リクエスト小説 ナルト×香燐の話 完結 (アーク1)
しおりを挟む

前編

アンケートの結果、他の作品も読みたい方が大多数でしたので、投稿を開始します。
まずは、コメントで多かったナルト×香燐の話になります。

この話はそれほど長くは無いのでご安心を(笑)

注意としまして、これは、あくまでもナルトと香燐のカップリング小説になりますので、ヒナタとナルトが結ばれる事はありません。
ナルヒナフリークの方は読まない事をお勧めします。


「ちきしょう...なんで俺ばっか...こんな目に合わなきゃならねぇんだってばよ...」

 

まだアカデミーに入ったばかりの少年『うずまきナルト』は、背中に手裏剣を受け、痛みを堪えながら一人ごちる。

 

その目は憎悪に染まっていた。

 

物心付いた時には、既に周りの大人たちナルトを敵視している事に気付いていた。

 

何故、そんな目で見るのか...何故、自分を無視するのか...

そして、何故自分には家族がいないのか...

 

ナルトはそんな環境の中で育ち、いつしかこの世の全てを憎むようになっていた。

 

唯一、ナルトを人として扱ってくれる三代目の薦めで忍者アカデミーに入っては見たが、そこの教官たちも、やはりナルトを色眼鏡で見ていた。

 

(三代目のじいちゃんは、アカデミーに入れば友達も出来るし、良いことあるって言ってたけど...ここも、変わらないってばよ...)

 

ナルトは、期待をしていただけに失望もまた大きかった。

 

何よりも、唯一と言って良い、自分を見てくれていたヒルゼンの勧めであった事が大きかった。

 

(やっぱりじいちゃんも俺の敵だってばよ...ここにいたら、いつか俺は殺されるかも知れねぇ...そうなる前に、木の葉から抜け出すってばよ。)

 

拠り所の無くなったナルトは、追い詰められて里を抜ける決心を固めた。

 

その夜...

 

「狐のガキが里抜けしやがった!」

「やはり、生かしておくべきじゃ無かったんだ!」

「狐を殺せ!」

「ナルトを殺せ!」

 

「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」

 

三代目火影ヒルゼンは、ナルトの里抜けに対し出来るだけ穏便に捕えるようにと厳命した。

 

しかし、その裏でダンゾウが命令を変更していた。

 

自ら里を抜けたナルト...

このまま、里に連れ戻した所で里の為に尽くすハズがない。

また、抜け出そうとするのは目に見えていた。

 

最悪、他の里の手に渡ってしまう可能性すらある。

人柱力の力が他里に...

 

そんな事になるなら、殺してしまった方が良い。

そう考えたダンゾウは、ナルトを発見次第殺す様に命じた。

 

ヒルゼンの預かり知らぬ所で、ナルトの暗殺命令が降されていたのだ。

 

そして...

 

「見つけた!狐のガキだ。」

 

中忍の小隊が、草影に隠れていたナルトを発見した。

 

忍たちは、ナルトが自分たちに気付き、背を向けて逃げ出そうとした所を狙って手裏剣を投げる。

 

見事に命中する手裏剣に、

 

「よし、仕留めた。俺たちがあの化け物を倒したんだ。」

「へへ、帰ったら英雄だな。」

「それよりも、ボーナス貰えるかもな。」

 

意気揚々と語る忍たち。

 

その会話を薄れる意識の中聞いたナルトは、自分の中で、何かがキレる音を聞いた。

 

ゴウッ!!!

 

突然、辺り一面を覆う様な巨大なチャクラが出現した。

 

「な!なんだ...このチャクラ...」

「お、おい...あのガキ...まだ生きてるぞ...」

 

忍たちの視界に、今にも立ち上がろうとするナルトの姿が写った。

 

慌てて攻撃を仕掛ける忍たち。

 

手裏剣で...クナイで...或いは忍術で...

自分達の出来る攻撃は全て使った。

 

しかし...

 

「おい...俺たちの攻撃が全く効いてないぞ...」

 

いつの間にかナルトを漆黒のチャクラが覆っていた。

 

そのチャクラが忍たちのあらゆる攻撃を弾いてしまっている。

 

ナルトが忍たちに視線を向けた...

 

「ヒッ!」

 

恐怖が忍たちを支配する。

 

「死ね...」

 

ナルトが一言呟いた...

 

その夜、木の葉の里から一つの中忍の小隊が殉職した。

 

そして、うずまきナルトが木の葉から姿を消したのだった。

 

 

その日、大蛇丸はダンゾウと密談を済ませ、自身が統べる音隠れの里へと向かっていた。

 

「あら...行き倒れかしら...」

 

カブト同伴で向かっていた大蛇丸は、身体中ボロボロの少年が倒れているのを見つけた。

 

「この子は確か...」

 

その少年に思い当たる節があったカブト。

近づき確認する。

 

「間違いない...大蛇丸様...この子は里の疫病神として忌み嫌われていた、うずまきナルト君です。確か、先日里を抜けて追われていたハズです。どうやら見つかって処分されたんでしょうね...」

 

「.........まだ、生きてるみたいだけど...」

 

微かに息のあるナルトを見て、呟く大蛇丸。

 

「時間の問題ですよ...これだけ損傷して...しかも子供の体力です。助かりっこ無いですよ。」

 

(確かに、普通なら助からないわね。でも、私の勘が告げている...この子はここで死ぬ運命には無い...それに微かに辺りに残ったこのチャクラ...なるほど...この子は九尾の...)

 

「カブト...この子を治療なさい。」

 

「え?まさか大蛇丸様...この子を里に連れ帰るのですか?」

 

大蛇丸の突然の指示に驚き、思わず聞き返すカブト。

 

「ええ、そうよ。」

 

「しかし、大蛇丸様...幾ら僕でも、この子の治療は難しいかと...」

 

ナルトは背中に幾つもの手裏剣を受けていた。

しかも、かなり時間が経った様子で、出血も相当しているハズ...

 

息をしているだけでも奇跡...

カブトはそう考えていた。

 

「いいから、やってみなさい。多分...面白いものが見れると思うわ...」

 

「はあ...わかりました。」

 

大蛇丸の突然の命令はいつものこと...と諦めたカブトは、助からないのを承知で治療を始める。

 

増血丸を飲ませ、手裏剣を取り除き、医療忍術で治療を始める。

 

「な!?...大蛇丸様...これは一体...」

 

いざ、傷を塞ごうと医療忍術を始めると、カブトの予想に反して、みるみる傷が塞がっていった。

 

そのスピードは、カブトの医療忍術を持ってしてもあり得ないスピード...

 

まるで、ナルトの身体が自動で再生をしているかのようだった。

 

「ふふっ...やっぱりね...」

 

その様子を見て、満足そうに笑う大蛇丸。

 

「う...うぅ...」

 

身体の回復のお陰か、虫の息だったナルトから微かに呻き声が漏れる。

 

「カブト...この子の身体にはね...九尾の妖狐が封印されているのよ。」

 

「な!?それじゃあ、里の人間から忌み嫌われている理由は...」

 

「そう、この子が人柱力だから...いえ...そうじゃないわね...恐らくこの子を九尾の生まれ変わりとでも思ってるのかしら...全く...あの里も度しがたいわね...」

 

「...............。」

 

「まあ、そのお陰で良い実験体がてに入ったのだし、取り敢えずは良しとしましょうか。」

 

大蛇丸は、一人納得すると踵を返して歩き出した。

 

「可愛そうに...大蛇丸様に目をつけられてしまったのが運のつきかな...あのまま死んでいた方が楽だっただろうに...」

 

年端もいかないナルトの今後に同情しつつ、カブトはナルトを背負い大蛇丸の元に向かうのだった。

 

 

所かわって、大蛇丸のアジト。

 

「さて、連れてきたは良いけど、私もカブトも忙しいし...この子にばかり構ってる訳にもいかないのよね...」

 

「何も考えて無かったのですか?」

 

てっきり、大蛇丸はナルトを実験材料として付きっきりになるものと思っていたようだ。

 

「幾ら私でも、尾獣の実験を何の準備も策も無くやるハズが無いでしょ?下手をしたら封印が解けて、このアジトごと消滅するわ...」

 

「...............」

 

カブトは、尾獣について知識でしか知らない。

その強さも、凶悪さも、アカデミーの木の葉の歴史の授業で習った程度だ。

 

そもそも、木の葉において九尾の事件は禁忌とされており、詳しく説明されることは無かったのだ。

 

ただ、その力が強大であり、多くの犠牲者を出しながらも、四代目火影がその命を懸けて封印した。  

 

カブトが知るのはその程度である。

 

「そこまで凶悪な力を制御出来るのですか?」

 

「さあ?取り敢えずやってみて、無理なら無理で家の里の戦力にでもすれば良いんじゃないかしら...」

 

「この子が、それに従いますかね...」

 

「ふふ...そんなもの、いつも通り、情を利用すればどうとでもなるでしょ?そう言えば、少し前に拾った娘がいたわね。」

 

「?...ああ、彼女ですか。」

 

始め、大蛇丸が誰の事を言っているのか理解できなかったカブトだったが、すぐに少し前に大蛇丸が拾った、草隠れの里で奴隷として扱わていた少女の事だと気付いた。

 

「あの娘に、ナルト君の事を任せましょうか...年端も近いし、境遇も似ている。もしかしたら面白いことになるんじゃないかしら...」

 

「相変わらず、人が悪いお方ですね。わかりました。では僕は彼女にこの件を伝えてきます。」

 

不気味に笑う大蛇丸に、冷や汗を掻きつつ大蛇丸の命令を即座に遂行するカブト。

 

「さて、あの娘は素直に聞くかしらね...」

 

ほくそ笑みながら大蛇丸はその場を後にした。

 

 

それから少しして...

 

「う、ここは...」

 

ナルトは、目を覚ました。

 

「やっと、目を覚ましたみたいだな。」

 

そこに、ふいに声がかかる。

 

一気に覚醒したナルトは、声の主から距離を取ると、相手を睨み付けた。

 

「なんだ...せっかく回復してやったってのに、随分な態度だな。」

 

「お前は誰だってばよ!それにここはどこだ!」

 

警戒を解かず、目の前の人物に怒鳴るナルト。

 

「そう、警戒するなって...ウチの名前は香燐。大蛇丸...様にお前の世話を任された。よろしくな。」

 

目の前の赤毛の少女...香燐はそう言ってナルトに笑いかけた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中編

香燐は、目の前で気を失っている少年を見て戸惑っていた。

 

一月程前、自分は大蛇丸によって奴隷同然のように扱われていた草隠れの里から救い出された。

 

いや、救い出されたと言うには語弊があるのかもしれない。

 

大蛇丸は、最初自分には興味を示してはいなかった。

 

自分の特異体質...香燐の身体を噛み、吸う事で回復効果とチャクラの補充を行うことが出来る...

 

それを見て興味を示したのだ。

 

後はその場にいた草隠れの連中を大蛇丸が全員殺害し、一緒に来る様に誘ってきたのだ。

 

この時、香燐に、大蛇丸の誘いに乗る以外の選択肢は無かった。

 

もともと、草隠れでは奴隷...いやもはや便利な医療忍具扱い...そして自分以外全員死亡...

 

あのまま戻っても、自分が犯人として扱われ、今まで以上に自由もない酷い扱いが待っているのは目に見えていた。

 

幸い...と言ってはなんだが、香燐にとって唯一心を許していた母は、草隠れの連中の扱いによって、既に他界している。

 

迷う理由も無かった...

 

しかし香燐は、決して大蛇丸に感謝する気は無い。

 

それは、香燐のもう一つの能力...他人の本質をチャクラとして感じとる...と言う珍しい感知タイプとしての力で感じ取っていたからだ。

 

大蛇丸は決して、善意で自分を助けた訳では無い事を...

 

草隠れの連中と変わらない...自分を人間としてでは無く、何か別の物として見ている事を...

 

それから少し経って...

 

香燐は、大蛇丸から妙な命令をされた。

 

自分のように、どこからか拾って来た少年の面倒を見るようにと...

 

年頃は、自分とそう変わらないように見える気を失った少年...

 

流石に、大蛇丸の命令を断ると言う選択肢は無い。

 

少なくとも、草隠れの里にいた頃に比べれば良い生活を送れている。

 

それだけでも、大蛇丸に感謝していた...

 

そして何よりも...気を失った少年...彼から感じるチャクラに興味を覚えた。

 

今まで香燐が感じた事が無いほど温かく、周りを包み込む様に広がる...まるで日溜まりの様なチャクラ...

 

一体この少年は、どんな人間なんだろう...

 

香燐は、少年と話がしてみたい...そう思った。

 

だから香燐は自分から少年に近付いた。

 

今までずっと呪ってきた自分の能力を使って、少年にチャクラを送る。

 

「う、ここは...」

 

程なくして、目を覚ました少年に、

 

「やっと、目を覚ましたみたいだな。」

 

香燐はそう言って声をかける。

 

しかし、少年は期待したような感謝を浮かべるでもなく、自分を警戒するように距離を取った。

 

「なんだ...せっかく回復してやったってのに、随分な態度だな。」

 

「お前は誰だってばよ!それに、ここはどこだ!」

 

少年の態度や、大蛇丸が拾った時に怪我をしていたとの話から、自分を敵と勘違いしていると判断した香燐は、誤解を解こうと、

 

「そう、警戒するなって...ウチの名前は香燐。大蛇丸...様にお前の世話を任された。よろしくな。」

 

そう言って笑いかけた。

 

「大蛇丸...ってのは誰だってばよ。あと、もう一回聞くけど、ここはどこだ!」

 

しかし、少年は未だに警戒を解かない。

 

「大蛇丸...様は、音隠れの里の里長だ。草むらで傷つき倒れていたお前を保護した人物でもある。ついでに言うと、あんたにチャクラを分けてやったのはウチな。」

 

「...音隠れの里?...聞いた事無ぇけど...ここは木の葉じゃ無えんだな?」

 

「木の葉みたいな大きな里じゃ無いさ。何しろ、新興の隠れ里だしな。それよりも、ウチは名乗ったんだけど...そろそろ名前を教えてくれないか?」

 

「あ...えっと...ゴメンってばよ。俺はうずまきナルト...その...勘違いしちまってすまねぇ。後、助けてくれてサンキューな。」

 

香燐の言葉に慌てて名乗り、助けてくれて事に感謝を伝えるナルト。

 

「...なあ、なんでそんなに警戒してたんだ?幾ら初対面だからって、敵意を持って睨む程じゃねぇだろ?」

 

香燐は、ナルトの最初の態度に思わず聞いた。

ナルトは本来、とても優しい人間だ。

ナルトから感じるチャクラから、香燐はナルトをそう理解している。

 

そんな人間が、初対面の人間にあれほどの警戒心と敵意を見せる...

