仮面ライダー×仮面ライダー剣〜triple joker〜 (メタカイザー)
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1話

我らの住む日本、その首都である大東京から遠く離れた、中東の異国の地にて…今一つの事件が起きていた。

今からもう十数年も昔…紫紺の戦士・仮面ライダーブレイドとして戦い、戦いの中で友情を構築した親友の願いを叶えるために、その身を異形へと変えた青年、剣崎一真。

人々を助けるために永遠の時の中で旅を続ける彼の身に、今危機が迫っていた。

 

「なぜだ!?なぜ俺を狙う!?」

 

剣崎は目の前に立ちはだかり、行く手を塞ぐ金色の仮面ライダーを睨み、叫ぶ。

金色のライダー…アルファベットの「A」を象り、かつて剣崎達所謂「剣ライダー」の四人が使っていたシステムや変身能力とよく似たベルトが特徴的なそのライダー…仮面ライダーグレイブは、自身の武器である醒剣グレイブラウザーの切っ先を向け、剣崎へと近づく。

 

「貰うぞ…貴様の命…」

 

冷淡なその一言を吐き捨てるように言うと、グレイブはラウザーを一閃し、剣崎の体を斬りつける。

 

「ぐああああっ!!」

 

剣崎の体からは異形の証である「緑」の血が吹き上がり、地面に膝をついた。

 

「は…じ…め…」

 

意識が薄くなっていく最中、剣崎は日本で人々の中で生き続けているかけがえのない…そして「最後の切り札」という逃れられない宿命を共に背負ったもう一人の自分ともいうべき親友・相川始を思い、血だまりの中に倒れた…

 

役目を終えたグレイブは変身を解くと、その仮面の下から現れた冷徹な表情で剣崎を見下ろした。

 

「これで俺の望みを叶えることができる…最強の力…俺の手の中に…!」

 

不気味な笑みを浮かべると共にその男…海東純一は拳を握りしめるのであった…

 

あれから長い年月が過ぎ、心を通わせていた少女も綺麗に成長した…

だからこそもう一緒に過ごす時期も過ぎ、これからは彼女自信が自分で自分の運命を切り開いていかなければならない。

それは分かっていたのに…分かっていたはずなのに。

心に寂しさを抱いたまま、かつて漆黒の戦士・仮面ライダーカリスとして戦っていた53番目の切り札…相川始は大都会を彷徨っていた。

荷物を最低限に詰めたリュックと、カメラのケースだけ持った彼はこれからの身の処し方を模索している最中だった。

かつての仲間達を頼れば、きっと快く自分を受け入れてくれるだろう。

だが仲間達の優しさに甘えるなんて迷惑はかけられないし、剣崎が…自分と運命を共にしてくれた心からの親友が今一人、世界のどこかで運命と戦い続けているのに、できようはずもない。

そうは思っても、心にのしかかる寂しさは想像以上に重たかった。

 

「あいつも…こんな気持ちだったのか…?」

 

かつて剣崎が仲間を求め、何度自分に足蹴にされて、対立を繰り返しても歩み寄ってきた時の気持ちが今わかるような気がした。

あいつは今…どこで何をしているんだろう?

もう二度と会うことの許されない親友へと想いを馳せる。

…歩き続ける始の目に、ふと一軒の店が止まった。

 

「居酒屋…か。」

 

不死生物という都合上、腹が空くわけはないのだが、今日はまだこんな時間になるまで何も口にしていないし、水一杯すら飲んでいない。

 

「気ぐらいは、紛れるか。」

 

始は苦笑しながら居酒屋の門をくぐる。

自分を待ち受ける、新たな運命へと…

 

居酒屋の店主は、今入ってきた一人の青年の気配が気になっていた。

ビールとイカ焼きを頼み、寂しさと悲しみを紛らわせようとしている姿に、若さには見合わない重たい何かを背負っているようなその姿が目を引いたのである。

自分も「特異」な経歴の持ち主だが、彼の場合はまた違った…それでいてなにか昔の自分と同じものを感じてしまう。

そんな中、彼の荷物にカメラのバッグが置かれていることに気づいた。

 

「なるほど、似ているのはこれかな?」

 

とりあえず若い者にすこしちょっかいをかけるような感覚で、話しかけてみることにした。

若き頃、自分にとって父親のような存在であったあの人のようにできるかどうか、なるべく寄せるようにしながら。

 

「兄ちゃん、カメラやるのかい?」

「あ…ええ、まあ。」

「俺もさ。」

「え?」

 

居酒屋の店主は、片手でカメラのシャッターを押す仕草をしながら、若者…相川始に笑いかけた。

 

「俺は一文字隼人、フリーのカメラマンで…居酒屋さ。」

 

居酒屋の店主…一文字隼人は、優しくも何かを見通しているような眼差しで始を見つめた。

始はその視線に少し戸惑いながら、残ったイカ焼きを頬張り、ビールを飲み干した。

 

「ご主人も、カメラマンだったんですか。」

「まあ今は居酒屋なんてやってるが、昔はいろんなところに行ったもんさ。南米だったり、オーストラリアだったり…懐かしい思い出さ…よかったら君の写真と俺の写真、見せ合ってみないか?」

「え…ええ、いいですよ。」

「よし、じゃあ決まりだ。」

 

隼人は店の奥に向かい、始は荷物から自分の写真集を取り出す。

少しすると、古いアルバムを持った隼人が、優しく微笑みながら戻ってきた。

 

「少し古くて色褪せているものもあるが、それなりの自信作だ。若い者には負けんぞ!」

「お手柔らかに、お願いします。」

 

お互いに写真集とアルバムを交換しあい、ページを開く。

始にとって、隼人がとってきた写真は古いがどこか新鮮であった。

昭和中期当時の日本の景色、もはや古いドラマでしかみることもできないクラシックカーと呼ばれるほどの車の数々、南米やオーストラリア、アマゾンといった海外…

一万年という長い年月をカードの中で生きていた始には見慣れない光景がその写真の中に広がっており、カメラマンとして心が踊っているのがわかった。

 

「すごいですね…映像や写真で昔の物はいろいろ見てきましたが、ご主人の写真はとても生き生きしている…まるですべてが当時そのまま生きているみたいだ。」

「君の写真もいいじゃないか、無機質な感じがする中にも、ちゃんとした心を感じる…その若さでこれだけ取れるなんて、昔の俺が見たら嫉妬しちまうよ。」

 

実際生きていた年月だけ言えば隼人より始の方がはるかに長いのだから、始はそのことに苦笑してしまう。

そして隼人のアルバムをさらに一ページめくると、オートレースを撮影した写真でいっぱいのページが広がった。

そのレースの写真の中では、一人の男性が中心になるような撮り方をされていることが気になり、始は尋ねてみる。

 

「ご主人、この写真…みんなこのレーサーが主役のように撮られていますね。」

 

…隼人は懐かしみ、その男に想いを馳せるかのように…ゆっくりと口を開く。

 

「…そいつは、俺が知っている中で最高のオートレーサーで、俺とは、血を分けた兄弟以上の親友なんだ。」

「…兄弟以上の…親友。」

 

始は自分の…「血を分けてしまった」親友である剣崎一真の姿を脳裏に描いた。

彼とはもう十数年…仲間である橘朔也のミスでカメレオンアンデッドが解放されてしまった際の事件と、あの無言の電話一本だけの会合しかしていない。

日本各地…それどころか世界中で彼の噂を聞くたびに現地に向かい、彼の姿を探した。

 

…余談だが失われた伝説である仮面ライダー3号が蘇って歴史が愚かな狂い方をした際、剣崎と始は歪んだ形ではあるが一緒に過ごせる世界を過ごしたのであるが、修正された今、触れないでおこう。

 

隼人は始の姿に哀愁を感じ取ると、少し眉間に皺を寄せながらたずねる。

 

「…どうした?なにか悪いことを言ってしまったかな?」

「いえ…俺にもいるんです…血を分けてしまった…くらいの、友人が。」

「そうか…会ってないのか?」

「一度帰ってきたことはあったんですが、まともに会話もしていないし、最近でも四年ほど前に電話があったきりです。今はどうしているかわからないけれど、会って一言、文句を言って殴ってやりたい。」

「そうか、会えるといいな。」

「…はい。」

 

始は立ち上がり、財布から千円札を二枚出すと、カウンターの隼人の前に差し出した。

 

「おう、お釣を今持ってくるよ。」

「いえ、写真も見せてもらえたチップです。ありがとうございました。」

「お、おう。じゃあこのチップで店が終わったら、俺も一杯だけもらおうかな。」

「ごちそうさまでした。」

 

始は居酒屋の引き戸をがらりと開け、一歩外へ出る。

…ふと後ろを振り返って、隼人に尋ねて見た。

 

「…あの。」

「うん?」

「…また、伺ってもいいですか?写真、もっとあれば見せてもらいたいです。」

「…ああ、いいとも。君の写真も、もっと見せてくれよ。」

「はい。」

「それと、よければ名前を聞いてもいいか?写真集の、真崎剣一、っていうのはペンネームだろう?」

「…相川始、です。」

「…是非、また来てくれよ。」

 

隼人は始に微笑み、始も微笑みを返すと、居酒屋を去っていった。

始にとってなんだか、ほんの少し心を許せる先輩に出会えたような気分であった。

 

…薄暗く、不気味な鷲のレリーフが大々的に装飾された手術室に、剣崎一真は拘束されていた。

 

「んっ…ぐっ!?」

 

目を覚ますと、上半身に激痛が走る。

グレイブによって作られた斬撃の傷痕がまだ癒え切っていないようだ。

手術台に拘束されているので自由にとはいかなかったが、周囲を見回し、剣崎はその光景に息を飲む。

 

「ここは…?」

 

最近冬場や春頃になると、時々自分以外の仮面ライダー達と会合し、悪と戦ったり無意味な同士討ちをする運命に抗えず、戦い合ってしまう時がある。

そしてその中で出会った昭和ライダーの先輩達が言っていた、悪の組織のアジト…ここはそんな場所に感じた。

 

「目が覚めたか。」

 

先ほど聞いた声に、反射的にそちらを振り向く。

そこには先ほど自分を斬りつけた青年の姿があった。

 

「お前は…!?」

「俺の名は海東純一、今やショッカーの大幹部、仮面ライダーグレイブさ。」

「ショッカー…昭和ライダー達が戦ったっていう悪の組織か!?」

 

純一は不敵な笑みを見せ、拘束された剣崎の姿を舐め回すような視線で見回す。

剣崎はその不快な視線に、嫌悪感を見せずにはいられなかった。

 

「気持ち悪い目でみやがって!仮面ライダーの癖にショッカーに味方するなんてなんて奴だ!大体、悪の組織って奴らは歴代の仮面ライダー達がみんなやっつけたはずだろう!?」

「確かにな。だがどんな組織にも残党がいる。その残党達は未だに世界各地…それどころか異世界にすら進出し、水面下で行動するなり、新しい首領を祭り上げて勝鬨を上げるなり…滅びることなどないのさ。」

「そんな…!?」

「俺も異世界人でな。貴様の…最強のアンデッド、ジョーカーのオリジナルのデータを手に入れるために捕まえてやったのさ。」

「なんだと!?何のために!?」

 

