Fate 短編集 (NowHunt )
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ただの短編
お帰りなさいを君に(アーチャー+大河)


ずっと書きたかった2人です。てか、本編でこの2人の絡みを見たかった。 

気に入っていただけたら幸いです。


「あ、アーチャーさんだ! こんにちわ!」

「…………藤村先生。こんにちは」

 

 ある休日の昼下がり。藤村大河は商店街で筆記用具等を買い、帰宅する途中、買い物袋を腕にぶら下げたアーチャーを見つけた。

 

 対してアーチャーは、素っ気なく挨拶を返す。

 

「ここで会うとは奇遇ですね。晩ごはんの買い物ですか?」

「はい、そんなところです」

「いいわねー。遠坂さんがアーチャーさんのご飯は美味しい! って自慢してたのよ」

「……そうでしたか」

 

 その台詞を聞いたアーチャーは内心、どこか複雑そうにしていると、大河が唐突に――

 

「そうだ! 今度家に来てください。私、是非アーチャーさんのご飯食べてみたいです。もちろん、遠坂さんと一緒に。桜ちゃんも呼んで……士郎たちとパーティーしましょう」

 

 呑気にそんな提案する。

 

「パーティー、ですか」

 

 アーチャーは若干戸惑っている様子。そんな様子に気付かずに大河はズケズケと。

 

「だって遠坂さんはよく士郎ん家来るけど、アーチャーさんはそこまで来ないじゃない? 来ても私がいないときだし。私もアーチャーさんと話す機会あまりなかったから、今思いきって誘ってみました!」

「…………」

 

 言葉が出ない。どう話せばいいのか分からない。

 

 

 

 ――――話す機会がない? それはそうだろう、アーチャーは強くそう思う。アーチャーは意図的に藤村大河を避けていたのだから。

 

 藤村大河は衛宮士郎を本当の家族のように接してくれた。時に厳しく、時に優しく。長い間ずっと。

 

 そこまでしてくれた大河をエミヤシロウは裏切った。自分の理想を追いかけて、現実を知って、あまりにも大きな絶望を感じて…………そして、死んだ。

 

 エミヤシロウの周りには心配してくれた姉がいたはずなのに、勝手に大丈夫だろうと押し付けて、姉が待ってくれていただろう家に帰らず、自分の理想の為にひたすら走った。それを裏切りと言わず何と言う。

 

 こうして、サーヴァントとして限界したとはいえ、その罪悪感は消えない。だから、アーチャーはなるべく会わないように努めた。

 

 

 

「また都合が合えばご一緒にさせていただきます。私はこれで。……ではまた」

 

 目を合わせずにそれだけ言い残し、アーチャーは去っていった。

 

「あっ、はい。さようなら……って絶対だからねー! アーチャーさーん!」

 

 その声を無視して歩く。商店街の人たちに怪しまれないような速さで。

 

「ハァ……」

 

 人通りが少なくなったところでため息が漏れる。

 

 ――――また逃げてしまった。あの時と何も変わらない。

 

 合わせる顔がない。さっきまでも、アーチャーは大河と眼を合わせずに会話をしていた。とてもじゃないけど、アーチャーは眼を見て会話なんてできなかった。自分の過ちを知っているからこそ、向かい合うことができなかった。

 

「…………絶対、か」

 

 大河のその言葉を反芻する。昔を思い出して、思わず小さな笑みを浮かべてしまう。昔よく聞いた大河のその言葉からは逃げられない気がした。

 

 

 

 

 

 

「アーチャーさん行っちゃったー……」

 

 うーん。やっぱりいきなりすぎたかな? でも、あんまり話したことがないのも事実だし。

 

「……って、あれ?」

 

 ……なんだろ、この感覚。

 

 そうだ。さっきまで見たアーチャーさんの顔……誰かに似ている? あ、思い返してみれば、目元や眉の形もそっくりだ。スゴい。他にも色々見れば見るほど、その誰かに似ている。

 

「うーん…………」

 

 でも、そんなことあるわけないよね。だって、その似ている誰かって……士郎だもの。

 

 それに士郎とは、目の色も髪の色も肌の色もだいぶ違う。年齢だってかなり離れている。背だって、アーチャーさんの方がかなり高い。

 

 ……それでも、顔立ちはそっくりだ。士郎が成長したらこんな顔立ちになりそうな気させする。

 

 どういうことなんだろう。やっぱり、他人の空似なのかな。思い違いだろうか。

 

 …………それに、どうしてアーチャーさんはまるで申し訳ないような、泣きそうな顔で私と話すのだろう。

 

「分からないなぁ」

 

 私はそうポツリと呟く。

 

 分からないけど、何故だか彼を放っておけない。思いっきり構ってあげたくなる。

 

 理由はないけど、私がそうしたいから。

 

「よしっ、遠坂さんに電話しよ」

 

 そうと決まれば、一旦家に帰ろう。そういえば、アーチャーさんの得意料理は知らないなぁ。士郎なら知っているかも。後で食材を買い込んでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「ねぇ、アーチャー」

「どうした、凛」

「藤村先生から一緒にご飯食べないかって連絡来たんだけど」

 

 遠坂邸にて。それはアーチャーと大河が商店街で会ってから翌日のことだった。

 

 ――――いくら何でも早すぎないか? 昨日の今日のことだぞ。

 

 声には出してないが、アーチャーは呆れながらそう思った。

 

「……そうか」

「アーチャーはどうするの? 参加する?」

「…………」

 

 しばらくの間、言葉が出ない。眉間にシワを寄せたまま黙りこくっている。

 

「アーチャーが迷うのは分かるけど……少しくらいいいじゃない」

「そう簡単にはいかないのだよ…………。本来、私は彼女と話す資格など、これっぽっちもないのだから」

「ホント頑固ね。そもそも藤村先生がアーチャーのこと知っているの?」

「いや、凛と一緒に暮らしている程度の認識だろう。……ただ、彼女の直感はバカにできない代物だ」 

「確かに、先生って色々とスゴいものね」

 

 凛はアハハ、と笑う。

 

「同感だ。冬木の虎はなかなか侮れない」

「ところで、藤村先生、アーチャーのご飯を食べたいって言ってたわよ」

「それは聞いた」

「そうなんだ。何て答えたの?」

「適当にはぐらかしたよ」

「ふーん…………」

 

 アーチャーは行くかどうか返答に迷っていると――

 

 ピンポーン。

 

 ――――呼び鈴が鳴り響く。

 

「あら、誰かしら? ちょっと行ってくるわね」

「私も付いていこう」

 

 凛が玄関の扉を開ける。

 

「……って、士郎じゃない」

「貴様か。何用だ?」

「相変わらず、ツンケンしてるな、お前。いや、藤ねぇがさ、アーチャーさんとご飯食べる約束したから迎えに行ってねーって」

「まだ私は返事をしていないのだが……」

 

 大河の言動に呆れるアーチャー。

 

「えっ、マジかぁ。ったく、藤ねぇ……。きちんと確認してから頼んでくれよ」

「全くだ」

「それで、どうするんだ? 用事があって無理なら俺から伝えておくけど」 

「あー、大丈夫よ。準備するから少し待ってて」

「……凛」

「そんな深く考えなくていいのよ。ただただ、皆で仲良く食卓を囲むだけなんだから」

 

 アーチャーは凛のその言葉に考え込む素振りを見せる。そして、どこか諦めた様子で。

 

「……仕方ない。私も同行しよう。ところで、衛宮士郎、今回は私が料理するのだろう。彼女からのリクエストはあるのか?」

「ハンバーグだってさ。材料はもう諸々買ってあるから」

「ふむ、了解した」

「じゃ、ちょっと待っててねー」

 

 話が一段落したのを見届けてから凛は準備しに廊下の奥へと消えた。

 

「そういや、いつ藤ねぇと約束したんだ?」

 

 凛を待っている間、士郎はアーチャーに話しかける。

 

「昨日だよ。正確に言うと、彼女が勝手に決めただけであって、私は肯定も否定もしていないのだがね」

「ははっ。さすが藤ねぇだな。行動が早すぎる」

「全くもって、その通りだ」

「だから、昨日あんな話してきたのか……」

「あんな話とは?」

 

 ポツリと呟いた士郎の言葉に、アーチャーは何事かと反応する。

 

「……いや、何でもない」

 

 

 

 

――――

 

 

 

 それは大河とアーチャーが会い、その日の夕方のことだ。

 

 衛宮家のリビングで、士郎とセイバーと大河がダラダラしていた時のこと。

 

「ねぇ、士郎」

 

 晩ごはん前にミカンを頬張っている大河が士郎に声をかける。

 

「んー、どうした? ってか、まだ晩飯前だぞ。ミカンは食後にしろよ」

「いいのいいのー……。でさ、士郎は、アーチャーさんのご飯食べたことある?」

「一応あるが……何だよ、いきなり」

「得意料理とか分かる?」

「まずはこっちの話をだな……まぁ、いいか。って、アイツの得意料理ね。多分だけど、俺と同じかそれ以上にはどんな料理でも作れると思うぞ」

「そっかー」

「本当にどうしたんだ、急に?」

「アーチャーさんがご飯作ってくれるって言う約束を取り付けたのだ! というわけで、士郎。明日迎えに行ってねー」

「アイツが……?」

 

 柄でもないことをするというアーチャーを、士郎は不思議に感じる。まぁ、何か思うところがあったのだろうと、納得する。

 

「ほう。それは楽しみだ。ここで作ってくれるのでしょうか?」

「うん。桜ちゃんも遠坂さんも呼んでパーティーしよう!」

「はいよ。あ、食材はどうする?」

「うーん、私が明日色々と買っておくよ。セイバーちゃんも手伝って」

「えぇ、もちろん。承知しました」

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 そんな事情があり、士郎は遠坂邸に向かったのだ。

 

「お待たせー」

 

 凛が家着から着替え、いつもの赤い私服姿で戻ってきた。

 

「よしっ。じゃあ、行くか」   

 

 と、のんびり衛宮家に移動している間。

 

「副菜はどうするのだ? 流石にハンバーグだけではバランスが悪い。他にも作った方が良いだろう」

「藤ねぇが色々と買い込んでるよ。適当に使ってくれ。今日は全部お前に任せる」

「良かろう」

「にしても、バランスとか主婦みたいなこと言うわねぇ」

「主婦ではなく、せめてバトラーと呼んでくれ。それに、凛……太っても私は知らんぞ」

 

 アーチャーは少しガッカリした口調で話す。

 

「う、うるさい! アンタにはデリカシーってもんがないの!?」

「まぁまぁ。落ち着けって。そういや、藤ねぇ、アーチャーの料理楽しみにしてたぞ」

「ここまで来たのだ。腕によりをかけて作るとしよう」 

「そういえば、セイバーも桜もいるのよね? けっこう作らないといけないんじゃない……アーチャー1人で大丈夫かしら?」

「大丈夫だろう。何かあれば衛宮士郎を使うだけだ」

「言い方……まぁ、もちろん手伝うけどさ。こういう感じの食事だとセイバーかなり食べるからさ」

「……騎士王様の食費は大変そうね」

「あぁ。セイバーの食費は安くない……!」

 

 等と、ごくごく普通の会話をしている内に衛宮家に着く。

 

「藤ねぇー!」

 

 士郎は玄関で靴を脱ぎながら、大声を出す。玄関にある靴の数でもうセイバーも大河も桜もいるのは分かっている。

 

「あ、士郎。早かったわね」

 

 パタパタと足音をたてつつ大河はやって来た。

 

「いらっしゃい。遠坂さんにアーチャーさん」

「今回はご馳走になりまーす」

「作るのは私なのだがな。……お邪魔します、藤村先生」

「はーい。アーチャーさんのご飯楽しみにしてまーす。……あ、そんな先生呼びじゃなくていいのよ。他人行儀じゃない。気軽に大河って呼んでくれれば。あ! 士郎みたいに藤ねぇ、でもいいのよ」

 

 と、冗談っぽく言う大河に対して、アーチャーはバツが悪そうに顔を逸らし、返答する。

 

「…………いえ、この呼び方が今の私の中でしっくりくるので」

「そう? ま、上がって上がって」

「それでは失礼します」

「先生、もう桜もいるのかしら?」

「いるわよー。今、セイバーちゃんと洗濯物取り込んでくれてるわ」

「ちょっと様子見てきますね」

 

 そう言いながら凛は軽く小走りで縁側の方へ行った。

 

「では、私はキッチンを借ります」

「あ、どうぞどうぞ。何か困ったら士郎呼んでくださいね」

「分かりました」

 

