ナルトンピース (マルコトロピカル)
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プロローグ1-1

初めまして。マルコトロピカルといいます。
初投稿です。
この偉大な作品達を扱うのは大変恐縮ですが、少しでも楽しんでくれたら幸いです。


 第三次忍界大戦。

 それは、風の国を拠点とする忍の里の一つ、砂隠れの里で起こったある事件が原因で勃発した。

里の長である三代目風影が、突如行方不明になったことである。それによって混乱した砂の里を狙って、他の国の忍里が動き出したのだ。

 

 事件は、第二次忍界大戦が終結して平和になると思われた矢先のことだった。

 砂隠れの里、岩隠れの里、木の葉隠れの里、雲隠れの里、霧隠れの里。これらの忍里を有する五ヶ国は忍五大国と呼ばれ強国として名前を馳せている。

 しかし、同じ大国でも環境などによって変わる経済格差に不満がたまり、風影の死を引き金に爆発してしまった。

 戦争が勃発し、集中的に攻撃された里は何も砂隠れの里だけではない。豊富すぎた国力と富を持っていた木の葉隠れの里も、他里による子供の言い訳じみたでっち上げで、相次いで宣戦布告されたのだった。

 豊かな資源に恵まれた火の国木の葉は、他国からの嫉妬や恨みを買っていることが多く何かと狙われやすい。そんな背景を顧みた各里の上層部は、五大国同士で挟み撃ちにすれば、いくら最強と謳われている木の葉の里でも、数の力で押し切れる、と云う結論に至っていた。

 

 そしてついに忍五大国の内の一つ、雲隠れの里は、現在の戦況を好機と悟り動き出した。

 木の葉隠れの里が、土隠れの里と大規模な戦闘を開始したのだ。木の葉と土の、国境線付近で起きたそれは、雲隠れの里にとって木の葉を挟み撃ち出来る絶好の位置であり、常に伺っていた狙いそのものである。

 故に雲は、主力部隊を木の葉に向けて総攻撃を仕掛けた。

 雲の忍達は、この作戦で確実にあの木の葉を失墜させることを意気込み、またそれが現実的なものであると信じて疑わなかった。そのはずが――。

 

「散れ、千本桜」

 

 戦場に不釣り合いなほど立派な装束に、白い羽織を纏った男が、ぞっとするような冷たい声でつぶやく。

 すると、男が持つ刀から発せられた斬撃が周囲に解き放たれて、彼を中心とする美しい桜吹雪を演出した。

 

「ぬああああっ」

 

 また幾人か、雲隠れの忍が全身から血を噴き出して倒れる。

 雲隠れの精鋭部隊はたった一人の木の葉の忍に苦戦をしいられていた。

 

「クソっ、もう五人がやられた! どうやって近づけばいいんだ!」

 

 雲の若い忍の一人が、認められない現実に絶叫する。

 

「落ち着け。いったん距離をとれ」

 

 この部隊を率いている特徴的な帽子を被った隊長と思わしき青年が指示をだす。その声と共に一斉に後退する雲隠れの忍達。

 部隊に号令を出した青年ドダイは、歯を噛みしめて、目線だけで周囲を見渡した。

 残り十五人。奴がたった刀を二振りしただけで、精鋭の四分の一の人数が地に落ちた――。

 

 

「接近戦では分が悪い。連携して忍術で崩すぞ」

 

 ドダイたち雲忍の精鋭部隊は、先ほど第一の任務を成功させたばかりで、現在は『木の葉の拠点を叩く』という、第二の任務に向かう途中だった。

 彼らの前に、立ちふさがるように現れた木の葉の忍はたった一人だけであり、数的有利であったことと、後に敵の拠点を潰す、という二点を顧みて、ドダイはチャクラを温存させるように部下に命令を下していた。が、敵の実力を考えたら、そんな悠長なことは云っていられない。即座に戦法を切り替える。

 

「「「「雷遁・サンダーボム」」」」

 

 数人の雲忍が一斉に、敵に向かって電撃を打ち出す。電撃は、敵である木の葉の忍の周辺の地面をも巻き込み爆発を起こした。舞い上がった砂煙で敵の状態が見えない中、一人の雲忍が、敵が倒れ伏している事を祈るようにつぶやいた。

 

「やったか……」

 

 しかし、そんな思いなど関係ないと言わんばかりに、木の葉の男は桜の花びらで砂煙を吹き飛ばした。

 

「雲隠れの精鋭と聞いていたが、どうやらそれほど大した強さはないと見える」

 

 木の葉の男は、桜の花弁状に飛ばした斬撃を、防壁代わりにして周囲を固めて雲忍の攻撃を防いでいた。その余裕と挑発とも取れる言葉からまだ本気を出していないことは誰の目をからしても明らかだ。

 そして雲忍は、なぜ木の葉が五大国最強と謳われているのかを理解することになる。

 

「くっ、華麗な剣技とそのいで立ち……そなたが木の葉に舞う千本桜『朽木白夜』に違いないな! 噂では、黄色い閃光に次ぐ実力と聞く。だが我らにも雷影様から承った使命がある。たった一人の敵を前に引くことは許されん! 押し通させて頂く」

 

 ドダイが睨みつけて言葉を返すが、木の葉の忍、朽木白夜と呼ばれた男は特に気にした風もなく悠然といった。

 

「兄らの思いなど、私にとって意味はない。木の葉に攻め入りあまつさえ、この朽木白夜を、あの『たわけ者』以下と断ずるとは……ずいぶんと驕りがすぎる」

 

 瞬間。

 朽木白夜から、猛烈な殺気があふれ出した。

 

「うっ!!(なんて殺気、なんてチャクラ量だ! 木の葉は化け物の巣窟かっ!?。これでは他の連中が……)」

 

 白夜からの殺気を受けて、生き残ったほとんどの雲忍が恐怖に顔を歪めて、足をすくめていた。 

 そんな折、

 

「あ、ありえん! この我が震えているだと! 神になりうる存在のこの我がっ!!」

 

 恐怖で足がすくんでいる雲忍の中の一人、その中でもひと際年若い少年が急に叫んだ。年は十五歳ほどで、耳たぶが異様に長く頭にはバンダナを巻いている。二十人からなる雲上忍部隊の中で、最年少で若いが、先ほどの白夜の攻撃で倒れることはなかったため確かな実力はあった。

 彼の名はエネル。三代目雷影の実の息子である。兄同様、小さいころから将来を有望視され、次期雷影とも言われるほどの才能を有していた。

 だが、もてはやされ、天狗になった彼はこの場にて初めての挫折を味わっている。

 今まで受けたことがない屈辱を受けることによって冷静さを保つことが出来なくなった少年は、次にとった行動のせいで、順風満帆すぎた今までの付けを払うこととなった。

 

「あってはならぬ! この我が臆するなぞ! あってたまるものか!!」

 

「エネル様!!」

 

「まてエネル! 勝手に一人で飛び出すな!」

 

 高すぎた自尊心よりに暴走した少年を、必死に呼ぶ彼の側近や、声を張り上げ制止させようとする隊長ドダイの声を無視して、エネルと呼ばれた少年は単身で白夜に突っ込んだ。

 

「なるほど。その脆弱な身の丈で神を自称するとは、余程無様な死を望むと見える」

 

 呆れ、侮蔑の表情をもってゆっくりと目を閉じた白夜にむかって、エネルは電撃を身にまとい、背負っていた三叉槍を思いきり突き刺す。

 その速度は並みの忍者なら避けるのは困難なほど速かったが、

 

「おそい」

 

 エネルの一撃は、朽木一族に伝わる特殊歩法『瞬歩』によって空を切り、白夜はいつの間にエネルの背後に移動していた。

 

「多少浅かったが、まあよい……」

 

 白夜がそう言葉を零した後、少し遅れてエネルの腹から左肩にかけて切り傷が生まれ、血が噴き出しエネルは倒れた。

 

「エネル様!!」

 

 サングラスをかけたエネルの側近の男が、エネルを助けに向かおうとするが、桜の色の斬撃に邪魔され間合いに入ることも許されない。

 

「貴様らはただでは帰さん。驕りに満ちた報いをうけさせてやろう」

 

 刀にチャクラを集め、桜の花弁状の斬撃を放ちながら、白夜は続ける。

 

「その程度の距離で、私の千本桜の範囲と思うたか」

 

 先ほどよりもさらに増やされた桜の花びら。雪のように舞う桜吹雪だが、当然のようにひとかけらも当たらずに避け切ることは不可能に近かった。

 

「まずい!〈熔遁・護謨玉〉」

 

 ドダイは印を結び、土遁と火遁を組み合わせた熔遁で身を守るべく、ゴム状の球を自分と味方に包み込ませていく。しかし、全ての人数を包み込める時間はなかった。

 

「〈土遁・鉄の防壁〉」

 

 サングラスをかけたエネルの側近の男オームが、それをカバーすように鉄の壁を発動する。が、それでも間に合わず、三人の雲忍たちが桜の餌食となった。

 対峙してから数分という短い時間で、二十人もいた雲忍はおおよそ半分に減っていた。それを悲しむ暇がないほど、次から次へと桜の花弁がドダイたちを襲う。

 ゴムの壁も鉄の壁も、数秒ほどで切り裂かれ、壁としての機能をなくす。

 迫りくる桜吹雪とそれを操る男は、景観ならば美しく感嘆な声が漏れるであろうが、実際にそれが作り出した現実をみると、雲忍にとっては死神に他ならない。

 

「ぐ、きりがない」

 

 お互い穴を埋めあいながら連携して、白夜の千本桜を退けていた雲忍たちであったが、絶え間ない攻撃に防戦一方で、少なくない切り傷が蓄積されつつあった。

 

「こんなところか」

 

 白夜が呟いた軽い口調と共に、永遠とも思われた斬撃の地獄は止まった。

 

「はぁはぁはぁ・・・・動けるのはもう・・・・」

 

 ドダイが周りを確認すると、立っているのはたった八人。それも立っている全員が肩で息をしており、多くの切り傷を負っている。

 方や白夜の方は、あれ程の攻撃の後にもかかわらず、息一つ乱さずチャクラ切れの様子も全くない。

 

『不可能』

 

