真壁瑞希のお兄さん (黒村白夜)
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瑞希のお兄さん
アイマスの二次創作小説は初めてです。
「お兄さん設定とか無理ー!」などという方はブラウザバック推奨です。
時系列は、ミリシタにてプロデューサーからアイドルにスカウトされるシーン(エピソードコミュ1の前半)の後、家に帰ってからのお話となります。
よろしければ読んでいってください
「
お腹も空き始める夕暮れ時。今日は偶然にも普段忙しい弁護士の父も集まり、家族全員で夕食となった。
夕食を待つ、そんな時に妹である
「本当に突然だな⋯⋯。何だ、学校のことか?」
「学校といえば学校のことなのですが⋯⋯⋯⋯実はアイドルにスカウトされました」
「えっ!?」
思わず声をあげてしまうほどの衝撃だった。たまに来る
「⋯⋯本当みたいだな」
「はい。この前の文化祭の来場したお客様の中に、アイドルのプロデューサーさんがいました。そこでスカウトされたのです」
「へえ。でもそうかー、瑞希がアイドルに、か」
思えば俺の妹、真壁瑞希は可愛い。自身の妹という贔屓目で見ても可愛いルックスだ。さらに妹は俺と違って中々の才女である。
才色兼備。その言葉が似合う、自慢の妹。
そんな妹がアイドルになると思うと、小さい頃から見てきた俺としては感慨深いものだ。
「…………」
「うん、どうした?顔を背けて」
「こっちから脅かしたら、倍になって返ってきたぞ。……ドキドキ」
「あ、声にでていたか?」
「はい。小さい声ですが聞こえてました。……まだドキドキしているぞ」
「すまんすまん。で?瑞希の気持ちとしてはどうなんだ?」
そう尋ねると、目の前の瑞希は顔を俯かせてしまった。
「⋯⋯正直に言えば、なりたいです。TVの中のアイドル達はみんなキラキラしていて、憧れます」
「じゃあなってみればいいじゃないのか?瑞希は可愛いし、何より真面目だ。アイドルのレッスンとかもしっかりやれると思うぞ」
子供のころ、2人で見たTVの内容を思い出す。内身は今でもよくある、最近売れたアイドルやら歌手の紹介や歌を披露してもらう番組だ。その番組を見ていた時、瑞希はいつも通りの顔つきで、けれども目はランランと輝いていた。
きっとその時から、心の中のどこかで「なってみたいな」というつぼみがあったのだろう。
そのつぼみが開こうとしているのだ。兄としてはつぼみを咲かせてやりたいと思うのが当然だ。
だが、当の本人は俯いたまま動かない。微動だにしなかった。
「瑞希?」
心配になって声をかけるが反応がない。少し不安になってきたので、もう少し大きな声で呼びかけようとしたときだった。
「⋯⋯⋯胸が⋯⋯⋯」
「む、むね?」
「あと3年待てば、母のようなナイスバディーになれるはず。⋯⋯将来にかけるぞ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
特に大事ではなかったので安心したが、兄としては少々入りずらい悩みだった。
つまり瑞希としては、あと3年待ってナイスバディーになってからアイドルになりたいようである。
確かに瑞希は少々足りなく、母はナイスバディ-だ。遺伝的に考えれば、瑞希の将来性は確かにあるだろう。
だが、それでは恐らく駄目だろう。相手方が3年も待ってくれるかどうか分からない。そもそもあくまでスカウトなのだから、アイドルにならないと分かったらそのプロデューサーはまた別の子を探すのだろう。つまり瑞希がアイドルとしてデビューするタイミングは、今を逃せばもしかしたら一生来ないかもしれないのだ。
瑞希というつぼみをしおれさせないために、今瑞希の背中を押すしかない。
胸に関して触れないように慎重に言葉を考えて、俺なりの考えを伝えていく。
「瑞希、俺は”今”の瑞希が大好きだよ」
「⋯⋯⋯」
