天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! (トライアルドーパント)
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天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ!

「試しに書いてみたは良いけれど、下手な事をすると『アカメが斬る!』の持ち味であるダークファンタジーとしての魅力が落ちるなぁ……」

そんな理由で放置していた未完の作品が、改めて行った検索ボタンガチャ(検索ボタンを押して、一番上に来た作品の原作を元ネタとして書く)でヒットしたので、完成させて投稿した次第。
元ネタの作風的を重視した結果、終始シリアスでギャグが一切無く、割とモチベがアレだった事も放置していた理由ではありますが、『THE FIRST』では登場しない「強化服・七式」の戦闘描写を書けた事には満足しています。


雪と氷に閉ざされた白亜の城。それを守る者達を一人残らず蹂躙し、その城の玉座に座っていた者から尊厳を奪いきった後に蹴り殺したのは、その身に宿す氷の帝具の様に、或いはそれ以上に冷たい目をした、圧倒的カリスマを纏う女だった。

 

「何処かに……私を満足させてくれる敵は居ないものか……」

 

彼女は退屈していた。危険種専属の狩猟民族の長の娘として生まれた彼女――エスデスは、幼い頃から命を奪い奪われる弱肉強食の生存競争に身を置いていた。

強き者が勝ち、弱き者は滅びる。そんなシンプルな真理を信条とした彼女の不幸は、幼い時に父親を亡くした事でもなければ、北の異民族によって故郷を失った事でもない。

 

それは、彼女が天性の狩猟者であり、絶対的な強者だった事。

 

これまで数多くの危険種を狩ってきた。数多くの戦士を倒してきた。数多くの戦場を巡ってきた。しかし、彼女が満足できるような敵はいなかった。帝国に仇なす北方異民族の討伐を命じられ、勇者と名高いヌマ・セイカもまた、彼女を満足させるには至らない。

 

「……ん?」

 

「どうかしましたか、エスデス様」

 

「賊だーーーッ! 賊が攻めて来たぞぉおおおおおおおおおおッ!!」

 

「どうやら、まだ楽しめそうだな」

 

それは、バッタと髑髏を併せた様な仮面を被り、鮮やかなオレンジ色の鎧を身に纏い、前後に二つの車輪を備えた乗り物に跨がっていた。体格から察するにその中身は男。そして、鎧か乗り物のどちらかが帝具だろう。

 

「電気マグネットッ!!」

 

「な、何だ!?」

 

「武器が勝手に……」

 

「良し。それじゃあ……」

 

「! ぶ、武器が集まって――」

 

「ガンガン行こうか? フッ!!」

 

走行する乗り物から飛び降り、不可思議な力で兵士達から武器を奪うと、それらをまとめて鎖の付いた巨大な鉄球の如き武器に作り変え、まるで小枝の様に鉄球を振り回す。直撃すれば確実にミンチになるだろうが、鉄球はあくまで戦車などの兵器を破壊する事に終始しており、兵士達は鉄球の衝撃で吹き飛んでいる。

 

未知なる鎧の帝具を使い、単身で城に乗り込む胆力を持った賊。しかも、帝国最強の女将軍と呼ばれ、殺戮を繰り返す危険人物と名高い自分の前に現われるとは、ただの向こう見ずな馬鹿か。或いは、それに相応しい力を備えた強者か。

 

「CYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「エレクトロ……サンダーッ!!」

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

上空から迫る危険種。それに対して男は雷雲を呼び、危険種の全てに落雷をぶつけて、まるで羽虫を様に撃ち落としていく。

 

「怯むな! 必ず討ち取れ! さもなきゃ、君達がエスデス将軍に殺されるよ!」

 

「「「「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」」」」」」」」」

 

「面倒だな……エレクトロウォーターフォールッ!!」

 

それでも兵士達は止まらない。いや、止まれない。

 

エスデスの腹心である三人の帝具使い『三獣士』が一人、ニャウの操る笛型の帝具「スクリーム」によって、心と体がより屈強な戦士と化している事もあるが、未知の帝具を持った敵よりも、自分達の上司の方が遙かに恐ろしい存在である事は、彼等の心の奥深くに幾度となく刻み込まれているのだ。

 

獲物に群がる血に飢えた獣の様に、四方八方から兵士が殺到してくる中、男の腕に動きに合せて、地中から膨大な量の電気エネルギーが、噴水の様に噴き出した。

先程の落雷を見て上空ばかりを警戒していた兵士達は、予想外の場所から繰り出された雷撃の前に、為す術無く飲み込まれていく。

 

「強い……!」

 

「ああ、コイツはたんまりと経験値持ってそうだぜぇ!」

 

「いや、お前達は下がれ。私がやる」

 

敵国を侵略し、資源を略奪し、尊厳を辱める。それが許された強者たるエスデスが率いる帝国軍を相手に、まるで害虫でも退治するかの様に、次から次へとなぎ払うその力は、正に一騎当千と呼ぶに相応しい。

帝国の将軍としては極めて不謹慎な事だが、北の勇者と名高いヌマ・セイカが容易く自身の前に陥落し、心底退屈していたエスデスにとって、目の前の出来事は思わず笑みが浮かぶほど好ましい。

 

エスデスは飛び出そうとした『三獣士』と兵士達を下がらせると、これから始まる仮面の男と一対一の殺し合いに胸を躍らせていた。

 

「雷を自在に操る……か。大したものだ。それが貴様の帝具か?」

 

「……そんな事、俺が知るか」

 

「ほう……ならば、生け捕りにしてから、その体に聞くとしようッ!」

 

雷を操る帝具はエスデスも知っている。何せ帝国最強と称される自分と互角の戦闘力を持つ、ブドー大将軍の帝具がそうなのだから。

当然だが同じ帝国に所属する以上、エスデスもブドーと本気で戦う訳にはいかない。そう言う意味では、目の前に現われた賊はエスデスにとって色々な意味で丁度良い。

 

「それじゃ……始めようかッ!」

 

瞬間、腰に差したエスデスの獲物が勝手に動き出し、エスデスにその刃を向けるが、エスデスはそれが分かっていたかの様に容易く回避し、その刀身をあっさりと蹴り砕いた。

 

「なるほど。小技は多彩だな」

 

「フン、言ってろ」

 

両腕に電流を流して迎撃態勢を整える男に対し、歓喜と期待に満ちた笑みを浮かべるエスデスが指揮者の如く手を振るうと、エスデスの背後で大量の氷柱が展開される。

 