 

一体何があったのか気になった...

 

「.........。」

 

香燐の問いにナルトは答えない...

いや、答えたく無かった...

 

「ウチは、戦争で故郷を焼かれたんだ。」

 

「え?」

 

唐突に話始めた香燐。

答えないナルトに、きっと自分のように人を...世界を...自分の生を呪うような人生を送って来たのだと、なんとなくわかった。

 

だから、自分から話す。自分の過去を...

故郷を焼かれ、落ち延びた草隠れの里で奴隷の様に扱われ、母はそれが元で亡くなった...

 

何度死のうと思ったかわからない...

何度世界を呪ったかわからない...

何度周りの連中を殺そうと思ったかわからない...

 

話終えた時、香燐は泣いていた...

 

「...ゴメンな...俺のために話してくれたんだよな...」

 

涙を流す香燐をナルトは抱き締める。

 

(やっぱり暖かいな...こいつのチャクラ...)

 

その温もりに、心の底から安心感を得る香燐。

 

そして、ナルトもまた香燐を抱き締めながら、語り始めた。

 

木の葉での生活を...

自身には身に覚えも無いのに、里の人間たちから忌み嫌われていた...

里の人間たちは自分の事を人間とは見ていなかった。

何かもっと別の...化け物として見ていた...

 

自分がどれだけイタズラをして気を引こうとしても、まるで関わる事それ事態が悪いかのように自分を無視していた...

 

唯一の味方だった三代目も、自分の気持ちをわかってはくれなかった...

 

だから逃げ出した。あの場所から...

 

「俺ってば、結局なんなんだろうな...アイツらが言うように化け物なのか...」

 

独り言のように呟くナルト。

 

「そんなこと無い。ウチにはわかる。お前のチャクラは、こんなにも暖かいじゃないか。お前は決して化け物なんかじゃ...」

 

ナルトの言葉を否定する様に叫んだ香燐は、しかし、途中で気付いた。

 

「あんたの中に...別のチャクラを感じる...とても強大で、禍々しいチャクラ...これは...」

 

「それは、九尾の妖狐のチャクラよ。」

 

香燐の言葉を引き継ぎ様に、大蛇丸が姿を現す。

 

「誰だってばよ!」

 

ナルトは香燐を守る様に、前に出ながら問いかける。

 

「ふふ...香燐から聞いていないかしら?私の名前は大蛇丸。貴方を助けた人間なのだけど...」

 

「...あんたが?いや...それよりも、俺の中に九尾がいるってのは本当なのか?」

 

「そうよ...貴方が生まれた日...突如現れた九尾の妖狐が木の葉で暴れまわった。多くの犠牲者を出したあの事件を命を賭けて解決した四代目火影。その解決策は、当時生まれたばかりの赤子に九尾を封印すると言う物だったの。ついでに言えば、貴方に九尾を封印した四代目火影は貴方のお父様よ?」

 

「な!?」

 

木の葉で決して口にしてはいけないとされていた事件の真相。

大蛇丸は、それをあっさりとナルトに教えた。

 

「父ちゃんが、俺に九尾を...」

 

父親が自分に九尾を封印したせいで、あんな目にあってきたのか...

 

ナルトは顔も知らない父親に憎悪した。

 

「じゃあ...里の連中が俺を嫌ってたのは...俺の中にいる九尾に対してなのか?」

 

「いいえ、違うわ。詳しく理由までは知らないけれど、当時の木の葉の上層部は貴方を九尾の生まれ変わりとする噂を流した。つまり、貴方は九尾そのものとして嫌われていたのよ。」

 

「な、なんでそんな噂を流したんだってばよ。」

 

「さあ?理由はわからないわ...でも、貴方の境遇の原因はこれで理解したかしら?」

 

「.........。」

 

ナルトは、肩を落とした。

 

結局、自分の迫害の原因は全て木の葉のせいではないか...

それに元を正せば自分に九尾を封印した父の...

 

「ナルト...」

 

香燐は落ち込むナルトの手を握り励まそうとする。

 

「仲良くやっているようね。香燐。ナルト君の事はお願いね?」

 

大蛇丸はそんな香燐を見てほくそ笑むとそう言ってその場を後にした。

 

「ナルト...木の葉で、草で...ウチらは酷い目にあってきた。それは変わらない。でも、今のウチらは音隠れの里の一員だ。ここで、ウチと一緒に自分の居場所を作ろう。」

 

香燐は精一杯ナルトを励まそうと言葉を紡ぐ。

 

「香燐...そう...だよな...辛い過去を持ってるのは俺だけじゃない...ありがとう...香燐...俺ってば、お前に出会えて良かった。」

 

ナルトはそう言うと、ここに来て初めて笑顔を見せた。

 

「バ、バカヤロー、そう言う事は、いきなり言うんじゃねぇ...恥ずかしいだろ。」

 

顔を真っ赤にしながら、香燐は憎まれ口を叩いて、照れ隠しする。

 

かくして、似たような過去を持ち、同じように大蛇丸に拾われた二人は、自分の居場所を作るため、これから頑張っていこうと、お互い誓うのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その一

後編はちょっと長め


ナルトが大蛇丸に拾われてから三年が経過した。

 

今では、ナルトも音隠れの忍として活動している。

 

その過程で多くの仲間たちにも恵まれ、極度の人間不振に陥っていた面影はそこには無かった。

 

それには、ナルトの世話役を任された香燐の努力があったことは間違いない。

 

香燐自身も、その境遇から人を簡単に信用出来るハズも無かったが、元々音隠れの里には、二人の境遇に近い人間が多くいたのだ。

 

人の信用を得るには、まず自分から信用しなければならない。

 

ナルトの為、香燐は自身のトラウマを我慢して相手を信用し、ナルトと共に多くの仲間を作っていったのだ。

 

そして、ナルトはと言えば、ようやく得た自分の居場所を守るため...何よりも香燐を守るために、文字通り必死に修行に明け暮れた。

 

元々、ナルトは忍としての才能はサスケに勝るとも劣らない程にあった。

 

うずまき一族として強大なチャクラを持つ母、そして四代目火影にまで登りつめ、綱手や自来也をして、あれほど忍の才能に恵まれた人間はいないと言わしめた父...

 

二人の子供であるナルトに、才能が無いと考える方が不自然だろう。

 

なのに、本来の歴史で落ちこぼれであったのは、九尾のチャクラが混じったことでチャクラを練るのが他の人間より遥かに難しかった事、そしてアカデミーの教師たちがナルトを指導してこなかったせいだ。

 

確かに授業はしていたが、化け物として見ているナルトを個人的に指導したいと考える人間はいなかった。

 

そんな境遇の中、それでも自分で努力してきたナルトではあるが、自己流での修行で出来る事などたかが知れている。

 

失敗しても、どこが悪いのか指摘する人間もいない。

 

その悪循環がナルトを落ちこぼれとしてきたのだ。

 

事実、ナルトの適正が高かったとは言え、本来上忍クラスの術である影分身を巻物に書かれていた事を実践しただけで、ほんの数時間で物にしてみせた。

 

そして、今のナルトは自身がどういう存在なのか、何故チャクラを練るのが下手なのか理解してる上に、誰よりも術に長けた大蛇丸や、他の忍たちが指導をした。

 

更に、ナルトと影分身の相性、そして影分身による経験値のフィードバックと言う反則技に早い段階で気付いた大蛇丸は、香燐にチャクラ補充を行わせつつ、影分身による修行を敢行すると言う方法を考え付いた。

 

その結果、今のナルトの実力は音隠れの里でも一、二を争う程に成長していた。

 

 

そして、物語は大きく動き出す。

 

その日もナルトは香燐と修行に明け暮れていた。

 

修行に一段落が付いた頃...

 

「ナルト、香燐。大蛇丸様がお呼びだ。」

 

ふいに声をかけられた。

 

「おお、多由也じゃねえか。随分と久しぶりだってばよ。」

 

「大蛇丸様が何の用だって?多由也。」

 

声を掛けてきた人物は、音隠れの里でも大蛇丸の近衛を任される四人衆の一人、多由也だった。

 

香燐は、用件を尋ねるが、

 

「さあな。ウチはお前らを呼んでくる様に言われただけだ。さっさと付いてきな。」

 

質問に答える事なく、それだけ言うと踵を返して歩き出す多由也。

 

「はぁ...ウチの里のくノ一は、どうしてこう口が悪いんだってばよ...」

 

深いため息を付くナルト。

 

「おい、ナルト...そりゃあ何か?ウチも入ってるのか?あぁん?」

 

ほとんど呟きに等しい声量にも関わらず、耳聡く聞き付けてナルトに詰め寄る香燐。

 

「奇遇だな。香燐。ウチもこのチ○カスヤローに聞きたい事が出来た...」

 

多由也もナルトに詰め寄る。

 

「いや、その...そ、そんな事より大蛇丸が呼んでるんだろ?さっさと行くってばよ。遅刻なんかしたら、側近連中に何言われるわからねぇってばよ?」

 

二人の少女に詰め寄られ焦るナルトは、なんとかその場を治めようと、話題を反らした。

 

「ちっ...確かにそうだな。」

 

多由也は納得したのか舌打ちしつつも、先を歩き出した。

 

「後で覚えてろよ?ナルト。」

 

(前々から思ってたけど、この二人...口の悪さと良い、口調と良いそっくりだってばよ...)

 

冷や汗を掻きつつも、そんな事を思うナルトであった。

 

 

会議室にて...

 

「木の葉崩し?」

 

「ええ、そうよ?私の手であのカビの生えた里を壊そうと思うの...五大国家の膠着状態...それは微妙なパワーバランスの上に成り立っているわ。」

 

「木の葉と言う、五大国の中でも特に大きな里が崩壊したら、どうなるのか...私は自分の手で歴史を動かしてみたいのよ...」

 

大蛇丸の今回の作戦は、今までに無い大規模な物だ。

 

これまでで、最も大きな任務は風影を暗殺すると言う物...

 

その時も、暗殺と言うこちら側に限りなく有利な状況にも関わらず、流石は影の一人だけあり、多くの犠牲者を出した。

 

しかし、今回は相手のホームに乗り込んで、奇襲とは言え全面戦争を仕掛ける様な物だ。

 

「勝機はあるのですか?」

 

側近の一人が、思わず大蛇丸に口を出す。

途端に、四人衆を初めとした多くの人間が口出しをした側近に殺気をぶつける。

 

ここにいる者たちの多くが大蛇丸に救われ、大蛇丸を信奉している者たちだ。

 

大蛇丸の為に命を捧げる事を喜びと感じている者すらいる。

 

口を出した側近は、針の筵の様な殺気を浴びて縮み上がった。

 

「落ち着きなさい。彼の言うことも最もね。失敗すれば、音隠れの里がまずい立場に立たされる可能性があるものね。」

 

「でも、心配は無いわ。木の葉のトップ...三代目火影を殺してしまえば、内政はしばらく麻痺する。それに木の葉の上層部にも協力者はいる。失敗したとしても、直ぐに家の里がどうこうなる訳では無いわ...どの道、木の葉はその力を大きく落とす事になる。他の五里を警戒する必要がある以上、何も出来はしないわ。」

 

「...差し出がましい事を言いました。」

 

大蛇丸の言葉を聞いた側近は、素直に謝罪する。

 

「さて、それじゃあ詳しい説明を始めるわよ?」

 

作戦会議が始まった。

 

「説明は以上よ。各員の健闘を祈るわ。」

 

大蛇丸からの作戦の目標と大まかな概要の説明は終わり、その言葉で会議は締め括られた。

 

「ああ、それからナルトと香燐、それに四人衆は残って頂戴。」

 

会議に参加していた忍達が席を立つ中、大蛇丸がナルト達を呼び止める。

 

「なんだってばよ。一体。」

 

「貴方たちには、作戦の間他の忍たちとは違う役目を頼みたいのよ。まず、四人衆。貴方たちは三代目と私の戦いの間、他の木の葉の連中が手出し出来ない様に、結界を張ってもらうわ。」

 

「わかりました。」

 

四人衆に指示を出した大蛇丸は、次にナルトを見る。

 

「それから、ナルト。貴方には香燐と一緒に中忍試験に出てもらうわ。」

 

「はっ?」

 

「だから、中忍試験に出てもらうの。」

 

「な!それってまさか...」

 

大蛇丸の言葉の理由に気付いた香燐が血相を変える。

 

「ああ、つまり囮になれって事か?」

 

遅れて気付いたナルトが、聞き返す。

 

「ええ。貴方は木の葉を抜けた人間。ましてや人柱力よ。里の人間の目を引くのには最適だわ。」

 

「ま、待ってください...そんなの危険すぎる。いくらナルトが強くても...」

 

慌てて大蛇丸に食って掛かる香燐だったが、

 

「香燐。大丈夫だってばよ。俺はお前や里の仲間たちを残して死んだりしねぇから。」

 

ナルトの笑顔に、それ以上口に出来なかった。

 

「ふふ...ああ、それからもう一つ。今回の木の葉崩しとは別に、私には目的があるのよ。器候補の力を見定めるって言うね...」

 

そうして、ナルトと香燐は自分たちの任務の詳細を確認する。

 

「さて、後は中忍試験に出るのにメンバーを揃えないとね。」

 

「ん?どういう事だってばよ。」

 

「中忍試験は、三人一組でないと参加出来ないのよ。」

 

「大蛇丸様、それならウチが参加します。」

 

多由也が立候補する。

 

「はあ?なんでお前がでしゃばってくるんだ。」

 

香燐がいかにも嫌そうな顔をして答える。

 

「バランスの問題だ。ナルトは多くの術を使いこなすが、基本は近接タイプの忍だ。お前は回復がメインのサポートタイプだろ?そして、ウチは幻術メインの遠距離タイプだ。中忍試験は、謂わば前座。木の葉崩しがメインなんだ。それまでに万が一があったら困るだろ?どんな状況にも対処出来るようにしとくのは、当然だろうが。」

 

「ぐっ...」

 

言い負かされて何も言えなくなる香燐。

 

「とは言え、ウチのメインの任務は木の葉崩しの際の結界を張ること。あまり消耗はしたくねぇんだ。だから...」

 

多由也はそう言ってナルトの肩を叩くと、

 

「しっかりとウチの事を守ってくれよな。」

 

若干、頬を赤くしてそう言った。

 

「ああ。てめぇ...それが目的だな。ふざけんな。ナルトはウチを守るって約束したんだ。大体、てめぇが一緒だとどっちがどっちのセリフが読者がわからねぇだろう!」

 

「何を訳のわからねぇ事を言ってやがるクソビッチ。ウチだってたまには守られる乙女を経験してもいいだろうが!」

 

言い争う二人を尻目に一人ため息をつくナルトは、

 

(三年ぶりの木の葉か...今さら、あそこがどうなろうと構わねぇ。せいぜい引っ掻き回してやるってばよ。)

 

これから始まる作戦に、思いを馳せるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その二

ナルトは香燐、多由也を伴い木の葉の里の入り口。

門の前に来ていた。

 

無論、中忍試験を受ける為である。

 

ナルトが門番をしていた木の葉の忍に、通行許可書を見せる。

 

「なっ!?お前は...」

 

その名前を見た門番は、驚愕し目の前の人間が誰なのか理解すると共に警戒する。

 

「おいおい...木の葉の忍ってのは正式な通行許可書を見せて尚、敵意を見せるのか?それならなんのための許可書なんだってばよ。」

 

ナルトはこれ見よがしに、門番の忍を嘲笑しながら大声で言った。

 

そこには当然ナルトたち以外にも、木の葉に用事のあった商人や依頼にやって来た他国の人間、中忍試験に集まった忍たちもいた。

 

許可書を出され、尚且つその書類に不備は無い。

更に言えばナルトは、音隠れの里の額当てをしている。

 

つまり、正式に他里の忍である。

 

ナルトには木の葉を抜けた時から、指名手配がかかっていたが、罪状は追っ手を殺害した疑いがあると言う物。

 

そもそも、ナルト自身正式に木の葉の忍になっていた訳では無いため、里抜けと言っても大きな罪にはなり得ない。

 

ここで、他里の正式な忍であるナルトを捕まえる事は国際問題に発展しかねなかった。

 

結局門番は、内心苦苦しく思いながらも、ナルトを木の葉に招き入れた。

 

無論、ナルトが音隠れの忍として木の葉に来た事は、門番によってその日のうちにヒルゼンに報告されることになる。

 

その日の夜...