「将来の瑞希でも過去の瑞希でもない、”今”を生きる瑞希が大好きだ。その瑞希がアイドルとして輝く姿を、俺は見てみたい」
「⋯⋯⋯」
「だから俺は”今”からアイドルの真壁瑞希を応援するよ」
「⋯⋯⋯」
「って自分で言ってなんだけど少し照れ臭いな⋯⋯。まあ、端的に言うと俺は瑞希がアイドルになるのを応援するよってことだな。両親が反対しても俺は味方でいるよ」
「⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯瑞希?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぷはっ。驚きのあまり呼吸を忘れてました。これで二度目です」
どうやら俺の言葉が予想外過ぎたらしい。呼吸を忘れるほどとは、瑞希らしいといえば瑞希らしいと思うが。
「
「そうか。なら良かった」
「つきましては、どうぞ
「はいはい。じゃあこれな」
そう言って瑞希のカードを引くと、スペードの7だった。俺の持っているカードと同じ数字である。カードを2つ合わせて捨てて、俺のあがりとなった。
「あ。負けてしまいました。なぜでしょうか?学校の皆さんとカードゲームをすると勝てるのに、瑞人兄さんが相手だと、いつも負けてしまいます」
「ふふふ⋯⋯、どうやらアイドルの話をして動揺を誘うつもりだったようだが⋯⋯。甘かったな」
「むー。次こそは、必ず勝ちます。次は————」
瑞希が次のゲームを提案しようとした時、下から「2人とも手伝ってー!」という母の声が聞こえてきた。今日の料理は張り切って作るといっていたから、張り切りすぎて手伝いが必要になったのだろう。
「ゲームはご飯が終わってからだな。そういえば、アイドルの話はしていないのか?」
「はい、まだしていません。夕食が終わってからするつもりです」
「そうか。じゃあ2人を説得する必要があったら俺もカバーに入るから、安心して話をしな」
そう言って2人一緒に部屋から出ようとすると、
「⋯⋯
瑞希の声が聞こえてきた。
恐らくはただの純粋な疑問が漏れ出したのだろう。それくらいか細い、小さな声だった。
わざわざ答えるようなものではなかったが、聞こえたからには答えずにはいられなかった。
「決まっているだろ?俺は瑞希の兄で、瑞希のことが大好きなファン1号だからだよ」
内心恥ずかしいなと思いつつ、2人で階段を下りていく、その途中でまた瑞希がつぶやいた。
「⋯⋯⋯ありがとう、お兄ちゃん」
わずかに聞こえた
いかがだったでしょうか。
楽しんでくだされば幸いです。
最後にこの場所にて、お兄さんのキャラクターの設定を載せていきます。
真壁瑞人(まかべみずと)
妹の瑞希のお兄さん。大学生だが頭の良さは平凡。たまに単位を落としたりもする。
幼いころからよく一緒にいるので、瑞希の考えをある程度理解できる。つまりポーカーフェイスが効かない。本人曰く、顔をよく見ればわかるらしい。
人の考えが読めることに長けているので空気を読める。
対面式のゲームならば大体勝てる。ただし、家庭用ゲーム機の等のゲームは苦手。
といった感じです。
よろしければ、評価等していって下さい。
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瑞希のアイドルデビューその1
こちらは、瑞希がアイドルデビューしてからのお話となります。
また今回は多少のオリジナル設定があったりします。ご注意ください。
少しの時間お付き合い下さい。
太陽がさんさんと照らす快晴の日。瑞人は自転車を走らせ、とある建物へと向かっていた。
「ふう、やっと着いた」
着いたのは海沿いにある、まだ建って間もない新鮮さを感じる建物。近くで見ると圧倒されそうな大きさを誇り、屋根の上には『765 LIVE THEATER』というネオンが設けられている。
此処こそが芸能事務所「765プロダクション」に所属するアイドル達がステージに立つ場所であり、そして俺の妹ー真壁瑞希がアイドルとして今日アイドルデビューする場所である。
