おしかけサーヴァント (袈裟山)
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1 話

初投稿です

お手柔らかに


 

 

成人男性の一人暮らしは荒れる。

何がといえば部屋が、生活習慣が、体調管理がとかまぁ様々に荒れる。

今の仕事に就いてちょうど三年、なんのことはない普通のサラリーマンよりは多少働きすぎているだけで後はいたって変わらないごくごく普通の実に平均的な働く大人だと、そんな風に自負している。

 

そして、現在もただただ働くだけ

眼前に積まれた書類を事務的にこなしていくだけの誰でもできる単純作業。

こんな風に言ってしまうと楽な仕事だと思われてしまうが、これが中々に根気と集中力を必要とする作業だから参ってしまう。

明日までに済ませなければいけない書類はまだ沢山あったりするので本日は終電まで帰れそうになかった。

 

「伊西(いさい)君」

 

帰りの電車の中で爆睡しようとか考えていると、後ろから名前を呼ばれた

しっとりとした大人の女性の声だ、不覚にも肩がビクリと上下してしまった。

「ごめんね、驚かせて」と申し訳なさそうに舌を出しながら謝られた、そんな仕草すらもどこか色気を感じてしまうほどにその女性には隠しきれないほどの魅力を感じる。

恋愛は惚れたほうが負けとか言うけどこの人の前ではどんな男性でも白旗をあげてしまうのではなかろうか

そう思う位には俺は声をかけられた女性に惚れている。

 

「いえ、なんでしょうか柚木(ゆずき)先輩」

 

俺が惚れた相手は俺より二歳年上の先輩だ

仕事はテキパキこなして部下の面倒見もいい上にその美貌で男上司のウケもいいらしい

この間も飲みに誘われているのを目撃したばかりだ。

当の先輩はその誘いを丁重にお断りしていた

 

「どう、進んでる?」

 

「まぁぼちぼちです。先輩はもうあがりですか」

 

「うんまぁね、手伝ってあげたいけどこの後用事あるからお先ね。」

 

用事とは、どんな用事だろうか気になる。

誰だって好きな人の用事は気になるものだろうけど、どこに行くんですか?とかもしかしてデートですか?なんて聞く勇気は俺にはない。「そうですか、お疲れ様です。」言ってもせいぜいそれくらいだ。

 

「じゃあね」なんて言って手を振って帰っていく先輩を見送った。

先輩には悪いけど正直あの体型とか声とか仕草を間近で感じていると仕事よりも妄想の方が捗ってしまう。

悩みの種の一つだ。告白する勇気を持たないものが下手に惚れると苦しいだけなのは知っていた

けれどそんなものどうしようもないし止められるものでもないからこのストレスを仕事にぶつけるのだ。

ただひたすらに目の前のPCにかぶり付くように仕事をこなしていった。

 

 

 

 

案の定、書類が片付いたのは日付が変わる二時間前、無事に終電コースだった。

 

思った以上に厄介な書類も多かった上に突然社内が停電になるというトラブルにも見回られ軽いパニックにもなったりした。

俺のPCはこまめにバックアップをとっていたので軽傷で済んだものの参考資料保存用の共有PCに不具合が生じてそれの修復作業に時間をとられてしまった。

予想以上に体力と精神を費やしてしまったのか眠気がしてきた、椅子に腰かけているだけでうとうとしてしまう

俺と共に残って残業していた社員も既に帰宅済み最後は俺が戸締まりをして帰るだけとなった。

 

ふと、頭上の明かりが消えたり点いたりを繰り返していることに気づいた

作業中は集中していてわからなかったけれどどうやら電灯が切れているようだ

このまま帰ってしまおうと思いもしたがどうせこの時間まで残ったのだから最後まできっちりやってしまおう、自分の変な所で几帳面な性格は一度気になってしまうと夜も眠れないほどに神経を逆撫でしてくる

我ながら面倒な性格だと思う。

 

ここから物品庫まではそんなに離れていないというかすぐ隣が物品庫だ。

確かそこに新しいLEDの電灯があったはず

 

椅子から立ち上がると物音が響いた

夜も遅い静かな室内にやけに鮮明に聞こえた

おかしい、社内に残された人間は俺だけのはず

他に残業している社員はいないはずだし、清掃員や作業員などの社員以外の人間も夕方にはいなくなっている。

猫などの小動物かとも思ったけれどここはビル10階の建物の8階に位置する、窓から入ろうにも空を飛ばない限り無理だ。

 

ぞくりと背筋が凍った

 

まさか…と嫌な方向へと思考が働いてしまう

考えないように考えないようになんて頭の中で繰り返し呪文のように唱え続けるもその物音が止むことはない、

これは、もう確かめるしかない

なぜこう思ったかよくは覚えていないけど

こんな時でも俺の元来の性格は曲がらないらしい

 

一度気になってしまうと確認せずにはいられない。

 

ゆっくりと物品庫の鍵を開けて扉を開いて電気をつける。

 

なにもない、気のせいだったのだろうか

物音ももうしなかった

ホッと胸を撫で下ろす、信じてはいないけれど幽霊の類いの仕業である可能性も十分にある。それを考慮した上で相応の覚悟で扉を開けたのでなにもなかったというのは肩透かしの気分だ

いや、正直に言うと安心した、安心して肩の力も抜けていた。

だから物品庫のテーブルの下に隠れていた人影に気づかなかったのは俺の落ち度ではない。

 

「やっと開いたー‼️」

 

「うぇーい‼️」

 

びっくりした、びっくりしすぎて変な叫び声をあげてしまった。

 

それは、少女だった髪は鮮やかなピンク色で後ろで一本の三つ編みに束ねている、元気な女の子らしい声色と華奢な体躯が目に眩しい、おまけに顔は今まで見たことない位の美少女だ。

 

「どうしたの?」

 

おかしな奇声をあげながら尻餅をついて倒れた俺にその少女は話しかける

「だ、誰だあんた」

 

「ボクかい?ボクの名前はアストルフォ!シャルルマーニュ十二勇士の一人自称最弱のサーヴァントとはこのアストルフォのことさ!」

 

だめだ脳ミソがパニックを起こしてこの子の言っていることの半分も理解できない

「君がボクのマスターだよね?初めまして、そしてこれからよろしくね♪」

なんて言いながら元気よく俺の手を握ってきた。

うわ、なんてやわらかい手だろうか

思わず今の状況を忘れてその感触を楽しんでしまう

そりゃ今まで生きてきて女性とのお付き合いがゼロだったとはいわないさ、こんな俺にだって恋愛の経験があるし、付き合いがあれば必然と手を繋いだりそれ以上の触れ合いも経験している。

けれどこんな美少女にしかも初対面の美少女に急に手を握られるなんて経験はさすがになかった。

彼女から漂ういい香りも手伝って俺はその感触をじっくりと堪能してしまった。

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

だから、後先考えずこんな返事をしてしまったのだと思う。魅力ある女性は男をここまで腑抜けにしてしまうのだろうか、全く似ていないけどこの子には柚木先輩にも通ずる何かを感じてしまう。

 

「うん、よろしくね♪」

 

「いや、待て待て待て!」

 

「なんだい?」

 

小首を傾げる仕草が可愛らしい

彼女の一挙手一投足にいちいち反応してしまう自分が情けない、話が全く進まないからもうなるべく彼女を直視するのは控えることにした。

 

「君…じゃなかったアストルフォさんはなぜこんなところにいるんだ」

 

彼女はその場で立ち上がりあたりを見回す

「ここってどこ?」などとそんな質問をぶつけてきた

どこかも分からず迷い込んで来たのかとも思ったけれどそれはあり得ないことだ、この会社はオートロックのセキュリティが入り口に施されているから部外者がしかもこんな未成年の少女が入れる訳がないのだ、

仮に入ってこれたとしても社員の誰かが同行しているか社員証を持っていない限りは立ち入ることは不可能に近いのだ。

 

とりあえずここは俺が勤めている会社だと彼女に説明してやったら「ここがマスターの職場なんだ、へぇーマスターは何をしていたの?」質問を返されてしまった

なんだかまた話を逸らされそうなのですかさずこちらの聞きたいことだけを聞く

 

「その前に君の身の上の話をしたいんだけれどいいかな?」

 

「ボクのこと?さっき説明したとおりボクはアストルフォだよ。マスターが呼んだんだからマスターが一番知ってるでしょ」

 

「いや…分からないな」

 

「ひどーい!呼び出すだけ呼び出しといて知らないふりなんてあんまりだよ!」

 

「待ってくれ、俺は君を呼んだ覚えなんてないぞ!そもそも君とは初対面じゃないか、こっちは今の状況さえハッキリしてないんだ。君がなぜ俺のことをマスターと呼ぶのかもてんで分からないんだ」

 

「え!?じゃあマスターって無意識にボクを召喚したのかい?すごいや!マスターはきっと魔術師の才能があるんだよ!」

 

「ええーい!次から次へとわからん単語をぶつけてくるな!お前は異世界から来た住人か!」

 

「ご名答!」なんて言うとこの少女は本日一番の笑顔を向けてきやがった…可愛いなちくしょう。

 

「マスターボクはね異世界からマスターに会うために来たんだよ!」

 

「わかった、お兄さんが今から病院に連れていってやるからそこでゆっくり話そう。大丈夫きっと軽い脳震盪で脳ミソがシェイクされただけだ、打ち所が良ければ明日には退院できるから、さぁ行こう。」

 

「マスター!」

と、そこまで言った所で彼女が大きな声をあげた。

「病院なんて絶対いかない!」

先程までの笑顔とは一変して若干怒っているような表情だった。「いじわるなこと言うマスターなんて嫌いだ!ボクはマスターのサーヴァントなんだからこれからマスターの家に帰るんだよ!」

 

「おい今ウチに来るとか言ったか?家出なら友達の家に行けばいいだろ、なぜわざわざ一人暮らしの男の家に転がり込んでくる」

 

「こっちの世界に友達なんていないよ、マスターはボクを寒空の下公園で夜を明かせって、そう言うのかい?そんなのあんまりにあんまりだよこんな可愛いボクが襲われたりしたらマスターは責任を取れるの?」

 

いや、ふざけるな。

責任なんてもの今の俺にあるわけないだろと反論したくなるがしかし、どうだろうか第三者からの目線から見ればこの状況は可憐な美少女が大人に捨てられるような絵にも見えなくはないかもしれない。

俺とこの少女に接点なんてない。だから責任はないというのは俺の一方的な意見であって彼女からすれば唯一の頼りだった存在から見放されたに等しい。

別に彼女から頼られた覚えも彼女が一人だという根拠もないけどあまりに懸命なその眼差しと懇願するような声色にはどうにも逆らえそうになかった。

なにより、このまま会社に置き去りにするなんて論外中の論外、愚策もいいところ休み明けに事件として取り上げられニュース番組に流されること間違いなし

[未成年の少女誘拐後勤務先の会社に閉じ込めそのまま帰宅]なんて見出しで新聞に載ることは明白。

そして、俺は社会的地位も財産も全て奪われて途方に暮れるであろうそんな未来が容易に想像できる。

もちろん俺は誘拐なんてしていない

しかし、この少女が少しでも発言してしまえばそれが決定的証拠になるのだ。世の中というのは常に女性よりも男性が損をするようにできているのは十二分に理解している、なにが男女平等だと文句を言いたくなるのも仕方ない程に。

 

「仮にお前を俺の家に招き入れたとしてお前はそれでいいのか?」

 

「どういうこと?」

 

こいつ本気で分からないみたいな表情をしていやがる

 

「…つまりだな…女が男の家に泊まるっていうのはもしかしたら間違いが起きるかもしれないということで、いやもちろん俺にそんなつもりは一ミリもありはしない、そこは間違いないんだ…だが、万が一の可能性で俺が一夜の過ちを犯してしまう可能性も考慮した方がいいというかだな…」

なんだ?俺はなぜ語るごとにボリュームが下がっているのだろう、自信がないからか、それはなんの自信だ?過ちを犯さない自信か?異性に我が家を見られるのが恥ずかしい故の羞恥心か?段々と混乱してきた、自分で自分の精神状態がわからないらしい。

 

「大丈夫だよボクはマスターのサーヴァントなんだからマスターがボクに何をしたって咎めたりしないさ♪」

いや♪を付けながらするような発言ではない

何をしてもいいってことはあれだぞ、ナニをしてもいいということにもとられかねない発言なんだぞ、決してお前みたいな可愛い美少女がしていい発言ではないんだ、美少女だからこそ萌えるとかいう意見もあるかもしれないが実際に言われると生々しさが凄すぎてもはや危うさしかない。

 

「お前自分でとんでもないこと言ってるの理解してるのか?一歩間違えたらそういう趣味の人だと思われるくらいの発言だぞ」

 

「マスターがなんの心配してるのか全く分からないけどきっと大丈夫だよ!」

 

「分からないくせに軽々しく大丈夫なんて口にするな!根拠のない大丈夫ほど大丈夫じゃない案件はないんだぞ!」

 

「大丈夫だよ絶対!」

 

「いやいい、お前と押し問答するつもりは毛ほどもないんだよ、疲れるから」

 

「ひどっ!マスターって結構毒舌なんだね」

 

毒舌で結構。

元々人付き合い自体そこまで好きじゃないから困るもんでもないし

 

「聞いてマスター今大丈夫だって証明するから」

 

言いながら俺の手をとる、再びやわらかい感触。そのまま彼女は俺の手を自分の胸に押し当てた。

控えめどころかまっ平らな胸の感触がした、その感触が手から脳へと伝わった瞬間にとんでもないほどの絶望感とえもいわれぬ幸福感を同時に味わうようななんかよくわからない感情が俺のなけなしの理性を揺さぶる。

すぐに胸から手を離すべきだった、それは頭で理解しているのに彼女の甘美な誘惑は俺の判断力を鈍らせる、

 

「ほらね。」

 

「アストルフォさんがなにをしたいのかわからないんですけど。」

 

気づけば敬語になっていた。

向こうから触らせてきたとはいえ罪悪感みたいなものは一応感じているので言葉遣いだけでも下手にでようという浅はかな思案ゆえの敬語なんだと思う。

 

「平らでしょ」

 

どや顔で言われてもなぁ、そうですねなんて言えない

 

「いや、ですからなにが言いたいのかよくわからないんですけど…」

 

「だーかーらー」スゥっと一呼吸置いて彼女は口にしたのだ、予想外なことだらけだった一日だったけれどある意味今日一番の衝撃を受けた発言を俺はこの後耳にする。

 

「ボク男だから♪」

 

 

頼む夢なら覚めてくれ

 

 

 

 

 



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2 話

前もって白状すると一番好きなのは佐々木小次郎です



「おじゃましまーす♪」

 

「おい、あまり大きい声を出すなお隣さんに聞こえたらどうするんだ」

 

「いいじゃないか、ボクは不都合なことなんて一つもないよ」

 

「俺が困るんだよ!社会人が未成年を部屋に招き入れる図だぞ、下手すりゃ逮捕もんだ」

 

「ボクは未成年じゃないよ!こんな可愛い見た目でも何十年という歴史を生きてきた英雄なんだぞ!」

 

「はいはい、わかったから英雄ごっこなら後日付き合ってやるから今は大人しくしてろ」

 

「またそうやってボクをバカにしてー!」

 

 

結局…この美少女アストルフォを放置できないと判断した俺は大人しく彼女の希望に沿う形で自宅のアパートまで連れてきた。

今のところ自分の行動が正しいのか間違っているのか分からないけどあのままこの子を放っておくのだけは俺の良心が許さなかった。

 

だからと言って一から十まで俺が面倒をみてやる義理など毛頭ないのだがここまで連れてきてしまったものは仕方がない、今日一晩だけはここに泊めてやってまた明日にでも事の経緯を話した上でしかるべき施設に預けてやろう。そこから先の事はもう俺の関与するべきところではないし彼女も一晩寝れば冷静さを取り戻すだろうさ。

 

「ねぇねぇマスターお風呂借りていい?」

 

「ん?あぁいいよ。男性用だけどシャンプーとボディーソープすきに使いな」

 

「ありがとー♪」

 

自宅に泊まる事を許可した瞬間に満面の笑みをうかべてそれからずっとご機嫌だ。相当嬉しかったのか帰路の最中もスキップをしそうな勢いだった

なにがそんなに嬉しいのだろうか出会ってからアストルフォの考えている事は一つも理解できない

フンフン♪なんて鼻唄を歌いながらあろうことかその場で上着を脱ぎ出しやがった

 