ナルトたちが泊まっている宿に、訪れる者がいた。

 

「やあ、君がうずまきナルト君だね。俺の名は、はたけカカシ。三代目火影様の代理として来た。」

 

その男はそう名乗った。

 

「知ってるってばよ。千の術をコピーしたと言われるコピー忍者。写輪眼のカカシだろ?」

 

ナルトは今回の任務に対し、当然要注意人物の名前は確認している。

 

中でも、目の前のカカシの実力は、音の中でも側近中の側近...薬師カブトと同程度との事だ。

油断できる相手ではない。

 

「そう警戒しなさんなって。ここでお前さんをどうにかしようなんて思っちゃいないよ。実は三代目がお前と話をしたいらしくてな。夜分ですまんが一緒に来てくれないか?」

 

「その言葉に頷ける程、俺は木の葉を信用しちゃいねぇってばよ?」

 

ナルトの言葉に、カカシは目を伏せる。

心当たりは山程あった。

 

「......まあ...そうかもな...。だが、三代目は信用してやってくれないか?お前が行方不明になった後も、三代目はずっとお前を気にかけていた...」

 

それでも、それだけは言いたかった。

 

「.........。わかった。仲間に伝えてくるから少し待っていてくれってばよ。」

 

ナルトも思う所があったのか、少し考えた後、そう言って頷くのだった。

 

「「危険すぎる。ウチは反対だ。」」

 

三代目に会う旨を香燐と多由也に伝えると、揃って反対されるナルト。

 

「三代目火影ってのは、歴代の火影の中でも最強と詠われた忍だ。歳を取って衰えているとは言え、本気を出せば未だ大蛇丸様に匹敵する強さだって話だぞ。」

 

「香燐の言う通りだ。それとも、木の葉に帰ってきて郷愁の念にでもかられたってのか?」

 

「そんなんじゃ無ぇってばよ。俺はただ、三代目に会って、三代目に対する気持ちを整理しておきたい...そう思ったんだってばよ。三代目は木の葉で唯一、俺の味方をしてくれていた大人だった。内心はどうあれな。だから直接会って、振り切って置きたいんだ。作戦に集中するためにも...」

 

「ナルト...」

 

周りが皆敵意を向ける中、唯一好意を向けてくれる相手...

 

それは、どんなに救いであっただろう。 

そんな人間と敵対することになる...

 

確かに、そのままでは作戦に集中出来ないかも知れない。

 

「わかった...」

「香燐!?」

 

香燐が了承したことに驚く多由也。

何よりもナルトを優先する香燐が敵地の...それもトップに一人で会いに行かせる事を了承するとは思っていなかったのだ。

 

だが、香燐だからこそナルトの考えに賛同したのだ。

 

ナルトと似たような境遇で幼少期を過ごした香燐。

周りは皆、自分たちを道具としてしか見ていなかった。

 

唯一母といる時だけが、香燐と言う一人の人間でいられた。

 

ナルトに取って、三代目火影は香燐にとっての母と同じ存在なのだと思う。

 

ならば、ここは行かせるべきだ。

はっきりと、木の葉と決別する為にも必要な儀式だと思えた。

 

ちなみに、ナルトが木の葉に懐柔されると言う選択肢ははじめから疑っていない。

 

今さら、ナルトが木の葉に従う理由が無いからだ。

 

だから香燐はナルトを送り出すことにした。

 

他の人間は止めるであろうこの話を、ナルトの過去をナルトの口から直接聞いている香燐だけは、その気持ちに共感した。

 

「良かったのか?香燐。」

「ああ、アイツは必ずウチの元に戻ってくるさ。」

 

(無事に帰って来いよ?ナルト...)

 

遠ざかるナルトの背中を見つめながら、香燐はそれだけを祈った。

 

 

そして、ナルトは今、カカシと共に火影室に来ていた。

 

「久しぶりじゃな...ナルトよ。」

 

「じいちゃん...」

 

そこに三代目火影...猿飛ヒルゼンはいた。

ナルトの記憶と変わらない姿で、ナルトを向かい入れる。

 

「カカシ...ご苦労じゃった。」

 

「はっ!」

 

ヒルゼンはカカシを労い下がらせる。

 

「さて、ナルトよ。色々と聞きたいことはあるが...まずは...」

 

ヒルゼンはそう言うと、そこで言葉を切り...

 

「すまんかった。」

 

思い切り頭を下げた。

 

「なんのつもりだってばよ?」

 

頭を下げるヒルゼンを目を細めて見つめながら、その行動の真意を聞き返すナルト。

 

「お主を木の葉から抜けさせる程に追い詰めたこと...そして、抜けたお前に抹殺命令が下されていた事に気づかなかったこと...全てワシに責任がある。」

 

「.........。やっぱり、あの時俺を殺す命令が出ていたんだな?」

 

「ワシはお主を保護するよう指示を出した。しかし、途中でその指示が抹殺と言う命令に換えられておったのじゃ。気付いた時には遅かった...。お主を追っていたある小隊は全滅。お前も行方不明...その小隊はお前に返り討ちにあったと考えられた。結果、木の葉においてお前はS級指名手配を受けておる。」

 

「よく、それで中忍試験の書類審査に通ったな...」 

 

ヒルゼンからあの日の真実と、現状を聞いたナルトは半ば呆れながら呟いた。

 

「お前の名前を見つけた時、ワシは驚愕したもんじゃ。まさか、音隠れの里の一員になっておったとはの。しかし、ワシはもう一度とお前と話がしたかった。公私混同になるがの。」

 

「で?話ってのはなんだってばよ。」

 

「...何故、ワシに相談せんかった?」

 

ヒルゼンは、苦しい胸の内を吐き出すように、重い口を開く。

 

「?なんの事だってばよ?」

 

「何故、ワシに一言の相談もなく里を出たのじゃ?」

 

「なんだ...そんなことか...」

 

何を話すかと思えば...ナルトは内心呆れていた。

 

「不満があったのは理解しておる。里の者たちは、お前を目の敵にしておったことも...。じゃがワシは違う。お前を家族として...孫の一人として接してきたつもりじゃ。」

 

どうしても聞いておきたかった。自分はそれほどに信用されていなかったのかと...

 

「確かにじいちゃんには感謝してるってばよ?けどな、あの時...俺はじいちゃんすら信用出来ない程に追い詰められていた。じいちゃんから勧められたアカデミーでの生活...それすら悪意と敵意にまみれていた...じいちゃんにわかるか?自分が唯一信頼していた人の勧めで入った場所から悪意を受ける辛さが...」

 

「それは...」

 

「裏切られた...そう思ったんだってばよ。じいちゃんも結局他の連中と変わらねぇ...。心の拠り所を失なった俺は、もう木の葉を抜ける以外に選択肢が無かった。じいちゃんに相談できるはずが無ぇだろ?」

 

「.........。」

 

「俺を追ってきた連中な...知ってるか?じいちゃん...あの連中はな...笑いながら俺に手裏剣を投げつけたんだってばよ?」

 

「そ、それは本当か!?」

 

確かに忍は命のやり取りを行う。しかし、それは任務の遂行のために仕方なく行うもの。

 

ましてや、相手の命を軽んじ、笑うなどあってはならない。しかも、その相手は年端もいかぬ少年だった。許せるものではない。

 

「気を失った俺を、音の長が助けてくれたんだってばよ。そこで俺が木の葉に疎まれる原因も聞いた。今はもう、自分がどんな存在なのか理解してる。」

 

「...そうか...」

 

その言葉から、ナルトが自分の中に九尾が封印されていることを知っていると理解したヒルゼン。

 

「ならば、最後にもう一つだけ...」

 

「???」

 

「木の葉に戻ってきてはくれないか?お前の居場所はワシが必ず用意して見せる。じゃからもう一度、木の葉の一員として生きてはくれまいか。」

 

そう言って、ヒルゼンはナルトに頭を下げた。

 

「.........。」

 

そのヒルゼンを見ながら、ナルトは心が急激に冷めて行くのを感じた。

 

「今さら、勝手だと思わねぇか?じいちゃん...」

 

「わかっておる。じゃがそれでも、ワシはお前に...木の葉の人間として、もう一度生きて欲しいのだ。お前の両親のためにも...」

 

このままナルトを引き留めない事は、どうしても出来なかった。

何よりも、ナルトの両親の溜めにも...

 

「その両親が俺に九尾を封印したせいで、こんなことになってるのにか?」

 

「!?知っておったのか...」

 

「俺は、自分の事を理解してる...そう言ったハズだってばよ?」

 

「.........。どうしても、ダメかの?」

 

なんとか食い下がるヒルゼン。

それに対してナルトは、

 

「久しぶりに木の葉に来て、俺が最初に感じた事は...『変わってない』だったってばよ。でも、不思議と帰ってきたって言う感情は浮かばなかった。何故かわかるか?」

 

「.........。」

 

「今の俺にとって故郷ってのは、俺を受け入れてくれて、大切な仲間たちがいる音隠れの忍里であってここじゃない。今さら木の葉の一員になるつもりは無いってばよ。」

 

「.........そうか...わかった。中忍試験...頑張るんじゃぞ?」

 

ヒルゼンは、何を言ってもナルトを引き留める事は出来ない事を悟り、そう言って話を切り上げる。

 

「三代目...良かったのですか?」

 

ナルトがいなくなったのを見計らい、カカシが姿を表す。

 

「仕方あるまい。ナルトと話していてわかった。アヤツはもはや木の葉になんの期待も信頼もしておらん。憎しみすら抱いていない様子じゃった。もう、ナルトは木の葉を見限っておるのじゃろうな。」

 

「...そうですか...」

 

「ミナトのヤツには申し訳も立たぬが、ここに至っては、もうナルトの幸せを願う事しかワシらにはできぬ。」

 

「先生...」

 

二人は今は亡きナルトの父...四代目火影、波風ミナトの写真を見ながら、過去を悔やむのだった。

 

一方、宿に戻ったナルトはと言うと...

 

「遅ぇぞ。ナルト。ウチも多由也も飯も食わずに待ってたんだぞ!」

 

「そうだ。ウチらを心配させて罰として、お前は飯抜きな!」

 

「いや、それは酷いってばよ。」

 

二人の少女に文句を言われていた。

 

(まあ、これで里の目は俺に向くだろう。俺の任務は囮だからな。せいぜい派手に暴れてやるってばよ。)

 

内心、そんな事を考えながら、どうにか食事にありつくために必死に二人の説得を試みるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その三

中忍試験当日...

 

ナルト達は既に試験会場に来ていた。

幻術による試験会場の誤認には、当然引っ掛かってはいない。

 

「フワァ...まだ試験は始まんねぇのか...退屈だってばよ。」 

 

欠伸をしながら呑気にのたまうナルト。

そんな緊張感の欠片もないナルトの態度を、周りの受験者達は忌々しそうに見ている。

 

そんな中、一組の小隊が扉を潜ってきた。

 

少年二人と少女一人と言う組み合わせ。

年齢もまだ若く、一目でアカデミーを卒業してそう時間も経ってない事が伺える。

 

その内の一人の少年を見たナルト。

 

「へえ...あいつが器候補のうちはサスケってヤツか?うちは一族だけあって、かなり強ぇんだろ?」

 

大蛇丸から聞かされていたターゲットであるサスケを見たナルトが呟く。

 

「ところが、そうでも無いみてぇだぞ?写輪眼もまだまだ使いこなせてねぇみたいだし、プライドが高いせいか、人に教わろうとしねえから、なかなか成長しねぇらしい。」

 

その言葉を否定する様に香燐が答えた。

 

「プライドだぁ?...はっ!?くだらねぇ。まあウチらはウチらの仕事をすりゃあいいさ。器候補の当て馬は既に用意されてるしな。」

 

多由也は香燐の言葉に呆れながら、サスケへの興味を無くす。

 

三人が、サスケを酷評していると、騒ぎが起こった。

 

ナルト達と同じ、音隠れの受験者...ドス、ザク、キンの一派がカブトに絡んだのだ。

 

「あいつらアホか...なんで同士討ちなんぞしてるんだってばよ。」

 

「あいつらは、カブトの事情を知らされてねぇんだろ?所詮下っぱ...いや...使い捨ての駒か...」

 

「なるほど、うちはサスケの当て馬か。しかし...所構わず暴れるのは、音の里の品性を疑われかねねぇ。ナルト...ちょっとアイツラ止めてこい。」

 

多由也の言葉に頷いた香燐。しかし、思い直すと、ナルトに止めてくる様に口にする。

 

「ええ!俺がか?」

 

「ったりめぇだ。ウチらを心配させた罰だな。」

「そりゃいい。ほらさっさと行け。ドカス。」

 

香燐も多由也も、先日のヒルゼンとの接触のことをまだ根に持っている様だった。

 

「わかったってばよ...」

 

肩を落としつつも、言う通りに騒ぎの場に近づくナルト。

 

「そこまでだ。お前ら...少しばっか、ウチの里をマイナー扱いされた程度で騒ぐんじゃねぇってばよ。」

 

「なんだと!って...ナルト!?」

 

ザクが止めに入ったナルトを怒鳴るが、誰を怒鳴ったか認識すると、途端に声が小さくなる。

 

「この程度で、騒ぐならその程度の里だと他里に思われるってばよ。ウチが新興の里なのも情報が少ないのも事実だろうが。」

 

「いや、けど...」

 

「黙れと言ったってばよ?」

 

尚も食い下がるザクに、いい加減面倒になってきたナルトは、ザクに向けてピンポイントの殺気を出した。

 

「わ、わかった。今回は引き下がる。」

 

その殺気を受けて、ザクたちはスゴスゴと引き返して行った。

 

「ああ...そこのメガネの人...ウチのバカどもが済まなかったってばよ。」

 

ザク達の攻撃を受けたカブトに向かい、微妙に言い辛そうに謝罪するナルト。

 

「いや、こっちこそ...君たちの里を貶めるような発言をして済まなかったね。」

 

カブトは、ダメージから復帰するとにこやかに謝罪を受け入れた。

 

と、その時...

