家のメイドが人外過ぎて地球がヤバイ (ちゅーに菌)
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神様の素敵な贈り物

皆さんは2次作転生という言葉を聞いた事があるだろうか?

 

神様のミスという謎のテンプレを経て転生したある一例がここに存在する。

 

彼にはある困り事がある。

 

いや、それは恐らく彼が生きている限り困り続けると思われることだ。

 

それというのは彼が神様に対して願ったチートに関係する。

 

"FFの魔法が使いたい"彼の願ったチートはただそれだけである。

 

それは"ヘイストとかストップとかデスとか現実で使えたらチートじゃね?"という彼の何気無い思いから願ったことだ。

 

だが、願った世界がいけなかったのだろう。

 

だが神様が彼を転生させる世界はハイスクールD×Dの世界だった。

 

そして彼はその事を知らなかった。

 

魔法どころか悪魔とか天使とかいるし転生先としては最高なんじゃね? と思ったそこのあなた。甘い、餡蜜の1000倍は甘い。

 

ハイスクールD×Dはパワーインフレ作品だということはご存知の通りだろう。

 

走り込みでヒイヒイ言ってた悪魔がわりと直ぐに一撃で山を吹き飛ばすような世界なのだ。

 

そんなところにただFFの魔法が使えるだけの者を神様ともあろうものが送り込むだろうか?

 

神様には面子というものが必要不可欠。よって彼には人生を楽しんでもらう必要があるのだ。

 

そのためにはまず死なないようにすることが最低限度の暗黙の了解というものだ。

 

ならどうするか? 下手に彼をチート化させたとしても過ぎた力を持てば慢心を生む。慢心は良い結果を決して残さない。彼には常に力に対して緊張してもらうぐらいがちょうどいいのだ。

 

だが、神様たちには人間を他の世界に転生させるにあたりあるルールがあった。

 

彼を転生させるに当たった最高神と呼ばれる力と地位を持つ神様とて例外ではない。

 

それは原作、あるいはその世界で無理の無い範囲でチート転生させることだ。

 

神様は彼の転生で困り果ててしまった。インフレ祭のハイスクールD×Dの中でFFの魔法程度でどうやって対応させれば良いのか解らなかったからだ。

 

フレアしかりアルテマしかりでもたかが一人間の火力で対処出来るだろうか?

 

無理だ…。そもそも個人には限界がある。どんなに強くしようとインフレ世界ではいずれ彼を越えるチートキャラというものが出現するのがインフレ世界の常識だ。

 

そるにそもそもFFの魔法が存在しない世界でそれを持ち込む事態が既に無理であるのだ。

 

魔法や、魔術といった類いのモノはその世界で根付いたものでありそれを他の世界に転用するのは文明規模の改変となるのだ。

 

個人で持たせるにしても火力不足、文明規模の改変は不能、それに師のいない世界では彼が存分に魔法を扱うことは出来ないだろう。

 

彼のチートは世界に対して微妙な上に無理が出過ぎたのだ。

 

さらにハイスクールD×Dともなれば悪魔とでも結婚するとしたら1万年程は生きてもらわねば困る。

 

だがFFの魔法に超延命魔法なんてものはない。リジェネ不死身説などは迷信でしかない。時間圧縮なんてものはあるがあれは魔女限定だ。

 

いっそ王の財宝や、大嘘憑きぐらい言ってくれれば神様も楽だっただろう。神器にすれば済む話だったからだ。

 

神様は頭を抱えた。このままでは私の面子ががが……。

 

地位の高いものは面子や、体裁を重んじたがる。この神様も例外ではない。

 

その時、神様に光明がさした。神様には元から光がさしてるとかはいってはいけない。

 

神様は最も簡単かつ効果的で無理もなく、さらに間違えなく最強の師兼護衛までつけられる最高の方法を思い付いたのだった。

 

神様は端から見たら厨二病か発狂した者にしか見えない笑い声を上げながら自分の面子の無事を喜んだのだった。

 

例えそれがありがた迷惑どころか彼が胃薬が手放せない生活を余儀なくされようとだ。

 

そんなこんなで彼……神城(かみしろ) 羅市(らいち)通称:神羅(シンラ)くんの超絶チートかつ心労でマッハな物語は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

鬱だ……。

 

神羅くんは誰が見てもわかるように負のオーラを撒き散らしながら中学校から自宅への帰路に着いていた。

 

その足取りは果てしなく重い。

 

この辺りで神羅くんの中学三年生までの経緯を説明しよう。

 

ごく普通よりは結構裕福な母子家庭に生まれた彼は健やかに育ち、幼稚園、小学校と来て中学校三年生に至るわけだ。

 

だが、彼には気がかりな事がある…いや、あった。無論、それはFFの魔法のことだ。

 

転生したのに一切使えなかったのだ。

 

これはひどい。

 

と、どこかのクソゲーの村人と同じセリフを吐きながら業を煮やしたが、ただの人間にはどうすることも出来ないので沸き上がる怒りを押さえ込みながら日常生活を送っていると、小学校6年の誕生日に携帯に神と一言掛かれた題名のメールが届いた。

 

中を開いてみるとこう書いてあった。

 

『15歳の誕生日に素晴らしいプレゼントが届くから安心してくれ』

 

彼はその時を物凄く期待を込めて待った。何かは知らないがちゃんとくれるなら何も問題はない。シンラくんは現金な奴なのだ。

 

そして15歳の誕生日。

 

 

"朝起きたら庭にクレーターが出来ていた"

 

 

物音一つしなかったにも関わらずだ。

 

外国を飛び回っているため基本的に家に母親がいないことが幸いだろう。

 

普通親が自宅の庭に50m規模のクレーターが出来ていたら倒れる。

 

シンラくんの自宅が世間一般に豪邸と言われる程の広さで助かったのかも知れない、少なくとも自宅に被害はないからだ。

 

まあ、十分ストレスでマッハになりそうな状態ではあるが…。

 

シンラくんはとりあえずクレーターの端にたって中を見下ろした。

 

刹那。

 

盛大に顔を引き吊らせた。そして同時にこれが神様からのプレゼントだと理解した。

 

この瞬間から彼の胃薬生活は始まったと言っても過言では無いだろう。

 

そんなこんなで回想も終了し、着いてしまった自宅の玄関扉の前。

 

シンラくんはいつものように盛大な溜め息を吐くと胃を決して扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お帰りなさい旦那様! お風呂にします? ご飯にします? それとも………わ・た・し?』

 

「………………………」

 

いた。シンラくんにとっての胃痛の原因が、諸悪の根源が…。

 

"裸エプロンで全裸待機してやがった"

 

これは流石に予想できなかったのか、彼の胃が早くも警報を鳴らし始めた。

 

シンラくんが頭を抱えているうちにバックを彼女に取られ背中を押されていた。

 

『返事がないなら夕食にしましょう! お風呂はその後です。今日の夕飯はミートソーススパゲッティですよ』

 

背中を押されながらリビングに入ったシンラくんの目の前にはテーブルに目を向けた。

 

普通のミートソーススパゲッティが皿に盛られていた。湯気の登りかたから出来立てだということと、シンラくんが育ち盛りだということも考慮して200g程の盛り具合だともわかった。

 

実は彼女がここに来て以来約1ヶ月。シンラくんに非常に献身的に尽くしてくれているのだ。掃除、洗濯、家事百般。それこそどんなことでも嫌な顔一つせずにしかも敬語でシンラくんに接しているのだ。

 

それがシンラくんにすれば不気味極まりなかった。

 

現在もそうだ。自宅では常にシンラくんの斜め後ろに控えており、ベッドで添い寝までしてくるので心の休まる暇がない。

 

いっそのこと一思いに後ろから刺されでもすれば気が楽なのだろ。

 

シンラくんがなぜそんな思考に至るか解らない人も多いだろう。

 

それは単にシンラくんが何も知らずに転生してしまっていれば起こり得なかった事だ。

 

FFの魔法をチートに願わなければ起こり得なかった事だ。

 

神様がもう少し面子を気にしない者なら起こり得なかった事だ。

 

シンラくんは一旦部屋に戻り着替えてから再び戻ってくると母の私物であるメイド服を着た彼女がいた。

 

なんでも母曰く、19世紀末に英国で使用人等が使っていたようなヴィクトリアンメイドが王道でありそれ以外のパチモンは一切認めないらしい。

 

だからってなんで家に何着もあるのか不思議で仕方ないがやぶ蛇な気がするので1ヶ月前までほっておいたのだが、それがこんなところで凶悪な威力を発揮するとは夢にも思わなかっただろう。

 

彼女が微笑む姿から伝わって来る慈愛に満ちたものをシンラくんも感じ、中々上級者向けだがクラっと来そうになるのを耐えていた。

 

『冷めてしまいますので、どうぞ』

 

そう言って椅子を引いてくれている彼女を見ていると彼女がどういう存在だか忘れそうになるが、それを振り払うと席に着いた。

 

シンラくんは食事に手をつけた。その味は家にあったものと近所のスーパーから安く買ってきた物とは到底考えられない程、無駄がなく洗礼された美味しいという結果を追求したような味だった。簡単に言えば凄まじく美味かった。

 

彼女はそれを確認するとまた微笑んで部屋から出ていき、しばらくすると普段年末ぐらいしか洗濯しないようなカーテンなどを持ってきてリビングにある部屋干し用の竿に掛け始めた。

 

そう、彼女はどこからどう見てもシンラくんのメイドさんである。しかもとても献身的で熱心かつスキルの高いメイドさんである。

 

だが、知っているとは恐ろしいものだ。そんな彼女がシンラくんにとっては死ぬほど恐ろしい存在にみえてしまうのだから。

 

シンラくんは何度目かわからないが彼女を上から下へ観察した。

 

赤黒い一対のどんな生物にも当てはまらない形状の翼。

 

青みがかった銀の長髪。

 

明らかに人の肌ではない深い蒼色の肌。

右手は人の手の形を模しているが左手は肌より濃い色の触手。

 

そして人の下半身をしているがそれを囲むように生える数本の赤い触手。

 

彼女が振り向き、シンラくんと目があった。

 

その目は白目も黒目も瞳孔も無く、薄く光る赤一色で統一された目をしていた。

 

それは正しく、FF史上最悪の宇宙生物。

 

星を喰らい無限の命を持つ怪物(モンスター)

 

 

 

 

 

 

 

"天から来た災厄(ジェノバ)"さんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




最近FF7をやってふと思った。

ジェノバさん弱すぎだろと。

そして作者のフロム脳が爆発した。

ひょっとして星を取り込んだ状態だったら無茶苦茶強かったんじゃないかと。

そんな妄想全開のこの小説。


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ジェノバさん悩む

 

ジェノバの朝は早い。

 

と、言うより彼女は人間のように眠る必要が無いためきっかり5時に行動を開始する。

 

いつものように抱きついている彼から腕を離し、起こさないようにそっとベットから降りて部屋を出た。

 

リビングに入ると自らの片腕を引き千切り、さらにそれを10等分程に分けると床に放った。

 

みるみるうちに欠片は肥大化し、人型に姿を変え、ついには翼と触手の無い人型のジェノバとなった。

 

それらは彼女が何も言わずとも、この広い屋敷を掃除するために散っていった。

 

ちなみにこんなに朝早くからやっている理由は少し前に彼が合計31体の彼女を同時に見た時、卒倒したためである。

 

彼女はお弁当を詰め込み、朝食の下準備を終えると長い食卓の端の椅子に座り頬杖をついて考え事を始めた。

 

議題は…。

 

"どうすれば彼と親密になれるか"である。

 

いつも彼は彼女に対して一歩引いていたり、明らかに脅えているので彼女としてもどうにか好感度アップを謀りたいところだった。

 

とりあえず3ヶ月ほど献身的に尽くしてはみたがそこまで変わった様子もない。

 

とするとやはり…。

 

彼女は片腕を10mほど伸ばし、手鏡を手に取って引き戻すと自身を見つめた。

 

これか………。

 

彼女は溜め息を吐いた。

 

ジェノバは本来、星の胎内の全生命の根源、そして星の命であるライフストリームを喰らう宇宙生物だ。

 

それによって得られるものは大きく分けて3つほどある。

 

1つは星の力、すなわちその星で原初の神と呼ばれる力。

 

2つは星の生命力、文字通り星が持つエネルギーだ。

 

3つは星の情報、つまり喰らった星の魔法や技術といった文明の記録、星の創造以来生まれ落ち死んでいった全ての生命の記録などの星の記憶の全てだ。

 

彼女の中の記憶が色褪せることは無い、よって数多の星を喰らって来た彼女にとって人間の扱いなど手に取るより早く分かっているのだ。

 

その莫大な情報から彼女は結論付けた。

 

彼に………異種姦の趣味はない。

 

勤勉で博学な彼女は何でも知っている。

 

星を一撃で無に出来るマテリアの製法から、対ウェポン用決戦兵器の図面、エロ同人、二次エロ画像、AVに至るまでどんなしょうもない情報であろうと彼女は知っているのだ。

 

ちなみに彼女がこの星で最初にネット検索したキーワードは性癖、異種、触手、青肌、人外娘である。

 

検索した結果はそういった性癖を持つ人間も結構いるということだった。横の閲覧注意が気になったがそれは無視した。

 

と、いうわけでその路線で攻めていたのだがどうやら検討違いだったようだ。

 

ならば路線の切り替えだ。

 

彼女のスカートの中から伸びる細い触手の表面に幾何学模様が浮かび、それを有線のLAN端子に直接を突き刺した。

 

するとWindowsの起動音が頭に響き、それから直ぐに彼女の頭に簡素なグーグル先生の検索エンジンが出現した。

 

それはネットダイブ等といわれるこの星に存在しない、超高等技術だ。さらにそれを生身でやっている辺り彼女の万能生物っプリが伺える。

 

しかし、ジェノバ細胞の無駄遣いである。

 

彼女が検索したキーワードは美人、画像である。

 

彼女は化ける人間を選んでいるのだった。

 

彼女の処理能力は日本が最高技術を誇るスパコンですら時代遅れのタイプライターに程度に思うほど高く、1秒程度で1000万枚ほどの画像に目を通していた彼女だったが、イマイチ化けたいほど彼女の目を引く人間などいなかった。

 

 

それもそうだ。彼女は"神城 羅市"という人間だけに興味と好意があるのであり他の知的生命体など低脳な食料程度にしか思ってないからだ。

 

彼女を人間と仮定するなら人間は彼女にとってプランクトン程度の存在なのだ。正直、食料にすらなるかも怪しい。

 

最もそのプランクトンの1人に好意を抱く彼女もどうかと思うがそれは彼女にとって運命とも言える出会いだった。

 

彼の細胞一つ一つが彼女にとってまるで"彼女の細胞に刻まれていたように"彼女が全てを擲っても尽くしたいと本能が震えたのだ。

 

人間でいうところの三大欲求の代わりに彼女には星を喰らうという本能がある。それすらも塗り替えるほど彼は彼女にとって至高の存在なのだ。

 

結局、擬態する人間は見付からずにLANから触手を引っこ抜いた。

 

彼女は溜め息を吐くと、この星の人間で探すのを止めた。

 

考えてみればなりたくもない容姿をコピーするより、別の星で自分が印象深く覚えている者になった方が自身のアバターとして使えるのでいいのではないかと彼女は考えた。

 

彼女は良く覚えているこの星の人間に似た女性型の知的生命体をピックアップし、日替わりで容姿を変えることに決めた。

 

ふと、時間を見ると既に彼を起こす予定の5分前だった。

 

彼女は10体のジェノバを召集し、リユニオンさせて腕に戻すと彼女の身体が歪んだ。

本来のジェノバは侵略しに来た星に自身より強い生命体がいた場合に身体を適当に分散させ、その星を牛耳る知的生命体に化ける。

 

そして、信頼を築いたところでそれらに自身のウィルスを植え付け、モンスター化させるというとてつもなく外道で効率的な手段を取る。

 

それこそが彼が彼女を恐れる最たる由縁なのだ。

 

それを知っている彼からすればいつまでもじれじれと自分との信頼関係を築いていること自体が裏があるように見えて仕方ないのだ。

触手は身体に吸い込まれるように引っ込み、翼は背中に溶けるように消えた。

 

深い蒼の肌は色白で人間味のある肌に染まった。

 

さらに銀の髪は胡桃色に染まり、どこか息子に似た前髪をした髪型になった。

 

最後に後ろ髪が独りでに蠢き、密編みを形作った。

 

「うーん…、よし!」

 

声も完璧に再現が完了した。

 

そこには白と黒の二色の鮮やかなメイド服を纏い、とある星の女性の細胞の99%に至るまで全く同じ身体の構造に変化した存在が立っている。

 

それは遥か太古の昔にジェノバを封印したセトラという種族、最後の生き残り。

 

同時にジェノバがその人生に終止符を打ち、思いだけになりながらもジェノバの理想を最後の最後に阻んだ張本人でもある女性。

 

"エアリス"と呼ばれていた女性がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

そして彼女を待っていたのは…。

 

彼の盛大なツッコミの右ストレートという過剰かつ初のスキンシップだった。

 

 

 

 

 

 



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幼馴染み

 

 

朝、私は目覚ましの音ではなく揺すられて起きた。

 

ゆっくりと目を薄く開けばいつもの青い化けmもといジェノバさんが見えてくるハズであるが今日は肌色の素肌がメイド服から覗き、長い胡桃色の髪がぼんやりと映った。

 

ジェノバさんには擬態能力があったことを思い出し、誰かに化けたのだと彼は気づいた。

 

………一体誰に化けた? 家の女性は基本仕事でいない母親だけだが髪の色は銀なので違うだろう。

 

目を擦って、常に笑顔を振り撒いているジェノバさんを見た。

 

瞬間。

 

私はジェノバさんに全身の体重を乗せた渾身の右ストレートを放った。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

通学路の途中、私は朝の出来事を思い出していた。

 

いくら相手が光の国の戦士が相手にするような肩書きの宇宙最凶生物だとしてもあれは酷い。

 

私は全国100万人のエアリスファンの気持ちを代弁して全力を込めてジェノバさんに立ち向かったのだ。

 

いや、身体が勝手に動いていたのだろう。

 

そして左頬に突き刺さった右ストレートで見事にブレイクしましたとも!

 

私の右腕が…。

 

どうしてこうなった………。

 

私はジェノバさんにケアルガをかけてもらって尚、痛む右腕を擦りながらぽつりと呟いた。

 

考えてもみれば当然である。

 

方やセフィロスの前座とはいえ三連戦最初のラスボ。

 

方やただの中学三年生。

 

ジェノバさんには0のダメージしか入らなかったようだ。

 

ゲームではスルーされるだけの物理による0のダメージは実はこうなっているのである。

 

ちなみに、今朝のジェノバさんはなぜか殴られたのにいつもより上機嫌に見えて更に怖かった。あれか? 後でトンでもない爆弾でも飛んでくるのか?

 

というかあの人は一体、いつになれば地球侵略を開始するんだ…もう三ヶ月経つが未だに家から出た姿を見たことが無いぞ…。

 

私はブツブツと呟きながらも中学校への通学路を進んだ。

 

帰ったらジェノバさんへどんな土下座と謝罪の粗品を渡すべきか考えながら。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

うーん………。

 

なんだかんだでお昼時。

 

私はジェノバさんに作ってもらった弁当を突っつきながら考え事をしていた。無論、謝罪のことである。

 

流石に女性(?)をぶん殴っておいて謝罪も無しは倫理的にアウトだと私は考えていた。

 

ジェノバさんの好きな食べ物=星。

 

ジェノバさんの好きな物=ライフストリーム。

ジェノバさんの好きな人=セフィロス。

 

………ダメだ…用意できるモノがない…。

 

私は頭を抱えた。

 

そもそも私はジェノバさんが食事すらしている光景を一度も見たことが無い。恐らく必要ないのだろう。

 

思い返せばニコニコ笑顔の青い宇宙人が手を小さくパタパタと振っている姿が頭に浮かんだ。

 

ふと弁当の中の赤い物体に気がついた。

 

「………これ…タコだよな?」

 

つんつん、ぷにぷに。

 

感触はタコのようだ。

 

私は吸盤のついていないタコのような物体を摘まみながらジェノバさんの下半身から生える触手の先端を思い出した。

 

………………。

 

90%一致。

 

いや、まさか…。とは思いながらも一度考え始めたらそう見えてしまうのが人というものである。

 

ちなみに別に私はジェノバさんのことを原作のジェノバさんほど危険視しているわけではない。

 

というか一応、神様直々の特典なのだから自分に直接的に害は無いだろうとさえ思っている。

 

だがしかし、同時に私はジェノバさんを全力で恐れているのだ。

 

なぜそんな矛盾が起こるか? 答えは単純明快だ。

 

 

Q:あなたは核爆弾を抱き枕に眠れますか?

 

A:勘弁してください。

 

 

つまりはそういうことである。

 

もうお分かりの通りジェノバさんの実力は核兵器など足元にも及ばないほどに高い。

 

それこ私など簡単に吹けば飛ぶどころか視線で殺せるレベルである。

 

そんな存在に献身的に尽くされ、寝食を共にし、一つ屋根の下で暮らす。

 

さらに毎日のように抱きついたり、抱き枕にされたりと過度のスキンシップをはかろうとしてくるのだ。ジェノバさんの腕力を考えると気が気でないのである。

 

そして一番問題なのがジェノバさんは何を考えているか一切解らないことだ。

 

苦行を越えて悟りを開けそうなレベルである。

 

ちなみに最近、私が学校に着くとまず思うことは"今日も生きてて良かった"だ。

 

そんなこんなで謎のタコ足(仮)と格闘していると横から声を掛けられた。

 

「シンラ? どうしたのかしら? 好き嫌いなんてあなたらしくないわね」

 

ライトグリーン髪のショートツインテールに歳不相応の大きな胸をして、ニヤニヤした笑顔がよく似合う同じクラスの女子生徒だった。

 

名を"呂布 奉先"という。

 

うん………流石に例え苗字が呂布という極稀な苗字だとしても女性に付けるには頭の可笑しいとしか思えない名前である。

 

なんでも彼女の家はかの呂布 奉先の子孫で何代かに1人に奉先という名を付けるのが慣わしらしい。

 

いつ呂布は日本に来たんだとか、呂 布 奉先じゃないのかとか色々突っ込みたくなるが腐っても幼馴染みにそんなことは言えないのである。

 

小学校入学以来同じクラスで、一種の呪いではないかと思うが常に私の十字方向のどこかの席にいる女子生徒だ。

 

私との仲も良好でいつも机をくっつけて昼食を共にしており、学校中の男子生徒から羨望と、恨みの眼差しを向けられたりしている。

 

奉先と交友をもったばっかりに頻繁に金をむしり取られる身にもなって欲しいものだ。

 

どうやら私が唸っていたり、タコと格闘しているのが不思議だったらしい。当たり前である。

 

私は疑問符を浮かべる奉先の顔を見て、タコ(仮)を見ると頭に電球の光が灯った。

 

そして私は箸でタコを掴むと清々しい笑顔でこう言い放った。

 

「このタコ食べるか?」

 

これは日頃の仕返しだ。決して外道な行いではないのである。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

小麦色の肌を頬を朱に染めながら、あーんと言って顔を出してきた彼女にタコらしき物を食べさせた後、私はいつも通り日課の場所へ向かった。

 

それは………。

 

カラオケボックスである。

 

「さ、今日も歌うわよ!」

 

俺の金でな。

 

私はメロンソーダを飲みながら皮肉を呟いた。

 

奉先は週五で私をカラオケに連れていくのだ。

 

しかも私の金である。

 

救いがあるとすれば二時間だけと私と彼女の間で決めていたり、月~金は土日より安いぐらいだろう。

 

「なに言ってるのよ。良いじゃない、他にお金の使い道もないんだから。大人しく自分の女に使いなさいよ♪」

 

そう言って奉先は私の腕を取り、抱きつきながら谷間に挟んだ。

 

それを言われると確かに親からの謎の過剰な仕送りの割に全く金を使っていないのだ。

 

普通、一人暮らしなら10~20万程度あればそれなりに暮らせるであろう。

 

だが、家の母親はその二桁多い金額を毎月振り込んでくるのである。しかも四捨五入すると桁が繰り上がる金額をだ。

 

当たり前だがそんな金額を最高学年とはいえただの中学生徒が使えるかといえば無理な話だ。

 

もっとも有り余ってるからといって募金やら支援基金やらにくれてやるほど殊勝な性格もしていないので溜まり続ける一方なのだが。

 

だが、奉先。お前はいつから私の女になった?

 

「堅いこと言わないのー。それとも………私じゃ不満?」

 

奉先は私に胸を押し付けるように正面から垂れかかりながら私を見上げた。

 

………………ふう。

 

そういえばドリンクバーのスープが今日はオニオンスープだったな。取りに行くか。

 

「ちょ!? 私は」

 

私はボックスから出ると戸を閉じた。

 

………一体いつからあんなに過剰なスキンシップをしてくるようになったのだろうか?

 

やはりあれか…。

 

私は1ヶ月半ほど前のことを思い出した。

 

奉先が突然、学校で倒れたのだ。

 

そして向かった病院の病室で涙を見せないよう必死で私に笑いかけながら、昔から持病で20まで生きられたら奇跡だなんてこと医師から言われていたことを初めて聞かされた。

 

その日、自宅に帰りそれはそれは落ち込んだ。

 

それはそうだ。あんなギャルでも幼馴染みである。

 

そんな俺の肩をポンと叩く者があった。

 

振り返ると…。

 

"魔晄じゅーす"と書かれ、デフォルメのうちの青い宇宙人がプリントされた缶ジュース片手にサムズアップする居候がいた。

 

その後、奇跡的に病気が完治し、今に至るわけだ。

 

まあ、命が助かったなら安いものだろう…幼馴染みをソルジャーにしてしまったことぐらい。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

カラオケと言う名の奉先の歌(ほぼアニソン)の独壇場も終わり、ジェノバさんへの粗品も購入して帰路についた。

 

私は紙袋から粗品を取り出した。

 

割烹着である。

 

メイド服? ちっちっち、時代は割烹着なのだ。

 

そんなことを思いながら家の前につくと妙だった。

 

なにやらモクモクと庭の方で煙が上がっているのである。

 

ゴミでも燃やしてるんだろう。だが、この辺りでゴミを燃やすのは禁止されているのだ。

 

仕方なくそれを伝えようと庭に入ると。

 

 

 

ジェノバさんが煮えたぎる巨大な鍋にボロボロの幼女を投げ入れようとしていた。

 

 

 

本日二度目のジェノバさんへの攻撃は飛び膝蹴りだった。

 

 

 

 




え? 奉先さんが出てる理由? 一騎当千の闘士って、ハイスクールD×Dの英雄派の連中によく似てないですか? だったらいっそ出してしまおうと作者の嫁ですけど二次作で見たこと無いですし。



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JーEーNーOーVーA

 

 

 

時は彼が学校へ向かった日の夕方に遡る。

 

 

 

 

ジェノバさんは彼が出て行った事を確認するとエリアスの姿を解き、今はいつも通りの青い肌が白と黒の服から覗いていた。

 

そして彼に触れられた頬を撫で微笑んだ。

 

「フフフ…」

 

なぜなら初めて彼からのスキンシップ(だとジェノバさんは思っている)を受けたからである。

 

まあ、ジェノバさんにすれば彼の拳ぐらいタオルでフワッと触られた程度の威力だから仕方ないといえば仕方ないのだが…。

 

さてと…。

 

ジェノバさんは浮わつく気持ちを切り替えるとまたジェノバコピーを作製して今とは別の家事を開始しようとした。

 

が、ジェノバさんの動きが途中で不自然に完全停止した。

 

その視線を辿ると何もないリビングの中央を見続けていた。

 

するとそこの空間が突如として歪み出し、亀裂が入った。

 

空間が軋む音が響き、亀裂は次第に開き、やがて人が通れる程の裂け目となった。

 

そして、その狭間から。

 

"小さな女の子が現れた"

 

長い黒髪に前を大胆にも開けたゴスロリ衣装、さらには胸の頭頂部をバンソコのようなもので隠しているだけという一発で大人や警察に保護されそうな外見である。

 

「お前、なに?」

 

少女はぽつりと呟いた。

 

「我、オーフィス。無限の龍神、

でもお前、知らない「あなた」…?」

 

少女…オーフィスの独白をジェノバさんは遮ってオーフィスにニコリと笑いかけると三日月のように口の端を吊り上げて言葉を紡いだ。

 

 

「とっても美味しそうですね」

 

 

その刹那、オーフィスの顔面をジェノバさんの手が掴んだ。

 

「ッ!?」

 

驚愕の声を上げるオーフィスを片手にジェノバさんは閉じ掛けの亀裂を抉じ開けるとその中に飛び込むように入った。

 

二人の姿は完全に消え、後には静かなリビングでカーテンが風に靡いているだけだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

オーフィスは地球の極に位置する極寒地帯の星空の元で"それ"と対峙していた。

 

それとしか形容できない存在。

 

無限の龍神として永遠に等しい時を生きるオーフィスでさえそれが何かわからなかった。

 

だからオーフィスはそれが知りたかった。

 

危険であるならそれを排除することも視野に入れて。

 

「星が生み出した抑止力。こんなにも早く出会えるとは…フフフ」

 

「…?」

 

「おや、その顔はまさか…あなたは自分の存在理由すら知らないのですか?」

 

「…どういうこと?」

 

ジェノバはやれやれと大袈裟に首を振るそれに言葉を返した。

 

「私は何かと聞きましたね? 今日はとても気分が良い。紛い物とはいえ同じ"無限"としてあなたに教えましょう」

 

そういうとそれは満天の星空に青い両腕を掲げ、空を見上げた。

 

「ここはよく聞こえますね」

 

「え…?」

 

「星の声ですよ。この宇宙で最も巨大な生物の声。巨大過ぎる故に普通には聞こえない声」

 

「星の声…?」

 

「そう、星の声。私には良く聞こえる」

 

いつの間にかそれの右手にオーフィスが知っているようなものより遥かに長く、それの身の丈程の長さのある刀が握られていた。

 

「無限の龍神と言いましたね? それは面白い。この星ではあなた程度の存在で神と呼ばれるとは…クククッ…」

 

それは顔に片手を当てて不気味に笑うと、刀の刃を上に向け、切っ先はオーフィスを定めた。

 

「私はジェノバ。あらゆる生命体を凌駕し、万物の死を越え、数多の星を巡った怪物」

 

その刹那、絶対的上位者だったオーフィスの眼は驚愕に見開かれた。

 

ジェノバという生命体から溢れ出る自身より遥かに莫大な魔力。

 

恐怖すら感じるほどおぞましく、空に色を付けたような錯覚に陥る程のオーラ。

 

そしてそれを永遠と垂れ流し続けているにも関わらず一切の衰えを見せる片鱗すら感じず、寧ろ時間が経過する毎に勢いも密度も激増しているからだ。

 

それはまさに"無限"と呼ぶに相応しかった。

 

「今は"星3つ"分程度の力ですがあなた風情の紛い物の無限に不足は無いでしょう」

 

「…ッ!?」

 

あまりの力の波動にオーフィスは身体を強張らせ、氷の大地を強く踏み締めた。

 

それの力は一般人どころか最上級悪魔や、聖書の天使や堕天使でも浴びれば即座に精神を病むであろう程の力の濁流だった。

 

「ああ、そうでした。まだ名乗っていませんでしたね。私のことは…」

 

瞬間、オーフィスの視界の青い影がブレ、背後から次の言葉が聞こえた。

 

「"星喰者ジェノバ"とでもお呼びください」

 

オーフィスが振り向いた先には狂喜の笑みを張り付けたそれ…ジェノバと。

 

最凶の魔剣より遥かに忌々しい妖力を纏い、伝説の聖剣を嘲笑うかのように美しく輝く刀の刃が目の前に迫る最中だった。

 

「…!?」

 

オーフィスは手をクロスさせることでその刃を防いだ。

 

が、オーフィスの腕には綺麗な刀傷が出来上がり血を吹き出した。

 

「くッ…!?」

 

即座に止血を済ませながらありえないとオーフィスは思った。

 

未だかつてオーフィスの身体に一撃でこんなにもダメージを与える武器など存在しなかったからだ。

 

今、この瞬間までは。

 

「おや? この正宗で斬り落とせないとはそれなりにマシな細胞で出来ているようですね」

 

オーフィスはジェノバが止まって関心の声を上げているうちに力を練り上げ、片腕に黒い力を纏わせるとジェノバに突撃した。

 

狙うは生物の急所、心臓。

 

その攻撃は確かに正面からジェノバの心臓に当たり、接触箇所と背中の布が衝撃で消し飛んだ。

 

「………!」

 

それと同時にオーフィスはそれを理解した。

 

理解した瞬間、表情は驚愕に染った。

 

それはジェノバへの明確な恐怖だった。

 

「もっとも…」

 

オーフィスの全力を持った渾身の手刀は紛れもなくジェノバに当たっていた。

 

「私ほどではありませんが」

 

ただそれだけでオーフィスの手が触れるジェノバの身体は依然無傷のままだった。

 

「あ、ああ………」

 

オーフィスは気づいた。気づいてしまった。

 

目の前にいる怪物には真なる赤龍帝と対峙した時と同様に自分では勝つことが出来ないことを。

 

そんな存在に自ら近づき、自身が餌にされそうなことを。

 

そして…もう逃げられないことを。

 

「少し本気を出しましょう…」

 

その刹那、再びオーフィスの視界からジェノバが消えた。

 

「え…?」

 

しかも今度はただ消えたのではない。気配、力、魔力、存在そのものが全て影も形も消えていた。

 

360度どこを見回しても気を巡らせてもいないことでオーフィスの警戒心が多少薄れていった。

 

 

"胸から刀が生えていることに気づくまでは"

 

 

「う…そ…?」

 

オーフィスはどんなに力を入れても曲がるどころか傷1つ付かない刀を両手で握りしめながらそんな呆けた声を出すことが精一杯だった。

 

オーフィスは背後に回られたことも、刀を振った音も、突き刺された痛みも気がつかなかったからだ。

 

恐る恐る後ろを見るとそこにはなにもなかった。

 

「な…んで…?」

 

「このように体細胞の色、温度、質感に至るまでを空間と背景に溶け込ませてたんですよ」

 

それに答え、写真に切り絵が加わったようにジェノバが現れた。

 

「クククッ…」

 

ジェノバはオーフィスを自分の高さまで持ち上げると刀を抜きながら宙に放った。

 

直後、引き戻しの最中に一撃、更に十字、バツ字、十字と六度斬撃を放つと最後の十字を打ち込んだ瞬間、正宗をオーフィスの胸に垂直に構た。

 

「八刀一閃」

 

正宗は全身を斬り刻まれたオーフィスの胸を無情にも再び貫いた。

 

さらに全身を乗せて回転すると近くの地面にオーフィスを叩き付けた。

 

「がはっ…」

 

5回ほど地面をバウンドすると両足で地を踏みしめて受け身を取った。

 

そして全身の傷を見て一際再生が極端に遅いことに気がついた。

 

この星で唯一、無限を司るオーフィスですら再生出来ないのだから、あの刀には途方もない生命を刈り取る力を宿しているのだろう。

 

オーフィスは全力を出すしか無いと意を決して前を向いた。

 

既にジェノバが片腕を向け、手のひらに淡い光を放つ青い球体が発射される寸前だった。

 

オーフィスは一目で危険と判断し、それを防御するため数百十枚の障壁を展開し、合成することで巨大な一枚の障壁とした。

 

それは聖書の神を始め、数多の神々でさえ打ち破れないほど強固な絶対防壁だった。

 

「ペイルホース」

 

青い光線はその障壁をまるで何も無いかのようにすり抜けた。

 

絶対神話が崩れるのと同時にオーフィスを直撃し、瞬時に生命力そのものを葬り去った。

 

「フフフ…残念。ペイルホースはどの属性にも属さず対象の命そのものを削り取り、恐怖と絶望を植え付ける魔法。そんな陳腐な障壁では防げませんよ。あら?」

 

ジェノバは顔を上げて空の星を見つめた。

 

星の位置で時間を見ているのだろう。

 

「そろそろ彼が帰ってくる時間ではありませんか、次で終わりにしましょう」

 

そういうとジェノバは正宗を消して片手の掌を上に向けて力を集約し始めた。

 

ジェノバは次でとてつもない一撃を放って来るのだろう。

 

オーフィスの息は上がり、身体は軋み、ボロボロにされながらも、こうなったら一撃で決めるしかないと考え、生まれて以来したことが無いほど莫大な力を絞り出し、口に集中させた。

 

オーフィスの口に黒い球体が出現し、それが身の丈以上の大きさまで膨れ上がると中心が白く回りが黒い太陽のような球体となった。

 

間違えなく地表に当たれば大陸そのものを消し飛ばすようなシロモノだ。

 

だが、オーフィスは最早自重してはいられなかった。

 

生き年生けるもの全てを葬り去る無限の一撃は放たれて無いにも関わらず氷の大地を割り、海水を蒸発させ、時空すら歪めた。

 

そしてオーフィスから無限の一撃が放たれる。

 

 

 

 

 

「"心無い天使"」

 

 

 

 

 

一言、その一言だけだった。

 

オーフィスは"無限"から"有限"へと堕ちた。

 

「え………」

 

溜めていた力も一瞬で霧散し、最早小さな少女となったオーフィスは力無く膝から崩れ落ち地へと伏した。

 

苦しい、痛い、悲しい、怖い。

 

様々なこれまで経験したことのない負の感情の連鎖に苛まれる中、微かに頭を上げてジェノバを見上げた。

 

「あなたの力は全ていただきました」

 

そこには確認するように手から蛇を出し入れするオーフィスがいた。

 

「なるほど力に仮初めの命を吹き込み分割できる能力ですか…興味深い」

 

1つ違うところは小さな少女の姿ではなく、オーフィスを20ほどまで成長させたような姿だった。

 

オーフィスはそれを唖然と見つめて暫くしてからようやく気がついた。

 

自分が無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)では無くなったことを。

 

ただのオーフィスになってしまったことを。

 

そして最悪の存在に全ての力を奪われてしまったことを。

 

「さて…」

 

ジェノバは手に移していた視線をオーフィスへと戻した。

 

そしてにっこりと女神のように慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべた。

 

それと対極の無限の龍神のドス黒い力を撒き散らしながら。

 

「い、いや…いや……いやぁぁぁぁぁ!!!?」

 

それを見て遂にオーフィスの心が限界を迎えた。

 

地に伏したまま動かない身体を引き摺りながら地べたを這うように逃げ始めた。

 

ジェノバはそれを面白そうに見つめると一歩一歩ゆっくりと追い掛け、オーフィスの髪を掴んで持ち上げた。

 

「あう…」

 

ジェノバはオーフィスがしていたのと同じように次元を割った。

 

「大規模な術式も空間破壊も無しに空間と空間を繋げるとは…これは中々使えそうですね。そしてコレは…」

 

ジェノバはオーフィスを胸の高さまで持ち上げた。

 

「………鍋にでもしましょうか!」

 

指パッチンをしながらさらっと吐かれた恐ろしい言葉を聞いて悲鳴を上げるオーフィスを引き摺り、ジェノバは次元の狭間を進んで行くのだった。

 

 

 

 

そして庭先でなぜか家にあった配給でもするのかという大鍋に水を張り、そろそろいい具合になってきたので具材(オーフィス)を投入しようとしていたところ。

 

「ぎゃぁぁ!? 膝がぁぁ!! 膝がぁぁ!! 」

 

彼に飛び膝蹴りを入れられるのだった。

 

 

 



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しんりゅう

 

 

ジェノバさんは私の膝蹴り(自爆)を受けた後、慣れた手つきで膝にケアルガをかけると何事も無かったように幼女を私に託し、冷蔵庫から魚や、肉や、野菜を持ってきて夕食の鍋を作り始めた。

 

火は外でしてはいけないと言ってから幼女について尋ねると。

 

『もう用済ですし身寄りも戸籍も無いので好きにしてくれていいですよ』

 

というとんでもない返答をいただいた。

 

というわけで一緒に私の部屋に行った。

 

さて、さっきから私に引っ付き続け、ふるふる震えているこの娘をどうしようか考えよう。

 

 

1:交番に捨てる

2:教会に捨てる

3:山中に捨てる

 

 

さて、どれにしたものか…。

 

2は止めよう、近付くと身体が怠くなる上に妙に光る槍が飛んでくる事もあるしな。この世界の教会は私屈指の危険地帯だ。

 

3は…最近よく熊に襲われるとニュースがやっているので止めておこう。

 

無難に1か。

 

とりあえず名前ぐらいは聞いておくか。

 

「我、オーフィス」

 

ふむ、オーフィスちゃんとな。

 

とりあえず何があったのか聞くか。

 

「我は………」

 

 

 

ーオーフィスちゃん、身振り手振りを加えながらの説明中ー

 

 

 

………………えーと…話を纏めよう。

 

まずオーフィスちゃんは無限の龍神という肩書きの龍らしい。

 

それで長い時を生きた中でも一切の正体が不明な存在…というかジェノバさんを見つけたそうな。

 

とりあえずオーフィスちゃんが接触したところジェノバさんが捕食に走り戦闘になった。

 

結果はオーフィスちゃんの惨敗、なにそれチート過ぎる。能力ごともぎ取るってどんだけ無慈悲な心無い天使だ…。

 

そして身体も物理的に食べられそうになったところに私がストップを掛けた。

 

ここまでおk?

 

「…ん」

 

龍神か…。

 

私は依然として私に抱きつきながらぷるぷる震えている幼女を見た。

 

………家にジェノバさんという前例があるにしてもそうは見えん…。

 

何か証明するものでもあれば良いのだが…いや、見たところで私ではわからんか。

 

「証明? コレでいい?」

 

近くの空間が歪み、オーフィスちゃんがそこに手を突っ込んでから引き戻すと金の刃を持つ大剣が握られていた。

 

「ラグナロク、我の剣」

 

………………………何?

 

なあ、オーフィスちゃん…。

 

宝箱に入ってた事ある?

 

「我、よくお昼寝する。中、もふもふで気持ちいい」

 

orz…。

 

よし、無限の龍神かは兎も角、"しんりゅう"であることは保証されたな。

 

タイダルウェイブは止めてくれ。

 

「ん…」

 

オーフィスちゃんがラグナロクを私に掲げていた。

 

それがどうしたんだ?

 

「あげる、命のお礼」

 

本当か?

 

「それに我、もう力ない。持っている意味ない」

 

ふむ………。

 

よし、ジェノバさんと交渉してこよう。

 

私は弱々しく手を握り続けるオーフィスちゃんの手を優しくほどくとジェノバさんのところへ向かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

結論から言おう。

 

ジェノバさんはオーフィスちゃんに力を非常時は返してくれると言い、その準備までしてくれた。

 

ただ冗談半分で割烹着渡しながらオーフィスちゃんに力を危険な時だけは返してやって欲しいと言っただけなのだが…。

 

ジェノバさんは割烹着を受け取り小躍りしてからそれを着た。正直、小躍り風景が無茶苦茶怖かった。

 

その後、直ぐにジェノバさんは濁流のような黒い蛇を出した。こっちは猛烈にキモかった。なんだあの黒ミミズの大群を間近で見せられるような拷問は…。

 

さらにその全てを凝縮して小指ほどの竜の目のような宝玉に変えた。

 

それからジェノバさんが触手の先端を千切って環にすると首輪となった。

 

最後に首輪に宝玉を埋め込み完成した。

 

ジェノバさんはジェノバさんに脅えて私に隠れるオーフィスちゃんに首輪をはめると私に親指を立てた。

 

それをオーフィスちゃんに嵌めて置けば緊急時のみ無限の龍神の力を戻すことができるらしい。

 

ちなみに緊急時とは首輪になっているジェノバ細胞からリアルタイムでジェノバさんが判断するとか。

 

と言うことは完全にジェノバさんがオーフィスちゃんの手綱を握っているが、ジェノバさんから無限の龍神の力は完全に抜け消えたということだろう。

 

流石に無限の龍神の力と専門店で8980円の割烹着。いくらなんでも釣り合わないじゃないかとジェノバさんに確認したところ。

 

『フフフ…好きな人からの初めてのプレゼントに勝るものなんてこの宇宙にありませんよ?』

 

だそうだ。一瞬、その笑顔に惹かれそうになった私を誰が咎められようか。

 

その時、照れ隠しのためにそういえばラグナロクはこっち(FFⅦ)では土下座マシンから手に入ったななどと無駄な事を考えていた。

 

『それにもう一度力を取り込んだので自由に擬態出来ますから、そんな雀の涙みたいな力なんて始めから必要無いんですよ』

 

ジェノバさんはオーフィスちゃんを20ぐらいにした姿を取ると、指から黒い蛇を覗かせた。

 

………………………私の感動を返せ!!!

 

………その話はもう止めにしてオーフィスちゃん…無限の龍神などと言われている者を交番に届けるのもどうかと思い始めていたが。

 

「我、ここに住みたい」

 

モノ凄い爆弾を投下してきた。

 

「ここ、安全。世界で一番安全、安心」

 

そう言ってやはり私の手を握り続けるオーフィスちゃん。

 

………………経済的には全然問題ないが如何せんジェノバさんが…。

 

と、思ったがなぜかジェノバさんまでそれを押してきた。

 

そう言われれば仕方がないのでオーフィスちゃんは新たに家族の一員となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、ちなみにラグナロクはリビングの壁にインテリアとして飾られることになりました。

 

 

 

 

 



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ウボァー

感想…返しきれない…なんでしょうこの贅沢な悩み。それでもぼちぼち返して行く事にしますね。感想を貰うの1日感想欄を10回以上見てしまうぐらいとてつもなく嬉しいですから。


 

 

 

翌日、いきなり問題が発生した。

 

というか学校へ行こうとしたのだが…。

 

「我を一人にしないでぇぇぇぇ!?」

 

オーフィスちゃんが発狂したのである。

 

年相応の力で必死で引き止めようとする姿はなんとも微笑ましい。

 

経緯を説明するまでもないと思うが一応説明しておくと。

 

 

ジェノバさん+オーフィスちゃんに抱き着かれて寝る。

日本文化を未だに履き違えているどうみても外国人の母が、私の腹の上に漬け物石を置いている夢を見ながら起床。

腹の上にオーフィスちゃんがッ!

ジェノバさんにびくびくしながらも空腹には勝てないようで朝食を取る姿を微笑ましく眺める。

さて、今日も学校だ。

ん? オーフィスちゃんも着いてくる? ははは、君はお留守番だ。

オーフィスちゃん発狂←今ここ

 

 

オーフィスちゃん、そんなこと言ったってお留守番だ。

 

『そうですよ。私が責任を持って面倒を見ますから』

 

そう言って(触)手をわしゃわしゃさせながらオーフィスちゃんに近づくジェノバさん。

 

「嫌ぁぁぁぁ!?」

 

それに過剰反応して私に抱き着くオーフィスちゃん。

 

ははは、そんなに脅えなくてもジェノバさんはなにもしないよ。なあ、ジェノバさん。

 

『モチのロンですよ』

 

なら、ジェノバさん?

 

『なんでしょうか?』

 

その背中にお背負いになっている昨日の大鍋は一体なんなんでしょうか?

 

『ただの幼女を茹でるには丁度いい大きさの鍋ですよー』

 

「ひぃぃ!?」

 

………………………ダメだこりゃ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

結局、私にいい考えがあるから任せてくださいとジェノバさんに言われたためオーフィスちゃんを任せておいた。

 

玄関扉が閉まる寸前の絶望に打ちひしがれたオーフィスちゃんの表情が今も忘れられない。

 

「おはようシンラ!」

 

後ろから奉先が抱き着いてきた。

 

ちなみにだが、シンラとはコイツが付けたあだ名である。

 

別に嫌でもないので呼ばせているうちにお前ってシンラって名前じゃなかったの!? とかクラスメイト言われるようになってしまったがな。

 

「シンラ分補給~」

 

奉先はすりすりと身体を擦り付けてきた。

 

昨日の今日だろうが。

 

「いいのよ私がしたいんだから」

 

さいですか。

 

奉先はいつも通り私の手を握った。

 

歩きづらいから谷間に腕を挟むのは止めろや。

 

「い・や・よ」

そうかよ…。

 

「好きなくせに、こういうの」

 

ああ、好きだな。

 

「もう、素直じゃ…え? 今好きって…」

 

ほら見ろ、あの私達を恨みがましく見る羨望の眼差しの数々を。

 

これを見ているだけで清々しい気分になるな!

 

ん? どうした奉先? ぶるぶる震えて風邪か?

 

「………わかってるわよ…わかっていたわよ…シンラが鋼の心で性格が悪いって事ぐらい…」

 

おーい、奉先さーん。急に止まってどうしたー?

 

「シンラ!」

 

お、おう?

 

「絶対…私の処女もらッあいた!」

 

女の子がそういうこと言うんじゃありません。

 

「うう…痛いわ。私は本気なのに…」

 

涙目で頭を押さえながら奉先が見上げてきた。

 

仕方ない。とりあえず撫でておくか。

 

「なんで撫でるのよ…」

 

奉先。

 

「なによ? 」

 

私はお前のこと結構好きだぞ?

 

「え…?」

 

それより、学校だ学校。どうせ今日もカラオケ行くんだろ?

 

私は呆ける奉先を置いて学校へ駆け出した。

 

「あ、待ちなさい! 今の言葉もう一度言って! 後、カラオケは行くわよ! 」

あー、もうさっきのことなんて覚えてないな。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

その人物はチョークでカリカリと黒板に名前を書き込むと生徒へ振り向いた。

 

「ティファ・ロックハートです。今日からあなたたちの担任よ。よろしくね」

 

超ミニのレディースーツを着た女性がいた。

 

………………………………はい?

 

美人だなんだと男子生徒が騒ぐなか私は唖然として見覚えのあり過ぎる女性を眺めていた。

 

ふと、目があった。

 

ウィンクされた。

 

やはりお前(ジェノバさん)か!

 

「シンラ~? 何見つめてるのかしらー?」

 

奉先が怒りマークが浮かんでいそうなイイ表情で俺をつねった。

 

痛い、地味に痛い。止めい、お返しだ。

 

「はんでふねるのよ?(なんでつねるのよ?)」

 

お前が言うな。

 

「あの…先生?」

 

1人の生徒がジェノ…ティファさんに声をかけた。

 

「はい、なんでしょう? えーと、田中君」

 

ほう、クラスに田中なんて奴がいたのか。

 

「3年間一緒じゃない…」

 

え? 本当か?

 

「担任の吉田先生は「産休よ」え? でも吉田先生は男「産休よ」あの…「産休よ」……わかりました」

 

田中ァァ!? お前はよく頑張った…頑張ったよ…。でもジェノバさんには理屈も通りも現実も通用しないんだよ…。

 

「いきなりだけど転校生を紹介するわ!」

 

…なるほど、だから朝に弁当が二個用意してあったわけだな。

 

……………………ふう…わー、一体誰フィスちゃんナンダー。

 

ガラリと扉が開き、うちの学校の制服を着た15歳ぐらいのオーフィスちゃんが入ってきた。

 

………え? なんか成長してる。

 

ちなみにこの学校の女子生徒の制服は上下赤である。

 

男子生徒は至って普通なので謎だ。

 

オーフィスちゃんはカリカリと黒板に名前を書き………おい。

 

「我、神城 オーフィス」

 

またもや爆弾を投下した。

 

オーフィスちゃんはそれだけ喋ると何事も無いようにてくてくと移動し、奉先と私を挟んで反対側の席に移動すると席に着いた。

 

さらに奉先と同じように机を私の机にくっ付け、手をギュッと握って来た。

 

「ん…」

 

ん、じゃねぇよ!

 

「シ・ン・ラ?」

 

奉先、痛い、痛い! 足を踏むな!

 

お前の馬鹿力はかなり洒落にならん!

 

「あなたシンラのなに?」

 

イイ笑顔の奉先はオーフィスちゃんに話し掛けた。

オーフィスちゃんはそれを聞いて暫くジェ…ティファさんを見つめてから首の首輪を弄り、奉先へ顔を向けた。

 

 

 

「我、シンラのペット」

 

 

 

オーフィスちゃんは核爆弾を投下した。

 

「ぺ、ペット!?」

 

あー、だから聞こえない。2人の会話でオーフィスちゃんがとんでもない事を言っていることなんて知らない。

 

「シンラ…」

 

奉先は私の両肩を掴んでガクガクと揺さぶった。

 

「なんで私にはそういうことしてくれないのよ!?」

 

そして私の予想の斜め上を行く幼馴染み。

 

もう嫌だこんな生活。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

クラスメイトに修羅場だのシンラの女が増えただの言われ続ける苦行を経て放課後。

 

現在、いつも通りカラオケにいた。

 

1つ違うのは私、奉先、オーフィスちゃんの3人だということだろう。

 

奉先はオーフィスちゃんと何やら盛り上がっており、オーフィスちゃんは注文したカラオケ店定番の価格設定の料理をもきゅもきゅ頬張り、私は財布の諭吉さんの数を数えていた。

諭吉が1まーい、2まーい、トータル57まーい。

 

「オーフィスちゃんこれも注文する?」

 

「食べる」

 

「本当によく食べるわね」

 

さっきの今でなぜそんなに仲が良いんだコイツら。

 

「さあ、オーフィスちゃん! シンラの財布をスッカラカンにしちゃいなさい!」

 

「ん…」

 

おい、止めろ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

相変わらずの奉先の1人カラオケも終了し、現在は自宅のリビングで夕御飯中である。

 

しかしよく食べるなオーフィスちゃん。諭吉さん二枚分ほど食べた後でよくまだ食べれるものだ。

 

さて、時にジェノバさん、今日のはどういうことでしょうか?

 

『はい、1人で留守番は寂しいと思いまして、一緒に学校へ行ってもらうことにしました!』

 

でも勉強とか付いていけるかわからないでしょう?

 

『それは大丈夫です。だってほら…』

 

ジェノバさんはオーフィスちゃんを見てから黒い笑みを浮かべ、それを見てオーフィスちゃんがビクッと震えた。

 

『"入れましたから"』

 

………………最早語るまい…。

 

100歩譲ってそれは良いでしょう。

 

で? あなたは?

 

『いえ、2ヶ月ぐらい前から教師として教鞭を振るう予定でしたので準備は既に済ませていたんですよ』

 

初耳ですね…。

 

『サプライズ精神に乗っ取りました。でもその娘はちょっと強引な手段を取りましたねー。聞きたいですか?』

 

さいですか…遠慮しときます。聞いたら後悔しそうなので。

 

『ちなみにモデルの女性は私の知る限り純粋な人間最高の身体能力を持つですよー』

 

でしょうねぇ…。

 

気色悪い怪物だろうと、硬そうな兵器だろうと、ジェノバさんであろうと拳で殴り潰す主人公(クラウド)より男前な女性だからな。

 

『家事は私のコピーが済ませますから何も問題ありませんね』

 

そうですね…。

 

もう、いいや…どうでも。あー、ジェノバさんの特製ローストビーフ旨い。ウマイナー。

 

現実逃避をしていると私の携帯電話が鳴り響いた。

 

どうせ奉先だろう。アイツぐらいしか私に電話…な……ん…てッ!

