坂上支部ができるまで (笑人形)
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とあるデパートが潰れたワケ

坂上此方(さかうえ・こなた)UGNという組織に協力するオーヴァード(超能力者)。明朗快活な女子であるが、想い人が居るのでは?と噂される。戦闘スタイルは手甲を装備してのインファイト。

シュタイン UGNに所属しているオーヴァードの一人。価値観が普通からズレており、此方はたまに困らせられる事がある。錬金術が使えるらしく、彼の知っている物ならおよそ制限なく錬成できるらしい。戦闘スタイルは錬成した兵器の運用。


室内には三人の人間が居る。書類を手にした中間管理職の男、活発そうなトレーニングウェアの女、気を付けの姿勢で微動だにしない制服姿の少年。

「君たちにはファルスハーツの拠点を突き止めてほしい」

ファルスハーツとはこの三人の属する組織、UGNと敵対する組織であり、自分たちの欲望に忠実な危険な組織である。

「任務了解です。突き止めた後は」

「あぁ。坂上君の好きにしたまえ。損耗は出すなよ」

女が質問しようしたのを遮って、しかし男は女の欲しかった一言を言い放つ。程度こそ違うものの、両者とも口角を上げる。少年はそれに気づこうともしない。

「では坂上此方・・・ほら」「・・・シュタイン」

「いってきます!」「いってきます」

 

女と少年はそれぞれ挨拶をして、調査へと出る。

 

 

 

それから。所々を調査した結果。

 

「普通のデパートじゃない?」

「普通の?」

「いや、こう、なんか・・・わかんない?」

「何が?」

 

此方はここが悪の組織の拠点が不思議だと伝えたかったのだが、シュタインにはそのニュアンスは伝わらない。仮に此方が丁寧に不思議さを説明できていたとしても、結局シュタインにそのニュアンスは伝わらない。シュタイン少年はそういう存在だった。

 

デパートに入ると、ちょうど土曜日であったからか沢山の人で賑わっている。それとはなしに眺める中、此方の目が留まる。

 

「お兄ちゃんこっちこっち」「わかったから引っ張んなって!」

 

シュタインは左手に違和感を感じて見やる。

 

「此方」

 

返事はない。

 

「此方、なにこれ」

「・・・・・・ん?」

 

此方は無意識にシュタインの手を握っていた。

 

「え、あぁ。ごめん」

「あれ」

 

此方の謝罪を半ば無視する形でシュタインが示した方向は、職員専用出入口の付近。そこに明らかに怪しい黒服と白いスーツを着た男が何やら密談をしている。

 

「あれってディ」「バレたら不味い」

 

白スーツの男はファルスハーツでも有名なエージェントで、UGNで教育を受ける者ならば誰でもその名前を教えられるほどの大物である。その名をうっかり呼び掛けた此方の口をシュタインは塞ぐ。その間に密談は終わったらしく、職員専用出入口へ消えていく。シュタインは此方の口から手を放す。

 

「確定だね。どうやってボコす?」

「・・・・・・夜、また来よっか」

 

 

 

 

デパートが終業した時間。デパート全体が見渡せる近くのビルの屋上。此方とシュタインの二人は双眼鏡で見張っている。

 

「電気点いてるとこあるね」

「狙撃?」

「却下。寝ている人に迷惑でしょ?」

「無音にできるけど?」

「じゃあ民間の人撃っちゃうかもしんないよ?」

「・・・・・・」

 

シュタインは少し機嫌を損ねながら、狙撃の準備をやめる。

 

「じゃあどう潜入するの」

「えーっと、あれだ!壁に撃って引っ掛けてスーーって行くやつ」

「あー。」

 

シュタインの両手の内に光が満ちる。待つこと十秒。拳銃のようなものが錬成される。

 

「これでしょ?」

「そうそう!え、これ引き金引いたらロープが出るの!?」

 

此方のハイテンション質問には答えず、錬成していた自分の分をデパートの屋上に狙いを付け、引き金を引いてロープが出るのを実演する。

 

「便利よね~、その能力」

「そうなの?」

「あたしが欲しいくらい!あたしもモルフェウスなんだけどなぁ」

「・・・・・・とっとと行こう」

「?うん」

 

シュタインが急に話を切ったのを不思議に思いつつ、デパートの屋上へ向かう。

 

 

 

屋上に着き、デパート内に入る鍵は錬成して開け、真っ暗な職員用通路を進んで行くと、妙に一室だけ電気が点いた部屋を見つける。中から話し声がするので、二人は息を潜めながらも聞き耳を立てる。

 

「例の薬の生産量の調子は?」

「えぇ。上手くいっておりますとも。それと、戦闘中に投薬しやすい錠剤タイプもサンプルが完成しまして、ご覧になりますか?」

 

部屋の中では二人の人間が会話しており、片方は白いスーツの男、もう一人は研究者風の白衣。シュタインは此方に目を合わせる。

 

「手榴弾作る?」

「シュタイン、それはマジでどうしようもなくなったらにしよう」

「わかった。奇襲?」

「あたしが行くから、隠れてサポートで」

「了解」

 

シュタインが頷くのを見て、此方は二人の方へ飛び出して行く。此方が接近戦、シュタインが後方支援をする。この形が此方とシュタインの戦い方である。

 