「ちょっ待て待て!お前はバカか!」

 

すかさずその行為を止めると意地悪な笑顔を向けてきた

 

「なーにさぁ♪もしかしてマスターは恥ずかしがっているのかい?」

 

「むしろお前は恥ずかしくないのかよ。いいからここで脱ぐのはやめろ!脱衣場に行け」

 

「どうせ男同士なんだから裸を見られたってなにも思わないよ」

 

「違うお前はどう見ても女の子だ。」

 

「男だよぉ!なんで信じてくれないのさ!」

 

「黙れ、これに関して俺の意見は変わらない。俺が女と言ったらお前は女なんだ、お前の胸がどんなにまっ平らだろうとそんなもの証拠にはならない。貧乳はステータスなんだよ、つまりお前は女なんだよ。」

断固認めないというダイヤモンドよりも強く硬い意志を持って言わなければいけない。

アストルフォお前は女だ。

 

「はぁ、マスターって毒舌な上に頑固者なんだねぇ、わかったよ別にボクはどうしてもマスターに男扱いされたい訳じゃないから女の子でも構わないよ」

 

ミニスカート姿に黒タイツ上着はうさみみの付いたパーカー姿の男がいるか?いたとしたらそれは変態だろうよ。

大体こんな美少女が男なわけない、こんなにも華奢な体つきで声まで美少女の男がいてたまるか、お前が男なら世間の女性達の立場はどうなってしまうんだ

自信喪失どころの騒ぎではない最悪自殺者まで出かねん相当なショックを受けるだろう。

 

「せっかくだからマスターも一緒に入る?」

 

「入らん」

 

「ボクは気にしないよ」

 

「俺が気にするんだよ」

 

「そんなこと言わずにさぁ一緒に洗いっこしようよ♪」

 

そっぽを向いた俺の顔を覗き込む仕草がまたなんとも可愛らしいことこの上なし、ひらりと短いスカートが舞っているのも相まってどこか卑猥さも見受けられる、あといい匂いもするあたりやはりこいつは絶対に女だ。

 

「ねぇマスター無視しないでよ!」

 

返答がないのが気にくわなかったのだろうか今度は俺の背中におぶさるように飛び乗ってきた

 

「ええーいひっつくな!」

 

落とさないようになるべく静かに背中から引き剥がして床に置いてやった

まるで子犬でも飼っているような気分だ

 

「いいか、お前はもう少し貞操観念をしっかり持て!これ以上過度なスキンシップを続けたいなら今すぐここから出ていってもらうぞ」

 

「えーまたマスターが意地悪なこと言い出したー」

 

「ダルそうに愚痴を垂れてるところ悪いけどな俺の方が疲れてるんだからな」

 

「はいはいわかりましたよぉマスターが頑固者だからボクは一人で寂しくお風呂に入ってくるよーだ」

 

いじけながら脱衣場へと消えていった

なんで俺の方がわがままを言っているようなニュアンスなんだよ

 

俺もスーツから部屋着に着替えて一息ついた

このまま晩飯を食べずに床につこうとも思ったけれどさすがにお腹が減っていたし、なによりアイツにもなにか食べさせてやらないといけない。アストルフォがいつから食事を取っていないのかはわからなかいけど昼飯を食べたとしても今は夜中の11時前だ、かなり腹を空かしているはずだと思う。

 

普段からほとんど自炊をしないもんだから冷蔵庫にはろくな物が入っていない、レンジで解答タイプの白飯とソーセージと野菜が少し…まぁチャーハン位なら作れるだろう。

 

キッチン棚からフライパンを出して油をしく

適当に切った材料を白飯と一緒に炒めていった

調味料も適当に投入していく

 

明日にはスーパーに行って二人分の食事を確保しないといけないなぁ…アイツはなにが好きなんだろうか、やはり年頃の女の子だからカレーとかハンバーグとか分かりやすい料理がいいのかなぁ

…いやいやなんで俺は今後の二人での生活を考慮して買い物の計画を立てているんだよ。

アイツとの関係は明日で終わりなんだ

明日は行きつけのラーメン屋に一人で行ってやるんだ

 

 

「マスターお風呂上がったよー♪」

 

とてとてと軽やかな足音が聞こえてきた

どうやら入浴を済ませたアストルフォが風呂場から出てきたみたいだ

 

「ずいぶんと早いな」

 

「うん、シャワーだけだからね♪」

 

どうやら入浴を済ませたアストルフォは先程よりも割り増しでご機嫌らしい

背中越しでもそのテンションの上がりようが伝わってくる

 

「チャーハン作ったからそこに座って…」

 

「え!マスターが料理作ってくれたのかい?やったーお腹空いてたんだよね♪」

 

飛びはねそうなほどに喜びを露にしているアストルフォは全裸であった

いや性格には下を隠すようにバスタオルを腰に巻いていたけれど上半身は一糸まとわぬ状態だ

白くて綺麗な肌が惜しげもなく晒されている。

 

「服を着なさい!」

 

まるで実家のお母さんのような怒鳴り声が部屋中に響いた

多分今日一番の近隣への迷惑行為だったんじゃないだろうかと後になってから気づいた。

 

 

 



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3 話

文章の長さが一定しないので長かったり
短かったりが目立ちますがご容赦を。









有り合わせで作ったチャーハンは思いの外アストルフォから好評をもらうことができた

異性に料理を振る舞うのは初めての経験故に口に合うか不安だったけど、彼女の食べっぷりを見るあたり杞憂だったらしい。

少しばかり多めに作りすぎたであろうチャーハンはあっという間に彼女の胃袋へと飲み込まれてしまった

 

「ごちそうさま。美味しかったよマスター♪」

 

「そうかい、そりゃなによりだ」

 

言いながらコップに注いだむぎ茶を差し出した

「ありがとー♪」と快く受け取るとそれを一気に飲み干した。

 

「もしかして食べてなかったのか?」

 

「なにが?」

 

「食事だよ、朝飯も昼飯も食べてなかったのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

彼女はなんてことのないようにそれが当然であるかのように返事をした

なんだか無性に腹が立ってしまった

満足に飯を食べさせてやれない程にこの子の保護者は保護者であることを放棄しているのかと、それを思うとやり場のない怒りが心の底からふつふつと沸き上がってきた。

彼女がどんな環境で育ってきたのか会ったばかりの俺には当然分かるわけがない、だけど今の現状を良しとして受け入れることなんて今の俺にはできそうになかった。

 

「今度はマスターにボクの料理をご馳走するね♪」

 

「今度ってお前はいつまで俺の家に居座るつもりなんだよ」

 

「え?ずっとだよ。マスターはボクがいるのが嫌なのかい?」

 

「嫌とは言わない、困りはするけどな」

 

「なんでさ?」

 

「その理由をお前が理解していないのが一番困るんだよ」

 

「わかったマスターはボクに欲情してるんだ!」

 

「…」

 

「だからお風呂にも一緒に入ってくれないし、帰ってきてからずっとそわそわしてるんだね!」

 

「……」

 

「大丈夫だよ♪ボクはいつでも受け入れ体制OKさ!マスターのリビドーを真っ向からぶつけてもらっても全然構わないよ♥️」

 

「さぁて風呂でも入ろうかな」

 

一つ理解した。

こいつと話していると精神を削られる

会話の噛み合わなさが異常すぎてなにも言えなくなってくる

 

「聞いてマスター!ボクはね世界の全てが好きなんだよ!もちろんマスターのこともね♪だから例えばマスターがボクの事を慰みものみたいに扱っても絶対に嫌がったり怒ったりしないのさ」

 

その言葉を聞いた時俺の中で再び怒りの感情が沸き上がった。

 

「いい加減にしろ」

 

「…マスター?」

 

突然低い声で静かに怒る俺に若干気圧されたのかアストルフォは伺うような声色で俺の顔を覗き込む

 

「その発言がどれだけ危うくて悲しいものなのか今のお前には分からないかもしれないけどな。そんなことを言われて喜ぶような奴はクズだ!俺はそこまでクズな人間じゃない、二度とそんな発言はするなよ」

 

「……」

 

「わかったか?」

 

「…うん…わかったよ」

 

「よろしい」

 

怒り方としては少し大人げなかったかもしれない

だって俺が本当に怒っている相手はこいつではなくて彼女にこんなことを言わせた保護者に世間に対して憤慨しているから

どちらかというと彼女は被害者なんだ

だから彼女に対して怒りの矛先を向けるのはお門違いもいいところ彼女からすればいい迷惑だったのかもしれない。

けれど言わずにはいれなかった

俺は感情の起伏に乏しい人間だと自負していただけに考えるより先に口が動いたことに自分で驚いたりしている。

 

アストルフォはリビングに残し一人風呂に入った

いつも通り体を洗って髭を剃り歯も磨いて湯を溜めていた浴槽に浸かる

心なしかいつもよりいい香りが漂っている気がするけれどあまり気にしすぎてはいけないと思い湯に顔を沈めた

 

コンコンとノックの音がした

湯船から顔を出して音のした脱衣場の磨りガラスのドアを見やるとアストルフォがドアの前に立っているのがぼんやりと分かる

 

「マスター?」

 

「なんだ?」

 

いつの間にか彼女からマスターと呼ばれることに対してなんの抵抗もなくなってしまって普通に返事をしてしまった

マスターってなんだよ普通ご主人様とかじゃないのか?

いや、ご主人様も普通ではないな。

 

「…まだ怒ってる?」

 

「…もう怒ってないよ」

 

なるべく優しい口調で言ってやった

間を空けたのは先程ガチで怒った手前少し恥ずかしいというのもあるからだ。

 

「あのねボクねマスターを怒らせようと思ったわけじゃないんだよ」

 

「わかってるよ…さっきのは俺も少し言い過ぎた。別に悪いのはお前じゃないのに八つ当たりしちまった…すまん。」

 

「ううん、ボクこそごめんね配慮が足りなくて」

 

「あのな俺は一応大人でお前はまだ子供なんだよ…配慮とか変に気を使わなくていいんだ。」

 

 

先程まで溢れていた怒りの感情は気づけば何処かに消えていたみたいだ

彼女の申し訳なさそうな声を聴いてしまってはこれ以上怒るのは違うだろ…それにもう言いたいこともなくなってしまったし。

 

 

「あまり気にするな、今風呂から上がって布団敷いてやるから待ってろ」

 

「えーもう寝ちゃうのかい?ボクはまだ眠くないよ?」

 

急に元気な声になったな…

 

「俺はもう眠いんだ。今日は多方面に気を使い過ぎたせいで特に精神的に参ってるんだよ」

 

「じゃあじゃあボクがマスターの布団に入って添い寝してあげるよ」

 

そういうとこそういうとこ俺が疲れる元凶はあなたですよぉ

 

「マスター聞いてる?ボクが添い寝してマスターの体と精神を癒してあげるから楽しみにしててね♪もちろん手を出してもOKだよ♪」

 

「はぁ…」

 

お風呂でため息を吐くと狭い浴室によく響く

体と心のケアは今この時に済ませてしまってこの後も続くであろう口論のために栄木を養うとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇマスタードキドキする?ボクはねドキドキもするしワクワクもしてるよ♪」

 

「そうかい俺はワクワクどころかソワソワしてしまいそうだよ」

 

 

結論からいうと俺とアストルフォは同じ寝床で寝ている

 

誤解してほしくはないので先に言い訳しておくと決して下心から彼女の申し出を受けた訳ではない

二人分あると思った布団は先月実家にもって帰ってしまっていたのをすっかり忘れてしまっていた

故に俺の部屋には布団は一人分しかなかったのだ

俺がソファーで寝るという選択肢もあるにはあったが掛け布団も一人分しかないので体が冷えて風邪を引くこと間違いなしだったのでそれも難しい

となれば残った選択肢は一つの布団を二人で使う以外になかったのだ

これは仕方のないことだと何度頭の中で繰り返し言いきかせただろうか、一方のアストルフォはなにやら嬉しそうに俺が貸してあげた寝間着に着替えていち早く布団に潜っていやがった

すりすりと俺が毎日使う布団に頬擦りしながら「マスターはやくはやく!」と布団の袖をめくり上げて俺を誘っていやがる。

 

「いいですか万が一俺があなたの体に触れたとしてもそれは事故だと思ってください」

 

「マスターなんで敬語なの?」

 

「気にするな。とにかく俺はなるべく向こうを向いているから布団を持っていかれない程度に俺から距離を取れよわかったな?」

 

「大丈夫だよぉボクはマスターの布団を取ったりしないから安心して♪」

 

「うんもうそれでいいや、とにかく俺からなるべく体を離してくれたらそれでいいです」

 

 

しばらくは眠れそうにないだろうけどなるべく意識を壁に向けて後ろ見ないようにすればそのうち眠りにつくだろう

アストルフォに与えた寝間着はもちろん俺用のサイズなのでブカブカだ

見えちゃいそうで見えないような、いやこれもう見えてるわ

 



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4 話

余裕がある時にかいてますけど中々時間つくるのが大変ですね


 カーテンから木漏れ日が射し込み、睡眠中の俺に直撃していた

 

壁に掛けてある時計を確認

まだ起きる時間帯ではないが二度寝をするにしては中途半端な睡眠になりそうだ

 

たまには早起きして朝食でも取ろうかと思案していると隣からスースーと心地良い寝息が聞こえてきた

 

「……」

 

隣には俺のジャージとTシャツを着ている美少女が寝ている

あやうく忘れるところだった

昨日は会社で女の子を保護した後に我が家に連れ込んで一夜を共に同じベッドで眠りについたんだったなぁ

 

寝ぼけた頭で状況整理していても余計に頭が痛くなるだけだったので深くは考えないことにした

今日も今日とて会社に出勤して仕事をしなきゃならんのに余計な事を考えていては業務に差し支える

 

掛け布団を剥がして隣の女の子を起こさないようにそっとベッドから降りてからシャワーを浴びて歯磨きを済ませトースト1枚にジャムを塗った簡単な朝食を取った

その間もベッドの上の女の子『アストルフォ』は起きる気配がなさそうだった

 

あと10分ほどで出勤しなけらばならないのだが俺は大事なことを失念していた

 

俺が家を空けている間にこの子は一体どうするのだろう

 

異世界から来ましたとか電波なんだか中学生なんだかとにかく痛い発言をするパーソナルスペースがやたらと近いこの子どもに留守を任せてもいいのだろうか

 

多分…いやおそらくはあまりいい事ではないだろう

 

なにより俺はこの子のことをまるで知らない

昨日あったばかりなのだから当然だろう

 

そして向こうも俺の事を知っているような感じではなかった

マスターなどとおかしな名称で俺を呼んではいるものの俺の名前も把握してはいないだろう

 

俺とこの子が信頼し合うにはあまりにも互いに知らなさすぎるのだ

 

「うーん」

 

モゾモゾとベッドがうごめいている

 

「あ…おはよーマスター」

 

起きたばかりでまだ眠気が残っているのだろう

身を起こしながらも掛け布団を離さずにしっかりと握っている

 

「おはよう」

 

「あれ…どこか出掛けるのかい?」

 

寝ぼけ眼の半目でスーツ姿の俺を見ると興味深そうに質問してきた

 

「出掛けるよ。これから仕事だ」

 

当然だろと付け足して俺はアストルフォに少しの一万円札と電話番号が書かれたメモ紙を手渡した

 

手渡された本人は「?」といった感じの表情で俺を見上げている

 

「ここからお前の家までどれだけあるかは知らないけどこれだけあれば適当な交通手段でも帰れるだろ。最寄りの駅までここから10分もしないからそこに行くといい。」

 

「……これって」

 

「もし帰れない事情があるのなら友人かもしくは頼れる知人とかに連絡を取れ、俺の携帯番号も一応書いといたけどできれば日中の連絡は控えてくれると助か…」

 

「友達なんていないよ」

 

俺が言い終わる前にアストルフォはそんなことを言った

 

「家族もいないし帰る家もないよ。ここにはボクの事を知っている人はひとりもいないんだよ」

 

そんなことをまるで当然であるかのように言ってのけた

 

そして笑顔だった

その台詞になぜ笑顔が同居できるのか俺にはまったく理解ができない

 