 

絶対喋らないで下さいね! オーフィスちゃんも喋らないでくれ! 後、音も立てないように!

 

私は脱兎の如く飛び出して廊下に出て、さらに走り玄関まで向かい電話に出た。

 

は、はい。羅市(ライチ)です…。

 

『久しぶりですね』

 

そ、そうだね。母さん。

 

『話し方がぎこちないですがどうかしましたか?』

 

何でもないよ。ホントダヨ?

 

電話の相手は俺の母、神城 頼羅だ。

 

日本人の名前ではあるが明らかに外国産の髪と顔立ちをしたかなりの美人である。

 

そんな、電話越しではまずわからないことはどうでもいい。それよりも今重要な事は勿論。

 

アイツら(ジェノバさんとオーフィスちゃん)のことだ。

 

『……犬か猫でも拾って来ましたか?』

 

うん、宇宙生物としんりゅう拾ってきたんだ! って言えるかボゲェッ!

 

は、はい…そんなところです。

 

『仕方がないですね。きちんと面倒を見るんですよ?』

 

はい、片方からは面倒を見られてます! ではなく…。

 

いいですとも!

 

『いい返事ですね。では、本題を話します。 また、仕事が立て込んでしまいまして暫く帰れそうにありません』

 

そうかそれは残念だ。

 

シャー! これでまた暫くは問題を先送りにできる!

 

『ので…』

 

え…? ので…?

 

その直後、家の玄関扉が開いた。

 

 

 

「その前に一度帰ることにしました」

 

 

 

そこには少なくとも30~40歳は間違えなく行っているというのに未だに20代前半、下手すれば10代に見えなくもない銀髪の女性。

 

礼儀作法、教養、料理、家事百般その他諸々を全てこなし、凄まじい年収を叩き出すスーパーウーマン。

 

まさに立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花のような女性。

 

私の母さん本人が携帯電話片手に立っていた。

 

そして丁度、後ろから。

 

『シンラさーん、今日の金曜ロードショーはもの〇け姫ですって…あれ? 誰ですかその女性は?』

 

明らかに人間の容姿をしていない(ジェノバさん)が現れた。

 

 

………………………………………

………………………………

………………………

………………

………

 

 

 

 

 

 

 

 

ウボァー

 

 

 

 

 

 

 

 

私は膝から崩れ落ちると頭を抱えた。

 

 

 

 

 




シンラくんの母親は一体、誰イフィアさんなんだ!


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Acta est fabula

 

数日前、人間界で壮絶な力同士の衝突が観測されました。

 

片方は全ての神魔霊獣において"3位"の実力を持ち、現在は水面下のテロ組織禍の団の首領である無限の龍神。

 

ですがもう片方は全くの正体不明。

 

1つ言えることは正体不明の力は無限の龍神をも遥かに越え、数値上は"無限と夢幻"を足しても遠く及ばないほど莫大で未知のエネルギーを持つ生命体が観測されたということです。

 

2つの最上位生命体は壮絶な衝突を起こし、徐々に無限の龍神の力が弱まり、最期に無限の龍神の力の波動が完全に消滅したと思えば、再び最初に観測されたほどの大きな力で無限の龍神の力が観測されました。

 

そして、無限の龍神は次元の狭間に帰ったのかそれ以降観測されませんでしたが。

 

妙なのが謎の莫大な波動が完全に消滅し、それ以降観測出来なくなった事です。

 

計器の異常かとも思われましたがアジュカ様がそれはあり得ないと断言されたのでそれは無いのでしょう。

 

ならばこの世界最強の存在を遥かに越える存在は無限の龍神に倒された。或いは逃げたのか。

 

少なくともこの事実は悪魔、堕天使、天使の三陣営全てを震撼させたでしょう。

 

最もそれを知るものは一部の上層だけですが…もしこれが一般に露呈すれば大混乱に陥ることは間違えありません。

 

サーゼクス様は冗談半分で宇宙怪獣でも来たんじゃないかなどと妄言を吐いていましたが事は一刻を争います。

 

無限や夢幻と違いそれが好戦的なら直接的な被害が出る可能性も視野にあるのですから。

 

もしあのような莫大な力を持つ生命体が冥界に現れたのなら……考えたくもありません…。

 

早急に正体不明の存在を調査し、対策を練る必要があります。

 

ですがその前に。

 

"人間界にいる私たちの息子"が気掛かりです。

 

観測区域と離れていたとしても息子が心配です。

 

丁度リアス様と同い年であり、私とサーゼクス様の第一子。

 

初代ルキフグスが"あのお方"より賜り、代々ルキフグス家に受け継がれし力を最も色濃く強く持って生まれた子。

 

ルキフグス家において現在、過去、未来永劫最高の素質を持ち。

 

あのお方に唯一直接抱かれ命名された子。

 

もうまもなくあのお方の15年間の封印も解け、最低限以外禁じられている悪魔との接触も解除される時です。

 

待っていてください。

 

母は直ぐに会いに行きます。

 

 

 

私の子"エヌオー・ルキフグス"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、息巻いて息子のいる別荘に帰ってきたのですが……。

 

「犬や猫……でしたよね?」

 

「ごめんなさい母さん………宇宙人としんりゅうなんだ…」

 

「どうもどうも~お母様! 私ジェノバと申します! 特技は……分裂でーす」

 

「我、オーフィス。今、無限の龍神」

 

私の思考の一切が及ばない事になっていました。

 

「………………」

 

私は頭を抱えるしかありませんでした。

 

片方は容姿、感じる力共に疑いようもなく無限の龍神。

 

もう片方の青いメイドのような何かの触手がトカゲの尻尾のように切れると、触手が4体の青いメイドのような何かになりました。

 

以上現象は兎も角、感じる莫大な力は観測された力と似通っています。

 

それらをエヌオーを護る為に張られている家の結界が上手く隠しているとは夢にも思いませんでした…。

 

いつからこの家は発展途上で封印中のエヌオーも含めて世界最高戦力が集まる魔境になったのでしょう?

 

この前帰ってきた時は私の癒しの場であったハズなのですが…。

 

「ライチ…」

 

「はい! なんでありますか!」

 

「私が居ない間に何があったか説明してもらいますよ?」

 

「はい……では手っ取り早く三行で…

 

ジェノバさんが宇宙から家の庭に落ちてきてメイドを始める。

 

ジェノバさんがオーフィスちゃんを食料目的で連れてきてなんやかんやでラグナロクがインテリアに。

 

母さんがランダムエンカウント。

 

マジ★心的疲弊的損壊♪

 

…と、言うこと」

 

「あなたはバカですか!?」

 

私はハリセンでエヌオーを叩きました。

 

チャランポランといいますかざっくばらんといいますか…。

 

なんでそんなところは特に父親似なんでしょうか…。

 

なんとなく流石は我が息子だ!などと言いながら両手を広げているサーゼクス様が浮かびました。

 

「あのお母様」

 

いつの間にか1体に戻っていたジェノバという名らしい私のメイド服を無断で使用している何かが声を掛けてきました。

 

それ以前にあなたにお母様と言われる筋合いは無いのですが…。

 

「目を見ればなんとなくわかると思いますが、シンラ様は現在、心ここにあらずといった様子なので私から話しましょう」

 

エヌオーの目を見ると死んだ魚のようにな目をしており譫言をぶつぶつと呟いていました。

 

………………………ダメだこりゃ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

オーフィスはもきゅもきゅと夕飯を食べながらくシンラとシンラの母親を見た。

 

親子よく似るというが本当によく似ているとオーフィスは思った。

 

シンラを女性にすれば丁度あんな感じになるであろう。

 

そんな事を考えているとオーフィスの頭に声が響いた。

 

『オーフィス! 返事をしろ! オーフィス!』

 

「グレートレッド?」

 

そのオーフィスだけに聞こえた声は次元の狭間に住まう"オーフィスの友人"であり夢幻を司り真なる赤龍神帝として知られる龍だった。

 

様子から察するに暫く交信を試みていたのだろう。

 

オーフィスが現在、無限の龍神に戻っている事でやっとグレートレッドの声が聞こえたようだ。

 

『"奴"がまた現れた! 今は我だけで相手をしているがいつまで…グォォォォ!? ぐっ…いつまで持つかわからん!』

 

「ッ!? わかった。すぐ行く」

 

オーフィスはジェノバの前以外で中々見せることのない驚愕の表情を浮かべると椅子から立ち上がった。

 

その様子に残りの1人は身構え、1人はただ視線を移し、1体は面白そうな表情を浮かべた。

 

オーフィスはカクカクとぎこちない動きでジェノバの前まで行くと話始めた。

 

「ジェノバ…さん。手伝ってほしい、アレがまた動き出した。アレは壊す度に強くなって復活する。今度は我とグレートレッドでも破壊出来るかわからない…」

 

オーフィスは意を決してジェノバを見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"ヴェグナガン"を葬って欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その発言に人一倍シンラが驚愕の声を上げたのは言うまでもない。

 

 

 




この世界の次元の狭間は人外魔境です。

さて、間もなく擬人化のタグが生きる時だ…。


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ラスダン異界の深淵

 

現在、次元の狭間とやらに2人と1体と1匹で来ている。

 

あんまり母さんやジェノバさんやオーフィスちゃんと離れると即死するらしい。

 

なにそれこわい。

 

そういえば母さんは悪魔という種族らしい。

 

あんなマトモな母さんが悪魔なら天使とは一体………うごごごご。

 

え? 教会で槍ぶん投げて来る奴ら?

 

嘘だろ。天使があんなバイオレンスな奴らだったら世も末だろ。

 

え? 三勢力の大戦争が昔あった? 世も末なのか…。

 

ちなみに話は変わるが、右はオーフィスちゃん左は母さんに手を握られている。

 

………無茶苦茶動きずらいのだが…。

 

「ダメ。シンラいなくなったら、我、居場所ない」

 

さいですか…。

 

ちなみにジェノバさんは相変わらずのニコニコ笑顔を張り付けながらそんな私を時々前から見ている。

 

パーティー編成的にはこうだろう。

 

前列:ジェノバさん

後列:オーフィスちゃん

後列:私

後列:母さん

 

私の使い物にならなさが半端ない。

 

なぜいるんだし…。

 

『それはシンラさんがいると私たちというか特に私に支援効果を発揮するんですよ。全能力400%ぐらい』

 

凄まじい支援効果ですね…。

 

それはそうと次元の狭間とは思っていた場所と随分違うのだなと私は呟いた。

 

今、歩いている場所は白く煤けた青銅のような宙に浮かぶ足場を進んでいた。

 

さらに背景や下上の全てに白い霧のようなものが掛かっており、ここがどれ程広い空間なのか一切わからない。

 

ぶっちゃけ、FFⅩ-2のラスダン異界の深淵である。

 

うじゃうじゃと魔物が現れ、私たち一行の前に立ち塞がり続けた。

 

高いHPの割には旨みの薄く逃げる推奨の巨大な蟯虫のような魔物、アースウォーム。

 

頑強な甲羅と鋭い爪を持つ巨大な灰紫色の亀のような魔物、アダマントータス。

 

特に強くない、オメガウェポン。

 

高いカウンター性能の割に低いHPのせいで空気な4本腕の巨人の魔物、ガグ。

 

物理で殴る戦法を取ると特に苦もなく勝てるダークエレメンタル。一匹家のインテリアに欲しいところだ。

 

MPが悲鳴を上げる赤い犬っころ、ティンダロス。

 

FF名物ボムの上位種、ボルケーノ。

 

同じくFF名物モルボルの上位種、モルボルグレート。

 

魔法オール吸収というアホみたいな性能とやたらに高い物理攻撃で苦しめられた灰色のトカゲっぽいドラゴンの魔物、ルブルムドラゴン。というかルブルムドラゴン。貴様は許さん。

 

これは明らかにラスダンのハズだな…。

 

たとえ、ジェノバさんが指を振れば斬魔刀よろしく空間ごと魔物が割れたり。

 

オーフィスちゃんが指から黒いビームを放つと魔物が木っ端微塵に吹き飛んだり。

 

母さんが魔法を唱えて使うディープフリーズとかメルトダウンで魔物が1発か2,3発で酷い死に方をしたり。

 

母さんって何の職業なんだ…。

 

え? 暗黒魔導士? いや、ジョブでは無くてだな…。

 

だとしてもラスダンのハズだ…なんだこのヌルゲー。

 

というかよくエンカウントするオメガウェポンの死に演出が長く邪魔で仕方ない。

 

それを聞いてかどうかオーフィスちゃんは話し始めた。

 

「次元の狭間、始め、何もない空間だった。でも"死を超越するもの"が次元の狭間に来て変わった。死を超越するもの、たくさんの異世界、他の世界の一部を次元の狭間に同化させた。次元の狭間はたくさんの異世界が連なる異界の1つになった。ここもその1つ。そのせいで色々来た。昔の静寂、もうどこにもない」

 

オ、オーフィスちゃんが長文だと…。

 

『素晴らしい』

 

ジェノバさんが小さく拍手しながら言った。

 

『ですがそれには間違えがあります。異世界と異世界を繋ぐ技術ではなく、遠い星と星を繋ぐ技術ですよ。それさえあれば面倒な宇宙移動の必要も最小限で抑えられる。なんと素晴らしい事でしょう!』

 

ジェノバさん大歓喜。

 

え? なに母さん? もっとオーフィスちゃんに色々聞いて欲しい? カオスブリゲート?

 

うーん、了解。

 

「かおすぶりげーと?」

 

オーフィスちゃんに聞くと首を傾げた。

 

「我、知らない」

 

え? なに母さん? そんなハズはない?

 

うーん、了解。

 

「我、本当に知らない」

 

………………ふむ、ならオーフィスちゃん。最近変わったことは無かったか?

 

「ん」

 

そう言うとオーフィスちゃんはビシッと私を指差した。

 

…いや、私では無くてだな。

 

オーフィスちゃんは指を唇に当てて上を向いた。

 

「あ」

 

オーフィスちゃんの頭に電球が灯ったように感じた。

 

「少し前、次元の狭間の魔物を減らす協力をしてくれると言ってきた。その時、かおすぶりげーとって言ってた」

 

ほうほう、それで?

 

「蛇を500匹渡した」

 

「テロリストに何を渡しているんですか!?」

 

「次元の狭間の魔物、いっぱい、強い、大変。でも、手伝ってくれるって言ってた」

 

「純粋ですか!?」

 

母さんのノリ突っ込みが炸裂した。

 

母さんの右手のハリセンがふるふる震えている。

 

これは母さんが物理的にも突っ込みたいが必死で我慢する時の行動だ。

 

何だかんだで母さんもかなり変な人だ。

 

というか一体、そのハリセンはどこから出しているのだろうか?

 

ちなみにこの談話中も絶えずエンカウントする魔物共が虐殺される風景が続いております。

 

え? まだ聞きたい事がある? ヴェグナガン? 自分が聞けばいいと思うのだが…嫌ですかはいわかりました。

 

「ヴェグナガン?」

 

そうそう、ヴェグナガン。ソレはなんなんだ?

 

…まあ、私は知っているがな。

 

「ヴェグナガン、この異世界の一番奥にいたおっきな機械」

 

ふむ………………………ん? それだけ?

 

「ヴェグナガンとても強い。壊してもいつか復活する。その度に強くなる。もう我とグレートレッドでも勝てるかわからない」

 

「そんな怪物が…」

 

「ん、多分最凶最悪の…」

 

オーフィスちゃんはハッキリと呟いた。

 

 

 

九十九神(つくもがみ)

 

 

 

九十九神《つくもがみ》とは、日本の民間信仰における観念で、長い年月を経て古くなったり、長く生きた依り代(道具や生き物や自然の物) に、神や霊魂などが宿ったものの総称で、荒ぶれば禍をもたらし、和ぎれば和ぎる幸をもたらすとされる。

 

九十九神…? スピラを一撃で葬り去る威力の?

 

なにそれこわい。

 

「次元の狭間、我より強いのたくさんいる」

 

ん?具体的に何体ぐらい? いや、だから母さん。オーフィスちゃんは良い娘なんだから普通に聞け…嫌ですかはい、わかりましたよ。

 

「ブラキオレイドス、プロトバブイル、オメガ、カイザードラゴン、オメガウェポン…」

 

ん? ち、ちょっと待て! そいつらFF歴代の鬼畜裏ボス共なんじゃ…。

 

「すべてを超えし者、オズマ、デア・リヒター、アンラ=マンユ、聖天使アルテマ、戒律王ゾディアーク」

 

うわぁ…、次元の狭間…鬼畜のごった煮宗教みたいな場所だな。

 

「あと」

 

 

 

 

 

「"ヤズマット"」

 

 

 

 

 

それを聞いた瞬間、私の前世の記憶が呼び醒まされた。

 

ヤズマットとは5011万2256のFF最高の超絶HPを誇り、チート染みた回避無効などの性能と理不尽極まりない即死攻撃を持つFFⅩⅡの裏ボスである。

 

それは初見一周目のプレイ中、ヤズマットのHPを5%も削れずに殺されまくり、逃げてもHPが回復しないことに気が付き、2日以上掛けて90%ほどHPを削った時。

 

『ふふふ…もう少しで勝てる…』

未だ発狂モードを知らない純粋な頃の記憶だ。

 

『なに? リフレガ? それよりフルケアっと………………………………………は?』

 

 

 

 

 

1つ言えることは、その日からヤズマットがトラウマになり、それ以来2度と挑戦することは無かったということだ。

 

 

 

ヤズマット…本物の奴がいる…ヤズマット…ヤズマット………。

 

グ…………パァー!

 

「ライチ!? どうしたのですか! ライチ!」

 

「シンラ!? 嫌……死んじゃ嫌ぁぁぁぁ!!?」

 

『いや、大丈夫ですよ。気絶しただけですって』

 

そうして一行はいつの間にかアジ・ダハーカを瞬殺し、最深部への最後の道を進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここでアンケート。

今回、オーフィスちゃんが上げたこの作品の次元の狭間に住まう裏ボス(ヴェグナガンを除く)共の中で…。

アンケートを取り票が多かった裏ボスを擬人化(ヒロイン化)します!

合言葉は……"あなたのトラウマがヒロインになる!"

1人1体です。活動報告へどしどしご応募下さい。






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ジェノバさんの日

ヴェグナガンの昔の話は作者のフロム脳の産物ですよ。ただ暴走したっていうのも味気無いですし(主に性格設定の面で)

ちなみに作者はFFをほとんどプレイしていますがFFⅩⅢシリーズをやっていませんよ。

リターンズが出た時にオメガが使えるとの事だったのでオメガだけダウンロードし、とりあえず買うかどうかは友達に評価を聞いてからにしようと思ったからです。

そしてFFⅩⅢはどんなゲームなんだと持っていて良くプレイしている友達に聞くとイイ笑顔で素敵な返答をしてくれました。




『ライトニングさんの安産型の尻を見る素敵なゲームだよ』




買う気が失せました。






異界の深淵と無限の龍神が呼ぶ場所の最深部。

 

開けた空間ではありますが、足場以外はどこまでも続く深い闇が続く冷たい場所でした。

 

悪魔の私でも視界が晴れないところを考慮すると恐らく闇色の霧かなにかでしょう。

 

「あ、グレートレッド」

 

無限の龍神が指差す闇を見ると赤く光る点があり、それが徐々に大きくなるとその正体がわかりました。

 

それは赤く100mほどの巨大な龍。

 

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)でした。

 

例え"全身に無数の傷を作り、片翼が破かれ、腹が貫かれ空洞になっており、尻尾の先が千切れていたとしても"

 

あのお方についで世界2位の実力者をここまで疲弊させるなんて…。

 

いいえ…さっきの無限の龍神の話を信じるのなら世界の実力者が一新されることになるでしょう。

 

そしてヴェグナガンという者は無限の龍神と真なる赤龍神帝すら超える怪物なのでしょう。

 

「グレートレッド、久しい。ボロボロ、大丈夫?」

 

『やっと来たかオーフィス! 傷は問題ない、1日も立てば完治する。それよりそいつらは…いや、話は後だ。来るぞ!』

 

その言葉に続いて深い闇の中に2の青い点が現れました。

 

そして、その位置が次第に上昇し、私たちがいる場所より遥かに高い位置で停止しました。

 

青い点が次第にこちらに近づくにつれて闇から姿を徐々に現し、その全貌が明らかになりました。

 

それは体高だけで真なる赤龍神帝の全長の数倍。全長に至っては20倍ほとの大きさのある巨大な蛾のような機械らしき化け物でした。

 

しかし、頭はマンモスの頭蓋骨のような見た目をしており、さらに体色は黒みを帯びた銀色、極めつけに翼は冥界の黒紫色の星空のような色をしていました。

 

「またおっきくなった?」

 

「ああ…最早、我の攻撃も殆ど効き目がないようだ」

 

『ほうほう、これは…素晴らしい兵器ですねぇ』

 

息子のメイドらしき何かのジェノバという者が前に出て一言いった。

 

『見せてもらいますよ。あなたの過去を』

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

それは1000年前。いや、数万年。ひょっとすると数億年前の話かもしれない。

 

召喚都市(ザナルガンド)機械都市(ベベル)の大戦争。

 

そんな対戦の最中、ベベルにて対ザナルガンド用機械兵器が人の手により造り出された。

 

その名をヴェグナガンと言った。

 

ヴェグナガンは既存のありとあらゆる兵器を遥かに超え、人と比べ物にならないほどの人工知能を搭載し、ザナルガンドとの大戦を終わらせるための言わば核兵器のようなものだった。

 

だからソレは戦争を終わらせるという目的の元、実戦投入される時を待っていた。

 

だが、ソレはある時、とある存在を知った。

 

人を導き人の世の光となる至高の存在。

 

"神"であった。

 

ザナルガンドでもベベルでも神を崇める信仰というものが広まっており皆、大小は違えど神を信仰するものも多かった。

 

だが、ソレは神を好ましく思わなかった。

 

神とは何もしない。人のために人を滅ぼすことも街を焼くこともない。

 

そもそもそんな見たこともない存在を讃えることをする人間が不思議でならなかった。

 

そんな時、ソレの前で1人の技師がこんなことを言った。

 

 

 

『コイツはまさに俺たちの機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)だ』

 

 

 

それが全ての引き金だった。

 

その刹那、ソレは自身の創造された意味を理解した。

 

この機械都市の究極で至高の兵器である自身こそがこの都市の神となり、ベベルの都市の神として全人類を束ねる世の光となる。

 

その時から人の制御下を離れ、暴走が始まったのだろう。

 

無論、ベベルの住民はソレを神として敬うことも奉ることもなかった。

 

自らの手で創造した物だ。人間からすればそうすることなどバカらしいだろう。

 

それにソレは憤慨した。

 

そして人知を遥かに超える人工知能で考えた。

 

どうすれば一体、ベベルの民は自身へ信仰心を向けるだろう?

 

そして、最も簡単な答えを導き出した。

 

 

 

"世界(スピラ)の民全てがこのヴェグナガンを恐怖すればいい"。

 

 

 

 

恐怖も信仰心の1つだ。

 

何かに恐怖するから人々は神に供物を捧げその沈静化をはかり、荒ぶる神を恐れるから人々は生け贄を捧げる。

 

病気や災害に苦しみ恐れ神を崇め、誰かに恐怖し陥れるために神罰を望む。

 

ならばその全てを叶えよう。

 

敵対するものを、不利益なものを、自然という化け物を、そしてヴェグナガン以外に対する恐怖という感情を生み出すもの全てを。

 

等しく破壊しよう。

 

そのためにはまず全人類に恐怖を刻み込まねばならない。

 

物質化する機械仕掛けの神として。

 

ヴェグナガンはそれから2度起動された。

 

 

1度目はテスト起動。

 

搭乗者(演奏者)の精神を乗っ取り、主砲を使わずともザナルガンド、ベベルを含めたスピラの主要都市に多大な被害を与え、スピラの10%の大地を無に還したが、演奏者の肉体が耐えきれずに死んだことで停止した。

 

奇しくもその事が切っ掛けで機械は禁止とされ、機械文明の発展は衰退の一途を辿るのだった。

 

 

2度目はその1000年後。

 

シューインのスピラを破壊する意思に同調し、嬉々としてスピラを一撃で滅亡させる威力の主砲を使おうとすらした。

 

演奏者(シューイン)が1000年前の敵国であったザナルガンドの亡霊だったというのはなんという皮肉だろう。

 

 

そして三度と起動することはなく完全に破壊しつくされた。

 

だが、それから途方もない静寂の後に自らの意思で覚醒したのだ。

 

見慣れた異界の知らない世界の中で。

 

 

 

 

そしてヴェグナガンは未だ暴走を続ける。

 

人類種を、魔物を、目に写る世界全てを根絶し、神として君臨するために。

 

自身が本来なぜ造られたか?

 

何のために神になろうとしたのか?

 

その答えすらいつの間にか忘却の彼方へと忘れ去ってしまっているとしても。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

『なるほど、多少親近感の沸く思考回路をしていますねー』

 

ん? 突然、どうしたジェノバさん?

 

『いえいえ、ここには狂おしいほどの思い…言わば記憶と感情によるライフストリームの破片のようなもので満ちていましてねー。空気に触れるだけで歴史がわかるというものですよ』

 

なるほどわからん。

 

『わかったら逆にビックリですよ』

 

『" Noli me tangere"』

 

ヴェグナガンから機械音が響くと、巨大過ぎる尻尾が全てを凪ぎ払うように迫ってきた。

 

『話の途中に不粋な玩具(オモチャ)ですねぇ』

 

1人前に出ているジェノバさんと、その10mほど後ろにいる私以外のメンツは身構えた。

 

ちなみに私は特にやることもなくヴェグナガンの全体像の観察をしていた。

 

FFX-2で対峙した時と比べると新品のようだ。戦力は1000年間ほったらかされていたバージョンではなく、全盛期のヴェグナガンと考えていいだろう。

 

それにどこぞのFFⅩⅡ仕様のオメガのように自己進化能力も搭載しているようだ。

 

明らかにデカイしな、というよりも大きさ以外変わっていないような…。

 

自己進化能力っていうのはレベルを上げて物理で殴ることを指すのだろうか?

 

そんなことを考えているうちにジェノバさんは片腕を前に出すと迫り来る尻尾に向けた。

 

そして接触した瞬間。

 

ヴェグナガンの尻尾は半ばから真っ二つに斬り裂かれた。

 

『おや? そこの赤蜥蜴が攻撃が通らないなどと宣ってましたからどれほどかと思えばこの程度ですか』

 

それに答えたのかヴェグナガンは巨体からはあり得ない速度で飛行し、ジェノバさんからかなり距離を取るとターレットが赤色に染まり再び機械音が響いた。

 

『"Dies irae"』

 

全てのターレットから1発1発が巨大で、威力は核の比ではない9発のミサイルが放たれ、ジェノバさんへ数十発が飛来した。

 

『うー、にゃ☆』

 

ジェノバさんは明らかに適当にしているのか、それとも私の前から猫を被っているのか、妙な声を出しながらウィンクすると全てのミサイルが同時に凍り付き、爆発することなく弾けた。

 

『トドメ、いっきまーす!』

 

ジェノバさんの手に見覚えのある長刀が浮かび上がった。

 

ん? 正宗か。ジェノバさんが造った正宗なのかオリジナルなのか。それは謎だ。

 

ジェノバさんは正宗を構えるだけでその場から動かずに遥か彼方のヴェグナガンへ向かって降り下ろされた。

 

『斬魔刀』

 

その言葉に少し遅れて、ヴェグナガンの頭、コア、尻尾と繋がるように縦の線が入った。

 

うわぁ…。

 

斬魔刀とはようじんぼうの文字通りの必殺技である。

 

雑魚敵であろうとボスであろうと耐性無効で即死させる。そんな鬼畜技だ。

 

ヴェグナガンは綺麗に2つに割れると闇の底へと墜ちていった。

 

『いえーい! やりましたよシンラさーん』

 

い、いえーい…。とりあえずハイタッチはしておこう。

 

だが、ジェノバさんとハイタッチをした瞬間に機械音が聞こえた。

 

『"Acta est fabula"』

 

そちらを見ると真っ二つにされた跡も尻尾を斬られた痕跡もなく、"胸部から主砲を伸ばし、こちらへ向けたヴェグナガン"が上空で佇んでいた。

 

お、おい…それはお共のリダクトを復活させる技だろ? まさか超即再生したとか言わないよな?

 

『そのまさかだ。前々回ぐらいの復活後から半端なダメージでは直ぐに全回復するようになってしまったのだ』

 

グレートレッドさんとやらから言われた。

 

………………自己進化能力バカにしてすみませんでした!

 

『全く…下らないですね』

 

そう言うとジェノバさんより後ろの私たちがいる場所の間の空間に、幾重もの術式の浮かぶ巨大な透明の壁が出現した。

 

さらにヴェグナガンと私たちを囲むように半径10kmほどのドーム状の青い半透明の障壁に閉じ込めた。

『雑魚は雑魚らしく…』

 

ジェノバさんは手を胸の前で向かい合わせ、丸い円が出来るように囲むとそこに黒いエネルギー球が出現し、同時に球が収縮を開始した。

 

『私が颯爽と一撃でぶっ壊してシンラさんのポイントを稼ぐ礎になっていればいいんですよ。私の邪魔をするとは万死に値します』

 

ジェノバさんが胸の前で収縮させた球が星の爆発のように鮮やかに爆発し、赤い光が巻き起こり、それが円の形を取った。

 

おい…そのエフェクトまさか…。

 

『生み出されたことを懺悔し、私に脅えなさい。そして(まこと)の神とは誰であるかしかと刻みなさい』

 

ヴェグナガンは自身が持つ星の生物という生物を一撃で消し去るであろう究極の攻撃を放った。

 

ヴェグナガンの圧倒的な破壊の嵐は真っ直ぐにジェノバさんへと迫った。

 

 

 

『絶望を贈りましょう』

 

 

ジェノバさんは"ソレ"を発射した。

 

赤い魔弾はいとも容易く、世界を一撃で葬り去る威力のヴェグナガンの砲撃を正面から受け止め、裂けるチーズを片側から全方向に引き裂くように散り散りに霧散させるとそのまま砲身を一瞬で跡形もなく粉砕し、コアに魔弾が激突した。

 

 

 

 

 

『"ジャッジメント・デイ"』

 

 

 

 

 

その言葉と共に闇に包まれていたフィールド全体が赤い光に飲み込まれた。

 

私たちは障壁のお陰でそよ風程の爆風すら来ないが、ジェノバさん以外の障壁内の触れるもの全てを塵すら残さず消滅させる赤い光の光景が圧倒的過ぎる威力を物語っている。

 

光が止んで見えた光景は全身が黒く焦げ、手足や羽に至るまで原型を留めていないヴェグナガンだった。

 

『"Acta est…"』

 

『まだ頑張りますか、ほれほれ』

 

ジェノバさんの両手には1つづつ、ジャッジメント・デイの赤い破滅の光が既に灯っていた。

 

恐らく、爆発中に再び造っていたのだろう。

 

それを交互に投げるとヴェグナガンは再び爆心地となった。

 

………………予想はしていたがヴェグナガンが気の毒になってきた。

 

そして、今度は両手+胸の前の計3つのジャッジメント・デイを造り始めるジェノバさん。

 

ジェノバさん。ジェノバさーん! そこまでしなくていんじゃないでしょうかー!?

 

『それもそうですね』

 

そう言うとジェノバさんはジャッジメント・デイの生成を止めて、ヴェグナガンへ向いた。

 

『ガ…ザザ………ピ…』

 

そこにいたのは最早、原型を留めていない何かだった。

 

………………ヤりすぎですジェノバさん…。

 

『てへぺろ☆』

 

………なにか見てはいけないものを見た気がする。知らん、私は知らん。てへぺろするジェノバさんなどは知らん!!

 

え? 他の連中?

 

ジャッジメント・デイ撃つ前ぐらいからグレートレッドさんはポカーンと口を開けたまま固まり、オーフィスちゃんは私に抱きついたままガタガタ震え、母さんは…ん? 母さん? 母さん?

 

………目を開けて立ったまま気絶とかハイレベル過ぎないか?

 

オーフィスちゃんそろそろ離れないか? おっきいオーフィスちゃんだからそれもおっきいわけでな。

 

え? 嫌? そうですが。

 

………ふう…オーフィスちゃん…奉先よりあるんだな。

 

『とりあえずこれは回収しておきましょう』

 

そういうとジェノバさんはヴェグナガンを亜空間に放り込んだ。

 

と、いうよりもヴェグナガンが亜空間に無理矢理吸い込まれたという表現の方が正しい。

 

『じゃあ、帰りましょうか?』

 

了解。

 

とりあえず母さんの目を閉じて背負う事にしよう。

 

………柔らかい。

 

『あらあら~? お母さんのような女性が好み何ですかー?』

 

後ろを振り向くと母さんに化けたニコニコ笑顔のジェノバさんがいた。

 

やめい、そんなの母さんのキャラじゃない。

 

『待て小僧『あ"あ"ん?』……ごめんなさい』

 

それだけ言うとグレートレッドさんはジェノバさんから逃げるように飛び去っていった。

 

だからジェノバさん、母さんの姿でメンチ切らないでくれ。

 

黒いセーターにジーンズ風のスカートの母さんと違ってジェノバさんはメイド服たがら違和感MAXだしな。

 

『さ、帰りましょう。戦利品も獲得できたことですし』

 

ウキウキといった様子の母さんジェノバさん。

 

もういいや…好きなだけ母さんをブレイクすればいいではないか。

 

私たちは来た道を引き返し始めたのだった。

 

後ろでジェノバさんが黒い笑みを浮かべていたが知らない。知らないったら知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ…。

 

『どうしたんですか?』

 

ジェノバさんは疑問符を浮かべてマジマジと見つめてきた。

 

そういえばジェノバさんに聞いてみたい事があった。

 

いや、これは聞くべきだろう。

 

ジェノバさん。

 

『はい?』

 

今のあなたの中には幾つの星の力が流れているのですか?

 

それを聞くとジェノバさんは母さんの姿から元の姿に戻りニンマリと悪戯っ子のような可愛らしい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

『ほんの"1052"個分です♪』

 

 

 

 

 

その時、全私が泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新品同然かつ究極進化ヴェグナガンのHP約1100万。

ジェノバさんのジャッジメント・デイ1発約800万ダメージ。(ジャッジメント・デイはマジでそのダメージ量です)

勝ち目なんて最初から無かったんや…。



集計結果
ヤズマット33
アルテマ3
ゾディアーク2
オメガ2
オメガウェポン2
デア・リヒター1
※感想欄の投票は無効票となっております。

ははは、圧倒的じゃないですかヤズマットは。

さて…これにて擬人化ヒロインはヤズマットさんに決まりました!

と、言うわけで…。






















もう1体の裏ボス系擬人化ヒロインの投票を始めましょう!

ヤズマット以外の票は最初から入っている事にしております。

もちろん一度、投票した方々や、ヤズマット以外の投票をした方々でももう一度投票して全然オッケーです。寧ろして下さい!

詳しい情報は活動報告に掲載しています。

合言葉は"君のトラウマがヒロインになる!"

※投票は活動報告にお願いします。





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ポンチョと宇宙人

あけおめです。

直前まで読んでから寝たせいか初夢に貧乏神が! の山吹姐さんが出てきました。

これって…いい夢と捉えていいのでしょうか?


私はいつの間にか真っ暗の空間に漂っていたわ。

 

例えるのなら宇宙の中で迷子になったよう、でも不思議と安心し、暖かみすら感じる。そんな感覚かしら?

 

宇宙で迷子になったことも出たこともないからどうかなんてわからないけど。

 

またこの夢なのね。

 

暫く漂っているといつも通りソレが目の前にいたわ。

 

私と同じシルエットをした何か。

 

影のように黒くその見た目すら認識出来ない何かがそこにいたわ。

 

『はろー、また来たのね』

 

『ええ、もちろん』

 

私はいつも通り軽く挨拶を交わすとソレも私と同じ声で挨拶を返してきたわ。

 

『あなた一体誰なの?』

 

『さあ? あなたは誰だと思うの?』

 

いつも通りの質問ものらりくらりとかわされる。まるで私みたい。

 

『私自身かしら?』

 

『それはどうかしら? あなたはあなたは1人よね?』

 

『ええ、でも目の前のあなたは誰なの?』

 

『ふふっ、当ててみなさいよ♪』

 

そんな風にループし、いつまで経っても答えに辿り着かないので私は諦めたわ。

 

『それで今日は何があったのかしら?』

 

諦めた瞬間がわかっているようにソレは話題を切り替えてきた。

 

そして私はいつも通りソレに他愛もない今日1日の話を語っていく。

 

それをソレは相槌をうちながら聞き、時々ツッコミを入れたり改善点を教えてくれたりするの。

 

ソレが私ではないことは私自身よくわかっているわ。

 

だって私の知らない事を何でも知っているのだから。

 

聞けばどんなことでも教えてくれる。唯一、ソレの正体以外はね。

 

『それでね!』

 

私は気付けば長年の親友とでも話しているようにソレに向かって語りかけていたわ。

 

『今日彼に好きって言われたのよ!』

 

彼、神城 羅市。長いからシンラ。

 

私の幼馴染みで私の想い人。

 

他と違う私と一緒にいてくれる優しい悪魔。

 

残りの人生全てを捧げると決めて、唯一、男で好きになった最愛の人。

 

死ぬしか無かった私の運命すらねじ曲げて私を助けてくれた彼。

 

そういえばこの夢が始まったのも彼に助けられてからだった気が…。

 

『な………』

 

なめこ?

 

『なんですとぉぉぉぉ!!!?』

 

え?

 

『ちょ!? それ詳しく教えてください!』

 

え? ちょ…。

 

『あ、こら! まだ起きるなぁぁぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

「何よ…あれ」

 

今日の夢は変な夢ね…。

 

私は気持ちを切り替えると身支度を整え、家を後にした。

 

今日もシンラとの待ち合わせの場所に行くといつも通りいたわ。

 

私はシンラに抱き着くために走った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

朝起きるといつも通りオーフィスちゃんの寝顔のドアップだった。

 

母さんが来てから1ヶ月後、今日はたまの日曜日である。

 

ふむ、今日はジェノバさんに起こされずに起きれたな。

 

寝顔が可愛らしいオーフィスちゃんを何気無く撫でた。

 

「ん…んむ…」

 

はむはむ。

 

………………指をくわえられた。

 

マジで寝てるのかこの娘。

 

とりあえずオーフィスちゃんを起こさないように引き剥がそう。

 

ちなみに母さんは異界の深淵から帰ってきてから目覚め、ジェノバさんが作った夕飯を食べると絶望にうちひしがれたような顔をし、暫く顔を伏せて"負けた……"と呟いていたりした。

 

その後、その日の内に"こんなこと…どう報告すれば…"などと呟きながら再び仕事に行った。

 

お仕事お疲れ様です!

 

よし、剥がし終わったぞ。さて…ん?

 

私は反対側に誰かいることに気配で気が付いた。

 

なんだジェノバさんも寝てたのか。

 

それとなく寝返りを打つと……。

 

 

 

「ほう…やっと気付いたか。余を1時間も放置するとは。汝は随分肝が据わっておるな」

 

 

 

"目の前に裸に胴体が隠れるほどのポンチョを着た女性が寝そべっていた"

 

な、何を言っているかわからないと思うが私もry)

 

待て待て私、クールになれ。

 

「ほう…」

 

その女性はベッドから立ち上がると私をまじまじと見詰めてきた。

 

ただ見られるのも癪なので私も彼女の観察をしよう。

 

どこかの四天王の紅一点並みに超ロングなポニーテールの灰色の髪に、碧の瞳。

 

180はあるかという高身長に、オーフィスちゃん並みの白い肌。

 

中性的な顔立ちだがそれを否定する女性らしいボディライン。

 

というかポンチョ越しに浮き上出てる胸って凄くないか?

 

「汝の封印は余と同じ…いや、それ以上と見える。それにそれはあ奴の封印か…汝も難儀なモノよな」

 

封印…?

 

「まあ、なにか。似た者同士仲良くしようぞ」

 

手を差し出して来たのでとりあえず握り返した。

 

あ、どうも。ところであなた誰?

 

次の瞬間、私はこれほどまでに聞かなければ良かったということはないと思い知ることになる。

 

 

 

 

 

「"余の名はヤズマット。かつての(オキューリア)の傀儡よ"」

 

 

 

 

 

あー、そういえばそのポンチョの色、ヤズマットの魔方陣みたいな首の封印にそっくりの配色だな。

 

 

………………………………。

………………………。

………………。

………ヤズマット…?

 

 

 

私が現実が受け止めきれずに適当に視線を泳がせていると、部屋のドアの前で口元を隠してニヤニヤしているジェノバさんだった。

 

いや、まだだ…まだ折れるな……これだけは言いたい。

 

いや、これはヤズマットの前に散った全プレイヤーの心の叫びだ。

 

ポンチョを…。

 

 

 

お・ま・え・が・着・る・の・か・よ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

なぜそんなことになったのかは前日の土曜日に遡る。

 

ジェノバは現在、黄緑色の眩いばかりの光が集約する場所の中核にいた。

 

そこは星全ての生命エネルギーであるライフストリームが渦巻く"星の胎内"であった。

 

その中の開けた場所に浮かぶ正方形のブロックを乱雑に組み合わせて造ったような3km四方の足場の上にジェノバはいた。

 

目の前の完全に修理の済んだヴェグナガンに更に手を加えながら。

 

修理されながら実験材料などなりながらもヴェグナガンは大人しく動かずにいた。

 

九十九神になったことで利己的な回答が導き出されたのだろう。

 

自己進化程度ではジェノバに勝てる確率など兆に1つもないということを。

 

とは言ったもののヴェグナガンの身体は度重なる自己進化の結果、既に法則の限界を遥かに超え、この星に存在するありとあらゆる物質より硬く、柔らかで、温度耐性のあり、鋭く、決して劣化せず、時間経過で再生し、魔力を流すことで爆発的に再生速度が上がるというとてつもない超物質になっていた。

 

それは十二分に機械仕掛けの神の基準を満たしているだろう。

 

ジェノバから見てもかなり貴重だと考えるほどの良質な材料だ。

 

銀河中を探してもこれほどの素材を見付けるのには時間が掛かるだろう。

 

ジェノバはヴェグナガンの側に置いてある4mほどの機械を見た。

 

ヴェグナガンの装甲を少し削り、それに魔力を送ることで増やし、そこから切り出し、知識の中にある設計図で造り出された機械だ。

 

ジェノバの青い魔力から造り出したせいで青くなってしまうという問題が発生したが、元の配色と遜色なかったためペイントの手間が省けたらしい。

 

恐らく、これを見てもシンラが絶叫するのは間違えないだろう。

 

さらにジェノバの隣の培養機の中を緑色の小さな玉が浮いていた。

 

それはジェノバ特製の魔法マテリアだ。

 

マテリアとは星の命であるライフストリームの中の情報を凝縮して造られた魔法媒体だ。

 

手早く言えば魔力のある者ならそれに魔力を流すだけで魔法を撃てるというモノだ。

 

ジェノバが1つのマテリアを掬い上げた。

 

それに極少量の魔力を流すと周囲に数千発の光の槍が形成された。

 

三陣営がこのことを知れば度肝を抜かれるどころの話ではないだろう。

 

これさえあれば誰であろうと一定以上の基準を満たした即製の兵士となりえる。

 

その上、種族関係無しに多種族の固有の技や魔法を使うことができるからだ。

 

しかも当たり前のように大多数のマテリアは量産可能である。

 

蛇足だが手早く言えばマテリアは星の知識を凝縮されたものだ。

 

なので星が戦争などで魔法や技が進化すればするほど多種の攻撃系のマテリアが生成できる。

 

逆に言えば争いの少ない星では攻撃系のマテリアの種類が少ない。

 

そしてこの星は、ジェノバVSセトラの大戦争が行われた星並みに攻撃系のマテリアの種類が多く、ほぼ攻撃系のマテリアしかない。どれだけ戦争をやってたんだこの星は。

 

「んー、これは呂布ちゃんにでもあげますかねー」

 

ジェノバは"ひかりのマテリア"を指で転がしながら彼女、呂布 奉先のことを考えた。

 

間違えなくこの星の人間最強の肉体スペックを持つ奇跡の女。

 

それがジェノバの彼女に対する見解だ。

 

ソルジャーとなり人間の限界もある程度突き破ったので更なる進化が見込めるだろう。

 

彼女はジェノバにとっても最高の存在だ。

 

表で使える駒であれほど上質なモノは存在しないだろう…だが。

 

ジェノバは約1ヶ月前のことを思い出し、どこからかハンカチを取り出すとその端をはんだ。

 

「きー、私だってまだ好きだなんて言われてないのに」

 

それだけ言うとジェノバは思考を切り換えた。

 

次に考えたのは彼の事だった。

 

前の異界の深淵での彼。

 

その時、彼はジェノバが思っていた以上の存在である事がわかったのだ。

 

ジャッジメント・デイ。あれは並の威力ではない。

 

手加減なしなら1つの星を消し飛ばすことも不可能ではないほどの技なのだ。

 

ジェノバが障壁を張らなければ軽く異界の深淵全てを消し飛ばす威力だったのは間違えないだろう。

 

あれを間近で見て正気でいられるモノはほとんど存在しない。

 

事実、彼の母は気絶し、無限の龍神は子供のように脅え、真なる赤龍神帝は事態が飲み込めず止まるばかりだった。

 

だが、彼だけは違った。

 

彼はどこか楽しそうにジェノバがヴェグナガンを一方的に葬り去らんとする光景を見ていたのだ。

 

星を壊滅させる以上の威力を持った力を目の当たりにしながら…だ。

 

それは明らかな異常だった。

 

だが、それにジェノバは歓喜した。

 

それは確信にも近い回答と同然だった。

 

彼は過去にも同じように恐れたことがある。

 

それはジェノバとの遭遇の時だ。

 

それから推察するに彼には真なる恐怖を捉える能力があるということだ。

 

ジェノバは恐怖するという感情が最も重要な感情だと考えている。

 

恐怖することでそれから逃げ、生存出来る。

 

当然の思考回路だがそれが最も重要なのだ。

 

だが、あまりにも途方もない恐怖を前にすると大多数のモノはそれを認識できなくなる。

 

自分の尺度では推し測れないからだ。

 

つまり彼にはジェノバと同じ尺度でモノを見ることが出来るのだろう。

 

それは凄まじいことだった。

 

だが、疑問が残る。

 

精々この星の最上級悪魔程度の身体能力を持ち、微々たる程度の魔力しか持たない彼がなぜそんな思考を持っているのかということだ。

 

そこでジェノバは彼が寝ている間に徹底的に彼を調べた。

 

するとジェノバでさえ気が付かなかったほど巧妙に隠蔽された封印術式が施されていたのだ。

 

そして封印の奥には魔王2~3体分の莫大で潤沢な魔力と、"ジェノバが唯一手を出さなかった力の完成形"がそこにあったのだ。

 

ジェノバは彼の潜在的な素質を理解すると同時に歯軋りをした。

 

その封印術式があまりにも高度だったからだ。

 

ジェノバをして高度と言わしめるのだからそれがどれ程かはわかるだろう。

 

無論、ジェノバが解除出来ないわけではない。

 

"70%"

 

それが解除の完璧に成功すると思われる確率だ。

 

70%、つまりは10回に3回は失敗する可能性があるということだ。

 

それは、彼を思うジェノバにとってそれはあまりにも危険な賭けだった。

 

失敗とは即ち後遺症を遺すことである。

 

解けたとしても力が暴走すれば本末転倒、魔力を誤って枯渇させる可能性もある。

 

そんなリスクを犯すぐらいなら封印者を連れて来て解除させた方が何倍も合理的でリクスもない。

 

そもそも彼に被害が及ぶことなどジェノバの本意ではない。

 

そこまで考えるとジェノバは思考を切り替えた。

 

それはもう1つの疑問だ。

 

ジェノバと同様にしかも名前だけで恐れたヤズマットというモノは何なのか。

 

ジェノバはオーフィスに聞いたが要領の得ない答えしか返ってこなかったため、無理矢理記憶を見たところ、前回のヴェグナガンを撃退したのは紛れもなくヤズマットという竜であることがわかった。

 

ちなみにオーフィスの記憶から考えるにヴェグナガンはジェノバが撃破したのも含めて合計11回撃退されたようだ。ならば今のヴェグナガンは差詰めヴェグナガンmkⅩⅡ改といったところか。

 

話を戻そう、ヤズマットは真なる赤龍神帝の半分ほどのサイズの竜にも関わらず、ヴェグナガンに対して一方的な戦闘を繰り広げ、撃破していた。

 

その事実から推察するに実力はオーフィスとグレートレッドを遥か超えるところにいるのだろう。

 

ジェノバはふと作業の手を止めて後ろを振り向いた。

 

が、興味を無くしたように直ぐに向き直り、作業へと戻った。

 

するとそこの空間が歪み、ぽっかりと穴が空いた。

 

『汝がジェノバか』

 

するとそこから声が響いた。

 

声だけだというのに重厚で押し潰されるような威圧感が伝わってきた。

 

『グレートレッドから聞いておる。余はヤズマット。歴史に埋もれた竜ぞ。ヴェグナガンの件は礼を言おう。だが、それは?』

 

それとは確実にヴェグナガンのことだろう。

 

『汝は何を企んでおる? ことの次第によっては唯では済まさぬぞ』

 

「自分より弱いものを弄って何か意味があると思いますか?」

 

ジェノバは作業の手を休めることも視線を向けることもなくそういった。

 

それはそうだ。ジェノバからすればヴェグナガンは子供に持たせた玩具程度の存在。

 

そもそもこの行動自体がジェノバにとっては無駄なのだ。

 

『む………それもそうか』

 

ヤズマットは思いの外素直に引き下がった。

 

「まあ、名乗られたのなら名乗り返しましょう。私はジェノバ…」

 

『星を主食とする宇宙生物であろう? よく知っている。過去にも汝と似たものがこの星に来たことがある。確か…ラヴォスと言う名であったな』

 

「…まあ、そんなところです。あんな下等でスマートではない同業者と同列にされるのは少々癪ですが」

 

ジェノバ的にはラヴォスは下等生物だ。

 

星を喰らうという基本的な性質は同じだがジェノバからすればラヴォスは色々と効率的かつエレガントではない。

 

まず、ライフストリームの吸収を態々星の胎内まで潜って少しづつするため、数億年も時間が必要な事がいけない。

 

さらに時間移動や、魔法などの要らぬ対抗策を原生動物に与えてどうする。

 

トドメに肝心な星の活用方法が一度星の全てをビームで焼き払ってから子種を撒き、自分は星から去って次の星に向かい、その星は生体になるまで数十億年掛かる子供の成育所にさせることである。

 

一見完璧に見えるが星が普通に機能している時点で、星にとって深刻なほどのライフストリームが吸われていないのは見え見えである。

 

要するにジェノバからすればラヴォスのやり口は生温い。

 

まずジェノバは星に対して乗ってきた星を衝突させる。

 

そうすれば星が治癒のため、衝突部に膨大なライフストリームを集めるのでその中心で吸収すれば態々、潜る必要も長い時間を掛ける必要もない。

 

そしてその星制を圧し、自身は星の胎内へと潜り、宇宙を渡る方舟にして操縦することで再び他のライフストリームの溢れる星へ向かう。

 

そして始めに戻り新たに見つけた星に対してメテオに使うのだ。

 

自分の力を最低限しか使わない上、食料に、乗り物に、メテオにと実に無駄のない星活用である。

 

最も、当たり前のように外道極まりないが。

 

ジェノバな少しは話のわかる奴であるとヤズマットのことを上方修正した。

 

「ならあなたは何ですか?」

 

ジェノバはさぞどうでも良さそうに聞いた。そんなことよりも作業に集中したい用だ。

 

『む? 簡潔に纏めるのならオキューリアによって全ての神魔霊獣の頂点になるべく造られた神竜。そんなところであろう』

 

「オキューリア?」

 

『人より先に星に生まれ、魔石(クリスタル)を創造する術を得ることにより自らを神と錯覚した愚鈍なる者共だ』

 

「自らを神…?」

 

『うむ、そして余はオキューリアに身に宿す力の大半を封印されて現在に至るわけだ。だが、未だオキューリアに遅れはとらぬぞ』

 

「封印…」

 

ジェノバの手が止まった。

 

ジェノバは何か思い出し、苦虫を噛み潰したような表示をしながら全身が小刻みに震えるほど力を込めていた。

 

「………………………セトラめ…エアリスめ……」

 

その直後、宵闇の星空のようなどこまでも冷たく悪意に満ちたオーラが噴き出した。

 

その力は地球の生命の流れであるライフストリームを一時的に完全に滞らせるほど強力なモノであった。

 

一瞬、莫大なオーラに当てられたヴェグナガンはなぜか目の光を一層強めてジェノバを見ていた気がした。

 

 

 

「"ミネルヴァァァ!!!"あのゴールデン(ピーーーー)女の(ピーー)め! この私を封印しやがりましてあのクソビッチの(ピーーーーー)。今度あったら(ピーーー)に(ピー)して(ピーーーーーーー)してやがり…」

 

 

 

矢継ぎ早に紡がれた呪怨のような明らかに御伝え出来ない罵詈雑言を超えた言葉と同時に、ジェノバのオーラにライフストリームが押し流され、ライフストリームの逆流により星が悲鳴を上げていた。

 

『落ち着け、底が知れようぞ』

 

「おっと危ない危ない。星がスイカみたいに美味しく割れるところでした」

 

ジェノバはさらっと恐ろしいことを言った。

 

『どうやら汝は余と似た者同士か』

 

「そうなりますかねー」

 

『ふむ、なら気にすることもないか』

 

そう言ってジェノバはポッカリと空いた次元を繋ぐ穴を閉じようとし始めた。

 

どうやらオーフィスしかり、ヤズマットしかり、竜というのはかなり素直な生き物らしい。

 

「まあ、待って下さいよ」

 

ジェノバはいつの間にか穴に身体を向けるといつもの貼り付けたような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「もし良ければ私と取引などは如何ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その密約がなんだったのかは今は語るまい。

 

ただ1つ言えることは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンラとやらよ。余もここに住むことになった。よろしく頼むぞ」

 

「……グ………ズ………ギ ャ ァ ァ ァ ァ ム !」

 

「シンラ!? シンラ!?」

 

「と、言うわけでシンラさん。よろしくお願いして下さいね? ってもう聞こえませんか」

家は更なる人外魔境へと進化を遂げ、結果的に彼の心労は青天井を遥か超え、宇宙の黒天井へと突入したのだった。

 

 

 

 

 




ポンチョとは。

主に中南米で着用されている衣類、外套。四角形(ヤズさんのは丸形)の布の真ん中に穴があいていて、そこに首を通し、かぶって着用する。

そして、唯一風属性のダメージを半減できる究極の対ヤズマット用最終兵器なのだ(震え声)!


