えず、なんか小柄な女だ。

 

「俺は一年一組の秋風 和也ってんだが、誰だよテメェ? 見覚えねぇんだけど」

 

「お、男ぉ!? なんで、だって男でIS使えるのって一夏だけの筈でしょ!?」

 

 ああ、そっか。俺は入学式の日に来たから、世間的には存在が知られてねぇのか。そりゃあ驚くの仕方ねぇわな。

 

 ・・・・つかなんか今、織斑一夏の名前が出て来なかったか?

 

「で、だから誰だよ? こんな場所でなにやってやがる。不審者ってぇなら・・・・ 」

 

「え、あ、ちちち違うわよ!? ワタシはただ、道に迷ってただけなんだからっ!」

 

 なんだ、つまるとこ迷子か。それならそうと早く言えば良いのに。

 

「それなら最初から言やぁ良いのに・・・・ 面倒だが、発見者として保護してやるか」

 

「保護って何よ保護って! 人を迷子みたいに言わないでよ!」

 

 いや、まごうことなく迷子だろ。それ以外に何がある?

 

「で、一体何処に行こうとしてたんだよ?」

 

「じ、事務所よ。ワタシ編入して来たから事務所で書類とか編入の手続きしなきゃいけないのよ」

 

 ・・・・えっ? マジで言ってんのかコイツ? ここ校門前で、事務所って此処から反対方向な上に、事務所の開いてる時間なんかとっくに過ぎてんぞ?

 

 と言う旨を目の前の奴に説明してやれば、見事にショックを受けた様に両膝を地面に付いた。

 

「そ、そんな・・・・ じゃあワタシ、今夜はどうすれば良いのよ~・・・・」

 

 いや、知らんがな。ただここで放置すると余計に面倒な事になりそうだしな~・・・・ しゃーない。最終兵器を呼び出すか。

 

 携帯を取り出し、使う予定の無かった番号をコールしてっと・・・・ あ、割りと直ぐに繋がった。

 

「もしもしひもねす? ちーちゃん、暇?」

 

[暇じゃない。と言うかくだらん内容で電話して来たのかお前は]

 

「んな訳ねぇだろって。実は今、学園に編入予定だった奴を見つけたんだが、事務所の営業時間過ぎててさ。寝床もないらしいから、保護してやれって電話」

 

[編入生? そう言えば、来ると言う話を聞いていたな・・・・ 秋風、一応そいつの名前を確認したか?]

 

 ああ、そう言えばまだ聞いてねぇわ。

 

「なぁ、お前の名前ってなんだ? 取り敢えずちーちゃんが名前確認しろってさ」

 

「あ、そう言えばまだ名乗ってなかったわね・・・・ ワタシは中国の代表候補生、『凰 鈴音(ふぁん りんいん)』よ」

 

 えっ? どう書くの? ・・・・ああ、こう書いて『凰 鈴音(ふぁん りんいん)』ね。名前見ただけだったら『鳳 鈴音(おおとり すずね)』って読んでたわ。

 

「だってよ、ちーちゃん。聞こえてた?」

 

[ああ、やはり鈴音か・・・・ 確認した。ついでだ、そいつを寮まで連れて来い。仕方ないから今夜は私の方で保護してやる]

 

 えぇ~え、俺が連れてくの~? いや、まぁそんな気はしてたけどな。

 

「はいはい。んじゃ、せめて寮の前くらいには迎えに来てくれよ?」

 

[本来ならお前も寮で暮らしてる筈だろうに・・・・まぁ良い。着いたらまた電話しろ、私は今から少々用事がある]

 

 いや、迎えには来ないのかよ。

 

 とか思ってたらもう電話も切れてるし。

 

「はぁ~。取り敢えず、今夜はちーちゃんが寮で保護してくれるってよ。良かったな、野宿は避けれたぞ」

 

「そ、そう・・・・て言うか、ちーちゃんって誰よ?」

 

「あん? 『織斑千冬』、通称『ブリュンヒルデ』。略して『ちーちゃん』」

 

「って、千冬さん!? あんた千冬さんのことちーちゃんとか呼んでるの!? バカなの!?」

 

 誰が馬鹿だよ。ちーちゃんはちーちゃんだろうが。

 

「んな小さな事は気にすんなよ。それより、さっさと寮に行くぞ鳳。俺も帰ってやる事とかあんだしよ」

 

「え、ええ。それとワタシの事は鈴で良いわよ」

 

「そうか? なら俺も好きに呼んで良いぞ」

 

「なら和也って呼ばせて貰うわ」

 

 そう言うと鈴は先を歩く俺の後ろを着いて来る様にボストンバッグ片手に歩き出す。

 

 しかしまた、随分と人当たりの良さそうな奴だな? 中国の代表候補生らしいが、どっかのイギリス貴族とは大違いだ。裏表を感じないし、実に好感が持てる。

 

 それから15分程歩いた所で寮に着いてちーちゃんを呼び出した所、改めて寮で暮らせと文句を言われた。なんでも、前の同居人( 笑)の問題は解決しといたなんとか・・・・

 

 まぁ、拒否したけど。それでまたちーちゃんが文句を言って来たが、あんましつこいと援軍呼んで学園から抜け出すって脅したら渋々と引き下がった。

 

 そん時に俺が寮で暮らしてない事を説明したら鈴は驚いた様な顔してたな。まぁその後に今夜はちーちゃんの部屋で一泊って聞いたら絶望した顔に変わってたが。

 

 で、鈴をちーちゃんに引き渡してから俺はどうなったかと言うと・・・・

 

「おぉーとっ! 居ないと思ってた二人目の男性起動者発見っ! 早速インタビューよぉ~!」

 

 変な女に絡まれてた。ついでに言うと、のほほんと相川に見付かって噂の代表就任パーティーとやらに参加させられてる。

 

「俺、参加する気が全くねぇんだけど・・・・」

 

「ま~ま~、あっきーも一緒に楽しもうよ~」

 

「それじゃあ秋風君! 早速コメントよろしくっ! あっ、私は新聞部の『黛 薫子(まゆずみ かおるこ)』よ、よろしくね」

 

 知らんがな。と言うかこの学園、妙に押しの強い奴が多くないか?

 

「インタビューとか知らねぇよ。そんなのは織斑一夏にでもやってろ」

 

「織斑君にはもうやったわよ。でもイマイチなコメントだったのよね~。だから秋風君には期待してるから!」

 

 そんな期待はノーサンキューだ。しかし、無駄にのほほんが腕をがっちりと掴んでるもんだから逃げ難い。

 

 ・・・・はぁ~。相手せざるを得ないのか。

 

「それじゃあ早速だけど、秋風君は幾つもIS持ってるって話しだけど、どうやって手に入れたの? 何処かの企業と複数契約してるとか?」

 

「違ぇよ。つか、ノーコメント。教える義理はねぇ」

 

「えぇ~え、ケチ~。じゃあ、三年生でアメリカの代表候補生のダリル・ケイシー先輩と仲が良いって噂は?」

 

「話が合うから仲良くさせて貰ってる。つか、それくらいならダリるんから直接聞けよ」

 

「なんだ、色恋沙汰かと思ったのに」

 

「出会って一週間じゃんな事にならんだろうが?」

 

「じゃあ、同じ男子として織斑君の事はどう思って・・・・」

 

「論外。関わり合いになりたくない奴」

 

「辛辣だね!? じゃあ同じく対戦したオルコットさんは・・・・」

 

「興味無し」

 

「う~わっ、徹底してるね~・・・・?」

 

 とまぁ、そんな感じの質問を幾つか答えてやったら思ったよりすんなりとインタビューを終えてくれた。

 

 最後に専用機持ち同士で写真をとか言われたが、あいつらと写真とかご免だから拒否。俺だけ単体で写真を撮られる事に。

 

 その時にのほほんが一緒に写る事になったが、まぁそれは良いか。

 

 兎も角、写真を撮った後にのほほんの目を掻い潜って寮を後にした訳だが・・・・ 鈴の奴、ちーちゃんの部屋で一泊とか大丈夫なんだか?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 




 平成最後の更新とか思ってたら日付変わってた。これも全部、寝落ちが悪いんや・・・・

 取り敢えず、鈴が登場。クラス代表戦まですんなり行けるかな~?

 では、ターンエンド!



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第17話 昼休みー整備室での出会いー


 気付けばお気に入りが500件越えてたばい。




 

ーside和也ー

 

 朝から学園の整備室やらアリーナやらを使う為の書類を提出しに行き、後五分程でHRの時間となる今日この頃・・・・ 教室の入口で昨夜会った鈴を見つけた。

 

「何してんだ鈴? もう直ぐHRだぞ」

 

「誰よ! って、和也?」

 

「おう、おはようさん」

 

 ふむ。此処に居るって事は、無事に編入手続きは出来たみたいだな。まぁその対価はちーちゃんの保護下で一泊だけど。

 

「しっかし、此処に居るって事は同じクラスか? まっ、お前なら歓迎だけどな」

 

「ち、違うわよ! ワタシは二組、それも二組のクラス代表よ!」

 

「マジかよ!?」

 

 クッ! 付き合い易そうな奴なのに別クラスとは・・・・ 後で遊びに行ってやる!

 

 と、何やら後ろから殺気が近付いてる様な・・・・ああ。この殺気はちーちゃんか。

 

「取り敢えず鈴、さっさと逃げろ。ちーちゃんが来そうだぞ?」

 

「げっ!? わ、分かったわ。それと一夏! また後で会いに来るからねっ!」

 

 そう言い残して鈴が退散・・・・って、よく見れば織斑一夏と篠ノ之・・・なんとかが側に居たのかよ。興味無かったから気付かなかったわ。

 

 まっ、けど今はそんな事よりも自分の席に着いとくか。朝からちーちゃんの説教も面倒だからな~。

 

「お、おい和也! なんでお前が鈴と仲良くして・・・・」

 

「黙れ、話し掛けんな」

 

 なんか織斑一夏が話し掛けて来たが無視する。こいつと話してると生理的も苛々するんだよ・・・・!

 

 それに金髪が何か言いたげにこっちを見てた気もするが、それも無視だ無視。

 

 全く、ウチのクラスは専用機持ちに碌な奴が居やしねぇ・・・・ 俺も含めて。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで織斑一夏からの接触を避けれたりして迎えた昼休み・・・・ 俺は学園の中にあるISの整備室に来ていた。

 

「流石は国営、良い器材が揃ってんね~」

 

 朝の内に提出しといた整備室の利用申請書。山田先生からは朝に受理されてれば昼からは使えるって事で、早速使わせて貰いに来た訳だ。

 

 目的は勿論、少々()()()()()()()()()の整備だ。

 

「先ずは『文月』の調整して、それから『皐月』と『睦月』の調整・・・・あぁ、ちゃんと『如月』の調整もすっから」

 

 こう言う時、複数所有してるのは大変だ。1機でも手が掛かるのに複数まとめて整備しなきゃいけないんだからな。

 

 それでも整備を怠るとヘソを曲げられるし、俺も別に整備の手を抜く様な真似はしたくはない。

 

 取り敢えず今は『文月』の整備だ。整備室の奥で『文月』をハンガーに展開。先ずは各部のシステムチェックしてっと・・・・

 

「あぁ~あ・・・・ ひとつずつ調整すっと時間掛かるんだよな~。まとめて展開して整備出来りゃあ楽なのによ」

 

 島に居た時は整備室も広く全機まとめて整備が出来たんだが、今回借りれたハンガーはひとつだけ。本当は最低で二つは借りたかったんだが、運悪く使用届けがいっぱいだったんだと。

 

 そんな中でひとつでも借りれたのは運が良い方だった訳で、愚痴りながらも担当者が女尊男卑思想じゃなかった事に感謝しとこう・・・・っと、『文月』のチェックが終わったな?

 

「システムチェックは異常なしっと・・・・ 他に目立ったもんも見当たらないな~?」

 

 話しは変わるけど整備中って、独り言が多くなると思わないか? 俺はそう思う。

 

 声出し確認じゃないんだけど、ついつい口に出るんだよな~。ほら、自分にも言い聞かせてる的な意味で。

 

 そんな訳で独り言を正当化しつつチェックを続けていると・・・・

 

「・・・・誰?」

 

「あん?」

 

 見知らぬ少女に独り言してる姿を発見された。

 

 

ーside和也 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside???ー

 

 お昼を簡単に済ませ整備室に戻って来たら、知らない人が整備室に先に来ていた。

 

 いや、正確には知らない人じゃない。彼の噂は嫌でも耳に入って来ているから知っている。

 

 二人目の男性操縦者。イギリスの代表候補生を相手に圧倒し、個人で複数のISを所持している男・・・・ 秋風和也。

 

 他にも上級生の代表候補生達と仲が良かったり、あの織斑先生を『ちーちゃん』などと愛称で呼んだりしてる命知らずとか聞いてるけど・・・・ まぁ兎も角、そんな色んな意味で有名人な彼が今、私の目の前に居た。

 

「ああ、悪い悪い。独り言が気になったか?」

 

「別に・・・・ 今来た所だから」

 

「そっか」

 

 そう軽く謝る素振りを見せると、彼はハンガーに展開していたISを待機状態に戻し、今度は別のISをハンガーに展開した。

 

 ・・・・本当に個人で複数のISを所持してるんだ。

 

 しかも次のはつい最近、あの織斑一夏との試合で使っていたISだ。全身装甲って言う珍しいタイプなのもそうだが、あの重装感。私が好きなアニメのロボットみたいで少し心が躍る。

 

 ・・・・って、いけない。私も自分の事をやらなきゃ。

 

 彼の後ろを通り過ぎ、その隣に鎮座する私の専用機・・・・ 『打鉄弐式』の開発を再開する。

 

 本当ならこんな事をしなくても完成してる筈なのに、私はちょっと事情が違う。

 

 私は日本の代表候補生とし「おっ? 打鉄のバリエーション機か? へ~、そんなんあったんだな~」・・・・ う、うんっ! 日本の代表候補生として専用機が用意され「しかも通常の打鉄と違うタイプか? 防御寄りと違うタイプにするなら攻撃特化・・・・いや、寧ろ機動力に力を入れてるのか? へ~、面白ぇじゃん」・・・・・・

 

「・・・・さっきから何?」

 

 私の回想を邪魔して・・・・そんなに珍しい? 自分で複数のISを持ってるんだから、そんなに珍しくなんてないでしょ?

 

「あぁ、悪いな。打鉄のバリエーション機みたいで珍しくてちょっと興味を引かれたんだよ。これ、機動性重視の機体か?」

 

 ・・・・さっきも言ってたけど、どうして見ただけで打鉄と打鉄弐式の違いが分かったんだろう? 普通はそこまで気付かないと思うのに。

 

 本当なら無視しても良いんだけど、自分以外の専用機持ちが打鉄弐式をどこかキラキラした眼で見られるのは悪い気はしない・・・・ こんな、未だ完成すらしていない機体なのに。

 

「・・・・そう、名前は『打鉄弐式』。打鉄の後継機として造られ、打鉄と違って高い機動性を持ってる」

 

「おっ、やっぱりか? 道理で打鉄よりブースターの配置や口径が微妙に違うと思ったんだよ。へ~・・・・ けど、そうなったら武装はどうすんだ? 機動性を上げたって事は近接寄りか? それだと今までの打鉄と変わらない気もすんが・・・・」

 

「違う。武装には連射型荷電粒子砲と最大48発同時発射可能なミサイルポットも装備されるから、どちらかと言えば遠距離戦がメイン」

 

「なら機動性が高い利点の使い道は?」

 

「近接武器に対複合装甲用の超振動薙刀が装備されてるから、そこで機動力が物を言う予定。他にも遠距離武器を展開してない時は機動力で相手を翻弄も出来る」

 

「つまり、遠近戦のスイッチ型?」

 

「そうなる予定」

 

「良いね!」

 

 思わず気分が良くなって説明してしまったが、彼の食い付き具合は私の予想よりも良かった。何よりお世辞ではない、本音で感心してくれている様子が、どこか私の自尊心を満たしてくれる様で心地好く感じてしまう。

 

 だけど・・・・

 

「・・・・あん? 予定? なら、まだ出来てないのか?」

 

「・・・・・・うん」

 

 そう。これはあくまで()()()()()()()の話し。実際にこの機体は、まだ()()()()()()()()()

 

 その理由もあるけど、そこまで彼に話す必要性はない・・・・ これは、私が自分ひとりで解決しなきゃいけない事なんだから

 

「・・・・まぁ、初めて会った俺がいきなり踏み込んで聞くのも筋違いだからな。深くは聞かねぇよ」

 

「そう・・・・」

 

 どうやら彼はこちらの事情を理解してくれたみたいだ。その気遣いは勝手に落ち込んだ私にとって、とてもありがたいと感じられた。

 

「あ、そう言やいきなり話し掛けといて名乗ってもなかったな? 一年一組の秋風和也。名乗るより前に馴れ馴れしく色々と聞いちまったのは、まぁ、悪かった。すまん」

 

 本当に悪いと思ったのか、彼は頭を掻きながら謝罪の言葉を口にした。

 

 確かに最初は独り言にしては鬱陶しいとも感じたが、私の説明に興奮した様に耳を傾け、純粋に感心してくれた。そして私が自分から答えてしまったとは言え、初対面で色々と聞いて来た事も謝罪してくれた。

 

 ・・・・うん。なんだろう・・・彼は男だけど、そんなに悪い人じゃなさそうだ。

 

「うううん。気にしない」

 

「そっか、悪いな。・・・・迷惑ついでに、名前聞いても良いか?」

 

 そう言えば、彼に言われて私はまだ名乗っていない事に気付く。私は彼を知っていたが、彼は私を知らないだろう。

 

「私は一年四組所属の更識 簪(さらしき かんざし)。一応、日本の代表候補生、です・・・・」

 

「おう、よろしくな更識」

 

「簪で良い。苗字で呼ばれるのは、ちょっと、嫌・・・・」

 

「? 分かった、なら簪って呼ばせて貰うわ。俺の方は好きに呼んでくれて良いぞ」

 

 そう言うと彼、秋風君は此方に右手を差し出して来た。所謂握手を求めているのだろう。

 

 本当なら誰かと、男の人と握手をするのには抵抗があるけど・・・・ なんだろう? 秋風君からの握手は、そこまで悪い気はしない。

 

「・・・・よろしく」

 

「おう、此方こそ」

 

 視線を合わせる事こそ出来なかったが握手に応えると、秋風君はどこか嬉しそうに答えてくれた。

 

 そうしてる内に機体のチェックが終ったのか、彼の端末からチェック音が聞こえて来て、私は自然と彼から手を離していた。

 

 それと同時に秋風君は端末のチェックを済ますとハンガーに掛けていたISを待機状態に戻し、コードやらの片付けを始めた。

 

「・・・・もう終ったの?」

 

「いや、まだ他にもやる事はあるんだが、午後は山田先生の授業ばかりでなぁ・・・・ ホントはサボってでも整備したいんだが、あんまサボると泣くんだよ山田先生・・・・ 既に二回は泣かれてるし」

 

 まだ入学して一週間くらいした経ってないよね? それで二回も泣かれてるって・・・・ 秋風君が悪いと言うか、山田先生が涙脆過ぎると言うか・・・・

 

「そんな訳で、俺は退散だ。簪は?」

 

「私は一応、許可を貰ってるから続ける・・・・」

 

 そう言えば彼は、私が許可も貰って授業中も整備している事に羨ましそうな顔を浮かべている。・・・・割りと喜怒哀楽が分かり易い人なんだろうか?

 

「羨ましい。まぁ、羨んでも仕方ないか。んじゃ、お先に」

 

 そう言い残すと秋風君は整備室を出て行った。後には私だけが残り、ひとりだけの整備室は途端に静かになったとも思えた・・・・

 

 ・・・・寂しいなんて思わない。私は、私にはひとりでやらなきゃいけない事があるんだ。だから決して、寂しいなんて思わない。思っちゃいけない。

 

「・・・・早く、この子を完成させなきゃ・・・・」

 

 そう呟いて私は目の前のコンソールに目を向ける。

 

 このISを完成させるのは私が、私だけがやらなきゃいけない事なんだ。だから、一日でも早く完成させれる様に休んでる暇なんてない。

 

 だけど・・・・ 少しだけ、本当に少しだけ、誰かとお喋りするのも悪くない・・・・ そう思った私は、どこか疲れでも溜まっているんだろう。

 

 ・・・・そう言えば秋風君。午後の授業はサボらない様な事を言っていたけど・・・・ もうとっくに授業は始まっていたけど、それは良かったんだろうか?

 

 

ーside???→簪 outー

 

 





 編入から鈴との絡みが少ないだって? 一夏と絡まないから、編入初日の鈴との絡みが少なくなるんだもの。仕方ないじゃない。
 ( ノД`)

 ついでに此処で簪も引っ張り出し。だけど簪の回想は悉く邪魔してみると。
 逆に此処まで和也が整備室を使っていなかったのか?と聞かれれば、その通りと答えましょう。何故なら整備室の使用に申請書が必要と言う事に気付いていなかったから。

 そして明日から本格的にGW期間の仕事が本格化。何話更新出来るのやら・・・・

 では、ターンエンド!




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第18話 鈴の涙ーおいでませ我が家ー


 寝れなくて徹夜で仕事に行く事を決めた上での更新。




 

ーside和也ー

 

 IS学園に通う生徒は原則として学園の寮で生活をする。その理由としてはISに関わる専門的な知識を学んでる生徒が、外部からの非合法な干渉を避ける為の処遇だっりしなかったりする訳だが・・・・ 取り敢えず、これは校則でも決まっている。故に、寮で暮らすのは生徒なら当然の事だ。

 

 しかしその当然に当て嵌まらないのが、同居人の女子から同室を拒絶された俺だ。結果、俺は寮で生活をしていないし、寮の食堂すら利用していない。

 

 そんな俺は秘密裏に学園内で住居を構え、誰にも知られる事なく独り暮らしを満喫してる訳なんだが・・・・・・

 

「ひっぐ、ぐすっ・・・・」

 

 そんな我が家の直ぐ側に、最近出来た友人である鈴が陣取ってたらどうするべきか? しかも泣いてるらしいく余計に始末が悪い。

 

 普通なら深入りせずにスルーするんだが、生憎と鈴がスルーして家に入るのは不可能な場所に居る。

 

 ならば軽く挨拶をした上でスルーし家に入るか? いや、流石にこれは友人認定している相手にするには酷過ぎる。

 

 武力を以て排除する? 俺は女権団や女尊男卑思想のクソ共とは違うので論外。

 

 そんな感じに様々な選択肢を排除し、最終的に選んだのは・・・・・・

 

「・・・・こんなとこでどうしたんだよ、鈴?」

 

「ぐすっ、がず、やぁ~・・・・」

 

 声を掛けた上で事情を聞くしかないの一点である。

 

「たくっ。マジでどうしたんだよ、こんな寮どころか校舎からも離れた場所で? オマケお前が泣いてるなんざ、よっぽどだろ?」

 

 因みに鈴が泣いてるこの場所、寮とは逆方向だし、校舎からも徒歩15分は離れてる。しかもランニングしてても簡単には見付からない様に、かなり吟味して見つけた場所だ。普通は人なんか来る訳がない。

 

 「ぐすっ、ひっぐ・・・・ 一夏が、一夏がぁ~・・・・・・」

 

 オーケー、把握した。取り敢えず全ては織斑一夏が悪いんだな?

 

 と言うか、未だに泣き止む気配すら見せない鈴の姿に、俺はもはや事情を聞いて早々にこの場を離れさせる選択を取ることも出来なくなってる訳で・・・・・・

 

「・・・・あぁもうっ! 仕方ねぇな~」

 

「ぐすっ・・・・ふぇ?」

 

 非常に、非っ常に、ひっじょぉぉぉぉぉぉにっ! 遺憾だが、こうするしか手はない訳だ。

 

 俺の反応に涙を流しながら首を傾げた鈴を尻目に、俺は取り出した携帯からある指示を飛ばす。

 

 すると、数秒もしない内にそれは鈴の後ろで姿を見せた・・・・・・

 

「ホントは言いたくねぇんだけど、まぁなんだ、上がってけ。茶ぁぐらいはだしてやるよ」

 

「・・・・えっ? ちょ、なんで、こんな場所に家が・・・・・・?」

 

「なんでって、これが俺の寝床だからに決まってんだろ?」

 

 急拵えとは言え、一戸建てレベルの一軒家。二階部分はないが、しっかりとした我が家だ。しかも普段からレーダーには映らない様にしてるし、不在時は光学迷彩で姿も視認出来ない様にしてる優れ物。

 

 そんな我が家を目撃した鈴は・・・・・・

 

「・・・・はあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 涙すら止め、実に素晴らしいリアクションを見せてくれた。

 

 ・・・・あれ? 泣き止んでるんだから、もう放置して良いんじゃね? ・・・・駄目か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、ココアだ。先ずは落ち着け」

 

「う、うん。ありがとっ・・・・」

 

 取り敢えず我が家へ初めての来客を迎え入れた俺は、先ずは鈴を落ち着かせるべきと判断しリビングにてココアを振る舞っている。

 

 それをリビングのテーブルで受け取ると、鈴はおずおずとココアを口にした。

 

 それから暫く、俺は鈴に話し掛ける事はしない。落ち着けと言った俺から話を聞き出しては急かしてる様にも感じたので、今は黙って鈴が話し始めるのを待っている。

 

 そうしていると気持ちが固まったのか、鈴はゆっくりと口を開き始めた・・・・・・

 

「ぐすっ、ワタシね、小学生の時に中国から日本に来たの。それで、その頃は日本語も喋れなくて、皆から虐められてたんだ・・・・ でもその時に、一夏が虐められてた私を助けてくれた。それでワタシは、一夏の事が好きになったの・・・・・・」

 

 泣いてた事情を説明してくれると思ったら、いきなりコイバナから始まった。どうすれば良い?

 

 そんな事を思いながらも黙って聴き続けていると、話は漸く核心に近付いてくれた。

 

「・・・・それで国へ帰らなきゃいけなくなった時、勇気を出して一夏に告白したの。『もっと料理の腕が上手くなったら、毎日酢豚を食べてくれる?』って。そして、その時の答えを聞いてみたら・・・・『酢豚を奢ってくれるってやつだろ?』って・・・・・・」

 

 ・・・・はい? えっ、ちょっと待て? それって所謂、『毎日私の味噌汁を飲んで』的なアレだろ? 男だったら『毎日俺に味噌汁を作ってくれ』ってやつ。

 

 それを『奢ってくれる』って・・・・ マジかぁ~・・・・ その発想は俺ですらなかったわ・・・・・・

 

 因みに、味噌汁代わりに酢豚ってチョイスする発想もなかったわ。

 

「その答えを聞いたらスッゴい悲しくて、悔しくて、目の前が急に真っ暗になった様な気がして・・・・ 取り敢えずISは使わないで一夏を全力でぶん殴ってから、訳も分からず全力で走ってて、気付いたら此処に居たの」

 

「全力でぶん殴りはしたのな」

 

 と言うか、IS使ってぶん殴り掛けてもいたんだな? お前・・・・ あれ、慣れてないと結構キツいんだぞ?

 

「ぐすっ・・・・ ワタシがちゃんと、酢豚じゃなく味噌汁で言えば、良かったのかなぁ? そうすれば、一夏にもワタシの気持ちは、伝わってたの? もう、分かんないよぉ・・・・・・」

 

 ・・・・うん。先ずは『毎日味噌汁を~』ネタから離れれば良かったんじゃないか? 正攻法で素直に告白した方が良かったんじゃないかと思ったが、それは決して口にしない。

 

 俺はよく場の空気を壊すが、空気は読める人間だ。多分。

 

 よって、真っ先に浮かんだ言葉を除外して鈴に掛ける言葉となると・・・・

 

「俺が知る訳ねぇだろうが」

 

「・・・・そう、よね」

 

 傷口にボディブローな突き飛ばす様な言葉だった・・・・ だが、勘違いはしないで貰いたい。俺は鈴を、意味もなく傷付けるつもりはない。

 

「確かに味噌汁云々の話を使って告白したのは問題があったかも知れねぇ。その事を言う前に好きって言葉を付け足しとくべきだったかも知れねぇ。けどよ、そん時の気持ちは嘘なんかじゃねぇんだろ?」

 

「・・・・えっ?」

 

「好きな奴がいる。好きな奴に振り向いて貰いたい。自分の気持ちを伝えたい。そいつと、一緒に居たい・・・・ その気持ちの果てに、不器用ながら告白したんだろ? お前の気持ちを、そん時に出せる全力で伝えたんだろ? ならその行動は、気持ちは、嘘なんかじゃねぇだろ」

 

 ・・・・なんで俺は、こんなこっ恥ずかしい事を真剣に言ってるんだろうか? セフレは居ても恋人はいないってのに。

 

 だが、自己嫌悪に浸るのは後で良い。今はただ、鈴とだけ向き合えば。

 

「あの馬鹿が何を考えてそんな事を言ったかは知らん。けど、それに対しどう終わりを着けるかはお前次第でしかねぇだろ?」

 

「終わりを、着ける・・・・」

 

「今回の事できっぱり諦めるのも良い。結局、その程度のもんだっただけだ。それでも諦めらんねぇんなら、ただ泣き寝入りしてるだけか?」

 

「・・・・・・」

 

「もう一度向き合ってみろ。織斑一夏にも、自分の気持ちにも。その上でどう終わりを着けるかは、俺が軽々しく口を挟むもんじゃねぇだろ? それに・・・・・・」

 

「それに・・・・?」

 

「・・・・お前、グダグダ考えて立ち振る舞う様なタマかよ? 自分の心に聞いて、正面からぶつかってく方だろうが? その方が、何より自分自身に納得出来んだから」

 

 そうまで言ってやると鈴は何か思う所があるのか、目を閉じて俯き出す。その様子はまるで自分に何かを問い掛けてる様だ。

 

 結局のとこ、最終的にどうするか決めんのは鈴だ。なら俺に出来んのは前を向かせ、止まった足を再び自分から歩き出せる様にしてやるだけ。それ以上は要らんお世話だ。

 

 そうして数分待つと、腹は決まったのか鈴はゆっくりと両目を開いていく。

 

「・・・・うん。ワタシ、まだ一夏の事が好き。代表候補生にもなって、IS学園に編入までしたんだもん。簡単に諦めたりなんかしたくない・・・・」

 

「・・・・なら、どうすんだ?」

 

「決まってるでしょ? もう一度、一夏にこの思いを伝えてみんのよ・・・・ 正面からねっ!」

 

 よぉぉぉぉぉぉしっ! これでもう似合わない真似をしなくて済むぅ!

 

 いやホント、なんで俺がこんな恋愛相談紛いの事をしなきゃいけなかったんだよ? 明らかに人選ミスだったろ。

 

 しかしその甲斐もあってか鈴も泣き止んで調子を取り戻した様だし、どうにか丸く治まってくれたな。

 

 ・・・・もう二度と、恋愛相談なんか御免だ。

 

「でも取り敢えず傷付きはしたから、先ずはクラス対抗戦で一発ぶん殴ってやるんだから! 和也! 折角だからあんたも協力しなさいよねっ!」

 

 あっ、取り敢えず殴りはすんのな? いやまぁ、止めはしねぇけど。

 

 そんな訳でクラス対抗戦に向けて何故か俺が協力する事を約束させられた後、鈴は寮へと帰って行った。

 

 ついでに俺の家の場所は他言無用と言う事で約束させたが・・・・ 鈴の奴、間違ってバラシたりしねぇよな?

 

 

ーside和也 outー

 

 




 感想にて『和也の専用機が複数在ることの制約』に関するコメントを頂きました。
 これに関しては既に考えてあり、スッゴいネタバラシをするとクラス対抗戦のラストでその辺に触れる予定です。と言うか、ついでに他の伏線もちょっと回収します。学園長に提示した入学の際の条件とか。

 本当はもう少し早めに入れるべきなんだろうけど・・・・ 引っ張ります。未だに箒が喋らないくらい、引っ張ります。でも、引っ張り過ぎて千切れる前には回収します。

 では、ターンエンド!




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第19話 生活の変化 ー変化の中の影ー

 彼の生活は変わる。
 彼女達と出会い、彼女達と関わり会う事で。
 賑やかさの中に、安心を覚えた様に。

 されど、少女の心は晴れない。
 彼の中で、自分だけが存在を受け入れられていないから。

※5/5 誤字修正。一部変更。


 

ーside和也ー

 

 何故か鈴にクラス対抗戦に向けた特訓に付き合わされる事になって早数日。俺の生活に多少の変化が起きた。そのひとつが・・・・・・

 

「和也っ! 今日の訓練は第5アリーナだからね、間違えるんじゃないわよ!」

 

 矢鱈と鈴と行動を共にしてる事が多くなった事だ。

 

 いや、確かにクラス対抗戦に向けて協力しろとは言われたぞ? 勝手に約束までさせられたな?

 

 だからって、ダリル達と昼飯食ってる場にまで同席してくんのはどうなんだ? メールとかじゃ駄目なのか?

 

「また来たんスか? 何時も元気ッスね~」

 

「ハッハッ! まぁ良いんじゃねぇか? 食事は少し騒がしいくらいが丁度良いって」

 

「どちらかと言えば私は、もう少し静かな方が好きだけどね。和也君は?」

 

「食い物を粗末にしなきゃどっちでも良いわ」

 

 もはや見慣れた昼食時の同席者の面々。ダリルとフォルテ、そしてサラ先輩。そこに今じゃ鈴まで加わって、完全にパワーバランスのおかしいテーブルが出来上がった。

 

「にしてもあんた、今日もお弁当なの? 学食があるのにお弁当ばかりって変わってるわね?」

 

「けど和也の弁当はうめぇぞ? 私としちゃあ、タマにお裾分けが貰えるから充分だ」

 

「あぁ~あ、それは否定出来ないッスね~。しかも変に凝った物じゃないから質が悪いッスもん」

 

「それにしても、食事に来ていて一度も食堂の料理を頼まないのは問題だけどね?」

 

 何故自炊を微妙にディスられなきゃいけねぇんだ・・・・?

 

 とまぁ、鈴の奴もなんやかんやでダリル達とは仲良くやってる。フォルテは微妙な気もするが、ダリルとサラ先輩もコミュニケーション能力は高いしな。仲が良いのは良い事だ。

 

 それが俺のひとつ目の変化。そしてもうひとつが・・・・・・

 

 

「おう簪、調子はどうよ?」

 

「んっ・・・・ まずまず」

 

 鈴との訓練の後、整備室でよく簪と話す様になった事だ。

 

 と言っても簪は放課後になれば大体整備室に居るから、行けば会えるのは当然っちゃ当然だ。

 

 ただ出会った頃と違って今や簪も話し掛ければ普通に返事を返してくれるし、そう悪い関係性ではないと思う。

 

 ・・・・・・まぁ、簪と話す様になって少ししてから、妙な視線を感じる様になったのが気になっけどな。まるで監視されてる様だし。

 

「そう言やこの前のデータ、少しは参考になったか?」

 

「うん。まだ目標の数までは届かないけど、『山嵐』のシステム構築が前より進んだ。具体的には、12発分」

 

「まっ、進展があるだけマシだろ? 後はゆっくり進捗率を上げてくしかねぇしな」

 

「うん。和也がくれたデータもあるし、先が見えなかった時よりは全然マシ」

 

 ああそれと、何回か世間話を続けてたら名前で呼ばれる様になった。後、簪の専用機が完成してない理由も聞けた。

 

 取り敢えず要点だけ言うと、世界初の男性操縦者の織斑一夏が出現したせいで、開発元が簪の専用機開発をぶん投げたそうだ。しかも開発元や政府からのアフターフォローも無し。

 

 流石にこれには俺も腹が立って、最初は全面的に簪に協力してやろうと思った。

 

 だけど簪自身はひとりで完成させるって意固地になってて協力を受けはしなかったんだが・・・・ 一時間程掛けて説教してやった。ひとりでISを完成させる難しさ舐めてんのかって。

 

 で、厳しめの説教で泣かせた後は手を貸してくれる奴がいんなら借りろ。借りだと思うならきっちり完成させて返せ的な事を言ってから、俺も手を貸してる。

 

 とは言っても、ひとりで完成させたいって気持ちも分かるから何から何まで手を貸してる訳じゃない。

 

「和也。このスラスターと武装の連動プログラムなんだけど・・・・」

 

「あん? ・・・・ああ、これじゃ姿勢制御の部分でバランス悪いぞ? ここは武装の荷重と角度を着けた際に起きる機体の加重分を処理に加えとかなきゃ・・・・」

 

 プログラムの構築に行き詰まったなら助言程度に口を出したり参考になりそうなデータを見せたりと、基本的に開発は簪ひとりにやらせてる。

 

 そもそも俺は武装の開発とプログラミングは出来るが、IS本体の開発とプログラミング迄はそんな専門じゃない。大体が二次移行(セカンドシフト)の恩恵でIS本体が完成に至ってるくらいだからな。

 

「・・・・うん、分かった。その辺を再計算して直してみる」

 

「おう。んじゃまた意見が必要な時は言ってくれや。俺は自分の方の整備すっから」

 

 そんな訳で、俺に出来るのは簪が悩んだ時に意見や軽いアドバイスを言ってやる事だけだ。・・・・・・武装だけだったら全部造ってやる事は出来んだけど。ホント、武装だけだったら。

 

 

 そんな感じに俺の生活は鈴との出会いから、やたら人との付き合いが多いもんになった。しかも別のクラスだったり上級生だったり、各国の代表候補生とか・・・・ 殆ど一般人がいねぇ。

 

 いやぁ~・・・・俺、一般人と仲良くとか出来んのかな?

 

ーside和也 outー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーsideセシリアー

 

 あのクラス代表を決める試合から早数日。クラスメートの皆さんは侮辱的な発言をしたわたくしを許し、今では普通にお話をするほど仲良くさせて貰っています。

 

 ですが矢張、彼だけは・・・・ 秋風さんだけは、一向にわたくしの事を許してはくださりませんでした・・・・

 

「あ、あの、秋風さ・・・・」

 

「やまーだ先生~。整備室の申請書書いて来たから受理してー」

 

 わたくしから話し掛け様にもタイミングを見計らった様に躱され、お昼を一緒にしようとすれば誰よりも早く教室から抜け出され、殆ど近付く事すら出来ず仕舞い。

 

 同じイギリス出身で同じく代表候補生としても先輩であるサラ・ウェルキンさんが秋風さんと親交があると知り、彼女の口添えでせめて彼と話し合いの場だけでも設けられないか相談をした事もあるのですが・・・・

 

「う~ん・・・・ 残念だけど、それは無理だと思うわよ」

 

「な、何故ですか!? わたくしはただ、せめて彼と同じクラスの一員として交友関係を築きたいと・・・・」

 

「セシリア。私は一度だけ、彼にその事を話した事があるのよ。同郷で同じ代表候補生であるあなたに、少しだけでも心を許しては貰えないかって。・・・・でも彼の答えは、『論外』ってだけだったわ」

 

「そ、そんなっ!?」

 

「・・・・セシリア。正直に言うと、私はあなたが入学早々にした発言を知っているわ。彼に、当時の音声データを聴かせて貰ったからね。・・・・正直、直ぐにでもあなたの代表候補生としての資質を本国に問い質したい気持ちだったわ・・・・・・」

 

「っ!? そ、それは・・・・」

 

「けど彼自身がその時の事に興味を失くしてる以上、私からは何も言わない。本国へも報告はしないわ。・・・・けれど、忘れないで。彼が何故、あなたに対し厳しい言葉を言ったのか。彼が何故、あなたに論外と言っているのかを」

 

 サラさんから言われたのは、あまりにも厳しい言葉でした。そしてそれは、彼が決してわたくしと言葉を交わす意志がないと言う事実を突き付けるには充分なものでもありました・・・・

 

 わたくしはただ、彼に謝りたかった。本当に愚かで、身の程を弁えない事をしてしまった。だからこそ猛反し、心を入れ換えたと言う事を知って欲しかった。ただ、彼と話しをしたかった・・・・・・

 

 ですがその想いは彼へと届かない。しかも彼は出会った他の代表候補生達とは自ら交友を結んでいた。・・・・わたくしだけが、彼から拒絶されていた・・・・・・

 

 わたくしの声は一体、どうすれば彼の耳に届くのか・・・・?

 

 わたくしの意志は、想いは、彼に受け入れて貰える時が来るのか・・・・?

 

 彼はわたくしを・・・・ 見て、くれるのだろうか・・・・?

 

 わたくしは未だ、その答えを得る事が出来ないでいました・・・・・・

 

 

ーsideセシリア outー

 

 




 はい、久し振りのセシリア出番です。けど優しくするとは言ってない。

 いやぁ、まだか。まだセシリアとの溝は埋められんのか・・・・ 舞台はもう用意してるのに。

 では、ターンエンド!



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第20話 クラス対抗戦 ー襲撃の狼煙ー


 平時は寝落ちとの戦い。途中保存には助けられてます。


 

ーside和也ー

 

 鈴と訓練や模擬戦したり、簪の専用機開発に口だしたり、謎の視線を感じる頻度が増えたり、トイレから戻ったら鈴が織斑一夏に更にキレてたり、ダリルとフォルテが百合ってる場面に遭遇したり・・・・まぁ、色々あった。うん、色々と。

 

「なんか、濃かった二週間だったなぁ~」

 

「うん? なに言ってんのよ?」

 

「なんでもねぇよ」

 

 そんな訳で、遂にやって来たクラス対抗戦。各クラスの代表がトーナメント戦を行って、優勝クラスには食堂のデザート半年フリーパスが与えられるそうだ。

 

 ・・・・なんでクラス対抗戦なのに、総当たり戦じゃねぇんだ? 四クラスしかねぇのに。

 

 まぁそんな事は置いといて、今は試合か。

 

 今の俺は第一試合に挑む鈴のピットで最後の調整やら何やらを手伝っている。一組所属なのに、二組側の。

 

 あっ。ピットへの入場に関する許可は山田先生から取った。一組ではなく二組代表のセコンドと言ったら微妙に涙を浮かべていたが・・・・まぁ仕方ねぇな。

 

 そして鈴の第一試合の相手が一組の織斑一夏と言うのだから、これ程の皮肉はあるまいて。

 

「それよりも鈴、問題はねぇな?」

 

「勿論っ! ワタシも甲龍(シェンロン)も無問題、準備万端よ!」

 

 そう答えると鈴は自身のやる気を表す様に、甲龍の待機状態である黒いブレスレットを俺へと見せ付ける。

 

 無論、俺かて自信が持てなくなるような生半可な訓練など付き合っちゃいない。織斑一夏を完封出来る様に、本気で鈴の訓練に付き合って来たつもりだ。

 

 だからこそ俺は自信たっぷりに笑う鈴に対し満足げに笑みを浮かべると、鈴の前に拳を突き出す。

 

「試合は試合で大事かも知れんが、気張り過ぎるな。ただただ、ぶっ飛ばして来い。お前なら余裕だろ?」

 

「・・・・ふん、当然よ! そうでなきゃ代表候補生としてのメンツが立たないってもんよ!」

 

 そう答えると鈴は俺の突き出した拳に自身の拳を軽くぶつける。

 

 そもそもこいつは、グダグダ考えるなんざ性に合わない。考えるより、心の赴くまま、自分の思うままに突っ走った方が力を出せる筈だ。それがこの二週間で俺が見て来た、鳳 鈴音って女ってもんだ。

 

 だからこそ俺は、最後にその背中を押してやるだけで良い。そうしてやりゃあ、後は持てる力の全てを絞り出してくれんだろ。

 

《まもなく第一試合を開始します。出場選手は、アリーナへと移動して下さい》

 

「っと、いよいよね・・・・ それじゃあ和也、行ってくるわね」

 

「ああ、俺も観客席で観戦させて貰う。存分に暴れて来い」

 

そう言ってやると鈴はふんすと気合いを入れ直し、カタパルトへと向かって行った。

 

 ここまで来れば後は鈴の問題だ。俺からしてやれる事はない。そう思うと俺は静かにピットから退散し、観客席の方へと向かって行った・・・・・・

 

 

ーside和也 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside鈴ー

 

「・・・・来たわね」

 

 和也に見送られアリーナで佇んでいると、ワタシが来た反対のピットから対戦相手が近付いて来るのが分かる。そう・・・・ 一夏だ。

 

 日本に来たばかりで日本語も満足に喋れなくて周りからイジメられてたワタシを助けてくれた一夏が、初恋の相手である一夏が好きだった。中学二年の時に家庭の事情で中国に戻る事になった時も、中国に戻ってからも・・・・

 

 だけど編入を果たしたその日、中学の時にした告白の答えを聞こうとしたワタシは、一夏の的外れ過ぎる勘違いに心を深く傷付けられた。その時の痛みは未だ、克明に思い出す事が出来る・・・・

 

 正直、ワタシは自分の気持ちが分からなくなった。好きなのに、好きだった筈なのに、その女の気持ちを無自覚に傷付けて来るのが、とても怖かった。

 

 けど、それでもまだワタシは一夏の事が好きだった。

 

 本当は怖い。またワタシの気持ちは届かないんじゃないか? また、ワタシの想いは傷付けられるだけなんじゃないか? そう思うと、怖くて仕方がない。

 

 だけど、そんなワタシの背中を押してくれた奴が居た・・・・

 

 秋風 和也。この学園に来て初めて知った一夏以外の、二人目の男性操縦者。出会ってから殆ど日が経っていないのに、ワタシの言葉を聞いてくれた。

 

 心の奥で思っていた事を引き摺り出し、ワタシにもう一度立ち上がる勇気をくれた。

 

 心の中にあった恐怖を忘れるくらい、ワタシの我が儘に付き合ってくれた。

 

 ・・・・アイツに出会わなかったら、今のワタシはどうなってたんだろう? ウジウジといじけていた? 初恋をすっぱり忘れていた? ただ一夏を恨み続けていた? ・・・・それはワタシにも分からない。

 

 だけど、せっかく背中を押して貰えたんだ。立ち上がらせて貰ったんだ。立ち向かう勇気を取り戻させてくれたんだ。なら、その恩義には報わなきゃいけない。

 

「さぁ、しっかりしない鳳 鈴音。ワタシの想いを、全てぶつけるのよ・・・・!」

 

 そうしてる内にISを纏った一夏がアリーナに姿を見せる。

 

 和也との訓練で慣れたつもりでいたけど、やっぱり男がISを纏ってるってのはどこか珍しくも感じる。特にそれが、初恋の相手ならば尚更だ。

 

「待たせたな、鈴!」

 

「別に待ってないわよ。それより一夏、戦う前に聞きたい事があるの」

 

「? なんだよ?」

 

 そう、これは確認だ。再会した翌日から満足に話す事すらせず、距離を取って互いに考える時間はあった。だからこそ、ワタシは確かめたい。

 

「あんた、ワタシが放っておいてって言ったらそのまま放っておいて、全くワタシに会いにすら来なかったわよね? それにこの前もワタシを怒らせて・・・・ ねぇ? あんたはワタシが、なんで怒ってたのかとか、少しは考えたの?」

 

「えっ? いや、だって俺はちゃんと約束を覚えてたし、別に悪い事した覚えは全くないんだけど・・・・ ああ、いや。この前は確かに俺も言い過ぎたかなって、少しは悪かったって思ってるけど」

 

ーーギリッ!

 

 噛み締めた奥歯が軋む。握り締めた拳がギリギリと音を立てる。

 

 分かってなかった。全く考えてくれてなかった。ワタシがどんな気持ちで一夏から距離を取っていたかも。どんな思いで、一夏と向き合おうと思っていたかも・・・・!

 

 本当なら今にでも殴り掛かりたい。怒りのまま、声を荒げて叫びたい! ・・・・だけど、今はまだ我慢だ。

 

「・・・・そう、それがあんたの答えって訳ね。なら、もう良いわ・・・・・・」

 

「? り、鈴・・・・?」

 

 甲龍(シェンロン)の拡張領域から双天牙月を両手に呼び出し、それを強く握り締める。

 

 分かってはいた。鈍感なんて生温い唐変木な一夏から、気の利いた答えが出る訳なんてないって。

 

 だけど、それでも・・・・

 

「もう謝ったって、手加減なんてしてやらないわよ!」

 

「の、望むところだ! 俺だって全力で相手してやるよ!」

 

  淡い期待くらい、させてくれたって良かったじゃない・・・・!

 

「全力で・・・・ぶっ潰すっ!」

 

 

ーside鈴 outー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーside和也ー

 

 鈴と織斑一夏の試合が始まって早五分。

 

「・・・・いや、おっかねぇなオイ」

 

『一夏ぁぁぁぁぁぁぁあっ!』

 

『ぐあぁぁぁぁぁあっ!?』

 

 試合は早々に、一方的な展開になっていた・・・・・・

 

 つか、怖ぇよ鈴! なんだよ、至近距離で双天牙月の二刀流による連撃と『龍砲』の乱撃って。しかも鬼みたいな形相で、一切手加減の欠片も感じないから余計に怖いわ!

 

 あんな気迫、訓練中ですら見てねぇよ・・・・

 

「うわ~・・・・ おりむー、ボッコボコだ~」

 

「それに、二組の代表も凄い。流石は中国の代表候補生・・・・」

 

「いや、アレはもう代表候補生とか関係ないだろ? 鬼気迫るって言うか、完全に鬼だろ?」

 

 ああ、因みに今は簪と一緒に、一組寄りの場所で試合を観戦してる。四組の簪と何故一組寄りの席で観戦しているか? それはのほほんに捕まったからだ。

 

 いや、ピットを出たら偶々簪と会って二人で観戦でもすっか?的な話してたら、何処からともなく現れたのほほんに捕まったんだよ。何故か簪を巻き込んで。

 

 で、聞いてみれば簪とのほほんは幼馴染みらしい。しかも簪が専用機開発で塞ぎ込んでいた間はのほほん的には不本意ながら疎遠になっていたらしく、せめてこう言う時くらいは一緒に居たかったそうだ。

 

「つぅーか、なんであの馬鹿は未だに突撃一辺倒なんだ? 二週間近くも時間がありゃあ、別の動きのひとつは出来んだろ?」

 

「あぁ~。おりむー、しののんとばっかりISの訓練してたからじゃないかな~? たま~に見たけど、ずっと真正面から斬り合ってばかりだったよ~?」

 

「えぇ~え・・・・ それ、ISを馬鹿にし過ぎじゃ・・・・・・」

 

 もはや勝負は見えたが、のほほんがもたらした情報に俺と簪は呆れた様な顔を浮かべる・・・・ と言うか、完全に呆れてる。

 

 そもそもアリーナを借りて訓練してたんだろ? なんで回避運動すらまともに取れてないんだよ。正直言って、こんなののせいで簪の専用機開発が丸投げされたなんて頭が痛くなってくる。

 

「こりゃもう鈴の勝ちで確定だな。後三分も保てば良い方だろう」

 

「うん。それに、SEも残り二桁になってる。どうやっても巻き返しなんか無理」

 

 もう? さっき見たら四割はあったのに、早くない?

 

 これはもう、絶望的だな。そう思った俺とのほほんは織斑一夏に対し念仏を唱えるかの様に両手を合わせた・・・・が。

 

ーーバリィーンッ!

 

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」」」」

 

 それは、突然鳴り響いた轟音と悲鳴によって遮られた・・・・

 

「な、なにっ!?」

 

 突然の事に簪は慌てて周囲を見渡し、のほほんはそんな簪にしがみついてる。

 

 轟音の発生源であるアリーナを見てみればアリーナの周囲を覆っていたバリアが破壊されていて、その周囲では攻撃を受けた様に土煙が舞い上がっていた。

 

「・・・・っ! あいつぁ!?」

 

 そんな中、俺は其処にいた不審者の存在に気付くと同時に驚愕の声を溢す事になった。

 

 飾りっけのない無骨な印象を受ける黒い装甲。人の身体にしては腰回りが細く、薄く白煙をあげる明らかに砲頭の様な右腕。そして()()()()()()あの姿。

 

 其処にいたのは・・・・・・

 

「ゴーレム、だと・・・・!」

 

 束が作った無人機『ゴーレム』と瓜二つの物が十二体、アリーナ上空に浮かんでいた・・・・・・

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 うん、無理にsideを3つに分けるもんじゃないや。ただ文字数だけが掛かった。

 さて、次回辺りからちゃんと戦闘頑張るか。

 では、ターンエンド!



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第21話 緊急発進ー消え逝く想いー


 セシリアとの絡み? 無いよ?
 進めないと絡める場所まで行けないんだもの。




 

ーside和也ー

 

 クラス対抗戦で盛り上がっていた筈のアリーナに突然の襲撃者が現れた。

 

 しかもそれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()機体である事に、俺も僅かに驚かされたが・・・・ 今はそんな事してる暇はねぇ。

 

「簪、のほほん。こんな状況だ、お前等はさっさと避難しろ。いや、どちらかと言えば他の奴等の避難を手伝ってやれ」

 

 見れば他の奴等はパニックになってるのか我先にアリーナの出口に殺到してて、避難の動きに冷静さがない。しかも出入口が詰まってるか知らないが、人の波も全くなくなってない。

 

 ・・・・アリーナに閉じ込められた? もしも相手の目的が生徒達の殲滅ならそうするだろうが・・・・ 今はそこを気にしてる場合じゃねえか。

 

 しかし、そんな俺の言葉も簪は簡単には受け入れてくれなかった様だ。

 

「っ!? な、なら和也も!」

 

 んな真似、出来る訳ねぇだろ? 少なくてもアレは、()()()()()()()と仮定して動くべきだ。そうなると、避難なんざしてる訳にはいかねぇ。

 

 そう考えるや俺は簪の言葉を無視して、直ぐ様ISを展開する。破壊されたアリーナのシールドは復旧間近。復旧が済めばアリーナの中に入るのに余計な時間を食う・・・・・・

 

「駆けるぞ・・・・『如月』!」

 

 なら、今必要なのは機動力。瞬間、俺の身体を『如月』が包む。

 

 爪が付いた籠手と具足を装着した腕部と脚部。不必要な装飾を廃した西洋甲冑の様な胴体と頭部。姿勢制御の為の四枚の翼。両足に四つ、背部に付いた大型のブースター。そして、鈍く光る灰色のカラーリング・・・・ これが『如月』。

 

 『如月』の展開が完了すると同時に、俺はその場から跳躍。PICを駆使し簪とのほほんに影響が出ない位置まで飛び上がると、そのままブースターに火を着ける。

 

「っ!? 和也っ!」

 

「あっきー!」

 

 下で二人が叫んでるが、止まってる場合じゃねぇんだ。帰ったら文句のひとつも言われるか、最悪嫌われるかも知れないが・・・・

 

「誰の仕業か知らねぇが、そいつ(ゴーレム)を放っとくわけにゃあいかねーなぁ!」

 

 身内の技術を、好き勝手に使われて黙ってられるかよ!