純一は黒いスーツの内ポケットに手を入れ、一枚のカードを取り出した。

一枚の…白と赤のプライムベスタ…剣崎はそのカードに見覚えがあった。

自分、もしくはかけがえのない親友である相川始が封印された際の姿であるそのカードに、それはとても似ていたのである。

 

「それは…ジョーカーのベスタ!?」

「これは「アルビノジョーカー」…ジョーカーの亜種と言われた、幻のアンデッドをモチーフにして模倣したベスタだ。」

「模倣…だと!?」

「…とある世界、お前とはまた別の「仮面ライダー剣の世界」で、かつてある事件があった。最強のアンデッド、ジョーカーを再現するというな。その事件は解決したが、人為的にアンデッドを再現する考え自体は実に面白い。俺はショッカーに入りその技術をより発展させ、アルビノジョーカーを再現するつもりなのさ。」

「どうして!?どうしてそんなことを!?」

「俺は、故郷である世界の支配者になりたくてね。どうしても力が必要なのさ。お前にはそのための材料になってもらう…お前の、友にもな。」

「まさか!?」

 

剣崎の脳裏に、もう一人のジョーカー…始の姿が…そして最悪の展開がよぎる。

拘束具をガチャガチャと鳴らしながら、剣崎は叫んだ。

 

「やめろ!?始に手を出すな!!やめろおおおおっ!!」

「…始めろ!」

「イィー!」

 

純一の命令と友に、ショッカー科学員がスイッチを入れる。

すると手術台が不気味に光り出し、剣崎の体に激痛が走り始めた。

 

「ぐあああああっ!?う…ううああああああ!?」

「もがけ…そしてデータを俺によこせ…全ては…俺の野望のために…その為に、相川始…貴様にも来てもらうぞ…くっくっくっ…はっはっはっはっはっは!!」

 

手術室には、剣崎の悲鳴と、純一の笑い声が、不気味に…痛々しくこだました…

 

隼人の店を出た始は人気のない廃工場まで来ていた。

とりあえず今宵はどこか夜を明かせる場所を探したのである。

 

「野宿は、久しぶりだな。」

 

ハカランダに来る前…そしてカメラマンとしての仕事で経験もしているが、ここ最近はとんと機会もなかった。

いつもは自分を慕ってくれる少女と、その優しい母の笑顔があった…

ある程度時間は経っているが、そこから去ってしまった寂しさは拭えない。

 

「分かっていたはずだ…分かっていた。」

 

自分が選んだ道なのだ、後悔はしていない。

だがどうしても慣れることが未だできない。

一万年前、ジョーカーとしてバトルファイトの切り札に君臨していた時には考えもしなかったこの感情。

だが剣崎も今…いや、十数年前からこんな悲しみと戦っているのだ。

始は自分に言い聞かせた。

 

「おかしなものだ…あいつと同じものを共有していると思うと、この感情も悪くないものに感じる…ん?」

 

かつて剣崎が「けっこう濃い付き合いして来たのに、寂しいじゃないか」といって来た時、「気色悪い」と一蹴したことを思い出してしまう。

 

「…いかんな、これは気色悪い。」

 

始は考えを改めながら、寝袋の準備をし始めた。

その時である…数発の手榴弾が飛来し、始の元に落ちた。

 

「っ!?」

 

始はとっさにジャンプし、回避すると、凄まじい爆風が上がる。

受け身をとって立ち上がると、無数の鎖が飛んで来て、始をがんじがらめに捉えた。

 

「ぐっ!?こ、これは…」

『イィー!!』

 

爆風が晴れると、無数の黒づくめの男達…ショッカーの戦闘員達が現れ、鎖を手にしていた。

この手榴弾と鎖攻撃は彼らによるものであったのである。

 

「貴様らは…!?」

「ヒヒヒヒ…!」

 

不気味な笑い声が周囲にこだまし、アスファルトの地面を突き破って異形の影が現れる。

サボテンを象ったその姿…ショッカーの魔人・サボテグロンである

 

「相川始!捕らえたり!」

「貴様…何者だ!?」

「俺の名はサボテグロン!ショッカーの誇る改造人間だ!」

「改造…人間…?」

「貴様のアンデッド…ジョーカーとしての力を我々は欲している!すでにもう一人のジョーカー、剣崎一真は我々が捕らえた!」

「なっ…なに!?」

始は大きく眼を開き、驚愕を隠せずにはいられなかった。

剣崎が捕らわれ、危機の中にいる…始の心は動揺し、ジョーカーに変身して抵抗するタイミングが遅れてしまう。

 

「剣崎が…剣崎が…捕まっている…!」

「貴様もすぐに連れていってやる!戦闘員共…やれぃ!!」

 

サボテグロンが号令をかけ、戦闘員達はより強く鎖を縛りあげようとした。

その瞬間である。

 

「待てぃ!!」

 

突如、夜の闇を切り裂くような鋭い叫びが走り抜けた。

同時にバイクの爆音が鳴り響き、高速で駆け抜ける輝くマシン闇の中で煌めきながら、戦闘員達を跳ね飛ばした。

 

『イィー!?』

 

戦闘員達はちりぢりに吹っ飛ばされ、マシンを運転していた男性はヘルメットを外し、捕らわれた始に歩み寄る。

 

「貴方は…」

 

その男…先ほど談笑した居酒屋の店主…一文字隼人は、険しい表情で始を拘束している鎖を掴み…素手で引きちぎった。

 

「大丈夫か?」

「ご主人…貴方は…!?」

 

素手で鎖を引きちぎるその力…明らかに人間のものではない。

始がさらに驚愕している中で、隼人は立ち上がり、サボテグロンを睨んだ。

 

「き、貴様、何者だ!?」

「ほう…その怪人は俺が初めて戦った奴なんだが、どうやら貴様は素体が違うらしいな。」

 

隼人は不敵な笑みと友に、サボテグロンに右手の人差し指を突きつけ、叫ぶ。

 

「教えてやろう…俺は、ショッカーの敵…そして、人類の味方!」

 

上着のジッパーを開け、思い切りそれを両手で開くと、そこにはバッタを象ったエンブレムが描かれたシャッターが目を惹く、赤い変身ベルトがあった。

 

「お見せしよう…仮面ライダー!!」

 

隼人は両手を水平に構え、そこからゆっくりと、半円を描いていく…そして両拳を握りしめるような力強いポーズを最後に取ると、高らかに叫んだ。

 

「…変身!!」

 

それと同時にベルトのシャッターが開き、凄まじい風のエネルギーが中心の風車ダイナモに吸い込まれていく。

 

「トオォっ!!」

 

そして満月が輝く空に天高くジャンプした。

風車ダイナモからは凄まじいエネルギーが放出され、隼人の姿を変えていく。

 

…着地した隼人の姿は「変身」を遂げていた。

 

鮮やかな大自然の雄大さで彩られた緑の仮面…

悪を倒す為と言わんばかりに紅く染まった両腕と両足…

そして夜風に翼の様にはためく、真紅のマフラー…

 

その名も、仮面ライダー2号!

かつて「力の戦士 2号ライダー」とよばれた伝説の戦士が、長い時を超え、今再び大地に立ったのである!

 

「私は必ずお前を倒す…行くぞ!」

 

仮面ライダー2号はその真紅のマフラーをはためかせ、真っ直ぐにサボテグロンへと突き進んだ。

歴戦のその雄姿が放つオーラは、ただ肉体の強度と頭脳の良さだけで選ばれた素体である今のサボテグロンにはとても大きなプレッシャーとなって襲いかかっていた。

 

「せ、戦闘員ども!やれ!!」

『イイー!!』

 

声を震わせながら戦闘員をかからせるものの、戦闘員の一人が2号ライダーに接近した刹那、鋼のような真紅の拳が戦闘員の顔面に打ち込まれた。

 

「トオォッ!!」

「イイィっ!?」

 

戦闘員は地面に倒れて瞬時に緑の液体となり、消滅して行く…

仮面ライダー2号…かつてショッカーが仮面ライダー1号を倒すために作り上げた同型のバッタ改造人間。

脳改造前に1号ライダーに救出され、後にダブルライダーとして名を馳せた、この世に生まれた2人目の仮面ライダーである。

柔道6段、空手5段という武術の達人である一文字隼人を素体として改造された2号ライダーは、その剛力で相手をなぎ倒すように戦うスタイルから、「力の2号」とよばれ悪から恐れられている。

その異名のごとく、襲い来る戦闘員を殴り倒し、蹴り飛ばし、地面へと叩きつける。

あっという間に戦闘員達は全て倒され、残るはサボテグロンのみとなった。

 

「サボテグロン!残るは貴様一人だ!」

「お、おのれ〜!こうなればこのサボテン爆弾を貴様に食らわせてやる!」

 

サボテグロンは大きな球型のサボテンを取り出し、思い切り振りかぶる。

メキシコの花…魔人サボテグロンが繰り出す、破壊力の高いサボテン爆弾である。

 

「くらえ2号ライダー!咲いて散れメキシコの花!!」

 

サボテグロンは力一杯、2号ライダーに向けてメキシコの花を投げつけた。

…しかし、実戦経験のない素体が歴戦の勇士を恐れて破れかぶれになげつけた爆弾など、2号ライダーに効くはずもない。

 

「トォっ!!」

 

爆弾は簡単に飛び蹴りで蹴り返され…サボテグロンに直撃して爆発した。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

自分の爆弾の直撃を受けたサボテグロンは爆炎に飲まれ、炎に焼かれた。

もう助からないのは2号ライダーの目から見ても、始の目からみても明らかである。

サボテグロンは炎の中で、始にむけて苦しげに視線を向ける。

 

「あ、相川始…俺はここで死んでも、いずれ貴様にも新たな追っ手がやってくるだろう!どこにも逃げ場はないのだ!!ギヒヒヒヒヒヒ!!!!」

 

サボテグロンは断末魔の雄叫びをあげ、炎の中で爆散した…

…戦いが終わった後、2号ライダーは変身を解き、地面に座り込んでいる始へと歩み寄った。

 

「大丈夫か?少し怪我をしているようだな。」

 

始は複雑な顔で、頬から流れている緑の血をぬぐった。

緑の血…不死生物、アンデッドである異形の証…しかしそれをみても、隼人の視線は居酒屋で見せていたものと同じ、優しく穏やかなものであった。

 

「…驚かないんですか?」

「今の若い連中のことは俺はよく知らんのだが、俺だって改造人間さ。人間でありながら人間でない…そんな悲しみをもう四十年以上もひきづっている。だが俺も、俺の知っている仲間達もみな、それを受け入れてきた。君の悲しみを、苦しみを、そして君自身を受け入れるのだって、俺達にはわけないさ。」

 

隼人はまっすぐに、力強く…そして優しく、始へと手を伸ばす。

 

「これは俺の後輩が言っていた言葉なんだが、人間じゃないってのも、いいもんさ。」

「…ありがとうございます……先輩。」

 

始は彼らしくもなく、少し気恥ずかしさが混じったような気持ちだった。

…しかし、心から喜びながら、隼人の手を取った。

 