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駒を揃えよう

感想は作者の燃料です。


 

夏休みに入り、シンラとオーフィスが奉先と遊び呆ける中、ジェノバは現在、神城 頼羅…グレイフィア・ルキフグスの部屋の中にいた。

 

文豪の書斎に置いてあるような巨大な机が窓から日に当たるように置かれ、それに学校の校長室の椅子が粗末に見えるほど豪華な椅子が組み合わされていた。

 

巨大で端に金の装飾が施された赤いカーテンに、床には赤いカーペットが入り口から机に伸びるように敷かれ、さらに1つしかない巨大な窓は素晴らしい職人芸が見てとれるステンドグラスが嵌め込まれていた。

 

部屋の中には他に壁に備え付けられているクローゼットとエアコンぐらいしか物が無く、どことなく悪の親玉がふんぞり返りながら部下に指示を出す執務室のように見えなくもない。いや、見える。明らかに見える。と、言うよりも狙って造ったとしか思えないほど見える。

 

ちなみにクローゼットを開けると一面に同じメイド服がところ狭しと並んでいる謎空間が出現したりする。

 

ちなみにこの部屋はグレイフィア・ルキフグスの趣味で造られた訳ではなく夫が勝手にオーダーしたらしい。無論、その後盛大な突っ込みが浴びせられたであろう。

 

ジェノバは机に向かうとその中の引き出しを引き出した。

 

さらにそこから二段下の引き出しも引き出すと、その2つを同時に押し戻してから真ん中の引き出しを引き出した。

 

するとゴゴゴゴと机が音を立て始め、ジェノバが机から離れると机が中央から真っ二つに割れ、机が移動した。

 

2mほどの机の半分と半分が移動すると停止し、さらに下から何かが上がってきた。

 

どうやら大きめの本棚のようだ。

 

部屋の雰囲気といい、凝ったギミックといいほぼバイオハザードの世界である。

 

もう一度言うが、夫の趣味だ。

 

本棚の中にはビッチリと黒いノートが詰まっていた。

 

大方、あの真面目な母親の日記か何かだろうと思いながら適当なノートを手に取り、題名を見た。

 

 

 

 

 

 

"らぶりー愛妻日記part256"

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

流石のジェノバもこれには絶句した。

 

とりあえずページを開くとそこには日頃の話(夫が格好いいとか、夫が凛々しいとか、夫がこれ以上ないほど素敵だとか)、息子たちの成長記録(一例抜粋:ミリキャスマジ天使! 格好いい系のエヌオーとは違い可愛い系なのがまた…ハァハァ…ぺろぺろしたいです…でも仕事中は我慢、家庭でも我慢。なので日記の中で思う存分ぺろぺろ[ここから先は何かの血で赤くなっていて読めない])、夫との夜の性活(一例抜粋:[描写が過激過ぎるため終始規制されました])に至るまで彼女視点で赤裸々に書き込まれていた。

 

さらにその日、思いついたポエムなども大量に書き込まれている。

 

それが数百冊である。

 

ジェノバはノートを元のところに戻すと本棚に1つだけあるノートのような黒い板を引っ張り出した。

 

それはグレイフィア・ルキフグスが幾重もの強力な封印を施した何かだった。

 

しかし、ジェノバの前で最強の女王の封印などというものは毛ほども意味はない。

 

「オーロラフェンス」

 

指先から出た七色に輝く幾重ものリングが通過すると封印は既に解かれていた。

 

ジェノバの手にあった黒い板は黒い布のようなものに戻り、中に何かが入っていた。

 

中を見ると"半組しか数のないチェスの駒が入っていた"

 

ジェノバはそれのひとつを手に取るとじっくりと眺めた。

 

空気のように透き通り、最高純度のクリスタルで出来たような美しい駒だ。

 

「………悪魔の駒?」

 

ジェノバが首を傾げるのも当然だろう。

 

本来の悪魔の駒の色と随分違うのだから。

 

だが、その駒から感じる魔力は紛れもなく、ジェノバでさえ解けない封印越しに感じたシンラの純粋かつ強力な魔力だった。

 

ちなみにジェノバはこの星の裏の世界の事はよく知っている。

 

1つは星の胎内で毎日、ライフストリームの源泉掛け流しの風呂に入っているからである。

 

最もこんなことを普通の生物がすれば、指先で触れた瞬間に脳が情報のオーバーフローを起こし、廃人になってしまうことは確実である。

 

もう1つはこの星の様々な場所にジェノバの分身であるジェノバクローンが様々な場所で最も適した姿で組織に入り込む、あるいは組織の者に成り代わる形で潜伏し、常に最新の情報を取り込んでいるのである。

 

それは誰も気がつかない内に同僚がジェノバクローンになっているという、可哀想過ぎる目にあっている人が少なからずいるということだ。

 

無知とは偉大な存在だ…。

 

「なぜ…?」

 

ジェノバは多少考えた。

 

ここに彼の悪魔の駒があるのはおかしい。

 

彼は悪魔の学校を出ていないし、何より彼は力を封印されている。

 

なら………そうか。

 

結論は簡単に出た。

 

元々、悪魔の駒は現魔王のアジュカ・ベルゼブブによってベースである悪魔の駒を造り、それに王になる悪魔が魔力を流すことで駒を悪魔の駒とするのだ。

 

だとするのなら遥か幼少時代にアジュカ・ベルゼブブの友人であり、魔王であり、彼の実父であるサーゼクス・ルシファーが莫大な魔力を持つ息子で試しに造っていてもなんら不思議ではない。

「それならこれは………」

 

色から推察するに間違えなく"全ての駒が変異の駒"ということだろう。

 

いや、莫大な魔力とあの力が注がれて出来た悪魔の駒ならむしろそうならない方がおかしい。

 

ジェノバは流石はシンラさんですと思いながら、机の上に彼の悪魔の駒を並べた。

 

兵士(ポーン)が8つ。

 

戦車(ルーク)が2つ。

 

騎士(ナイト)が2つ。

 

女王(クイーン)が1つ。

 

………………僧侶(ビショップ)が1つ?

 

「足りませんね」

 

僧侶が足りない、あのマメな母親のことだ。無くすことはまずあり得ないだろう。

 

そもそも息子の一世一代のモノだ。そんなことあってはならない。ならば…。

 

「既に使われている…のでしょうね」

 

だが、彼はその事を知らないだろう。

 

そもそも自身が悪魔だと知ったのも最近なのだからレーティング・ゲームすら知るわけもない。

 

ジェノバは彼の悪魔の駒を見つめた。

 

ジェノバにとってこんな大事なモノを厳重とは言え破られる可能性のある場所に保管するなどあり得ない。

 

だからこの星で最も安全な場所に隠そう。

 

ジェノバは自らの右腕に悪魔の駒を埋め込んだ。

 

悪魔になろうとしているのではない。

 

そもそも、星を喰らい過ぎたジェノバは既にこの星で神と呼ばれる存在の数万倍~数億倍以上の力を持っているため、自身を完全に悪魔にすることなど不可能な話である。

 

文字通り肉体に収納しているのだ。

 

ジェノバの体内はこの星どころか銀河でも有数の安全な隠し場所だろう。

 

さらに指を振るうと、机の上にさっきの悪魔の駒と見た目も放つ魔力も全く同じチェスの駒が出現した。

 

これでバレることはまず無いだろう。

 

ジェノバは棚に置いておいた黒い布を取ると後ろから声が聞こえた。

 

「ほう、良くできた偽物であるな。これならば本物を量産してしまえば良いのではないか?」

 

そちらに向き直ると先日から居候することになり、今は女性の形をとっている森羅万象を超越する神竜…ヤズマットが机に座りながらジェノバが造った駒を弄っていた。

 

彼の悪魔の駒と全く同じ駒の量産。

 

ジェノバなら無論、指を振るうだけでやってのけるだろう。

 

「ぜーんぜん、わかっていませんねぇ」

 

だが、ジェノバはやれやれといった様子で手上げ、首を振った。

 

「レーティング・ゲームはゲーム。つまりお遊びです。ルールに乗っ取ってやらないと何一つ意味が無いでしょう?」

 

「むう…? そういうものか?」

 

「これだから中途半端に強いものは困りますねぇ。感性に品が無いといいますか、ゲーム精神を理解していないといいますか」

 

ジェノバは考える。

 

ゲーム。素晴らしい響きだ。

 

子供のお遊びから命を賭けたモノまでその範囲も種類も様々。

 

そしてレーティング・ゲームは悪魔の世界で社交スキルに直結していると言っても過言ではないほど貴族に浸透しているゲームだ。

 

それに次々と彼が勝利し、最高の栄誉を手にする。

 

なんと素晴らしいことか。

 

「まあ…」

 

そういうとジェノバは口元を三日月のように歪めた。

 

「逆に言えばルールさえ守っていればどんな事をしても良いんですよ。クククッ…シンラさん、待っててくださいね。最高の駒をあなたにお届けしますから…」

 

既に3つ駒を揃えた。

 

直ぐに私による彼のための彼だけの駒が揃うだろう。

 

「む、ならば"次元の墓場"にでも行くか?」

 

「次元の墓場?」

 

ちなみに次元の狭間はジェノバすら把握していないモノがほとんどである。

 

まず、次元の狭間は星の一部ではないのでライフストリームでは情報が確認できない。

 

その上、数多の異世界が連なっていることで、とんでもない化け物がゴロゴロと生息する人外魔境と化しているのだ。

 

正直、ジェノバ的にもとてつもなく探索が面倒くさい。

 

特に探索する理由も無いのでジェノバは今まで放置していたのだ。

 

「うむ、次元の狭間で壊れた機械系の魔物やら魔導具の人形やらが集まるところだ。悪魔の駒を使うのなら無機物の魔物でも問題ないのだろう?」

 

「それはいいですね。最も最終的にはシンラさんが決める事ですが、リストアップぐらいはしておかなければなりませんからね」

 

「む、ならばもう行くか?」

 

ヤズマットは既に空間に穴を空けていた。

 

ジェノバは偽物の駒を布で覆いグレイフィアに化けると全く同様の封印を施した。

 

「いえ、それは今日の深夜にしますよ」

 

「なぜだ?」

 

「私の可愛い弟子の修行になりそうですから」

 

ジェノバは胸の谷間に手を突っ込むとスマホを取り出し、メールを誰かに送信するとスマホをしまった。

 

「まあ、とりあえず…」

 

ジェノバは擬態を解くと棚に手と大量の触手を掛けた。

 

「弱みでも握りましょう」

 

5分ほどで数百冊の日記を読み終えたジェノバの顔は、それはそれはイイ笑顔だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜1時、既に彼とオーフィスが寝静まった頃。

 

ジェノバとヤズマットは一階にあり、ビアガーデンかと思うほどの広さのウッドデッキで丸テーブルを挟み、向かい合うように座って何かをしていた。

 

ちなみにこの家は本当に広い。

 

伊達に最強の女王の別荘であり、ルキフグスとグレモリーの血を引く彼の本宅ではなく、基本的な大学が敷地ごと丸々入ってしまうほどの異様な広さをしている。

 

正直、ジェノバが来る前の彼は使用人も無しにどうやって彼が生活していたのか謎なレベルだ。

 

そこで二人は…。

 

「あ、カムランそっち行きました」

 

「ぬう…余はクアドリカと格闘中であるのだが」

 

GE2やってた。

 

神が神を狩る異様な光景である。

 

ちなみに彼がやっているので自分たちもやってみようという試みらしい。変なところでミーハーだ。

 

「ん? 来ましたか」

 

丁度、ミッションが終了した頃。

 

ジェノバは敷地の結界に侵入者の反応を感じた。

 

微細な生体オーラで識別し、それは紛れもなく自分の弟子であるとジェノバは結論付けた。

 

直ぐにそれはジェノバの前までやって来ると元気のいい挨拶をした。

 

「ジェノバさんお待たせ!」

 

それは紛れもなく彼の親友であり、ほとんど恋人のような関係にある人間。

 

 

 

"呂布 奉先"だった。

 

 

 

 

 




私はヒロインを空気にしないように頑張る!

そしてグレイフィアさんのキャラを破壊する! 100%完璧な超人何てどこの世界にも存在しません!


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チョコボ平原

今回は癒し回です。誰がなんと言おうと癒し回です。

気が付いたら8000字近くなってました。




ジェノバ、ヤズマット、奉先の1体と1匹と1人はヤズマットが空けた空間から次元の狭間に入り、日の光が燦々と輝く広い草原に出た。

 

「うわっ、眩し」

 

奉先は深夜の月の光から、突然の日の光を手で遮った。

 

「次元の狭間では日常茶飯事であるぞ?」

 

「異世界を法則ごと丸々次元の狭間に持って来られていますからね。異世界が保たれるように日光などは常に同じ法則を続けているだけなんですよ」

 

「えーと…つまりどういうこと?」

 

「ここはいつでも昼間だということです」

 

ジェノバは話ながら亜空間から三日月状の刃が穂先の横に付いている槍を取り出した。

 

長さは2m半程で奉先の身長よりもかなり大きな槍だ。

 

「はい、"方天画戟"。演義での呂布 奉先が振るった武器を私なりに再現したモノです。マテリア穴は6つありますけど連結穴は無いので悪しからず」

 

方天画戟。呂布 奉先が振るい無双を誇った武器として余りにも有名だろう。

 

だが、それは演義の話で実史では全くの嘘っぱちである。

 

そもそも方天戟という武器自体が10世紀ほどに生まれた武器であるため呂布 奉先が方天画戟を振るうことはまずあり得ない。

 

この誤認を今の世に生み出したのは間違いなく主に三國無双のせいであろう。

 

「…………今とっても複雑な気分だわ…」

 

奉先は方天画戟を見ながらそれはそれは微妙な表情を浮かべた。

 

彼女は最も色濃い血が流れている呂布 奉先の子孫なだけではなく、呂布 奉先の魂も継いでいる。

 

つまり最高の肉体を持ちながら、過去の記憶と呂布 奉先の意思により既に世界最高ランクの武を持っているのだ。

 

彼女の名誉のために言っておくが、この世界の初代の呂布 奉先は彼女と全く同じ容姿の女性である。決して触角の兄さんではない。

 

流石に"当時の神器"までは持っていないが、それなりに強力な神器も保有している。

 

「でも、ありがと♪」

 

奉先は受け取るとズッシリとした重さを感じた。

 

「随分、重いのね?」

 

奉先は精々、10~15kgほどかと思っていたが、恐らく90kgはあるだろう。

 

到底普通の人間が振えるモノではない。

 

最も普通の人間ならばだが。

 

「そりゃ、オリハルコン製ですから。強過ぎず弱過ぎない金属を探すのに苦労したんですよ? ちなみに材料費はタダなので製作費は525ギ…円です」

 

前の惑星での時間が長かったため、ギルと言い間違えていることは決して突っ込んではいけない。

 

「そ、そうなの…」

 

ワンコイン(税別)のオリハルコン。伝説の金属の武器も随分安くなったものである。

 

どうでもいいがジェノバの文字通りの手作りの為、方天画戟に対しての製作費用は掛かっていない。

 

525円はジェノバがその時に食べていた105円のお菓子×5の値段である。

 

真の無限の体現者であるジェノバとはいえ極稀に嗜好としてモノも食べることもあるのだ。

 

「ま、重い方が威力出るから良いけどね」

 

奉先は片手でバトンでも回すようにくるくると回転させると凪ぎ払いからの演武を繰り出した。

 

その動きは清流のような柔を体現しながらも、画戟を振るう度に巻き起こる大気の震えから仇なす全ての者を穿ち壊さんとする剛が見てとれた。

 

それはジェノバから見ても文句のつけようのない、究極レベルに完成された武だった。

 

それを見届けるとジェノバはビー玉のような大きさで淡い緑色のマテリアを5つ取り出し、淡い黄色のマテリアを1つ取り出した。

 

「ひかり、りだつ、じかん、ちりょう、かいふく、ぬすむのマテリアです。ぬすむを除き、最初は1つしか魔法がありませんが使い込めばマテリアが成長し、新しい魔法を使えるようになりますよ」

 

「…私まだ悪魔じゃないから悪魔の魔力は無いし、前世も今も魔術はかじってないわよ?」

 

「問題ありません。マテリアが潜在的な魔力を引き出して魔法が発動します。人間だって魔術師はいますよね? 魔力を持たない人間なんてこの世に存在しないですもの。試しにひかりのマテリアでも使ってみるといいですよ。細かな使い方はこれに書いておきましたので暇があったら読んでおいて下さい」

 

「へー。そうなの」

 

奉先はマテリアと、"下等生物でもわかる!"とデフォルメのジェノバと共に表紙に書かれた本を受け取り、方天画戟のマテリア穴にセットすると1つの緑色のマテリアを使った。

 

画戟を持っていない手に緑色の光の剣が握られていた。

 

「あとこれを渡しておきます」

 

それは金、銀、銅のリングを2本の金色のバンドで1つに束ねた腕輪だった。

 

「きれい……え? でもコレって…」

 

奉先は最近、彼が右腕に着けている腕輪を思い出した。

 

「それはザイドリッツと言って、つけているだけで属性によるありとあらゆるダメージ全てを半減してくれる上、防御力と他諸々の上がる素敵な腕輪です」

 

「な、なんか見た目からは想像できないぐらい凄いわね…」

 

「ちなみにシンラさんにあげた奴とお揃いですよ」

 

「大切にするわ!」

 

奉先は嬉々として早くも腕に着けた。

 

「ところでジェノバさん?」

 

「はい?」

 

「あの人誰なの?」

 

「む? 余か?」

 

奉先の目の先には黒のミニスカートに白いシャツを着て、トレードマークのポンチョを着たヤズマットがいた。

 

重量に反してふわふわと浮き、身体を取り巻く灰色のポニーテールを見れば、一目で人間ではないことは明白である。

 

「異次元番付実力編で5位以内には確実に入っているすっげー竜ですよ。多分、竜ならトップなんじゃないですか?」

 

ジェノバにはもの凄く簡単に纏められた。

 

「名はヤズマットだ。よしなに頼む」

 

「あ、どうも」

 

こんな感じでパーティーの編成と準備が完了した。

 

パーティーはこんな感じである。

 

 

前列:呂布 奉先(攻撃要員)

後列:ジェノバ(回復要員)

後列:ヤズマット(ヘイト要員)

 

 

酷いヌルゲーだ。前回のパーティーよりも酷い。

 

「で? ここはどこなんですか?」

 

彼女たちは特に魔物とエンカウントすることも無く、ほのぼのとした草原を歩いていた。

 

「うむ、ここはチョ…いや、まず見た方が早いな」

 

ヤズマットの眼下に亜空間が出現すると、そこに腕が突っ込まれ、黄色を帯びた大根のような野菜が握られていた。

 

さらにそれを掲げ、ふりふりと見せびらかすように振った。

 

「ほうほう、"ギザールの野菜"ですか」

 

「む? "ギサールの野菜"であろう?」

 

「え? ギザールですよ」

 

「何を言う。ギサールであろう」

 

「ギザールです」

 

「ギサールであろう」

 

「ぐぬぬ…」

 

「うむむ…」

2人による不毛な文明摩擦を他所に奉先は遠くの草原に黄色を中心に、所々に水色、黄緑、白、黒、赤、といった色とりどりの点のようなモノに気が付いた。

 

それが何かと首を傾げていると、一番近い黄色い物体がこちらに気付いたのか、1度大きく跳び跳ねると土煙を巻き上げながらこっちへ向かってきていた。

「なにあの黄色い毛玉?」

 

近付いてくるに連れてその輪郭がはっきりと認識できるようになり、さらに奉先でもソレがどんな生物か認識できるようになった。

 

それは………。

 

「クェェェ!」

 

ダチョウより多少大きいほどの地球に存在しない鳥。

 

"チョコボ"だった。

 

「可愛いー! なにこの子!」

 

奉先はそう言って手をわたわたさせて女の子らしい反応をしながら触れようと動いた。

 

「クェ!?」

 

チョコボは鈍く光る方天画戟を持った奉先が、人間を軽くやめているスピードでスキップしながら来るのが怖かったらしく逃走した。

 

その速度は一瞬でバイクほどの平均速度に達した。

 

だが、伊達に遥か過去の時代で飛将として生きていた英雄ではない。

 

それを見た奉先は血が騒いだのか、全力で駆け出すと画戟を棒高跳びの要領で地面に叩き付け、画戟と共に大ジャンプし、チョコボの背に乗った。

 

「んー♪ ふかふか」

 

奉先はデレッとした顔でチョコボの毛並みを堪能しながら乗っているが、無論、チョコボは全力で振り落とそうと暴れている。

 

「クェ! クェェェ!!」

 

「無賃乗車ダメ。ゼッタイ。」

 

「む? 言葉がわかるのか?」

 

「尚、表現には多少の齟齬があります」

 

いつの間にか不毛なプチ争いを終えた2人は下らない話をしていた。

 

「クェ……ェェ…」

 

やがてチョコボは観念したのか、頭を項垂れて静かになった。

 

「あー、鳥臭いわー♪」

 

「チョコボ臭ですよ」

 

「チョコボ臭だな」

 

どこの星でもチョコボ臭は共通らしい。

 

「この子、チョコボって言うの?」

 

奉先はぺしぺしとチョコボの背中を軽く叩きながら言った。

 

「チョコボっていう魔物ですよ」

 

「これで魔物!?」

 

「クェ?」

 

奉先とチョコボは顔を見合わせた。

 

「ちなみにここはチョコボ平原と呼ばれる場所だ。ここを通り、正規のルートで行かねば次元の墓場で面倒なことになるのでな。目的地はそこのゲートだ」

 

ヤズマットが10kmほど離れたところの山を指した。

 

「ここに来た理由は他にもあるのだが、それは追々わかるであろう」

 

「クェェェ」

 

チョコボは野菜を物欲しげな眼差しで見ている。

 

「野菜食べるの?」

 

「クェッ!」

 

チョコボは元気よく答えた。

 

「やってみるか?」

 

「やる!」

 

ヤズマットは奉先に野菜を投げ渡すと、奉先はキャッチしてチョコボから降り、目をキラキラさせているチョコボへ野菜を向けた。

 

「クェェェッ! クェッ! クェッ!」

 

「可愛い…」

 

大根のようなものをバリバリ食べるダチョウ風の巨鳥。

 

と、それをうっとりと眺める画戟を持つ美少女。

 

なんとも妙な絵面だ。

 

そうこうしているとチョコボが突然、何かに脅えたように震えだし、一目散に逃げ出した。

 

「え?」

 

奇妙に思った奉先がチョコボが見ていた方向を見ると、頭と胴体が一体化し、そこから巨大な2本の鉤爪のような腕と短い2本の足が生えたよくわからない魔物が他のチョコボを追い掛け回していた。

 

さらにその魔物は上顎が1つにも関わらず下顎が二股に別れ、それぞれの下顎に舌と歯が揃っておりかなりおぞましい外見をしている。

 

「何あれ…?」

 

しかも腕も使って走るせいか、その短足からは想像できないほどの早さでチョコボを追い掛け回していた。

 

「チョコボイーターという魔物だ」

 

「チョコボイーター!?」

 

「名前通りの魔物であるぞ」

 

「許せないわ…」

 

奉先から大海の荒波のように荒れ狂う緑色のオーラが溢れだした。

 

奉先は世界最高クラスの仙術使いでもあるのだ。

 

「まあ、待て。あ奴が真面目に仕事をしているのなら何も問題ないぞ」

 

「放して! アイツを殺せない!」

 

「どうどう」

 

だとしてもジェノバの触手に簀巻きにされるのが落ちだが。

 

「うむ、来たか」

 

その言葉と共に空から黄色い物体が滑空してきた。

 

「まさか…チョコボ!?」

 

艶のある黄色い体躯。

 

身体に対して小さい翼。

 

長く掴みやすそうな首。

 

この草原の絶対王者と言わんばかりの鋭い眼光と静かなオーラ。

 

そう………それは…。

 

 

 

 

 

"2ヘッドドラゴン"だった。

 

 

 

 

 

彼がいたのなら"おい、火のダーククリスタルはどうした"などと言いそうな光景である。

 

『ファファファ! 悪く思うな! 貴様が死なねば我がヤズマット様にお仕置き(サイクロン)を受けてしまうのだ!』

 

ダブった声が聞こえるのと同時に2ヘッドドラゴンがチョコボイーターの目の前に着地した。

 

『消えてしまえー!』

 

奉先は確かに見ていた。

 

間違いなく全人類最高レベルの動体視力を持つ奉先は、2ヘッドドラゴンの攻撃動作の一部始終を確かに見ていたのだ。

 

それでも2つの首が一瞬、完全に消えたようにしか見えなかった。

 

2ヘッドドラゴンの首が再び奉先見えた時、既にチョコボイーターの身体は消し飛んでおり、赤い霧のようになった肉片と血が辺りに舞っていた。

 

そして次の瞬間、遅れて数十回空中を叩き割ったような音が聞こえ、その衝撃と風圧により赤い霧は完全に霧散した。

 

それを見てハッとした奉先は2ヘッドドラゴンが何をしたのかようやく理解した。

 

2ヘッドドラゴンがしたことは簡単で本当に単純だ。

 

だが、単純だからこそ最も恐ろしい。

 

それはただ………。

 

 

"速く連続で攻撃しただけである"

 

 

 

ネテロかお前は。

 

ちなみに正確には0.01秒で32回の連撃を放ったのだ。

 

まさに百式観音であった。

 

「ふむ、どうやら役目は怠ってはいないようだな」

 

「………知り合いなの?」

 

「まあ、そんなところであるな…む? あれは」

 

そんな会話の最中、突如何かを全力で蹴り抜いたような鈍い音が聞こえた。

 

「クェェェ!」

 

『ガホゴッ!?』

 

見ると横から2ヘッドドラゴンの頭に全力で蹴りが入れられた。

 

蹴りを入れたのは赤い身体を持ち、普通より二回りは巨大なチョコボだった。

 

『キサマァァァ! 恩も感じずまた奇襲をォォォ!』

 

「クェェェ!! クェェェェ!!!クェェェェェ!!!!」

 

それに大人気なくぶちギレる2ヘッドドラゴン。

 

と、それに挑発をする赤チョコボ。

 

「お前の助けなんているかー、獲物を横取りするなー、この草原は私のものだー、だそうです」

 

「ジェノバさん本当に言葉わかるのね…」

 

その時、先程の2ヘッドドラゴンの攻撃が脳裏を過った。

 

「チョコボがあぶな………い?」

 

な、辺りで気が付いたのだろう。

 

赤チョコボはなんと2ヘッドドラゴンの音速を遥かに超える連撃を回避していた。

 

「ほうほう、言うだけのことはあるじゃないですかあのチョコボ」

 

ほぼ、瞬間移動のような速度で、同じく刹那の連撃をギリギリでかわす赤チョコボ。

 

それに対して2ヘッドドラゴンはその場から動かずに片方の首で攻撃をし続け、片方の首は何かを狙うか待つように待機していた。

 

「クェェェ!」

 

赤チョコボが連撃の隙を見てひと鳴きすると突如、2ヘッドドラゴンの頭上からデフォルメの星のような物体が降ってきた。

 

「甘いわ!」

 

それを待ってきたと言わんばかりに2ヘッドドラゴンの待機していた首が動くと、星を連撃で粉々に破壊し、そのままカウンターの要領で技を繰り出したことで隙の出来た赤チョコボに連撃を繰り出した。

 

さながら弾幕(物理)である。

 

「クェ!?」

 

赤チョコボは直ぐに回避動作に入ったようだが、一発貰ってしまったようで後方に大きく吹き飛んだ。

 

「す、凄いわあのチョコボ……。私、一撃で死ねる自信あるもの」

 

赤チョコボはくるくると回転しながら着地すると、連撃の射程(首の間合い)圏内では勝ち目はないと踏んだのか、デフォルメの星を落とすチョコメットと、2~3mほどの隕石を落とすチョコメテオを放ちまくてった。

 

対する2ヘッドドラゴンは赤チョコボがいる場所を空間ごと大火炎で包み込んだり、流氷のように巨大な氷の塊を凄まじい速度で衝突させたり、極太の雷を落としたりしていた。

 

要するにガ系三大魔法のフルコースである。

 

奉先はわかってはいたが、余りに次元の違い過ぎる戦いに絶句していた。

 

だが、戦いは唐突に終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

「いい加減にしろ…」

 

 

 

 

 

それはヤズマットから発された途方もない重圧が込められた声だった。

 

「汝らいつまで余の御前で醜態を晒すつもりだ? どうやらよほどに死にたいと見えるな…」

 

2体へ向けられたヤズマットの指が緑色の光を放ち始めた。

 

『ヤズマット様!? 待っ』

 

「クェェェ!!? ク」

 

「問答無用」

 

一瞬、平原全ての風が止み、時が止まったようにすら感じた。

 

 

 

 

 

「サイクロン」

 

 

 

 

 

その言葉を放った瞬間、億を超える数の風の刃で構成された竜巻が両者を襲った。

 

両者を飲み込んだ竜巻は意思でもあるかのように2体を浮かせ、中心に引きずり込んだ。

 

そこで2ヘッドドラゴンと赤チョコボは風の刃による凄まじいお仕置きを受け、約1分後に派手な音を立てて地面に激突した。

 

両方共ピクピク動いているので生きてはいるようだ。

 

これだけの大規模攻撃に関わらず地面の草一本すら被害が無い事から、今の現象は全てヤズマットの魔力で作られたモノであり、それが極限レベルに洗練されていたという事が見てとれた。

 

ちなみにヤズマットがやろうと思えば1人デイ・アフター・トゥモローなども朝飯前である。

 

「さて、仕置きも終わった事だ。本題に移るとするか」

 

「そうですねー」

 

「奉先よ」

 

「………………え? あ、はい!」

 

「あれがお前の師だ」

 

そう言って依然、ピクピクしている2ヘッドドラゴンを指差した。

 

「え? マジ…?」

 

奉先は思った。

 

私、シンラの子供産んで孫の顔見るまでは死ねないんだけど?

 

安定の斜め上を行くだった。

 

「ジェノバが近接攻撃が得意な人いないかと聞いてきてな。ならばそ奴が打って付けだと思ったわけだ」

 

「ヤズマットちゃんの話によると次元の墓場はとっても危ないそうなのでその間、ここで修行してて下さいよ。2ヘッドドラゴンのあの攻撃が出来ればきっととっても強くなれますよ」

 

「と、言うわけだ。汝も聞いていたであろう?」

 

『ぎ、御意…我が王よ…』

 

2ヘッドドラゴンも気合いで身体を起こすとこちらまで歩いてきた。

 

時々、緑の光が身体を包んでいるところから、自身にケアルガを掛けながら歩いて来ているようだ。

 

近接最強クラスの攻撃に、大魔法、回復魔法と実に芸達者な竜だ。

 

「まあ、こ奴の戦闘力は全盛期の二天龍を足した程度だ。実力は申し分なかろう」

 

奉先は逆に強すぎて申し分ありますと心の中で叫んだ。

 

なんだ結果的に戦争を止めた二天龍以上って。

 

奉先は再び思う。

 

だから私、シンラの(以下略)

 

「と、言うわけで私たちは行ってきますからね」

 

「ではな」

 

「じゃあのです」

 

その刹那、2人は消えていた。

 

「………………」

 

『………………』

 

そこには1人と1匹と1羽だけが残された。

 

『まあ、あれだな…』

 

意外にも2ヘッドドラゴンから話し掛けてきた。

 

『貴様も苦労しているのだな』

 

「彼、程じゃないけどね」

 

『そうか…』

 

2ヘッドドラゴンはそれ以上聞こうとはして来なかった。

 

奉先は思ったより好い人(?)かもと2ヘッドドラゴンの評価を一段階上げた。

 

「あ、この子どうしよう」

 

奉先は未だに倒れている赤チョコボに駆け寄った。

 

「クェ………」

 

「どうしよう…あっ! マテリア!」

 

奉先はとりあえずマテリアの回復を試してみた。

 

「ケアルっ」

 

「クェ……」

 

回復はしたようだが足しにならない程度なようだ。

 

『チッ…貴様などのたれ死ねばいいものを…。我は先にあの辺に行っているぞ。稽古を付けて欲しいなら来るがいい』

 

そう言いながらノシノシと歩き出すとふと何か思い出したように大声で言った。

 

『ん? おかしいなエリクサーが1本足りん。まあ、いい。我には必要ないものだ。あんなもの駄鳥のエサがお似合いだ』

 

そう言ってからまたノシノシと歩き出した。

 

奉先は最初に2ヘッドドラゴンがいたところを見ると綺麗な赤い小瓶が落ちていた。

 

「………ツンデレね」

 

ポツリと奉先は呟いてから赤チョコボのところに戻った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「むう、この光景をオーフィスに見せてやりたいな」

 

「多分、泣きますよあの娘」

 

ヤズマットとジェノバは次元の墓場に来ていた。

 

そこには無数の機械系の魔物や、魔導人形などがスペースデブリのように残骸が漂い。

 

地面は人が造ったと思われる空母、戦車、戦闘機、潜水艦から飛空挺に至るまで様々な機械が隙間なく重なり合う事で地面となっていた。

 

「ところでヤズマットちゃん?」

 

「む? なんだ?」

 

「正規ルートなら襲われないって言ってましたよね?」

 

「まあ、あれだ。予想外というものは誰にでもあるものであろう?」

 

「その意見には激しく同感ですけどこの状況はもの凄く面倒なことになってません?」

 

「彼女を置いてきて正解であったな」

 

「違いませんね」

 

ジェノバとヤズマットの目の前にはとある古代兵器がいた。

 

それは"オメガ"と呼ばれる兵器だった。

 

寸胴の胴体に四脚が生えたような黒鉄色のボディに、赤く光り横に長細い目が特徴のシンプルな機械であるが、実力は神竜であるオーフィスと同等…いや、それ以上だ。

 

それが主武装である波動砲をチャージしながらジェノバとヤズマットを狙っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

"約100体ほどで同時に"

 

 

 

 

 

 

 

「というかこんな光景どっかで見たことありません?」

 

「ふむ、有名なアニメ映画で見たことがあるような…」

 

「それラピュ」

 

ジェノバの言葉は全てのオメガから同時に放たれた波動砲に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 




次回の投稿でアンケートは締め切ります。



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次元の墓場

どうも、ウォークマンのシャッフル機能でエアリスのテーマ聞いてしんみりしていたら次の曲がゼロムスのテーマでビクンッ!ってなった作者です。

それは兎も角、投票の集計結果を発表します。


1位:聖天使アルテマ 31票
2位:戒律王ゾディアーク 18票
3位:オメガ&オメガウェポン 4票
5位:オズマ 3票
6位:デア・リヒター 2票
7位:アンラ=ユンマ 1票


よってヒロイン化決定した裏ボスは順位から選び………。



聖天使アルテマ
戒律王ゾディアーク
オメガ


の3体に決まりました。

オメガとオメガウェポンは同票でしたが…。








"私が最後に一票入れてオメガを3位にしておきました"








痛い痛い! 石を投げない! 私にだって投票権はありますもん!

というわけで正しい結果はこれです。


1位:聖天使アルテマ 31票 ◎
2位:戒律王ゾディアーク 18票 ◎
3位:オメガ 5票 ◎
4位:オメガウェポン 4票
5位:オズマ 3票
6位:デア・リヒター 2票
7位:アンラ=ユンマ 1票






「くぅ~疲れました」

 

ジェノバは黒鉄色の塊が積み上げられて出来た10mほどの山の上に座っていた。

 

それはオメガと呼ばれた殺戮兵器の成れの果てであった。

 

『心にも無いことを言うでない』

 

さらにその山の前にいる竜を囲むように残り11体のオメガが忙しく動きながらミサイルや、青いビームや、火炎放射を放ち続けていた。

 

それは竜の姿へと戻ったヤズマットだった。

 

だというのにヤズマットは仰け反りも、怯みもせずにジェノバに顔を向けて話をしていた。

 

『一方的であったな』

 

「まあ、オーフィスちゃんの時よりはマシな準備運動にはなりましたよ。所詮、古代人が背伸びして造ったアンティーク人形の紛い物でしたけど」

 

『紛い物? まあよい、残りは余が引き受けよう』

 

ヤズマットはオメガらへ向き直った。

 

ヤズマットは30~40mほどの全長を持つ四足歩行の灰色の竜だ。

 

だが普通の竜と違うところが数ヵ所ある。

 

それは首に首輪。

 

また両翼の翼膜の代わり。

 

さらに尻尾の上部。

 

それらに付けられたようなポンチョと同じ模様の魔方陣だった。

 

『温いな…』

 

ヤズマットは烈火のごとき猛攻を食らい続けながらも平然とそう呟いた。

 

ヤズマットにダメージが通っていないのではない。

 

ヤズマットの星数個分に匹敵する生命力を削り切るにはオメガの火力はあまりにも乏しかったのだ。

 

『消えろ』

 

その言葉と共にヤズマットの巨大な爪が降り下ろされた。

 

それに狙われた1体のオメガは瞬間移動のような回避速度でそれを回避した。

 

ことはなかった。

 

回避によりヤズマットの腕の射程から数m離れたにも関わらず攻撃は命中し、大きくオメガの装甲に亀裂を入れたのだった。

 

それこそがヤズマットの2つある能力の1つ。

 

その効果は至って単純。

 

ヤズマットの射程内で敵を捉え、行われたありとあらゆる攻撃は…。

 

 

 

"繰り出された瞬間から因果律が決定されており、何があろうと100%命中する"

 

 

 

避けることが出来ない。

 

これほど恐ろしい能力があるだろうか?

 

2つ目の能力は更に単純。

 

 

 

"ヤズマットに対する全障害能力の無効化"である。

 

 

 

つまりヤズマットとの戦闘はヤズマットに対しての小細工無用の戦闘となる。

 

酷すぎる。特にアルビオンは泣いていい。

 

それに加え、凶悪で膨大な生命力。

 

どんな強者も一瞬で粉砕してしまう恐ろしい連撃速度。

 

文字通り相手を一撃で即死させる"必殺"。

 

相手の時を止める追加効果を持つ氷属性攻撃"ホワイトブレス"。

 

相手を徐々に石化させる追加効果を持つ無属性攻撃"ぺトロブレス"。

 

命中後も相手の生命を削り取り続ける追加効果を持ち、世界最凶クラスの威力の風属性攻撃"サイクロン"。

 

更に奥の手も隠しているがそれは語るまい。

 

これで力の大半を封印されているというのだから脱帽だ。

 

オメガたちの目の前にいるのは"ただそこにある絶望"だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3分後、全てのオメガは破壊し尽くされ、山に積み上げられていた。

 

「本当に全て破壊して良かったのか?」

 

人の姿に戻ったヤズマットはそんなことを聞いた。

 

ヤズマットはジェノバならオメガ部隊などという恐ろしいモノを作ってしまうと思っていたのだ。

 

「じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」

 

ジェノバはそれを聞いたからか、山から降りて少し歩くと両手を広げた。

 

「この場所に溜まった機械や魔導人形の残留思念がオメガという兵器の形を形成し、出現したのですよ。要するにこれらのオメガは怨念が形になった物体なんです。言わばオメガ・ソウル。本当のオメガには到底及ばない不細工な模造品ですよ」

 

そう言っている内に積み上げられていたオメガの残骸が空に溶けるように霧散し始めた。

 

キラキラと小さな光になりながら消える様は芸術的とすら感じる。

 

「ほらね。鹵獲するだけムダでしょう?」

 

「ふむ、なるほど…」

 

そこまで考えたところでふと疑問が浮かんだ。

 

「む? それならなぜ残留思念はオメガの形を取ったのだ? 自分の形になればよかろう?」

 

「それはね…」

 

ジェノバは地面に触手を突き入れると暫く鋼の地中をまさぐった。

 

そして目標を見つけたのかニヤリと口の端を三日月に歪めた。

 

「"コレ"のせいですよ」

 

触手を勢い良く引き抜き、ジェノバが引っ張り出した。

 

「オメガか…」

 

それは1体のオメガだった。

 

だが、そのオメガは既に機能が完全に停止していた。

 

つまり壊されてもう動くことはないということだ。

 

「残留思念の一つ一つは小さくとも、目標足り得る物体があるのならそれを目指し、気の遠くなるような時間を掛けてあれだけの数が量産されたのでしょうね。いつかの復讐を遂げるために」

 

ジェノバはいとおしそうにオメガの骸を撫でた。

 

「全ての怨念の依り代とされながらもそこにオメガの意思はない。うふふ…なんて美しいんでしょうか…」

 

ジェノバはそう呟きながら赤黒い翼を広げると翼の先端が細く長い触手に変形し、オメガの残骸に対して何かの作業を始めた。

 

「相変わらず汝の美意識は変わっておるな…。それでそ奴をどうするつもりだ? 供養でもするのか?」

 

「まさか、そんなことに意味があるわけないじゃないですか。あれを見てくださいよ」

 

ジェノバが指差した方向を見ると空中に小さな黒紫色の霧が発生し、それが晴れると機械系の魔物の残骸や、魔導人形の成れの果てが空中を浮いていた。

 

「発生源はいくらでも湧きますからね。怨念を断つなんて不可能な話です」

 

「なるほど…」

 

「それにコッチは正真正銘の古代人が背伸びして造った殺戮兵器です。んー、この金属の冷たさが堪りません。昔の記憶が流れ込んできます」

 

ジェノバは頬をスリスリとオメガの胴に擦り付けていた。

 

無論、この間も翼は作業を続けている。

 

「………この事にいつから気づいていたのだ?」

 

「んー? どのことですかー?」

 

「今、汝が語った話の全てだ」

 

「オメガ・ソウルを初めて斬り裂いた瞬間ですね」

 

「斬り裂いた瞬間だと?」

 

「オーフィスちゃんですらただ正宗で斬っただけでは、腕の一本も斬り落とせなかったのに関わらず、オメガ・ソウルは真っ二つなりましたもの。ついでに、オメガはオーフィスちゃん1人じゃ勝てなかったので初めてグレートレッドと協力して倒した相手だった言っていましたしね」

 

「汝には敵わんな…」

 

同じ敵を相手にしていたというのにジェノバは敵の分析から答えまで出していた。

 

さらにオーフィスから同じ話をヤズマットも聞いていたのだ。

 

にも関わらずそれに気づくことさえできなかった。

 

そう呟くのも無理はないだろう。

 

「そんなの当たり前じゃないですか?」

 

ジェノバは何を言っているんだとでも言いたげな顔をした。

 

いっそ清々しいほどのドヤ顔である。

 

「汝はそれを悪魔にする気か?」

 

ヤズマットはジェノバがペタペタと触っているオメガを見ながら言った。

 

「勿論ですよ。神性を持たないこれ以上の存在は無いでしょう?」

 

「ならば何の駒で転生させる気だ?」

 

「コレですよ」

 

ジェノバは1つの"騎士"の駒を出した。

 

「………………正気か?」

 

騎士の駒1つの価値はたったの3。

 

兵士3つ分だ。

 

例え変異の駒だとしても、グレートレッドと同等ほどの戦闘力を持つ殺戮兵器を悪魔にするなど不可能な話だ。

 

最も…。

 

「不可能だと思います? おお、取れました」

 

オメガのヘッドパーツを胴体から取り外しているジェノバを見る限りとてもそうは思えないが。

 

「せめて戦車ではないのか?」

 

ヤズマットはオメガ・ソウルとの戦闘でオリジナルのオメガの火力と耐久力をおおよそ理解している。

 

それに従い、どちらかと言えば拠点砲台の役割が相応しいのではないかと考えたのだ。

 

最も、価値が騎士の駒より高いとは言え、戦車1つで転生させようとするのすら無謀だとヤズマット自身は考えているが…。

 

「そのままでも十分な硬さと火力のあるモノを更に強化してどうするんですか、それにオメガの一番の売りは爆発的な回避力です! 即ちスピードですよ!ってめっちゃホコリっぽいです!」

 

ジェノバはオメガのヘッドパーツを外したため露出した内部の動力部を外して外に出し、胴体に空洞を作り、そこにジェノバが上半身だけ入り、下半身はぶらーんとしていた。

 

「回避力?」

 

「あなたに回避を語ってもムダでしたね………くッ!? あ、あれ? 翼が挟まって…」

 

ジェノバはヤズマットの理不尽極まりない能力を思い出して額に指を乗せた。

 

ちなみに胴体にジェノバが入るスペースが想像以上に無かったらしく、上半身は入ったが下半身は入らずバタバタと足をバタつかせていた。

 

「ふう………全くわかってませんねぇ。まあ、解れと言う方がムリですか」

 

ジェノバは深い溜め息をついた。

 

「仕方がないので騎士の駒の1つでオメガを転生させるためのヒントを差し上げましょう」

 

「むう…?」

 

ジェノバはヤズマットに見えるように魔力で作った1という文字を空中に浮かべた。

 

「ヒントその1。当たり前ですが、悪魔の駒で転生した転生悪魔がどれほど後天的に実力をつけたとしても悪魔のままです」

 

「ぬう…?」

 

ヤズマットは首を傾げた。

 

ジェノバのヒントを簡単に言えば"悪魔は強くなっても悪魔"ということだろう。

 

あまりにも当然で基本的な事である。

 

それをオメガを騎士の駒で転生させる方法に結びつけることが出来なかった。

 

胴体の中でやれやれと大袈裟に呆れるポーズを取ってからジェノバは空中に2の文字を浮かべた。

 

「ヒントその2。オメガは機械です」

 

「転生悪魔…機械………」

 

「クククッ…答えはね…」

 

ジェノバは胴体と中であるモノを掴み取ると、悪戯が成功した子供のように無邪気な笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「あの…回答は後にして、とりあえず抜いて頂けませんか?」

 

「挟まったのか?」

 

「いや…なんかこれ物理的にどうにもならないですよ。後で使いますので残骸(コレ)を傷付れませんし…」

 

「ぬんッ!」

 

「え? はやッ!? 心の準備というものがちょっ…痛い痛い痛い! つ、翼がぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

「つ、翼がぁ…私のキュートな翼ちゃんがぁ~」

 

ジェノバはわざとらしく翼に特大の絆創膏を出現させ、それを手で擦っていた。

 

「抜けたではないか?」

 

「こんなことなら幼女になって抜けましたよッ!?」

 

「ふむ、そんなことより答えが聞きたいぞ」

 

「あー、そうでしたね」

 

ジェノバはメイド服の汚れを払い落とすと、拳ほどの大きさで黒い半透明のクリスタルのような宝石を掲げた。

 

クリスタルの中では赤く小さな球体が鈍く輝いていた。

 

「これが答えです」

 

「なんだそれは?」

 

「これはオメガの中枢ですよ。コンピュータで言えば演算装置、制御装置、記憶装置の全てに当たるモノです。まあ、簡単に言えば人間で言うところの脳ですよ」

 

「脳?」

 

「そうです。ですが、オメガは生き物では無いのでこれが脳であり、内臓であり、魂であり、命です」

 

ジェノバはつまりと言葉を区切ると黒い笑みを浮かべ、騎士の駒とオメガのクリスタルを掲げた。

 

 

 

 

 

「"機械仕掛けの殺戮兵器(オメガ)は石ころ程度まで弱体化できるんですよ"」

 

 

 

 

 

 

それは転生悪魔が転生後に駒の価値を超えて強くなるのと全くの逆。

 

強すぎて転生悪魔に出来ないのなら、極限まで弱体化させてから転生させればいいというとてつもない発想だった。

 

「なっ……だが、生きていないモノを悪魔に転生させることは出来ないであろう?」

 

冷静に考えれば悪魔の駒は生き物を悪魔に転生させることは出来るが、初めから生きていないモノは転生させることは出来ないのだ。

 

例え、命に相当するモノだったとしてもそのままジェノバの理論で行けばノートPCも悪魔に出来てしまう。

 

無論、そんなことは不可能だ。

 

「ねぇ…ヤズマットちゃん。根本的なことを忘れてますよ?」

 

ジェノバは何を言ってるんだコイツとでも言いたげな表情でヤズマットを見た。

 

 

 

 

 

「"モノに命を吹き込むのなんて普通に出来ますもの"」

 

 

 

 

 

「………………」

 

そうだった…。ヤズマットは思わず目頭を押さえた。

 

軽いノリと日頃の日常的行動から忘れがちだが、目の前の存在は万物の創造主などという肩書きをいくつも喰らってきたとんでもない怪物であり、それ全ての力をその身に宿しているのだ。

 

要するに小学生低学年が考えた"僕の考えた最強のウルトラハイパースーパー神様"のようなふざけた存在なのである。

 

「じゃあ、いっきますよー」

 

「好きにしてくれ…」

 

ヤズマットはここで初めて理解した。

 

あの少年は本当に苦労しているのだな…と。

 

ジェノバがオメガのクリスタルに息を吹き掛けた。

 

「………………………………終わりか?」

 

「終わりですよ?」

 

ヤズマットには特に何か変わったようには見えなかった。

 

その様子を見てか、ジェノバはどこぞのチョコボ頭を思い出す呆れ方をした。

 

「人間の脳ミソがここに落ちていたとします。それは話しますか? 喋りますか? モノを食べますか? 五感を感じますか? それが答えですよ」

 

ジェノバはオメガのクリスタルを恍惚とした目でうっとりと眺めながら撫でた。

 

「このオメガは文字通り何も感じない、動けない。でも、考えることは出来る。今、出来たばっかりの心でね…」

 

外道である。

 

まさに外道である。

 

清々しいほど外道である。

 

「とりあえずこれでお土産は出来ましたね」

 

ジェノバはオメガの残骸とオメガのクリスタルを亜空間へ放り込み、騎士の駒を再び腕に戻した。

 

「む? 転生させないのか?」

 

「最初に言いましたよね? 全ては彼が決めることです。私は候補を見繕ってるだけに過ぎませんよ」

 

「と、言うことは彼に選ばれなければオメガは…」

 

ヤズマットは少し気の毒だと思っていた。

 

機械のままだったら放置されても苦では無かろう。なぜなら苦という感覚さえわからないのだから。

 

だが、心を持ってしまえば話は別だ。

 

心を持つ生き物が身体1つ動かせず、五感全てが機能しない。

 

そんな暗黒の世界にいつまでも放り込まれる。ゾッとする話だ。

 

「………? それがどうかしましたか?」

 

だが、ジェノバはまるでそれの何が気の毒なのかすらわかってすらいないように首を傾げていた。

 

いや、ジェノバにとっては本当にどうでもいいのだろう。

 

ジェノバが真に見ているのは彼のみなのだから。

 

「では、もう目的は済んだのか?」

 

「んー、概ねそうですが…」

 

ジェノバはどこか遠くの空中に漂う残骸の1つを見詰めた。

 

「何かあるのか?」

 

「アレからものスゴい残留思念を感じるんですよね」

 

ジェノバとヤズマットはその残骸へ近付いた。

 

「これは…」

 

それは頭に三角帽子を被り、上半身はオックスフォードブルーの服装、下半身は白いズボンを履いている人型の魔導人形だった。

 

特徴は一対のダークブルーの翼と既に停止して尚、離すことなく三日月に小さな竜の翼のようなものが付いた大型のロッドを持っていることだろう。

 

だが、翼は折れ、全身の身体は至るところがこれ以上無いほど破壊され、長い年月が経過したためか朽ち果てていた。

 

寧ろ、原型を留めているのが不思議なぐらいだ。

 

ジェノバは服の中を物色していると小さな銀のプレートを見付けた。

 

それには"B.W.Ⅲ"と刻まれていた。

 

「なんだこれは…本当に魔導人形なのか?」

 

ヤズマットがそう呟くのも無理はなかった。

 

ソレから今も溢れ出ている怨念は人間の憎悪をすら生温く見えるほど巨大で禍々しい力を帯びていたからだ。

 

「これは執念ですよ。何かに対する凄まじいほどの…ね」

 

「わかるのか?」

 

「これだけ剥き出しの思いが外に出ていれば嫌でも記憶が読めますよ」

 

ジェノバは暫く、目を閉じてからゆっくりと目を開けた。

 

 

 

「"黒のワルツ3号"ですか…クククッ…面白い」

 

 

 

ジェノバはこれ以上壊れないように丁寧に亜空間にソレをしまうと、ヤズマットと共に次元の墓場を後にした。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「クェ~!クェ~クェ~クェ~」

 

「………これどうしたら良いのかしら?」

 

『我はしらん』

 

ジェノバとヤズマットがチョコボ平原に戻ると、赤チョコボ(大)にスリスリされている奉先と呆れたようにそれを見ている2ヘッドドラゴンがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の夕食中。

 

「ところでシンラさん」

 

「はい?」

 

ジェノバは一度深呼吸をしてから真剣な面持ちで言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「"メカ娘"と"魔女っ娘"ってどう思います?」

 

 

 

 

 

真顔でそんなことを言い放ちやがった。

 

それを聞いて事情を全て知っているヤズマットがイスからズッこけた。

 

「ど、どうとは?」

 

意味のわからない質問に顔を引き吊らせながら彼は答えた。

 

「好きか嫌いかの話ですよ」

 

「あ、ああ…それなら嫌いではない…のか?」

 

余りにも突拍子のない発言だったせいで彼も妙なことを言い始める始末だ。

 

「つまり好きですと?」

 

「ああ…」

 

それを聞いてジェノバはニヤリと口の端を吊り上げた。

 

ちなみにこんなどうでもいいような問いが、人生を左右する問いだったと彼が気づくのは割りと直ぐの話である。

 

「そうですか、協力ありがとうございます」

 

「?」

 

ジェノバは頭にハテナを浮かべる彼を余所に、張り付けたようなニコニコ笑顔の裏で早くも改造プランを思い描くのであった。

 

 

 

 

 

 

 




シンラくんの望み通りの眷属が揃っていくよ!(白目)


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悪魔オメガちゃん改




"祝お気に入り3100越え"

なんと原作:ハイスクールD×D、お気に入り数が多い。で検索すると四番目に出てくる。

………………………………………………。

魔水晶女王を越えられて素直に喜べない作者がここにいる。






 

 

 

ジェノバさんのメカ娘と魔女っ娘ってどう思います?という謎発言も越え、いつの間にか夏休みも半ばに差しかかった頃、私はというと無駄に日々を過ごしていた。

 

オーフィスちゃん痒いところ無い?

 

「ん…」

 

そうか、なら流すぞ。

 

現在、オーフィスちゃんとお風呂である。

 

勘違いしないで欲しいので言っておくが、私は服を着てオーフィスちゃんの頭を洗っている。

 

オーフィスちゃんは人に頭を洗ってもらうのが好きらしい。

 

というか、いつもお願いされるのだ。

 

最初の頃はまず服の脱ぎ方からわからないという酷い有り様だったが、今はそんなことは無い。

 

まあ、今と昔では体型が偉く違うのだか…。

 

『ひゅー、ひゅー、イチャイチャしてますねー』

 

………………なんですかジェノバさん?

