荒野のコトブキ飛行隊 漂流の翼 (明日をユメミル)
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第1話

今度はコトブキ飛行隊の2次創作を書いていこうと思います。


1945年8月1日、北九州上空

 

「コノヤロウ!バカヤロウ!墜ちろコノヤロウ!!」

 

 

空の上を我が物顔で飛び続ける大型爆撃機B24の集団に立ち向かう1機の紫電改のパイロット『菅野直』はそう怒鳴りながら操縦桿を握り続ける。

 

 

『大尉!大尉!無事ですか!?』

 

「おぅ!堀飛曹長か!」

 

 

そこへ2番機の堀光雄飛曹長の駆る紫電改が接近してくる。

 

 

「見ての通りだ!機銃が吹き飛んじまった!」

 

 

菅野が乗る紫電改の左翼に描かれた日の丸の左脇に大きな破孔が開いていた。

この少し前に、左翼内の20㎜機銃が何らかの原因により爆発して使えなくなってしまっていたのである。

 

 

堀はその惨状に驚き、慌てて菅野に無線を送る。

 

 

『自分が護衛に回ります!大尉は下がってください!』

 

「バカヤロウ!俺に構ってる暇があったら、敵機落してきやがれ!」

 

『しかし大尉、そんな状態では…』

 

「いいから早く行けバカヤロウ!」

 

 

菅野は怒りの表情で堀に向かって拳を突き上げる。

 

 

『分かりました……大尉!お気をつけて!』

 

「おぅ!!」

 

 

ようやく折れ堀は菅野の指示通りに、戦闘空域へと戻っていった。

 

 

「さて………まだまだ行くぞコノヤロウ!!」

 

 

スロットルレバーを引き、エンジンをフルスロットルまで上げて機体をB24に向かって突撃させる。

 

 

「よぅし……墜ちろ!」

 

 

目の前のB24に照準を合わせて、スロットルレバーに設置された機関砲の引き金に手を掛けると、残ってた右主翼の20㎜機関砲が発射されB24が火を吹く、

 

 

「見たかコノヤロウ!」

 

 

B24の撃墜を確認し再び上に視線を向けると、妙な物が見える。

 

 

「何だありゃ?」

 

 

気になって近づくと、妙な物は徐々に大きくなっていき大きな穴のような形となる。不審に思った菅野は無線を開き友軍機に通信を送る。

 

 

「全機空戦やめ!集まれ!」

 

 

そう送ると無線のスイッチを切る。

 

 

だが穴に近づくと自機が突然何かに捕まったかのような感覚に陥いる。

 

 

「クソ!!何なんだ!?」

 

 

慌てて操縦桿とスロットルレバーを操作し何とか穴から待避しようとするが、時既に遅く、紫電改は穴から発する竜巻のように吸い込まれて穴の奥へと消えていく。

 

 

「クソォォ!!!何がどうなってるんだ!!」

 

 

何とか墜落を避けるために、外を確認する間を惜しみ操縦桿とスロットルレバーを必死に操作をする事に専念する。すると機内に一筋の光が差し込んできた。

 

 

「あれが出口か……」

 

 

直感的にそう感じた菅野は、操縦桿とフットレバーを操作し機体を何とか光に向かって進ませる。

 

 

「コノ……言う事聞きやがれ!!」

 

 

その直後、一瞬だけ光が辺りを覆い尽くし、光が消えるといつの間にか機体の制御が戻る。

 

 

「あぁ!?何だここは?」

 

 

ふと外を見ると、自分は夜空を飛んでいた。

先程まで米軍と空中戦をやっていた北九州上空は昼間であり、紫電改の燃料の残量を考えると夕日が落ちるまでは飛んでいられる筈がない。

 

 

「何だバカヤロウ!なぁにが起きやがったぁ!?」

 

 

 

 

 

 

続く




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第2話

ここはイジツと呼ばれる世界

 

地の底が抜けて、あらゆる物が降ってきたと言う出来事によって、荒廃が進んでいた。

だがこの世界はある変化によって、荒廃を覆す程の産業革命が起きた。

特に航空機に関する発展は著しく、今やイジツの空にはレシプロ戦闘機や飛行船が往来する不思議な世界へと変貌しつつあった。

 

 

そんな世界の夜空を、あるイレギュラーが飛んでいた。

 

 

 

「クソ!クソ!何が起きやがったぁ!」

 

 

夜空をあちこち弾痕だらけの紫電改を操っていた菅野は、現状に困惑していた。

だがそれを余所に、突然、紫電改のエンジンから異音が聞こえ始め、プロペラの回転速度が下がり始める。

 

 

「誰が止まれって言った!?動け!バカヤロウ!!」

 

 

菅野は怒鳴りながら目の前の計器を思いきり叩き付ける。するとエンジンは目が覚めたかのように再び動き始める。

 

 

「オイオイオイ……いつの間に夜になったんだバカヤロウ!ここ何処なんだよバカヤロウ!」

 

 

ふと自機の右下に目を向けると、雲の隙間から大型の飛行船のような物が目に入ってくる。

だがそれを取り囲むように複数の飛行物体を見えてくる。

よく目をこらしてみると、それは菅野にとっては驚くべきものであった。

 

 

「あれは…零戦と隼じゃねぇか!」

 

 

眼に飛び込んで来たのは、日本海軍の主力戦闘機『零戦』と陸軍の『隼』が何故か激しい空中戦を繰り広げている光景であった。

だが菅野が気になったのは、その零戦と隼の胴体に描かれたマークだった。

 

 

「なんだあの模様は?あんなのウチの海軍にあったか?」

 

 

零戦に描かれたのは日章旗ではなく何かの漫画に登場しそうなキャラクターの絵であり、隼の方には迷彩柄に黄色い丸い円に派手な模様が描かれていた。

明らかに友軍機の塗装ではない上に、友軍機同士が空中戦をやっている事に菅野は増々混乱する。

 

 

「何がどうなってるんだバカヤロウ!」

 

 

その時、背後からの気配を感じた菅野は操縦桿を右に倒し機体を右旋回させる。

その直後、機関銃の曳光弾の光が通り過ぎる。

 

 

「誰だバカヤロウ!」

 

 

後ろを振り向くと、1機の零戦21型が背後から機関銃による攻撃を行ってきていた。

 

 

「コノヤロウ!俺は友軍だぞバカヤロウ!」

 

 

無線を開きそう呼び掛けるが、零戦は構わず攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「こうなったら仕方ねぇ………反乱上等だバカヤロウ!!」

 

 

菅野は操縦桿を引きスロットルを全開にして機首を上に向けて上昇させ、機体を思いきりロールさせると零戦の背後を取る。菅野は迷わず零戦に照準を合わせると、機関砲の引き金を引く。

右主翼の20㎜機関砲から放たれた20㎜弾は、防弾が施されていない零戦を瞬く間に粉砕する。

 

 

「戦果、敵機1機撃墜!ワレ突撃ス!突撃ス!目標零戦!目標零戦!」

 

 

1機目を撃墜し、再び向かってくる零戦2機に向かって突撃する。

 

 

「343空、301飛『新撰組』隊長、菅野直ぃ!!」

 

 

部隊引き金を引くと、零戦の倍以上の火力が向かってきた零戦1機を血祭りにあげ、もう1機を破損させる。

 

 

「好き勝手やりやがって!ムカつくんだよバカヤロウ!!テメエらが何者か知らねぇが、墜ちろバカヤロウ!」

 

 

紫電改の性能を活かした空中戦によりで残りの零戦は次々と菅野に落とされていき、僅か5分で殆どの零戦を撃墜し、生き残りの零戦は我先にと撤退していく。

 

 

しかし撤退していく零戦の中で、1機だけ別の方角に向かって逃げようとする零戦を見つけると、菅野はそれを追いかける。

 

 

「待ちやがれバカヤロウ!」

 

 

既に怒りで頭に血がのぼっていた菅野は逃げた妙な零戦の後ろから貼り付くように追いかける。

だがその零戦は先程の零戦と違い、まるで歴戦のプロのような動きで紫電改を引き離そうとする。

 

 

「やるじゃねぇか…上等だゴラァ!」

 

 

菅野は満身創痍となっている愛機に鞭を打ち付けるように飛ばし続け必死に食いつく。

相手も何とか逃れようと機体を左右に振るが、菅野はそれに負けないよう同じように左右に振る。

 

それを繰り返していくうちに、業を煮やしたのか零戦はその場で一気に減速しオーバーシュートさせ一気に紫電改の背後に回り込み、機関銃を放つ。

だがそれを読んでいた菅野は左にロールさせ回避し、再び機体を上昇させてループさせると、追ってきた零戦の背後につき機関砲を放つ。

 

 

「堕ちやがれ!」

 

 

引き金を引こうとしたその時、真横から隼が割って入り零戦に向かって攻撃する。

 

 

「何しやがんだコノヤロウ!」

 

 

隼のパイロットに向かってそう怒鳴り付けるが、構わず隼は零戦と空中戦に突入する。

 

 

その時、エンジンの回転数が急激に落ちる。

 

 

「クソ!動けバカヤロウ!」

 

 

再び計器を叩き付けるが、虚しくエンジンは完全に止まってしまいプロペラも回転しなくなってしまった。

推力を失った紫電改は水平のまま、地面に向かってグライダー状態で落ちていく。

 

 

「止まるんじゃねぇよ……このバカヤロウ!」

 

 

必死に操縦桿を握り、機体を立て直すが高度はどんどん落ちていき、地面が目に入るとランディングギアを降ろす。

ランディングギアのタイヤが地面に接触すると、とてつもない衝撃が襲い菅野は身体中を打ち付けられるが、どうにか激痛に耐えながら操縦桿を握り続ける。

 

 

「クソ…」

 

 

着陸速度は徐々に落ちていき、やがて地面を滑走していた紫電改はグランドキャニオンにあるような崖のほぼ手前で停止した。

 

 

「痛ぇな……バカ……ヤロウ……」

 

 

緊張から解放された菅野は、その場で操縦桿を握りったまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

続く

 




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第3話

朝陽が昇り、辺りに光が降り注ぐ荒野の空を2機の隼の姿があった。

 

 

「キリエ、そっちは何か見つけたか?」

 

「いいえ。何も見えません!」

 

 

隼を操る彼女らは、ラハマの町を拠点に活動するオウニ商会の代表取締役『マダム・ルゥルゥ』お抱えの飛行船羽衣丸護衛の『コトブキ飛行隊』の隊長の『レオナ』と『キリエ』の二人である。

彼女らは、昨晩の空賊『ドブロク団』の襲撃の際に現れた謎の紫電改を探して、夜通し飛んでいたのであった。

 

 

「紫電改であの数の零戦を仕留めたくらいの凄腕だ。簡単に死んでいないとは思うが……」

 

「それにしてもあの紫電改のパイロット!私の獲物を横取りして!会ったら文句言ってやる!」

 

「キリエ、あの時はお前よりもあの紫電改の方がワンテンポ早く零戦に気がついていた。横取りしたのはキリエの方だ。」

 

「だけど、あぁでもしないと私の獲物取られちゃうかと思ったから。」

 

 

そう言い続けながら、燃料が続く限り地上に目を向ける。

 

 

「ん?………隊長!見つけた!」

 

「何処だ!」

 

「あそこ!あの崖の縁ギリギリに居る!」

 

 

キリエが指差した方角には、崖の縁ギリギリで停止している紫電改の姿があった。

 

 

「よし。確認する。」

 

 

レオナは真っ先に降下し、紫電改を確認するかのように旋回する。

緑色の塗装に、胴体と主翼に描かれた赤い丸のマーク。

 

 

「間違いない、あの紫電改だ。着陸するぞ。」

 

「はい。」

 

 

二人は隼を着陸させて、機体から降りるとゆっくりと紫電改に向かって歩み寄る。

 

 

「うわぁ……ボロボロ……」

 

「あちこち被弾しているようだな。」

 

 

二人は紫電改を調べ始める。

機体は機関銃のものと思われる攻撃であちこち破損し、キャノピーにもヒビが入り、左の主翼は機関銃が暴発して出来た物と思われる破孔も確認できる。

 

 

 

「これ程破損しててよくあんなに戦えたものだな。」

 

 

レオナも紫電改の惨状を見て呟く。

 

 

「隊長!コックピットの中にパイロットが居た!」

 

「何!」

 

 

キリエが操縦席の中でグッタリとしているパイロットを見つけ、キャノピーを開けて確認する。

 

 

「死んでる?」

 

「いや………気絶しているのか?」

 

 

茶色く分厚い飛行服を着ているパイロットの動脈をレオナが確認する。

 

 

「気絶しているだけだが、負傷しているみたいだから早く収容しよう。キリエ、羽衣丸に連絡を入れてくれ。」

 

「了解!」

 

 

その後、レオナ達からの連絡を受けた羽衣丸が到着し、紫電改とパイロットは無事に収容された。

 

 

 

羽衣丸の格納庫では、コトブキ飛行隊担当の整備班が収容された紫電改の調査を行っていた。

 

 

「オラ!モタモタすんな!早くそこのスペースを開けろ!」

 

 

整備班を取り仕切る『ナツオ』班長が整備員達を叱咤しながら指示を出す。

 

 

「班長、こりゃ酷いですぜ。胴体と主翼は穴だらけで、左の主翼の機関砲は爆発して吹っ飛んじまってる。おまけに燃料は空で、エンジンも雑な整備でイカれてやがる。」

 

「ここで直せそうなのか?」

 

「ここじゃ無理です。ラハマのスクラップ置き場からパーツかき集めてこないと修理は無理ですぜ。」

 

「よし。じゃあラハマに着いたら直ぐにコイツの修理に掛かるぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

 

整備班は紫電改の修理を一旦諦め、コトブキ飛行隊の隼の整備に取り掛かる。

そこへ、暇を持て余しているコトブキ飛行隊の面々が姿を表す。

 

 

 

「へぇ~……これがあの紫電改なのね。」

 

「こんなにボロボロで、よくあそこまで戦えたものですわね。」

 

「このような状態では空中戦は不可能。ここまでの損傷で昨日のような空中戦が出来たのは運としか言い様がない。」

 

 

 

おっとりとした雰囲気の『ザラ』、お嬢様口調の『エンマ』、冷静に分析する『ケイト』の4人は、運び込まれた紫電改の見物のため格納庫にやって来たのである。

 

 

 

「しかし、この件についてルゥルゥは何て言うだろう?」

 

「今レオナがルゥルゥに呼ばれてるけど、もしかしたらその事かもしれないわね。」

 

 

 

ザラの言う通り、レオナは羽衣丸のブリッジてルゥルゥに報告していた。

 

 

「例の紫電改のパイロットの持ち物はこれで全部なの?」

 

「はい。身分証明証のような手帳もありますが、ユーハング語で書かれているので、現状では解読は難しいかと。」

 

 

ルゥルゥが座る机の上には、パイロットが持っていた14年式拳銃、95式軍刀、海軍手帳が置かれていた。

 

 

「で、例のパイロットはどうなの?」

 

「今、医務室で手当てを受けています。身体に2・3箇所銃創がありましたが、あのパイロットの生命力は凄いですよ。命には全く異常は無いとの事です。」

 

「………あれ程の腕。これは見逃せないわね。」

 

「ルゥルゥ?」

 

 

ルゥルゥは昨日の空中戦で目の当たりにした、紫電改の空中戦の様子にかなり関心を寄せていた。

コトブキ飛行隊の実力を疑っている訳では無いが、中々出逢う事がない実力の持ち主にルゥルゥは頭の中である事を考える。

 

 

 

「レオナ。彼が目覚めたら直ぐに知らせてちょうだい。」

 

「分かりました。」

 

 

 

 

続く




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第4話

 

 

『大尉……大尉……』

 