「ハァアアアアアアア!!」

 

「磁力扇風機ッ!!」

 

四方八方から雨霰と迫る無数の氷柱。それは男が両手を前に突き出した独特の構えから繰り出される特殊な磁力線の渦によって、エスデスにそのまま跳ね返させる。

一方でエスデスは、跳ね返された氷柱を瞬時に精製した氷の刀剣で斬り払いながら、次の一手を既に実行していた。

 

「やるな。なら、これでどうだ?」

 

「……チィッ!!」

 

彗星と見紛うばかりに巨大な氷塊を数秒で精製し、それを上空から落下させる大質量攻撃。流石にコレだけ巨大な物は弾き返せないらしく、舌打ちをした男は腰を低く落とすと、落下する氷塊に向かって勢いよく跳んだ。

 

「チャージアップ!」

 

『CHARGE・UP』

 

「ほう……」

 

空中に飛び出した男の鎧が輝き、角が銀色に、胸部の鎧が一部白色に変色する。ソレに伴って男から発せられる圧が増し、男は氷塊に右足を真っ直ぐ向けると、高速で回転して勢いよく突っ込んだ。

 

「超電子……ドリルキィイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーックッ!!」

 

回転を加えた蹴りで氷塊が砕け、細かくなった氷が広範囲に降り注ぐ。それによって降り積もった雪が舞い上がり、辺りの視界は白一色に染まった。

周囲が雪煙によって何も見えない中、天性の狩人であるエスデスは野生で磨かれた自分の勘に従い、背後から地を走って迫る電撃をかわした。

 

「良いぞ! それがお前の“奥の手”か!」

 

「知るか」

 

エスデスは電流を辿って男の元へ一気に接近し、手にした氷の刀剣で斬りかかる。刀剣型の帝具さえも防ぎ、鍔迫り合いを可能とする硬度を誇る氷の刀剣は、相手の全身が鎧に包まれているとは言え、エスデスの技量ならば鎧ごと中身を切断する事も不可能では無い。

 

「フフフ……! 面白い! 面白いぞ! この私に挑むに相応しい強さだ!」

 

必殺技を真っ向から打ち破られ、有効打を決める事が出来ないエスデスであるが、その顔は未だに底が見えない戦闘力を持った強敵に対する悦びに染まっている。

 

「さあ、続けるぞ! 存分に殺し合おうではないか!」

 

「ヘッ……なら、黒焦げくらいは覚悟しな」

 

エスデスは戦場において、帝具「デモンズエキス」による派手な大規模攻撃や大質量攻撃を好んで使う為、周囲からはその身に宿す帝具の力が注目される傾向にある。だが、エスデスの本領はむしろ、天性の狩猟者としての才能を生かした近接戦闘だ。

だが、それはエスデスと相対する男の方も同じ。男はこれまで電撃による遠距離攻撃と、相手の武器を利用した技を見せているが、エスデスの所見では素手で応戦している今が間違いなく一番手強い。

 

斬る。突く。薙ぐ。払う。蹴る。殴る。廻す。防ぐ。砕く。振るう。流す。かわす。

 

互いに氷と電撃による特殊攻撃を織り交ぜながら、次から次へと繰り出される剣が、拳が、蹴りが……攻撃の全てがお互いの命を奪うに至る“必殺”に成り得る。

そんな予断を許さぬ攻防を繰り返していれば、当然の事ながら双方共に肉体的・精神的疲労は確実に溜まっていく。

 

――特に鎧型の帝具は、装着者への体力と精神力の摩耗が激しいのは定説だ。

 

「チィ……!」

 

男の動きが徐々に鈍り、エスデスの攻撃を次第に鎧の耐久力で防ぎ始めた。防御を鎧の性能に頼り始めた気配を感じたエスデスが狙ったのは、男が着ている鎧の中で最も装甲が厚く、それ故に回避する意識が薄くなると踏んだ胸部。

 

そして、そこを攻撃する絶好のタイミングは――。

 

「そこだッ!!」

 

「ガ……ッ!!」

 

鎧の色が元に戻った瞬間、即ち“奥の手”が解除された一瞬。エスデスの氷の刀剣は、鎧もろとも男の肉体を貫いた。胸に突き刺さった剣の切っ先は背中へ貫通し、飛び出した刃は男が流す血によって赤く染まっている。滴り落ちた血は、床に落ちると同時に凍り付き、男の末路を暗示している様に思えた。

 

「コレで終わりか。まあ、中々愉しめ――」

 

明らかに致命の一撃。しかし、胸に凶刃が深々と突き刺さって尚、男からは戦いを諦めた様子は無い。見る見る内に肉体が凍りつきながらも、無機質な黒い仮面の向こうから、確かな闘志の炎を感じるのだ。

 

「……覚悟、しな。コイツは、効くぜ……」

 

エスデスの両肩に、男は両手をポンと置いた。それ自体は攻撃では無い「殺意の無い動き」だ。だからこそ、エスデスはあっさりとソレを許してしまい、その動きを封じられてしまった。

 

「超電子……ウルトラサイクロンッ!!」

 

男の両腕から強烈な振動エネルギーが溢れだし、男と共にエスデスの肉体が内部から破壊されていく。それを見た『三獣士』や兵隊達はエスデスを助けに向かったが、破滅的な威力を誇る振動エネルギーは二人の周囲を無差別に、そして容赦なく粉砕し、第三者の介入を決して許さない。

 

――肉を切らせて、骨を断つ。

 

男は戦いの中でエスデスの意識を誘導し、わざと剣を胸に受けたのだ。その事にエスデスが、三獣士が、兵士達が漸く気付いたが、気付いた所でもう遅い。

 

「―――――――――――ッ!!」

 

悲鳴とは弱者の証。歯を食いしばるエスデスの意識は、自分と男の間で起こった爆発によって吹き飛ばされるまで、決して途切れる事は無かった。

 

 

○○○

 

 

結論から言うと、エスデスは生きていた。しかし、飛行型の危険種に乗って帝国に辿り着いた時、エスデスは満身創痍と言うより、虫の息と言うべき危険な状態だった。

帝国を牛耳る大臣のオネストにとって、エスデスは最も重要なカードの一枚。今にも死にそうなエスデスを見たオネストは、その太った体に見合わぬ迅速な動きと、自身が持ち得る権限によって、エスデスに帝国でも最高と言える治療を施した。

 

「恋を……している……」

 

「……は?」

 