 ドダイの頭にはその言葉がよぎる。

 戦闘開始時の二振りで、五人の仲間が葬られた後直ぐに撤退をするべきだった。

 第一の任務を、『誰一人欠けずに成功』させた事で緩みが生まれたのだ。敵をたった一人と高をくくり、実力差を考えず、無謀な作戦を実行してしまった。

 部下の無駄死に。

 ドダイにその言葉が重くのしかかるが、何もかも諦めて投げ捨てるわけにはいかなかった。

 

「すまない皆。私の責任だ……いくらでも恨んで構わない。最後に一つだけ命令を聞いてくれないだろうか……」

 

 ドダイが諦めきれない理由は、エネルの存在だった。

 エネルは白夜に切られて倒れ伏したが、未完成である雷遁チャクラモードを発動していた。

 雷遁チャクラモ―ドとは、エネルの父である三代目雷影考案の術。兄である機関棒のエーも会得しており、電気の神経操作による速力と視力の強化に加えて、纏ったチャクラで防御力と攻撃力を上げるという攻防一帯の絶技だ。

 エネルはまだチャクラが足りず未完成だったが、それでも防御力はそれなりのもの。切られて血を流し倒れてこそいるが、まだ死に至るほどではなかった。つまりエネルはまだ息をしている。

 またドダイは、作戦開始前に雷影から直々に『息子であるエネルを頼む』と託されていた。

 

「私の命はどうなってもいい……ッ!! しかし、エネルの命だけは何としても、ここで落とさせるわけにはいかん」

 

 雷影の期待を裏切り部下を死なせて、重要な任務失敗の汚名を被ってでもドダイは、将来確実に雲隠れの発展に貢献するであろう、雷影の息子だけは助け出したかった。

 

「あの人の息子のために命をかけてくれるか?」

 

 死期を悟ったように、穏やかな表情をしたドダイが生き残った仲間に問いかける。

 

「当然」「んんっ、んん」「我らは、エネル様の側近だ」「ほっほほーい」

 

 その問いにいち早く答えた四人は、年下のエネルを慕う側近の達だ。

 サングラスをかけて、頭をスキンヘッドにしたオーム。

 蜘蛛のように特徴的な髪形をした、腕をクロスさせ上唇を噛みながら何かを言っている男、ゲダツ。

 パイロット帽子を被り、割れたゴーグルをつけた少年、シュラ。

 ふざけたような掛け声で、風船のように膨らんだ体の男、サトリ。

 彼らは傷だらけになりながらも力強く答えた。

 

「隊長、水臭いことは言わないでくださいよ」

 

「俺は隊長についてくって決めてますから」

 

「忍になった時から覚悟はできてますよ」

 

 残りの三人は、ドダイと長い付き合いになる部下達だった。

 

「ありがとう。ならば、誰でもいい!! エネルを救いだし撤退しろ!!!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 生き残ったドダイ達精鋭部隊は、目標を『エネル救出』の一点に定め、全員がすべてを出し切ると覚悟を決めた。

 

「どうやらまだ削り足りないようだ。先ほども言ったが、ただでは帰さん。貴様らには糧になってもらう」

 

 白夜がそう言い切ると、彼の背後から舞い落ちていた桜の花びらが再び舞い上がり、ドダイたちに襲い掛かった。

 

「そう何度も食らってたまるか」

 

 桜をよけるために散開したドダイ達だが逃げ回っているだけではなかった。エネルの次に若い少年、シュラが叫びながら印を結ぶ。

 

〈火遁・火龍弾〉

 

 シュラの口から吐き出された炎は、白夜の側面から襲い掛かるが、自動で動いているかのような桜の花弁によって防がれる。しかし、攻撃はそれだけでは終わらない。

 

〈風遁・風玉の術〉

 

 風船のような体を持つサトリが、シュラの吐き出した炎めがけて風の球を三発繰り出した。

 

「いったん離れろ!」

 

 炎吐き終えたシュラが、叫ぶ。瞬間――。

 消えかかった炎にサトリの風玉が接触。大爆発を起こした。

 

「風の性質変化で火遁の威力を上げたか……」

 

 爆炎を難なく防ぎそうつぶやく白夜だが、その視界は煙で防がれている。

 雲忍達からも白夜の状況が見えないが、彼らが攻撃の手を止めることはない。

 

「これで倒せるとは思ってない〈連続・鉄の鞭〉」

 

 エネルの側近オームは、特殊な術を使う。雲隠れの里が位置する雷の国のみで採取できる特殊な金属『鉄雲』を扱う一族である。

 白く、雲のように軽い金属を自在に操り、鞭のように煙内にいるであろう白夜に襲い掛かる。

 

「やはり、生きている」

 

 オームは鉄の鞭を弾き飛ばす金属音を聞いてこれでは白夜を倒すに至らないと判断した。だからそれで終わらせず、オームは鉄の鞭を四方八方から繰り出しながら、少しづつ桜の花びらを叩き落とした。

 エネルの側近の中で随一の実力を誇るオームにとって、千を超える花びらを叩き落とし、一瞬だけ人が通れる道を作るくらい容易かった。

 

「今だ、ゲダツ!!」

 

「ジェットパンチ!」

 

 かねてより、印を結びチャンスに備えていたゲダツは、オームの決死の叫びに反応して高速の突進を繰り出す。腕の肘から、大量の風遁チャクラを噴出して爆発したように加速した。その速度は先ほどエネルが行った突きよりも早い。

 視界が防がれた状況での高速の奇襲は、確かに白夜を追い詰めていた。しかし……、

 

「くっ、まだ足りぬか……」

 

 あまりの噴出力に、肘部分の服が破け散り、転がるように動きを止めたゲダツが悔しそうに呟やいた。

 ゲダツの速攻は白夜の髪の毛数本分を吹き飛ばすに留まった。ここまでやって与えたダメージが髪の毛をちぎっただけ。だがそれでも確実に近づいていた。

 

「まだだ!!」

 

「「「雷遁・連携サンダーボム」」」

 

 ドダイの三人の部下たちが、連携して爆発する電撃を三方向から打ち出す。

 爆発により再度砂煙が舞い、敵の視界を奪う。

 

「熔遁・ゴム紐」

 

 その隙をついてドダイは、白夜の背後に横たわるエネルを救出するためゴムの紐を伸ばす。

 しかし。

 それを大人しく見ているほどこの男は甘くない。

 白夜は、地面から垂直になるように刀の切っ先を上に向け、自身の顔の前に近づけた。

 瞬間……、

 舞っていた桜の花弁同士が至る所で、吸い込まれるように合わさり、桜色の手裏剣を型取った。その数は一瞬のうちに、百を超えるほど。

 

「舞え、千本桜・桜花手裏剣影分身」

 

 白夜が発した凪のような静かな声を皮切りに、桜色の手裏剣が高速回転しながら、白夜を中心とする円を描くように動き出す。

 百を超える手裏剣の刃が織りなすそれは、まるで竜巻の如し。

 

「まずい!」

 

 手裏剣による猛攻は、ドダイのゴム紐がエネルに巻き付き引っ張り出していた時だった。

 紐が引き裂かれ、重みの感触が消えるのが最後、迫りくる手裏剣の対処により、ドダイは他に意識をさく余裕が一切なくなった。

 

「クソぉぉっ!」

 

 桜色の手裏剣による竜巻が止んだのはその少しあと。

 白夜の周りは、雲忍による無数の切り傷によって噴き出した血の跡が滴っていた。

 

「ほう……ただの羽虫かと思ったが、多少は評価を改める必要がある」

 

 顔の表情をまったく変えずに言葉をこぼした白夜の目には、しぶとく目的をなそうとする雲忍の姿があった。

 

「はぁ、はぁ、すまない……サトリ、よくやった」

 

 息も絶え絶えに呟いた誰かの言葉には覇気はない。

 彼らの視線の先には、風船のような体をもつサトリが、その大きな体を存分に使ってエネルに覆いかぶさって盾となっていた。

 今もなお、意識を保っている雲忍は七人。

 先の攻撃でエネルをかばったサトリが死亡し、生き残った者も数本の手裏剣が突き刺さっている。まともに立ち上がる事も厳しそうだ。

 

「この程度でいいだろう。出てこい白丸」 

 

 白夜は傷だらけの雲忍をひとしきり眺めたあと、普段より少し声を張り上げた。

 

「はい、父様」

 

 大き目な岩の影から出てきたのは小さな影。この血みどろな風景にはふさわしくない子供、少年だった。

 




何で、白丸なんて名前にしたのか。
改めて見たら白夜と似すぎてて、ものすごく見にくい。
適当に名前つけたの失敗でした。以後気をつけます。


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プロローグ1-2

続きです。


 少年の歳の頃は五、六歳ほどで、『父様』と呼ぶだけあって、どことなく朽木白夜の顔立ちに似ている。格好は白い袴で袖を肩が出るまでまくり上げている。そして、腰にはこれまた子供には似つかわしくない小刀が帯刀されていた。

 

「こ、こども……っ!?」

 

 ドダイたちは、急に現れた幼い子供にまだ理解が追い付かない。

 そんな雲忍の隙を狙ってか、朽木白夜は右手に持っていた刀を鞘に納めながらつぶやく。

 

「千本桜・鎖条鎖縛」

 

 雲忍達に突き刺さっていた桜色の手裏剣が形を変える。そして桜色の強靭に編み込まれた縄によって意識がある雲忍達は拘束された。

 

「なっ! ……ここまでか」

 

 どうやっても縄抜けの術が成功しそうにない現状に打つ手がないと判断したドダイ達はみな、諦めと絶望の表情を浮かべる。

 

「白丸よちょうどいい。今ここで、実戦を味わっておけ」

 

「しかし父様、そんなにゆっくりしていても大丈夫でしょうか?」

 

 朽木白夜は絶望する雲忍の存在を忘れてしまったかのように白丸に話しかる。

 それに対して戦場で手を抜くにも等しい行為について、白丸は父である朽木白夜に問いた。

 

「たわけが!」

 

 今まで戦闘中ですら表情をピクリとも変えなかった朽木白夜が、怒りを露わにし息子のほほをはたいた。はたかれた白丸はその力で倒れこむ。

 

「当主である私に口答えをするな。任務は外敵からの拠点の防衛のみ。それは既に達成された。捕虜の扱いに対する言伝は受けてはいない」

 

「申し訳ありません、とうさま」

 