「…そういえば異世界からきたんだったな」

 

「そう、そのとおり!強いて言うならボクの家はここでボクの家族であり友達でありご主人様はマスター1人だけなのさ♪」

 

「つまり頼りは俺だけだと」

 

「マスターもボクを頼ってくれて構わないよ」

 

自信ありげに胸を張っているところ申し訳ないけど頼りがいがあるとは思えなかった

 

「本当に行く宛がないのか?」

 

「…ボクがここに居たら迷惑かい?」

 

俺の真剣な声色の問いに対しアストルフォも少し声のトーンを落とした

 

「……別に迷惑なんて(少ししか)思ってない」

 

「じゃあここにいる!」

 

早かったなぁ

こいつとの会話はある種の爽快感を感じさせる

思いきりもいいし素直さが声に乗っかっていて実に清々しい

これ以上の問答は時間の無駄だと悟った俺の頭は既に仕事モードへと切り替わっていた

 

「ここにいたいなら俺の言うことは聞いてもらうからな」

 

「うん!まっかせて♪なんでも好きなように命令して構わないよ」

 

 

背徳感が残る返事だがまぁよしとしよう

アストルフォにもそれなりの事情があるのだろうさ

きっと俺には想像もつかないようなでかい事情が…

 



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5 話

今さらですが主人公の名前は伊西 薫(いさい かおる)です


 会社に着いてまずPCの電源を立ち上げた

昨日のうちに終わらせた書類を整理しながらマウスを慣れた手付きで操作していく

 

 

家を出る時にアストルフォは自分もついていくと言い出したのでそれだけは勘弁してくれと言って大人しく俺の帰りを待つように言い聞かせた

言われた本人はあまり面白くない顔をしていたが会社は遊び場じゃないんだ。俺が許すわけがないし職場の人達も戸惑うし迷惑になる

それに留守番もできないようなら今後一緒に生活するのも難しいだろう

 

俺が意地悪で拒否しているわけではないことが伝わったのか意外とすんなり留守番を受け入れてくれたアストルフォは「いってらっしゃい」と元気のない声で見送りをしてくれた

 

社会人として働き始めて三年経つけど家を出る時にいってらっしゃいを言われるのは初めてだった

懐かしいというか少しだけ恥ずかしさも入り交じったような不思議な感覚だったけど美少女からのいってらっしゃいは悪くはない

 

遅くならないように帰ると約束をした後玄関を出てエレベーターの前で立ち止まる

視線をかんじたので振り返ってみるとドアを少しだけ開けて顔だけ出したアストルフォが寂しそうな表情で俺を見つめていた

 

…かわいい

 

こんな言い方をしてしまうと失礼だけどペットを飼っているような気分だ

今日だけは本当に早く帰ってやろうと思える

 

 

「おはよう」

 

俺の肩にちょんと指で触れて挨拶をしてきたのは柚希先輩だった

昨日は俺より早くに仕事を終えたものの退社時間としては遅い方だ。それなのに俺より早い時間に出勤しているのだから恐れ入る

 

「おはようございます。ずいぶん早いんですね」

 

「伊西くんも早いじゃない、昨日は手伝えなくてごめんね」

 

「いえ、元々1人でやろうと思っていましたし、それに本来であれば先週までに終わらせないといけない案件でしたから計画的に仕事をこなせなかった俺の自業自得です」

 

「けどその案件先週の月曜に急に上から渡された案件でしょ?」

 

「まぁはい、そうですね」

 

 

先輩のいうとおり、部外からの飛び込みに俺の上司が首を縦に振ってしまってその手伝いをやらされている

本当にたまにだけど俺の上司は明らかにスケジュール的にこなせない物量の仕事を持ってくる時がある

 

それが先週の月曜にドカッと大量の書類と一緒に俺のデスクに積まされただけ…そう本当にただそれだけのことなのだ

 

「いつものことですし、今回もなんとか納期には間に合いましたから結果的には大丈夫ですよ」

 

そういうと柚希先輩は少し困った顔をして俺の額に軽いデコピンをくれた

「結果的に丸くおさまっただけでしょ。あなたももう少し断る事を覚えた方がいいわよ、なんでもかんでも1人で抱え込みすぎるのよくないわ」

 

「そんなことは…」

 

ないとは言えなかった

事実、今回の仕事もその前の仕事も納期ギリギリまで1人で作業をこなしていた

他の人に協力をお願いすればもう少し余裕のある業務生活を遅れたかもしれないけどどうにも俺は頭をさげるのは苦手らしい

 

苦手なことをするくらいなら1人で全て終わらせた方が気持ち的に楽なのを知っているからだ

 

「そうですね。次からはもう少し周りの人に頼ることにします」

 

「つい1ヶ月前も同じこと言ってたわよ」

 

そうだったっけ?

自分の発言なのにあんまり記憶に残っていないってことはその場しのぎの適当な発言だったのかもしれない

 

「私でもいいから頼りなさい。あなたはなまじ仕事ができる分、全て1人で済ませた方がいいと思ってるかもしれないけれど会社は個人で回しているわけではないのだから」

 

俺の心配をしてもいるけど毎回納期ギリギリにまとめた資料渡されるのもあまり良く思っていない上での発言なんだろうな

本当に抜け目ないししっかりしている

「わかりました」と少し間を置いた後に返事をすると先輩は「よろしい」と笑顔で応えて自分の席に戻っていった

 

次からは本当に気を付けることにしよう

あの人の怒った顔はできれば見たくないし

 

 

「よう、朝からお叱りか?」

 

と、俺の背中から声を掛けてきたのは秋月 涼太(あきづき りょうた)だった

高めの身長にすらっとした体型でスーツ姿が似合う好青年といった営業マンとしては理想の外見を持っている俺の同僚だ

あと、顔もいい

 

「叱られた、ぐうの音もでない正論と共に反論の余地すら与えられずに叱られたよ。今回ばかりは機嫌を損ねたかもしれない」

 

「あの人のことだ。お前のこと憎からず想っているとは思うけどな」

 

 

「当たり前だろ。柚希先輩は怒りに任せて説教するような人じゃない」

 

俺が柚希先輩のなにを知っているのだろう

まるでわかったような言い方に涼太はクスクスと笑いをこぼした

 

「俺もあまり人のことは言えないけどお前も柚希 遥(ゆずき はるか)にどこか期待しているんだろうな」

 

「期待?」

 

「あの人って仕事もプライベートもスキがない感じだろ?だからみんな期待するんだよ、『柚希さんなら正しいことを言ってくれるはずだ。彼女の言うことに間違いなんてない』って、仕事やってる上で間違うことなんて誰にでもあるのに勝手にそんな感情押し付けられたらたまったもんじゃないだろうけどあの人はそんな期待にもなんのけなしに応えてるんだから本当に凄いと思うよ。」

 

「それって俺が先輩にとってかなり嫌味なやつってことか?」

 

「お前も俺もな、まぁもしかしたら柚希さんにもかわいい弱点があるのかもしれないぞ。そう思えば期待しなくなるかもな」

 

始業時間まで同僚と会話を嗜むのは毎朝の日課となっている

眠たい頭もようやく覚醒してきたところで始業開始のチャイムが室内に流れた

 

 

「話変わるけど課長か部長に娘さんっていたっけ?」

 

あまりにも突拍子のない質問に涼太は不思議そうな顔をしている

 

「は?いや知らんな…部長の方はたしか高校生の息子はいるらしいけど娘がいる話は聞いたことがない」

 

「そっかぁ…まぁそうだよな」

 

「お前まさか部長の娘さんに取り入って出世狙ってるのか?」

 

「ちげーよ」

 

「だろうな、いきなり訳のわからない質問するなんてお前らしくないな。疲れてるのか?」

 

明らかに不自然な質問をしてしまったせいで余計な心配をさせてしまった…まぁこいつになら昨日起きたことを伝えてもいいかもしれない

後々になってバレるよりも先に伝えておいた方が禍根ものこさないだろう。

 

 



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6 話

「…てことがあったんだよ」

 

一通り涼太に昨日起きたことを伝え終えると俺をかわいそうなやつでも見るような目で視線を向けてきた

 

「妄想もそこまでいくとたくましいな」

 

「妄想だと思うか…俺がここまで真剣に話しているのに」

 

「まず、その女の子がカードキーもなしにうちの会社のセキュリティを掻い潜って侵入することがありえない」

 

それは俺も思ったよ

 

「物品庫に入るのだってこの部屋を通らなきゃいけないんだからお前が気付かなかったのも不自然だろ」

 

それもそう

 

「日頃の激務で疲れが貯まって癒しを求めるあまりに美少女の幻覚を見たのかもしれないな」

 

それだけは否定したい

 

「部長か課長の娘かとも考えたけどあの時間に娘を会社に置きざりにして帰るような人達じゃないし、そもそも娘はいないらしいし」

 

「伊西が本気で焦ってるのは見ていておもしろいな」

 

「俺が本気で焦っていることが伝わっているのなら話の信憑性も増してくるだろ」

 

「そうだなその美少女を俺に紹介してくれるのなら信じてやってもいいかもな」

 

「やめとけ出会い頭の挨拶で異世界からの来訪者を自称する痛い女の子だぞ、お前じゃ相手がつとまらん」

 

「それは会って話してみないと分からないだろ?」

 

その自信はどこから来るんだ

まぁアストルフォなら誰にでも簡単に懐きそうではあるけど

 

「アストルフォって名前も気になるな、フルネームは聞いたか?」

 

「聞いたけど知らないの一点張りだった、多分出生もよく分かってないんだと思う。シャルルマーニュがどうとかって言ってたがさっぱりだ」

 

「シャルルマーニュ……それってフランスの叙事詩に登場する騎士の名前じゃないのか」

 

俺がシャルルマーニュという単語を口にすると涼太が反応した

 

「フランス…じゃああいつはフランス人なのか…ていうか叙事詩ってなんだ?」

 

「俺も詳しくはないけど簡潔に物語調で歴史を語った長めの詩みたいなものかな、フランスだと武勲詩っていわれてる」

 

「その歴史を綴った詩の中にアストルフォの名前が出てくるのか?」

 

「アストルフォって名前が出てくるかは分からないけどシャルルマーニュは実際に詩の中に出てくるはずだ、聖剣デュランダルとかゲームでよく見る武器もそこからきてる」

 

そういえばこいつは見た目の割に重度のゲーマーなんだ

偏った知識もゲームから培われたものなんだろう

 

「伊西の口から武勲詩の登場人物である騎士の名前が出てくるとは思わなかったな、その美少女の存在ももしかしたら本当かもしれない」

 

「だから本当だって言ってるだろ」

 

「いや実際にこの目で確認するまでは信じないね」

 

埒が明かないな、どうやら俺と美少女が知り合いだという事実を受け入れられないらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

日中の業務に一旦区切りをつけタバコ休憩に向かおうと席を立つと俺のデスクの子機に内線が入った

「はい、広告課の伊西です」

 

「フロントの者ですけど伊西さんにお客様がお迎えに来ておりますので対応お願いできますか?」

 

「わかりました、今行きます」

 

「こんな時間に誰だろうな」

 

通話が聴こえていたのだろう、涼太が話しかけてきた

 

「多分今回の案件の関係者だろ、相手方もまだうちの会社に全信頼を置いているわけじゃないだろうから視察がてらの挨拶ってとこだな」

 

「大変だねぇ…そんな伊西を見送りがてら俺はそろそろ外回りに行くとしますか」

 

「俺からすれば外回りの方が大変そうに見えるけどな」

 

仕方ないタバコは後にしよう

ちょうどお昼も過ぎて夕方近い時間帯だしフロントのお客様の相手をしていれば就業時間だ、今日はそのまま帰るとしよう

 

涼太と二人でエレベーターに乗り一階に降りてフロントへと向かった

 

すると

 

「あ!いたー」

 

なにやら入り口の方から元気な女の子の声が聞こえた

しかもその声を俺は知っている

つい昨日出会ったアストルフォとかいう頭のおかしいフランス人だ

 

「お前なんでここに…うわっ」

 

どーんと俺の胸に飛び込んできたアストルフォを俺はなんとか抱き止めた

 

「なかなか帰ってこないから迎えにきちゃった☆」

 

………こいつ、このアホは朝の約束をもう忘れてしまったのか

 

「迎えなんて頼んでないぞ」

 

「頼んでいなくともボクは自分のしたいことをしたまでさ」

 

「やりたいことやってたら人様に迷惑がかかるだろうが…お前に理性はないのか」

 

「ないね!」

 

言いきるなよ、頼むから

 

 

「おい伊西その女の子はいや美少女はいったい」

 

隣を歩いていた涼太に一部始終を見られていた

開いた口が塞がらないとはこのことだ

あんぐりと間抜けに口を開けて俺とアストルフォを交互に凝視している

 

「はじめましてボクはシャルルマーニュ十二勇士の1人アストルフォだよ♪よろしくね」

 

そんな同僚に元気に挨拶と自己紹介までしているアストルフォはえらく機嫌がいいらしい、満面の笑みを浮かべている

 

「どうも秋月 涼太です。よろしくお願いします」

 

「なに真面目に返してるんだよ、ていうかもういい加減離れろ」

 

未だに俺の胴体にコアラみたいにしがみついているアストルフォを無理矢理ひっぺかそうとしてみるも意外と力が強いのかなかなか剥がせない

 

「いやだー!ボクはマスターと一緒に帰るんだー!」

 

「ふざけんな!俺まだ仕事残ってるからこんな時間に迎えにこられても帰れないんだよ」

 

このままでは埒が明かない

そしてさっきから周囲からの視線が刺さること刺さること、なんの騒ぎだと通行人までもが足を止めて俺達のやり合いに注目している

 

「とりあえず一旦外に出よう」

 

「帰るの?」

 

「帰らない!けどここにいると人目を集めるからどっか適当な喫茶店に行くぞ」

 

「わかったー♪」

 

喫茶店という単語にあからさまに喜んでいやがる

あっさりと抵抗するのをやめたアストルフォの手を引いた

 

「おい伊西、外出届け出しとくか?」

 

「悪い頼む」

 

「わかったよ」

 

俺の動揺っぷりになんとなく察してくれた涼太は後始末を『仕方ないな』と言いながら引き受けてくれた

涼太には明日昼飯を奢ろう

 

 

 

場所が変わって会社から徒歩5分で到着する喫茶店に俺とアストルフォは向かい合う形で座っている

 

 

「なんできた?」

 

「だからマスターを迎えに来たんだよ」

 

悪気はないのだろうが意識がないのも問題な気がする

こいつには理性を教えなければいけないらしい

 

「あのなぁせめてこれから向かうとか連絡入れられなかったか?」

 

「無理だよだってボク電話持ってないもん」

 

…まぁ持ってないなら仕方ないか

 

「会社には来ないって約束したじゃないか」

 

「だってマスターが遅くならないっていうから待ってたけど、お昼過ぎても帰ってこないから心配になっていても立ってもいられなくなって気付いたら家を飛び出してたんだよ」

 

…まぁ帰る時間を詳しく伝えていなかったな

 

先程まで笑顔だったアストルフォはしょんぼりと俯いて表情を隠している

端から見れば大人に説教されてる女子高生だ

あまりいい画ではない

 

「悪かったよ、確かに俺の言葉足らずだったな」

 

俺が謝るとばっと顔を上げて再び笑顔になる

実に単純なやつだ

 

「だが迷惑なものは迷惑だ」

 

はっきり言ってやった

 

「ガーン…そんな…」

 

よよよと体を倒してまた俯くアストルフォ

 

今日日ガーンって声に出して言うやつがいるんだな

 

「心配してくれたことも、迎えに来てくれる心遣いもありがたいけどはっきり言うとありがた迷惑だ、朝にも言ったが会社は子供が遊び目的で来る場所じゃないんだよ、それに俺は毎日家と会社を往復しているんだから心配しなくてもちゃんと1人で帰れる、迎えも必要ないよ」

 

「そんなにはっきり迷惑って言わなくてもいいじゃないか」

 

いかにもな演技でしおらしく気分を落としている様子だ

コロコロと表情を変化させて喜怒哀楽が世話しなく入れ替わっている様子は見ていて少しだけ面白い

 

「まぁ今日は俺の配慮が足りていなかったのもあるから許す。だが二度目はない」

 

俺はコーヒーを飲み干すとアストルフォに精一杯の睨みを効かせた

 