 

 

ーside和也 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーside鈴ー

 

 一夏との試合の最中、後一歩って所でそれは現れた・・・・

 

「なんだって言うのよ、一体・・・・!」

 

 アリーナのシールドを破壊する程の攻撃。しかもそれをしたのと同じのが十二体とか、どう考えても危険は少ないなんて甘い考えは出来ない。

 

「管制室と連絡は取れない、か。なら・・・・ 一夏! ここはワタシが受け持つから、あんたは退がりなさい!」

 

 どう考えても緊急事態。ならワタシとの試合でSEが殆どない一夏を戦場に残しておく訳にはいかない。

 

 代表候補生でもあるワタシは兎も角、まだISに触れて間もない一夏じゃ今の状況は危険過ぎる。

 

「な、なに言ってんだよ鈴! 女の子ひとり残して逃げるなんて、男らしくない真似が出来るかよ! 俺も戦うぞっ!」

 

「っ!? 何言ってんのよ馬鹿っ!」

 

 ホント、何言ってのよ!? 男らしくないとか以前に、今の状況分かってんの!?

 

「あんたねぇ、自分の状況考えなさいよ! SEも殆ど残ってないのに、どうやって戦う気なのよ!」

 

「そんなの、気合でどうにかする!」

 

「~っ!? ホッント! 馬鹿じゃないのっ!?」

 

 意味が分かんないわよっ! そもそもISのSEなんて気合でどうにかなる様なもんじゃないでしょ!?

 

「大丈夫だ! 俺が鈴を、守ってやるんだぁ!」

 

「っ! 馬鹿、戻りなさいっ!」

 

 そうこうしてる内に何をとち狂ったか、一夏は所属不明機達に突っ込んで行った。この状況で、ワタシを守るなんて事を叫びながら。

 

 こんな状況じゃなければワタシを守ろうとする一夏の姿に胸をときめかせてたかも知れない。だけど、今はそんな状況じゃない。

 

 アリーナのシールドを破壊するような攻撃をして来る様な相手なのよ? 少しでも冷静な奴なら、慎重に行動しなきゃいけないって事に気が付く筈。

 

 しかもアリーナにはワタシ達の試合を観戦していた他の生徒達だってまだ避難出来ずに残ってる。そんな状況で闇雲に突っ込む様な馬鹿な真似をするなんて・・・・

 

「なんで・・・なんで、よ・・・・ 一夏ぁぁぁあっ!」

 

 馬鹿とかそんなレベルじゃない。愚か。そうとしか言い様がないじゃない・・・・!

 

 もう、分かんない。自分が信じてた相手が、何を考えてるのか。何を根拠に、ワタシを守るなんて言ってるのか。何を想って・・・・

 

「うおぉぉぉぉおっ! 俺が相手・・・・っ!?」

 

「一夏っ!?」

 

 ワタシは、一夏を好きになっていたのか・・・・ 所属不明機に突っ込む途中で完全にSE切れを起こしISの展開が解除されていく一夏を見て、ワタシは自分のこの気持ちがなんなのか分からなくなった。

 

「わ、悪い鈴・・・・」

 

「馬鹿っ! なんで闇雲に突っ込んだりしたのよ!? ああ、もうっ! アイツ等はワタシが引き受けるから、今度こそあんたは避難しなさいよね!」

 

「そ、そんなこと出来るかよ! まだ手はある筈だ、俺だって戦う!」

 

「いい加減にしてよ! 今はそんなこと言ってる場合じゃ・・・・っ!? ちぃ! 動いて来た!」

 

「う、うおおおっ!?」

 

 いや、もう分かってた。分かっちゃったのかも知れない。ワタシの、一夏に対する想いが、気持ちが、少しずつ消えて行く感覚を。

 

 こんな馬鹿みたいな真似をされたから?

 

 守るって言葉だけは立派な姿を見せられたから?

 

 自分の状況すら理解出来ない分からず屋だったから?

 

 ワタシの告白を、想いを、ほんの少しでも分かってくれようともしなかったから?

 

 動き出した所属不明機を前に一夏を抱えて逃げながら、ワタシの中に在った想いが消えて逝く・・・・

 

「(くっ! 一夏を抱えながらじゃ思うように動けない・・・・!)」

 

「お、降ろしてくれ鈴! 俺がアイツ等を引き付ける、その間にお前だけでも・・・・」

 

「それ以上喋るんじゃないわよ! 現実は漫画とは、違うの! なんも出来ない奴が、奇跡なんか起こせる訳ないじゃない!」

 

 ああ、消えて逝く。今日まで抱いて来た恋心が、心の中で支えにしてきた想いが、幻の様に消えて逝く・・・・

 

 もう一夏に対する恋心なんて、欠片も残されてないかも知れない。出来るなら、今にでも一夏を放り投げたい。

 

 だけどワタシは中国の代表候補生だから。その肩書きを背負ったワタシが、危険な状況に陥った一般人を見捨てる訳にはいかないから・・・・ 泣き出してしまいたい気持ちを押し込めて、今は一夏を安全な場所に逃がさなきゃ・・・・

 

「っ!? 鈴、後ろだ!」

 

「っ!? しまっ・・・・」

 

 注意が逸れてたのかも知れない。気付けば所属不明機の内3機が、ワタシ達の直ぐ後ろまで迫ってる。

 

 アリーナのシールドを破壊した武器は使わないのか、それぞれが左腕にブレードを展開してる。

 

 気が動転して『龍砲』が使えない。迫る所属不明機を前に、反撃する事が出来ない。・・・・せめて最期に、一夏だけでも逃がさなきゃ、代表候補生として格好が付かないわよね?

 

 そう思うとワタシは一夏を抱える力を強め、これから受けるであろう衝撃に目を瞑った・・・・ だけど。

 

ーーバキィィィィィンッ!

 

 来るであろうと思った破壊音はワタシからじゃなく、その後ろから聞こえて来た。そこでは・・・・

 

「・・・・先ずは、3機」

 

 見慣れない灰色をしたISが、直前まで迫ってた所属不明機を破壊している姿が目に飛び込んで来た・・・・

 

 

ーside鈴 outー

 

 

 





 Q.碌に戦わなかったし。なんでや?

.A.文章力が足りないから。

 自分で言ってて悲しくなるわ。
 ( ノД`)…

 ああ、次回でゴーレムは潰します。素敵なパーティを始めましょう。

 A.文章力が足りな・・・・

 るっさい! ターンエンド!



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第22話 迎撃者 ー独り部隊の蹂躙ー


 戦闘描写は三人称視点で書く方が楽なんです。


 

 突如クラス対抗戦に乱入し鈴と一夏を襲っていた所属不明機、通称ゴーレム。そのゴーレムを鈴達に追い着きながら、『如月』を展開した和也は鈴の前に姿を現した・・・・

 

「先ずは3機・・・・ たくっ、無駄に数だけ揃えやがって」

 

「か、和也・・・・?」

 

 そう鈴が呟くも、和也は振り向かない。その眼光が見据えるのは、未だ動かず上空に漂う9機のゴーレム達。

 

 そしてゴーレム達もまた、動きはしないが観察する様に和也へと視線を注いでいる様に見える・・・・

 

「鈴、その馬鹿連れてさっさと逃げろ。無人機共の相手は俺がする」

 

「む、無人機? そんな筈ないじゃない、無人のISなんてまだ何処の国だって作ってなんか・・・・」

 

「とっくに造られてるよ。まぁアレは盗んだデータで造られた紛い物だけどな。それでも改良くらいはされてんだろ・・・・ お喋りは良いから、早く行け」

 

 言い切ると、和也はゴーレム達に向かって身構える。今はもう話す事もない、早く逃げろ。そう暗に言って来る後ろ姿に鈴は奥歯を噛み締めながらも、一夏を抱えピットへと向かって行った。

 

「お、おい鈴!?」

 

「るっさい! 良いから今は、和也に任せて逃げるのよ!」

 

 逃げる事に文句を言おうとした一夏を一喝するも、鈴とて悔しくない訳ではない。

 

 一夏を抱えて逃げる、それしか出来ないのだ。代表候補生である自分が、ただそれしか。

 

 その事に確かな苛立ちと悔しさを抱きながら、鈴はピットの中へと姿を消した・・・・

 

「(さて、鈴は行ったか。なら次は、本格的にゴーレム擬きの処理をすっか・・・・)なっ!」

 

 その瞬間、『如月』のスラスターを全開で吹かし和也は空へと上がる。それに合わせた様にゴーレム達も一斉に散開し、和也を囲む様に広がる。

 

 正面から2体、左腕にブレードを展開している事から、和也に接近戦を仕掛けて来たのは明白。その周囲には拡張領域にでも忍ばせていたのか、左腕にマシンガンを構えたゴーレム達が6機・・・・ 残る1機は、上空から和也へと視線を向けている。

 

「(なんだ? 無人機ってぇなら一斉に掛かって来ると思ったが・・・・ まぁ良い、やることは変わんねぇ!)」

 

 そう意を決すると和也は両指を伸ばし、接近していたゴーレムの1機へと近付く。

 

 右上段から振るわれるブレード。それを左に身体を捩ると、和也は右腕を引き絞り、接近した勢いのままにゴーレムの胸へと右腕を突き刺した。

 

「(? なんだ? コアが、ねぇ・・・・?)」

 

 本当なら腕を突き刺すと同時にISコアの回収も行おうとしていたが、現実は違った。

 

 そもそもISはISコアを動力に使用するからこそISであり、それ以外の動力を用いてではIS程の出力が出せないと言われている。それは無人機であっても同じ筈だった。

 

 だからこそ和也は無人機を無力化するのにコアを抜き取ると言う手段を選び実行に移したが、結果は思っていた物と違った・・・・

 

ーーブンッ!

 

 1体目のゴーレムの心臓部を鷲掴みにしたまま迫る2体目のゴーレムが振るうブレード。そのゴーレムを前に和也は1体目を盾にしながらブレードを防ぎ、コア代わりに抜き出した動力部を握り潰しながら、今度は左腕をゴーレムの胸へと突き刺した。

 

 しかしそしてそこでもまた、ゴーレムの心臓部に突き刺した和也の手には予想していた物の反応はなかった・・・・

 

「(こいつもコアがない? まさか、通常のバッテリーが動力になってんのか? いや、そんなもんじゃあのビームを射つ出力が足りない筈だ・・・・)」

 

 引き抜き握り潰した心臓部を放り投げながらも、和也の中で浮かんだ疑問は尽きない。

 

 最初にアリーナに射ち込まれたビームは間違いなくISコアを動力に介して撃たれた物だ。だからこそシールドは破壊されたし、和也も緊急性を感じて飛び出した。

 

 だが、蓋を開けてみればどうだ? 最初の3機は全て片付けてから回収するつもりで確認していないが、今潰した2機はISコアを動力にしていなかった。

 

 ビームを射って来た1機は間違いなくISコアが使われてるとして、もし残りの機体にはISコアが使われていないのだとしたら・・・・?

 

「(・・・・なんだよ? 加減は必要ないってか・・・・?)」

 

 無理に、コアへのダメージを気にする必要はないと言う意味に他ならない・・・・

 

 その事に和也がフルフェイスの下で口角を吊り上げていると、外部から通信が入る。通信元は・・・・管制室だ。

 

「なんだよ? こちとら戦闘中だ、用件は手短にな?」

 

[このっ・・・・! 馬鹿者がぁ! 何故ひとりで戦闘なんぞしてる! 生徒は至急アリーナから避難せんかぁ!]

 

 通信先の千冬の声が和也の耳に響くと同時に、6機のゴーレムから一斉に和也に向けてマシンガンの集中砲火が始まる。

 

 その銃弾の雨を降下しながら躱しつつ、和也は通信をして来た千冬に溜め息を漏らした。

 

「はぁーあ・・・・ あのなぁ、ちーちゃん? 至急避難とか言うがよ、じゃあ誰がアレの相手すんだよ?」

 

[それは、教員部隊が急ぎ襲撃者の撃退に動く事になってる]

 

「現状で姿を見せてすらいねぇ奴等が? 未だ、生徒の避難すら出来てねぇのにか?」

 

 そう言うと和也はハイパーセンサーによって周囲を確認する。そこに写るのは未だ観客席から避難も出来ず、アリーナに閉じ込められた様になっている生徒達の姿だ。

 

 その言葉には千冬も言い返す事が出来ないのか言葉を詰まらせ、その反応だけで和也は改めて溜め息を吐いた。

 

「生徒の安全を考えるのは勝手だが、何も出来てねぇじゃねぇか。生徒の避難は? ゴーレム達の相手をする奴等の出撃状況は? ・・・・結果、後手後手で何も出来てねぇ癖に、ふざけたこと抜かすなよ・・・・!」

 

[だが、だからと言って生徒が危険な真似をするのを見逃す事など・・・・]

 

「悪ぃ『如月』、お疲れ。『弥生』、パーティータイムだ」

 

[っ!? 秋風ぇ!]

 

 千冬の言いたい事は分かる。教師として、生徒を危険な目に合わせたくないのは当然の事だろう。だが、その考えと現状を比べても、今の千冬達には何も守れはしない。

 

 そう思うと和也はアリーナの地面に足を着けると同時に『如月』の展開を解除し、新たなISをその身に展開した。

 

 両腕に二基のガトリング、両肩に浮いた非固定浮遊型のシールド、両足に着いた三つの発射口を持つミサイル。胸部も装甲にしては厚く、例に漏れず全身装甲(フルスキン)の深緑色のIS、その名を『弥生』。

 

「良いかちーちゃん。生徒達を守りたいんだろうが、現状であんたらは役に立たない。そして俺はあのゴーレム擬き共を破壊し尽くしたい。利害は互いにある程度一致してんだ、だったら余計な口は挟むな。そもそも戦闘中に邪魔なんだよ」

 

[だが! だからと言って12機もの不明機の相手を生徒にやらせるなど・・・・]

 

「アレの名称はゴーレム、無人機、元々の制作者はちーちゃんの親友。で、アレは盗作されたパチもん。オーケー?」

 

[なっ! なんでお前がそんな事を知って・・・・]

 

 これ以上は話すつもりが無いと、千冬の言葉を聴き終える前に和也は手にしたガトリングの銃口をゴーレム達へと向ける。

 

 その間にも上空からはゴーレムの放つマシンガンの銃弾が降り注ぐが、それは両肩の浮遊シールドが防いでいく。そしてその間に両肩にレールガンを拡張領域から展開し、それも含めゴーレム達へと標準を定めた。

 

「・・・・そうか、コアが使われてるのは1機だけなんだな? なら尚更、遠慮はいらねぇ・・・・」

 

 両腕に構えた二基のガトリングの砲身が、徐々に回転を始める。両肩のレールガンが電気を帯び、エネルギーを溜める。両足のミサイルポットの発射口が開く。そして胸部の装甲が開き、中から更なるガトリングの砲身が姿を見せる。

 

 その間にもゴーレム達はマシンガンの銃弾を撒き散らしながら、ゆっくり和也との距離を縮める様に近付いて来る・・・・

 

「所詮は紛い物。AI制御にしても戦い方はお粗末。そんなもんを・・・・ 俺に向けようなんざ、百年早ぇんだよぉ! 沈めやガラクタがぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

 挙がる和也の咆哮。それと同時に、『弥生』が展開していた銃口の全てが火を噴いた。

 

ーーガルルルルルルルルッ!

 

 両腕から轟音を上げ射ち出されるガトリングの銃弾。それは身近にいたゴーレムに直撃すると、逃げる暇すら与えんように次々に射ち込まれ、ゴーレムを鉄屑にするのはあっという間だった。

 

 1体が鉄屑になれば次はその後ろのゴーレムが標的になり、前方のゴーレムを盾に逃げ様とすればレールガンが逃げ道を塞ぐ様に迫る。更に胸部から射ち出されるガトリングも広く撒き散らされる事で、ゴーレム達の動きを抑制していた。

 

「弾幕は、パワーだごらぁぁぁぁぁあっ!」

 

 そう声を荒げて銃弾を射ち続ける和也の鬼気迫る様な姿に、依然として避難の出来ない生徒達の視線が集まり出すのは必然だった。

 

 射ち始めから未だに射ち続けられる二基ずつ計四基のガトリング。それによって破壊され鉄屑に変わっていくゴーレム。

 

 何より、一向に弾切れの気配が訪れないことで、ガトリングの発する音がアリーナ中に響いて五月蝿いのだ。これで視線を集めない訳がない。

 

 しかも和也は管制室との通信を開いたままな為、現状で管制室の中にまでも通信越しにガトリングのあげる轟音が響いている始末だ・・・・

 

 だが、そんな騒音問題を起こす程の銃撃も迷惑ながら成果を挙げつつある。和也に近付こうとしていた6機のゴーレムが、全て鉄屑へと変わり果てているのだ・・・・

 

 それに合わせ漸くガトリングの砲身は砲撃を止め、アリーナの中は一気に静寂に包まれる様に静かになった。

 

「これで、残ってんのはあの1機か・・・・」

 

 最初に3機。『如月』で2機に、今の『弥生』で6機。これで11機のゴーレムが鉄屑へと変わった。残ったのは依然として上空に佇む1機だけになった・・・・

 

 その1機は1機で状況的に不利と判断でもしたのか、または一矢報いる気持ちでも持ったのか、頭部のモノアイを数回点灯させた後、砲身となっている右腕を和也のいるアリーナの地面へと構えた。

 

「(なんだ、最後の意地ってか? とは言え、またあのビームを撃たせんのは良くねぇか・・・・) パーティーは終わりだ『弥生』。フィナーレだ、『長月』」

 

 そう呟くと『弥生』の展開が解除され、三度、和也の展開するISが入れ替わる。

 

 展開し地面に降りただけでズシンっと音を立てる重厚な装甲。右腕には肩に担ぐ様に持った大型の砲身。

 

 そして和也は此方に砲身を向けたゴーレムに対し、自らも肩に担いだ大型の砲身を構えた。

 

 互いに銃口へ溜まるエネルギー。何よりそれがアリーナのシールドを突破した代物であると理解している千冬は、この光景に僅かな冷や汗を流しアリーナ中へと通信を繋げた。

 

[全員、今すぐその場にしゃがめぇぇぇ!]

 

 千冬が対ショック行動を指示するのと、和也が引き金を引いたのは同じタイミングだった。そしてゴーレムがビームを射ち出すのも。

 

 両者から射ち出される高出力なビームの奔流。それは互いにぶつかりせめぎ合い、眩い閃光がアリーナ中に広がっていく。

 

 そして、最後には・・・・・・

 

「・・・・チャ~オ~ってなぁっ!」

 

 和也の射ち出していた大型キャノンのビームが、ゴーレムのビームを本体ごと飲み込んでいったのだった・・・・・・

 

 

 





 早く日常パートが描きたい! って思ったら、4511字とかになってた。反省はしてない。

 と言う訳で、まとめて『如月』『弥生』『長月』の三機もまとめて登場。機体の紹介がものっそ下手過ぎて泣ける。
 ( ノД`)…

 次回は日常パートへ戻る為の報告会と、漸く学園長が登場。ついでに和也が結んでいた契約云々の話が書けるよ。ただ、最悪2話使う。

 それと、オリキャラ紹介のページ作ろうかしら? いい加減、オリISも簡単にまとめといた方が分かり易いだろうし・・・・?

 では、ターンエンド!



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第23話 報告会①ー待ち時間はお茶会ー


 やっぱり二部に分けました。

※5/12 誤字訂正。




 

ーside千冬ー

 

 クラス対抗戦で起きた襲撃事件から数時間後・・・・ 私は、一夏と鈴音を伴って学園長室へと向かっている。

 

 その理由はひとつ、先の事件に関する事情聴取と確認を行う為だ・・・・

 

ーーコンコンッ

 

「織斑です、当事者二名を連れて来ました」

 

『どうぞ、入って下さい』

 

 学園長室に着きノックをすると中から入室を促され、私は部屋の扉を開けた。

 

 中に入ると高価な机にこの学園の学園長にして唯一の男性職員である『轡木十蔵(くつわぎ じゅうぞう)』氏が私達を待っていた。

 

 そして、もうひとり・・・・・・

 

「あぁ~あ・・・・ 茶が沁みる~」

 

 今回の件の重要人物でもある秋風が、先にソファーに座り寛いでいた。

 

 こいつ・・・・ 騒ぎの後で直ぐに居なくなったと思えば、先に此処にいたのか!

 

「よく来てくれました。皆さんお疲れでしょう、楽にして下さい」

 

「因みに飲みもんはセルフサービスな? ポットはそこにあっから、自分で淹れてくれ。後、茶菓子はねぇから」

 

 自分の部屋か貴様!? と、怒鳴りたい気持ちはあるが今は轡木さんの手前、私達は促された席へと座る。

 

「・・・・では皆さん揃った様ですし、早速本題に入りましょう」

 

 そう轡木さんが切り出し、話し合いと言う名の事情聴取が始まる・・・・

 

 とは言っても私や一夏、鈴音は事件当初に何があり、どうなっていたかの確認であった為、話し合いはそこまど時間の掛かる物ではなかった。

 

 そして私達から事件の話を聴き終わると、轡木さんは視線を秋風へと移した。

 

「ふむ・・・・ では秋風君。次は君の番ですが、君はどうして独断で戦闘行為を? あの時、織斑先生達へ指示を仰いでも良かったのでは?」

 

 そう、それは私も多少気になっていた。独断に動くにしても緊急時なら私達に一言くらい言うと思っていたが、秋風は連絡のひとつも寄越さなかった。

 

 結果的に生徒達に被害はなかったとは言え、その辺をどう考えていたのか・・・・?

 

「アレがただのISを使ったテロリストならそうしても良かったが、相手がゴーレムの模造品だったからな。性能を知る身としちゃあ、ちまちま指示を仰ぐのが面倒だった」

 

 面倒って・・・・面倒ってなんだっ! 貴様に社会の『報連相』を求めてはいないが、せめて『連絡』くらいは果たせ!

 

「ふむ。そう言えば、例の所属不明機をゴーレムと言ってましたが・・・・ 君はアレの正体については?」

 

「俺も資料でしか見てねぇが、ありゃあ元は無人機のプロトタイプだ。で、今回のはそのデータを元に造られた模造品。大体の性能は分かる。勿論、その危険性もな」

 

「資料、ですか・・・・ その資料は、今?」

 

「俺と、制作者の頭ん中だ。と言っても、俺個人じゃ造るなんざ無理だけどな?」

 

 そこまで言うと秋風は露骨に肩をすくめ溜め息を吐く。

 

 ・・・・多少話は聞いていたが、やはりアイツが制作に関わっているのか・・・・ だが、今回の件にも関わっているのか?

 

「・・・・ふむ、分かりました。では話は此処までにして皆さんには今回の事に関する誓約書を書いて貰います」

 

「誓約書? なんでそんなもんを・・・・?」

 

「余計な情報を生徒達や周りに与えて混乱させねぇ為だっての。テメェは今回の事を言い触らしたいのかよ? あんな、近付く前にSE切れなんぞ起こしといて」

 

「なっ!? あ、アレはタイミングが悪かっただけだっ! SEさえ有れば、俺だって・・・・」

 

「なんか出来たって言うのか? 嫌だねぇ~、現実を分かってねぇ馬鹿ってのは」

 

「っ! なんだとぉ!」

 

「止めんか馬鹿共! 学園長の前だぞ!」

 

 全く、なんでこいつらは場所すら弁えず言い合いなんぞしてるんだ・・・・!

 

 取り敢えず馬鹿二人を黙らせた後、鈴音にも同じく誓約書を書かせる事は済んだ。

 

 その後は話があると言う事で私と秋風だけが学園長室に残り、一夏と鈴音の二人は退室させた。

 

 ・・・・そう言えば事情聴取以外で鈴音の奴がずっと黙っていたが、何かあったのか?

 

「・・・・さて、先にお二人には退室頂いたんで、此方は此方の話をしましょうか。よろしいですね、秋風君?」

 

「まっ、そうなるよな~・・・・ 取り敢えず、茶でも淹れ直すわ。()()()か?」

 

 四人分? 此処には私と秋風、轡木さんの三人しか居ない筈だが・・・・ ああ、そう言う事か。

 

「ではお願いします。そちらも構いませんね? ()()()()?」

 

 そう轡木さんが言うと、ひとりの生徒が窓のカーテンの中から姿を見せる。どうやら、事情聴取の間そこに隠れていた様だ。

 

「あら~、轡木さんと織斑先生にしかバレないと思ったんだけどね~。よく分かったわね?」

 

「気配を隠すのは得意じゃねぇが、探るのは得意でな。部屋に来た時から気付いてたわ」

 

「・・・・なら、どうして今になって気付いた素振りを見せたのかしら? 気付いてたなら、さっきまでの話し合いにも同席出来たでしょ?」

 

「・・・・決まってんだろ?」

 

 そう言うや秋風は私と轡木さんの前に淹れたお茶を置き、件の生徒・・・・ 学園の生徒会長である『更識 楯無(さらしき たてなし)』に口角を上げる。

 

 確かに、一夏達が居た時から更識の気配に気付いていたんだ。それを黙っていたのなら、多少なりとも理由がある筈・・・・

 

「・・・・出るに出れない奴の前で、好き勝手に飲み食いする為だ!」

 

「って、そんな理由ぅ!? いや、確かに出るに出れなくて喉が渇いたりはしたけど・・・・」

 

「因みにちーちゃん達が来る迄に食べてた羊羮。老舗の高級羊羮だったそうな・・・・ 大変、美味しかったです」

 

「それ全部食べたの!? 私が隠れてるの知ってた上で!?」

 

 ・・・・そんな大層な理由も何もなかった。

 

 と言うか、私達が来る前に羊羮なんぞ食べてたのか? ・・・・あっ、よく見れば轡木さんの机にも羊羮を食べた痕跡が・・・・ なにしてたんだあんたらぁ!?

 

「まぁまぁ、秋風君もその辺にして話を始めましょう。彼女の紹介もしなければいけませんし」

 

「だってよ? 取り敢えず、お宅も席に着いたらどうだ?」

 

「ぐぬぬぬっ! お姉さんの先制パンチを躱すなんて、抜け目のない子・・・・!」

 

「いや、俺の方が歳上だからな?」

 

 そうだった。たまに忘れるが、秋風は一夏達より二つ歳上だったな。一瞬忘れていた。

 

 兎も角、轡木さんにも促され私達はソファーに座り、漸く話し合いの準備が整った。

 

 この面子を集め話し合う事とは、一体なんだと言うのか・・・・?

 

「それでは、秋風君の『今後のISの使用法』に関する話し合いを始めたいと思います」

 

「えっ? 今更?」

 

 ・・・・どうやら、思ってたよりは真面目な話し合いだったようだ。

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 





 凄いひっそりと生徒会長が登場。
 それと今回の一夏は特に罰せられる程の事はしてないから、やんわり注意程度の処分。理不尽には罰しなかった。
 そして和也の専用機に関するお話は、次回と言う事で。

 では、ターンエンド!



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第24話 報告会②ー交渉成立ー


 気付けばお気に入り700件越えてた。
 やっほーいっ♪
 (o≧ω≦)o

※5/13 誤字訂正。


 

ーside千冬ー

 

「それでは秋風君、今回の件に関して身に覚えは?」

 

「有り過ぎて困るくらいだ。正直、すまんかった」

 

 そう轡木さんが切り出すと、秋風は私が驚く様な流れで早々に頭を下げた。

 

 その意外とも言える秋風の行動に更識はおろか、私でさえも思わず目を見開いた。

 

「今回は所属不明機、ゴーレムでしたか? それを我々に代わって撃破してくれた事は良いんですよ。しかし、最後が些か問題です」

 

「だよな~。幾らビーム砲を射たれ掛けたとは言え、こっちまでビーム兵装使ったのは失敗だったな~。まだ避難してねぇ奴等が居たってぇのに」

 

「一応言っておきますが、アレは今後・・・・」

 

「大丈夫、使わねぇよ。そもそもアレは施設ごと相手組織をぶっ潰す用の逸品だ。対人戦、しかも生徒相手に使わねぇから。普通に絶対防御は貫くし」

 

「ではアレは今後、学内で使用禁止と言う事で」

 

「異論なし」

 

 とても軽く、まるで世間話でもしているかの様に進む轡木さんと秋風の会話。それも秋風が反論やら屁理屈を捏ねないからトントン拍子に話が進む・・・・って!

 

「が、学園長。話と言うのはその事ですか?」

 

「そう、ですね。なんか、私と織斑先生は要らないんじゃないかな~?って思っちゃうくらい、話がトントン進んでるんですけど?」

 

 そう。そんなに二人だけで話が進むと言うのなら、私と更識はこの場に必要なかった様にも思える。

 

 それは更識も同感だったらしく、轡木さんに確認を兼ねて聞いてみたのだが・・・・ 轡木さんは、秋風と揃って首を傾げていた。

 

 それはもう、『何言ってんの、こいつ?』みたいな顔で。

 

「いいえ? これは今回の一件に際し、秋風君へ下す処罰を決める段取りなだけで、本題はまだですが?」

 

「そもそも俺のISについてまだ話してねぇだろ? 何言ってんのちーちゃん?」

 

 この人はぁぁぁぁ・・・・! と言うか、秋風! 轡木さんの前でまで私をちーちゃんと呼ぶな!

 

 妙な所で息の合った行動を見せる二人に、思わず頭が痛くなるのを感じる・・・・ 今日はもう、この話し合いが終わったら帰って酒でも飲んでやろうか?

 

「まぁこの辺は最後に言うとして、本題に入りましょうか?」

 

「そうだな。でないとちーちゃんが癇癪起こしそうだし」

 

 もう内心で十分に怒ってるわぁ! 轡木さんの前だから抑えてるだけで、拳も握りっぱなしだ!

 

 そんな私の怒りも露知らず、轡木さんと秋風はやれやれと肩を竦めると、咳払いをひとつ挟み改めて話を切り出し始めた。

 

「それでですね秋風君。実は来月に学年別トーナメントが行われるんですが、話は聞いていますか?」

 

「ああ、ダリルんから少しは聞いている。全校生徒が対象の大会なんだろ?」

 

「ええ。一般生徒は学園の訓練機を使い、専用機持ちは自らの専用機を使って行われる大会です。で、そこで問題になるのが・・・・」

 

「俺みたいな、個人で複数のISを所持してる奴の扱いって事か?」

 

 やっとまともな話が始まる。そう思った私は悪くない筈だ。現に更識も妙に疲れた様な溜め息を溢しているし。

 

 だが実際、轡木さんの意見も最もだ。ただでさえ個人でISを複数所有しているのも問題なのに、今回見せたはや着替えの様なISの切り替え。そんな事を試合中にやられれば、生徒では正攻法で打倒する事が出来ないだろう。それは由々しき問題だ。

 

 しかし、相手はあの秋風だ。その事を言った所で素直に退いたりなどはしない・・・・

 

「まぁISを預ける事はしたくないからしねぇが、使う機体は試合中に変えたりしねぇよ。じいさん、これ後で別紙に誓約書を書こうぜ?」

 

 ・・・・素直に退いた!? しかも自ら誓約書を請求して来ただと!?

 

「ええ。そうして貰えると助かります。ついでに当日は各国政府の要人やら何やらが来るんで、使う機体も1機に絞って頂きたいんですが?」

 

「そりゃ無理だな~。誰が使えるかはそん時の気分だし」

 

「まっ、あまり政府関係者を刺激しないで下さいね?」

 

 ・・・・正直、私は目の前の状況が理解出来ない。

 

 あの秋風が、何か注文すれば食って掛かるか文句を言って来るあの秋風が、轡木さんの提案をすんなりと受け入れてるのだ。これには私も驚きを隠せない。

 

 そうこうする内に轡木さんは紙にペンを走らせ何かの書面を作成して行く。そしてある程度ペンを走らせると、出来上がった紙を秋風へ差し出した。

 

「では秋風君、まず学年別トーナメントの方はこんな感じの制限で構いませんかね?」

 

「どれどれ」

 

 と言うか本当、なんで私と更識を残したんだ? そう思いたくなる気持ちを抑え、私は秋風が受け取った紙を覗き込んだ。そこには・・・・

 

 

【秋風 和也の使用する専用機に関する誓約】

 

①試合中に於けるISの複数使用の禁止。

②アリーナのシールド及び観客に害を及ぼす可能性のある一部武装の使用禁止。

 

 

 と、書かれていた・・・・ いや、そもそも。

 

「・・・・こんだけの事を書くのに、わざわざA4用紙使ったのか?」

 

 そう。使った用紙の割りに内容が少ない。いや、内容的には確かに制限しておきたかった事ではあるが、こんな簡単に決めて良いのか?

 

「ええ。後は秋風君がサインしてくれれば、そのまま誓約書にしようと思ってましたんで」

 

「雑だな~・・・・ まぁ良いか」

 

 そう言うと秋風は何の問題もなかったかの様に用紙へ自らの名前を記入して行く。

 

 まさか、普段から胸ポケットにペンを所持しているとは思わなかったが・・・・

 

 そして秋風からサインが書かれた紙を受け取ると、轡木さんは内容を確認し改めて自らの名前と学園長の決済印を押した。

 

「ではこれで秋風君の専用機に関するお話は終わりです。続いて、今回の件に関する秋風君の罰則について話をしましょうか」

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 





 和也、ちゃんと罰するよ? 罰される理由があるからね。

 その罰則内容は・・・・ 次回!

 では、ターンエンド~。



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第25話 同意書 ーオリ主、お務め中ー


 と言うか、オリ主紹介どうしよう? プロローグの前に置こうか、名前が出た後に置こうか・・・・ ちょっと考え中。

※5/13 誤字訂正。




 

ーside和也ー

 

 ゴーレム擬きがクラス対抗戦に乱入したり、学園長室で事情聴取されたり、今後の事で誓約書を書く羽目になったりしたりと色々あってから夜が空けて・・・・

 

 

「ふぁ~あ・・・・ねみっ」

 

 

 

 

 俺は、懲罰房にて朝を迎えていた・・・・

 

 

ーside和也 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside楯無ー

 

「はぁ~あ・・・・」

 

 朝も早くから生徒会の仕事を片付ける為に生徒会室に居た私は、早々と深い溜め息を吐くことになった。

 

 その理由は昨日の『アリーナ襲撃事件』もさることながら、轡木さんから貰った一枚の同意書が原因だ・・・・

 

「まさか、私にも伝えないでこんなモノを書いてたなんて・・・・ 通りで彼の行動を咎めない訳だわ」

 

 そう呟いて私は手に持っていた紙をひらひらと机の上に投げる。そこには轡木さんと彼、秋風和也君しか知らなかった事が書いてあった・・・・・・

 

 

【IS学園 入学に関する同意書】

 

①秋風 和也(以下甲)は、IS学園にて生徒として入学する。

②甲の所有するISに関するスペックデータは、轡木十蔵(以下乙)にのみ開示、提出する。

③甲の所有するIS及び情報は、IS学園及び日本政府に一切提出、譲渡はしない。

④入学に際し甲は女子寮にて生活を行う。ただし、同室相手に同居を拒否された場合、以後甲は女子寮での生活を拒否する事が出来る。

⑤甲は乙が要請した際、IS学園の生徒の安全を守る手助けを行う。ただし、乙からの要請が無い時は、甲の裁量、判断を尊重する。

⑥IS学園に在学中、甲は学園内で無意味に殺傷行為を行わない。

⑦乙からの要請がなければ、如何なる学園からの要請も甲の裁量にて判断を一任する。

 

 

 その様な事が書かれており、先ず私は轡木さんの正気を疑った。

 

 そもそもこの同意書は、彼に都合が良い内容が大半を占めていて、同意書も何もない内容だからだ。これでは一体どちらが同意したかも分からない。

 

 オマケに、学園はおろか政府にすらISの情報を提出しないなんて、どんな特別待遇だと声をあげたいくらいだ。

 

「しかもこれ、織斑先生すら知らなかったのよね~? そりゃあ、普段から彼の行動に頭を抱えてた訳だわ」

 

 私はこの同意書のコピーを貰ったけれど、織斑先生は昨夜の話し合いの折にこの書類を見させられてる。その時の織斑先生の気持ちはどうだったか・・・・

 

 少なくとも背中から鬼の様なオーラが垣間見えてたから、かなり怒ってたのは間違いないと思う。

 

「それでも、今の彼は懲罰房の中・・・・ なまじ今回の件に反省する姿勢があるから質が悪いわね」

 

 そう。彼は今、自ら懲罰房へ入るのを受け入れていた。

 

 理由は、『学園に対する脅威を排除する為とは言え、威力過多な兵装を使用した事』による罰となっている。

 

 本来なら出撃の遅れた教員部隊や私達生徒会の代わりに脅威対象を排除してくれた事を感謝すべきなのかも知れないが、殊勝にも彼自身がそれを善しとしなかった。

 

 その結果、彼には一週間の懲罰房行きと500枚の反省文提出が轡木さんから言い渡された。

 

 本当なら専用機の一時没収も考えたけど、そうなったら彼から武力を以て抵抗すると言われ、渋々こちら側が折れる事になったのはまた別の話だ・・・・

 

「だけど、織斑先生も災難ね~。受け持つクラスの問題児が懲罰房に入っただけでなく、その説明までしなきゃいけないんだから・・・・ ホント、貧乏クジを引かされてるわね」

 

 生徒を守るには守ったが、守り方が過剰だった果てに懲罰房行き。しかも殆どの生徒が彼と襲撃者との戦闘を見ていた中で罰だからこそ、詳しく説明出来ない説明と言うのは大変だろう。

 

 そんな織斑先生に同情しつつ、私は昨日破壊されたアリーナの修繕に関する書類を処理しようと机に向き直ったのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言うか彼、ちゃんと反省文とか書くのかしら?

 

 

 

ーside楯無 outー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside千冬ー

 

「・・・・と言う訳で、秋風は一週間の懲罰房行きとなった。これに関しては何か意見もあるだろうが、奴も了解した事だ。よって、これ以上の詮索等はしない様に。分かったな」

 

 そう言ってクラスの生徒達に秋風の処遇を説明した訳だが、思っていた以上に生徒達に動揺が見られた。

 

 仕方あるまい。あんなの(問題児)でもクラスの生徒との関係は一部を除いて良好であったし、昨日は結果的に避難出来ていなかった生徒を守ったんだ。それが罰則を受けたと言えば動揺もするか・・・・

 

 しかし、不必要に危険な兵装を使ったんだ。本人も同意してた様に、結果だけで全てを許されると言う訳にはいかない。それは生徒達にも理解して貰わねばならん。

 

 ・・・・こう考えると、奴は良い反面教師になってくれたとも言うのか?

 

「そ、それと今回の件を受けてクラス対抗戦は中止になりました。その結果、賞品だった半年間デザート無料権も無効と言う事で~」

 

 

「「「「えぇーえっ!?」」」」

 

「せっかくのデザート無料権がぁ~!」

 

「あーんまり、だぁぁぁぁあ!」

 

 ・・・・いや、ないな。賞品が無効になったと分かった途端、どう見ても存在を忘れられた奴が反面教師とかないな。

 

 兎も角これなら生徒達に然して影響が無いのが分かったが、取り敢えず放課後にでも様子を見に行くか・・・・

 

 あいつが真面目に反省文を書いてる姿なぞ、想像出来んからな!

 

 

ーside千冬 outー

 

 

 





 と言う訳で、和也は懲罰房へとお務めに行きました。内職は反省文作りです。

 さて、これで次のタッグトーナメントまでの道標が出来た訳だけど、そうは問屋が卸さない。

 暫く和也の出番がない話が続きます。たぶん、2~3話くらい。

 では、ターンエンド~。



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第26話 彼のいない日 ーダリル&簪ー


 信頼されてるのか、されてないのか・・・・




 

ーsideダリルー

 

 1時限目が終わった休み時間。私はクラスメートから聞いた話に驚きの声を上げていた。

 

「はぁ!? 和也が懲罰房!? なんでそんな事になってんだよっ!」

 

「そ、そんなこと聞かれても私だって知らないわよ~。私だって一年が話してるの聞いただけなんだから」

 

 その話を小耳に挟んだのはほんの偶然だ。たまたま隣の席の奴が和也が懲罰房に入れらたって話をしてたのを、偶然にも聞いたからだ。

 

「話を聞いたって、なんでそんな事になってんだよ! 確かにアイツは授業はよくサボるし、食堂じゃ常に弁当食べてて食堂のメニュー頼まないし、隠れてタバコ吸ってるし、学園の敷地内で勝手に住居作ってるし、ブリュンヒルデはよくからかってるし、女尊男卑の先公には喧嘩腰に挑発するし・・・・」

 

「あぁ~あ・・・・ ダリル? そこだけ聞くと、和也君が懲罰房に入れられない理由が見当たらないんだけど・・・・?」

 

 ・・・・あれ? ホントだ。自分で言っててなんだが、逆になんで今まで懲罰房に入れられてなかったんだ?

 

「・・・・うっうんっ! 兎も角、そんな問題児でもいきなり懲罰房なんて普通はおかしいだろ! 今更だしっ!?」

 

「あっ、自分で今更って言っちゃうのね」

 

 いや、だって『遂に入れられたか!』って思っちゃったし。

 

 それでも昨日まで普通にしてた奴がいきなり懲罰房に入れられたなんて、簡単には納得出来ねぇよ。

 

「う~ん。私も詳しい話を聞いた訳じゃないんだけど・・・・ ダリルは昨日の件って聞いてる? ほら、一年のクラス対抗戦の話」

 

「あん? 昨日・・・・?」

 

 そう言えば、昨日の一年のクラス対抗戦がやってたアリーナで非常事態が起きたとかなんとかって話があったな・・・・

 

 その煽りを受けて三年のクラス対抗戦も中止になったし、当事者の一年達は箝口令だかで詳しい内容を公言出来なくなってたし・・・・ まさか、それが?

 

「・・・・ここだけの話なんだけど、その時に一年の方にテロかなんかの襲撃があったんだって。で、それを和也君が織斑先生の指示も受けないで勝手に撃退したのが問題になったらしくて・・・・」

 

 はっ? 襲撃を撃退して、それで懲罰房行き? んな、バカな話があんのかよ・・・・?

 

 確かにあん時は一年の居るアリーナから爆発音も聞こえたし、代表候補生である私達も詳しい説明もなく避難させられたけど・・・・ 寧ろ、なんで私達に出撃要請が来なかったんだよ!

 

「・・・マジ、ふざけてんのかよ・・・・? つか、その内容じゃ教員部隊は出撃してねぇのか?」

 

「うん。なんでも、一年のアリーナは隔壁まで降りて、一切の出入りが出来なかったみたいよ? 当然、ISの格納庫も行ける訳なかったって」

 

「・・・・それで結局、襲撃した奴を撃退した和也が懲罰房? マジ、頭悪いんじゃねぇか・・・・?」

 

「あっ。でも私だって詳しい話は知らないからね? これだって部活の後輩から掻い摘まんで聞いた話だし」

 

「あぁ~あ、うん。分かってる分かってる」

 

 けどホント、頭痛いぜ・・・・ なんでブリュンヒルデはそんな時に代表候補生を呼ばなかったんだよ? なんの為の専用機か忘れてんじゃねぇか?

 

 けど、そん時は私も面倒だったから状況の説明とかも求めなかったし・・・・ ああ、もうっ!

 

「こりゃあ、昼休みに凰の奴から話を聞き出すしかねぇか・・・・」

 

 兎も角、今欲しいのは正確な情報だ。となれば、実際にクラス対抗戦に参加してた奴に聞くのが一番だ・・・・

 

 箝口令? 知らねぇな。個人間秘匿通信(プライベートチャンネル)を使えばバレねぇよ。

 

 ・・・・こう言う時、個人回線のアドレスを交換してなかったのが痛いな。正直、必要になるとは思ってなかったし。

 

 まっ、昼休みになりゃあ分かんだろ?

 

 

ーsideダリル outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside簪ー

 

 和也が学園に来ていない。それを知ったのは昼休み、食堂で本音に会った時だった。

 

「あっきー、昨日のせいで懲罰房に入れられちゃったんだって~・・・・」

 

 昨日のせい。つまりそれは、アリーナを襲った敵に向かって行った事と言うのは直ぐに分かった。

 

 分かったけど、それがどうして懲罰房に入る事になるかが分からなかった・・・・

 

「・・・・本音、どうして和也が懲罰房に入らなきゃいけないの?」

 

「う~ん、分かんない。織斑先生も詳しい話は教えてくれなかったし。けど、あっきーも納得して入ったっては言ってたよ~」

 

 納得して? それは、和也が自分でこうなるって分かってたって事?

 

「なに、それ・・・・?」

 

「・・・・もしかして、お嬢さまなら詳しい話を知ってるかも知れないよ? 私、聞いてみよーか?」

 

 確かに、お姉ちゃんなら和也が懲罰房に入った詳しい理由を知ってるかも知れない。

 

 いや、もしかしたらお姉ちゃんが和也を懲罰房に・・・・? 可能性は0じゃないけど、それなら和也が納得して入るとは思わないし・・・・ でも。

 

「・・・・ううん。お姉ちゃんに聞くのは止めて。最悪、それで和也の立場が余計に悪くなっちゃうかも知れないし」

 

「うーん、分かった~」

 

 変に私が動いて和也の立場が悪くなったら悪いし。

 

 和也は普段から問題行動が多いから先生達から見た印象は悪い筈だし、変に普段の事を蒸し返すと結局は懲罰房に入れられちゃうかも知れないし・・・・ あれ? それなら別に気にしなくても良いのかな?

 

 ・・・・ううん、それは今は関係ない筈。たぶん。ちょっと自信なくなっちゃったけど。

 

「取り敢えずかんちゃん。あっきーの件はお嬢さまに直接は聞かないけど、少しくらいは調べておくよ~」

 

「・・・・うん。お願い」

 

 結果的にみんなを守ったのに、守った人だけが罰を受けるなんて納得がいかない。

 

 罰を受けるなら、私みたいに代表候補生でありながらいざと言う時に動く事すら出来なかった人間が受けるべきなのに・・・・

 

 いや。それも私の、勝手な思い込みなのかな? けど・・・・・・

 

「・・・・専用機、完成させなきゃ・・・・」

 

 あの時みたいに、怖がるだけで何も出来ないのはもう嫌だ・・・・

 

 もしも未完成の専用機が完成してたとしても、私は怖くて動けなかったかも知れない。でも、それでも何も出来なかった訳じゃなかった筈だ。

 

 またあんな事が起きた時に・・・・ 私は何も出来ず、ただ指を咥えて見てるだけなの?

 

「・・・それだけは、嫌だから・・・・」

 

 だから、専用機を完成させなきゃいけない。代表候補生としても、お姉ちゃんに私を認めて貰う為にも、ただ騒ぎを指を咥えて見てるだけなんて事をしない為にも・・・・

 

 私は、改めて専用機を完成させる事を自分の心に決意した・・・・

 

 

 

 

 

 そう言えば、さっきから別の騒がしい席から和也の名前が聞こえてた気もするけど・・・・ 気のせいかな?

 

 

ーside簪 outー

 

 

 





 アカン。書いてて簪編は蛇足だった感が酷い。別に盛り込めば良かったか・・・・

 そして仲の良いダリルから見ても問題児な和也。だって優等生な訳ないし、普段の行動を見れば懲罰房に入ってもおかしくない事してるんだもの。擁護してて自信は失うよね。

 では、ターンエンド~。



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第27話 再出発ーありがとうー


 気付いたら一週間も書いてなかった・・・・

※気付いたら投稿した内容の半分以上が消えていた問題発生。
 5/21中に書き直し&タイトル変更。




 

ーside千冬ー

 

 秋風の懲罰房行きが決まった日の放課後、私はその秋風が居る懲罰房へと足を運んでいる。

 

 理由としては担任として、秋風がきちんと反省しているかを確かめる為とか色々あるんだが・・・・ 今回はまた別件だ。

 

「・・・・良いか凰、あくまで面会は今回だけだ」

 

「・・・・はい」

 

 今回は鈴音がどうしても秋風と話したい事があると頼み込んで来て、私はその立ち会いと言う形になってしまった・・・・

 

 本来なら幾ら前日の事件の当事者であっても、懲罰房に入った者への面会など簡単には認めないんだが・・・・ あまりに真剣な面持ちで来おったからな。私の立ち会いの元と言う条件で面会を許可するに至った。

 

 ・・・・断じて、他にも秋風に面会させろと来た者共を黙らせる為ではない。アメリカとかギリシャとかイギリスの代表候補生が五月蝿かったのは確かだが・・・・

 

 そんな事を考えている内に、私達は秋風の居る懲罰房の前へと着いていた。

 

「・・・・秋風、聞こえるか?」

 

『・・・・あん? ちーちゃんか?』

 

 声を掛けて見れば秋風の返事は直ぐ返って来た。

 

 どうやら、寝てばかりと言うオチは無さそうだな。

 

「・・・・どうだ、少しは懲罰房に入れられて反省と言う言葉を理解したか?」

 

『・・・・いやいやいや。事件の最中に何も出来なかった癖に、全く反省の色も警戒心も見えない奴等よりかは反省してんだろ?』

 

「っ!? なんだと貴様ぁ!」

 

『ど~したよぉ? なんでちーちゃんがキレてんだ~? 俺は別に、教師陣とか言った覚えはねぇけどな~?』

 

 こい、つはぁ・・・・! 明らかに私達の事を指摘して来ているな・・・・!

 

 確かに結果だけ見れば教員部隊も管制室に居た私達も、あの事件では何も出来ていなかったかも知れないが・・・・ こいつに言われるのだけは、異様に腹が立つ!

 

「千冬さん。あの・・・・」

 

『・・・・はっ? 鈴か? えっ、なんでこんな所にいんの?』

 

 ぬっ? そうだ。今回は鈴音の立ち会いで来ていたのを忘れてしまっていた・・・・

 

「ん、うんっ! 秋風、面会だ。扉越しになるが、鳳がお前に話があるそうだ。無論、私の立ち会いの元と言う条件ではあるがな」

 

『あぁ~あ、そうかい。・・・・で、どうしたよ?』

 

「うん。ワタシの・・・・ 答えを聞いて欲しかったの」

 

 答え? 一体何の話をしている?

 

 これは少しばかり黙って聞いてみるとするか・・・・

 

 

ーside千冬 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside鈴ー

 

 クラス対抗戦。結局それは謎の襲撃を受けて有耶無耶になったけど、そこにワタシはひとつの目的を持って挑んでいた。

 

 一夏への想い。

 

 それに対するワタシなりの答えを得る為に臨んだ試合だった。

 

 だけど、その答えは・・・・

 

「ワタシね・・・・ もう、一夏のこと諦めた」

 

「っ!?」

 

『・・・・・・』

 

 元々一夏が鈍感なのは分かってた。その上でもう一度、少しはワタシの想いにひと欠片でも気付いてくれると信じてた・・・・ ううん。信じたかった。

 

 ワタシの想いは届かない。気付いてもくれない。それにあの時の、自分の状況すらも分かってなかった。

 

 そう思ったら、ワタシの気持ちはどんどん冷めていくばっかりで・・・・

 

「ワタシの初恋はもう終わり。和也には色々と手助けして貰ったのに・・・・ ごめんね、こんな終わり方で」

 

 ワタシはもう、一夏への恋心を抱いてはいられなかった。

 

 だから、今日まで手助けをしてくれた和也には本当に悪いと思ってる。

 

 どうしたら良いか分からなかったワタシの背中を押してくれた。

 

 クラス対抗戦に向けて、訓練にも付き合ってくれた。

 

 全ては、ワタシの気持ちに答えを出す為に・・・・

 

 だけどそれも、ワタシは裏切ってしまった。裏切ってしまったと、どこか感じてる。

 

『・・・・まっ、良いんじゃねぇか? 決めたのは鈴だし、元々鈴の問題だ。なら、外野の俺がとやかく言う権利はねぇよ』

 

 けれど、和也はそんな風には思ってはいなかったみたい。

 

 顔は懲罰房の扉で見る事は出来ない。だけど扉越しでも、その顔はどこか笑みを浮かべてる様な気がする・・・・

 

『で、ケリを付けたは良いが、織斑一夏とは今後どう付き合っていくんだ?』

 

「あ、うん。今後はただの昔馴染みとして付き合っていこうって思うの。なんだかんだ一夏とは長い付き合いだし、完全に絶交するのは勝手が過ぎるかなって」

 

 そう。一夏に恋心を抱いたのはワタシの勝手。勝手に恋して、期待して、恋心を無くして・・・・

 

 ならそんな理由で、失恋したからといきなり絶交までするのは自分勝手が過ぎると冷静に思うことは出来た。

 

 だから、友人。今後はひとりの友人として向き合っていきたいと思ってる。

 

『・・・・まぁ、そんなもんか。なんにせよ、鈴が決めた事だ。俺はとやかく言わんよ』

 

「うん・・・・ ありがと」

 

『礼を言われる覚えはねぇよ』

 

 ううん、そんな事はない。

 

 和也が背中を押してくれたから、ワタシはもう一度一夏と向き合う勇気が持てた。荒れていた中で、冷静に考える事が出来た。

 

 だから、ワタシの気持ちは変わらない。

 

 和也・・・・ ありがとう。

 

 

ーside鈴 outー

 

 

 




 と言う訳で、鈴の一夏への関係性は初恋相手から友人にまで降格。
 いや、別に嫌うまでの事はさせてないから友人くらいが丁度良いと思ったのよ。そこまで人間関係ドロドロには出来ないし。

 次回辺りで和也は出所まで飛ばすかな~?