 はたかれて赤くなった頬に手を当てながら、白丸は直ぐに立ち上がる。

 

「貴様は命令に従っていればよい」

 

 有無を言わさない力強い眼光と共に白夜は続けた。

 

「朽木一族の次期当主として、貴様も他の者の模範とならねばならない。我々の誇りのために、幼子とて、その責務を全うせよ」

 

 突如として行われた敵の親子のやり取りに、捕縛された雲忍たちは諦めの表情から、かすかに希望があるかもしれないと思考を開始する。

 誰かが、奴の息子である少年を人質に取れればエネルの帰還が出来るかもしれないと。

 しかし、次の朽木白夜の言葉で再度絶望に突き落とされた。

 

「敵の首を撥ねよ」

 

 端然と言い放った朽木白夜の言葉を聞き、雲忍達は歯を噛みしめる。

 だが表情を曇らせたのは彼らだけではなかった。彼の息子である白丸も顔を歪めていた。

 

「貴様を血に慣らせるために連れてきたが……気前よく、驕り満ちた修練相手がいる。まずは、動かない敵に成せ」

 

「……はい。とうさま」

 

 白丸は少し震える手で、腰にぶら下げていた鞘から小刀を引き抜く。小刀とはいえ、まだ五歳の子供である白丸とのバランスを考えると少し大きいくらいだ。だが、じりじりと拘束された敵に向かい、小刀を構える姿はなかなかどうして堂に入っている。

 雲忍たちはここにきて初めて理解した。

 朽木白夜が言っていた、『ただでは帰さない』という意味を。そして、先ほどエネルが起こした癇癪により、死神を怒らせてしまっていたという事を。

 

「く、この外道が! やめろ! やめさせろ!」

 

 標的にされたドダイの部下である忍が叫ぶ。

 その必死な形相をみて子供である白丸は恐怖に顔を更に強張らせ、手に力が入り、切っ先が震える。

 

「白丸……二度は言わんぞ……ッ!!」

 

 白丸は、父の怒りを含む言葉を皮切りに覚悟を決めて叫んだ。

 絶叫と共に振るった小刀は雲忍の首に吸い込まれて、跳ね飛ばした。

 

「シナイ、すまない……」

 

 ドダイが付き合いの長かった部下の死に、悲痛の声を上げる。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 そして、死体を生み出した張本人である白丸は、その幼い顔を真っ青にしていた。生まれて初めて人の首が飛ぶ瞬間をみて、それも自分自身が殺したとなればその衝撃は、少年の精神を蝕むのも当然の帰結である。

 白丸は五歳ながら、毎日数百の素振りや、厳しい訓練を課されている。だが、この一振りでどんな訓練をも圧倒するほどの疲労を感じていた。

 

「たったこれしきの事で根を上げるとは……朽木一族として、他の者の模範となる覚悟があるのか? それが出来ないとなれば、貴様に価値などありはしない」

 

 しかし、そんな子供の苦痛など、父親であるこの男が許すはずもなかった。

 

「次だ、やれ」

 

 彼は甘えを許さないとばかりに、自身が拘束した雲忍を引っ張って、乱暴に息子の前に投げ捨てた。

 

「ぐっ、きさm—―」

 

 雲忍は投げ飛ばされて地面に転がり朽木白夜の方を向こうとした瞬間、ザクっ、という金属が地面にめり込むような音を最後に静かになった。

 先と比べて、白丸の行動は変わり、戸惑うことがなかった。その幼い顔は、何の感情も抱いていないような能面ともいえる無表情。

 そして、無表情でながらに流す涙は頬を伝って、何か大事なモノがこぼれ落ちるように地面に落ちた。

 

「それでいい。次からは実戦だ。一人で無力化してみせよ」

 

 朽木白夜は自身の子供の変化に見向きもせづ、当然だと言わんばかりに事を進め、生き残った残りの雲忍のうちの1人に手をかざした。すると……、

 

「っ!! 縄がほどけていく……」

 

 手をかざされた雲忍は、自由になって行く自分の体を見ながらつぶやく。そして恐怖と、急に来た絶好の好機、そして仲間たちの死、それらのごちゃ混ぜになった頭で叫んだ。

 

「シナイとクナイをよくもっ!!」

 

 咄嗟の出来事で冷静さを失っていた雲忍は、無意識の本能だったのか親である朽木白夜に立ち向かわず、その子供である白丸に突撃した。

 

「まて、トナイ!!」

 

 それを見ていた残りのエネルの側近たちや、ドダイが冷静になるように叫ぶが、時はすでに遅かった。

 白丸に向かっていった雲忍トナイは、すでにチャクラがガス欠に陥っており、体中は朽木白夜の斬撃により傷だらけである。

また、流しすぎた血のせいで思考がうまく回らず、とてもまともとはいえる状況ではない。

 まあ、朽木白夜があえて、息子の実戦経験を積ませるために施したことではあるが、いくら上忍と云えど現状の体調を考えれば結果は見えていた。

 

「ぐはっ」

 

 いくつかの金属のぶつかり合いのあと、白丸はその小さな体を存分に使って巧みに相手の懐に入り込み、トナイの心臓に小刀を突き刺した。

 力を失い正面から倒れてくる雲忍をよけるため白丸は、敵の心臓に刺さした小刀を抜き、小さな体を回転させながらその場を横に移動した。

 

「く、何たる侮辱、何たるみじめさだ。トナイまでも……っ。彼らはこんな死に方をしていい忍ではない。もうやめてくれ! 名誉ある死ですらない、ただの練習として殺されるなど……ッ!」

 

 ドダイは信頼する部下達の非業な最後に悔しそうに、そして悲しそうに涙を流した。

 生き残ったエネルの側近達もみな悔しそうにうなだれている。

 

「さあ続きだ白丸」

 

 朽木白夜がドダイ達の叫びに一切反応することなく、次なる死刑宣告をしたときであった。

 

「ゴフッゴホ、ゴホ……」

 

 少年による処刑場から少し離れた所で、血反吐が混ざったような咳が聞こえてきた。

 

「エネル……さま……っ!?」

 

 側近のだれかが呆然と呟く。

 ドダイ達の悲痛な声や思いに答えるかのように、先ほど倒れていたエネルが目を覚ました。

 

「なんっ……だと…………ッ!?」

 

 よろよろと上体を起こしたエネルは周りをみて目を飛び出させた。

 

「サトリ……」

 

 自分を守るように死んでいたサトリの事や、生き残った仲間はみな拘束されており、自分を入れてたった五人になってしまっていたことなど。

 エネルにとって信じられない事ばかりで現実を受け入れる事ができずにいた。

 

「エネル! 逃げるのだ。我らにかまうな!! あなたはこんなところで死んで良い忍じゃない!」「お逃げください、エネル様!」「エネル様!」

 

 起き上がったエネルを必死で逃げるように叫ぶ雲忍たちだったが、この地獄を作り出した死神がそれを許すはずがなかった。

 

「白丸、次はあの羽虫だ」

 

「ぐわああぁ!!」

 

 朽木白夜がエネルに人差し指を向けた瞬間、エネルの地面から桜の花弁が突き上げ、エネルは更に切り傷を増やしていく。

 彼は、時限式の斬撃をエネルのいる位置の地面にあらかじめ仕掛けておいたのだ。傷が浅いことは朽木白夜もわかっていた。エネルがもし起きた時に逃がさないようにするための保険だ。

 

「エネル様、よけてください!!」

 

 側近オームからの掛け声にエネルは反応した。噴き出した血を無視して、飛び出してきた幼子が振り下ろした小刀を避ける。

エネルは、さらに連続して振り回される白丸の太刀筋を自分の傷をかばいながら懸命に避けていく。

 

「はぁはぁ、この我が子供ごときに……っ!!」

 

 怒りで威嚇するエネルだったがケガでまともに動けず、やはり先ほどの雲忍と同じく攻撃をよけきれず徐々に傷が増えていく。

 

「おのれっ、おのれェ!」

 

たった五歳の子供に、必死に悪態をつきながら無様に転がされている事実にどうしようもない怒りがエネルの胸中を占める。

 しかし、とうとう傷の痛みで体ふらつかせて、血で足を滑らした。

 

「エネル……」

 

 バランスを崩して岩を背に座りこけたエネルは、白丸に小刀の切っ先を向けられている。

 誰がどう見ても勝負がついた状況にドダイも気づき、目をゆっくり閉じた。

 

「雷影様……申し訳ありません……」

 

 遺言のようにつぶやいて、ドダイはすべてを諦めた。

 

「ひぃ、や、やめろ、我は、我は、こんなところで……」

 

 白丸の所々返り血で赤く染まった純白な袴と、能面のような無表情の組み合わせは亡霊のように恐ろしかった。彼の整った容姿もまた不気味さに拍車を掛けていた。

 エネルは、恐怖で切っ先から逃れようともがくが、岩を背にしているため何の意味もない。

 そして、白丸はゆっくりと小刀を上げてエネルにとどめを刺すべく振り下ろそうとした。

 

「やめろー!!」

 

 エネルが声を上げた時だった。

 

「っ!?」

 

 遠くから、笛の響く音が鳴り響いた。

 白丸は、その音を聞いて小刀を振り上げた状態でとまった。しかし、それも一瞬のこと。

 エネルの命を奪うべく、小刀を振り下ろした。が……、

 

「そこまでだ」

 

 小刀を振り下ろす直前に放たれた父親からの制止の声を聞き、白丸は直前で太刀筋の道を変更する。

 無理やり向きを変えた小刀は、エネルが背にしている岩にめり込み、エネルの左肩に触れるか触れないかギリギリのところで止まっていた。

 

「何をしている。あれは撤退の合図だぞ」

 

 歩きながら此方に寄ってきた父に振り向くために白丸は、岩に刺さった小刀を抜き、鞘に戻した。

 そして、歩いてきた朽木白夜に振り返った白丸は再び頬を叩かれた。

 

「命令は絶対だと言ったのが理解できなかったか? 撤退命令が出ているときは、何が有ろうと撤退だ。命令に例外などありはしない」

 

「申し訳ありません。とうさま」

 

 死の恐怖で股から液体を垂れ流すエネルを前に、何事もなかったように息子に説教をする朽木白夜。

 生き残った雲忍たちも、訳が分からないといった表情をしている。

 しかし親子はそんな雲忍たちを道端に落ちている雑草であるかのように無視している。

 

