君がいる理由 (ショタシドが可愛い)
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目覚めのとき

 

 

 

 

目覚めたら知らない場所だわ、なんか水に浸かってるわ、目の前に知らないイケメンいるわで死ぬほど混乱している俺です。

眠る前を何度も思い出しても自宅のベッドで寝ただけだし、微睡みの中で寝過ごした!と思って飛び起きたら水の音がして知らない場所だしで。見た目はジッと周りを見渡してるだけだけど、内心驚愕しっぱなしだ。

 

「(取り乱しても良いぐらいだけど……なんか冷静だな、俺)」

 

こんなに冷静なやつだったっけ?なんて首を傾げた後、ジッとしてても仕方ないと立ち上がる。この際、隣で寝ているイケメンがしがみ付こうとしてきたのは見なかった事にしておく。後一歩遅かったら起きれなかった。

しかし横向いたら息できないんじゃないだろうか。この水、寝転がったらギリギリまであるし。そう思って見ると顔半分が水に浸かりながらも普通に息をしていた。成る程、息できる不思議水か……意味わからん。

水が張ってある何かから出て改めて周りを見渡した。日が入って来ず薄暗いが、何かの遺跡である事はわかる。それと洞窟であろうという事も。

 

「というか俺、裸足……パンイチとか」

 

まだ寝てるイケメンさんもパンイチだったがそれはそれ。パンイチな男二人が並んで寝ていたという事に鳥肌がたった。冗談じゃねぇぞ!……いや本当なんだけれど。

淵に腰掛け、はぁとため息をつくと突然腕を引っ張られた。後ろに引かれたそれに伴って身体ごと後ろへと傾く。誰だよ引っ張ったの!このまま行くと石への後頭部強打なんですけど!?いや犯人状況的に一人しかいねぇけどな!?

ヤバイ!と目を瞑ってみるが衝撃はいつまでも来ず、代わりに柔らかな……いや程よく硬いものに当たったようだ。目を開けるとあるのは肌色。この洞窟の中でもわかる真っ白な色合いな俺とは違った健康色。つまり腕だ。

 

「…………(おーまいがー……)」

 

【悲報】誰だこいつ【俺氏抱かれる】みたいなスレタイがたっても仕方がない状況だ。因みに抱かれるは純粋な方である。意味深な方だと思って釣られる方々が目に見えるな。

 

「(って、そうじゃない)」

 

この状況をなんとかしないと。

俺の頭に頬を擦り付けるイケメンの頭を押さえて、見上げる。思ったより近くに顔があって驚いて悲鳴が出そうになったがぐっと我慢して、目を見開いたイケメンと視線を合わせる。イケメンはその間にも俺を見て周りを見てを繰り返して、ずっと驚いた顔していた。いやお前も俺と状況同じか?

声を上げずともずっと驚いているイケメンの頭を撫でると、びくりと震えた後に肩の力が抜けたのがわかった。小さく息を吐く金髪碧眼に苦笑して、更に頭をひと撫でして腕を下ろす。結構この体勢はしんどいのだ。

 

「落ち着いたか?」

 

こくりと頷く。

そうかそうか、それは良かった。じゃ。

 

「取り敢えず離そうか?」

 

またもやこくりと頷き離れた。ったくパンイチの男二人が抱き合うって絵面的にも字面的にもヤバイぞ。

 

「(忘れよう……)」

 

そうしてため息を吐くと、イケメンさんは立ち上がって歩き始めた。パンイチなのは気にならないのだろうか。さっき驚いた以来ずっと無表情だが、もしかしたら内心慌ててるけど顔に出ないタイプなのかもしれない。

扉はあるけれど上下運動しかしなさそうなそれを押し上げる事は難しいだろう。けれどそんな扉に向かって歩き出すイケメン。一体何をするというのだろうか。

 

「(そういやあいつの耳、とんがってんな。エルフか?)」

 

何そのファンタジー要素。

エルフってこんな薄暗い洞窟に住んでるものなのだろうか。そんな事はないと思いたい。

立ち上がろうとしてふと何かが手に当たる。何だろうかと見ると何かの木の実だった。栗のような黄色いそれは、なんかちょっとこう言い難い臭いがするが……まぁ持っておいて損はないだろう。なんか役にたつかも……なんて。

どうやらイケメン君は謎の台へ歩いて行ったようだ。俺だけがずっとこうしているわけにもいかないので、イケメン君の側に寄って手元を見る。何か四角いものを持っていた。

 

「……何それ」

「シーカーストーン」

 

思わずといった呟きにイケメン君は返してくれた。声までイケメンか、滅べ。

“シーカーストーン”とか言うそれに指を這わせスライドする。さながらスマートフォンのようで、ちょっと薄さに欠けるのが難点だろうか。何故石で固めた。重いだろう。

イケメン君が謎な便利アイテムを手に入れた途端に扉が開いた。まるでこの時を待っていたかのように。

 

「行こう」

「えっ、あっちょっと」

 

急に手を取られて歩き出す。いやお前の事俺は知らんのに何故こうも親しげなのか。

まぁ出ない事には始まらないので、一緒に歩き出し扉を超える。先にあった宝箱の中に二人分のボロい服を見つけたので身につけて、外に出る。途中で岩壁を登らなきゃいけなかったけど、普通に登れた。ロッククライミングの経験なんてないし、そんな体力も腕力もないと思っていただけに驚く。というか元気だなこのイケメン、俺より先先行きやがって。

陽の光を浴びて目を細める。薄暗い洞窟の中から出たからか、薄手だからか太陽の光がとても暖かく感じた。

目の前を先行していたイケメン君は小走りで駆けだし、小高い丘の先へ到達する。そこから見える景色は雄大で、綺麗で自然が多くてやはり俺の知らない場所なんだなと改めて痛感した。

唯一不可解なのはあの誰が見ても禍々しい城。絶対ラスボスダンジョンだーと思いながら、そんなものがここから見えるとかどういう事だろうと首を傾げ、ふと視界の端に何かが写る。

 

「人だ」

 

イケメン君が代弁してくれた。ありがとう。これでさっきのやつは帳消しにしてやるよ。うわ俺って優しい。

そうして歩き出す。途中でイケメンは木の枝とか拾い、武器のように振り回していたがそれは無視して、焚き火のもとで休憩しているおっさんらしき所へ到着した。話しかけると彼はここでずっと暮らしているようだ。ちょっとワイルドすぎない?小屋もないけど。

何やら話した後に立ち去ろうとする彼を横目に、足元に転がっていた焼けたリンゴを指差して貰っていいか聞く。

 

「ふぉっふぉ、良いぞ。リンゴはまだまだあるからの」

 

ふーんと呟いて、ありがとう!と笑う。そうして笑った瞬間に先に行っていたはずのイケメン君がいつのまにか戻っていて、俺の手を引いて歩き出した。後ろ歩きしながらおっさんに手を振ってから前を向く。

 

「どうした?」

「……別に」

「別にっておま……はぁ」

 

思わずと言ったようにため息を吐く。別に何もないわけではないだろうに、此方を見ようともせず何処かに歩き始める。

途中で豚鼻の赤い皮膚を持った三頭身の何かが襲ってきたが、イケメン君がさっき拾っていた木の枝を頭にクリティカルヒットさせて倒してくれたので問題はなかった。ただ、その生き物?が落とした棍棒をまた振り回し始めたのにはため息が出そうだったが。

いや武器がないから危ないのはわかるが、なりふり構わないんだなぁと思う。形も大きさも違うのに同じように扱えるのは単にこいつのセンスが良いからだろうか。

しかしながらさっきの生き物、悲鳴を上げて倒れた瞬間に黒い粒子になって消えてしまった。しかも素材であろう角と牙だけを落として。

 