驚異的な生命力と常識破りの回復力で生き存え、昏睡状態から目覚めたエスデスは開口一番、見舞いにやってきたオネストに向かって、キャラ的にまず有り得ない事を口走った。

 

「……えっと、誰に、ですかな?」

 

「私を倒した、あの男に」

 

取り敢えず、自分が気になっている賊の事らしいので、エスデスの好きに話して貰おうと思ったオネストは、黙って聞き手に徹する事にした。

 

「気がつくと、常にあの男の姿が頭に浮かぶ。強さを以て、私に己を示したあの男が、常に頭の片隅にある。たった一人の男にしか興味が湧かないのだ。またあの男に触れたい。もっとあの男を知りたい。コレを恋と言わずして、一体何が恋だと言うのだ?」

 

「……なるほど。確かにソレは恋愛ですな(敵とは言え、相手には同情を禁じ得ませんが)」

 

とても恋愛沙汰の話とは思えぬ不敵な表情に、先の戦闘で受けた傷によって凄みを増した顔をしているエスデスに対し、オネストの懸念は賊が殺そうと思えば殺せたエスデスを、生かして帝国に送り返した事だった。

 

「(メッセージ……と言う事なんでしょうね、コレは。それでエスデス将軍を選んだセンスと、実際に倒してしまう戦闘力は、とても無視する事は出来ませんが……)」

 

エスデスはまだ知らない事だが、エスデスが倒された後、深手を負った賊を見て好機と思った『三銃士』率いる帝国軍が、賊を討ち取るべく勇敢にも向かって行ったのだが、何と賊の鎧が彼等の前で瞬く間に修復され、賊本人も元気一杯と言った様子で、彼等と戦闘を継続したと言うのだ。

最終的に、エスデスを逃がす為の捨て駒として兵士の何割かを賊にぶつけ、『三銃士』の指示でエスデス軍は北方より撤退。もっとも、捨て駒にされた兵士達も全員生きて戻ってきたのだが、兵士達からは「賊が乗っていた不思議な乗り物から光線が発射された」等、「帝具を複数使用している」と思われる、俄には信じられない様な情報も入っている。

 

少なくとも、戦闘力はエスデスと同格。いや、殺さない様に手加減していたと思われる事を考えると、ある意味エスデスより上だ。

未知の帝具を持っている事もそうだが、エスデスやブドーでさえも守っている「帝具は一人につき一つ」と言うルールを無視している等、自分の存在をアピールする方法としては、これ以上のモノは無いだろう。

 

「(しかし、不確定要素が多過ぎる上に、駒が揃っていない今は流石に手が出せません。幸い、エスデス将軍は問題の賊に興味津々の様ですし、賊の目的を知る為にも今は泳がせて様子を見ましょう)……取り敢えず、その賊の事は一端置いておいて、暇をしている貴方の部下にちょっと頼みたい事があるんですよねぇ……」

 

「悪巧みか。良いだろう。但し、此方も一つ頼みがある」

 

かくして、オネストは『三銃士』の力を借り受けるのと引き替えに、新たに6人の帝具使いを集める事をエスデスに約束した。

それは「帝都の治安を守る」と言う名目で結成される新部隊の設立を目的としたものなのだが、それを求めたエスデスと請け負ったオネストは、両者とも「平和」とは程遠い表情を浮かべていた。

 

 

○○○

 

 

エスデス敗北の報せに、帝国は勿論の事だが、それと敵対する革命軍もまた大いに揺れた。

 

「心して聞いてくれ。良いとも悪いとも取れるニュースが二つ飛び込んできた。一つは、北方異民族の征伐に向かい、北方を制圧したエスデスがそこで一人の帝具使いに敗れ、帝都に戻ってきた。現在は帝都で療養中だそうだ」

 

「「「「ハァッ!?」」」」

 

それは、革命軍が擁する殺し屋集団『ナイトレイド』も例外ではない。

 

それもその筈、『ナイトレイド』のボスであるナジェンダの私見によれば、エスデスを斃すには「最低でも千人単位の兵士と複数の帝具使い」が必要だとしていたが、それが単独で撃破されたのである。驚かない方がどうかしている。

 

「ちょ、ちょっと待って! あのエスデスが負けた!?」

 

「ああ。それも『雷を操る鎧』と『光線を放つ乗り物』の二つを使っていたそうだ。どちらも文献に載っていない事を考えると、どちらも未知の帝具である可能性が高い」

 

「いやいや、絶対に有り得ないでしょ。帝具を複数使うとか」

 

「確かに通常では有り得ない。だが、あのエスデスを相手に単身で退けるとなれば、それ位の無茶をしなければ出来ない様な気がする。それに、“帝具の複数使用”は相性次第で理論上は可能らしい。尤も、それをやった後の代償は絶対に避けられないらしいが……」

 

「やっぱ、ヤバイのか? 一人で帝具を複数使うって」

 

「当たり前でしょ? 過去には帝具を複数同時に使おうとした奴もいたって聞くケド、大抵はその場で精神や肉体が崩壊して死んだんだって」

 

「それで、北の方は今どうなってるんだ?」

 

「北方異民族はエスデス軍によって全滅。そして、エスデスの敗北でエスデス軍が撤退し、北の城塞都市は空っぽだ。いや、空っぽだったと言うべきか」

 

「ボスの歯切れが悪いなんてらしくないね。他に何かあったの?」

 

「……二つ目のニュース。エスデスが北方から撤退した事に合せて、帝都周辺で良識派の文官が殺害される事件が多発していた。我々、ナイトレイドの仕業に見せかけてな。コレまでに文官3名が殺されたが、4人目の前大臣チョウリが襲撃された際、問題の帝具使いが現われて彼の命を救ったんだそうだ。『雷を操る鎧』と『光線を出す乗り物』を使い、エスデスの腹心である三人の帝具使い『三獣士』を倒してな」

 

ナジェンダの話を聞いたナイトレイドのメンバーは、その内容に揃いも揃って絶句した。

 

エスデス相手に複数の帝具を使ってでも対抗しようとしたと言うのなら、まだ分からなくも無い。エスデスとは、それだけのリスクを背負うに値する相手だからだ。

だが、それ以降も「複数の帝具を使って戦っていた」と言うのは、複数の帝具を使うリスクを考えれば、明らかにおかしい。そんな事がやれる理由は一つしかない。

 

その帝具使いは、反動や代償を一切恐れる必要無く、恒常的に複数の帝具を使う事が出来るのだ。流石に、それが出来る理由までは定かではないが。

 