 

 

自分の階級を呼ばれた菅野は目を覚ます。

 

 

 

「あぁ?……何だここは?」

 

 

前も後ろも、上も下も真っ白い空間内に居た菅野は、その場で頭を押さえながら立ち上がる。

 

 

『大尉…菅野大尉…』

 

「誰だバカヤロウ!」

 

『私ですよ大尉……杉田です。』

 

「杉田って………おい!てめぇもしかして杉田庄一かコノヤロウ!」

 

 

声の主の正体は、菅野自身が率いていた戦闘301飛行隊『新撰組』に所属していた戦友で〝空の神様〟こと『杉田庄一』であった。

彼は343空の中でもトップクラスの腕前と撃墜数を誇るエースパイロットであり、菅野の事を慕っていた一人でもある。

 

 

「おい!てめぇ生きてるなら姿見せやがれ!」

 

『申し訳ありません。私は死んでいるので姿が無いんです。今は声だけで勘弁してください。』

 

「おぉそうか……で、俺に何の用だ?俺を迎えに来やがったのか?」

 

『当たらずとも遠からずです。彼方はあの空戦で戦死した事になっているので、本当なら貴方を迎えに来たかったのですが、少し不都合が生じまして。』

 

「不都合?」

 

『実は、あの空戦で貴方を吸い込んだあの穴は異世界へ通じる穴だったんです。』

 

「異世界?」

 

『はい。あの穴の存在は我が国の最高国家機密になっていて、我が国は何十年前からその穴の向こうにある異世界、「イジツ」と呼ばれる世界へ支援をしてきました。』

 

 

突然の話に菅野は驚くが、昨日の空中戦で味方である筈の陸軍と海軍の戦闘機同士が戦っていた理由の説明に結び付く事に気がつく。

 

 

「その支援てのは、戦闘機とかも含むのか?」

 

『はい。その恩恵もありイジツは科学力が発達しましたが、同時にそれらを悪用した空賊と呼ばれる犯罪集団を産み出す結果となりました。それに対処するためにこの世界ではそれぞれの町には同じ戦闘機を保有した自警団や用心棒が組織されています。』

 

「成る程な……て言う事はあの飛行船を襲ってた零戦がその空賊って言う連中で、飛行船を守っていた隼は用心棒って事か。」

 

 

菅野は子供の頃に身に付けた理解力によって、昨日の出来事についてほぼ全てを理解した。

 

 

「で、それが俺をこの世界に来た事に何の関係があるんだよ。」

 

『大尉はあの場で死ぬべき人間ではありませんでした。だから私は大尉に生きていて欲しいと言う思いで、あの穴を………』

 

 

杉田の思いに菅野は何かを感じる。

 

 

『大尉……もうそろそろ私は限界です…』

 

「待て杉田!まだ話してぇ事がある……んだ……よ…」

 

 

次第に菅野は睡魔に襲われ気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!!」

 

 

薬品の匂いが漂う部屋のベッドで菅野は目を覚ます。

 

 

「ここは……何処なんだバカヤロウ……」

 

 

倦怠感がある中、その場で起き上がり回りを見渡す。

 

 

「さっきのは夢か……てかここは何処なんだバカヤロウ!誰か出てきやがれバカヤロウ!」

 

 

その場で出せる限りの声で怒鳴ると、部屋のドアが開かれる。

 

 

「目が覚めたか?」

 

「あぁ!?誰だテメェはコノヤロウ!」

 

「名乗るの前に、自分から名乗ったらどうだ?」

 

「大日本帝国海軍第343航空隊、第301飛行隊『新撰組』指揮官の菅野直だバカヤロウ。」

 

「カンノ・ナオシか。私はコトブキ飛行隊隊長のレオナだ。取り敢えずよろしく頼む。」

 

「あ……あぁ。」

 

 

レオナが手を差し出してきて、菅野は握手を交わす。

 

 

「俺を助けてくれたのはお前かコノヤロウ。」

 

「まぁそんな物だ。昨日はカンノ、君に助けられた。」

 

「助けられた……もしかしてあの隼のパイロットの一人か?」

 

「そうだ。」

 

 

隼と聞き、菅野はある事を思い出した。

 

 

「おい!あの時、零戦と俺の間に横槍入れてきた隼のパイロットは居るか!?そのパイロットに合わせやがれ!!」

 

「落ち着け。確かにあの隼のパイロットは私の部下だが、その前にある人から話がある。」

 

「話だぁ?」

 

「そうだ。少し待っててくれ。」

 

 

そう言い残しレオナは部屋を出る。

 

 

 

数分後、レオナに変わり別の金髪の女性が入ってくる。

 

 

「お目覚めかしら?謎の紫電改のパイロットさん?」

 

「何だテメェは?あのレオナの上官か?」

 

「まぁそんな物よ。私はマダム・ルゥルゥ。このオウニ商会の代表取締役会をしているわ。彼方の名前を聞かせてちょうだい。」

 

「菅野直。」

 

「カンノ・ナオシね。前置きは無しに、貴方に話があるわ。」

 

「話だぁ?」

 

「えぇ。これは彼方にとって大事な事なの。」

 

 

ルゥルゥは菅野に話を始める。

 

 

「昨日は貴方の実力を見せてもらったわ。貴方程の腕前のパイロットには中々逢えないのよ。今ウチにはコトブキ飛行隊の腕利きがいるけど、空賊も最近実力を上げてきているわ。貴方の実力を活かしてみる気は無い?」

 

「…………何か考えてるな?」

 

 

菅野の勘の鋭さにルゥルゥは降参と言った感じて話を続ける。

 

 

「貴方はユーハングの人間でこの世界の人間ではない。この世界は弱肉強食で宛の無い貴方を放っておく事は出来ないわ。私としても貴方の実力を買って尚且つ余計な手から貴方を保護すると言う意味を込めて言わせてもらうわ………貴方、ウチの用心棒にならない?」

 

 

ルゥルゥからの勧誘に、菅野は暫く考える。

 

 

(元の世界に戻っても国はそう長くは保たんだろうし、訳の分からねぇこの世界で野垂れ死ぬよりは、宛があった方がマシか………)

 

「勿論タダとは言わない。働いたらその分だけお給金は出すし、貴方の紫電改の整備費や燃料代はオウニ商会が全て持つわよ。」

 

(………………まぁ悪い話じゃねぇな。それに杉田が俺をこの世界に誘い込んだ理由を探すのには丁度良いかもしれねぇな)

 

 

菅野は一呼吸置いて、直ぐに返答を返す。

 

 

 

「分かった。その話……受けてやる。」

 

「交渉成立ね。じゃあ宜しく頼むわよ。」

 

「おぅ……」

 

 

 

このイジツの世界で生きていくための基盤を手に入れた菅野は、これからどのようにしてこの世界の中を生き残っていくのか、まだ誰も分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第5話

取り敢えずオウニ商会の預りとなった菅野は、医務室で手当てを受けてから、愛機の紫電改が仕舞われている格納庫へと足を運ぶ。

 

 

「……………」

 

 

目の前には、新品同様に整備された隼に隠れるように、ボロボロの紫電改がポツンと置かれていた。

菅野が何時も乗っているA-15号機ではなく予備のA-1号機ではあるが、それなりの愛着はある。

その分、今の菅野からはどこか哀しみが感じられる。

 

 

 

「それアンタの紫電改か?」

 

 

そこへ、偶々格納庫で作業していたナツオが現れ、菅野に話し掛ける。

 

 

「あぁ……何だオメェは?」

 

「ナツオだ。ここの整備班の責任者だ。」

 

「テメェみたいな子供が班長か?」

 

「失礼だな!ちゃんと成人してらぁ!」

 

「おぅそうか。で、どうだ?俺の紫電改は直りそうか?」

 

 

菅野の問いにナツオは真剣な表情となる。

 

 

「この船に積んでる部品じゃ無理だ。修理はラハマの町に着いて部品を発注してからになるな。」

 

「そうか。」

 

「それにしてもこの機体の整備した奴は、何も分かっちゃいねぇなぁ。」

 

「どう言う事だよ?」

 

「一応コイツのチェックしたけど、あちこちその場凌ぎの整備しか施されてねぇし、ガソリンも純度が異様に悪いのが入ってたんだ。こんなんじゃ機体の性能は半分も出てねぇんじゃねぇか?」

 

 

ナツオの言う通り、菅野がこの世界に来た時点で日本の敗北は時間の問題となっており、特に戦闘機を満足に動かすだけの燃料も資材も不足していたので、戦闘機の整備も騙し騙しのような状態であり、それは菅野の紫電改も例外ではなかった。

 

 

「あぁ……まぁ確かに、コイツはちゃんと整備すれば零戦よりも遥かに優秀な性能は出せただろうぜ。まぁ、資材も燃料も無い状態じゃ文句は言えねぇけどな。」

 

「カンノって言ったか?私は整備員として、このボロボロの紫電改を見ると整備員としての血が騒ぐんだ。コイツをまた飛ばせるようにするには時間が少し掛かるが、ここはカンノの紫電改は私達に任せてくれねぇか?」

 

 

 

ナツオの表情は真剣そのものであり、菅野は何処か信頼感を感じ、黙って頷く。

 

 

その直後、菅野の腹が鳴った

 

 

 

「そういえばまだメシ食って無かったな…」

 

「メシならこの上に酒場があるから行けよ。あそこなら酒からメシまで何でも出るからよ。」

 

「すまねぇな。」

 

 

 

菅野は格納庫から出ると、階段をのぼって西部劇に出てくるような雰囲気の酒場へとたどり着き、門をくぐる。

 

 

「いらっしゃい。」

 

「あれ?貴方はもしかして……」

 

 

中にはウエイトレスの『リリコ』とカウンター奥で仕事をしていたマスターの『ジョニー』が出迎える。

 

 

「菅野直だコノヤロウ。マスター、何か適当に見繕ってくれや。」

 

「はい。」

 

 

菅野は一番奥の席へと向かう。

するとそこには、レオナと以下数人の女性たちが居た。レオナは菅野が居る事に気がつくと、顔を向けてくる。

 

 

 

「レオナか…何してるんだよコノヤロウ?」

 

「見ての通り食事だ。カンノも食事か?」

 

「あぁ…て言うかソイツら誰なんだよコノヤロウ。」

 

「私の部下だ。ザラとエンマとキリエ、ケイトだ。後一人居るんだが、まだ入院してるんだ。」

 

「成る程な。俺は菅野直だバカヤロウ!よろしくなコノヤロウ!」

 

 

いつもの口調で軽く自己紹介をする。

 

 

「貴方が噂の紫電改のパイロットね?私はザラ。よろしくね。」

 

「お初にお目に掛かります。エンマと申します。以後お見知り置きを。」

 

「私の名はケイト。」

 

「おぅ!よろしくなコノヤロウ!……おい!テメェはなんて名前だバカヤロウ!」

 

 

大好物のパンケーキに夢中になっているキリエに菅野が怒鳴る。

 

 

「おい聞いてるのかコノヤロウ!!」

 

「何だようるさいな!!」

 

「うるさいとは何だバカヤロウ!ちゃんと挨拶くらいしやがれバカヤロウ!!」

 

「今私はパンケーキ食べてるの!!邪魔しないで!」

 

「何だとコノヤロウ!!」

 

「何だよ!!」

 

 

早速喧嘩状態となる二人にレオナ達は『またか』と言った表情となる。

 

 

「全く……これじゃキリエが一人増えたようだな。」

 

「えぇ。益々煩くなりそうですわ。」

 

「でも、賑やかになっていいんじゃない?」

 

「ケイトは別にどうでもいい。」

 

 

皆それぞれの思いを抱きながら、菅野を出迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第6話

オウニ商会の本拠地『ラハマ』にたどり着いた羽衣丸は、物資の積み降ろし作業が行われ、降ろされた物資はトラックに乗せられて町へと運ばれていく。

 

そんな中、コトブキ飛行隊の隼と菅野の紫電改も羽衣丸から降ろされ、側にあるハンガーへと運び込まれていく。コトブキ飛行隊の隼5機は一番ハンガーへと移され、菅野の紫電改は隣の2番ハンガーへ移される。

 

 

「取り敢えず我々は次の仕事が来るまではこの町で自由行動だそうだ。羽目を外すのは構わんが、節度を持つように。」

 

 

コトブキ飛行隊の面々は、レオナの案内で町中にある食堂へと向かう。

 

 

「スゲェなこの街は。」

 

「そうでしょそうでしょ?これがラハマの町だよ。」

 

 

菅野は辺りを見回しながら、賑わっているラハマの市街地を観察する。

 

 

「そう言えば一人入院してる奴が居るって言ってたな?ソイツは今この街に居るのか?」

 

「あぁ。名前は『チカ』と言うんだ。二ヶ月前の任務の時に少しな。」

 

「撃墜されたのか?」

 

「まぁそんな所だ。殆ど自業自得だがな。」

 

 

チカについての話をしているうちに、食堂へと辿り着き、店内に入ると皆は早速注文する。

 

 

「私パンケーキ!」

 

「俺はうどんだ!」

 

 

菅野はメニューに偶々載っていた、この世界で唯一の故郷の味のうどんを注文する。

料理がやって来ると、レオナはキリエに話を始める。

 

どうやら、この前の空中戦での単独行動と、菅野の射線に割り込んだ事である。

 

 

「キリエ、あの零戦に何の因縁があるのかは知らないが、スタンドプレーは慎むようにと何度言ったら分かるんだ?」

 

「ごめん……」

 

「それはもう聞き飽きた。」

 

「キリエの総謝罪回数は今日で389回。因みにこれは素数である。」

 

「キリエは技能ではなく、技術だけで操縦してますからね。」

 

「そんな事無いよエンマ!!ちゃんと考えるよ。」

 

「どんな風に?」

 

 

即座にキリエは反論するが、元から野生の感覚で隼を飛ばしているキリエは何も答えられなかった。

 

 

「なぁキリエ。確かにレオナの言う通りだ。一人のミスが全員の死に繋がる。俺が元の世界に居た時の話をしてやる。」

 

 

話に入ってきた菅野はその場で目を閉じてある話をする。

 

 

「俺が所属していた343空にある日、『坂井』って言うパイロットが配属されてきたんだ。ソイツは343空に来る前までは百機近い敵機を落した凄腕だったんだが、それを鼻にかけて単独行動が多く、いつの間にか居場所を失って部隊を去っちまった。俺はそう言うのを何回も経験してるんだ。」

 

 

目を開けてキリエに視線を向ける。

 

 

「つまり、単独行動や独断行動は自分の命と信頼を失う事になる。連携が基本の飛行隊に所属してるなら、そんな行動は絶対にするな!」

 

「カンノの言う通りだ。キリエはもう少し仲間の事を考えるように!」

 

「はい………」

 

 

威勢が良かったキリエは二人の言葉にシュンとなる。

 

 

その後、レオナ宛に羽衣丸の副船長『サネアツ』から電話が掛かり、臨時の任務の話が入ってきたのであった。

 

 

「と言う訳で、皆の意見を聞きたい。」

 

「レオナがやるなら、私もやるわよ。」

 

「私もやる!」

 

「手当てが三倍なら、私もやりますわ。」

 

「異論はない。」

 

「俺もやるぜバカヤロウ!!」

 

 

皆の意見は固まり、早速店を出ようとすると店前の街道から騒ぎが聞こえてくる。

慌てて外へ出てみると、そこでは小さい小柄な少女と、いかつい中年が激しく喧嘩をしていた。

 

 

「あ、あれチカじゃん。」

 

「病院に居る筈では?」

 

「でも確かにあれはチカだ。また喧嘩騒ぎか……」

 

 

皆呆れたような表情でため息をつき、喧嘩を止めようと歩き出す。

 

 