「ついに瑞希が此処に立つのか……。楽しみだな⋯⋯」
アイドルになりたい。
その話を瑞希本人から聞いた両親の反応は、意外にも良好なものだった。
「瑞希がやりたいものをやればいい。瑞希の人生は瑞希が決めるべきことだからな」
「瑞希がアイドルにねえ⋯⋯。なんだかお母さん、ウキウキしてきちゃったわ~」
和やかにこれからのことを話す二人に俺たち兄妹は少し面を食らったが、ともかく瑞希がアイドルになることを受け入れてもらえて安心したのだった。
「そのうち瑞希がトップアイドルになって武道館でソロライブとかをやるのか⋯⋯」
「あら、海外進出もあり得るわねえ~」
「なんだか、知らない内にハードルが上がっているぞ。⋯⋯これは頑張らねば。⋯⋯メラメラ」
隣で鼻息を荒くしてやる気マンマンの妹を横目で見ながら、「流石に二人とも気が早すぎるだろ⋯⋯」と思ったが、野暮なツッコミなので心のうちにとどめたのは内緒である。
数分で終了した家族会議から数日後、瑞希は765プロが総力を挙げて行う『39プロジェクト』——そのオーディションへ行き、既にスカウトされていたこともあってか無事合格した。
それからというもの、瑞希は学校の放課後の時間や休日等の時間に宣材写真の撮影やダンスレッスン、歌のレッスンに勤しんでいた。元々学校で生徒会の役員をやっていることもあってそれなりに忙しく、俺も大学の講義があるため会えない日が続いたらが、それでもたまに送られてくるメールで近況を報告しあっていた。
『39プロジェクトの皆さん、とても個性的で素晴らしい人たちです。⋯⋯負けないぞ』
ライバルもできたようで、より一層アイドル活動に励んでいるみたいだ。文面からも楽しいという思いが伝わってきて、こっちも思わず笑みを浮かべずにはいられなかった。
そんな忙しい準備の期間を経てようやく今日、瑞希は『39プロジェクト』の内の一人としてアイドルデビューするのだった。
「おおー、凄い人ざかりだな」
自転車を置き場に止め、中に入っていくとロビーは既に多くの人で賑わっている。それもそのはず、今回の公演では、あの765プロダクションから39人のアイドルが新たにデビューするのだ。楽しみでしょうがないという人が多いはずである。
かくゆう俺も楽しみで仕方がなかったりする。瑞希がデビューするというのもあるが、他の38人がどんなアイドルなのか、少しワクワクしているのだ。
「うん?メールか⋯⋯。瑞希から?」
劇場内を見ながら開始時間まで待っていると、瑞希からのメールが来た。
開始まであと一時間ほどになるのでメールしていて良いのだろうかと思うが、とりあえず内容を見てみる。
『⋯⋯もうすぐ始まると思うと緊張してきました。何か緊張をほぐす方法は知りませんか』
「緊張か⋯⋯。まあ大舞台だからそりゃするか」
瑞希は中学生の時にバトントワリングをやっていて、大会にも出たことがある。生徒会選挙にも出るくらいだから、人前に立つというのはある程度慣れているだろう。
だが、今回はアイドルとして、しかも以前よりも多くの人の前でダンスしたり、歌ったりするのだ。前とは状況も、規模も大きく違う。瑞希が緊張するのは当然のことであろう。
大方、いつも瑞希の相談に乗るから俺にメールしてきたのだろうが、あいにく俺は人前に立つという経験があまりない。つまり、瑞希の緊張をほぐす方法は残念ながら答えれそうにない。
だが妹が兄を頼ってきたのだから、なんとかしてあげたいという気持ちもある。どうすればいいか、悩みに悩んだ挙げ句、なんとか答えはでたのですぐさまメールする。
『そうだな⋯⋯、とりあえずプロデューサーに聞いてみればいいんじゃないか』
『プロデューサーさんに、ですか?』
『ああ、普段から瑞希を見ているプロデューサーなら、瑞希の緊張をほぐす方法も分かるんじゃないかなって。俺はアイドルの舞台とかよく知らないから、下手にアドバイスして余計緊張するかもしれないだろ?だけど、プロデューサーはアイドルとしての瑞希をよく見ている。アイドルでの心配事はプロデューサーに聞くのが一番だと俺は思うな』