「もどるぞ」

 

「はい、とうさま」

 

 暫くして。

 装束をふわりとさせて、身を翻した朽木白夜。

 そして父に続く小さな子供。彼らはそれから一度も振り返ることなく静かに歩き、この場から立ち去った。まるで価値のないものを無視すかのように。

 

「助かった……のか……?」

 

 取り残された雲忍たちは、助かった命を喜ぶのも束の間、敵から相手にもされていなかった事実を感じ、むくむくと怒りの感情が沸き上がる。

 しかし、先ほどまでの地獄の処刑を思い出し体を震わせた。

 恐らく、生き残った雲忍達はプライドをズタズタに引き裂かれ、どうしようもない感情に襲われているだろう。その敗北感は彼らにとって大きな、大きなトラウマを残した。



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1話

 SIDE 火の国、木の葉隠れの里。

 

 雲忍が朽木白夜に敗北を期してから約一か月。第三次忍界大戦が終結した。

 他里から集中的に狙われる事となった木の葉の里は、幾人かの他を圧倒する実力を持つ忍達の立役で、敵軍に大打撃を与えることに成功させた。

過去の大戦で名を馳せた伝説の三忍、そして木の葉の三大将は勿論のことだが、今回大きく名を轟かせることになったのは別の忍だった。

 

『木の葉の黄色い閃光』

『木の葉の千本桜』

 

 この若い忍者が更にマークされることとなる。

 しかし、そんな実力者を有する木の葉でさえも、犠牲は少なくなかった。

 

「皆の者、ご苦労だった」

 

 ここは木の葉の会議室。

 『三代目火影』猿飛ヒルゼンは木の葉の重役たちを招いて、戦後の報酬についての報告を始めていた。

 

「まずは……この大戦終結へと直接的に繋がった、不可能と思われた風の国との同盟を見事成し遂げてくれた奈良シカク。時空間忍術で物資の供給から味方のサポート、そして殲滅まであらゆる戦場を駆け巡り、敵に打撃を与えた波風ミナト。水の国からの横やりをたった一人で食い止め、木の葉に大きな戦果を生み出してくれたうちはクザン。この三人を称えたい」

 

 名を呼ばれた三人は席から立ち上がり、感謝の意を込めて礼をした。大きめの会議室から、彼らへの称賛の拍手が寂しく響いた。

 

「次に、命を張ってくれた、一族たちを讃えていきたい。日向一族……、」

 

 ヒルゼンは控えめな拍手が鳴りやみ次第、話を進める。

 木の葉の里の創世期に力を貸した名のある一族から名前が呼ばれていく。

 日向、朽木、うちは、猿飛、奈良、秋道、山中、犬塚、油目、月光……、などと有力な一族から名が挙がっていった。

 

「以上で、戦功報酬の内訳の終了じゃ。そして最後に、ワシはこの大戦の責任を取って辞任をしようと思うとる。その後釜に、ワシはミナトを推薦したい」

 

 会議の最後にこぼした爆弾発言で、有力な一族達はあわただしく動くこととなった。

 

 

 

 SIDE 雷の国、雲隠れの里

 

「ドダイよ、もう謝るな」

 

「しかし……、」

 

 ケガにより松葉杖をついたドダイが、『新雷影』の言葉にかしこまる。

 

「あれは、親父が目測を誤ったからだ。オレ等は甘く見ていたのだ、木の葉を」

 

 そうたしなめる男は、この大戦のあと新しく就任した四代目雷影、エーだった。

 

「親父は霧の忍一万の兵と戦闘して死んだ。その前にオレに、いやワシに影の名を譲った。ワシは雲の意思を継ぎ、どこにも負けない里を作る」

 

「雷影様……」

 

 前回の朽木白夜との戦いで、自殺でもしそうなほど落ち込んでいたドダイだったが、雲隠れの里にとって今ドダイを失うにはあまりにも痛すぎる。それ故に、新雷影が激励にきていた。

 

「エネルも傷は深いが、回復すれば復帰も可能だろう。それに大戦中の任務でお前たちが手に入れたあの大筒木の秘宝『悪魔の実』があれば戦力が大幅に上がる!」

 

 新しく就任した四代目雷影エーが言う任務とは、ドダイ達が白夜に敗北する直前に成功させていたものだ。その任務では、霧隠れの里が入手したとされる悪魔の実を調査し、奪い取るという任務だった。

 だが代償は大きかった。ドダイ達は無傷で成功させたのだが、霧は報復として一万の大軍を差し向けてきた。その対処ために前雷影が命を張ったのだ。

 

「ワシに策がある。世界中から忍術の情報を集めるのだ。そのためにドダイ、お前にもまだまだ働いてもらうぞ」

 

 

 

 SIDE 風の国、砂隠れの里。

 

「馬鹿を言うでない! サソリが風影様を暗殺するなど……ッ!!」

 

 普段であれば静かに事がすぎる会議室だが、熟年の女性が机を勢いよく叩き立ち上がる。

 それもそのはず、自身の孫が嫌疑にかけられては冷静ではいられまい。報告した若い忍はその勢いにびくりと身震いした。

 

「し、しかし、その、現にサソリ殿の所在が分からず、調査により風影様が使ったとされる砂鉄の戦闘痕が残されております。そこにこんなものが……」

 

 若い忍が恐る恐る懐から出したのは、加工された後に大破した木材だ。そしてそれを、ことりと優しく机の上に置いた。

 

「こ、これは、傀儡の残骸っ!! それも扱いが難しいとされる宝樹アダムの断片!! これを加工する技術を持つものはワシと、あ奴しか……」

 

 木材をみて激しくうろたえる熟年の女性チヨは、この里きっての傀儡師である。その破壊された木材を見るだけで、それがどのような材料、どんな技術なのか、瞬時に判断できてしまった。

 

「当時の状況をみるに、風影様は傀儡師と戦闘を行ったのは明らかです。そ、その調査班としては、チヨ様が反逆を起こすのは考えられず……残った、あの、サソリ殿がやったとしか……」

 

「そんな……」

 

 よろよろと、力なく座り込むチヨ。その顔は見るに堪えない程青ざめていた。

 

「フッフッフッフッフッ、あの小僧とうとうやりやがったなぁ」

 

 今までの空気をぶち壊すような、軽快な笑い声が響き渡る。

 声の主は特徴的な鋭い形をしたサングラスをかけ、ピンクの羽がついたコートを羽織るように着る金髪の青年だ。

 彼はだらしなく机に脚を乗せていたが、体を前に乗り出させるために脚を正した。そして、左手で独特な片手印を作り、指さすようにチヨに向けた。

 

「サソリの小僧は確実だとして、その血縁者である者も念入りに調査する必要があるんじゃねえか? チヨさんよぉ。フフフフ……」

 

「まぁまて、ドフラミンゴ。チヨにはアリバイがある。それに今は身内で争っている場合ではない。新たな風影を決めるニョがさきだ」

 

 金髪の男、ドンキホーテ・ドフラミンゴをたしなめたのは、チヨと同期の女性グロリオーサ。通称ニョン婆。彼女は仲の良いチヨを守るためだろう、話題をすり替えた。

 

「フフフ、まあいい。しかし、サソリ如きに遅れをとるとは、風影のじじいも老いたもんだ」

 

「おい、不謹慎だぞ」

 

 仲間割れの話題は変わったが、ドフラミンゴによる自里の長を馬鹿にしたような一言は、また別の衝突を生むことになる。

 彼の左隣に座って、腕組みをしていた青年が鋭くとがめた。

 

「んん? 羅砂、おまえは風影のじじいに親身にされていたなぁ。フフフ、慕っていた風影を馬鹿にされてイラついたか? だが事実奴は小僧に消されている。影の名を背負うなら、里一番の実力がなければなぁ」

 

「貴っ様ぁ!」

 

 羅砂とよばれる青年が立ち上がり、ドフラミンゴの襟をつかむ。そして、サングラスで目元は見えないが、にやけて楽しそうな表情のドフラミンゴに詰め寄る。

 羅砂は幼少のころからドフラミンゴとは犬猿の仲である。いつも何かと衝突を繰り返す二人だが、今回は第三者による横やりで止まることになった。

 

「すこし黙れ。消すぞ」

 

 別の席に座る男が、猛烈な殺気と共に言い放った。

 静かになった後、男は懐から取り出した葉巻に火を付け、ゆっくりと煙を吐き出した。

 浅黒い肌で髪はオールバックにしている。その顔は目と鼻の間に走る傷跡も相まって恐ろしい。そして何より特徴的なのは、左手が黄金で出来たフックの義手であろう。

 彼の名は、クロコダイル。20代中盤の青年でありながら、すでに砂隠れの英雄。その実績は砂隠れだけでなく他里にまで鳴り響いている。そんな男に言われれば、さすがの二人もとまるしかなかった。

 

「しかし、クロコさん!」

 

「おいおい、折角楽しくなってきたのに止めるなよ。先輩よぉ」

 

 まだ煮え切らない二人から抗議の声が飛ぶが、それをギロリと睨めつけることで黙らせた。

 

「ドフラミンゴの云うことは一理ある……。風影は里一の実力者がなるべきだ」

 

「フッフッフッ、あんたと意見が合うとは珍しいこともあるもんだ」

 

 クロコダイルからの養護で、彼は愉快そうに笑う。逆に羅砂は悔しそうに、拳を握り絞めた。しかし、

 

「そうだな……だが、それはお前じゃないだろう? 小物が」

 

 クロコダイルはたっぷりと皮肉を込めて、ドフラミンゴを罵倒した。

 それに対しドフラミンゴは、額に血管を浮かび上がらせ、激怒した。

 

「テメェ!!」

 

「止めんか!!」

 

 今度は、精神に落ち着きを取り戻したチヨが制止の声を張り上げる。

 

「グロリオーサの言う通り、風影の就任は急務。実力と名声の両方を持つ忍はワニ小僧、クロコダイルしかおらん。他に推薦する者はおらんか?」

 

