俺は、アリス・シンセシス・サーティを愛している!!! (アリスみたいなヒロイン好き)
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一話 一目惚れしたら血涙が出た

アリスがかわいくて我慢できなかった。
衝動書きですよ!!

今更ですけどね…


 アンダーワールドの人界と暗黒界……その境界線の一つ東大門。

 

 そこよりもわずかに暗黒界側よりの部分にその者はいた。

 

 青色と銀色が中心な鎧を身にまとい、手に持つは人々の想いを元に生み出されし黄金に輝く神器の剣。

 

 誰もが一目で騎士とわかる10代後半の青年ではあったがその周囲は地獄絵図だった。

 

 その騎士の周囲にはただただ、死体があった。

 

 人型の死体、亜人の死体など差異はあれど、その全ては騎士の手によって葬られ天命の尽きた暗黒界の戦士たち。

 

 その数は何千とはくだらないのにも関わらず、その中心で騎士は無傷で立っていた。

 

 鎧や剣に血はついていてもそれらは全て敵の返り血……この地獄とも呼べる異様な光景はその騎士の手によって作られたのだった。

 

 黒髪に染みついた血を見てわずかに眉を曲げながらもそれ以外の感情は表情に出さず、剣についた血を払う為に一振りしたところ彼の頭上で龍の鳴き声が響く。

 

 青年が頭上に顔を向けると、一匹の飛竜が彼の近くに着地した。

 

 「デュソルバートさんか」

 

 その飛竜に彼は見覚えがあった。

 

 こんな最前線に来るものなど限られているからだ。

 

 見覚えのある飛竜から予想通りの男が下りてくる。

 青年の周囲の様子を見ても表情を変えず、

 

 「相も変わらずバカげているな……」

 

 「そんなことを言う為に態々俺のところに?ついに俺と同じ持ち場になりましたか?」

 

 先ほどまでの無表情の顔が嘘かのように表情を崩し軽口をたたく青年に「そんなわけがなかろう」と仏頂面を変えず男は答えた。

 

 「ベルクーリ・シンセシス・ワンから首都に召集命令だ。セントラル・カセドラルに帰還しろ」

 

 「……何か緊急の事態でも?」

 

 その命令に青年は警戒を露わにする。

 というのも青年は最高司祭であるアドミニストレータから直々に境界線の守備を任されている。

 

 その任務を停止してまで帰還しろともなれば考えられる理由は二つ。

 

 非常事態による警戒、もしくは──

 

 「……いや、そちらではない」

 

 「では、新たに整合騎士が選ばれたのか」

 

 そう、整合騎士が新たに選ばれたかだ。

 

 青年の所属する公理教会の中でも最強の騎士たち、それが整合騎士。

 

 メンバーの選定方法など詳しいことまでは知らないものの、全員で30人にも満たない。

 彼らは少数精鋭でありメンバーの増加などは滅多に行われなかった。

 

 その為、新しい整合騎士が選ばれた場合、顔合わせのために彼は帰還することを許されていた。

 

 「そういうことだ。……以上がベルクーリ・シンセシス・ワンからの命令だ。()()()()()()()()()()()()

 

 「了承したよ」

 

 そう言ってレイジは、籠手を外し指でピィーと音を鳴らす。

 少しすると東大門より、赤色の鱗に包まれた飛竜が飛んできた。

 レイジの近くに着陸すると飛竜は彼の黒髪にこびりついた血に気にする様子もなく頬釣りしてくる。

 

 「悪いなペンドラゴン。久しぶりに首都まで頼む」

 

 その願いに応えるかの如く、ペンドラゴンと呼ばれた飛竜は大きく鳴く。

 その動きにレイジは微笑み、飛竜の背中に飛び乗る。

 すると飛竜はそのまま首都に向かって飛び出した。

 

 その様子を最後まで見届け、彼らの後に続くかのようにデュソルバートとその相棒も後に続いた。

 

 

 

**************

 

 

 

 「やれやれ…一体十数年ぶりの帰還だろうな?」

 

 相棒のペンドラゴンを飛竜発着場に待たせてベルクーリ・シンセシス・ワン……俺は団長と呼んでいる人物の元に向かっていた。

 

 俺は、大体数十年前に整合騎士に選ばれた。

 それ以前の記憶はなく、整合騎士に必要なイロハを教わっていた時に少々やらかして以来俺は東大門でずっと勤務している。

 

 「必要な仕事とはいえ、いい加減交代してほしいよ……あーでもあいつらと関わるのは嫌だ」

 

 何十年も同じところに勤務し続ければ誰だって飽きる。

 だが、どういうわけか整合騎士に選ばれるのは性格に一癖二癖もある連中ばかりだった。

 まともなのな人なんて片手に数えるだけだ。

 そんな連中と交流を持つか、敵さえ倒していれば静かな最前線。

 ……悩みどころである。

 

 「今回の奴はまともだといいな~……無駄な期待か」

 

 そう呟きしばらく歩くとようやく団長の待つ部屋にたどり着く。

 

 扉をノックし、「レイジ・シンセシス・ゼロ、帰還しました」と告げると扉の奥から

 団長の声が帰ってきた。

 

 「おお、来たか。よし入れ」

 

 団長から許可が下りると、目の前の扉を開ける。

 

 視線を中に向けるとそこには懐かしい団長の姿とその横に見覚えのない黄金の鎧を身にまとった外見上俺よりも歳がわずかに下の女性がたたずんでいた。

 

 「アリス、こいつがレイジ・シンセシス・ゼロだ。」

 

 「お前がレイジ・シンセシス・ゼロですか……私はアリス・シンセシス・サーティです。」

 

 そう言ってアリス・シンセシス・サーティと名乗った彼女はこちらを正面から見てきた。

 

 その瞬間、俺の中に電流が走った。

 

 「………」

 

 「……?おい、レイジどうした」

 

 いや、なにこれ?

 なんか動悸が激しい。

 彼女…アリスに見られているだけで顔の熱が上がるのがわかる。

 というか、俺任務から帰ってきて速攻で来たせいで髪洗ってなくね?

 

 ……なぜ風呂に入ってから来なかった!!

 少し前の自分を殴りたい。

 

 「おーい?……いや、マジでどうしたんだ?悪いな嬢ちゃん。普段はもう少し愛嬌があるんだが……」

 

 なんか団長が呼んでいる気がするがどうでもいい。

 いや、本当に何なんだろう?

