うちはサスケに転生して、欲望の限りを尽くす (量々)
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第0話 目覚め

「大丈夫か?」

 

 俺が目を開けると、そこは真っ白な部屋、病室だった。

 

「う、あっ」

 

 頭の中を記憶が廻る。コンビニからの帰り道、歩道に突っ込んで来たトラック。そして、うちはサスケとして生まれ、両親を兄に殺され、気絶した記憶。

 どうやら俺は今まで前世の記憶を忘れ、うちはサスケとして転生し、生きてきたらしい。

 

「おい!

 大丈夫か!?

 自分が誰か分かるか!?」

 

 医者が必至に呼びかけてくる。俺はそんなに酷い顔してるのか。

 

「はい。うちはサスケです」

「…………良かった。これから――」

 

 医者が連々とこれから俺がどうなるかを説明している。それをぼーっと聞き流しながら、俺は今までの記憶を思い出す。

 

===============

 

「サスケー、勉強は?」

「めんどいー」

 

 忍者アカデミーに入学してすぐのことだ。兄は優秀だといつも両親に褒められ、父親はさすが俺の息子だ、なんて言っていたが、俺は勉学も修行も頑張るつもりはなかった。勉強は面倒くさいし、修行はつらい。俺達うちは一族は常人と比べて元々能力が高く、才能に恵まれているのだから大して努力しなくても、それなりに大成できるのだ。ついでに顔がいいからモテる。

 

 ほら、頑張る理由なんて無いだろ?

 

「もー」

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

「サスケェ!」

「ひっ」

 

 テスト日を忘れ、一夜漬けすらしなかった俺は、鬼のような形相の母親と初めてみた真面目な表情で怒っている父親に大層ショックを受けていた。

 

「え…………?」

「お前…………!?」

 

 そう、豆腐メンタル甚だしい俺はそれに大きな精神的ショックを受け――

 

「へ?」

 

 ――写輪眼を開眼した。

 

========================

 

 忍術、体術、幻術をコピーできる力を持つ写輪眼。それを手に入れた俺はますます堕落するようになった。漫画やテレビを見ながら写輪眼を維持するのを修行と言い張り、アカデミーから帰れば家でゴロゴロする毎日。たまに母親から修行に行けと家を追い出されたが、適当な修行場で使われる術を写輪眼でコピーしてその日を過ごしていた。

 

 異常が起きたのはそんなある日のことだ。

 

 修行、もとい写輪眼による術のコピーが終わった帰り道。静かすぎる夜を怖がった俺は家に入るなり、親を探したが、見当たらない。俺の父親はうちは一族の頭領。家は屋敷のように広く、道場も存在する。

 両親と兄がいたのは、そこだ。

 

 死んだ両親と血に濡れた刀を持つ兄がいたのは。

 

 俺の頭には、父親が死んだらこれからの生活どうするんだとか、母親が死んだらご飯誰が作ってくれるんだとか、兄が犯罪者になったらこれから俺のアカデミー生活はどうなるんだとか、そんな思いでいっぱいになった。

 

「あ、ああ…………」

 

 頭に冷たいチャクラが吹き荒れるのを認識した。まるで母親に叱られて写輪眼を開眼したときのような。

 今思えば、我ながらなんて薄情な思考だ。これで小学生なんだから笑えない。豆腐メンタルで開眼した写輪眼は笑うしかなかったが、これは酷い。

 

 ついでに血や臓器の匂いとグロ映像で、俺は気絶した。

 

========================

 

「お前には、本当に驚かされる」

 

 父と母を斬り殺し、その姿を弟であるサスケに見せたのは俺を憎んでもらうためだ。それを生きる理由にしてもらうためだ。それがまさか、この年齢で万華鏡写輪眼を開眼することになるとは。……万華鏡を開眼する条件は近しい者が死ぬほどに大きな精神的ショックだ。主に喪失感や自身に対する失意によって開眼する。喪失感は対象への愛が大きければ大きいほどに酷くなるものだ。しかし、サスケのような年齢ではそこまで精神が発達しているとは思えないし、前例もない。

 それに、俺はサスケがそこまで両親を愛しているとは思っていなかった。子供は無条件に、無意識に、家族を愛するものだ。愛するはずなのだ。だが、サスケが家族を愛しているようには見えなかった。家族に興味があるようにも見えなかった。まるで本物の家族だと思ってないかのように。

  

 ただ、それは俺の勘違いだったようだが。

 

 俺は自然と笑みを零し、気絶したサスケを見下ろす。両親の死を切っ掛けに万華鏡に開眼したのだ。それだけ深く両親を愛していたのだろう。…………計画にはなかったが、ここで眼の交換も行ってしまうか。本来は将来サスケが万華鏡を開眼することがあれば、俺を殺させて眼をやるつもりだったのだが。

 

 なら、俺の命の使い道は――――

 

=============================

 

 ――――うちは一族の生き残りは君だけに……」

 

 医者の説明を聞き流しつつ、俺は記憶の整理を終えた。これ、俺万華鏡写輪眼に開眼したな。ついでに俺の眼に宿った力も誰に言われるまでもなく理解できる。そこから分かることなのだが……、これ兄ちゃん万華鏡写輪眼交換したな!? 今の俺には原作知識があるからアレだけど、なかったら絶対混乱するぞ。サスケ以外全員殺しといて、俺の眼を奪うわけではなく交換て。原作的にサスケの命は任務より重かったと一緒で、雑な辻褄合わせより、俺の強化の方が重かったんだろう。あのブラコン的に考えて。

 

 ――だから、うちは一族の遺産は全て君に……」

「マジか!?」

「え、あ、はい」

 

 素晴らしい!

 これもう働かなくて良いのでは?

 アカデミー行かなくて良いのでは?

 忍者になる必要もないでのは?

 

 …………いや、それはイカンか。 

 俺大蛇丸に狙われるんだもんな。力はいるわ。イタチが眼を光らせてる内は木の葉の暗部、主にダンゾウに狙われる心配はないから万華鏡は好きに使っても構わないだろうが。ん? むしろ見せつけたほうが良いか。里の上層部はイタチが生きてる限り俺に手出しできないんだから、俺を守るしか無いんだ。大蛇丸や暁から。

 

 ……やっぱり働かなくてよくね?

 



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第1話 未来の火影

 同級生たちは俺が変わったと言っている。もちろん、それは前世の記憶を思い出したからではなく、うちは一族が俺を残して皆殺しにされ、その犯人が俺の兄だったからだと思われている。具体的には交友関係が大きく変わった。普段は遊びに誘われても断り、家でゴロゴロしていることが殆どで、交友関係そのものが無かった。本当に子供らくしない子供である。多分、記憶をなくしていたとはいえ、俺のボッチ精神が宿っていたせいだろう。原作からしてボッチだったとか言ってはいけない。

 

 それが、週1で皆との忍者ごっこに混ざるようになった。特に、名家の原作キャラ達には顔を繋いでおいて損はない。それに、週3で女の子を連れ込むようになった。と書くと何やら怪しい感じになるが、まだ8歳だ。健全に遊んでいる。……最後までしてなければ健全だ。 少なくとも8歳の女の子がするようなつまらないごっこ遊びには付き合っていない。少し大人なおままごとはしていたり。将来は遺産で女を複数囲ってうちは一族再興計画なんてものも考えてたり。それ以外の日は、ナルトと遊ぶようになった。

 ナルトは4代目火影の子供にして将来の火影だ。擦り寄っておくに限る。だから、今日もナルトの修行に付き合っていた。

 

「うおー! やったってばよー! サスケぇー!!」

「おお、ようやくか」

 

 ナルトは木に登って手を振っていた。俺が最初にナルトに教えたのは下忍で最初に覚えるチャクラの制御術。俺は写輪眼を先に開眼してしまったから修行場で制御術そのものをコピーしているのでこの修業はしていない。簡単に言えば、チャクラを足の裏に集め、木と足を吸着させることで90度垂直の壁、木の側面を手を使わず登る修行だ。原作でもやっていた修行だな。集めすぎると反発力を生むし、少なければ吸着力が足りなくなる。だから、繊細なチャクラコントロールが必要なのだ。チャクラを集めるのが一番難しい足の裏でできるなら他の事もできるだろうとかなんとか。

 

 ちなみにその間、俺は右目の永遠の万華鏡写輪眼に宿った術、炎遁・迦具土の練習だ。迦具土は消えない黒炎を近距離で発生させる事と、それを制御する事ができる。左目に宿った炎遁・天照は遠距離でもピントの合った視点から黒炎を発生させる単純かつ強力な術なので練習の必要性が薄いが、迦具土は違う。こっちはどちらかと言うと防御用、強化用だ。黒炎を纏えばある程度の防御になるし、適当な忍術に付与すれば威力の強化に使用できる。それぞれ黒炎の繊細な制御が必要になるので要練習だ。形態変化できるという点から印なしで他の忍術を黒炎で再現、なんてこともできるようになるかもしれない。

 

 ……そもそも基本当たれば終わりの消えない黒炎を何かの威力強化に使うぐらいなら天照一本でいいような気がするけどな。天照は一応チャクラ消費が大きいから使い分けになるといえばなるかのだが。写輪眼から、万華鏡へ、そして永遠の万華鏡へと段階が進むごとに俺自身のチャクラの質が驚くほど向上しているのでチャクラ消費量についてあまり考えなくて良くなったのもそれに拍車を掛ける。

 

 迦具土いらなくね? 

 

「んでんで、次は何を教えてくれるんだってばよ!?」

「待て。

 お前はこれで対価を払えるようにもなっただろ?

 そっちが先だ」

「あー……確かオレのチャクラがどうのって」

 

 そう。正確にはアシュラの転生体たるナルトが持つアシュラのチャクラが欲しいんだ。サスケが持つインドラのチャクラ、ナルトが持つアシュラのチャクラ。この両方と永遠の万華鏡写輪眼を持つことが輪廻眼を開眼する条件だから。原作では六道仙人から直接輪廻写輪眼を貰っていたが、できればあんな状況には陥りたくない。輪廻写輪眼のように輪廻眼と写輪眼の力を併せ持った眼は手に入らないだろうが、とりあえず輪廻眼は欲しい。開眼することで、更にチャクラの質も上がるだろうしな。

 

 ということで、ナルトがチャクラの制御術を手に入れるのを待っていたわけだ。待っていたと言うか、待っていられなかったので教え込んだが正しいが。火影の息子に近づけるし、ナルトは俺という友だちができるし、俺も輪廻眼が手に入る。これぞwin-winの関係というものだ。

  

「こんでいいのかってばよ?」

 

 ナルトが手にチャクラを集める。俺の肩に手を置き、そこから俺にチャクラが流れ込んで来る。…………そのチャクラに懐かしいような不思議な感覚を覚えた。恐らく、インドラがアシュラのチャクラに共鳴しているのだろう。気の所為かも知らんが。

 

 ちなみにナルトには術を教える対価にチャクラを定期的に渡せと言っている。……なんだかカツアゲしているような字面だ。

 

「ああ、それでいい」

 

 チャクラが体に馴染んで行くと同時に、自身のチャクラに変化を感じる。新たな力が芽生え始めている証拠だ。うちはマダラはインドラとアシュラのチャクラについて知らなかったから、柱間の細胞を直接取り込んで、結果的にアシュラのチャクラを手に入れ、長い年月を経て輪廻眼を開眼した。俺の場合は直接取り込み、意識的に全身に巡らせているのもあってか、明日にも輪廻眼が開眼するような気がする。

 

「んじゃ、おれのしゅ……ぎょ?」

 

 パタン、とナルトが倒れ込んだ。そりゃ日が暮れるまで木登り修行をして、残ったチャクラを全部俺に流し込めばそうなるわな。初めてチャクラを受け渡したナルトが、加減できるわけもなかった。

 

【影分身の術】

 

 分身がナルトを担ぎ、ナルトが一人暮らししている一室に運んで行く。まだ8歳だと言うのにナルトも俺も一人暮らしだ。8歳といえばどう考えてもありえない年齢に思えるが、6歳で部隊長クラスたる中忍を任される人もいる世界だ。8歳で一人暮らしできる世界なんだろ。多分。ナルトは火影にカップラーメンの作り方を教わってラーメンばかり食べているようだが。元の世界なら完全に虐待である。

 俺? 俺は莫大な資産を継いだからな。家政婦を雇った。そもそもこんなバカでかい屋敷をオレ一人で維持できるわけがない。母親はどうやって維持していたのだろう。掃除に忍術でも使ってたのか。

 というか、ナルトにも四代目火影の遺産があるんじゃないのか?

 原作では小遣いを貯めていた描写があったことから裕福だったとは思えない。謎だ。

 

=======================

 

「サスケぇー!」

「声がうるさい」

 

 今日のナルトはやたらとテンションが高い。うちは一族所有の森林、もとい修行場で待ち合わせるのだが、いつにもましてテンションが高い。

 

「昨日はやることがなかったんだってばよー!」

「あー」

 

 ナルトとの修行は一日置き。一昨日木登りの修行を終えて、次の修行内容を伝えずに家に送り返したから、昨日は暇だったらしい。この頃のナルトは化け狐がどうのと皆に避けられてる時期だからな。

 

「んでんで、今日は何をやるんだってばよー!?」

「……その前に、今日はお前の中のヤツを調べる」

「ヒッ!

 サスケってばそんな趣味が!?」

「ねーよ!

 どこでそんな事知ったんだお前は……」

「一楽のねーちゃんが男同士の」

「もういい、わかった」

 

 一楽の看板娘アヤメ、腐っていたのか……。8歳児に何話してんだよ。いや、この頃だとアヤメ本人もまだ成人してないんじゃ? 深く考えるのはやめよう……。

 

「そんで、どうするんだってばよ?」

「少し待ってろ」

 

 俺は昨日、永遠の万華鏡写輪眼の先、輪廻眼を開眼した。更に向上したチャクラの質、この時点で俺が楽して強くなれる上限が恐らくここなのだろうと悟った。なら、九尾への干渉を試して見る価値はある。

 

【永遠の万華鏡写輪眼】

 

「うへ。

 なんだってばよ、その眼」

「黙れ」

 

 ナルトの戯言は無視して、ナルトの精神世界へと侵入する。

 …………カッコよくないか? この瞳。

 

==================

 

「貴様ぁ、まさかその眼はァ!」

「黙れ」

 

 着いた場所は九尾が入った檻の前。

 

 即座に幻術を発動する。

 

【幻術・写輪眼】

 

 これが眼を合わせた、ただそれだけで相手の動きを止める幻術。目を合わせただけで相手の動きを止められるという使い勝手の良さから、原作の最後の最後まで使われ続けた幻術だ。この幻術が掛かるかどうかは術者の力量によるところが大きい。例えば六道仙人から陰の力を手に入れたサスケは一瞥するだけで尾獣9体をこの幻覚に嵌めた。

 今の俺も輪廻眼を開眼してはいるものの、六道仙人から力を貰ったサスケには程遠い。

 

 それでも、九尾1体を嵌めるだけなら難しくもないようだ。

 

「グゥ、ゥ…………」

 

 九尾の眼に、写輪眼の文様が浮かび上がる。

 

「長くは持たん、か」

 

 チャクラの質がいくら良くてもチャクラ量が少ないのがまずいのか。それとも俺の幻術が下手なのか。恐らく5分ほどしか持たない。しかし、今はそれで十分だ。

 

【輪廻眼】

 

 眼を万華鏡から輪廻眼へと変更する。輪廻写輪眼ではないので一々眼を変える必要があるのは不便だな。

 

 俺は、九尾が入った檻の中に踏み込み、九尾の体に手を当てる。

 

【封術吸引】

 

「ゥ、ゥァ…………」

 

 輪廻眼の基本能力の一つ。触れた術、もしくは触れた相手からチャクラを吸引する術だ。吸い込んだチャクラは体内で霧散させることも、自身のそれに還元することもできる。そして今回したかったのは後者だ。還元されたチャクラは自身の上限を超えて保存できる。もちろん外道魔像でもないので保存しておけるチャクラには限度があるだろうが。

 ちなみに自身のチャクラに還元されるので、このチャクラを使って九尾の衣を作ることは出来ない。俺にはスサノオがあるのでそこは問題にならないが。スサノオは両眼に万華鏡写輪眼の能力が宿った時、本人そのものに宿る術。故に輪廻眼との併用も可能だしな。

ついでにいうと、ナルトが自身のチャクラを渡したように、ナルトが九尾のチャクラを誰かに渡すことは難しい。その場合九尾の衣を作れるだろうが、九尾のチャクラは基本的に毒だ。そのまま渡せばまず間違いなく死ぬ。うずまき一族のナルトだからこそチャクラの毒に耐えられるのだ。輪廻眼のように九尾のチャクラすら自身のそれに還元できるようなチャクラ吸収技能があれば話は別だが。

 

 3分程吸引し、九尾が干乾び初めたところで、声が響き渡った。

 

「あー!

 何だってばよ!

 そのガリガリでバカでかい……狐?」

「ナルトか」

 

 俺は手を離し、檻の外へ出る。

 

「サスケェー!

 ここどこだってばよ!?」

 

 精神世界に侵入されると本人も来るのは仕様か? もしくは俺の写輪眼が拙いからなのか。要検証だな。

 

「ここはお前の精神世界。そいつはお前の中に封印されてる化け狐だ」

「せーしん?

 ばけぎつね……って、それってば!」

 

 化け狐と呼ばれて排斥されて来たナルトだ。

 気づかないはずがない。

 コイツがその元凶だと。

 

「コイツ…………俺か!」

「」

 

 ???

 

「コレが、俺の本性ッ!」

「何を言っているんだお前は……」

 

 深刻そうな顔でホント何いってんだお前は。

 

「俺ってばこんなにガリガリになっちまって……」

「違う、そうじゃない」

 

 俺は説明した。懇切丁寧に説明した。コイツはナルトの中に封印されてる化物であって、お前の精神とかそういう何かではないと。そして、コイツが封じられているから、お前は避けれているのだと言うことも。

 全て説明してやった。

 

「お、お前――」

 

 これで、ナルトは九尾を嫌うだろう。九尾のチャクラを好き勝手するためにも、九尾を憎んでくれたほうが、俺にとって都合がい

 

「――8年間もココで、ひとりぼっちで」

 

 ……ん?

 

「辛かったなぁ。

 これから俺がいるから、もう大丈夫だってばよ!」

 

 んんん?

 

 ナルトが檻に入って、九尾の頭を撫でる。

 おい、九尾プルプル震えてるぞ。

 

「ガァァッ!」

「おわぁぁぁぁ!」

 

 おお、幻術が解けたな。五分経ったのか、九尾の気合か。

 立ち上がった九尾は体高20m程。その頭にナルトがくっついている。尾獣に実体はなく、チャクラの量で大きさが変わるのだが、ココまで小さいのは俺のせいかな? それともナルトの精神世界だからこの大きさなのか。

 

「貴様ァ、勘違いするなよォ!

 ワシがその気になれば貴様なんぞ喰い殺して」

「そんな威嚇しなくても大丈夫だってばよ。ひとりぼっちで、仲間はずれにされる辛さは、俺にも分かるってばよ」

「ッ!

 よほど死にたいようだなァ!」

 

 九尾は頭にくっついているナルトを掴み取り、地に押さえつける。

 さて、九尾はナルトをどうするつもりなのか。もし本当にナルトを食い殺せば、封印されている九尾も死ぬ。一応尾獣は殺しても何年かで復活するから、本当にその気になればできないわけではない。それでも、8歳の子供を殺して自分も死ぬなどという選択は選ばないだろう。万が一のため、眼を輪廻眼から万華鏡に変更しておくが。

 

 ただ、あれだな。

 勘違いするなよォってセリフも合わせてこの惨状を見ると、九尾がツンデレに見えてくる。ナルトを殺して自分も死ぬ当たりはヤンデレっぽい。

 

「重いってばよ!」

 

 確かにその気持ちは重い。

 

「フンッ。

 このワシにふざけた真似をした報いだ。

 あの世で後悔するんだな」

 

 そう言って九尾はゆっくりと体重を掛けていく。

 

「アァァ!」

 

 ゆっくり、ゆっくり…………九尾これ殺す気ないだろ。当たり前っちゃ当たり前だが。それよりどう収拾つける気なんだろうか。痛みに目を瞑り、苦しんでいるナルトを尻目に、九尾は俺のことをチラッチラッと見てくる。

 

 …………コレはあれか。俺が止めに入ると思ってやってるのか。

 

 九尾としてはナルトを殺せば自身が死ぬことは、できれば伏せておきたいのだろう。原作ではナルトが死にそうになったから仕方なく自分から教えているが。

 

 こんな茶番に付き合いたくないなぁとか、いざとなったら本当に殺すかもしれないから割って入るしか無いようなぁとか憂鬱になっていると、ナルトが叫びだす。 

 

「おい、化け狐ぇ!」

「あァ?」

「オレは将来火影になる男ッ!

 オレが火影になったらお前をここから出してやるってばよッ!」

 

 いや、人柱力が尾獣を外に出したら死ぬぞ。

 

「面白いッ!

 やってみるが良い。

 皆に嫌われる人柱力たるお前が、皆に認められる火影になれるというのならなァ!」

 

 いやいや、ナルトを殺せば外に出られるていで話してたんじゃないのか。交渉になってないだろ。実際にはナルトを殺せないのだから、九尾側視点では話に乗るが正しい……のか? ついでに着地点が示されて、九尾はホッとしている様子。

 

 ナルトが開放されて、檻の外に出てきた。

 

「そういえばさ、なんでサスケはココに来たんだってばよ?」

「この前お前からチャクラを貰った時、倒れたろ?」

「あー、そういえば起きたら俺の部屋の廊下に転がってたってばよ」

「俺はチャクラが欲しい。だが、ナルトも修行のためにチャクラが必要だ」

「ふむふむ」

「だから、お前じゃなく、お前の中にいる九尾からチャクラを奪えないかと試しに来たんだ」

「おー!

 それはいい考えだってばよ!」

「オイッ!

 ナルト、お前……」

「いやいや、九尾だってばさ、俺が火影にならなきゃ外に出られないんだってばよ。だから、ココは協力してくんね?」

「ありえん!

 うちはの人間に協力するなぞッ!

 大体ワシは人間が」

「今日の分は勝手に奪った。

 これからも、ナルトの許可さえあれば俺が九尾から強制徴収すればいい」

「そんなことできるんだってばよ!?」

 

 九尾がすごい形相で睨んでいるが、知ったことではない。

 

「あぁ、俺には強制的にチャクラを吸収するこの眼がある」

 

【輪廻眼】

 

「うわっ!

 まーた気持ち悪い眼が増えたってばよ」

「…………」

 

 確かにこっちは特にカッコよくは無いな。

 

「あー!」 

「ん?」

「九尾ってばさ、俺にも」

「うちはの小僧にワシを売り渡した貴様にやるチャクラはないわァ!」

「ガックシ」

 

 落ち込むナルトに、しかし九尾は言葉を続けた。

 

「……本当に必要だと言うならば、考えてやらんこともないがな」

「おっしゃー!」

 

 …………九尾、マジチョロイン。



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第2話 サスケの正妻

「そろそろ時間か」

 

 あれから俺は九尾のチャクラを徴収することで、無数の影分身を維持することが可能となった。つまり、本体はアカデミーに行かず、ナルトと修行もせず、家でゴロゴロしていることが可能となったのだッ!

 

 但し、女の子を家に呼ぶときだけ、本体が対応してる。

 

 多重影分身の術は写輪眼で適当な上忍の記憶を読み取って見つけたものだ。具体的には【幻術・写輪眼】で動きを止め、写輪眼で記憶を読み取り、写輪眼で俺と出会った記憶を消去している。もちろんここまでできるのはある程度以上の力量差があってこそだが、そこは問題になるまい。影分身修行のお陰で九尾に幻術を掛けたときとは桁違いの練度を手に入れたし、九尾から手に入れた大量のチャクラを惜しみなく使うことでチャクラ量の問題も解決した。全てを兼ね備えた完璧な幻術に抗えるものなぞ、そうはおらんだろう。

 

「サスケくーん!」

 

 来たか。最近は毎日女の子を家に呼んでいる。他の対応を影分身がやってくれるからな。修行も無数の影分身が行ったほうが効率がいいので本体がいる必要はないし。

 

「来たか、サクラ」

「うん!

 今日は何するの?」

 

 この頃のサクラは内気でイノ以外に友達はいないはずなんだが、何度か会ううちにこの元気な姿へと変わっていった。一応サクラは他の女の子たちとは違い、いかがわしい遊びだけでなく、真面目に修行もしている。

 

「幻術の続きと、修行してきた医療忍術の進み具合を見る」

「じゃあまずは幻術からね!」

 

 サクラは俺の腕をとって、部屋につくなり俺を布団に押し倒した。体を密着させ、サクラは俺の眼をじっと見つめる。体をくっつけるのは、物理的に近いほうが幻術を掛けやすいからという言い訳だ。

 

 そして…………そのままサクラが俺の口を塞いだ。本物と違わない、柔らかい感触。

 

「サスケくん!」

「っ!」

 

 そのまま口をこじ開けられ、俺はサクラの幻術に落ちていった。

 

【魔幻・奈落見の術・改】

 

 奈落見の術は相手が最も見せたくない映像を見せる、木の葉で下忍が覚える幻術の一つ。改と付くのはサクラが改造したからだ。最も見せたくない映像ではなく、最も見たい映像を見せるように。正直、改は相手の精神を攻撃するという意味では殆ど意味がない。むしろ喜ばしいものだし。だが、視界を弄り、無防備な状態を作り出すという意味ではコレ以上なく有効だと思っている。……ナルトが将来開発するお色気の術に似た何かだ。ついでに、ただの奈落見に比べてこの術はとても相手に掛けやすい。相手が見たくないものを強制的に見せるより、相手が見たいものを見せるほうが掛かりやすいのは当然だろう。

 

 俺は一通り楽しんだところで、本題に戻ることにした。

 

【魔幻・鏡天地転】

 

 写輪眼を用いた幻術返しだ。うまく行けば俺が掛かった幻術をそのまま相手に返すことができる。この術の特徴は印を組む必要がないということ。印を組んで幻術を解く、幻術返しはアカデミーで習うが、上位の幻術は大抵印を組ませてはくれない。幻術の技量に差があれば、印を組んで尚幻術が解けないこともあるが。

 

「あっ、あっ、サスケ……くん!

 だめぇ!」

 

 サクラは返された幻術を楽しんでいた。

 

「俺も楽しむか」

 

 俺もよがるサクラの体を堪能した。

 

===========================

 

「…………」

 

 結局印を組む幻術返しをサクラが成功させた後、現実の方で最後までしたらサクラは寝てしまった。俺は影分身に後片付けを任せつつ、サクラが起きるのを待っている所だ。

 

「そろそろ漫画も切れるか」

 

 新しい小説や漫画を買い出しにいかないとな、影分身が。

 

「ん」

「お、起きたか」

「あ!

 …………服、着せてくれたんだ」

「時間もないしな。

 適当な予備を着せておいた」

「ん?

 ねー、サスケくん、これ女ものだよね?」

「……サクラ、俺は将来うちは一族を再興したいと思っている」

 

 分かるだろ? っとできるだけ格好付けて言ってみるが、サクラのジトッとした視線に変わりはなかった。

 

「……別に、サスケくんの女好きが治るわけないってわかってるから別にいいけど」

「ありがとう」

「私が正妻だからね?」

「ああ」

 

 聞き分けが良くて何よりだ。

 

「……下着まで変わってるけど」

「全部新品だぞ」

 

 この屋敷は広いからな。サクラ用、ミキ用、サエコ用などなど全員分の女性服から下着まで予備を用意させた。買い物には变化した影分身を使用。女性用の下着を選ぶ羞恥心まで経験値として取り込みたくはなかったがな!

 

「そ、そこまでするんだ」

「さて、これから医療忍術の修行だぞ。ついて来い」

「……うん!」

 

 一応プレゼントだというのに、若干引かれた気がするのは気のせいだろうか?

 

=========================

 

 サクラが傷がついた魚に、手を当てる。

 

【掌仙術】

 

 傷ついた部位に手を当てて治癒する掌仙術は医療忍術の基本にして究極。欠損でもない限り、コレ一つであらゆる傷を治すことができる。だからこそ、使用者によってその回復力には大きな開きが出る。ここで求められるのはチャクラ量ではなく、超精密なチャクラコントロール。むしろ流すチャクラが多すぎれば傷は治らず、対象が気絶してしまう。

 

 俺がこの術を習得できたのは多重影分身によるゴリ押しだ。原作のサスケも自身の傷の修復には別の医療タイプの忍にやらせていたし。掌仙術の知識は例によってその辺の上忍の記憶を漁った。

 

「大分よくなったな」

「でしょ!?」

 

 影分身によるゴリ押しで俺が習得し、チャクラの流れを見る写輪眼でサクラの掌仙術がどうすれば良くなるかアドバイスをする。この繰り返しでサクラに高レベルの掌仙術を習得させて来た。

 

「次は動物を使うか。次までに用意しておく」

「はーい!」

 

 しかし、そろそろ限界だな。

 サクラの飲み込みが良すぎる。このままじゃぁ、あと一ヶ月もすれば俺の掌仙術とそう変わらないところまで到達するだろう。1000体の影分身を使用し、一日14時間、それを10日続けた俺の掌仙術に、だ。実に15年分の修行量である。元々俺に医療忍術の適正はない。輪廻眼を開眼したことで属性的な問題は起こらないが、チャクラコントロールがサクラ程得意ではない俺にとって、緻密なチャクラコントロールを要求される幻術や医療忍術は苦手な部類。九尾に幻術を掛ける際も写輪眼の瞳力とチャクラの質でゴリ押せたものの、5分しかもたなかったしな。

 もっとも、今なら影分身修行で幻術・写輪眼と魔幻・鏡天地転の練度だけは飛び抜けて高い。九尾だろうが誰だろうが好きなだけ縛り切ることができるだろう。

 

 さて、掌仙術の習得が終われば次の術なのだが、これ以上の治癒術となれば、部位欠損を補える治活再生の術くらい。しかし、これは一人で使えるようなものじゃない。一人で使える治療術として、解毒系の術が上げられるが、それはあの上忍の知識にはなかった。恐らくほかの忍を当たってもそれは変わらんだろう。原作の描写からして、解毒系の技術、忍術をまともに扱えるのは綱手とその弟子、シズネくらいのもの。できればサクラに戦闘用の術、桜花衝も覚えてもらいたい。チャクラの少ないサクラには、まともな忍術を教えても戦闘では効果が薄いからな。サクラには原作の術を教えるのが一番大成する方法だろう。多分。

 

 だとしたら、綱手を探すしか無い、か。

 

==========================

 

 それから3週間後、ようやく影分身から情報が入った。綱手が見つかったと。影分身が外に出てから見つけるまでは意外に早かった。時間がかかったのは外に出る方法だ。木ノ葉の里は感知系の結界術が張られており、出入りを常に監視されている。感知されずに出入りする方法を確立するのに2週間も掛かってしまった。

 

 ここから影分身の元へ本体が向かうのは簡単だ。木ノ葉を出る方法を探ってる最中に手に入れた、劣化飛雷神の術を使えばいい。本来の飛雷神の術は、術式でマーキングした場所に空間転移する術だ。そこにタイムラグはなく、距離すら無制限。しかも触れた場所に一瞬で使い捨ての術式を刻むこともできる。故に誰も捉えることはできず、一方的な虐殺が可能となる、四代目火影が得意とした術だ。しかし、俺が見つけた記憶は3人がかりで飛雷神を発動させる劣化バージョン。どうやら俺が見つけたやつは飛雷神の術をまともに習得することはできなかったらしい。そいつの記憶によると飛雷神の術を習得できたのは開発者である二代目火影と四代目火影だけだとか。どちらも既に死んでいるので俺がこの眼でみることはないだろうな。

 

【影分身の術】

 

 2人の影分身を作成すれば、この劣化飛雷神の術を1人で起動することができる。ただ、この劣化バージョンはやたらとチャクラを消費する。九尾のチャクラを手に入れたやつでもなければ影分身を使って1人で起動、などという反則的なことはできないだろう。ついでにチャクラ消費量が大きい理由は想像がつく。忍術は全て、チャクラコントロールが拙ければ拙い程チャクラの消費量が増大する。この劣化飛雷神の術は飛雷神の術を学びきれなかった末に出来た代物。チャクラコントロールが正確でない飛雷神の術、それが劣化飛雷神の術ということなのだろう。多分。

 

【劣化・飛雷神の術】

 

 着いた場所は宿屋の一室。影分身を解いた瞬間、それまで体験した知識や経験がそのまま本体に還元される。影分身はこの部屋に飛雷神用のマーキング術式を施し、影分身を解いていた。故に、俺はこの歓楽街のどこに綱手がいたか、止まっている宿はどこか、まで全て頭に入っている。

 

 さて、これからどうするか。とりあえず、使い捨てではないマーキング術式を組み込んだクナイをこの部屋に隠す。これでこの部屋と俺の屋敷を行き来できる。

 今回の最低限の目的は桜花衝と治癒術の知識。写輪眼で記憶を覗き、出会った記憶を消去するいつものパターンでいいか?

 一応相手が火影クラス。ついでにシズネという上忍のお付きがいる。写輪眼相手への基本的対策は一対一なら必ず逃げろ、なんて言われるくらいに写輪眼の幻術は一対一に強い。しかし、いくら動きを止めても他の忍にチャクラを流し込まれれば解除できてしまう。ここですぐに思いつく方法は二つ。不意打ちで同時に幻術を掛けるか、1人になったところを狙うか、だ。

 

 幻術は精密なチャクラコントロールを要する術。幻術に対する耐性も当然チャクラコントロールが良ければいいほど高くなる。そして、それ以上に精密なチャクラコントロールを要求されるのが医療忍術だ。シズネはともかく、綱手のチャクラコントロール技術は俺を遥かに上回るだろう。15年分の修行時間が注ぎ込まれた幻術・写輪眼が全く通らないとは思えないが、額に寸分違わず一定量のチャクラをため続けるなんて24時間毎日が修行みたいなことをしているババアたる綱手には修行時間も適正も劣っていると考えるべきだ。2人同時に幻術が通るかどうかと考えると少し怪しい。

 

 影分身の都合上、10日で15年分なのだから100日、150年分くらい修行すれば修行時間のゴリ押しが効くだろうが、他にもやらせたい修行が多いのだ。体術、迦具土、スサノオ、性質変化火遁、水遁、雷遁、風遁、土遁、隠れ蓑の術、幻術、八門遁甲、劣化飛雷神、輪廻眼6種。ついでにそれらを完全体スサノオに使わせる修行。必ずしも一つ15年分やっているわけではない。サスケの忍術に関する才能は高く、適正のある性質変化なら、千鳥のような上忍クラスの忍術を性質変化の修行から初めて2週間で習得するほど。輪廻眼で全ての適正を手に入れた今、どれだけ修行時間を短縮できるか分かるというものだ。写輪眼でコピーした忍術も結構あるのだが、記憶の中でしか見てない術も多い。便利な術を見ると習得したくなるのだ。仕方ないよな。

 

 なら素直に事情を話して教えを請うか? 彼女の前でいい顔したいから桜花衝と医療忍術を教えろと? もしくは伝説の三忍に8歳の子供へ修行をつけて欲しいと? …………ないな。脚色すればいけるか? イタチへの復讐のためとか……余計にないな。復讐のために医療忍術とか頭湧いてるだろ。

 …………そもそも、8歳の子供に危ない術を教える正当な理由なんぞないよな。

 

 行くか。

 

===================

 

「綱手様」

「あぁ」

 

 最近妙な視線を感じていた。殺気はないが明らかに見張られている。この私に場所までは探らせない当たり、借金取りではありえない。三代目直轄の暗部かとも思ったが、それなら接触してこない理由がないだろう。恐らくは敵対勢力。大蛇丸の手の者か、ダンゾウか。殺気を漏らすことのない他里の優秀な暗殺者、という可能性もある。なにせ伝説の三忍の1人、大蛇丸は敵に回り、4代目火影が命を落とし、うちは一族も滅んだ。木ノ葉の力はかつて無いほどに落ち込んでいる。いや、うちは一族は1人生き残ってたか。ともかく、ここで私を含め、残った伝説の三忍の内、私と自来也を暗殺できれば大蛇丸と組んで他里が木ノ葉の里を落とせてもおかしくはない。あの老いた三代目に大蛇丸が殺せるとも思えん。

 

「舐められたもんだな」

 

 私はシズネと人気のない所へ移動する。相手の気配が昨日までと違う。恐らく今日仕掛けてくる気だ。気配は一つ。1人でこの私を殺せると思っているらしい。

 

「おいッ!

 居るのは分かってる、出てこいッ!」

 

 この通りのすぐ外が森で、私が好きに暴れられる広さがある。待ち構えられて出てくるほど相手も馬鹿じゃないかもしれんが、これで出て来ないなら感知系の忍を連れてきて無理やり引っ張りだすしかない。

 

「コレでバレるのか」

 

 そう言って出てきたのは、ガキだった。

 まだ10にも満たないような小さなガキだ。とても私に居場所を探られないだけの隠形ができるようには見えなかった。

 しかし、

 

「綱手様、あの眼は!」

 

 写輪眼があるなら話は別だ。上忍の隠形をコピーしてしまえばガキでも一流の真似事ができる。

 

「うちは一族は滅んだって聞いてたけどねぇ」

「あの顔、間違いありません。

 うちはサスケです!」

 

 あのうちはイタチの弟か。8歳で写輪眼を開眼し、10歳で中忍に、そして恐らくは11歳で万華鏡を開眼していたと思われる怪物。その弟の方に良い噂は聞かない。

 

「んで、そのガキが何をしに来た?」

「桜花衝と医療忍術を欲している」

「帰んな。

 それはガキに扱えるようなものじゃない」

 

 そもそもどうやってココまで来た? 木ノ葉唯一の写輪眼継承者になったサスケを、見張りもなく里の外に出すなど。まさか抜け出してきたのか?

 

「木ノ葉の里で使されている医療忍術なら既に網羅した」

 

 そういって、サスケは印を組む。

 

【掌仙術】

 

「医療忍術の基礎とはいえ、綱手様」

「アカデミーのガキにしちゃあ、よくやる」

 

 医療忍術は幻術以上に緻密なチャクラコントロールが必要になる。実際に治させてみないことには断定できんが、少なくとも掌仙術そのものの熟練度は相当に高いな。写輪眼によるコピーにしても、術者本人の力量が伴わなければ真似事止まりだ。それをアイツ、相当使い慣れてやがる。

 大したガキだ。

 

「これで理解したな?」

「…………私はこれでも伝説の三忍に数えられたこともある。アカデミーのガキに教えてやる暇なんかないね」

「はっ、ここ数日影分身に見張らせていたが、金を借りてはギャンブルで溶かす毎日。三忍の名が泣くぜ?」

「ガキにはわからないだろうが、大人には息抜きってのが必要なのさ」

「…………そうか。

 教える気がないってんなら――」

「なら?」

 

「――――力づくでも引き出してやる」

 

「ッ!」

 

 あれは、万華鏡写輪眼ッ!?