 アーチャーはそそくさと居間へと歩く。玄関には士郎と大河が残された。

 

「……さて、藤ねぇ」

「んー、なにー?」

「何じゃないだろ。今回のこれ、アーチャーたちがまだ返事してないのに、なに決定事項みたいに進めたんだ? 俺、知らなかったぞ」

「うっ…………細かいなぁ、士郎は」

「なんつーか、いきなり過ぎないか? あのアーチャーも戸惑ってたぞ」

「だってー……なーんか、構ってあげたくなったって言うかー。放っておけないって言うかー。アーチャーさん見てると、何故だか世話を焼きたくなるのよねぇ…………」

「…………っ」

 

 何気なく言う大河だが、士郎はその言葉を聞いて思わず眉を寄せる。しかし、すぐに表情を元に戻す。

 

「だからと言って、人の返答を聞いてないのに誘うのはよくないと思うな」

「次から気を付けますぅー。……………それにしても」

 

 

 ――――やっぱり、似ている。

 

 

 そう感じた。何てことのない、大河のただの直感で。しかし、その言葉は表には出さずに、

 

「それにしても、何だ?」

「ううん、何でもない。さ、私たちも行くわよ」

 

 藤村大河らしい、いつもの明るい笑顔で誤魔化した。

 

 

 

 

 

「おぉー!」

「やっぱり、スゴいな」

 

 大河は目を輝かせ、士郎は感心しとように、感嘆の言葉を漏らす。

 

 今、衛宮家の食卓にはアーチャーが作ったハンバーグやサラダ、スープ等が並んでいる。どれもスーパーで買った食材とは思えないほど豪勢な料理だ。

 

「さっすがアーチャーね」

「ホント、スゴいですね………」

 

 凛と桜も感心している様子だ。

 

「では、早速いただきましょう」

「少しは待てよ、セイバー」

 

 我先にと食事に飛び付くセイバーを士郎は止める。まだアーチャーは台所で何かを料理しているみたいだ。

 

「まだ何かあるの?」

 

 凛の問いかけに、アーチャーはフッ……と笑い、

 

「いや何、市販のソースだけではどこか勿体ない気がしてね、折角の機会だ、ソースも自作しようとしているところだ」

「無駄に色々拘るわね、アンタ……」

「衛宮士郎、箸の用意を頼む」

「はいよ」 

 

 と、着々と準備が進む。そして、しばらくすると全て準備が終わり、皆が座り始める。

 

「じゃあ、皆さん一緒に――」

 

 大河の音頭で。

 

「「「「「いただきます!!」」」」」

 

 アーチャーを除いた全員が声をあげる。

 

「召し上がれ」

 

 

――――

 

 

 

「…………?」

 

 皆で、楽しくご飯を食べている。思い思いに話をしていて、時おり私も交ざっている。でも、セイバーちゃんは黙々と箸を動かしているね。

 

 そんな中、私は何だか変な違和感に襲われる。

 

「どうかしましたか?」

 

 不思議そうにしている私に遠坂さんが声をかけてくれる。

 

「ううん、何でも」

 

 次にアーチャーさんが。

 

「何か口に合わないでしょうか?」

「そんなことないよ。とっても美味しいです!」

 

 私は元気よく答える。

 

 そう、美味しいのだ。これだけ食べようものなら、それなりの値段がしそうなくらいの料理だ。

 

 ………ただ、このハンバーグの味付けや味噌汁の味、他にもたくさんの料理…………今まで数えきれないほど食べてきたことがある。それが誰の料理なのかはハッキリと分かる。

 

 けれど、これはどういうことだろう? だって、士郎はここにいるもの。それに、士郎は今回アーチャーさんを手伝ってない。分からない。うん、不思議だ。

 

「――――っ!」

 

 ――――何か、悟った。

 

 …………世の中不思議だ。でも、きっとそういうことなんだろう。理屈じゃない。そんな小難しい説明なんていらない。だから、私と話すとき、あんな悲しそうな表情だったのかな。

 

 でも、今はそんな感じはしない。セイバーちゃんや遠坂さん、周りに振り回されながらも、少し呆れた表情をしている。その表情はどこか楽しそうだ。

 

 そんな彼に、私は何ができるかな………。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 皆がアーチャーの料理を食べ終わり、それぞれが風呂に入ったり、テレビを見ていたりしている夜更け。

 

「ねぇ、アーチャーさん」

 

 皿を洗っているアーチャーに大河は構わず話しかける。

 

「? ……どうかしましたか?」

「ご飯、とても美味しかったです。ごちそうさまでした。思わず食べすぎましたよ」

「お口に合って良かったです」

「それでですねぇ、いきなりですけど、アーチャーさんって剣道できますか?」

「……剣道?」

 

 アーチャーは、いきなりの単語に軽く戸惑う。

 

「はい。食後の運動に付き合ってください!」

「……それなら、衛宮士郎がいるはずでは」

「士郎とはしようと思えばいつでもできるわけですし……せっかくですし、アーチャーさんと手合わせしてみたいなぁって。で、できます?」

「まぁ多少は。剣道5段の貴女には劣るでしょうが」

「決まり! 早速移動しましょう!」

 

 と、アーチャーの腕を引っ張る大河。

 

「いや、まだ皿洗いが――」

「そのくらいなら俺がやっとくよ。つっても、もうほとんど終わってるじゃないか」

「衛宮士郎……」

 

 少し離れたとこから様子を見ていた士郎が割って入る。そんな士郎をアーチャーはジロッと睨む。

 

「じゃあ、士郎。よろしくね!」

「おう。後はごゆっくり」

 

 そして、アーチャーと大河の2人は道場に移動する。

 

 そこはさっきまでいた居間の雰囲気とはかけ離れ、とても静かで、空気は決して淀んではなく、ひんやりとした空気は嫌でも身を引き締められる。

 

「うーん……アーチャーさんのサイズに合う防具はないです。ごめんなさい」

「でしたら、なしでも構いません」

「私も着替えるの面倒だし、防具なしでいきます。軽く動くだけですしね」

 

 と、道場にある竹刀を取り、

 

「では、お願いします。アーチャーさん」

「はい。こちらこそ」

 

 互いにお辞儀をしてから、中段に構える。

 

 剣道は本来、礼に始まり礼に終わると云われる武道だ。それは大変厳しく、1本取った後にほんの少しでもガッツポーズをとってしまうと、その1本は取り消しになるほど。

 

 緊張感を走らせながら、2人ゆっくりと動く。相手の僅かな隙をを見付け、竹刀を打ち込む。もしくら自ら相手の隙を作りにいく。そういう競技なのだ。

 

「ふっ……!」

「はぁ――――!!」

 

 パァン!! と、竹刀の当たる音が響く。互いの攻撃を避けて、いなしす。今度は鍔迫り合いになり、距離を取りつつ仕切り直して、また攻める。

 

 剣道は、どれだけ試合が長く続こうとも、試合が決まるのは1秒にも満たない、僅か一瞬の出来事。

 

 そんな息が詰まるような緊張感の中、アーチャーは不思議と。

 

 ――――楽しい。

 

 不覚にもそう感じた。

 

 かつて、アーチャー自身は大河に敵わなかった存在だ。しかし、今はこうして対等に戦いあっている。大河は汗を掻き、息を切らしている。アーチャーも同じく。

 

 やはり大河は強い。その大河の強さを身を以って知ることができた事実が何より――嬉しかった。

 

 願うのなら、この時間がずっと続けばいい。その思いは口には出さず、自身の胸の奥に隠す。

 

 そしてしばらくすると――――その時間は終わりを告げる。

 

「ハッ……!」

 

 アーチャーの鋭い竹刀捌きは大河の面を捉えた。最後の最後で、大河は精神と肉体の疲労でその攻撃に反応できなかった。

 

「あちゃー……負けちゃったぁ…………」

 

 息を切らしながら、残念がる大河。

 

「……いえ、こちらもギリギリでした」

「あー……悔しいな。うん、でも、楽しかったです!」

「楽しかったのは私もです。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 試合の終わり、頭を下げる。そのまま腰を下ろしながら話を始める。

 

「アーチャーさん、ホント強いですね。さっすが、体鍛えてるだけありますよ」

「貴女にそう言ってもらえると、素直に嬉しいです」

 

 謙遜せず、ありのままの思いを口にするアーチャー。

 

「………………」

 

 マジマジとアーチャーの顔を見つめる大河。大河はそんな彼を見て、どこか納得した様子になる。

 

 と、ここで、アーチャーにとって忘れられない驚きの一言が、何かを決心した顔つきの大河から出る。

 

 

 

 

「うん、ホントに……強くなったね――――士郎」

 

 

 

 

 彼の頭を撫でながら、優しく伝える。

 

「…………藤ねぇ」

 

 自然と口からその単語が零れる。しかし、慌てて我に返り口調を戻す。

 

「ど、どうしてです……?」

 

 何を、とは言わない。

 

「んー…………そりゃ、最初はなんで? って気持ちがあったけど、分かるよ。……私はお姉ちゃんなんだから」

「そ、そうですか……」

 

 まだ彼の頭を撫でるのを止めない彼女に照れくさそうに頬を赤く染める。

 

「本当に強くなったんだね。お姉ちゃん顔負けだよ。…………よく……頑張ったね」

「…………ッ」

 

 涙が溢れそうなのを必死で堪える。

 

 ――――その一言で、何かが救われそうな気がした。何かが報われそうな気がした。

 

「さっきさ、遠坂さんたちを出迎えた時、いらっしゃいって、私言ったでしょ?」

 

 突然、思い出したように語り始める。

 

「でも、なーんだか違うよね。しっくり来なかったんだ。だって、うん、そうだね。そんな言葉、君には相応しくないよ」

 

 藤村大河は、精一杯の最高の笑顔で彼にある言葉を送る。

 

 

 

 

 

 

「――――お帰りなさい、士郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、訂正などありましたらお願いします。
最近、vitaのstay night を買いました。のんびりと進めていきたいです。みんな声が若いですねぇ



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プリズマ☆イリヤ編
私が私を見つめてました


Fateシリーズの二次小説は初めて書く+原作そこまで詳しくというのもあり、色々と粗があると思いますが、ご容赦願いたいです




 ある日の昼下がり。衛宮家の庭にて。

 

「…………悪いな、アーチャー。屋根の修理手伝ってもらって」

 

「気にすることはない。マスターの尻拭いをするのもサーヴァントの役目というものだ」

 

 そう、今の衛宮家の屋根にはポッカリと穴が空いている。昨日、遠坂がリビングでダラダラしていたら空を飛んでいた虫に驚き、その拍子にガンドを天井に向けて3発くらいぶっぱなしたのだ。その結果、見事に天井が破損した。

 

 アーチャーが自ら修理の手伝いをするとは思わなかったが、正直1人じゃ大変だろうし、ありがたいセイバーとかはあまり修理は詳しくないからな。

 

「ところで、衛宮士郎。脚立や金槌等はどこにある?」

 

「それなら土蔵のどっかにある。俺が取ってこようか?」

 

「いや、私が行こう。そろそろ凛が帰ってくる頃だろう」

 

 遠坂はホームセンターで屋根の修理に使う木材とかを買ってきてもらっている。

 

「じゃ、頼んだ」

 

 アーチャーが土蔵へと歩いていったのを見送り、俺は玄関へと足を運ぶ。

 

 そこで暫くジッとしていると――

 

「あ、士郎。戻ったわよー」

 

 木材やらを抱えた遠坂が帰ってきた。

 

「お帰り、遠坂」

 

「ただいまー。あー、おっもいわー…………」

 

 庭まで荷物を運び、下ろした遠坂は腕をプルプルさせそう言う。

 

「だからセイバーも連れていった方が良いって言ったのに」

 

「さすがに今回は私が悪いもの。セイバーに頼るのもなんだか違う気がするし。セイバーと桜はまだ?」

 

「あぁ。もうしばらくかかるんじゃないかな?」

 

 セイバーと桜は今買い物に行っている。

 

「凛、戻ったか」

 

「えぇ。はいコレ」

 

 脚立や工具箱を背負ったアーチャーに遠坂は荷物を手渡す。

 

「ご苦労。マスターを使いに行かせてすまない」

 

「だから今回は全面的に私の責任だってば」

 

「それもそうだな。…………ふむ。これならどうにかなるだろう」

 

 アーチャーは投影した剣で木材を斬り始める。そんなことでわざわざ魔術を使うのか。あれ? だったら工具とか投影した方が早くないか? 気分の問題かな。

 

 よし、修理開始!