「(ゲームかよ……)」

 

ゲームなんだろうな。でも多分主人公たるイケメン君が誰かわからないので確信はないけれど……俺がいるのも謎だよな。

 

「どこ行くんだ?」

 

そういや目的地聞いてなかったなと問いかける。すると彼は迷わずあっちと指差した。そこには小高い丘があるだけで何もない。一つあげるとするならば、周りに先ほどの生き物が二、三匹いて、その丘の上には何か遺跡のようなものがある。石碑、みたいなものだろうか。遠くからじゃよくわからないや。

移動する間もしっかりと手を握るイケメンさん。何を思ってそうするのかはわからないが別に手を握らなくても何処かへ行ったりはしない。ここがどこかわからない今、頼りなのは一緒に寝ていたイケメンさんだけ。一緒にという事は彼と何か関係あるのかもしれない。

ま、俺としては心当たりはなさすぎるのだが。

そんなこんなでたどり着いた石碑?である。明らかに他のものとは材質が違うそれを二人で見てから、何かあるとは思えないそれに二人で首を傾げる。

 

「ここであってるんだよな?」

 

こくりと頷く彼。

スマホもといシーカーストーンの目印を見ても現在地と照らし合わせてもここだと示している。また首を傾げた。

周りを見渡してもないし、さっきの倒したら消える生き物しかいない。でも示す場所はここ……そうなれば周りを少し探索した方が良さそうだ。

まだ石碑の様なものを見ているイケメン君を置いて、丘を降りる。それから石碑を中心としてぐるっと回るとある事に気付いた。この丘は穏やかな丘ではなく、突き出した地面ということに。そしてその下、屋根のように丘が覆い被さる場所にそれはあった。

 

「これ……最初に目覚めたところにあった奴と一緒じゃ……?」

 

シーカーストーンが示していた場所はここだ!と発見できたのが嬉しくなり、慌ててイケメン君の場所へと戻る。

何か焦ったように周りを見渡す彼に手を振りながら笑顔で見つけた!と叫ぶと、こちらに気付いたイケメン君は凄い勢いで走って来て抱きついて来た。いやまて!?

 

「(またかっ!?)」

 

体勢を崩しゴロゴロと丘を二人で転がり落ちる。最終的には止まったものの、俺が下でイケメン君が上に被さるような体勢に。見た目華奢なのに割と重いイケメン君には早く退いてほしいのだが、グリグリと頭を擦り付けるそれにため息が出そうになる。

 

「(犬か、こいつ)あー……離れて悪かったから、落ち着こうか?な?」

 

頭を撫で、顔を上げたイケメン君に苦笑しながらそう言うと彼はこくりと頷いてくれた。

無口だなこいつ、と呆れていると額に柔らかい感触がしてから腕を引っ張られ立ち上がされた。一瞬のことで分からなかったが、俺の予想通りだとこいつはとんでもない行動に走ったのだが……いや、まさかな。

イケメン君を見ると彼は小さく笑い、口に指を当てた。まるで秘密だと言うようにだ。いやお前……それ秘密になってないけど。

額を押さえて、戯れもほどほどにしてほしいなと思いながら腕を引っ張る。先ほど見つけた場所へとイケメン君を誘導すると今度は抱擁。いやこいつ、無言なくせにスキンシップ激しいな!?

仕方ないとイケメン君をひっぺ返し、二人で台の前に立つ。最初にあったやつと同じだからか、難なくシーカーストーンを設置。

 

【シーカーストーンを確認しました。シーカータワーを起動します】

 

シーカータワー?

機械的な声がしたと思えばそんなことを言って来た。それに首を傾げていると周りが青く光りだす。

 

「なっ!?」

 

瞬間地鳴りが響き、足元が揺れに揺れて立っていられなくなる。仕方なく両膝と手をついて揺れをしのいでいると周りの景色が凄い勢いで変わって行った。言うなれば俺たちは上に向かっている。

収まったと思い周りを見渡せば、とても高い上空。周りに地面なんてなくて、あるのは俺たちが今いる場所だけ。突然の事に尻餅をついてしまった俺をイケメン君は起こしてくれた。さっきのとかああいうの無かったら普通の優しいイケメンなのに、何故俺に懐いているのかもわからない。まぁ俺がわからない以上こいつしかわからないんだろうけど。

 

【周辺情報の入手を開始します】

 

台からまた声が流れて、上にあった大きな石が光り出しやがて先に集まったかと思うと一筋の水滴となってシーカーストーンに降り注いだ。覗いてみると“マップ”と表示された場所の一部が青い格子状のものから地図のようなものに変わった。高低差までも記されたそれはとても正確な地図である。

まぁ言うなれば、さっきこの塔を起動したという時からあちこちで同じようなものが見えることから、この地図を完成させるにはすべての塔に回らなくてはいけないということで、明らかに階段のようなものがないこの場所を何度も登ることになる……という事だ。

 

……それはちょっとなぁ。

 

こいつに着いてこうと思ったけれど、絶対こいつは世界各地に周るだろう。まぁ世界各地ってほど遠くは周らないと思いたいけれど、一国ぐらいは周ると何故か確信できる。

そもそもさっきの倒したら消える生き物はこちらを見た瞬間に襲って来たどう猛なやつだ。あれの一種類だけじゃないだろうし、そこら中にいると考えれば結構危険な旅である。このイケメン君は木の枝で難なく倒してたけど。木の枝って凶器になるって俺、ここに来て初めて知ったわ。

 

「降りよう」

 

やる事は終わったようでイケメン君が俺の腕を引っ張ってきた。えっ、降りるの?マジで?

普通降りれないだろう!と心の中で叫びながら、塔の周りに足場がいくつかあることがわかった。それも間が結構近く、今の俺の身体能力ならばひょいっと跳べば行けなくもない。イケメン君もそんな感じで降りていき、それに慌てながらも合わせて降りる俺。

というか、どっか行こうとする度に俺の腕か手を引っ張ることになるのか?まだどこかへ行こうと思わないないんだけどな。地図もなしに知らない世界を周ろうとは思わない。

 

「ふぉっふぉ、只者ではないと思っておったが面白いものを見せてもらったわ」

 

親方!空からおっさんが!!

突き落とされそうなシチュエーションだ。ツギハギの布のようなものを広げて俺たちの側に降り立ったおっさんはふくよかなお腹を揺らしながら笑う。

ていうか、それ何。

 

「おっさん、その布みたいなの、何?」

「これか?パラセールと言っての、高いところから飛び降りる時に広げると飛ぶことができるんじゃ。まぁ滑空と言った方が正しいかの」

「へぇ、良いなそれ」

 

イケメン君もこくりと頷く。

 

「ふぉっふぉ、ではお宝でも見つけてくれたらあげよう」

「お宝?」

「そうじゃ。あの遺跡が見えるかの?」

 

そう言っておっさんが指差した方向には不思議な形をした何かが光っていた。赤色に光るそれは不気味ではあるが、どこか魅入ってしまいそうにもなる。でもちょっと嫌悪感の方が強いかな……。

 

「あれはこの塔が出て来たと同時に光り始めての。あぁ言う場所にはお宝が眠っているもの」

「なるほど、そのお宝と交換ってわけか」

「そういうことじゃ」

 

まぁ交換ではなく、見せてくれるだけで充分だがの。と笑うおっさんはそこから微動だにせず、さぁ行ってこいと指差していた。

仕方ないか、とイケメン君と歩き出す。結構近かったのでそれほど苦労せずに到着し、本日3回目となる台座にシーカーストーンを設置した。もちろん全て、イケメン君がやった。

閉じられていた扉が開き、奥に青い円が見えた。そこへ乗れと言うことなのだろう、イケメン君と共にそこへ向かって歩き出すが。

 

---バチッ!

