テストかゲームか戦争か (シューズ)
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1 如何にして彼は3番を選ぶようになったか
プロローグ


友人が居るって良いですよね


友人がチンピラに囲まれていたらどうするか?私の場合は逃げ出した。

 

 私は剣道を真面目では無かったにせよ小学校の頃近所の道場で習っていて、さらに同じ中1男子の中でも身長は平均だが運動神経は一歩抜けていた。成績だっって…まあ、機転は利く方だと自負している。

 

 だからこそ、その時泡を食って逃げた。

 

 

その友人は3人のガタイがいい男達を一瞬で吹き飛ばしていた__素手で。いや、暗かったから曖昧だがなんだか妙な手袋をしていたかもしれないが、問題は彼が木刀も竹刀も持っていなかった事だ。

 

 あいつとは道場で知り合って、今は同じ中学に通う一年生だからあんなコト無理だとはっきり分かる。いくら剣道の心得があっても武器無しで、いや武器有りでも、体格差のあるやつらを同時に何人も浮かせるなんてありえないだろーが。達人かなんかなの?いや師範代でも怪力がないと出来ないだろう。あ、師範代って剣道を私達に教えてた壮年の男性で、かなり怖い、いや強い。

 

 

 それはともかく…奇妙な出来事が起こった、ということだ。奇妙といえば件の友人は先月辺りから様子がおかしくて、人が変わったようで__つまり私はマズイものを見た、と判断した。友人(仮)がヤバイ奴だと、しかもそのヤバイトコをみちまった、と。

 

戦略的撤退も宜なるかな。

 

 

 勿論、戦略を立ててから突撃すると、A駅の改札につく頃足をゆるめながら私は誓った。

 この切っ掛けを、無い方が良かったと思わないでもないが、これは、知らない事・可能だと思えない事に触れるには、必要だった。特定の日に死ぬ、というパターンでも代用が効いたようだが、それは私が入れ替わるだけだし…

 

 私が、近未来的な兵器を使い、殺し合いに参加する発端はこんなものだ。

 

 中一から一度も死なずに生き残り(死んでも味方に生き返る対象に選ばられた可能性も高めだったろう)、友人もカノジョもそこそこ作りつつ大学生まで来れたのは、運だけじゃないと思う。

 

 例えば、冷徹さも要るだろう。遠回りしたが、これが言いたかったんだ。さっきの話は友人を見捨てた訳じゃないけど、君は次回の星人との殺し合いで、トモダチでも家族でも見殺しにする事を視野に入れておく方がいいよ。自分の家が制限範囲に入る事もあり得るし。

 まあ兎に角、君は鈍くさいから、隠れて遠くから星人を狙撃した方がいい。体育の授業で一緒だったの、気付いているか?君は、強い星人が来たら生き残れそうに無いなと思う。

 さっさと100点を取って、これ関係の記憶を捨てて日常に戻る事を勧める。

 

 私、はこれが日常だ。知らないと危険な事もあるし、生き残り続ける確率も高いから、老人にでもなったら記憶を捨てるかも。

 

 最近、戦いのルールが少しおかしくなってるけども…。

 




因みにこれが初投稿です。


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100点取ったらご褒美下さい
2話


 

 

「バカ太、離せ!」

 

「そっちこそ話せ!」

 

 怪しいノッポ、若しくは滝田 スグル、を抑えこむ。こいつは何故か焦った様子で這ってでも壁際のクローゼットを開けようとしているが、何か聞き出すには丁度いい。

 

「そういう意味じゃねえ!」

 

「解っている。話すまで離さん!」

 

 

 私は今、スグルの家に押し掛けて、無論滝田家の人々には歓迎されて、奴の部屋で最近の奇行の訳を問いただしている所だ。この3日間ほど毎日来ているが、スグルが急にハッと首筋を触りそれから慌てて私を追い出そうとしたのは初めてだったから、訳を吐かせるチャンスと飛び掛かった次第だ。今はスグルの背中側から腰に抱き付いていてやや気分が悪い。

 スグル君が喚くのを聞き流しながら、彼の家族が家にいる以上大怪我を負わせられないだろう今こそが実力行使の好機と、奴の妙な行動を振り返っていると__

 

 

 頭が消え始める。

 

 

 は?

 

「消えてるぞ」

 

 存外冷静な声が出たな。青白い光がスグルの黒い髪の断面に浮かび滑り落ちていく。

 

「あっ、ケッ、ケースのなー」

 

 口も消えたらしいな。

 

私は素早く立ち上がってスグルの消えつつある腕が開けたクローゼットを覗き込み、服を掻き分けて底にあった銀色のケースを引っ掴んで、逆の手で消えつつある足に掴みかかる。

 これ、明らかにやばい事態だよな_

 

 

足と共にそれを掴む私の左手も消え始め、感覚の残るスグルの足から手を離し飛び退こうとする体を押さえ付ける。ジェラルミンケースと思しき銀色のスーツを胸の辺りまで引摺りつつ、

 

「どういうことか説明し…せつ…説明して貰うぞ、スグル?」

 

後半の台詞は、白い壁、茶色の板張りの床に座り込み目と口を開けてこちらを見る友人(仮)、黒いラバー状の生地に小さい白い丸いものが所々ついた格好良い服を着た人々、普通の格好の人々を見上げながら、口がここに現れてから言った。

 

 

人を見つめながら口をパクパクと開閉させる間抜けの足を離して立ち上がる。

 

今いる部屋を見渡す。

 

背後と右手の壁にドアがある。正面奥の壁近くに黒いバランスボールらしきものがある。

 

音を立てて黒いバランスボールらしきものが開き、音楽が流れ出す。

 

目を閉じて深呼吸を二度する。

 

目を開け、立っているスグルを睨みつけ、口を閉じさせる。音楽は止まっていた。

 

「何をすればいいんだ?」

 

出来るだけ柔らかい声を意識した。平坦な声だった。右手のケースを差し出す。

 

 

スグルは慌ててケースを受け取って開き、ほっと息を吐いた。私はケースに『優(笑)』と記されていることに気付く。

 

「あっちの黒い球の後ろにある太二のケースを探して、中のスーツを着てくれ」

 

「…」

 

スグルの背後の方へ、壁に寄りかかったり座ったりしている人たちを避けつつ歩き、彼等の話し声も動きも無視しつつ、存在感のある黒い球の後ろに回ると銀色のケースが幾つも積んである。スグルが後ろから覗き込む。

 

「左側の『ラッキー』って書いてあるやつじゃないか?だってお前の名字って雷木だっ__」

 

私は『ラッキー』と記されたケースをとって開き、中の白い丸いものが幾つか付いた黒い生地を広げて頭から被ろうと__

 

「ちょ、待てって。服脱いでから着ろ」

 

「分かった…」

 

私は一旦生地を床に置き、服をまとめて__

 

「おい、待て」

 

確かに。人前で服を脱ぐのは公然わいせつ罪に問われてしまうかも知れない。だがこの状況で警察は無力なのでは?人間を青い光で移動させるなんて一般的技術な訳ない!SFかよ!

 

「いやだから待てよ!」

 

 

よく見れば女性も居るな。

 

 

 

「急げよ、スグルかっこ笑。お前も着替えろ。転送始まるぞ」

 

何人かカッコイイスーツを着た人々が黒い球体の開いた部分に入っている銃__銃!?__を取り出してから左側の扉を開けて入って行く。

 

 

「っち、はいっ!よし、着替えながら説明してやるよ、太二。他の人もできれば着替えて下さい!」

 

 



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3話

現在、黒い格好良いスーツを着て、左手にコードで繋がった機器を左手で掴んでその画面を覗いている。右手には黒い刀のようなものを握っている。右太腿にはスーツについた輪状のベルトでこれまた黒い銃らしきものがつけられて居る筈だ。

武装(笑)、と思えればいいのに。

周囲を見れば、同じ様な格好の不審者が11人。私より銃身のながい銃をもつやつ5人、大小の一抱え程の直方体2つが先端付近で持ち手で繋がる銃っぽいごついのを持つやつ3人、大きな黒いドーナツ状の機会に跨ってるやつ一人。スグルは刀を持ち、後の一人はバチッと電気?を発しながら透明になっていく。

 

単純化しよう。正直まだ混乱してるし、これは不味いからな。まず、今の私達は普通の人にはみえない。それから、左手の画面、地図上の青い光が味方、赤が敵で倒さないといけない、白い枠外に出ると死亡、減っていく50分程と表示されている制限時間残が過ぎるとさっきまでいた黒い球のある部屋に戻される。戻った後は帰宅して良くて、誰かに一連の事を知られると死亡。生きてれば一ヶ月程でまた例の部屋へ転送__で、繰り返す。その転送の暫く前にゾクゾクッとくるとか。

スグルの奇行に納得。まあ、どうして、どうやってこんな事が行われているかはスグルを含めた先輩方の誰も知らないらしく、釈然としないものが残る。

 

「行こうぜ、太二」

「…ああ」

 

冬なのに、着ているスーツは快適で、武器は格好良いし性能もいいらしいし、なんだか暑く感じる。危機感の無さを自覚し、抑えた声で返事をした。

私達は…いや、ドーナツに乗ってるやつもいるし透明になって行動がわからないやつも何人かいるし私と同じく今回初参加で不審者じゃないスーツを着てないやつらもいるしスーツを着ていてもその場から動かないやつもいるし、極めつきは行き先もバラバラだが、少なくとも私は、スーツで強化されているらしい凄まじい速さで走る。

スグルを私が追い、スグルは二人のベテランと思しきほぼ並んで走るごつい武器を持つ人と長い銃を持った人とを追いかけていく。

 

「なあ、太二って飲み込み早すぎないか」

高速の移動中で聞き取りづらいし、巫山戯た問いかけでもあるし、聞こえなかった事にする。前のスグルから目線をずらし、両脇の背の低いビルなどを見る。曲ったり何メートルも跳ねたりパルクール染みた動きに遅れないようにしつつ、自分の器用さとスーツによる圧倒的な強化に他人事の様に感心してみる。

「おーい、聞こえないの?付いてきてる?なんだいるじゃん!」

先頭の二人は兎も角、スグルもスーツ無しではありえない超人的動作をしながら喋れるとは奴もこの事態に何回も参加しているのだろうか。ご両親や妹さんがもし__いや、私の家族の方が、謝意に心配や憐憫といった感情を向けるに相応し__いや、違うな。この場に居る私達こそ__

 

「いたぞ!あそこ!」

「うわ気持ち悪っ」

「星人なんてそんなものさ」

「あれが…」

ビルだかマンションだかの側面に、海星みたいな形の大きい物体がへばりついている…

 



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4話

5本の腕を振り回す私の3倍は大きい怪物から転がりながらなんとか距離を取る。出来るだけ素早く立って相手を見ると、電柱の光に照らされたそいつは赤い体液を垂らしている。ボロボロのそいつは元々肌色だったから、人間の手みたいで吐き気が増していく。目を逸らさないようにしながらそいつを中心に円を描くように走る。さっきまでいた所に太い腕が一本突き刺さる。未だに素早い飛び掛かりに思わず呻きつつ、両手で握った刀、そのトリガーから強張った右手の中指を剥がそうとする。下のトリガーを解放すればこのなまくらを伸ばせる…!

 

再びの飛び掛かりはその起こり、動作の始点が、見えている…気がする。足を踏ん張って腰を落とし、腰と肩をひねりながら、正面から伸びていく刀身を突き刺す。

会心の突きだ。強化された膂力で振るう刀も表面浅くで止まり、コンクリートを容易に破裂させる銃も、円形に空間を押し潰す兵器でも仕留めきれなかったこの怪物を貫いて宙で磔にしてやったのだから。

 

ググッ

っまだ動くのか!真っ直ぐ突き上げていた刀、らしき頼りになる武器ごと怪物を地面に叩きつける。刀身がヤツの体を少し引き裂いた感触があった。このまま畳み掛ければ殺せるのでは…何度も持ち上げては地面に叩きつけていく。途中で右太腿の銃を左手で何とか引き抜き、右手と合わせて2つのトリガーを人差指と中指で何度も引き絞る。

 

怪物は表面を小さく破裂させながら、碌に抵抗も出来ていない。勝ったな。今の自分の動作が滑稽では、なんて下らない事を考える。そう考えたすぐ後に、刀身が抜けて地面に食い込む。刀から手が離れ。同時に慌てて真後ろに飛び退く。

 

背中が建物に激突して声が漏れるが銃を怪物に向け、再びトリガーを連続して引く。ギョーンギョーンギョーン、と音がしっかり聴こえるようになっていると気付く。怪物をよく見ると、遠目だがズタズタで原形をとどめていないよう見える。それにこの距離だと銃も当たってないみたいだ。引き金から指を離す。周りをゆっくり見回して、上も見て、目線を赤い物体に戻す。遠くに見えた人間の死体と時間差で破裂する道路の一部は努めて意識しないようにする。再度目線を外して、左手にくっついている機器を見る。右手で掴んで引張りコードを延ばす。画面を操作して__残り40分弱__現在地付近を拡大する。

 

青い光点が2つだけ__自身とスグル以外の誰か。私は道路にてを付いて嘔吐した。

倒した__スグルは殴打されてグチャグチャ__生き残った__まだ赤い光点が残っている__生きてる人間の手当を__アああーーーーーぐうーーッッ!!!

 



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5話

 

残り30分。重力兵器らしき武器をもっていた先達が息を引き取ったのを見た後、残っている赤い光点3つの塊の内の1つにやって来た。状況を客観視しようとしていないと、また吐きそうだ__来る途中で円形の窪みや、白い付属部品から金属光沢のある液体を出す壊れたスーツ姿の死体、グズグズになったあの怪物の死体を見た。ここにもそれらが散らばっている。しかし、まだ動いて殺し合っている音が響いている。ギョーンという銃声や重いものが叩きつけられる低い音__

室内だからここの方がでかい彼奴等と戦うには有利かもしれない、と思う。オフィスビルと思しき高いビルの外から高層の割れている窓を通って忍び込む。2体の怪物と1人の味方がいた。硬い柄を柔らかく握り、自分でも惚れ惚れする右手一本突きを片方の怪物に決め、刀を振り回して天井と床にたたきつけながら同時に左手で機器の1つだけあるボタンを押して透明化を解く。

「もう片方に集中してくれ!」

だが、文字通り助太刀に入った相手はこちらを一瞥した後窓を割ってビル外に逃げていく。

「はあっ!?」

腕が片方ない__そんなのはいい、もう一体が這うようにしてこちらに向かって来てる!

 

両方のトリガーから指を外しながら右手を引く。左手を柄に添えつつ時間差をつけて上下のトリガーを絞る。壁と柱にだけ当たらないように注意して刀身を伸ばし__横一文字に振り切った。重い粘り気のある手応えだったが…切断出来ている。最初に突き刺したヤツに向き直って大きく踏み込みながらもう一度横一閃__半ば以上切り込んだが両断は出来ていない。まあこんなもんか__少し気落ちするが、刀身を縮めて引き抜き、2体と距離を取る。さっきの味方に大分やられたみたいだ、もう動いていない。

 

便利な敵味方確認装置を手に取り生死を確認。上下階に居るのだろう他の光点のせいで分かり難いが、動かない赤い光点は無いので殺せたのだろう。さて、残りは上か下どっちに行けばいいのだろう。ま、上かな。

 

 

 

 

 

残り2分強。2人の味方と協力して__助太刀したのに逃げ出した隻腕の御仁ではない__ビル内の敵を殺し切った。左手の機器を見れば殺し切れた事は分かるが、離れた場所にまだ赤い光点がある。私は疲れ切っていて、その場に座り込む。軽く機器を掲げて2人に、

「どうします?」

と聞いてみる。

 

2人はゆっくり近付いてきて、1人は肩を竦め、もう1人はなんとも言えない顔で笑った。

「今回はクリア無理っぽいな。俺らめっちゃダメージ受けてるし、もう間に合わないっしー」

転送で顔が見切れている。笑ってしまう。

 

もう1人が、

「あはっ。君、名前は?私はキンナ」

太二、と答えかけるが、思い直して、

「ラッキー…って呼んでください」

「そっ。とりあえず…よろしく?」

「宜しくお願いします」

座ったまま軽く頭を下げる。

 

直ぐに私達も転送__瞬間移動ってほどじゃないな__され、私は正面右に黒い玉を確認する。軽く見渡し__5人居る、内2人は転送中__さっきの2人と話してみる。

「よ、オレはヤマダ。ラッキーて、プッ」

顔に血が昇るのが分かる。そういえば疲労も汗もなくなってる、それにこのスーツ汗掻いてもベタついてなかったな、思っていたよりも高性能だ。

 

短いフレーズが流れ、タイミングはマチマチだが皆黒い玉を見る。

 

それではサイテンをハジめる?

 

文字が変だが、採点を始める、か?

 



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6話

 

夜8時半過ぎ、線路沿いにトボトボ歩きながら考えを巡らす。

あの黒い玉め、いや中の生白い全裸の男かな、巫山戯やがって!次回、凡そ1ヶ月後に15点以上取れだと?今回化け物を全滅させられずに何体倒しても私達6人一律に0点だったのだから、次回もあんな巨大海星みたいなヤツと殺し合って殺し切らないといけないのか。もし出来なかったら死ぬのか?一連の流れの悪趣味さだと、殺されそうだな。ていうかスグルの家族になんて言おう!この事態を漏らしたら死ぬって闘いの前に聞いたぞ。

 

B駅が奥に見える。曲がるか。

6人全員で90点以上必要だ。色々大丈夫なのか?ピリピリした雰囲気だったから、大丈夫じゃ無さそうだし命が掛かってるという推測は当たりっぽい。競争になるのか?味方同士の妨害は?次回初参加の人達には説明しない方が良いか?しかしクリア出来なかったら元も子もないしな。

 

………。

 

…ここだ。滝田家。着いてしまった。

よし、スグルは家出してしまい止められなかった、と説明しよう。目を合わさず謝ろう。

 

罪悪感に耐えながら、超人スーツの上から履いたズボンの左ポケットから靴下を取り出し、超人靴、いやブーツかも、を脱いで無事を祈りながら排水口近くに置いて履き替える。電柱からは離しとこう。長袖と半袖とシャツを捲り上げて首筋のスーツとそれについた白い丸いものを目立たないように引張り降ろす。超人手袋も外して左ポケットの奥に押し込む。

 

ゴチャゴチャやったが準備完了だ。上着とリュックと靴を回収する、私の家に遅くなったと電話してもらう、見送りは絶対に断り超人ブーツを持ち帰る、スグル君の家出を止められず申し訳ありません、よし。

深呼吸しながら呼び出しブザーを押す。また深呼吸。

 

 

 

 

 

大分眠い。が、さっきまでの悪夢を思えば頭をふかふかであっても枕に戻す気にはならない。

 

昨晩の酷い出来事がアレンジされて私の頭の中で上映されていたから、実際の出来事を思い起こす…うぇ、気持ち悪い…。

   灯りを付ける。死んだ…いやころ…殺されたスグルと同じくクローゼットに隠した例の超人化服を取り出してベッドの上に広げる。あいつとは違いケースはあの奇妙な部屋に置いて来てここにはない。伸びる刀の兵器を太腿部分のベルトで留めて持って帰って来ていた。

トリガー2つを同時に押して一定の長さまで延びていく刀身を見る。重さが増す。ずっしりとしていて肩に力が入る。着込まないと体が強化されない黒い生地に白いボタンみたいなモノが沢山ついた兵器と違い、鈍く光る刀身は、悪夢とそう変わらない現実を突き付けてくる。

 

   殺し合い。

   次回は約1か月先のはず。前回戦闘前に聞いたのだから嘘ではないだろう。戦闘後、敵の殲滅に失敗して全員0点。生き残り同士の点の奪い合いの可能性がある。

   闇討ちはされるだろうか。ない、と思いたいな…銃を持ち帰って来たかったな。リュックも上着もスグルの家に置いて来ていたから無理か。見られない様にこの服で透明化して、いや、これはもういい。外出を控えて顔をなるべく隠せばいい。まさか昨日尾けられていたり…それならもう私は死んでるか。

 

   自室の扉が閉まっている事を確認する。窓もカーテンが閉まっている。

   手持ちの武器の性能をしっかり把握して次回15点取ろう。死ぬのは御免だ。家は広いが家族もいるし、透明になろうともモノを破壊したりは出来ないから、別の場所、人がいない場所に行かないと…待てよ、道場で鍛えてくるのもありか。

 

   服の強化は身体能力と強度を倍率で高めるのか、数値を足すのか、一定の水準まで引き上げるのか。強度の実験は危なそうだ、どんな曲芸が可能かだけ試そう。

   刀はどこまで伸びるのか。というか、どこまでなら服の強化で振るえるか、を調べよう。大剣や長刀の使い方とか、師範代と師範に見せてもらえるかも。

   銃は実演してくれそうな人居ないな。警察、自衛隊、米軍の施設に忍び込む?あの銃は後ろにターゲットのレントゲン図みたいなのが映る画面があるし、本かネットで使い方を探すだけにしよう。

全身が熱い。奇妙な冷たさも感じる。ふと呟いてみる。

「マスクしてフード被って、サングラスまで買ってかけたら怪しいよな…」

 

 



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7話

首筋に奇妙な感覚が走る。これか…?

本を机に放置して勢い良く椅子を引き、人の殆ど居ない閉館時間が近い図書館から、夜、雨が降っている中、傘を差さず飛び出す。電灯の殆ど届いていない暗がりを見つけてそこに走る。左手のパーカーの袖に手を突っ込み、機器に触れてそのボタンを押す。荷物ごと透明化している事を祈りながら,手早くリュックを下ろして開け、2つのビニール袋の中の複数の白い小円盤がアクセントの変わった手袋と靴を取り出して、普通の靴下と靴を脱ぎ捨て、代わりに身に着ける。落とした普通の靴下と靴を別々の袋にしまいリュックに入れ、ジャージのズボンも脱いで押し込み、口を閉める。リュックを背負う。

黒い全身スーツの右太腿に手を遣り、刀をベルトから外す。

 

転送を待つ。

 

…まだ?

結構合図から余裕があるんだな。

 

…もしかして勘違いか?恥ずかしいな、もう。

 

傘を差す。濡れた服どうしようかな、ベルトで刀を留め直しながら思う。どこで着替えよう。

「!」

視界が青い光と共に切り替わる。黒い球、人々、白い壁と天井、茶色の床板。まだこちらに来ていない両手で傘を閉じる。

 

服の兵器を身に着けている人が3人。それ以外が数人。

ヤマダさん達は片方しか居ない。目が合い、フードを取りマスクを外す。目礼する。リュックにマスクを突っ込みながら歩く。

「他人行儀ね…まっ、しょーがないわね」

彼女は苦笑する。

「すいません」

壁際に寄ってリュックと傘を置きながら呟く。

 

順番に2人現れ始める。どちらも兵器『全身スーツ』を纏っている。最初に現れたのはヤマダさんで、彼は朗らかに挨拶して来る、が目礼を返すに留める。つい目線を下げ、刀、というか柄に触れる。

音楽が流れ出す。顔を挙げて玉を見る。近付いて浮かび上がってきた間違いだらけの文字を見る。私は周りの話し声を流しながら前回見ていなかったそれを読む。

   おい。

ボールが勢い良く広がる。私別に死んだ覚えないけど…一人ごちる。

 

敵の情報がボール表面に浮かんで来た。

だんご星人、好きなものぶんしん?小さい粗い映像もあり、鰐みたいな顔が映っている。やっぱ毎回前回の怪物と戦ってはいないんだな。

「俺たちも見るんだけど」

「どいて?」

確かに邪魔になってるかも。玉の前から右側に回り、開いた玉から大小の銃を取る。後ろのドアに振り向き、開ける。幾つもの柄と見慣れない小さい銃と同じ位の先端が3つある銃が床に転がり、2つの重力兵器っぽい銃、ドーナツ型の近未来的バイクがある。

 



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8話

転送が終わらない内に両手の4つの引き金を何度も引く。右奥に、だんご星人として表示されていた鰐みたいな顔が縦に2つ並んでいる。銃の音に気付いたのかこちらを向き、破裂した。すぐ脇に立つ電灯が緑色の飛沫を照らしている。

 

脆っ。一発で倒せるんじゃないか?

 

右手の長い方の銃を地面__土だ__に落とし、左腕に付いた装置の画面を確認する。

重力兵器とドーナツ原付は100点を取ったら得られるより強力な兵器だとさっき聞いた。あわよくば私も使いたかった…。点の付けられ方は何と無く分かっているので、そんな兵器を持っているベテランでも1人死に残りもクリア出来なかった前回の敵が特別強力だったのだろう。周りの転送されている途中だったり転送が終わっていてこちらを見る一応の味方を置いて私は走り出す。落とした銃は必要無いだろ。画面の赤い点と、青い点の一部も動いてる。

15体倒せば15点はとれるはず。後14体!

直ぐに公園を抜け住宅街を疾駆する。集中すればこの服の黒い生地には血管みたいな黒い筋が浮かび、白くて丸い幾つもの小さな付属部品が青く光る事が分かっている。その状態の強化はそうじゃ無い時と比べてさらに高い。今の私はその超強化状態だ。あっという間に3体を見つける。銃を連射する。道路や塀、屋根の上のヤツラが素早く動く。全部外しただろうな。でも、今回は刀で簡単に斬り捨て御免できそうだ…!立ち止まらず銃を左手に持ち直す。

 

1体は破裂して緑の体液を撒き散らした。当たってた!

残りの2体が口を開けて吠えながら跳ね回る。長く太い一本足に鰐の顔が2つ縦に並んでくっ付いてるみたいだ。ベルトを外して右手に刀を持ち、刀身を伸ばして家の壁や塀ごとヤツラ目掛けて2度斜めに斬る。

手応えが無い、なら、あれっ。

おそらく数秒で戦闘は終わった。鰐顔が寸断されて4つの塊が道路に転がっている。内1つは最初の破裂したやつだ。1つ塀の向こうに落ちていったのを見た。

この刀分かってたけど無茶苦茶切れ味良いな。1か月前のヒトデっぽいヤツラ頑丈すぎだ…

「Gaaaaa!」

崩れた塀を飛び越えて鰐顔が咬みついてくる__避け__いや殴り殺せる__刀を持った右手で殴り飛ばす。ヤツの顔が凹み緑の血を吹き出しながら塀に激突する。左手の銃を向けトリガー2つを1度同時に引く。

 

__頭が1つしかない?破裂音。横に振り向いて4つの塊の方を観察する。

足の指が付いてる方の下の頭が寸断されたヤツ、綺麗に残っているだろう逆を向いて落ちているその片割れの上の頭、切断された上の頭の一部、最初のぐちゃっとした緑の残骸。

地図を見ると__残り56分__青い光点が1つ、3つの赤い光点が接近中。

右を向いて家の屋根に飛び乗る。要は縦に斬ればいいんだろ。左手の銃を両手で右太腿のベルトで留める。残り11。先ずは3匹を、

「唐竹割にしてやる…」

!ドスの効いた声が出た、びっくりした。

 



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9話

 

 

今、前回の生き残り6人で最後の赤い光点の敵と戦っているけど、1人が、あ。

「くそ、スーツがおしゃかだ!」

叫びながら離脱した。

まあ残り時間は30分程ある。クリアは確実だろう。いくら相手が巨大で棘と鰐顔が無数に突き出た怪物とはいえ。

 

しかし今戦いは競争の模様を呈している。いいや、これはもう狩りだろう。味方を巻き込みそうな円形に押し潰す攻撃、狙いの甘い銃撃、大振りの伸ばした刀身での斬撃がくりかえされている。化け物はもう傷だらけだ。味方同士の妨害は、殺し合いまでとは行かないものの他の味方が避難する程だ。

 

「1体15点はあるんじゃないかあっ!譲れー!」

これだよ。冗談めかした明るい声を挙げてる味方数人に斬りつけてやりたい。あ、2人目の脱落者だ。スーツが壊れたみたいで白い付属品から光沢のある液体を流しながら後退して行く。

「おっつー」

余裕かよ。刀を両手で持ちながら斬り上げつつ跳躍する。上に跳ぶと身動きが碌に取れないから危険だが、怪物が直立しつつあるこの状況__接近しての戦いのみ、意図的なフレンドリーファイア無しという暗黙の了解が出来てる__なら正面のこいつを仕留めきれる……なぁっ!?

ドドン!!

 

…伸ばした刀身諸共怪物の体の大半が円形に潰れた。私の刀は刀身の中程で折れてしまい、衝撃で地面に落ちて行く。バランスを崩した体を何とか立て直し足から着地する。

すぐさま地図を見て赤い点を探す。青く光る点しかない…

「9匹しか倒してないのに…っ」

大丈夫だろうとは思うけども…!

 

「いや十分だろ。オレぁ12」

「あたしは6」

「9」

「LAだれー?」

「当然わたし」

「「やっぱり」」「だろうね」

前回の4人がぞろぞろやって来る。

 

「……点数計算どうなってるんですか?」

私は座り込みながら聞いた。

 

「トドメを刺した個人が総取り」

「そうそう、今回は多分頭1つごと。ばらしても襲ってきたし」

なら私は18か?あ、やっぱり強いんだな、へへっ。

「ミナトさん100点行ったんじゃないですか?」

 

前回組1人こっちに来てないな__

 

 

 

 

 

結論、私はツヨイ。得点90点。

「あれ、ラッキーが倒したの9じゃないっけ」

「ああ、そう言ってたな。止めがミナトさんじゃなかったってか」

「いえ、頭で数えると18匹殺しました」

 

感心の反応を無視しつつ切り替わった表示を見詰める。

みなとサン、110点、いじをみせた(笑)、100てんめにゅーへ。

100点メニュー?

「2番」

彼女の即答が遠く聴こえる。1、記憶を消されて解放される。2、より強力な武器。

 

3、メモリーから1人再生。

 

 

結局今回の生き残りは前回の6人を入れて__因みに順に20点、30点、45点、60点、90点(私だ)、110点で、20点だったクラタさんは安堵した様子だった__10人。初参加で、スーツを着させられた人達の半数程が生き残ったそうだ。銃も刀も持たされなかったらしいのに点を取った人が居て、先輩方がやや驚いていた。私もそれを聞いて驚いたが、前回ならスーツだけだと死んでたに違いないなと、其の幸運に妬ましさを強く覚える。

ミナトさん、湊と書くらしいが、彼女にあの黒い球の強いるルールと兵器について一緒に徒歩で帰りながら詳しく教えて貰っている。小声で肩を寄せ合って__ばれないようにするためだが、間違いない湊さんに気に入られているんだ、きっと私が強いから__線路沿いにC駅へ向かいゆっくり歩く。雨は降り続けている。

 

「あの湊さん、そろそろ、その」

「そう。じゃあね」

彼女はくるっと回れ右してスタスタと歩いて行く。…送ってくれてたんだな。

 

家に向かって歩き出す。携帯電話が欲しい。帰るのが遅くなった時の為に、買って貰おう。パソコンもあると調べ物に便利だよな…というか独り暮らしじゃ無いと黒い球ルールを守り難いよな。転送は夜だから、部活はやめないといけないのだろうか。幽霊部員か?次の転送は正月じゃ無いといいな…傘をクルクル回転させて水滴を飛ばす。下に着たこのスーツ、衣類としても優秀だよな、濡れてるけど風邪ひかなそうである。

 

 



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100点?フン、中級者か/生き抜けば100点!!
100点?フン、中級者かー1


困った。スグルの妹の様子を見るだけのつもりが、彼女は私を睨み付けながらズンズンと此方に向かって来ている。

「こんにちはっ、雷木さん」

「こんにちは…」

名前何だっけ、というか声明るいな、スグルの妹で合ってるよな、可愛い、胸あるし寒いのに生足だ__

「名前覚えてます?」

げっ。顔を上げる。背、私より高い…

「キョウです。で?」

吹いてる風みたいな寒い声だな、急に…。

「あ、雷木太二です…」

「用を聞いてるんです」

ランドセル背負った相手に情けない…目をしっかり合わせる。

 

「家まで送らせてくれませんか。スグルの事、その家出してからどうなってます?」

「敬語は止めてください。先輩ですよね」

「……D小じゃなくE小だ。滝田さん、そっちもタメ口でいい。歩きながら話さないか?」

「…中二病?兄貴と同い年でしょ」

口調の事言っているのか?制服だし、髪型も変じゃないよな?私は歩き出しながら聞く。

「口調変かな?」

「いえ、あの、顔です」

スーツの性能調べるときに怪我したんだ。格好つけて包帯巻いてる訳じゃない。

「これは怪我したんだ。こっちで合ってるかい?」

 

あのパワードスーツは素肌に触れていないと防御が及ばないみたいで、パンツを下に履いた方が強化が高まるか気になり腕とか上半身の下にシャツを着てみたりして石を砕いてみたりの実験で、破片が当たって切れてしまった。言えない。

 

「はい。…それ痛いですか?」

「気楽に喋って?額は今は痛くないよ」

 

握り潰した岩の破片が目に入ら無くて冷や汗を流しつつ安堵した事を思い出してしまった。スーツの首元の下にはもう何も入れないぞ…

 

「じゃあ、兄貴が家出したって父さんは怒り心頭で母さんは落ち込んでる。あいつがソンナコトしたってホント?」

ぶっこんできたな?何て云おう。確かあの夜は、最近何か悩んでいる様子で問い詰めたらどうも家出してしまいました、と説明したんだよな。家族ならスグルの変な行動は気付いてた筈だし不自然じゃ無いよな。

「残念ながら、スグルは本当に家出したみたいだ。学校にも道場にも来てないし、家にも帰って無いみたいだな。止めたんだが。警察には連絡したのか?」

してないといいな。大事には__

「いちおーしたみたい。家出の理由は?いじめられてた?」

「…いじめは無かったと思う。理由は解らない、ごめん」

 

「そうですか…ベツに。…別に、雷木さんが謝らなくていいよ」

何て返せばいいんだろうか。…。

 

「に、荷物持とうか?」

「…え?ランドセルですよ、プクッ」

だよな。笑ってくれた隣の滝田 恭さんを盗み見る。

 

「何年生?」

不自然にならないよう話を接ぐ。

「4年。3コ上ですよね?」

「ああ」

 

可愛い…。

 



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100点?フン、中級者かー2

 

道場の床板を摺り足でこする。面金を見ながら滑らかな突きをその下に繰り出す。師範が揺れた。突きが来る__避け、ぎゃっ!

苦しい。声がまともに出ない。剣道ならこれで終わりだ。振るいそうになる手を抑える。あのスーツを着て伸びる刀を振るえば__いや、やめよう。師範に自然に向き直っていた。刀、違う竹刀を下げて礼を__師範の踏み込み__緑と赤の筋を幻視する__横にずれながら横一閃、防がれる、素早く下がりながら刀を伸ばして__竹刀にトリガーは無い。竹刀を振り上げて面を打つ、鍔迫り合い、押し斬れる__師範はフワッと下がった。

師範はさっさと座り礼をして面を外す。

 

「…師範、ちょっと、酷い、ですよ」

というかズルい。

「何を言う。一本もうとった。首に穴を開けられたモンが喋るな」

おい!

「死体、に、斬りかか、るん、で、すか!ごほっ」

「残心じゃ。続けたがったのは太二の方だろう」

鋭いな!?流石だ…

 

「太二、私ともやるかい?」

師範代、私に初めて2本続けて取られたの根に持ってやがる。

「いや、今日はもうお開きにしよう」

師範の声で皆が、というか私が真っ先に大声で礼をする。解散!!もう汗だくで気持ち悪い。くさいし。剣道から離れてた理由として正当なものだろう。

 

小学生、中学生、高校生、大学生が何人も寄って来る。

「太二君強くなったよねー」「やるなー中1に本気でやって負けるとは」「太二ダサーい」

全部は聞き取れない。

「前より真剣にやってます」

わいわい話していると、師範代が来た。

「太二、師範が呼んでるから来てくれる?小学生はもう遅いし帰りなさーい」

今の時間帯、というか木曜日は本来居ない筈だよな、私からすれば驚くべき熱意だ。ああ、今の私も参加までして居るから客観的には剣道に打ち込んでいるのか。

 

やっぱり私は上達してるよな。前からごり押しで年上にも勝ててたけど、本気の師範代からはとれなかったし。今日の2本目の師範代、結構本気だったよな。

「太二、久し振りにくるようになって強くはなったがアライぞ」

師範の言葉に集中する。

「喧嘩か?かなり本気のを何度もやっただろう。近所では聞かんが…」

「......」

「私も聞いてませんね」

「スグルも荒れとったが、喧嘩の為に剣道を使うな、と一応言っておく」

「…疚しいことはありません」

多分。

「ふむ、信じてやろう。幾つかの打ち込みは研ぎ澄まされとったからな。ギンタからも取ってたろう」

「お恥ずかしい。太二、次来た時にでも扱いてやろう。綺麗な剣筋をのばしてあげるよ。上達したいんだろう?」

「はあ、まあ、お手柔らかにお願いします」

 

剣道はいいとして...武道には感心頻りだが....そろそろ前回から1ヶ月。殺し合いの覚悟はある、筈。楽しみでもある。足技は隙が大きいかな、摺り足は高く跳ばないという意味で役に立つよな、銃と刀は組み合わせ上手く出来るかな、とか剣道の稽古中にも考えていた…私には殺し合いの才能があるのかもしれない、とこの2ヶ月くらいよく思う。必要なもの、とても役立つものかも知れないが、そんな才能があるとしたら、なんだかなー…。

 



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100点?フン、中級者かー3

教室で椅子に座って机に向かう。授業中、しっかりと聞こうとは思っているが数学の授業だと意識がどうしてもずれていく。

 

ノートを見詰め消しゴムで書き間違いを消す…今90点だから後10点でスグルを復活させられる、でも其の後100点取れるのか。消し過ぎた文字と数字を書き直し、板書を進める。"より強い武器”を持っていても容易く死んだりする…先生の解説を何と無く聞きながら教室を見回す。室内だからコートを着ている生徒は居ない。

黒いスーツを着て体の線をはっきりと出した2人の女性を思い出す。ヤマダさん…キンナさんと湊さん。キンナさん胸あるよな…。クラスのカワイイ女子が視界にちらつき、脳裏にキョウ、滝田 恭、スグルの妹、も映る。

 

あまり身が入らないまま授業が終わり昼休みになる。食堂に行こう。話し掛けて来そうな同級生達を顔を伏せ、話し掛けるなオーラ全開で足早にやり過ごす。短い休み時間は勉強に没頭して殆ど返事をしていない。

バスケ部の準スタメンになった1年が急に辞めた事でいじられる事が怖い。同じ学年の家出少年についても同様だし、柔道部、剣道部に入っては直ぐ辞める自分が悪目立ちしている事は周りの話し声で解ってしまう。

 

秘密の闘争に参加しているからなんだ、生きる為なんだ…いや、殺すためだ…。今日は体育があるからスーツを持って来ておらず、手ぶらで歩く。不安だ…もう1ヶ月は過ぎてるし…居心地が悪い、早退したい、部屋に隠してあるスーツと刀と銃、見つかってないかな、透明化しても触ることは出来るしな、鍵付きの箱に入れてはあるが…腹がすいた。

 

そろそろ券売機の順番だ。

エントリー番号1、日替わり定食(唐揚げ)、2番餃子定食、3番焼き魚定食…ラーメンに炒飯も捨て難いな。カレー…はいいかな。よし、魚と餃子、後唐揚げも食べようかな。食べ過ぎか?喰い切れるか?

 

………。

 

空いている席見っけ。料理を置き、椅子を引いて座る。

「いただきます」

呟いた。魚の身を箸でほぐして口へ。パサパサしてる。プレートには皿が満載だからお茶は入れて来てないんだが…席を離れるのはなあ。ご飯の椀を左手で持ち上げ米を口にする。…期待はしていなかった。餃子を一個。…肉汁が溢れては来ない。まあ温かいが。ご飯を取る。飲み込んで、付け合わせのパセリを摘む。唐揚げ。肉汁が出て来る。思った通りの味だ。

 

「ー」

綺麗な声だ。誰か話し掛けて来た。

「ごめん、聞き取れなかった。何か御用で?」



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100点?フン、中級者かー4

 

 

巨大な海星がビルの壁から落ちてくる。100点クリアの男性が素早く反応し、私達の手前にそいつは叩きつけられる。

 

押し潰された海星の後ろからさらに大きい海星が続いて、私達に5本の腕で攻撃して来る。100点クリア者だけが重力銃を振り回して反撃していく。

 

私もスグルももう1人の誰かも100点を取って居ない人間は倒れ伏し、スーツからどろりとした液体が流れていく。怠さを感じながら刀を掴んでもがく。

 

クリア経験者は奮闘していたが、少し縮んだ最初の巨大海星が体液を流しながら起き上がって参戦して道路に叩きつけられ、立ち上がるもスーツは壊れ液体が彼の足元に溜まって行く。100点1回じゃ足りないのか。100点3回のミナトさんが居ればな、殺される彼を見ながらぼんやりと考える。

 

__私は?90点だ。いつの間にか立っていた私はこちらに向かう2体の海星に正対する。手の中の刀が大きくなっていく。スーツは限界を迎えていて、重くて持っていられない。

    刀身がアスファルトに食い込んでゆく。

スグルと私の体が潰されて行くのを潰れた目で直視し続ける。痛みが、無い。

 

海星の怪物が去って行く。ビルに跳び付き、登って行く.......

 

目が覚める。悪夢だった、のだろうか?窓から明りは入って来ていない。事実の方が悪夢染みていたような…途中から1人で戦うようになった恐怖、3体の海星のような化け物に4人掛かりでも殺し切れなかった焦燥、道路やビルの壁があっさりと壊れていく戦慄、どれも無かった。

枕元の時計を見る。

確かにクリア1回の男性はしぶとかったが、あの場にいた4人で生きているのは私だけだ。

 

そういえば、痛みをあんまり感じて無いな。剣道稽古の方が痛い。スーツの防御力は過信はしていないから、包帯や薬を持って行ったほうがいいのか?持って行ってる人、いなかったと思うが…。

ふわ~あ、今日も学校だ、二度寝、二度寝で合ってるのかな、とりあえずニドネをしよう。

 

 睡眠で体を回復させる意味合いは、今の私には薄いよな。黒球の転送毎に肉体は万全に戻るし。病気も治るのだろうか?

 運動を全力でやると、体が壊れるかもという言い訳が無くなったんだよなあ。故障すると、痛みや不便さもあるのは変わらないけど。

 

 …転送前後で記憶が変わっていないのだろうか?それなら、脳の損傷は転送後に持ち越されるのか?自分では確かめたくないけど、検証は周りを見てれば出来るだろうな。

 

 あの技術はなんなんだろう?

 

 殺し合いの意味は?

 

 

 

 …

 

 



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生き抜けば100点!!ー1

しょうしょう星人か。強い、ってどれくらいだ?全員が揃うのを待ちながら想像する。人間みたいな顔の下にムキムキな体が付いてるのか?少々、だと細マッチョなのか?

 

「行きましょうか。初めての2人は頑張って生き残って」

湊さんが言う。彼女はバージョンアップを果たしたバイクに乗って、浮かび上がる。私も含めて驚きの声が上がる。何かふらついてる…?すぐに透明化して見え無くなる。初参加の2人はまた驚いている。転送前にも透明化は見てるのに。

 

「2か所にまとまってるな。俺はミナトさんの向かってない方行くわ」

重力銃を持ち直しながらサクラバさんが声を上げる。

「私達はミナトを追うわ!」

「わかったよ。ラッキーも来るか?」

ヤマダさん達も声を出し、私も喋る。

「いやっ、点数稼ぎたいですから!」

返事をしながら走り出す。サクラバさんを追い越す。

「早い者勝ちでいいんですよね!」

「あっ、おい!」

 

刀の右手、X銃の左手が力まないよう意識する。地図を見ながら走っていく。低い建物の並ぶ区域を抜ける。サクラバさんが横に並んだ。かなり広い公園だな…もう近くに赤い光点がかたまっている筈だ。公園の中にいるのか。ん?赤い光点が1つ離れて青い光点2つに近付いてきて、止まった?顔を上げる。まだ距離はあるだろうけど…

ヒューッ

!飛来するナニカをギリギリ避ける。斜め前に転がる。

 

しょうしょう星人!?後ろに向き直って、目に前に倒れていくサクラバさんが映る。勢い良く前転するように転がっていく。しょうしょう星人はどこだ!?危険だとは思うが左手の地図を見る。青い光点から離れた位置に赤い光点____動いていない?__後ろか_振り向かないと_まずい避けれない__!?

 

体を左へ低く倒して連続して飛来する矢を2本とも避け切った。弓矢だ…。

 

右斜めへと進む。飛び道具か…切り返し、左斜め前へ、っ矢が来た、更に加速、すぐに右へ切り返し、一歩でまた左へ跳、矢っ、くそこれ以上反応出来るか?ぃよしっ、奥の木の間に人影、左手のX銃__ライフル型なら遠くから狙い易いらしいのに__の2つのトリガーを何度も引き絞る、人影が動き出す_矢_まだ来るのか?!

 

刀を伸ばすか__重くなる、斬れるのか__刀を平突き、刀身を寝かして人影に向けつつ中指を浮かす__力が入れ辛い__人影が斜めに跳んだ!

「馬鹿が!」

思わず嘲りが出た。右手を捻りながら__しっかり握る__左手の銃を手放し両手で斬り上げる。重いな!体のバランスが崩れかかる。大分近付いた人影が枝の上からこちらを狙っているが、直ぐに枝諸共2つに別れながら落ちる。木の上部も倒れていく。

 

転びそうだった…。刀を短くしながら立ち止まらずに疎らな林に入る。__見つけた。刀を伸ばしながらコンパクトに振り下ろす。地面ごと頭を割った。

 

周囲を身を低くして見回す。左手を持ち上げ地図を見る。薄闇に浮かぶ中央の1つの青い光点と画面の端の方に赤い光点がいくつか。倒した相手に再び縮めた刀を一応構えながら更に近付く。端が切れた弓と何本もの矢、2つに割れた頭の付いた胴体、手足が転がり、その下に広がる血も、スーツと刀の柄から発する青い光にぼんやりと浮かぶ。

 

人型…。和服らしいものを着ているな。死んでる。手応えが無かったから体は脆いな。断面からはみ出すモノを吐き気をこらえつつ見る。.......まるきり人間だな。大河ドラマのコスプレをしてるみたいだ。

 

呼吸を意識する。死体を踏み越える。赤い光点を目指して進む。

青い光が収まっている。集中してもう一度スーツの強化を強める。青い光が白い付属の丸い部品に灯る__目立つか?いや、また矢が来たらこの状態の方が避けられるだろう。

 

林から出る。遠くの丘、ポツンと聳える木の下に人影が幾つもある。ひらひらとした服を着てゆったりと動いている。近付くにつれ着飾った女性もいるのが見えて来た。…。X銃を拾って来るべきか…?

 



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生き抜けば100点!!ー2、3

生き抜けば100点!!ー2

 

怪我が全部治っている事に未だに信じられない思いがする。傷口があったところを何度も触る。痛みが無くなると、制限時間の殆どを地図を見詰めながら蹲っていた自分に嫌気が差してくる。赤い光点が近付いて来ていたら逃げ出していた…はあ。

 

やまだちゃん60点、動揺し過ぎ?