 

【幻術・写輪眼】

 

 私の周囲に真っ黒な影が纏わりつく。幻術……しかもこの感覚、記憶を引き出そうってのか。そういう幻術が使える奴はうちは一族以外にも木ノ葉の里で抱えてるが、なんの補助もなしで引き抜けるのはうちは一族だけだろうな。

 

 だが、

 

「木ノ葉の三忍を、舐めるなよガキがッ!」

 

【解】

 

 サスケが眼を見開く。恐らく破られたことがなかったのだろう。確かに印を組めないよう全身の動きを止めるこれはそうそう解けるものではない。その特性は上忍が使う決め手級の幻術に近しい。練度も、チャクラ量も、チャクラコントロール技術もガキとは思えないほどの領域にある。最低でも上忍レベル。極めつけはその瞳力だ。万華鏡まで開眼したものは数多く居るが、永遠の万華鏡まで行ったものを私はうちはマダラ以外にしらない。

 総評すれば、この幻術は上忍レベルまでならまず解けない。幻術タイプの上忍でも、一対一なら解くまでに首が跳ねられる程度には時間がかかるだろう。

 

 しかし、私にまで通じると思われるのは心外だな。

  

 伝説の三忍の中でもチャクラコントロールに特化した私は幻術に対する耐性が非常に高い。火影クラスの、しかも特別幻術耐性が高い相手を縛りきれるはずがなかろうが。

 

【瞬身の術】

 

 サスケが焦ったのが目に見えた。写輪眼の観察力は僅かな肉体の変化から相手の動きを先読みすることができる。だが、一瞬でチャクラを集中し、その反発力で移動する瞬身の術をノーモーションで繰り出せば動きは読まれにくい。少なくとも写輪眼による半オートの先読みは機能しない。二度目は通じないだろうが、それで十分。

 目の前に現れた私に、サスケはようやく術を繰り出す。

 

【スサノオ】

 

「遅い」

 

【桜花衝】

 

 生成速度が遅いわけではない。今更間に合わないというだけの話。

 

 骨が生まれ、その回りを肉付けされていくチャクラの塊を全力でぶん殴り、完膚なきまでに破壊してサスケそのものもぶっ飛んでいく。

 

【瞬身の術】

 

 瞬身で追従すると、ついには驚きの余り口を空け、仰向けに転がりながら呆然と隙を晒していた。戦闘中に致命的だな。

 

「これで最後だ」

 

 私は片足を振り上げ、かかと落としの要領でトドメの一撃を振り下ろし――

 

【輪廻眼】

【神羅天征】

 

「――なっ!」

 

 盛大に吹っ飛んだ。

 

「綱手様ーッ!」

  

 チィ、そんな情けない声出すんじゃないよ。

 

 それにしても、私が吹っ飛ばされる瞬間に見たあの瞳。

 あれは明らかに輪廻眼だ。そして、印すら組まずに発動したあの術。恐らくはアレが輪廻眼の瞳術なのだろう。信じられんが、サスケの瞳術はマダラすら超え、忍術の開祖、六道のレベルにまで達しているらしい。

 

 おまけに、

 

「そこまで行くか」

 

 完全体スサノオまで生成しやがった。

 

「ここまで使わされるとは思わなかった」

 

 スサノオはチャクラで巨人を生成し、鎧とすると同時に攻撃手段にもする術だ。第一段階で上半身の骨だけ、第二段解で肉が付き、第三段階で下半身まで生成される。ここまで生成できたのはマダラだけだ。私も直接眼にしたのはコレが初めてだがな。ただ、翼が生えて空を飛ぶとは聞いたことがなかった。ついでにマダラの第三段階、つまり完全体スサノオは数百メートルの巨体だったと聞くが、サスケのは50mほどと小さい。それでも尾獣ほどには大きいが。

 どうやら完全体スサノオの力は個性がでるようだね。

 

「空を飛ばれちゃあ、手の出しようがないねぇ」

 

 そう言うと、サスケはスサノオに持たせていた刀二本を消し、黒い弓矢を携えた。

 

「この術は加減が難しい。

 降参してくれないか?」 

 

 マダラの一撃は山を裂き、地図を塗り替えるほどの威力だったという。アレも似たような次元の術だろう。

 

「…………はぁ。

 お前をただのガキ呼ばわりするのはやめてやる」

「つまり?」

「私が負けるとは思えんが、桜花衝と医療忍術は伝授してやろう」

「恩に着る」

 

 スサノオは莫大なチャクラを消費する。恐らく輪廻眼も同様。創造再生まで使えば私が戦闘中に死ぬことはない。持久戦で上回れるとは思うが、寿命を縮めてまでやることじゃあないねぇ。

 

 まったく、とんでもないアカデミー生がいたもんだ。



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第3話 鈴取り

 アカデミーに入学して、ようやく5年。今日で卒業だ。本当に長かった。なにせアカデミーに通っているのは影分身。本体である俺はひたすら遊び続けているのだが、この世界は未だコンピューターネットワークも存在しない。漫画も面白いものは思ったより多くなく、すぐに読み尽くした。里内の女性との遊びにも飽きて、火の国全域に手を伸ばしたが、常にしたいわけではない。コレ以外に娯楽がないのは問題だ。

 

 つまり、俺はどうしても暇なのである。

 

 今思えば綱手との戦いは楽しかった。スサノオ第二形態を拳一発で破壊し、肉体の観察では捉えられない瞬身の術で距離を詰められ、輪廻眼と完全体スサノオまで使わされたあの戦い。当時は不意打ち出来なかった所から想定外の事ばかりで、心臓の音がうるさいくらいテンパりっぱなしだった。

 しかし、言動までサスケに成りきって交渉を成功させたときは我ながら圧巻だったなぁ。伝説の三忍が1人を、経験で遥かに劣る俺が輪廻眼とスサノオの圧倒的な力で押し切ったんだ。殺すわけにはいかなかったから、最後まではやらなかったが、相手が木ノ葉の忍でさえなければ――――

 

「サスケ!」

「――ん?」

「来たってばよ!」

 

 おっと、ようやくか。

 カカシが遅いのは分かってたからな。机に突っ伏して回想に励んでいた。

 ちなみに三人一組で選ばれる下忍のメンバーは、ナルト、サクラ、俺で原作と変わらない。アカデミーの成績が元と違うので他のアカデミー生がバランスがおかしいと騒がしかったが、イルカ先生は火影が決めたことだと一蹴していた。俺の場合、写輪眼の使い方を教えられるのは写輪眼のカカシくらいという理由なのだから、成績に関係なくカカシが担当上忍になるのだろう。ナルトについては色々考えられるな。サクラが謎だが。ただ、イノ、シカマル、チョウジの猪鹿蝶コンビなど、明らかに成績の平均化とは関係ない組み合わせも居るし、案外普段仲が良く、チームワークが発揮されそうな組み合わせで選ばれてる説もあるな。シノ、キバ、ヒナタの秘伝チームも大概だし。

 

「悪かったって」 

「ぜってぇ許さねぇってばよ!」

 

 カカシが全く悪びれない笑顔で謝るもんだから、ナルトがさらにヒートアップしていく。原作のようにいたずらを仕掛けなかっただけに遅れてきたカカシの酷さが際立つな。ナルトもここには影分身でこればいいのに。そうすれば俺のように苛立たずに済む。

 

 ちなみにナルトも九尾からチャクラをもらって影分身修行してるもんだから、今も恐ろしい速度で成長中だ。だからなのか、修行が楽しくて仕方ないらしい。俺のように本体がサボって、なんてこともなく、本体はアカデミーにしっかり通い、影分身に修行させ、その後は本体と合流し、修行に励んでる。…………ただ、そうなって尚影分身の一体を悪戯に使うのはなぜなのだろう。アレか。本能か何かか。それとも歴史の修正力が――

 

「サスケくんー、外行くってさー」

「今行く」

 

 ――なんてな。

 

 ナルトが優秀になったせいか、ミズキの事件もなくなったし、サクラもアカデミーに入ってすぐ俺と出会ってるから、イノと親しい関係ではなくなった。孤独で成績が良くないナルトに共感していたイルカは、両親が殺されているという共通点が残ってはいるものの、孤独でもなければ成績もいいナルトには親しみを感じていない様子。ナルトもナルトでイルカをいい先生以上には見てないようだ。どころか、戦えばもう自分のほうが強いんじゃないかとまで思ってる。九尾の力を使えば間違いじゃあないだろう。だが、あまり調子に乗らないほうがいいぞ、ナルト。綱手に追い詰められた俺が言えたことじゃないけれど、覚えてる術の数とか質とか、そんな差は意外に覆るもんだ。スサノオ第二形態を破られた俺が言うんだから、間違いない。

 

=========================

 

 それから、適当に自己紹介して、実は明日が本当の下忍卒業試験なんだーなんてやり取りがあった、らしい。らしいというのは俺が本体で、経験したのは今解除された影分身の方だからだ。それにしても、明日はさすがに本体で出るしか無いな。久々に本体出動で憂鬱……なんてことはない。あのカカシと戦えるのだ。喜ばないわけが無いだろう。綱手と戦った時同様、最高の娯楽になるはずだ。

 

 もちろん、試験という名目だし、結局殺しが禁止であるのは残念でならないが、今まで覚えた術(おもちゃ)を存分に振り回せるのだから心が踊らないはずがない。

 

 だろ?

 

 ――――ナルト、サクラ!

 

==============================

 

「あ゛っー!

 本当にいたってばよー!!」

「ん?

 ああ、お前らか」

 

 翌日。

 カカシが決められた時刻になっても現れない時点で俺はナルトを連れて、オビトの名が刻まれた慰霊碑に向かった。サクラは留守番だ。万が一、億が一すれ違いになると大変だから。……できればナルトを留守番させておきたかったが、どんなバカを仕出かすか分からんからな。

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

「さて」

 

 カカシが12時にタイマーをセットした。原作と違い、今は7時ちょい。時間はたっぷりある。

 

「ここに鈴が2つある」

 

 この鈴を1人1つ取れば合格。取れなかったものはアカデミー行きだとカカシは言う。

 

「手裏剣も使っていいぞ。

 俺を殺すつもりでこないと、取れないからな」

 

 その言葉を、ナルトが笑って指摘する。

 

「へへ、俺ってばすげー術覚えちまったからな!

 カカシ先生本当に殺しちまうってばよ!」

「いるんだよなぁ。

 強い術さえ覚えれば強くなれると思ってる奴」

「なっ!」

「ま、バカは置いといて、俺の合図で始めるぞ」

 

 ナルトが歯ぎしりしてカカシを睨みつける。

 

「じゃー、よーい」

 

【瞬身の術】

 

「うらぁァァ……へぶっ!」

 

 哀れ、瞬身による高速移動で殴りかかったナルトは、カウンターの蹴りで宙を舞った。瞬身、つまり肉体活性による正面突撃が成立しない主な理由はカウンターを見きれないから、だ。写輪眼を持つならまた話は別なのだが。

 

「まーだ合図はだしてな――」

 

【風遁・真空波】

 

「ッ!」

 

【土遁・土流壁】

 

「はやいっ!」

 

 サクラが驚嘆の声を上げる。ナルトはカウンターを受けて宙を舞ったと同時に真空波の印を結び、その印を見たカカシは土流壁で応じたのだ。ナルトの印の速さもさることながら、それを見てから追いつくカカシはそれ以上に速い。修行時間を影分身で水増ししたナルトはともかく、カカシは本当に天才なんだろう。僅かに13歳で上忍になっただけはある。

 ただ、写輪眼を使って本気になったカカシなら、あそこは土流壁ではなく豪火球で応じていたはず。カカシは写輪眼による術のコピーで擬似的に五大性質変化中風以外の4つを扱える。そして風遁は火遁に弱い。だが、写輪眼を使っていないカカシにはナルトの印を見切る事ができなかったのだろう。だから汎用性のある防御術、土流壁を選んだ。……まぁ、ナルトを殺さないよう配慮したという可能性もあるか。

 

「チィ、速えぇってばよ!」

 

 ナルトが自分で放った真空波の反動で転がりながら着地し、即座に影分身の印を結びながら悪態をついた瞬間、

 

「――いでしょ?」

「あっ!?」

 

 カカシがナルトの背後からクナイを当てていた。

 恐らく、土流壁で視界を塞いだ瞬間から土遁・土竜隠れの術で土の中を移動。ナルトが真空波の反動で転がってる間に地中から背後に回り込んだ、といったところだろうな。

 

「ま、俺のことを殺るつもりになったようでなによりだ」

「くっそぉ!」

「んじゃ、今度こそ。

 よーい、スタート!」

 

 ポフン! という音と煙と共にカカシが消える。どうやら土流壁で隠れた際、土竜隠れだけでなく、先に影分身まで使っていたようだ。

 

 土流壁が崩れるが、その先にカカシはいない。

 土竜隠れで移動したか、あるいは…………

 

===================

 

 ふー。

 影分身を消した俺は、しっかりナルトにクナイを突きつけて開始の合図を言えた事を確認した。まさか、ナルトがあそこまで強いとはなぁ。先生(四代目火影)の息子にして、うずまき一族の末裔。うずまき一族の特徴として多量のチャクラ、主に膨大な身体エネルギーを持っている上に、術のキレが半端じゃない。印を結ぶ速度は13歳とは思えないし、下忍どころか並の上忍クラスだ。チャクラ量に限れば俺以上。

 

 事前に情報を貰っているとはいえ、実際に見るのとじゃやっぱり違うな。先生の子を教え子として持てるのは感慨深い。ナルトを見ていると、13歳の時の俺、つまり上忍に昇格した頃を思い出す。強い忍術、巧みな体術、優れた成績、そして実績。それらを認められて上忍になったはいいが、大失敗を犯して友を失ったあの頃を。

 強い術が使えれば強いわけじゃない。ナルトを先生のような立派な忍にすることが、俺の責務、かな。

 

「サクラ、下だ」

「しゃーんなろー!」

 

 うん?

 

【桜花衝】

 

 土の中にいた俺に、轟音と、光が届いた。

 

「地面を真っ二つに割る土遁・土流割の術……じゃないな」

 

 信じがたい。拳で地面を割る、あの馬鹿げた怪力はまるで綱手様の桜花衝だ。 渡された情報では、綱手様の弟子なんてことはなかったはず。確か、一般家庭の子で、サスケの家に入り浸る思春期の女の子。ナルトのようにうちは所有の修行場に行く様子もみせないとか。

 まさか、暗部の監視を掻い潜って外に? ありえない。そもそもこの里には結界忍術が張ってある。感知されずに外に出られるはずが……。

 

【火遁・豪龍火の術】

 

 ッ!

 俺はすぐに割れ目から外に出るが、豪龍火の術は追尾する。しかも龍火の術より火力が高く、連射も効く。土流壁では不安が残るな。

 そのまま全力で後退し、俺は水上に着水。

 

【水遁・水陣壁】

 

 前方に巨大な水壁を生成、衝突した火龍が爆散していく。

 

 豪龍火はチャクラの消費が激しい。下忍や中忍が習得することも、まともに運用することもありえない。だが、サスケは例外だろう。サスケの兄イタチは13歳にしてうちは一族を滅ぼしてみせた。あんなこと、火影クラスの実力でもなければ成し得ない。そして、サスケは既に万華鏡写輪眼、いや、永遠の万華鏡写輪眼を開眼しているという。その才能はイタチすら凌ぐと思っていいだろう。

 

 だとすれば、このままの俺じゃ話にならんか。

 

【写輪眼】

 

 殺すつもりで、なんてカッコつけなきゃよかったかな。

 

==================

 

【土遁・土石龍】

 

 水が晴れると、同時に、土の龍が迫る。

 サスケのだな。豪龍火を防ぐために水上に移動させ、土石龍で追撃。地面にいれば土流壁で相殺できたが、ここには地面がない。そして、水遁は土遁に弱い。水陣壁では貫かれて終わりだ。

 

 仕方なく横に躱すが、当然土石龍は折り返すように追尾してくる。

 

 チラッとサスケ達の方を見ると、何やらナルトが6体に影分身して追撃の準備をしていた。一応合格者は二人だと行っているのだが、奴ら、しっかり協力してやがる。特にサクラが下がってるのがいいな。あの桜花衝を見る限り、サクラは恐らく医療忍者。攻撃を受けないよう、後方支援に徹する立場だ。鈴を取るというこの試験の性質上、協力するため後ろに下がるという選択肢は取りづらかったはず。ついでにナルトも下手に突っ込んでこず、追撃の準備に入ってる当たりチームワークが出来ている。

 

 この試験は三人中二人しか合格できない状況で、三人協力し合えるかを見る試験。よってもう合格を言い渡してもいいのだが、さすがにここで合格を出すのは格好がつかんな。降参したようにしか見えん。

 

 だから、

 

【雷切】

 

 とっておきをくれてやる。

 

 雷切、またの名を千鳥。肉体活性に雷遁の突きを合わせたオリジナル忍術。俺は後ろから土石龍が追いつく前に、土石龍の胴体、横っ腹を右手の雷切で貫く。そしてそのまま術の発動者のサスケに正面から突っ込む。土石龍の術の弱点は、発動中術者は地面に手を当て、地面から生える土石龍を操作し続けなければならないこと。もう防壁系忍術は間に合わない。肉体活性で正面突撃、ナルトの最初の一撃に似ているが、写輪眼でカウンターを見切れる故に完成度が違う。

 

 さあ、どうする?

 

 そこで6体のナルトが息を吸い込みだす。土石龍を貫いてる間に印を組み終えたか。だが、生半可な術なら写輪眼で見切って回避、そのままサスケを貫ける。

 しかして、ナルトの選んだ術は

 

【風遁・真空連波】

 

 真空波の乱発だった。

 

「ッ!」

 

 影分身はチャクラを等分する術。解除すれば消費しなかった分のチャクラは本体に戻るが、6分の1になったチャクラでそれができるのか。

 なんて膨大なチャクラを持ってやがる。

 

 空間を埋め尽くすほどの真空波の連撃。それも雷遁は風遁に弱い。躱そうにも肉体活性で突っ込んでいるのだ。回避が間に合わん。まさか写輪眼を持ってしてもカウンターを喰らうとは。いや、土石龍を破る瞬間、あの瞬間に印を結んだからこそ俺に印を見切られずにこのカウンターが成立したんだ。

 

 まさしく、チームワークの勝利。

 

「が、役目は果たしたか」

 

 ポフン

 

========================

 

 殺った!

  

 そう思った瞬間、ボコっと土が破裂したような音がした。

 

「サスケくんッ!」

「ッ!?」

 

【スサノオ】

 

 サクラの悲鳴で振り返ると、土の下から現れたカカシが雷切を掲げていた。

 

【万華鏡写輪眼】

【迦具土】

 

 俺はサクラの悲鳴が聞こえた時点で反射的に発動していたスサノオに、迦具土で作った黒炎を纏わせる。天照はチャクラ消費が大きいので事前にチャクラを眼に貯めて置かなければ間に合わない。

 

 しかし、間に合ったのは第一段階のスサノオ。これでどこまで防ぎきれるか――

 

「ごーかっく!」

 

 ――うん?

 

 雷切は、スサノオの直前でピタリと止まっていた。

 

「へ?」

「ふー」

 

 ナルトは不思議そうな顔で、サクラは安心して力を抜いた。

 

「な、なんでだってばよ!」 

「忍者は裏の裏を読むべし。これは鈴を取る試験ではなく、2つしか無い鈴を三人で協力して奪いに来れるかを見る試験だ」

「へ?」

「だから、鈴を奪わなくても、協力できればその時点で合格。

 その反応からしてサクラは気づいていたようだけどな」

「えぇ!?」

 

「……普通の下忍は3人がかりでも上忍にかなうわけないし、合格条件は別にあるってのは思ったわね」

 

「ッ!

 でもさ、でもさ!

 結構惜しかったてばよッ!

 もう少しやれば……」

 

「普通の下忍ならって話よ」

「うん?」

「私の桜花衝で炙り出し、サスケくんの豪龍火と土石龍で追い詰めて、ナルトの真空連波でトドメ。

 自分で言うのもアレだけど、どれも下忍レベルの術じゃない。私達3人なら十分やれたと思うわよ?」

「だよな! だよな!

 俺とサクラちゃんならカカシ先生だって」

「サスケくんなら一人でもやれたって信じてるけどね!」

「ガクッ」

 

 うなだれるナルトを尻目に、サクラは俺の腕に抱きついてきた。スサノオは既に消している。

 

「どうだろうな」

 

 実際、完全体スサノオを使うならほぼノーリスクで戦える。殺す気でいいなら楽勝だ。唯一、土竜隠れ当たりで逃げ回られるのが懸念か。土に潜った相手を強制的に引きずり出すような術が欲しいな。……確か、蛇の仙術に無機転生なんてのがあったはず。地面などの無機物に命を吹き込んで操る術が。仙術は感知もできるし、龍地洞さえ見つかれば――

 

「確かに、サスケならやれたかもな」

「はぁ!?」

 

 ナルトが目を見開き、サクラが意外そうなものを見る目でカカシを見る。ナルトをガキだと馬鹿にした時のキャラではないな。

 

「うちは一族には、俺より強く、お前らより幼いガキもいた」

「それって……」

 

 サクラがカカシを非難するように問い詰める。

 

「そう、うちは一族を滅ぼしたうちはイタチ。サスケの兄に当たる男だ」

「……」

 

 サクラとナルトが俺を見る。二人がそのことについて聞いてくることは、今までなかった。知らない、なんてことはないだろう。ナルトにしても本人に聞くほど無神経ではなかったということだ。

 

「サスケ、その力でお前は何を望む?」

 

 これは、カカシの質問か? それとも、木ノ葉の上層部がさせたのか?

 

 どちらにしても、俺の答えは変わらない。

 

「うちは一族の復興」

「……それだけか?」

「後は……充実した生活?」

「…………そ、そうか」

 

 俺が本心から言ってるのがわかったのだろう。カカシはなんとも言えない微妙な表情をしていた。

 ただ、カカシが言いたいことはわかってる。イタチに復讐するつもりなんじゃないかって話だ。俺が原作を知っているから、なんてことは置いといても、万華鏡の交換が行われた以上、イタチがサスケを想っている事は周りにだって、カカシにだって分かるはず。イタチはサスケの眼を奪わず、交換したのだ。故に復讐に走らずとも不思議はないだろう。ないはず。たぶん。

 

「大丈夫!

 サスケくんの願いは両方私が叶えてみせるんだから!」

「さ、サクラちゃん!?」

「俺の子供を頼むぞ」

「サスケェ!」

 

「…………」

 

 わいのわいのと騒ぐ俺たちを、カカシは温かい笑顔で見下ろしていた。



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第4話 Cランク任務

 俺たちはあれから下忍として任務をこなし始めた。っと言っても迷子のペットを探すような雑用、Dランク任務ばかりだが。それもそのはず、アカデミーを出たばかりの下忍は13歳、つまり前世で言えば中学生だ。これまでに受けた教えはペーパーテストとアカデミーレベルの忍術のみ。当然、忍者どころか山賊の類の戦闘すらこなせるか怪しいレベル。とはいえ、例外的に実力のある俺たちや、アカデミー以外で教育を受けている忍者の家系からすれば不満も貯まる。

 

「なーなー!

 これで任務8個終わったんだからさー!

 今度こそもっとマシな任務に――」

 

 任務8個、というのは中忍試験を受けるために必要な数だ。これが終わるまではDランクで我慢しとけと、ナルトはカカシから説得されていた。忍者が受ける任務はDランクが子供のお使いレベル、Cランクが山賊などの非忍者との戦闘が発生するレベル。そして、Bランクが忍者との戦闘が発生するレベルだ。単純に実力だけで考えればこの班は余裕でBランク任務をこなせる戦闘力を保有している。が、火の国は別に人手不足でもあるまいし、少なくとも下忍の肩書を持ったものにBランク任務をやらせようとはしない。Cランク任務を受けて、実は相手に忍びがいた、なんて事になればBランク任務にもなりはするのだが。

 

「そこはほら、火影様のお心次第だ」

「おーい!

 今までDランク任務を受けてきたのは、中忍試験のためだって、カカシ先生言ってたってばよーッ!」

 

 ナルトが騒いでるが、俺は例によって影分身。任務のランクがなんだろうが知ったことじゃない。……楽しい戦闘が出来ないのは本体にとっても残念なことだが、下忍はよくてCランク任務。グズっても忍びとの戦闘は発生しない。故に本体は火の国のどこかで遊び呆けているのだ。

 

=================

 

「やったーッ!」

 

 ナルトが火影にグズるまでもなく、カカシ班の受ける任務はCランクに決定していた。中忍試験を受けるならCランク任務で実戦をこなしていないほうが危ないとのことだ。

 

「入ってきてもらえますかな?」

 

 待合室から吐いてきたのは酒を片手に持った酔っぱらいの爺だった。筋肉質な体をしている辺り、日頃から肉体労働している人間であることが伺える。

 

「何だァ、超ガキばっかじゃねぇかよ!」

 

 コイツが原作通りの橋作り職人、タズナだ。

 

========================

 

 依頼はタズナの護衛。行き先は波の国。期間は橋が完成するまで。依頼人が余所を向いてる間に俺はさらっと影分身と入れ替わった。こんな事ができるのも、基本影分身に影分身の監視を付けて行動しているからだ。

 つまり、影分身に本体が必要な事態が起きれば、監視役の影分身が術を解く。これで本体に情報が届く。逆に、もしDランク任務中の影分身が壊れれば、監視役の影分身がさも本物であるかのように出てくるわけだ。もちろん、この場合も任務中の影分身が壊れたのだから本体に情報が届く。必要ならやはり本体が駆けつけるわけだ。

 

 ただ、今回のように戦闘が発生するCランク任務以上に影分身でいかせるのは厳しい。

本体より性能が低いことに加えて一定以上の衝撃で解けてしまうのだから、普通にバレるし、監視用が敵に見つかって両方壊される可能性もある。距離が開くこと自体は飛雷神の術があるから問題ないのだが。

 

「出発ーっ!!」

 

 一度も里の外に出たこと無いナルトは大はしゃぎだ。さすがの俺も、九尾を連れて飛雷神で外に出ることはなかった。万が一見つかった時のことを考えればリスクが高すぎる。俺とサクラが綱手に会いに行くぐらいなら、ガキのすることと許されるかもしれないが、九尾を連れ出されればさすがに上層部が黙っていないだろう。下手すれば里抜けすることになりかねない。

 

 それからも態度の悪いタズナはナルトと言い争ったり、ガキを3人連れてることでカカシを非難したりしていた。……原作知ってるからアレだが、依頼偽ってるくせして態度デカすぎだろ。この後上忍の中でも上位に位置するザブザと戦えるから見逃すけどな?

 

「…………」

 

 林の中切り開かれた街道を歩いていると、不自然な水たまりが一つ。カカシは、いや、カカシとサクラはそれに気づいたようだ。その際サクラはカカシを伺うようにチラッと視線を向け、反応がないのを見るや、こちらに視線を向けてきた。

 

【幻術・写輪眼】

 

 この幻術は、相手に恐怖の対象を見せて、動きを止めるというのが基本的な使い方だが、それ以外にも使える。記憶を覗いたり、他の幻術、幻聴を聞かせたり、実力差が離れていれば完全に操ったり。

 今回は幻覚と幻聴で指示を出すのが目的である。

 

『サクラ、通り過ぎる瞬間、俺が水たまりにコレをやる。もしあれが变化の類で2人以上出てくるなら、1人やれ』

 

 サクラは何事もなかったかのようにそのまま歩きつつ、視線を戻す。

 幻術の訓練でこういったことは何度も経験してるからな。慣れたものだ。もちろん、初の実戦、歩いてる姿が若干緊張しているように見える。

 

 そして、水たまりを通り過ぎるという所で、

 

【千鳥流し】

 

「「グギァァァ」」

「な、な、なんだってばよッ!?」

「ぬゥ!?」

 

 俺の体から地面を伝い、水たまりに電撃が迸る。ナルトとタズナが俺の術に驚いて飛び退いた。すると、中から2人の男が飛び出してくる。

 

 唯一サクラは先程幻術の中でこの光景を見ていたために、ニヤリと笑いながら右手を振りかぶる。

 

「しゃーんなろー!」

 

 千鳥流しで体が硬直し、動けないその瞬間、サクラの拳が綺麗にその男の胸に決まった。

 

「ッ!?」

 

 骨が砕け、何かが破裂した音と共に、男は林の向こうに100m単位で吹っ飛んでいく。

 

【永遠の万華鏡写輪眼】

【幻術・写輪眼】 

   

 万華鏡にすることで瞳力を強化しつつ、残った男に幻術を掛ける。仲間が女にぶっ飛ばされた衝撃で、心に隙が出来ていた男は大層幻術に掛けやすかった。この程度なら素でも余裕だったと思うが、深く幻術に掛けるならこのほうが楽でいい。

 

「だれに雇われた?」

「……が、ガトー」

 

 その名が出ると、カカシは驚いて口を出す。

 

「ガトーって、ガトーカンパニーのあのガトーか!?」

「そうだ」

 

 その後狙いは何か、他に忍びはいるかなど洗いざらい吐いてもらった。

 

「なー、吹っ飛んだアイツいいのか!?

 逃げられちまうってばよッ!」

「……いや、その心配はない」

「ん?」

「サスケ、コイツ連れてこられるか?」

「ああ」

「んじゃ、見に行きますか」

 

 そういってカカシは全員を連れて林の向こう、サクラがぶん殴った男の場所まで歩いていく。恐らくカカシは匂いで場所を判別しているのだろう。これはさすがにコピーできない。

 

「こ、これってば!」

 

 ぐったりして動かない男を見て、ナルトが声を上げた。

 

「ああ、もう死んでる」

「あ、あははは」

 

 ぶん殴ったサクラは引きつった笑みで死体を見下ろす。

 

「まさか、第七班最初の殺しが医療忍者のサクラになるとはなぁ」

「しかもすげーいい笑顔だったってばよ」

「そ、それはサスケくんの指示だったから!」

「二人いてよかった。まさか一撃で即死させるとは」

「もう、サスケくんまで!」

 

「これが、忍者か」

 

 ひと1人殺しといて、和気あいあいと騒ぐ俺達に、タズナが戦慄していた。

 

===========================

 

 あの後、なぜか素直になったタズナが頭を下げて橋作りの護衛を頼み込んできた。曰く、ガトーが相手なら忍者を雇って来ることは想定できたが、Bランク任務の報酬は波の国の大名ですら出せないと。理由はガトーが波の国の海運を支配しているからとか。波の国は忍の隠れ里がないし、ガトーが忍びを雇うと抵抗するのが難しいようだ。

 

「波の国、大分詰んでるわね」

「あぁ。なんでこうなるまで放っておいたのか」

 

 海運を支配される前に金で忍びを雇ってガトーを潰すなりすればよかっただろうに。何があったんだか。

 

「んで、結局どうするんだってばよ?」

「ナルト、アンタ聞いてなかったの?」

「ガトーが敵ってのは聞いたってばよ!」

「……はぁ。

 まぁ、そうよ。

 ガトーが敵で、その居場所が割れたから――」                                                                                                                               

「着いたぞ、ここだ」

「――先制攻撃するってことよ!」

 

 着いた場所は、林の中の小屋だ。どうやらここに抜け忍を匿ってるらしい。狙われることの多いガトーはここを含めたいくつかの隠れ家を持っていて、それを貸し与えているとか。襲ってきた男もここ以外の隠れ家は知らず、ガトーを直接殺すのは難しい。よって、ガトーが雇っている抜け忍のいるこの隠れ家を先に制圧。そこにガトーが来たところで始末する。これで護衛任務はだいぶ楽になるはずだ。

 

「さて、ここからの段取りを説明する」

 

=======================

 

「失敗しただとッ!?」

 

 ガトーが声を上げる。

 鬼兄弟を監視させていた元中忍の部下からタズナ暗殺失敗の報告を受けた。あいつらは精々中忍の中では強い方レベルとはいえ、Bランク以上の任務を受けられないのであれば護衛ごと殺すのもさして難しくなかったはず。Cランクなら下忍が数人、部隊長たる中忍が1人ってところか。

 部下の報告では逆に奇襲を受けて一方的にやられたと聞いた。これでは相手の強さすら分からん。分からんが……

 

「お前たちが元腕利きの忍びだというから――」

 

 ガトーの様子を見るにこれ以上失望させるのは不味いか。仕方ない。

 俺が直接――

 

「ッ!」

 

 ――このバカでかいチャクラはッ!?

 

「奇襲だッ!」

 

【風遁・真空連波】

 

 俺はガトーを片手に、首切り包丁で小屋を切り裂き外に出る。見えた範囲じゃ、白はうまく脱したようだが……風切り音と共に小屋ごと逃げ遅れた部下共が切り刻まれていく。林に囲まれたここで、この俺に気づかれず接近したとは考えにくい。俺が音で敵を感知できる以上、敵は林の外。だとしたらこの風遁、完全に上忍クラス。鬼兄弟で殺れないわけだ。

 

【火遁・豪龍火の術】

 

「ッ!

 無茶苦茶しやがる!」

 

 風遁で林をなぎ倒し、その後に火遁かッ!

 確かにこの林は波の国らしく、海に囲まれてる。いわば小島。丸焼けになったところで外へは広がらん。

 

「白ッ!」

 

 俺は白にガトーを投げ渡し、林の外へ向かう。

 あの火遁は形からして追尾性。かと言って水のない場所であの三匹の火龍を相殺するだけの水遁は厳しい。誘われてると分かっていても、地の利がある海にでるしか道はねぇ。

 

 白は意図を察したようで、反対側に向かって走っていく。そうだ、この島の外にガトーを避難させな話にならん。ったく、タズナの暗殺任務がいつの間にか、ガトーの護衛任務になってやがる。

 

【雷切】

 

「ッ!」

 

 雷遁の突きか、舐めるなよッ!

 

 予想通りの奇襲を、俺は首切り包丁の薙ぎ払いで歓迎する。

 

「なッ!」

 

 しかし、奴はカウンターの薙ぎ払いに、突きを合わせやがった。なんて見切りだ。それにあの眼――

 

「ザブザだな」

 

 ――写輪眼かッ!

 

 奴と俺はすれ違うように海に着水する。

 真っ二つになった首切り包丁。これじゃあ次の突きは防げん、が海には出た。それに、写輪眼のカカシに当てないためか、豪龍火は俺達ではなく、先の小島に着弾していた。

 

【水遁・水龍弾】

 

 あの雷遁は真っ直ぐ突っ込む、ただの突きだ。二度目は撃たせん。

 

 それにしても、1人か。火遁と風遁、どちらも上忍クラスの威力。カカシクラスが後二人来ているとは思えんが、少なくとも中忍以上。

 白次第か。

 

==============================

 

「来たわね!」

「当たりだな」

 

 今この島はカカシ、俺とサクラ、そしてナルトの三方向から囲むように待ち伏せていた。ナルトが1人なのは莫大なチャクラで多重影分身を行い、広範囲をカバーしているからだ。ついでにサクラは医療忍者。1人にするわけにはいかない。

 

 そうやって待ち伏せているところに、白が小島から飛び出して来た。

 

【雷遁・千鳥鋭槍】

 

「くっ!」

 

 島から飛び出て、空中に居るところに十メートル以上伸びる雷遁の槍だ。まず躱せまい。

 

「うぐゥ」

 

 出てきた奴、白は片手をわざと槍に突き刺し、自身の身を傾けてみせる。

 

「やった!」

 

 片手を潰せば印は結べない。それだけで勝ったも同然。サクラはそう思ったのだろう。俺たちを襲ったあの中忍からも、コイツの情報はなかった。しかし、

 

【氷遁秘術・魔鏡氷晶】

 

「片手印!?」

 

 コイツにはこれがある。

 水から現れた氷の鏡が俺たちを囲むように展開されていく。数は40程か。

 

 確か、氷遁は風遁と水遁を合成する血継限界。火遁は水遁に、雷遁は風遁に相性が悪い。かと言って土がないこの場所じゃあ、土遁はまともに使えやしない。

 

【水遁・水分身】

 

 そうこうしてるうちに白の水分身がガトーを運んでいく。

 

「サクラ、近寄れ」

「う、うん!」

 

【永遠の万華鏡写輪眼】

【スサノオ】

【炎遁・迦具土の剣】

 

 鏡で囲まれてるせいで普段よりスサノオのサイズが小さいし、氷遁には水遁が含まれる。

 しかし、知ったことではない。

 

「そんなッ!」

 

 薙ぎ払われた鏡がまとめて砕け散る。火遁の上位互換にして、あらゆるモノを燃やせるのが炎遁だ。迦具土の剣はあらゆるモノを焼き切る剣。どれほどの強度を誇ろうが、そんな薄い鏡では紙切れ同然だ。

 

【炎遁・スサノオ迦具土】

 

 迦具土の剣が矢に変形し、スサノオの弓が生成されていく。

 

【氷遁・魔境氷晶】 

 

 白が直ぐ側に鏡を作ると同時、弓矢が完成した。

 

「これでッ!」

 

 写輪眼でなければ眼に映ることすら無い超速で矢が鏡を貫く。サクラの眼には放った瞬間、既に鏡を黒炎の矢が貫いていたようにしか見えなかっただろう。

 

「サスケくん、あれ!」

「……なるほど」

 

 俺たちから離れたところにいくつかの鏡が現れていた。その一つに白の姿が。確かあの鏡から鏡には光速で移動できたはず。白が攻撃するときは当然別だが、回避に専念されれば厄介極まりないな。

 一応、鏡の中に白が居る時は新たに鏡が出てくることはないようだが、迦具土で次の矢を作るまでに新たに鏡を作られることは必至。

 

「仕方ないか」

 

 眼にかかる負担が大きい上にチャクラを消費しすぎるから、コレは避けたかったが。

 

【影分身の術】

 

 5人に影分身し、全ての鏡を視界に収める。

 

 これは流石に九尾からチャクラを奪ってなければできんな。

 

 俺の左眼から血が流れる。

 

【天照】

 

「……うあぁぁァァッ!」

 

 全ての鏡を焼かれた白は、そのうちの一つから堪らずでてくる。しかし、その身にも既に黒炎が燃え移っていた。

 

「終わりだ」

 

 影分身を解くが、チャクラがごっそり減っているのが分かる。

 

「サスケくん!」

「少し休む」

「じっとしてて」

 

【掌仙術】

 

 サクラが俺の眼を癒やす。天照は元々チャクラ消費が大きく、目に負担がかかる術だ。その負担の大きさは消費するチャクラ量に比例する。鏡を覆うほどの黒炎を五つ同時に出した負担はやはり大きかったようだ。チャクラが切れた、なんてことはない。それほどに日頃から奪い取り、溜め込んでいるチャクラ量は膨大だ。完成体スサノオで暴れない限りは早々切れないだろう。

 だから、問題は影分身と天照の同時使用だ。六道の力を手に入れ、輪廻写輪眼を開眼した原作サスケですら眼の使いすぎで瞳術が切れるなんてことが起こりうる。眼に負担がかかる天照での範囲攻撃はリターンが見合わんか。

  

 しかし、だからといってあの逃げ回る白を捉える方法も思いつかなかった。

 

 今回のケースは仕方ないな。

 

「どう?」

「ああ、大分良くなった」

 

 それに、今の俺にはサクラが付いている。多少の無理は通せるさ。

 

「白を回収して、一度ナルトと合流を」

「その必要は無いってばよッ!」

「ナルト! あんた今まで何して…………それ、ガトー!?」

「おうッ!」

 

 どうやら水分身の白を倒してガトーを手に入れたらしい。縛られてナルトに担がれていた。

 

=========================

 

 埒が明かないね、これじゃあ。

 

 ザブザは霧隠れを使用して、俺に長期戦を仕掛けていた。元々ザブザは足止め役。首切り包丁を切り落とされて、戦力が半減している以上、とにかく俺に回避以外の行動を取らせないよう、ひたすらに殺す気がない牽制の一撃を放ち続けていた。あんな短い大刀で殺そうと踏み込んでくるなら、やりようもある。逆に距離を取るなら俺の鼻でアイツの位置を探り、この霧ごと水遁でザブザを吹っ飛ばす事もできるだろう。

 しかし、こうも足止めに徹されれると流石に打つ手が難しい。この水の上じゃあ口寄せの術も機能しやしない。コレほど霧が濃くちゃあ写輪眼の幻術だって……。

 

 ザブザが部下を信じて足止めに徹しているように、こりゃこっちもサスケ達を信じるしかないな。あの風遁と火遁を見て尚部下を信じて待ち続けている以上、ザブザの部下は相当に強い。下手をすれば上忍ですら遅れを取るかもしれん。しかし、あいつらもあいつらで、並の上忍数人ぐらいなら正面から押し切れてしまえるほどに強い。

 

【風遁・大突破】

 

「なにィ!」

「来たか」 

 

 チャクラでしっかり水面に吸着していないと人が吹き飛ぶ程の爆風。

 ナルトだな。

 

 霧が晴れ、ザブザの姿が浮き彫りになった。

 

「くそがッ!」

 

 同時に俺が印を結び始めるのを見て、ザブザが突っ込んでくる。

 

【幻術・写輪眼】

 

「なっ!」 

「焦ったな」

 

 ザブザの動きが縛られる。

 

 俺は幻術に特化したタイプでもないし、うちは一族でもない。写輪眼の瞳術も大して強くはないが、心に隙ができれば同レベルの相手でも幻術が通ることもある。俺が雷切の印を組んだのを見て、今しかチャンスはないと思ったのだろうが、甘い。

 

【雷切】

 

「終わりだ」

 

 雷切が心臓を貫き、全ては終わった。

 

================================

 

それから数週間、もう妨害されることもない橋の護衛任務は続く。俺はその間波の国中に飛雷神マーキングを施し、橋の護衛を影分身に任せて遊び歩いた。

 

「高校受験か」

「そー。ママ厳しいんだー。私も子供じゃないし、遊びたいんだけど」

「俺がお前のママを説得してやる」

「えー、でもママが許してくれないし」

「大丈夫だ、まかせとけって」

 

【幻術・写輪眼】

 

「うわー、コレって忍術ってやつでしょ!?