「……ソイツ、本当に人間か?」

 

「言いたい事は分かる。私だってとても信じられない。そしてその帝具使いは、前大臣チョウリとその配下を北方異民族の城塞都市に招き入れ、帝国の圧政によって苦しむ民を守る為の活動を始めたらしい。帝都の外にいる良識派も巻き込んでな」

 

エスデスやブドーと同レベルか、それ以上の戦闘力を持った帝具使いが、北方で良識派と活動している。

 

大臣と戦う意志を見せている以上、良識派も自分達反乱軍の味方と思っているタツミは、それの何処が「良いとも悪いとも言える」のか? そして、ナイトレイドのメンバーの顔色が一様に悪い理由が分からなかった。

 

「? その前大臣のチョウリって人は良識派の文官なんだろ? それでその帝具使いはエスデスと戦ってるんだから、ソイツ等は俺達の味方って事だろ? それなら良いニュースなんじゃないのか?」

 

「いや、単純にそうとは言い切れない。俺達は良識派の味方だが、良識派は俺達の味方じゃないからな」

 

「? それって、どう言う事?」

 

「そうだな……まず、帝国の派閥を大きく分けると、大臣に付き従う大臣派と、大臣に抗う良識派の二つの派閥がある。だが、大臣が政治の実権を握る現状では、大臣の政敵となった者は通常、大臣に何かしらの罪を着せられて処刑される事になる。

故に、良識派は基本的にブドー大将軍の庇護下にあるが、ブドー大将軍は『武官は政治に口出ししない』と言う考えから政治に介入する事は無く、皇帝を守る為に帝都を離れる事も無い。そして、良識派に味方する強力な帝具使いはブドー大将軍だけ。つまり、良識派の文官は大臣派の文官ほど強固に守られていない訳だ」

 

「つっても、完全に護衛がいない訳じゃないんだけどね。並みの賊とかなら問題ないけど、俺達みたいな『帝具使い』が相手だと、流石に分が悪い訳よ」

 

「そして、彼等は各々の能力が高く、民を思い大臣に決して屈しない。しかし、反乱軍にも与しない。言うなれば“真に国を憂う者”達だ。大臣にとっては煙たいだけのな。当然、大臣も常々、彼等を排除する機会を虎視眈々とうかがっている」

 

「……前々から不思議に思ってたんだけど、どうして良識派はボスや兄貴みたいに反乱軍に加わったりしないんだ? 『大臣を倒して、この国を良くしたい』って思っているのは、どっちも同じなんだろ?」

 

「確かに彼等と我々の最終目的は同じだ。しかし、良識派には反乱軍に与する事が出来ない、絶対に譲れない理由がある。『帝国を存続させる』と言う点でな」

 

「帝国を存続……?」

 

「幾ら大臣の傀儡政治とは言え、最終的な決定権を持っているのは皇帝だ。自分達の意見は無視し、大臣の言葉だけを信じる皇帝。始皇帝の血を引いた人間が他にも居るのなら、ある意味この問題は解決するが、始皇帝の血を引いた人間は今の皇帝しかいない」

 

「つまり、俺達が革命を起こして大臣を討った場合、皇帝も処刑されて帝国そのものが終わる訳よ。反乱軍に味方する文官は帝国……ひいては皇帝を見限ったからこそ、コッチに寝返った訳だからな」

 

「そう。だが、良識派は違う。彼等はまだ皇帝が間違いに気付く事を諦めていない。“真に国を憂う”からこそ、良識派の連中は千年続いた帝国を終わらせたくないのさ」

 

「だから、私達は良識派の味方をするが、良識派は私達の味方をしない。むしろ、革命によって帝国を終わらせようとする私達を“倒すべき敵”と認識している筈だ」

 

「勿論、正しさだけであの大臣に勝つ事は出来ない。だが、それでも国を良くする事を諦めない彼等が“正しい”事に間違いは無い。一方で我々は暗殺と言う“間違った”手段で彼等に協力するが、最後はあらゆる記録に残ること無く、歴史の闇に消えなければならない」

 

タツミに政治の事はよく分からない。だが、ナイトレイドのメンバーから語られる話を聞いて、改めて自分達のやっている事が「悪い事」で、そこに「正義など無い」と言う事を理解し、同時に皆の表情が優れない理由も察してしまった。

 

「ちょ、ちょっと、待ってくれよ! それじゃあ、いざ革命が起こった時、その良識派とも戦わなくちゃいけなくなるって事か!?」

 

「そうだ。文官は兎も角として、皇帝を守ろうとするブドー大将軍とは確実に戦う事になる。自分に与えられた責務を忠実に守ろうとするだけの人間を、“革命の邪魔”と言う理由だけで殺す事になる」

 

「前にも言ったろ? 私達のやっている事は外道の所行だ。“邪魔な人間を殺して排除する”……それはある意味、大臣のやっている事と何も変わらないんだよ」

 

「だが、エスデスを上回る戦闘力を持った帝具使いが、帝都の外に人を集められるだけの土地を前大臣チョウリに与え、他の良識派と共に都市を運営している。それはある意味、私達が理想としている新しい国の縮図だ。今では周辺の貧しい村の住民が、徐々に北方の城塞都市へ移住しているらしい」

 

「でも、北方異民族だって帝国と戦ってたんだよな? なら、何でその帝具使いは北方異民族と協力して帝国軍と戦わなかったんだ?」

 

「アンタ、本当に馬鹿ね。大臣派だろうが良識派だろうが、帝国にとって北方異民族が脅威である事に変わりは無いのよ?」

 

「そうだな。北方異民族を率いる『北の勇者』と名高いヌマ・セイカは、自国の要塞都市を拠点として、精強な軍隊と類いまれなる軍略を武器に、帝国への侵略を強めていた。過去に北方異民族が幾度となく他民族を侵略してきた事を考えれば、帝国を倒した後で彼等と敵対する可能性が無いとは言えない。

その帝具使いが初めからチョウリと組んでいたのか、それとも後からチョウリと組む事を考えたのかは分からないが、北方異民族の味方をする選択肢は初めから無かったと見るべきだろう」

 

「………」

 

「現時点で彼等の行動は、我々の手が届かない新しい国に必要な人材を守っているのと同時に、帝国の圧政に苦しむ民の救済にもなっている。だが、チョウリは“真に国を憂う”良識派だ。革命が起こった時、我々と敵対する可能性も否定できない。そうなれば、我々はその帝具使いとも戦う事になる」

 