 

「静かにしやがれ!どぐされヤローどもが!」

 

煙幕が室内を立ち込める。

煙が晴れた時、そこに第一次試験の試験官...森乃イビキと、その他の監視役たちが現れた。

 

イビキは、ザクたちに勝手に暴れると失格にすると脅しをかけつつ、席に着くように命じた。

 

「えと...よろしくお願いします。」

 

「ん?」

 

ナルトが席に着くと、隣になったくノ一の少女から挨拶される。

 

「その...あの...」

 

「隣同士だな。俺はうずまきナルトだ。さっき暴れた音隠れの連中の同僚になるんだが...ま、今回の試験の間はよろしく頼むってばよ。」

 

目の前の少女が挨拶を交わしたいのだと察したナルトは、言い淀むヒナタに自分から挨拶をした。

 

(上がり性なのか?忍が上がり性とか...どうなんだ?木の葉はこれで良くこの子を中忍試験に受けさせたってばよ。)

 

ナルトは目の前の少女の態度に若干呆れながら、内心呟く。

 

「う、うん。よろしくねナルト君。私は日向ヒナタって言います。」

 

「へぇ...日向って言ったら...木の葉でも名門の一族だったよな。」

 

『日向』の名前が出たことで、目の前の少女に少し興味を抱くナルト。

 

「うん...でも、私は落ちこぼれで...そんな自分を変えたくて、中忍試験に参加しようって思ったの。(なんでだろ...なんか、この人には何でも話せる気がする...)」

 

誰にも打ち明ける事がなかった、中忍試験に参加する動機...何故かヒナタは、初めてあったばかりの目の前の少年に話していた。

 

引っ込み思案な自分にとって、それは自分でも驚くべきことだった。

 

「良いんじゃねぇか?別に...」

 

「え?」

 

てっきり、笑われると思った。

 

中忍試験とは、忍の中でも一握りがなれるエリートへの第一歩。

 

ほとんどの忍が下忍のまま生涯を終える中、中忍試験に参加する事は、多くの忍にとって、文字通りその生涯を賭けて参加する。

 

決して遊び感覚で参加するものではないし、ヒナタのように、自分を変えたいと言う動機で参加する者など皆無だろう。

 

たが、ナルトはヒナタの動機を肯定した。

その事に驚き、思わず聞き返すヒナタ。

 

「良いじゃねぇか。どんな理由で中忍試験に参加したって。それに、俺ってば、お前のその動機...嫌いじゃ無ぇってばよ。」

 

ナルトにとって、自分を変えたい...環境を変えたいと言うのは、あの里抜けの行為を思い出させる。

 

里の大人たちに疎まれてきたナルト...

そんな自分が嫌で、反発してきたが効果は無かった。

 

そして意を決して里を抜けたナルト。

 

その行為のお陰で自分の居場所を見つけ、かけがえの無い仲間たちにも巡り会えた。

 

「大事なのは、行動する事だってばよ。自分を...周りを変えたいってヤツは多くいる。その中で、ちゃんと行動に移せるヤツは少ねぇ...少なくともお前は、自分を変える為に中忍試験に参加した。だったらきっと、変われるさ。だから...頑張れよ?ヒナタ。」

 

ナルトはそう言うと、ニカッと笑いかけた。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 

その笑顔に真っ赤になって俯くヒナタ。

 

「殺すぞ、あのクソ野郎。」

「何やってやがる。あのバカ。」

 

そんな二人の様子を見て、ナルトに向けてとてつもない殺気を込めて睨み付ける赤毛の少女二人...

 

そんなカオスな中、イビキが第一の試験の内容を説明する。

 

筆記試験...そして減点方式...さらに連帯責任...

 

内容を聞いたナルトは、その陰湿さに辟易しつつ、しかしその試験の裏に隠されている答えをすぐに理解する。

 

当然、香燐や多由也も問題無く、それぞれがそれぞれの方法で答えを知る者を見つけ出し、解答欄を埋めていく。

 

最後の問題...イビキにより、間違えれば一生中忍試験を受けられないと言う脅し、そのプレッシャーにより、受験生たちが次々と脱落したが、ナルトたちは当然のごとく残った。

 

一定時間が過ぎた頃...

 

「ここに残った全員に第一の試験の合格を伝える。」

 

イビキは、残った受験生たちに合格を伝える。

 

驚く受験生たちに、雰囲気を和らげたイビキがその理由を告げた。

 

その雰囲気の変化に、またも驚かされつつも、合格したことを実感し始めた受験者たち。

 

喜びを噛みしめる一同...と、その時...

 

窓を割って、飛び込んで来た女性がいた。

 

その女性は自らをみたらしアンコと名乗り、次の試験の試験官であると告げるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その四

室内の空気が固まる中、アンコは次の試験場に行くよう、受験生達を促した。

 

「57人!?...イビキ...19チームも残したの?...今回の第一の試験...甘かったのね。」

 

残った受験生の数を見たアンコは、そう評した。

 

「今回は優秀そうなのが多くてな...」

 

しかしイビキは、動じることなくニヤリと笑いながら答えた。

 

「...ふん...まあ良いわ。次の第二の試験では半分以下にしてやるわよ。...ああ...ぞくぞくするわ...詳しい説明は場所を移してからやるからついてらっしゃい。」

 

ドSの顔を覗かせながら、そう宣言したアンコに受験生たちは、冷や汗を流しながら試験場を後にする。  

 

場所は、木の葉の第44演習場...『死の森』の入り口。

 

そこでアンコは第二の試験の説明を始めた。

 

チームそれぞれに天と地、どちらかの巻物が配布され、他のチームから持っていない巻物を奪い、揃えてゴールで開く。

 

確かにこの試験を突破できるのは半分以下になるのは間違いなかった。

 

「なあ、ヒナタ...第44演習場とか言ってたけど...木の葉にはこんな演習場が沢山あるのか?」

 

そんな中、ナルトはアンコの説明を軽く聞き流しながら、第一の試験で仲良くなったヒナタに聞いた。

 

「え?うん。そうだよ。木の葉隠れの里は、その名前の通り、広大な森に囲まれてるから...」

 

「ふーん...ヒナタのチームは、こういうの得意そうだな。」

 

森に視線を向けながら話すナルト。

 

「え?う、うん。私のチームは五感に優れた犬塚家のキバ君や、蟲使いとして万能な油目家のシノ君がいるから...」

 

「それだけじゃ無ぇだろ?白眼使いのヒナタがいるってばよ。こう言う視界の狭い場所じゃあ、白眼ってのは圧倒的に有利に働くってばよ。」

 

「う、うん...」

 

ナルトの言葉を受けたヒナタは、しかし喜ぶよりむしろ気落ちしていた。

 

「ヒナタ...白眼で...人を傷つけるのが嫌か?」

 

会ってまだ間も無いが、ヒナタがどんな性格をしているか、なんとなく理解したナルトは、そう聞いた。

 

「.........。」

 

「白眼って...面白い能力だよな...」

 

「え?」

 

「敵対したら、相手を殺すのが当たり前なのが俺たち忍者だってばよ。敵を生かしたまま無力化する...なんてのは圧倒的な実力差が無けりゃ、まず無理だってばよ。...でも白眼と、その眼を利用した柔拳使いなら話は別だ。相手のチャクラを練れなくしたり、あるいは休止の点穴を付いたりすれば、簡単に...相手を殺すこと無く戦いを終わらせる事が出来る...。ひょっとしたら、柔拳を創った日向家の祖は、ヒナタみたいなヤツだったのかも知れねえな...」

 

「ナルト君!?」

 

ナルトの言葉は、力そのものを忌避していたヒナタにとって、想像すらしなかったものだ。

 

これまで人を傷つける力...ただそれだけが目に付き、ただ日向家に生まれたから...その義務で修行をしていた。

 

しかし、その性格から当主の座を争う妹との勝負で勝てるハズの試合を、妹を傷つけたくないが為に戸惑い、負けてしまった。

 

それ以降は、周りから落ちこぼれのレッテルを貼られ、自分の気弱な性格も相まって人を避ける様に過ごしてきた。

 

そんな自分を変えたくて、この中忍試験に参加したヒナタ。

 

そのヒナタは、ナルトとの出会い、そして言葉で、自分の忍として目指す道を示された気がした。

 

「人が試験の説明をしている時に...ナンパなんてしてるんじゃない!!!」

 

そんなナルトの様子を見かねたのか、アンコは笑顔のままクナイを数本投げつける。

 

「危ないな...何すんだってばよ。」

 

しかしナルトは、投げつけられたクナイを一本目は首を傾けて避け、残りは指の隙間で挟むことで止めてしまった。

 

「!?(私の投げたクナイをこうも簡単に止めるとはね)...今は試験中よ。ちゃんと聞きなさい。」

 

「すみません。ウチのバカが失礼しました!」

「お前はウチらのチームだろ。さっさと来いこのチン○ス野郎が!」

 

ナルトのチームと思われるくノ一の二人が強引にナルトを引っ張っていく。

 

「痛い痛い痛いってばよ。香燐、多由也...耳を引っ張るんじゃねえってばよ。」

 

二人に耳を引っ張られて連行されるナルト。

 

「!?」

 

アンコは半ばギャグの様な光景に呆れていると、不意に後ろに強烈な殺気を感じた。

 

「クナイ...お返ししますわ...」

「ありがとう...でも私の後ろに殺気を持って立たないでね?」

 

簡単に後ろを取られた動揺を押さえながら、自身もクナイを突き付け、背後のくノ一に告げるアンコ。

 

「フフ...ごめんなさい。私の自慢の髪が切られたもので、興奮してしまって...」

 

そのまま何事もなく離れる二人...

 

「...(おい...あれってば、大蛇丸だよな...)」

「(ああ...なんでこんな所にいるんだ?作戦には無かったろ...)」

「(大方、自分の目で器候補を見ておきたいと思ったんだろ。気まぐれな方だからな。)」

 

三人は、今アンコと揉めた忍が大蛇丸であることを看破する。

 

「まあ、俺らのやることは変わらねぇってばよ...」

 

大蛇丸の意図はどうであれ、自分たちは既に任務を進行中だ。

任務に専念することこそ、優先される。

 

三人はお互いに頷いた。

 

そうして、第二の試験では始まった。

 

それぞれのチームが、指定された入り口から死の森へと入っていった。

 

ナルトたちはと言えば...

 

「さて、ようやくウチらだけになったな。」

「ああ...さて...それじゃナルト...」

 

「ん?」

 

「「一発殴らせろ!!!」」

 

「うわぁ!何すんだってばよ。」

 

突然チームメイトの二人に殴りかかられたナルト。

その攻撃を避けつつ、ある意味当然の抗議をする。

 

「ちっ!避けるんじゃねぇ。クソヤローが!」

 

「無茶言うな!」

 

「任務中に他の女ナンパするヤツには仕置きが必要だろうが!」

 

「何の事だってばよ...」

 

「ヒナタってヤツと、随分仲良さそうだったじゃねえか?」

 

「ヒナタ?...ああ...ヒナタか。アイツは良いヤツだからな。」

 

ナルトは本気で理解していなかった。

 

(おい...どう思う?)

(ナルトのヤツに恋愛感情は無えみてぇだが...油断はできねえ...)

 

ナルトの予想外の反応に、香燐と多由也は小声で話し合う。

 

「ちっ...仕方無ぇ...取り敢えず保留にしておく。」

 

香燐は、取り敢えず矛を納める事にした。

 

と、その時...

 

「死ぬ可能性のある試験中に痴話喧嘩とは...こいつはラッキーだぜ!」

 

草隠れの受験者(大蛇丸扮する忍のチームではない)の一人が現れ、香燐を人質にしようと間合いを詰めてきた。

 

「ラッキー?ソイツは違うぜ?」

 

香燐はニヤリと嗤う。

自分に向けられた拳...しかしそれは自分に当たる事は無い...

 

何故なら...

 

「汚ねぇ手で、香燐に触れるんじゃねぇ!」

 

ナルトがその拳を止めていた。そして...

 

「ぎゃあーーーっ!!!」

 

あり得ない程の力で、拳ごと握り潰されてしまった。

 

「ふんっ...ちょうど良い。おい...そこのクソ雑魚。てめえらの仲間の所に案内しな。」

 

多由也は、ナルトの行動に動じず、蹲る草隠れの受験者に命令した。

 

「ううっ...」

 

返事も出来ない草隠れの受験者だったが...

 

「ここで死ぬか、仲間の元へ案内するか...さっさと決めるってばよ...」

 

「ヒィッ...わ、わかった...」

 

ナルトの低い声に我を取り戻し、案内する。

 

 

そして...