「このガキ!俺が誰だか分かってるのか!」

 

「知らないね!」

 

「ラハマ自警団第3支部長のトキワギ様だ!!」

 

「それが何よ!こっちはチカでコトブキ飛行隊だ!!」

 

 

言葉の応酬が辺りに響き渡り、回りには野次馬が集まっており騒ぎが徐々に大きくなっていく。

 

 

「兎に角!飛行隊なんざ自警団の足元にも及ばねぇんだよ!」

 

「言ったなぁ!!」

 

 

ついには取っ組み合いに発展し、トキワギがチカに殴り掛かるが、チカはその小柄な体に似合わず棍棒を巧みに振り回しトキワギを翻弄する。

 

 

「やりやがったなぁ!」

 

 

トキワギは拳をチカに振り落とそうとしたその時、トキワギの顔に拳が打ち込まれ吹き飛ばされる。

 

 

「いてぇ………誰だ!」

 

「仲間に何するんだバカヤロウ!喧嘩上等だコノヤロウ!」

 

 

喧嘩に割って入った菅野がトキワギにそう怒鳴る。

 

 

「部外者が邪魔をするな!!」

 

「部外者じゃねぇ!コトブキ飛行隊所属の菅野直だバカヤロウ!!」

 

 

トキワギは起き上がり菅野に殴り掛かるが、咄嗟に避けてトキワギの襟首を掴んで地面に倒す。

 

 

「支部長!」

 

 

トキワギの仲間が菅野に襲いかかろうとするが、レオナが背後から動きを封じた。

 

 

「そこまでだ。」

 

 

 

何とか喧嘩を納めると、羽衣丸へと戻りチカは説教を受ける事となった。

 

 

説教を終えると、サネアツからコトブキ飛行隊面々に説明が行われる。

 

 

「実は急用が出来てね、準備出来次第出港する事になった。」

 

「何処に何を運ぶんですか?」

 

「ガトールに人を運ぶのよ。」

 

 

ルゥルゥが何か不機嫌そうな顔で言う。

 

 

 

別室では、一人の女性が文句と愚痴を回りに聞こえるかのように話していた。

 

 

「なによ、これがオウニ商会の船なの?貧乏臭いったらありゃしない。」

 

 

そう言う彼女は『ユーリア』と言う、これから羽衣丸が向かうガトールの評議会議員であり、空賊離脱者支援法などの様々な法律を提案するなど敏腕の政治家であり、ルゥルゥの友人でもある。

ユーリアの雰囲気にサネアツはタジタジとなり、ルゥルゥは頭を抱える。

 

 

「あら?ルゥルゥ、見ない顔が居るようね。」

 

 

ユーリアは菅野に気がつき、質問を投げ掛ける。

 

 

「えぇ。聞いて驚きなさい。彼はユーハングの人間よ。」

 

「ユーハングの?本当なのそれ?」

 

「えぇ。正真正銘のユーハング人よ。」

 

 

ユーリアは内心少し驚いたが、興味ありげな表情で菅野に迫る。

 

 

「貴方、名前は?」

 

「菅野直だバカヤロウ!」

 

「まぁバカヤロウですって。ユーハング人は頭は良くて口は悪いのね。」

 

「何だとコノヤロウ!!さっきから聞いてれば、羽衣丸やコトブキ馬鹿にしやがって!」

 

「事実を言っただけよ。」

 

 

飄々と悪びれた表情を見せることのないユーリアの態度に菅野の堪忍袋は限界に来ていた。

 

 

「やめなさい二人とも。で、ユーリア。どうして私達を指名したのかしら?」

 

「聞きたい?」

 

「えぇ。」

 

「それは……私が貴女を嫌いだから!」

 

 

その言葉に菅野はユーリアに対して最悪な印象を抱く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第7話

ユーリアをガドールの町へと送り届ける事になった羽衣丸は、準備が完了した翌日にはラハマの町を出発した。

羽衣丸の護衛にはコトブキ飛行隊に加えて、ユーリアの護衛として着いてきたガドール評議会所属の戦闘機『2式単座戦闘機 鍾馗』の飛行隊が就く。

 

暇潰しにユーリアはサネアツと供に、格納庫へと来ていた。

 

 

「あら~隼可愛いのよね、私大好きなの。隼は翼の形なんか特に好きよ。スッとしてて。」

 

「スッと…ですか。」

 

「でも、もう少し頑丈でも良かったわね。ペナッペナだし、武装もチョビチョビだし、当たったら直ぐ堕ちちゃう。」

 

 

隼を褒めてるのか貶しているのか分からない発言に、偶々隼の整備をしていた、ナツオが意見を言う。

 

 

「否定はしませんが、それでもコイツの軽さはパイロット次第では大きな利点になりますぜ。」

 

「そうかしら?鎧を着込んだ大男に裸で突っ込んでいく様が見えるんだけど。違うかしら?そこに居るパイロットさん?」

 

 

ユーリアが入り口に目を向けると、キリエとチカが笑いながら出てくる。

 

 

「ルゥルゥは随分あなた達を可愛がってるみたいね。」

 

「可愛がってる!?」

 

「嘘だぁ!」

 

「嘘じゃないわよ。あの娘はネジくれるから言いたがらないでしょうけど。」

 

 

驚くキリエとチカの反応を見てユーリアは何かを含んだように少し笑う。

 

 

「学生の頃からあの娘に惚れた男子を何人横取りしたことか。」

 

「えぇ!?」

 

「三角関係?」

 

「それ以前よ。あの娘に告白する前に私が割り込んで引っ掛けたのよ。それから手玉に取って捨ててやったのよ。」

 

 

思わず『外道』と言いたくなる衝動を何とか抑える面々。

 

 

「さて、邪魔にならないように退散しようかしらね。」

 

 

そう言って格納庫から出ようとした時、格納庫の奥に仕舞われいた紫電改に取り付いて整備をしている菅野の姿があった。

ユーリアはゆっくりと歩み寄り、菅野に話し掛ける。

 

 

「これって紫電改?もしかして貴方の機体な訳?」

 

「何だバカヤロウ。邪魔すんなバカヤロウ。」

 

「失礼ね。ちょっと貴方の機体を見てみたいと思ったのよ。……良い機体よね紫電改は。隼や零戦より頑丈だし、武装も強力で、エンジンの馬力もケタ違い。私は隼の次くらいに好きね。」

 

「おぉ。」

 

「だけど、零戦よりも旋回半径も大きいし、機体が大きい割りには航続距離が零戦より短い。少なくとも零戦や隼よりかはマシって言った所ね。」

 

「零戦より航続距離が短くて運動性が若干低いのは認めるが、コイツは熟練のパイロットが乗れば零戦と対等かそれ以上に戦えるぜ。」

 

「腕があればの話でしょ?貴方は今まで何機の敵を落としてきたのかしら?」

 

 

ユーリアの問いに菅野は答える。

 

 

「72機。そのうち共同撃墜が24機だ。」

 

「あら。意外と良い腕してるのね。72機でも中々の腕がないと無理でしょ?ユーハングのパイロットって皆貴方みたいな腕前のパイロットがゴロゴロ居る訳?」

 

「あぁ。俺の戦友で100機以上落としてる奴が居た。」

 

「100機なんて、このイジツには数える程しか居ないのよ。やっぱりユーハング人は化け物ね。」

 

 

 

その時、羽衣丸艦内に警報が鳴り響く。

 

 

 

「1時の方向に機影確認。距離50㎞。護衛隊より報告です。」

 

「本船のレーダーに反応あり。不明機3グループ接近。距離55㎞で東進中。」

 

 

直ぐ様、護衛隊の飛行船より鍾馗の飛行隊が飛び立ち、接近してくる不明機群に向かって前進する。

 

 

羽衣丸でもコトブキ飛行隊が発信準備を整えていく。そんな中、紫電改の修理が終わっていない菅野はナツオに替わりの機体が無いかを尋ねる。

 

 

「ナツオ!替わりの機体は無いのか!」

 

「あぁ……あそこにある零戦使え!空賊の置き土産のヤツだが整備はしてあるから飛べる筈だ!」

 

「よっしゃあ!!行くぜバカヤロウ!!」

 

 

菅野は格納庫の奥にシートが被されていた零戦52型に乗り込む。

 

 

「回せ!」

 

 

ナツオがクランク棒でエナーシャーを回し、ギアレバーを引くと、菅野はスタータースイッチを捻りエンジンを始動させる。

 

 

「行くぜバカヤロウ!!」

 

 

先に発艦したコトブキ飛行隊の後を追うように菅野の零戦も後に続く。

 

 

「コトブキ飛行隊、一機入魂!!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「おぅ!!」

 

 

 

先に先行していた護衛隊は、接近してくる不明機群を発見し戦闘準備に入っていた。

 

 

「相手は猫のマークのシロクマ団だ。使用機種は96式艦戦だ。数もそう多くは無い筈だ!」

 

 

隊長を先頭に、護衛隊は態勢を整える。

 

 

「見えた………ん?あれは96式じゃない?」

 

 

目の前に見えてきたのは96式艦戦ではなく、尖った機首を持つ独特なシルエットの戦闘機だった。

 

 

「あれは!飛燕か!?」

 

 

高出力の液冷エンジンを持つ飛燕はその場で一気にブレイクし、護衛隊との戦闘に入った。

だが飛燕と鍾馗の性能差は歴然で、護衛隊は次々と落とされていく。

 

 

「やっぱりね。ただの空賊が私を襲う訳無いわ。」

 

 

羽衣丸のブリッジに居たユーリアはそう言う。

 

 

 

 

 

「何で空賊が飛燕なんかを!?」

 

 

護衛隊長の疑問を余所に、後方から追いかけてきたコトブキ飛行隊と戦闘に突入する。

 

 

「チカはキリエの後方につけ!カンノは護衛隊の掩護だ!」

 

 

 

飛燕の運動性の低いのを熟知していた、コトブキの面々はチームワークと隼の性能を最大限に活かしつつ、瞬く間に3機の飛燕を撃墜していく。

 

 

 

「ねぇ本当にシロクマ団?いつもこんな数居ないし、飛燕だし。」

 

「おまけに統率も取れている!」

 

「あらら、ウチとは正反対ね。」

 

 

ザラのその言葉を示すように、チカとキリエのコンビは1機の飛燕相手に手間取っていた。

キリエ機が飛燕を追いかけ、チカ機が後ろに就くが、飛燕の早さに正確に照準が合わせられず中々の弾が当たらなかった。

それに気がついた、もう1機の飛燕がチカの背後に回り込む。

 

 

「うわぁ!」

 

 

だが寸でのところでレオナとザラの隼が飛燕を撃ち落とす。

 

 

「後ろの位置を考えて飛んでよ!隼は前しか見えないように作られてるんだからさ!」

 

「何のため二人組なんだよ!もっと後ろの位置を考えてから飛んでって言ってんのよ!!後衛はただのケツ持ちじゃないんだから!」

 

「それこの前、私がチカに言いたかった事だよ!何自分が考えたように言ってんの!!」

 

「だったら言えよ!伝えろよ!共有しろよ!」

 

 

 

懲りずにまた喧嘩を始める二人をレオナは二人に指示を出す。

 

 

 

「チカ、キリエ!前から来るぞ!」

 

 

 

その時、キリエがチカを置いていくように前に出始めた。

 

 

「ちょっと待ってキリエ!私の話を聞け!」

 

 

二人に迫ってた飛燕2機が襲いかかろうとする。

 

 

「ねぇチカ!さっきの話だけど、同じものを食べて同じ服を着てたら似てくるの?」

 

「はぁ?」

 

「さっきチカが言ってたじゃん!」

 

「えぇと……そりゃいつも一緒にいれば似てくるけど、キリエとなら分からないよ!」

 

「なら!」

 

 

その瞬間、キリエは前に居た飛燕の後ろに張り付き、後ろから追いかけてきたもう1機の飛燕に挟み込まれる態勢となる。

目の前の飛燕に向かって銃撃している時、後ろに飛燕のパイロットがチャンスと言わんばかりにキリエの隼に狙いを定める。

 

 

「いただき!」

 

 

だがその瞬間、チカの隼が背後から銃撃を仕掛け撃墜する。

それと同時に前に居た弾切れのキリエが避けると、チカが銃撃し前の飛燕を撃墜した。

 

 

 

 

そこ頃、護衛隊の援護をしていた菅野は護衛隊の鍾馗に襲いかかっていた3機の飛燕相手にほぼ対等な戦闘を行っていた。

 

 

「堕ちやがれバカヤロウ!!」

 

 

菅野はほぼ真上から突入し銃撃を仕掛ける。20㎜弾の直撃を受けた1機目の飛燕が火を吹いて落ちていく。

2機目と3機目の飛燕は鍾馗を狙いから外し、下方に居る菅野機に向かって降下する。

 

 

「クソ!なら着いてきやがれ!」

 

 

操縦桿を前に倒し機体をほぼ真下に向けて急降下をかけ始める菅野機に飛燕2機が背後から食いつく。

 

 

「よぉし……着いてこいよ!」

 

 

高度が下がり地面との距離が徐々に近づいてくる。だが菅野はそれでも操縦桿は引かなかった。

 

 

「まだだ……まだだ……」

 

 

やがて地面との距離が縮まり、激突してしまうかのような高度に下がった瞬間、菅野は操縦桿を思いきり手前に引き、スロットルレバーを前に倒し機体を一気に上昇させる。

 

 

「うぉぉぉぉ!!!」

 

 

零戦は地面ギリギリで機首上げを行い、地面ギリギリでの水平飛行に入る。

 

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 

全速力で追いかけてきた飛燕のパイロットは対応が一瞬遅れ、2機目は機首上げを行う前に機首から地面に激突し爆散し、3機目は機首上げは間に合ったものの機首を上に向けすぎていたため機体後部が地面に接触し墜落する。

 

 

「飛燕は零戦より速度が早い分、減速が出来ないからな!!」

 

 

飛燕の利点を逆に利用し、飛燕を地面に激突させると言う荒業をやってのけた菅野は思いきり声を上げた。

 

 

『すまない!助かった!』

 

 

そこへ、先程の鍾馗が近づいてくると、パイロットが菅野に礼を述べる。

 

 

「あぁ!大丈夫かコノヤロウ!」

 

『何とかな…でも戦闘は無理そうだ!』

 

「なら早く母船に戻れ!」

 

『分かった。幸運を祈る!』

 

 

その後、シロクマ団は菅野とコトブキにより手持ちの戦力の半分以上を失い、夕日の向こうへと消えていった。

 

 

 

 

 

翌日、ガドールの町に無事に到着した羽衣丸からユーリアが降りてくる。それを嫌そうな表情でルゥルゥが見送る。

 

 

「ご登乗ありがとうございました。」

 

「"またのご登乗お待ちしています"とか言わないの?」

 

「これで最後よ。とっとと議場に行きなさい。」

 

「冷たいわね。まぁでも今回は面白い物を見せてもらったから特別に許してあげるわ。」

 

「面白い物?」

 

「あのカンノって男よ。アイツ中々の腕前してたわ。やっぱりユーハング人がどんな人間だったか少し分かった気がする。」

 

「あげないわよ。学生の時みたいにはいかないんだから。」

 

「いけずねぇ。」

 

 

 

ユーリアはそのままルゥルゥに別れを告げると車に乗って議場に行ってしまった。

 

 

 

 

 

羽衣丸の食道ではコトブキの面々が今回の活躍で盛り上がっていた。

 

 

「ねぇ見た見た?私の腕前っ!」

 

「チカ、もうその話…」

 

「11回目。ちなみにこれは5つ目の素数。」

 

「聞いてよ!!」

 

 

何回も同じ話をするチカにキリエは流石に飽きが来ているため適当に流すが、菅野だけは真剣に聞く。

 