「…マスター」

 

「なんだ?」

 

「会社には入らないからここで待っててもいい?」

 

ずきりと胸が痛む

その顔はずるいのでやめてほしい

倫理的に考えて俺の言っていることに間違いはないはずなんだけど罪悪感が残ってしまう

 

「いや、まだ仕事が終わるまで3時間以上あるからここじゃなくて家で待ってなさい」

 

「それって命令?」

 

急になんだ

 

「別に命令ってほど従わせるつもりもないけどできるだけ俺の言うことは素直に聞いてくれると助かる」

 

「わかったよ、じゃあ言うことを聞く替わりにボクにご褒美を頂戴」

 

褒美だと、約束破ったやつがどの面さげて報酬を求めているんだ

と言いたいところだけどそれでこのアホの欲望を抑えられるというなら安いかもしれない

 

まぁ聞くだけ聞いてみよう

 

「褒美って例えばどんなことすればいいんだ?」

 

「えーとそうだな急に聞かれると迷っちゃうなぁ」

 

うーんと頭を傾けて考えるアストルフォを眺めながらアイスコーヒーを飲んでいるとポケットの携帯が震えた

涼太からのLINE通知だ

『外出届け出しといた』

 

俺はすかさず『ありがとう』と返すとすぐに涼太の方からも返信がきた

 

『礼はいらん、そのかわり説明はさせてもらおう』

 

『だいたいの説明はさっきしたぞ』

 

『俺だけじゃなくて他の同僚とか柚希さんにもしといた方がいい』

 

当然だろう、外出届け出したのならその理由も明確にして会社に報告しておかなければいけない

個人的に不利になりそうな部分はうまく誤魔化しつつそれとない理由づけをして報告しておこう

 

『わかったいろいろとすまん』

 

『明日の昼飯で』

 

『了解』っと

 

手早くメッセージを打ち終わり再び携帯をポケットに戻そうとするといつの間にか隣に居座っていたアストルフォに携帯を持っている手を掴まれた

 

「これ!ボクもこれが欲しい!」

 

携帯を指差して意気揚々と懇願している

どうやら褒美にスマホをご所望らしい

 

「これがあればボクもマスターにいつでもどこにいても連絡がとれるよね?」

 

「そうだな…今後のことを考えてもお前に携帯を持たせるのは得策かもしれない、今日みたいな行き違いもなくなるだろうし…」

 

「じゃあ決まりだ♪」

 

お前が決めるな

俺の金で用意するんだから最終的な決定権は俺にある

 

「携帯は近いうちに用意してやろう。そのかわりアストルフォは俺との約束を遵守するんだぞ」

 

「うん!守る守るよ♪わーいありがとう!」

 

そうやって喜びながらまた俺の胴体に抱き付いてきた

だからそうやってむやみやたらに密着しないでほしい

喫茶店内でも周囲からの視線を感じるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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7 話

 アストルフォと喫茶店で分かれた後は大変だった

 

まず会社に戻ると周囲からの興味からくる圧力にさらされた

ロビーでの騒動がすでに会社全体に広まっていたらしい

俺が所属する広告課にも噂話が届いていた

 

俺はすぐさま上司と同僚達に謝罪をしつつアストルフォとの関係を説明した

 

最終的に俺とアストルフォは親戚同士という関係でアストルフォは今年高校を卒業して大学生になったばかりの女子大生ということになり、まだ都会の生活に慣れていない彼女の生活住居の工面を俺がみている(という設定)

まぁ大まかな説明だったけどおよそこんな感じだ

 

会社に来てしまったのは俺が生活費を渡し忘れていたので取りに来たということにしておいた

 

ここまで説明すれば大抵の人は納得してそれ以上は質問してこなかったけれど柚希先輩だけはしつこく俺に何度も質問をぶつけてきた

 

どうやら柚希先輩は俺とアストルフォのやり取りをロビーで直接見ていたらしい

 

「親戚にしては妙に懐きすぎじゃないかしら、普通公衆の面前で抱き付いたりするものなの?」とか

 

「この間まで女子高生だった女の子と寝食を共にするなんていくら親戚といえど倫理的にアウトじゃないかしら」とか

 

「いつも仕事に追われている伊西くんが女の子一人の面倒をみれるの?」とかなんか私生活と仕事と同時にダメ出しされたみたいで少しだけ凹んだ

 

なにもそこまで言わなくてもいいじゃないか

俺は柚希先輩からあまり信用されていないのかもしれないな

 

まぁ最終的には柚希先輩も渋々といった感じで納得してもらって「なにかあれば相談してね」と優しく言葉をかけてくれた

なんだかんだで優しい人である

 

涼太には建前として他の同僚達と同じ説明をした後に再度本当のことを説明した

こちらも納得させるのに時間がかかったけど実際にアストルフォと話しもしているのだから信じさせるのはそこまで難しくなかった

 

 

仕事を終えて俺は足早に家に帰った

ちゃんと家に帰れているか、どこかで迷子になっていないかどうしても心配になる

そういえばあいつはどうやって会社まで来たのだろう

昨日は会社から家まで一緒に帰ったとはいえ夜道で風景も分かりづらかっただろうし、一度通っただけではなかなか覚えにくいと思うのだが意外と土地勘はいいのだろうか

 

帰り道にコンビニに寄って弁当、飲み物、インスタント食品等の食料を両手が塞がる位多めに買った

家の冷蔵庫にも食材が無いわけではないけど帰ってから料理をするのは正直面倒臭い

まったく自炊をしないわけではないけど平日の仕事終わりはどうしても家事をする気が起きない

 

アストルフォも腹を空かせているだろうしこれから数日は我が家に居座ることを考えると買いすぎってことはないだろう

 

まぁ健康的な面を考慮するならコンビニ弁当とかインスタント食品は避けてなるべくなら手料理を作ってやった方がいいのかもしれない

 

しかし当然というか残念ながら男の一人暮らしで培うことができる料理スキルには限界がある

味もバリエーションも貧困なのだ

 

年頃の女の子が満足する食事を用意してやる自信がない

 

エレベーターで自分の部屋がある3階まで上がる

扉の前まで来てカギを開けようとポケットをゴソゴソと探す。

両手のコンビニ袋のせいでうまくカギを取り出せずにいると扉の向こうからドタドタと人が慌ただしく走ってくる音が聞こえた

 

バターンと勢い良く扉が開かれ咄嗟に後退りする

 

「おかえりー!」

 

本当に元気があることよ

アストルフォのテンションは昼夜問わずいつだって全力全開らしい

 

「ただいま」

 

「びっくりした?ねぇマスターびっくりした?」

 

得意気にサプライズでも仕掛けたかのようなドヤ顔だ

 

「あぁかなり驚いたよ」

 

「そうは見えないよ」

 

「疲れてるとリアクションも取れなくなってくるものだ」

 

「マスターはどうして疲れてるんだい?」

 

この発言を本気でしているのだとすればかなりの図太さだろうな

 

「仕事した日は大体こんなもんなんだよ」

 

「そっかぁそれは大変だね」

 

他人事のようだけどお前のせいでもあるんだよとは言わなかった

済んだことに固執していても疲れるだけだし

 

「マスターこれなに?これなに?」

 

両手一杯の手荷物を見て気になったのだろう

 

「飯だよ、お前の分もあるから持ってくれ」

 

「本当に!ありがとうマスターボクに任せてくれ♪全部持つよ、なんでも持つよ!」

 

半ば強引に俺の手荷物を奪っていきさっそうとリビングへ走っていった

 

マンションなんだからあまり大きな物音は控えてほしいものだ

 

 

「マスターこれ美味しいね」

 

「ん…あぁ…美味いな」

 

「これも食べていい?」

 

「どうぞ」

 

「これも飲んでいい?」

 

「いいよ」

 

「ありがとう♪」

 

 

リビングの小さいテーブルに俺とアストルフォは向かい合う形で座って夜飯を食べている

食事中の会話にたいした内容もなかった

俺の反応が無愛想なのが大きな原因なんだろうけど、アストルフォも食べる方に夢中で必要以上に会話を弾ませようとはしていないようだ

 

よほどお腹が減っていたのかアストルフォの食べる量が凄まじい、やはり年頃だと食欲もそれなりにあるのだろう

 

 

「随分食べるな、昼はなに食べたんだ?」

 

俺がなんのけなしに聞いてみた問いに対してアストルフォは当然のように答えた

 

「なにも食べてないよ」

 

「は?」

 

「昨日マスターが作ってくれた料理食べてからはなにも食べてなかったよ」

 

「なんで…食欲なかったのか?」

 

「そんなことないよ、マスターを迎えにいった時はもうお腹が空いて大変だったんだよ、もう少しで倒れるところだったかも」

 

冗談のように言ってるけどこちらとしてはあまり面白くない冗談だ

 

「腹が減ってたなら今朝渡したお金で好きなもの食べればよかっただろ、なぜ夕食まで我慢したんだ」

 

「マスターが今朝くれたお金って使ってよかったの?」

 

「あたりまえだろ」

 

使ってもらうために渡したのだから使っていいに決まってる

 

「だってこのお金ってマスターがボクに自分の家に帰ってもらうために渡したお金なんだからそれ以外のことで使ったらいけないんだよね?」

 

アストルフォは上着のポケットから折り畳まれた一万円札をとりだし、胸の前で広げてみせた

 

「いや俺は道中の食費とかも考慮して渡したつもりで……つーかお前ひょっとして会社まで歩いて来たのか?」

 

「そうだよ」

 

「……まじか…」

 

ここから会社まで徒歩で行くとなると相当な距離を歩くことになるぞ、おそらく15キロ近くはある距離をこいつは電車やタクシーの交通手段を用いずに往復したことになる

しかも飲まず食わずで

 

 

「マスターどうしたの?」

 

考え込んでいる俺を心配して顔を覗き込んでくる

そういえば先程から食べてもいい?とか飲んでもいい?とか食事の前なんて座ってもいいの?とかいちいち俺に許可を求めてきていた

こいつは俺の許可がないと食事を取ることもしないのか

渡したお金も自分のためには使わずに俺が指示した用途でしか使おうとしないなんて…そこまで忠実なら勝手に会社に来てほしくなかったなぁ

 

「あのなアストルフォ。腹が減ったら我慢せずに食べろ、いちいち俺の許可とか取る必要もないんだ、渡したお金も自分の使いたいように使ってくれて構わないから」

 

「………」

 

一万円札を広げたまま黙り込むアストルフォに俺はさらに言葉をかける

 

「お前はお前で色々な事情があるんだろうけど、年頃の女の子なら多少のわがままを言うのが普通なんだよ」

 

「マスターっていい人なんだね」

 

「いい人っていうかそれが普通だからな」

 

「ボクがいた時代にはそんなこと言ってくれる大人は多くはなかったよ」

 

「なんだそれ、まるで自分が現代人じゃないみたいな言い方だぞ」

 

「そうだね、ボクは今現在この時代を生きる人達とは違う時代の人間だからね」

 

またおかしなことを言い出した

異世界人の次はタイムスリッパーか?

 

「お前は次から次へと面白い言動ばかりで聞いてて飽きないな」

 

「ボクもマスターと話しているととても楽しいよ、なんだか安心するんだ」

 

安心か…褒め言葉として受け取っていいものか悩ましいけどきっとこいつは悪意を持って発言していないだろう

心の底から純粋に思ったことをそのまま口にしているだけだろうさ

 

「とにかく、これからはやりたいことがあればなんでも相談してくれ、金銭面での援助も言いにくいのかもしれないが遠慮はいらないから」

 

「じゃあじゃあマスターさっそく相談があります」

 

元気よく手を挙げたアストルフォ

飯粒が頬についたままだ

 

「明日もマスターのいる会社についていきたい♪」

 

「却下にきまってんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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8 話

久々に更新します
文章の書き方忘れてらァ





「伊西くん、この後時間あるかしら」

 

デスクに座ろうとした俺に声を掛けてきたのは俺が尊敬する上司の一人である柚木先輩だった

 

「よかったら仕事終わりに飲みに付き合ってくれない?」

 

柚木 遥(ゆずき はるか)

 

容姿端麗、仕事もできるキャリアウーマン

社内でも密かに人気がある彼女からのこの魅力的なお誘いを断れる男性社員が果たしてどれほどいるのだろう

アンケとってグラフにしたとして1割にも満たないと思う

 

「すいません、今日はなるべく早く帰りたいのでまた次の機会に…」

 

「昨日のロビーに来てた女の子が気がかり?」

 

見透かすような言い方だ

まぁ当たりなのでなにも反論できないけど

 

「ええ…まぁ…そうですね」

 

実に歯切れの悪い返答だった

 

「そのことでも話したいことがあるの、あまり時間は取らせないから安心して」

 

「…わかりました。じゃあなるべく早めに業務を終わらせます」

 

 

こうして柚木先輩と二人だけの飲み会が密やかに開かれる運びとなったわけだが、俺としてはあまり穏やかな情緒ではなかった

 

理由は先程柚木さんに指摘されたように家で待つアストルフォが気がかりなのだ

 

今朝も俺が家を出る際についていきたそうな顔で見送ってくれた

決してついていきたいと言葉には出さないけど表情でバレバレである

 

帰りが少し遅くなる事を伝えてあげたいけど連絡の手段がないのでアストルフォにはひたすら待ってもらうしかない

携帯はなるべく早めに買ってあげよう

その方がこちらとしても色々都合がいいと思う

 

 

 

 

 

 

「かんぱーい」

 

「いただきます」

 

店は柚木先輩のチョイスだけど意外や意外

店の佇まいは古くからある居酒屋といった感じだった

席は個室であるものの小さなしきりが一枚置いてあるだけの簡易な作りで他のお客さんの話し声も丸聞こえな状態だ

俺と先輩は一杯目のビールを飲んで一息つく

 

「あまり固くなりすぎないでよ、なに食べる?この店の焼き鳥が絶品なの」

 

「じゃあ焼き鳥とチャーハンで、あとビールもう一杯」

 

「私も一杯おかわりと焼き鳥と揚げだし豆腐」

 

スーツ姿とはいえこうやってプライベートな柚木先輩と話すのは俺が入社した年に開かれた歓迎会以来かもしれない

あの時は俺も成人して間もなかったので酒の飲み方もろくに知らない時だったから気分を悪くして早々に帰宅したのをよく覚えている

 

「意外だった?」

 

焼き鳥を手に取りながら俺の顔をじっと見つめてきた

 

「私がこんな中年受けしそうな店を予約すると思わなかったでしょ?」

 

「ええ…正直予想外ではありましたね、柚木さんはもっと女性受けするオシャレな店が好みかと思ってました」

 

「ああ…まぁあの手のお店も苦手って訳じゃないんだけど長時間はしんどくなっちゃうかな、私ってお酒好きだからおつまみの味に重きを置きやすいの」

 

届いた焼き鳥をうまそうに食べ進める姿は日頃から目にする先輩とは真逆の印象を受ける

お酒好きというのも意外だった

強そうではあるけど

 

「あの子すごく可愛かったわね」

 

あの子とはもちろんアストルフォのことだろう

先輩はあのロビーでのやり取りを全て見ていたのだ

隠しようもないし、シラをきるのも難しい

 

「そうですね、俺も久々に会った時は驚きました」

 

「久々なんだ」

 

「…なにか?」

 

「いやいや、なんだか二人を見たときに久々に会った親戚というよりも仲のいい恋人に見えちゃったからさ」

 

「やめてください、俺を犯罪者にするつもりですか」

 

「大袈裟に言うつもりはないけどね…けどああいう大胆な行動は会社ではやめておいた方がよかったかも」

 

まったくもって同意する

 

「すいません、気を付けます」

 

「別に私に謝らなくてもいいわよ、ただ今後はないようにしないと会社での伊西くんの立場が失くなっちゃうと思ってお節介がてらアドバイスしたかったの」

 

「痛み入ります」

 

ぐいっとビールを飲み干して焼き鳥を頂いた

確かに酒に合う

今後はプライベートでもこの店を利用してみようかな

 

「あと気になったからっていうのもあるかな」

 

「なにがですか」

 

「伊西くんとあの子の関係って本当に親戚なのかな?」

 

こちらの心境を見透かされているかのような視線と問いに色んな意味でドキリとする

 

「もしかして疑ってます?」

 