 

「な、なんで...目的は巻物だろ...何も殺す必要無いだろ!」

 

草隠れの受験者は、案内した人間を除いて、二人とも殺された。

 

呆然とする草隠れの受験者。

 

「別に良いだろ?この試験は死んでも文句は言えねえんだ。殺してから巻物を奪えば、取り返しに来る事も無ぇ...だから...」

 

ナルトはそこで、残った草隠れの受験者を見る。

 

「ま、まさか...案内すれば助けてくれるんじゃ...」

 

ナルトが何をしようとしてるのか理解した草隠れの受験者。

 

「そんなこと言った覚えは無えってばよ。あそこで死ぬか、案内するか選べ...そう言っただけだ。それに...」

 

ナルトはそこで一度切ると、香燐の方を見て...

 

「てめえら草隠れの忍には、殺す機会がある時には容赦する気は無えんだってばよ。」

 

そう言った。

 

「お前は...」

 

香燐を見た草隠れの受験者は、香燐に見覚えがあった事に気付いた。

 

それは、数年前まで自分の里で奴隷のように扱われていた親子...

 

草隠れの受験者は、そこまで思い出した所で、闇に落ちた。

 

ナルトがその手に、もった刀で首を切り落としたのだ。

 

「今さら、ウチは気にして無いんだがな...」

 

香燐はナルトにそう言ったが、

 

「良いんだってばよ。これは俺がそうしたいからそうしてるんだから。」

 

ナルトは、意に返す事なくそう言うと香燐に微笑んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その五

「さて...これからどうするってばよ?簡単に巻物が揃っちまった訳だけど...」

 

思わぬ形...と言うよりも...向こうから巻物が転がり込んで来たような状況だが、あっさりと第二の試験のクリア条件を満たしてしまったナルトたち。

 

後はゴールに行くだけなのだが...

 

「もう試験をクリアしちまっても良いんじゃ無いか。ウチらの任務は目立った方が良いんだし。最速でクリアすれば、目立つだろ?」

 

香燐が言った。

 

「大蛇丸様が参加されていたのが気になる。或いはウチらの協力が必要な場面があるかもしれない。まずは大蛇丸様の真意を探るべきじゃないか?」

 

多由也は、すぐにゴールを目指すべきではないと主張する。

 

「うーん...」

 

少しの間悩むナルト...

 

「多由也の言う通り、取り敢えず大蛇丸の動向を探るか...最速でクリアしたところで、所詮は中忍試験...下忍が受ける程度なんだから、大した注目を集める事も出来ねぇだろうしな...注目って意味なら、既に三代目の目は俺に向いてるんだ...そう急ぐことも無いってばよ。」

 

「.........お前が言うなら良いけどよ...」

 

香燐は、自分の提案より多由也の提案が採用された事が不満なのか、少し顔をしかめて頷いた。

 

「さて...じゃあ大蛇丸を探すかな...」

 

ナルトはそう言うと術を発動する為に印を結ぶ...

 

「風遁 遠見の術!」

 

それはナルトのオリジナルの術だ。

 

風遁に適正のあったナルトは、風を使って出来ることを模索した。

 

香燐や仲間たちと話し合い、そうして風のメリットを理解する。

 

それはどこにでも存在するものであること...

 

ナルトは、その性質を使って作ったのが遠見の術である。

風に自らのチャクラを同化させる事で半径数キロに渡り、見渡す事が出来る。

 

索敵や情報収集で大いに活躍できる術である。

 

「見つけたってばよ。」

 

大蛇丸扮する草隠れの忍を見つけたナルト。

 

「...どうやら器候補を試しに来たみてぇだな。行き先は、うちはサスケのいる班だ。」

 

大蛇丸の進む先にサスケの姿を捉えたナルトは、そう判断した。

 

「ウチらの支援は必要か?」

 

多由也が聞く。

 

「そうだな...」

 

ナルトが考えていると...

 

ナルトが視認していた大蛇丸がふいに顔を向ける...そして、ニヤリと笑った。

 

「!?」

 

思わずゾッと背筋に冷や汗をかくナルト。

 

まさか、これ程離れた場所からの監視に気付いた...だけで無く会話すら聞かれていたのか?  

 

改めて大蛇丸の非常識さに戦慄を覚えながら...

 

「一応、行った方が良いみてぇだってばよ...」

 

チームメートの二人に答えたナルト。

 

その言葉で、おおよその事を悟った二人も頷いた。

 

場所は変わってサスケの班...

 

森に入ってから、何度か他の班の襲撃に会い、緊張の面持ちで辺りを警戒しながら進んでいると、突然突風が吹き荒れサスケたちを襲う...

 

風に吹き飛ばされ、一旦バラバラになるサスケたちだが、直ぐに集合出来た。

 

万が一に備え合言葉を決めていたサスケの機転もあって、サクラとサスケは互いを本物だと確信する。

そして、もう一人...

 

すらすらと合言葉を告げるチームメートの少年に、しかしサスケは攻撃を仕掛けた。

 

サスケのもう一人のチームメートの少年は、座学が大の苦手だった。

 

忍術はそれなりに出来た為、合格出来たが、たった一度...それも長い合言葉を覚えられるハズが無い。

 

サスケは、最初から襲撃者が近くで合言葉に関する会話に聞き耳を立てている事に気付いており、襲撃者を釣るためわざと、長い合言葉を用意したのだ。

 

大蛇丸は、サスケの機転に感心しつつ、その実力を探るため殺気を放つ。

 

その殺気に自らの死を予見させられた二人は、まるで金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。

 

サクラに至っては涙を流しながら、失禁してしまう程に強烈な殺気...

 

(この程度なのか?うちはサスケってのは...)

 

現場に着いたナルトが見たのは、その光景であった。

 

大蛇丸の殺気に当てられただけで、震えて動けなくなる...

 

サスケの期待外れな光景を見て、がっかりするナルト。

 

大蛇丸は、動けないサスケとサクラにクナイを放つ。

 

(おいおい...器候補を殺す気か?)

 

大蛇丸の放ったクナイは、大蛇丸にしてみれば軽く投げたもの。

 

しかし、目標は動くことすら儘ならない...

 

クナイは正確に二人の額目掛けて飛んでいた。

 

死んだ...ナルトがそう思った時...

 

「!?」

 

金縛りから抜け出たサスケが、サクラを連れてクナイをかわす。

 

「へぇ...自分のクナイで身体を傷つけて、痛みで金縛りを解いた...か...」

 

「大蛇丸様の殺気に当てられて、その動きが出来ただけ評価出来るかもな...」

 

「まあ、器候補としては及第点は取れるか?」

 

ナルトたちは、サスケの評価を少しだけ上げた。

 

そのまま、逃げに徹するサスケ。

 

その判断は正しい。ただし、逃げるのにも相応の実力がいる。

 

まるでホラーさながらの逃亡劇...

一瞬たりとも気を抜く事が出来ず、気を抜いた時に大蛇丸が姿を表す...

 

「大蛇丸のやつ...絶対遊んでるってばよ...」

「サスケってやつと...あのくノ一...可愛そうにな...」

 

ナルトと香燐はサスケたちに同情した。

 

「はんっ!あの程度で情けねぇ...男ならもっとしっかりしやがれってんだ。」

 

多由也は辛辣だった。

 

大蛇丸に追い詰められる二人。

と、そこにサスケたちの仲間が合流する...

しかしその仲間はあっさりと気絶させられた。

 

サスケはこの場をなんとかすべく、巻物を差し出すことで逃げさせてもらうよう提案する。

 

しかし、その交渉は意味をなさない。

巻物など、殺してから奪えば良い...

 

大蛇丸の言葉に、いよいよ八方塞がりのサスケ。

 

ふと、大蛇丸が視線を反らす。

 

(ああ...そう言う事か...)

 

その視線の先にはナルトたちがいた。

 

大蛇丸の視線の意味を理解したナルトは、姿を表す。

 

「よう...楽しそうな事してるじゃ無ぇか...」

 

「!?お前は...」

 

「あら...また新たな獲物の登場ね...」

 

ナルトの姿に驚くサスケと、笑う大蛇丸。

 

「よく言うってばよ。俺がいることなんて、最初から気付いてたんだろ?」

 

「さあ...どうかしらね?」

 

大蛇丸は相変わらず笑みを絶やさない。

 

「まあ、俺は噂の『うちは』に興味があって見学してただけなんだが...見逃してくんねぇかな?」

 

「ふふ...面白い事を言うわね...そんな提案を受けると思うかしら?」

 

「いや?言ってみただけだってばよ...」

 

「あなた...確かうずまきナルトって言ったわよね...」

 

「ああ...」

 

「面白いわね...気に入ったわ...少しだけ遊んであげる。」

 

先程から、大蛇丸はナルトに向けて殺気を放っていた。

サスケたちに向けたものよりも、遥かに巨大な殺気...

 

現に、自分に向けられたものでは無いのに、サスケはまた動けないでいた。

 

そんな濃密な殺気を受けてなお、ナルトは平然としている。

 

(こいつは一体なんなんだ。)

 

うずまきナルト...

この中忍試験で然程目立っていた訳ではない。

 

せいぜい音忍の暴走を止めたり、あるいは日向ヒナタと仲良くしていたり...別段注目してはいなかった。

 

この第二の試験の教官...アンコの放ったクナイを受け止めた技量には目を見張ったが...それだけだった。

 

しかし、今この場で大蛇丸と対峙しているナルトを見て、その実力を大きく量り間違えていた事に気づいた。

 

もしかすれば、目の前の大蛇丸と同等クラスの存在...

 

自分たちとは、格が違う実力を持っているのではないか...

 

そして、それは確信に変わる。

 

大蛇丸とナルト...二人の動きは写輪眼を持つサスケを持ってしても、追いきれないほどに早かった。

 

「風遁 風手裏剣の術」

「土遁 土流壁」

 

「風遁 空圧掌」

「くっ!」

 

二人の術がぶつかり合う。

最初にナルトが放った風の手裏剣を、土遁の壁で防いだ大蛇丸。

 

しかし、ナルトは防がれるのを承知で次の準備に移る。  

 

掌に空気を圧縮したような塊を作ると、それを土の壁に向かって当てた。

 

その空気の塊は、土の壁を軽々と破壊する。

 

その威力に、大蛇丸の顔から余裕が消える。

 

「なあ...もう良いんじゃねえか?」

「...どういう意味かしら?」

 

「うちはの班から巻物は貰ったんだろ?」

 

「ええ...」

 

「所詮まだ二次試験...まだ先があるのに、消耗戦をするのは、お互い本意じゃ無いだろ?」

 

「そうね...貴方と戦うとなると、こちらも手傷を追わされかねないはね。」

 

「だから、ここでお互い手打ちにしねえか?」

「.........。」

 

「いいわ...」

 

「俺としても、噂の『うちは』が大したこと無いってのはわかったし、お前みたいな要注意人物の存在を確認出来た。充分だってばよ。」

 

「なにっ!」

 

ナルトの言葉に、サスケは露骨に反応する。

『うちは』は木の葉でも特別な血統だ。

あの惨劇から木の葉の唯一のうちはとなったサスケを誰もが特別視していた。

 

そしてサスケもまた、周りの期待に応えるように優秀な成績を残していた。

 

そんなサスケにとって...とるに足らない存在と言われた事は、初めてであった。

 

それは、自分を殺そうとしていた大蛇丸...

その人物よりも遥かに許せない存在...

 

「取り消せ...」

 

「ん?」

 

「うちはが大したこと無いだと?その言葉...取り消せ!」

「サスケ君!駄目!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その六

「取り消せ...」

 

「ん?」

 

「うちはが大したこと無いだと?その言葉...取り消せ!」

 

ナルトに相手にもされないサスケは、その扱いに激昂する。

 

「サスケ君!駄目!」

 

そんなサスケを止めようとサクラが制止の声を上げるが、今のサスケには効果が無かった。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

ナルトに向かっていくサスケ。

まるで自分の存在を誇示するかのように、雄叫びを上げながら突き進む。

 

「ハァ...」

 

対してナルトは、ため息を一つ付いた。

 

「相手との力の差すら見抜けない程未熟なのか?うちはサスケ...」

 

向かって来るサスケを軽くかわす。

 

「なっ!?」

 

間違いなく、ナルトに向かっていたハズなのに、突如その姿を見失ったサスケ。

 

「この程度の動きすら見切れないのか?ご大層な眼を持っていても、所詮はその程度...俺らの敵じゃ無ぇってばよ。」

 

「!?ちっ...」

 

突如後ろから声をかけられ狼狽しながら、距離を取るサスケ。

 

普段のサスケなら、決して見切れぬスピードではない。しかし、激昂し己を見失っている今のサスケは、写輪眼を出してはいても、使いこなせてはいなかった。

 

『火遁 豪火球の術!』

 

距離を取りつつ印を結ぶとナルトに向かって術を放つサスケ。

 

『風遁 焔返し!』

 

しかし、ナルトはあくまで冷ややかな表情のまま、新たな術を発動する。

 

この術は、火遁のように重さの無い術を風の力で跳ね返す術だ。

 

「なっ!?」

 

ナルトに向かって放った術が、自分の方に戻って来る。

 

それは、サスケに避けられるタイミングでは無かった。

 

「サスケ君!!!」

 

とその時、サスケに向かっていく人影があった。

 

サスケのチームメートのサクラである。

 

サクラはサスケに体当たりをする様にして押し倒す。

 

「あうっ!」

 

そのお陰で、サスケは豪火の炎から逃れる事が出来た。

 

しかし、代わりにサクラの肩を豪火球が掠める。

 

「サクラッ!?」

 

「へぇ...あれに飛び込むとは...やるじゃねえか...そこの女の子...」

 

ナルトは、臆する事なく炎が向かうサスケのところに突っ込んでいったサクラに感心していた。

 

「それに比べて、うちはサスケ...お前は期待外れも良いところだってばよ。」

 

「くっ!」

 

先ほど、サクラが助けに来なければ、間違いなく豪火球の直撃を受けていただけに、言い返す事が出来ないサスケ。

 

「仕掛けてきたのは、お前だってばよ?覚悟は良いか?」

 

ナルトは、負傷するサクラを庇うように立つサスケに近づいていく。

 

(俺は何をやってるんだ!アイツに復讐するために今まで生きてきたってのに、こんな簡単に終わるってのか...)

 

サスケは、自分のプライドのせいで今の状況に陥っていることを後悔していた。

 

(終わりか...イタチ...結局俺は、あんたを殺す役目もこなせないんだな...)

