マザロザif 完結 (アーク1)
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1

リクエストがあったSAOのマザーズロザリオ...そのif作品になります。

私の処女作品であり、ナルトの小説と違い一人称で展開されます。

そして、リクエストされた方の希望される作品かどうかは正直わかりません。

おそらく好みがかなり別れる物と思われます。
そして最後に...私はハッピーエンドが好きなんですよね。


「ごめんね。キリト君。今日のデートなんだけど、ユウキがどうしても私とALOでスリーピングナイツの皆と遊びたいって言うんで、又、今度にしても良いかな?」

 

そう、この日...ユウキがキリト君のプローブを使って、私たちの学校に通うようになって三日目、今日は久しぶりに放課後キリト君とデートをする約束をしていた。

 

最近、ずっとユウキ達に構っていて、キリト君との時間を作れ無かったから寂しくて私からデートに誘った。

 

でも...

 

「ねえ、アスナ。今日スリーピングナイツの皆と限定イベントボス討伐をやるんだ。アスナも参加してくれないかな?」

 

ユウキからの誘いに、最初は用事があるからと断っていたけど、私は結局押しきられてしまった。

 

ユウキ達が、自分達の生きた証をALOに必死に残そうとしているのを知っているから。

 

それに、キリト君とはまだまだ一緒にいられるという考えもあった。

 

そんな保証どこにも無かったはずなのに...

 

「本当にごめんね。私から誘った話だったのに。」

私が、再度謝るとキリト君は、

 

「仕方ないさ。また時間ができたらデートしよう」

 

そう言って笑って許してくれたけど、やっぱり少し寂しそうだった。

 

私も、同じ気持ちだよ。今度のデートではうーんと、楽しもうね。

 

そんな事を考えながら、私はキリト君と別れた。

 

それが、キリト君と私が交わした最後の会話になるなんて、この時の私は想像もできなかった...

 

時間は過ぎて、その日の夜9時。

 

イベントボスは、然程苦労せずに倒すことができ、そのまま私達はユウキ達のホームで打ち上げパーティーを行った。

今日は、お母さんの帰りが遅いのでゆっくり時間が取れたのだ。

 

打ち上げパーティーを楽しんでいたその時、ふっと、キリト君に呼ばれた気がした。

 

なんとなく、胸騒ぎを感じた私は、中座して落ちる事にした。

 

それをユウキに伝えると、

 

「え~。まだ、早いじゃん。もうちょっとだけ一緒に居ようよー」

 

駄々っ子のように騒ぐユウキに説得を諦め、1時間だけ、と条件を付け納得してもらった。

 

我ながら情けないなぁ。流されてるのはわかってるのに、自分の意見を通せない。

 

SAOにいたころの自分は、こんなじゃなかったはずなのに...

 

そして、10時。パーティーも終わり、皆に挨拶をして、落ちた。

 

アミュスフィアをとって、身体をほぐし、お風呂に入る前にキリト君にメールをしようとスマホを取り出すと...

 

ものすごい数の着信が入っていた。直葉ちゃんや、リズ、シリカちゃん、シノのん、クラインさんやエギルさんからも、5分おきには着信が入っていた。

 

何かあったのか?と疑問に思いながら、私は直葉ちゃんに連絡をした。

 

『あ、明日奈さん..』

 

「電話してくれてたみたいだけど、なにかあったのかな」

私が用件を訪ねると、

『もう、良いんです。もう、遅いんです...今更...』

直葉ちゃんが電話越しに泣いているのがわかった。

「...何があったの?」

嫌な予感がした。もしかしてキリト君になにか...

焦燥にかられながら、震える声で何があったのか訪ねると、 

『.........』

その返事は沈黙と、そのまま電話を切られてしまった...

 

不安がどんどん大きくなっていく。

私は、震える手で最愛の人、キリト君に電話をかける。

 

どれだけ待っても応答が無い。

 

今度はリズに電話をかけた。だが、こちらも繋がらない。そのまま、シリカ、シノン、クラインと電話をかけるが誰も電話に出ることは無かった。

 

誰か、お願い。電話に出て...

 

最後に、エギルに電話をかけると、ようやく応答があった。

 

『アスナか...』

 

「エギルさん、良かった。繋がって。何かあったんですか?キリト君も他の皆にも連絡が付かないんです。教えてください。キリト君に何かあったんですか?皆どこにいるんてすか?」

 

私は、不安と恐怖に心が潰されそうになりながらも、エギルさんに早口で捲し立てた。

 

そして、エギルさんから告げられた言葉は...

 

『アスナ、いいか。気をしっかり持って、落ち着いて聞いてくれ。

 

今日、キリトが...下校途中にトラックに跳ねられて...30分ほど前に...息をひきとった...』

 

この世で、最も私が聞きたくない言葉だった...

 



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2

『アスナ、いいか。気をしっかりもって、落ち着いて聞いてくれ。 今日、キリトが...下校途中にトラックに跳ねられて...30分ほど前に...息をひきとった...』

 

「えっ!」

 

イマ、ナンテイッタノ?キリト君ガ、シンダ???

 

エギルさんから告げられた言葉に、私は、直ぐに反応する事が出来なかった。

 

『アスナ、キリトの奴は...死んじまったんだ...』

 

エギルさんは、同じ事をまた言ってきた。

 

嘘だ、だって今日の放課後、私はキリト君と『またね』って言って別れたんだ。

 

今度、デートしようって約束した。

キリト君が、私との約束を破るはずがない。

 

「嘘。エギルさん。いくらエギルさんでも、言って良い冗談と悪い冗談がありますよ?いくら、私でも、そんな冗談言われたら、本気で怒りますよ。」

 

私は、知らず知らずの内に、声を荒げてエギルさんに言った。

 

『俺が、こんな冗談言う訳無いだろう。』

 

エギルさんの、怒鳴るような声。

 

『スマン。でも、冗談なんかじゃねぇ。キリトは...死んだんだ...』

 

直ぐに、謝ってくれたけど、その先の言葉は、私の心を深く抉った...

 

信じない、信じたくない。

 

そうだ、私のスマホにはキリト君が組んでくれた、キリト君のバイタル情報を見るアプリがあるじゃないか。

それを見れば、こんなタチの悪い冗談、直ぐにバレるんだから。

 

私は、エギルさんに電話を切る旨を伝えると、アプリを起動した。

 

そこに、写し出されたのは、見慣れた数字ではなく、バイタル情報errorの文字。

 

嘘だ...嘘だ...嘘だ...

 

恐慌に駆られ、身体の震えが止まらない...

 

少しすると、リズから電話が掛かってきた。

 

震える手で、通話ボタンを押すと、リズの落ち込んだ、あるいは放心したような、いつもの元気な彼女とは思えない声が聞こえてきた。

 

『アスナ、ごめんね。電話してくれたのに出れなくて。ちょっと...電話に出る元気も無くて...』

 

「リズ。エギルさんがキリト君が死んだ...なんて、悪い冗談を言ってくるの。そんなの嘘だよね?リズからも、エギルさんに怒って。」

 

私は、そんな事を言ったけど、本当はわかってた...

 

『アスナ。冗談なんかじゃないの。皆、キリトのいる病院にいるんだよ。さっき、キリトは...キリトは...』

 

シンジャッタ...

 

あぁっ...ああっ...あああああああぁぁぁっ

 

「キリト君は、キリト君はどこにいるの?皆どこの病院にいるの?ねぇ?リズ。答えて。」

 

私は、早口で捲し立てた。

 

『川越の○○病院だけど、今、アスナは自宅でしょ?今から来ても、中には入れないよ?私達も、これから家に戻る様に言われてるから。家族以外は、病院に泊まるのは、規則で禁止されてるって、さっき看護師さんに説明されたわ。』

 

そんなの、関係無い。私はキリト君の所へ行かないと行けない。

そう思ったけど、

 

『明日、川越の自宅に送るそうだから、学校の帰りに寄ったら良いでしょ。』

 

リズの言葉に納得するしかなかった...

 

ーリズさん、アスナさんからですか?代わって下さいー

 

直葉ちゃんの声がすると、直葉ちゃんが電話に出た。

 

『せっかくの、好意ですが、アスナさんの訪問は遠慮して下さい。』

 

直葉ちゃんの言葉は、私の訪問への拒絶だった。

 

「どうして?私は、キリト君の恋人だよ?私が行くのは当然の権利じゃない。」

 

そう言うと、直葉ちゃんは、

 

『その恋人さんは、今日何をしていたんですか?お兄ちゃん、今日はアスナさんとデートだって言ってました。なのに、なんであんなに早く、お兄ちゃんは帰宅しようとしてたんですか?』

 

その言葉に、私は口が開けなかった。そうだった。今日、本当なら私はキリト君とデートをしていたはずだ。

そういたら、その時間、その場所にキリト君が居合わせることもなかった。

 

『それだけじゃない。お兄ちゃん。病院に搬送された後、しばらくは生きてたんです。死に抗って...お医者さんが言ってました。お兄ちゃんを生に繋ぎ止めてるのは、意志の強さだろうって。お兄ちゃんの大切な人達の応援する声が、今は一番必要なんだって。私、それを聞いて、皆に連絡しました。皆、直ぐに来てくれたんです。クラインさんやエギルさんなんて、仕事を早退や、お店を閉めてまで、駆けつけてくれました。なのに...』

 

『お兄ちゃんにとって、一番大切な人であるはずの貴方だけが、連絡がつかなかった。お兄ちゃんが、必死にがんばっているときに、貴方は一体何をしていたんですか?』

 

『夜9時頃、お兄ちゃんの容態が悪化して、皆で貴方に電話しました。せめて電話ごしででも、貴方の声を届けられたらって。でも、貴方が連絡してきたのは、全てが手遅れになってから...』

 

『私は、貴方をお兄ちゃんの恋人だなんて認めない。恋人が大変な時に側寄り添うこともしない人なんて認めない。訪問も、弔問も必要ありません。もう、私達には関わらないで下さい。』

 

直葉ちゃんは、そう言うと電話を切ってしまった。

 

私は、しばらく動くことも出来なかった。直葉ちゃんの言った事は正しい。私は...私には、キリト君を助ける機会が少なくとも2度あった。

 

一度目は、デートに誘った時。2度目は、キリト君の呼ぶ声に、パーティーを中座して落ちようとした時。

 

どちらも、状況に流されて自分の意思を曲げて、ユウキ達に付き合った。

 

その、状況に流される自分は、SAOに捕らわれる前の、母のいいなりになっていた自分と何も変わらない。

 

過去の自分には、戻りたくない...

 

そう、思っていたはずなのに...

私は、あの城で変わったはずだったのに...

 

その、流される考えが、自分にとって一番大切な物を失わせてしまった。

 

うぅっ...ううっ...うああああああ...

 

その夜、私はずっと泣き続けた...




処女作品とはいえ、よくこんなの書けたな...
今は書けないと思う(笑)


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3

気が付くと、空が白くなってきていた。

 

もう夜明けか...

 

今朝は、父と母が揃っての朝食だ。兄は出張でいないけど、久しぶりに家族で食べられる日。

 

でも、行きたくない。何もしたくない...

 

お母さんが、私を呼ぶ。私の意思とは関係なく、足が動く。

こんな時でも、母の教育は、私の身体を支配しているのか...

 

居間に到着すると、苛立ちの混じった声で話しかけてきた。いつもの小言だ。

 

「何をしていたの。時間になったら、直ぐに来なさいと、何度言えばわかるの?今度、同じ事があったら、あの機械、取り上げますよ?」

 

お父さんは、取りなそうとしてくれたけど、私の顔を見て、途中で止まった。

 

そして、心配そうな声で聞いてきた。

 

「ど、どうしたんだ。明日奈。目が真っ赤に腫れてるじゃないか。何か、あったのかい?」

 

私は、昨日の事を思いだし、また涙が出てきた。止まらなかった。

 

「昨日、キリト君が...桐ヶ谷和人君が...トラックに跳ねられて...」

 

私は、その先を言えなかった。でも、お父さんは何となく察したみたいで...

 

「そうか。それは辛かったね。今日は、学校を休んで良いから、彼の所に行ってあげなさい。」

 

そう言ってくれた。

 

でも、お母さんは、それに反対した。

それどころか、私にとって、許せない...許しちゃいけない言葉を発してきた。

 

「何を、言ってるんですか。あなた。只でさえ、勉強が遅れてるのに、この上、学校を意図的に休ませるなんて...私は、許しません。確かに、桐ヶ谷君は気の毒ですが、明日奈の事を思えば、良いキッカケにりました。これで、明日奈も心置きなく、勉強に集中できるでしょうし、相応しい相手も見つけられるでしょう。」

 

その言葉に、父は言い過ぎだと、口論していたようだけど、私はそれを聞いているところではなかった。

 

イマ、ナントイッタ?キリト君ガ、シンデヨカッタ?

 

この人は、何を言っているんだ?

 

人が...それも娘の大事な人が死んで、喜ぶような親がいることが信じられなかった。

それが、自分の血の繋がった母であることが許せなかった。

この人には、人の心が無いのだ。そう確信した。

 

私は、逃げるようにそこから離れ、部屋に戻った。

 

悔しい。あんな人のいいなりになってきた自分が許せない。

 

何故、あんな人に反抗もできないのか?

少なくとも、SAOで生きてた、閃光のアスナなら、あの程度の人間に言い返せないなんて事は、無かったはずだ。

 

キリト君...会いたいよぅ。私を一人にしないでよぅ...

これから、私はどうしたら良いの?

 

あの人のいいなりになって、人形のように生きて、愛した人でも無い、薄っぺらな人と結婚させられて...そんなの...全然幸せじゃないよ。

 

 

もう一度、あの頃に戻りたい。なんのしがらみも無い、あの城でキリト君と...

 

ーキリト君が、帰ってこなかったら、私自殺するよ。もう、生きてる意味無いし、ただ待ってた自分が許せないものー

 

アインクラッドでの事を思っていた時、ふとそんな言葉が浮かんできた。

 

その言葉は、かつての自分が言ったものだ...

 

ハハハ...なんだ...こんな簡単な事だったんじゃない。

 

結城明日奈では、ダメだったんだ。閃光のアスナなら、この状況でどうしたら良いかなんて、即決していた。

 

そうだよ。キリト君がこの世界にいないなら、私がこの世界にいる意味なんてない。

私も、彼を追わなきゃ...

 

その為に、準備をしないと。周りに気付かれたら止められる。

 

準備が、整うまでは結城明日奈として過ごすさなければ。

 

それから3日、私は結城明日奈として、ふるまった。プローブは、キリト君の持ち物だから、リズに預けた。リズに預けるまでの登校中、ユウキはかなり心配してたみたいだけど、それからユウキには会っていない。

 

周りの皆は、心配してたけど、気丈に振る舞っている私だと勘違いしてくれたみたいだ。

リズに気付かれないかは、ちょっとヒヤヒヤしたけど、リズも平然じゃなかったみたいで、私の変化には気付かれずにすんだ。

 

遺書も残した。あの女、結城京子への意趣返しにもなる内容にしたし、ちょっとは溜飲が下がった。

 

あとは、ユウキには教えておこう。彼女なら私を止める手段は無いし...もう、準備も終わってるから。

 

私は、ALOでユウキを呼びだした。

 

「アスナ、心配してたんだよ?もう大丈夫なの?あれから、アスナはログインしてなかったし、ボクはここでしか会えないから。」

 

「心配してくれて、ありがとね。ユウキ。今日はね、あなたにお別れを良いに来たの...」




今読み返すと、本当に酷い話だなぁ...


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4

今回はユウキ視点


楽しかった。ここ数日、ボクは楽しかったんだ。

 

ALOでアスナを誘って、ボク達の名前を残せた。

キリトが開発した、プローブを使って

夢だった学校に通うこともできた。

 

でも、その終わりはキリトの死をキッカケに唐突に訪れた。

 

その日、いつものようにプローブに入ると、泣き張らしたアスナの顔にぎょっとした。

 

アスナはキリトが交通事故で亡くなったことを教えてくれた。

 

昨日、そんな事があったなんて...ボクが強引にアスナを誘ったのが悪かったんだ。

 

ボクは、その事をアスナに謝罪した。でも、アスナは気丈に振る舞って、許してくれたんだ。

結局、決めたのは自分だからって。

自分を責めていた。

 

学校に着くと、アスナはリズにプローブを預けてきた。これは、キリトの物だから、キリトの家に行ったら、返してほしいって。

 

自分は、キリトの妹に拒絶されてるから、行くことができないって...

 

リズは、アスナを説得して一緒に行こうと誘っていたけど、アスナは頑なに自分は行けないって言っていた。

 

それから、数日経った。

 

ボクはあのプローブが無ければ、このALOでしか、アスナに会えない。

心配だけど、励ましてあげることもできない。

 

ボクは、無力だ。

そんな、思いでぼーっと過ごしていると、アスナからメールが来た。

 

今、ログインしてるから会えないか?って。

 

良かった。ようやく元気になったんだね。

 

ボクは、急いで待ち合わせの場所へ飛んで行った。

 

そこに、アスナはいた。

「アスナ、心配してたんだよ?もう大丈夫なの?あれから、アスナはログインしてなかったし、ボクはここでしか会えないから。」

 

ボクが、声をかけると、

 

「心配してくれて、ありがとね。ユウキ。今日はね、あなたにお別れを良いに来たの...」

 

アスナは、信じられない事を言ってきた。

 

「お別れってどういうこと?もしかして、アスナALOを辞めちゃうの?」

 

ボクが、そう聞くとアスナは笑ってそれを否定した。

 

「違うよ?確かに、このままだとお母さんに辞めさせられそうだけど...。あのね。ユウキ。私、キリト君の所へ行かなきゃ行けないんだ。」

 

その言葉に、ボクは驚いた。

 

「な、なに言ってるんだよ。キリトは、もう死んじゃったじゃないか。」

 

ボクは、アスナが壊れてしまったのかと思った。もしかして現実を否定して、幻を見てるんじゃないか。

 

だったら、ボクが彼女を現実に連れ戻さなきゃ。例え、彼女に嫌われるとしても、ボクは、彼女に現実を突きつけた。

 

「うん。知ってるよ。だからね?私も彼の所へ行くんだ。」

 

知っている。アスナはそう言った。予想外の言葉だった。

キリトの死を認識していて、キリトの元へ行く...その言葉の意味は...