『なるほど⋯⋯。これは盲点でした。いつも瑞人兄さんに相談してもらっていたので、その選択肢が浮かびませんでした。早速聞いてみます』
『おう、頑張れよ。俺も初公演応援しているから』
『はい。瑞希頑張ります。⋯⋯いくぞー。えいえい、おー』
―――――――――――――――――――――――――――――
「よし⋯⋯。早速、プロデューサーさんのところに行ってみましょう」
「よう、ミズキ。どうしたんだ?ケータイいじったりして。あと一時間くらいで本番だぞ」
「こんにちは、ジュリアさん。今は瑞人兄さんと連絡をとっていました」
「へえ⋯⋯、ミズキに兄がいたんなんて知らなかったな。どんな兄さんなんだ?」
「はい。瑞人兄さんはいつも相談に乗ってくれる良いお兄さんです。アイドルになる時も、背中を押してくれたのは瑞人兄さんでした。あとトランプゲームが強いです。いつも負けてしまいます。⋯⋯⋯次こそ負けないぞ」
「あたしらの中でもミズキは強いのにそれよりも強いのかよ⋯⋯。すごいな⋯⋯」
「はい。自慢のお兄さんです。⋯⋯いえい」
「兄さん、今日の公演は見に来るのか?」
「いいえ。今日は確か、大学の講義があるので来ないです。⋯⋯⋯初舞台を見られるのは緊張するので、むしろ安心します」
「ふ——ん⋯⋯」
「あ。そういえば、プロデューサーさんに用事がありました。少し行ってきます」
「おう。ミズキ、お互い頑張ろうぜ」
「はい、ジュリアさん。……頑張るぞ、瑞希」
そういって足早に去る瑞希。その後ろ姿を見送りながら、ふと朝の光景を思い出した。
(シアターに来る途中、瑞希の髪色に似た男が自転車で走っていたけど⋯⋯、まあ気のせいか⋯⋯)
余計だった考え事を捨て、自分も集中しなければと思いながら、ダンスの確認をするのだった。
いかがだったでしょうか。
瑞希の家族は、父親が弁護士で多忙なため家族全員が揃うことは少ないのですが、特にそれで悩んでいる様子は見られません。(ミリシタでは確認できませんでした。グリーだったらもしかしたらあったかもしれない⋯⋯。間違ってたらすいません)
なので家族仲は良い方だと思い、両親はこんなキャラ設定となりました。
父親は弁護士なので真面目な人ですが、娘の行動には口出しせず好きなことをさせて、将来の自由度を広げようとする、割と甘々な父。
母親はおっとり系の少し天然な人で、料理が趣味の専業主婦。
瑞希の両親がこんな風だったらなーと思いながら書いてみました。
あと瑞人は見ればわかる通り、大学さぼってます。シスコンですね。
今回は前半部分であり、後半も出すつもりですが、いつになるかは未定です。
とりあえず令和になる前に続きをあげたかった、というのが本音だったりします。
ではまた、令和にまた会いましょう。
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瑞希のアイドルデビューその2
更新が遅くなり申し訳ございません!(全力土下座)
実のところ、かなりスランプ気味で、そこにさらに他のことも重なり、中々筆が進んでおりませんでした。大学の講義や公務員試験の勉強、論文の作成(まだ先だけど)、別サイトで別の名義(黒村白音です。よろしく)で出していた短編の書籍化に伴う確認作業、ミリシタの周年イベントの走り(一番重要)等々があって⋯⋯、もう大変でした。
今回の部分も、まだ納得ができていないところもあるのですが、付け加えるとさらに伸びるはめになるので、あえてこの状態で出します。読んで下さった中で展開に納得できない方には申し訳ございません、としか言いようがありません。
ではしばらくの間、お付き合いくださいませ。
「うーん⋯⋯これで良かったのか? なんだかんだ言って、結局プロデューサーさんに丸投げしちゃったからな⋯⋯」