 

ちなみに現在のジェノバさんの姿は肩で切り揃えられた金髪の女性である。

 

………今日は金曜だったな。

 

エリアスに擬態して以来、ジェノバさんはしょっちゅう擬態している。

 

どうやら、曜日感覚をつけることも兼ねているらしい。

 

よってこんな感じである。

 

 

月:ティファ・ロックハート

火:ユフィ・キサラギ

水:エアリス・ゲインズブール

木:ミネルヴァ

金:イリーナ

土日:いつものジェノバさん

 

 

のローテーションで姿を変えている。

 

ちなみに寝る前はいつものジェノバさんに戻る。

 

後、買い物以外でどこかに行くときはいつものジェノバさんに戻る。

 

要するに私の前では擬態しているようだ。

 

まあ、結局のところ私は現在進行形でイリーナのメイド服姿という、凄まじいモノを見せられているわけだ。

 

最早、慣れたが…。

 

というか最初に見た時はミネルヴァのメイド服姿が最も驚愕した。

 

一体、誰得なのだ…。いや、確かに美人だが…。

 

『いえ、大した事では無いですよ』

 

いつの間にか後ろにいたジェノバさんを見て、オーフィスちゃんが猫のように飛び上がり、一目散に洗い場から10mぐらい離れている湯船へ逃げると飛び込んだ。

 

あ、こら。まだ身体洗ってないでしょうが。こっち来なさい。

 

よし、それでいい。ちゃんと戻ってきたな。

 

『小盛り、並み盛り、大盛り、特盛ならどれが好きですか?』

 

ん? 食事の話か? なら特盛だが。

 

『そうですかわかりました』

 

そう言うとジェノバさんは目の前から溶けるように消えて行った。

 

………最早、良くあることなので今さら驚かん。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

いつのもように起床し、いつのもように朝食を取っていると決まって奉先からメールが来る。ん? ほら来た。

 

 

"今日ヒマ?"

 

 

ヒマだぞ、と…。送信。

 

夏休み中は特に補習もなく、宿題も初日と次の日の2日間で奉先とオーフィスちゃんと終わらせたため実にヒマである。

 

というか奉先よ。

 

夏休み中毎日ヒマと聞いてくるなら毎回昨日の内に次の日ヒマか聞けば良いものを…。

 

ん? ジェノバさん味噌変えたのか。

 

そんなことを考えながらふと窓から外の庭に目を移すと。

 

 

 

 

 

 

 

"庭の隅にニブルヘイム魔晄炉が建っていた"

 

 

 

 

 

 

 

………………………………。

………………………。

………………。

………ファ!?

 

いやいやいやいや待て待て待て待て待て待て待て待て!

 

ジェノバさん!? ジェノバさーん!!?

 

『はい? 何でしょうか?』

 

ちなみに今日は土曜なのでいつものジェノバさんである…ってそんなことはどうでもいい!

 

何でそんな私は何もしてませんよ?的な顔しているんですか…。

 

何を造ってるんですかあなたは!?

 

『あれは魔晄炉というもので、魔晄エネルギーという全く新しいエネルギーを生み出せるのです。魔晄炉は従来の原子力、火力、水力、風力、光力などの如何なるエネルギー生産システムよりも遥かに小型で、それら既存の全てを遥かに上回る莫大なエネルギーを生産可能なんです。勿論、環境への配慮も万全です。 ちなみに魔晄エネルギーは原子エネルギーの数倍、いえ数十倍以上のパワフルなエネルギーなんです』

 

わー、よくも魔晄炉の利点だけをペラペラと。

 

魔晄は浴びると精神に有害だとか、周囲の生き物が凶暴化するとか、魔晄エネルギーは星の命(ライフストリーム)を直接削って生み出されるとか一切言っていない…。

 

「ふむ、デメリットを1つも提示しなければ流石に怪しまれるのではないか? 折角、造ったのだからきちんと説明するべきであろうぞ」

 

ヤズさんがジェノバさんへ向かってそんなことを言った。

 

というかその口振りだとあなたも建設に協力したんですか…。

 

『チッ…星の命をちょっと削っちゃいますけど1機ぐらいなら1000年フル稼働させたとして、精々1年ぐらいしか削られないので特に問題はありませんよ』

 

え? そうなのか?

 

いや……百歩譲って庭に魔晄炉は良いとしてさ…。

 

百歩譲ってだぞ? 家の庭無駄に広いしな。

 

「ぬ? そうなのか? 余もそれは知らなかったぞ」

 

『星とは宇宙最大単位の生き物なんですよ? 魔晄炉と星を例えるのなら大木とそれに付いた1匹アブラムシです。アブラムシ1匹が大木を枯らすのに一体どれ程の月日が掛かるのでしょう? そんな話なんですよ』

 

「なるほど…」

 

なんでFF内で最も(この)設定が鬼畜&実力が鬼畜(2人)はそんなに仲が良いんだ…。

 

家の中でも頻繁に2人で何かしているところを見掛けるし…。

 

『それだというのに星学者ときたら魔晄炉のせいで星の寿命がなんだとか、ライフストリームがどうとか…アイツら星ナメ過ぎなんですよ…。初歩的なことすら知らずに星学者なんて名乗りやがりまして…そもそも星の胎内にすら行ってな』

 

ジェノバさんが昔の星の愚痴を始めた。

 

………そういえばジェノバさんってある意味、究極の星学者であり、星の研究者かも知れないな。

 

しかし、これは長くなりそうだ………。

 

………どうでもいいが、ジェノバさんは前の星(FFⅦ)の話になるとかなり長く愚痴ってくる。

 

というか、ここまでチートなジェノバさんがなぜセトラにボコボコにされ、クラウド一行の時はあそこまで弱体化していたのか非常に気になる。

 

ジェノバさんが家に来た最初の頃もそう思い、前にいた星の話を聞こうとしたのだが、全力で話をはぐらかされるので聞かないでいる。

 

全くもって謎だ………。

 

 

 

 

あっ…母さんに魔晄炉のことなんて伝えよう…。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

無事、彼の許し(事後承諾)も得て建設されたニブルヘイム魔晄炉の中心。

 

昔の星でジェノバが安置されていた部屋でセフィロスが初めてジェノバと対面した正しくその場所にジェノバは立っていた。

 

「うーん…」

 

そこにはジェノバではなく黒のワルツ3号の残骸がプカプカと安置されていた。

 

ちなみにヤズマットは今日はいないようだ。

 

「うーん…」

 

彼女が難しい表情をしている理由は単純だ。

 

黒のワルツ3号は確かにジェノバ的に見てもかなりの執念という名の精神力を持っている。

 

それを向上心と彼への忠誠心+奉仕精神に転化させれば、レーティングゲーム向きの素晴らしく有能な駒になるであろう。

 

だがだ……。

 

いくらなんでもジェノバ的に素の能力が低過ぎたのだ。

 

これではジェノバ細胞を埋め込み、魔晄を浴びせ、悪魔に転生させたとしても大した強さにはならない。

 

精々、最上級悪魔の下の方程度が程度が関の山であろう。

 

だが、ここまで破壊し尽くされていては流石のジェノバも修復に3分も時間が掛かってしまう。

 

それ以前にこの身体にはジェノバ細胞の適性が無かったため、全て机上の空論だ。

 

修復する意味すらないというのがジェノバ結論である。

 

精神はライフストリームに放り込んでも壊れないというだけに勿体無い話だ。

 

「あなたはどうしたら良いと思います?」

 

ジェノバは身体を反らすと天井を見上げた。

 

天井と言っても魔晄炉は巨大な塔のような形をしているため、かなり高さに位置する場所である。

 

そこには黒い何かが蝙蝠のように逆さになっていた。

 

ジェノバの言葉に反応してか、それは空中で身体を半回転させながら降りた。

 

着地の直前に漆黒の蝙蝠に似た刃のような悪魔の翼が開かれ、一切の音を立てずジェノバの斜め後ろに着地した。

 

それは露出度の極め低い忍の黒装束を身に纏い、黒鉄のような黒髪をボブカットに切り揃えた髪型の女性だった。

 

顔立ちは黒いマスクのせいで半分しか見えないが、美術品のように人間味の無い造り出されたような美しさをしている。

 

両目を閉じていなければさぞ目が醒めるような美人であろう。

 

身長はヤズマットより多少高く、185cmといったところだ。

 

腰には忍刀である村雨(ムラサメ)が装備され、黒い飾り気の無い鞘が部屋の光により鈍く輝いていた。

 

さらにジェノバが振るっていたのと全く同じだが、紫色の鞘に入れられた正宗(マサムネ)を肩に担いでいる。

 

「"オメガ"ちゃん」

 

「………………」

 

ジェノバが名を呼ぶとオメガの目が開かれた。

 

そこには赤色をした双眼があった。

 

だが、それはオーフィスの目の方がまだ人間的に見えるほど無機質で、光を飲み込むような暗さをした目だった。

 

しかし、悪魔オメガの最も特徴的なところはそこではない。

 

それは通常の悪魔より遥かに巨大な悪魔の翼だ。

 

通常の人型の悪魔が両翼含め3mほどが平均とすると"オメガは片翼だけで15mものサイズをしている"のだ。

 

両翼で30mというとてつもなく巨大な長さの翼をしているのである。

 

「ん? そういえば?」

 

「………………」

 

ジェノバは亜空間からメジャーを取り出すとオメガのバストに巻き付けた。

 

オメガは機械のように微動だにせず、それを受けていた。

 

直ぐにメジャーの数値は正しい値を示した。

 

"110cm"

 

それを見てジェノバは親指を立て、高らかに宣言した。

 

 

 

「"特盛です!"」

 

 

 

………………確かに特盛である。

 

圧倒的特盛である。

 

「………………」

 

「もう! オメガちゃんは何か反応しましょうよ」

 

「………………」

 

相変わらず機械のように無反応である。

 

どうやらコミュニケーション能力は無に等しいようだ。

 

「まあ、いいですけど。早速ですが、これから任務に当たって貰いますし」

 

ジェノバは亜空間にメジャーを放り込んだ。

 

「身体がダメなら代わりのを造ればいいんですよ」

 

ジェノバはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「最高の身体を………ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

オメガは魔晄炉の陰からリビングの中の彼を見つめていた。

 

「………………主様(ぬしさま)…」

 

そう呟いた表情はいつも通りの無機質な表情であったが、ほんの少しだけ柔らかい顔をしているようにも見えた。

 

 

 

 

 





なまえ:悪魔オメガちゃん改
ジョブ:忍者
みぎて:マサムネ
ひだりて:ムラサメ
特性:
騎士補正
ジェノバ細胞
物理ダメージ半減
物理カウンター
いつでもリフレク
雷以外の属性吸収
雷弱点
ボス耐性
HP全快
オメガ装甲
HP+30%
ロール同調
物理攻撃+35%
開始時ATB完全
アスピル系回復UP改
攻撃してATB回復
チェーンボーナスUP改
オートブレイブ


騎士補正=回避率とすばやさにボーナス。

ボス耐性=ヤズマット並にオメガに対する障害能力が一切効かない(一部例外あり)。やっぱりアルビオンは泣いていい。

HP全快=サンダガ剣みだれ…とある特定の攻撃を受けるとカウンターに全快復する。ちなみに普通にピンチになっても使ってくる。

オメガ装甲=あらゆるダメージを2度まで防ぐ(一部例外あり)障壁が表面に張ってある装甲。2度当たり剥がされても5秒で自動的に張り直される。





"汚いなさすが忍者汚い"










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黒のワルツ3号(グラフィックの使い回し)

どうもちゅーに菌or病魔です。

そろそろアルテマとゾディアークまだー?という感想が来そうなので伝えておきますが。

アルテマさんとゾディアークちゃんの登場はまだ多少先です。

2体はシンラくんがソロクリアしてもらう予定なので(ゲス顔)






 

 

「はいはい、皆さん集合しましたねー」

 

ジェノバは魔晄炉の中心部でパンパンと手を叩いた。

 

目の前にはいつも通りヤズマット。

 

それに加えて部屋の入り口から顔を半分だけ覗かせ、ジェノバが視線を送るとひッ!? と脅えながら隠れるオーフィスがいる。

 

「今日集まった理由は事前の説明の通り、黒のワルツ3号の新しい身体の製作の準備です。2人とも作業に取り掛かって下さいね」

 

それを聞くとオーフィスはジェノバの視界から離れ、手前の部屋で作業を始めた。

 

「ふむ…」

 

一方、ヤズマットはその場で考えいた。

 

黒のワルツ3号という精神体に見合う身体を造る。

 

簡単に聞こえるがその実かなり難しいことだ。

 

なぜなら魂に合った身体を用意しなければならないからだ。

 

魂に適合する身体というモノは数少ない。

 

魂にも個別の形があり、その形は千差万別。

 

適合しない入れ物に入れたとしても拒絶反応を起こして死んでしまう。

 

そんなことを考えていると、ジェノバが赤い液体が入った小さな小瓶を取り出すとそれを掲げた。

 

 

 

 

 

「じゃーん"バラキエルの娘の血液でーす"」

 

 

 

 

 

「ほう、雷光のバラキエルの娘か」

 

雷光のバラキエル。グレゴリの幹部である堕天使だ。

 

幹部と言うだけあり、実力も世界的に見れば上位に食い込むであろう。

 

これはその娘の血液だ。

 

「いやー、ちょっとグレイフィア(お母様)に雷魔法の扱いに長けるモノの血液が少量欲しいと頼んだら用意してくれましたよ」

 

ジェノバが彼女を選んだのはいくつか理由がある。

 

1つ目はバラキエルにはジェノバ細胞の適性は無かったが、娘には適性があったことだ。

 

恐らく、人と堕天使の混血なのが幸いしたのだろう。

 

さらに2つ目はバラキエル自体が雷光を操るために生み出された天使であったことだろう。

 

存在レベルで雷魔法の扱いに秀でているということは黒のワルツ3号の元の身体と魂に適合する条件の1つだ。

 

そして3つ目はあまり強くないことだ。

 

強すぎてもゲーム自体が面白く無くなってしまう。

 

なのである程度の実力で構わないのだ。

 

例えばオメガは機械であるため強さの設定を自由に弄ることが出来る。

 

ジェノバはそれと同じような機能を黒のワルツ3号の身体にも付けようというのだろう。

 

その最小単位がバラキエルの娘と同等の実力である。

 

「それに"探し者"も見つかりましたしね」

 

「探し物?」

 

「僧侶の行方ですよ。中々、面白いことになりそうでしたよ」

 

ジェノバは近い未来を思い描き、クスリと笑った。

 

「ふむ、よく採血に協力してくれたモノだな。ん?」

 

その時、ジェノバのスカートの中から黒いノートが落ちた。

 

題名は"らぶりー愛妻日記part1 私の愛したサーゼクス様"である。

 

「………………」

 

「………………」

 

ジェノバはいつにも増して造ったような笑顔になると、ソレをそっと拾い上げた。

 

それを見たヤズマットの目は若干冷めていた。

 

「汝…エヌオーの母君を揺すっ」

 

「ちょっとなに言ってるかわからないですね。オーフィスちゃん、出来ましたか?」

 

ジェノバは露骨に話を反らすと最深部の部屋から出て、人間が入るほどのサイズのカプセルが大量に並ぶ部屋に入った。

 

そこではオーフィスが蛇を出したり、消したりと作業をしていた。

 

「ま、まだ…」

 

「早くしてくださいねー。あなたは用意出来ましたか?」

 

「ひッ!?」

 

ジェノバはオーフィスを優しく撫でると、ヤズマットへも催促を促した。

 

「ぬ、待っていろ。今、造る」

 

ヤズマットの両掌に魔法エネルギーの源である自然の魔力(ミスト)が竜巻のように発生し、糸を紡ぐように緩やかに圧縮されると小さな金色の淡い光を放つ2個の塊が出来上がり、それは握り拳ほどサイズに成長した。

 

「出来たぞ、"破魔石"だ」

 

それはヤズマットが創造した膨大なミストの力を秘めた魔石だった。

 

魔石と違ってミストを放出するだけではなく、吸収もできる魔石を越えた魔石だ。

 

本来なら、オキューリアの一部しか製造法を知らないハズだ。

 

しかしヤズマットはオキューリアが創造した森羅万象の神たる竜。製造法を知らない方がおかしいであろう。

 

ちなみに片方は完全な球形で、もう片方の形は黒のワルツ3号が持っていた杖の先の三日月と同じ大きさと形をしている。

 

「これがあなたが言っていた破魔石ですか」

 

ジェノバは球形の破魔石を受け取り、自らの魔力を極々少量だけ流すとスポンジのように吸い込まれた。

 

「おー」

 

「要望通り、多少改良してミストだけでなくこの世界のあらゆる魔力も取り込めるようにしておいたぞ」

 

「凄いですね」

 

ジェノバはふと、どこまで魔力が入るか試してみたくなった。

 

「む? やめた方がよいぞ?」

 

「へ?」

 

既にジェノバはかなりの魔力を流し込んだ後だった。

 

破魔石の色は金色から青色に変わり、激しい光と僅かなジェノバの魔力を放ち始めた。

 

「くッ!?」

 

ヤズマットはジェノバから破魔石を取り上げ、考えた。

 

破魔石は魔力の放出と蓄積が出来る万能なエネルギー源だが1つだけ欠点がある。

 

それは"蓄積量が限界を超えると外に向かって全ての魔力を放出する性質"があることだ。

 

つまり大爆発を起こすのである。

 

さらに最悪なことに、放出される魔力は宇宙でも有数の質を持つジェノバの魔力だ。

 

なぜ最悪かというと魔力には質というものがある。

 

例えば数十年を修行に明け暮れた大魔導士と、見習い魔導士。

 

両者の扱う同じ魔法の威力が同じかと言われれば全く違うであろう。

 

それは一重に魔力の質が見習い魔導士より、大魔導士の方が遥かに良いからだ。

 

要するにガソリンの純度のようなモノである。

 

そして上記の通りジェノバの魔力の質は宇宙有数だ。

 

それが蓄積され、今臨界を迎えている。

 

握り拳ほどの破魔石のサイズから想定される被害は…。

 

 

 

"日本と周辺諸国が消し飛び、アジア海が出来上がる程度だ"

 

 

 

最悪である。

 

ちなみにミストならば精々、この市が消し飛ぶ程度の威力であることからこの異常さがよくわかるであろう。

 

ちなみにタイムリミットは後、7秒といったところだ。

 

ヤズマットは考えた。

 

これをどう処理するのが最も得策かを。

 

そして思いついた。

 

「ジェノバよ! あ、と長く発音しろ!」

 

「あ、ですか? あーーー」

 

ジェノバはあー、と言い始めた。

 

ヤズマットは…。

 

 

 

 

 

"破魔石をジェノバの口へ放り込んだ"

 

 

 

 

 

「あぐッ!? 」

 

ジェノバは反射的に破魔石を呑み込み、ヤズマットは家を覆う結界の消音効果を強めた。

 

「なにするんですカッ!!!?」

 

破魔石を呑み込んだジェノバは言い切る前に、魔力爆発特有の音を上げて体内で破魔石が弾けた。

 

だが、なんと被害ゼロである。

 

強いて言えばジェノバの口からモクモクと青い煙が上がっていることぐらいか。

 

「うむ、助かったな」

「助かってませよ!?」

 

ジェノバは口から破魔石を吐き出した。

 

金色の色に戻っているが淡い光は失われていた。

 

魔力を全て放出してしまったたからだろう。

 

「全く………」

 

ジェノバが微量の魔力を込めると破魔石は元の光を取り戻した。

 

ちなみにこれぐらいの大きさの破魔石を限界に達させるには、100人の魔導士が毎日魔力を注ぎ続けたとして数十年は掛かる。

 

「出来た…」

 

とことことオーフィスがやって来てジェノバに1m程の特大の蛇を持ってきた。

 

このオーフィスの蛇はそのままオーフィスの大蛇と言って、オーフィスの蛇を一定時間毎に量産するモノだ。

 

この大きさなら1ヶ月に1つ程度の増産速度であろう。

 

平たく言えばオーフィスの蛇は、ゲームなどでよくあるステータスを一定時間だけ伸ばし、全回復させるアイテムのようなものだ。

 

………そのステータスの伸びはチート級だが。

 

「そうか、余が渡しておこう」

 

「ん…」

 

ヤズマットに。

 

「汝は本当に怖がられておるな」

 

「別にいいですよーだ」

 

ジェノバは少し口を尖らせながらヤズマットから蛇を受け取った。

 

ジェノバ、ヤズマット、とその後ろに隠れるオーフィス。

 

彼女らは中心部に置かれた手術台に集合した。

 

「さてと………」

 

ジェノバは腕から"僧侶の駒"を取り出した。

 

さらに触手を伸ばすと黒のワルツ3号の遺骸を手術台に寝かせた。

 

これで手術台の上には…。

 

 

 

バラキエルの娘の血液が入った小瓶

 

三日月と球形の破魔石

 

オーフィスの大蛇

 

僧侶の悪魔の駒

 

黒のワルツ3号の遺骸

 

 

この5つが揃っていた。

 

「では」

 

小瓶と僧侶の悪魔の駒を手に取り、破魔石2つ、オーフィスの大蛇、黒のワルツ3号の残骸を触手で持ち、全てをおもむろに掲げた。

 

そしてそれらを…。

 

 

 

"喰った"

 

 

 

全ての材料が刹那の時間で消え、ジェノバの口だけが不自然にもぐもぐと動いているので間違えないだろう。

 

一体どんな圧縮率で入っているのかは不明だが、やがて口の動きが静かになり、ジェノバの喉が鳴った。

 

「ウマッ」

 

「おい」

 

ヤズマットが突っ込むのも至極当然だ。

 

だが変化は直ぐに起きた。

 

ジェノバの翼の先端が膨らみ始め、人が入る程のサイズまで膨張した。

 

それは巨大な赤い木の実のようにも見える。

 

最後に突如として破裂するとそこには、木の実の代わりに一糸纏わぬ姿の少女が生っていた。

 

ジェノバは少女を翼から切り離すと手術台に寝かせ、少女に生える一対の翼を撫でた。

 

それは黒のワルツ3号と同じダークブルーの色をした堕天使の翼だった。

 

髪の色も同じくダークブルー。

 

閉じられてはいるが瞳の色はオレンジレッドだ。

 

ジェノバが写真を取り出した。

 

そこには目の前の少女と髪の色と目の色を覗き、瓜二つの悪魔の少女が写っていた。

 

写真を裏返すと"姫島 朱乃"と書かれている。

 

「うーん、見事」

 

「………説明してくれまいか?」

 

「いいでしょう。私がしたことを順を追って説明します。これらは全て私の体内にて行われたことです」

 

ジェノバは出来栄えに満足しながら言葉を紡いだ。

 

「まず、姫島 朱乃(バラキエルの娘)の血液と黒のワルツ3号の遺骸を合成し、限りなくバラキエルの娘に近いクローンを複製しました。限りなく近いというのは黒のワルツ3号の特徴である髪の色、瞳の色、堕天使の翼色以外です」

 

人の複製創造、2種の生物の合成。

 

それを瞬間的に尚且つ同時にやってのけたということだろう。

 

「1つ違うのは心臓の変わりに破魔石を使ったことです。これで立派な魔導生物ですね。次に破魔石にオーフィスちゃんの蛇を絡み付かせました。これでいざと言う時に使えるでしょう」

 

さらに破魔石にオーフィスの蛇量産機。

 

「そして悪魔の駒を使い悪魔に転生させて終了です」

 

まあ、要するにジェノバが造ったのは…。

 

 

第一形態:雷光の魔導人形

 

第二形態:破魔石を使用(金色の莫大な魔力を纏い、さらに全ての魔法攻撃を吸収する)

 

第三形態:破魔石とオーフィスの蛇を使用(ドス黒いオーフィスの力を纏い、全能力を引き上げる)

 

最終形態:破魔石とオーフィスの蛇とジェノバ細胞を使用(怪物へと変体)

 

 

黒のワルツ3号をベースにした四連戦のボスキャラの創造だった。

 

「なるほど…」

 

「………?」

 

「おや? オーフィスちゃんはわかりませんか。まあ、要するに…」

 

ジェノバは見惚れるような微笑みを浮かべながら悪戯っぽく言った。

 

 

 

 

 

 

「"グラフィックの使い回しのようなものですよ"」

 

 

 

 

 

 

無論、ジェノバの悪戯が直撃するのは他ならぬ彼であることを忘れてはならない。

 

ジェノバは更に、翼に生り始めたとんがり帽子、黒のワルツ3号の白いズボンとオックスフォードブルーの服、そして三日月状の破魔石のついた長杖の収穫を始めた。

 

 

 

 

 

 

 




クローン? ははは何をご冗談を…。

FFにはよくあるグラフィックの使い回しですよ。

クレイクロウ並の超上位個体ですけどね。


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飛将と魔導士………あと忍者

どうもちゅーに菌or病魔です。

早く、原作に入りたいです…。

でもまだシンラくんの一大イベントがあるのでそれからです。


突然だが、我が家の朝食はジェノバさんが作る。

 

いや、朝食だけに留まらず食事は全てジェノバさんが作っているのだが、今は朝食中なので朝食の話で良いであろう。

 

しかし、作られるだけでは忍びないので私も手伝うことにしているのである。

 

まあ、手伝うと言っても炊飯器からご飯をよそったりする程度なのだが、今日も例に漏れずそうしている。

 

まずジェノバさん。と、言いたいところだが相変わらず食事は取らないようなのでジェノバさんは無し。

 

次にオーフィスちゃん。言うまでもなく特盛。

 

「ありがとう」

 

うむ、いい返事だ。食事の時は一段の輝いて見えるよ君。

 

その次にヤズさん。特盛…と。

 

「うむ」

 

ちなみにヤズさんはジェノバさんと同じく食べなくても問題ないらしい。

 

だが、食事は好きらしくいつも取っている。

 

好きなもの肉や魚等の料理で、良く食べる。

 

逆に野菜中心のは苦手なようだ。

 

今日はニンジン食べて下さいね?

 

「むう…善処する…」

 

と言いつつ恨みがましい目で目玉焼きの横のニンジンを睨み付けるヤズさん。

 

なんだこの絵面…。

 

え? 昔のオーフィスちゃんも食べなくても生きていける?

 

嘘だ。この前、オーフィスちゃんが最後にとって置いたショートケーキのイチゴを私の皿だと勘違いした奉先に食われた時、部屋の隅で膝抱えて拗ねてたんだぞ?

 

私の皿のイチゴをオーフィスちゃんにあげることで事なきを得たがな。

 

ちなみにオーフィスちゃん曰くショートケーキのイチゴは…。

 

『まさにオアシス』

 

とイチゴを掲げながら言っていた。

 

意味がわからん。

 

後は黒装束の女忍者。この人は大きいのでとりあえず大盛りにしておこう。

 

忍者は音に敏感かも知れないのでそっとご飯茶碗を置いた。

 

「………………」

 

コクりと頭を傾けられた。

 

ありがとうという意思表示と受け取っておこう。

 

ただし、マスクは取ってから食べるべし。

 

最後に黒のワルツ3号風の魔女っ娘。

 

なんだからわからんが残さ無いようにとりあえず普通に盛っておこう。

 

「あ、ありがとうございます…。だ、旦那様…」

 

うむ、そんなに頬を染めてどうした? 風邪か?

 

これが俺の数少ない家の役目なのだから畏まる必要は無いぞ。

 

あ、私のも盛らなければな。普通、普通っと…。

 

………………………………。

………………………。

………………。

………。

 

さて………そろそろ突っ込むか。

 

 

 

 

 

 

 

 

お・ま・え・ら・は・だ・れ・だ

 

 

 

 

 

 

 

私はビシッと忍者と魔女っ娘を指差しながら宣言した。

 

「今更ですか…」

 

ジェノバさんは目を見開いて驚いていた。

 

ふっふっふ、人…いや悪魔は成長するものだよジェノバさん。

 

朝起きたら、両サイドに忍者と魔女っ娘が寝ているという展開にあったとしてもだ!

 

似たような展開は既に3度目なのだよ!

 

 

1度目、ジェノバさん。

 

2度目、ヤズさん。

 

3度目、忍者+魔女っ娘。

 

 

「シンラさん…どんどんスルースキルが高くなって来ましたね…」

 

誰のせいですか誰の…。

 

ちなみにオーフィスちゃんは私の下半身に覆い被さってた。

 

というか胸が完全に朝の私のシンボルを押し潰していた。

 

ある意味こっちの方がビビったのはナイショである。

 

「何食わぬ顔で4人一緒に寝室から降りて来た時はビックリしましたよ」

 

突っ込んだら負けですからね。

 

「くッ!? ならば今度は…ふふふ…」

 

ジェノバさんが黒い笑みを浮かべていた。

 

………素直に驚いときゃ良かった…。

 

「ちょっと話しは長くなりますけど説明しますね。あ、その前に一服させてください」

 

ジェノバはスカートからおもむろに箱を取り出すとそこから一本とりだし、口に加えた。

 

その箱にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

"ブルーベリーシガレット"

 

 

 

 

 

………………………これは突っ込めば良いのだろうか?

 

いや、ネタなのだろうか?

 

そもそもネタだとしたらなぜこんな今時の人間が知らないようなネタを放り込んで来たのだろうか?

 

ジェノバさんとは一体………うごごごご。

 

それを見かねてかヤズさんが目を瞑り、唸り声を上げてから重い口を開いた。

 

 

 

 

 

「どれも捨てがたいが…余はオレンジシガレット派だ」

 

 

 

 

 

全くどうでも良かった…。

 

「我、コーラ」

 

お前もかオーフィスちゃん…。

 

………………………。

 

シガレットならココアシガレットだろ。

 

「それはない(な)(ですね)」

 

なんで!?

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

そんなこんな食事がてらジェノバさんから2人のことを聞いた。

 

要約するとこんな感じだ。

 

オメガと黒のワルツ3号拾ったよ!

 

改造したよ!

 

以上説明終了。

 

ふふ、この忍者が殺戮兵器で、黒のワルツ3号コスが魔導人形だと?

 

そんな馬鹿な…いや、しかしジェノバさんならやりかねない……ん? あれ?

 

オメガ…ちゃんはどこに?

 

気がつくとオメガちゃんはどこにも見当たらなかった。

 

「忍んでるんですよ」

 

え? 忍ぶ?

 

ジェノバさんは深い溜め息をついてから口を開いた。

 

 

 

 

 

「"忍ばない忍なんて………忍びじゃないでしょう?"」

 

 

 

 

 

………………………………………確かに。

 

「食事にはやって来るので大丈夫ですよ」

 

そ、そうなんだ…。

 

「シンラー、カラオケ行くわよー」

 

リビングの窓から靴を持って奉先が侵入して来た。

 

お前はカツオの友達か…。

 

するとそれまで静観していたか黒のワルツ3号が、オレンジレッドの瞳を吊り上げ奉先を睨み付けた。

 

「………………」

 

「なによ…?」

 

「フンッ…」

 

黒のワルツ3号は鼻息を上げ、嘲笑うと口を開いた。

 

「なにかと思えばただの小娘か」

 

うわぁ…この見下し切った態度。

 

「はあ…?」

 

「主の女がどんな女かと思えば………貴様などこの黒のワルツの敵ではないわ!」

 

本当に3号さんじゃないですか…。

 

「なんですって…?」

 

あ、奉先がキレた。

 

奉先…物理的な勝負事の沸点は無茶苦茶低いからな。

 

「魔術師とかいうチキンに言われるとは心外ね」

 

「ほう…貴様のような脳筋に魔術師のなにがわかる?」

 

「あら? 前衛に隠れて後衛で細々としている臆病者でしょう?」

 

「フンッ、前衛で武器をブンブン振るうだけの簡単なお仕事をしている者は脳まで簡略化されていると見えるな」

 

「あはははは!」

 

「カカカカカ!」

 

2人はイイ笑顔で笑い合った。

 

「殺す!」

 

「始末してやる!」

 

2人は庭に出て行った。

 

俺が呆けるならジェノバさんが口を開き、それに残りの竜が続いた。

 

「いやー、早くも仲良くなって良かったですね」

 

「うむ」

 

「ん…」

 

どこが!?

 

「好きの反対は無関心です。嫌うという感情でも持ってれば対抗心や、ライバル心を引き立てるモノですよ。それは能力の向上に非常に有効です」

 

「親睦を深めるには拳を交えるのが一番であろう?」

 

「我とグレートレッド、最初いがみ合ってた。でも今、親友」

 

アッハイ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

人の庭のど真ん中で2つの影が50mほどの距離を開けて対峙していた。

 

片方は現代に再臨した人間最強の将兵、呂布 奉先。

 

もう片方は肉体の限界まで改造が施された究極の魔導兵器、黒のワルツ3号。

 

両者は常人が見れば泡を吹いて気絶するほどの殺気の籠った視線をぶつけ合っていた。

 

「私の何が気に入らないのよ?」

 

「全てだ! ブレイズ!」

 

呪文と共に奉先は横へ飛ぶと奉先がいた場所が凍りついていた。

 

「いきなり不意討ちとは流石魔術師ね!」

 

奉先は足の裏に気を纏わせると車輪が回転するように気を渦巻かせた。

 

縮地と呼ばれる高等仙術の歩行法だ。

 

これにより足が動いていないのにも関わらず滑るような超高速移動が可能なのである。

 

さらに気を体得していない者には一切、次の動きが読めない。

 

ただ、欠点もある。

 

それは極めて高度で精密な気の操作が必要なため、普通は直進するのがやっとなのだ。

 

だが、奉先は普通ではない。

 

奉先は縮地により、両足を揃えて寄り掛かるような体勢のまま黒のワルツ3号の周囲を高速回転し始めた。

 

黒のワルツ3号の目からすると周囲に数人の奉先が絶えず瞬間移動を続けているように見えるだろう。

 

ちなみにこの動きが影分身というモノの正体だったりする。

 

「小癪な!」

 

黒のワルツ3号は杖を持っていない掌を上に向けると小さな雷光の球体が出現し、それが弾けた。

 

「サンダガ!」

 

瞬間、半径100m程の空間全てに隙間なく極太の雷光が埋め尽くした。

 

そして雷光の嵐が止むと…。

 

黒のワルツ3号の目の前に蹴り上げの体勢に入っている奉先がいた。

 

「なに!?」

 

「ざんねーん。ディロイさんのサンダガと違って隙間があるわよ?」

 

ディロイとはドライグやアルビオン同様に2ヘッドドラゴンの名前である。

 

赤龍帝や白龍皇のように2ヘッドドラゴンは黄の龍(ゲルブ・ドラゴン)と呼ばれ、異名は黄龍王だ。

 

実は二天龍以上の実力を持つ現存する唯一のドラゴンなどと世界では吟われていたりするかなり凄い竜なのだ。

 

ちなみに奉先の言う通り、2ヘッドドラゴンのサンダガなら半径数kmの空間全てを完全に隙間なく埋める範囲殲滅攻撃も可能である。

 

………次元の狭間では下から数えた方が早い実力なのは内緒だ。

 

「くッ!?」

 

黒のワルツ3号は杖を振るって奉先を殴り付けようとした。

 

「遅い!」

 

「ぐぁ!?」

 

だが、流れるような動作で奉先それを避け、放たれたカウンターキックにより綺麗に顎を蹴り抜かれた黒のワルツ3号は十数mほど打ち上げられると空中で回転してから停止し、奉先を睨み付けた。

 

「貴様…」

 

「あら? 思ったより随分頑丈なのね?」

 

「ナメるな! サンダガ!」

 

黒のワルツ3号は空中で雷光を発生させた。

 

それも10のサンダガを同時にだ。

 

「バカの1つ覚えね…え!?」

 

それの全てを黒のワルツ3号は自らにぶつけた。

 

「ッ!?」

 

爆音を響かせながら黒のワルツ3号の身体が雷光に焼かれながら輝いた。

 

黒のワルツ3号は身体に直接雷光を帯電さているのだ。

 

正気の沙汰ではない。

 

一定なら魔力で造られた雷を纏ったりすることは可能だ。

 

だが、黒のワルツ3号の身体に対してこの量では普通の悪魔どころか最上級悪魔すらただでは済まないだろう。

 

さらに雷だけでも異常だというのに雷光は悪魔に特効ダメージを与えるモノだ。

 

だが、黒のワルツ3号もまた普通では無かった。

 

常軌を逸した激痛を耐えきり、黒のワルツ3号の身体は凄まじい量の雷光を溜め込み終わり、バチバチと一撃一撃が竜すらも焼き殺せるほどの電気を放っていた。

 

「………死ぬわよ私?」

 

「ならば死ねい!」

 

黒のワルツ3号は奉先に滑空しながら突っ込んだ。

 

「……はぁ…そっちがその気なら…」

 

奉先は亜空間から方天画戟を取り出し、切っ先を黒のワルツ3号に向けた。

 

更に奉先から緑の半透明の気が溢れだし、一帯を緑に染めた。

 

それは仙人と呼ばれる人間数百人に相当するあまりにも莫大な気だった。

 

気は生命そのものであり、この世で最も純粋なエネルギーだ。

 

それは最強の盾であり、剣でもある。

 

今の奉先はまさに究極の牙城だった。

 

「来なさい!」

 

「望むところだ!」

 

黒のワルツ3号と奉先が衝突するその刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

"ブチッ"という何かがキレる音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、2人の注意がそちらに向いた。

 

すると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"目の前に無表情で両腕を振り上げている彼がいた"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ以上家の庭を…」

 

既に庭のど真ん中が土が剥き出しの更地になっていた。

 

彼女たちの速度が億劫に見えるほど凄まじい速度で彼女らの後頭部にそれぞれ回る手をスローモーションのように彼女たちは見ていた。

 

「母さんが植えた花を…」

 

よくみると彼女たちの近くにはギリギリ破壊を免れた小さな花壇があった。

 

だか、恐らく彼女ら次の戦闘の余波で潰れていたであろう。

 

彼は彼女らの頭を掴んだ。

 

方や雷光を帯電、方や気の牙城と化してた。

 

が、それをものともせずにだ。

 

「ぶっ壊すなぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

彼に捕まれた2人の頭が凄まじい速度で衝突し、その衝撃波により地面に大きく亀裂が入り、空の雲が割れた。

 

捕まれた2人は出鱈目すぎる衝撃により、即昏倒した。

 

 

 

 

 

 

 

呂布 奉先 VS 黒のワルツ3号

 

勝者 神城 羅市

 

 

 

 

 

 

 

 

 




忘れてはならない。

魔力は封印されていてもシンラくんはサーゼクスとグレイフィアさんの息子(悪魔究極のハイブリッド)であることを。


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死を超越するもの(CV:石田太郎)

どうもちゅーに菌or病魔です。




 

 

とあるメイドがジェノバに姫島 朱乃の血液を渡した直後のとある夫婦の会話。

 

 

 

「サーゼクス様…」

 

「どうしたんだいグレイフィア? 随分、窶れたように見えるけど…」

 

「わ、私は悪魔に魂を売りました…」

 

「!? 落ち着くんだグレイフィア。君が悪魔だろう?(どうしてだろう? いつもよりグレイフィアが可愛く見える)」

 

「うぅ…サーゼクス様ぁ…」

 

「グレイフィア!? 突然、抱き着いてどうしたんだい?(役得キター!)」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

庭での喧嘩を止めた後、カラオケボックスにていつもと違う光景が繰り広げられている。

 

それは奉先と黒のワルツ3号のカラオケの採点バトルだ。

 

仲が悪いのか良いのかサッパリわからん…。

 

ちなみに10戦中、奉先が7勝で黒のワルツ3号が3勝である。

 

 

天ノ弱

 

呂布 奉先

98.564点

 

黒のワルツ3号

98.578点

 

「フッ、どうやら私の方が上のようだな」

 

「なんでなの採点機!?」

 

「私はジェノバ(母さん)によって歌の才能をつけられているからな」

 

レベル高過ぎだろ…。

 

それでも奉先が勝つあたり、やはり奉先は歌が上手いな。

 

これで7対4か。

 

ん?

 

隣にいるオーフィスちゃんがちょいちょいと袖を引っ張って来た。

 

「歌、好き?」

 

私は聞き専門だからな、聞くのは好きだ。

 

「なら………我の歌、聞く?」

 

オーフィスちゃんは少し頬を赤らめながら聞いてきた。

 

なぬ? オーフィスちゃんの歌?

 

「ん…」

 

オーフィスちゃんは曲を入力してから立ち上がると黒のワルツ3号からマイクを借り、両手で構えた。

 

 

 

 

 

初音ミクの消失

 

オーフィス

100.000点

 

 

「は…?」

 

「バカな…」

 

初音ミクの消失+小数点3桁の採点機で100点だと………こ、これが無限の龍神の力か…。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

朝起きると私に抱き着くオーフィスちゃんの寝顔が広がり、次に背中の柔らかい感触に気づいた。

 

背中に抱き着いているのは多分、オメガちゃんであろう。

 

最後に部屋の窓の前辺りに気配を感じた。

 

しかも丁度、朝日を遮る位置に何かがいるようで私に対する日差しを完全にシャットアウトしているようだ。

 

またか…。

 

私はこれまでを思い出した。

 

青い宇宙人のジェノバさん。

 

進化元は幼女のオーフィスちゃん。

 

ポンチョのヤズさん

 

メカ忍者のオメガちゃん。

 

魔女っ娘の黒のワルツ3号。

 

なぜ君たちは皆、寝起きドッキリを仕掛けてくるのだ…。

 

私へのドッキリはあれか? 家に入るための儀式か何かなのか?

 

だが、何度も喰らえば直感でわかるようになる。

 

コイツは私の知らない新しい奴だ。

 

だが、どんなモノが来ようと寝起きドッキリの悟りを開いた私の前には無意味!

 

私は身体を起こすと窓の前に立つ者を見た。

そこにはどこぞの世紀末覇王のような体格に、華美な装飾のされた肌の一切見えない水色のフルプレートアーマーと、薄水色のマントを纏い、金色の大剣を杖のように扱っている人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しいな小僧。といっても覚えておらんか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"エクスデス"先生が立っておられました。

 

………………………………………ファ

………………………………ファ

………………………ファ

………………ファ

………ファ!?

 

アリだー!

 

あ、違うエクスデス先生だー!!!?

 

「ふっふっふ…驚きましたねシンラさん」

 

抱き着いているオーフィスちゃんがジェノバさんのような口調で喋り掛けてきた。

 

こ、こいつ……。

 

ただのオーフィスちゃんじゃないな!

 

正体を見せろー!

 

「ドゥハハハハ、俺様はシンラ様の専属メイドのジェノバ様よ!」

 

変身! という掛け声と共にオーフィスちゃんの姿が解け、割烹着姿のジェノバさんが抱き着いていた。

 

くっ…ジェノバさんの擬態に騙されるとは…私はまだ悟りにはほど遠かったということか…。

 

「………………そろそろよいか?」

 

アッハイ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『粗茶です』

 

「うむ」

 

エクスデス先生はリビングの椅子に腰掛けながらジェノバさんから湯呑みを受けとり、啜っていた。

 

………フルプレートアーマー着たまま普通に飲んでるのだが一体どういう仕組みなんだ?

 

「小僧」

 

はい?

 

「その様子ではわしのことはグレイフィアから聞いていないようだな?」

 

母さんから?

 

「ならばそれで良いのだ。一先ずグレイフィアが来るまで待つとするか」

 

………………なんかよくわからんがとりあえず母さんに電話でもしとくか。

 

そういえば今日母さんが帰ってくるって数日前に言っていたな。

 

スマホを取り出しながらふと気がついた。

 

そういえば昨日はアホ緑と魔女コス(奉先と黒のワルツ3号)のせいで芝生が消し飛んだり、クレーターが出来たり、地割れが起きたりしたからなあ…。

 

母さんが見たらなんて言うだろうと思いながら庭を見ると…。

 

 

 

 

"ガシャガシャ音を立てながら庭中を忙しく動き回るキャリーアーマーがいた"

 

 

 

 

………………………ふぅ…。

 

ジェノバさん? ジェノバさーん!?

 

『はーい、こちらキッチンのジェノバです』

 

アレは何ですか?

 

私はビシッと庭でガシャガシャ動き続けるキャリーアーマーを指差した。

 

『あー、アレですか…えーと…』

 

ジェノバは唇に人差し指を置いて上を見上げた。

 

すると頭の上に電球が出たような表情になり、手をポンと打ってから呟いた。

 

 

 

 

 

『"最新型のルンバです"』

 

 

 

 

 

 

そうか…米国のアイロボット社はついにルンバにラピスレーザーとアームキャッチ機能を追加したのか…。

 

流石アメリカ、世界経済の中心は凄いなあ…銃社会の防犯機能はそれぐらい必要なのかー。

 

凄いぞアメリカ! ビバアメリカ! 一家に一台キャリーアーマー!

 

………………なわけあるかァッ!?

 

『おお、シンラさん。流石の母親譲りの乗りツッコミですね』

 

………もう青色は懲り懲りだ…。

 

なんで朝の時点で3体も目に優しくない青系色を見なければならないんだ…。

 

ジェノバさんなんて黄色になってしまえ!

 

「ジェノバよ。シンラを弄り過ぎたせいで妙なことを口走り始めたではないか」

 

日課の朝シャンを済ませたヤズさんがリビングに入って来た。

 

無論、"青が中心色"のポンチョを着ている。

 

『大丈夫ですよ。いつものことですし』

 

………なんかジェノバさんに酷いこと言われた気がする…。

 

「だ、大丈夫ですか? 主」

 

オックスフォード"ブルー"の服装をしている黒のワルツ3号が話し掛けてきた。

 

そういえば思って見てみるとオーフィスちゃんは"水色"のパジャマを着ていた。

 

………………青率高いな。

 

そうだ…母さんに電話しなければ…と思いながら、ふとエクスデス先生をみると茶菓子の羊羮(ジェノバさん作)を一本丸ごと食べていた。

 

よく見るとヘルムの口元につく寸前に羊羮の先が突如として消え、残った羊羮に綺麗な歯並びの歯形がついていた。

 

………これが"無"の力か…。

 

私は羊羮をかじる(?)エクスデス先生と、それを羨ましそうに眺めるオーフィスちゃんから視線をスマホに戻すと母さんに電話を掛けた。

 

『はい』

 

あ、母さん。

 

『どうかしましたか?』

 

エクスデスせ…さんっていう人が家に来たんだけど知り合…。

 

『ブツンッ………ツー…ツー…ツー…』

 

………………なんか一方的に切られた。

 

いつもの母さんからは想像できない行為に暫く、鳩が豆鉄砲食らったような状態に陥っているとリビングのドアが開いた。

 

「羅市!」

 

声と名前の呼び方でわかる。

 

私のことを正しい下の名前で呼ぶ人間は母さんただ一人だ。

 

俺はこの魔境に救世主(マトモな人)がやって来たことを内心歓喜しながら見た。

 

が、どうやら私に救いは無いということを思い知らされる結果になった。

 

えーと………母さん?

 

「なんですか?」

 

なんで…。

 

 

 

 

"メイド服"なんだ?

 

 

 

 

「あ………」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

その後、母さんから悪魔について様々な眉唾話を聞かされた。

 

だが、正直に言おう。

 

既にジェノバさんという凄まじい物体を毎日相手にしているわけで、悪魔の駒だの、レーティングゲームだの、グレモリー家だの、ルキフグス家だのとか言う話はどうでもいい。

 

いや、どうでも良くないが普通に受け入れられる。

 

しかしだ………。

 

そもそもの話、母さんがメイド服を着ている時点で全ての話が全く入ってこない。

 

"母親がメイドだった"

 

果たしてこの日本でこれを急に受け入れられる人間はどの程度いるのであろうか?

 

そもそも日本人からすればメイドとは秋葉原や、その他大都市近辺に店を構え、入って来た客をご主人様と呼びにゃんにゃんする仕事であろう。

 

奉先に連れていかれたからよく知っている。

 

というか奉先もたまに着ているしな。

 

正しい本物のメイド? そんな馴染みの無いモノ知るか。

 

え? ジェノバさん? あれはメイドのような何かだろ。

 

『なんでしょう? 今とても酷いことを言われた気がします』

 

………………………母さんが笑顔でそんなことしている姿を想像すると脳が拒絶反応を起こすのだが…。

 

母さんもまたマトモでは無かったということか…。

 

私に安息の地は無いのか…。

 

私の呟きに反応してか、ジェノバさんが肩に手を置いてきた。

 

『約束の地ならありますよ』

 

………………………………………そうですか。

 

ふふふ…そうだ…メイド服がなんだ…母さんは母さんじゃないか。

 

私はゆらゆらと母さんに向かうと呼吸を整えてから口を開いた。

 

例え母さんにメイド趣味があったとしても良い! だって私のたった一人の母さんだ!

 

例え母さんが如何わしい商売で金を稼いでいたとしても構わない! それでも私の尊敬する人だから!

 

たが………少なくともこの日本では…。

 

 

 

 

 

"歳を考えてくれ!"

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

頭の痛みと共に俺は目が醒めた。

 

「………………」

 

目を開けると一面の黒が広がっていた。

 

よく見るとこちらを上から覗き込むオメガちゃんの顔が見える。

 

オメガちゃんに視線を合わせながら身体を起こすと、オメガちゃんに膝枕をされていたことがわかった。

 

とりあえずありがとうと言っておくと、オメガちゃんは2ミリほど口角を上げ、一礼してから突如として消えた。

 

どこまで忍者精神が染み着いているのか多少心配になっていると"珍しく柔らかい笑顔をしながら黒のカーディガンに青いジーパン風のスカートを履いた"母さんと目が合った。

 

母さんの話によると私は椅子から落ちて気を失ったらしい。

 

………………?

 

なんだか顎に強烈なサマーソルトを誰かから受けたような気がするのだが……気のせいですかそうですか。

 

というか天井に空いている人が入れそうな穴は一体…?

 

いや、そんなことより何かとっても大切なことを忘れているような…。

 

確かめで始まる言葉だったような…め…め…冥土?

 

………一体なんのことだったのだろうか? いや、忘れるような事なら大したことではないだろう。

 

ん?

 

視界に緑の頭が目に入った。

 

まさかと思ったがやはり奉先だった。

 

目が合うと投げキッスしてからウィンクされた。

 

とりあえず手で投げキッスを叩き落とす動作をしておくと奉先はいけずー! とよくわからないことを言い出したので無視しておいた。

 

「サーゼクスは良いのか?」

 

「はい」

 

「そうか…」

 

エクスデス先生は椅子から立ち上がると他の全員が見える位置に移動した。

 

その風格は流石はラスボスと言ったところだ。

 

「これより次元の狭間の王の言葉をしかと受け止めるがいい、神城 羅市。真の名を"エヌオー・ルキフグス"」

 

これよりエクスデス先生から語られることは私の真実だった。

 

 

 

 

 




ハイスクールD×Dで次元の狭間っていうモノを見て以来、いつかエクスデス先生とのコラボを夢見ていたんだ…。


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1秒の話

やあ、ちゅーに菌or病魔です。

わりと投稿が遅れましたごめんなさい。

まあ、仕方ないですよ。

今回の話は書くのに苦労しましたし、それに…。


"ドラゴンクエストモンスターズ2
イルとルカの不思議なふしぎな鍵"


が3DSで2月6日に出ちゃいましたもん。

現在、78時間プレイしてます。

作者は特定のゲームに対して廃プレイヤーなのでそれが発売されると極端に小説投稿速度が落ちるのでご了承下さい。

次の確実に投稿速度が落ちるのはソウル・サクリファイス デルタ


そ・し・て………。



"ダークソウル2"です!!!!!!



遂に遂に遂に遂に発売です!

いやー、正直PS3持っててデモンソウルとダークソウルやっていない人は人生損していますよマジで。

ニコニコ動画でもとっても動画が面白いですし、なによりデモンソウルとダークソウルの所見プレイが出来るなんて羨ましい限りですよ。

いや、本当に記憶消してやり直したいです。

さらに言えば!





【くどいので削除されました】













 

 

エクスデスが言葉を紡ぐ少し前。

 

ジェノバはエクスデスに御茶を手渡していた。

 

「粗茶です」

 

「すまぬな」

 

その瞬間、確かに指先が手甲に触れ、ジェノバは内心で口の端を吊り上げた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

今より遥か過去。

 

英雄らと大魔王の"最後の戦い"が繰り広げられた。

 

その死闘の果てに大魔王は敗北し、自身の"無"の力に呑み込まれ、"無"の化神と化した。

 

英雄らはそれさえも倒し世界を再び平穏に導いた。

 

だが…。

 

 

 

 

 

"大魔王(エクスデス)は死していなかった"

 

 

 

 

 

"無"の力がエクスデスを生かしたのか?

 

それか不死身の身体が役立ったのか?

 

はたまた人の憎悪が再び蘇らせたのか?

 

もしくはそれら全てが奇跡を起こしたのか?

 

今となっては知るよしもないが、1つ確かなことはエクスデスは完全消滅から1000年の時を経て再臨したということだ。

 

見慣れたムーアの大森林の中でエクスデスは考えた。

 

"無"とは一体、何なのか?

 

それはエクスデスにとって世界征服よりも遥かに重要なことであった。

 

当初は世界最強の力程度の認識であったが、そんな生温いものではない。

 

そもそも暴走し、自らを呑み込んだ筈の"無"がなぜ未だにエクスデスの中にあるのか?

 

エクスデスは自嘲気味に笑った。

 

自分の力すら正体不明な状況では到底世界の王などと呼べたものではない。

 

故にエクスデスは最強の暗黒魔導士として"無"を知ることにしたのである。

 

エクスデスは研究に次ぐ研究を重ねた。

 

そして数十、数百、数千年が経過し、万の月日が過ぎようとした頃にはエクスデスの"無"の力も昔と比べ物にならないほど強大になっていた。

 

"光と闇の果て"にて、過去に世界を滅ぼし掛けた伝説の暗黒魔導士にして真の"無"の使い手である"エヌオー"を撃破し、エクスデスの"無"は究極へと近づき、同時に"無"の全容を理解したのだ。

 

真の"無"の使い手となったエクスデスだったが、それだけでは当然留まらなかった。

 

無論、"無"を使いたいという衝動である。

 

だが、次元の狭間で純粋に強い連中などしんりゅう(オーフィス)とオメガぐらいであろう。

 

正直、"無"を相手にするには完全に役不足だ。

 

そこでエクスデスは思い付いた。

 

 

 

 

"数多の次元最強の存在ならば我が無の相手になるのではないか?"

