俺の親友は前世は男だったけど、今は幼女になった (ボルメテウスさん)
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俺の親友との間には友情はなかった

幼女戦記の4Dを身に行ったら、衝撃で書いてしまった。
魅力的なキャラクターは多いけど、少ないなぁと思った結果、暴走してしまった。
それぐらい面白かったので、ぜひ皆様も



ターニャSide

 

「こいつが神の医者と呼ばれた男か」

 

その日の任務は神の医者と呼ばれる者を護衛するという任務だった。

 

この世界において、まさか神が付くような奴がいるとは思わなかったが、噂を聞いている限りでは、本人ではなく周りがその名前を言っているらしい。

 

この世界ではあり得ない程の技術を持っており、どのような状態の患者も救い出す事ができる医者という事もあり、両国はその医者を取る為に様々な事を行っているらしい。

 

「まぁそのお医者様のおかげで私も楽をできているのだがな」

 

今回の任務は数々の激務を耐えてきた事もあり、危険地帯でも護衛できると判断され、私達は目的地に向かっていた。

 

神の医者の性格は噂で聞く限りだと聖人に近いとされており、彼が通った道でどのような患者に対しても分け隔てなく治療を行っており、金を取るのは裕福な貴族達のみで貧困の者達からは一切金を受け取らないらしい。

 

まさに絵に書いたような奴で私は笑ってしまう。

 

「そういえば、あいつはそういう医者を目指していたな」

 

この世界に転生する前の世界において、私の親友がよく言っていた。

 

前世で友という存在はなく、いるのは親友のみという人生だったが、奴はよく暇を見つけては手に持っていた漫画の人物を進めていた。

 

からくりサーカスという漫画で医者が子供を庇うシーンなど、奴はその漫画に出てくる医者に強い憧れを抱いて、勉強をしていた。

 

そして結果的には、驚く事にテレビでは出ないが、それでも誰もが知る有名な医者となっていた。

 

そんな風に私のような合理主義ではなく、真っすぐで感情的な奴で、正反対の私達だったが、気の合う親友として、共に過ごした。

 

「いや、違うな」

 

今考えると、私は親友に対して、友情を感じていなかった。

 

別に奴の事が嫌いではない、むしろ好きな部類だ。

 

そう、好き、つまりは愛していた。

 

この世界に転生させられて、自身の感情に気づいたが、それはある意味、前世では気づかなくても良かった事であった。

 

「私はホモではないからな」

 

「中佐、何を?」

 

「なんでもない」

 

そんなくだらない考えなど捨て、今は目標へと向かうだけだ。

 

まさか、こんな所で親友を思い出すとはな。

 

「見えました、あの人物です」

 

報告を受け、見てみると、この時代では珍しい古びたフードを持っており、バッグを片手に歩いている奴がいた。

 

私達はすぐにその男を囲むと、医者は驚いたように見ていた。

 

「おほんっ、貴殿が神の医者で合っているか?」

 

「神の医者?

また、その名前か、別に俺はそんなの名乗った覚えはないがな」

 

「そうか、だが、私達は貴殿に用があって来たのだ。

すまないが、抵抗せずに、付いてきてくれると、嬉しいのだが」

 

「別に良いけど、俺はこの先で依頼人を待たせているんだ。

そいつに会ってからでも良いか?」

 

「心配するな、おそらくは、依頼人までの案内が私達の護衛だ」

 

「そうなのか?

まぁ良いけど」

 

それにしても、あっさりとしている。

 

こういう時には多少動きを見せるが、奴からはそれらは感じない。

 

何よりも奇妙な事だが、私はこの男を知っているような気がする。

 

「あぁ、すまないが一つ聞きたい事がある」

 

「なんだ?」

 

「貴殿はからくりサーカスを知っているか」

 

「えっ?」

 

その言葉を聞き、驚いた顔をしていた。

 

周りは何を言っているのか驚いている様子だが、もしかして

 

予想が正しければ、奴が一番に好きなのは

 

「ジャック・ランタン」

 

「なんで、それを」

 

その言葉を聞き、驚いたように目を見開いて、こちらを見つめていた。

 

まさか、私の予想が当たっただとっ!!

 

本当に存在Xに対して恨みしかなかったが、ここで少し変わった。

 

メアリーSide

 

お兄様は生まれた頃から変わった人物だと言われていた。

 

家族の中でも一際大人びており、いつも難しい本を読んでいた。

 

お父様でも読むのに難しい書物の意味を理解しており、将来は有望な医者になると、家族で騒いでいた。

 

また、お兄様には変わった趣味があった。

 

お兄様が好きな物は人形だと言い、普通ならば女の子のような人形を思いつくのだけど、お兄様が持っている人形はなんというか不気味だった。

 

材料は細い木に糸、それに紫色の布に、大きなカボチャ。

 

それらを組み合わせた人形で、お兄様は「ジャックランタン」と言って、いつも部屋に飾っていた。

 

なぜ、そんなのが好きなのか分からなかったけど、私にとっては、今ではジャックランタンはお兄様との大事な繋がりだと思える。

 

お兄様はその後、戦争によって重傷を負った人が街で流れ着いた時、ジャックランタンにいつも仕舞いこんでいたナイフなどを使って、その人の命を助けた。

 

とても子供とは思えないような冷静な判断と技術でその人の命を繋ぎとめていた。

 

それ以来、私の目にはジャックランタンは命を救う道具を持つ人形、そしてお兄様は人の命を救う聖人に見えた。

 

お兄様の噂を聞いたのか、次々と大きな怪我を負った人が担ぎ込まれ、その全ての人を助けた。

 

数多の奇跡を見ているようでいて、感動していたが、ある日お兄様は旅立たれた。

 

「この世界にはまだまだ俺程度でも助けを求める人がいる。

その人を助けるのも、俺の使命かもな」

 

そう言って、お兄様はジャックランタンを置いて、旅に出た。

 

寂しい思いを紛らすように、私はジャックランタンの手を握り締めながら、お兄様の活躍を聞いた。

 

世界各地で不可能を可能にしてきたその腕は我が祖国だけではなく、敵である帝国まで尊敬されており、お兄様を狙う者はほとんどいなかった。

 

武器を使わず、その身だけで成し遂げた偉業は私にとっては誇りであり、寂しい気持ちだった。

 

幼少期は遊んでくれたお兄様が遠ざかるようで寂しく、素直に喜べなかった。

 

だけど

 

「私はいつか、お兄様と肩を並べる程の軍人になりたい。

そして」

 

そして、また家族で一緒に暮らす。

 

その為にも

 

「倒さなければ帝国を。

お兄様を奪った帝国を」

 

私はそう言いながら、新聞に書かれた文章と写真を睨みながら言う。

 

そこには

 

【神の医者婚約!!その相手はラインの悪魔!?】

 

ヴィーシャSide

 

「世の中って、どうなるのか分からないんだな」

 

「えっえぇっと」

 

現在、私はとある人物と一緒に歩いてるのだが、その人物はその、とても死にそうな目で遠くを見つめていました。

 

噂で聞いた神の医者と呼ばれる程の人物ですが、どんな人物だと思い、緊張していましたが、聞いてみると私よりも年下で可愛らしい所があります。

 

ですが、その人物がなぜ死にそうな目になっているのかと言うと

 

「まさか、ここまでになるとは」

 

「あはは」

 

もう苦笑いしか出ませんでした。

 

あの日、護衛をする事になって来てみると中佐は驚きの目で彼を見つめており、彼も中佐の事を見ていました。

 

最初は何が起きているのか予想はできませんでしたが、どうやら昔出会った事があったらしく、二人は仲良く話していました。

 

話の内容は私を含め、全員が分かりませんでしたが、これならば安心と思ったのですが

 

「まさか、襲われるなんてな」

 

「まっ、まぁそうですね」

 

安心した翌日、中佐は彼と性交したと言い、そのまま責任を取るという形になり、とんとん拍子で結婚する事になった。

 

年齢的には少し無理もあった為、正式には婚約者という事になっているが、帝国は彼の医療技術を独占する為に、この話を利用するつもりです。

 

戦争中なので、それは仕方ない所もあるのですが

 

「そっその元気を出してください、お医者様」

 

「いや、別に俺はお医者様と呼ばれる程の人間じゃないよ」

 

「えっでは、なんと呼べば」

 

「あぁそういえば名乗ってなかったな。

ターニャとの話で盛り上がっていて、つい」

 

そう言い、彼は私に向けて手を伸ばす。

 

「俺の名前はしろがね・リー」

 

「しろがね・リーさん。

なるほど、よろしくお願いしますリーさん」

 



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幼女と過ごす夜

思いつきの小説が思った以上に好評価だったので、思わず続きを書かせて頂きました。
これからもよろしくお願いします。


レルゲンside

 

「また、このような事に!?」

 

私は今朝届けられたばかりの新聞を見ながら、自身の胃が痛くなるのを感じながら見つめる。

 

内容は私にとっての悩みの種であるターニャ・デグレチャフが結婚するという内容だった。

 

普通は少女という事もあり、驚きはするが、それ以上に驚くのは、その結婚相手だ。

 

彼女の結婚相手はしろがね、私が知る限りでは最も優秀である人物。

 

敵であるはずの連合出身でありながら、数年前には多くの人々を死に至らしめる病魔の特効薬の開発、我が国でも不可能と言われる程の手術を成功させる。

 

その偉業の数々はあの戦闘狂とは正反対であり、実際に私もそれによって助けられた事がある。

 

敵であるはずの私にも手を伸ばしたその姿は安直だが、聖人とも思ってしまった。

 

そうして、その功績からも考え、英雄と考えられている。

 

なので、私の中では、この二人はまさに対極の存在であったが、結婚する事になるとは。

 

「まだだ、彼の為にも、もっと相応しい人物を」

 

幸い、奴は少女、結婚までには至らない。

 

だからこそ、今は時間との勝負となる。

 

ターニャside

 

「それにしても、まさかお前と結婚する事になるとはな」

 

そう言いながら、しろがねは不思議そうな顔をしながら、その手に持っているコーヒーを飲みながら驚いている。

 

「なに、私もいつ死ぬか分からない。

安全な後方勤務を行うには、結婚を行っていれば、女性の身だからこその考え方だ」

 

「そういえば、お前って、そういう考えをする奴だったな」

 

その言葉を言いながら、奴は苦笑いをしながら答える。

 

奴としては、私の性格をよく把握しており、私がこの世界において、生き残る為の手段の一つとして、考えており、何の気兼ねなく話せる相手として選んだ相手だと考えているだろう。

 

「まぁ実際には違うがな」

 

奴自身は私が本気で愛していると考えているとは考えておらず、信頼できる相手だと考えて、選んだと考えているんだろう。

 

実際に友情だと勘違いしていた時期だったら、その可能性があるだけに、笑いは止まらない。

 

「それにしても、貴様も存在Xと会っていたとはな」

 

「まぁな、神さんだろ」

 

奴も私と同じく存在Xと出会ったようだ。

 

「そういえば、お前は私のように存在Xと呼ばないんだな」

 

「まぁな。

本人が神と名乗っているんだったら、そう言うと考えている。

それに、あいつらが言うように、神というのは合っていると思うからな」

 

これは驚いた、まさか奴が存在Xの事を神と考えているとは

 

「私にとっては皮肉に聞こえるか」

 

「ターニャは俺が好きな漫画を覚えているだろ」

 

「あぁからくりサーカスだろ」

 

アニメになった時の奴の驚く顔は今でも覚えている。

 

「その中で自動人形達が作り出した奴の名前を」

 

「フェイスレスか?」

 

「あぁ自動人形にとってはフェイスレスは神のような存在だろう。

だとしたら」

 

「あぁ、なるほどな」

 

その意見を聞き、私は笑みを浮かべる。

 

なるほど、奴の目からしたら存在Xはフェイスレスという訳か。

 

キャラクターとしては人気のある奴だが、現実にいたらその存在は邪悪としか言えない奴で倒すべき敵だ。

 

それを考えれば、神と言うのは

 

「それならば、合っているな」

 

私は笑みを浮かべる。

 

特にフェイスレスのあの笑みは存在Xと同じく、おぞましく、憎むべき敵だと分かる。

 

やはりしろがねは私の思考をよく分かっており、これ以上にない相棒であり、恋人だ。

 

この身になって男ではなくなった事が、これ以上感謝する事になるとはな。

 

「さて、翌日も仕事があるだろう」

 

「まぁそれは変わりないが、これはやっぱり外せないな」

 

「当たり前だ。

一応は婚約相手とはいえな」

 

そう言いながらしろがねの腕には手錠があり、外れない事に少し不満そうな顔をしている。

 

帝国の判断としては、しろがねを逃さない為に、常に手錠を付け、治療時以外には外さないように指示が出ている。

 

それは夜の睡眠時にも変わらずだ。

 

本来の人間ならば、それだけで嫌悪の表情を出すが、奴の精神構造は読んでいたからくりサーカスの影響もあって、常に笑みを浮かべていた。

 

奴自身も驚くべき事だが、彼が言う所には劣化版才賀 勝らしい。

 

その才能は高く、一度見た事は大抵覚えられるのもあり、しろがねの医療技術は、確実に世界ではトップレベルだ。

 

神の医者と呼ばれるだけあるが、しろがね自身はそれをあまり思っていない。

 

「救えた命だけが、大きく取り上げられているだけで、救えなかった命もあるさ」

 

もしも存在Xに少しでもしろがねの優しさがあればとは思ったが無駄な話だ。

 

奴としろがねでは大きな差がある。

 

「ほら、さっさと寝るぞ、こっちに来い」

 

「あぁ」

 

そう言い、奴は私の元へ来て、そのまま寝てしまう。

 

医者という仕事は帝国に来てからも変わらず、命懸けで救うこともあり、その疲労は私よりも濃い。

 

その為、寝るのは驚く程に早い。

 

なので

 

「お前は本当に気づかないなぁ」

 

夜に、私がこうやって、奴の身体を動かし、奴の身体を堪能するように抱かれるのを。

 

生前では味わえなかった、奴の体温を私は味わえる。

 

「もう、貴様を離すつもりはない」

 

そう言い、私はゆっくりと瞼を落とし、眠りの世界に入る。

 



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悪夢と芋餅

たった3話で評価してくれる人が8人、しかもわりと高評価!?
お気に入りも150人超えている?
これからも、これらを励みに頑張っていきたいです。



メアリーSide

 

「お兄様ぁ」

 

その日も、私はお兄様と一緒にお花畑で遊んでいた。

 

お兄様はいつもは本を読んでいたけど、時々こうして私と一緒に遊んでくれる。

 

いつも片手に持っているジャック・オ・ランタンが手に持っている鎌でピクニック用に持ってきたパイを分けながら、遊んでいた。

 

とても、とても幸せな時間だ。

 

「メアリー」

 

「どうしたの、お兄様?」

 

その時も一緒にパイを食べながら笑みを浮かべていると、そこに立っていたのは黒いコートを来て、巨大な鞄を持ったお兄様がいた。

 

「俺は行かなきゃいけない」

 

「えっどこに、お兄様!!」

 

お兄様は突然、何かを告げると共に立ち上がり、どこかへ歩き出す。

 

何が起きているのか分からず、私は走り出す。

 

だけど、お兄様が通った道は突然消えてしまい、先程まで広がっていたはずの花畑には崖ができており、その先でお兄様が歩いていた。

 

「待って、行かないで!!」

 

そう叫び、手を伸ばすもお兄様は歩みを止めない。

 

いや、止めないんじゃない。

 

お兄様に巨大な手が迫り、その手がお兄様を掴むとそのまま私から遠ざける。

 

「誰なのっ、辞めてっ!!」

 

そう言うも、手は止まる事なく、目に見えたのは、奴隷に繋がれるような鎖でお兄様を引き摺っている悪魔の姿だった。

 

悪魔は見た目は幼女で可愛らしいかったが、その笑みは悪魔を思わせる顔を浮かべていた。

 

「辞めろっ、それ以上、お兄様を傷つけるなぁ」

 

必死な叫びも聞かず、お兄様を掴むと、悪魔はそのままお兄様を連れて、どこかへと飛ぶ。

 

「おっお兄様あぁ!!」

 

「めっメアリーっ!!」

 

「あっ」

 

眼を覚めると、そこは自室だった。

 

突然の大きな声で驚いて、お母様が訪れており、それに合わせるようにお父様も来てくれた。

 

「どうしたんだ、メアリー!?」

 

突然の大声で、お父様は心配そうに見つめてくれる。

 

「ごめんなさい。

私、怖い夢を見て」

 

「怖い夢?」

 

「お兄様がっ、ラインの悪魔に攫われる夢を」

 

「メアリー」

 

家族の皆が知っている。

 

街に住んでいる人も多くがお兄様を慕っていたので、あのニュースから一週間が経っても未だに信じられなかった。

 

「大丈夫だ。

しろがねは強い男だ、私が選べなかった、人を救う事を選んだ強い男だ」

 

「でもっラインの悪魔は恐ろしいですよね」

 

「・・あぁ、私も間近で見たから、分かる。

奴は幼女の皮を被った、化け物だ」

 

「っ」

 

「あなた」

 

「すまない、だがメアリー。

大丈夫だ、お前も知っているはずだ、しろがねは化け物なんかに負けない強さを持っている」

 

「はいっ」

 

お兄様はいつでも誰かを助ける為にその身体を使っていました。

 

例え弱くても自身ができる事を最大限に使ったからこそ、これまで誰にも成し遂げられなかった数々の偉業を達した男だ。

 

「・・・お父様、私っ決めました」

 

「決めたって、何を」

 

「軍人になります」

 

「なっ」

 

「何を言っているの、メアリー」

 

その言葉を聞き、二人共困惑していた。

 

「私も誰かを助けたい。

その為には軍人が一番だと、考えています」

 

「そんな事はない。

しろがねのように、戦わずとも人を救える。

お前は、軍人なんかよりも、多くの選択肢があるんだ」

 

「確かにそうかもしれません。

ですが、私は祖国の為にも、そして何よりも悪魔の手に捕らわれているお兄様を助ける為にも立ち向かいたいんです」

 

「メアリー」

 

その言葉を真っ直ぐと私は二人に重ねる。

 

「・・・決意は固いか」

 

「あなたっ!!」

 

私の言葉を聞き、厳しい目で見つめるお父様に対して、私は真っ直ぐと答える。

 

「そうか、だが、お前はまだ軍人になれる年ではない。

15歳までゆっくりとで良い、他の道がないか考えて欲しい、それが私も母さんも、そしてしろがねも望むはずだ」

 

「・・・はい」

 

それが正しい事は分かっている。

 

でも

 

「この思いを決して無駄にしたくない」

 

ターニャSide

 

「そういえば、お前はどんな食事を行っているんだ?」

 

「えっ?