エスデスとブドー以上に得体が知れない戦闘力を持ち、様々な意味でやりづらい。そんな帝具使いと戦う未来を想像した彼等の表情は、人が救われているにも関わらず、暗く沈んでいた。

 

「聞いてみると随分と派手に動いてるみたいだけど、その帝具使いの名前とか目的って、何も分ってないの?」

 

「いや、分かっている。名前は『仮面ライダー』。その行動目的は――」

 

 

●●●

 

 

事の発端は、まず間違いなくこの国の警察機構が、畑に放置されたカボチャの様に腐りきっていた事だろう。

 

『いや~、この度はオーガ隊長にご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ない』

 

『ったく、今度はヘマするんじゃねぇぞ。代わりは幾らでもいるが、罪を着せるのは手間なんだからよぉ』

 

帝都警備隊隊長だか高貴な貴族様だか知らないが、公然とこんな事を宣う様な権力者がそこら辺にゴロゴロ転がる現状を見れば、否が応にも帝国そのものに嫌気が差すと言うモノである。

現行犯で詰め所に突き出した時に対応してくれたポニーテールの女の子の様に、全ての警備隊がそうだとは言わないが、下がちゃんとしていても上が腐っていては元も子もない。

 

しかし、だからと言って革命軍なる組織に入り、国家転覆を狙うと言うのもどうかと思う。

 

幾ら立派な大義や正義を掲げた所で、「殺人によって国を良くする」と言う考え方や方法は、どう考えても許容できない。

それは、俺自身が「革命の歴史が無い国」で生まれ育った事もあるだろうが、それ以上に「人間の領分に生きる」ならば、少なくともそれは確実に“踏み越えてはならない一線”だ。

 

だが、救いを求める人々を無視する事も出来ない俺は、ひとまず外道メンに売られそうになっていた田舎者三人娘を、俺が帝都で経営している喫茶店の看板三人娘に仕立て上げ、安心できる働き口と衣食住を提供した。

 

『いらっしゃいませー』

 

『ランチ3つですね。お飲み物は?』

 

『店長、休憩入りまーす』

 

『『このタイミングで!?』』

 

笑顔で接客する彼女達を見つつ、大勢の人間を救う為には、まず「それ相応の広さを持つ安全な土地が必要」と考えつつ、仕事が終わると場末の酒場で一杯やりながら、情報を収集する事も欠かさない。

そこで、異様に露出度の高い服を着た金髪で巨乳のねーちゃんに絡まれた所を三人娘に見られ、翌日仕事場で白い目を向けられたのは、粉砕すべき悪い思い出だ。

 

そして現在、帝国は周囲の異民族や反乱軍と戦争し、その中でもエスデス将軍が率いる軍隊が北方異民族の征伐に乗り出している訳だが、その北方異民族は帝国の圧政によって反乱を起こした他の異民族と少々毛色が異なり、元々自分達以外の民族を侵略する事で領土を拡大して繁栄する連中であり、過去にエスデス将軍の故郷をも滅ぼしているらしい。

 

エスデス将軍は色々と残虐性の高いエピソードの豊富なヤベー奴であるが、この北方征伐だけはある意味「正当な復讐」と言えるだろう。

敗北したが最後、北方異民族はまず確実に皆殺しにされるだろうが、彼等に故郷を滅ぼされたエスデス将軍の心中を考えれば、「帰る場所を滅ぼした相手を憎むな」と言うのも無茶な話だ。

 

しかし、「一年は掛かる」と言われていた北方異民族の征伐が、現場に到着した段階で既に完了しており、噂に名高い北の勇者がドSの忠犬にジョブチェンジしていたとは思わなかった。

 

国と言うモノは案外何処も一緒で、余所からやってきた訳が分からん奴の言う事など禄に聞きはしない。如何に脅威を解かれても、如何に相手が強大であろうとも、国が滅びる瞬間まで、誰もが「自分達なら上手くやれる」と心から信じている。それが連戦連勝を重ねているなら尚更だ。

それは、北方異民族を束ねるヌマ・セイカも例外では無く、だからこそ彼は君主たり得ている。尤も、帝国も北方異民族も、周辺を片っ端から攻めて領土を拡張している以上、それは四方八方に喧嘩を吹っかけて回ったツケであり、決して避けられない因果の応報だ。

 

『何処かに……私を満足させてくれる敵は居ないものか……』

 

――エスデス将軍は「戦争の歓喜を無限に愉しむ」為に帝国にいる。

 

そんな噂話を聞いたことがあるが、あの獲物を求める肉食獣の様な笑みを見れば、なるほど確かにその通りなのだろう。そして、平和の敵をワザと作り出す様な逸話を幾つも持っている絶対強者を相手に遠慮は要らん。

流石に帝国最強と称されるだけあって手強かったが、見事に北方異民族の城塞都市を奪取する事に成功。正直、帝国軍を相手に一人で国盗りをやってのけるより、至る所で見せしめにされた遺体の埋葬を一人でやる方が大変だったがな。

 

『命を狙われたからと言って、怖じ気づいておる場合では無いからな! ワシは民を救う為にトコトン働くぞ!』

 

『立派です、父上!』

 

しかし、国をぶんどったのは良いモノの、流石に一人ではやれる事が限られる。その上、俺は得体の知れない謎の怪人Xだ。

幸い、周辺の貧しい村を一人で回っていた時に、エスデス軍と戦った時に見かけた三人組に襲われていた所を助けたジーサンが帝国の前大臣で、彼に色々と手伝って貰っているお陰で、貧困に苦しむ周辺の村々に関しては状況が好転しつつある。

 

そして、帝国は帝国で『イェーガーズ』と言う帝具使い6人からなる組織を結成し、ナイトレイドを含めた帝国の反乱分子と、エスデスを圧倒した俺に対抗するつもりらしい。

 

『おいしーね。おとーさん、おかーさん』

 

『うん。美味しいね』

 

『本当。ほら、ほっぺにこんなに付けちゃって……』

 

その内の一人が家族を含めて、俺達が提供するオリエンタルな味と香りに魅了され、俺の喫茶店の常連さんになっている事は、色んな意味で非常に気まずい。旦那の方が俺と結構気の合う友人であるから尚更に。

 

『……ボルスさん。貴方は、優しい人だ……本当は、“帝国の軍人であり続ける”事に、疲れてるんじゃないのか?』

 

『……そうだね。でも、コレは誰かがやらなきゃいけない事だから……』

 

今にして思えば、彼は間違いなく分かっていたのだろう。――自分は地獄で炎を焚いているのだと。

数え切れない命を奪い、その手を血で染めた人間にとって、当たり前の幸福は救いになると同時に、自身を蝕む毒となっていたのではないだろうか?