 

「って!」

 

元々扉のようなものがあった場所て弾かれる。思わず尻餅をつくと慌てた様子のイケメン君が起こしてくれた。何が起こったのかわからなかったが、弾かれたわけは少し理解している。

心配そうに覗いてくるイケメン君を宥めながら立ち上がり、もう一度弾かれた場所へと近づいて手を差し出した。あと少しで越える、というところでバチリと静電気のようなものが走る。冬に金鉄製のドアノブに触れてしまって発生する静電気の比ではない、帯電する電気そのものに触れた感じだ。まぁ黄色ではなく青色なのだが、手を引っ込めて指先を見ると少し焼けていた。うん、意識したらとても痛い。

 

「どうやら俺は行けないみたいだな」

「……」

「んな顔するなって。俺は大丈夫、ここで待ってるからさ」

 

あまり表情筋は動いていないが悲痛そうな顔をしているのはわかる。全く何故そんなに懐いているのやら。

怪我していない方の手で背中を押して遺跡の中に入らせた。お前が帰ってくるまで待っとくよ、パラセール欲しいしな。

引き返して来たイケメン君にぎゅっと抱きしめられてから見送った。抱きしめるの本当にやめてほしいんだが、あの素早さには敵いっこなさそうだ。

エレベーターの様なものなのか、円だけが抜けて降りて行ったイケメン君が去った後、ため息を吐いて遺跡の縁に腰をかけた。

 

「…………どうなってんだ、これ」

 

痛みが無くなっている手を見るといつのまにか治っていた。くるくると手の平を回しても綺麗な手にしか見えなかった。

よくわからないが怪我が瞬時に治るらしい。便利な身体だな。直ぐに死ぬようなことは無さそうだ。

 

「ふぉっふぉ、付いて行かなかったのか?」

 

親方!そらからおっさs(以下略。

陽気そうに笑う彼にジト目で見ながらそうだよと肯定した。

 

「何故か入れなくてな。あの石持った奴しか入れないのかも」

「そうであったか……まぁ何、数分すれば戻って来るじゃろうて」

「励ましてんのか?」

「ふぉっふぉっふぉ。其方はあやつにゾッコン、というやつじゃろうからな」

「言い方!というか違うわ!」

 

出会って数分しか経ってないんですけど!?行く宛がないだけなんですけどー!?

何を勘違いしたのかよく分からないが、ふぉっふぉ笑うおっさんを無性に殴りたくなった。愉快そうに笑うその態度が上から目線でムカついたからなのかもしれない。まぁ何故かはわからないがムカついても殴ってはいけない、とは思うのだけれど。

俺の少ない良心に感謝しな!と心の中で中指立てながら、おっさんと駄弁る事数分。遺跡の入り口の前にある丸い円がより淡く光り出して、空から降ってきた水色の光が群をなしやがて人の形を取り始めた。イケメン君だ。

 

「やっとか、おっさんの話相手は疲れる」

「ふぉっふぉ。先達の有難い話は聞いておくべきじゃよ」

「おっさんっていうかお爺ちゃんだったか?頭大丈夫?話してたのほとんど俺なんだけどぉおっ!?」

 

おっさんへの愚痴を本人に零していると、腕を引かれてたたらを踏んだ。それを受け止めるかのようにイケメン君が抱え込み、流れるように俺を後ろに追いやった。いや、何なの。流れが強引かつ自然すぎるし、なんかこのパターン少女漫画で読んだことあるぞ。

 

「何、取りはせん。しかし其方、克服の証を手に入れたな?」

「……何故それを?」

 

この問題進研◯ミで見た!というネタを心の中で披露していると、イケメン君が声を発する。少しだけ小首を傾げているようにも見える。仕草があざとい!実にあざとい!イケメンだから許されるこれ!モテるんだろうな……こいつ。

 

「歳を取ると色々なものが見えて来ることもあるものじゃよ。“それ”を起動しなされ。あの塔に瞬時に移動できるようになっておるじゃろう。この儂と競争と行こう。あぁ、そのワープはその石を持った者しか移動できんから、一緒に行く場合は身体の一部にふれておけばオーケーじゃよ」

「なんか軽いな!」

 

パチリとウインクを軽やかに飛ばしたおっさんは塔へ向かって歩き出した。途中で振り返り、こちらに手を振る。

 

「塔で待っとるからのう!」

 

いや、競争じゃないんかい!

 

俺の叫び声はいつの間にか手を繋いできたイケメン君が、ワープ装置を起動させた事によって途絶えた。

というかワープって!時代錯誤過ぎませんか!?

 

 

 

 

 




話したの前すぎて老人の話し方忘れた……こんなんだっけ。

BLな話読みたくて、でもなぁーBLなぁー書くのなーとか思いながら書いて、ラストまで思いついてしまったのだから仕方がない。まぁこれ、BLじゃないんですけど……普通に見てもBLなんで、ボーイズラブタグ付けてます。意味がわからんね。

続きは気力次第。でも完結させたい所存。


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決意のとき

 

 

 

 

「ところで一つ問うが……お主、彼の者をどう思うておる?」

 

その言葉に僕は元老人だった人を見上げた。

あの後シーカータワーにワープした僕達を待っていた老人の言葉に乗せられ、遺跡改め祠が後三つある事を知った。シーカーストーンの望遠鏡の機能を使ってこの大地の孤島を冒険した。移動がそんなに楽じゃなくて一日では終わらなかったけど、それでも彼と楽しく冒険できたとは思う。

途中で小屋のそばにいる老人に会って、食べ物を作ってあげたら防寒服をくれた---僕が料理する様子を見ていた彼が意味がわからなそうな顔をしていた---り、ちょっと強そうな魔物と戦って、僕は剣が得意だけど彼は弓の方が得意だと分かったりもした。

記憶がなくて不安だったけれど、同じく記憶がない彼がいて寂しくはなかった。

そうして集めた四つの“克服の証”。最初に見た教会のような時の神殿に行くように老人に言われて、そこの女神像に祈りを捧げれば女神ハイリアの声が聞こえてきて、僕の“がんばり”を増やしてくれるのこと。何だか気力が上がった気がした。

そして何故か時の神殿の屋根の上から声をかけてきた老人に会うために登ってみれば、どうやらただの老人ではないそうで……己をハイラル王なのだと言った。

何となく只人ではないとは思っていたけれど、まさか幽霊だなんて思わず少し驚いてしまった。でも、驚いている暇はなさそうだ。

 

彼の者……きっと彼の事だろう。名前は知らないけれど、僕と似た容姿をしていて僕よりお喋りで、包容力があり、抱き着いていると落ち着く不思議な人だ。

 

「どう思ってる……?」

 

けどそう聞かれる理由がわからなくて聞き返した。ハイラル王と名乗るからにはこの国で一番偉かったのだろうから敬語を使わなくてはいけないのに、思わず出た言葉は敬語じゃなかった。

 

「そのままの意味だ、深い意味はない。ただ記憶がないお主にとって、ただの他人。目覚めたばかりでそこまで肩入れする理由がないであろう」

 

確かに彼は同じく回生の祠で寝ていただけの他人かもしれない。でも僕はそうは思えないのだ。

 

ただの他人?僕と同じ容姿をした?

 

そんな偶然があるか。

 

ただの他人が扉の空いていない祠で一緒に寝ていた?