俺は、主にこれだが?」

 

そう言い、あいつが取り出したのは餅だった。

 

「餅?

帝国もそうだが、この周辺では米などなかったはずだが?」

 

「芋餅だよ」

 

「あぁ芋餅。

なんか聞いたことがあるな」

 

確か北海道の名物の一つだと聞いたことがある。

 

最近では普通に居酒屋に出ているとも聞いたことがあるが

 

「なぜ芋餅?」

 

「いや、ここの食事が糞まずいのは知っているだろ」

 

「あぁ、はっきり言うと食えた物じゃない」

 

「あぁだが、幸いこれだけは覚えていたからな。

下手なパンよりも作りやすいが、保存はできないがな」

 

「あぁ確かに」

 

ここの食事は糞不味いが、保存はしやすいから、そういう心配はない。

 

「一応聞くが、作り方はどんな感じだ。

私も知っておけば、色々と便利そうだ」

 

「まぁ確かにそうだけど、俺達だけでいけるか?」

 

「・・・」

 

そう言われて見て、あらためて確認する。

 

しろがねの手は手錠をしているので料理をするのは不向きだ、というかできるのか?

 

だけど、あの芋餅はどこから出したんだという疑問はあるが

 

反対に私は料理を作るのは苦手だ。

 

生前もほとんどは店で済ませたり、しろがねの所で厄介になる事が多いから

 

「・・・あっ、一人、心当たりがある」

 

「んっ?」

 

この状況で多少マシになるアイディアを思いつく。

 

「そっそれで、私はなんで呼ばれたんでしょう」

 

すぐに私はヴィーシャ中尉を呼び出した。

 

なにやら震えている様子だが

 

「なに、しろがねの家庭料理を食べてみたいと思ってな。

私は料理は苦手で、しろがねは両手を拘束されているから料理できないから、頼みたいと思ってな」

 

「あっそういう事だったんですか。

でも、どういう料理なんですか?」

 

「まぁ芋餅という料理だ」

 

「芋餅ですか?

それは一体どのような料理なんですか?」

 

「それを兼ねてだ。

しろがね、材料はあるか?」

 

「あぁ、むしろなかったら困る物ばかりだ」

 

そう言い、しろがねが取り出したのはじゃがいも、砂糖、塩、片栗粉、水だけだった。

 

「えっこれだけですか?」

 

「まぁとりあえずは指示通りに頼む」

 

「わっ分かりました」

 

「それじゃあ、始めるよ。

まずはじゃがいもの皮をむいて、茹でて柔らかくする」

 

「えっと、こうですね?」

 

そう言うと、なかなか器用に次々とじゃがいもの皮を剥いている。

 

こういうのは、やはり女性スキルとしては当たり前なのか?

 

「次に茹でたじゃがいもを潰して、そこに砂糖、塩を加えて混ぜる」

 

「結構簡単なんですね」

 

これは案外私でもできそうなぐらいお手軽だな。

 

芋餅って、こんな感じだったんだ。

 

「次に小麦粉を3回ぐらいに分けて加えて、すり混ぜる。

ある程度混ざったら、食べやすいサイズに分けて、油を引いておいたフライパンに入れて焼く」

 

「それで、この後どうするんですか?」

 

「焼き上がったら、完成だ」

 

「えっ、すごくお手軽じゃないですか!!

それにこれって、ポテトパンケーキみたいですね!!」

 

「まぁ材料はほとんど同じだからな。

違うのはこちらの方が少しお手軽だから、その分味は落ちる程度だけど」

 

思わず驚きの眼で見開いているが

 

「実際はどうなんだ?」

 

「本当は醤油が欲しかったけど、ここにそんなのがあるか?」

 

「あぁそうだった」

 

そもそも醤油は日本では当たり前だけど、ここは帝国しかも外国だから、そんなのは手に入らない!!

 

「そう思うと、今でも食べたい!!

刺身!味噌汁!!日本の古きよき料理達!!」

 

まさかここに来て日本の味を思ってしまうとは

 

「少佐殿!!

これ、すっごく美味しいですよ。

じゃがいもとは思わないぐらいに」

 

「あぁそうだな」

 

とりあえずはヴィーシャ中尉が喜んだので良しとしよう。

 

「しろがねさんって、こういう料理を知っているんですか?」

 

「まぁな。

といっても知識だけで、大半は作れないがな」

 

正確には、材料がなくて作れないだ。

 

しろがねはこう見えて、器用な奴だ、大抵の料理はできる。

 

「・・・ふむ」

 

ふと、思ったのだが、これは

 

「使える」

 

「少佐殿?」

 

「あっ始まった」

 

そうだ、食事の改善を行う方法を行うにはそれよりも良い方法を提案すれば良かっただけではないか。

 

現在の食事が不味いから問題とされている。

 

そこでしろがねの知識があれば、美味いのを作れる。

 

普通の料理でも、ここの糞不味い数々の料理よりはずっと良い!!

 

「これは、今後が楽しみだなぁ」

 

「ついでに芋餅は蜂蜜などを混ぜたり、焼く以外にも色々とあるぞ」

 

「わぁ!!」

 

後ろで私を置き去りにしてなにか話をしているが、今はこの糞不味い料理の方が先決だ!!

 

 



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ご都合主義な無血

ターニャSide

 

その日の任務は本来だったら行われる戦場ではなく、ここからそう離れていないアレーヌ市での任務が行われる。

 

現在、このアレーヌ市で行われている蜂起の鎮圧任務だった。

 

元々は共和国であった為か、その可能性があったが、現在はそれが起きている。

 

このままでは補給も乏しい為に危険な事も考えての任務だが

 

「はっきり言う。

今回の任務はあくまでもここから敵が味方を撃った時のみに護衛の為の発砲のみだ」

 

「護衛?

それは一体」

 

「今回は、奴が解決する」

 

何を言っているのか分からない顔をしているが、私自身ですら、困惑している。

 

「本当にできるのか」

 

そう言いながらも見つめる先に全員が見つめて、驚きの顔をしている。

 

「なっ無茶です!!

こんな事はっ!!」

 

「無茶でも、奴はこれを実行すると言って意固地になっていた。

もしも反抗の意思があれば、自身を殺しても良いとすら言っていたからな」

 

「ですが、あの街の中でしろがねさん一人で行くなんて」

 

「無理ですっ、しろがねさんが危険です!!

 

そう、今回のアレーヌ市奪還において名乗り出たのは他でもないしろがねだ。

 

それも護衛を一人も連れずにだ。

 

上層部は脱走の可能性も考えていたが、怪しい動きを一つでもしたら、私の手元にあるスイッチで爆発させるという処置もあり、行っている。

 

「貴様は裏切り者っ!!」

 

「辞めろっ、この人がそんな事をした訳じゃない」

 

「そうだ、あの結婚だって、帝国の罠かもしれないし」

 

しろがねの姿を確認するなり、手に持っている銃をしろがねに向ける市民だが、他の市民がそれを取り押さえながら、しろがねへとリーダー格が近づく。

 

「神の医者と呼ばれる方がなぜこちらに」

 

「この街で軍人が怪我をしたという知らせを聞いてな。

その軍人を治療しに来た」

 

「それですか、ですがそれは必要ありません」

 

「なぜだ、死んだのか?」

 

「いいえ、奴らには死よりも苦しい思いをさせるつもりです」

 

「・・・」

 

そう言った奴らの目からは次々と怒りの炎をこみ上げるように言葉を発していた。

 

「あなたも共和国の国民ならば分かるはずです!!

帝国は敵です。

なのに、なぜあなたはその敵をも助けるのですか!!」

 

「そんなの簡単だ。

目の前で苦しんでいるならば、助ける。

そして、こんな下らない事をしている貴様達を止める為だ」

 

「とっ止める?」

 

しろがねの言葉に動揺を隠せない様子の市民がしろがねを見つめる。

 

「何を言っているのですか、これのどこが下らない事ですか!!

奴らは神の敵!!

ならば、殺さなければ」

 

「それは、お前達の大切な人達を殺してまで行う事なのか」

 

「殺して?」

 

「なるほどなぁ」

 

しろがねが行おうとしている事は結構単純な言葉だ。

 

「なっ何を言っているんですか」

 

「お前達は忘れているかもしれないが、ここは既に帝国の敷地に入ってしまっている。

その中でお前達が帝国の軍人に対して発砲、それも殺してしまうという事がどのように恐ろしい事が分かっているのか?」

 

「えっ?」

 

しろがねの言葉で見覚えがあるように幾人ものの市民は固まっているようだが、それでも止まらず、しろがねは続く。

 

「帝国はすぐにでも内部の不安材料を排除するだろう。

その為に、この街は焼かれてしまう」

 

「それは覚悟の「覚悟?軽い覚悟をするなよ」っ!!」

 

「ここはお前達が生まれ育った場所だろ。

生まれて、ここまで生きてきた間、嬉しかった事、楽しかった事もある思い出もある場所だろ。

それを帝国に支配されたから、国の為に反撃する?

馬鹿を言うな」

 

そう叫んだ瞬間、近くにある壁を殴る。

 

その音を聞き、しろがねの周りにいた市民は怯え始めた。

 

「お前達が行おうとしているのは、この場所を消え去るだけじゃない。

ここでお前達と一緒に住んでいる人も一緒に焼かれる事だぞ。

分かっているのか、お前達が殺した軍人の苦しみがそのままお前達の愛した人に対して降り掛かる姿を」

 

「あっあぁ」

 

その言葉を言いながら、しろがねはすっと歩き出し、近くに倒れているのは帝国の兵士だったか。

 

しろがねはその兵士の眼を閉ざし、祈りをささげた。

 

「お前達が殺したこの兵士の姿。

それが、このまま続けたお前達とその家族の末路、いやこれ以上かもしれない」

 

しろがねの言葉に対して、徐々にだが、市民共は震え始め、中には武器を手放している奴がいる。

 

「これって一体」

 

「この戦場だからこそかもな」

 

ここの奴らは帝国に対して怒りを持っているが、それは同時に帝国の恐ろしさも知っている。

 

しろがねはその痛みを受けるのは自身ではなく、家族へと標的された場合の恐怖を自覚させた。

 

たったそれだけだが、混乱している奴らの頭にはすんなりと入っている。

 

これも、英雄視されているしろがねのカリスマもあっての行動だ。

 

「お前達が帝国を憎む気持ちも分かる。

だがな、その感情で故郷を、大切な人達を失うな」

 

「お医者様」

 

「ここを出て行かなければならないかもしれない。

けど、仲間や家族がいれば生きていける。

そしてその生きた先で、またこの地に帰ってこれるかもしれない」

 

「俺達は」

 

未だに迷い続ける市民の銃をしろがねは銃口の自身の胸元へと押し付ける。

 

慌てて、銃を取ろうとしているが、私はすぐに止めさせた。

 

「それでも、地獄を望むならば、俺の心臓を打ち抜け」

 

「ぁっ」

 

その一言が全てが終わり、全ての者達が武器を落としていった。

 

同時にその様子を見ていたと思われる共和国の兵士が一斉に逃げ出した。

 

「少佐!!」

 

「追うな、今、追って戦えば全てが水の泡だ」

 

敵を目の前にみすみす逃がすのは問題だが、この状況では、市民の説得ができた方た大きな得がある。

 

上層部に対しての説得には十分なぐらいだ。

 

「案内しろ、俺の患者の元へ」

 

「はい」

 

その一言と共にしろがねを案内するように市民は歩いていく。

 

「さて、我々も行うとするか。

これならば、残るのは軍人のみだろうがな」

 

「それにしても凄い。

武器を使わず、言葉だけでここまでになるとは」

 

正直言って、現実味もない、三流芝居のような流だったがな。

 

だが、我々が育った日本は戦争に対しては徹底的な嫌悪を示しており、その戦争の無惨な結果などは記録している。

 

戦争の愚かしさを知っている私としろがねだからこそ理解できる事だ。

 

「そういう意味では、しろがねの説得は上手くいくもんだ」

 

未だに戦争の行方がどのようになるか分からない奴らにとって、しろがねの言葉は妄言かもしれないが、実際に行ってきた事を冷静に振り返れば、理解はできるだろ。

 

「説得方法は単純だが、それを実行する度胸は本当に恐ろしいよしろがね」

 

さて、しろがねがここまでしたんだ。

 

今回は疲れずに仕事を終えれそうだ。

 

ヴィーシャSide

 

アレーヌ市を無血での解決をしてから翌日。

 

私達は、その功績もあって、戦線へ戻るまで1日だけですが休みを貰いました。

 

アレーヌ市では、大尉としろがねさんの功績もあってか、元々住んでいる住人達は捕虜として丁重に扱っています。

 

その事もあって、この街は互いに不可侵領域となっています。

 

このような事を起こしたという事もあって、しろがねさんはある意味私達よりもとんでもない偉業をしていますが

 

「コーヒー用意しました。

上層部からのお礼らしいです」

 

「おぉ、これは!!」

 

「はいっ!!

今回の功績もあって、代用コーヒーではなく、正規のコーヒーです」

 

それを聞いて、笑みを浮かべている大尉を見ているとほっこりとします。

 

普段は冷徹なイメージな大尉ですが、時折見せる笑顔はとても可愛らしいです。

 

「しろがねさんの分もありますから」

 

「あっ俺もか?

でも良いのかな?」

 

「何を言っているんですか!!

今回はしろがねさんのおかげで解決した問題ですよ、上層部も喜んでいましたよ」

 

「そうなのか?

だったら」

 

そう言い、しろがねさんはゆっくりと出されたコーヒーを味わっています。

 

しろがねさんの姿を見ても、手錠をしている以外にも髪の色が珍しく白髪で目も銀色という変わった特徴を持っていますが、それでも美少年と言っても間違いはないでしょう。

 

「そう言えば、しろがねさんは年齢は幾つなんですか?」

 

「んっ、俺は18歳だよ」

 

「えっ!!」

 

想像以上の歳だった。

 

「それほどか」

 

「いえ」

 

そう考えると結構複雑ですが、コーヒーを飲んでいるしろがねさんと大尉を見比べる。

 

「なんだ、私の顔になにか付いていたのか?」

 

「いえ、なんというか、お二人は反対なのに、そんなに仲が良いかと思って」

 

「俺とターニャがか?」

 

「えぇ」

 

お二人ははっきり言うと温水と冷水ぐらいに違いがあります。

 

デグレチャフ大尉は敵味方にも厳しく、冷静な判断を持っており、常日頃から恐ろしく感じていますが、頼れる人です。

 

反対にしろがねさんは敵味方だろうと命を救う優しさを持っており、感情的になりやすく、頼れる人です。

 

「あっこうして考えると、反対な所もありますが、お二人が頼もしいのは共通していますね」

 

「そうなのか?