 では、ターンエンド。

※エクストラターン

 一度編集して投稿した筈のものががっつり消えてて、書き直しました。

 地味に4000字くらいになってたのに・・・・ 返せ俺の45分。
 ( ノД`)…

 と言う訳で、第27話は書き直しを行いますタイトルも変更しました。変更前に読まれた方々は、忘れて下さい。

 では今度こそ、ターンエンド。



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第28話 登校再開 ー出所と嫌な気配ー


 少しテンポアップでお送りします。




 

ーside和也ー

 

 懲罰房なんて言う別荘に入ってから実に一週間・・・・

 

「一旦帰って風呂入ってたら遅れた。反省も後悔もない」

 

「なんでですかぁ~!?」

 

 早速俺は、登校の再開を遅刻からスタートした・・・・

 

 お陰で山田先生は涙目である。と言うか、微妙に泣いてる。

 

「もう、秋風君! せっかく懲罰房から出れたのに、授業に遅刻しちゃダメなんですよ!」

 

 いやいやいや。その懲罰房、洗面所はあったけどシャワーはなかったんだぞ?

 

 いくら着替えは拡張領域に入れてた分で賄ってたとは言え、風呂には一度入りに戻りたくなるだろ。

 

「流石に一週間も風呂に入ってない状態で登校すんのは問題でしょうや? そう言う意味じゃ、この遅刻は仕方がない事な訳ですよ」

 

「それ、はぁ・・・・ 確かに、お風呂に入れてなかったのは気になるかも知れませんけど、だからって授業に遅れるのは・・・・」

 

 ついでに言うなら、今の時間はちーちゃんが居ないのも確認済み。遅刻するのに抜かり無し。

 

「まぁそんな訳で、諦めてくれ山田先生」

 

「諦める要素は何処にもありませんよ~!?」

 

 はっはっはっ。俺が相手の時点でって話だよ。運がなかったな山田先生。

 

 

 

 

 

 

 

ーー休み時間

 

 

「あっきー、お務めご苦労さま~」

 

「あんがとさん」

 

 と言う感じに山田先生を言いくるめて授業を乗り切ると、早速休み時間にのほほんが俺のとこまで来た。

 

 いやホント、やる事のない一週間だっただけに変に疲れたわ・・・・

 

「時にのほほん、俺が居ない間に簪の方はどんな感じよ?」

 

「うん? 気になるの~?」

 

「専用機の開発状況、がな」

 

 だって一週間だろ? そんくらい有れば何かしら開発に進展も有っただろうし、もしかしたら完成してるかも知れない。

 

 それなら、聞くだろ?

 

「う~ん・・・・ 取り敢えず、あっきーはお説教かな~?」

 

「なんで!?」

 

 いや、意味が分からん!?

 

 なんで投獄生活を切り抜けた先に説教が待ちかまえてんだよ! しかも、どっちから!?

 

「うん、取り敢えず放課後にまた整備室に来てくれたら分かるよ~」

 

 いや、整備室には行く気でいたが・・・・ 何? また面倒な事になってんの?

 

「・・・・はぁ~。分かった分かった、んじゃ整備室に行きゃ良いんだな?」

 

「そうなのだ~。・・・・かんちゃんを、助けてあげて」

 

 ・・・・助けて、ね。

 

 俺、そこまで人助けする様な奴じゃないんだけど? なんで頼られてんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー昼休み

 

「和也! お前なぁー!」

 

「ダリルん、おひさ~」

 

 昼休み、食堂に来たらいきなりダリルに胸ぐらを掴まれた。なんか怒ってるし、胸ぐら掴まれてるから距離が近い。

 

 ふむ。ダリルの巨乳が至近距離に・・・・ 実にハラショーだ。

 

「なんで懲罰房なんかに入ってんだよ! 箝口令のせいで情報がなんも入んねぇし、鈴も詳しくは喋んねぇし!」

 

 ガックガック。怒れるダリルが俺を揺さぶる度、程よく揺れるダリルの巨乳・・・・ 今日はサービスデーか? 俺は満足だ。

 

「まぁまぁまぁ、ダリルんも落ち着けって。先ずは飯でも食いながら話そうじゃねぇか?」

 

「そうよダリル。心配してたのは分かるけど、先ずは落ち着きなさい」

 

 あっ、サラ先輩。ご機嫌麗しゅう。

 

 隣にいるフォルテはご機嫌麗し・・・・くはないな。俺を見てなんか怒ってる。

 

 ・・・・ダリルの胸見てんのバレたか?

 

「チッ! 分かったよ。それより、どうして懲罰房なんかに入ったのかちゃんと説明しろよ」

 

「別に良いぞ。俺は箝口令とか聞いてねぇから」

 

「いや、あんたも箝口令くらい守りなさいよ」

 

 おっと鈴、何時の間に俺の後ろに?

 

「あんたがダリルの胸を凝視してる間によ。・・・・バレてないとでも思ってんの?」

 

 それでも小声で教えてくれるとは、鈴の優しさが身に染みるね~。鈴からの冷ややかな視線も染みるが。

 

 まぁ自重はしねぇけど。

 

「まぁのんびり飯でも食いながら話そうや? 俺が居ない間、なんか面白いこととかあったか?」

 

「「「・・・・寧ろ、学園内はすこぶる平和だった?」」」

 

 ・・・・・・それ、俺が居ない間の話にカウントする必要性あるか?

 

 

 

 

 

 

ーー放課後

 

「はぁ~い、和也君?」

 

「・・・・なんか出やがった」

 

 簪の様子を見に整備室に向かってる途中、見覚えのある奴に待ち伏せを受けた。

 

 そう言えば、学園長のジイサンと話してる時に居たけど・・・・

 

「・・・・そう言やお前、誰だ?」

 

「ちょ!? 一週間振りにあったお姉さんに酷くない!?」

 

 こいつの自己紹介、全くやらねぇで話してたじゃねぇか。

 

 つまり、初対面も同義!

 

「知らん。名前も知らねぇ小娘にお姉さん呼ばわりなんぞさせるか」

 

「この前ちゃんと自己紹介したじゃ・・・・ あぁっ! してないっ! 何気に私、自己紹介してないじゃない!」

 

 気付いたか小娘め、なら早々に立ち去れ。俺は忙しいんだよ。そんな意味を込めた視線を向けてみるも・・・・ あまり効果は無さそうだ。

 

 しっかし、こいつの青髪と赤い眼・・・・ な~んか見覚えがあるような・・・・?

 

「あぁ。もう! 私は二年生の『更識 楯無(さらしき たてなし)』。この学園の生徒会長よ」

 

 ・・・・あっ、そう言うことな。理解した。

 

「・・・・一年の秋風和也、歳は17だ。で、その生徒会長さんが何の用だよ?」

 

「もう、つれないわね。もう少しお姉さんと楽しくお話しましょうよ?」

 

「だから、俺のが歳上だって言ってんだろ」

 

 なんでコイツ、頑なにお姉さんポジションを崩そうとしねぇの?

 

 誰かサラ先輩連れて来い! 真のお姉さまポジションと言う存在を見せつけてやれっ!と、声を挙げて言いたい。

 

 ・・・・まぁ、サラ先輩も俺から見たら年下に該当すんだけど。

 

「・・・・はぁ~。もう良いわよ、なんか掴めない子よね・・・・ 先ずは、懲罰房生活お疲れ様。どうだったかしら? 新鮮な学園生活は?」

 

「シャワーくらいは付けといて貰いたかったな。あれ、夏場だったら汗と臭いでヤバくなってたぞ」

 

 後、最低限タオルや着替えのアメニティが必要だな。洗濯機があっても良い。

 

「それは、既に懲罰にならない気もするけど・・・・」

 

「俺だから良かったものの、普通に女だったら嫌がんじゃねぇのか? 着替えも無ければ汗も流せない。まさに懲罰房だな」

 

 ・・・・あれ? 言ってて間違ってない気がしてきた。そりゃ入りたくなくなるわ。

 

「そんな事より、貴方にお願いがあって来たのよ。少し話を聞いてくれないかしら?」

 

「聞く義理がねぇ。他をあたんな」

 

「あっ、ちょ!? 待ってよぉ!」

 

 知るか。そもそも知りもしねぇ奴の頼みをポンポン聞いてやる程、俺は優しくねぇよ。

 

 後ろから腕を掴もうとする生徒会長を振りほどき、足を整備室へと進める。たぶん、簪は今日も中に居んだろう。

 

 ・・・・ホント、懲罰期間が終わったばっかだって言うのに。

 

「スッゲェ、嫌な気配がする・・・・」

 

「ちょっと待ってよぉ~!」

 

 なんか、暫く面倒事から逃げ出せない気配すんだよな~・・・・ しかも、逃げれない様な強制感を凄く感じるくらい。

 

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 いい加減に転校生~タッグマッチ戦に移る下準備したいから、懲罰房から出所後の一日を早足でお送りしました。

 と言うか、作品内の日にち感覚が分からなくなって来た・・・・これも全て、和也が懲罰房なんかに入ったのが悪いんだ。

 さて、簪の専用機に話しを移すか。

 では、ターンエンド。




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第29話 少女説得 ー似合わぬ役回りー


 なんか日にち空く度に書き方を忘れる・・・・


 

ーside和也ー

 

 邪魔をしていた生徒会長も、俺が整備室に着くと何故か姿を消していた。

 

 ・・・・いや、姿を隠しただけでまだ近くに居るな。何処に居るかまでは分かんないけど。

 

 まぁ別にそれは良い。そもそもお願いだかなんかも聞く気はない。

 

 無視して問題は無い。

 

 で、そんな俺の目の前では・・・・

 

ーーカタカタカタカタ・・・・

 

「やっぱり姿勢制御に掛かる負荷が規定値より下がらない・・・・ ならPICへの比重を増やす? いや、そうすると機動に弊害が出るから、春雷の出力を落として姿勢制御の負荷を下げた方が・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 初めて会った時よりも深く、簪がブツブツと何かを呟きながらまるで取り憑かれた様にディスプレイに釘付けになっていた・・・・

 

 うん、こっちは問題有りだ。無視しちゃいかん。

 

「あぁ~あ・・・・ お~い、簪? 景気はどうよ~?」

 

「ブツブツブツ・・・・」

 

「簪さ~ん?」

 

「ブツブツブツ・・・・」

 

 ・・・・返事がない。ただの(生きる)屍のようだ。

 

 ふむ・・・・・・

 

「・・・・いい加減、気付けやコラァ」

 

ーースパーンッ!

 

 面倒くせぇからぶっ叩く!

 

 ハリセンは拡張領域に常備済みだ!

 

「いみゃあ!?」

 

 ハリセンでぶっ叩けば漸く意識が反れたのか、簪はディスプレイから視線を外しその場に蹲った。

 

 ふっ。ここ数年で上げたハリセンの熟練度は伊達じゃない。どっかのばか兎(大天災)を相手にするには、ハリセンスキルは必須だからな。

 

「うう、一体何が・・・・ えっ? 和、也・・・・?」

 

「おう、久しぶり」

 

 って、簪よぉ? なんで目の下にくっきりと隈なんかこさえてんだよ? しかも髪の艶も明らかに悪くなってる気もするし。

 

 これ、あれか・・・・?

 

「簪、お前・・・・ どんだけちゃんと寝てねぇ?」

 

「・・・・・・」

 

 そう言ってやれば簪は俺から視線を反らし、俯く様に顔を床へと向けた。

 

 この反応を見るに殆ど睡眠時間削ってんじゃねぇか? となると最悪・・・・ 俺が懲罰房に入ってた間か? いや、まさかな。

 

「取り敢えず顔見せと整備も兼ねて手伝いに来たんだが、こりゃ駄目だな。簪、今日はもう止めろ。とっとと帰って寝ろ」

 

「っ! だけど、この子の完成もまだ・・・・」

 

「んな状態で何が出来んだ。専用機が出来てもテメェがぶっ壊れちまったら意味ねぇだろが」

 

「けど! それでも、私は・・・・!」

 

 ・・・・なんでコイツは、頑なに専用機の開発に急かされてんだ? 少なくともクラス対抗戦までは、まだ心にも余裕があった。

 

 寧ろ前までのペースなら早くて1ヶ月、掛かっても3ヶ月も有れば完成させれるくらいに作業も軌道に乗ってた筈なんだ。

 

 それが俺が懲罰房に入ってた一週間で、何があった?

 

「・・・・少なくとも、今のお前じゃなんの進展もねぇよ。そのプログラム、どんだけ進展してねぇんだ?」

 

「・・・・・・」

 

 正解は、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。いや、正確には微々たる進展はしてたんだろうな。けど、さっき聞こえた呟きじゃあその進展も無くなるくらいに後進してそうだ。

 

 ・・・・はぁ~。ホント、俺の領分じゃねぇってのにな・・・・

 

「おい、のほほん。その辺にいんだろ? 出て来い」

 

「・・・・な~に~」

 

 やっぱり居たよコイツ。そりゃあ放課後に整備室に行けとか言ってたんだ、居るとは思ってたが隠れてやがったな。

 

「なんか飲物と茶菓子、大至急な」

 

「・・・・分かった~」

 

 ・・・・あっ、消えた。

 

 何あいつ。音もなく消えた? 忍術でも会得してるか?

 

 で、その場に残ったのは俺と、未だに俯いたままの簪の二人・・・・ ああ、いや。まだどっかに生徒会長が隠れてやがんな。僅かに気配は感じる。

 

「・・・・チッ! なぁ簪。気遣いとかそう言うのは性に合わねぇから、はっきり言うぞ。なんでそんな()()()んだ。俺が居ねぇ間に、何があった?」

 

「・・・・・・」

 

 黙り、か・・・・

 

 だが、そりゃあそうだ。元々専用機の問題は簪のもんであり、他人でしかない俺が必要以上に首を突っ込む様な問題じゃねぇ。

 

 だからこそ、今の俺がしてるのは余計なお節介でしかない。それでも、少なからず首は突っ込ませて貰った仲だ。お節介だが、愚行を止めるくらいはしてやるさ。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・簪、話せ。お前はなんやかんや内に溜め込む性分なんだろうが、どう見てもその許容量を見誤ってる。その結果が、今の状態だ」

 

「・・・・・・」

 

「一応言っとくが、俺は誰も彼も無条件で助ける様な善人じゃねぇ。関係ない有象無象は余裕で切り捨てるし、基本的に身内贔屓のクソ野郎だ」

 

 まぁそんな贔屓する様な身内が()()()のもここ()()の話だが。

 

 それでも簪にはひとつだけ、きっちりと理解させなきゃいけない事がある。

 

「その上で言ってやる。簪、俺はお前が望むなら手ぇくらい幾らでも貸してやる。それくらいには心は許してるつもりだ」

 

 元々専用機開発をぶん投げた倉持技研とかに対して怒りを覚えてるってのも嘘じゃねぇが、それでも手ぇくらいは貸してやりたいと思ってるのも事実だ。

 

 だから俺は、手を伸ばす。

 

「経験則だからこそ言ってやる。独りでなんでも出来る奴はいねぇ。例え出来たとしても、本当の意味でなんでも出来てる訳じゃねぇ。そこには必ずしも誰かの、何かの支えがある筈だ」

 

 ホント、鈴の時にも思ったがこう言う立ち回りは俺の性分じゃない。御高説垂れるなんざ、他の善人にでもやらせとけば良いんだ。

 

 それでも、御高説垂れる善人がいないって言うなら・・・・ 俺がやってやるしかねぇだろ? 少なくとも、今、この時くらいは。

 

「俺が助けてやるとは言わねぇ。けどな、手は貸してやる。だからお前は、ただそれを利用しろ。使えるもんは全部使って、その上で目的を果たして見せろ」

 

 自分で手を貸すって言ってんだ。それが利用された結果になろうが、それは俺の自業自得だ。恨むなんてこたぁねぇ。

 

 だから簪・・・・・・

 

「手ぇくらい、貸させろや?」

 

「・・・・・・・・」

 

 言いたいこと言い切って、俺は簪の前に手を伸ばす。

 

 この手を振り払うも掴むも簪の自由だ。振り払われたら俺は素直に、この件から手を引く。それが簪の意思なら、これ以上無理に首を突っ込むべき事じゃねぇしな。

 

 だから・・・・・・

 

「・・・・っ、和、也ぁ・・・・ わた、わたしぃ・・・・・・」

 

「・・・・おう」

 

「わたし、もう、どうしたら良いのか分かんないよぉ・・・・」

 

 手を掴むってぇなら、俺は絶対に掴んでやるよ・・・・

 

 俯いたまま肩を震わせ涙を溢し、俺の手にすがり付く様にゆっくりと伸ばされる簪の両手。

 

 それは俺の方に伸びて来ているが、少しでも風が吹けば直ぐにでもまた引っ込んじまうかも知れないほど弱々しい。

 

 なら、俺に出来る事は・・・・

 

「・・・・ゆっくりで良い。今は、お前の中に溜まったもん全部吐き出しちまえ」

 

「っ・・・・ う、あああぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

 伸ばされた手を、掴んでやる事だけだ。

 

 両手を掴んでやれば、簪は堰を切った様に声を上げて泣き出した。それは自分でも言った通り、色々と溜め込んでたもんが吐き出されてんだろう。俺が掴んだ簪の手も自然と力が込められてるのが分かる。

 

 兎に角今の簪には、溜め込んだもん全部を吐き出しちまう事が大切だ。だから今は役違いではあるが、俺がそれを受け止める役を担うしかねぇ訳で・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・いや、なんで?」

 

 ・・・・なんで俺、こんな似合わねえ真似してんだろう?

 

 

 のほほーんっ!お茶まだぁ~!?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 まさか簪の専用機云々に手を貸すだけで三話も使う事になるとは思ってなかった・・・・

 なんかこっ恥ずかしい事を言ってる和也だけど、これが隠れた楯無やら本音に聞かれてると言う羞恥プレイと気付かせるか否か・・・・

 と言うか、早く作れや専用機ぃ!


 では、ターンエンド。



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第30話 原因の一端 ー結局は自業自得ー


 話が進まないな~。


 

ーside和也ー

 

 漸く泣き止んだ簪から俺は、どうしてこうも見てられないくらいにストレスを溜め込んだのかの経緯を聞くことになった。

 

 事の発端は、クラス対抗戦の折りにゴーレム擬きが襲撃して来た事。

 

 あの時俺はゴーレム擬きの危険性を理解していた故に簪とのほほんを残して迎撃に行った。それはあの非常時なら専用機を有する者と言う観点から簪も一応の納得はしたらしい。

 

 だが、代表候補生でありながら未だ完成しない専用機。完成していないと言う理由で非常時に何の力にもなれなかったと言う事実が簪の中で棘の様に残った。

 

 なら同じ様な事態に陥った時、少しでも自分も代表候補生として何かの力になろうと専用機の完成に意気込んだは良いが・・・・

 

「意気込んだまでは良いが、そこで上手く行かない苛々が段々と空回りして、今に至ると・・・・」

 

「うん・・・・」

 

 ・・・・これ、アレじゃね?

 

 原因の一端、俺にあんじゃねぇ!?

 

 いや、確かにあん時はちーちゃんの指示やら何やら無視して勝手に突っ込んだ訳だけど、それが発端で専用機の開発に余計な意気込み負わせたって事に見えんだけど・・・・

 

「取り敢えず、分かった。いや、そもそもゴーレム擬きが襲撃して来なきゃ済んでた話なんだが・・・・ 取り敢えず分かった」

 

 ホント、ゴーレム擬きが襲撃かまして来なかったら簪だって余計な負担を背負わずに専用機を完成まで漕ぎ着けてた筈だったんだが・・・・ それが代表候補生って肩書きのせいで、無意識ながら余計に急かされた感じになった訳だ。

 

 で、無意識に急かされながら完成に至らないストレスが積み重なった結果、今回みたいに無理をしたと。

 

 ・・・・いやホント、俺のせいじゃない筈なのに微妙な罪悪感が酷い。

 

「取り敢えず、だ。簪、先ず今日は帰って寝ろ。んで頭切り替えてから、開発は改めて再開だ」

 

「で、でも! あの子だってまだ完成してないし、武装だって全然出来てないのに・・・・」

 

「だから休めってんだよ。んな一度にアレもコレもなんざ捌けんのは、天才って名の変態だけだ」

 

 そもそも簪は考え過ぎなんだよ。やるならきっちりと段取り着けて、その中から余力見つけねぇと仕事に殺されんぞ?

 

 まぁ、そんだけ心に余裕がなかったって事なんだろうが・・・・

 

「良いから寝ろ。明日からは俺も全面的に手を貸すし、先ずはテメェの頭と身体を休ませろ」

 

「だ、だけど・・・・」

 

 まだ言う事を聞きませんか、この小娘は?

 

 流石にこうも反抗するなら、実力を行使してでも寝かせんぞ?

 

「あ、明日から本格的にGWだし、出来れば学年別トーナメントまでには完成させたいから・・・・」

 

 ・・・・へっ? ゴールデン、ウィーク?

 

 ・・・・・・・・・・

 

「簪」

 

「な、なに?」

 

「・・・・ゴールデンウィークって、なんだ?」

 

「・・・・へっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。4月下旬から5月頭にある連休を、世間一般ではGWなんて呼ぶのか・・・・ 気にした事もなかったわ」

 

 まさか、連休にそんな名称が在るとは・・・・ 今まで世間的な連休とかそう言うのに触れた覚えがなかったから、全く知らんかった。

 

 その事を話したら簪も眼鏡をズリ落としたし、よっぽど変な事を聞いたんだろうな俺は。

 

「ま、まさかGWを知らないって言われるとは思わなかった・・・・」

 

「悪いな。最近まで世間とは離れた生活してたから、そう言う行事? 的なもんはあんま知らねぇんだよ」

 

 基本、買い出しや荒事以外で島からは出なかったからな。四季と月日さえ判れば問題ないって思ってたし。

 

 ・・・・あれ? ならなんで今日は休みじゃねぇんだ? もう5月入んぞ?

 

「IS学園は4月いっぱいまで授業が続くから、本格的なGWは5月に入ってからになるから・・・・」

 

 あっ、そう言う事・・・・ つまり本来なら周りが休みの中で、俺は懲罰房から出所してた筈なのな。

 

「まぁ良いさ。明日から休みってぇなら朝から時間があるってこった。なら尚更、簪は明日からに向けて休めよ」

 

「で、でも和也は? せっかくの連休なんだし、実家に帰ったりしないの?」

 

 帰れるなら帰るが、その代わり余裕で1ヶ月は行方を眩ますぞ?

 

 まぁ流石にそろそろ連絡のひとつも入れないと後が恐いからな・・・・ 後で電話くらいするか。

 

「取り敢えず帰る予定はねぇから気にすんな。だから分かったら帰って寝ろ」

 

 ホント、何度目だよ『寝ろ』って言ったの? なんで寝かせるのにこんな疲れなきゃいけないんだか・・・・

 

「あっきー、かんちゃ~ん。飲物買って来たよ~」

 

 っと、漸くのほほんがお帰りか・・・・ つか、何処まで買い出しに行ってたんだよ?

 

「丁度良いわ。のほほん、お前直ぐに簪連れて帰れ。んで、ベットに沈めろ。手段は問わん」

 

「ちょ! 和也!?」

 

「おお~? あっきー過激~。我が身、尽くす~?」

 

 刺激、俺流! じゃねぇよ!

 

 取り敢えず俺は女子寮に入らねぇから、こう言う時はのほほんに投げる。

 

 ついでに明日からのほほんにも手伝わせるから、予定だけ簡単に言っとくか。

 

「のほほん。明日、朝9時に此処。簡単な昼飯は用意しといてやる。それまで簪は沈めとけ」

 

「おお~! バナナは~?」

 

「切り落とした後ワッフルに挟むから、オヤツです」

 

「いぇ~い♪」

 

 はっ! 気付けば明日のオヤツを確約してしまった・・・・ まぁ、ワッフルくらいなら直ぐに出来るから良いか?

 

「それじゃあかんちゃん、早速部屋に戻るよ~」

 

「ま、待って! まだ片付けもしてな・・・・」

 

「あぁ~あ、そんくらいなら俺がやっとくから。いい加減さっさと帰れ」

 

「そ~言うこと~。じゃあね、あっきー♪」

 

「ほ、本音~!?」

 

 はい、バイバイっと。

 

 のほほんに引きずられて行く簪の姿を見ながら、思わず合掌した俺は悪くない筈。

 

 だってのほほん、その雰囲気に似合わず力強ぇんだもん。アレは簡単には振りほどけねぇわ。

 

「・・・・さて、と。取り敢えず片付けてから、ウチの奴等に連絡入れっか?」

 

 なんだかんだで帰れる機会を捨てた訳だし、言い訳のひとつでも考えとかねぇとな?

 

 ホント、ウチの()()()の怒る姿が目に浮かぶわ~・・・・

 

 兎に角、せっかくの連休、有効利用させて貰おうかね?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 ああ、先に言っておこう。

 GW部分は、速攻で飛ばす!

 もうさっさと転校生編に入りたいんや・・・・
 ( ノД`)…


 では、ターンエンド。



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第31話 駆け足連休 ー面倒事は忍び足ー


 気付いたらお気に入り登録数が900を突破。

 ハラショーだ。感謝で胸がいっはいだな。
 ( o≧ω≦)o


※5/28 誤字脱字修正。




 

ーside和也ー

 

 全面的に簪の専用機完成を手伝うと宣言してから、GWとか言う微妙な休みは駆け足で過ぎて行った。

 

 と言うかだ・・・・

 

「本音、そっちのパーツはもう使わないから片付けて。それが終わったら左腕の伝達率が微妙に遅れてるから見てみて」

 

「ほいほ~い。あ、()()()()()そっちのコードは使い終わったよ~」

 

「ええ、分かったわ。薫子ちゃん、倉庫から訓練機の予備装甲を幾つか持って来て頂戴。足回りを中心に」

 

「ほいほい。何人か一緒に付いて来て~。打鉄の予備装甲取りに行くよ~」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 ・・・・なんか、気付いたら人手が増えてた。

 

 最初は3人で完成まで作業すんのかと思ってたら翌日には1人増え、その翌日には5人増え、3日目には俺を含め総勢12人にまで人が増えてるって不思議な事になってた。

 

 なんでも俺の説教を受けた後に簪も色々と考えたらしく、俺が知らぬ内に手を貸してくれと整備課の奴等に協力を頼んだそうだ。自らの頭を下げてまで。

 

 そこで最初に参入したのが三年の『布仏 虚(のほとけ うつほ) 』さん。整備科の首席にしてなんと、のほほんの姉だとか。

 

「秋風君、武装の進捗具合はどうですか?」

 

「耐久値、電気伝導率、エネルギー効率、連射性、威力、まとめて問題ねぇよ。最大出力なら連射しながらISの装甲を抜ける威力と貫通性もきっちり完・・・・」

 

「その威力と貫通性は捨てて下さい! 問題しかありません!」

 

「破壊力は連射型の嗜み!」

 

「嗜みの範疇を越えてますっ!」

 

 と、実に良いリアクションをくださるお姉さまだった。ああ、件の連射型荷電粒子砲の威力は下げたよ。誠に遺憾だったが。

 

 そして整備科の首席でもある虚先輩の働き掛けもあり、連休で帰ってなかった他の奴等も次々に協力してくれる様になった訳なんだが・・・・

 

 これ、俺が協力する必要あったのか?

 

 結局は自分から周りの力を借りる選択を決めた簪が頭を下げてまで頼んだのが切っ掛けで人手が集まって、僅か三日で9人も集まったんだぜ?

 

 ・・・・絶対、俺がどうこうしなくても専用機完成させること出来てたろ?

 

 まぁ、そんな訳で簪の専用機開発は順調だ。素直に俺が得意分野(武装開発)に専念出来るくらいに。

 

 で、そんな学生主体の開発体制も出来上がって連休も終わろうとしてる中・・・・

 

 

 

「・・・・ああ。いや、だから悪かったって」

 

[ーーっ! ーーー!]

 

「分かった分かった、次の長期休暇にはちゃんと帰るから。それで今回は機嫌治してくれよ? なっ?」

 

 俺は連休に実家へ帰らなかった件を電話で弁明していた。

 

 いや、そもそもIS学園に来てから連絡すんのをすっかりと忘れてたからな。それも含めて、電話先の()()様は大変ご立腹だ。

 

 お陰で義妹様が怒鳴ってる間は携帯を耳から遠ざけているのに、はっきりと声が聞こえてくる始末。正直、うるさい。

 

「ああ、ああ、はいはいはい。分かりましたよっと・・・・ で、いい加減代わって貰えね?」

 

[ー! ーーー・・・・・・]

 

 まだまだ言い足りないのは分かるが、今回は説教を受ける為に電話した訳じゃない。

 

 それは義妹様も分かってはくれたみたいで、最後にブツブツと小言を漏らしていたが・・・・

 

[・・・・あっ、かずくん? やっほ~♪ かずくんの大好きな()()()だよ~♪]

 

 漸く、電話の本題に入れそうだ・・・・

 

「おう、久しぶり。元気にしてんな?」

 

[もっちのロンだよ! 今は出掛けてるけど、オーちゃんにスーちゃんも元気だよ~♪]

 

「そうかい、そいつは良かった」

 

 電話越しだが、どうやら()()()様もお元気な様だ。寧ろ元気じゃない姿があまり想像つかないが。

 

 と、話が反れそうだな。

 

「・・・・で? なんだって急に連絡寄越せって? しかもわざわざ『睦月』にメールなんざ寄越して」

 

 そう。今回の電話は束からメールが来たのが切っ掛けだ。送られて来たメールには短く『大事な話在り。電話寄越してちょ♪』と添えられていた。

 

 それと全く連絡を取ってなかったってぇのもあって今回電話した訳だが・・・・ まさか30分も説教されるとは思ってなかった。

 

[うん。まぁ直ぐに分かるとは思うけど、近々そっちに転入生が行くよ。それも二人]

 

「転入生? 5月に入ったって時期にか?」

 

 それも二人。そいつぁまた、鈴の時とは違って随分とキナ臭い気配がすんな・・・・

 

[まぁ向こうはかずくんの事は知らずに来るみたいだけどね? まだかずくんの情報は世界には広まっていないし]

 

 そうなのか? 鈴やダリルとかサラ先輩とか、各国に情報が伝わりそうな相手とは付き合いがあると思ってたんだが。

 

 まっ、無駄に騒がれるよりは良いか。

 

[でねでね、話を戻すんだけど・・・・ その転入生、どっちもバックはクロだよ?]

 

 ・・・・あぁ、そう言う話か。そりゃあ確かに、大事な話だな。

 

[一応二人の情報は『睦月』に送っておくけど、どうするかはかずくんに任せるよ? その転入生二人と言い、そのバックの奴等に対する始末はお任せするよ~]

 

 そうだな。恐らくその転入生だかが来てから起きる問題に巻き込まれるのはこっちだ。ならどう対処してくかは、現場に近い俺が判断してった方が早い。

 

 全く、話の分かる家族で有り難いね。

 

「分かった。こっちはこっちで対処してくとすんわ。情報あんがとな?」

 

[良いってことよー♪ なんたって、束さんとかずくんの仲だからね! あっ、なんだったらお礼に愛を囁いてくれても良いんだよ~?]

 

 礼を言った矢先に調子に乗んなよ。

 

 その余りに何時も通りなやり取りに思わず苦笑いが浮かぶが、このやり取り自体は嫌いじゃない。

 

「はいはい、俺も大好きだよ。お前も、みんなもな」

 

[おっふぉぉぉぉおっ! かずくんのデレキタコレ! これで勝つる!]

 

 いや、何に?

 

 自分の中の煩悩と欲望? だいたい常勝無敗じゃねぇか。

 

「取り敢えず、その転入生とやらには警戒はしとく。なんか有ったらまた連絡すんわ」

 

[オッケーオッケー♪ あっ、でも今度は昼間に連絡してよね? ()()()もかずくんに会えなくて寂しがってるんだから]

 

「分かってるよ。んじゃ、おやすみ」

 

ーーピッ

 

 ・・・・しっかし、転入生ねぇ~?

 

「なんで月一で、なんらかの厄介事が舞い込んで来るかね~?」

 

 つい口から漏れた本音に、思わず溜め息が零れる。

 

 しかもタイミング的には学年別トーナメントも間近な時期。当然、そんな時期に転入生なんかが来て平和に済むとは思えない訳で・・・・

 

「・・・・はぁー。めんどくせぇ事になんなきゃ良いけど」

 

 もう今から頭が痛くなるわ・・・・

 

 取り敢えず今は、束から送られて来る転入生の情報でも目を通しておきますかね?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 




 さて、これで次話から転入生編に入れる。ついでに、もう二つの問題も回収出来る。長かった~。
 (  ̄Д)=3

 ああ、簪の専用機はまだ完成してないよ? 人手が増えただけです。

 では、ターンエンド。



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第32話 転入生 ー悪ノリにノリノリー

※7/13 誤字脱字修正。




 

ーside和也ー

 

 束からいずれ来る転入生に警戒しろと言われながらも、駆け足気味に過ぎ去った連休。それも終わり、今日からまた授業が始まってしまう。

 

 そして俺は朝一から学園の長である轡木のじいさんに呼び出され学園長室に行ったが為に、既に朝から遅刻が確定している訳なんだが・・・・

 

「・・・・なんだ、お前等?」

 

「っ!? えっ、お、男!?」

 

「っ、何者だ!」

 

 なんか教室の前に、見馴れねぇ奴等が二人もいた・・・・

 

 いや、正確には見覚えがある。それもデータ上でだが、確かに最近見た奴等だ。

 

 金髪で長い髪を後ろで縛ってる、パッと見華奢にも見える男子の制服を着てるのが確か、書類上は『シャルル・デュノア』だったか?

 

 そんで隣のちっこい銀髪に眼帯を付けてるのが、『ラウラ・ボーデ・・・・ あれ? なんだっけ? 忘れた。

 

 兎も角、俺は見馴れはしなくとも見覚えがある奴等を視界に捉え、無意識の内に溜め息を溢す。

 

 ああ、そうか・・・・ 近々所か、今日に転入生が来んのかよ・・・・

 

「何故こんな所に一般人が居る? 此処は貴様の様な男が簡単に居られる様な場所ではないぞ・・・・!」

 

 うん? ああ、なんか物思いに耽ってたらラウラなんとかにスゲェ警戒されてた。ついでに、デュノアからも警戒の眼差しを頂戴してる。

 

 まっ、確かに俺の情報が出回ってないなら、この学園に居る男は織斑一夏だけの筈だからな。警戒されんのは当然か。

 

 仕方ねぇ。少しは説明してやっか・・・・ 悪戯込みで。

 

「なに勘違いしてんのか知らねぇが、俺は此処の生徒だぞ? 秋風 和也、其処の一年一組所属だ」

 

「なっ!? そんなバカな!」

 

「えっ? 僕達と、同じクラス・・・・?」

 

 本当に驚いてる。つー事は、俺の情報はマジで出回ってないんだな・・・・ それで良いのか、各国の情報網。

 

「で、お前等は? まさか俺に名乗らせるだけ名乗らせて、自分は名乗らねぇとかねぇよな? プリンセス&アドヴァンスド(遺伝子強化試験体)?」

 

「「っ!?」」

 

 おっ? 今度は動揺の色ありっと・・・・ しかも漏れ無く警戒レベルが引き上げられるオマケ付き。

 

 ・・・・こいつら、隠し事とか下手そうだな~。

 

「貴様、どこでその名を・・・・!」

 

『お前達、入って来い』

 

 内心でニヤニヤと二人が動揺してる様を見てたら、不意に教室からお呼びが掛かる。

 

 今のはちーちゃんか?

 

「・・・・ほれ、どうやらお呼びが掛かった様だぞ。行かねぇのか?」

 

「・・・・ちっ!」

 

「・・・・・・」

 

 入室を促してみればラウラなんとか・・・・もう面倒だからラウラで良いや。ラウラとデュノアは何か言いたそうにしながらも、渋々と教室の扉を開ける。

 

 今のやり取りだけで、二人には十分に警戒される事だろう・・・・ まぁそれでも構わねぇ。

 

 大事なのはその上で、奴等がどんな行動を取って来るかだけだからな・・・・

 

 と、俺も教室入るか。廊下に残ってても仕方ねぇし。

 

 

ーside和也 outー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside千冬ー

 

 (秋風)が居ない。

 

 それが連休明けに教室に入った私の、最初の反応だった。

 

 今日から私のクラスに二人も転入生が入る事になり、面倒な事になると頭を痛めていた中での(秋風)の欠席だ。それだけでも余計に頭が痛くなる。

 

 それに転入生の一人は過去に私がドイツで教官をしていた時の教え子。しかも私を崇拝してる節も見られる奴と言う事もあって、何か問題を起こさないかと気苦労が絶えることはない・・・・

 

 それに、フランスからもう一人の方も・・・・ いや、これに関してはまだ静観しておくべきか。学園長からも『少し泳がせておいて構いません。手は打ってありますから』と、事前に話は聞いているからな。

 

「お前達、入って来い」

 

 兎も角、今年の私の運勢は最低なんだろう。そんな事を思いながら、廊下で待機していた転入生二人を呼ぶ。

 

 呼べば転入生である二人は扉を開け教室へと入って来・・・・ って、はあ?

 

「うーッス」

 

 ・・・・居ないと思えば、そこに居たのかぁぁぁぁあっ!

 

 まさかお前、転入生二人にちょっかい出してないよな? いきなり余計な問題起こしてないよな!?

 

 しかもなんでお前、しれっと転入生達と一緒に並んでる!?

 

「えっと・・・・ シャルル・デュノアです、フランスから来ました。こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いたんですが・・・・ み、みなさんよろしくお願いします」

 

 ほら見ろ! なんか既に言い淀んでるじゃないか! お前、絶対に何かしたろ!?

 

 その事に私がプルプルと怒りを抑えていれば、今度はクラスの女子達がプルプルと震え出し・・・・ むっ? イカンな。

 

「「「「きぃやぁぁぁぁぁぁぁあっ!」」」」

 

「男っ! 男子っ! 3人目の男子よっ!」

 

「それも美形! 守って欲しい系の織斑君や、守ってくれてた系の秋風君とは違う、守ってあげたくなる系の!」

 

「生きてて良かったぁぁぁぁぁあっ!」

 

 あぁー、五月蝿い! 予想はしてたが、なんて五月蝿さだ!

 

 あまりの五月蝿さに真耶も耳を塞いでるし、デュノアの奴も見るからに戸惑ってる。

 

 これ以上好きに騒がせてては話も進まんし、周りのクラスにも迷惑になる。となれば、早々に次の奴の紹介にいかなければ・・・・

 

「まだ自己紹介は終わってないぞ! 静かにせんか! ・・・・ラウラ、挨拶をしろ」

 

「ハッ! 教官」

 

「・・・・はぁ~。何度も言わせるな、此処では織斑先生と呼べ」

 

 薄々気付いてはいたが、やはりこいつは昔と変わらんか。私はもはや教官では無いと言うのに、学園でも教官呼びか・・・・

 

 だが言う事は素直に聞いて、皆の前に一歩足を踏み出し姿勢を正した。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 ・・・・そして、この一言だけか。

 

「あ、あの~・・・・終わりですか?」

   

「・・・・・・」

 

 一夏と言いラウラと言い、何故私が面倒を見た奴等はまともに自己紹介が出来んのか・・・・?

 

 真耶を見ろ。一夏の再来となる自己紹介に苦笑いを通り越して涙目になってるではないか。

 

「・・・・っ! 貴様は・・・・!」

 

「えっ? 俺?」

 

 と、あまりに酷い自己紹介に頭を抱えていると、不意にラウラが一夏の席へと近付いて行く。

 

 あの気配は・・・・ まさか!?

 

ーーバチーンッ!

 

「てぇ!?」

 

「貴様の様な奴が教官の弟などと、私は認めない!」

 

 あいつ、やってくれたな・・・・!

 

 確かにドイツに居た時に一夏の話を何回かした事もあったし、その度に不穏な感情を抱いていたのは気付いていたが・・・・ まさか会って早々にビンタをかましてくれるとはな。

 

 あまりに突然の事に一夏や生徒達も唖然としてる。いや、自己紹介の直後にそんな事をされれば当然か。

 

 仕方あるまい。流石に注意しておかねばな。

 

「ボーデヴィッヒ、貴様何を・・・・」

 

「おい小娘。テメェ、何やってんだ・・・・?」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 なっ!? 一夏が叩かれて、秋風が動いただと・・・・? 馬鹿な!?

 

 いやだが、奴から感じる気配は明らかに怒り・・・・ 何故だ。

 

 不穏な気配しかしないっ!

 

「もう一度言うぞ。テメェ、何やってんだよ?」

 

「なんだ貴様。貴様にとやかく言われる謂われはないぞ」

 

「大有りだ馬鹿たれが。テメェ、なんで・・・・」

 

 秋風が一夏とラウラの側に近付いて行く。その身から漏れる気配は明らかな憤怒・・・・

 

 まさか、今まで散々否定して来た一夏に思う所があるとでも?

 

 ・・・・いや、ないな。間違いなくない筈だ。

 

 断言しても言い。秋風が動いて、碌な事になった試しは無い。なんだったら、禁酒を賭けても良い。

 

 どうせ、お前はまた問題を起こすんだろ? そうなんだろ?

 

「なんで・・・・ そんな半端な攻撃で済ませてやがるっ!」

 

「・・・・はっ?」

 

 ほれ見た事かぁー!

 

 なんなんだお前は! 一夏を叩いたラウラも問題だが、なんでお前はラウラに駄目出ししに行ってるんだ!

 

 見ろ! 言われたラウラどころかクラス全体が唖然としてるではないか!

 

「良いかポークビッツ! テメェが織斑一夏にどんな感情を持ってるか知らんが、今の一撃はなんだ! んなもん、ただの半端なだけだっ!」

 

「は、半端だと?」

 

 何を言ってるんだお前は?

 

 と言うか、ポークビッツってなんだ。ボーデヴィッヒだ!

 

「そうだ! 出会い頭で一撃かますにしても、なんで相手に反撃の余力を残してる? 一撃で命を刈り取れてねぇだけで、テメェの一撃が半端な証拠だろうがぁ!」

 

「は、半端・・・・? 私の攻撃が、半端だと・・・・?」

 

 おいラウラ。なんでお前は秋風の言葉なんぞ真に受けてる?

 

 明らかにおかしい事しか言っとらんだろ!

 

「奴を見ろポークビッツ。獲物はまだ生きてる。それはつまり、わざわざ相手に反撃の機会を与えてるって事だぞ? そんな半端な攻撃がテメェの全力か?」

 

「っ! ふざけるな! 私の力がその程度な訳がない! この程度の男、一撃で沈めるなど造作もないわっ!」

 

「ならきっちり仕止めろ! 後先考えず、この一撃で全てを出し切る覚悟で・・・・ 今度こそ、引導を渡してみせやがれぇ!」

 

「良いだろう! 半端などではない、私の全力を貴様に見せてやるっ!」

 

 そうこうする内に無駄にテンションの上がった馬鹿二人が一夏の前に立ち塞がる。

 

 当の本人は今のやり取りに理解が追い付かず呆然としているし、全く状況が分かっていない。

 

「良いかポークビッツ。一撃だ。一撃で、きっちり息の根を止めてやれ」

 

「ふん! 貴様になんぞ言われなくとも、私が仕止め損なう訳がなかろう」

 

「そうかい。なら・・・・」

 

「えっ? ちょ、ま、待った・・・・」

 

「「・・・・きっちり、息の根を止めてやる・・・・!」」

 

「って、いい加減にせんか馬鹿者共がぁ!」

 

ーーバチーンッ!

 

「「ふぎゃあぁ!?」」

 

 はぁ、はぁ、はぁ・・・・ あ、危なかった。思わず静観してしまって、秋風の馬鹿に巻き込まれる所だった・・・・

 

 取り敢えず馬鹿共は出席簿で叩いて沈静化出来たが、なんでラウラまで馬鹿に巻き込まれて冷静さを失ってるんだ・・・・!

 

「一限目は実技演習だ、いい加減準備しろっ! 織斑、お前はデュノアを案内してやれ!

それと秋風、お前はちゃんとISスーツを着て来い! 今の罰も含めて、授業でこき使ってやるっ!」

 

「つぅ~う・・・・ これが世に聞く、体罰か・・・・」

 

「喧しいぃ! 貴様のは自業自得だ! 体罰な訳あるかっ!」

 

 なんだったらその顔にきっちり拳を叩き込んでやりたいくらいだっ!

 

 しかも貴様、痛そうにしといてそんなダメージないだろ? 全然反省してないな!?

 

 あぁもう! ホントになんで・・・・ 私のクラスには問題児しか居らんのだ!?

 

 

ーside千冬 outー

 

 




 なんか2話に別けたくないから無理矢理1話に。お陰で文字数だけはある。

 しかも普通に書いててラウラの名字を忘れる。忘れ易いのよ、『ボーデヴィッヒ』っの『ヴィッヒ』の部分て。

 では、ターンエンド。




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第33話 実技演習① ー変則タッグー


 只今出張で毎日15時間拘束中。全く手に掴んわ~。
 ( ノД`)…




 

ーside和也ー

 

 ちょっくら悪ふざけが過ぎてちーちゃんにぶっ叩かれもしたが、俺は実技演習のアリーナへと来ていた。

 

 ちーちゃんに言われたデュノアの世話? んなもん、織斑一夏に擦り付けて来たわ。

 

「おっす、鈴。おはようさん」

 

「あっ、おはよう和也」

 

 そして今日は二組との合同実習。となれば一足先に鈴や二組の面々が来てる訳で、世間話するには事足りないって訳よ。

 

「そう言えば聞いたわよ? そっちのクラスに転入生が来たんですって?」

 

「ああ、来た来た。俺は即行で警戒されたけどな」

 

「・・・・あんた、またなんか変な事したんでしょ?」

 

「心外な」

 

 ただちょ~っと機密部分に触れてやっただけだよ。あの程度で動揺するなんざ、修行が足りないと言わざるを得ないけどな。

 

 けどそんな俺に鈴は懐疑的な視線を向けてくる・・・・ 実に心外だ。

 

「・・・・まぁ良いわよ。それより和也、今日もお昼はお弁当?」

 

「うん? まぁ、今日も弁当だが」

 

「なら良かったわ。今日のお昼、食堂じゃなくて屋上で食べない? サラさんやダリル達も誘ってあって、お弁当持って屋上に集合の約束してるのよ」

 

 それ、軽く逃げ道塞いでね? しかもダリル達は事前に約束してんのに、俺だけ当日に意思確認って。

 

「まぁ、別に良いけどよ」

 

「何? なんか都合でも悪かった?」

 

「いやなんも」

 

 ただ俺だけ事前の確認がなかった事が不満なだけだっての。まぁ確認されてても行ってただろうが。

 

「そっ。じゃあお昼に屋上に集合ね」

 

「全員、集合ぉー!」

 

 と、もうちーちゃんが来たか。このまま喋ってるとまた手痛いダメージを受ける事になっから、早々に移動すっか。

 

 そう思って鈴に目配せした後、俺達は号令を掛けたちーちゃんの前へと移動して行った。

 

 

 

 

 ああ、織斑一夏とデュノア? 授業に遅れたから、ちーちゃんから出席簿の一撃貰ってたけど?

 

 

 

 

「全員揃ったな? では本日はISの基本動作と、格闘及び射撃を含んだ実践訓練を行う。くれぐれも怪我に注意し行うように」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 一組と二組の生徒がアリーナに集まるや、ちーちゃんがそう言うと生徒の面々は力強く返事を返す。

 

 教育されてんな~、って思ったが、何かが上空から近付いて来る気配を感じる。

 

 敵意は感じねぇが・・・・なんだ?

 

「さて今日は先ず専用機持ちに戦闘を実践してもらおう。秋風、オルコット、凰は前へ出ろ」

 

「・・・・はい」

 

「なんでワタシが・・・・」

 

「めんどくせぇな~」

 

 上空からの気配も気になんが、取り敢えず呼ばれたから前に出とこ。

 

 流石に授業の協力くらいはしてやらんと、ちーちゃんが五月蝿いからな。

 

「なんだお前達、そんなにヤル気がなさそうにして。真面目にやらんか。特に秋風、私はちゃんとISスーツを着て来いと言ったよな? なんでまたジャージなんだ!」

 

 訂正。協力してもちーちゃんは五月蝿かった。

 

「スルーしたから。反省も後悔もない」

 

「反省くらいはせんかっ!」

 

 いや、そもそも着なくても大丈夫な様にしてるのに、必要も無く着替えろと?

 

「ちっ! まぁ授業に出てるだけまだマシか・・・・!」

 

 舌打ちしやがったよ、この女・・・・

 

「で? なんで俺等なんだよ? バトルロワイヤルか? 鈴とはサシでやりてぇんだけど」

 

「慌てるな。お前達の相手はもう直ぐ来る」

 

 俺達の相手だぁ? そいつはぁ・・・・ って、うん? レーダーの反応が強くなった?

 

 これなら見上げれば目視が出来る・・・・

 

「ひいやあぁぁぁぁぁぁあっ!? どどど、どいて下さぁーい!?」

 

 ・・・・・・おう。

 

「ちーちゃん! (山田先生)が凄い事にっ!」

 

「何を言ってる貴様?」

 

 いやだって、コントロール失ってるっぽいからかスッゲェ事になってんだよ。山田先生のお胸様が。もうぶるんぶるんと、思わず待機状態の録画機能オンにしちゃったもん。

 

 あっ、鈴が山田先生に射殺さんばかりの視線を向けてる。

 

「はぁ、仕方ない。秋風」

 

「わーてるよ」

 

 言いたい事は分かった、山田先生を助けろって事だろ?

 

 今回は拒む理由がないし、寧ろ率先して助けに行かせて貰おうか。

 

 直ぐ様『如月』を展開し、ブースターを吹かす前にPICで跳躍。下の奴等を巻き込まない様に十分に距離を取ってから、改めてブースターを点火。

 

 高速戦特化の『如月』の速度を生かし早々に山田先生へ接近、そして確保。

 

「おら、よっと!」

 

 後は山田先生を掴み、突っ込んで来た勢いのまま回転しながら少しずつ減速。・・・・回転が加わったから山田先生のお胸様が更に凄い動きをした。

 

 実に、ハラショーだ!

 

「・・・・と、大丈夫だったか?」

 

 そんなこと考えてたら暴走の勢いも無くなり、無事に山田先生を地面に着けることに成功。ぱっと見で怪我とかはないな?

 

「は、はぅ~・・・・ すいません秋風君、助かりました~」

 

 いえいえ。此方こそ、感動をありがとうございます。ありがとうございます! 大事な事だから二回言った。

 

「さて、予想外の事もあったが・・・・ 専用機持ちには山田先生と模擬戦をして貰う」

 

 えっ? 3対1で? 流石にそいつはあんまりだろ?

 

「ワタシ達3人でですか? 流石にそれは・・・・」

 

 おっ? 鈴も同じこと思った? だよな~。2対2なら兎も角、3対1はただのイジメだぞ?

 

「ふっ、安心しろ。今のお前達なら直ぐに負ける」

 

 ・・・・ほ~う? そいつは随分と挑発的だな~?

 

 見れば鈴に金髪も不服と言わんばかりにムッとしてるし。

 

「へぇ~え。流石にそう言わちゃあ・・・・」

 

「ええ、引き下がる訳にはいきませんわね。・・・・秋風さんも、そう思・・・・」

 

「ちーちゃん、本気出して良いんだな? 出力調整した『長月』の主砲に、『皐月』の全力パンチも文句ねぇんだな?」

 

「ふえぇっ!?」

 

「やっぱり駄目だ。秋風、お前は何時ものだけを使え。確か、『睦月』だったか? それだけだ」

 

「ちっ。納得いかねぇが、相手が山田先生なら仕方ねぇか。まぁ鈴がいっからそれだけでも十分だしな」

 

「・・・・・・・・っ」

 

 これが女尊男卑主義の奴等だったら二度とISに乗れなくなる位にボコボコにしてやったんだけどな。山田先生じゃあなぁ・・・・

 

 (山田先生)に手荒な真似など出来ん!

 

「良し。他の生徒達は一度観客席に移動。その後、準備が出来たら模擬戦を始める。各自、素早く動け!」

 

 そうちーちゃんが言えば調教された面々は観客席に向かって駆け足で移動を始める。

 

 その辺、ホントよく調教されてるよな~。

 

「・・・・さてと、上手くやろうぜ鈴」

 

「当然よ。こっちは3人も居て、内二人が代表候補生よ? 簡単になんか負けないんだから。ねっ、あんたもそう思うでしょ?」

 

「・・・・えっ? あ、はい。そうですわね・・・・」

 

「? なんか、あんまりヤル気がなさそうな奴ねぇ? 和也、あんたこいつとクラスメートなんでしょ?」

 

「興味ねぇ。足引っ張る様な腑抜けなら一緒に潰せば良いだけだ」

 

「っ!? ・・・・・・っ!」

 

 模擬戦って事は多少は魅せる戦い方もしなきゃいけねぇし、確か山田先生って・・・・ 元代表候補生だったろ? しかもちーちゃんと同世代くらいの。

 

 となると場馴れはしてるだろうし・・・・ 通常の『睦月』じゃちと厳しいかな。

 

「まっ、なんとかすっか。鈴、動きはこっちで合わせてやっから好きにしな。うっかり当てたら許せ」

 

「いや、うっかりで当てんじゃないわよ。まぁでも、フォローしてくれるなら有り難いわね」

 

「それでもあんま期待すんなよ? 基本的に俺は1対多の方が慣れてるから、誰かと組んだ事はねぇんだ」

 

 『文月』のビットだって、ひとりで出来る手数を増やすってだけだからな。協力戦は専門外なんだよ。

 

 まぁでも、前回のクラス対抗戦の時に鈴の訓練相手をしてたからな。鈴の動きも大体は分かる。

 

 今回はそれを活かして、上手く立ち回れば基本的には決定打の無い『睦月』でもどうにかなんだろ?