 

そんな訳あるか。

 

なら、彼は他人じゃないだろう。

 

その通りだ。

 

「お主の考えはわかった。しかし他人ではないとしても、お主の入れ込み様は異常とも言える。何故だ?」

 

「離れたくないから」

 

「何故?」

 

「怖いから」

 

「何が?」

 

「わからない」

 

「……わからないけれど、彼が視界から消えるのが怖い」

「………………そうか」

 

今はそれで良い、とハイラル王は呟く。

 

「だが、一つ忠告しておこう。その感情、いつか切り捨てておけ」

 

俯いていた顔を思わず上げた。なぜ!?

 

「後悔する、とだけ言っておく。お主のその感情はこれからの旅の枷になるやも知れん」

 

そう言ったハイラル王の顔は真剣だった。朗らかに笑う老人とは違う、威厳に溢れたもの。一国を背負う者もいうのはこんなにも意思が強くあれるのか。

僕よりも長く生きて、そして国が滅びてもなお霊として生きる彼の言葉の重みは半端ない。僕の子供染みた感情などとうに見据えていて、その上で忠告してくれている。

納得はいかないけれど、絶対に切り捨てられなさそうだけれど……今は、頷くしかないだろう。

こくりと頷いた僕にハイラル王は同じ様に頷き、そして別の話題を繰り出した。

 

「今こそ話そう、百年前何があったのか……と、その前に件の彼を呼ばなくてはならんな」

 

彼もまた、当事者だ。

その言葉に驚く。回生の祠で一緒に寝ていたからもしかしたらと思ったけれど、やっぱりそうなんだろう。

 

「おーい!お主や。お主にも話すことがある!上がって来てはくれぬか!」

「やっとか……って!おっさん!?何か神々しくない!?」

「そんな訳なかろうて」

 

彼もまた百年前に生きた人物。そしてハイラル王も知る人物。なら本当にただの他人じゃないかも知れない!

そうだ……そうだ。ただの他人ならば、こんなにも声が、容姿が、性格が、愛おしく思えるはずもない。ならばそういう事だ。

 

「もうちょいっ!って!うわっ!いきなり引っ張んなよ!イテ!腕イテ、イデデデ!」

 

ただの他人じゃない。

たったそれだけを確信できただけで無性に嬉しくなってしまい、助けようと早く上がってこいと腕を引っ張った。

 

なんだか今は、彼を無性に抱きしめたい様な気がする。

 

「………………」

 

そんな僕達をハイラル王が見ていて、それがどんな顔をしていたのかも知らずに、ただただ早く上がってこいと腕を引っ張り続けた。

 

「痛いです!!離してください!!お願いしまぁあああああああすっ!!!!」

「やだ」

「駄々っ子か!?」

 

驚いた様に眼を見張る彼をみて、クスクスと僕は笑ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、イケメン君に腕を引っ張られもげそうになっている元現代人です。

引っ張り上げられた後、あのふぉっふぉ笑うおじさんがハイラル王だと知って驚きました。ハイラル王国とは約百年前に滅びた国だそうで、この大陸を治めていたそうな。だがその百年前に厄災ガノンという伝説では何度も復活を遂げる化け物がこの国を滅ぼした。先祖はどうにか追い払っていたそうなのだが、その先祖に伴って追い払おうとしたのが災いを呼んだ。まぁつまりは手を打たれていたんだそうな。

先祖が先手打ってボッコボコにした上に秒殺だったらしいからな(今聞いた)、そりゃ対策打ってくるだろうという。厄災もただ復活するだけの獣ではなく、知性ある奴だったということなのだろう。

 

「国は滅んだ……しかしその国の姫は最後まで諦めず、今もなお厄災をハイラル城に封じておる。ゼルダ。それが儂の娘であり、封印の力を受け継いだ姫」

 

そしてハイラル王は真っ直ぐとイケメン君を見た。

 

「そしてその姫を最後まで守り、半ば力尽きた退魔の剣に選ばれし騎士……それがお主じゃ、リンク」

 

ほぉ、イケメン君の名前はリンクと言うらしい。

 

……リンク?

 

…………ゼルダ??

 

………………ハイラル王国???

 

まさか。

 

「ゼルダの伝説……?」

「ゼルダは儂の娘だ」

 

いやそうだけど!!そうじゃないんですよネ!!!!

経緯や形は少し違えど、これは古くから愛されて来た王道展開……魔王に囚われた姫を救い出すために勇者が旅をする話の様なものとは思っていたけれど、まさかゼルダの伝説とは。

いや、どっちにしろ俺がいる事には説明がつかない。有名作品の中にいるとしても、絶対に俺が主人公の側にいるなんて事あり得るはずがないのだ。だってプレイヤーキャラは基本的に一人だからね!!

仲間集めるってタイプでもなさそうだしな!

薄々思ってたけれど、やっぱりイレギュラーなんだなーと俺は本来存在しないはずなんだなーと落ち込んでいると、イケメン君もといリンクが俺の肩を叩いて覗き混んで来た。どアップなイケメンに思わず出ていた涙が引っ込む。

 

「大丈夫、置いて行ったりはしない」

 

いや、何の話!?!?

 

「ずっと側にいるから」

「どういう---」

 

ちゅ、と小さくリップ音がした。目尻に感じた柔らかい感触とその音は目の前で行われたそれに理解ができなくて、ただただ感覚として伝わって来た。どアップで微笑んだイケメン君は俺の反対側の目尻にも近づいて来る。

そうして反応が遅れ為すがままにしていた俺がやっとの事でイケメン君から離れれば、表情には出していないが雰囲気で“うわぁ”と言っている様な気がするハイラル王と目があった。いや、違うんですよ!!ハイラル王!!

 

愛情もここまで来ると過ぎたるものだな

「なんて???」

 

小声すぎて聞こえなかった。

 

「リンクよ、そういうのは人のいない所でするんだぞ」

「わかった」

「まって???」

 

まって????そういうのは止めてくれよ!!王だろ!!いや王だから無関心なのか!!

 

「して、これからの事だが。ハイラルの事を任せても良いか。お主一人に背負わせるには重すぎる荷……しかし、お主しか頼る者がいない。もう滅んだ国であるが、一国の王として頼む。この国を、ハイラルを救ってくれ」

 

話を戻したァ!?!?めちゃくちゃシリアスな雰囲気に一瞬に切り替えやがった!でもイケメン君は手を離してくれない!何だこれ!

現実逃避しながら頭を下げたハイラル王とイケメン君を見る。幽霊ではあるけれど誠意のある言葉だとわかったし、そんな王にイケメン君はジッと見つめていた。

暫くして。

 

「わかりました」

 

イケメン君がこっちを見てからするりと手を離して跪いた。俺も伴って同じ様にする。何だか形式のあるものだったけれど、懐かしく思える。

 

「厄災ガノン討伐の任、この私、リンクが承ります」

 

アッこれ俺もなんか言わなきゃいけない雰囲気だ。どうしよ、なんて言おう。ガノン討伐なんて俺には無理だし、でも記憶がない今頼れるのはこのイケメン君しかいない。

離れるのは簡単なんだろう。イケメン君の執着を見れば簡単じゃなさそうだけど、抜けているところがあるから抜け出すのは多分いける。けれど、それじゃぁ何だかいけない気がする。

 

「(何故俺が回生の祠で寝ていたのか、何故俺がイケメン君……いやリンクと似た容姿をしているのか…………)」

 

確かめなくちゃいけない。

ま、容姿に関しちゃこの大地を冒険している途中で気付いてめちゃくちゃ驚いて、崖から落ちそうになったんだけど……それはそれ。今では黒歴史である。リンクがいなきゃ死んでた。

 

「(確かめる覚悟はできた)」

 

後は、口にするだけ。

 

「そして勇者リンクの補佐をこの私、アークが引き受けましょう」

 

 

「「最良の結果を貴方に」」

 

 

「……ふぉっふぉ、頼んだぞ。勇者リンク、そしてアークよ」

 

王は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って自分で言っておいてなんだが、俺の名前アークって言うんだな!初めて知ったなー!!