 

 

 

そう考えたエクスデスの行動は早かった。

 

まず1つに戻っていたクリスタルを再び二分した。

 

次元の狭間が残っていたことからもわかるように完全な1つのクリスタルに戻っていたわけではないため、それは容易に可能だった。

 

ただ、昔と違うのは分離させた種族の違いだろう。

 

エクスデスは世界を人間の住む世界と、魔物の住む世界に完全に分けたのだ。

 

さらに魔物の住む世界で異種による魔物同士の潰し合いを防ぐために世界を三分した。

 

最初に造られた世界は海の無い、地と自然の世界。

 

次に造られた世界は地の無い、海と空の世界。

 

そして、最後に残った闇と死の世界。

 

それらに分離させた過程でできた世界と世界のスキマに次元の狭間を押し広げることで、以前の数倍の空間を造ることに成功した。

 

そして、エクスデスは"無"の力で…。

 

 

 

 

 

"強い存在がいると思われる時空ごと切り取り、次元の狭間に定着させたのだ"

 

 

 

 

 

とんでもないゴリ押しである。

 

が、当たり前のように成功してしまうから"無"とは恐ろしい。

 

エクスデスは数々の異世界最強の魔物(モンスター)と戦った。

 

最強の恐竜。

 

竜の皇帝。

 

駄菓子屋の一番クジの目玉景品。

 

究極の合成屋。

 

数多の召喚獣。

 

最悪の巨大兵器。

 

聖天使。

 

戒律王。

 

最強の神造神竜。

 

あと、ラヴォス。

 

上げるだけでもキリがない程のありとあらゆる至高の存在と正面から対峙し、その全てに勝利した。

 

理性のあるモノは配下に加え、次元の狭間に住みかとしてその空間を残し、従わないモノは異世界ごと抹消したのだ。

 

勝ち続けること数十万戦、時間にして数万年が経過した頃。

 

世界はいつの間にか変化し、いつの間にか世界には呼び名が付いていた。

 

それは…。

 

 

 

 

 

人の住む世界は"人間界"

 

 

 

海の無い、地と自然の世界は"冥界"

 

 

 

地の無い、海と空の世界は"天界"

 

 

 

そして、闇と死の世界は"冥府"

 

 

 

 

世界はクリスタルを礎に4つの世界として絶妙なバランスを持って成り立っていたのだ。

 

さらに人間、悪魔、天使、堕天使、死神といった種族がそれぞれ組織化した力を持ち、世界の実質的な支配者となっていた。

 

"死神のトップこそエクスデスの配下の者"だが、それは奇跡のようなものだった。

 

そして…エクスデスは確信した。

 

今こそ再び自らが動き、かつてエクスデスが求めた世界と同じように狂おしくも美しい世界の永劫の王となろうと。

 

エクスデスは世界全てに対して歓喜とも嘲笑とも取れる笑い声を上げながら、本来の目的である世界征服に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

征服にあたりまさかの事態が発生した。

 

それは…。

 

"エクスデス自身があまりにも強すぎたことだ"

 

元来、大魔王様は実力に見合うだけの強さ、あるいは1%でも勝てる望みのある勇者や英雄がいるからそれを危険分子と判断し、対抗策を用意したりするのである。

 

無論、エクスデスもそういった類いの大魔王だ。

 

しかし、今のエクスデスの状態をジェノバ(ゲーム)的に説明するのなら…。

 

"自力でステータスをカンストさせ、苦労に苦労を重ね遂に最強武器、防具、アクセサリを入手したのに戦える強ボスがどこにもいなかった状態である"

 

現実は非情だった。

 

"無"以前に指先から発された呪文ですら軍団は壊滅し、組織のトップすら余裕で倒せる始末。

 

いや、昔のエクスデスならそれでも良かったであろう。

 

世界征服自体が目的だったのだから。

 

だが、今のエクスデスは違う。

 

バッツらに敗北し、長い年月を掛けて真の"無"に至り、強大なる敵を討ち滅ぼし続けたことで自分ですら気づかぬ間に心踊る戦いを求めるようになっていたからだ。

 

過程だったモノが目的へと変異していたことに最も驚いたのはエクスデス自身であった。

 

だが、理解した瞬間、エクスデスの世界は急激に色褪せた。

 

それからのエクスデスは征服を止め、脱け殻のように無駄に日々を過ごした。

 

生涯全てを掛けた目的が意味の無いモノに変わってしまったのだからそれも当然だろう。

 

要するにエクスデスは完全に燃え尽き症候群に陥ってしまったのだ。

 

そんなある日。

 

次元の狭間にあるエクスデスの居城の1つである"次元城"に配下であるオーフィスが見慣れないモノを抱きながら現れた。

 

それは悪魔の赤子だった。

 

オーフィスの話によればその悪魔の赤子は偶然、オーフィスに拾われた戦争孤児らしい。

 

エクスデスはオーフィスに二度と拾って来るでないと念を押し、手に"無"を纏わせると赤子を消滅させるため手を伸ばした。

 

が、途中でその手は止まった。

 

その赤子にはそれなりの魔法の才能があることを見抜いたからだ。

 

それは少なくとも冥界で魔王などと自らを呼ばせている連中を軽く凌駕していた。

エクスデスは未に言葉すらまともに話せず、無邪気に笑う赤子を見下ろしながら、ふと面白そうな暇潰しを思いついた。

 

その掌にエクスデス自身の"無"ではなく、エヌオーの"無"の断片を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数年後、冥界にルシファーの右腕として数多の堕天使と天使を討ち取る将兵がいた。

 

戦場にて突如として頭角を現したその悪魔は、初陣にて圧倒的な殲滅能力を持つ古代魔法で数千の軍勢をただの1人で壊滅させ、"無"の力で四大熾天使が1人のウリエルを討ち取る功績を上げた。

 

そのことにより、番外の悪魔として72柱の一桁に並ぶ程の地位をルシファーに与えられ、さらに凄まじい名声を我が物としていた。

 

同時にその悪魔は地位を与えられたことに恩義を感じ、生涯ルシファーに使える事を約束した。

 

その悪魔の名を"ルキフグス"と言った。

 

 

 

 

 

 

『そこまでにしておけ』

 

 

 

 

 

 

ジェノバさんは更に時を読もうとするが、途中でジェノバの精神世界に立っている人物にそれを阻まれた。

 

それはジェノバが今まで記憶を見ていたエクスデス本人に他ならなかった。

 

エクスデスはジェノバの精神世界に直接入ることでジェノバの記憶を詠む能力を強制的に停止させたのだ。

 

『チッ…流石は宇宙最悪の力ですね。これからが良いところでしたのに…』

 

ジェノバはエクスデスの"無"に対して悪態をついた。

 

ジェノバは"無"に対してよく思っていない。

 

よって様々な力を星ごと取り込んでいるジェノバすら"無"の力にだけは手を出していない。

 

恐らく今後、ジェノバが"無"に手をつけることは無いであろう。

 

それというのもジェノバが"無"というものが一体、なんであるかを知っているからに他ならない。

 

"無"とはそもそも宇宙の誕生の瞬間に発生した原初の力だ。

 

全宇宙を形作った力であり、全ての宇宙を今も尚、造り続け、全ての銀河、星々、生物、無生物、森羅万象ありとあらゆるモノの最も原初の"1"の力なのである。

 

だが、逆に宇宙が出来る前にそこにあった空間からしたらどうだろうか?

 

小さな波紋から"無"が膨れ上がり、外宇宙を侵食し、自らを拡大させ続ける。

 

まさに全てを破滅させる"0"の力なのである。

 

つまり"無"とは究極の破壊と創造の両面を持つまさに至高の力なのだ。

 

エクスデスの持つ"無"など全ての"無"からすれば大したことはないであろう。

 

しかし、その性質上、純粋な力ならば星の力の比ではないほどの力を持つ力であり、ジェノバが最も恐れる力なのだ。

 

ならばなぜジェノバは"無"の力を取り込もうとしないのか?

 

それは"無"を扱おうとした者の全ての末路は等しく"無"に飲み込まれるからに他ならない。

 

なぜなら"無"とは宇宙の祖であり、相対をすることのない唯一無二の至高の力だからだ。

 

それをただの個人が制御しようとする前提がそもそも間違っている。

 

"無"は始めから御することも、支配することも叶わないただそこにあるだけの力なのだ。

 

自分が思うように扱えない力な上に、飲み込まれる危険性が高く、何が起きるか予測不能な力に何の意味があるのだろうか?

 

それならば堅実に星々を喰らいながら力をつけた方がいいというのがジェノバの結論だ。

 

これは蛇足だが、宇宙全土を時間圧縮しようものなら即効で"無"に存在ごと消されるので絶対にしないように。

 

最もジェノバにとってシンラに封印されている"無"だけは別である。

 

『貴様はラヴォスの仲間か何かか?』

 

『ああ、もう。なんで皆さんは私とアレを同じにしたがるんですか!』

 

そんな事をいいながらもジェノバはエクスデスの"無"を値踏みするように見ていた。

 

『うわぁ…』

 

そしてジェノバはエクスデスの異様性に気がついた。

 

それはエクスデスの中の"無"がエクスデスが"無"に飲み込まれないであろう限界の2歩手前程の量であった事だ。

 

『あなた…大した使い手ですね』

 

『ほう…貴様は"無"を知っているか』

 

『知っているも何も"無"自体は扱おうとした者は小銀河の星の数ほどいますよ。ただ、あなたのような者は異例ですがね』

 

『それより貴様はなんだ?』

 

『私はジェノバ、ただのシンラさんの専属メイドですよ』

 

『そうか…』

 

エクスデスは話し合いが平行線を辿ることを察したのか、踵を返すとジェノバの反対方向へ歩き出した。

 

『ならば余計な詮索はするな。それだけ見れば充分であろう』

 

『でもシンラさんについてはまだですよ?』

 

それを聞くとエクスデスは足を止めた。

 

精神世界にはその個人が最も心に残っている場景が映し出される。

 

ジェノバの精神世界は宇宙空間そのものだ。

 

エクスデスが空を見上げると満天の星空が輝いていた。

 

それはジェノバが星ではなく宇宙に生きる生物だと言う証であろう。

 

『そう急ぐな。今日、わしから話す』

 

それだけ言うとエクスデスは再び歩き出し、ジェノバの精神世界から完全に消え、その場にはジェノバだけが残された。

 

『はぁ…シンラさんは生まれつきの巻き込まれ体質なんでしょうか?』

 

そう呟くジェノバの姿はいつも通りのメイド服に青い人型の姿だった。

 

もし、彼と会う前のジェノバなら巨大な怪物のままの姿だったであろう。

 

ジェノバもまた変わったのだ。

 

『ふふふ、シンラさん。私はいつでもお慕いしていますよ』

 

それだけ呟くとジェノバもこの精神世界から姿を消した。

 

心なしか満天の星々は本物の星よりも輝いていて見えた。

 

 

 

 




いつからエクスデス先生の話が始まると錯覚していた?

それは次回です。


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暗黒魔導士とラプラスの神

どうも、ちゅーに菌&病魔です。

結構、遅れてすいませんね。

リアルの自動車学校が大変なんですよ全く…。

時間がない、ひたすら時間がない。その上、心の余裕もないです。





 

 

遥か昔。

 

その実力により、世界では神をも遥かに凌ぐ、伝説となったエクスデス。

 

ある日、1人の悪魔の赤子を拾った。

 

エクスデスは気紛れでその赤子に"ルキフグス"という名を与え、さらに"無"を植え付けた。

 

そして自らその悪魔の師となり、成長と共に魔法を覚えさせ、"無"の扱い方も教えた。

 

時が満ちると成長したルキフグスに"血筋を絶やすな"と言い残し、冥界に放った。

 

それから、長い年月が経過し、三勢力の戦争は休戦を迎え、さらに旧魔王派と新魔王派の対立戦争も新魔王派の勝利という形で終結した。

 

その頃にはルキフグスの名は悪魔の中では唯一にして最強の"無"を扱う家として知らぬ者の無い程となっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「と言うのが悪魔、堕天使、天使の間で知れ渡っているルキフグス家の成り立ちだ」

 

エクスデス先生はそこまで話すと、いつの間にか持っていた湯飲みを傾け、茶を啜り、再び湯飲みが消えた。

 

「だが、ルキフグス家当主に代々伝承される真実はこうだ」

 

エクスデス先生は再び話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

エクスデスが誕生する遠い遠い過去。

 

そこには伝説(エクスデス)の伝説であり、世界最悪の暗黒魔導士にして、真の"無"の使い手。

 

 

 

"エヌオー"という者が存在した。

 

 

 

最もエヌオーは本名ではない。

 

"無"とはすなわち"NO"、だからエヌオーだ。本名を知る者はもうどこにもいない。

 

エヌオーは圧倒的な"無"の力により、世界を破滅へと向かわせようとしたが、12の伝説の武器を持つ人々により倒された。

 

その後、エヌオーはライフストリームに帰らず、1000年の時を経て復活し、"光と闇の果て"にてエクスデスと対峙した。

 

勝敗は今、エクスデスがここにいることから明らかだろう。

 

エクスデスはエヌオーから2つのモノを入手していた。

 

ひとつはエヌオーの"無"

 

もうひとつは"エヌオーの魂"

 

エヌオーの魂と、それに絡み付くように存在する"無"は紛れもなく、古の伝説として謳われるに価するモノだった。

 

エクスデスはその余りの完成度に嫉妬すら覚えたが、それを倒したのもまた自身であったことを思い、笑った。

 

そして、長い月日が経過し、目の前に悪魔の赤子が現れた時に気づいた。

 

この赤子には僅かながらエヌオーの"無"の適正があると。

 

それは正に奇跡だった。

 

なぜならエヌオーの"無"は魔術士が自らの魔術を秘匿するのと同じく、エヌオー自身以外にほぼ扱えないようになっているからだ。

 

しかし、この赤子ではエヌオーの"無"の片鱗しか扱うことは出来ない。

 

そこでエクスデスは思いついた。

 

 

 

 

"エヌオーを継ぐものを創ろうと"

 

 

 

 

エクスデスはその赤子へエヌオーの"無"の一部を移植すると、全てのエヌオーの"無"が取り巻くエヌオーの魂に封印を施し、精神世界の奥底に眠らせ、最後に呪いを掛けた。

 

その呪いにより、ルキフグス家は遺伝的にエヌオーの魂の入った"無"を一世代に1人だけ、継承するようになった。

 

だが、その呪いの効果はそんなところではない。

 

その呪いの本当の目的は世代を重ねるごとに魂と"無"に適した身体を造ること。

 

つまり…。

 

 

 

 

 

 

"生前のエヌオーに徐々に身体を近付けることだ"

 

 

 

 

そうすることで世代を経る度にエヌオーの"無"を扱える量が増え、必然的にエヌオーの魂を入れるに足る器が作製されていった。

 

そして、遂にその時を迎え、"無"の奥底に封印されていたエヌオーの魂は再びこの世に生を受けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『ほー、つまり呂布 奉先(緑の人)のように過去の魂が転生したのと同じようにシンラさんは作られたわけですか。ただ、星を介さず、人為的にですけどね』

 

「私とお揃いね!」

 

奉先が抱き着いてきたのでとりあえず、顔を掴んで止めた。

 

お前は私の実母の前なのだから少しは慎みを持て。

 

そんなだから学校の男子生徒に近寄りがたい空気を作りまくって、いつまで経っても男友達が出来ないんだ。

 

「ひどーい。でも、嫁の貰い手ならあるもーん」

 

そう言って奉先は私の手をはね除けると抱き着いてきた。

 

「大体、そう言うシンラはそもそも友達いるの? あ、私は未来のお嫁さんだからノーカンね」

 

………………………………。

………………………。

………………。

………。

 

………友情など…友情などいらぬ!

 

「まだ、途中だ。最後まで話を聞け」

 

エクスデス先生は私の目の前に移動すると足を止めた。

 

お、おお……圧倒的水色…。

 

「ここからはお前の話だ」

 

 

 

 

 

 

 

エクスデスの実験は成功し、エヌオーは復活を遂げたかに見えた。

 

だが、ここに来て多少の問題が発生した。

 

それはエヌオーの魂の精神が"無"に呑み込まれた後の精神だったことだ。

 

エヌオーの魂は精神そのものが"無"に汚染されていたことにより、産後間も無くエヌオーは再び"無"を振るい、周囲全てを無へと還そうとした。

 

が、その程度のことを予測出来ないほど、かつて大魔王と呼ばれたエクスデスは温くも甘くもない。

 

エクスデスが掛けた呪いの最後の効果がここで発動した。

 

長年ルキフグスに掛かり続けた呪いはエヌオー自身の"無"をそのまま反転させ、エヌオーの魂の中の"無"と記憶を焼き付くし、全てを抹消したのだ。

 

エヌオーの魂は初期化され、赤子の中のエヌオーという"無"の化神は完全に滅び、後にはエヌオーの"無"と、伝説の暗黒魔導士だったエヌオーの魂だけが残ったのだった。

 

無事にただの赤子へと戻ったエヌオーを夫妻へ返すとエクスデスは後ろを向いた。

 

そこには"無"の化神が最期の力で消し飛ばした直径20kmほどの穴が夜空に空いていた。

 

万が一のために来ていたエクスデスが力を相殺し、最小限に抑えた上で彼方に飛ばしていなければ1つのクリスタル(冥界)が消し飛んでいたであろう。

 

自らに限り無く近かった存在を無へ還した感傷にひたり終えたエクスデスは一言呟いた。

 

 

 

"封印だ…"と。

 

 

 

エヌオーの力は"無"どころか魔力ですら赤子が持つには危険過ぎたのだ。

 

今のところエヌオーの"無"と魔力を完全に扱えないとしても、泣いた拍子に山々を更地に還すぐらいは自然にやってのけるだろう。

 

そこで精神が出来上がるまで"無"と魔力を封印することにしたのだ。

 

その期間は今より"15年"

 

封印を終えたエクスデスにはもうひとつ気掛かりなことがあった。

 

それは悪魔の社会で育てたとして彼がまともに育つかと言うことだ。

 

グレイフィアならば悪魔としてまともに育てることは可能であろう。

 

だが、個人にとって何が憎悪の根源となるかは誰もわからないのだ。

 

エクスデスのように憎悪が形になった存在と違い、エヌオーはただの人間だった。

 

にも関わらず世界全てに憎悪を抱き、世界に対して最悪の選択を選んだのはなぜだったのか?

 

子供時代の虐待? 愛する者の死? 元から異常な思考? はたまた巨大すぎる私怨の復讐?

 

上げればキリがない。

 

まあ、要するにエクスデスが何を言いたいかというと。

 

"確かな生活環境と社会環境と教育環境が必要だと考えたのだ"

 

その3つが揃っていれば少なくとも即、"無"を濫用するような輩にはならないだろう。

 

それに照らし合わせると、生活環境と教育環境は申し分ない。

 

が、残念ながら悪魔の貴族社会はお世辞にもマトモとは言えなかった。

 

そこで目をつけたのが人間社会と、日本だ。

 

国によって様々だが、日本は治安も良く、教育面も非常に優秀なことで知られており、エクスデスも概ね異論はなかった。

 

なぜ人間社会で育てるのかと言えばそれは至極単純。

 

"人間にはそれより下の知的生命体がいないからだ"

 

悪魔には少なくとも人間という下等生物がいるため、自然と人間を見下す悪魔が多い。

 

万が一そんな悪魔に育てば"無"により、色々と面倒なことになるであろう。

 

だとすれば始めから人間として育ててしまえばいいのではないかというのがエクスデスの結論だ。

 

さらに人間として育てるにあたり、エクスデスはいつかの制限を言い渡した。

 

 

15年間の日本での人間としての生活させること。

 

その期間中の悪魔との接触は最小限に抑えること。

 

もし、自身が自らの裏の世界に突っ込んだ時はそのまましたいようにさせること。

 

 

の3つだ。

 

その言葉に夫妻は激しく反対した。

 

なぜなら悪魔とは無論、夫妻らも含まれるからだ。

 

我が子と合うことさえ制限させるとは親にとっては耐え難いことだろう。

 

そんな夫妻にエクスデスは言った。

 

 

 

 

 

 

 

聞けぬのなら冥界ごと無に還す…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上がエヌオーの出生の秘密だ」

 

エクスデス先生がそう言って話を閉じた時、私は目頭を押さえていた。

 

………………と、いうことはだ…。

 

私の傍に主にジェノバさんという特大の戦術核が控えているだけでなく………。

 

私の中に"無"という巨大な地雷が埋まっているわけか…。

 

ちょっとなに言ってるかわからないなぁ、わかりたくないなぁ、あははは…はハ…ハハは…ハハハハハハ!!!

 

「あ、シンラさんがおかしくなりました」

 

「大丈夫? よしよし…」

 

………………………うん、オーフィスちゃんのナデナデが心に染みた…。

 

私はオーフィスちゃんにありがとうと言ってお礼に撫でてからエクスデス先生に向き合った。

 

「腹は決まったようだな。今ここで封印を解く!」

 

その言葉と共に私の胸にエクスデス先生の大剣の尖端が突き刺さった。

 

「何を!?」

 

その行為に驚いたのは母さんだけで私を含めた残りの面子はそれを眺めていた。

 

痛くないから大丈夫だろう。

 

そんなことを考えた次の瞬間。

 

 

 

"胸の奥で鎖を金属で断ち切ったような音がした"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは………?

 

私は目を開くと色のない空間にいた。

 

暗く、眩しく、白く、黒く、透明。そんな言葉には出来ないような場所だ。

 

"ヨコセ………"

 

何か声が聞こえた気がした。

 

"ヨコセ…ヨコセ…"

 

いや、気のせいではないようだ。

 

唯一私の背後にだけ、何かの気配を感じた。

 

"ヨコセ…ヨコセ…ヨコセ…"

 

私は壊れたように同じ言葉を吐き続ける何かの正体を確かめるため、ゆっくりと振り向くとそこには灰色の肌に伝承の悪魔のような外見をした化け物がいた。

 

"それ"は私が知る形のエヌオーだった。

 

しかし、全身にひび割れたような亀裂が広がっており、今にも崩れそうで、全体的に色褪せているようにも見えた。

 

"ヨコセ…ヨコセ…ヨコセ…"

 

"それ"は這うようにも、滑るようにも見える動きでゆっくりと近寄ってきた。

 

私は逃げることも出来ずに気がつけば"それ"は私の目の前で腕を振り上げていた。

 

次に来るであろう光景を思い浮かべ、私は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、いつまでたってもそれは訪れなかった。

 

不思議に思い目を開けるとそこには………。

 

 

 

 

 

"指先から造り出された障壁でそれを止めるジェノバさんがいた"

 

 

 

 

 

 

変化はそれだけではなく、今私のいる場所がまるで大宇宙の中心にいるような錯覚さえ覚えるほどの満天の星々が輝く、宇宙空間のような場所になっていた。

 

更に下を見れば太陽のような恒星が赤々と輝いており、その灼熱が黙視できるほど近く、周りを見渡すとそれを囲むように星々があった。

 

太陽系かとおもったが、色や数が違うのでどこか別の場所であろう。

 

『おぉ、こわいこわい。こんなになってもまだ足掻きますか、相変わらず害虫並みの生命力ですね。土足でシンラさんの精神世界に入るとはいい度胸ですよ』

 

私を護り、それに立ちはだかるジェノバさんはもう片方の手を触手に戻し、更に数十本に別れた。

 

『まぁ………』

 

触手は全てそれに向かって伸び、全身の至る所を貫いた。

 

『害虫は所詮、害虫ですけど』

 

トドメとばかりに触手全ての内側から長い針が飛び出し、それを針山のようにした。

 

ただ茫然とする私に向かってジェノバさんは振り向き、にこやかな笑顔で話しかけてきた。

 

『ご無事でなによりです』

 

あれはなんなんだ…。

 

"ア…アアア…アァ…ァァア…"

 

私は全身を外側と内側から貫かれても依然として私に手を伸ばそうと蠢き続けるそれを指差した。

 

あれがエヌオーの成れの果てなのか?

 

『いえ、エヌオーはシンラさん自身です。あれは"無"の化神エヌオーの"無"の僅かな残りカスに過ぎません。エクスデスの呪いでは仕留め切れなかったようです。カスのクセにしぶとい限りですね』

 

そう言うとジェノバさんはもう片手の人差し指を立てた。

 

『ところでシンラさんは"神"ってなんだかわかりますか?』

 

が、ジェノバさんはまるで違う話を持ち掛けてきた。

 

神?

 

『そうです。創造主、女神、八百万の神、破壊神、悪神などと呼ばれているモノたちがこの星では神と呼ばれていますね。ちなみにそれらの共通点は主に神力と呼ばれるエネルギーを扱えることです』

 

違うのか?

 

『残念ですがどれもわたしの考える"神"とは違いますね。そもそも神力は"無"とも、星の力とも完全下位エネルギーですからね。その程度しか扱えないモノが神などと自称するのは腹立たしい限りです。あ、ヴェグナちゃんから"神"の持論聞いちゃってます?』

 

ヴェグナちゃん………?

 

なんだろう…もの凄く聞き覚えがある。

 

『知らないならいいんですよ。まあ、あれはあれで道理が通ってないことも無いので話をややこしく…って違います』

 

ジェノバさんの立てられた指先が金にもオレンジにも見える淡い光を放ち始めた。

 

『それを踏まえてシンラさんは"ラプラスの悪魔"って知っていますか?』

 

ジェノバさんの指先がなぞられた空間に文字が浮かび上がった。

 

どうやら凄まじい速さで宙に何かかいているようだ。

 

『もし、ある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も過去も全て見えているでしょうというピエール=シモン・ラプラスが提唱した究極概念です。ようするに全知全能の神というモノが存在するならそういうものだと言いたいわけですね』

 

書いているものは数式のようなものに見える。

 

だがなんなんだあの数式は? そもそも地球の文字で書かれていないような…。

 

『実におしい! この人はいい線は行ってるんですがね。2つ間違っているんですよ』

 

ジェノバさんの数式が畳一枚分ほどになると数式は宙を舞い、私とジェノバさんの周りをゆっくりと回り始めた。

 

『1つ、神と言われる者は全知全能と自称する者もいますがそれは間違いです。正確にはその神のいる星の中だけは全知全能でしょう。つまりは真の全知全能とは宇宙の全てを知るモノのことをいうんですよ』

 

さらに数式を書いては宙に舞い、書いては宙に舞う作業が進み、まるで光の巨大な帯が私たちを軸に回転するように見えた。

 

『2つ、ある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も過去も全て見えている。残念ですがこれでまだ足りませんので50点です』

 

数式の光が消え、霧散すると太陽のような恒星の活動が前より遥かに活発になっているのが見てとれた。

 

『正確にはその目には未来も過去も全て見えている上、情報を書き換えることで…』

 

 

 

 

 

 

 

『"事象という巨大なひと繋ぎの歴史を操作出来ることです"』

 

 

 

 

 

 

 

………………………………まさかと思い私は頭上を見上げた。

 

『それが私の思う"神"の条件です』

 

そこには下の恒星と同じ程の大きさの隕石が白い光を放っていた。

 

ジェノバさん!? ちょっとそれはあまりにもオーバーキルなんじゃ

 

私の言葉を遮り、ジェノバさんは私を抱き寄せるように優しく掴むとそれを拘束代わりに貫いていた触手を腕に戻した。

 

"ガアァァァアァァアァ!!!!"

 

当然、最早エヌオーの原型をとどめていない物体は動きだし、巨大な口のような部分を形成しながら私を襲おうと動いた。

 

『喰らいなさい』

 

が、ジェノバさんがいつの間にか持っていた骨のような大槍に喉を貫かれ、さらに槍の尖端がイカ釣りの仕掛けのように捲れ上がり、背中から貫いた。

 

『光栄に思いなさい。星の開闢と終焉を同時に受けれるのですから』

 

ジェノバさんは槍を突き刺さった相手ごと頭上の隕石に投擲した。

 

その刹那、恒星と隕石の衝突がハッキリと見えるほどの位置に視点が切り替わった。

 

と、いうよりもジェノバさんが瞬間移動したのだろう。

 

恒星と隕石の狭間で"無"の化神が押し潰しながら数百万度の業火に焼かれた次の瞬間、ジェノバさんが獰猛な笑みを浮かべ、言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『"スーパーノヴァ"』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つの星が激突し、星の終焉を告げる破滅の光が宇宙に広がった。

 

それは全てを塗り潰すように全方向の隕石やスペースデブリを飲み込むだけに止まらず、この周囲の星々全てを無に返した。

 

最後に残ったのはジェノバさんと、その翼に包まれていた私だけだった。

 

『如何でした? 私のダイナミック汚物は消毒だー! は?』

 

半径5光年の生命と引き換え程度のダイナミックですね…。

 

『まあ、まだまだ小さい方ですけどね。このへんで私の情報の更新でもしておきましょうか』

 

ジェノバさんはその場でくるっと一回転すると言葉を紡いだ。

 

『私はジェノバ。仮名ですけど本名は特にないのでそれでいいです。能力はまあ、色々ありますが一番肝心なのを簡単に纏めれば…』

 

ジェノバさんはまた、宙に文字を書いた。

 

 

 

"事象を操る程度の能力"

 

 

 

『ですね』

 

…………………どこから突っ込めばいい?

 

『事象とは過去、現在、未来を繋ぐ最も重要かつ複雑な存在なんですよ。例えば…』

 

ジェノバさんは私を抱き寄せるとぎゅっと抱擁した。

 

………………………………………………………はい?

 

『これも事象です』

 

………なんのこと?

 

『私がシンラさんを抱き寄せるという行動は事象によって決まっていたんです』

 

え…? そうなの?

 

『今、少し前の過去には私がシンラさんを抱き寄せたという事象による結果が残りました。事象とは本来これから先に起こる現象が起こる可能性のことを言いますが、逆に過言えば過去に起こったこと全ても事象という一本の巨大な線で繋がっているということになるんです』

 

えーと…つまり………事象という不特定多数の未来の中で選ばれた事が今になって、過去はそういった事象の積み重なりで出来ているってことか?

『エクセレントです。まあ、手早い話。シンラさんの大好きなゲームでいう人力TASってわかります? あれの現実版みたいなモノですよ』

 

なるほどわかった。

『そして私の能力は未来に起こる事象、今の事象、そして決定された過去の事象を自由に改編できる能力。さっきの"スーパーノヴァ"はそれを使って恒星の未来と、隕石の過去の事象を決定し、可能としたんです』

 

過去?

 

『そうです。恒星には少し先の未来で星の死の事象を決定すると同時に隕石の方は520年前の過去でこの恒星に衝突するという事象を決定したんです』

 

………………………………なにそれこわい。

 

『まあ、私が塗り潰した精神世界の出来事なので被害はないですから安心してください。お望みなら現実でもやりますが?』

 

止めてください死んでしまいます。

 

『うふふ、冗談ですよ』

 

冗談に聞こえませんよ…。

 

そんな会話をしているとふと疑問が浮かんだ。

 

なんでジェノバさんはその力をいつも使わないんだ?

 

それを聞くとジェノバさんは少し困り顔になった。

 

『この能力を使うには頭と、星の力をかなり使わなきゃならないので結構大変なんですよ。そ・れ・に………』

そう言うとジェノバさんは見惚れるような笑みを浮かべていった。

 

 

 

 

 

『"先のわかるゲームなんてつまらないでしょう?"』

 

 

 

 

 

 

『帰りましょう。私たちの家へ』

 

ジェノバさんらしいな…。

 

でもこれだけは言わせてくれジェノバさん。

 

『なんですか?』

 

そろそろ抱き着くの止めてくれませんか…?

 

『イヤです』

 

さいですか…。

 

そんな会話をしながらジェノバさんの胸の中で私の意識は次第に微睡みに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 





後半はジェノバさんの能力判明回です。

"事象を操る程度の能力"

イヤー、マジチートダワー(棒)

というか作品作ってからオリジナル&インター版のスーパーノヴァ合わせて100回ぐらい演出の細部を見るために受けててふと疑問に思ったんですけど…。

あの隕石ってどう考えても過去の時点で既に動いていなければ太陽(みたいな恒星)まで届く時間にムリがありますよね。

その間、セフィ兄さんとクラウド一行が棒立ちだったらシュール過ぎでしょう。

だからふと思ったんですよ。過去の事象弄ってんじゃないのかって。

インター版は割合ダメージのせいで幻覚とか言われてますけど、オリジナル版はねぇ…。火力がブッ飛んでますから…アップ無しならカンストでシドに英雄の薬4積みでもないと耐えきれませんし。

え? そんな能力持っててなんで負けたって?

そんなのラスボスの定番じゃないですか、言わせないでください恥ずかしい。

ちなみにジェノバさんが来なければエクスデス先生が来てグランドクロスで葬ってくれてましたよ。

あ、ディシディア勢は知らないかも知れないので補足するとグランドクロスがネオエクスデス先生の最強攻撃ですよ。

ネオアルマゲストなんて技は使いません。

演出がカッコいいから好きですけどね。合掌するようにプチっと。

まあ、そんなこと言ったら暗雲姐さんなんて…おっと誰か来たようだ。

まあ、とりあえず…演出を見るために犠牲になったジェノバさんとセフィ兄さんに合掌。






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破壊と円卓の13騎士

やあ、皆さん。ちゅーに菌or病魔です。

地味に投稿が遅れたのは理由があるんですよ。

実は1ヶ月ぐらい前にもう全部書き上がり、投稿しようかなーと考えながらおニューのスマホを弄っていると突如……。

"スマホの画面が指の力で割れました"

な、なにを言っているかわからねぇと思うが私もry)

画面が割れたせいでタッチが反応しなくなり開けなくなったので7000文字ほどの本文がおじゃんになったわけですよ。

私程度の力で割れるなんて……やっぱり携帯は耐久度で選ばないとダメですね。鉄製ツールはダメだやっぱりダイヤツールでないと…。

話は変わりますが最近、PCでminecraftを始めました。

初めて作ったダイヤツールはダイヤ鍬でしたね。

マルチに呼んでくれてもいいのよ?(チラッ…チラッ…)

結月 ゆかり実況がもっと広がりますように。

まあ、作者の愚痴はこれぐらいにしておいて本編をどうぞ。















「目が醒めたか」

 

目が醒めて一番に見たのは頬を染めて膝枕している黒のワルツ3号とそれを上から除き込む、エクスデス先生だった。

 

むくりと上半身を起こし、さっきの事を思い返す。

 

夢? だとしたら随分、宇宙的な夢を見たものだ。

 

とか、思いたかったがこちらに向かってニヤニヤと笑みを浮かべているジェノバさんを見る限り現実のようだ。

 

「わしが引導を渡してやるべきだったが…まあよい」

 

次の瞬間、エクスデス先生の背後の空間にポッカリと穴が開いた。

 

「グレイフィアらと募る話もあるだろう。明日、また来る」

 

それだけ言うとエクスデス先生は踵を返し、次元の狭間へと消えた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫?」

 

エクスデス先生が居なくなると、母さんとオーフィスちゃんが駆け寄ってきた。

 

とりあえず立ち上がると身体を少し動かした。

 

するといつもより身体が軽い気さえしたので、とりあえず大丈夫だと伝えておいた。

 

『いやー、素晴らしい魔力ですね』

 

ジェノバさんが片手を触手に変え、蠢かせながら私の元へ移動してきた。

 

『これはプレゼントです』

 

触手が苗木のような形を取ると、いくつかの淡い緑色のマテリアが生り、それをプチトマトでも収穫するようにプチプチと取り、私の掌に置いてきた。

 

うわぁ…SAN値チェック入りそうなマテリアとの初対面ですね…。

 

ちなみに私は少し前に母さんと"下等生物でもわかる!"と大きく書かれ、デフォルメのジェノバさんがプリントされているマテリアの教本を用いた講義を受けたのでマテリアの使用法は一通り知っている。

 

問題はマテリアスロット付の物を私が持っていないことだろう。

 

ジェノバさんから貰ったザイドリッツはあるが、スロットが無いので話しにならない。

 

どうでもいいがなぜか奉先もザイドリッツを持っており強制ペアルックとなっている。

 

『使ってみて下さいよ』

 

仕方なく1つ適当にマテリアを摘まみ、残りを机の上に置くとカーテンと窓を開け、マテリアを片腕ごと空に掲げた。

 

まず心臓から指先の毛細血管まで伝うように魔力を流し、マテリアを持つ腕を魔力で満たす。

 

次に腕の魔力を指先に集中させ、マテリアに浸透するように送ることで最速かつ威力を落とさずに発動が可能となるのだ。

 

この間、約0.1秒。

 

現在、私の腕を白色の魔力が覆い、マテリアを常時放てる状態にある。

 

うーん………まだ遅い気がするな。

 

だが、呪文を唱える過程も、術式を作る過程も必要ないのなら色々と融通が聞きそうだ。

 

まあ、昔の私なら普通に魔法を撃つぐらい更に速く………まあ、いいか。

 

それよりこれは何のマテリ…。

 

 

 

次の瞬間、曇り空を緑色の煌めきながらも淡い光が埋め尽くし、空の色を変えた。

 

光の波動とも風とも言えるそれは空を駆け巡り、雲を払い、太陽の光すら塗り替えたようにさえ感じるほどに眩かった。

 

光が晴れた先にはただ、青天だけがそこにあった。

 

あ…あ…あ…。

 

『あ?』

 

アルテマじゃねぇか!?

 

『流石シンラさん物識りですね。伊達に元世界を滅ぼし掛けた人は違います』

 

まさか他のマテリアも物騒な奴なんじゃ…。

 

『まあ、暇な時にでも使ってみるといいですよ』

 

使うのが怖ェ………。

 

『後、これは私の気持ちです』

 

そう言いながらニコニコと笑うジェノバさんは………。

 

 

 

 

 

 

 

可愛らしいラッピングがされた"拳程の黒いマテリア"を渡してきた。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

………………………………。

………………………。

………………。

………。

 

ファ"…!?

 

いやいやいやいやいや、まさか…ただのマテリアのハズだ。

 

なんかドス黒いというか、触れてるだけで手がチリチリしたような感覚がするというか、明らかに破壊的な魔力がひしひしと伝わってくる気がするけどきっと気のせいだ。

 

憎らしいほど可愛らしいラッピングが施されたそれから目を移し、一縷の望みを込めてジェノバさんを見た。

 

『それは"黒マテリア"あるいはメテオのマテリアと言い、込めた魔力分の大きさの隕石を上空に形成し、落とすことができます。さらに出力を全開まで上げると対象を完全に破壊出来る程度で、その地点より最も近い隕石を引き寄せて衝突させることが出来ます。こっちは多少時間が掛かりますけどね』

 

ちょ、ジェノバさん!? ジェノバさん!?

 

『大丈夫です。今の私はマテリア無しでも普通に出来ますから。それに………』

 

そこまで言うとジェノバさんは言葉を区切り、私の両手と中にある黒マテリアをを包むように優しく握り締めた。

 

『シンラさんはオーフィスちゃんを怖いと感じますか?』

 

いや…それは無いが…。

 

『それと同じです』

 

………えぇ…?

 

『モノの見方は個人と立ち位置によって違うということですよ』

 

そう言うとジェノバさんはニコリと笑みを浮かべた。

 

『確かにこれは破壊そのもののようなマテリアですが、セトラはこれを宇宙からの侵略者を撃破するために生み出しました。言わば護るための破壊です。本当は白マテリアと併用してこそ真価を発揮しますが…まあ、それはいいでしょう。更にこれはモノです。この星を無に還す事さえも可能ですがそれは持ち主次第なんですよ。シンラさんが望むのならばこのマテリアは世界最強の力とも、星を壊しうる力とも、化しましょう』

 

……………そうか…。

 

私は黒マテリアを見た。

 

漆黒というのはこういうモノを言うのだろう。見続けるだけで吸い込まれてしまいそうだ。

 

まあ、いいか。とりあえずしまっておくとしよう。

 

………………あれ? そもそもセトラの遺産の黒マテリアで星をブッ壊そうとしたのはあなたの息子さんとジェノバさんなんじゃ…いや、この話は止めよう。なにかされそうだ。

 

ジェノバさんとの会話が終ると母さんが私の前に出てきた。

 

「では……」

 

母さんは言葉を区切ってから目蓋を瞑ると、決心を終えたようで目と口を開き、言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「冥界の"サーゼクス様(あなたの父親

)"の元に行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

私は人生初の父親に会うと言うことで、母さん、私、ジェノバさん、奉先、オーフィスちゃん、ヤズさん、オメガちゃん、黒のワルツ3号で謎の列車に乗っていた。

 

オメガちゃんの姿は見えないがまあ、多分どこかにいるのであろう。乗車した時はいた……と思うし。

 

そんなことより、列車の中で私の正面に座る母さんが私の隣に座っている黒のワルツ3号を凝視している事が気になる。

 

「何か…?」

 

黒のワルツ3号が顔を若干しかめながら母さんに尋ねた。

 

黒のワルツ3号は私とジェノバさんの言うことは聞くがそれ以外は基本的に態度が悪い、というかデカイ。コミュ障かお前は。

 

「いえ…ただ…」

 

母さんはヤズさんとVitaでソルサクデルタをやっているジェノバさんに目を向けた。

 

「本当に造ったのですね………」

 

母さんの表情は物凄く影が射しているように見えた。

 

一体、何があったというのだ…?

 

「私、あんまり嘘つきませんから…あ、グリフォンそっち行きました」

 

「なぬ? 余はクラーケンと……あ」

 

「あーあ、やられましたよ」

 

「魔は死にやすいのだ………」

 

「大人しく均等にしておけばいいものを…死に過ぎると生け贄にしちゃいますよ?」

 

「善処する…」

 

………………楽しそうで何よりです。

 

「しかし………」

 

母さんは私の膝に座っているオーフィスちゃんを見た。

 

「本当に封印されているのですね…」

 

首輪とそれに付く黒い宝石のようなものを見ているのだろう。

 

確かに今ならそれから伝わってくる黒々とした大河の如く莫大なオーラが読み取れる。

 

まあ、宇宙の如く莫大なジェノバさんに比べれば雀の涙程度に感じるが…。

 

「ん…」

 

「あなたも大変ですね…」

 

「そんなことない。我、今、楽しい」

 

さいですか。

 

とりあえず撫でておこう。

 

撫でるとオーフィスちゃんは目を細めて気持ち良さそうにしていた。

 

母さんはそれをなんとも言えないような表情で見ていた。

 

うーん…オーフィスちゃんはしんりゅうだけどこんなに温和なんだがなあ。

 

菓子パンに紐付けて二階からオーフィスちゃんの眼下に垂らしたら、リアル釣られたクマー状態になったりするぐらい温和なんだぞ。

 

いや、釣られたドラーか。

 

しかし………。

 

私はさっきから隣で卯なり声を上げながら眉間に指を置いている奉先を見た。

 

「うーん…」

 

ぶっちゃけ、うるさい。

 

「私の扱いヒドくない!?」

 

なんだよ…悩みごとでもあるのか?

 

「クロノちゃんの事よ」

 

クロノちゃん? ああ、黒のワルツ3号の事か。

 

「勝手に妙なアダ名を付けるな!」

 

「ならワルちゃん? サンちゃんでもいいわよ?」

 

「貴様…やはり肉体に刻み込まなければはうんっ…」

 

はいはい、こんなところで魔法撃とうとしない。

 

しかし、なぜ家の連中は頭を撫でると静かになるのだろうか?

 

私なら母さんか、ジェノバさんか、ヤズさん以外なら確実に止める。奉先ならアホ毛引っ張る。

 

「どうも見覚えがある気がするのよねぇ…」

 

何がだ?

 

「クロノちゃんの顔よ」

 

顔?

 

私は隣の黒のワルツ3号の顔を見た。

 

「あっ…はう…ああん…気持ち…」

 

……………………。

 

撫でてるせいかなんだかよくわからないのだが…。

 

それにしても……。

 

私は黒のワルツ3号のアホ毛(?)らしきものを掴んだ。

 

うむ、中々、いいアホ毛だ。奉先といい勝負だな。

 

「多分…ううん、絶対、見たことあるのよー」

 

他人の空似じゃないか?

 

「確かシンラと一緒に見た気がするわ!」

 

さいですか…。

 

私は話を切り上げるとオーフィスちゃんを持ち上げ、母さんの膝に置くとトイレに立った。

 

置いた瞬間の母さんの鳩が豆鉄砲喰らったような表情に爆笑しそうになったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと思う。

 

私はこれまで様々な事態に直面し、その全てをヌルヌルと切り抜けてきた。

 

まあ、今のところ私が何もしていないと言えばそれまでだろう。

 

基本、ジェノバさんやジェノバさんやジェノバさんが関連する事なので仕方のないと思うが。

 

こんなことを考えている時点で解るだろう。

 

そして、今回は………。

 

 

 

 

"絶賛、紙テープの波に埋もれている最中である"

 

 

 

 

 

紙テープの波からオメガちゃんにサツマイモの如く、引き出された私は母さんの前に3人の男女が正座させられ並べられているのを目にした。

 

どうやら前衛的なお話の時間のようだ…。

 

目を移すと、ここはかなり広めのホールのようで飾り付けも済んでおり、料理も並んでいることからパーティー会場だということがわかる。

 

ん? あそこの席で明らかに寝てるときに付けられたっぽいピエロ帽に付け鼻を付けながら爆睡している男性はなんだろうか…。

 

そんなことを考えていると私の視界にジェノバさんが生えて来て、私に状況を説明してくれた。

 

ふむ………。

 

どうやら並べられている方々は右からサーゼクス・ルシファー、アジュカ・ベルゼブブ、セラフォルー・レヴィアタンというらしい。

 

んで、奥で寝ているのがファルビウム・アスモデウスだとか。

 

あ? 母さんがいつまでも寝ているアスモデウスさんにハリセン(ジェノバさん作:神羅社印入り)を投げ付けて起こした。

 

まあ、それよりも目につくのは…。

 

私は視線を向けなかったそれを見た。

 

そこには15m程の特大のクラッカー(発射済み)が凄まじい異彩を放っていた。

 

………………………。

 

ジェノバさんの話を要約するとこうだ。

 

 

 

息子を迎えるためにサプライズパーティーの準備だ!

どうせならでっかいドッキリを仕掛けよう。何かドッキリはないかな?

無難にクラッ☆カーなんてどう?

それだ!

なら設計は任せろ。

サプライズを込めて扉が開いた瞬間に発射だ!

最前列の母さんと、その後ろにいた私が紙テープの波に飲まれる。

母さんがカム着火インフェルノォォォオウ。←今ココ

 

 

あ、こらオーフィスちゃんまだ食べちゃダメだ。戻って来なさい。マイ箸もしまいなさい。

 

よしよし、いい子いい子。

 

「ところでグレイフィア。なぜ今日はメイ…グフッ」

 

「あなた…? いつ発言を許可したかしら?」

 

………………どこの世界+いつの時代も女性は最強だな。

 

『ところでシンラさん』

 

なんですかジェノバさん?

 

ジェノバさんはニヤニヤしながら私に近づくと耳打ちした。

 

 

 

 

 

『記憶、あるんですよね?』

 

 

 

 

 

………………………。

………………。

………。

 

ナ、ナンノコトデショウカ?

 

『生前の記憶ですよ。エヌオーとしてのね』

 

………はあ…。

 

ジェノバさんには勝てませんね…。

 

『当たり前ですよ』

 

ジェノバさんの言う通りだ。

 

私には生前の"暗黒魔導士エヌオー"の記憶がある。

 

いや、"無"を受け入れた瞬間に忘れていた記憶が呼び覚まされたといった方が正しいだろう。

 

だが、"無"の化神と化してからの記憶は焼け落ちたように消えていた。

 

つまりはエクスデス先生の呪いによる記憶の消去とはこのことだったのだろう。

 

だが、違和感はない。

 

何せ忘れていたことを思い出しただけなのだからそれは当然だろう。

 

『その割には性格も言動も大差無いのは少々驚きですよ』

 

まあ、なんというか…私は昔からこんな感じだったということだ。

 

けして、研究気質で、ボッチで、周りから頭がおかしいとか言われていたという事実無根のことは一切ない。

 

『だったらなんで、ああなったんですか? 私気になります』

 

………………………。

………………。

………。

 

ほらジェノバさん。

 

人にはね。抉られたくない過去の1つや2つや108つぐらいあるじゃないですか。

 

悪魔ですけど。

 

『ならその内、本気の魔法見せてくださいよ。マテリア使った時、相当セーブしてましたよね?』

 

バレた………?

 

『フフッ、私の慧眼を誤魔化すことなんて出来ませんよ』

 

うーん、いつか。

 

『楽しみにしています』

 

そんなことを話していると母さんと魔王の方々が寄ってきた。

 

折角なので名前を当ててみると目を丸くされたので、隣のジェノバさんから聞いたと言っておいた。

 

ふむ………。

 

私はサーゼクス・ルシファーもとい自分の父さんに近付いた。

 

「な、なんだい?」

 

まあ、想定外であろう初対面の私の行動にたじろぐ父さん。

 

暫く、じっと眺めてから目を瞑った。

 

そして目を見開くと一言呟いた。

 

 

 

 

"イケメン!"

 

 

 

 

母さんにハリセンでブッ叩かれた。解せぬ。

 

それを見てかグレイフィアみたいだけどサーゼクスの子だと、母さんと父さん以外の方々がゲラゲラと笑い出した。更に解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ま、ここから先は真面目に行きましょうか』

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、ジェノバさんが鳴らした軽い音が酷く響いた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『どうも、巷で話題のジェノバです』

 

息子(エヌオー)のメイドだという、私がこれまで見てきたありとあらゆる生物の形状と異なる姿をしたその存在はスカートの橋を掴むと恭しくお辞儀をしました。

 

しかし、そんなことはどうでもいい。

 

問題は………。

 

"全ての時が止まっている事です"

 

空、地、目に写る万物全てが灰色になっていました。

 

ただ、ここにいる者たちだけを除いて。

 

「グレイフィアから話は聞いてるよ。それより、なにをしたんだい………?」

 

サーゼクス様が明らかに元凶であるジェノバの前へ出ました。

 

それに続いてアジュカ様、セラフォルー、ファルビウム様も臨戦態勢を取ります。

 

『そんなに大した事じゃないですよ。ただ………』

 

ジェノバは口の両端をつり上げると三日月のような笑みを作りました。

 

 

 

 

 

 

『この星の表面上の全時間を停止させただけです』

 

 

 

 

 

私はその言葉を理解することが出来ませんでした…いえ、したくありませんでした。

 

ですが、目の前の存在ならそれを平然とやって退ける気がしました。

 

普通時間停止とは敵単体や、自分の周囲を止める程度で、最高でも時の神が国そのものを止めるのが限界でしょう。

 

そもそも大規模な時間停止には大概の場合、かなり大規模な術式や、それに見合う代償が必要です。

 

それを術式も、詠唱も必要とせず、指を鳴らすだけで星を停止させる存在。

 

そんなモノが………居て良いハズがありません。

 

しかし、私の目の前には確かにそこに………。

 

「それは事実のようだ…」

 

「なんだって?」

 

アジュカ様の顔は苦悶の表情を浮かべ、携帯端末の画面を眺めていました。

 

「世界の至るところにある観測機が全て動いていない…そしてこれを見ろ…」

 

アジュカ様が見せた携帯端末の画面に私たちは驚愕しました。

 

そこには灰色になったこの星が映っていました。

 

「これは宇宙からのリアルタイム映像だ…」

 

「………化け物…」

 

「おいおい……」

 

セラフォルーが呟いた言葉はそれまで私たちが相対してきた相手に言われてきた言葉でした。

 

ええ………本物の化け物とはこういうモノを指すのでしょう。

 

『嫌ですねー。取って喰う訳じゃあるまいし、そんなに構えないで下さいよ』

 

「えっ?」

 

手をパタパタとさせ、無害だと言わんばかりの行動をとるジェノバに対して、なぜかエヌオーがオーフィスの両肩に手を置くとジェノバは露骨に目を逸らしました。

 

『それに私は一戦、交える気なんて無いのでそんなに構えないで下さいよ」

 

そうは言いますが到底それを信じることは出来ないでしょう。

 

現にサーゼクス様らは警戒をより強め、いつでも全力の一撃が撃てる一歩手前の状態です。

 

それを見たジェノバは大袈裟に呆れるような動作をすると"こちらへ手招きをしました"

 

…………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

 

ええ……わかっています…わかっていますよ。

 

「グレイフィア!?」

 

私はサーゼクス様の動揺を無視し、無言でジェノバの前に出ました。

 

『それで良いんですよ。あなたは優秀です』

 

ジェノバの明らかな皮肉を聞き流しながら私は、サーゼクス様らの方へ振り向きました。

 

「皆様、お止めください」

 

私は魔力を解放するとサーゼクス様らの周囲全てを取り囲むように無数の魔力の刃を形成し、片手に魔力を溜め、いつでも魔法を放てる状態になりました。

 

「それ以上、この方に愚行を働くのであれば……」

 

さらにスカートから"拳程の大きさの赤いマテリア"を取り出すと、もう片方の手に握り、手を突き出しました。

 

「容赦はしません」

 

この特殊なマテリアを構えていることでこのマテリアの中のモノの名が伝わってきます。

 

 

 

 

 

 

"ナイツオブラウンド"……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やったね! グレイフィアさんがチート化したよ!(白目)


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メイドと宇宙人

どうもちゅーに菌or病魔です。

作者はボーレタリア、ロードラン、ドラングレイグ在住で、レイブン、リンクス、AC乗りという多忙な日々を過ごしているので投稿が遅れてしまいます。

投稿について言われても。


興<遅かったじゃないか…

私<仕方ないね♂

干<手こずっているようだな…尻を貸そう

私<手を貸してください

≧<言葉は不要か…

私<小説ですからね

( T)<貴公…

私<ダーイスンスーン!