 初めてみたー!」

 

 はじめての受験勉強でストレスの溜まったお嬢様を開放してやったり。ちなみにそのお嬢様は子供ではなかった。その友達には子供も居たが。

 

 そして今日は護衛最終日。

 

「また来てね!」

「あぁ!」

 

 そういって、名残惜しくも橋に戻ると、

 

「サスケくん……」

「さ、サクラ?」

「一般人とじゃ、うちはの復興には、ならないわよね?」

「……サクラ、お前も一般家庭の娘だっただろ。一般人との間にも忍者は生まれる」

「へー、あの子達は他国の娘なんだけど?」

「…………世界中にうちは一族の里を」

「んなもん出来るか!

 しゃーんなろー!」

 

【桜花衝】

【スサノオ】

 

 ヤレばできるさ、とは言わなかった。  



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第5話 中忍試験目前

「来たか」

 

 俺は自宅で寝転びながら、影分身による報告を受け取った。中忍試験が近い今、数々の忍びが木ノ葉の里に滞在する。故に、变化させた影分身に里の出入り口を見張らせていた。誰が出入りするかを。

 

 正確には、どんな女性が入ってくるかを!

 

 とりあえず、原作初対面でサスケに気があったテマリ辺りは外せない。草隠れの香燐は……機会があれば。アイツ、容姿はいいが、噛み跡だらけなのがなぁ。能力も有能だけど、する気になれない相手を手元に置くというのも。後は大蛇丸の部下だが、キンも欲しいな。敵キャラでありながら良い容姿してるし。

 

 先程の報告はテマリが里入したという報告である。

 

 さて、どうやって会うか。まず、原作再現は不可能だ。ナルトが卒業試験を一発合格したせいで、火影への写真提出が早まった。結果木の葉丸と出会うことなくココまで来てしまっている。よって、ナルトと遊びに木の葉丸が外へ出るというイベントそのものがなくなっているのだ。

 これでは木の葉丸はカンクロウにぶつからないし、そこをナルトや俺が助けようなんて展開にはならない。

 

 じゃあいっその事木の葉丸を幻術で操ってカンクロウにぶつけるか? ……ありえん。三代目火影の孫を、四代目風影の息子にぶつけるとか、バレればガキの悪戯ではすまない。一般人とヤル時の常套手段も……やはりだめだな。写輪眼を使って周囲を操り、それでも警戒を解けないなら本人の感情だけ一時的に操作するなど、バレた時のリスクが高すぎる。

 仕方ない。影分身で見張って、ちょうどいいタイミングができたら行くか。流石に女性一人口説くのに命は掛けられん。

 

============

 

「隣いいか?」

 

 誰だ?

 

 私が木ノ葉に付いたのは数日前。カンクロウが中忍試験の受付に、我愛羅がその辺を散策しに行った今、私の知り合いがいるわけがない。

 

「い、いいぞ」

 

 そこにはイケメンが居た。私好みのかっこいい系の年下だ。アレか、ナンパか! 柄にもなく緊張しつつ、顔がニヤけるのを必死に抑える。

 

「この辺りで見かけない顔だと思ったが、その額当て」

「あ、ああ。砂隠れの忍だ。中忍試験を受けに来ててな」

「だからか」

「うん?」

「こんな美人、見かけたらそうそう忘れるはずがないからな」

「ッ!

 そ、そんな」

 

 ヤバイ。ニヤける。私は自分でも整った顔立ちをしているとは思うが、目付きがキツく、気が強い。更に背が高いせいで好みが分かれるタイプだ。その上風影の娘ともあれば、砂隠れの里では男が早々寄り付かない。怖がられるくらいだ。忍びとして強いのもマイナス要素らしい。カンクロウに言わせれば、守ってあげたくなるくらいが男としては響くのだとか。

 

「もっと話が聞きたい。奥の部屋で話さないか?」

「え?」

「ここの茶屋、実は常連向けに個室が用意されてるんだ」

「へ、へぇー」

 

 ここ、団子屋じゃなくて茶屋だったのか。確かにここの茶はうまい。……ってそうじゃない!

 

「どうだ?」

「い、いいんじゃないか?

 特別っぽくて。私も一度入ってみたいな……なんて」

 

 俯いて、顔が上げられない。最後の方はこの子にも聞こえてなかったかも。

 うわー、私の顔絶対真っ赤だよ。

 

「よかった。

 すいません、店主を」

「あ、ちょっと待った!」

「ん?」

「さ、先に名前を教えてくれないか?」

 

 飲食店とはいえ、個室に入ろうと言うのに私は相手の名前すら知らなかったのだ。

 

「サスケ」

「……サスケ、かぁ」

 

 砂の里には名字という文化がない。だから、この子が名字を名乗らなかった事にも、違和感を覚えることはなかった。もし、ここで名字を聞いていれば違う結末があったのかもしれない。

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

 ヤってしまった。

 案内された個室は畳式で、なぜか奥に布団が敷いてある部屋。

 明らかにそういう事を目的とした部屋だった。

 

 初めてだったんだけどなぁ。こんな軽い女だった覚えはないんだけど。リード上手だったし、たぶんサスケは初めてじゃないんだろうなぁ。

 

 そんなことを連々と考えていると、疲れたのか段々と眠くなってくる。

 

「あー、サスケぇ。ちょっとねむ」

 

 私が覚えているのはそこまでだった。

 

==================

 

 ふー。

 予想以上にうまくいったな。テマリと会う目的は二つともしっかり成し遂げた。後は香燐とキンだが、中忍試験まで後数日。時間がないな。香燐はともかく、キンは…………性格悪いし、何か能力があったりするわけじゃないんだよなぁ。どうせキンは大蛇丸の部下だし、後先考えなくていいなら強引に行くか。

 

===================

 

 コン、コン。

 

「ん?」

 

 ノック?

 ザクとドスはココに居るし、大蛇丸様は今頃風の国にいるはず。この宿は飯付きだけど、昼ごはんが終わったばかりだ。

 

「はーい」

 

 来客があれば私が出る。ザクもドスも悪人面だし、騒がれると面倒だ。ただでさえ音の里は木ノ葉に警戒されている。大蛇丸様が頭なのだから当然だけど、面倒事を理由に中忍試験資格を剥奪されては不味い。中忍試験で勝ち進むのが大蛇丸様の望みなのだから。

 

「どちらさまでしょうか?」

 

【幻術・写輪眼】

 

「あっ」

 

 私の周囲に、黒い何かが纏わりつく。 

 幻術か!

 

 いつの間にか体がピクリともしない。幻術タイプで耐性のある私がここまで完璧に縛られるとは。これでは幻術返しの印も組めない。が、ココに居るのは私一人ではない。声を上げられずとも、こちらの様子がおかしいのはわかるはず。特にドスは耳が良い。視覚に頼らず僅かな音から見てもない相手の状態を把握するくらいには。

 

「ッ!

 ザク、敵襲ですよ!」

「はぁ!?」

 

 ザクも驚いているようだ。そりゃぁ、まだ何も行動起こしていないうちから対処に当たるほど、木ノ葉も張り詰めては居ない。どちらかというと平和ボケした里、という方が正しい。それに、大蛇丸様からよっぽどのことがない限り木ノ葉側から襲撃されることは無いと聞いている。

 つまり、これは――

 

「…………」

 

 ――コイツの私事か!

 

 よくよく見るとコイツの視線が私の体を這っているのが分かる。まさか体目当てで他里の忍を襲撃する馬鹿がいるとは。それも中忍試験で立ち寄った忍を、だ。いくら今後木ノ葉に敵対するであろう音の里とはいえ、こうも白昼堂々と襲撃を掛ければ木ノ葉に対する他里の信用はガタ落ちだ。今後合同で中忍試験などということはありえないほどに。

 

【斬空波】

 

 あ、あいつら私ごとッ!

 

【スサノオ】

 

 !?

 こ、これは……チャクラで出来た骨の巨人?

 これで風の衝撃波を防いだのか。

 

「ちっ。

 ありゃなんだ?」

「……油断しましたね。キン。

 あなたが幻術に捕まるとは」

 

【幻術・写輪眼】 

 

「なっ!」

「んッ!?」

 

 馬鹿が!

 油断じゃねぇんだよ!

 

 声も出せないから知らせようがなかったが、警戒してなお幻術タイプの私が幻術に嵌められたのだ。相手は大蛇丸様がおっしゃっていた写輪眼を持つうちはサスケ。私でだめなら、ドスとキンがどれほど警戒しようと目を見た時点で終わりだ。ドス達に勝ち目があるとすれば斬空極波などで宿ごと破壊し、騒ぎにしてしまうことだった。こちらは潜在的な敵対里の者とはいえ、写輪眼を持つサスケがわざわざこんなところに来ている事を周囲に知らせられればそれで十分。砂も、他の里も、追求は木ノ葉にするはず。そのほうが他里にとっても都合がいいから。

 

 それから私達は洗いざらい吐かされた。大蛇丸様に言いつけられた任務。大蛇丸様の居場所。音の里の内情

 

 そして――

 

「キン、来い」

 

 ギリッ。歯を食いしばるが、私の体は言うことをきかない。

 

「ああ、ザクとドスは床に座って見てろ」

 

 そういって、私の腕を掴み、ベッドに連れて行く。悪趣味な。

 それにしても、コイツは分かっているのだろうか? 私はこれが初めてだ。そして、外部からの痛みは幻術が解ける要因の一つ。それに斬空波である程度音は響いた。それも木ノ葉が警戒する音の忍の宿泊する施設で。この騒ぎに誰かが駆けつけないとも限らない。そこでサスケが私を襲っていたら言い訳のしようがないだろうに。

 

「ん?

 ああ、心配するな。

 防音用の結界は張ったし、痛みで幻術が解けても」

 

【スサノオ】

 

「これでしっかり押さえつけてやる」

 

 …………この術、明らかにチャクラの塊。なら、チャクラの消費は尋常じゃないはず。

 時間さえ稼げば!

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

 すごかった……。

 ぶっちゃけ私も楽しんでしまった。初めてなのに、五感を支配する幻術のお陰でとにかく気持ちいし、どうせ逃げ出せないし、時間を稼ぐためには相手に楽しんでもらわないといけないから、仕方ないし。後、イケメンだし。組み敷かれるのも悪くない。性格的に組み敷かせてもらう方が興奮したけど。

 

 ザクが涙を流しながらこっちを見ていたのも、悪くない。ザクも顔は悪くないし。所詮この中忍試験のために組まされたチームだから、あいつらの前で楽しんで悪いとは思わない。

 

「ふぅ。じゃ、記憶を消させてもらうぞ」

「……うん」

 

 もし、大蛇丸様にこんな事がバレたら物理的に首が飛ぶ。しっかり記憶も痕跡も消してほしい。……ちょっと惜しい気もするけど。

 大蛇丸様はサスケを狙ってる。そして、もし大蛇丸様をサスケが殺すようなことがあれば。

 

 ありえない仮定だとは思う。

 

 でも、そんなことがあるのなら、私はこの記憶を忘れてたくない。

 

===============================

 

 かなり強引だったが、うまく行ったな。一応防音結界の他に、周囲に影分身を配置していざとなれば幻術を張って対処できる状況にはしていた。最悪音忍を始末し、飛雷神の術で屋敷に逃亡できるようにも。ここに来るまでは飛雷神と变化を使っているし、恐らくは誰にもバレていない、はず。

 

 最後は草隠れの香燐、か。コイツは、コイツに噛み付いた相手をチャクラで治癒する特異体質が災いし、草隠れの里で忍を回復させるための道具として扱われていた。母親も同様の体質を持ち、道具として扱われる過程で死亡している。原作二部で大蛇丸の元に居るのは草隠れの忍として激戦区へ放り込まれ、死にそうになったところを大蛇丸が救い出したからだ。

 

 中忍試験の内に助け出せば原作通り靡きそうだが、同じように行くかは分からん。最悪、この中忍試験の後、影分身で草隠れの里を監視し、大蛇丸の代わりに助け出すというのもないではないが、恐らく中忍試験後は原作のような歴史を辿らない。

 俺が変えるからな。

 

 どの道声を掛けるか迷っていたやつだし、放っといていいか。

 

「あ、サスケ!」

 

 そう呼び捨てにしたのは武器屋の売り子をしていたテンテンだ。コイツは木ノ葉の里の者なので当然関係を持っている。今日は中忍試験に参加するモブくノ一を漁ろうとしていたので大した目的地もなくブラブラしていた。

 

「テンテンか」

「珍しいね、この辺を歩いてるの」

「たまたまこの辺に用があってな」

「ふ~ん。

 てっきり中忍試験に出てくる他里のくノ一を探してたんだと思ったけど、違うんだ」

 

 なぜバレた。

 

「やっぱり。

 ねぇ、提案があるんだけど」

「ん?」

 

=================

 

「へー、こんな形のチャクラ刀があるんだー」

「木ノ葉の元守護忍十二士の上忍も使っている忍具です。実用性バッチリですよ!」

 

 メリケンサック型の忍具刀かぁ。うちの雨隠れにこんな忍具はないなぁ。ただ、実用性が行方不明だけど。この忍具店の売り子兼店員のテンテンさんは、この忍具の使い手が、12歳で中忍になった天才で、木ノ葉有数の現上忍だと語っているけど、その人以外に使える人がいなかった忍具です、としか聞こえない。近接攻撃も投擲もできるって、それクナイ型でいいじゃん。むしろクナイよりメリケンサックのほうが近接の射程落ちてるよね。しかもクナイ型と違って習熟し直さないといけないって新手のギャグかな?

 まぁ、お土産としてみれば悪くない。ただ、一発ギャグとして買っていくにはちょっと高いかな? …………クナイ型より高いし。大して量産もされてないのなら仕方ないけど。

 

「んー、お土産にしてはちょっと高いから手がでないかなー」

「……そうですか」

 

 お土産扱いされたことがちょっと頭に来たらしい。もしかして、その上忍ってこの子の担当上忍だったりするのかしら?

 

「他に木ノ葉でしか使われてないような忍具はないの?」

「それでしたら…………あ、サスケ!」

 

 そう言うと、テンテンさんは客の私を放っておいて、男の元へ走り寄ってしまった。

 

「客を放って置いて、それはどうなのかしら。

 テンテンさん」

「あー、いつ見てもカッコいいわー。で、今日はどうして?」

「テンテン、あの客いいのか?」

「いいのよ!

 木ノ葉の忍具を小馬鹿にするし、一々言動が気に触るのよ」

 

 店員が口に出していい言葉じゃないでしょ。

 苛つくわね。

 あのサスケって子は本当にカッコいいけど……

 

「あなた、テンテンの彼氏さん?」

「ちょっと!

 呼び捨てにしないでよ、オバさん」

「おば……私はこう見えても15。あなた達とそう変わらないはずよ」

「えー。んじゃ老けてるってことね」

「大人びてるっていうのよ。こういうのは。

 んで、どうなの?」

「いや、テンテンが一方的に纏わりついてくるだけだ」

「えー釣れないなぁ」

「へー。

 ねぇ、あなた忍具には詳しい?」

「それなりには」

「木ノ葉特有の忍具って何かあるかしら?」

「それなら……」

 

 私はサスケくんから風魔手裏剣やその中間型、それらをワイヤーなどである程度操作する忍具が一時期流行っていた事を聞く。

 

「へー。確かにそれなら汎用性も高いし、持っておいて損はないかも」

「だろ?」

「どっかのメリケンサックとは大違いだわ」

「あぁ、それは木ノ葉でも使い手がほとんどいないからな。在庫を捌くために勧めてたんだろうさ」

「忍具店も大変ねぇ。そんなのを勧められる方は溜まったもんじゃないけど」

 

 それから、テンテンはいつの間にか別の人の案内をしていたが、こちらが気になるのかチラチラと視線をやってくる。

 

「ねぇ、サスケくん」

「ん?」

 

 私はサスケくんに体を密着させ、それをテンテンに見せつけるようにして問いかける

 

「これから時間ある?」

「あぁ。今日は忍具を補充しに来ただけだからな」

「じゃぁ、これから里を案内してくれない?

 昼ごはん、どこで食べるか決まってないのよ」

「いいぞ。

 俺もアンタともっと話がしたい」

 

 うっ!

 近くでカッコつけられると効くわね。このイケメン面といい、声といい、本気になっちゃいそう。

 

 それから案内されたのは、見て分かるぐらいの高級店。

 

「サスケくん、あまり高いところは……」

「今日はおごってやる。

 だから、素敵な一時を過ごさないか?」

 

 こ、これって、もしかしなくても誘われてる?

 

「えっと、私も夕方までには部屋に帰らなくちゃいけなくて」

 

 流石に会ったその日に体を許すほど、私も爛れてはいない。そもそも、最近チームを組んでる男の子を意識してオシャレしてるけど、私も生娘だ。この誘い方は、ちょっと怖い。

 

「安心しろ。

 店に入るのはここだけだ」

「……本当?」

「あぁ。

 ここを出た後は、そうだな。

 時間の許す限り、観光スポットを連れ回してやる」

「デートしろってことよね?」

「そういうことだ。

 嫌か?」

 

 そんなことはない。

 こんなイケメンを案内役に使えて、しかも高級店にただで入れるなんて、役得だ。こうなると、切っ掛けになってくれたテンテンに感謝ね。

 

「いいえ。

 こちらこそ、お願いするわ」

「よし、行こうか」

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

 最初に訝しんだのは、個室に通されたときだった。和室で、焼き肉用のコンロが置いてある一室。ただ、高級店ならそういうこともあるかと1人で納得した。帰りは行きとは違う方から出るように言われた事は、そういう店もあるんだとしか思わなかった。履物もそちら側に運んでくれるらしい。そこまで聞いて、なんだか高級店っぽいなと実感が湧いた。

 焼き肉も、少量の付け合せにと出された生魚も、本当に美味しくて、最初に感じた違和感はどこかに吹き飛んだ。お腹いっぱい食べて、時間があるから休みながら話そうと言われたときは、食べてすぐ外に出なくていい店なんてあるのかと感心した。次第に張り詰めていたお腹も楽になって、そろそろ外へ出ようかという雰囲気になった

 

 私も、消化が終わって火照った体を冷やしたいし、外へ出るため、奥の襖を開けた。開けてしまった。その時、私の頭は真っ白になって何も考えられなくなってしまう。

 

 襖の向こうにあったのは帰り道ではなく、大きめの布団が置かれた一室だったからだ。

 

「きゃっ!」

 

 背後からいきなり抱き上げられて、お姫様抱っこされて、私は布団に押し付けられた。

 

「こんなところで二人っきりになるなんて、誘ってるのか?」

「ち、ちが」

「違わないだろ?

 こんなになって」

「えっ」

 

 その時、私はようやく気づいた。自分の体が出来上がっていることに。そこはまるで1人でシタ後のようだった。

 

「あ」

 

 次の瞬間、私は快楽に染まった。

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

「うぅ」

「初めてだったのか」

 

 一息付くと、同じ班の男の子が頭をよぎる。

 

 ごめんなさい。

 多分、私はアナタのことが好きで、それでおしゃれを初めて、私の初めては、アナタとするんだろうなって思ってて。

 ごめんなさい。

 気持ちよくなって、ごめんなさい。

 

「終わったみたいだねー。んじゃ私も」

「へ?」

 

 わたしが顔を上げると、そこにはテンテンさんがいた。

 

「いやー、ホント綺麗だねぇ。私のタイプだわ」

「え? ……むぐッ!」

 

 私は唐突に唇を奪われた。それも同じ女の子に。ファーストキスはサスケくんだったけど……ってそうじゃなくて、この状況は何?

 あ、唇柔らかい。

 

「ぷはっ。 

 安心してね。サスケのこと、忘れるくらい気持ちよくしてあげるから」

「俺も、休ませる気はないぞ」

 

 その日、私は3人ですることの楽しさも知った。



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第6話 中忍試験第一試験~

「サスケくん、今ここで僕と戦いましょう!」

 

 中忍試験の会場に着いてすぐ、全身緑タイツの変態に絡まれた。眉毛も濃いし、おかっぱ頭だし、生で見ると相当キツイな、コイツ。どうやらテンテンから俺のことを聞いていたらしい。ルーキーでありながら、ダントツで下忍最強だと。一応テンテンにもデートついでに手合わせの形で修行を付けたことがある。俺は格好つけるために、見せて問題ない中での最大戦力、スサノオを披露した。弓矢辺りでテンテンがえらく興奮していたのを覚えている。

 

「だれあれ?」

「あの全身緑タイツから察するに、ロック・リーだな」

「知り合い?」

「いや。

 だが、アイツの班員とはたまに遊ぶ仲だ」

「遊ぶ、ねぇ。

 また班員の恨み買ったんじゃないの?」

 

 サクラはジト目でこちらを見てくる。

 

「アイツがテンテンに気があるという話は聞かんな。

 ただ……」

「ただ?」

「俺がいなければアイツの班員、ネジが木ノ葉の下忍最強、ロック・リーが下忍準最強だったとか」

「へぇー、あの濃ゆいのそんなに強いんだ」

「はッ!

 サスケがいなくても俺がいるってばよ!」

 

 ナルトが声を張り上げる。

 

「オイ!

 ゲジマユ、そこ降りてこいってばよッ!

 俺が相手に……ぐぅっ」

 

 サクラのゲンコツがナルトの頭に落ちた。流石に桜花衝は使っていない。

 

「何言ってんのよ!

 アンタこの会場を壊す気!?」

「そ、そこは影分身で済ますってばよぉ」

「却下!

 今から中忍試験なのよ!?

 影分身がどれだけチャクラを使うか分かってんの!?」

 

 ナルトも影分身修行してる以上、技量でリーに劣るとは思えん。が、単純な身体能力差が酷い。九尾のチャクラを使えばまた別の話だが。

 

「相手してやる。

 さっさと来い」

「ッ!」

 

 ロック・リーがこらえきれない笑みを浮かべて、飛び降りてくる。俺が言うのもおかしいが、コイツも大概格好付けたがるな。サクラがいるからか?

 

「行きますッ!

 木ノ葉旋風ッ」

 

 口に出すのか。

 

【写輪眼】

 

 空中に飛び上がり、回転しながら蹴りを繰り出すのが木ノ葉旋風。木ノ葉一の体術使い、マイト・ガイが好む体術の一つ。

 

 しかし、

 

「ぐはぁっ!」

 

 俺は回転するタイミングを完璧に捉え、拳をリーの腹に叩き込む。写輪眼でどう動くかの未来まで見えているのだから、初見でカウンターを合わせるのも難しくない。

 

 リーは見事なまでに吹っ飛んだ。

 

「……弱くない?」

「へんっだ。

 あんなん俺だって倒せるってばよッ!」

 

「くぅ」

「重りを外せ」

「っ!

 気づきましたか……」

 

 一瞬躊躇して、リーは自身の足に巻いている重りを外し始めた。

 確か、あの重りは大切な人を複数守る時でなければ外してはいけないと言われていたはず。それと同時に、リーは自身の忍道を貫くためなら禁を破る傾向にもある。今がその時ということだろう。

 

「行きますっ!」

 

 さっきのような奇襲地味た大技ではなく、地味な一撃を狙い駆けてくる。但し、その速度は先程と比べものにならない。

 

「なっ!

 速えってばよッ!」

「準最強、言うだけのことはあるわね」

   

 今回は先程のようにカウンターを決めるのは難しい。速度がどうのではなく、単純にリーがカウンターを警戒した小技に走ったからだ。瞳術なしでもカウンターに対応できる、腰を据えた軽い拳。まずはこちらの体制を崩しに来ていた。

 

 故に、俺は全く同じスタイル、全く同じ姿勢で、ほぼ変わらない一撃をその拳に合わせた。

 

「なっ!」

 

 鈍い音が、広場に響く。続けざまに放たれるリーの連撃に、やはり俺は拳に蹴りに同じ技でもって、迎撃していく。

 

「お、同じだってばよッ!」

「いえ、これは……」

 

 サクラは気づいたらしい。別にこの場でリーの体術をコピーして使っているわけではない。ただ、リーの師匠にして木ノ葉一の剛拳使い、ガイの体術を、俺がコピーしていないはずがないというだけの話。そして、俺はコピーした体術を、影分身修行で完璧に俺のモノへと昇華させている。その練度はリーの比ではない。見てから合わせるのも容易いことだ。

 

「ぐっ」

「フン」

 

 拳を痛めたリーが下がると同時に、俺も同じように下がる。

 

「なぜ、僕だけ……」

「練度の差、それにチャクラの差だな」

「ッ……」 

 

 リーが歯を食いしばりながら、悔し涙を溜めていた。無理もない。体術だけを極め続けたはずのリーが、その体術で年下の俺に負けるのだ。別に、リーの全てが俺に劣っているわけではない。特に影分身では鍛えられない場所、肉体の完成度に置いてはリーのほうが多少上だ。

 にもかかわらず、同じように拳を合わせるリーのほうが、先にガタが来たのは練度の差、そしてチャクラの差だ。体術はチャクラを使わない、なんてことはない。サクラの桜花衝しかり、体術とはチャクラを身に纏い、身体能力の底上げを行った上での術である。だからこそ忍は一般人とは掛け離れた身体能力を発揮できるのだ。

 

 俺の場合は、というかうちは一族の場合は瞳術のレベルが上がるたびにチャクラの質が大きく向上し、結果的に身体能力も向上する。輪廻眼まで開眼した俺のチャクラの質は言わずもがな。

 

 これが多少の肉体強度差など関係なく、リーだけがダメージを受けた仕組みだ。尚、やろうと思えばこちらの速度はもっと上がるが、その場合体が出来ていないので、動く度に酷いダメージを負うことになる。まぁ、二部サスケは瞳術のレベルなぞ関係なく肉体を鍛え上げていたが。……二部サスケのような体がただで欲しいなぁ。肉体を鍛え上げるとなると本体が修行しなければならない。正直この程度の身体能力でも何の問題もない以上鍛える気にはなれんのだ。

 

「ガイ先生……」

「っ!」

 

 リーが腕を交差する。

 ここでそれをやるのか?

 

 その時――

 

「そこまでだッ!」

 

 ――濃ゆい眉毛がもう1人現れた。

 

 マイト・ガイ。

 リーの担当上忍にして木ノ葉最強の剛拳使いだ。

 

 当然教え子が試験前にあの八門遁甲を開けようとすれば、止めるに決まってる。アレを開ければリーはしばらく動けない。

 試験どころではなくなってしまうのだ。

 

 リーが叱られてる間、俺たちはスルーして試験会場に向かった。

 

==========================

 

「――筆記試験の用紙を配る」

 

 あ、危ねぇ!

 こればっかりはサスケの策で助かったってばよ!

 

『フン。普段も忍術を教えてるだろうが』

 

 あれは対価を払ってるってばッ!

 

『ちょっと、頭の中でうるさいわよッ!』 

 

 ご、ごめんだってばよ、サクラちゃん。

 

 俺の中で、二人の声が響く。これは幻聴。正確にはサスケの幻術・写輪眼で俺とサクラちゃんに幻術を掛け、幻術空間で会話してるんだってばよ。サスケが言うには、適当な忍から聞き出した過去の中忍試験では、三人一組を謳いながらお互いに相談できないような状態で、連帯責任制の試験が行われることが多かったとか。その対策として、いつでも相談、もとい会話ができるよう試験前の段階で幻術を繋げたんだってばよ。

 

 この後、俺達はサクラちゃんが解いた答えをそのまま答案用紙に書いて、何の障害もなく一次予選を突破した。

 

 …………ただ、影分身使って勉強してるサスケが解けなかった問題を、スラスラ解いていくサクラちゃんにはちょっと引いたってばよ。頭がいいにも限度があるってば。

 

『アンタ、後で覚えときなさいよ?』

 

 ヒィ!?

 

====================

 

 二次予選は死の森での巻物の奪い合いだった。三人一組で天か地の巻物を与えられ、死の森で天と地の巻物を揃えて中央の塔に到達すること。それが二次試験の合格条件だ。奪い合いの過程で相手を殺してしまっても不問とされているし、死の森自体が過酷な環境なのでそれに殺されることもあるらしい。

 

 そして、この環境こそ俺の求めていたモノだ。俺が習得してきた全ての忍術を好きに振るえる。ある意味下忍にとっては当たり前の環境だが、一定以上に強い術を習得した忍者にとっては共通の願いだろう。相手を殺しかねない、早々使えない術を好きに振るう場というのは。

 

「で、どうする?」

「さっさと他のチームを見つけるってばよ!

 巻物の数には限りがあるんだってば」

「だから、どうやって見つけるのかって言ってるのよ」

 

 俺たちの中に、感知タイプはいない。それに死の森は広い。見つけるために彷徨うのは得策とは言えんだろう。

 

「最速で塔に向かって待ち伏せる」

「ッ!

 それだぁ!」

「安直だけど、それが一番よね」

 

 サクラ、俺にも結構言うようになったよなぁ。何を言っても肯定していた、盲目な恋する乙女はどこに行ったのやら。

 

「奇襲にだけは気をつけるぞ」

「おうッ!」

「ええ」

 

 ナルトも結構素直になったよなぁ。忍術を教わる立場なのが効いてるのか、一次予選の対策が通ったのが効いたのか。……そもそも原作1部のナルトがサスケを敵視し過ぎなだけでこの世界のナルトはこんなもんだったのか。

 

 どちらにせよ、過ごしやすい場所になったものだ。

 

=========================

 

「しっかし、コレ問題よねぇ」

「だな」

 

 普通のサバイバル任務なら、敵がいないから問題にはならなかったが、今回は他の全チームが敵。排泄中に襲われるのは笑えない問題だ。

 

「大人しくするってばよっ!」

「ぐぅ」

 

 ナルトの影分身が、雨隠れの忍1人を押さえつけている。今回は襲われたのがナルトだったから、排泄しながらも影分身に処理を任せられたが、これがサクラだったらと考えると、いささか問題だ。ナルトは影分身修行で気配の察知も大したレベルに達している。少なくとも、多少隠密行動に長けた下忍程度なら奇襲を受けることはありえない。

 

「確か、サスケくん結界忍術とか出来たよね?」

「一応な」

「無いよりマシだってばよ!」

 

 影分身修行で習得しただけだから大した練度はない。そも危ないところで休みたければ、一度飛雷神で家に帰ればいい俺にとって、そういった結界忍術は優先度が低い。

 

【風遁・大突破】

 

「来るぞッ!」

 

 写輪眼で風に含まれたチャクラに気づいた俺が、声を上げた。

 

「うっ」

「きゃッ!」

 

 人を飛ばすほどの爆風、ナルト並だな。

 チャクラで地面に吸着し、飛ばされないように身構えた瞬間――

 

【木遁・樹界降誕】

 

 ――その地面から木々が拘束せんと伸びてくる。

 

「ッ!」

 

 堪らず足にためたチャクラを一気に増やし、俺たちは地面から勢いよく跳躍した。

 

「これって、初代様だけの木遁忍術じゃ……」

「蛇ィー!」

 

 ナルトが叫ぶ。

 風で流された俺たちの着地地点に、顔だけで数メートルはある大蛇が二匹待ち構えていた。

 

【スサノオ】

 

 サクラを掴み、俺の居る中心部へと放り、完成体へと段階を上げて行く。

 

「くっそぉおおッ!」 

「っ!」

 

 ナルトは九尾の衣を纏い、大蛇を思いっきりぶん殴った。

 完成体スサノオが着地地点にいた蛇を押しつぶすも、周囲の木々はやはりナルトと、スサノオを成長させていく俺たちを縛り上げてくる。

 

【天照】

【炎遁・迦具土】

 

「サンキュー、サスケェ!」

「動くなよ、サクラ」

「うん!」

 

 サクラを抱きかかえつつ、黒炎で木々を焼き払う。ナルト諸共だが、九尾の衣を纏うナルトにただの黒炎では意味がない。燃え移ったところで衣の一部を捨てて再構築できるからだ。ちなみに九尾以外の人柱力ではそうもいかない。黒炎は地面に広がり、生成される木々を片っ端から焼き払っていく。

 

「サスケェ!

 コレ敵どこだってばよッ!?」

 

 ナルトは九尾の衣を纏っているとはいえ、悪意を感知できるクラマモードとはまた違う。アレを発動するには八卦封印を開ける鍵が必要になる。九尾からの協力だけでは他の人柱力と同じように尾獣の衣を生成するのがやっとだ。

 

「…………」

 

 写輪眼に透視能力はない。物体を透かして物体を見ることは出来ないのだ。しかし、チャクラとは基本的に物体の中にあるもの。ある程度物体を透かしてチャクラを見ることは出来る。例えば忍の体に流れるチャクラ。例えばカカシが土遁土竜隠れの術で直ぐ側に潜めば、土越しにカカシのチャクラが見え隠れする。

 しかし、

 

「近くには見当たらん」

「どーすりゃいいんだってばよッ!」

 

 遠ければ当然見えん。それに加えてチャクラで出来たモノの後ろにいるだけでもやはり見えん。つまり、チャクラで出来た木々が周囲にあるこの状況では全く役に立たんのだ。

 

 この攻撃方法、明らかに大蛇丸が穢土転生した初代火影と大蛇丸の口寄せ動物である。本体が一度でも顔を見せれば永遠の万華鏡写輪眼の瞳力で終わりだが、イタチにその方法で負けているので、出てくることはまず無いと見ていい。恐らく、大蛇丸はダンゾウから俺の力の程を聞いているのだろう。輪廻眼まで知っているとは思えんが、幻術のレベルとスサノオくらいは想定済みのはず。

 

「無視だな」

「ハァ!?」

「サスケくん!?」

 

「俺たちの目的は巻物だ。

 こんな小物、相手にする必要もない。

 そうだろ?」

 

 コレは挑発だ。出てこないならそれでもいい。俺たちは勝手に塔へ向かう。

 それを理解したようで、ナルトもニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「へへ、そうだってばよっ!」

「ふふ、そうね。こんな臆病者、相手にする価値もないわ」

 

「ナルト、乗れ」

「おうっ!」

 

【完成体・スサノオ】

【炎遁・迦具土の剣】

【スサノオ・二刀の舞】

 

 スサノオで空高く飛び上がるようなことはしない。それでは逃げているみたいだし、下手をすれば試験官が来そうだ。

 

「うぉぉぉっ!

 速えってばよッ!」

 

 炎遁の剣から黒炎の衝撃波で全てを切り裂き、地面からわずかに浮き上がったスサノオが塔へと飛翔する。

 

「なにあれ?」

 

 右前方にバカでかい水が吹き上がる。

 大蛇丸のやつ、穢土転生による無限のチャクラを利用して二代目火影に延々水を作らせやがったな。

 

【木遁・木人の術】

 

「あっちもデケェってばよ」

 

 左前方にはスサノオ並の大仏が。

 

「後ろからも来てるわね」

「蛇ィ!

 さっきのよりデケェってばよッ!」

 

 チラッと後ろを見る。

 アレはマンダだな。しかも写輪眼対策か、目を閉じてやがる。

 本気すぎるだろ、大蛇丸。

 

【口寄せ・三重羅生門】

 

 進行方向にはバカでかい門が三つ。

 

「ナルト、前やれるか?」

「おうッ!」

「サクラ、左を頼む」

「やってやるわよ!」

「俺は右と後ろをやる」

 

 ナルトが赤黒く染まり、4本の尾を作る。口には考えるのもバカバカしい程に高密度のチャクラの塊。

 

【陰封印・解】

 

 サクラが綱手の元で修行をはじめて4年。額にチャクラを貯める百豪の術で莫大なチャクラを保存し終えたのが1年前。それを今開放する。桜花衝は使用するチャクラが多ければ多いほど際限なく火力が上がる術だ。

 

「木を燃やしたのが効いたな」

 

 木々を燃やし、今尚地面を燃やし続ける黒炎は激しい上昇気流を生み、空は黒い雲で覆われていた。

 

【水遁・水龍弾】

 

 チャクラから直接生成された莫大な水量が7匹の龍となって襲いかかる。こういった術は込められたチャクラの量で威力が変わるものだが、その龍は真にチャクラの塊。穢土転生で弱体化しているとは言え、無限のチャクラで時間を掛ければ生前クラスの化け物じみた水遁を使うことも可能ということだ。

 

「大した術だが、自然の火力には及ばん」

 

 空に煌めく雷の龍。自然に帯電した積乱雲から発生するそれは個人のチャクラで作るようなそれとは規模が違う。

 

「雷鳴と共に散れ」

 

【麒麟】

 

 俺が振り上げた手を下ろすと同時、秒速数百キロという雷光で全ての水龍を消滅させ、その先の術者をも消し飛ばした。

 

「ガァァァァ……」

 

 ナルトは高密度のチャクラの塊をその身で口から取り込み、

 

【尾獣玉・虚狗砲】

 

「アアアアァァッ!」

 

 チャクラの衝撃波を発生させた。

 それは木々も草木も根刮ぎに消し飛ばし、そのまま全ての羅生門を破砕、その先にいた口寄せの術者を轢き潰した。

 

「行くわよっ!」

 

 巨大な木人が小さな人間1人に拳を引き絞り、全力で殴り掛かる。チャクラが通ったそれはスサノオすら殴り飛ばすことだろう。

 

「しゃーんなろー!!」

 

【桜花衝】

 

 しかし、それはサクラ1人壊す事もできず、サクラに触れたその瞬間から体が消し飛び、その頭に乗っていた術者をも消し飛ばした。

 

 スサノオはサスケとは別方向、正確にはマンダの方向を向いて黒炎の弓矢を構える。その矢は見てから躱せるようなものではない。それでも熱を感知するピット器官で周囲を把握していたマンダは回避行動に出る。

 

 放たれた矢は胴体の側面を削り取るに留まるが――

 

「グゥゥァァァッ!」

 

 燃え移った黒炎がマンダの体を焼いていく。

 

 ポフン。

 

 口寄せ動物らしく死ぬ前に帰還したらしい。黒炎はどうなったのやら。

 

「よっしゃぁ!」

「どんなもんよ!」

「終わりだ」

 

【輪廻眼】 

【万象天引】

 

「ッ!?」

 

 これは大蛇丸も知らなかっただろう。

 地面に顔が突き刺さっていた大蛇丸はどうやら首を伸ばして地面の下から草薙の剣で奇襲を掛ける腹積もりだったようだが、首ごとこちらに吸い寄せられていく。

 

「ちィっ!」

 

【八岐の術】 

 

 引き寄せられながらも真っ白な八つの首を持つ蛇、八岐の大蛇を出現させた。スサノオ並の巨体だが、関係ないな。

 大蛇丸への万象天引は続いている。体内に溜め込んだチャクラを消費し、八岐の大蛇ごと大蛇丸の体をスサノオの手で手中に収め、

 

【完成体スサノオ・輪廻眼・吸魂の術】

 

 完成体スサノオはスサノオに自身の術を使わせることが出来る。輪廻眼による吸魂の術とは相手の頭に手を置き、記憶と魂を抜き取る術だ。これをスサノオに使わせた。

 この術の特徴は発動さえしてしまえば、相手に一切の抵抗を許さない所である。

 

 魂を捉えるこの術は、大蛇丸式変わり身の術なぞ許さない。

 

「ば、馬鹿な!