どういうこと?ヤマダさんも最初しか会わなかったしな…

 

あ、次私だ。140点。前のめり、まあ、はい…100点メニューへ、か。点数私が多くを取ったんだなあ。

周囲の反応が心苦しい…。

合計、230点、だよな。ふうー、よし。

「両方、より強力な武器を」

 

「…えっ」

誰かの驚きの声が幾つか重なる。首に力を入れて真っ直ぐ黒球だけを見る。

「今直ぐ出して貰えませんか…」

 

目線を落として隣の部屋へ向かう。入って扉を閉める。良かった、誰も話し掛けて来なかった。バイクと重力銃が徐々に転送されて来ている。このドーナッツはやっぱり扉を通らず持ち出せそうにないな…あれ、ミナトさんの空飛ぶバイクが無い、それに隅に見慣れない腰上程の高さの一本足の机に乗ったパソコンみたいなものがある。あれも兵器…?場所を取ってないからこの部屋の中で近未来的なバイクを動かすのはやりやすくなっているが…

 

ガチャ。

空気に粘性を感じる…振り向くと、ミナトさんが入って来ていた。

 

 

 

生き抜けば100点!!ー3

 

 

黒球に映る情報を見終わった頃を見計らって、柄の上、続いて下のトリガーを押し刀身を部屋の向かいの壁まで伸ばし、声を上げる。

 

「黒球の後ろのケースの中に私達と同じスーツがある。死にたくなければそれに着替えてくれ。…ヤマダさん達、後はお願いしますね」

 

 

返事、まあ文句もあるが、それらを聞き流しつつ刀を縮め、肩掛けバッグを持った左手で扉を開け、ミナトさんの後を追って追加兵器の部屋に入る。?私の武器は?バイクが無い。あ、重力銃もない。えー_

 

 

「そこ。もう1つ端末がある。それで持って行く兵器を選択出来るみたい」

 

端末?ああ、あれか。

 

こちらに背を向けるミナトさんの隣に刀を右太腿で留めつつ並ぶ。

 

 

「どうも。.....あの、黒球の表示って良く分からないですよね。点数とか、数とか大きさとか」

 

「…そうね」

 

 

凄いな、画面に直接触って操作するのか。重力銃の図を触ると図が光り、図が移動して右に重力銃のアイコンが浮かび、ミナトさんの方は輪っかを触ると重力銃のアイコンの下の光るドーナツ型バイクのアイコンに合体して飛行バイクに変わる。ミナトさんがそのアイコンを触る。え?アイコンが分離して、暗い輪っかのアイコンが明るいドーナツ型バイクのアイコンの下に出た。

 

「こうやって持って行かない選択も出来るみたいね」

 

ミナトさんが此方に微笑みかけてくる。

 

目線が泳ぐ。彼女の顔に戻し、質問する。

 

「持って行かないんですか?」

 

「まさか」

 

ミナトさんは微笑みながら画面に向き直り、彼女が暗いアイコンをほっそりした人差し指で触れると、アイコンが光って上に移動し飛行バイクのアイコンに変わる。

 

「そろそろ始まるね」

 

彼女が呟き、私はハッと画面に向き直って__画面上部に下手糞な字でラッキーとある__切り替わっていたドーナツバイクの図を押す。

 



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生き残れば100点

どーなつみたいなバイク型武器の座席部分に肩掛けバッグを掛ける。肩紐の長さを短くする。重力銃を拾い上げてバッグに入れて、座席に座る。正面の一番大きい画面に触れてみる。お、起動した。バイクは免許がまだ取れないから練習不足だよなあ。こんなバイクはないだろうけど。部屋から持ち出せれば1ヶ月、いや期末テストがあったから2週間くらいは練習出来たのにな。

 

低音が響き、飛行バイクが近くに寄って来る。ヤマダさんをはじめ何人かまだ残ってるのか?ミナトさんも私を待っていた?地図だと赤い光点は1箇所、拡大してもたった1つしかないのに?

 

「一緒に行きましょう?今回はたぶんかなり強いと思うわ」

なるほど。あの海星の化物みたいな感じか。単独の敵が強かった事が何回もあったのだろうか。黒球にも強いという表示があったな。

 

「前の海星みたいなヤツとどっちが強いですかね?」

「…?ああ…さあね、どうかな」

「そろそろ行きませんか?先に行った人達もいますし」

ヤマダさん、心配しているのか?…着いて行ってないから違うか。

 

地図のボタンを押し、ミナトさんに合わせて透明化する。見えるようになった飛行バイクは道の上に滞空してしている。 ヤマダさん達の身体の周囲にも電流の様な物が音を立てて走る。見覚えの無い人達も居るな。

バイクの握り手を回し発進する。右手を軽く引くと傾かずに滑らかに右に曲がって行く。

 

「結構楽しいなこれ」

独り言が漏れてしまった。

「なんだー!?」

走りながらヤマダさん、青年の方が反応する。

「のぞき星人の方はどうなっています!?」

バイクを操作しながら聞く。のぞき星人仕留めた後部屋に戻される前に他の画面の機能とか試したいな。…残って性能を確かめてからの方が安全__

 

「うおっ!」「やばいどんどんやられてる!」「まずっ」「うえっ消えてってる!」

悲鳴と特殊な銃声と破壊音が微かに連続して聞こえる。

 

「近い!その向こう!」

分かっているよ。あれ、普通の人がいる__

 

不自然に人の少ない駅前の開けた場所が見える。地面に転がる人達、破壊された道路や壁、倒れた自転車__敵は?

 

何処だ、表現の違う声が幾つもずれながら重なる。

 

バイクを止める。座席の下のバッグから銃を引き抜き、構えながら地図を見る__視界の上端辺りでミナトさんが透明化、もう消えてるのに!?透明化に段階でも__そうか、透明化を変化させれば敵が見えるかも__青い光点の塊に近付く赤い光点__

 

「慣れてない人は透明化をいじるのは止めて!一般人に見られるようになると死ぬわ!」

ヤマダさん!?ならどうすれば__

 

「撃ちまくれ!」

っそうか!トリガーを引いていく。奇妙な音と破壊音が木霊し始める。

 

地図上ではもう赤と青が殆ど重な__冷たい感触が左手を通り胸へ__バイクから後ろに跳ぶ__左手前腕に激痛__浮遊感、バイクにぶつかる__

 

衝撃で覚醒する。地面に叩きつけられたの__痛い痛い痛い!!腕の途中から赤い筋の絡まった骨が飛び出ている__は?

 

___痛みを無視しろ_イタイイタイイタ__立って武器を構えるんだ__私のバイクが傍に倒れている__銃声と破壊音は続いてる、地図を見ながら走る数人がいる__右手で柄を太腿から外し刀身を伸ばす。

 

くそがっ、触りたくない__柄ごと右手で左手から__ぐううぅぅぃぃー__動き回る青い光点が複数、動かない青い光点のすぐ横に赤__刀身を伸ばしつつ横薙ぎ、体ごと回転__軽い手応え。

 

飛びずさりながら叫ぶ__

「当たったっ!」

地図では私の進む方向の左近くに敵、なら右だ!何度も右手を振るう__着地。激痛が思い出したように__反対側で3人銃を構えて__右に横っ飛び__空中で地図を見る、止まっている青に赤が__顔を上げる__端の2人が頽れ後ろに血塗れの背骨__着地。

 

あそこにいる!__駆け出し__残りの1人も飛びのいた後向き直って撃っている__宙に浮かぶ2本の骨が地面に押し潰される__円形に出来上がった窪みの前で急停止、尻餅をつく__右手も使って後ろへ__空間が押し潰す音が連続してゆく。

 

終わりか__?ミナトさんいいとこどり、いいや囮にされていたのか__?

 

「腕、大丈夫?止血手伝おうか?」

ヤマダさん、有り難い__あれ、何か変だ…

 

ミナトさんはまだ撃ち続けている。

 

「一定の距離を取って!一気にやられるかも!」

 

重力銃の音と被って妙な音が聴こえる__伸びたコードの先の地図を掴み柄ごと顔に寄せる__敵の声か、耳鳴りか__赤が1つ、輝いて__赤い光点が移動しつつ点滅している?短距離の瞬間移動でもしているのか?

 

__轟音が響く。顔を動かすと正面奥のビルの壁に穴が開いている__連続する小さい音がクリアに聴こえる。少し鈍い音、ミナトさんが左の方に現れ、倒れる。__彼女が飛んで来た方に敵はいるはず、刀を握って、あれ?

 

膝をつく。激痛が薄らいでる__力が入り難い、刀を落とさない様にしないと__視界がチカチカする。全身に力をいれる__ミナトさんが膝立ちで重力銃を正面の宙に浮かぶ小さな肉塊1つに向けている、地上階の明りに照らされた眉を顰めた彼女の紙みたいな横顔が綺麗だ__ピンク色の肉塊が地面に落ちていく、そして彼女も不自然な挙動で地面に体の前面から突っ込み__後ろに居るのか!集中だ__私のスーツの強化が高まる。私は前に動き出す。

 

彼女の体からナニカが引き抜かれる__彼女の体が痙攣する__更に1つ__全身を使って宙に浮かぶ深紅の塊2つの間を斬り裂く。重い風切り音__上か__刀を持ち上げる__衝撃に耐え切れず地面にくずれ_.......

 

「うつった!?あてられる!!」

 

女性の声で目が覚__痛い。右手を付いて上体を起こす。耳鳴りもするし目も霞むが、特徴的なぎよーん、という銃声と肉の破裂音、そして直ぐ近くでうつ伏せのミナトさんは判る。振り向くと、胸の出た人影が1つライフルみたいな銃を虚空に撃ち、その虚空から何か飛び散っていっている。いけそうだな…顔を戻す。私の右手の傍に柄、ミナトさんの両手の前に重力銃が転がっている__ミナトさんの背中の中央と尻の上に穴が空いて糸が数本出て、それと丸い袋が載っている。

 

血はもう流れていない様だし、何より内臓が抜き取られているらしい。息を引き取ってるな。__銃声が止む。振り返るのも億劫だ…左手の血塗れの地図に目を凝らす、赤い輝点は、無い、よな。息を吸い、両足と右手でミナトさんの所まで体を運び、覆い被さる。右手が彼女の銃に当たる。目を__死んでいても私ごと転送されれば、纏めて損傷が修復されるのではないか、死者達を簡単に生き返らせれたのにと悔やむべきか、試せる__閉じる..........................................

 

うん?立っている、のか。目を開ける。右手に重み。ミナトさんの体は、無い。あーあ、まあうん、当然か.......。他の生き残りは、2人?あ、もう1人現れ始めた。

「おお、生きてる…!」

「よかったわねっ!」

「まったくだ。ラッキー、お前死んだと思ってたぜ」

「ちょっとー、攻撃当ててたの彼くらいよ。多分。ね、手応えあったでしょ?」

「ええ…でも、倒したのヤマダさんですよね、助かりました。死ぬところでした、ありがとうござい__」

 

短く音楽が流れる。

 

「もう、キンナでいいわよ、前に言ったでしょ?」

「ありがとうございました、キンナさん」

凄く魅力的な女性だな…

「どういたしましてっ」

「あ、俺も、ありがとうございましたっ」

「おい採点始まってるぞ」

「戦闘狂だって、ラッキー?」

「…はあ?」

何だと?

 

やまだくん、0点、きょろきょろしすぎ、計55点。

そう、0点、しんだふりうまい、計37点。

次か。

「いや違うっすよ!」

うるさいな。

やまだちゃん、90点ー

「ごめん、1番、あたしを自由にして」



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一夜漬けの友/バフくれ__未実装です/劇物の携行及び任意の使用を許可する
一夜漬けの友ー1


 

ヤマダさんに目を向ける。

「そうするかな、とは思ってた…」

 

…常識的に考えて可笑しな選択では、無い。__点数勿体無いな。

「そうなんですね」

ヤマダさんも、そうするつもりなのか…?20人居た部屋はもう私とヤマダさん、後はソウしか居ない。右手のミナトさんのズシリとした重力銃に目を落とす。次回クリア出来るのだろうか。やっぱ、キンナさんの選択は正しいな。

 

そうだ。

「荷物持って無かったですよね」

「.....ああ、キンナのね。そーいやそうだな、持ってってやろうかな」

「ヤマダさん、苗字同じすね。もしか__」

 

幾つかある荷物を見る__また重力銃の入るバッグ探さなきゃな、同じのまだ売ってるか、そうだバイクと一緒に向こうの部屋に来てないかな__ミナトさんのカバンがある__スグルの服も死亡した他の味方のもまだあるが、キンナさんのは、見当たらないな。

 

「ヤマダさん、ヤマダさんの荷物、分かりますか」

「…俺は名前で呼べよ。で、荷物は無いな。一緒に転送されたのか」

聞いた事あったか?

「先輩と呼びますね」

海星の時聞いた様な気がするが…。

「俺も先輩って呼んでいいすか?」

「…ああ、いいよ」

 

「それで、荷物は彼女と一緒に転送されたんですね」

条件を検証したいな。

「だな」「みたいっすね」

「ヤマダさん、いえ先輩、何処まで記憶が消されているのか、連絡を取って調べてくれませんか」

「うーん、まあ了解。携帯持ってるか?」

「俺ありますよ」

私はない、が、情報をあんまり知られたくない。

「…死んで回収出来ないかも知れないし、貴重品は持ってません」

考えてみたらこの人達とこの事態の最中か日常で戦う可能性もある。兵器は悪用出来る、黒球のルールに何処まで許されるのだろう.....

「あ、たしかに!」

 

「.....死ぬとか考えてたのか?」

訝しげに聞く事か?

「ソウは気になるなら持って次から持って来ない様にしたら?それとソウと呼んでいいか?先輩の方は、私が解放される事を選ばなかったから意外だと思うんですか?」

「いいっすよ。先輩、ふつう死ぬかもとは思うんじゃないすか?続けてたら」

「うん、ソウの言うとおりだし俺も死ぬかもとは思ってるけど…ラッキー、2番を選んだろ。楽しんでるのかな、と」

そういう側面もあるかも知れない…。

「友達を生き返らせてもすぐ2人とも死ぬかも知れないでしょう。だから、どんどん強力な兵器を得ていって、バリアとか安心出来る防御が得られてから友達を生き返らせるつもりです」

どれだけかかるか分からないが…その後解放を選ぶ、かなあ。…怪物が用意されたモノではなくて普段から日常に潜んでいるとしたら…妙な兵器とか、気になる事が多いよな、少なくともこういう記憶は消されるのだろうし…

 

「え、バリアとかあるんですか?」

バイクからは出ないな。この後も試してから帰るつもりだが。この部屋、少なくとも追加兵器の部屋はどうも破壊できないみたいだしな…。

「今の所出て来てないな。でもありそうじゃないか、先輩もそう思いませんか」

「ああ、たしかにあるかもな、俺も見た事ないけど」

 

そろそろ雑談を切り上げたいな。

「あの、私はバイクの機能を試してから帰るので、2人は先に帰ってて下さい」

言葉を交わしつつ追加武器の部屋の扉に向かい、それを開ける。足の付いた端末が1つしか無い。ミナトさんのは消えたのか。彼女の重力銃を持ち直しつつ振り返り、黒球に声を掛けてみる。

「私のより強力な兵器を出してくれませんか」

 

転がる柄や、三角銃__拘束用ってミナトさんに聞いたな__を避けながら光る画面に近付く。重力銃とバイクの図に順番に触れる。振り返ると、それらが転送されて来ている。バイクの座席にはバッグも付いていた。よかった…ミナトさんの重力銃をあれに入れて持って帰ろう。置いて帰ったら回収されそうだ。

 



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一夜漬けの友ー2、3/バフくれ__未実装ですー1

 

一夜漬けの友ー2

 

目の前のノブを回そうとしてみる。鍵が掛かっている。

 

「ま、そうだよな」

 

 

引き返しながら考える。誰が締めたのか。黒球の中の奴が出てきてたりして。空いてたらミナトさんの荷物置いて来たかったし、バイクの練習も出来たのに。

 

父さんは入って来ないであろうが、母さんは掃除はこれから自分でするとは伝えたものの部屋に入りそうだし姉さんもハルも普通に来るだろうから、部屋に女性物の服は置いて置きたく無かったが…流石にスグルの服は在ったら不自然過ぎるから持ち帰った事は無いのに…彼女を作りたい、勢いで可愛い同級生か先輩、まだ見ぬ後輩何人かに告白してみるか?

 

 

1度家に帰って兵器一式を持ってまた山に練習しに行くか?怠いな…。それともこのまま次回の殺し合い用に顔を隠す目出し帽でも買いに行くか?何処で売ってるんだ?家族にも道場の方でも聞くのは怪しいよな…。

 

2年次の始業式までまだ日はある。今日はもう帰ってだらけようっと。

 

 

 

一夜漬けの友ー3

 

ゾク、首筋に寒気が走る。勉強を切り上げられる!明日の小テストなどもう心配してる場合じゃ無いよな。__栄養ドリンクを持って行けば気休めだろうがより集中出来るのでは?今回は無理か。

 

 

扉を閉めて、2つの箱を引っ張り出し、鍵を開ける。中からマスクとスーツを取り出し、着替える。ゴーグルは__不審にならない様スキー用品店でマスクと一緒に買ったが、矢張り無い方がいいかもしれない。__栄養ドリンクって飲んだ事が無いな、どれくらい目が醒める物なのだろうか__

 

 

ノックが聴こえ、鍵がある自室に安堵する。

 

「お風呂空いたわー」

 

姉さん、出たよの間違いだろう、いつもながら長風呂だな。 …なんて答えようかな。というかまだ其処に居るのか?

 

「もう寝るよ!」

 

着替えを続けながら声を張り上げる。窓の鍵開けとかないと…泥棒は気になるが今まで入られ無かったし此処3階だし窓を閉じてカーテンをシッカリ引けば大丈夫の筈だ…。

 

 

 

バフくれ__未実装ですー1

 

全員が揃うのを確認して__4人、私を入れても5人しか居ないが__声を出す。

 

「黒球のルールを破らない様に気を付けろ!ヤマダさん、ソウ、私は取り敢えず先に行ってるので。敵が凄く強かったら合流して戦いましょう」

 

「一緒に戦いましょうよお」

 

「基本は早い者勝ちだ、そして私は点が大量に欲しい。...味方間の妨害は無し、強い敵には協力、これぐらいの決まりを作るだけで精一杯だろう」

 

いつ死ぬか判らないし、私達は軍人でも無い、連携の練習もしていないし。

 

 

地図にも目を遣りながらバイクを走らせる。飛行バイクなら道路を進まずに良いからもっと加速出来るのにな…。

 



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バフくれ__未実装です

地図にも目を遣りながらバイクを走らせる。飛行バイクなら道路を進まずに良いからもっと加速出来るのにな…。

 

 

重力銃をバッグから引っ張り出す。……アレか。バイクの速度を落としつつ奇妙なオブジェに左手で銃を向け、肩と首を捻り銃の左側から突き出ている小さい画面にそれが映る様にする。トリガー2つを絞り、画面に映り続ける様1秒程左手を動かす。__あっさり潰れたな。バイクの体当たりも試そう。右手を前に捻りながらバイクを残りのぶあいそ星人に向けて突っ込む。__軽い衝撃。バイクを旋回させてもう1度__右手を持ち直して更に捻る。__また衝撃。こっちの方が楽だな。バイクを操作しながら思考を巡らす。敵に因っては危険だろう__ライフル型やバツ銃なら空間を巻き込む重力銃より組み合わせ易いな、持って来て無いが__バッグをもう1つ座席に引っ掛けるべきだろうか__目の前に集中しないと。

 

 

バイクで緩く旋回する___旋回で合ってるのか?重力銃ごと左手を少し寄せ、腕に付いた地図を見遣る。赤い光点が幾つか____屋内に有るらしいな、バイクからはー…後回しにしよう。他の輝点の塊、青い光点が居ない所が有るかな…。2箇所で2種類の光点が入り混じって、赤だけが消えて行く。もう1箇所の赤光点は…どうも此処に近付居て来てるのか?

 

バイクを止め、左手を上げて眼前の邸宅に重力銃を向ける。何度も引き金を引く。グシャグシャに崩壊してゆく、中で動きが幾つか有るが…重力銃の攻撃で巻き込める…

 

 

そろそろ更地みたいに成ったが…まだ居るみたいだな。銃を撃ち続ける。

 

 

…結局何軒か更地に変えてしまった…もしかしてぶあいそ星人が住む家だったりしたのだろうか。中に人間が居ないと良いが……一応この最中に他の人間を巻き込んでも黒球からペナルティーは無いらしいが…そろそろ敵が視界に入りそうだな、間に合って良かった。うーん地図の表示を信じ過ぎるのもマズイ、が。

 

 

____来た。向けている重力銃の向きを調整して照準画面に映るようにしつつ2つのトリガーを引き絞る。大きい人型みたいな____よく見えないな____ぶあいそ星人が空中から家の中に急速に引き摺り下ろされて行く。

 

バイクはまだ起動してるな、まだ生きているのかな、轢いたぶあいそ星人よりも少し大きかった様な…。重力銃を動かし、画面に生物のレントゲン図の様なものが映らないか見ていく。銃の変則的なスコープ____調べた銃のパーツの名前を使うのはちょっと気分が良いな____から腕の地図に眼をずらす。青い点が1つ、僅かに動いているだけ。

 

他の場所はどうかなっと。まだ敵は残っているな。近くには青も4つ、誰もやられてないのか、敵が残っているうちに、急がないと。  

 



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バフくれ__未実装です

転送が始まったな。犠牲も無く殺し切れた、と。参加している人の強さで敵の強さも調整されているのかな、さっきも戦いながら思ったけど。

 

青い一瞬の光、視界が切り替わる。ミナトさんの重力銃はまだちゃんと持ってる、バイクは隣の部屋の端末だか黒球だかに回収されてるな、後でバッグを外しとかないと。

 

 

全員が出現。1、2フレーズの音楽を黒球が流す。結構倒したが、100点に届いただろうか?

 

 

びーの、とりがーはっぴー、0点、だって?そこの女性何してたんだ?思わず1歩離れる。

 

「え、何匹もやっつけましたよねあたし!?」

 

姉さんより怖いな。明るい感じが特に。

 

「いやまあ、トドメさした人にしか点数入んないんだよ」「ドンマイ!」

 

ヤマダさんとソウはそこまで説明してなかったのか?

 

 

ぐんた、7点、後93点、ね。普通に闘かったのかな。初回がこれとは運がいいおじさんめ。ビーノの方は撃ちまくっていた様なのに0点だしな…

 

 

やまだくん、28点、計83点、後17点。あ、そうだちょっと聞いてみよう。

 

「ぐんたさんと先輩、何体殺しました?」

 

「…おまえさ、来た時も思ったけどその覆面なんだよ、こえーよ」

 

用心してるだけだ。

 

「あ、俺もいつ聞こうかとおもったっす」

 

「気にするな。新しい2人も気にしないでくれ」

 

「いや無理だろ」

 

五月蠅い解ってる!

 

 

ソウ、28点、計65点、後35点。

 

「次出てますよ!」

 

「逆ギレすんなよラッキー」

 

黙れヤマダ。

 

「「ラッキー?」」

 

「そいつの、まああだ名だ」

 

「ていうか俺も結構やるでしょ?反応ナシ?」

 

あ、私はー、77点、計107点、100点メニューへ、か。

 

「更に強い兵器を。今直ぐ隣の部屋に出して下さい」

 

 

「すご…え、強いへいきってなに?」

 

「100点を取ったら得られる強ブキのこと。ほら、あれとか。最初から使えるのは初期装備ってところか」

 

扉に向かいながら左手の重力銃を掲げ、ビーノとグンタに見えるようにする。右手でドアを開く。

 

「他にはここからの記憶を消されての解放か死んでった味方の復活も可能、でしたよね先輩?」

 

おっとヤマダさんに話があるんだった。立ち止まり、振り返る。

 

「今回は誰もやられなかったけどな」

 

「うわ、こんなこと繰り返さなきゃなんだ…」

 

「あなた方は繰り返している訳ですね?」

 

会話に割り込みながら別の事を考える。

 

「ヤマダさ、先輩、の言葉で分かったかもしれないが今回は敵が弱かった。覚悟はしといた方がいいと思う。それで先輩、記憶の消される範囲、帰る前に詳しく話してくれますか?」

 

スーツを灯りが付いて筋が励起する状態に持っていかなくても余裕だったな…強化を強めるのには集中力がいるし、それにどうもスーツは反応速度までは上げてくれて無いっぽいよなー。

 



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バフくれ__未実装です/劇物の携帯及び任意の使用を許可する

バフくれ__未実装です

 

「ヤマダ キンナさん、一応お久しぶりです。記憶を喪失している期間があると先輩にお聞きしたのですが、私を覚えておられます?」

 

覚えてはいないだろうが。

 

「ごめんなさい、覚えてないです…」

 

彼女に何か云おうとする先輩の言葉に被せ声を張る。

 

「いえっ!そんなにお気になさらずに!あのう、良ければ知り合ってからのお話を3人でさせて頂きたいのですが。思い出せる事もあるかもしれませんし、いえ勿論辛い事もあったかも知れませんが…」

 

仕事をクビになって時間はあることは知っている。先輩の仲介で知り合いだとは信じたろうし__

 

 

「是非、お願いします!あの、それで、お名前は…?」

 

「失礼しました、雷木 太二、中学2年生です。年下ですし砕けた話し方でお願いします、私も前みたいに話したいですし…」

 

顔を伏せる。

 

「ああ、わかり、わかったわ!奢るからカフェにでもはいりましょ!あ、いえお家の方は大丈夫かしら」

 

「学校の帰りに友人と遊んで来ますって言ってあります。有り難うございます、話してくれて嬉しいです」

 

彼女に笑いかける。彼女が歩き出し、こっそりと先輩にウインクする。私結構大人とも話せるでしょう?

 

 

劇物の携行及び任意の使用を許可するー1

 

キンナさんの赤味がかった驚いた顔を思い出してしまう。

 

 

「~~~っつ!」

 

刀を振り回す。木々には碌に刃が入って行かないが、スーツの強化で無理やり折れはする。

 

息を吐く。山の中の練習はストレス解消にも役立つな…いや、兵器の確認、習熟が全く進んでないな。

 

 

リュックサックと重力銃を拾いに歩いて行く。もう切り上げよう、まだ明るいけど。さっさと山道まで戻って、降りて自転車を拾って帰ろう。

 

 

あー、なんで私はキンナさんに告白しちゃったんだ?胸が日野さんより大きく見えたから?いいや、学校で2人に告白して、2人目の日野さんがカノジョになってくれたから、調子に乗ってしまってたんだ!先輩の反応が見れなかった、次の殺し合いは針の筵だ、いやそれより前に日野さんに会うぞ、いやキンナさんとまた会う約束もあるんだけど…!

 

 

細い川に突っ込み、石を踏み砕く。あーっもう!

 

う~そろそろ着替えて透明化解かないとな。重力銃をバッグにしまってと.......ミナトさんに大好きですとか言ったらどんな反応したかな__

 

 

 

劇物の携行及び任意の使用を許可するー2

 

出来る限り真摯に__

 

「ヒノさん、謝らなければならない事が有るんだ、貴方に告白する少し前に別の人に告白していた、振ってくれても良いが、今度時間をくれませんか、楽しませられるように頑張るから…」

 

あーあ言っちゃったよ。彼女の足から胸、顔に目線を戻す。

 

「わかりました。いいですよ」

 

笑っている...?優しい女の子だな、気弱だと思っていたが。

 

 

.......キンナさんに好きだと言ってしまった事、また会う事を思い罪悪感に駆られるが、休み時間が終わる前に日野さんと話しつつ教室に向かう。

 

 

孤立してしまっていたが2年になって大分周りと話せる様になった事を同級生に冷やかされながらも実感して、少し嬉しい。先生が話し出す、授業が始まる__スグルはまだ居ない、というか死んだまま__妹のキョウさんは今小5か…。日野さんの背を見る、彼女とのデート、1回だけだとしても楽しませられるといいな、前の戦いからまだ半月足らずしか経って無いし、中間テストもまだ先だから、日野さんに目一杯気を配ろう…

 



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劇物の携行及び任意の使用を許可するー3

 

 

姉さんとハルと話しながら考える。病院には麻薬とか危険な薬も置いてあるよな…

 

「兄さん?おい聞いてる?」

 

しまった。

 

口に料理を突っ込む。ハルを見て頷く。

 

「姑息ぅ~」

 

笑うな姉さん。咀嚼して、口を開く。

 

「夕食をシッカリ食べるのは悪いことじゃない」

 

「それだよ!兄さんの分俺が作るハメになってんだよ!?」

 

美味い。

 

「姉さんも上手なんだ、そっちに頼め」

 

「兄さんだって食べれない程じゃないでしょ、最近サボり過ぎだよっ」

 

殺し合いの為だ、しょうがないだろう。

 

「学年も上がって忙しいんだ、悪いな」

 

「そうかもしれないけどさ、俺だって同じじゃん」

 

「太二ー、部活辞めたでしょー」

 

気付かれてたか。

 

「は、ほんとか?」

 

「剣道を再開したのは知ってるだろ。ハルもやるなら私も料理する事を考慮する」

 

しないけどな。どうせハルは剣道など真っ平だろうし。

 

「わかって言ってんだろ」

 

「中学に上がったら武道は必修よ、ハル」

 

「わかっ__」

 

「姉さんも剣道だったっけ」

 

「ええ」

 

「あーっ、俺は武道やらない中学受けてやる!」

 

 

てきとーに会話を続け__よし、姉さんも初めてカノジョが出来た事には気付いてないな、直ぐ振られるかもしれないが__食事も楽しみつつ、より重要な事に意識を戻す。

 

キンナさんは病院勤めのナースだったらしいから薬品の効果や場所には詳しいだろう、次回の黒球の拉致までまだ時間はあるが、痛み止めや血止め、特に意識を加速させる様な薬は早めに手に入れておきたい、キンナさんともっと仲良くならないとな。彼女からすれば突然クビになった様で強く不満を感じている筈__定期的な黒球に連れ去られて戦わされていたのだから同情の余地はあってもクビは当然だろうが__で病院の情報を漏らしてもおかしくはない。私も将来定職に就けないかもな__日野さんとのデートはどうしようか?__黒球は何処まで兵器の転用を許すのだろう?スーツの透明化無しで病院から薬を持ち出すのはかなり難しそうだし…。

 

 

「ごちそうさま」

 

席を立つ。勉強するか…先に歯を磨こうかな、一番風呂は姉さんだし…

 

「明日の朝食作ってくれよお」

 

「悪いな、学校が楽しみで早くに行くんだ」

 

「じゃあ兄さんの分は作らないぞ」

 

「…いいけど、分量なんて精確に量って作れないだろ。無理して少なく作り過ぎるなよ?」

 

「作るのは私だけど?ハルが作ってくれるの?」

 

「ぐっ、いや…」

 

「姉さんなら分量ピッタリでできるのか?」

 

「べつに父さんも母さんも食べるかもしれないし、多めに作るわよ」

 

「そこまでしなくていいと思うけどなー」

 

 



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勉強すれば/lv./演習,勲章が増える//再テストなら/周回プレイ/連続しては望ましくない、よく眠れ
勉強すれば点数が上がる…カモ


勉強すれば点数が上がる…カモ-1

 

師範代の打ち込み__剣を持った男のしょうしょう星人が重なり斬られた感触がする__ぐっ!

 

 

「ぼんやりするな!」

 

「っはい!もう一本お願いしますっ!」

 

 

また立ち合い..............突き、中学生相手にかよ___のぞき星人程の寒気も圧迫感もない、矢程の速さもない、優位に立ち回れる筈だ.............

 

 

.............

 

 

広間から出てシャワー室に向かう。大分暖かくなってきているよな.............

 

 

.............

 

 

「おつかれ~」

 

「おう」

 

「またなー」

 

「おつかれ」

 

「じゃあね」

 

 

よし帰るか。明日は日野さんを家に連れてくのだ、早く寝よう。姉さん達に言うべきか、まだ決められない…。親には言って、携帯電話買ってくれとゆおう。

 

 

 

勉強すれば点数が上がる…カモ-2

 

 

『F橋の修復が終わる前に桜の見頃は終わり、近隣住民の嘆きの声が上がっています。町の人達の反応です。「いやあ残念でしたね。この辺でいろいろ壊れて道がふさがったりして、まだ不便ですよ~」「一晩で台風でも通ったみたいでねー。ぐっすり眠ってたん__」』

 

その風景、公園ってしょうしょう星人の時の場所、か?明るいから違って見えているのかもしれないが…F橋、か、後で場所を調べよう。前回の駅は何処だったのかな、駅名を見る余裕無かったしなー、海星の時みたいにその内ニュースになるか。

 

 

「ほら、できたよ」

 

焼き上がったか。

 

「今行く!」

 

 

 

「姉さん、手伝ってくれて有り難う」

 

「クッキーなんかでいいの?ケーキとか何種類かできるのに」

 

「自分で作れるやつの方がいいと思ったんだよ」

 

 

茶化す姉さんの声を努めて無視して声を被せる。

 

「駅まで迎えに行って来るよ。鍵は持って行くから、出掛けててもいいから!」

 

彼女と2人きりだと警戒させてしまうかもだが。

 

 

 

勉強すれば点数が上がる…カモ-3

 

 

階段を上がり自室に向かう。

 

廊下を進み、開いた入口を通り、少しかがんで棚の側の剣道袋に手を掛け、木刀を引き抜く。棚に目を遣る。本来なら中の箱の鍵を開けて、伸びる刀をスーツの強化込みで振った方が実践的だが__いや重力銃の照準を狙い通りに合わせる練習の方が実践的か。

 

 

階段を降り、リビングに行って日野さんに声を掛ける。

 

「お待たせ。小さいけど庭があるんだ、付いてきて」

 

「わかっていたけど改めて豪邸ね…」

 

そうかもな。…上手い返しが思いつかない、てきとうに笑っとこう…。

 

 

靴を履き、扉を日野さんが通るまで保持する。会話しながら、庭に出る。

 

「じゃあ、見せるね」

 

どれくらい真剣か、を。

 

 

木刀を構える。しょうしょう星人との丘の周りでの乱戦を思い出しながら、動き出す。あの夜、直剣を持った男性型との、始めは1対1で斬り合い、何とか倒せた。だが2人掛かりで来られると強化が高まっていても私も斬られ、スーツの防御もまともに働いていなかった。まともに戦えなかった女性型を巻き込む様にしないと、最初に殺したヤツと同じ弓を遣う男性型に殺されていた__それでも右肩の筋を射貫かれた。女性型だって男性型と同じく地面から浮く様な動きをして刀を伸ばしては当てられず、隙を作って何度も浅く体を斬られた__

 

 

荒い息を整える。日野さんを一瞥すると、固まってしまっている。

 

 

木刀を振り上げつつ声を掛ける__切り返しでもしよう。前後にステップを踏みながら木刀を上げ下げする。

 

「かなり武道に打ち込んでいると信じた?高校入試からの逃避とかじゃない…」

 

そう、殺し合いに備えて兵器の習熟をしているのだ__あれ、なんだか日野さんを脅してるみたいな__

 

「…ほんき度は伝わってきたよ」

 

「ああ、別に人に、というか日野さんに暴力を振るうつもりはないから!」

 

怖がらせるつもりじゃない__

 

「もう、そんな心配はしてないってば!雷木クン、紳士的だし!」

 

明るく笑ってくれると、見惚れそうだ.......

 

 



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やりこんでlv.を上げる

 

目出し帽をベッドに腰掛けたまま右手で調整する。!転送だ、前回の味方はまだ来ていないみたいだな、黒球が鎮座する部屋を見回しつつ未だ此方に来ていない左手の重力銃の感触を確かめる。

 

意識を部屋の中に戻す。

 

「また出て来たぞっ」

 

「なにあれ…?」

 

「おひさ~」

 

ん?あれって…

 

「ビーノ、だったっけ?スーツは?」

 

呼び出しの前兆は伝えたよな?…死にたいのか?

 

「いやあ、そのお、忘れちゃいましてえ、予備とかあるかな~ってぇ」

 

「…持って帰ったなら、ここには無いと思うが、1人1着だと思うし…」

 

かなり拙いんじゃないかないか?黒球が用意してくれるか…?

 

「ねえ、あなた達これどういうことなのか知ってるなら説明してくれません?」

 

「はあー…全員揃ったらやる事を簡単に話す…あの、クロダマ、さん?ビーノの分のスーツを出してもらえたりしませんか?」

 

予備のスーツが欲しいと思っても出してはくれない様だったが、今回のケースはどうだ?

 

「え、どうしたんっすかラッキーさん」

 

お、ソウか。

 

「ビーノが忘れ物した」

 

「はい?あ、スーツ忘れたの!?マジヤバくね!?」

 

「よ、予備の分出してくれるっしょ?」

 

「黒球が開いて無かったら諦めるしかないんじゃないか?」

 

…生存も。まあ生き残れないと決まった訳じゃないが。

 

「えーっあれないと全然動けないし__」

 

黒球がワンフレーズ曲を流す。

 

 

もう見慣れた表示が出るが特に読まず、ヤマダ先輩を探す__いた。

 

「先輩、こんばんは。声掛けて下さいよ」

 

「よう、いや、騒いでたからさ」

 

まだ騒いでるが。

 

「スーツ忘れたみたいで__」

 

「おい、これどういうことだよ、説明してくれよ!」

 

面倒だな、毎度。右手で柄を引き抜き刀身を伸ばして5度素早く振るう。

 

「直ぐに怪物と強制的に戦わされる!武器は持たなくても良いが、そこの黒球の後ろのケースにそれぞれの服が入っている!それは着てもらう!」

 

どんなやり方が効果的か、考えるのは楽しいが実際にやるのは未だに気恥ずかしいな…

 

罵声などを無視して__だよな、やっぱり__ヤマダさんにゆう。

 

「後はお願いしますね、ケンタさんも説明よろしく!」

 

名前合ってるっけ?スーツを着ていない掴みかかって来た1人を避け、右側の追加兵器の部屋に入る。

 

 

端末を操作する。重力銃はいらないが飛行バイクはちゃんと選択して、と。ドアが開く音がする。まだ文句でも言いに来たのかよ、いい大人が__

 

「あ、あのお」

 

ビーノか。矢張りスーツは持って無いみたいだな__

 

「スーツ新しく出して貰えなかったんですけど、どうしたらいいかなって」

 

私に言われても…。

 

「銃ぐらいは持って行けばどうだ?」

 

持って無いみたいだし。

 

「その、乗り物一緒に乗せてくれませんでしょうかっ!」

 

その発想は無かった、が。

 

「私にメリットが無い。それに、点を稼ぎたいから速度を出すつもりだし敵に近付く、危険だと思うが」

 

「武器を今回は持って行かない、次からはトドメをさせるよう手伝う、速度はちょっと今回は気にして欲しいけど…わ、わた、んんっ、カラダ触っていいから!」

 

そんな顔赤く__青い線が奔り出している。

 

彼女の腕を掴む。日野さんとはキスしかしていない、エロイことしてやろうか__

 

 

青い一瞬の光。

 

 

もう初夏だが外なら夜は涼しいな。

 

「うわっうわ__」

 

「乗せてやる、切り替えろ」

 

私も切り替えないと__重い左手を持ち上げ地図を見る__操作すると、敵は1箇所に纏まっている__好都合だ。「えっほんと!」

 

「こい」

 

バッグを右肩から下ろしながらすぐ近くの飛行バイクへ向かい、頭を下げて内部に入り、座席に引っ掛けて紐を短くし重力銃を突っ込む。跨ると、っ!…直ぐに彼女が後ろに座り抱きついて来た。しなやかな体、落ち着け__

 

「ヤマダさん!透明になってるか教えて下さい!」

 

左腕の地図のボタンを押す。内部の画面に触って__

 

「うん?ああ、なってるよ!」

 

ビーノ?スーツ無しでも透明化は及ぶのか__というかヤマダさんには透明に、周波数の変更をしてないから声が届いてない。

 

「先に行ってます!」

 

 

小さい画面の1つを操作し急上昇する。

 

「きゃっ、やるなっつ!」

 

舌を噛んだのか?地図を見ながら言う。

 

「手を離すなよ」

 

建物の上空を移動する。

 

 

地図上で青い光点が赤い光点群を追い越す__右手を持ち上げるようにして体を倒し飛行バイクを旋回させながら下へ__あれか。背中に体が押し付けられる。ぶつかって行くのは__流石に止めておくべきか。左手を離しバッグから重力銃を取り出し、旋回を続けながら4足歩行の怪物達に向け横に倒して突き出し、引き金を繰り返し引き始め、上に突き出す小さい画面を見ながら照準の合っている場所を少しずつずらしてゆく__鈍い音と共に怪物達が潰れだす__重力銃で1発か__撃ち続ける。ヤツラも動くが、重力銃は範囲攻撃している様な物だ、混乱している様にその場で動き回るだけでは入れ食い状態だ__

 

 

視界の敵を一掃し、飛行バイクの高度を上げ、地図を見る。小さく円を描く青い光点の外側に離れて行く様に赤い光点が5つ__青い光点の塊に近い方は後回しだ__

 

「移動する!」

 

「もっと気を遣いなさいよぉ!」

 

爪を立てようとしてもこっちしかスーツを着ていないから無駄だが?

 

 

 

 



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演習の度に勲章が増える

 

 

先輩は後5点、か。解放を選ぶのだろう.....

 

 

 ラッキー、93点、計100点、100点メニューへ。

 よしよし、まさにラッキー。

 

「おいおい、点ガメやがって」

 

 ぐっ。そう__

 

「ちょっとー、別にいいでしょ、大量のあいつらと同時に戦わなくてよかったんだから」

 

 もしかしたら__

 

「あっ、解放だってっ!?」

 

 100点メニューか。

 

「より強い武器を今直ぐ出して下さい。ビーノ、次はちゃんとスーツを着てこいよ。お疲れ」

 

 話し声を無視してさっさと追加武器の部屋に入る。

 

 

 画面に映る兵器は丸い__爆弾?選択して、出現する実物を手に取る。こぶしぐらいの大きさの黒い球体、ごつごつしている所があって細いコード数本の途中が飛び出ているから完全な球体ではないが、ボタンも付いているし爆弾以外の兵器が思い浮かばないな。__爆弾なら使い捨て?いやまさか__

 

 

 あ?このフレーズって…。

 

 扉に向かう途中で先輩が飛び込んで来る。

 

「連戦だ!しかも標的の情報を見てみろ!」

 

 

 黒球に向かいながら質問する。

 

「これって珍しいんですよね?」

 

「俺も初めてだ、それより見てくれよ!」

 

 

 赤紫色の紅葉みたいな図、てのひら星人、強い、好きなもの、どく。

 

「確かに毒って、危険だとは思いますが…」

 

 慌てる程か?近付かなければいいだけでは?

 

 

「こいつ、ラッキーが初参加のときの、クリアできなかったやつだよ!」

 

 …。

 協力して戦わないと、死ぬかな。

 

 拙い、転送が始まるまでどれ位だ?

 

「聞いてくれ!次のターゲットは強過ぎる、だから協力して倒そう!?ヤマダ先輩、協力してくれますよね?クリアしないと点がパーですから」

 

「ああ、わかってる、もち__」

 

「何言ってんだあいつ?オレラを見捨てて1人で戦ってたくせによぉ」

 

「ちょっとーやめなー」

 

「聞こえてるじゃん?」

 

 ちぃっ、そんなこと言ってる場合じゃ__

 

「あのぉラッキーさん、私は…」

 

 !そうか、少なくともこいつは、スーツは着てないが__

 

「ビーノ、約束通り協力して貰うぞ、ライフル型、ああいや、黒球から小さい方の銃を持って付いてきて。先輩、ソウ、それにケンタさん?も追加兵器の部屋に__」

 

 っ転送が始まってる!隣の部屋に駆け込み、兵器選択の端末で全ての兵器を選択する。湊さんの重力銃を拾いながらビーノと先輩、ケンタさんを見る。

 

「名前、ミキ グンタと申します」

 

 はあ?…そんな場合じゃ…いや、抑えろ__

 

「すいません、ミキさん。あの、敵の情報を伝えたいんですけど」

 

 何が重要だ?

 

「攻撃が効きにくい、と覚えててくれ。ラッキーの大きい銃でも2、3発じゃ仕留められない。あー、取り敢えず」

 

 青と共に視界が切り替わる。

 

「転送後に合流__」

 

 先輩の声が聞こえなくなる。

 

 

 右手の重力銃を構えながら周りを見回す__近くにスーツ姿の味方達、脇に私の重力銃と飛行バイク、掌みたいな形のヤツラは、居ない__左手の地図を__この爆弾みたいなのどう持ち運ぼうか__周辺には青い光点のみ、赤い光点は.....1箇所に複数重なっている。

 

 

「ラッキーさん、どーも!そんなに今回のやばいんすか?」

 

「ああ。ソウも絶対に油断するなよ」

 

 

「おーい、さっきも言いかけたけど、他の5人、ソウ入れたら6人か、あいつらにも説明しとこうぜ」

 

 ヤマダ先輩も、今回は全員すぐ近くに転送されているのか、都合が良い。

 連携してやらないと__

 透明化は今回は無し、いや全員が透明化すれば問題ないか。ああ、銃3発分のダメージで解除されるし、無傷の星人殲滅は無理だろうから、透明化は駄目か。

 殺し切れるのだろうか?次回のペナルティは危険だし、やる_

 



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再テストなら満点とれよ!!

 

 

飛行バイクを急制動する。ビーノの小さい悲鳴と共に叫ぶ。

 

「チィッ、ふざけるなよ!」

 

こっちに撃ってきやがって!

 

「すんませーん、敵かと思っちゃってー」

 

敵は今私と先輩が地面に押し潰してるだろうが!宙に浮かぶ私達しか上には居ないだろ!

 

「おいおい、撃ち続けてろ!もう1体近付いて来てるみたいなんだから早めに仕留めないとまずいんだぞ!?」

 

重力銃で化け物を抑える必要が無かったらあのカップルに撃ってたぞ!

 

 

ビーノは無事か?スーツ無しだとライフル型なら一撃で死んでも可笑しくない。当たってたらもう破裂しているとは思うが__

 

「ビーノ、当たってないよな!?」

 

横にして突き出した重力銃の照準画面から目を離さず__3体の大きな怪物を2挺の重力銃の範囲で抑えつけられている現状は幸運だな__背中の彼女に声を掛ける。

 

「大丈夫っぽい。.....反応スゴイね?向けられた銃から避けながら撃ち続けるって.....歴戦の猛者ってカンジ」

 

照れるな.....周辺に眼を配っているだけだが。

 

「有り難う、ビーノも撃ち続けろよ?」

 

以前と同じ、高層ビルが並び幅の広い道路、道路にできた円形の窪み、違いはまだ死者がいない事だけ.....

 

「わかってるって」

 

 

「来たぞ!どうする!?」

 

青紫色の塊が霞みがかりながら正面の道路の先から向かって来ている__アイツ毒持ちっぽいヤツか__如何する?アイツが優先、かな。

 

 

横から肌色の塊__ビーノの警告する声__銃口を地面から離し空中で斜めの円を描く様にして回避__避け切ったか?

 

「ビーノ、無事か?」

 

落下する敵に照準を合わせるよう飛行バイクを制御しながら聞く。

 

「あ、あたしは平気!だけど下が…!」

 

トリガーを2つとも同時に引き続けながら確認してみる…

 

 

喚き声が響き、血塗れの海星の様な人の手の様な怪物3体が低く短く跳ね、黒いスーツ姿の数人が駆け回り__青い光を曳いてるのは先輩とソウかな__青紫の化け物が変色して__

 

 

ボロボロの怪物が1匹此方に跳び上がって来る__飛行バイクを移動させながら銃口を__?宙で破裂した!?

 

誰かが撃っていたのか__下の状況は__紫に黄色のラインが入ったヤツは健在、か。他の同じ形のヤツとは違う緩急のある道路を這う動き__遠くからだと無理か?だがアイツに近付くには毒と後ろのスーツを着てないビーノが懸念になる__動き回る敵達に疎らに攻撃を続ける__後ろでも撃ってる音がするが、彼女は私や飛行バイクに当てていないよな…?