と、返すしかないので悪しからず。



 

事の発端は数日前に遡る。

 

場所は冥界にて主にサーゼクス・ルシファーが仕事場とする場である。

 

そこでグレイフィア・ルキフグスはいつも通り、職務をこなすサーゼクスの傍らでその手伝いに徹していた。

 

仕事中、グレイフィアは全くと言っていいほど口を挟まず、逆に他愛もないことや、下らないことをグレイフィアに話すサーゼクスに相づちを打ったり、呆れたりするぐらいであるがグレイフィアはこの二人っきりの時間が堪らなく好きであった。

 

そんないつも通りの中、ふと、目線を窓に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物の外壁に重量を無視して垂直に立ち、目を見開きつつ、口を三日月に歪めながら、小さくこちらに手を振るジェノバと目があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

グレイフィアはブボァッ!?などと吹き出しそうになったが、そこは完全で瀟洒な従者たるグレイフィア。

 

全力で堪え、2度ほど深呼吸をすることでなんとか落ち着いた。

すると窓の外のジェノバは小さく振っていた手を握り、拳に変えると、親指を立てて後ろを2.3回ほど指差した。

 

ちなみにそのポーズは俗に顔を貸せ、面へ出ろ、ちょっとコンビニ行ってくる、そのリモコンとってくれなどのポーズである。

 

グレイフィアは露骨に嫌だといいたげな顔になりそうな自分を全力で押さえ込むと、サーゼクスに適当な理由をつけ、ジェノバの元へ鉛のように重くなった足を動かした。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

『にゃーす! グレイフィアさん!』

 

指差した方向にあり、唯一と言っていいほどこの施設で死角になる場所の一角に着いたグレイフィアを待っていたのは異様なテンションの高さを見せる異様な生物…もといジェノバだった。

 

なにせこれでも真なる赤龍神帝ですら傷1つ付けられなかった相手を目の前で、一歩も動かずに圧倒し、葬り去ったほどの実力者だ。

 

最も最後の方は理解が追い付かな過ぎて気絶してしまったが…。

 

まるで"あの方"の再来だとグレイフィアは思っていた。

 

あの方とは無論、エクスデスのことだ。

 

グレイフィアの知るエクスデスは当初、書物の中の存在だった。

 

数千年前、エクスデスと名乗る人間界の空の色のような鎧を纏った者が突如として天界に現れたのが始まりである。

 

エクスデスは全世界への宣戦布告と共に単身で天界を攻め行った。

 

それだけなら大したことは無かろう。だが、あろうことにエクスデスはたったの半日で天界を完全制圧してしまったのだ。

 

たったの一人で……だ。

 

そして、その動揺も晴れぬうちにエクスデスの宣戦布告から1日後にハーデス率いる冥界の軍勢が冥界を襲った。

 

冥府はこれまで三つ巴の戦いに全くの干渉、あるいは中立を保っていたため、残りの陣営は大混乱に陥ったのだった。

 

それもそのはず、ハーデスはその当時の世界第3位の実力者。

 

ハーデスは冥府の統治者としてだけではなく、当時、世界最強の古代魔法使いとして名をはせていた。

 

が、それよりも遥かに有名なのは伝説級の素材と超多額の価格設定を呑むことで利用できる究極の合成屋としてだった。

 

無論、腕も世界最高で聖王剣コールブランド、天叢雲剣、魔帝剣グラムなどの数々の伝説を遥かに超える伝説の剣や、星の数ほどの防具、魔道具、霊薬などを生み出してきた。

 

三陣営にとっては戦力増強の要とも言えないでもない存在だっただけにその驚愕は計り知れないだろう。

 

さらにハーデスの妻であるペルセボネ。腹心である最上級死神のプルート、ミクトランテクートリ、ミクトランシワトルらを軍列に加えていることからもハーデスが全力を持って潰しに掛かっている事が理解できた。

 

だが、簡単に落とされるほど悪魔も堕天使も甘くはない。

 

伊達に万年戦争をしているわけではなく、直ぐに形勢は建て直され、冥府の軍勢の対処に当たった。

 

だが、ここで予測が完全に不可能な事態が起きた。

 

いや、予測出来たからといって何が出来たわけでもないが。

 

突如として、両陣営の本部にエクスデスが現れ、巨大な次元の裂け目が空に出現した。

 

そしてそこから……。

 

 

 

 

 

 

悪魔陣営には"真なる赤龍神帝"と"赤龍帝"が……堕天使陣営には"無限の龍神"と"白龍皇"がほぼ同時刻に襲い掛かったのだ。

 

 

 

 

 

 

そこから抵抗する気力のある者などいるはずも無かった。

 

両陣営の本部は1分と経たず壊滅し、陥落。

 

結果的に三陣営の戦争はエクスデスとそれに味方した冥府の勝利で幕を閉じた。

 

それから数日エクスデスは世界の頂点にいたが、ある日龍らと共に忽然と姿を消したのだ。

 

それを見届けたハーデスは自らはエクスデスの配下であり、エクスデスは次元の狭間の王であると明言し、全軍を引かせ、冥府への帰路へ着いた。

 

それが数千年前に起きた次元事変と言われるものであった。

 

次元事変が起きてから休戦という仮初めの平和がもたらされ、何度か冥府に攻め入ることや、次元の狭間に攻め入る事が案に上がったが、いずれも直ぐに却下された。

 

前者は冥府に攻め行ったとして龍に出てこられたらどうすることも出来ない上、そもそもハーデスが強過ぎること。

 

後者は唯一生き残りとしてエクスデスの実力を目にした聖書の神自身が完全にエクスデスを恐怖しきっており、断固拒否の姿勢を崩そうとしなかったからだ。

 

 

 

だが、平和はそう長くは続かなかった。

 

 

 

次元事変から数百年後、突如聖書の神率いる天界陣営が休戦協定を破棄し、冥界での無差別虐殺を始めたのだ。

 

それを皮切りに再び世界は戦争の渦に飲み込まれて行くのだった。

 

だが、不可解な事がある。

 

それは無差別虐殺を行い始めた日を境に、聖書の神である彼女は"人が代わったように何かに陶酔し、独り言と過激な言動"が多かったことだ。

 

もっとも……彼女が死した今となっては知るよしもないが…。

 

『今日来たのはですね…』

 

目の前のそんなエクスデスの再来とも言える存在のスカートの中がごそごそと蠢くと、何かが書かれたA4のレポート用紙で出来た大学レポートのようなもの持った触手がグレイフィアの眼前に突き出された。

 

『この通りの会場をセッティングしてほしいんですよ』

 

「これは…」

 

それはエヌオーの封印が解かれた日に冥界で行うつもりのささやかなパーティーに対する要望書のようなものだった。

 

だが、その内容が問題だった。

 

まず始めにエヌオーの食物に対する好き嫌いが記されている。

 

それだけなら何も問題は無かろう。

 

だが、そこには両方合わせれば500を越える品々が事細かに書かれていたのだった。

 

最早、ここまで来るとエヌオーの味覚に対する生態レポートのように思えてくるほどの詳細ぶりである。

 

というか内容の95%以上が味覚データである。

 

そもそもグレイフィアはエヌオーは出されたものは何でも食べるため、食べ物に対し、好きなものは兎も角、嫌なものが無いものだと考えていたためにこのレポートに驚愕の色を隠せなかった。

 

『目と細かな動作を見ていればこれぐらいわかりますよ』

 

グレイフィアはわかりませんよという言葉をぐっと飲み込んだ。

 

多少なら兎も角、これは明らかに変態…否、研究者の域である。

 

ジェノバは恐らく、食べ物を出した時の目の動き、食べる順序、箸の進み具合など多数の観点から結果を出しているのだと思われる。

 

ちなみにエヌオーは嫌いなものから最初に食べるタイプである。

 

さらにヤズマットは好きなもの(というか肉)から食べるタイプ。オーフィスはひたすら右端から左端に食べていくタイプ。オメガは腹持ちの良いものから食べるタイプ。黒のワルツ3号は野菜から食べるタイプ。奉先は意外にも三角食べで綺麗に食べるタイプだ。

 

味覚レポート以外を見ると不可解な事が書かれていた。

 

「…………広さ100ha以上の庭か私有地?」

 

100ha。つまりは100m×100mの空間の100倍である。

 

分かりやすく言えば某ネズミの国が51haで、某ネズミの国(シー)が49haということからも凄まじい面積だということがわかるであろう。

 

『あなたとサーゼクスさんにシンラさんの眷属紹介をしようと思いましてね。ちょっと広い空間がないと呼べない娘がいますから』

 

「そうですか……」

 

ジェノバがエヌオーの眷属を無断で集めている事をグレイフィアは知っている。

 

というかエヌオーの僧侶の駒片手にグレイフィアの秘密ノートを持ちながら。

 

"血をくださいな~♪"

 

とか満面の笑みで言われたのでわからない方がおかしい。

 

まあ、グレイフィア以外は知らないというのが唯一の救いか…。

 

『後、コレ渡しときますね』

 

ジェノバは再びスカートから触手が伸び、"赤い拳程のマテリア"と"一本の注射器"を取り出し、グレイフィアに持たせた。

 

「これは…」

 

『片方は護身用で、もう片方は自分に使うと幸せになれます。シンラさんと私について知っておいた方がいい人物がいるなら呼ぶといいです。では』

 

それだけ言うとジェノバは小さく手を振りながら空間に溶けるように消えていった。

 

グレイフィアは溜め息を付くと赤いマテリアを眺めた。

 

これまで見てきた如何なる宝石より遥かに美しい色をしているような気さえするのと同時に、持っているだけで凄まじい力が胎動しているのを感じる。

 

しかし、それよりも遥かに危険だと直感的に感じるのはこの注射器であろう。

 

その何かの金属で出来た注射器は誤射しないように針が内部に収納されており、ペンのようにノックすると針が出る機構をしていた。

 

そして、何よりも不可解なのは構造上中の物が見えない上、ラベルに……。

 

 

 

 

"JENOVA"と書かれている事だ。

 

 

 

 

「………………」

 

少なくともグレイフィア射せば幸せになれそうには思えなかった。

 

いや…別の意味で幸せになれそうな気はするが……。

 

 

 

 

『やっばり、まだ帰りません』

 

「ひわぁっ!!?」

 

真横に突然、ジェノバがエンカウントした。

 

グレイフィアは心臓が止まるかと本気で思うと同時に変な声を上げた事を恥じた。

 

『毎回、頼むだけと言うのは些かフェアじゃありませんからね』

 

ジェノバは人差し指を唇に付けてうーんと声を上げた。

 

グレイフィアは"アレ"で揺すっておいて何を言いますか……そもそもフェアとはいったい……という言葉をグッと呑み込んだ。

 

『それに働きにはそれ相応の報酬を用意しなければなりませんものね』

 

ジェノバは人差し指を口から放すと気味の悪い笑みを浮かべた。

 

『じゃあ、頑張れるように少しだけ朗報を伝えましょう』

 

そして、その口から言葉が紡がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内戦時、ルキフグス家は最後の最期まで旧魔王派の元で戦った結果。グレイフィアを残し、ルキフグス家は命を散らした。

 

それは必然とも言えるだろう。なぜなら彼女は当時、最強のルキフグスであり、"無"の継承者であったからだ。

 

グレイフィアはルキフグスの誰よりも強かったにも関わらず、次の世代へ繋げるまでは死ぬことが許されなかったのだった。

 

グレイフィアは自分の感情も、本性も殺し、どのルキフグスよりも忠実に家のために戦った女性であろう。

 

その結果が現在のグレイフィアだ。

 

後悔はしていない。自分の人生に後悔することは死んでいった家族を冒涜することになる。

だが、それでも…それでも考える。

 

もし、自分が家に背いて家族のために戦っていたら結果は変わっていたのではないか?

 

もし、もっと早くサーゼクスと出会っていれば結果は違ったのではないか?

 

もし……自身が"無"の継承者でさえなければ家族のために戦えたのではないか?

 

全て他愛もなく、現実味もないIFの話だ。

 

だが、小さく鈍い痛みを放つその棘はいつまでもいつまでもグレイフィアの心に刺さり続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたの弟さん、生きていますよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

今、この瞬間までは。

 

 

 

 

 







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最終兵器修道女

やあ、皆さん。久しぶりです。

まだ、失踪してませんよ。ええ、私は元気です。


 

 

時は戻り現在。

 

グレイフィアを前にジェノバと、4人の魔王が対峙している。

 

「グレイフィア……どうして…」

 

「サーゼクス様。私たちが何をしたところでこの方には敵いません。言う通りにしてください」

 

「だが……」

 

「言う通りにしてください」

 

「くっ…!!」

 

サーゼクスはこの状況を作り出したジェノバを睨んだ。

 

だが、ジェノバは悪戯が成功した子供のような顔のままそれを静観するばかりだった。

 

ちなみにその頃、エヌオーはというと……。

 

 

 

「ほーら、スジ盛りだぞー」

 

「ん…」

 

あまりにも暇だったようでジェノバの後ろの少し奥の方で椅子に座りながらそこにいるジェノバ以外の女性の髪をセットして遊んでいた。

 

ちなみには奉先1つお団子、黒のワルツ3号はツーサイドアップ、ヤズマットは五連三つ編み、オーフィスはスジ盛りである。

 

オメガは髪が短かったので頭皮をマッサージしてから櫛を通したようだ。

 

「ねぇシンラ?」

 

「ん?」

 

「止めなくていいの?」

 

奉先の指差す方向では一触即発と言った様子の光景が繰り広げられていた。

 

エヌオーはそれを達観したような表情で見てから瞼を閉じながら全てを悟った聖人のような顔つきで奉先に語りかけた。

 

「問題ない、ジェノバさんは俺の不利益になることだけは絶対にしない」

 

そして瞼がゆっくりと開かれた。

 

「不利益になることだけは…な……」

 

その目はどう見ても聖人どころか死んだ魚であった。

 

「そ、そう」

 

その気迫に気圧され、奉先が半歩下がった。

 

すると突如、エヌオーの目の色が変わり、ジェノバのいる方へ目を向けた。

 

つられるように奉先も目を向けるとジェノバが溜め息をついており、その周囲に青い何かが陽炎のように立ち込めている状態になった。

 

「…………不味いな」

 

奉先が周りを見ればヤズマット以外の3人、オーフィスとオメガは何かに身構えるような姿勢を取っており、黒のワルツ3号に至っては金色のオーラを纏っていた。

 

マズイって? と奉先がエヌオーに聞こうとすると、奉先は椅子に座るエヌオーに正面からしっかりと抱き締められていた。

 

奉先は恐らく、転移系の魔法で自分を胸元に移動させたのだろうと理解したが、理解したと同時に彼からのスキンシップという珍しいモノを味わっていることで赤面した。

 

自分の胸と彼の胸が密着していることで彼女の鼓動は早まり、いつも嗅いでいる彼の匂いが一層強く感じられていることで夢見心地と言った様子だった。

 

彼は更に強く抱き止めると彼女の耳元で呟いた。

 

 

 

「絶対に私から離れるな」

 

 

 

次の瞬間、エヌオーの指先に集められた白い魔力が形を成し、透明で半球状の障壁が奉先を中心に張られるのとほぼ同時に灰色の世界が青色に塗り潰された。

 

まるで海中にでもいるような光景だ。

 

「これは星の力……いえ、星の海?」

 

しかし、それは海水ではなく、ジェノバが放出したこの星の全てのライフストリームとほぼ同等の星の力だった。

 

「触れるなよ」

 

ジェノバの星の力はライフストリームのからドス黒い上澄みを掬った部分のような、ライフストリーム以上の精神汚染効果がある。

 

この星と同等程度なら魔王クラスの力があれば精神汚染は完全に防ぐことが出来であろう。

 

「あら……心配してくれるのー?」

 

奉先は嬉しそうに逆にエヌオーに強く抱きついた。

 

「うふふ、嬉しいわ」

 

その態度を見てエヌオーは若干抱き寄せる腕の力を緩め、疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……いつまでもギャンギャンうるさいですね」

 

ジェノバはそう呟きながら冷ややかな目で地に膝を付けている4人の悪魔を見詰めた。

 

無論、魔王らである。

 

4人はジェノバの星の力により、精神汚染は無いが凄まじく激しい吐き気、頭痛、腹痛etcに加え、立つことの出来ないほどの重圧にさらされていた。

 

バットステータスとしては如何なものかと思うが、実際に戦闘前に引き起こされたとしたらエグすぎる効果だ。

 

下痢を加えなかったのはジェノバのせめてもの優しさだろうか。

 

「なんだ…これは……」

 

アジュカ・ベルゼブブの呟きは最もだろう。

 

目の前にいる存在は魔王や、超越者という肩書きが足元にすら及ばないということを思い知らされたのだから。

 

いや、寧ろ目の前にいる者こそが真の超越者(全てを越えし者)に相応しい存在だろう。

 

「いつまでもグダグダ言ってると一人消し飛ばしますよ?」

 

「待ってください! もういいでしょう!?」

 

グレイフィアの言葉を無視し、前に突き出されたジェノバの右腕には、サーゼクスですら莫大と形容するしかないほど途方もない魔力が込められていた。

 

魔力は破壊の光となり、幾度も掌の上で小さな爆発を繰り返し、やがて穏やかな赤い光を放つ赤い球体へと変化し、形を成した。

 

 

 

"ジャッジメント・デイ"

 

 

 

グレイフィアはそれが何か直ぐに理解した。

 

いつかの機械を葬った魔法そのものだろう。

 

眩いばかりに輝く赤い光はこの青い世界には一層、美しく写った。

 

例えそれが破滅への力だったとしても。

 

グレイフィアは声も出すことが出来なかった。

 

あまりに圧倒的過ぎる光景を認識すると人はただ立ち尽くす事しか出来ない。

 

どうやらそれは魔王クラスの悪魔にも当てはまるようだ。

 

「私、あんまり気は長くない方ですから」

 

そう言いながら自らの頭上に腕を掲げた。

 

 

 

"死ぬ"

 

 

 

そこにいた魔王らは一様に同じ答えを導き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"ディメンションゼロ"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェノバはライフストリーム由来の化け物だ。

 

逆にライフストリームから星の歴史全てを知ることの出来る究極の生物とも言える。

 

その莫大過ぎる知識からジェノバは背後で構えられているその魔法を知っていた。

 

最後に唱えられたのは一体、いつだったか?

 

そして、それを使える魔術師は過去にただの1人しか存在しえなかった。

 

ジェノバが後ろを振り向くとそこには、相変わらず奉先を抱き締めながら座っているが、ジェノバの青い星の力とはまた完全に別の蒼い"無"を片腕に纏わせ、手を向けているエヌオーがいた。

 

「ジェノバさん…それ以上は怒りますよ?」

 

いつも通りの声色でたしなめるようにエヌオーは言った。

 

「………………承知しました」

 

ジェノバは数秒動きを止めてからそう呟きながら、ジャッジメント・デイを素手で握り潰した事で破滅の光は霧散した。

 

さらに再び指を鳴らすと世界が灰色に戻った。

 

ジェノバが星の力を止めたのだろう。

 

それを見てエヌオーは立ち上がり、奉先を代わりに座らせると蒼い"無"は白い色に戻ってから姿を消した。

 

そして、そのままグレイフィアの前まで歩いて行くと口を開いた。

 

「あー…そのジェノバさんだが……」

 

頭を何度が掻いてから言葉を続けた。

 

「"そんなに"悪い者ではないから………………私にとっては」

 

そんなにのところをかなり強調してグレイフィアに言った。

 

それを聞いたジェノバは心の底でほくそ笑んだ。

 

ジェノバを絶対的上位者だと知らしめることと、彼ひとりに従うことが伝わればそれで良いのだ。

 

これで少なくとも表立って何かしてくることは無くなるだろう。

 

「では紹介を始めましょう」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

うーん……。

 

ジェノバがオメガちゃんと黒のワルツ3号を手招きし、2人がジェノバさんの隣に並ぶと母さん達へ向き合い、何か言っている裏で椅子に戻った私は唸っていた。

 

「どうしたの?」

 

奉先が覗き込んできた。

 

「かっこよかったわよ」

 

そうか…。

 

私は奉先の言葉を受け流し、手に魔力を集めては消して集めては消してを繰り返していた。

 

「どうしたの?」

 

………………………。

 

「顔色悪いわよ?」

 

私はもう一度"無"を使い、呪文を唱えた。

 

その結果、腕には"無"が集まり、蒼く輝きながら炎のように揺らめいている。

 

「キレイ…」

 

奉先はそれを見てうっとりとした表情を浮かべていた。

 

私は腕を1度突き出し、少し時間を開けてからもう一度突き出した。

 

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……ふぅ。

 

 

私は"無"を消してから両手両膝を地面に付け、頭をうな垂れた。

 

もうだめだぁ………おしまいだぁ………。

 

「ちょ…え?…シンラどうしたの!?」

 

飛ばない……。

 

「飛ばない?」

 

ディメンションゼロが飛んで行かねぇぇぇ!!!?

 

「え? あえ? そ、そうなの?」

 

わかってないと思うので説明しよう。

 

私は何食わぬ顔で立ち上がった。

 

ディメンションゼロとは本来、腕に灯した圧縮された"無"の爆炎を相手に瞬間移動し、開放する単体爆殺用魔法である。発生から攻撃までのラグが無いに等しい上に、威力はそれなりに高い。

 

なのだが……。

 

どういうわけか私の手元から飛んでいかない。

 

これじゃ出来損ないのゴッド・フィンガーじゃないか!?

 

「色的にはダークネス・フィンガーに近いんじゃないかしら?」

 

あ、そうだな…ってそんなことはどうでもいい。

 

………………まさか……いや…そんなことは…しかし…。

 

ふむ…広い場所もあるし丁度良いか。

 

私は顔に片手をあて、ぶつぶつ呟きながら母さんのところへ歩いて行った。

 

「どうかしましたか?」

 

母さんは心配そうな声色でそう言った。

 

母さん……。

 

私は片手をぶらりと垂らしてから言った。

 

 

 

"ちょっとそこの庭……更地にしても良いですか?"

 

 

 

「は?」

 

母さんはオーフィスちゃんを膝に置いた時よりも更に鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。

 

駄菓子菓子。こちらは大真面目である。

 

『ぴょーん』

 

そんな会話をしているとジェノバさんが説明を放り出し、変な声を上げながら跳んできた。

 

『シンラさん、自分の力試しがしたいんですね? 大方、今の自分の力が昔の自分より格段に下がっている気がすると』

 

「そうなんですか?」

 

………………ジェノバさんよくわかりましたね…心でも詠んでるんですか…。

 

『いえ、私はシンラさんの心だけは見たことはありませんよ? 後、記憶も』

 

心まで見れるのか…ええ、そうですね。今の自分が昔より実力が多少は下がっているとは思っていましたが…想像以上に下がっている可能性がありましてね…。

 

『ほうほう、つまりは魔法を撃てる対戦相手が欲しいと』

 

私がいたら良いなって思ったこともバレテーラ。

 

『ならとっておきのサンドバッグを用意しましょう!』

 

ジェノバさんは空に両手を掲げた。

 

『ヴェグナちゃん! カムヒア!』

 

その言葉と共に空が歪み、いくつもの亀裂が走った。

 

更に空がガラスのように部分的に砕けて行き、奥に空間が見える。

 

まるでどこぞのパイナップルっぽい怪獣の登場シーンのようだ。

 

「なんかバキシムみたいね。って何よその顔?」

 

私はこんな残念なギャルオタク美人と同じ思考なのかと驚愕していただけだ…。

 

「やった! 美人って言われたわ!」

 

………………お前は人生楽しそうだな…。

 

それを聞くと奉先は親指を立てながら微笑んできた。

 

「最高よ?」

 

殴りたい、この笑顔。

 

『説明が遅れましたね』

 

ジェノバさんはバルコニーの手摺の上に飛び乗ると、ここにいる全員に対して話始めた。

 

『今からこの場所に呼ぶのがシンラさんの"戦車"』

 

空がガラスを砕くような音を立てながら砕け散ると、そこには虚空の空間が広がっていた。

 

多分、異界の深淵の最深部だろう。

 

『"ヴェグナガン"です』

 

空にぽっかりと空いた巨大な穴から目の青いマンモスの頭蓋骨のような顔がこちらを覗いていた。

 

父さんらはその余りもの巨大さに絶句しているようだ。

 

ヴェグナガンはゆっくりと空と虚空の境界を掴み、空間を砕きながら這い出るとその体躯の全貌を見せた。

 

マンモスの頭蓋骨のような頭を持つ機械の蛾。その表現が最も正しいだろう。翼は闇色の淡い光を放ち続けている。

 

『ヴェグナちゃん、もっと近付いて来てくださいよ』

 

思ったより遠くにいたらしい。

 

ヴェグナガンは数度羽ばたくと、こちらに向かって飛んで…………ん?

 

ヴェグナガンは私たちの前の庭まで来ると、庭の真ん中に後ろ足の2本で着陸した。

 

いや、着陸したのだと思う。

 

…………………………ジェノバさん?

 

『はい?』

 

前見た時より3回りぐらい巨大化してるんですけど…?

 

なるほど……これは時間でも止めなきゃ出せませんわ。

 

今のように上が虚空でなければ空も満足に飛べない大きさじゃないですか。

 

『宇宙も空と仮定すればびゅんびゅん飛べますよ?』

 

ジェノバさんは一体、何と戦ってるんだ……。

 

「巨大ロボッ…ぶほっ!?」

 

何か急に目が輝き出した父さんが呟やくと母さんに無言のハリセンでひっぱたかれていた。

 

『ちなみに魔晄キャノンの最大出力なら土星ぐらいなら消し飛ばせます』

 

地球の95倍の質量の物体をですか…そうですか…。

 

ん? 魔晄キャノン?

 

『はい、私はシスターレイなんてダサい名前は付けません。ヴェグナガンの後部パーツ、蛾で言うと臀部に当たる部分の内部に超大型魔晄炉を内蔵しているんです。これにより、後部パーツを地面に突き刺し、吸い出すだけでいつでも魔晄エネルギーの補給が可能です。それを使い、主砲のエネルギーに使うことで魔晄キャノンとなるのです。ちなみに最大までエネルギーを1度溜めると3回魔晄キャノンが撃てます』

 

……ジェノバさんはry)。

 

「宇宙戦か…ん!?」

 

「黙っていなさい」

 

ハリセンとは思えないほど鈍い音が響いた。

 

…………母は強し(物理)。

 

『これぞ、対ウェポン用決戦兵器。機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)ヴェグナガンです』

 

ジェノバさんはウェポンごと星を消す気なのだろうか……。

 

後、この星のウェポン様ことオーフィスちゃんなら今、私の背中に張り付いてガタガタ震えているんだが…。

 

『実力的にはヴェグナちゃんは300オーフィスぐらいですかね。そこのオメガちゃんは5オーフィス、ワルちゃんはMAXで2オーフィスぐらいです』

 

オーフィスちゃんはついに単位にされてしまった……。

 

『ちなみにほーちゃんは0.1オーフィスぐらいです』

 

「それって高いのかしら?」

 

安心しろ、十分人間は止めている。大体、二天龍と同じぐらいだ。

 

『2ヘッドドラゴンは0.2オーフィスぐらいですね』

 

「あの人、強いものね…」

 

え? 2ヘッドドラゴン? 火のダーククリスタルほっぽり出して何をしてるんだ?

 

『ちなみにですが、ヴェグナちゃんは一度機能を初期化し、その時点で悪魔に転生させてから強化したのでルール上は何も問題はありませんね』

 

うわジェノバさん黒い。

 

『もちろん、これでは勝負にすらならないと思い、制限機能をちゃんと付けてあります。ヴェグナちゃん』

 

その呟きと共にヴェグナガンから目の光が消え、腹部のコアが青く輝き出した。

 

今はコアから光が徐々に収まり、人の鼓動のようなスピードで断続的に輝いている。

 

すると突如、コアパーツが派手に砕け散った。

 

そこにいる全員が目を丸くしていると、次の瞬間、私たちの目の前に一人の女性が立っていた。

 

その女性はミニスカートでもスリットが入っているわけでもない修道服を着ており、シスターは付けているイメージのあるウィンプルもとい頭巾は付けていないようだ。

 

灰色の長髪に青の瞳、さらにジェノバさん以上に張り付けたような笑み。

 

だが、最も特徴的なのは2.2mはあろうかという女性か疑うサイズの長身だろう。

 

………ついでに…何がとは言わんが…スゴくデカイ…オメガちゃん以上だ。

 

ジェノバさんはいつの間にか、その女性の隣に移動していた。

 

『じゃーん、お出掛け用ヴェグナちゃんです』

 

そこにいる全員が絶句した。

 

いや、ヤズさんは何かツボに入ったらしく大声で笑っているが…。

 

『これなら戦闘力は本体の100分の1程度しかありませんから問題ありませんね』

 

ジェノバさんの話の途中でばさりと音を立て、ヴェグナちゃんとやらが悪魔の翼を広げていた。

 

1対の幅広のその翼は翼で身体を覆い隠しても尚余るほどの大きさをしている。

 

「あなたがエヌオー様ですねぇ?」

 

にこやかな表情でヴェグナガンは私に声を掛けてきた。

 

「昔のあなたの功績とその道…感服しましたぁ」

 

………………私は昔の話は誰にもしていない、いや、するタイミング自体も無かったハズだが…………星の記憶から読み取ったのか。

 

「世界を破滅に追い込み、全ての人類の畏怖の対象になったあなたは素晴らしい! 私にはやり遂げることの出来なかったことを人の身でやり遂げる!」

 

ヴェグナガンは両手を上げながら急に歓喜の声を上げ、私を賛美し始めた。

 

「ですが……あなたは自分の神をお持ちでは無いようですねぇ…」

 

と、思えばヴェグナガン両手を胸の前で合わせ、心底悲しそうな表情になったと思えば私に背を向けた。

 

「それはいけません。嘆かわしいことです。エヌオー様に相応しい神がい無かったのなんて…なん足る悲劇でしょうかぁ…」

 

ですが…とヴェグナガンが付け加え、くるりと振り返り私に向き合った。

 

「それは最早、過去。 今と言う時代にはぁ……」

 

ヴェグナガンは片手を自身の胸に当て、もう片方の手は私に掌が向くよう逆さに向け、目蓋を閉じた。

 

そしてゆっくりと目蓋が開かれた。

 

 

 

 

「"この私がいるではありませんかぁ"」

 

 

 

 

その瞳は広すぎる海原を彷彿とさせる群青色だ。そしてその目には熱意、陶酔、そして何よりも曇りのない純真な目をしていることが、多少違和感を覚えた。

 

「なれば私を信じるのが道理。さすればエヌオー様の思うがままのハカイを行いましょう。ハカイを広めましょう。ハカイを伝えましょう。そして世界を一つの感情で繋ぐのです」

 

ヴェグナガンは両手と翼を横に広げた。

 

ヴェグナガンの声はまるで子供に語りかけるように優しく、柔らかな声色をしていた。

 

「それは恐怖。世界すべてが私たちを恐怖すればそれは世界を一つにしたことと同意。国境も、国も、種族も何一つなくなりましょう。そのためなら喜んでこの身を捧げましょう。私こそが現在する神。裏切ることは絶対にありません。手を差し伸べるような素振りだけ見せ、姿も見せず。救いの一つも行わず。ただそこにあるだけの置物の神とは違うのです。聖書も、コーランも、仏典も私には必要はありません。いえ、そんなものは焼却してしまいましょう。害でしか無いのですからぁ」

 

ヴェグナガンは緩やかな手振りを加えながらもゆったりとした口調で尚も続けた。

 

「神は悪魔より遥かに多く殺します。人、悪魔、堕天使、動物、植物、果ては同じ神までも…なんと身勝手な…なんと救いのない…なんと理不尽な…。神こそこの世界で最も不浄で、下劣で、有害な存在でしょう。だから、私は既存の神の全てをハカイします。さらに神の過去の歴史を。神が産んだ愚かな文明を。神が形創った壊れた世界を。それが、それこそが全てを救うことになるのですからそして、神という言葉が私という存在だけを指し示す時が来るまで私はハカイを続けましょう。ですからぁ……」

 

ヴェグナガンは私の手を両手で包むと、花が咲くような満面の笑みをしてきた。

 

「私を信じ、お使いください。演奏者様ぁ」

 

私は笑顔を作り、一言呟いた。

 

 

 

 

 

"チェンジで"。

 

 

 

 

 

只でさえ、庭と目の前にいるヴェグナガンとジェノバさんのせいで重い空気が凍り付いた気がした。

 

誰一人何も言わない空気の中、ヤズさんの爆笑する声だけが響いていた。

 

かなり雑な対応だったが無論、理由かある。

 

そもそも、昔の私は自分の"無"がどこまで通じるか試したかっただけだ。

 

その序でに世界が滅びかけただけに過ぎない。

 

「………………そっちの方が危ない人なのではないのか?」

 

あー、あー、聞こえなーい。聞こえなーい。ヤズさん思ったより常識じーん。

 

「そうですか、お気に召しませんかぁ」

 

ヴェグナガンは私の返答を気にする素振りもなく朗らかな表情でまた、話し出した。

 

「なら私は数百年でも、数千年でも、数万年でも待ちましょう。待つのは得意ですからぁ」

 

そう言うとヴェグナガンは膝を折り、私の前に跪いた。

 

「私の演奏者はエヌオー様ただ一人。私はエヌオー様の音色のファンなのです。ならばせめて兵器(マキナ)ヴェグナガンとして傍にいさせてください」

 

…………まあ、それなら構わないが…。

 

ピアノなんて最後に引いたのは……12の戦士が私の城に乗り込んで来たとき以来、引いてないな。

 

「ピアノ…ラスボス…ハッ! シンラと空き瓶でテヌスが出来るのね!」

 

出来ねぇよ。

 

『ヴェグナちゃん準備をしてください』

 

「わかりましたぁ」

 

ヴェグナガンはジェノバさんに従い、ひとっ跳びで庭の中央、ヴェグナガン本体の真下辺りに移動した。

 

『これはもう片付けましょう』

 

ジェノバさんが指を鳴らすとヴェグナガンの本体が次元の裂け目に吸い込まれ、消えてた。

 

さらにもう一度、指を鳴らすと灰色だった世界が色を取り戻し、全ての時が動き出した。

 

『さあ、シンラさん。思う存分、身体を動かして下さい』

 

ジェノバさんは軽く私に頭を下げた。

 

私はバルコニーから身を乗り出すと、ヴェグナガンの20mほど前へ、跳んだ。

 

「本気で行きますよぉ?」

 

ヴェグナガンは右手に青い片手剣"アルテマウェポン"、左手に球体に隙間無く棘の生えたブリッツボールのようなモノ"ワールドチャンピオン"を出現させた。

 

当たり前だ。

 

それに合わせるように俺は白い"無"を全身に纏わせた。

 

「行きますよぉ」

 

ヴェグナガンはワールドチャンピオンを手から地面に落とし、その途中で私に向かって蹴り飛ばした。

 

それと同時に私は両手の"無"を蒼く染めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




暇潰しに書いたらそれなりに人気になった遊戯王GXの小説。

"じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない"

も、よろしくね!


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オープニング

シンラくん戦闘モード


 

 

 

私は飛んでくるワールドチャンピオンを腕の"無"で弾いた。

 

するとその瞬間には目の前に、突きの姿勢でアルテマウェポンを構えるヴェグナガンがそこにいた。

 

速いな。

 

ヴェグナガンから突き出されたアルテマウェポンを腕の"無"でガードするため、掌に"無"を集中させた。

 

これなら掌で切っ先を受け止めれるだろう。

 

だが、その刹那、刃が急激に加速した。

 

「"キラースパイク"」

 

アルテマウェポンは私の"無"のガードを貫通し、掌を刺し貫いた。

 

さらにそのまま頬をアルテマウェポンの刃が掠めている。

 

本気か…。

 

たらりと頬から血が流れ落ち、掌からも溢れる。

 

「手加減いたしましょうかぁ?」

 

無用、それにこの距離なら……。

 

俺はアルテマウェポンの貫通している手の"無"を強め、刃を抜けなくし、3つの魔法を同時に詠唱し終えている。

 

避わせまい。

 

赤い魔力が弾けた。

 

"ファイガ"

 

アルテマウェポンの刺さった掌から爆炎が吹き出し、刺さったアルテマウェポンとヴェグナガンを3mほど吹き飛ばした。

 

……一撃で大概の魔物は溶爆するぐらいの威力はあるはずだが…まあ、いい。

 

ヴェグナガンが後方に吹き飛んだことにより出来た僅かな時間で、刺された逆の腕を突き出した。

 

"アトミックレイ"

 

手から極太の赤い光線がヴェグナガンの身体を居抜く。

 

続けて両手を合わせ、魔力を解放した。

 

"メルトン"

 

私の周囲に灼熱の巨大なトルネードが形成され回りのモノ全てを襲い、焼き尽くした。

 

「流石、元世界最悪の魔術師ですねぇ」

 

だが、ヴェグナガンはメルトンの業火を受けながら体勢を立て直し、ワールドチャンピオンを蹴り飛ばす姿勢に入っていた。

「"Odi et amo"」

 

次の瞬間、蹴られたワールドチャンピオンと、蹴った瞬間に生み出された15の巨大な魔弾。合計、16回の攻撃が私を襲った。

 

私はその場から動かず、腕をクロスさせそれを全て受けると、また3つ魔法が完成した。

 

詠唱開始から0.1秒……遅い……昔ならこの10分の1も時間は掛からなかった。

 

"サンダーストーム"

 

私の指先から雷の嵐がヴェグナガンを襲う。

 

これにより、またヴェグナガンの動きが多少止まった。

 

さらに間髪入れずに私の背後から大津波が押し寄せる。

 

"大海嘯"

 

私が地を蹴り、空に退避した次の瞬間、大地を塗り潰す水の巨壁がヴェグナガンを呑み込んだ。

 

私は水の中のヴェグナガンの位置を確認しながら口を開けた。

 

ヴェグナガンは速くも体勢を立て直し、空の私へ跳躍を開始している。

 

口の前に赤黒い魔力球が集まり、それを解き放った。

 

"メガフレア"

 

一直線にヴェグナガンへ向かったメガフレアは空中のヴェグナガンに当り、地上の大海嘯を全て消し飛ばすほど巨大な爆発を起こした。

 

これで多少は堪えるだろう…。

 

「うふふ…」

 

背後から聞こえた笑い声で私は振り向いた。

 

そこにはアルテマウェポンを振り上げたヴェグナガンがいた。

 

あれを避けたか……。

 

降り下ろされた剣撃により、8連続で私は斬られ、最後に蹴り飛ばされたことで、体勢を崩し、地面に落ちた。

 

ヴェグナガンをみ上げると落ちる途中の私にトドメのワールドチャンピオンを私に放つ体勢をとっているようだ。

 

「"テラー・オブ・ザナルカンド"」

 

その言葉の次の瞬間、ワールドチャンピオンと共に私は地面に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「エヌオー!?」

 

グレイフィアの目線の先では土煙が上がり、それを眺めながら近くにヴェグナガンが立っていた。

 

エヌオーの魔法の数々は最強の女性悪魔と呼ばれているグレイフィアからしても、究極と言わしめるほど技の1つ1つが完成されており、間違いなく自分以上の暗黒魔導士であることは明らかだった。

 

だが、戦っている相手はそれ以上だ。

 

エヌオーの破軍クラスの魔法を受けながら、それをものともしないヴェグナガン。

 

魔導士にとって最悪の相性の相手だろう。

 

『まあまあ、これからが面白いところですから』

 

悲痛な声を上げるグレイフィアにジェノバが肩に手を置いて諭した。

 

『ほら…』

 

グレイフィアがジェノバの方へ振り向くとジェノバは指を指して土煙の中のエヌオーを示した。

 

その刹那…。

 

 

 

「"ディメンション・ゼロ"」

 

 

 

土煙の中から声が聞こえたとほぼ同時にヴェグナガンに青い爆発が起こり、100mほど後方に吹き飛んで行った。

 

全員が見詰める中、土煙が完全に晴れた。

 

そこには全身が炎のような蒼い"無"で覆われ、その手に赤い長杖を握っているエヌオーが立っていた。

 

 

 

 

『発狂モード入りましたー』

 

 

 

 

そう言うジェノバは心底楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

私は杖の感触を確かめるために数度振るうと、ディメンション・ゼロを完全に受けたにも関わらず、何食わぬ顔で再び私の近くにいるヴェグナガンに向き合った。

 

1つ言っておこう…私は魔術師などという下等なモノではなく、暗黒魔導士だ。

 

「それは失礼しましたぁ」

 

いや、謝るのは私の方だ。

 

杖が青く光り、再び3つの魔法が完成した。

 

漸く"無"が本調子を取り戻した…ここからは本気で行こう。

 

私が杖を小さく振り上げると、ヴェグナガンと私を取り囲むように無数の青い光の魔弾が出現した。

 

"ノーザンクロス"

 

杖を下ろすとヴェグナガンを無数の魔弾が全方向から迫る。

 

ヴェグナガンは魔弾を斬り伏せようとアルテマウェポンで魔弾に触れた。

 

それにより魔弾が弾け、ヴェグナガンの全身に青い炎が引火した。

 

次々とぶつかるノーザンクロスによってヴェグナガンは直ぐに火だるまになった。

 

だが、当の本人には殆ど効いていないようだが。

 

「あらぁ?」

 

残念、それは見た目に似合わず火の魔法だ。

 

そう言ってから再び杖を振るうと空間、全ての温度が急激に落ちた。

 

"サザンクロス"

 

そして、地面から大気まで周囲の空間、全てのモノが凍り付いた。

 

だが、ヴェグナガンは足の表面が少し凍る程度した被害をうけてはいないようだ。

 

だが、ヴェグナガンを覆うノーザンクロスの火も凍り付いている。

 

直ぐには動けまい…それで十分だ。

 

私は"無"と魔力を練り上げると私達を囲むように再び巨大な津波が出現した。

 

だが、今度は水ではなく、私の魔力で形成された大津波だ。

 

そして今、逃げ場はない。

 

"タイダルウエイブ"

 

タイダルウエイブは私をすり抜け、ヴェグナガンだけを呑み込んだ。

 

まだまだ…。

 

私は3つの魔法を完成させる。

 

タイダルウエイブが消えた瞬間、1つ目の魔法を放つ。

 

"フレア"

 

ヴェグナガンの胸の前で、自然界では発生することは有り得ない威力の爆発が発生した。

やはり、魔術触媒があるとないとでは威力が段違いか。

 

2つ目、今度は神聖の巨大な光弾がヴェグナガンに迫った。

 

"ホーリー"

 

ヴェグナガンが吹き飛ぶ、最高位の神聖により、さらに身を焼かれているようだ。

 

最後に上空で魔力が4つの塊になった。

 

"メテオ"

 

魔弾がヴェグナガンへ降り注ぎ、当たる度にこちらにも感じる凄まじい衝撃波がその威力の高さを物語っている。

 

「うふ……ふふ……」

 

それらを全て受け切ったヴェグナガンはワールドチャンピオンを地面に捨てると、片腕の肘から先がカノン砲の銃身と銃口のように変形した。

 

さらに 1対の身体を覆い余りある悪魔の翼を広げると空へと飛び立った。

 

第二形態か……戦法がまるで違うな。

 

「うふふふ…!」

 

そして、空で銃口をこちらに向けた。

 

淡い緑色をし、凄まじく圧縮された魔晄の光が銃口から少し漏れだしていた。

 

さらにヴェグナガンの体内の魔力が集中しているのを感じる。

 

面白い…究極の科学兵器と、究極魔法……どちらが上かな?

 

私は2つの究極の名を冠する魔法と、序でに1つの魔法を完成させ、杖先をヴェグナガンの銃口へ向けた。

 

"アルテマ"

 

杖先が光り、殲滅の光が迸る。

 

「"Memento mori"」

 

それとほぼ同時に魔晄の光が発射され、アルテマの光と正面から衝突した。

 

互いに出力を上げ続けているためか勝負は拮抗。

 

それを見て私は笑みを浮かべると、指を振り、魔法を放った。

 

"クエーサー"

 

動けないヴェグナガンの銃身の真横に多数の隕石群が出現し、衝突した。

 

それにより、体勢を崩し、銃口の向きが俺から明後日の方向に変わり、アルテマの光がヴェグナガンを包み込んだ。

 

アルテマの攻撃が途切れぬ内に膨大なエネルギーを集中させ、魔法を放った。

 

"グランドトライン"

 

ヴェグナガンの周囲の空間を巨大な三角形のエネルギー体が取り囲み、その中の空間内に凄まじいダメージの嵐が巻き起こった。

 

さて…。

 

私は私の中で最強クラスの魔法を3つ思い浮かべた。

 

さて、どれにするか…いや、寧ろ…全部でいいか。

 

私は手を水平に掲げた。

 

カオスを超えて終末が近づく…。

 

次の瞬間、私の背後に数万を越える青い魔方陣が重なり合い、赤い巨大な壁が出現した。

 

そして、全ての魔方陣が赤から青へ変わる。

 

そして、魔方陣の1つ1つに小さな灯りが灯り、再び赤く染まった。

 

そして、手をゆっくりと下ろした。

 

 

"ミッシング"

 

 

 

全ての魔方陣から無差別に全てを破壊する大小様々な光線が放たれた。

 

それは地を削り、雲を貫き、大気を穿ち、ヴェグナガンを幾度も貫いた。

 

さらに私は杖を掲げると、頭上に巨大な聖球が発生した。

 

 

 

"アルマゲスト"

 

 

 

杖を振り下ろすとヴェグナガンへ聖球が飛び、当たる直前で弾けた。

 

核爆発のような聖属性の光が周囲を無差別に飲み込んでいく。

 

止めだ…。

 

私は掌に小太陽のような物体を出現させ、ヴェグナガンの目の前へ瞬間移動した。

 

「素晴らしい……」

 

度重なる魔法により、満身創痍のヴェグナガンは宙に身体を投げ出しながら私を見てそう呟く。

 

受け取れ。

 

私は構わずにそれを解放した。

 

 

 

"ビッグバーン"

 

 

 

瞬間、小太陽が急激に膨張を始め、私とヴェグナガン。そして、周囲の全てを塗り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

俺は隕石の爆心地のようになった庭の中心の地面で、膝を付いているヴェグナガンを見た。

 

青い目にはさっきまでの光は無く、完全に停止しているようだ。

 

それを確認すると"無"を消し、それにつられるように手にあった赤い杖も消滅した。

 

今の実力は全盛期の半分……いや、3分の1といったところか。

 

『いやいや、素晴らしい!』

 

ジェノバさんが私の目の前に瞬間移動してきた。

 

『流石、シンラさん! 想像以上の実力ですね! ただ…』

 

昔に比べれば明らかに劣ると?

 

『ええ、そうですね。まあ、元不死の暗黒魔導士の肉体と比べるのが間違っている気もしますが』

 

そうだな。あくまでも悪魔に止まるレベルのこの身体では今はこんなところだろう。

 

『要修行ですか?』

 

基礎修行なんていつ以来だか…それより……。

 

私はピクリとも動かないヴェグナガンを見た。

 

よく見れば全身に亀裂が入り、片腕が吹き飛び、腹に穴が空いている。

 

断面からは人に極めて近い組織が露出していた。

 

だが、細部を見れば人とは違うのがよくわかる。

 

骨は金属、血管はチューブ、そして血は白い、筋繊維も遥かに強靭な物質だろう。

 

機械の人。いや、悪魔か。

 

…………壊れたか?

 

『あー、大丈夫です。ヴェグナちゃーん』

 

するとヴェグナガンの目に再び光が灯り、口を開いた。

 

「"Acta est fabula"」

 

その言葉と共にヴェグナガンの全身の破損箇所が逆再生のように修復され、戦う前の状態まで全回復した。

 

そして立ち上がると、こちらに笑みを浮かべ、ジェノバさんの斜め後ろまで移動し、止まった。

 

『ヴェグナちゃんの本体はあくまでも異界の深淵にいるさっきの巨大なアレです。本体を壊さない限りこの"リダクトA"を殺すことは絶対に不可能です』

 

それリダクトかよ……そして不死身か。

 

『最初にサンドバッグと言ったではありませんか。そういうことです』

 

なるほどな…。

 

「ちなみにAはavatarのAだそうですよぉ」

 

そう言い、今までの事は無かったかのように話すヴェグナガン。

 

………………もっとキツい奴使っときゃ良かったか。

 

『そろそろ戻りましょう。食事が冷めますよ?』

 

ジェノバさんがそう言うので、3人でここから見ると明らかに城であるさっきまで母さん達といた館へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いわシンラ! 流石、私の最愛の人(カレ)!」

 

テラスへ戻ると当たり前だが、私の眷属その他と、母さん達がいた。

 

正面から抱きついてくる奉先は数に加えないとして……ん? 一人足りないな。

 

はて? あの綺麗に皿だけが残っている長テーブルの列はなんだ?

 

よく見ると端の方でオーフィスちゃんが箸片手にもきゅもきゅしていた。

 

………………竜は犬より我慢出来ない…と。

 

さてそろそろ……。

 

私は奉先を引き剥がすと、いつの間にかテラスに増えている人々の方へ目を向けた。

 

一人は黒のワルツと瓜二つの少女。

 

一人は目をキラキラさせた父さんと同じ赤髪の少年。

 

そして最後は父さんと同じ"赤髪の少女"だ。

 

私は最後の少女に身体を向けた。

 

ジェノバさん…?

 

『思っている通りかと』

 

そうか…。

 

私は赤髪の少女に近付いた。

 

「……!?」

 

少女はそれに動揺し、大きく後ずさったが身体を戻し、私をしっかりと見据えた。

 

ふむ、態度はよし。青二才だが、これからに期待といったところか。

 

記憶が戻ってからずっと感じていた違和感。それが今やっと解消した。

 

私の身体の中には"無"の力、悪魔の力、そしてもう1つ小さく弱い力がある。

 

その力をイメージするのならチェスの最強の駒のような形だ。それも普通ではない形の。

 

これも母さんの隠し事か……まあ、それを説明するためにもここに呼んだのだろう。

 

初めましてと言うべきか……私の小さな…。

 

 

 

 

"王様"

 

 

 

 

 

 




やっと原作に沿うぜ!

眷属が増えるよ! やったね! リアスちゃん!

久し振りにクラウド1人旅コマンドマテリア縛りと、アニメるろうに剣心見てたら書きたくなって書きました。


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巨大な火(プチ)

9000字越えねぇ……始めた当初は3000文字づつゆったりと更新しようとか考えていたのに……一体どこで間違えたんでしょう?

後、1.2話書いたらいい加減原作にワープしましょうか。

最近、思うんですけど……普通に書いてるのに10ヵ月以上経っても原作に入ってない小説って私のぐらいですよね(白目)。

ゾディアークちゃんとアルテマちゃんのヒロイン加入イベントは過去編としてそのうちアップしましょうか。

ぶっちゃけた話。私だってそろそろ原作を書きたい!

その思いが暴走して没ネタの一部だった"呼んでますよ、嫉妬さん"と"紅蓮の王のまったりライフ"の2つを投稿しちゃってますし(露骨なステマ)。まあ、没ネタなので完成度は微妙ですが読んでいただけると作者歓喜してウマウマダンス踊って腰を痛める自信があります(キリッ)。

それはそうと今回はやったね!リアスちゃん! 眷属が増えるよ! 回です。




 

現在から数年前のとある執務室。

 

そこに一人の悪魔…サーゼクス・ルシファーが神妙な顔付きで椅子に腰掛けていた。

 

普段は妻のグレイフィアを常に同伴しているが、今は珍しく居ないようだ。

 

彼の視線は単にディスクの上にある1つの白いチェスの駒に注がれていた。

 

それは悪魔の駒と呼ばれているモノに他ならなかった。そして、その中でもレアな変異の駒である。

 

さらに変異の駒の中でも極めて珍しい、女王の駒だった。

 

無論、サーゼクスはグレイフィアに女王の駒を使っているため、サーゼクスのモノではない。

 

これはサーゼクスの妹であるリアス・グレモリーの悪魔の駒だった。

 

最高の価値のある女王の駒。それの変異の駒。本来なら喜ぶべき事だろう。

 

だが、サーゼクスは喜ぶ様子はどこにもなかった。

 

それは単純な理由だ。

 

変異の駒は単純に考えれば、価値以上の者を眷属に出来る駒だ。本来の悪魔の駒の価値より上の価値があると考えていい。

 

とすると女王の変異の駒はおよそ9×n程の価値があると考えていい。悪魔の駒としては破格の価値である。それ故に滅多に御目にかかれないレア物だ。

 

それを愛する妹が造り出してしまったのである。

 

「最悪だ……」

 

サーゼクスは呟きながら頭を抱えた。

 

何故ならば悪魔の家に取り入るのは幾つかの方法があるからだ。

 

1つは結婚。これはある程度相手も絞れるため、危険は少ないだろう。

 

そして、もう1つは悪魔の駒によって眷属となる事だ。

 

こちらが最悪である。

 

何故ならば悪魔の社会では結婚より、遥かに早く家に取り入れる手段だからだ。

 

その上、簡単に可能で死ぬまで切れないという酷い話だ。

 

そして、女王の変異の駒は下手すれば今のリアスでも、最上級悪魔の下の方すら眷属に出来てしまう程の可能性を持っているのだ。

 

つまり、この駒1つで大半の悪魔と繋がりが持ててしまうのである。

 

流石に最上級悪魔の中位~上位から魔王クラスは無理だが……寧ろ魔王クラスまで届けばどんなに良かったか…。

リアスは悪魔として、かなり危うく、そして悪魔社会では最高クラスの立ち位置にいる。

 

そこに取り入りたい者など掃いて捨てるほどいるだろう。

 

こんな1発で色々と全て、決定しかねないモノなどあってはならないのだ。

 

まあ、それが8割で残り2割は……。

 

リアスを僕の認めた男以外に渡す気はない!

 

という、実に妹の将来の為を考えた上での行動である。

 

しかも、この女王が出来る光景を大多数の悪魔が見ている。広まるのも時間の問題だろう。

 

だが、この解決策が無いこともない。

 

サーゼクスは視線をディスクに飾ってある1枚の写真へ向けた。

 

そこに写っているのは朗らかな笑みを浮かべるグレイフィアに良く似た青年だった。

 

いや、グレイフィアがその青年に良く似ているのが正しいのだろう。

 

本来の歳より幾らか大人に見えるその青年こそが、サーゼクスとグレイフィアの愛の結晶であり、ルキフグス家とあの方の悲願、そして神が産まれるより遥か昔の最強の暗黒魔導士だ。

 

エクスデスにより、魔力も"無"も封印されているのにも関わらず、最上級悪魔クラスの身体能力を持っている。

 

最もグレイフィアとサーゼクスにとってはそんなことは関係無く、自分達の愛する息子だが。

 

ちなみに、その息子はフル変異の駒という、アジュカ・ベルゼブブですら状況を飲み込むのに30秒ほど時間が必要だった凄まじい光景を起こしていたりするが、あれは論外なのでほっておこう。

 

息子は悪魔としてはエヌオー・ルキフグスという名になる。

 

そして、母親のグレイフィア・ルキフグスはサーゼクスがまだ、グレモリーだった頃に離反し、仕えていた。

 

ならばエヌオーが母親と同じようにルキフグスとして、グレモリーに仕えるのなら悪魔の社会でも党争に巻き込まれる心配もあまり無くなるだろう。

 

リアスも将来的に間違えなく最強……いや無敵の女王を手に出来る。最も御せるかはまた別の問題だが…。

 

しかし、絶好の機会とは言え、エヌオーを利用するような形になる。

 

悪魔の貴族としてはごく普通のなんでも無いことだろう。だが、親として、それはどうなのか?