 

「まさか...アスナ、まさか君、自殺する気じゃないよね?」

 

そんなのダメだ。

 

「え?もちろん、自殺するつもりなんだよ。だって、キリト君がいないんだもん。こんな世界に生きていても、意味なんて無いからね。」

 

彼女は、当然のように答えた。

 

ふざけるな。自分で自分の命を終わらせるなんて、ボクらに対する、冒涜じゃないか。

 

「ダメだよ、そんなの。そんなの間違ってる。自殺なんて、ボクらみたいに、長く生きられない人達にとって、最大級の裏切り行為だよ。」

 

ボクは、アスナを止めようと必死で言葉を紡いだ。でも、ボクの声は届かない。

 

「裏切るもなにも、私はスリーピングナイツの仲間じゃないんだよ?ユウキ。貴方、何か勘違いしてないかな?私は、貴方達に誘われて、ボス戦に協力しただけ。決してスリーピングナイツの一員になったわけじゃないよ?貴方達は、あくまでフレンドの一員。私の仲間は、SAOで苦楽を共にしたキリト君達なのよ?」

 

アスナが、ボクらをそんな風に見てたなんて。ボクは、とっくにアスナはボクの仲間だって思ってたのに。ボクだけの思い込みだったのかな?

 

それでも...それでも、自殺だけは許せない。なんとか、止めさせないと。

 

「だとしても、自殺するなんて間違ってる。なにより、キリトだって、そんな事望んで無いはずさ。」

 

「確かに、そうだと思う。でもね、間違っていても構わない。キリト君が望んでない事もわかるけど...キリト君は私を責められないだろうしね。」

 

苦笑しながら、答えるアスナに、何故、キリトが責めないと思うのか聞いた。

 

「だって、立場が逆ならきっと...キリト君も同じ事をしたはずだから。」

 

アスナは、笑いながらそう言った。

ボクは、キリトの事をよく知らない。だから違うとも言えない。

 

「そ、それなら、家族はどうするの?アスナの親や兄弟は?きっと悲しむはずさ。」

 

ボク話に、アスナは冷笑を浮かべた。

 

「私の家族?お父さんや兄さんには、多少悪いと思うけど、あの女にはちょうどいい意趣返しになって、むしろせいせいするわ。」

 

「あの女?もしかして、お母さんのこと?ダメだよ。アスナ。お母さんをそんな風に呼んじゃ。」

 

「あの女はね、キリト君が死んだ事を『良かった』...そう言ったのよ?...信じられる?キリト君が悪い事をしたわけでもないのに...私は、そんな人が自分の母親だなんて信じられないわ。」

 

「そ、それは...」

 

何も、言えないボクにアスナはため息をひとつして、話を続けた。

 

「あのね、ユウキ?私は、自殺を止めてもらうために貴方に会いに来たわけじゃないの。お別れのあいさつとお礼を言いたくて来たの。」

 

お礼?あのとき、ボクが強引に誘わなければキリトが死ぬことも無かったかもしれないのに?

 

「ユウキ。私ね、今回のことで良くわかったんだ。流されてばかりの人生なんて、後悔しか残らない。本当に大切な人の側にいるために遠慮なんてしちゃいけない。そのためには、自分の意思を貫く強さがいるの。かつての自分にはあった。今の私が無くしてしまったもの。ようやく取り戻せたんだ。」

 

「だから、ありがとう。それと、これで会うのは最後になるからね。皆には、よろしく言っておいて?」

 

アスナは、もう話をおわりにしようとしている。

ダメだ。このまま行かせたら取り返しがつかなくなってしまう。でも、アスナを思い止まらせる言葉が浮かばない。

 

「アスナ、嫌だよ。ボクと一緒にいて。」

結局、自分の思った言葉を出すしか無かった。駄々っ子のように。

 

「ユウキ。私はもう、貴方の言葉では止まらないわ。もう後悔はしたくない。私にとっての一番は、キリト君の側にいること。そのための行動に、もう躊躇いも恐怖も無い。だから、サヨナラ...ユウキ。」

 

そう言って、アスナはログアウトしていった。

現実世界に行ってしまったアスナにボクが出来ることはない。

 

ボクは、そのまま泣き崩れた。




ユウキ厳しめ...


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5

ユウキとお別れし、私は自分の部屋に戻っていた。

 

少しの間、私は何も手に付かず、ぼーっとしていた。

 

ユウキには酷い事を言っちゃった...

 

少し、罪悪感があった。

ゴメンね。ユウキ。

 

伝わらないのは、わかっているけど、私は、心の中でユウキに謝った。

 

リズ達には、明日一斉に送信される遺書を残している。皆、怒るよね。きっと。

 

でも、もう決めたんだ。キリト君の後を追うと。

 

このまま、キリト君のいない世界に生きる事なんて、私はできない。

 

このまま、彼を思い、彼に操を立てて生涯を一人で生きていけるならまだ良い。

 

でも、それをあの人は、許しはしないだろう。

 

この後の人生に、私は不幸しか感じられないだろう。

 

だったら、彼のあとを追う事が、私の一番良い選択になるはず。来世では、必ずキリト君と添い遂げて見せる。

 

この思いは、きっと来世に持っていける。

そう信じた。

 

さてと、もう思い残すことも、やり残したことも無いよね。

 

私は、引き出しからあるものを取り出した。

大量の睡眠薬だ。キリト君の後を追うと決めたその日に、ネットで違法取引されているものを購入した。

 

私は、それをコンビニで受け取り、今日まで持ち歩く事でその存在を隠してきた。

 

キリト君...貴方を愛しています。今までも、そしてこれからも、ずっと。

 

そう言って、私は薬を全て服用した。

 

その後すぐに、アミュスフィアを装着した。

 

「リンク、スタート」

 

そう、私は、自分の最後にいる場所を決めていた。

それは、私たち、キリト君、私、ユイちゃんのホーム。

 

私は、ログインすると寝室に向かった。

ベッドの上には、ユイちゃんのアバターが横になっていた。

 

ユイちゃんは、もう何を話しかけても反応を示さない。

 

そう、ユイちゃんはあの日、あの時に壊れてしまっていたのだ。

 

いや、死んでしまったと言った方が正しいのかも知れない。AIである彼女にとっては、情報に答えないという状態は、生の放棄に等しいだろう。

 

私が、それを知ったのは、ユウキと別れる為にログインした時だ。

 

それまで、ALOにログインしていなかったし、キリト君の家にも行けなかったから、ずっとユイちゃんと会っていなかったのだ。

 

ずるいな、ユイちゃん。先にキリト君の所へ行ったんだね。ママも、これから追いかけるからね。

 

待っててね。ユイちゃん。キリト君。

 

私は、ユイちゃんのアバターの体を抱き締めながら眠りについた。

 

これで、もう私はキリト君の所へ行ける。

 

キリト君と生きる人生は、ほんの短い間だったけど、とても輝いていたな。

 

こんな終わり方だったけど、私は何故か満ち足りた気分だった。

 

私は、この死に対して希望を抱いているから。

 

さよなら、父さん、兄さん。

さよなら、リズ。それに皆。

あんな別れになってゴメンね。ユウキ。

 

キリト君、今いくよ...

 

そうして、私の意識は、途絶えた...

 



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気が付くと、私は不思議な空間にいた。

そこには、小さな事務机と椅子があった。

 

そこには、背中に翼の生えた、女性が座っていた。

 

「待っていましたよ。結城明日奈さん。私は、日本において、若くして死んだ人間を導く女神、アクア様に仕える天使です。」

 

その女性はそう名乗った。

 

そうか、私はちゃんと死ぬことができたんだね。

 

「自分の状況は理解しているみたいですね。話が早くて助かります。結城明日奈さん、貴方にはこれから選択肢を与えます。その選択肢は三つ。」

 

天使と名乗った女性は、そう言うと選択肢について話始めた。

 

「一つは、人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むこと。もう一つは、このまま天国へ行くこと。」

 

うん。私は生まれ変わりを選ぶ。きっとキリト君もそれを選んだハズだから。

そう思って、それを口にしようとすると天使様の話に続きがあった。

 

そう言えば3つって言ってたっけ...

 

「そして、最後の一つはある異世界への転生です。そこは、魔王によって危機に瀕しているのです。そこで死んだ方は、生まれ変わる事を拒否する方が多く、このままでは世界その物が滅亡してしまいます。そこで、こちらから希望者には、今の記憶を引き継いで向こうに転生させる事が神々の取り決めで決まりました。」

 

???

え?何を言っているの?

他の世界への転生???

 

それって、アインクラッドみたいな世界で生きるみたいな事かな?

 

「もちろん、全ての死者に対してこれを行っている訳ではありません。そんな事したらこちらの世界が滅亡しちゃいますからね?」

 

「貴方は、特殊な形で選ばれました。本当は、自殺したような方は、問答無用で生まれ変わらせるのが取り決めなのですが、少し前に、ここにやって来た方には、どうしても向こうへ行ってもらいたくて、その方が出した条件の為に貴方は選ばれたのです。」

 

私は、その話を聞いてピンと来た。

 

「その人は、桐ヶ谷和人君ですね?」

 

私の問いに天使の女性はニッコリと微笑んだ。

 

私は、涙を止められなかった。キリト君。

君は、死んだ後でも、私を思ってくれてたんだね。うれしいよ。

 

私の選択肢は、もう決まった。

キリト君が、異世界へ行ったなら私も行く。それだけだ。

 

私は、それを告げると、その天使は特典を与えると言ってきた。

 

キリト君が、どうしたのかを聞くと、SAOとALOのアバターデータをもとに身体を構成する事を特典にしたらしい。

それなら、同じで良いだろう。始まりの場所は皆同じだそうだから、安心して行ける。

 

手続きは完了したようだ。すると、私の足下に青く光る魔方陣が現れた。

 

「結城明日奈さん、これから、あなたを異世界へと送ります。願わくば桐ヶ谷和人さんと協力して、魔王を討伐してください。魔王を討伐した暁には、どんな願いもたった一つだけ叶える権利を差し上げましょう。」

 

私は、明るい光に包まれた。

 

気が付くと、私は石造りの街中にいた。本当に来ちゃったんだ。異世界。

 

こうしては、いられない。早くキリト君を探さないと。

 

私が、そう思ったその時、私がずっと聞きたかった、大切な人の声が聞こえた。

 

「アスナ」

 

私は、その声に振り向くと泣きながら声の主に抱きついた。

 

「キリト君。会いたかったよ。キリト君。うぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 

キリト君は、私をしっかりと抱き締めてくれた。

 

それから、どれくらい時間が経ったろう。私が落ち着いたころ、キリト君の肩に見知った妖精が止まっている事に気づいた。

 

「ママ、会いたかったです。とっても」

 

そう言って、私の方に飛んできた。

ユイちゃんも、こっちに来てたんだね。良かった。

 

「ユイちゃん、私もだよ。会いたかった。」

 

再会の余韻に浸る私にキリト君は声を遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「アスナ。これからのこともあるし、とりあえず俺が泊まっている宿へ行こう。」

 

これから...そうだね。これからはキリト君とユイちゃんと三人でずっと暮らして行けるんだね。

 

私は、これからの未来に希望を感じ、キリト君と手を繋いで、宿へと足を運んだ。




はい。
つまり、この後投稿予定のこのすばとのクロスオーバー作品の序章だったんですね(笑)

ネタバレを控えるために、クロスオーバーやこのすばのタグは付けませんでした。

申し訳ありません。

この後、外伝を先に投稿予定。
他のキャラの視点による、この話をお楽しみ下さい。


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マザロザifのあとがきと、アスナの遺書について

皆さん、こんにちは。アークと申します。

 

この度は、私の妄想にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

 

この作品は、原作七巻のマザーズロザリオのif作品になります。

 

あの話におけるアスナは、ちょっとイラっとしたんですよね。

ユウキにべったりだったし、キリトよりユウキって感じだったからね。

もちろん、川原先生はそのつもりで書いた訳ではないんでしょうが、読んでいてそんか感想を抱いた訳です。

 

で、アスナには一番大事なものはなんだったか思い出してもらおうと、こんな話を妄想してみました。

 

一応、言っておきますが作者はユウキは単体では嫌いではありません。

 

短い生を精一杯生きる姿勢は、賞賛されるべきものでしょう。

 

むしろ、アスナの方に問題がありました。

 

はっきり言って、あの母親との確執はリズに相談するだけで解決したんじゃないかな?

 

ユウキって出る意味あった?とか、話の展開についていけませんでした。

 

さて、ここからは本編の補足を少々。

 

ユイについてですが、キリトの心停止にともない、アインクラッドで蓄積していた絶望がフラッシュバックし、今回の事と同時にユイを襲いました。

 

ユイは完全に壊れてしまい、プログラムそのものが消滅してしまった...という設定になっています。

ですが、真のAI として覚醒したユイには魂が存在したんですね。ちょうど九十九神みたいな感じ?

 

なので、キリトの魂と共に、例の場所へ付いていけたんでしょう。

天使はビックリしたのではなかろうか。 

 

キリトに関しては、外伝で書くつもりではいるので、お待ちください。

 

リズ達についても同様に、考えておりますので、お待ちください。

 

え?京子さんですか?

彼女は、愛していた娘が自殺した事で、幸せとは何か、考えなおしてるハズです。

もしかすると、大学の仕事も辞めちゃったかもしれませんね。

彼女は、自分の価値基準を押し付けてはいましたが、娘の不幸を望んではいませんでしたからね。

 

一応、明日奈が家族に宛てた遺書もふわっと考えていたんで紹介します。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

お父さん、兄さん、先立つ不幸をお許し下さい。

私は、キリト君の後を追うことにしました。

この世界には、私の幸せは存在しません。

 

キリト君が亡くなった次の日、お母さんがキリト君の死に対して良かった、そう言った時に確信しました。

この人は、私の気持ちなんて考えていない。

私が、何に喜びや幸せを感じるか知ろうともしない。

このまま、生きていてもお母さんが決めた学校に行かせれ、お母さんが決めた相手と結婚させられる。

そんなの、私には絶望でしかない。

 

そうなる位なら、私は愛した人を、追いかけることにしました。

この世界に絶望しかないのなら、この世界に未練はありません。

 

最後になりましたが、お父さん、キリト君。認めてくれていたよね。ありがとう。

兄さん。ナーブギアの事、いつまでも悔いに思っているみたいだったけど、私は、アレのお陰でキリト君に会えたんだから、感謝こそしても、決して恨んでなんかいないからね。

 

お母さん、私の幸せは私のものです。貴方が決めるものではありません。

この行動は、貴方への最後の反抗だと思って下さい。

 

それでは、皆さん。お元気で。さよなら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

と、こんな感じ?

 

リズ達には、それぞれに対して感謝と、勝手に自殺する事へのおわびを送ってるんじゃないかな?

特に直葉には、責任感じないように、自分がどうして自殺するのか詳しく書いてるんじゃないかと。

 

それでは、最後に

改めて、私の作品を読んで頂いてありがとうございました。

 

私は物書きところか、文章なんて感想文くらいしか書いたことも無い、ど素人ですので、おかしなところは多々あると思いますが、そこは皆さんの想像力でカバーしていただけると助かります。

 

読んで頂いてありがとうございました。

 

アーク

 



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マザロザif 外伝1リズ その1

私が、その報せを聞いたのは学校から帰って、しばらく経ってからだった。

 

くそー。明日奈めー。しばらく、おとなしくしていたと思ったら今日は、幸せオーラ出しまくってたな。周りの迷惑を考えろっての。

 

今日は、明日奈はキリトと久し振りにデートをすると朝からそれはもう幸せオーラを出していた。

 

正直、ユウキと会ってからアスナは、ユウキにかまけてキリトを放っているように見えていたから、心配していたんだけど、どうやら杞憂で済んだようだ。

 

それでも、幸せオーラで周りを圧倒するのは止めてもらいたかったが...

 

私は、苦笑しながらのんびり過ごしている

と、直葉から電話がかかってきた。

 

きっと、まだキリトが帰って来てないから、どこにいるか聞きたいのかな?

 

残念ながら、今日は明日奈とデートなんですよー、なんて気楽に私は電話に出た。

 

『もしもし、リズさんですか?お兄ちゃんが、お兄ちゃんが今日の帰りにトラックに轢かれて、意識が戻らないんです。』

 

私は、何を言われてるのか、すぐには理解できなかった。

 

キリトがトラックに轢かれた?だって、今日は明日奈とデートしているはずだ。そんなハズないじゃないか。

 

『リズさん、今からこちらに来れませんか?川越の○○病院です。お兄ちゃんを助けるには、お兄ちゃんの友人や家族の励ましの声が何より薬になるってお医者さんが言ってたんです。だから、お願いします。』

 

私は、すぐに言われた病院に駆けつけた。私が、着いた頃にはエギルがクライン...それにシリカやシノンもキリトを慕っている仲間達がすでに到着していて、必至にキリトに話しかけていた。

 

キリトは、全身を包帯で覆われ、酸素マスクを付けてベットに横たわっていた。一目で、重症だとわかった。

 

私に気づいた直葉が声を掛けてきた。

 

「リズさん、来てくれてありがとうございます。それと、明日奈さんがどうしてるか知りませんか?明日奈さんだけ連絡が付かなくて。」

 

私は、明日奈がそこにいない事に初めて気づいた。

 

おかしい、明日奈は今日キリトとデートに行っていたはずだ。

 

だったら、この場にいないのは不自然だ。

私は、慌てて明日奈に電話を掛けるが繋がらない。

 

もしかして、一緒に事故に巻き込まれたのではないか?そんな不安が頭をよぎる。

 

でも、それは無いらしい。キリトは、道路に飛び出した少女を救う為に飛び込み、キリトだけがトラックに轢かれたのだそうだ。

 

だとしたら、明日奈はどこにいるのだろう。

 

いや、今はキリトを励ますが先だ。私も、キリトの励ましに加わった。

 

それから、どれくらい経っただろう。

時刻は夜の9時を廻っていた。その時、キリトの指が少し動いた。

 

キリトは今、懸命に生きようと頑張ってる。

でも、私達の声に覚醒する気配はない。

 

明日奈、今こそ明日奈の声が必要だ。電話ごしでも良い。

お願い。明日奈。電話に出て。

私達は、交代で明日奈に電話を掛けたが繋がらない...それから30分後、キリトは息を引き取った...