 

 

__点を取るには皆殺しにしないと。重力銃より強力な武器を持っているんだ、もっと活かさないでどうする?

 

 

飛行バイクで飛びながら撃ちまくる__此方を狙って跳ぶヤツラは狙い目だが、今は灰紫になったヤツは来ない__

 

 

…やられ始めた下の味方を見捨てて一度距離を取るか?敵は殺せても後で人同士の殺し合いになるかも__言い訳なら幾らでもあるか。そもそも私の方が強いし、向かっては来ないだろう。

 

 

速度を上げて道路に沿って移動する。

 

「えぇっ、ちょっ!」

 

 

歩道に寄せて着陸する。

 

「ビーノ、降りてく__」

 

「なにやってんの!?死んでってたんだよ!?あん__」

 

「今から戻る!毒のあるヤツに突っ込むんだ、君は降りてくれ!」

 

いいヒトだが、今は面倒だ__

 

「上着を私にくれ、毒対策で体の前に掛ける」

 

彼女が降りながら何か言う。聞こえない、なんてゆったんだ?重力銃を置き、椅子にくくり付けたバッグに手を入れ、丸くて小さい強力な筈の兵器を探り当てる。

 

「なんだ?」

 

「ほら!」

 

投げられたジャンパーを反対の手で受け取る。逆向きに肩に掛け、首の後ろで袖を結ぶ。重力銃を拾い上げてバッグに突っ込む。

 

「隠れていてくれ。スーツ無しだと、これ以上は無理だろう。寒いだろうし屋内に入ったらどう?」

 

左手の地図を見る。青い光点が2つポツンとある。

 

「ちゃんと倒してね?…わたしの服、返さないとまるっきり強盗だよ」

 

1地点で赤と青の点が入り混じっている。赤が2、いや1つ減って1、青が3__2つ離脱、いや全て逃げ出していく。

 

「服はきっと返せない、悪いな。それと強盗は言い過ぎだろ?」

 

どんな毒か解ったもんじゃない、これは直ぐ脱ぎ捨てる__息も止めとかないと危険か?

 

「ねえ!」

 

叫びを聞き流し飛行バイクを動かし、大きく旋回して向きを変え、引き返す。

 

 

両脇の風景が流れていく__

 



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周回プレイ

数少ない貴重な読者の皆さん、是非今回のアンケートにお答え下さい、お願いします。

念のため、回答が0でも続きは書きます。


呼吸を止める__正面の大画面を操作しハンドルを捻って更に加速して、体の中心を狙って飛行バイクを左下に操縦する。

 

 

衝撃があるが__紫のヤツを引き摺れている!即座にヤツを持ち上げる様に向きを上向きに調節する。

 

右手をハンドルから離し手早く小画面の1つを操作して直進し続けるよう設定_飛行バイクが紫色の肉塊に圧され軋み歪んでゆく_爆弾のスイッチを押して座席に付けたバッグに押し込み、後ろから飛び降りる___あっ湊さんの重力銃まで置きっ放しだ___息を大きく吸いながら着地、振り返り紫の腕が覗く飛行バイクを目で追う__離れないとマズイか?いや爆弾かも未だはっきりしない、起動はしただろうが__ビルの壁に激突して奥へ__うおっ!?

 

高層ビルが円柱状に一気に削れた?

 

 

あの爆弾は、より強力な重力兵器だったって事か__ビルが此方に倒れ、崩れて__やばっ、離れないと__横へ走る。無意識のうちに取り出していた柄のトリガーから指をずらして握り直す。おっと、忘れてた。ビーノのジャンパーを脱ぎ捨てる。

 

 

!右前に黒い人影が出た。反射で動き掛けた体を抑え、轟音の中を真っ直ぐに走り続ける。

 

「派手にやったっすね!あれが新兵器っすか!」

 

「ああ、爆弾だったみたいだ!」

 

 

振り返り、声を掛けてから立ち止まる。

 

「もう大丈夫そうだ!ソウ、他の2人は未だ平気そうだったか!?」

 

「ぅん?なんで2人って?」

 

ソウが近付いて来る。

 

「左手の機器には便利な地図が映ってるだろ」

 

自分の地図を見る。チィッ!

 

「あー、ハイハイ、これね。あれ、まだ死ん__」

 

少し遠くの瓦礫が吹き飛んだ。

 

 

…接近戦はマズイが、銃持ってない…横を見る。

 

「ソウ、予備の銃とか持って無いか?あったら貸してくれ」

 

「すんません…」

 

目が合う。

 

「あっ、マスクに紫のついてますよ!」

 

?!

嘘だろ!?

 

 

脱ぎ捨てた地面のマスクを見ると、確かに一部変色して灰色の中に紫が混じっている。…死んだか、私?

 

「スーツ越しなら体液に触れても死なない見たいでしたけど、口に入ったヤツ、即死してたっすよ。準備いいっすね、俺は御免っすけど」

 

「じ、じゃあ、私は助かったのか?」

 

「たぶん。あ、でもこっちに来てマスよ、ヤバイんじゃ…」

 

顔を跳ね上げる__畜生、協力して貰わないと__1時間あったが後もう17分11秒、距離を取ってる場合じゃ無い__

 

「私が囮になる、ソウは離れて援護射撃してくれ!」

 

「そういえばラッキーさんの顔みたのおひさっすね、援護りょぅゕぃ~…」

 

 

徐々に大きく見えてきたヤツ__さっきよりも縮んだ?あの威力を受けてそれだけかよ、いや、速度も落ちてるっぽいな…。予習だ、柄のトリガーに触れ、伸び縮みさせる__重さの変化が腹立たしいな__っそうだ!

 

「黒球!!爆弾の補充は無いのか!!??」

 

 

..........強く低く跳躍しながら思う。使い切りかよ.....。刀身を伸ばして横薙ぎ、直ぐに刀身を縮めて瓦礫の上へ走る。

 

追ってきた__側面に回って__顔無いよな、どうやって感知してるんだ__

 

 

高まっている強化でも距離を取り切れない、時々瓦礫やコイツの体が小規模に破裂して冷や冷やモノだ、やっぱ逃げて制限時間が来るまで隠れておくか?走りながら体幹を維持しつつ一時的に伸ばした刀を振るう__

 

 

____何回斬り付けた?数回しか当たって無いぞ__トリガーから指を浮かしつつ走る向きを左に変え、赤紫の化物を肩越しに目視する__

 

 

__紫の胴体から突き出た5本の太い指だか足の先端が吹き飛んだ__踏み込__未だ素早いのかよ__いや、速度は落ちてる__

 

 

__もう限界だ__息が苦しい__くそがっ、殺すんだ__

 

 

____もう1本、今度は付け根が破裂し、千切れ_全力で踏み込み、柄を両手で握り締め_トリガー2つ分、指2本が柄に沈み込む_上段から振り下ろす_粘つく手応え_瓦礫、地面まで食い込む_トリガーを解放、刀身を引っ込め__

 

眼前に迫る毒のある肉塊__地面を蹴り付け上へ__柄を放してしまった__不味いもし毒が剥き出しの顔にかかったら__瓦礫に着地し転がり勢いを殺して立ち上がり、視界が歪み__感覚が遠のく。

 

 

倒れた、のだろう。__殺してやったか?__極少量の毒が付着しただけなら.....

 

 

..........感覚が戻って来る。生きてる__あの一刀で殺せてたんだ…。

 

 

「おお!?ラッキーだよな!?まじそんけーするぜ!!」

 

「ほんとっすよ!倒れた時ぜってー死んだと思ったっす!かっけー!しぶてー!」

 

おお、おう、ちょっとだけヒクな…いや、嬉しいな!

 

「有り難う!殺して生き残ってやった!ソウも援護サンキューな!」

 

 

「いやいや~」

 

「おいおい、俺も撃ってたぜ?」

 

重力銃持ってないな。貸した私の、落としてきたのか、まあいいさ。

 

「あ、そうなんですか。どうも!」

 

「あ~オレラもしかしたらおいしいトコ取りしちゃったカモっす~、そうだったらすいやせん!」

 

はあ?どういう.....そうか、私が斬った後も生きて.....?

 

 

黒球が音を出す__他の生き残りは若い女性が2人だけ、良かったビーノも生きてるな、目が合う。

 

「あたしもいちおー遠くから撃ってた」

 

本当に?命知らずだな.....

 

「助かったよ....?」

 

 

「0点....」

 

名前を知らない若い女性が呟く。その人の採点見逃したか、今の表示は、モチノちゃん、65点?

 

「あ、これあたしね」

 

へえ、ビーノの苗字か?ていうか止め刺せてたのか、少し腹立たしいな。

 

「おーすごいじゃん」

 

「ええ、初回の時外してたのに、練習でもしてたのか?」

 

「ラッキーはあんときは別行動してただろー」

 

「そうっすよ、引率大変だったんすから....」

 

 

ああ、ヤマダくん、65点、計160点、100点メニューへ__お別れか。

 

「おめでとうございます、先輩」

 

「解放っすか?」

 

「ばっくんを生き返らして!お願い!」

 

うわ、急に何だ?私の体は万全だが精神的には疲弊していて、それは皆そうだと思うのだが....

 

 

先輩と女性の言い争いを無視して、あ、ビーノ、いやモチノ、ちゃん?も、仲裁に入っていった。

 

「ソウ、前回までで何点だった?」

 

「あ、はは....。えーと、60点ちょいっす」

 

自分の点ちゃんと覚えてないのか?

 

「お前も100点いってるかもな」

 

「だったら嬉しいっすね。ラッキーさんは何点でした?」

 

「0だ。丁度前回で100点だった」

 

「ああー、それのご褒美があの大破壊っすか。あれで死ななかったの、ビックリでしたね」

 

確かに。黒球に騙された気分、いや、爆弾の補充無しの方がショックだったな。追加兵器の部屋の端末から多分また出せるのだろうが....

 

 

「あれ、2番....?ラッキーさん、先輩2番選びましたよ?」

 

2?1が解放で、2が武器、3が再生だったよな。....より強力な武器を選んだのか?

 

「え、ホントか?」

 

 

「うわっ俺0点すよ....」

 

おいおい流すのかよ。

 

「ドンマイだな。ま、65点、前の分があるだろ」

 

「えーっ、冷たいなー」

 

 

あっ私は、199点__

 

「っあのっ、3番をっ....」

 

うわあ....。グスグス言ってた人がこっち来ちゃったよ....なんて断ろう....あ?銃向けて来てる?集中__スーツの強化を意識する__

 



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ドコカノ娯楽

明るく照らされた大広間には、幾つもの丸テーブルの間を縫いながら移動する人々が、立ち止まっている者も僅かにいるが、グラスや料理を摘み、談笑していても、壁や天井から吊るされた複数の3メートル強の幅がある大画面を見比べている。液晶画面に見惚れない者は、摘みやグラスを盆にのせて運んで動き回るウェイターやウェイトレス達ぐらいだ。10メートルはありそうな高い天井から吊るされた画面はどれも6面で、そろぞれ別の人や怪物が複数、そして違う風景が映っている。壁に掛けられた画面には、近未来的な兵器や、それらを纏ったり手に持ったり乗ったりした人の姿が拡大され映し出され、焦点が移動したり映像が切り替わったりしている。

 

実物に近い大きさの人間のキャラクター達の上には基本的に2種類の字が浮かぶ。片方は【波長0】や【波長1】、【波長2】で、もう一種は【クリア0】から少なくとも6まである。スーツについた白く小さい円型の機器が青く光り黒い生地に複雑に筋が励起しているキャラクターの上には更に【集中】の字も付いている。敵キャラ、人間を襲ったり殺されたりしているリアルな怪物や人型の上には様々な数字が表示されている。特に大きい数字の付いたそれらが倒されると騒めきが観客から起こる。極稀に数字が変更されると、どよめきが....。

 

液晶の一面上で、高速で追いかけっこを演じていた一方の鮮やかな紫の怪物が動きを止め、もう片方の【波長1】【クリア4】【集中】が頭上に浮かぶ人間が向きを変えて長刀で斬りかかった。人間は2つに割かれた怪物から離れた地点に着地し、崩れ落ちたが、怪物の上の表示が【100】から【69】へ激減すると共に青い光と共に体が徐々に消えていき、その生存を確定させた。

 

タキシードやドレス姿の人々は優雅に、僅かに熱に浮かされた様に交流している。会場にはカジノのようにチップを遣り取りする台と座席もあり、その近くの壁際にはバーが併設されている。バーで薄緑色に満たされたグラスを傾けていた人物がその魅力的な顔、通った鼻筋は変わらないが、奥二重の大きな目と薄い桃色の唇と血色のいい頬を、軽く歪めた。

 

「ちょっと、それはないなー」

 

思わず漏らした様に小さい日本語の呟きは吐き捨てるようで、冷たい響きを伴っていた。

 

「トヨカ様、入れ込むべきではありませんよ」

 

斜め横から、柔らかく声がその人物にかけられる。

 

「....ああ、いや、点数をあそこまで引き下げるのは珍しいだろう?管理側を気にしているのかも知れないよ」

 

言語を合わせてなされた返答はすぐさま切り返され__

 

「転送直前に4から5に変わるかの方を注視してらしたでしょう。それにね、ダメージの累積で波長が1に戻ったときなど顔色を悪くしてらしたわ」

 

「はは、あなたのような淑女に気にかけて貰えるとは光栄です」

 

「フフッ、嫌味かしら?」

 

「とんでもない、あは」

 

 

 

......違う場所でも、同じ催しが開催されていた。

 

 

 

少し仄暗い、オレンジの灯りに照らされた木造風の広間には3つの長机に並んで十数人が泡立った飲み物をジョッキでがぶ飲みしながら、大声を上げている。剥製などもあるが、調度品にそぐわない6つの大画面が机の短辺に平行に掲げられている。

 

【波長1】【クリア2】と表示されたキャラクターが【28】が頭上に浮かぶ巨大な双頭の蟻に乗り込んでいた円状の乗り物ごと地面に押し付けられている。その右隣の画面では人型のキャラクター達が入り混じっている水際の森か林を、俯瞰するように映し出されている。左隣では【クリア0】【波長2】のキャラクター6体が【84】が浮かぶドラゴンの彫像を半包囲するようにゆっくり動き__突如首を動かした生きた怪物が羽ばたいて宙に浮き__その巨体の部分部分が液体を撒き散らすように小さく破裂した。机の反対側に並ぶ画面には、それれぞれ【波長1】【クリア1】【集中】が浮かぶキャラクターと【23】が浮かぶ虎のような獣2匹との睨み合い、巨大なヤドカリに似たグロテスクな怪物、その【54】と示されたバケモノに引き摺られる様々な表示の人型キャラクター達、そして、両脇に建物が並ぶ道で、表示の出ていない人型のキャラクター達を巻き込んでぐちゃぐちゃにしながら跳躍している、コの字の機械を振り回す【波長1】【クリア6】の文字を頭上に引き連れたキャラクター1体と馬鹿に長い刀を振り乱す【波長1】【クリア3】のキャラクター3体と【39】を浮かべた3本腕の案山子みたいな危険生物7体が、地面に倒れた【波長0】【クリア0】のキャラクターと共に映っている。

 

観戦者共の陽気な笑い声が室内を木霊する....

 

 

 

......開催者側と観客側では受け取り方が違う。娯楽。勧誘。示威。営業....。

 

 

 

黒や紺、水色のスーツ姿の人々が綺麗な列に並べられたクッションがきいた肘掛けと背もたれもしっかりとした椅子に座って正面の大画面に注視している。【100】と表示された十字のようなウニのような物体が、多様な表示の人型キャラを蹂躙していく。並んだ背の低い建物も突き崩しながら暴れ回り、不自然に長い刀の斬撃や空間を奔る長短の光条がその奇妙な標的を追って破壊を拡大していき、更に円形の窪みが複数忽然と出現する。

 

映像を見守っている男女はそれぞれが無言で視線を固定していたり隣に囁きかけたり様々な反応を見せるが、画面から眼を逸らす者は僅かだ。

 

画面上では暗い舞台に上げられたキャラクター達と街を形作るオブジェクト群が破壊され続けている。タタカイ、は更なる激化を呈してゆく__【波長2】【クリア7】の表示を引き連れて上半身が大きい人型の黒く鈍い光沢のある機械が、【100】を浮かべた存在にその肘から刀身を生やした巨大な両腕で掴みかかり、そして破壊がそれらの周囲に集中した__。

 

 

 




本編の続きも急いで投稿します。

すいません、加筆しました。


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連続しては望ましくない、よく休め

鉛筆から手を離す。机から転がり落ちないことを何となく眼で追って確認し、椅子の背に体を預ける。椅子を回転させ、携帯電話に目をとめる。

 

うーん。ま、いいか。新しく買って貰ったし使わないのも、いや、下手な言い訳だな。

 

 

箪笥の中。あそこには強化服、スーツと刀の柄と各種の銃が鍵の掛かった箱に入れて隠してあるが、爆弾も持って帰って来るべきだっただろうか。家で起爆したりを心配するのは神経質過ぎたし、山で試したら土砂崩れを起こして問題になりそうだが海まで行けば特に被害は目立たない、それに補充の懸念も杞憂だろうしなあ。使い切り、いや使い捨て、まあ兎に角使用限界は刀や小さい銃にも重力銃にも無さそうだが、新しい『より一層ツヨイ武器』はミサイル一発で終わりそうで、がっかりだ。

 

椅子を回す。この数日で数冊のSFを読んで、まあ借りてから期限が迫って慌てて読んだという情けない点はあるが、自分を客観視出来た。小説からだと軽いな、両親のコンピューターを使って戦争、じゃなかった紛争地域について検索もしたし、大丈夫か。

 

 

携帯電話には二人のヤマダさんと貴奈美さん、自宅と姉さんと両親の番号しか入って無い。

 

日野 貴奈美 0?0ー????ー????

 

彼女は、ハジメテじゃなかった。そこのベッドのシーツを洗濯機に持って行く時、血は少しも付いてなかった。童貞を捨てた時だったし、ふにふにすべすべの感触を思い出したら興奮してきた。ただ処女だったら良かったと思う。貴奈美には言わないが。ハッキリ正負に振り切って居ない気持ちだが、セックスに溺れていく気がした、というか、してる。今貴奈美に電話もメールもするのは止めとこう。

 

星人という黒球が示す標的との格好いい道具を使って戦うのは、道場で禁止された剣道を使った喧嘩を通り越した血みどろの暴力だ。星人達、特にしょうしょう星人は人間の男女と区別出来る気がしない。クローン人間とか、人造生物兵器が星人の正体ならまだ気楽、そうでもないか、しかし文字通りの異星人なら、知性のある化け物、人殺しと変わらない。私はもう殺人鬼、鬼なのかも。

 

今までの自分は暴力とセックスに浸る危ない奴になりかかっていたんだ、これから気を付けないと。日本は安全性が高い国とは聞くが、こういう危なさは日常の延長線上のすぐ近くにある。科学者だったら黒球の提供するものが未知の技術だと研究対象にしたり、特に医者なら転送や再生が画期的治療と興奮して、世界的偉業、つまり非日常へと入っていけるのかもしれないが。

 

 

浮ついているのは危険だ。夢見心地で殺し合いなんて可笑しい話だ。

 

安全のためにはキンナさんみたいに100点メニューの1番を選んで、記憶をごっそりなくす羽目になろうが黒球から逃げ出すのが常識的対応かもしれない。2番で強力な兵器を求め続けるのは軽くて狂った選択の気もする。でも、改めて考えてみても私は正しい。本の一冊を手に取る。見えない悪や危険や脅威から逃げても本当に安全な筈無いんだ。黒球は記憶を消す。嘗て私も100点を取って解放された後、今再び戻った可能性だって否定出来ない。記憶は取り戻せるのかもしれないから、巨乳に惹かれる下心抜きで戦力増強の可能性の為にもキンナさんとは会い続けないと。貴奈美には悪いが。それに、私はやるつもりじゃないが、あの兵器は幾らでも悪用できる。知られてはいけないというルールに反して黒球に粛清される危険はあるが、盗みも性犯罪も器物損壊も殺人も容易だろう。本を置いて立ち上がり、鍵を取り出して箪笥を開き、その中の大きな箱を見下ろす。

 

私は何かっこ付けて黄昏れているんだ?

 

箪笥を閉じる。

 

 

箪笥の中の青い包みが目に入る。新庄 湊さんの荷物が仕舞ってある。大切な、重力銃以外の遺品だ。銃も爆弾の破壊に巻き込んでしまったが飛行バイクと一緒に肩掛けカバンごと再生された。同一性の担保は無いが。

 

 

座り、首を振り、頭を掻いて。セックスの時の事を考えると肌に気を遣わないと。掻くのはもうやらないぞ。化粧について間近でみて、話して、化粧水と乳液は買ったし。剃刀も風呂に入る時2回に1回は使うようにしたし。

 

 

そうだ、受験勉強は夏休みにするのが普通だろうな。優先順位は低く感じるが、中卒で就職なんてヤバそうだ。そもそも黒球と縁を切らないとまともに働けないのは、キンナさんがナースをクビになったことからも明らかだ。大学まで進学してユートリアムを手にしないと殺し合いなんてやってられないだろう。そういえば、スグルは復活させても勉強で苦労するだろうな。100点を使ってまでやることなのか....。

 

視界の端の携帯。滝田家の番号は入ってない。一度お宅に伺おうかなぁ。

 

3番の再生をするなら、湊さんとか、あー、サクラバさんとか、知り合いの実力者を選んだ方が良いに決まっている。ふう、まだ覚えている内に色々ノートに記録して、黒球のある部屋、いや初参加者がいじらないように隣の追加兵器の部屋に置いときたいな。黒球に回収されないといいが。

 

 

黒球は、その行動だけじゃなくて、その技術もよく解らない。転送された人間は転送前と完全に同一存在なのか。元の肉体と精神は分解されて別の物質を使って再構築されたなら、それは本物と見做して良いのか。

 

SFじゃなくてホラーやファンタジーかも知れないが、死者蘇生の問題は小説のメジャーな題材だ。蘇生前後の自己同一性以外にも、生命の価値を低くするとか、禁忌を犯した報いがあるとか。天罰を下す神様がいるなら黒球だけを対象として欲しいものだ。

 

 

よそう。ふぅ、これからやることは、黒球に関連する出来事を記録して見直せるようする、後いつもの山や、海で兵器の習熟を今までよりもしっかりと行う、ぐらいか。おっと学校のテストに向けての勉強に、そこそこ綺麗なカノジョとの時間、まあセックス、へへ、キンナさんや滝田一家と会う、それと独り暮らしの為の相談もしないとな。

 

 

あーっ、モチノと会っておきたいな、それにまあソウとも。モチノに私の点取りに協力する気があると良いんだが。あのヒステリックな女子が騒ぐから、碌に飛行バイクの練習も出来ずに湊さんの銃と入れ物を回収しただけで退散する羽目になって、電話番号なんて当然聞けて無い。ソウはヤマダ先輩に聞けば判りそうだが、あいつは私に点を譲る理由が無いしな。

 

 

そういやあの女子の小さい銃を一撃で破壊できた刀は使い勝手が良いよな。あの時持ってはいなかったしどうせ使わなかったが重力銃なら殺してたかもしれないし、タイムラグで避けられて生き残った他の人も巻き込んだ仲間割れになったかもしれない。無力化したあのヒト慰める役を引き受けたモチノは完全に巻き込んでしまったが。

 

ドーナツ型バイクは飛行出来るようにならないと移動が微妙に手間だし、飛行バイク状態でも狭い場所、室内などでは相変わらず殆ど無力だよな。大きい星人を体当たりで吹き飛ばせる出力の高さはあるから建物を簡単に破壊出来そうではあるが、絶対に減速する。

 

 

一回の戦いで一度しか使えないだろう爆弾とミサイルに関しては明らかに最低の使い易さだ。特に爆弾の方は身に着けた状態で攻撃を喰らったら、一撃で即死しなくとも暴発して死ぬかもしれないし、使い方以前に戦いに持って行く事自体が悩ましい。

 

 

2番を選び続けるとどんなものが手に入るのか、黒球に確認したいな。まともに判るとは思えないけど。そうだな、3番に関しても、黒球のメモリーにある人達の能力が知りたいな。何度100点を取ったか、何点の敵を倒したのか、味方と連携をするのかぐらいは教えてくれないものか。

 

 

背筋に寒気が走る。敵も再生されているのだろうか。厭だな、夏に怪談は付き物かも知れないけれど。というかこの寒気、まさか黒球の転送前のお知らせでは無いだろうな。前回から1ヶ月経って居ないし、前回は2回連続で闘ったから2ヶ月休みにして欲しい位なのだが。

 

まっ、楽しみではあるが。....戦いの直後から4週間は夜もそれなりに気楽に過ごせるから、貴奈美を誘ったりデキるし?『殺し』は、楽しんで、いない、筈。そうじゃないと、いけない。

 

 



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ルーズリーフ

(表紙)

 

 

備忘録?

 

 

(表紙裏)

 

 

(1ページ)

 

 

百点メニューについて

 

一番を選んだ人

 

当時三十手前の女性

 

ー>黒球の部屋に来る様になり仕事を辞めさせられたが、その記憶まで無くしている。消される記憶の範囲は広い。

 

 

 

(2ページ)

 

二番を選んだ(人)結(果)末

 

 

一回目

 

重力銃:黒い片手用の大きいコの字をした兵器、照準を合わせた一定の範囲を円形に押し潰す。タイムラグがやや長い。

 

 

名前を知らない二人の大人

 

サクラバ:中年男性

 

 

 

(3ページ)

 

二回目

 

ドーナツ型バイク:大きい輪っかの中へ乗り込む。画面が複数付いている。轢殺も可能。

 

 

 

(4ページ)

 

三回目

 

飛行バイク:ドーナツ型バイクに直角にもう一つ輪が付いて飛べる様になった物。加速しての体当たりはかなり有効。

 

新庄 湊:すらっとしたOL。

 

 

(5ぺージ)

 

四回目

 

重力爆弾:握り拳大の球体。ボタンを押すと数秒で起爆。重力銃より広く強く空間を潰す。高層ビルを円柱状に削れる。一度に一個使え、黒球の部屋へ帰還後に補充される。

 

 

 

(6ぺージ)

 

五回目

 

ロケットランチャー:L字型の持ち手にミサイルが載っている。

 

 

(7ぺージ)

 

三番で再生された人

 

 

(8ぺージ)

 

黒球の指定した敵について

 

????年11月?日

 

てのひら星人:三メートル程の人の掌みたいな見た目。素早く、重力銃でも五発以上撃たないと殺せない。

 

ドーナツ型バイク所持一人、重力銃所持三人を含む二十人程で戦ったが全滅させられず、生き残りは六人。

 

 

????年12月??日

 

だんご星人:二メートル位の高さの、鰐みたいな頭が二つ縦に並んで付いた一本足。一体は遥に巨大で、多くの頭と長い棘が付いて毛虫みたいだった。

 

恐らく、普通の奴は十点で大きい奴は三十点。

 

 

????年1月??日

 

しょうしょう星人:平安貴族の様な人型。弓矢や剣はスーツを貫通する。動きは軽やかで、スーツで透明化しても見えている。男女や武装で点が違うだろうが、恐らく一体十五点程。

 

 

????年3月??日

 

のぞき星人:透明化を初め複数の特殊な能力を持っていたと思われる。一体のみ。九十点。湊を含め多数を殺害。

 

 

????年4月??日

 

?星人:ごつごつした質感。一体七点位。

 

 

????年6月?日

 

がむ星人:四足歩行。一体七点位。

 

同日、てのひら星人が続いた。一体の紫の変色する個体は毒を持ち、顔の素肌に直接触れると死ぬ。少なくともこの紫の個体は重力爆弾に耐えた。通常の銃や刀で仕留めた。

 

ほぼ確実に通常個体の内の一体は六十五点。個体差が大きいと思われる。

 

 

 



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99点\リザルト\戦力/赤点\発色\血/赤点\真紅\どろ
現状99点


 

 

『隣のこちらに顔を向け、湊が少しだけ高い目線から優しく微笑んでくる。化粧のお陰だろうが、綺麗な素肌に見える__青い静脈が浮かぶようで、顔立ちは美人だ。黒い強化服を着て体の線が出て居なくとも、この私服で魅力的だ。制服を着ていれば、うーん、流石にコスプレイヤーじゃ無いが、でも強化服と同じく恥ずかしがらずに薄く笑って着こなせそうな気もする。彼女が唇を開いて、だがその少しかすれた声は聞こえない__もう声が色褪せてしまったんだ__黒球が敷くルールを知りたいのに』

 

 

 

 

 

『フワッと何度か跳ねながら単独で剣をもった貴族の狩衣を着た男が来る。眼の前の丘から、だがそこにはまだ何人も見物客が並んでいる、下に来た直剣を持った男の動きは師範を連想させる。斬り殺す。突きから片手で引きながら右手の平を上に向けるように、肘を伸ばしながら真横に、切り返して右へ振り切る__3連撃、この後練習したんだ、1対1ならこれで決められる。最後の一刀で頭の上を斬り飛ばされた死体が黒い血を曳きながら膝をつく。力を込めて死体の胸を蹴り飛ばし、丘の上へ戻してやる。続くように低く跳躍し、銃が無いんだ文字通り死体蹴りだってしてやる、膝を曲げ前傾で着地、走り寄って女性に見えるのも含め少将星人たちを斬る。刀で受け止める。スーツごと浅く斬られる。痛みに耐えつつ斬り付け続ける。何体か逃げていく。仲間ごと射貫いて来る。何とかその場の敵を殺し切る。時間までレーダーを見ながらその場で痛みに耐える』

 

 

肩を抉る矢の痛みも背中を斬られた驚きも、もうあまり思い出せない。夢で見るのは色、明るさ、風の感触、音がぼやけていて、それでいて行動が事実に即した物になってる…痛みが無いのに蹲っていると変な気分、莫迦アホ間抜けみたいだ。早くこの夢から醒めたい、まさか黒球の採点まで見ないだろうな?

 

 

音が唸るように大きくなったり小さくなったり__

 

目覚まし時計が鳴り響いてる。

 

…こんなの3コもかけないと起きれない人が居るなんて信じ難い。毛布をどけて起き上がり、ベッド脇の小テーブルの上にある時計のスイッチを切る。

 

は。ベッドから足を下ろす。

 

 

廊下に出る。足裏が冷たい、気持ち良い。顔は、鼻を触れるとべたついて不快だが。

 

 

洗面所に入る。

 

化粧水を掌に取って顔に浴びる。少し3、4分ボーっとして、乳液のボトルの蓋を回して手の甲に少量取り、蓋を戻して、顔に広げる。

 

面倒くさいなあ~。

 

 

学校休みになんないかな。

 

 

自室に戻り寝間着のTシャツとスポーツ用の短パンを脱いで、伸びをし肩と首を回す、箪笥を開ける。膝下まであるズボンを履き、インナーを被りその上に大き目のTシャツを着る。短めのの靴下も身に付ける。

 

 

木刀を携えて1階まで階段を降り、途中でハルに出くわす。

 

「おはよ、ハル」

 

「おはよ兄さん、朝ご飯は姉さんが作ってるよ。素振り、今日は止めないぜ」

 

「いつも引き留められてる覚えはない」

 

朝食作れと遠回しに、嫌味と共に言われる事は多いが。

 

「ま、いいや、じゃ」

 

頷いてすれ違う。

 

 

棚から靴を出し、履いて中庭に回る。足を開き、木刀を正眼に構える。夢で見たやつ含む連撃をやるか。足裏に力を入れつつも全身を可能な限り脱力させ、特に肩から指先まで腕はしなる様に__

 

一人暮らしならスーツを着て透明な状態で刀を伸ばし、より実践的に出来るのに。もっと強力な兵器を使った練習は景色だって変えられると思うと楽しめるが、刀は強いヤツにも通じたし、最後に頼る取り回しのいい携帯兵器だ。…爆弾も取り回しは良いよな…

 

 

リビングに顔を出す。

 

「朝ご飯出来たー?」

 

 

「まだー」

 

「だってさ」

 

「それじゃあ制服着てくる」

 

「木刀ちゃんとおいてきなねぇー」

 

当たり前だ。

 

 

階段、廊下、自室、箪笥。

 

学校の黒っぽい制服を着る。夏服に着替えると、朝は少し寒いな。まあ、今は涼しいカンジだが、一応長袖も持って行くかな、クーラーで風邪ひくのはばかばかしいし。

 

 

鞄を持って一階のダイニングに戻って、席に着く。

 

「なんで煮物なんだよぉ」

 

ババくさいって言いたいのか?そこまで口にせず正解だな。

 

「全部食べなよ?」

 

冷たい声だな。

 

「私は南瓜の煮物が食べたい」

 

「あら、太二ごめんなさい、かぼちゃ入ってないわ」

 

「あるならよそってきていい?」

 

配膳ぐらいやろうかな。

 

 

「いただきます」「いただき__」「___」

 

さっさと食べ終えて歯磨いて出掛けよう。掻き込む。

 

咀嚼して、嚥下する。コップに口をつけ、置いてまた食べ進める。

 

 

「がっつくなんてそんなにわたしって料理上手かしら~」

 

普通かな。嚥下して返答する。

 

「美味しいよ、普通に。だよな」

 

「あ、うん」

 

「おもしろーい反応できないの?」

 

「カノジョに振られんなよ?それとももう振られた?」

 

睨み付ける。ぶっとばすぞハル。

 

「姉さん、どういう返事が女子的には嬉しいの?」

 

姉さんもカワイイ女子だろ。

 

「ええと、食レポとか?」

 

「うざくないか?」

 

うざくないか?

 

 

「ご馳走様ー、あ、テレビつけていい?」

 

「あ、つけてなかったっけ」

 

どうみてもついて無いだろ。

 

 

歯を磨きながらニュースを見る。

 

前回から4週間、そろそろ家に早く帰って部屋に籠るかな。貴奈美を部屋に呼ぼうかな、でも見送りたくないし…あれ、ボーっとしながら行動してたか。

 

 

「__」

 

「ん、なに?」

 

「太二君、デートしない~って」

 

荷物持ちか?彼氏いないんだ、へー。

 

「ハルも来るのか?」

 

ハルと目を合わせる。断った方が無難だしどうことわ__爆弾の運用のために投球練習でもしようかなぁ。

 

「パスしたいから兄さんお願い…」

 

姉さんに顔を向け直す。

 

「スポーツ用品もみていっていい、姉さん?」

 

「うんいいわよ」

 

「いつ?」

 

「明々後日とか?カノジョさんはいいの?」

 

うーん。

 

「ほぼ毎日会ってるし、大丈夫だと思っている」

 

「ふーん」

 

なんだよ?

 

 

鞄を持ち上げて部屋を出る。

 

「いってきまーす」

 

「__」「_」

 

 

玄関で靴を履き、ドアを開けて、道路まで出る。

 

よし、軽いランニング、汗だくにはならないようにしよう。

 

 

__手を振る事と呼吸を意識する__踏切、犬を散歩させる人達、信号、階段、歩く生徒、塀の上を闊歩する三毛猫。眩しい空、流れる景色と風はスッとする__汗は気持ち悪いし暑いけど。

 

 

鞄から袋に入れたタオルケットを出して汗を拭きながら教室に入る。

 

野球部はどいつだ?朝練あるのかな。

 

貴奈美だ、もういる。近付いて、挨拶する。

 

「おはよう」

 

「おはよう彼氏ぃ~」

 

「あっ、おはよう!もう、からかわないで」

 

「話遮って悪かった、また後で」

 

自分の席に向かう。

 

 

近くにたむろする男子生徒達に話し掛けてみる。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

「…なんだよ」

 

 



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リザルト:O点

 

リュックサックから新しい紙を取り出して傾けた体を戻して座り直し、ノートに加える。

 

????年7月?日、と。

 

 

「ねえ、ラッキーさん、覆面辞めたら?前回は脱いでたじゃん」

 

顔を上げる。モチノか。

 

「用心してるんだ」

 

この前の女とか。もう顔見られているけど。

 

「転送でここに戻って来たら電話番号を交換しないか?後、私の点取りに協力する気はあるか?」

 

あの女子の顔覚えて無いから、壁際で小さくなる羽目になってるんだ、こいつなら顔判る筈だ、私に好意的なら聞こう。

 

「いいよ、約束は守ります。空飛ぶ乗り物には乗せてよ、止めは譲るから、銃も持たせてー?」

 

今の笑い顔は媚びてるだけだろうが、最初の真剣な顔はまあまあ良かった。

 

「有り難う。勿論武器は携帯してくれ」

 

日付を書き切ってから__年まで書かなくても良かったかな、月と日も点でいいかも__立ち上がり、彼女に軽く頭を下げる。覆面も取った方が良かったかな....

 

「ごめん、覆面付けたままで」

 

「謝んなくていいって」

 

 

「そうか、助かる」

 

シャーペンの芯をしまい、ルーズリーフノートの表紙にクリップで付けて丸ごとリュックに入れ、チャックを閉じる。

 

 

「....覆面、捨ててきてなかった?」

 

「あの後でまた買った」

 

覆面の話はもういい。それよりも聞きたいことがある。__まだ始まらないのか?首だけ振って部屋を見渡す、20人ぐらい居るな、際立って多いって訳ではない?

 

「前回、錯乱していた女性はどうだ?未だ根に持って居るのか?」

 

ソウも先輩も来ているな。床に銃口を付けて壁に立てかけた重力銃を持ち上げる。

 

「いや、落ち着いてる。あれ、まだ謝って来て無い?おーい、きふっち!気まずいし、その、怖いじゃん?ラッキーさん。許したげて?」

 

攻撃して来なければいい。モチノさんという協力者が居れば点も稼ぎ易いだろうから、悪く思われない方がいい。

 

 

「あ、あの、すいませんでした…恋人がし、死んじゃって…本当にごめんなさい!!」

 

「ラッキー、仲間割れはヤバイぜ、許しとけよ、俺も許したし」

 

ヤマダ先輩に言われずとも。__先輩には仲間割れの経験、人間同士の殺し合いで勝った事があるのか?

 

「謝罪は受け入れます。もう気にしないで下さい」

 

今回100点取った時にまさか又3番ー、とか言い出さないよな。99点あるし、100点は確実に取れる。次の兵器も使えないやつなら、1、3番も視野に入れないと__

 

 

タイミングが良い、のか?見飽きたルーティンだな。

 

 

「えーっと!!ここにあるケースから自分の分のスーツに着替えて下さい!!安全のためです!!」

 

「___」「___」

 

「__!_」

 

「___?!___、_」

 

ソウの大声などを意識から外す。リュックを左肩に担ぎ上げ、黒球の画面に近付く。

 

 

そこまで期待してはいなかったが、碌な情報が無いな。

 

 

「モチノさん、行こう」

 

追加兵器の部屋に向かい、ドアを開けてヤマダ先輩とモチノさんが通るまで押さえる。

 

「サンキュ」「アリガトウございます」

 

 

強化スーツを着用した2人に頷きかけて、部屋に入る。

 

 

床に転がる武器の内、刀身がまだ生えていない柄は右太腿に、三角に並んだ3つの銃口がある拘束用のハンドガンは爆弾と共に腰に巻いたバックに入れてある。先輩の重力銃も、湊さんのも入れて2つ同じ物を持っている。私が最高戦力、というやつだな、妙な高揚がある。

 

 

床の武器と先輩を避けながら1つだけ立った選択画面のある機械に近付く。肩からリュックサックを下ろし、飛行バイクとロケットランチャーを選択する。

 

 

振り向いて、話し掛ける。左手をライフル型の長い銃を持つモチノさんへ伸ばす。

 

「モチノさん、手を。先輩、強敵なら一緒にやりましょう」

 

我ながら身勝手に聞こえるな。まあ危険だが、制限時間1時間以内のターゲットの殲滅をする為には分散が効率的だし…

 

「___」

 

「モチノさん、足があるヤツならそこを狙ってくれ」

 

ずっと考えていた事だ、重力銃だとタイムラグと取り回しの悪さで飛行バイクからの狙撃は連習しないと難しいから、今回は彼女に私の分の重力銃を持たすのはよそう。

 

「動きを止めれば良いんだしょ、りょ~かい」

 

へえ。…あれ、顔は少し強張っている?

 

 

「あとでな、ラッキー」

 

「ええ」「あっ、あたしらが先じゃん。じゃあね、ヤマダさん」

 

 

おっ。反射的に目を瞑る。

 

直ぐに目を開き、ああ、レーダー図を見るには繋ぐ手を右手にしとかないといけなかった、右手の重力銃を構えながら周囲を確認する。

 

 

近くに配置された、追加された横の輪が元のドーナツバイクの縦の輪より3回り以上大きい飛行バイクと、1本のミサイルが搭載されているロケットランチャー。

 

転送が完了されていたから、左手を離す。

 

「モチノは座席の後ろに座ってくれ」

 

ロケットランチャーを入れる袋、重力銃とは別にあった方が戦闘中に持ち替えられたな…まあいいや。重力銃を仕舞って先ずは新兵器を試してみるか。使ったら投げ捨てればいい。

 

「背もたれの後ろから抱きつくの?銃が撃ちにくいよ」

 

言えてる。それじゃあ__飛行バイクに乗り込みながら提案する。

 

「私が前にずれて座るから座席との間に背中合わせで座るのはどうだ?」

 

スーツの強化があれば私に圧迫されても苦しくないだろうから、良さそうに思えるが、どう言うかな?

 

 

「ちょっと苦しそう…うん、とりあえず試しまーす」

 

スーツ越しで柔らかさはよく分からないが背中に彼女の体が密着する。

 

「どうだ?というか、他に貴女が私にアシストする方法思いつかないんだけども」

 

一緒に高速で移動しながら振り落としたりはぐれない様するやり方、何かあるのかな?私が馬鹿な訳は無いと思うけど、どうかな。

 

「ウ~~ン」

 

飛行バイクの複数の画面に触れて起動と設定を行いながら、左手についた機器に映る敵味方まで表示される地図を見る。

 

「行くぞ」

 

発進、離陸する。

 

「げえ、ま__わかったわよぉ!」

 

ぐっ、わざわざ振り向いて耳元で叫ぶなよ?!

 

 

軽く首を左右に振る__今回のヤツは飛べるのかよ__あ、透明化忘れてた、そりゃ目立つよな__

 

「モチノ!私の代わりにボタン押して透明化してくれ!」

 

 

加速して上空へ__

 

「うわ、ナニアレ!!」

 

 

「何だ!?」

 

旋回する。視界に、ぼやけて見えるが飛行する敵達から伸びた長い棘が入る。それぞれの飛行体から複数ずつ、それぞれの一点に向かって数十メートルは伸びた細長い線が、各々の飛行体へと引っ込んで行く。

 

あれが攻撃方法か。飛び道具の一種にカウントしていいのか?肉体の一部か?

 

3体の内、1体をロケットランチャーの照準画面に映し上トリガーを押してロックオン__ちぃ、くそっ。

 

 

 

 

ハンドルを右手1本で捻ったり傾けたり、意外に重労働だな__

 

 

 

 

十数分も空中で複雑に動き回って、吐きそうだ。相手も高速で、画面に捉えられ無い__あの棘、バラバラに射出まで出来るのかよ、うおっと__

 

「モチノ、何とか当てろ!1体でも減らしてくれ!」

 

「そっちは全然撃ってないじゃんか!ラッキーも撃ってよ!」

 

ミサイルは多分1発きりなんだよ__

 

「やった当たったあ!」

 

よっし!

 

「当たったのはちょい前にぎょーんて撃った奴だけどな!ラグがあるからッ!」

 

動きが遅くなった敵2体__同じ方向に飛行バイクを飛ばして併走に近いかっこうにして__。これで、ほぼ止まって見える。画面に表示された3角形の平べったい物体と中にあるごちゃごちゃした小さい骨格、上のトリガーだけを左手人差し指で引く__両方のトリガーを引き絞る__

 

 

今までの銃には無かった反動があった__ロックオンしてからじゃないと外しそうだな、冴えているじゃないか私。左手を開いてL字型の砲身をポイっと、座席に掛けたバッグから重力銃を引き抜く__

 

 

眩しい球体が3角の飛行物体を飲み込んだ。

 

凄い威力がありそうだ、余波で飛行バイクが揺れ動くし。

 

「やっば!」

 

うん、確かにより強力な兵器は伊達じゃないよ_な__体に衝撃、右胸が熱い、太い何かが引き抜かれてゆく。

 

 

歯を食いしばる。

 

__飛行バイクが操作に応えない?

 

「離だ、ゴフッ、っつしろ!」

 

「痛ったい!あ、足が__」

 

風景が目まぐるしく変化していく__数瞬、空中に浮かぶ薄い緑に発光する敵が__左手のトリガーを連続して引く__全身に衝撃が奔る。

 

 

 

…ごはぁっ。

 

口を押さえる。鉄錆みたいな、生温いものが鼻腔まで満たす。

 

__血か。右手は動かない。

 

火花が所々散っている、飛行バイクの中に居るのか…モチノはいない、足がどうとか呻いていたが墜落前に離脱したのか、右胸に穴、恐らく貫通してる、重力銃、左手を伸ばして、掴む。

 

 

くっついたままの右手は、痛むだけで碌に動かないな…左手の方を目に引き寄せる。付属の白く丸い機器から、光沢のある、水銀のようなモノが流れ出ている。ダメージはでかいな…まあ、判り切っている事だが。気を取り直す。地図に映る私は……これ、か?近くに赤い光点が1つ、近寄って来てる、のかな。うげえ。

 

 

真上に来られると、重力銃では私ごと潰しかねない。腰のバッグ、良かったよ巻きついてあるままで、そこから拘束用の銃を__爆弾も起爆して無いな、冷や冷やするなもう__

 

 

きた。頭から3つの体が生えてんのか、あれって?

 

右に向けた顔を思い切り顰めてしまう。曲げた左手の銃の後ろにある画面にその生物は映っ__トリガーを上、下の順に引き絞る__ている。

 

 

_明滅する私の灰色の視界に、こちらに突き出される円形に並んだ何本もの線が映る。体を捩り、くねらせて飛行バイクから抜け出て__

 

右胸と右足に衝撃。左膝を立てて敵に正対しもう一度引き金を引く。

 

 

光る線で拘束された敵の、1つしか無い頭が転送の光に変わって空に伸びていく__ふざけんなよ。

 

壊れた飛行バイクの中に潜り込み、右足は平気だな、重力銃を拾い上げ、消えつつあるそいつに前かがみの姿勢のままで何度も撃つ。

 

 

光る線とそれが繋がる3つの地面に食い込んだアンカーらしきものごと、地面に向かって押し潰され、少しずつずれて重なる、だいだい円形の窪みが出来る。ぶちまけられた液体がそれを浅く満たしてる…

 

 

ふうー、少量のこみ上げる血を吐く、右胸が痛い、呼吸がしづらい。

 

激しい痛みをこらえつつ、前進して飛行バイクから這い出る。深呼吸、はやめとこう…。

 

起き上がって、重力銃ごと左手を少し持ち上げる。残り42分、味方も敵も残ってる__青い光点が近付いて来てるな。

 

 

最寄りの赤い光点の位置、動いているが、そこに向かって歩き出す。__周りがよく見えない。早く終わらせないと死ぬなこれは…ぐぅ。

 

 

立ち止まり、重力銃を左上腕に引っ掛けて腰のバッグを漁る。錠剤の入ったケースを探り当て、取り出す。強心剤と鎮痛剤__ケースを開けて口に流し入れる_苦…鞄をまさぐって止血ろうを取り出す。こみ上げる生温かいものごと何とか薬を飲み込む。軟膏、薬を傷口にべったりと掬って塗りたくる…胸に穴が空いてる…私って物凄く恵まれた肉体なのか…?背骨と心臓は無事で、片肺がやられただけなら普通に助かるか…?…くるしい…

 

 

頭は血が出ていない筈なのに、クラクラしてきた…膝に力を入れる。

 

 

 

「ラッキー、ってダイジョブなの!!?」

 

そんなわけあるか。

 

「モチノ、さん…止血、とか頼める…?お願いします…」

 

取り出してあった包帯の束を見せる。

 

「うわ…」

 

 

 

「胸の所はあれだけど、まあスーツの切れ端とかラッキーがバックに用意してた包帯で縛ったから出血は抑えられたと思うけど、無理しない方がいいんじゃないかな」

 

ありがと、モチノ。…声に出てるか?