私はできる限りしているし、しろがねも同じだ」

 

「あぁ俺は治す事しかできないし、それが戦争の解決には繋がらないからな」

 

そう言って、お二人は紅茶を飲んでいますが、その姿はとても微笑ましいです。

 

「そういえば、お二人の好物はなんですか?」

 

「「えっ」」

 

その言葉を聞いた瞬間、お二人とも固まりましたがどうしたんでしょうか?

 

(私の好物?

好物と言ったら、素直に言ってコーヒーと言えば良いが、しろがね、お前は確か)

 

(納豆に卵かけご飯だな)

 

(あぁ覚えている。

お前が旨そうに食べていたから、つい食べたが、その後下痢になってしまったからな。

だが、今はそこではない、この世界でのお前の好物は何にする!!)

 

お二人共、私の言葉を聞いた瞬間に、互いを見つめ合っているけど、まさかっ!!

 

お二人とも好きなのはお互いで、書物で書いておりましたが、「好物はお前さ」と言っていた所があったはず。

 

だとしたら?!

 

「だっ駄目ですよっ、しろがねさん!!

大尉が好きなのは分かりますが、そっそういうのはっ!!」

 

「えっなになに!?」

 

幾ら戦場に身を置いても、大尉はまだ子供。

 

そういうのはきちんとしなければ、あれ?

 

そう言えばそもそも結婚したのは確か、しろがねさんと大尉が行ったからこうなった訳だけど、それは確か大尉から行ったという事?

 

だとしたら、大尉はむしろ積極的で

 

「おい、おいヴィーシャ中尉」

 

「大尉!!

大尉はもっと年相応の考えが必要ですっ!!」

 

「貴官は私達が黙っている間に、どのような結論に至ったんだ?

あぁ、しろがねの好物は確か、豆だ」

 

「豆ですか?」

 

「あっあぁ聞いた話だと、遠い国で作られた特殊な方法で作った豆でな、私も聞いた話だけど、それが珍味だったらしい。

なっしろがね」

 

「あっあぁ、そうだな。

確かにこの国にも、俺の故郷にもなかったからな、なんとなくの記憶で、豆だったかなぁ程度だったから。

それ以来、豆は好きなんだ」

 

「なっなんだ、そうだったんですか」

 

珍しい物好きだったから、それが可笑しいと思ったから緊張していたんだ。

 

でもなぜでしょう、お二人の笑みは微妙に固まっていますが

 

「すいません、私、とんだ勘違いをしていて」

 

「何を勘違いをしていたのか分からないが、謝る必要はない。

私達はそれだけ沈黙していたからな」

 

「そうだよ、ほら、コーヒーでも飲んで」

 

「はいっ」

 

良かった。

 

それにしても、やっぱりこの二人は仲が良いです。

 

((危ない所だった))

 



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神への問い

「眠い」

 

今日も戦場での戦いを終えた俺はターニャに誘われるようにベットの上で寝ころび、二人で抱き合うように寝ていた。

 

といっても、俺は手錠で繋がっている為のと、ベットが狭いのもあって、結果的には抱き合っている状態になっているだけだ。

 

そんな事を考えながらも、俺は寝ようとしていると

 

「なんだこれは?」

 

突然、周りの空間が一瞬だけ止まったかと思うと、目の前にはこれまで見た事のない髭の生えたお爺さんがいた。

 

イメージとしては神話に出てくるゼウスが思い浮かべるが

 

「なるほど、あんたがあいつが言っていた存在Xか」

 

そこに出てきたのはターニャが話してくれた存在Xによく似た奴だった。

 

「その通りと言っておこう。

だが、奴の答えは間違いだ、私は創造主だ」

 

「創造主、つまりはフェイスレスか」

 

「フェイスレスだと」

 

「あいつからは聞いた。

あんた、俺の思考も読めるんだろ、だったら読んでみろよ」

 

「・・・ちっ、まさかこのような奴に例えられるとはな」

 

俺の思考を読んだフェイスレスは忌々しい物を見るように吐き捨てるが

 

「その前に俺を呼び出した理由はなんだ?

言っておくが、お前達の目的に協力するつもりはない」

 

「まったく、奴も似たような事を言う。

なぜ、そうまでして、創造主に逆らう?」

 

「逆らう?

馬鹿な事を言うな、人間は既に貴方達の創造から遠く離れたんじゃないですか?」

 

「なに?」

 

こちらの言葉に何か疑問に思えるように声を出すが、事実でしかない。

 

「作物を育てた人々はその作物にとっては創造主だ。

だが、作物は他の人の手に渡れば、その人の物になる。

あんたらは長い年月で、その作物から忘れられたんだよ」

 

実際にフェイスレスが作り出した人形で、フランシーヌ人形を始めとした人形は創造主であるフェイスレスの予想を超えた存在へとなった。

 

「つまりは、貴様は我らに敵対するという事か」

 

「別に、俺は敵になるつもりはない。

敵になって、戦う時間が勿体ないからな」

 

実際にこうして話す時間は勿体ない。

 

「貴様っ、「待て」何だ?」

 

俺と話している間に、何時の間にか現れたのは褐色の肌をしたインド人のような神だった。

 

「何をする」

 

「その者を消す事は私が許さない」

 

「何を言っている。

こいつの考えは、奴と同じ危険な思考だ。

さらには、奴は我らの力を欲しない、つまりは必要ない存在だ」

 

「あんたは確か、俺を転生させた神さんか」

 

「その通りだ。

君と会うのはこれで二度目だな」

 

「それで、俺に何の用だ」

 

「何、これを授ける為だ」

 

そう言い、神は私に向けて、何か炎を宿させたが、これは?

 

「そっそれはっ!!」

 

「あぁ神の奇跡などを燃やす炎だ。

しろがね、今から貴様に宿るであろう全ての奇跡は燃やされる。

それは他の神々からの介入も消す事ができるが、同時に魔力も失う」

 

「なぜ、その炎を渡した」

 

「前にも言ったはずだ。

介入は成長の阻害になると、そして私はこの者を転生だけさせて、見続けた」

 

そう言い、それまでの活動が画面の上に映し出された。

 

「長い間、人間を見続けたが、ここまで一つの芯のように真っすぐとした行動は見た事ない。

その先にある道は、我々も想像できない道を作れるかもしれない」

 

「だから、放っておくのかっ!!

この悪魔をっ!!」

 

「えぇ、あなたもなりたいでしょう、あなたが望む、悪魔に」

 

その言葉は真っ直ぐに俺に届けられ、答える。

 

「・・・あぁ」

 

その神が何を望んでいるのかさっぱり分からない。

 

あの神が何を考えて、俺にこんなのを授けたのかはさっぱり分からないが

 

「ようするに、俺は俺なりの道で、加藤鳴海のような悪魔を目指せという事だろ」

 

「えぇ」

 

人々の笑顔の為に、その身を悪魔に変えた男。

 

だから俺も変わるとしよう、どんな疫病や怪我をも治す、疫病にとってはまさに悪魔のような存在に。

 

「行きなさい、君を待つ者がいる」

 

その言葉と共に、俺の意識は再び無くなる。

 

ターニャ?SIDE

 

思えば、私と奴との関係は小学生時代からだった。

 

様々な不安を煽るメディアが多く報道されており、それによって親は多くの不安に覆われていた。

 

そんな中で、私は親の期待に応えるように与えられたルールと条件下で最善を尽くすようにしていた。

 

そんな環境の中で、あいつが現れた。

 

「皆さん、今日は転校生を紹介します」

 

「俺の名前は○○だっよろしくなっ!!」

 

そう言って、奴は自己紹介ををした。

 

笑顔を見せて、印象を良くしようとしていたが、私には無駄だった。

 

世の仕組みも理解していない奴に対して哀れでしか思っておらず、私は奴を憎んでいた。

 

期待に応える為に繰り返し、参考書を向き合っており、成績を争う毎日だった。

 

そんなある日、参考書を買いに行った時だった。

 

「あっお前は確か」

 

奴は目の前に現れた。

 

私にとっては手に持っていた参考書にしか興味を持っていなかったが奴の手に持っているのは今でも思い出深い「からくりサーカス」の単行本だった。

 

「なんだ、お前は参考書か?

いつも難しそうな物を読んでいるな」

 

「そうですね、そういう君は漫画ですか」

 

生まれてきてから、参考書しか読んでいない私にとっては無縁な存在な為、軽蔑も含めて言う。

 

「あぁ、なんだって、これは俺にとって人生を作った物だからな」

 

「はい?」

 

人生を作った、漫画か?

 

「君はふざけているのか」

 

「ふざけてなんかないさ。

俺はこの漫画から大切な事を知り、今も知り続けている」

 

呆れて物も言えないとはこの事だった。

 

「君がいつもにやにやと笑っているのも、その書物なんですか」

 

「あぁその通り」

 

そこまで自信満々に言い、私の中では呆れではなく怒りを通り越した。

 

なぜここまで堂々とできている。

 

そう私が睨むと、奴は懐から取り出したのは今持っている漫画とは別の単行本だった。

 

「俺はな、この漫画は色々と好きだけどさ、多分、一番影響したのはこのシーンなんだ」

 

そう言い、私に向けてそのページを渡す。

 

正直言って、興味はなかったが、ここで断ると、後に面倒だと思い、私はそのページを見る。

 

そのページには主人公だと思われる男性が一人の男の子を抱え、炎の中にいるシーンで、男が叫んだ言葉だった。

 

「何かあったら心で考えろ、今はどうするべきってな。

そうして笑うべきだと分かった時は、泣くべきじゃないぜ。」

 

「・・・」

 

正直、始めは読んでいて、よく分からなかった。

 

生存の可能性がない場所において、この男は何を言っているのか、創作物とは言え、理解できない。

 

「・・・苦しい時や悲しい時があるかもしれない。

何もかも押しつぶされそうな時があるかもしれない」

 

奴が言っている事は理解できなかった。

 

「人生は笑みを浮かべる時は多いはずだ。

まぁ人生はそううまくいかないかもしれないけどさ」

 

薄っぺらい言葉のはずだったが

 

「だけどさ、お前も生きているんだろ?

期待されているのは分かるけどさ」

 

そう言い、奴は私の頬に手を触れた。

 

「笑いたいと思う気持ちが無くなったら、人生は面白くないだろ」

 

笑顔を作らせた。

 

これまで、作り笑いしかできなかった私にとって、それは本当の笑みかどうか分からない。

 

だけど、私は素直に思った。

 

この男は、私を変えてくれる男だと。

 

「ふがっ!?」

 

私はすぐに何かの衝撃があり、起き上がると、そこは戦場で与えられた簡易ベットで、私を覆うように寝ているのはしろがねだった。

 

「まさか、あの時の夢だとはな」

 

まだ、この世界に来る前に、奴と本当の意味で初めて出会った時の出来事が夢で出てくるとはな。

 

それからは私の人生は多少は変わった。

 

努力を行っている時に、他の視点からの考え。

 

その考えを行っている時に、どのようにすれば良いのか。

 

多種多様な考えを持つようになり、これまでになかった世界が広がった。

 

「私に考えを変えたお前には感謝をしている」

 

恐らくだが、あのままあの世界で生き続けても、きっと幸せだっただろう。

 

親友としての奴と共に、愛する人と出会い、時には話し合い、時にはぶつかり合い。

 

そうして、最後を迎えた時はきっと幸せな人生だったと考えられるはずだ。

 

「だが、今は違う」

 

既に私は死に、新たな人生になった。

 

ならば、今の私の目的は3つ。

 

1つ目は安全な後方勤務による仕事。

 

こんな前線で命を落として、たまるかっ!!

 

2つ目は生前の私の幸せを奪い去った存在Xへの復讐。

 

正確には殺したのは私を突き落とした男だが、それを知っていて見殺しにした奴も同罪だ。

 

3つ目はこのまま奴と添い遂げる事だ。

 

今は難しいかもしれないが、成長し、心に変化があれば、きっと本当に愛し合える。

 

「だから、こそ、私は今を生きなくてはならない」

 

それが、今の私だから。



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最高の休日と最悪な休日

どうも皆さん、お久しぶりです、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉です。

 

本日は訓練も終わり、休日という事もあって、街を歩いてた所、偶然グランツ中尉と会いました。

 

どうやら、その日はヴァイス中尉達がナンパを行っているようなのだが、誰がモテるかどうかどうか賭けを行う事になりました。

 

今回の賭けはアップルパイが食べられる事もあって、張り切った所、見事私の賭けは成功したようでうれしく思っていましたが

 

「あれ?」

 

「どうかしましたか?」

 

「何やら見覚えのある影が」

 

そう言ったので、私も一緒に覗いてみると

 

「「「しょ少佐殿!!それにしろがねさん!!」」」

 

「んっなんだ貴官らか。

偶然だな」

 

そこに立っていたのは、普段は見慣れない白いスカートを着て、髪を整えている少佐殿と見慣れた医者の服とは違い茶色いコートを身に纏っており、ある程度まで手を伸ばせるタイプに変わっている魔導手錠を身に着けているしろがねさんだった。

 

休日という事もあってか私服姿の二人を見るのは新鮮だけど、それよりもヴァイス中尉達はその様子を見て驚いていた。

 

「しょっ少佐殿こそ、なぜこんな所に、しかも私服でありますが」

 

「見ての通り、デートだよデート。

貴官達も知っているだろ」

 

「いっいえ、それはその」

 

どう見ても、歳の離れた兄妹が出掛けている所でしか見えず、苦笑いを浮かべる事しかできない。

 

「なに、私が通っていたゾルカ食堂へしろがねを誘いに来ただけだ。

しろがねの煎れるコーヒーもなかなかだが、あそこの店もお気に入りだからな」

 

しろがねさん、確か捕虜扱いだったはず。

 

なのにコーヒーとか雑用させても良いのだろうか?

 

いや、本人だったら進んでやりそうだけど

 

「そういえば、貴官らは何を」

 

「あっいや」

 

「それは」

 

「その」

 

思わずどう返答したら良いのか分からない様子で皆黙ってしまったが、その様子を見て大尉は何やら納得したようで

 

「あっなるほど、聞くだけ野暮だったようだな」

 

「いえいえ、そんな事は!!」

 

「我々は帝国軍人として」

 

「節度ある行動を」

 

「あぁ分かっている、なにたまの休日だ。

ハメを外しすぎないように」

 

「ターニャ、ターニャ」

 

「なんだ?」

 

「あれ」

 

しろがねさんが指を指した方をその場にいた全員が見ると、そこには先程までナンパに成功して連れてきたはずの女性が、憐れむような目をしながら離れていった姿だった。

 

「「「「なっ!!」」」」

 

その目だけで、何が起きたのか察したのか、その場で4人は思わず手を地面に置き落ち込んでしまった。

 

それを見て、さすがに少佐殿も頬を掻きながら苦笑いをした。

 

「えっあぁ、その邪魔したようだな。

悪気はなかった、行くぞしろがね」

 

「あっあぁ」

 

そう言って少佐殿はその場から離れていった。

 

そして、その場に残ったヴァイス中尉達はナンパに失敗した事に落ち込んでいた。

 

「なんというか、予想外の結末」

 

「あぁ、だけど助かった、さすがは神の医者様!!

俺の懐が助かったぜ」

 

「なっそんな事ないですよ!!」

 

せっかくの賭けだったのに、残念なような気がする。

 

そう思っていると、何時の間にか少佐殿が憲兵に連れていかれてしまい、しろがねさんは( ゚д゚)とした表情で立っていた。

 

「こっこれは」

 

「憲兵が子供だと勘違いして」

 

「少佐殿を連れて行っちゃった」

 

正直言って、何が起きたかなんて、さっぱり分からないけど

 

「しっしろがねさんをとりあえず食事に誘いましょ!!」

 

しろがねさんは特に脱走する気はないと思いますが、たった一人だけいるとそう思われる可能性があるので私はすぐに走り出した。

 

「おっおい!!

あれ、なんか足取り軽くないか?」

 

後ろから何か声が聞こえるがとりあえず

 

「あっあのしろがねさん、こんな所で何をしているんですか?」

 

「んっ、あぁヴィーシャか。

実はターニャと食事に来たんだけど、さっき憲兵に迷子と間違われて連れていかれてしまってな。

俺が言い終える前に連れていかれてしまってな、どうしようかと迷っていた所だ」

 

「それでしたら、一緒にゾルカ食堂に行きませんか!!