 

サーゼクスはその事を悩み、今までここで悶々としていたのだった。

 

「いつまでそうしているんですか」

 

「グレイフィア…」

 

そこに現れたのは自身の最愛の人の一人であるグレイフィアだった。

 

「大丈夫です。エヌオーは優しい子ですから……」

 

「グレイフィア…」

 

グレイフィアがサーゼクスに後ろから抱きつきながらもたれ掛かった。

 

「よしっ…」

 

サーゼクスは何かを決心したような声を上げると、グレイフィアをそっと退かしてから立ち上がり、とある戸棚の前まで歩き、そこで止まった。

 

「サーゼクス様…?」

 

グレイフィアがサーゼクスの行動に困惑したが、サーゼクスが戸棚の術式を解き、中のモノを1つ取り出した事で表情が驚愕に染まった。

 

「まさか……サーゼクス!?」

 

「グレイフィア…僕はそれだけの事をするんだ。こっちもそれ相応のリスクが無いとフェアじゃない」

 

そう言うとサーゼクスは……。

 

 

 

 

 

"透明の僧侶の悪魔の駒"を自分の胸に押し入れた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど、そう言うことでしたか』

 

「ああ…」

 

椅子に座っているジェノバは顎に手を当て、目を細めてそう言った。

 

机を挟み、ジェノバの対面にはサーゼクスとグレイフィアが座っている。

 

『安心してください。リアスさんとシンラさんの関係を私からどうにかする事はありませんよ。サーゼクスさんの覚悟も大したものです』

 

その言葉にサーゼクスとグレイフィアは胸を撫で下ろした。

 

『……父親が僧侶…面白くなりそうですね…』

 

「今なんと…?」

 

『いえいえ、お気になさらず。それより…』

 

ジェノバはチラリと近くの席を見た。

 

そこではシンラの左隣に奉先、右隣に目をキラキラさせながらシンラの方を向くミリキャスと、ミリキャスの隣にあまり顔色の優れない姫島 朱乃が座っている。

 

そして、その向かいに顔面蒼白で下を向いているリアス・グレモリーだが…。

 

リアスの背後を囲むようにオメガ、黒のワルツ3号、ヴェグナガンが凄まじいプレッシャーを放ちながら立っていた。

 

序でに頭に?マークを浮かべながら片手に持つ大皿にある食べ物をもきゅもきゅと食べているオーフィスも野次馬に来ている。

 

「…………」

 

「貴様のような脆弱な小娘が我らの王の王か……カカカ…まるでブラネのようではないか」

 

「まあまあ、リアス様は悪くありません、全能な者の上に無能が立つなんて歴史的に見てもそう珍しい事でも無いではありませんかぁ。全てはそう…この不完全で完全な世界が悪いのです。ああ…なんと嘆かわしいことなのでしょう…手始めに目の前の羽虫を叩き潰したい衝動に駆られますねぇ…」

 

「……? 皆、ごはん食べないの?」

 

「や、止め……」

 

ちなみにシンラはこの光景をまるでペンギンコラのようだったと後に語る。

 

手がつけられないとはこういう光景の事を言うのだろう。後、視線で殺せるという事も。

 

「と、止めていただけるのでは?」

 

『止めたってまた彼女らはやりますよ。まあ、彼女らはシンラさんがGOサインを出さなければ手を出すことは無いでしょう』

 

「そうですか…」

 

グレイフィアはホッとしたようだが、未だ心配なのかチラチラとそちらを見ていた。

 

『そもそも止めたいならナイツ使えば良いじゃないですか』

 

「ナイツ…これですか?」

 

グレイフィアはさっき魔王らに向けていたマテリアを取り出した。

 

「それはなんなんだい? 普通じゃない魔力を感じるが…」

 

『それはマテリアと言って魔晄或いはライフストリームが凝縮され結晶化したモノです。要するに星の力の結晶と言ったところです。まあ、詳しくはあなたの奥さんに渡した初心者マテリア講座本を読めばわかります』

 

そう言いながらジェノバはナイツオブラウンドを指差した。

 

『言ってませんでしたが、それを1度使えば理論上はオーフィスを2度殺すぐらいは可能ですよ』

 

「え…?」

 

グレイフィアは赤いマテリアをありえないと言った表情で見つめた。

 

「さっき私……サーゼクス様らに使おうと…」

 

『超overkillですね。笑いそうになりましたよ』

 

それを聞いたグレイフィアはピシリと固まり、真っ白になっていた。

 

「グレイフィア? 大丈夫かい、グレイフィア?」

 

「サーゼクス様……私…私…」

 

『短い付き合いですがグレイフィアさんはとっても繊細で可愛らしい人ですね。少し意地悪したくなりますよ』

 

「うぅ……う"ぅ…!!」

 

グレイフィアは涙目でサーゼクスに抱き着いた。

 

その光景をニヤニヤと眺めてからジェノバは目線を自分の主である彼へと移した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

現在、右側から凄い視線を感じる。

「…………」

 

見られている。それもただの視線ではない。きらきらと効果音が付きそうなほど純粋無垢な眼差しである。

 

…………居心地悪い…。

 

「シンラ子供苦手だもんね」

 

ほっとけ、お前は俺の左半身にもたれ掛かるな。

 

「またまた、照れちゃって。でもその内困るわよ? シンラだってお父さんになるもの。最低3人は欲しいわ」

 

まずは1人で我慢しろ。

 

「ケチ。ぶーぶー」

 

うるさい黙れ。胸当てるな。

 

「当ててんのよ」

 

…………はぁ。

 

仕方なく私は視線を送る少年を見た。少年の隣に黒のワルツ3号に非常に良く似ている少女がいるが今は関係無い。むう…目が合う。

 

父さんと母さんを足して2で割ったような見た目してるな…髪は赤いが。

 

……君、名前は?

 

「ミリキャス・グレモリーです! お兄様!」

 

その瞬間私は雷に撃たれたような衝撃と、何か満ち足りたような感覚を感じた。

 

おにゅーい様だと……弟がいるとは初耳だぞ…。

 

「ずっと話だけで聞いてました! お母様からはとっても優しくて、とてつもなく強いと…」

 

俺はそんなことは構わず、ミリキャスくんの両肩に手を置いて真剣な眼差しで言った。

 

もう一度……。

 

 

 

"お兄様"と言ってくれ。

 

 

 

「…え? お兄様?」

 

それを聞いた私はミリキャス君の肩から手を離し、椅子の背もたれに身体を預け、天井を暫く見つめてから呟いた。

 

何だろうこの胸のときめき………これはまさしく。

 

「不整脈よ」

 

殴るぞクソ緑。

 

そんな私を見た奉先がニヤニヤしながらさらに口を開いた。

 

「シンラの適応力はアメリカザリガニ並ね」

 

失礼な、ブラックバス並と言って欲しいな。

 

そんな会話をしていると、ミリキャスくんが身を乗り出しながら奉先と私を交互に見つめた。

 

「わー、お母様の言う通り、本当に…夫婦(お父様とお母様)みたいですね!」

 

………………。

 

奉先と夫婦に見えるだと…?

 

私はチラリと奉先を見た。

 

奉先は目に星を浮かべながらミリキャスくんを見つめていて私が見たことには気づかなかったようだ。

 

…………夫婦か……最低でも後、7年は早いな。

 

「シンラ……」

 

なんだよ?

 

「この子可愛いわ! しかもとっても良い子じゃない!」

 

…………お前もオオカナダモ並だな。

 

とまあ、そろそろ本題に入るか…。

 

私は横目で向かい側を見た。

 

赤髪の少女が私の3人の眷属とオーフィスちゃんに囲まれている。

 

だが、3人の後ろにドス黒い何が渦巻いており、オーフィスちゃんの頭上にはハテナが浮いている気がした。

 

私は溜め息をつくと3人+2人に身体を向けた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

私……死ぬのね。

 

リアス・グレモリーは後ろを絶対に見ないように下を向きながらそんなことを考えていた。

 

耳を済まさずとも後ろから様々な音が聞こえてくる。

 

「……………」

 

忍装束の女から刀を鞘から10cmほど抜いては納刀し、抜いては納刀しを繰り返している金属音が響いている。

 

「足の一本ぐらい問題無いな」

 

顔の上半分を覆う黒い仮面を付けた魔女服の女からは鋭そうな三日月の長杖き素振りする音が聞こえる。

 

「うふふ…右翼…左翼…やっぱりバランスが悪くなるので両方ですねぇ」

 

そして巨大なシスターからは絶えず指と首を鳴らし続ける音が聞こえていた。

 

生きてたとしても女として死ぬのは確実そうだ。

 

「(もっくもっく)……?」

 

生きていたらこの娘を目一杯なでるわ…など思っていた。

 

 

「それぐらいにしておけ」

 

 

 

透き通るような声が響くと、後ろの音が全て止み、変わりに姿勢を整えた音が一瞬響くとそれ以降なにも聞こえなくなった。

 

「私の眷属がすまない。本気ではないさ……多分」

 

おずおずとリアスが顔を上げるとそこには肩肘を付けながらこちらを興味があるような無いような朧気な視線で見つめる青年がいた。

 

グレイフィアと同じ銀髪で、シルバーアッシュの瞳。

 

中性的で優しげな顔立ちと、彼から漂う幻想的な雰囲気はさらながら妖精王といった風格だ。

 

さらに彼に寄り掛かる緑髪の少女も並みではない。

 

まだまだ成長期の途中だというのにその歳からは逸脱した妖艶さと、それに応じた確かな意志と彼と共にある覚悟が見てとれた。

 

ただ、イチャイチャしているだけのリアスの婚約者の女王とは鯨と鰯だ。

 

「って言っても後ろの連中は表面上しか納得しないだろうな」

 

彼は片腕を前に突き出した。

 

それをただみていると彼の肘から先が紅く光る魔力へと変貌した。

 

「それは…お兄様と同じ…」

 

「ああ、さっきトイレに行った時に試したら出来た。とは言っても滅びの力の潜在能力的には父さんにも君にも遥かに劣るようだがな」

 

「………………」

 

滅びの力がこんなに簡単に扱われていることにリアスは顔を引き釣らせた。

 

しかも周囲を一切破壊していないところから操作はサーゼクスより遥か上らしい。

 

ちなみにサーゼクスが跳び跳ねんばかりに喜び、それを他の魔王がハイタッチで祝福するという光景が別のテーブルで繰り広げられたりしているがそれは置いておこう。

 

「"無"に比べればぬるま湯より温い。それに魔力の扱いに関して私より上の者はほぼ存在しないだけだ。君ならば私の滅びの力を簡単に越える事だろう」

 

「そ、そう…」

 

そう言いながら両手を魔力に変えたり、戻したりを自由にしている彼をリアスは見ていることしか出来なかった。

 

「シンラそれ触っていい?」

 

「かぶれるぞ?」

 

「あら大変ねー」

 

滅びの力そのものに手を突っ込んでかぶれるだけで済むとはいったい…。

 

「それで…だ」

 

彼は手を元に戻すと目線をリアスの後ろの3人に向けた。

 

「私が"無"の暗黒魔導士エヌオーではなく、ただの悪魔の神城 羅市…もしくはエヌオー・ルキフグスとして仕えるなら何も問題は無いだろう?」

 

それを聞いた彼の眷属3人は顔を見合わせた。

 

「…………」

 

忍装束の女は目を瞑るとその場から煙のように消えていった。

 

「それならば…」

 

仮面の魔女服の女は身を引き、頭を下げてからその場から立ち去った。

 

リアスは今になって彼女が朱乃と声が良く似ていたような気がすると気がついたが、他人のそら似だろうと結論付けた。

 

「そうですね…それならば私達が言うことは何もありませんよぉ」

 

最後に残った朗らかな笑みを浮かべている巨大なシスターは空間に溶けるように消えていった。

 

リアスは3人の気配が完全に消えた事で漸く、目を瞑り胸を撫で下ろした。

 

そして、彼との対話を今度こそ進めるために目を開いた。

 

 

 

瞬間、さっきのシスターが身を乗り出し、上半身を横にしてリアスを正面から笑顔で見つめている光景か目に飛び込んだ。

 

「ひっ…!?」

 

軽いホラーである。声を上げて小さく身体を退いた彼女を誰が責められようか。

 

シスターはリアスへ片手を伸ばし、額に触れるか触れないかというところで手を止めるとまた言葉を吐いた。

 

「ですが私達はエヌオー様の下僕だと言う事をくれぐれもお忘れなくお願い致しますぅ…もしそれが解らないのならぁ」

 

シスターの掌が淡い緑色の光を帯び、相変わらずの笑顔で呟いた。

 

「精神ごと、ハカイしますわぁ」

 

リアスがブンブンと首を縦に振ると満足したのか、今度こそ本当に溶けるように消えていった。

 

「……まあ、なんだ。アイツらに悪気は無いんだよ。多分」

 

「そ、そう…」

 

「とりあえず…」

 

彼はリアスに握手を求めるために手を出した。

 

「これから宜しく頼む」

 

「…ええ!」

 

リアスは明るい表情になると彼の手を確りと握った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ヒッ!?」

 

ふと、オーフィスちゃんからか細い悲鳴が上がった。

 

何かと思ってそちらを見ると、いつのまにかリアスちゃんの斜め後ろに良い笑顔をしたジェノバさんが立っていた。

 

『こんにちわリアスさん。私、シンラさんのメイドのジェノバと申します』

 

ジェノバさんはそう言って深々とお辞儀をした。

 

『ところでリアスさんは未だ使い魔をお持ちでは無いようですね』

 

「え? ええ…」

 

リアスちゃんが何か言う前にジェノバさんは迫っている。

 

『ならばお近づきの印に飛びっきりのモノをプレゼントいたしましょう』

 

そう言うとジェノバさんのメイド服のスカートの中がごそごそと蠢き、そこから出てきた触手が何かを取り出した。

 

それはバスケットボール程のサイズで所々が赤く、黒緑色の固く

鋭い外殻を纏ったダイオウグソクムシのような物体だった。

 

それは全く動かなく、されるがままじっといていた。

 

ジェノバさんはそれをリアスちゃんの目の前に下ろした。

それは口を開け、中にある単眼の眼(?)でリアスちゃんをじーっと見つめている。

 

「な、何かしら?」

 

これは……いや…どこからどう見ても…。

 

ジェノバさんはどこか誇らしげな顔で言葉を吐いた。

 

 

 

『"プチラヴォス"です』

 

 

 

流石ジェノバさん、プレゼントに星の寄生虫の幼体とは誰も想像できないぜ…。

 

「ギャオー」

 

プチラヴォスは可愛いとはあまり言えない鳴き声を上げた。

 

「ギャオー、ギャオー」

 

プチラヴォスはリアスちゃんに対して一頻り鳴いているようである。

 

だが、リアスちゃんは唖然としているのかそれを自分への声と捉えていないようだ。

 

「………………」

 

プチラヴォスは黙ると、少しして再び口を開いた。

 

「ウボァー、ウボァー」

 

なんかかなり情けない断末魔みたいな鳴き方に変わった。

 

『甘えてるんですよ』

 

「こ、これで?」

 

「ウボァー」

 

『撫でてみてください』

 

リアスちゃんは恐る恐るプチラヴォスの外殻に手を置くと撫でてみた。

 

「………………」

 

ラヴォスは黙ってそれを受け、時々身を震わせたりしているようだ。

 

思いの外可愛かったのかリアスちゃんはなで続けている。

 

それを見ながら私はジェノバさんに小声で疑問を投げ掛けた。

 

互いに一般的な悪魔を遥かに超えた聴力をしているわけで、ジェノバさんの隣にリアスちゃんがいるにも関わらずナイショ話が出来るのである。

 

「ジェノバさん?」

 

『はい?』

 

「一体どこからこんなものを?」

 

『エクスデスさんがプチラヴォスの化石を持っていたので貰えないか交渉しようとしたところ、先にお茶と羊羮のお礼としてタダで貰えました』

 

律儀だなあの人……いや、あの人にとっては単にゴミだったのかもしれないが。

 

『それを列車の中で復元して今に至ります』

 

「ラヴォスは嫌いだったのでは?」

 

『同列にされるのが嫌なだけですよ。例えば豚と同じなどと言われたら多少なりムスッとするでしょう? ペットとしてかなり優秀ですし、育てて楽しいですよ』

 

「ペットですか…」

 

『普通に育てると成長はそれなりに早いですし、何でも覚えますし、何でも食べますし、育て方よって形態が変わったりしますから』

 

「たまごっちみたいですね」

 

『はい、それに飼い主に似ますから、中々可愛らしいですよ?』

 

「ふーん」

 

そう考えると悪くない気もする。王蟲っぽい生き物をペットに出来るなら中々……いや、王蟲より遥かに凶悪だが…。

 

『欠点としては寿命がちょっとばかり長命過ぎることと、最大まで成長させると一撃で氷河期を終わらせたり、世界を最期の日にしたり出来るようになることぐらいですか』

 

くしゃみで世界崩壊とか洒落にならないもんな……それが出来そうな知り合いを3~4人知ってるんですが…。

 

『まあ、最速で最終まで育てても1000~2000年ほど時間を掛ける必要がありますから問題ないでしょう。理性を持たせればそれも解決しますし』

 

「コズミック源氏物語か…」

 

『どちらかと言えばコズミックフランケンシュタインかと』

 

「全滅ENDじゃないですか…」

 

『まあ、どうなるかは全てリアスさんに掛かっています。私なりの最大の嫌がらせですよ』

 

「知らぬが仏か…」

 

そう呟くとジェノバさんは一瞬、口角を上げ、ニヤリと笑みを作った。

 

遠い未来に濃厚な死亡フラグの可能性を立てるとか、やることが陰湿過ぎる…。

 

まあ、ちょっと面白そうと感じる私も私か。

 

そんな感じでジェノバさんとの密談は終わった。

 

「本当に貰って良いのかしら?」

 

本当に気に入ったらしくプチラヴォスは現在、リアスちゃんの膝の上にいた。

 

『どうぞご自由に。ちなみに今ならまだ悪魔の歩兵の駒1つで転生可能ですよ? 近い将来、最上級悪魔並みに強くなりますから寧ろそっちの方が良いかもしれませんね』

 

「凄い…」

 

最上級悪魔並みに強くなる(遠い未来、星を壊滅させるほど強くなるとは言っていない)。

 

リアスちゃんはどこからともなく歩兵の悪魔の駒を1つ取り出した。

 

プチラヴォスをそれをじーっと見ている 。

 

「いや…でも…もう少し考えてからにするわ」

 

『そうですか、まあ、それもあなたの自由です』

 

リアスちゃんは出した歩兵の駒をしまおうとした次の瞬間、手元から駒が消えた。

 

「え…?」

 

落としたのかと下を見下ろすリアスちゃん。その目線が捉えたのは口から出た1本の細長い舌(触手?)の先に巻かれた悪魔の駒だった。

 

「ちょっと…!?」

 

リアスちゃんが取り上げようとするがもう遅い。駒は電気コードのコンセントのように凄まじい勢いで口に吸われていくとパクリと食べられてしまった。

 

「あ……」

 

「あらあら」

 

「あーあー」

 

『……フッ…』

 

そしてプチラヴォスの背中には1対の小さい悪魔の翼が付いていた。

 

なんか可愛い。

 

『まあ、これも何かの縁でしょう。気を落とさずに』

 

「そ、そうね…」

 

『それではそろそろ固いことは抜きの交流会と行きましょうか』

 

ジェノバさんが腕を振るうと手にマイクが握られている。

 

それとほぼ同時に部屋の中央に立っていたオメガちゃんが地面に何かを投げつけると白煙が上がり、それが晴れるとカラオケBOXのより性能が高そうで巨大なカラオケマシーンが鎮座していた。

 

それを見た奉先は目を輝かせ、立ち上がるとジェノバさんからマイクを受け取り、ひとっ跳びでカラオケマシーンまで向かうとマイクを口元に当て、大きく息を吸い込んだ。

 

「じゃあ、まずは私から歌うわね!」

 

そう高らかに宣言し、カラオケマシーンで選曲をしている。

 

それを見た会場の人々は何人か奉先の周辺に集まってきた。

 

「じゃあ、次は僕がバレンタイン・キッス歌うから入れといてくれると嬉しいな。魔法使いサリーでもいいよ」

 

「はいはーい」

 

「サーゼクス様…」

 

と、父さんモノスゴい選曲だな…。

 

「聞いてください」

 

選曲が終わったようでイントロが流れ、奉先が真剣な表情でマイクを構え直す。

 

ん? この優しく、どこか懐かしいような曲は…まさか…。

 

「行きます! 私の本気! "ムーミンのうた"!」

 

誰かそいつをCICから叩き出せ!

 

 

 

こうして歓迎会という名の何かは進んで行った。

 

 

 




サーゼクス様の歌が聞きたい人は。

諏訪部順一 バレンタイン・キッス

諏訪部順一 魔法使いサリー

魔女っ子諏訪部

と検索すれば幸せになれるよ?

サーゼクスさんが眷属になる小説ってハーメルン初じゃないかな(白目)?


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精神攻撃は基本

どうもちゅーに菌or病魔です。

lov3の追加カードで四魔貴族や、アジルスや、蒼先青子が復活して嬉しい限りですね。それにより作者のパーティーも大きく変わりました。

作者のパーティー
ミリア
メデューサ
ソドム
かまいたち
バフォメット(攻撃する度に自身の攻撃力ダウン)
カイネ(時間経過で自身の攻撃力ダウン)
タルタロス(相手を殺す度に自身の攻撃力ダウン)

………………よくよく考えるとなんだこのドMは…?

でも今のところなぜか作者のパーティー最強だったりします。さて……横浜西口のタイトーにでも行くか…(更新してない小説を見ながら)。


 

 

エヌオーの宴から暫く経った頃。グレイフィアはいつも通りの日常を取り戻しつつあった。

 

あの青い災厄も最近はいつも通りエヌオーのメイドのような何かとして活動しているだけで、鳴りを潜めているようだ。メイドの仕事自体はグレイフィアですら究極と言いたくなるような出来映えのため、最早言うこともない。

 

グレイフィアも幾らか平穏を取り戻し、息子に会えない期間も過ぎ去ったため、寧ろ精神的にはプラスだろう。そして、プラスに考えるのなら息子に最強の護衛が付いているのだが、今の状況も案外悪くないような気がして来るのだ。

 

そんな中グレイフィアは、久し振りに四人の魔王全員がひとつの建物に集まり、職務をこなすことになったため、仕事の資料を個々の部屋に届けているのだった。

 

セラフォルー・レヴィアタンがいる部屋の前で立ち止まり、ノックの後に部屋に入る。

 

「失礼しま…」

 

その直後、中にあるものを見て硬直した。

 

あるものとは部屋の丁度中央に聳え立つ"等身大の魔法少女のフィギュア"のような何かだった。

 

「あ! ありがとー。その辺りに置いといてね」

 

フィギュアの側でくるくると回っているセラフォルーはそう言って机を指差した。

 

「いったいこれは……」

 

「これはね! イベント用に製造された世界で一体のフィギュアなんだよ! ジェノバさんに頼んだら用意してくれたの!」

 

「ジェ、ジェノバ…?」

 

「そう、あの人イイ人だよ!」

 

そう力説しながら語尾の代わりに目に星を浮かべているセラフォルー。

 

「そ、そうですか……」

 

グレイフィアは逃げるように部屋から出た。そして、部屋の外で額に手を置き、アレの魔の手がセラフォルーにまで及んでいることにしたやられたと言った様子をしている。流石に趣味から攻めてくるのは予想外だったのだろう。

 

何とか気持ちを戻しながら移動し、ファルビウム・アスモデウスがいる部屋に入った。

 

「失礼します…?」

 

部屋の中の光景を目にしたグレイフィアの語尾に?が付く。

 

と、言うのも机にはファルビウムではなく、その眷属の一人が座り、部屋のソファーでファルビウムが寝ていたからだ。

 

とりあえず、机に資料を置いたグレイフィアはファルビウムの眷属から今の状況の話を聞いた。

 

それによると突然ファルビウムに呼び出され、普段しないような仕事を押し付けられているらしい。ファルビウムらしいと言えばそれまでだ。

 

だが、グレイフィアは小さな違和感を覚える。本来、この眷属は武官的な立ち位置でスカウトした者でこう言った事務仕事は任せないはずだからだ。

 

そして、ふとファルビウムの枕元にある裏を向いている本に目が行き、それを手に取った。

 

そこにはファルビウムと親しい者のスペックから小さな隠し事や、趣味に至るまでの全てが載っていた。個人情報保護など鼻で笑うような内容である。

 

「これはまさか……!」

 

普通の人ならばただのマル秘ノート程度に過ぎないがこれを受け取ったのが、ファルビウムとなると話が変わってくる。

 

元から眷属などは仕事を丸投げするために集めているため、人材の目利きの上手いファルビウムだが、これに載っているのはファルビウムですら知らなかったような情報だ。これによりファルビウムが眷属に丸投げする仕事が増えたのは言うまでもないだろう。そして、睡眠時間の増えたファルビウムは今も寝ているのである。

 

「は…!?」

 

枕元にそっと置いておこうと、本を閉じた時、グレイフィアは本の表紙に書かれたデフォルメのジェノバの絵を目にした。デフォルメのジェノバから伸びる吹き出しには"丸投げしましょう!"と言っている。

 

またもや、奴の差し金である。

 

グレイフィアは本を置くとそそくさと立ち去った。

 

そして、グレイフィアにまさか……アジュカ様も…と言う焦りが生まれたが、アジュカ・ベルゼブブがいる部屋まで来たところでその考えは止んだ。

 

考えてみれば魔王の頭脳とも言える存在がそう易々とアレに気を許すわけもない。

 

グレイフィアは安堵の溜め息を吐くと部屋に入り……。

 

「失…」

 

「クックック……クァックァックァ!!……ヒーッヒッヒッヒッ!!」

 

見るからに様子がおかしいアジュカを目にした。

 

「………………」

 

直感的にああ、どうせコイツもかと理解するグレイフィアを誰が咎められようか?

 

虚ろな目で部屋を見渡せば床、天井、壁全てにびっしりと何かの数式が書かれ、最早部屋としての原型を止めていない。

 

とりあえず、資料だけ置いて出て行こうとグレイフィアが一歩部屋に入る。

 

「完全な数式を踏むなぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

グレイフィアが溜め息を吐きながら首を傾けると、グレイフィアの首があった場所を魔弾が通りすぎた。

 

「…………失敬、少々取り乱してしまった。資料はそこに置いておいてくれ」

 

「そうですか…」

 

それだけ呟き、床に資料を置き部屋の扉の前に戻るグレイフィア。あれを少々と言うのなら少々なのだろう。きっと、たぶん、メイビー。

 

地雷原を歩くような足取りで資料を取りに来たアジュカ。ふと、部屋に目を向け、変わったものを探せば部屋の隅にうず高く積まれた何かの資料のようなものがある。恐らくそれが原因だろう。

 

「アレはなんですか?」

 

興味本意ではないが、参考程度に聞いておく事にしたグレイフィア。それを聞いたアジュカの肩が跳ね、狂気にも近い笑みを浮かべる。

 

あ、これ地雷だ。と、グレイフィアが思う中、アジュカは話を始めた。

 

「"完全なる素数定理"だ…いや、究極…或いは終点と言っても過言ではない」

 

「は、はい…?」

 

グレイフィアは貴族の出ではあるがぶっちゃけ座学の成績はあまり高い方ではない。故にそれがどれ程大変な物なのか理解が出来ないのだ。

 

「美しい……」

 

アジュカは部屋の中央に立ち、ぐるりと部屋全面の自分が書いたであろう数式を見渡した。

 

「可憐か、醇美か? 妖美、八面玲瓏、清楚、風光明媚、キュート。いかんな、せっかく時間が有り余っていたというのに、もっと詩吟を学んでおくべきだった! この論文を形容する言葉が見つからん!」

 

「………………」

 

「まさかこの歳になって初めて教師と言える存在に巡り会えるとは……クックック……ん?」

 

アジュカが出入り口を見ると、グレイフィアは既にそこには居なかった。それを認識したアジュカはドアを閉める。

 

無論、アジュカが閉めた扉にもびっしりと数式が書き込まれていた。ちなみに案の定、うず高く積まれた論文の表紙にはデフォルメのあの宇宙人が描かれていたりした。

 

 

 

 

 

「………………ぐすん」

 

グレイフィアは目の端に若干の涙を溜め、ふらつきながら自身の夫ことサーゼクスの部屋の前に立っていた。

 

グレイフィアは考える。やはり私のオアシスはサーゼクス様と、エヌオーと、ミリキャスしかいないのだと。後、今日は日記を書く時間を長めに取ろうと。

 

涙を振り払い、いつものような表情で固めると、部屋の中に入っていった。

 

「お帰りグレイフィア」

 

「はい! サーゼ…」

 

旦那が机に座りながら2つの小玉スイカのような大きさの卵らしき何かを撫でているのを目の当たりにした事で、グレイフィアの中で何かが崩れ落ちる音が響いた。

 

「見てよグレイフィア! さっきジェノバさんから届いたんだけど……ティラノサウルスの卵を復元したらしいんだ!」

 

「………………」

 

「ん? グレイフィア? どうしたんだい?」

 

「………………は」

 

「は?」

 

「……はは…………ははは…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「グ、グレイフィア!? 室内で力を撒き散らしたらダ……」

 

「アルマゲストォォォ!!!!!」

 

「ウボァー!!!?」

 

 

 

 

 

この日、最強の女王は突如として無差別に暴れまわり、最終的に4人の魔王に押さえつけられて漸く停止した。

 

医者によれば過度のストレスによる精神疲労が原因らしく、彼女には療養と言う名の長期休暇が与えられたようだ。

 

尚、この事件は身内で処理されたため、彼女の社会的な尊厳は守られたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、呂布 奉先について話をしよう。無論、私の身近に生えているギャルの事だ。

 

基本的に誰にでも優しく、容姿は私が言うと贔屓目になるかもしれんが上の上、そして人を統べるカリスマもあり、何よりも人間最強クラスの戦闘力を持つ嘘のような存在である。

 

たが、生き物と言うものは良く出来ているモノで、高い能力のあるモノには全てをぶち壊すような欠点があるものだ。

 

例えば鳥は空を飛べる。が、その代償は他の生き物に比べれば折れやすい骨と、軽い頭だ。

 

例えば魚は生存能力を優先した為に大量の卵を産める。しかし、その代償は個々の存在をほぼ捨て、種として存在していると言うことだろう。

 

例えば植物は菌などを除き、生き物で最高の繁殖力を持つ。が、生物的ヒエラルキーは最下層だ。

 

これを踏まえて奉先を観察して見よう。

 

「解んない……解んない解んない解んなーい!」

 

現在、ゴロゴロと転がりながら私にすがり付くように何度も当たっている。

 

中々、ウザいことこの上ないように見えるが長い付き合いで最早、気にする必要すら無い。要するに放置安定だ。

 

ここで奉先の過去のテストでの解答の例を幾つか上げよう。

 

 

Q:What in the world did you do?

 

奉先:お前は世界に一体何をしたんだ!?

 

 

Q:少子化について自由に論じよ

 

奉先:私はシンラの子を可能な限り産むので関係ありませぬ┌(┌^o^)┐

 

 

Q:日本を天下統一したのは?

 

奉先:釘宮病

 

 

Q:三国志について知っている範囲で述べよ

 

奉先:⑨は私

 

 

Q :( )に当てはまる数式を記入せよ。

 

奉先:(´・ω・`)

 

 

Q:好きな漢文について好きなように論じよ

 

奉先: 将進酒の一部

 

原文

君不見黄河之水天上來

奔流到海不復回

君不見高堂明鏡悲白髮

朝如青絲暮成雪

人生得意須盡歡

莫使金尊空對月

天生我材必有用

千金散盡還復來

烹羊宰牛且爲樂

會須一飮三百杯

 

読み下し

君見ずや黄河の水 天上より來たるを

奔流海に到りて 復た回らず

君見ずや高堂の明鏡 白髮を悲しむを

朝には青絲の如きも 暮には雪と成る

人生意を得ば 須らく歡を盡くすべし

金尊をして空しく月に對せしむる莫れ

天 我が材を生ずる必ず用有り

千金散じ盡くせば還た復た來たらん

羊を烹牛を 宰りて且らく 樂しみを爲さん

會ず須らく一飮三百杯なるべし

 

現代語訳

君よ見たまえ、黄河の水が天上から注ぐのを。

激しい流れが海に流れ込むと、二度と戻ってこないのだ。

君よ見たまえ、ご立派なお屋敷に住んではいるが、鏡に我が身を映して白髪を悲しんでいる老人の姿を朝は黒い絹糸のようであった髪も暮れには雪のように真っ白になるのだ。

人生、楽しめるうちに楽しみを尽くすべきである。

金の酒樽をみすみす月光にさらしてはならない。

天が私にこの才能を授けたのだ。必ず用いられる日が来る。

金なんぞは使い果たしてもすぐにまた入ってくる。

羊を煮て牛を料理して、まず楽しみ尽くそう。

どうせなら一飲みで三百杯というくらい、トコトン楽しむべきだ。

 

一言

人生楽しまなきゃ損よ。

 

 

 

ここまで来れば奉先の代償…と言うか欠点はもう見えたも同然だろう。

 

そう、奉先は"ただアホなのである"

 

脳筋なわけではないが、勉学などに置いて継続的な努力の出来ない典型的なゆとり世代等と言われる人間像の鏡のような人間なのだ。

 

いったい、奉先のどの辺りが古き伝説の武将なのかと小一時間問いたくなる。と言うか文官を務めていた事もあったはずだ。それとも世代を1700年程先取った奴なのだろうか? まあ、コイツからその答えが見える頃には太陽が地球を呑み込んでいるだろう。

 

ちなみにオーフィスちゃんの方が成績は遥か上である。

 

「ぶーぶー! ヒドイ言い様じゃない! 未来の奥さんと同じ高校に行けなくて良いの!?」

 

…………それは困るな。

 

「でしょう?」

 

「さて……」

 

私は立ち上がると素手で空間を割り、次元の狭間への扉を造る。

 

空間の奥には天ノ川のように光り輝く道と、周囲の光を取り込むような黒い道が続いていた。

 

さて……どちらから先に攻略すべきか…。

 

「まーたエクスデス先生の無茶振り?」

 

奉先はあの人の事をエクスデス先生と呼んでいる。まあ、家の大体の者はそう呼んでいるのだが……その理由は週五程の頻度で私の家に来て私含む眷属+奉先を相手にエクスデス道場……げふん稽古を付けたりしては帰るのである。きっと暇なのだろう。

 

ふっ……流石にそれは舐め過ぎだエクスデス先生。

 

「と、思っていた時期が私たちにもあったわよね」

 

現実は誰一人勝てませんでした。

 

あの人おかしい。どれぐらいかと言えば一度、ヴェグナがぶちギレて本体を出したのだが、三分足らずでジェノバさんにボコボコにされた時のような状態で墜落するぐらいだ。こりゃ、文句なしで今の世界最強ですわ。

 

昔の肉体の私なら互角以上に戦えるハズだが、この身体ではまだ遠い未来の話だろう。

 

これじゃ、全く経験値が稼げないじゃないか!

 

まあ、そんなエクスデス先生がたまに私に課題のようなものを出すことがあるので今日もそれをやるのである。まあ、大半はラストエリクサーを1ダース取ってこいとかで、どう考えても"無"の研究のパシりなのだが、たまに私の為になるようなものもあるので仕方がない。

 

今回は2つの地点を提示し、そこにいる召喚獣を倒して来いだそうだ。裏ボス級の奴等からラストエリクサーを掠め取って逃げる作業より随分楽に感じるな。

 

問題はオーフィスちゃんにでも教えて貰いなさい。

 

「はーい」

 

机に顎を乗せパタパタと手を振るう奉先に溜め息を吐きながら私は次元の狭間へと足を進めた。

 

 

 



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おかしら…好きだあ…

どうもちゅーに菌or病魔です。

lov3でモルモー&エンプーサでさっぱり勝てねぇ…。というかコイツら実質エネタワーアップ付いてるようなものなんじゃ…。誰が上手い動かし方教えてください。


 

 

 

 

 

「へー、やっぱり神羅の家にもラジコンとかあったのね」

 

農薬撒いたりするための奴だけどな。

 

私と奉先は庭の片隅にある倉庫と言う名のお蔵入り品を物色していた。理由はジェノバさんが"昔作った少し特殊な薬が倉庫に保管してあるので持ってきて貰えませんか?"などと頼み事をしてきたからである。

 

ジェノバさん製の"特殊な薬"というアンブレラ製のアンプルより数段ヤバそうなモノが倉庫に眠っていると聞いた瞬間、私は行動を起こし、それに近くにいた奉先が着いてきたのだ。

 

そんなことを考えていると、奉先は何を思ったのかマジックを取り出し、キュキュッと音を立てて農業用ヘリコプターに落書きをした。文字だけは無駄に綺麗である。

 

「これでよしと…」

 

"カプコン製"

 

おいやめろ。

 

そんなことをやっているうちに倉庫の中で明らかに真新しいと言うか…異彩を放っている物体を見付けた。

 

それは目に眩しい程銀色のアタッシュケースである。バイオ5でJブレイカーが入ってそうな限り無く正方形に近い長方形のアタッシュケースだ。まるで開けろと言わんばかりに情景から浮いている。

 

触らぬ神に祟りなし。だが、触らなければならないこのもどかしさである。

 

私はそれを爆弾でも抱えるようにそっと持ち上げる……のは危ないかもしれないので初歩的な魔法で空中に浮かせて運ぶことにした。

 

とりあえず奉先は私のアルバムを発掘すると躍起になっているため、ジェノバさんに届けに行くとしよう。

 

ちなみにアルバムは全て母さんが持っているのでここにあるわけもないが言わぬが華だろう。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「んー! んー! んー!」

 

『あ、持ってきてくれたんですね。ありがとうございます』

 

庭にあるニブルヘイム魔晄炉にいたジェノバさんにアタッシュケースを届けた。今更ながら庭にあるニブルヘイム魔晄炉とは凄い日本語もあるものだ。

 

何故かジェノバさんの隣で簀巻きにされ、猿轡を噛まされているオーフィスちゃんの事が気にならないと言えば嘘になるが、私にはどうすることも出来ない。家で上機嫌なジェノバさんを止めれるモノなど存在しない。

 

ちなみにこの魔晄炉は名前通り、内装の大部分もあの魔晄炉を忠実に再現しているので真下に魔晄が溜まってる回廊の道の端に柵がないわ、モンスター製造フロアーで覗くと何か造っているわ、ジェノバさんの部屋にはジェノバさんがいるわとても危ない。危険が危ないと言いたくなるレベルである。絶対にミリキャスは連れて来れない。

 

今いるのはそのモンスター製造フロアーだ。その奥のジェノバさんのいた場所はジェノバさんの最重要ラボ兼自室なので絶対に入らない方がいい。この星有数の肉体を持つ私が言うんだから間違いない。最後に入った時は軽く国が吹き飛ぶ規模(10m程)の人工破魔石に源泉(ライフストリーム)掛け流しにしてたしな。星が滅ぶとしたらまずここからだろう。

 

「がるるるる…」

 

とりあえず流石に不憫に思い、猿轡を取ってみたのだが、なんだがオーフィスちゃんの様子がいつもと違うように見える。それに表情がムスッとしているような気もする。

 

「がー!」

 

あ、手を噛まれ……。

 

「はむっ」

 

……………………オーフィスちゃんははむはむと包み込むように私の手を食んでいる。はむはむしている…………なにこれ?

 

『偶々オーフィスさんに"聖水"と"乙女のキッス"を飲ませていたところこのようになってしまい、万能薬などを切らしているため、仕方無く倉庫に保管しておいた万能薬を作る過程で発生した似た効果のある薬を飲ませようとしたわけです』

 

ああ……体内で祝福のキッスになってバーサク状態になったわけか……どうしてその組み合わせで飲ませる事になったんだろうか?

 

まあ、いいか。手をはむはむするだけのバーサク状態とはやさしいしんりゅうだなオイ。……やさしいビブロス。

 

ちなみに万能薬とはジェノバさんが開発した如何なる毒だろうと、病だろうと、平常の状態に強制的に引き戻すという医学界を吹き飛ばすチート染みたモノである。ただし、ステータス的な効果には一切反応しない。

 

『そうなるのは多分、シンラさんだけです。私の時は本気で襲い掛かってきましたよ? 動物的な本能をシンラさんを襲わないように感じているが、攻撃しなくてはならない状態の為にそうなっているだけだと思われます』

 

……そうか…これ攻撃なのか…。

 

ジェノバさんは万能薬らしきモノをアタッシュケースから取り上げ、蓋を開けてストローを突き刺すとオーフィスちゃんに向けた。

 

それをチューっと吸うオーフィスちゃん。バーサク状態でもこの食意地である。

 

「……………………」

 

素面に戻ったのか真顔になるオーフィスちゃん。ジェノバさんが簀巻きにしていた紐を解くと、ダッ!っと効果音が付きそうな程一目散に魔晄炉の出口へと駆け出して行った。野性動物かお前は。

 

とりあえずお使いが終わったので、ふと作業台の上を見れば私の悪魔の駒のポーンが7個と、"巨大なフレイル型モーニングスター"と、"稲妻のような紋様の入った赤い槍"と、"5本の棒が付いた銃"と、"なんかもうわけわからんモノ"が並んでいた。

 

…………なんですかこれ?

 

『あ、やっぱり気になります?』

 

そりゃ、まあ、どう見ても私の悪魔の駒が実験材料にされる未来しか見えないですし…。

 

『それは英雄神バアルの"アイムール"、そっちは影の国の"ゲイボルグ"、それとトゥアハ・デ・ダナーン神族の四至宝のひとつ"ブリューナク"、最後に創造神ブラフマーの"ブラフマーストラ"ですね。アースガルド神族秘蔵の魔剣の"レーヴァティン"もありますよ』

 

うわー、伝説の武具のオンパレードだー…………………………で? 昨日は無かったハズのこれらは一体どうしたんですか?

 

『私のお願いで昨日の夜から今日の早朝に掛けて、アースガルドはオーフィスさん、約束の地(クナーアン)の英雄神は本気モードのオメガちゃん、影の国の女王は最終形態の黒のワルツ3号ちゃん、太陽神ルーはヴェグナちゃんの本体、ブラフマー・シヴァ・ヴィシュヌの三柱をヤズマットさんが襲撃して手に入れたドロップアイテムですよ。収穫はイマイチでしたね』

 

禍の団よりヒデェや……。

 

『命ごとなにもかも奪い取っても良かったんですから良心的なモノですよ』

 

戦争とは広くは、民族、国家あるいは政治団体間などの武力による闘争を言う、国家が自己の目的を達成するために行う兵力による闘争がその典型である。つまりこれはただのダイナミック押し込み強盗である。

 

『まあ、禍の団の首領はオーフィスさんが首領と言うことになっていますし、禍の団がやったと言うことになるんじゃないですか? 家では人型ですけど襲撃した時は皆さん人の姿じゃありませんしね』

 

ちなみに禍の団(カオス・ブリゲート)とはこの星最大勢力のはみ出しモノが集まったテロリストと言ったところだ。

 

ただし、テロリストのトップが二十歳程の容姿のオーフィスちゃんに化けたジェノバさんの一部のため、既にゆっくりと組織自体が蝕まれているようなものである。ちなみにそのことは私とジェノバさんだけの秘密だとかなんとか。

 

要望があれば構成員にオーフィスの蛇……と言う名のジェノバさん特製の何かを配っているらしいが、効果は寧ろオーフィスの蛇より上なので問題ないだろう。

 

ジェノバさん製のオーフィスの蛇の事をヤズさんが肉の芽と呼んでいた気がするが多分気のせいだ。

 

『うふふ、私考えたんですよ。1つの駒で最も効率良く強い兵士を造る方法を』

 

微笑みながらゲイボルグを取り上げると部屋にある空豆のような形のモンスター培養槽の前に移動するジェノバさん。

 

悪魔の駒で兵士に転生させるのであり、既に兵士を造ると言う前提がおかしいが今更だろう。

 

『まず、これを見て下さい』

 

私は言われるがままモンスター培養槽の丸い小窓を覗き込んだ。

 

するとそこには妙なイガイガした人型のモンスターなどではなく、異様に肉々しいマネキンのような白い物体が浮いていた。ボディラインから察するに女性型だろう。

 

最もピクリとも動かない出来損ないの白イルカのようなそれを人と形容するのは如何なものかと思うが。

 

『まあ、これは小学生の工作程度ですよ。ただの人造人間(ホムンクルス)の素体ですし』

 

スゲーな最近の小学生。図工でホムンクルスまで造るのか。

 

『まあ、私の細胞をベースに使ってますから厳密には人間ですら無いホムンクルスなんですが、そこは目を瞑って下さい。これらはあくまでも材料です。それで……』

 

ジェノバさんが隣の培養槽のボタンを押したことで排水が始まり、それが終ると勢い良く蓋が開き……。

 

 

 

"悪魔の翼の生えた全裸の銀髪の女性"が飛び出した。

 

 

 

『こちらがあらかじめ作っておいたモノになります』

 

……………………。

………………。

…………。

……どこから突っ込めばいい?

 

伝説の武具と、悪魔の駒と、出来損ないのホムンクルスを見ていたら眷属が増えた。何を言っているかわからないと思うが私も……。

 

『名前は"レーヴァティン"ちゃんですね』

 

ああ、盗ってきた魔剣と同じ名前か……は?

 

『シンラさんは蝶魔術と言う魔術をご存知ですか?』

 

蝶魔術(パピリオ・マギア)

 

芋虫が蛹を経て、一度躰をどろどろに溶かしきってから蝶に変わる様に神秘性を見出した魔術である。 要するに生き物を別の生き物に作り替えちゃおうぜと言うアンブレラ路線の魔術と言えばいいだろうか。

 

ジェノバさんの十八番である。

 

『それと似たようにこの製造機で伝説の武具と、ホムンクルスの素体と、悪魔の駒とを入れてどろどろに溶かして固めたのが彼女です。実験は成功ですよ』

 

……それでジェノバさん。レーヴァティンはどこへ?

 

『ええ、だから彼女です』

……剣は?

 

そう聞くとジェノバさんは、手を打ってから指を立てるといい笑顔を作った。

 

『使ってしまったのでもうこの世にありません。あ、でも悪魔の駒は彼女を物理的に破棄すればちゃんと戻ってきますからご安心を』

 

まさに外道。

 

『何をいいますか。シンラさんがアルテマとゾディアークの獣印を入手した時の予行練…こほんシンラさんの役に立てるのですからこれ程幸福な事はありませんよ』

 

獣印ねぇ…。

 

前にエクスデス先生の課題で聖天使アルテマと、戒律王ゾディアークを倒しに行ったのだ。正直、片方だけなら余裕だと踏んでいた。

 

が、片方のヘネ魔石鉱のような場所に行けばそこはもぬけの殻。

 

仕方なくクリスタル・グランデのような場所へ向かったのだが、そこの名物ゾンビ系モンスターに混じってヘクトアイズや、ギザマルークがいた辺りから気付くべきだっただろう。

 

しかし、道中にダイヤの腕輪を装備してるわけでもないのに桜色で少し湾曲したハート型の盾である"最強の盾"と言う名前の盾を拾った事で気分が良くなり気が付かなかったのである。

 

アイツら………。

 

 

 

終点エリア、クリスタル・ピークでご丁寧に"二体"で出待ちしてやがったのだ。

 

 

 

聖天使アルテマと、戒律王ゾディアークの同時討伐。なにそれこわい。

 

しかもアルテマはホーリジャと完全アルテマを連発しながらHPが少しでも減ると即座に自身にフルケアを掛けやがる始末。

 

ゾディアークに限っては最初から魔法無効と、物理無効を貼り、ステータス上昇魔法で固め、闇吸収装備や闇無効装備を付けてないにも関わらず狂ったようにダージャを連発してくるやりたい放題仕様だった。ゲームだったらクソゲー(勇者視点)なんて騒ぎではない。

 

昔ならいざ知らず、どうやら今の私に逆転に完全な耐性は無かったらしい。数十回目のホーリジャの後のフルケアで本当にクリアにサンズリバーが見えた。

 

その時にこっそり着いてきていたオメガちゃんに救出されなければ渡っていたかもしれない。

 

『開幕か効果が切れたらアフェクトフォーム。通常魔法でアルテマスパーク、トライディザスター、インフィニティ等を連射していたシンラさんも他人の事言えないと思いますよ?』

 

そういう仕様ですから……召喚獣風情がこの暗黒魔導士エヌオーに煮え湯を呑ませてただで済むと思うなよ…ミストの欠片すら残さず"無"に沈めてやろうか…?

 

………………いかん、どうも魔法が関わる勝負事となると昔の私の思考が戻ってくる

な…。まあ、あの2体を消し飛ばすのは確定だが。

 

『兎も角、こんなのは前菜です。シンラさんのもう一体の"騎士"が完成したんですよ』

 

どうやらいつの間にかオメガちゃんクラスの何かが完成していたらしい。最近、魔晄炉が何時もよりガコンガコン煩いと思ったらそんな事をしていたのか。

 

ジェノバさんはレーヴァティンを空豆に詰め直すと奥のジェノバさんの部屋に入るように私を促した。まだ、調整中らしい。なぜ出したし。

 

仕方無く私は言われるがまま、奥へと足を進め……。

 

「シンラー! 見て見てー! 倉庫に透明な弓がいっぱいあったわよー! "ザイテングラート"って言うらしいわ!」

 

おいやめろ。やめてください。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

ジェノバさんの部屋に入るといきなり部屋の中央に巨大な魔物が鎮座していた。

 

女神と2体の骸骨を組み合わせたような怪物である。

 

ええ……なんであなたがここにいるんですか?

 

『ああ、それは"アンラ・マンユ"という魔物です。次元の狭間の砂漠で活動を停止して休眠してたのでそのまま発掘してここに移しました。何かの役に立つでしょう』

 

……………わざと叩き起こして戦闘を吹っ掛けてラストエリクサーだけ盗んで逃げるを繰り返し、エクスデス先生のお使いを早く終わらせるのに重宝してたんだが…もう使えそうにないな。

 

『それはおいといてこっちです』

 

私はジェノバさんに言われるがままアンラ・マンユの背後に回り、ジェノバさんが入っていたところにあるカプセルを前に立った瞬間、言葉を失った。

 

『ふふふ、その表情。やっぱりわかりますか? 人間のクセに凄いポテンシャルですよねこの娘。ライフストリームの中で発見し、捕まえようとしたのですが想像以上に強くて逃げられてしまいました。でもライフストリームの断片から遺伝子情報と多少の魂の構成情報は入手出来たのでこの度、遂に完成に漕ぎ着けました』

人と言うモノは驚き過ぎると何もせずに唖然とすると言うが恐らく本当だろう。

 

 

 

 

 

 

 

『"古の英雄ファリス"のクローンです』

 

 

 

 

 

 

 

エクスデス先生に殺されるんじゃないか……これ…。

 

私は何処か遠くを見つめながら天を仰いだ。

 

 

 




レーヴァティン…横乳…キル姫……うっ頭が…。


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お家騒動 ジル子さん

どうもちゅーに菌or病魔です。まだ、連載してます。


突然だが、家にあるニブルヘイム魔晄炉は内部までみっちりと作り込まれている。

 

実はその関係で見えている部分より、ライフストリームを汲み上げる関係で地下の部分の方が遥かに深く、広大だったりするのだ。

 

その地下約1500m付近にあり、作業の為に設置された足場。そのライフストリームを汲み上げる夜の12時と昼の12時になれば、3時間ほど魔晄に沈む場所に私はいる。

 

まあ、私だけではないのだが……そろそろ攻撃の手筈を整えているであろう目の前にいる"二体の悪魔"を眺めた。

 

「ねえ、兄様。あの人まだ追ってくるわ」

 

「そうだね姉様。追ってくるね」

 

見た目は昔のオーフィスちゃん程の年齢の男女だ。兄様と呼ばれた方は銀髪のショートヘアー、姉様と呼ばれた方は銀髪のロングヘアーと実にわかりやすい。

 

兄様と呼ばれた方は彼からすれば身の丈よりも少し小さな刀を持ち、姉様と呼ばれた方は身体に不釣り合いな大きさの銃を持っている。

 

だが、最も特徴的なのは兄様と呼ばれた方は俺から見て右側だけに5枚の悪魔の翼を持ち、姉様と呼ばれた方はそれと逆に左側だけに5枚の悪魔の翼を持つ事だろう。

 

「どうしましょう兄様」

 

「ええ、姉様」

 

その次の瞬間、二人は武器をこちらへと向ける。無邪気なまでの表情とは裏腹に、真っ直ぐなその瞳は何処までも純粋でありながら濁っていた。

 

「なら遊んで貰いましょう。私達と」

 

「それは名案だね。僕らと遊んで貰おう」

 

私は深く溜め息を吐くと、片手を前に突き出し、掌を2回程曲げて伸ばす事を繰り返す。

 

するとそれが引き金となり、弾丸のような勢いで二人の身体が私の眼下に迫り、姉の方は銃口を顔に突き付け、兄の方は首筋に目掛けて刀を振るっていた。

 

さて……どうしてこうなったのだったかな?

 

私は今日の朝頃にジェノバさんから聞いた話から思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

『~♪』

 

早朝6時頃、セトラの最後の生き残りをイメージさせる鼻唄を歌いながらニブルヘイム魔晄炉のラボに入って来る影がある。無論、宇宙生物のジェノバだ。掃除が終了して、朝から何かの研究を始めるらしい。

 

ジェノバがラボの中を見回すとまず中央に鎮座している休眠中のアンラ・マンユが目には入る。更にマテリア工房、武具工房、裂けた空豆、アクセサリー工房と順に目に入り……。

 

『………………?』

 

裂けた空豆?

 

ジェノバはそれに気づくと目の前まで近付いた。

 

『ありゃ…』

 

ジェノバのラボの前の部屋に所狭しと並んでいた空豆ことモンスター製造機の一機がここにあり、どういうわけか内側から裂けていたのである。

 

とある理由により、前の部屋からここに移したそれがどうやら這い出て逃げてしまったらしい。ジェノバは顎に手を当てながら暫くどうしたものかと考えていたが、ふと他の異変に気が付くとそちらへと向かう。

 

『ひい、ふう、みい、よう、いつ、むー………………あれー?』

 

そこはなぜかビーカーの中に入れられていた彼の歩兵の駒の前だった。

 

再びジェノバは顎に手を当てるとポツリと呟いた。

 

『まあ、結果オーライでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おい待てや、宇宙生物。

 

『何か問題でも?』

 

寧ろそのどこに大丈夫な要素があったんですかねぇ…?