 

 戦闘の勝利にある余韻とも違う。

 何かを達成した時の達成感でもない。

 

 けれど、彼女を見ているだけで自分の中の何かが満たされる。

 同時にもどかしい気持ちにもなる。

 

 「いえ、大丈夫です小父様。……レイジ殿大丈夫ですか?」

 

 まったく微動だにしない俺の様子を心配してかアリスがこちらに歩み寄ってくる。

 だが、その一歩一歩近づいてくるだけでそれだけ俺の中の動機は激しくなる。

 

 とうとう手を伸ばせば届く距離に来ると心配そうな顔をしてアリスはこちらに手を伸ばす。

 その全ての動作が愛おしく感じてようやく俺は悟った。

 

 「……ああ、そうだったんだ」

 

 「えっ?」

 

 出された手を両手で優しく包み俺は精一杯の笑顔を作りながら自分の気持ちを言葉にした。

 

 「君に恋をした」

 

 「………えっ?」

 

 「………はぁ?」

 

 俺が言った言葉の意味が分からないのか首傾げアリスは疑問の声を上げる。

 ああ、ダメだ。

 そんなたわいもない動作ですら愛おしく思える。

 団長?知らん。

 

 「ああ、全く恥ずかしいんだけどな……一目惚れというやつだよ。月が綺麗ですねとかうまい言い回しが言えたらいいんだが……こうして向かい合っているだけで胸が高鳴って言葉に詰まるんだ。だから、素直に言わせてくれ。君が好きだ」

 

 「えっ、あっ、お、叔父様!?」

 

 突然の告白にアリスは顔を赤くし慌てて団長に助けを求める。

 

 「いや、えっ?レ、レイジ。そういうのは段階を踏むべき……」

 

 いや、無理。

 アリスの慌てように少々申し訳なく思うがこの気持ちを抑えておくことはできなかった。

 何処か既視感を覚えるこの他者を愛おしく思う気持ちに、嘘はつけない。

 

 彼女の為なら、俺は()()()()だろうが神様だろうが敵に回せるだろう。

 

 そう思った瞬間、突如右目に痛みが走り頬を何かが伝う。

 アリスの手を包んでいた手を放し右手で痛みの走った目元に手を当てるとそこには血がついていた。

 

 「なっ!?」

 「おい、レイジ!!考えるのやめろ!!」

 

 敵の乾いた返り血などではなく正真正銘、俺自身から流れ出たであろう血が。

 周囲の慌てた声が何処か遠くに聞こえ、だんだんと頭への痛みが増加していく。

 終いには右目に奇妙な文字の列が走る。

 

 ()S()Y()S()T()E()M() ()A()L()E()R()T():()C()O()D()E() ()8()7()1()

 

 この文字の意味は分からないがこれが何なのかだけはわかった。

 これは俺の彼女を思う気持ちを否定するものだ。

 本能がそう叫ぶ。

 

 そんな考えを持つなと、何も考えるなとその目の文字から伝わる。

 

 

 

 ………ふざけるなよ?

 人を愛することが罪だとでも?

 彼女を守りたいと思うことが間違っていると?

 

 知ったことか!!

 それが罪だというのなら喜んで背負ってやる!!

 

 そして何度でも言おう、俺はアリスを守る為なら世界のすべてを敵に回せる!!!!

 

 俺は────

 

 「俺は、アリス・シンセシス・サーティを愛している!!!」

 

 その決意にも見た宣言と同時に右目が限界を迎えたのか吹き飛び血が飛びちる。

 俺の血で彼女を汚さないようにと左手で壁を作るがたいして意味はなく、彼女の綺麗な金髪と黄金の鎧に飛びついてしまった。

 

 「──すまない、俺の血で君を汚してしまった」

 

 「……えっ?あっ……それよりもお前の右目が」

 

 「アリスの姿が綺麗すぎて見るのが耐えられなかったんだ。まったく団長たちは耐えているのに情けない」

 

 少しでも彼女の心配を和らげようと言い訳をするが駄目だな。

 こちらを心配そうな表情で見てくる姿は変わりなく、俺は助けを求めるかのように団長の方へと視線を向ける。

 

 「………と、とりあえず目の治療してこい」

 

 正直きつかったんで助かります。

 まあ、アリスを思えばいくらでも耐えられるが。

 

 「そうですね。すまないがまた後で」

 

 「……とりあえずこれで拭きなさい。そのまま出歩くのはまずいでしょう」

 

 団長に促され出ていこうとする俺に、アリスは手巾を手渡してくる。

 それ見つめて一言、

 

 「洗って、高級菓子のセットをつけて返すな」

 

 「いや、普通に洗うだけでいいですから!?」

 

 だって俺からしたら高級品の手布よりも価値あるし。

 

 そんなやり取りをしながら俺は団長の部屋を一旦後にした。

 

 




小父(右眼の封印は愛で破る物なのか?)

??「違うわよ!!」



物語はアリスが整合騎士になり番号を与えられた後なので15歳から。


アリスヒロインのオリ主物もっと増えて。


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二話 最高司祭は露出婆

お気に入りしてくれた22人の方、評価してくれたしぇルさん、感想をくれたやまごうさん、零樹さんありがとうございます。
文章の内容とかちょくちょく変えたりしてますが見切り発車なのでお許しください。

それではどうぞ


 「……うん、治った」

 

 団長の部屋から退出し自室に戻った俺は、先ほど破裂した右目を治療し治ったことを鏡で確認していた。

 幸いにもアリスから借りた手布で血を拭いたのと、道中誰とも会わなかった為、迅速に治療ができた。

 貰っていなくても治療に問題はなかったけど、その優しさが嬉しい。

 

 それにしても、人を愛すると右目が吹き飛ぶとか……平民の恋愛結婚って相当大変なのではないだろうか?

 

 「まあ、傷は治っても痛みと疲労は残るか」

 

 治療を行ったといっても、俺の場合武装完全支配術の強化(エンハンス・アーマメント)を使用したのだが……

 

 このアンダーワルドの人界では神聖術と呼ばれる空間リソースを消費することで発動できる魔法があるのだが、俺の場合そちらを使用せず、()()()()()()の剣ではない武装完全支配術を使用する方が楽なのだ。

 

 ちなみに、神器とは整合騎士が誰もが持つ武具で、それぞれ元となった素材がある。

 その素材の力を開放するのが、武装完全支配術である。

 団長であれば時計の針とか、デュソルバートさんだと不死鳥とか。

 

 俺の神器の素材はよくわからず、以前最高司祭(露出婆)に聞いたら……人々の概念の結晶とがどうとか。

 うん、意味が分からん。

 そのよくわからん素材のせいか使用しても天命が減らなかったりして、便利ではあるのだが。

 

 「まあ、疲労といってもさして気にするほどでもないな」

 

 正直、毎日のように襲ってきた暗黒界の連中を相手していた時に比べれば余裕がある。

 ブラック業務に何十年も耐えた俺の精神力なめるなよ?