「悪事もそこまでよファルスハーツ!」

「ハッ、私が誰だかわかったの発言かね?なぁ博士」

「UGNの所の小娘ですかね。いやはや貴方の言ったとおりになるとは」

「言ったとおり……?」

 

シュタインは此方の姿を目端に捉えつつ、部屋の中を観察する。フラスコ、試験管といったオーソドックスな実験道具から、ひと一人入ってしまいそうな培養槽やこれでもかとカードの付いた正体不明な機械が並んでいる。ファルスハーツの連中を鎮圧したらぜひとも眺めたいと思い、手榴弾投入を止めてくれた此方に感謝した。

 

その間にもファルスハーツ二人の余裕は崩れない。借金取りが家に訪れたぐらいの状況でありながら、全く余裕が崩れない。当然、根拠がある。

 

「私は確かに近頃、UGNの連中に邪魔されてばかりだ。認めよう。しかし!今回は、今回こそは明らかに今までとは異なる……!」

「そう、"ファーマシスト"のカードネームを賜った私が改造したαトランス!その名も……」

「「Ωトランス!!!」」

 

白スーツの男と白衣の男が自信満々に告げる。

 

「あ、そう。」

 

いつの間にか此方の両腕は手甲を纏っており、後はどちらからどのように殴るかの問題であった。シュタインも自らの武器を錬成、然るべきタイミングを見計らっている。

 

先に動いたのは白スーツの男。

 

「ふ、ならば早速……がぁっ!?」

 

白スーツの男は錠剤を口に含もうとするが、それを許すシュタインではない。錠剤を摘まんだ手ごと吹き飛ばそうと銃撃する。白スーツの男は持ち前の反射神経で弾丸を躱すが、錠剤は勢いで手から溢れる。

 

姿勢が崩れた白スーツの男を此方が襲う。

 

「シッ!」

 

顔面に突き刺さる何の小細工もない強力な純粋ストレート。白スーツの男が床を転がる。その間に白衣の男はしれっと錠剤を服用し終えており、銃撃の主を探し、シュタインの姿を認める。

 

白衣の男の筋肉が異常に肥大化し、丸太ほどの太さになった腕がシュタインに振るわれる。白衣の男の顔には笑顔。泣く子がさらに泣くような狂気的な笑顔であったが、シュタインは何とも思わない。ただ、厄介なことになったなとだけ思った。

 

「シュタイン!!」

「此方、1on1!」

 

壁に叩き付けられ思わず振り返る此方に、シュタインは戦法を伝える。此方はその声に大丈夫だ、とどうにか納得して自らの敵を見る。瞬間、白スーツの男が自らに向かって来るのを知覚し、避けられないと判断し、男の爪撃を手甲で受ける。

 

硬質な金属音。白スーツの男が弾かれて距離を取る。

 

「どういうことだ……?」

「ディアボロス、アンタの負けよ」

 

此方は一方的に白スーツの男、"ディアボロス"に勝利宣言する。

 

 

 

その頃、シュタインは劣勢にあった。白衣の男の攻撃を躱したり、どうにかよりダメージが少なくなるように受けるなどの消耗戦を強いられていた。しかし、シュタインの精神はまるで揺れておらず、それこそゲームのボス戦でもするかのような気分で、白衣の男の攻撃パターンを把握しようとしているのだった。

 

白衣の男は何も考えていなかった。錠剤は確かに強い筋力を与える物であったが、副作用として理性を著しく損ねる代物でもあった。彼のコードネーム、"ファーマシスト"とは薬剤師を意味する言葉。当然、それに見合う頭脳も彼は有して居たのだが。

 

自らの長所を失うとどうなるのか、いちいち質問するまでもない。

 

「膝の皿」

 

シュタインは二丁拳銃で白衣の男の足を撃つ。二つの弾丸は、宣言通りに膝の皿を穿ち、白衣の男の動きを止める。倒れたところで手錠を錬成、拘束する。

 

 

 

此方も白スーツの男も肩で息をしながら、ファイティングポーズは崩さない。あと一撃で決まる。両者がそう認識していた。いつ動き出すか、睨み合いながら互いにタイミングを計る。戦闘の最中でありながら、二人の間には静寂があった。言葉を挟む余地は両者に無く、さながら決闘の空気であった。

 

「此方」

 

シュタインが呼びかける。此方に答える余裕はない。

 

「明日、弟と出かけるとか言ってなかったっけ」

 

此方の目が見開かれる。

 

「……そうじゃん。こんなのの相手してる場合じゃない」

 

此方が右足と右腕を引く。手甲の形がより鋭利な物へと変わっていく。白いスーツの男はそれが完成させてはいけないと判断、瞬時に殴りかかる。

 

「やっちゃえ」

 

やはりシュタインはそれを許さない。銃弾で拳の方向を逸らす。此方の構えは完成し、男のがら空きの胴へと放たれる。

 

「ふ、き、と、べぇーーーー!!!」

 

カシャンと作動音がして、手甲の先、男の胴へと刺さった部分が炸裂する。爆発音を伴って男は吹き飛び、部屋に穴を開けて外へと落ちていく。

 

ひと仕事終えた二人は拳をコツンとぶつけ合って、

 

「「任務完了」」

 

と呟いた。

 



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