「少しだけね、私の目にはどうにもただならぬ間柄に見えちゃったのよ、しつこいかもしれないけど本当に恋人とかじゃないんだよね?」

 

「ええ、間違いなく俺とアイツはただの親戚ですから安心してください」

 

「……そっか…じゃあ安心だね、よかったよかったじゃあ誤解も解けたことだし飲みなおそうか」

 

「まだ飲むんですか」

 

「なにいってるのまだ2杯目じゃない、あと5杯はいかないと元取れないわよ」

 

「いつの間に飲み放題プランにしたんですか」

 

「さぁさぁ伊西くんも飲んで、今日は早く帰るんでしょ?」

 

「わかりましたよ」

 

先輩の顔が既に赤くなっている

お酒は好きだけどあまり強い方ではないのかもしれない

俺もそこまで強い方ではないが顔にはあまりでないので強いと勘違いされやすいらしい

だが先輩の気持ちいい飲みっぷりにつられて俺も自然と飲むスピードが上がっていく

 

「俺も先輩に1つ質問いいですか?」

 

「どうぞ、セクハラ系の質問は答えないから」

 

「先輩は彼氏いるんですか」

 

「…その質問セクハラの判定としては怪しいかも」

 

「厳しいですね」

 

職場では柚木先輩が誰かと密な関係だとかそんな噂は聞かないけどプライベートの先輩まではさすがに把握しきれていない

これぐらいの確認はしていいと思ったんだが少し踏み込みすぎたかもしれないな

 

「いないよ…今はね」

 

人差し指で口に当ててナイショだよと付け加えた

酒のせいなのか紅く染まった頬と唇の艶やかさに加えて女性特有の甘い香りがしてその色香に戸惑う

 

「今は…ですか」

 

ということはそのうちにできる予定があるんですか?と聞きたいところだけどこれ以上踏み込んだ質問をするのはアウト判定を貰いそうなのでやめておいた

 

 

 

 

「今日はありがとね、私のわがままに付き合ってもらっちゃって」

 

アストルフォのことはあれ以上は深く聞いてくることはなかった、代わりに仕事の愚痴を沢山聞かされたし俺も多少だが仕事関係の愚痴をこぼしていた

頼んだ食べ物をひとしきり平らげたところで今日はお開きにしようと早々に切り上げてくれた

 

「こちらこそです、ご馳走さまでした」

 

「なんか私の愚痴を聞いているだけだったね、ごめんね」

 

罰が悪そうに謝る彼女に対して嫌悪感なんて微塵も沸いてこない

 

「いえ、俺なんかで良ければまた仕事の話聞かせてください、次は俺が奢りますので」

 

「じゃあお言葉に甘えて次は伊西くんからのお誘い期待しちゃおうかな」

 

本当はもっと俺の話を...主にアストルフォとの事を聞きたかったのだろうけど俺の顔色を伺って深く追求することはしないでくれた

変わりに仕事の話ばかりになったけど俺としてはその方がたすかる

 

「あっそうだ伊西くん」

 

帰路につく俺の背を呼び止める

 

「未成年にお酒飲ませたらダメだからね」

 

「...飲ませませんよ」

 

そもそもアイツと酒のマッチアップは想像もしたくない

シラフであのハイテンションなのだからアルコールなんて入れた日には近所迷惑な大宴会が開かれることだろう

 

「一応注意しといただけ」

 

先輩はクスリと冗談っぽく笑うと「また会社でね」と言って帰っていった

 

俺も帰ろう

なんだかんだで遅い時間になってしまったのでお土産でも買って帰るかな

 

 

 

 

 

 

 

 



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9 話

仕事の話ってしたい人としたくない人に明確な線引きがあるよね




 

「ただいま」

 

家に着く頃には23時を回ろうとしていた

酒を飲んだせいだろう、帰り道は千鳥足になっていて歩くペースもいつもより遅い

量はそんなに飲んでいないのだが柚希先輩のベースに合わせて飲んでいたら俺の身体には負担が大きかったようだ

 

「本当に強いな、あの人」

 

革靴を乱雑に放り捨てて廊下の壁に身体を擦りながらリビングに入ったところで異変に気づく

電気は着いているのだがアストルフォの姿が見えない

あの無駄に高いテンションで激しめのおで迎えをしてきてもいい気がするのだが嫌に静かだ

 

「ただいま〜」

 

再度帰宅したことを周知してみたのだが返事もない

 

「...おかえり〜」

 

と思いきや俺の背後から返事が帰ってきた

 

「うおっ!」

 

不意をつかれた

心臓に悪いからやめてほしい

酔いも覚めるってもんだぜ

 

「なんだいたのか、いたのなら最初から返事してくれよ」

 

「あぁずっといたよ、かれこれ3時間以上マスターの帰りを心待ちにして晩ご飯まで準備してずーーーっと待ってたよ、けど待てども待てどもマスターは帰ってこないし用意したご飯は冷めちゃうし、しびれを切らしたボクはふて寝をしてやったのさ...するとどうだい?もう深夜に近い時間になってようやく帰ってきたと思ったらお酒の臭いを纏わせたマスターのご帰宅だよ!一体どういうこと!ねぇ!なんでボクを1人にして外でお酒飲んで遊んで帰って来れるの!!こんなに惨めな気持ちにさせるなんてマスターは鬼畜だよ!鬼畜マスターだよ!!」

 

後半になるにつれ感情が昂ってきたのか声量を増していき最終的にはその場で仰向けになりジタバタと転げ回っている

まぁ分かりやすくいうと拗ねて暴れてるわけだ

 

「す...すまなかった」

 

「ゆるさなーい!!鬼畜マスターの謝罪を拒否しまーす」

 

ジタバタをやめると今度はソファーの端で足を抱えて縮こまるようにして座り込んでしまった

 

これはさすがに帰る時間を伝えなかった俺に非があると思う

タブレットの端末にメールを送信しておくことくらいはできただろうに柚希先輩との飲み会に浮き足立って報告を怠った俺のミスだ

 

「本当に申し訳ない...これお詫びというか、お土産だ」

 

帰りにコンビニで買ってきたロールケーキを差し出す

 

 

チラと俺を一瞥した後に受け取った

中身を確認するとまた俺を見る

 

「こんなものでボクが許すと思ってるのかい?」

 

「…許してもらおうなんて思ってはいない、ただ少しでもこれで気が晴れるならと思ってだな」

 

本音をいうと食べ物で機嫌をとることは難しくないと思う

現に口では否定しつつも既にケーキを袋から出して食べようとしているのだから

 

「まぁ今回はマスターの暴挙を特別に許すことにしてあげるよ、決して甘くて美味しい菓子に絆された訳では無いからね!」

 

ケーキを素手で口に運び美味そうに頬張りながら許された

表情も怒りのそれから満面の笑みに変わっている

 

…犬かな?

 

番犬だとすればかなり不安要素が残るだろう

愛犬と思えば愛嬌たっぷりだと思う、あまり聞き分けは良くないが

 

「すまん、まず風呂に入ってくる、夜飯はまた温め直して一緒に食べよう」

酒の匂いと汗を流してから改めて食事にするとしよう

俺は既に居酒屋でそれなりに食べてきたのだがアストルフォが待っていたのならその気持ちを汲んで一緒に食べてやりたい

…なんてことを思ってしまうのは俺も段々とコイツに対して甘くなってしまっているのかな

 

「ボクも一緒に入るー!」

 

「絶対に来るな、お前はまたご飯を温めなおしておいてくれ」

 

「やだやだー!今日に限ってはマスターの意見を聞き入れない権利がボクにもあると思います!」

 

…くっ!

真っ向から反論してやりたいけれど俺にも非があるので強くは言い返せないジレンマだ

 

「確認したいんだが俺と一緒に風呂に入ってどうするんだ?」

 

「え〜そんなことボクの口から直接言わせるのかい?マスターってばそんなに恥じらうボクを堪能したいなら初めから伝えてくれよ〜」

 

「いやお前に恥じらいがないことは既に知っている、そんな期待はしていない」

 

「してよ!ボクに期待をしてくれよー!」

 

俺の腰にしがみつきながら叫ぶアストルフォを引き剥がそうとするけど意外と力が強くて中々離れない

 

「ええい子供じゃないんだから風呂くらい1人で入れるだろうが」

 

「マスターともっと仲良くなりたいんだよぉ!1人で留守番してたんだから少しはボクのわがままに付き合ってくれてもいいじゃないかぁ!」

意外にも健気な理由に少し心が傾きかけたが、さすがに未成年の少女と社会人のアラサーが混浴するというのは背徳感が強すぎて俺には背負いきれない

 

「……わかった」

 

ということで妥協案を提案することにしよう

 

 

 

 

 

 

「これが終わったら大人しく出ていってくれるんだな?」

 

「もちろんさ、マスターとの約束は守り通すよ♪」

 

アストルフォはるんるんと鼻歌まじりに大人しくバスチェアに座っている

そう…バスチェアがあるということはここは浴場だ

俺とアストルフォは2人で浴場にいることになる

これだけでも十分に世間から後ろ指を刺され非難を浴びてもおかしくない状況だ……だが最後の一線は超えてはいけない

 

男女間のトラブル、特に成人男性と未成年の女の子との関係は一生を棒に振るリスクがあることをおよそ8年以上の社会生活で学んでいる

 

 

アストルフォは俺に風呂で体を洗って欲しいらしい

その要望だけを叶えるのなら俺が服を脱ぐ必要はないわけだ

服を脱ぐのはアストルフォだけでも十分だろう

そして俺が一糸まとわぬ女性の裸体を見てしまうという問題もタオルで目隠しをすることでカバーした

「あまり動き回るなよ、こっちはなにも見えないんだから」

 

「じゃあそれ外しちゃえばいいじゃないか」

 

「その瞬間お前を家から追い出すことになるぞ」

 

「うぅ……わかったよぅ、じゃあその状態でいいから早くボクの髪を隅から隅までくまなく洗っておくれ」

 

「無駄に艶かしい言い回しをするんじゃねぇ」

 

俺はシャンプーを手に取り適量を出すと手の上で少し泡立てた後にアストルフォの髪に馴染ませていった

サラサラのロングヘアーにたちまち泡だっていくのが見えなくても感触で分かる

 

……つくづく思う

こいつの無防備なところは世間知らずとか、未成年だからとか、そんな簡単な理由で済ませてしまってはいけない位に危うい

なぜ会ったばかりの俺にここまで身体を許せるのだろうか、もしかしなくとも普段からそれを許容させるような環境に身を置いていたからじゃないのか、今もこうして平然と風呂場に同居しているというのにご機嫌の様子だ

 

「♪」

 

髪を洗われているだけだというのに鼻歌をするほどご機嫌らしい

他人の頭を洗ってあげるなんて人生で初めてなものだから変に緊張してしまっている

洗ってあげる立場としては喜んでくれているのなら悪い気はしなかった

髪の毛全体を洗い流した後にリンスまでしてやった

これで俺の役目も終わりだろう

 

「どうだ?もういいんじゃないか?」

 

「そうだね、じゃあ次は背中洗ってほしい!」

 

「勘弁してくれ、もう自分で洗えるだろ」

 

「背中だけだから……ね?お願い」

 

「……」

 

目隠しをしているからわからないがアストルフォの猫なで声だけで十分に表情が想像できてしまう

そこらの男なら簡単に落とせてしまうだろう

 

「…わかったよ」

 

如何せん今日の俺はこいつの言いなりになるしかないようだ

 

 

スポンジにボディソープを垂らし適度に泡立てる

見えなくてもいつも使っているから物の把握はできているようだ

 

再びアストルフォの方に向き直し背中の位置を確認するために手を前に出した

 

「ひゃう!」

 

不意にアストルフォの身体に触れてしまったようだ

なんとも可愛らしい悲鳴が風呂場に響いた

 

「す…すまん!」

 

慌てて前に出した手を引っ込めようとするとその手を掴まれた

 

「す…少し驚いただけだから大丈夫だよマスター」

 

導くように自分の身体に俺の手を触れさせる

 

「急にそんなところ触るなんてエッチだなぁ」

 

いやわからん!見えないからどこを触ったのか全く分からないけど、コイツが思わず反応してしまったのならかなり危うい箇所に触れてしまったのかもしれない

ていうか俺は今どこを触っているんだ?

スベスベの肌の感触があるから頭ではない

 

背中か?肩か?もしかして前の方か?

 

「ねぇ」

 

「うおっ!な…なんだ?」

 

「同じ場所ばかり触ってないでもっと全体的に洗ってよ〜」

 

「あぁ…わかった」

 

全大敵に触ったらその瞬間アウト判定だろうが!

極力余計な所を触らないように洗い始めよう

 

「だいたい洗えたんじゃないか?」

 

「まだまだ〜♪今度はこっちだよ」

 

また俺の手を掴んで別の場所を洗うように導く、それを数回繰り返した

結局背中だけじゃなく足先や腕も洗ってやりあとはシャワーで流すだけとなった

 

「マスターは本当に恥ずかしがり屋だね、目隠しをしないと一緒にお風呂にも入れないなんて大変そうだなぁ」

 

「他人事のように言うじゃねぇか、お前のためでもあるんだからな」

 

「ボクのためを思うならマスターも一緒に服を脱いでお風呂に入ってよ〜親睦を深めるためには裸の付き合いってやつが必要なのさ!」

 

「それは男同士の場合だろうが」

 

「だからボクは男なんだってば!」

 

「そんな見え見えの嘘信じるわけないだろ」

 

「本当なのに〜」

 

「余計なこと言ってないでさっさとシャワーで洗い流すから目ぇ瞑れ」

 

「はーい」

 

髪に馴染ませたリンスと身体の泡を洗い流すためにシャワーの勢いを調節して頭から流してやる

 

「マスター」

 

「なんだ?」

 

「気持ちよかったよ、ありがとね♪」

 

「…そりゃよかった」

 

素直に感謝を伝えてくれるのは普通に嬉しい

第三者視点で状況だけ見ると複雑な心境ではあるけど

 

「ほら終わったぞ、あとは自分で身体拭いて服着て待ってろ」

 

「はーい」

 

名残惜しそうに返事をしたアストルフォは脱衣所へと移動していった

 

うん……正直危なかった

言葉では冷静を装っていたけど何度目隠しを外してしまおうと思っただろうか

いっその事本人が嫌がらないのなら別に構わないだろうと勝手な思い込みで一線を超えるところだった

 

「酔ってるせいだ、絶対に」

 

そうやって何度も言葉にして邪念を払うように頭を抱える

自分の理性の弱さにイライラする

先程上司に釘を刺されたばかりだというのに眼前の欲求を満たそうと浅はかにも手を出しかけた自分が情けない

 

 

 

「遅いよー」

 

「あぁ悪い少し考え事してた」

 

アストルフォを洗ってやった後は自分もシャワーを長めに浴びた

冷水じゃないけど頭を冷やして置かなければまともに顔を合わせられる気がしない

 

「さ、座って座って、早速頂こう♪」

 

「ていうかその格好はなんだ」

 

食卓に座ろうとしたが裸にシャツ1枚いうアストルフォの姿を見て指摘しないわけにはいかない

 

「この服?マスターのやつだよ」

 

「いやそれは分かってるけど俺が貸したのはシャツとジャージ上下だろ、なんでシャツ1枚しか着てないんだ」

 

「だってお風呂上がりだと暑いんだもん、この格好の方が涼しくて動きやすいよ」

 

言いながらシャツの端を持ってパタパタと仰いでいる

その仕草も非常に目に毒なのでやめてほしい

俺のサイズなので大きめのシャツでよかった……のか?余計に扇情的になってないか?