メールを打ち終わり、何とか瑞希の相談に答えてやれたが、俺の中ではまだもやもやとしていた。結局は未だ顔を見たこともない人に丸投げしてしまったこともそうだが、俺自身が瑞希の相談を解決することができなかったことが恐らく原因だろう。
とはいえど、兄として人生の相談に乗ることはできても、芸能活動をしたこともない俺にアイドルについての相談を答えれるはずもない。それは確固たる事実だ。今まで瑞希の相談相手として色々な相談に乗ってきたが、もうそのポジションは卒業かもしれないと思うと少しだけ寂しさがこみ上げてくる。
「まあ、俺にできることをすればいいだけの話だな」
その寂しさを振り払うように気持ちを切り替えて、自分の席へと向かっていった。
──────────────────────────────────────
「おー⋯⋯すごい広いな。ここで歌うのか⋯⋯」
観客席へと行くと、そこには広々としたステージがあった。
まだ幕は閉じられているが、そのステージの大きさは閉じられた状態でもよく分かる。正直、ここまで広いステージだとは思ってもいなかった。ここで瑞希が歌うことを想像すると、何だか俺まで心配になってきてしまった。
実際のところ、俺自身も今回のライブにおいて不安要素があった。というのも実はライブというものに参加する経験が今までなかったのである。一応ネットで必要な物、例えばサイリウムやタオルなどを買ったり、今回出てくるアイドルについて調べたりしたのだが、それでも不安は残る。
「俺も瑞希のこと言えないな⋯⋯」
公演に参加すると聞いてから勢いそのままにチケットを買ったので、一緒に参加する友人もいない。完全にボッチである。
不安と緊張が心の中で渦まきながらも自分の席へと向かっていく。今回はアリーナ席の後ろ、その端っこだ。ステージからは少し遠いが気にすることはなかった。
「ここら辺か⋯⋯?」
少し迷いながらも自分の席へとたどり着く。その横の席には既に人がいた。
いたのだが──―
(おお、ガチの人か⋯⋯)
頭にはハチマキを装着し、カラフルな法被を着こみ、極めつけにはサイリウムをどこからか「レッツパーリィ!!」という声が聞こえそうな持ち方を既にしている、見るからにアイドルオタクみたいな⋯⋯というかそのまんまの人だった。
その人は精神統一でもしているのか眼を閉じたまま微動だにしない。とりあえずその人の邪魔にならないように静かに座る。
(まだ公演まで時間はあるか⋯⋯。⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯暇だな)
いつもの大学内なら喋る相手がいるのだが、今日いるのはライブ劇場であり、無駄話をする友人もいない。必然的に黙ることになるので、周りの人達の声がよく耳に入ってきた。
周囲の人達は友人と一緒で来てるのだろうか、隣同士自由にお喋りをしている。少し耳を傾ければ、推しは誰だの、この子のここが可愛いだの、どんな曲がくるかだの、これからの公演を楽しみにしているのがよく分かる、元気な会話が聞こえてきた。
(みんな、楽しそうだ)
会話の内容でなくとも聞こえてくる声の感情の乗り方で分かるほどに、観客の人達は公演前の時間を楽しんでいる。
そんな楽しそうな雰囲気とは裏腹に、俺は不安と緊張に襲われていた。
ライブ劇場という未知の場所、未体験の場所で顔見知りがいないというのは、実際のところかなり不安だった。
また、さっきまで連絡をしていた瑞希がこの舞台にちゃんと挑めるのか、大丈夫だろうか、とまるで自分事のように緊張してしまう。
頭の中で不安と心配事を巡らしていたその時、ふと隣の人に声を掛けられた。
「突然の声掛け失礼。もしやすると初ライブ体験者、つまり初めてライブに来た方でござるかな?」
「え? あ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯まあ、はい。そうですね⋯⋯」