 

「すごかったぜチカ!!あの連携と腕前はそう出来るもんじゃねえな!」

 

「だよねだよね!!いやぁカンノはやっぱり分かってくれるよ!キリエとは大違い。」

 

「うるさい!…それにしてもカンノの腕前凄いね。どうやってしたら飛燕を地面に激突させるあんな技が出来るの?」

 

「あぁ?あれは経験と腕と、肝が座ってなけりゃ出来ないぜ。」

 

「じゃあ私にも出来るかな?」

 

「止めておけキリエ。あんなのお前がやったら間違いなく地面に激突するぞ。あれが高度な技が出来るのはカンノくらいの度胸が無いと無理だ。」

 

「そんな事ないもん!!私だって頑張ればあれくらい出来るって!」

 

 

キリエの自信満々な言葉にレオナは呆れ返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第8話

ユーリアを送り届けてラハマの町に帰ってきたコトブキ飛行隊の面々は、留守中におきたある事件に遭遇していた。

 

 

「いゃぁ、最悪とは不幸な事だよ。まぁ、無事に消化は終わったし怪我人も出ずに済んだよ。自警団と消防団のお陰だよ。」

 

 

偶々ラハマの空港に居た町長が安心したような言葉を述べる。その場には町長の他にトキワギ以下の自警団と消防団がおり、チカがトキワギにちょっかいを掛けている間に菅野が町長に問う。

 

 

「で、何があったんだよバカヤロウ。」

 

「実は……」

 

 

町長は何があったのかの説明に入る。

 

 

 

今から数時間程前、突然管制塔から未確認機多数が接近してくると言う情報が入り、『エリート興業』と名乗る謎の集団がやって来たのである。。

 

 

 

『やぁやぁ!ラハマの皆さんこんにちわ!こちらはエリート興業でございます!ご安心ください、滑走路をお借りします!ご協力ありがとうございます!』

 

 

やたら元気の良いアナウンスと供にやって来たのは、赤く塗装された隼3型と艦上爆撃機彗星で、ラハマ空港の滑走路に着陸してくる。

一番先頭の彗星から降りてきた、営業マン風の男はフランクな感じで町長に歩み寄る。

 

 

「やぁやぁ、始めまして町長。私はエリート興業代表取締役のトリヘイと申します。」

 

 

トリヘイと名乗った男は懐から名刺を取り出して町長に手渡すと、早速話に入った。

 

 

「実はですね、今日はラハマの話をの皆様に耳寄りな商売のお話をお持ちいたしました。」

 

「商売?」

 

「はい。なんでもこの町は、いい戦闘機をお持ちだとか。」

 

 

トリヘイの"いい戦闘機"と言う単語に、市長が反応する。

 

 

「……あぁ!『雷電』の事ですか?」

 

 

町長の言う『雷電』とは、菅野の紫電改と同様の局地戦闘機で、火星エンジンによる大馬力を活かした高速機として開発された戦闘機である。

この町には町長が代々受け継いできた雷電が1機があり、かつて町長も雷電を操っていた経験がある。

 

 

 

「はい。弊社は物流会社としてスタートいたしましたのですが近年、直送、技術、起業家精神3つの確信を企業理念に掲げ、文化事業への貢献をさせて頂き、現在40機の戦闘機を使って文化の定着に努めているのですが、少々手が足りなくなりより性能の良い戦闘機を欲しておりました所、こちらの噂を耳にし弊社に是非とも譲って頂きたいのです。」

 

 

そう説明すると、後ろから部下が風呂敷に包まれた四角い物を持ってくる。

 

 

「勿論タダでとは言いません。それ相応の対価をお支払します。」

 

 

そう言って風呂敷が解かれると、中から出てきたのは『浮世絵』が出てきた。

 

 

「これと雷電を?」

 

「これはかつてユーハングが持ち込み、コレクターの間では高値取引されている…これは浮世絵に我々の思考を再解釈した最新芸術で、今なら限定で投資番号がつけられております。」

 

「ようは偽モンだろ。」

 

「いえいえ。美は心眼で評価されるもの。いつかは評価と価値は上がります。この私が保証します。」

 

「」

 

 

しかし、流石に絵一枚に雷電と交換するのは割りに合わない事から町長らはそれを断った。

 

 

「仕方ありません。出直しましょう。」

 

「え?良いんですか?」

 

「はい。何分急な申し出ですし、そちらも考える時間が必要でしょう。」

 

 

 

あっさり引き下がったトリヘイ達に町長は安心する。

エリート興業はそのまま空港から飛び去っていき、その場に居た者は町長と同様に安堵の表情を浮かべる。

 

 

「いやぁ皆ありがとう。話の分かる相手で助かったよ。」

 

 

 

 

皆はずっと飛び去っていくエリート興業の戦闘機を見つめている。

だが、エリート興業は立ち去るどころか逆にこちらに向かって戻ってきた。

 

 

 

その時、エリート興業の隼と彗星は銃撃を仕掛け格納庫とトラック数台を吹き飛ばした。

 

 

『ハッハッハッハッ!見たか!弊社はな、物の価値が分からねぇヤツにはそれなりの対価を払う事にしている!三日後には社員総出でまた来るかなら!それまでによく考えておくんだな!』

 

 

スピーカーを通じてそう告げると、何処かへと飛び去っていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が勇敢に戦った?ボロ負けじゃん!」

 

 

チカの怒鳴り声にトキワギは何も言えなかった。

 

 

「て言うか、この町に雷電とかあったの?」

 

「はい。あまり人前には出してないけどね。」

 

 

町長はそう言うと、雷電が仕舞われている洞窟へと案内する。そこは岩をくり貫いて作られた格納庫で、町長が格納庫の扉の鍵を解除し扉の開ける。

中には、大型の火星エンジンを納めるために長く太い機首と、空気抵抗を抑えるために採用された紡錘形の胴体を持つ『雷電』が、ポツンと置かれていた。

 

 

 

「これが雷電かぁ…本物見たの始めてだよ。」

 

「飛燕なみにデケェ……」

 

 

零戦や隼と比べて、雷電は数が少ないため実際に菅野とキリエはあまり見る機会が無かったので、驚きの声をあげる。

 

 

「1800馬力、隼よりも50キロ早く、20㎜を4門装備。」

 

「確かこれ市長専用機でしたわよね?」

 

 

エンマの言葉にキリエが町長を見て驚く。

 

 

「え!?アンタこれ乗れるの?」

 

「私はパイロット出身だぞ。若い頃は"ラハマの貴公子"って言われてて……」

 

「はいはい分かった。それより空賊よ!三日後だっけ?受けて立ってやろうじゃない。」

 

「おぉチカやる気かオメェ!」

 

「だってラハマ自警団の連中には任せておけないよ!空賊にいいようにやられてさ!キリエとカンノは悔しくないの?」

 

「そりゃ悔しいけど、でも自分達で何とか出来ないなら戦闘機の1機くらい、渡しちゃえば良いじゃん。どうせ使ってないんでしょう?」

 

「そりゃアリだよね!」

 

「町長!」

 

「いや、だってほら、高価な機体だけと所詮は戦闘機1機でしょ?戦ったら町に被害とか出ちゃうかもだしさ。」

 

「ぜっったい反対!!」

 

「えぇ?私はそれでアリだと思うよ。」

 

 

意見が二つに分かれ中々話は進まない。

もし動くとしてもルゥルゥの許可がいるし、許可が出たとしても市民達が何と言うか分からない現状では結論が出せない。

 

 

「もし町を守るためにコトブキを使いたいなら、私の許可を貰ってからにしてくれるかしら?それにこの子達には新たな契約と仕事の更新が必要よ。」

 

 

いつの間にか現れたルゥルゥが町長にそう述べる。

 

 

「因みにいかほど?」

 

 

町長が訪ねるとルゥルゥは書類に書かれた値段を見せる。

 

 

「むりぃ!こんな予算出ませんよ!」

 

 

 

町長の優柔不断な態度にトキワギが苛立つ。

 

 

 

「あぁもう分かったよ!俺たちがやってやるよ!」

 

「どうやるの?」

 

「気合いと根性だ!」

 

「はぁ……町長。どうか契約を結んでください。」

 

 

意外にも、トキワギの部下が町長に言う。

 

 

「彼らは40機の戦闘機を持っていると言ってました。ですが我々の戦闘機は11機の97式のみ。殆ど勝ち目はありません。後は対空機関砲がありますが、訓練も5年以上出来ていない。自警団の現状を考えると彼女達に頼るべきかと。」

 

「無理だよ!無理!こんなの私の一存では決められないって。選挙も近いし……」

 

「「「町長!」」」

 

 

さすがにここまで言われては町長も腹をくくるしか無い。

 

 

「よし決めた!代表会議を開いて皆の意見を聞いて決めよう!」

 

 

 

こうして、町長の呼び掛けによりその日の夜に代表会議が開かれた。

 

 

「徹底抗戦だ!」

 

「雷電は町の守り神だ!もし盗られたりしたらラハマの恥だぞ!」

 

「守り神っていつの時代だ!」

 

「戦ったら必ず被害が出るぞ!!」

 

 

 

ここでも意見が二つに分かれ、議場は紛糾する。

 

 

「私ってさぁ…大人になるのって賢くなるって事だと思ってたんだけどねぇ~」

 

「年齢と知性は比例しない。」

 

 

 

議論が尽きぬまま会議は進んでいく。

 

 

「じゃあ議論も尽きた事ですし…」

 

「尽きてませんよ!」

 

「いや議場は尽きた。これ以上の話し合いは無用だ。無い袖は振れない!」

 

「そもそも自警団がしっかりしてればこんな事にはならなかったのではないのか?」

 

「じゃあエリート興業の申し出を受けちゃおうか……」

 

 

回りの意見に押され、町長もエリート興業の申し出を受けかけたその時、エンマと菅野が議場に上がる。

 

 

 

「テメェら……それでも町の代表かバカヤロウ!!!」

 

 

 

エンマよりも先に菅野のどなり声が響き、その場が静まる。

 

 

「町に被害が出るだぁ!?予算が無いだぁ!?選挙が近いだぁ!?聞いてればグチグチグチグチ文句ばっか垂れやがって!!本当に町を守る気があんのかコノヤロウ!!」

 

「カンノさんの言う通りですわ。相手は所詮会社ごっこに明け暮れている空賊です。雷電を渡してハイサヨウナラと思いですか?」

 

「えぇ?…どう言う事?」

 

「あの手の連中がよく使う手ですわ。最初は無理すれば呑めそうな要求……ですが一度呑んでしまうと、相手はもう少し大きな要求をしてくるんです。それが何度も何度も何度も何度も繰り返されて、その度に要求はどんどん大きくなって気がついたら全てを持っていかれているのですわ!」

 

「その通りだバカヤロウ!!本当に何も失わず町を守りたいなら、戦うしかねぇんだよバカヤロウ!!」

 

「私もエンマとカンノの言葉にやっぱり賛成!!皆はどう?」

 

 

 

かつて詐欺を経験しているエンマと、本土を守るための第343海軍航空隊に所属していた菅野の説得力に言葉に刺激されたキリエがその場で賛同し、回りにも意見を求めていく。

 

 

「町長!彼女達の言う通りです。町を守るためにには戦うしかありませんよ!」

 

「でも、一旦持ち帰って検討した方が……」

 

「それで町の為政者なのですか?問題を先送りにする為政者は下の下ですわ!今すぐここでくたばっておしまないなさい!!」

 

「そうだ!そんなヤツはさっさと死んじまえバカヤロウ!」

 

 

エンマと菅野の暴言に近い罵りに、立ちあがり必死に自分の意見を述べ始める。

 

 

「私だって戦えるものなら戦いたいですよ!かつてはラハマの貴公子と呼ばれていたんだから、戦わなければどうにもならない事は分かっています。でも仮に皆が許してくれたととしても、予算が許してくれないんだよ!!」

 

 

町長の言う通り、戦うには予算が無ければ戦うようにも戦えない。

そこへ、何処かに行っていたレオナが戻ってくると、議場へと上がる。

 

 

「戦いたいという意思は本当なんですね?マダムからの提案があります。正直、コトブキ飛行隊だけでは手が足りない。町の人々の協力があれば減額を考えてもいいと。」

 

 

その言葉に人々町を守るのは自分達であると言う昔のラハマ自警団達の精神を思いだし、戦う事に肯定的な意見が纏まりつつある。

 

 

「町長!ご決断を!」

 

「……………よし!戦おう!ラハマの貴公子の名に賭けて、この町を守ろう‼️」

 

 

この日、ラハマはエリート興業と戦う事を決断し、三日後の戦闘に備えて準備を始める。

 

 

「雷電の各部のチェック急げ!!町長が戦えるように万全に整備するんだ!!」

 

「「「「おぅ!!」」」」

 

 

ナツオ以下の羽衣丸整備班と、ラハマ自警団の整備員達は各々の機体の整備に全力を注ぐ。

 

 

そこへ菅野がやって来るとナツオに声をかける。

 

 

 

「やってるな!」

 

「カンノか!すまねぇ!紫電改の修理はもう少し待ってくれねぇか?」

 

「あぁ。それより俺の零戦は?」

 

「あぁ!ちゃんと要望通り、紫電改と同じカラーリングとマーク描いてやったぜ!!」

 

 

ナツオが指差した方向を見ると、色褪せていた予備機の零戦が日本海軍と同じカラーリングと日章旗に塗り直されていた。紫電改と同様に胴体には黄色のストライプが描かれていた。

 

 

「でも、あんな目立つストライプなんか描いてたら、敵機がたちまち集まってくるぜ。」

 

「それで良いんだよ。敵はなるべく俺が引き付ける。それで仲間を守れるなら俺はそれでいい。」

 

 

仲間思いの菅野ならではの発想にナツオは何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 




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第9話

エリート興業からの要求期限の日がやって来た。

ラハマの空港からは羽衣丸と、ラハマ自警団の95式練習機『赤とんぼ』が飛び立っていく。

 

 

「来ないねエリートさん達。気でも変わってやめたって可能性は無いかな?無いよねぇ~」

 

 

サネアツが呑気に言っていると早速に索敵に出た95式から連絡が入った。

 

 

『こちら赤とんぼ3号。北北西より飛来する敵編隊発見!!』

 

「逆からっ!?話がちがうよぉ!!反転180°、引き返して!それからコトブキも出撃!!」

 

 

 

 

 

連絡を受けたラハマ空港からは、自警団の97式戦闘機隊が発進準備を始めていた。

 

 

「読みが外れてコトブキが待ち構えてたのとは逆から来た。と言うことで、我々が先鋒に出る!彼女達が到着するまで15分だ!それまではなんとしても保たせるぞ!」

 

「おぅ!上等じゃねぇか!」

 

「良い覚悟だ。だが熱くなりすぎるな。そして必要以上に怯えるな。ラハマ自警団出撃する。」

 

 

当初の作戦とは大きく異なるが、ラハマ自警団は引き返してくる羽衣丸から飛び立ったコトブキ飛行隊が到着するまで何とかその場を保たせる事を胸に出撃していく。

 

 

 

一方その頃、エリート興業も自警団が上がってくるのを察知して戦闘態勢を整える。

 

 

「そろそろ上がってきてますねぇ。」

 

『連中、完全にやる気ですな。』

 

「アイツら、折角今日の商談はサービスでもう1枚浮世絵をお付けするつもりだったのに!」

 

「ムッフ~。社長のご厚意を踏み躙るなんて、懲らしめてやりましょうぅ!」

 

「やらいでか!」

 

 

彗星の後席に座っていたトリヘイの言葉に、彗星の操縦席に居る妙な雰囲気を持つ人事部部長『ヒデアキ』が答え、トリヘイは怒りを露にし各々に指示を出す。

 