 

 

 

「ねー、シロウ。つまんなーい。遊ぼー」

 

 しばらく遠坂とアーチャーと修理をしていると、さっきから縁側で俺たちの様子を見てたイリヤがとうとう愚痴を漏らした。

 

「はいはい、修理が終わってからな。後でいくらでも付き合ってやるよ」

 

「ほ、ホント!?」

 

「もちろん」

 

「じゃあ、一緒にプールに行こうよ!」

 

「おう、いいぞー」

 

「絶対だからね!!」

 

「分かったって。危ないから大人しくしとけよ」

 

「はーい」

 

 イリヤは納得してくれた様子。

 

「凛、そこの木材を取ってくれ」

 

「これ?」

 

「あぁ」

 

「ほい」

 

「助かる」

 

 遠坂とアーチャーは息ぴったりだな。……っと、玄関が開いた音がした。

 

「シロウ、ただいま戻りました」

 

「先輩、お疲れ様です」

 

 セイバーと桜が帰ってきた。

 

「2人ともお帰り」

 

「修理の具合はどうですか?」

 

「まずまずだな」

 

 桜の問いに答える。

 

「一度、お昼にしましょう」

 

 次にセイバーがそう言う。

 

「俺はそれでいいが……アーチャー、どうする?」

 

 屋根の上にいるアーチャーに聞く。

 

「私もいただこう」 

 

「はい。じゃあ、お昼ご飯作ってきますね」

 

「俺も手伝うよ。遠坂にアーチャー、しばらく任せていいか?」

 

「大丈夫よー」

 

「無論だ」

 

 よし、2人にその場を任せて桜と一緒に台所に移動する。

 

「暇だし私もそっちに行くー」

 

 俺らが修理している間、少し寝ていたイリヤも付いてきた。

 

「シロウ、私は洗濯物を取り込んでおきます」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 と、昼ご飯を食べ、順調に屋根の修理は進んだ。

 

「…………このくらいでいいだろう」

 

 3時頃、無事に修理は完了した。むしろ前よりも頑丈になったくらいだ。

 

「助かった。ありがとな、アーチャー。にしても、かなり本格的にやってくれたな」

 

「おぉ、流石アーチャー。けっこう綺麗に直ったわねー」

 

 俺と遠坂は思い思いに感想を述べる。

 

「凛、これに懲りたらもう慌ててガンドを乱発しないことだ。魔術師がその程度で動揺してどうする」

 

「うっ……わ、悪かったわね。でも、いきなり目の前に蛾が現れたの。びっくりしたのよ……」

 

「それは分からんでもないが……遠坂、一応ここ俺んちだから」

 

「ホントごめんね、士郎」

 

「気を付けてくれよ」

 

「皆さん、お疲れ様です。おやつありますよ」

 

 と、桜がどら焼を持ってきてくれた。セイバーもいる……ていうか、もうどら焼食べてる。まぁ、セイバーは俺らが修理している間、別の家事を任せきりだったからな。

 

「んー……美味しいわね、このどら焼」

 

「そうでしょう、イリヤスフィール。ここのどら焼は絶品です」

 

 イリヤも食べ始めた。

 

「ありがとー。早速いただきます」

 

 遠坂が飛び付いたが、アーチャーは諫めるように。

 

「私は片付けてからにする。凛、手はきちと洗ってから食べなさい」

 

「はいはい、アンタは母親かっての。士郎、洗面所借りるわね」

 

「俺も片付けするよ」

 

「だったら、廃材を処分してくれ」

 

「はいよ」

 

 アーチャーは土蔵に、遠坂は洗面所に向かう瞬間――――

 

「これは……!?」

 

「うそっ、魔力反応……!?」

 

 俺と遠坂がいきなりの事に声をあげる。

 

 庭の中央からとてつもない魔力を感じる。なんでいきなり!?

 

 眼を凝らしてみると、正体の分からない魔方陣が刻まれている。そこから光が溢れていて、かなりの眩しさだ。

 

 セイバーもアーチャーもイリヤも瞬時に警戒体勢に入る。イリヤは縁側から降りて俺の真横に立つ。

 

「桜は下がってください」

 

「う、うん……」

 

 セイバーは桜を庇う立ち位置で剣を構える。

 

「何、あの魔方陣?」

 

「さぁな。私にも分からない」

 

 あれが何なのか、イリヤやアーチャーでも分からないのか。俺も何が起きてもいいように投影の準備だけはしておく。

 

 そしてようやく魔方陣からの光が収まる。

 

 魔方陣から現れたのは――――

 

 

 

 

「いてて…………。ちょっとルビー! いきなり何なのよ!?」

 

『うぅー……すみません、イリヤさん。これは私にもさっぱりです』

 

『美遊様、ご無事ですか?』

 

「う、うん……。一体どうなっているの? クロ、ここがどこか分かる?」

 

「そんなの、私が聞きたいわよ。あれ? ここって…………」  

 

 

   

 

 

 

 

 

 ――――まるでテレビに出てくる魔法少女みたいな格好をしている3人組であった。

 

「うそ……どうして?」

 

 その3人を見た遠坂は驚きのあまり呆然と呟いている。

 

「あれは……!」

 

「まさかな」

 

 セイバーとアーチャーも同様だ。

 

「……………ッ」

 

 俺も声がでない。

 

 着ている服装や雰囲気は違うが、その中央にいる人物は、小柄な少女で綺麗な銀髪、そして朱色の眼をしている。

 

 そう、あれは紛れもなく――

 

「………………私?」  

 

 俺の隣にいる少女が言葉を漏らす。

 

 そう、あの少女は――――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価ドンドンお願いします!

好評でしたら続きを書こうと思います。断言できませんけど、シリアスにはならないはずです!! 作者が苦手っていうのもありますが……



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紹介

このシリーズ、短編集の通り、途中で別の話をぶっこむかもしれませんが、そこはご了承ください。今回は前回の続きです。

それと、作者はFateにハマってからまだ1年も経ってないのでそこまで詳しくありません。訂正などあれば教えてください。あ、推し鯖はシトナイです。宝具レベル2です。早く5にしたい

プリズマ☆イリヤの時間軸はドライが終わって、雪下の誓いの話を聞いた後とお考えください。



「ねぇ、シロウ。これどういうこと?」

 

「分からない」

 

 目の前にいる少女は確かにイリヤだ。それは間違いない。他の2人は知らない……はずだ。でも、褐色の子はアーチャーに似た赤い外套を纏っている。もう1人の綺麗な長い黒髪をした子は……知らない。初対面だ。でも、なぜか……俺はその子と会っているような気がしてならない。

 

 ただ先ずは――

 

「……話を聞かないことには始まらないな」 

 

「そうね。私も行くわ」  

 

 隣にいるイリヤと一緒に3人がいる場所まで歩く。セイバーたちはその様子を見守っていてくれている。警戒は解いてなさそうだが、敵意はないと判断したのか少し空気は和らいでいる。

 

「あのー……君たち。ちょっといいかな」

 

 声をかける。ただ……その、なんだかナンパをしている気分だ。

 

 俺の声を聞いた少女たちは俺の方を見上げること数秒。困惑していた表情から驚きの表情にみるみると変わる。

 

 そこで俺も驚愕する発言が飛び出す。

 

「「「お、お兄ちゃん!!!」」」 

  

 と、言ったと同時に急に抱きついてきたのだ。

 

「…………へ?」

 

 その瞬間――――周りの空気がものすごい冷えた気がした。うん、気のせいだ、きっと。

 

 桜が瞳孔が開ききった眼で俺を見ているのも気のせい。遠坂が「警察に連絡を……」とか言ってるのも気のせい。セイバーが聖剣を構えているように見えるのも気のせい。アーチャーは霊体化して消えたのも気のせい。イリヤが魔術を発動しかけているのもきっと気のせい。気のせいったら気のせい。

 

 …………誰か、気のせいだと言ってくれ。

 

 いきなり抱きつかれたが、次第に少女たちの視線が俺の隣に移る。

 

「あれ? どうして……?」

 

「あなた……」

 

『おやおや~』

 

『これはどういうことですか』

 

 褐色の少女、黒髪の少女、それに……ピンクの何かと青の何かがそれぞれ呟く。

 

「うそ…………私?」

 

 そして、もう1人のイリヤはイリヤを視認する。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 ところ変わって、衛宮家のリビングにて。  

 

「とりあえず自己紹介からしようか」

 

 俺たちと少女たちはテーブルに向かい合う。あれから遠坂が「何か言いたいことなんてそれぞれあると思うからまずは話し合いましょ」と仕切ってくれた。助かる。

 

「まずは俺からだな。俺は衛宮士郎。よろしくな」 

 

「セイバーです」

 

 俺の右隣にいるセイバーが続く。  

「えーっと……間桐桜と言います。桜って呼んでくださいね」

 

 俺の左隣にいる桜も自己紹介をする。

 

「私は遠坂凛よ。よろしくね」

 

 遠坂は司会のつもりか全体を見渡すように立っている。  

 

「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 そして…………俺が胡座をかいている上にチョコンと腰をかけたイリヤが不機嫌そうに名前を言った。

 

 ところで、アーチャーはどこに行った?

 

「では今度はこちらからですね。美遊と言います。姓は一応エーデルフェルトと」

 

 黒髪の少女――美遊はお辞儀をしながら名乗った。

 

「クロエ・フォン・アインツベルンよ。よく分からないことだらけなのだけれど……とりあえずよろしく。気軽にクロって呼んでちょうだい」

 

 褐色の少女――クロか。にしても、この子イリヤとほぼ同じ名前だったり、見た目も似ているのか。

 

『ステッキのマジカルルビーちゃんでーす!! ルビーとお呼びくださーい!』

 

『妹のサファイアです』

 

 さっきから浮いている訳の分からない物体はそう名乗った。ルビーとサファイアか。てか、スルーしてたけど、なんで喋ってるの? ステッキって何? 遠坂は何か察してるみたいだが。

 

「……えーっと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと言います」

 

 口ごもりながら彼女――イリヤはそう名乗った。

 

「美遊にクロにイリヤ。ルビーにサファイアね。よろしくね。……で、正直、何がどうなってるのやらさっぱりなんだけど、あなたたちのこと誰か説明してくれるかしら?」

 

 遠坂が問いかける。

 

『では、私が』

 

 サファイアがテーブルの中央に行き、

 

『恐らくですが、士郎様たちと私たちがいる世界は同じではありません。所謂、平行世界だと思います』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――30分が経過する。

 

「なるほどね。平行世界というわけ。てことは、向こうにも私がいるってことかしら?」

 

 互いに話し合い、事情はある程度理解した。

 

 にしても、平行世界か。アーチャーがいるから、そういう事は実在するとは思ったけど、まさか俺が3人の兄だとは。だからあの時お兄ちゃんって呼ばれたのか。

 

 てことは、イリヤとクロの兄に美遊の兄の俺がいるのか。なんだか不思議な感覚だな。それに魔術師としての道を歩まない俺はあまり想像がつかないな。美遊の兄である俺は魔術師らしいけど。

 

『はい。今の私のマスターはイリヤさんですけど、元のマスターは凛さんでしたから。性格もあまり変わらなさそうですね』

 

 喧嘩して見放されるのは、実に遠坂らしいっちゃらしいな。

 

「ふーん。つまり、貴女は魔術師じゃない平和な世界で暮らしたイリヤなのね。第四次聖杯戦争で分岐したのかな」

 

「聖杯戦争とかはよく分からないけど、そういうことになります……」

 

「別に普通でいいわよ。私なんだから」

 

「自分に話しかけるとかどうすればいいのか分からないよ。そもそも、あなたの方が年上みたいだし」

 

 イリヤとイリヤが話している。……こうして同じ人物同士の会話を聞いてると、俺がアーチャーと会話する時はどんな心境なのだろうかと思う。

 

 俺の股に座っているイリヤの顔を詳しくは見れないけど、口調的には多分、好意的な印象は持っていないだろうなぁ。アーチャーが俺を嫌っていたのとはまた別の感じがする。

 

「ところで、お兄ちゃんって呼んでいい?」

 

「く、クロ!?」

 

 その2人の話を割って入ってきたクロ。

 

「うーん……確かに俺は衛宮士郎だけど、君たちの知る衛宮士郎ではないからな。そう呼ばれる資格はないっていうか…………」

 

 それに、少女3人にお兄ちゃんと呼ばれる俺を想像してみたら色々と危ない絵面な気がする。美綴辺りに見られたらあらぬ誤解が生まれそう。

 