丁度グランツ少尉が奢ってくれるらしいので」

 

「なっ」

 

「いや、そんなの悪いよ。

俺はなんか給料が出ているから、せっかくだから二人に食事をおごるよ」

 

「良いんですか!」

 

「えっ給料出ていたんですか!」

 

「そうなんだよ、何時の間にか。

俺も知らなかったけど、なんか毎月ターニャから渡されるだよ」

 

「なんか、それやばくないですか」

 

「でも生活の為には必要な事だから」

 

いやぁ、こうやってしろがねさんとお食事ができるのは嬉しいなぁ。

 

「早く行きましょ、しろがねさん!」

 

「あぁ分かった分かった」

 

そう言いながら、しろがねさんの手を引っ張りながら、私はゾルカ食堂へと向かって言った。

 

「・・・なんか俺の扱い、酷くない!!

 

そう言いながらグランツ少尉も一緒に来た。

 

 



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最大の敵は仲間

「この前は酷い目にあった」

 

貴重な休暇という事もあり、しろがねとのデートという事もあり詳しくないおしゃれをして出かけたのだが、その先では憲兵に連れられ、強制的に帰宅させられた。

 

確かにこの見た目なので、憲兵に対して恨み言を言うのは無礼であるのは重々承知しているが、その後のしろがねはセレブリャコーフ少尉と共に食事をしたと聞いていたが

 

「ふむ、しかし、セレブリャコーフ少尉」

 

ふと、彼女との関係を思い出しながら、私は自身の背筋を凍るような感覚に襲われた。

 

「なんという事だ!!」

 

まさか、ここまで戦ってきた戦友でもあり、信頼できる部下が、今、まさに私の最大障害になる可能性だという事に気づいてしまう。

 

「よく考えれば当たり前の事だ。

彼女の性格をよく知る私だからこそ言える」

 

彼女は優秀すぎる部下という事もあって、様々な所で優秀な所があり、さらには男を誘惑するには十分すぎる程にグラマラスなスタイルを持っている。

 

前世ではなかなかにいない女性であり、彼女がもしもいたならば、私は間違いなくしろがねに相応しいと思って勧める。

 

「あれ、よく考えれば、戦力差がやばい」

 

あらためて自己診断してみても、私は未だに子供という年齢もあって、小柄なボディで胸はそれ程出ていない。

 

容姿も今は幼女という事もあり、可愛らしいイメージがあり、将来に期待しても良い。

 

だが、それで奴を誘惑できるのかというと疑問に思える。

 

向こうはこちらを同性の親友のように接しているので、誘惑しても効かない可能性がある。

 

「身長も伸びていない。

このままではセレブリャコーフ少尉にしろがねを盗られてしまう!!」

 

彼女の性格からして、そのような可能性は低いが、しろがねの天然な魅力にやられてしまえば、墜ちるのも時間の問題!

 

「急な成長は無理だが、地道な所で成長を促すしかない」

 

その為にもまずは専門的な知識が必要。

 

そこで私が向かったのは参謀軍務医務室。

 

「あら、大尉、どこがお加減が?」

 

私を出迎えると先生はこちらを迎えてくれ、その隣には丁度、他の者が入っていた。

 

「いやそういう訳ではないが、少し先生に相談があるのです」

 

「あら、医者ならば、あなたの傍に一緒にいるしろがね先生の方が優秀だと思いますよ?」

 

「いや、その。

しろがねには相談しにくい内容でして」

 

私の身体の成長について、聞ける訳がない。

 

それも、「お前好みになる為だ」なんて、言える訳がないっ!!

 

「なるほど」

 

そこで納得すると、すぐに先生は他の者に命令して、部屋から出ていってもらった。

 

軍務の最中で、個人的な事で止めてしまって申し訳ないが、時間が1秒でも惜しい私にとっては誠に申し訳ない。

 

「何か話しにくい内容でしょう?

私しかいないから、遠慮はいらないわ、デグレチャフ大尉」

 

「これはかたじけない」

 

私はそこでゆっくりと息を吸いながら、改めて相談内容を言う事にする。

 

「先生、私は同世代と比較しても自身の身体の成長が遅れているのではないでしょうか」

 

「大尉はまだ11歳でしたね。

そこまで気にする必要はないと思いますが」

 

「ですが」

 

確かに先生の言葉にも納得できるが、少しでも成長をしたい私にとっては問題があるのだ。

 

「大尉は孤児でしたから、幼児期に取るべき栄養が十分ではなかったのでしょう。

同世代に比べて、成長が遅いのは仕方ない事だわ」

 

確かにそうなのだが

 

「それに、元々軍事訓練は基本的に少年少女を想定していないから、食生活や睡眠時間の乱れがホルモンバランスを崩しているのかもしれないわ」

 

なるほどつまりはあの孤児になってしまったのも、このような戦場でしか出世できないような世界に転生させた存在Xが悪い訳か。

 

なるほどなるほど、先生のおかげで奴に対する復讐の理由がまた一つ解明された。

 

先生には感謝しておかなければな。

 

いかん、つい怒りに我を失いそうになった。

 

「確かに屈強な部下達に囲まれていると、思う所はあります。

ですが、仕方ない事だと分かっていても」

 

そう言い、私は自身の身体を見つめる。

 

(あらあら、まぁまぁ!!

そういう事だったのね、確かに新聞では大々的に報道されて、婚約者となっているとはいえ、自身の身体に自信を求めないのは仕方ないわ。

それに、彼女は孤児、しろがね先生に恋愛と父性の両方を求めていても、可笑しくないわ!!)

 

私は自身の身体について疑問に思っていると、ふと先生が私を抱きしめてくれる。

 

「心配しないで大尉。

個人差はあるけれど、女ならば誰しもが通る道だから」

 

「はっはい?」

 

「あなたは十分に魅力的な方ですわ。

軍務に差し障らない範囲で適切な生活を心がければ、大丈夫です。

一応、ビタミン剤を出しておきますね」

 

「あっありがとうございます」

 

私はそれだけ薬を受け取った。

 

薬を受け取り、自身の中にある葛藤に気づきながら、ため息をつく。

 

前世においての性別である男として行きたい自身もあるが、同時に前世では敵わなかった恋を成功させる為に必要な女として自身。

 

「それもこれも、存在Xのせいだぁ!!」

 

その場で叫びたくなったが、その衝動をギリギリまで抑え込むように、持っていた薬を窓の外へと思いっきり投げてしまった。

 

「どうしたんだ、ターニャ?」

 

「しっしろがね、いやなんでもない」

 

「そうか、でもなんか投げたような」

 

「ゴミが落ちてしまってな。

最近、憲兵に連れていかれたストレスでついな」

 

「そうなのか?

そうだ、この前のお詫びもあってアップルパイはどうだ?

手錠であんまりできなかったけど、パイ生地は事前に作ってあるから、焼けばすぐに食べられるぞ」

 

「そうか、ならば頂こう。

勿論コーヒーを忘れるなよ」

 

「あぁ分かっているよ」

 

あぁ危なかったぁ、もしもあの中身を見たら、しろがねだったら一発でアウトだったぞ。

 

冷や汗をかいてしまったが、危機は脱せたようだ。

 

(頑張って大尉、私は応援しているわ)

 

何やら後ろで誰かの視線が見えるが、気のせいだと思っておこう、そうしておこう。



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煙草改正作戦

戦争中は部隊で行動する事が多く、捕虜兼医者である俺もターニャが率いる部隊と一緒に行動するのも必然だった。

 

彼らとの交流は俺としても嬉しくあり、捕虜という立場や別の国の人間であっても、その中には差別はなく関係は良好だと言えるが

 

「これはだな」

 

戦場から遠く離れた現場において、一時的な休みという事もあり酒の準備を行っている物や料理を運ばれる者など暇を持て余している者達は読書や様々な事を行っているが、その中でもダントツに多いのが

 

「ここまで染みこむとはな」

 

「あぁ、喫煙者が多すぎる」

 

タバコを吸う者がとても多く、俺とターニャなど数名は吸わないが、それ以外の大半はタバコを吸っていた。

 

日本という環境の中でタバコに対して厳しくなっており、喫煙者の数もどんどん減っていたが、現在は戦時中、未だにタバコを吸う人は多くいる。

 

そんな中で屈強な男達が大量にいるという事もあって、宿の中では既にタバコの匂いで部屋が包まれていた。

 

その匂いに対して、俺達は苛立ちを感じていた。

 

俺もターニャも前世ではタバコは余り吸わない方で、不愉快に感じる方だったので、この状況を打破したく思っていた。

 

「ターニャ、やるか」

 

「あぁ」

 

俺達の思惑が一致すると同時に、俺は近くからボードを借り、ターニャは全隊員を呼び出した。

 

そうやって全員が集まったのを確認すると、ターニャはゆっくりと演説を始める。

 

「大隊諸君、これからパーティを始める前にしろがね先生からのありがたい授業の始まりだ」

 

「授業ですか?」

 

「あぁ諸君の持っている害ある物についてだ」

 

「タバコがですか?」

 

「あぁその通りだ。

詳しい説明は、しろがね」

 

「あぁ」

 

ターニャに言われると共に、俺は持っている資料を広げ、集まっている隊員に対して、タバコの説明について始めたが

 

「このように、タバコによって及ぼす害は計り知れない物がある。

タバコには約4000種類の化学物質が含まれており、その中で有害物質が含まれているのは約200種類、発がん性物質は約40種類ある」

 

「すみません、しろがねさん、もう少し分かりやすくお願いします」

 

「・・・」

 

どうやら、思った以上に専門用語を言いすぎたのか、この場にいる全員は目を丸くしながら聞いていた。

 

それを見ると、ターニャは呆れたように見ていた。

 

「はぁ、分かった。

それでは、皆にもっと分かりやすく説明すると、一日タバコを一本吸うと、寿命が5分と30秒短くなる」

 

「なっ」

 

「それは本当ですか!!」

 

「あぁ」

 

さすがにこの説明を聞くと、いかに危険な物なのか理解できたのか、全員が目を丸くしながら叫びだした。

 

「だがなぁ、タバコを吸えなくなるのは、少しきついな」

 

「あぁ、しかもいつ死ぬのか分からない戦場だからな。

生き残りたいのもあるが、タバコが吸えなくなって、生活するのは」

 

それでも、既にタバコに対して強い依存が見える隊員達はそれでもタバコを手放せないように愚痴り始めた。

 

その言葉に対して、他の隊員からは見えない角度で舌打ちをしていた。

 

「確かにストレスが溜まるかもしれない。

だがしかし、身体に害になるという事は、戦争の最中で病になったりしてみろ」

 

「そんな奴は私が銃殺してやる」

 

「・・・」

 

その瞬間、ターニャの言葉が真実だという事が分かり、その場にいたターニャ以外の全員が凍ってしまった。

 

「さて、タバコがいかに人体に悪影響を及ぼすのか、簡単な実験を行う」

 

「じっ実験?」

 

「あぁ実験と言っても、タバコを吸うだけだ」

 

「なっなんだ、それだったら、俺が「あっ馬鹿」えっ?」

 

「なるほど、では質問だ。

正直に答えろ」

 

「はっはいっ!!」

 

俺達二人が放つ迫力に対して屈強そうな奴は身体を縮めてしまう。

 

「お前は、一日にタバコは何本吸う」

 

「へっ、それだけですか?」

 

「あぁ、簡単な質問だ。

あぁこれは好きな数吸えたらで良いからな」

 

「えぇ、そうだな、俺だったら2箱は吸えます」

 

「ほぅ」

 

その言葉を聞いたターニャは懐から取り出したのはタバコだった。

 

何か疑問に思ったが、手に持ったタバコの箱はそのまま開けて、口の中へと突っ込む。

 

「がっ!!」

 

「ほらほらぁ、まだもう一本残っているぞ。

足りないから、耳でも良いか」

 

「えったっ隊長」

 

「このように、一日吸うタバコを実際に吸ってみると」

 

その言葉と共に火を付けて、タバコに煙が出始める。

 

するとタバコを吸っていた奴は瞬く間に白目になり10秒も満たない内に倒れてしまう。

 

「このように、たちまち失神状態になる」

 

「いや、これは普通に失神になりますよ、タバコとは関係なく!!」

 

「何を言っている。

身体に害がなるとは、この状態になるという事だぞ」

 

タバコの恐ろしさについて説明をしていると、未だに失神している隊員を見て、おろおろしている奴らを見る。

 

「いいか貴様ら。

タバコは害でしかない、その煙は敵に居場所をばれさせ、火薬に火がつき暴発する可能性がある。

なので、今後一切のタバコを禁止する」

 

「そっそんな!!

それでは、我々は今後、何をすれば良いんですか!!」

 

「そうだ、これは余りにも横暴だ!!」

 

そう言い、その場にいる大多数の隊員達が文句を言っている。

 

だが、一方でタバコの恐ろしさを知ってしまった以上に、下手にタバコに戻ろうとする奴もいないだろう。

 

「あっあります!!」

 

「えっ?」

 

「はい、タバコ変わりになり、煙も火も必要にならず、しかも緊急事態には約に立つ物が!!」

 

「そんな物があるのかっ!!」

 

それについては聞いていなかったので俺もターニャも驚きを隠せなかった。

 

意見を言ったヴィーシャが胸元にしまい込んでいた物を上に掲げながら、それを見せた。

 

「ガムです!!」

 

「おおぉ!!」

 

「「がっガム」」

 

まさかの答えに対して、俺達は惚けており、なるほどと納得したように隊員達が驚いていた。

 

「確か、ガムってこの時代ぐらいは」

 

「まぁガムぐらいならば」

 

「「よっしゃああぁ!!」」

 

その一言と共に、場は収まった。

 

まぁ当初の目的であるタバコ廃止は成功した事だから、良しとしよう。

 

「まったく、ガムでここまでとはな」

 

そう甘く見ていた。

 

だが、後日、俺達の元へと届けられたのは、ガムの購入によって減らされた給料だった。

 

一体何が起きたのかと混乱していたが、どうやらタバコ廃止運動が俺とターニャの二人で行った為、その代用品であるガムの金額は全て俺達に降りかかってきたようだ。

 

さらに、この時代では数少ない甘味料という事もあって、消費量は半端なく、その為

 

「きゅっ給料の半分だとっ!?」

 

「・・・・」

 

煙による脅威は去ったが、代わりに訪れたのは金が半分になるという事態だった。

 



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リメイク版
私と親友の間には友情などなかった


FGOに出てきたアスクレピオスが主人公のイメージに合った為、急遽書き直しを行わせてもらいます。
内容に関しても変更点は多数ありますが、これからもよろしくお願いします。
また異世界かるてっと編はパスワードを設定させてもらっています。
パスワードは1913924とさせてもらいます。


「こいつが神の医者と呼ばれた男か」

 

その日の任務は神の医者と呼ばれる者を護衛するという任務だった。

 

この世界において、まさか神が付くような奴がいるとは思わなかったが、噂を聞いている限りでは、本人ではなく周りがその名前を言っているらしい。

 

この世界ではあり得ない程の技術を持っており、どのような状態の患者も救い出す事ができる医者という事もあり、両国はその医者を取る為に様々な事を行っているらしい。

 

「まぁそのお医者様のおかげで私も楽をできているのだがな」

 

今回の任務は数々の激務を耐えてきた事もあり、危険地帯でも護衛できると判断され、私達は目的地に向かっていた。

 

神の医者の性格は噂で聞く限りだと聖人に近いとされており、彼が通った道でどのような患者に対しても分け隔てなく治療を行っており、金を取るのは裕福な貴族達のみで貧困の者達からは一切金を受け取らないらしい。

 

まさに絵に書いたような奴で私は笑ってしまう。

 

「そういえば、あいつはそういう医者を目指していたな」

 

この世界に転生する前の世界において、私の親友がよく言っていた。

 

前世で友という存在はなく、いるのは親友のみという人生だったが、奴はよく暇を見つけては手に持っていた漫画の人物を進めていた。

 

からくりサーカスという漫画で医者が子供を庇うシーンなど、奴はその漫画に出てくる医者に強い憧れを抱いて、勉強をしていた。

 

そして結果的には、驚く事にテレビでは出ないが、それでも誰もが知る有名な医者となっていた。

 

そんな風に私のような合理主義ではなく、真っすぐで感情的な奴で、正反対の私達だったが、気の合う親友として、共に過ごした。

 

「いや、違うな」

 

今考えると、私は親友に対して、友情を感じていなかった。

 

別に奴の事が嫌いではない、むしろ好きな部類だ。

 

そう、好き、つまりは愛していた。

 