 

「人事部はハエを叩き落とせ!営業部は見せしめに町の主要施設を焼き払え!だが雷電には傷一つ付けるなよ!」

 

 

 

エリート興業はその場で散開し、対峙していたラハマ自警団も動き始めた。

 

 

「散開したぞ!数では向こうが上だが機動力はこっちが上だ!くれぐれも落とされるなよ!」

 

 

ラハマ自警団とエリート興業人事部が戦闘に突入し、自警団を人事部が引き付けている間に営業部の隼がラハマの町へと突入する。

 

 

『やつら!町中に雷電を置いてやがる!!』

 

 

隼のパイロットが見たのは、町のど真ん中に堂々と置かれた雷電の姿だった。

 

 

「来るなら来てみろ!」

 

 

町長がそう叫び皆が隼の注意を引き付けている隙に、廃屋に隠されていた対空機関砲が攻撃を始めた。

 

 

『クソ!迂闊に近づけねぇ!』

 

 

機関砲の攻撃を避けるために営業部は一度離れる。

 

 

 

 

人事部と自警団も激しい空中戦を繰り広げていた。

だが機体同士の性能差は激しく、97式は次々と落とされていき、自警団長とトキワギは徐々に追い詰められていく。

 

 

「くっ!離れない!」

 

 

自警団長の背後からトリヘイとヒデアキの彗星が迫る。

 

 

「団長ぉぉ!!」

 

 

彗星の背後からトキワギの97式が銃撃を仕掛けるが、彗星はとっさに避けトキワギの背後を取る。

 

 

 

「邪魔でぇ~す。」

 

 

ヒデアキはそう呟きトキワギ機を撃ち落とした。

 

 

「トキワギぃ!!」

 

 

残った団長の97式に照準が合わせられる。

 

 

「堕ちなさ~い。」

 

 

引き金を引こうとした時、真上から銃撃が加えられ隣に居た隼が落とされた。

上を見ると、コトブキ飛行隊が太陽を背に現れる。

 

 

「待たせたな!後は私達に任せてくれ!作戦通り行くぞ。私とザラ、チカとケイトは空戦で連中を牽制する。キリエとエンマは地上班とカンノと連携を!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

コトブキ飛行隊の参戦により、人事部の隼3型といつも通りの連携プレイで次々と撃ち落としていく。

 

 

 

 

 

その頃、町の攻撃へと向かった営業部は対空機関砲と町中の雷電に手子摺っていた物の、施設への攻撃を行っていく。

 

 

「ここまでやればヤツらも怖じ気ついただろ!後は雷電だけだ!」

 

 

営業部がその場で旋回し、雷電が置かれている中央広場へと向かう。

 

 

「さぁて……雷電を傷つけないように…」

 

 

照準点を雷電からずらし、回りに屯している町長や市民達へと照準を合わせる。

 

 

「あばよ………」

 

 

営業部部長が引き金を飛行とした時、突然機体から弾丸が当たる音が響き、右の主翼から煙と炎が上がる。

 

 

「何だ!?」

 

 

ふと上を見ると、上空の太陽を背に1機の零戦に4機の97式が急降下を掛けてくるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

「きしゃーのまーどからー手ーを握りー送ってくれた人よりもーホームで泣いていた可愛いあのこが忘れられぬー!トッコズンドコズンドコ!!」

 

 

ラハマの空の上で『海軍小唄』を歌いながら、菅野は零戦の操縦桿を前に倒し、急降下を掛ける。

 

 

「343空、301飛!新撰組隊長、菅野一番吶喊!!」

 

 

スロットルレバーの引き金を引き、目の前の隼を撃ち落とす。

 

 

「へっ!好き勝手ボーボーやりやがって!!ムカつくんだよバカヤロウ!!」

 

 

菅野は地上に釘付けとなっていた営業部のほぼ真上から自分の指揮下にある4機の97式と共に逆落しでの奇襲攻撃を仕掛け、瞬く間に隼2機を撃ち落とすと、慌てふためく営業部の編隊へと吶喊し銃撃を仕掛ける。

 

 

「町の空守るのは俺の十八番なんだよバカヤロウ!!」

 

 

本土防空の343空所属の菅野にとって、町の空を敵の戦闘機や爆撃機から守るのは日常茶飯事だったため、営業部の隼を味方の97式と連携して次々と撃ち落としていく。

 

 

「社長!!敵の飛行編隊による奇襲を受けました!営業部は6機落とされました!我々だけでは雷電の奪取は不可能です!」

 

『分かった!!直ぐに行くから待ってろ!』

 

 

 

コトブキ飛行隊との空戦を止めて町中へ営業部の応援にやって来た人事部が加わり、町の上空は敵味方が入り乱れる大混戦となった。

 

 

「エンマ!任せたよ!」

 

「任されました!」

 

 

町の防空のため離れたキリエから敵の目を引き付けるためエンマは5機の隼を挑発するかのように、地上班が待機している山岳地帯へと誘い込む。

 

 

「!」

 

 

目の前に岩山が迫ってきたとほぼ同時に機体を上昇させる。その瞬間、山肌から隠されていた対空機関砲が火を吹き追ってきていた隼3機を撃墜した。

 

 

「この野郎!よくも俺の可愛い社員達を!!」

 

 

 

 

エンマは隼にを二人が乗る彗星の背後に付かせ照準を合わせる。

 

 

「旋回機銃!?」

 

 

撃とうとした時、後席のトリヘイが旋回機銃を放ち、エンマ機は煙を吐きながら墜落していく。

背後から止めを刺そうと彗星が迫る。

 

 

「やらせるもんかぁぁ!!!」

 

 

その時、市長の操る雷電が姿を表し彗星と隼の間に割り込んでくる。

 

 

「雷電!?」

 

 

火星エンジンが叩き出す速度にトリヘイは驚く。

 

 

「ラハマの貴公子を舐めるなぁぁぁ!!!」

 

 

半泣きになりながらもエンマから彗星を引き離し、離れた彗星にすがり付きながら機関砲を放つ。

 

 

「こいつめ!こいつめ!こいつめ!」

 

 

必死に機関砲を放つが、あっという間に弾が切れ機関砲は沈黙する。

それをチャンスとばかりに彗星が一気に速度を落とし、雷電の真上で並走を始めると、爆弾倉から拳銃と浮世絵が入った鞄を手に雷電に取りついた。

 

 

「お届け物です!」

 

 

拳銃を突きつけられた町長は絵を押し付けられると雷電からパラシュートで脱出した。

 

 

「毎度あり!撤収だ!」

 

 

雷電を奪ったエリート興業はそさくさとラハマの町から離れていく。

 

 

「皆…ごめん…雷電を……雷電を………」

 

 

パラシュートで町に降りながら下にある町にむかってひたすら謝り続ける市長の真横を、1機の零戦がエリート興業が去っていた方向へと全速力で突っ込んでいく。

 

 

 

「逃がすかバカヤロウ!!」

 

 

菅野は零戦が出せる最大速力でエリート興業の飛行編隊の背後から機関砲を放ち、隼を2機撃墜した。

 

 

「何だ!?」

 

『社長!零戦です!あの黄色いストライプの零戦です!』

 

『ヤツは化け物だ!』

 

 

町の上空で戦っていた営業部の社員が恐れをなしたかのように怯えた声で言う。

 

 

「馬鹿野郎!たかが零戦1機じゃねぇか!!ヒデアキ、ヤツを食い止めろ!」

 

「ムッフ~お任せくださいませませ。」

 

 

 

ヒデアキの彗星が編隊から離れ、菅野と対峙する。

 

 

「貴方にこれ以上好き勝手やらせませんよぉ~」

 

「上等だバカヤロウ!!」

 

 

2機は激しい空中戦に突入し、ヒデアキが菅野の後ろを取れば、菅野が零戦を減速させオーバーシュートでヒデアキの背後を取り機関砲を放つが、ヒデアキは咄嗟に避ける。

 

 

「おや、中々やりますねぇ。これは雷電と同様に驚異になるでしょう。ですが……所詮は零戦。振りきってやりますよ。」

 

 

ヒデアキはスロットルレバーを倒しエンジン出力を上げて一気に加速し菅野を振りきる。

 

 

「待ちやがれバカヤロウ!」

 

 

菅野も後を追おうとするが、零戦の栄エンジンよりも高出力のアツタエンジンのパワーには勝てず、引き離されてしまった。

 

 

「逃げられたか………」

 

 

結局追跡を諦めた菅野は町へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

パラシュートで脱出した町長は公会堂前で皆に謝る。

 

 

「すまんねぇ…不甲斐ない町長で……」

 

 

町長の言葉にエンマと菅野が答える。

 

 

 

「いいえ。貴方は町を守るために必死に戦いました。」

 

「あぁ……アンタは雷電を巧みに操ってエンマを助けたし、町を守る意思の見本を自警団や市民達に見せたんだ。誰も責めねぇよ。」

 

 

二人の言葉通り、市民達は怒るどころか称賛の声を挙げる。

 

 

「すごいぜ町長!」

 

「流石はラハマの貴公子だ!」

 

 

皆の言葉に町長は涙を流す。

 

 

「それに昨日の数々の暴言をお詫びいたします。」

 

「俺も悪かったな。」

 

 

 

だがコトブキ飛行隊の面々が街と結んだ契約は雷電を守る事が含まれているため、コトブキの仕事はまだ残っている。

 

 

「あなた達の契約には雷電を守る事が含まれているわ。この意味分かるわよね?」

 

「はい。」

 

「じゃあ、さっさとあの機体取り戻してらっしゃい。」

 

 

ルゥルゥはコトブキの面々を勇気づけるかのように笑顔を見せながら、改めて雷電を取り戻すための指示を出す。

 

 

「「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

 

続く




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第10話

雷電を守ると言うラハマの町との契約を交わしているオウニ商会は、エリート興業に奪われた雷電を取り戻すため、彼らが立ち去った方角を真っ直ぐと飛んで拠点の捜索を行っていた。

 

 

「あぁ~……暇だぁ~バカヤロウ~」

 

 

編隊飛行で遠出をしてきたコトブキ飛行隊は既に一時間も空を飛び続けていた。

普段から空中戦ばかりしている彼女達の中でキリエとチカ、ケイト、菅野は既にフラストレーションが溜まりに溜まっている状態であった。

 

 

「本当に遠出ってやだなぁ~」

 

「キリエ。もう少しゆっくり飛ばしてください。」

 

 

キリエが愚痴ると、座席の後ろからエンマの声が響く。

彼女の機体は先日の戦闘で大破し修理中のため、キリエの隼の操縦席の後ろにあるスペースに座っていたのである。

 

 

「だってぇ~……ただ飛ぶだけじゃつまらないもん。」

 

「だからって、もう一人乗っている事を考えてください。」

 

 

その途端、キリエは操縦桿を捻り機体をその場で旋回させる。

 

 

「ちょっとキリエ!!」

 

「恨むなら落とされた自分を恨んで!」

 

 

エンマの文句を無視するように、キリエは隼を激しく動かす。

 

 

 

「キリエ!何してるんだ!」

 

「レオナ、フラップの調子が悪いんで渇いれてまぁ~す。」

 

「ずるいぞキリエ!レオナ、私も右のフラップが調子悪いからちょっと渇いれてくるね!」

 

「ケイトもラダーが重い。」

 

「俺も左右のフラップとラダーが調子悪ぃから渇入れてくらぁ!!」

 

 

キリエに続きチカとケイト、菅野も混ざりその場で機体を自由に動かし始める。それはまるで、鳥が空を気ままに飛んでいるかのように見える。

 

 

「アイツら…」

 

「いいじゃない?はしゃぎたい気持ちは分かるわ。この所、飛ぶっていえば作戦の時ばかりだったから。」

 

「これも一応、雷電を取り戻す作戦なんだがな。」

 

「でも隼で遠出するなんて初めてだもん。あぁやって好き勝手に飛び回らないとね。空は青くて自由で……そんな自由な空だから飛べるって事。特にカンノなんて、ユーハングで戦争してたらしいから自由に空を飛ぶなんて出来なかったのよ。」

 

「自由はタダじゃないけど。」

 

「だから尊いのよ。」

 

 

そう言ってザラもキリエ達の仲間に入って一緒に飛び回りはじめる。

 

 

「全く………私も混ぜろ!!」

 

 

終にはレオナも仲間に入って全員で自由に飛び回る。

 

 

 

 

暫く飛んでいると、エンマが催して来たため、地上に見えてきたロータの町へと降りる。

 

 

だがその時…

 

 

 

「人?……銃こっちに向けてる!」

 

 

キリエが気がつくと同時に、空の駅の建物の前にいた老人が手にしていたウェンチェスターライフルを構えるとキリエ達に撃ってきた。

 

 

「危ねぇなバカヤロウ!!」

 

「ここは私に任せて。」

 

 

ザラが先に高度を下げて翼を左右に振り、敵意が無い事を示し、老人は銃を下ろした。

 

 

「コラ!ジジイ!!いきなり撃ってくるたぁどう言う了見だバカヤロウ!!」

 

 

降りるなり菅野は怒鳴り、老人はすまなそうに皆に謝る。

 

 

「いゃあすまんな。またアイツらかと思ってな。」

 

「アイツって?」

 

「このロータをこんなにしやがった野郎共だ。」

 

 

ふと辺りを見回すと、建物や看板、道路は穴が空いていたり破壊されていたりしていた。

 

 

「それってエリート興業の連中ですか?」

 

「あの会社ごっこしている馬鹿な連中の事か?違う違う、やったのはもっとヤバそうな連中だ。淡々と施設だけを破壊して飛び差っていきやがった!」

 

 

施設と言う言葉にキリエ達が反応する。

 

 

 

「パンケーキ!」

 

「カレーうどん!」

 

「ハンブルグサンド。」

 

「金曜カレー!!」

 

 

キリエ、チカ、ケイト、菅野は食事にありつくためロータの町中にある空の駅の中に入ると、銃撃によって破壊された自動販売機があり床にはカレーうどんやらハンブルグサンド、カレーライスが散らばっていた。

 

 

「空賊ども許すまじ!」

 

「人の食事に手を掛けるたぁ上等だバカヤロウ!!」

 

「やったのは違う空賊だけどね。」

 

 

だが偶然にもザラが作ってきた弁当があったため、コトブキは何とか昼飯抜きと言う事態からは逃れる事ができた。

 

 

「そう言えばエリート興業の事をよく知っているようでしたが。」

 

「あぁ。お前さん達、奴等に何か用があるのか?」

 

「はい。実は……」

 

 

レオナは老人に事情を話す。

 

 

「そう言う事か。」

 

「はい。出来れば彼らに気づかれずに潜入したいんですが。」

 

 

そう言ってレオナは懐からこの周辺一帯の地図を出す。

 

 

「ちと難しいな。奴等は山を加工した洞窟が住み処で、所謂天然の要塞ってヤツだ。」

 

「ガァって突っ込んで雷電取り戻せば良いじゃん!」

 

「雷電が出てきたらどうするんだ?飛行中に飛び移るか?ボスみたいに。」

 

「そうなればこの浮世絵はお返し出来ませんね?」

 

 

エンマは浮世絵を取り出す。

 

 

「何だいそりゃ?」

 

「浮世絵です。"姐さん"て方が描いたらしいですけど。」

 

「あぁ~あの女帝か。」

 

「女帝?」

 

「ボスが入れあげてる女の事さ。ソイツの前じゃ悪たれ共が借りてきたネコみたいに大人しくなるんだとさ。そりゃスゲエおっかない女なんだろうな。」

 

「兎に角、偵察もなしに攻撃は無理だな。」

 

 

 

そうしていると、何処からか零式輸送機が降り立ってくると、機内から華麗に着飾った踊り子達が出てきて、何やら支配人らしき男に文句を言いはじめていた。

 