 

それはある意味、狂ってしまった方がずっと楽なのかも知れない。その思考と人格がまともであるからこそ、その身は永遠に消えぬ悔恨に焼かれ、その魂は償いようのない罪に対する断罪を何処かで求めていた。

それが、自分が最も愛する者達との別れになると分かっていても、それで自分の罪が清算され、自分の愛する者達にその咎が懸からないと信じて。

 

「喜べ、お前達は今から俺達のオモチャだ」

 

それから、北の城塞都市に人が集まってきたのと比例して、一応は城塞都市の総大将と言う事になっている俺も忙しくなり、しばらく帝都から離れていた。

 

「ママをいじめないで!」

 

「お願いします! この子だけは……!」

 

そして、「帝都で警察とは名ばかりのゲス野郎が暴れている」との噂を聞いて帝都に戻ってみれば何たることぞ。噂のゲス野郎共が俺の喫茶店のお得意さんに襲いかかっているではないか。

 

「~~♪ ~~♪」

 

「む……?」

 

「口笛?」

 

「ったく、確かに害虫退治は俺の仕事なんだけどよ……」

 

「……何だぁ、テメェ」

 

「ほう? 俺を知らないとは、よっぽどの世間知らずらしいな。北の要塞都市でエスデス軍を退けた……『仮面ライダー』とは、俺様のこったいッ!!」

 

「ほう、貴殿が……」

 

「あぁん? その『仮面ライダー』が、何の用だ?」

 

「決まってるだろ。呼ばれたからさ」

 

邪悪な愉しみを邪魔された事による不機嫌さを隠さないチンピラの質問に対し、俺は墓石に指を指して堂々と言い切った。

 

「天に召され、地に眠ったその男が呼んだのさ。俺の分まで……悪を倒せとなッ!!」

 

「ハッハー! なるほどね! おい、テメェ等! 折角だから、相手してやりな!」

 

「ふむ、では此処は拙者が――参るッ!」

 

チンピラの取り巻きの内、サムライ野郎が名乗りを上げると、刀を鞘に収めたままで間合いを詰める。なるほど、「居合い」か。

確かに、居合い斬りの達人が繰り出す神速の斬撃と踏み込みは脅威であるが、逆に言えば「刀を使う」と此方に手の内を宣言している。そして、自分の体で鞘を収めた刀身を隠し、刀のリーチを悟らせない様にしているが、刀を掴む右腕は完全に丸見えだ。

 

「遅いッ!!」

 

「なッ!?」

 

「オラァッ!!」

 

「ごばぁあああああ!!」

 

相手が抜刀して腕が伸びきった瞬間、刀を握る右手にパンチを叩き込んで四本の指を砕き、間髪入れずに電気エネルギーを纏った回し蹴りを顔面に叩き込む。鼻が潰れ、前歯が全てへし折れ、肉体を焦がされたサムライ野郎は派手に吹っ飛んでいく。

 

「お返しだ」

 

「チィッ!!」

 

「それじゃあ、コッチもお返しね♪ Laaaaaaaaaaaaa――!!」

 

サムライ野郎の刀を磁力で操り、おかっぱ頭の男に向かって射出するが、おかっぱ頭の男は自身の獲物ある曲刀から繰り出された真空波で刀を弾き、その隙にメガネを掛けた女が発する声が超音波となって襲ってくる。

 

「グ……ッ!!」

 

「邪魔しないで欲しいんですけどぉおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

強化服の装甲にヒビが入り、そこから血が噴き出したのを見て好機と思ったのか、デブピエロが何かを勢いよく投げつけ、それを右手で受け止めると全身が火炎に包まれる。

 

「おい! 俺の分が無くなっちまっただろうが!」

 

「ゴメンゴメン♪ お詫びに後で私が相手しても良いですよ?」

 

「待たせたね、お嬢ちゃん。それじゃあ、続きを――」

 

「待てや」

 

連中は自分達の勝利を確信していたが、奴等は知らない。この程度の損傷は瞬く間に修復される事を。この強化服は720万度のパワーから繰り出される火炎にも耐えられる事を。そして、貴様等の帝具の攻撃が、逆に俺に力を与えていると言う事をッ!!

 

「ガハァ……ッ!!」

 

「ブギィイイイイッ!!」

 

「ブフォオオオオッ!!」

 

水・熱・落雷……様々なモノを利用して電気エネルギーを補充する強化服の性能をもってすれば、大抵の特殊攻撃はそのまま俺の糧となる。体中に漲る電気エネルギーによるパワーアシストと、体の奥底から湧き上がる怒りが、強化服の性能と肉体の限界を超えた速度を、俺に与えてくれる。

強化服が閃光を放ちながら、一瞬でメガネを掛けた女の喉を握り潰し、デブピエロの股間を蹴り潰し、おかっぱ頭の男の顔面と鳩尾に拳を叩き込む。それと同時に電気エネルギーを流し込み、“絶命だけは免れる”程度に肉体を破壊する。

 

「さて……」

 

「やるな、お主。しかし、鎧型は総じて体力の消耗が激しいのが弱点じゃ!」

 

強化服から発せられる光が収まり、三人を倒して一息ついた直後、後ろから幼い容姿に似合わぬ怪力でしがみつき、首に歯を突き立てたのは、妙に古風なしゃべり方をする少女だった。

少女は口に帝具を仕込んでおり、帝具の力で強化服を貫くと、俺の血と共に生命エネルギーを体内に取り込み始めた。

 

――だが、知らないとは言え、それは悪手だ。

 

「ウブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」

 

それは、僅か一口程度の量の血液だった。しかし、この俺の生命エネルギーは並みのソレでは無い。他人がソレを安易に取り込めば、肉体はソレに耐えきれず自壊する。少女が全身から血を噴き出し、痙攣して倒れるのも自明の理だ。

 

「フゥ~~~~……」

 

「!? チィィ……余裕のつもりか、テメェ!!」

 

「余裕も余裕。この程度の相手なら、“切り札”を使わずとも大余裕だぜ」

 

首をゴキゴキと鳴らし、チンピラを相手に言葉通りの余裕を持って挑発する。あっという間に自慢の手下がボロ雑巾と化した事も相俟って、チンピラは面白い位に苛立っている。

 