この世界に転生させられて、自身の感情に気づいたが、それはある意味、前世では気づかなくても良かった事であった。

 

「私はホモではないからな」

 

「えっとどうか、なさいましたか?」

 

「なんでもない」

 

そんなくだらない考えなど捨て、今は目標へと向かうだけだ。

 

まさか、こんな所で親友を思い出すとはな。

 

「見えました、あの人物です」

 

報告を受け、見てみると、この時代では珍しい古びたフードを持っており、バッグを片手に歩いている奴がいた。

 

私達はすぐにその男を囲むと、医者は驚いたように見ていた。

 

身長からして、私よりも少しばかり上だと思われる男であり、白髪で眼鏡をかけている所を見ると、前世の自分と似た共通点があって、まるで鏡を見ているような感想だった。

 

ただ違いがあるとすれば、薄気味悪い事に常に笑顔を絶やさない事だった。

 

見た目からしたらあまり笑わないタイプに見えたが、まるで皮肉を言っているように笑みを浮かべており、こちらを見下しているようにも感じる。

 

眼鏡の下には医者の癖に、いや情報を聞く限りだと、ここに来るまでの間とてもではないが人間がこなせるとは思えない程の仕事量なので、それに見合ったとも言うべき目の下には隈ができていた。

 

「あなたが、神の医者ですか」

 

「・・・まぁ本名は別にあるけどね。

俺としては自分で名乗っている通り名の方を広げたかったけど」

 

「自分から偽名を名乗る事を進言するとは、また大それたことを」

 

「別に本名を名乗っても良いけど、なんというか、その名前で言われる程、俺は大した人間ではないから」

 

「では、ぜひとも本名を教えて欲しいのですが?」

 

「まぁ良いけど、アスクレピオス・スー。

親しい人はアスクと呼ばれている」

 

その名前には聞き覚えがあった。

 

確かギリシャ神話に出てくる奴の名前で、医学の発展の為に様々な事を行った結果、神によって殺されてしまったという英雄だったはず。

 

生前は特に思ってはいなかったが、こうして考えてみると彼はある意味私の先輩ともいえる存在で、存在Xに理不尽な理由によって殺された。

 

社会に貢献してきた結果、存在Xに殺されるとは、もしも本人に会ったらぜひとも一緒に存在Xを殺す計画を立てたいものだ。

 

「まぁこっちの名前は故郷で呼ばれているから、どうでも良いけど」

 

「それでは、もう一つの名前を教えてくれませんかね?」

 

「しろがね、それが俺が名乗りたい名前だ」

 

「えっ」

 

その名前を聞いた時、私の中には電撃を打たれたような衝撃が走った。

 

確か、奴は尊敬していたのはアスクレピオス、そして好きだった漫画は

 

「しろがねですか、それは一体どのような名前なんですか」

 

「ここから遠い国の言葉で白い銀と書いてしろがねだ」

 

「えぇ、そうなんですか、お医者様は様々な事を知っているのですね!!」

 

「・・・別にそれ程でもないよ。

俺は知っている事だけしか語れないから」

 

そう言った彼は恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

 

「そう言ってもらえると、嬉しい。

嬉しい出来事があると、やっぱり笑いやすくて、俺も嬉しいから」

 

「笑顔ですか?」

 

「あぁ心の病気に勝てるのは案外笑顔だからね。

つらい時や苦しい時に涙が出るかもしれないけど、それ以外の時は笑うべきだと、俺は教えられた」

 

その最後の一言を聞いて、私は既に埋まりそうになっているパズルのピースを当て嵌めながら、ゆっくりと息を吸いながら、しろがね尋ねる。

 

「・・・しろがね殿」

 

「そちらで呼んでくれたか」

 

「えぇ私としてもあなたの要望に応えたいので。

それで、一つ、聞きたい事がありますがよろしいでしゅうか」

 

「あぁ構わないよ」

 

そう言い、あいつは変わらない態度で、私を迎え入れてくれて、ゆっくりと口を開く。

 

「あなたはジャック・オー・ランターン、ジャコが一番のお気に入りですか」

 

「っ!!!」

 

その瞬間、確かにしろがねには動揺が走り、こちらを見つめながら、ゆっくりと近づく。

 

「お前、まさかっ!!」

 

しろがねはその事に気づき、眼を見開きながら、ゆっくりとこちらに近づく。

 

「まさか、こんな再会があるとはな」

 

「あぁまた会えたな親友」

 

そう言い、私の手を握った温かさが伝わり同時

 

(あぁ本当に、お前が欲しくなってしまったよ、しろがね)

 

これまでにない、どろどろとした感情が、私をあっさりと支配してしまった。




アスクレピオス・スー
本作の主人公。
前世で学んだ医療技術を使い、人々を救っている。
数々の研修もこなしている為、外科、内科もある程度こなせており、医療の知識も豊富な為、1900年代における彼の腕は他の人間から見たら神の偉業ともいえる数々の出来事を起こしている為、世間では『神の医者』と呼ばれている。
そのあまりにも高すぎる技術と本人が誰だろうと関係なく救う姿勢もあってか、戦争中でアスクレピオスに対しての攻撃は全面的に禁止されている。
本人はしろがねという名前で広めたいと考えていたが、なかなか呼ばれない。


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私は親友を手にするならば、手段は選ばない

戦場に戻ってから、しばらくの間、私達の間は無言のまま戦場に出て戦った。

 

私は戦闘中は余計な事を言わず、部下達からしろがねと私の関係について聞かされたが、それを曖昧に濁しながら、戦っていた。

 

全ての戦いを終え、一日を終えると共に、私も戻りながら、身なりを整える。

 

現状、私個人として用意できる場所において、必要最低限の椅子に座り、寝具、そしてこの時の為に用意していた代用コーヒーを見つめる。

 

「待たせてすまなかった、戦場ではやはり怪我人が多くてな」

 

「気にするな。

私はむしろお前とは違い、怪我人を増やしている立場なのだからな」

 

そう軽口を言いながら入ってきたしろがねはそのまま着ていた服を脱ぎ、バックの中に入っていた簡易の衣服に着替える。

 

「なかなかに徹底しているな」

 

「寝ている間の寝汗などが感染の危険性もあるからな。

医者として、身なりを整えるのは患者の危険を防ぐ為に必要な作業だからな」

 

そう言い、淡々と言いながらも、奴はそのまま準備を終わらせた。

 

その間、私は余計な詮索をしに来る部下はいないか注意を行いながら、代用コーヒーを両手に持ち、彼に近づく。

 

「まぁ少しは落ち着け。

どうだ、代用コーヒーだが、ないよりはマシだろ」

 

「あぁすまない」

 

そう言い、着替え終えた彼はそのままコーヒーを飲み始める。

 

この戦場において、一番に嫌だと思える物、代用コーヒーの苦みに対して呆れながらもゆっくりと彼がコーヒーを飲んでいる姿を見る。

 

「・・・ふむ、代用コーヒーだが、苦さが何か別のが入っているようだが」

 

「戦場だからな、おそらくは代用コーヒーにも劣化しているのだろう。

すまない、無理ならば処分するが」

 

「・・いや、大丈夫だ。

感染対策はしてあるし、この程度ならば問題ないだろう。

それに、久しぶりに君がいれてくれたコーヒーだ、無駄にする訳にはいかない」

 

「あぁ、そう言ってもらえると、私も嬉しい」

 

彼は私に対して親切に笑みを浮かべており、私も安心して笑みを浮かべる。

 

「こちらに来てから、どうだ?

私に比べたら、良い暮らしをしているのでは?」

 

「そちらの事情を知らないが、確かに良い暮らしだ。

前の世界にはなかった温かい家庭、そこそこ裕福な家庭だからこれで不幸だというならば、罰当たりだからな」

 

「そうか、お前はそうだったのか。

まぁ私は孤児だったが、こうして我が身の魔力によって、ここまで上り詰めたがな」

 

「あっあぁ、そうだったのか、すまない」

 

彼はそのままこちらの事情を知ると、少し顔を伏せてしまい、彼の事だ、私が不幸な生活を送って心を痛めてくれたのだろう。

 

だが、それはそれとして、今は良いだろう。

 

「なに、こうしてお前と再会できただけでも良かったよ。

幸福があまりにも少なく、不幸や理不尽が多くあるこの世界では、お前との再会は私にとっては幸運でしかなかったよ」

 

この言葉に嘘偽りはなく、本当の事だ。

 

「そうか、こちらも君との再会を本当に嬉しいよ。

姿形が変わったとしても」

 

「言うな、この容姿にはこれまで苦労していたんだぞ」

 

「そうか、確かに男から女に変わったんだから、そうだよな」

 

「まぁ気にするな、この身体はこの身体で案外良い物だと、最近感じ始めたのだから」

 

そう言いながら、私はゆっくりと彼の様子を見る。

 

先程まで仕事の疲れもあって、少し身体の動きが鈍いようだったが、頬を見ると赤くなっていた。

 

「どうしたんだ、しろがね。

何やら様子が変だが?」

 

「いや、なんでもない。

少し熱があるようだ、すまないが、今夜は先に眠らせてもらう」

 

「あぁ、明日も早い。

早く寝たほうが良い、まぁこちらにいる間はすまないがスパイの疑いを晴らす為にも私と一緒に寝てもらうが良いか?」

 

「そうなのか、あぁ分かった」

 

「寝床はこちらだ、私も残りのコーヒーを飲んだら、寝させてもらう」

 

「あっあぁ、御休み」

 

「あぁゆっくりとな」

 

そう言い、彼はそのまま床に寝ころび、寝始めた。

 

10分、15分程経つのを確認し、私はゆっくりと彼に触れる。

 

彼は私の反応に気づかず、未だに寝息を立てており、起きる気配はなかった。

 

「くくっ、本当に無防備だな、お前は」

 

そう言い、私はしろがねが残したコーヒーをそのまま飲み干す。

 

「まさか、拷問に使う為に用意された物を使うとはな。

まぁ、これに関しては、特に後悔もないし、本音を言えば良いだろう」

 

そう言い、既に着ていた軍服を脱ぎ、寝ている彼のボタンをゆっくりと外していく。

 

あの代用コーヒーには媚薬、精神弛緩剤などという薬物を混ぜているが、普段は代用コーヒーを飲んでいないので、コーヒーの苦さだと勘違いしてくれたのだろう。

 

そして、私自身も既にその薬剤の影響を受けている。

 

「しろがね、私は既にお前の事しか考えられなくなったからな」

 

そう言い、私は笑みを浮かべながら、彼の元へと入り込む。

 



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俺と彼女の会話に違いはあるのか?

私の名前はヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ、幼年学校卒業の伍長です。

 

この度、ライン戦線も落ち着いてきたので日記を書こうと思います。

 

可愛らしい容姿をしている彼女の名前はターニャ・フォン・デグレチャフ少尉、異例の若さで昇進した、白銀の勲章を持つわが軍の英雄です。

 

ライン戦線においての私の上司であり、戦線中においても、白銀の名に恥じない戦いを見せております。

 

その戦う姿を見て、私達の先頭に立って、戦っております。

 

だけど、ライン戦線の中で大きく変わった出来事が一つあります。

 

それは、アスクレピオス・スーさんです。

 

彼はそれは敵国出身でありながら、人々の命を救う為に医術を使って救っております。

 

その高い技術は、救護班の皆様から聞いた限りだと、本来ならばあり得ない程の技術を持っており、帝国でもおらず、まさに「神の医者」という異名に相応しい人物です。

 

なのですが、最近になってアスクさんが余り元気を見せない様子でした。

 

仕事などは特に問題ない様子でしたが、明らかに空元気な様子でした。

 

それとは別にデグレチャフ少尉は任務の時以外は良い事があったのか鼻歌を歌うぐらいに機嫌が良い様子でした。

 

そこから見える笑みは二人が亡くなった時に見せた笑顔とは違うようでした。

 

未だに戦線に慣れない事もありますが、今日も元気に過ごしたいと思います。

 

「ふぅ、これぐらいで良いかな」

 

私はそう言いながら、自分で書いた日記の内容を確認しながら、外へと出る。

 

生まれて初めて地獄だと思われたライン戦線にも慣れてきたこともあり、周りの風景を見ていると、珍しく仕事はないのか、アスクさんはあくびをしながら歩いていました。

 

「アスクさん!!」

 

「んっ、あぁヴィーシャさんか。

こんな所で会うとはな」

 

「はい、アスクさんは、今はどこに?」

 

「今日は酷い怪我をした奴らはいないからな。

軽い診断をした後にもう寝るつもりだ。

まぁ軽いと言っても、普通ならばやばい怪我ばかりだながな」

 

そう言った、アスクさんの表情の目の下に見えた隈は少し取れているようだった。

 

「それにしても最初に見た時よりも隈が取れていて、安心しました。

なんだか疲れていて、いつ倒れるか心配していたんですよ」

 

「あっあぁ、そうだな。

ターニャにしつこく寝るように言われていたからな」

 

「なるほど」

 

やはり少尉は凄い方だ。

 

アスクさんの状態をすぐに理解して、ここまで手厚くもてなすとは。

 

「あっあぁ、それと聞きたいが、この国での結婚とはどのような感じなんだ」

 

「えっアスクさん、もしかして結婚するんですか!」

 

それを聞くと大きく驚きしかありません。

 

「もしかして、国に残っている方でしたか?」

 

「いや、国に親しい女性はいない。

ただ、どうもなぁ、ターニャに」

 

「少尉にですか、うぅん、どうでしょうか」

 

結婚については、私はあまり興味はなかったので正確な事は言えなかったので悩みますが、少尉の年齢では結婚はできなかったと思いますが

 

「いや、そうか、すまないな」

 

「いいえ、でもなんでですか?」

 

「まったく見覚えないのだが、朝、目を覚ますと、なぜかターニャが一緒に寝ていたんだ」

 

「えっそれは、本当ですか!!」

 

内容自体は驚きですが、アスクさんがこうして話してくれるとは思いませんでした。

 

他の男の方だったら、まぁ最低だと思いますが、アスクさんの場合だと、それに当て嵌まらないんですよね。

 

ですが、隣で一緒に寝ている少尉ですか、なんだか可愛らしく感じますね。

 

「だって、アスクさんと少尉、結構仲が良いのですから。

まるで兄妹のように」

 

「なんだか、よく分からない事に当て嵌められたような気がするが、まぁ良いか」

 

何やら呆れている様子のアスクさんですが

 

「とりあえず、そういう事もあって、俺は一応は責任を負わなければならないと思うんだ」

 

別にそこまで悩む必要はないと思いますが。

 

話を聞いている限りだと、アスクさんとただ少尉と添い寝をしただけだと思いますが。

 

だけど、アスクさんがここまで思い悩んでいるという事は、もしかして少尉は

 

「大丈夫ですよ、アスクさん。

きっと、少尉は寂しかったんだと、思います」

 

「寂しい?」

 

そう言われて、少し思い悩んだ様子で目を瞑る。

 

きっと、一緒に寝れば、ずっとアスクさんがいてくれると思ったんでしょう。

 

やはり、見た目通り可愛らしい所もあったんですね。

 

「確かにあいつは昔から人との付き合いは薄く、俺以外はあまり話さなかったな」

 

「だからですよ、きっと少尉はアスクさんと離れたくないから、一緒に寝たんだと思いますよ!!」

 

話に聞くと、少尉は孤児、アスクさんの事を本当のお兄さんのように思えて甘えたんでしょう。

 

「・・・そうだな、確かに君の言う通りかもしれないな」

 

「はい、だから少尉となるべく一緒にいてください!!」

 

少尉なりにアスクさんと離れない方法として、結婚をしようと言い出したんですね。

 

「アスクさん、少尉をお願いします」

 

「あぁ任せろ、責任を取らないといけないからな」

 

「アスクさんたら、そこまで深く考えなくても大丈夫ですよ」

 

「そっそうなのか。

この時代ならではなのか」

 

未だに戸惑っているアスクさんですが、それでも少尉の為に一生懸命頑張っているのですから。

 

(それにしても、この時代は性行為に関してはどうなんだ?

まさか、メアリーもそうなのか、なんだか、色々と恐ろしくなってきたな)



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天使と悪魔

第二〇三航空魔導大隊

 

それは、日々悪化する戦況へ即応するために実験的に帝国参謀本部直轄で創設された航空魔導増強大隊である。

 

その隊長を務める事になったターニャだが、本人は部隊を作る事に対して積極的ではなかった。

 

なので、彼女が考えた作戦としては、自分が考えられる中でも最も過酷な訓練を行う事だった。

 

そんな訓練の一つである雪山歩行は兵士達に対しては効果絶大だった。

 

常に敵がどこにいるのか分からない雪山の中で、空を飛ぶ事を許されない中で、雪崩というハプニングが起きてしまう。

 

だが、それでもターニャは至って冷静な判断で見つめていた。

 

「ふむ、さっさと準備を始める」

 

先程の雪山からすぐに起き上がった者達を除き、自力での脱出が不可能な人物達を救出し終えると、ターニャはすぐに兵士達に指示を出す。

 

「何を言っているんですか!!