 私は不死の大蛇丸だぞ!

 こんな、ところで……アアアアアァァァ!」

 

 蛇の中から断末魔が聞こえる。

 

 同時に大蛇丸の記憶が俺に流れ込んで来た。

 この襲撃の意図、砂との密約、龍地洞の場所、忍術の祖であるカグヤ一族の末裔君麻呂、転生術、大蛇丸が集めたこの世に伝わる五大国のありとあらゆる忍術の情報。

 

「これが、魂か」

 

 目に見える形で大蛇丸の魂が抜け出てきた。これを地獄道の獄閻王に収納して、終わりだ。

 

「おっと」

 

 まだ八岐の大蛇がいたか。

 口寄せ動物は召喚主が死んでも残る。もちろん、呼び出された生物が自身で帰る判断をすれば別だが、コイツは目元を見るに、大蛇丸の支配下にあったようだし、自由意志があるのかどうかすら分からんな。

 

【永遠の万華鏡写輪眼】

【幻術・写輪眼】

 

 ピタッと止まった八岐の大蛇に、続けて術を掛ける。

 

【輪廻眼】

【完成体スサノオ・輪廻眼・外道の術】

 

 スサノオに外道の術を行使させ、巨大な黒い棒、通称六道の棒を生成する。

 

「ふー……なんだってばよ、その棒?」

 

 ナルトが尾獣化状態から復帰したようだ。

 

「用途は色々あるが、この場合は強制的に口寄せ契約を結ぶための棒だな」

 

 俺はそれを射出し、八岐の大蛇に刺していく。

 

「キェェ」

 

 八岐の大蛇が痛みで幻術から解けるが、問題ない。口寄せ契約は成った。六道の棒を通して操ることも出来る。

 

「戻れ」

 

 ポフン。

 

「なんか可愛そうな鳴き声あげてたってばよ」

「気のせいだ」

 

「サスケくーん!」

 

 お、サクラも戻ってきたな。

 

「ゲッ!」

「…………」

 

「これ、どうするのー!?」

 

 サクラは再生中の生首を二つ持っていた。

 

「さすがサクラちゃん、やることがえげつないってばよ……」

「ちょっ!

 違うわよ!

 コレは最初から死体だったのー!!」

 

 信じてよーサスケくん! なんてのんきなことを言ってるサクラを無視して、初代火影と二代目火影も同じように吸魂の術で魂を抜き取った。

 

「うわっ!

 まさかサクラちゃん、生きた状態で生首に……」

「殴るわよ!

 しゃーんなろー!」

「うがっ!」

 

【桜花衝】

【尾獣化】

 

 今の尾獣化してなかったら死んでたな。

 

 冗談みたいに吹っ飛ぶナルトを見て、俺達大蛇丸に勝ったんだなぁという実感が湧いてきた。

 



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第7話 中忍試験第ニ試験合格

 あの後、大蛇丸が持っていた地の書を持って塔まで何事も無く到達。天の書と地の書に書かれた口寄せの術式から出てきたのは、原作通りイルカ先生だった。

 

「……久しぶりだな」

「イルカ先生!」

 

 原作程仲が深まることもなかったイルカ先生が伝令役か。それにしても、表情が硬いな。どうかしたのか?

 俺の怪訝を余所に、イルカ先生から第二試験の合格と、壁紙の解説を淡々と話していく。

 

「そして、コレが最後の伝令なんだが」

「ん?」

「今回の第二試験、手配書S級の抜け忍、大蛇丸が試験生に成り代わっていた」

「はぁッ!?」

「誰だってばよ?」

「…………」

 

「その様子だと、サスケは気づいてたみたいだな」

「あぁ、俺が吸魂の術で殺した相手、アレが大蛇丸だったんだろ?」

「???」

 

 何も理解できていないナルトに、サクラが説明していく。

 

 大蛇丸は木ノ葉の伝説の三忍で、下忍どころか上忍ですら、手も足も出ない化物だと。

 

「特に大蛇丸は元四代目火影候補だったんだから」

「うぇー!?

 なんでそんな奴が中忍試験受けてるんだってばよッ!」

「だから、それを今聞いてるところなのよッ!」

 

 話が一段落したところで、イルカが話を戻す。

 

「本当に、大蛇丸を殺ったのか」

「なぜ、大蛇丸を殺したことをそっちは知ってる?」

「あ、ああ。

 実は大蛇丸が試験に紛れ込んでることに気づいた第二試験の試験官、アンコ特別上忍が大蛇丸の足止めに向かってから行方不明になってな」

「ッ!?」

 

 みたらしアンコが行方不明?

 確か原作では大蛇丸に見逃されてるはず。

 まさか……

 

「それで火影様が里中を見張る事が出来る、千里眼の術でサスケを見張っていたら――」

「俺が大蛇丸を殺していたと」

「――そういうことだ」

 

 恐らくアンコを攫ったのは大蛇丸だろう。

 理由は、先程奪った大蛇丸の記憶を精査すれば分かるはず。

 

「ねーねー!

 元火影候補を倒したんだからさっ!

 俺たち中忍にしてくれても」

「それはまた別の話だ」

「えー」

「そんな抜け道探さなくても、ナルト達なら楽になれるさ」

 

 大蛇丸を倒せるなら、誰でもなれるさと副音声が聞こえてくるような言い方だった。

 

=======================

 

「まずは、第二の試験、通過おめでとう!」

 

 そういったのは、壇上に立つ三代目火影だ。

 

 第三試験に残ったのはカカシ班、アスマ班、紅班、ガイ班、バキ班……だけである。ドス含む音の班も、カブト含むスパイ班も残っていなかった。もちろん、その担当上忍である大蛇丸の姿も、モブ上忍の姿もなかった。ドスがいない理由はわかる。なにせドスは初代火影、ザクは二代目火影の穢土転生の犠牲と成ったのだから。カブトも、大体察しはつく。大蛇丸が死んだのだから。

 

「では、これより第三試験の説明を始める」

 

 第三試験は日を改め、大名や著名な人物、忍頭などを観客として集めて行うトーナメント戦。この第三試験は戦争の縮図であり、その里に来る依頼の増減すら左右しかねないもの。里の威信をかけて行われるものだと説明される。

 

「ここからは、審判を仰せつかったこの月光ハヤテから」

 

 説明を引き継いだハヤテによると、第二試験終了までに残った人が多いので第三試験予選を行って人数を減らす必要があるらしい。

 

 予選は一対一の個人戦。実戦形式での対戦だ。わかりやすくていい。ただ、本気で戦うには会場が狭い気もするが。ナルトの真空連波辺りでも会場が崩れそうだ。

 

「開け!」

 

 木で出来た幕が上がり、その中から電子掲示板が現れる。

 

『ナルトVSシノ』

 

 言ったそばから……。

 

「よっしゃー!」

「…………」

 

「ナルトー、会場壊さないでよー!」

「崩れる前に終わらせるってばよッ!」

 

 会場を壊すのは前提らしい。

 サクラがため息を付いて大丈夫かなぁと心配そうに見ている。負ける心配はなし、か。

 

「アイツには最悪アレがあるからね。アレと戦える下忍がいるわけないでしょ」

 

 アレ、つまり尾獣化だな。そもそも里の最終兵器に忍1人で勝てるわけがない。

 

「あ、サスケくんは別だけど」

 

 ははは。

 

=================

 

「では、始めてください」

 

【影分身の術】

 

「ッ!」

 

 俺は開始と同時、影分身で3人になったナルトに正面から突撃する。俺はナルトの同期だ。アイツが影分身で悪戯をしている所を幾度となく見ているし、ただの組み手で風遁の術をサスケに放つ所も見ている。

 故に、ナルトの得意戦法は膨大なチャクラでの影分身と風遁による遠距離戦だと推察できる。

 

 両腕から出した細かな虫を両側のナルトに向かわせ、俺は印を組み、ナルトへ渾身の蹴りを放つ。

 

「んな奇襲、通じるかってばよッ!」

 

 蹴りは躱され、そのまま俺の懐に入ったナルトがいつの間にか引き絞った拳を俺の腹に叩き込む。

 

【蟲変わり身の術】

 

「「「な、なんだってばよッ!?」」」

 

 ナルトは知らないだろう。俺が虫を使う秘術系の忍であることを。俺は知っている。ナルトは写輪眼を持つサスケに及ばないまでも、それ以外の誰にも負けないほど体術が鋭いと。俺が組んだ印は変わり身の印。最初からこの蹴りは囮だ。変わり身による蟲、両側に向かわせた蟲。どれもナルトへ到達した。どの影分身が本体かはわからないが、コレで終わりだ。

 

「うぁぁぁっ!

 なんだってばよぉぉぉッ!」

 

 顔まで蟲に覆われているナルトは、パニックでまともに思考が働いていない。ここでクナイでも投げれば間違いなく刺さるだろうが、それで仕留められなければナルトの混乱が終わってしまう可能性も高い。それに、衝撃を受けると解ける影分身もまだ解けていない。

 ならば、ここは蟲を追加してナルトのチャクラを吸い付くし、確実に終わらせる。

 

「うぁ…………」

 

 影分身の実用化には莫大なチャクラが必要だ。その原因はチャクラを等分しなくてはならないことにある。影分身が解ければ使わなかった分のチャクラは戻るが、それまでは3人に影分身したら総チャクラ量が1人あたり3分の1になるのだ。そして、この場合チャクラを吸う対象が3倍になり、パニックになっているナルトは未だに影分身を解いていない。

 

「……………………」

 

 ・

 ・・

 

 まだなのか?

 

 …………俺は別に試験官の判断を待っているわけではない。 

 

 まだ、ナルトのチャクラを吸い付くし終わらないのか!?

 

「ウガァァァァッ!」

 

【尾獣化】

 

 ポフン、ポフン!

 

 馬鹿なッ!

 

 赤い衝撃波がナルトから全方位に撒き散らされる。

 コレはチャクラだ。蟲が反応しているから間違いない。しかし、眼で見えるほどの、物理的衝撃を伴うほどのチャクラとは一体どれほどの……。

 

「くっ!」

 

 散らばった蟲達を再度向かわせるが、

 

「ウガァァ!」

「なっ!」

 

 チャクラの腕が蟲を薙ぎ払うだと!?

 今のナルトは赤いチャクラに覆われ、耳と一本の尻尾が生えている。その赤いチャクラから赤い腕が生えて蟲を追い払っているのだ。

 

「ウラァ!」

「ぐっ」

 

 早すぎるッ!

 視界からナルトが消えると同時に、俺の懐に潜り込み、既に拳を振り終えてた。

 

 つまり、俺は宙を舞っているわけだ。

 

「ガハッ!」

  

 全身が壁にめり込む。

 同時に、ナルトを包む赤いチャクラが消えていく。 

 

「あー、あっぶねぇ!

 危うく負けるところだったってばよ」

 

「…………第一回戦、勝者、うずまきナルト!」

 

===========================

 

 ナルトが九尾の力に振り回され暴走したのなら止めるのが担当上忍である俺の責任だと身構えていたが、まさか完璧にコントロールしているとはな。

 

 特にあの最後の一撃。九尾の力を使って全力で攻撃していたのなら、シノは真っ二つに引き裂かれていてもおかしくはない。実際、そうなるほどの威力で攻撃するならその瞬間、俺とシノの担当上忍である紅が割って入る所だった。

 

 だが、シノは壁に埋まる程度で済み、それが終わると同時にナルトは九尾の力を引っ込めた。波の国の任務では直接戦闘する機会が殆どなかったという話だったが、コレほどの力が使えるなら後衛で支援するだけでなく、ザブザとの近接戦闘すら可能だっただろう。後衛では強力な風遁、前衛では攻守ともに強力な九尾の力。

 

 幼い頃は迫害され、どうなるかとも思ったが、ミナト先生。アナタがナルトに九尾の力を封印したのは間違いじゃありませんでしたよ!

 

=============================

 

「ナルト、アンタ油断しすぎ」

「はは、シノが思ったより強くてびっくりしたってばよ」

「私も秘伝忍術の使い手とは知らなかったけど……。

 アンタには莫大なチャクラがあるんだから、本体は逃げて影分身突っ込ませれば良かったじゃない」

「あそこで逃げるのは男じゃないってばよっ!」

「……はぁ」

 

 普段からナルトは影分身を前に出す戦法は使うが、本体が逃げつつ影分身だけで戦わせるような戦法は、確かに見ないな。それにしても、ナルトのチャクラ量でそれやられると本当にウザそうだ。

 

「続いて、第二回戦を始めます」

 

『シカマルVSカンクロウ』

 

===================================

 

 めんどくせー。

 

 俺はこんな試験、頑張るような柄じゃねぇんだけどなぁ。

 

 対戦相手は……あの黒装束か。

 後ろに担いでるのは、傀儡かぁ?

 

「弱そうなガキじゃん」

 

 挑発? なんのためだ?

 アイツはナルトの力に怯えを見せてやがった。本当に強気というより、強がってるだけか? だとしたらなんのためだ? 立場か? 戦い方か? なんの都合だ?

 

 ……めんどくせーし、挑発には乗れねぇな。それに、傀儡についてもわからないふりカマスのが楽か。

 

「あぁ、めんどくせー。

 変なの担いでやがるし」

「フンッ」

 

 不機嫌になった? 挑発に乗らなかったから? だとしたら、挑発に乗せて何をさせたかった? 俺はアイツにどう見えてる? 弱そうなガキか? それとも、情報がない他国の忍か? だとしたら、コイツはどうしたい?

 

「では、始めてください」

 

「んじゃ、コレは使わないでおいてやるじゃん!」

 

 背負ってたモノを放って、突っ込んできた? 傀儡使いが? 

 

 ……なるほど、読めたぜ!

 

「ハァぁっ!」

 

 奴が右腕を振りかぶって、わかりやすく殴りかかり、俺は変わり身の印を結ぶ。

 

 ポフン!

 

【変わり身の術】

 

「しまっ」

 

 俺は変わり身で殴りかかった奴の背後に回った。

 

【影真似の術】

 

「くっ!

 …………は?」

 

「影真似の術、成功」

 

 俺の影は、すぐ眼の前の奴ではなく、奴が捨てた、包帯でグルグル巻になった何かと繋がっている。

 

「な、なんで!?」

 

 今度の声は奴ではなく、グルグル巻きになった何かから聞こえてきた。

 

「傀儡使いが、傀儡を捨てるかよ。

 わかりやすすぎるぜ」

「お前、俺が背負ってたのが傀儡だって気付いてやがったのか!?」

「相手の言葉を信用するほうが悪いんだよ」

 

 すると、先程までカンクロウだったものから砂が剥がれ落ち、傀儡人形へと変わる。あの包帯で巻かれた中身が本体ってわけだ。

 

「くそっ!」

「最初の安い挑発も、それをスルーされて不機嫌になったのも、違和感バリバリだ。

 お前は駆け引きには向いてねーよ」

 

 そう言って俺はクナイを本体に突きつける。

 

「体が、勝手に!?

 そ、それに今度は動けねェ!」

「そういう術だ。

 どうする?」

「……ちっ!

 ギブアップ!」

 

 ふー。

 なんとか、運が良かったな。

 

============================

 

「なんかちょっとかっこよかったってばよ」

「あいつ、あんな頭良かったっけ?」

 

 カンクロウはカラスの仕込みを全力で使って、問答無用で圧殺していれば勝っていただろうな。無機物に影真似は効かないだろうし。ただ、カンクロウはその都合上、仕込みを見せる気がなかった。だからといって、風影の息子として、負けるわけにも行かない。その結果があの演技なのだろう。策としては悪くないように見えるが、いかんせん相手が悪かった。

 

 シカマル相手に下手な策を使ったことが一番の敗因だな。

 

「続いて、第三回戦を始めます」

 

『サクラVSキバ』

 

==============================

 

「私か」

 

 相手はキバ。このメンバーの中ならマシなほうね。

 

「へっ!

 女だからって容赦しねぇぜ?」

「手加減してた、なんて言い訳されなくて済むし、ありがたいわね」

 

「では、始めてください」

 

 さて、百豪の術は今日開放してドデカイ一発を放ったから、この試合中には使えない。もちろん、3年溜めたものをすべて使いきったわけじゃないから、じきに戻るけど、流石にその日の内には無理ね。

 

「あのイノを抑えてくノ一トップにたった女だ。

 最初から全力で行かせてもらうぜぇ!」

 

 キバは大きくバックステップして、丸薬を犬に食べさせる。

 下がった瞬間に前に出るのもありだったけど、流石に軽率よね――

 

【擬人忍法】

【擬獣忍法】  

【【獣人分身】】

 

 獣のようになったキバが二人、变化の亜種かしら?

 

「いくぜぇ!」

 

【四脚の術】

 

 ――って思ったけど、ちょっと不味そうな雰囲気。

 

「はやいっ!」

 

 四本足での突撃、二匹同時か。カウンターを警戒しているのか、掠めるような引っ掻きをギリギリの所で躱す。医療忍者は攻撃をもらわないことが第一、それが綱手様の教えだからね。

 しかし、二匹居るのが不味いわ。どちらかを対処すればもう一匹から直撃を貰う。それに、こうも慎重な攻撃じゃあ、カウンターもマトモに当たるか怪しいところ。一応躱す私とこの術を使ってるキバじゃあ、キバの方が消耗は激しいはず。こちらも移動にチャクラを使っているが微々たるもの。

 無理してきたところでカウンターを合わせましょうか。

 

「ッ!

 足を」

「イヤッホォォ!」

 

 足狙いに変えてきたか。必死で躱すが、相手も避けに徹されるのは分かっていたのだろう。回避行動取った先から、もう一匹が迫る。

 

「ちッ!」

「もらったぁ!」

 

 うまい具合に挟まれたか。

 仕方なく空中に跳ぶが、やはりそれが相手の狙い。

 

「くらえ!

 獣人体術奥義ッ!」

 

【牙通牙】

 

 私より速く着地し、私が着地するより先にキバ達の突撃が始まった。

 空中にいる私に挟撃。しかも高速回転して破壊力と速度を高める体術付き。

 けど、待っていたのはこの瞬間。

 

 踏ん張るところもなく、体勢も良くない。

 両側から来るから両手で迎撃する必要がある。

 

「それでも――」

 

【桜花衝】

 

 ――――負ける訳にはいかないでしょ!

 

「「ぐぁっ!」」 

「ぐぅっ!」

 

 私のありったけの桜花衝と衝突し、一瞬で両壁までぶっ飛ぶ二匹。同時に私の体に衝撃が走る。両側から来られて、両側を殴ったのだ。その反作用で体が、それと触れた部分の手がどうなるかはわかりきったことだ。

 

「フゥー」

 

 それでも、なんとか無事な足で立ち上がる。まずは手を掌仙術で直していくが――

 

「勝者、春野サクラ!」

 

 ――その必要もなかったようだ。

 

===========================

 

「サクラちゃん、意外にギリギリだったってばよ」

 

 百豪の印が消えてたのも大きかっただろうな。

 アレは開放せずとも印があるだけで大分火力が上がる。

 

「私は医療忍者よ?

 タイマンなんて専門外ね」

「えぇ~、あんな怪力持ってて説得力無いってばよ……」

「……後で覚えときなさい」

 

 そう言ってサクラは自身の腕や肉体を治してく。治療班の治療を拒否してここに残ったのは残りの試合、具体的には俺の試合を見るためらしい。今すぐナルトを殴る力もないくらいには傷がひどいというのに。

 

 サクラがタイマンを本格的にやるなら、怪力を当てるための何かが欲しいな。頭がいいから策で当てるのが手っ取り早いが、今回のような脳筋相手でこんなシンプルなステージでは厳しい。

 例えば写輪眼があれば、キバの攻撃を躱しつつ、最初から自身の攻撃だけをカウンターで叩き込み続けられただろう。例えばナルトのようなチャクラ量があれば影分身で撹乱しつつ、全ての影分身に桜花衝を使わせることも出来た。シカマルほどぶっ飛んだ頭があれば獣人分身前に仕掛ける判断が出来たかもしれない。

 

 つまるところ、サクラは決定力がある代わりに小技が効かないのだ。まぁ、怪力に回復に回避能力。一通り医療忍者として必要なものは揃ってるようだし、その辺りの小技習得に動いてもいい頃合いなのかもしれない。一応サクラの師匠である綱手にも聞いてみるか。

 

「ぐはっ!」

「医療班は何してる!

 早く!」

「すみません!」

 

 紅がキバを見て声を荒げる。

 

「相変わらずサクラちゃんの攻撃はエグいってばよ」

「ちょっ!

 私だっていっぱいいっぱいだったんだからね!」

 

「内臓が傷ついてる!

 緊急治療室に運ぶんだ、急げ!」

 

「続いて、第四回戦を始めます」 

 

『ネジVSヒナタ』

 

 …………これは俺、どちらにも関わってないから原作通りだろうな。

 

=========================

 

「勝者、日向ネジ!」



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第8話 中忍試験予選後半

「続いて、第五回戦を始めます」

 

『我愛羅VSイノ』

 

 はぁ。不運というか、ラッキーというか。まさかコイツと当たっちゃうとはねぇ。

 別に私は、第二試験でコイツに会ったとか、顔見知りとかそういうのではない。ただ、サスケに聞いていたのだ。あれはサスケとシた後の事。

 

================

 

「ねーサスケー」

「ん?」

 

 ベッドでサスケに身を寄せて、ピロートークとして話を振った。

 

「今度の中忍試験、サスケも出るのよね?」

「あぁ」

「他にはどこが出て来るかなー?」

「木ノ葉ではガイ班、紅班も出てくるだろうな」

「あー」

 

 ガイ班って、あのテンテンさんが居るところか。私とサスケくんが寝ているところに割り込んできた変態。……まぁサスケくんが楽しそうだったから許すけど。私もなんだかんだで気持ちよかったし。

 そういえば、あの人3人でするの、すごい手慣れてたし、他の娘ともしてるんだろうなぁ。……別にそれならサスケくんと長い時間一緒にいられそうってだけの話で、テンテンさんとしたいってわけじゃないわよ? すごかったけど、私にそんな趣味はないし。……まぁ、サスケくんがどうしてもっていうのなら――

 

「後、木ノ葉以外では4代目風影の子供達が出て来るって話があるな」

「――達?」

「どうやら息子2人と娘1人で三人一組を作ってるらしい」

「そんなん反則でしょ……」

 

 4代目風影は血継限界の使い手。そうじゃなくても忍は血筋、生まれ持った才能で決まる部分が大きいってのに。エリート3人が組んでるんじゃないわよ! ……カカシ班も似たようなもんだけど。

 

====================

 

 そこで私は我愛羅、カンクロウ、テマリについて聞かされた。なんでそんな詳細に知ってるのか不思議だったけど、どうせどっかで女引っ掛けて聞いたんでしょうね。もしくはその眼で聞き出したか。

 

「では、始めてください」

 

 私は開始と同時に後方に飛び退き、ポーチから巻物を取り出す。

 

「…………」

 

 我愛羅はそれを静観していた。その余裕、後悔させてあげる。

 

 ポン、ポン、ポン

 

 巻物から口寄せしたのは、毒煙玉だ。

 

 私が対人戦で毒を使うようになったのは主にサクラのせいである。

 

 私はアカデミーに入って早々、くノ一1位の座をサクラに奪われた。忍者の家系で、秘伝忍術を継ぐ山中一族の私は、アカデミーに入る前から勉強と修行を積んできた。だから、最初のテストでくノ一の1位になれたのは当然の事。

 そして、次のテストで追い抜かれたのは、正直驚いた。筆記に関してサクラは天賦の才を持っていたと言っていい。すぐにでも追い抜かれると納得してしまうほどだ。しかし、体術や忍術で追い付かれ、追い抜かれるとは思ってもいなかった。

 それも忍者の家系ですらない、春野サクラに。特に体術。回避を最優先し、重い一発を当てることを主軸にしたあの異様な立ち回りは明らかにアカデミーで習うものではない。それから私はサクラのことを調べた。サスケくんの所に通っているのはすぐに判明し、そこで私はサスケくんを直接問い詰めることにした。

 できれば忍者らしく本人に知られないよう調べたかったところだが、あの屋敷には結界が張ってあると聞く。なら、女に弱いらしいサスケくんを誑かしたほうが早い。そんな事を考えて、私はサスケくんが登校してくるところを狙って、話を聞く約束を取り付けた。

 

====================

 

「すごーい、サスケくんってこんな広いところに住んでるんだー!」

  

 もちろん知ってたけど。

 

「あぁ、庭の方も見ていくか?」

「うん!」

 

 どうでもいいけど。とりあえずおだてて、気分よくさせなきゃね。

 

「これは、ため池?」

「そうだな」

 

 広すぎるでしょ。

 うちは一族元頭領の屋敷って半端ないわ。

 

「ここで術の練習とかするの?」

「ああ、一つ見ていくか?」

「うん!」

 

 そういうと、サスケは溜め池に半ばまで掛けられた橋(?)に向かう。

 多分、アカデミーでは習わない術を見せてくれるのだろう。溜め池に向かう辺り恐らく火遁。十に満たないこの歳で性質変化を使えれば、女の子はキャーキャーはしゃぐでしょうね。

 

【影分身の術】

 

 うん?

 二人に分身……いえ、これは実体のある影分身!?

 

【風遁・大突破の術】

【火遁・豪龍火の術】

 

 龍を象った炎が、巻き上がる風によって強大化し、湖の上を踊る。それはとても幻想的で、思わず目的を忘れて見とれてしまうほどのものだった。

 

「どうだ?」

「すごい……」

 

 それからの私は放心状態で、広間に案内されるまでの記憶がなかった。それくらいありえない光景だったのだ。私はあの術について詳しくは知らないが、最低でも上忍レベルだということくらい分かる。

 

「で、お前は俺のことをどこで聞いたんだ?」

 

 気がつくと、私はサスケの隣でベットに腰掛けていた。

 

「えっと、サクラがここの所サスケくんの家に入り浸ってるって聞いて……」

 

 私はようやく動き出した頭で必死に言葉を紡いでいく。

 

「そういえばサクラが言ってたな。イノを追い抜いた。俺のお陰だって」

「……どういうこと?」

「修行を付けてほしいとか、修行場を貸してほしいって言われてな」

「ッ!」

「1位に成りたいんだとか」

 

 なるほど。私がアカデミー外で覚えた技術でトップに立つなら、あの子も他に師事できる人を見つけたってわけだ。私が幼い頃から教えられているのはあくまで基礎と秘伝忍術について。アカデミーで習うようなことをある程度完成させているだけだ。それも秘伝忍術を教えるためであって、アカデミーで1位を取るためではない。

 

「サスケくん」

「ん?」

「私にも同じ修行付けてくれない?」

 

 唐突だけど、上目遣いで寄りかかれば、断れる男はいないはず。私は美しいのよ!

 

「いいぞ」

 

 よっしゃ!

 これでせめて、あの子に勝つための手掛かりでもなんでも得られれば……

 

【幻術・写輪眼】

 

「じゃあ、まずはこの幻術を解いてみろ」

「え?」

 

 あの眼、確かうちは一族の……そこまで考えて、私はベットに押し倒された。

 

「あっ」

「お前、はじめからサクラのことを聞くために、俺に近づいたんだろ?」

「ッ!」

 

 サスケくん、気づいて…………いや、違う。これは幻術だ。私が見たくないとも思っているものが見えているだけで、サスケくんがこの映像を作っているわけじゃ……

 

「悪い子だ」

「離してッ!」

 

 手を掴まれて、動かせない。映像だけじゃない。これはどちらかと言うと相手に恐怖の映像を見せて動きを止めるタイプの幻術。さっきの忍術といい、これも上忍クラスの幻術。

 

「いいな?」

「え……むっ!」

 

 唇を、塞がれた。これは幻術。そう思っても、心が乱れる。唇に感触が伝わってくる。頬が染まるのが分かる。この幻術、精巧過ぎる。私の腕が、少しずつ動く。完全に相手の動きを止めるような幻術は、解の印を組めないから解くのが難しい。ただ、こんな無駄に精巧な幻術を作っていれば、縛りも緩む。

 

「ぷはっ」

「男と二人っきりで、ベットに座って、誘ってたんだろ?」

「ち、ちが……んー!」

 

 口を開いた瞬間、また塞がれる。……快感が流れ込んでくる。キス自体、現実でしたことがないから分からないけど、この快感も、五感を支配した幻術によるものだろう。

 手が、後もう少しで……

 

「気持ちいいだろう?」

「っ!」

 

 口がふさがっているというのに、声が聞こえてくる。

 

「ここは夢の中だ。もう少し楽しんでもいいんじゃないか?」

「……」

「俺のこと気になってたのは本当だろ?

 お前はサクラと一緒でイケメン好きだもんな。

 サクラもこの幻術は一通り楽しんでから抜けるぞ?」

「ッ!」

 

 サクラも……

 

 その瞬間、視界の隅に、サクラに覆いかぶさるサスケくんが映る。 

 

「サスケくん! サスケくん!」

 

 そう叫ぶサクラはとても気持ちよさそうで……………………あぁ、腕以外は動くんだ。

 

「ッ!?」

 

 そう認識した瞬間、私は体術でサスケくんと場所を入れ替え、体重をかける。

 

「イノ?」

「私、やられるのって好みじゃないのよね」

 

 それから私は存分にこの幻術を楽しんだ。

 

========================== 

 

 そんな事があってから、私はサスケくんにサクラと同じ修行を付けてもらって、綱手様にも師事させてもらって、最後はサクラのように私に合った戦い方を身に着けた。

 

 そして、私は我愛羅の戦い方を事前に知っていた。

 

「それで負ける訳にはいかないでしょ」

 

 毒煙玉を、我愛羅の周り三方向に投げ込む。

 

 ボフンッ!

 

 直接投げ込めば、自動防御の砂で薙ぎ払われる。でも、

 

「くだらん」

 

 我愛羅は自身の周りを砂で覆った。そうすれば確かに周りの毒煙は吸わなくて済むし、その状態で毒煙をゆっくり払えばいい。

 だけど、その状態で我愛羅が周りを見るには砂の眼を形成する必要があるはずだ。

 

 この瞬間、我愛羅は周りが見えていない。

 

「ここよッ!」

 

 私は我愛羅に向かって駆けながら、自身のポーチから出した解毒薬を腕に注入。我愛羅の砂が、毒煙を払おうと砂を動かしたその時、私は砂の球体に飛び込んだ。

 

【桜花衝】

 

「ッ!?」

「行っけぇぇ!」

 

 砂の球体の一部が砕ける。

 その穴に、毒煙玉を投げ込んだ。

 自動防御の砂がそれを払うが、そこに意味はない。密閉状態だった砂の球体の中に広がる毒煙。むしろガードした砂で私の事が見えなくなっているだけだ。とっさに砂の球体を解除し、我愛羅は下がる。思ったとおりの動きだ。まだ他に砂があるにもかかわらず、この瞬間私への攻撃が来なかった。ガードは自動で行われるが、攻めは全て手動で行わなければいけない証拠である。

 

 それを予期していた私は、毒煙玉を払われた時、更に前へ飛んでいた。だから真下には、下がったつもりの我愛羅が。

 印を組みながら、私は叫んだ。

 

「終わりよ」

「ッ!」  

 

【桜花衝】

 

 踵落としの桜花衝。私の中で最大威力の一撃だ。砂を置いて下がった我愛羅に完璧な一撃が入る、と思ったのだけど。

 

「ッ!」

 

 瓢箪が砂になってガードしたか。一瞬私の桜花衝を止めて、それから突き抜けた踵で、そのまま我愛羅の頭を蹴り下ろすことは出来たが、桜花衝は最初に触れた場所に衝撃を起こす忍体術。砂でそれが失われている以上、これはただの踵落とし。

 砂の鎧を纏っていたようで、傷にすらならなかった。

 

「死ね」

 

 動きが止まった私に、我愛羅が蹴り落とされた頭を上げる間もなく、周囲の砂が私に殺到する。

 

 ポフン!

 

「ッ!」

 

 桜花衝に、印を組む必要はない。あれは忍体術であって忍術ではないのだから。あの印は変わり身の印だ。真下にいた我愛羅にはなんの印を組んでいるかまでは見えなかったでしょうけど。

 

【桜花衝】

 

「ぐッ!」

 

 今度もやはり砂に守られたが、さっきとは違う。守られることが分かっていたので、これは桜花衝が砂で消費されることを前提とした蹴り飛ばし。砂を纏っている以上、そう大きくは飛ばないし、傷もつかない。

 それでも、吹っ飛んでいる間はこちらに攻撃も来ない。私は続けて毒煙玉を放り、一気に後退して仕切り直す。先程我愛羅は顔を上げる間も惜しんで砂を攻撃に回した。倒れ込んでいるところに追撃、なんてのは通じないだろう。

 

 それに、我愛羅は最初の毒煙玉を砂で払い切る暇がなかった。多少なりとも吸い込んでいるはず。特に私に蹴り上げられたところでしっかり息を吸ったところを見た。体が痺れ始めているところに毒の濃度が薄まらないようこの追撃。……致死性の猛毒が使えれば、多分終わってたんだろうけど、今の私にそんな毒の解毒薬を作る技術はない。もしくは私にサクラ並の桜花衝が放てれば、砂ごと中身を殺しきることもできただろう。しかし、私にサクラほどのチャクラコントロール技術はない。

 

 物理的に倒せないなら、この毒を吸わせ続けるしか無いわね。この毒だって吸いすぎれば心筋が止まって死に至る。

 

「ッ!」

 

 毒煙の上方を、何かが通過した。あれは……我愛羅? うつ伏せになった我愛羅が、砂で空中に浮遊していた。

 そんな事もできたの。

 

 我愛羅が、好戦的な笑みでこちらを見る。

 

「さぁ、これからが」

「ギブアップッ!」

「…………」

 

 私はそう言ってアスマ先生の所へ戻った。

 後方支援型の私がここまでやれれば十分でしょう。

 

「しょ、勝者、我愛羅!」

 

 私はブチ切れそうになっている我愛羅に解毒薬を投げ渡した。

 

=========================

 

「そりゃ無いってばよ」

「イノは砂越しに決められる決定力がない。その上空中に浮かれれば、ギブアップもやむなしだろう」

「それでも、あそこまでやったんだからさ!

 もう少し粘るとか!

 毒も効いてたみたいだし、アイツのチャクラ切れとかさ」

「その可能性がゼロってわけじゃないだろうけど。 

 イノって思い切りがいいのよね。努力家だし、負けず嫌いだけど、本当に無理と悟ったらすぐ方向転換するの」

 

 確かに、アレだけ努力して得た桜花衝と掌仙術だったが、どうしてもサクラのレベルに達しないと見切りを付けたら毒を使った戦術主体に切り替えた。今では高レベルで専門的な医療忍術を覚えていくより、山中一族に伝わる心転身などの秘伝忍術に力を入れている。イノにはサクラほど飛び抜けたチャクラコントロール技術はない。桜花衝は幻術でチャクラを無理やり操って習得させたが、やはりサクラより威力はない。百豪の術も当然習得できない故に一対一で強敵相手では決め手にかける。

 

「それが、要領がいいってことなのかもしれないけど」

 

 サクラは少し寂しそうにイノを見た。サクラは元々は内気で、女友達などはほぼいない。俺が接触してからは割と原作通りの性格になったが、恐らくイノが初めての同性の友達というのは原作と変わりないのだろう。そして、出会った時期が遅かったからなのか、イノにはサクラ程の思い入れがない。あくまでイノにとっては自分より出来のいい初めてのライバルってだけだ。

 

「続いて、第六回戦を始めます」

 

『テマリVSテンテン』

 

============================

 

「よーやく私の出番ね!」

 

「では、始めてください」

 

「フン。

 さっさと来な」

「言われずとも!」

 

 私は背後に大きく飛び上がり、巻物を広げる。

 

【開封の術】

 

 巻物に封印しておいた忍具を取り出す術だ。イノも使っていたやつね。但し、私の巻物は長く、大量の忍具が封印されている。

 

「これで!」

 

 360℃全方向からのクナイ、手裏剣、千本の雨。そのまま喰らえば終わりだし、避けるのも困難だ。防ぐには何かしら忍術を使う必要があるけど、ここから間に合うかしら?

 

「フンッ!」

「ッ!?」

 

 私の飛び道具が何かに弾かれた!?

 それも全て、過程すら見えずに…………。

 

「一の星」

 

 得意げに、着地した私を見下ろしながら、そんな事を呟く。

 

 扇子が少し開いてるし、恐らくあの扇子を使ったんでしょうね。何も見えなかった辺り、風遁系の術で弾かれたと考えるのが妥当だけど、流石に印結びを見逃すはずがない。つまり、あの扇子は風遁、もしくはそれに類する忍術を印結び無しで発動できるってところか。

 

 それ、私と相性最悪じゃない。

 

 発動速度は眼に見えないほどで、多少隙を作るぐらいじゃ忍具は通らない。さすが風影の娘。下忍とは思えないわ。

 

「それで終わりかい?」

「ちッ!」

 

 勝つにはその術を突き抜けるほどの火力か、その術の継続時間が短いことに掛けて連続攻撃を仕掛けるか。

 

 アレを使うしか無いわね。

 

【開封の術】

 

 青い巻物から、更に大きな巻物を取り出す。

 

「ハァ?」

 

【開封の術】

 

 そこから現れたのは弩。但し特大の弩だ。

 

 ふふ。

 そもそも予選で使う気がなかったから、この巻物は大切に閉まっといたのよねぇ。可愛い後輩の術を模した、とっておきだから。

 

「防げるもんなら――」

 

 私は特大の弩を構える。

 

「フンッ!」

 

 テマリは扇子を最大まで開く。

 

「――防いでみなさいってのッ!」

 

 チャクラの込められた特大の矢を発射した。

 

【カマイタチの術】

 

「なっ!」

「くぅッ!」

 

 弩から飛び出した特大の矢は、カマイタチで僅かにブレながらも直進し、テマリの胸に直撃する直前、割り込ませたテマリの扇子に突き刺さった。

 

「鋼鉄製だぞ……なんて貫通力だ」

「うぁァァァ!」 

 

 しかし、テマリのカマイタチの術も私に直撃。チャクラが練り込まれた風、紛れもない風遁忍術である真空の竜巻に巻き込まれ、私は体中を切り裂かれた。

 

 身動きの出来ない空中から、落ち際にあの扇子で攻撃されたようで、私の意識はそこで途絶える。

 

「勝者、テマリ!」

 

===========================

 

「あの忍具、サスケの弓にそっくりだってばよ」

「一度見せたら随分気に入ったみたいでな」

 

 チャクラを込めて貫通力を増した飛び道具。チャクラ刀辺りと発想は似てるな。速度と威力を両立するために強大化しているが、その御蔭でカマイタチの術を突き抜けたか。それにしても、印を結ばず性質変化を行うあの扇子は便利すぎるな。あの速度で振るえるのはテマリだけだろうが。原作でも砂隠れの里では最強の風遁使いだったはずだし。

 

「でも、サスケくんの弓矢の欠点も引き継いでるわね」

「構えるのも、発射するまでも遅いってばよ」

 

 そうなんだよな。

 スサノオの弓矢はスサノオの防御力と弓矢の決定力が両立してるから強いのであって、防御力がなければ隙が大き過ぎる。

 ついでに決定力まで落ちてるせいで相打ちにすら持ち込めなかった。

 

 ……というより、あの扇子による術の発動速度が早すぎるんだよな。せめて印を結んで発動していれば防御も間に合わなかっただろうに。ついでにあの扇子が鋼鉄の盾にもなるとか、本当に使い勝手のいい忍具だ。

 

「続いて第七回戦を始めます」

 

『サスケVSチョウジ』

 

========================

 

「焼き肉食べ放題だー!」

 

「では、始めてください」

 

【倍化の術】

 

 胴体だけ2mほどに膨らむ術だ。ここから、僕の手足と頭を肉体の中に収納。続いてその場から高速で前回転。

 

【肉弾戦車】

 

 触れただけで骨が砕ける忍体術の一種。アカデミーでしか習わないような術しか使えないなら、コレ一つで勝利できるくらいには強い、秋道一族の秘伝忍術だ。

 だけど、

 

【スサノオ】

 

 相手もうちは一族。

 なんの術かは知らないけど、巨大な骨で出来た一本の腕が、僕の回転する肉体を押し留めていた。

 

「フン」

「っ!」

 

 回転の止まった僕の体が、投げられて宙を舞う。術を解除し、なんとか着地した。

 

「次は、どうする?」

「まだまだァ!」

 

 ポーチから、多数のクナイを糸に通して束ねたものを体中に巻きつける。

 

【倍化の術】

【肉弾針戦車】 

 

 クナイがスパイクの役割を果たして威力と加速度が上がる。

 

「ウォぉぉぉ!」

 

 サスケは同じように受け止めるが……いい感じだ。巨大な手の平を押してる。スパイクのお陰で回転力が増して、止まらない。このままなら……

 

「じゃあ、二本目だ」

「ぐっ!」

 

 真上から二本目の腕が現れ、僕を押さえつけた。

 回転が……止まる。

 

 ポフン!