 

「キリトー。何でだよ。何もかもこれからじゃねぇか。なんで、おまえが逝っちまうんだ。アスナはどうすんだよ。なぁキリトよぉ。」

 

クラインは怒ってるのか泣いてるのかわからない声でキリトに話しかけていた。

エギルは、静かに泣いていた。

 

そして私達は、なにも考えられず放心していた。

 

間に合わなかった...なんで、どうして...

 

それからしばらくすると、明日奈から電話が掛かってきた。

もう、遅い...私は、電話に出る気力が沸かなかった。それは皆も同じだった。

 

エギルだけは、なんとか明日奈の電話に出ることが出来たようだった。

そして、明日奈にキリトの訃報が伝わった。

 

明日奈は、最初信じなかったようで直ぐに電話を切ったみたい。

 

私が、アスナの親友の私が伝えないと。

そこから、明日奈とどんな会話をしたのか私は覚えていない。

 

ただ会話の途中で、直葉が明日奈を罵倒していたのは、覚えてる。

 

私は、止められなかった。その言葉は、私も少し思ってしまった言葉だったからだ。




外伝投稿開始。
まずはリズから。


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マザロザif 外伝1リズ その2

その日は、そのまま解散となった。

家族以外は、病院に泊まれないのだそうだ。

 

皆、渋ってはいたが、翠さんの説得で仕方なく家路についた。

 

あれから、明日奈からの電話は来ていない

。私も掛けなかった。冷静にならないと、私も明日奈に酷いことを言っちゃいそうだったから...

 

次の日...ほとんど眠れていないが学校に登校した。

 

明日奈は、今日は休むんだろうなぁ。

なんとなく、そんな事を考えていたが予想外に明日奈は登校してきた。

 

私には、一も二もなく駆け寄って声を掛けた。

 

「明日奈、大丈夫なの?」

 

言い終わる前に、気付いた。明日奈の目は真っ赤に充血して腫れ上がっていた。

 

そうだよね。大丈夫なハズ無いよね。

 

私は、明日奈を抱き締めた。

 

明日奈は、やんわりと手をほどくと、まだ、泣き後の残る顔で微笑んだ。

 

"ありがとう。リズ...。私は、大丈夫だから"そう言っていた。

 

私は、何か違和感を覚えたけど、心配かけないように気丈に振る舞っているんだろう。

 

...そう思った。

 

今、思えば、この時感じた違和感を、もっと考えていたら...誰かに相談していたら、後の悲劇を止められたのかも知れない。

 

学校に到着すると、明日奈は私にプローブを預けてきた。自分は、キリトの家に行けないから代わりに返して来てほしいと言っていた。

 

その日の一時間目は、急遽、全校集会が開かれキリトの事故について発表があった。

 

皆、明日奈の方に目をやっていた様に思う。キリトと明日奈の仲は有名だったから。

 

その後は、特別話すような事もなく、放課後となった。

ここぞとばかりに明日奈を慰めてお近づきになろうなんて、馬鹿な男どももいたが、私が、睨みを効かせて退散させた。

 

私は、桐ヶ谷邸に行くために今は電車に乗っている。

明日奈も誘ったが頑なに拒否された。

仕方なく、シリカと途中で合流したシノンと3人で向かった。

 

現地に到着すると、直葉が出迎えてくれた。

私達を見回して、明日奈がいないのを確認すると、中へ入れてくれた。

まだ、明日奈を許していないんだな。そう感じた。

 

私は、明日奈から預かったプローブを直葉に渡し、キリトの遺体がある部屋に招かれた。

 

明日には、火葬場へ行くそうなので今日がキリトを見る最後の日となる。キリトはもう話さない、笑わない。動かない、そう思うと私達は、また泣いてしまった。

 

次の日の放課後、私は明日奈を誘ってダイシーカフェへ向かった。火葬場なんて逝きたく無かったし、私の方も少し気持ちが落ちついたから、あの日、明日奈が何をしていたのか聞こうと思ったのだ。

 

明日奈も落ち込んでいるのは解っていたし、話せば少しは楽になるだろう。そう思った。

 

ダイシーカフェに付くと、クラインが仕事をサボって飲んだくれていた。

 

カウンターに突っ伏して寝ているようだった。

 

私たちは、テーブルに付き注文をした。

エギルは、明日奈を心配そうに見ながら今日は金は良いからゆっくりしていけ。そういってくれた。

 

私は、意を決して明日奈にあの日何をしていたのかを聞いた。

明日奈は、自嘲気味に話してくれた。

 

「あの日ね、ユウキに誘われてずっとALOにログインしてたんだ。ユウキがどうしてもって言って私、断りきれなくて...」

 

私は絶句した。キリトが大変な時にユウキと遊んでいた。その事実に暗い感情が溢れてくる。

 

明日奈のせいじゃない。明日奈はキリトがそんな状態だと知らなかったんだから...だから仕方ない。わかっていても、私は感情が押さえられなかった。

 

私が、明日奈を詰問しようとした時、カウンターで寝ていたハズのクラインが、声を掛けてきた。どうやら、寝たフリをして聞き耳を経てていたようだ。

 

「じゃあ、何か?アスナ、おめぇ、キリトが大変な時に呑気に遊んでたってのか?冗談だよな?ウソだと言ってくれよ。なぁ。」

 

明日奈は、表情を変えずに答えた。

 

「ウソじゃない。直葉ちゃんの言った通りなの。私は、私には、キリト君を助ける機会が2度もあった。なのに、両方とも私が優柔不断なばっかりに、その機会を失ってしまった。」

 

明日奈の話しでは、九時頃...キリトの声を聞いたのだそうだ。胸騒ぎを感じて一度、ログアウトしようとしたが、ユウキに止められて、結局ログアウトしたのは10時になったのだと言う。

 

それを聞いた時、クラインは明日奈にどなり散らした。

 

「ふざけんな。そりゃあ、つまりアスナはアイツの助けを呼ぶ声を聞いて、敢えて無視したみてぇじゃねえか。アスナ、俺は昔あんたにキリトの事をよろしく頼むって言ったよな。お前、任されたって言ったじゃねぇか。なんで、なんでこんな事になったんだよ。なぁ。」

 

見かねてエギルが、クラインを止めに入った。

「落ち着け、クライン。アスナも、こいつは酔っ払いだ。本心で言った訳じゃねえ。今、言ったことは気にするな。」

 

そう言って、私達を店から出してくれた。

 

明日奈が心配になり、声を掛けようとすると、昨日と同じ顔で同じ台詞を言ってきた。

 

「私は、大丈夫だから。心配しないで。リズ。」

 

そう、言われてしまえば、こちらからは何も言えない。

私は、後味も悪く明日奈と別れて帰路についた。



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マザロザif 外伝1リズ その完

次の日、明日奈は学校に登校して来なかった。

 

昨日、クラインにあんな事言われたら、そりゃあ落ち込んで来れるわけないか。

 

朝の出席確認でそんなことを考えていた。

 

時間は経ってお昼休み。シリカとランチをしていると、昨日の話になった。

 

「そう言えばリズさん、昨日は結局エギルさんのところに行けたんですか?アスナさんから話しは聞き出せました?」

 

シリカの質問に、私は、昨日あった顛末を伝えた。

 

シリカは、少し考え込みながら、

 

「クラインさんが、怒るのもわかります。もしかしたら、私もその場にいたら、アスナさんに詰めよっていたかもしれません。」

 

クラインに、同意するような事を言うが、しかし、

 

「でも...アスナさんは辛いですよね。自分の行動によっては、キリトさんを救えたかも知れないなんて...」

 

アスナの気持ちを考え、悲しそうに言った。

 

私は、その言葉を聞いた時、ここ二日のアスナの様子を思い出して、おかしいと思った。

 

そうだ、明日奈は誰よりも辛いハズなんだ。

 

自分の恋人が...それも、アスナの全てとも言えるキリトが亡くなって、辛くないハズがない。

 

確かに、悲しんではいた。落ち込んでもいた。それは間違いないだろう...

 

でも、私に『微笑んで』大丈夫だと言っていた。

 

おかしいじゃないか。私の知っている明日奈なら微笑む余裕なんてあるはずがない。

 

それこそ、取り乱して自殺してもおかしくない.........く...ら...い...っっっっ!!!

 

まさか...!?

そういうことか...。

そういうつもりだったのか...。

 

私は、血の気が引いていくのを感じた。

シリカが、私の異変に驚いているが、今はそれどころじゃない。

 

私は、慌てて明日奈に電話をかけるが何度電話をかけても繋がらない。

 

嫌な予感がする。私は、いても立ってもいられず、学校を早退して明日奈の家に向かった。

 

明日奈、早まっちゃダメだよ。あんたの死なんて、キリトは望んじゃいない。

 

明日奈の家に着くと、ハウスキーパーの女性が顔を出した。私の事は、明日奈の友人ということを覚えてくれていたようだ。

 

そこで、明日奈の所在を尋ねた。

今は、部屋にいるとのことだった。

 

私は、急いで部屋へ向かった。私の様子にただ事じゃないと感じたのか、ハウスキーパーの女性も後に続く。

 

部屋に入ると、明日奈がアミュスフィアを付けて、横になっていた。

 

私は、安堵した。

 

でも、すぐに異変に気付いた。

机の上に、薬の空ビンが置かれている。

睡眠薬?

 

まさか!?

明日奈に視線を戻すと、明日奈は息をしていないように見えた。

 

ウソ...慌てて駆け寄ると、アミュスフィアの電源を切って、明日奈に声をかけるが反応がない。

脈を図ろうと明日奈の手を持つと...驚くほど冷たい...

 

...明日奈は、亡くなっていた...

 

それから、救急車を呼んだが蘇生はできなかった。

 

ハウスキーパーの人が明日奈の家族に連絡し、警察が捜査に入った。私は、第一発見者と言うことで、状況を詳しく聴かれたけど、捜査で明日奈の遺書が見つかり、自殺と断定された。

 

明日奈の家族がやってきた。

 

皆、悲しみ暮れていた。明日奈のお母さんも、明日奈が言うほど冷たい人間には見えなかった。

 

明日奈の遺書は、家族宛だったので、私は見てないが、明日奈のお母さんは、一番動揺しているように見えた。

 

それから、SAOでの仲間達や直葉に明日奈の訃報を伝えた。

 

皆、驚きと悲しみで一杯だったと思う。

クラインなんて、昨日あんな事言ったからだって、自分を強く責めていたけど、私は、違うと思った。

 

あの娘は、最初からこうするつもりだったんだって。

 

アスナならキリトを追って死ぬ事くらいやる。

そういう人間だって知っていたんだから。

 

私は、あの娘の一番の親友だったのに、気付くのが遅すぎた。

 

悲しみにうちひしがれながら数日が過ぎ、今日はキリトの葬儀の日。

 

葬儀には、学校の友人だけでなく、どこから聞きつけて来たのか、SAOでキリトに助けられた大勢の人が弔問に駆けつけてくれた。

 

キリトは、自分の事を誉められるようね人間じゃないって否定していたけれど、あんたの死を悼んでくれる人がこんなにいるんだよ?

 

あんたは、人に誇れるような立派な人だったんだ。

そう、キリトに言いたかった。

 

キリトの葬儀が終わると、図ったかのようにメールが届いた。

明日奈から?

 

それは、明日奈が親しい人それぞれに宛てた遺書だった。

律儀だね。ホントに。

 

リズへ。

 

このメールが届いた時、私はもう死んでいる事でしょう。

私の初めての親友であるリズに相談もせずにこんなことをして、ホントにごめんなさい。

 

私は、キリト君のいない世界で生きる事ができない。そう思いました。

私の行動で、大勢の人に迷惑を書けることになると思います。

でも、この気持ちだけは裏切りたくないから...

私は、キリト君の元へ行きます。

 

でも、これだけは信じてください。私は絶望して死ぬ訳じゃないんだって事を。

 

来世で...またキリト君に出会うために。そのために、私はキリト君を追いかけるの。

 

リズや皆に会えた事、とても嬉しかったし楽しかった。

 

私の大好きな親友のリズ。私は、貴方に会えて本当に良かったです。

 

最後に、来世で会ったらまたら友達になってくれると嬉しいな。

 

それでは、お元気で。

 

結城明日奈

 

 

周りを見れば、シリカも直葉、シノンも、エギルやクラインも泣いていた。

 

皆が、私に近寄ってきた。

「リズさん、今、アスナさんから...」

 

シリカが声を掛けてきた。

 

「わかってる。私にも来たもの。こんな時にまで律儀だね、あの娘は。」

 

勝手に死んだアスナに恨みごとが無いわけじゃない...

でも...

 

アスナ...キリトと仲良くね。

私は、ここ何日かの悲しみを振り払うように宣言した。

 

「私は、私はあの二人の後を追ったりしない。私の命は、あの城で、あの二人が命を懸けて救ってくれたものだもの。精一杯生きて、幸せになって、そして...あの二人を悔しがらせてやるんだから」

 

まだ、声が震えているけど元気一杯に宣言してやった。

 

でも、来世では私がキリトと恋人になってやる。

そこは覚悟してなさいアスナ...



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マザロザif 外伝2ユウキ その1

次はユウキ視点です。


なんで、こんな事になったのかな。

ボクは、ただアスナにボクを覚えておいてもらいたかっただけなのに...

 

アスナと別れてからもう1週間経った。

ボクは、あれからスリーピングナイツの皆とも一切会わずに、独りで過ごしている。

 

ここが何処なのかも、良くわからないけれど、ずっと空を眺めて過ごしていた。

 

考えるのは、いつもあの事。アスナに拒絶されて、アスナの自殺も止められなかった。

 

先日、確かキリトの葬儀が行われていた日、アスナからメールが届いた。

 

もしかしたら、思い止まってくれたのかと喜んだけど、すぐにそれは絶望に変わった。

 

メールのタイトルは遺書。

どうやら、時限式で送られてきたもののようだった。

 

 

ボクは、怖くてメールを開くことができなかった。

もし、中身にボクへの恨みや罵詈雑言が書かれていたら...そう思うと怖い...

 

神様は、どうしてボクをそんなに嫌うのかな?

 

ボクは、それほどまでに罪深い存在なのだろうか。

長く生きる事もできず、ようやく見つけた生き甲斐も奪われ好きな人には厭われ...

 

ボクはなんの為に生まれたのだろう。どうして生きているんだろう...

 

ふいに、声がかけられた。

 

「探しましたよ。ユウキ。こんな所で、なにをしているんですか?」

 

シウネーだった。ボクを探しに来たらしい。

でも、ボクは誰とも話したくなかった。

だから...

 

「放っておいてよ。ボクはもう誰とも関わりたくないんだ。ボクがそばにいると、皆不幸になる。だから、もうボクに関わらないで。」

 

ボクは、ボクの仲間を拒絶した。

 

大切な仲間を不幸にするなら独りで良い。

大切な仲間に嫌われる位なら独りが良い。

 

でもシウネーは...