 

[聞こえるか? 此方は全員観客席に移動した。間もなく模擬戦を始める]

 

 と、もう移動したか。なら、こっちも準備するとすっか。

 

「さて鈴、いっちょやってやるか?」

 

「当然よ! ほら、あんたも行くわよ!」

 

「は、はい!」

 

 基本的に敬う相手ではあんだけど、山田先生・・・・ わりぃが、多少本気でやらせて貰うぜ?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 なんか実技演習の話が一話で終わらなかった。ならばと、戦闘部分はまた一話使おうと考えたで候。

 反省はしてない。後悔はしてる。
 ( ノД`)…

 それと鈴とセシリアは互いに接点がなく初対面に近い関係性にしています。

 これは本来なら一夏経由で知り合う筈だった出来事がなく、また和也もセシリアの話を鈴にしていないからの事です。同じく、サラ先輩も鈴にセシリアの事を話していません。

 そんなセシリアだけが疎外感に晒されてのVS山田先生戦・・・・ 『睦月』縛りだけど、どうしようかな?

 では、ターンエンド。




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第34話 実技演習② ーVS山田真耶ー


 やっと出張終ったぞ~い。

※6/16 脱字訂正。




 

ーNo sideー

 

 一組と二組の生徒達が観客席で見守る中、アリーナの中心に浮かぶ四つの影。

 

 ラファール・リヴァイヴを駆る真耶。それに対するのはセシリアのブルー・ティアーズ、鈴の甲龍、そして和也の睦月の3体。

 

[それではこれより模擬戦を始める。・・・・始めっ!]

 

ーードゥン!

 

 千冬の合図を皮切りに全員が一斉に動き出した。鈴は両手に双天牙月を構え、和也は拡張領域から取り出したアサルトライフルを片手に構えながら。

 

 それに対し真耶はラファールの持つアサルトライフル『ガルム』から銃弾を撒き散らし、迫る二人から距離を取る様に旋回を始めた。

 

「おい鈴。(やっこ)さんは射撃戦がお得意なようだ。動き止めて蜂の巣にされんなよ?」

 

「誰に言ってんのよ! あんたこそ、しっかりフォローしなさいよ!」

 

「はっ! 自分本意な俺に無茶な注文だなぁ!」

 

ーーダダダダダダダッ!

 

 そう軽口を叩きながらも和也の動きは止まらない。弾丸を撒き散らす様に旋回する真耶を見定めながら、その軌道上に合わさる様に引き金を引き続ける。

 

 だが、真耶とて元代表候補生。和也が放つ銃弾を躱し続けながらも、逆に二人を誘導する様な動きを見せていた。

 

「(ああ、こりゃ駄目だ。なまじ共闘みたいに動いてみたが、肌に合わねぇや) ・・・・鈴。こっからは別れて左右から攻めんぞ。なまじ固まってると良い的だ」

 

「くっ! 仕方ないわね・・・・ あんた、誤射するんじゃないわよ?」

 

「流れ弾くらいは多目に見てくれよ」

 

 そう言葉を交わすと和也と鈴は真耶へと向かい左右へと別れる。

 

 真耶が引き射ちしつつ距離を取り此方の動きを制限してくるなら、こちらは二方向から攻める事で真耶の動きを制限する。それが和也と鈴の考えだった。

 

 更にそこにセシリアが後方から狙撃を行えば真耶の動きはより一層制限する事が出来るのだが・・・・

 

「くっ! 当たら、ない・・・・!」

 

 そのセシリアは、開始位置から動かず真耶に掠りもしない狙撃を続けているだけだった・・・・

 

 いや、このセシリアの選択も状況によっては悪くはなかった。前衛を和也と鈴に任せ自身が後衛として援護と狙撃に徹する。更にブルー・ティアーズのBT兵装によって手数を増やせていれば、セシリアの取った選択も間違ってはいなかったのだが・・・・

 

「(なんであの馬鹿、未だにビットの展開すらしてねぇんだ? 様子見にしても2つくらいは展開しとくもんだろ?)」

 

 セシリアの頭から、ビットを展開すると言う選択肢が抜け落ちている。そう和也に思わせる程、今のセシリアはこの模擬戦に意識が向いていないのが目に見えていた。

 

 ここで普通の感性を持った相手ならばセシリアに声のひとつでも掛けて、意識を模擬戦へと向けさせるくらいはしただろう。

 

 だが、元よりセシリアに興味も関心も抱いていない和也は・・・・

 

「鈴っ! 隙出来るまでまだ突っ込むなよ、ちょっくら抉じ開けてくらぁ!」

 

 最初からセシリアを数に入れてない様に鈴にだけ指示を飛ばし、アサルトライフルを射ちながら真耶へと突撃を仕掛けて行った・・・・

 

ーーダダダダダダダダッ!

 

 互いにアサルトライフルを撃ち合いながら距離を取ろうとする真耶、そして距離を詰めようとする和也による二人の銃撃戦。

 

 未だどちらも銃撃の直撃は受けてはいない。それどころか時折飛んでくるセシリアからの狙撃すら目を向ける事なく躱し、互いに差を着けれぬ距離を維持したままの状況を続けていた。

 

「(たくっ、『睦月』じゃ無理な突破は厳しいか。これが『如月』や『皐月』なら機動力で、『弥生』か『長月』だったら制圧力でごり押せんだが・・・・ 流石に、この装備で傲ってない操縦者は骨が折れるか)」

 

 そう和也が考えるのは、相対する真耶の実力。

 

 所持するIS全てを十全に扱えるだけの技量と努力はあるが、和也の基本スタイルは『状況に合わせた武装の切り換え』が主となっている。

 

 様子見であれば使い勝手の良い『睦月』を。機動力なら『如月』を。手数なら『文月』を。突破力なら『皐月』を。制圧力なら『弥生』を。殲滅力なら『長月』をと、IS学園に来てからだけでも、和也は状況に合わせたISを瞬時に切り換える戦い方を根底としていた。

 

 だがそれも先の騒動の後に結んだ轡木との誓約により、今はそのやり方を取る事が出来ない。

 

 それでも尚、切り換えなどしなくとも生半可な相手に遅れを取る様な腕をしていないが・・・・ 目下の相手である真耶に対しては、和也も自由に手の内が使えないのは少々厄介とは思っている。

 

 だが、それでも・・・・・・

 

「(仕方ねぇなぁ、ちぃとばかし・・・・) 俺も本気で行くか・・・・!」

 

 和也にとっては真耶も、()()()()()()()の相手でしかない。

 

 特にそれが、()()()()()()()()()()()()()訓練用の量産機でしかないなら尚更だ。

 

ーーダダダダッ、ドゥンッ!ドゥンッ!

 

 その瞬間、アサルトライフル同士の撃ち合いだった中に、今までとは違った大きな発砲音が混ざり込む。

 

「なっ!? ショットガン、ですかっ!?」

 

「ハッハッ! 悪いな山田先生、こっちも手の内は多いんだよっ!」

 

 それは空いていた筈の和也の手に新たに握られたショットガンから響き渡る発砲音。

 

 それは本来なら相手と距離を詰めてこそ真価を発揮する筈の物だったが、和也はそれを真耶の行動範囲を狭める為に使う。

 

 牽制の為に撃ち合っていたアサルトライフル同士の銃撃戦。そこへ僅かではあるが、動きは制限してくる様に加わったショットガンによる銃弾の散布は、決定打ではなくとも確かに真耶の動きを僅かに鈍らせた。

 

「そこぉぉぉおっ!」

 

「っ!? くっ!」

 

 その僅かな隙を突くように、間髪入れず投げ込まれる鈴の双天牙月のひと振り。それには真耶は一瞬苦い顔をしながらも、双天牙月に対し片方の手に握られていたガルムの銃弾が火を吹く。

 

 だが、和也にとっては撃ち合っていたガルムがひとつ減るその一瞬が欲しかった・・・・

 

「そいつは、悪手だぁ!」

 

 刹那、自らに向けられていた銃身が減った直後に瞬時加速(イグニッションブースト)により和也が真耶との距離を一気に詰めに掛かる。

 

 一瞬。ほんの一瞬だけ、向けられていた弾幕の勢いが減れば良かった。

 

 その一瞬さえあれば全身装甲(フルスキン)である和也にとっては、従来のISと違い正面からの撃ち合いで大きくダメージを負う事はない。

 

 生身を晒してるか晒してないか。その差は和也にとっては大きく、そして・・・・

 

「零距離っ!」

 

 ショットガンの着弾による衝撃は、明らかに生身を晒してる方が大きい・・・・!

 

ーーダァンッ! ダァンッ! ダァンッ!

 

「かはっ!?」

 

 至近距離で放たれその身に受けるショットガンによる衝撃。それは幾ら絶対防御によって守られているとしても、真耶の動きを止めるには十分過ぎるダメージとなる。

 

 そしてそこに詰め寄る、もうひとつの影・・・・

 

「貰ったぁぁぁぁあっ!」

 

 この好機を逃さんと残っていた双天牙月を振り上げ、一気に詰めよって来る鈴の甲龍。

 

 それをハイパーセンサー越しに確認し身体を動かそうとも、視界の先には更なる追撃をせんとショットガンを構える和也の姿・・・・

 

 真耶にもまだ手はある。拡張領域内にある手榴弾を使い、その爆発によって再度距離を取ると言う選択肢が。

 

 だがそれも眼前の和也が直ぐ様ショットガンで手榴弾を撃ち抜けば、至近距離での爆発によって真耶も必要以上のダメージを受けSEを大きく削られる事になるだろう。

 

 そこまでして数巡。真耶は先程の和也が言った『悪手』の意味を知る。

 

「(ああ、そうですね。あそこは凰さんの攻撃を射ち落とすより、素直に回避するだけで十分でした)」

 

 二丁のガルムを以て均衡を保っていた以上、わざわざそれを崩す必要はなかった。そうしなくとも、対応出来る要素はまだ残っていた筈なのに・・・・ 真耶は咄嗟に、誤った選択をした。

 

 それが招いたのが今の状況であり、そして・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

[そこまでぇ!]

 

 管制室の千冬から、模擬戦終了の通信を入れさせる結果となった・・・・

 

ーNo side outー

 

 

 





 三人称sideから書いて、慣れないことはするもんじゃないって思った。もう滅多にしない、そう決めた。

 と言う訳で、ようやっと出張が終った。もう拘束時間16時間はグリゴリ・・・・じゃなくて、こりごりよ。
 (  ̄Д)=3

 さて、早く続き書こ。
 (  ̄▽ ̄)

 では、ターンエンド。



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第35話 実技演習③ ー操縦講座ー


 そう言えばお気に入りが1000件を越えてたよ。

 ヒャッハァー!感謝しか浮かばないぞい!
 (o≧ω≦)o

 ああそれて、最近は感想に多少の返信する様になりました。




 

ーside和也ー

 

 山田先生との模擬戦が終った。

 

 いや、軽く言ってるけど普通に厄介な相手だった。別に腕や感覚が衰えてる感じはしないし傲ってないしで、対人戦としてはこの学園に来て一番気を揉んだ相手とすら思えたわ。

 

 鈴もお疲れさん。と、『睦月』を解除しながら鈴に労いの言葉を掛けに行こうとしたら、ピットの方からちーちゃん達が再びアリーナに入って来ていた。

 

 移動早いな。

 

「さて、結果としては押しきられた様に見えただろうが、これで皆もIS学園教師の実力が解っただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 ・・・・・・あっ、そうですか。俺等は舐められがちな山田先生の評価を上げる為のダシに使われた訳ね?

 

 ちーちゃんの筋書きとしちゃあ山田先生が勝つ予定だったんだろうけど・・・・ 悪いな、こう見えて俺は負けず嫌いな性格してんだよ。

 

「ではこれより実際にISを用いた実習を始める。それに当たり、先ずは最初に幾つか班を作る。専用機持ちは全員前に出ろ」

 

 そうちーちゃんに言われアリーナに居た俺と鈴、金髪の他にさっきまで観客席に居た織斑一夏、デュノア、ラウラが生徒達の前に出た。

 

 取り敢えず適当に群がってたら体裁が悪いと、あいうえお順に並ばされる。

 

 俺から右に織斑一夏、金髪、デュノア、鈴、ラウラの順だ。

 

「よし、今後実習ではお前達が班のリーダーになる。6班を作れたので、皆は出席番号順でリーダーとなる奴の前に並べ」

 

 そう言うや、調教された生徒達がわらわらと俺達の前に並び始める。

 

 えっ、待って。わざわざ俺が教えんの? こんな金にもならねぇ事を?

 

「・・・・おい秋風。なんだその不服そうな顔は?」

 

「指導料となる金銭的報酬を要求する。つか、元々ちーちゃんや山田先生の仕事だろう? 押し付けんなよ」

 

 つか、専用機持ちがいないクラスの実習はどうやってんだよ?

 

「馬鹿たれ。馴れてる者が不馴れな者に教える、これもまた生徒としてやるべき事で、自分が指導する観点から学ぶべき事だ。文句を言うな」

 

「じゃあ他のクラスでも俺等みたいに複数人がリーダーやってんだな? 専用機持ちじゃなくても馴れてる奴が」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 ・・・・おい、こっち見ろよちーちゃん。

 

 何、そこは知らないみたいな感じに顔背けてんだよ?

 

「・・・・うっ、うんっ! では班に分かれたら話し合いをし、それぞれの班で訓練機を取りに来る様に。訓練機には打鉄を2機、ラファールを4機用意した。早い者勝ちになるからそのつもりで」

 

 あっ、誤魔化したなテメェ!

 

 文句を言うと睨み付けるや、そそくさと山田先生の方に逃げて行きやがったし・・・・ マジで俺等に投げたな?

 

 良いだろう。この借りは近々、ちーちゃんの残業に直結する様な真似で返してやろう・・・・!

 

「お~い、秋風く~ん?」

 

「あ? って、相川か」

 

「そっ。せっかく同じ班になったんだからしっかり教えてよね?」

 

「あっきー、私もいるよ~」

 

 ちーちゃんへの復讐を画策してたら、なんか目の前に相川が居た。ついでにのほほんとか、何人か見知ったのと見知らぬのと・・・・9人くらいの奴等が居た。

 

 えぇ~え・・・・ こいつらに教えんの~?

 

「めんどくせぇ~・・・・」

 

「ちょ! いきなりヤル気下げないでよ~! 秋風君だって専用機持ちなんだから、私達に指導する義務があるでしょ?」

 

 いや、ねぇよ。

 

 それは代表候補生とかそんな肩書き持った奴等だけだろ? 俺にそんな義務はねぇ。

 

 そう言わんと露骨に顔に出してみるも相川とのほほんはどこ吹く風、全く俺の意思を汲み取ってくれない。

 

 めんどくせぇ~。お前等で勝手にやれよ~・・・・ 駄目?

 

 あっ、駄目ですか。話し合いなんかしないで打鉄を借りて来た時点で駄目ですか。

 

 ・・・・次から実技演習はサボろうかな?

 

「ほらほら、ISだって借りて来たんだからいい加減ヤル気出して」

 

「・・・・はぁ~あ。次回からサボろ」

 

 めんどくせぇもん。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「えぇ~え。ではこれより、『第一回 秋風流操縦講座』を始めます・・・・ はい、適当な拍手~」

 

「わ~」

 

ーーぱっちぱっちぱっち

 

「「「「・・・・・・・・・・」」」」

 

 ノリ悪いなコイツら。

 

 結局拍手してくれたの、のほほんだけじゃねぇか。てか、相川。せめてお前はノレよ。

 

「はい、今回使うのはこの機体。ちーちゃんが乗ってた『暮桜』を元に設計・量産された第二世代機の『打鉄(うちがね)』ね。呼びにくい人は『打鉄(だてつ)』と呼んでやろう」

 

「あっきー先生~。その説明はいりますか~?」

 

 ぶっちゃけ要りません。でも取り敢えずは言っとくのがお約束なんだよ、のほほんよ。

 

「で先ずは起動させる為に操縦者を入れます。・・・・相川、乗れ」

 

「いや、雑だな~。まぁ乗るけど」

 

 おっ? 乗り方は説明しなくても分かったか? 適当に指名したら相川単体で乗れてら。

 

「で次に起動したら歩行訓練に行く訳だが・・・・ 相川、直ぐに動けっか?」

 

「ちょ、待って。まだ上手く動かせないかも・・・・」

 

 ・・・・まぁ、最初の内はそうなるよな。俺だって経験あるし、強い事は言わねぇけど。

 

「良いか相川。乗った後のISは詰まるとこ延長された自分の身体だ。無理に操ろうとか思うな、先ずはただ自分の手足が伸びたくらいに意識しろ」

 

「手足が、伸びた・・・・」

 

「解り難かったら先ずは目を閉じろ。んで、そのまま手を開いて握ってだけ繰り返してみな?」

 

「う、うん」

 

 そう言ってやれば相川は素直に目を瞑り、その場で打鉄の手を開いたり握ったりを繰り返した。

 

 それを何度か繰り返して落ち着いたのを見計らって、今度はゆっくりと目を開かせる。

 

「良し。なら今度はゆっくり歩いてみっぞ。変に意識はすんな。普段通り、ISは展開してない感じに歩いてみ?」

 

「うん、分かった」

 

ーーガション、ガション

 

 おっ? 飲み込み早いな。ゆっくりだが、一歩ずつちゃんと歩けてんじゃねぇか。

 

「良い感じだぞ。んじゃ、少し歩幅のペース上げてみな?」

 

「こ、こうかな?」

 

ーーガション、ガション、ガショガショ

 

「オッケーオッケー。なら少しずつ加速して、そのままダッシュに移ってくか」

 

「う、うん。段々分かって来たかも」

 

ーーガションガションガションガション

 

 おお、思ってたより理解が早いじゃねぇか?

 

 そう言や俺が入学すっ時も実技試験とかあったから、全くの初心者って訳じゃねぇのか? なら復習程度で説明してやれば他の奴等も問題ねぇな。

 

「良~し、そこでターン・・・・ オッケーオッケー、重心移動も出来てんぞ。そのままスタート位置まで戻って終了だ。ああ、降りる時はちゃんとしゃがんでから降りろよ? でなきゃ次の奴が乗れねぇから」

 

 と、そんな事を考えてたらちゃんと反転もこなし、無事に相川はスタート位置まで戻って来れたな。

 

 それに事前にしゃがんでから降りるのも指示しといたから、うっかり打鉄を立たせたままになんて事にもならなかったし。

 

「相川、お疲れさん。後は他の奴等の様子でも見てな」

 

「ふぅ~。結構簡単に動かせる様になったけど、思ってたより体力使うね~?」

 

「そりゃお前の体力が足りてねぇんだよ。肉体作りは基本だ、もう少し体力でも付けな。うし、次にやる奴は来なぁ。さくさく進めんぞ」

 

 そう言って相川を見学組の所に戻し次の奴を呼び出す。次も一組だが、名前は覚えてない奴か・・・・

 

 まぁ相川が飲み込み早かったし、他の奴等も思ってたより簡単に覚えんだろう?

 

 そう思いながら開始前より幾分か楽な気持ちで歩行訓練を最後まで続けて授業の時間は終った・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の班? ああ、なんか織斑一夏とデュノアのとこはお姫様だっこがどうこうって騒いでちーちゃんの逆鱗に触れてた。

 

 後、目立ってたのはラウラの班でラウラがなんもしてなかった事くらいか? いやマジで、何の指示すらしてねぇでやんの。

 

 ・・・・あれ? 俺も別に真面目に指導とかしなくて良かったんじゃねぇ?

 

 

ーside和也 outー

 

 





 そもそも各クラスの専用機持ちの割合っておかしいよね? 代表候補生だけでも簪の居る四組以外は特にないし、絶対に実技演習の質に大きな差があると思う。

 さて次回は屋上でのお昼編。ちゃんと一話で終わらせれるように調整しよっと。

 では、ターンエンド。




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第36話 同居人ー昼のパン祭りー

 久し振りの更新。6月いっぱいを出張に宛てられ、大変生活リズムの狂う生活をさせられてた。

 滞った分、ペース戻せるかな?

※7/4 誤字修正。


 

ーside和也ー

 

 実技演習なんてタダ働きも終わり、迎えた楽しい楽しい昼休み。

 

 何時もなら食堂で飯にするんだが、今日は鈴に誘われ屋上での飯になった訳なんだが・・・・

 

「で、簪は用事が入って来れないと」

 

「そっ。なんでも整備科の人達に呼ばれたんだって」

 

 何時もの面子で簪だけが用事で不在っと。

 

 整備科って事は虚さんか? まぁ専用機の話かなんかだろう。

 

「まっ、残念ながら簪はまたの機会って事にしとくか」

 

「まぁしょうがないもんね。その時はまた誘いましょ」

 

「それより早く食べようぜ? 三年は午後から実技演習なんだ、今日はあんま時間ないんだよ」

 

 ダリル・・・・ そんなに腹ペコか? 一人で食べ始めないだけマシだけど、そんなにか?

 

 ほら、鈴も思わず呆れたみたいな顔してんじゃん。

 

 後、個人的にダリルは料理とか苦手って思ってたわ。

 

「・・・・まぁ、良いか。で、ダリルはどんな弁当作って来たんだよ? 正直、ダリルが料理してる姿ってあんま想像出来ねぇんだけど」

 

「ぐっ! まぁ確かに、和也に比べりゃ出来ない方かも知れないけど・・・・ 私だって簡単なのくらいは作れんだぜ? ほらっ」

 

 どれどれ・・・・ って、ハンバーガー? 弁当箱に?

 

「全部が全部手作りって訳じゃないが、ハンバーガーくらいならちゃんと作れんだぞ?」

 

 ふむ。確かにパテは冷凍食品っぽいけどベーコンは自分で焼いたっぽいな。それに野菜も自分で切ってるし、ピクルスの有無が気になるとこだが・・・・ レタス、トマトも有るちゃんとハンバーガーしてるな。

 

「因みに自分はコレッス」

 

 と、次はフォルテか。どれどれ・・・・ クラブハウスサンド? これまた、予想外なもんを持って来たな~。と言うか・・・・・・

 

「ギリシャ感が何処にも無いな」

 

「ちょっ! 別に良いじゃないッスか! 自分だってあんまり料理は上手くないんスから」

 

 まぁそれは薄々気付いてた。それでも生ハムやベーコンに野菜がたっぷり詰まってる、旨そうな一品ではあるよな。

 

「私も今日は簡単な物を作って来たのよね~。ほら?」

 

 とっ、サラ先輩はサンドイッチか。ハムやベーコンにトマト、玉子を挟んでと、簡単ながら割りとベターなサンドイッチ・・・・・・

 

 うん。サラ先輩も、そんな料理とか出来る口じゃないな?

 

「・・・・て言うか待って。なんであんたらハンバーガーやクラブハウスサンドやサンドイッチとか、揃いも揃ってパンで挟む系ばっかなのよ?」

 

「「「うっ!」」」

 

 言ってやるなよ鈴・・・・ ダリル達も耳が痛いのか、揃って顔を背けたじゃんか。

 

 まぁ、野菜切って肉と挟めば大体は失敗しないからな。慣れない弁当作りなら外れはしないが・・・・

 

「見事に料理が不得意って言ってるようなもんだな」

 

「全く・・・・女子が三人も揃ってそれはどうなのよ?」

 

「「「アッハハハ・・・・」」」

 

 うわ~気まずい。揃いも揃ってパンパンパンと来たもんだから、鈴のツッコミに一斉に渇いた笑みを浮かべちゃってるよ。

 

 そんな中で鈴が料理の腕を指摘されないのは、鈴が料理出来るのを知ってるから。たまに俺と料理談義してんの見てたから、ダリル達も言い返せないんだろうな。

 

「まぁ何を作るかは人それぞれだからワタシも強く言わないけど、簡単な物ばかりってのもどーかと思うわよ?」

 

「まぁ良いんじゃねぇか? ちゃんと食えるもんだってなら。で、そんな鈴の弁当は?」

 

「ワタシ? ワタシは至って普通のお弁当よ。それと、酢豚」

 

「酢豚」

 

 出たよ酢豚。味噌汁の代わりに毎日提供される可能性があると言う、鈴の伝家の宝刀。

 

 なんで中華スープとかじゃなくて、酢豚が必殺料理みたいになってんだろ? 鈴なら他にも料理出来んだろ?

 

「と言う訳で、はい。多目に作って来たから和也にもあげるわよ」

 

「はっ? 俺の分?」

 

 えっ? 酢豚って俺の分だったの?

 

 そう思いながら鈴から受け取ったタッパーを開けてみると、そこには食欲をそそる香りがする酢豚がぎっしり・・・・

 

 ってタッパーの中身、丸々酢豚かっ!?

 

「鈴・・・・ たぶん、こう言うとこだよお前」

 

「うん? なにがよ?」

 

 酢豚を単体で活躍する戦略兵器って思ってるとこだよ。そこまで酢豚は万能料理じゃないのよ?

 

 なんでタッパーの中身が丸々酢豚なんだ。せめてもう一、二品は他のオカズも入れなさいよ・・・・ まぁ食べるけど。

 

「しっかし、そうなると今日は失敗したかな~」

 

「モグモグ・・・・あん? なんか失敗したのかよ?」

 

 あっ、ダリル。もうハンバーガー食べ始めたのな?

 

 いやな、何時もならご飯とオカズって組み合わせの弁当なんだが、今日に限って言えば・・・・

 

「俺の今日の弁当・・・・ 『ナン』なんだよ」

 

「「「ナン!?」」」

 

「って、あんたまでパンかっ!?」

 

 失礼な、パンじゃなくてナンだ。イースト菌を使わない、パンと似て非なるものだぞ? カレー相手ならご飯の代役も勤めるし。

 

「いや、なんか急な天啓が降りて来てな。不意に作っちゃったんだよ」

 

「それでもナンって、なんでよ!?」

 

「ナンとなく」

 

「なんとなくでナンを作ってくるとか、ナンなんスかね」

 

 いかん。ナンがあると全てがナンに変換される。ナンと言う・・・・ いや、なんと言う事だ。

 

「まぁ兎も角、早く食べようぜ? 何故か昼飯がパン祭りになったけど」

 

「あんたまでパンにしたからでしょ!?」

 

 パンじゃない、ナンだ。

 

 と、そんなパン祭りに包まれた昼食の時間は流れていった・・・・

 

 因みに鈴から貰った酢豚は、ナンと一緒に食べました。ナンの酢豚サンドが完成した瞬間だった。

 

 

ーside和也 outー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーsideシャルロットー

 

「ふぅ~。編入初日だけど、割りと疲れたな~」

 

 放課後。山田先生に寮の鍵を貰い、僕は自分の部屋となる場所へと向かっていた。

 

 この学園じゃ生徒は寮で生活し他の生徒と相部屋になるみたいだけど、僕は一応男子として入学したから同居人は一夏になるのかな?

 

 まぁ、一夏以外の男子が居るとは思わなかったけど・・・・ それも前向きに考えれば僕の目的が達成し易くなったと思えば良い事なのかな?

 

 だけど・・・・

 

「秋風、和也か・・・・」

 

 教室の前で初めて会った時、彼は僕の事を『プリンセス』って言った。それは僕の性別を考えれば間違ってないのだけど・・・・ 彼はそれに、最初から気付いてる?

 

 分からない・・・・ 彼の考えもそうだけど、これからしようとしてる事が本当に上手くいくのか、全く分からない。

 

 危ない事をしようとしてるのは分かってる。

 

 色んな人を騙そうとしてるのも分かってる。

 

 せっかく仲良くなった人達を、裏切ろうとしてるのも分かってる。

 

 だけど僕には・・・・ これしか、道がない。

 

「はぁ~・・・・ 僕、上手く出来るかな?」

 

「・・・・何が、上手く出来るかって?」

 

「っ!?」

 

 不意に零れた呟きに、声を返された。それに自分の事がバレたんじゃないかと警戒したけど、目の前に居た相手を見た瞬間、それは更に引き上げられた。

 

「秋風、君・・・・?」

 

「よう、待ちくたびれたぞデュノア」

 

 気付けば目的の場所であった自分の部屋の前。そこで彼は、二人目の男性操縦者である秋風和也は、待っていたかの様に壁に寄りかかって僕の事を見ていた。

 

 彼に容易に近付くのは危険。そう思ったからこそ、極力近付かない様にしていたけど・・・・ どうして此処に?

 

「残念だが、お前の同室相手は・・・・ 俺だよ」

 

 そう言われた瞬間、確かに僕は、自分の足元が崩れ落ちる感覚に襲われた・・・・・・

 

 

ーsideシャルロット outー

 

 




 と言う訳で、軽くリハビリ回。ホントに久し振りに書いた。

 いや正直ね、この学年タッグトーナメントってやること多いのよ。シャルロット然りラウラ然り、セシリア回収やら簪回収やら・・・・ そんな状況で半月のブランクは辛い!
 ( ノД`)

 ああ、お昼休みの一夏君? 箒とシャルを連れて食堂に行ってましたよ?


 では、ターンエンド。



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第37話 現状説明 ーよろしく同居人ー

※7/13 誤字訂正。


 

 デュノア社。フランスに本社を置き、第二世代型量産機ラファールを主力商品とし世界的なシェアを誇っている大企業。

 

 しかし近年では第三世代機の開発に遅れを取り、他国との技術力の差に経営を傾け始めている。

 

 特に欧州統合防衛計画、通称イグニッションプランの主力ISの選考レースからも完全に乗り遅れており、それに対し政府までもが焦りからデュノア社へと強い圧力を掛け続けている状況が続いている・・・・・・

 

 そんな折り、発覚したのが世界初となる男性操縦者・織斑一夏の存在だ。

 

 女性にしか使えないとされているISの男性の使用。これがどれだけの利益を産むかなど、企業なら馬鹿でも分かる。当然、利益を得るのは企業だけではない、政府も莫大な利益を得る事になるだろう。

 

 そんな中、デュノア社で動きがあった。現社長である『アルベール・デュノア』の愛人の子である『シャルロット』をデュノア家に引き取り、男性としてIS学園へと入学させたのだ。

 

 これには同性として織斑一夏と接触し第三世代機である『白式』の機体データ又は、織斑一夏の生体データを手に入れようとする意図と、フランスが男性操縦者のデータから男性でも扱えるISを解析・開発し世界的に優位な地位を得ようとする思惑があった。

 

 成功すれば大金星、失敗すれば破滅・・・・ そんなハイリスク・ハイリターンな手段を取らねばならぬ程、フランスと言う国は追い込まれていた。

 

 そんな中でもシャルロットは男子生徒の『シャルル・デュノア』としてIS学園へと編入を果たし、政府の傀儡として、そして産業スパイとして、本人が望む望まないに関わらず織斑一夏と接触を図っていく事になる・・・・筈だった。

 

 

ーsideシャルロットー

 

「・・・・とまぁ、此処まででなんか間違ってる事はあるか? 『シャルロット・デュノア』さんよぉ?」

 

「・・・・・・」

 

 何も、言葉が出なかった・・・・

 

 色んな思惑があるとは言え漸くIS学園へと入学した初日に、僕の正体が・・・・ 僕に課せられた目的が、その全てが彼には把握されていたのだから。

 

 最初、彼が部屋の前に居た時は理由が分からなかった。そして次に部屋へと入れられ次々と僕の秘密を言われた頃には・・・・ 僕は、考える事を止めていた。

 

 彼、秋風和也は全て知っていた。

 

 僕の正体を、何故男性の真似なんかをしているのかを、政府が何を考えているのかを、僕がどんな立場なのかを・・・・

 

「一応、聞いておきたいんだけど・・・・ その情報は、何時手にしたの?」

 

「少なくも、お前さんが編入して来る前には把握してたな。ウチの情報収集班は優秀でな~。その気になればデュノア社の口座番号や隠し口座はおろか、社長や夫人の隠れた性癖まで調べ尽くせんぞ?」

 

「ア、アハハハッ・・・・ 性癖云々は兎も角、そっか。無茶な事をしてる自覚はあったけど、最初から無理な話だったんだね・・・・」

 

「因みに社長と夫人には、少々露出の気があるらしい。偶に夫婦で下着を身に付けない日が有るらしく、それが家同士のお見合い結婚の決め手だったそうだ」

 

「その情報いるっ!?」

 

 なんで言ったの!? 僕、性癖云々は兎も角って言ったよね!?

 

 と言うか、それを聞いて僕にどうしろって言うのさ!? もうあの人達を普通の目で見れなくなっちゃうよっ!

 

「まぁ社長と夫人の性癖の一部は受け入れて貰うとして、話を続けるか」

 

「性癖の一部って何!?」

 

「デュノア夫婦、隠された3つの性癖の1つ」

 

 まだ有るの?! て言うか受け入れて貰うって、それ事実なの!?

 

 止めて! それはそのまま隠したままにしといて! 僕はもう聞きたくないからっ!

 

「真面目な話、デュノア。俺はお前の秘密云々を、誰かに言うつもりはねぇ。ついでに言えば織斑一夏からデータを盗ろうとすんのも、咎めもしなきゃ止めもしねぇ。好きにしろ」

 

「・・・・えっ?」

 

 それは、どう言う意味・・・・?

 

 彼は僕が学園に来た理由を知っていた。ならそれを咎めたりするのが普通な筈なのに、止めようとすらしない?

 

「それって、どう言う・・・・」

 

「ああ、勘違いすんなよ? だからってお前に俺に関するデータをやるつもりはねぇし、無理に奪おうってぇなら手足切り落とした上で殺してやる」

 

 いや、物騒だよ! 流石に冗談だよね!?

 

「けどな、お前の意思云々はどうであれ折角()()()()()()()()()()場所に来てんだ。そっから何をするか、どうしたいかを決めるのはお前の意思だろ。ならその結果どうなろうと何をしようと結局、全て自己責任だ。だから、俺からはお前を止めたりはしねぇ」

 

 そう言うと彼は、言いたい事を言い切った様に何処からともなくペットボトルを取り出し、喉を潤す様に飲み始めた。

 

 どうしたいかを決めるのは僕の意思。全ては自己責任・・・・ それは、確かにそうなんだろう。彼が言ってる事は何も間違ってはいない。

 

 けれども、僕にはそれ等に逆らうだけの力も何も無い訳で、結局のところどうしたいかなんて決める事も出来はしないんだ・・・・

 

「・・・・とまぁ、お前さんも特に言いたい事も無ぇみてぇだし、真面目な話はこんくらいで良いな。んじゃ次はこれからの取り決めを詰めっか」

 

「・・・・えっ? これからの取り決め?」

 

 さっきまでの雰囲気が嘘だった様に、ふと彼が変な事を言い出した。

 

 と言うか、さっきは僕がする事に干渉しない様な話しをしてたのに・・・・ どう言う事だろう?

 

 ・・・・まさか、自分で言っといてもう忘れたとか無いよね?

 

「・・・・んだよ、その微妙に呆れたみてぇな顔は? 喧嘩売ってんのか?買うぞ? 」

 

「ご、誤解だよ! ただ、どう言う意味なのか分からなかっただけだってばっ!」

 

 あ、危ない・・・・ ちょっとは思ってただけに、余計な反感を買うところだった。

 

 それでも僕の考えてた事にジト目を向けてはくるけど、少しすると彼は軽く溜め息を吐くだけで話を続けてくれるみたいだ。

 

「はぁ~。俺はお前の秘密を知ってる、んで短い間とはいえ同室相手だ。そんな状況でもまだ無理して、そのお粗末な男の格好を続けるつもりか?」

 

「あ、ああ。そう言う事ね・・・・」

 

 確かに、僕自身もこんな簡単な男装で大丈夫なのかって不安には思っていたけど・・・・ 実際に正体を把握してる人に言われるのは傷付いちゃうな~。

 

 と言うより、そう言うって事は・・・・

 

「ええっと、じゃあ・・・・ 部屋に居る間は、男装しなくても良いって事かな?」

 

「まっ、気を抜き過ぎて他の奴にバレなきゃ好きにしたら良いんじゃねぇの? 他にも風呂のタイミング決めたり、部屋に戻る時は事前に連絡を入れるとかそう言うの決めたりってとこか?」

 

 それが本当なら、僕は部屋の中でだけは『シャルル・デュノア』じゃなくて『シャルロット・デュノア』として居られるって事な訳で・・・・

 

 なんでだろう? 最初は怖い相手と思ってたけど、そう言われれば怖いって印象を抱いていたのが間違ってたとすら思えてくる。

 

 もしかすると・・・・ 言葉が悪いだけで、実は優しい人だったりするのかな?

 

「ああ、それと言い忘れてた。俺は織斑一夏が生理的にも嫌いだから、変な事に巻き込むなよ? 巻き込んだら・・・・ デュノア夫妻の性癖を世界的に拡散してやる」

 

「それどんな脅し方なの!?」

 

 そんな脅迫に使える程、あの人達の性癖ってヤバイの!? そっちの方がショック大きいんだけど!

 

「まぁそんな感じに、短い間だろうが付かず離れずな関係で宜しく。・・・・仲良くしようぜぇ~?」

 

「顔っ! それ完っ全に悪人の笑い顔だよっ!」

 

 あぁ、元々不安しかなかった学園生活だったけど、彼と出会った事で余計に不安な学園生活に突入した様な気がするよ・・・・

 

 それでも、一人だけでも自分を偽らなくても良い相手が出来たのは良い事なのかな・・・・?

 

 

ーsideシャルロット outー

 

 

 




 デュノア夫妻に変な性癖を付加してみた。反省も後悔もない。

 和也はシャルロットの秘密を把握しているが、基本的には助けてあげる気はありません。だって地雷案件でしかないし。

 ただ、把握してるだけにシャルロットの知らない事までしっているので、そこからどうするかはシャルロット次第と言った感じにしてみました。

 では、ターンエンド。



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第38話 奪われた希望 ー平和は週一だけー


 この辺りからオリジナル展開・組織要素が含まれて行きます。ご了承下さい。

※9/6 誤字訂正




 

ーside和也ー

 

 シャルロット・デュノアとの同室になって初めての話し合いから一夜明けた翌日。まだ陽も昇らない時間に、俺は女子寮の屋上へと足を運んでいた。

 

 その理由はひとつ、朝のトレーニング前に・・・・・・

 

「・・・・あぁ? 倉持技研が?」

 

『そうそう。何か変な事しようとしてるんだよね~』

 

 朝っぱらから連絡を寄越して来た束の相手をする為だ。

 

 と言うか、倉持技研って簪の専用機開発をぶん投げて織斑一夏の専用機開発云々にシフトしたんだろ?

 

 なんでまた、余計な事しようとしてんだか・・・・・・?

 

『本当はかず君には直接関係はないんだけどね。ただ、かず君が気に掛けてるあの娘・・・・』

 

「簪の事か?」

 

『そうそう。なんかその娘にはガッツリ関係て言うかしわ寄せって言うか、被害が行きそうだったからね。取り敢えず教えておこうかなって思った訳ですよ!』

 

 何その、また面倒事が起きそうな情報・・・・

 

 つか、倉持技研と日本のクソ政府はまた簪に対して嫌がらせをする気なのかよ。

 

「・・・・まぁ分かった。折角簪の専用機も完成の目処が立ったのに、余計な横槍が入られんのは気分が悪いからな。頭には入れとくわ」

 

『まぁ束さん的にも多少なりとも思うところがあるからね~。何かあったら言ってくれても構わないよ』

 

「まっ、お前の力を借りる時点でよっぽどの事態だけどな」

 

 出来れば余計な負担にはなりたくねぇし。

 

 それでも聞かされた情報は無視出来ねぇ内容だな・・・・ 早速今日の内に簪から探ってみるか。

 

「しっかし、今回はそんだけを伝える為に連絡して来たのか? なんだ、寂しくでもなったか?」

 

『まぁかず君に会えないのは寂しいけど、それは他の娘達も一緒だから控えるけどね~』

 

「本音は?」

 

『めっちゃ寂しい。ハグしてクンカクンカしてペロペロしたいですはい』

 

「ハグ以降は自重しやがれマジで」

 

 犬か! どっちかってぇと兎だろうがお前!

ウサミミを犬耳に変えるフラグは止めろ!

 

『あっ、それで本題の方なんだけどね。フランスに行ってるスーちゃん達からの連絡で、なんでもーーーーーだって』

 

「・・・・マジかよ」

 

 おいおいおいおい・・・・ そっちもそっちで頭痛がしてくる事態じゃねぇか。

 

 こりゃデュノアの奴に発破掛けるか? いや、それをしてやる義理はねぇんだが・・・・ 流石に事情も事情なだけに、どうしてやったもんか。

 

『一応二人もタイムリミットまでは向こうに居てくれるみたいだから、いざって時は直ぐに動けるよ~』

 

「分かった。出来れば関わりたくはなかったんだが、そうも言ってはいらんないか・・・・ 俺も多少の準備くらいはしとく」

 

 なんか此処に来て面倒事が集約し過ぎじゃねぇかね~?

 

 止めてくんない? 俺はそんな巻き込まれ体質とかじゃねぇし、率先して解決してくガラでもねぇんだよ!

 

『まっ、束さんからはこんなもんかな~』

 

「了解。ぶっちゃけ頭が痛くなって来たけど、助かった事にしとくわ」

 

『にゃはははっ☆ そんな辛かったら束さんが何時でもハグして慰めてあげるよ!』

 

「それは帰ったらな。んじゃ、また何かあったら連絡くれや」

 

『ほいほ~い。バイビ~☆』

 

ーーピッ

 

 ・・・・・・はぁ~あ。今月もまた、平和には過ごせねぇんだな・・・・ まだ5月入ったばかりだぞ?

 

 頼むから、少しは静かに過ごさせてくれんかねぇ~?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーー昼休み

 

 平和だった。朝っぱらは束から不吉な情報ばかり与えられたのに、日中はすこぶる平和だった。

 

 ちーちゃんの授業は少なかったし、デュノアは教室じゃ距離取ってくれてるし、織斑一夏はデュノアの方に行って近付いて来ないし・・・・

 

 変な事に巻き込まれない。これが、平和か・・・・!

 

「とは言っても、こっちも多少確認しとかねぇとな~」

 

 そんな平和を満喫しつつ足を運んだのは簪の出現率が高い事で有名な、ご存知整備室。

 

 そんな直ぐには変な事も起きないだろうが、昨日は会ってない事だし簪の様子を見にね?

 

 と言う訳で早速、簪を探してみましょ・・・・・・

 

ーーガッシャーンッ!

 

「お嬢様、落ち着いて下さいっ!?」

 

「止めてかんちゃん!」

 

「なんでよっ! なんでなんでなんでぇーえっ!」

 

 ・・・・さよなら平和。ようこそ面倒事・・・・・・

 

 だから、展開早ぇってんだよっ!?

 

「こいつぁ、どう言う状況だよ・・・・?」

 

「っ! あっきーお願い! かんちゃんを止めてっ!」

 

 のほほんからの声を聞き流しつつ、ゆっくりと目の前の光景を整理しよう。

 

 飛び散った工具類。散らばった書類。そして完成間近な『打鉄弐式』を、血が出る勢いで殴り続ける簪・・・・ って、おいっ!

 

「止めねぇか馬鹿っ! なんでテメェの専用機を殴りつけてんだよっ!」

 

「どうせ、どうせ私なんか・・・・私なんかぁー!」

 

 だぁーもうっ! 全く状況が分からんっ!

 

 つかこいつ素手かと思えば右手にレンチ握ってやがるしっ!? 危ねぇから振り回すな!

 

「面倒くせぇ・・・・! のほほん! 麻酔銃か筋弛緩剤はねぇのか!」

 

「そんなのないよぅ!」

 

「ならスタンガンか電源コード!」

 

「貴方はお嬢様を感電死させるつもりですか!?」

 

 だってそんぐらいしないと止まらねぇだろコレ!?

 

 後ろから羽交い締めにしてんのにブンブン腕を振り回すから、俺だって多少危ねぇんだぞ?

 

 仕方ねぇ、こうなったら・・・・・・

 

「のほほん・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか簪の恥ずかしい黒歴史っ!」

 

「昔かんちゃんが書いてたオリジナルのB・・・・」

 

「それは止めて本音ぇ!?」

 

 簪、暴走停止。

 

 勝因、簪の黒歴史暴露。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・でだ、なんで暴れてたんだよ? 状況が全く分かんねぇんだが」

 

「・・・・・・」

 

「かんちゃん・・・・」

 

 簪の暴走を止めて10分程。既に食堂に行って飯にする余裕もあんまないが、どうにか簪を落ち着かせる事に成功した。

 

 と言うか、あの簪がここまで荒れるって・・・・ 理由は知らんが、よっぽどの事だろ?

 

 しかし、簪は何も喋ろうとしない。幾分か落ち着いたとは言え、まだ冷静に喋れねぇのか?

 

「・・・・はぁ~あ。虚先輩、あんたなら事情知ってんだろ? 悪ぃけど話して貰えっか?」

 

「・・・・分かりました。貴方にも、聞く権利がある事情ですしね・・・・・・」

 

 あら素直。もう少し渋られるとも思ったんだが、嫌にすんなり喋る気になったんだな。

 

 と言うか、なんか虚先輩も嫌に疲れてる様な気がすんが・・・・ 思い過ごしか?

 

「お嬢様の専用機開発が倉持技研によって無期凍結となっているのは覚えていますよね? そして、そんな状況だからこそ打鉄弐式は引き取れた事も」

 

「ああ、だから簪や俺達で完成目指して開発を続けてんだろ?」

 

「・・・・先日、その倉持技研から連絡が来ました」

 

 ・・・・待て待て待て待て。確かに束から倉持技研が不穏な動きしてるって聞いてはいるが、もうか? 既に動き出してやがったってぇのか?

 

「・・・・なんて?」

 

「・・・・簪お嬢様の専用機を回収。『打鉄弐式』は解体、『打鉄弐式』の開発プロジェクトは凍結。以後は男性操縦者から得たデータを元に、新たな機体開発にコアもパーツも使われるそうです。そして、簪お嬢様の専用機受領の件は・・・・ 無期、延期と・・・・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ゛ぁ?

 

「悪い、虚先輩。最後の方だけ、もう一度言って貰えるか・・・・?」

 

 聞き間違いだよな? だって簪は日本の代表候補生、しかも国から専用機を与えられる位に優秀なんだろ?

 

 それが専用機没取に、受領の無期延期とか・・・・ 舐めるにも程があんだろうが・・・・っ!

 

「簪お嬢様の専用機は・・・・ 無期限で、与えられる事がありません・・・・!」

 

「っ・・・・!」

 

「かんちゃぁん・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・良し分かった。

 

 

「・・・・・・そんなに戦争がお望みかクソ政府・・・・!」

 

 その喧嘩、俺が・・・・ ()()が買ってやろうじゃねぇか・・・・!

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 遠退く簪の専用機。そして先の見えない学年タッグトーナメントの開催。

 おい、この間にセシリア救済ルート入んのに・・・・ セシリアの出番何時よ!?

 ヤベ、最初からセシリアは此処で回収するつもりだったとは言え・・・・『金と銀の転校生』から『学年タッグトーナメント』までにやること多過ぎる!? 詰め過ぎた!

 では、ターンエンド。



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第39話 奪われた者ー突き放す意味ー


 すんなり助けないから話が進まないんじゃ・・・・・・

※7/15 誤字訂正。



 

ーside和也ー

 

 ()()()いけすかねぇとは思っていたが、倉持技研のやり方を容認し自国の代表候補生を蔑ろにしてる時点で、今の政府も大概録なもんじゃねぇみてぇだな。

 

 なら、相応のやり方で噛みつかれても文句は言えねぇだろ・・・・?

 

「虚先輩、簪の専用機が回収されんの何時だ?」

 

「・・・・明日の朝には倉持技研から使いが来て、引き取りに来るとの事です。当然、この件に関しては我々も、楯無様も正式に抗議して時間を稼いではいますが、現状では・・・・」

 

 楯無・・・・? ああ、あの生徒会長か。最近は見てなかったから忘れてたわ。

 

 簪とは不仲になってるとは聞いてたが、流石に今回の件はあいつでも腹に据え兼ねるって事か・・・・ だが。

 

「自分達の都合が悪けりゃ平然と消しに来る様な国だ、どうせ意味ねぇだろ・・・・ それより虚先輩。今すぐ『打鉄弐式』の武装の取り外し、それと武装データの全削除だ」

 

「えっ? それは、一体・・・・」

 

「それとのほほん、他の奴等を集めて『打鉄弐式』の解体・・・・ こっちが手を出す前くらいまでバラして、部品も最初の粗悪品に戻してやれ。後、完成間際までに取ったデータはひと欠片も残すなよ」

 

「えっ? あっきー、何言ってるの・・・・?」

 

 

 虚先輩ものほほんも、俺の言葉に意味が分からないと直ぐに動こうとはしない。だが、今はそんな事をしてる時間も無い筈だ。

 

 簪の『打鉄弐式』が手元にある期限は明日の朝まで・・・・ 造る時と違ってバラすだけならどうにか一晩で出来るか?

 

 ああ、それと・・・・・・

 

「おい簪、確認だ。お前さん、倉持技研の奴等に未練はあっか?」

 

 大事な本人確認(簪の意思)も済ませとかねぇとな。

 

「・・・・もう、どうでも良いよ。私はお姉ちゃんと比べて鈍くさいし、専用機もちゃんと作って貰え無い上に奪われて・・・・ 本当にもう、どうでも良いよ・・・・!」

 

 ・・・・・・・・舐めてんな、このガキ?

 

「・・・・・・」

 

ーーグイッ!

 

「っ!?」

 

「ちょ、あっきー!?」

 

「何をしてるの秋風君!? 簪お嬢様を離しなさい!」

 

 何をしてるぅ? ()()()()の事で全部を投げ出そうとしてる馬鹿の胸ぐら掴んで持ち上げてるだけだが?

 

「悲劇のお姫様気取りのとこ悪いが、くだんねぇ事で時間使ってる場合じゃねぇだろうが?」

 

「っ・・・・! 和也に一体、何が分かるのっ! 自分は専用機を幾つも持ってて、お姉ちゃんみたいに好き勝手してて・・・・! 自由も何も奪われた事もない癖にぃ! 勝手な事ばっかり言わないでよ!」

 

 何も奪われた事もない、ねぇ?

 

 はっはぁ~ん・・・・・・ 調子ニ乗ルナヨ、クソガキ・・・・!

 

「グチグチ、グチグチ・・・・ 泣き叫んでりゃあ誰かが助けてくれんのか? 事態が好転すんのか? 全てが元通りになんのか? 随分とお優しい世界に生きてんだなテメェは・・・・ ふざけんなよ、更識簪・・・・!」

 

 専用機が没収される? 世間に認めて貰えない? 自分は変わる切欠すら貰えない?

 

 ・・・・だからどうした?

 

「テメェで立ち上がるどころか抗おうとしねぇ奴が、グダグダ怨み言ほざいてんじゃねぇっ! 泣いてる暇があんなら動いてみろ! どうにもならねぇならみっともなく足掻いてみろ! 怨みがあんならそいつを力にしろ! テメェ如きの不幸なんざ、世の中にゃあ吐いて捨てるくらい転がってんわぁ!」

 

ーーダンッ!

 

「つっ!」

 

「「かんちゃん(お嬢様)!?」」

 

 こいつは、俺が専用機の開発を手伝うって言った時もそうだ。現状にウジウジと閉じ籠って自分は不幸だと言いながら、明確にどうにかしようとしない。変わろうと動いてる様で、動いてない。

 

 抗ってる様に見えて、どこかで諦めて現状を受け入れてる。抗う姿勢を取ってるだけで、心の何処かで知らない誰かに助けて貰う事を待ち望んでる・・・・!

 

 テメェの直ぐ側に、支え様としてくれる奴が居るにも関わらずだ・・・・!

 

「布仏虚、『打鉄弐式』の武装『春雷』と『山嵐』は回収してくぞ。こいつは更識簪の為に造ったもんであって、そこのウジ虫メガネに造ったもんじゃねぇ」

 

「うじ!? あ、秋風君! 貴方自分が何をしてるか分かってるんですか!?」

 

 分かってるさ。少なくともそこの、俺にとっての更識簪()()()奴よりは、よ~く分かってるさ。

 

 だからこそ俺は、更識簪と造ったこいつ(春雷と山嵐)を持って帰るんだ。倉持技研なんてクソ共に悪用されない為にもな・・・・

 

ーーギギギ・・・・ガキンッ!