 

「おぉ」

 

 倍化の術を解くことで、拘束を抜け、僕は少し距離を取った。

 

「はぁ、はぁ」

 

 やっぱり、勝てっこないよ。

 

 チラッとアスマ先生達を見ると、

 

「チョウジー、頑張りなさーい!」

 

 イノが声援を送っていた。

 

「もう終わりか?」

 

 ギブアップしたい。 

 でも、それじゃあ焼き肉食べ放題はなしだって、アスマ先生が言う。

 …………本当は、こういうときに使うためのものじゃあ、ないんだけどなぁ。

 

 カチ。

 

「はぁ」

「ん?」

 

 僕は懐から三種の丸薬を取り出す。

 中忍試験は、死ぬ可能性もある試験だ。死ぬよりマシだからって、お父さんが持たせてくれた秋道一族秘伝の丸薬。カロリーを莫大に消費して、あらゆる能力を強化するコレはある程度の副作用がある。

 青、黄、赤の順で副作用が大きくなり、赤は飲めば必ず死ぬ。当然、焼き肉行くために死ぬほど僕も馬鹿じゃあない。

 でも、青を飲んでも、部分倍化が精々で、肉弾針戦車以上の火力は期待できない。

 

 だから――

 

 カリ。

 

「――いくぞォォォ!」

「来い!」

 

【超倍化の術】

【完成体・スサノオ】

 

 僕たちの術は、天井を完全に貫通した。

 

「やりすぎだってばよぉぉぉ!」

 

 ナルトの声が聞こえるが、時間もないし止まれない。

 青空の下、巨大な天狗に組み付く。

 

「ウォォォォ!」

 

 力比べをすると、少しずつこちらが押しているように見える。相手の術、こういう力比べをするような術じゃないのかもしれない。

 

「楽しいな、オイ」

 

 そういうと、天狗が羽ばたいた。

 

「なぁぁぁ!」

 

 僕の体が、宙に浮く?

 

 この巨体が宙に浮くって、そんな馬鹿な!

 

「表蓮華、ってな」

 

 雲が掛かるほどの高さに持ち上げられ、そのまま逆さになる。

 

「やめ、やめろぉぉぉ!」 

 

 グルグル回転しながら地上に落ちていくサスケの正気を疑いつつ、僕は術を解いた。

 

 ぽふん。

 

「うん?」

 

 サスケが僕を見失う。

 

「ふぅ…………うぐっ!」

 

 痛い!

 丸薬の副作用が…………あれ?

 これ、僕死ぬんじゃ。

 

 雲がかかるほどの超高空からの自由落下。

 

 動けない体。

 

「ぎ、ギブアアアアアッッップゥゥゥゥ!」

「お疲れさん」

 

 うぉ!

 

「あ、アスマ先生!」

 

 空中で優しくキャッチされた僕は、そのままアスマ先生に着地を任せた。

 

「助けるって言ったろ?」

「ほ、本当に死ぬかと……うぐっ!」

「焼き肉の前に病院だな」

 

 そんなぁ~。

 

===========================

 

「俺が壊さなかったのに、サスケが壊すのかってばよー!」

「チョウジのせいだ」

「最初の肉弾戦車の時点で倒してればよかったでしょうに。

 かっこつけなんだから」

 

 昔のサクラならキャーキャー言ってくれるくらいカッコよく戦ったつもりなんだが。

 

 

「あれが、うちは一族か」

「ねー、カッコいいでしょ!?」

「会場が…………僕の出番が……」

 

 

「うちは、サスケ……」

「ふふふ。

 な、サスケすごいだろ!?」

「ヤバ過ぎじゃん」

 

 

「アレを正面からヤルたぁ、無茶苦茶やりやがる」

「チョウジー、アンタはよく頑張った!

 サスケくんのカッコいい所、十分に引き出せてたわー!」

「ひでぇ」

 

 

「これで、第三試験の予選を終了します」

 

 この後、第三試験本戦が一ヶ月後に行われること。

 本戦は予選と同じルールで行われること。

 トーナメント方式であることなどが説明された。

 

 なお、優勝者は1人だけだが、中忍になれるのは1人とは限らない。一回戦敗北でも、絶対評価によって中忍にふさわしいと認められさえすれば中忍試験合格となる。

 

 最後にくじ引きで本戦の組み合わせが決定した。

 

 

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第9話 修行

 

「うーん……」

「どうしたの?

 アンタが考え込むなんて」

「あのさ、サクラちゃんはサスケより強い奴に心当たりない?」

「サスケくんより強い人って……。

 そういえばあの時殺した大蛇丸は、生き返ってるのよね?」

「恐らく、な」

 

 大蛇丸から抜き取った記憶を確認した結果、大蛇丸は俺と戦う前に、大蛇丸を止めに来たアンコを回収している事がわかった。そして、大蛇丸に万が一があった際は、カブトが解邪法印で、アンコに付けた呪印から復活する手筈になっている。大蛇丸の作る呪印は、大蛇丸の仙術チャクラを流したものであり、大蛇丸の分離した意識ですらあるのだ。故に、本体が完全に消滅したり、封印されたりした所でそこから復活することが出来る。

 

 ただ、気がかりなのは原作に於いて腕の魂を屍鬼封尽で封印された際、どこから復活しても、腕の魂は戻らず、完全に治ることがなかったという点だ。

 

 つまり、吸魂の術で大蛇丸の魂を完全に奪い取り、俺の手元に保管してある間は完全に復活することはないのではないか? 大蛇丸から奪い取った知識と照らし合わせても、普通、魂を封印されれば復活なぞありえないらしいし。…………そもそも、普通に死んだだけなら復活できて当然みたいな認識からして何かがおかしいが。

 

「じゃあ、大蛇丸ね。

 正面からならサスケくんに敵うはずないけど、穢土転生でひたすら超長距離からサスケくんのチャクラを削り続ければ可能性はあるでしょ」

「うーん…………」

「後は、大蛇丸と同じ伝説の三忍を探すしか無いわね」

「そっか!

 あんなのが三人いるんだもんな!

 名前は!?」

「一人は私の師匠で綱手様……」

「ずるいってばよ!

 サクラちゃんだけ!」

「んー、綱手様は医療忍者でチャクラコントロールに特化した忍だからアンタには合わないわよ」

「じゃーあと一人は!」

「自来也様は行方不明って聞くし……」

「自来也なら確か、今この里に来てるぞ」

「マジッ!?

 どこどこどこ!」

「どっかの銭湯の近くに居るはずだ。

 白髪のおっさんで赤い入れ墨が顔に入ってるから、影分身で探せば――」

「行ってくるってばよー!」

「――もう行ったか」

「……サスケくん、自来也様の場所をどうして?

 綱手様が、木ノ葉の上層部でも探してるって」

「大蛇丸の知識にあった。

 どうやら自来也は大蛇丸の周りを嗅ぎ回っていたようだな」

 

 実際には原作知識で知ってるだけだが。

 

「へぇ……」

「で、サクラ久しぶりに」

「いいけど、その後綱手様の所連れてってね」

「ん?」

「今のままじゃ、テマリに勝てそうにないから」

「あー」

 

 発生速度がやたら早い中遠距離忍術。サクラにとっては天敵だな。近寄りさえすれば、陰封印を使うまでもなく、百豪の術で強化された桜花衝で一撃だろうけど。

 

「それにしても……」

「?」

 

 昔なら赤面してとてもかわいい姿が見れたはずなんだけどなぁ。

 

 …………終わったら少しは俺本体も修行するか。

 

================

 

 あぁ、いい眺めだのぉ。

 

「あーッ!」

「ん?」

 

 金髪の小僧?

 

「覗きは――」

 

 ちッ!

 

【口寄せの術】

 

「――はんざッ!?」

 

 騒がれれば覗きがバレる。 

 高さ1.5m程の蝦蟇を口寄せ、即座に舌で攻撃させた。

 

「お!?」

「速えってばよッ!」

 

 驚いたな。

 

 ここは温泉街。万が一躱されたとき周囲に被害が出ぬよう、この口寄せを選んだ。が、コイツの舌は早い。不意打ちで下忍が躱せるようなものじゃぁないんだがのぉ。

 

「うわっ!」

 

 ただ、果たしてどこまで躱し続けられるか。小僧もここで無茶な忍術は使えまい。

 

「そっちがその気なら――」

「うん?」

「――もう容赦しないってばよォ!」

 

 ぬぉ!?

 蝦蟇の舌をぶん殴ったじゃと!

 

 小僧の周囲に赤いチャクラが湧き出ておる。

 これは、九尾のチャクラか。

 

 下忍クラスの身体能力で蝦蟇の舌を躱す辺り、身のこなしだけなら上忍クラス。そこに九尾のチャクラによる身体能力強化が入った。

 もはやこの程度では相手にならんのぉ。

 

「うずまきナルト」

「覚悟ォ…………へっ?

 なんで俺の名前?」 

「お前に修行を付けてやる」

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

【口寄せの術】

 

「九尾のチャクラを意図的に引き出せるとはいえ……流石はあのミナトの息子、と言ったところかのぉ」

「出来たァー!」

 

 まさかの一発成功。

 しかも、よりによってガマブン太のやつを呼ぶとはのぉ。

 

 ナルトの下には、全高50mにもなる赤い蝦蟇がキセルを咥え、不機嫌そうにしておる。

 

「じゃ、わしは身を隠すとするかのぉ」

 

 アヤツを術の練習で呼び出させたと知られれば、大暴れしかねん。

 

===============================

 

「なんじゃー、おどれ!」

「ん、あーしゃべったー!」

「ハァ!?」

 

「俺はうずまきナルト!

 お前を口寄せした主人だってばよっ!」

 

 ニシシシ。

 この前の戦いで、口寄せ動物の蛇二匹におっさん二人に門3個も使われたからなっ!

 俺もこれで――

 

「ガハハ!

 ガキが嘘こいちゃいけんのォ!」

 

 ――あ?

 

「お前みたいなガキにワシが口寄せ出来るはずがなかろーが!」

 

 が、ガキ……。

 

「ガハハハハ!」

「こんの、クソガエルッ!」

「あアァ!?」

「ご主人が誰かもわからないとか、クソガエルで十分だってばよっ!」

「小僧が、このガマ親分ことガマブン太様に、クソガエルだ? ご主人だァ?

 殺っちゃろうかぁ!?

 アァ!?」

 

「殺れるもんなら殺ってみろってばよッ!!」

 

【尾獣化】

 

「ッ!」

 

 殺しちゃー、意味ねぇからな。

 

「半殺しで済ませてやるよ」

 

 真下にいたクソガエルに拳を振り下ろす。

 

 ポフン。

 

 変わり身……尾獣化の瞬間かッ!

 

「フンッ!」

「蛙のくせに、人間みたいなことするじゃねぇかッ!」

 

 背後に現れたクソガエルに、チャクラの塊を吐きつける。

 同時に、クソガエルが印を結び始めた。

 

【チャクラ砲】

【水遁・鉄砲玉】

 

「ガァ!」

「ハァ!」

 

 バカでかい水の塊が、俺のチャクラ砲を貫いてくる。

 

「ぐぅ!」

 

 未だ宙に浮いていた俺は、それをモロに食らった。

 

「ガキも中々ヤルじゃねぇか!

 どうだ?

 ここいらで謝りゃあ、お前を子分にしちゃろうか」

「そんなの、願い下げだってばよッ!」

 

【尾獣化・三】

 

「ッ!」

 

 三本の尻尾が生える。

 

「行くぞ、クソガエルッ!」

 

【チャクラ砲×3】

【水遁・鉄砲玉×2】

 

「ガは!」

 

 今度のチャクラ砲は水の塊を相殺し、残った一つがクソガエルに直撃した。 

 

「へん!

 俺をご主人と認める気になったかァ?

 クソガエル!」

「舐めるなよッ!

 ガキが!」

 

 クソガエルがドスを抜く。

 あんな馬鹿デケェ刃物は、流石にこの形態じゃあキツイ。

 

 …………できれば、三本までで終わらせたかったってばよ。

 

【尾獣化・四】

 

「ッ!

 まだ上がるんか!」

「グォォォォォ!」

 

 全身の皮膚が剥がれていくのが分かる。ここまで来ると、九尾のチャクラで負うダメージが、再生速度を上回っちまうんだ。早めにケリ付けなきゃ行けねぇってばよ。

 

「ガァァァァ」

 

 超高密度のチャクラを口に集めていく。

 

「チィ」

 

 それを見たクソガエルが、高速で駆けた。これじゃあ尾獣玉は間に合わねぇ。が―― 

 

「ッ!」

 

 ――地に着いた両腕より、地中から九尾チャクラの豪腕を二本足止めに向かわせている。

 

【ガマドス斬】

 

 流石にぶった切られるか。

 けどな、

 

「なァ!?」

 

 無駄だってばよッ!

 

 真っ二つになった豪腕二本から、更に副腕が生えていく。

 

「鬱陶しいのォ!」

 

 クソガエルも必死に払うが、生える方が早い。

 

 ゴクン。

 

「オワリダ」

「フン。

 それは半殺しじゃぁ、すまんのぉ」

 

 俺は飲み込んだチャクラの塊を、口からチャクラ砲として発射した。

 

【尾獣玉・虚狗砲】

 

「ガァァァァ!」

「……業腹じゃが、認めちゃる。

 このガマブン太様が、お前の助けになってやるわい」

 

 ポフン。

 

 虚狗砲がガマブン太を貫く直前、クソガエル、もといガマブン太側から口寄せを解除したか。最後まで偉そうだったってばよ。

 

「おい!」

「アアァ?」

 

 振り向くと、そこにはあのエロ仙人が立っていた。

 

「ナルト、意識はあるか!」

「モチロンダ」

 

 俺は尾獣化を解除していく。

 

「……そこまで完璧に九尾の力をコントロールするとは、のぉ」

 

「よっしゃあ!

 コレで口寄せの術、習得だってばよ!」

 

=================================

 

「対遠距離戦用忍術、ねぇ」

「はい」

「……私の立場で言うのもアレだが、中忍試験で試されるのは部隊長にふさわしい知略、戦略、戦術、判断力だ。お前の頭で策を練れば、勝てなくとも中忍試験合格を狙うことは十分に可能。いらんモノを覚える必要はない」

「…………はい」

 

 サクラが綱手に対テマリ用に使用できる忍術を求めるが、必要ないと諭されてしまった。一応サクラは俺の彼女兼未来の嫁だ。これを放って置くというのもな。

 

「綱手」

「ん?」

「ナルトは自来也から口寄せの術を習うらしい」

「ナルト……確かミナトのガキか」

「サスケくん!」

 

 綱手が顰めっ面で考え込むが…………結論は出たようだ。

 

「口寄せの術はいずれ教えようとしていたモノ。百豪の術を完成させた今、チャクラ不足にはなるまい」

「じゃあ!」

「その間も、医療の勉学に手を抜くことは許さんぞ?」

「はい!」

 

===================================

 

「ナルト、場合によってはお前に鍵を渡すことになる」

「カギ…………ヒィ!」

 

 エロ仙人の口からなんか出てきたってばよ!

 

「ワシを寄び出すたぁ、どーゆー了見じゃ?」

 

 蛙がまた喋ってるってばよ。

 しかも胴体がなげぇ。

 

「九尾の封印を緩める」

「ッ!?

 そりゃ、そこの小僧が九尾の力をコントロールするっつぅ話か?」

「そうじゃ。

 既にナルトは今使えるだけの九尾の力を完全にコントロールしておる」

「…………早すぎる。

 そもそもそこの小僧にその力が必要になるとも思えんが…………自来也の判断じゃ。

 一度は試してもええじゃろ」

 

 げ!

 胴体が開いたってばよッ!

 ……これは、巻物?

 この蛙、胴体が巻物で出来てるってば!?

 

「よし」

 

 エロ仙人が蛙の開いた胴体、もとい巻物に手を押し付けると、自来也の指にチャクラが灯る。

 

「腹を出せ。

 お前の九尾の封印を緩める。九尾の力、完全に扱ってみせろ」

「…………おう!」

 

 よくわかんねーけど、コレで九尾を口寄せできるんじゃないかってばよ!?

 

======================

 

【穢土転生の術】 

 

「成功だ」

 

 俺の前には、ドスとザクが穢土転生されていた。わざわざコイツらを選んだと言うより、縛りやすい雑魚なら誰でも良かったのだ。もちろん、この穢土転生の術は大蛇丸の記憶から、影分身修行で習得したもの。コイツらのDNA情報、というか死体はこの前の中忍試験で初代火影と二代目火影の穢土転生体の中から出てきたものを使用している。

 

 そして、

 

【輪廻眼】

【封術吸引】

 

 これでチャクラを吸収する。穢土転生体のチャクラは無限。これでナルトから取引で九尾のチャクラを貰う必要もなくなった。

 

【多重影分身の術】

 

 それによって影分身の数を1000体に制限する必要もなくなる。1万だろうが2万だろうが好きに出せる。本体がチャクラを貯め込む必要すらない。影分身がチャクラを吸い取り、解除すればチャクラは本体に還元される。還元するにはある程度距離が近くなくてはならないが、そこは飛雷神の術でカバーだな。

 

 大蛇丸が集めてきたこの世全ての忍術。

 

 写輪眼で見たわけではないから即コピーとは行かないが、これで次の中忍試験本戦までに全て覚えきる事もできるだろう。

 

 だから、本体である俺はその間肉体を鍛えるとするか。次の相手はロック・リー。八門遁甲を開くアイツに、スサノオだけでは万が一があるだろうし、あの忍術を使うためにも体は鍛えるに越したことはない。

 

 ついでに、影分身にはいくつかの場所に向かってもらうとしよう。マーキングして、いつでも本体が行き来できるように、な。

 

================================

 

「こりゃすげーのぉ。

 この力をこうも簡単に制御してしまう…………影分身修行は」

「だろ!?」

 

 ナルトのやつ、九尾の力に一切飲まれなかったのは目を見張ったが、まさかここまで不器用なやつだとは思わなんだ。完璧な体術。完璧なチャクラコントロール。その裏にこんなカラクリがあったとはのぉ。

 

「んじゃナルト。

 次の修行に移る」

「え?

 俺ってばまだ他に試したいことが」

「それはまた一人でやれい。

 儂の時間は有限じゃ。 

 一通り術を教えたら取材にいかにゃならん」

「取材ってそれは犯罪行為だってばよー!」

 

 さて、この修行法ならあと3週間で螺旋丸は会得できるじゃろう。もしかすると、その先も。

 

「ミナト、お前の子はあの術を完成させるかもしれんぞ」

 

=====================================

 

「その子、だれ?」

「大蛇丸の部下で、中忍試験前に仲良くなったやつだ」

「お、お邪魔します」

 

 修行が終わっているだろう時間、その日の夜にキンを連れてサクラに再び会いに行った。ちなみにキンは穢土転生用のストックとして中忍試験の間縛られて放置プレイを受けていたが、大蛇丸が死んでカブトは回収する間もなく撤収したようだ。

 中忍試験の第二試験で放置中のキンを木ノ葉の暗部が回収。一応音忍として中忍試験参加者であったために何事もなく帰されたが、そこを俺が拾ってきたわけだ。

 ドスとザクの死体は見せたし、穢土転生で話もさせてやったから、キンは俺のことをしっかり信じてくれた。

 

「つまり、アンタの愛人として匿うわけだ」

「あ、愛人だなんて」

「そうなるな。 

 屋敷は広いし、うちは所有の林に家を立てて放り込んでおいてもいい」

「だから今顔あわせをさせられるわけね」

「は、はい」

「いきなり鉢合わせして戦われても困るからな」

「はぁ。

 事情はわかったから、さっさと離れでも屋敷の一室でも放り込んでおきなさいよ」

「すいません! 

 失礼します!」

「まぁ、待て」

「…………」

「今日くらい記念に3人でも」

「私にはテンテンさんみたいな特殊な趣味はないんだけど?」

「わ、私はいいですよ!

 サクラさん綺麗ですし」

「なっ」

「サクラだってテンテンとヤッてる時は気持ちよさそうにしてただろ?」

「ちょ」

 

 俺はサクラに覆いかぶさり、

 

【幻術・写輪眼】

 

「それは卑怯よ!」

「キンに口説かれて頬を染めるなら、もう手遅れだ。諦めろ」

「私、頑張ってご奉仕させていただきますね!」

「アンタ、筆記試験のときと比べてキャラ変わってない!?」

「私、サスケくんに犯されて気づいたんです」

「犯された?」

「イケメンは正義だと!」

「それ、暗に私もいけめn…………むぅ!」

 

 女性同士、いいものだ。

 

 さて、俺も――

 



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第10話 中忍試験本戦 第一試合~

 中忍試験の本戦には、風影、火影、他多数の大名、忍頭が見守る中行われる。そこはまるでコロッセオのような闘技場。予選との違いはステージが段違いに広く、多少樹木が生えていることだろう。

 

「じゃあ、第一回戦サクラ、テマリ以外は下がれ」

 

 そう言ったのは本戦の試験官、不知火ゲンマだ。

 俺も会場の観客席に移動する。

 

==========================

 

「では、第1回戦始め!!」

 

「フン!」

 

 始まると同時、私は最速でカマイタチを放った。

 

【1の星・カマイタチの術】

 

 私の対戦相手は華奢な身体つきからは考えられない程の近接パワー型。先の予選を見る限り、一撃貰えば死にかねない程の馬鹿力だ。恐らく、扇子越しでも喰らうのは不味い。下手をすれば腕が逝く。それに、あの予選は同じ里の者同士の戦いだ。殺さないよう力をセーブしていた可能性もある。油断は出来ない。

 ……が、それは火力の話だ。アレだけの力を持っているにもかかわらず、奴本人の速度は大したことがない。素の肉体能力が高いわけではないのだろう。恐らく忍体術の一種で、印を組む必要がない忍術だと考えたほうが近い。

 

 なら、対策は簡単だ。

 

 私が最速で放てる忍術、1の星・カマイタチの術で近づかせなければいい。1の星は射程距離が短いが、横と上には広く、発生が非常に早いから、射程距離に入ったのを見てからでも迎撃が間に合う。

 

 この本戦の開始距離は僅か2mだが、それでも間に合う発生速度だ。

 

 その攻撃を、奴は予想通りバックステップで距離を取って躱す。

 

「おいおい!

 このわたしから距離をとって殺り合えると、本気で思ってるのかい!?」

 

 奴は予選でもそうだったが、速さはないが素早さがある。要は回避がうまいのだ。恐らく、こちらが攻撃に入ったのを見てから足でチャクラを消費するまでの時間が極端に短い。だから、こちらを見ていれば射程距離の短い1の星なら回避されるとは思っていた。ただ、相手も私が遠距離戦に特化していることは分かっているのだ。なら、開始と同時に突撃してくる可能性もあると考えていた。1の星でもひと一人飛ばせるくらいの火力はあるからそれは成立しないのだがな。

 

「…………」

 

 私の挑発を無視し、やつは更に距離を取る。そこまで距離を取れば、1の星を構え続ける必要もないだろう。……もしくは、それが狙いか? 3の星、つまり扇子を最大まで開けば火力と射程が上がる代わりに発生速度が大きく落ちる。その瞬間に何らかの術で懐に入り込むとか。一番有りえるのは瞬身の術か。奴の素早さなら、こちらが扇子を開ききった瞬間、3の星を構える前に発動することも……ッ!

 

 私は奴が親指を噛んだ瞬間、思考を切り上げて扇子を全開で開く。

 

 間に合うか?

 

【カマイタチの術】

【口寄せの術】

 

 ポフン。

 

「チッ!」

 

 カマイタチの術が届く前に、奴の口寄せが成立したか。しかし、口寄せの直後にカマイタチが到達したはずだ。下手をすれば今の一撃で終わってもおかしくはな…………は?

 

「なんだそれは……」

「ナメクジよッ!」

 

 そんな事を聞いてるんじゃない。デカすぎるだろ! そのナメクジは観客席のある辺り、高さだけでも5m、全長に至っては10m以上はある。口寄せの術はそれ自体が中忍レベルの時空間忍術だが、呼び出す対象の強さなどによって難易度や消費するチャクラ量が増加する。別に大きければ強いとは限らないが、ここまで大きいとなると、消費するチャクラも相応のものになるはず。

 それに…………カマイタチを食らったはずのナメクジの顔部分が無傷なのも気になる。試してみるか。

 

【大カマイタチの術】

 

「なっ!」

「…………」

 

 扇子を振ると同時に奴がナメクジの背中で伏せた。それはいいが、大カマイタチが当たったはずのナメクジには一切傷がつかず、その部分のナメクジが分裂していた。しかも、分裂した小型のナメクジらが本体であろう巨大ナメクジに再び合流していく。

 

「これは……」

 

 恐らく、斬撃などのダメージを受けると、その分だけ分裂し、それが本体に合流することでダメージを0に抑えることが出来るのだろう。あの様子から火遁や雷遁に弱いと推測が立つが、私にはどちらも使えない。複数の属性を実践レベルで使えるのは上忍以上の一部とされているので使えない事自体を嘆くつもりはないが……コレは不味い。明らかに私対策の口寄せ動物だ。ナメクジらしくゆっくりとした動きだが、この試合会場がいくら広いと言ってもいつかは端に追い詰められる。

 

 大カマイタチの術は一応上忍クラスの風遁忍術。これでも奴まで術が届かないとなると…………後のことを考えてチャクラを温存、なんて言ってられないな。

 

「うん?」

 

 私は広げた扇子を地面に突き刺し、その影で親指を噛んだ。奴が訝しむが、私は扇子に血を擦り付け、扇子を持ち上げる。

 

「ッ!

 カツユ様!」

 

 血が見えたか。

 だが遅い!

 

【舌歯粘酸】

【口寄せ・斬り斬り舞】

 

 こちらの口寄せを止めるためだろう。あの巨大ナメクジが口から液体を吐き出した。

 

「まさか、それも印なしでッ!」

「それだけじゃないさ」

 

 呼び出したのは鎌を持ったイタチ、カマタリ。コイツは呼び出したその瞬間から周囲数百メールに渡ってカマイタチの斬撃を放ち始める。故に――

 

「くっ!」

 

 ――先にだしたその液体は届かない。

 

 奴が再び伏せたのか、ナメクジの影に入るが無駄だ。半径数百メートルを無差別に切り裂くこの口寄せからは逃れられん。まぁ、その分私のチャクラを膨大に消費するがな。

 

 観客席付近で暗部が結界張ったのが見えた。さすがに重役を守る木ノ葉の暗部は優秀か。

 

 切り裂かれたそばからナメクジが次々と分裂し、吹き飛び、会場中に飛び散っていく。空中に飛び散ったナメクジも、地に落ちたナメクジも、更に細切れに。…………それにしても、こいつら斬撃は完全にノーダメージか。暫くして、本体の巨大ナメクジ、カツユとか言ったか? が完全に分裂し、会場中に散らばりきった。

 

 これで奴まで障害はない。尤も、この術で死んでしまっているかもしれんがな。

 

「……………………いない?」

 

 もし地に伏せているならナメクジだらけで見えんか。仕方ない。一旦カマイタチの術で払うしか――

 

「ッ!」

 

 ――まさかッ!

 

「しゃーんなろー!」

 

 私は背後の気配に振り向き、扇子を振り始めるが、一瞬遅かった。

 

【桜花衝】

 

 私の腹に、もろにやつの拳が刺さる。そのまま会場の壁まで突き刺さり、体の感覚がなくなった。

 

「がはッ!」

「ふー」

 

 …………感覚が戻ってくるが、どうやら生きているようだ。やつの様子を見ると、額にさっきまでなかった入れ墨のようなものが浮かび上がっていた。

 

「な、ぜ」

「このカツユ様の本領は圧倒的な回復力。死にさえしなければ例え胴体が真っ二つになろうとも相応のチャクラと引き換えに傷一つなく回復する」

「そんな……」

 

 胴体がって、まさか臓器すら回復すると? なんて無茶苦茶な。

 

「それと、カツユ様はその体の中に人体を収納し、癒やすことが出来る」

 

 収納できるというのは最後に気づいた。背後からの気配は、私の背後に飛び散ったカツユとやらの一体からだったからだ。

 

 しかし、そのカツユはその後更に切り刻まれ、どう見てもひと一人入る大きさを保っていなかった。恐らく、中身のサクラごと一度真っ二つになり、その後でくっつけたのだろう。カマイタチはしばらくの間続いてたからな。それくらいの時間はあった。時間がかかったのは万が一、ナメクジの影に奴が隠れていないかが気になって出来る限りナメクジを細かく切り裂いたからだ。少なくとも人一人隠れることが出来ないだけの大きさに。

 

 まさか、術者本体が真っ二つになってからくっついて、しかもそのまま即戦闘できるなど夢にも思わなかったよ。

 

「私が、生きてるのは……」

「あー……私、この陰を開放した状態で全力を出すと、人が消し飛んじゃうのよねぇ」

 

 死の森で知ったことだけど、なんて奴は続けた。

 

「怖い、女だ」

 

「第一試合決着!

 勝者、春野サクラ!」

 

====================================

 

「サクラちゃん!

 あの口寄せすごかったってばよ!」

「でしょ」

「無事で良かった」

 

 あの斬り斬り舞がサクラの頭部に命中していたら、果たしてサクラは生き残れたかどうか。

 

「サスケくん……」

 

 サクラがそのまま俺に抱きついてくる。

 

「フン」

「私も、少し怖かった」

 

「くぅ~、俺も彼女がほしいってばよぉ」

 

=====================================

 

「ネジとシカマル、下へ!」

 

 あーめんどくせー。

 

「では、第二回戦」

 

 相手が日向一族のエリート中のエリート。この時点でめんどくせーっていうのに、この試合は相手との距離が2mから開始される。日向一族は体術特化で、一撃貰えばまず終わりだっつのに。

 あー、リタイヤしてぇ。

 

「はじめッ!」

 

 とはいっても、チョウジがあそこまで必死になって戦ったし? 俺もそれを煽ったし。本気にならねぇわけにはいかねぇよなぁ。

 

【白眼】

 

 ネジが開始と同時に突っ込んでくる。対する俺は――

 

「自爆狙いかッ!」

「さて、どうする?」

 

 ――クナイを投げつけただけだ。

 但し、その尻にはワイヤーが伸びて、その先には大量の起爆札が付いている。この距離で爆発すれば、ネジも俺も爆散するだろう数だ。

 

「愚かなッ!」

「ッ!?」

 

 ネジは距離を取ることなく、その場で構えを取った。俺はそれに構わず、全力で退避する。

 

【八卦掌回天】

【瞬身の術】

 

 俺が退避する間際で見たのは、ネジの全身から目で見えるレベルで大量のチャクラが放出されたとこまでだ。予定通り林に退避できた俺は結果を確認しつつ、罠を仕掛けていく。

 

「フンッ」

「まじかよ……」

 

 回避するならともかく、アレだけの起爆札を防げば多少の手傷は負わせられると期待したんだがな。まさか、アレを無傷で迎撃するか。

 

「逃げ足の早いやつだな」

 

 この一ヶ月はこの修業に時間を割いてたからな。体術特化相手なら、とにかく距離を取らなきゃ話になんねぇ。

 

「へっ!」

 

 仕掛けは大体終了。もうぜってぇこの林からでねぇ。

 

「待ち、か」

 

 なんとでも言え。日向ネジは完全に格上だ。開幕の自爆も、このガン待ちも、こっちが格下だからこそ打てる策。格下相手にこんな卑怯な真似をした日にゃ、奈良一族からすら非難の的だ。そんなめんどくせぇことになるくらいならリタイヤするね、俺は。

 

「さー、どうする?」

「いいだろう。

 乗ってやる」

 

 来たッ!

 

 やっぱ自信のある奴は違うな。

 

【影真似の術】

 

 本来は影がないところに距離制限付きで影を伸ばして、相手に引っ掛ける術だが、今回は地形が味方する。この林の影の中なら俺の移動する影がほぼ見えない上に、距離制限がない。影真似の術相手にこの中で戦うというだけで自殺行為だと言うのに、数多の罠を張ってこちらは万全の体勢。

 

 にも関わらず、ネジは正面からここに入って――

 

【八卦空掌】

 

「――がはッ!」

 

 印を組まない中距離忍術!?

 無茶苦茶しやがる!

 

 影真似の印を組んでいた俺には、透明な衝撃波を躱せなかった。

 

 俺が吹っ飛ばされると同時、用意していたポーチから道具が散らばり、俺が任意で起動できるよう手元に用意していた罠も暴発していく。

 

「自爆してでも、などという形でしか勝利を目指せないものに、天は味方しない」

 

 それらを全て紙一重で躱していくネジ。恐らく白眼で全てを確認していたのだろう。こちらとしても罠は所詮陽動。決め手は俺の影真似だったが、体勢を立て直すまでの数秒間、影真似の印が組めない。ネジはその数秒の間にケリを突けるつもりだッ!

 

「ぐッ!」

 

 立ち上がろうとする俺の腹部にキリキリとした痛みが走る。

 

「フン」

 

 まさか、さっきのアレも急所を狙った、てのか!?

 流石にアレで点穴を点かれてるなんてことはないが、明らかに内臓にダメージが入ってやがる。立てねぇ。

 

「くそっ!」

「無駄な演技だ」

 

 演技じゃねーよ!

 ネジは、自身に向かってきたクナイの一つを空中でキャッチ、そのまま前方の木に向かって投げ込む。

 

 サク。

 

 木に刺さる音と共に同時に、俺はその場で伏せ、轟音と爆風が吹き荒れた。

 

「結界法陣。起爆札による上忍クラスの結界忍術だったか。

 大したものだが、この白眼には通じない」

 

 結界法陣の起点となる起爆札にクナイを刺して起爆させたわけだ。

 

「無駄だ」

 

 そして、爆風に紛れて近づいていた影が躱された。

 

「ちっ」

「一度発動すれば印を組まずとも影は動く。

 それは予選で見たな」

 

 影真似の術は秘伝忍術ながら有名な術だ。ネジが対策を打ってくることも予想できたこと。そのための結界法陣もどき。ネジの対策にやられたフリして(実際に立ち上がれなかったが)、結界法陣もどきを見抜き、油断したネジに影真似の術を当てる算段だったが、アテが外れたな。

 

「ここまで段取りしても、だめか。

 冷静過ぎて嫌になるぜ」

「この眼は全てを見抜く。

 焦る必要など、ありはしない」

「へっ!

 言ってろ!」

 

 こちらの影真似を躱したことで、再び距離が開いた。そこで俺は木の陰で忍具を取り出す。こっちはさっきの一撃でろくに動けやしねぇ。

 つまり、これが最後だ。

 

「またそれか」

 

 俺が取り出したのは最初に使ったワイヤーと大量の起爆札が付いたクナイだ。それを木越しに白眼で確認したであろうネジが、俺に悠々と突っ込んでくる。

 距離がある状態で投げてもだめだ。投げる瞬間、中距離忍術で撃ち落とされれば俺だけが爆発に巻き込まれる。仮に撃ち落とされてもその瞬間、ネジと俺が両方爆散する距離で投げ込む必要がある。そのタイミングなら、ネジはさっきのくるくる回転する防御忍術で防ぐはずだ。

 

「今だッ!」

 

 そして、ネジは――

 

「無駄だ」

「――なっ!」

 

 ネジは防御忍術を使うこともなく、先程までの普通のクナイを避けるかのように紙一重で躱してそのまま突っ込んでくる。

 

=====================

 

 シカマルの驚く姿を見て、自身の考えが間違ってなかったことを確信した。

 

 シカマルが八卦空掌を受けた後、俺を結界法陣に誘い込むために焦った表情をしたのは演技だった。しかし、立ち上がれなかったのは演技ではない。俺は八卦空掌でシカマルの内臓にダメージが入ったのを白眼で確認している。だから、ここで投げるはずがないのだ。自身を巻き込む位置で起爆札が大量についたクナイなど。仮に俺が八卦掌回天をしていれば、その起爆札の爆発で、シカマルだけが死ぬ。内臓を痛めたシカマルは瞬身の術が使えない状態にあるからだ。

 なら、なぜこのタイミングで投げたのか。

 

 それはこの起爆札が偽物だからだ。

 

 小賢しい策である。しかし、コレに気づけなければ危なかった。なぜなら、この起爆札が偽物であるのなら、シカマルは八卦掌回天で足を止める俺から逃げる必要がなくなるのだ。

 であれば使える。

 そのタイミングで影真似の術が。

 

 最初の起爆札を付けたクナイは距離を取るためだけではない。このための伏線でもあったのだ。予選で砂の忍を手玉に取っていなければ、気づかなかったかもしれない。しかし、一ヶ月という準備期間でシカマルが相当深い策を練ってくるだろうことは分かっていた。

 

「終わりだ」

 

 ここでやはりシカマルの影が動き出す。だが、俺は八卦掌回天で無防備を晒しているわけではない。躱すのではまた距離が開く。ここは八卦空掌が正解だろう。一度発動した影真似の術が続いていると言っても、奴は影を伸ばしている間足が止まることに変わりはないのだ。それも印を組んで動かしているときよりも遅い。余裕で間に合う。

 

【八卦空しょ――

 

「ッ!?」

 

 ――背後で響く爆音と共に、俺の構えが崩される。

 

 何が、いやコレではッ!

 

「影真似の術、成功」

「なぜ……お前は」

「もう俺が動けないから、あの起爆札は偽物のはずってか?」

「ッ!」

「あの中に一枚だけ本物が混じってた。

 そんだけの話だ」

「…………」

 

 一枚だけなら、巻き込まれても死にはしない、と。いや、あの距離で一枚だけならむしろ八卦掌回天中に強引に影真似を使うことも可能だった?

 だとしたら――

 

「さて、どうする?」

 

 ――あの時点で既に詰んでいた、か。

 

==================================

 

「第ニ試合決着!

 勝者、奈良シカマル!」

 

「驚いたな」

「大分相性悪かったと思うんだけど」

「シカマルが勝ったってばよー!