 

「風邪ひくぞ」

 

「いただきまーす♪」

 

……無視かよ

 

まぁ俺の帰りを待って夜飯が遅くなったのだから咎めることはできないし、嬉しそうに食事してるところを邪魔するのも心が痛む

お小言はこれくらいにしておこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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10 話


もっとかっこいい文章書けるようになりたいなぁ……







 

 

土日の繁華街は平日に比べて人が多い

俺みたいな出不精の人間は貴重な休みをわざわざ人混みに揉まれに行こうとは思わないので買い物は大抵通販サイトで済ませるのだけど、さすがに急を要する場合は通販よりも直接買いに行った方がいい

 

先日から急に居座ることになってしまった同居人との共同生活を快適にするためにも最低限必要なものを揃えなければいけない

 

あの快活な美少女の無防備すぎる言動に振り回されてすっかり忘れてしまっていたが今後共に生活していくための準備を進めなければ胃に穴が空きかねない

俺の家に転がり込んで来た時には財布も携帯も自分の着替えすら持っていないのだから困ったものだ

今までどうやって生活していたのだろう

 

「こんなものか」

 

アストルフォ用の食器、洗面用具、衣類(タオル等)を一通り購入した俺は一息ついてショッピングモールのベンチに座っていた

 

今までは1人分しか持っていなかった日用品がもう1人分増えるというのはなんだか感慨深いものだ

 

仕事疲れで重くなる足を休めていると離れた所から声がした

 

「マスターー(」≧∀≦)」」

 

俺の視界の先には大きく手を振りながら駆け寄ってくる美少女が映る

 

「すごいねマスター!ここってなんでも売ってるんだね!右を見たら雑貨屋に本屋でしょ、左を見れば美味しそうな香りが漂うレストランだよ♪あとね5階には映画館があるんだって、ねぇはやく観にいこうよ٩(ˊᗜˋ*)و」

 

はやる気持ちを抑えきれないのだろうか俺の手をグイグイ引っ張り急かしてくる

ちなみに今日のアストルフォは今まで着用していた俺のパーカーと半ズボンではなく、先程購入したイマドキの若者が好みそうな服を着ていた

上は白のセーターに下は短めのスカートを履いて生足をさらけ出している

 

「ちょっと待って……頼むからもう少し休ませてくれ、あと俺のことをマスターって呼ぶな、色々と目立つから」

 

それでなくても既に目立っているのに(主にアストルフォが)この上さらに注目を集めるような言動は控えて欲しかった

 

「じゃあなんて呼べばいいんだい?」

 

「そりゃあお前……」

 

なんて呼ばせればいいんだ?

一応形式上は遠い親戚って名目だから……

 

「……叔父さんとか」

 

「おじさんかぁ……なんかしっくりこないなぁ、マスターはそれでいいの?」

 

「よくはないけどマスターよりは健全な気がする」

 

同居している時点で健全ではないけどな

 

「ご主人様♡とかどうだい?」

 

「却下で」

 

「じゃあアナタ♡とか、あるいはダーリン♡とかもあるよ」

 

「…以前も説明したが、俺とお前の関係は遠い親戚(設定)なんだからそういう呼び方はおかしいだろ」

 

「マスターのその意見に異議を申し立てまーす!」

 

元気よく手を挙げて俺に迫る

 

「なんだ、いきなりどうした?」

 

「そこは親戚じゃなくてもっと親しい関係になればいいんじゃないでしょうか!」

 

「?」

 

「つまり恋人同士になっちゃえばマスターが気にしてる世間体的な問題が万事解決ってことさ( *¯ ꒳¯*)」

 

「お前がもう少し世間体を気にした行動ができれば俺の悩みは万事解決なんだけどな」

 

一件落着と言いたげな満足気なドヤ顔を披露している

なんだかコイツを見ていると俺の悩みなんて大したことないものなんじゃないかと錯覚してしまう

 

「俺とお前はそういう関係になれないしなるべきじゃないんだよ、それこそ世間が許してくれないだろうさ」

 

「でもさ」

 

一息置いてアストルフォが続ける

 

「マスターが色々なことを考えているのは分かるんだけど考えてばかりじゃなんにも進まないじゃないか」

 

そう言うとアストルフォは俺の腕をぐいっと引っ張って身体を密着させてきた

それこそ傍から見れば恋人同士だと思われかねない程の密着具合だ

 

「まずは行動してみようよ!周りがどうこうじゃなくてマスターがしたいことを全力でやってみよう(≧∀≦)ボクはね今マスターと恋人同士みたいにデートしたいんだ」

 

このコミュ力化け物め、距離の詰め方が半端じゃないな

 

「これでボクはマスターの恋人だよ」

 

俺がやりたいことは一刻も早く買い物を済ませて家に帰りたいことだよ……とは言えんなぁ

嬉しそうにはしゃいでいる姿に水を差すのも本意ではないし、世間体とか言っておきながら悪い気もしないし

1つ問題があるとするなら周囲から刺さるような視線が注がれていることくらいか……

 

「わかったよ…今日はお前のわがままにできるだけ付き合ってやる」

 

「本当に?やったー・:*+.\(( °ω° ))/.:+」

 

余程嬉しいらしい

まぁ週末まで極力外出を控えさせていたから久々に羽を伸ばせて嬉しいのだろう

 

「そうと決まればさっそく映画館にいこう٩(ˊᗜˋ*)و」

 

「なんか観たい作品でもあるのか?」

 

「あるある!昨日CMで流れてた【呪殺の村】っていうのが気になってたんだよね((o(。>ω<。)o))」

 

ピタリと足が止まる

 

「それってもしかしてホラー映画じゃないか?」

 

「そんなのタイトルからも分かるとおり、もしかしなくても確実に完全に明白にホラー映画に決まっているじゃないか(* 'ᵕ' )☆」

 

「…………」

 

なかなかその場から動くことのできない俺をアストルフォは急かすようにグイグイ引っ張る

 

「どうしたんだいマスター?はやくはやく!公開時間まであと10分しかないんだよ」

 

「いやぁちょっとその映画はなぁ…他のやつにしないか?」

 

「えーやだぁ!この映画がいいんだよぉ、あ!もしかしなくてもマスターってこういう系苦手なのかい?」

 

取り繕っても仕方がないので素直に白状する

 

「実はあんまり得意じゃないんだよ、昔からこの手の映像作品は最後まで見れたことがない」

 

「そうかそれは仕方ないね」

 

「わかってくれたか」

 

「でも安心してくれ!今日はボクが隣についてるからどんなことが起きても無問題さ( *¯ ꒳¯*)」

 

あ…ホラー映画は見るんだ

他のやつに変えてくれたりはしてくれないんだ…

 

「怖くなったらボクの手を握ってくれよo(`・ω´・+o) そしたら大丈夫だよ〜って頭をナデナデしてあげるぜヾ(・ω・`*)」

 

その図がもはやホラーだろ

ていうか男として情けなさすぎる

 

「どうしても嫌なら違うのにするけど?」

 

「……う…うーんそうだな」

 

俺が本当に嫌そうな顔をしていたことに気付いたのか妥協案を提示してくれた…気遣いからか笑顔ではあるが残念そうな表情だ、

女の子にこんな顔をさせてまで我が身かわいさを優先させていいものか、答えは否である

 

「いや大丈夫だ…ホラー映画くらい余裕で観れる、それに今日はお前のわがままに付き合うことにしたんだ、いまさら前言を撤回したくない」

 

グッと拳を握り込み、これから襲ってくるであろう恐怖体験に備えるべく物理的にも精神的にも重くなった足をなんとか前に進めた

 

「一世一代の決意表明中に水を差すようだけど映画を観るだけだよマスター」

 

「冷静なツッコミどうも、あとマスターって呼ぶな」

 

「じゃあご主人様♡」

 

「やめんか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜すごい迫力だったね(*>ω<*)」

 

「……ウン…」

 

「あの呪われた村は実際に存在した集落を元に制作されたらしいよ(*>ω<*)」

 

「………ソウダネ……」

 

「だからあんなにリアリティがあったんだね〜(*>ω<*)」

 

「…………ソウカモネ………」

 

「大丈夫?(੭ ᐕ))」

 

「……もうちょっと待ってくれ、今殺していた心を取り戻そうとしている最中だ」

 

映画は面白かったのかもしれない、後半からはもうストーリーを楽しむ余裕すらなく、いつ襲ってくるかわからない恐怖に身を固めて恐怖心から脱却するべく余所事を考えていたがそれも映画館の大音量によって霧散していった

 

「マスター途中から小声で数字を羅列してたよ」

 

「あれは素数を数えてただけだから気にするな」

 

「いや気にするよ、映画よりそっちの方が怖かったよ(´・ω・`)」

 

「すまん、鑑賞の邪魔をした」

 

「まぁ気を取り直していこうよ٩(ˊᗜˋ*)وそろそろお腹も空いてきた頃合いじゃあないかな、ほらさっきのレストランで美味しいもの食べたら嫌なことも忘れるってもんさd(≧▽≦*)」

 

う…年下の若い女の子に気を使わせてしまってるのがなんとも心苦しい、もっとスマートにエスコートしたかったなぁ

 

「そうだな腹も減ったし適当に食べてから今日はさっさと帰ろう…と、その前にトイレ行ってくるわ」

 

「わかったーじゃあボクはあそこのベンチで待ってるね(。・ω・)ノ゙」

 

「おう」

 

映画を観終わるとやたらとトイレに行きたくなるのはなぜなんだんだろう…ちなみにこの尿意は恐怖心とは別である

 

トイレを済ませて手を洗いながらふと思ったのだがアストルフォは男を自称しているけれど公共のトイレはどっちを使うのだろうか、あの見た目で男子トイレに入ったら軽い騒ぎになるだろうからやはり女子トイレか…いやぁなんとなくは気づいてきたのだが

アストルフォは本当に男なのかもしれない

先日一緒に風呂に入って身体を洗ってやった時に男性特有の骨格というか感触だった……それが未だに手に残っている

あと初日にヤツの半裸状態を目の当たりにした時にどことなく少年のような体付きをしていたのだ

そこまで確認しておいて俺はなぜアストルフォを男性だとみとめられないのだろうか…

もしかすると俺はアストルフォを女性だと思いたくてそうであって欲しいと願っているのかもしれない

 

本人が男性を自称するのを頑なに認めないのはそんな俺の偏った願望の押しつけに過ぎないのかも…だとすればなんとも身勝手な感情だろう…昨今の傾向としてこの手の問題は非常にデリケートだというのに、今度改めてアストルフォの素性を確認したうえで俺の認識が間違っていたのなら正式に謝罪しよう

 

そんな決意を固めながらトイレを後にしてアストルフォの元へ戻ると

 

「ねえ君かわいいね、もしかして芸能人?」

 

「この後暇?よかったら俺達と遊ばない?」

 

見知らぬ男2人がアストルフォに話しかけている

 

「…えーと」

 

珍しく動揺しているのだろうかオロオロと困ったようにあたりを見回していた

 

「ごめんね、怖がらせるつもりはないんだ」

 

「そうそう、ただあんまりにも君がかわいいからさぁ、名前は?どこから来たの?」

 

「な……名前はアストルフォで…家は…」

 

「あすとるふぉ?…外人か?」

 

「日本語上手いねぇ俺らより上手じゃん!」

 

ケラケラと笑い合う男二人とは対照的に明らかに怯えているようにも見える……いかん!冷静に観察している場合じゃなかった

さっさと助けなければ

 

「おいアストルフォ!」

 

咄嗟に声を掛けてやると俯いて暗くなった表情がパッと明るい満面の笑みへと変わった

そして両手を広げて俺の元へ駆け寄ってくる

 

「あ!ご主人様ーー!ヽ(*゚∀゚*)⸝︎︎」

 

『ご主人様!?』「ご主人様!」

 

見知らぬ男2人が驚きのあまりハモる

それに追随するように俺も声が出る

 

「ご主人様ぁ(((´。•(•ω•。`)スリスリ♡」

 

俺の腰に抱きつきコアラのようにホールドしたかと思えばスリスリと頬擦りしだした

 

「お前!公共の場でその呼び方はよくない!非常によくない!あと抱きついて擦り寄るな!」

 

「だってぇ〜怖かったんだもん:(;>д<):ご主人様に待てを命じられたからボクいい子にしてたよ、だから慰めて?ボクをたくさん甘やかしておくれよ〜ヨヨヨ(´•̥ω•̥`)」

 

こいつ…わざとか?わざとなのか?

 

「わかったから一度離れろ!あとご主人様って呼ぶな!」

 

「ひどい!昨日は一緒にお風呂にも入ってくれたのに今日のご主人様はドSなんだねヨヨヨ(´•̥ω•̥`)、けどそんな待遇を受けてもボクはご主人様にこの身を捧げるよ」

 

わかった…こいつわざとだわ

嘘泣きだもん、やってるわ

 

「なんかただならぬ関係じゃね?」

 

「あぁ…俺達がつけ入る余地全くねぇな」

 

先程まで女の子を引っ掛けようとしてた2人も唖然というかもはや呆れてしまっているではないか、そしてさらに周囲からの視線が刺さること刺さること…ショッピングモールのど真ん中でサボテンになっちゃうよ

 

「ご主人様ぁ今夜は一緒の布団で寝ようね(((´。•(•ω•。`)スリスリ♡」

 

「……お仕置タイムが必要らしいなぁ…アストルフォ」

 

「ご主人様(-ω-;)アレ?」

 

どうやら俺を本気で怒らせたらしい

こいつの度が過ぎた行動は今日で見納めだ

今後の生活のためにも俺の社会人生活が一定の水準を下回らないためにもこれは必要なことだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アストルフォのセリフに顔文字を付けてみました
感情豊かになったので個人的には満足です
読みにくかったらごめんなさいm(._.)m


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11話

筆がはやくなる秘訣を教えてください









 

 

ショッピングモールでの騒動がひとまず落ち着いて、買い忘れがないか生活必需品を再度確認した俺達は自宅に着いたところだった

 

「伊西さん今日はボクのために色々買ってくれてありがとね」

 

遠慮がちに口を開いたアストルフォはふとお礼を言ってくれた

 

「一緒に住む上で最低限必要な物を揃えただけだ、別に大したことはしてないよ」

 

ちなみに俺の呼び方は『マスター』から『伊西さん』へと変わった、というか俺がそう呼べと強制させた

『マスター』とか『ご主人様』なんて呼び方で注目を集めて針のむしろになるのはもう勘弁なのでこういう呼び方に落ち着いたのだ

 

「ああいう騒ぎを起こすようならもう一緒に買い物は行かないからな」

 

「…ごめんなさい(´・ω・`)」

 

俺のガチ説教がかなり響いたのだろう

いつもより元気がない

 

 

「………………」

 

「…………………」

 

にしても静かだな

今までお構い無しに騒いでいた分、静かになった時のギャップを激しく感じる

 

「………………(´・ω・`)」

 

 

ぐ……まるで幼気な少女を懲らしめてしまったような罪悪感だ

間違ったことは言っていないはずだが少し怒りすぎたのかもしれない

 

「まぁ…反省してくれているならそれでいいんだ」

 

「うん……」

 

「そういえばこれ買っておいたぞ」

 

「……これって」

 

アストルフォに今日新しく契約したスマホを渡した

 

「機種は最新じゃないが、それなりの性能だから使い勝手は悪くないはずだ」

 

「いつ買ってたの?」

 

「お前が1人で買い物に夢中になってる間にサクッと契約したんだ」

 

今どき1人で携帯を2つもつことは珍しくない

仕事用ということでもう1つ携帯を契約するのは案外簡単だった

色は無難に白にした

 

「ありがとう!*.(๓´͈ ˘ `͈๓).*」

 

突然元気になったと思ったらスマホごと俺の手を握ってきた

突然のことでドキッとする

 

「以前に約束していたからな」

 

たしかご褒美という名目だったかな

今後の携帯代が増えてしまうがコイツに連絡手段を与えることは必須だったので必要経費と捉えることにしよう

 

「ねぇねぇこれってどうやって使うんだい?」

 

「携帯持ったことないのか?」

 

「うん」

 

「そんなに難しくはないから感覚で覚えていけると思うぞ、とりあえずはアプリのインストール方法と俺との連絡手段だけは教えるからあとは自分で使ってみてくれ」

 

「わかった( ᐢᢦᐢ )」

 

正直若い子が好むアプリやゲームはよく分からないので、どんなアプリを入れるのかは本人に任せておくとしよう

 

「本当にありがとね、マス…じゃなかった伊西さんd(≧▽≦*)!」

 

「どういたしまして」

 

コイツの機嫌を良くするのはマジで簡単だな

食べ物とか適当に与えておけばいいのだから

という思考になってる自分が恐ろしい…もはやそれはペットに対しての感情だろうが

 

「♪」

 

はやくもスマホに夢中なアストルフォはひたすら画面を触り続けて「おー( *˙0˙*)」とか「すごーい(*゚Д゚艸)」という独り言を喋っている

余程スマホが嬉しかったようだ

喜んでくれたのなら用意してやった甲斐があったのでなによりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週末を終えて月曜日が再び始まる