 

「・・・・無理くり取ったから連結部が折れたか。まぁこんぐらいなら問題ねぇな」

 

「に、弐式の武装が・・・・」

 

 のほほんが・・・・ 布仏本音が、俺が『打鉄弐式』から武装をもぎ取った事に茫然と呟くが知ったこっちゃねぇ。

 

 その間にも俺は回収した武装をそれぞれ拡張領域に収容し、尻餅を着いたまま反論すらしなくなった更識簪へと近付く。

 

「最後の忠告だ・・・・ 専用機を奪われ、今まで協力してくれた奴等の想いすら忘れ、ただ救われる事だけを待ってんな。抗う為にどうすっか、テメェがどうありたいか・・・・ 残された時間で死に物狂いで良く考えろ。それでも分かんなきゃ・・・・ テメェはずっと、無能なままだ」

 

「・・・・・・・・」

 

 反応は、無し・・・・ そりゃ何処かに救って貰いたいって気持ちがあったんだ。今もそれが、心の何処かで自分を救ってくれるとか淡い希望でも抱いてんだろう。

 

 けどな・・・・ ()()()()()には、誰かが救ってくれるなんてクソみてぇな希望はねぇんだよ。

 

 本当の希望はどっかの誰かがくれるもんじゃねぇ。最後に残ったもんの中に在るそれに、本当の希望はあるんだ・・・・

 

 それに僅かでも気付かなきゃ、こいつは進めないし、変われない。

 

 少なくともこいつはまだ・・・・ ()()()()()()訳じゃねぇんだからな。

 

「・・・・それと、さっき言ってたな? 俺は何も奪われた事もない癖にとか・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

 本当は別に話す程の事でもねぇんだが・・・・ そんなに自分が一番不幸とか思ってんなら、少しだけ教えてやろう。

 

「・・・・俺を拾ってくれた組織も、受け入れてくれた人達も、愛してくれた家族も、俺が、秋風和也って人間が生きていたって言う事実すら・・・・ 俺は全て、奪われてる」

 

「・・・・えっ・・・・・・?」

 

 そう、俺は一度全てを失ってる。理不尽な理由で全てを奪われた。

 

 だが、俺の中に残った意思だけは、この想いは、最後まで手放さなかった。今までも、此れからも・・・・

 

 だから今の俺が在り、新しい家族も継ぎ接ぎだらけながら手にする事が出来てる。

 

「良く考えろ。テメェには今、何が残ってる? 何が出来る? 誰が側に居る・・・・ それすら分かんねぇなら、テメェは一生そのままだ・・・・」

 

 こっから先は、更識簪自身が気付くべき事だ。俺が教えるだけじゃ意味がねぇ。それじゃ何時までも、ただ救われるのを待ってるだけだ。

 

 簪・・・・ 頼むから、気付け。お前の周りに居る奴を、お前に残っているものを。そして立ち上がれとは言わない、這いつくばってでも良い。

 

 自分の意思で、本当の意味で抗ってみろ・・・・・・

 

 その為の準備だけは、俺も用意しといてやる。

 

 ちょっと頭に血が行ってキレたりもしたし、完全に嫌われたかも知れないが・・・・ 少なくとも俺は、お前を助けたいとは思ってるんだからな・・・・

 

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 えっ? 直ぐに簪を救うとでも?

 そんな訳ないじゃな~い。なんでもかんでも無条件に優しく救うなんて、それこそ一夏君の役目です。

 と言うか簪って、シャルロットと同じくらい助けて欲しい、きっと何時か誰かが助けてくれる、って無意識に思ってしまってる節があると思うんです。だから今回は、ちょっと突き放す感じにしてみました。

 傷口に塩を塗り込まれて失意の簪・・・・ ぐふっ! 書いてて心に来る・・・・

 ああ、でも救うよ? ちゃんと最後は救ってみせるよ。

 それと今回、一部で簪や虚先輩達をフルネームで呼んでますが、これは和也の中で好感度の変化によって起きた現象です。

 愛称、呼び捨て→懇意、信頼してる対象。
 苗字のみ→その他、観察対象。
 フルネーム→嫌悪、敵意の対象。
 それ以外→興味の対象外。

 こんな感じで和也は呼び方を変えてます。だからセシリアは金髪呼びのままなんですよ。

 なお千冬に関しては束から話を聞き、実際に会った結果で束と同じちーちゃん呼びと言うとこです。

 では、ターンエンド。




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第40話 襲撃の姉ー必殺の卍固めー


※9/9 誤字訂正。



 

ーside和也ー

 

 簪と別れ、幾分かの時間が過ぎた。

 

 正直、少しばかり言い過ぎた気もしなくはない。と言うか間違いなく言い過ぎた。

 

 ただ、言わなきゃいけなかった。

 

 俺如きが偉そうな事を言ったのはお門違いかも知れない。ただそれでも、あの場では俺以外の誰も簪に厳しい言葉で現実を指摘してやれなかった。

 

 だからこそ、俺は嫌われる事になってでも簪に気付かせなきゃいけなかった、分からせなきゃいけなかった・・・・・・

 

 ただそれでも、言い過ぎたよな~? 頭に血が昇ったとは言え、少しばかり強く言い過ぎたよな?

 

 簪、ごめんね?

 

 と、簪に厳しい対応をし過ぎた事を少し反省しつつ、この後にすべき対策を考えてる訳なんだが・・・・・・

 

「・・・・で、なんでお前がこんなとこに居んのよ?」

 

「痛い痛い痛いっ!? ちょっと! 流石にこれは女の子に対する対応じゃないんじゃない!?」

 

 俺、生徒会長から襲撃を受けたの巻。

 

 もっとも完全に頭に血が昇った状態だったから対処は楽だったが、今は簡単に動きを拘束させて貰ってる。

 

 

 卍固めにて。

 

 

「あのなぁ、これでも気ぃ使ってんだぞ? 亀甲縛りで縛るとエロくなるし、コブラツイストじゃ俺に胸が当たるし、キャメルクラッチじゃ流石に可哀想かなって。結果、不必要に胸への接触を避けつつ可哀想にならない手段を取っただけだが?」

 

「それで卍固め!? 何処にも優しさを感じない!?」

 

「胸には一切接触してねぇだろ?」

 

 後は殴ったり投げたり蹴り飛ばしたりとか。

 

 ほら、俺って平和主義じゃない?

 

「何思ってるか分からないけど断言出来るわ。絶っ対、間違ったこと考えてるわよ!?」

 

 なんだとコンニャロー。もう少し力込めて技掛けんぞ?

 

 まぁその傍らで程好く斜めに崩れる胸を凝視してるのは秘密にしとくとして、そろそろ本題を聞き出すか。

 

「で? 結局こんなとこで何してんのお前? 確か今、倉持技研か政府に抗議に行ってんじゃなかったの?」

 

「そ、それより先にコレ解いて貰えないかしら・・・・?」

 

「解いても良いが、暴れないって誓えるならな?」

 

「誓う誓う! 誓うからもう許して! 流石に身体が痛いのよっ!?」

 

 本当だな~? まぁ俺も疲れるからもう良いか。

 

 本当に暴れ直さないかどうか疑問に思いながらも卍固めから解放してやると、生徒会長はドサリと両手両膝を付いた。

 

「うぅ、酷い目にあった・・・・」

 

「どうでも良いけど、早く本題に入ってくんない? これでも暇じゃないんだけど?」

 

 そもそも自業自得じゃん。

 

 それから数分が経ち、身体の痛みが抜けたのか生徒会長は漸く本題に入ってくれる模様。

 

「・・・・倉持技研の方には朝一で私も抗議に行って来たのよ。だけど向こうは、まだ完成もしていない自分達の発明をどう使おうと自分達の自由、って、追い返されたわ・・・・」

 

 えぇ~え・・・・ それが開発を依頼された企業の対応かよ? 言ってる事が完全に裏切ったテロリストとかの言葉じゃねぇか。

 

「そんなんで良く日本が誇る大企業とか言えんなぁ・・・・」

 

「ホントにそうよ。会ったのは副所長だったけど、全く取り付く島もなかったもの」

 

 しかも所長じゃなくて副所長が応対したのか。これはアレか? 所長は対応する気もないと?

 

「それで情けないけど戻って来て、簪ちゃんの様子を見た後に虚ちゃんと『更識』としての対応をしてやろうと思ってたら・・・・ 貴方に簪ちゃんが泣かされてて・・・・」

 

「だからいきなり殺気込めて襲い掛かって来たのかよ」

 

「だ、だって簪ちゃんがあまりにも可哀想過ぎて・・・・」

 

 可哀想たって、そりゃあ俺も言い過ぎた気もしなくないけど・・・・ 簪には必要なことだろうに。

 

 まぁ喧嘩して仲違いしてても、姉としては放って置けなかったんだろ。喧嘩したままだけど。

 

「取り敢えず聞いとくけどよぉ、倉持技研の奴等は簪の専用機没取を撤回する気はなかったんだな?」

 

「ええ、そうみたいよ」

 

「それに対し政府は? 曲がりなりにも簪は日本の代表候補生だろ。自国の代表候補生を軽くあしらってる企業に対して何かないのかよ?」

 

「日本政府も同じ様な対応だったわよ。しかも、私達『更識』に対しても余計な真似はするなって暗に言ってる風だったし・・・・」

 

 つまり、少なくとも倉持技研の奴等は()()()()()()()()()()って事だよな?

 

 ついでに言えば日本政府もそうなんだろうが・・・・ そっちは真意が分かんねぇから保留で良いだろ。

 

 そもそも俺は、()()()()()()()()()()()()()()()しな。

 

「・・・・うん、良し。生徒会長、取り敢えずお前さんは簪ん所に行くか、()()()備えて自分の仕事しとけば良いんじゃね?」

 

「そ、それは直ぐにでも簪ちゃんの側に行きたいけれど・・・・」

 

 なんで渋るんだよ。俺には(殺意込みで)飛び掛かって来た癖に。

 

 チャンスだろ? 精神的には追い詰められてはいるけど、姉として妹の側に行く分になら。

 

 まぁ精神的に追い詰められてる分、一手でも対応を間違えたら余計に溝が深まる危険性はあるけども。

 

「言っとくが、これでもやる事が多いんだ。これ以上はくだらねぇ事に付き合ってらんねぇぞ」

 

「なっ!? 簪ちゃんの事がくだらないって言うのっ!」

 

「違ぇよ馬鹿。簪の問題諸々含めて、やる事があんだよ」

 

 いやマジで、こいつ簪のこと好き過ぎない? 簪が絡むと全く冷静な判断すらしてくれないんだけど。

 

 これは妹に対する深い愛情と見るか、致命的な欠陥とみるか・・・・ ああ、いや。近くに似た様なの(シスコン兎)が居たわ。つまりどっちもだな。

 

「取り敢えず、もう用がねぇならどっか行け。簪ん所に戻んなら・・・・ そうたな、一応忠告だけしとくか」

 

「忠告・・・・?」

 

 正確には、伝え忘れとも言うけどな。

 

「どうしたいか答えが出たなら、22時までに連絡しろってな。俺も今は寮に居る。だから捕まえ易いだろうが、22時を過ぎたら流石にどうにもならんぞ」

 

 出来れば放課後までには答えを出して欲しいってのが本音だ。

 

 だって、明日の朝までなんて明らかに時間が無いだろ?

 

「どうにもって・・・・ まさか秋風君。貴方、この状況をどうにか出来るって言うの?」

 

「この状況はもうどうにも出来ねぇだろ? なら俺が出来んのは、()()()()()()をどうにかしてやる事だけだっての」

 

 まぁ・・・・ 割りと波乱に満ちた状況には陥る可能性が高いけども。

 

 その辺の説明をする時間を踏まえても、出来れば簪には早急に答えを出して頂きたい。

 

「まぁ取り敢えず頼んだぞ。俺はやることあっから寮に戻るわ」

 

 オマケに気付いたら昼休みも終わってやんの。午後の授業はサボりだな、山田先生が泣いてんのが目に浮かぶ。その後ろでちーちゃんが怒ってる姿が浮かぶまでがデフォだ。

 

 だけどゴメンね山田先生。流石に俺も、国際問題に発展しそうな案件を2つ一緒に捌きながら授業は無理だわ。

 

 心の中で涙目の山田先生に謝りつつ、その場に生徒会長を残しながら俺は寮へと戻る。

 

 そのついでにISの個人間秘匿通信を開き、困った時の天災様に連絡を付ける・・・・

 

「・・・・あっ、束? 悪ぃんだけど大至急、今から送るデータの機体組んでくんね? 完成度60%くらいで良いんだけど」

 

 と言うか今回の無茶に関する対価、どんな要求されんだろ・・・・?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 凄いコツコツと書いてたら、完全に蛇足回になってた悲しみ。これで次回も簪が絡むとか・・・・ 簪の話って本当、絡むと話数食うよね。

 今回は特に後書きにネタがないので、そのままターンエンド。




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第41話 同居人との閑話ーこれが血よー

 お久しぶりです。夏祭りシーズンなんてものを乗り越え、二~三日程度の短い盆休みに突入しました。

 余りの間にどこまで書いてたか半分忘れてたよ・・・・

※8/24 誤字脱字訂正




 

ーside和也ー

 

 簪に言い過ぎた説教をし、会長に卍固めをかまし、束にちょっとお願い事をしてから寮の部屋へと戻って()()()準備をするタメに午後の授業は全部サボった。

 

 んな事してれば、ちーちゃん辺りが文句のひとつでも言いに乗り込んで来るかとも思ったが・・・・ 特にそんな事もなかった。

 

 これはアレか? 明日の朝にHRでまとめて文句でも言う気か? まぁたぶん無理だろうけど。

 

 して、学園内にある隠れ家ではなく寮の部屋に戻ったからには相部屋方式な寮の元、必然的に同居人も部屋に帰って来てしまう訳だが・・・・

 

「うぅ・・・・ なんなの? 男の子ってみんなあんなにグイグイ来るものなの? なんで男の子同士なら裸が当然みたいに迫って来るのさぁ~・・・・」

 

 ・・・・何やら同居人の男装少女が、膝を抱えてぶつくさと呪詛を振り撒いてる。

 

 と言うかコイツ、確か今日は織斑一夏に誘われてアリーナでISの操縦訓練してたんじゃねぇの?

 

「・・・・あぁ~あ、デュノア? な~んでお前、帰って来てからんな辛気くさい雰囲気出してんだよ?」

 

「うぅ・・・・ 聞いてよぉ!?」

 

 うおっ!? ビックリしたぁ・・・・

 

 余りにも鬱陶しかったから声を掛けてみりゃあ、迷える子羊よろしくデュノアがすがり付いて来やがったし。

 

 まぁ声を掛けちまった手前、何やら堪ってるみたいだから愚痴くらいは聞いてやるが・・・・ そんな涙目になる程か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言おう。涙目にもなるわ。

 

 なんでも織斑一夏は男子用の更衣室で執拗にデュノアを脱がそうとしていたらしい。

 

 しかもその理由が『男同士だから恥ずかしがる事じゃない』とか、『男同士なんだから裸の付き合いだって普通だろ?』とか、意味不明な理論によるものだったそうな・・・・ しかも、終始イケメン(笑)スマイルを浮かべて。

 

 ・・・・え、何? あいつ、そっち系なの?

 

「あぁ~あ、取り敢えず言っとくが・・・・ 男同士にそんな伝統はねぇ。あったとしても上着を着替える時に羞恥心が薄いくらいだろう?」

 

「だよねだよね! わざわざ互いに裸になる必要はないよね!? 別に男の子同士だから裸を見せ合うとかないよね!?」

 

 ねぇよ。逆に女同士でもそんな習慣があんのか?

 

 つか、本当の性別が女のデュノアにとっちゃ完全にセクハラ案件じゃねぇか・・・・

 

「まぁなんだ。実際の性別もあるが、そこははっきりと拒否しといて良いんじゃねぇのか? もしくはちーちゃんに相談しろよ。織斑一夏に執拗に身体を狙われてるって」

 

「それはそれで僕の正体がバレそうだし相談は・・・・ でも、無理に裸にされそうなのは頑張って拒否してみるよ」

 

 いや、寧ろまだ正体がバレてないと思ってんの? 相手ちーちゃんだぞ? たぶん、とっくに気付いてるから。

 

 だけど教えない。そこまでは面倒みてやれないし。

 

「・・・・ところで、さっきから何をしてるの? 午後の授業も居なかったみたいだし」

 

「あん? これか? まぁちょっと・・・・ 日本有数の企業に喧嘩売る準備」

 

「・・・・・・はい?」

 

 正確には、()()()()に対して喧嘩を売る事にもなるんだが・・・・どっち道、意味は変わらねぇよな。

 

「まぁ気にすんな、そんな大した事じゃねぇし。悪くても、ちーちゃんの仕事が増えるくらいだ」

 

「いや、それ絶対大した事だよね!? 濁してる様で、濁し切れてないからね!?」

 

 良いリアクションだ。やっぱり何かしらリアクションを返してくれるってのは大事だよな~?

 

 ・・・・・・まぁだから、俺もそろそろ現状に対してリアクションはしなきゃいけないんだろうな・・・・

 

「・・・・時にデュノアよ、ちょ~っと聞きたいんだが・・・・・・」

 

「うん? なに?」

 

 因みに俺は現在、机に座ったままノートPCに向いていたから、一度もデュノアの方を振り返っていない。

 

 クエスチョン、それは何故か?

 

「なんでお前・・・・ 部屋に帰って来て、真っ先にズボンを投げ捨てたよ?」

 

 アンサー。デュノアが制服を脱いだまま着替えた気配を感じなかったから。

 

 見てはいない。実際に見てはいないが、衣ずれの音が聞こえなかったから、恐らくちゃんと着替えてはいない。

 

 いや、別に下着姿やら裸程度じゃ狼狽えねぇよ? 家の馬鹿共も風呂上がりに平気で下着姿で彷徨ってたしな。

 

 けどなぁ・・・・ 流石に男装してまで侵入して来た奴がする行動じゃねぇよな!?

 

「えっ? あ、ごめん・・・・ ほら、部屋に居る間は別に男装しなくても良いって言ってくれたでしょ? だからつい、あの人に引き取られる前までしてた楽な格好でも良いかな~?って・・・・」

 

「いや、気ぃ抜き過ぎだろ」

 

 確かに言ったよ。この部屋の中でくらいは男装とかしなくても良い的な事は。ただ、俺は羞恥心まで捨てろとは言ってねぇんだけど?

 

 てかお前、その状態で来客とか来たらどうするつもりなんだよ・・・・?

 

「取り敢えず、お前が思ってたより馬鹿なのは分かった。で、俺は振り返っても問題ねぇのか?」

 

「ばっ!? 馬鹿とか言わないでよ~! これでも気を使って、ちゃんとシャツ()()は着てるんだからねっ!」

 

「気を使ってる要素がねぇよ馬鹿たれ」

 

 デュノアは俺が思ってたより馬鹿だった。そう結論付けながら振り返って、帰宅後のデュノアを視界に捉える。

 

 ・・・・ふむ。シャツはシャツでも赤いティーシャツ、サイズは少し大きめか。後、中々に良いお胸をされている。そして殆どティーシャツ一枚の状態から身体のラインを目線で見るに、下にズボンの類いは無し・・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・良し。

 

「・・・・デュノア、ひとつ良い事を教えてやる」

 

「えっ? な、なにかな?」

 

「・・・・デュノア夫妻、隠れた性癖のひとーつ!」

 

「っ!? ちょ、ちょっと待って! 僕はそれ知りたくないんだけど!? 待って待って待ってぇ!?」

 

 はっはっはっ~。泣いた所で止めねぇよ?

 

 だって俺が思ってた以上に気ぃ抜いてんだもん。

 

 少しは・・・・ 絶望するが良い!

 

「デュノア夫妻は家の中じゃ・・・・ 『裸族』っ!」

 

「知りたくないんだってばぁー!?」

 

 そう言ってやればデュノアの奴は地に手と膝を付き、絶望を知ってしまった様に崩れ落ちた。

 

 『デュノア夫妻、裸族説』・・・・ これは俺が聞いた情報の中で唯一吹き出した、恐ろしい情報だった・・・・

 

 だってモザイク処理されてたけど、実際の写真が資料として添付してあったんだもん。四十過ぎたオッサンの裸体(モザイク有り)データとか、どんな嫌がらせだよっ!

 

 因みにこんな写真を添付した犯人の見当は付いてる。つか、現地に行ってまで調べてんの二人しかいねぇからバレバレなんだよ・・・・!

 

 と、話が逸れたか。取り敢えずそのデュノア夫妻の性癖と目の前のデュノアを鑑みるに、例え愛人の娘であろうとしっかり、血は受け継がれていると言うのが証明された訳だ・・・・・・

 

 裸族の血がなっ!

 

「つぅーかお前、なんで気ぃ使って部屋着がティーシャツのみなんだよ。こっちはてっきり部屋の中でくらいはコルセット外す程度って思ってたんだぞ?」

 

「うっ! だって、これが僕にとって楽な格好だったし、引き取られてからもずっと気が抜けなかったからついつい・・・・」

 

「寧ろ裸族って共通点で絶対意志の疎通出来ただろテメェ等? いやマジで」

 

「ぼ、僕は裸族じゃないよっ! 下着だけは着けてるんだから!」

 

「パンいちは裸族と変わらねぇーから」

 

 つかこっちもそんな情報いらねぇよ。なんだよ、片や家じゃ裸族夫妻と、片や部屋じゃパンいち娘って。

 

 どっちも俺にとっちゃ大差ねぇから!

 

ーーーコンコンコンッ。

 

 と、同居人の濃ゆい血の運命にツッコミを入れてれば、不意に部屋の扉がノックされる音が響く。

 

 時刻は19時を過ぎたところ・・・・ こんな時間に俺かデュノアを訪ねて来る奴なんざ限られる。

 

 まぁ高確率で来そうなのと言ったら、デュノア目当てで織斑一夏ってとこだが・・・・ 今日に関しては別の可能性もある。

 

「おいデュノア、お前ちょっと風呂場に逃げ・・・・」

 

「悪いけど和也、僕お風呂入ってるから一夏だったら後で連絡するって言っといて!」

 

 言うが早く、デュノアが部屋の風呂場に引っ込んだ。ご丁寧に着替えまで持って。

 

 そんな慌てんなら最初からもう少し誤魔化し易い格好しとけよなぁ・・・・

 

 と、そんな事よりこっちのが重要か。

 

「おーう、こんな場所にどちらさんだ~?」

 

『・・・・・・話が、したい』

 

 ・・・・やっぱ簪か。ついでに探ってみりゃあ、もう一人の気配・・・・ たぶん会長か?

 

 てっきり虚先輩やのほほんも来るかと思ったが、大人数で来るのを嫌ったか・・・・ 気遣い、ありがとうございます。

 

 けどこれで、ひとつの問題がどう片付くかが決まる・・・・

 

「・・・・ああ、お前の答えを聞かせて貰おうか」

 

ーーーギィィ・・・・・・

 

 抗う事を選んだか、全てを諦めて決別するか・・・・

 

 その答え、しっかりと聞かせて貰うぞ?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 デュノア夫妻、隠れた三つの性癖のひとつ・・・・ 『家では裸族』!

 はい? シャルロットに裸族(パンいち)は有り得ないとな?

 有り得ないなんて事は、有り得ないんですよ。
 ( ・`д・´)キリッ

 いえ、実際はただの趣味です。デュノア家を隠れ変態の血筋にしたいだけです、はい。

 後、次の話くらいはちゃんと早めに更新したいです、はい。


 では、ターンエンド。



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第42話 迎える者 ー言葉の刃ー

 本当は2話掛かる予定だったけど、面倒だったから無理矢理1話にまとめた。

 お陰で文字数だけは多い。

 たぶん、こんな文字数はもうやんない。

※8/24 誤字脱字訂正




 

 生徒達も登校し、それぞれの教室でHRも始まろうとしている朝の8時。そんな時間に、此処IS学園の搬入口には学園に似つかわしくない白衣を着た集団が訪れていた・・・・

 

「やぁ出迎えご苦労、更識生徒会長殿」

 

「ええ、おはようございます『古井 隆光(ふるい たかみつ)』副所長」

 

 その集団こそ、日本有数のIS技術を誇ると言われる倉持技研からの遣い。倉持技研IS開発部副所長の古井隆光とそのお付き達だった・・・・

 

 それを出迎えるのは学園の生徒会長にして、更識家の当主でもある更識楯無。そしてその後ろに控える従者、布仏虚。

 

 彼等は早朝と言う事もあり互いに挨拶を交わすが、その様子は今の天気の様に決して爽やかではなかった・・・・

 

「それで、本日は一体どの様なご用件で?」

 

「はっはっはっ、これはおかしな事を言われますな。事前に通知はしていた筈ですよ? 我が倉持技研で開発している『打鉄弐式』、()()()()()()()()()()()()()回収しに伺う、と」

 

 そう古井が訝ひた笑みを浮かべて言った瞬間、楯無はその手に掴んでいた扇子を強く握り締めた。

 

 そんな事をわざわざ聞かなくとも、楯無とて古井が学園にまで来た理由など分かっている。聞いたのはあくまで、それに対し何かしら負い目や申し訳無さを抱いているかの確認したかったからなのだが、古井の態度を見る限りそれは限りなく無いに等しいだろう。

 

 それは古井の連れて来た研究員達も同じなのか、揃って何を今更と言わんばかりの態度を取っていた。

 

「そうですか・・・・ しかし、良いのですか? 今『打鉄弐式』を回収しては、日本の代表候補生は未だに専用機を与えられていない事になりますよ? そうなっては政府から開発を請け負った側としても、世間の評価に響くと思いますが?」

 

「言ったでしょ? 今後のIS開発の発展の為だと。それにこれは日本政府も認めている。それはつまり、件の代表候補生に専用機はまだ早いと言われているも同義でしょう?」

 

「へぇ~え・・・・ それは、簪ちゃんの実力が低いと言うことかしら?」

 

「いやいや。あくまでも政府の判断を言ったまでですよ。っと、そう言えば件の代表候補生は生徒会長殿の妹君でしたな? これは失礼をしましたな」

 

 そう言った古井の言葉とは裏腹に、そこに謝罪の意思などない。分かって言っているのだ、本来『打鉄弐式』を受け取る筈だった代表候補生が楯無の妹である簪だと言う事も。

 

 そしてその簪が、ロシアの国家代表である姉の楯無に対し劣等感から来るコンプレックスを抱いている事も。

 

 その上でのこれまでの会話。敢えて挑発する様に、遠回しに簪を侮辱する様に、嘲笑うかの様な笑みを楯無へと向ける・・・・

 

 だが、彼等は知らない・・・・・・

 

「・・・・まぁ良いでしょう。こちらも生徒会の業務が控えてますので、早く用件を済ませてしまいましょう」

 

「そうですな。こちらもかの男性操縦者のデータを解析するのに忙しい身ですからね。雑事は早く済ませてしまいましょう」

 

「っ! ・・・・・・どうぞ此方に。今日はあくまで、()()()()()()()()()と言う理由で学園にいる事をお忘れなきように・・・・」

 

 倉持技研にとって小さな、然れど大きな亀裂へと変わる復讐が、既に始まっていると言う事を・・・・・・

 

 そしてその事に気付く様子もないまま、古井は楯無と虚に連れられ、『打鉄弐式』が準備されているピットへと向かって行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それを知ったのは偶然だった。

 

 男性操縦者、織斑一夏の出現によって開発が流れ、2割程度の完成度で放置されていた『打鉄弐式』。それが完成しそうになっていると・・・・

 

 しかも完成度2割から完成にまで漕ぎ着けたのは件の代表候補生、更識簪が独自に開発を続けていたと言うではないか。

 

 それを聞いた時、古井は思った。たかが学生の小娘が、ふざけるなと・・・・

 

 『打鉄弐式』開発に携わっていた全ての技術者達が『白式』の開発に流れたのは、何も政府からの圧力だけが原因ではない。

 

 造れなかったのだ、『打鉄弐式』に搭載される予定だった第三世代型イメージ・インターフェイスの要、マルチロックオン・システムが。

 

 さらに専用の武装になる連射型荷電粒子砲『春雷』も、独立稼働型誘導ミサイル『山嵐』も、古井達にとっては開発が行き詰まっていたのは楯無ですら知らない事実であった。

 

 そんな折り、自分達が造れなかった物が完成しつつあると聞いた。武装だけでなく、システムまで。それも自分達の半分も生きていない学生によって。

 

 だからこそ苛立った。たかが学生風情が、プロたる自分達のプライドを安易に傷付けた事が。開発を投げ捨てた自分達が、まるで無能だと言われてる様で。

 

 故に、奪う。完成されたとされる技術も、成し遂げたと思っている小娘の希望も。

 

 しかも都合よく大義名分は簡単に作れた。倉持技研が専用機を宛がったとされる男性操縦者への支援と、日本に於ける今後のIS開発の発展の為。そんな綺麗事で、簡単に政治家どもは今回の事を了承した。

 

 唯一所長である女性が反対して来たが、方々への手回しで黙らせた。最早この件に口出しなど出来ないだろう。

 

 そこまでの準備をし、自分達が頓挫した技術が苦もなく完成した形で手に入ると古井は考え、今日この場に居る。

 

 だが・・・・・・

 

「な、なんだこれは・・・・?」

 

 その甘い考え自体、既に間違っていたとは気付かなかった・・・・

 

「なんだ、と言われましても・・・・ ()()()()()()()()()()『打鉄弐式』ですが?」

 

「ふ、ふざけるな! な、なんで・・・・ なんでウチが放置した状態になっている!」

 

 そう楯無によって案内され辿り着いた場所にあったのは、完成間近であった『打鉄弐式』ではない。倉持技研が()()()()()()()()()()の『打鉄弐式』だった。

 

 装着されきってない装甲。特に腕部は内部が剥き出しになっており、技術者側から見てもまだ内部が完成すらしていないの明白だった。

 

 それには技術者達も唖然とし、古井は怒りに満ちた声を楯無へとあげる。しかし・・・・・・

 

「完成間近? おかしいですね、そちらには開発状況などの報告はしていない筈ですが?」

 

「それにこれは、紛れもなく()()()()()()()()()()『打鉄弐式』ですよ? まぁ、()()()()()()()()って言葉が付きますが」

 

 そう言った楯無と虚の言葉に、古井は怒りから顔を赤らめていく。

 

 確かにこれは『打鉄弐式』だ。『白式』の開発、いや、解析前に放置していた時の『打鉄弐式』。それは古井や技術者達も分かる。

 

 だが、『打鉄弐式』は完成間近だった筈。だからこそ方々へ根回しをし、それを奪わんと今日を迎えた筈であったのに・・・・

 

「さて、此方も時間が押してますので、手早く回収の方を済ませて下さいね? 目的の物は目の前にあるのですから」

 

「ふ、ふざけるな! そもそも『春雷』はどうした!『山嵐』は? マルチロックオンシステムは? 既に完成していた筈だ、それも寄越せぇ!」

 

 最早取り繕う余裕すら無くなったのか、古井がそう激昂の声を荒げるや、楯無の視線から温度が引いていく。

 

 その視線はまるで汚いものでも見る様で、古井の後ろに控えていた技術者達の背中に悪寒すら走らせた。

 

 と、そこで楯無が絶対零度の視線のまま口を開こうとした最中、第三者の声がその場へと響く。

 

「そもそもだ。開発コンセプトとネタ提供はそっちだろうが、開発・改訂・完成させたのはこっちだぞ? なんでそれを、三流技術者共にくれてやんなきゃいけねぇんだよ」

 

「っ!? だ、誰だ!」

 

 その第三者から掛けられた侮蔑とも取れる声に、古井は声を荒げて振り替える。そして次に古井を襲ったのは驚きだった。

 

「お、男!? 馬鹿な、なんで此処に織斑一夏以外の男が居る!?」

 

「どーも。IS学園一年一組所属の秋風 和也で~す。好きな物は家族とおっぱい、嫌いな物は日本政府と女尊男卑思想共。得意分野は兵器開発で~す」

 

「あらっ、品がないわね」

 

「秋風君・・・・ もう少し良い自己紹介は出来ませんでしたか?」

 

「相手がまともな奴等だったらな。目の前に居んのは碌でもねぇ部類の奴等なんだから、こんぐらいで充分だろ?」

 

 ケラケラケラ・・・・ と、まるでふざけているかの様な口振りで姿を見せた和也に虚は溜め息を溢し、楯無は『助平』と書かれた扇子で口元を隠す。

 

 全く、想定していなかった存在の登場・・・・ それには古井も先程まで怒りで赤くしていた顔を戻し、驚きから目を見開いて和也を見る。

 

「そ、そんな馬鹿な話があるか・・・・ 政府からは織斑一夏しか男性操縦者はいないと聞いていたと言うのに・・・・」

 

「さて、ね。お宅ら、政府から信用ねぇんじゃねぇの? まっ、俺の知ったこっちゃねぇんだけど」

 

 未だ古井の理解が及ばない。それ程までに古井には二人目の男性操縦者となる和也の存在は全く想定していなかった。

 

 だが同時に、それはチャンスでもあると僅かだが思えていた。

 

 もしも此処で和也の専用機も倉持技研で担当すれば、各国に対し大きなアドバンテージを稼ぐ事が出来る。同時に未公開となっている和也を引き込んだとなれば、回収する筈だった『打鉄弐式』なんかより大きな手柄になるとも古井は考え始めていたのだが・・・・・・

 

 そんな考え自体、考える事が間違いだった。

 

「まぁ取り敢えず、せっかく徹夜してまで『打鉄弐式』を()()()()()()()()()()()()()()()()。さっさと持って帰れよ、三流技術者共」

 

「戻しといた、だと? ・・・・っ!? お前かっ! お前が完成間近だった筈の機体をこんな状態にしたのかっ! ふざけるなよっ! 『打鉄弐式』は我々、倉持技研が開発したものだ! それを勝手に解体するなど許されると思っているのかっ! 『打鉄弐式』は我々の・・・・」

 

「うるせぇよ三流技術者。端っから造るの放棄した癖に、今更好き勝手ほざいてんじゃねぇよ」

 

「なぁっ!?」

 

 冷たい・・・・ 古井にしてみれば和也とは今日が初対面であり、直接的には接点などない筈だった。なのに今の和也からは、まるで積年の恨みでも持っているかの様に冷たく鋭い視線が向けらている。

 

 その視線に沸いた怒りも一瞬にして引くのを感じていると、和也はゆっくりと古井に近付きながら口を開く。

 

「専用機の開発を放り投げ、なんのフォローもしねぇ。挙げ句、蓋を開けて見れば機体に使われてた部品は粗悪品。OSは勿論、武装も全く手付かず・・・・ こんな状態で放置してた奴等が、よく自分達が開発したとか胸はって言えたなぁ?」

 

「うっ・・・・!」

 

「確か、受領した時の完成度が20%くらい・・・・ で、簪が開発を引き継いでから残りの80%を完成させてった訳だが・・・・ 担う割合、普通は逆じゃねぇのか? なんで一個人が一企業より機体造り上げてんだよ。挙げ句お前等、武装に関しちゃそっちじゃ未だに開発すら出来てねぇだろ?」

 

「そ、それは・・・・」

 

 古井に突き付けられる現実。事実、簪に『打鉄弐式』が受領された時に倉持技研が満たしていた完成度は全体の2割。それを簪は一人で7割近くまで完成させ、最終的には和也や学園の有志達の協力で完成にまで漕ぎ着けている。

 

 日本が誇るとされる企業が頓挫し未だ実現も実用化も出来ていない事を、学生達が果たした。それは紛れもない事実であり、この場に於いて古井を追い立てるのには充分な事実でもある。

 

「その上でもう一回聞くけどよぉ・・・・ お前等の何処に、技術者として胸はって『打鉄弐式』造りましたなんて言える要素があんだよ? なぁ、教えてくれよ?」

 

「うっ、ぐぅぅぅ・・・・っ!」

 

 何も言い返せない。何も言い返せる訳がない。ただてさえ今回の接収ですら『打鉄弐式』がほぼ完成したからと言う理由で行った事であり、和也の言う様に技術者としては殆ど何もしていない。

 

 それは古井の連れて来た技術者達も同じであり、和也から視線を逸らす様に顔を背けている。彼等とて、和也から指摘された事は重々に理解した。理解させられた。

 

 その様子は横で見ていた楯無も虚も、指摘した本人である和也も気付いている。気付いてはいるが・・・・ それを気に掛ける様な配慮など、今の和也にはない。

 

「・・・・なんだ、なんも言い返せねぇのか? 少しは反論くらいしてみろよ三流技術者。まぁ結局、自分達の技術力だけじゃ()()()()()()()()()()()()()癖に、日本が誇るなんて下らねぇプライドにすがってるだけの三流技術者共だからな。図星を突かれ過ぎて言い返す言葉すら浮かばねぇか。なぁ、三流技術者?」

 

 そこまで責める様に言われ、もはや古井には和也に対し言い返す言葉すら絞り出す事が出来なかった。

 

 反論しようにも現に和也の言っている事は事実であり、否定しようにも否定出来る材料がひとつもない。

 

 その事に顔を俯かせ歯を食い縛っていると、和也は露骨に溜め息を吐き古井から離れて行った。

 

「はぁ~あ。言うだけ無駄か・・・・ おい会長、『打鉄弐式』はバラし終えたし俺は帰んぞ。後はさっさと引き取らせとけと」

 

「ええ、分かってるわ。・・・・さて、古井副所長。此方も暇ではありませんので『打鉄弐式』を回収の上、手早くお帰り頂けますか?」

 

「・・・・わ、分かっている・・・・・・」

 

 そう力無く答えると古井は引き連れて来ていた技術者達へ指示を出し、『打鉄弐式』の回収を始める。

 

 完成とは程遠い姿となった今の『打鉄弐式』は待機状態にする事も出来ず、機体をコンテナへと積んで帰る事となり技術者達は数人掛かりでコンテナを搬入口まで運ぶ事となった。

 

 そして搬入口で『打鉄弐式』のコンテナを乗って来ていたトラックへと積み、最後に古井が別の車両へと乗ろうとした際・・・・ 最後に和也が言葉を溢した。

 

「しっかし、こんな碌に機体も完成させれねぇのが日本お抱えの企業とはなぁ・・・・ 日本の代表候補生ってのは、随分と可哀想なこった。自力で他の企業を探さねぇと、満足に専用機すら与えられねぇじゃん」

 

「っ!? ぐっ・・・・クソっ!」

 

ーーーダンッ!

 

 そう溢した和也の言葉に古井は怒りに任せドアを閉めると、逃げ出す様に車を発進させた。

 

 もはやこの場に居るだけで・・・・ 和也が口を開くだけで古井の、技術者としてのプライドはボロボロに傷付けられるだけだった。

 

 それは他の技術者達も同じであったが誰一人として和也に反論する事すら出来ず、皆一様に悔しさに顔を歪ませて学園を去るしか出来なかったのだった・・・・・・

 

 

 

 




ーおまけー

 それは、古井達が学園から去って行った後の事・・・・

「そう言えば和也君、ひとつ聞いて良い?」

「あん? なんだよ?」

「さっき自己紹介の好きな物で『おっぱい』とか言ってたけど・・・・ アレ、どう言う意味?」

「どうって・・・・ 言葉通りだけど? 俺、巨乳好きって言うか、単純に胸が好きだし」

「アレ、そのまんまの意味だったの!?」

「因みに貧乳は相手とのフィーリングさえ合えば問題ない。おっぱいに貴賤なし、名言だろ?」

「それは名言じゃなくて、迷言よっ!」

 そんな楯無の中で微妙に和也の評価が下がる様な一幕があったそうな・・・・




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第43話 簪の脱退 ーアフターケアー


 1話で収まらなかった・・・・




 

「えっ、と・・・・ 更識さん? これは一体、どう言う冗談かしら?」

 

「いえ、冗談なんかじゃありません。私は本気です」

 

 和也が古井達を責め立てている頃、『打鉄弐式』の搭乗者であった簪もまた、別の場所で行動を起こしていた。

 

 わざわざ朝早くから学園を離れ、簪が訪れていた場所。それは・・・・・・

 

「私、更識簪は・・・・ 現時点を以て、日本代表候補生の地位を辞退します」

 

 日本政府の代表候補生養成所、その人事部であった・・・・・・

 

 そこでは施設の一人の職員が、代表候補生である簪から『日本代表候補生辞退』の書類を突き出され、目を点にしていた。

 

「えっと、更識さん? どうして代表候補生を辞退するのかしら? あなたは代表候補生の中でも優秀な成績を修めているし、政府からも専用機の所有を認められているのに・・・・」

 

「政府は所有を認めただけで、私に専用機を渡す気はさらさらありませんでしたよ? それに私個人、もう政府は信用出来ませんから。信用出来ない組織でこれ以上、代表候補生を続けるつもりもありません」

 

 その簪の言葉に職員は余計に驚いた表情を浮かべる。日本政府を信用出来ないと口にした事もそうだが、それ以上に簪がここまではっきりと自分の意思を明確に口にした事がだ。

 

 今の簪には、何を言っても意味がない・・・・ そう思わせる程の意思と静かな気迫が、職員にひしひしと伝わって来る。

 

 職員としては優秀な人材をむざむざと手放す様な事態を回避する事に努めるべきだったかも知れないが、それは決して実を結ぶ事はない・・・・ そう感じてしまったからこそ、渋々とではあったが・・・・

 

「・・・・分かりました、それは此方で受理します。では、更識簪さん。本日を以て貴女は日本代表候補生から解任されますが・・・・ 良いんですね?」

 

 簪の、代表候補生の辞退を受領する他なかった。

 

「はい。もう、後悔も何もありませんから」

 

 そして簪もまた、職員の最終確認を前に、満面の笑顔を以てそれを受け入れた。

 

 更識簪・・・・ 日本代表候補生、脱退。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーside楯無ー

 

 倉持技研の古井副所長に『打鉄弐式』を持って帰らせてから、私と虚ちゃんは生徒会室へと来ていた。

 

 まぁ本当は授業とかあるんだけど、私は生徒会長としての仕事があるから。虚ちゃんは虚ちゃんで、無理に授業へ出なくても問題ない成績だから滅多に文句は言われない。

 

 それに、今回の件で色々と仕事が増えたのは本当だしね。お陰で戻って来てから既に1時間も溜まってた書類に追われちゃってるもの。

 

 ただ、そんな私達を抜きにしても・・・・・・

 

「くぁ~・・・・かぁ~・・・・・・」

 

 (和也君)は、ちゃんと授業に出なきゃ駄目なんじゃないかしら?

 

 確かに、古井副所長達に一泡吹かせる為に和也君は徹夜してまで『打鉄弐式』を解体してたけど、一応此処って生徒会室なのよ? 学園の中枢のひとつよ?

 

 なのに今は本音ちゃんが置いてたぬいぐるみのひとつを抱き枕にして、生徒会室のソファーでグッスリお昼寝中?

 

 ・・・・・・と言うか、なんで此処で寝てるのよ・・・・?

 

「・・・・はぁ~。虚ちゃん? なんで彼が此処で寝てるのかしら?」

 

「さぁ・・・・? 何分、凄い自然な流れで生徒会室まで付いて来た上に、流れる様に本音のぬいぐるみを掴んで寝てましたからね・・・・」

 

「私も気付いたらぬいぐるみを抱いて寝てたからツッコミが遅れたのよねぉ・・・・」

 

 と言うか教室に行って授業受けなさいよ、授業。また山田先生が泣いちゃうわよ?

 

 そもそもなんでぬいぐるみ抱いて寝てるのよ? しかもあざとく大きめなぬいぐるみを見つけてるし。オマケに寝息は静かだから最初は私も虚ちゃんもスルーしちゃったし・・・・・・

 

ーーーコンコンッ。

 

 あら? こんな時に来客? 今はまだ授業中な筈だけど・・・・ なぁ~んて、誰が来たかは分かってるんだけどね。

 

「どうぞ、入って良いわよ」

 

「失礼します・・・・」

 

 そう言って生徒会室に入って来たのは、私の可愛い可愛い妹の簪ちゃん・・・・ そう!

 

 可愛い!

 

 妹の!

 

 簪ちゃん!

 

 大事な事だから2回言うわ。いいえ、何度だって言うわよ!

 

「・・・・お姉ちゃん? なんか今、スッゴい馬鹿なこと考えてない?」

 

 ぎくぅ!? な、なんでバレたのかしら?

 

 で、でもまだ簪ちゃんは疑ってるだけだし、今ならまだ誤魔化せるわ。

 

 と言うか、馬鹿なとか言わないでっ!?

 

「そ、そんなことないわよ・・・・ それより、そっちの方は終わったのかしら?」

 

「うん。代表候補生、しっかり辞めて来た」

 

 そう。私達が倉持技研と相対してた時、簪ちゃんは代表候補生を辞退していた。

 

 私に追い付こうと、必死に努力して勝ち取った筈の地位・・・・ それを捨てる結果になった事に、思う所が無い訳じゃない。寧ろ納得してない所だってある。

 

 けれど和也君の話を聞いて、簪ちゃんなりに考えて出した結論。考える時間は明らかに少なかったけれど、それでも今回の結果に至るくらいに、簪ちゃんは倉持技研と日本政府への信用を無くしていた。

 

 そう考えると、政府と繋がりのある私としては微妙に肩身が狭く感じちゃうのよねぇ・・・・

 

「ところで虚さん、和也は?」

 

「ああ、彼でしたらあちらのソファーで寝てますよ」

 

「やっぱり・・・・ 授業、出てなかったんだ」

 

 ああ、簪ちゃんは薄々気付いてはいたのね。和也君が授業サボるって事・・・・

 

「和也、起きて和也」

 

「うぅ・・・・ 後、2時間23分・・・・」

 

 いや、細かいわね。普通は5分とかじゃないの?

 

「お腹空いたのは分かったけど、本当に起きて。と言うか、私だって眠いんだから一人だけ寝ないでよ」

 

 ・・・・あっ、そう言うこと。2時間23分って昼休み迄の時間だったのね。と言うか、午前中は授業サボって寝るつもりだったの?

 

 て言うか、簪ちゃんはよくそれに気付いたわね・・・・・・

 

 そんな事を思ってる間に簪ちゃんは和也君を起こそうと身体を揺すったり、ペシペシと叩いたり、ほっぺをプニプニしたりして・・・・ 5分くらい経った所で、漸く和也君が起きてくれた。

 

「ふぁ~あ・・・・ 眠ぃ」

 

「それ私の台詞でもあるからね? 私だって徹夜で作業して眠いんだから・・・・」

 

「「・・・・これも全部、倉持技研と政府が悪い」」

 

 なんで二人共、そんなに仲良くなってるのかしら? お姉さん、なんか複雑よ・・・・

 

 兎にも角にも、漸くこれで真面目な話が出来るわね。

 

「それで、和也君? 簪ちゃんは代表候補生も辞めて、倉持技研とは正式に縁を切った訳だけど・・・・ これからどうするつもりなの?」

 

 そう。最終的に決めたのは簪ちゃんだけど今回の件、『倉持技研に打鉄弐式を返却する』事と『日本代表候補生を辞める』事を進言して来たのは彼。

 

 その際にアフターケアは確約するって言ってたけど、明確な内容までは聞いてないのよね~・・・・ 二人して打鉄弐式の解体に行っちゃったから。

 

 さて、それについて和也君はどう答えるのかしら?

 

「あ? ああ、その事か。そんなら別の機体用意させてるから、簪にそっち乗って貰おうと思ってる。それにホレ、()()()()()使()()()()()()は入れ換えといたからこっちに有るし」

 

「「「・・・・・・はっ?」」」

 

 えっ? ちょっと待って。簪ちゃんの機体は別に用意されてて、和也君の手にはたぶん拡張領域から出したんだろうISコアが有って、それが打鉄弐式に使われてたコアで・・・・・・ って!

 

「ちょ、それってどう言う事!? と言うか貴方、コアの窃盗は犯罪よっ!?」

 

「窃盗じゃねぇよ。アッチには別のコアが積んであるだけで、問題ねぇし。・・・・まっ、性能もちょっと低くなって絶対に二次移行(セカンドシフト)しない簡易コアだけど」

 

 簡易コアって何!? そんなの聞いた事もないんだけど!?

 

 てか、えっ? 貴方一体幾つISコア持ってるのよ!?

 

「んで簪、こっからちょ~っと相談になんだけどよ・・・・・・」

 

「えっ? あ、うん。何?」

 

「お前・・・・ ウチの所属になんね?」

 

 

 

ーside楯無 outー

 

 

 





 後半部分が長くなって前日潭が収まらなかったばい。

 予定では後1話は簪で引っ張り、その後は漸くセシリアが・・・・・・

 では、ターンエンド。




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第44話 決行前夜ー今夜は寝かせないー


※9/9 誤字訂正。




 

 簪が代表候補生を辞める前日・・・・

 

ーside簪ー

 

 一体どうしたら良いのか?

 

 私はどうしたいのか?

 

 私は、何がしたかったのか・・・・ それがもう、分からなくなってた。

 

「・・・・で、どうすっか決めたのか?」

 

「ええ、だからこうして貴方に会いに・・・・」

 

「お前じゃねぇよ。俺は簪に聞いてんだ、ちょっと黙ってろ」

 

「なっ!? 貴方ねぇ・・・・!」

 

「お姉ちゃん」

 

「うぐっ! わ、分かってるわよ・・・・」

 

 たぶん私は、今みたいに追い込まれなきゃその答えに気付けなかったかも知れない。

 

 いや、もしかすると別の選択肢に気付けたのかも知れないけど・・・・ 私は、この答えの方が良い。

 

「・・・・で、改めて聞くがどうしたいんだ?」

 

「・・・・うん、決まったよ」

 

 最初はお姉ちゃんに追い付きたいって思ってた。その為にいっぱい努力もしたし、代表候補生にもなった。代表候補生としても、割りと優秀な成績だって残した。専用機だって貰えるくらいに認められた。

 

 だけど、突然現れた男性操縦者の専用機開発とデータの解析の為に全てが無駄になって、意地になって一人でも専用機を開発してやろうって躍起になって・・・・・・

 

 この時にはたぶん、ちょっとした復讐心や反抗心みたいな物を自分の中で抱いてたんだと思う。突然現れた男性操縦者にも、専用機開発を投げ出した倉持技研にも、なんのフォローもしてくれない政府にも・・・・ お姉ちゃんにも。

 

 それで尚更、周りの声なんか聞かなくなってた。私を見てくれない奴等とは違う、私だって一人で出来るんだ。私は私の力で、お姉ちゃんに追い付けるんだ! って。

 

 だから、気付けなかった。そんな私の傍に何時も居てくれた人の事を・・・・・・

 

 布仏本音。私の幼馴染みで専属のメイドで、私の事を・・・・ 何時も見ていてくれた、大切な親友。

 

 専用機の開発が上手くいかなくてムシャクシャしてた時も、専用機の開発が凍結された時も・・・・ もっと言えば代表候補生になる為に頑張ってた時も、お姉ちゃんと喧嘩して塞ぎ込んだ時も、気付けば私の傍に居てくれた。私を、見ていてくれた・・・・・・

 

 だから、本当は私がどうしたかったのか。今度は間違えず・・・・・・

 

「私は・・・・ 私は、お姉ちゃんに追い付きたい。私だって出来るって事を、私は無能なんかじゃないって事を・・・・ 私に出来る、私なりのやり方で。今度は・・・・ 力を貸してくれる人と、一緒に。更識楯無の妹じゃない、私を・・・・ 更識簪を、見て欲しいから。だから・・・・」

 

 周りの声に、しっかりと耳を傾けたい。蹲った私の前で手を差し伸べてくれてるんだから・・・・

 

「和也。私に力を、貸してくれる? ううん。力を、貸して・・・・」

 

 自分から、その手を掴む為に動き出すことくらいは出来るようになりたい・・・・

 

 だから今度は私から、和也に力を貸して欲しいと手を伸ばしたんだけど・・・・

 

「・・・・・・・・」

 

 ・・・・なんか、和也の反応がない。

 

 えっ? 私・・・・ 何か間違えた?

 

ーside簪 outー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーside和也ー

 

 確かに、煽ったよ。いい加減うじうじウダウダとしてんなって意味を込めて煽りはしてたよ。

 

 けどな? それにしても・・・・・・

 

「その一言の為に、なんでこんなしちメンドクサイ段取りが必要だったんだか・・・・」

 

「えっ? ちょ、和也?」

 

 長いんだよ! その一言の為にどんだけ説教して話が拗れ続けたと思ってんだよ!

 

 なに? お前は俺にとってヒロインとかそんなんなの? お前に時間を掛けるのは必要経費なの?

 

 ぶっちゃけ、此処に来るまで面倒だったわぁ!

 

「はぁ~あ・・・・ ああ、手ぇ貸すのは問題ねぇわ。にもしたって、もうちょっと簡単に割り切れなかったのかよ・・・・」

 

「うっ! だ、だってぇ・・・・・・」

 

「まぁ大体は、そう言う時に力にもなれず精神的に追い討ちを掛けた簪の身内が悪いんだけどな」

 

「グフッ! この流れで急に痛い所を・・・・!」

 

 つかお前等、何気に一緒に来たのな。仲直りでも出来たの? 今まで散々出来なかったのに、この程度の事で?

 

「まぁ良いわ。んな事より手ぇ貸すのは確定として、もうひとつの方は決めたのかよ?」

 

「もうひとつ?」

 

「倉持技研に未練はねぇかって話だよ」

 

 そう。そもそもその話をしてる最中に今の今まで話が拗れてんだ。そっちが本題であって、ぶっちゃけ簪の意識表明は寄り道なんだよな~・・・・ 口に出したら絶対に怒るだろうから言わないけど。

 

「で、もう一度聞くけど簪。倉持技研に未練はねぇか?」

 

「・・・・未練の意味は?」

 

「倉持技研との縁を切る、打鉄弐式の返還を機に奴等を見限る。今後、奴等にゃ頼らない。そう言う意味だ」

 

 寧ろ、俺がやろうとしてる事を考えるとそうでなきゃ困る。ついでに言えば日本政府との縁、代表候補生の肩書きってのも捨てて貰いたいんだが・・・・ 流石にそこまで望むのは勝手が過ぎるか。

 

「で、どうな・・・・」

 

「倉持技研にはもう未練はない。今回の事で余計に愛想も尽きた。だから縁を切る事に迷いはない」

 

「あ、ああそう・・・・」

 

 いや、決断早ぇよ。お前、今までそんな即決しなかったじゃん。そんなんだから此処まで話が拗れてたってぇのに・・・・

 

 見てみろよ? 会長も今のにビックリして目を丸くしちゃってんじゃん。

 

「まぁ未練が無いってぇなら話は早いか。取り敢えずサクサク進めたいからこの後の事を手短に説明すっとな・・・・」

 

「説明すると・・・・?」

 

「先ず、打鉄弐式をバラします。そりゃあもう、簪が引き取った時の進捗率2割くらいまで」

 

「バラすの!?」

 

「おう。朝までデスマーチでな」

 

 つか、普通にバラすだろ? だって倉持技研の奴等、ぶっちゃけ完成間近だったから回収に来んだろ? だったら嫌がらせも兼ねて、開発始めくらいで返してやんのが当然だろ。

 

 あっ、それと今の流れでついでにアレ頼んでみっかな・・・・?