あの雪崩で、何名かが意識が戻っていません、早く応急手当を「なに、安心しろ、既に手配している。もうそろそろ医者が来るはずだ」えっ?」

 

「呼んでいるとは一体」

 

彼女にとって、雪崩が起きた場合、多くの負傷兵は勿論応急手当が必要な者が出るのは分かり切っていたことだ。

 

だからこそ彼女は、自身が知る中でも最高の医者を用意していた。

 

そして、そんな彼女の言葉に応えるように、雪山の彼方から誰かがゆっくりと近づく音が聞こえる。

 

既に何十時間という訓練を行っている兵士達はその音を聞いた瞬間に警戒の為に身構えるが、ターニャはそのまま腕を伸ばし、その行動を止めた。

 

「ようやく到着したか。

すまないな、ここまで歩きで」

 

「別に構わない。

仕事では、こういう所によく来るからな」

 

その言葉と共にそれまでまるで姿が見えなかった人物がその姿を現す。

 

全身を白いローブで身に纏っており、口元には黒いマスクを着けている余りにも現代離れしているその人物に多くの兵士は困惑しかなかった。

 

「あっ、もしかして医者って、アスクさんでしたか」

 

「セレブリャコーフ少尉はあのアスク殿を知っているのですか?」

 

「えぇ、とても腕が良い医者ですよ」

 

「・・・とりあえず、患者はどこだ」

 

周りの困惑を他所にアスクはふと雪山の中に埋まっているグランツを発見し、持ち上げる。

 

「グランツ少尉!!」

 

「ふむ」

 

何も反応を示さないグランツを見つめる。

 

「おい、息をしていないぞ、早くなんとか」

 

グランツの異変に気づき、急いで対応しようとする兵士を他所にアスクはすぐに座るように固定させると、そのまま背中を叩く。

 

突然の事で反応できなかったが、アスクはそのまま叩き続けると、グランツの口からすぐに雪が吐き出される。

 

「がはぁ」

 

「グランツ!!」

 

「雪崩時の応急処置としては、まずは心臓マッサージよりも喉の中にある雪を取り除け。

気道の確保後、体温などはないかどうか、確認しろ」

 

「はっはい!?」

 

アスクはそのまま他に怪我人はいないかどうか、確認するように睨み付ける。

 

「なんというか凄まじい方だ。

少佐殿とはまるで正反対だ」

 

「終わったか、では手を出せ。

これ以上は貴様の疲労がかかる」

 

「・・あぁ了解した」

 

その後、全員の診察を手早く終わらせると、ターニャはすぐにアスクを回収するように飛び去った。

 

「まさか、あの噂は本当だったのか」

 

「噂とは一体?」

 

「知らないのですか?

銀翼が神を捕らえたという噂」

 

「神って、まさかアスク殿が?」

 

「あっ、本人は否定をしておりましたが、確かに巷では神の医者と呼ばれていましたよ」

 

「なに!?」

 

詳細が未だに広がっていない中で、アスクの事について知ると僅かながら驚きで満ちていた。

 

そんな中で、グランツだけは震えていた。

 

「どっどうなさいましたか、グランツ少尉?」

 

「なんか恐ろしい物でも見たのか」

 

「あっいや、なんでもない」

 

そう言いながらも顔を震えながら、グランツはそのまま移動を行う為の準備を行っていた。

 

何が起きたのか、その場にいた全員は疑問に思う。

 

だが先程の雪崩に巻き込まれ、死にかけた事を恐怖したんだろうと思い、すぐに準備する。

 

(あんな、あんな恐ろしい光景があるなんてっ!!)

 

だが、この時、グランツの脳内にあったのはこれまでにない光景だった。

 

雪崩に巻き込まれ、自分を助けてくれた存在を見た時には、人とは思えない雰囲気の中でもある優しい目を見て、天使だと思ってしまった。

 

だが、その後ろを見ると、まるでグランツを射殺すばかりの目を見開きながら見つめる悪魔がいた事に思わず恐怖してしまう。

 

しばらくの間、動けずにいたが、天使のような存在はそのまま悪魔に連れ去られるようにして、その場を去っていった。

 

(天使と悪魔って、まさかあんな感じだよな、性別逆だけど)

 

次に死にかけた時には、あの悪魔のような少佐によって殺される可能性がある為、グランツは死に物狂いで生き残る為に動き出した。

 

そんな彼らを遠くから見つめるように、ターニャとアスクは座っていた。

 

「それにしても、凄い気力だ。

現代の人間では難しいかもしれないな」

 

「まぁな、現代社会とは違い、魔力などを使えるのもそうだが、そもそも運動量が違うのだ。

これぐらいは当たり前だろ。

だが、どうすれば良いのやら」

 

元々、部隊の編制については積極的ではないターニャは彼らを、どう脱落させるのか考えるように頭を抱える。

 

「それにしても、本当にこんな事をするのか?」

 

「あぁ、見守りとはいえ、この方法が一番だからな」

 

「まぁ確かに」

 

そう言った彼らの現在の姿は支給された毛布で身をくるんで、アスクの腕の中にターニャが抱き着いている状態である。

 

(先程の新兵を救助しているしろがねを見て、思わず睨んでしまった。

まぁ、今はこうして雪山の寒さから守るという名目で行えるから、まぁ良いだろう)

 

(先程の新兵、なぜか俺を去る際にこちらを怖がっていたけど、やはりこの時代からしたら異質な方法だったんだろうか)

 

各々が、互いの反応に対しての思いとは裏腹に、訓練は順調に進んでいった。



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神の医者の妹は主人公ですか?

このSSを書くきっかけになった劇場版幼女戦記がついにBlu-rayになって、我が家に来ました!!
あの時の興奮が家でも見れるとは。
これからも、よろしくお願いします。


夢を見る。

 

平和だった、あの頃の夢を。

 

その日、家のキッチンで父さんが気合を入れて作ったケーキを零してしまったあの日。

 

「大丈夫、メアリー!?」

 

そんな私を心配して、優しく声をかけてくれる母さん。

 

だけど、意地を張って、失敗してしまった自分が情けなく、お父さんの大切なケーキを台無しにした自分がとても情けなかった。

 

そんな私を見て、心配そうな母さんの横から兄さんが入ってきた。

 

白髪の身体に合っていないコートを着た無表情の兄さんは、そのまま怪我をした私の足を見つめる。

 

「兄さん?」

 

「これぐらいの怪我で良かった」

 

そう言ったお兄様は不格好なぐらいの大きいコートから取り出した包帯と消毒液で私の膝の瘡蓋を治してくれた。

 

「でもっ、私、お父さんのケーキを」

 

「親父は別にそんな事を気にしない。

それよりもメアリーが大怪我しなかった方が嬉しいに決まっている」

 

それを聞くと、涙が溜まっていた目はそのままお父さんとお母さんに向けると

 

「その通りだ、ケーキなんて、また作れば良いんだ」

 

「それよりもメアリーが怪我をしてなくて、本当に良かったわ」

 

そう言って、私を心配してくれる二人を見て、安心したように笑みを浮かべた。

 

「それにしてもお前は何時の間にこんなのを覚えたんだ」

 

「そうよ、コートの中でハサミは危ないわよ」

 

「ふむっ、確かに。

この体格だと危険な可能性もあるな。

事前に適切な大きさに包帯を切っておいた方が良いかもしれないな」

 

「まったく、お前は医学に関しては本当に馬鹿になるな」

 

そう言いながら、お父さんは兄さんの頭を撫でていた。

 

お母さんもそんな兄さんを見ながら、ゆっくりと私の頭を撫でてくれた。

 

家族で過ごした何気ない日常の中で兄さんの表情が変わる事はあまりありませんでした。

 

ですけど、私達と一緒に過ごしていた時、確かに笑っていたような気がしていた。

 

なのに

 

「兄さん」

 

そんな日常はもう過ごす事ができないのを知った。

 

あの幸せな日々から幾年の年月が経ち、兄さんは若くして旅に出た。

 

自分の医学で軍だけではなく、多くの人を助ける為に旅に出ました。

 

戦乱の時代、軍人ではない一般市民が旅に出るのがどれだけ危険で恐ろしい事は子供の私でも分かっていました。

 

それでも兄さんは、小さい時から着慣れた白いコートと医療用のバックを持って、家から出ました。

 

出ていった最初の日は寂しく泣いており、一週間後には神様に兄さんの無事を祈り続けていました。

 

そして数ヶ月後の出来事でした。

 

「おい、見てくれ、この新聞を!!」

 

父さんがいつもの日課である新聞を手にして驚いた表情で見ていました。

 

私達も気になり、見てみるとそこには旅に出ていた兄さんの姿が写真に収められていました。

 

内容は熱もない低体温になり、皮膚がが乾燥し、老人のような姿になる感染症がありました。

 

原因は不明で、治療方法も分からない病気でした。

 

だが、その病気の治療法は、なんと塩水を飲ませるという方法でした。

 

なぜ、そのような事で治療できたのか分かりませんが、感染した場合は死亡が確定だと思われた感染症は一週間程度で簡単に直せる病気へと変わりました。

 

これまでの常識を覆すような事を行い、この事実を知った新聞記者は兄さんの事を「神の医者」と書かれていました。

 

「まさか、本当にやるとはな」

 

「あの子が無事で本当に良かった」

 

「兄さん!!」

 

その事を知り、家族皆でお祝いをしました。

 

今は遠く、誰かの為にその腕を振るう兄さんは私達にとっては誇りでした。

 

それでも寂しいのは変わりないので、家に帰ってきたら沢山甘えよう。

 

そう思っていました。

 

「えっ?」

 

それは私にとっては衝撃しかありませんでした。

 

あの感染症の事件から次々と偉業を成し遂げる兄さんの新聞に書かれた内容がとても信じられなかった。

 

「メアリー」

 

そんな私を心配そうに抱いてくれる母さんの胸の中で私は大声で泣いてしまった。

 

「嘘、嘘だよ。

兄さんが、兄さんがぁ」

 

そう、子供の我儘だと思えるように叫びながら、気持ちが同じだとばかりに抱きしめる母さんに甘えるように強く抱きしめる。

 

新聞に書かれていた内容が理解できず、分かる範囲で、簡潔に私の中にそれは刻み込まれた。

 

「銀翼が兄さんを奪ったっ!!」

 

敵国である帝国へと捕らわれた兄さんはどのような目に合っているのか。

 

その技術を悪用されていないのか。

 

これから、もう兄さんに会う事ができないのか。

 

そんな不安だけが私の中に募り、やがて兄さんと共に写っている少女を見つめる。

 

帝国での銀翼の称号を受けている彼女が兄さんを奪い取った。

 

「取り返すっ、絶対にっ!!」

 

愛する兄さんを奪われた私は、この時から、、銀翼を狙う事への執着が生まれた。




コレラ
代表的な経口感染症の一つ。
汚染された水や食物を摂取する事により発症する。
経口摂取後、
胃の酢性環境で死滅しなかった箘が、小腸下部に達し、定着・増殖し、感染局所で菌が産生したコレラ毒素が病状を引き起こす。
その後、下痢や嘔吐を繰り返し、全身の水分が抜け、皮だけのような状態になり、死亡する。
過去に7回に渡って記録されている。
適切な処置として「下痢、嘔吐で失われた水分と電解質を補う」事である。
今回の事件において、物資が少ない中で個人で持っていた資金で清潔な水と必要なブドウ糖などでコレラの治療を図ったのがしろがねの行動である。

あまり専門的な事は詳しくは調べていませんが、恐ろしい感染症対策の一つとして、今回はあげさせてもらいました。


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悪魔との契約

久しぶりの投稿で申し訳ございません。
アニメをベースに書かせてもらいましたが、すぐにネタが切れそうになるので、古本屋でまとめて買った幼女戦記を読みつつ書かせてもらいました。
まだまだ投稿は遅めですが、よろしくお願いします。



雪によって、覆われた戦場の中で、彼らは見つめ合っていた。

 

着慣れた白いコートを身に纏いながら、アレクはその場を一歩も退かないように立っており、アーニャはその手に持っているナイフを遊びながら、尋ねる。

 

「さて、アレク。

私は今から、貴様に簡単な質問をする」

 

「あぁ、良いぞ」

 

その日、ターニャはアスクに対して威圧的な態度で見つめていた。

 

部隊にいた多くの者達は、その様子を遠くで眺めながら、話し合っていた。

 

「一体、何があったんでしょう」

 

「分からん、だけど、アスクさんに対して、あそこまでの態度で言うのなんて、初めて見ました」

 

基地へと戻る途中で見かけたアレクを回収する為に降り立ったターニャ。

 

それは、いつも見る光景だったが、アレクの後ろにあるテントを見て、何かに気づいたように睨んでいた。

 

部隊の中ではターニャはアスクに対してはとことん甘く、彼の前では恋する乙女というべき態度が多く見られる。

 

そしてアレクもまたターニャに対しては甘く、彼女の言う事も大抵は聞いていた。

 

だが、その2人は今はまるで敵対する関係のように互いに睨み合っていた。

 

「なぜ、敵兵を助けた」

 

その一言は、部隊全体を揺るがすには十分なぐらいだった。

 

「俺は医者だ。

それだけで十分だ」

 

「そうか、だが、それは私に対しての敵対行動とも言えるぞ」

 

そう、それは単純な話、アレクはいつものように治療を行ったが、それは味方に対してだけではなく、敵兵に対して行われた事であった。

 

そして、現在、その敵兵の何名がアレクのテントの中で休まれていた。

 

アレクはその前から一歩も動かない様子だった。

 

「アレク、分かっていると思うが、今は戦争中だ。

その中で、この場で、敵兵がいるという事はどれだけ危険な事が分かっているのか」

 

「あぁ分かっているよ。

お前の考えている事ぐらい」

 

「ならば答えろ」

 

「敵兵が味方陣地にいるという事は、その敵兵によって暴れる事によって、多くの被害が出る。

さらには敵兵が機密文書など、情報を持ち帰ればそれは味方に対して大きな被害が出る」

 

「よく分かっているじゃないか、そこは賢いな」

 

そう、ターニャは普段は見せない悪魔のような笑みを浮かべながら、アレクに対してナイフを突きつける。

 

「しょっ少佐、それは「良い、お前達は来るな」だけど」

 

「これは、俺とターニャとの話だ。

大丈夫だから」

 

そう言い、周りが動きだそうとした部隊の全員を落ち着かせるように言うと共にターニャを見つめる。

 

「なら、それが分かっていて、なぜ助けた?

あぁ、今度は医者だからと言う理由で言うなよ。

お前のあの態度は少し疑問に思ったからな」

 

そう言いながら、銃を構えながら、アレクに向けて言う。

 

「お前は、あの兵士に対して、何か特別な感情を抱いていないか?」

 

「・・・だとしたら」

 

「それはなんだ、私よりも大事なのか?」

 

「どっちも大事だ」

 

「・・・・」

 

ターニャはそう言いながら、頭の中にある理屈以上に感情的になりながら、アレクを見つめる。

 

(ふざけるな、あんな奴らと同等だとっ!!

お前は私がいれば十分なんだ、なのに、なぜ敵を助ける!!

なぜ、私の邪魔をする!!

お前は、私の理解者だろ、ならば、なぜ殺さない!!)

 

感情的に吐き出しそうになる言葉を必死に我慢しながら、アレクを睨むターニャ。

 

そんな姿を見て、アレクは

 

「親父がいる」

 

「なに?」

 

「親父があのテントの中にいる。

戦場で死ぬのは兵士にとっては常識、敵を助けるのなんて、今の俺の所属から考えれば愚の骨頂なのは分かっている。

それでも「親への情という訳か」あぁ」

 

その言葉を聞き、ターニャは

 

(くだらん)

 

その一言で片付ける。

 

前世においても、今世においても、ターニャの、○○○の、親への感情は非常に乾ききっており、どうでも良かった。

 

そんなのが、何の役に立つ。

 

そう言わんばかりにテントへ銃を向けようとした瞬間だった。

 

(待てよ)

 

その時、ターニャは動きを止めた。

 

「・・・アレク、そんなに、親が大事か」

 

「あぁ」

 

「アレク、私はお前にとっては大切な存在か」

 

「あぁ」

 

「ならば、お前は戦争が終われば、また人を救う為に旅立つのか」

 

「そうだな」

 

「ならば、私からの提案だ」

 

そう言うと共に、テントへと銃を構えながら、アレクを見つめる。

 

「お前の人生を、私によこせ。

そうすれば、お前の父は解放しよう」

 

その悪魔的な言葉に対して、アレクは

 

「そんなので良ければ、幾らでも付き合う」

 

(もらったっ!!)