 

 「とりあえず、団長の部屋に戻──」

 

 「おォっと、その前によろいしいですかぁ0号?」

 

 団長の部屋に戻るため、扉を開けてみようとした所、奇妙な声が扉の外から聞こえた。

 その声に、聞き覚えがある俺はまたかと内心溜息を突きながら扉を開け返事をした。

 

 「……元老長殿か如何様な用事で?」

 

 扉の先には予想通りの肥満体質でピエロのような男──公理教会元老長チュデルキンがいた。

 

 「最高司祭猊下ァがお呼びですよォー!!態々呼びに来てあげたのですからァとっときなさい0号!!」

 

 「……わかりました」

 

 このデブは正直いけ好かないのだが、一応俺の上司である団長の上司(公理教会No.2)に当たる為、最低限の礼儀は尽くさなければいけないのが本当に嫌だ。

 何せこいつ、人の呼び方を番号で呼ぶのだ。

 いくら名前に番号が付くとは言えイラつくなという方が無理である。

 

 ……それにしてもあの最高司祭(裸族)一体何の用だ。

 

 

**************

 

 界の首都「央都セントリア」の中心に存在する、公理教会の本拠地セントラル=カセドラル。

 その最上階にその女、アドミニストレータはいた。

 

 見る物が見れば一瞬で魅了されるであろう魔性笑みを浮かべ、男であれば興奮せざるを得ない服を一糸まとわぬ姿で、目の前に騎士の礼をとって座すレイジに声をかける。

 

 「ふふふ、来てくれてありがとう、レイジ」

 

 「……いえ、最高司祭(露出婆)様のお呼びであれば来ますとも(嫌々ですが)

 

 「ねえ、いつも思うのだけれどあなたに最高司祭って呼ばれるとイラっとくるのは何でかしら?」

 

 「……さあ?」

 

 流石の最高司祭であっても人の心のうちまでは読み通せないのでレイジの内心の呼び方までは知る由もないのだが、わずかにでも感ずくのは何百年も生きた経験か、女の感か……

 

 「……まあ、いいわ。さて、今回呼び出した理由なのだけれど貴方、右目が吹き飛んだそうね。見たところもう治したようだけれど」

 

 怪訝そうな顔をしながらアドミニストレータは目の前にいるレイジを見下ろす。

 右目が吹き飛んだはずなのにもはや傷一つない顔を見れば異常がない様に思える。

 だが、この女は知っていた。

 自身が仕掛けた右目の封印(CODE 871)が破られたということを。

 

 「治療して上げようかと思ったのだけれど必要なさそうね……まあ、でも念のために見せてくれないかしら」

 

 「……わかりました」

 

 無論この女は本音では、そんなことをひとかけらも思っていない。

 むしろその治療のどさくさに紛れてもう一度仕掛けようとさえ思っていた。

 

 何せ目の前の男は、ある意味アドミニストレータが生み出した整合騎士の最高傑作にして、現状この世界唯一のイレギュラー。

 アドミニストレータの切り札であると同時に、自身を滅ぼしうる数少ない存在である。

 そんな者を首輪もつけずに放置なんてマネは危なっかしくてできるわけがない。

 

 その為、どうにかもう一度首輪をつけようとするが───

 

 「……チィ」

 

 「……?どうかされましたか」

 

 「………なんでもないわ」

 

 できなかった。

 そして、こんなことは初めてではなかった。

 どう言うわけか、目の前の男にはアドミニストレータの術式を刻むということができなかった。

 

 無論最初からこうだった訳ではない。

 最初からそうであれば、右目の封印はおろか儀式も成功しなかったはずだ。

 そして、その理由もおおよそ予想がついている。

 

 アドミニストレータはチラリとレイジの腰に携えられている神器の剣を見る。

 レイジ以外は扱えず、アリスの手にした神器「金木犀の剣」よりもはるかに貴重で強力な──最強の神器。

  

 その力が何らかの形でレイジに干渉しているせいでアドミニストレータの術式を阻害しているのではないかと予想していた。

 とはいえ、その神器を取り上げて術式を刻もうとしても同じようにはじかれてしまう為、アドミニストレータも確信を持てずにいる。

 

 「……まあ、いいわ。それで何があったのかしら?右目が吹き飛ぶなんて普通起きないでしょう?」

 

 アドミニストレータは一先ず、レイジに術式を刻むのを一旦保留にし自身の仕掛けた右目の封印を破った原因を探ることにした。

 その原因が分かれば、そちらに何らかの形で束縛すれば目の前の男も従えると考えて。

 

 「一目惚れをしました」

 

 「…………うん?ごめんなさい。もう一度言ってもらえるかしら」

 

 「だから、アリスに一目惚れをしました」

 

 「───えっ?」

 

 アドミニストレータは絶句せざるを得なかった。

 別に目の前の存在が、人形に一目惚れするのは良い。

 それ自体は滑稽なことだと笑え、酒のつまみの一つにでもできる。

 けれどそれが理由で封印が破れるとかいうのは意味が分からなかった。

 

 「……他には?」

 

 「他にですか?……気持ちが抑えられず告白したぐらいでしょうか?」

 

 「貴方バカね」

 

 アドミニストレータは思わず反射的に突っ込んでしまった。

 少なくとも一目惚れをして気持ちが抑えられず告白するなんて真似そうそうしない。

 少なくとも自分が貴族だったころそんなことしてくる奴いなかったと。

 

 「……まあ、いいわ。傷も問題がないようだしこのまま持ち場に戻りなさい」

 

 馬鹿さ加減に呆れ半分、その理由であれば人形(アリス)さえ押さえておけば問題ないだろうと踏んで元の仕事に戻るように命じる。

 だが───

 

 「ああ、それですがお断りします」

 

 「──はぁ!?」

 

 断れた。

 今まで自分が命じれば淡々と命令をこなしてきたというのに。

 そのことにアドミニストレータは警戒を露わにする。

 今までは、危険であったものの自分に従順だった故に見逃していたが、そうでないなら話は別だ。

 すぐにでも消すか、何らかの対処をしなければならない。

 

 「……理由を聞いてもいいかしら?」

 

 アドミニストレータは会話の引き延ばしによる時間稼ぎで、目の前の男に不意打ちを仕掛ける準備をしようとする。

 だが、続いてレイジの口から出てきた言葉でその行動を止めざるを得なかった。

 

 「アリスの傍に出来るだけ居たいからですが?」

 

 レイジは、何を変なことを聞くのだといわんばかりの表情をしているが、変なことを言っているのはお前だと内心アドミニストレータは突っ込む。

 

 

 Q:「なんで仕事に戻らないの?」

 A:「東の大門勤務に戻るとアリスの傍に入れないので嫌です」

 

 つまりこう言っているのだ。

 ──アホかと思った、アドミニストレータを攻める者はいないだろう。

 

 「……貴方、あそこが抜かれたら暗黒界から攻め込まれるのわかってるわよね?」

 