 

 

 




短めでごめんね。
今更ながらラストは思い浮かべているが、衝動的に書いたものなのでプロットも何もない見切り発車な作品です。

ところでBLじゃねぇ!とか言っておきながら、がっつりBLだなこれ。


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双子だらけの場所

 

 

 

 

「アーク」

「……」

 

「アーク」

「…………」

 

「アーク」

「………………」

 

「ア「だぁあああ!!もう何!?」」

「何でもない」

「なら何故呼んだ!?!?」

 

痺れを切らし勢い良く振り返った俺をクスクスと小さく笑うイケメン君もといリンク。さっきからずっとこの調子で俺は少しうんざりしていた。

ハイラル王の話を聞き、約束通りパラセールを貰って大地の孤島である“始まりの大地”から抜け出した俺たち。ハイラル王の言葉通りに、百年前のことを知るシーカー族の長老インパを訪ねるためにカカリコ村を目指すことになった。

目印である双子の山に向かって歩く最中、ずっとリンクが俺の名前を連呼するのだ。なんだ?と聞いても何でもないと答えるばかりで、小さく嬉しそうに笑う姿に毒気が抜かれる。でも無視しようとしても、ころころと優しく鈴を転がすように言葉を綴られては恥ずかしくもなる。こんな名前連呼されたの、授業をサボった俺を探しに来た先生以来だわ。

 

「君の名前初めて知った……けど、初めてじゃない気がする」

 

矛盾してません???

そう言ったリンクは嬉しそうに手を繋いで来る。左手で俺の右手を掴むのは別に良いが、これ完全に俺の立場が彼女扱い。利き手を封じられた……辛いね。

 

「懐かしくて、嬉しくて、愛おしくて。何故だろう、僕の名前も姫の名前も何も思わなかったのに……君の名前だけ」

 

くるりとリンクが振り返った。空いていた右手で俺の左手をも繋ぐ。その動作をゆるりと目で確認してから、彼の顔を見て息が詰まった。

 

「なんだか、切ない」

 

リンクは微笑んでいた。慈愛の笑みを浮かべていた。その瞳から読み取れる感情は慈しみ、愛、喜びという(プラス)だけでなく、切なさ、悲しみ、苦しみ、憎悪という(マイナス)の感情も含んでいるように思えた。

なんで憎悪が混じってるのかはこの際無視しておこう。俺的にそう思っただけで、実際は混じってないかも知れないし。何か別の似た感情かも知れない……ダメじゃん。

そう微笑んだ後、さっきと同じようにまた歩き出す。その様子は全身から嬉しいオーラが漂っているような気がして、呆れたくなる。

記憶がない今、身に覚えのない依頼を受けてカカリコ村に向かっている。百年前の人々が成し遂げなかったことを一人で成そうとしているのだから、そのお人好し加減がわかるだろう。逃げても良いはずだ。姫様には悪いけれど、勇者だからと言って背負わす荷が重すぎる。こういうのは二次元だから許されるんですよ。俺は現に逃げたい。

 

「(ま、約束してしまった以上……仕方ないんだけどな)」

 

道中で落ちていた旅人の剣というものを見つける。拾ったリンクが何度か振り回してから、奥にいる赤い皮膚を持った者達を見た。

後から聞いたのだが、あれは魔物と言うそうだ。動物以上に知恵が高く、群れを成し、木の上に巣を作る事もある。その建設技術は人にも劣らない。いや多分、人の方が作れないわ。

豚の鼻をした小さな角を生やした彼らの名前はボコブリン。うん、ゴブリンをちょっともじったってすぐわかる名前ですね。

 

「ギャァアア!」

「ググググ!」

 

およそ人では出せない声を出し、ボコブリン達は倒れた。隣にいたはずのリンクはもうおらず、奥で手を振っている。いつの間に移動したんだろうか。速すぎやしませんかね。

それから近くの箱を剣で壊して中身を拾っていた。それをこちらに渡して来た。五本が束になった弓矢だ。顔を上げてリンクに貰っていいのか聞く。

 

「良い。弓はアークの方が得意だから」

 

いやまぁそうだけどさ。だからと言ってお前だって弓使えるだろに。

常人よりは撃つのが早く、正確性はあるだろうに弓は俺の方が得意だからと弓関係のは全て渡してくる。その代わりと言ってはなんだが、剣や盾などはリンクが装備している。

有り難く貰っておくと彼は満足そうに一つ頷いてボコブリンが落とした素材を取る。角に牙、ちょっとしたレア素材な肝を四次元ポケットみたいなポーチに入れていくリンク。常々思っていたが、時々脈動するその肝を難なく素手で触れるの本当に凄いと思う。俺が前触った時なんてちょっと滑っていたから、気持ち悪くて仕方がなかったんだけど……彼は何も思わないのだろうか。

 

「?」

「いや、なんでもない……」

 

俺の視線を感じたのかリンクが首を傾げてくるが、無自覚過ぎて追求する気になれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで一日以上かけて双子山の麓にある馬宿に到着。途中で双子山の塔を起動させたり、反応があった祠を登録したりしたけれど、日が暮れる前に到着してよかった。地味に遠かったので野宿なんて人生初体験なこともしたが、やっぱりベットで寝たい。硬い地面で寝るのは身体に悪いからな。

 

「なぁ、アレ」

 

やっとぐっすり寝れると背伸びしていたら祠が見えた。淡く青色に光るそれは勇者を待ち侘びているようにも見える。そんな祠をうっとりとした表情で眺める女性がいるが無視して、リンクに祠がある事を知らせる為に裾を引いた。

 

「祠じゃないか、リン---近ッ!?」

 

嫌悪感が少しあるあの祠にあんな表情を向ける女性の心理状態がわからないまま、リンクへと振り返ると思ったより顔が近かった。突然の事に数歩後ずさる。

 

「何!?」

 

心臓に悪いことをしないで欲しい!

そう心の中でツッコミながら驚かして来た相手であるリンクを見ると、彼は何やらほんわかとした雰囲気を醸し出しながら人差し指を立てた。

ん?なんだ……?

 

「今のもう一回やって」

「何を!?」

 

今のってどれ!?

そう問うと彼は不満そうにしながらも実演してみせた。近づいて来たリンクは俺の服の裾をクイクイと二回程引っ張ってみせる。

あー、それ…………ん?

 

「そんなのした?俺」

「した。可愛かった」

 

すらりと可愛いとか言わないで欲しい。俺は男です。え?知ってる?そっかー。

まぁ可愛い女の子がすれば、こう胸にくるのはわかるけどな。この世界の可愛い女の子少ないけど……可愛い女の子で思い浮かぶのゼルダ姫ぐらいだ。顔知らないけどな!