 

「お断りよ。」

 

ボクの拒絶を拒絶した。

 

「ユウキ、貴方が嫌がっても、私達は、貴方を独りになんてしてあげない。貴方は私達が不幸になると言うけれど、私達は貴方がいない事のほうが不幸だもの。」

 

...本当は、独りになんてなりたくなかった。

気がつくと、ボクはシウネーの胸に飛び込んでいた。

 

ボクは、弱虫だ自分から、独りを望んだのに独りは嫌なんて。

ボクはおもいきり、泣いた。

姉ちゃんが死んだ時と同じくらい泣いたかも知れない。

ボクが、泣き止むまでシウネーはボクを抱き締めてくれていた。

 

それから、どれ位そうしていただろう。

ボクが落ち着いた頃、シウネーがこう言った。

 

「ねえ、ユウキ。その様子じゃ、アスナさんの遺書、まだ読んでいないんでしょう?」

 

ボクは、自分の気持ちを素直に伝えた。

アスナに直接拒絶された事。遺書にボクへの恨み言が書いてある気がして、怖いこと。

 

その間シウネーは、黙って聞いてくれていた。

ボクが、心のうちを話終えると、シウネーはボクの手を握ると、

 

「ユウキ、貴方の知っているアスナさんは、本当に、人に恨み言を言う人間かしら?それに、仮に、貴方の言う通りの事が書いてあったとしても、私達は貴方の味方です。世界中の誰もが貴方を批判したとしても、私達は貴方を守ります。だから、勇気を出してください。」

 

そう、言ってくれたんだ。

 

「シウネーは強いね。なんで、そんなに強くいられるの?」

 

ボクが聞くと、

 

「この強さは、貴方が私にくれたものなのよ?」

 

ボクは驚いた。だって、ボクは何もしていない。

 

いつも、能天気に遊んでいただけだ。そう思っていた。

 

「私はね...ユウキ...貴方と出会っていなかったら、きっともう、とっくに死んでいたと思う。貴方も知っていると思うけど、私は、今の病を患って3年になるわ。その間、いろんな薬や治療を試したけど、副作用がかなり厳しくてね。何度も諦めようと思った。どうせなら、残り短くとも安らかに過ごしたい。そう思っていたわ...。」

 

「そんな...。」

 

はじめて聞く話だった。シウネーがそんな弱音を吐いた所を見たことは無かった。

 

「でもね、ユウキと会う度に諦めちゃダメだって、私よりずっと年下の貴方が15年も、同じ苦しみと戦っているのに、それでも笑顔を見せる貴方に、私が挫けてどうするんだって。そう思った。私は貴方の笑顔に勇気を、強さを貰ったの。」

 

「だから、ユウキ。今、貴方に勇気が足りないなら、私が貴方に勇気を上げる。貴方が、私にそうしてくれたように。」

 

ボクは、もう一度シウネーに抱きついた。

嬉しかった。

 

こんなボクが、誰かに何かを与えることが出来るのだとわかって。

 

嬉しかった。いつでもボクに寄り添ってくれる仲間がいることに気付けて。

 

シウネーから勇気をもらったボクは、アスナの遺書を読む事を決めた。

 

例え、アスナの恨み言を聞くことになるとしても、今のボクは受け止められる。そう思った。

 

...そこには、ボクへの恨み言なんて一言も書いてはいなかった。

 

そこに書かれていたのは、ボクへの謝罪と、ボクへの心配。そして、ボクへの感謝だった。

 

そう。あの時、仲間じゃないなんて言ったのは、ただの演技だったのだ。自殺を止められない為に言ったウソ。

 

酷い事を言ったと、謝り、酷い事を言われたボクへ心配、でも、ボク達との冒険は楽しかったと、そこにはそう書かれていた。

 

自殺をしたアスナは、やっぱり許せそうにない。

でも、アスナに嫌われていないとわかって、心が少し軽くなった。

 

我ながら、現金なものだなぁ。

 

アスナ、ボクは最後まで生きてみせるよ。

それが、ボクがキミに出来る精一杯の嫌味で、精一杯の感謝だ。

 

「シウネー、スリーピングナイツの皆の所に戻ろう。」

ボクは、一目散にホームを目指した。



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マザロザif 外伝2ユウキ その完

ボクが、スリーピングナイツの活動に復帰して、数日が経ったころ、意外な人物が、ボクを訪ねてきた。

 

「探したわよ、ユウキ。私は、リーファ。キリト君の妹のリーファよ。覚えてる?」

 

そう、キリトの妹だった。でも、その姿はボクが知っているリーファとは異なっていた。

 

全身を黒ずくめの装備で固めたその姿は、まるでキリトのようだった。

 

「ボクになにか用?」

 

ボクは、端的に用件を尋ねた。

 

すると、リーファはボクに、ボクのOSS『マザーズロザリオ』を教えてほしいと言ってきた。

 

ボクは、意味がわからなかった。

 

以前、ボクが辻デュエルをしていたとき、確かリーファは挑戦してきて、負けるとあっさりと引き下がっていたはずだ。

 

アスナが亡くなったことで、ボクはこの技を誰かに教える気にはなれなかった。

 

だから、最も彼女が嫌うだろう言葉で、彼女を追い返そうとした。

 

「ボクは、キリトの仇みたいなものだよ?あの時、キリトとデートの予定があったアスナを強引に誘ったのばボクなんだ。」

 

「私は、アスナさんの仇みたいなものよ?アスナさんを直接非難して、アスナさんを追い詰めたのは私だもの。」

 

見事に切り返された。

 

ボクらは、しばらく視線を交わしていたが、やがて二人して苦笑していた。

 

「どうやらボクらは、似た者同士みたいだね。キリトとアスナのことで、後悔して...アスナの遺書に心を救われた。」

 

ボクは、あれからあった事をリーファに話した。

リーファも、何があったのか教えてくれた。

 

確かに、リーファはアスナを非難したようだ。その言葉はボクにもダメージを与えてきたけれど...

 

でも、冷静になるとアスナへ言ったことは言いがかりも良い所だと後悔していたらしい。

 

それでも、引っ込みがつかず兄の死という現実に、心を疲弊させていたリーファは、アスナに謝ろうとはしなかった。

 

その結果、アスナの自殺という最悪の事態になり、ますます自分を責めるようになったそうだ。

 

だが、キリトの葬儀の当日、アスナから来た遺書がどん底にいたリーファの心を救ったらしい。

 

「リーファの話しは、わかったよ。でも、ボクの技を教えてほしい理由はなんなんだい?前の時みたいに試しに覚えたいって感じではないけど。」

 

ボクは改めて、理由を訪ねると、リーファは言った。

 

「私は、強くなりたいの。お兄ちゃんはもういない。でも...だからせめて、お兄ちゃんが大好きだったこの世界で、お兄ちゃんがいたことの証を残したい。」

 

「.........。」

 

「それで、考えたの。お兄ちゃんが周りによく呼ばれていた二つ名、『黒の剣士』。この名前を、いつまでも語り継がれる伝説にする。最強のプレイヤーは誰か?そう聞かれたら誰もがすぐに『黒の剣士』を思い浮かべるように。」 

 

「その為には力がいるの。誰にも負けない力が。だから、ユウキ。貴方の技を私に教えて。」

 

それは、ボクには...ボク達には誰よりも共感できる話だった。

 

できれば、協力してあげたい。そう思った。

でも...

 

「リーファ、キミの考えはボクにも痛いほど理解出来る。できれば協力してあげたい。でもね、やっぱり無条件で教えるのはフェアじゃないって、そう思うんだ。だから...」

 

ボクはニヤリと笑って条件を告げた。

 

「ボクとデュエルして、一度でも勝てたならその時は、ボクのOSS『マザーズロザリオ』をキミに託そう。期間は決めないし、何度でも挑戦してきてくれて良い。どうだい?」

 

リーファは、黙ってうなずいた。

 

それから、リーファは何度もボクに挑戦してきた。体力と集中力、時間が許す限り何度も。

 

確かに、リーファは強い。この世界でもトップクラスに入る強さだと思う。

 

その強さは、アスナに互すると思う。あの時アスナがボクに迫れたのは諦めずに捨て身で来たからだろう。

 

でも、キリトに比べると一歩劣る。それを自覚しているからこそ、リーファはボクの技を覚えたいんだろう。

 

でもね、リーファ。確かにボクのSSは強力だけど、それだけでこの世界の最強になれる訳じゃない。

 

キリトの強さは、剣の腕だけじゃなく、設定されているシステムの外にあるスキルを見つけ出して、それを再現する。

 

ボクらが、アスナを仲間に入れてボス攻略に挑んだ時、他のギルドプレイヤーたちに、道を阻まれピンチに陥った。

 

その時、そこに乱入してきたキリトは魔法を切った。そんな事、ボクにだって出来ない。

 

ただ、強力なSSを持っているだけじゃ最強になんてなれない。

 

そんな事、ボクより長くこのALOをやっているリーファならわかっているだろうに。今は、強くなることに焦って、その事を忘れてしまっているんだろう。

 

ならば、ボクはリーファの目的の為の壁となろう。この壁を越えた時に、リーファが最強に近づけるように。

 

それから、数日経った。

 

もう何度リーファとデュエルしたか覚えていない。

 

でも、リーファは確実にボクの動きについて来れるようになってきていた。

 

リーファは、リアルで剣道をやっていらしいから、その経験が活きているんだろうね。

 

そして、とうとうボクはリーファに負けてしまった。

「おめでとう、リーファ。」

 

「ありがとう。ユウキ。貴方が、私を鍛えてくれたおかげで、私は強くなれたと思う。」

 

なんだ、ボクの思惑はとっくに看破されてたんだ。恥ずかしい。

 

「とにかく、約束だからね。ボクの技を教えるよ。」

 

照れを隠しつつ、リーファにマザーズロザリオを伝授した。

 

上手く伝わったようだ。

 

これからは、リーファがボクの技を継いでくれる。そう思うと、嬉しくなってくる。

 

リーファは、一通り技の確認をした後、ボクに宣言した。

 

「これからは、『絶剣』の称号も私が受け継ぐわ。だって貴方はこの世界のでの、私の師匠みたいなものだもの。だから...」

 

「今日から、私は『黒の絶剣士』そう名乗ることにする。貴方と、お兄ちゃんの名前を多くのプレイヤーに残せるように頑張るからね。」

 

ボクは、ふいを付かれて泣きそうになった。でも、泣くわけにはいかない。これはリーファの決意の宣誓。

 

「『黒の絶剣士』か。なんかアスナがヤキモチ焼きそうな名前だけど、うん、気に入った。任せたよ?『黒の絶剣士』」

 

ちょっと、声が震えたけど何とかこらえてリーファと握手を交わした。

 

そして、リーファは帰っていった。

 

きっと『黒の絶剣士』は最強の代名詞になり、長くこの世界にで使われる事になるだろう。

 

また、ひとつ。この世界に残すことができた。

 

「よし、明日からまた頑張るぞー」

ボクは、嬉しさに興奮しながらログアウトした。

明日は今日の事をスリーピングナイツの皆に教えてやろう。楽しみだな。

 

 

その日、ボクの容態は急激に悪化した。

ボクは、残りの時間を大好きだったここで、過ごしたくて、先生にわがままを言ってログインしている。

 

そう言えば、あの金の亡者どもの言う通り、遺言を書いてやった。

 

ボクが、死んだら遺産は全てメデュキボイドの研究に寄付します。

 

うん。これを見たら、あいつらどんな顔するかな。

それを思うと笑えてくる。

 

 

ボクは、草原に横になりながら、今までの事を思い出していた。

 

楽しい事もたくさんあった。

悲しい事も、たくさんあった。

 

ボクは、人より長くは生きられなかったけど、そこは人と変わらない。

 

けれど、自分のやりたいことを、命を燃やしてやり抜けた。一緒に気持ちを共有する仲間もいた。

 

だから、きっと、ボクは誰よりも幸せだったと思う。

 

なんだか、眠いな。

姉ちゃん、ボク精一杯生きたよ...

 

ボクは、笑みを浮かべながら眠りついた。



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マザロザif 外伝3 キリトとユイ その1

外伝3は、この素晴らしいキリアスに祝福を!のプロローグと同じ内容になります。

この素晴らしいキリアスに祝福を!はこのすばとSAOのクロスオーバー作品で、舞台はこのすばがメインになります。




ー桐ヶ谷和人さん、貴方は死にましたー

 

ここは、どこだ?俺はどうしたんだ?

 

混乱していた俺は、今日の出来事を思い出してみた...

 

 

「ごめんね。キリト君。今日のデートなんだけど、ユウキがどうしても私とALOでスリーピングナイツの皆と遊びたいって言うんで、又、今度にしても良いかな?」

 

そうだ、今日は学校が終わったら明日奈とデートをするはずだった。

 

でも、ユウキに強引に誘われた明日奈は断りきれずの、今日のデートは中止になった。

 

俺は、笑って許したけど、やっぱり寂しい気持ちはあった。

 

明日奈も、そうだったろう。だからこそ、明日奈の方からデートに誘ってきたんだと思う。

 

ー今日は、俺を優先してほしいー

 

きっと明日奈は、俺がそう言えばユウキの誘いを断っただろう。

 

ユウキに時間がないのは理解してるし、俺自身、ユウキを気に入ってるけど、寂しいものは寂しい。

 

はっきり言えれば楽なんだけどなぁ。

 

俺は、何度目かのため息をついた。

 

「元気を出してください。パパ。きっとママもパパと一緒にいたいハズです。」

 

携帯端末から、そう励ましてくれてるのはユイ。そう、ユイ。俺の娘だ。

 

元々メンタルヘルスカウンセリングプログラムとして作られたユイは、人の感情の変化に敏感だ。

 

俺が落ち込んでるのを感じて、慰めてくれているのだろう。我が娘ながら、すばらしいと思う。

 

「そうだよな。ユイだって、プローブを使うのをユウキに譲って、我慢してるんだもんな。」

 

そもそも、あのプローブはユイの為に作った物だ。それを、ユウキ...というかアスナの為にユウキが使うのを許してくれたのは、ユイなのだ。

 

俺は、それからユイととりとめのない話しをしながら、下校した。

 

川越まで戻り、家路をゆっくりと歩いていると、目の前の道路をボールを追いかけて、女の子が飛び出してきた。

 

そこに、トラックが猛スピードで走ってきている。

 

「危ない。」

 

俺は、女の子を助けるために走った。

 

女の子を抱き寄せるが、回避する暇は無さそうだ。

 

俺は、自分の体を盾にするしかないと、女の子を庇う。

 

衝撃が、体を襲った。浮遊感があり、その後さらに衝撃。撥ね飛ばされてどこかにぶつかったんだろう。

 

何故か、冷静にそんな事を考えながら、俺の意識は暗転した...

 

 

私の名前はユイ。パパである桐ケ谷和人とママである結城明日奈の娘。

 

その日は、パパと話しをしながら家へと帰っていた。

 

パパは、ママといられないことに落ち込んでいる様だったから、私がパパと会話することで、気分転換になればと思ったのだ。

 

その考えは上手くいっていたと思う。

 

川越に着く頃にはパパは、笑顔を見せるようになっていた。

 

そこから家に向かう途中、パパが切迫した声で叫んだと思うと、私の視界はぐるぐると回った。

 

恐らくは、パパが携帯端末を放ったのだと思うが、携帯端末のカメラからの視覚情報では、何があったのかまでは把握できなかった。

 

その後、すぐに大型のクルマのブレーキ音とドンッという大きな音...

 

パパ?パパ...何かあったんですか?

 

いくら話しかけても返事がない。

 

私は、嫌な予感がした。でも、まずは情報を把握しなければ。

 

確か、ここの近くに監視用の防犯カメラがあったハズ。

 

私は、ネットワークから防犯カメラの視覚と同調させて、現場を見る事にした。

 

少し時間がかかったが、何とか成功した。

 

そこには...血溜まりの中に倒れるパパの姿が映し出されていた。

 

そんな...ウソ...

 

私は、携帯端末に戻ると急いで救急車を要請した。

 

 

救急隊が到着した。私を見て驚いた様だが、今はパパの搬送が優先。

 

私は、パパと救急車に乗りそのまま病院に搬送された。

 

しばらくすると、パパの妹の直葉さんと、母親の翠さんが駆けつけてきた。

 

パパの携帯電話の電話帳から、家族に連絡が行ったのだろう。

 

私は、現在の情報を二人に伝えた。

 

すでに治療が終わっている事。危険な状態であること。

 

そうこうしていると、パパの手術を担当した医師が改めて説明にやって来た。

 

「はっきり申し上げて、今彼が生きているのは奇跡に近い。彼の精神力だけで死に抗っていると言って良い状態です。」

 

「ご家族の皆さん、彼に励ましの言葉のをかけてあげてください。きっと今は、彼の大切な人の声が、一番の薬になるハズです。」

 

それを、聞いた直葉さんはパパの仲間に電話をした。

 

パパの情況と、パパに、声をかけてもらう為に。

 

ママ以外は、すぐに駆けつけてくれた。

ママには、連絡が付かなかったらしい。

 

きっと、まだALOにいるのだろう。

 

私は、ALOに行って直接ママに伝えようと思った。でも、それはできなかった。

 

この端末から、出られない。恐らく、放られた時にネットワーク接続の部品に障害が出たんだ。

 

防犯カメラに視覚を同調させる時も、予定より時間がかかった。それが、時間が経ってか、完全に故障してしまったのだろう。

 

そんな...これではあのときと同じではないか。

 

アインクラッドで、自身の存在意義を果たす事ができず、ただ見ている事しかできなかったあの時...

 

今の自分の存在理由は、パパとママの役に立つ事。

 

それが、パパが大変な時にただ眺めている事しか出来ない。

 

私は、必死にパパを応援した。非科学的だとはわかっているけれど、今は、それしか出来ることがなかった。

 

でも、私達の願いも虚しく、パパの心電図モニターは...ゼロを示した...

 

パパは...

 

桐ヶ谷和人は...死んだ...

 

嫌、嫌、いやぁぁぁぁぁぁ。

 

瞬間、大きな黒い波が、わたしの意識を飲み込んだ...

 

私は、その波から抜け出そうと何かを掴んだ気がした...

 

そこで、私の意識は完全に途絶えた...



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マザロザif 外伝3 キリトとユイ その2

そうか...俺は...俺は死んだのか。

 

俺は、道路に飛び出してきた女の子を庇って、そのままトラックに轢かれて...

 

「その通りですよ。桐ヶ谷和人さん。貴方は死んだのです。」

 

目の前の女性は、そういった。

 

「それと、貴方が庇った子は無事ですよ?大変、勇気ある行動でした。」

 

「そうか、あの子は無事か。良かった...。」

 

そう言えば、ここはどこなんだ?そして、この人は誰だ?

 

そんな疑問を抱いていると、

 

「ここは...と言うか私の説明は後でしますが、先に貴方についているイレギュラーを解決してしまいましょう。」

 

そう言うと、女性は俺の額に手を触れる。すると、俺の体が光った。眩しさで目が開けていられない。

光が収まり目を開けると、そこにユイが立っていた。

 

「え?あれ?ここは?」

ユイは、混乱していた。どうやら、イレギュラーというのはユイの事だったらしい。

 

「パパ。良かった。生きてたんですね。」

俺に気付いたたユイはそう言って俺に抱きついてきた。

どういったものか...自分が死んだのは理解出来るが、それをこの娘に説明するのは憚れる。

 

すると、女性がその言葉を否定した。

「いえ、桐ヶ谷和人さんは亡くなりましたよ?」

正直、空気を読んで欲しかった。

 

「どういう事ですか?」

ユイが、女性に気付いて説明を求める。

 

女性は、ニコリと笑うと説明を始めた。

 

「ここは、天界。神々の世界。あなた方にとっては、死後の世界にあたります。

まずは、はじめまして。桐ヶ谷和人さん、MCHP試作1号 ユイさん。」

 

「私は、日本において若くして亡くなった方を導く女神アクア様に仕える天使です。」

 

そう言って、背中の翼を広げた。

 

「そんな、天使なんて非科学的です。」

 

流石に、ユイは信じないよな。何せ、もとが科学の結晶みたいなものだし。

 

「私達からすると、あなたの方が信じ難い存在なのですよ?ユイさん。」

 

天使は言った。

 

「先程も申し上げましたが、ここは死後の世界。つまり生ある存在が、その生涯を終えた時に訪れる場所です。ですがユイさん。貴方は人が作り出した人工知能。生ある存在では無かったはず。それなのに、ここにいる...と言うことは、貴方は生きていた。そう言う事になります。」

 

「我々としても、人工知能がここを訪れるというのは始めての出来事なのですよ。」

 

その言葉は、ユイが真に生きていた事の証明。

 

ユイも嬉しそうだ。でも、それはつまり、ここにいると言うことはユイも死んだということになる。

一体どうして?