 

「何なんだアイツらは?」

 

「出張酒場さ。なんでも会社の慰労会って事で来たらしいが、相手がエリート興業だと聞いて行きたくないと言い出したらしい。まぁ所詮は空賊だからな。」

 

 

 

支配人はその場で卒倒し頭を抱えながら落ち込む。

だがザラは何かを思い付いたかのような表情で皆に耳打ちする。

 

 

「それ良いアイデアだ。」

 

「確かにザラにピッタリの作戦だ。」

 

「俺も行くのか?良いぜバカヤロウ!」

 

 

 

皆が肯定し頭を縦に振ると、落ち込む支配人に歩み寄り交渉を始めた。

 

 

 

 

 

 

続く




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第11話

出張酒場の踊り子達を乗せた零式輸送機は、エリート興業の本拠地がある渓谷へと差し掛かっていた。

客席には踊り子二人に加えて、際どい衣装に身を包んだザラの姿もある。

 

 

「ねぇ?貴女ザラって言ったからしら?」

 

「えぇ。どうかしたの?」

 

「貴女本当にあのコトブキ飛行隊の人よね?」

 

「そうよ。」

 

「本当にエリート興業に喧嘩売りに行くつもりなの?」

 

 

偶々ザラが座っていた席の横に座っていた別の踊り子に声をかけられる。

 

 

「喧嘩を売りに行くって言うか、盗られた物を取り返しに行くだけよ。それよりも彼らには私と彼の事は…」

 

「えぇ。」

 

 

機内の貨物室にある衣装や小道具が入った木箱の1つの中に、菅野は息を殺しながら隠れていた。

 

 

(あぁ……狭い……暑苦しい……苦しい………)

 

 

只でさえ狭い箱の中に、分厚い飛行服を着ているため余計に窮屈さが増している。

 

 

 

 

そうこうしているうちに、零式輸送機はエリート興業へとたどり着いた。

 

 

(お?……たどり着いたみたいだな。)

 

 

外からはザラ達踊り子とエリート興業の社員達の声が聞こえてくる。

暫くしていると、菅野が隠れていた箱が揺れはじめる。

 

 

「えらく重いな……」

 

「何が入ってるんだ?」

 

 

荷物運びを手伝っていたエリート興業の社員が箱の異様な重さに疑問を感じる。

 

 

「社員さぁ~ん。早くその荷物運び込んでちょうだぁ~い。」

 

 

ザラの色っぽい声に社員はせっせと荷物を運び込んでいく。菅野は箱に空けられた除き穴から通路と部屋をひとつ一つ確認していく。

 

 

(本当に天然の要塞だな。)

 

 

運び込まれた荷物は控え室へと運び込まれ、室内ではザラ達とセッティングをしていたエリート興業の社員が居る。

 

 

(早く外出てぇ………)

 

 

そう思いながら必死に堪える菅野。

やがてエリート興業の社員が部屋から出ていき、ザラ達だけになると菅野は中から蓋を空けて外へ出る。

 

 

「かはぁ……死ぬかと思ったぜ……」

 

「お疲れ様。じゃあ手筈通り、私がボスや社員達を引き付けている間に貴方は雷電を探して。雷電が見つかったらここに戻ってて来て。」

 

「おぅ。」

 

 

一時間後、ザラ達は予定通り会場へと向かい、誰も居なくなった控え室からも菅野が外へと出る。

 

 

「さて……格納庫へ行くか。」

 

 

壁伝いに辺りを警戒しながら格納庫がある場所に向かって通路を歩き続ける。

 

 

だが複雑に入り組んでいるため、何処に何があるのだが分からない。

 

 

 

「参ったな………!!」

 

 

その時、足音が聞こえ近く乱雑に置かれていた木箱置き場に隠れる。

 

 

(女か?)

 

 

目の前を通り過ぎていくのは、この場にはあまり似つかわしくないドレスを着た少女だった。手には絵の具セットと筆が2・3本握られていた。

 

 

(エリート興業で絵描き………浮世絵………まさか。)

 

 

直感で何かを感じ取った菅野は少女の後を尾行する。

やがて彼女はある部屋の前に立ち止まり、ドアを空けて中へと入ろうとする。

 

 

「私に何か用?そこの人。」

 

 

突然少女が菅野に声を掛ける。

 

 

「隠れても駄目。さっきから視線感じてたから。」

 

 

もう隠れられないと判断し菅野は少女の前に姿を表す。

 

 

「オメェ、もしかして浮世絵書いてる女帝って奴か?」

 

「そう。貴方は何者?」

 

「オメェ所の社長が盗んだ雷電を取り返しに来たんだよバカヤロウ。」

 

「雷電……あぁ……あの戦闘機の事ね。」

 

「知ってんのか?」

 

「えぇ。」

 

「じゃあ雷電がある場所教えてくれ。」

 

 

菅野の問いに少女はじっと菅野の目を見続ける。

 

 

「何だよ?」

 

「貴方は悪い人ではない。心はとても優しい人。」

 

「?」

 

 

そこへ新たな足音が聞こえてくる。

菅野は懐から14年式拳銃を取り出そうとするが、直ぐに手を離した。

 

 

「ザラか?」

 

「カンノ。貴方どうしてここに?」

 

「あぁ。ここはまるで迷路だ。歩いているうちに迷っちまって、その矢先にこの嬢ちゃんに見つかっちまって。」

 

「そうなの。取り合えず雷電は私が見つけたわ。やっぱり格納庫にあったわ。それと、社長が数人だけ雷電の側で妙な話をしてるのを聞いたわ。」

 

「妙な話?」

 

「えぇ。何か雷電を盗まれないように固定している鍵を爆破するだの、雷電が壊れちゃ意味が無いだの言ってたけど。」

 

 

ザラの言葉に少女が反応する。

 

 

 

「あ、あの!もしかしてその社員の中に、眼鏡をかけて嫌みな笑顔を浮かべてる人が居なかった?」

 

「えぇ。知ってるの?」

 

「はい。恐らく人事部長のヒデアキだと思います。元々雷電を奪おうって言い出したのは彼なの。」

 

「でも社長は業績拡大って言ってたけど。」

 

「多分トリヘイは、ヒデアキに何かを吹き込まれたんだと思う。だってトリヘイは元々雷電には全く興味なんて無かったの。」

 

 

少女の話から、だんだん陰謀めいた話になってくる。

 

 

「取り合えず、あと30分でコトブキが来るからその時に雷電を取り返しましょう。」

 

「おぅ。」

 

「所で貴女、さっきステージで私を見てたわね?」

 

「…………その、えぇと…」

 

 

何やら言いたげな少女の反応にザラは優しく問いかける。

 

 

「言ってちょうだい?」

 

「………実は貴女をモデルに絵を描きたいの。協力してくれたら雷電を貴方達に返す協力をする。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、エリート砦がある場所より少し離れた空をコトブキ飛行隊が飛んでいた。

 

 

「来た来た!あれだね?」

 

 

既に目の前にはエリート砦の入り口の渓谷へと差し掛かっていた。

 

 

「私達の仕事は、エリート興業のアジトの強襲。混乱を誘ってザラとカンノの仕事をやり易くする事だ。重要なのは如何に気づかれずに接近するかだ。」

 

 

エリート砦は狭い渓谷にあり、幅が400メートル、深さ500メートルしかなく、S字に蛇行している上に、左右から突起した岩による難所が5つもあるため目的地へたどり着くには危険なタイトロープを行わければならない。これは非常に繊細な技術が求められるが、コトブキの面々なら対した事はない。

 

 

「タイトロープを始めるぞ!」

 

 

コトブキ飛行隊はそのままレオナを先頭に谷へと入りタイトロープを始める。

早速1番目の難所に差し掛かる。

 

 

「全機、高度を0に保て!0高度から上下5メートルが許容限界だ!」

 

 

1番目の難所の左右から突起した岩の間を無事に通過し、2番目の難所のS字コーナーに差し掛かるがこれも何なく通り過ぎる。

 

 

「しかしこれだけの爆装してきたら上手いこと、スピードが出やしない!」

 

 

キリエはそう愚痴るが、そうしているうちに3番目の難所が見えてくる。

 

 

 

「第3ポイント接近!潜り抜けたら左旋回!高度そのままだ!」

 

 

3番目の難所の急カーブも無事に通過し、4番目の難所へと近づく。

真ん中から突き出た岩の下をギリギリ潜り抜け、いよいよ最後のポイントに接近する。

 

 

「最後のポイントだ!そこを出たら編隊を組み直して一気に攻撃を掛ける!!」

 

 

最後のポイントを何とか無事に潜り抜け、コトブキはようやく彼らのエリアへと突入した。

 

 

 

「キリエ、ケイトは燃料タンクを!チカと私は地上の機体、エンマは上空警戒!10分以内でザラとカンノが上がって来なければ強行着陸で救出作戦に切り換えだ!その場合は雷電は諦める!!」

 

 

コトブキの襲来を感づいたエリート興業の砲台から対空機関砲が撃ち上げられる中、コトブキは当初の作戦通りに各々の任務に入った。

 

 

まずレオナとチカのペアが最初に突入し、機銃掃射で地上の機体を破壊していく。

 

 

「ケイト私は右やる!」

 

「左!」

 

 

キリエとケイトも燃料集積所へ向けて突入し、吊り下げられていた小型爆弾を投下して燃料を吹き飛ばし、エリート興業を混乱させていく。

 

 

 

「クソ!返り討ちにしてやる!」

 

 

トリヘイは全社員に出撃を命じ、各々が発進準備を進めていく中、ヒデアキ以下の人事部の社員達は二手に分かれて別の行動を起こそうとしていた。

 

 

「この攻撃、ある意味天祐ですね。」

 

「私は雷電を。」

 

「頼みましたよ。」

 

 

 

 

 

 

続く




タイトロープのシーンの元ネタ分かる人居ますかね?

皆様からのご意見とご感想お待ちしております。


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第12話

コトブキ飛行隊による奇襲攻撃にエリート興業は一時、大混乱に陥るが、時間が建つにつれてエリート側も態勢を建て直し迎撃に上がってくる。

そんな中、菅野、ザラの二人は姐さんの部屋で逃げ出す機会を伺っていた。

 

 

「来たみたいだな……」

 

「えぇ。」

 

 

姐さんがザラに絵のモデルになってくれと言う願いにより、ザラは快く引き受け姐さんが絵を書いている中、菅野は扉に耳を当てながら警戒していた。

 

 

 

「おい。一人か二人走って来てるぞ。」

 

「カンノはのそこに隠れて。私がそいつらの目を惹くから。」

 

「おぅ。」

 

 

 

そう言って菅野は扉の側にある絵の巨大なキャンバスの後ろに隠れる。

その直後、拳銃を片手に人事部の社員が二人程入ってくる。

 

 

「姐さん。こんな手荒な真似をして申し訳ないが、もう時間がありません。雷電の鍵を渡してください。」

 

 

二人は拳銃を構えながら言い、姐さんはザラの後ろに隠れる。

 

「嫌。」

 

「社長の他、皆出払ってくれました。騒いでも誰も来ませんよ。社長は仲間が撃墜する手筈になっている。さぁ!鍵を渡しなさい!」

 

 

社員が詰め寄ってくるがザラは姐さんを庇うように前に出ると、扉の後ろに向かって一瞬だけ視線を向ける。

 

 

「うぉぉぉ!!このバカヤロウ!!」

 

 

キャンバスの裏に隠れていた菅野が飛び出し、紐で纏められた重たいキャンバスの束を投げつけ、一人を倒す。

 

 

「何だお前はっ!?」

 

「343空301飛 新撰組隊長の菅野直だバカヤロウ!!」

 

 

拳銃を構えるもう一人の社員に向かって一気に走り出し、距離を詰めて鳩尾に向かって渾身の蹴りを喰らわせる。

 

 

「グハァ!!」

 

 

見事に鳩尾に蹴りを喰らった社員はその場で悶絶し気絶した。

 

 

「驚いた。あなたもしかして喧嘩とか強い?」

 

「おぅ!こうみてえ昔はガキ大将だったんだよバカヤロウ!」

 

「何とかなった?だったら、これを!」

 

 

姐さんは首から提げていた鍵を渡す。

 

 

「早く雷電を…あの人を助けて。」

 

「あの人って……あの社長の事か?」

 

「うん。あの人は私の絵を理解してくれる唯一で大切な人。だから死んじゃったら……」

 

 

姐さんの思いにザラと菅野は頷き、鍵を受けとる。

 

 

「分かったわ。必ず助けるって約束するわ。」

 

「乗り掛かった船だ!いけすかねぇヤロウだが俺も協力するぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、コトブキの迎撃に上がったトリヘイとヒデアキは大混戦の中、キリエの隼の背後にトリヘイの隼が取りついた。

 

 

「人事部長!背中の守りは任せるぜ!」

 

「お任せくださいませませ。」

 

 

トリヘイの背後の護衛に就いたヒデアキは、彗星の機関砲の照準をトリヘイの隼に合わせると不適な笑みを浮かべる。

 

 

「ふひぃ~!」

 

 

照準を合わせて機関砲の引き金を引いて発射させるが、狙いが僅かにズレていたため、主翼に2・3個所穴を開けるだけに留まった。

 

 

「あら失敗。」

 

「おいテメェ!」

 

「申し訳ありません。一身上の都合により、私は本日付で忌々しい弊社を退職する事になりましたぁ~」

 

「クソォ!とち狂いやがって!おいテメェら、人事部長を!」

 

 

 

遂に本性を現したヒデアキにトリヘイは他の社員にヒデアキを撃墜するよう命じるが、命じられた社員はトリヘイに向かって撃ってきた。

 

 

「人事部と営業部は私に賛同してくれてます。皆で話し合った結果、退職金代わりに人数分の隼と彗星と雷電を頂く事にしました。」

 

 

いつの間にか営業部も味方に巻き込んだヒデアキにトリヘイは遂に怒りを表す。

 

 

「この野郎!!」

 

 

トリヘイはそう叫び空中戦に突入するが、数が多く、人事部の隼がトリヘイの背後から銃撃するが、直後味方の隼が割って入り撃墜する。

 

 

「社長!ご無事でっ!?」

 

「誰か社長の援護を!何があったんです?」

 

「人事部長が裏切りやがった!営業部の連中もだ!俺はもうダメだ!着陸するから後は頼む!」

 

「「「了解」」」

 

 

 

破損したトリヘイの隼を着陸させまいと、ヒデアキの彗星が速度を上げて折ってくる。

 

 

「行かせませんよぉ!!」

 

 

 

一部始終を見ていたコトブキの面々は混乱する。

 

 

 

「何これ?同士討ち?」

 

「仲間割れ。」

 

 

その時、レオナが下の滑走路から上がってくる2機の戦闘機を発見した。

 

 

「ザラ、カンノか!」

 

『遅くなってごめんなさい。私達は無事よ!』

 

『俺も無事だバカヤロウ!』

 

 

 

姐さんから託された鍵でザラが操る雷電と菅野が操る隼がコトブキと合流する。

 

 

「で、状況は?」

 

『もう目茶苦茶だよ!私らどっちに就けばいいの?それともどっちも撃ち落とす?』

 

 

キリエの言葉にザラは託された鍵を握りしめる。

 

 

「約束したの……必ず助けるって。」

 

「あぁ……約束は守らねぇとな。」

 

「だから今だけは!」

 

 

ザラと雷電と菅野の隼が一気に加速を掛けて、目の前でトリヘイの隼を落とそうとしていたヒデアキの彗星と人事部の隼2機の間に割って入る。

 

 

「私は彗星を!カンノはそっちの隼を!!」

 

「おぅ!我、菅野一番!!突撃ス!突撃ス!」

 