リンク、ゼルダ、ハイラルでゼルダの伝説だと気づいたけれど、正直この世界がどのゼルダの伝説なのか知らない。そもそも人気シリーズだけれどやった事はあるけど、やり込んだ事はない。友達のを借りてちょっと謎解きを手伝ってやった程度だ。因みに時のオカリナで城に警備を掻い潜り忍び込むシーンである。どう言う場面だよ。

その時にゼルダの伝説のストーリーを大まかに教えてもらっただけで、主人公とヒロイン、そして敵役の名前は同じだという設定しか知らない。あれ?それじゃぁ、厄災ガノンがラスボスなら、“ガノン”が共通のラスボスか。

 

「男に可愛いとか言うなよ」

 

少し睨みつけて文句を言うも彼は目尻を柔らかくしたまま、はいはいと受け流す。

 

「カッコいいカッコいい」

「扱いが雑い!?」

 

今までの過保護ぶりはなんだったのか。

肩を落とす俺に対してリンクはクスクスと小さく笑う。この数日間で思った事だがリンクは表情がないと思いきやある方だった。こうして笑うこともしばしばある。最初の無言の圧があるよりはまだマシだ。こうして俺の事をからかうのも最近になっての事である。

その小さな笑顔を見るとどうでもよくなって俺も笑身をこぼした。

 

「取り敢えず、祠へ行ってこい。お前しか行けないんだから」

「うん」

「馬宿で宿、取っとくからさ」

「うん。ねぇアーク」

「なんだ?」

 

背中を押して送り出すと数歩進んだリンクが振り返る。

 

「楽しいね」

 

そう言って微笑む彼の顔は何処かで見たことあった気がするけれど、思い出せないからまぁ良いや。

……楽しい、か。

 

「そうだな、楽しいな」

 

自分が何故この世界にいるのか、自分が何故お前と一緒に寝ていたのか。疑問に思う事は沢山あるけれど、このやり取りが、この旅が……彼といることをどこか楽しんでいるのは確かだ。

そう言って微笑むとリンクはより一層嬉しそうな雰囲気を醸し出しながら頷いて祠の方へと歩いて行った。

 

「さて、と」

 

彼が祠の中に消えていったのを確認してから踵を翻し馬宿のカウンターへ向かう。カウンターの中にはここの亭主と思しき男性が立っており、その側には同じ顔をした男性がいる。二人はカウンター越しに楽しそうに談笑していた。多分あの人もここのスタッフなのだろう、同じ服着てるし。

楽しんでいるところ悪いがこちとらお客様だ。踏ん反り返る訳ではないけれど、それぐらい強気でなけりゃ話を中断できない。よく思わないって言われるが俺はコミュ障である。喋るタイプのな……まぁこの旅ではコミュ障なんて言ってられないんだけども。

 

「あの、すみません」

 

話を中断してごめんな!止めさせてくれ!

と意を決して話しかけると、二人は談笑をやめてこちらへ振り返った。

 

「あぁ、旅の方ですか。ようこそ!双子馬宿へ。この付近の案内なら私に」

「馬登録ならば私にお願いします」

「い、いえ、宿を取りに来たんで」

「そうでしたか。それならば、中のカウンターへ。そこで宿を受け付けております」

 

馬宿の中を覗き見る。どうやら外に面したカウンターと中で宿を受け付けるカウンターと分けているようだ。楕円形の形をしたカウンターはどことなく、す◯家を思い出させる。牛丼食べたくなってきた。

 

「って、馬登録?」

 

気になった単語を反芻する。馬登録って、馬を登録するんだろうなってわかるけど、馬持ってなきゃ登録しないといけないなんていう規則でもあるのだろうか。

 

「おや、馬登録を知らない?それでは説明させていただきましょう!野生馬捕獲最短記録を持つ私なら的確にアドバイスもできますし」

「はぁ」

 

答えたのはカウンター前に立っている人だった。中にいる人と比べてテンションが高い。これが通常運転なのだろうかと中の人の方へ向くと、彼は諦めたように首を縦に振った。なるほど、いつもこうらしい。

 

「馬宿とは捕まえてきた野生馬や、元からお持ちになっていた馬を登録したり、預けたりできる場所です。もちろん宿と言うからには宿泊施設も提供しておりますが」

「野生馬?」

 

野生の馬がいるのだろうか。魔物が跋扈するこの世界に?家畜種としてではなく?野生とな?

 

「えぇ、ここら辺にもいますよ」

 

珍しい事もあるものだ。俺の世界じゃ野生の馬なんて数えるほどの種類しかいないのに。あとは家畜種が逃げ出して繁殖した奴とか。

ほら、と指差されて先にいたのは色とりどりな馬達。ホルスタインの様な模様を持った馬や、単色であり足だけ白いとか、馬の顔にある星と呼ばれるものもそれぞれ模様が違う。色は茶色、黒、クリーム、青、灰色とか。いや、青て。

しかしながら野生の馬と言われたけれど、あれ普通に良く想像する馬だ。サラブレッドの様に人が乗りやすく脚が長いというわけでもないようだが……それでも想像してた野生馬と違った。ポニーとかそこら辺だと思ってたわ。逃げ出した家畜種が野生化したやつだろ、アレ。

いや起源とかどうでも良いんだ。アレを捕まえるとか、相当苦労しそうなんだけど。

そういえば、彼はふるふると首を振った。

 

「確かに少し苦労しますけど馬は懐くものです、半端な知性がある魔物を捕まえるわけではありませんから。それに単色種は気難しい性格をしていますけれど、ブチ種は穏やかなので比較的捕まえやすいですよ」

 

後ろからこっそり近づいて飛び乗ったら一発ですよ!

そう笑う彼に頬が引きつる。一発な訳がないでしょう。野生というのは人の手を離れて暮らす動物達のことだ。元家畜というのもあるけれど、あれは完璧に生まれた時からずっと野生に違いない。つまり人を知らないのだ。そんなのを捕まえるとか、本気ですかね。

いやまぁ、そういうものとして受け取っておこう。馬を捕まえるか否かはリンクと相談すれば良いしな。

 

「何なら私の野生馬捕獲最短記録に挑戦していただいても良いのですよ!もし超えたなら良いものをあげましょう!」

 

そう言って手を大きく広げる彼だが、お生憎様そんなものに挑戦する気は無い。ミニゲーム的なのはリンクにでもやらせておけば良いのだ。彼ならきっと嬉々として挑戦するだろうから。

断る趣旨を伝えて、落ち込む様に少しの罪悪感を感じながら馬宿の中に入る。二人分の宿を取った後、情報収集する為に宿の中にいる人物に話しかけていく。彼らは色々な事を知っているらしく、話したがりなのか聞いてもない事を話してくれた。テリーとか言う商人が弓矢を売っていたが、今は少々懐が暖かくはないのでパスして料理鍋の前にいるお姉さんへと話しかけた。

 

「貴方も旅人?」

「えぇ、まぁ」

「そっか。仲間ができて嬉しいわ」

「仲間?」

 

首を傾げる。いつの間にやら彼女の仲間になったらしい。なった覚えはないけれど。

 

「だってこの馬宿、どこ見ても双子だらけだもの」

 

確かに。

双子馬宿とか言う双子山に因んでつけられたのかと思いきや、従業員も双子、その子供達も双子であり、さらにもう一組ぐらいいた気がする。気のせいだと思いたいけれど。

それに通って来た近くの橋も双子らしく、兄の橋と弟の橋がある。もう何が何やらだ。双子ではない彼女の方が珍しく見えた。

 

「兄弟が羨ましいってわけじゃないの。ただ、同じ顔を何度も見るのは疲れるのよね」

 

そう項垂れるお姉さん。苦労してんですねぇと心の中で労わる。同じ顔を何度も見て疲れるってちょっと失礼なんじゃないかと思うけれど。

あ、リンクお帰り。祠攻略早かったな。

 

「それに一人でいる私の方が珍しいからって奇異の目で見られるのもね……疲れる」

 

何、簡単だった?そりゃ良かった。変な所で頭いいよなお前。普段は頭悪そうなの、いって!殴るなよ!

 

「この気持ち、貴方にもわかるわ、よ……ね………………」

「え、あぁごめんお姉さん。聞いてませんでした」

 

リンクが帰ってきてから何か話してたのはわかっていたんだが、全然聞いてなかった。

随分失礼な事をやらかしたので素直に謝ったのだが、此方を見て固まった彼女を怪訝に思う。一体どうしたのだろうか。

 

「う……」

「う?」

「裏切りものーーーーッ!!!!!!」

「えぇーーーっ!?!!!?」

 

いきなり走り出してったぞあの人!?