 

「それと簪」

 

「なに?」

 

「ついでに代表候補生辞めて貰っても良いか?」

 

「なに言ってるのあなたっ!?」

 

「うん、別に良いよ」

 

「えっ、マジで?」

 

「簪ちゃん!?」

 

 マジか。流れで言ったら要望通っちゃったよ。

 

 しかも簪は真顔だし、会長は面白いくらい驚いた顔してるし・・・・ 取り敢えず面白いから撮影しとこ。

 

「てか、マジで? マジで代表候補生辞めて貰っちまって良いのか?」

 

「うん。倉持技研と縁を切る以上、遅かれ早かれ代表候補生の肩書きは邪魔になる筈。だからその肩書きを捨てるなら今しか無いって思ったから」

 

「ちょ、ちょっと待って駄目よ簪ちゃん! 折角努力して掴んだ代表候補生の立場をそんな簡単に捨てたりなんかしちゃ、絶対に後悔しちゃうわよ!?」

 

 それは俺も少しは思う。辞めさせようとしてる俺が言うのもなんだが、ホントにえらく即決してくれたもんだ。

 

 実際の所、後悔や思う所はねぇのか?

 

「ううん、後悔はしないよ。だって私が、そうしたいって思った事だから。色々と考える事はあったけど、それでも自分で決めた事だから・・・・ 私は、後悔なんてしない」

 

「・・・・簪、ちゃん・・・・・・」

 

 ・・・・こりゃ、マジで吹っ切れてんな。これ以上は余計なこと聞くだけ野暮ってとこか・・・・

 

 つか、今までの弱気なキャラは何処行ったんだよ? 若干男らしくもなっちゃって、今までうじうじしてたのが嘘みてぇじゃん。

 

「・・・・んじゃ、時間もねぇ事だしさっさと整備室に行くか。あっ、会長は俺と簪が夜通し整備室使っても問題ねぇように手回しヨロシクな?」

 

「分かった」

 

「えっ、ちょ!? 二人共本気で言ってるの!? 」

 

「そうだけど?」

 

「寧ろそれ以外で、今のお前に出来る事があると?」

 

「二人共、辛辣ぅぅぅっ!?」

 

 いやだって、お前は立場的にも直接手は出せねぇだろ?

 

 簪の姉。日本政府に飼われてる暗部、更識家の党首。IS学園の生徒会長。そんでロシアの国家代表。そんな奴が日本政府の息が掛かった企業の機体に、簡単に手ぇ出しちゃ駄目だろ。

 

 良くて精々、俺等が学園の施設を使うのに、ちょっと身内贔屓な()()()()として手回しをするくらいが妥当だろ。

 

「んじゃ行くぞ簪。今夜は寝かさねぇぞ?」

 

「うん。和也こそ、一人だけ寝かさないからね?」

 

「止めてぇ!? そんなアダルティーな言葉を交わさないでぇ!?」

 

 アダルティーってなんだよ。

 

 こちとら今から朝まで時間制限有りの解体作業デスマーチだぞ? しかも解体しつつ、元の完成度2割に戻すとか余計な作業付き・・・・そんな状況で、一人だけ眠気に負けて眠るだぁ?

 

 させねぇよっ! 俺も簪も、どっちも寝るなんざ許さねぇよ!

 

 行くぞ簪! 俺達のデスマーチはこれからだ!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 と言う感じに、眠気を堪えて朝まで打鉄弐式を解体しつつ完成度2割まで組み直し、簪は簪で代表候補生辞める為の書類を書いて日本政府の代表候補生養成所?だかの施設に行って・・・・・・

 

 いやホント、突貫作業にしては辛かった。ここ暫く面倒事が多かった分、本当に辛かった。

 

「マジでさ? 俺って面倒に巻き込まれて解決する様なキャラじゃねぇと思うんだよ。そんな俺がなんで、こんな事になってんだろ?」

 

「まぁ確かに、和也君はそう言う巻き込まれ系の主人公みたいなキャラじゃないわよね~?」

 

「そうですね。どちらかと言えば、巻き起こす側でしょうしね」

 

 虚先輩、辛辣~。

 

 いやまぁ、言わんとしてる事は分かるし納得もしちゃうけどさ。それでも、言わなくても良いんじゃないの?

 

「どちらにしても、一人だけ寝てるのは許されない。私だって眠いの我慢してるのに」

 

「いやだって、俺の仕事の大半は終わったろ。なら寝ても問題ねぇだろ?」

 

「それでも私が帰って来るのは待ってるべき。私だけが眠気に耐えるとか、理不尽」

 

「・・・・そこに居る二人と簪のメイドたるのほほんは、昨夜は普通に寝てると思うが?」

 

「・・・・お姉ちゃん」

 

「いや、それこそ理不尽よ!?」

 

 良いんだよ、虚先輩は昨夜のデスマーチは知らなかったんだから。となると有罪なのは会長だけにすれば、全て丸く納まる。

 

 会長は尊い犠牲となったのだ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、会長を犠牲に俺が寝てた件も有耶無耶に出来るかと思えば駄目だった。

 

 結局、3時間目から授業に出席させられる羽目に・・・・・・ しかも残り、ちーちゃんの授業があんじゃん。寝れねぇし。

 

 

ーside和也 outー

 

 

 

 




 これで一先ず簪のイベントは取り敢えず終了。いや、簪のイベントって本当に疲れるわ・・・・

 さて漸く、これで放置された金髪に焦点を当てれる訳だが・・・・

 タッグトーナメントの話だけで、一体何人イベントこなさなきゃいけないんだ・・・・
 (  ̄言)

 では、ターンエンド。




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第45話 食堂デビュー ー淑女のお願いー

 また出張に行くのか・・・・




 

ーside和也ー

 

 眠い身体に鞭打って教室に行ったら、入室一発目に出席簿でちーちゃんにぶっ叩かれた。

 

「朝から居ないと思えば、こんな時間に登校とは・・・・ 一応聞いてやる。どうして遅刻した?」

 

「倉持技研ってクソ企業に喧嘩売ってた。それと日本の代表候補生を一人、辞任して貰ってた」

 

「お前ホントに何してた!?」

 

ーーバチコーンッ!

 

 正直に話してやったのにもう一発ぶっ叩かれた。理不尽な。

 

「秋風! 取り敢えずお前は放課後に補習だ! 絶対に逃げるなよ!」

 

「あっ、ぼちぼち新型IS造る構想固めたいからパスで」

 

「そんな意見通るかぁ!」

 

 えぇ~え。ちーちゃんの婚活の予定よりかは固まるだろ?

 

 って、うおっ!? 途端にちーちゃんの背後に阿修羅が! まさか、俺の考えを読んだとでも?

 

「秋風・・・・ 今、お前から猛烈に不快な気配を感じたんだが・・・・ 何を考えた?」

 

「今日は流石に弁当作る暇なかったから、遂に食堂デビューかな~、ってところ?」

 

「せめて誤魔化せ!」

 

ーーバチコーンッ!

 

 いや、ちゃんと誤魔化してんだろ。それにどうせ、誤魔化しても誤魔化さなくても絶対ぶっ叩いてたろ。

 

 流石に3発目は頭に響くな~・・・・

 

「ちぃ! 取り敢えず今は授業中だ、早く席に着け」

 

「はいはいっ・・・・ んじゃ、おやすみ~」

 

「寝るなたわけぇ!」

 

ーーバチコーンッ!

 

 流石に4発目は痛ぇよ!

 

 この後、寝る俺に出席簿を振り落とし続けるちーちゃんとの仁義なき攻防戦は昼休みまで続き、俺は満足に寝る事は出来なかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー昼休み・食堂

 

「つぅ訳で、眠いです。もう帰って寝て良いか?」

 

「「「いや、起きてろよ」」」

 

 そんな眠気を堪えて迎えた昼飯時、今日も我が友人達の反応は冷たい。

 

 あぁ、初めて食堂で買った味噌ラーメン(大盛、野菜マシ)の暖かさが心に染みる・・・・

 

「て言うか眠いってあんた、今度は一体何仕出かしたのよ?」

 

「おいおい、俺が眠いのと何か仕出かしたのはイコールなのか? その認識は悲しいぞ~」

 

「いや、和也は大抵何かしら仕出かしてるじゃないッスか。擁護の余地はないッス」

 

 とんだ先入観と濡れ衣だ。

 

 このぺったんコンビは俺をなんだと思って・・・・ おっとイカン。不意に二人から殺意を感じた。これ以上は考えたら不味い。

 

「別に大した事じゃねぇんだけどな~。ただちょっと、簪に代表候補生辞めて貰っただけなんだが・・・・」

 

「はぁあっ!? 代表候補生を辞めて貰ったぁ!?」

 

「おま、何やってんだよ!?」

 

「馬鹿なんスか!? 和也は馬鹿なんスかっ!」

 

 ヒデェ言われ様。ただ事実を言っただけだし、遅かれ早かれ知られる事だってのに。

 

 まぁ鈴もダリルもフォルテも、それぞれが努力なりして各国の代表候補生になった身だしな。それを軽く辞めて貰ったとか言ったら驚くか。

 

「まぁ今は簪も来てないから詳細は省くが、あのまま日本の代表候補生なんぞしてても簪の才能は死んでたぞ? だから一思いに断ち切って貰っただけだ」

 

「だ、だからって代表候補生まで辞めるなんて・・・・それに、簪は四組のクラス代表でもあるのよ? これからどうするつもりなのよ・・・・」

 

 ああ、そう言えばそうだったな。確か四組じゃ簪がクラス代表だったっけ。

 

 一組と二組に専用機持ちが居て、そん中で未完成ながら専用機持ちだった簪が代表候補生を辞めると一年のパワーバランスが崩れるとでも思ったのか・・・・

 

「つか、簪の専用機なら問題ねぇよ。近々ウチから別の届くから」

 

「「「・・・・・・は?」」」

 

 それに際し簪にはウチの所属、企業代表? ってのになって貰えば良いのか? そうすりゃ代表候補生でなくても専用機持ってて問題ねぇだろ。

 

「ちょ、ちょっと待て和也。別の機体とか軽く言ってるけど、そんな簡単にISが用意出来る訳が・・・・」

 

「問題ねぇよ。ウチの腕利き技術者に頼んだから二、三日中には出来んだろ。ちゃんと第三世代型で」

 

「いや、普通そんな簡単に出来るもんじゃねぇッスよ!?」

 

 出来ます。ウチの天災の手に掛かれば設計図も有って、第三世代のイメージ・インターフェイスのコンセプトも決まってる機体なんぞ簡単に出来ます。

 

 ・・・・その分、帰ってからの対価の請求が厳しくなるからな~。あまりこれ以上は頼まない方向で行こ。

 

「すいません、遅れました」

 

 おっ? この声は我等がお姉様キャラ、サラ先輩ではないか。そう言えばちょっと用事があるから遅れるってフォルテが言ってたな。なら、もう用事は終わったのか?

 

 そう言う事なら、早速挨拶をしなければ!

 

「おう、サラ先輩。ご機嫌麗しゅ・・・・あん?」

 

 途端、サラ先輩の登場で上がった俺のテンションが下がる。ついでに言えば鈴達と話し続けててラーメンの温度も少し下がってた。

 

 普段ならサラ先輩の登場にお姉様ヤッホー!と内心でテンションを上げるんだが、今回はそうはいかねぇ。

 

 なんてったって、麗しきサラ先輩の後ろに・・・・・・

 

「こ、こんにちは・・・・」

 

 何処ぞの金髪(セシリア・オルコット)が控えてやがったからなぁ・・・・!

 

 

ーside和也 outー

 

 

 

ーside鈴ー

 

 遅れて食堂に来たサラさんがセリ、セシ・・・・ セシリア、オルコット? だったか、イギリスの代表候補生を連れて来て、和也の雰囲気が明らかに変わった。

 

 そう言えばこの前の授業で山田先生と模擬戦をした時も、明らかにセシリアへ対しての態度が悪かった気もしたわね・・・・

 

 で、それに今の和也はと言うと・・・・

 

「・・・・・・ズズズゥー」

 

「いや、この状況で普通にラーメン食べ始めるんじゃないわよ」

 

 何事もなくラーメンを食べ始めたし・・・・ それにはサラさんも思わず苦笑いしちゃってんじゃない。

 

「え~と、和也君? 言いたい事は分かるんだけど、取り敢えず聞いて貰えないかしら?」

 

「ズズズゥー・・・・ズルッ。正直、極力、可能な限り、全力で、関わる気がねぇ奴が視界に入ってるもんでしてねぇ・・・・」

 

「まぁ、そう言われるとは思っていたけどね・・・・ けど、それでも少しだけでも話を聞いて欲しいのよ」

 

「クドイですよ、サラ先輩。正直サラ先輩に辛辣な態度は取りたくねぇんだが、これ以上は態度に出させて貰うぞ。それと、ラーメンは単純に冷えて来たから食べるのは止めない」

 

 どんだけ彼女のこと嫌ってんのよ。

 

 いや、確かにラーメンは熱い内に食べる方が美味しいのは分かるけど、だからって態度が露骨過ぎでしょ。

 

 まるで嫌いと明言してる一夏に対する様な態度に、ワタシだけじゃなくダリルやフォルテも和也の事を不思議そうな顔で見てるし。

 

 そう思ってるとサラさんの後ろにいたセシリアが、何やら決意めいた顔をして前に出て来た。

 

「秋風さん、お願いがあります」

 

「聞く意味がねぇ、消えろ」

 

「っ! それでも、どうか! 少しだけでも話を聞いて下さい! お願いします・・・・!」

 

 そう言って、遂には頭まで下げ始めたわね彼女・・・・

 

 それに対して和也は未だに鬱陶しいとでも言いたげに機嫌が悪いし、食堂に居る他の生徒達も不穏な気配にこっちに視線を集め始めてる。

 

 ・・・・あぁーあ、もうっ! 仕方ないわね~。

 

「・・・・はぁ~あ。ちょっと和也、少しくらいなら話聞いてあげなさいよ」

 

「あぁ? けどなぁ鈴、こいつと話なんざする利点は全くね・・・・」

 

「良いから、話くらいしなさい! どんだけ嫌いなのか知らないけど、態々サラさんが連れて来てるくらいよ? それでも嫌って言う訳?」

 

「グッ! そこを突かれると弱ぇんだがなぁ・・・・」

 

 ホント、サラさんに対して口ほど強く出れないわよねコイツ・・・・

 

 そもそも和也って、妙な所で押しに弱い気がすんのよね。前にワタシが泣いてた時も、なんだかんだで気に掛けてくれたし。

 

 なんだろう? グイグイ来るのは押し返せるけど、徐々に押して来るタイプには押し負けるみたいな? ・・・・一応、覚えとこうかしら。

 

「・・・・チッ! 3分だ、3分だけ相手してやる。それ以上は消えろよ」

 

「っ! は、はいっ!」

 

 と、渋々だけど漸く和也が折れたわね? その顔には不満って色が強いけど、箸を置いて話を聞く姿勢をとっただけマシってとこかしら。

 

 ・・・・然り気無くあの短時間でラーメンの麺と野菜は食べきってたみたいだけど。

 

「秋風さんにお願いがあります。私と・・・・ 戦って欲しいのです」

 

「「・・・・は?」」

 

「・・・・ああ?」

 

 ・・・・えっ? なんでそうなったの?

 

 

ーside鈴 outー

 

 




 因みに和也の食堂デビューがラーメンなのは、その時に私が食べたかった物です。味噌ラーメン大盛・野菜マシ、半チャーハン、餃子セットが食べたい衝動に駆られた。

 私はラーメンは味噌ラーメン派です。レトルトならチキンラーメン派ですが。

 んで、漸くセシリアの回収に来れた。この為にセシリアに不遇な扱いを強いて来た訳だが・・・・ アンチじゃないのよ。割りとアンチは好きだけど、セシリアアンチじゃないんですよ。

 ああ、それと和也はぼちぼち一夏君との間に溝を深めて貰わない。

 では、ターンエンド。



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第46話 全身全霊ー淑女の覚悟ー


 お久し振りです。

 なんでか月一で出張に飛ばされて、月の半分は家に居ません。後、日曜が此処二ヶ月殆ど仕事です。

 もうなんか、年内は福音戦までの目標で行こ。


 

ーside和也ー

 

 楽しい筈の昼食を邪魔されてから午後の授業も(寝て)こなし、迎えた放課後。

 

 そこで俺は・・・・

 

「・・・・・・」

 

 第三アリーナの中央で、ISを展開した金髪と対峙していた・・・・ ちーちゃんに言われてた補習はサボる事になったけど。

 

 これ、後で文句言われんのかなぁ・・・・?

 

ーside和也 outー

 

 

ーside鈴ー

 

 昼休みに起きた食堂での一件から早くも放課後。よく分からない理由から勝負を挑まれた和也は今、制服姿のままアリーナの中心でセシリアと対峙している。

 

 その様子を観客席でワタシと食堂で話しを聞いていたダリルとフォルテ、そして今回の切っ掛けを作ったサラさんとで見守ってる。

 

 て言うかね・・・・・・

 

「・・・・ねぇサラさん? なんであいつ、和也に勝負なんか挑んたの? 正直、嫌われてるのに態々頭下げてまで勝負を挑む理由が分からないだけど」

 

「それは・・・・ まぁ、アレだけを見てたら分からないわよね。ただ、私もあそこまでストレートに勝負を挑むとは思わなかったもの」

 

 そう言うとサラさんは疲れた様に軽く溜め息を溢した。

 

 そっか・・・・ サラさん的にもアレは予想外だったんだ・・・・ まぁワタシも回りくどいやり方は嫌いだけど、アレはどうかと思ったし。自分が似た状況になったら気を付けよ。

 

「にしても和也の奴、一向にISを展開しねぇな」

 

「と言うか、なんか喋ってないスか? ここからじゃ聞こえないッスけど、口は動いてるッスよ」

 

 えっ? そうなの? ・・・・・・あっ、ホントだ。なんかセシリアと喋ってるっぽい。

 

 でも良い顔はしてないって事は、基本的には苛ついたままで喋ってるのね・・・・ ホント、好き嫌いだけははっきりしてるわね。

 

 あっ、そんなこと考えてる間に漸く和也がISを展開した。

 

 和也が展開したISはぁ~・・・・ って、げっ!

 

「おっ? 今回はクラス代表決定戦とかで使ってた奴か」

 

「ああ、確か『皐月』とか言ってたやつッスね。なんか見るのは久し振りッスね~」

 

 そう『皐月』。射撃戦が出来ない代わりに近接戦に於いてデタラメな強さを誇ると思ってる和也のISの一機・・・・

 

 ワタシもクラス代表戦前に一夏対策として訓練で戦った事があるけど、アレには手痛い思いをした記憶しかないわ。

 

 ホント絶対防御をぶち抜いて、年頃の女の子を吐かせるってどんな破壊力してんのよ・・・・ アレは流石にワタシと和也だけの秘密にさせたけど。

 

 と、そんな嫌な事を思い出してる間に和也もセシリアと同じ位置まで飛んだわね。

 

 そのセシリアは皐月の姿に何処か不満そうな顔をしてるけど・・・・ さて、一体どうなるのかしらね?

 

ーside鈴 outー

 

 

 

ーsideセシリアー

 

「・・・・前回お使いになったISではないんですね」

 

「生憎、俺も『文月』も気分じゃないからな。文句があんなら戦うことすら諦めろ」

 

「・・・・いえ、失礼しました。此方が無理を言ってるのは重々承知しております、そのままで結構ですわ」

 

 そう、自分が無理を言ってることなど重々に分かっていたこと。それなのに、前回と同じISでだなんて、とても言えるものではありません。

 

 あの日、私が招いた事が原因で生じた彼との大き過ぎる溝・・・・

 

 改めて謝ろうと思った。少しでも溝を埋めようと話し掛けようともした。けれども、どれも結果は散々なもの。彼とはサラさんを介した今日まで、只の一言すら話す事が出来ませんでした・・・・

 

 本来ならもっと粘り強く、少しずつ、本当に少しずつ彼との関係を修復していくべきなのは分かっていますが・・・・ それを、私は堪えられなかった。

 

「んじゃ、とっとと始めようや。ここ2~3日訓練出来てなかったし、準備運動ぐらいにはなんだろ」

 

「・・・・よろしくお願いします」

 

 正攻法で行っては彼と話す事など出来はしない。サラさんに仲介して貰って関係を修復する事も出来ないのは既に知らされてる。

 

 なら、他に出来る事は? 私に残された選択は?

 

ーーセシリア・オルコット対秋風 和也。模擬戦開始まで5・・4・・3・・・・

 

 ・・・・在ったのはたったひとつ。決して誉められた方法でもなく、失敗に終わる可能性も高い手段。

 

 それでも、最後に思い付いた手立てがそれしかない以上、私には選択肢はありませんでした。

 

 そう、それは・・・・・・

 

ーー模擬戦、開始。

 

 戦いの場を介する事で、彼と言葉を交わすと言う事。私にはもう、それしか彼と言葉を交わせる場は思い浮かばなかったのです・・・・・・

 

「墜ちろよ金髪」

 

「クッ!」

 

 模擬戦の開始が告げらると同時に、秋風さんは機体を左右に揺らしながら瞬時加速(イグニッション・ブースト)で近付いて来る。

 

 それに対し私はスターライトMKⅢを構えながら後方に下がり、迫る秋風さんへ攻撃を試みますが・・・・

 

「遅いんだよ!」

 

ーードゴッ!

 

「うぐっ!?」

 

 それよりも早く、秋風さんの振るった拳が腹部へと突き刺さり、勢い良く私を吹き飛ばしました。

 

 まだ距離は十分にあった筈なのに、それを一瞬で縮めるなんて・・・・ 一体どんな機動力をしていますのっ!

 

「・・・・どうした。まさか人に勝負吹っ掛けといて、この程度とか言わねぇよな?」

 

 私に対し拳を打ち抜いた姿勢からゆっくりと構え直しながら、秋風さんが話し掛けて来る。

 

 その声の裏にある感情は怒りか、失望か・・・・ どちらにしても、あまり良い感情は持たれていないのでしょう。

 

「これで終わりな訳ありませんわ。SEはまだ残っています。なれば、これくらいで終われませんもの」

 

「・・・・あっ、そうかい。ならどの程度なのか・・・・・・」

 

ーーガギィン!

 

「・・・・サンドバッグで終わる前に、教えてみろや」

 

 アリーナ中に響く様に、打ち付けられた秋風さんの両の手から金属音が鳴り響く。

 

 ここから先は、私にとっての分岐点。

 

 前回は彼を見くびり、見下し、何も出来ずただプライドも何もかもを打ち砕かれ無様な姿を晒すだけに終わってしまった。

 

 それらの経験を経て自らの過ちを認め心を入れ換えた頃には、私は彼に見る価値すら無いと判断されていた・・・・ その時から満足に視線すら合わせてくれない彼の態度に、私はとても心を締め付けられた。

 

 だからこそ、もう一度私を見て貰いたい。

 

 私は変わったのだと、本当に心を入れ換えたのだと、女尊男卑に惑わされていた頃とは違うのだと・・・・ ちゃんと、見て欲しい。

 

「・・・・ブルー・ティアーズ」

 

 その為にも、今日此処で私は・・・・

 

「・・・・さあ! 私と共に踊りなさい、ティアーズ!」

 

 全身全霊を賭けて、彼にぶつかって見せますわ!

 

 

ーsideセシリア outー

 

 

 



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第47話 最後の一撃 ー淑女の選択ー


 お久し振りです。
 そして新年明けましておめでとうございます。やたら出張に駆り出されてましたが、私は元気です。




 

ーsideサラー

 

 セシリアと和也君の模擬戦が始まって早5分。 既に戦況は、一方的なものになっていた・・・・・・

 

『くっ・・・・ ティアーズ!』

 

 セシリアが両側から攻撃を仕掛けようと2基のブルー・ティアーズに指示を飛ばす。その間に距離を詰められぬ様にとセシリアは()()()()()()()()()()()、自身は和也君から距離を取る。

 

 自身の機動とBT兵器の同時運用・・・・ それはイギリスに居た時にも、学園に入学した際にも分かっていたセシリアの課題。それを僅か数ヶ月で克服して見せたセシリアの努力は、正直に称賛されるものだと思う。

 

 だけど・・・・・・

 

『効くかボケェ!』

 

 セシリアに向かっていた体勢を急速に反転させ、和也君は自身へと砲身を向けていたティアーズの1基へと瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させ近付き、その豪腕を以てティアーズを叩き落とした。

 

 そして1基潰せば残るティアーズのレーザーを振り向きもせず僅かに身をズラす事で躱し、そのまま再度の瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰め残ったティアーズまでもを叩き潰した・・・・・・

 

「・・・・改めて見るとアレだな。あの『皐月』ってIS、距離の詰め方がエゲつねぇな」

 

「出だしで瞬時加速(イグニッション・ブースト)。更に攻撃する時も瞬時加速(イグニッション・ブースト)に、反転にも瞬時加速(イグニッション・ブースト)・・・・ なんて言うか、瞬時加速(イグニッション・ブースト)のバーゲンセールッスね」

 

「しかもアレ、その勢いのまま殴り掛かって来るまでがワンセットだから、喰らったら嫌でも絶対防御まで発動させられるのよね・・・・ ホント、極悪な攻撃よね」

 

 そう皆が口々にする様に、模擬戦が始まってから見せる和也君の動きにセシリアも翻弄されている。

 

 射撃自体は僅かな動きで躱しながら、攻撃の為に動けば瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰めて来る。

 

 しかも移動するタイミングも場所も的確。まるで自身が質量を持った砲弾であるかの様な展開に、セシリアのBT兵器も殆どが落とされてしまった。

 

 今のセシリアに残っているのは手にしたライフルと近接武器の『インターセプター』がひとつずつ。そして残ったBT兵器もミサイルビットが2基のみ・・・・ 最早、彼の機動力へ対抗するには厳し過ぎる状況に陥っている。

 

「セシリア・・・・ 貴女は、此処からどうしようって言うの・・・・?」

 

 この状況然り、セシリアが一体何をしたくて模擬戦を挑んだのか分からない私には、ただ二人の戦いを見守る事しか出来ない。

 

 ただね、セシリア・・・・・・

 

「・・・・ただ戦っても、彼には何も伝わらないわよ・・・・・・?」

 

 このままじゃ貴女は、意味もなく潰されるだけなのよ・・・・・・?

 

ーsideサラ outー

 

 

 

ーsideセシリアー

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・!」

 

 今ので4基目のビットも撃墜・・・・ 残ったのはミサイルビット2基と、手持ちのライフルに役に立つかも分からないインターセプターだけ。

 

 対して秋風さんの方は直撃すら受けていない故に無傷と、瞬時加速(イグニッション・ブースト)の連続使用でSEは多少減ってはいるだろうと言うだけの、状況としては最悪ですわね・・・・!

 

『・・・・まだ続けるのか、正直飽きたぞ』

 

「はぁ、はぁ、当然でしてよ? まだ私にはSEも、戦う為の武器もありますのよ? そんな状態で早々に諦めるなど、代表候補生としても、貴族としてもあってはなりませんのよ」

 

『・・・・強がりだな』

 

 ええ、分かっていますとも。手持ちのカードも、状況が最悪なのも分かっていますとも。

 

 ただそれでも、私は諦めない。諦める訳にはいかない・・・・・・

 

 やっと彼が私を認識してくれている。

 

 やっと彼が口を聞いてくれている。

 

 やっと、私を見てくれている・・・・・・

 

 そんな状態で、早々に諦めなどしたら彼は二度と私を見てもくれない。認識すらしてくれない。そんな事はもう嫌ですわ。

 

 それならば、例え泥臭かろうと最後の瞬間までしがみついてみせますわ・・・・!

 

『・・・・最後の一撃だ』

 

「最、後・・・・?」

 

 そう言うと秋風さんは両手を握ったまま合わせ、私の方へと向けた。それと同時に彼の背後からブースターのかん高い音が響き始めている・・・・・・

 

『飽きた、これは正直な感想だ。だからこの一撃・・・・ 真正面から背部スラスター9基と腕部ブースター2基、脚部ブースター4基の()()()()()()()()使()()による瞬時加速(イグニッションブースト)を使った一撃でこの模擬戦は幕切れだ』

 

「っ! 全、15基・・・・!」

 

 あのただでさえ重過ぎる一撃を、15基ものスラスターで同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

 そんな一撃、例え絶対防御が在ろうと無事で済む筈がありませんわ!?

 

『避けてくれて構わねぇぞ? コイツは相手のSEが全快でも衝撃だけで搭乗者を殺す程度なら簡単に出来る一撃だからな。なんだったら降伏してくれても構わねぇ』

 

 そう。この短時間で身を以て知った事。いくらISの絶対防御が完璧でも、()()()()()()()()()()までは防ぎようがない、と・・・・・・

 

 ならば真正面から来ると言う攻撃を躱すのは当然の行動。正面から受けるなど自殺行為でしかありませんわ。

 

 だからここは、何としても回避して見せ・・・・・・

 

『まっ、()()()()()()()()()()()()()()にゃあ逆立ちしても対抗出来ねぇ一撃だ。恥じゃねぇよ』

 

「っ!?」

 

 ただの、女尊男卑に染まってる輩・・・・・・?

 

 そうです・・・・ 私は何故この場にいますの?

 

 彼に私を見て欲しいから?

 

 彼に口を聞いて欲しいから?

 

 違う、それだけじゃない。私は、あの日にただの女尊男卑の女と思われた評価を覆す為に・・・・ 彼に、認めて私を、私はセシリア・オルコットだと認めて貰う為に・・・・!

 

「・・・・・・」

 

『・・・・それが答えか』

 

 恐怖はあります。防ぐ事が出来なければ良くて重症、最悪は死。そんな分の悪い賭けなんてするべきではないのかも知れない。

 

 ですが! ならばこそ、避けるなんて選択はありません。彼は言いました、これは『女尊男卑に染まった輩』には対抗すら出来ないと。

 

 ならばそれに対抗してみせる事こそが、彼に私を認めて貰う為の最後のチャンスであると・・・・!

 

『なら・・・・ 止めてみろやぁぁぁぁあっ!』

 

ーー(ふぁーいぶっ)!、(ふぉーおっ)!、(すりぃー)

 

 その直後、秋風さんのISからカウントダウンらしきものが響き渡る。

 

 それはこれから攻撃するぞと言う、彼にとって余裕の表れから来る意思表示なのかもしれません。ですが、これから挑む身の私にとっては瞬時加速(イグニッション・ブースト)を相手にする上で攻撃のタイミングが分かるのは幸いかも知れませんね。

 

 ただ・・・・ カウントダウンの音声が妙に幼い声に聴こえたのは気のせいでしょうか? しかも微妙に舌っ足らずな感じの。

 

ーー(つぅ~うっ)

 

 と、そんな事を思っている間にカウントの残りは2。カウントダウンの音声について気になる所ではありますが、気を引き締めなければいけませんわね。

 

 此方の手札はミサイルビット2基とライフル、そしてインターセプターの4つ。この状況は依然として変わりはしませんね。

 

 ですが、それを用いる私の気持ちは、心構えは先とは全く違います。

 

 絶対に、食い止めてみせる。

 

 これは彼から与えられた最後のチャンスかも知れない。そう思えば、この程度の恐怖など乗り越えてみせると己を鼓舞する事が出来ますわ。

 

ーー(わぁーんっ)

 

 さぁ、既に覚悟は決まりましたわ。

 

 この一瞬に全てを賭けて・・・・・・

 

ーー・・・・(ぜぇろぉー)

 

『行くぞ金髪ぅぅぅぅうっ!』

 

 いざ、尋常に勝負ですわっ!

 

 

ーsideセシリア outー

 

 

 





 さて大部久し振りな訳ですが、次回でセシリア戦は終わりです。

 引っ張った、セシリアとの付き合いをだいぶ引っ張った。

 取り敢えずセシリア戦は今月中には更新として、さっさとタッグトーナメントを終わらせたい。
 (* ̄◇)=3

 ああ、その前に簪の専用機か。

 では、ターンエンド。




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第48話 目的成就 ー模擬戦の果てー


 お久し振りです。2回も編集が飛んだ上にリカバリー出来たなかったから不貞腐れてた柳命です。

 ・・・・・・忘れられてるかな~?




 

ーNo sideー

 

 それは、一瞬の事だった。

 

ーー・・・・(ぜろぉ~)

 

ーーゴゥンッ!

 

 アリーナに鳴り響いていたカウントが終わりを告げた直後、観戦席から勝負を見守っていた鈴達の視界から和也の皐月がその姿を消す。それに少し遅れて響く轟音。

 

ーーグワッシャーンッ!

 

 そして次の瞬間には、鉄と何かが砕ける音がアリーナ中へと響き渡った・・・・・・

 

「・・な、一体、何が・・・・?」

 

 最初は何がなにやら分からなかった。先ずは轟音を響かせ和也の姿が消え、次の瞬間には新たな轟音が鳴り響いた。

 

 その轟音の正体を確認する様に視線を動かせば、サラの視界には機体を大破されたセシリアがアリーナの壁へと埋まっている姿が眼に映った。

 

「セ、セシリアッ!?」

 

 この戦いを繋いでしまったサラの眼に映る、後輩であるセシリアの無惨にも似た姿。和也は全身から蒸気の様な煙を出しアリーナの上空に佇んでいる。

 

 次なる言葉をその口から発する前に、サラは弾き出される様に観客席から立ち上がり、アリーナに続くピットへと走り出していた。

 

ーービー! 模擬戦終了。ブルー・ティアーズ、SEエンプティ。勝者、秋風和也。

 

 サラが走り去ってから数瞬、漸く認識したかの様に模擬戦の終了を告げる機械的なアナウンスが無機質にアリーナ中へと鳴り響く。

 

 しかし、そのアナウンスが鳴った所で拍手や喝采が起こる訳でもなく、観客席では座ったまま動かない鈴達3人と、未だ上空で微動だにしない和也が3人へと背中を向けていた・・・・・・

 

「・・・・・・見えたか? 今の」

 

「・・・・ええ、咄嗟にISのハイパーセンサーだけでも部分展開出来たおかげでなんとかね」

 

「と言っても、そんな難しい事は何もなかったッスけどね」

 

 そんな中、サラが居なくなった観戦席ではその場に残った鈴とダリル、フォルテの3人が上空に残る和也へと視線を向け続けていた。

 

 先の決着に際し、3人は和也の話を聞いた直後に自身の専用機のハイパーセンサーを部分展開を用いて起動させていた。その結果、専用機を持たないサラと違って僅かであったがその決定的瞬間を捉える事が出来ていた。

 

 ・・・・とは言っても、瞬時加速(イグニッション・ブースト)はISのハイパーセンサーを起動させても完全に捉える事が出来る物ではない為、その全てを目撃していたと言う訳ではない。

 

 それでも彼女達がハイパーセンサーを介して確認する事が出来たのは・・・・・・

 

「まさか、あんな物騒な説明までしてた最後の決め手が・・・・」

 

「・・・・・・マジでただの突進だったとは思わなかったッスね~」

 

 至極シンプルに、圧倒的な加速力を用いたただのタックルをする和也の姿だった・・・・

 

 そう、和也の言葉に嘘はなかった。ただ皐月の有するブースター全てから瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、単純に一直線に相手へと突撃すると言うもの。

 

 それでもIS一機分の重量を何重にも加速を掛けて突っ込めば、それだけでも間違いなく殺人的な攻撃へと変わるだろう。今回のブルー・ティアーズを大破へと導いた結果がその証明だ。

 

 だが、そんな一撃を受けたブルー・ティアーズの搭乗者であるセシリアが無事であるのか? 本来ならその答えは否だ。

 

 しかし、ひとつだけ思い出して欲しい。彼女達は知らない事だが、和也はIS学園への入学に際して幾つかの誓約を轡木と結んでいる。

 

 それは轡木にとって和也を制御する為の首輪であると同時に、和也にとっても自身が過ごし易く自由に動く為の物。

 

 その中には、確かに存在していた。

 

「・・・・和也の奴、ギリギリでまた瞬時加速(イグニッション・ブースト)で逆噴射させてブレーキ掛けてたわね・・・・・・」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言う誓約が・・・・・・

 

「・・・・・・ぷっ、はぁぁぁぁぁ~あっ。ギリッ、ギリでブレーキ効いたぁ~」

 

ーープッシュ~・・・・

 

 そう和也が深く息を吐いたと同時に、つられた様に皐月の全身の節々から勢い良く白い煙が吹き出す。

 

 そう、肉眼で観ていたサラには気付く事が出来なかったがセシリアに皐月の両拳が当たる直前、和也は攻撃時の真逆となる後進瞬時加速(バックイグニッション・ブースト)を発動させ急ブレーキを掛けていたのだ。そしてその急停止が成功したお陰でセシリアは即死を免れたと言っても良いだろう。

 

 だが、複数の瞬時加速(イグニッション・ブースト)を一点に集中させた一撃。急停止に成功したとは言えその慣性全てまでが止まった訳でもなく、完全に止まる事の出来なかった慣性だけが衝撃波となってセシリアを襲った。

 

 その結果がブルー・ティアーズの大破であり、セシリアの意識を奪いアリーナの壁へと叩き付ける結果となったのだった・・・・・・

 

『ちょっと和也、あんた最後になにやってんのよ』

 

「あん? 鈴? ・・・・ああ、個人間秘匿通信(プライペート・チャンネル)か」

 

 ゆっくりと地上へと降り始めた最中、不意に鈴から届いた声に和也が反応する。話し掛けるなら別に通常の通信でも良かったのだが、何故にプライペート・チャンネルなのか?

 

 その理由が和也には分からなかったが、プライペート・チャンネル越しにもどこか鈴が怒っていると言う雰囲気だけは伝わって来ていた・・・・・・

 

『そんな事よりあんた、なんで最後の最後にあんな物騒な真似したのよ? 直前に止めたみたいだから良かったものの、あんなん直撃してたらマジで洒落にならなかったんだからね!』

 

「えぇ~え・・・・ だってあいつが全然諦めてくんねかったしよぉ・・・・ そもそもこの模擬戦すら俺は本意じゃねぇんだぞ?」

 

『それでもっ! やっちゃっ駄目なもんがあるでしょうがっ! 良いからあんたはその娘連れてピットで待ってなさい! ワタシ達も今からそっち行くから!』

 

「飯の時間か」

 

『説教の時間よ馬鹿っ!』

 

 そう怒鳴りながら言うと勢い良く通信が切れ、和也の耳にキーンっと耳鳴りが残る。チラリと観戦席の方をハイパーセンサーを使って見てみれば、鈴がダリル達を伴ってプリプリと怒りながら移動を始めている。

 

 こりゃマジで怒ってんなぁ~・・・・ と、肩を竦めながら溜め息を吐く様な動きをすると、和也はアリーナの壁に埋まるセシリアへと視線を向けた。

 

「・・・・まっ、アレを前に一歩も退かなかったしな・・・・ めんどくせぇが、運んでやるか」

 

 そう諦め気味に呟くと和也は気絶したままのセシリアの元へと近付いて行く。

 

 最後の瞬間、確かに和也は見ていた。命の危険すらあった自分の攻撃を前に一歩も退こうとしなかったセシリアの姿を。

 

 そして最後の瞬間まで一矢報いてみせると諦めようとしなかった覚悟の籠った眼を・・・・・・

 

 その姿は和也の『女尊男卑の思想に染まった女』と抱いていた認識を、僅かながら改めさせている事をセシリアはまだ知らない。

 

 彼女がそれを知る事になるのはほんの少し後になるのだが、結果としてセシリアはその目的を成就する事に成功した。

 

 僅かであっても、和也に自身の事を認めて貰うと言う事を・・・・・・

 

 

ーNo side outー

 

 

 





 戦闘描写絡むなら三人称形式にしてるけど、逆に速度がだだ落ちする。

 取り敢えず次話からは誰かsideを介すから楽になるけど、あんま真面目テイストは行きたくないな~・・・・・・
 (* ̄◇)=3

 では、ターンエンド。



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第49話 模擬戦後ー実は手遅れ淑女ー


 お久し振りです。世間ではコロナ問題が騒がしい急この頃、マスクなどしてませんが私は元気です。




 

ーside 鈴ー

 

「・・・・で? あんた、なんでこうなったか分かってんの?」

 

「う~ん・・・・・・ 待たせ過ぎて、思ったより鈴の腹が減ったから?」

 

「違うわぁーっ!」

 

 あの模擬戦の後、ワタシ達は直ぐにアリーナのピットへと辿り着いた。

 

 一応釘を刺しといたからかちゃんと和也はピットに残ってたし、セシリアって娘もピットに運ばれてベンチに寝かせられてる。取り敢えずサラさんはそこでセシリアの看病をしてるわ。

 

 で、その後直ぐに和也には正座をさせた訳だけど・・・・・・ こいつは、なんで正座させられてるのか微塵も分かってなかった。

 

「良~い? ワタシも模擬戦をしたこと事態は文句はないわよ。それはあんた達の問題なんでしょうし、詳しく知らないワタシが余計な口は挟む真似はお門違いだったろうしね」

 

「流石は鈴、空気も読めて気も使える出来た女。惚れちゃいそう」

 

「今はふざけない!」

 

「へ~い」

 

 そう、和也がセシリアの模擬戦を嫌々ながら受けたまでは良かった。けどその内容は流石に見過ごせない。

 

「大体、なんで痛め付けるみたいに時間掛けてんのよ! あんたならもう少し簡単に終わらせられたでしょ! しかも最後にあんな物騒な攻撃まで繰り出して・・・・ あんたセシリアを殺す気だったの!?」

 

「大丈夫だ、問題ない。在学生は極力理由なく殺さない契約だから」

 

「そう言う問題じゃないっ!」

 

 しかもそう言うって事は、暗に理由さえあれば殺してたって事じゃない! 一体こいつ何考えてんのよ!?

 

 そもそも多少損壊があったとは言え、最後は衝撃波だけでISを大破させるって一体どんな威力よ! そんなもの普通は人になんか使わないし、それを無理に止めるなんて普通は出来っこないじゃない!

 

「しかも最後にはあんな無茶苦茶な瞬時加速(イグニッション・ブースト)後進瞬時加速(バックイグニッション・ブースト)まで重ねて、あんたまで怪我してたらどうしてたのよ! 瞬時加速(イグニッション・ブースト)中の無理な軌道がどんだけ身体に負担を掛けるか知らない訳じゃないでしょ!」

 

「あれ? これ実は心配されてた? ここで不意打ちな鈴のデレ期?」

 

「デレ期だな」

 

「デレ期ッスね」

 

「違うわぁっ! そこの二人も茶々入れない!」

 

 ついでに和也も、なんか良いもん見たわぁ~、みたいな顔してんじゃないわよ!

 

 そもそもあんな瞬時加速(イグニッション・ブースト)を多発させといてこんなピンピンしてんのかも分かんないって言うのに、なんで誰も疑問に思わないのよ!

 

「まぁフザケんの大概にして、鈴もあんまカッカすんなよ。皐月を使ってる以上、瞬時加速(イグニッション・ブースト)でのダメージはないんだからよぉ。・・・・・・後、もう足崩しても良い?」

 

「ダメに決まってんでしょっ!」

 

 それに、瞬時加速(イグニッション・ブースト)のダメージがない? そんな事ある訳ないじゃない。普通に二重瞬時加速(ダブルイグニッション・ブースト)でさえ身体に掛かる負担が大きいって言われてるのに、それが無い何て有り得ないわよ。

 

 けど、その和也の言葉にダリルとフォルテは何か納得したみたいな顔をしてるわね・・・・・・ どう言うこと?

 

「なぁ和也。それってもしかして、単一仕様(ワンオフ・アビリティ)が絡んでたりすんの?」

 

「おっ? ダリルん正解~。前にちょろっと話してたの覚えてたんだな?」

 

「まぁ流石に和也のISが二次移行(セカンドシフト)機って聞いてれば大体の予想は着いたッスよ」

 

 はぁ? 二次移行(セカンドシフト)機って・・・・はっ?

 

 はあぁぁぁぁぁあっ!?

 

二次移行(セカンドシフト)機!? あんたのISって二次移行(セカンドシフト)なんかしてんの!?」

 

 ちょっと待って、流石にそれは聞いてないわよ! なんでこいつ世界に存在が知られていない上に二次移行(セカンドシフト)機なんて持ってんのよ!?

 

「あぁ、そう言やこの話しした時、鈴は居なかったっけ・・・・ まぁ詳しい部分は省くと、俺の使ってるISは殆どが二次移行(セカンドシフト)機。当然、()()()()()()単一仕様(ワンオフ・アビリティ)が発現してるのもあるって事。OK?」

 

 いや、軽いわっ! なんでそう重要な事を簡単に話してんのよ!?

 

「因みに和也、皐月の単一仕様(ワンオフ・アビリティ)ってどんな機能なんだ?」

 

「そんな派手なもんじゃねぇし、寧ろ地味なもんだよ。単純に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってだけだから」

 

「いや、地味だな」

 

「地味ッスね」

 

「うっせーな。事実とは言え拗ねんぞ」

 

 ホンットに地味。それ単一仕様(ワンオフ・アビリティ)である必要あったの?

 

 けど地味だけど、確かにそれならあの無茶な瞬時加速(イグニッション・ブースト)の連発も納得が行ったけど・・・・ やっぱり地味じゃない!

 

「因みにコレ、常時発動型だから視覚的変化もなくて周りは普通に気付かない。しかも地味に発動してても余計なSEの消費も無いってオマケ付きな有能アビリティなんだぞ?」

 

「「うわっ、ホント有能なのに地味だ・・・・」」

 

 それね。

 

 ・・・・・・って、本題からズレてたわ。確かに和也が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を連発して無茶な軌道をしてた理由は分かったけど、本題はそこじゃないわ。

 

 本題は、どうしてわざわざセシリアにあんな痛め付ける様な真似をし続けてたのかって話しなんだから・・・・!

 

「無茶な軌道をしてた理由は分かったわよ。けどね和也、あんたどうして・・・・」

 

「・・・・・・すいませんが、少しよろしいでしょうか?」

 

 っ!? セシリアに、サラさん? 何時の間に起きたの!?

 

 でもセシリアもサラさんに肩を借りてるし、万全の状態って訳じゃないわよね・・・・?

 

「・・・・よう、お目覚めの気分はどうだ?」

 

「・・・・生憎と、身体中が痛くて清々しいものではありませんわね」

 

「ははッ! そりゃそうだ」

 

 ・・・・少なくとも、お昼の時みたいに険悪な雰囲気じゃないみたいね。そうでなきゃ和也が自分から話し掛ける事はないと思うし。

 

 それでも和也は、セシリアの事をまだどこか見定める様な眼で見続けてる・・・・

 

「・・・・俺は女尊男卑なんてクソみてぇな思想で好き勝手ほざくクソ女は嫌いだ。それこそ視界に入って来るだけでも苛々するくらいにな」

 

「・・・・ええ、それは身を以て理解しましたわ。それこそ、心が押し潰されん程に・・・・・・」

 

 ・・・・実際、辛かったんでしょうね。一夏の時もそうだけど、和也は敵と認識してる相手は無慈悲に切り捨てるって空気が嫌でも伝わって来るもの。それこそ、取り付く事すら許さないって感じに。

 

「それで? 互いに不干渉って言う妥協案まで出してやったのに、なんでお前は俺に付き纏う? わざわざ模擬戦まで挑んで、何がしたかった?」

 

「それは・・・・・・」

 

 ・・・・どうなのセシリア? 模擬戦でISまで壊して、あんたは何がしたかったの? どうしてそこまで和也に拘ったの?

 

 これまであんたを無視して来た和也も、今はちゃんとあんたを見てる。話を聞いてる。何かを見定め様としてる。

 

 ここで自分の思ってる事をはっきり言わなきゃ、それこそ模擬戦までした意味がなくなっちゃうわよ?

 

 応えてみせなさいよ・・・・・・セシリア!

 

「・・・・私は、貴方に赦して欲しかったんです・・・・・・」

 

「・・・・うん?」

 

「「「えっ?」」」

 

 ・・・・はっ? えっ、ちょっと待って・・・・ えっ、どう言う事?

 

 和也もそうだけど、サラさんもちょっと分かんないって顔してるし・・・・ えっ、どう言う事なの? 誰かワタシに説明してっ!

 

「あの日、秋風さんは言いました。私の謝罪は受け取らない、その代わりこの話題は此処までだと・・・・ それ以降はその言葉通り、あの事を蒸し返される事も引き合いに出される事もありませんでした」

 

「(いや、だってマジで興味なかったし・・・・)」

 

 って、思ってんでしょうね・・・・ 顔が引き吊ってるから分かるわ。

 

「ですが、私は秋風さんに本当の意味で謝りたかった。赦して欲しかった・・・・ しかし秋風さんは私を見てくれませんでした、私の話も、声すらも聞いてくれませんでした! 話を聞いて欲しいのに友人として接して欲しいのにそれすら叶わず距離すら縮める事も出来ずにただ時間ばかりが過ぎて行ってその間にも私の心は押し潰される様な痛みに悲鳴をあげてそれでも秋風さんは私を見てもくれずサラさんや皆さんとばかり楽しそうに会話をしてそれを見る度に胸が締め付けられる様な気持ちに苛まれ卑しくも皆さんに嫉妬にも近い感情を抱いてしまいまして・・・・・・」

 

「ちょ、ちょっと待って? 一旦落ち着いて? お願いだから落ち着いて!」

 

 怖いのよ! なんでいきなり呪詛みたいなこと言い出してんの!? 急に病んだみたいに喋りだしたからみんなドン引きしてるじゃない!?

 

 サラさんを見なさい、あんたに肩を貸しながら顔を青くしちゃってるじゃない!

 

 ダリルとフォルテを見なさい。怖がって抱きあってるじゃない!

 

 渦中の和也すら完全にドン引いてる。

 

 そりゃそうよね。なんか決意した雰囲気で模擬戦を申し込んで来て、模擬戦中も決心した意気込みで戦ってた筈なのに・・・・ 和也と話せる様になったらこれよ? 普通に怖いわぁ!

 

 

「鈴・・・・ これ、どうしたら良い?」

 

「いや、知らないわよ・・・・ てか、こうなるまで放置してたアンタの自業自得でしょ」

 

「・・・・助けて」

 

 いや無理よ。正直今すぐにでもこの場から離れたいもの。

 

 ほら、ダリルとフォルテもジリジリとピットの出口に逃げ始めてるわよ? ・・・・・・ワタシも逃げようかな。和也とサラさん置いて。

 

「ああ、申し訳ありません。つい私ばかり話してしまって・・・・ ですが私もあの日の事を猛反し改めて秋風さんに謝罪したいのは事実でして今一度秋風さんとお話を聞いて頂きたいだけなのですただ出来ましたら秋風さんと今度はクラスメートとして秋風さんの友人としての関係を築いていきたいとも思っておりますし秋風さんと秋風さんと秋風さんと秋風さんと秋風さんと秋風さんと・・・・・・・・・・」

 

「怖ぇよ!? マジで助けて鈴! こいつ怖いっ!」

 

「無理無理無理無理っ! ワタシじゃどうも出来ないから!?」

 

「50歳Bカップの女性ですらDカップにしたバストアップ術教えるから!」

 

「それでも無理ぃ!」

 

 ホント無理よ! だって段々とセシリアの眼から光がなくなってるし、黒いオーラすら見えて来てるのよ!?

 

 サラさんも最早涙眼で助けを求めてるけど、ワタシにはどうする事も出来ないから!

 

「わ、分かった、分かったから! 改めてお前の謝罪は受け取るから、いい加減に落ち着いてくれ!?」

 

「ほ、本当ですの? 本当に私の謝罪を改めて受けて頂けますの・・・・?」

 

「お、おう。謝罪は受け取るし、改めてあの日の事は水に流すから。これからはクラスメートとして最低限無視はしねぇから」

 

「最低限・・・・?」

 

「ふ、普通に無視はしねぇからっ! だ、だからこの話は此処までにしよぜ? なっ? お前のISだって修理しなきゃいけねぇんだし」

 

 あ、折れたわね・・・・ いや、今の状況なら和也じゃなくても折れるわ。ワタシだって今のセシリアは耐えられないもの。

 

「で、でしたら今後は私の事は是非ともセシリアとお呼び下さいませんか? 私も秋風さんの事を和也さんとお呼びしますので・・・・」

 

「いや、そこまでは許容したくない」

 

「・・・・・・えっ?」

 

 和也ぁぁぁぁぁぁあっ!?

 

 アンタなんでこの状況で普通に拒否してんのよ!? 一気に絶望したみたいな顔してセシリアの眼からハイライトが消えたじゃない!?

 

 ハイライトが消えた人とか初めて見たけど、冗談抜きで怖いのよ! 早くフォローしなさいっ!

 

「せ、せめて名字呼びからの方が良いかな~? ほら、他の奴等的にもいきなり名前呼びになったら変な勘繰りされるかもしれないし・・・・」

 

「そ、そうですか・・・・ で、でしたら秋風さんから私の名前を呼んで頂いても構いませんか?」

 

「オ、オルコット・・・・」

 

「もう一度」

 

「オルコット・・・・」

 

「もう一度、大きな声で」

 

「オルコットォォォォオッ!」

 

 そう言って和也から三度名字を呼ばれて、セシリアは目を瞑って天を仰ぐ上を向いて震えだしたわ。

 

 それは感激? 感嘆? 感動? ・・・・まぁ、どれにしたって録な事じゃないでしょうね。ただ名字を呼ばれただけでこの反応って・・・・・・

 

「ああぁぁぁ・・・・・・・・ ありがとうございます。これだけで今までの苦しみは晴れましたわ。とても・・・・ ええ、とても晴れやかな気持ちでいっぱいですわ」

 

「そ、そうか・・・・ と、取り敢えず先ず医務室にでも行った方が良いんじゃねぇか? まだふらついてるみたいだし」

 

「そう、ですわね・・・・ では失礼して医務室に行かせて頂きますわ。それでは秋風さん、また明日教室で。ご機嫌よう」

 

「あっ、うん。ご機嫌よう・・・・・・」

 

 そう言い残すとセシリアはサラさんと一緒にピットから出て行ってくれた。

 

 涙眼で助けを求めてたサラさんだけど、肩を貸した状態から抜ける事も出来ずセシリアに連れていかれちゃった訳だけど・・・・ 御愁傷様としか言えないわ。

 

 そしてピットには正座したままの和也とワタシだけが残った・・・・・・

 

 ダリルとフォルテ? 和也が折れた辺りで逃げたわよ。

 

「・・・・ねぇ、和也?」

 

「言わんといて。お願いだから言わんといて」

 

「・・・・アレ、今度からアンタに付き纏うわよ? しかも多分、絶対逃げらんない」

 

「ウソダドンドコドーンッ!?」

 

 嘘じゃないわよ。先ず間違いなく、今までの反動ってレベルじゃないくらいに付き纏って来るわよ・・・・ しかも悪意も悪気もなく。

 

 どうしよう・・・・ 最初は真面目な話しだと思ってたのに、途中から想像以上にセシリアが壊れてた事実だけが残っちゃった。

 

 これ、今後はワタシも巻き込まれるの? あのセシリアに?

