マスター君の性癖が誤解される話 (ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民)
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マスター君の性癖が誤解される話

 カルデアの娯楽は主に読書かレクリエーションルームのゲームになるだろう。

 図書館に行けば古今東西のあらゆる本があり、レクリエーションルームには様々なタイプのビデオゲームやアーケードゲーム、ボードゲームもある。諸葛孔明や巴御前は、ここによく入り浸っているそうな。

 さて一方の読書だが、当然ながら全年齢向けの物しかない。年齢制限付きの物は図書館に置く事ができず、閉架図書の奥底、ただの保管室に密かに収納されているだけらしい。アサシンが興味本位で侵入した事があるらしいが、悉く失敗している。

 さて、当然そんな風に年齢制限付きの書物には封印がされているため、カルデアのそういった方面の風紀はキッチリ守られているのであった。

 

 

 

 

 

「マスター氏、マスター氏」

「例の物は?」

「へへ、こちらに」

「サンキュー。はい、お金」

 

 夜も良い感じに更けた頃、オレの部屋にとあるサーヴァントが訪れた。

 餅は餅屋、薄い本ならオタク。というワケで、そう、黒ひげです。

 

「毎度あり。しっかしアレですなぁ、マスターなら頼めば誰か相手してくれそうな気もしますが」

「そうかな? オレと皆は飽く迄もマスターとサーヴァントだし、そういうのは良くないと思う」

「そうでつか」

 

 オレは今回、黒ひげにはある物の入手を頼んだ。そのためには決して安くないQPも払っている。これで食費等を差っ引くと今月の自由なお金は殆ど残っていない。が、悔いは無い。

 何を持って来て貰ったかと言えば、まぁつまり――

 

「ほいほい、ご注文のノーマルイチャラブエロ本3冊、お確かめくだちい」

「うん、ありがとう。紙袋に入れてくれた点も含めてね」

 

 そう、エロ本だ。

 だって仕方が無いじゃないか、図書館に置いてないんだもの。勿論、カルデアじゃ道端にエロ本なんて落ちてないし(古い)、エロ本の自販機も置いてないし(かなり古い)、風俗店はおろかノーパンしゃぶしゃぶ(すこぶる古い)とか言うよく分からない店もない。

 だったらこうして、どっかしらで買うしかないじゃないか。例えそれが人伝でも!

 

「マスター氏はノーマルが好きですなぁ」

「流石に人妻とかの道は開拓するには早いよ」

「……マシュ氏が泣くからその道は絶対開かないように」

 

 こういった方面では、黒ひげは強力な共犯者になってくれる。

 何せ『そういうキャラ』で通っているし、そっちの方面にも情報を持っている。ならば頼る以外の道があろうか。

 

「んでは、拙者がいつまでもいると怪しまれるのでこれにてドロンでござる。また真っ二つは御免なので。ノシノシ」

「バレンタイン、レフる黒ひげ、秘蔵本……、うっ、頭が……」

 

 プシュー、という音がして扉が閉まり、黒ひげは帰って行った。

 誤解されやすいと言うか、ガチで悪人なのだけど、黒ひげは良い奴だとオレは思う。油断すると鉛玉がズドン!だけど。

 まぁ、今度何か奢るとしよう。そのくらいの懐はまだギリギリある。いざとなればリンゴを齧って宝物庫だ。

 

「さてさて、御開帳――」

『マスター君、いるかい』

「おっと、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 早速貰った本を見ようとした所、通信が入った。

 

『ごめん、ちょっと急用なんだ。30分もかからないから、良いかな?』

「良いよ」

 

 たった30分なら往復考えても1時間いらないだろう。

 何、本は逃げない。表紙を見るのごとお預けだ。

 そう考えたオレは、ダ・ヴィンチちゃんの元へ向かうべく黒ひげから貰った紙袋を、迂闊にもデスクの上に置きっ放しにして退室したのであった。

 

 

  ☆

 

 

「先輩、失礼し……、留守ですか。ロックもかけてないとは珍しいですね」

 

 私ことマシュ・キリエライトが扉に近付くと、ウィーンという音と共に部屋への道が開かれました。

 フォウさんのおやつとブラッシングの時間なので探しているのですが……、先輩の部屋にはいないようです。

 

「……おや」

 

 その時ふと、先輩のデスクの端っこに紙袋が置いてある事に気付きました。

 急いで出て行ったのでしょう、かなり乱雑に、今にも落ちそうな場所に置いてあります。

 

「落として壊れる物だったら大変です。もっと真ん中に――」

 

 バサバサバサ!