 

『この屋敷に張ってある大結界は予め登録されているモノか、結界外に設置されたインターホンを押したモノしか出ることが出来ないようになっているのでシンラさんの新しい眷属が出ることはまず有り得ません。敷地内の何処かにいますよ』

 

なにその新手のゴキブリホイホイ。無駄に高性能。

 

『まあ、いつもはそのホイホイのように泥棒さんなどにはお庭のルンバことキャリーアーマーさんが対応してくれるのですが……』

 

ジェノバさんが窓から庭を見たことで、私の視線もそちらへと向かう。そこには完全に大破し、煙を上げているキャリーアーマーがいた。

 

『……シンラさんの眷属相手は流石に荷が重かったようですね。まあ、朝見た時は黒のワルツ3号ちゃんが、修行の為に壊したのか程度に思っていたので対応が遅れました』

 

…………ジェノバさん作のキャリーアーマーはこの前、奉先と中々良い勝負をしていたと思うのだが…。

 

ちなみにアレもヴェグナガンの技術を流用して製造されたらしく、消し飛ぼうとも時間を掛けて自己再生するらしい。更に再生する度に学習し、より強力になるとのことだ。そのため、奉先と3号が修行という名目で頻繁に挑んでいるのを見掛ける。

 

それはそうとさっきからひとつ気になっている事がある。

 

「…ひぐっ……ひっく……ひっ……」

 

私はリビングの隅で、全てに絶望したようなオーラを纏いながらさめざめと涙を流しているオメガちゃんに目を向けた。

 

………………………………何事だよ…いや、本当に何事だよ…。

 

良く見ればいつもの忍装束ではなく、上下黒ジャージ姿だがそれどころではない違和感である。

 

…………とりあえず意を決して話し掛けてみるとするか…。

 

「………主様(ぬしさま)…」

 

顔を上げてそんな言葉を呟くオメガちゃん。思ったよりも少し高めの声だな……あれ? そう言えば声聞くの初めてなような?

 

とりあえずオメガちゃんに何かあったのかと聞いてみることにしよう……。

 

すると体育座りのまま目を赤くしてこちらを見上げるオメガちゃんはスマホを取り出し、文章を打つとこちらに見せてきた。

 

………………そうまでして発音言語という文明の力を踏み倒したいか。おのれ、流石はロンカ文明を滅ぼしたオメガちゃんだ徹底してやがる。

 

それは置いておき、文章を読む限り、いつのも短い方の刀と、バーが無いらしい。バーってなんだ?

 

「銃ですよぉ」

 

疑問を浮かべた直後、私の隣に修道服を着た巨大な女性ことヴェグナガンのヴェグナちゃんが現れた。

 

「私には不要ですから詳しくはしりませんけどぉ……んっ」

 

そう言うとヴェグナちゃんは何かのカプセル剤を飲み込んだ。風邪か…? いや、そんなモノに掛かっているようにも掛かるようにも思えないが。

『私が処方した向精神薬です』

 

「なんでも私は宗教妄想に取り憑かれたタイプの統合失調症らしいですよぉ?」

 

『ヴェグナさんあなたは?』

 

「この世で唯一にして最大の神ですぅ」

 

『効き目は薄いようですね』

 

「"BAR"ね。分隊支援火器よ。アメリカ製の結構、人気な銃よ?」

 

そうか。生憎、お前の影響で銃の出るゲームはやるが銃の名前まで氣にしたことは無いのでな。

 

で? 当たり前のようにお前は何しにきたんだ奉先?

 

「想い人に会うのに理由がいるかしら?」

 

そう言って目を瞑りながらスリスリ寄ってくる奉先。最早、語るまい。

 

どうでもいいがこの女、風紀委員長兼修学旅行実行委員長にも関わらず修学旅行の全生徒の前で夕食の時間にboys,be "stand up"!!を熱唱し切った猛者である。気にせずに無心で鍋をつついていた俺まで止めなかったために何故か怒られた事は記憶に新しい。

 

とりあえず奉先(このアホ)はまた後で対応することに決め、オメガちゃんに向き直る。武器か……オメガちゃんの趣味は古今東西の武器集めなのだ。

 

刃物や、銃をうっとりとした目で眺める忍者は様になっていると言えばそう思わないでもないが、今後のオメガちゃんが非常に心配になる光景なのは間違いない。

 

とりあえずそれらを探すのも頭に入れておこう。

 

しかし、これだけ強者が揃っているのに私も含めて全員熟睡していたとは……。

 

『そりゃ、私も、シンラさんも、オーフィスちゃんも、ヤズマットさんも、オメガちゃんも、ヴェグナちゃんも、黒のワルツ3号ちゃんも圧倒的強者ですからね』

 

ああ、成る程……つまりは誰も気配でソイツを敵だと見なさず爆睡していたわけか…。

 

『ファリスちゃんとレーヴァちゃんはまだ調整中だから動けませんし……まあ、私たちも枕元にでも立たれるか、攻撃でもされれば流石に気が付くと思いますけど』

 

そうですか。それでジェノバさんのラボから逃げ出したのはいったいどんなモンスターなんですか?

 

『んーと…』

 

その質問に答えて、ジェノバさんから吐き出された言葉に私は目を見開いた。

 

『Yの字の形をした魔物の"イン・ヤン"です』

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

イン・ヤン。

 

FF7の神羅屋敷の地底部分に出てくる下半身は一つなのに上半身は二つという、いわゆるシャム双生児を連想させる姿をした雑魚敵である。

 

イン・ヤンという名前ではなく、インとヤンの2体の魔物。顔の青い方がインで赤い方がヤン。 エンカウント率がかなり低く、HP、攻撃力が高いため、ボスと勘違いする人も少なくない。

 

動きは非常に遅く、のたくってみたり、ヒクヒクとうごめいてみたりで非常に不気味。その上、FFの戦闘では敵の行動中はフレーム経過がないため、戦闘の流れも中断してしまい非常にストレスがたまる。だが、それ以上にこのインパクトは凄い。

 

 

 

 

 

ヤンはよろこんでいる。

 

 

 

 

 

戦闘中に流れ出したこのセリフに思わず、コントローラーを持つ手を止めた人間はどれほどいるだろうか?

 

そんな魔物がジェノバさんのラボから産まれ、近くにあった私の悪魔の駒を偶々体内に入れて今に至るようだ。

 

それを知った上で私はイン・ヤンの捕縛を命じた。

 

全くジェノバさんも珍しく気の利いた事をするじゃないか。ああいうのを眷属にしたいのだよ私は。

 

「シンラ昔からへんなもの好きよね」

 

その分類で行くとお前もへんなものになるな。うむ、言い得て妙だな。

 

「もう、好きだなんてそんな当たり前の事を……」

 

人生が楽しそうな奉先はほっておき、とりあえず私が眷属を作るならシアエガとハスターとムナガラーとイゴールナク、後アトラク=ナクア辺りが無難か。

 

「…………何と無くジェノバさんが勝手にシンラの眷属を推し進めている理由がわかったわ…というか流石にこの世界に神話生物は居ないでしょ?」

 

お前、それジェノバさんの前で同じこと言えんの?

 

「それは……あー…」

 

それに神話生物は実在するぞ。何せ私がエヌオーとして世界を牛耳っていた時代にナイアーラトテップが配下にいたし。

 

「マジで!? ニャル子さんいたの!?」

 

お前の想像している銀髪緑目な見た目ではないだろうさ。なんでもナイアーラトテップ族でも異様に人間を愛してしまった偏愛家だとかなんとか。千の顔と、噂を現実にする能力を持っていたな。

 

十二の武器の内、まさむねの守衛を任せていたんだが、大して役には立たなかった。この前、私に連絡を寄越してきた時はどっかの並行世界にある珠閒瑠市にいると言っていたぞ。まあ、関わる事はないだろう。

 

………………そう言えばふと思い出したが、奉先はたまに次元の狭間で修行してるんだったな。

 

「そうね。それがどうかしたの?」

 

もし、アルケオデーモンって名前の奴に会うことがあったら言っといてくれ。不問にしてやるから戻ってきてもいいとな。

 

「その人と何かあったの?」

 

私的には何もない。が、私が復活しても連絡ひとつ寄越さない当たり、何か後ろめたい事でもあるんだろう。

 

「なら覚えとくわ」

 

ちなみにだが、捜索は奉先と私だけでしている。それというのも家の面子は手加減というものを冥王星辺りに置いてきた連中しか居ないからだ。死体の一部だけとか持ってこられても困るからな…。

 

ジェノバさんはといえば"夜見島から夜見アケビを仕入れて来ますね。今日は夜見鍋にしましょう"と言って飛んで行ってしまったので今は居ない。あの人はあの人で本当に自由人…いや、自由宇宙人なので困る。

 

奉先と他愛もない会話をしながら家の敷地内を徘徊していると、ふと庭の中央に奇妙なモノが目に入った。

 

簡素な木の枝で出来た子供騙しの案山子のような何かが立っているのだ。

 

「ただの案山子ですな」

 

奉先の呟きを無視し、近付いてそれに触れてみたが、特に異常は無く触れただけて崩れてしまうようなものだった。

 

疑問符を浮かべた次の瞬間、生暖かい目で嘲笑うような異質な殺気を感じ、家の屋上を見上げると連続した光りが目に入ったために反射的に奉先を抱き寄せ、背中から6枚程悪魔の翼を出して奉先と私を守るように包み込む。

 

すると学校の助走などに使われるスターターピストルを、強めたような音が連続で聞こえ、翼に刺すような衝撃を感じた。

 

銃か何かか……防御の必要も無かったな。

 

それにしても悪魔の翼とは便利なモノだ。飛ぶによし、防御によし、攻撃によしだからな。

 

「シンラは過保護ね。あれぐらい何でもないって事はシンラが一番よく知ってるじゃない。そんなに私のこと大切?」

 

…………うるせえ。身体が動いただけだ。

 

「でも嬉しい。ありがとう」

 

そう言って微笑む奉先。奉先に顔を背けて翼を収納しながら発射地点を見たが、既にそこには影も形も無かった。

 

明らかに何かいるな…。

 

「うーん……なら私が本気で探してあげるわ」

 

そう言うと奉先の身体から濃いライフストリームのような氣が溢れ出る。

 

「これをこうして……っと」

 

奉先の氣が爆発的に膨らみ、押し広がることで屋敷の敷地内を染め上げて行った。さながら巨大なアメーバが生まれるかのような光景だ。

 

「氣も身体の一部だから感覚に似たようなモノがあるのよ。だから押し広げれば触れた空間に何があるのかを触れて感じ取るように知ることが出来るわ」

 

だとしても精々、ただの人間に出来る限界は半径数十mも無いだろう。軽い城と言ってもいいこの敷地全てを埋めるとなると、奉先に何れ程の氣の資質があるかなど氣を何も知らない俺でさえ理解出来る。

 

「詳しくはHUNTER×HUNTERを読みなさい」

 

………………奉先はいつもその一言さえ無ければ残念な美人から卒業出来ると思うんだがな…。

 

「あー……」

 

暫くすると奉先は珍しく苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

どうした? 今はどこに居るんだ?

 

「いや、その……ジェノバさんの魔晄炉に入って行ったわ…」

 

この星有数の危険地帯にか…。

 

仕方なく私は奉先を入り口に置いてひとりで魔晄炉に入ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

まず、魔晄炉の魔晄を組み上げと貯蔵するための大円柱の空間に渡された大橋を渡り、空豆(魔物培養カプセル)が大量に置かれた部屋に入る。

 

見渡してみるが特に変わった様子はない。中央を走る階段を登り、溜め息を吐きながらジェノバさんのラボの扉の前に立った。

 

ここには分量を間違えただけで地球が吹き飛びかねない劇物や、地球の規格を越えた毒物、宇宙悪夢的な何かなどが犇めいているため、永遠に世に出てはいけない空間である。

 

下を向いて頭を掻きながら扉を開けると、庭で向けられたのと同じ異質な殺気を感じ、顔を上げる。その瞬間、目に入ったモノに対して私は目を見開いた。

 

「来たわ。兄様」

 

「そうだね。姉様」

 

それはアンラ・マンユの両腕に当たる場所に生えている骸骨のような魔物のタルウィとザリチュの頭の上で、 クスクスと笑う少年と少女のふたり組がいる。

 

少女の方は黒を基調としたドレスのような衣装を纏い、長い銀髪をした身の丈に合わない巨大な銃を抱え。

 

少年の方は同じ銀髪で黒を基調としているが、髪は首元で切り揃えられ、コートに短パンという服装をしており、身の丈とほぼ同等の刀を木の枝でも持つように持っていた。

 

そして、なぜか部屋の中央で深い眠りに付いたまま安置されているハズのアンラ・マンユが覚醒しているのだ。

 

「遊びましょう」

 

「遊ぼうよ」

 

ふたりがそう呟くと、アンラ・マンユのザリチュが鈍く輝き、滅びの閃光が迸る。

 

魔力依存の攻撃と、ステータスダウンか……私が当たるのは洒落にならんな。

 

私はそれを腕から放った光線のアルテマビームでザリチュを倒さないように加減して滅びの閃光の相殺だけをする。

 

続け様に飛び上がり、アンラ・マンユのタルウィの頭に接近すると脚を大きく振り上げて、踵落としで頭蓋骨から背骨まで縦に砕き、タルウィを一時的に破壊した。

 

この場でちなまぐさい息など絶対に吐かせんぞ。ひたすらリスキルしてやる。

 

「わー、すごーい」

 

「さっすがー」

 

そう言って地面に降りるふたりの少年少女。

 

「私たちとも遊んでよ」

 

少女の方は銃をこちらへ向け、躊躇もなく発砲する。

 

さっきと同じように翼で防ごうと1枚だけ出したが、どうやら銃と弾自体をエンチャントで強化しているらしく、翼1枚では防ぎ切れずに何発か私の胴体に命中した。

 

「僕らとも遊ぼう」

 

さらに少年が私に接近し、刀を振るう。

 

私は造り出した赤い杖で少年と打ち合うが、どうやら私の杖が武器として地力敗けをしているらしく、数度打ち合うだけで杖に小さな傷が発生する。

 

まあ、これは本来は魔術触媒であり、近接武器でない。"無"を解放している時の私か、全盛期の私なら兎も角、今はただの悪魔の私がオメガちゃんの持っている短い方の刀とマトモに打ち合えている時点で十分なのだがな。

 

「兄様飛んで」

 

「わかった」

 

その掛け声で、少年が私から離れる。その行動を疑問に感じたが、正面を見て表情が凍る。

 

アンラ・マンユが黒魔法フレアを既に発射していたのだ。

 

私は舌打ちをしながらフレアの爆発地点を素手で包み、握り潰す事で被害を最小限に抑えた。まあ、威力の減衰は殆ど出来ていないため、フレアは私に直撃しているがな。

 

「そんなこと出来るのね」

 

「凄いや、あの機械と全然違う」

 

ふたりは相変わらず、何が楽しいのかクスクスと笑みを強めている。

 

マズいか……私の力は広域殲滅や、屋外での対軍戦には無類と言える程の実力を発揮するが、屋内のそれも部屋中に危険物が散乱している中で、単体を手加減した上で相手にするにはあまりにも向かないのだ。

 

いや、アンラ・マンユ一体なら何とでもなるが、あのふたりを放置するのはあまりにも危険だろう。

 

奉先を呼ぶか…? ダメだこのラボは人間が生きれる環境じゃない。他の奴らは……ああ、手加減出来る奴らがいないし、そもそも間に合わない。

 

何か無いか…? これだけ魔境なんだ。何かひとつぐらい利用できるモノが……。

 

…………いや、あるぞ。

 

私は瞬間転移でアンラ・マンユの背後にあるその装置の前に移り、素手でジェノバさんが入っていたのと同様のカプセルを叩き割る。

 

空いた穴から激しく何かの液体が排水されるのには構わずに、一糸纏わぬ姿の彼女を抱き上げ、さっきまで私が立っていた出入り口に戻った。

 

その次の瞬間にはフレアと、銃弾の雨が降り注ぐ。

 

だが、全てが私たち……と言うよりも彼女に近付いた瞬間に歪められ、攻撃自体が彼女に引き寄せられるように吸収されて無効化された。

 

いくらあの三体が何をしようと私たちに届くことは無い。

 

私の脳裏に数日前にここでしたジェノバさんとの会話が蘇った。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『騎士の駒を使った今回の実験は何もただ、古の大英雄を復活させただけではありませんよ』

 

遂に実験って言い切りやがったぞこの宇宙生物。それはそれとして今回も例に漏れず何かしたんですか。

 

『実はですね。マテリアというモノはただ使うだけではなく、それ以外の用途もあるんですよ。人体に直接融合させるとかね』

 

マテリア融合実験。

 

FF7の前日談に当たるBCFF7で神羅カンパニーがやりやがったどうせ外道実験である。

 

まあ、実用化されなかった辺りジェノバ細胞に比べればお粗末なものだったのであろうが、それでもセフィロスと渡り合える旧アバランチリーダーのエルフィを生み出した結果は凄まじい。

 

『この星は中々いい星ですよ。人工でお目当ての召喚マテリアが造れた程ですからね。悪魔化させた後にそれと融合させたのが今回の実験内容です』

 

召喚マテリア…? ジェノバさんはいったいファリスさんのクローンに何の召喚獣を捩じ込んだんだ…?

 

『それはですね』

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「……ん…」

 

気付けの魔法を掛けられた彼女はゆっくりと目蓋を開き、濃い緑の瞳と目が合う。そして、私に微笑むとその口を開いた。

 

「……おはようございます。ご主人様」

 

おはよう、クローンファリスさん。いきなりで悪いが実戦だ。いや、それとも君の事はこう呼ぼうか。

 

 

 

 

"召喚獣ジルコニアエイド"

 

 

 

 

それを聞いた彼女の表情はどこか満足げでに見えた。

 

歯やダイアモンドの代わりとして造られる人工物の名を冠する。BCFF7のラスボスであり、不完全に召喚された状態ですら世界を焼き尽くし、すべての生命を星に返すには十分過ぎる性能を持っていた最凶の召喚獣。

 

しかも、彼女の身体と同化しているそれはエルフィのように4つに分割された内のひとつではなく、完全な状態のマテリアそのものだ。故に言うなれば彼女は完全体ジルコニアエイドそのものである。

 

ジルコニアエイドの特性は大きく分けてふたつだ。

 

ひとつは攻撃手段が雷撃と、レーザービームが主なこと。

 

「はい、ご主人様。どうかお好きなように呼んで下さい。俺はどちらでもあり俺自身に判断は付きません」

 

彼女はそう呟いてから私の腕から立ち上がると、三体の敵を見据えた。

 

そして、もうひとつは全属性吸収という頭のネジの外れたラスボス特有のイベント戦用耐性である。

 

だが、彼女は完全体ジルコニアエイド。つまりイベント戦なわけもなく、耐性に穴も弱点も無い。そのクセに身体能力はファリスの数十倍という無理ゲー仕様なのだ。

 

「どうした? その程度か?」

 

幾ら三体何をしようとも全裸の彼女に傷ひとつすら負わす事すら叶わない。それに少年少女も驚きの色を浮かべた。

 

一方は彼女は溜め息を吐き、その瞳には明らかな侮蔑が含まれている。

 

これのどこが調整中なんだ……まあ、ジェノバさんの事だ。しっかりとオレっ娘にするために無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術で精神などを調整でもしてたのだろう。

 

「……つまらん。ぶっ壊れろ」

 

次の瞬間、彼女から予備動作も何も無く発射された極太の雷光が数十連続で放たれ、アンラ・マンユの本体を貫いた。

 

 

 




(祝)作者のFF12総プレイ時間2000時間越え

色々と言われていますが作者はFF12が大好きですよ。ガンビットは革命でした。勿論、極力低レベルガンビット縛りもしましたしね。

で、最近新しい縛りを始めたのですがこれがまた辛い……。

それは"(通常版)FF12召喚獣縛り!"です。

まあ、縛りといってもFF12の仕様の関係で召喚獣だけボスやMOBと戦わせる縛りというのが正しいんですが。

具体的には:
ボス、モブ、召喚獣は全て召喚獣が与えたダメージのみで倒す。

ヴァンくんにはダメージを与えない技、魔法、アイテムのみを使用可能(一部例外あり)。

詠唱妨害、オートレベルアップ、召喚獣バグの禁止。

最初の召喚獣を入手するまでは縛りは無し(この時点である程度整えないとべリアルでマティウスが無理ゲー)。


途中経過としてはわかっちゃ、いましたけどダメージを縛ったのが辛過ぎますね………まあ、ヘイト管理してると与えられるダメージ量なんて高が知れているのですがそれでも貴重ですし。

やってみたい人はべリアル→マティウス→アドラレメクと回るのをオススメしますよ。アドラレメクさんは序盤から入手出来る召喚獣としては非常に優秀です(無いとやってられません)。

でもこの縛りの最大のキツいポイントはそこではありません。なによりも、最強クラスの召喚獣のアルテマ、ゾディアークの入手が倒すのが無理ゲー過ぎるためにほぼ不可能なことです。色々と模索していますが、特にゾディアークに勝てる気が一ミリもしません。

ゲーム内に一生に一度の願いが使えるならゾディアークをどれ程渇望したことか……どれ程イメージしたことか……まずゾディアークを具現化しようと決めてからはイメージ修行だな。最初は実際のゾディアークを一日中いじくってたな。とにかく四六時中だよ。目をつぶって触感を確認したり何百枚何千枚とゾディアークを写生したり、ずーっとただながめてみたりなめてみたり、音を立てたり嗅いでみたり、ゾディアークで遊ぶ以外は何もするなとトレマに言われたからな。しばらくしたら毎晩ゾディアークの夢を見るようになってその時点で実際のゾディアークをとりあげられた。そうすると今度は幻覚でゾディアークが見えてくるんだ。さらに日が経つと幻覚のゾディアークがリアルに感じられるんだ。重さも冷たさもヴァンの悲鳴も聞こえてくる。いつのまにか幻覚じゃなく、自然と具現化したゾディアークが出ていたんだ。それ以外はおそらくバルフレア達と同じだよ。とにかく毎日毎日レベリングとドロップ回収だ。

多分、そろそろゾディアークを現実に具現化出来と思います(虚ろ目)。



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お家騒動 横乳

良い子の諸君!

よく頭のおかしいライターやクリエイター気取りのバカが

"誰もやらなかった事に挑戦する"とほざくが

大抵それは"先人が思いついたけどあえてやらなかった"ことだ。

王道が何故面白いか理解できない人間に面白い話は作れないぞ!


つまりこのちゅーに病魔だかちゅーに菌とかいう奴は頭のおかしいライター気取りのバカの上、面白い話が作れない人間だ! 正直、この話を書いている作者自身が一番自分で何故こんな話を書いているのかと自己嫌悪に陥る事がよくある! そんな私ですが今日も元気です(真顔)。



「脆いな」

 

クローンファリスの最高乱数の電源地裂撃かつ、弾幕ゲーから迷い込んできたかの如くの怒濤の雷撃を受け、断末魔に似た轟音を響かせながら炎上するアンラ・マンユ。

 

「えー、もうへたれちゃったの?」

 

「だらしがないね」

 

二人組がそんなことを呟いているが、ザリチェとタルウィもアンラ・マンユが崩れ始めた事で全身にヒビが入り始める。最早、完全崩壊は時間の問題だろう。若干、惜しいことをした気もするな……主にラストエリクサー的な意味で。

 

『魔導防衛システムダウン。アンラ・マンユの再生は不可能と判断します』

 

すると炎上するアンラ・マンユの頭上からマシンボイスが響く……なんか聞き覚えがあるような。

 

ああ、ペッパーくんの中のボイスロイドの相方のない方の奴の声か。

 

すると、アンラ・マンユのいる床の一部分が開き、そこから舞台装置のような何かが競り上がって来る。

 

それは真珠のように美しく、滑らかな表面をした大きな白い物体のようだ。とは言ってもザリチェやタルウィの半分程の大きさ程度のように見えた。

 

ん…? そう言えばあの物体は前にジェノバさんから説明を受けたな。

 

それと言うのは最近、ジェノバさんが手軽に星を接種できる方法に手を出し始めた事から始まる。

 

なんでも太古の昔の平行世界に"(ジェノバ細胞)"をばら蒔き、そこにいる気に入った生命体を"(ジェノバコピー)"に変質させ、緩やかに世界を破壊させるそうだ。そして、ジェノバコピーが破壊した世界にジェノバさんが出向き、安全に星を平らげて終わり。

 

実に効率の良い搾取法に思えるが、これには大きな問題がある。多次元宇宙とすら呼ばれる平行世界だが、結局のところベースはこの星だ。要するにジェノバさんは星を食べて情報を吸収する生物にも拘らず、これで得られる情報量が少ないんだとか。食い物で例えるとトッピングの少ないクレープを喰っているような気分だそうな。腹は満たされるが食事としては微妙で在り来たりと言ったところだろう。

 

それにジェノバコピーが実行するとは言え、それは突き詰めてしまえばジェノバさんの力を加えた劣化コピーでしかない。

 

だが、無論欠点ばかりではない。ジェノバさんは家にいるまま平行世界の未来を確認するだけで良いこと、その世界の住人には酷な話だがこちらに実害は無に等しいこと……そして、ジェノバ細胞が侵食し、ジェノバコピーに変えた物体だけはそのまま回収できるのだ。

 

そう、ジェノバさんのラボが世界有数の危険地帯なのはそれもその筈。つまりここには……。

 

 

 

"実際にひとつの世界を滅ぼしたか滅ぼしかけた存在のオリジナル"が所狭しと並んでいるのである。

 

 

 

それもお手元のコンソールからワンタッチで簡単に取り出せるという超厳重な保管体制を持ってしてである。

 

まあ、だいたいは研究室から唯一繋がる地下深くの空間や、外壁と内壁の間にある収納スペースに安置されているので滅多な事は起こらないハズだ……いや、現に起きてるのだからハズだったか…。

 

ちなみに確かコレは……"再生の卵"という物体らしい。

 

能力としては卵の中に入った生命を強制的に強くより凶暴に、より冷徹に進化させるモノだとか。ちなみにここにあるモノの中では危険度はまだ極低である。

 

『魔導生物アンラ・マンユを、"女神"アンラ・マンユに改修、再構築を行います』

 

遂に身体を支える力さえも失ったアンラ・マンユは、足下に設置された再生の卵を本体で押し潰しながら崩れ落ちる。

 

後に残ったのは所々が焦げた瓦礫の山。再生の卵とやらは瓦礫に押し潰され、全く見えない。

 

「でもメインデッシュはこれから」

 

「卵料理はお口に合うかしら?」

 

アンラ・マンユの瓦礫から腕と一体化した白く巨大な一対の翼が突き出た。

 

それは腕を曲げて瓦礫の端に掌を置き、引き摺り上げるように変わり果てたアンラ・マンユの本体が姿を現し、ゆっくりと宙に浮遊した。

 

その容姿はプラチナブロンドの長髪に、首元から上と手首足首から先で覗く褐色の肌。そして、白い翼と同様の材質で出来た純白のドレスに身に包んでいるかのように見える。

 

アンラ・マンユの見開かれた双眼が、ギョロギョロと絶えず別の方向を示し続け、理性の色の欠片もない事が伺えた。

 

暫くすると通常な生物のように双眼でこちらを捕らえ、人間の微笑みに似た表情を浮かべ、獣の断末魔のような唸り声を上げる。

 

それとは裏腹に、慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ソレは天使の使う光の槍とほぼ同質ではあるが、数十倍も密度の濃い剣状のモノを展開する。

 

その数は天井が見上げないと確認できないほどの円柱状の吹き抜けの空間を容易に埋め尽くした。

 

「ご主人様、ご無理は承知しておりますが……武器か何かを…」

 

武器…? ああ、そう言えば丁度良いのがあったな…。

 

私は空間転送を使い、それをクローンファリスの眼前に出現させる。

 

「これは…?」

 

………………部屋のインテリアと化しているラグナロクです……とは言えなかったので、神竜から受け継いだ剣だとクローンファリスには説明しておいた。

 

「ありがたき幸せ…」

 

クローンファリスはラグナロクを受けると切っ先をアンラ・マンユへと向け、口を開く。

 

「コレの相手は俺がします。ご主人様はあの二人を追ってはいかがですか?」

 

そう言えばいつの間にかあの二人組の姿が見当たらない。研究室内を見回すと1本の巨大なチューブが半ばから切断され、垂れているのを発見する。

 

確かこのチューブの先はこの研究室の前にあるモンスター製造室に繋がっていたような……アイツら逃げやがったな?

 

俺はその場をクローンファリスに任せると培養室へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

培養室に入った瞬間、独特の培養液の匂いに顔をしかめる。

 

見れば全ての培養カプセルが開かれており、中身が外に出ていた。至るところで女性の形をした実験生物がゾンビ映画のクリーチャーのようにゆらゆらと身体を揺らしているようだ。

 

恐らくは私の駒も未調整の状態だとこうなっているわけか。確かにこれならば一体の調整に非常に時間を掛けていることも伺える。

 

見れば培養室には十三体の顔の良く似た少女らがいた。

 

彼女らは"次元境界接触用素体"。その名の通り、"次元の狭間"の征伐に乗り出したジェノバさんが全ての次元の狭間への移動が可能で、一定以上の戦闘能力を保持しつつ調査が行えるように開発中のジェノバ細胞ベースの生物兵器である。

 

あのふたりが放ったのだろうなどと考えていると未調整の実験生が一斉にこちらに目を向けた。そして、それぞれの口から悲鳴のような言葉が紡がれる。

「…リユニ…オン……」

 

「………う…ああ…」

 

「ジェノ……バ様……」

 

「リ……ユニ……ヨン…」

 

「リュ……ニオン…」

 

「………帰り……たい…」

 

うわぁ……流石にこれは…。

 

私の呟きに反応したのか、素体らは何かが決壊したかのようにそれまでとは明らかに違う速度で一斉に私に襲い掛かる。

 

ああ、もう……本当にあの人は自分(ジェノバ)の細胞の管理ガバガバだなぁ……。

 

私は手に無を纏わせ、何もない空間をノックするように軽く叩く。

 

"震天"

 

培養室に水面にモノを落とした波紋のような波動が拡散する。それは全ての素体を1度に捉え、内壁に吹き飛ばした。

 

壁に凄まじい音を立てながら叩き付けられる彼女らを見て思わずやってしまったという感情が沸き上がる。

 

何せ私の震天はFF10-2の凶悪裏ボスことチャクよりも強烈な火力である。一撃で潰れないだけマシであろうか。

 

だが、そんな心配は必要なかったらしい。直ぐに素体らはゆらりと起き上がり、照らし合わせていたかのように同じ言葉を口々に紡いだ。

 

『対象、"無"を確認。危険度S。戦闘フェイズへ移行』

 

素体らのヘソの隣にはそれぞれ、壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、捌、玖、拾、拾壱、拾弐、拾参と大字の製造ナンバーが刻まれており、呟きから素体らの装いが変わる。

 

壱号の緑掛かった長い黒髪の素体の手にはゲイボルグ、弐号の褐色の肌に白髪の素体の手にはブラフマーストラ、参号の長身で銀髪の素体の手にはブリューナク、、肆号の赤髪で他の素体に比べるとスマートな体型の素体の手にはアイムール……私が知っているのはこの辺りまでだろうか。

 

とはいえ、残りの伍から拾号素体の持つ武具から放たれる人智を越えた力から察するにそれらも高名なモノなのだろう。というか私の知る倍近い海賊行為を働いていたのかあの宇宙人は。

 

一方拾壱、拾弐、拾参号の素体は壱番から拾番までの素体とは違い、全く別のメカメカく、妙にボディラインが強調されたデザインのパワードスーツのよけいついちうなものを纏っている。多分、ジェノバさんが拾号まで造ってそれまでの路線が飽きて別の方向性で3体を産み出したのだろう。意外にあの人かなり飽きっぽいのでな。

 

次の瞬間、壱号のゲイボルグを持った素体が跳躍し、その鋒を私へと向ける。

 

私は腕に"無"を集中させ、それを未だ数mの距離のある第壱素体へと振るう。

 

"死神の剣"

 

振るわれた腕から出た"無"の閃光が刹那以下の時間で第壱素体の胴体を薙いだ。

第壱素体の突撃は止まり、下半身をのこしたままその上半身が奇妙にずれて床に倒れ込み、少し遅れて切断面から血が噴き出した。

 

この身体で始めて使ったが、私の死神の剣の切れ味は健在らしい。これは良い知らせだな。

 

残りの素体も全て私の死神の剣の実験台にしようと"無"を纏わせた手を向けると、私の掌を紅い槍の鋒が貫通する。

 

どうやら上半身だけの第壱素体から投擲されたゲイボルグらしい。お陰で手はあらぬ方向へと向き、死神の剣が不発する。

 

それを皮切りに全ての素体が動き出し、私に殺到した。

意思すら持ない泥人形風情がこの私に楯突くな…。

 

私は槍を手から引き抜くと全身から"無"を解放し、素体らと衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

時間にすれば1分少々だろうか。素体らは第弐素体を除き、死神の剣によって人の原型からは外れた形になっていた。

 

最後に相対する第弐素体に"無"を纏わせた両手を向ける。

 

他の12体の素体を虐殺した死神の剣が来ると考えたのか、第弐素体は私の射線を乱すようにジクザグに空間を跳ね回る。

 

それを確認した私は頬をつり上げた。

 

"デジョン"

 

第弐素体はやや広範囲のサークルに包まれ、次元の狭間にあるヴェグナガンの居た異界の深淵へと飛ばされてしまった。後で回収すればいいだろう。

 

さてこれで掃除は……。

 

そこまで考えたところで私の心臓を背中から紅い槍が貫通する。

 

私は自身の胸から伸びる紅い槍を掴むと背面に蹴りを入れた。だが、私の足は空を切り、後ろを眺めると離れた距離で上半身と下半身が繋がった状態の第壱素体が暗い瞳で私を見つめていた。

 

その瞬間、数日前に聞いた私の脳裏をジェノバさんのある言葉が過る。

 

『まあ、私の細胞をベースに使ってますから厳密には人間ですら無いホムンクルスなんですが…』

 

ジェノバ細胞の即死クラスのダメージも回復するほどの超速回復も残っているなんて聞いていませんよ…。

 

私は短時間で2度も私にダメージを与えた胸に刺さる紅い槍を恨みがましい目で見つめながら、テレポで槍を手元に転送すると第壱素体に対して再び震天を放つ。

 

それにより壁まで第壱素体がぶっ飛んで行ったところで追撃に紅い槍を投擲する。

 

第壱素体はそれを腹部に受け、壁に縫い付けられた。

 

さて…どうするか?

 

辺りを見れば他の素体も既に自己修復を始めており、中には終わりかけているモノもいる。

 

全員デジョンで次元の狭間に飛ばしてしまえばいいような気もするが、そんなに命中率が高い魔法ではない上、そもそも得体の知れない物体を13体も目の届かないところに棄ておくのもどうかと思うのでパスだな。エクスデス先生にぷりぷり怒られるのは私だし。

 

そういえばと思い私は素体回復しかけている素体を再び死神の剣で裁断しながら素体らの身体的特徴を見つめる。

 

居ないな…。

 

そう気付いた私は次に鉛色空豆にしか見えない魔物培養カプセルを見る。

 

やはり全て開いているか………………ん?

 

私は端にある空豆に近付いた。いや、具体的に言えばそここ空豆の蓋を見下ろした。

 

「ZZzz……………」

 

私の探していたのが居た。なんかいた。寝ていた。

 

気持ち良さそうにぐっすりすやすやと眠っている彼女の名はレーヴァティン。私の歩兵(ポーン)の1体である。未だ調整中らしいが彼女の頬をぷにぷにしたくなる寝顔を見る限りほぼ終わっていると見て良いだろう。他の素体とは見る影もない。

 

「んん………」

 

私はレーヴァティンの腹を撫でて水滴を拭く。よく見えるようになり、そこに刻まれていた大字は"零"。

 

どうやらコイツはジェノバさんが素体を作製する時に先に造ったプロトタイプでもあるらしい。

 

「………………」

 

なんか寝息に腹が立ち始め、暫く腹をぷにぷにしていると寝息が聞こえなくなった事に気が付く。ふとレーヴァティンの顔を見ると紅い瞳と目があった。

 

腹を触っていた手も止まり、暫くレーヴァティンと見つめ合う。彼女は私の顔と手を交互に見つめ、1度を目を瞑ってから見開くと、眉を立て眼を尖らせてから口を開いた。

 

「ヘンタイ」

 

………………私の感覚が既に麻痺しているのかそもそも君が全裸なのだがな。

 

そう指摘するとレーヴァティンは顔を少し赤くしながら空豆の蓋に入ったまま蹴りを入れてくる。

 

やっぱりこう言う反応が正常だよなぁなどと思いながら、私とて男故にそれを避ける事はしなかったために胸にぶつかり、槍で空いた穴から私の血液が溢れてレーヴァティンの素足に掛かる。

 

「え………?」

 

ああ、気にするな。数値にすると2500程度のダメージしか受けていない。

 

まあ、回復するのも面倒だから放っておいているのだがな。心臓を穿たれた程度ならその内治る。

 

「なにそれ…」

 

レーヴァティンは空豆の蓋から身体を起こすと周りの惨状に眼を向けた。

 

瞬間、1体の素体が私達に襲い掛かる。

 

"ストップ"

 

だが、素体は空中で身体が止まる。元より素体の耐性値が無効クラスに高いのを耐性を飛び越えて無理矢理止めた上に、適当に魔法を放ったために1分程が限度だろうが十分だな。

 

まあ、この通りだ。ラボで発生した実験体が調整中の君の後輩たちを培養槽から叩き出したせいで暴れている。

 

「………………」

 

だから君には彼女らを暫く相手取っていて欲しい、私にはこの先にいる実験体の始末をしなければならないからな。私の悪魔の駒を入れられた君ならばそれぐらい出来る筈だ。

 

レーヴァティンは黙って私の話を聞いている。ジェノバさんから発生した割りには案外良い娘らしい。

 

「わかった…」

 

レーヴァティンは他の素体同様赤黒い剣を具現化させると立ち上がり、空中で止まる素体を斬り払ってから素体らへと飛び出した。

 

私はレーヴァティンにその場を任せ、二人が出て行ったであろう場所へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

"テテテテーテーテーテッテテー"

 

 

 

 

 

 

 

モンスター培養室から出た瞬間にあまりにもピッタリなタイミングで携帯のメール受信音が鳴り響く。

 

携帯を取り出して宛名を見ればジェノバさんと表示されている。

 

この自体を把握したのかと思い、メールを開いた。

 

《見てください、シンラさん! ヤミピカリャーです!》

 

 

メールにはその文章と共に、海をバックに尻尾が二股にわかれた黒猫のような生き物を胸に抱えたジェノバさんの姿写真が添付されていた。写真のジェノバさんは珍しくご満悦と言った様子の笑顔を浮かべている。

 

希望なんて無かった…無かったんや………さて内容にしてもどこから突っ込めば良いのやら……とりあえず、スゲー満喫してるということだけは伝わってきた。

 

私は携帯を閉じて魔晄エネルギーの真上にかかる橋を見ると、いつの間にか笑顔の少年少女が私に手招きをしていた。

 

どうやらまだ構って欲しいらしい。二人は円柱状の魔晄炉で内壁を囲むように螺旋に設置された細い作業用の足場を下っていく。

 

私は足早に二人の後を追った。

 

 

 

 

 

ちなみにだが、さっきのレーヴァティンの蹴りが偶々壊れた心臓にクリティカルヒットし、9700程私のHPが抉れたのは言わぬが華だろう。男には顔に出せない痛みも沢山あるのです。

 

 

 

 




ちなみに次元の狭間の調査用に作られた次元境界接触用素体ちゃん達は別に弱くないです。1体、1体が未調整でも魔王クラスは既にあります。それが13体もいるんですから戦神も名のある竜もフルボッコです。

シンラくんが戦闘をサクサク終わらせるために即死技(死神の剣、デジョン)とかトラウマ技(チャク越え震天)とかしか撃たないのが悪いのです。

ちなみにシンラくんにFF12インター版のジャッジマスター軍団が戦闘を吹っ掛けてきたらエクスデス先生もギルガメッシュにしていた耐性無視のデジョンや、空間ごと切断する死神の剣で個別に全員即死させられ、5秒ぐらいでシンラくんの勝利で片付きます。素体ちゃん達の1分弱とかよく持った方です。

あ、後、この小説のレーヴァティンちゃんはランク6でステータスが全てカンストしている上、一人でできるし!とジェノバ細胞(大)が付いているので素体相手では絶対に負けません。この話のタイトルに他意もありません(真顔)。


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お家騒動 イン・ヤン

どうもちゅーに菌or病魔です。

ゾディアークの具現化修行を終えてから投稿しようと思っていたので遅れました。


 

 

 

 

(マズいにゃ……)

 

とある島の海岸。何者かに抱えられた一匹の黒猫が額に汗を浮かべている。

 

黒猫を抱えている者は足元から一本の触手を伸ばし、色々な角度から黒猫と自身を携帯で撮影しているらしい。その者に目を合わせる事すら出来ず、黒猫はただ固まっていた。

 

(マズいのにゃ……)

そして、黒猫は何かわからない者に両脇腹をガッチリと抱えられているため、身動ぎ程度しかすることが叶わないのである。

 

黒猫……もとい彼女は諸事情によりほとぼりが覚めるまでは、数十年前の開発事業に大失敗して以来廃れっぱなしで誰に見向きされるわけでもない、本土から離れたこの夜見島に身を隠していたのだ。

 

しかし、ヤミピカリャーというオイルショック時代に数多量産されたUMA人気にあやかり、この夜見島で一時期だけ騒がれた物体に間違われ、木陰で休んでいたところを触手でひょいっと捕らえられ現在に至る。

 

(本当にヤバいわ…とんでもないモノに捕まってしまった……)

 

彼女を抱えるソレは人型ではあった。だが、人間に近いところと言えばその程度だろう。

 

蛍光系の塗料をぶちまけたように蒼い肌に青み掛かった銀の髪と紅く輝く瞳、不定形で赤い一対の翼、そして下半身に集中して触手が生えている。

 

"エイリアン"。その言葉が当てはまるのならば正にコレであろう。そんな得体の知れない何かに彼女は捕まったのである。

 

更に悪いことに、そのエイリアンは彼女が力を計る事を考えるまでも無く、絶対強者或いは負けイベントとでも言いたくなる程に篦棒な実力が魔力の残子からすら鑑みれた。

 

本気になれば最上級悪魔クラスは無くもない事もない程度の彼女など、エイリアンがその気になれば赤子の手より楽に捻り潰させる事だろう。

 

『お肉は闇夜鍋の具材に、皮は記念に三味線の材料にしましょう♪』

 

意気揚々とした様子のエイリアンは未だ固まっている彼女を小脇に抱え、砂浜を歩き出した。

 

(誰か助けてよぉ……)

 

無論、彼女の声にさえならない断末魔のような悲鳴は誰にも届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

魔晄エネルギーの源泉を眼下に事の次第を全て思い返した私は、心の中で溜め息を吐きながら意識を前に向ける。

 

目の前には既に刀の鈍色の腹が私の首に据えられ、その合間を縫うように大量の魔弾が私に殺到していた。

 

私は完全に出遅れたタイミングで魔法を発動させる。

 

 

 

 

 

"クイック"

 

 

 

 

 

その瞬間、視界が鈍色に染まり、私だけが色を残す。私の瞳には灰色の色に飲まれ、愉しそうな表情で止まっている二人の少年少女が映る。

 

この私の時代の時空魔法クイックは周囲の時間を止めて術者のみが動ける魔法として認識はされていたが、実際には超高速で動くことによって擬似的に時間停止を再現する魔法だ。故に私が少年少女の後ろへと歩いて移動している間も彼らは空中で停止しているだけに見えるが、実際には認識すら叶わない速度で私が動いて思考しているだけである。

 

要はジェノバさんの事象そのものを干渉する事による時間停止に比べれば飯事(ままごと)どころか上部だけ整えたハリボテのようなモノ。

 

本来の事象による時間停止は、破壊という事象の経過も存在し得ないためダメージを与えることは勿論、修復等のあらゆる干渉は不可能である。まあ……ジェノバさんはその絶対さえも超える気がするが、あの人はヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスを足したような存在なのでノーカウント。

 

要するに偉大な行いの猿真似には猿真似なりの使い方があるという事だ。

 

私は両手に魔力を通すと少年少女に魔法を放った。

 

"バイオ"

 

パラピレプーという謎の音と共に二人が緑の何かに包まれ、直後爆発する。それを見届けた私は更に魔法を行使した。

 

"ライブラ"

 

カーソルらしきモノが少年少女を捉え、それによって私の頭に情報が流れ込む。

 

 

"イン LIFE"

 

レベル7

 

HP52482/HP58000

聖によわい 地によわい 水をきゅうしゅう

 

どくをうけている

 

つねにプロテス

 

 

"ヤン DEATH"

 

レベル7

 

HP49791/HP52000

 

聖によわい

 

どくをうけている

 

つねにシェル

 

 

おい、FF5特有のレベル詐欺止めろ。コイツらもジェノバ細胞ベースのモンスターであろうし、LIFEとDEATHはジェノバさんの洒落だろう。ゲーム内でのあんなクソ雑魚ナメクジの名を貰ってしまうとはグレるのも仕方がないな。

 

まあ、私の知る現実のジェノバさんのシドニアのガウナも真っ青な鬼畜性能から見て、きっとFFRK仕様であろうから大変失礼な考えは心の隅に仕舞っておこう。

 

それはそれとして完全時間停止には無いクイックの利点。それはこの状態で何もせずに放っておくと継続ダメージは入り続ける事だ。

 

要はクイックの時間の中でも毒状態やらスリップ状態は続くのである。

 

私は欠伸をひとつ落とすとその場に座り込み、奉先が面白いからと渡してきた漫画を部屋から転送して目を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

数冊読み終えたところで漫画を部屋に戻し、インとヤンに眼を向けてライブラを使わずにおおよその生命力を計った。よし、4桁まで落ちたな。

 

そう考え、ゲームよりも遥かにチートなクイックを解除する。まあ、現実では効かない相手が出てくるため大して使えはしないだろう。父さんと母さんクラスなら余裕でレジストするだろうしな。

 

灰色の世界が色に塗り潰された。ほんの少しの時間を経て再び鉛色の外壁と足場、そして魔晄の淡い光りが目に映る。

 

「……え…?」

 

「あ…れ……?」

 

インは空振った刀ごと地面に崩れ落ち、弾丸は私のガ系魔法では傷ひとつ付かない魔晄を囲む外壁に当たり、それから直ぐにヤンは膝を折る。

 

諦めろ。貴様らの考えている数百倍は時空魔法は無敵だ。それを使うのが元世界最強の暗黒魔導士なら尚更な。

 

そもそもただの存在が多少なり時という事象を干渉出来る者に勝てると考える方が可笑しいだろう。万物は時という流れの中に存在し、時空魔法使いはその外から理を見つめているのだ。

 

今まで使用を控えていたのは単に使うとつまらないからだ。あ、アンラ・マンユは違うぞ。アレクラスからは無意識下でクイックとかレジストしてくるし。

 

「やっぱりひとりじゃ勝てないね。姉様」

 

「ええ、ひとりでは勝てないわ。兄様」

 

インとヤンは地べたを這いずりながらもどうにか互いが互いに辿り着くと、抱き合うように身体を合わせてふたりだけの世界を作り、既に満身創痍にではあるが相変わらず、嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

初めから壊れているのか、それともこれさえもジェノバさんの趣味の性格付けなのか。既に手遅れだと私も思うが、後者なら本格的な話し合いが必要かもしれない。

 

「私たちは片翼の天使」

 

「僕たちは片翼の悪魔」

 

インとヤンは誰に語る訳でもなく言葉を引き出しながら悪魔の翼を広げる。それは奇妙にもインが左側に5枚、ヤンが右側に5枚の互いに補い合うような片翼の構図であった。

 

「抱き合って空を飛ぶ」

 

「手を取り合って羽ばたくの」

 

インとヤンの身体が徐々に薄れ、2本のライフストリームへと変換されていき、2本のライフストリームは絡み合うように捩れて折り重なるように混じる。

 

「だから私たちは死なない」

 

「だから僕たちは永遠」

 

遂にはインとヤンの姿は消え、捻れたライフストリームの柱が聳え立ち、その禍々しいまでの生命の奔流の中から1体のモンスターが這い出た。

 

真っ先に見えたのは手先と脚先に付いた鉤爪。次に目に入るのは肌色に近い灰色の肌とオレンジ色の胸部。

身体を反る姿勢で上半身を後ろに倒していたそのモンスターは身体を戻すため、回転して体勢を前に向ける。

 

モンスターの胸の先は二股に別れ、左に薄ピンク色の目穴と笑ったままのお面のような顔、右にそれと全く同じ造形をした水色の顔が付いていた。

 

『さあ、遊びましょう?』

『さあ、一緒に遊ぼう?』

 

よろしい、貴様らにお兄さんからまずは最初の指導をしてやろう。

 

追い詰められてからの合体は…………負けフラグだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「暇ねぇ……」

 

魔晄炉の入口の階段に座ったまま青空を見上げて私は呟いた。

 

本人(シンラ)に言ったらド突かれるから言わないけどシンラは無茶苦茶過保護なのよ。

 

居るのよねぇたまに…。 軽く言えば特定のモノ以外に全く興味を持たない変人。強く言うと自分どころか世界がぶっ壊れようと気にさえも止めないのに、自分が認めた…いいえ、愛したモノが自分以外に犯されるのが最高に苦痛に感じる異常者。そういうのはだいたいはロクな死に方はしないわ。ソースは呂布(わたし)

 

その上に男のツンデレなのよシンラは。男のツンデレなんて誰が得するのって話ね。だが、それが良い。

 

『やっぱり大変な事になっていますね。私の魔晄炉』

 

いつの間にか私の背後に立っていた女性がそう呟いていた。彼女は"ジェノバさん"。シンラがそう呼んでいるから私もそう呼んでいる。

 

何故か脇に黒猫っぽいモノを抱えているわ。あら? この猫………………へぇ…。

 

『欲しいならあげましょうか?』

 

ジェノバさんは黒猫に金色の首輪を付けると、猫の眉間をそっとつついた。

 

「にゃっ…!?」

 

その瞬間、ポフンという音と煙に猫が包まれ、それが張れると猫はたちまち黒髪の女性の姿へと変わった。

 

「うっ…!?」

 

次の瞬間、私の目にギリギリ映るぐらいの速度で元猫の女性のお腹に手を叩き込むジェノバさん。おそろしく速い手刀。私でなきゃ見逃しちゃうわね。

 

良く見ればジェノバさんの手には、金色の首輪が握られており、手刀の序でにそれを首に付けていた。

 

ジェノバさんが私に女性を手渡し、それを私が受け取るとジェノバさんは笑顔で呟く。

 

『"クロカ"を かわいがって あげてね!』

 

わたしはネコマタを もらった!

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

"イン・ヤン SYNTHESIS"

 

レベル13

 

HP124/220000

 

聖によわい

 

つねにプロテス

 

つねにシェル

 

 

逃げ回ってた魔物が合体した程度で私に勝てたら世話が無い。既に死に身体のイン・ヤンをライブラでステータスを一応確認してから、このイン・ヤンというモノについて考えていた。

 

SYNTHESIS(統合)ねぇ…。そう言えばコイツは培養室ではなくジェノバさんの部屋に置いてあった培養槽から逃げ出したとジェノバさんが言っていた事を思い出す。

 

ついさっき見た限りはジェノバさんの部屋には他に培養槽は置いてはいなかった。

 

培養機が数台置いてあったが、朝には全て撤去してしまい、コイツは廃棄処分を免れただけの個体という可能性も無いこともないが、ああ見えて意外と医療器具や実験器具を最大限使い回す程度にはケチ臭……超効率主義的の性格をしているジェノバさんに限ってそれはないだろう。

 

という事はコイツはジェノバさんが何らかの意図を持って造り出されたということになる。まあ、名前からしてジェノバ細胞ベースの魔物。

 

『あらあら、随分と派手にやりましたね』

 

考え込んでいると、私とイン・ヤンの丁度、中間に家の青い宇宙人こと、ジェノバさんが音もなく舞い降りた。

 

するとイン・ヤンは顔を上げ、光りに包まれたかと思うと二人の少年少女へと戻り、一目散にジェノバさんへと駆け出した。心なしか二人の瞳には涙が溜まっているように見えた。

 

「ママー!」

 

「うわぁぁぁん!」

 

『おお、よしよし』

 

ジェノバさんは飛び付いてきた二人を受け止めると、両方をあやすように撫でたり、さすったりし始める。

 

ああ、やはりそうだったのか。どうやら今回の騒動はジェノバさんの自作自演らしい。

 

そもそもおかしかったのだ。機械のプロでもあるジェノバさんが、キャリーアーマーの損壊の仕方に疑問を覚えない訳がない。完璧主義者のジェノバさんが、自分の失態を私に悟られるだけでなく、尻拭いまでさせようとする訳がない。

 

クローンファリスの初稼働。再生の卵の使用。素体の精神の有無での戦闘データテスト。イン・ヤンの御披露目。

 

ジェノバさんはこの辺りの事を1度に全て行ったのだ。コンソールから再生の卵だけを使ったのはイン・ヤンで、素体の培養機を全て開けたのもイン・ヤンだ。指示されての事だろう。そして、ジェノバさんの目論見通り、クローンファリスは再生の卵を使用したアンラ・ユンマに勝ち、心のある素体は心の無い素体には決して負けない事が証明されるだろう。

 

全く……イン・ヤンという私の眷属が新しく増えたから良いモノを…。

 

「酷いんだよー! "兄さん"全然手加減してくれないんだー!」

 

「"お兄ちゃん"が大人気ないのー!」

 

『"お兄さん"は仕方のない人ですねー』

 

そこまで考えた時、なんだが聞き捨てならない単語が聞こえた事に戦慄を覚え、ジェノバさんへ顔を向ける。

 

それに気付いたのか、ジェノバさんは嬉しそうな笑顔を浮かべると二人を左右に連れて私の前まで歩いて止まった。

 

『この子達は…』

 

口を開いた直後に少年少年は駆け出し、私の足に抱き付くと顔を上げて嬉しそうにこれまでとは代わり、年相応の笑みを浮かべた。

 

銀髪に銀の瞳……それにこの顔のパーツと笑顔……何処かで見覚えがある。

 

ああ! そうだ! "母さん(グレイフィア・ルキフグス)"にそっくりじゃないか!

 

『"私の細胞"と"グレイフィアさんの細胞"を"交配して産まれた子達"です。まあ、興味本意でやった事ですけど』

 

「兄さんー!」

 

「お兄ちゃーん!」

 

ああ、見れば見るほど母さんにそっくり、引いては私にも似ている。なんだが、途端に可愛く見えてきたぞチクショウ。こうして外堀を順調に埋めて行く気だな。

 

『大丈夫ですシンラさん。許可は得ますし、認めさせますから』

 

せめて得ました認めさせました言って欲しかったという小さな呟きは魔晄の光りの中に消えていった。

 

こうして、第一次ニブルヘイム魔晄炉の変は母さんに精神的負荷を負わせた事と、奉先が猫又を飼い始めた事で終息した。

 

あんたどれだけ家の母さんいじめれば気が済むねん……。

 

 

 





ちなみにジェノバさんは細胞レベルでシンラさんの事が好きなので、それに非常に良く似ているグレイフィアさんの事も結構好きです。ただ、愛情表現が屈折しているだけです(絶望)


後、黒歌と奉先の組み合わせですけど。

黒歌&呂布

等と画像検索か検索でもしてみて下さい。そもそも奉先をこの小説に出す理由にもなった画像が見付かると思います。




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