 ザマーみろ!」

「お前、ネジのこと嫌ってたか?」

 

 この世界では誇り高き失敗者とは到底言えないナルトは、ヒナタに惚れられていない。結果、ヒナタは予選でネジに早期ギブアップしている。

 

「偉そうに運命運命ってヒナタをコケにして気に食わない奴だったってばよ」

「そうか」

 

 ちなみに、ヒナタが早期ギブアップして、我愛羅の相手もやるだけやってギブアップして、原作と違いスパイのやつが大蛇丸の件で予選突破していない都合上、あの予選で一番重症を負ったのはサクラの対戦相手のキバである。

 

「ねー」

「ん、ん?」

 

 そんな事を考えていたもんだから、少し返事に詰まった。

 

「今の試合、ネジの敗因はなんだったのかしら?」

「そりゃー、シカマルを嘗めて林に入ったことだってばよ!」

 

 ナルトが口を挟んでくる。

 

「それじゃー決着つかないでしょ」

「んじゃ引き分けだな!」

 

「いや、ネジなら十分林の中でもシカマルを仕留められた」

「実際には負けてるってば」

「敗因は、ネジが勝負を焦ったことだ」

「焦った?」

「影真似の術を維持し続け、大量の忍具を消費し続けてようやくネジと渡り合えるのがシカマルの現状だった」

「つまり、ネジはシカマルのチャクラ切れ、忍具切れを待つべきだったってこと?」

「卑怯だってばよ」

「そう。

 この卑怯な手を、ネジは選ばなかった。……選べなかったのかもしれんが」

「選べなかった?」

「ネジには白眼でシカマルの忍具も、影真似が発動する瞬間も、影真似を維持してチャクラを消費し続けてることも、最後にシカマルが動けなかったことすら、見えていた。

 すべてを見通していたと思い込んだからこそ、今すぐ決着をつけに行くその一手が、当然の一手に見えてしまったんだろう」

「……でも、実際には」

「そう。

 実際には起爆札が偽物かどうか、白眼で見切れない以上最後の一手は読みでしかない。危うい一手で、あのタイミングだけがシカマル唯一の勝機だった」

 

 サクラが息を呑む。

 気づいたのだろう。

 シカマルが行った全ての策はネジにすべてを見通しているかのような錯覚を与えるための伏線。たった一回。たった一度だけネジに危うい一手を打たせて、そこを突くのがシカマルの真の狙い。

 

「全てはシカマルの手の平の上だったってことだな」

「すごい……」

「ウンウン!」

「ナルト、あんた分かってんの?」

「つまり、ネジがシカマルを嘗めてたってことだってばよ!」

「…………そうね。

 そうなるわね」

 

 釈然としない表情でサクラが勝ち誇ったナルトを睨んでいた。

 



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第11話 中忍試験本戦 第三試合~

「ロック・リー、うちはサスケ、下へ!」

 

 サクラの試合も、シカマルの試合も凄かった。ここに集まっている観客はある程度目が肥えているのでサクラやテマリがどれだけ下忍離れした忍術を使っていたか分かるし、シカマルがどれだけ緻密な策を立てていたかも、ネジがそのほぼすべてを見破り、対処してみせた凄さも理解しているはず。

 

 うちは一族最後の生き残りはこれ以上にすごい試合になる、なんて期待されてる事を思うと、胃が痛いな。

 

「君とやるのは二度目ですね」

「そうだったな」

 

 中忍試験第一試験前に一戦挑まれて、完封してやった奴だ。もちろん、リーは八門遁甲を開く前に、ガイに止められている。

 

「あの時止められた技、お見せしましょう」

「ああ、楽しみだ」

 

 頑張れよ、ロック・リー。写輪眼で幻術に掛ければ即終わるだろうが、そんな事をすればブーイングの嵐間違いなしだ。うちはの復興のためにも、ここで目立っておきたいし。体術だから若干地味だが、八門遁甲の存在を知る者にとってはリーの凄さが理解できるはずだ。

 

 そして、それを正面から破れば、うちはサスケの名も轟くことだろう。 

 

「では、始めッ!」

 

【永遠の万華鏡写輪眼】

 

 リーは手に巻いた包帯を僅かに外し、両腕を交差させる。

 

「待ってくれるんですね」

「……この試合は、火影達に自分の力をアピールする場だ。

 お前が全力を出せないと、俺が困る」

「……それで無様に負けたら、元も子もないでしょう」

「ハッ!」

「…………」

「一度目と同じだ。

 お前は俺に傷一つ付けられねぇよ」

「言いましたね。

 後悔させてあげましょう!」

 

【開門・開】

【雷遁・チャクラモード】

 

 俺の体を、雷が包む。

 

「ッ!」

「さぁ、来い」

「行きますッ!」

 

 どこかで見たような、体勢を崩すための軽い掌打。しかし、速度はこの前よりずっと早い。開門を開けるだけでここまで変わるか。

 

 だが、対応はこの前より圧倒的に楽だった。

 

「なぁッ!」

 

 リーがこちらの軽い掌打を、腹に受けて吹き飛んだ。

 なんてことはない、ただのカウンター。但し、最初に出会ったリーの木ノ葉旋風をカウンターで合わせたのとはわけが違う。カウンターを警戒した上で、なんの抵抗もできずにリーはカウンターを受けたのだ。

 

 それが指し示すのはつまり――

 

「最初に僕と戦ったときは、そちらも本気じゃなかったということですか」

「フン」

 

 ――俺とリーの間に圧倒的な速度差があるということだ。

 

 その認識は間違いである。体術だけという縛りなら十分本気だった。この忍体術、雷遁・チャクラモードはあの時点では使えなかったからな。大蛇丸から得た忍術のデータを元に、穢土転生で得たチャクラによる際限のない影分身修行で習得したのがこの雷遁・チャクラモードである。

 

「しかも、今の一撃すら手加減しましたね」

「言っただろう?

 全力でなければ俺が困ると」

「ッ!」

 

【休門・開】

 

 また向かってくるが、

 

「遅い」

 

 やはりカウンターで軽く蹴飛ばす。

 

「くっ」

 

【生門・開】

 

 それなりに早くなったな。

 だが、

 

「まだ遅い」

「ぐぁ!」

 

 再び掌打。

 

【傷門・開】

 

「ウァァァァァ!」

「…………」

 

 八門遁甲は体を流れるチャクラの量に制限を掛ける八門を開けることで何十倍もの力を引き出す術だ。そして、開ければ開けるたびに体に掛かる負担は増していく。傷門を開けば、体中で内出血が起こり、体が真っ赤に染まる。

 

 次の動きは、流石に早かった。 

 

「ぐッ!」

「ようやくだな」

 

 俺はリーの掌打を迎撃したが、カウンターでぶっ飛ばす程の余裕はなかった。

 

 写輪眼か雷遁・チャクラモード、どちらも無ければ視界にすら映らなかっただろう速度だ。まぁ、どちらか一方でもあれば見える程度ということだが。雷遁・チャクラモードは身体能力だけでなく、反射神経も強化するからな。

 

「ウォぉぉぉ!」

「フン」

 

 蹴り、掌打、移動、あらゆる手を使って崩そうとしてくるが、単純な練度でこちらが上回っている上に、写輪眼と雷遁による反射神経強化で、常にこちらの技は後出しで成立している。

 故に崩されたのは、

 

「くっ!」

「吹っ飛べ」

 

 リーの方だった。

 

 軽い掌打で壁際まで転がったリーは、

 

「これで最後です!」

 

【杜門・開】

 

「フン」

 

 このままでも、勝つことは容易だ。

 しかし、この方が楽しいだろう。

 

「ッ!?」

 

 俺は、雷遁・チャクラモードに全力でチャクラを注いだ。

 それこそ、尾獣並のチャクラを。

 

 それでもリーは正面から、全力の正拳を突き出す。恐らく杜門を開くと、まともな体術の打ち合いなどはできなくなるのだろう。拳を引き絞る際、筋肉が切れる音が聞こえた。言葉通り、これが最後の一撃だ。

 

 そして、それを俺は――

 

「そんな……馬鹿なことがッ!?」

 

 ――真正面から体で受けた。

 

「お前の攻撃なんて、防ぐ必要すらない」

 

 絶望するリーを、優しく蹴り飛ばし、壁面に叩きつけた。

 

「ァ…………」

 

 雷遁チャクラモードは最硬の鎧にもなる。防ぐ必要がないどころか尾獣並みのチャクラを注いで防いでいるのだが、見た目的にはそれっぽいだろう。

 

「が、ガイ先生……ぼくは」

 

「第三試合決着!

 勝者、うちはサスケッ!」

 

===============================

 

 観客席に戻ると、ナルトとサクラがリーについて話していた。

 

「アレ、ネジより強くなかった?」

 

 アレ呼ばわりか。原作では助けられることでリーさんと敬っていたが、こっちではただ俺にボコられてるだけだからな。

 

「ああ。

 前の俺だったらやられてたかもしれないってばよ……」

「へぇー。

 アンタ、アレに勝てるんだ」

 

 サクラが感心したようにうなずく。

 サクラはあくまで医療忍者だ。強くある必要はないのだが、リーに当たっていれば勝つのは相当厳しかっただろう。目があるとすればなんとかカツユを口寄せて、カツユの中で戦闘を全てカツユに任せるくらいか。サクラは単体で戦う際一番相性不利なのが純粋に体術、速度でサクラを上回っているような相手だろうな。リーに怪力が当たるようなことはまずないだろうから。…………創造再生を使えばまた別の話だが。

 

「へへん!

 俺だってこの一ヶ月でエロ仙人にすげー術教えてもらったんだってばよ!

 もしかしたらサスケにだって勝っちゃうかもなっ!」

「アレ見た後でよくそんな事言えるわね…………エロ仙人?」

「俺に何だって?」

「あ、サスケ!」

「……サスケくん、最後のアレは心臓に悪いわよ?」

「すまんすまん」

「サスケ…………最近サクラちゃんの尻に敷かれてる気がするってばよ」

 

 サクラの言うことも正論だしなぁ。最後の演出は必要なかったといえば間違いないし。

 

「ナルト、我愛羅、下へ!」

 

「馬鹿言ってないで、さっさと行きなさい。

 アンタの番よ」

「待ちくたびれたってばよっ!」

 

 ナルトは控室から入場用の通路を通らず、観客席から飛び降りていった。

 

=================================

 

「ククク」

 

 我愛羅が攻撃的な笑みを浮かべて、というか若干声に出して笑いながら、ナルトを見ていた。

 

「気色悪いってばよ……」

「…………」

 

 我愛羅の笑みが怒りの笑みに変わった気がする。

 

「ナルトのやつ、早速挑発してるわね!」

「ただの素だと思うが」

 

 サクラのテンションが高い。我愛羅とナルトの試合はサクラも楽しみにしていたらしい。

 

「では、始めッ!」

 

【九喇嘛モード】 

 

 始まると同時、ナルトが黄色いチャクラを身にまとう。

 

「なに、あれ?

 尾獣化?」

「チャクラは確かに九尾のものだが、四本目より更にチャクラが濃いな」

 

 尻尾は出てない。しかし、チャクラの量が圧倒的だ。

 

「行くってばよッ!」

「来い」

 

 その瞬間、ナルトの姿が消える。

 

「リーの比じゃないな」

 

「ぐっ!」

 

 砂のガードが一瞬も反応できず、我愛羅が壁まで吹っ飛んだ。

 瞬身の術の一種だろうが、速すぎる。万華鏡と雷遁・チャクラモード、両方なければ俺でも戦いにすらならんな。両方あれば十分やり合えるが。

 

「あれがナルトの新術……」

「だろうな。

 九尾のチャクラが、ナルトの体に負荷を掛けていない」

「完璧にモノにしたってことね」

 

 すると我愛羅が壁際で自身を中心とした砂の球体を作り始める。

 

「ん?」

 

 ナルトがそれ見て、訝しむ。

 いや、

 

「子 申 任 子 卯……」

 

 それを聞いて訝しんだ。

 こちらまでは聞こえていないが、原作知識だ。

 

「なにかしようってんだな?

 待ってやるってばよッ!」

 

 ナルトは九喇嘛モードを解除して、座り込み始めた。

 

「ナルト……あれって、サスケくんのマネかしら」

「あー」

 

 なるほど。リーが八門を開くまで待ったから、自分も我愛羅が術を完成させるまで待ってやると。

 

「それにしても、一度解除するってことはあの尾獣化もなにかリスクが有るのかしら?」

「単純に莫大なチャクラを消費するってだけだろう」

「あ、そっか。

 四本目以上のチャクラなんだもんね」

 

 仙術があればまだマシだろうが、ナルトはまだ覚えていないだろう。多分。

 

「サスケくんは、あの砂の球体の中でアイツが何をやってるか分かる?」

「恐らく……尾獣化だろう」

「へぇ…………え?

 …………え?」

 

 サクラが二度驚いた。

 

「あ、アイツも人柱力なの!?」

「だな」

「広いって言っても尾獣同士が殺り合えるような場所じゃ……。

 そもそもここは里の中心部よッ!?

 砂の里は何を考えて……」

 

 それを言うなら木ノ葉もヤバイ。九尾の人柱力を里の中心部で戦わせてるんだからな。お互い様だろう。もっとも、被害をうけるのは木ノ葉だけだが。

 

「安心しろ」

「さ、サスケくん!」

「飛雷神の術で逃げる準備は整っている」

「止めなさいよ!?」

「あー、ちゃんと俺と関係を持っている人たちの避難も済んでいるから止める必要はない」

「こうなること分かってたわね!?

 しゃーんなろー!」

 

 サクラが何やら叫んでいるが、怪獣大決戦、楽しみじゃないか。

 

 暫くして、それは起きた。

 

「羽?

 …………幻術!」

 

【解】

【魔幻・鏡天地転】

 

「来たな」

「どういうこと!?」

「砂の里と音の里が戦争を仕掛けてきたってことだ」

「は!?」

 

 その瞬間、ポフンという音共にバカでかい砂の化物が現れる。

 

「あれは!」

「よーやく終わったな?

 じゃ、行くってばよッ!」

 

【九喇嘛モード】

 

「なに、あれ……」

「あれこそが、ナルトの中の九尾だ」

 

 砂のバカでかい狸の前に、狐の化物が現れた。但し、砂の狸、守鶴と違い、完全な実体ではない。チャクラで出来た真っ黄色な九尾だ。その頭の中には九喇嘛モードのナルトが仁王立ちしている。

 

【尾獣玉】

 

「ちょっ!

 そんなバカでかい尾獣玉使ったらッ!」

「退避だな」

 

【飛雷神の術】

 

 今回は一人で発動した。この術の開発者、二代目火影の穢土転生体から吸魂の術で知識を奪っているからな。この一ヶ月の影分身修行でモノにした。

 

「ここは?」

 

 一緒に連れてきたサクラが辺りを見渡す。

 

「俺たちに戦争を仕掛けてきた砂の里、その少し手前の砂丘の頂上だ」

「なんでそんな所に…………え?

 サスケくん、まさか……」

 

 察しが良いな。

 

「あぁ、ちょっと行ってくる」 

 

【飛雷神の術】

 

 こんな見晴らしがいい場所を確保できたのも、里の中心部まで影分身が忍び込めたのも、全てテマリの記憶のお陰だった。

 

「いい眺めだ」

 

 里の中心部の塔。その頂上まで転移した。そこからの見晴らしは悪くなかった。五大国、それぞれ一つの里にいる忍の数は約1万人程度。一つの国に1億以上の人達が暮らしていることを考えれば国の軍事力そのものである忍の数はそう多くない。

 つまるところ、この里一つ潰せば砂の里はほぼ終わりだ。

 

【輪廻眼】

 

「楽しいな」

 

 無限にチャクラを供給できる穢土転生体から、蓄えに蓄えた膨大なチャクラを出来る限り注いだ最大火力だ。

 

【神羅天征】 

 

「全力で力を振るえるというのは、本当に楽しい」

 

 音は聞こえなかった。

 俺を中心として何者にも阻めない、全てを押し流す衝撃波が広がる。

 悲鳴も、血も、何もかもが押し出されていく。

 力の出発点である俺には何も聞こえない。人を殺した感覚も、物を壊す感覚もない。しかし、里を滅ぼす快感は流れ込んできた。

 

「爽快だな」

 

 そこには何も残らなかった。

 砂の里らしく、クレーターのように凹んだ砂だけが広がっている。そこに里があった痕跡すら残っていない。

 

【飛雷神の術】

 

「どうだった?」

「…………すごかった」

 

 放心状態のサクラを見て、もう少し放っておきたい感はあるが、まだお楽しみが残ってるしなぁ。

 

「次に行くぞ」

 

 そう言って俺はサクラの肩に手を置く。

 

「……うん」

 

【飛雷神の術】

 

「ここは、地下?」

 

 窓の無い部屋を見てそう思ったのだろう。

 正解だ。

 

「波の国にある屋敷の地下だな」

「は?

 波の国?」

「橋作りの護衛任務を受けた際、本体である俺は用があるから出かけるとお前には伝えていたはずだ」

「…………女の子引っ掛けてただけじゃないんだ」

 

 木ノ葉の里で引っ掛けた女の子達は大体この屋敷に飛雷神の術で転移させてある。中忍試験本戦前日にな。

 俺は穢土転生体であるドスとザクを呼ぶ。

 

「コイツら、大蛇丸に穢土転生体にされた……誰を生贄にしたの?」

「死の森にいた他国の受験者だな」

「いつの間に…………はぁ。

 木ノ葉の里の人間を生贄にされるよりいいけど。

 で、こいつらをどうするの?」

「コイツらはチャクラ回復用だ」

 

【封術吸引】

 

「なるほど。

 サスケくんでも里一つ潰す術を使えば、チャクラも切れるのね」

「まぁな」

 

 輪廻眼で限界までチャクラを溜め込んだ俺のチャクラがほぼ空になるほど注ぎ込んだ神羅天征だ。恐らく原作ペインの神羅天征より火力は高かっただろうし、正確にはもう少し緩めても里は潰せただろうな。

 楽しいから全力を出したが。

 

「これからどうするの?」

「木ノ葉に攻め込んだ砂の忍は約100名。そいつらと戦りにいく」

「……サスケくんって本体修行せずに殆ど遊んでるとこしか見ないけど、戦うの好きよねぇ」

「修行はつまらんが、戦うのは楽しいだろ?」

「勝つのが、でしょ?」

「負けたら終わりだしな」

「…………そういえば、そうなのよね」

 

 若干しんみりしだした。

 これで行くな、なんて言われたら困るな。

 

「俺は負けんよ」

「そりゃ、あれだけ強けりゃね」

「ははは」

 

 そこは心配じゃないんだな。

 

「但し、怪我したらすぐに戻ってきてね?」

「ああ」

 



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第12話 終戦

 暫くして、チャクラが溜まったので木ノ葉の里へ移動する。

 

【雷遁・チャクラモード】

【飛雷神の術】

 

==============================

 

「ここはまだ無事だったか」

 

 俺の屋敷に付けられたマーキングは無事だったらしい。木ノ葉の里には中と周囲にマーキングが大量につけれているからな。もしこの後すぐ、屋敷の外から攻撃が飛んできたとしても、雷遁・チャクラモードを纏っているから殺られることはない。

 

 そのまま即外に出て、

 

【完成体・スサノオ】

 

 更に防御を固める。雷遁・チャクラモードは解除。両方同時に使い続けるのは流石に無駄が多いよな。

 

「ウガァァァァ!」

 

 ん?

 叫んでる方を見ると、ナルトが九尾のバカでかいチャクラ体で大蛇を相手に無双していた。楽しそうだ。

 

「んじゃ俺は」

 

 里の外縁部に目を向ける。

 

「こっちの百人を殺ろうか」

 

 この里に攻めてきた砂の忍は僅かに100人。たった100人で数千人の忍がいる里に攻め込むなぞ、絶望的な話に聞こえるが、実際にはそんなではない。

 

 まず、攻めてきた忍は全員が中忍以上である。

 

 中忍以上の忍が一国に何人いるか考えてみると、中忍試験が半年に一度で、本戦に出場できる忍は10人前後のみ。仮にそのうち5人が中忍になれるとしよう。その内2人が砂の忍だとすると、一年で4人の中忍が誕生することになるわけだ。すると50年で200人の中忍が生まれることになる。

 

 そう、砂の国は中忍以上の忍、その半数をこの戦争に投入しているわけだ。

 

 なお、残った中忍以上の忍は里を守っていただろうから、こいつらを殲滅すれば砂の忍は完全に滅ぶ。多少任務で外に出ている忍もいるだろうが。

 

 逆に言えば里の中核となる忍はまだ半数も残っているから、こいつらが帰還してしまえば砂の里は再興してしまう可能性がある。

 

「ッ!」

 

 俺が空から飛んでいくと、敵味方の動きが止まった。そりゃこんなバカでかい天狗が飛んでいれば目を引くわな。スサノオについては中忍試験の予選で見せてるから、木ノ葉の忍が間違って攻撃することはないだろう。この戦闘で指揮官の一人っぽいイビキは間違いなく知っているはず。 

 

【スサノオ迦具土】

 

 ここは木ノ葉の里の外縁部だ。黒炎の弓矢を使っても、後で消しておけば木ノ葉に被害は出ないだろう。

 

「ッ!」

 

 俺が弓矢で砂の忍に狙いをつけると、何人かの忍が印を組み始める。印を見切る限り、あれは土遁・土流壁の術だな。戦争だと複数人で使うって選択肢があるのか。この矢も逸らされる可能性があるな。かといって、直接天照を撃つのは100人相手では眼の負担が大きすぎる。

 なら――

 

【飛雷神の術】

 

「はッ!?」

 

 ――背後から発射すればいい。

 

「あっ…………」

 

 外縁部の林の中にも大量にマーキングが施されてるからな。土流壁作るために印を結んでいたやつが2人貫かれていった。この瞬間、敵も味方も驚いて固まっている。

 

 流石にこの巨体が消えれば、もとい転移すれば驚く。

 しかもその弓矢の速度は見てから回避することすら困難な速度だ。それを不意打ちで喰らえば、何が起こったかも分からないだろう。

 

「総員円陣を組めッ!」

 

 ん?

 そんなことをすれば的だろうに。

 

 二発目の矢を番えると、

 

【土流壁の術】

 

「地面の下から来るぞッ!

 注意しろ!」

 

 イビキが里の門の上から叫ぶ。

 なるほど。土遁、土竜隠れの術を使うまでの時間稼ぎか。これに矢を放てば、中身がいない上に土煙が上がって味方の邪魔になりそうだな。木ノ葉の対応が早かった辺り、一度このパターンでやられたのかもしれん。ということはこの警告、俺に言ってるのか。 

 警告に従って、林の中から空に上るのも手だが――

 

「それは癪だよなぁ」

 

 ――俺はむしろスサノオの膝を地に付ける。

 

【仙術モード・蛇】

 

 蓄えた大量のチャクラに物をいわせて一瞬で仙術モードを発動させた。これはこの一ヶ月で龍地洞に行って習得したものだ。変化する容姿は目元が紫に隈取られるだけ。これが原作ナルトと同じく完全な仙人モードだ。蛇と蛙で能力の違いは大きいが。

 

 スサノオに印を組ませる。

 

【完成体・仙人スサノオ・仙法・無機転生】

 

「あ、アァァァ!」

「そんなッ!?」

 

 土の中から、悲鳴が生じた。

 

 仙法・無機転生とは無機物に命を与え、支配下に置く術だ。それをスサノオに使わせれば、広大な大地が俺の手下となる。つまり、土の中に入った忍は大地と言う名の怪物の腹の中に入ったも同義。土の槍ならぬ土の歯で咀嚼され、食い殺される。

 

「くそッ!」

 

 速いな。既に俺の無機転生の範囲外に出ていた十人ほどの忍が外に出てくる。恐らくあれは土遁・土竜隠れでなく、それより速度が早い土遁・土中潜航だな。一度外側に回って、土の中から奇襲する算段だったのだろうが、リスクが高いと踏んで地表で戦うことを選んだか。

 

【風遁・大カマイタチの術】

 

 ついでに土流壁で視界を遮った瞬間何らかの方法で外に出ていたであろう五人程が外から風遁忍術をカマして来た。そういえば原作テマリも消える程速い瞬身の術みたいなのを使ってたな。あの扇子を使った風遁忍術の一種なのかもしれん。

 

「それなりに残ったか」

 

 恐らく残ったのは全員上忍クラスだろう。

 

 俺の無機転生で殺せたのは80人程度ということか…………仙術のお披露目としては十分だな。

 

「土の外に出てきたなら、また矢で撃ち抜く方針もなしでは無いが……」

 

 やはりあの弓矢は一度撃つのに時間がかかりすぎる。強い割に天照のように負荷がかかるデメリットもなく、重宝しているのだが、多人数戦には向かないな。対策を取られてしまう。

 なら、

 

【炎遁・迦具土の剣】

【完成体・仙人スサノオ・仙法・隠遁・チャクラモード】

 

 紫色の雷がスサノオを覆う。雷遁・チャクラモードの仙法バージョンをスサノオに行使させたのだ。ただ、ガンガンチャクラが減っていくな。

 

【仙法スサノオ・二刀の舞】

 

「消えッ…………ぇ」

 

 少なくとも先の無機転生の範囲外になる程度には遠くにいた忍から見ても、消えたように見えるくらいには速く動けたようだ。今回は飛雷神で一度視線から外れるようなことはしていない。単純に速く動いただけだ。それだけで残った十人の内五人が切り裂かれてその命を散らした。

 

【土遁・土流槍】

 

「逃げろッ!」

 

 一人が土流槍でスサノオの方足を全力で片側から貫かんとする。どうやら最悪でも体勢を崩したかったらしい。確かに質量の塊である土流槍で、体の大きいスサノオのバランスを膝カックンの要領で崩しに来るのは悪くない。実際超倍加したチョウジに力負けしたからなぁ。このスサノオは殴り倒すようなタイプじゃないし。

 しかし、雷遁・チャクラモードの上位互換を身に纏っているこの間は別だ。

 

「なッ!?」

 

 ある程度自信があったようだが、無意味だな。こちらが体勢を崩さなかったので、土中潜航で高速退避しようとしていた無防備な忍4名を軽く切り裂き、左手の剣を消す。

 

「そんな……」

 

 自分の指示で仲間が全員死んだ事がショックだったのだろう。茫然自失なコイツをスサノオの左手で握り込む。

 

「うっ」

 

【幻術・写輪眼】

 

 こいつを捕虜にし、そういえば風遁の忍が5名残ってたなと振り返ると、そこも既に終わっていた。

 

「大人しくしろ。投降すれば、捕虜の扱いは協定に則って取り扱う」

 

 協定?

 そういえば初代火影が結んだんだったか? いや、砂との同盟後の話か? その辺は良く分からんが、

 

「可愛いな」

 

 扇子を使う風遁部隊はよく見ると可愛かった。欲しいが、流石に貰えんよな……。いや、砂の里がなくなればワンチャンス……

 

「サスケ、助かった」

「イビキか」

「ッ!

 その目元……」

「あぁ、仙人モードだ」

 

 イビキが何やらビビっていた。そういえば大蛇丸の眼が怖いとかなんとか言ってたな。今の俺の目元も大蛇丸と同じ紫色に隈取られているから大蛇丸の眼を思い出すのだろう。

 

「捕虜や死体の扱いに希望はあるか?」

「?

 …………貰えるなら捕虜も死体も欲しいが」

「やはり、か」

 

 何がやはりだ。

 イビキは俺を大蛇丸か何かと勘違いしてないか?

 いや、使い道は穢土転生だからあながち間違っているとも言えんが。あー、でもカブト辺りを殺して穢土転生して、俺の手下として研究してくれるって言うなら死体を集めるのもありだな。うちは再興にも役立つかもしれんし。

 

「できるのか?」

「俺の一存では無理だ。

 が、上にはお前の功績と希望を届けておく。

 それとな」

「ん?」

「味方の死体を使うのは規則に反する。気をつけろよ」

「あ、ああ」

 

 そこまで釘を差さなくともいいだろ…………スパイの死体はノーカウントだよな?

 

「で、これからお前はどうする?」

 

 指示を出すわけじゃないのは助かるな。下忍の俺が特別上忍の、しかもここの指揮を任されているイビキに逆らうのは得策じゃない。……邪魔なら幻術で処理するだけだが。

 

「班員と合流しつつ、火影様のいる中忍試験本選会場に向かう」

「……そうだな。

 大蛇丸を一度倒したお前なら、火影様の助けにもなるだろう」

 

 イビキは続けて、俺達は里の内部に残った敵を駆逐すると言って見張りを残し、散っていった。

 俺も隠遁チャクラモードは解除して、無双していたナルトのところに向かう。

 

 ・

 ・・

 

「サスケ!

 …………また気持ち悪い模様が増えてるってばよ」

「ナルト、あれからどうなった?」

「我愛羅はぶっ飛ばしたってばよ!」

 

 ナルトは我愛羅を尾獣玉でぶっ飛ばし、頭にくっついてた我愛羅本体を螺旋丸でぶっ飛ばして気絶させた後、カカシの指示で大蛇の方を駆逐していたらしい。今は大きな大蛇は全て殲滅したので、高さが人間程度の蛇と残った音忍を殲滅しているところだとか。

 

「会場に大蛇丸は来なかったか?」

「いなかったってばよ」

「風影はどうした?」

「確か、三代目のじーちゃんと殺りあってたってば」

 

 そいつが大蛇丸じゃないのか?

 いや、大蛇丸を一度殺したことで風影暗殺がなくなった?

 

「俺は火影の所を見に――」

 

「な、なんだッ!

 死体が!」

 

「――ん?」

 

 声が上がったほうを見ると、どうやらナルトが倒した音忍が起き上がったようだ。我愛羅も気絶させただけだったようだし、殺してなかったのか?

 

「いやいや、螺旋丸で腹が吹っ飛んでんだぞッ?

 サクラちゃんでもないんだから、起き上がれるはずが」

 

 なにげに酷いな。

 

「く、口からッ!?」

 

 口からその音人が現れた。大蛇丸式変わり身の術か。音の里にも上忍か、それ以上の力を持つモブ忍者がいたのか……ん?

 

「あの眼の周り、サスケにそっくりだってば」

「俺にと言うか大蛇丸にだな」

 

 大蛇丸の転生体がここに?

 そう思った瞬間、

 

「油断するなッ!

 これは大蛇丸だ!」

「こっちにも居るぞ!

 大蛇丸だ!」

「コイツ、化けていやがった、大蛇丸じゃねぇか!?」

 

 えぇ。

 俺は写輪眼でチャクラを確認してみるが、確かに大蛇丸のチャクラが見られる。しかし、質は同じでも量は違う。仙術は発動しているし、白蛇の回復力も持っているかもしれんが確かに大蛇丸本体と比べるとその力は雲泥の差だ。

 

「な、なんだってばよ?」

「恐らく、大蛇丸の細胞を音忍に埋め込みやがったな」

「は?」

「つまり、大蛇丸の一部に体を乗っ取られたってことだ」

「じゃ、アレ全部大蛇丸なのかってばよッ!」

「だが、本体よりは遥かに弱い」

「なら」

 

 九喇嘛モードのナルトがチャクラの手を二つ生やし、自身の手に持っていく。

 

【螺旋丸】

 

 次の瞬間、俺の雷遁チャクラモード並の速度で相手の頭に螺旋丸を叩きつけた。頭部が文字通りえぐり取られるが――

 

「げぇ」

 

 ――ただの穴になった首から下半身蛇のそいつが現れる。

 

 気持ち悪動きで地這いずり、ナルトに首を伸ばした。

 

「噛みつかれるのはゴメンだってばよッ!」

 

 再び瞬身の如き速さで建物の上に退避し、

 

【尾獣玉】

 

 先程の螺旋丸の要領で手元に小さな尾獣玉を作り出してみせた。

 

「消し飛べってばよッ!」

 

 頭から下半身まで、触れたら消し飛ぶ程の超高密度のチャクラの塊、尾獣玉で文字通り消し飛ばしてみせた。その場で爆発させず、手の平に留めて触れれば消し飛ばす武器のように使ったのか。器用だな。練習したのか?

 

 多少破片は残っているが、

 

「これなら復活しないようだな」

「みたいだってばよッ!」

 

「あ、あぁァァァ!」

「うん?」

 

 悲鳴を上げた忍は木ノ葉の下忍だ。と言っても子供という年齢でもないが。先に言ったとおり大国にいる忍の大半は下忍だからな。そいつは量産型大蛇丸に肩を噛まれたようだが、その際、大蛇丸の仙術チャクラを流し込まれたらしい。見たこと無い呪印が浮かび上がっていた。そして――

 

「は?」

 

 ――そいつの体に白く、蛇のような鱗が浮かび上がると、瞬く間に体を覆い尽くした。

 

 さっきまでの音忍とは見た目こそ違うが、そのチャクラは明らかに大蛇丸の物で、名付けるなら簡易版量産型大蛇丸といったところか。ついでに先程浮かび上がった呪印が体を覆っていく。

 

「あ、アレってば感染するのかッ!?」

 

 病気かよ。

 

「仙術チャクラで大蛇丸の意識を、大蛇丸の細胞で肉体を大蛇丸の物にできるなら、噛まれると不味いな」

「さっさと倒さねーと不味いってば!」

 

 あの簡易型も感染させられるのだとしたら、下手したら感染爆発、パンデミックが起こるな。…………俺にも大蛇丸の知識と仙術があるのだから、研究すれば量産型うちはサスケを作ることが出来るのか。世界中をうちはサスケで埋め尽くせば、それはうちはが復興したことに――

 

「――ならねぇよ」

「ん?」

「いや、なんでもない」

「んじゃ俺は感染したやつを全部倒してくるってばよッ!」

「あぁ」

 

 そういって、大蛇丸化した元木ノ葉の下忍を未だに維持していた尾獣玉で削り取っていくナルト。そうやって使うならチャクラの消費も少なくて済みそうだな。ついでに言えば呪印があろうがなかろうが、今のナルトにとっては誤差らしい。簡易型のほうが強そうな見た目しているが、差がわからんな。

 

【多重影分身の術】

 

「まとめて倒してやるってばよーッ!」

 

 俺は予定通り、中忍試験会場に向かった。

 

=========================

 

 そこは既に終わりかけていた。

 

 木ノ葉の勝利で。

 

「ウォォォォ!」

 

 マイト・ガイが4代目風影の穢土転生を倒したところのようだ。

 

「まずは操作を解く。

 中の呪印札を」

 

 続けてカカシが穢土転生の解除を試みようとしていたので、

 

「その必要はない」

「ッ!」

 

 俺が割り込み、体が爆散した四代目風影の穢土転生に、スサノオの手を当てる。

 

【仙術スサノオ・吸魂の術】

 

「その眼が輪廻眼。

 大蛇丸を殺した術か」

「そうだ。

 状況はどうなっている?」

 

 会場には風影の穢土転生しかいないように見える。原作でここにいた音忍は木ノ葉の里中に量産型大蛇丸化して散らばっているとして、我愛羅やその担当上忍、バキは?

 

「風影は大蛇丸の細胞を取り込んだカブトが化けていた。本物は既に殺されていて、穢土転生体になった四代目風影を見たバキ達はナルトが倒した我愛羅を連れて逃げたよ。

 今カブトは三代目火影様とあそこで――」

「どうやら決着が着いたようだな」

「ッ!」

 

 ガイがそう言うと、四紫炎陣が解ける。

 

 中から出てきたのは変形した瓦に心臓を貫かれた三代目と、外傷が無いのに倒れている真っ白な蛇の鱗に覆われたカブトだった。

 

【永遠の万華鏡写輪眼】

 

「三代目の腹にチャクラの塊があるな。

 屍鬼封尽か」

「ということはッ!」

「逃がすな……お、え」

 

 そう言って、ガイが倒れる。七門を開けた副作用だろう。全身の筋肉断裂でしばらくは動けまい。

 

【仙人スサノオ・仙法・隠遁・チャクラモード】 

 

 四紫炎陣を作っていた四人衆がカブトの亡骸を持って逃亡しようとしていた。もちろん、逃さん。

 

「ッ!

 来るぜよ!」

 

【阿・吽・口寄せ・羅生門】

 

 回り込んでも良かったが、羅生門には種類がある。コイツみたいに大きさが10m程しかないのもあれば、100mに届くものも。そして、この程度の大きさと強度なら壁にもならん。

 

【炎遁・迦具土の剣】

【仙法スサノオ・二刀の舞】 

 

「馬鹿なッ!?」

 

 羅生門が何の抵抗もなく切り裂かれ、その先にいた4人衆を切り裂いた。ついでに、羅生門の影で見えづらくなっているのをいいことに、そいつらの死体の一部を巻物に封じていく。

 

【封入の術】

 

 四紫炎陣の結界を張れる駒は貴重だ。後で穢土転生しておこう。

 

「火影様…………」

 

 後は、火影の死体に集まっている上忍や暗部に砂の里の現状と、量産型大蛇丸が里に侵入していること、ナルトがそれを殲滅していることを幻術で見せれば俺のやることはほぼ終わりだな。…………報告が終わったら穢土転生用の生きた素体を集めるか。大蛇丸化した木ノ葉の人間を使ってもセーフだよな? ナルトに殺られれば、どうせ死体は残らないわけだし。



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第13話 風の国の末路

「なんとか終わったか」

 

 カカシが一息つく。

 あれからカカシを含む感知タイプにナルトか俺の影分身、もしくは暗部の封印術を持つ忍で班を組み、木ノ葉の里中に散った残りの量産型大蛇丸を駆逐していった。それがようやく終わったのが夜遅く。上の方は砂の里がなくなった後の風の国をどうするかでテンヤワンヤしてるようだが、下忍の俺には関係のないことだ。

 

「サスケ、恐らく明日辺り呼び出しがあるから準備だけはしとけよ」

「ん?」

「元々四代目火影とうちは一族を失って過去無いほどに木ノ葉が弱体化していたところにこの騒ぎだ。今の木ノ葉は完全に戦時体制。砂の里が滅んだとしても、他の里が木ノ葉や風の国に手を出そうとしてもおかしくない状況だ。恐らく、今回中忍試験を受けたメンバーはすぐにでも軒並み中忍に認定されるだろう」

 

 昔の大戦中は実力さえあれば6才でも中忍、12才で上忍なんてこともあったようだし、そんなこともあるか。というか、今回の中忍試験を受けたメンバーが、下忍とは一体……と考えたくなるようなメンバーだったからな。当然といえば当然か?

 

「それですぐに駆り出されると」

「そういうことだ。

 ま、お前とナルトのお陰で砂の中忍、上忍も、大蛇丸の憑依体も大した被害なく片付いた。特に木ノ葉の中忍以上の損害は殆ど無い」

 

 経験の少ないお前らが隊長として駆り出されることはほぼないさ、とカカシは続ける。……カカシの言うことって結構当てにならんからな。コレもどこまで正しいか怪しいもんだ。

 

「そうか」

 

【飛雷神の術】

 

 それだけ言って、俺は帰還した。

 サクラのもとに。

 

「あ、サスケくん!

 掃討は……」

「終わった」

「そっか」

 

 ここにはカカシたちに幻術で現状を報告した後、感知タイプの忍を集めて班を組むまでに一度帰還している。仙術モードでチャクラ消費が抑えられているとはいえ、あのバカでかいスサノオに雷遁チャクラモードを二回使ったのだ。掃討に時間がかかることを考えれば一度回復に戻るのが妥当である。その際、穢土転生でさっさと四人衆を呼び出してこの屋敷の地下に四紫炎陣を張らせた。波の国にも量産型大蛇丸が来ている可能性は0じゃないからな。生贄にしたのは報告した後、帰還する前に集めた量産型大蛇丸達だ。

 

「帰るぞ」

「うん」

 

 避難させた子達も全員帰還させ、穢土転生達も帰還させる。縛るのに多少力を使うからな。ちなみにカブトは屍鬼封尽で封印されたので今の所穢土転生は出来ない。

 

【飛雷神の術】

 

「屋敷は無事なのね」

「一応普通の物理結界は張ってあったからな」

「なるほど」

 

 サクラがこちらに体重を預けてくる。

 

「疲れたか?」

「えぇ。

 ほとんど気疲れだけどね」

 

 お前、一応今日テマリに真っ二つにされてるんだぞ。気疲れだけって、わけじゃあないだろうに。色々ありすぎて忘れてそうだ。

 

「んじゃ、今日は普通に寝るか」

「嫌よ」

「サクラ?」

 

 サクラが俺を抱き上げる。

 

「どうせ明日から忙しくなるんでしょ?」

「中忍試験があった次の日くらいは休ませてくれるとは思うがな」

「わからないわよ。

 こんな状況だし」

 

 そういってサクラは俺をベットに放る。

 おい、立場が逆じゃないか?

 

「明日から中忍だとはいってたな」

「でしょ?

 だから――」

 

 ――しよ?