 ……遅かったようです。私が近寄るより早く、紙袋は落ちて中身を散乱させてしまいました。

 幸い、入っていたのは本だったようです。整えて机の上に……。

 

「ふぇっ!?」

 

 何と、紙袋から出て来たのは、いわゆる春本でした。

 

「え、えー……!?」

 

 唐突な展開にビックリで、理解が追い付きません。

 いえ、先輩も男性ですし、どこかから入手する可能性は考えられます。

 しかし実際に目にすると、心の準備というか、その……。

 

「うわ、うわぁ……」

 

 しかも都合3冊あるそれらのジャンルが酷いです。最悪です。

 1冊目は『小学生ぱふぱふサイコー』という何とも頭の悪い本。ジャンル名はロリ巨乳でしょう。

 2冊目は『いけない団地妻』。何ですかこのランスロット卿が喜びそうなのは。

 3冊目は『生意気な弟嫁幼馴染を寝取る』……。先輩、最低です。

 

「幻滅です……。私、これからどんな顔で先輩に会えば良いのでしょうか」

「マシュさん、大丈夫です。性癖は強制もとい矯正できます」

「ひゃっ!?」

 

 突然耳元に響いた声にビックリして振り返ると、そこにはいつの間にか清姫さんがいらっしゃいました。もしかすると最初からベッドの下とかに隠れていたのかも知れません。

 

「というわけで、この蛇娘との絡み本と交換を!」

「何が『というわけ』なのでしょう!?」

「大丈夫です、ますたぁの趣味嗜好を考慮した一冊ですので!」

 

 懐から薄い本を取り出す清姫さん。

 まさか先輩は、人妻やロリ巨乳のみならず、ケモ娘とかいうのも行けるタイプだったのでしょうか。

 

「なりません、ここは母が責任を持って授乳好きの道に! 間違っても人妻など!」

「母って時点で人妻よ、アナタ。ど、どうしてもってなら、私がスレンダーなプリマ方面に」

「別に、ツンデレ好きになって欲しいなんて思ってないんだからね! よし、次のフェスはこれで行ける」

「別に、金髪美女が好きなタイプになって欲しくなんてないんだからね! ……ダブったのだわ」

「ブレーキの壊れた忠犬もよろしく! 首輪が欲しいですね!」

「……私の教義では、本は難しい」

「縛り上げましょう、メアリー」「縛り上げられよう、アン」

「拷問とか好きと聞きましたコフッ」

「そんな事よりうどん食べたいな」

 

 いつの間にか更に人が集まって来ました。

 状況はカオスを極めてきましたが、各々が何処からかご自身の属性に合いそうな本を取り出しています。

 まさか、あれも先輩の趣味嗜好に合わせた……?

 つまり先輩は、蛇娘も人妻も肉親の嫁もツンデレも首輪も縄もうどんも好みであると!?

 

「こうしてはいられません」

 

 明らかに危ない物が何種類か混ざっています。

 ここは後輩として、先輩を真っ当な道に戻さなくては!

 

「あれ、皆どうしたの、オレの部屋で」

「先輩」

「何かな、マシュ」

「私は先輩がヒトヅマニアでも見捨てませんから!」

「は、はい……?」

 

 先輩の困惑する顔も何のその。

 マシュ・キリエライト! 地下図書館より先輩後輩系の本を持って参ります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3時間後、黒ひげさんが円卓宛てと先輩宛ての紙袋を間違えていた事が判明するのは、別のお話。

 

 

どっとはらい



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