 

 ・・・・・・・・・・助けて。

 

 

ーside 鈴outー

 

 

 




 一回データ飛んだのもあるけど、難産だった。いやホント、難産やった。で結果、なんかセシリアが病んでた・・・・ まぁ仕方ない。

 これでセシリアの和解?みたいな事はしたので、日常会ではセシリアも普通に会話に混ざって来れる。混ざった本人が普通かはどうかは知らん。

 しかし、タッグトーナメントの時期は日常会はない。セシリアに普通の会話はないんやぁ!

 では、ターンエンド。



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第50話 面倒事・3つ目 ーHA☆NA☆SEー


 新型コロナ? ハッハッハッ、自重も自粛も関係なく普通に仕事は続いてたが。寧ろ緊急事態宣言で交通量が減って楽だったまである。




 

 

ーside和也ー

 

 恐ろしい物を見た。

 

 先程の模擬戦の結末はこの一言に尽きる。寧ろあんな事になるなんて誰も予想なんか出来ねぇよ・・・・・・

 

「疲れたわ・・・・ なんか訳有りな模擬戦ってのは薄々気付いてたけど、なんでこんな疲れなきゃいけないのよ・・・・・・ これも全部、和也のせいね」

 

 そう言う愚痴は本人が横にいる前で言わないで貰えません?

 

「俺だって疲れたわ。普通に最後は無視からクラスメートって認識に改めてやろうと思ってたのに、あのハイライトの無い眼・・・・ 最後なんか俺が脅されてたみてぇじゃん」

 

 いや、本当にさ。最後は女尊男卑思想とは思えぬガッツと、ビット操作の確かな向上が見れたのは認めてんだよ?

 

 だからそれを踏まえて今後はクラスメート程度には認識を改めて返事くらいは返してやろうって思ってたのに・・・・ 蓋を開ければコレだ。

 

「なんで、あんな病んでたんだろ・・・・? 病まれる動機も理由も分かんねぇよ。別に俺、フラグ建築士とかじゃねぇんだぞ?」

 

「ワタシが知る訳ないじゃない。それとアンタは確かに一夏みたいなフラグ建築士じゃないだろうけど、ワタシから見たら似た様なもんよ?」

 

 どこがよ?

 

「一夏はフラグを建てるだけ建てて自分でへし折って行くタイプだけど、アンタは他所のフラグ建築作業に巻き込まれて勝手に作り替えて完成させてくタイプでしょ? たぶんセシリアだって、アンタが絡まなかったら一夏にゾッコンだった可能性だって大いにあったんじゃないの?」

 

「それ全く別もんだよな?」

 

 と言うか俺は絡んじゃいねぇし。絡まれて巻き込まれただけだっての。謂わば被害者、つまり俺は悪くない。

 

 てかそれなら、上手くやればオルコットのターゲットを織斑一夏に擦り付ける事が出来るんじゃ・・・・ って、鈴? その眼は何かな?

 

「言っとくけど、セシリアを一夏に押し付け様と思っても無理よ。アレ完っ全にアンタをターゲティングしてたもの。女の執念を舐めちゃ駄目よ?」

 

 あっ、もう手遅れですか? そうかそうか・・・・そっかぁ~・・・・・・

 

 なんでだよっ!?

 

 

 

 その後は極力冷たい態度を取ったり無視さえしなきゃ悪い様にはならないと言う有り難~いアドバイスを頂き、鈴とは食堂の近くで別れた。

 

 俺? 寮部屋に備え付けられてる冷蔵庫にまだ食材あるから別に食堂を使わなくても良いし。だからそのまま部屋に直帰で十分。

 

 それに、オルコットのお陰で無駄に疲れたからな。早く部屋に戻ってグダ~ってしたい・・・・ 簪とかオルコットとか、面倒事は暫くお腹いっぱいなんだよ。

 

「そんな訳で、ただいまさ~んっと」

 

ーーガチャ

 

「「あっ・・・・」」

 

「・・・・・・ああ゛?」

 

 ・・・・ステイステイステイ。部屋は間違えて・・・・ない。なら此処は俺とデュノアの部屋だな。

 

 ならどうして・・・・

 

「か、和也・・・・」

 

 此処に、織斑一夏が居やがるんだ・・・・? しかもデュノアもジャージ上下装備のコルセットをパージした状態で。

 

 ・・・・・・・・あっ。コレ、面倒事だ。

 

「・・・・避妊と、事後の換気はしとけよ。んじゃ」

 

「じぃ!? ちちち、違うよ!? そんなんじゃないからぁ!?」

 

「そ、それより和也も()()()()()知ってるんだろ!? だったら力を貸してくれっ!」

 

「寄んなダホォ! 男に抱き付かれる趣味はねぇんだよっ!」

 

 はぁーなぁーせっ! 俺は疲れたんだ! これ以上の面倒事はお腹いっぱいなんだよ! 食あたり起こすぞゴラァ!?

 

 つか織斑一夏ぁ! なんでテメェ真っ先に腰にしがみついた!? 俺にそんな趣味はねぇ! 蹴り飛ばすぞテメェ!?

 

 HA☆NA☆SEー!

 

 

ーーキン☆

 

 

「ひう!?」

 

「「あっ・・・・・・」」

 

 

 

 

ーside和也 outー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーsideシャルロットー

 

「・・・・さて、ちょっとした不幸な事故があったが・・・・・・ で、なんでこうなってんだよ?」

 

 ううっ、やっぱり怒ってるよね? そりゃあ転入初日に巻き込むなって釘を刺されてたのに、見事に巻き込んじゃった訳だし。

 

 ただ、話すのは良いんだけど・・・・・・

 

「そ、それよりも・・・・ 一夏の事は良いの?」

 

「お、おおぉぉぉぉぉぉ・・・・・・」

 

 さ、さっきので一夏がその、こか、股を抑えて蹲ったままなんだけど・・・・・・ やっぱり男の人にとって、アレって痛いのかな?

 

「知るか。いきなり人の腰にしがみついて来やがったのが悪い。俺は抱き付かれるなら女性から抱き付かれてぇノーマルだ、男に抱き付かれる趣味はねぇ」

 

「しょ、正直だね・・・・?」

 

 僕も女だから、あまりそう言う話題は降らないで欲しいな~? 正直、反応に困っちゃうから。

 

「・・・・で? なんでコイツが部屋に居て、お前はお前で正体がバレてんだよ? キリキリ吐けよ、誤魔化しやがったら四の字固め掛けっからな」

 

「確実なダメージを与えに来てるよね!? 一応僕も女の子だって分かってる!?」

 

「胸には触れない様には考慮してんだろ? 前回で卍固めは胸には触れないが、視覚的にエロチックと言う実証を得たからな。まぁ今回も痛みで仰け反ったら胸がエロチックに弾む気がするが、そこは実践によって確認予定」

 

 前回って! 前回って何さ!? 口振り的に女性相手にそれやったの!?

 

 しかも目的が罰よりも、ただ単に胸がどうなるか見たい様な言い分だよね!? そんなにエロチックが重要なの!?

 

「んな事よりさっさと説明しろってんだよ。こちとら今日は疲れてて早く寝てぇんだ、これ以上は四の字固めの執行を早めんぞ」

 

「わ、分かったからそれは止めてよ!?」

 

 ううっ、どうしてこんな四の字固めなんか掛けられる様な事態になっちゃったんだろ・・・・?

 

 

 

 

 

 

 そこから和也には放課後に一夏とアリーナで訓練をしていた事、そこでボーデヴィッヒさんとのいざこざが合った事、そのいざこざはアリーナの監視員の介入で大事になるような事はなかった事、それと更衣室で一夏が山田先生から近々大浴場が使える様になるって話を聞いた事を説明した。

 

「・・・・いや、だから今の話の何処に男装がバレた要素があんだよ? 俺はなんで正体がバレたかって聞いたよな? 分かるか? 分かんねぇなら残念ながら、キャメルクラッチで仰け反って貰おう」

 

「待って待って待って!? まだ途中だから! 此処から正体がバレた理由に繋がるから、キャメルクラッチは待って!? と言うか、なんでそんなにプロレス技に固執してるの!?」

 

「ぶん殴るより傷は残らんけど、確かなダメージは与えられるからに決まってんだろ? 後、胸部観察って言う俺の趣味」

 

「それ後半の方が本音だよね!?」

 

 しかもやろうとしてるプロレス技がなまじイメージ出来る物ばかりだから余計に怖いし、確実なダメージを優先し過ぎでしょ!

 

 えっ? そんな事は良いから早く話せ・・・・? 君のせいでちょくちょく脱線してる事を分かってくれないかなぁ!?

 

「ううっ・・・・ そ、それで一夏が山田先生から近々大浴場が使えそうって話を聞いたんだけど、そしたら一夏がその、て、テンションが上がっちゃったみたいで・・・・ ほ、ほら? 一夏ってお風呂が大好きみたいでしょ?」

 

「いや、知らねぇし。そもそも織斑一夏の趣味趣向に興味はねぇから、さっさと続きはな・・・・・・ いや、ちょっと待て」

 

 うっ! やっぱり和也って結構察しが良いよね。今ので気付いちゃったっぽいし。

 

「・・・・なぁ、山田先生から話を聞いた時、お前は何処に居たよ?」

 

「えっと、更衣室かな・・・・」

 

「織斑一夏は?」

 

「さ、先に更衣室の前で僕を待ってた・・・・」

 

「で、織斑一夏は山田先生の話でテンションが上がったと。そして今のお前の正体がバレてる現状・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 ああ、うん。そりゃあそんな呆れた様な顔するよね。僕も自分が当事者じゃなかったらそんな顔してると思うもん。

 

「織斑一夏、お前・・・・ 同性相手って思ってても、よっぽどの緊急事態でもねぇのに相手が着替えてる場所に突撃はねぇわ」

 

 だよねぇ! 男同士でもそう言うのは無いよね!? 一夏が過剰なだけだよね!?

 

 ううっ、あの時は下着を穿いた後だったから良かったけど、後一歩でも穿くのが遅かったら・・・・ 流石に僕も許容出来なかったよ。

 

「お、おおぉぉぉぉ・・・・ お、俺はただ、男同士なんだから、別に気にする必要はないって・・・・」

 

「男同士以前に、お前のそれは変質者と変わんねぇ言い分だって理解しろや。そもそも会ってから一ヶ月も経ってない奴相手に裸見せて平気な奴なんて普通はいね・・・・ いや、もうこの話は良いや」

 

 うん? なんでそこで今、僕をチラ見したのかな?

 

 ・・・・・・あっ。そう言えば僕、会って2日目くらいには何時もの格好してたっけ・・・・ いや、でもアレは部屋の中くらいは実家からの任務とか気にせず過ごして良いって和也が言ってくれたからで、僕も誰彼構わずする訳じゃないんだよ?

 

 それに実家に居た時も気が抜ける様な状況じゃなかったし、そんな折に部屋の中だけでも自由にしてて良いなんて言われたら・・・・ そう、僕が悪いんじゃない。僕から緊張感を取った和也が悪い。うん、そうに違いない。

 

「つぅーか、んなアホらしい切っ掛けでバレるとかデュノアも運がねぇな。で、さっきの感じ的にコイツにはお前の正体と事情を話したってか?」

 

「う、うん。切っ掛けは兎も角バレちゃったし、騙してたのは事実だからね。正直に話すのが筋かなって思って・・・・・・」

 

 まぁ、着替えを見られるとは思ってなかったけど。寧ろいつか脱がされるんじゃないかって方ばかり警戒してたけど。

 

 それでも今まで騙してたのは事実だから、一夏には僕の正体も騙してた理由も説明はした。そして説明を終えた辺りで和也が部屋に帰って来たんだよね。

 

 そこまでの説明を終えると和也は深々と溜め息を吐いて眉間を揉む様に抑えてる。

 

 なんか、本当に疲れるって言いたげな反応だね・・・・・・ い、一応ごめんね?

 

「うっ。か、和也はシャルルの事情を知ってたんだろ? ならお前も力を貸してくれよ!」

 

 あっ、一夏が復活した。けどまだ微妙に内股だけど・・・・ そ、その~、大丈夫?

 

「チッ! さっきもそんな事ほざいてやがったな・・・・ で、力を貸せとか言ってるがテメェは俺に何を期待してんだよ? 言っとくが俺は基本的に()()()デュノアをどうこうしてやる気はねぇぞ」

 

 そう言えば話を聞き終わった後に一夏が手はあるって言ってたけど、どう言う意味だったんだろう? 聞く前に和也が帰って来たけど、和也の協力があればイケるって事なの?

 

「簡単だ。デュノア社は第3世代機を開発する為のデータがないんだろ? なら和也のISのデータを渡してやればシャルルの目的は達成出来る!」

 

「・・・・ああ゛?」

 

「・・・・えっ?」

 

 

 一夏、それ・・・・・・ 何を、言ってるの・・・・・・?

 

 

ーsideシャルロット outー

 

 

 





 文字数4000字くらいでお腹いっぱいだったから区切りました。一夏君がこんな事を言い出した理由は次回にて。

 と言うか一夏君へのアンチ要素薄いなぁ~。あまり理由なくアンチれないんだよね。これアンチじゃなく冷遇とかのが良いんだか? まぁ次回で少し強めるつもりだけど。

 ではターンエンド。



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第51話 相容れぬ者ー愚かな提案ー


 労災隠しに、当事者不在の話し合い。んで慰謝料問題の握り潰し・・・・ 面倒な事してるなぁ、ウチの会社。

※尚、本編とは一切関係ありません。


 

ーsideシャルロットー

 

 僕は今、一夏の言った言葉の意味が分からなかった。

 

 和也のISの機体データを渡す? それが一夏の言ってたどうにかするって案なの?

 

 分からない。その言葉を口にした一夏の真意が分からないよ。

 

 その証拠に僕だけじゃなくて、和也までも黙り込んじゃって・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・っ!」

 

 いや、違う。額にハッキリと浮かんだ青筋が・・・・・・ これ、絶対に怒ってる奴だぁ!?

 

「・・・・おい、織斑一夏。取り敢えず、そりゃあどう言う意味で言ってんだ? 理由(遺言)を言ってみろや・・・・!」

 

 怒ってる! 耐えてる様に見えるけど、間違いなく怒ってるよ!? だって理由を聞いてる様に見えて、僕にはハッキリ遺言って聞こえたもん!?

 

「デュノア社は第三世代機の開発が出来ていない。それでシャルルを学園に送り込んで第三世代機のデータを手に入れ様とした、それは和也も知ってるんだろ? なら先ずはそれを解決させれば良いんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

「特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。これを利用すればシャルルの身柄は3年は守れる。だけどその間にデータが手に入らないデュノア社が業を煮やして卑怯な手を使わないとも言えないだろ? だからそこで和也の持つISのデータを使うんだ!」

 

「・・・・だから、なんでそこで俺のデータなんだよ・・・・・・!」

 

 ま、増してる。一夏が喋る度に、和也の浮かべた青筋の存在感が増していってる・・・・・・!

 

 なんか一夏が学園の特記事項を覚えてたのも驚きたい筈なんだけど、それ以上に気付いて一夏ぁ! 和也、絶賛お怒りモードだからぁ!?

 

「和也は幾つもISを持ってるだろ? なら一つくらいデュノア社にデータを渡しても問題ない筈だ」

 

ーーぷるぷるぷる・・・・!

 

「・・・・ならテメェのデータをくれてやれば済む話だろうが。なんで俺を巻き込む?」

 

「俺のデータは駄目だ。白式は日本政府から貰った機体だし、千冬姉にも迷惑が掛かる。それに和也はシャルルの秘密を知ってたんだろ? なら友達として、いや男として最後まで力を尽くすのが男の務めってもんだろ!」

 

ーーぷるぷるぷるぷる・・・・!

 

 ふ、震えてる・・・・ さっきからずっと、和也の腕が震えてる・・・・!

 

 取り敢えず一夏が言わんとしてる事は分かったけど、それ以上に今にでも和也が我慢の限界を向かえちゃいそうでそれ所じゃないよぉ!?

 

「・・・・・・最後に、ひとつだけ答えろ。そもそもお前は、これが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと本気で思ってんのか?」

 

 その和也の言葉を聞いて、今までの慌てていた頭が急激に冷静になるのを感じた。

 

 学生の力だけで解決出来る問題・・・・ そう、確かにそうだ。そもそも僕はデュノア社と言う企業から、フランスと言う国からこのIS学園に送り込まれてる。それも本来の性別を偽った、虚偽の情報を正当化させると言う手段で。

 

 そんな国や企業って言う大きな権力を前に、ただの学生である一夏や和也が出来る事なんて何もない筈なんだ。そもそもの相手が悪過ぎる。僕達だけの力じゃどうにか出来る様な問題じゃなかったんだ。

 

 そんな事、冷静になれば直ぐに分かる事だったのに・・・・・・

 

「勿論だ! 皆で力を合わせれば、なんとかなる! シャルルの問題もどうにかして、シャルル本人も俺が守ってみせる!」

 

 どうして一夏は、そこに気付いてくれないの・・・・?

 

 短い付き合いだけど僕の話を信じて、守ろうとしてくれる気持ちは嬉しいよ? こんな状況じゃなかったら白馬の王子様みたいに感じてたかも知れない。

 

 だけど、駄目なんだよ一夏・・・・ この問題は、ただの子供でしかない僕達の力だけじゃ何も解決出来ないんだよ・・・・・・

 

「・・・・もう良い。一周回ってキレるのも馬鹿らし過ぎる」

 

「なら、協力してくれるんだな和也っ!」

 

「んな訳ねぇだろ馬鹿が、脳ミソ沸いてんのかテメェは?」

 

「なっ!? なんでだよっ!」

 

 いや、和也でなくても当然の反応だよ。僕も、一夏も、考えが甘かった。甘過ぎたんだよ。

 

 それに、冷静になったから一夏の言ってた特記事項の穴にも気付いちゃったし・・・・・・

 

「先ずひとつ。覚えてた事は誉めてやるがお前が自慢気に話して特記事項、それはデュノアに対しちゃ意味がない。こいつは代表候補生だぞ? 国から支援され、国に属してるこいつが国からの要請を無視して学園に引き籠るなんか出来やしねぇ。国から帰って来いって命令されりゃあその時点で終わりだ。特記事項なんか何の効果もありゃしねぇよ」

 

「そ、そんな訳ないだろ! 学園の事で忙しいってことにすれば上手く誤魔化すことだって出来る筈だ!」

 

「そもそもデュノアが持ってる専用機は何処のもんだ? フランスの機体、延いてはフランスに割り振られてるISコアだぞ? それを持って引き籠った時点でフランスはコアの盗難って事でIS委員会や学園の上層部を突っついて強行策に出るのが目に見えてる。最悪、そうなった場合のシナリオくらい幾つも用意されてんだろ」

 

「そ、そんな訳・・・・・・!」

 

 そうだね。こうなってる以上、僕を切り捨てる手段やシナリオくらい幾つも用意してるのが普通だよね。

 

 ははっ、笑っちゃうね。現実を突き付けられて冷静になれば、僕には最初から逃げ道なんてなかったって事が嫌ってくらいに理解させられるよ・・・・・・

 

「な、なら尚更和也のISのデータだ! データをデュノア社に送ればシャルルの安全は確保されるだろ!」

 

「で、その実績を盾に更に脅されて他の専用機や果ては学園の機密情報まで盗む様に指示される。断ればスパイの事実を世間に公表するって脅され、受けても切り捨てプランのひとつで何時かは処分される。後に残るのはフランスの代表候補生を騙る犯罪者が、各国の専用機のデータを何処かに送っていたって事実だけだ。・・・・ああ、それとブリュンヒルデの弟たる最初の男性操縦者がスパイ幇助の共犯者だったってオマケも付くか」

 

「俺はスパイの補助なんかしない!」

 

「補助じゃなくて幇助だ。まぁ意味はあんま変わんねぇが・・・・ 現状でしてんだろ。俺のデータを、デュノアに渡そうとして」

 

 うん、そうだね。和也からISのデータを貰うって事は、僕はスパイとしての目的を達成したって事になる。

 

 つまり本当に、他国のISデータを盗んだって十字架を背負う事になるんだ・・・・・・

 

「それでも! それでシャルルを救う方法が見つける時間は稼げるかも知れないんだ! ならやらない手はないだろ!」

 

「もういい加減に理解しろよ馬鹿が。元々一般人とは言え、社会の裏を考えて無さ過ぎだ」

 

 そう、一般人。世界で最初の男性操縦者とか言われてるけど、確かに一夏は元々一般人なんだ。だから世界の裏側で蠢く悪意とかを分かっていない。いや、分かってなくても当然だったんだ。

 

 それなのに、僕は一夏をそんな裏側の事情に巻き込もうとしてた・・・・ ホントに、嫌になっちゃうね。

 

「・・・・もう良い、もう良いんだよ一夏。和也の言ってる事は間違ってない。これは、ただの学生が解決出来る様な問題じゃないんだよ・・・・・・」

 

「そんな・・・・シャルルっ!」

 

 ごめんね、一夏。こんな事に巻き込んじゃったりして。せめて君に話す前に、学園にでも自首してた方が良かったのかもね・・・・・・

 

「・・・・話はもう終わりだな? ならとっとと部屋に戻れ。今日は疲れててもう眠いんだよ」

 

「っ! 和也ぁ! こんなになってるシャルルを、お前は助けようとは思わないのかよっ!」

 

「当たり前だろうが。助ける義理も無ければ義務もない。そもそも()()()()()()()()()を助けるなんざ、何の意味もねぇだろ」

 

「なっ!? お、お前ぇぇぇぇえっ!」

 

「っ!? 駄目だよ一夏っ!」

 

 駄目だ! 逆上して暴力に走っちゃ!

 

ーーパシッ!

 

「なっ!?」

 

「・・・・余計な大振りに、単純な顔面狙い。俺が座ったままとは言え、まだ防ぐのは簡単だったぞ」

 

 い、今の座った状態から一夏の拳を簡単に受け止めた? でもこれで和也が余計な怪我をしなくて良かった・・・・

 

「ぐっ! ううぅ・・・・・・!」

 

「・・・・取り敢えず、とっととこの手を引けよ馬鹿垂れ。なんでまだ力込めてきてんだ」

 

「う、うるせぇ! お前みたいにシャルルの気持ちも考えない薄情な奴は、一回くらいぶん殴らなきゃ気がすまないんだよ!」

 

「・・・・それ、完っ全に八つ当たりじゃねぇか?」

 

 た、確かにそれは八つ当たりだと僕も思うかな・・・・? と、それよりも早く一夏を止めなきゃ!

 

「もう止めてよ一夏! 和也は何も悪くないし、こんな事しても意味ないよ!」

 

「そんな事はない! コイツはシャルルが苦しんでるのに見捨て様としてる、そんな最低な奴なんだ!」

 

「う~わっ・・・・ 人のデータをフランスに勝手な理由で売ろうとしてる奴がなんか言ってるよ」

 

「なんだよっ!」

 

「いい加減にしてよ一夏!」

 

 それと、和也はちょっと黙ってて! 余計に一夏が興奮するから!

 

 取り敢えず一夏は和也から引き離したけど、険悪な雰囲気はそのまま・・・・ いや、さっきまで以上に一夏が和也の事を睨み付けてる。

 

 それに対して和也は心底面倒そうな顔をしてるけど・・・・ 現状、余計に場が荒れたのは和也が最後に漏らした一言のせいだからね!?

 

「はぁ~、次から次へとめんどくせぇな・・・・ 勝手に騒いで一人でキレて、お前の一人相撲に人を巻き込むんじゃねぇよ」

 

「っ!? なんだとっ!」

 

「一夏っ! それに和也も不必要に喧嘩売らないでよ!」

 

「喧嘩売ってねぇよ。心からの愚痴だ」

 

「和也、シャラップ!」

 

「そこはフランス語じゃねぇの?」

 

 ああぁっ! 場が荒れるぅ! お願いだからちょっと静かにしててっ! 一夏を宥めるの大変なんだからね!

 

「・・・・やっぱり駄目だ。お前みたいに最低で薄情な奴がシャルルと一緒にいるなんて間違ってる・・・・!」

 

「ああ?」

 

 なんだろう、和也の言動に頭を抱えてたら一夏が妙にブツブツ呟き始めたような・・・・?

 

 と思ったら、余計に和也を睨み付け出した。

 

「和也! お前なんかにもう頼らない、シャルルは俺が守る! だからお前は、さっさとこの部屋から出てけっ! 金輪際、シャルルに近付くなぁ!」

 

「っ!? 一夏っ!?」

 

 いきなり何を言ってるの? 僕が和也から言われるなら兎も角、なんで和也が僕に近付くなって話になるのさ?

 

 分からない・・・・ さっきから本当に分からないよ、一夏!

 

「ふ~ん・・・・ あっそ。別に良いぜ、ブリュンヒルデ(織斑千冬)様の弟ともなりゃあ無理強いや押し通しは簡単だろうしな」

 

「千冬姉は関係ないだろっ!」

 

「個人的な理由で部屋から、延いては寮から追い出すんだ。当然、そいつはちーちゃん並みの権力やらでやろうとしてんだろ? なら無関係じゃねぇだろうが」

 

 そう言うと未だ怒り心頭にしてる一夏を横目に和也は机のノートパソコンを鞄に仕舞うと、まるで当然とばかりに部屋の扉へと歩き出した。

 

 まさか、本当に出ていくの? そんな・・・・ 待ってよ! 一夏も言い過ぎたけど、だからって和也が出て行く必要なんてないじゃないか!?

 

「ま、待って和・・・・」

 

「んじゃ、後は一人相撲でも何でも好きに続けてろ」

 

ーーバタン

 

 それだけ言い残すと、和也はあっさりと部屋を出ていった。後に残ったのは満足そうな顔をしてる一夏と、何も出来ずに立ち尽くした僕の二人だけ・・・・・・

 

「大丈夫だシャルル。まだ3年は時間があるんだ、どうにかする方法は見つかるさ。大丈夫、俺がシャルルを守ってみせるから! 俺に任せとけって!」

 

 そんな一夏の言葉が、嫌に軽く・・・・ 余計に薄っぺらく聴こえる。

 

 最初に僕を助けようとしてくれたのは本心かも知れない。そこは信じられた。

 

 だけど、一夏。今の君からは信頼も安心感も何も感じないよ・・・・・・

 

 だって君は、個人的な感情で和也を排除してしまったじゃないか。少なくとも、考えの甘かった僕達に現実を分からせてくれた相手を・・・・・・

 

 僕は本当に、これからどうすれば良いんだろ・・・・・・

 

 

 

 誰か、助けてよ・・・・・・・・

 

 

ーsideシャルロット outー

 

 





 一夏ってアンチ物でもそうじゃなくても、取り敢えずシャルを助けたいって思った部分は本心だと思う。でもそこでどうやって助けるのか、自分がどうすれば良いのかを考えてるか否かで、アンチ系か非アンチ系かどうかが別れるんだろうね。

 だけど仕方ない、彼は元々一般人。そう言う社会の闇みたいなのとは縁の遠い暮らしをしていたんだから、現実を突き付けても素直に納得は出来ないだろう。

 それこそ、自分が過去に国によって都合の悪い事を握り潰された事があったとしても・・・・・・


 と言う訳ではい、和也と一夏の仲に更なる亀裂です。そもそもシャルの問題も、基本的に一夏が勝手に一人で背負い込もうとしてる訳だし、一人相撲って強ち間違ってないと思う訳ですよ。シャルを助けたいって気持ちは本心であろうとも。

 さて、簪の専用機の話からずっと真面目(弱)な話が続いて文字数も取られてるが・・・・ そろそろふざけたい。そして和也も、ふさげてる位が丁度良い。

 そろそろちーちゃんの胃にダメージを当てに行くか・・・・・・

 では、ターンエンド。



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第52話 小休憩ー学園内は思ったより狭いー


 割りと蛇足回。




 

ーside和也ー

 

 織斑一夏とデュノアとの話し合いの末に寮の部屋を出て行き、元々の隠れ家に戻って早数時間・・・・ 俺は普通に学園に登校した。

 

 朝からちーちゃんをからかい、事あるごとに睨んで来る織斑一夏を無視したり、のほほんとお菓子を分け合い、不意にハイライトをOFFるオルコットに怯えたり、何か言いたげに顔を俯かせるデュノアを無視したり、授業そっちのけで簪の機体の改造案を考えたりと、最近にしては実に平和な一日を過ごしていると言っても過言ではない。

 

 ああ、素晴らしきかな平和な日常。

 

 俺はもう、今の状態で新たな面倒事はノーサンキュだ・・・・・・!

 

 

 

「と言う訳で、俺に真面目は似合わん。久し振りに少しはっちゃけたいと思う訳だよ諸君」

 

「「「いや、何言ってんの(だッ/スか)?」」」

 

 と言う訳でやってまいりました憩いのお昼休み。

 

 そこで俺は鈴にダリル、フォルテの3人に思った事を口にした訳だが・・・・ その反応がコレである。ちょっとは理解を示してくれよ・・・・・・

 

 と言うか俺、なんか在ると大体昼の食堂でコイツらに愚痴ってんな。

 

「いやな、最近は俺も忙しかったろ? 簪の専用機問題然り、オルコットの暴走然り、今の国際問題目前然り、無駄に真面目な対応してたし。だからそろそろ、気楽にはっちゃけたい訳だよ」

 

 その旨を3人に説明(流石にデュノアの件は濁して)すると、あら不思議。3人の眼が呆れたものを見る様なものに変わったではありませんか。

 

「いや・・・・ そもそもあんた、今でも十分にはっちゃけてるじゃない」

 

「簪の代表候補生の資格を辞退させたり、更には専用機も用意するとか言い出したりな」

 

「それに昨日の模擬戦はどう考えても和也の自業自得ッス」

 

 失敬な。この程度がはっちゃけと思われるとは、実に心外だ。これでもちゃんと真面目に対応して来たと言うのに。

 

「取り敢えず、暫く面倒事はお腹いっぱいなんだよ。これ以上なんか面倒事に巻き込まれたら、国際問題が起きるレベルではっちゃけるのも厭わない」

 

「止めなさいよおバカ。あんたが言うと実際にやりそうで怖いのよ」

 

 実際問題、やるよ? ネタはいっぱいあるから、それこそ国を揺さぶる位の暴露とか出来るよ? 俺の存在自体が()()()()()()()()厄ネタだし。

 

「だけど実際ストレス溜まってんだよ。簪のISは明日届くしそっから調整云々しなきゃいけないから、せめて今日くらいはなんかストレス発散がしてぇんだよ。または癒しが欲しい」

 

「癒しって、あんたねぇ・・・・ 何? 猫とかでも可愛がりたいって言うの?」

 

「ぷっ! 和也が猫と戯れるとか、似合わな過ぎて笑えるッスよ」

 

「ハッハッハッハッ! 言えてらぁ!」

 

 失敬なアゲイン。アニマルセラピーも馬鹿に出来んと言うのに、俺に猫が似合わないと申すか。これでも人並みには動物に好かれる方なんだぞ?

 

 ・・・・・・いや、やっぱり俺が動物と戯れる姿は微妙に合わないか。自分で想像して納得しちゃったよ。

 

「猫も良いけど、やっぱ・・・・ 残して来た()()達を甘やかしたりしたい」

 

「へぇ~、あんたに妹なんか居たんだ?」

 

「居るぞ? 血は繋がってないし戸籍も存在しないし、それぞれ国家の闇背負ってるけど、可愛い義妹が二人」

 

 可愛いもんだよ、残して来たウチの義妹二人に()()()()。ちょっと癖が強いけど、ちゃんと甘えてくれるし。

 

「・・・・・・あれ? なんか凄い不穏な言葉しか出てない気がするんスけど」

 

「気にするなフォルテ。気にして問い質したら、こっちまで面倒事に巻き込まれる」

 

 なんかまたダリルが失敬なこと言ってる気がするが・・・・ まぁ良いか。

 

 そんな事より今だろっ!

 

「そんな訳で、放課後に模擬戦しねぇ?」

 

「いや、どんな訳よ。と言うか模擬戦って、癒し云々は何処行ったのよ?」

 

「居ないものは仕方ないから、模擬戦に負けて涙眼になった鈴とダリルを見て癒される事にした」

 

「あんた喧嘩売ってんの!?」

 

 仕方ないだろ? 他にする事ねぇんだし。それに涙眼の鈴は妙に庇護欲を刺激する可愛いさがあるから。

 

 尚、号泣やガチ泣きは駄目だ。あくまでフォローの効く涙眼レベルに抑えなきゃいけない。コレ大事。

 

「まぁ鈴を泣かすのは別に良いとして、悪いけど今日は私は駄目だわ。学年別トーナメント前って事でISの整備もあるし」

 

「自分もッスね。これでも代表候補生ッスから、やる事は色々とあるんスよ」

 

 マジか。まぁ代表候補生なんて肩書きがあればこの時期は色々とやる事もあるか。

 

 と言うか、涙眼云々に巻き込んだのにスルーしたなダリルん?

 

「今回はアタシも駄目よ。クラス対抗戦前は模擬戦とか色々手伝って貰ったけど、よくよく考えたら和也とは模擬戦以外でちゃんと戦った事なかったのよね。だから今回はライバルとして戦って、キッチリ勝ってやるつもりなのよ」

 

 へ~。そんなこと考えてたのかよ? まぁ確かに鈴とは模擬戦以外じゃ戦った事はなかったな。そう言う意味じゃトーナメント前に手の内を晒す可能性は少しでも減らしたいって事か。うん、納得した。

 

 ・・・・・・まぁ、『甲龍』の機体性能に関しては散々やった模擬戦で大体は把握させて貰ってるけど。

 

「まぁ話しは分かったし納得もした。けど、それだと俺のこのストレスは何処で発散すりゃあ良いんだ・・・・・・?」

 

「知らないわよ」

 

 ヤッベ。唯一のストレス発散イベントが不発に終わったよ。

 

 鈴とダリルならなんだかんだ言ってもストレス発散の模擬戦に付き合ってくれると思ってたのに・・・・ 予想外だった。

 

 フォルテ? ああ、アイツは端っから期待してない。普通に『和也と模擬戦? 嫌な予感しかしないから嫌ッスよ』とか言うと思ってたし、そっちは予想通りの反応だったし。

 

 はぁ~あ・・・・・・ 仕方ねぇか。普通に一人で基礎トレして、帰ってから簪用に新しい武器の設計でもしてっか。

 

 その代わり、この溜まったストレスはトーナメントで当たる専用機持ち達で晴らしてくれる・・・・・・!

 

 そんな決意を固めつつ無理なものは無理と割り切って、その後は鈴達と普通に世間話しながら昼休みが終わった。

 

 午後の授業? 山田先生が泣くから素直に起きて受けたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳でやってまいりました、一人寂しい放課後の基礎トレ。場所は此方、第三アリーナにてお送りしたいと思う。

 

 ・・・・・・ただ、アリーナに着いた直後に鈴と遭遇して若干居たたまれない雰囲気になったのは仕方ないと思う。仕方ないんだ、申請しといてもその日に使えるアリーナは学園側の都合で放課後に開放されるアリーナは三つから四つくらいだし、使えるアリーナも日替りだからな。そりゃどっかで被るさ。

 

 まぁそれは良い。それは良いんだが・・・・・・

 

「貴様か・・・・・・」

 

 ピットにて、今にも襲って来そうなくらいに殺気立ったポークビッツに遭遇。

 

 ・・・・おや? これは望んでもいない面倒事の気配じゃありませんかねぇ?

 

 

 

ーside和也 outー

 

 

 





 やっぱり蛇足回。だけど和也にとって平和なのは昼休みの食堂くらいしか思い浮かばないくらい、コイツ食堂でしか駄弁ってない。

 それと前に和也が鈴と第五アリーナで訓練したって描写に合わせて、放課後に使えるアリーナは若干ランダム説を捩じ込みました。

 まぁ常に全てのアリーナに監視員が就くとか大変でしょう・・・・ 学園の教員って基本的に教職やら部活の顧問と、学園の警備やアリーナ等での監視員と、やたら仕事の掛け持ちしてる様なもんだし。

 少しでも仕事は削りたいだろうさ。だからアリーナの数はその日によって違うって部分で削ってあげるよ♪

 暫くしたら残業地獄に送り込む予定が満々だけどねぇ!


 ああ。それと、ピットでラウラと遭遇した時点で先にネタバラシを言っときます。

 鈴はタッグトーナメントに出ます。鈴だけは。

 セシリア? 次話で分かる予定だけど、まぁ普通に無理ですね。たぶん理由はみんな気付いてる。

 では、ターンエンド。



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第53話 普通の訓練ー黒兎さんもやっぱり怖いー

 明けましておめでとうございます。
 新年です、コロナ云々で世間はゴタゴタしてましたが、新年です。今年の初売りは客が少なくて大変、楽でございました。


ーside和也ー

 

「貴様は・・・・・・」

 

 アリーナに基礎トレに来たらポークビッツと鉢合わせた。

 

 いや、こいつも代表候補生なんて肩書き持ってんだから、アリーナに来りゃあ遭遇しない訳なんて無いから仕方がないんだけどな。

 

 それでも俺を視界に入れるや否や殺気立たれると、それだけで面倒事の気配がひょっこり顔を出したのは嫌でも分かる。

 

 つまり此の場は、スルー推奨と言う事だな!

 

「本来は貴様では無いが丁度良い。私と戦え、秋風和也!」

 

「マジかよお前」

 

 俺はまだ何もしてないのに面倒事が向こうからやって来たよ。そりゃあもう、尻尾振って近寄って来たと言わんばかりに。

 

 俺はスルーしたいのに・・・・ なんで俺の所には面倒な奴ばっか近付いて来やがんだ!

 

「はぁ~・・・・ 一応聞いとくけど、そいつは模擬戦的な意味か?」

 

「フンッ! そう思いたければそう思うが良い。尤も、模擬戦だろうがそうでなかろうが、貴様なんぞが私に勝てる道理は無いがな」

 

 あぁ~あ・・・・・・・・ これアレだ。模擬戦だろうが模擬戦じゃなかろうが、普通に殺しに来ようとしてるやつだ。しかも、自分の自尊心を満たす為だけに。

 

 おっかしいなぁ・・・・ 此処まで眼をつけられる様な真似はした覚えはねぇんだけど・・・・?

 

「さぁ、返事はどうした? 私と戦え! 秋風和也!」

 

 いや、うるせぇよ。周りの奴等がこっち見るから少しは落ち着けよコイツ。

 

 しっかし、だからって無視してっと余計に突っ掛かってくるし俺の基礎トレが出来なくなるしな・・・・ 面倒だけど金髪みたいに潰すか?

 

 ・・・・・・・・いや待てよ? 確か今日、アリーナの監視してる教師って・・・・・・?

 

「・・・・時にポークビッツ。確認しときたいんだが・・・・ アリーナの担当者に模擬戦する旨って連絡してあるか?」

 

「・・・・・・なに?」

 

「だから、アリーナで模擬戦する予定を言ってあるのかって。アリーナだって使ってんのが俺等だけじゃねぇ、他にも訓練機を使って訓練してる奴等だっているんだ。しかも今は学年別トーナメント間近、普段よりアリーナを利用してる奴が増えてる。そんな中で模擬戦する以上、アリーナの監督してる教師にその旨は伝えてあんのか?」

 

「確かに伝えてはいないが・・・・ 私には関係ない。貴様は黙って私と戦えば良いだけだ」

 

 良くねぇから。唯でさえアサルトライフルが主力の訓練機と違って、特殊兵装使う専用機だぞ? 流れ弾の事を考えりゃ事前に一言くらい言っとくもんだろ?

 

 それに余談だが、クラス対抗戦前に鈴と訓練ついでに模擬戦した時だって、前以て模擬戦の予定は伝えてからアリーナを使ってたんだ。そうする事で比較的、他に訓練でアリーナを使う奴が少ない場所を回して貰ってたからな。勿論、最後には周囲に対し告知してから模擬戦始めてたけど。

 

「良いかポークビッツ、アリーナで模擬戦すんなら先にアリーナの担当に連絡入れとけ。そうしときゃ模擬戦がしやすいアリーナを宛がわれるか、模擬戦出来る時間教えて貰えっから。でなきゃ周りに流れ弾が行かない様に気にしながらやらなきゃいけねぇから」

 

「何故わざわざ此方が周囲を気にしなければならない? 流れ弾に当たる様なマヌケなぞ最初から捨ておけばいい」

 

「うっわ、マジで言ってるよコイツ・・・・」

 

 そうなるとマジで面倒なのが出て来るから言ってんのに、この軍人兼代表候補生マジで言ってるよ。

 

 此処まで本気で言ってんのは想定外だけど、コイツも俺みたいに教師ってもんを軽くみてるよなぁ・・・・・・ いや、それでも俺が軽く見てんのは一部の教師だし、山田先生とかには最低限の礼節を向ける心は残ってるし。

 

 後、おちょくり過ぎるとヤヴィ事になる相手への見定めもちゃんとしてるし。

 

「じゃあなにか? 今回の模擬戦をお前は事前連絡無しにやろうってか? ちょっと担当教師に連絡入れれば済むのに」

 

「そんなもの私の勝手だ。それに流れ弾に当たると言うなら、他の奴等もその程度と言う事なだけだ」

 

「・・・・じゃあ、今から連絡無しで戦うって事で良いんだな?」

 

「くどい。良いから貴様は黙って私と戦い、不様に地に伏せていれば良いだけだ」

 

 そう言い切ると勝手なポークビッツちゃんは返事も待たずにピットの入口に進む。

 

 これはアレか? もう俺とのお話は切り上げて、さっさとアリーナでドンパチしろって事か?

 

「はぁ~あ・・・・・・ めんどくせぇなぁ。取り敢えず説得したログはあるから言い訳の時にでも出すか・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の担当、ちーちゃんだし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良し、先ずは管制室に模擬戦の打診だな。模擬戦を始めるのはその後でも遅くはない!

 

 掌くるっと返すの早くね?

 

 いや、気持ちは分かるけど。ちーちゃんがアリーナの監督を担当してる日にわざわざ問題起こすなんて、自殺行為以外のなにものでもないしな。

 

「良いのか? お前さん的には誰が監督役やってても知ったこっちゃねぇんだろ?」

 

「ななな、何を馬鹿な事を! 何事も上官に対する連絡は重要だろう。そ、そうアレだ! 日本では『ちんげんさい』と言うのだろう!」

 

「それを言うなら『ほうれんそう(報告・連絡・相談)』な」

 

 完っ全にテンパってんじゃんコイツ。今もバイブみたいにガタガタ震えてんだけど。どんだけちーちゃんが怖いんだよ・・・・ てか、なんだよ『ちんげんさい』って?

 

 アレか? 珍事・げんなり・災難で『ちん・げん・さい』ってか? 残念ながら座布団はあげれねぇわ。

 

 まぁ良いや。この様子なら取り敢えずは模擬戦なんて事態は避けられんだろ。

 

「んじゃ模擬戦も後回しって事でもう良いか? 取り敢えず俺も訓練したいし」

 

「あ、ああ。教官にはわ、私から・・・・ 私から、連絡をしておく・・・・ さ、先にアリーナで震えて待ってるが良い!」

 

 いや、震えてんのお前だからな? 今も身体ガックガク震えてんじゃん。これは連絡出来ねぇパターンだな。知ってる。

 

 さて、余計な時間を取られたけどこっちはこっちで基礎トレをさせて貰うかねぇ~?今日は久し振りに『文月』な気分だし。

 

 

 

 

 

 

 

 それから2時間ばかし基礎トレしてたけど、ポークビッツから模擬戦の連絡は来なかった。

 

 気になって管制室のちーちゃんに聞いてみれば、今日からトーナメント開始まで専用機持ちの模擬戦は一切禁止らしい。

 

 原因は俺。昨日のオルコットとの模擬戦で大破させたブルー・ティアーズの損傷レベルがD寄りのCらしく、修復の為にもトーナメントの出場が却下されたそうな。

 

 ついでに模擬戦を申し出た上に機体を大破させたオルコットと、模擬戦を仲介した形になるサラ先輩。この二人は本国からこの件に関してお叱りを受けているとかなんとか・・・・・・

 

 うん、俺は別に悪くねぇな。

 

 

 後、一向に姿を見せなかったポークビッツはアリーナと更衣室の中間で膝抱えて震えてた。

 

 恐らくちーちゃんから何かしら説教でもされたのか、死の宣告(呼び出し)でも喰らったか・・・・・・ 正直、興味はない。

 

 取り敢えず周りに迷惑だったから、一声掛けて寮に帰って貰った。それでもまだガタガタ震えてたけど。

 

 ポークビッツ・・・・ 強く生きろよ。

 

 

ーside和也 outー

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーsideシャルロットー

 

 昨夜の騒ぎから一夜、結局彼は部屋に帰って来なかった。それどころか翌朝には何事もなかったかの様に、普通に教室に姿を現していた。

 

 まるで彼にとって昨日の事なんてどうでも良かったかの様で、戻って来ない事を心配していた僕が馬鹿みたいに思ってしまったけど・・・・ 冷静に考えれば、そこで変に慌てたりしても周囲には事情を説明出来る訳じゃないんだから仕方がない事なんだろうね。

 

 対称的に一夏は彼の事を睨んでいたけど、少なくとも一夏に彼を睨む様な資格は無いと思う。

 

 だって一夏は個人的な感情で彼を部屋から追い出したんだ。彼から文句を言われたり恨まれる事はあっても、此方が文句を言える立場じゃないのは明らかなのに。

 

 と言っても、それは僕にも言える話なんだけどね・・・・・・

 

 そうして彼と話す機会も訪れず、アリーナで一夏と訓練をした後は彼の帰らない寮の部屋に戻って居るんだけど・・・・ そこはもう、僕の気が休まる場所じゃない。

 

 昨夜彼を追い出してから一夏が、僕の秘密を守ると言って部屋に来るからだ。と言っても部屋に居座ると言う訳じゃなく、なるべく僕を一人にしないで秘密を守ると言うものらしく、消灯時間には部屋に戻って行く。

 

 そして朝になったらまた僕の部屋に来て一緒に教室に行くと言うものらしいけど・・・・ 正直、プライベートな時間まで一夏に侵害されてるみたいで気が休まらない。

 

 僕の秘密を守ろうとする気持ちは嬉しい。だけど、それで僕の行動まで制限されてるみたいで煩わしい気持ちも少しばかりある。

 

 本当ならスパイとして学園に居る僕がそんな事を思っちゃいけないんだけど・・・・ そう感じてしまう自分が、どうしようもなく図々しく思う。

 

 まだ僕を取り巻く問題に対する解決策は何も浮かんでない。一夏も三年は時間があるんだからと、どこか楽観視してる様にも思える。

 

 たった一晩しか経ってないって言うのに、僕はこれから一体どうしたら良いんだろう・・・・・・ そう後ろ向きな考えばかりが浮かぶ。

 

 僕は・・・・ どうしたら良かったんだろう・・・・・・?

 

ーside シャルロットoutー

 

 

 




 今回は試しに太文字を使ってみたけど、なんか今一分からなかったから、次からはあんま使わない。

 今回の大事な箇所!

1.鈴がラウラと戦ってないから生存。トーナメントに参加可能に。
2.既にちーちゃんが専用機持ち達に対して模擬戦行為を禁止。
3.ラウラがちーちゃんに脅されビックビク。
4.サラ・ウェルキン先輩、自分が橋渡しした模擬戦が想定以上に悲惨な結果で本国からお説教。尚、セシリア本人や和也はあまり気にしてはいない模様。
5.サラ先輩、泣いてええんやで?

 前話でサラ先輩が居なかった理由が此方。そりゃあトーナメントに参加出来なくなるくらいに大破した原因の一因なんだから、楽しくお昼ってる場合じゃなかった訳ですよ。

 ラウラも模擬戦するってちーちゃんに言っちゃえば、そりゃあOHANASIされて模擬戦なんかさせて貰えませんよ~。仕方ないね。

 では、ターンエンド。



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第54話 義妹の襲撃? ー待ち機体来るー


 お久し振りです。生きてます。仕事でオリンピックとか夏祭りやら行ってましたが、健康そのもので生きてました。


 

ーside千冬ー

 

 入学式からここ暫く面倒事が続いていた中、今朝はとてもスッキリと目が覚めた。

 

 昨夜は編入して来たラウラやデュノアの件で疲れ久し振りに深酒したと言うのに、不思議なくらいスッキリとした目覚め。なんだったら身体の調子も良いくらいだ。

 

 それに朝食の為に食堂へ行ったら、食堂のおばちゃんにオカズを一品をオマケして貰った。しかも肉団子、ありがたい。

 

 そうして学園へ向かえば、今日は朝から大した仕事(主に各国からの一夏に関する情報の開示やら、女権団からのアプローチ、私を信仰する輩からの手紙等)もなく、暫く残業続きだった真耶も今日は幾分と調子が良さそうだ。

 

 そして極め付けはあの秋風が、HRからちゃんと出席していた事だ。しかも起きてる。出席の時にちゃんとアイツが居たなんて、殆ど数える位しかないと言うのに・・・・

 

 オマケにそのまま一限目も起きて真耶の授業を受けているなんて・・・・ 今日はなんと珍しい日だ。お陰で真耶の機嫌も目に見えて良くなっている。

 

 そうか・・・・ これが平和か。暫くは一夏の入学や秋風の入学、無人機の乱入やらラウラ達の編入やらと慌ただしい日常を送っていたが、これが正しい平和な形なんだな?

 

 昨年まではそこまで意識した事はなかったが・・・・ そうだな、柄にも無く感慨深い物を感じてしまう。そう思う程、この数ヵ月は慌ただしく濃い日々だったんだろう。

 

 この様子なら今日は変に面倒な事も起きなく、放課後に残業する必要もなく一日を終える事が出来るんじゃないか? 寧ろ定時に上がれるな、そうだな?

 

 良し、帰りに真耶でも誘ってたまには外へ飲みにでも行くか。漸く平和な一日を過ごすんだ、深酒なんかせずに気持ち良く帰って来れるだろう。

 

 ああ、平和な一日のなんと素晴らしい事か・・・・・・

 

ーーージリリリリ~ン、ジリリリリ~ン!

 

「ふぇ!? な、なんですか!?」

 

「あっ、悪ぃ山田先生。俺の電話だ」

 

「あ、秋風君? 駄目ですよ、授業中はちゃんとマナーモードにしておかないとっ!」

 

「あっ、もすもすひもねす~? どしたよ急に? ・・・・・・えっ、マジで?」

 

「ふっ、普通に電話に出ないで下さいよぉ~!?」

 

 ・・・・・・おい、今凄く平和な一日な雰囲気だったろ? なんでいきなりそれがぶっ壊れ始めた?

 

「うん、うん・・・・ あぁ~あ、ならしゃーないか。おう、分かった」

 

ーーーピッ

 

 ・・・・・・嘘だろ? 嘘だよな秋風? 今日は寝起きも良く、ここ暫くで一番平和とも言える一日を過ごしてるんだぞ? 今日はこのまま平和に過ごして、就業後は真耶と飲みに行くつもりでもいるんだぞ。

 

 それがまさか、一限目の途中で終わるなんて事がある訳が・・・・・・

 

「ちーちゃん」

 

「な、なんだ秋風・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

「妹がIS届けに学園に忍び込んだから受け取りに行って来るわ」

 

「受け取りに行って来るわ、じゃないわぁ!」

 

 なんだ学園に忍び込んだからって! そんなホイホイ忍び込める様な場所じゃないんだぞ!?

 

 しかもお前に妹とか・・・・ そんな話は()()()()()聞いてないぞ!?

 

「あっ、山田先生。そんな訳で三~四日くらいサボるんで、そこんとこよろしく」

 

「サボっ!? またですか? また授業に出ないつもりですか秋風君!?」

 

「さて、完成に二~三日は徹夜か・・・・ 久し振りに、(主に眠気を)振り切るぜ!」

 

「私の話を聞いてくれませんか!?」

 

 聞けよ! と言うか、私まで視界から追い出すなっ! と言うかお前、返事も待たずに帰り支度するんじゃないっ!

 

 てか、おい・・・・・・ ちょっ、待てよぉ!?

 

「んじゃちーちゃん、IS完成したら諸々の書類持ってくわ~。じゃ、アデュー!」

 

「まっ、待て秋風っ・・・・・・!」

 

 待てぇぇぇぇぇぇえっ!?

 

ーside千冬 outー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside簪ー

 

「よう、直に会うのは久し振りだな()()()

 

「お久し振りです・・・・・・ おっ、兄さまぁぁぁぁぁぁぁあ~!

 

「ちょ!? フライングボディプレスは止め・・・・ なぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 突然授業中に拉致られたかと思ったら、実行犯たる友人が知らない娘にフライングボディプレスをかまされて潰されたでござる。

 

 ・・・・いや、ホントにこれ何?