「そうよ! シロウは私のお兄ちゃんなんだから。平行世界がなんだか知らないけど、シロウの妹は私だけなの!」

 

 えっへん! と胸を張るイリヤ。

 

「まぁ、それもそうよね」

 

「クロ、意外に納得るするの早くない? 本当にクロなの?」

 

「失礼ね。そのくらい私だって弁えてますぅ」

 

「な、何を! 初対面でいきなりお兄ちゃんにき、キスしようとしたじゃない!! それに布団に潜り込んだり!」

 

「何よー、まだそれ持ち出すの? イリヤだってお兄ちゃんにキスされたことあるじゃない」

 

「あ、あれはおでこだもん!」

 

 イリヤとクロの会話……というより軽い喧嘩を眺めていると。

 

「衛宮君はどこでも衛宮君なのね」

 

「そうね。やっぱりシロウはシロウだわ」

 

「ぐっ……」

 

 遠坂とイリヤに反論できなり自分がいる。 

 

「妹? そっちのイリヤって、士郎さんより年上なのよね? ……なのに妹?」

 

 と、首を傾げる美遊の疑問に、

 

「あー……その辺りややこしいからあまり触れないでくれると助かる」

 

 曖昧な感じでぼかす。

 

「は、はい。分かりました、士郎さん」

 

 美遊は一応納得してくれた。

 

「じゃあ、士郎さん……でいいかな?」

 

「もちろん。よろしくな、イリヤ」

 

「う、うん!」

 

「本当はお兄ちゃんって呼びたいけど……まぁいいわ。よろしくね、士郎さん」

 

「あぁ、クロ。こっちこそよろしく頼む」

 

 ……で、俺の後ろの方で。

 

「セイバーさん。……なんだか私たち空気ですね」

 

「えぇ。ですが、平行世界の私たちはあまり関わりがないらしいのですから、仕方ない部分もあるのでしょう」

 

 桜とセイバーがコソコソと話している。えーっと……その、すまん。

 

「にしても、随分落ち着いているんだな。いきなり平行世界だとかに飛ばされて」  

 

「まぁ、少し経験してますから……」

 

 アハハ……と笑うイリヤ。そういや、美遊のいる世界から来たって言っていたな。まだ小学生なのにスゴいな。

 

「そもそもの話、どうしていきなりここの世界に飛んできたの?」

 

 遠坂の台詞にカレイドステッキたちが反応する。

 

『それが分かれば苦労はしないんですけどね~』

 

『ええ。いきなり第二魔法が発動した……と言えばいいのでしょうか。朝起きたらここに移動してたというか』

 

「第二魔法っていうと……何だ?」

 

「簡単に言うと、平行世界に行き来する魔術……いえ、魔法よ」

 

 なるほど。だから、遠坂は平行世界とか言われてもあまり驚かなかったわけか。

 

「その第二魔法は気軽に使えるのですか?」

 

「そんな代物じゃないのよ、桜。だってあれは魔術じゃなくて魔法だもの」

 

『はい。私たちカレイドステッキも本来使えるポテンシャルはあるのですが、そうポンポンとは使えないのですよ。色々と条件がありましてねぇ』

 

 桜の疑問には遠坂とルビーが返答する。

 

「では、そう簡単には元の世界には帰れないということですか?」

 

『セイバーさんの言う通り、現状そうなります』

 

 サファイアは申し訳なさそうに言う。

 

「ねぇ、ルビー。もし元の世界に戻れたとして、向こうはかなり日にちが経ってたりしてない? 大丈夫なの?」

 

『まぁ、多分平気ですよ。作者がそこまでシリアス得意じゃないので、その辺り優遇してくれます。ご都合主義というやつです』

 

「そういうの言っていいの!? ルビー!!」

 

「なんだかメタいわね……」

 

 ――ピンポーン。

 

 と、クロが喋ってるのに合わせるように玄関のインターホンが鳴る。  

「ちょっと出てくるよ」

 

 うーん、誰だろうか。特に配達とかが届く予定はないはずだが。あ、もしかしたらライダーかな。それとも一成か。

 

「はいはーい……って、言峰か」

 

「久しいな、衛宮士郎」

 

 玄関を抜けた先にはいつもの神父姿の言峰がいた。こいつが家に来るなんて滅多にないぞ。

 

「どうした? 遠坂に用事か?」

 

「いや、ここら近辺で多大なる魔力反応があったと報告を受けてな。聞き取り調査に来たわけだ」

 

「……なるほどな。にしても、わざわざ直に来るとは珍しいな」

 

「まぁ、そう言うな。もし何かあったら事後処理が大変なのでな。早めに済ませておこうと。……いい加減、こちらも予算が少なくなってきてな…………」

 

 ……まさかの泣き言発言。地味に泣きかけてるし。

 

「そりゃ、ご苦労さん」

 

「ガス漏れではそろそろ誤魔化しもきかなくなるのだ。騙し通すのも限界が来る」

 

「お、おう……」

 

 頭を抱えるほどか。なんだ、この神父。

 

「……オホン! すまない、話を戻そう。それで、何か知っていることはないか? 大方、凛が魔術を暴発させたとかだろう」

 

「確かにそれはあったけど。遠坂が屋根を吹き飛ばしたりな。で、問題はあるにはある。解決……はしてないけど、こっちでどうにかするから心配しないでくれ」

 

「了解した」

 

「ところで、最近街で見かけないが、ギルガメッシュは元気か?」

 

 商店街とかで買い物していると、たまに街を散策しているギルガメッシュに出会うことがある。たまに子どもたちと遊んでるところも目撃する。

 

「うむ。最近のあいつはガンプラにハマっていてな。教会に引きこもっている」

 

「……ガンプラか」

 

 とことん、俗世に染まっているな。

 

「私はあまり詳しくないのだが、何やら塗装やらつや消しやら本格的に組み立てているらしい。たまに教会がシンナーの臭いがするのだ。……神聖な教会からそのような臭いがするのはどうかと思うのだが」

 

「……ご愁傷様」 

 

 言峰は非常に疲れきっているご様子。

 

「あいつを見ていると、無性に全く働かない緑色の何かを思い出してしまい……腹立たしいことだ」

 

 なんだか地球侵略しそうだな、そいつは。いや、ギルガメッシュもあながち間違ってもないような……。

 

「なんつーか、大変だな。色々と」

 

「全くだ。この前はラジコン、そのまた前はゴルフ…………。まぁいい。では私はこれで。何かあったら教会に連ら――」

 

「士郎さーん。随分と長いですけど何かありましたかー?」

 

「――く、を…………む?」

 

 門で話している俺と言峰の傍まで心配そうに駆け寄る向こうのイリヤ。そして、イリヤを見て不思議そうな表情を浮かべる言峰。

 

 …………これは不味い。

 

「衛宮士郎」

 

 哀れみの表情で俺を見るや否や。

 

「腕の良い弁護士を紹介してやろう」

 

「俺は何も罪を犯してない!!」

 

「では、これをどう説明する。凛たちに飽きたのか、今度は年端のいかぬ少女を様々な手を用いて家に連れ込んだのだろ…………おや、この少女は」

 

「あー……えーっと…………」

 

 ここにいるのは確かにイリヤだが、言峰の知っているイリヤではないことに気付いたのか。それとも、他人のそら似で済ませてくれるか。

 

「ほぇ? ……って、あなたは!!」

 

 イリヤは言峰の顔をまじまじと見つめると、顔が徐々に青くなる。何だ?

 

「――――麻婆豆腐の店員!!」

 

 ビシッ! と人指し指を向ける。

 

「む? 私を知っているのか? 私は君を知らないが。いや、君に似た少女なら知っていると言うべきか。……それにしても、麻婆豆腐の店員とはどういうことだ、少女よ」

 

「あぁ、そっか。あの時の人とは別人なんだ。……えーっとですね、あなたに似た人に無理矢理、スゴく辛い麻婆豆腐を食べさせられたっていうか…………」

 

 イリヤたちの世界の言峰のことだろうか。確かに中華料理店で働いてる言峰は似合っていそうだな。ラーメンやチャーハンは出さずにやたら麻婆豆腐を勧めてきそう。

 

「覚えてくのだ。麻婆豆腐とは辛いからこそ美味しい料理だと。……ふむ。その人とは気が合いそうだな。少女よ、その人をまた紹介してくれたまえ」

 

「えっと……機会があればです、はい」

 

 私はもう会いたくないけど……、とまだ顔を青くしながら呟くイリヤ。

 

「それでは、衛宮士郎。また厄介事に巻き込まれているようだが、私はこれで」

 

「あぁ。じゃあな、言峰」

 

 去っていく言峰を見送る。

 

「士郎さん、あの人誰ですか?」

 

「教会の人。一応冬木の管理者的な存在」

 

「ほぇー……。ここではそうなんだ」

 

「そういうこと。じゃ、戻るか」

 

「はい! あ、そういえば、桜さんが夕ごはんの材料が足りないって言ってました」

 

「マジか。また買い物に行かないとな」

 

「私たちも付いてっていいですか?」

 

「もちろん。皆で行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価、訂正などお願いします

うーん、4章くると思ったんだけどなぁ


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もう1人の貴女への久しぶり

毎度のことながら、良い感じのサブタイが思い付かない。

感想、高評価ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




 商店街にて。

 

 俺こと、衛宮士郎。セイバーに桜。向こうのイリヤとクロと美遊と買い物に来ている。……地の文でイリヤを呼ぶときは大変だな。

 

 あ、俺らの知ってるイリヤはお留守番。というより、イリヤがイリヤたちと歩きたくないらしい。……ホントややこしいな。

 

 遠坂はルビーとサファイアを連れて一度屋敷に戻った。それなりに調べてみると。その時、霊体化で消えていたアーチャーもいたんだが、特に挨拶もせずに帰っていった。……イリヤたちに何か思うところでもあるのだろうか。

 

「悪いな、2人とも。さっき来たばかりなのに」

 

「いえ、先輩。問題なしです。あ、せっかくですし、ちょっと豪勢な食事にしてみませんか?」

 

「ほう……それはどのような?」

 

 こういう話題になるとスゴい早く反応するよな、セイバーって。

 

「そうだな……唐揚げや天ぷらを多く作ってみるか」

 

 他にも、刺身をたくさん買ってオリジナルのり巻もいいかもしれない。小さいハンバーグを多く作ってみてもいいかな。

 

「お、たこ焼きもいいかもな」

 

 手軽に数多く作れる料理だ。といっても、たこ焼き機は一台しかないから一度にそんなには焼けないけど。

 

「シロウ、それはダメです!」

 

「あー……蛸苦手だっけか」

 

「はい。いつかの勘違いストーカーを思い出してしまいます……」

 

 ストーカーっていったら、やっぱりギルガメッシュか? いや、第4次の話だったような。その時もギルガメッシュいたはず……やっぱりギルガメッシュになるのか。

 

「とりあえず見て回ってから考えましょうか」 

 

 桜に賛成。

 

「だな。セイバーも何かリクエストあったら言ってくれよ。……高いものはキツいが」

 

「えぇ。ところで、イリヤスフィールたちは何か苦手な食べ物はありますか?」

 

 それ、俺の台詞……。

 

「イリヤでいいですよ、セイバーさん。うーん、特に苦手な食べ物はありませんけど」

 

「私もないわね」

 

「同じく」

 

「了解。イリヤたちも何かリクエストあったら気兼ねなく言ってくれ」

 

「でしたら、士郎さん。1ついいですか?」

 

「どした、美遊」

 

「私も料理手伝ってよろしいですか?」

 

「あれ、料理できるのか」

 

「はい。お兄ちゃんに沢山仕込まれましたから……」

 

 少し照れながら、はにかむ美遊。そっか、美遊の兄である俺は料理教えてたのか。そこまでは聞いてないからな。

 

「でも、あの台所で3人か。そんなに広くないからなー……」

 

「――――大丈夫ですよ、美遊さん。あなたたちは客人なのですから、私と先輩に任せてください。…………ポッと出のあなたに台所は渡せません」

 

 …………話してる内容はごく普通だと思うのだが(前半だけ)、桜の表情が若干冷たい。

 

「迷惑をかけてるのはいきなり押しかけてきた私たちです。だから、少しでも手伝いたいのですが。それに、料理は得意ですので心配いりません」

 

 美遊も負けじと桜に言い返す。

 

「うわぁ……」

 

「…………やるわね、美遊」

 

 イリヤとクロは少し引いてる。

 

「料理は私も得意です。先輩にたっくさん、教えてもらいましたから! いきなりここの世界に来て大変でしょう。大人しく待っててください」

 