 アドミニストレータとしては色々と準備が整うまでは東の大門を抜けられるのは困るのだ。

 だが──

 

 「ええ。で、それが?ま、受け入れてくれないなら仕方ありません。受け入れてくれるまでストライキします。一切仕事しないのでそのおつもりでいてください」

 

 「………」

 

 レイジの発言に、アドミニストレータは無言で頭を抱えた。

 惚れた人の傍にいる理由よりも優先する理由があるのかと遠回しにいているのだが、そこまで入れ込むか普通と思う。

 だが、同時に内心安堵する。

 目の前のバカは自分に反逆の意思を固めたりした訳ではないことがわかったからだ。

 その為、アドミニストレータは思考する。

 目の前のバカが妥協するラインで東の大門に向かわせるラインを。

 

 「……なら、定期的に東の大門に行って暗黒界の連中を間引きなさい」

 

 「………………………………まあ、それなら」

 

 大分悩んだが一応了承したらしい。

 なんで一人の人形が増えただけでここまで苦労しないといけないのか、と内心アドミニストレータは愚痴る。

が、そもそも、整合騎士が少ないのは選定理由が四帝国統一大会に優勝した貴族の子弟と、禁忌目録に違反して連行された罪人である為だ。

 そして、禁忌目録自体はアドミニストレータが自分と同等の権限を持つ者の存在を嫌がり制定した法なのだ。

 完全に自業自得である。

 

 「……なら、もう行っていいわ。あと、分かってるでしょうけど、くれぐれもセントラル・カセドラルにいる間は、貴方は武装完全支配術を使うのは禁止よ」

 

 「ええ、分かっています。それでは」

 

 そう言って、レイジは退出する。

 その様子を見届け、アドミニストレータは──

 

 

 

 

 

 

 

  「……もう寝る」

 

 ふて寝した。

 

 

**************

 

 

 

 俺は、アドミニストレータ(露出婆)との謁見を終えてすぐ団長の元に向かった。

 というか本来、傷を治してすぐに行く予定だったのに余計な邪魔が入ったわ。

 ……アリスには本当に申し訳ないことをしたよ。

 団長は別にいいや。

 というか、(剣の神器の方の)武装完全支配術を使うなって当たり前だろ。

 物騒すぎる。

 

 「まさか、前にやらかして以来ずっと根に持ってるのか?どんだけだよ」

 

 ……まあ、思考を切り替えよう。

 あんな婆に思考を割くなんて嫌だし。

 これから、アリスに会うわけなのでもう少しちゃんとした挨拶とかお詫びとか考えないと。

 

 そうやって考えながら歩いているとそう時間がかからずに団長の部屋にたどり着く。

 最上階である100階の最高司祭の部屋からある程度階をショートカットできる階段が作られたおかげで俺は、ピエロ野郎とは会わずに済む。

 正直、あんまり会いたくないのでうれしい配慮だ。

 

 「団長、レイジ・シンセシス・ゼロ戻りました」

 

 「おお、遅かったな。何かあったのか?」

 

 戻て来た事を告げ、扉を開けると若干心配そうな顔をした団長と若干こちらを見る目が厳しいアリスがいる。

 うん、治療になんでこんなに時間かけるとか思われてそう。

 アリスの目線で胸が痛いが、心配してくれた団長の疑念を晴らすほうが大事だ。

 

 「いえ、最高司祭(露出婆)に呼ばれてまして」

 

 「なっ!?」

 

 うん、なんでアリスはそんなに驚いてるの?

 団長も団長で心配そうな顔から怪訝そうにしてるし。

 

 「あー……それで?」

 

 「いえ、東の大門に今すぐ戻れと言われたので丁重にお断りしてきました」

 

 「「はぁっ!?」」

 

 なんで、そんなにころころと表情変えるの二人とも?

 アリスのハトが豆鉄砲を食らったかのような表情はかわいいけどさ。

 

 「まあ、最終的に定期的に行ってくるってことで妥協しましたが」

 

 「………そ、そうか」

 

 うん、ちゃんとブラック業務からホワイト業務に転属できましたよ!!

 ……二人ともだからなんで何やってるんだコイツ的な目で見てくるの?

 

 「まあ、そういうことで団長。軽い仕事ください」

 

 まあ、これでホワイト業務して合間にアリスをデートに誘ったりができるぜ!!




 ちなみにピエロはレイジが謁見している間は退出させられてます。
 理由は下手にあおってレイジが切れたら面倒という露出狂の判断で。

 次回ようやくアリスと本格的に絡めそう……


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三話 金木犀はアリスに合っている

 戦闘描写は疲れますね…

 評価してくれた、正太郎 幻想境界と禁書目録、匿名の方、お気に入り登録してくれた28人もの方、感想をくださった零樹さん、クック教授さん、爆弾さんありがとうございます。

 今後ともよろしくお願いします。

 それでは、どうぞ!! 


 「まあ、そういうことで団長。軽い仕事ください」

 

 

 ……なんというか本当に変わった奴だ。

 普通、最高司祭様からもらった仕事に異を唱えるなんて真似はしないんだよな。

 改善のために、色々具申することはあっても真っ向から否定するのはできない。

 嬢ちゃんの方を見れば信じられないような目で坊主のことを見ている。

 最高司祭様が坊主のことを特別扱いしているのはわかってはいたが……いや、案外面倒くさくなっただけなのかもしれん。

 

 正直、俺が300年近く破ろうとして破れなかった右目の封印をコイツは一目惚れしたという理由だけで破ってしまった。

 普通、それだけで破れるとも思えんのだ……不思議とコイツならやりかねないと思ってしまう。とはいえ、誤魔化すにしても「アリスの姿が綺麗すぎて見るのが耐えられなかったんだ」はないだろう。

 

 流石の俺もフォローが仕切れん。

 というか坊主も案外臭い台詞言えるのかと感心したぐらいだが、正直嬢ちゃん相手にはあまり意味はないだろうな。嬢ちゃんは生真面目だから、そういうことよりも素直に気持ちを伝える方が効果はあるだろう。実際、最初の告白は大分戸惑っていたしな。

 

 「……軽い仕事か」

 

 正直、俺らの仕事に軽いも重いもないと言いたいが今までのコイツのやっていたことを考えると、どれも軽く思えてしまう。少なくとも一人で何十年もの間、東大門に群がる暗黒界の軍勢を相手にたった一人で挑み近づかせないなんて真似は、俺達整合騎士の中でもこなせるのは坊主位だ。

 いくら神器があるとはいえ、精神も体力も持たんしな。

 

 「お前は何を言っているのですか。我々の仕事に重いも軽いもないでしょう。叔父様からも言ってください」

 

 うん、嬢ちゃんの性格上そういうと思ったよ。

 とはいえ、俺も坊主にはずっと東大門を任せっきりだった罪悪感がある。

 坊主が東大門を守っていた間、何一つ改善ができなかった。

 坊主だって、いい加減辛いだろうしな。

 ふむ、ここは少しおせっかいを焼くか。

 