 

「ユイさんが、亡くなった理由は私どもにはわかりかねますが、貴方の心臓が止まった瞬間に、ユイさんは亡くなりました。そして、貴方の魂が天界に送られる時に、ユイさんの魂がしがみついていた為に、同時にこちらへ来たのでしょう。」

 

「さて、現状の、説明はこれで終わりです。次は、これからの事について説明します。」

 

「では、桐ヶ谷和人さん、ユイさん。あなた方にはこれから選択肢を与えます。その選択肢は三つ。」

 

「一つは、人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むこと。もう一つは、このまま天国へ行くこと。」

 

「そして、最後の一つはある異世界への転生です。そこは、魔王によって危機に瀕しているのです。その世界で死んだ方は、生まれ変わる事を拒否する方が多く、このままでは世界その物が滅亡してしまいます。そこで、こちらから希望者には、今の記憶を引き継いで向こうに転生させる事が神々の取り決めで決まりました。」

 

「本来であれば、これで説明を終えて、選択をしていただくのですが...桐ヶ谷和人さん。出来れば、貴方には異世界へ行ってもらいたいと私どもは考えています。」

 

天使は言い辛そうに話始める。

 

「実は、貴方の事はあのSAO事件を解決した英雄として、アクア様は注目なさっていました。もしこちらに来る事があれば、是非とも異世界に行って頂きたいと。」

 

「もちろん、だからと言って運命を操作して若くして亡くなってもらった訳では無いですよ?あくまでも、注目していただけです。」

 

「ですが、こうして今、貴方はここにいる。だから、どうか異世界に転生して下さいませんか?戦いの無い現代の日本において、6000人もの人々を救った貴方なら魔王を倒す事が出来る可能性が高いと私どもは考えています。」

 

俺は、悩んだ...それは明日奈の事だ。もし、異世界に行ったらどうなる?生まれ変わって来世で明日奈と出会う事も、出来なくなる。それは、俺にとってとても辛い事だ。例え死んだとしても、来世でまた一緒になろう。いつだったか、そう約束したんだ。

 

ーキリト君が、帰ってこなかったら、私自殺するよ。もう、生きてる意味無いし、ただ待ってた自分が許せないものー

 

唐突に、アスナの言葉を思い出した。

冷や汗が止まらなかった...これは...マズイ。

 

近い内に、明日奈はここに来る。俺はそう確信した。

 

普通なら自意識過剰だと思う。

いや...俺だって昔の俺なら鼻で笑っていただろう。

 

でも俺は知っている...愛する人が死んでしまった時の喪失感を。

 

俺と明日奈の関係は、共依存に限りなく近い。

 

そしてアスナの方は、俺以上に依存度が高い。

 

俺のバイタル情報を見て、安心する...等と言うのはその最たるものだろう。

 

それが異常だと、理解しながら俺自身も嬉しいと感じていた。

 

二人が一緒にいるなら、それでも構わなかった...

でも、こうして俺は、明日奈を一人残して死んでしまった...

 

明日奈は、きっと追いかけてくるだろう...

そう思った。

 

「あの、天使様。幾つか質問をしたいんですが。良いでしょうか?」

 

この質問によっては、異世界行きに条件を付ける。

 

「ここへは、若くして死んだ日本人は皆来るんですか?」

 

「いえ、全員ではありません。ここへ来るのはアクア様が注目していた者か、もしくは幸運により選ばれた者だけです。そうでも無ければ、こんなに呑気に話してる余裕はありませんよ?」

 

それはそうだろう。1日にどれだけの人が亡くなっているか...それを考えればこうして話している間にも次の死者の魂がここに来ても可笑しくない。

 

「では、死因はどうでしょう。自殺でも、関係なく来られるのですか?」

 

「いえ、自殺の場合は別です。自殺とは、我々が最も厭うものです。その場合、選択肢も与えず問答無用で来世に転生させます。」

 

やはり、そうか。

 

「天使様、もし条件を飲んで頂けるなら、異世界に行くことを了承します。」

 

「それは?」

 

「近い内に、結城明日奈という女の子が自殺する可能性があります。もし、そうなった時に彼女にも、選択肢を与えて欲しい。それが、条件です。」

 

そうならなければ、その方が良いのかも知れない。

それでも、もし追いかけてきて...来世へ転生したとしても、そこに俺はいない...

 

取り越し苦労なら、それで良いが最悪は想定しておく方が良い。

 

「結城明日奈さんとは、貴方の恋人でSAO事件解決の立役者の一人と認識していますが、間違いないですか?」

 

俺は、黙って頷いた。

 

天使は、しばらく悩んでいた様だが、

 

「わかりました。結城明日奈さんも、アクア様が注目していた人の一人です。本来は許されない事ですが、彼女の功績に免じ選択肢を与える事とします。」

 

良かった。もし、自殺してここへ来るなら、多分アスナは、俺を追って異世界に来るだろう。 

 

「それでは、天使様。俺は、異世界行きを選びます。」

 

「パパが行くなら、私も行きます。」

 

ユイが同行を宣言した。

 

「では、桐ヶ谷和人さん。ユイさん。異世界に一つだけ持って行けるものを選んでもらえますか?才能でも、強力な武器でも一つだけ持って行くことを許可します。」

 

「天使様。これから行く世界の事をもう少し教えてもらいたいのですが。」

 

情報は大事だ。それを聞いてから選んだって良いだろう。

 

俺は、それから異世界の平均的な人の強さや、モンスターの強さ、武器の能力や魔法について簡単に教えてもらった。

 

俺は悩んだ。ここにある武器やスキルは破格のものだろう。

 

でも...俺はある考えがあった...

 

「天使様...異世界に持っていけるのは、ここにあるものしか、選択はできませんか?」

 

俺の質問に、

 

「それは、物によります。その人の選択を上が受理すれば可能ですね。貴方の前にも、提示された物以外を選択した方がいらっしゃいましたし...」  

 

天使は、ちょっと笑いそうになりながら答えた。

何がそんなに可笑しかったのかはわからないが...

 

そして、決めた。

 

「では、天使様。俺が持っていくのは、俺のSAOとALOの最終的なアバターデータを持って行くことにします。」

 

ユイは、

 

「私は、ALOでの私の能力、世界への情報検索とピクシーに変身する能力を持っていきます。」

 

俺たちが宣言すると、間もなくして、

 

「あなた方の選択は受理されました。」

 

天使が、そう言うと俺たちの足元に、青く魔方陣が現れた。

 

「桐ヶ谷和人さん、ユイさん。あなた方をこれから、異世界へと送ります。魔王討伐の勇者候補として。もし、魔王を倒した暁には、神々から贈り物を授けましょう」

 

「そう、世界を救った偉業に見合った贈り物。どんな願いでも、たった一つだけ叶えて差し上げましょう。」

 

「さあ、勇者よ。願わくば、数多の勇者候補の中から、貴方達が魔王を打ち倒す事を願っています。さあ、旅立ちなさい。」

 

そして、俺たちは、明るい光に包まれた...



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マザロザif 外伝3 キリトとユイ その3

気が付くと、そこは石造りの街並みだった。

 

本当に異世界に来たんだな。VRではなくて。

 

少しの間、周りをぼーっと見渡していた俺は、ユイがいない事に気が付いた。

 

ユイも一緒に来ているはず。

 

「ユイ、どこだ?」

俺は、慌ててユイを探した。

 

「私は、ここです。」

 

頭の上から、声が聞こえた。

どうやら、ピクシーの姿で頭の上に乗っていた様だ。

 

俺は、安堵の溜め息を付くと、今後の方針を決める為に、ユイと相談する事にした。

 

「ユイ、これからどうするかを決める為にも、まずは情報収集をしなきゃな。ユイは、天使に情報検索能力をもらってたよな?色々と聞きたいんだが、大丈夫か?」

 

「ちょっと、待ってください。」

 

そう言ってユイは、自身の両耳に手をかざして目を閉じた。

 

「問題無く、使えるようです。やり方もALOの時と同じで良いようです。」

 

「まず、この街についてですが、ここは、駆け出し冒険者の街『アクセル』と言うようです。」

 

俺は、少し考え込むと、口を開いた。

 

「駆け出し冒険者の街か。ここに転移してきたって事は、まずは冒険者になれって事なんだろうな。」

 

「恐らく、その通りだと思われます。現在、魔王軍の侵攻を食い止めているのは国家に属する軍ですが、国家に属さない冒険者には、魔王軍の幹部やモンスターに賞金を懸ける事で討伐を促しているようです。パパの最終目標は魔王の討伐になりますから、国と繋がりのないパパは、冒険者になるのがセオリーになるでしょう。」

 

「冒険者になるのに、条件はあるのか?」

 

「基本的には、冒険者ギルドに行って、登録料を払えば誰でもなれるようですね。例外として、前科のある犯罪者は厳しい審査が入るようですね。」

 

「登録料?でも俺は、お金なんて持ってないぞ?」

 

「パパ、SAOの要領でメニュー画面を開いてみてください。」

 

俺は、言われた通り右手を上げて、降り下ろしてみる。すると、慣れ親しんだメニュー画面が出た。

 

ステータスは、記憶にある数値よりかなり低い。レベルが1だからか?

 

でも、スキルはかなりあるな。

 

二刀流のようなエクストラスキルからバトルヒーリングのようなパッシブスキル。

 

スキルについては、記憶通り...か高い熟練度のものもあった。恐らくSAOかALOで同じフォーマットの物はどちらか高い方のものになっているようだ。

 

ソードスキルは使えるだろうか...これは後で実験が必要だな。

 

アイテムは...

 

武器にエリュシデータとエクスキャリバー?

 

SAOで持っていた最強武器とALOの最強武器...二刀流の為にこれも用意してくれたのか...

 

でも、今の筋力じゃこれを使うのは無理だな。要求STLにまるで足りない。

 

後は、SAO で装備していた防具のコートオブミッドナイトか。

 

他のアイテムは...無いな。

 

ん?金が1000コル入ってるな。これは?

 

その時メールが来た。

 

『桐ヶ谷和人さん。転生おめでとうございます。まずは、冒険者になってください。その街にある冒険者ギルドで登録することで冒険者になれますよ。登録料を贈っておくので使ってください。ちなみにその世界の通貨はエリスです。それでは、頑張って下さい。天使より。』

 

至れり尽くせりだな...

 

「なあ、ユイ。金は入っていたんだが、どうやって使うんだ?自動で引き落とされるのか?」

 

「いえ、パパが使っているメニュー画面のようなシステムはこの世界には存在しません。ですから、お金も物質化されたものでやり取りします。パパ...アイテムをオブジェクト化する要領で、お金を出してみて下さい。」

 

言われた通りにすると、金貨が二枚、俺の手に握られていた。

 

これが、ここでの金か。二枚って事は、1枚で500エリスになるのか?

 

「パパ、一度オブジェクト化したものは二度とアイテムストレージに入れる事は出来ません。メニュー画面やアイテムストレージのようなものは本来、こちらの世界には存在しないものなので。」

 

オブジェクト化した時点で、この世界の物質になるからってことか?

 

それなら、武器のオブジェクト化はまだしない方が良いな。今のステータスじゃ装備出来ないし、邪魔になるだけだ。

 

「今の、俺のステータスはこの世界ではどの位の強さになるんだ?」

 

「えーと、そうですね。レベル1としては破格のステータスだと思われます。ほぼ全てにおいて、平均を大きく超えていますね。特に、筋力と敏捷が高いようです。逆に魔力は平均より少し低めです。恐らく、SAOとALOのステータスの内、高い方を参照して、それをレベル1のステータスにフォーマットしたものと推測されます。」

 

「それから、冒険者に登録すると、職業を選ぶ事になります。パパのステータスなら、魔法職や回復職以外なら、最初から上級職も選べますよ?」

 

...これは、もうビーターと言うよりチーターだな...って初めてALOをやった時にも言ったっけ...

 

まあ、今さら悩んでいても仕方ないか。

なるようになるさ。

 

「ユイ、冒険者ギルドまで案内頼めるか?」

 

「はい、任せてください。」

 

俺は、この世界での第一歩を踏み出した。



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マザロザif 外伝3 キリトとユイ その4

ユイの案内で、迷うことなく冒険者ギルドまで着いた。

 

うーん。大きい建物だ。

さてと...入るか...

 

中に入ると、

 

「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてる席へどうぞー。」

 

ウェイトレスの女性が愛想良く迎えてきた。

 

ふーん、ここは酒場も併設されているんだな。

カウンターへって言ってたっけ。

 

カウンターを見ると受付は4人いるようだ。

 

たまたまなのか、どこも空いているな。

俺が受付を見回していると、その中の女性と目があった。

手招きをされたので、その人の所へ向かった。

 

「今日は、どうされましたか?」

 

受付嬢が訪ねてきた。

 

「えっと、冒険者になりたいんですが...ここで登録出来ると聞いて訪ねてきました。」

 

「もちろん、出来ますよ。ただ、登録手数料が掛かりますが、大丈夫ですか?」

 

俺は、頷くと天使様から送られた1000エリスを受付嬢に渡した。

 

「確かに、お預かりしました。私は、冒険者ギルドの受付を行っているルナと言います。それでは、冒険者について、簡単に説明させて頂きます。...まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター...。人に害を与えるモノの討伐を請け負う人の事です。とはいえ、基本は何でも屋みたいなものですかね。...冒険者とは、それらの仕事を生業としている人達の総称。そして、冒険者には各職業と言うものがあります。」

 

その辺は、既にユイから情報を仕入れている。

SAOやALOと違ってジョブシステムがあるのだと。

 

説明は続く。受付嬢のルナさんは免許証程度の多きさのカードを差し出してきた。

 

「こちらに、レベルと言う項目がありますね?ご存知の通り、この世のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めています。どのような存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動に止めを指すことで、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、『経験値』と呼ばれるものですね。それらは普通目で見ることは出来ません。」

 

「ですが、このカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値が表示されます。それに応じてレベルと言うものも同じく表示されます。これが、冒険者の強さの目安であり、どれだけ討伐を行ったかもここに記録されます。経験値を貯めていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。俗にいうレベルアップですね。レベルが上がるとスキルを覚える為に必要なポイントなど、様々な特典が与えられるので、是非頑張ってレベルを上げてくださいね。以上になりますが、なにか質問はありますか?」

 

この世界は、まんまゲームだな。ホントに...

 

必要は無い旨を伝えると、ようやく手続きに移った。

 

 

「まずは、こちらの書類に、身長、体重、年齢

、身体的特徴等の記入をお願いします。」

 

言われた通り記入していく。

そう言えば、文字や言葉に関しては、転生の際に理解出来るようになっているらしい。

 

「結構です。それでは、このカードに触れてください。それで貴方のステータスがわかりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでください。経験を積むことで、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得出来るようになりますので、その辺も踏まえて、職業を選んでください。」

 

さて、ステータスはメニュー画面で見てるからなぁ。ユイに言わせると、かなり高いらしいからなぁ。出来ればあまり注目を集めたく無いんだけど...無理だろうな。

 

そう思いながらカードに触れた。

 

「こ、これは。凄い数値ですよ。魔力こそ平均的ですが、他は全てにおいて、平均を超えています。特に筋力、敏捷性は平均を大きく超えていますよ。」

 

あぁ、やっぱり...予想通りのリアクション...

ギルド内も、ざわついている...

 

「以前、この街で登録したアークプリーストの女性には、やや見劣りする所がありますが、いくつかの上級職も選べる数値です。」

 

俺は、周りの視線を無視...しようと努力しながら職業について考えていた...

 

ユイのお薦めは、ソードマスターだったな。

 

確かに、今までSAOにしろALOにしろ俺のアバターはダメージディーラーであり、騎士系のようなタンクは向いていない。

 

かと言って魔力は高くないから、魔法職や回復職は上級職は選べない。

 

「ソードマスターでお願いします。」

 

「ソードマスターですね。あらゆる剣系のスキルに加えて、攻撃力に大きなボーナスが付く前衛職でも攻撃に特化した強力な上級職ですよ。」

 

「それでは、ソードマスター...と。冒険者ギルドへようこそ、キリト様。スタッフ一同、今後の活躍に期待しています。」

 

プレッシャーを受けながらその場を退散した俺は、クエスト掲示板の前にいる。

 

うーん...討伐系クエストと...

 

雑用関係はある程度能力が無いと無理だな。

ちなみに、定番の採取系クエストは無いらしい。

 

この近辺のモンスターは狩尽くされていて、一般の人も、気軽に外に出れる為に、冒険者に依頼するようなものでは無いのだそうだ。

 

「ユイ。この中で今の俺でも出来そうなクエストはあるか?」

 

結局、ユイに相談する事にした。

 

「パパのステータスなら、討伐系でもそれなりにやれるモノはありますよ。」

 

「私のお薦めは、ジャイアントトードの討伐ですね。中級程度のモンスターですし、打撃系の攻撃は効きにくいですが、パパのソードスキルなら簡単に...そう言えばパパ。武器はどうするんですか?アイテムストレージにある武器は使えないんですよね。」

 

俺は、その言葉に今さらながらに使える武器を持っていない事に思い至った。

 

普通、ゲームなら最初から最低限の武器を持っているものだが、今の俺が持っているのは最低限所か伝説級のものだ。ただ、装備できなければ無いのと変わらない...

 

ここに来る途中、体術スキルを試してみて、問題無くエンブレイザーが発動したことから、ソードスキルが使える事はわかっている。

 

だが、肝心の剣を持っていない。

 

どうしよう...