 

サスケは全てを諦めたかのように目をつぶる。

 

「サス...ケ...君...逃げ...て...」

 

その時、肩の痛みを堪えてサクラが懸命にサスケに逃げる様に声をかけた。

 

「!?(サクラ...そうだ。サクラは俺のせいで負傷する事になったんだ。)」

 

「諦めてる場合じゃねえ。なんとしてもサクラは助けて見せる。」

 

サクラの声を聞き、諦めかけた心に再び炎が灯る。

 

その眼は、先ほどの怒りに染まった物ではなく、自分のやるべき事を見つけた男の眼だった。

 

「へぇ...」

 

ナルトはその眼を見るとニヤリと笑った。

しかし、それは決して馬鹿にしたものではなく、むしろ面白いとでも言うように感じた。

 

「そこの...ナルトって言ったな。」

 

「ああ...」

 

「戦う前に約束して欲しい。」

 

「ん?」

 

「俺とお前には純然たる力量差がある。それは認める。だから...一撃だ。一撃俺がお前に入れられたら、この場を見逃して欲しい。」

 

「それだと、俺にメリットが無いってばよ?」

 

「わかってる。その代わり俺が一撃も与えられずに倒れる事があったら、この巻物と...俺の命をやる。その代わり、俺以外のチームメイトの命だけは助けてくれ。頼む...」

 

「サスケ君!!!」

 

驚き声をあげるサクラ。

 

「虫の良い話だって事はわかってる。それでも、頼む...」

 

サスケは地面に膝を付くと頭を垂れた。

 

そう、土下座である。

 

今のサスケはプライドを捨ててでも、サクラや仲間の少年を助けようとしていた。

 

それまでプライドが邪魔をして、強くなるために師に教わる事さえしなかったサスケが、初めて他人に必死に頼み込んだ。

 

「.........わかった...お前のその姿に免じて、条件を飲んでやるってばよ。」

 

「すまない...。」

 

二人は互いに構えを取った。

 

「「行くぞ!!」」

 

戦いが始まった...

しかし、その戦闘は予想通り一方的な展開となっていた。

押してるのはナルト。

当然だ...チャクラ量、スピード、力、術...凡そ戦闘に必要なほとんどの物でナルトが上回っていたのだから。

 

それでも、致命傷を追うことなく戦いを長引かせていたのは、ひとえにサスケの眼にある写輪眼のおかげであった。 

 

完全に使いこなせてはいないまでも、その眼で動きを追い、先を読み、行動する。

 

例え、完全にかわすことは出来なくとも、戦いを長引かせることで、ナルトの隙を伺う。

 

そして、その時は来た。

 

「...たく...さっさとくたばりやがれってばよ。」

 

ナルトが、しつこく食らいつくサスケにいい加減面倒くさくなり、勝負を決めようと大技を繰り出そうとした。 

 

「この時を待ってたぜ!」  

 

と、それはサスケの望む展開。

 

サスケは手裏剣を投擲する。

 

当然ナルトに避けられる...が...

その避けた先に仕掛けがあった。

 

「火遁 龍火の術!」

 

「これは!?」

 

ナルトの周りをワイヤーが覆いそれを伝って炎が迫る。

 

避ける隙間は無かった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!」  

 

ナルトが炎に包まれながら叫ぶ。

 

「はぁ...はぁ...はぁ...やった...か?」

「サスケ君!凄い...あんなヤツに勝っちゃうなんて...」

 

油断せず、炎の中を探るサスケ。

そして、サスケを讃えるサクラ。

 

大蛇丸は静かに見守る。しかし、その目に焦りの色は無かった。

 

自身の里でも最強クラスの忍の危機だと言うのに、まるで動じた様子は無い。

 

その理由は...

 

突如炎が空に向かって昇っていった。

炎を風が吹き飛ばす。

 

大蛇丸はニヤリと笑った。

 

「あっはっはっはっは...いやー...やられたやられた...まさか、本当に俺に一撃入れるなんてな...驚いたってばよ。」

 

そう、ナルトは大したダメージも負わず、そこにいた。

 

その身体には、物質化するほどに高密度のチャクラが纏われていた。

 

これは、ナルトの中に封印された九尾のチャクラである。

 

ある時、ナルトは里の中で九尾の力を暴走させ、里を窮地にたたせた事があった。

 

誰もが諦めるなか、唯一...香燐だけはナルトを信じ、そして暴走するナルトの前に立ち塞がった。

 

当然、暴走するナルトは、香燐を殺そうとする。

 

しかし...

 

ナルトは己の全てを懸けて九尾に抗った。

 

ナルトにとって、絶対に譲れない大事なもの...

ナルトはその時、はっきりと理解した。

 

その思いが、憎しみに染まった九尾のチャクラを押し退ける光となり、ナルトの暴走は収まることになる。

 

以来、ナルトはその思いを要にすることで、九尾のチャクラをコントロールすることに成功したのだった。

 

そのチャクラを纏い、炎を防ぎきったナルト。

 

「さて、約束は約束だ。一撃を入れられたんだ。俺は退かせてもらうってばよ。」

 

「本当か!」

 

「なんだ?俺が約束を破ると思ってたのか?そりゃ心外だってばよ。」

 

「い、いや...そんなことは...」

 

「ああ。そう言えば...そこのピンク髪の子。」

 

「私?」

 

ナルトはサクラに声をかけると、何かを放り投げる。

 

「これは?」

 

「薬だってばよ。肩の傷に塗ればそこそこ回復するハズだ。ま、俺を信用するならだけどな。」

 

「信用するわ。貴方がその気なら簡単に私たちを殺せるんだもの。メリットが無いわ。」

 

「あっはっはっは。本当に面白いな。お前。」

 

「サクラよ。春野サクラ。」

 

「そうか。サクラちゃん。それにサスケ...まあ、リタイアしねぇように頑張れってばよ?」

 

ナルトは大蛇丸に意味ありげに視線を送るとそこを立ち去った。

 

「ふぅ...」

 

一息着くサスケだったが...

 

「息を抜く暇なんてあるのかしら?」

 

「!?」

 

「勘違いしないでもらいたいのだけど、貴方が約束したのは、彼だけで私ではないわ。私が退くつもりだったのは、彼がいたから。その彼がいなくなった以上、どうなるか...わかるわよね。」

 

(しまった!)  

 

サスケは完全に大蛇丸の事を失念していた。

 

ナルトがこの場所を去った以上、大蛇丸を止める人間はいない。 

 

そして、サスケにはほとんど余力は無かった。

 

焦るサスケだったが...

 

「ふふ...とは言え、面白い勝負を見せて貰ったし、今回は殺すのは止めにしてあげるわ。」

 

大蛇丸は、笑ってそういった。

 

「代わりに...貴方にプレゼントを挙げましょう。きっと気に入ってくれると思うわ。」

 

そう言った瞬間、大蛇丸の首が延び、サスケの首筋を噛んだ。

 

「ぐああああっ!!!」

 

サスケの身体を焼け付くような痛みが襲う。

 

「サスケ君。しっかりして。」

 

サクラはサスケを案じ、声をかけるしか出来なかった。  

 

その様子を、ナルトとチームの二人が眺めていた。

 

「さて、サスケのヤツは生き残れるかな?まあ、俺を当て馬にして、サスケを成長させようってのが、今回の大蛇丸の計画だったってのは、理解したけど...あの呪印から生き残れるかは、サスケ次第だからな。」

 

「知らねぇよ。あんなクソ雑魚ヤロー。それよりも、ナルト。あんなのに一撃貰うってのは腑抜けてんじゃねえか?」

 

多由也の容赦無いコメントにちょっぴり傷つくナルト。

 

「んな事よりさっさとウチに噛みつけ。チャクラを回復したら、さっさとゴールを目指すぞ?」

 

ツンデレな香燐に苦笑するナルトであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その七

第二の試験...

 

ナルトたちは、どの班よりも早くクリアした。

しかも、全員傷らしい傷も無く、試験を担当した教官たちは大いに驚いた。

 

しかも、その後にやって来た班の我愛羅に至っては、傷どころか汚れすら見当たらなかった。

 

戦慄する教官たち。

 

今回の中忍試験...その受験者たちは例年には、あり得ないレベルの忍が集まっている事にようやく気付くのだった。

 

「なに?大蛇丸が?」

 

と、その時大蛇丸の話がヒルゼンのもとに届いた。

 

「ふむ...それで?」

 

事のあらましを聞いたヒルゼン。

 

「ナルトと大蛇丸が敵対した?しかし、大蛇丸は音隠れの里の里長をしているハズ...なぜナルトと敵対したのじゃ?」

 

「その時、大蛇丸は草の忍に扮していた様です。大蛇丸本人と気付いていなかったのでは無いかと...」

 

「それほど未熟者には見えなんだが...」

 

ヒルゼンはナルトと直接会った時に、その実力の一端を感じていた。

 

少なくとも上忍クラスの力があると考えている。

 

「まあ、良い。大蛇丸の目的はうちはサスケじゃな?取り敢えず、試験はこのまま続ける。ヤツの行動が読めぬ以上、このまま様子を観る方が良かろう。」

 

ヒルゼンの言葉に、報告を行った忍は頷くのだった。

 

 

「よう、うちはサスケ...どうやら無事第二の試験を生き延びたみたいだな?」

 

ナルトは突破した受験者の中にサスケの姿を見つけると、自分から声をかけた。

 

「...ああ...そっちは楽勝って面だな。」

 

気軽に話しかけてくるナルトに、心中複雑な思いを抱えながらも、軽口を返すサスケ。

 

「まあな...早く着きすぎて退屈だった位だってばよ。」

 

「ふん...」

 

ナルトの言葉に閉口するサスケ。

 

自分達はカブトの手を借りてようやっとクリアすることが出来たのだ。

流石に言葉を返す事も出来ない。

 

それでも、せめて弱気は見せたくなかった為に、精一杯虚勢を張る。

 

自分自身、不思議なほどサスケはナルトを意識していた。

 

「おいおいおい。そこの金髪...なに気軽にサスケに話しかけてるんだ?こいつはな...お前みたいなのと違って、うちはのエリートなんだぜ?それなりの態度ってもんがあるだろ。」

 

そんな二人の間に入ってきた少年。

それは、サスケのもう一人のチームメイトだった。

 

この少年は、座学はともかく、体術や忍術はそれなりの成績を残しアカデミーを卒業した。

 

アカデミー時代からサスケに憧れ、サスケの後を着いて歩いていた為、同じ班になったことをサクラと同じように喜んでいた。

 

そんなサスケが意識しているナルトが面白く無かったのだろう。

 

普段よりも大仰な口調で割り込んでいた。

 

「よせ!」

 

しかし、それは他ならぬサスケによって窘められる。

 

サスケは苦い顔をしていた。

 

この少年は、大蛇丸との遭遇で真っ先に気を失っていた。

 

そのためナルトの実力を知らないのだ。

 

まさに井の中の蛙...と言う言葉が似合う状態だ。

 

「サクラちゃんも、無事に怪我は治ったみたいだな。良かったってばよ。」

 

しかし、ナルトは少年には目もくれずサクラの方に向き直り声をかけた。

 

「え、ええ。あなたのくれた薬のおかげよ。...ありがとう。」

 

サクラは、少し怯えをみせつつも感謝の言葉を述べる。

 

その理由は、大蛇丸が音隠れの長であることを知り、ナルトが同じ里の忍だったからだ。

 

それでも感謝の言葉は伝えた。

ナルトの意図がどうであれ、助かったのは事実なのだ。

 

「どういたしまして。」

 

ナルトはサクラの怯えを感じつつも、態度は変えずに笑いかけた。

 

「てめぇ...無視するんじゃねぇ。」

 

少年はいよいよ激昂する。

 

と、その時教官たちが受験者の前に姿を現した。その中には大蛇丸扮する音の教官もいた。

 

ヒルゼンの言葉が始まった。

 

「今年は豊作だな。それに第二の試験を突破した受験者の中には今年アカデミーを卒業したばかりの下忍が多くいる。」

 

「ああ。だが...」

「わかってる...」

 

木の葉の教官たちが受験者たちを見ながら小声で話していた。

 

だが、そこには警戒が宿っていた。

その視線の先...そこにいたのは、ナルトだ。

 

中忍試験の意味をヒルゼンが語っている所を欠伸をしながら聞いている。

 

相変わらず緊張感は感じられない。

 

だが、ここにいる教官たちの多くはナルトがどういう存在なのか...そして数年前に行方不明になった経緯を聞かされていた。

 

とても友好的に見ることは出来ない。

 

そしてヒルゼンの話が終わる。

 

すると月光ハヤテが前に進みでる。

 

ハヤテの説明は、このまま第三の試験は個人戦になる。しかし第三の試験に行くには人数が多すぎる事から予選を行うと言うものだった。

 

そして、予選を始める前に辞退する者につい聞く。

 

すると、まずカブトが手を挙げた。

 

カブトは大蛇丸からサスケの見定めをするように命令を受けていた。

 

しかし、教官の中に大蛇丸を見つけ、自身の役目は必要ないと考え、また自身の本性をさらけ出さない為に敢えて辞退することを選んだ。

 

チームメイトは不信に感じていたようだが、大蛇丸はむしろ当然と言った風に笑っていた。

 

更にナルトの班は、ナルトを除いた二人が辞退を選ぶ。

 

これに驚いたのは他の音忍の班、そしてサスケやサクラである。

 

だが、ナルトたちにとっては予定通りである。

 

もともと、人数合わせの面が強い多由也。

彼女の本番は、木の葉崩し...その開始の瞬間である。

 

だらだらと、この後の試験で消耗するつもりは無かった。

 

そして、香燐...

 

彼女はそもそも直接戦闘に向いた忍ではない。

 

もちろんその気になれば、下忍レベルなど圧倒出来るが、香燐の役目はナルトのサポートである。

 

無駄な戦闘などする気は無かった。

 

そうして、第三の試験に進むための予選が始まった。

 

 

試合は順調に進んでいった。

 

次はナルトの番である。

相手は、サスケのチームメイトの少年だ。

 

「へっ...まさかお前と当たるとはな。ナメた態度はこれまでだぜ。この俺と当たったことを後悔させてやる。」

 

「.........。(そう言えば、木の葉に来てから、一楽に寄ってなかったってばよ。木の葉崩しが成功したら、あそこでラーメン食べるのは難しいし...さっさと試合終わらせるってばよ。)」

 

「それまで...勝者...うずまきナルト。」

 

「うん?」

 

ナルトがほんの少し、別の所に意識を飛ばしている間に、相手の少年は攻撃を仕掛けていた。

 

しかし、ナルトは無意識にそれを避けて反撃をしていた。

 

しかも、無意識だからか、そこに手加減は無く、少年は何をされたかもわからないまま、意識を刈り取られていた。

 

命に別状が無かったのは奇跡と言っていいだろう。

 

「...なんだかよくわからんが...まあ、早めに終わったし良しとするってばよ。」

 

自分がどうやって勝ったのか、まるで覚えていないナルトではあったが、とにかく結果オーライと気持ちを切り替えた。

 

しかし、周りの人間たちはそうはいかない。

手加減の一切無い動きを見せたナルト。

それは、受験者たちにとってまるでレベルが違っていた。

 

受験者の中でも、体術に自信のあるリーですら、その動きには戦慄を覚えた。

 

白眼を持つネジやヒナタでも、その動きを完全には見切れなかった。

 

周りがざわつく中、ナルトは全くその事には気付かず、その思考は未だに一楽のラーメンに占有されていた。

 

更に試合は続く。

そして、ヒナタとネジの試合...