「しかし、アレだな。大臣の息子って言う肩書きの割には、あんまり利口じゃないな。余りにもマヌケ過ぎて、ザマミロ&スカッと爽やかな笑いがこみ上げて仕方ないぜ」

 

「……ハッ。何時までその余裕が続くかなッ!!」

 

チンピラがポケットから帝具らしき物を取り出すと、チンピラの足元に陰陽勾玉が特徴的な魔方陣が現われ、目の前に居たチンピラの姿が消えた。

 

「何処見てんだぁ? オラァッ!!」

 

「グッ!」

 

何時の間にか死角から現われ、拳の一撃が衝撃となって強化服を貫通する。なるほど、只のチンピラと言う訳では無く、それなりに武術の心得があるようだ。

 

「不思議そうだなぁ? 冥土の土産に、種明かししてやるよ! 俺のオモチャ『シャンバラ』はなぁ、自分でも相手でも予めマーキングした場所にぃい……一瞬で移動させる事ができるッ!! スゲー疲れるからチョット前まで連発できなかったんだがなぁ……この帝都で良いモン手に入れてよぉ、コレで好きなだけ使い放題って訳だ!!」

 

「………」

 

「つまり、何が言いたいかって? テメーに逃げ場は無ぇって事だよ!! 愉しいゲームは――」

 

チンピラは得意顔で自分の有利をひけらかす為か、帝具の能力を何度も披露しながら丁寧に解説してくれた。それは俺に絶望を与える事を目的とした行為なのだろうが……何度もその瞬間移動を見せたのは失敗だったな。

 

「これか……「そこだッ!!」フゴォオッ!?」

 

チンピラの出現地点を先読みし、現われた瞬間を狙って虚空に向かい拳を振るう。すると、何もない空間にチンピラの顔が現われ、吸い込まれる様に拳が当たった。

 

「この――」

 

「セイッ!!」

 

「ブフッ!? まぐれが何度も続くと――」

 

「オラァッ!!」

 

「グフッ!! いい加減に――」

 

「無駄ッ!!」

 

「グォオオオオオッ!?」

 

その後、幾度となくチンピラは瞬間移動を繰り返すものの、その度に俺は移動先へ先回りして攻撃し続け、最後にはチンピラの顔から余裕は完全に消えていた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「やはり、攻めるよりも逃げる方が得意な能力か。なるほど、ネズミのよーな貴様にはピッタリの帝具だ。それで、どうした? もう逃げないのか?」

 

「クソッ!! なら、コイツはどうよッ!! 消し飛べッ!! 世界の果てまでッ!!」

 

何やら意を決したらしいチンピラが帝具に力を込めると、俺とチンピラの足元に巨大な魔方陣が展開され、俺は不思議な異空間に転送された。

 

「この奥の手を喰らって還ってきたヤツは一人も居ねぇ!! 世界の最果てで朽ち果てろ! ハハハハハ――」

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ナァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

チンピラの勝利を確信した笑い声が響く中、渾身の力と電気エネルギーを込めて拳を振るうと空間に穴が開き、その向こうに変な悲鳴を上げるチンピラがいた。

 

「テメ……ッ! 一体、どうやって……ッ!」

 

「宇宙からエネルギーを貰ったからだッ!!」

 

「!? ふざ、けんな……ッ!!」

 

悪いが、ふざけているつもりは一切無い。空間系の能力はそれを上回るエネルギーがあれば、その熱量によって打ち破る事が出来る。そんな常識も知らんとは、やはりオツムはよろしくない様だ。

力技で異空間から脱出し、「有り得ないモノを見た」と言わんばかりの表情をするチンピラの胸ぐらを掴むと、再び拳を固く握りしめて、渾身の力と電気エネルギーを溜める。

 

「!! ま、待てッ! 俺に手ぇ出して、タダで済むと思ってんのか!? 俺は大臣の息子だぞ!?」

 

「……ハッ。そんな事……俺が知るかああああああああああああああッ!!」

 

「アブァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

今更過ぎる命乞いをするチンピラを無視し、顔面に止めとなる一発を叩き込む。しかし、多少なりとも武術の心得があるだけあって、チンピラの体は頑丈だった。

 

「こ、この野郎――!?」

 

――まあ、それも間も無く終わるがな。獣に堕ちた貴様等には、その生き様に相応しい末路を用意してある。

 

「な、何だ!? テメェ、俺に何をしやがった!!」

 

「先日、帝都近郊に出現していた人型危険種。アレは元人間だったらしくてな、それを調べて出来た『人間を危険種に変える薬』を、打撃と共に撃ち込ませて貰った。それが何を意味するか、スタイリッシュの友人であるお前なら分かるだろう?」

 

元々は、彼等を完全な人間に戻す為の研究で生まれた副産物なのだが、それで「人間を危険種に変える薬」が出来るのだから、何とも因果なモノである。

握り拳の中から、塗り薬のチューブに注射針が装着された物をチンピラに見せ、自分と同様にサムライ野郎やおかっぱ頭の男の肉体が見る見る内に危険種へと変貌していく様に恐怖と絶望を覚えたのか、チンピラは顔を醜く歪めながら絶叫していた。

 

「ざけんなぁ……ッ!! 俺はこんな所じゃ終われねぇんだッ! 俺はいずれ帝位も手に入れてッ! この退屈な世界を変えてやるんだよぉおおおおおおおッ!!」

 

「救えんな。救うつもりも無いが。せめて地獄の底に堕ちながら、踏みにじられた者達の怒りと絶望を思い知れ……ッ!!」

 

「クソ……ッ! こんな所で、俺はもっと……GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

デブピエロ等、残りの連中にも同じ薬を打ち込む間に、完全に危険種と化したチンピラは声にならない声を上げ、完全に人ではなくなった。人間だった頃の面影こそ残っているが、元から人間とは言えない様な「人でなし」だったので、漸くその心に見合った姿になったと言えるだろう。

 

「さて……時空を操る帝具か。どれ」

 

「AGYAAAAAAAAAA――」

 

危険種と化したチンピラとその仲間を、帝具の練習がてら帝都の外へと転送してみる。思いの外、簡単に連発する事が出来たのは、チョット拍子抜けだったが。

 

「……大丈夫か?」

 

「あの……どうして……」

 

「……約束したからな」

 

『――もしも、世の中が平和になったら――』

 

――友よ。二度と還らぬ友よ。俺はお前の墓前に誓おう。

 

『家族で……何処か遠い、綺麗な所に行きたいな……』

 