 「……よし、嬢ちゃん。坊主と模擬戦をしろ」

 

 「なっ!?何故です叔父様!!」

 

 まあ、そう反応するわな。

 だから、嬢ちゃんが納得する理由をやるよ。

 

 「嬢ちゃんが勝ったらあいつに好きな仕事を割り振れ。無理難題何でもいい」

 

 「それは……わかりました」

 

 今嬢ちゃんの中では、不真面目な同僚にきっちり仕事を教え込むためにいろいろ考えてるんだろうが、そう簡単にはいかねえぞ。

 

 「坊主が勝ったらお前の一番望む仕事をやる」

 

 「……それは良いんですけど、俺の呼び方が昔の奴に戻ってません?」

 

 うん?当たり前だろう。

 

 「成長したかと思えば全くしてないんだ。当然だ」

 

 俺の発言を聞いて、「なんでかなー」と坊主が頭をかいているが……まあ、お前はそれでいいんだよ。

 

**************

 

 80階《雲上庭園》にレイジ、アリス、ベルクーリは来ていた。

 理由は、先ほどベルクーリから言われた模擬戦を行う為である。

 

 「勝敗は俺が止めるか、どちらかが自身で敗北を宣言するかだ。それでは双方ともに準備は良いな」

 

 「ええ、構いません」

 

 「いつでも」

 

 ベルクーリの確認に二人とも互いに己の武器である剣を鞘から抜き構え、同意する。

 

 「では、始め!!」

 

 先に動いたのはアリスだった。

 試合開始の合図と共に互いの距離が十分に開いているのにもかかわらず剣を振り下ろす。一瞬レイジは、その行動に困惑を現したが次の瞬間には驚愕していた。

 アリスの振り下ろそうとした神器にはすでに術式が出ていた。

 そして刀身が無数の黄金色の花びらへと変わりこちらに向かってくる。

 それが意味するのはすなわち──

 

 (武装完全支配術発動済み!?団長と同じ詠唱無しとかずるっ!!)

 

 内心、その利便性に若干の嫉妬を叫ぶが、次の瞬間には意識を切り替え横に飛び回避に専念をする。

 だが、その動きに合わせるかのようにアリスが柄だけになった剣を振るえば、黄金色の花びら達はその動きに合わせ横に回避したレイジを追い続けた。

 

 (ファナティオさんのと違って無差別じゃなくて操作型か……しかもこれらがすべて刃というなら攻防一体型。これは手ごわい)

 

 だが、同時に弱点も露呈していた。

 レイジが回避したあと黄金色の花びら達を二手にでも分けて攻撃すれば、初見であるレイジにあれば当てることはできたはずだ。それをしないという事は──出来ないということだ。

 

 (おそらく一定以上離して操作ができない。まあ、それでも厄介なんだが)

 

 そうであること裏づけるかのように一定以上距離を開けたレイジに対してアリスは黄金色の花びら達を自身の周囲へ旋回させ引き戻した。

 

 「どうしましたか?よもやこの程度ではないのでしょう……お前の武装完全支配術を出したらどうです」

 

 「……あいにく出す気はないよ」

 

 アリスは武装完全支配術を出す気はないといったレイジに対して、明らかに不機嫌そうな顔をする。

 

 「……いいでしょう。そうまでこちらを舐めて掛かるのであれば──無理やり引き出させるまでです!!」

 

 そう叫ぶとアリスは黄金色の花びらになっていた刀身を元に戻しレイジに斬りかかる。それに対してレイジは、上段の構えで距離を詰め迎え撃つ。

 

 (上段の構えですか。なら、それをいなして0距離で当てる!!) 

 

 アリスの神器である「金木犀の剣」の武装完全支配術は、刀身から金木犀の花に変えるものだが、その変えるまでのタイムラグはひどく短い。初撃をいなし、その出来た隙を突いて刀身を花びらへと変えればレイジは避けることができない。

 無論相応に天命が減ってしまうだろうがアリスはこの男にはいい薬だとすら思っていた。

 

 互いに距離を詰め、あと一歩で互いに剣が届くその時だレイジの剣に変化が起きたのは。レイジの上段に構えていた黄金の輝きを放つ銀色の刀身に青色のオーラのようなものを放つ。

 それにアリスは見覚えがあった。

 

 (青色のオーラ──秘奥義!?しかも速い!!)

 

 そう、それは人界に存在する様々な流派につたわる秘奥義が放たれる光。それを察知できたのはアリスも似た技を使えるからだった。しかも、その動きはアリスの予想を上回る速さだった。

 

 (けれど、対処できないわけではありません!!)

 

 驚愕したもののその動き自体は対処ができないわけではなかった。だから、当初の予定通り初撃をいなして武装完全支配術を当てようとする。

 

 「っ!」

 

 アリスの目論見通りレイジの初撃をいなす。

 だが、そこでアリスの目論見は崩れる。

 

 レイジの斬撃はアリスにいなされた後も生きていた。その証拠にレイジの剣には今だ、青いオーラがまとわれている。レイジはアリスに受け流された剣をすでに次の攻撃へと繋げていた。

 それが意味するのは──

 

 (連続剣の秘奥義!?)

 

 その技に対してアリスは驚愕し同時に刀身を花びらへと変えるのを中断する。レイジとの距離が近づきすぎている為、攻撃に使用するならばともかく防御に使用してしまえば自身も傷ついてしまうからだ。

 その為、刀身を花びらへと変えるのは相手の連続攻撃が切れた瞬間に変え、それまではレイジの攻撃をいなそうと。

 だが2合、3合とアリスはレイジの攻撃をいなすが止まる様子は一切見られない。ついには7合目にしてアリスは斬撃をいなしきれず態勢を崩されてしまう。しかもそこから、さらに攻撃が続くのだから笑えない。アリスの知る秘奥義というのはどれも単発の物だったからだ。そうして、8、9と斬撃がアリスの体へ刻まれアリスは片膝をつく。そうして──

 

 「──俺の勝ちだ」

 

 「……ええ、私の敗北です」

 

 レイジは最後の10撃目であろう攻撃をアリスの首元着前で止めていた。それを持ってレイジは自分の勝ちだと宣言し、アリスもまた自身の敗北を受け入れた。

 

**************

 

 「連続剣の秘奥義……しかも10連続撃ですか。見事としか言いようがありませんね。誰かに教わったのですか?」

 

 「えっいや、昔からできたものだから何とも。……あー今度教えようか?」

 

 「ええ、出来れば。中々興味深いですから」

 

 よっし、流れで約束取り付けられた!!