 

...結局、ルナさんに相談する事にした。

 

「あの...相談があるんですが...」

 

「どうしました?キリト様。」

 

「様はいりません。」

 

「では、キリトさん。どうされました?」

 

...言い出し辛い...

 

「えぇっと...実は、討伐クエストを受けたいんですが...武器を持っていなくて...ギルドで貸し出しとかしてませんか?」

 

俺が聞くと、ルナさんは困った顔をして、ギルドでは行っていないと教えられた...

 

参った...

 

俺が悩んでいると...

 

「そうですね...先程話したアークプリーストと、そのお連れ様は、しばらく土木作業でお金を貯めて、武器を購入してから、討伐クエストを行っていましたよ?」

 

そう、教えてもらった。しかし、出来れば早めにレベルを上げておきたい。なるべく早く討伐クエストに行きたい俺としては、悩む選択肢だった。

 

「後は、パーティーを募集してはどうでしょう。キリトさんなら、高い敏捷性を活かして魔法職の人が魔法を撃つまでの囮にもなるでしょうから、パーティーを組みたいと言う方もいるかも知れませんよ?」

 

うーん、パーティーか...

 

「そんなに、都合良く来てくれますかね。」

 

俺が、素直な感想をいうと、ルナさんは小声で、

 

「実は、お薦めの方がいるんです。」

 

そう言って、ある人物を紹介された。

ちょうど良く、その人物は、施設内で一人で食事をしていたので、訪ねてみる事にした。

 

「ちょっと良いかな...」

「は、はい。わ、私に何か様ですか?」

 

そう言って、その人物は慌てながら聞いてきた。



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マザロザif 外伝3 キリトとユイ その5

「ちょっと良いかな...」

 

「は、はい。わ、私に何か様ですか?」

 

俺が声をかけるとその人物は、あからさまに狼狽えながら返事をした。

 

なんだろう?なにか声の掛け方が不味かったか?

俺は、そう思いながらもそのまま話を続けた。

 

「俺は、キリト。さっき冒険者に登録したばかりの駆け出し冒険者なんだけど...。君は、ゆんゆんで間違い無いかな?」

 

俺の問いに「はい。」と返事をするゆんゆん。

 

そう。俺は、このゆんゆんと言う人をルナさんから紹介された。

 

 

「実は、お薦めの方がいるんです。」

 

そう言って、ルナさんはゆんゆんがどんな人物かを教えてくれた。

 

まず、紅魔族であること。紅魔族は、魔力の高いものばかりで、里の大人は皆、アークウィザードとなるらしい。

その高い能力から、魔王も一目置く一族なのだが、独特のセンスを持っていて、名前や名乗りに前口上をするなど、一族総出で所謂、チューニビョーを患っているらしい。

 

ルナさんによると、ゆんゆん自身は紅魔族の中でも、かなり常識人なのだそうだ。正義感も強く、優しくて良い娘だと言っていた。

 

そんな娘が、なぜパーティーを組まずにソロで活動しているかと言えば...

 

本人が恥ずかしがり屋で、引っ込み思案なせいで、パーティーを組んでほしいと自ら言えないのだと言う。

 

それでも、周りから誘われそうなものだが、これは、この街で冒険者をやっている、もう一人の紅魔族の悪評が問題らしい。

 

通称『頭のおかしい爆裂娘』ことめぐみんは、一日一爆裂などと宣って、街の近くの広野に爆裂魔法を撃っては騒音被害を出しているらしい。

 

また、このめぐみんもいう娘は、爆裂魔法しか習得していないようで、爆裂魔法の消費魔力のせいで一日に一度...しかもほとんどの敵にはオーバーキルな爆裂魔法を撃つと、その日は使い物にならないらしい。

 

それは。魔法使いとしてどうなのだろう...と思うが、とにかく同じ紅魔族と言うことで、ゆんゆんも敬遠されているらしい。

 

不憫な...

 

決して、昔の自分を思い出している訳ではないぞ?

 

とにかく、ゆんゆんには問題が無い所か、むしろ優秀な冒険者なのだそうで、ルナさんに薦められた訳だ。

 

さて、どうやって切りだそうか...もともとコミュニケーション能力はかなり低いと自負する自分が、年下の女の子をパーティーに誘う...いや入れてもらうと言う方が正しいか...なんて出来るか?

 

シリカの時は、人助けってことで俺の方に余裕があったけど、今回は逆だしなぁ...

 

...正直に言うしかないか。

 

俺は意を決して口を開く。

 

「実は、パーティーを組んでくれる人を探していてね。ルナさんから君を紹介されたんだよ。」

 

「わ、私とパーティーを組んでくれるんですか?よろしくお願いします。」

 

こちらが言い終わる前に被された... 

 

「あ、あぁ...その通りなんだけど...まずは、こちらの話を聞いてるもらえるかな...」

 

とりあえず、こちらの事情も説明しないと...

 

「実は、冒険者になったは良いんだけど、武器を持っていないんだ。ソードマスターになれたから、ステータスは高いんだけど、それでも剣を持ってないから、討伐に不安があってね。それでも、敏捷性が高いから魔法職の詠唱中の囮にはなれると思うんだけど、どうかな?」

 

「あ、そんなに高いものでなければ、私がプレゼントしますよ?」

 

...おかしいな。初対面の人に武器をプレゼントするって、この世界では普通なのか?

 

「えぇっと、それは流石に君に頼りすぎだと思うんだ...それなら、代金を立て替えてもらえないかな?クエストの報酬から君に返すと言うことで。」

 

「いえ、構いませんよ?友達に奢るのは慣れてますから...」

 

「いやいやいや、友達どころかまだ俺と君は初対面だよ。うん、必ず返すってことでよろしく頼む。」

 

俺は、この娘の闇を見た気がした。

 

「とりあえず、じゃあ、パーティーを組んでくれるってことで、改めて...俺はキリト。職業はソードマスターだ。よろしくなゆんゆん。」

 

俺が自己紹介をすると、ゆんゆんが涙目になった。

 

しばらく悩んでいるようだが、意を決したようで、

 

「わ、我が名はゆんゆん。アークウィザードにして上級魔法を操る者。いずれは紅魔族の長となるもの」

 

香ばしいポーズでそう名乗ったゆんゆん。

 

...これがルナさんの言っていたヤツか...

 

その後、ゆんゆんは、蚊の鳴くような声で、よろしくお願いします...と言った。

 

恥ずかしいならやらなきゃ良いのに...とも思ったが、きっと一族の掟か何かなのだろうと、自分を納得させた。

 

「よろしくな、ゆんゆん。」

 

俺が、普通にスルーしたリアクションをしたのが以外だったのか、ゆんゆんは、目を丸くした後、笑顔で返事をして握手を交わした。

 

「パパ、浮気はダメですよ?」

 

その時、俺のコートに隠れていたユイが飛び出して、俺を嗜めた。

 

「いや、浮気って...ただパーティーを組んで、握手を交わしただけだぞ?」

 

「ママが、パパは一級フラグ建築士だから、女性と親しくなりそうなら気を付けるように言っていました。」

 

アスナ...君は一体、ユイに何を吹き込んでいるんだ...

 

俺たちが、そんな会話をしていると、ゆんゆんが、ユイに興味を持ったようで尋ねてきた。

 

「これって、もしかしてピクシーですか?ピクシーはあまり人前に姿を現さないんですが...私も始めて見ました。」

 

俺は、咄嗟に故郷で困っていたところを助けたら懐かれた...と説明した。

 

ゆんゆんは、特に疑問には思わなかったようで、そうなんですか...と納得していたようだ。

 

その後、今後の方針について話し合い、まずは武器屋に行こうと言うことになった。

 

駆け出し冒険者の街と言うことで、お世辞にも品揃えは良くなかったが、片手剣を一本購入し、軽く素振りしてみる。

 

ちょっと軽すぎるけど、無いよりはずっと良いだろう。

 

なぜなら...

 

俺は慣れ親しんだモーションを起こす。

 

すると、剣が光に包まれ下位ソードスキル『スラント』が発動した。

 

そう。ソードスキルは剣が無ければ発動できないのだから...

 

その動きを見た店主とゆんゆんが驚き目を見開いていた。

 

「キリトさん。今の動きなんですか?剣が光ってましたし、何かのスキルですか?」

 

...上手い言い訳考えて無かった...

 

結局、自分がいた今は亡き遠い故郷...アインクラッドの人間だけが使えるスキルだと説明した。

 

嘘は言ってないしな...

 

武器を手に入れた俺は、改めて冒険者ギルドに戻り、ゆんゆんと相談してジャイアントトードを5体討伐すると言うクエストを請け負った。

 

いよいよ、始めてクエストだ。

俺のこの世界での、はじめての冒険が始まろうとしていた。



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マザロザif 外伝3 キリトとユイ...そしてアスナ

マザロザif 外伝3はこの素晴らしいキリアスに祝福を!のプロローグと同じ内容になります。


俺の前には、身の丈を大きく超える巨大なカエルがいた。

 

今回のクエスト目的のジャイアントトードの討伐だ。

 

予想より遥かにデカイ...が、その分、動きは鈍重そうだ。

 

俺が様子を窺っていると、ジャイアントトードは、その巨大な口を開けた...

 

と同時に口から何かが高速で向かってくる。

とっさに左に回避し、改めて見てみると、それはジャイアントトードの舌だった。

 

なるほど、これで獲物を捕らえて補食するわけだ...

 

さて、どうするか...ゆんゆんに近づかせないのが、まず第一だけど...

 

思案していると、後ろから

 

『ボトムレススワンプ』

 

どうやら、ゆんゆんが魔法を唱えたようだ。

すると、カエルの足元が泥沼になりカエルの体の4分の一ほどが埋まった。

 

なるほど、動きを止めた訳だ。よし、なら攻撃は俺が...と思いカエルに向かって動こうとすると...

 

『ライトオブセイバー』

 

またも、ゆんゆんの魔法が炸裂し、カエルは討伐された。

 

「やりましたね。キリトさん。」

 

笑顔で駆け寄ってくるゆんゆん。

 

 

俺は思わず苦笑いを浮かべた。

確かに、討伐はしたんだけど...これではダメだ。

 

これでは、ゆんゆんが一人で倒したのとなんら変わらない。

 

パーティーの戦いが出来ていない。今後のことを考えれば、今のうちに矯正しておいた方が良いだろう。

 

正直、俺が言うのもどうかとは思うが...

 

「ゆんゆん。君はパーティー戦は始めてかい?」

 

「は、はい...。そうです。私、何か失敗しちゃいましたか?」

 

不安そうに尋ねるゆんゆん。

 

「モンスター討伐って意味では大成功だよ。ただ...今の戦闘...ゆんゆんは一人で戦っていたよな。モンスターの足止めも、モンスターへの攻撃も。」

 

俺は、ゆんゆんにパーティー戦の基本を教えた。

ゆんゆんは、正に青天の霹靂と言った表情で聞いていた。

 

「つまり、パーティーを組む最大の利点は、パーティー一人一人に役割を持たせることで、負担の軽減と戦闘の効率化が図れるんだよ。」

 

最後にそう締めくくり、先の戦闘の問題を指摘。ゆんゆんは、泣きそうな顔で謝ってきた。

 

「初のパーティー戦で緊張してたのもあるんだろう。次に気を付けたら良いさ。」

 

そう慰めると、

 

「はい、頑張ります。でも、キリトさん凄いですね。登録したばかりの冒険者なのに?まるで歴戦の勇士みたいな説明でしたよ?」

 

うっ!?...そうだった。今の俺は、駆け出し冒険者。

 

「こ、故郷でそう言った学校があって勉強したんだよ。」

慌ててそんな言い訳をした。

 

「さて、後四体。今日中に終わらせたいな。さっきのカエルの動きを見る限り、俺も余裕がありそうだし、連携の訓練にしよう。」

 

あと、ソードスキルの実験も...

心の中でそう呟きながら、俺は今日の方針をゆんゆんに、伝えた。

 

2体目、ゆんゆんに指示を出して泥沼魔法で足止めしてもらい、ソードスキルを試してみた。スラントで、一撃見舞ったが、まだ倒しきれていなかった。続け様にバーチカル・アークを放つと、今度こそジャイアントトードは絶命したようだ。

 

下位ソードスキルで倒せるなら、舌攻撃にだけ気を付ければ、然程驚異では無いだろう。

 

そう判断した俺は、3体目、4体目と連携の練習に宛てることにした。

最初と違い、上手く連携をとって戦うやり方に、ゆんゆんは楽しそうにしていた。

 

五体目も、難なく倒した俺たちは、アクセルの街に戻った。

 

カエルは一匹5000エリスで売れた上、クエスト報酬も合わせると、一人6万ちょっと。一日の稼ぎとしては、充分過ぎるだろう。

 

まあ、ゆんゆん一人でも、簡単にクリア出来たんだろうから、ゆんゆんの稼ぎを半分奪っているようなものだが...

 

とりあえず、半分は、剣の代金としてゆんゆんに渡し、ゆんゆんが定宿している宿に泊まった。

 

もちろん、部屋は別々だぞ?

 

部屋に着くと、ユイと今日の出来事を話し合った。

 

異世界への転生、ゲームのような異世界。ギルドに登録、モンスターの討伐...

 

「こうして、ユイと二人でいると、アスナを助けるためにALO にログインしたときを思い出すな。」

 

ふと、そんな話題になった。

 

あの時は、アスナを助けると言う目的があった。

 

...でも、この世界にアスナはいない...

 

その事実が、どうしようもなく俺の心に寂しさを与えていた。

 

二日目は、ゆんゆんと討伐クエストを二つ程こなして終わった。

 

剣の代金も支払い終わり、これで気兼ねなくゆんゆんとパーティーを組めるだろう。

 

 

三日目...

 

ゆんゆんは、ライバル?に勝負を持ちかけるとのことで、今日はクエストには出れないとの事だった。

 

一人で、クエストに挑むのはユイに止められていたため、街を散策することにした。

 

こうして目的も無く、街を散策していると、やはりアスナの事を考えてしまう。

 

アスナに会いたい。

 

でも、それは願ってはいけない事だ。

 

それは、アスナの向こうの世界での死を願うのと同義だからだ。理屈では解っているが、それでもアスナに会いたいと言う思いは止められない。

 

もしかしたら、俺を追いかけて自殺するかもしれない。そう思って、転生に条件を付けた。

 

だが、もしかしたら新しい目標を見つけて幸せになっているかもしれない。

 

そう思う自分もいる。

 

それに...もし、俺を追いかけてここに来たら、俺はどんな風に接したら良いだろう。

 

自殺したことを怒るべきか、あるいは悲しむべきか、それとも来てくれた事を喜ぶべきなのだろうか...

 

アスナ...君に会いたい...

 

「パパ、元気を出して下さい。元気の無いパパを見たら、ママは悲しみますよ。」

 

俺の表情から心境を察したのか、ユイが声をかけて慰めてくれる。

 

「そうだよな。ごめんな。ユイ。お前だってママに会いたいだろうに...俺がくよくよしてたらダメだよな。」

 

そんな風に、ユイに話していると、広場の木の辺り...俺たちが始めてこの異世界に来た場所が光輝きだした。

 

その光は、少しずつ収まり、中に人影が見える。

あれは...!!!

 

俺は、急いで人影に向かった。

その人物は、少しの間呆然としていた。俺は、万感の思いでその人物の名を呼んだ。

 

「アスナ...」

 

「キリト君。会いたかったよ。キリト君。うぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 

アスナは、直ぐに振り向き、泣きながら俺に抱きついてきた。

 

「俺も会いたかった。アスナ。」

俺も泣いていたと思う。泣きながらアスナを抱き締めた。

結局、こうしてアスナを前にして思ったのは喜びだけだった。

 

悩む必要なんて無かったんだな...

 

それから、少しの間俺たちは動かなかった。

そして、アスナが落ち着いたころ、ユイに気づいたようで、ユイが声をかけた。

 

「ママ、会いたかったです。とっても」

「ユイちゃん、私もだよ。会いたかった。」

 

そう言って、小さな妖精にアスナは頬を寄せた。 

 

ここで、あまり長居すると人が集まってくる。今は、ここを離れて改めて、アスナと、ゆっくり話したい。

 

そう思った俺は、再開の喜びに感動しているだろうアスナに声をかけた。

 

「アスナ。これからのこともあるし、とりあえず俺が泊まっている宿へ行こう。」

 

アスナは、直ぐに了承してくれて、俺たちは手を繋ぎ、宿へ向かう。

 

これからも、俺の隣にはアスナがいてくれる。

それが、嬉しい。

 

もう、俺はアスナといることに遠慮なんてしない。アスナといる時間を大切にする。

 

俺たちの時間だって、限りなくあるわけじゃない。そう知ったから...

 

俺は、これからの事に希望を感じ、宿へ向かった。




こちらの更新は一度お預けとなります。

次回からはこの素晴らしいキリアスに祝福を!の方をお楽しみ下さい。

進行具合に合わせて、外伝は続きますので更新をお待ちください。


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マザロザif 外伝1リズ その後

ネタバレ防止のために、先にこの素晴らしいキリアスに祝福を!を進めてましたが、一定数進んだので、こちらも再開。

時間はベルディアとの対決時の話になります。


キリト達が亡くなってから二月以上が経った。

 

皆、二人の思い出を引きずってるけれど、前を向いて歩き始めている。

 

それでも、ALOだけは皆、足が遠のいていた。

キリト達を一番思い出してしまうものだから。

 

唯一クラインだけは、未だに後ろ向きだけど、クラインはあれで、かなり人情家だから、仕方ないのかな。

 

少し心配だけど、エギルは、

 

「あいつも、一応大人の男だ。いつか自分で折り合いをつけるさ。」

 

ーだから、心配するなー

 

そう言っていた。私たちの中で一番大人の人の意見だし、私はその言葉を信じた。

 

その日、いつものように学校へ向かった。

 

そして、アスナが亡くなってから、まるでアスナの代わりとでも言うように、私に言い寄る男どもをスルーして帰宅した私は、疲れからか着替えもせずにベッドに横になると、いつの間にか眠ってしまった。

 

不思議な夢を見た。

 

キリトとアスナが、SAOにいた時の格好をして、どこか中世を思わせる雰囲気の町並みにいた。

 

夢の中で、二人は街を救うために戦場に向かおうとしていた。

 

キリトは、ALOで皆の協力で得た黄金の剣...エクスキャリバーを装備する筋力が足りない事に焦っていた。

 

天使の手助けでエクスキャリバーを、あのアインクラッドで、私がキリトのために作った...私の最高傑作...ダークリパルサーにコンバートすることにしたキリトは、シノンに謝ったあと、私に対して、

 

"力を貸してくれ"

 

そう言った。

 

私は、自然と声を出していた。

 

「頑張りなさい。キリト。でも、アスナを不幸にしたら許さないからね。」

 

その言葉に、キリトは頷くと私の魂の籠った剣...ダークリパルサーを抜き放ち、アスナと共に駆けていった...