 

=============================

 

 午前10時、呼び出しを受けた俺たちは中忍に昇格すると同時に、俺たちをそれぞれ隊長としてDランク任務、あるいはCランク任務を割り振られた。内容としては子供のお使いから非忍者を相手にする護衛や賊の相手で、下忍のときと変わらない任務だ。但し、今回は自分たちが隊長として下忍を率いるというところだけが違うところである。

 

「なんかさ、なんかさ!

 中忍になったって気がするってばよッ!」

「なにか質問は?」

 

 任務を割り振った不知火ゲンマが、騒ぐナルトを無視して話を進める。本来は火影が依頼を振るのだが、火影は屍鬼封尽を使って死んでいる。早急に五代目火影を決めるらしいが、どうなることか。特に原作と違ってナルトが説得に向かわないし、カブトは死んでいるし、大蛇丸は姿を表していない。

 

「砂の里と風の国はどうなったんスかね?」

 

 そこで、シカマルが別の話を持ち出した。

 

「…………砂の里は事実上壊滅。

 軍事力を失った風の国をどうするか、それを五大国の大名が今話しあっているところだ」

「……返答感謝します」

「んじゃ、任務に励めよ」

 

 俺に割り振られた下忍3人は中忍に上がる気もない二十代のお兄さん方だった。ようやく平和が訪れたこの時代に、死亡率の高い中忍試験など受ける気はないとか、任務の難易度が上がるなんてとんでもないとか。全体の95%以上が下忍なのだからそんなものなのだろう。しかし、こんなのを率いて賊退治など面倒なので、当然途中で影分身に入れ替わり、俺は跳んだ。

 

【飛雷神の術】

 

 俺は木ノ葉に見つかっていないだろう、大蛇丸の隠しアジトの一つに来ていた。もちろん、場所は音の里ではない。

 

 目的は、大蛇丸本体。そして、その施設だ。

 

 木ノ葉崩しに、大蛇丸本体は現れなかった。現れたのは大蛇丸の細胞に侵された大蛇丸の成り損ないのみ。確かにアンコから復活させる予定だったのは吸魂の術で記憶を吸い上げてるから間違いない。

 それでも現れなかったということは、大蛇丸は戦える状態ではないことが予想される。恐らく、原作では屍鬼封尽で魂を封じられた後、他の体を乗っ取っても腕は日常生活を送る程度にしか使えなかったように、俺に丸ごと魂を取られた今の大蛇丸は戦闘が出来る体ではないのだろう。なら、木ノ葉より、自来也より先に見つけて大蛇丸本体を確保する。

 

 うちは復興のため、クローンでも完全な人造生命体でもいいが、それらを作るには大蛇丸から得た知識だけでは足りない。当然だが、施設と技術要員が必要だ。影分身修行で俺が技術を会得し、自分で作るのもなしではないが、その場合でも施設は必要だ。そして、施設は一から用意するより大蛇丸のモノを奪ったほうが早い。

 

 そして、できれば大蛇丸本体にやらせた方がより早い。

 

 そのためにも大蛇丸はしっかり縛らなくてはいけないが、戦うことが出来ない体なら縛るのも容易だろう。マダラがオビトを縛ったように心臓に特定の行動を封じる札を仕込むもよし、呪印を使うもよし。どれも大蛇丸が調べた術だが、大蛇丸の知識をすべて知っているが故に、一度仕込まれれば大蛇丸本人でも解除が難しいことがよく分かる。保険は必要だが、うちは復興のため永遠に働いてもらいたい。

 

「ここか」

 

 深い林の中、地下への入り口を発見する。

 

【仙人モード・蛇】

 

 いるな。

 大蛇丸本体、ビンゴだ。

 

 そこから、大蛇丸の場所までは全く妨害がなかった。

 

「早かったのね」

 

 ベッドの中で痩せ細った大蛇丸がそう言った。

 

「……ここがバレていることを承知で、か」

「フフ。

 アナタのせいで、力の大半を失ったわ。

 その様子じゃ、カブトも失敗したようね」

 

 大蛇丸の体には、殆どチャクラが残っていなかった。生まれついた白蛇の力か、改造した肉体によるものか、素のチャクラが殆ど無いにも関わらず、仙術モードは解けていないようだが。

 

「大蛇丸、お前にうちはのクローンを作ってもらう」

「好きになさい。

 どうせ幻術か何かで縛るのでしょう?」

 

 …………素直すぎて不気味だな。

 その後、日常生活を送る程度には体を動かすことも出来るようなので、飛雷神の術で、研究できる施設、もといアジトの一つに大蛇丸を運び、その部下たちも呪印と札と幻術で縛ってクローン研究をさせることにした。一応未だに大蛇丸の本体は白蛇で、一般人相手なら体を乗っ取ることも出来るらしい。これで、うちはのクローン生成所に永久就職できるな!

 

===============================

 

 一週間後、風の国の処遇が決まった。

 

「火の国が風の国を併合、か」

「へーごうってどういうことだってばよ?」

「事実上、風の国がなくなって、火の国の一部になったってことよ」

「おぉ!」

「しかし、五大国が話し合ってこうなるのか」

「……ん?

 そういや、なんで風の国と火の国の話なのに、五大国で話し合うんだってばよ?」

「下手をすれば、五大国のパワーバランスが完全に崩れるからよ」

「それの何が問題なんだってばよ?」

 

 何を言っているかわからないという顔をするナルトに、続けて説明する。

 

「今の平和は、五大国が軍事のバランスを保っていたからこそ、実現していたものだ」

「でも、砂の里は攻めてきたってば!」

「それは、風の国が砂の里の軍備縮小を決定したからよ」

「?」

「軍事バランスが崩れそうになったから、その前に砂の里が木ノ葉を落とそうとした。木ノ葉が落ちれば世界はまた戦乱の世に戻るけど、軍備縮小は避けられるし、木ノ葉がない状態の四大国でバランスを取れる。落としきれなくても、砂の里と木ノ葉は戦争状態に突入し、軍備縮小なんてことにはならなくなる」

「…………バランスが崩れても戦争しなきゃいいってばよ」

「相対的に弱くなった里は、戦争を起こされたときに何も出来ない。みんなそうなることを恐れているのよ」

「…………つまり、ぱわーばらんすを崩さないための話し合いだったってこと?」

「そういうこと」

「でもさ、でもさ!

 風の国を丸ごと取り込んだら、ぱわーばらんす崩れちまうってばよっ!」

「だから、それが不思議だって話をしてんのよ」

 

 とはいえ、砂の里が木ノ葉に攻め込み、それに木ノ葉が完勝したのは事実。そこで失った戦力分くらいは賠償なりなんなりをもらわないと納得出来ないのは当然だが。

 

「そういえばさ、砂の里が壊滅したっていても、我愛羅達は生きてんだろ?」

「あー、確か砂の里の残党は木ノ葉の下部組織になるって話だったわね」

「かぶそしき?」

「つまり、木ノ葉の下につくって事よ」

「んじゃ余計に木ノ葉が力を持つってばよ」

「そうね。

 アイツもナルトと同じ人柱力だったし、一国くらいなら簡単に滅ぼせちゃうかも」

 

 怖い会話だ。

 

「だが、得た領土の大きさを考えれば、現状の戦力では防衛すらままならんがな」

「へ?」

「そうなのよねぇ」

 

 火の国が得たのは風の国丸ごと。実質、領土が二倍になったようなものだ。にもかかわらず、木ノ葉が得た戦力は実質尾獣一匹分だけ。もし他国が攻め込んできたら守りきれるはずがない。もちろん、戦力を集中すれば話は別だ。元々五大国の中でも強国だった木ノ葉に、尾獣が一匹増えたのだ。サクラが言ったとおり、一国くらいなら容易く勝利できるだろう。しかし、

 

「水の国、土の国、雷の国。戦力に見合わない領土を得た木ノ葉を危険視するのは三カ国共通の考えだ」

「同時に攻められれば、火の国は領土を大きく失うでしょうね。最悪滅ぶかも」

「…………」

 

 木ノ葉の火影が綱手に決まったのはそこから1週間後。水の国、土の国、雷の国が三国同盟を結んだのがその1週間後。そして、同盟が火の国に宣戦布告したのが更にその一週間後だった。

 

================================

 

 風の国が火の国に併合されてから、どうやらナルトは俺と同じく任務を影分身に任せるようになった。木ノ葉が滅ぶかもしれないと聞いて、何やら張り詰めた表情をしていた辺り、何かしら修行をしているのだろう。大体想像はつく。ただ、サクラまで似たようなことをしているのには驚いた。サクラの場合は綱手経由で休職を認めさせたようだ。俺も戦力の拡大に励まなくてはな…………影分身が。

 

「サスケくーん!」

「ああ、今行く」

 

 火の国が風の国を併合した結果、俺も元風の国への出入りが自由になった。なら、ヤることは一つだろう?

 とりあえず今までと同じように、写輪眼で個室のある店を支配し、ヤり部屋を作成、もとい改装させる。テマリを嵌めたのと同じパターンである。

 

「さ、サスケ?」

「ん?」

 

 振り向くと、そこにはテマリがいた。

 

「アンタ、今任務中じゃないのかい?」

「…………お前こそ、木ノ葉の下に着いたお前らはこき使われていると」

「ああ。

 地理をよく知る風の国内の任務でこき使われているさ」

「なるほど」

「サスケくーん、どうしたのー?」

 

 チラッとテマリがその女が入ろうとしていた店に目を向ける。

 

「また、同じパターンか」

「……俺が何をしていようと、関係ないだろう」

「お前、あの時私から記憶を抜いたんだってな?」

 

 砂の里へのマーキング方法は、上司のカカシを通して上層部にしか伝えられてなかったはずだが。

 

「なぜ」

「担当上忍に注意されたんだよッ!」

 

 ビクッ!

 

「あの時の私の気持ちが分かるか!」

 

 知るか。

 

「弟たちに残念そうな眼で見られるあの気持が!」

 

 バキ、我愛羅達の前で言ったのか。羞恥プレイかな?

 

「おい」

 

 掴むな。

 俺はナンパした女を連れ込むところだ!

 

「サスケくん、そいつ誰?」

「私はコイツの女だ。

 なにか文句あるか?」

「ひっ!」

 

「あぁ……」

 

 逃げられてしまった。

 

「さて、店に入ろうか」

「…………」

 

 いい笑顔を見せるテマリを見て、写輪眼で幻術をかけようか迷ったが、流石にやめておいた。戦争が起これば共闘することになるだろうからな。この後、美味しそうに媚薬入りのご飯を食べまくって、気づいたときには出来上がっていたテマリとヤりまくった。素のテマリはどちらかと言うと男らしいからな。カッコいい笑顔だが、俺はデレたテマリのほうが好きだ。

 最後の方は媚薬が切れて、攻められてしまったが。

 

「また盛られるとは思ってもいなかったぞ」

「わざとじゃなかったのか」

 

 バキの注意全く生かされてないな。



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第14話 第四次忍界大戦

「戦争、やっぱり起こったわね」

「上は分かってたフシがあるけどな」

 

 誰が見ても分かる、当然の結末だ。

 

「つまり、どういことだってばよ?」

「風の国を併合したのは戦争が前提だったってことだ」

「は?」

「上でどういう話があったのかは知らないけどね」 

「そもそも、木ノ葉の上層部がその話し合いにどこまで関われたのかも怪しいがな」

「へ?

 戦争するのは木ノ葉なんだから、五大国の話し合いに関わってたんじゃ」

「正確には、話し合いに参加したのは火の国であって木ノ葉じゃない」

「えっと……つまり?」

「火の国の大名が、木ノ葉なら勝てると思えば戦争は起こるってことよ」

「はぁ!?」

「まぁ、そこまで酷くはないでしょうけど」

「最低限、木ノ葉から三カ国を相手に勝算がある程度の話は受けていただろうさ」

 

 無策で三正面作戦を決行するほど火の国の大名は馬鹿じゃない……はずだ。

 

「どんな勝算だってばよ?」

「それを、これから聞くのよ」

 

 そう、俺たちは火影に呼ばれていた。上忍昇格の決定とともに。

 

=====================

 

 上忍への昇格は、なにか試験があるわけではない。火影が任じればそれで上忍だ。とはいえ、平時は学力やら実績やらを火影が見極めて上忍に選ばれるもので、実力があればなれるというものでもない。……が、今は平時とは程遠い。戦争に置いて上忍の方が都合がいいから実力がある俺たち三人を上忍へ昇格するらしい。俺とナルトはともかく、サクラまでなのは予想外だったが。修行で強くなったのか、医療系の方で動かすために上忍にするのか。後者なら特別上忍でいい気もするが。他には我愛羅も上忍へ昇格する。

 

「来たか」

 

 集まっていたのはナルト、俺、サクラの他に、カカシ、ガイ、我愛羅がいた。我愛羅は分かる。上忍への昇格通達だろう。カカシも俺達の担当上忍だ。それも分かる。だが、ガイはなんだ?

 

「戦時下のモノとはいえ、上忍昇格おめでとう。そして、お前らにS級任務を与える」

 

 正式なS級任務を与えるための上忍昇格、というように聞こえるな。

 お前ら、というのはガイとカカシに俺たち上忍昇格組の計6人にということなのだろう。

 

「任務の内容は――」

 

====================

 

「ふー」

 

 一週間後、か。

 俺は隣で眠るサクラを抱き寄せつつ、火影に聞かされた策を思い返す。

 

 今回の三国同盟と火の国の戦争。これは大名たちに決められたものであり、今までのように奇襲から戦争が始まることはない。一週間後、決められた時間から始められる。大名が関わる上に、ある意味お互いが勝利を確信しているからこそ成立するような話だ。

 

 木ノ葉にいる忍は約9500。先の戦争で死んだのが500人程と言うのは非常に少ない人数だ。特に中忍以上の忍は丸ごと残っているし、ここに砂の里の生き残り500を足せばちょうど1万。これは各五大国それぞれの忍の数に相当する。つまり、砂の里は約9500の忍が死んだということだ。

 それはさておき、今回問題になるのは、岩の里、霧の里、雲の里、合計3万の忍と5匹の尾獣、もとい5人の人柱力をどう抑えるか、だ。木ノ葉とは忍の数で2万の差、尾獣の数で3匹の差が付いている。この時点で絶望的な戦力差と言っていい。…………が、一応この戦争が決まる前に、火の国が田の国、つまり音の里と同盟を結び、雲の里一万の忍を音の里が抑えるという話が付いている。木ノ葉と雲の里の間には音の里が存在するので、自然、音の里はどちらかに付くことを迫られていたのだ。そして、音の里の忍頭、大蛇丸は俺の傀儡になっているので当然木ノ葉に付く。現火影、綱手は訝しんでいたが、火の国の大名は田の国の大名の言葉を信じることに決めたようだ。少し前まで戦争をしていた相手を当てにして戦争始めるなど、どうかしていると木ノ葉の上層部は考えているようだが、火の国の大名に雇われている側の木ノ葉に決定権はない。それに、大蛇丸なら雲の里の忍一万を抑えることが出来るかもしれないと力が認められているのもまた事実だ。ただ、この忍一万の中に尾獣は入っていない。

 

 つまり、雲の里の尾獣二匹は木ノ葉の方でなんとかしてくれという話だ。これは俺が一ヶ月で音の里に用意した戦力が尾獣にまでは対抗できないという事でもある。雲の里は人柱力二人ともが完全に尾獣化できるため、尾獣玉をなんとか出来るようでなければ話にならない。1万の忍を抑えながら尾獣まで相手にする戦力は流石に用意できなかった。もし、四代目雷影を相手するのにあの戦力を回さなくて良くなるのなら、八尾くらい抑えられたのだがな。

 

 火の国が残り二万の忍、4匹の尾獣を相手にする策、ある程度妥当なものだとは思うが、八尾を相手にする戦力が若干心配だった。

 

「まさか、ガイとカカシ、サクラの三人で当たるとはな」

 

===================================

 

 戦争当日。

 

「火影も無茶を言う」

 

 月夜の中、我愛羅が無表情のまま岩の里方面を眺めて呟く。

 

「お前は前も似たような任務を受けてたな」

 

 元風の国領と土の国領の境にいるのは、俺と我愛羅だけ。

 俺たち二人が受けた任務は岩の里侵攻軍1万の忍壊滅と二人の人柱力の討伐。つまり、岩の里全軍を俺、サスケと我愛羅の二人だけで相手するわけだ。

 

「地の利がある分、今回のほうがマシだ」

 

 この元風の国領は見渡す限りが砂漠。その莫大な量の砂を支配し、津波のように使うことで1万の忍を丸ごと飲み込む。それが我愛羅に与えられた今回の任務だ。そして、そのやり方では拘束できないであろう尾獣二匹の討伐が俺の任務である。我愛羅は前回、木ノ葉の里において砂の中忍以上の忍100人で抑えられる木ノ葉の忍を除いたほぼ全てを相手に勝利することが任務だった。

 

「そうか」

「それに、今回は尾獣を相手にしないで済む」

 

 代わりに中忍以上の忍が100人ぐらい多いけどな。

 

「そろそろ準備するか」

 

【輪廻眼】 

【完成体仙人スサノオ】

【口寄せ・穢土転生】

 

「穢土転生……お前も使えるのか」

 

 我愛羅からしてみれば、穢土転生は大蛇丸の細胞を取り込んだカブトが使用した術だ。この術の開発者は二代目火影。二代目火影は戦争時に穢土転生を使った卑劣な忍者としても有名なので、木ノ葉出身の大蛇丸やその部下カブト、そして俺が使えることにも特に疑問は抱かないのだろう。

 一応木ノ葉でも禁術で、今では使用者どころか巻物でしか伝えられることもないなんて事は木ノ葉の一部でしか知る由もない。

 

「こいつらは俺のチャクラ供給源として使う」

 

【封術吸引】

 

 他の術を使用しながらの封術吸引。輪廻眼を手に入れて間もないサスケには出来ないだろうと原作九尾に言われていたモノである。無限影分身修行がこれを可能にした。完成体スサノオ内部に大量の穢土転生体を保有する俺は外から見たらさぞ異様な存在に見えるだろうな。生贄はこの一ヶ月の間に大蛇丸のアジトから手に入れてきた実験体などの忍達だ。呼び出すのは大蛇丸の細胞に侵され、蛇の仙術チャクラと呪印の仙術チャクラを纏う者達。いくら穢土転生体は無限に回復するとはいえ、その場で持っているチャクラ最大量は生前と変わりがない。よってできるだけ大きなチャクラを持ち、縛りやすい忍が好都合で、この簡易量産型大蛇丸は最高に適した存在だった。

 

「無限のチャクラ、それがチャクラの化物たる尾獣を二匹も相手取れると判断した理由か」

「そんなとこだ」

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

「始まるな」

「だな」

 

 時刻は朝の6時。戦争は日の出とともに行われることになっている。

 そこで、俺は印を組み始めた。

 

「まだ距離があるぞ」

 

 俺たちは、地の利を活かすべく、国境より大分元風の国領の内側で待っている。そこの砂には我愛羅が予めチャクラを練り込んである関係上、この位置でなければならない。よって、戦争が始まったはいいが、まだ俺たちの視界には敵の一人も映っていない。

 但し、俺は先行させた一体の穢土転生体から、元風の国の国境を超える岩の忍達が見えていた。

 

「この術は、この距離でこそ、最大の効果を発揮する」

 

【完成体仙人スサノオ・天碍震星】

 

=============================

 

「よーやく、借りを返せるってもんじゃぜ」

「借り?」

 

 儂は部下の赤土に運ばれながら、元風の国領を見下ろす。

 三代目土影たる儂は、幼き頃、師である二代目土影と共に、木ノ葉に負けておる。いや、木ノ葉にと言うよりうちはマダラに、じゃ。手も足も出ないほどの力量差がありながら、奴は儂らにとどめを刺さなかった。

 だからこそ、儂は今まで生きながらえておる。

 

 他の国に尾獣を配り、戦力バランスを整え、ありもしない平和な世界を目指した木ノ葉の里。

 

「あの時見逃したことを、後悔させてやるんじゃぜ」

 

 その時、儂らの進行方向に影ができた。

 

「あ、アレはッ!?」

「…………あ?」

 

 見上げた先には、天を覆う程に巨大な何かが。

 

「敵の先制攻撃じゃぜッ!」

「あ、ありえねぇ」

 

 孫娘である黒ツチが固まる。

 

「隕、石?」

 

 黄ツチが呟いた。空から降ってくるアレは強大な岩山。つまり、隕石だ。こんなタイミングに運悪く降ってくるなんてことはありえない。アレが忍術である事自体も同じくらいありえないが、木ノ葉には永遠の万華鏡写輪眼を開眼したうちはの小僧が居ると聞く。マダラ並に、いやそれ以上にありえない化物になっていることすら、考慮しなくてはならなかったか。

 

 マダラと初代火影の戦いは地図を書き換えたと聞くが、このレベルの忍術合戦が行われたなら、それも伝説では済まされない。

 

【土遁・軽重岩の術】

 

「儂が行くッ!」

「じぃっ!」

 

 軽重岩で自らに掛かる重力を軽減し、空を飛ぶ。超軽重岩の術であの岩山を支えるしかない。

  

「退避ーッ!」

 

 その間に忍一万を――

 

【尾獣玉】

 

「――ナイスじゃぜ」

 

 どうやら人型レベルの尾獣化と尾獣玉の発射が間に合ったようだ。あれは山一つ吹き飛ばす威力がある。岩山となれば一撃とはいかんようだが、落下速度が落ち、二人目の人柱力が放った尾獣玉が、今度こそ岩山を破壊した。

 

「破片が落ちてくる!

 土遁の壁で……ッ!?」

 

 下で指示を出していた黄ツチが、目を見開く。

 破壊した煙に紛れ、二発目の岩山が落ちて来ていたからだ。

 

【超軽重岩の術】

 

「ヌォォォォ!」

 

 今度こそ、岩山に触れ、その重力を一気に軽減していく。

 止める必要もない。

 時間さえ稼げば尾獣玉で、

 

「ありえん」

 

 黄ツチの視線の先には、3発目が。

 

「こんな馬鹿げた忍術の連発、チャクラが持つわけが」

 

「ガァァァァァッ!!」

 

 爆音が響く。うちの人柱力は雲の連中と違って、尾獣を完全に制御することができない。人型での尾獣化はできるが、完全な尾獣になり、それを制御することはできないのだ。しかし、この声は…………視線を背後に向けると、確かに完全に尾獣化した猿型の四尾と白い馬型の五尾が天を見上げていた。人柱力が死ねば、尾獣も死ぬ。暫くして尾獣は復活するが、尾獣が自ら死を選んだという話を聞いたことはない。人柱力がわざと制御を手放したか、尾獣のほうが死に物狂いで暴走させたか。

 

「どちらにせよ、一蓮托生じゃぜ」

 

 尾獣の方に肉体の操作権がある暴走状態とて、このタイミングでは逃げられまいて。

 

【尾獣玉】

 

 二匹の尾獣は、儂が抑えている大岩と、新たに降ってくる大岩にそれぞれ尾獣玉を放つ。完全に尾獣化した上で放たれるその威力は先のものとはわけが違う。儂は自身の重力を戻し、全力で離脱。空中で衝突した尾獣玉は爆風を撒き散らしながら大岩を粉砕。儂はそれに煽られながら着地した。

 

「進めッー!」

 

 黄ツチが号令をかける。

 尾獣がこの大岩を抑えてる内はこの隕石落としの術者が無防備になる。そこを数の暴力で討ち取る。木ノ葉は霧の里、雲の里の対応でこの術者以外に大した戦力は配置されていないはず。

 

「フン。

 この勝負、わしらの勝ちじゃぜ」

 

===============================

 

「あんな術もあるのか」

「天碍震星。

 天に大岩を造って落とす術だが、尾獣玉で防がれるのか」

「それでも、馬鹿げた規模だ」

 

 もう少し俺のチャクラが多ければ天涯流星で6発くらい同時に落として終わりだったんだがな。チャクラ供給量は問題ないが、最大チャクラ量が足りない。やはりアレは十尾の人柱力にでもならないとできないか。もしくは六道から力を貰うか。後者は六道仙人の意思しだいで、前者は体が真っ白になるからなぁ。

 

「尾獣を抑えているのだから、予定通りか」

「ああ。

 後は俺がやる」

 

 我愛羅が両手を砂に付ける。以前までの我愛羅では1万の忍を相手にできるほどの砂を動かせるチャクラはなかった。チャクラを予め砂に練り込んでも尚、だ。しかし、俺が写輪眼の幻術で尾獣を制御化に置いたお陰で、我愛羅は無制限に一尾からチャクラを引き出せる。

 

「…………気づかれたか」

 

【獄砂埋葬】

【流砂漠流】

======================

 

「気をつけてください!

 この砂、チャクラが練り込まれています!」

「総員止まれェ!」

 

 そういった瞬間、足元の砂が地中に向かって落ちていく。前方1000人近くが掛かったようだ。ただ、この術に掛かっていない後方が救出すれば殆どは助かるだろう。土遁系の忍術は儂らの十八番じゃぜ。

 

「前方、来るぞぉぉぉッ!」

 

 そう思った瞬間、津波のように流砂が迫る。忍術にしては規模が大きすぎる。これは尾獣の仕業か。

 

「中央は儂がやるッ!」

 

【塵遁・原界剥離の術】

 

 あらゆるモノを分子レベルで分解するこの術なら、チャクラの込められた砂を無力化できる。一尾の人柱力は砂を操るゆえに土遁の壁で防ぐ程度では一時しのぎにしかならん。軽重岩で空を飛べる忍ならまだやりようもあるが、アレは上忍以上の一部の忍しか使えん。

 

 流砂の波の中央が消し飛び、その周囲を土遁系の忍が壁で防いだ。

 

「じぃ!

 まだ来るぞ!」

「チィ!」

 

 人柱力とチャクラ量を比べるなんて、馬鹿のやることじゃぜ。

 そんな事を、隕石を落とし続ける輩を見て思う。

 

「儂は術者を直接叩く! 

 黒ツチッ!」

「行くダニッ!」

 

 儂は黒ツチの背に張り付き、黒ツチごと空を飛ぶ。コイツは儂の側近。空を飛ぶのが好きで、コンビネーションはコイツとが一番やりやすいんじゃぜ。

 

================================

 

「あれは……」

「来たか」

 

 ようやく、か。わざわざ天碍震星連発で尾獣の動きを止めていたのは、続ければチャクラが減るのは尾獣だけな上ノルマをこなすことが出来る。という面もあるが、最大の問題、土隠れで俺を殺せるだろう唯一の忍、三代目土影の攻撃範囲外にいられるというのが一番大きい。一応土影を止めるのは我愛羅の役目だが、尾獣を相手している間に横槍を入れられるのは不味い。飛雷神の術で回避できるだろうが、塵遁・原界剥離の術は正方形型の範囲を指定して消し飛ばす方法と、ビームのように飛ばして触れたものを消し飛ばす方法の二種類が存在する。前者は見てから飛雷神の術が余裕で間に合うだろうが、後者は気づかなければ危うい。スサノオが先に消えるために間に合うとは思うが、確証はない。

 

 しかし、唯一俺に対抗できる忍が一人……いや、僅か二人で現れてくれたのは本当に助かる。

 

「いいのか?」

 

 印を組むのをやめた俺を見て、我愛羅に問いかけられる。

 

「問題ない」

 

 天碍震星をやめれば、尾獣が自由になる。

 しかし、尾獣が迎撃していた地点は遠い。

 

【万象天引】

 

 尾獣が来る前に終わらせる。

 

 引き寄せられたことに驚きつつも、土影が塵遁を、側近が土遁で盾を作り出す。空には身を隠すところがないからな。それでもこの距離なら問題ないと踏んでいたか。

 

 スサノオに弓矢を引き絞らせつつ、俺は術の準備をする。

 

【塵遁・原界剥離の術】

 

 正方形の消滅地点を指定する方ではない。ビームのように原界剥離の術が飛んでくる。スサノオの攻撃ごと消し飛ばすつもりだろうが、無駄だ。

 

【封術吸引】

 

 これは俺に触れた術を吸収する術。この場合はスサノオも俺の一部だ。弓矢は発射せず、原界剥離を吸収していく。

 

「馬鹿なッ!」

 

 土影が原界剥離を止めて、こちらが生きていることに驚く。万象天引が切れたことでこちらが死んだと思ったらしい。原界剥離が当たって相手が生きているなど、想像だにしなかったのだろう。万象天引と封術吸引が同時に使えなかったために万象天引をやめただけだと言うのに。

 

「終わりだ」

 

 スサノオの矢を飛ばす。もちろん側近が用意していた土に遮られるが、当然のように貫通。背後にいた一人を貫いた。

 

「黒ツチッ!」

「しぶといな」

 

【万象天引】

 

 土で視界が遮られた時、土影を庇ったか。土で僅かに逸らされたのも効いたんだろうな。さすがは土影の側近。

 

「チッ!」

 

 すぐに原界剥離の構えを取る。恐らく原界剥離を止めるには万象天引を止めなくてはならないことに気づいたな。尾獣の抑えがなくなったせいで、コイツは時間稼ぎさえしていれば有利な状況にある。もちろん、今も我愛羅が一万の方の忍を虐殺しているのだろうが。

 

「来るぞ」

 

 我愛羅が呟く。地平線の先に、完全に尾獣化した状態で走ってくる二匹の尾獣が見えた。特に五尾が思ったより早い。

 ……が、やはり問題にはならない。

 

【原界剥離の術】 

【完成体仙人スサノオ・迦具土の剣】

【封術吸引】

 

「なっ!」

「今度こそ、終わりだ」

 

 原界剥離を使っている間は動けない。そして、封術吸引をしている俺本体も大した動きは出来ないが、スサノオは動ける。空を飛び、塵遁を吸収しつつ、土影に一直線に飛び上がった。

 

【二刀の舞】

 

「くぅ…………無念じゃぜ」

 

 土影が二刀で四分割され、残った肉体が黒炎で焼き消えるのを見届ける。

 

「サスケッ!

 前だ!!」

「ん?」

 

 声に引かれて正面へ振り返ると、巨大な尾獣玉が直ぐ側に。

 

 そうか。

 土影は、俺が死ぬところを見れなくて無念だと言ったのか。

 そんな事を思った。

 

===================================

 

 やったか。

 

 俺は五尾の中で尾獣玉が空飛ぶ天狗にぶち当たったのを見てそう思った。

 尾獣玉は超高密度のチャクラの塊だ。完全な尾獣が放つそれは里一つを滅ぼす。元々人に撃つような規模ではない。更に、尾獣玉はチャクラを込めれば込める程火力が上がる。ギリギリまで溜めた超火力の尾獣玉。耐えられるわけがあるまい。

 

 五尾の視点がやや下がったように見える。尾獣は肉体をチャクラで構成している。使いすぎればその肉体は小さくなっていくのだ。それほどのチャクラをあの尾獣玉に込めたということだろう。それにあの隕石を処理するのにもかなりチャクラを消費した。だからといって、五尾の完全尾獣化を解く訳にはいかない。一度解けばもう一度完全尾獣化する体力は俺にはないし、そもそも制御を手放す形で完全尾獣化したために意図的に解くこともできんのだが。

 

「ガァァァァァァ!」

 

 そのまま五尾は一尾の人柱力に向かっていく。あれを倒せばこっちの忍一万も侵攻を再開できるはず。

 この戦争、俺達の勝ちだな。

 

【天照】

 

 は?

 

「グァァァァァァ!?」

 

 先ほどとは違い、悲鳴をあげる五尾。俺の背中も焼けるように熱い。ありえない。うちはの人間は一人しかいないはず。

 この黒炎は、まさか――

 

「まずは一匹」

 

 ――生きていたのかッ!

 

==============================

 

 本当に危なかった。

 

 多くのモノを制御していた結果、時空間忍術である飛雷神の術が間に合わなかったからな。もちろん印を組む暇もなかったし、封術吸引ではあの尾獣玉を吸いきるにはまるで足りなかった。だから、足りない分は防御力と回復力で補ったのだ。

 

 特大の尾獣玉を喰らった瞬間、印を組まずに発動できる雷遁・チャクラモード、もとい仙法隠遁・チャクラモードをスサノオと自身に全力で発動。元々の仙人スサノオと仙人モードの体内液化による耐久力も相まって、多少のダメージが通るだけで済んだのだ。そのダメージは、本体に通る前から治癒を始めるカブト式の治癒方法+蛇仙人モードの回復力で治癒した。この術も大蛇丸の記憶から影分身修行で習得したものだ。

 

 その後、爆煙が晴れる前に、この砂漠のあちこちに用意しておいた飛雷神の術式で尾獣の背後に周り、天照をブツケたわけだ。

 

「ウガァァァ!」 

 

 俺の周囲に影ができる。

 五尾は足が早いのが特徴の一つである。つまり、その背後に回り込んだ俺の後ろには四尾がいるわけだ。四尾は溶遁を使うゴリラ、もとい猿。この影は溶遁なのだろう。尾獣玉には溜めがいる。即時発動できる術を優先したのだろうが、流石に火力不足だな。

 

【完成体仙人スサノオ・迦具土の剣】

 

 先程の尾獣玉で壊されたスサノオを再構築。ただ、先程スサノオが壊れた際、穢土転生体が散らばり、回収していない故にチャクラ無限状態ではなくなっている。さっさと決める必要があるだろうな。一応飛雷神の術で一旦撤退する選択肢もあるが、こちらの役割を考えればありえない。我愛羅に尾獣玉を撃たれて1万の忍が侵攻を再開してしまう。俺にとって尾獣より一万の忍のほうがよっぽど厄介だ。

 

 だから、

 

【二刀の舞】

 

 背後に振り返り、視界を遮る程のマグマに斬りかかる。黒炎による斬撃波はマグマを散らし、燃やし始めるが当然多少スサノオにも降りかかる。この程度ならなんの問題にもならないが。

 

「アァァァ!」

「フン」

 

 すると、その先に拳を振りかぶった四尾が。いくら溶遁の速度が大したことないとはいえ、スサノオと剣の生成、二刀の舞を発動する時間を考えれば、追加で隠遁チャクラモードを発動する時間はなかった。そして、スサノオは意外に素の殴り合いは強くない。……なら、殴り合わなければいい。スサノオは先程の尾獣玉で一度解けているし、その時隠遁チャクラモードも解けた。だが、仙人モードは解けてない。溶遁の向こう側にいた四尾を、視覚的に捉えることは出来なくとも、あんなバカでかい四尾を仙人モードによる危機感知、嗅覚感知能力で捉えられないはずがない。

 

 故に、俺は視界に映る前から迎撃体勢を取れていた。

 

【二刀の舞】

 

「ウガアッァァァァ」

 

 俺は永遠の万華鏡写輪眼で見切った拳を掻い潜り、四尾を斬りつけた。チャクラの塊たる尾獣を斬り捨てる、とまではいかなかったが、それでいい。斬りつけた四尾は、思った通り黒炎の痛みで転がり回っていたからな。

 

「これでノルマクリアだ」



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第15話 雲の里 VS

「まさか、先代雷影と戦うことになるとはなッ!」

 

 儂は全力の雷遁チャクラモードを発動し、同じく雷遁チャクラモードを発動する三代目雷影に対峙する。穢土転生は体力もチャクラも切れないのが特徴だ。持久戦に意味はない。全力で行くッ!

 

「儂が抑えるッ!

 封印班、準備を怠るなよッ!」

 

 音の里が木ノ葉の火影を倒すのに、風影の穢土転生体を使ったという話を仕入れられたのは大きかったな。封印班や拘束班を構築し、戦線を整えることが出来た。暗部の報告を聞く限り、木ノ葉の里本隊は霧の里に掛り切り。儂らが穢土転生体を潰せば、木ノ葉は終わりだ。

 

 もしくは、人柱力のユギトかキラービーが木ノ葉の精鋭を撃破するか、だ。人柱力はその力を最大限発揮するために本隊から離して運用する事になっている。だからこそ狙われたが、援軍は送りにくい。遠距離から観測班こそ付けてあるものの、尾獣化してしまえば援軍は足手まといに成りかねない。尾獣と共に戦えるものなど、儂ぐらいだ。

 

 だからといって、儂以外に三代目雷影を抑えられる人間もおらん。

 

「行くぞッ!」

 

 死ぬなよ、ビー。

 

===============================

 

「あれが、八尾の人柱力……」

「あぁ」

「アイツかッ!」

 

 バレてるYO!

『本隊から離れてるから当然だな』

 

 八尾の声が、俺の頭に響く。

 分かってたのに3人でやってきたのか。

 

『油断するなよ。

 アイツら、雷影が言ってた奴だ』

 

 覚えてないYO!

 

『…………写輪眼のカカシ、体術使いマイトガイ、どちらも木ノ葉最強クラスの上忍だとか言ってたな』

 

 後ろの女は誰だYO!

 

『さぁ?

 雷影が見せたビンゴブックの中にはなかったな』

 

 ならバックアップだろうYO!

 まずはウォーミングアップだYO!

 

「ウィィィィィィ!」

 

 俺の周囲を尾獣の衣が包む。尻尾の数は七。但し、チャクラの密度は皮膚が剥がれるほどには高めていない。

 

『最初からそれか』

 

 相手も衣をまとっている以上!

 やるならこのモード以上!

 

 そう、あの白髪と眉毛と女、全員尾獣の衣を纏っていた。恐らく九尾からチャクラを渡されているのだろう。尾獣のチャクラを他人に渡せるよう変換するなど、完全に尾獣と和解し、完璧に力を使いこなす俺にも出来ないことだ。

 

 つまり、アレは九尾か人柱力側かの固有能力だと思っていい。

 

 同じように衣を纏わないと、戦いにもならないだろうYO!

 

「但し、そちらは上限が制限!

 こちらは上限無制限!」

 

「だから、こちらも最初から全力だ」

「行くぞーッ!」

 

 眉毛から更に爆発的なチャクラが吹き出る。

 

『八門遁甲、七門まで開いてやがるッ!』

 

 なんだYO?それYO?

 

 そんな事を考えた瞬間、もう眉毛が目の前に居た。

 

「速すぎるYO!?」

 

『雷影並か……いや、衣の分コイツの方が早い』

 

 俺も雷影の雷遁チャクラモードと力を合わせられるよう鍛えている身だ。最初の数発は逸した。しかし、それまでだ。流石に速すぎる。当然のようにぶっ飛ばされた。

 

『あのレベルじゃ、そう何発も食らうのは不味いぞ』

 

 分かってるYO!

 上げていくよYO!

 

 俺の衣の密度が上昇し、再生より尾獣のチャクラによるダメージの方が上回り、皮膚が剥がれていく。

 

「ヨッ、と!」

「ッ!」

 

 更に右腕に力を集め、小型八尾の頭蓋が形成されていく。尾獣とはチャクラの塊。

 この一撃なら、あの薄い衣程度貫通ぅ!

 アイツの体、真っ二つぅ!

 

【ラリアット】

 

「…………」

 

 あ?

 俺が眉に突撃すると同時、あの眉が引くのも同時!

 

 背後から来た何かがその眉と入れ違いに俺に突撃!

 俺も容赦なく突撃!

 

『あの女、まさかッ!』

 

「ラリアットォォ!」

 

 結果は――

 

「大したことないのね」

 

 ――それは衝撃。

 

 おれは驚愕。

 

「怪力すぎるYO!」

 

 俺の右腕は、あの女の拳とぶつかり、消し飛んでいた。

 

 よく見ると、あの女の額から体に黒い紋章と、額と目元に赤い紋章が走ってるYO!

 アレがカラクリ、あってるYO?

 

『伝説の三忍と同じ百豪の術に蛞蝓仙術と来たか』

 

 つまり?

 

『一時的だろうが、アレはビーの尾獣化チャクラモード2の全力を、瞬間的なチャクラ量で超えられるだけの人外だ』

 

 おー!

 俺がチャクラの化物は常識!

 アイツはチャクラの人外非常識!