 神聖術で先ほどの模擬戦で減ってしまった天命を戻すアリスを見ながら、内心ガッツポーズをする。

 でも、正直危なかった。最後の斬撃無理やり止めたせいで躓いて転びそうになった。……危うく押し倒しそうになったよ。いや、アリスのことは好きだけどそういうのは段階を踏むべきだと思うんです……はい。

 

 「おー、お疲れさん。やっぱり坊主の勝ちか。と言っても嬢ちゃんがむきになって武装完全支配術を最初に解いちまったのも敗因だな。そうじゃなきゃ、もうちょい坊主も攻めあぐねただろ」

 

 そんな風にアリスと話していると、団長が近づいてきた。

 確か団長の言う通りアリスから攻め込んでくれたおかげで楽だった部分はあった。

 

 「ですね。攻防一体かつ、自在に操作が出来て、なおかつ武装完全支配術の詠唱もない。利便性に優れて過ぎてちょっとずるいですよ」

 

 正直、これは本音だ。俺の武装完全支配術はどれも詠唱が必要だし、攻撃にいたっては色々制約が大きい。そういう意味ではアリスのはひどく使いやすそうだった。

 

 「……確かにそうですね。他の方に比べれば使いやすい分類かもしれません。だた……」

 

 「ただ?」

 

 「武装完全支配術を使わせることもできずに負けた身としては、そのように言われたところで……としか」

 

 ……正直闘ってる時から気になってたんだけどさ、アリスもしかして聞いてないのか?

 

 「……あのさ、アリスは俺の武装完全支配術の事は、団長から聞いてないの?」

 

 「はい?何も聞いていませんが……」

 

 おーい、団長。これは問い詰めざるを得ない。

 

 「……団長」

 

 「はっはっは。悪い悪い。だが、他人が言うよりも自分から言うべきだろ。こういうことは」

 

 いや、まあそうなんだけどさ。色々自分の失敗談を積極的に話したいとは思わんよ?

 

 「……どういうことですか?」

 

 事情を知らないアリスは俺と団長を交互に視線を移す。

 俺はその問いに頭をかいて少しためらいながら話した。

 

 「……俺は剣の武装完全支配術の使用をセントラル・カセドラルでは禁じられているんだよ」

 

 「……はぁ!?」

 

 アリスはあり得ないものを見るかのようにこちらを見てくる。いや、普通そうなるよね。だって、万が一セントラル・カセドラルで戦闘になったら、惨い縛りを受けることになる。

 だが、そうしなければならない理由があるのだ。

 

 「昔、俺が整合騎士になりたての頃、団長に武装完全支配術教わってたんだ」

 

 「……それで?」

 

 「……その時、武装完全支配術を発動したんだけど、踏ん張りが効かなくて射線が上空に向いてしまったっていうのもあるんだけどさ──80層から85層くらいまで貫通したんだよ。破壊不可能な天井とか壁とか諸共」

 

 「……う、嘘ですよね叔父様!?」

 

 アリスはあまりの衝撃の事実に信じられないって顔をしている。そんな状態のアリスもきれいだと思いつつ、普通そうなるよなとも思う。

 

 「事実だよ嬢ちゃん。死人が出なかったのは運がよかった。……正直、直撃してたら俺は死んでたぞ」

 

 うん、その時の立ち合いの相手が団長だったけど……あれは防げないと思う。攻撃範囲も純粋に広いし。

 

 「……そ、そうですか。確かにそれでは使うわけにはいきませんね。……ちなみにレイジの神器の素材はなんなのですか?」

 

 「いや、良く知らん。以前、最高司祭(露出婆)に聞いたら人々の概念の結晶とかよくわからないこと言ってたけどな」

 

  人々の概念の結晶ってなんだよとしか言いようがない。もうちょっと具体的に言ってほしかった。

 

 「坊主……お前ちゃんと話は聞いてたんだよな?」

 

 「……すみません。小難しい話だったんで話半分でした」

 

 駄目だコイツ的な目で見ないでくださいお二方!!だってすごい小難しかったんだもん!!知らねえよ、ずっと長い間使える奴を探してたとか!!封印解くのが面倒くさかったとか延々と聞かされてもさ!!あの最高司祭(露出婆)自分語りが異様に長いんだよ。

 

 「あー俺の神器は良いとして、そういうアリスの神器の素材は何なんだ?花みたいだったけど……」

 

 「私の神器の元となったのは、かつてこの地が創世神ステイシアによって与えられた始まりの地だった──」

 

 「……えっ、そうなの?」

 

 何で知らないんだよって目線を向けられてもですね、知らないもんは知らないんですよ。歴史の勉強とか教えられず東の大門勤務だったし。

 

 「……まあ、いいです。この地は創世神ステイシアによって与えられた始まりでしたが、そこには村があり、美しい湖もありその畔には一本の金木犀の木が立っていました。その木の転生した姿こそが私の神器──金木犀の剣です」

 

 なるほど。……多分一番整合騎士の持つ神器で古い物かもな。

 それにしても、金木犀か。

 

 「なるほど、確かにアリスに合っているな」

 

 「…なにがですか?」

 

 「うん?ああ、金木犀の花言葉って確か気高い人とかだからさ。花自体も綺麗だし、アリスにピッタリだろ?」

 

 キチンと交流があるわけではないが、アリスの性格はなんとなくわかった。

 そういう意味でアリスに合っていると思うのだが……

 

 「……私に媚びを売ってますか?」

 

 「えっなんで?事実だろ」

 

 「むぅ……」

 

 あのー、なんでアリスさんは視線そらすの?ついでに団長もなんかニヤニヤしてるし……意味が分からない。

 

 「……そういえばお前の神器の素材は聞きましたが、神器の名はなんというのですか?」

 

 ……なんか話を露骨にそらされた気がするが、まあいいや。

 

 「神器の名は──約束された勝利の剣(エクスカリバー)だよ。」

 

 もう一個の方は聞かれてないし別にいいか。




 アドミン「やった!!とうとうあの神器を使える整合騎士ができたわ!!早速与えましょう!!」

                ↓主人公が武装完全支配、強化発動後


 アドミン「……えっ、何あの威力聞いてない。しかも、もうあの人形に干渉ができない!?っていうかあの威力で強化!?」

 アドミニストレータって結構ポンコツなことやってますよね。
 レーザー砲的な物を作ろうとして失敗して、粗大ゴミになった大量の鏡を転用したとか。


 ちなみに主人公の使った技は「ノヴァ・アセンション」です。


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四話 勉強に甘いお菓子は必須だと思う。

 お気に入り420件、日間ランキング11位……( ゚Д゚)

 ええ、はい皆様のおかげでこのようなことになりました(震え声)

 少しでもこの期待に応えられるよう頑張りたいと思います。

 それでは、お気に入り登録してくれた370人もの方々、感想をくれたlonriumさん、粉みかんさん、評価してくれた9人もの方ありがとうございました。
 とても励みになります。
 