 普通に聞けば、桜の言ってる言葉は美遊を気遣っているのだろうが、変な圧がスゴい。

 

「泊めてもらえるのですからこのくらいは当然です。手伝います」

 

「ちょっと落ち着けって、2人とも。交代しながらやれば問題ないからさ」

 

「……先輩がそう言うならそうします」

 

「…………おにっ……士郎さんがそう言うなら」

 

 不本意だろうが、一応は納得してもらえたかな。

 

「にしても、あんまりここは変わらないわねぇ」

 

「うん。ところどころ違うかなーって場所はあるけど。ほとんど一緒かな」

 

 クロとイリヤがそう呟く。

 

「そう? 私のとことは大分違うけど」

 

「ほら、美遊の世界はもう根本から変わってるわけだから」

 

「そうね。夏が寒いって初めてだわ。それにあそこ災害のせいで、そもそもの人が少ないし、そりゃ違うわけよ」

 

 そんな風にのんびり会話する3人を見つめる。

 

 ――――……良かった。少しはここに馴染んでくれたのかな。あまり焦りの様子は見られない。

 

「……シロウ」

 

「どうした?」

 

「あれを…………」

 

 と、セイバーに肩を叩かれ、後ろを振り向く。

 

「うわっ……あそこにいるのセラにリズじゃないか」

 

「どうします? 恐らく我々に用があると見受けられますが」

 

 イリヤのメイドの2人が俺らを見つめていた。

 

 いつもの被り物をした服ではなく、遠坂の屋敷に余っていたメイド服を着ている。「商店街や新都に行くときは無駄に目立つからこれ着なさい」って遠坂が言ってたな。その時のごく普通のメイド服はあの2人は大層気に入ったのか、それを着ているすがたをよく商店街で見かける。 

 

「とりあえず様子を見るか……って」

 

 あ、こっちに来た。

 

「こちらに来ましたね」

 

「……だな」

 

 セイバーが少し警戒する。

 

「こんにちは、衛宮様」

 

「やっほー」

 

「……よう。どうした?」

 

 セラもリズもイリヤたちを見ても驚いていない。逆にイリヤたちはポカンと口を開けている。

 

「お嬢様の命により、お届け物を」

 

「届け物?」

 

 確かにセラもリズも紙袋を持っている。って、そうじゃなくて。

 

「それでだな……この3人は……えーっと…………」

 

 どう説明しよう。

 

「大丈夫です。お嬢様から話は伺っております」

 

 と、セラは俺の台詞を遮るようにそう言う。

 

「イリヤから聞いた。平行世界から来たんだって? へー、そっくり。でも、こっちのイリヤはとても優しそう」

 

 それ、イリヤが聞いたら怒りそうだな。

 

 ふと、視線を移動させる。

 

「セラ……リズ…………」

 

 ここにいるイリヤは、掠れた声で2人の名前を呼ぶ。

 

「…………そっか、そうよね。私の知ってるセラとリズじゃないんだよね」

 

「イリヤ……」

 

「…………」

 

 そう1人で納得してしまうイリヤ。   

 

 何か声をかけたいのだろうけれど、どう話せばいいのか分からない美遊。クロは静かに見守っている。

 

「確かに、私は貴女の知る者ではないでしょう」

 

 ――――セラの一言。

 

 長い間一緒に暮らしてきた彼女にとって、それはきっと……残酷な一言。

 

「ですが、それでも、貴女はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。それだけは絶対に変わりません」

 

「セラ……」   

 

「そう、どんな世界にいようとイリヤはイリヤ」

 

「リズ……」

 

 眼が潤んでるイリヤに対し、リズはいつもの調子で。

 

「よしよし。良い子良い子。イリヤ、頑張ったね」

 

 セラも一緒に。

 

「――――イリヤさん、頑張りましたね。とても立派になりましたね」

 

 優しい言葉と共にイリヤの頭を撫でる。

 

「うん……ありがとね! セラ、リズ」

 

 その瞳はまだ潤んでいるが――イリヤは、精一杯素敵な笑顔で応えた。

   

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 一旦落ち着き、俺はセラに話しかける。

 

「それで、届け物って?」

 

「これを。お嬢様の着替えです」

 

 紙袋を手渡される。

 

「着替え?」

 

「はい。3人分の着替えが入っています」

 

「あー、なるほどな」 

 

 確かにいつ帰れるか分からない以上、着替えも必要か。

 

「荷物も渡したことなので。私たちはこれで失礼します」

 

 セラたちは颯爽と去ろうとする。

 

「あれ、もう帰っちゃうの? もっといればいいのに」

 

「クロエ様。私たちも仕事がありますので。……まぁ、たまには、そちらに伺いに行きます」

 

「また遊びに行くねー」

 

「……そうね。私たちがいつまでここにいれるか分からないけれど、待ってるわ」

 

「えぇ。その時は料理でも作りましょう」

 

 クロは微笑み。

 

「楽しみにしているわ。できれば、クロって呼んでほしいわね」

 

「……考えておきます。それと衛宮様」

 

「何だよ」

 

「お嬢様の服の洗濯の仕方は袋の中にメモがありますので、その通りにお願いします」

 

「はいはい」

 

「頼みますよ。くれぐれも色落ちや型崩れなどさせないように。……では、今度こそこれで。皆さん。お元気で」

 

「じゃあね~」

 

「セラ、リズ、ばいばーい!」

 

「またお会いしましょう」

 

 イリヤと美遊が別れを言い、セラとリズはその場から去っていった。

 

 にしても、俺に桜にセイバー……完全に外野だったな。俺だけは一応話しかたけど。まぁ、こればっかりは当事者でもない俺らがどうにかできる問題じゃないからな。

 

「さて、それじゃ、買い物再開しましょ」

 

「うん、そうだね」

 

「士郎さん、まずはどこから行きますか?」

 

 クロの音頭にイリヤと美遊が釣られて反応する。

 

「そうだな……」

 

 商店街に来たはいいけど、大人数の料理を作るならスーパーの方がいいかもしれない。スーパーに行く途中に何か目ぼしいものがあったら買うことにするか。   

 

 

 

 

 と、特に道中問題なく買い物を済ませることに成功した。スーパーで会計する時の店員が、青くて長い髪でかなりの長身だった奴がいたり、水色の綺麗な長髪の人妻と遭遇したりしたことをを除けば特に問題なかった。

 

 …………問題しかない気がするな。

 

「ただいまー」

 

 玄関に入る。家にはイリヤが残っている。どこにいるのかな。

 

「いたいた。イリヤー」

 

「おかえり。シロウ」

 

 荷物を桜に任せて、少し探していると、縁側で足をブラブラとしているイリヤがいた。

 

「何してんだ」

 

「…………別にー」

 

 ……かなり不機嫌そうだ。目を合わせてくれない。

 

 とりあえず立っていてもどうしようもないので、俺もイリヤの隣に座る。

 

「そういや、イリヤはさ」

 

「何?」

 

「もう1人のイリヤをどう思ってるんだ?」

 

「………………」

 

「………………」

 

 しばしの沈黙。

 

「そうね。正直、気に入らないわ」

 

「気に入らない、か」

 

「あっちの私もそれなりの苦労をしているのは分かるわ。でも、私より楽しそうな、平和な日々を送っていた。当たり前に笑っている日常を過ごしてきた」

 

「……それが、気に入らないって?」

 

「…………………………聖杯戦争に戦う為だけに生まれてきた私と楽しそうな、私も過ごしてみたい日々を送ったあっちの私。同じイリヤだけど、どう違うの? なんであっちの私ばかり良い思いをしているの? 私の生きてきた意味って何だろう……もう1人の私を見てただ、そう思っただけ」

 

 そんなイリヤの冷たい言葉に思わず言葉が詰まる。

 

 ――――どう返せばいいだろう。どんな言葉が正解なのだろうか。……分からない。そんな簡単に理解できるかんて言えない。だけど、これは伝えないとならない。

 

「確かに2人の境遇は違うけどさ。もし、聖杯戦争がなかったら、きっと俺たちは出会わなかったと思う。そりゃ、辛い思いはたくさんしてきたけど、それ以上に皆と……イリヤと出会えた。だから、今までの日々は意味があったと、俺は思うな」

 

 こんな言葉で、イリヤの過去は消えないし、イリヤの心はそう易々と救えるとは思えない。

 

 ただ、俺は伝えたかった。イリヤと出会えて良かったということを。

 

「……ねぇ、シロウ」

 

「どうした?」

 

「シロウは私と一緒にいて、嬉しい?」  

 

「もちろん」

 

 即答。

 

「……ふーん」

 

 横からチラッとイリヤの顔を覗く。嬉しそうに年相応な可愛らしい微笑みを浮かべる。

 

「シロウ!」

 

 と、イリヤはこっちに振り向く。

 

「お、おう」

 

「明日学校ないよね?」

 

「あぁ。今日土曜日だしな」

 

「明日、プール行くわよ」

 

 さっきの約束のやつか。

 

「それはいいが、水着はあるのか?」

 

「前にセラたちと買った。問題ない」

 

「へー、そうだったんだ」

 

 セラがいたからにはお堅い水着なのだろうか。

 

「もちろん、私とシロウの2人だけだからね!」  

 

「分かったって。……急に元気になったな」

 

「今までもう1人の私がシロウと良い思いをしてきたなら、今からでもシロウとの思い出たくさん作るの。もう1人の私に負けないくらいね!」

 

 …………さっきまでの冷たい目がなくなり、今はとても楽しそうな表情だ。思わず俺も自然と笑みを浮かべる。

 

「よしっ。そうと決まれば、まずは晩ごはんだな。早く食べて早く寝るか」

 

「うん。ところで、あの子たちはどこで寝るの?」

 

「そうだよな。空き部屋はけっこうあるけど、布団がそんなにないからな……また後で相談しようか」

 

「だったら~……私と一緒に寝る? ねぇ、シロウ」

 

「こらこら。そんなのアイツらが納得するわけないだろ」

 

「別にいいじゃない。だって、私たち姉弟なんだから」

 

 そんなことを話ながら俺とイリヤは台所へと歩く。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次の話はこのシリーズとは違う話にするかもです。前々から見てみたかった2人の話になるかもしれない。

感想などドシドシ下さい



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波乱は続くよ、どこまでも

セイバールートプレイし終えました。最後の別れで涙腺崩壊した……。そのあとのべディとの会話も最高。ぜひ、今の技術でアニメのセイバールートを見たい




「……何度来てもここはスゴいな」

「そうねー……」

 

 俺の呟きにイリヤも同意する。

 

 

 

 

 今、俺とイリヤはプールに来ていた。そこは屋内プールで一年中常夏を体験できる場所。だから、年中賑わっているのだ。それにとても広い。今日も違わない人の多さ。

 

 俺は久しぶりに来たわけで、改めてここのデカさを痛感する。

 

「…………」

 

 ……と、ここで、昨日は大変だったな。と物思いにふける。

 

 晩ごはん食べた後、もう1人のイリヤとクロと美遊の寝る場所で若干揉めたり、俺が風呂に入ってる時、隣にいるイリヤが突撃かましてきたり……それにクロも便乗してきたな。色々あった。

 

 その2人はもれなく遠坂のガンドをプレゼントされたわけだが。セイバーがその様子を見て、聖剣を構えてた時は焦ったな。俺と桜で本気で止めにいった。

 

 で、その翌日――つまり今日。約束通り、イリヤとプールにいるわけだ。

 

「ところで、シロウ。どう? この水着。可愛いでしょ」

 

 イリヤはピンクのワンピース風の水着を着てクルクルと回る。

 

 ……その、うん、純粋そうなイリヤを見ると。

 

「スゴく似合っているよ」

「ふふん。そうでしょ! シロウも私の可愛さに気付いたようね」

「あぁ。可愛いよ、イリヤ」

「女の子を褒めるのも慣れてきたのね」 

 

 俺の本心の言葉で、とてもご機嫌な様子。

 

 ちなみに俺は何てことのないただの海パン。男は特に水着に拘る必要なんてない。敢えて言うなら、機能美かな。

 

「じゃ、泳ぐとするか。……って、そういや、イリヤって泳げるのか?」

「ううん、泳げないわ。だから、これ持ってきたのよ」

「正確には、俺が持ってきた……だけどな」

「気にしない、気にしない」

 

 と、俺の腕にある浮き輪を抱き寄せる。

 