 

「しかし、俺は怪物!」

 

「来るぞッ!」

 

「お前ら、それを見物!」

 

【尾獣化】

 

「人柱変化イェーッ!」

 

 俺は完全な八尾へと変化した。完全な尾獣化は体力を膨大に消費する。普通はチャクラモード2、もしくは頭部や足だけなんかの部分変化で済ませるところ。しかし、腕を持ってかれちゃぁ出し惜しみしてる場合じゃあねェ。例え人型の俺を圧倒できたところで、この状態なら100m近いサイズ差がある。

 

 それでも正面から殴り合えると思うのなら――

 

「デカイッ!」

 

「――やってみろ!」

 

==================================

 

【神威】

 

「ぇ…………」

 

 予定通り、八尾が完全に尾獣化したその瞬間、ずっと万華鏡写輪眼を発動状態で後方待機していたカカシ先生が動いた。身に纏った九尾のチャクラを全て消費して八尾の体半分を丸ごと遠くへ飛ばしたのだ。結果、真っ二つになった尾獣の半身はニヤついた笑みのまま、消えた半身側に倒れ込み、人柱力へと戻っていく。

 

「あ」

「あー……」

 

 その先に現れたのは尾獣と同じく、真っ二つになった半身の人間。

 つまり――

 

「任務完了だ」

 

 ――もう死んでる。

 

======================================

 

「……来たか」

 

 私は三方向に現れたバカでかいカエルを見て悟った。

 二尾の人柱力たる私を止めに来た木ノ葉の忍だと。雷影様から聞かされてはいたが、その中でも大当たりだ。

 

 蝦蟇仙人こと自来也。四代目火影の師匠にして、木ノ葉の最高戦力。今の木ノ葉には九尾と一尾の人柱力、それに砂の里を潰したうちはの小僧がいるものの、どれも本体は子供で付け入る隙はありそうだったが、コイツはかつての大戦を生き残った忍の一人。衰えていなければ、指名手配中の大蛇丸と同じく単体で小国くらいなら潰せるだろう怪物だ。

 

「だが、私も言葉通りの怪物だ」

 

【尾獣化】

 

 私の姿は巨大な青く燃え盛る猫又へと変化した。

 意識を保ったまま完全に尾獣化できるのは私を含めた雲の国の人柱力くらいだ。人間の知性と忍術と体術を扱う尾獣の恐ろしさを教えてやる。

 

【尾獣玉】

 

 まだ3匹は遠い。この包囲を敷くために隠れていたからだろう。尾獣玉を生成し、一匹消し飛ばすだけの時間はある。

 

「ッ!」

 

 三方向から躊躇なく突撃してくるか。口寄動物は呼び出された動物側から元の場所へ還る権利がある。つまり、尾獣玉を食らう直前に還るつもりなわけだ。

 

「ナメラレテモノダ」

 

 私は尾獣玉を口元で衝撃波に変えて放出する。

 

「っ!」

 

 ポフン、と一匹目が食らう前に消える。そして、その直後に私は衝撃波を120°横へ薙ぎ払った。

 

「なッ!」

 

 ポフン、と二匹目が消える。私はその勢いのまま、更に三匹目へと衝撃波を向けた。

 

「これが、知性を持った尾獣って事かいな」

 

 そんな言葉を最後に、ポフンと最後の一匹が消える。

 

 あの口寄動物に尾獣ほどの耐久力はない。これで十分なのだ。……こうなっては本体は出てこないかもしれんな。あの巨大なカエル達を主力にしていたのならこの時点で大分キツイはず。あの三体を呼び出すのにもそれなりのチャクラを使ったはずだし。

 ただ、どの道三体中ニ体がたどり着いたとしても、問題なかったがな。二尾はその肉体が霊体で出来ている。故に物理攻撃の効果は薄い。じゃあ火遁か雷遁かで攻めればいいかと言うとそうでもない。この肉体は燃え盛っている。火遁は基本的に効果がない。もちろん、雷遁で焼け焦げることもない。まぁ、この巨体を痺れさせるほどの雷遁を継続的に放てるというのなら多少の意味は持つかもしれないが。

 

「なっ!?」

 

【仙法・超大玉螺旋丸】

 

 突然背後からの身を削る程の衝撃に襲われた。50m程のサイズに留めているとはいえ、この巨体を宙に浮かす程の破壊力。自来也か。数百メートルほど宙を飛び、空中で姿勢を立て直すと同時、それを見た。二匹の小さなカエルを肩に乗せ、赤い模様を顔に映した者を。人が個人で扱う術で、尾獣をふっ飛ばすなど、やはり怪物か、自来也。

 それにしても、どこから現れたのやら。尾獣玉で土煙が舞い、視界が悪くなってはいた。が、その直前まではカエル以外を見なかったのも事実。まさか視界が悪くなった瞬間から駆け出して間に合ったというわけではあるまい。それでは雷影様並の速度だ。

 だとすれば……あのカエルか。

 

 ただあの巨大なカエルの背中に乗っていただけなら、カエルが還った瞬間尾獣玉で消し飛んでいるはず。恐らく何らかの術で躱していたのだろう。

 

「まずは先制攻撃成功、ですのぉ」

「フン」

 

 爺が。

 たしかにこの術の威力は大したものだ。この体が削れる程度には。

 しかし、

 

「ぬ?」

 

 私の体が再生していく。尾獣の体はチャクラで構成されたもの。血が通っているわけではないし、内臓があるわけでもない。ただ、削られた体を即時再生できるのは二尾ぐらいのものだろう。普通は一度人柱力の中に引っ込んで回復を待つ必要がある。もちろん尾獣の体が削られたり切り取られたりしたところで人柱力へのダメージはない。尾獣の体を半分くらい消し飛ばされでもすれば話は別だが。

 

 この術が最高威力の攻撃だというのなら、この爺に私を殺すことは出来やしない。ついでに今ので距離も取れた。先に着地した自来也がすでにこちらに向かって走り始めているが間に合うまい。距離が取れれば火を噴くなり、尾獣玉で薙ぎ払うなりして殺してやる。

 

「ッ!」

 

 爺の肩に乗っているカエルが水を吹いた。着地際を狙われているゆえに回避は不可能。なら、

 

「ガァァァ!」

 

 私も火を吹く。これはあの細い水に向けて放たれるものではない。爺に向けた炎弾だ。込められたチャクラ量と、それに寄るスピードは人に躱せるものではない、はずなのだが――

 

「速いのぉ」

 

 ――爺はそれを容易く避ける。

 

「チッ!」

 

 私が炎弾を撃つと同時に攻撃範囲から出ていたように見えた。感知系の忍術を使っているのかもしれんな。その後、私の着地と同時に鋭い水流が体を深く刻んだ。そう、思いの外深い傷だ。確かにこの体に水遁は弱点なのだが、こんな切れ味のある遠距離系の水遁忍術は初めて見たな。術の威力が尋常じゃない。尤も、切り裂いたところですぐに再生するし、燃え盛るこの体を鎮火させようと思ったら尾獣並みの水量を扱う水遁忍術が必要になる。それは現実的ではない。

 だから、私の有利は動かない。

 

「ガァァァァァッ!」

「ほぉ」

 

 私は炎を下に吐く。あの爺が早いのはわかった。速いかどうかはともかく、早い。なら、距離を詰められないようにするのを優先しよう。ただの炎ならともかく、完全な尾獣がチャクラを込めた炎だ。そう簡単に消えはしない。そして、こんな見晴らしのいい場所で逃げられることもないだろう。

 

【土遁・黄泉沼】

 

「フン!」

 

 足元がそれなりに深そうな沼になるが、何の問題もない。霊体で出来た体に、忍者としてチャクラを操作する技量まであるのだ。沈みきる訳がないし、炎も消えん。多少小回りがききにくなった程度。

 

【尾獣玉】

 

 こちらに近づけない、隠れるところもない、決め手となる忍術もない。

 コレで終わりだ。

 

【屋台崩しの術】

 

「ナッ!」

 

 私は真上からの衝撃で半身が沼に沈んだ。まさか、手元ではなく、相手の真上から口寄動物を召喚できるとは。私は口元の尾獣玉を、真上に向ける。

 

「ぬぉっ!?」

 

 私を踏み台に、カエルはすぐに飛び退いた。この尾獣玉に触れれば、その部分は消し飛んでいただろうに。それでもカエルの着地に合わせて尾獣玉を衝撃波にして放った。

 

 ポフン。

 

 だろうな。

 

「よそ見はいかんのぉ」

「チッ」

 

【仙法・超大玉螺旋丸】

 

 最初の焼き直しだな。

 背後から食らって再び数百メートル吹っ飛ばされる。 

 

「ふー」

「フン」

 

 例え同じことの繰り返しでも、人間と尾獣では体力が違う。チャクラの量が違う。私は戦闘に私自身のチャクラを使う必要がない。まだまだ尾獣のチャクラにも余裕がある。比べてアイツはバカでかいカエルを四匹、肩に乗せている上忍以上の水遁忍術を使うカエル二匹を口寄せしている。使用忍術も私を吹き飛ばすほどの忍術を二回。ここまででかなりのチャクラを消費したはずだ。

 

 コイツ一人倒すだけなら余裕だろう。

  

 体力勝負になるから時間は掛かるだろうし、主戦場でどれだけ戦える余力が残るかもわからない。しかし、雷影様の言葉によると、そもそもこの戦争は木ノ葉が大変不利な戦争だ。尾獣である私が足止めされても、十分勝利できるくらいに。尾獣を足止めできるほどの忍が死力を尽くし私と戦っているというだけで私の役割は果たせていると言っていい。もちろん、ここから負けて人柱力である私が攫われるようなことがあれば、話は別だが。

 

=======================

 

「今だッ!

 やれィ!」

 

 儂が三代目雷影を捕まえ、封印班に命令する。三代目雷影の雷遁チャクラモードによる鎧は固い。儂でも傷をつけるのは難しい。だが、同じ雷遁チャクラモードで動きを止めることはできる。

 

「ハッ!」

 

 封印班が封印の術式が書かれた布で巻取り、封印していく。これもなりふり構わず集めた術の一つだ。忍の世界は力こそが正義。最近は各国間の緊張緩和で軍縮だの、軍備削減だのと五大国も軍事力を軽視し始めとるが、儂ら雲の里は未だ軍拡を続けてとる。これもその成果だ。

 最近は自里の軍縮の代わりに暁なる傭兵集団を雇って事を済ませる里も出てきたとか。さすがに大名達が決めたこの戦に出てくることはないだろうが。だからこそ、軍事を軽視してきた他里が木ノ葉を相手にどこまで被害を出すのか見ものだな。

 

「雷影様、治療を!」

「あぁ」

 

 それにしてもこの穢土転生は大した術だ。確かこれを完成させたのも元暁所属の大蛇丸だったな。三代目雷影の力をよく再現できている。 

 

 片腕で済んで良しとせねば。

 

=================================

 

「ようやく、か」

 

 雲の里の忍2000と殆どの上忍を投入してようやくだ。

 

「あぁ」

 

 さすがに忍刀七人衆の前任者七人の穢土転生体はだるい。刀を持っていなかったやつもいるし、五影クラスほどバカげた力も持っていなかったが、上忍の中でも最上位クラスと言うだけで十分だるい。下忍、中忍がサクサク殺されるもんだから、上忍主体で一体ずつ仕留めていくしかなかった。上忍なんて五大国の隠れ里でも一つの里に50もいない。故に、殆どの上忍をここに集中投入していた。

 一応もう一方、第ニ部隊、第三部隊の指揮官として一人づつ配置されているが、直接前線にはでていないはずだ。殺されたという報告はないからな。

 

「第二部隊に通告しろ。第一部隊は対象を撃破。第二部隊の応援に向かうと」

「第三部隊には?」

「……もうしばらく耐えてもらうしかねぇよ」

 

 なにせ、歴代五影である二代目水影の穢土転生体が第二部隊と、二代目土影の穢土転生体が第三部隊と相対しているのだ。三代目雷影様は、かつて五大国一つの忍の軍を丸ごと、つまり一万の忍とたった一人で三日三晩殺し合った。二代目水影や二代目土影がそれほど強いとは思いたくないが、4000近い忍と今尚戦闘が続いているというだけでその強さは想像の埒外にあるだろう。今回穢土転生体の三代目雷影様は現雷影様がなんとかしてくれたようだが、片腕を失いチャクラの殆どを損耗して戦線離脱。俺たちは上忍の集中運用でまだ余裕があるが、第二部隊と第三部隊に上忍を半分ずつ振り分けて勝てる保証はない。……大蛇丸は一人で小国を落とせるレベルと聞いたが、穢土転生含めりゃむしろ大国を落としかねないレベルだな。

 

「だるいわ」

 

 もちろん、人柱力がいなければの話だがな。

 

=============================

 

「悲惨だな」

 

 俺達第一部隊が辿り着いた戦場には、五百人以上の死体が転がっていた。四千近い忍を動員してこれ、か。たった一人で三千人を圧倒しているのは二代目水影だ。ここまで移動する間に、情報は上がっている。二代目水影は超広範囲に幻術を展開し、視覚を弄る。弄ると言っても二代目水影と、それを映し出す貝型の口寄動物の偽物を作り出し、本物を完全な透明状態かつ感知不可能にするもの。幻術で体の動きを止めることも、視界を潰すような効果もない。幻術としては自身の姿を隠せるだけだから効果としては大したものではない。が、本体をどうにかする以外に解除することが出来ないとなれば話は別だ。普通幻術は掛けられたことがわかれば、別の人間に幻術返しをしてもらえば解除できる。しかし、この幻術は効果が限定的である代わりにその強度はある種圧倒的なまでに高い。

 

「ダルイさん」

「あぁ。

 作戦開始だ」

 

 そのために即席で練った策がこれ。

 

【雷遁・雷撃】

 

 上忍が散らばり、幻術の効果範囲内で一斉に雷撃を行う。二代目水影が強いのはとにかく位置が判明しないから、だ。それを使った状態の本人の戦闘能力としては、報告を受ける限り、五影の中では大したものではないと言っていい。一人ずつ着々と殺されていったようだが、人間離れした術は使ってこない。ならば、上忍を散らしたところで狙われた人間が逃げ回ることに徹すれば逃げ切れんこともないだろう。それは二代目水影本体が大して強くないのか、この超広域に渡る幻術を展開しているから他に大した術が使えないのか、自身の居場所がバレないようにしている結果なのか。

 

 どちらにせよ、優先するべきは二代目水影の位置の特定だ。感知忍術が機能しないのなら、物理的に感知してしまえばいい。具体的には広範囲に雷を起こす雷撃でその空間に何が居るか確かめればいい。大した威力のない薄い雷撃なら大してチャクラも消費しない。これなら――

 

「いましたッ!

 当たりです!」

 

「――でかした!」

 

 ニ班分、8人の上忍がすぐにその位置に畳み掛ける。雷の衝撃波で正確な位置を集まった者に認識させ、雷のチャクラが通った忍刀を複数人が差し込み、そこから雷遁・サンダーボルトなど電流を流し込んで、中を焼いていく。

 

 これは先程の戦いでも思ったが、上忍複数が集まると流石に判断も速い。攻略も一瞬だったな。

 

「消えたぞッ!」

 

 幻術で現れていた偽の二代目水影が消えたのを、元から相手にしていた中忍、下忍達が確認する。本体は未だ姿を表していないが、

 

「本体はあの岩の向こうだッ!」

 

 幻術さえ破れれば感知ができる。

 

【雷遁・黒斑差】

 

 俺は豹の形をした黒い雷をそこへ向ける。同時に上忍達がその向こう側へと回り込んで行く。あとは速やかに、かつ確実に追い詰めていくだけだ。

 

【水遁・蒸気暴威】

 

「ッ!」

 

 岩陰から、高さ数十メートル程のバカでかい水しぶきが舞った。

 

「無事か?」

「はい、全員無事です」

 

 回り込んでいた者たちも、ある程度距離をとっていたので十分回避が間に合ったようだ。焦らず確実に、という戦い方が功を奏したか、そもそもあの水しぶき自体に危険があったのかも不明だが。

 

「あれは……」

「幻術でしょうか?」

 

 上空に半透明でバカでかい顔が映っていた。

 

「水蒸気……物理的なものに見えるな」

「っ!」

 

 それが、一体の人形へと変わり、氷の粒、霰が降り出した。

 

「確かめます」

 

【雷遁・雷撃】

 

 複数人の上忍が、人形に広範囲の雷撃を放つ。

 

「速いな」

 

 人形が岩の隙間と地上スレスレを飛び回り、避けきった。

 

「幻術ではなさそうですね」

「この霰も物理的なものです」

 

「本体は?」

「…………更に離れていますが、あの辺りですね」

「こちらで本体を追う。第二部隊でアレを抑えさせろ」

「了解」

 

==============

 

 ダルイも無茶を言う。

 

 人形が、水影の方向へ向く。

 

「止めろッ!」

 

 第二部隊を任されている俺としてはあの人形を行かせる訳にはいかない。

 

【瞬身の術】

 

 前衛の100人程が瞬身で突っ込む。とはいえ、第二部隊は中忍以下で構成されているので大した速度ではない。そして、待っていたとばかりにその人形が振り返り、その腕から水の刃を構築し、

 

「あっ」

 

 数人の首が跳んだ。

 

「足止めだッ!

 先の雷撃を参考に、近寄らせるなッ!」

「はっ!」

 

【雷遁・雷撃】

【雷遁・散雫】

【雷遁・雷球】

 

 拡散する雷、雷で出来た散弾、雷の球が人形とその周辺に飛び交う。すると、人形は真上に向かって高速で上昇する。

 

「まずっ…………は?」

 

 高速で移動すると同時に10mほどに巨大化した。そして――

 

「ぁ」

 

 ――爆散した。

 

 周囲100人程を巻き込んで爆散した。

 周囲に水しぶきが撒き散らされ、水蒸気が広がる。

 

「狼狽えるなッ!

 人形の足止めを……」

「ぐぁッ!」

「何?」

 

 なぜこちらに来る?

 あの上忍部隊さえ仕留めてしまえばこちらに抵抗できる戦力はなくなる。先にあっちに行くべきだ。確かに今俺達は水蒸気で視界を遮られ、絶好のチャンスではあるが、俺たちはそんな事をされずとも圧倒されていただろうに。

 

「あの穢土転生体、そういう考え方ができないのか?」

 

 見る限り一切喋らないし、意思も感じられない。オートで反撃するだけなら、やりようもあるか。

 

「自衛を優先しろ!

 但し、離れることは許さん。

 恐らくそれだけで人形は引きつけられる!」

 

 後は上忍部隊がどれだけ迅速に水影を仕留められるかに掛かってるな。こちらの被害がどれだけ広がるかは。

 

================================

 

「ありえねぇ」

 

 第三部隊を任されたのは光栄な話だが、これはないだろ。二代目土影だと報告できたのはいいが、指揮官である俺も死にそうだ。

 

 最初の不意打ちで死んだのが500人で済んで良かったとすら思ってしまうほど、馬鹿げている。

 

「感知できません」

 

 だろうな。

 二代目水影も感知できないらしいが、あっちは地上にいるだけマシだ。火力も低いだけましだ。

 

「来ますッ!

 2時の方向!」

 

 さすがに術を使う瞬間は感知できるか。但し、上空に居る以上、攻撃はできないし、

 

「退避ーッ!」

 

 攻撃範囲もかなり広い。白い正方形が出現し、数瞬後にその中にいた人間も地形も丸ごと消滅する。それが塵遁だ。

 

「ここを狙ってきませんね」

「あぁ」

 

 中心地であり、指揮官の俺を狙いに来ないのは慎重とも言えるが、あそこまでぶっ飛んだ強さを持ってるのに来ないのは臆病通り越して不自然だ。

 

「また消えました」

 

 攻撃する瞬間以外感知すら不可能になるのだから、嫌になる。神経を削るし、反撃の手段もない以上、士気も下がりっぱなしだ。もちろん、こちらの狙いは足止め一本だと伝えてはいるが、このままだと全滅しかねない。

 

 そもそも上忍の集中運用でコイツを倒せるのか?

 

 人柱力を引っ張って来ない限り攻撃すら届かないのでは?

  

 ついでに言えば穢土転生体であるせいでチャクラが尽きない以上、コイツ一人に雲の里全軍が――

 

「次来ますッ!」

 

 ――っと、そんな事は俺が考えることじゃねぇな。

 

 俺がするべきは戦況の報告と時間稼ぎだ。

 

 判断するのは、あくまで司令部だからな。

 



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第16話 結末

「び、ビーッ!」

 

 片腕とチャクラの殆どを消費した儂は、司令部へ戻ってきた。そこで見たのはキラービーの死体だった。しかも体半分が無い。キラービーの肉体は強靭だ。尾獣の力を加味すれば、儂でもこんなことはできん。どんな術を使えばこんなことに。

 

「報告では完全に尾獣化した直後、体半分が消し飛んだと」

「なん、だと?」

「時空間忍術の可能性があるとも」

 

 馬鹿な、規模がでかすぎる。尾獣化する前ならともかく、した後に半分を跳ばすなぞ、どれだけのチャクラがあればそんなことが。四代目火影が尾獣玉を跳ばしたという話はあったが、それそのものを攻撃に使えたという話はなかった。術そのものもありえんし、チャクラ量も非現実的だ。

 

「観測班の話ではビー様に対峙した三人が三人ともチャクラの衣を纏っていたとか」

「……人柱力でなくとも尾獣のチャクラを使う者として、雲の里でも金閣、銀閣がいたな」

「その類かと」

「誰が倒したかはわかったか?」

「写輪眼のカカシ、木ノ葉一の剛拳使い、マイト・ガイ。そして仙術と百豪の術を使うくノ一の三人です」

「可能性があるのはカカシとくノ一か」

「はい」

 

 ……まさか、うちは一族でもないのに、万華鏡写輪眼を開眼したか? だとすればチャクラさえ尾獣のモノを使えば八尾を絶命させることが出来てもおかしくはない、か。百豪の術を使うくノ一というのは蛞蝓姫の弟子かなにかだろう。確か初代火影の孫である綱手は仙術こそ使えなかったが、初代が使っていた仙術を継がせたといったところか。

 

「報告!

 第一部隊、第二部隊と戦闘中の二代目水影を封印完了!」

「被害は?」

「救援に向かった第一部隊の上忍部隊の死者は0。第二部隊は……」

「ん?」

「第二部隊は2000人以上が死亡」

「ッ!」

「戦闘継続が可能なのは400人程です」

「…………第一部隊の残りはどうした?」

 

 第一部隊は雲の里の上忍ほぼ全てを集めた部隊と中忍以下で構成された他と同様の部隊に分かれている。

 

「残りの班は第三部隊の足止めに加わりました」

「そうか」

 

 二代目水影を先に仕留める決断をしたのだから、人数が足りているなら第三部隊の足止めを増やすのも分からなくもない。

 しかし、

 

「二代目土影、ムウを倒すのは厳しいかもしれんな」

「報告!

 第三部隊壊滅!」

「やはり、か」

「追加の第一部隊が足止め中です」

「暗部の方はどうなってる?」

「……音の里に忍び込ませた者の報告では、もぬけの殻だと」

「チッ」

 

 今回の作戦は二つを同時に進めていた。一つは戦力の集中による穢土転生体の各個撃破。そして、もう一つが穢土転生の術者捜索。見つかり次第儂か人柱力か、手の空いた戦力と暗部による暗殺を考えていたのだが。

 

「上忍部隊が二代目土影と戦闘に入りました!」

「雷影様」

「あ?」

「ここはもう退いたほうが」

「退いてどうするッ!?」

「…………」

「二代目土影は穢土転生体だ。退いたところでどこまでもついてくる。塵遁を防げない以上、侵攻されれば雲の里が消し飛ぶぞッ!」

「も、申し訳ありません」

 

 これはもはや、雲の里滅亡の危機だ。

 

================================

 

「圧巻だな」

 

 俺は天空から一万の、いや元一万の忍を見下ろしていた。岩の里の忍一万はしばらく我愛羅による砂の波に抗っていたが、俺が少し矢を打ち下ろしただけで総崩れした。我愛羅の砂は少し入り込めば砂の腕に握りつぶされるからな。

 

「このレベルの砂を抑えられるのは俺の里でも父親くらいだ」

 

 我愛羅も砂に乗ってここまでやってきたようだ。

 

「五影クラスでしか抑えられんと考えればもう終わりだな」

  

 我愛羅の父親は四代目風影だ。

 

「どうする?」

「あー……岩の里を潰してくる」

「いいのか?」

 

 俺たちの任務は侵攻阻止だからな。

 

「俺が言うのもアレだが、木ノ葉は平和を求める。下手をすればここまでしても土の国を併合しない可能性がある」

「……砂の里ほど見事に潰されれば、併合するしか無いと。

 そのために砂の里も滅ぼしたのか」

「…………」

「お前はこの大戦を望んでいたようなフシがある」

「…………だとしたら?」

「戦うために生み出された俺にとっても、悪い話ではない」

 

 そう言って、我愛羅はこらえきれない攻撃的な笑みを浮かべる。そういえば、原作の改心イベント、我愛羅こなしてないんだな。一方的にナルトにボコられただけだし。つまり、強者を殺すことで生の実感を得るなんてキャラのままなわけだ。普段は冷静であるところも同じ。

 

「そうか」

 

 それだけ言って、俺は岩の里に向かう。

 

 一応これは命令違反にはならない。もう侵攻は阻止できているとか、戦争はまだ継続しているからとかそういう話ではなく、単に岩の里の侵攻阻止を頼まれた際、俺はたしかに言ったのだ。

 

『無理そうなら逃げてもいい。生きて帰れよ?』

『それはわかったが…………別に滅ぼしてしまっても構わんのだろう?』

『フッ。

 好きにしろ』

 

 これが五代目火影、綱手と俺のやり取りだった。

 つまり、俺は岩の里を滅ぼす許可を得ているのだ。

 たぶん。

 

=================================

 

「ま、まさか!?」

 

 私達は上空を見て、相手の正体を悟った。砂の里を跡形もなく滅ぼしたうちはサスケが、岩の里にも来たのだ。

 

「ぐ、軍は何をしておるか!」

「落ち着いてください。

 我々はこのときのためにこの結界を張ったのではありませんか」

 

 里一つ滅ぼすような球形の衝撃など、この結界の前では無力だ。数十枚に置けるこの結界は尾獣玉すら凌ぐ。拡散するタイプの衝撃など、恐るるに足らぬわ。

 

「……そうじゃな。

 だとしても、軍を速く呼び戻せ!

 やつを殺せば木ノ葉の戦力は大きくそがれる!」

 

 岩の里相談役が声を張り上げる。命が惜しいのだろうが、それは私も賛成だ。この里が丸ごと吹き飛べば、例え木ノ葉が落ちてもどれだけ復興に時間が掛かるか、考えたくもない。

 そのときには考える頭も吹き飛んでいるだろうがな、はっはっは。

 

【天手力】

 

「俺を殺す、か」

 

 …………は?

 

「え?」

「は?」

 

 そのうちはサスケが、目の前にいた。

 その眼は、輪廻眼が発現している。

 

【神羅天征】

 

「ぁ」

 

=============================

 

「ありえない」

 

 木ノ葉の所有する尾獣、九尾が半透明な状態で顕現する。霧の里は、先代水影が三尾を完全に尾獣化させることが出来たが、今はいない。クーデターにより殺害され、三尾は水の国内で放し飼いにされている。故に、霧の里が現在唯一所有する尾獣、六尾の人柱力が対応するわけだが、アイツは人型での尾獣化が精々。故に、霧の里の忍総出で援護する予定だったのだが、

 

「なぜ、木ノ葉の忍が我々と同数なのだ!?」

 

 木ノ葉は三つの里と三正面作戦を展開するはずだった。だからこそ霧の里はこの戦争に乗ったのだ。元火の国領から一番遠い土の里は後回しにされるにしても、霧の里と雲の里は木ノ葉の里との距離が変わらない。最低でも忍の数は半数、九尾だって完全な人柱力を要する雲の里に向けられると想定されていた。

 

 にもかかわらず、蓋を開けてみれば木ノ葉の忍一万、加えて九尾までがこちらに来ているのだ。勝ち目などあるものか。

 

 なんとか時間を稼ぎ、雲の里が木ノ葉の里を落とすまで、耐えるしか無い。

 

【尾獣玉】

 

「ガァァァァ!」

「六尾、か」

 

 人型に抑えて尾獣化した六尾が尾獣玉を作り始める。九尾を抑えられるのは同じ尾獣である六尾しかいない。しかし、六尾の人柱力は完全な尾獣にはなれない。

 

「フンッ!」

 

【尾獣玉】

 

「ッ!」

 

 大きい。

 完全な尾獣が作る尾獣玉だ。流石に六尾を無視してアレがこちらに放たれることはないだろうが、来れば終わりだろうな。六尾が引きつけている間に、なんとしてでも敵の1万を突破し乱戦に持ち込む必要がある。

 

「まだ突破できないのかッ!」

「だめです!

 奴ら、守りに徹しながら後退しています!」

 

 前方にいる尾獣が孤立しても構わないと、そういうのか。

 

「ならそのまま押し込んでやれ!」

「い、いいんですか?」

「孤立した尾獣を叩く。

 水鮫弾系の術が使えるものを集めろッ!」

「ッ!

 はいッ!」

 

 水鮫弾は相手のチャクラを吸って大きくなる術。チャクラの塊である尾獣にはよく効くことだろう。どうせ守りに徹して後退されては突破は不可能。最悪九尾が六尾を一蹴した後、挟み撃ちにされる。ならば、六尾に手間取っている背後から水鮫弾で援護だ。それで木ノ葉が焦って前に出てくるなら、その時こそ乱戦に持ち込む好機。あの巨体では乱戦にさえ持ち込んでしまえば九尾は無力化出来る。

 それで尾獣化を解いてくれればこっちのものだ。完全な尾獣化は本人の体力を大きく消費するゆえに一度解いてしまえばもう一度尾獣化する体力は残らない。

 

 さぁ、どうする木ノ葉?

 

============================

 

「…………六尾が戻ってこないってばよ」

 

 お互いに尾獣玉をぶつけ合い、俺の尾獣玉が六尾の尾獣玉を消し飛ばし、そのまま人型の尾獣をふっとばしてから、六尾が戻ってこなかった。

 

『お前仙術習得したんだろ?

 感知してみろ』

 

 九尾からツッコミを受ける。

 

「おー!

 そうだったってばよ!」

 

 この一ヶ月、俺はエロ仙人の元で仙術の習得、そして四代目火影が目指した螺旋丸の完成を見た。九尾のチャクラを呼び水に、一瞬で九喇嘛モード兼仙人モードへと移行する。

 

【アシュラモード】

 

「…………伸びてるってばよ」

『完全な尾獣化もできん人柱力などこの程度だ』

 

「やれッ!」

 

 ん?

 後ろを向くと、こちらに向かって水遁系忍術を放つ霧隠れの忍が多数。

 

『尾獣玉で焼き払うか』

「その背後に木ノ葉の忍が居るんだってば!」

『ではどうする?』

 

 新しく覚えた新術のお披露目だってばよ!

 

【仙法・風遁超大玉螺旋手裏剣】

 

「行っけぇー!」

 

 風遁の性質変化を加えた螺旋丸に自然エネルギーを加え、仙術化した螺旋丸だ。

 俺の投げた螺旋手裏剣は敵の水遁系忍術を全て巻き込み、中間地点で起動した。圧縮されていたチャクラの塊が広がりを見せ、触れたもの全てを切り裂く細かな風の刃が球形を作り出す。当然サメを象った自立する遠距離系忍術など抵抗も許さず消滅する。

 

「デタラメなッ!」

 

【瞬身の術】

 

『終わりだな』

「なっ!」

 

 先の超大玉螺旋手裏剣の起動で視界が閉ざされた瞬間、九尾が瞬身の術を準備、終わった瞬間その懐に飛び込んだのだ。

 

【大玉螺旋乱丸】

 

 半透明な九尾の体から同じく半透明な多数の腕が生え、霧の里の忍たちを襲う。その腕の先にはそれぞれ大玉螺旋丸が。

 

「ここまで忍術を使いこなす尾獣などッ!」

 

 その間も水遁系の術が飛んでくるが、同士討ちを懸念しているのか、大した威力ではない。

 

【仙法・風遁超大玉螺旋手裏剣】

 

「ま、待て!」

 

 そして本体の腕で同じように螺旋手裏剣を作り出す。遠距離で作っても、迎撃されるだけだが、この距離ならかわせまい。

 

「これで、終わりだってばよ!」

 

 真下に向けて螺旋手裏剣を振り下ろすと同時に、九尾が瞬身の術で距離を取る。

 

「クッソガァァァァァ」

 

 千以上の忍たちが、消し飛んでいく。

 

「よっし!」

『後は後退した木ノ葉とその間にいる霧の里の忍9000を俺達で挟撃すれば、作戦通り、だな』

「さっさと倒して、他の戦線に行くってばよッ!」

 

 木ノ葉の立てた策は対霧の里戦に大してほぼ全戦力を投入。岩の里、雲の里に大しては足止め程度の戦力しか送らず、1つずつ戦線を片付けてくという戦力集中の原則に則った策である。

 計算違いがあるとすれば、足止めに使われる戦力と相手の戦力を見誤っているところだ。二代目土影、二代目水影、そして忍び刀七人集。計9人ではいくら優秀でも一万が相手では足止めにしかならないと見誤り、我愛羅がいくら人柱力で、地の利を得ても、やはり1万を相手にしては足止めにしかならないと見誤り、サスケがいくら一撃で里を滅ぼせたとしても、同じことが出来かねない人柱力二体相手では足止めが精々と見誤る。

 その計算の中には、他の里にも、木ノ葉のように五影や人柱力以外で尾獣を倒しかねない忍が居ると考えていたことも含まれるだろう。例えば自来也、大蛇丸。例えばマイト・ガイの七門、八門。例えばカカシやサスケ、イタチの万華鏡写輪眼。例えば綱手やサクラの百豪の術。

 しかし、実際にはそんな者存在せず、いたとしてもイタチのように里を抜けているため対峙することはなく、木ノ葉の計算をいい意味で裏切り、各里の忍達は、何も出来ずに蹂躙されていった。

 

=============================

 

「はぁー」

 

 まさか、こんな報告が上がるなんてねぇ。

 

 自来也に説得され、既に内々で戦争が起こることが決定している木ノ葉の里の五代目火影なんてやらされる羽目になったが、こうも一方的になるとは。

 

「どうします?」

 

 どうもこうもあるか。

 元々霧の里を最速で潰して、後顧の憂いを立ってから雲の里に攻め込み、雲の里の忍を撃破し、最後に一番遠い岩の里と戦う。それが当初の木ノ葉防衛作戦だった。

 

「水の国、雷の国、そして土の国の大名達に降伏勧告を送れ。

 条件は火の国の大名と適当に決めてもらうように」

「はっ!」

 

 と言っても、選択肢などあってないようなものだろうが。

 

 なにせ、霧の里、雲の里、岩の里、その全てが跡形もなく滅んだのだから。

 

=================================

 

「なーんか急いで損したってばよ」

「皆無事に勝利したんだから、この方がいいのよ」

「そういうことだ」

 

 ナルトは、霧の里の尾獣を一蹴した後、忍1000を瞬殺し、忍9000の背後を突いてコレを壊滅。しかし、壊滅させたと言っても逃げ延びた残存戦力自体は存在するし、これを殲滅しようとすればかなりの時間がかかる。よって、当初の計画通り、木ノ葉は霧の里まで進軍。有無を言わさずナルトの尾獣玉でこれを消滅。結界があったようだが仙術+尾獣の力は予想外だったらしい。手元で作った尾獣玉を押し込んで結界を突破。残った結界の中で爆発した尾獣玉が全てを跡形もなく吹き飛ばした。

 

「せっかく戻ってきたってのに」

 

 その後、ナルトはゲンマ、ライドウ、イワシの三人掛かりの飛雷神の術で木ノ葉の里へ戻され、どこの戦場に送られるか、というところで岩の里及び雲の里消滅の報告を聞かされたのだ。

 俺から。

 

「それで、これからどうなるのかしら?」

「土の国と水の国は火の国に併合されるだろうな」

「雷の国はどうなんだってばよ?」

「あそこは実質音の里が落としたようなもんだからね」

「二尾は自来也が、八尾はサクラ達が倒したけどな」

「ッ!

 二尾と八尾ってば」

「あの我愛羅と同じか、それ以上に尾獣の扱いに長けた人柱力ね」

「特に八尾は唯一の完璧な人柱力だと言われてたな」

「…………」

 

 ナルトが黙り込んでしまった。

 

「私も結構すごいでしょ?」

「…………尾獣なしで尾獣を倒すってあんま想像できないってばよ」

 

 少し拗ねたように呟く。

 分からんでもない。

 

「ナルトは今回も、前の戦いでも苦戦すらしなかったらしいな」

「あぁ」

 

 そこからナルトは語り始める。

 

 前回の戦いでは一尾と戦ったものの、一尾の真骨頂は大量の砂を操れることにある。砂漠でもない木ノ葉ではその真価を発揮できないばかりか、完全に尾獣化しても我愛羅はすぐには全力で戦えないため、尾獣玉を使えない状態のまま一方的に倒したのだと。その後の量産型大蛇丸も大した強さではなく、戦いらしい戦いもなく勝利したらしい。

 今回の戦いでも、六尾こそいたものの、完全には尾獣化できない相手だったため、牽制の一撃で倒してしまった。続けて1000を超える忍とも一人で戦ったが、あちらからの攻撃は通じず、やはり一方的に倒し尽くして終わったと。

 

「いいことじゃない」

「それで、俺ってば九喇嘛と一緒なら負けることはねーって思ってたけど、そんなこともねーんだなって」

「九喇嘛?」

「九尾の名前だな」

「あー、でも私達はナルトが九尾の衣貸してくれたから勝てたようなもんだしね」

「でも、エロ仙人は一人で倒しちまったんだろ?」

「そうだな」

「だから、今回俺は運が良かっただけなんだなって」

 

 確かにこの世界には例外が多い。伝説の三忍、五影、雨隠れの長、暁のメンバー。鬼鮫のような忍が里抜けしていなければ、それだけでナルトが殺られる可能性も0じゃなかったわけだ。

 そんなことは、いつだって同じなんだけどな。

 

 この世界のナルトはアカデミー入った頃から強かったし、その後も俺達と共にザブザや白を相手にするような下手したらSランク任務になるようなものを難なくこなし、中忍試験でも大蛇丸を撃破した。一度も失敗することなくここまで来て、負ける可能性のある、死ぬ可能性があることをしているという自覚がなかったらしい。

 

 それを言うなら俺もだがな。

 

 負ける気は無いし、負けるとも思っていない。

 

 戦いは好きだが、勝って当たり前の勝負しかするつもりはない。

 

「今回はしかたないわよ。

 木ノ葉滅亡の危機だったんだから」

「…………よし!

 俺ってばもっともっと強くなってエロ仙人もサスケも、1人で倒せるようになるってばよッ!」

「なんでそうなるのよ……」

 

 エロ仙人と修行だってばよーッ! なんて、ナルトが叫んで走り出す。

 

「俺も、うちは復興に精を出すか」

「私と?」

「そっちも、だな」

「うん?」

 

 今回俺は音の里を通して雲の里を滅ぼした。恐らく、領土拡大に野心を抱く田の国は雷の国領の併合を望む。元の雲の里の場所に、音の里を移設し、本格的にうちはの里とでも言うべき場所を作り出す。

 

 そして、ゆくゆくは全世界から俺の嫁を招集し、うちはのクローンや穢土転生体で里の防衛を、戦力を整える。

 

 もし、唯一大国として、いや超大国として生き残った木ノ葉がそれを邪魔するというのなら、認めないというのなら――

 

「いや、なんでもない」

 

 ――その時はうちはの生き残りを掛けて第五次忍界大戦もやむなし、といったところだろうな。

 

 

 ―END―






これにて完結となります。
読了ありがとうございました!(*´ω`*)

もしよろしければ、アンケート、感想など、よろしくお願いしますm(_ _)m

追記
一話に付き一つしかアンケートを掲載出来ないので、第15話、第14話、第13話に別のアンケートを追加しました。


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