一方、ショッカーのアジトの研究室では、海東純一によるアルビノジョーカー開発のための研究が続けられていた。

剣崎から得たデータと血液サンプルにより、一気にアルビノジョーカーのベスタは完成に近づき始めたものの、まだ必要な情報のピースが足りず、純一は苦虫を噛み潰したような気分であった。

 

「チッ…やはり人間からジョーカーに化身した際のデータだけでは必要な情報が足りないか…」

「くっくっくっ…どうやら自慢のアルビノジョーカーとやらはうまく行かんようだな。」

 

苛立っている純一の耳に、小馬鹿にしたような笑い声が響く。

気づくとそこには、黒いシャツの上に青いデニムジャケットを身につけ、革のベルトで留めたジーンズを履いた、純一と同年代ほどの少し筋肉質な男性の姿があった。

 

「レオール…」

 

レオール…彼もショッカーの幹部の一人である。

武闘派な外見と気質の中にも悪の組織の幹部らしい奸計を巡らす二面性を持ち、組織内では恐れられているのである。

 

「海東純一、貴様が送った部隊…仮面ライダー2号に蹴散らされたそうだ。」

「ふん、貴様らの誇る怪人軍団とやらも使い物にならんな。外様の俺が幹部になれるくらいだ、どうせろくな素体を改造人間にしなかったんだろう?」

「俺達の戦力を無駄遣いしたくせに言ってくれるな…」

「悪いが小言を聞いている暇はない、俺は忙しいんだ。」

「…単刀直入に言うぞ。」

 

レオールは純一の前に立ちはだかり、彼の胸ぐらを掴んで睨みつけた。

 

「俺は貴様を信用していない…故郷の支配者になるため組織に入ったと言っておいて、何を企んでいるか…少しでもおかしなそぶりを見せてみろ?その首…落ちることになるぜ?」

「…フン。」

 

純一はレオールを振りほどくと、研究室を去っていった。

そんな彼の後ろ姿を見つめながら、レオールはひとつ舌舐めずりをして口を開く。

 

「海東純一…貴様の真意は知らないが、最強のアンデッドの力…人間ごときに渡すほど俺もバカではない。必ず利用させてもらうぞ、必ずな…!」

 

レオールは一枚の女性の写真を取り出し、パチンと指を鳴らした。

 

「エジプタス!」

「エ〜バラポロポロ!!」

 

不気味なうめき声にも似た鳴き声とともに、黄金の仮面を被ったミイラのような怪人が姿を現した。

この怪人の名はエジプタス…紀元前400万年ごろ、エジプトにいたと言われている怪物をショッカーが改造人間として復活させた者である。

この怪人も素体を新たに、ショッカーの残党によって復活していたのである。

 

「この女…栗原天音を探し出して捕まえろ。海東純一より先に、ジョーカーの秘密を手に入れるのだ!」

「イーバラポロポロ!!」

 

喫茶店「ハカランダ」…かつて相川始が下宿し、人間の心を理解するきっかけになった場所である。

その地下にある一室で深夜、ベッドの上で膝を抱える女性の姿があった。

 

彼女の名は栗原天音…かつて相川始と心を通わせ、憧れを抱いていた少女である。

始が去ったばかりの今、普段は隠している寂しさをさらけ出すかのように始が住んでいた部屋に深夜閉じこもり、少しでも始の温もりを感じようとしているのだ。

 

「始さん…会いたいよ…」

 

…叔父が書いた「仮面ライダーという名の仮面」。

今や大ベストセラーとなった書籍を読んだ時、始のことは詳しくは書かれていなかった。

だが時間が経つにつれて自分もカリスの正体を察し始め、それを確かめようとした矢先に始は姿を消してしまった。

始がいなくなってしまったことは悲しい。

だけどもし、それを察し始めたことによって始を傷つけてしまったのなら、それはもっと悲しい。

会いたい…会ってもっと話をしたい…

何もいってくれなくてもいい、ただそのぬくもりを再び感じたい…それが偽らぬ天音の本心であった。

 

そんな天音の耳に、地鳴りのような音が聞こえてきた。

 

「な、何!?」

「エーバラポロポロ!!」

 

突如部屋の地面を突き破り、エジプタスが出現した。

エジプタスは両手を構えながら、天音へと襲い掛かる。

 

「きゃあああああ!?」

「アバラポロポロ!!」

 

エジプタスはその剛力で天音を捕らえ、締め上げる。

呼吸が苦しくなり、意識が落ちていく中で…天音は大切な人の姿を思い浮かべ、涙を流した。

 

「たす…けて…はじめ…さん……」



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2話

仮面ライダー2号との出会いの後、始はかつてともに戦った仲間である仮面ライダーギャレン、橘朔也が所長を務める研究所から、とあるものを持ち出していた。

まずひとつ目は自分がカリスに変身するために必要なハートカテゴリーのプライムベスタ、AのカードからKのカードまでの13枚一式である。

 

「勝手に持ち出して、橘には悪いが…」

 

山奥の木陰にひとりポツリと座り込み、始は自分のカードを見つめた。

もし、自分が剣崎を助けるためにカードが必要だといえば橘も、そして今は企業勤めをしながら見て幸せな日々を生きている仮面ライダーレンゲル・上城睦月も喜んで協力してくれるだろう。

だがショッカーは今回、自分達ジョーカーを狙っている。

剣崎を…そして始さえも救うための研究をしてくれている橘にそんな迷惑はかけられないし、もう一般人である睦月を巻き込むこともできない。

ベスタはことが済めば返すとメッセージは残して来たし、目的も行き先も記してはいない。

二人を巻き込むこともないだろう。

 

「剣崎…」

 

始は囚われている剣崎へと想いを馳せる。

長い間、まともに会うこともできなかった心を許しあえる友…

それが今は敵の邪悪な野望の手の中にある。

始にとって絶対に許せないことであるし、相川始としての人生を与えてくれた剣崎は、自分の手で必ず救い出さなければならない。

二人が出会った時、闘争本能が掻き立てられる事を避けるために少し話す時間すら許されなかったとしても、ライダー2号が必ずうまく事を運んでくれると約束してくれた。

 

「必ず助ける…必ず…!」

 

始はもうひとつ研究所から持ち出して来たもの…変身ベルト・ブレイバックルとスペードの13枚のプライムベスタも取り出し、少し強く握った。

剣崎を助けた際、もしかしたら必要になるかもしれない。

使って欲しくはないが、いざという時の際の備えは必要であると判断した。

もはや準備は万全…あとは剣崎が連れ去られた場所を調査している2号ライダー、隼人からの連絡を待つばかりだ。

…そんな時、始のスマートフォンがポケットの中で音を立てて振動し始めた。

 

「なに?」

 

ポケットから電話を取り出し、電波を見てみる。

…圏外。山奥だから当然だろう。

なのに電話は異常なく鳴り響き、画面には非通知とだけ表示されている。

 

「テレビ電話だと…なぜこんな山奥で…まさか…!?」

 

始は目を見開き、急いで画面をスワイプする。

すると、見知らぬ男性が不敵な笑みとともに、スマートフォンの画面に映し出された。

 

「初めましてだな相川始、仮面ライダーカリス。それとも、ジョーカーと呼ぶべきかな?」

『貴様…ショッカーとかいう連中の仲間か?』

『俺の名はレオール。こう見えても今のショッカーの幹部の一人さ。以後お見知り置きを。』

「圏外の携帯に電話をかける技術があるなら、イかれた目的よりもっとマシなものに生かすべきじゃないのか?」

『早速の皮肉をどうも。だがこれを見ても皮肉を言っていられるかな?』

 

レオールは乱暴に一人の人物を画面内に引き寄せた。

エジプタスによって捕まった、栗原天音を。

 

『始さん!』

「っ!?天音ちゃん!?」

『貴様の大切な栗原天音は、我々ショッカーが預かった!助けたければこちらの要求を聞いてもらうぞ。』

「貴様…何が狙いだ…!」

 

始はスマートフォンを握りしめ、怒りと殺意を込めて呟くようなトーンで聞き返した。

並の人間なら腰を抜かすほどの威圧感だろう。

 

『この娘の代わりに貴様が我らにとらわれ、実験材料になってくれれば自由にしてやるさ。場所はメールで指定してやる。待ってるぜ。』

『始さん!来ちゃダメ!私の為に自分を傷つけないで!』

 

レオールは天音を突き飛ばし、画面から無理矢理に弾き出した。

 

『きゃっ!?』

「天音ちゃん!貴様ぁ…!」

『くっくっくっ…待ってるぜ。』

 

レオールはそれだけ言い残し、電話はそこで切れた。

そしてすぐに敵からメールが届き、始は場所を確認し、激しい怒りを滾らせた。

 

「剣崎…天音ちゃん…ショッカー…絶対に許さん…!」

 

ショッカーのアジトの地下牢…剣崎は特殊な拘束具を四肢にはめられ、完全に動きを封じられた状態で牢につながれていた。

 

「クソ…駄目か…!」

 

どうやらジョーカーに変身する能力を押さえる力が拘束具にあるらしい。

何度試してもジョーカーになれなければ、剛力を発揮して枷を壊すことすらできなかった。

 

「なんとか始に…危機が迫っている事を伝えないと…」

「その必要はないさ。」

 

そんな剣崎の元に、レオールが現れる。天音を傍らに押さえながら。

 

「剣崎さん!?」

「天音ちゃん!?」

 

剣崎はかつて自分に住む場所を与え、生活をサポートしてくれた友人の姪であり、親友のもっとも守りたいものであった少女…もう年月が過ぎ、りっぱな女性へと成長した天音との予期せぬ再会に驚き、天音もまた叔父の大切な友人であり、仮面ライダーとして何度も自分を助けてくれた剣崎の姿に驚いていた。

レオールはそんな二人をあざ笑うような眼で見つめる。

 

「どうだ剣崎一真?十数年ぶりに知り合いに会えた感想は?嬉しかろう?」

「貴様ら!狙いは俺達じゃなかったのか!?彼女は関係ないだろう!?」

「それが大有りさ。この女は相川始にとってもっとも大切なもの…こいつを使ってやつをおびき出すのさ。もっともこれは俺の独断で、海東純一は関係していないがな。」

「どこまで卑怯なんだ…俺は絶対にお前らを許さない!」

「それに縛られたままでは、どんなに粋がっても仕方あるまい。この女はお前と同じ牢に入れてやる。せいぜい懐かしい気分を味わうんだな。」

 

レオールは牢を開けて天音を放り込み、また鍵をかけると、背を向けて去って言った。

天音は急いで剣崎に駆け寄ると、寄り添って持っていたハンカチを取り出し、剣崎の緑の血に触れさせた。

 

「剣崎さん!大丈夫!?ひどい怪我…」

「天音ちゃん…」

 

剣崎は見知った顔と再会できた喜びよりも、異形の血を見られてしまった苦しみの方が強かった。

それがかつて、始の正体も知らなかった少女であれば、なおさらである。

 

「この血を…天音ちゃんに見られたくなかった…」

「…剣崎さんのこと、虎太郎が書いた本を何度と読み返して、なんとなく分かるようになって来てた…始さんのことも。」

「そうか…」

 

剣崎は心の底から安堵していた。

この緑の血にも畏怖せず、始の正体を知ってもなお慕う気持ちの変わらない彼女の優しさに。

 