「せっかくプールに来たんだし、泳ぎも練習すればどうだ? 俺が教えるよ」

「えー……練習なんて、そんなのつまんなーい。今日は遊びにきたんだよ」

「まぁ、それもそうだが……」

「私、浮き輪でプカプカしてるね。流れるプールもあるんだし。あ、それに、ウォータースライダーってのもあるんだよね? シロウ、そこに行こっ」

 

 ま、俺が注意して見とけば問題ないか。そう思いながら俺はイリヤの手を引き、ここの目玉でもあるウォータースライダーへと向かう。

 

「……けっこう高いな、ここ」

 

 すでにウォータースライダーには遊びに来た人がそれなりに並んでいて、俺たちは順番待ちだ。

 

 ウォータースライダーの登頂部までは階段を登りながら進むのだが、こうして待っている間、下を覗くとそれなりの高さがある。

 

 ふむ。外から見るのと、実際に体験するのとはかなり違うな。そんな高さから一気に下るのだから、それはさぞかし楽しいのだろう。

 

「そう? シロウは情けないのね」

「そりゃ、別に高いのが怖いってわけじゃないさ」

「ならどうしたの?」

「ここから下ったら楽しいだろうなって」

「そうなのかな? 私、分かんないよ。実際、ウォータースライダーっていうのがあるのを知ってるだけで、それが何なのかは分からないんだもの」

「だったら、今からそれを確かめようぜ。きっと気に入ると思う」

 

 なんて他愛もない会話を楽しみながら順番がくるのを待っていた。そして、俺たちの番がやってきた。

 

 イリヤは身長が足りないからアウトだと思っていたが、保護者……というより、付き添いがいれば大丈夫とのこと。1人だと危ないもんな。イリヤは泳げないって言ってたし。

 

 ――――よし、行くぞ。

 

 

 

 

 

「なかなかスゴかったわね」

「だな」

 

 ウォータースライダーを下り終えた俺たちはプールサイドでのんびりしていた。俺の思った以上のスピードで、かなり楽しかった。下ってる間、イリヤも楽しそうな声を上げていた。さすが目玉なだけある。

 

「楽しかったか?」

「えぇ。こういうのは初めてだったから新鮮だったわ。シロウの驚く声も聞けたからね」

「あれは驚きって言うより、楽しんでる声なんだが」

 

 ジェットコースターで悲鳴を出すのと同じ感じだと思うんだけどな。本気で怖いわけではなく――もちろん多少はあるかもだが――それより、楽しみが勝っているわけで。

 

「ふーん、そういうものかしら? まぁいいわ。シロウ、飲み物ちょうだい」

「はいよ」

 

 お茶を飲んだイリヤは突然、

 

「んー……」

 

 何か考えてる様子だ。

 

「どうした? どこか調子悪いか?」 

「大丈夫よ。そうじゃなくて、やっぱり、泳ぎ練習してみよっかなって」

「そりゃ歓迎だが……さっきまで嫌って言ってなかったか?」

 

 こうもイリヤの意見が変わるとは、珍しいこともあるもんだ。

 

「少し考えたのよ。だって、練習するとなれば、シロウが手取り足取り教えてくれるんでしょ」

「言い方がアレだが、まぁ教えるからには俺はきちんとするぞ」

「それなら、シロウといっぱい触れ合えるし……うん、決定。私に泳ぎ教えて?」

「もちろん」

 

 その後、軽く休憩を挟みしばらく経つ。

 

「じゃ、休んだことだしそろそろ移動するか」

「えぇ、そうね。早速教えてちょうだい、シロウ」

「おう。まずは浅いプールでも――」

「――――おや、士郎。貴方も来ていたのですか」

 

 と、立ち上がろうとした瞬間――落ち着いた、凛とした綺麗な声が俺の耳に届く。

 

「あら、ライダーじゃない」

「イリヤスフィールもいるのですね」

「そうよ。悪い?」

「いえ、特には……」

 

 イリヤが反応する。なぜに喧嘩腰なんだ。

 

 見上げると、確かに黒いビキニ姿のライダーがいた。……コイツ、こうして見ると、かなりスタイルいいな。背は高いし、その、くびれも綺麗だ。全体的にバランスがとてもいい。まぁ、本人には禁句なのだろうが。

 

「ライダー……どうしたんだ、こんなとこで」

「別に、体を動かしにここにはよく通ってるもので。ところで、貴方たち2人だけですか?」

「ん? ああ。今回は俺たちだけだ。お前もか?」

「え、えぇ。まぁ……その、私はそのつもりだったのですが…………」

 

 なんだ? いつもなら平然と答えてそうだが、珍しく歯切れ悪いな。

 

「今日は、私とシロウのデートだからね。他の連中はジャマなだけよ」

 

 堂々と宣言するイリヤ。それを聞いたライダーはますます気まずそうに冷や汗を流す。

 

「…………その、忠告ですが、あまりそういう言葉は……言わない方がいいと思いますよ……はい」

 

 そうチラッと目線を泳がせるライダー。その視線の先には――

 

 

 

「…………へぇ。なかなか言うじゃない、イリヤ」

「おや、ここで会うとは奇遇ですね。シロウ……それにイリヤスフィール」

「こんにちは。先輩もプールに来てたんですねぇ。……イリヤさんと一緒に。そうなんですか……へぇ…………」

 

 

 

 

 ――――あかいあくまと腹ペコ騎士王と桜がいた。……桜だけ何か例えが思い付かなかった。3人とも目が怖い。

 

「…………なんでさ」

 

 思わずぼやく。この3人だけならまぁ、いつものことだから問題は……少しあるかもだけど、そこまでじゃない。しかし、それだけでは終わらない。さらに問題は続く。そうだ、アイツらの後ろには――

 

 

 

「へー……。広いわねぇ、ここ。ただのプールと侮っていたわ」

「うん。海には行ったことあるけど、プールは初めて。パッと見たところ色々と揃っている」

「そのー……こ、こんにちわ、士郎さん」

 

 

 

 ――――辺りをキョロキョロと見渡すクロとプールの光景を不思議そうに眺めている美遊。……そして、区別のためか長い銀色の髪をポニーテールにしていおり、気まずそうにこちらに挨拶をするもう1人のイリヤがいた。

 

「なんで凛たちがいるのよ!!」

 

 イリヤ、渾身の怒声。

 

「あら、たまたまよ。家で解決するまで引きこもってるわけにもいかないし、皆で体を動かしましょってことでプールに来ただけよ」

「えぇ。プールに着いたら奇遇にもシロウとイリヤスフィールがいただけです」

 

 自慢げに話し始める遠坂とやっぱり目が怖いセイバー。

 

「そうです。別に先輩とイリヤさんが私たちに黙って、こっそりプールに行ったから追いかけたわけではないですよ」

「ま、内緒で行ったと士郎たちは思っているでしょうけど、普通にバレバレだったわ」

「……特に内緒にしてたわけではないんだが」

 

 ただ、イリヤと2人で行くって約束してただけだし。わざわざ遠坂たちに伝える必要がなかったって言うか……。

 

「ふん、別に凛たちが来たところで関係ないわ。貴方たちは貴方たちで遊んどきなさい。……それに、私が私と一緒にいたらややこしいでしょ」

 

 イリヤはそれだけ冷たく言い残し、

 

「行きましょう、シロウ」

 

 俺の手を取り、動き出す。

 

 このまま別行動になるだろうと思っていたが……。

 

「…………なんで付いてくるんだよ、お前ら」

 

 俺たちの後をゾロゾロと歩くセイバーたち。

 

「いいじゃない。士郎さんたちの行き先と私たちとの行き先が被ってるだけよ」

 

 何が楽しいのか、クロは生意気そうに笑う。

 

「桜、私はここにいるべきなのでしょうか?」

「ライダーも一緒に遊びましょ」

「分かりました。では、お供します」

「そう言えば、セイバーさんって泳げるの?」

「多少は。一度、シロウに泳ぎを教わったことがありますので。そういう貴女はどうなのです、イリヤスフィール」

「はい、私は運動は得意なので泳げますよ。友だちと海で遊んだこともありますし。……どうしたの、美遊?」

「ねぇ、イリヤ。あれは何?」

「ウォータースライダーかな? 後で行ってみる?」

「うん、イリヤと一緒なら」

「なによー、私も混ぜてよね」

「クロが一緒だと何かイタズラされそう」

「ひっどーい。別にいいもん、士郎さんと行くから」

「なっ……! クロ、何言ってるの!?」

「大丈夫、イリヤ。そうなったら意地でも止める」

「私も協力しましょう、美遊」

「ちょっとー……サーヴァントが相手とか酷くない?」

「なら、節度ある行動をしなさい! 姉として見過ごせないわ」

「ホントうるさいわねぇ、イリヤは」

 

 と、思い思いに皆話している。ていうか、俺を巻き込まないでくれ。

 

「なんか悪いな、イリヤ。せっかく2人で遊ぼうって話だったのに」

 

 少し申し訳なくなる。別にセイバーたちといるのが嫌なわけではないが、今回はどこか約束を破る形になってしまった。

 

「シロウが謝ることじゃないわ。それに、こうなることは予想できたことだもの」

「えっ、そうなのか?」

「はぁ……やっぱり自覚はないのね。そりゃそうか、だってシロウだからね」

 

 ふむ、その理屈はよく分からん。

 

 どこでイリヤに泳ぎを教えようか迷いながらプールサイドを歩いていると、唐突に――――

 

「おや、ここで会うとはな――セイバーよ」

「…………ギルガメッシュ。どうしてここにいるのです?」

 

 

 ――――金色の海パンに黒のパーカーを羽織っているギルガメッシュが俺たちの前に立ち塞がった。

 

 

 なんつーか、アレだな。あの鎧姿より、こっちの方がムダに似合ってるな。

 

「ふむ? どうしても何も、我はこのプールの経営者なだけだが……不思議なことはあるまい」

「そ、そうだったのですか……!」

「知らなかったのか? そこの雑種は知っていただろう」

 

 若干意外そうな感じのギルガメッシュは俺を見る。

 

「一応はな。まぁ、お前さんがわざわざここにいるのは驚きではあるが」

「これでも我は経営者だ。実際に遊んでみて、どこか不満点やら見つけ、改善しないと完璧な経営者とは言えまい。ふむ…………それにしても見ない顔がいるな」

 

 と、謎のプライドを見せるギルガメッシュは、眉を寄せながらキョロキョロと俺たちを一瞥する。すると、なぜかゲンナリとした表情になる。

 

「そこの雑種…………お主は戦争でもおっ始めるつもりか?」

「戦争って物騒な物言いだな。俺らは遊びに来ただけだよ」

「それは大いに分かる。その格好を見ればな。……しかし、並んでいる面子が、我でも関わりたくないあまりに濃い面子なのだが」

 

 アイツの見ない顔ってイリヤとクロと美遊のことだろ? ……あ、そういえば、イリヤってことはクロも聖杯の…………。美遊も似たような存在だったような。

 

「まぁよい。我は見なかったことにする。その方が精神的に楽だ。では、存分に楽しむがよい。またな、セイバーよ」

 

 言うだけ言って、ギルガメッシュはこの場からそそくさと去っていった。そして、セイバーはめっちゃ皺を寄せている。ホントに苦手なんだな。

 

 ………何しに来たんだ、アイツ?