 

 

 

 

敵、強化を高めて…堕とす。

 

 

「ラッキー、それでソード振って空飛ぶ相手を落とすとか、ちょっとヒくなあ」

 

顔に湿った覆面がくっついて気持ち悪い____右手は上がらない、左手は武器を持っている……

 

「ラッキー、はいこれ」

 

君が持ってろ、今の私には重いんだ。

 

 

 

 

 

「おいおいおい、そいつ生きてんのかよ?」

 

「やめといた方がいいっすよお。その人、ヤバイくらい強いっすから」

 

 

 

 

「それ、貸してくれません?ラッキーさん」

 

あ…私?…爆弾を、か?気付いたら右手で球体を弄んでた…

 

「いや…使う……私…つもりだ…」

 

碌に喋れない…畜生、まだなのか…?

 

 

 

 

青い光__転送の光。陳腐な、文字通り足腰から力が抜ける感覚。頭がすっきりした。

 

 

おっとお。まだ部屋に戻って来ていない4つの手足に意識を集め、湊さんの銃を抱えて持ち帰れるように、と。

 

 

変な姿勢で転送されてしまったな、恥ずかしい。真っ直ぐ立ち直して、顔を下にさげ、重力銃をいじる。

 

このコード抜いたらどうなるかな…

 

 

 

「__採点_」「_____」

 

「先輩は?」「ここ。いるぞ、ちゃんと」

 

漸くか。

 

「ラッキー、わたしが点取ってても怒んないでくださいよお?」

 

彼女の笑顔を見る。

 

「怒らない。助かった、ありがとう」

 

よく覚えてないがモチノがいなきゃ死んでただろうし。

 

「ふぅーん。これからもよろしく、ね?」

 

まだ点を譲ってくれる気があるのか…?いいや、そういう意味じゃないだろうが別にいいか。

 

「こっちこそ宜しく頼む」

 

 

黒球の画面に私の情報が出ている。ラッキーくん__字の向きが逆だな__41点。合わせて140点。40点の持ち越しか、次は100行かないかもな。

 

「ら__」

 

「より強力な兵器を、今直ぐに出してくれ」

 

あのヒト、何か云おうとしたよな?

 

「どうしました?」

 

「いえ…3番選んでくれたっていいじゃない」

 

まさかまだそんなこと…小声だし聞こえなきゃ良かったよ…げえだな、ウンザリする…さっさと離れよう。私なら、貴奈美が死んだ時彼女みたいになるだろうか__?

 

 

扉を開けて、追加兵器の部屋で、3つの銃口がある、穴は空いてないが、拘束用の銃を1丁拾い、チャックを開けて腰鞄に入れる。後でライフル型じゃ無い方の銃も入れとこう。ああ、爆弾とは離して入れてと。

 

兵器選択の機械に近付き、その脚元には私のリュックサックがちゃんと残っている、画面に表示された新しい兵器、ライフル型の銃にも似たそれより遥に強力だろう銃の図に触れる。

 

 

振り返って数秒待つ。

 

「番号交換しましょ__」

 

モチノか、そういえば私から聞いたんだったな。ソウと先輩、他にも何人か来たな?げ、あの女性までいるぞ…。

 

 

ガトリング砲だなこれ。滅茶苦茶強そうだ。

 

 



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戦力「O」

道路を車と共に疾走する。重々しいトラックや車をすり抜けてくるバイクをかわしながらの激走は、怖いが興奮する…っ。

 

気を付けろ、と上げそうになる声を飲み込む。私は透明人間なんだ、配慮なんかされない__こっちも強化スーツのお陰で周りに然程気を付け無くても安全だが。

 

 

高速道路の料金所も素通り出来る__それって犯罪なのか?自分の脚で走っているのだけど。

 

 

息が切れる。心臓の鼓動が少し煩わしい。1歩が長い跳躍に変わっている。

 

 

看板の表示を見る。右肩に担いだガトリングを左肩に持ち直す。

 

 

あ、着いた。少し低くで日光が輝いて、海面に照り返しがあって眩しい…鳥が4匹程飛んでいるのが見える。道路の脇に避け、体を縮め、そして全身を一気に伸ばす。

 

高い視点に、顔に打ち付ける切るような寒さ、そして全身の自由さ!!!さいっこうだ!!体が落ちていく。自分でバンジージャンプしてるみたいなものだな__大声を上げたくなる。手足を振ってバランスを取る。

 

 

足から全身に大きな衝撃。足元が抉れ、石や砂が飛び散っている。

 

よし。海ならこのガトリングガンをぶっ放してもニュースになったりしないだろう…あわよくば魚も取れるかもしれない。

 

ガトリングガンを片手で___結構重いな、両手の方が動かし易いか。右手で引き金のついた普通の持ち手を握り、左手で上部に突き出たもう1つの持ち手を掴む。銃口を打ち寄せる波と砂浜に向け、2つのトリガーを同時に引く。_銃が駆動し銃身に電流が複数枝分かれしつつ奔る__眼前を点滅する輝きが蹂躙する__音が響き、揺れが肩まで伝わる。

 

足元も少し揺れてる…?怖くなり引き金から人差し指と中指を離す。

 

 

SFでゆう所のエネルギー兵器って奴だな。眩しい光弾が連射されると、穴だらけになるってか。砂浜の所々が焦げたようで黒ずみ、海からも薄っすらと煙が上がっていた様に見えた…凄いな…

 

 

反動は多分ロケットランチャーより小さいが、今までで最強の兵器の筈だ。光弾一発の威力はロケットランチャーで発射したミサイルのあの激しい輝きより小さく思えるが、貫通力はどうだろうか?連射性だけでも、十二分に使えそうだ。

 

 

左手でガトリングを肩に担ぎ上げ、腰に付けたバッグを開けて、中から小さい方の銃を取り出し構える。…照準を右にずらしてトリガーを絞る。愉快な音がする___ガトリング砲の方が重々しくて格好いいかもな。前に歩き、砂が右で弾ける、焼きついた砂の穴の1つをスーツの手袋で覆われた手で掘り返す。結構深くまで黒ずんでるな…別の穴も確かめるか…隣に空いた、表面が少しはじけ飛んだのだろう黒い窪みも掘ってみる__

 

 

 

…うむ、なんとなくスゴイことは理解した。

 

 

立ち上がり、小さい銃で吹き飛ばした砂浜の穴に近付く。

 

窪みはこっちの方が大きいけど、奥まで続く黒ずみのようには深くまで届いてはいない__でも照準画面を利用すれば、別に深くまで直接狙える。

 

小さな方の銃を鞄に仕舞う。肩からガトリングを下ろし、右手、左手で持ってみる。ガトリングガンは素早く狙いも付けずに攻撃出来る、遮蔽物も貫通するだろうし。だが重いから、服の強化を上げないと簡単には片手で取り回せない__

 

 

遠くの水面に肉片が浮いている様に見えるぞ__持って帰る気にならないな。

 

 

腰の鞄から音が__電話が掛かって来た、誰からだ?

 

携帯電話を銃を避けながら取り出し、パカっと開く。昼から走って、腹が減った__少し荒い息を整え、通話ボタンを押す。

 

「もしもし?」

 

なんて名乗ろう__誰だか確認するの忘れてた…

 

「あ、ラッキーさん?ソウっす。どーも、4日ぶりっすね」

 

「ああうん」

 

電話番号教えたっけ?モチノに教えた後、明日の夜会う予定を立てて…コイツには教えてないよな。

 

「番号交換したっけ?」

 

「いえ、して無いっす。センパイから聞きました。それで用なんですけどね、__」

 

センパイ…ヤマダ先輩か。

 

「__でえ、結構揉めてて。てなわけで次のミッション前に会えません?」

 

しまった聞いてなかった。__ミッションって、面白い表現だな、殺し合いに過ぎないのに。

 

「もっと簡単に言ってくれないか?」

 

「…ならいいっすよ、じゃあまた、あの部屋で…」

 

プツン__日程も場所も決めず切ったな、会わなくていいのか?

 

 

釈然としない。が、気にしないぞ。

 

なんとなく電話帳のページを出してポチポチとスクロールする。滝川家、姉さん、母、モチノ(旧ビーノ)、ヤマダ先輩。

 

…先輩にかけてみるか?別にいいか。もう帰ろうかな、だが、来るのにかけた時間を考えると早すぎるかな。

 

 

波打ち際まで行って、ステップを踏んでみる。この靴部分、洗えるのか?

 

電話を二つ折りにして、腰にある鞄に放り込む。引く波を追うように進み、打ち寄せる波に合わせて下がる。進み、後ろにジャンプ。前にジャンプ__やば_海水に着水。ウォータ―プルーフかよ、このスーツ本当に高性能だな。海水を蹴散らしながら歩く。

 

 

あ、着信。歩みを止めて鞄から携帯を取り出す。表示は、ヤマダ先輩。男だと嬉しくない…

 

「ラッキー?俺、ヤマダだ。今ちょっといいか」

 

「先輩、今電話しようと思ってた所です、そちらは何の御用ですか?」

 

「うん…キンナさんの話でさ、まだお前連絡って取ってる?」

 

なんだこの人?

 

「取ってますよ。記憶の抹消は結構雑っていうのが暫定の結論の儘です。其の事ですか?」

 

「…記憶、戻ると思うか?__いや、いい。あのさ、俺のバイト先で人が足りてなくてさ、接客用員でラッキーとキンナさん誘おうと思ってさ。夏休み、暇だろ?」

 

キンナさんも仕事にまだ就けてないから暇、と。成程。__記憶はある程度まで戻ったなら、戦力になるんじゃないか、利用できるのではとか思っているからこそ、偶に連絡取っているけど。おっぱい大きい若い美人だし、話して楽しいのもあるが。

 

 

「私はバイトする気はありませんよ、先輩。悪いですけど。キンナさんはもう誘ったんですか?」

 

「いやまだだ。ちょっと最近話してなくてさ」

 

それで私から話を通して貰おうと思ったのか?自分でやれよ。

 

「そうですか、私の方の用事も良いですか?」

 

「ん、おう、いいぞ」

 

「ソウにこの番号教えたみたいですけど、他のあの部屋に来た人達にまで広めて無いですよね?」

 

ソウにも念押ししとけば良かったか、さっき。

 

「ああ、してない。ソウにも伝えない方がよかったのか?」

 

「いえ、まあ大丈夫です。私からはこれだけですけど、他にまだ話さないと拙い事でもあります?」

 

「や、ないだろ。んじゃ、切るか。またな」

 

「ええ、また、あの部屋ででも」

 

他の所で出くわす可能性もそれなりにあるよな。

 

 

耳から携帯を離す。手を止める。

 

貴奈美とも電話しようかな、こっちから掛けて。

 

 

…携帯電話のボタンを押して画面を操作する。

 

電話を耳に当てる。

 

「……」

 

「…はい、ヒノです」

 

「こんにちは____こんばんは?ちょっと声聞きたくてさ」

 

「うえ、カッコつけすぎだよ」

 

何だってえ__?肩のガトリング、続けて今は活性化していないがテカテカの生地に丸い機器が大量についた、体に張り付くスーツを見やる。__確かに…顔と耳が火照る。

 

「うん…そうかも…」

 

「ふふ、そんなに真に受けないで?太二クン、格好良いよ?運動神経もいいしさ、わたし運動音痴だから羨ましいぐらいだよ」

 

「謙遜?運動出来るでしょ。私は男だし、君には負けないけど」

 

「あはは…どうかしら、週末会わない?わたし勉強の息抜きしたいな」

 

約束さえなければな…

 

「ごめん、先約が__」

 

いや、いけるか?

 

「でも、朝からなら大丈夫なんだ、昼ご飯、私が作ろうか?朝も作ってもいいけど」

 

「家に誘ってるの?家族がいるんじゃないの?」

 

「来た時にも言ってただろう、ウチは広いから、そこまでお互いに気にならないと思うよ」

 

「今夜会いに来て欲しかったりするの?」

 

ぐうっ魅力的だ。__彼女の息遣いを意識してしまう。

 

「ああ、来て欲しい、かな」

 

「うん、また今度ね」

 

何だよ、ちぇっ。

 

「明後日、午前中にお邪魔するね?わかるかなあ、あの本屋さん、あそこまで迎えに来てくれる?」

 

本屋か、開くのは10時からだったな。見たい本でもあるんだろう。

 

「10時半に行けばいいか?」

 

「ええ、ありがと」

 

「昼食は私に是非作らせてくれ。私の部屋ででも待ってて、小説がそれなりにあるから、興味があれば読んで暇潰ししてみてくれ」

 

「えへ、楽しみ!じゃあね!」

 

「うん、ちょっと早いけどおやすみ、かな」

 

「まだ寝ないよ~、ふふっ」

 

 

鞄にまた携帯電話を仕舞い、チャックが閉まっている事を確認する。軽く屈伸して、ガトリングガンを持ち替えて片手ずつ大きく回す。ようし、行くか、というか帰るか。砂を蹴って低く遠くに跳躍__着地、すぐさま上に高く跳び上がり、来た道の道路へ__左手でも体を支え押し上げて、来るときとは反対車線へと車を飛び越えて避けながら入り、家へと走り出す。

 

 

 

まばらに走る車を抜かしたりすれ違ったりしていると、もう手足が重くなってきた…。呼吸はまだ余裕があるけれど、今日は疲れたな…トラックにでも貼り付いて楽したいな、トラックないかな、家の近くまで行くってハッキリと判別出来る奴__そんなもの無いか。

 

 

車とバイクとの接触に注意しつつ、大きな跳躍を繰り返す。

 




連続投稿はとりあえずここまでにします。


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カップルなら赤点回避はマスト

 

 

直ぐ近くに続々と転送されて来ている。味方がまとまっているのはいい、が。

 

 

補習も部活もないのに夏休み中に死んでたまるかよ、何だこの場所?配管が床、壁、天井に疎らに這っている。正面戦闘を強制してるのか?

 

 

「オイオイ、ラッキーこりゃ持ってきた武器ほぼ使えないんじゃねーか?」

 

先輩こそ。モチノから右手を離して彼を見据える。

 

「他人事じゃないでしょう、重力銃をここで使ったら生き埋めになりかねませんよ?他の武器を使ってくださいね」

 

視線を切って送られて来た私の強力な兵器達に歩み寄る。

 

 

飛行バイクの座席にもう1つかけた、新しい大きいバッグにロケットランチャーをしっかりとジッパーを引いて固定する。

 

「それ、置いてくんですか?」

 

振り向く__誰?

 

「いや、持って行くつもりだ、一応は」

 

「そ、そっすか」

 

初参加か?銃を抱えてスーツも着てるし前回からいたのか。

 

「モチノ、どうする、乗るか?降りてた方がいいかもしれないぞ」

 

丸みを帯びたトンネルの中のようだし、速度を上げて飛行は出来ないからな。_!車みたいなケダモノがカーブ、真っ直ぐな一本道からこっちに__

 

 

「おい、来てるぞ!?撃て撃て!」「止めろ!」「来てる来てる!」「わあわあーッ」「うっせえ!」「きゃああ」

 

ぎょ~ぎょぎょ~んという間の抜けたような銃声が連続し重なり合う。私は表面が僅かに剥がれた怪物、短足の獣、カバみたいな感じ、それから目は離さず急いで飛行バイクを起動していく。

 

「止まらないッ」「下がれえ!」

 

結構強いのか、刀ならやれるだろうか__時間さえ掛ければ表皮を剥がして内側なら銃も通るな__

 

正面の大き目の画面に獣の骨格が透けた図が映る__両手のハンドルを一気に捻る__

 

「脇に避けろぉ!!まきこ_」

 

衝撃、が、全身を走る__画面にノイズ__加速が足りなかった、いやそれよりも強度が負けてる__?

 

左腕でハンドルを傾け車体を横にする__突進を始めそうな獣_後ろからもう2匹来てる!?膝の上のガトリング砲のトリガー2つを右手で引き絞って握り続ける__

 

 

手前の殻にひびの入ったヤツはすぐ穴だらけになったが、後ろの新手、トンネルの先から合流してどんどん増えていく群れは殻だか表皮だかをすぐには貫けない__昆虫みたいな、チキン質の下に肉塊があってそこはまだ効くのに、全身を覆う殻、その鎧は1点の周りに集中して当てないと砕けない__減速させたままにするには全体に当てないと__撃ちながら飛行バイクを斜め横向きに後退させる。

 

 

____追いついた。

 

「下がりながらでいいから撃ってくれ!!足とか、内臓を潰して先頭を止めてくれ!!」

 

ハンドルの捻りを緩め、飛行バイクの速度を合わせる。

 

「どうやって内臓を!?」

 

もう撃ち始めた人達を見習えよ!

 

「銃の後ろにレントゲン図みたいなものが映るだろ!?上トリガーを引いてロックオン、下も絞って発射だ!!」

 

カーブを曲がる。獣共が一時的だが見えなくなり、圧迫感が__銃声や叫び、足音が聞こえるな__弱くなる。

 

「トンネルの壁を撃って崩しましょう!」

 

うーん?ガトリングの照準画面に怪物の骨格を映す__4足歩行、いや疾駆か__

 

「やめとこう!?行き止まりまで下がるかも、トンネル全体が崩れ落ちて逃げ場が無くなりかねないよ!!!」

 

「っ、じゃあどうすんのよ!?」

 

「この図だと、ちゃんと敵は減ってる、味方も欠けてない__」

 

強化スーツを着てないやつは死んだだろうがな?

 

「__転ばないようにすれば削り切れるかも!数が減ったら、ラッキーさんに突っ込んで貰って押し返して、囲んで撃ち殺しましょう!!」

 

「良さそうじゃないかラッキー!?」

 

「私はその案にのる!」

 

まあ良さそうだし。

 

「のったぁ!」

 

「私も賛成!」「ああオレも!」

 

「オッケー!」「___!__!」

 

私は左手で飛行バイクの変則飛行、右手でタフな化け物全体に光弾を当て、銃の画面と背中側の進行方向を繰り返し確認して__くそっさっさと突っ込みたいな!?左手についた機器の画面の地図は見てられないし操作も無理だし、もし見れても頭の処理が間に合いそうもない、となると_

 

「誰か地図はどうなってるか教えてくれ!もう転進してもいけそうか!?」

 

「もうちょっと待って___」

 

「ヤバイ、制限範囲がもうすぐそこまでんトコだ!」

 

はあ!?越えたら頭が爆発するんだろう!?後どれくらい__

 

「敵はどれだけ残っている!?」

 

「ぽつぽつトンネルに置き去りの表示があるけど__」

 

「大体10匹!!いける!?ラッキーさん!?」

 

「いきたいが、まだ無理だ!!」

 

数分前は怪我を負わせたヤツ1匹で飛行バイクも勢いを殺されたんだ。もっと加速するにしてもな…。

 

 

「うわっやば!!」

 

「なにこれ!?」「これが警告音だよ!」

 

スーツで走っていた味方と同様に、急制動をかける。

 

 

ピンポロ_高い機械音_ガトリングガンを膝に置き_

 

「ヤバイってぇ!」「うひゃあー_」

 

両腕で飛行バイクを操作する_

 

「ヤツラを飛び越え_」

 

飛行バイクに振動が通り抜ける__私はコイツラを押し返さないと上を抜けたり出来ないのに、良いご身分だよ他の人達は__また衝撃_横に持ち上げたガトリングを見もせずに撃つ。

 

反対の横からも衝撃_画面に触れてホバリングモードに_ガトリングと刀の柄を両手に持って斜め上に飛行バイクから飛び出す_宙で前転_両足をつけ_飛び出しながら両手の人差し指と中指に力を入れる。

 

 

刀には重い手応え、体のバランスが崩れ、怪物の体を蹴りつけて持ち直す。

 

壁か天井か床かにガトリングから射出される光弾が当たっているが構ってられるか__腕を集中しながら外殻が剥がれたりひびがある箇所に向けて振るう。連撃は狙い通りに決まり続ける_壁を蹴る_ガトリングも左右に振る_大きい顔を踏む_抜けた、7人の味方と合流だ__よしっ。

 

 

「さすが、ラッキーさん」「だな」

 

「ま、まだ来てない人が…」

 

死んだんじゃないか?下がりながら、ガトリングを取り敢えず構えてみる。

 

「死んだと思うけど、撃つのはまだにするか?」

 

おっ、待って正解だったな、1人抜けて来た。

 

 

「撃ってぇ~~!」

 

近くの3人と目を見交わす。

 

「…撃つ?」

 

如何する?

 

「まあ__」

 

「俺が行きます!」

 

 

………あいつ、やるな…スーツも強化がより高い状態だし、刀であそこまで立ち回るの、スグル以外で見た事ないな__。そういえば…左手を武器ごと持ち上げて地図を見る。背後のトンネルに、赤い輝点が、5つ離れて並んでいる。

 

 

「俺もいくか…」

 

「え、あ、ラッキーさんは?」

 

左手の機器を見せる。

 

「後ろにもまだ残っている」

 

ここまできて油断してやられたんじゃ、補習を受けるより更にバカバカしい。____貴奈美とのセックス、前よりも気持ち良くなってきてるし、死んでられない。いや、今考える事じゃ無いな__モチノと、恋人再生を目指す女子から顔を逸らす。

 

 

周囲に、全体に意識を分散しようとする。

 

飛行バイクとか、強い兵器回収に戻った方がいいかな…。爆弾は腰のバックに入っているが…。

 

 

「はあ、はあ、終わ、った…」

 

「死んでたの、気にすんなよ?ありゃ手遅れだ」

 

「まだ後ろに残ってるっすよ。そっすよね、ラッキー先輩?」

 

自分の地図見れば判るだろう。ソウも左腕がまだついてるじゃないか。今回の星人は体当たりだけだから、潰されたり折れることはあっても切断はないだろう。

 

「ああ、死にかけだと思うが」

 

「…それじゃあ、いき、ますか?」

 

「おう」「はあ」「うーっす」「ええ」

 

私も返事をした__「ああ」

 

どうせトンネル内だと崩落が怖くて使えないし兵器は手持ちのガトリングガンと刀、それと強化スーツで充分だろう、取りに戻らなくていいな。

 

 

 

臭いな…トンネルの中に臭気というか死臭が充満してるのか。

 

 

 

「なあラッキー、トンネルへのダメージ考えると、その光線銃?やめといた方がよくない?」

 

ガトリング強いのに…

 

「刀だけでやるんですか?」

 

スーツに頼った素手の格闘も、頑丈な外殻剥がすのに役には立ちそうだが、どう考えても危険過ぎて、誰も、特に女性は見目も考えて積極的にやらないだろうな…

 

「ああ。オレとラッキーと、お前でいけるだろ」

 

先輩が、未だに肩を上下させる勇気ある新人クンを見据える。ソウは刀持って来てないのか…。

 

 

ガトリングガンをモチノに。

 

「預かっておいて」

 

「わっかりました、危なくなったらわたしたちも銃で援護しますからねーヤマダさん!」

 

渡す。

 

「おっも!?」

 

まあ最初から与えられている銃と比べたらな。ロケットランチャーの方がやや重いが。

 

 

「__あんまり接近戦はやりたくないんですけど?死にかけのヤツの止めは全て私がやっていいですか?」

 

点数をもっと稼ぎたい。より強力な兵器が欲しい、それに死者蘇生の権利も。

 

「ちっ、お前剣術得意だろーが?」

 

_いた。低く駆け出しながら叫ぶ__

 

「じゃあ取り敢えずコイツは私が前衛でやりますよ!」

 

__声が木霊する__刺突して斬り下ろし、足を止めて斬り上げ__殻が割れて大分露出した__大上段から斬り付ける_肉から刀身を引き抜いてもう1度。

 

「Buoohyoooo…」

 

血を吹き出しながら呻き声を怪物が上げる__露出させた肉塊に刀身を伸ばして差し込み、抉る。

 

 

「すげえ…」

 

「動き見てると、刀振り回すなら1人の方がよさげだな」

 

交代制でいくのか?私は刀を引き抜く__私を越える体高の、死にかけの怪物が起き上がった。

 

__飛びずさる。口を開けて__

 

怪物の頭が膨れ、2つの目玉が破裂した。私はそっと刀をおろす。

 

「銃で中身をロックして殺す方が良さそうですね」

 

…恋人亡くしたひと、腹を括って自分で100点取る気になったのかな。

 

「前に出てる味方は撃たないでくれよ」

 

あっ冗談になってないな、言ってて気付いたが。気まずい…。

 

 

「次のは誰が出る?前にって事だけどさ」

 

先輩…。

 

「私は点が貰えないなら遠慮したいです。小さい銃も持ってきてるし、止め役に回りたい」

 

刀の柄のトリガー両方から指を浮かし、右太腿の帯で留める。そして腰のバックに手をやり、ハンドガン型の銃を出す。

 

「早いもん勝ちが基本だろ、誰がトドメでも文句なしな。剣でもラストアタック取れるかもだぜ」

 

銃の方が安全だろ。

 

「なら前はよろしく」

 

私は後ろで。先輩と新人に頷きかけ、ソウの隣まで下がる__ガトリングガンは預けたままの方が楽そうだな。

 

 

「ラッキーさん前でないんっすか」

 

「ソウだって後ろから撃つだろう、前出たいなら刀を貸そうか?」

 

「いや~いらないっす」

 

ふん…

 

「2人とも前向いてー」

 

左腕を持ち上げて地図を確認する。少し先か…歩き始める。

 

 

「おっいたっ」

 

私には未だ見えてない__

 

「おおおッ!」

 

叫びと湿った音__もう終わったのか?

 

 

薄暗いトンネルの壁際に寄りかかるカバみたいな獣に2人の黒い体に張り付くスーツを着た男が長い刀を突き刺している。目線を落とす__赤い光点は未だ映っている。右手の銃を向け、照準画面を見る__骨格と、内臓が映し出される__内臓の脈動が止まった?腕の地図を見ると、光点が消えている。点取り損ねた…

 

 

「もう死にかけしか残ってないね、やっぱり」

 

点の稼ぎ時、ボーナスタイムみたいなものだな。…先行するか?

 

 

「Ahhhaaaaaaaaaaa……」

 

 

まだ元気なのが残ってるっぽいな、コイツラ頑丈だし先行は止めとこう。__激しい足音が響いてくる。

 

「来るぞ!」

 

「わかってる!」

 

「構えろ!」

 

 

通路の先から大きい獣と_その上に跨る人型?

 

先頭の2人が刀身を伸ばした刀で斬りかかる_獣の上の人型が長い腕で刀を2本とも弾く_1人が左に飛び退く_獣が左に頭を振りながら追いかけ壁へと押し潰した_トンネルが揺れる。

 

銃の画面に動きが止まった獣の方を映す。外殻_獣が動き出す_骨_漸く臓物が映る。上トリガーを引く。よしっ取り敢えず距離を取るぞ__

 

 

振り向いて走り出し、中指も曲げて下トリガーを引き絞る。

 

「Gyaaaaa!!」

 

効いているが殺し切れたかな__そもそも上に乗った人型は、少なくとも私は未だ攻撃してない__肩越しに振り返る__獣とその乗り手が追って来ている_足りてないのか__

 

「どうするの!?」「ラッキーやばいよ!?」

 

隣で叫ぶなよ!頭がキンキンするだろう!というか、如何するって攻撃するしかないだろ!?

 

「後ろに撃ちながら走るしか無いだろ!?」

 

 

転がる死体を飛び越えていく___

 

 

「制限範囲までに終わらなかったらどうします!!」

 

あっ_

 

「そうじゃん!?ヤバイっすねえ!?」

 

「止まって迎えうつ!?」

 

それしかないか?_叫ぶ__

 

「モチノの他に案は!」

 

 

「やるっすか!」「ないわ!」「いっせーのでとまろっか!?」

 

 

誰が言うの?

 

「いっせーぇのぉ!!」

 

これ誰の声?裏返っているけど。

 

軽く膝を曲げて両足を地面につける__敵に向き直りつつ銃のトリガーを引き続ける。ここじゃ充分な幅が無いから避け切れないよな__刀は_右手は銃を持っている_行くしかないか、くそっ。

 

 

上に乗っている人型__腕が体の前後に3本、背中側に2。足は三脚。もしかして尻尾か?

 

 

獣の外殻が割れて肉が剥き出している所__左手で殴りつける__私の左腕、スーツの表面には複雑に筋が励起し、付属する丸い部品は青く輝いている__肉にめり込んだ腕を引き抜き、走り抜ける。

 

 

銃を撃ちながら4人で怪物達の前後を回る__トンネルなら壁と天井を蹴って立体的にも動けるが獣の上に1体小さいのが乗ってるんだよなあ。

 

 

____獣が五月蝿い咆哮を上げ__膝を折って崩れ落ちた。断末魔か__残りは上のヤツだけ_叫びながら飛び降りた、こっちに向かって_

 

 

銃を放し右太腿の帯を外し柄を右手で持ち上げる__両手で刀を握って_連撃する_四角いウロコが沢山、全身に付いている_刀がまともに通らない_左足で蹴って、よし効いた、距離を取る。

 

 

敵から小さい破片が飛び散った。私の攻撃の影響か銃の効果か__近付くのは止めだ。刀の下トリガーだけを解放し刀身を伸ばす__全身を右に捻り左足を踏み出し_串刺しにする。

 

少しずれた、反応されたが貫いた__

 

 

「ナイスよラッキー!!」

 

「ここで決めましょう!」

 

私もチャンスだと思う。片手を柄から離して腰の鞄に残る拘束用の銃で撃ってもいいのか__徐々に崩壊していくヤツの身じろぎが刀から伝わってくる__両足に力を込める。

 

 

刀に自分から刺さって来た__近付いて来るなよ!?

 

「早く仕留めてくれ!!」

 

我ながら情けない声だな____眼前で怪物が破裂、四散した。

 

 

「…助かった…ペッ」

 

口に入った血を吐き出す__コイツ毒は無いだろうな。

 

「はは…やったわ…」

 

「ふうー。おつかれ~って解散したいっすね」

 

ああ、まだ終わりじゃないよな。

 

「コイツが毒持ちなら今直ぐ転送して欲しい所だ」

 

顔を左腕で拭う。

 

「ま、まあダイジョブじゃない?」

 

「真剣に取るなよモチノ。黒球の表示に今回は毒なんて無かったし、私も未だ生きているし」

 

 

「残りは少しよ。時間も敵も。行きましょうか、向こうの2人も生き残ってるみたい」

 

ああ、2人とも生きているのか。地図を見て、操作する。残り11分26秒、青い光点が2つ、あれ離れている?1つは遠くで赤い光点の近くで動いている、もう1つはトンネルの壁際で動いていない。さっきの壁に叩きつけられた方か。未だ生きてはいるみたいだが、どっちがこの負傷者かな。

 

「私は止血剤とか包帯とか持ってるし、動いてない方まで先行するよ」

 

残りの光点とは逆の方向に踏み出す。

 

「え、そっちじゃなくないすか?」

 

「飛行バイクの方が多分早い!追い越す時は脇に避けてくれ!」

 

「あー、あたしも行くべきかな__」

 

 

刀身を消した柄を右手で持ち、両腕を振りながら疾走する。

 

 

死体の塊が先に見える。その向こうには私の飛行バイク。

 

 

この外側の円環、壊れている…?柄を腿の帯で固定する。中に乗り込んで、正面の画面に触れる__起動はするが。よし____後付けの輪を外して、元のドーナツバイクで走行する。

 

 

死体に乗り上げて弾みながら、バイクを制御する__

 

 

体を左右に傾け、トンネルを道なりに進む__

 

 

3人を追い越す__

 

「____」「_」

 

 

正面の大き目の画面の左端に人間の骨格が映る_レバーを握ってドーナツ型バイクを停車。

 

足を上げてバイクから降りる。

 

カーブした通路の先から声や衝撃音が聞こえる。別に近付いて来てはいないよな?

 

目を壁に向ける。壁に寄りかかる彼は全身が血塗れで、強化スーツからは鈍い光沢のある水銀のような液体が流れ出していて、ああ、ヤマダ先輩か、この人?!

 

 

傷口は何処だ?胸?顔?腰?意識はあるのか?

 

「先輩?聞こえますか?傷が何処か把握していますか?」

 

「…うう…」

 

意識ははっきりとしていない、と。薬は飲めないかな。傷口を直接止血するとして、胸部か、スーツが裂けている。内臓は出てないし、助かるかな…

 

「…キンナ…どうして…」

 

うわっ血を吐くな!?手がぬるりとして、血の匂いが鼻腔に広がる。未だ血を流しているなら、口を閉じた方が良いんじゃないか?

 

「先輩、喋るのはよして下さい…」

 

意識を保つには喋っててもらった方がいいのかな?

 

「…恋人に…セ…クス…忘れて…」

 

薄目を開けた先輩と目が合う。はあ?何が言いたいんだ?キンナさんと付き合ってたのか?自慢?

 

「…自慢ですか?」

 

「…いや…いち…記憶…」

 

__100点メニュー1番の記憶消去か。恋人との情事も忘れる、それを知らなかったのだから先輩はキンナさんにとってストーカーか変態の類だな。悲惨だな。

 

「そ、そういう…」

 

もしかして、キンナさんと先輩の関係って気まずいものだったのか?初回以降は先輩同伴で会ったりはしなかったな、そういえば。

 

 

取り敢えず、手当はこんなものかな?包帯にもう血が滲んでいるが…。

 

死んだら生き残りと接触していても共に転送はされないのは湊さんの時に分かった。先輩はここに置いて残りの星人を片付けた方がましだ。というか点数をもっと稼ぎたいしな。

 

「先輩、私は残りの星人の方に行きますよ。…何とか生きて戻れる事を祈っておきます」

 

「…ああ…ま…」

 

”またな”か”待って”か。ま、どちらにせよ私は行くだけだ。

 

立ち上がり、バイクに歩み寄る。

 

追い抜かした3人、追いついて来ないな。バイクに跨りながら、左腕とコードで繋がった機器に表示された地図を見る__数少ない赤い点が1つ減った__残り4分12秒、敵が1体、その側に青い輝点、あの新人がいる。急がないともう終わるな__

 

 

ドーナツバイクを走らせて直ぐに大きい獣と比較して小さい人型が見えた__あの人型は味方か、今回の人型の敵は1体だけか__転がる獣の死体の前でバイクをとめる。降りて、右太腿から柄を取り、刀身を伸ばしながら駆け寄り、強く踏み込んで突きを繰り出す__刺さった。青年が素早い動きで振り返る。

 

「っ!?」

 

「文字通りの助太刀だ、時間が無い!」

 

制限時間は後数分だ__

 

「あの人は!?」

 

力を込めて刀を回し、抉る__

 

「ヤマダ先輩なら止血はした!いいからあんたも攻撃を続けろ!」

 

獣が体を大きく捩る_柄を離す__スーツの付属品を青く光らせた青年が長い刀身で肉を深く切り裂く。__倒れた。死んだか?__地図を見る_赤い光点は無い___残り2分ちょい。

 

「間に合った…お疲れー」

 

返り血を浴びた青年に笑いかける。

 

__きょとんとしてる。吹き出しそうになり、笑いをこらえる

 

 

青い光__転送だ。

 

周りを見渡す。私が最初か。

 

 

次々に体が青い光と共に現れてくる。___ジリリリリ、と黒球が音を出す。ヤマダ先輩は、居ない、か。

 

「え、でも止血したんじゃ…」

 

こっち見るなよ。

 

「したさ。既に血を流し過ぎていたって事だろう、5分足らずも生きていられなかったんだろう。手当した時は未だ生きていた」

 

「そう…なんだ…」

 

 

「採点っすよ…えっ」

 

「うん?うわっ」

 

0点?私が?

 

「はああっ!?何でだっ!?」

 

 



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鮮やかな発色を画面上に

 

 

あれ、か?手下げ袋を握り直し、膝を軽く曲げて跳躍__着地。

 

 

「透明化しているか?モチノ」

 

くるっと回転しつつ艶やかな薄着の女子がこちらを向く。一応は強化スーツを一部、服の下に着てはいるよう見えるが。

 

「うわ!…おー、すっごいカッコ…」

 

「さっきまで祭りに居たんだ、そんなに変じゃないだろう」

 

透明化している私が見えるのだから、この人も透明化をしているな。彼女の横を通り抜けて川沿いの道を歩き始める。

 

 

「人が来なさそうな所まで移動しよう」

 

「じゃあそのお面取ったら?遊び心は評価するけどさあ」

 

安物のお面だ、いいモノじゃ無い。

 

「格好はどうでも。軽く打ち合わせしたいだけさ」

 

「あっそ、助かるわね」

 

苛ついてる、かな?

 

「蒸し暑い中来てくれて有り難う」

 

アイスでも買ってくれば良かったかな。

 

「人混みから抜けてる今はそうでもないわよ?」

 

確かにさっきよりはましだが__というかモチノもさっきの人混みに居たということ?

 

「下に強化スーツを着ているのに、モチノの方は暑くないのか?」

 

「全部は着てないしね…ラッキーもそうでしょ」

 

 

ちょっとした広場が近付いて、歩みを止める。

 

「軽く動いてみるか。もう強化込みの動きも慣れた?」

 

「まあそこそこ?けど、君とモギセンは絶対にしないわよ」

 

モギセン?模擬戦、か。そんな事したら危ないだろう。

 

「そんな危険な事やる訳が無い。このスーツ、短期間でハンドガン型の銃や刀で5回程攻撃したら機能を停止するんだ。内臓を直接ロックオンした場合は試せて無い上に、斬り方に因っては1撃で切断も可能だ」

 

別に共有する必要は無い情報だが、モチノには言っても大丈夫だろう。

 

「え、試したんだ…」

 

引かれたか?

 

「ああ、自分に攻撃した訳じゃなくスーツを一部外してね。だから強化を高めた状態での限界も分からないな。でも、何というか、つまり手合わせをしても早々大怪我はしないだろうけど、危険だって事だ。別に敵も人型が多い訳でもないし、そういう練習はしなくてもいいと思う」

 

「ふーん。なるほどねー、それじゃあさ、ラッキーはスーツが壊れた状態であれに参加した事があるの?」

 

「スーツを着ずに参加する方が無謀だと思う」

 

「ちょっとぉ、その話はやめてよ…その節は大変お世話になりましたー」

 

「ははっ。ああ、話を戻すけど、転送時に修復されると思っていたし、実際直ってた、それと飛行バイクに乗っていれば多少のスーツの不具合も問題にならない」

 

話すなら電話でも__いや、もしかするとこの内容を話すのは拙いかもな、少しでも盗聴を気にするとか偏執狂染みてるけど、人の生命を弄れるあの黒球なら、盗聴もしてるかも。ま、今ここで話さなくてもいいだろう。

 

「さて、どれ位、跳躍出来る?」

 

低く跳ぶ__地面を少し滑りつつ着地。広場に立ち、振り返る。跳び過ぎ、かな?頭上を越えて行ったモチノに近寄る。

 

「わたしの方が跳べたよ~」

 

「こっちはわざと低く跳躍したんだ。空中では碌に動けないから」

 

「言いたいことはわかるけど、はやくて攻撃を当てるのは難しくない?」

 

「いやでも、うーん、そうかもしれないが…」

 

「たしかに、飛行バイク?落とされた事あるものね…馬鹿にするつもりじゃないけど、さ。自分のスーツで実験するのは、やっぱりやめときなよ」

 

さっきの話か。

 

「スーツの耐久力は気になるだろ?これ以上試す必要はまあ無いから、耐久実験、はもうしないと思うが」

 

 

一応この強化服について分かった事を全部伝えておくか。

 

「そういえば、スーツは一定のダメージを受けると先ず透明化が解除されて、液体を流して強化が無くなるだろう?ちょっと休むと強化が戻って透明化も可能になる。完全に破壊する事も可能かもしれないが、そこまでは試してない」

 

「100点メニューの武器で攻撃したり、ってこと?」

 

それは試していないな。首を横に振る。

 

「それは試してない。さて、じゃあ今回も強化を意図的に高める練習だ。荷物はそこのベンチにでも置いておこう」

 

左前方に水面に向き合うように置かれた背もたれの無い幅のあるベンチが見える。水面にぼんやりした光が揺れている。

 

「手を離したら透明じゃなくなるから、傍から見たら心霊現象だよね」

 

夏だけに、ってか。

 

「涼しくなっていいじゃないか。それこそ、この心霊現象を見れるのは幽霊ぐらいだろうけど」

 

後は何種類かの星人も、透明化した状態のこちらを把握してくるか。そいつらが透明になって周りにいたりして__ゾッとしないなあ…。

 

 



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流血

 

流血ー1

 

 

  床に座り、両手をガトリング型の銃と湊さんの重力銃ごと床に下ろす。窓から風が少し吹いているからか、クーラーを消したが未だ涼しいなあ。部屋のドアには鍵が掛けてあるし、部屋にある見られて不味いモノはエロ本と湊さんの荷物だけだ__見つかったら変態だと思われるな。

 

 おっ、きた__視界が切り替わる。

 

 

 透明化をしていないから目立っているな__というか、今回は人が多いな?私の転送の順番が遅かったとしても、10人以上居るぞ?集団自殺か大規模な事故でもあったか?

 

「あっ、ラッキーさん、ちょおっといいっすか」

 

 私みたいなケースは珍しいだろうし__。

 

「何か用?」

 

 ソウはこの人達の死因を知ってるかな。

 

「物は相談なんっすけど、あのっすねえ、武器を貸してくんないかなあ、って」

 

 どういう事だ?強化スーツはもう着ている様に見えるが__100点メニューの兵器の事か。

 

「重力銃とか強力な兵器が欲しいなら、自分で100点取りなよ」

 

 渡したら前回みたいに点を盗られるかもだし、大体ソウってもう直ぐ100点届くだろうに、何を言っているんだ?

 

 

「おい、あんたらこれがどういう状況かわかってるのか?」

 

 どっちが対応する?__ソウと目を合わせる。

 

「転送が終わったら雑な説明がそこの黒い球に浮かぶんで、その後詳しく説明しゃっすよ」

 

 殆どいつもソウに説明を任せちゃってるなあ。あれ、覆面をしている私にも声を掛けて来るなんて度胸があるのかもしれないな__

 

「おいおい、今直ぐ説明を__」

 

 話し声を意識から外そうとする__黒球が展開して銃とスーツを出し、音楽を流し追加兵器の部屋の鍵を開けるまでボーっとしてよう……

 

 

 

「ラッキーさん!いいじゃないですか、強い武器貸して下さいよ使わないのぜってーあるでしょ!?」

 

 うわっ、五月蝿いし、しつこいなあ…紅潮したソウの顔を見上げる__周りの人々にも語りかけているのかこいつ?

 

「いのちがけなんすから、くれるべきっすよ!毎回説明を聞いてくれてちゃんと武装してくれててももう殆ど死んでるんですよ!?」

 

 うーん…でも渡したくないし、それに__

 

「スーツの強化と透明化と敵味方の位置把握があれば、逃げ隠れすれば最低限生き残れるだろう?武器無しで戦ったら私も死ぬかもしれないしな、悪いけど渡す気は無いよ」

 

 点数の事もあるしなあ。

 

「こんだけ多いの、チャンスでしょう!」

 

「点の取り合いになると困る」

 

「…それが本音っすか…」

 

言い方が悪かったかな?あ、未だ転送されて来てる。本当に多いな、20人いってるか?

 

 

 

 

 

流血ー2

 

 

 

 しぶとい!武器を替えるべきか__この思考何回目だ?

 

 腕が疲れてきた__後ろのモチノとの会話が無くなって結構経つ気がする。ガトリングガンのトリガーは引きっ放しで、輝く攻撃の殆どが当たっているしモチノの射撃で内臓も破壊している筈なのに、身に纏った水が飛び散って中の身は未だに元気一杯に見える。

 

 川ごと浮かび上がった長大なコイツの周りを飛行バイクで廻り始めてどれ位だ?

 

「モチノ!!」

 

「…なに!?」

 

「左手の機器で、残り時間見てくれないか!!」

 

「えーっと…後14分!!」

 

 46分も掛かり切りかよ!!ホントこのぼやけた黄色とオレンジと灰色のバカでかい蛇、タフだなあ!?

 

 片手で飛行バイクが同じ位太い胴体や大口に捕まらない様に操作しつつ、片手はトリガーを引き絞りながら巨体に向け続ける。飛び散る水は黒ずんでいるんだ、血が混じってる、攻撃は効いている、が__

 

「1度離れる!!」

 

  元々そこまで接近していないが。久し振りにガトリングのトリガーから人差し指と中指を、ちょっと強張っているが浮かし、同時に反対の手で飛行バイクのハンドルを傾けて空飛ぶ怪物に背を向け、ハンドルを保持して逃げる。星も見えるが雲がかかった昏い空と、一方向に眩い灯りが密集している街がある一面に広がる山林がかわるがわる正面になる状態から、漸く解放されて、平衡感覚が正常になる様な気がする。

 

「追って来てるよラッキー!?」

 

 休憩にはならないか、ちぇっ。いい加減集中力が切れていつかみたいに撃ち落とされたら拙いのだけどな。なら__

 

「さっきより距離を取って攻撃するぞ!」

 

そういえば制限範囲の境界線に近付いていないだろうか?飛行バイクの速度なら警告音が聞こえてからでは引き返すのも間に合わない__

 

「地図の制限範囲、境界線に近付き過ぎてないかまた確認してくれ!」

 

 ハンドルを傾け、乗り物ごと体も傾いているが、怪物の顔の左に向かって飛行する。

 

「新しい腕でも100点メニューでもらってよ!!えーっとぉ、あー、うん、境界線から今は離れていってる!」 

 

 前門の龍、後門の三途の川、ってところか?ガトリングの2つのトリガーをまた絞り、駆動音が風の音に混じり始め、視界中央の龍に武器から吐き出された連続する光弾がぶつかって、身を捩る龍を銃口では追いつつ、ハンドルの方の腕で大きく距離を空けて旋回する。

 

 

 

 いつまでかかるんだろうか?他の敵を先に狙っていた方が点数が取れたか、いやだけど、コイツにさっさと取り掛からないと殲滅が出来ずに得点の初期化を喰らうかも__そもそも今の状態で、このまま時間内にコイツを殺せるかちょっと怪しいよなあ。他の敵の方も、ソウとかが上手く殺し切れるかも定かじゃないし…

 

 

 

 

流血ー3

 

 

 

 もう1人新しく、青い光が人間の体に変わっていく__多いな。良い事だが、意外だ、私が戦ったヤツは1体だけだったろうが、他のはそこまで強くなかったのだろうか?あれは龍、ドラゴンだった、一緒に居た星人が弱かったなんて違和感がある…。

 

 全員が__いや、黒球が音楽を流し始めた。採点だ__短い音楽のフレーズが終わった。白い小円のついた黒いスーツを揃って着た変な少数集団だが、いつもメンバーは入れ替わって行く。腰を捻って周囲を確認する。モチノ他3人と視線が交わる。10人位か、生き残りは。

 

 私が1番、長く居て、強い。死者の中には7回以上100点を取った者も居ただろうか。

 

 

 黒球の前に歩く__見覚えの無いメンバーが私を見て避ける__何だこの反応は?