 この会議に出ている砂の忍たちは思考する。

 次期風影候補はクロコダイル以外にもまだ何人かいる。

 一人目は、羅砂。

 三代目風影の弟子であり実力も人柄も申し分ない。クロコダイルがいなければ彼が風影になっていただろう。

 二人目は、ドフラミンゴ。

 天夜叉の異名を持つ。高い実力を誇る彼だが、素行に問題があり、里内から人気があるとは言えない。

 三人目は、チヨ。

 クロコダイルに負けるとも劣らない名声と実力を誇るが、年齢を考えると憚られる。

 それらを考え、クロコダイルを超えるものがいないことに至ると、チヨからの問いかけには頷いてで答えた。

 すなわちそれは、

 

「クロコダイル以外はありえんな」

 

「違いない」

 

 誰かぽつりとこぼした言葉に同意するように、だまって見ていた上層部の男エビゾウがつぶやく。

 そうして新しい風影が誕生した。

 

 

 

 SIDE 水の国、霧隠れの里。

 

「申し開きがあるなら聞こう、河豚鬼」

 

 二十人は座れるほどの大きさを誇るとある会議室でなんの感情も感じさせないような冷たい声が響いた。その問いかけは、身長二メートルを裕に超える巨体の持ち主である西瓜山河豚鬼に冷や汗を流し顔を青ざめさせるほどの恐ろしさがあった。

 

「君には忍刀七人衆のリーダーとして、任務を与えていたはずが……、」

 

 巨体を誇る河豚鬼を震えあがらせているのは、怪物のような容姿をしているわけではなく、子供だった。彼は左目の下に縫い後が特徴的でその傷後を除けば、ただの子供に見える。が、実年齢はとっくに成人している。

 

「七人衆を半分以上死なせその挙句……忍刀を回収もせず逃げかえってくるとは。一体何をしていたんだい?」

 

「水影様! そ、それは、敵の木の葉の忍があまりに強く、逃げるだけで、とても回収などとは……」

 

 この見た目が幼い男やぐらは、四代目水影である。第三次忍界大戦中に先代の水影が命を落としたことで急遽就任したのだ。

 水影就任の経緯は非常時ゆえに即興で選ばれてこそいるが、霧隠れの里は歴代でも里内で一番強いものが水影になる決まりがあるため実力は本物だった。

 

「なるほど……木の葉の忍が強すぎた、と。しかしなぜだろう? 木の葉からとらえた捕虜を拷問し、聞き出した結果。君たちが戦った男は万年下忍の落ちこぼれと言っていたが?」

 

 やぐらがそう言い終えたときだった。

 

「あ、ありえん! あれが下忍だと、あんなものが下忍のはずがない!!」

 

 河豚鬼は更に体を震わせ取り乱し始めた。二メートルを超える男がみっともなくわめき叫ぶ様は、見るにたえないものではあるが、その対峙した下忍の凄まじさを物語っていた。

 

「河豚鬼、君の言いたいことはわかった。本来であれば君たちを処刑して新しい忍刀候補を探す所だけど……今は人手不足でね。それに、生き残った他の七忍衆である十蔵達の証言と一致するし、今回は運が悪かったとして特別に許そう」

 

 河豚鬼を下がらせ、会議室に静けさが戻る。

 陰鬱な静寂の中でぽつりと重役の忍の一人が呟く。

 

「しかし、また木の葉ですか……」

 

 彼の名前は青。歳は26歳にしてすでに霧隠れの重役のポジションにいる。前水影の時から信頼も厚く、新しい水影であるやぐらも彼を側近として起用していた。

 

「ああ、さすがは忍の神と謳われた千手柱間とうちはマダラが作った里だ。優秀な忍が本当に多い。先の大戦で苦渋をなめさせられた三大将のうちはクザンもしかりね」

 

 やぐらは無表情でそう話すが、その言葉の節々にはわずかに悔しさをにじませていた。

 

「その、うちはクザンについてなのですが……」

 

 別の忍が木の葉の三大将うちはクザンの話題がでたことで話を付け加えた。

 

「クザンと戦い生き延びた忍達が、奴の化け物じみた強さにトラウマを感じているようです。多くの忍が生きたまま凍らされ、その体を砕かれました。生き残った者も体の一部を失ったものも多い。そんな経緯もあってか、里内で氷遁を使う者への迫害する事案もあがっています」

 

 大戦中、島にある霧隠れの里は敵地に攻め込むためには海を超える必要があった。

 故に、移動には船が用いられるのだが、木の葉の誇る三大将の一人、クザンにより海面を凍結させられ船での移動を制限されるだけでなく、何人もの忍が葬られた。

 

 「クザンはうちは一族でありながら、火遁を使えず代わりに氷遁を使うと聞きます。水影様、氷遁は元は霧の雪一族の血継限界です。それが他里で発現したとなれば、よりいっそ厳しく管理する必要があります」

 

 クザンの話題が出た瞬間、それを期に便乗させるように集まっていた多くの忍達が血継限界の話題を展開していく。「血継限界はやはり、排除すべきです」「先代様は正しかった」などと次から次へと膨らんでいく。

 

「そこまでだ!!」

 

 青が大きな一言で場が静まった。

 

「その件は、やぐら様が血継限界も公平に扱うと決めたことだぞ。これ以上は反逆の意思があるとみなす」

 

 霧隠れの里は他里から血霧の里と呼べるほど残酷な処置をとる。この里で反逆行為、もしくはその意思さえあれば、情状酌量の余地なく即死刑は当たり前である。

 

「それはわかっております。しかし、現に敵国からかくまっていたかぐや一族が、突如我らを裏切りました。かぐや一族も血継限界をもつ一族だというではないですか?」

 

 しかし、処罰されるリスクを取ってでも主張する忍がいる。彼らは先代の三代目水影の崇拝者で、三代目は大の血継限界嫌いで有名だった。そのため霧隠れの里では血継限界への根強い差別が残っていた。

 先代水影を推す彼らの大きな声に、目をつむりながら耳を傾けていたやぐらが、ゆっくりとした口調で問いに答えた。

 

「確かに、君たちの云う通り僕らの里では血継限界をもつ一族との折り合いが悪いのも事実だ。だが、今彼らを消す時じゃないのは明らかだ」

 

 やぐらは更に続ける。

 

「さっき河豚鬼にも云ったことだけど、人手不足が深刻なんだよ。忍刀七人衆の半壊しかり、うちはクザンによる虐殺然り。そしてなにより、悪魔の実を奪われるだけでなく、雲隠れの雷影に、一万人の忍を投入したのにも関わらず、三日三晩粘られ、弱った所を奇襲して、ようやく最後は先代と相打ちだ。そう考えると先代の采配はあまりにも無茶をしすぎた」

 

 やぐらは先代へのあきれと、若干侮蔑のはいった言葉を漏らす。まるで、ほんとやってくれたね、なんて心の声が聞こえてきそうだ。

 

「とりあえず、今は蓄える時期だ。大丈夫、ぼくには考えがある。そのためにも血継限界持ちの一族にも働いてもらわないとね。消すのは彼らの働きぶりを見てからでもいいんじゃない?」

 

 やぐらはそういって会議を締めくくった。

 

 

 

「しかし、水影様。策があると云いましたが一体どのように立てなおす予定なのですか? 忍刀七人衆の穴は大きすぎるほどです」

 

 会議が終わり、現在は青と水影のやぐらしかこの場にはいない。青は正直に一番気になっていたことを問いかけた。

 

「忍刀のいくつかは紛失してしまったが問題ないよ。新しく別の刀を作ればいい。そのためにわざわざ、異大陸から科学者を招き入れたのだからね」

 

「あの、シーザーと呼ばれる男ですか。私にはあの男信用できません」

 

「青、人柄は関係ないよ。彼のおかげで、不明だった七本の忍刀のルーツを知ることが出来たのだから。悪魔の実を物体に食べさせる技術なんて、誰も思いつかないし彼にしかできない」

 

 この世界には、はるか昔、六道仙人が生きていた時代から宝具とも称される忍具が存在する。うちはマダラが所持していた芭蕉扇や、雲の金閣、銀閣らが盗み出した琥珀の浄瓶などがあげられる。そして霧隠れの里の七つの忍刀も同じく宝具とされてきた。その数々の伝説の忍具はベガパンクという人物によって生み出されたという伝承が残っている。

 雇われの科学者シーザーは長らく謎とされていた宝具の作り方『物に悪魔の実を食べさせる』という事実を解明し、実験をも成功させている。その革新的な技術は間違いなく力になるとやぐらは確信していた。

 故に、

 

「情報が必要になるね」

 

「情報……ですか?」

 

 やぐらの言葉に青はわずかに首を傾けた。

 情報を制したものが戦に勝つとまで言われているほど大事なモノだが、それはわかりきっていることだ。だからどの里も潜入やスパイへの警戒や育成に躍起になっている。要するにいまさら感が否めないのだ。

 

「この里には悪魔の実が必要となる。しかし、現状悪魔の実についてわかっていることはすくない。世界にどれほど悪魔の実を食したものがいるのか、どれほどの種類があるのか、どこに生えているのかなど全く分からない。それらすべての情報を把握するには世界の至る所に諜報員を派遣するしかない」

 

「確かにそれが出来れば他里より悪魔の実によるアドバンテージを得ることができます。ですが、我が里の現状では……」

 

「まぁ無理だろうね……、」

 

 やぐらの展望を青は、云いずらそうに進言しようとするが、やぐらが反対意見を遮ることで最後まで言い切ることが出来なかった。

 

「……だから一から作るのさ。あらゆるところに派遣して長期的な潜入を行い信頼を勝ち取らせ、そのあと内部から崩しそして……潜入先の悪魔の実の情報を霧隠れの里に持ち帰らせる。そんな諜報機関をね」

 

 やぐらの考える諜報機関は実現すれば戦争に限らず、外交や貿易にも多大なメリットがある。しかし、ことが大きすぎて現実感がない。

 

「それでは裏切られた時のリスクが大きすぎます。ましては忍と云えど人間、必ず心があります。なにより心を完全に殺すことは不可能です……」

 

「青……」

 

やぐらは青の言葉を遮った。ほんの少し間を置いて続けた。

 

「君はここをどこだと思ってる?」

 

 やぐらの問いに青はぞくりと鳥肌がたった。どこか楽しそうに放つ一言に全ての思いが詰められていたから。子供が無邪気に虫を殺して楽しんでいるような雰囲気に、不気味さと不安が押し寄せた。そしてその感覚が正しかったと気がつくのはだいぶ先。青はこの場でやぐらを止めなかった事を後悔することになる。