 

携帯の目覚ましが鳴る前に目覚めてしまった俺はいつも通りシャワーを浴びて髭をそり、身なりを整えて出勤の準備を終えようとしていた

 

今朝の朝食は納豆と味噌汁

朝はあまり食べられないのでこれでも多いくらいだ

一応同居人のためにご飯は2人分炊いておいたので炊飯器の中にはまだ白飯が残っていた

 

食器を片付けて玄関へ向かおうとすると同居人が起きてきた

 

「マスター…じゃなかった伊西さんおはよ〜( ¯꒳¯ )ᐝ」

 

「おはよう…ていうか俺はもう会社いくからな、朝飯はご飯だけ炊いておいたからおかずは自分で用意するんだぞ」

 

「わかった〜」

 

目を擦りながら気だるそうに返事をする

 

「もしかしてあれからずっと携帯触ってたのか?」

 

「うーん…ずっとじゃないよ、夜中の3時位にやめたから」

 

「めちゃめちゃ触ってるやないかい」

 

だからこんなに眠そうなのか、初めての携帯で嬉しいのは分かるがほどほどにしてほしいものだ

 

「睡眠不足は不健康を助長するんだぞ」

 

「伊西さんがボクに買ってくれたから早く使いこなせるようになりたかったんだよぉ( ¯꒳¯ )ᐝ」

 

「それでお前が体調崩したら元も子もないだろうが」

 

「それもそうか〜じゃあボクは健康な生活を助長するためにもう一眠りすることにするよ〜おやすみ〜( ¯꒳¯ )ᐝ」

 

「はいはい、おやすみ」

 

ゆっくりと方向転換をして再び自分の寝床へと戻って行った

このまま昼夜逆転の生活になるんじゃないかと少し心配をしたけどそうなれば昼間に勝手に外出して会社まで襲撃してくることはなくなるのかもしれない

いや、夜に騒がしくされるのは俺の睡眠の妨げになるからそっちのほうが迷惑だな…

 

革靴を履いて自宅を後にする

アパートを出たところで自分の携帯がピコンと鳴った

確認をしてみるとアストルフォからスタンプの絵文字で『行ってらっしゃい』と一言送られてきていた

 

はやくも携帯を使いこなしているようだ

やはり最近の若い子は電子機器への対応が早いらしい

ていうか…

 

「このスタンプ有料じゃね?」

 

帰ったらアストルフォに課金禁止を命じておかなければいけないようだ

 

 

 

 

 

 









短めですまぬ




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12話




惰性にならないように気をつけてます







 

 

 

秋月涼太(あきづきりょうた)は社内でもそこそこに名が知れている社員の1人だ

俺が所属している広告課と一緒の階層にある営業課に所属している若手…いやもはや実力的にはベテランの域に達しているであろう営業成績を毎月叩き出している相当やり手のエリートといってもいいだろう

有名というのは優秀な営業成績でもそうだがその見た目も理由の一つだ

とにかくイケメンの高身長でスーツ姿が様になっていやがる

 

女性社員からはそれなりの人気を獲得しているという噂もたまに耳に入る

同期で入社した俺とは天と地の差だ

 

「よう伊西(いさい)、今日の昼空いてるか?」

 

そんなやつが俺みたいな日陰者に気さくに話しかけてくるのは単に席が近いからなのか、もしくは同期で同い年という接点からなのか、いずれにせよ会社内のコミニュケーションにそこまで積極的ではない俺にとって涼太とのやりとりはちょうどいい息抜きなのだ

 

「ああ、空いてる」

 

「向かいのラーメン屋で昼飯どうだ?もちろん伊西の奢りでな」

 

「お易い御用だ」

 

涼太(りょうた)には先日アストルフォが会社に凸してきた際に色々と迷惑もかけたしその後のフォローまでしてもらったから、昼食を奢る程度の礼くらいはして当然だろう

 

「ラーメンでいいのかよ、もう少し贅沢してもいいけど」

 

「彼女も妻もいない独り身の独身野郎なら容赦なく高級ランチに誘っていたが、今はもう違うからな」

 

ニヤリとしたり顔で挑発するようにそんなことを言う

そんなイケメンには一発活を入れた後にあの快活美少女を押し付けてやりたい

 

「他人事みたいに言いやがって」

 

「そうでもないぞ」

 

パタンと手にしていた手帳を閉めて続ける

 

「先週の一件で噂が広がってるからな、それの火消しに俺が一役買ったわけだ」

 

「なるほど」

 

それを聞いて俺もキーボードから手を離し涼太に向き合った

 

「適当な嘘で噂を塗り替えるのは楽だが後が怖い、俺としては確かな情報をもとに事実を整理したいわけよ」

 

「…ごもっとも」

 

なんとなくこいつの言わんとすることが理解できた

用は俺とアストルフォの関係と今後の展開について詳しく聞きたいのだろう

 

まぁ実際涼太には迷惑もかけたしこいつにだけはなるべく包み隠さずに話しておこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーメン大盛りを食べ終えた後、2人で喫煙所に入り一服しながらアストルフォとの共同生活についてできるだけ端的に伝えた

 

「結局同棲することにしたか」

 

ふぅーと吐いた煙が換気扇へと吸い込まれていった

こいつが吸ってるiQOSの香りはどうにも苦手だ

というかiQOSの香り全般あまり得意ではない

現に俺はいまだに時代遅れの紙タバコを愛用している

 

「同棲って言うな、同居だ、たまたま1つ屋根の下生活を共にしているだけだ」

 

「年頃の男女が1つ屋根の下生活を共にしてることを同棲って言うんだよ」

 

「年頃の男女だろうとなかろうと俺とアストルフォはそんな浮ついた関係じゃない、第三者がどう捉えようとそこだけは揺るぎない事実だ」

 

「今はだろ?」

 

「何が言いたい?」

 

「伊西があの子と懇意な関係を築くのも時間の問題じゃないのか?、あれだけかわいい女の子が同居人で手を出さない自信があるとでも?」

 

「……いや、相手がいくら可愛かろうが未成年に手を出したら社会的にアウトだろ」

 

紙タバコの煙を目で追いながら返答する

 

「それを言うなら同居してる時点でアウトだろ」

 

間を置かずに鋭いツッコミが帰ってきた

 

「…いやいや、ないから絶対ないから」

 

「まぁ会社辞める時は事前に教えてくれよな」

 

「辞めないから!社会的に死ぬ予定は無いから!」

 

そもそもアストルフォは男だから...とは言えなかった、まだ俺の中で確かな確証はないのに迂闊な発言は避けるべきだろう

邪念を払うようにタバコの火を消した

 

「いずれにせよ同居を始めるなら色々と気をつけなきゃいけないだろうな、頑張れよ」

 

あんまり心無い励ましに力無く「ああ」と応えた

他人事だとしてももう少し親身に聞いてくれてもいいだろうにこういう所は冷めた対応だ

 

「だけど意外だったよ」

 

「なにが?」

 

「伊西なら面倒事は避けて同居なんて選択肢はしないと思っていたからさ」

 

「ああ…まぁ仕事だったらそうしてたかもな」

 

「かわいい女の子と同居する仕事なんてないぞ」

 

「そうじゃなくて!…仕事の命令だとしてもリスクがあることは避けてきたしそのスタンスはこれからも変わらないだろうけど、事プライベートに関してはそういう線引きが上手くできてないんだなぁと反省してる」

 

「今になって後悔か?」

 

「…いや」

 

2本目のタバコに火をつけてふぅーと煙を吐いた

 

「反省はしてるけど後悔はしてない。アイツさ…俺の家に初めて来た時に帰る場所もないし、知り合いもいないって言ったんだ。俺だけが頼りかのような期待した表情で大人を見やがった」

 

「期待か……」

 

涼太も1本目を吸い終わり、すぐに2本目を取り出した

 

「ほぼ初対面の大人にそんなこと言うやつを追い出すほど薄情な人間じゃなかったってことだ、俺は」

 

「伊西が根っから冷たい人間だったら俺はお前に話しかけてないと思うよ、意外とは言ったがその選択は悪いとは思わないぜ」

 

「悪い結果にならないよう善処するよ」

 

なんとも無責任な言葉だ

俺がアストルフォと今後どうなっていくのか誰も分からないし知り得ない、問題の先送りかのように善処するなんてよく言えたものだ

そんな言葉も煙と一緒に霧散していく

 

「話し変わるけど今溜め込んでる業務はあるか?」

 

「……いや特にはないな、強いて言うならタイムスケジュール管理が終わってないからそれの調整と見直しをやるくらいで後は適当に残業して終わらせられる、次が控えてる訳でもないから珍しく溜まってない...それがどうした?」

 

「まぁ聞いてくれ...」

 

涼太が仕事の話題を持ち込む時は大抵頼み事がある時だ、ただ俺の直属の上司とは違ってこちらの予定度外視の無茶振りやスケジュールの変更を要求するようなものじゃなく空いているかどうかを聞いた上での申し出なので迷惑はしていない

さらに、俺の評価まで上げてくれるように上司に報告してくれるのでなんなら助かっていたりする

 

「ウチの会社で新しい取り組み…というか広告課を作ろうとしてるのはお前も知ってるよな」

 

「まぁ毎日課長たちが頭抱えてる案件だから近くにいる俺も嫌でも知ってるよ」

 

「広告課は他の部署に比べてもやることが多いから以前からもう1つ作るべきだって声もあったしな、けど…上層部がそこでただ同じ事をする部署をもう1つ作ったところで仕事は早くなっても直接売り上げに繋がらないって言い出してさ」

 

「それも知ってる、俺の上司を悩ませているのがそこだな」

 

用はなにか新しい取り組みで既存の広告課とは違うってことを示さなければ広告課の増築は認められないらしい

まぁ売り上げを考えるのなら当然の判断だろうと思う

社員の負担は無視してるけど

 

「今各部署から数名の代表者を募って問題解決に取り組んでるらしいんだけどそこにウチの新人が指名されちゃってさぁ」

 

「新人って確か今年の4月に入った子だよな?」

 

涼太が所属している営業課は1人しか採用されなかった

面接官を務めた涼太が太鼓判を押して採用したと聞いた記憶があるのでよく覚えている

 

「そう梅野都子(うめのみやこ)っていうんだけど頑張り屋で真面目なやつだよ、まぁ真面目すぎるのがたまにキズだが…とにかくかわいい後輩なわけよ」

 

涼太が人の事を雄弁に話すのは珍しい

それなりにかわいがっている後輩なのだろう

 

「そんなかわいい後輩がウチの部署の増築に一役買ってくれる事の何が問題なんだ?」

 

「まぁ取り立てて問題とは思っていないけど不安要素はあるわけよ、年上の男共に囲まれて意見出していくのも大変だろうし単純に業務が増えるからな、精神的に参っちゃわないか心配にもなる」

 

「意外だなぁ…お前って面倒見がいいんだな」

 

「失礼な!俺ほど後輩に優しい上司はいないと自負してるぞ」

 

「要はあれか?俺も会議に参加してその後輩ちゃんのフォローをしてくれってことか?」

 

「ご明察!さすが伊西話しがはやいねぇ、本当は俺も一緒に参加してやりたいところだけど来週から連続で出張の予定が入ってな」

 

やれやれと溜息を吐く

涼太は優秀なだけに仕事量も人一倍多い印象だ

その上後輩の指導もこなしていたのだから恐れ入る

 

「別にいいよ、会議つってもただの意見交換会みたいなものだろ?、お前が太鼓判を押した優秀な後輩なら俺がフォローすることもそんなになさそうだし…それに最終的に広告課の増築は俺の負担も減るだろうから他人事ではないしな」

 

「ありがとな、梅野には伊西のことも伝えておくから今週中どこかで軽く挨拶しておいてくれ」

 

「わかった…あっ、くれぐれもアストルフォのことは言うなよ」

 

「言わねーよ、未成年と同居なんてこと知れたら警戒心MAX状態で蔑んだ対応されるぞ」

 

「それを聞くとますますバレるわけにはいかないな」

 

…ということで俺は来週から広告課増築に向けての意見交換会もとい会議に参加が決まった

アストルフォには悪いがまた帰りが遅くなることになりそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえり〜( ´ ꒳ ` )ノ」

 

仕事を終えて帰宅する。

リビングに入るとアストルフォがソファに寝そべってスマホを触っていた、昨日の夜もずっと触っていたみたいだがこの感じだと日中も夢中だったのだろう

 

「マス...じゃなかった伊西さん見て見て〜(۶* '▽')۶" 」

 

と言って自慢げにスマホの画面を見せてきた

そこには自撮り写真が写っている

 

「お〜よく撮れてるなぁ」

 

正直手ブレが酷くてあまりキレイに撮れてはいなかったがここで酷評したところで意味もないし適当に褒めておいた

 

「それとね動画もあるんだよ(≧▽≦)」

 

今度はスマホを横にして昼間撮ったであろう自撮りの動画を流す

俺は上着を脱いで風呂に入る準備をしながら観賞した

 

「あとねあとね今日は近くのコンビニまで行ってきてお菓子を沢山買っちゃったんだよ( ˶>ᴗ<˶)」

 

嬉々として今日あったことを報告してくる

俺が仕事してる間は基本的に外出は控えてもらっているのだが本人的には外で遊びたいのだろう

 

「お菓子ってもしかしてそれしか食べてないのか?」

 

「そだよ〜、さ、伊西さんも一緒に食べようぜ!( ˶>ᴗ<˶)」

 

アストルフォが指さした先には狭いテーブルに所狭しと並べられたお菓子が置いてある

 

「いやいや夜飯にお菓子は食べないよ、栄養バランス偏った食事してると体壊すから」

 

「え〜せっかくボクが買ってきたのに食べてくれないの〜

(´・ω・`)」

 

ちなみにそのお菓子を買うためのお金は俺が先週渡した1万円から捻出してるっぽいな

 

「お菓子だけだと必要な栄養摂取できないから、野菜とか肉も食べなきゃだめだろ」

 

なんでこんなオカンみたいな事を言わなきゃいけないのだろうか

 

「大丈夫だよ!これ見てくれれば伊西さんも大納得さd(≧▽≦*)」

 

そう言ってお菓子の中からいくつか取り出して俺に見せてきたのはポテチ(コンソメ)とBIGカツというロゴが入った薄いとんかつのようなものだ

 

「これでお肉も野菜もしっかり摂取できるんだぜd(≧▽≦*)そして仕上げにこれさ!」

 

さらにもう1つ取り出したのは明るい派手な色を放つドリンク缶

詰まるところエナジー系ドリンクだった

 

「ここ見てよ、眠たい夜もこれ一本で解決!肉体的疲労を吹き飛ばす!って売り文句で売ってたんだ。これとさっきの栄養バランスバッチリのお菓子を食べれば伊西さんの日頃の疲れも吹き飛ぶっていう寸法さo(`・ω´・+o) ドヤァ…!」

 

「……そのパッケージの裏面のカロリー数と栄養素よく見てみろ、全くバランス良くないから」

 

あとドヤ顔やめろ

 

「仕方ないなぁボクが食べさせてあげるよ」

 

「いや聞けよ。人の話しを」

 

コイツたまに俺の意見をフル無視する時があるよな

反抗期か?

 

「はい、あーん」

 

「うぐ……あ、あーん」

 

ポテチを一枚取ってそのまま俺の口まで運んでくる

俺は渋々それを受け入れた

 

「どうだい?美味しいかい?」

 

「まぁ、うまいよ」

 

既製品だし不味いわけがない

 

「それは何よりだ(≧▽≦)次はこれだよ、はいあーん」

 

そういって今度はBIGカツを食べさせようとする

嫌がっても埒が明かないので受け入れる

 

「…………あ、久々に食べたけど上手いなこれ」

 

お菓子だと思って甘くみていたけど(お菓子だけに)確かに本物のお肉を食べているかのようなジューシーな味わいがあって中々に病みつきになりそうだ

 

「でしょでしょ♪- ̗̀ ( ˶'ᵕ'˶) ̖́-ボクもこれは特にお気に入りなんだ〜」

 

「いやいやだからってこんなものばかり食べてたらダメなんだよ。せめて冷凍食品とかコンビニ弁当食べろ」

 

「けどもうお腹いっぱいだよ〜(ノ)´∀`(ヾ)」

 

「買いすぎなんだよ。そもそもあの1万円はお菓子買うために渡したんじゃないぞ。...そういえばスマホで課金もしてたよな?!ちょっとスマホよこせ!」

 

「あっ返してよ〜」

 

アストルフォから半ば無理矢理スマホを奪い取り通知画面を確認する...やはり俺のクレジットカード決済で課金していたらしい

いくつか支払い完了のメールが届いている

 

「おいアストルフォこのプレミアム会員登録ってなんだ?」

 

「それかい?それはボクが今日見つけた動画投稿アプリの会員登録さ!ここに登録したら配信者の放送を快適に視聴できるんだぜd(≧▽≦*)」

 

「さっきから夢中になってたのはそれか」

 

俺もたまに趣味の動画やゲーム実況を視聴したりするけどそんなシステムがあったのは知らなかった

ん?なんか細かい支払いがやたらあるな

100円、300円、500円、……スーパーチャット代金支払いってなんだ?