 

菅野の隼はヒデアキ彗星を追い掛けようとしていた人事部と営業部の隼3機に狙いをつけて、銃撃する。

隼の機首に装備されている12・7㎜機関銃が火を吹き、1機を撃墜し、逃げようとしていたもう2機の隼の後を追いかけながら点射で銃撃を加えていく。

 

 

「堕ちやがれバカヤロウ!コノヤロウ!」

 

 

必死に2機の背後に食いつき、2機目の右主翼に命中弾を与え撃ち落とす。

最後の1機も必死に菅野から離れようと、谷間を縫って振りきろうとするが、最終的に目の前に現れた行き止まりの崖に突っこみ自滅した。

 

 

「おいザラ!大丈夫かコノヤロウ!」

 

 

菅野はすかさず無線を使ってザラに呼び掛ける。

 

 

『大丈夫よ。でも逃げられちゃった。』

 

 

どうやらギリギリまで追い詰めたものの、行き止まりに差し掛かった所で急上昇されて振り切られしまったらしい。

 

 

「今回は雷電の奪還が目的だ。深追いはするなザラ。」

 

「えぇ。」

 

「それにしても無事で良かった。ザラ、カンノ。」

 

 

レオナの言葉にザラ、菅野、キリエ達は安堵の表情を浮かべ、帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ロータの町でコトブキに生き残ったトリヘイらエリート興業の面々は雷電を返還する。

あれだけ雷電を欲していたエリート側が雷電を簡単に諦めたのは、ヒデアキにそそのかされただけで、扱いづらい雷電を持っていても仕方ないと言う事であった。

 

 

「色々すまなかったな。雷電は俺達にはちと似合わねぇし、返すよ。」

 

「じゃあこれで手打ちだ。」

 

 

二人は互いに握手を交わす。

 

 

「これに懲りて二度と悪さするんじゃないぞ!!」

 

「あぁ……でも分かっちゃいるんだがな……俺達にはこれぐらいしか生きる術を知らねぇからな…」

 

「だったら、俺らみたいに用心棒稼業に転職すれば良いじゃねぇか。テメェらイケスかねぇが腕は確かだし、それだけの実力があれば雇ってくれる場所くらいあるだろ?」

 

 

菅野の提案にトリヘイ達の表情が明るくなる。

 

 

「そうか……用心棒稼業て手があったな!」

 

「社長!俺らにはピッタリです!!」

 

「折角戦闘機があるんだから、今後はそれで行きましょう!」

 

「………よし!今日から我が社は『エリート興業』から『エリート飛行隊』に改名だ!業績を延ばせば社員も機体も増えて、用心棒稼業の他にもいろんな事業を展開できる!!そうすれば絵の知名度も売り上げも上がるぞを!」

 

 

トリヘイの言葉に社員も嬉しそうな言葉を上げて盛り上がる。

 

 

「あ、そう言えばこれ、返そうと思ったんだけど私が貰ってもいい?」

 

「うれしい!」

 

 

 

ザラが浮世絵を取り出し、姐さんは笑顔で承諾した。

 

 

「そういやぁ忘れる所だった。そこの姉ちゃんはザラ、そこの男はカンノって言ったか?俺が居ない間に話し相手になってくれた上に、ヒデアキの手下から守ってくれたそうじゃねぇか。俺からもお礼を言わせてくれ。」

 

 

トリヘイが菅野とザラに礼を言い頭を下げる。

 

 

「いいのよ。私、この子の絵の才能とそれに向き合う熱意に惚れたのよ。」

 

「俺も絵は好きだからな。もっと頑張って良い浮世絵書けよ。」

 

「ありがとう。私頑張る!」

 

 

 

その後、コトブキは名残惜しつつもエリート興業と、作戦に協力してくれた出張酒場、ロータの空の駅の老人に別れを告げてラハマへと去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第13話

エリート興業と一閃着を終えた羽衣丸は数日後、アレシマの町へと訪れていた。

コトブキの面々が町に飛行申請の書類提出に市役所へと出向いていく中、菅野は別の用事でコトブキとは別行動を取る。

 

 

「おぉカンノ。待たせたな。」

 

 

格納庫で出掛ける準備を終えていたナツオが菅野を待っていた。

 

 

「で、ナツオ。大事な用ってなんだよ?」

 

「まぁ着いてきてくれや。そしたら分かるからよ。」

 

 

促されるままにナツオについていく菅野の目の前に現れたのは、ガドールの空港の一角にある格納庫だった。

 

 

「格納庫じゃねぇか。」

 

「あぁ…実はカンノを呼んだ理由がこの中にあるんだよ。」

 

 

格納庫の中と言う言葉に菅野は直ぐに、見当がついた。

 

 

「おい、まさか……」

 

「その通り。」

 

 

ナツオが格納庫の扉を開けると、薄暗い格納庫内にポツンと置かれた見慣れた紫電改の姿があった。

 

 

 

「確かコイツ、ラハマで修理してたんじゃ無かったか?」

 

「あぁ。ラハマで修理に必要なパーツ揃えていざ修理に取り掛かろうとしたら、ユーリア議員の送迎やエリート興業の件があって後回しになってたんだが、この数日間、ここの格納庫貸し切って修理に没頭してたんだよ。そして昨日の深夜にようやく終わったんだ。」

 

 

ふとナツオの顔を見ると、目元に隈が出来ており、格納庫内には数日徹夜した整備員達が地面に布を敷いて雑魚寝していた。

 

 

「骨が折れたぜ。機体から外板全部引っ剥がしてフレームだけになるまでバラしてから、使える部品を修理したり、使えない部品を別のパーツで補ったり、フレームの補強、キャノピーとプロペラとエンジンを新品のものと交換してからまた1から組み立てて、外板への沈頭鋲の打ち直ししてたら今まで掛かっちまった。修理っつうか……殆どレストアに近いけどな。」

 

 

機銃攻撃でヒビが入っていたキャノピー前面の防弾ガラスも、墜落の衝撃でへし折れていたプロペラも、穴だらけだった外板も全て直されており、劣化で色褪せていた暗緑色と明灰色のツートンと日章旗も綺麗に塗り直されている。

 

まるで工場から出てきたばかりの新品同様の姿に甦った『紫電改 343-A1』号機に、菅野は喜びを隠せない様子で、機体によじ登りキャノピーをスライドさせる。

そのまま体をコックピットに潜り込ませ、椅子に腰を掛けて両足の間にある操縦桿とサイドコンソールのスロットルレバーを握る。

 

 

「間違いねぇ………これは俺の紫電改だ。」

 

 

久し振りの紫電改に乗り込んだ感覚に僅かな懐かしさを感じる菅野の心を読んだのか、ナツオが提案を出した。

 

 

「カンノ。取り合えずその紫電改は修理したが、まだテストしてねぇんだ。ちょっくら飛ばしてくれねぇか?」

 

「良いのか?ここで飛ばすには許可が要るんだろ?」

 

「その辺は心配するな。ちゃんと昨日のうちに申請はしといたから、思いっきり飛ばしてこい!」

 

「おぅ!」

 

 

ナツオは懐からクランク棒を取りだし、エンジンカウリング下にあるエナーシャーに差しこみゆっくりと回し始める。

コックピットでも菅野がエナーシャーとプロペラ軸を接続させるためのレバーを引きプロペラを回転させ、計器板のエンジン回転数を表示するメーターを確認しエンジンスイッチを押し込むと、勢いよく誉エンジンが始動する。

 

 

「よし!行くぜ!」

 

 

車輪止めが外され、機体はそのまま格納庫から滑走路へと移動し、離陸位置に就くとそのままエンジンの出力が上がり紫電改は数百メートル滑走した後に上昇し飛び上がった。

 

 

 

「スゲェぞ!前よりも全然いいぜ!」

 

 

大戦末期で資源や人材不足による劣悪な整備で思うように性能が出せなかった時とは違い、資材や人材不足に悩まされずに整備され、安定した性能を持つ燃料を積んだ紫電改はその持てる性能を遺憾なく発揮し、急旋回、急上昇、零戦よりも頑丈な機体構造による急降下性能、整備不足で故障が多かった自動空戦フラップも問題なく機能し、菅野の持つ技量にも充分応えられている。

 

 

 

それから、数十分の飛行を終えて帰ってきた菅野の基に、羽衣丸からサネアツが走ってきた。

 

 

「お~い!カンノ!」

 

「サネアツじゃねぇか。どうしたんだ?」

 

「ルゥルゥからオーシャン・サンフィッシュ・ホテルに集合せよって伝言だって。」

 

「何で?」

 

「なんでもあのユーリア議員がまたコトブキに依頼があるんだって。」

 

「あぁ……あの性悪女か。」

 

「カンノ……それユーリア議員の前では言わないでよ。言ったらコトブキどころか商会が只じゃ済まなくなるから。」

 

 

サネアツに念を押されつつ、迎えの車に乗り込んだ菅野はイケスカのホテルへと向かう。

 

 

 

 

 

 

「随分遅かったじゃない?ユーハングの暴力パイロットさん。」

 

 

ホテルに到着するなり、そんな言葉を投げ掛けてくるユーリアに菅野は怒りを隠しつつ、先に集まっていたコトブキ面々と共にユーリアからの依頼内容についての説明に聞き入る。

 

 

「明後日ここでクソみたいな会談があるから、警備責任者に話を聞いておいてちょうだい。航空警備のために。」

 

「会談と言うのは誰と、どんな会談をするのですか?それが分からないうちは容易く承諾は…」

 

「会談の相手はブユウ商事トップのイサオ。イケスカの次期町長候補と言われている。」

 

 

イサオと言う名前に心当たりがあるのか、レオナは少し驚いたような表情となるが、他のメンバーはキョトンと言った表情になる。

 

 

「空賊による治安悪化やエネルギー問題を大会社の資本と人脈を使って解決しようと謳っている善意のヒーロー、カリスマだけど私は嫌い。政治を理想を叶えるための道具として使おうとしている。妙な運と財力だけで世界を渡ってる世界で一番ズル賢いタイプ。受けると思っている手品が最いっ高に嫌い。あのカス男が政治にごちゃごちゃ口挟んでくるんでこっちは大迷惑!この会談だって最悪!本当はクソ食らえって言いたい所だけど、逃げたと思われるは嫌だから受けただけ!そもそも、アイツが提唱するような国家統一連合だって………」

 

 

途中からイサオに対する文句に切り替わったユーリアの話に嫌気が指してくる頃に、ようやく本題に切り替わる。

 

 

「明後日の会談でイサオの首根っこを押さえておく、そのためには、議会とブユウ商事との接触を快く思わない空賊奴ら……本当に空賊かどうか分かったもんじゃないけど、それに備える必要がある訳。」

 

「アレシマから警備隊は出ないんですの?」

 

 

エンマの問いにユーリアは顔を渋くする。

 

 

「出るけど、イサオ派のイケスカに借りを作りたくないの。」

 

「それで警備を私たちに?」

 

「やっと分かってくれた?」

 

「ですがマダムが同行していないので、決定権は私達にではなく副船長にあります。」

 

「あんな昼行灯どうだっていいわよ。」

 

 

 

と、そこへ………

 

 

「ぼっくは昼行灯、勿論日中でもささやかな貴女を照らし続けていたい。」

 

 

花束を手にした風変わりな性格の青年がやって来た。男は回りを捲し立てるように一方的に話を広げ、様々な手品を披露する。

 

 

 

「いつ見ても呆れるくらいの三問芝居ですね。イサオ氏。」

 

 

ユーリアの言葉に皆が一斉に反応する。

 

 

「その様子じゃイサオ氏の事を知ってるようね。じゃあ話は早いから紹介するけど、こちらは今回の警備を担当するコトブキ飛行隊のレオナ隊長と、ユーハングのパイロットのカンノ・ナオシよ。」

 

「これはこれは隊長さん疲れちゃん!これプレゼンチョ。」

 

 

イサオは懐からチューインガムを取りだし、レオナはそれを受け取ろうとしたとき、中からバネが出てきてレオナの親指を挟み込む。

 

 

「引っ掛かった引っ掛かった!あ、ゴメン痛かった?そんなでも無い筈なんだけどなぁ。」

 

 

そう言ってイサオは自分でも試してみる。

 

 

「いったぁ~……なんちゃって!」

 

 

 

マイペースなイサオの性格にユーリアは頭を抱え、コトブキは唖然とする。

そこへイサオは辺りを見回す。

 

 

「そう言えばさっき聞いたユーハングのパイロットって誰かなぁ?」

 

「俺だよバカヤロウ。」

 

「やぁやぁ君が噂のユーハングのパイロットかい?まさか生きてて二人目のユーハングの人間に合えるなんて僕はなんて運が良いんだろう?」

 

「二人目?……一人目は誰なんだ?」

 

「えぇとねぇ……随分前の事だから忘れちゃったぁ!この年になると物忘れが激しくて困るんだよねぇ!」

 

 

 

有益な情報が得られると思っていた矢先に菅野は少し残念そうにうつ向く。

 

 

「イサオ様、そろそろご自宅に戻りませんと。」

 

「そうだったそうだった!じゃあ明日の警備頑張ってチョ。じゃあサイナラ~またね~アディオス~。」

 

 

連れの執事を伴って嵐のように過ぎ去っていくイサオに、皆はどっと疲れが出てしまった。

 

 

 

 

 

 

続く




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第14話

取り合えず打ち合わせを終えたコトブキの面々は、一度羽衣丸へと戻り、明日に備えて各々の部で休息を取る事となった。

だが、イサオと会ってから妙にレオナの様子が可笑しい事に気がついたキリエ達は、食堂でリリコに相談してみた。

 

 

「それって恋じゃないの?そのイサオって人に会ってから、態度変わったんでしょ?」

 

「えぇ……恋。」

 

「信じらんねぇ………」

 

 

普段から厳しいイメージしか持っていないキリエと、菅野は唖然となる。

 

 

「言ってくれればいいのに!」

 

「ケイトには理解し難い感情であるが、子を残すと言う見地から必要な事であることは合意する。」

 

「そうなれば応援してあげたいものの、レオナ程の人が、と言うのが最大の疑問ですわね。」

 

 

「聞いてみれば良いんじゃない?」

 

 

 

 

 

リリコの提案通り、キリエらはレオナと付き合いの長いザラに直接問いただす。

 

 

「う~ん…良く分からないわ。」

 

「なんだぁ…」

 

「でも嫌いな事なら知ってるかも。」

 

「何?何?教えて!?」

 

「借金が嫌い。」

 

「誰だって嫌いですわ。」

 

 

 

 

結局、有力な情報は得られぬまま、時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

そして、翌朝。

 

ユーリアからの依頼で、イケスカの警備をする事になったコトブキ飛行隊は、空港の格納庫で最終チェックを行っていた。

 

 

「ほぇ~………カンノの紫電改、直ったんだ。」

 

「あの損傷から、ここまで修復するとは。」

 

「あんなにボロボロでしたのに。」

 

 

格納庫に運び込まれた菅野の紫電改を見て、キリエ達は驚く。

ついこの前まで、あちこちボロボロだった紫電改が見違える程綺麗に修理され、零戦とは違う紫電改特有の堂々とした姿を保っていた。

 

 

「良かったじゃんカンノ!」

 

「おぅ!!これでようやく暴れられるぜ!!」

 

 

菅野も何時もとは違う程の高いテンションで応える。

 

 

 

 

と、そこへ二人組の男が格納庫にやって来る。

 

 

「ん?あれは羽衣丸のコトブキか?」

 

「本当だ…っておい!!あれ紫電改じゃねぇか!?」

 

 

男の声に気がついたキリエが、二人を見て何かを思い出したかのように駆け寄る。

 

 