 

「貴女に俺は倒せない...それは運命で決まっていることだ。」

 

ネジは、自分の知るヒナタとは違い、積極的に攻撃をしかけてくるヒナタに驚き、一時追い込まれるが、やはり自力が全てにおいてヒナタを上回っていた為、時間が立つと戦いの流れはネジに向いていた。

 

「私は逃げない...自分の意思で...この中忍試験に参加した。そこで私はある人に自分の目指すべき道を教えられた。その人の前に自信を持って立てる様に...だから...ネジ兄さん...貴方を超えてみせます。」

 

ヒナタの眼には、いつもの怯えも自信の無さも見えなかった。

 

ただただ...まっすぐ...自分を見ている。

 

それはネジにとって、とても勘に触るものだった。

 

まるで、自分の生き方を否定するかのような...

 

「もう良い。どれだけ言おうと結果は同じだ。」

 

ネジはそれ以上付き合うつもりは無く、ヒナタに攻撃を仕掛ける。

 

その攻撃をなす統べなく受けるヒナタ。

 

「終わりだ!」

 

ネジが言い切った。

 

しかし...

 

「...ま...だ...です。」

 

「な!?」

 

ヒナタは立ち上がってい。既に息も絶え絶えで立っていることがやっとの状態...

 

いや、既に気を失っているハズの攻撃をしたのだ。

 

立っていること事態が奇跡だった。

 

「いい加減、諦めろ...ヒナタお嬢様。世の中にはどれだけ頑張っても無駄な事があるんだ。」

 

「そん...なこ...と...無い。わ...たしは...諦めない。」

 

「だ、黙れぇ。」

 

ネジは、激昂しその口を閉じさせようと攻撃を行った。

 

いつものネジなら審判に、攻撃をする旨を伝え審判から止める様に言ってもらう所だったが、ネジは冷静さを欠いていた。

 

目の前の嫌な物を排除する。

ただ、それだけを考え動いていた。

 

「そこまでだ!」

 

しかし、その攻撃はヒナタには届かなかった。

 

ネジの手首を掴むものがいたのだ。

 

「お前は...うずまきナルト!」

 

そう、ナルトは観客席から一瞬で移動し、ネジの手首を掴んだのだ。

 

「審判...判断が遅いってばよ。今の攻撃が通ってたらヒナタは死んでたってばよ?」

 

「うっ!」

 

ハヤテも止めるべきか悩んでいた。

しかし、ヒナタに続行の意思があり、尚且つ日向の分家であるネジが宗家の娘であるヒナタを害する事は無いと考えていた為、判断が遅れてしまったのだ。

 

無論、担当上忍たちもネジを止める為に動いていた。

 

ナルトがネジを止めた数瞬後にはネジを囲むように現れていた事からもそれは伺える。

 

「何故止めた。お前には関係がないだろ。」

 

ネジは、未だに熱くなっていた。

ネジを止めたナルトに食って掛かる。

 

「まあ、関係は無いってばよ?けど、あまりにもお前が見苦しいんでな...」

 

「なんだと!?」

 

「お前がヒナタに苛立ちを感じたのは、ヒナタに嫉妬したからだろ?」

 

「なに?」

 

「お前の言動...運命で何もかもが決まってる?はっ!馬鹿馬鹿しい。てめぇは逃げてるだけだってばよ。」

 

「ふざけるな!俺が何から逃げてるって言うんだ!」

 

「運命...その言葉にだ。てめぇは最初から運命に立ち向かおうとしてねぇ。運命で決まってるから...何をしても変わらないってな!」

 

「ぐっ...」

 

「だから、ヒナタに苛立ったんだってばよ。自分を変えたいと願い、そして今まさに変わろうとしていたヒナタに!」

 

「くっ!」

 

ネジは言い返そうとした。だが、何故か言葉が出て来ない。まるでナルトの言葉が真実だと言うかのように。

 

「てめぇが運命を言い訳に諦めたクセに、他のヤツが諦めずに運命に抗うのは許せない...そう言う見苦しいヤツなんだよ。てめえは!」

 

「黙れぇ!!!!」

 

ネジは、ナルトに攻撃を仕掛けようとした。

 

しかし、それはネジを囲んでいたカカシたちによって止められる。

 

「離せ!何故止める!」

 

「一応、ルールなんでね『試合以外での戦闘を禁ずる』」

 

カカシが説明する。

 

「ええ...と言うわけで、自分の試合でないのに戦闘に乱入したナルト君...君は失格です。」

 

ハヤテが言った。

 

「な...や、やっちまったってばよー!!!!!」

 

ナルトは悲鳴のように叫ぶのだった...



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その八

その日の夜...

 

ナルトは宿にて正座をさせられていた。

させたのは勿論、香燐と多由也の二人。

 

「おい、ナルト...」

 

「はい...」

 

いかにも不機嫌そうにナルトを呼ぶ香燐に、小さな声で返事をするナルト。

 

「なんでお前まで、予選落ちしてんだ?」

 

「.........。」

 

「ウチらは、元々第三の試験には参加しなねぇ...これは予定通りだよな?」

 

「...はい。」

 

「もともとウチは、人数合わせ。この後が本番なんだ。チャクラを温存しとかなきゃなんねぇ以上、あそこで降りとくのは当然だ。香燐は直接戦闘には不向きな能力だし、あまり大っぴらにして良い能力でも無いからな。香燐もあそこで降りとくべきだろ?」

 

多由也が後を引き継ぐ。

 

「.........はい。」

 

「でも、お前は違うよな?大蛇丸様が動くまでの囮。あくまでお前は、本番が始まるまでの引き付け役だろ。お前は受からなきゃならなかったんじゃねえのか?」

 

「うぅ...」

 

「はぁ...ナルト...なんでお前は、いつも考えなしに行動するんだ?あんな事すれば、失格になるのは当たり前だろ?」

 

「そうだ。それにあの時、お前本気で動いたろ。下忍の枠を大きく超えたあの動き...もしかしたら木の葉に警戒されたかも知れねぇ...」

 

二人は散々ナルトを責めた後、一度深呼吸をするとお互いに頷き合い、

 

「「それとも、何か?あ、あのヒナタって小娘に、ほ、惚れたのか?」」

 

全く同じタイミングで、同じ質問をした。

 

「はっ?いや、そんな訳ねぇってばよ。」

 

「だったらなんで、危険を犯してまであの娘を助けにいったんだ。」

 

「そうだ!別にお前が乱入しなくても、木の葉の上忍連中がなんとかしたハズだろ。」

 

「そ、それは...その...」

 

ナルトは言いづらそうに一度目を背ける。

 

やがて、観念したのか、ぼそぼそと話始めた。

 

「あのネジってヤツの言いぶんが気にくわなかったんだってばよ。」

 

「えっ?」

 

「アイツの言い分って要するに運命は変えられねぇから、抗うだけ無駄。だから受け入れるしかねぇって事だろ?」

 

「まあ、そうだな。」

 

「けどよ...アイツの言い分通りにしてたら、今の俺はいねえんだってばよ。アイツの言うように、運命を受け入れるしかねぇなら、今も俺は木の葉にいて、木の葉の連中に白い目で見られながら生活してたのかもしんねぇ...」

 

「.........。」

 

「俺は、運命ってやつに負ける気はねぇってばよ。だからあの時行動を起こした。そのお陰で、俺は大蛇丸に拾ってもらって、お前達にも出会えた...」

 

「ナルト...」

 

「俺は今の俺を気に入ってるってばよ?ただいまを言えば帰ればお帰りと言ってくれる居場所があって、俺を気にかけてくれる仲間達もいる。もちろん香燐や多由也も好きだってばよ?だからアイツの言葉は受け入れられなかったんだってばよ。」

 

「す、好きってお前、なに言ってんだ、バカ!」

 

「そうだ、そう言うのはもっとこう...雰囲気のあるところでだな...」

 

ナルトの言葉を聞いた二人は、何を勘違いしたのか、赤面しながら露骨に慌て出す。

 

「ふふ...仲が良いのは良いけど、そこまでにしなさい。」

 

と、そこに第三者の言葉が入る。

 

「お、大蛇丸様!」

 

突然の乱入者...それは大蛇丸その人であった。

 

「さて、三人とも...まずは中忍選抜試験...お疲れ様...」

 

「............(ゾ~ッ!!!)」

 

ナルトたちは、てっきり任務半ばで全員が第3の試験に進めなかった事を詰問されると覚悟していた。

 

しかし、大蛇丸の第一声は労いの言葉だった。

 

普通に怒られるよりも、恐ろしかった。

 

「フフッ...そう警戒しなくても良いわよ?今回の貴方たちの役目は、あくまでも木の葉崩しまでの陽動...その意味では、十分その役目は果たしたと私は判断するわ。」

 

「そ、それじゃあ...」

 

任務失敗では無い以上、罰もない...と喜ぶナルトたちだったが...

 

「でも、音隠れの里...それもトップクラスの忍が揃って第3の試験に進めなかった...これは私たち音隠れの里の面子に関わるものよねぇ...」

 

「うっ...」

 

「と言うことで、罰を与えるわ。まずナルト...多由也と香燐はともかく、貴方が第3の試験に進めなかったのは予想外なのは確かね...と言うことで、貴方への罰は今後一月の間、ラーメンを食べるの禁止ね?」

 

「へっ?」

 

一瞬、何を言われたのか理解できなかったナルト。

 

「だから、ラーメン禁止...」

 

「そ、それってば...明日から?」

 

「いえ...今からよ...」

 

大量の汗がナルトの身体から発せられる。

 

ナルトにとって、ラーメンを食べるのは生きる原動力と言って良い。

それが上手いラーメンなら尚、素晴らしい。

 

この任務での一番の楽しみは一楽のラーメンを食べることだった...

 

今日はもう無理でも、明日にでも行くつもりだったナルトにとって、大蛇丸から言い渡された罰は、大変酷なものだった。

 

「の...のぉぉぉぉぉ!!!!」

 

この世の終わりと言った表情を浮かべ、固まるナルト...

ただのバカである...

 

そんなナルトを呆れの眼差しで見つめる香燐たち。

 

「そこで固まってるナルトは放っておくとして、二人にも罰を与えるわ。」

 

「「はい!」」

 

チームのミスの責任はチームで取る。

当然、二人にも罰はある。二人とも覚悟を決めていたかのように頷いた。

 

「二人にはナルトの食事を作ってもらおうかしら...」

 

「「えっ!?」」

 

「二人も知っていると思うけど、ナルトの生活力はあの通り...食事は三食カップラーメンとまあ、呆れる私生活を送ってるわけだけど...」

 

「ほっといてくれってばよ。」

 

「一月ラーメンを禁止したら、この子...確実に餓死するわね。」

 

「そ、そんなこと無いってばよ...」

 

「なら、貴方が出来る料理を言ってみなさい?」

 

「えっと...カップラーメンとインスタントラーメン...それから...あ~...え~...」

 

「と、言うわけで二人にはこのまま木の葉崩しの時まで、ナルトの世話を命じるわ。」

 

「「はい。必ずややり遂げてみせます。」」

 

ナルトの私生活について、多少は知っていたが、予想を超える惨状に自分が何とかしなければと、強い使命感を感じた二人は強く頷いた。

 

「さて...じゃあ三人とも...第3の試験までは自由にして良いわ。その代わり、一月後には存分に働いてもらうからそのつもりでいなさい?」

 

「「「了解!」」」

 

大蛇丸は、言いたいことを言うとその場から文字通り消えた。

 

おそらくは影分身だったのだろう。

 

「...はぁ...緊張したぜ。」

 

大蛇丸のプレッシャーから解放された多由也は一人ごちる。

四人衆の一角として、音隠れの里でも大蛇丸に近い存在なだけに、余計に緊張したのだろう。

 

「ナルト...そう落ち込むな...お前の食事はちゃんとウチらが用意するから...」

 

「うぅっ...香燐...そう言う問題じゃ無いってばよ...こうなったら...一楽だけはなんとしても死守するってばよ。」

 

「あぁん?そりゃウチの飯は食えないってぇのか?」

 

「ぎゃあ...耳を引っ張るなってばよ。痛ぇ痛ぇ...ごめんってばぁ...」

 

ナルトと香燐は漫才を繰り広げていた。

 

とにかく中忍試験に出ると言う任務は終わった。

そして、本番はこれから...

 

三人は、一月の間修行に、任務にといつものように過ごし時を待つ。

 

そして一月後...中忍選抜試験第3の試験が始まろうとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後編 その終

これにて完結となります。


木の葉は今、混乱に包まれていた。

 

その日は、中忍選抜試験の第三の試験が行われていた。

 

第一試合から、順調に試合は消化され会場は、大きな興奮に包まれていた。

 

そして、その興奮は最高潮に達しようとしていた。

 

それは、最後の「うちは」であるうちはサスケの試合が見られるからだ。

 

観客も、来賓も、ここに集ったほとんどの人間はサスケを見に来た者たちだ。

 

会場の好奇と期待の視線を受けながらも、サスケは期待を裏切らない戦いを見せた。

 

これまで、傷一つ受けることの無かった砂隠れの下忍...我愛羅に傷を与えたのだ。

 

しかしその結果、我愛羅の中に眠る尾獣...守鶴を目覚めさせることになってしまった。

 

守鶴の覚醒を合図に、木の葉崩しは開始された。

 

木の葉の各地に潜伏していた音隠れの忍...

そして、今回の木の葉崩しに際し協力関係を持っていた砂隠れの忍が呼応するように、その正体を現し木の葉を襲った。

 

各地で繰り広げられる戦闘...

 

さらには、大蛇丸が召喚した大蛇がこれに加わる。

 

逃げ惑う人々...