よく見たら合計で5000円近く使っていやがる

 

「さぁてボクはそろそろお風呂に入ろうかな〜( ˊᵕˋ ;)」

 

段々と雲行きが怪しくなってきた俺の表情に勘づいたのだろう

そう言って風呂場に行こうとしたアストルフォを呼び止める

 

「待ちなさい」

 

俺の声かけにビクリと肩を震わせた

どうやら雰囲気でこれから折檻されることを悟ったようだ

 

「座りなさい」

 

「いや……違うんだ、決してわざとって訳じゃなくて興味本位でやってしまって(汗)」

 

「いや別に本気で怒っている訳じゃない」

 

そう言うとアストルフォは素直に応じてバツが悪いように俺の前に座った

 

「…ごめんなさいm(._.)m」

 

どうやら反省はしてくれているようだ

 

「まぁスマホ渡した時に注意しなかった俺にも非はあるから強くは咎めないよ。ただし…次は無いと思え、どうしても欲しいものがあるならまず相談してからにしなさい」

 

「わかったよ(´・ω・`)」

 

アストルフォのスマホには今後自由に課金出来ないようにクレジットカードの情報を消しておいた

 

これでひとまず安心だろう

 

「伊西さん」

 

「なんだ?」

 

「早速なんだけど欲しいものというかやりたいことがあるんだ」

 

「…聞くだけ聞こう」

 

「あのね……ボクも働きたいんだ!ボクだけ家に閉じ籠って伊西さんの帰りを待つのは流石に罪悪感があるんだよ。ていうか暇なんだよ!」

 

「な…なるほど」

 

確かに俺はアストルフォに外出は必要最低限にしろと強制させて家に縛り付けてばかりでコイツの主体性を無視していた部分もあるのかもしれない

 

「伊西さんの負担を少しでも減らしたいというボクの健気な心遣いを汲んでくれると嬉しいな( *´꒳`* )」

 

「それ言わなかったら素直に喜べたな」

 

「ダメかい?」

 

「……うーん……」

 

正直ダメな理由が見つからないし、アストルフォとの同居が始まって出費も増えたので俺だけの収入では心許無いから収入が増えることは素直に助かる……のだがどうにも不安だ

アストルフォに社会に出て働けるほどの理性も知性も今の所感じられないだけに不安要素が満載すぎる

 

「まぁ面接もあるだろうし、面接官がまともならこんな理性が蒸発した頭のおかしいヤツを雇おうとは思わんだろう」

 

「…………(´・ω・`)」

 

「わかった。許可しよう」

 

「伊西さん……全部声に出てたよ」

 

「あっ……ごめん」

 

まだ夜飯前だというのになんともいえない空気になってしまった

俺の理性も壊れてきたらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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13話



自分の文章を読んで違和感がないかを探す作業が1番大変です








 

 

「広告課の伊西香(いさいかおる)です。今年で6年目です。よろしくお願いします。」

 

そんな無難な自己紹介から始まった会議はそれなりの人数が集まっていた。先日涼太からの申し出で俺もこの会議の参加が決まり、今日がその初日なのだ。いくつか見知った顔ぶれもいるが初めて会う面子もちらちらいる

議長がとりあえず自己紹介から始めましょうと切り出したのでまず俺から軽く挨拶をした

 

「今年度から営業課に入りました梅野都子(うめのみやこ)です。本日はよろしくお願い致します」

 

次いで自己紹介をしたのは涼太から面倒を見てくれと頼まれた営業課の新人だ。ビシッとシワひとつないスーツを着こなし、綺麗な姿勢でハキハキと自己紹介を終えると隣りに座る俺に軽く会釈をしながら席に座った

さすが涼太がかわいがっている後輩なだけにしっかりしている

働きはじめて6年目の俺よりよっぽど社会人している

あとけっこう可愛い

 

なるほど涼太の心配も頷ける。この器量なら周りの男が放っておかないだろう

隙あらば話すキッカケを伺う輩が出てきてもおかしくはないかもしれない

だが涼太よ…俺も一応男だということをわすれてはいないだろうか。そこら辺は信用されてると受け取っていいのかな…

 

「では自己紹介も終えたところで本題に入りましょう。広告課の増築に伴って新たに始める取り組みの案を1人ずつお願いします」

 

そんな感じで明るい雰囲気で始まった会議ではあったが

始まってみると色々な意味で白熱した

 

「じゃあ私から……」

 

「いやそれならこういうのはどうだろう」

 

「ちょっと待ってください、それだと我々の負担が……」

 

「それを言い出したらキリがないだろう!」

 

「各々もう少し責任を持って発言を……」

 

最初は穏やかだったみんなの口調も意見が出されることによりヒートアップしていき、段々と収集がつかなくなってきてしまっていた

 

会議という名の言い合いが気づけば1時間経とうとしていた

そんな中俺はゆっくりと手を挙げて控えめに発言をした

 

「あの〜」

 

一斉に俺の方へ視線が集まる

 

「みなさんの意見をまとめたいので一度休憩というのはどうでしょう?」

 

「……」

 

「そうだな…ひとまずそれぞれの見解がわかったのだから整理する時間も必要だろう。10分程の休憩とします。」

 

議長がそう言うと皆一斉に席を立って散っていった

俺もタバコ休憩に行こうと席を立つと声をかけられる

 

「あの、伊西さん少しよろしいでしょうか?」

 

隣に座っていた営業課の新人、梅野都子さんだ

 

「大丈夫ですよ、なにか分からないことでもありましたか?」

 

「分からないことはないのですが、理解に苦しむと言いますか自分が未熟故に理解が追いついていないだけなのか分からなくて……えっとここでは人目を憚るので場所を変えてもいいでしょうか?」

 

かわいい後輩の頼みを無下に断る訳にも行かないので場所を移すことにした

会議室の隣にある書庫室へと入る

ここならそうそう人は入ってこないだろう

 

「で?どういったところが理解できなかったのかな?」

 

圧をかけないようにできるだけ優しめな口調で聞いた

 

「あの……本会議に集まる方々は全員同じ会社の方々ですよね」

 

「ええ…当然そうですよ」

随分と当たり前の質問をしてきたのでなんだか呆気にとられた

彼女の言わんとすることがイマイチ理解できない

 

「ではなぜ皆さん自分の部署の都合のいい意見しか出さないのでしょうか?本会議の趣旨は広告課の増築に伴った新たな取り組みの提案とそれに付随して新事業の改革と聞いています。となれば広告課だけの責任と負担ではなく部署全体、さらに言えば会社全体の負担にも繋がるはずなのにまるでその責任から逃げようとする意見ばかりでまるで平行線でした。あのようなやり取りは会議ではなくもはや責任の押し付け合いとしか思えません。」

 

畳み掛けるように、というか不満をぶつけるように俺に遠慮なく意見してくる新人の圧に若干後ずさる

 

「……あーうん、なるほど」

 

「同じ会社の社員である責任と自覚を持つべきだと思いますが違いますか?」

 

「いやいや違くはないよ、正しいと思う。」

 

「分かりました。その確認ができただけで充分です。ありがとうございます。」

 

そう言って会議室に戻ろうとする梅野さんを慌てて引き止めた

 

「ちょっと待って!…その確認をしてどうするんですか?」

 

「全員の目を覚まさせるために私が思ったことをそのまま言います」

 

「いやいや待って待って落ち着いてください」

 

「落ち着いています」

 

……確かに至って冷静に見える

てことは大真面目に実行しようとしているらしい

恐ろしい新人がいたもんだ

 

「そんなことしたら国会並みに荒れちゃうから、ひとまず考え直してくれません?」

 

「……分かりました」

 

どうやら聞き分けはいいらしい

アストルフォよりはマシかもしれん

だが……なるほど涼太が言っていたのはこういうことか、これは目が離せないな

可愛さ余って憎さ百倍とはこのことか……

 

会議が再開して再び意見が飛び交うが、先程梅野さんが言っていた通り平行線だった。

やれ責任がどうだの…やれそんなことをする余裕はないだとか…全ての意見に賛同する訳では無いが俺も同感と思ってしまうだけに改善案を提示することができないでいた

結局次の会議までに各々が宿題として案を考えてくることになり会議は終了となった

 

会議中、隣りの梅野さんの表情をちらちら確認していたが随分と納得がいかないような曇った感じになっていたのでなにか余計なことを言い出さないかヒヤヒヤした

 

カバンから携帯を取り出し通知を確認する

通知は3件ほど来ている

全部アストルフォからだ

 

……えーと1件目が『伊西さんへ♡ボクのエプロン姿だよ~

٩(๑>▽<๑)۶』という文章と共にエプロン姿の自撮りが送られている

 

……これはどうでもいい連絡

 

2件目が『そういえば先日一緒に観に行った映画の過去作が沢山あるらしいから今度一緒に観ようよ( ˶>ᴗ<˶)』

 

……これも無視していい連絡、ていうか見なかったことにしよう

 

3件目が『面接終えてきたよ〜採用だって!٩(๑>▽<๑)۶明日から頑張るぞー( *˙0˙*)۶』

 

なんだと?!まさか採用されるとは…どんな面接官だったのだろうか、あのアホを採用する店があるとは…顔採用でもされたか?

 

『おめでとう』とひと言返信し再びカバンにしまった

 

「彼女ですか?」

 

「うお!」

 

急に下から覗き込むように俺に問いかけてきたのは梅野さんだった

 

「なにやら笑顔を零しながらスマホを凝視していたので恋仲の方からの連絡かと思い、終わるのを待っていました」

 

そこまで言うと俺に一歩近づき他の人が居ないことを確認するかのように周囲を見周してから続けた

 

「先程は出過ぎた発言をしようとしたのを止めて頂きありがとうございました。秋月先輩からいつも注意を受けていたのですが今日は不在でしたので助かりました」

 

「いやいやそんな大した事はしてないので気にしないでください…ていうか俺そんな笑ってましたか?」

 

「はい、僅かではありますが口元が緩んでいたように見えました」

 

まじか…携帯見ながらニヤついてたとは我ながら気色悪いし恥ずかしい。それを新人に見られたこともさらに恥ずかしい

 

「本当に少しだけであからさまではなかったので気にする程ではないと思いますよ。恋人からの連絡であれば誰だって嬉しいものです。」

 

「いやいや恋人じゃないので、ただの…えーと親戚からの些細な連絡ですよ」

 

「そうでしたか…ところで次回の会議の事なんですけど伊西さんはなにか妙案がありますか?」

 

「俺は…そうだな…いやまだなにも思いついていないしこのままだと他の人もいい案が出そうにないだろうなと薄々思ってます」

 

「私も同感です。意識改革が急務かと思われます。もちろん部署全体の意識です」

 

「まぁ全員が全員今回の会議に前向きって訳では無いだろうから中々同じ方向向いて話し合いできないんだと思いますよ」

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

「そもそも広告課の増築に反対してる人も少なくないんですよ。それに伴って仕事量が増える部署もあれば影響をほとんど受けない部署もあるのでモチベーションに差が生じるのは当たり前です。梅野さんだって同じ仕事量をこなしているのに給料に差が出たらモチベーションを保つのは難しいと思いませんか?」

 

「なるほど…確かにそれはそうですね、会社全体の問題なのだから無条件に我慢しろとは言えません」

 

「要約すると全ての部署に重すぎない程度の負担があって尚且つ会社の売上に繋がるような新事業案を考えてこいって事ですね」

 

「…………かなりの無理難題ではないでしょうか?」

 

「気づきましたか」

 

そんな都合のいい事業はそうそうない

あればとっくにやっている

この会議の本質は今日でなんとなく理解したけれどそれを新人が汲み取るのはなかなかにハードルが高いだろう

涼太もなんとなくそれを予期していて俺に新人のフォローを頼んだのかもしれない

 

「次回の会議は来週らしいからそれまでになにかいい案があれば涼太にでも聞いてみるといいですよ」

 

「はい…そうしてみます」

 

「では俺もそろそろ失礼します」

 

「あの伊西さんにもお伺いしても大丈夫でしょうか?」

 

「俺ですか?……まぁ大したアドバイスができるか分かりませんが俺でよければ構いませんよ」

 

「ありがとうございます。ではいつ相談してもいいように連絡先の交換をお願いします。」

 

「…わかりました。」

 

梅野さんは携帯を取り出して連絡先のQRコードを見せてきた

断る訳にもいかないので俺も携帯を再びカバンから出してコードを読み込んだ

 

「では本日はお世話になりました。また来週もよろしくお願い致します。」

 

「ああ、こちらこそどうぞよろしく」

 

梅野さんはテキパキと帰り支度を済ませてさっさと会議室を後にした

俺はというと可愛い後輩からの予期せぬ連絡交換に若干浮き足立ってしまいそうになりつつも涼太に少しだけ申し訳なくなったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アストルフォとの同居生活も既に2週間が経とうとしていた

そんな中気づいたことがいくつかある

まず一つはアストルフォのことをおバカキャラ的な扱いをしていたのだが物覚えが悪い訳ではなくむしろ自分の興味があることに関していえば呑み込みが早いまである

それが如実に現れているのが主に電子機器の取り扱いだ

スマホの操作速度が既に玄人の手際まで達している

わからないことがあれば直ぐにスマホを駆使して自分で解決してしまうので最近は俺が教えることもなくなってきた

 

それに付随するようにゲームやPCの扱いもそれなりに覚えてきているようで暇があればよくやっている

 

一度一緒にやろうと誘われたので協力プレイできるパーティゲームをやってみたのだが、少々頭を使うようなミニゲームも迷うことなく難なくクリアしていた

他にも初見であるはずのギミックやひっかけにも戸惑うことなくサクッとクリアしていたりしたので地頭の方は悪くないどころか良いまである

 

終始楽しそうにしていたのでこちらもかなり楽しんでしまったのを覚えている。

 

そう思うとアストルフォが働き始めるというのは不安要素が無いわけではないが案外上手くやっていけるのかもしれない

接客業にしろデスクワークにしろ興味を持って取り組めば要領良くやれそうだ

 

「なぁアストルフォ」

 

「なんだい•́ω•̀)?」

 

「聞いていなかったんだけど、バイト先ってどんな店なんだ」

 

「あそっか、そういえば言ってなかったっけ」

 

スマホを触りながらソファに寝そべって俺に応えるアストルフォ

なんだかその位置とその体勢がおなじみになってきているな

 

「えーとねぇ…確かぁ、コスプレするお店でぇ」

 

「コスプレ?メイド喫茶的なやつか?」

 

「メイド服もあるんだけどぉ他にも色々あったよ、例えばナースとかチャイナドレスとかアニメキャラとかもあったり」

 

……最近のメイド喫茶はバラエティに富んでいるようだ

そうでもしないと集客に繋がらないのかもしれない、世知辛いな

 

「でそれを着て男性のお客さんに接客するんだよ」

 

「なぜ男性限定?、女性の客も来るだろ」

 

「たまーに来るらしいけどほとんど男性なんだってさ、今日も面接で店内を少し見させてもらったけど男性のお客さんばかりだったよ」

 

「…そうなのか」

 

まぁそういう店のことは入ったこともないのでよく分からないけど男性客が多いイメージだしそんなものなのかもしれない

 

「まぁ頑張れよ」

 

「うん明日から頑張るo(*゚▽゚*)o」

 

明日か…俺も頑張ろう

晴れて同居人は暇な時間を埋めるために労働を選択した

俺の心配が杞憂に終わることを願うばかりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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