 

ターニャはその瞬間、勝ちを確定したように笑みを浮かべる。

 

「ならば、解放しよう。

あぁ、出発前に、お前の父親と話をしてくる。

なぁに、殺しはしない」

 

「分かった、信用する」

 

「感謝する」

 

そう言い、ターニャはこれまでにない笑みを浮かべながら、テントの中を見つめる。

 

「ほぅ、なるほど。

お前だったのか、アレクの父親は」

 

「貴様っ!!」

 

テントの中へと入ると、ターニャの目に入った男性には見覚えがあった。

 

銀翼の称号を得るきっかけになった戦いにおいて、そして今回の戦場において銃を奪い取った兵士でもあった。

 

そんな男性に対して、ターニャは

 

「いやはや、なんという偶然。

貴殿が出る戦場において、私は多くの幸福が訪れる。

前の戦場では銀翼を、此度の戦場では銃と、そしてあなたの息子。

本当に私が求める多くの物を与えていただき、感謝する」

 

「貴様っ!!」

 

「では、近くの味方がいる場所まで案内します。

なぁに、救助まで必要な物資ぐらいは渡しますので、息子さんに助けてもらった命を無駄にしないように、生きてくださいね。

義父様」

 

笑みを浮かべながら、ターニャはその場を去った。

 

その一言を最後にターニャはその場からいなくなった。

 

「さて、行くとするか、アレク」

 

「分かった」

 

そう言いながら、アレクはターニャと共に歩き出した。

 

そして、部隊の全員は、そんなターニャの様子を眺めながらも、ターニャの指示により、持参していた物資をテントの中にいる者達に分け与えると共に去っていく。

 

「なんでしょう、敵とはいえ」

 

「同情か?」

 

「えぇ」

 

部隊の帰還中、全員がその思いで一杯だった。

 

テントの中にいた兵士は悲しみにくれている中で、特に印象に残ったのはアレクの父だと思われる人物。

 

物資を受け取りながら、その拳は強く握りしめ、血が溢れていた。

 

「これが、戦場という事なのか」

 

そう言いながら、彼が見つめるのは天使のような笑みを浮かべるターニャと、静かに目を閉じながら進むアレクの姿だった。



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手に入れた幸せ

遅れた事、そして短い文章で申し訳ございません。
原作通りの話に苦戦しながらも、なんとか書かせてもらいました。
これからも、よろしくお願いします。


その日、ターニャ率いる隊は作戦を終え、基地へと戻ってきた。

 

「少佐殿、無事ですか?」

 

「なに、今回の戦いを考えれば、まだ軽傷だ」

 

そう言いながら、ターニャは部下であるヴィーシャの肩を借りながら、ゆっくりと基地へと戻る。

 

既にあの戦いから一ヶ月以上が過ぎている。

 

それからターニャとアレクの間には微妙ではあるが溝ができている。

 

ようやく手に入れる事ができたはずなのに、その彼から逃げるようにターニャは任務に没頭している。

 

(なぜだ、なぜだ?

なぜ、私はこれまでのようにあいつと一緒にいられないんだ?)

 

「あっアレクっ!?」

 

そんな考えを戦場から戻ってきたターニャを出迎えたアレクの表情はこれまでにない顔をしており、普段は強気な態度のはずのターニャも言葉を詰まらせる。

 

そうしている間にも、アレクはターニャに近づくと共に彼女を抱きかかえた。

 

「なっ何を「お前の戦場での行動を聞いた」それがどうした」

 

まさか、今頃になって、仇を、そう思っていたがターニャの思惑とは別にアレクは彼女の纏っていた衣服を脱ぎ捨てた。

 

「アレクっ、何を「・・・身体の各部に酷い火傷、それにこちらの出血も酷い」それは」

 

「ここまで無茶をしなければ、勝てなかった戦場だったのか」

 

そう言いながら、アレクは持ってきていた鞄から次々と医療器具を取り出し、治療していった。

 

これまでも一緒に寝泊まりをしており、裸を見られたぐらいでは動揺しなかったターニャだったが、彼が治療の為に行っていると分かっていながらも、顔を赤くするのが止められなかった。

 

(なっなにを恥ずかしがっているんだ?!

私達は夫婦、そう夫婦なんだ、世間一般では可笑しくない事だ!!

だけどもっ!!)

 

ターニャは身体の痛みと共に、アレクが丁寧に治療を行われている事に興奮を覚えていた。

 

これまでは抱かれながら寝る事を行っており、軽く怪我をした時にも治療を行ってもらったのは記憶に新しい。

 

それでも、全身を隅々までに治療された事はなく、治療を行っている時に感じる体温は心地良かった。

 

(はぁ、これは不幸中の幸い。

存在Xによって、この世界に来てからの幸福はこの時にある)

 

そう言いながら、ふと、自身を治療しているアレクを見つめる。

 

(これまで、ここまでアレクの視線を獲得した事があったか!!

いや、ない!!)

 

そう言いながらも、幸せの絶頂を迎えていた。

 

「怪我の治療は終わった。

これから、戦闘予定は」

 

「あっあぁ。

しばらくはない予定だ」

 

「だったら、しばらくは治療に専念しろ。

はぁ、しばらくは休むしかないな」

 

「えっ?」

 

その言葉に素で驚きを隠せなかった。

 

「俺も、一応は捕虜扱いだ。

ここでの仕事も難解な奴ばかりとお前の隊の奴らの怪我ぐらいしか仕事はないからな。

しばらくはお前の看病でもする」

 

そう言いながら、アレクはその場にある医療器具を片付けながら呟く。

 

「お前は、俺にとってはただ一人の友達なんだ。

だからこそ、お前を絶対に殺してでも生かしてやる」

 

「っ!!」

 

その言葉を受け止めた瞬間、ターニャは笑みを浮かべる。

 

(あぁ、そうだ。

皮肉にもこの世界は私が望んでいた物が手に入った)

 

ただ一人の男の心、それがターニャがこの世界に生まれ変わる前から望んでいた事だった。

 

その思いと共に、ゆっくりと意識を闇の中へと沈んでいく。



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劇場版編
開戦のきっかけ


一年越しにて、突然の最終章突入させてもらいます。
この作品を書くきっかけになった劇場版幼女戦記のストーリーとなっております。


統一歴1926年。

 

ライン戦線の包囲殲滅戦が終え、ある意味、彼女にとって因縁深い戦いが終わりを迎えた。

 

だが、戦争は終わる事なく、それでも戦いはターニャ率いる、帝国第二〇三航空魔道大隊は南方大陸にて共和国軍残党を相手取る戦役を征す。

 

「ふふっ、ようやく休暇だ」

 

それを終え、ターニャは無事に本国へと帰り、自身の夫兼捕虜兼医者という世界でも珍しい地位にいるしろがねを見る。

 

「久し振りだな、アスク」

 

「あぁ、大きな怪我はしていないようだな」

 

そう言いながら、アスクは懐から取り出した簡易の医療器具で迎えたばかりのターニャの怪我を治していく。

 

本来ならば、そこまでする必要はないが、ターニャが存在Xこと神から狙われている事を考え、僅かな致命傷でも死へと繋がる可能性を考慮しての行動だった。

 

「いや、すまないな」

 

その行為に対してターニャは涼しい表情で受けながらも、内心では笑みを浮かべていた。

 

自身の元へとアスクが執着してくれる理由であり、こうして身体を触れて貰える。

 

その行為は激戦の中での僅かな楽しみであり、これからの休暇を楽しみにさせるのだった。

 

「戻ったか」

 

その声を聞くと、ターニャはそのまま話しかけられたレルゲンに対して、すぐに敬礼を行う。

 

「はっ、ただいま戻りました」

 

それと同時にターニャとレルゲンは会話を行った。

 

その会話の内容は南方大陸での砂漠での戦いを行い、連戦での戦いの状況を聞いていた。

 

(ふむ、ここで下手な事を言えば問題なるな)

 

そう考えたターニャは

 

「えぇ、気力は十分だ」

 

そう言ったが

 

「ならば実務だ。

砂漠とは違い、吹雪の中だからな。

体調不良も考え、今回の偵察にはアスク殿に同行して貰う」

 

「・・・ヘっ」

 

その一言にターニャは呆けた声を出す。

 

思わずターニャはアスクの方へと目を向けると、無言で頷いた。

 

それと共に瞬く間に戦いを終えたばかりの帝国第二〇三航空魔道大隊は飛行機の中へと無理矢理と積み込まれた。

 

「どうしてこうなった!!」

 

「やはりこうなったか」

 

そう言いながら、ターニャはそのまま頭を抱えてしまい、アスクは呆れたように言う。

 

「いや普通はこういうのは予想できないだろ!!」

 

「まぁな。

とりあえずは到着後は無理だが、とりあえずこれを持っていろ」

 

そう言いながら、アスクが取り出したのは布だった。

 

「これは?」

 

「使い捨てカイロだ。

身体を温めるには丁度良いだろ」

 

そう言いながら、アスクは他の帝国第二〇三航空魔道大隊のメンバーに渡していく。

 

「こうなったらっ!

やってやる」

 

そう言いながら、ターニャは渡されたカイロを自身の胸元に当てながら、呟く。

 

「この戦いで、後方支援への切符を手にする!

その時こそ、式だ!」

 

ターニャはそう言いながら、思い浮かべるのは自身の最大の目的。

 

捕虜を捕らえるという事も含めて、アスクを婚約状態にこぎ着ける事はできたが、それでも戦争中の為に式を挙げる事はできなかった。

 

自身がウェディングドレスというのは可笑しいが、それでもそれが幸せの象徴として

 

「くくっはっはははぁ!」

 

そう言いながら、ターニャは笑みを浮かべる。

 

「大佐、大丈夫でしょうか?」

 

「ワーカーホリックだからな。

仕事を詰めすぎると、時々あぁなるから」

 

「なんというか、アスク殿は大佐の事が詳しいですね」

 

そう言いながら、野望に笑みを浮かべるターニャに対して、アスク、ヴァイス、ヴィーシャはその様子を見ながら、会話を行っていく。



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幼女と妹

基地からルーシー連邦で会戦に向けた動きが見られるため強行偵察の任務を言い渡され、向かった先。

 

連邦軍の部隊が展開されていることを確認し、司令部に報告しようとすると配備されていた列車砲が突如発砲。

 

同時に司令部より連邦が帝国に宣戦布告したことが伝わりすぐさま、戦闘を開始する大隊は周囲の敵を撃滅を行った。

 

「お前はこの状況でも命を救うか?」

 

「目の前に患者がいたらな。

けど」

 

「あぁ、私がさせない。

分かっているはずだ、お前が助ける人間は限らせて貰う」

 

それと共にターニャを手を握っている事でなんとか空を浮かんでいたアスク。

 

そんな彼はターニャに対して

 

「お前は戦争は好きか?」

 

「馬鹿馬鹿しい。

そんな答え決まっている。

非生産的で、何もかも無駄な戦争がなぜ好きだと思えるんだ」

 

そうアスクとターニャは話し続ける。

 

「だが、これも残念ながら仕事だ。

全く、本音を言えば、後方でお前の支援でも行いながら仕事をしたいのだがな」

 

「あぁ、それが一番かもしれないな」

 

そう会話を行っていく内に、戦いは終わり、次の目的地について話していた。

 

連邦の首都、モスコー。

 

それがターニャ達の次の目的地だった。

 

そう、周りが目的地での作戦行動を話している間、ヴィーシャがアスクに近づいた。

 

「確か、モスコーに対帝国のため各国から召集された魔導師部隊、多国籍義勇兵がいると噂で聞いていましたが、そのアスクさんの家族は」

 

「いや、いないだろ。

父さんも多分あの怪我では前線には出れないし、俺以外は妹と母さん、それに婆さんだけだ。

妹も戦場に行くような性格じゃないからな」

 

「そうでしたか、それでしたら、少し安心です」

 

「あぁ」

 

俺もそれに頷く。

 

----

 

場所は変わり、連邦の首都、モスコー。

 

そこには多国籍義勇兵の若者達が宿舎で話していた。

 

そんな中で褐色の少女が一緒に歩いていた少女と話していた。

 

「それで、確かメアリーのお兄さんって、確か帝国に捕まっているんだっけ」

 

そう、メアリー・スーは胸に手を置きながら言う。

 

「あぁ、それ、俺も知っている!

確か、腕前は神に近くて、彼のおかげで100万人の命が助かったとか?」

 

「本当、メアリーの魔力もそうだけど、お前ら兄妹はどうなっているんだ?」

 

「そうでもないよ。

私なんて、まだまだだよ。

兄さんは、今も帝国で捕まっているけど、きっと沢山の人を助ける為に頑張っているはずだから」

 

「けど、お前の兄さんって、確か」

 

「うん」

 

そう言いながら、メアリーが思い浮かべるのは父が病院での姿だった。

 

戦いの中で敵に渡された僅かな食料で生き残り、筋肉質な身体はすっかりと痩せていた。

 

そんな父から聞いた話、それは

 

『私のせいで、息子は帝国に捕らわれた』

 

その一言だった。

 

それが信じられなかったメアリー達だったが、父が嘘をついているとは思えず、家族は涙を流していた。

 

そして

 

『私がっ助けてみせるっ』

 

それがメアリーの誓い。

 

その日から、彼女は帝国から、兄を取り戻す為に歩き始る。

 

そうして、アスクの親友であり今は恋人であるターニャと、アスクの妹であるメアリーの因縁が始まりであり、そして、その開拓はそう遠くない。



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親友と妹の開拓

モスコーへと辿り着いたターニャ達はそのまま発砲し政府機関や軍関係の施設を次々と破壊し始める。

 

その中でターニャは周りの光景を見ながら、その光景を撮影を行い始めている。

 

「そういえば、奴とはデートもなしでそのまま結婚したな」

 

戦場では危険だという理由で、アスクとの結婚の証とも言える結婚指輪をネックレスのように制服の中に入れながら呟く。

 

施設を破壊している間、途中で回収が行える地点でアスクの方へと自然と目を向ける。

 

「ここであいつが見つかれば、確実に回収されるな」

 

アスクの医療知識、そしてその腕は帝国だけではなく向こうも確実に取り戻す。

 

そして、目の前に死にかけの命があれば、迷い無く助ける。

 

それは彼の美点であり、確実に無尽蔵の敵を作り出す要因でもある。

 

「さて、そろそろ来たか」

 

そう言い、重要な施設をある程度破壊すると共に、ターニャ達に抵抗するように部隊が次々と現れる。

 

「目的は果たした。

あとはアスクを回収して、戻るとするか」

 

その言葉と共に既に陽動の役割を終えた為、部隊の撤退を命令する。

 

だが

 

「お前はあああぁ!!」

 

「ちっ」

 

聞こえてきた声、それと共にターニャはそのまま銃を構え、そのまま迎撃を行う。

 

だが、異常な速さで他の隊員ではなく、真っ直ぐとターニャに向かっていた。

 

「こいつは一体」

 

疑問に思いながらも、目の前にいる敵に対して舌打ちを行いながら、それに対抗する。

 

「お前がっ兄さんを奪った奴っ!!