ってお姉さん!!夜はスタル系の魔物がいて危な---アッ!!一撃で倒した!あの人強いや!!

 

「何だったの?」

 

いつの間にか隣にいたリンクがそう問いかけて来たが、それには答えられそうもない。

だって。

 

「さぁ?」

 

俺の方が聞きたいわ。

 

 

 

 

 




時オカ3D始めました。タゲ取るの難しすぎません?操作ボタン小さすぎて指がつる。


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精霊のマラカス

 

 

 

結局の所、馬を捕まえて登録した。一匹20ルピーの登録料を取られたが、これによって手綱とか貰えたし、口笛を吹けば寄ってくるらしい。捕まえたのはブチ種と呼ばれる白と黒が混じった種類だ。ちょっと牛っぽいなと思って、ギウと名付けた。ぎゅうからゅを取っただけの安直な名前だけど、それでも喜んでくれたのか懐きMAXなのか頬に擦り寄ってくるギウ。馬って可愛いんだな!ちょっと鼻水付いたけど!

因みにリンクは焦げ茶と白のブチ種。彼でもやっぱり単色は無理だったらしい。がんばり系の料理なきゃ無理、と呟いてたけど、暴れる馬の上で料理食べるとかそれこそ無理じゃないだろうか…………深くは突っ込みはしまい。そして名前はウマである……深くは突っ込まないぞ!!!!!

 

「これで楽に行けるな、リンク」

 

ギウの首を撫でながらそう言うとコクリと頷いた彼は早速とばかりにウマに跨った。

もう出発する気の様だ。確かにもう昼近いし、そろそろ出発せねばならない。カカリコ村までは馬に乗って約一日かかる。今出ていけば、明日の昼には到着するだろう。

 

「よろしくな、ギウ」

 

一回軽く叩いてから鞍へと飛び乗る。手綱をしっかりと握れば完璧だ。行こうぜ、とリンクに声かけてから軽く腹を蹴った。軽く動き出すが、思ったより怖くない。寧ろ心地の良い揺れで思わず寝てしまいそうになる程だ。寝たらずり落ちるけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マラカスを取り戻して欲しいんだよぉ」

 

そう言ったボックリンと名乗った変な奴は頭であろう部分をショボくれたように下げた。雰囲気がしょんぼりしていることがわかるから余計に断りにくい。

双子馬宿からカカリコ村とハテノ村の分岐点を過ぎ、整えられていない大きな石橋を渡って見えてきた坂の途中でいたよくわからない生命体。関わりたくはないがリンクが其奴に向かっていくから俺も仕方なく付いていった。

ショボくれていた其奴はボックリンと名乗り、みんな見えないからスルーされていて困っていたと話した。その口振りで言うと普通の奴は見えないらしい。そんなボックリンは音楽家だが大事なマラカスを魔物に取られてしまったようだ。自分で取り戻せば良いのに、と思ったが図体がでかいだけで弱いんだろうな。マラカスを奪われるんだから……ボコブリンに。

 

「青いな……」

 

こくり、とリンクが頷く。この世界の魔物はどう言うわけか、強さによって肌の色が変わる。最初は赤、次に青というようにだ。つまりあの青い肌を持つ三匹のボコブリンは今の俺たちにとってそれなりにつよいということになる。

キャンプ的なものをしているのか、三匹がテンション高くジャンプしているのをアーチ状になった岩の上から眺める。彼らがそうして火を囲んでいるのは度々見るが、何故あんな風に飛び上がるのかは未だ不明だ。いくら考えても、意味なんて思いつかない。

いや、魔物の行動原理なんて考えても仕方ないんだけどさ。

 

「俺が弓で牽制しとくから、リンクは……突っ込んでも大丈夫か?」

「大丈夫」

「青い奴三匹相手とか初めてだろ?」

「大丈夫。攻撃パターンは同じだから」

 

だから大丈夫。

ハッキリとした口調で言われてしまえば俺が逆らえる気が起きるはずもなく、わかったと頷いて弓を引き絞った。

狙うはヘッドショット一択。彼らは丈夫なので矢が刺さっても動き続けるが、頭に刺さった時だけは仰け反ったり一瞬気絶して倒れたりする。それを狙う。というよりそれしか牽制の方法はない。

目覚める前よりもめちゃくちゃ良くなった視力を元に弓を限界まで引き絞る。周りの風景が止まったような……流れている時間が遅くなったような感覚になり、リンクが駆け出して岩から飛び降りたのを横目で確認してから、弦を離しヘッドショットが決まったのを確認した途端に集中が切れる。気力が足りないのか、一本射つだけでしんどくなるのだが今はそういうのを気にしている場合ではない。

因みにヘッドショットしたのは一番奥にいる個体で、気絶して身体がちょっと吹っ飛んだ仲間に気づいたボコブリン達は其方に向かって振り向くのが自然だ。そんな自然な行為から生み出された隙、敵に背中を無防備に晒すという大きな隙を晒した。そんなのを見逃すリンクではなく。

 

「ハァアッ!」

 

今持っている武器の中で一番攻撃力が高いであろう騎士の剣で背中を二、三回斬りつけた後、数歩程後退するリンク。その目の前に棍棒が通り過ぎだんだから、彼の戦闘センスには脱帽する。

 

「ま、感心している場合ではないか!」

 

もう一つ矢を取り出し、リンクに近づいている奴に一つ、起き上がった奥の奴にも一つ。そしてリンクに斬りつけられて満身創痍な一番手前の個体の目玉に矢を射ってやった。悲鳴をあげながら消える手前の個体。

 

「まずは一」

 

そして彼は一番奥ではなく次に手前だった奴に斬りかかり、華麗に避けてはラッシュを決めていた。目にも止まらない速さだが、彼にはきっとどう斬っているのか自覚できているのだろう。剣の才能が凄まじいな、と心の中で賞賛を送りながら弓をまた引き絞る。

集中。時間が止まる。息を吐き…………射つ!

 

「二」

 

ラッシュを決めたがまだ襲い掛かりそうだったボコブリンにヘッドショットを決めて倒し、リンクの後ろから襲おうとしている奴にも続いて矢を放つ。

 

「三」

 

気づいたリンクが剣を斬りつけ始めたのを確認して息を吐く。どっと疲れが来たが無視して、彼の方を見た。最後の一匹になったボコブリンを危なげもなく相手取っている。あの様子なら確実に倒すだろうと、息を整え終えた俺は岩から飛び降りた。

そして数歩程歩くと、祭壇のようなものの上に祀られた宝箱が空いた音がして、ボコブリンを倒せたのだと自覚する。

 

「いっちょあがりだな、リンク」

 

こくりと頷く彼と軽くハイタッチして戦闘は終わりだ。

リンクがボコブリン達が落とした武器やら素材やらを回収している間に、俺は祭壇の上に登って不気味な骨の様なものでできた宝箱を開く。中には赤いマラカスが入っていて、これが奪われた奴だとわかった。わざわざこんなものを盗んで何が楽しいのかわからなかったけど、多分これの何かがボコブリン達には神聖なものに見えたのだろう。こうして祀ってあったんだし……まぁ魔物の思考なんて予想しても仕方がない。頼まれたものを達成できたことを喜ぼう。

 

「アーク、見て」

「ん?どうした、リンク」

 

祭壇から飛び降りたらリンクに話しかけられ、返事をしながらそちらを向くと少し口角を上げたリンクが手の平を上にしながら差し出してきた。そこには脈動する紫色の肝達が……。

 