 

 歩みを緩めながら黒球の表示に目を凝らす。

 

 やえば、0点、”顔こわすぎ”、計0点。

 

 足を止める。生き残りの人数の割には黒球の近くに余り人が寄って無いな、怖い顔のやえば、って近くに居るのか?

 

 たろー、0点、”銃おとしすぎ”、計0点。

 

「ははっ…言われてんぞ」

 

「えっこれオレ?」

 

「左の絵、あれお前だろ」

 

 肩越しに会話していた後ろを振り向くと、彼等が後退り、口を噤んだ__睨んだつもりはなかったのだが。声を掛けようか__覆面をしているからか、普通に怖いかもな。顔を前に戻す。

 

 じろー、0点、”ビビりすぎ”、計0点。

 

 太郎と次郎とは安直だな__気が緩み、今まで微妙に苛立っていた事を自覚する。何だか居心地が悪いのか、そういえば…

 

 はなこ、0点、”さわぎすぎ”、計0点。

 

 でぶ、0点、”なきすぎ”、計0点。

 

 かたの、0点、”けいさつきどり”、計0点。

 

 全部悪口なのかな。

 

 チカちゃん、13点、”つめたすぎ”、計51点。これって…恋人を生き返らせたい女、愛は強いってか?

 

 ソウ、13点、計87点。黒球のコメント無しか。長く居るのに不甲斐ない、とか。言われたら理不尽だな__

 

 ヨンノセ、26点、”さけびすぎ”、計80点。この人結構強いよな、前回のトンネル戦も含めると。あ、私の番か__48点、計88点。1時間の殆どを掛けて攻撃しないと殺せなかったんだし、100点いってて欲しかったなあ…

 

「点取って満足かよ」

 

 誰が言った?__手に力が入りグリップを意識する__探すのは堪える。平静な声を意識して黒球に声を掛ける。

 

「飛行バイクを出してくれ」

 

 落ち着け…呼吸を一定に保つ。怯まず、怒らず、追加兵器の部屋に入ろう__ぶつからない様に避けながら歩き始める。

 

 ちゃんと追加兵器の部屋の方に出すよな?

 

 

「あっ!…ラッキー、わたし、100いった…」

 

 振り向く。モチノが?今回私と彼女で戦ったのって、あのしぶとい龍だけだろ?どういう__

 

「命がけの戦い、続けるんすか?」

 

「いや…わたしは、もう…1番で!」

 

 別に意外でもないな、だけど、もやもやするな。ガッカリ?イライラ?ああいや、最後に挨拶しておくか__

 

「お疲れ様、モチノ」

 

 目が合うが、直ぐに青い光が肉体の断面を覆いながら滑り落ちてゆき__

 

 

 12、3人程の残留者から目を離して踵を返す。暫定の殺しの相棒は綺麗さっぱり転送された。私は追加兵器の部屋へと歩き、左手で入り口のドアノブを掴んで回す。

 

 



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カップルなんか片割れだけ赤点取ればいい

硬く、そして安いだろう椅子の座面から体を離す。下腹部が机、太腿が椅子の角とぶつかり軽く椅子を床と引き摺る。

「どうした?」

どうしたも何もそろそろ帰ろうかなと思ったのさ。

「そろそろ帰るよ」

隣に加えて、長テーブルの向かいからも視線が下から向けられ、彼等がそれぞれ少し違う方向に軽く首を振る。

「じゃあ」

荷物をリュックサックに放り込みながら私も頷き返す。次に会うとしたら__

「また道場で」

「ああ」「お疲れ」「またな」

3人を机に残して背を向けて、大きい本棚の間を抜け、階段を降りる。

学年も、そもそも学校も違う面子で勉強する意味はあんまり無かったな、大体殆ど黙って各自でやろうぜというカンジだったし…そこは図書館だし仕方ないか。ヒチが一応は紅一点だったが特に会話も無かったし、疲れた上につまらなかった…。

怠い足を持ち上げながら玄関を通り抜ける。

勉強なら可愛いカノジョと自室でしてセックスもセットで、が良かったのに。__こういう事を考えているから振られたのか?

別の事を考えよう。キナミと別れるのは惜しかった__違う、別の事を__。

顔にかかってくる陽射しはきつくはないが、心地良くもない。

女性の体は気持ちいい、1人しか知らないけど。他のひとはどうなんだろう。

他の強烈な事を考えよう__一昨日の夜とか。

気になる__不安な__点が複数。まず、私の点取りの協力者が消えた。思い返せばそこそこの美人だったし、祭りに男友達とじゃあなく彼女だけと参加して、練習は無しで口説けばもしかしたら__不毛だ、でも電話番号が消されてないんだよな。黒球の手抜かり?記憶を取り戻させてみる?キンナさんと話していると難しいと感じるが。直接消された記憶の内容に触れたら黒球のルール違反で死亡するかもしれない。彼女達が部外者と見做されていなくとも、私には判断出来ない__黒球と、その中身のつるつる全裸男と会話出来るだろうか?【100点メニュー】や【より強力な兵器】といったキーワードとそれを示す言葉には反応するが碌に意思疎通出来ないんだよな…解放を願った彼女達を戦力目当てで連れ戻したい私も、黒球並に身勝手か。

後、前回の敵の点数が変だった。私以外の生き残りの13人、ニッタチカの方は前から好意的では無かったが、ソウも含めて13人全員から冷たい対応をされた事も気になる。危ない、よなあー。私の見た1体は龍、それとも魚?水龍なんて格好つけた呼び方も出来るかな、それ以外の敵について聞いても教えてくれなかったし、私の『より強力な兵器』を貸せとももう言われなかった事はかえって不気味だ。

 

1体としか戦って居ないし点は止めを刺した人のみに付与される筈なのに、モチノにも点が与えられた。私の得点は48で、あのしぶとい怪物の点としては多分少ない。他の味方の私に対する態度、モチノの得点も教えてくれなかったし、結論として、推測ではあるが、きっとガトリングの光弾は距離で減衰し切らずに、飛行バイク無しで暗い山林の中で敵と戦っていた彼等に届いてしまっていたんだ。敵味方無差別に命中したんだろう。死者が出たとは思いたくないが、あの夜は考えが及ばなかったし、確認の為にソウに電話する気にはなれない。時間がある今からでも掛けるべきなのか。

 

私は殺人鬼だろうか。星人が作り物とは思えない。人と違うのか。知性や見た目に共通点がある。

人間同士の殺し合いも、あり得るとは考えていたが、私が強い事は分かっているのに、そこまで発展するだろうか。

強化スーツは無敵の防御装置ではないが、私の素顔はソウだってどうせうろ覚えだろうし、黒球の転送後には傷は無くなる。取り敢えず3週間は安全だろう。人生初ナンパでもしたっていいだろう、ソウとかニッタを探して先制攻撃で殺害なんて案よりは考慮に値する。

 

塾か。顔を正面に向け直す。横目で塾へと上がる階段を覗きつつ、通り過ぎる。疎らな歩行者、その1人とすれ違う。車の方が、自転車やバイクと合わせれば数が多いかなあ__

3週間ぐらい、学校や道場をサボりたい、休んでもいいだろうし。別に通い続けるけども。愚痴を誰かに言えば気が楽になるだろうか。友人にも家族達にも言えない戦いの事は、「サボりたい」を切実にしてる。切実さが伝えられないのならば、愚痴を言ってもストレスになりそうだ。

 

薄っすらと、遠くから電車の走行音が聞こえる__B駅の近く。そうだ__この近くに滝口家があるんだよな。もしも、スグルが殺されていなければ、愚痴を言い合えたのだろうな。疎遠になった友達と、親友とかいう都市伝説的な関係になれたかもな。

幅や外装が違う、塀や門や庭がついたりついていなかったりの、2回建てだろう家が両側に立ち並ぶ道が続いている。電柱や電線、マンホールの蓋とコンクリートの樋と同じ都市のライフラインだが、あれらさえ無ければ、そこそこ珍しく紫も混じった多様な色に染まった雲と空がもっと綺麗に見えると思う。

滝口家の前は私の考えていた道筋には無い。寄るべきか?家族全員がもう揃っているだろうか、母親と妹はきっと居るだろう__専業主婦と小学生だ。彼女達に、白々しく「スグル君は戻りましたか?」とは聞きたくない__偽善だな、親友でもないスグルを100点を費やして生き返らせるつもりは今はほぼ無いのだから。

 

私はスグルに巻き込まれたとも言える。

スグルは私を怪物からかばって死んだりした訳じゃあない。

彼は私とは違う、きっと死んでから黒球に再生された。私の視界内で死んだのは、本当にスグル本人と言えないかもしれない__私が生き返らせたとしても、本物とは違うかもしれない。

私だって、転送前後で、同一かははっきりしないが、スグルよりは本物に近いだろう。

…言い訳、かなあ。いいや、あの殺し合いの場では、誰でも殺すも身を守るも自己責任に決まっている。星人も、人間も何かをすべきという規範は存在しないだろう。道徳なんて、学校の授業の方も一般教養の方もあそこではくそくらえ、だ。

 

家出したのだとスグルの家族に言いに行った夜を思い出す。私は間違えたと思っていない。…寄って行くか。ま、運が良ければ美少女の妹さんと携帯電話番号を交換出来るかもな!何とか気分を上向きにしないとな…曲がろうと思っていた道を通り過ぎて道なりに直進して歩く。

 



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液晶上で真紅とただの赤の差をだすのは容量を圧迫しそう

9/??

 

 

 

 菓子を咀嚼する。嚥下する。フォークで刺し、また顔へと持ち上げる。

 一体誰に相談するべきなのだろうか。

 やる事が沢山あり過ぎる。

 近隣の不良の調査。本格的な不良の知り合いは居ない。不良っぽくとも大体ファッションに過ぎないよな…

 投擲技術を磨く。野球部の奴等も最近は飽きて見てくれなくなった。遣い辛い爆弾を上手く使用出来る様になれば、大きなアドバンテージがとれる、筈、だが。銃器類はロックオン機能もあるが1晩の戦闘につき1発しか使えない爆弾は、ロケットランチャーより更に使い難い。…使えるに越したことはない、と思う、うん…。

 殺し合いの場での、味方への不信。原因は想像がつくが解消なんて無理だし、手遅れでもあるだろう。

 キョウへの対応。スグルという、彼女の兄について、真実を黙っている負い目もあって押され気味であるなんて自己分析は出来ても、何の助けにもならない。

 テスト勉強。__後回しだな、少なくとも問題の不良の特定までは。事実確認も、気が進まないけども、やるべきなのだろうな__

 

 午後のおやつ、なんて煙草で煙い喫茶店で気取ってみても、口に広がっている後を引くだろう濃い甘さも、落ち着くには足りていないのだろうか?丸テーブルの上で皿と並ぶカップに手を伸ばす。追加注文をしようかな__カウンター席の向こうで、ウェイターが飲みかけの水を片手の盆に載せて机を拭いている。

 次の殺しまでは2週間程ある。黒球__この苛立ちは、八つ当たり、か。強化スーツは、不良の調査にも、もしかしたら行う犯人への制裁には特に必須だろうから__

 軽く聞き流してくれる人が欲しい。キナミ、ヒノさんと考えるべきか、それとノナカさんとに愚痴なんて軽くは言えないよな。他の人には詳しく言えない__警察に連絡した方が楽になれるかもしれないが…。

 

 

 

10/8

 

 

「今回の10人も全員ハズレ、か」

 溜息つくなよ。言っておくか_

「こんな事そこまでやりたくないんだけど…」

 睨まれる__化粧が前より濃い__

 いたたまれないな…。

 叩きのめしたガラの悪い奴等はもう37人に及ぶのに、貴奈美達をヤったレイプ犯は未だ見つからないとなると、やり方を変えた方がいいのか?携帯電話を操作して写真を取ったり、顔以外を攻撃してガタイのいい奴をノックアウトしたり、フードを余りずらさないまま顔を隠しながら動き回ったり、同い年の女子2人に機械的に話し掛けるなど、この1件以外で役に立ちそうもない技能ばかり上達してるしなあ。重力銃やガトリングガンの練習は全然出来ていないし、爆弾投擲用の学校の休み時間でのキャッチボールが気晴らしになっているぐらいなんだよな…。

 可愛かった事は知っているが、目の前の女子2人は強姦の影響だろうがやつれていて、私なら襲わないな。日野さんとのセックスが気持ち良いと覚えてはいるけど。

 次の殺しは、多分1週間前後にある。黒球に呼び出される前にケリをつけてはおきたいが…

 強姦は性犯罪の中では特に重く、強制性交等罪に問える。懲役2、3年や罰金数百万円じゃ溜飲が下がらないだろうことは伝わってきているが、説得は念の為続けるべきだよな…

 制裁を、私がやってもいいとは思えなくなってきてはいるんだが、この2人と会う度__

 

 

 

10/12夕食後

 

 

 ピリピリしているが、いつも私は彼等と連携して殺し合いを演じている訳でもない、問題は、無い。

 床に置かれた背の高い端末で重力銃以外の全ての選択可能な兵器を選択する。より強力な兵器がデフォルメされたアイコン化しているだろうがそれは見ずに、首を左に素早く振って背後を確認する。13人もこの部屋にいるのは変な感じだ。兵器選択画面に顔の向きを戻す。刀や拘束用の銃を拾っているだけだし、不自然ではない。

 ニッタチカ以外、見知った経験者が全員居て、小さい喋り声は聞こえるが転送後私は1言も発していない。向こうの部屋には初参加者6人を含めて7人。うん?こっちに13人だから…首を回して後ろの数を数える___ヨンノセはともかくソウが刀や拘束銃を拾いに来るのは珍しい。

 思考が纏まらない。用事は済んだのに振り返る勇気がでない。

 今回の敵は、ノートにもう書いて置こうか?転送までの時間が知りたい。標敵は痩せこけた人間みたいな顔のサクリ星人、口癖はサクリ、相変わらず意味不明、弱い、どれ位だ?全員弱いのか?__ 

 射出音__

 

 _

 なんで私に銃を__

 

 

 

 



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39話

 

 全身に衝撃、これは、締め付け__?振り向こうとする、が、光るワイヤーが直ぐに手足を縛り、私は床に倒こむ__拘束用の、3角銃で、私を撃った?

 ふざけ__

「んな!」

 体を捩って横向きに転がり、首も捻って攻撃者を確認__全員、こっちに銃口を向けて__!?

 何故__

 全力で暴れる__スーツの強化を高める時の感覚を思い出さなければ_握ったままの重力銃とガトリングガンのトリガーを_縛られて体に密着しているんだ、足どころか全身が攻撃に巻き込まれる_!?ほどけた!?

 転げ回り続ける__ガトリングが右手から転げ落ち、重力銃を握る左手に力を籠め、そして足を床に着けて跳び上がる__如何すればいいんだ?

 追加兵器の部屋、味方、というか元味方が10人程ドアを背に此方を狙っている、狭いし__

「あっ」「おい!?」

「ヤバッてんそー!」

 そうだ、私も転送が始まればここから逃げ出せる_相手の数は減った、動揺もしてる_反撃だ。殺して_いやでも__

 足がつくと同時に、扉の前の人の薄い列に向かって壁を蹴り付けて飛び込み、スーツの強化も高められていない彼等を吹き飛ばす。人質に__だが銃にはロックオン機能が_私の内臓が既にロックオンされているとしたら!

 膝を少し曲げるだけで予備動作を小さくしながら後ろへ__連続で短い間隔で、低く跳び、後ろ向きのまま、3角銃や刀柄を踏み姿勢を崩しそうになるのを立て直しつつ、トリガーを連続して引き絞りながら重力銃を左から右へと振る。

「前に出ろ!?」

 ちぃッソウは対処が早いな__あいつから転送されてれば__アイツがリーダーだろこれ__

  部屋の半分程に天井から重圧が掛かり、瞬間的に部屋の中の景色が歪みドドンッと音が重なる_床が窪んでない。スーツごと数人を仕留めて、しまった。

 __重力で押し潰される範囲に入って自滅しない為には、刀で近接戦しかないか_右手で太腿のベルトから柄を外し2つのトリガーを同時に絞る。げっヨンノセも生き残ったか。5人、ソウもまあ避けたか。

 潰れた銃や刀、それと赤黒い人体が散らばり無事な部屋の反対側にも転がって行く中、足を滑らせない様に腰を落としながら動き回る。

 鉄錆みたいな匂いと、ゲロの様に酸っぱく生ゴミと同じく苦い臭気が漂う、こんな中でビチャビチャ歩き回りながら強化スーツを身に纏った5人の敵と睨み合うなんて人生最悪の経験だ。

 室内で重力銃を使ったが、倒壊して居ない__ここの部屋は破壊不能オブジェクトってところか。この部屋で飛行バイクをぶつけても引っ掻き傷1つ付かないからそうかなとは思ってたが黒球が保護でもしてるのだろう、人間以外は。

「どっ、んんっ、どうする!?」

「しねっアイツまた殺しやがった!」

「落ち着けって!」

 口を挟んでみるか。

「落ち着けるのか?こっちを背後から撃って来る様なヤツラに?協力はほぼしてこなかったが一応は味方ではなかったのか?」

「てめえよく__」「そっちが__」

 また1人転送が始まった、か。もう私の勝ちだな。

「静かに!ソウさん、サクリ星人と戦う前に全滅したら__!」

「わかってんよ!!…ラッキー先輩、悪いっすけど、もらうっすよ」

 ああ?何を言ってる?

「ああ?何__」

「黒球ぅっ!!!ラッキーの前に俺たちを先に転送してくれぇぇっ!!!」

 思わず動きそうになった両腕を抑える__止めてしまった歩みを再開し__待て、ソウは何て云った?

 転送中は碌に身動き出来ない__転送が始まる場所での損傷は修復されるが転送されていく場所での怪我は多分直らない__

「待てッ和か…い…」

 私の持つ柄から、長い刀身を左側の壁へぶつけた衝撃が伝わってきた。

 喋る前に、右足を踏み出して重力銃を左手で背中へと引きつけながら、右腕で刀身を伸ばし1振りで4人の胴を薙いで、左側の壁へぶつけていた。__我ながら言動が矛盾している。

 でも1撃ではスーツは壊れないんだし未だ__ああ、転送先には既に何人も待ち構えているだろうな__それに残っている3人が私に銃口を向けた__また体が精神を置き去りに動き出していた。刀を捻り斬り返し_ヨンノセは屈んで避けたが、棒立ちの2人の顔を刀身が通過した。体勢を崩した3人のスーツは健在で、右へと刀を振り切ったから自然に前に出る伸ばした左腕の先の重力銃を連射した。

 両手のトリガー、計4つから指を離す。部屋をゆっくり見回す。残っているのは残骸だけか。兵器選択の端末は、破壊可能だったんだな…

 それで…次は…如何する?隣の部屋には、もう黒球があるだけだろう…私が最後…私も、先に転送してくれ、と黒球に叫ぶべきだったのか?ていうか、そーゆう要望が通るなんて…。

 どうして__いや、それよりも如何する、だ。英語の授業で3か4Wとか習ったな…。離れた場所に転送されれば、だが私の飛行バイクとロケットランチャーをきっと狙って来るよな?私の武装は、先ず、水銀みたいな液体を多分全ての白く丸い付属部品から垂れ流す、壊れた強化スーツ。これは転送後に直ってないと詰みだが__まあ大丈夫だろう。ひどく重い重力銃を見下ろす。後はハンドガン型と三角の銃2挺と、爆弾、刀が1つずつ。強心剤を飲んだらドーピングになるか?星人と強力な武装をした人両方を相手取るのは、無理じゃないか?…持ち越した88点が勿体無いなあ。いやそれよりも、転送中はどう生き残る?転送までどの位、考える猶予がある?ガトリングガンの破片を転送時に持っていれば再生されるんじゃないのか?

 もしも、肉片から人も再生されたら__?

 転送に因る再生の事は忘れよう。もっと大事な事柄__

 そうだ、透明化がある。私だけがしていれば、奇襲や残りの兵器も回収して一方的に戦える。向こうがしているなら、こっちもしておかないと危険だ。左前腕についた機器の、透明化ボタンに柄を握ったまま人差し指を添える。に_

 青い線が私の全身を抜けていく__周囲の確認を首を回して_パッと見では居ない_転送されてきた機器の小さい画面に映る地図を見る_近付いて来ている2種類の輝点群_人差し指でボタンを押し込む_小画面に【周波数変更中】の表示が出る_ここから離れないと_柄のトリガーを引いて刀を準備しつつ走り出し__停まる_コンクリートの地面を少し浮いたりしながら滑る。ロケットランチャーを拾い飛行バイクに乗って行けるかも____囮にして近くの民家にでも隠れて攻撃する方が良いかな_振り返らずまた走り出す。

 駐車場と思しき広場の出口から道路に出て、右に曲がって道路沿いに進みながら立ち並ぶ民家とアパートを物色する。ライフル型の銃を持って来ればもっと良かっただろうが_刀の柄から人差し指と中指を浮かして腿のベルトで留め、腰に巻いたバッグのファスナーを開けて中を探り、爆弾を探り当てて取り出す。

 駐車場に面しているだろう2階立ての民家の玄関の前で立ち止まる。音を出さぬ様に気を付けながら右肩を扉の右縁に当てて押し入る。

 背中を当ててこじ開けた扉を閉め、左腕を重力銃ごと顔に引き寄せて敵達の位置を確認する__急がないと。2階の駐車場側に窓があればいいが。先ず階段は何処だよ、普通は入口から見える場所にある筈だろ…

 そういえば生臭い匂いからもう解放されていた__疲れは無いが上がった心拍数を抑える為に無臭の空気を吸い込む。

 機器上で輝点は個人の特定は出来ない、多分。万が一出来るとしても、ソウかニッタくらいで全員ではない。私の表示も、合流や私の発見を目指す輝点にきっと紛れる…確実に、強力な兵器を餌に、数人は潰す。出来れば運動神経が優れているヨンノセも。

 あ、階段__駆け上がる。

 重力銃は複数の地点をロック出来るから、爆弾と合わせなくとも駐車場全体を1度に攻撃出来る__爆弾は建物ごと圧殺するのに使いたいな__

 部屋、いや膨らみのあるベッドがあるから寝室か、向かって奥の窓に近付くとそこから飛行バイクと黒い人影が4人見える。間に合ったか?左腕のレーダー図で私が回り込まれていないかチェックしておく。

 真後ろには居ないが__。急いで飛行バイクと4人とロケットランチャーを重力銃の照準画面に映して上トリガーを引いてゆき、駐車場全体を大体攻撃範囲に入れる。中指に力を入れる__スーツがあってもペシャンコになり地面に浅く沈み込んでいる。血は、ここからは分からない__飛行バイクは原型を留めている。未だ使えるのか?まあいい窓を破って外に出よう。

 



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…血みどろ

10/12夜

 

 ガリガリに痩せその上襤褸雑巾を纏った男達を容易く挽き肉に変えながら、血が出ない枯れ木の様な肉体に何故か安堵を感じつつ、スーツの効果で超人の如く戦う筋肉や内臓が詰まった人間達を重力銃で狙う。

 サクリ星人は黒球の情報通り弱く、強化スーツ無しの人間みたいで、強化が高まった私の邪魔にはなり得ない。背の高さはまちまちだが人間と変わらない。この道路上で何十体も疎らに動き回るコイツラは、ハンドガンやライフル型の銃への盾に丁度いい。

 1人、重力銃の攻撃範囲に入り屋根ごと崩れ落ち視界から消えていく__そこそこ広い、サクリ星人が多い範囲で道路を行き来し続ける。残りは__両脇の2階や3階の建物の上で、強化無しではあり得無い跳躍をする人影_

「たくろー!?」

「もうやめようぜ!?」

 動きが鈍った_跳躍を一旦やめた人影が複数_右腕の球を起動して黒い3、4人の集団が乗っている建物の壁に投げ付け_掲げっ放しの左腕の重力銃の照準を別の人影に合わせトリガー2つを同時に絞る。

 跳躍する先や空中を重力銃で狙うより何倍も簡単だ__また力任せにサクリ星人を弾きながら動き続ける。

 _爆弾が起爆しうるさくてたまらない轟音が耳をつんざく。アスファルトの地面が揺れ、空いた右手で星人を押してバランスを取る。今のヤツ、流石にバラバラにはなってないな、まあ無視だ無視。膝を曲げ、壊れていない屋根に向かって跳躍する。屋根から更に離れた屋根へと跳び、惨状を背に距離を取るべく大跳躍を繰り返す。左腕にくっ付いた機器を右手で操作し残りの青い光点の位置を確認する。縮小した地図では青が6つ、赤は沢山。残り38分43秒ずっとこんなの続けてられない。この機器に地図から私が消える機能があればな…。

 

 正面の背の高いマンション。飛び越えられそうに見えていたが、跳躍していると急速に大きく見えてくる__避けようかな、いやスーツの強化が高まっていれば__宙を風で切りながら胸元を見ると丸い小円が青白く発光している。着地して傾いた屋根上で短く助走をする__手足を振りつつ足下を壊しつつ跳躍、やばっ届かない、ベランダに滑り込めるか?__右太腿に指を伸ばし、柄の2つのトリガーを同時に引き_逆手で持つべきだったか__腰の横に刀を構えて出っ張りのベランダの壁にぶつかる。宙で私の体が揺れるが、刀のトリガーにちゃんと2指はかけてある。両足と左腕をずしっとした重力銃ごと振って、壁に刀身を更に食い込ませながら1つ下のベランダに落ちる。トリガーから指を離し柄を腿の帯で留める。カーテンで奥が見えない窓を、割るか?振り返って後ろの住宅街を見下ろす。左腕を持ち上げてレーダー図を見る。…近くにある輝点は全て赤…白い枠内に、赤い点と青い点が地図上で疎らに存在してる。

 私と枠の間に敵は居ない。白い枠、制限範囲ギリギリまで行って建物内に入れば安全に休憩出来そうだな。このままマンション内を通って反対側から飛び降りる。先ずは窓に突っ込むぞ_上半身にカーテンが絡むが、両腕を広げて布を引き裂く高い音を出す。もたつく足を立て直し、顔を上げる。右の壁と左奥にドアがある。左に斜めに、何かを踏んだ_左足底で何か壊した感覚がある。気にしない、机と数脚の椅子を右に避けて扉へ歩き、ドアノブを回して、引く。リビングルームより暗い廊下の先に、多分玄関が見えている。

 小さい段差を降り、チェーンを外して取っ手についた鍵も回す。やや重い金属音を立てつつ廊下に出る。向かって左右にドアがある。…左のドアにダッシュし右肩を激突_弾かれる、尻餅をつくが、肩に痛みは無い。立ち上がりながらドアを見上げると上部が歪んで全体的に奥に倒れ込み、大きく隙間がある。スーツの強化高くなってなかったかな…ドアを蝶番からちぎって玄関内に倒す。

 

 暗くて物にぶつかりつつ、廊下を直進して扉を開き、奥の面にベランダに続くと思しき両開きの窓、カーテンがかかっている、を見つける。

 右手で中央のレースカーテンの接続を外し、開く。窓の鍵を上に捻って解除し網戸のない右側の窓を左に滑らせる。外に歩み出て、手摺りに右手をついて飛び出す。落下していく飛行バイクとは違う頼りない浮遊感、膝を体に引き付け足を地面に向け続ける。

 

 

 

深夜α

 

 赤い光点が幾つも重なって近くにあり、青い光点は1箇所にかたまって赤い点を減らしていっていた。数分前に見たきりだから現状は変わっているかもしれないが、左腕の動きを止める訳にはいかない。大体の位置まで、コイツを誘導出来れば、あいつ等に押し付けられるか?

 長い刀身を小刻みに振るい牽制するのにも疲れて来た、もしかするとダメージの蓄積でスーツが壊れかけているのか?目の前の重力銃を右左に取り回す左腕に付いた丸い機器からは、特に液体は漏れていないし、あっ__

 左後ろに倒れ込み銃ごと肩と腕をついて転がり、立ち上がる。

 骨ばった裸体が大きく露出した着こなしのドレス姿の怪物は今停止していて、その背から横に並んで生えた、薄く電灯の光を反射する3枚の羽が、ゆっくりとした動きに変わる。

 私をかすめていった電柱の上にとまる彼女は、羽無し共とで挟み撃ちにする気か。後ろの集団に追いつかれる前に、殺せるか?殺せれば残りは雑魚だけだ__今直ぐロックオンしても振り切られる予感がある。刀でも捉えられた事が無い、背中を見せやがって余裕のつもりか…止まっていて不利なのは私だろう。普通のサクリ星人達でもしがみつかれると脅威なのはもう分かっているし、羽ありの方は透明になっても捕捉されているし、逃げ出すにも逃げ出せない。

 肩越しに後ろを一度窺う_もう追いついてきたのか、鈍間の癖に…。何発か食らうのを覚悟して雑魚の集団を突っ切るか?だが抜けても頭にふざけた警告音が鳴る境界線まで近い…

 横のビルに飛び込むのはどうだ?ガラス戸なら減速せずに入れるし屋内だと上手く飛べないだろうけれど、また邪魔して来るよな、いや、もう試すしかないか。

 横っ飛びに跳躍しながら刀をめちゃめちゃに振り回す。

 左脇に痛みが走る_刀も弾かれた_痛む右肩と頭がガラスを突き破り_届いた_柄ごと手と片足をつき、エレベーターの2枚の扉に向かって駆ける。そうだ_振り向かずに背後に重力銃を伸ばしトリガーを引く。腕を少し動かしつつ2度、3度_エレベーターのボタンを、上行きを右手で押し、振り向く__追って来ていない?!嘘だろ__天井が部分的に崩れ落ちる__やってしまった。

 エレベーターは動いていて特に影響はないな。横にスライドした分厚い金属戸の横を通って中に入り【閉】のボタンを押す。___既に【8階】が点灯している。

 持ち上げられる感覚に逆らう様に尻から座り込む。重力銃を置き全身をまさぐる。出血はしていないか、良かった。左腕を持ち上げ機器を右手で操作し、現在地付近を拡大し敵の位置を探す。1つの赤い輝点、建物の、上空にいるのか?

 エレベーターが8階につき、ドアが開く。長袖ジーパンの住人がサッサと入ってきて私の投げ出した左足の脛

に躓き倒れ掛かって_両腕で暴れる体を抑えて右に持ち上げてどけ、重力銃を拾ってエレベーターから飛び出る。

 

 

深夜β

 

 青い光と共に視界が_椅子に座ったまま右手を脇に下げる。湊さんの重力銃の短い握り手を探り、掴む。トリガーを握らない様に人差し指と中指を這わしつつ持ち上げる。制限時間は未だ10分はある、いやあったが__左手にも武器を持つか?目線を奔らせる_ニッタと知らない女性_後ろにも居るとしたら_

「私たちは貴方と戦おうとはしてなかったわよ?」

 前傾姿勢で動きを止める…うん?ニッタさんと目を合わせる。真顔だ。__罠なら_

「こっちは降参っす」

 _振り返る_男性の上半身が転送されつつある_重力銃を向け口を開く。

「ロックオンはするぞ?」

 台詞からするとこいつは私を襲った1人だろう。

「物騒ね」

 壁際へと距離を取りつつ横を見る。

「グル、じゃないって、本当に?」

 馬鹿な質問をした、取り消したい__

「ほんとう。ニヤモト君達が襲った理由は知ってるけど、私とそこの2人は加担してないわよ」

 彼女が腕を横に薙ぎつつ2人を指す__部屋の中のメンバーを見渡す。両腕も下げ棒立ちだな。転送は続いているが、これ以上戦闘は無い、で良いんだよな。

 重力銃を下ろす。中指に意識を向けつつ、考えながら口を開く。

 碌に思考が回せない。

 新たに青い光線が人間を形作ってゆく__顔__ヨンノセ__銃口を向け人差し指で上トリガーを引く。

「オレたちの__」

「もう話した。仲直り、っすよね?」

 また重力銃を下ろしつつヨンノセと目を合わせ、取り敢えず頷く。聞いてみる、か。

 __音が鳴る__採点の時間、生き残りはこれだけ、か。私が減らした…

「採点の後…話を聞かせてくれるか?」

「私も?そっちと揉めた人達だけでいいでしょう?」

「私が倒せなかった星人の事も聞きたいんだけど…」

「あ、チカちゃん…」

 黒球を見やる。キロ―、6点?…剣の才能無さすぎ、と書いてあるのかこれ。下らねえ…

 表示が変わり黒い球面の表面に強化スーツを着たニッタさんの簡易化された頭胸と、新たな数字と文字が現れる。3点って少なくないか?うじゃうじゃいた方の星人は弱かったけど、だからこそ沢山倒してもおかしくないのでは…

 次は、誰?ニッタさんの横のひとか。クルミって黒球の付けた綽名だな多分。彼女が9点ということは、雑魚のサクリ星人は1体で3点だろうなあ。

 ラッキー、9点、計97点。自爆は私の点にはならなかったのか。ふん__ま、いいさ星人の殲滅がクリアされて点が初期化されないだけ得だ__もしかして1体1点だったりするのか?

 動けるデブ?酷いな__12点、か。首を回し肥満体系の男子をチラ見する。コイツ12体も倒せるもんかなあ

 黒球の上からの物言いは、喋ってはいないが、ムカつきがする…

 80?こいつが羽根つきに止めを刺したのか__私以外で囲んで倒したのだよな?

 どうやってアイツと取り巻きを倒したのか直ぐにでも聞きたい。が。

「おいおいヨンノセぇ逃げ出すのはやめてくれよ?」

「口を挟まないで?彼の自由でしょ」

「あ…」

 うーん…。【もっと強力な武器】を欲して2番を選ぶなら、まあ、いい気はしないかもな__ニッタさん、ちゃん付けだと睨まれるかな、の言う通りだとは思うが……ちょっと話してみるか__

「よく考えてから選べよ。時間かけてもいいからさ。口を閉じてからの方がいいとは思うが」

「あ、ど、どうも…?」

「残るなら100点まではまた長いけれど取れない事はないし、解放なら、これに関係ない記憶も多少消えるらしいがヨンノセならそこまで長期間の記憶は消されないだろうし生活に問題は生じない筈だ」

 かなり良い助言じゃなかろうか。早口にもなってなかったし。

「俺は、メモリーからミヤイ君を生き返らせて欲しい」

 誰だって?__ソウじゃなければ誰でもいいか。

 青い光線が黒球から照射されて童顔が出現し始める。ギョッとした?

「ヨンノセ、因みに何でこの人を?」

 気に障る質問だったか?

「その、えーっと、あっミヤイ君もう攻撃は無しね。…終わったんだ」

「え?え?」

「そうよ、いい加減にして欲しい」

「すいませんっしたチカちゃん…先輩も。ミヤイ、こっちの負けだ、ヨンノセに生き返らせてもらっただけ儲けモノだぜ?」

 ミヤイって私が殺した1人っぽいな。黙ってよ。顔を伏せる。…もううんざりだし。

「ラッキーさん、解散の前に、銃のロックオンて、その…」

 ああ其れか。2人の目を見る。まあ不安になるよな。

「気にしなくとも、距離が開けば解除されるみたいだ。私は追加兵器、ああ、より強力な兵器を試してから帰るから、そっちが家まで帰れば自然に解除されるさ」

 羽根つきが数度ロックオンから逃れたのは多分そういう事だろうから、まあきっと大丈夫だろう。断言しておけば安心だろうさ。別に大丈夫ではなくとも即死だろうし私はむしろ__いや、人死にはもう御免だな…

「解散の前に、羽根つきをどうやって殺せたか、聞かせてくれるか?」

「あ、はい」

「…私達はもう帰っていい?」

 緩衝材とか話の補強とか居てくれた方が良いな_

「出来れば残って話してくれるか?手短でいいから」

 体を女子2人に向けて軽く頭を下げる。上げる。

「…はい」

「じゃあ、いいわよ」

「誰から話します?」

「あのっ!…ヨンノセ、その、ありがとうございますッ!」

「いいって…俺のせい_」「__さて、じゃあオレから行きます!」

 うん?なんか_

「あの羽の女はホームレスみたいな星人達と戦ってる時に飛んできて、チカちゃん達もいたんだけど、他の星人になんか指示とかしててさ、何人か怪我させられたよな?」

「ああはい、そうだった。数が減ってきたら急に参戦してきて、それで…」

「一気に2人やられたわ。そこの男も」

 彼女はキローを示す。

「生きてたみたいだけど」

 



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呼び出し/カバー/塹壕//寝落ちから復帰する/コンティニューしますか(復活の呪文か否か)/名誉の負傷
呼び出し


 ソウが死んだとはいえ、星人との戰いに参加するのは憂鬱になる。首筋に走った悪寒が風邪を示してるのならいいけど。5日しか経ってないんだし。点を取らないと黒球に殺される状況でも無いのに、味方から狙われるのは嫌だ。殺人への忌避感が薄くなっている自覚症状も有る。犯罪者相手でも私の方だけスーツの強化有りで一方的に痛み付け続けて、さっさと強姦魔を見付けないと無関係な不良達も殺しかねない。ヒノさん達に断って来た方が、多分そっちが正解なのだろうが………

 

 基本白い内装の一室に私の全身が現れ始めている。いつも眼の周りから転送されるのは多分幸運なのだろうが、転送中は碌に戦えないんだから、一瞬で移動させて欲しい。後、転送の拒否権も有るなら手に入れたい。

 左側の、近くの強化スーツでは無い黒いスーツ姿の男性が声を上げて私から離れるように飛び退く。ちょっと離れた処の人達もバラバラに私から離れる様に後ずさっている。まあ殺し合いの間隔がいつもより短くても、ほぼ完全に装備を固めて来たし、他の経験者達より先にこの部屋に来れたのだ__ハンドガン型かライフル型が有れば、もう黒球から取り出せれば、転送中にロックオン出来たのになぁ…ヨンノセ以外なら誰を警戒すれば良いのだったっけ。ノートを見返せばヨンノセに生き返らせて貰った奴の名前ぐらいは書いておいたと思うが、追加兵器の部屋も未だ開いてないだろうし。

 今度は強化スーツ姿の、誰だっけ、ニッタさんの友達か。挨拶ぐらいはしておかないとな。

「こんばんは。イレギュラーですけど、今回も宜しくお願いします」

 言葉選びをミスったか、事情を初参加者達に問い詰められたら面倒だな__

「こんばんは、ラッキーさん…あの、イレギュラーって…?」

 黒球から伸びる青い線を追い誰が転送されて来るか見ながら答える__重力銃、私の分も出せるしこっちの湊さんのでロックオンしておいても大丈夫かな?ロックオンは転送前後で解除されたりするのだろうか?

「いつもより呼び出される間隔が短いんです」

 黒球が開いたらハンドガン型の方を腰に巻いたバックに入れておかなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニョキニョキ星人

 がまんずおい

 好きなもの めん にんげん

 嫌いなもの みづ

 

 ラッキー 0てん けい97てん あと3てん おとりごくろー(笑)

 デブ 0てん けい12てん あと88てん しぼうの鎧(笑)

 チカサマ 0てん けい54てん あと46てん オコ?(泣)

 ヨンくん 20てん けい80てん あと20てん 

 

[メモリーに6人の顔が追加、内1人は出戻り]



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カバー

 11月に入り肌寒い上に生ゴミにまみれては病気に罹るに違いない。尻餅をついたまま頭を後ろに倒すと飲食店が立ち並ぶ通りが逆さまに見える。通行人もそれなりなのに、特撮ヒーローみたいな星人と無関係な人達を巻き添えにしつつ殺し合う私にはお似合いかもしれないが、被害者方からすれば宙に浮かぶドロドロの臭うゴミの怪物に殺される位なら私達、清潔な透明人間にやられる方がマシかもしれない。

 泣き叫ぶ声が呻き声やかすれた助けを呼ぶ声をかき消してしまう現状は多分ちょっとした地獄だろう。未だ死後に私が行くかもしれない地獄よりは良い環境だろうが、重力爆弾で星人を仕留め切れていなければもっと酷い場所に私は直ぐ行く事になるだろうな…飛行バイクの加速じゃなければ星人の動きが見えないし。

 

 2体のややくすんだ発色の星人が瓦礫を搔き分けながら近付いて来ている__全然駄目じゃないか、いや、速度は落ちているのか?

 星人達が破片をまき散らして眼前に出現した__背中に付いた壁を押し壊しながら室内に逃げ込む_速度も落ちて無いじゃ_壁が薄くて良かった_下がるだけじゃあっという間に死ぬだろ_柄を握りベルトを引きちぎる様に取り外してトリガーを絞り_キッチンの壁全面が此方側に吹き飛んで来た___

 

 星人の長い6指が両肩から突き出している。頭を持ち上げる。目の前に居る鋭角が目立つ造形のヒーローの両腕は脇に垂らされている…この星人が両手で掴んでいる強化スーツの靴は、わた、しの…

「_っぁぁぁああああああ…」

 喉が、苦しい__無い筈の足先が熱を持っている__両肩もだ__

 

 私の前後にヤツラが立っている。眼の前の仮面が下がった。普通の顔、いや鼻が無いし我々日本人よりも遥にのっぺりだな。

「たろたろ、くれはすめやなまもじ…」

 耳のすぐ後ろで聞こえた__後ろのヤツも仮面を外したのか?腕が動けば今なら殺せるんじゃないか?黒球の用意した強化スーツよりコイツラの方が高性能だ__少なくとも防御性能は。

「あー、こんばんは!君の装備に予備があれば買い取りたいんだが…おっと!12分前に壊した飛行ユニットとレーザーガン、それとさっきの重力兵器の事さ、念の為。宇宙環境下でも使えるよね?君等の生命のこの場での保証と、支払いは円でイイかな、かちっ、で、どーお?」

 額が小さく破裂した__は?狙撃されてるのに商談?__やっぱりスーツをしていなければ銃で直接狙えるのか?いや素の肉体強度も星人の中でも高めだ_腕が裂かれ始め_熱い_

「せらえれぱらまーれ」

 

 

 

 暗闇は始めてではないが、雨の日の野外キャンプのテント内より暗いのは始めてだ。

 

 

 

 いつもの黒球が鎮座する部屋で全身の感覚が戻った。両手は空なのは初だが、覆面越しだが周囲はいつも通り良く見える__女性が1人座っていてこちらを振り返っている。それだけ。

 

 

 

 

 

ラッキー 0てん けい97てん あと3てん へんたい(笑)

チカサマ 100てん 100てんめにゅーへ

 

 

 

 

 

「3番?」

「1番よ__貴方最近0ばっかりよ?1番を選べるといいわね」

 

 記憶を消されたら死んだようなものだろ。

 

「サヨナラ」

「うん…それじゃあ」

 



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塹壕

 

 衣裳棚を両開きにして上着を搔き分け、大きい鍵付きの箱を持ち上げてカーペットの上に置く。上体を起こし、勉強机に歩み寄って右手で引き出しを開け、小箱の蓋を開けて鍵を取り出し、左手で引き出しを戻して床の箱の側に座り、鍵口に右手の鍵を差し込んで時計回りに回す。蓋を開け、空に見える中にそっと両腕を差し込んで、機器を探り当て透明化を解除する。

 先ずは黒地の白い小円が幾つも付いたスーツを取り出し、胸と手首と足首の小円を回して外し、立ち上がり、着ている長袖、Tシャツ、靴下とズボン、最後にパンツを脱いで強化スーツを着込む。

 

 今回の戦いで初参加の人達に久し振りに自分で説明しなければならない。__気乗りしない。

 

 バッグを腰に付けてベルトを調節し、バッグの部分を前に回す。覆面を拾い上げて被り、また屈んで重力銃を持ち上げる。左手に銃を持ち直す。これで全部__柄を拾い右太腿のベルトで留める。自室を見回す。ドアに鍵は掛けた、ベッドの掛け布団の上にはパンツと寝間着とタオル、帰ったら直ぐシャワーで幻の汗と返り血を流せる、窓の鍵も開けてある、雨が降ってたな…雨の中で戦うのは始めてだな、多分。

 スーツ以外はほぼ1ヶ月ぶりに使うな。リフレッシュすると決めたのが間違いだったとまでは思わないが…銃は記憶通りの重さだし多分大丈夫だろう__視界が切り替わる。前回、チカさんが消えた、いや解放された後に、床に置いてあった重力銃の様子がぼんやりと脳裏に浮かぶ。私が落とした湊さんの其れでどうやったらあの2人組みの仮面星人を倒せたのか。妙にハッキリとした発音で訳の分からない音の羅列だけでなく日本語さえも話し、取引を持ちかけてきたのだから口八丁で騙して殺したのではないだろうか__1人、私より先に来ている。

 紺に白い線の入った全身ジャージ姿で少し長い髪の人が、腰を曲げて黒球に触っている。

 

「はじめまして」

 勢いよく彼__彼女かも、どっちかな__が振り向く。予定通りの台詞だが黒球に触っている今はアドリブで注意するべきかな。

「だっ、だれっ!?なに!?」

「あー落ち着いて下さい、取り敢えずその黒球から少し離れて下さい。そのうち両脇が勢いよく開くので」

 顔はヒチに似ているな。声も高いし、化粧はしてない様に見えるけど女子か。同い年ぐらいだな。

「おっ次は…」

 私の右側の部屋中央にもう1人が坊主頭から出現し出している。2人目の初参加者は男か。

「あっコーキ君!?」

 同じジャージ?

「ツチダ先輩!無事だったんすか!よかったあ〜ってあれ、だ、だれ!?」

 2人が寄り添う様にして追加兵器の部屋の扉へと後退ってゆく。あの部屋未だ入れない筈なんだけどな、変な格好の奴から逃げるなら玄関に続く私の後ろ側のドアに向かった方がマシだろうに。外へは戦いから戻るまで出られないとは言え。

 2人は部活仲間かな。連携して戦える様になるまで生きて居られれば良いけど…

 

 __黒球が馴染みのフレーズを流し、誤字だらけの表示を浮かべ始める。2人には見てもらった方が良いな。

「黒球に説明が浮かんできたからこっちに来て読んでくれ」

 怖がられているなら__

「私は少し離れておくから」

 振り返ってドアの左側の壁まで歩み寄りそのまま湊さんの銃を置いて座る。

 

 どうせ転送開始までずっと説明しても納得は出来ないだろうし、黒球が開いてライフル型とハンドガン型の銃と強化スーツが取れる様になったらスーツを着る様に刀を伸ばしてみせて脅して、どうせ役に立たない星人の情報を一応流し読んでからさっさと追加兵器を持っていけるように端末を操作しないと。前回は壊されたガトリングガンも使った爆弾も出さずに直ぐに帰ったからな。コレの為の訓練もしないで強姦魔探しに集中しただけの成果はあったが、報復の件を終わらせてもこの戦いの問題は終わらせられない__

 

 短い駆動音が部屋に響く。

 銃を左手で掴んで立ち上がり、身体の向きを変えつつ腿から柄を外しトリガーを2つ同時に押して1m程に刀身を伸ばす。

「本物の兵器を使った戦いに強制的に参加する事になっている。見ての通りの伸縮自在のこういう刀みたいな近未来的な兵器が用意されている。特に、スーツケースの中の今私が着ている様なスーツは身体能力を強化するし一定の防御力もあるから、是非着替えてくれ」

 両脇が開いて銃が取り出せる様になった黒球から此方を振り向いた2人はポカンとしている。

「へっ、なんですか?」

 簡単に最重要な事を言うか。

「スーツケースの中の服に着替えろ、また死にたくなかったら」

「え、コレなんかの撮影ですか?」

「死んだと思う様な目に遭った覚えがあるなら、悪い事は言わないから強化スーツに着替えろ」

「え、じゃあ…」

「ちょ、しっかり説明しろよ!」

 悪いがまともに取り合う気は無い。時間も無いし。

「退いてくれ、私も星人の情報を見たい」

 

 黒球の正面に歩み寄る__眼を閉じた毛の無い顔、うらし星人、好きなものは、魚?強いとは書いてないし、まあ2人も生き残れるかな、スーツさえ着てくれれば。刀のトリガーから2指を離し腿に戻して帯で留めながら右に曲がって追加兵器の部屋に向かう。ドアノブに右手を掛け、捻ってから引く。

 振り向いて_

「スーツに着替えてくれ」

 

 早足で転がる柄や三角銃を踏みながら端末に歩み寄り、全ての兵器を選択する_視界が青い光の後に暗い屋外に変わる__ギリギリだったか_

 

 _左手を持ち上げつつゆっくりとその場で1回転する_足下が脆い_波打ち際に大きい異形_重力銃のトリガーを2つほぼ同時に2回引く。

 

 海岸に立っている人影は私1人。亀の巨大な甲羅の上から人の上半身がいくつも生えたヤツは最寄りの1体は全身を潰せたが奥に3体、内1体は砂浜ではないが浅瀬にいる。このまま撃ち続けても殺し切れそうだが_怪物達の反対側、私の直ぐ後ろに重力銃より強力な兵器がある_海に潜られたら殺し難いか_やや遠くの敵達に照準を合わせ2発ずつ撃つ。

 水音より大きい重低音が連続する。動き始めて少し効果範囲からズレたようだが、刀で斬った様な断面を晒して極一部が海に落ちた。左腕の機器の画面を操作すると、近くには青と赤が1つずつ_何処だ?雨だし明かりも無くて危険だ_防波堤の向こうか。銃の画面を見つつ腕を左に動かす。複雑な骨格が堤防を透かして映る__撃つ。少し待つ。もう1度、は必要ないみたいだな。重力銃1撃で充分か。

 

 残り時間は、58分。カウントが止まって無いな、未だいるのか?