 

「私が奪っただと」

 

その言葉を聞いた瞬間、ターニャは一瞬で思考を巡らせ、同時に呆れた。

 

「何を言うかと思ったら、馬鹿馬鹿しい」

 

それと共に見せた笑み、それは獣を思わせる笑みであり、そのままメアリーの耳元へと近づく。

 

「お前は勘違いしている。

私は奪っていない、奴から私の元へと来た」

 

「何を戯れ言をっ」

 

「まぁ、貴様に何を言っても関係ないがな」

 

それを言い終えると主にターニャはそのままメアリーの胴体を蹴り、そのまま地上へと叩き落とす。

 

「兄さんをっ返せっ!!」

 

そう叫びながら、メアリーはそのままターニャに手を伸ばす。

 

だが、それに対してターニャは冷たく睨みながら

 

(ただの血の繋がり程度で甘やかす小娘に渡すか)

 

そう見下ろしながら、そのままターニャがその場から離れた。

 

「にぃさぁんっにいさんっ」

 

メアリーはそのまま全身に襲い掛かる痛みと共に去って行くターニャに必死に手を伸ばす。

 

だが、既に身体の自由はなく、必要以上に痛め付けられ、奇跡的に地上に叩きつけられる程度に済んだ。

 

だが、全身から流れる血の量は明らかに致死量、そのままだったら、彼女の死ぬ運命だった。

 

「・・・なんでだろうな、この場にいるはずないのに」

 

「ぃっ」

 

聞こえてきた声、それは冷たく聞こえながらもメアリーにとっては探していたはずの人物だった。

 

白いコートを身に纏っていた男はそのまま感情が読み取れない目でメアリーを見つめながら、男が懐から取り出したのは帝国が彼の治療に合わせて作られた医療道具の数々だった。

 

「痛むが我慢しろ。

本当だったら、やってはいけないからな」

 

「っ!!」

 

同時に破れた箇所を引き千切り、そのまま男は治療を行った。

 

切り裂かれる痛み、繋がれる痛み、そんな戦いで負った負傷に追い打ちをかけるように行われた部分にさらなる痛みがメアリーを襲い掛かる。

 

「終わった」

 

だが、それはただの5分で終わった。

 

何が起きたのか分からなかったメアリーだったが

 

「メアリーっ!!」

 

聞こえてきた声、それはメアリーにとって、共に帝国と戦う為に訓練を共にしてきた友人の声だった。

 

その声を聞いた男は驚いたように一瞬、目を見開いたが

 

「お前がまさかこんな所にいるとはな」

 

「にぃさぁん」

 

既に体力の限界だった。

 

だが、取り返すと決めていた兄が、アスクが目の前にいる。

 

その事に嬉しくなり、すぐに手を伸ばす。

 

だが、その手は空を切り、アスクはその場から離れた。

 

「待てっぐっ」

 

友人達はすぐにアスクを追うとしたが、それを邪魔するようにターニャの部下であるケーニッヒがそれを阻止する。

 

「ちょっと、街の中であんまり動かないでくださいよ。

こっちが隊長に殺されてしまいますよ」

 

「悪い。

さっきまで隠れていた場所がやばかったからな。

とりあえず合流しようと歩いていた」

 

「まぁ別に良いですけど」

 

その言葉と共に隊員の肩を借りて、アスクはその場から離れていった。

 

「メアリーっ大丈夫っ」

 

「これは」

 

それと共にメアリーの元へと辿り着いた友人と彼女の上官であるウィリアム・ドレイクは彼女を見つめる。

 

「何が起きているんだっ、まさか、ここで、こんな短時間でここまで正確な応急処置が行える奴など」

 

それは数々の戦場を経験したウィリアムだからこそ分かる。

 

同時に先程、離れた男の正体を理解できた。

 

「まさか、ここまで因縁が来るのかっ」

 

そう言いながら、急に起きた頭痛に頭を押さえる。



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大きな戦いの前に

 その日、ターニャ・デグレチャフはとても不機嫌な様子で自分の部屋にいる男を見つめていた。

 

 この世界に転生してから、共に多くの日々と数々の試験を乗り越えた親友であるアレク。

 

 転生する前は同性という事で、恋人のような付き合いは決してできなかったが、ターニャの今の身体は幼女とは言え女性だ。

 

 人間関係は上司・部下・敵のみでほぼ完結しており、友人や恋人といった対等な人間関係を必要としないと思われた彼女だが、前世の親友であり、今世では恋人であるアレクに対しては、狂気的な愛を彼に注いでいた。

 

 

 だが

 

「アレク、なぜかね? 

 

 私には理解できないよ。

 

 君が、なぜ、敵兵である彼女を救ったのか」

 

 ターニャはそう言いながら、自ら身に纏っていた軍服をゆっくりと脱いでいた。

 

 既に何度も夜を過ごしており、互いの裸を見ても、羞恥心はない間柄である為、ターニャはそのまま軍服から寝間着へとゆっくりと着替えていく。

 

「俺は医者だ。

 

 目の前にいる患者がいれば、治すだけだ」

 

 そう、ターニャの言葉に対して、アレクはこれまで通りの無表情で答える。

 

 互いに仕事人間である事はできている事もあり、ターニャはその程度では怒りはなかった。

 

 それが、普通の敵兵ならば、問題なかった。

 

 だが

 

(あの女っ、妹だからと言って、調子に乗っているっ)

 

 そう言いながら、アレクが治した敵兵を思い出す。

 

 それは、アレクが今世に転生した際の彼の妹であるメアリーだったからだ。

 

 自分よりも近い位置にいた事で、甘えた考えと共に、アレクは自分の物だと言わんばかりの態度。

 

 それが、ターニャの怒りに繋がっていた。

 

(ただ、血が繋がった程度で甘える愚か者がっ、私の親友であり、愛を誓った相手であるアレクに近づくなんて、ふざけるなっ!)

 

 寝間着を身に纏い、アレクからは自身の憤怒の表情を見せないようにターニャは振り返る。

 

「アレク、君には以前も話したはずだ。

 

 今の我々は、戦争状態だ。

 

 そんな戦争状態であり、捕虜に近い君が、敵兵を治療する事は、非常に危険だ」

 

 そして、ターニャはゆっくりとベッドへ腰掛けているアレクの隣に座った。

 

 既に、アレクの方からも視線を合わせていない事が気に食わないターニャだったが、ここで下手な事を言うわけにもいかないと思いながら口を開く。

 

「アレク、私は君の事を親友だと思っている。

 

 だからこそ、君を死なせたくないんだ」

 

 そう、心配するように、本心である怒りをぶつけないように、ターニャは冷静に、怒りを静めながら言う。

 

 ただ、怒りをぶつけても、アレクは自分の元から離れる。

 

「分かっている。

 

 それでも、俺は目の前にいる怪我をしている奴を放っておけない」

 

「医者の性分だな。

 

 それは君の良い所でもあるからな」

 

 アレクの言葉にターニャもまた同意するような言い方で答える。

 

 彼は人を救う事を最優先とする性格で、医者として優秀な人物である。

 

 だからこそ、前世でも、今世においても、彼を慕う人間は多くいた。

 

 ターニャ自身もそうだし、彼の部下や同僚達もそうだ。

 

 アレク自身はその事を決して自覚していないだろうが、それが、彼が持つカリスマ性とも言える。

 

(だからこそ、私が徹底的に管理する)

 

 それはアレクの為ではなく、ターニャ自身の為。

 

 前世では手に入れる事ができなかった幸せを手にする為に。

 

 性別の問題を乗り越え、残るは無事に結婚することができる環境のみ。

 

 それを整える為に、ターニャは、戦争を勝ち抜く。

 

「全ては、お前と私の為に」

 

 そうターニャはアレクに聞こえない程度の小さな声で言いながら、抱き締める。

 

 それに対して、アレクは特に気にした様子もなく、ターニャを優しく撫でた。

 

 それはまるで子猫をあやすような感じでもあったが、ターニャとしては嬉しい事この上なかった。

 

 これから起きる、大きな戦いの前での、最後の安らぎであった。



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ティゲンホーフ

前回の投稿から、既にⅠ年以上。
一年に一回の頻度とも言える作品になりましたが、幼女戦記二期が放送されまでには少しでも進めていきたいと考えています。


「それにしても、噂で聞いた時は半信半疑であったが、まさかここまでとは」

 

そう言いながら、ティゲンホーフを指揮していた人物ヨトーク・ホーフェン少佐は、その光景を見ながら、思わず目を見開く。

 

救援要請を行ってから数日。

 

要請を行い、既に諦めかけていた彼らを助けたピクシー大隊の動きは素早かった。

 

攻撃においては、ピクシー大隊を率いるターニャによる指揮と共に、周囲にいた敵を瞬時に押し返した。

 

同時に、手が足りなかったはずの医療班による治療もまた、たった一人で全てが完了した。

 

これまで劣勢だったのが嘘のような、瞬きとも言える時間で終えた。

 

「それにしても、凄まじいな。

あの殲滅力もそうだが、まさかここまで問題していた治療状況も一気に解決するとは」

 

「なに、私の旦那が行えば、それ程難しい話ではない」

 

そうヨトークの言葉に笑みを浮かべるように、ターニャはまるで自慢するように言う。

 

「まさか貴殿が噂の神の医者だとは、思いませんでした」

 

同時に、思わず目を向けてしまうのは、彼のアスクに対しても目を向ける。

 

これまで噂程度で、信憑性も薄いとされた話。

 

だが、実際に、彼1人でここまでの怪我人を治した。

 

もしも、その技術が再び敵側に渡れば、脅威になる。

 

それは既にここまで助けて貰ったヨトークも理解している。

 

そして、そんな彼を逃さない為の首輪のような役割がターニャである事も同時に理解した。

 

そんな思いと共に、その日の夜は賑やかであり、ターニャはアスクと共に寝ていた。

 

いや、寝ていたというよりも、ターニャに拘束されるように抱き締められる形でアスクは寝ていた。

 

アスクの妹であるメアリーとの再会からなのか。

 

ターニャは、決してアスクを手放さないように、抱き締め、寝ている。

 

そんな時だった。

 

「起きて下さい!」

 

「なんだぁ」

 

聞こえた声。

 

それは、既にターニャにとっては馴染みのあるヴィーシャの声だった。

 

彼女の声に起きながら、ターニャは抱き枕代わりのアスクを離す手を緩めない。

 

「敵軍からの進軍です」

 

「なにっ!」

 

同時に、そのまま起き上がる。

 

「敵の規模は」

 

「およそ8個師団だと」

 

「大規模過ぎるぞ!

敵は、こちらの動きに既に気づいていたのか!」

 

そう言いながらも、ゆっくりと既に起きているアスクはそのまま座り、そのまま自然とターニャは椅子代わりに座る。

 

「まさか、既にここの重要性に気づいたというのか?」

 

そんな疑問を思いながら、背中を預けるアスクに対して思考が巡る。

 

「まさかな」

 

それは、アスクを奪還する為の戦力か。

 

そんな馬鹿げた事を考えながらも、背筋を襲う冷たい感覚。

 

それは、まるでターニャを狙うような何かを感じた。

 

そのような可能性はないと考えている。

 

だが、しかし。

 

「良いだろう」

 

ターニャは、その怒りを隠すように手で覆う。

 

アスクを奪うのが、敵の狙いなのか。

 

それは、分からない。

 

だが、その可能性が。

 

僅かでもあると言うならば。

 

「やってやろうではないか。

徹底的に」

 

同時に脳裏に浮かぶ上がったのは、ターニャにとって、アスクを奪い取る為に行動するだろう狂人。

 

妹と名乗るその存在が、来訪する。

 

「取らせるか。

こいつは、私の物だ」

 

 



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神への思い

翌日、投入された連邦軍との熾烈な先頭に突入、戦闘開始から27時間が経過した。

ティゲンホーフでの戦いは、これまでにない戦いだった。

周囲に囲まれている中で、次々と攻め込んでくる敵に対して、ターニャ達は確かな劣勢を強いられていた。

それでも、その死傷者の数は、連邦軍に比べれば少なかった。

それは、確かに数で劣っている事もあるが、それとは別の問題もあった。

 

「凄い、本当に、これが人間の技なのか」

 

そう言いながら、医療班は、その腕を見て、呟く。

先程までの戦闘で運び込まれた隊員。

それは、既に手足がちぎれかけており、命も既に危ない状態だった。

だが、その状態は今は脱していた。

手足は既に縫われており、ベットの上では呼吸をしていた。

 

「応急手当程度だ、本当だったらすぐにでも手術をしたいが」

「本当に、噂は本当だったのか」

 

それらを行っていたのはアレクだった。

彼の医療技術によって、本来の死傷者が大きく減っていた。

また、軽傷の者達も見ており、本来ならば、それが原因で死んでいたかもしれない者達も生存していた。

 

「それよりも次の現場に急ぐ」

「まっ待って下さい!」

 

アレクはすぐにその場から離れる。

この27時間の間、彼は寝てすらいなかった。

長時間の労働に、少しも間違いもしていはいけない医療現場。

それらは、彼には疲労は確かに蓄積されていた。

それでも、彼を動かすのは、ただ人を救いたいという気持ちだけだった。

そして、そんな彼の元にある運命が来る。

 

「っ!」

 

強烈な閃光。

それと共に、見つめれば、既に敵がこちらに攻め込んできたのが分かる。

同時に強烈な爆発は、アレクを護衛していた兵士を吹き飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

身に掛かる痛み。

それよりも早く、アレクは動いた。

それは眼前にいる怪我人を治す為に。

だが、そんな思いとは別に、アレクは爆風が襲う。

それは、簡単に人を吹き飛ばす事ができ、そのまま近くの地面に打ち付ける。

 

「がはぁ」

 

血反吐が出た。

自身の身体の怪我を確認するようにアレクは自分の身体に触れる。

 

(まだ、動ける。怪我も軽傷。それよりも、先程の兵士の所に!)

 

そう立ち上がる。

同時に見えたのは。

 

「ターニャ」

「アレク」

 

それは偶然だっただろうか、それとも必然だっただろうか。

 

「なんで「兄さん」っ」

 

聞こえた声。

 

それは、壁の向こうにいる敵の言葉。

それは同時にアレクにとっては、この世界においての血を分けた妹。

 

「メアリー、お前、なんでここに」

「ここに来れば、兄さんを助けられると思って。あの悪魔から兄さんを助けられると」

 

そう、笑みを浮かべた。

その表情は、確かな笑みだった。

しかし。

 

「あぁ、主よ、感謝します」

「っ」

 

聞こえたのは、神への感謝だった。

 

「悪魔を、仇を見つけさせ、さらには兄を取り戻させる機会を与えてくれまして」

「神だと」

 

その言葉に、アレクは徐々に怒りを募らせた。

 

「兄さん、どうか帰りましょう。

私達の「メアリー」にっ兄さん」

 

それと共に、アレクの表情。

それはメアリーにはこれまで見た事のない憤怒の表情だった。

 

「どっどうして、そんなに怒っているの」

「メアリー、俺が最も嫌悪する人種が、誰か知っているか」

「嫌悪する人種」

 

それには、メアリーは困惑を隠せない。

 

「俺はな、神を、命の理由にしている者を嫌う」

「何を言っているの」

 

アレクのその表情に、メアリーは叫ぶ。

同時に壁に背を任せているターニャもまた、見つめる。

 

「命は、神に左右される者ではない。人が人を殺す時、それは自身が背負う罪だ。神の裁きという名で罪を逃れようとする者を、俺は許さない」

「兄さん」

「そして、同時に、命を救う時に、神に全てを賭けている者も。救える力を持つのは、その場にいる人間のみだ。神が関与していないのに、神に感謝し、それによって努力を怠る者を、俺は嫌悪する」

 

それと共に、見つめる。

 

「神は、見本となる者として、目指すのは良い。神を、師のように思い、その優しさを教えるのは良い。だが、命の選択を、神に任せるのは許さない!生殺与奪の権を神に握らせるな!!」

 

その叫びは、戦場で聞いた者はほとんどいないだろう。

だが、確かに聞いた者が二人いた。

一人は、その言葉に心底の絶望を与えた。

そして、もう一人は。

 

「あぁ、そうだな」

 

同時に立ち上がる。

それは壁から出て、そのままアレクの前に立つ。

 

「貴様っ」

「お前の言う通りだ。神に全てを握らせない。この命を、お前の命も、神の手の平では握らせない」

 

それと共に、ターニャは眼前にいるメアリーに宣言するように言う。

 

「私達の命、その決定権は私にある。だからこそ、お前に渡すつもりはない」

「お前っ!」

 

それは引き金だった。

メアリーは、そのまま真っ直ぐと進む。

それに対して、ターニャは、既に考えがあった。

 

「・・・私に、全てを任せてくれるか」「・・・この世界では、お前以上に信じられる奴はいないよ」

 

それと共にターニャは笑みを浮かべる。

それはきっと、メアリーにとっては悪魔の笑みだっただろう。

同時にターニャは、そのままアレクを抱え、飛ぶ。

 

「貴様っ」

 

すぐにメアリーも銃を構える。

だが、引き金を引けない。

それは簡単だった。

 

「あいつっ兄さんをっ盾にっ」

 

それは、愛する者に対して、決して行うはずのない行為。

だが、ターニャはそれを行った。

合理的に、この状況を逆転する為に、冷血に、何よりも愛故に。

ターニャは、アレクを盾にする事で、共に生き残る事を決めた。




今回のラスト辺りで思った事としては、さすがに外道過ぎたのではと、考えました。
果たして、このような行動を取るのか、疑問に思いながらも、映画も終盤。二期は何時になるのか楽しみにしながら、次回も投稿出来るように努力します。


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