「三体とも落とした。ラッキー」

「そだな」

「これ売ればちょっとは足しになる。矢を買って、あとは保存食用に食料とか」

「そだな……」

「あ、アーク。矢の束あったからあげる」

「ソダナ……」

「アーク?元気ない?」

 

お前のせいだ、とは言えなかった。純粋な瞳で此方を心配するアークから目を逸らしながら、大丈夫と言いながらも手元にある肝達に眉を顰めそうになる。

どくどくと生々しく脈打つそれからは、ボコブリン達の体液だろうものが滴っている。なんか変な色も混じっているのは気にせず、必死にそれから目を逸らした。首が鳴った気がするけど、気のせいだと思いたい。

 

「アーク?」

「ぼ、ボックリンに報告しに行こうぜ。待っているだろうし」

 

頷くリンクを尻目に歩き出す俺は息を吐く。赤だったらまだ良いが、何で紫なのだろうか。俺は青い血とかそういうのが無理なタイプである。赤はいけるのだが。

 

「アーク、矢」

「あぁ……ぁっ」

 

受け取るのを忘れていたと彼から弓矢の束を貰うと、何かネチョッと明らかな体液が手についてしまって思わず目が死んでしまったが……これは余談というものだろう。

 

 

俺にとっては余談じゃないけど!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュルン!?取り戻してくれたの?」

 

るんるん!と嬉しさを身体全部で表現するボックリンはちょーらい!と腕を突き出してきた。その手の平があるであろう場所にマラカスを置くと、彼?は嬉しそうに振り回し始める。だがその動作にはマラカスという楽器特有の音がなかった。

 

「音、してねーけど?」

「ハッ!そうだった!あのねあのねぇ?またボクちんのお願い聞いてくれるぅ?」

 

眉のような葉っぱを下げたボックリンは大きな体を小さくしながら、話し始めた。

 

「ほんとはね、このマラカスとぉっても良い音するんだよぅ?中に“コログのミ”ってのが元々入ってたんだけど、コログ族の子供達に取られちゃったんだぁ」

 

こいつ、取られすぎじゃね?と思ったのは内緒である。

 

「だからね、子供達から“コログのミ”を取り返してきて欲しいのぉ。コログ族は隠れんぼがだぁいすきだから、見つけたらお礼としてくれるはずだよぉ!」

 

今度は両腕を上げて体を大きく見せるボックリン。断られるなんて微塵も思ってないようだ。独特な話し方と陽気な雰囲気から、良い奴なのは丸わかり。だったら根っからのお人好しであるリンクが断るはずもないだろう。

リンクがどうする?と此方を向いてきたが、その表情は受ける気満々だ。別にこのお願いは期限とかないようだし、見つけたらちょーらい的なあれだ……俺はどっちでも良いし、頷いておく。

 

「本当ぉ!?お願い聞いてくれるのぉ!?やったやったぁ!持ってきてくれたらお礼にポーチを大きくしてあげるねぇ!」

「マジか」

 

それは嬉しい誤算である。

リンクのポーチは四次元ポケットみたいなものだが、あれと違って上限がある。素材に関してはないみたいだけど、武器などの入れる場所には制限があるようだ。リンク曰くなので詳細はわからないが、武器を上限よりも多く入れようとして跳ね返ってきたことはある。あれは危なかった。

嬉しい誤算にリンクも顔が綻んでいる。よかったなぁ、俺には全然関係ないけど……弓と矢ぐらいかな。俺もポーチ持ってるけど、リンクのように種類ごとに分かれてないし、上限もある。まぁ小ポーチみたいなもんだ。

 

「キュルン?キミ達、“コログのミ”もってなぁい?匂いがするよ?」

 

え?

思わずリンクの方を見る。彼もこっちを反射的に見たのか目があったが、互いにふるふると首を振った。その後にリンクが目を細めたが、それはスルーしてボックリンに向き直る。

 

「なぁ、“コログのミ”ってどんなのだ?俺たち二人共心当たりないんだけど」

「“コログのミ”はねぇ、ちょっと艶っとした黄色い色でねぇ?ツルツルまぁるいんだけど、ちょこんと尖ってるんだよぉ」

 

お、おぉ。なんか心当たりあるわ。

 

「あとねぇ、独特な匂いするねぇ。それと“コログのミ”は彼らの---なんだぁ。キャッ♡言っちゃった♡」

 

肝心な所言えてないんですけど!?

めっちゃくちゃ気になるが、ポーチの容量を増やす方が先だ。隠れているコログ族を見つけて“コログのミ”を貰う。そういう行程を何度かしたことがある。ボックリの見た目からして、似たようなちっちゃいあいつ等がそれだろう。

ごそごそとポーチを探り、できる限りを取り出す。そして彼の目の前に持っていくと、大きく眉を上げて驚いたように覗き込んできた。

 

「キュルン!?それ“コログのミ”だよぉ!やったぁ!これで踊れるんだよぉ!ちょーらいちょーらい♪“コログのミ”ちょーらい♪」

「はいはい」

 

そうして手渡すと嬉しそうに体を揺らしながら、マラカスの取っ手部分をくるくると回して外し中に入れ始めた。

どうやって入れるのかね、と思ってたんだがそうって入れるんだな。興味本位で見せて貰うとペットボトルの蓋みたいに溝ができていた。作った奴凄いな、先進的だなと感心して返した。

 

「キュン♡これでいつでも踊れるよぉ!ありがとう!あ、でもねでもね。まだ足りないからもっと持ってきてくれると助かるなぁ。お礼にポーチの枠増やすからねぇ」

 

そんな事を言われてしまえば断れるはずもなく、リンクと俺はコクリと頷いた。

 

「じゃぁ、ポーチを増やそう!どこが良いのぉ?この数なら、武器、盾、弓一つずつ増やせるよぉ!」

「じゃぁ、お願い」

 

これで武器を捨てるなんて事しなくて済むな。久し振りに実りのあるお願いだったなと今回の事を振り返りながら、ボックリンが準備するのを待つ。

その時にリンクが手を繋いできたが……まぁこれぐらい許してやろう。寝てる時も何故か繋いでくるけどな、こいつ。子供か!と何度突っ込んだことか。

俺が過剰に反応しすぎてるのもあるけどな……慣れてきたから、抱きつかれる、手を繋ぐ程度はもう驚かない。あとはでこチューである。どこの彼氏?なんて思いながら受け入れてる自分がいる。

 

「(……あれ?これ結構ダメじゃね?)」

 

いやいやいや!俺はノンケ、俺はノンケである。ホモじゃないので。同性愛者ではないので…………隣の奴がどうかわからんのだよなぁ!でもさぁ!同じ顔した奴を好きになるやつなんているか!?とんだナルシストだな!おい!イケメンだもんな、ちくせう!

ハッ!落ち着け、俺。今考えても仕方がない。俺がこの世界で何者なのか、主人公についていくことで探るんだろう。ガノンを倒すのもあるが、それよりも俺自身のことである。

 

……わかるまで、貞操守れてるかなぁ。

 

思わずリンクの方を見ると、クエスチョンマークを浮かべながらも微笑んでくれた。いや笑顔を求めてないんですけどね、イケメンですね!

慌ててリンクから視線を逸らし、ボックリンの方を見る。ダンスを披露してくれるというのだから、見ないとな。うん、現実逃避とかいうなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

だだ、現実逃避にと見たボックリンの踊りは。

 

「イーーッヤッハァア!!!」

 

性格に似合わず、結構激しかったと言っておこう。

 

 

 

 




ブレワイ続編やっっっっっっったぁぁああああああ!!!!!!!!


ところで、ボックリンって900個もコログのミを集めて何するんですかねぇ……。


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