 

「アイツ、何しに来たのかしら? セイバーと会うため?」

 

 あ、遠坂が思ったことぶちまけた。

 

「さぁな。さっぱり分からん」

「逆にあの人の考えが分かる人っているのでしょうか?」

「……桜。見かけによらずけっこう酷いな、その一言」

「私は分かりたくもありませんね」

 

 セイバーもなかなかに冷たい。

 

「ねぇねぇ。あの人、何だったの? 多分サーヴァントよね?」

「そうよ。英雄王ギルガメッシュ」

 

 クロの一言に遠坂が答える。

 

「えっ!? あれが……?」

「だいぶイメージが違うような……」

 

 驚愕の表情を見せるイリヤと美遊。

 

「知ってるのか?」

「えーっと、ギル君……多分、さっきの人の小さいころかな?」

「あぁ……なるほどな」

 

 納得。そりゃ、あっちのアイツを知ってたら、驚くよな。俺だって驚くよ。ていうか、かなり驚いた。将来が決まってるって、あんなにも残酷なんだな。 

 

「シロウ。別にあんな奴のことなんてどうでもいいわ。さ、早く行きましょ」

「うん、そうだな」

 

 さっきまで話に入ってこなかった俺の隣にいるイリヤに手を引かれ急かされる。

 

 この際、楽しむか。もうこれ以上トラブルは起こらないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。プールで遊んだ俺たちは家へ帰るために、皆でのんびり歩いている。

 

 何だかんだ、全員で楽しく遊べたと思う。イリヤに泳ぎを教えて、ある程度泳げるようになったら並んで泳いだり、セイバーが持ってきてた水鉄砲で遊んだりと色々した。途中、ビーチバレーもしたが、あれだな、ここの女性陣強すぎる。全然太刀打ちできなかった。

 

 ただまぁ……プールで遊ぶと運動した時とまた別の疲労感が体を襲ってくる。何て言うか、体全体を使うからか、その分かなり疲れる。

 

「泳ぐのって、けっこうしんどいのね」

「だな。俺も今日は疲れた」

 

 他の皆も疲れている様子だ。今日の晩めしは手軽な料理にするか。俺もさすがにこの人数分の料理を作る体力はそこまで残ってない。

 

「やっと、着いたわね。ギリギリまでバス使えば良かったわ。ったく、誰よ、帰りは歩こって言った奴は」

「それ遠坂だぞ」

「そうだっけ?」

「えぇ、凛が買い物がてら歩こうと言い出したのではないですか」

 

 どっちにしろ、もう家に材料が残ってないから買い物はしないといけなかったけどな。

 

『こっちは見てるだけでしたので、ちょっと退屈でしたよ。イリヤさんたちが楽しめたのなら何よりですけど』 

『姉さん。それは仕方のないことです。寧ろ、姉さんは普段からふざけすぎです』

「そうだよ、ルビー。この前海に行った時なんて……!」

『なんですか、イリヤさん的には美味しい思いをしたでしょ!』

「否定……はできないけど、人様に迷惑かけるのはどうかと思うよ!?」

「そこはきっちりと否定しなさいな」

「だ、だって……」

「私、あの時のことはっきりと覚えていないんだけど」

『まぁ、美遊さん含めて記憶を飛ばしましたからねぇ。イリヤさんとクロさんにあの時の映像ばっちりと見せましたよ』

「サファイア、その映像ある?」

『一応まだありますが……見るのですか?』

「少し気になる」

 

 俺はふと、3人+2機? の会話に割って入る。

 

「なぁ、その海で何があったんだ?」

『お、士郎さん。知りたいですか~?』

「や、止めて! ルビー!」

「ほう、私も気になりますね」

「セイバーさんまで!?」

「いいじゃない。別に減るものでもないでしょ?」

「私の何かが色々減るよ!」

『知りたいのでしたら、またイリヤさんが寝静まった時にでも~』

「うぅ……安心して寝れない」

 

 と、涙目のイリヤに、俺の手を握っているイリヤは――

 

「そっちの私はだらしないのね。さっきから振り回されすぎじゃない? もっと堂々としてなさい。イリヤの名が泣くわ」

 

 ……随分とバッサリいくな。

 

「そうよ、イリヤ。それでも私の妹なの?」

「誰がクロの妹なの! 私は姉ですぅ」

「年齢で言ったら、私の方が圧倒的に上なんだけどね。ね、シロウ?」

「そこで俺に振るのか……。まぁそうだけどよ」

 

 そんなことをのんびり話していると、もう衛宮家の玄関が見えてくる。

 

「……姉さん。玄関に誰かいません?」

「あれ、ホントだ。……なーんだ、アーチャーじゃない」

 

 遠坂の言う通り、アーチャーは玄関に寄りかかり腕を組み、俺たちを待ち構えたいた。

 

「……戻ったか、凛」 

「ただいま。ところで、どうしたのよ? 一応留守番任せたつもりだったけど」

「いやなに、来客だ」

「来客? 誰に?」

「ここに来ているからには衛宮士郎にだろう。私ではどうも居心地が悪くてね、こうして帰りを待っていた」

「そりゃそっか。だってよ、士郎」

「分かった。居間にいるのか?」

「あぁ。案内しておいた。会いに行くといい」

「おう」

 

 来客か。わざわざここに来るってことは俺の知り合いだよな。一成か、はたまた慎二か。もしかしたら美綴辺りかもな。でも、なんでこの時間に? 学校で会えるわけだし。

 

 と、色々と考えながら居間へと駆ける。

 

 来客は、確かに居間のテーブルに座っていた。俺はその人が誰なのか確認する。

 

「え…………?」

 

 途端、その呟きでも何でもない掠れた声だけが口から漏れる。

 

「…………どうして……ここに…………?」

 

 声にならない。どうして、と、この言葉が頭から離れない。

 

「シロウ、どうかしましたか……って…………は? え? 何故、貴方がここに……!?」

 

 セイバーも同様に驚く。

 

「全く、2人して固まって……何してるのよ」

 

 そんな俺たちを見かねたのか、イリヤも呆れながら居間に入ってくる。 

 

「…………………………え?」

 

 居間へと足を踏み入れた瞬間、驚きのあまり、イリヤの目が点になる。

 

 目の前の人物はゆっくりと腰を上げる。そして、どこか懐かしそうに微かに笑う。

 

「久しぶりだね……士郎、イリヤ」

 

 その人物の名前は――――衛宮切嗣。

 

 

 

 

 

 

 

「「「えぇ――――――!!!?!?!??!?!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




正直、話を広げすぎている感が凄まじい  

そして、イマイチ士郎が切嗣をどう呼ぶのかピンとこない。親父なのか、じぃさんなのか、切嗣なのか。シチュエーション毎に違うのかな
それと、キャラが多いと、動かすの大変ですね




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運命は軽やかにやってくる

士郎の切嗣呼びは未だによく分かりません。地の文で「切嗣」とあるときは頭の中で「オヤジ」とルビを振ってもらえれば、その、助かります

なんだか、ほんの少しシリアスな気がしますが、基本はカニファン時空なんであまり気にしないでください





「じ、爺さん……なんでここに?」

「キリツグ、何故ここにいるのです?」

 

 俺は立ったまま、目の前にいる人物、いる筈のない人物――衛宮切嗣に問いかける。セイバーも同様。

 

「……大きくなったね、士郎」

 

 しかし、切嗣はそう懐かしむように、嬉しそうに呟く。って、あれ? セイバーに見向きもしてないような……?

 

「ハァ……」

 

 セイバーは何を悟ったのか、俺の後ろに隠れる。なんだか、とても疲れた顔をしているような。

 

「おい、セイバー……?」

「いえ、大丈夫です。ですから、シロウは話を続けてください」

「お、おう……」

 

 もう1度、切嗣に向き直り、再度問いかける。

 

「その……どうしてここに?」

「それがどうも僕では、分からなくてね。気が付いたら大空洞にいたんだ」

 

 切嗣はいつもの落ち着いた口調で話し始める。

 

「大空洞に?」

「あぁ。それで、どうすればいいか困ってね。冬木というのは分かったんだが、今が何年か、状況確認しながらここに来たわけだ。ま、それでも何も分かってないんだけどね」

 

 今、衛宮切嗣はここにいる。死んだ筈の人間だ。何か、魔術の類いなのか。死人が生き返るようなこと……サーヴァントじゃあるまいし。うん? 死人? ……あれ? 確認しないと。

 

「じ、じゃあ、その……爺さんの最後の記憶って何だ?」

「士郎に、僕の夢を話したところかな」

「…………っ!」

 

 それは……切嗣が死ぬ直前の記憶だ。俺の生き方を決定付けたあの月の夜。

 

 イリヤたち3人みたいに平行世界がどうのじゃなくて、どうやら本当に死人が蘇っているのか……?

 

 どう返せばいいか、頭の整理が追い付かない。正直、一気に色々起きすぎだ。まだ混乱している。切嗣は俺の言葉を待っている。それなのに、俺は……言葉が出ない。

 

「は?」 

「え?」

 

 すると、突然、俺の横から誰かが飛び出した。誰も反応できずに――

 

 

 

「――――おりゃああぁぁ!!!」

 

 

 

 イリヤがそれは見事な飛び蹴りを切嗣の腹にかました。それこそライダーキックみたいに。

 

 …………え? イリヤ? 何してるの? ていうか、イリヤあんな動きできたんだ。初めて見たぞ。

 

「ぐほっ……い、イリヤ?」

「キリツグ殺す! マジで殺す!!」

 

 あまりにも急な出来事に呆気をのられ腹をさする切嗣に、イリヤはめちゃくちゃ声を荒げる。何事??

 

「殺るわよ、バーサー――」

「――――ちょ、ちょちょ。落ち着け、イリヤ!」

「何よシロ……んーっ! ん――――っ!」

 

 すぐに駆け寄りイリヤの口を塞ぐ。このままだと、衛宮家が瓦礫の山へと変わってしまう。バーサーカーが暴れるのは勘弁。この面子だと止めれるかもしれないけど、それは流石にマズい。

 

「な、何するのよ、シロウ!」

 

 とりあえずイリヤを羽交い締めして抑える。

 

「いきなり、どうしてバーサーカーを呼び出そうとするんだ。爺さんが危ないだろ!」

「ふん、理由なんて、そんなの簡単よ。ここにいるのがキリツグだからよ!」

「えっ、イリヤ……そんなぁ。遂に反抗期きちゃったかぁ」

「――反抗期ちゃうわ!! このクソ親父……あー、もうマジで殺す! シロウ離してー! このままじゃ、キリツグ殺せないー!」

「よく分かんないけど、落ち着け。な?」

 

 か、カオスだ。どうすればいいんだ。セイバーは関わりたくないのかそっぽ向いてるし。

 

「士郎さん、どうしたんですか!?」

「先輩……と、どちら様ですか?」

 

 そんな俺たちを心配したのか、ダダッと足音をたてて、もう1人のイリヤと桜が居間に来た。

 

「ちょっとなによー、そんなに騒いじゃって。近所迷惑よ」

「どうかしましたか?」

「うるさいわね。全くー。で、誰なのよ、来客って?」

「はぁ…………。正直、こうなる気はしていたのだが……やはりか」

 

 クロと美遊、遠坂とアーチャーは対照的にのんびりとやって来た。特にアーチャーは頭を抱えている。

 

『おやおや~、この人は確かイリヤさんの』

『これは……どうなっているのですか?』

 

 ルビーとサファイアまで来ちゃったよ。

 

「……え?」

 

 切嗣は居間に揃ったメンバーを見つめる。チラッと顔を確認すると、驚きと困惑の表情が入り交じっている状態。

 

「士郎。これは…………どうなっているんだい?」

 

 まだ暴れるイリヤを羽交い締めしながら思う。

 

 

 

 ――――お願いだから、誰か助けて…………。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「――――と、いうわけがあってだな」

 

 あれから30分後。テーブルに並んで座った俺たちは、桜たちの自己紹介とことのあらましを切嗣に説明する。

 

 周りはすんなりと話を聞く体制になったが、イリヤを宥めるのが大変だった。今は俺が胡座しているスペースに座っている。途中、まだ機嫌が悪くなるから、頭を撫でながら説明した。

 

 俺はまだ切嗣がここにいることに疑問を持っているが、何かしらの反応を確認する度に、目の前にいる人物は衛宮切嗣だと認識する。本当にどうなっている……?

 

「……なるほど。これはまた、随分と厄介な状況になっているんだね」

「確かにそうだけれど、今のところ、特に大きな影響はなさそうだけれどね」

 

 俺たちが話し終えるまで黙って聞いていた切嗣が苦笑しながらそんな言葉を漏らす。それに対し、クロは平然と何てことない、ということを答える。ま、クロの言う通りなんだけど、この先どうなるか分からないんだよ。

 

 が、呑気なクロとは違い、切嗣はクロを見つめ、どこか悲しい表情になり、

 

「クロエといったね。……その、君には申し訳ないことをしてしまったようだ」

「あー、別に気にしないでいいわよ。あれは私の知ってる貴方じゃないんだから。そんなに気負わなくてといいの。……それより、クロって呼んでちょうだいな」

「あぁ……。よろしく、クロ」

 

 それと、と言いながら今度は美遊の方を向く。

 

「君にも、僕のせいでどうやら苦労をかけたみたいだね」

 

 美遊は首を振る。

 

「ううん。その……確かに大変な思いはしたけど、それ以上にお兄ちゃんと……皆と出会えたから。あの時は言えなかったけど……私を連れ出してくれて、ありがとうございます、切嗣さん」

 

 感謝の微笑みを見せる美遊と同時に、俺の又に座っているイリヤが声を上げる。

 

「ちょっとキリツグ! 私には何もないの!?」

「えーっと……そのー、ごめんね?」

「謝罪が軽いわ! そんなんで許すと思っとんのか!」

「あれぇー!?」

 

 …………イリヤ、お前キャラ変わってないか? 