 

「心を壊し、支配するのは血霧の得意分野だ。この里を立て直し、頂点を取るにはこれしかないよ。名前はそうだな……諜報機関サイファーポールってのはどうだい?」

 

 血霧の里はこれより更に加速していくことになった。

 

 

 

 SIDE 土の国、岩隠れの里。

 

「シキの奴、うまくやってくれたようじゃぜ」

 

部屋の中心に大きな文字で『岩』と書かれた柱が特徴の部屋、土影室にてポツリと、悪そうな笑みで呟く老人が一人。

 

「どういうことだ親父!!」

 

 それに対して激怒するのは大柄な男。

 老人の身長がもはや子供といっていいほど低い事もあるのだが、それを抜きにしてもこの男が巨体である事には変わりない。

 この部屋には現在この二人しかいないようだが、『親父』と叫んでいた事もあってこの二人は親子なのだろう。

 

「全て、計画通りじゃ。何をあせっておる、黄土よ」

 

「なぜだとッ!? シキのおじきが里を裏切ったんだぞ! そのせいで親父にも不満の目があふれてる。それに木の葉に対して大した戦果も挙げていない! このままじゃ、親父……土影の責任問題に!!」

 

 そう。この小さな老人は『三代目土影・オオノキ』。その小柄さと、年老いた年齢からは想像もできない程の力を持っていて、これまで数多くの敵を葬ってきた老兵である。

 オオノキを怒鳴りつけているのは、彼の実の息子黄土だ。まだ若いが、流石は土影の息子。才能は折り紙付きで、既に波の上忍では歯が立たない実力を有している。

 第三次忍界大戦で岩隠れは、砂隠れの長こと、風影が行方不明になった直後に風の国に対して宣戦布告した。

 理由は簡単。何でも良かったのだ。ただ切っ掛けが欲しかった。

 それまで長く続いた戦争に民は疲弊しており、不満がたまっていた。そのため、土影であるオオノキへの長としての能力も疑問視する声が上がったっていたのだ。

 

『なぜ木の葉はあんなにも豊かなのだ』と。

 

 だが、それでは大義がなく木の葉に対して戦争を仕掛けるわけにもいかない。そこで、ちょうどよく起った大きな事件。三代目風影の行方不明という情報が流れた。

 それにいち早く反応した土影は、砂隠れに対し『風の国の砂漠が岩の国に舞い飛び、作物をか枯らしている』というでっち上げで宣戦布告を行ったのだ。

 もちろん狙いは風の国ではない。

 戦争の混乱に乗じて、あちこちで工作を行い雲隠れを焚き付けて、木の葉にぶつける。そして岩隠れ自身も雲と共に木の葉をハサミ打ちにするという作戦が本命だった。

 

「ワシに対する不満の声など、織り込み済みじゃ。他里に気づかれず、『ヤツ』らと手を組むには他に方法はないんじゃぜ」

 

「それは、どういう……?」

 

「いいか黄土、これは戦争。多少の犠牲は付き物じゃぜ。シキの奴には、わざと里抜けさせたんじゃ」

 

「なん……だと……?」

 

 しかし、土影が誰よりもまさる老練な知恵を絞って行った作戦も、最強の木の葉には届かなかった。

 土影の脳裏には常にとある記憶がフラッシュバックする。

 まだ自分が土影を名乗っていなかった時。まだ、師である二代目土影が存命していた時の記憶だ。

 木の葉の伝説うちはマダラとの対峙。あの時尊敬する師、二代目土影・ムウですら赤子扱いされていた。トラウマの如き強烈に刻み込まれた敗北の記憶を打ち払うように、オオノキは叫んだ。

 

「じゃが、そうでもしなきゃ、木の葉を出し抜けん! 奴らを崖に突き落とすためなら、どんな悪泥も被る覚悟じゃぜ!!」

 

 老人とは思えない程の覇気ある発言に押された黄土は、悔し気に握りこぶしを握った。

 何もできない、力のない自分を罰するように。

 この老人が平和に余生を暮らせるように、また民に無駄な犠牲が出ないように。そんな安全な里にするために強くなろう。黄土は、そう心の中で強く誓った。

 

 



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2話

ようやく主人公の一人が登場させられた。


 第三次忍界大戦が終結して、一か月と少し、ここ木の葉の里では平穏を取り戻していた。戦死者の葬儀や、砂隠れとの同盟締結による会議などの戦後処理によってだいぶ時間が過ぎていたが、ようやくその時がきた。

 それは、新しい火影の誕生である。

 三代目火影、猿飛ヒルゼンは砂との同盟を結び終えた後をもって、火影の席を降りた。

 

「ワシは、この戦争の責任をとって辞職する」

 

 ヒルゼンがその意を表明した後、木の葉はもめることになった。

 戦争の結果は体裁状、痛み分けということになっているが、実際の敵との被害の差を考えると、木の葉のひとり勝ちと言ってもいいだろう。戦争終了後の戦利率は悪いものではなく、里内からも評価されていた。

 だからヒルゼンの辞職は誰もが驚いたものだ。というのも辞職を予想していなかったことと、彼の後釜である四代目火影候補がかなり存在したためである。

 結果として、四代目火影はヒルゼンに直々に推薦された波風ミナトに決定したが、そこに行きつくまでかなり大変だった。

 それは木の葉上層部の意見がばらばらに割れてしまったことだ。

 

 木の葉上層部ーー

 通称ご意見番と呼ばれる老人たちだが、彼らはただの老害ではない。現在は現役を引退しているが、かつての大戦で活躍し、英雄と呼ばれる者たちである。年老いたとはいえ、その実力は影クラス。決して無視できる存在ではなかった。

 そんな彼らの意見が割れてしまっては、若い忍たちは右往左往することになってしまう。

 最初は、ひとりの老人が煎餅を食いながら、言った一言。

 

「ミナトはまだ若いし、クザンの奴でいいじゃろ」

 

 上層部とは思えないような態度と発言をするこの男の名前は、モンキー・ガープ。拳骨の異名を誇る木の葉の英雄だ。「あいつの忙しそうな顔を見てみたいわい」などと、大笑いしながら話す姿は、とても英雄には見えない。

 

「おお、そいつはいい! ワシもクザンを推薦するぞぉ」

 

 そんなガープに便乗するこの男は、丸眼鏡をかけて、真ん丸の特徴的な髪形をしている。名はセンゴク。ガープ同様に煎餅を食べているこの男も、かつては知将仏のセンゴクなんて言われていた時もあったが、やはり見る影もなかった。

 

「ふざけている時ではない、お前たち。まったく気が緩みすぎとるぞ」

 

 そんなガープとセンゴクをとがめると同時に、二人から煎餅を奪い取ったのはうたたねコハル。中年の女性だ。しかし、その奪い取った煎餅を今度は自分で食べ始め、「お、コハルちゃんもいける口か」なんて声があがる。

 

「だが、ガープの言う通りミナトは若い。まだ時間をおいてはどうじゃ? ワシはだらけグセのあるクザンではなく、自来也を推したい」

 

 そう口をはさむのは水戸門ホムラ。

 ホムラの意見に、煎餅を口にしてしゃべることが出来ないコハルが大きくうなずいている。どうやら彼女も自来也を推したいらしい。

 そこまで聞いて、ヒルゼンはこの場において一言も話していない男に目をやる。それを見たのか、他の者たちもその視線に続いた。

 視線の先の男の名は、志村ダンゾウ。木の葉の里の最暗部、根のトップを張る男。右目を包帯で巻いており、机に肘を突きながら手を顎にして何か思考する姿が見えた。

 

「オレは、犬塚サカズキを推薦したい」

 

 ゆっくりと言葉を話すダンゾウを横目にヒルゼンは思った。

 

「人材多すぎて困るのぉ」

 

 うれしい悲鳴だった。

 

 そんなこんなで、木の葉では、忍による投票が行われたが、そこからは出来レースだった。

 まず、クザンは逃亡。あまりにも早かった。

 次に自来也だが、投票直前に女湯覗きの写真が流出。炎上した。

 そして、誰からも推薦されたわけでもなく、自ら火影にと立候補した大蛇丸。己の有利に事を進めるため、なにやらライバルの弱みを握るべく尾行していた模様。しかし、その努力むなしく、不気味すぎるという理由から、まったく票が集まらなかった。

 そして、残ったのが波風ミナトと、犬塚サカズキ。

 両者は初め、それなりに競い合っていた。だが、ミナトの里のからの人気は絶大であり、更に有力な一族たちがこぞってミナトに票を入れたのも一躍かって、後半には大差をつけて終了し新しい火影が誕生した。

 

 

 波風ミナトの自宅ーー

 

「えー、今日は僕の為に集まってくれて感謝します。これから火影として「新しい火影を祝って、カンパーイ!!」……」

 

 ミナトの言葉を強引に遮り、むさ苦しい男たちの楽しそうな声が響いた。

 

「ひどいよ、シカク」

 

 今回の祝賀会はミナトにとって特別仲の良いメンバーを集めておりその数六人。宴会ようの大き目の丸い机を囲むように座っている。三人暮らしのこの家の一室で、六人はいささか人口密度が高すぎた。

 

「そんなめんどくせーこと今日はなしだぜ」

 

 髪を立つように縛り上げている男、奈良シカク。そう言いながら、隣に座るミナトの肩を組んだ。

 

「見てみろ、この部屋で一番多くの陣地をもってる、あのデ、いやこれ言うと面倒くせェんだった。ほらあの男を……」

 

 顎でくいっと方向を指し示す。先にいたのはモンスターだった。

 

「うわぁ」

 

 フゴフゴと鼻息を荒げながら食事を頬ばるのは、秋道チョウザ。乾杯した酒に目もくれず、食事にふけっていた。

 とそこで、向かいの席から会話が聞こえてきた。

 

「それにしても自来也様、よく無事でしたね」

 

「むぅ、大蛇丸のやつやってくれたのぅ」

 

 淡い金髪をポニーテールにした優男、山中いのいちが、戦々恐々としながら問う。

 それに対して、もう既にこの部屋に来る前からアルコールで顔を赤めていた男が憎々しくつぶやく。

 白髪の大男、妙木山の蝦蟇仙人、自来也。ミナトの師でもある。しかし彼は、現在包帯だらけのミイラ男になっている。

 