急なことで驚いた。さっきまで話しかけるような素振りもしてこなかったのにいきなり話しかけてきたのだから応答が遅くなってしまった。
「いやはや、拙者ライブには良く行くのですが見慣れない顔が隣にいたのでもしや、と思い声をかけたのでござるよ」
「へえ⋯⋯⋯、どれぐらいライブには行かれたんですか?」
「765プロ開催のライブでしたらざっと全てですな」
「⋯⋯」
それは「良く行く」ではなく「全て網羅している」と言った方が正しいのではないのだろうか、と内心思ったがそれは飲み込んだ。その代わりに評価をガチの人からやべーやつへと上方修正しておこう。
「此度は新しく765プロから39人のアイドルが出てくるということで楽しみで仕方ないでござるうう~~~~! 新たな39人の中からも一人推しを作りたいですな~~~。あ、ですが拙者の一番の推しアイドルは天海春香ですぞ!!! あの春の陽気のような笑顔がたまらないですからなあ~~~!!!」
「は、ははは⋯⋯」
目の前の人(やべーやつ)の急激なテンションに思わず乾いた笑いが出てしまう。すると彼はなぜか優しい笑みを浮かべていた。
「……少しばかり熱量を込め過ぎた為引かれ気味でござるが結果は良し。どうですかな、緊張はほぐれましたかな?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯なぜ緊張していると?」
内心で緊張だったり不安を抱えていてもそれを表に出さないのが俺の長所なのだが、あっさりばれてしまった。なぜ緊張しているのかつい尋ねてしまったほどに、心の中では衝撃だった。
「いやはや、拙者も初参戦のライブの際も一人でしてな⋯⋯。緊張していたのを思い出したのでござるよ」
「なるほど⋯⋯そういうことですか」
要は経験則ということらしい。長所が崩れていなかったみたいで俺は内心安心した。
「初参戦のライブ⋯⋯懐かしいですな⋯⋯。まだ765プロのアイドルが駆け出しの頃にですな──」
その後、隣人の今までのライブについての思い出話や俺が深くは知らない765プロのアイドルの話、アイドル達が歌う曲についてだったり、彼は様々なことを話してくれた。ほとんどこちらが聞き手になっていたが、誰かと話すのはやはり気分が晴れるものだった。次第に打ち解けていき、いつの間にか敬語もなくなっていた。
お互いに名前も知らない、今日初めて会った相手。
それなのに、不思議と会話は途切れることはなかった。
────────────────────────────────────
二人で話しているうちに公演開始の時刻になったらしく、観客席側のライトが落ちていった。
「お、いよいよですな」
隣の人の声に反応するかのように、女性のアナウンスが聞こえてくる。
『皆様、大変お待たせ致しました。本日は765プロダクションがお送り致します、39プロジェクトによる765プロライブ劇場のこけら落とし公演にご来場下さり、誠にありがとうございます。開演前に、いくつか注意事項を述べさせていただきます』
その後は順々に注意事項が述べられていき、やがてそれも終わりとなった。
『────それでは、これより39プロジェクトによる765プロライブ劇場のこけら落とし公演を、開演いたします!』
号令ような開演の合図と客席の歓声とともにステージの幕が上がっていき、全てが露わになる。
そこには今日出演するアイドル達がずらりと並んでいた。
アイドルらしい、華やかな衣装。
それらを纏う、39プロジェクトとしてデビューする新しいアイドル達。
そして、その中に俺の妹である────真壁瑞希がいた。
顔はよく見えない。今いる位置からは姿は見えるが、遠い席であるために表情は分からない。多分いつも通りの表情のままだと思うが。
けれども。恐らく瑞希は今、人生で一番緊張しているだろう。
だから──
────オオオオオオオオオォォォ────!!!!!