「あぁ!!誰だっけ?何て言ったっけ?」

 

「ナサリン飛行隊のアドルフォ山田だ!」

 

「忘れてると思うが、俺はフェルナンド内海だ。」

 

「そうそう!ナサリンのアドルフォとフェルナンドだった!!て言うか、他のメンバーどうしたの?」

 

 

キリエの質問に二人の顔が暗くなる。

 

 

「あぁ……まぁ色々あってな。今は俺とフェルナンドの二人だけなんだ。」

 

「他の部隊に間借りさせてもらってるけどな。で、コトブキは知らない間にデカイ仕事して羽振りが良いみたいだな?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「だって、お前らの所に紫電改があるじゃねぇか。」

 

 

アドルフォが菅野の紫電改を指差す。

ナサリン飛行隊が使っている紫電11型は紫電改の基になっている機体であるが、色々欠点が多いため、ナサリンのような規模の小さい飛行隊やフリーランスの間では紫電改どころか、零戦より安値で取引されているのである。

 

 

「あれはウチに新しく入った、カンノの紫電改だよ。カンノぉ!」

 

「あぁ!?」

 

 

呼ばれた菅野はがに股歩きで近寄ってくる。

 

 

「何だバカヤロウ?」

 

「ナサリンのお二人がカンノに何か用があるんだって。」

 

「俺にか?…で、俺に何か用か?」

 

 

菅野が二人に目を合わせる。

 

 

 

「いや、隼が主戦力のコトブキに紫電改が交じってるのが気になってな。俺らは紫電に乗ってるから、ちょっと興味があって。」

 

「お前ら紫電に載ってるのか?」

 

「あぁ……」

 

 

アドルフォが格納庫の奥に止めてある紫電に目を向ける。

 

 

「紫電は色々癖が強い機体だから、紫電改見てると感慨深いものがあるんだ。」

 

「何で紫電改に乗り換えねぇんだよ?」

 

「紫電改なんて、俺らみたいな貧乏飛行隊には手が届かないのさ。紫電改は紫電の倍の値段するからな。」

 

「下は見えない、空戦フラップの信頼性が低い、壊れやすい脚、誰も乗りたがらねぇからな。でも、紫電を知らないヤツには分からねぇだろうが、コイツは一度ツボに嵌まると中々良い機体なんだぜ。なんてったって武装が強力だし、防弾性能が高い上に、急降下性能が零戦より優れてる。」

 

「そう、俺達は紫電一択だ。」

 

 

 

二人は紫電に対して、特別な感情を抱いている。それは同じ紫電改乗りの菅野にも大いに分かる話だ。

 

 

「まぁ同じ紫電乗りとして、今日は宜しくなカンノ!」

 

「俺からもよろしく頼む。」

 

「おぅ!よろしくなバカヤロウ!」

 

 

 

三人は固い握手を交わす。

 

 

「カンノー!行くよ!」

 

「おぅ!」

 

 

菅野は羽衣丸へと戻っていく。

 

 

 

 

 

それから一時間後。

イサオとユーリアによる会談がラジオを通じての生放送が開始された。

羽衣丸の艦橋でも、サネアツやルゥルゥ、コトブキ達がラジオに齧りつくかのように放送を聞いている。

 

 

『成る程成る程。ユーリアさんは自由意思を優先させたいんだね?』

 

『何か含みのある言い方ね。』

 

『自由って結局不自由だし。何でもやっていいよって言われると何も出来ないし、制限も責任も付いてくるし、そう言うことをちゃんとやれる人って案外少ないんだよね。結局、やりたい事ばっかり言い出して、収集つかない~って感じ?謂わば、バーベキューで好きな物を焼きすぎて全部焦げ焦げ~みたいな感じかな?』

 

『それらを順番に焼くとして、その決まりを作るのは誰?ルールや権利を悪用しようとする人だって出てくるのよ。』

 

「そうだそうだ!!ルール反対!!」

 

 

ユーリアの言葉にキリエが同意する。

 

 

「貴女、案外ユーリア議員と気が合うのかも。」

 

「うぇ~……それは勘弁。」

 

 

 

 

 

その直後、空賊の襲撃を知らせる警報が鳴り響く。

空港では直ちにスクランブルが掛けられる。

 

 

 

『敵機影は北西方向より6機確認した。評議会飛行隊、並びにアレシマ警備隊は迎撃に向かう。』

 

 

管制塔からの無線指示に、アレシマ警備隊と共に飛び上がったナサリン飛行隊のフェルナンドが疑問を持った。

 

 

「俺達、ナサリン飛行隊はどうなるんだ?」

 

『南東方面を哨戒せよ。』

 

「これだからお役所の人は嫌いなんだよ。身内だけで纏まりやがって。」

 

 

アドルフォが愚痴をこぼすが、二人だけのナサリンに出来る事は限られる。

 

 

「敵はたった6機。相討ちをするのは不味いと思ったんだろ?………アドルフォ、2時方向を見ろ。」

 

「ん?うぉぉ!!」

 

 

ふと上を見ると、多数の零戦52型と爆撃機飛龍が編隊を組んで、アレシマに向かってくるのが見えた。

 

 

 

「こっちが本命かっ!」

 

 

 

ナサリンと空賊は早速空中戦に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

ナサリンからの報告を受けた、コトブキ飛行隊もアレシマの滑走路から次々と飛び立っていく。

 

 

「囮にまんまと引っ掛かった訳か?」

 

『それともう一つ悪い話していい?』

 

「何かしら?」

 

『敵の情報だけど、零戦52型が20機と爆撃機飛龍が2機。』

 

 

 

どちらもコトブキ飛行隊の隼より高性能な機体ばかりであり、数や性能では圧倒的に不利である。

 

 

「へっ!爆撃機と戦闘機がなんぼのもんじゃい!!そんなの343空にとっちゃ日常茶飯事さ!!撃って撃ち落とせば良いんだろバカヤロウ!!」

 

 

菅野は相変わらず興奮した様子で、勢い良く応える。

 

 

『まぁカンノの意気込みは分かるけど、無理しないでね。兎に角、アレシマ警備隊が到着するまで足止めだけでも出来るかな……』

 

「足止めぇ!?」

 

『ごめん!』

 

「足止めじゃなくて、全機撃墜だぁ!!」

 

「その調子だチカぁ!!全機撃墜!必勝だバカヤロウ!!」

 

「零戦がなんぼのもんじゃい!!飛龍がなんぼのもんじゃい!」

 

 

 

チカも菅野と付き合っていくうちに影響されたのか、敵を全て撃ち落とすつもりで意気込む。

 

 

 

「チカあんなだっけ?意気込みの良さは前からだけど、なんか悪化してない?」

 

「カンノさんの影響ですわね……」

 

「人は時として他人の感情に流される傾向がある。今のチカはそれ。」

 

「酷い!私カンノ程無鉄砲じゃないよ!!」

 

「チカ、テメェ!ウルセェぞバカヤロウ!」

 

 

 

そんな事を言いつつ、コトブキはナサリンの援護に向かった。

 

 

 

 

 

 

続く



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第15話

投稿が二ヶ月遅れてしまいました。


それでは久しぶりの、荒野のコトブキ飛行隊 漂流の翼をどうぞ!!


空賊の本隊と接触してしまったナサリン飛行隊は、敵の零戦52型20機を前に、悪戦苦闘を繰り広げていた。

 

 

「クソつ!これじゃ多勢に無勢だっ!」

 

 

低高度での格闘戦能力に優れる零戦と、信頼性に劣る自動空戦フラップに強力なエンジンによるパワーで速度は速いが旋回性が劣る紫電11型とでは相性が悪く、多数の零戦に囲まれているせいで紫電の高高度性能が生かせない現状ではナサリンは圧倒的に不利となっている。

 

 

「コトブキとカンノが来てくれればっ!」

 

「いや!コトブキとカンノの紫電改が加わったとしても、この数だぜ!」

 

「ここでくたばる訳にはいかない!ナサリン飛行隊復活のために!」

 

「復活のために、何処まで生き延びられるっ!?」

 

 

二人は兎に角、援軍が到着するまで必死に持ちこたえようと紫電の利点である速度と強力な火力を生かして、集団で迫ってくる零戦に向けて4門の20㎜機関砲を撃ち込み、2機の零戦を撃墜し急降下で回避する。

 

 

 

「やベェ!弾切れだ!」

 

「こっちもだ!」

 

 

流石に紫電といえど、数で勝る敵の前では火力も弾薬も足りなかった。紫電は早々に弾切れとなり、攻撃手段を失ってしまった。

 

 

 

「俺は逃げるぜ。命あっての物種……」

 

 

アドルフォの言葉を遮るように、後方から零戦が銃撃を仕掛けてくる。追い掛けてきた零戦はアドルフォの紫電の背後に付く。

 

 

「ヤバイだろこれ………」

 

 

 

零戦がアドルフォ機を撃ち落とそうとした時、突然、上方から降ってきた曳光弾が零戦を撃ち抜き、一瞬で火を吹き空中分解しながら墜落していく。

 

 

「なんだ?」

 

 

ふと上を向くと、見覚えのある戦闘機のシルエットが見える。

 

 

「紫電………いや、紫電改かっ!?」

 

 

真正面から見ても分かる、太い胴体に低翼配置のシルエットは紫電乗りのアドルフォとフェルナンドはその正体に気がつく。

 

 

『ガハハハハハッ!!我、菅野一番っ!!』

 

 

無線機からは聞き覚えのある野太い男の声が響くと同時に、紫電改はアドルフォ機の真横をすり抜けていく。

 

 

「ありゃカンノかっ!?」

 

「いや、カンノだけじゃない!コトブキも来たみたいだ!」

 

 

遅れてコトブキ飛行隊も到着し、その中の一機の隼が菅野を追い掛けるように飛び去っていき、遥か前方にいた零戦に向かって銃撃を浴びせていく。

 

 

 

「大丈夫~?結構大きな穴が空いてるわよ。」

 

 

アドルフォの真横にザラの隼が寄ってくる。

 

 

「お前ら!俺たちに苦労させといて、良いところ持って行きやがって!」

 

「ご明察ですわ。空港までは御一緒できませんけど、ご無事で。」

 

「当たり前だっ!」

 

 

エンマの言葉に若干苛立った言葉を掛けるアドルフォだが、内心は援軍が来てくれた事にホッとしている。

 

 

「それにしてもカンノの奴、凄い腕だな……」

 

 

フェルナンドは冷静に、菅野が操縦する紫電改の動きを見て感嘆する。零戦相手に自動空戦フラップと、経験を生かして紫電改の特徴である、一撃離脱戦法を駆使し、次々と敵の零戦を撃ち落としていく。

 

 

「零戦と比べて旋回性に劣る紫電改で、互角以上の戦いぶりだ。敬意に値するぞあれは。」

 

「チキショ~……俺たちだって紫電改に乗り換えたらあれくらいできらぁ!」

 

 

アドルフォは悔しそうな声を出す。

フェルナンドは、零戦が必死に守っている大型機に視線を向ける。

 

 

 

「敵が使っているあの大型機は……」

 

「四式重爆と推測。」

 

「大きい割りに小回りが効く厄介な奴だ。油断するなよ。」

 

 

そうアドバイスをすると、二人はコトブキの後方に下がると、そこへ、1機の隼が遅れてやってくる。

 

 

「キリエ遅いわよ!ちゃんと編隊組んで!」

 

「ごめ~ん!」

 

 

キリエの声を聞いたアドルフォは驚く。

 

 

「えぇっ!?今さっき、カンノの紫電改と一緒に突っ込んで行ったのがパンケーキのお嬢ちゃんとばっかり……」

 

「連携を欠いた味方は、敵より敵になる。それを知らないコトブキじゃあるまい?」

 

 

既に燃料切れ寸前となっていたナサリンの二人はコトブキに後を任せてその場を後にアレシマへと戻っていく。

 

 

 

 

一方で、菅野の紫電改とレオナの隼の2機は、空賊の零戦相手に猛威を奮っていた。

 

 

 

「落ちやがれコノヤロウ!」

 

「……………」

 

 

興奮している様子の菅野とは対照的に、レオナはただ黙って隼を操縦に専念している。

 

 

 

『クソ!何なんだアイツらはっ!?』

 

『聞いてねぇぞ!アレシマにあんな凄腕が居るなんてっ!』

 

 

空賊の間でも、菅野のレオナの並外れた戦闘能力に動揺が広がる。

だが数ではまだコトブキを上回っているため空賊達は集団で挑みに掛かるが、紫電改の火力と隼の軽快性、コトブキ飛行隊の連携にただ翻弄されていくだけであった。

 

 

 

だが不自然な事に、レオナは何時ものチームプレイを無視した、独断でのスタンドプレイに走っている事に、キリエがレオナに問いかける。

 

 

 

 

「ダメじゃんレオナ!何時もはやるなって言ってる事ばっかりやってる!」

 

「結果として、落としてはいますけど………」

 

「変だよ!だってレオナはどっちかって言うと、普通の教科書のような戦い方なのに!」

 

「それは彼女が隊長だからよ……こっちが彼女の本性なの。」

 

 

そこへレオナと付き合いが長いザラが説明する。

 

 

「敵が見えたら撃ち落とす事しか考えない。だから"一心不乱のレオナ"………久しぶりに見たわ。」

 

 

コトブキの隊長であるレオナは立場上、仲間の前では連携プレイに徹しているが、レオナも一人の人間であり、何かの切っ掛けが引き金となれば普段は見せない本性なを剥き出しにして本能的に動いてしまう。

それはキリエもよく理解しているが、普段の隊長としてのレオナのイメージが強いキリエは違和感を拭いきれないでいた。

 

 

 

「6時方向から敵。」

 

 

四式重爆の護衛に就いていた零戦も仲間に入り、コトブキと空賊の間で激しい空中戦に突入した。

レオナは護衛の零戦が居なくなった隙を狙って、四式重爆に接近を仕掛ける。

 

 

「四式重爆には胴体側面にも機関砲がある。すなわち………危険っ!」

 

 

ケイトの解説と同時に、四式重爆の乗員の一人が右側面に装備された12・7㎜機関銃の銃口をレオナに向けた。

 

 

「!?」

 

 

銃撃が始りレオナが避けようとした瞬間に、ケイト機がレオナを庇おうとしたその時………

 

 

『コノヤロォォォォ!!!』

 

 

菅野の紫電改が四式重爆のほぼ真上から信じられない速度で急降下を仕掛け、四式重爆のほぼ20メートル手前で4門の20㎜機関砲を浴びると、四式重爆の胴体と主翼を間をすり抜けて離脱していく。

銃撃を浴びた四式重爆は至る所から火を吹いて燃え上がり、地上へとまっ逆さまに堕ちていった。

 

 

「墜ちたか………」

 

 

菅野がもう少し来るのが遅れていたら、ケイトは危うく撃ち落とされる所であり、キリエと菅野がレオナに怒鳴り付ける。

 

 

 

「レオナぁ!このバカヤロウ!!てメェが怪我するのは勝手だが、戦友まで怪我させる気かコノヤロウ!!」

 

「そうだよ!無茶やるなら、無茶やるって言ってよっ!!付いていくからさ!」

 

「カンノ……キリエ………」

 

 

 

二人の声に冷静さを取り戻したレオナは、弱々しい声で謝罪を述べる。

 

 

「すまないキリエ…カンノ……それにケイト。」

 

「謝るなら皆にさ!」

 

「それよりどうするの?まだ敵は残ってるわよ。」

 

 

まだ空賊側には四式重爆1機と多数の零戦が残っている。

 

 

(やはり話しておくべきか……)

 

 

レオナは今後の事を考えて、皆に心配を掛けないように、今回のスタンドプレイをやってしまった理由について話した。

 

 

「皆、少し聞いてくれ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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