「綱手様の入浴を覗いておいて、命があっただけでも儲けものですよ」

 

 ミナトは自来也のケガについて、始めてその顛末を聞いたときは、本当になにしてるの先生、と嘆いたものだ。

 彼は、同じ伝説の三忍の異名を持つくノ一、千手綱手の入浴を覗き、それをなぜか大蛇丸にリークされた。それを知った綱手がぶち切れ、あとは想像の通りだ。

 

「あれから、綱手が警戒しておっての……」

 

「あんたほんとにこりないな」

 

 いのいちの思わず素のツッコミに、ションボリするエロ仙人を横目に見ながら、ミナトは妻であるクシナに覗きに注意するように言おうと誓った。

 そして最後に、目かくしをしながら壁に背中を預けて、器用に酒を飲みツマミを食う男。うちはクザンが一言。

 

「それでぇ自来也、綱手の体はどうだったよ」

 

 その腹に響くようなきれいな低い声で、低俗な言葉が発せられた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それにしてもよ。俺達同期で子供ができるのが一番早かったのがミナトだったとは……」

 

 祝賀会も中盤に差し掛かり、酒も入り場が盛り上がってきた所。ぽつりとシカクがつぶやいた。

 奈良シカク、秋道チョウザ、山中いのいち、そして波風ミナトは同い年であり、忍者アカデミーという育成機関の同期であった。

 

「俺はてっきり、優男いのいちがダントツで早いと思っていたが。やはりあれか、木の葉の黄色い閃光は、種も閃光の如しってやつか」

 

 酔いによって暴走したシカクの言葉に、『あらら、うまいこというじゃない』などと、笑いが生まれる。

 

「この蝦蟇仙人自来也が手塩にかけて、育てたはずなんだがのぉ。まさか、18歳で、できちゃった結婚なんぞするとは。いったい何を間違えたのか?」

 

「「「どうみても、師匠ににたんだよ」」」

 

 同期からの、厳しい指摘について、ミナトは何一つ言い返すことができなかった。

 波風ミナトの妻ことうずまきクシナは、渦の国から九尾の人柱力にするために木の葉に連れてこられた経緯を持つ。そしてクシナが17歳の時、いざ九尾を封印というところまでいった矢先に、妊娠が発覚。無論その相手はミナトである。

 人柱力は出産時に封印が弱まり危険が伴う。そのため母体の安全を考え、九尾の封印が遅れたという事件が起きた。

 これにはさすがに三代目火影ヒルゼンは激怒し、ミナトはこってり絞られた。

 そして、ミナトとクシナはそのまま結婚し、二人の子供は無事に生まれた。もう六年前の話である。

 そう、ミナトはやらかしにより一児の父である。

 

「ほら、母ちゃんの料理持ってきてやったぞ」

 

「おお、噂をすれば。あらら、ずいぶんデカくなったな」

 

 大人たちの視線の先にいるのは、たった今片手に料理を持ちながら、ふすまを乱暴に開けて入ってきた少年だ。

 短く癖の強そうな金髪に、抜けた前歯が活発な印象を与える。鼻の上に絆創膏が張られていて、やんちゃさを前面に出している。

 彼の名は、波風サボ。年齢は六歳。ミナトがやらかしたことにより生まれてきた、ミナトとクシナの実の子供だ。

 

「サボ、ありがとう」

 

「いい大人が、真っ昼間から酒なんて飲みやがって……」

 

 サボはお礼を述べた父親を無視して、「酒くせぇ」なんてぼやきながら、料理に目を輝かして催促するチョウザの元に料理を持っていく。

 

「なんだサボ、あんまり嬉しそうじゃないじゃねぇか? 父ちゃんが火影になったってのに」

 

 あまりに不機嫌そうなサボにシカクが尋ねる。

 

「別にうれしくないわけじゃないよ……」

 

「だったらもっと楽しそうにしようぜ。あんまし悩んでるといろいろ面倒だ」

 

 どうだお前も飲むか? なんて聞いてくる気楽なシカクに、更にむくれ面になるサボ。

 

「こんな時に、酒なんて飲めるかよ……ッ!!」

 

 ぶっきらぼうに言い放つサボは身を翻し、部屋から出ていこうとする。だが、酒気帯びの男たちからのダルがらみはまだ続いた。

 

「サボもまだまだだのぅ。酒を飲めるように成長せんと、ワシのように女子にもてないぞ」

 

「自来也様も、シカクも子供にお酒を進めるのはどうかと」

 

 いのいちが、まじめに自来也たちを止めようとする声が、サボ背後から聞こえてくる。

 

「ならばサボよ、デカくなるには飯をもっと食わないとな」

 

「お前さんはちと食いすぎだな」

 

 チョウザに対するクザンのツッコミに豪快に笑う男たちの声を聞きながら、サボはふすまを開けようと手にかけ少し立ち止まる。

 

「サボ?」

 

 その様子に疑問を抱いたミナトが、サボを気遣うように尋ねた。

 だが次の瞬間、サボは怒りが爆発した。

 

「俺は喜べない! オビトの兄ちゃんやリンの姉ちゃんが死んだってのに、そんな気持ちになれない!! 他にもいっぱい死んだんだろ! それなのになんでそんなに笑っていられるんだよ!」

 

 サボは振り返り声を精一杯張り上げたところ、うるさかった部屋は一瞬で静まり返った。そして、吐き出した空気を入れるため大きく息を吸って、言い放つ。

 

「もうここには居たくねぇ!!!」

 

 ふすまを、来た時よりも乱暴に開閉するサボに、ミナトは「まってサボ」と制止の声を上げるが――

 

「ミナト、行かせてやれ。あいつは子供、割り切るにはまだ時間がかかるのぅ」

 

 自来也がいい終えたと同時に、家の玄関の扉が開く音が聞こえてきた。

 

「あー、わりぃなミナト。あいつの気持ちまで考えてなかったなぁ」

 

「まあ、なんつうか、子供ってのはめんどくさいな」

 

 そんな言葉がつぶやかれた。

 

 

 「あそこには居たくねぇ」

 

 そう心の中で叫びながらサボはがむしゃらに走っていた。時々、知り合いらしき人に名前を呼ばれたり、「あれが新しい火影様の……」なんて声もあったが、わき目もふらず走り去った。

 

(なにが火影だ! なにが英雄だ! 自分の部下だった仲間を二人も守れていなかったじゃないか!!)

 

 波風ミナトのスリーマンセル第七班のメンバーである、はたけカカシ、のはらリン、うちはオビトの三人は、よくミナトの家に食事を取りに来ていたことがあった。

 その一環で、サボはその三人と知り合い、仲良くなっていった。とくにオビトとは相性が良く本当の兄のように慕っていた。

 サボは一度も止まらず、一度も振り返らず、無我夢中で走り続けた。そしてついに息がきれて立ち止まる。

 

「はぁ、はぁ、ここは……」

 

 木に片手をつきながら、肩で息をする。そして辺りを見回したサボはここがどこであるのか理解した。

 

「戦争で死んだ人たちの慰霊碑か」

 

 息を整えて、その慰霊碑に近づいていく。近づいていくたびに、慰霊碑の一番上に刻まれた大きい文字が読みやすくなっていく。

 

『木の葉の英雄ここに眠る』

 

 目の前まで近づき確認すると、サボは一つ一つその下に刻まれた英雄たちの名前を読んでいく。

 今年で六歳になったサボは母であるクシナに文字の読み書きを教わっていた。まだわからない字もあるため読めない名前ももちろんある。

 だけど、友達の名前はわかる。なぜなら、本人達から教わったからだ。勉強中のサボにちゃちゃをいれ、「俺は将来火影になる男だ。そんな男の名前を書けなくてどうすんだ。あ、あと結婚した時の火影の妻の名前もな」と無理やり覚えさせられた。

 

 うちはオビト、野原リン。

 

 そして遂にその名前を見つけ出した。

 

「くぅ、なんでだよ……火影になるんじゃなかったのかよ! 勉強した成果がなんで慰霊碑なんかで役にたたなきゃいけないんだよ」

 

 サボは慰霊碑の前で膝をつき、涙を流す。

 

「サボ」

 

 泣いていたからか、サボは後ろから近付いてくる陰に声を掛けられるまで全く気が付けなかった。

 

「カカシ……」

 

「さんを付けろ。一応年上ね、オレ」

 

 後ろにいたのは銀髪で上半身から鼻まで覆われた黒いマスク、そして、額当てをわざと斜めにつけて、片目を隠している少年だった。

 名は、はたけカカシ。ミナトの部下の内生き残った最後の1人だった。

 

「んで、こんなところでなにしてんのさ?」

 

「な、なんもしてねぇよ!」

 

 突然現れたカカシを見て我に返ったサボは、泣いていた事を悟られないように急いで目をこする。

 

「そ、そういうカカシこそ何しにきたんだよ」

 

 ごまかすように、質問を返すサボに呆れながらカカシは右手に持った二輪の花を目前に掲げ、

 

「なにしにって、花を供えに」

 

 そういって、瓶に入った二輪の花を置き、目をつむった。

 その表情はマスクと額当てでほとんど見えなかったが、どんな気持ちを抱いているか、子供のサボですら想像できてしまった。

 

「んで、お前さんは、あいつらを思って涙を流してたわけだ」

 

「な、泣いてなんかねぇって! そんなんじゃねぇ……」

 

 不意打ちのツッコミにサボは激しく反論するが、その勢いは徐々に落ちていく。

 

「オレも質問に答えたんだから、そっちも答えてくれよ。なんかあったのか?」

 

 そういわれては逃げ場がないと思ったのか、サボは事の顛末をポツリポツリと話し始めた。

 

 

「なるほどね。先生が自来也様たちと火影就任祝いのパーティーをしていた。そんでお前さんは、戦争で人が死んだのにへらへら笑っているのに納得できなかったと」

 

「だってオビトの兄ちゃんとリンの姉ちゃんが死んだのに、そんな笑えないよ」

 

 二人で慰霊碑を前にして座り込みながら話をしている。サボの話を聞いたカカシが、「まあ、気持ちはわかるけど」そういってサボに返した。

 

「でも、先生たちを責めないでやってくれ。オビトとリンが死んだのは……オレのせいなんだ……」

 