「…始は、どうしてるんだ?」

「少し前までは一緒に住んでいたけど、突然いなくなって…多分私が、始さんの事に気づき始めてしまったから…」

「…そうか。」

 

いつかは始も、愛する者たちから離れていかなければならない。

わかっていた事であるし、始もそれを理解した上で人間の中で生きることを心の底から望んでいた。

それでも、その時が来てしまった始の悲しみを考えると、自分も心が痛くなる。

 

「…始さんの正体なんてどうだっていい、私は側にいて欲しかっただけなのに…でもこんな形で始さんに迷惑をかけるなんて、情けない。」

「大丈夫さ、始は天音ちゃんを助け出す。きっとまた会えるし、始もその時は嬉しいはずだよ。それよりも天音ちゃん、奴らは必ず始を捕まえる為に、君を取引場所に連れて行く。始に伝えて欲しいことがあるんだ。」

「何を?」

「話が少し長くなるし、難しいかもしれないけど。」

「大丈夫よ!虎太郎や剣崎さんよりは頭いいつもりだもの!」

「あはは、こいつめ。」

 

こんな状況でも生意気言ってみせる彼女の芯の強さに剣崎は懐かしく、安心して微笑んだ。

久しぶりに、ホッとできたような気がした。

そして剣崎は、敵が企んでいる計画を天音に伝える…

 

「始に会えたら必ず伝えてくれ。きっとね。」

「剣崎さんは?」

「俺はまたきっと実験に使われる…なんとか隙を見て逃げ出すよ、心配しないで。始や橘さん逹も巻き込まなくていい。」

「駄目!きっと助けに来てもらうから!」

「…ありがとう。」

 

長い放浪の旅と囚われた苦しみの中で、剣崎は今宵だけ、本当に心の底から安心して眠れたような気がした。

 

一方、アジトの通路で…海東純一とレオールは向かい合い、対峙した。

 

「何の用だ?」

「ずいぶん勝手な真似をしてくれたようだなレオール、俺はこの計画に不必要な手段は取らないと言っていたはずだが?」

「フン、貴様の手口が生ぬるいから手助けしてやったんだ。文句を言われる筋合いはない。」

「貴様…何を狙っている?」

 

レオールはニヤリと笑いながら、純一の肩に手を置いた。

 

「貴様のことは気に入らんが、貴様の計画には大いに興味がある…だから俺も手助けしている、それだけだよ。」

「フン…」

 

純一とレオール…二人の確執はどんな結果をもたらすのであろうか。

運命の歯車は、順調には回らない。

 

そして翌日、取引当日の時刻である。

始は一人、指定された場所である荒地に来ていた。

そこにはレオールとエジプタスがすでに待っており、天音はエジプタスに捕まっていた。

 

「始さん!」

「天音ちゃん…!」

 

長い間離れていたわけではないが、久しぶりの再会…しかしこんな形でなんて会いたくはなかった。

苦しむ二人の気持ちを嘲笑いながら、レオールは剣崎を拘束していたものと同じ手枷を始の足元に投げた。

 

「その制御装置のついた手枷をはめてこちらまで来い!そうすれば女は解放してやる!」

「…いいだろう。」

 

始は言われた通りに手枷で両手を縛り、レオールのもとに歩き出した。

…やがてレオールの元までたどり着くと、エジプタスは天音を離し、天音は始の胸に飛び込んだ。

 

「始さん…ごめんなさい…!」

「いいんだ…俺こそ勝手にいなくなってすまない…」

 

始は無事だった天音のぬくもりに心から安心した後、鋭い獣のような目でレオールを睨む。

 

「さあ…天音ちゃんは解放してもらうぞ!」

「馬鹿め、約束を守るショッカーか!我々のことを知った女には死んでもらう!やれエジプタス!」

「エバラポロポロ!!」

 

エジプタスは不気味なうめき声とともに天音の首に両手をかけ、ギリギリと締め上げる。

 

「くっ…あっ…」

「天音ちゃん!貴様ぁ!!」

「クックックッ…」

 

始は身を乗り出し、レオールに詰め寄るが、手枷の装置のせいでカリスはおろかジョーカーへの変身すら出来ない。

万事休す…その時、突然バイクの轟音が鳴り響いた。

一同がその音に驚くと同時に、金色のカラーリングのCBR660に跨った仮面ライダーグレイブが現れ、レオール達に突っ込んだ。

 

「ぐおおっ!?」

「エバラ!?」

 

レオールとエジプタスはとっさに後方にジャンプし、難を逃れた。

天音は解放され、始は突如現れたグレイブの姿に驚く。

 

「仮面ライダーだと…?」

 

グレイブはマシンから降りると、腰のホルスターからグレイブラウザーを抜刀し、始の手枷を切断した。

そして仮面の下で不敵に笑うグレイブの姿に、レオールは叫ぶ。

 

「貴様!?裏切る気か!?」

「裏切る?違うな。言ったはずだ、不必要な手段を俺は取らんとな。」

 

グレイブは黒い特殊な端末を取り出し、電源を入れながらちらりと始を振り返る。

 

「見せてもらうぞ相川始、お前の力を。」

「…とりあえず今は、礼を言わせてもらう。」

 

始は腰に変身ベルト・カリスラウザーを出現させ、ハートのカテゴリーA・チェンジマンティスのカードを取り出した。

…もう気づかれているとはいえ、天音の前で変身することに心が痛む。

だが今はもう、目の前の卑劣な奴らを許すことはできない。

始は怒り、猛る激情と共に、風を切るような声で叫ぶ。

 

「変身!!」

 

そしてまっすぐにカードリーダーにベスタをラウズし、電子音声が響く。

 

『change!』

 

同時に始の体は揺らめく水のような不思議な輝きに包まれ、体はカマキリを象ったような姿へと変わっていく…

やがて全身がカリスベイルと呼ばれる漆黒の鎧に変わり、始は変身を遂げた。

 

仮面ライダーカリス…伝説のアンデッドとして一万年前の選ばれた生物達の始祖達が繰り広げた戦いによる生存競争『バトルファイト』に君臨したマンティスアンデッドの姿にジョーカーが化身した仮面ライダーである。

 

カリスは武器である弓と刃を兼ねた醒弓カリスアローを手に出現させると、ハーティグラスという赤い結晶に隠れた異形の眼で、レオールとエジプタスを睨んだ。

 

「借りはたっぷり返してやる…俺は貴様らを必ず倒す!!」

 

カリス激情…そんな言葉が当てはまるかのような俊敏さと力強さで、カリスは立ち向かった。

 

「ええい!やれ!エジプタス!!」

「イバラポロポロ!!」

 

エジプタスはレオールの命を受け、カリスへと立ち向かう。

しかしもはや怒りが頂点に達したカリスには、再生した怪人であるエジプタスなど相手にもならなかった。

 

「ヌンッ!!ゼヤッ!!」

 

カリスはその俊敏さでエジプタスの攻撃を回避し、カリスアローを巧みに振るって、何度もエジプタスを斬りつけ、攻め立てる。

カリスのカリスアローを用いた所謂「連続斬り」とでも表現すべき攻撃の威力も精度も、十数年前から衰えていない。

あっという間にエジプタスはズタズタにされ、弱り切ってしまった。

 

「イバラ〜……」

「これで終わりだ。」

 

カリスはカリスラウザーのバックル部分のカードリーダーを取り外してカリスアローに装着し、ベルトのカードホルダーからカテゴリー4「フロートドラゴンフライ」、カテゴリー5「ドリルシェル」、カテゴリー6「トルネードホーク」を抜き出し、三枚を連続で読み込ませ…「ラウズ」する

 

『float!drill!tornado!』

『spinning dance!』

 

三枚のカードの力が宙に浮かび上がり、カリスの体へと吸い込まれ、ハーティグラスが真紅に輝く。

そして凄まじい疾風を纏いながらカリスは宙に舞い上がると、ドリルのように超高速で回転しながら、エジプタスへと蹴り込んだ。

 

「エ、エバラ〜!!」

 

エジプタスは口から超高熱の火炎放射を吐き出し、攻撃する。

しかし、その炎はカリスの纏う竜巻によって切り裂かれてしまい、何の効果もなかった。

 

「ディヤアアアアアッ!!」

「イバラアアアアアァ………」

 

カリスのキックはそのままエジプタスへと直撃し、エジプタスはそのまま断末魔と共に爆炎となって消滅した。

これこそカリスの必殺技「スピニングダンス」である。

地面に着地したカリスは、爆炎の中からゆっくりと立ち上がり、天音の方を振り返る。

 

「始さん…!」

 

天音は勝利したカリスを讃えるように微笑み、カリスは自分の姿を見ても決して恐れず受け入れてくれた天音の優しさに心の底から喜んでいた。

 

…しかしそんな二人の時間を切り裂くように、次は先程助けてくれたグレイブがカリスの前へと立ちはだかる。

 

「流石だなカリス。」

「貴様…!」

「もっと詳しい戦闘データを取らせてもらうぞ…次は…俺が相手だ!」

 

グレイブはグレイブラウザーを構え、雄叫びと共にカリスへと襲い掛かる。

カリスもまた、カリスアローを手にその刃を防ぐ。

戦いの連鎖が…運命によって集った戦士達を引き寄せて行く…



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3話

天音はたそがれで始がアンデッドであることを察したとあったので、それとジオウでの二人の絡みを参考に少し
ディケイドとジオウはパラレルなので、俺も2次創作としてやりたいことをやるスタイル


「はあああああっ!!」

「くっ!?」

 

グレイブは凄まじい雄叫びとともにグレイブラウザーを振りかざし、カリスへと襲いかかる。

カリスもまたカリスアローで応戦し、その刃を受け止める。

 

「どうして…さっきは私を助けてくれたのに…どうして仮面ライダー同士が争うの!?」

 

そして天音はそんな二人の激突を悲しき疑問を抱きながら見守ることしか出来なかった…

 

「なぜだ…さっきは天音ちゃんを助けてくれたお前が!?」

「言ったはずだ、貴様の戦闘データを取るためだとな!!」

「剣崎をとらえたのは貴様か!?」

「奴は面白いように奇襲攻撃に引っかかってくれたよ!正直な戦い方しかできない奴ほど罠にかけやすい!」

「貴様ぁ!!」

 

カリスは怒りとともにグレイブの剣を押し返し、今度はこちら側からの反撃を開始した。

先ほど仕掛けてきたグレイブの手数よりはるかに多く攻撃を仕掛け、それはやがてグレイブのボディを切り裂く。

 

「くっ…!?」

 

攻撃を受け、跳ね飛ばされたグレイブは受け身を取りながら地面を転がり、態勢を立て直して、グレイブラウザーのカードホルダーを展開する。

そして黄金のケルベロスが重力の球体を生成しているようなイラストが描かれた一枚のカードを取り出し、カードリーダーへとラウズする。

するとそのイラストが青い光となって具現化し、グレイブラウザーの刀身へと吸収されて行く

 

「はあああああっ!!」

 

グレイブは雄叫びとともに剣を構えて腰を落とし、刃が金色に輝くと共に、標的であるカリスに向けて俊足で走り出す。

 

「でやあああああっ!!」

 