 

 急に教室に来たと思ったら『簪よ、今こそ飛翔の時っ!』とか言い出して人をお米様抱っこし、そのまま窓から飛び出して(多分これが飛翔の時の理由)、ちょっとビックリして気を失ってる間になんか整備室に連れて来られてて、今は目の前で元凶たる和也がフライングボディプレス(これもまた飛翔の時)に潰されてて・・・・ うん、冷静に情報を整理してみても良く分かんないや。

 

 考えるだけ頭が痛くなるし、取り敢えず本人に聞いてみた方が早いよね? 寧ろそうしよう、説明責任を果たせ。

 

「・・・・ねぇ、いい加減どう言う事か説明してくれない?」

 

「たたたっ・・・・ あ? あぁ~あ、そうだな。先ずは紹介もしなきゃいけねぇしな。そんな訳でクロエ、いい加減に離れろって」

 

「イヤです。もう少しお兄様分を補給するまで離れません。ここからは私のクンカクンカタイムです」

 

「いや、クンカクンカタイムて・・・・ えっ? たかが二~三ヶ月会わなかった程度でコレ?」

 

「クンカクンカ、クンカクンカです」

 

 ・・・・・・・・私は一体、何を見させられてるんだろう?

 

 長い銀髪で小学生くらいのちょっとロリチックなメイド服を着た娘から、和也が胸元に頬擦りされながら匂いを嗅がれてる・・・・・・

 

 事案かな? 通報しなくちゃ。

 

「待て簪、取り敢えず待て。ちょっとクロエが暴走してるが、お前は盛大に勘違いをしてる」

 

「何が? 私はただ現実を見た上で正常な判断を下してるだけだけど?」

 

「だったら携帯から手を離せよ!? 違うから! こいつ、俺の義妹(いもうと)だから!」

 

「と、罪人は供述しておりますが詳細は不明、これは私の手には余る。なら専門家に任せるのが一番効率的」

 

「罪人って何!? マジで違うから! こいつ、クロエは・・・・・・ ()()()()()()()()()()()()()()だけだからぁ!」

 

「・・・・・・・・えっ?」

 

 私の、IS・・・・?

 

「・・・・・・・・私のIS!? ホントに!?」

 

「だからホントだってっ! たくっ、なんか無駄に疲れたっての・・・・ ほれ、クロエもいい加減に離れろ。流石に話が進まねぇから」

 

「クンカクンカ・・・・ むぅ、仕方ありませんね。この続きはまた後と言う事で」

 

 いや、でも・・・・えっ? ホントに私のISが来たの? だって用意するとは言ってたけど、まだ一週間も経ってないんだよ? それなのに用意出来たとか、普通は無理としか思わないよ。

 

「え~、ごほん。では改めて自己紹介を。私、『霜月宇宙開発研究所(しもつきうちゅうかいはつけんきゅうじょ)』、通称『しもけん』所属の開発部主任補佐兼、経理担当兼、情報収集補佐、お兄様の義妹の『秋風 黒絵(あきかぜくろえ)』と申します。どうぞクロエとお呼び下さい」

 

「・・・・えっ? 開発部主任補佐で経理担当で情報収集補佐って・・・・ えっ? なんて?」

 

「まぁ、しもけんのメカニックの一人と思って頂ければ」

 

 いや、それにしても肩書きが多いでしょ? しかも三つとも役割が全く違うし、それは兼任しちゃ駄目な奴なんじゃないの?

 

 と言うか、私って一応和也のいる組織に勧誘されてそれを受けた訳なんだけど・・・・ もしかして、ブラック?

 

「一応言っとくと()()()()は人手不足だからな、一人で幾つか兼任なんか普通なんだよ。俺なんか現・研究所所長代理兼、開発部全般所属兼、テスト課所属兼、農林水産課所属兼、営業課所属兼、宣伝課所属兼、調理課主任補佐兼、警備課所属兼、強攻部隊班所属兼、秘密部隊所属兼、庶務兼、スカウト班所属って肩書きだからな?」

 

「いや、多い。多過ぎるよ」

 

 ブラックだよ。疑う事なく、ブラック企業だよ!?

 

 なんなのそれ? 和也なんか思い浮かぶだけの殆ど全部じゃん。寧ろそんなに兼任してて、なんでこの学園に在籍してるの? あっ、政府から無理矢理に入学させられてるんだっけ? こりゃうっかりしてた・・・・ とか、言えないよ!?

 

「・・・・お兄様? なんか困惑してる様なのですが、大丈夫なんでしょうか?」

 

「まぁ、問題ねぇだろ。付き合いは短ぇけど、簪がフリーズすんのは良く見る事だし。ほっときゃ勝手に再起動する。それより、頼んどいた奴は?」

 

「はい、既に此方のコンテナにて準備してあります」

 

「んじゃ、こっちも先に開けとくか。届いてからが本番だからな」

 

 ・・・・・・はっ! ちょっと情報が多過ぎて意識が飛んでた。

 

 と言うか、そんな事してる間に二人とも私の事を放置して何時の間にか準備されてたコンテナの前に居るし・・・・ ちょっと、置いて行かないでよ!

 

「それではお兄様、此方がご要請の機体です。どうぞお受取り下さい」

 

「使うのは俺じゃねぇけどな。んじゃ取り敢えず、開けてくれ」

 

ーーウィーン・・・・

 

 よ、良かった。ちゃんと受け取りの瞬間には立ち会えた。これで意識が戻ったら既に受け取った後でしたとか言ったら、なんか複雑な気分になってただろいし。

 

 だけど、今からこのコンテナの中から新しいISが・・・・ 一度は失った筈の私の翼、それが今また私に・・・・・・

 

「此方が『量産型第三世代 睦月型』の専用改修機、その名は・・・・」

 

 これは私の翼なんだ。お姉ちゃんに認めて貰う為の、私が前に進む為の、がんじがらめに囚われた『更識』って言う鎖から飛び立った先に行く為の翼。

 

 今度は、絶対に無くさない。奪わせない。

 

 だから、お願い。私と一緒に飛ん・・・・・・

 

「・・・・『我輩はISである、名前はまだない』です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・えっ? なんだって?

 

 

「ああ、受領してから改めて簪専用に調整・改修するつもりだったからこいつ実際はまだ未完成でな。だから正式名称とか決めてなくて、『我輩はISである、名前はまだない』が仮名なんだよ」

 

「・・・・・・未完成? なら最初に『睦月型』とか専用改修機がどうとか言ってたのは?」

 

「素体に使ってる機体の説明はしとくべきだろ? それに未完成って言っても武装系の取り付けやらエネルギー関係の出力調整とか、最適化前の細かい微調整、それに搭乗者の趣味趣向を組み込む余白が在る程度だから、謂わば専用機化する前の標準型(プレーン)って意味だから」

 

 ・・・・ああ、はいはいはいはい・・・・・・・・・・

 

 

「ちょっと真面目に受け取ろうとしてた私の感動とか決意とか目標の再認識とか・・・・ なんか色々台無しだよっ!?」

 

 私、所属する組織間違えたかも知れない・・・・・・!

 

 

ーside簪 outー

 

 





 簪の専用機到着回兼、リハビリ回。
 ただし、完成品が到着とは言ってない。

 いや、久し振りになったからか書き方忘れてるは、変換履歴が微妙になくなってるはだった・・・・・・

 ついでに簪が微妙にキャラ崩壊してた。

 後は特に言う事が思い浮かばないで、これにてターンエンド。



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第55話 起動テスト1日目 ー機動試験編ー


 どうもお久しぶりです。

 前話にて『飛翔の時』とか何回か言ってたら、数日後に俺自身が身を以て『飛翔の時』してました。

 具体的にはパチンコで財布から諭吉が一枚『飛翔の時』して、その帰りに車に轢かれて『飛翔の時』し、そのまま意識と記憶も『飛翔の時』で飛んで行ってました。

 気付いた時には頭に麻酔射たれる&ズボンを下ろされ掛ける直前だったから、訳も分からずズボンを付かんで『えっ? これ何事よ?』と疑問を口にした俺は悪くない。

 あっ、頭部裂傷したり骨折したり、骨折の影響で一部障害が残ったりしてますが、事故は完全な10対0です。横断歩道が青信号の中で俺に気付いてなかったんだもん、仕方ないね。

 取り敢えず後は完治証明と障害認定貰って
から弁護士に投げます。暇を持て余した俺は就労許可を貰って既に仕事には復帰してるんで。完治はしてないけど、8割(良い感じに骨がくっついた)治ってれば動けらぁ。たまに痛いけど。






 

 

ーside簪ー

 

 全くもう、全くもう、全くもう!

 

ーーカタカタカタカタカタカタ

 

「・・・・なぁクロエ。なんで簪の奴、あんな不機嫌そうな空気出してっか分かるか?」

 

「さぁ? 私は彼女とは初対面なので、そう言う機微はさっぱりです・・・・ あっ、お兄様。脚部スラスターのエネルギーバイパス、3番から5番までの調整終わりました」

 

「おっ? 了~解。こっちも火気管制システムと照準演算処理システムの再構築がぼちぼち終わっから、一次同期とシステムチェックの準備頼むわ」

 

「了解しました。完了後は実際に搭乗して貰った状態での確認作業に移行致しますね?」

 

「おう。武装取り付け前の一次チェックだからあっさり目の塩梅で」

 

ーーカタカタカタカタカタカタ

 

「はい、トッピングは簪様のご要望の後と言う事で。それとまもなく作業の方が完了しますので、簪様はISスーツへの着替えまたは全裸での搭乗準備をお願いします」

 

「全裸!? なんで全裸!? ちゃんとスーツ着るに決まってるでしょよ!?」

 

 何言ってるのこの娘!?

 

 なんで普通に選択肢に全裸なんか突っ込んできてるの!?

 

ーーカタカタカタカタカタ

 

 しかもその間、キーボードを叩く速度も全く落ちてないし! 寧ろ私より早いし!

 

 なんでそんな淀みなく作業出来てるの!?

 

「おいおい、何言ってんだよクロエ。全裸単体は芸がないって、何時も言ってるだろ?」

 

「おや、そうでしたね。これはうっかりです」

 

「「あっはっはっはっ~・・・・・・ あっ、こっちの作業は終わったから早く準備してくれ(下さい)」」

 

 うるさいよっ! 和也も和也でなんでそんな作業速度が早いの!? この前まで春雷や山嵐のシステム作ってた時はもうちょっと速度遅かったでしょ?

 

 それでも私より若干早かったけど! 若っ、干!早かったけど!

 

「もう! それじゃあ着替えて来るからね!」

 

「お~う。」

 

 全くもう! 全くもう! 和也とクロエ、さん?は、全くもう!

 

 

ーside簪 outー

 

 

 

 

ーside和也ー

 

 ・・・・さて、簪は行ったか。ならこっちの方もぼちぼち聞いてみますかね。

 

 

「・・・・・・で、クロエ。態々お前が来て手伝いまでしてんだ、なんかそっちで進展でもあったのか?」

 

「いえ。彼方の方は完全にお兄様の合図待ちになってるので、特に進展はありませんね。今回残ったのは単純に、私が兄様のお手伝いをしたかっただけですので」

 

「はっ? そんなのか?」

 

 えっ? なんか進展があったから来たとかじゃねぇの?

 

 なんだ、ただの可愛いウチの義妹かよ。義兄ちゃん嬉しいわ。

 

「ですが、そうですね。ひとつだげ、お兄様にお願いがあるとしましたら・・・・・・」

 

「おっ? 言ってみ」

 

 おねだりですか? 可愛い義妹のおねだりなら、よっぽど無茶な事以外なら歓迎するぞ~。

 

「実は・・・・ ーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えっ? マジで?

 

 

ーside和也 outー

 

 

 

ーside簪ー

 

「和也、準備出来たよ」

 

「・・・・・・・・」

 

「? 和也?」

 

 なんだろう? なんか和也の反応が悪いって言うか、なんか考え込んでる様な・・・・?

 

「・・・・あぁ? ああ、悪い悪い。んじゃ早速乗り込んで起動から改めて最適化(パーソナライズ)してくれ。そしたらクロエの指示で先ずは地上での動作確認。クロエ、最適化(パーソナライズ)のサポートとデータ取り頼むぞ」

 

「お任せ下さい。では簪様、早々に最適化(パーソナライズ)は済ませてしまいましょう」

 

「よろしくお願いします」

 

 そこからはまぁ、分かってた事と言うか流石と言うべきなのか・・・・ クロエさんのサポートが凄かった。

 

 どうやって用意したのかは知らないけど、打鉄弐式の時のデータも使ってサポートしてくれたから最適化(パーソナライズ)は予想より早く済んだし、地上での動作確認もスムーズに進んだ。

 

『簪様、歩行からダッシュです。そうしたら今度はジグザグにダッシュしつつ時折ジャンプも織り混ぜて下さい。そう、そうです。ではそのままジャンプから飛行試験に移行しましょう』

 

『はい、では今度は空中で旋回、及び小刻みかつジグザグに移動してみて下さい。あっ、高度はそのまま維持でですよ? ・・・・大丈夫ですね。では次は上昇下降時のチェックも含めて行いましょう。えっ? 勿論ジグザグにですよ? ついでに少しずつ加速して、高機動試験も始めてしまいましょう』

 

『はいはいはい、良い感じですよ~。それじゃあそのまま速度を維持、いえ少しずつ上げてランダム飛行と行きましょう。出来れば瞬時加速(イグニッション・ブースト)も織り混ぜて下さい。あっ、勿論瞬時加速(イグニッション・ブースト)は扱えますね?』

 

 ・・・・・・うん、スムーズだった。確かにスムーズだったけど、クロエさんの指示と言うか要求が何気に辛かった。

 

 流れる様に次の試験内容に変わって行くし、その中で止まる事も許さないくらいひたすらに動かされ続けた。

 

 しかもデータはきちんと取ってたらしくちょくちょく修正も入れてくれて、実際に動かしてたら少しずつ動かし易くなっていくのも分かったし。

 

 でもそれを涼しい顔してやってく様には少し嫉妬してしちゃったけど・・・・・・

 

 そんなこんなで朝からずっと起動テストに時間を使ってたいたら・・・・・・

 

「お~い、簪。取り敢えず大体の起動データは取れたから一旦昼飯でも食って来~い、昼休憩だ。午後からは武装積んだ状態での稼働テストすっからな~」

 

「あっ、うん、分かったけど・・・・」

 

 ふと気付けばもうお昼の時間かぁ。ずっとISに乗りっぱなしだったからちょっと時間感覚がなくなってたかも。

 

 それにお昼だって分かったら、急にお腹が減って来た気もする。

 

 ・・・・・・・・お、お腹の音とか鳴ってないよね?

 

「それじゃお昼行って来るけど、和也は?」

 

「俺はもう少し詰めたい所あっから後回しで。あっ、それと会長に今日から二~三日くらい整備室使ってっからって言っといてくれ~。俺は暫く動けんから」

 

 ああ、そう言えば朝から整備室に居たけど、やっぱりその辺は無許可で使ってたんだ。

 

「分かった。お姉ちゃんには伝えとく」

 

「はいはい、また後でな~」

 

 何気に起動テストが始まってから和也もずっと画面と睨めっこしてたけど、お腹空いてないのかな? 普段は、いの一番に食堂に行ってるのに。

 

 まぁ、大丈夫って言うならそれでも良いけど・・・・・・

 

 あっ、お姉ちゃんへの連絡どうしよう? 直接会いに行くとちょっと面倒だから電話で済ませたいけど、整備室の貸し出しの許可なら直接行かなきゃ駄目かな?

 

 ・・・・・・虚さんに事情の説明ついでに連絡して許可貰おうかな? なんかその方がすんなり話し通りそうな気もするし。

 

 取り敢えず、お昼食べに行こう。

 

「・・・・あっ、そう言えばお兄様。ウチからお兄様が作ってた武装を幾つか持って来ていたんで、この際それらも積み込みましょう」

 

「えっ、マジで? そう言えばなんかコンテナ多いとは思ってたけど、それがそうか?」

 

「はい。折角ですしお蔵入りになりかけてた『ブースト・アックス』や『ブースト・ランチャー』、『ブースト・薙刀』に『ブースト・リモコン下駄G』とかもこの機会に使っちゃいましょう。一斉在庫処分ですっ!」

 

「しれっと俺の作った武装を在庫処分とか言わねぇでくんない!?」

 

 ・・・・・・なんか凄い不穏なこと言ってない!?

 

 しかもなんか聞こえてくる武装全部に『ブースト』とか混じって聞こえてくるんだけど・・・・・・

 

 良し。取り敢えずお姉ちゃんには虚さん経由で連絡して、私は手早くお昼済ませてこよう。

 

 あの二人だけにしたら、どんな武装を積まれるか分かったもんじゃないよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それとは別に、『ブースト・リモコン下駄G』って言うのがちょっと気になる。一応、後でそれとなく聞いてみよう。

 

 

ーside簪 outー

 

 

 

 





 はい、俺自身のリハビリ回です。事故の怪我はリハビリがてら仕事に出てのリハビリだけど。

 簪の専用機に名称を付けてないのは、起動テストばかりで武装込みで完成となってないからです。しかも今回が動作確認だけだったんで、次回に武装付けてから改めて動作確認してから完成と名付けと、そんな流れの予定。

 後、ぼちぼち『とある作品』からキャラだけクロスさせる予定です。と言うかだいぶ最初の段階からタッグトーナメント編でクロスさせたいキャラを出そうとは考えてたんで。

 でも、あのキャラ通じるかなぁ・・・・ まぁ通じなくても、個人的に好きな作品だから気にせず雇用するけど。

 では、ターンエンド。



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第56話 お昼その後にー新規様、御契約ー


 現在、出張in秋田県。高速道路の道中でまだ雪とか残ってるの見えたりしたわ。

 俺・・・・ まだ病院に後遺障害申請の診断書受け取りに行ったり弁護士に診断書等送ったりとかあるんだけど・・・・・・?


 

 

ーside簪ー

 

 手早くお昼を済ませてから虚さんに連絡して整備室の使用許可を貰い、私は早足に整備室へと戻っている。

 

 理由? そんなの、和也とクロエさんの二人だけを整備室に残してきてるからだよ!

 

 プログラマーとしての腕は信用してるよ? この眼でその実力もしっかり見ちゃったし。

 

 だけどそれ以上に、あの二人だけを残して来た事の不安感が拭えない! さっきも不穏なこと言ってたし、私の知らない内に変なことしてないか気が気でない!

 

「ただいま。和也、変なことしてな・・・・・・」

 

「なぁ頼むよ! 頼むからソイツを使わせてくれって!」

 

 ・・・・えっ!? ちょっとお昼食べに行ってただけで何事!?

 

 クロエさんはデータの打ち込みしてる、和也はなんか見たことない斧みたいな武装を担いでる。そして知らない内に二人の女性が整備室に居て、その内の一人が何故か和也に詰め寄ってるし・・・・ 後、和也が微妙にめんどくさそうな顔してる。

 

 って、あれ? 良く見たら和也に詰め寄ってる人って・・・・・・

 

王城(おうぎ)、さん・・・・?」

 

「なぁてばぁ・・・・ って、あん? 更識?」

 

「ぬっ?」

 

 私の知り合いだった・・・・ と言うか、近くで頭抱えて見てた人も知り合いだ。と言うか、なんでこの二人が此処に居るんだろう?

 

「あぁ~あ、おかえりさん。・・・・・・で、だ。さっきから俺の『ブースト・アックス』を狙ってるコイツと知り合いなのか?」

 

「えっ、ああ、うん。えっと・・・・ ちょっと前まで、同じ代表候補生だった人」

 

「・・・・つまり、現代表候補生って事か」

 

「あぁ、違う違う。私は此処に入学する前にはとっくに代表候補生辞めてるんだよ。ついでに言えば、そこに居る光もそうだぞ」

 

「・・・・・・は?」

 

 ああ、うん。ここだけ聞くとそう言う反応するよね。と言うか、私が似たように言った時も周りはこんな反応してたのかな?

 

 それにこの二人の場合、ちょっと私より込み入った事情での脱退だったからなぁ~・・・・ 正直、私からは説明し辛いんだよね。

 

「そんな事より、なぁ? 頼むからソイツを使わせてくれってぇ~。頼むよ~!」

 

「いや、そもそもさっきから誰なんだよお前?」

 

 まぁ、和也にしたらそう言わざるを得ないよね。何時からこのやり取りをしてたのかは分からないけど、和也が明らかにめんどくさそうな顔してるし。

 

 それといい加減重くなって来たのか、和也は担いでた斧みたいな武装を床に下した。

 

 ゴトッて音したから、普通に重かったんだろうなぁ・・・・・・

 

 そんな訳で、双方に面識のある私が立会人みたいにそれぞれの自己紹介をする羽目に・・・・・・ 早足に帰って来なきゃ良かったかも。

 

「取り敢えず和也、さっきからやたらその斧っぽいのをご所望してる人は去年の秋頃まで同じ代表候補生だった『王城 叶(おうぎ かなえ)』さん。私達と同じ1年生で3組に所属してる」

 

 それと身長が低いのがコンプレックスって言う注意事項があるけど、それを言ってしまったら私にも怒りの矛先が向くから決して口にしない。

 

 私で身長が154cmとちょっと低めなくらいなのに、王城さんの身長は144cmと小学生と間違えられても仕方ない背丈をしてるのだから。

 

 尚、過去にその事を馬鹿にした人が代表候補予備生の中に居たけど、その人は王城さんの怒りを買って一回の模擬戦でボッコボコにされ過ぎて予備生すら辞める事態にまで追い込まれた。あの時の王城さんは怖かった・・・・・・

 

「そしてさっきから頭を抱えてた人は『御堂金 光(みどうかね ひかり)』さん。御堂金さんも元日本の代表候補生で、王城さんと同じく1年3組に所属してる」

 

 対して御堂金さんは女性の中では背が高い方だ。前にチラッと身長が169cmと聞いた事もある。オマケに長い黒髪をポニーテールにして普段は落ち着きのある性格だから、同期の子達の中からも裏ではお姉様とか呼ばれてた。

 

 ついでに、その胸に歳不相応な忌々しい脂肪の塊を携えてる・・・・・・ 実にイマイマシイ・・・・・・・・!

 

「あぁ、そうですかいっと。なんかしなきゃいけねぇ流れっぽいから一応言っとくと、1組所属の秋風和也だ」

 

「ああ、名前だけは噂で聞いている。更識が言っていたが3組の御堂金光だ、よろしく頼む」

 

「そして私が王城叶だ、よろしくな。・・・・・・・・で、さっきの続きだけど、その斧を使わせて・・・・」

 

「いや、さっきからマジでしつけぇなお前。なんかフラッと現れたと思ったらずっとそればっかじゃねぇか」

 

「仕方ないだろぉ! 私にとっても死活問題なんだから! なぁ頼むよぉ~!」

 

「いや、理由も分かんなきゃ義理もねぇのにそんなん請ける訳ねぇだろうが・・・・」

 

「ウガァァァァァアッ! 頼むよぉ~おっ!」

 

 ああ、やっぱり私がお昼に行ってる間中ずっとこのやり取りしてたんだ。で、それを御堂金さんも見させられてると・・・・・・

 

 そりゃあ和也もめんどくさそうな顔してる訳だよ。

 

 それにしても、なんで王城さんはこんなに和也の持ってる斧に執着してるんだろう? 王城さんはまた和也に交渉? をし始めたし・・・・ 御堂金さんなら知ってるかな?

 

「あの、御堂金さん。王城さんはなんであんなに和也に詰め寄ってるんですか?」

 

「うん? ああ、それがな・・・・ なんと言うか、どうやら秋風の持っていた武装に一目惚れしたようなのだ」

 

「・・・・えっ? そんな理由? しかも斧に?」

 

 なんでそんな変な事態になってるの・・・・?

 

「もう直、学年別トーナメントがあるだろ? それに向けて叶はトーナメントで自分が使う武装を探していてな。その件について整備課の者に相談しようと此処に来たん

だが・・・・ そこで秋風の運んでいた武装を目にしてな。そうしたらこの有り様だ」

 

「ええぇ・・・・・・ だからって、ああもしつこくなります?」

 

「更識の言わんとしてる事は分かる。しかし、叶は前々から打鉄で使える近接武器が刀だけと言う事に不満を持っていてな。曰く、本人は刀の様な刀剣系ではなく斧やハンマーの様な重量を活かした武器の方がしっくり来るらしい。で、そんな矢先にアレを目にしてな・・・・・・」

 

 あぁ~あ、成る程。確かに昔から王城さんは近接戦をする時にやたら勢いを付けるみたいに攻撃してるなって思ってたけど、そう言う理由だったんだ・・・・・・ そりゃ確かに打鉄の葵じゃ重量系の武器とは言えないしね。

 

 それに打鉄の開発元である倉持技研は近接武器に関しては日本系っぽい武装ばかり作るから、斧やハンマーみたいな見た目が西洋系の近接武器は基本的に作らないんだよね。

 

 まぁそれでも、私の打鉄弐式には『夢現(ゆめうつつ)』と言う薙刀タイプの武装を作ってはいたから、一概に近接武器で刀剣系ばかりを作ってるとは言えないと思うけど。

 

「まぁ私も刀より薙刀に近い武器が欲しくてな。それで叶と共に此処に来た訳だが・・・・ まさかこんなに早く、探し求めていた物が見つかるとは思っていなかった」

 

 ・・・・・・うん? ちょっと今、変な言葉が聞こえなかったかな? なんか、探し求めていた物が見つかったとか・・・・・・

 

「あの、御堂金さん? 探し求めていた物って、 もしかして・・・・・・」

 

「ああ。叶は気付いてなかったが、彼が武装を運んで来たコンテナの中にあったんだ。私が探していた薙刀タイプの武器が!」

 

 それって・・・・ まさかチラッと聞こえた『ブースト・薙刀』!? なんでそんな所でこの人にピンポイントでヒットしてるの!?

 

「叶は拝み倒す様に何度も頼み込んであの武装を借りようとしているが、私は違う。冷静に、真摯に、しっかりと話を詰めて、彼に頼み込む所存だ!」

 

 いや、言い方で誤魔化してるけど、それは王城さんとやること変わってないよね!? 結局は拝み倒す感じに頼み込むだけだよね!?

 

 しかもこの人はなんでそれが上手くいくと思って、そんなドヤ顔を浮かべてるの!? まさかそれが通用するとか思ってないよね? 思ってないよね!?

 

 どうしよう? 御堂金さんって・・・・・・ 私が思ってた以上に、ポンコツだったの!?

 

 と、そんな風に私が元同僚の知られざるな一面にドン引きしていたら、何やら和也と王城さんの方でも動きがあった気配を感じた。

 

 いや、気配って言うか・・・・・・

 

「ほうほうほう、IS委員会日本支部のセクハラ問題・・・・・・ なぁ~る、ほ・ど・なぁ~・・・・・・!」

 

 ・・・・なんか和也が悪どい笑みを浮かべてるんだけど!?

 

 いやいやいやいや、あの顔知ってるよ! つい最近、倉持技研に対する嫌がらせの時に同じ顔してたよ!?

 

 ちょっと目を離した隙に一体どんな話をしたのか知らないけど、和也からあの顔が出てくるって大概だよ!? 絶対録な事にならないって!

 

「良いだろう。トーナメント期間中、俺の『ブースト・アックス』を貸してやる。存分に使いこなしてみろ」

 

「ホントか!? 良ーしっ! これで他の専用機持ちが相手だろうと遅れを取る様な事にはならないぞ!」

 

 なんか取引が成立しちゃったよ!? しかもなんか割とあっさり!

 

 ちょっと王城さん? 和也とそんな取引しちゃって本当に大丈夫? 現状、専用機を都合して貰ってる私ですら時折不安な時があるくらいなのに。

 

「なっ!? ズルいぞ叶! 私だって彼からアノ薙刀を借りようと思っていると言うのに自分だけ!」

 

「あぁ? なんか増えた・・・・ って、そういや居たな。で、何? お宅も俺の発明品に興味があんの?」

 

「勿論だ、私はコンテナの中に有った薙刀を借り受けたい。故に頼む! 私にその薙刀を貸して頂けないだろうか!」

 

 御堂金さん。それの何処が冷静で真摯で話を詰めると言ってた人の行動なんですか? 既に王城さんの二の舞の流れですよ、それは。

 

「えぇ~え。見ず知らずの奴に軽々と手ぇ貸したりしたくねぇんだけどなぁ・・・・・・ いやでも、このロリ巨乳がつるんでる奴だろ? ならコイツもまだマシな奴って事か・・・・・・」

 

「うぉい! 誰がロリ巨乳だよ!」

 

「あん? お前の事だろ? 目算89cm」

 

「はあぁぁあっ!?なんで分かんだよ!? 変態か!?」

 

「俺の観察眼に掛かればチラ見でも誤差5mm以内でサイズなんて測れる。それが例え服を着てようとサラシを巻いてようともな」

 

「やっぱり変態か!」

 

 変態か!

 

 と言うか王城さん? あなた私より背丈低いのに、89cm? ははははははっ・・・・・・・・

 

 ヒキチギルゾ、コノヤロウ・・・・・・!

 

「まぁ良いや、せっかくだし契約書作っちまうからちょっと待ってろよ。訳あり組織だが、それでも一応組織だし。二人まとめて契約って方向で良いか? ・・・・・・それに簪も入って、丁度テスターとかの人員も欲しいと思ってたことだし

 

「ああ、私達も今は別に何かしらの組織に属してる訳でもないしな。それで問題ない」

 

「了解っと。クロエ~、ちょっとこっち来て~」

 

 ・・・・・・・・・・はっ! ちょっと意識が飛んでる内に、なんか話が進んでる。

 

 だ、駄目だよ二人とも! 所属しちゃった私が言える事じゃないけど、騙されないで! それは間違いなく、悪魔の契約だよ!

 

 ああ、クロエさん。なんで既に契約書なんか手に持ってるの? そんなの持ってなかったじゃん。

 

 ああ、王城さんに御堂金さん。なんで疑う事なく和也の渡した契約書を読んでるの? もう少し和也の事を疑おうよ。

 

 えっ? 今回は武装のレンタルだけだからレンタル料とか金銭的なやり取りの発生は無し? けど使った感触等のレポート提出の義務化と、武装データの守秘の徹底だけ? 場合によってはトーナメント終了後も、レンタルの継続に改良の意見等も受け付ける?

 

 ・・・・・・・・罠だよ! 私も殆ど似た様な契約結んじゃったけど、客観的に見て気付いた。あまりに条件が良過ぎて、間違いなく罠だよ!

 

 ああ、でも、二人からの疑問とか明確に返答して疑問点潰してるから、完全に納得しちゃってる。完全に罠に嵌まってるよアレは・・・・・・

 

「さて、説明はこんなんで良いな。じゃあ・・・・・・ 俺と契約して、専属テスターになって貰おうか」

 

「良っし、乗ったぁ!」

 

 ああぁ・・・・・・、これで新たな犠牲者が二人も・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 後、その横でクロエさんは私のISの整備を完了してた。ついでに和也も、ちょっと作り直したと言う『春雷』と『山嵐』の装着(後で私の意見も聞きたいから仮付けとのこと)も済ましてた。

 

 ・・・・・・・・なんでこの二人、整備方面に関してだけはこんな優秀で頼りになるんだろう・・・・?

 

 

 

ーside 簪outー

 

 





 今回出した『王城 叶』と『御堂金 光』。これはオリキャラではなく、とある好きな作品から引っ張って来たキャラです。

 分かる人は少ないだろうなぁ~。でも好きな作品だし、キャラも好きなんだもの。仕方ないね。

 後、こうなるとタグにクロスオーバーを付け足さないと駄目かな?

 では、ターンエンド。



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第57話 稼働テスト? ーこれがデフォとな?ー

 お久し振りです。生きてます。

 実は現在出張中で、Wi-Fiの電波の悪いホテル生活ナウ。

 接続エラーで前ページ毎データが飛んだのは許さんぞ・・・・・・!




 

 

ーside 和也ー

 

 妙な二人組みの襲来とか有ったりしたが、簪のIS(武装仮組)の準備は出来た。尚、新規契約した二人は授業があるからってもう戻ってる。

 

 そんで午前中で得たデータを基に各出力等の調製も済んでるし、後は最終調整の為にも武装積んだ状態での稼働データが必要って訳で・・・・・・

 

「・・・・良し。じゃあ簪、準備は良いな?」

 

「・・・・うん、大丈夫」

 

 俺が稼働テストの対戦相手になるのは必然って事だ。

 

 取り敢えずデータ取りだから、先ずは尖った性能の機体を相手にするのは論外って事で俺は簪のISと同型とも言える『睦月』を使用。武装もテストらしく、先ずはアサルトライフルと実体型のシールドと言うベーシックスタイルでスタート。後は折を見て武装は替えて行く。

 

 対して簪の機体は同じ睦月型とは言え俺のとは違い、全身装甲(フルスキン)タイプじゃない。ボディ部分に身体を覆う様な装甲はないし、頭部も耳の周辺にあるアンテナ以外は露出してる。それに腕や太股の装甲もオミットしといたから、しっかり普通のISと遜色ないだろう。

 

 尚且つ武装も仮組みって事でも右肩に3連式に改良しといた連射型荷電粒子砲、『春雷』改め『迅雷(じんらい)』を装備。

 

 そしてちょっと小型化に失敗した結果、設置位置を両足に移す事に成ったが非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の6機10門で最大60発と言う強化に成功した独立稼働型誘導マイクロミサイル発射装備、『山嵐』改め『嵐破(らんぱ)』を装備。

 

 勿論、ご所望だったマルチロックオンシステムは既に実装済み。システム単体でプログロム組んでた時は詰まってたが、完全に武装と併用して良いとなったら思いの外スムーズに作成出来たわ。

 

 まぁ『嵐破』ありきで作った弊害として、完全に『嵐破』と『迅雷』以外には対応出来ない専用プログロムになっちまったが・・・・・・ どうせ簪しか使わないから別に良いかな? っと思ってる。

 

 ついでに『夢現』と同じ対複合装甲用の超震動型の武装が有ったから、それを近接用の武装として搭載。まぁ元は槍だったんだが、先端を薙刀っぽい感じに替えたもんだからパルチザン的な感じの武装になったが、簪なら上手く使ってくれるだろう。

 

「そんじゃ、まっ・・・・・・ 行きますかっ、とっ!」

 

ーーダダダッ、ダダダダッ、ダダダダッ!

 

 先ずは牽制と回避運動のデータ取りを兼ねて、アサルトライフルを乱射。無理に狙いは着けない。あくまで直撃するであろう弾幕に対し、細かな機動が出来るかの確認を兼ねた射撃。

 

 そしてそのまま円状制御飛翔(サークル・ロンド)で距離は維持しつつ、簪の対応を見る。

 

「っ・・・・! 行って、『迅雷』!」

 

 おお? ちゃんと気付いてるのか大きな回避行動は取らず必要最低限の動きだけで回避して来るか。

 

 しかも3連式に改良しといた『迅雷』を使って、ちゃんと対抗射撃も返して来てる。

 

 いや~、一度は虚さんに却下されたがしっかり連射性を向上させたのは正解だな。一応シールドで防いだりはしてるが、当初の『春雷』より一撃一撃のラグが短いのは良いことだ。

 

 それでもまだ、使い慣れてないからか実体型シールドでも十分に凌げる。

 

「おいおい。弾幕薄いぞ、な~にやってんだよ?」

 

「弾幕薄いって・・・・ まだテストは始まったばかりなんだから、そう言わないでよね」

 

「いやいや、テストなんだから全力でぶっ放して来いよ。そうでなきゃ限界値が測れん。その為のテストなんだからよ」

 

 寧ろそうして全力稼働してくれないと不十分な箇所やら修整箇所とかも分かんなしな。

 

 それにそうやって新型の粗を見付けてくれないと、追加で必要な武装も個人的に必要だろう物も分からない。そればっかりは乗り手側の感覚が重要になるし。

 

 だからこそ、遠慮なんぞしないで動かして欲しいもんだ。もんなんだが・・・・・・ 今いち攻勢に打って来ねぇな。

 

「あぁ~、なら仕方ねぇな・・・・ 簪、ちょっと攻撃レベル上げっからな」

 

「えっ? レベル上げるって・・・・・・」

 

「じゃあ、行くぜ!」

 

ーーダダダダダダダダッ!

 

ーードパァン! ドパァン!

 

「ちょっ、ちょっとぉ!?」

 

 先ずはシールドを収納してショットガンに持ち換え、データ取りを気にせずアサルトライフルと合わせて掃射。そのまま簪へと接近。

 

 流石に流れ弾程度にアサルトライフルの弾はカスったみたいだが、その後はきっちり回避行動に移ったな。ショットガンで回避先も多少制限したが、そこは流石は元代表候補生。攻撃範囲から逸れた上で、 きっちり距離を取って来た。

 

 そうだよな、その辺はちゃんと対応出来るよな。ならもう少しギアを上げても・・・・・・ 問題はなかろうよなぁ~?

 

「ほれ、まだまだ行くぞぉ!」

 

ーーダダダダダダダダッ!

 

ーードパァン! ドパァ! ドパァン!

 

「ちょっ!? なんで急にそんな・・・・!? ああぁ、もうっ!」

 

 はっはっはっはっはっ! 中距離に於いての射撃戦は『弥生』の方が得意としてるが、汎用性に秀でた『睦月』でも近い事は出来るんだよぉうっ!

 

 ほ~れ、アサルトライフル(両手持ち)だ! ショットガン(両手・両肩装備)だ! ロケットランチャーにRPG! ついでに『春雷』の技術を応用して密かに作った手持ち型荷電粒子砲(エネルギーパック式・1パック12発)、命名『春電(しゅんでん)』!

 

 取り敢えず、簪側のSEが切れるギリギリまで、高速切替(ラピット・スイッチ)でお送りしようじゃないかぁ!

 

 

ーside 和也outー

 

 

ーside 簪ー

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・!」

 

「いや~、良いデータ取りになったなぁ~」

 

「そうですね兄様。稼働データもさる事ながら、追加で必要な武装についての参考データも取れました。しかもちゃっかり兄様の新作もデータが取れましたね」

 

「おう! 良い感じにエネルギーパックの有用なデータが取れたぜ」

 

 ひ、酷い目にあった・・・・・・ なんか諸悪の根源達が和やかに話してるけど、こっちは酷い目にあった・・・・・・!

 

 何あれ? 今回の目的はあくまで起動テストと現状でのデータ取りじゃなかったの? 確かに私はそう聞いてたよ?

 

 なのになんで本格的な戦闘になってたの!? 気付いたら私なんか貰ったばかりの『迅雷』も『嵐破』もフル稼働で使わされる事になってたよ!

 

 それでいて和也の奴、両手・両肩のショットガンでマルチロックオンした『嵐破』のマイクロミサイル全弾打ち落とすって・・・・ なんでそんなこと出来るの!?

 

 て言うか、なんか『春雷』の手持ち武器っぽいの持ってなかった? それ私の方には積み込まれてないよね? なんかズルくない!?

 

「取り敢えず戦った感じ的には中~近距離戦も考慮した武装も幾つか必要だな。コンセプトが遠距離火力と高速戦闘とのスイッチとは言え、『迅雷』だけじゃ中距離戦や高機動戦を得意とする相手にゃキツいもんがあんだろ」

 

「そうですね。今回は近接戦のデータが取れませんでしたが、中距離戦闘での微妙な弱さがテストで露呈したのは幸いでした。これならばまだ武装の追加だけで対応出来ます」

 

「だな。となると実弾型の武装と、せっかくだし俺の『春電』もエネルギーパックと一緒に積むか。ついでに『迅雷』も増やして両肩に二丁装備出来る様にするか・・・・」

 

「兄様、そこは腰です。レールガン系を二丁実装するなら、腰に装備させるのが定石です。その後にマイクロミサイルやら追加の武装と一緒にフルオープンなアタックが出来る様に致しましょう!」

 

 クロエさん、その案には全面的に賛成です。フルオープンアタックはロマン、貴女とは良いお茶が飲めそうです。

 

 ただ、惜しむらくは・・・・・・ さっきから両膝着いて息を切らせてる私を無視するのはどうなんだろうねぇ!?

 

「良ーし、取り敢えず明日の予定は決まったな。簪、取り敢えず機体の整備等はやっとくから今日はもう帰って休んどけ。クロエ、お前さんはこの後はどうすんだ?」

 

「本当なら私も完成までお付き合いしたいのですが、一応は不法侵入ですので・・・・ 織斑千冬様に見付からない内に帰ろうと思います」

 

 ああ、そうだね。そう言えばクロエさん、不法侵入して来てるみたいなニュアンスしてたね。・・・・・・やっぱり完全な不法侵入なんだ。

 

 と言うか、IS学園のセキュリティってそんな簡単にすり抜けられるものじゃない筈なんだけど?

 

「そっか、そりゃ寂しいな・・・・ 取り敢えず夏の休みには帰るから、それまで皆のことは頼むな?」

 

「はい、お任せ下さい! では、そろそろ私は失礼しますね。簪様もお元気で。新しい武装等の要望がございましたら、兄様経由でご連絡下さい」

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・ あっ、はい。その時はよろしくお願いします」

 

「それでは、失礼します」

 

 そう言ってクロエさんが軽く頭を下げると、段々とその姿がうっすらと消えていって・・・・・・ って、うぇえっ!?

 

「ちょっ、和也! なんかクロエさんが消えたんだけど!?」

 

「は~あ、相変わらずの隠密性だな~。こっちのハイパーセンサーで全く反応出来なかったし、反応も残ってねぇ」

 

「いや、驚かないの!?」

 

「よくある事だ、あの程度じゃ驚かん」

 

 デフォ? あれがデフォだと申すか? あんな目の前で煙みたいに消えた事が!?

 

 ホントもう、なんなの? 新しい専用機貰った身で言うのもなんだけど、なんなの?

 

 和也も含めて、変人ばっかりかっ!

 

「さて、取り敢えず俺は情報漏洩の観点からもコイツ持って帰ってから整備しとくが、明日もデータ取りすっから朝から来いよ? 朝8時集合の9時開始な」

 

「いや、授業は?」

 

「そんなん捨て置け。開発はノッテる内に完成させなきゃ満足するもんは出来ねぇ。他の事は、完成してから考えろ」

 

 いや、此処、学校。一応、授業、大事ぃ!

 

 と言うか和也、そっちは織斑先生が担任でしょ? そんなんで良いの!?

 

「さ~て、どんな武装を積・も・う・かな~♪ 1個くらい大出力兵装は欲しいよな~、奥の手的に」

 

 ああ、諸悪の根源が揚々と帰って行く。大出力兵装とか気になる事を言いながら帰って行く。

 

 やっぱり私、所属先の選択間違えたかなぁ・・・・・・・・?

 

 それはそれとして・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だ両膝着いて動けない私を放置して帰んなぁ!

 

 

ーside簪 outー

 

 





 取り敢えずこれでクロエの出番は暫くお預け。次は今回触れなかった学年別トーナメントがタッグ形式に変わってる所に触れるよ~。

 後、収まりが良かったらそのままどっかの金髪さんにも触れておく。

 では、ターンエンド。



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第58話 形式変更 ー犠牲者は一人ー

 明けましておめでとうございます。

 昨年は半年近く音沙汰がなくすいません。
 さて、音沙汰がない間と言うか11月に充電も保たないしLINEが使えなくなったからと携帯をガラホからスマホに換えたんですが・・・・・・ 超・使い難い

 ついでに単語登録もなくなったし、スマホの打ち込み慣れないし、大・変! 四苦八苦しとります。仕舞いには前のガラホで打ち込みしとるくらいです。

 そんな漸くスマホを持つ様になって四苦八苦しとるオッサンですが、今年も記憶の片隅によろしくお願い致します。




 

ーside簪ー

 

 代表候補生だった頃の訓練よりも無駄に辛かった起動テスト・・・・ 起動、テスト? まぁ取り敢えず、私が不必要な迄に酷使させられたテストを乗り越えた私は、あれから一時間程経ってから漸く寮に帰る事が出来た。

 

 その後はまぁ、なんとかシャワーを浴びて汗を流してからベットにダイブして朝まで寝てた。それはもう、まさに死んだ様に。

 

 そして朝にお姉ちゃんにまた整備室とアリーナの使用の申請をお願い(丸投げ)してから朝食を摂り、担任の先生にも専用機開発に関する事と言うことと言うことでもう一日だけ休む事を許可して貰った。

 

 まぁ流石に今は代表候補生でもないから授業を免除して貰うなんて事は普通は出来ない。だけど、先生は今までも私が一人で専用機を開発してた事を知ってたからか、その意を汲んで目を瞑ってくれた。本当に先生には頭が上がらない。

 

 そして諸々の手続きやら下準備を済ませた私は・・・・・・

 

「よーし、簪。稼働データを元に各プログラムの最適化と武装の再配置は済ませた。今日も元気に、稼働テスト(実戦形式)だ!

 

 こっちの疲労を全く意に介していないとはっきり分かる程、無駄に元気な諸悪の根源(和也)と対面している。

 

 殴りたい、その無駄に元気な笑顔

 

「・・・・・・取り敢えず、おはよう。それで? 一体どんな風に武装の配置を変更したの? それくらいはテスト前に教えて」

 

 そもそも私の知らない所で変な事してないよね? 昨日聞こえた不穏な言葉の数々は私、忘れてないからね?

 

「まぁそんな睨むな睨むな。取り敢えず変えたのはメイン武装である『迅雷』と、牽制を兼ねた武装の追加だけだ」

 

「『迅雷』と武装の追加? 確かに昨日そんなこと言ってたけど、具体的には?」

 

「まぁ先ずは『迅雷』の配置を肩から腰に変え装備数を二つにした。これは追加した牽制用の武装を肩部で取り回せる様にするって意味もあるが、使わない時は姿勢制御用のスラスターの一部として使って貰おって思ってな。後、クロエの要望が腰部での配置だったから」

 

 確かに昨日クロエさんがそんな事を言ってた気がする。そして私もその案には脳内で賛同を示していた。だから、まぁそれは理解した。

 

 けど待って、確か私の記憶が確かなら・・・・・・

 

「ねぇ。確か『迅雷』って元々、スラスター替わりなる様な形でも性能でもなかったよね?」

 

「大丈夫だ、問題ない。昨夜の内に色々弄くり倒して折り畳みが可能にして小型のスラスター付けといたから」

 

 おい。今、昨夜の内にとか言った? つい最近まで前身である『春雷』を私が四苦八苦しながらも一人じゃ満足に作れなかったと言うのに、昨夜の内だけで折り畳み可能なまでに弄くり倒したと?

 

「ただ大きな弊害として、腰に移設したから三連式での使用が難しくなった。だから腰の武装は通常の単発式に戻したが、替わりに三連式の方は手持ち武装&エネルギーパック形式の物に転用しといたぞ」

 

「・・・・うん? ちょっと待って、なんかおかしくない?」

 

「後、追加武装は両肩用に牽制と迎撃用のガトリング。それに奇襲用の手榴弾が少々と、片手でも使えるタイプのマシンガンも二丁用意した」

 

「だから、ちょっと待って。なんでそんな簡単そうに言ってるの? 自分が今、明らかにおかしな事を言ってるって分かってる?」

 

「?」

 

 おい。そこでちょっと何言ってるか分かんない、みたいに首傾げんな。普通に分かってないのが腹立つから。

 

「まぁ何だが分からんが、良いから確認と起動準備してくれ。昼には昨日の奴等も放課後に使いたいからって、装備の確認に来るから地味に忙しいんだよ」

 

 昨日の奴等? ……ああ、王城さんと御堂金さん達の事か。えっ、なに? 和也、私だけじゃなくてあの二人の分の仕事も同時に処理しようとしてるの?

 

 私の方だとISの調整に改修、それに武装の改良、後、私の知らない所でなんか新しい武装もちゃっかり造るなんて事もしてる。

 

 そんな状況で更に王城さん達の武装の調整? しかも放課後に使うのに合わせて?

 

 ・・・・・・えぇ~え。なんか現時点で和也も授業サボってるのに、ここから更に仕事増やそうとしてるの?

 

「・・・・あのさ。私が言えたことじゃないけど、ちゃんと休んでる? なんか無理とかしてない?」

 

「? いや、時間は多少短くてもちゃんと寝てるが? てか、この程度はまだ全然無理とかの部類じゃねぇし。つか、良いから早く準備しろよ」

 

「ああ、うん。無理してるとかじゃないなら良いんだけど・・・・えぇ~え?」

 

 なんか、心配するだけ無駄なのかなって思うくらい無駄に元気なんだけど良いのかな?

 

 まぁ、和也の事だから気にし過ぎなくても良いか・・・・ 取り敢えず今日のテストはフラフラになり過ぎない様にしなきゃ。

 

 

 

[side簪 out]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[side和也]

 

「・・・・とまぁ、大体の使い方はこんな感じだ。出力は多少調整し直してあるけど、もうちょっと弄って欲しかったら言ってくれ」

 

「いや、大丈夫だ。聞いた感じなら十分に使いこなせる」

 

「私もだ。何より此方としては願ってもない機能でとても助かる」

 

「そう言って貰えれば技術屋冥利に尽きるってもんだ」

 

 ふぃ~。取り敢えずこれで王城と御堂金の分も仕事は大体終わったな。いや~、既存の武装を調整するだけだったから楽で良かったわ。お陰で昼休みには仕上げて渡せたし。

 

 まぁ起動テストの傍らで調整に付き合って貰った簪はフラフラになりながら飯食いに行ったけど、明日には復活してるだろう。今日はもうテストするもんもないし。

 

 去り際にやたら恨めしい眼でこっちを見てたのは気になるが・・・・ 俺、なんかしたか?

 

「あっ、一応盗難とかは気を付けてくれよ? 」

 

「私達だって元は代表候補生だぞ? その辺はちゃんと分かってるさ」

 

「まぁ流石に持ち歩くとかは出来ないから、格納庫でしっかり管理する形になるけどな」

 

 まぁその辺は一応の信用はしてんだけどな。簪からも女尊男卑思想な訳でもなければ、代表候補生としても真っ当な奴等だって聞いてるしな。

 

 けどやっぱ専用機ともまでは言わないけど武装だけじゃ管理が面倒くさいか・・・・

 

 どうすっかなぁ? 俺の感覚的にも問題なさそうだし、使わずに余ってる機体でも貸し出すか? 第二世代機の一般的な量産機だし、俺も殆ど持ち運び用の拡張領域(パススロット)枠でしか使ってないしな。

 

 う~ん・・・・・・ まぁ別に良っか。そもそもこいつらがどんな使い方するかも知らない状況じゃ変な機体は渡せないし、それに合わせて調整し始めたら多分トーナメントまで仕事漬けだろうし。

 

「そう言えば秋風、お前はアノ話どうするんだ?」

 

「あぁ? アノ話? いや、どの話?」

 

「うん? そっちのクラスはHRの時に話をされなかったのか?」

 

 HRって、朝のか? そんなん朝から整備室に居たんだから知る訳ねぇだろ? と言う事を二人に説明したら、なんとも呆れた様な視線を頂戴した。そんな眼で見んじゃねぇよ。

 

 で、噂のアノ話とは一体なんぞや?

 

「はぁーあ。なんでもな、今回のトーナメントがタッグマッチ方式に変更になったらしいんだよ。で、今はそのタッグパートナーをどうするかって話題で持ちきりなんだよ」

 

「具体的には誰が秋風を含む男子生徒とペア組めるかと言う話だな」

 

 へぇー、タッグマッチ方式か。確かにそれなら試合数を半分に省略出来るし、普段とは違って連携を主軸に置いた参加者同士の戦術

ってもんが見れるもんな。試みとしては面白そうじゃん。

 

「まぁ俺等の奪い合いはどうでも良いとして、王城と御堂金はペア決めはどうすんだ?」

 

「私はそのまま光とペアを組んだぞ。なんだかんだ付き合いも長いし互いの戦い方も分かってるしな」

 

「それに秋風から武装も借りたからな。そう言う意味でも私と叶でペアを組んだ方が良いと言う話になった」

 

「ほー。まぁそう聞くと妥当な人選だな」

 

 後、個人的には俺印の武装を持った同士でペアを組んでくれたのは有り難い。トーナメント中に急遽整備する事になっても一緒に処置出来るしな。

 

 それとトーナメントに参加するけどペアが見つからない生徒は開始前の抽選でペアが決められるそうだ。まぁこれはランダムな抽選になるけど、タッグトーナメントなのにペアすら作らず参加する奴はそういないだろ普通。

 

 それでもそんな措置があるのはペアが作れなかったか、見つけられなかったって生徒用なんだろうが・・・・・・

 

「けど、ペアを決めてない奴は抽選か・・・・ そりゃあ、随分と都合が良いルールじゃねぇか・・・・!」

 

 丁度クロエからのお願いもあったし、これはだいぶ使えるぞ? しかもご丁寧に()()()()()()()()()()()()()なんて事はしないだろうしな。

 

 ホントこれは、都合が良い事だ。クックックックッ・・・・・・!

 

「クックックックッ・・・・・・!」

 

「おい、光。なんか唐突に笑い始めたぞコイツ」

 

「ああ。しかも、悪巧みしてるのが丸わかりの悪どい笑いだ」

 

「・・・・私ら、手を借りる相手間違えたかな・・・・?」

 

「・・・・いや、まだ会って日も浅いのだし、その結論は早いのではないか? まぁ、私もちょっとそう思ってしまった事は否定できないが・・・・・・」

 

 クックックックッ・・・・ 見ていろクロエ。兄ちゃんは、ちゃんとお前のお願いは叶えてやるからなぁ!

 

 クゥークックックックックックッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それと、なんか俺から王城(おうぎ)御堂金(みどうかね)と呼ばれるとなんか発音が悪いらしく、二人からそれぞれ(かなえ)(ひかり)と呼ぶように言われた。

 

 そんな発音悪かっただろうか・・・・・・?

 

ーside和也 outー

 

 

 

 





 スマホだと『・・・・・・』が出ないんですが、どうしたら良いだろう?

 さて、取り敢えずトーナメントがタッグ形式になった事まで話が漸く進みました。先に言っちゃうと、簪の専用機の調整は今回で終わりです。後はトーナメント当日まで機体の出番はありません。

 去年は半年近く出張に行ってたけど、今年はどうなる事やら・・・・

 では、ターンエンド。



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