『良いですねぇ。俺も行ってみたいです、そーゆーとこ』

 

天に代わって悪を討ち、地に蔓延る魔を払い、人に仇なす妖を断つ。

 

『本当? じゃあ、皆で一緒に行ってみない?』

 

『……ああ、それはいいな』

 

俺は奴等に逆らう“戦士”を名乗ろう。




キャラクタァ~紹介&解説

エスデス
 北方異民族を征伐して退屈していた所でフラグを立ててみた結果、速攻でフラグを回収して存分に楽しむ事に成功……と思いきや、超必殺技を喰らってボロ雑巾にされてしまった。そして、帝都で養生している時に「やっぱり、ワイにも『奥の手』は必要やな」と言う結論に至ったとか。
 そして、コイツが『刃牙シリーズ』の登場人物の様な恋愛感情を持つ様になったお陰で、原作主人公のタツミ君は比較的原作よりも平和になった。正に恋か死か。

ヌマ・セイカ
 マゾに目覚めた勇者。回想で他の異民族が帝国の圧政に対して反乱を企てていたのに対し、エスデスの過去編で明かされた北方異民族の所行を考えると、帝国やエスデスの故郷以外にも色んな所に戦争を吹っかけていたと思われ、帝都に負けず劣らず色んな所から怨みを買っていそうな気がする。

三獣士
 エスデスの腹心と言う名の忠犬。エスデスの仇は討ちたいが、相手との実力差は分かっているので、チョウリ襲撃時に主人公を目撃した瞬間逃げようとしたが、主人公に回り込まれてボコられた挙げ句、帝具を全部奪われてしまった。
 その後、名誉挽回とばかりに竜船に乗り込み良識派の文官を暗殺しようとしたが、帝具無しでインクルシオを纏うブラートに勝てる筈もなく、呆気なく退場した。

ナイトレイド
 得体の知れない主人公に戦々恐々。最終目的こそ良識派と同じだが、手段と結果の相違から「帝国を存続させたい」良識派とは相容れず、事と次第によっては良識派と思われる主人公を敵と見なす可能性がある。
 三獣士とワイルドハントが主人公に倒された関係から、ブラートとラバックの死亡フラグは回避されたが、そうなるとインクルシオがタツミに継承されない為、セリュー&スズカ戦でタツミとマインは詰んでしまう様な気が……。

イェーガーズ
 ボルスを筆頭に、割と主人公と共通する部分を持っている奇人変人の集団。実はナイトレイドもコイツ等も、プライベートで主人公と遭遇した事はあるが、戦場で会敵したことは一度も無かったりする。
 人型危険種は犯罪者を材料にしているらしいが、帝国の現状を考えれば無実の罪人もいたと思われるので、主人公的にスタイリッシュはどう足掻いても絶許。まあ、その前にアカメに殺されてしまったのだが。

ワイルドハント
 外道。誰が何と言おうと、貴様等にかける慈悲は無い。シュラは「自身がかつてオモチャにしていた存在に変えられる」と言う自業自得な末路を辿り、最終的に彼等は上記の『イェーガーズ』によって、危険種として“駆除”された。

ボルス一家
 主人公が帝都で経営する喫茶店のお得意さん。「助けた人に怖がられる」等、主人公と少なくない共通点を持つボルスに、主人公は密かにシンパシーを感じていた。
 ボルスが『ストロンガー』で言う所の沼田吾郎のポジになっているのは、メタ的に言うなら「『アカメが斬る!』特有のダークファンタジー要素として、彼の様な人間の死も必要である」と判断したから。ツライ。でゆーか、最後のやりとりみたら、この作品のヒロインはボルスの様な気も……。

主人公/仮面ライダー
 その体は人間ではないが、その心は紛れも無く人間である男。「歴史上革命が一度も起こらなかった国」で生まれ育った為、革命を是とする帝国や反乱軍に戸惑いながらも「人間の自由を守る」為に戦う。
 尚、帝都で経営している喫茶店だが、周囲からは「よく仕事をほっぽり出して、どっかに行ってしまう」と専らの評判であり、「商才は無い」と思われている。



強化服・七式
 帝具では無い。総重量は300㎏を超えるが、限界まで高めたパワーアシスト機能がそれをフォローし、電気エネルギーを用いて多種多様な攻撃を可能とする。内蔵された「超電子ダイナモ」を用いた二段階強化「チャージアップ」によって、通常の100倍の出力とエネルギーを発揮出来るが、ごく短時間しか保たない。
 帝具シャンバラの奥の手破りは、『仮面ライダーSPIRITS』で暗闇大使が計画した「サタンニウムやRS装置で起こす大爆発で『虚空の牢獄』を破壊する」と言う、「物理で殴って空間を壊す」って感じの作戦が元ネタ。いや、本当にそれで『虚空の牢獄』って壊せるモンなの?

理不尽ライダーストロンガーの伝説
 電気に関する事以外でも、大抵の事は何でも出来てしまうストロンガーが元ネタである為、戦闘は基本的に“理不尽の極み”を意識して書いている。その所為で色々とアレな部分もあるが、ストロンガーは時として主人公補正なんてレベルじゃない、敵からすれば理不尽としか言いようのない活躍を見せる時があるから仕方ない。例を挙げれば――。

1.肉体と精神を意のままに操るガスが効かない。

2.火葬場から肉体を電気分解して脱出する。

3.剣で胸を深々と刺されても死なない。

4.720万度のパワーから繰り出される火の玉攻撃が通用しない。

5.アジト諸共爆破されても人質(生身の人間)と共に無傷で生還。

6.地下数千mの地底世界で、宇宙から変身に必要なエネルギーを補給。

7.テレポートするブラックサタン首領の移動先を先読みして殴る。

……超電子ダイナモで強化改造される前からこの有様なのに、ブラックサタンはよくコイツに勝とうと思ったモノである。実際、元から人間ではない『デルザー軍団』の改造魔人でもなければ、対抗する事さえ無理だろう。しかも、次回作のスカイライダーに客演した時はした時で――。

8.チャージアップしないで超電子の技を使う。

9.敵怪人が気付かない程のスピードで攻撃。

……何てこともやっている。ぶっちゃけ、平成ライダーでもストロンガーに勝てるヤツはかなり限られるのではないだろうか? そしてどこぞの神曰く、「宇宙は時の概念を歪める」らしいので、宇宙のエネルギーを吸収したと言うストロンガーは……いや、あまりその辺は考えない方が良いかも知れない。


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