そして鋭く煌めく黄金の一閃をその漆黒の体に向けて振り下ろした。

これがグレイブの必殺技「グラビティスラッシュ」である。

カリスはその攻撃もしっかりと見極め、カリスアローで的確に防いだ。

しかし、威力を殺しきることはできず、その攻撃を胸部へと受ける。

 

「ぐあああああっ!?」

「始さんっ!!」

 

カリスは胸部から緑の血を吹き出しながら、硬い地面へと叩きつけられた。

グレイブは緑の血が付いた刀身の切っ先をカリスに向けながら、じわじわと迫る。

 

「やるな…伝説のアンデッドに変化しているだけのことはある。だがこんなものは貴様にとってほんの一部の力にすぎん筈だ…剣崎一真は俺に捕まる最後まで本当の姿を見せることを拒んだが、お前は見せてみろ…ジョーカーとしての姿を…!」

「…俺はならない…天音ちゃんの前で、あの姿には…」

 

すでにカリスとしての姿は見せてしまった。天音ももう成長と共に気づいている。

だがあの姿だけは、天音の目の前でなるわけにはいかない。

 

「ならば…もっと苦しめ!」

 

グレイブはさらに攻撃を加えようと、黄金色の刃を振り上げる、だがその直前、カリスの前に天音が両腕をいっぱいに広げて守るようにグレイブに立ちはだかった。

 

「天音ちゃん!駄目だ!逃げるんだ!」

「どけ女、怪我では済まさんぞ?」

「恐くなんて…ない!」

 

天音は強く、揺るぎない勇気を秘めた瞳で、グレイブを睨んだ。

グレイブはそんな彼女の発言に面食らったように仮面の下で眉間に皺を寄せる。

 

「なに?」

「始さんは今まで、私をずっと守ってくれた…剣崎さんも、人間を…始さんを守るために自分を犠牲にして戦ってる!橘さんだって、睦月さんだって…自分のためだけに、欲望のためだけに暴力を振るって他人を傷つける貴方なんか…恐くない!!」

 

天音のその言葉と共に張り詰めた空気が流れ、しばし時間が止まったかのような膠着状態が続く…

やがてグレイブはグレイブラウザーをホルスターに納刀すると、天音とカリスに背を向けた。

 

「…まあいいだろう、戦闘データと血液サンプルは取れた。実験を最終段階に進める。」

 

それだけ言うと、自分のマシンに跨り、凄まじいエンジン音をあげる。

 

「相川始!その首預けてやる!」

 

グレイブはそのままマシンを走らせ、風のように去って行った…

 

…戦いはひとまず終わった。

カリスは立ち上がり、ハートのカテゴリー2「スピリットヒューマン」のカードを取り出し、カリスラウザーにラウズする。

 

『spirit』

 

電子音声と共に出現した水面の波紋の揺らめきにも見た輝きを通り抜け、カリスは始の姿へと変化する。

相川始としての姿は、あくまでヒューマンアンデッドの姿を借りたものであり、本来生粋のジョーカーである始に人間の姿など存在しない。

本当の姿を命を賭して守りたいものには見せられない。

その苦しみは始の心を強く縛り付けていた。

 

「始さん…!」

 

今の始は戦いで付けられた傷跡から緑の血が流れ、異形である証を曝け出した状態である。

それでも天音は、幼い頃と変わらない気持ちで始の胸に飛び込んだ。

 

「始さん…会いたかった…ずっと会いたかった…!」

「ありがとう、天音ちゃん。」

 

始もまた天音を抱きしめ、彼女の優しさに寂しさと哀しみに満ちていた心を癒す…

懐かしいあの時の時間に、二人はこの時だけ戻ることができたのである。

 

一方、アジトに戻った純一は司令室にて、レオールからの叱責を受けていた。

レオールは獣のような獰猛な目で、純一の胸ぐらに摑みかかる。

 

「貴様の行為はショッカーへの裏切り行為だ!よって俺が直々に処刑してやる!」

「裏切り行為…だと?俺の計画に横槍を入れたのは貴様だろう?必要のない手段は取らない…そう言ったはずだ。」

「貴様の手腕が生ぬるいからだ!ショッカーの幹部になった以上、世界征服の為に手段を選ばないのは当然!その方針に従わぬ貴様は死刑だ!」

「…一つ聞くが、貴様に何の権限がある?」

「何…!?」

 

レオールは純一の冷淡な一言にさらに怒りを燃やすも、その全てを見透かすような冷たい眼差しに踏みとどまらされたり。

 

「すでに首領は姿も声も貴様らに伝えなくなり時間が経っていると聞く。ならば幹部がどのような方針で計画を実行しようが自由なはずだ。それを制限する権利が、レオール、貴様にはあるのか?」

「そんな理屈が通るとでも思ったか!?」

 

レオールは右手を鋭い爪の生えた異形のモノへと変化させ、純一へと突き出す。

純一はそれを紙一重でかわし、冷淡な微笑を浮かべた。

 

「安心しろ。俺はちゃんと幹部としての役目を果たすさ。」

 

それだけ言うと、純一は司令室を去っていく。

残されたレオールは鋼色の爪を構えたまま、純一が出て言ったドアを睨みつける。

 

「海東純一…必ず消してやる…アルビノジョーカーの力も必ず頂いてな!」

 

司令室を出た純一は、剣崎が囚われた地下牢へと姿を現した。

眠っていた剣崎は純一の気配に目を覚まし、疲労の色が濃い様子で口を開く。

 

「なんだ、また実験か?せめてバイト代に飯くらい出してほしいもんだな。」

「冗談のセンスはあまりないようだな。」

「そりゃ悪かったな。」

 

剣崎が吐き捨てるように言うと、純一は牢の扉を開ける。

その瞬間、剣崎は獣のような俊敏さで純一に飛びかかった。

純一は剣崎の攻撃を防ぐと、二人は至近距離で睨み合う。

「寝起きは最悪のようだな。」

「おかげさまでな…!」

 

二人は膠着状態を解くと、純一はポケットから鍵を取り出し、剣崎の四肢にはめられた拘束具の鍵穴にはめ、一つずつ外していく。

 

「何…!?」

 

剣崎が目を丸くしているうちに、全ての拘束具を外し終えた純一は再び冷淡な目で剣崎を見つめ、口を開いた。

 

「ここから出ろ。そしてこのアジトから逃げ切ってみせろ。」

「…どう言うつもりだ?」

「俺の馬鹿な同僚が貴様の仲間に迷惑をかけた。おかげで俺も相川始のデータが取れたが、まだ肝心なジョーカーの戦闘データが取れていないんでな。貴様にはここから逃げ出し、ショッカーの包囲網を突破してもらう。」

「結局自分の目的のためか…どこまでも人を利用しやがって…!」

「もう大人しくしている貴様のデータなど必要ない。俺がアルビノジョーカーの力を手に入れるため、最後の働きをしてもらうぞ。」

「なぜそんなにしてまでジョーカーの力を欲しがるんだ!?そんなに支配者になりたいのか!?」

純一は少し憂いのある目をした後、再び剣崎へと視線を戻す。

 

「俺の世界には、かつて強大な力を持った支配者がいた。」

「え?」

「…そいつは人々の目と耳を閉ざし、善意を押し付ける偽りの優しさで世界を支配していた。奴はディケイドによって倒されたがな。」

「ディケイド…」

 

剣崎は何度か共に戦った破壊者の異名を持つ仮面ライダーの姿を思い浮かべる。

彼らふたりは素顔で出会ったこともあるのだが、それが正しかったモノなのか、それともパラレルの一つに過ぎないのか、それは見るものの視点に任せておこう。

「俺はアルビノジョーカーの力で第二の奴となり、再び俺の世界を支配する…!」

「貴様は、再び人々から自由な意思を奪おうと言うのか!?」

「自由など、争いの種でしかない。力で人々を押さえつけ、自由を奪い管理することでしか真の平和はなしえない。」

「違う!そんな平和は偽物だ!」

「それでも平和だ!」

 

突然声を荒げた純一に、剣崎は思わず言葉を失ってしまい、呆然とする。

 

「貴様も、放浪の旅で世界中の格差は嫌という程見てきたはずだ。国に、人に自由など与えるから、争いが起き、虐げられる人々が生まれてしまう…ならばいっそ、圧政による平和で全てを押さえつけることこそが必要なのだ…!」

「…ならなぜ、お前はそんなに辛そうなんだ。」

 

剣崎の一言に、純一は体を貫かれたような衝撃を感じる。

剣崎は先ほどの敵を睨むような視線から一転、熱くなる純一をどこか心配するような瞳で彼を見つめる。

 

「お前も本当は、人間の自由な意思を認めているんじゃないのか?だけどそれじゃ世の中の理不尽に立ち向かうことができないから、自分に無理に言い聞かせてる。今の俺には…純一、君がそう見える。」

 

純一はあの破壊者と同じことを言い放った剣崎の言葉に驚き、唇を噛む。

そして、振り払うように剣崎を殴りつけた。

 

「くっ!?」

「貴様の戯言に付き合う気は無い。俺に従う気が無いのなら、もう一度直々に相手して今度こそジョーカーの姿を見せてもらうぞ。」

 

純一はグレイブバックルを取り出し、構える。

剣崎はそれを見て奥歯を噛むと、一目散に牢から駆け出していった。

純一はそれを見つめ、淡々と呟く。

 

「そうだ…ジョーカーの力を俺のモノとするため…貴様にはまだ役に立ってもらうぞ…すべては、俺が第二のフォーティーンとなるために…!」

 

始は天音を「ハカランダ」の前へとバイクで送り届けていた。

バイクの後ろから降りた天音は、メットに隠れた始の瞳を見つめながら、寂しげに微笑む。

 

「ありがとう、始さん。」

「…天音ちゃんに、引き止められるかと思った。」

「…本当は、行かないで、ひとりにしないでって言いたいよ。でもそれじゃダメ。始さんは今まで、命がけで私を守ってくれた。私もそれに甘えっぱなしの子供のままじゃいけないって、それじゃあいつまでも本当の私にはなれないんだって、戦う始さんの姿を見てわかったの。私はもう、一人で歩いていける。だから始さんは、始さんの人生を歩いて。剣崎さんがくれた、人間としての人生を。」

「天音ちゃん…助けが欲しい時は、俺はいつでも飛んでくる。だから安心してくれ。」

「ありがとう、始さん。」

 

始は天音に微笑むと、バイクを走らせ、夜の闇に去っていった。

天音はそんな始の後ろ姿を見ながら、優しく囁く。

 

「本当にありがとう始さん、がんばって…仮面ライダー、カリス。」

 

天音から…というよりも剣崎から間接的に、敵が…あのグレイブというライダーが企んでいる計画を聞いた始は、剣崎を救う決意を固め、ハンドルを握り締める手に力を込める。

そしてその決意に応えるように、一台のバイクが始の前に停まり、始もマシンを停止させる。

 

「一文字…さん。」

「ブレイドが捕らえられている場所…奴らのアジトがわかった…乗り込むぞ!」

「…はい!」

 

運命の歯車はいよいよ佳境へと突入し…その動きを加速する。



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4話

剣崎のターン。
ブレイドのジョーカー態についてはヒロサガ、小説、韮澤氏のイラストなどいろいろありますから、好きな姿を思い浮かべていただけると
しかし俺の文章は台本のようだ