 

「っていうか、キリツグはいるのにお母さまはいないの?」

「それは……本当に分からないんだ。アイリがいるのか、まだこの状況を把握しきれてないかね。そもそも、僕がなんでここにいるのかすらはっきりしてないんだ」

 

 アイリ……? 確かその人はイリヤの母親で、切嗣の奥さんだよな。ということは、俺の義理の母親ってことか。どんな人かは、イリヤの口からしか聞いたことないけど。

 

「そういや、遠坂。お前ルビーたちのこと調べたんだろ? 何か分かったのか?」

「なーんにも。とりあえず、コイツらが第二魔法を発動してないってことくらいかしら」

『お力になれず、申し訳ないですねぇ……』

「ほぇ? これってルビーのせいじゃないの?」

『イリヤさん、毎度毎度トラブルが起きる度に私を疑うの止めてくださいよ~』

「だって、前科がたくさんあるもん。そもそも、風呂場にいきなり突撃してきたのはルビーじゃん」

『イリヤさん。姉さんだって、恐らく反省はしていると思います……多分』

『ものスゴい曖昧な擁護ありがとうございます、サファイアちゃん』

 

 うーむ。あのステッキたちはいつでも元気だな。

 

「でしたら、何か外部の影響ということですか?」

「そういうことになるかしらね。って、あれ? 桜、ライダーは? 帰りまで一緒にいたわよね?」

「あ、霊体化して、外の様子を見張ってくれています」

 

 遠坂と桜が何やら話している間、部屋の隅へと視線を動かす。部屋の隅には、綺麗な姿勢で正座しているセイバーがいる。何故かこっちに来ない。俺らが説明している時も一切喋らなかったな。

 

「とりあえず、晩めし作るよ。セイバーは洗濯物取り込んでくれ」

「……はい、分かりました」

 

 機嫌が悪いわけではないのか。そこまで切嗣と前回の聖杯戦争で上手くいってなかったのか。

 

「あ、先輩。私も手伝います」

「ありがと、桜。……って、ありゃ。材料足りないな」

 

 まさか切嗣がいるとはこれっぽっちも思わず、見事に1人分不足している。

 

「士郎。でしたら、私の分は構いません」

 

 いつの間にか居間に戻っていたライダーが特に問題なしという口調で言う。その手には洗濯物のカゴがあるから、セイバーの手伝いでもしてたのか。

 

「そういうわけにもいかないだろ。アーチャー、ちょっと買い出し行ってくるから適当に進めておいてくれ」

「いいだろう。……む? 衛宮士郎、見たところ材料は充分にあると思うが、これ以上必要なのか。これだけあれば事足りるだろう」

「セイバーで2人前、多ければ3人前の計算だ。それに、こんだけ人いるんだから多いにこしたことはない。余ったら明日の朝にでも回すよ」

「……貴様、セイバーに甘くないか?」

「し、シロウ。あまりそういうことは……!」

 

 ドドドッ……! という音をたてながら、急ダッシュでこっちに戻ってきたセイバーは顔を赤らめ、恥ずかしそうだ。若干息も切れている。あれ、聞こえてたか。まだセイバーは庭にいたはずなのに……地獄耳か。

 

「実際そうなんだからさ。セイバーもいっぱい食べたいだろ?」

「それはそうですが……」

 

 と、セイバーの視線が切嗣の方に動く。なんだ?

 

「……さすがは英雄様だね」

 

 切嗣がほくそ笑む。

 

「キリツグ、どうしたの?」

「いいや、何でもないよ」

 

 …………やっぱり仲悪いんだ。前回の聖杯戦争で何かお互い気に障るような致命的な会話でもしたのか……?

 

「くっ……」

 

 セイバーもセイバーで悔しそうだ。

 

 こんな感じで大人数の時はビュッフェ形式……みたいな感じの料理を作るから、セイバーがかなり食う。それに、切嗣がいるんだ。何て言うか……無性に張り切りたくなる。

 

「じゃ、皆。大人しくしとけよ」

 

 それだけ言い残してから、自転車に跨がり、商店街の近くにあるスーパーへと走る。

 

 

 

 

 ――20分後。スーパーで色々と買い足した食材をアーチャーに代わって料理する。たった20分でかなり進めてくれたな。助かる。

 

 居間では、皆が思い思いに談笑している。中にはライダーみたいに静かにしている人もいる。まぁ、ライダーはイリヤたちと切嗣とあまり関わりないからな。

 

 他には……切嗣とイリヤとイリヤが話しているな。うーん、自分で言っててややこしい。こっちのイリヤはまだ怒っている様子で、向こうのイリヤは焦りながら宥めている。

 

 あ、クロとアーチャーも何か会話している。というより、クロがアーチャーにちょっかいかけてる感じか。確か、クロの元になっている英雄は……。話している内容は聞こえないな。火を使っていると、音はそれなりにシャットアウトされる。

 

「…………」

 

 ――――なんだか口元が緩みそうになる。

 

 こうして眺めていると、安直かもしれないけど――――自分のことみたいにとても嬉しいと感じる。

 

 何がどうなって、こんな状況になっているかは分からないけど、夢みたいだ。夢ならいつかは覚めるのだろう。だけど……しばらくは続いてほしい。そう願う。

 

「どうしました、先輩?」

「あぁいや、何でもない。ちゃちゃっと終わらせよう」

「はいっ。美遊さんも頑張りましょう」

「了解です、桜さん」

 

 桜と美遊も打ち解けたみたいだ。料理が上手だったりと何か共通する部分でもあったのだろうか。

 

 

 

 そして、夕食が完成した。

 

 唐揚げ、ハンバーグ、サラダや煮物など色々作った。それらを並べ終え、いただきますの号令と共に、皆が食べ始める。これだけ人が多いと、テーブルはそこそこキツいが、何とか座れている。

 

「……お、士郎。腕が上がったね」

「そりゃ、爺さんがいなくなってからかなり経ってるからな」

 

 切嗣の微笑みに思わずこっちが照れくさくなる。

 

「ところで、士郎」

「なんだよ」

「いや、敢えて言わなかったんだけど……僕がいなくなってから、随分とこの家に女性が増えたんだね」

 

 ……ホントどうしてだろうな。

 

「男友だちはいる?」

「いるって」  

「それは良かったけど……」

 

 けど?

 

「それで、士郎。本命はどの子なんだい?」

 

 その言葉を発した瞬間――――

 

「…………」

 

 

 ――――ピシャリと部屋の空気が固まった。

 

 

「ちょ……いきなり何なんだよ!!」

「ははっ、もう士郎もいい年じゃないか。いくら何でも、気になる人くらいいるだろう?」

「え、えーっと……」

 

 そーっと、女性陣の顔を覗き込む。

 

 遠坂は少し顔を赤くしており、そっぽを向く。桜は……前髪に隠れて表情が見えない。ただ、「ふふっ……」と不気味そうに笑っているのが怖い。セイバーは動揺しているのか視線が泳いでいて、ライダーは我関せずとご飯を食べている。

 

 向こうのイリヤとクロと美遊はどうなるのか見守っているような顔だ。特にクロはこの状況を面白がっているのか笑いを堪えきれてない。

 

 ――と。

 

「――――シロウは私と結婚するんだから、悩まなくてもいいのよ」

 

 そこで、唐突なイリヤの爆弾発言が投下された。それに誰より驚いたのが…………

 

「い、イリヤ! ちょっと、それはどういうことだい!? お父さん聞いてないよ!!」 

 

 …………切嗣だった。

 

 荒ぶりすぎだろ。

 

「いいじゃない。シロウは私の弟だけど、義理なんだから結婚できるでしょ?」

「そうかもしれないけど……で、でも相手を決めるのは早くない?」

「何よ、焦っちゃって。私が誰を選ぼうか私の自由じゃない。お母さまだってキリツグを選んだんだから」

「なっ……!」

 

 その言い方は、少し切嗣をバカにしているような気が……。ほ、ほら、切嗣ショック受けてるよ。その会話の横で、セイバーの肩が震えているのを俺は見逃さなかったぞ。

 

「うん――この話は止めにしよう」

 

 と、勝手に話を振っておいて、勝手に話を終わりにした。

 

 もうさっきの話はなしにするためにか、切嗣は話題を変えてきた。

 

「そういえば、大河ちゃんは元気かい?」

「藤ねぇか。めちゃくちゃ元気だよ」

「へぇ……。大河ちゃん、女っぽくなったのかな」

 

 そう感慨深そうに呟く切嗣だが――――俺たちはそうはいかない。

 

「アッハハハ! 藤村先生が? ないない!」

 

 遠坂が爆笑し、

 

「……………………ふふっ」

 

 桜はテーブルに突っ伏して笑いを懸命に堪えようとする。

 

「ふふっ。タイガが? それはないわ。キリツグも珍しく冗談言うのね」

 

 イリヤも可笑しそうに笑う。

 

 その他の皆も……クロたちも藤ねぇを知ってるのか、勢いよく笑ったり、桜みたいに笑いを我慢しようとしたりと三者三様の反応を見せる。

 

 かく言う俺も、頑張って笑わないようにしている。

 

「え、なになに?」

 

 呆然としている切嗣にあの猛獣の現状を説明する。

 

「藤ねぇは女性って感じより、今や肉食獣になっているよ」

 

 普段はいい先生だよ。ただ、変なテンションの時との振れ幅があまりにも大きいっていうか……。

 

「あれぇ? 本当に? あの大河ちゃんが?」

「ああ。そりゃもう機嫌が悪いなんて、手が付けられないくらいな」

「お、可笑しいな。どうしてなんだろう……。で、その大河ちゃんは今どこに?」

 

 そういえばいつもならトラブルのど真ん中にいそうな人なのに。確かにここ数日見ていない。と、ここで桜が。

 

「藤村先生なら、仕事が忙しいからしばらくは先輩の家に行けないって言ってましたよ」

「あ、そうなのか」

「はい。土曜日、部活の時に聞きました。ごめんなさい、伝えるの忘れてましたね」

「桜が謝ることじゃない。こっにだって色々あったんだから」

 

 それに、今ここに藤ねぇがいるとこれ以上に面倒なことになりそうだ。切嗣がいる+イリヤが2人とかどう説明すればいいのやら。藤ねぇには悪いけど、暫しの間……ウチには寄らないでくれたまえ。

 

「いやー、士郎のお父さんには笑わせてもらったわ」

「全くよ。タイガが女っぽくなるなら、せめて生まれ変わらないといけないわ」

「イリヤスフィール。いくら大河でもそこまでは……」

「そうかしら? まぁ、それはともかくとして、もっと落ち着きがあればいい人だとは思うわ」

「藤村先生、イリヤさんより子供っぽいとこありますから」

「その割りには妙にしっかりしているとこもあるのよね」

「凛、あれでも教師だからじゃない?」

「まぁそうよね」

 

 遠坂たち3人の会話を聞いていると、今度はクロが。

 

「どこにいようとも、藤村先生は変わらないのね」

「あら、そっちでも先生は先生なの?」

 

 遠坂の問いに、向こうのイリヤがアハハ……、と頬を掻き、

 

「まぁ……そうですね。いつも騒がしくて、クラスのみんなを巻き込んでますよ」

「うん、運動会は大変だった……」

 

 美遊もどことなく疲れた声だ。少し窶れている気がするのは気のせいか。

 

「らしいわね。その時はまだ私はいなかったけど」

「高級肉のために、あんな紛らわしい態度をして……!」

 

 …………その運動会で一体どんなトラブルが起きたのか。

 

「えぇー……。大河ちゃんに何があったの」

 

 切嗣の心底納得がいかない声。

 

 そんな様子を皆で和気あいあいと楽しみながら夕食の時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 あのあと、風呂に入ったり片付けをしたりとしている内にもう夜中になっていた。

 

 俺はもう寝ようと自分の部屋に移動している。プールにも行って疲れたからな。それに切嗣とも会った。思ってる以上に体も精神も疲れている。

 

「…………ん?」

 

 ――――その途中。縁側を通り過ぎようとしたら、庭に誰かが立っていた。

 

「あれは切嗣と……アーチャー?」

 

 そういや、夕食の時には消えていたな。「私は特に腹など減っていないのでね」ということを言って、居間から離れていた。

 

 切嗣から声をかけたのか、偶然会ったのかは分からない。って、アーチャーが切嗣を案内したと玄関で言っていたな。その時、居心地が悪い的なことを漏らしていたけど……。

 

 ――――あの2人は、何を話すのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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