 これからも頑張っていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします。

 それではどうぞ。


 

 セントラル=カセドラルにかつて存在した大図書館より見劣るものの、ある程度の本が立ち並ぶ図書室。

 そこに、俺とアリスはいた。

 

 「それが終われば次はこの本です」

 

 そう言ってアリスは俺の前に、ものすごく分厚い本を置く。

 その際、ドスンと音が鳴るのだからもう重さも相当なんだろう。

 ……整合騎士とは言え女なのにアリス、あの細腕でよく持てるな。

 

 「変なことを考えてませんか?」

 

 流石に勘が鋭い。

 

 「……い、いや、その細腕でよく持てるなーと」

 

 「……今回は見逃しましょう」

 

 ジト目で言うアリス。

 アッハイ、次はないんですね。

 それにしても───

 

 「……ところで、あとど位続くのこれ?」

 

 「まだまだありますよ。公理教会の歴史、神聖術の種類、人界と暗黒界について……一日の勉強できる量から逆算して数ヵ月は図書室通いです」

 

 「……マジか」

 

 なぜ、俺たちが数ヵ月も図書室通いになるかといえば勉強のため。

 それが現在の俺の仕事であり、勉強を教える立場にあるのがアリスだからである。

 

**************

 

 「おーし、親睦を深めたところで坊主に仕事を割り振ってやる」

 

 模擬戦が終わり、雑談も切りがいいところで団長がそう告げてくる。

 

 ……そういや、元々その為に模擬戦したんだった。アリスとの雑談が楽しくて完全に忘れてた。

 

 「……そうでしたね。それで叔父様、彼に何の仕事を?」

 

 「ああ、軽い仕事って言ってたからな。というわけで坊主の仕事だが……勉強だ」

 

 「「えっ?」」

 

 あのー団長?今、勉強とか聞こえたんだけど……

 

 「……叔父様今、勉強といいませんでしたか?」

 

 あー、アリスにもそう聞こえたのね。気のせいかなーと思ったんだけどこれって……

 

 「言ったぞ。嬢ちゃん、さっきの会話で薄々勘づいているだろうが、坊主が無知すぎるとは思わなかったか?」

 

 「まあ、確かに。流石にこの地が創世神ステイシアによって与えられた、始まり地であることを知らないのはどうかと思いましたが……まさか」

 

 「ああ、嬢ちゃんの予想通りだ」

 

 アリスが少し考えた後、何か思い至ったのか俺の方を見る。その様子を見て、アリスは考えこむ姿も絵になるなーと現実逃避する。団長も見つめてくるが、野郎に見つめられてもうれしくないです。

 

 「……まともに整合騎士としての教育を終えてないのですか?」

 

 「まともも何も、最低限の戦闘技術を教わったら即、東の大門勤務だよ。暗黒界の事とか最低限は教わったけどその位だ。神聖術も模擬戦とかで見たの真似してる独学だし」

 

 「……さらっと、とんでもないことを言っていませんか?ですが、それでは仕方がないですね」

 

 なんか、アリスが額に手を当ててため息を吐く。そこまで変なことを言っている気はしないのだが……

 

 「まあ、そういうわけだ。ちょうどいい機会だし常識を学んどけ。でだ、嬢ちゃんはコイツに色々教えてやれ」

 

 「なぜ私が!?」

 

 「まあ、負けた罰みたいなもんだ。それに、空いた時間に模擬戦すれば嬢ちゃんにもいい経験になる。神聖術の知識はともかく技術なら坊主の方が上だぞ」

 

 「なっ」

 

 団長の発言に驚いたのかアリスはこちらを見てくる。けど、扱い方がうまいというかそうならざるを得ない事情があったのだ。神聖術を発動するには空間リソースが必要になる。だが、その為の空間リソースが暗黒界だと乏しいのだ。結果、いかに乏しいリソースを活用するのかが重要になる。まともに教わっていない俺が神聖術の技術がある理由だ。……まあ、技術があってもまともに扱える神聖術が少ないので生かす機会なんてほとんどないがな!!

 

 「……暗黒界で数十年も戦えばいやでも身につくよ」

 

 「……できれば、経験したくないですね」

 

 そうだな。できれば日帰りが望ましいよ。

 

 

**************

 

 そいうわけで、俺は数十年前に本来やるべき勉強を仕事として与えられて、図書室通いである。アリスと二人きりであるが、予想していた通りアリスは厳しい。少しの怠慢も許してくれない。少しでも目が泳げば、顔の横に氷が飛んでくる。当たると天命が減るほどではないが痛い。

 

 「……ハァ。お前はもう少し真面目に取り組んだらどうですか?」

 

 いやだって

 

 「普通、好きな人と二人っきりでしかも目の前にいるのだったら、目が追っちゃうって」

 

 「……言っておきますが、私はお前に特別な感情なんて抱いていませんよ」

 

 うん、知ってる。

 

 「そりゃあ、そうだろう。一目惚れしたのは、俺が一方的にだし」

 

 むしろ、自分に一目惚れしてると知っていて普通に接してくれるアリス。それだけで、十分嬉しいのだ。正直、迷惑に思って距離を置かれても文句言えないと思う。それを考えれば、アリスは十分優しいのだろう。

 

 「……なんというか本当にお前と話していると調子が狂いますね。一目惚れしたとか言う割に、手合わせでは手加減しませんでしたが……てっきりそれを理由に手を抜くかと思いましたよ」

 

 「ああ、うん。本音を言えば女と斬り合うのは好きじゃないよ。でも、それを理由に手を抜いたりとかは相手に失礼だろ?アリスもそう言うの嫌いだろうし」

 

 そう。剣を持って戦う以上覚悟を持ってそこにいるのだ。なのに惚れた相手だからとか、性別がとかを理由に戦いで手を抜くのは失礼だ。アリスも性格上そういうのは好きではないだろうし。前に、あの人と戦った時にも似たようなことを言った覚えがある。

 

 「ええ、当たり前です。……それにしても私"も"ですか。誰と比較してるんですか?」

 

 誰って───

 

 「ファナティオさんだよ。知っているだろ?」

 

 「……彼女ですか」 

 

 ファナティオさんの名前を出すと、アリスは少し顔を曇らせる。

 その意外な反応に、俺は驚いた。

 あの人、割といい人だが……

 

 「もしかして、アリスってファナティオさんと仲悪いのか?」

 

 俺の発言に、アリスは少し気まずそうに視線を横にずらす。

 

 「……別に、仲が悪いというわけではありません。ただ、馬が合わないといいますか……一緒にいると空気が緊迫するといいますか」

 

 「……それ世間一般で仲が悪いって言わないか?」

 

 「………」

 

 あっ、図星なのか完全にそっぽ向いた。

 

 「いや、なんでそんなに仲悪いんだよ。普通にいい人だと思うけど……」

 

 「……貴方には関係ないでしょう」

 

 「いや、仲間同士で険悪とか普通に関係あると思うのだが……」

 

 「くっ……」

 

 アリス自身もまずいとは思っているのか、俺の発言に反論はしてこなかった。正直、二人とも性格似たようなものだから険悪になる理由がわからないのだが……

 

 「───勝てないからです」

 

 「……へっ?」

 

 「勝てないからです!!ファナティオ殿の女らしさに!!」

 

 「……」

 

 いや、えっ?アリスからのファナティオさんと仲悪い理由そこ!?