始と隼人がマシンを走らせ、たどり着いたのは、人気のまるでない、静まりかえった山間であった。

 

暗く深く生い茂る森と、無機質な岩肌に囲まれたそこは、この世のものとは思えないくらい静かで、そして不気味であった。

 

「ここは?」

「地獄谷と呼ばれている場所だ。ここに奴らのアジトがある。」

 

二人はマシンから降り、切り立つ断崖絶壁を眺めた。

地獄谷…その名の通り地獄の一部分を切り取ったというような表現にふさわしいその地に、全身に戦慄を感じる。

 

「ここに、剣崎が…!」

 

始は拳を握りしめ、剣崎を救う決意を新たにした後、少し寂しげな表情を見せ…ブレイバックルを取り出し、隼人に差し出した。

 

「それは?」

「ブレイドの変身ベルトです。一文字さんにお願いします。剣崎を助けて、このベルトを渡す役目を…あなたに頼みたい。」

「…本当は、お前自身で助けたいのではないのか?」

「…俺とあいつはジョーカー、世界に破滅をもたらす存在です。出会ってしまえば闘争本能を掻き立てられ、意思とは関係なく戦いを始めてしまう…だから、あなたにお願いしたい。」

 

隼人は二人にのしかかる運命の重さを肌で感じ取り、思い合っているのに触れ合うことすら許されない哀しみに深く共感した。

今のライダーと、昔のライダー、それぞれライダーになった経緯も、方法も違う。

だけど背負っているものは変わらない。

今の自分にそんな後輩達を救うことができるのなら…隼人はブレイバックルを受け取ると、強く始に誓った。

 

「わかった、これは必ずブレイドに渡そう。」

「ありがとうございます。」

 

二人が固い約束を交わした直後、研ぎ澄まされた感覚が邪な殺気を感じ取った。

同時にたくさんのショッカー戦闘員達が周囲を取り囲み、剣やスティック、ナイフといった武器を構えていた。

 

「…どうやら、お出迎えのようですね。」

「始…死ぬんじゃないぞ!」

 

始はチェンジマンティスのカードを、隼人は変身ポーズを取り、戦う姿へと変わる。

 

『変身!』

 

今、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「おりゃ!!はぁっ!!」

『イイ〜!?』

 

アジトの牢から逃がされた剣崎は、襲いくる追っ手の戦闘員達を倒し、深い森からの脱出を試みていた。

 

しかし、暗く視界の悪い森の中で、こうもたくさんの戦闘員達からの攻撃があっては、思うように前には進めない。

純一に行われていた実験と牢に閉じ込められていた疲労もあり、生身のままでは剣崎の体は限界に近づいていた。

 

「はぁ…はぁ…くそ…体が重い…」

「見つけたぞ剣崎一真!!」

 

体を引きずるように歩く剣崎の前に、地面を凄まじい勢いで突き破り、濃い灰色の体色と頑強なボディが特徴的な怪人が出現し、立ちはだかる。

モグラを改造し、地中を自在に動き回る能力を持った、地底怪人モグラングである。

 

「怪人…!?」

「グオオオオン!!どうやって牢から逃げたかは知らんが、この地獄谷からは逃がさん!大人しく捕まってもらうぞ!!」

 

モグラングは右手の鋭く尖った槍状の爪の先端を剣崎へと向け、じわじわと迫り来る。

もはや剣崎に、生身で抵抗するだけの体力はなかった。

 

「やるしか…やるしかないのか…」

 

ジョーカーに変身するということは自身の闘争本能を著しく刺激する行為であり、どこかで監視しているであろう純一の思惑通りの行動だ。

それになにより、今はあのアルビノジョーカーの力を完成させてしまうことで純一を不幸にしてしまうのではないかという心配が剣崎にはあった。

自分は望んでジョーカーになり、友への思いで運命と戦い続けているが、純一は本心を隠し、無理に力を手に入れようとしている気がしてならない。

だからたとえ似て非なるものであったとしても、ジョーカーの力を純一には持って欲しくなかった。

だがまた捕まり、ショッカーに連れ戻されるわけにはいかない。

純一でなくても、ショッカーの科学陣ならジョーカーである自分の体をさらに研究し、悪用しかねない。

なにより、こんな形で運命との戦いからリタイアするわけにはいかない。

辛くても、苦しくても、自分が選んだ道なのだ、誰かに干渉され、壊されては絶対に行けない。

 

「…うおおおおおおおおっ!!!!」

 

剣崎は天に向かって高く咆哮し、体を水面の揺らめきに似た輝きに包んで行く。

そしてその姿を…運命と戦うために変貌した異形の姿・ブレイドジョーカーとでもいうべき姿へと変えた。

その凄まじい殺気は威勢が良かったモグラングさえもたじろがせる。

 

「グオオンッ!?こ、これが奴の…ジョーカーとしての姿だというのか!?」

「フウ…うああああああっ!!」

 

ブレイドジョーカーはその手に武器である破壊剣「オールオーバー」を出現させると、雄叫びとともにモグラングへと切り掛かっていった…

 

そしてブレイドジョーカーへの変身はオートカメラを使い、アジトの研究室へも送られていた。

映像モニターはケーブルで培養カプセルへと繋がれ、カプセルの中にはアルビノジョーカーのベスタが脈打つように不気味に光り始めており、純一はそれを見て不気味に、満面の笑みを浮かべる。

 

「さあ、俺のものとなれ…偉大なる力よ…お前の誕生の為に、切り札(ジョーカー)の生命を捧げよう!」

 

「ッ!?」

 

2号ライダーと共に戦闘員達を蹴散らしていたカリスは、闘争本能の疼きを感じ取り、強い痛みのような感覚を感じる。

剣崎がジョーカーに変身した…離れていても感じ取ったのである。

 

「どうした!?」

 

カリスをサポートするように背後に2号ライダーが移動し、彼の身を案ずる。

カリスは闘争本能の疼きをこらえながら、2号に語りかけた。

 

「剣崎が…ジョーカーに変身した…!」

「なんだって!?」

「2号ライダー…ここは俺が相手する…剣崎を…剣崎を…!」

「…わかった!トオッ!!」

 

2号はライダージャンプで遥か彼方へと飛翔するかのごとくジャンプし、崖の上に広がる深い森へと向かった。

残されたカリスはカリスアローをその手に構え、戦闘員達を真紅の眼で睨み据える。

 

「貴様達の相手は…俺だ!!」

 

「ウオオオオオッ!!」

 

ブレイドジョーカーは凄まじい方向と共にオールオーバーを振り上げ、モグラングへと襲いかかった。

闘争本能の赴くまま、全てを一撃のもとに両断するオールオーバーを振るう姿は、「残酷な殺し屋」と称されるジョーカーアンデッドの呼び名にふさわしい、獰猛で凶悪に目の前の敵を屠るために攻め立てて行く。

 

右手の鋭い爪と左手の巨大なアームで応戦するモグラングも、やがてジョーカーの猛攻に対応できなくなり、鋼鉄のように硬い体も、オールオーバーの凄まじい切れ味によって切り刻まれて行く。

 

「グオオオンッ!?馬鹿なぁ!?」

 

自分の体が紙切れのように切り裂かれてしまうことを信じられないまま、モグラングはズタズタに切り裂かれ、斬られた痕から青白い光を放ちながら、粉々に爆散した。

 

「フウウウ…!」

 

敵を倒し、ようやく闘争本能が落ち着いたブレイドジョーカーは、深く息を吸うと、剣を持つ手を下ろす。

その瞬間であった。

 

「弾丸!スクリューボール!!」

 

突如鋼のごとく硬い球体が高速で回転しながら飛来し、ブレイドジョーカーの背中を直撃した。

 

「ぐあっ!?」

 

ブレイドジョーカーは跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられて剣崎の姿へと戻った。

 

「くっ…」

剣崎は顔を上げて球体が飛来した方向を睨むと、球体はアルマジロ型の改造人間となって剣崎を見下ろしていた。

鋼鉄怪人・アルマジロングである。

 

「剣崎一真!よくもモグラングをやってくれたな!捕まえる前に徹底的に痛めつけてやる!!」

 

アルマジロングはその鋼鉄のように硬い体を球体状に丸め、高速で回転し始める。

そして剣崎に向け、一直線に突き進む。

 

「弾丸!スクリューボール!!」

 

生身の体でこれを食らえば、剣崎の不死の体とはいえタダでは済まない。

剣崎は立ち上がって回避しようとしたが、先ほどの不意打ちで体が思うように動かなかった。

 

「万事休すか…!」

 

このまま再び捕らえられてしまうのか?

そんなピンチの最中、突如一人の戦士が宙を舞いながら飛来した。

2号ライダーである。

 

「トオオオッ!!」

「ヌオオオッ!?」

 

2号ライダーはフライングキックでアルマジロングを蹴り上げると、剣崎の前に着地した。

剣崎は顔を上げ、突如現れた何度か共に戦った戦士の姿に驚いた。

 

「貴方は…仮面ライダー2号!?」

「ブレイド、大丈夫か!?」

 

2号ライダーは剣崎に手を差し伸べ、剣崎はその手を取って立ち上がる。

剣崎は2号の真紅の複眼を見つめ、微笑する。

 

「ありがとうございます!でも、なんでライダー2号がここに?」

「お前を実験に使い、恐ろしい力を作り出そうとしている計画をカリス…相川始を通じて知ったんでな。」

「そうか…俺と始は出会うわけにはいかない…だから貴方に俺の助けを頼んだんですね。」

「これも預かっているぞ!アルマジロングに仕返ししてやれ!」

 

2号ライダーはブレイバックルを取り出し、剣崎へと渡した。

剣崎はそれを見て、始がどれだけ自分を心配し、思ってくれたのかを感じた。

 

「始…すまない。」

 

本当は今すぐにでも別の場所で戦っているだろうカリス…始のところに駆けつけ、助けて感謝したかった。

だがアンデッドが自分達だけな今、闘争本能の刺激と世界の破滅を防ぐためにも、会うわけにはいかない。

それが寂しく、悲しかった。

 

「お前の思い…受け取った!」

 

剣崎はブレイバックルにスペードのカテゴリーA「チェンジビートル」のカードを装填する。

同時にブレイバックルからはカード状に赤いベルトを出現し、剣崎の周囲を舞う。

そして剣崎の腰にベルトが装着されると、剣崎は両手を腰に構え、右手をゆっくりと前に突き出す。

そして眼前で右手を鋭く返すと、強く、剣のように鋭く研ぎ澄まされた勇気を持って叫ぶ。

 

「変身!!」

 

そして、まるで自身の象徴であるスペードを描くかのように右手と左手を交差させ、左手を突き出し、下げた右手でブレイバックルのレバーを引く。

同時にカードが装填されたベルトのバックル部がターンし、金色に彩られたスペードの証が現れた。

 

『turn up!』

 

電子音声と同時にバックルの中心部が青く輝きながら、Aのカードのイラストであったヘラクレスオオカブトが大きく描かれたスクリーン「オリハルコンエレメント」が剣崎の前に映し出される。

 

「うおおおおおっ!!!」

 

剣崎は先ほどのジョーカーの凶悪な叫びとは違う、真っ直ぐな戦意と勇気を持った雄叫びと共に駆け出し、オリハルコンエレメントをくぐり抜けた。

そして、スクリーンをくぐり抜けた剣崎は…

 

超金属糸「ミスリルケプラー」と特殊金属「オリハルコンプラチナ」によって作られた蒼き鎧「ブレイドアーマー」をその身に纏う。

 

かつて友と世界を天秤にかけてしまった戦いの中で、自らを異形へと変え全てを救った紫紺の戦士・仮面ライダーブレイドが今再び、悪の野望を蹴散らすため、蘇ったのである。

 

「ウェェェェイ!!」

 

ブレイドはその特徴的な掛け声と共に腰のホルスターから醒剣ブレイラウザーを引き抜き、アルマジロングへと挑んでいった。

戦いはこれからである!