 

そこで、私は目を覚ました。

 

なんだったんだろう...今の夢は...

 

でも...久しぶりにキリト達を見れて、嬉しかったな...

 

ちょっとした仮眠になって、スッキリした私は、夜に向けてお風呂に入り、着替えをした。

 

その日の夜は、久しぶりにダイシーカフェに私たちは集まる事になっていたのだ。

 

一応、近況を話すためではあるけれど、やっぱり、皆寂しいんだと思う。

 

私は、シリカやシノンと待ち合わせをして、三人でダイシーカフェに向かった。

 

「久しぶりね。リズ、シリカ。」

「おひさしぶりです。シノンさん。」

「久しぶり~。」

 

私たちは、お互い久しぶりの再会を喜んだ。

 

そして、ダイシーカフェにて...

 

「そう...まだクラインのやつは引きずってるのね。」

 

シノンがクラインの近況を知って、少し暗い声を出した。

 

ちなみにクラインは、今回の会には参加していない。

 

"ワリィ...あいつらが死んで、まだ二月しか経ってないのに、飲み会なんて出れねえ"

 

なんとも、らしい断り方だった。

 

「大丈夫だ。クラインのヤツだって、わかってる。いつまでも引きずっていられない事はな。情に厚いヤツだから、立ち直るのに時間が掛かってるだけだ。アイツを信じてやれ。」

 

エギルがそう言って、私たちを安心させてくれた。

 

私は、暗くなった雰囲気を変えようと、さっき見た夢の話をすることにした。

 

「え~。良いな...リズさん。例え夢でも、私もキリトさん達に会いたいです。」

 

シリカは、羨ましそうにしていた。

 

「.........。」

 

シノンは、少し考えていた。

 

「私も、似たような夢を見たわよ?」

 

そう言って、シノンはゆっくりと話し出した。

 

シノンも、学校帰りに少しうたた寝をしたのだそうで、そこで夢を見たそうだ。

 

キリトとアスナの夢を。

 

エクスキャリバーをコンバートするときに、シノンに謝ったキリトに対して、

 

「全く...しょうがないわね。これは貸しよ?返しに来ないと承知しないからね?」

 

そう声を掛けたのだそうだ。

 

「キリト達は、私が見たことの無い格好だったわ...キリトはまあ、ALOの時の装備に良く似てたけど、アスナは白と赤のコントラストを持った服に胸当てを装備してたわね。」

 

「それ...多分SAO時代の二人の装備よ?私の夢でも同じだったし...」

 

シノンが見た二人の姿をSAO時代の物だと、私は断言した。

 

「不思議ね...私はSAO時代の二人の姿なんて知らないのに...」

 

本当に不思議だ...

 

「と言うより、二人がお互いに同じ夢を...それも、そんな具体的な夢を見たことの方が俺は不思議だがな...」

 

エギルが、ツッコミを入れてくる。

 

「案外、本当の事だったりするかもしれませんよ?」

 

シリカがそんな事を言ってきた。

 

「「「えっ?」」」

 

「キリトさんとアスナさんは、確かに亡くなったけど、どこか別の世界に生まれ変わって、二人で今も幸せに暮らしてる...そう考えると、素敵じゃないですか?」

 

シリカの言った事は、妄想の世界の話だ...

でも...

 

「そうね...そう考えたら、確かにロマンチックかもね。」

 

「非現実的たけどね...」

 

「良いじゃないですか。考えるだけなら自由なんですから。二人は今も異世界で幸せに暮らしてるんです。」

 

「ふっ...そうだと良いな...本当に...」

 

私たちは、そんなあり得ない話で盛り上がった。

そして...

 

「そろそろ、時間だ。遅くなる前に帰るんだぞ?」

 

私たちは、ダイシーカフェを出て駅に向かって歩いている。

 

「ねぇ、二人とも...久しぶりにALOにログインしない?」

 

「あ、良いですね。」

 

「良いわよ?」

 

私たちは、あれほど忌避していたALOにすんなりログインする約束をした。

 

あの二人が異世界で幸せに暮らしてる...

他愛の無い作り話でも、私たちの心は少し軽くなった気がする。

 

さて...いっちょ頑張りますか...

 

なお、これから数年後、この妄想が実は本当の事だと知ることになるのだが、それはまた別の話である。



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マザロザif 外伝4 エギルとクライン

三人称
おっさんは二人まとめて(笑)


その日...クラインはいつもの如く、平日の昼間から、エギルの店を訪れていた。

 

「よう、エギルの旦那...ウィスキー、ロックで頼む。」

 

(またか...)

 

その様子を見たエギルの顔には、呆れと、同情の表情が浮かんでいた。

 

クラインは、恐らく他の店でも酒を飲んでいたのだろう...

顔を赤くし、呂律も怪しかった。

 

「金はあるのか?」

 

もともと、ツケで飲むことが多かったクラインだったが、ここ最近はずっとだ。

 

SAOからのよしみと、キリト達の死を受け入れられていないクラインを心配して、しばらく見守っていたが、一向に立ち直る様子の見せないクラインに、エギルも少し苛立ってきていた。

 

「そんな固い事言うなよ。俺と旦那の仲じゃねえか...」

 

軽口をたたくクライン。

 

「親しき仲にも礼儀ありって言葉...知ってるか?」

 

クラインの言葉に迫力ある顔でジロリと睨むエギル...

 

「こ、今度、纏めて払うよ。」

 

その迫力にたじろぎながら、そう話すクライン。

 

「ハァ...」

 

エギルは、溜め息を付きつつ、注文されたウィスキーを出しながらクラインに話しかけた。

 

「ここ最近、ずっと平日の昼間から酒飲んでるよな?お前、仕事は大丈夫なのか?二ヶ月ちょっと前に昇進の話が出てるとか言ってただろ?アレはどうなったんだ?」

 

そう...クラインはキリトの事故があった日の数日前に自身が勤める会社で昇進の話を受けていた。

 

もともと、後輩の面倒見が良いクラインは上司の信頼も厚く、SAO事件に巻き込まれていなければ、もっと早く昇進の話は出ていた位だ。

 

その日の帰りに、誰かに聞いてほしかったクラインはダイシーカフェに寄って、エギルに話していたのだ。

 

「あぁ...その話か...」

 

言い辛そうに、声のトーンを下げエギルから目を反らしながら、

 

「その話は断った...」

 

「はぁ?」

 

その返答に、驚きながら聞き返すエギル。

 

「断ったって...なんでだ?」

 

「.........。」

 

エギルの問い掛けに、しばらく無言で葛藤するクライン。

 

やがて、観念したのかポツリポツリと、今の自分の気持ちを話始めた。

 

「...キリト達があんな事になって...俺はもう...なにもかもどうでも良くなっちまった...」

 

「お前...いや...まずは話してくれ。」

 

その無気力で疲れきった顔に、一度は何かを言おうとしたエギルだったが、まずはクラインの話を聞くことにした。

 

「昇進の話を聞いたときな...そりゃあ嬉しかったよ。上司が俺の事を認めてくれたんだからな。」

 

「.........。」

 

「でも、その直後にあんな事になっちまった...」

 

「.........。」

 

「なんでだ?なんでアイツが...アイツらがこんな目に会わなきゃならねぇんだ?あの世界で、誰よりも苦しんで...死に物狂いで生き抜いて来たアイツらは、誰よりも幸せにならなきゃいけなかった...違うか?」

 

だんだんと、声を荒げてくるクライン。

 

「そうだな...多分...最前線で戦い続けていた攻略組の大人達のほとんどがそう願っていただろうな。」

 

クラインの言葉は、エギル自身も思っていた事だ。

 

何より、大の大人である自分達が、子供に命を掛けさせなければならない状況に、不甲斐なさを感じていた。

 

それでも、キリトとアスナに頼らざるを得なかった...

キリトにはその圧倒的な戦闘センスを...

アスナには指揮能力とカリスマ性を...

 

二人ともが、攻略組の要だったのだ。

 

「ようやくだ...ようやくあのデスゲームをクリアして...アイツらが幸せになれるって時によぉ...なんで...なんでこんなことになっちまったんだ...」

 

「クライン...」

 

「そう...考えてたらな...なにもかもどうでも良くなっちまったのさ...」

 

そう言って、一気に酒を飲むクライン。

 

「だいたい、リズ達も薄情じゃねえか。アイツら皆、キリトのやつのことが好きだったんだろ?なのに、もう何事も無かったかの様に振る舞ってよ?アイツらにとっちゃ、キリトやアスナの事なんてその程度の人間だったのかよ。」

 

酒を一気に飲んだせいか...酔いが一気に周り、普段のクラインなら絶対に言わないだろうリズ達の態度に文句を言い始めるクライン。

 

「おい...それ以上言うんじゃねえ。」

 

いくら酔っぱらいの言動とは言え、流石にその言葉は受け入れられず、エギルはドスの利いた声でクラインを嗜めようとする。

 

しかし、酔いの回ったクラインは、気付かずに続けた。

 

「アスナがいなくなって、学校でモテてるって言ってたからな...いい気になってるんだぜ?きっと...」

 

ドカッ!!

 

その言葉を言い終わる前に、クラインはエギルに殴られて吹っ飛ばされていた。

 

「な、何しやがる!エギル。」

 

それで、少し酔いが覚めたのか、エギルに抗議するクライン。

 

だが、エギルは圧し殺した声で、クラインを批難した。

 

「お前...今、自分が何を言ったかわかってるのか?」

 

「え?」

 

「リズベット達が悲しんでないだと?イイ気になってるだと?てめぇ...言って良いことと悪いことの区別も付かねぇのか?」

 

そう言ってクラインの胸ぐらを掴むと、

 

「リズベットはな...お前なんかよりずっと悲しんでる...考えてみろ?好きな人と、親友を同時に失ってるんだぞ?」

 

「.........。」

 

「それでも、気丈に振る舞ってる。周りを暗くさせないために...何より、キリト達の為にだ。その気持ちが今のお前にわかるのか?ええ?」

 

「.........。」

 

エギルの言葉に何も言えなくなるクライン。

 

「それに比べてなんだ...お前は。黙って聞いてりゃ、大の男がぐじぐじと...お前にリズベット達を批難する資格なんてこれっぽっちも無ぇよ。」

 

うなだれるクラインをそう言って突き放すエギル。

 

突き飛ばされ、床に座ったままクラインは、呟いた。

 

「わかってるさ...本当は、わかってるんだ。そんなことは...でも俺はもう...どうして良いかわからねぇんだ...幸せになって欲しかったアイツらが不幸になって...俺はもう...どうしたら良いか...」

 

「.........ハァ。」

 

クラインの独白に少し冷静さを取り戻したエギル。

溜め息を付いて、先程の怒りを逃がし、クラインに話しかけた。

 

「......お前自身の幸せは考えないのか?」

 

「え?」

 

「アイツらに幸せになって欲しかった。それは良い。俺だってそうだった。でも、お前自身はどうなんだ?」

 

「.........。」

 

「アイツらの事に囚われすぎてるから、肝心な事を忘れるんだ。」

 

「忘れてる?」

 

「リズベット達が、前を向いて生きてる理由だよ。キリトの葬儀の時、リズベットが宣言していただろ?」

 

その言葉に、クラインは思い出す。

 

ー私は、私はあの二人の後を追ったりしない。私の命は、あの城で、あの二人が命を懸けて救ってくれたものだもの。精一杯生きて、幸せになって、そして...あの二人を悔しがらせてやるんだからー

 

泣きながら宣言していたリズベット...

 

ああ...そうだ...なぜ自分は忘れていたのだろう。

 

この命はキリト達が繋いでくれた物なのに...

何故考え付かなかったのだろう...自分の幸せを...

 

自然と涙が溢れてきた。

 

「ハハハッ...情ねえな...俺って...年下の女の子にすら当たって...結局、俺が一番弱かったのか...」

 

「そうだな。」

 

「ただ...やっぱり。俺は、アイツらに幸せになって欲しかったな。」

 

クラインの呟きに、エギルは少し前にリズベットから聞いた話をすることにした。、

 

「そう言えば、この間の集まりで、リズベットとシノンが、不思議な夢を見たそうだぞ?」

 

「夢?」

 

突然何を言い出すのか?クラインは混乱した。

 

「なんでも、夢の中でキリトとアスナが別の世界に転生して生きてるんだとさ。二人とも変わらず仲睦まじく暮らしてるそうだぞ?その夢をリズベットとシノンが同時に見たんだそうだ。不思議だろ?」

 

「ハハハッ。なんだそりゃ...でも...そうだな...そうだと良いな。」

 

ようやく笑顔を見せたクライン。

そして、立ち直ったクラインは店を出ることにした。

 

「すまねぇ。エギルの旦那。今まで迷惑かけた。」

 

「そう思うなら、ツケ払ってくれ...」

 

「お、おぅ。今度な。」

 

「それと、リズベット達に謝っておけよ?皆、心配してたんだからな。」

 

「ああ。それじゃあ、俺行くわ。」

 

「はいよ。頑張れよ。」

 

「ああ。」

 

店を出たクライン。

 

「まずは、迷惑をかけた人たちに挨拶にいかないとな。」

 

キリトとアスナの死から二ヶ月...

クラインはようやく、その現実を受け入れ前に進むことになるのだった。

 



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マザロザif 外伝5 結城京子 その1

その訃報が私のもとに届いたのは、私が大学で講義を行っている最中だった。

 

ハウスキーパーを頼んでいる佐田さんから、電話が入ったのだ。

 

余程の事が無ければ、職場に電話を入れないように頼んでいたため、緊急の用事だと確信し、生徒の子たちには申し訳ないが、講義を中断して私は自宅に電話を入れた。

 

「あ、もしもし。奥様ですか。お嬢様が...お嬢様が...」

 

その声はとても慌てている様子だった。

 

「落ち着きなさい。明日奈がどうかしたのですか?」

 

私は、佐田さんを落ち着かせるため、少し強い口調で続きを促す。

 

「お嬢様が...自殺を図って...亡くなられました...」

 

その内容は、私の想像を遥かに超えるものだった...

 

私は、慌てて自宅に戻った。

そこには...既に息を引き取った明日奈がいた...

 

「明日奈...明日奈...返事をしなさい。こんな冗談、許しませんよ?」

 

冗談だと思いたかった...。

でも...どれだけ待っても、明日奈から返事が来ることは無かった。

 

ふと、気が付くと明日奈の部屋に見知らぬ少女がいた。

 

佐田さんから話を聞くと、明日奈の学校の友達の様で、明日奈の様子がおかしいことに不安を感じて、ここまで来てくれたのだそうだ。

 

既に、警察も救急隊も入っていて自殺として処理されたらしい...

 

私は、気を失いそうになるのを懸命に堪え、その少女に帰宅を促した。

 

少女も、かなり落ち込んでいたが、ここでやれることは無いと考え直したようで、素直に帰っていった。

 

そうこうしている内に、夫の彰三が、息子の浩一郎を連れて、慌てて帰宅してきた。

 

「明日奈...。...何でこんなことに...」

 

帰ってすぐに、明日奈の遺体に駆け寄ると、夫は、泣きながらそう言って明日奈の亡骸を抱き締めた。

 

何でこんなことに...

本当に...何でこんなことになったのだろうか...

 

ここ最近、娘の明日奈とは良い関係とは呼べない状態だったのは理解している。

 

それでも、明日奈の将来を思えばこそ、ああして明日奈に辛く当たっていたのだ。

 

明日奈は、親の欲目を抜きにしても、容姿に優れ、勉強も運動も、それ以外のものも含め、教えられたことは、すぐに出来る...本当に神に愛された様な娘だった。

 

本人が望めば、どんな望みでも叶うのではないか...

そう思わせる程に、明日奈と言う存在は優れていた。

 

とは言え、そのためには、今のうちに下地を作っておく必要がある。

 

どんな才能も、努力なしに開花することは無いし、その才能を開花させるのには、環境も重要なファクターとなる。

 

これは、私自身の経験から導き出された結論だ。

 

私は、そのためにこそ明日奈に厳しく当たった。

そして、明日奈の才能を開花するのに邪魔なものは出来るだけ排除してきた。

 

特に、異性関係は問題だった。

 

昔から異性関係に溺れて才能のあるものが落ちぶれていくと言うのは、良く聞く話だからだ。

 

だから、彼...『桐ヶ谷和人』と言う少年の存在を知った時は、本当に目の前が真っ暗になった。

 

よりにもよって、明日奈が落ちぶれていく可能性を作った原因である、あの忌まわしいゲームで出会った恋人だと言うではないか。

 

ただでさえ、あのゲームのせいで勉強は遅れたと言うのに、その上男まで作ってしまう...

 

私は、明日奈の将来が心配だった。

 

これだけの才能に恵まれた人間が、成功しないなんて間違っている...

 

だからこそ、桐ヶ谷君と別れるように言い付け、もっと将来性のある学校へ転校させようとしたのだ...

 

でも、私がそれだけ心を傾けて心配していた明日奈の将来は...