 ”より強力な兵器”達を拾い上げていく。1度ロケットランチャーは砂の上に放り爆弾をジッパーを開けて腰のバックに入れる。ガトリングガンは片手で持ちながら飛行バイクを飛ばすとしても、重力銃の2挺目はどうしたもんか。脇に挟んでいる湊さんのは転送時に持っていないと喪失するしな…私本来のは置いて行くか?でも星人に使われると拙いな。

 初参加の2人に渡すか。

 

 飛行バイクの座席の両側に引っ掛けてある2つの大き目のバッグそれぞれにロケットランチャーと湊さんの方の重力銃を押し込み、座席に跨る。2つの大小のドーナッツを垂直に組み合わせた様な飛行バイクは内部から見ると複数の画面がありドーナッツにはとてもじゃないが見えず車に近く思えるのに、雨は普通に吹き込んでくる、何でこんな変な形何だ?腿の上に右手の重力銃を置いて画面に触り、飛行バイクを起動する。左手はガトリングガンを持ったまま片手でハンドルを握り浮かび上がる。

 

 海岸沿いに飛行を始める。透明化はしておいた方が安全だろうな__左腕を捻って右手に近付け、ボタンを押す。

 

 飛行バイクの画面の1つに骨格まで透かし見える人の図が出る__女性か、中性的な方の初参加者は女子だったのか、ふーん。近くに敵は居ないがもう1人も居ないな?あ、映った、けど、星人か__左腕をやや下向きに動かす。

 多量の光弾が海面に突き刺さり2mはありそうな魚の群をそのまま貫いていく。光弾から逃れる様に左右に別れて海面から10匹程飛び出すが、飛行バイクで新人の女子の数m上を旋回しながら砂浜に焦げ目を残しつつ撃ち抜いていく。女子に当てさえしなければ連射出来るガトリングは狙いを定め無くても簡単に星人を倒せるな、やっぱりコレでも碌に当たらない速すぎる星人は少数派なんだろうな。

 仕留め切ったし、声を掛けて飛行バイクを下ろすか。左腕を折り曲げて右親指をボタンに当て透明化を解除する。

「味方だ!降りるからその場で待ってくれ!」

 それなりに海も荒れているけど__

「わかりました!」

 大声が聞こえなくなる程じゃ無いしな。今回が初参加でラッキーなんじゃないだろうか。

 

 ビショビショのジャージ姿の彼女のすぐ横に、重力銃が落ちに様に姿勢を制御しながら下り、一時停止する。

「もう1人は何処?」

「わからないです……すいません」

 何故謝る?私に怯えているのか、それとも異常な状況に萎縮しているのか?

「そのジャージの下に強化スーツは着てるか?」

「靴は履いたんですけど、えっと、ケースと残りを落としちゃって、防波堤の向こう側で変なのに襲われた時に…」

 私とチラチラとしか目が合わないが、取り乱してはいないな。でも今回生き残れても強化スーツ一式揃ってないとやばいよな、戻ったら再支給されるのか?回収する方がいいだろうな、星人も近くに居るみたいだし。既に確実に100点に届いているしこの人にその星人を倒させてもいいかな?うん、自信をつけて今後戦力になって貰った方がいざ強い星人が出る時に良いだろう。

「一緒に乗ってくれるか?君の強化スーツを回収しに行く」

「あの、なんで戦うんですか?」

 はあ?

「どういう意味?」

「その機械で飛べるなら、かえれますよね?」

 変える?って何を?いいや”帰る”、だな。

「家に、ってこと?」

「助けてくれてありがとうございます、ついでに私と私の後輩も連れて安全なところまで送ってくれませんか?」

 彼女は突き出した輪を潜って座席の横まで来ると頭を下げる。銃は持っているとしてもハンドガン型だけだな、それを隠し持っているなら恐いけどもっと高評価だな…

「取り敢えず乗ってくれる?」

 彼女は頷いて座席の後ろに回る。

「掴まってくれ。…まず、星人を殺し切らないと、あー、ペナルティを受ける。次に、今、制限範囲内から出ると、死ぬ」

 飛行バイクを浮かす__透明化したらこの女子にも適応されるのか?透明化は今は辞めとくか。

 防波堤を越える。何処か全然分からないな。

「何処にスーツを置いてきたか分かる?」

「えっ、死ぬ理由を聞かせて!」

 面倒だな…いや、当然の疑問か。

「私達はあの黒球に生殺与奪を握られている。人の生死を操れるんだ…星人に殺される可能性も高いし。ああ、生き返る事を見込んで無謀な行動はやめたほうがいい…一応、念の為言っておくけど」

 高度を下げるか。機体内の画面を注視しながら肘で私の重力銃を押さえつつガトリングガンを水平に構える。

「…もう1回生き返ってここに送りこまれた…ってこと…?」

 ま、私は違うけども。

「そういう事らしいよ。で、未だ飲み込めて無いだろうけど、強化スーツを着ないと余計に危険だ。場所は_」

 引き金を引く_ガトリングガンが駆動し吐き出していく光を曳いた弾が、亀と人の合体したような化け物を引き裂く。カーブの先はよく見通せない__いや、物を持ち過ぎか。それに暗いし雨だし__顔に湿った冷たい布が貼り付いて気持ち悪い。

 

 飛行バイクから降りた方が腕の機器の地図を見易いし、だが兵器の大部分は置いていく事になるか…後ろに目をやる。背凭れにしがみつく年上の女性、近くで見るとチカとは然程似ていないな。

 私1人だと強い星人にその内殺されるだろうしなあ。

「1度着地する…」

 出来ればもう1人も生かしたいし、星人の残りを確認するにも地図はしっかり見るべきだろう。

「…へっ?」

「スーツに付属する機器で敵味方の位置が確認出来るから」

「えっああ、向こうだと思います私のスーツ!」

 腕が私の左側に突き出される_咄嗟に跳ね上げそうな銃身を押さえる。

「あっ、そう?じゃあ先ずそっちに行くか」

 

 コンクリートの直ぐ上をゆっくり飛んでいると、銀色のスーツケースが交差点に転がっているのが見える。

「見付けた」

「……あ、はい、あれだと思います」

 通りの奥でバイクが右に走り抜けるのが1瞬見える。多分星人ではないだろ…

「ふつうの、えーと、これをやらされてない人、です?」

「多分。星人は基本、透明になっていないと襲ってくる」

 飛行バイクを道路の上に下ろす。右手をハンドルから離し、顔の前にガトリングガンごと寄せた左腕に、くっついた機器を操作する。

「近くには居ないから、拾って着替えてくれ…ああ、後輩クンは生きてるな」

 この移動速度だとスーツを着てるのかもしれない。後ろから星人達に追われてるなこれ、助けに行くか。

 少し飛行バイクが揺れ、後ろから右側に彼女が移動する。

「私はもう1人の方に行く…ああ、武器を置いていくからもし星人が来たら撃ってみてもいい」

 右手で腿の上の重力銃__湊さんのがあるし、こっちは私のだから失っても回収できる__を道路に投げる。これで楽になった。

「うそっ信じらんない置いてくのっ_」

 ペダルに足をかけハンドルを片手で握る__声を張る。

「トリガーは2つとも引かないといけないから!効くまで僅かに時間がかかる!ああそれと、”これに参加させられてない人達”には私達は見えないから!」

 飛行バイクで浮かび上がり、右斜めへ飛び並ぶ低い建物を越える。左腕の地図を見る__こっちで合ってるな。速度を上げる。

 

 見つけた、防波堤へと跳躍している人影__青い光が点々と全身にある、強化が高まった状態だ、あっちだけスーツに着替えて来たって事か__左側、建物の陰から彼を追う様に細長い何かが飛_ガトリングガンを向け引き金を引く_外した、飛来物が彼に当てられたか__

 トリガーから指を浮かす。彼の方は生きている事を期待して、未だあの辺りにいる星人を先に殺す__

 

 

 減速する。複数の、甲羅の上に人の上体が無数に付いた怪物と地面をのたくる怪魚が、堤防と建物の間の10m程の道路に出る__中程まで来た_

 ほぼ真上から連射し始めながら宙で静止する。視界奥の一際大きい甲羅から2つだけ白い上体を生やした星人が横移動して建物の陰に隠れる_光弾なら壁ごと撃ち抜けるだろう。手前の星人達はもう沈黙した、このま_

 

 懸命に体を倒し_トリガーから指を離し銃身を脇に寄せる_回転しながら降下し、堤防を避けて砂浜に突っ込む_機体を持ち上げ砂をまき散らしつつまた浮かび上がる。何が飛んで来たんだ?何を飛ばして__画面に骨の無い人の上体が映る。

「下半身も無いのに動くなよ…」

 思わず呟きながら、堤防より低目に飛行バイクを維持しつつその場で回す。広い隙間から雨が目に入るが、上を見ると今は体の一部を飛ばして来てはいない。暗い海から波と共に星人の上半身だけが打ち上げられている。砂浜で別の上半身と黒いスーツ姿の1人がもみ合っている。スーツの強化が有って揉み合いになってる?意外に力があるのか、上半身だけのくせに。

 助けに入るのに刀以外だとやり難いだろうな。降ろすか。

 

 100点メニューの強力な兵器を全て置いて、刀を取って伸ばし、走る。

 あ、爆弾は腰のバッグに入れてるか。

 砂浜は湿っていて脚も沈むし気持ち悪い走り心地だが防波堤より高く跳躍して打ち落とされても困る。

 

 立ち止まり、切っ先を銀白色の頭部に突き刺し捻る。後輩くんが砂浜を転がって星人から離れる。__念の為_刀を引き抜き刃を回して脇から肩に斬りあげる。

「平気か?」

 2歩下がりながら左を向く。

「ああ、はあっ、はあっ、はい、どうも…」

 スーツから少し金属みたいな液体が垂れている。まだ完全に壊れた訳ではないが…あれ、他の上半身には攻撃して無い__移動速度は遅いな、ガトリングで一掃するか。

「立てる?」

「は、い」

 骨を折られたりはして無いみたいだ、まあ間に合ったと言っていいだろう。

「着いて来てくれ」

 振り返って小走りで飛行バイクのもとへと戻る。大きい星人が動き回っていないといいが。左腕の機器を操作する。さっきの女子は無事、星人は上半身を撃ってくる大きいのと、海岸に転がっているヤツラと、沖合に1体?残り37分20秒か。沖には飛行バイクに乗って爆弾を落としてくるか。100mぐらいの深さは届くだろ。もっと深くにいたら、飛行バイクで突っ込むしかないのか?諦めた方が安全だろうな、次が怖いが。

 

 輪を越えて、刀身を消して柄を腿にくくり、座席に掛けたバッグの手前の方を開けてロケットランチャーを取り出す。ドーナツバイク部分から少し離れ、堤防に弾頭を向ける。画面を覗き大きい星人を探す。重なった建物の透過に時間が掛かるな…見付けた。上トリガーを引き絞る。上トリガーが固定された。ロケットランチャーを上に向けて、下トリガーも引く。体が少し揺らされ、ロケットが堤防を越えて消える。

 音は水の音以外聴こえ無いが…機器を操作して地図を確認する。星人の残りは海側だけだ。

「おいっ!なにしたんだよ!」

 ああ、着いて来て貰わなくても良かったかな?__持ち手を離し使い終わったロケットランチャーを捨てる。後は私が残りの点を取って終わりだし。

「向こうの星人を倒しただけさ」

 座席に立て掛けたガトリングガンを右手で持ち上げる。銃口を青年の方に向ける。

「どいて」

 彼は後ずさって行く。おいおい、後ろの上体だけの星人が撃てないだろ。

「君の後ろの星人達を撃ちたいんだけど!私の横にまわってくれよ!」

 イラつくなあ。

「あ、ああ、分かったって」

 駆け寄ってきて飛行バイクの反対側に行く。私は踏み出してトリガーを絞りつつ銃身を左右に往復させる。トリガーから指を浮かし、左手を曲げて持ち上げる。赤い点が沖以外にまだ2つ、ああ、消えた。全部が即死とはいかなかったのか、別にいいけど。

 踵を返して座席に向かう、と、兵器に触るなよ!

「退け!!」

「すんません!」

 重力銃をチラ見しているな?別に使わないが置いていかないぞ。

 空いたバッグにガトリングガンを突っ込み、席に跨って両手でハンドルを握る。

「もうすぐ終わらせて、転送が始まる、ああ、黒球の転がる部屋に戻されるから、ここで待て」

 大きく移動されて制限範囲から出られたら折角助けたのに死なれるからな。

「詳しくは後で2人纏めて説明する」

「そうだッ、リコ先輩は_」

 飛行バイクで沖へ一気に移動する。減速しながら左手をハンドルから離して持ち上げ地図を見る。飛行バイクを操作し左に旋回する。この下だな。あっ海上だけが効果範囲になったら如何しようも無いじゃないか。ロケットランチャー残しておけば良かった。爆弾の方はターゲットをロックする機能が無いし…

 

 1度戻るか?でもなあ…全力で投げつけてみるか…

 

 ハンドルを握り直し高度を上げていく。

 頭に警告音__高さ制限まであるのかよ地図に表示も無いのに__飛行バイクを止める。うるさいな…右手で腰を探り、チャックを開けてバッグに手を入れ、あった、爆弾を取り出しチャックを閉める。横に右手を突き出し、駆体を下に向けて思い切り速度を出す__海面が迫り右手を高まった強化で全力でふりボタンを押し込みつつ投擲する_飛行バイクを制動し_っつ全身に重圧_斜め上へと進んでいる__上手くいった。振り返る。いや、ボタンをもうちょっと早く押すべきだったな。

 海面に巨大な穴が開く__飛行バイクをUターンさせる。既に一際泡立った箇所が見えるだけか。左手を離して顔に寄せる。赤い点が青い点とほぼ重なっている__まだ終わって無いのか__効果範囲に入っていなかったのか。次は如何すればいい?

 

 銃でターゲット画面に映るかもしれない。ライフル型がちゃんと遠距離に対応していると聞いた気が…重力銃かハンドガン型で捉えられるといいんだけど…

 

 海中が映っているかも分からない。う〜ん、重力銃だと駄目か?座席横のバッグに突っ込み、腰の方のからハンドガン型を取り出して下に向ける。くそっ全然見えない。

 

 海に入るか?ゴーグルも酸素ボンベも無いんだが…点数が0になるのは…どーする…

 

 

 __青い輝きで視界が塗り潰れる__

 __黒球が鎮座する白い部屋が見える。ハンドガン型の銃を握りしめて床の上で直立していた。

 

 最後の星人、爆弾で瀕死になってたんだな。セ〜フ!

 海中装備を次から持って来るべきか?懐中電灯、いやヘルメットに付いたやつを用意するべきかな…

 前の床に体育座りで座り込んだ状態で、スーツ姿の1人が転送されて来る。__全身が出揃ったし、声かけるか。

「お疲れ!」

 肩を揺らし右腕を床についてこちろを向き、見上げて来る。先輩の方か。

「これ、え?」

 彼女は立ち上がり、目を合わせる。

「説明、お願いできます、か?」

「後輩君が転送されて来たら説明する。二度手間になるし」

 余計な事を言ったか。

「あ」

 視線がズレる。後ろか?振り返ると、左側に両足をこっちに投げ出して座る後輩の方が転送されていた。慌てた様子で立とうとする彼にも声をかける。

「お疲れ」

 黒球が音を出す__首を前に戻す。採点だ。私は口を開く。

「黒球の前に行こう」

 

 無言で、私は右端で先輩が隣、後輩が奥の3人で横並びになる。

「顔の感じだとこのリコウちゃんが先輩さんだな。この点は止めを刺した星人の点数の合計だ。もう切り替わったけどついてた馬鹿にしたコメントは気にしなくていいから。2人とも0点だけど、あと100点って出てるように、ほらこうやって100点以上になると、100点メニューから1つ選べる」

 70点の持ち越しか__点を取れたのは久し振りだ。1人でガメたんだけど。

「オレたちを見捨ててくんスか?」

 ?ああ、1番か。

「いいや__今回も2番で」

「強力な、武器?あの、”も”って?」

 先輩の方が良さそうだな。

「空飛ぶバイクとか、リコウちゃんに渡した銃とか、エース括弧笑いの前で使ったロケットランチャーとか。両方とも光るエネルギー弾みたいなものを連射する銃に関しては威力の高さは見ただろう?」

「その呼び方やめてくれよ、オレはスギモトコウタロウだ」

「あ私は_」

 やめてくれよ__

「本名で名乗らないでくれ。私は名乗りたく無い。元々知り合いだと如何しようも無いが、こんな戦いに参加させられてる人の情報を詳しく知りたく無い」

 雰囲気を悪くしたけど、ま、しょうがないな。新人2人と黒球の前で向かい合う。

 

「…あの、これ一体なんなんですか?あなたは5回も解放されるチャンスをふいにしたんですよね。あなたは私たちと同じ被害者じゃなかったりするんですか?」

 心外だな。

「そもそも被害者達を復活させて戦いをさせてるのは黒球だろ。中身を覗いてみろよ、裸の男が入ってる」

 あいつが元凶に決まってる。

「私も含めてここに転送される人間の生死はその黒球に握られてる。例えば被害者以外にこの事を言うと殺される__試した事は無いけど、星人に殺された先達に教えられた」

「これ…どれだけつづいてんだ?」

「知らない」

 あっいい質問かも。

「気になるなら100点を取って3番で、メモリーの1番古い死者を蘇らせて聞いたらどうだ?」

 結構面白いアイデアじゃあないか?

「あなたは、なんで続けてるんですか?殺し合いたいなら、私たちを助けなくても良かったですよね?何がしたいんです?」

 調べた事をタダで教えたくないんだけど。

 

 不信感を与えたくもないし、仕方無いか。

「1番を選んだ知り合いは、解放はされたけど長期間の記憶を失ってる。なので1番を選ぶのは気が進まない。だけど、2番を選んだ戦える人達でも、強い星人とあたったら殺されてる。だから味方の数を揃えたい、で、君等を助けた。3番で今まで殺された腕の立つ人を復活させる方が効果的だろうけど、新人を見殺しにする程星人が強くも無かったし。少なくとも今回は。100点メニューを使うなら自分の装備の拡充を優先して、ま、したい事は生存だ」

 スグルが1年前に星人にやられてるし、防御装置が出てきたら3番を選ぶかもしれないけど。

 

 

 黙っちゃったな。

「何か他に質問は?」

「…オレらに使わないブキを貸してくれないか?」

 そういえばリコウちゃんは貸した重力銃を置いてきたみたいだな。

「状況によっては貸すけど、基本自分で使う」

「で、でもよ__」

「スーツと銃で頑張ってくれ。ああ、戦い以外で悪用すると殺されるらしいから気を付けて」

「うぇっ」

 賢い女子のイメージが揺らぐなあ。

「何をしようと思ったんだ?別に答えなくても良いけどさ」

「…た、体育で…」

「せ、先輩…」

「活躍しようって?多分それぐらいいいんじゃない」

 やったこと無いなそれ。大勢を叩きのめしても死んでないし其れ位許容範囲だろ。本当に悪用への制裁があるかも怪しいし。

「上着からはみ出さないように__」

 あ、リコウちゃんジャージ海に置いてきてるな__

「スーツは一部だけ着けて、あと強化は結構凄いから手抜きしないと__」

「い、もういいです!」

「あはは…大会で使ったらマズイっすかね」

「ちょっと!?」

 あ、もしかして。

「運動部のエースだったりするの?あ、いや知りたく無い。えー。基本、約1ヶ月ごとに、夜中にこの部屋に転送されるけど、期間はマチマチだから部活の時とかでも使わなくてもスーツは持ち運ぶようにな。転送の数分前に背筋に悪寒が走るから。採点後は玄関が開くから、今日はもう帰れる。近くに線路があるから、金が無くてもスーツの力で帰れる筈だ。左前腕に機器がついてるだろ、操作して周波数変更中って出れば透明になれているから、気付かれない。じゃあそういうことで。私は持ち出せない飛行バイクの練習してから帰るから」

 戸惑っている2人を横目に見て、無視して追加兵器の部屋に向かい、ドアを開ける。

 

 兵装選択の端末に近付く。新しい兵器はっと__これ、星人か?両腕が肥大した人型、ゴリラみたいな造形だ__いやそんなはずないな。一緒に戦ってくれるロボットか、まさか、それとも新しいスーツなのか?図に触り___アイコンに変わって右の他のアイコンに並ぶ___振り返り出て来るのを待つ。.......凄いなこれは、光沢のある硬そうな生地に通常の強化スーツより大きな丸い付属品が全身に散りばめられ、腕は大きく長く肘から長い刀身が天井に伸びていて、強そう。顔まで覆えるようになっているな、でも顔部分の縦に2列並んだ沢山の小さ目の丸い付属品、前が見えるのか?それに後ろのコードの束は何だ?

 触ると、顔の前部、フェイスガードか、が外せて、首部分も左右に開き、胸部分も左右から伸びて胸の中央で合流する計8本のベルトが左右に開く。生地が分厚い、いやパーツといった方が相応しいか…全裸でこのキグルミの中に入るのか?__スーツを着たまま装着出来るな…。

 腕の部分は着込んだパーツの内側に大きな隙間があるから、簡単に外に出せる。普通に重力銃やガトリング、ロケットランチャーを持てそうだ.......肘の後ろについた長い刀身は遣い難そうだが.......。足を覆う堅牢そうなブーツ部分も体に違和感が無い。胸部分を閉め、フェイスガードも着けて__おお!?まるで顔に覆いが無いみたいだ__両手を巨大な腕パーツに戻し少し動かし_っ!…なんだ、でかい腕だな…私の指に同期して巨大な腕のパーツの先端の太く長い指が自在に動く__掌に穴が空いてる…?

 

 …スーツによる強化の目的は、素早さ、いや、速度と怪力で、防御は自滅を防ぐ程度の意味しかなかったのではないか。自分の胸を叩いてみる。このしっかりと固い、より強いスーツは、分厚いのとごつい造形とで服とは認識し難いな、下にスーツを着ているのに強化を強める様に集中してもそれほど素早くは動けない、では代わりに怪力、攻撃力と防御力が十中八九大幅に底上げされているのだろう…スーツみたいに分解出来ないかな。持ち出せれば、いつもの山に持って行きそこで攻撃手段を検証したい、この部屋は破壊できないし__透明化して運ぶか?

…防御力は確認し難いが、そろそろスグルを復活させても大丈夫なのかもしれない……キョウにも堂々と逢えるな。

 



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寝落ちから復帰する

だるい…眼が痛い…腕が痺れた…

「起きて、太二くん。もう掃除の邪魔になっちゃうよ?」

「もうなってるからー」

「ぷふっ」

「それな~」

「アハハッ」

顔がカッと熱くなる。眠気を抑え頭を持ち上げ椅子に座り直す。

「ごめん…」

呟きながら椅子を引き、立ち上がる。しまった、帰り支度してないな。

顔を上げると、横に日野さんが立っていて、教室には数人しか残って居ない全員がその奥で固まっている。掃除当番なんてよく真面目にやれるな…

「悪い、直ぐ荷物纏めるから」

 

「うん、みんな、じゃあね~」

日野さんへ返事の声が重なるがそれはいいとしてもしかして私を待っていたのか?レイプ犯はもう痛めつけただろ?

「じゃな雷木ぃー」

「あ、じゃあ」

あいつなんてったってけ…

 

教材は仕舞わず軽い鞄を持ち上げ教室の外へと彼女と並んで向かう。

「何の用?」

「待っててアリガトじゃないの?」

開きっ放しの出入口の前で立ち止まり、小首を傾げる彼女を促し、後に続いて廊下に出る。

「待っていてくれてありがと、デートにでも行くかい?」

話の心当たりは全く無い、と思う。

「それでもいいわよ」

勘弁しろよ。

階段は、スカートだし前に行ってもらうか。…もう廊下には人が居ないけど小声で__

「例の話ならもう終わらせたけど、私とでもセックスはしたくないだろう?」

「やめて!」

うおっ…

「ごめん、悪かった」

「…ううん…声あげてわるかったね」

すごく小さい溜息_無神経過ぎたかも。

「あのことはもういいのよ。すっとしたしね?」

「振り返んなくていいよ、段差見て降りなよ」

やっぱり見た目は、特に微笑みは綺麗なんだよなあ。

 

下駄箱で一時別れ、腕を上げて蓋を開き靴を取る。置いて、上履きを脱ぎ持ち上げて仕舞う。靴に足を入れ、踵部分を直し透明なドアの手前まで早足で進む。取っ手を掴んで引き、日野さんに頷きかける。

「ありがとっ」

続いてドアを通り、隣に追いつく。疎らに他にも制服姿が見える。

「結局何の用なの?」

軽い話なら駅までで終わるかな。

 

「おおっ雷木ーっ!」

げっカラタさん…校門から入って来たってコトはランニングか。他の面子が居ないし相変わらずぶっちぎりか。

「どーも。引退して受験勉強しなくていいんです?」

「ダイジョブさ。こんちわ日野さん、コイツはフッたんじゃなかったっけか」

野次馬根性丸出しの態度だな?校門まで往復する気かよ…

「喧嘩別れじゃなかったんで、友達ですから」

「遊びに行かないって寄り道する誘いをしよーと思ってたんですよ?」

は、本当か?

「クリスマス前に復縁か?お前らも1年後には受験生だぞ~」

「やだ、違いますよー」

うーん…

 



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コンティニューしますか(復活の呪文か否か)

 

コンティニューしますか(復活の呪文か否か)ー1

 

 

視界を切り替えてみる。骨格が透けて見え、死人の3人組が現れた様に思える。黒球は、見ても解らないな…

「1月ぶり。もう着替えた?」

「リコ先輩は転送前に着てたんですよ?置いてくって言ってたのに」

骸骨が話しているみたいだが、窪んだ目でも案外怖くないな。視界を戻す。

初参加のサラリーマンらしき男性は強化スーツの入ったケースを抱きしめつつキョロキョロしながら口を開く。

「おっお知り合いでっ、かな?」

黒球が音楽を流し始める__1人だけかな。

 

鳴りやんでから話し掛ける。

「説明文は一応読んだら?星人の情報も含めそこまで気にしなくていいけど」

「星人…?」

ワイシャツ姿の男性の呟きは流そう。

「2人とも、銃はハンドガン型の小さいやつだけ取ればいいから。私の武器を貸すよ」

「あっ、よかったです。その武器、強かったんですね?」

まあどちらかと言うと__ガシャンと黒球が展開する。

「使い易い、かな。この重力銃1挺と飛行バイク以外は多分いらない」

爆弾は建物ごと潰す用に使えるけど、見せていないし腰巻バックも持って来ていないし、渡さなくていいだろう。

「あの、これ、説明してくれるかい?」

「そこで示されている星人達と殺し合いをさせられるんで、安全の為にそのケースの中の強化スーツに着替えて下さい」

重い足音と共に前に進む__3人ともどいてくれる。

 

やっぱり下らない情報だな。

「銃を取ってついて来てくれ、転送時に予め接触していれば転送後も一緒にいられる。兵器は私の直ぐ近くに転送されるから、向こうで渡す。ロケットランチャーと、重力銃と、ガトリングガンの3つだ」

 

 

 

コンティニューしますか(復活の呪文か否か)ー2

 

 

大通りの歩道で固まって歩く濃色の服の集団を上空から見下ろす。透視すれば骨の繋がった長い尻尾を腰に巻きつけているのが分かる。服は、盛り上がっていないな?厚着なのかな。

飛行バイクを何処に停めるか。

通行人もいるし、降りてこの強化服を実戦で使いたいな。

 

あの路上駐車してる大型車の上でいいか。

速度を上げて車の真上まで降下し急停止して動力を落とす。やべっ潰れた__ま、いいか。重力銃はバッグから出さずに席から下り、自動車を更に拉げさせ星人達に向かって跳躍する。落下しながら巨大な両腕を振り回す__1体は掴み損ねて潰れて吹っ飛び、2体を鷲掴みにし、1体は肘の刀で斬れた。楽勝だな。

「グブルゥーーッ!!」「グバハァアアアアーー__」

軽く両手を握りしめると太い機械の指が即応__容易くオスラ星人達を握り潰して、頭部や足が路上に落ちる。

少し向こうで残りの4体の星人達が咆哮しだす__尻尾を伸ばし振ってもいる。光弾を撃つか?両手で1度に2発しか撃てない__ガトリングガンみたいに連射するのは難しいしな、それに通行人も危機感が足りてないみたいだし。前へ走り出す__強化スーツだけの時と同じ位でしか走れないのは不満だけど__散開しようと跳ねる星人と向かって来る星人達を巨大な両拳で追う。極めて軽い手応え。通行人達に肉塊は当たってないな、あの2人の長袖には体液の飛沫は付いたみたいだけど…。

左腕を抜き出して顔に寄せる。5分ちょっとでこれか、はは。後1箇所しか無かったよな、移動してるか?右腕も出して機器を操作する。付近には青が1つのみ、で、えーと、さっき見た場所は、あれ?縮尺を小さくしてと。下端の左寄りに青い輝点が赤い輝点と重なる場所がある。ここは後回しで、他に赤はー、無いな。ここに行くか。

 

 

 

コンティニューしますか(復活の呪文か否か)ー3

 

 

眼前に腹部まである黒球が鎮座している。戻ってきた。振り返る。2人の先輩後輩はもう戻ってきてる、が。

「初参加の男性は?一緒に行動してたんじゃないのか?」

武器は全部持っているな。

「えっと、死んじゃった」

あー…

「そっか」

体を戻す。

 

「え、反応うすっ」

黒球が音を出す。

15点?りこうちゃん、って女子の方か。後ろで何か話す2人にも伝える。

「15点取っているぞ、前に来て自分の点位把握しておきなよ」

「あ、はい」「うーっす」

 

表示が切り替わる。計30点か。結構とられたな。

「お、やった」

「私のもう終わっちゃった」

「何体殺した?」

「こっ…!?」

「あー、1ずつ?ですね。先輩ーしっかりしてよー?」

「ごめ…ぅあ」

48点?1体6点?15点じゃないのか?後でどんなのと闘ったのか聞かせてもらおう。

いってみるぞ__

「3番、滝田 スグルを復活させて」

復活するのが本人と言えるかは知らないけど、恭を抱ければいいしな。嫌われてはいないし兄がいれば口説き落とせるだろう。失踪に関与なんてゾッとしないし…暴行とか器物損壊の方は私だと分からない筈だし、これで真っ白な経歴だ。

こいつは高校進学が難しいかもしれないけど、私だって真面目に考えられないし…まあ生きているだけ得だろ。

 



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名誉の負傷で除隊決定__生きて後方搬送されれば

「おっ来た。スグルー、道場は通っておけよ、1度しか来てないだろう?」

「ちわーっす。え、なに?」

 こいつチャらかったっけ?

「道場だよ、通っておいた方がいいぞって話」

「あー、勉強がやばくてさ。今度教えてくれよ、ラッキー先輩」

 それ位ならお前の妹を誘う。

「殺し合いで生き残れなかったら無用の心配だぞ。今回ガトリングガンはお前に貸すけど、油断するな」

「わかってる」

 強張るな?死ぬ時の事は覚えていないのではなかったか?

「えー、こっちにも貸して下さいよ、先輩」

 混乱する言い方だな。

「ラッキーといってくれ。自分の先輩がいるだろ」

「まだ来てないですよー」

 

「君達!くっちゃべるなら今直ぐにどういうことか話しなさい!」

 五月蝿いな。

「だから、そこの球の中身の言う事に従うんですって」

 スグルと同時にビクっとはしたけど”2番手くん”の方が言い返した分マシかな。私達より年上らしいしあれで普通なのかな。

「人が揃うまで待てというから待っていたが、なにが起こっているのかいい加減教えてくれ!その機械といい光といい悪ふざけの域を越えているだろう?」

「そ、そうだぞ、いつまで待てばいいんだよ!?仕事があるんだ、ドアさえ開けてくれればいいからさ…」

 2人に面識はあるのだろうか?3人、もうリコも来たしこの光は4人目だな、新人達は今回はバラバラに死んだのではないか。

 黒球が音を出し、転送の終わりを告げる。事態の説明か、面倒なんだよな。

 白い天井と壁、薄茶の床と2つのドア、10人近くの人々と大きな真っ黒な球は閉塞感を感じる。全身を2回り以上大きくする強化服があって黒球の前まで進み難い。頭部に遠視機能もついていても良さそうなんだが、少なくとも今のところ使えないんだよな。

 

 黒球に近付いていた初参加者達が突然両側が展開したそれからこちらに後退っている。うん、別にあのテキトーな情報は見なくてもいいか。後頭部と背中から伸びたコード群を引き摺りながら追加兵器の部屋に向かう。

「初めとの人達に強化スーツを着る様に言っといて。転送先で1度合流しよう」

 ドアノブを左腕を斜め前に出して回転させて引き、腕を入れて巨大な腕を向こうの部屋へ差し込み、横向きになって、中腰になりつつ腕を水平に伸ばしながら横歩きで強化服ごと全身を枠に押し込み、通り抜ける。

「おーい、やっぱ外側のスーツは置いといたほうが良かったんじゃないかー?」

「え、一緒に転送しないんですか?」

「近くに転__」

 指を開けば床に届く巨大な腕で前の床を払いつつ兵器選択端末に向かう。左手を出して選択可能な兵器4つ全て選ぶ。足元のノートを見下ろす。結構経つけど、未だ全然薄いな。

 振り返って閉まり切っていない扉が目に入る。漏れ聞こえる音は、出来たとしてもするつもりも無いが、頭部の集音機能を強めないと何か良く解らない。転がる三角銃は、以前は一応は携行していたけど、前回からは特に要らないんだよなあ。

 

 瞬きをすると青い残像が残り、ゆっくり瞬きをすると外に転送されていた。右前のコンクリート上に飛行バイクと、ロケットランチャー、ガトリングガン、後丸い爆弾も転がっている。

 

 

≪~~~~~ーーー~~~~~≫

 会場に明朗に音声が届けられる__

「こちらのグループの映像はライブでございます!ハードスーツを着用しているのは美少年ですが、彼のマスクは当分外れることはないでしょう!何故か?実は暫く彼のいるチームには高配点の星人はあてがわれない予定だからです。特別扱いを認められました!彼に人造人間がつけたあだ名、ラッキーとは、的を射ていたことになりますね!彼は毎回先行して星人を殺して大量得点を目論んでいます!さて、皆さま30分以上に大金を賭ける勇気はおありですか!」

 

 暖房の効いた部屋で寛ぐシックな服装の人々の手元には、15cm四方の液晶が1人1つあり、数人で談笑しながらそれらを見せあっている。

 

「時間の変更は__「賭ける対象は今からでも__「もう変更はできません、申し訳ありません。来月同様の賭けが再び行われますので…」

 

「人気アイドルの属するチームと近い扱いかい?」

「申し訳ございません、お答えしかねます」

「はん、大人気の芸能人なんて今いないだろうに」

 

「私は5から7分に賭けたんだよ?」

「まあ、残り時間がその程度しか残らないなんて予想がお下手なこと」

「はっは、勿論逆だが、君の予想の方がきっと正確なのだろうね?ふふッ」

「まあまあ、そこらへんで…上映時間が長くても構いませんよ、わたしは。愉しい催しですもの」

 

 

「__くん、●●●●くん、彼はお気に入りだろう?●●財閥でカタストロフィ対策に囲い込みをかけるのかね」

「あそこのトヨカとかいう代表代理も軽く目をつけていますよ…こちらは今は大阪の生き残りの方に注目しています。連携までした猛者達を殺した中位の100点星人を、1人で殺した岡という男、こっちは本名が分かっていますから。ラッキー君の方は顔の記録もうちでは取れていませんし」

「ならば提供しようか?我々も日本までは手を回さないのでね」

「では、こちらもアメリカのブラックボールの位置を1つ送ります…」

「あららぁ内緒話ですか?」

「…トヨカ嬢、表の取引を止められたいのか?」

「まさか!__でも嬢とは、ね…ボクを馬鹿にするのはよせ__」

 

 あっさりと一方的な戦闘が終わったことが画面上で示され、音声で結果の発表と次回への誘いが告げられる…

 

 会場から離れる集団の内、最も数が少ない5人のものがやや小声で話している。

「30点とはいえ独り占め、とはね。内輪揉めを反省していないようですね」

「候補から外しますか」

「カタストロフの詳細は主催者側でも不明との話です、決定は早計かと」

「まだ学生だろう?就職の世話は早過ぎるし、カタストロフィ直前まで保留してくべきではないか」

「中卒、という言葉もございます」

「え~なにそれ~。…真面目な話、優秀じゃなくとも言葉は通じないと、ね。はは、100点星人にいつ当てられるのかなあ」

「すでに一度戦った事があったと思いますが」

「星人の割り振りは玉の操作者がある程度自由にしているという情報も」

「それくらいドイツの御大に聞けばあっさり教えてくれることだ」

「裏を取れる別筋の__」

「しゃべりすぎー」

「すいません、__」

 



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ルーズリーフの変更や追加分

 

(7枚目)

六回目

ガトリングガン:貫通力のある光弾を連射。砲身は長く、握り部分以外にも上部に持ち手が付いている。強化があれば片手で取り回せる。

 

(8枚目)

七回目

大強化服:強化スーツの上から身に纏える。刀の柄なら腿のベルトに付けたままで問題無い。視界は広く銃と同じ透視も出来る。腕が特に大きく、掌からガトリングガンと同じ光弾が出せ、肘から刀身が伸び、強化スーツの強化を高める要領で肘の6つずつある噴射口から何か出して腕の振りを強く出来る。腕部分の内側から腕を出して他の兵器も扱える。

 

(9枚目)

三番で再生された人

 

ミヤイ:男子。ヨンノセに再生された。

 

死亡時中学校1年生の男子。

 

(10枚目)

黒球の提示した敵について

????年11月?日

てのひら星人:三メートル程の人の掌みたいな見た目。素早く、重力銃でも五発以上撃たないと殺せない。

ドーナツ型バイク所持一人、重力銃所持三人を含む二十人程で戦ったが全滅させられず、生き残りは六人。

 

????年12月??日

だんご星人:二メートル位の高さの、鰐みたいな頭が二つ縦に並んで付いた一本足。一体は遥かに巨大で、多くの頭と長い棘が付いて毛虫みたいだった。

恐らく、普通の奴は十点で大きい奴は三十点。

 

????年1月??日

しょうしょう星人:平安貴族の様な人型。弓矢や剣はスーツを貫通する。動きは軽やかで、スーツで透明化しても見えている。男女や武装で点が違うだろうが、恐らく一体十五点程。

 

????年3月??日

のぞき星人:透明化を初め複数の特殊な能力を持っていたと思われる。一体のみ。九十点。湊を含め多数を殺害。

 

????年4月??日

?星人:ごつごつした質感。一体七点位。

 

????年6月?日

がむ星人:四足歩行。一体七点位。

同日、てのひら星人が続いた。一体の紫の変色する個体は毒を持ち、顔の素肌に直接触れると死ぬ。少なくともこの紫の個体は重力爆弾に耐えた。通常の銃や刀で仕留めた。

ほぼ確実に通常個体の内の一体は六十五点。個体差が大きいと思われる。

 

????年7月?日

空飛ぶ機械に乗り込んで高速で飛び回るイメージ通りの星人:長い棘を一点に向かって伸ばす攻撃をするが、何度も当たるとスーツが一時機能を停止する。一体二十一点位。

 

????年8月??日

一体だけ人型。腕が背中側に二本、胸に一本。足は三本。

他はカバのような獣。表面の殻が頑丈で銃や刀の攻撃数発や、加速したドーナツ型バイクとの正面衝突に耐える。内部への攻撃は普通に効く。

 

(10枚目裏)

????年9月?日

水龍と呼ぶべきだろう水をまとい川と空を泳ぐ巨大鰻が一匹。一時間近くガトリングガンとライフル型銃の連射に耐えた。点数不明。

他は複数の星人。恐らく一体十数点。

 

????年10月12日

ボロ布を着た痩せた男達は一体で一、二点だが、女性型のドレス姿で三枚の長い羽が生えた一体が、透明化を感知するなど感知能力が高く更に高速で飛行し、スーツの上からでも痛みを与えてきた。八十点以下。

 

????年10月17日

小太りの成人といった見た目で体から爆発物を生やして投げてくる。一体二十点の本体が二体以上いた。本体の死体は残るが偽物は傷つけると自爆する。ただ自爆する前に仕留められただけの可能性もある。

 

????年11月?日

頭部まで覆う強化服を着た人間にとても近い星人が2体。独自の言葉と日本語を使う。飛行バイク以上の速度で走る。倒し方不明。恐らく不意打ちで重力銃で足止めした。一体五十点。

 

????年12月??日

大き目の魚と、甲羅から骨のない人の上半身を生やした亀がそれぞれ十数体ずつ。後者の方が大きく、一体際立って大きい個体もいたが重力銃やロケットランチャーの一発で討伐可能。海辺での戦いだったが、沖の海中に一体潜っていた。合計で73点。

 

????年2月?日

背の低い長い尻尾のついた人間みたいな星人。八体は一体六点、二体は各十五点。

 

????年3月??日

大きく変化する獣型。最大の一体は体高2m程あったが最も素早かった。三体で三十点。

 

 



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受験戦争の覇者/クエスト:勇者を返り討ちにせよ 報酬:77点/英雄がいて欲しい
受験戦争の覇者 (+)


受験戦争の覇者ー1

 

 

 ドアを開き廊下の先に向かって声を張る。

「F高校に受かりましたので、ご褒美下さい!!」

 ヤりたい体位はもう決めてある。湊にいつもみたいに後ろから挿れてもキモチイイアナだとは思うけど__

「1人暮らししているコトにしてるんだから声を下げて!」

 微笑みながら化粧ばっちりなのに緩い部屋着の女性がスリッパを履いて出迎えに歩み寄ってきてくれる。貸しがあるとはいえそこそこの美人にお世話して貰えるし、私の人生の絶頂期って感じだな。自分の顔が崩れている、きりっとしとかないと。

 戦闘も1月半に1度だし装甲服もあるから余裕だ、まだ絶頂期は先に出来るな。

 

「もう___今からご褒美?」

 あれ乗り気なのか?強引に抱くのも好きなのに。

「夜ご飯がまだですし…」

「転送がきたらできないよ」

 3月?日にあったばかりだしまずないだろうに__もしかして手早く終わらせようとしてるのか?

 恭と付き合っていた頃ほど情欲が溜まってはいないけどフリーだった時ぐらいには愉しみにしているんだし、湊もキモチ良くなっていた様に感じていた…

 

 ぽつぽつと数語を交わしながらリビングルームでソファーに並んで座る、すぐ側に。肩に手を、回してもいいのかな?

 

 

 

更なる追加、変更分のルーズリーフノート

 

 

(1枚目)

 

百点メニューについて

一番を選んだ人

当時三十手前の女性

ー>黒球の部屋に来る様になり仕事を辞めさせられたが、その記憶まで無くしている。消される記憶の範囲は広い。

 

高校生の女性   

          

初参加時に恋人と死に別れた女性      

          

青年         

 

(4枚目)

三回目

飛行バイク:ドーナツ型バイクに直角にもう一つ輪が付いて飛べる様になった物。加速しての体当たりはかなり有効。

 

三十路前の女性:美魔女。再生された。

ー>彼女がかつて所持していた重力銃を与えると、飛行バイクの所有権は失ったようだが100点メニュー2番を選ぶとドーナツ型バイクを獲得出来た。

 

(8枚目)

七回目

装甲 服:強化スーツの上から身に纏える。刀の柄なら腿のベルトに付けたままで問題無い。視界は広く銃と同じ透視も出来る。腕が特に大きく、掌からガトリングガンと同じ光弾が出せ、肘から刀身が伸び、強化スーツの強化を高める要領で肘の6つずつある噴射口から何か出して腕の振りを強く出来る。腕部分の内側から腕を出して他の兵器も扱える。耐久性が高い。ダメージが大きいと内部視界に黒いひび割れがまず走り続いて視界全体が揺れる。完全に壊れても中の強化スーツは恐らくノーダメージ。

 

(9枚目)

三番で再生された人

 

ミヤイ:男子。ヨンノセに再生された。戦いへの再びの参戦が強制され、死亡。

 

死亡時中学校1年生の男子

 

前ページで触れた成人女性

 

セキグチ カズヤ:メモリーの一番上にいた少年。

ー>黒球の事情は知らなかった。????年?月?日に死亡したとのこと。再びの参戦が強制され、死亡。

 

五回百点を取った若い男性。

<ーより強力な兵器は一つも所持していない状態で復活した。黒球にメモリー内から百点を何度取った人か指定すると示して貰える。

 

(10枚目裏)

????年9月?日

水龍と呼ぶべきだろう水をまとい川と空を泳ぐ巨大鰻が一匹。一時間近くガトリングガンとライフル型銃の連射に耐えた。点数不明。

他は複数の星人。恐らく一体十数点。

 

????年10月12日

ボロ布を着た痩せた男達は一体で一、二点だが、女性型のドレス姿で三枚の長い羽が生えた一体が、透明化を感知するなど感知能力が高く更に高速で飛行し、スーツの上からでも痛みを与えてきた。八十点以下。

 

????年10月17日

小太りの成人といった見た目で体から爆発物を生やして投げてくる。一体二十点の本体が二体以上いた。本体の死体は残るが偽物は傷つけると自爆する。ただ自爆する前に仕留められただけの可能性もある。

 

????年11月?日

頭部まで覆う強化服を着た人間にとても近い星人が2体。独自の言葉と日本語を使う。飛行バイク以上の速度で走る。倒し方不明。恐らく不意打ちで重力銃で足止めした。一体五十点。

 

????年12月??日

大き目の魚と、甲羅から骨のない人の上半身を生やした亀がそれぞれ十数体ずつ。後者の方が大きく、一体際立って大きい個体もいたが重力銃やロケットランチャーの一発で討伐可能。海辺での戦いだったが、沖の海中に一体潜っていた。合計で七十三点。

 

????年2月?日

背の低い長い尻尾のついた人間みたいな星人。八体は一体六点、二体は各十五点。

 

????年3月??日

大きく変化する獣型。最大の一体は体高二m程あったが最も素早かった。三体で三十点。

 

????年4月??日

人型の星人。頭部を自分で破裂させる。腹部の銀色の臓器を破壊しないと死亡しない。

 

????年6月?日

奇形の人型。生身だと皮膚が溶ける霧を腹部の裂け目から吐き出す。個体数不明。霧は光弾を減衰させ透視も防ぎ銃はほぼ無効。重力銃や伸ばした刀や爆弾が有効。視界はほぼゼロになるが装甲服での霧への侵入も一応問題無かった。恐らく一体十四点。

 

????年7月??日

雨の中G神社境内で戦闘。ホームレスの様な星人七体と戦闘。星人同士はバラバラで、各二十点。

 

????年9月?日

S字型、P型、α型、をした木ような質感の星人。一体十点前後で、二十体以上。

 

????年10月??日

六つの目だけが顔に縦一列で並んだ人型。目を合わせると体が痺れ動きにくくなる。銃の照準画面や装甲服越しでも効力がある。一体四十点前後。恐らく五体。

 

????年12月??日

?????~

・ (間に9回分のミッション)

????年3月?日

?????~

 

 

 

受験戦争の覇者ー2

 

 

 あれだけ体をぶつけたりしたのに全く痛みは無い。それはいいが湊さんが気絶してしまったのはマズイ。制止された時に止まっておけば良かった…

 

 突き刺す感覚で普段とは違ったけど、もう強化スーツしたままスルのはやめよう…

 

 ベッドの上の彼女が呻く。目を向ける。

 掛けたブランケットをはだけ片肘をついていて目が合う。

 

「ごっごめんっ、気遣わなくて!もうしない__」

 まくし立てても彼女に良くはないか。飲み物を何か__

「怒ってないよ?痛みもないし気怠さも心地いいぐらい」

 よか__問題はそこじゃないな…

「そんな落ち込む?」

 電気つけて無いのに__

「じゃ体の動かし方のコツ教えて」

 ちょ_今?脈絡もなく_あるのか?