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5話

誰か忘れてるって?
気のせいでしょう?()


「うおおおお!!ウェイ!!」

 

ついに復活した仮面ライダーブレイドは、引き抜いたブレイラウザーを一閃し、アルマジロングの体を斬り裂いた。

 

「ヌオオオッ!?バカな!?鋼鉄の体が!?」

 

アルマジロングは自分の自慢である鋼のように硬い体が斬り裂かれたことに驚き、叫ぶ。

ブレイラウザーはオリハルコンプラチナを極限まで研磨したオリハルコン・エッジによる凄まじい切れ味を誇り、地球上に存在する物質を全て切り裂くことが可能な無敵の刃である。

そしてブレイドは人類基盤史研究所「BOARD」が作り上げた二基のライダーシステムの2号機であり、パワーを重視して作られている。

強靭なパワーを持って無敵の剣を振るう姿はまさに、青き力の戦士。

アルマジロングの鋼鉄の体は、ブレイドの力で叩き斬る剣戟になすすべもなくズタズタにされていった。

 

「トドメだ!!」

 

ブレイドはアルマジロングを突きで吹っ飛ばすと、ブレイラウザーを逆手に構え、備え付けられたカードホルダー「ラウズトレイ」を円状に展開する。

 

そして…三枚のプライムベスタを手にし、カードリーダーへとラウズする。

 

カテゴリー5「キックローカスト」

 

『kick』

 

カテゴリー6「サンダーディアー」

 

『thunder』

 

カテゴリー9「マッハジャガー」

 

『mach』

 

電子音声と共に三枚のカードは内部に封印されたアンデッド達がそれぞれの能力を解放するかのごとくイラスト内で動き出し、三枚のカードは青く輝きながらブレイドの背後に舞う。

 

「うおおおおっ!!」

 

ブレイドは激昂と共にブレイラウザーを地面へと突き立て、それと同時に三枚のカードの力はブレイドの青き体へと吸い込まれていく。

最後にブレイドの白銀色の仮面が真紅に輝くと同時に、ブレイラウザーが再び電子音声を鳴らす。

 

『Lightning Sonic』

 

ブレイドはそれと同時に超高速のスピードで疾走し、宙高くジャンプする。

そして空中で回転すると、キックポーズをとってアルマジロングへと蹴り込んだ。

 

「ウェェェェェェイッ!!」

 

ブーツの裏に描かれたスペードマークからは凄まじい雷が迸り、全てを粉々にするかのような衝撃と共にアルマジロングにぶち当たる。

ブレイドの必殺技「ライトニングソニック」だ。

 

「ヌオオオオオオッ!?」

 

ライトニングソニックを受けたアルマジロングは断末魔の叫びと共に爆散し、ブレイドは爆炎を背に地面を着地した。

…そしてそれをショッカーのオートカメラが捉え、純一の元へと映像データを送っていく。

 

「来た…!」

 

アジトの研究室に備え付けられた培養カプセルに収められたアルビノジョーカーのカードは、送られてきたブレイドジョーカー…そして仮面ライダーブレイドのデータを全て吸収し、不気味に赤く輝いた。

純一はカプセルを開け、ベスタを手に取ると、それを掲げ、高らかに笑う。

 

「ついに完成した!!アルビノジョーカーの力が!!フフフ…これで、これで俺は…くっはっはっはっ…ハッハッハッハッハ!!」

 

純一はグレイブバックルとアルビノジョーカーのベスタを手に、高笑いと共に研究室を後にする。

…そんな彼の後ろ姿を、レオールが不気味に微笑し、眺めていた。

 

一方、ショッカー戦闘員達と激闘を繰り広げていたカリスは、その数に苛立ちを覚えずにはいられなかった。

敵は大したことがないし、対して倒すことに疲れもしない。

だがこうもまとわりつかれては、ラチがあかない。

 

「クッ…キリがない…!」

 

そんなカリスの前に、一本の太い触手が出現し、首に巻きついた。

 

「何!?」

「キヒヒヒッ!!」

 

カリスの前にクラゲ型の青い怪人が出現し、甲高い声で笑うような鳴き声で威嚇した。

電気怪人・クラゲダールである。

 

「仮面ライダー!俺の電気ショックで、地獄へ行けぇ!!」

 

クラゲダールは触手から五万ボルトの電流を流し、カリスを攻撃する。

凄まじいスパークと電流が、容赦なくカリスへと襲いかかった。

 

「ぐああああっ!!」

「キヒヒヒヒヒヒッ!!」

 

不死の体と言えども、こんな電流を長時間浴びたら戦闘不能に陥ってしまう。

しかし敵が想像以上の力で締め付けるため、思うように動けない。

ピンチのその時、数発の銃撃がクラゲダールを撃ち抜いた。

 

「キヒィ!?」

「…!?」

 

クラゲダールが銃撃で吹っ飛ばされ、カリスは銃弾が飛来した方向に視線を移した。

そこには、クワガタの意匠の白銀の仮面と、炎のように赤い体が特徴的な仮面ライダーの姿があった。

橘朔也が変身する、BOARDが作り出したライダーシステム第1号であり、かつてブレイドと共に戦ったダイヤスートの戦士「仮面ライダーギャレン」である。

 

「橘!?」

 

カリスはギャレンの出現に驚くと、ギャレンは駆け足でカリスに駆け寄り、助け起こす。

 

「始!大丈夫か!?」

「ああ…だが、どうしてお前がここに?」

「事情は天音ちゃんから聞いた。この泥棒め。あんなメッセージで俺を納得させて、逃げ切ることができるとでも思ったのか?」

「…すまない。」

「謝るつもりなら、早く剣崎を助けてこい!」

 

ギャレンは二本の小さな注射器型の器具を取り出し、カリスへと差し出した。

 

「これは?」

「お前達を助けるための実験で、偶発的に出来た抑制薬だ。それを使えば短い時間、アンデッドの闘争本能を抑えることができるはずだ。だがこれは偶然に出来た薬…同じものは作れないかもしれない。そしてそれを使うのは、今しかないはずだ!行け!」

「…ああ!」

 

カリスはジャンプすると、自分のマシンであるシャドーチェイサーへと跨り、爆音を上げてアンデッドの感覚を研ぎ澄まし、剣崎の…ブレイドの元へと向かう。

クラゲダールは忌々しげに、立ち去るカリスの後ろ姿を睨んだ。

 

「おのれぇ〜!!仮面ライダーめ!!」

「仮面ライダーは一人だけじゃない…行くぞ!ここは俺が相手だ!!」

 

ギャレンは醒銃ギャレンラウザーをクラゲダールと戦闘員達へと向け、連射しながら一直線に接近戦を挑んだ。

ギャレン…橘もまた仲間を、友を信じているのである。

 

アルマジロングを倒したブレイドは、2号ライダーに歩み寄り、握手を求めた。

 

「ライダー2号…先輩、ありがとうございます。」

 

2号も握手に応じると、軽くブレイドの肩を叩く。

 

「礼を言うならカリスに、始に言うんだな。俺はただ、おつかいに使われたようなもんだ。」

「…でも、俺達は。」

 

ブレイドはうつむき、2号もまたブレイドの気持ちを理解する。

本当は共にいたい、同じ時間を過ごしたいのに…アンデッドとしての運命がそれを許さない。

慰めの優しい言葉をかけるなんて偽善的な行為を、二人が求めていないことはブレイドのこの姿を見るだけで思う。

 

「…アンデッドになったこと、後悔はしていないです。俺が選んだ、命をかける価値のある仕事の先にあったものだから。始もそれはわかってくれています。」

「…お前達は強いな。俺は過去、悪い夢にうなされ、改造人間になった体を嘆いたこともあった。お前達は悲しみを噛み締めながら、運命と永遠に戦う覚悟を逃げずに背負っている。これからも戦い抜くんだ…俺も命を懸けて、悪と戦い続ける!」

「…はい!」

 

その真紅の複眼で見つめ合いながら、二人は世代を超えた仮面ライダーの絆を確かめ合った。

しかしそんな二人の前に、新たな脅威はすぐに現れる。

 

「良い誓いだ。」

 

二人のライダーが声が聞こえた方角を振り返る。

 

「感動的だな。」

 

そこには、グレイブバックルとカテゴリーA「チェンジケルベロス」のカードを手にした海東純一が、冷淡に…そして邪悪に微笑む姿があった。

 

「だが無意味だ。」

 

純一はグレイブバックルにエースのカードを装填し、腰に装着してオープンアップさせ、オリハルコンエレメントをくぐり抜けて仮面ライダーグレイブへと変身を遂げる。

そして、グレイブラウザーをホルスターから引き抜いた。

 

「アルビノジョーカーのカードは完成した。もはや誰も俺を止めることは出来ない!」

「純一…!」

 

ブレイドは金色の装飾に隠れたグレイブの瞳をにらみながら、一歩前に出て、再びブレイラウザーを抜刀する。

 

「先輩!こいつは俺に任せてください!」

「むう、ライダー同士が刃を交えるのか…大丈夫なのか?」

「俺は…俺はこいつを救いたい!」

「…わかった。ならば俺は、お前達の戦いに水を差す真似をする輩を片付けよう。」

 

2号は逆方向にある暗い木陰を睨み、力強く戦闘スタイルを構えた。

 

「いるのは分かっている…出てこい!」

「ウオオオオオオンッ!!」

 

木陰から現れたのは、黒い体毛に包まれた、狼型の改造人間…ショッカーの改造人間の中でももっともストレートなネーミングであり、代表的な怪人の一体であるその怪人の名前を、2号は忌々しく…そしてどこかに懐かしさすら感じるような感覚でつぶやくように言った。

 

「狼男…!」

 

怪人・狼男

かつてショッカーの大幹部・ゾル大佐の正体であったその怪人の姿を、2号…一文字隼人は忘れたことがなかった。

もっとも、体色はゾルの正体であった金色ではなく、実験台であった個体と同じ黒色。

先日のサボテグロンと同じ、素体の違う、再生怪人でもない全く別個体なのであろう。

だからこそ、2号はその個体に怒りと、そして虚しさを強く感じずにはいられなかった。

 

「狼男、私は必ずお前を倒す!かつて私の宿敵であった貴様のためにも!」

 

2号もまた、強い決意とかつての強敵への思いと共に、狼男に挑んで行くのであった。

 

「剣崎…!」

 

そしてシャドーチェイサーを走らせるカリスの前にも、一人の人影が立ちはだかる。

カリスはマシンを急停止させると、その人影を睨んだ。

レオールである。

 

「貴様…!」

「まだ貴様を行かせるわけにはいかない。邪魔させてもらうぜ?」

「どけ、雑魚に用はない。」

「雑魚…か、試してみるが良い!」

 

レオールは瞳を不気味に光らせると、獣のような唸り声をあげながら、獅子の姿をかたどった獰猛な怪人の姿へと変貌を遂げて行く。

鋭い牙と筋肉が隆起した強靭な四肢…

そして雄々しさすら感じるほどの白いたてがみをなびかせ、怪人と化したレオールは人間態時のものと同じ瞳が不気味に蠢く怪奇的な視線でカリスを睨んだ。

レオール…かつてショッカーを裏切ったウルガ、イーグラ、バッファルと同規格の改造人間としての正体を現したのである。

 

「それが貴様の正体か…」

「カリス!借りを返させてもらうぞ!」

 

レオールは鋭い爪を構え、カリスへと飛びかかる。

カリスもまたシャドーチェイサーを降り、カリスアローを手にレオールへと立ち向かった。

 

ブレイドとグレイブ、2号と狼男、カリスとレオール…

因縁浅からぬ者達の戦いの火蓋が切られ、激闘は続く…

彼らを待ち受けるものとは果たして?