「⋯⋯⋯頑張れ、瑞希」
誰にも聞こえないように、歓声に紛れて、俺は兄として、ファンとして、こっそりと応援したのだった。
やがて歓声がある程度まで収まった頃、中央にいた茶髪の女の子────―春日未来ちゃんが一歩前に出て、開幕の声を上げる。
「みなさ──―ん!!! ライブ劇場開演、最初の曲はこの曲からスタートです!!! 聞いてください!!!」
『Brand New Theater!』
そこから先は、衝撃の連続だった。
765プロライブ劇場の完成に伴い、新たな765プロの門出として発売された新曲。
それが今、ステージに立つアイドル達が歌い上げ、踊っていく。
「歌詞を覚えていこう」と思い何度も聴いた曲なはずなのに、聴こえてきたのは全然別物だった。
今まで耳で感じていた音色を、今は身体全部で感じ内側まで響いていく。
CDに収録されていた曲を、アイドル達はCDとは別のパートで歌うことで、そして周りのファン達のコールによって、全く別の曲を聞いているかのようだった。
これがライブ。生でしか味わえない感覚。それらをつきつけられたような気がした。
「⋯⋯!」
何も言葉にならなかった。それだけ衝撃的で、気分が高揚していた。
開演前の不安も心配事も吹き飛んで、夢中で自分のサイリウムを降っていた。
────―ワワワワワワワワアアアアァァァァ──────―!!!!!!!
ふと気がつけば一曲目が終わり、大歓声が舞い上がる。地鳴りのような声はしばらく経っても鳴り止まない。
「どうですかな、初めてのライブは?」
そんな中、隣の人が静かに問いかけてきた。
その問いに対し前を向いたまま、端的に、簡潔に、一言呟く。
「⋯⋯⋯⋯凄い⋯⋯!」
「そうですな⋯⋯。ですがまだまだ始まったばかり。ライブはこれからですぞ~~!」
心底から楽しみにしている声で、隣の人はまた改めて前を向く。
その様子を横目で見ながら、俺もまたステージを見る。
次も最初から最後まで余すところなく、心の底から楽しむために。
そして、瑞希のアイドルデビューをしっかりと見届けるために。
――――――――――――――――――――――――――――――
――プルルルル、プルルルル⋯⋯―――
『おや。電話です。瑞人兄さんから?⋯⋯もしもし』
『もしもし瑞希。そろそろライブが終わる頃合いだと思って電話してみたんだが⋯⋯。でたということは終わったのか?』
『なんと、瑞人兄さんはエスパーなのでしょうか。はい、つい先ほど終わりました』
『そっか⋯⋯。どうだった?楽しかったか?』
『はい。公演前はとても緊張しましたが、いざ始まってみると、楽しくてあっという間の時間でした。⋯⋯もう一度あのステージに立ちたいな』
『そうだな、俺も
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯もう一度、とは?⋯⋯はっ、まさか瑞人兄さん⋯⋯』
『あとで感想言うから心して待っていなよ。じゃあな』
―――――ピッ―――――――⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「これは⋯⋯⋯⋯まずいぞ。⋯⋯⋯⋯⋯恥ずかしい」
いかがだったでしょうか。
今回のテーマは、お兄さんの内面の掘り下げ、でした。書いては消し、書いては消しの繰り返しで、悪戦苦闘しました⋯⋯。
瑞人は、普段は普通に感情を出すのですが、緊張や不安などのマイナスの感情が大きい時やカードゲームをする時は、ポーカーフェイスになります。無意識にできるのが瑞希で、意識的にするのが瑞人ですね。
そして瑞人は寂しがり屋でもあります。ですがその感情はマイナスの方向なので表には出しません。その内に抱えた感情を打ち消すかのように、隣の人(名前は碓氷昌平)との交流や初ライブの衝撃を書き加えたのですが⋯⋯これが一番大変でした。
あと瑞希の歌う部分ですが、単純に技量の限界でした。これについては皆様の想像にお任せします。
ちなみに私はアマテラスを瑞希、麗花、ジュリア、百合子、琴葉で妄想しました。
次回の更新は⋯⋯⋯⋯恐らくかなり先になると思います。これは今が忙しいというのもありますが、先に書き上げたいものがあるというのもあったりします。ご了承ください。
では、また次回お会いしましょう。
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