 

「その、剣道の話とか…?」

 緩く肩まである髪が揺れる。

「ううん、あの部屋から送られるほう」

 こちらを向いて寝そべる__何故いま?

「普段から兵器有り無し両方で全身運動してるのは知ってるだろ?幾つか兵器用の動きも考えてあるし…格闘は柔術とか後から始めたけど、剣道より使うから自信あるけど、あ、スーツで走る時跳躍しないようにしてる、装甲服だとそんな飛べないけど…えーと、なんで聞くの?」

「ランニングくらいしないとなーって。同じスーツだけどわたしのが疲れてるし、反射とかもだけど、そっちは年もあるし?」

「まだ25でしょ」

 しまった反射的に__

「嫌味じゃないから!」

「もー。ㇲッ。もっと話して?そうだ、次に100点までいったらどうするの?クリアが多くても役に立つ人とは限らないみたいじゃない」

「他人を使い捨てにしないなら、スーツも着せずに死亡前提で星人に突っ込ませるとか、させないなら経験があるだけで弱くてもいいと思ってます」

「あは、敬語に戻ってる」

「え、まあ」

「いいけどね、態度も伴ってくれる?__冗談」

 ちょっと綺麗だ…

「気を付けます…」

「さっきの話にもどるけど、それで、いつも1人で先行するじゃない?倒せてるけどやり方に工夫がいる星人の場合もあるでしょ?」

「経験者を増やす意味が無いように見えると?」

「そうね」

「倒し方にいる特別な手順って、力押しで倒す前に気付いた事無いんですよね」

「えー?」

「や、勿論やられそうになった事もありますけど、ガトリングガンを手に入れてからは気にする必要も無くなったと思ってて。防御面の不安も装甲服で解消したんで、兵器はもう十分だから強い人を増やそうと思いまして」

「たしかにあれは凄いよね」

「言う事を聞いてくれる使える人がいると困った時に便利そうなので」

 暗いが軽く睨んできたと分かる。

「ひどい」

 グサッとくる言い方…

 

湊が目線を上げ、下げてまた両目を見てくる。

「わたしの希望も聞いてくれる?刀を教えて。スーツ込みで」

「刀を使いこなすような所見せたっけ?ああ肘のやつ?」

「いえ、ラッキーが初めて来た時に、すごい頑丈な星人を貫いてた。刀を使って1回100点までいった人でも斬れずに殺された」

 目が仄かに光を反射している__

「全身を捻って刺突したんだ。刀身を伸ばしつつだと確かそれなりに楽にできたよ」

 あの日の経緯は最悪なのに…。湊は片腕が捥がれていたし私を見捨てた事はもう謝られたけど、そこ以外の点でも和やかに話せるモノじゃない筈だよな__

「明日の朝か夜に見せて?」

「昼バイト?」

「うん。いい?」

「ああ、じゃあ…夜がいいかな?透明になって庭でやって見せるよ」

「他にも効果的な技あったりする?」

「あー、3連撃する型をちょっとやり込んだ。実戦ではあまり使った事が無いですけど、耐えられたり避けられても少し相手と距離を取れました」

「勉強熱心だよね?あ、布団入る?」

「いいのか?」

「来ていいよ」

「ありがと」

 立ち上がって彼女の足元に近付き体をベッドに倒し彼女と頭が並ぶまで四つん這いでベッドの上を進む。_あたかも2つの体を見下ろしているような錯覚が1瞬目に浮かんで消えた。

 

「一緒に使う?」

 持ち上げたブランケットの陰で胸が裸の様に錯覚させられる。

「ありがとッ」

「わ」

 

 

「もー。刀の技ちゃんと教えてね」

「予備の銃持つの止めるの?」

「2個足に括れるから、1コずつ持つわ」

 え?

「スーツについてる太腿のベルト?」

「そうだけど?」

「片方の腿にしかついてないよね?」

「あの黒の球体に言えば足してくれるよ?まあ、初期設定?だとスーツに2つベルトがあるかはランダムみたいだけど」

 うわ…でも人間の太腿なんて注視しないものでは?

 観察力不足か?

「次回転送された後スグ足して貰う。…まず必要にならないと思うけど」

 




第一部のタイトルを回収中です。


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強制クエスト:勇者を返り討ちにせよ クリア報酬:経験値(大)、77点

 宙でスグル達数人が"より強力な兵器"を持つのを確認し、何か話す彼等を残して無言で赤点が密集する星人達のいる唯一の地点へと飛行する。区切られた敷地の広い場所が幾つもあるし、木の並んだ道が何本も通っている。左手でハンドルを固定しながら右腕は放して腕に付いた機器を弄る。周波数の変更。SFで出てくるような近未来的な光学による透明化で兵器ごと自身を隠す。公園の先、並ぶ家を挟んだ向こう、電灯に照らされた灰色の低い壁で区切られた土を掘り返し建材を所々に纏めた工事現場__手前で減速する。人通りがなくなったな__数十体の人型が陣取っているが、透明になった私を認識出来るのだろうか?待ち構えてはいるみたいだが…。

 

 仕切りの更に外側を右へ回り込む様に、逆時計周りに旋回を始める。薄ぼんやりとしか形が見えない星人達が列になっている、底は見える大穴の縁へ、左腕で巨大な強化服の腕部分を同期させて手の平を開いて突き出し、輝くエネルギー弾っぽい物を腕を揺らしながら撃つ。

 敵はあっさり列を崩す_もう1度撃つ。小さい飛来物が出鱈目に私の後方へと流れていく_また撃つ。工事現場の上で爆発が起こる_左腕を構えるのを止めて右手1本で飛行バイクを操作し機体を捻りながら大穴の1つの上まで、散開している星人達の中央の上に移動する。宙で機体を留め、左側を地面へ傾けて掌の向きを変えながら出来るだけ連射する。

 今回も星人は人間に近い造形__肩が膨れ上がっている位か。着込んだ鎧の形だろうか、それとも__。透視を意識すると、肩の骨が2組みずつある__腕が4本か。

 衝撃で飛行バイクが揺らされる_1発で壊される程じゃなくて良かった__機体の操作にも特に支障は無いな。体を持ち上げ、更に反対側に倒しつつ速度を上げる。ガトリングをスグルから返して貰うか。どうせもう近くまで来___…っ?!甲高い金属音と共に絡みつく鎖に、左腕を折り曲げ肘の刀を伸ばして当てる。1本じゃないのか__生身の私より大きいだろう星人1体が視界に入る__はあ?輪を掴んで体を寄せて来る__飛行バイクから飛び出す。

 

 空中ではこの装甲服は重過ぎる__何とか足を先に地面に付ける。ああ、腕を入れれば簡単に手をつけたか。でかい両腕を操作し飛びかかかってくる数匹の星人達を殴る___が、直ぐ立ち上がってくる。飛行バイクが墜落したのだろう音が響く。刀を振りたいが踏み込みというか飛び込みが早い_5指を開き掴み取る。座席に巻いたバックの中の小型銃2種と救急用品は回収しておきたいな。

 見た目は今も星人4匹に半包囲されている、が。右手は1、左手では3体を容易く抑え込めている。指を閉じたまま光弾を放つと装甲服にダメージが大きいかな?握りつぶすのは、左の方のは難しいか。叫びも上げず引き裂かれた様に大きい口から涎を流しつつ、筋骨隆々でもないのに星人共が未だ抵抗してくる。

 

 背後から衝撃_逃がしたら拙いか、両手の中で光弾を放つ_膝をついて背中にも力を込めて身体を止め、腰を回して右肘を後ろに振る。立ち上がる。新しく来た星人1体以外は近くに転がっているのは肉塊_念のため両腕で払って_指はちゃんと付いたままだな_吹き飛ばす。

 眼前の星人が4本の腕で鎧を素早く脱ぎ捨てる__その後ろから長い棒を手にした星人達が続々と石灰色の壁を乗り越えて来る。両手を前に向ける。

 胸に明るい赤の心臓が剥き出しになっている?鎧の下は赤っぽい肌で、別にどうでもいいか_光弾を撃つ_避けられた?

 右にステップを踏み裸の星人に左で斬り付け、右手を開き振って払う。首の後ろにも胸と同じ脈動する赤い出っ張りが見える。避けられず4本分の徒手空拳で強化服のダメージが蓄積されていく__浮いた姿勢を無理矢理動かして手足を振る。地面に転がる__また空振り__また__

 漸く右足の蹴りが当たる。簡単に吹っ飛ばせた、が、鎧と,パイプ棒を装備した星人達が入れ替わって攻撃してくる。右腕を地について、背中か頭のコードを挟んだか、左腕を加速させながら思い切り振るう。右腕で全身を持ち上げ、真っ直ぐに立ち直し、星人と向き合う。

 光弾を撃つ。両肘の刀を当てる。左足で踏み込んで体当たり。回転しながら右拳を振り下ろす。距離が開けられた。槍と光弾の打ち合いなら、乗る。撃ちまくる。

 強化服は多分コイツラでは壊せないな。透視を調整し、血管と臓器も映るようにする。露出した物以外にも心臓らしきものが肺2つと並んで胸の中にある。

 裸の星人がしつこい。どうもコイツがリーダーらしいのは分かるのに他より打たれ強い、露出した心臓は腹と腕の2つを潰したし全身を斬り付けているのに、浅いのか。光弾なら致命傷になっているが、格闘戦中は、待てよ、私が動きを鈍らせて残りの星人に叩かれても、まだ装甲服が持つなら、アイツを先に光弾で狙っても平気なのか。

 

 向かって右側の肩が消え、2本の逞しい腕が吹き飛ぶ。もう1発__

「「「「ファーーラアァァォオオッ!!!」」」」「「「グフォオーーアアアア!!!」」」

 周りの星人達に両膝を付かされる。視界に黒いノイズが走る_マズい_両腕も抑えられている。強化を高める感覚を思い浮かべ、全霊で暴れ出す。

 ノイズが又走るが、拘束が解け上体を起こして身長と同じ程の限界の長さまで伸ばした肘の刀身で十数本の腕を切り裂く。5・6本は切断できたようで宙を飛ぶ__爪先を地面に食い込ませ、頭から正面の星人の鎧に突っ込む。

 

 両足をついて体液と腸と共に頭を引き抜き、星人の身体を腕が無いだけで健在な星人に投げる。

 左斜め後ろから裸の星人が片側の2本だけの腕で太い槍を持って振るってくる_腕を引いて受ける__痛っ!!

 

 反対の右腕の刀身で首を落とす、アアッのけぞりやがった!足を踏み出して3歩目で倒れ込む星人の片足を踏み、折れた、痛むが左腕を持ち上げ頭に打ち下ろす。上手く手を開けない__右腕の掌を心臓が重なる胸に置き、撃つ。_背中に衝撃_熱さも痛みも感じないしコイツが優先だ__右腕を一旦離し、ぐったりとしているコイツの首を、肩の盛り上がりごと一刀で切断。

 振り返りながら、右掌を向けて光弾を放つ。左足で踏み切り両腕を畳みながらも大きく水平に振るって3つの胴を斬り飛ばす。

 

 もう増援は来ていない、な?仕切りの向こうで湿った音が何度も聞こえる__透視すれば戦闘音だと分かる。未だ残っているのか。100点経験者も4人は生きているし__後はもう味方に任せたい。疲れた__立ちつつも脱力し、瞬きをしながら、今は道路上にいるが浮いていた時に見える様な俯瞰図を瞼の薄闇に思い描く。結構精確にやれた気がする。

 手首が酷く熱い左腕を持ち上げゆっくり回す。槍がほぼ貫通しているのか…転送で直るのを待つしかない。痛み止めも包帯も身につけなくなったのは判断ミスか。深呼吸をしながら、右手も抜き出して傷口を圧迫する__手袋越しなのにヌルヌルする。

 

 荒い息が落ち着いてくる。

 

 人体模型に見える誰かがガトリングガンで壁越しに、星人越しに此方までも薙ぎ払う。股間周りに当たり押される__ノイズで視界がほぼ塞がる。取り出した右腕で身体を弄るが装甲服は形を崩していないようだ、痛みも無いし、よかったぁぁぁ…

 向こうに私も参戦するか?未だ装甲服はある程度持ちそうだが脱いで強化スーツだけで素早くいくべきか。ガトリングや重力銃で巻き込まれたら1撃で終わりの脆さなんだよな、装甲服と比べてしまうと。それに、私自身の反応が鈍ってるし…。

 色々と消耗が激しいが、星人の殲滅前に離れるのは嫌だ__

 私の腰巻バックは__飛行バイクの座席にバッグは引っ掛かったままだな。壊されない内に回収するなら…

 

 装甲服を脱いでいくか?

 顔を隠すには、装甲の頭部だけを取り外すには…装甲内部の擬似背骨を外すのはちょっと手間だ。左手首は痛むし重力銃以上の兵器なら流れ弾でもスーツ毎死ぬのに時間をかけてはいられない。

 この場で終わるまで立っているか?

 他の場所に星人は、地図で見る限り数体を数人で攻撃中かな、こっちに行くか?少なくともガトリングガンは使っていないし…。

今回は部屋の人口密度が下がるな。少しは快適かも。

 

 

 

 最後の1体に手間取り過ぎだ、後5分切ってる…

 いつも戦っていない奴等はともかく湊とキノシタさんは繰り返し100点取っているだろ!?まさかまた死んでるのか!?手首の血が止まらない__くそ__立ってられない…

 

 あ、終わったのか。転送は私が最初か。助かった…

 



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英雄がいて欲しいー1

 黒球が音を出し開始を宣告する__湊を一瞥し、強化スーツ左腕付属のコントローラーのボタンを押して透明化を解除し、初参加者3人にごつい装甲服を見せて威圧する。前回の生き残り9人全員で説明すれば強化スーツを着せられるだろうが多分この方が早い。

「あッラッキーさん!?もういらっしゃたんですか?」

「あの女もいるのか?ちっ、誰かにバレて頭の爆弾でやられたかと思ったぜ」

 

「初めての人達を説得するのにこのやり方を試してみたかったんだ」

 初対面のパンツスーツ姿の女性2人と緑のジャケットとジーパンを合わせた男性に、装甲服の右腕を操作して振って見せる。

「見ての通り、良く分からない技術で作られた兵器を与えられる。貴方達にも、だ。その上で、そこの黒球が指定する怪物を殺さないといけない。球の表面に出てる説明を見てくれ、誤字だらけだけど」

 

 

 

 死人を呼んでいるからその使い道は黒球のモノ(私はスグルの転送に巻き込まれただけだと思うけど?)

 星人を倒せ(失敗時のペナルティや、他人に知られてはいけない、制限範囲から出ないとかのルールも表示しろ)

 マガツサマくん つよい こわい(もっと情報出せ。後なんで星人が今回に限って付いてない?)

 

 

 

「それじゃ、先に行くから」

「おいいッ待てよ!」「ちょ…ッ」

 周波数の変更とか分かるような分からないような技術を使用しつつこれまたよく分からない仕組みの飛行バイクを飛ばす。

 鬱屈した感じがとれない。大学入試始めてるのに殺し合いかー、殺伐とし過ぎなんだよなあ。これがマウンとリキとオビサンに一応キノシタさんも最後の戦いになるかもしれないし、体調も悪いしいつもより下がり気味でやるべきかもな…コレと病気が重なるのは2度目だけど、前は確か星人が弱くて1人で終わらせられたんじゃなかったかな…あの時の方が怠かった覚えがある。星人は”弱い”って書いてはいなかったが今回と違って”強い”とも表示されてなかった…。いつも通りに先行するのは間違えだとは思わない、が。

 

 __全身が震え始める。飛行バイクのハンドルを上手く握れない__並ぶ一軒家の1つに落ちていく__

 

 何なんだ?

 

 

 

 全員、動きが悪い。家の屋根上からの湊の狙撃はまともに機能してないし、私は装甲服のお陰で未だ五体満足だがキノシタさんまでもう死んでる。動きはギリギリ反応出来ているのに、肉体が付いてこない。殆ど無視してきて生き残りを追っては殺していくこの輪郭がぼやけた大男に、追い縋るのも無駄な気がするのを抑えきれない…

 

 湊はもう逃げに徹するのか?私も_

 灰色の1つの眼窩が此方を向く。震えが酷くなり、全身の力が抜け、倒れそうに_巨大な両腕を横向きに前に揃え__動きの鈍い腕の間から伸びた首ごと細長い頭が胸の装甲に食い付く。久し振りに_私を殺しに?両腕を必死に動かして化け物の頭部を胸に押し付ける。開いた掌を押し付け、光線を放っていく。

 電灯の光で照らされているのに滲んだ絵具のような曖昧な身体の、頑丈さはもう分かっている。装甲服でも引き裂けないし光線もほぼ効かない。

 そもそも狙いがずれて範囲攻撃以外碌に当たらない。体の一部を削っても体液も出ない、でも頭部を潰せれば__

 

 __怪物の身体の大半は2本の腕を脇に垂らし近付ても来ていない。仮面の内側の画面にまた、さっきよりも酷いノイズが走り出す。

 

 倒せない/嘗めやがって

 

 如何すればいい?このまま戦って死ぬ?今の攻撃は脅威に感じられてない、でも頭をどうにかしないと体勢も替えられない__装甲服を脱ぎ捨てるか?だけど強化スーツなら簡単に抜いてくる攻撃をしてくる。身体のこの倦怠感で、まともに動けない。刀でも通常の銃でも当てれば多少効くのは分かってる、なら…やる!

 

 首周りが外れ胸の中央が縦に開き足と腕を引き抜いて装甲服から飛び出す__左脇腹と右腿に熱が走り空中で姿勢が崩される__もう肉眼なのに視界が明滅する。地面にうつ伏せに、背中の圧迫で叩きつけられ、出所の分からない激痛と共に亀裂の走るアスファルトにめり込む。喉から粘つくものがこみ上げる_いやだ_何処なら動ける?右腕は、動かせる_右の腿に未だ柄は付いてる、というか右太腿はあるのか?左の銃ならある、左腕は感覚がない、懸けるしかない_目に伸ばした刀身を差し込む_

 首を擦りながら左に回し黒っぽい左目の視界で、近付いてくる頭部を捉えた__小指で逆手に持った柄のトリガー1つだけを押し込む。

 

 間に合った、頭が止まった。というか、離れて__逃げないと。右手は柄を握ったまま腕を畳んで腰に引き、顔の右側を引っ掻きながら何とか自分の足側に動く。立て、ない…これ以上移動出来ない。

 

 ……。

 

 遠くの切っ先からいつアイツは外れる?

 足音。

「…なんとかにげきるわよ…」

 湊?

「あ…」

 自分でも分からない。感謝?愛欲?

 柄はまだ握り、トリガーも絞っていた。

 

 刀身を引っ込めた柄を握りながら、止血も無しに数分間、薄い胸に抱かれて、見えなくなった両目を閉じて破壊音や風切り音、鼓動と息を聞く。居る_体を時計回りに捻ってから、湊の後ろに刀身を突き出す_

「ちょっと!?」

 彼女の腕が私を抱え直す。

 

 

 

 

 結局、私は生き残った。2人だけで。どっちも0点。スグルもキノシタさんも、100点を取る人間でも簡単に消える。私も含めて。

 高校の間は、消えずにいられそうだけど…

 

 



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英雄がいて欲しいー2

  黒球の白文字の表示が薄れて消える。

「3番に対応している顔のリストを出してくれ」

 黒い画面が反応し、沢山の四角い枠が、似顔絵みたいなモノが整列して表示される。死んだ順に左上から横へ、1段下がってまた右から、と並べられている筈。だから、スグルはキノシタさんの後に、私が逃げた後死んだらしい。その後に2人。100点経験のあるキノシタを再生して、新人には脅してでも強化スーツを着せ、全部、時間稼ぎになっただけ…かあー。

 見ていないが、湊は左側の壁際に立っている。寄りかかっているかもしれない。彼女を再生させて、恩を着せる、というか利用し合うのは、3年?

 次、如何する?新人は強化スーツを着せられる。星人が充分いれば私も湊も15点以上取れる。新人、達?の引率は無しだな。今回と同じ位に強い星人なら…装甲服以外も使って、全種類全部直撃させる、とか。100点までいったら、2番を選ぶべきだろうか。

 

「もう今日は帰りましょう?」

 星人の点数を戦う前に知りたい_

 振り返る。両目を伏せ背中を壁に預けて脱力して、疲れて見える。転送で肉体的には万全に戻っているけど、まあきつかったし、私も怠い。装甲服、ガトリングガン、ロケットランチャー、重力銃を持って帰りたいけど…

「悪い、追加兵器を持ち帰るの、手伝ってくれるか?」

「ちょっと?」

 眼を上げ睨まれる。

「な、に?」

 どもった…黒目が私から逸らされる。

「あなたの、友人が、あなたと命を交換したのよ」

 誰が?君だろう私を助けてくれたのは_意外だった_頼まれた?

 

「…」

 黙るなよ、教えてくれ__苛つきを抑えないと。

 

 

 

 

 

 殺し合いの場に居合わせた、偶然居るだけの、盲目の人々。星人も私達側も透明人間だ。

 _敵を視認 飛行バイクの高度を上げ、機体を大きく左右に振る。

 

 家族との団欒よりずっと時間がかかりそうだ…。ハンドガンと繋いだラップトップには、40点と表示される。キタミさんには悪いのだけど、死んでコレに参加してくれてて有難いな。

 宙から落とされる前に前衛を連れておく方がイイだろうな。数十mあるビルを避けながら転送地点へ旋回する。

 そこそこの経験がある味方達が見える。湊は、戻ってきてないか

 

 路面に近付く。透明化も、味方には見える様にする。

「ちょっと手間取ると思う!」

 

 再度接敵。攻撃は避けられるし、座席の両脇の2つのバッグと装甲服の上から腰に巻いたバック、殺人を厭わなければ全て安全に試せる。

 個人で弾幕を張る。

 ガトリングガンと重力銃で足止めになり掌のレーザーだと1、2発で殺せる。深夜でも多い通行人は電灯の下で潰れたトマトみたいに星人とも混ざり…カラフルだ。

 これは時間掛かる__表示が無い!?制限時間も地図も映らなくなっている_いつからだ?さっきまでは、いや数分前までは機器も使え、いや周波数変更は未だ機能している__左腕を装甲腕に滑らかに入れ直す。

 大学のレポートは溜まるんだもんなあ、生きて帰って作文か、両手で別の個体を狙ったり脳が乾き始めてる気がする__し明後日の二十歳の誕生日おめでとう私!一足先に100点メニューから1つどうぞ、ってか?3番でスグルを蘇らせるなら、3回目になる…いい加減に装甲服より上の兵器が何か凄く気になってきたんだよなあ。

 

 星人は、硬軟入り混じる、光沢のある痣が散った表皮が胴体と四肢の一部を覆っている。層状で灰色の下に白、その下に水色の層がある。重力銃の効果範囲の淵でキレイに断面が出来れば分かり易いだろうに、そう出来たら素早く殺し尽くせたかも__

 



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(英雄がいて欲しい)

 新庄 湊は、もういない。わたしは自分が本物じゃないと知っている。

 本物は、とっくに死んでいるのだ。白黒の部屋に初めて呼ばれた時か、少なくとも"のぞき”星人の時には殺されてる…

 

 日本とアメリカの関係者が作った4つのネットサイトを読んで、自分のものじゃない記憶を含め、たぶん信頼できる情報はいくつかある。最初に呼ばれた時には、全員もうオリジナルは死者。つまり、雷木 太二の言う"黒球”が最初に表示する説明は事実。

 彼に再生されてから、カタストロフィという語を言うとブラックボールに残り時間が出て来る、と知り、電子機器オタクのキタミが彼に色々と伝えてから試して事実と分かった。

 彼が次に100点メニューの2番を選ぶと、得られるのは巨大な人型ロボット兵器。これもきっと事実。各地でごく数人、そこまで取っている情報がある。その先も_

「スグルを再生するのはもう止めた方がいいかな」

 

「わたしの意見がいるの?」

 わたし達を対等な人間とちゃんと思っている…?

 

「さあ?もし手に負えない星人に連続で当たったらもう気にする意味はないけど_」

「きみは特別」

 オリジナルに近い方の、もういないスグル君に巻き込まれて転送された雷木 太二は、色んな意味でホンモノだ。強いし賢いし、お金持ち(両親が、だけれど)、まだ大学生で、星人の狩りに時間を使える。

「それで…?」

「あ。うん、再生は、友達はやめた方がいいと思うわ」

「そっか、じゃあ湊はカタストロフィ向けに2番がお勧めなのか?」

 頷く。

「ラッキーでもカタストロフィは厳しい気がする」

 

 最近、戦いの度にどこかおかしい。前回はレーダーまで使えなくなった。武器、スーツ、戦闘終了後の転送がおかしくなったら、間違いなく全滅する。他の部屋、ブラックボールの不調は、報告だけでも多い。いくつかは荒らしだとしても、カタストロフィに近付くにつれて増加しているみたい。

 

「3番で強い奴を揃えてもいいんじゃないか」

 苦笑いしてしまう。

「時間が足りないんじゃないかな。高得点星人が一気に出て来るのを祈る?」

 彼もふき出した。

「まさか!」

 

 再生前、彼と談笑したことがあっただろうか。

 

 初めて来た彼を囮にビルから逃げ出した新庄 湊は、わたしじゃない。

 

 わたしが殺されたら、仇の星人を必死に追ってくれる?

 

 きみは星人に殺されたら、再生して欲しいのよね、でも死なせないよ。

 

 …。

 

 もし…。

 

 …。

 

 きっと…。

 

 …。

 

 あなたの身代わりになってわたしが星人にやられたら、

 

 次のわたしを再生するの。

 

 そうして。

 再生した事を後悔してくれる?

 

 



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ながら勉強は悪!/マルチタスクは上級者の嗜み/
ながら勉強は悪!ー1


 目蓋の裏に俯瞰図を思い描く__陽光の薄緑色の残像が形を取った風に見える__2人を抜き内追いついてきた1人の手からボールをドリブルで躱して、ゴール下でボールを片手で持ちレイアップ、ボールの軌道を見届けずボード下を軽く走り抜ける。走る向きを変えて自陣に戻る。

「ナイッシュー」

「ドライブ良かったでしょ?」

 1人と笑い合って、それぞれマンツーマンで相手につく。

 

 コートの反対側で抜かれ、カバーに、ミドルか、落ちるな__リバウンドに跳び付き、取る。誰かフリーの奴にパス、キノシタ先輩でいいか、バウンドパスをする。

 敵コートに走る、途中でブザー音…

「おっつー」「おお」

「よしゃー」

「あーあ」

「オレ1本も入れてないんだけど!」

 時間は、5時ちょいか。

「私はこれで帰るから」

 一斉に9人の視線が向かって来る。

「え、マジ?」「どしてー」

「いいだろ、大学のサークルなんて気楽にやろうぜ」

「ガチでやってるトコもあるけど俺たちは違うもんなー」

「そーだな、いいだろ4、4で。けっこう疲れるし休憩ありでやろーぜ」

「あー」「そーだな」「じゃオレ最初抜けるわ。菓子買ってくる」

 食べながら観戦する気か?

「おい休み過ぎだろ」

 思わずつっこんでしまった。

「えー余裕でしょ?歩いた上に食いきるにしても1クオーターぶんでいけるだろ、そんなに買わないし」

「いやどーかな」

 そうだ__

「行くなら、私も一緒に行くよ。皆さんに菓子1袋進呈します」

「帰るからって別に__」「おっサンキュ!」「こーはいにたかんのはよそーぜ」

 私はバイト経験も無いし軽く考えてしまってるか?一から二百円ならいいかと…

「ま、今度飲み会でちょっと多く出せば__」「勘弁してよ~」「あざーす!」

 うわー…

「あの、取り敢えずもう行きます。お先に失礼します」

 一礼してさっさと体育館内の荷物置き場に向かう。後ろの会話は聞かない様にしつつ、バッシュを脱いで袋に入れ、靴下、Tシャツを脱ぎ捨て、バッグの中の袋から着替えを取って身に着ける。

 

 少し離れた所で財布を取り出したキデが待ってくれている事に気付き、声をかける。

「結局行くのか。ちょっと待って…よし、行こう」

「おー。何か買って置いてくの?」

「安いお菓子を1袋買う。戻る時持ってってくれ」

「ふーん……りょーかい」

 その間は何?

 体育館から靴を履いて開けた場所へ出る。あ、確認して無かったけど_

「購買だよね?」

「もち。コンビニまで行かないでしょ。業務スーパーはありかもだけど」

「そっちの方が遠いじゃないか」

 そんなに大量に要らないだろ。アイスも季節外れだし、いや春でも食べるか?晩春だっけ…

 

道場が体育館の奥に見える。気合は聞こえないが剣道部は休みだろうか。対人の細かい動きを鍛えられるけど、剣道は星人との戦いには微妙なんだよなあ。

中高と部に入ると大会に出ろとますます煩いだろうし。試合は殆ど勝てるだろうが、転送と重なると悪夢だし、兵器の使用感とも合わないし、ここでも入らなくて正解、だよなー…

 



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ながら勉強は悪!ー2

 三本あるレポートやりかけなのに、提出が遅れても教授に言い訳も出来ない、まったく!

「「きた?」」 

 湊も__確定だ。

 黄緑のカバーをかけ直していた4人掛けのソファから離れ、ドアを開けて居間から出て自室に向かう。さっさと帰る為に電車代、いや電子マネーの方が安いか、持って行く…駄目だ、装甲服着ていたら乗れない。ああ、専門書なんか読むのに疲れて時間かかるのに…!

 

 スーツケースを開く。部屋着を脱ぎ捨て、下着も脱ぎ、丸い白の留め具をとめつつ強化スーツを身に纏う。刀の柄もベルトに留めっ放しでついている。部屋の中心に支えもなしに直立する装甲服の方は、頭部も覆っている。初めから使える強化スーツもヘルメットぐらいあってもいいのに。

 マスク内が明るくなり、視界が自室の中だけど開ける。目を凝らすと、装甲服が反応して視野内が色褪せして壁や家具が透け、外の道路と畑が見える。足元のハンドガンは、内部の接続部からコードが左のノートパソコンに繋がっている。腰巻きカバンの中身を一瞥し、身につける。また上体を倒し銃とPCを両手で拾い上げる。

 

 青い光の後、白い壁紙の広い部屋__転送されつつある。カタ、ハル、ミツモト達はもう連れて来られているな。

「ばんわー」

「ちーっす。新庄さんは?」

 

「今回は一緒じゃない」

 透明からの解除で驚かすのはやり過ぎとカギンに言われたし。カギンは、いないか。

 

「ラッキーさん!」

 うわ頭部だけで喋るなよ…

「ハードスーツ、あ、装甲服でしたっけ、分解させて下さい!」

「やだよ」

 

 初参加の人は、強化スーツ未着用者は今の所9人と、多いな。

「もう説明はしたのか?」

 おとなしく静かにしているけど。

「いや?おまえのそれ見せての方がわかりやすくね?」

 じゃあ今回は偶々やりやすいだけか。

 

 耳障りな音楽が、黒球から流れている。湊は、ああ居るな。

「そこの球体に出る文字の通りだ!これから星人という怪物と殺し合いに送られる!死にたくなかったら、各自に用意されたケースの中の強化スーツに着替えろ!」

 長大な両腕を操作してみせる。

「私が着ているこの装甲服と同じ、兵器だ。身体能力が上がる。銃は持たなくとも、スーツは持って貰う」

 

 両脇が開き銃と中身の無毛の裸の男が見える黒球の前を通り、星人情報を流し読んで、追加兵器の部屋に向かう。

 

「あの説明だけでワカルわけない」

 知ってる。

「強化スーツを持たせるだけでも充分な位だろう」

「ラッキーさんの、ぶ、武器使えばここのルール…納得するまで守れるでしょ」

 兵器選択端末から目を離す。

「ハルは、格上の星人に当たった事が無かったのか」

 殺されかけ、再戦も未だの星人は、今回の相手じゃないが、ハルはあれ位の星人に当たる前に1番を選んで逃げるべきだろう。高得点星人でも私が湊とかと協力して殺すまで待てばいい場合しか知らないのは、問題だよなあ。

 

「あのお何点から格上なんです?」

 振り返る_キタミか__ここの機械を弄ってくれてるし__

「70点とか」

 このパソコンで表示されたのだと54点が最大だけど。

「100とかいるらしいじゃん?」

 他の場所で出たって意味だな?

「ここでも多分2回は出た」

 見えない星人と、攻撃が通らない星人。もしかしたら私とは違う強化スーツを着た星人も。

「ま_」

 転送__始まった。

 

 私の周りには、黒い強化スーツの人々が、なんか多くないか?

 

 青い光の通るあとに装甲服と腰のカバンが現れる。飛行バイクと、ガトリングガンと、ロケットランチャーと、重力銃も来る。

 

「あんたら、だれ?」

 こっちも聞きたいけど__

「地図を見る限り敵じゃないし、どうでもいいだろう。私は星人を殺しに行く」

 どうせいつも連携なんてしていないし、機器が正常に地図を映している内に_

「まて、おまえサトウじゃないの!?」

 は?

「ラッキーと同じの着たヤツいんの?どこ?」

「え、ちょ、あれ…」

「__えーと__」「い__」「____あれ!」

 轟音_

 右か_

 

 川に落ちる前にコンクリートに指を突き込んで止まる。左腕を装甲服から出して機器を操作__周波数変更__星人は近くにいない?遠距離攻撃とか、珍しい。

 飛行バイクは、乗ってられないか。

 

 走りながら腰を確認する。包帯、止血剤、ハンドガン、柄、テープ、三角銃、爆弾、落ちてない。

 

 トラックの様な生物達が、何かを飛ばしている__見付けた。あれ、象?牙を飛ばしてる、のか?

 毛深いゾウって、あれマンモスみたいだ_掌を向け、光弾を放つ。

 

 毛皮に隠れた沢山の目が、此方を_

 

 建物の壁を壊しながら屋内に避ける。点数を測れれば…避けなくともいいのかも知れないが。

 ここ、美容室かな__壁が倒壊する_怪物が突っ込んで来る_殴る、止められない_右後ろに飛びながら左腕を畳むように肘の刀身を当てる、深く斬れない_前面に衝撃_背面にも衝撃_

 両目を凝らす__瓦礫を崩しながら道路に出る_手をついて体勢を整え、こっちに突進するゾウ共に光弾を連射_道なりに後退する。

 

 牙は飛ばしても直ぐ生えるのかよ_肩が吹き飛びそう__腕で避け切れない3本を弾く。

 

 しまっ!?装甲服ごと抉られて__重い装甲服だが全力で高く跳躍__痛い__

 ゾウ達が沈む__重力銃か__距離を置いて止血をしよう__

 

 血、出てないな、打ち身か。装甲服の肩が壊されてはいるが、視界は正常、腕部分は傷だらけだが未だ動く。

 兵器を回収して来るか。あ、あの人_近寄る。

「どうも」

「おおっ?」

 知らない人だ。

「サトウ、さんじゃないか。えっとラッキー?なに?」

「その、協力して戦わないか、と」

 重力銃を持ち上げながら彼は首を振る。

「Zガンでも足止めだけだし…数が足りてない」

 星人の周りに居る筈だ。貴方も含めて。近くの青い光点の幾つかは私の兵器を持っている筈。

 連携すると、味方を巻き込まない様、貫通する光弾は撃てないが、重力銃、Zガン?の方が向いてるし。

「一か所に誘導するから、星人の近くに留まっていて欲しい」

 咄嗟にしてはいい案が出せたな。

 



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ながら勉強は悪!ー3

 強く道路を蹴り付け前に跳ぶ。ビルには突っ込まなかったな、セーフ!左右に味方の内2人_あいつらも逃げたか、まあゾウに突っ込まれたらなあ。私の装甲服も結構ダメージを受けてるし、強化スーツだと即死してたし__誰かやられ_というかボスはどう__

 

 骨だけで動く四足の怪物が、ゾウ型の星人の足を引き裂いて咀嚼している__骨のボスが毛皮で覆われ始めた__

「とめろぉーっ!」「いけいけいけッ!!」

「れっレーザーでもやれ!!」「潰すぞーぉっ!?」

 取り巻きの星人の乱入で距離を取ったのは失敗だった__反対側にも味方がいるだろうが__

「ちっ私も撃つ__」

 身体も向け直し装甲服の両掌を100点だというボスに向ける。 

 

 目の前に黄色い牙の並んだ大口が__両肩に激痛__

 頭を後ろに倒し両足でボスの星人の腹を蹴り上げる_柔らかい感触__

 顔が寒い_マスクが咬みとられた__

 

 後頭部からコンクリートの地面に落ちたが衝撃だけだ、それより両肩に食い込む前脚を外さないと__早く_いってえなあ肩!腕に力が上手くはいら__

 

<ドドンッ><ドンッ>

 

 !?苦し…っ!

 重力銃で私ごと撃ちやがった…っ!止めろよぉ!っ声が出せない、装甲服の今の状態でいつまで耐えられる…!?特に顔が痛い__両足を全力で動かし上にずれていく_遅い、急げ、急げ…。

 頭が何かに当たる_見えない!地面にめり込む頭を左に倒し上_前?を、見る__段差だ、重力銃の範囲の渕か、これを乗り越えれば__どうやって!?_全身にのし掛かる重圧が消える。…ッッ!!

「ゴホッ、スゥーッゲホッゲホ…っはぁー__」

 上体を起こし段差を越える。真っ赤になっている視界に、何段か下の、歪なすり鉢状の窪みの中心に、ゴムの様に変形し続けるなにか__重低音がし続けてる、穴の周囲に重力銃を構えた奴等が4人見えるし、中央の星人らしきものは地面ごと沈み続けてる__

「あんた命拾いっ、したなっ!」

 振り仰ぐと重力銃を構えたオジサンがいる。

「…っ」

 駄目だが、殺したい__抑えろ…

 全身が痛むが、深呼吸する。

「この、まま、じゅう、だけだと、むり、てわかって、でしょ…」

 刀の方が効くだろうが。試した時に居なかったのか?

 目が痛い。装甲服の丸い、強化スーツより大きい付属部品達から、メタリックな液体が流れ出ている。マスクは剥がされたし、両肩と胸は壊れているし、腕部分は操作出来ないし、ブーツ状の足部分だけだと着ている意味あるのか…?

「え、なに?もう一回言って?」

 脱ごうにも脱げないしなあ。バランスを取りつつ、立ち上がる。

 喋りにくいし、もう戦えそうにないし、話しなくてもいいか。

「離れ、てる…」

 よく見えないが、銃を撃ってる中に湊は居るのか…?周りのビルの中から狙撃してるかも知れないが、いや、兎に角隠れよう。弾力のある毛皮つきだとダメージが薄いっぽいから重力銃の拘束からその内逃れるだろうし。

 



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ながら勉強は悪!ー4

 痛む肩をなるべく無視して、両手を動かす。

 どうして未だ転送されない?制限時間はいい加減過ぎているだろう、が、しかしあの大型肉食獣みたいな100点の星人が残って居る限り、今回は終わらないという事?

 

 漸く装甲服を完全に脱ぎ捨てられた…。顔と肩の傷口も包帯とガムテープで圧迫したし、痛いからゆっくりだったがこれでやる事は終わりだろう。暗い薬局内を見渡す。食べ物もあるかな?時計だ、3時40分、やっぱり味方はあの化け物を殺せなかったかぁ。

 …もし殺せていたら、が最悪のパターンだな!星人を殲滅しても転送されないなら、私は死にかねないし、病院に行っても怪しい怪我だし助かるにしても警察沙汰だろ。器物損壊罪も、窃盗罪も、殺人罪もこの戦い関連で犯しているし、自業自得ではあるのかな。

 

「痛い…」

 喉が乾いてる。ペットボトルは……あるな。余罪を増やすぞ!

「はは…」

 静かで、寒くて、体調も悪く、当然気分も良くない。水も冷たいし…温かいコーヒーの方がいいかもしれないな。どっかにないかな…。

 

 床に座り、棚に背中を預ける。

 強化スーツの左腕についた機器の画面には乱れたぐちゃぐちゃの線だけで地図も制限時間も映らないし、味方と、残こっているとしても、合流は難しい。制限範囲も表示は見えないが、最初よりは狭まっていたから、敵は多分移動していけば見付けられるだろう。星人がボス以外にも残って居るとしたら、無事に、頭に煩い警告音の鳴らない範囲内でここに来れた、ここが在った、私の強運は並じゃない…が、あの獣に見付かって今の状態で傷つけられるかは、運に頼れないよな。

 再確認する。強化スーツは、体に力を入れれば未だ強化を強められる。ダメージはあるだろうが機能している。両太腿のベルトに留めた刀の柄は、両方とも上下のトリガーを押し込めば刀身を出し入れさせられる。肩が痛いから刀の振りは鈍くなりそうだ。ボスの星人は弾力があって斬り始めが厳しかったよな…不安だ。

 

 ボス星人が残っていて欲しいと感じているのだろうか?未だ捕まっていない私は、いつまでこうしていればいいのだろう。

 武装をまた確認する。

 

 菓子パンを齧る。虫歯は転送の際に治らない気がするけど、いっか。

 腕を回、痛みが強くなるし止めておくか。横薙ぎに刀を振る方がマシか…?これも痛いな…

 

 瞼を閉じていると、額と鼻と頬の包帯とガムテがひきつれて、気になる。

 強化スーツの強化を高めてみる。

 

 状態をまた確認する。

 

 反復する。

 

 また、確認。

 

 動作を確認する。銃があればいいのに。腰巻バックは落とさせられたし____そういえばPCも買い直しか!?壊れて無かったら私が特定されるんじゃ_

 

 物音___入り口か__悲鳴が聞こえる_中腰で立つ_1つの柄を両手で保持する。

 モノの位置を脳内に浮かべる。ドア、棚、照明、窓。

 

『 い つ ま で の こ て い る い ち じ か ん で か え る と き い た が 』

 

 何処だ?ていうかまともに意思疎通出来るのか…。

 

『 き づ お し て い る だ ろ う ど う ぞ く の た す け お よ ん だ だ ろ う あ き ら め ろ ど う ぞ く わ こ な い 』 

 

 なに?

 

『 か り う ど の の こ り わ お ま え か ら し と め』

 居た_壁に貼り付いている_上トリガーを放して刀身を伸ばす。

「やぁあああああああ!!」

 建物に磔にしてやる__柄から両手を放しつつもう1つの柄を掴みトリガーを上下2つとも絞る。

 

 前転しながら跳躍した怪物の下をくぐる。

 痛い__背中に爪が当たったなこれ…

 

 _すれ違いながら斬る。向こうの方が速いが、その分頑丈な身体も斬り裂ける__いつまで続けていられるか知らないが。

 

 立ち並ぶ背の高い家と、電柱。灯りで、ゆっくりと歩く4つ足の怪物のでかい体躯の傷の奥に、薄黄色の骨っぽいモノが見える。低い鼻づらが此方に伸びだし、人に似た顔が犬に似始める。口が開き、いや…開き続__歯を飛ばす気か_全力ダッシュ、右にステップして突き、左に横っ飛びしながら3度刀を振る。

 

 こんなものだったっけ?違うな__あの口が、凄く伸びたんだ__逃げる!制限範囲から出ない様に、それでも追いつかれない様に、無理か。100点の怪物相手に、優先的に狙われているんだから、距離を取る事はあっても、殺す気で戦うか__星人に向き直る。

 

 この星人は柔らかい。殴るのは無駄だろうからこの刀を手放したら終わりだ_左に跳躍する。痛みを無視して全身を連動させて斬りつける。

 

 道路に這いつくばって飛来物を躱す。

 

 結構静かに戦ってるよなあ。私は武器が刀だから兎も角、ボスの方はゾウ型程じゃないが大きいのに__あ、__…

 

【明け方の陽光と陰】【湊のどちらかの太腿が食いちぎられる様子】【キタミの頭部が踏みつぶされて吐き気がする】

【怪物が自らの顔を変形させて人の様に喋り、後退りで去っていく滑稽な姿】

【私の右半身がズタズタで、麻痺している。脹脛と二の腕から先は、無くなった】

 

 青い光で埋まった視界、瞬きをすると黒球が見える。腕を伸ばしたら肘が当たる距離、斬るなら1歩後ろに__頭の中が痛い。大声が響いて、はいないのに、なんだ__おさまっ、た…?

 

 何が、起きた__転送直前の記憶がほぼとんだ、のか?切れ切れの繋がりの無い映像と感覚は覚えている__誰か__湊と、カタが居る。青い光で今転送されてきつつあるのは_カギンか。名前の分からない初参加が、これ初参加者が全員居るの?