 

他ならぬ明日奈自身の手によって、幕を閉じる事となった...

 

本当に、何でこんなことになったのだろうか...

 

私が、そんなことを考えていると、佐田さんが警察から預かったと言う遺書を渡してきた。

 

その内容を見て、私は愕然とした。

そんなに、その少年に傾倒していたの?

 

恋人を追って、自分の輝かしい未来を閉ざすなんて...

 

「なんて愚かなことを...」

 

「お前!?...なんてことを言うんだ。」

 

夫が、私の呟きを聞き咎めて怒鳴る。

 

「本当のことでしょう?恋人の為に、明日奈はその輝かしい未来を自分から閉ざしたのですよ?これが愚かでなくてなんなのですか?」

 

「確かに、明日奈のしたことは愚かしいことだ。それは認めよう。しかしな、娘の死に対して、出てくる言葉がそれとは、お前は本当にこの子の母親か?」

 

「何を言うのよ。明日奈はあれだけの才能を持った子だったのですよ?私は、あの子の将来を思えばこそ...」

 

「お前の、その考えが明日奈を自殺に追いやったと、なぜわからない。明日奈の遺書を見て、何故、明日奈の思いに気付いてやれないんだ...お前がそんな事だから明日奈は...」

 

「二人とも、落ち着いて。まずは冷静に話し合おう。」

 

だんだん、口論が激しくなってきたのを見かねて、浩一郎が止めに入った...

 

結局、私も夫も互いに譲らず、そのまま気まずい空気の中、私たちはそれぞれ別の部屋で夜を明かした。

 

それから、数日、私も夫も葬儀に関する事務的な話以外で口を開くことは無くなり、ほとんど家庭内別居のような状態となった。

 

明日奈の葬儀の当日...私は、驚くべき光景を目の当たりにした。

 

明日奈の葬儀に、本当に大勢の人たちが参列したのだ。

まるで、大会社の会長が無くなったのかと言いたい程の人数だった。

 

学校の生徒たちだけでなく、多くの大人達も参列していた。中にはそれなりの会社を経営していると言う人までいた。その全ての人が明日奈の死を悲しんでいた。

 

一体、明日奈はどこでこれだけの人脈を作っていたのか...

 

明日奈...貴方は一体どんな人生を歩んできたの?

 

私は、今更ながら明日奈がしてきたことも、明日奈がしたかったことも、明日奈の思いも、何も知らない自分に気が付いたのだった...



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マザロザif 外伝5 結城京子 その2

明日奈の葬儀から一月が経った...

 

未だ、夫との家庭内別居は続いている...。

 

私は、明日奈の事を何も知らない...

 

あの時感じた気持ちから目を背ける為、また、家族と会わない寂しさを忘れる為に、私はそれまで以上に仕事に傾倒していった...

 

今や、自宅には寝るために帰っているような状態だった。

 

夫の方も、同じように仕事にのめり込んでいるようだ。 

 

息子は、相変わらず中立を貫いているが、息子も息子で仕事が忙しく、この一月の間、ほとんど話をしていない。

 

そして、私は...

仕事をしながらも、最近ふとした拍子に考える事があった。

 

幸せとは、なんだろうか...

 

私は、自分で言うのもなんだが、仕事においては努力の末に大学で教鞭を取ると言う成功を納めている。

 

家庭においても、結城家と言う由緒ある家に嫁ぎ、周りが羨むような環境を手にしている。

 

では、私は幸せなのだろうか?

その問いに、即答出来ない自分がいる...

 

そんな時、決まって思い出す事があった。

 

あれは、明日奈がナーヴギアから開放されて、まだ入院している頃の事だった。

 

一度だけ、桐ヶ谷君が明日奈に面会している所に遭遇したのだ。

 

あの時の明日奈は、楽しそうに...嬉しそうに...とても輝いた笑顔を桐ヶ谷君に見せていた。

 

私は、その時、明日奈のその表情にとても苦々しい思いをしていた。

 

こんな子に思いを寄せていたら、只でさえ周りから遅れてしまっているのに、手後れにになってしまう。

 

このままでは、明日奈の将来に響く...そう思ったのだ。

 

でも、今、あの時の明日奈の表情を思い出すと思うのだ。

 

人は、あれほど幸せそうな、輝く笑顔が出来るものなのかと...

 

明日奈は、家であんな笑顔を見せてくれたことがあっただろうか...

 

私は、あんな笑顔をした事があっただろうか...

 

「...い...んせい...結城先生!」

 

「!?はい。なんですか?」

 

気が付くと、一人の女学生が私の前に立っていた。

 

また、やってしまった...

 

ここ最近、幸せについて考える事が多くなって、注意力が散漫になっている。

 

「ごめんなさいね。ちょっと考え事をしていたもので。何か用かしら?」

 

「えっと...大丈夫なんですか?もし調子が悪いようでしたら、後でも構いませんので...」

 

その女学生は、私を心配してそう言ってくれたけど、体調に問題があるわけでも無いし、何よりも私が、無視をしてしまった形だ。

 

あきらかに私が、悪い。

 

「大丈夫よ。それで...なんのご用かしら。講義の内容に対する質問ですか?」

 

私の問いに、その女学生は、

 

「いえ、質問じゃないんです。実は、来年度、進級したら、私...先生のゼミに入りたいと考えてまして。今から、勉強をしておいた方が良いことがあれば、教えてほしいと思って声を掛けさせて貰いました。」

 

私は、感心してしまった。最近の学生は、ほとんどが大学を、中学や高校と同じに考えて、与えられた事をこなす事しかしない子が多い。

 

しかし本来、大学という場所は、自分のやりたい勉強を教授から講義として聞いた上で、自分で研究して行くための場なのだ。

 

そんな中で、この女学生は自分から、今後に必要なものを聞いてきた。

 

とても意欲的な学生なのだろう。

 

私は、久しぶりに嬉しくなり、その女学生の質問に詳しく答えた。

 

「ありがとうございました。」

 

答えを聞いて納得したのだろう。女学生はそう言って頭を下げた。

 

「随分と、熱心だけど何か目標でもあるのかしら?」

 

私は、何気なく思った事を口に出した。

すると、その女学生は輝く笑顔で答えた。

 

「はい。実は私...実家を出て、ある男性と結婚してるんです。でも、お互い若いし収入も少なくて...今は奨学金制度を使って、この大学に入ってるんです。だから、ここで頑張って良い就職先を見つけたくて...何よりも夫を支えて挙げたいんです。」

 

その笑顔に、私は明日奈の顔がダブって見えた。

決して、明日奈に似ている訳ではない。

 

こう言っては失礼だが、この女学生は平凡な顔をしている。

 

でも、同じだった...

桐ヶ谷君に向けた、明日奈の笑顔と...

 

詳しく聞くと、この娘はかなり裕福な家の出なのだそうだが、今の旦那との交際を反対されて、なかば家出に近い形で、その男性の家に上がり込んだのだそうだ。

 

その男性も、まだ働き始めたばかりで、大変だったそうだが、二人でなんとかやって来て、つい最近結婚したのだと言う。

 

「そう。そんなに大変で...貴方は本当に幸せなの?」

 

私は、どうしても知りたかった。彼女の答えこそが、私の最近の悩みの答えなのだと...そう思った。

 

「確かに、大変ですけど...」

 

その娘は、そこで一旦切ると、いっそう輝いた笑顔で、

 

「彼といられるだけで、私は幸せです。」

 

そう答えたのだった。

 

「ありがとう...」

 

私は、答えてくれた彼女に感謝の言葉を伝えた。

 

「あの...結城先生...大丈夫ですか?」

 

「え?」

 

「その...泣いていらっしゃる様ですけど...」

 

自分の頬に手を触れると、涙の雫が手に付いた。

 

そう...私は泣いているのね...

 

でも、不快な涙じゃない。だから...止める気になれなかった。

 

「大丈夫よ。本当にありがとう。」

 

私は、改めて感謝の言葉を伝えると、ふと、この子の名前を聞いていなかった事に気付いた。

 

「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったわね。」

 

私の問い掛けに、

 

「あ、私の名前は...桐谷明日菜って言います。」

 

明日菜...そう...貴方もアスナなのね...

 

私は、何か運命のような物を感じた...

私の悩みに、アスナが答えをくれた...

 

「そう...明日菜さん。来年度、私は貴女を歓迎します。頑張って下さいね。」

 

私は決めた...この明日菜さんの卒業を見届けたら、大学を辞めよう。

 

そして、夫や息子に謝って、家庭を支える妻として、母として、もう一度やり直すのだ。

 

その日、珍しく夫も息子も早く帰宅した。

 

私は早速、これまでの事を謝り、また、これからの事を二人に話した。

 

私の話を聞いた夫は、

 

「京子...すまなかった。私はあの時、明日奈の死に動揺してお前を責めたが...私にも悪いところはあったんだ。」

 

「明日奈があれほど桐ヶ谷君に傾倒してしまったのは、私がナーヴギアから開放されたあの娘のメンタルケアから何から、すべて桐ヶ谷君に任せてしまったからだ。本来なら私たち家族がしなければならないことを、仕事を理由に、桐ヶ谷君に任せてしまった...私は...あの子の父親失格だ...」

 

知らなかった...夫がそんな風に悩んでいたなんて...

 

「父さん。母さん。僕も同じです。明日奈の兄として、至らなかった...」

 

「私たち...皆間違えたんですね...もう一度...やり直せるかしら...明日奈はもういないけれど...彰三さんと...浩一郎と...私と...三人で...」

 

「ああ。もちろんだとも。」

 

「父さん、母さん、よろしくお願いします。」

 

私たちは、今日。本当の家族になれた。

ありがとう明日菜さん...あなたのお陰よ。

 

そして、ごめんなさい。明日奈...私が、もっと早く気付けたら、ここに貴方もいられたのに...

 

でも、お母さん頑張るからね...見守っていてちょうだい...明日奈...



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マザロザif 外伝5 結城京子 その完

マザロザifに関しては、これが最終話となります。
続きは、この素晴らしいキリアスに祝福を!をご覧下さい。


あれから一年と少し経った。

 

今日は、明日菜さんの卒業式だ。

 

「先生、今まで良くして頂いてありがとうございました。」

 

明日菜さんが、挨拶に来てくれた。

 

「良いのよ。貴方は誰よりも研究熱心だったもの。私も、教え甲斐があったわ。貴方は、私の最後の教え子として誇りに思うわ。」

 

「先生、本当に大学を辞めちゃうんですか?」

 

明日菜さんには事前に、私が今年で大学を辞める事を言っていた。

 

「ありがとう。明日菜さん。でも、私は悲観的な理由で辞める訳ではないのよ?」

 

「理由をお訊きしても良いですか?」

 

「そうね...簡単に言えば、家族のために生きてみたくなったのよ。旦那さんの為に一生懸命に勉強に励む貴方を見て、私も今まであまりして来ななかった、新しい事に挑戦してみようって思ったの。」

 

「そんなこと...」

 

「明日菜さん。貴方は貴方の道を行きなさい。そして、これは貴方の恩師としての願いです。最後までその笑顔を絶やさない、素敵な人生を歩んで下さい。」

 

 

「...は...い...。先生...私...私も...精一杯生きてみせます。ありがとうございました。」

 

私たちは、そうして最後の別れを済ませた。

 

そして、私も長年勤めたこの大学を去る。

学長は引き留めてくれたが、私の意思を動かせないと知って、諦めてくれたようだ。

 

そして、私は専業主婦のなった...

 

最初は、主婦として家事を行う事に随分と手間取っていたけれど、半年も経つ頃には大分慣れてきた。

 

夫や息子も、出きる限り早く家に帰るようになり、夜はいつも三人で夕食を取っている。

 

笑い合いながら食べるその食卓は、以前のこの家では考えられないことだった。

 

そう、私がまだ実家にいた頃の...あの家で普通に見られた光景だった。

 

今なら、明日奈がなぜ宮城の私の実家の方を気に入っていたのかよくわかる...

 

父さん、母さん。ごめんなさい...

私は、二人にあれほど愛されていたのに、それに気付く事もできなかった不孝者です。

 

でも、私は今幸せです。だから、どうか見守っていて下さい。

 

私を生んでくれて...育ててくれて...ありがとう。

 

それから、さらに月日が流れた。

 

明日奈が無くなって二年以上が経った...

私はそれまでの間、どうしても明日奈の部屋に踏み入ることが出来ないでいた。

 

どうしても、明日奈に対する負い目が私の足を、その部屋に入れる事を拒むのだ...

 

でも、あれから二年半も経つ。いつまでもここを避けていては、本当の意味で私は、前に進めない。

 

明日奈...

 

明日奈の部屋の前に来ると、どうしても足がすくんで動かなくなる。

 

萎えそうになる気力を奮い立たせ、動かない足に喝を入れる。

 

明日奈...私に力を貸して...

 

背中を押されたような気がした...

 

気が付くと、私は明日奈の部屋の中にいたのだった。

 

明日奈の部屋は、あの時のままだ。

 

ハウスキーパーの佐田さんに、今でも時々、ここの掃除だけお願いしていたため、中はそれなりに綺麗だ。

 

私は、ゆっくりと明日奈の部屋を見て周る。

 

明日奈が勉強に使っていた机...

あの子はたまに日記も書いていたわね...

 

明日奈が使っていたベッド...

 

そう言えば、あそこでアミュスフィアを使っていたあの子を、何度か叱ったことがあったわね...

 

......アミュスフィア...か...

 

それにしても、あの子...あんな事件に巻き込まれて、良くまたフルダイブ機器なんて使えたわね。

 

まあ、桐ヶ谷君がやっていたのが大きいんでしょうけど、普通なら二度とやりたくないと思ってもおかしくないと思うんだけど...

 

そう言えば、SAO生存者は、以外とフルダイブ機器を使っている人が多いそうだ。

 

それほどの魅力があるのだろうか...

 

私は、その疑問が頭から離れなくなった...

 

明日奈が愛した世界を見てみたい...

 

明日奈が、その世界でどんな風に考え、どんな風に生きてきたのか、知りたい...

 

考え始めたら、どんどんその気持ちは大きくなっていった...

 

私は、夫に相談した。すると...

 

「おお。それは面白そうだ。私も、もう少しすれば時間が取れるようになるし、そうだな...浩一郎も誘って、皆でやってみようか。」

 

夫は、かなり乗り気になり早速三人分のアミュスフィアを仕入れてきた。

 

まあ、もともと家の製品だから手に入れるのは簡単だ。

 

そして、話し合いの結果、まずこう言ったものに全く慣れていない私が、先に使用して慣れておき、後から時間が取れるようになった二人にレクチャーをすると言う事になった。

 

ゲームは、ALOを選択した。

何故ならば、このALOは、明日奈が良くやっていたゲームであり、また、かつて明日奈達が閉じ込められ、命がけで生き延びてきた、あの城が実装されているからだ。

 

明日奈の事を知る為には、このゲームしかあり得なかった。

 

私は、息子に使い方やアカウントの取得方法等を聞き、いよいよ今日、初のフルダイブを経験することになる。

 

私は、逸る気持ちを押さえながらアミュスフィアを被る。

 

そして...

 

『リンクスタート』

 

最初の種族選択は、シルフを選んだ。

 

名前は少し悩んだが、後からあの二人と合流するのに分かりやすい方が良いだろうと『キョーコ』と付けた。

 

今日から、この『キョーコ』がこの世界での私になる。

行くわよ...キョーコ...

 

そうして、私はその世界に入った。

見るもの全てが新鮮で、そして空を飛ぶのは気持ちよかった。

 

そして、この世界のプレイヤーとの交流はとても興味深いものだった。

 

そう言えば、明日奈も言ってたわね。

 

あの世界の物は全て虚構...でも、私たちの思いは本物だった...

 

あの子が、この世界に魅せられた理由が少しわかった気がした。

 

そして、それから更に少し経ってから、このゲームに慣れてきた私は、今から考えると無謀だが、一人で町の外に出て、遠出をした。

 

ある草原で、一休みしていると、いつの間にか周りをモンスターに囲まれていた...

 

簡単に、戦闘の仕方を教わって、その先輩プレイヤーと一緒に少しだけ戦った事があるだけの私は、突然の戦闘にパニックになった...

 

怖い...

ゲームとは思えないほど、リアルなその怪物たちの有り様に動けなくなった私は、諦めて目をつぶった。

 

ところが、いつまで経ってもゲームオーバーになる様子は無い。

 

目を開けると、モンスター達は既にどこにもおらず、二人のプレイヤーがそこに立っていた。

 

どうやら、この二人が助けてくれたようだ。

 

お礼を言おうとその二人を見たとき、私は、あまりの驚きに固まってしまった。

 

一人は黒ずくめのスプリガンの少年。

頭の上には可愛らしいプライベートピクシーが乗っていた。

 

問題は、もう一人のウンディーネの少女の方だ。

 

その顔は、あまりにも明日奈にそっくりだった。

まるで、現実のあの子がそのままこの世界にやって来たような...

 

だが、この顔はアバターの作り物...

 

私は、なんとか思い直し、改めて二人にお礼を言った。

 

「いえ、無事で良かったです。ここら辺は、少し強いモンスターがいるから気を付けた方が良いですよ?」

 

私のお礼の言葉に、その少女はアドバイスをくれた。

 

「そうなのね。こう言うゲームって初めてで、よくわからなかったから...本当に、ありがとうね...えっと...」

 

私は、改めてお礼を言うがこの少女の名前を知らない。

 

その事が伝わったのだろう。その少女は、自分の名前を告げた。

 

「あ、私...アスナって言います。」

 

私は、また固まりそうになった。だが二回目と言う事もあり、なんとか堪える。

 

何よりも、あの子はもうこの世界に来ることは無い。

 

だから、この『アスナ』さんが『明日奈』であるはずがない。

 

気を取り直した私は、自分も改めて名乗った。

 

「私は、キョーコよ。よろしくアスナさん。」

 

これが、私とアスナの出会いだった。

 

私とアスナ...お互いの真実を知るのは、少し先の事となる...



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