 

 「もういいでしょう!!私は──」

 

 「いや、なんで!?女らしさってどこが負けてるのさ!」

 

 確かにファナティオさんは美人だが、俺にはどう見てもアリスの方が魅力的なのだが……

 俺の疑問の声に、アリスは表情を暗くして躊躇いながら答えた。

 

 「……彼女は、私と違って料理もできますし、普段は仮面で隠していますが化粧もしています。仕草の端々からも女らしさが見えます。それに比べて私は……」

 

 「……俺からしたらアリスの方がずっと魅力的なんだが」

 

 「っ、お世辞は「本気で言ってるんだけど?」──えっ」

 

 

 いや、何を当たり前のことを疑うのだ。

 

 「アリスは綺麗だし、優しいし、努力家だろ。才能があるって言っても、ここまで多くの種類の神聖術色んな方法でを扱えるのがその証拠だ。一方的に告白した俺にも普通に接してくれるし……正直迷惑に思って距離を置れても、俺は文句は言えんぞ?この前も、模擬戦後に《金木犀の剣》を木の姿にして、天命を回復させている時に見上げた表情とか見とれるくらい綺麗だったし……」

 

 「も、もう、分かりましたから!!や、止めてください!!」

 

 アリスが顔を真っ赤にして俺の口を手で塞いでくる。多分、聞いているのが堪えられなかったのだろう。正直、全部事実なんだしまだ言いたい良い所あるんだが……一旦ここまでにしておこう。首を縦に振って了承したことを伝えるとようやく離してくれた。

 

 「……まあ、俺が言いたいのは、アリスはそのままでも十分女らしいよ。自分を卑下する必要はない」

 

 「うっ、ですが……」

 

 俺の発言が恥ずかしかったからか、こっちを見ずにまだ赤い顔をそらして反論しようとする。

 正直、男ではわからない感性の部分もあるのだろう。ただ、ファナティオさん確かに美人だと思う。もしも二人に明確な差があるのであれば、それは──

 

 「……もしも、差があるとしたら恋をしているかどうかじゃないか」

 

 「──えっ?」

 

 「だから、恋をした好きな人がいるかどうかって話だよ。アリスにいるのか?」

 

 「いえ、いませんが……って、彼女が!?」

 

 俺は恋をしている相手がいないという発言に少しのショックと安堵を覚えた。さっき、俺に対して特別に思っていないと言われたのに恋をしているとか言われたら普通に失恋だ。当分ショックで引き籠るぞ俺。というかだ…

 

 「知らなかったのか?あの人、団長に恋い焦がれてる真っ最中だ。聞いた話だと……ざっと100年以上だったかな?」

 

 「そ、そうなのですか?か、彼女が叔父様に……全然知りませんでした」

 

 アリスは、ファナティオさんが団長に片思いをしているという事実に困惑していた。ここ数年団長の元にいたのに知らなかったのか。というかこれ、ファナティオさん側からアリスへの険悪な理由分かったわ。

 

 「……多分、ファナティオさんはアリスに嫉妬してるんじゃないのか?」

 

 「──えっ?彼女が私に……なぜです?」

 

 「あの人、ずっと兜被ってるだろう?あれって、昔戦った相手がことごとくファナティオさんが女って理由で手加減され続けたのが理由なんだ。だから、あの人は自分の素顔をさらすのにコンプレックスがあるんだよ」

 

 「それは……」

 

 アリスも思うところがあるのか表情が暗くなる。本気で剣を振るっている者からしたら、特に女性からすれば性別を理由にされるのは、最大の侮蔑なんだろう。ファナティオさんもこの話をしてくれた時にはあまりいい顔はしていなかった。まあ、だからって無遠慮にボコボコにするのは違うだろうが。

 

 「逆にアリスは別に顔を隠さず堂々と戦うだろ?多分その辺じゃないか、あの人がアリスを快く思ってない理由は。後ついでに団長に懐いてるし」

 

 「叔父様のことは、尊敬していつか超えたい目標だとしか……」

 

 「アリスはそう思っていても、向こうはそう思ってないんだろう。もしくは頭でわかっていても、感情が否定しているかかな」

 

 正直この辺は全部憶測だ。何せ俺は二人の険悪な現場に居合わせたことがない。ただ少し、ファナティオさんのことを知っている身でアリスから話を聞いたらそう思えただけだ。ただ、そう的外れな考えでもないだろう。

 

 「一度腹を割って話してみたらどうだ?もしくは、気を使って団長とファナティオさんが二人っきりになれるようにするとかさ。アリスだってファナティオさんと険悪でいたいわけじゃないんだろう?」

 

 「………そうですね。今度、話してみます」

 

 少し間が開いたものの、アリスはうなずいた。ファナティオさんの知らない一面を知ったからか少しだけ関係の改善に、前向きになった見たいだった。

 

 「……ああ、そうするといいよ。多分、二人はそんなに相性は悪くないと思うし」

 

 「だといいのですが。……少ししゃべり過ぎましたね」 

 

 そういうアリスは時計を横目に見ながら言う。確かに、思ったよりも会話で時間がたってしまった。

 

 「もういっそ、今日はここまでにしないか?ここから勉強する気にもなれないし」

 

 「……まあ、そうですね。今日はもういいでしょう。どうしますか?このまま手合わせでも?」

 

 「あーそれもいいけど少し腹に何か入れないか?昨日、買ってきた菓子があるし勉強後にちょうどいいだろ」

 

 「そうです──待ちなさい!!買ってきたとはどういうことです!?」

 

  えっ、いやどういうことも何も─

 

 「普通に姿を隠して町に降りて買いに行っただけなんだが……」

 

 「お前は何をしているんですか!?」

 

 この後、一時間ほど延々と整合騎士としての心得とか規則を聞かされた。いや、破らずグレーゾーン走っただけなんだが……というかアリスも案外行きたいのだろうか。アリスの所々にそんな雰囲気が感じされた。今度誘ってみるか。

 




 次回はちょっと古戦場などがあるので少し遅れるかもしれません。
 多分次は一緒に街にでも行くと思います。
 長いと分割ですかね。

 それではまた次回


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