生存か?破滅か?

極限の中でその力が全開する!



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6話

カリス活躍させようとしたら予定を変更して2号無双になった。やはりゲストを活躍させねば。
レオールのキャラあまりに存在感なくてビビってるけど、オリキャラなんてこんなもんよ


2号と狼男は取っ組み合いながら森を離れ、木々ひとつない土ばかりの場所へと戦う場を移動した。

2号は狼男を突き飛ばし距離を取ると、敵を指差し、叫ぶ。

 

「狼男!来い!」

「アオオオオン!!」

 

狼男は両手の指を2号ライダーへと向け、そこから放つロケット弾を連射し、攻撃を仕掛けた。

2号ライダーは攻撃を見極め、大きく動いてそれを回避していくも、狼男はその隙を狙い、三角飛びで飛びかかって爪で攻撃を仕掛けて来た。

 

「チィッ!!」

 

2号は紙一重でなんとか回避するが、胸のコンバーターラングに攻撃がかすり、そのまま狼男は両手の鋭い爪で2号を攻め立てていく。

狼男、やはり強い。2号はそう思った。

この前のサボテグロンはテストに合格しただけの素体を用いた所謂ハリボテのようなものであったが、この狼男は戦闘テストで平均以上の能力を発揮し、実戦の経験もある優秀な人間を素体として改造されているのかもしれない。

そして狼男という幹部怪人のデータをもとに改造されているので、これほどの戦闘能力を持っているのだろう。

だが、2号も相手の猛攻に負けじとパンチやキックを繰り出して応戦する。

確かに強い、だが自分が戦った狼男とはまるで違う。

あの金色の狼男は…ゾル大佐は、戦闘能力が高いだけではなかった。

様々な恐ろしい作戦を立案し、自分を何度も苦しめ、底しれぬ悪としての恐ろしさを持っていた男だった。

あの強さも恐ろしさも、あの男がショッカーであの地位を築き上げるまでに積み重ねて来たものであったのだろう。

目の前の狼男は確かに強いが、ゾルのような恐ろしい悪の心は感じない。

よってどれほど強くても、脅威には感じない。

2号は狼男を背負い投げで投げ飛ばすと、敵の顔面に向けて思い切り拳を突き出した。

 

「ライダーパンチ!!」

 

2号のライダーパンチ、自身の象徴である力を拳に乗せ、相手に叩きつける、鋼も貫くパンチ…

2号が放つ力の塊のパンチは、容赦なく狼男の顔面を貫いた。

 

「ウオオオオオンッ!?」

 

狼男は凄まじい一撃に吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。

だがよろよろと立ち上がり、2号に立ち向かおうとする。

そして2号は容赦なく、狼男に言い放った。

 

「いくぞ狼男!トオッ!!」

 

2号はライダージャンプで宙に舞い上がり、空中で回転する。

そしてそこでキックポーズを取り、狼男にトオッと蹴り込んだ。

 

「ライダーキック!!」

 

仮面ライダーの中でもっともポピュラーであり、敵を倒した技の中でも仮面ライダーの象徴的な技であるトドメの一撃「ライダーキック」

稲妻を呼ぶかの如き真紅の鉄槌は狼男の胸部に鋭く、強くぶち当たった。

 

「オオオオンッ!?」

 

蹴り飛ばされた狼男は大地へと叩きつけられた後、ゆっくりとまた立ち上がる。

そして引きずるように数歩歩いた後、両腕を上げ、断末魔の絶叫を放った。

 

「ウオオオ…ン…!」

 

狼男は仰向けに地面に倒れこむと、轟音を上げた爆散した。

どれだけ強くてもそこに魂がなく、形だけ真似たモノ、なにより自分達の欲望のために他者を犠牲にすることを厭わない悪が、仮面ライダー2号に敵うはずはないのである。

 

「ゾル…貴様の亡霊、地獄に送り返したぞ…さて、俺の後輩達を助けに行くとするか。」

 

2号は地獄の底で眠る憎き最大の敵を今は追悼し、また新たな戦いへと向かうのであった。

 

「グラゴオオオオオッ!!」

 

怪人と化したレオールは、特徴的な雄叫びとともに両腕を振り上げ、カリスへと襲いかかる。

巨大な腕に生えた鋼鉄以上に固く、剣よりも鋭い爪はカリスアローの刃すら簡単に受け止め、はじき返し、カリスの黒い鎧を簡単に斬り裂いた。

 

「グッ…!?」

 

ダメージを受けたカリスは地面に膝をつき、レオールはそんなカリスを嘲笑うように追撃を仕掛ける。

 

「どうした!?俺を雑魚呼ばわりした割には苦戦しているじゃないか!!」

 

レオールは再び強く爪を突き出し、カリスはなんとか後転してそれを回避する。

爪が直撃した地面は大きく抉れてしまい、レオールの剛力を物語る。

 

「なんて力だ…」

 

カリスはレオールを過小評価しすぎていた自分の判断を戒め、同時にこの場を凌ぐ方法を考える。

このままではすぐに勝負はつかないが、剣崎が戦いの中にいる今、時間もかけていられない。

こうなればカテゴリーKの力を使い、勝負に出るしかないのか…

その時、風を切るような声が周囲に響いた。

 

「待てぃ!!」

 

同時に、カリスの側に仮面ライダー2号が着地し、レオールの前に立ちはだかるのであった。

 

「2号ライダー!?」

「カリス!お前はブレイドの所に行け!奴もお前を待っている。自分達を切り裂く運命と戦うんだ!!」

「…はい!」

 

二人の会話はそれだけで十分であった。

カリスは立ち上がり、持ち前のスピードでレオールの横をくぐり抜けて言った。

残されたレオールは誤算に舌打ちしながらも、2号の姿を見て再び両腕の鋭い爪を構える。

 

「邪魔されたがまあいい…仮面ライダー2号!貴様は力の戦士と聞いている!俺も新型のパワータイプ改造人間として、貴様の力がどれほどか確かめてやる!!」

「良いだろう…来い!レオール!!」

 

2号とレオールはお互いに一直線に駆け出し、2号は手刀を、レオールは爪を用いた突きを放ち、激突させる。

 

「ラグオオオオオッ!!」

「ライダーチョップ!!」

 

ライダーチョップと鋼をも貫く突きの一撃は激しく火花を散らした後、お互いを弾き飛ばし、距離をとった二人は再び接近して、パンチやキックの応酬を繰り返し激突する。

最初期型の改造人間と最新型の改造人間

大自然の使者と地獄の使者

型式も使命も違う二人が唯一共有する、力と力

その激突は一歩も引かず、揺るがず、熱く火花を散らした。

 

「さすがは2号ライダー!最新型の俺にも劣らぬ素晴らしい性能だ!」

「脳改造はされていないようだが、貴様はなんのためにショッカーに尽くす!?」

「世界征服し、弱肉強食の世界を作るためさ!!」

 

レオールは2号から距離を取り、高らかに宣言した。

 

「弱肉強食の世界だと!?」

「俺の野望はショッカーの新たな首領としてこの世界の頂点に立ち、世界中を巻き込んだ大戦争を起こすことなのだ!!そして人類すべてに殺し合いをさせ、生き残った強い人間達を中心にしてより強い人間社会を創り上げる!それを何度も繰り返し、人類を永遠に強い種族とするのだ!!」

「馬鹿な!その先に待っているのは破滅だ!!貴様の野望…許すわけにはいかない!」

「ほざけ!!貴様を倒し!海東純一から…そして、あわよくば剣崎一真と相川始の力すらいただいてくれるわ!!」

 

 

レオールは再び飛びかかり、2号に向けて爪を突き出した。

しかし2号はそれを紙一重で回避し、レオールの腕を掴む。

 

「何!?」

「力はぶつけるだけのものじゃない、必要なのは、応用だ!」

 

2号は流すように背負い投げの要領でレオールを地面に強く叩きつけた。

 

「ライオンの化け物め!お前こそ死ねぇ!!」

 

そしてそのまま宙高くジャンプし、レオールをそこから叩き落とす。

 

「ライダー二段返し!!」

「ラゴオオオオオッ!?」

 

ライダー二段返し…自身の力を最大限に利用し、二段攻撃の返し投げで相手を地面に叩きつける2号ライダー自前の必殺技の一つである。

2号の剛力で二度も地面に叩きつけられたレオールはよろよろと立ち上がるも、凄まじい威力と衝撃に平衡感覚を失い、まともに前に進むことすら出来なかった。

 

「ぐっ…馬鹿な…俺は必ず…世界を征服し…」

「トドメだ!!」

 

2号は再びライダージャンプで宙へと舞い上がり、空中を回転する。

そして回転を数回繰り返し、遠心力をバネにして威力を高めたキックを、急降下してレオールへと見舞った。

 

「ライダー回転キック!!」

 

2号のライダー回転キックはレオールの胸部を捉え、草木を弾き飛ばしながらレトーフは地平線の彼方へと吹っ飛ばされて行く。

そして全身から火花を散らしながら、レオールは叫んだ。

 

「おのれえええ!!このまま終わるものか!!グラオオオオオオ!!!!」

 

断末魔の絶叫と共に、レオールは爆炎の中に消えて行く。

2号はそんなレオールの最期に何か腑に落ちないものを感じながら、仮面に隠れた唇を噛んだ。

 

「やったのか…しかし…」

 

どこか手応えに不信を感じながらも、2号はさらに自分のやるべきことに思考を巡らす。

アルビノジョーカーを巡る戦いはブレイドとカリスの使命。

ならば自分は、細かい後始末をしなければならない。

 

「とにかく、今は残ったアジトを破壊するのが先決だ!」

 

2号は停めてあったサイクロン号に跨り、残されたアジトへと向かう。

アジトを破壊し、囚われている人間がもし他にいたら救出しなければならない。

 

「ブレイド…カリス…あとはお前達の戦いだ…!」

 

運命に翻弄される後輩達の戦いの勝利を祈り、目指すは一つ、敵アジト。

サイクロンは爆音をあげる。



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