 

 顔が露出してる__多分今更だよな?最後味方と共闘してた筈だ…装甲服は追加兵器の部屋で直った状態で回収出来るし、先ずは採点か。記憶の抜けた所は帰ってから湊に、いや湊も腿を欠損してた情景を、前後の記憶はないが見たから、その後は聞けないか。今聞くか?私がラッキーだと敵になり得るコイツラに明示したくないし、黙っているか。

 

 黒球の前からどく。俯きながら、黒球の方を向いて立つ。湊に目配せを、よし。部屋の中が静かだな。話してる奴が少ない。

 

 今回の星人、強い方から殺していこうとしてたという訳?なら、一緒に転送されていた別の部屋の奴等も、多く生き残って__黒球が音を出す。採点を始める、という表示が黒い湾曲した面に浮かぶ。

 

 

 …全員0点。9人居るから、135点分の星人が出ないと、殺し合いもあり得る。そういやノートパソコン、結局紛失か。

 「___」「____」「___」「_」

 まともな話し合いは無理だな__帰るか。湊と目を合わせる。強化スーツの左の二の腕にコードで繋がっている機器を操作して、透明になる。電気が弾ける様な音と光が、今初めて気に障る__

 

 次の戦いで別部屋のミカタと合流したら、今回とは更に別の部屋から来ていても、星人を直前の戦いで殺し切れていなかったら、良くて競争で、普通に殺し合いになるだろう。さっさと2番を選んで次の巨大人型ロボットを取っていれば良かった…。点を取るには微妙そうだが身を守るには装甲服より良いだろうし。

 ネットで最近の変化の情報を集められるといいけど、キタミは死んだし、別の部屋との戦闘時の合流の事例数位しか解らないかなあ。それでも充分か、変化が全体で起こっているか判断できるし。

 

 



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マルチタスクは上級者の嗜みー1

「ああそうそう、トヨカだ。はじめまして」

 見惚れる様な愛想笑いだ。体付きは、細い、ぴったりしたジャケット、下に強化スーツは、有るか解らないが、家まで来て話すなら、敵意は無いから着ていないのかも。いや、私なら用心で着る、か?今も、普段は着ていないからどうかな…。

「こっちの名前は本名も知っていると想像出来ますけど、雷木、太二です。はじめまして」

 笑いかけてみる。

「入ります?どうぞ」

 ブーツ、ヒールっぽいな。女性?

 

 廊下を歩く。湊にどう伝えよう。今何処だろ__居間の扉を通る。お茶とか菓子は出しておこう。こっちを調べられる見知らぬ相手だし。

「お茶お出しします。そちらのソファーにお掛け下さい」

「お気遣いありがたく、でも気楽にもう喋らせてもらうよ」

 

 ソファに座りこちらに笑いかけつつ足を組んで口を開く。

「今日アポを取らず訪ねたのは、カタストロフィに向けての、戦力の勧誘さぁ」

 ふーん。

「トヨカさんは何処の部屋の人ですか?」

 他の部屋との連携は、次回は私達には15点のノルマが課せられているから無理だろうけど、カタストロフィの残り時間の表示、その次のミッションくらいの時期だったっけ。確かにカタストロフィは名称からして大事だから、多数の部屋の人員を集めた100点星人数体との殺し合い、とか想定_

「あー違うよ、わたしは見てる側。星人を殺す側じゃなくてさー」

 __敵、いや黒球を操作する側なら戦える相手じゃないか。どういうつもりなんだ。

 

「キミ等を殺し合わせてるのはわたしじゃないよ?娯楽として提供されるそれを見せられてる、ってだけ。止めてやる、なんて少しも思わないけども」

 

「…説明、して貰えるんですか?」

 黒球の戦い前の【死人だから生き返らせた自分のモノとして好きに使う】なんて表示、私に対しては特にふざけた理屈ぐらいしか、事態の説明なんて無かった。想像と議論も、死が罰則のルールで秘匿させられて限られた人しか出来ないのに、事実が、分かる…嘘を、ああ、つく意味は?

 

「んー、知りたい事は?勧誘に前向きになって欲しいな」

「応じます」

 こいつ以外にもいるだろう。目にもの見せたい__同じ立場に、殺し合いを強制、いや、半ば強制させられる立場から抜けたい。

 ああ、前提として、本当の事を言っているとどう判断するか。

「そう?ふふっ、君に悪意は持ってないし、わたしと組むと得できると思うよ。今、あそこのぶっ飛んだ技術を使い込んだ人員の確保で大変なんだ。あの技術を使ってる、娯楽の、提供会社、聞いた事無いとおもーけど____って言うんだ」

 何て言った?

「ドイツの、ってまあ多国籍企業ね。歴史はダミーかも知んないけど片田舎のコ会社が、突然さあ、君はお馴染みの電子光学情報技術、転送とか人体構築とか使って、殺し合いの見世物始めたのさ。20年前位に。で、それのスポンサーに、世界の大企業がなってるってわけ。わたしはスポンサーの中では小さ目のトコ」

 …。……。え?商売なの?

 

「これ、名刺ね」

 ジャケットの内ポケットから紙片が差し出され、ソファ前の机に置かれる。腰を軽く上げ尻ポケットからスマホ、いやずっと小さいな、新型機?

「ここの重役」

  画面にはホームページ。読めってか。あ、これも机に置くのかよ。

「それにはさ、技術解析とかウチでやってみた結果とかも入ってるけど、まあさっぱりでね~~。何処の会社も大して変わんないんだけど最近提供元のトラブルが続いて、影響は君らも受けてるけど」

 

 地図機能の不備とか時間、範囲制限の戦い真っ最中の変更の事かな。ああ__

「別の部屋との合流もトラブルなのか?」

「あーそれ、ゲーム主催の方はサプライズって取り繕ってたけどたぶんそうね。でぇ、すっごい技術なのに軍需産業とか輸送業とかに利用させてもらえなかったのが、変わりそーなの」

 

「__カタストロフィとかって向こうの企業も把握してないらしくて、それに近付くに連れてあの黒い球状の情報機器のコントロールが効かないって状態らしい」

 それ、拙いのは分かるが、私達側からすると根本は変わらないよなあ。

 

「気に食わない大企業どもがー、スポンサーなのに小さかった会社に逆らえなかったのは愉しい見世物だったけど、ゲーム自体は悪趣味な見世物だし?主催者も参加者も嫌いなんだよ、付き合わないとやってけないけど。で、ここが重要なんだけど、技術の粋の黒い球体のコントロールを奪えそうになってる」

 !!それって__

 

「で企業間の奪い合いになる見込み。今のところ、あそこの武器を使って粛清されないのはゲームの駒扱いの君らが主だから、不気味なカタストロフィとか、対、他企業向けに君を誘ってる訳。どう?改めて考えてね。ウチは比較的、弱小だからね?質問は受付ちゅー」

 

 トヨカさんに性別を確認してもいいのかな。

 もっと高い茶菓子を出しておきたいな。

 



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マルチタスクは上級者の嗜み-2

 玄関から物音がする。トヨカさんが帰って鍵は締めたし、湊が帰宅したな。ソファから立ち上がり様子を見に行く。

 

 靴を脱ぐコートを着た女性の背中が見える。

「お帰り」

 肩越しに目を向けてくる。

「ただいまぁ」

「バイト?」

 顔を戻し、湊が此方に向き直って鞄を取り歩いてくる。

「うん、疲れた。ご飯…」

 しまった。

「あー、作ってない。食べに行くか?」

「えー」

 疲れてるか。

 トヨカさんから聞いた事、外では話さないべきだろうし__

「今から私が作るよ。他人に聞かれるとと拙い事も出来たし、ここで食べよう」

 湊が小首を傾げるが、立ち止まらない。

「先に着替えても?」

 えー、うん。

「勿論」

 振り返って彼女の背を見送る。

 

 キッチンに向かう。両手を洗う。

 どう湊に伝えよう。話の流れ通りで分かるかな。

 キッチンで火にかけたフライパンにオリーブオイルを注ぎ、傾けて油を延ばす。

 冷蔵庫から豚肉と、ほうれん草とトマト、ジャガイモを出し、包丁で大きさを整える。フライパンに左手を翳す。暖かい。素手で摘まんで豚肉を入れる。

 

 ジャガイモも。菜箸を取り、肉をひっくり返す。調整器をスライドさせ火を弱め、コンロ下の棚を開けて蓋を出し、被せる。菜箸を置く。

 食パンを4枚袋から出し、オーブンに入れて焼き始める。

 

 フライパンの蓋を開け、蒸気が少し出る、まな板を持ち上げて傾け、残りの野菜を流し込む。まな板を置き、蓋をする。

 

 食器は…箸でいいか。湊用にナイフも一応持って行くか。じゃあフォークも、でも洗い物…。

 湊の部屋に行くか。

 

 開いている入口を覗き込む。青っぽい長袖とジーンズを着た湊が床に座りベッドに凭れている。

「そろそろ、ご飯出来るよ。豚ロース、ナイフ使うか?」

「…うん。はなし、あるんでしょ。何?」

「今日さ、ある日本企業の役員が1人来た…」

 前提を話すか。

「黒球の所の、戦いに関する話なんだ」

「…?」

 湊の眉間に皺が寄っている。

 

「あれの、観戦者で、スポンサーの1つがそこの企業らしい」

 驚くよなぁ__一拍置く。

「カタストロフィに向けて、色んなスポンサーをやっているトコが戦力を集めてて、私を誘いに来たんだそうだ。入社試験にいつの間にか通ってた、みたいな感じかもしれない」

 睨んできてる?

「どういうこと…」

 彼女が目線を落とし深呼吸する。

「君は、そっちに行くの?あそこの殺し合いを認める、ううん積極的に促進したいの?」

 いや…違う…

「ちがっ」

「食べながら話そ」

 湊が滑らかに立ち上がり、私の方へ歩いてくる__目線が合う。微笑みかけられる。

 …。火、付けっ放しだしな、うん…。妙に気まずい…!

 



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マルチタスクは上級者の嗜み-3

 会社に訪れてみれば分かるだろう。アポイント無し、そして複数箇所オフィスに行けば裏付けは取れる。午前中なら転送はされないし_

「準備できたよ。お待たせ」

「ああ湊。今回は下に強化スーツ着てるの?」

「ラッキー、君には言われたくない」

 どうしてだ?

 

 水色のワンピースが似合っている湊が首を横に振る。ん?下にデニム?ま、寒いか。

「いいわ。着てない。行きましょ」

 呆れた様な変な反応だな。私は武装なんかしてないし、気になるけど…

「うん、行こう」

 折角デートだし。

 昨夜軽く口論になったし、2日連続で喧嘩みたいにはしたくないしな。

 

 

 

 

 

「…」

「…」

 横に並んで歩くのは大通りでもやや気が引ける。誰かとすれ違う時に気になるけど、人通りが多い訳でも無いし、列になって歩くのもなあ。特に会話は無いのだけれど。

 

 うわっ恭だよな。あの酒屋はパス、って避けるのも変か?あ。

「わー!雷木さん?」

 駆け寄ってくんなよ!恭との話題なんて、スグルだろ…

「だれ?」

「んー」

 どう言えば湊に伝えられるかな。人通りはあんまり多くないけど、ちょっとぼかして__

「被害者家族」

 これで伝わるか?恭に聞こえても納得させられるし_

「わたし知ってるかしら?」

 左目を隣に向けて__黒球に呼ばれた1人だと伝わったか__歪めて見せる。死人で、もう再生も止めたさ。

「馬鹿な兄の話、知り合い全員にしてるんですか?」

 軽い口調だし笑顔だから彼女も本気じゃないな。でも否定はして見せるか。

「していない」

「こんにちは、滝田、恭です。はじめまして」

 挨拶するのか。

「ども。わたしは新庄湊。バイト先で会った事あるかも」

「え、どこです?」

「色々。ここら辺」

「なるほど?雷木先輩も働いてるの?」

 思わず湊の方を盗み見る__目は合わない。バイトはした事が無いが就職は直ぐするかもしれない__恭を接客する機会はいずれにせよ無いだろう。

「いや、私はやっていない。恭は__」

 今、高校生か__話を広げたくない。スグルへの義理は果たしたと決めつけたが、兄を何度も死なせた上に妹を口説き落として仕舞いに振ったのは負い目だ。滝田一家への。

「何でもない。悪い、私達はもう行くよ。…またな…」

「ん、じゃ」

「うーん、はい、引き留めてすみませんでした、またお会いしましょう?新庄さん、先輩!」

 あれ。思ったより私に含む所が無かったのか。

「おーい!」

 う、誰、ああ、キンナいや、ヤマダさんか。今かよ。

「こんにちは…」

 せめて恭が別れてからの方が良かった、いやでも2人は知り合いじゃないよな…あっ黙礼して立ち去ってくれようとしてる…。

 

 



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マルチタスク__しろ
60話


 カーテンから入る光が弱くなっている。日が陰ってきたし、念の為借家に戻るか。

「母さん父さん、私もう帰るよ」

「ん?おう」

「えーもう!今度くるときカノジョさん連れて来なさいよ」

 厭だよ。にやついてるし尚更イヤだよ。湊、愛想良くするかわからないし。

 姉さんがドアを開けて居間に入って来る。

「太二帰るよ一歌。送っていって貰えばどうだい」

「そうよ、どお?」

「えー住んでるのここだしぃ、彼氏もいないし?」

 楽しそうだな…。姉さんはこっちに流し目送ってくんなよ。

「そういう仕草を、私以外の男にすればいいだろ」

「照れないでよ太二~」「そうよぉ」

「揶揄うならハルにしてくれよ…」

 私にはやめてくれ!

「普段から家に居ないただ1人の家族はお前だろう。帰り際ぐらいちょっかいださせろって」

 父さんまで?

「父さん達だって遅くに帰って来てすれ違うだろ。じゃあ、またね!」

 居間を出て、階段に顔を向け上階の弟に声を投げる。

「ハルー、私、行くからー、じゃーなー!」

 廊下を歩き、玄関で白地に赤いストライプのスニーカーを履いてドアを開け、外に出る。家族の返事を聞きながら、ドアを閉める。

 

 次はいつ帰って来るかな。ん、電話だ。ズボンの右ポケットからガラケー__その内トヨカに給料を貰ってからスマートフォンに替えてやる__トヨカ?

「もしもし、雷木です。トヨカさん?何の御_」

「緊急だ、よく聞いて。今夜“呼ばれ”たら、気を付けて、詳細は_」

 殺し合いに転送されて良く時はいつも注意してるに決まっているだろう!ハードスーツはかなり良い兵器だけど_

「_ついてきてる?ボクの言った事は繰り返さないでよ、要点は、相手の”アタック”がヤバい、世界中の

”プレイヤー”がかなり”てこずっている”、かな」

 黒球の”合同ミッション”が前のより急に大規模になったカンジか?時差がある国は、ああ、時間制限も無くなってきていたか。最初に転送されたトコは、何時間戦っているんだ?

「”合同ミッション”だよな?開始はどれぐらい前?」

「10時間ちょう、だね。君が”呼ばれ”ないといいけど、生きてたらまた会おう、そろそろマズイ」

 切られた_聞いておくべき事はまだあっただろうに、まあ盗聴を警戒したボカした会話にも限界はあるだろうが、あー早く帰らないと!?

 走り出す_強化スーツも着てない、湊に電話して装備を持って貰えるか?バイトで家に居ないかも_携帯電話を操作する。湊の携帯に電話を掛ける_呼び出し音。

 電車に乗って行く?車内で転送が始まったら拙いか__前回から1ヶ月経ってないのに!

「ああもう!」

 



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61話

 皆、動揺してるよな。闇が見通せるのは私だけだろうし。視界が強化される装甲服の入手には、百点を何度も取らないといけないし、2番を選び続けても大して死ににくくなる訳じゃないから、世界中でも殆ど誰も手に入れられてないだろう。兵器の一部からの発光だけでは暗いここを視難い。この部屋の明かりが付かないなんて誰からも聞いた事無いし、いつもよりももっと変なのだけれど、私達みたいに長くこのテストに参加していてそれが分かる人、多くないからなぁ。

 というか、追加兵器の部屋で端末をちゃんと操作出来るのか?黒球の画面が乱れているが。

 トヨカさんの警告もあるし、今回はあからさまに危険だ。おっと、黒球の両脇が飛び出て__星人の情報が全然解らないままなんだけど!乾いた笑い声が漏れる。

 

「なに笑ってんだオメーよぉ?!」

 

 いや悪かった。変な反応だったな。

「ごめん。転送がそろそろ始まるから、武装して。開いた球の中に銃があるし、こっちの部屋に刀が床に転がっている」

「はあ!?」「んっ?」「えっと…」「?」

「おう」「ん」「りょ~」「はいっ」

 

 追加兵器部屋の扉はいつも通り鍵があいていた_良かった。ちょっと不安だったんだよな。意識して装甲服の頭部内に映る映像を肉眼と同じに切り替える。こっちの部屋の方が暗い、か?視界を戻す。自分用の兵器選択端末に歩み寄る。足元に置いたルーズリーフノートに、転送で戻って来て今回の星人について書けるだろうか…。3番の代わりに2番を選び続けていたら、今より強い兵器も使えた筈なんだよなあ。1人じゃその全ては効率的に使いこなせないだろうけれども。それに、仲間内の殺し合いもあり得るから、怖いし嫌だから、判断は正しかったと思うのだけど。

 

「ねえ、なに知ってるの」

 

 …湊は鋭いな。初参加組の武装を優先したけど、まあ私も特に詳しい状況を知っているわけじゃあない…

「よくは分からないけど、さっき例の人から警告を受けたのだが。世界中の私達と同じ立場の人達が、多分1箇所で戦っているらしい。数時間前から、かな」

「…」

「えーっラッキーそれ本当か?」「…ヤバいぜ」「どういうこと?」

 

 あ。転送きた。

 

 石造りに見える道と明るい壁の、レンガを積んだ家。部屋よりは開けた景色だが、足りない__透視すると、2階立てで地下室あり人影無しの家、がずらりと__浮いている、いや飛んでいるヤツラを発見。内臓と骨がある。普通の星人だな、多分。他は__そうそう、念の為に地図機能が動いているか見ておくか_

 

「ちょ、眩しいな…」

 

 ん?視界を切り替える。明るい、昼__海外か。まあそうだよな。建物も異国情緒がある気がする。

 

「おおい、説明してくれるよな。周りに星人、ぱっと見いないし」

「どうなの、ラッキー」

 湊まで…前回0点でペナルティが付いているんだから早く殺していかないといけないのは全員同じ筈だろ!

「15点以上取らないと拙いって分かってるのか?初参加組は兎も角、強い星人を、世界中の人とやらないといけない、程度の理解で十分だろう!」

 私だって今回の戦いについて前情報は全然少ないし!いつも通りではあるけれど。

 

「それは分かってる!あんたが思わせぶりなコト言うからだろーが。何、知ってんだ?」

 

 総意か。舌打ちが漏れる。なるたけ簡潔に繰り返すか。いや、はっきりしている事を伝えておくか。どうせいつも通り別行動だ_

「ここは外国で、今回の星人は小型で飛べる」

 今兵器を持ったら殺し合いになるか?近くの星人は、と_透視機能を起動し、街並みを見透かしていく__

「訂正だ、羽の付いていない飛べなそうな星人も居るな」

 噴水のある広場で、人と巨人が殺し合っていた。屋根の上では狙撃をしていたのであろう複数人が、翼の生えた小人にあっさり体を千切り取られている。屋根に上がっていく別の人、狭い小道を歩く巨人、これは、転がる残骸が多い、星人も人もかなり死んでる。

「もう数時間前に戦闘は始まってる。世界中の私達と同じ様な人が、ここに呼ばれて死んでいっているな」

 

 星人は多くが人の2・3倍の大きさ、速さはそこそこ、銃が普通に効いてる__特に目立つ強そうな星人は見当たらない。

 

 前回の生き残りの面々は動揺している様子だ。ライフル型の銃を周囲に向けて付属の画面を見ている奴がいる。

「転送前に別の事言ってなかったか?」

 ああ、ええっとトヨカさんの話は、そうだ!

「星人は攻撃力が高めだ、強化スーツごと千切られていたし。それと、世界中の私達と似た人達が、苦戦してる。知っているのはこれ位だ。もういいよな?」

 人を避けつつ、ガトリングガンを担ぎ、重力銃を拾い、ロケットランチャーも拾い、座席にまわしたバッグに突っ込んでから飛行バイクに乗り込む。

「湊、どうする、後ろに乗るか?」

「飛ぶのがいるなら乗らない方がいいでしょ」

 そうかもしれないかな。

「分かった、じゃあみんな、私は先に行ってる」

 飛ぶ前に装甲服の上から巻きつけた腰バッグに手をやり、透視して中身の重力爆弾と包帯と止血剤と刀の柄とハンドガン型のと三角銃を確認する。

 透明化は、飛行バイクだと誤射されたら落ちるし、最初は無しか。強くなくても星人には通じない事もあるし、飛行バイクから星人に落とされでもしたらでいいか。人でも、こっちが重力銃以上の攻撃に巻き込まれたら拙いな。どうせ人に誤射しないよう縦方向に向けて光を撃つし、低空飛行で行くか。

 屋根を越えない様に、巨人型に近い目線で高度を保って飛行バイクを道なりに進める。

 

 



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62話

 撃った後の結果を確認せず飛行し続ける。止めを刺しに戻る余裕は無いし…つい振り返ると羽の生えた小人、キューピットの像が複数、まだ追いかけてきている。

 

 重力銃以上の兵器の使用者が全然居ないが、爆弾は一瞥して分からないから兎も角、兵器を手放したか殺されたか。数が少ないにしても、大規模な破壊痕が、複数の家屋や道が纏めて抉れた様な地点が無さすぎるんじゃないか?

 

 飛んでいる奴は、星人以外には私しか見当たらない。多分そのせいでキューピットの石像みたいなのが沢山追いかけて来るし、向こうは遠距離攻撃はしてこないがひと纏めに殺せない分逃げ回り続けざるを得ない。後ろに撃つのは装甲服の腕部分が邪魔で体を横に開かないといけなくて面倒くさい。

 ハンドガン型を左手で飛行バイクの開けた面に次々と向けて撃ちまくる。足と右手で、飛行する小さな星人の数が少ない方へと進行方向を変えていく。

 全速を出さなくても振り切れはするだろうが、あまり速く飛ぶと、制限範囲があれば警告音に反応する前にはみ出して死にそうで怖いし、星人の数はどんどん減らして行きたいから、このままで行くか。ガトリングガンを使えば早く終わるだろうが地上の人達にも大量に当たりかねないし…時間制限、あるのだろうか?無いのではないかと思うけれど…。

 家の屋根を掠める高さから上がり過ぎない様に、地面ギリギリと空を、町を移動しながら行き来していく。道の上に立つ巨人の星人にも攻撃するにはこれぐらいがいい。巨人の長い腕が振り回されようが、すれ違いざまであっても避けられている。巨人の方はあまり狙いを付けなくても当てられる。周囲に戦う味方がいても、私の方の誤射があろうが数発は強化スーツなら耐えられるし配慮しなくてもいいだろう。

 

 巨人の腕をくぐり、飛び上がって屋根を越えつつ後ろにテキトーに撃つ。重力銃を持っている奴が居たし巻き込まれない様あの巨人達は放っておこう。私を見て寄ってきた飛行型に代わりに狙われたら悪いけど、新しい小さい羽付きの群れが幾つも一帯をうろついているみたいだし…私の責任はそこまでない、といいな。あ、またぞろぞろ来た。虫みたいだな。巨人との比較もあるし。

 

 道沿いに飛ぶ。正面に巨人_撃つ、腕が来る_頭を飛び越す_破裂音が後ろからする。左側に向かい屋根を飛び越して行く。前後左右のキューピットども以外にも眼下の巨人達に射撃する。

 斜め前の両側から剣を掲げた天使が__キューピットより大きい_真上へと機体を引き起こす。上体が後ろに倒れそうになる。振り返ると羽の生えた巨人が2体、布を巨体の周りにたなびかせながら剣を片手に此方に突き出している。届かないな。距離が開いていく。羽で巨人が速く飛べる訳ないな、小さい方の星人でも飛行バイクには追いつかないのに。向きを反転して急降下する。目立ったのだろう、街中から小人どもが飛び立ち_あれは後だ。2体の天使に連射する。

 

 天使の立つ屋根から距離を取って4本離れた通りに下り、地面付近を道沿いに飛ぶ。大量の星人に1度に狙われるのは嫌だし、これで分散すればいいんだが。

 



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63話

 今回の星人、薄い灰色から白の肌をしていて、纏う分厚い布は肌と同色だ。今初めて気付いた。戦闘中は装甲服で透視が出来る青っぽい視界から戻さなかったし、知って如何する訳でもないが、大小の星人達は、中身が見えなくなり色が付くと、ますます石像か銅像に思える。肉眼と同じ視界でも、遠くの地面で未だに戦う星人と人は装甲服の補助ではっきりと見え、同じ高度で浮遊する飛行バイクの搭乗者達も、透明化していないのは顔まで認識出来る。こっちも透明化か視界の切り替えをすれば透明化していても視認出来るけど、休息しているしな。

 

 この制限範囲の高さ付近までは飛行型の大小の像もしつこくは上がってこないから終了まで待ってもいいが、点数の問題がある。前回は0点だったし、集中出来なくて休む必要があったけれどもう戻るか。星人が多過ぎるし、加えて、それぞれは数体しかいないものの、羽根つき巨人とか黒い個体とか人型じゃない直方体に近いのとか、手間取らせる星人も多い。戦闘に巻き込まれた普通の人は見かけないし、もうこの街は廃墟になるのではないだろうか。ロケットランチャーや爆弾で一部を吹き飛ばしたくなる。私がやらなくとも周辺の人々の中にロケットランチャーは所持しているのがちらちら居るし、知らない兵器を持っている可能性も、装甲服を着ているのが5人居たから、それなりに高い。

 無差別な攻撃は下の人達からの反撃で落とされる可能性が高いけれど。装甲服ならロケットランチャーでも初撃は耐えられるだろうし_降りるか。

 

 装甲服を着ていると動いても風を切っている感覚が無い。腰のベルト状バッグからハンドガン型を抜き取り人差し指と中指で閉じる。拡大していく街並み。巨人、小人、人が建物を然程壊さずに戦っているのは奇妙に感じる。

 屋根の上を、左手の中の2つの引き金を繰り返し引き絞りつつ飛行する。咄嗟に右手のハンドルをきる_何かを避け切った。ちょっと下がって家々の間へと、道の少し上に浮かびながら速度を落とす。道なりに進む。巨人達とすれ違っていく。広場_乱戦状態のここは_右斜めに飛ぶ_噴水の渕と巨人と人を避ける_広場から道に入る。

 

 道が2体並んだ巨人で塞がっている_巨人達の体の大部分が消失する。上からの圧力で綺麗に潰された、向かいに誰か重力銃を持った奴が居るな。曲げかけた進路を保持しつつ少し高度を上げ人(3人いる)の上を余裕を持って飛び越える。

 緩やかに右に湾曲する長い道に入った_左奥の屋根に空飛ぶ小人数体に群がられた人らしきものがある。撃つか、いや人の方も殺しかねない_装甲服の大きな腕に銃を握ったまま左腕を差し込み、迫ってくる屋根上の一塊に伸ばしすれ違いざまに上部を殴り払う。何体かは反応したがまあ殺せているだろ__旋回する_両手の前腕が欠けた胸の張り出した髪の短い女性が屋根から落ちていく、その上に小天使が4体浮いて、残っている。

 

 肌の下で頭から血が下がって上がる感覚がする。

 

 4体の星人が死んで堕ちていく_私の両腕の装甲の掌からの光弾によって。あっ左腕部分が所々裂けてる__

 両手を装甲服から抜いてハンドルを押さえ__右手の銃は落としたか__家の壁の側、女性の近くに飛行バイクを停止する。顔がずたずたで液体まみれになって_死んでいる、かな。一応声を掛けて生存確認を_したところで、もし生きていても転送までこの女を守るつもりもないし無意味か。

「幸運か、悪運の強さがありますように」

 囁き、また飛行する。

 



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64話

 ドンドン、という重低音がする。重力銃は飛行バイクで移動していても脅威だ。当たっても装甲服があるから動きが止まるだけだが。

 私の様にやたらと撃ちまくっている人はいないな。ギョーンというハンドガン型やライフル型の銃の発射音は耳をすませば鳴り続けているが、1人が休みなく撃ち続けるのは変だよな。屋根の上で狙撃している人達は飛行型からちょくちょく襲われたりで増減しているし、星人の近くで撃ちまくるのとは違うし、今回の星人の攻撃に当たると簡単に大怪我させられるから皆、回避を優先しているし。

 星人が視界に居なくなる。2つのトリガーに2本の指をかけたまま低く飛行を続ける。

 

 人の叫び声は今も遠くに聞こえるが星人は声を出していないな。今回は星人が何か喋るのを見ていない。基本的に人型だし口もあるのに叫びすら上げない__人間には聞こえないだけかも知れないが。装甲服は強化スーツと違い頭部まで覆っているが視覚以外の、思考速度や聴覚への強化は感じられない、感じた事は無い…が、もしかしたらあるのかも。説明書が欲しくなってきた。使いこなせているつもりだけど…帰れたらトヨカさんにそれぞれの兵器の説明書が無いか聞いてみるか。

 

 人と星人が殺し合う場に出た_ここも噴水広場か。

 人の断面が青く光りつつ動いている。始まった!いや戦いが終わりつつあるのだけれど_ハンドガン型を手放し左手もハンドルを掴んで_飛行バイクを急上昇させる。

 

 これは連続0点のペナルティで死んだか。あの誰が、三角銃で空に転送されていったとは…ないか。拘束されてなかったし、星人じゃなかったし。

 私は死ぬのは初めてだ、多分。

 爆弾、ロケットランチャーを星人の多い場所に放つだけはやっておくか。殲滅は間に合わないだろうけど、足掻きはするぞ!

 

 待てよ、転送はそれぞれ担当の黒球ごとに時間がずれる可能性もあるな。

 

 いやでも人数が減ったらそのうち星人に囲まれて殺されるか。疲れているし、私もなにか失敗して飛行型に囲まれて飛行バイクを落とされて、地上で上を含む周囲から包囲されれば装甲服込みであっても耐えきれないだろうし__

 兵器を使い切るタイミングとして今は悪くない、はず。

 

 転送されなくて、攻撃に巻き込まれたせいで死ぬ人、私が殺す人もいるかも…湊が巻き込まれたら…人の居ない星人の多い所なんてあるか?

 あそこは近い_重力爆弾を投げ込みに行くか。

 急降下しつつ左手を放して腰のバッグを開けて差し込みごつごつとした球体を取る。ボタンを押して起動_投げる_ハンドルを握り直し斜め上へ。また左手を離し、片手で座席の下のバッグを探る。これはガトリングガン、席の後ろ側は…重力銃かよ。ロケットランチャーは右側か。

 

 私が転送されるのはいつだろう?両目が最初の方に転送されるし__未だであるのを、急にくるのは毎度だからしょうがないとして、照準を合わせるまで転送が始めてくれるなよ、黒球の中身に念じる__いいや、言葉に出せばちゃんと聞こえるか。ああ、そういえば数時間前に見た黒球の様子だと調子が悪そうだよなあ。調子が良くても人の思考を聞けるのだろうか?人の記憶を自由に弄れる(100点メニューの1番の選択肢を見てから、確信がある)のと似た技術な気がするけど。可能に思える。

 

 まあ動作はもう終わるんだけど。

 左手をハンドルに掛けた状態で右腕でロケットランチャーを担ぐ__装甲服の腕で担ぎ難いけれど。照準画面で星人達の間の地面をロックオンせずにトリガー2つを同時に引く。肩に多少の反動がクるが装甲服の重さ、強化がしっかりとある。安定した高空飛行を続けつつ、飛行機はどれ位上がると高空飛行と言うのか知らないが”高空”までは上がっていないかな、旋回を始め、街全体、畑や禿げた丘が周りにあるな、街を見下ろす。

 

 …転送、まだ?

 まあ時間があるなら星人を殺し切れるか?無理そうだけど__降下を始める。星人は_一応、大分少ない、のかな。優先して殺しに行くべきは、人と戦っていないヤツ、だな。あそこに向かうか。

 そういえばハンドガン型は、さっき捨てたな__もう人もあんまり残っていないんだし、ガトリングガンで光弾をばら撒くか。

 

 スーツの強化を意識する。左腕でガトリングガンを座席の下から抜き取り、星人の辺りに向けて引き金を2つ同時に引き、銃身を動かす。自身が動いているしそこまで注意しなくても光弾はばらけるだろうけど_近くの屋根が破壊され_何か来る_避けるか?いいやそれより_引き金を絞ったまま銃口を下に向ける。

 

 全身が揺れた。

 

 ガトリングガンが壊された__飛行バイクも左側に突き出した円環状の部分がほぼ残ってない__

 右腕1本と両足のペダルで操従は出来ている、いやちょっとヤバいか。ていうか痛い!

「イッッタァイ!ちくしょうっ、いったいなあもう!」

 指が折られた!装甲服の左腕部分もごっそり持っていかれたし__防御力の高さへの信用が裏切られた気分だ。

 星人が体当たりしてきた訳でもないよな?巨人型、私の3人分位に見えるアイツにやられた、んだよな?距離はあったし_速度が追えなかった?見えてない星人が居る?

 

 星人が大口を開け両手を横に添える_星人の周囲に放射状に破壊痕が出来る__こちら側に向かって。右手を後ろに回し重力銃を引っ掴んで_左足で座席を蹴り_壊されて開放的にされた左側から飛び出す。

 空中じゃ碌にロックオン出来ない_手放して装甲服の腕に突っ込み手のひらを開いて何とか星人に向けてやる_間に建物_視線を向けないと透視出来ない_

 地面に転がりつつ当たることを期待して掌から光弾を撃つ。

 両足と痛む左手を石造りの道についてほぼ四つん這いに起き上がり__建物を見通す。どこだ__首を振り__

 

 いた_というか来る。

 星人が建物を突き抜け_右斜めに星人の方へ低い姿勢で飛び込む__腕を避け切った、踏みつけが来る__肘の刀で反対側の足を切り裂き、飛び退く。

 

 星人が体勢を崩す_宙で浮遊感を味わいつつ星人の頭を光弾で射貫く。脳がそこにあるみたいだし、私の勝ちだ_着地する。

 他に星人は__見渡す限りでは建物数軒奥のが最も近いか。正面の大きな死体からの音は無視だ、次のを殺しに行くか。傷の手当は…我慢だな。…舌打ちが漏れた。

 

 ここから撃って星人まで貫通するか?大きな音を立てたし時間も無いかもだし、こっそり近付くのは諦めて取り敢えず撃つか。

 




以下、少しネタバレ注意





しばらくして主人公も転送されます。原作での【最後のミッション】終了、のつもりです。星人は全滅しませんが、主人公たち生き残りは、まあ…。


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65話

 それに戻ってこれたのは私だけか!?

 どうなってるんだ?

 球体の黒い湾曲した面の点滅や文字化けしまくりの私が199点の表示、それに、コレデオワリ?なんなんだよ?部屋は灯りが点かないままだし、変過ぎる…!

 

 

 いいさ…100点メニューからまた、もしかしたらもう一度だけ選べる、ということだよな。取り敢えず、調子が最悪そうな黒球に声を掛けるぞ。ペナルティには触れないでおこう。

 

「…じゃあ、3番で、新庄 湊を」

 

 あ?…この音、携帯__私のか。トヨカさんかな。湊が出てくるのを見ていたいんだけど…放っておくと拙いに決まってる、トヨカさんからなら。取るか。

 玄関に続く廊下の前の閉じた扉に振り返る。壁際に、扉の左右に各人の荷物が纏めてある。右側に素早く寄り__装甲服したままだと電話し難そうだな、頭部は耳の周りは開放できなかったっけ、全部脱ぐか。どうせ湊以外にもうここの連中に素顔を知られないワケだし。装甲服の前面から、ボタン状の留め金を外し開いて、抜け出す。着ぐるみより絶対に楽だよなぁ__そもそも比べるべきではないかな。

 かがみ、重ねた服を崩し床に畳んで敷いたズボンの左ポケットから鳴り続ける携帯電話を抜き取る。立ち上がりつつ2つ折りを開き他より多少大きな通話ボタンを押し右耳にあてる。

「もしもし、雷木です」

「あー、今大丈夫なんだ?どこにいるか教えてもらえるかい。君の知ってる黒球を回収したいんだ」

 うん?

 肩越しに復活した湊の立ち姿が見える。

 あ、こっちに振り返った__笑みを投げる。黒球を左人差し指で差す。今回も採点画面は出てる筈だし、見てもらって考えを聞きたいな、再生前の点数は持ち越し出来ないんだったよな、じゃあ湊は0点か__

 

「未だ部屋に居ます、黒球の真ん前です」

 私には手を出せる代物に思えないのだけれど。生殺与奪を握られているし…

「このさ、殺しのショーのホストが、黒球の制御をしているのか怪しくてね。この通話をしても粛清されてないし、そこの球、手に入れられそうじゃないかい?」

 私を実験台にしたのか!ああでもトヨカの側にも危険はある、のか?

「怖いんですけど」

 持ち出せって言われても、という意味でも。

 

 湊は黒球の前に両膝をついて未だ見ているまま、これで終わり、の意味を気にしているのかな。時間経過でしか確かめられないと思うけど。

 

「あー、ま、ね」

 何がま、ねなのだ。どうしろという指示、いや要請を決めたのか?

「何がですか?」

「うん、そこで待機してて。ひとをそこに送るよ。球の中身は君に対しての方がこっち側のより友好的なはずだから」

 友好的?違和感強過ぎるな。少なくとも私は黒球の中の”真っ白””無毛”ニンゲンに好意を抱く存在を想像したくない。たてえ向こうが好意的でも自分がにこやかに話す自信が微塵も湧かない。向こうから私に好意的に感じた事は無いし、トヨカ、さん、と殺し合いの運営側と運営の現場にあたるだろう黒球はどんなに酷い関係なんんだろう。

 

「で、雷木君、待機をお願いできるかな。ボクはそこに行かないかもだけど、ある程度偉い人は1人は行くことにすると思うから、そっちで話し合いもあり、という形で、いい?」

「…了解しました。お待ちしています」

 湊はここに待機してなくてもいいんだろ。

 




次回でエピローグ、1部おしまいです


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エピローグ

 星人との殺し合いはもうしなくていい筈。未だ残っているかもしれないが、黒球の支配からは抜け出せたからどうでもいい事だ。頭に入れられていた爆弾も抜かれているらしいし。

 

 逆に黒球を確保し支配している。私を雇った所を含めた幾つもの企業が、で私は触れないが。軍とか公的機関も確保している可能性があるらしいが、奪い合いには発展していないらしい。

 転送機能を使った要人の暗殺は起きているんじゃないかと思うけど。一応護衛が仕事になっているし。

 

 休憩時間も普通に数時間単位であるし、大学にも通っていていいとか言われるし、警戒が薄いなとは思う。まあ私は専門的な護衛じゃないから頼りにならないか。でも、なら何で雇われてるんだろう。兵器も1つも取り上げられていないし、妙に高待遇されている感じがする。解析をさせろとちょくちょく持って行かれても長くても2日で返されたし。まあ持ち運んでいない兵器は「預かる」と言ってオフィスの一室に置いてあって借家には無いんだけど。

 

 仕事はトヨカさんに付いて廻る事が殆どだ。基本は強化スーツとハンドガン型と三角銃と刀を装備して、上にビジネススーツを着たちょっと息苦しい状態。大学から直接ビジネス街に行って休憩室にその状態に着替える。戦闘訓練とかあるのかな?今の所させられてないんだが。

 

 企業の偉い人達のミーティングは、聞こえても忘れろと護衛仲間に言われたが、そもそも理解不能な事が多い。高層ビルに居る制服の警備員は下に強化スーツを着ていないんだろうが、護衛仲間にも1人も私以外の強化スーツ使用者は居ない。1度だけ装甲服を着て透明化した状態で護衛させられた時に透視して確認した限りでは、だが。

 特殊な兵器を使い慣れた私はかなり貴重な人材なのか?ここの企業は私以外を確保出来て居ないのか?黒球を使えるなら装甲服以上の兵器も出し放題で私以外に兵器の扱いを習熟させるのは簡単だと思うんだけど、ホントに私が貴重な人材にあたるのだろうか?

 

 考える対象も時間もある。カタストロフィと黒球に言うと表示される時間は、かなり減っているけど。やる事もそこそこあるし、表示される時間が0になると何かは始まるだろう。忙しい方がいい。

 湊にフラレた事は考えたくない。

 

 ああなんで_いや理由を考えたくないんだ。

 

 同じ戦いに居る強い奴に迫られて、命の借りが何個もあったら私も体を許すだろうな、怖いし。こんなこと湊は言わなかったから違うかも、いや違うといい__

 

 駄目だ、別の事に集中だ。そう、道場。最近行ってない。でも行く意味は小さい。剣道の範疇でも_止めよう、失礼だ。

 殺し合いの主催者は_ドイツの一中小企業だったと。凄い技術があるのに使い方は問題だらけだろ、ふざけんな!死者の再生や記憶の操作にはコストがかかり過ぎるとかで今も犠牲者への補填はないし、最悪な企業だ。私のトコも、国であっても対応は大差ないのだろうと想像出来るけど。

 

 黒球が記録していない存在は再生出来ないなら、黒球で世界中を監視していたから新しい人々を殺し合いに呼び込めたのだろう。世界的な監視社会の構築が可能なのだろうか。何処かが黒球を独占出来たら世界統一とか出来そう…気持ち悪い。

 転送とかの複数の進んだ技術をどうして1つの企業が開発出来たんだろう。独占しなかったのは何でだ?独占が可能な程に先進的な技術に思えるんだけど。

 

 あ~、世界中を簡単に旅行出来るのに、その技術の一般公開はいつになるんだろう。公開はしないのか?航空業とか小さくして大儲け出来そうだから何処かがやりそうに思えるなぁ。月とか火星に転送で行けるなら装甲服を着て行ってみたい。海底にも行けそう。

 火星人とか地底人とか、居たとしても殺しちゃったんだろうか?星人はいたんだよなー。あいつらの名前の星なんか無かったけど、本物の地球外生命体だったのか?

 実験で私がスゴいトコ送られたりしないかなあ…オーロラとか肉眼で見てみたいな、楽に高緯度に行けるなら。

 



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2 彼は世界防衛ゲームに参加する
プロローグ


 空が赤い。青空の方が好きだ。雨でも曇りでもこの赤より遥かにいい。

 

「すごいね!コレ!」

 

「まあそうですね」

 もう昼だしな。朝焼けでも夕焼けでもない上に、全天が暗い赤に染まっているのは、スゴイで済ませていいと思えないんだけど。

 

「雷木クン、ハードスーツ着てきた方がいいんじゃないかなー」

 

 え、やだよ。

「まだ必要ないでしょう。指示があるなら着ますが、危険は感じ取れません」

 嫌な気分ではあるけど。

 __『あなたはスーツに依存してるわ』

 いいやしていない。今だってワイシャツとスラックスの下の強化スーツは部分的なものだ。

 必要で無いだろう時まで過剰な強化に頼ったりはしない。

 

「そう?まっ、ここに上がってこれを見られるだけでも働いている甲斐があるよねえ」

 

「今は休憩中ですけど…まあ、同感です。そういえばここって関係者以外上がって来れないんですか?」

 

「このビルはそうだね。高層ビルはどこもその方がいいと思わない?風強いし」

 

 確かにうるさいな。

「風の音凄いですもんね」

 

「いやいや、危ないって意味だよ」

 

 何が?

 

「君には関係ない、のか?突風でバランスを崩しやすいだろぉ?」

 

「ああ、そうですね」

 下手すると落ちるのかな?柵が見えるけれど。

 寒いけど見晴らしがとても良いから下を覗き込むと怖そうだ。飛行バイクだと機体の隙間から見る感じだったな。この辺まで上がっててもいい景色と思った事無いけど、見通しのせいか?夜だったからかもしれないか。

 

「俺は降りて待機に戻るけど、雷木クンは?」

 

「私は時間まで此処に居るつもりです。いえ、休憩時間の終わりには戻りますが、その5分前ぐらいまでなら此処に居ても大丈夫でしょう?」

 

「呼び出しがあったら直ぐ来いよ?んじゃ、ごゆっくりー」

 

 先輩が出入口へ歩み去って行く__1人で居たいから走って行ってくれないかな。休日なのにやり方をよく知らない勤労をして。その同僚は年上の男ばかりで。カノジョもいなくなって。家では1人で気楽だけど…アポカリプスがもうきてるかもなのだよなあ、この空の異常からすると。あのテストだかなんだかの関係企業の所にいた方が情報が直ぐに解るに決まってるし。

 星人との殺し合いは終わったけど、なんだかなぁ。

 悪寒がある。

 

 背後で重い扉の開閉音がした気がする。右肩越しに頭を回し目やる。先輩は屋上から居なくなった。

 刀を振ってようかな。人前でやると危なそうだし、ひかれそうでもある。1人でやってもそうだろうけど。下トリガーを押したり中指を外したりで刀身を伸縮させながら振るの、一部の星人や殆どの人間に有効だろうなあ、私が間合いの変化を把握し続けられれば。強化スーツの強化を強くすると切っ先が追えなくなるんだよなー。装甲服でも動体視力の強化は得られないみたいだし目を馴らすべきだよな。3、4年は強化状態での振りの切っ先を見ようとしてるんだけど…肉体の全盛期って今ぐらいだよな…

 



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32の国家

 『よく分からないが32の国が落とされたらしい』?……何言ってるの?

 

「新しい技術系体の巨大な兵器が大量に使われたらしいよ。巨人が使って人間の国家を攻撃してるって話、確定情報になってね」

 巨大な人型の敵は、星人との殺し合いで、人と兵器のテストだったと思うけど、それを通じて戦える。

 

「スーツ抜きでも?」

 

 え?(強化スーツのことだよね。)やった事無い。

 巨人と言っても、身長が3メートルなら人間でもあり得ないわけではないと思うけれど、どれぐらいなんだ?

 

「…」

 

 ならなんで巨人なんて呼ぶんだ?

 

「ねえ雷木クンならさあ、スーツ無し銃ありで巨人殺せる?」

 

 今まで会った事があるヤツラなら、まあ。カタストロフィだから今回は自信ないけど。

 

「プレスガンとかじゃなくてだよ?火薬で弾を飛ばすタイプ」

 

 (可能じゃないかな。)そういう銃で傷つかなそうだった星人は大きい人型では無かった、と思う。ノートを見返さないと断言出来ない。もっとも私は可能な限りさっさと殺すし、ろくな武装なしで初見の敵に挑戦なんてしないし。

 だから武器を制限されて戦いを繰り返したら多くても数回でこっちが殺されると思う。(同僚との訓練でちょくちょく殺し合いなら死ぬなと思わされるんだよなあ。)

 

「キミが想定してる巨人ってさ、独自の銃とか戦闘機とか使わないでしょ」

 

 (普通使わないだろ!あれっ普通じゃないのか…。)じゃあカタストロフィで出て来た巨人は使うのか…兵器の性能はどんなの?

 

「大きい順に、宇宙船、ちょっと小さい宇宙船、大砲装備の多脚棒人形、戦闘機、全身鎧みたいな戦闘服と円盤を撃ち出す銃が、確認されてて。

 まあ大きい方が性能は上じゃないのかな。あ、最小のサイズが6から10メートルね?

 戦闘服はプレスガンで一撃で壊せるらしいけど、中身の巨人はほぼ無傷で出て来るってさ。ハードスーツ、キミの名付けだと装甲服だったよね、それなら安全に倒せるそうだ。ウチで確保しているハードスーツはキミのものだけだだから巨人が来たら負担が凄く重くなるだろう、覚悟しといてくれ」

 

 戦闘機は?

 

「飛行ユニットだと無理だという連絡だったね。アメリカ軍の最新鋭戦闘機が要るってさ。そうそうアメリカ合衆国の崩壊は事実っぽいね。全滅はしてないみたいだけど」

 

 じゃあ、棒人形?巨人の戦闘機以上には対処出来ないじゃないか。アメリカは核兵器とか使ったんだよね?

 

「宇宙船は破壊出来なかったね。国は減り続けるんじゃないかな」

 

 日本にも来ると思っているのか?

 

「来る理由も来ない理由も想像は出来るんじゃないかな」

 

 



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