「それは……」

 

 カカシからの突然の謝罪にサボは戸惑う。右隣に座るカカシの横顔を見るが、眼帯の役割をしている額当てで顔は見えなかった。

 

「オビトはオレが一人で突っ走らなきゃ助けられたかもしれない。それにリンは……オレが殺したんだ。オビトとの最後の約束を守れずにオレは……ッ!!!」

 

 カカシは今にも崩れ落ちそうな雰囲気で続ける。そのありようは、子供のサボの目から見ても、突けば、積み木のように崩壊しそうな脆さを含んでいた。

 

「だから、すまないサボ。恨むならオレを恨め。恨まれる理由は十分ある」

 

「なんでカカシが謝るんだよ。一番つらいのはお前だろ!」

 

 サボの方を向いたカカシは、マスクで隠しきれない程、寂しそうに笑っていた。

 

「なんで俺だけ泣いてんだ、クソっ。父ちゃんもカカシもなんで笑っていられる! もう一生会えないんだぞ」

 

 サボは自分なんかよりずっと激しい後悔に苛まれているであろうカカシが、本心を隠して笑う姿を見て涙があふれる。

 なんで父さんがオビト達を助けてくれなかったのか、どうしてカカシが悲しまなければいけないのか、そしてなにより、なぜ自分は何もできなかったのかーー

 そんな想いがサボの心の中を締め付けた。

 

「俺は弱い自分が、子供の自分が悔しくてたまらねぇ!!」

 

 サボは子供ながらに、爪が食い込むほどの力で作った握りこぶしを思いっきり地面に叩きつける。 しかしそれは、地面に軽いこぶしの後を付けただけにとどまり、サボの手から血を出すだけだった。

 そこで、続けて地面を殴りつけようとしたサボを、カカシは手首をつかむことで止めさせた。

 

「サボ、もうやめろ。お前がオレの失態を庇い、あいつらの事を思ってくれている事は感謝する」

 

 カカシは、そこで軽く頭を下げた。

 そして、顔を上げた後続ける。

 

「だが、一つだけ言わせてもらう……。うぬぼれるな! お前程度が戦う力を持っていてたとしても結果は変わらなかったよ。それほど酷い戦争だった。それに……オビトとリンは……オレが殺したんだから……」

 

 サボはカカシの言葉を聞いて、カカシがにつかまれた手首を振り払おうとしていた力を緩める。

 カカシはサボの右手が力を失っていくのを感じて、そっと手首を離した。だらんと右腕が落ちて、うなだれるサボをみながらカカシは続けた。

 

「それに……悔しいのはサボだけじゃない。先生も、オビトとリンが死んだと知った時、陰で泣いているのを見た。隠しているみたいだったけどね。あんな先生を見るのは初めてだった」

 

 サボはそこで顔をあげてカカシをみた。

 

「シカクさんだって、自来也様やクザン様も、みんな戦争で大事な人を失ってる。悔しいし悲しいに決まってる。みんな死者を忘れて笑っているわけじゃない、悲しみを紛らわす為に笑って生きようとしていると思う」

 

「カカシも……そうなのか?」

 

「オレは、少し違うかもな。でも、言えることはオレ達の命は簡単に失っていい命じゃない。あいつらを救えなかった償いに、これからもっともっと仲間の為に命を張るよ。オビトにそう教えられたから……それに他の人達だって同じ気持ちさ。じゃなきゃあんなに里の為に頑張れるわけがない。だから、あんまり怒らないであげてくれ」

 

 そしてカカシはしゃがみこみぽんっとサボの頭に手を置いた。

 

「もうわかったよ……俺も少し言い過ぎてた」

 

 落ち込むサボを見ながらカカシは、更に二回ほどサボの頭をポンポンと軽く頭を叩いて、そのあと直ぐに手を離し立ち上がる。

 

「ほら、きっと先生達が心配してる。お子ちゃまは帰る時間だ」

 

 そういって、カカシはサボに手を差し伸べた。

 サボはしおらしく、小さな声で「うん」という返事とともに、手を取り立ち上がる。

 

「カカシ……その、ありがとう」

 

 感謝を述べるサボの姿は、いつもと比べて別人のようにおとなしく、まだ歳相応の可愛さがあった。そんなサボを見ながら、カカシは「やっぱりまだまだこどもだねぇ」なんて心の中の感想にふたをしつつ――

 

「はいよ」

 

 軽い返事を返した。

 サボはその後身を翻し、カカシの元から歩いて去っていく。そして、十歩は歩いただろうか。急に何かを思い出したのように立ち止まり、振り返った。

 

「あと、俺はお子ちゃまじゃねぇ!」

 

 そう叫んで、今度は軽快に走っていった。

 

「やれやれ」

 

 最後には、とても十代の少年とは思えないようなため息が残った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「長居してすまねぇなミナト、クシナ。そろそろ帰らないと、妻がこえー」

 

 サボが飛び出して直後、詳しい状況を聞いたミナトの妻クシナが、鬼の様に男たちに説教をした。

 その後、ある程度は怒りが収まったクシナは、この祝賀会に加わっていた。

 日も夕刻でいい時間と判断したのだろう。シカクが謝罪の言葉と共に帰宅の準備に取り掛かる。しかし、酔いが回ってへべれけだ。

 それに続き、いのいち、チョウザも帰宅の準備を始めた。

 

「なんだもう帰るのか。嫁なんて、束縛されるだけでめんどくさいのぅ」

 

 そういって、波風家に入り浸ろうとしている自来也にクザンが一言。

 

「お前は、まず病院いけよ。ナースのボインに酒をついでもらえ」

 

 その提案に、よく思いついたと言わんばかりに「よいのぅ、よいのぅ」などと呟き、調子よく準備を始めていた。

 

「あはは、クザンさん、ありがとうございます」

 

 酒と女におぼれた、厄介な仙人をどうにかしてくれたクザンに、ミナトは礼を述べる。

 

「まあ、こっちもいろいろ悪かったな。お前さんはサボを探しに行きたいんだろ?」

 

「ええ、まあ。でも僕の為に、祝賀会を開いてくれて感謝してます。すこし、元気が出ました」

 

 ミナトはクザン達に頭を下げた。

 

「さっきはああ言って怒ったけど、サボもいつかきっとわかってくれる」

 

 ミナトに続いて妻クシナも言葉を紡いだ。

 というのも、サボが家を飛び出した後、クシナの怒りはそれはもう烈火の如く響いたのだ。木の葉の赤いハバネロと恐れられたその貫禄をいかんなく発揮して、酔っぱらう男たちを正座させ説教をした。

 ミナトは自身が火影に決まったのは良いのだが、大切な部下であったうちはオビトと、のはらリンを失ったことにより落ち込んでいた。

 それを励ますために企画したのがこの祝賀会であり、クシナはそのことに関しては感謝していた。しかし、まだ6歳の子供がいる前で、昼間から酒を飲んで盛大に酔っ払う姿は見せるべきではなかった。ましてや戦争のあと、サボとも仲が良かったオビトやリンが死んだのに笑いこけているとなれば、真実こそ違うが、サボに死者の存在を忘れて楽しんでいると判断されても文句を言えなかった。

 

「父ちゃん!」

 

 帰りの準備をしている一行に突然、玄関のほうから扉を開ける音と共に大きな声が聞こえてきた。

 どたどたと、酒盛りをしていた畳の部屋に近づいてきた者は勢い良く畳を開けた。

 

「サボ……」

 

「父ちゃん……それとみんな、ごめん。カカシからいろいろ聞いたんだ。俺、みんなの気持ちなんもわかってなかった。みんなだって悲しいのに……」

 

 その先の言葉はクシナに抱きしめられ言うことが出来なかった。

 

「サボはいい子だってばねぇ」

 

「か、母ちゃん、なにすんだよ」

 

 急な抱擁に赤面したサボと、愛おしく息子の頭をよしよしとなでているクシナを、ミナトはまとめて抱きしめた。

 

「サボ、こっちこそごめんね。今日は落ち込んでいた僕を元気づけるために皆が集まってくれたんだ」

 

 ミナトの言葉に集まった男たちは、極まりが悪そうな顔を浮かべていた。自分たちの真意が明らかになって、照れているのか、頬をかいているいる者もいた。

 

「でもそんなことサボには関係ないことだったよね。ごめんサボ」

 

 ミナトはそう言って、抱きしめた家族から手を放し、律義に一歩下がり頭を下げた。

 そして再び顔をあげ宣言する。

 

「だから今度から誓う。僕が火影になったら、この里の皆をもっともっと、精一杯守るよ。サボが悲しまないように」

 

 力強い視線をサボから離さず、ミナトは続けた。

 

「かつて、『忍の中でルールや規則を守れない奴はクズ呼ばわりされる、でも仲間を大切にしない奴はもっとクズだ』そう言い放った忍がいた。僕自身もそう思う」

 

「そのセリフ、カカシから聞いたオビトの兄ちゃんの……」

 

「里の人たちは、中には酒ばかり飲んでる人や、だらけてる人、めんどくさがりな人や、食いしん坊な人もいる。勿論ちゃんとしたまじめな人もいるけど。でも皆、落ち込む僕を励ましてくれたり、勇気付けてくれたりする優しい仲間なんだ。だからそんな優しい仲間と、それと僕の愛する家族の為に強い火影になりたい。いや、なるんだ!!」

 

「とうちゃん……」

 

 ミナトの顔には、迷いや、落ち込んだ表情は一切見られなかった。そんな父親に触発されたのか、サボも涙を流しそれに答えた。

 

「俺も強くなりてぇ! 父ちゃんより立派な忍になって、もう誰も失わないように。そのために俺は火影になる!」

 

「ああ、楽しみにまってる」

 

 父と子の会話を嬉しそうに聞いていたクシナは、ミナトの最後の言葉を皮切りに、今度はミナトも抱き寄せた。

 

「あらら、見せつけてくれちゃって」

 

「……なんつうかさ、面倒クセェけど、子供っていいなぁ」

 

「「ああ」」

 

 それを見ていた男たちは(一人酔っぱらって意識がなかったが)、生暖かいい視線を向けていた。この後ちょっとしたベビーブームが起こるのだがそれはまた別のお話。

 

 




サボが一人目の主人公です。


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