 

木の葉は未曾有の事態に陥っていた。

 

そして、ナルトもまた木の葉に大きな衝撃をもたらしていた。

 

その日のナルトは、街の中を特に何かするでもなく散策していた。

 

中忍選抜試験が始まっていると言うのに、何故ナルトがそんなことをしているかと言えば、当然囮の為である。

 

中忍試験の本戦...それは格好のテロのチャンスでもある。

 

この日の木の葉は、厳重な警戒体制を強いていた。

木の葉から危険視されているナルトも、その警戒の対象である。

 

本来、中忍試験を落ちたナルトが木の葉に残る理由は無い...

 

せいぜい、同じ里の忍の応援をする位だが、あの大蛇丸が率いる里の一員であるナルトが、そんな事の為に残るとは到底思えない。

 

そして、何よりも中忍試験の最後で見せたナルトの力...

それは、下忍どころか中忍にすら留まるレベルでは無かった...

 

当然、木の葉はナルトを警戒するだろう。

 

そして、その時はやってきた。

 

「なんだ!」

「里が騒がしいぞ...」

「一体、何が...」

 

ナルトを尾行していた忍たちが、突然各地で始まった騒動に動揺する。

 

「何があったか、知りてぇのか?」

 

と、ふいに声がかかる。

 

それは、尾行していたハズのナルトであった。

 

「ナルト!?くっ、気づいていたのか...」

 

冷や汗をかく木の葉の忍たち。

 

ナルトを尾行するにあたり、選抜されたのは、里でも上位の実力を持つ忍。

 

そして、彼らは注意してその気配を隠していたつもりだった。 

 

「はっ。お前らみたいな力を持つ忍が、気配を急に無くせば嫌でも気づくってばよ。」

 

ナルトは、この日...最大限の注意をはらっていた。

いつでも動けるように...

 

そんな中、大きな気配を持った人間の気配が急に薄まれば、警戒もするだろう。

 

「それよりも、何が起こってるのか知りてぇんだろ?それはな...」

 

「俺たち音隠れの里による、木の葉崩しだってばよ!」

 

ナルトは大声で宣言すると、目の前の忍たちに一気に迫る。

 

「散開!」

 

慌てて動く忍たちだったが...

 

「遅ぇってばよ!」

 

ナルトの身体から突然生えてきた九本の尾が、彼らを捉える。

 

「これは九尾の...」

 

「化け物め...」

 

捉えられた忍たちは、九尾の尾に驚愕し、ナルトを化け物と蔑む。

 

「化け物で結構...俺は化け物だからこそ、里の皆を守る力を得られた。今じゃ感謝してるくらいだってばよ...」

 

しかし、ナルトはその言葉を笑って流した。

 

そして...

 

「だから...さっさと死ね...」

 

なんの感情もなく、尾で締め上げる力を強めると、忍たちを圧死させてしまった。

 

「さて...会場に向かうか...香燐たちも心配だしな。」

 

ナルトは、忍たちの遺体に一瞥すると、振り替える事もなく、会場へと向け歩きだした。

 

しかしその途中...

 

「ナルト君...ここから先には行かせないよ...」

 

ナルトの前に立ちふさがった人物がいた。

 

「ヒナタ...」

 

そう、それはナルトがこの中忍試験で出会い、そして興味を惹かれた人物...日向ヒナタであった。

 

「ナルト君...なんであなたがこんな事をするの?」

 

ヒナタがナルトに問いかける。

 

「当たり前のことを聞くなってばよ。これは音隠れの里が木の葉に仕掛けた戦争で、俺は音隠れの里の忍だ。」

 

ナルトは抑揚の無い声で答えた。

 

「でも、こんなの間違ってる。ナルト君はこんな事を望む人じゃない...私にはわかる。」

 

ヒナタはナルトの目をしっかりと見つめて言った。

 

「...木の葉が俺を迫害してきた事実を知ってもか?」

 

「えっ!?」

 

「俺は数年前まで木の葉にいたんだってばよ...」

 

ナルトは、自らの過去を語り始める。

 

「そんな...木の葉の皆が...そんなことを...」

 

ヒナタは思っても見なかった木の葉の闇に驚き固まってしまう。

 

「この話を聞いてもまだ、俺がこんな事をするのが信じられねぇか?ヒナタ...」

 

「.........。」

 

ヒナタは何も言えない。

 

「なら、もう良いだろ?俺は音隠れの里のうずまきナルトだ。」

 

ナルトがその場を去ろうとしたその時...

 

『...ルト...ナルト...頼む返事をしてくれ。』

 

と、その時ナルトに声が聞こえてきた。

 

どこか焦ったような声...それは...

 

「多由也か...どうしたんだってばよ。」

 

それは多由也の声だった。

今朝早く、木の葉崩しにおいて大蛇丸と三代目の一騎討ちを援護すると言う重要な任務がある多由也と、それをサポートする為に会場に向かう香燐には木霊法で会話が出来るように、リンクを着けていたのだ。

 

『ナルト!よかった。大蛇丸様がヤバイ。至急救援に来てくれ!』

 

「わかったってばよ。」

 

多由也の切羽詰まった声に、ナルトは急ぎ会場へと向かおうとする。

 

しかし...

 

「やっぱり、ダメ...ナルト君...ここから先には進ませないよ。」

 

「ヒナタ...」

 

ヒナタが立ち塞がる。

 

「ナルト君...確かにナルト君には木の葉に良い感情は持ってないんだと思う。でも...だったら私を助けてくれたのは何故?なんで、ナルト君は悩む私にアドバイスを送ってくれたの?私だって木の葉の人間だよ?」

 

「それは...」

 

「私にはわかる。ナルト君は本当はとっても優しい人なんだって。ナルト君...本当は復讐なんて望んでないでしょ?だから、自分の心を殺して進む貴方を放っては置けない。」

 

「.........。」

 

その通りだ。ナルトは復讐なんて考えてもいない。

木の葉崩しも、仲間を守るために参加してるに過ぎない。木の葉への意趣返しなんて、ここに来るまで考えることさえなかった。

 

「俺を止めたいなら、どうすれば良いかわかってるのか?」

 

「うん。」

 

ヒナタは構えを取る。

 

「ナルト君が示してくれた、この白眼と柔拳の本当の使い方で、貴方を止めて見せます。」

 

「わかった。俺も全力で受け止めるってばよ。」

 

ナルトはそう言うと尾獣チャクラを身体に纏う。

 

二人の身体が交錯した...

 

 

「うっ...」

 

気がつくと、ヒナタは建物の影に寝かされていた。

 

「おっ?気付いたか、ヒナタ...」

 

「ナルト...君...?」

 

「の、影分身体だけどな。」

 

ナルトの分身体は苦笑して答えた。

 

「!?...そう...私は...止められなかったんだね。」

 

落ち込むヒナタに、ナルトの分身体が、声をかけた。

 

「ヒナタ...本体の俺からの伝言を伝えるってばよ。」

 

「えっ!?」

 

「『ヒナタ...お前は優しいやつだ。でも優しさだけじゃ誰も救えない。お前が俺のアドバイスをきっかけに、目指すべき道を見つけてくれたって言うなら、これほど嬉しい事もないってばよ。でも、どれだけ尊い目標を持っても、それを実現する力がなけりゃ、夢で終わりだ。だから頑張れよ?応援してるってばよ。』」

 

分身体のナルトは、そう言うと煙と共に消えていった。

 

「...ナルト...君...」

 

それはナルトからのエール...そして別れの言葉でもあった。

 

ヒナタの決意を感じ、しかし自分は一緒にはいられない...

ヒナタの成長を見守ってはやれない...だからヒナタの成長を信じる...

 

そう言っているのだ。

 

ヒナタは泣いた...大声で泣いた。

 

多分、初恋だったのだと思う。

しかし、その恋は告白さえすることができずに終わってしまったのだ。

 

相手が敵国の忍である以上、もう会うことさえ叶わないかもしれない。

 

一通り泣いたヒナタは、立ち上がった。

 

ナルトの言葉を受け止めて...

ナルトが信じた自分の決意を胸に...強くなることを誓って。

 

(ナルト君...私は強くなる...だから...見ていてください...)

 

ナルトへの想いを胸に秘めて...

 

 

会場に、ついたナルト...

そこで見たのは結界の中で睨み合う大蛇丸とヒルゼンであった。

 

特に何かしている様子は無い。

 

ヒルゼンの背中には刀が生えている。

致命傷とは言えないまでも深手を負っているのは明らかだ。

対して、大蛇丸は何かされている様子は見られないが、苦痛の表情を浮かべていた。

 

「貴様は...」

 

ナルトの侵入に反応した暗部が一斉に襲いかかる。

 

「邪魔だ。」

 

ナルトは、あっさりと迎撃した。

ヒナタに見せた優しさは、そこには感じられない。

 

「香燐...何があったんだってばよ。」

 

会場で待機していた香燐に事情を聞くナルト。

 

「それが...」

 

香燐の説明では、終始大蛇丸がヒルゼンを押していたが、ヒルゼンが何かの術を行使した所動きが、止まったらしい。

 

大蛇丸の苦痛の表情から、何かをされているのは明らかだが、何をされたかまではわからない...

 

「何の印を結んだか解るか?」

 

「いや、遠くてよくわからなかった。」

 

「仕方ねぇ...直接聞くってばよ。」

 

ナルトは、決断すると多由也の所へ向かった。

 

ナルトへ殺到する暗部たちだったが、ナルトの相手にはならない。

 

「多由也...」

「遅ぇぞ、ナルト。」

 

「大蛇丸の援護に入るってばよ。結界を空けてくれ。」

 

「わかった。大蛇丸様を頼む。」

 

「おう。任せとけってばよ。」

 

多由也の合図で、一瞬だけ結界に穴が空いた。

飛び込むナルト。

 

「!?ナルト...」

 

驚くヒルゼン。

 

(やはり、ナルトも大蛇丸に取り込まれておったか...)

 

ナルトは、ヒルゼンを一瞥すると、大蛇丸な向き直り、

 

「おいおい、大蛇丸。作戦立案者がこんな醜態さらしてたら、下に示しが付かないってばよ。」

 

そう言って軽口を叩く。

 

「ふふっ...少し油断したわ。流石に九尾を封印した術...」

 

「!?...まさか死鬼封陣...」

 

それだけで、該当する術に思い至ったナルト。

 

ナルトは、一度尾獣チャクラを暴走させた後、封印術についてはかなりの勉強をした。

 

もし、何かの拍子に封印が解かれた時...

もう一度封印することが出来るようにと...

 

当然、最も強力な封印術と呼べる死鬼封陣についても詳しく知っていた。

 

今、術の行使をしているヒルゼンと、術を受けている大蛇丸には死神が見えていのだろう。

 

そして、その死神は大蛇丸の魂を引きずり出そうとしている。

 

「くっ...もはや猶予は無い。大蛇丸を連れていく事は叶わんが、せめてお前の術を貰って行く。」

 

ヒルゼンは、膠着状態に陥っていたこの状況から、大蛇丸の助っ人が現れた事で、意識を切り替える。

 

せめて大蛇丸の術を封印する...と。

 

しかし...

 

「悪いな...じいちゃん。大蛇丸には恩義がある。やらせる訳には行かないんだってばよ。」

 

ナルトは、ヒルゼンより早く動いていた。

 

死神を動かす為にヒルゼンが意識を向けた一瞬の隙を付いて、背後に回ると当て身を食らわせてその意識を刈り取ってしまった。

 

「...助かったわ...ナルト。」

 

どんな術も、術者本人が意識を失ってしまえば維持することは叶わない。

 

ヒルゼンが意識を失った事で、死神は消失してしまった。

 

「大蛇丸...消耗し過ぎだってばよ。ここらが潮時だ。」

 

「...そうね...三代目を殺せなかったのは痛いけど、もう戦闘することは叶わないでしょう。最強の忍...プロフェッサーと謳われたサルトビ先生も、もう終わりね。引くわよ。猿魔...サルトビ先生によろしくね...」

 

『くっ...』

 

倒れているヒルゼンが口寄せした猿魔にそう言った大蛇丸は、結界を解除した四人衆、ナルトと香燐を伴い、木の葉を後にする。

 

なんとか壊滅を免れた木の葉だったが、その損失は計りしれないものとなった。

 

木の葉の実力者の多くが戦死し、また最大戦力であるヒルゼンも、今回の戦の傷が元で、忍を続ける事は出来なくなった。

 

音隠れ相手に報復する力はとてもでは無いが、無かった...

 

そして、その音隠れの里はと言うと...

大国の火の国...その中でも最大の木の葉を相手に互角に戦ったことが評価され、多くの依頼が舞い込んでいた。

 

凡そ、新興の里である音隠れの里だが、その勢いは五里に並ぶ程のものがあった。

 

活気着く音の人々...

 

そして、ナルトはと言えば...

 

ナルトはあの木の葉崩しの後、長である大蛇丸の窮地を救った事が認められた。

 

大蛇丸から、褒美を聞かれたナルトは、孤児院の設立を進言した。

 

自分や香燐のように、何かの事情で自分の故郷を追われた者たちの居場所を作ってやりたい...と。

 

大蛇丸は、これを了承。

ナルトを管理者に、香燐をバックアップに着けて、晴れてナルトの願いが叶えられた。

 

無論、大蛇丸にはナルトのように掘り出し物の、戦力がいるかもしれないと言う思惑もあった。

 

それでも、ナルトにとっては自分と同じような境遇のものたちを救えるかもしれない。

それだけで、十分だった。

 

それから数年...

 

「こんな所にいたのか?ナルト...」

「ん?なんだ香燐か...」

 

野原で昼寝をしていたナルトに、香燐が声をかけてきた。

 

「なんだじゃねぇ。子供たちがお前を探してたぞ?」

 

「え?そりゃ参ったってばよ。」

 

ナルトの孤児院は、この数年で多くの子供たちが集まっていた。

 

中でも年少の子供たちは、ナルトがいなくなると途端に泣き出してしまう、不安定な子供たちが多かった。

 

ナルトは、苦笑いを浮かべつつ孤児院に向かい歩き出す。

 

「ナルト...お前は今幸せか?」

 

ふいに香燐が声をかける。

 

「当然だってばよ。自分の居場所があって、やるべき事もある。俺を慕ってくれる子供たちもいる。そして...」

 

「そして?」

 

「俺の隣にお前がいるからな!」

 

ナルトは、満面の笑みを浮かべた。

 

この後も、ナルトには多くの試練や戦いが待ち受けている。

 

暁の台頭、尾獣を巡る戦い...

そして忍界大戦...

 

しかし、ナルトは負けない。多くの仲間たちを得てこれに立ち向かう。

 

その活躍には、必ずナルトを支えるくノ一の存在があるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。