仮面ライダーW「Yへの想い/届かない夢」 (アジシオ太郎)
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第一話「Yへと向かう/始まりの場所」

処女作です。

拙い文章ですが、よろしくお願いします。


 ─風都・鳴海探偵事務所─

 

 

「亜樹子、誰だその子は?」

 

  

「数年前にこの街に越して来た子なんだけどね、私達の事を聞いてどうしても依頼をしたいって言うからここに連れて来たの。」

 

良い風が吹く湾岸都市、風都を守る為に街で密かに人々の手に渡っているガイアメモリと言う地球の記憶が内包された特殊なメモリが人をドーパントと言われる怪人に変え、それが絡む事件を解決し続けその裏で暗躍するミュージアムや財団Xとの激闘から数年…

 

今も風都で起こる様々な事件を解決する為に奔走している探偵、左翔太郎は相棒のフィリップと仲間である刑事の妻となっている鳴海探偵事務所所長の照井(事務所では鳴海)亜樹子との3人で今日も依頼を受ける事になるが─

 

『俺達は今回の依頼が引き金となってある事件に巻き込まれるが、その中であんなに悲惨な少年少女の恋物語を目にするなんて…この時は思ってもいなかった。』

 

 ─後に翔太郎はハードボイルドにこう語るのであった。

 

[OP:W-B-X~W-Boiled Extreme~]

 ──────────────────────

 翔太郎達は早速、依頼人である少年に話を聞いてみる。

 

「んじゃあ、坊主、名前と依頼を言ってみな。」

 

  

「えっと…僕は、坂路昇(さかみちのぼる)って言います…11歳です。」

 

 

 依頼人は少し気弱そうな、どこか煮え切らない感じの少年だった。

 

「前に住んでた所に幼馴染みの…一つ年上の女の子がいたんですが…」

 

「あっ!もしかして今でもその娘のことが好きで忘れられないとか?」

 

「おい、亜樹子ぉ!」

 

 その幼馴染みで今は中学生になったであろう女の子に恋をしていると察した亜樹子は歯を浮かせる様に話を初めると、翔太郎は余計な事を聞くなと言わんばかりに止めようとするが

 

「すまねぇな、うちの所…

 

 

「それは…その…///」

 

 

「……おいおい、マジかよ。」

 

 図星をつかれて恥ずかしそうにしている昇の反応に翔太郎は少し調子を崩した。

 

「フッフーン!どうよ!」

 

 亜樹子は自慢げな顔で翔太郎に言うが、やれやれと思いつつ本題からズレる前に話を戻そうとすると

 

「あ…あのっ、それは置いといて… その子は小さい頃から『御刀』(おかたな)に認められて、剣術がとても強いから神童と呼ばれる様になって…ある日、綾小路武芸学舎っていう『刀使』(とじ)の為の学校に入学してすぐに…「えっ!?ちょっと待って、その娘って刀使なの!?」

 

「亜樹子、その刀使って聞いた事はあるんだが、そこまで深くは知らないんだよなぁ…」

 

「知らないの!?これだから翔太郎君はいつまでたってもハーフボイルドのままなのよ…」

 

「んだとぉ!」

 

 亜樹子は呆れながらも翔太郎に刀使について説明する。

 

「日本の各地で暴れている『荒魂』(あらだま)っていう化け物を聞いた事があるでしょ?」

 

「ああ、そういやニュースでよくやってるな」

 

「刀使っていうのは特殊な金属で作られた御刀という日本刀を使ってその荒魂を退治する少女達、言わば『巫女』って事なの!」

 

「竜君から聞いた事あるけど、刀使は中学生から高校生ぐらいの女性にしかなる事が出来なくて、学生ありながら特別祭祀機動隊(とくべつさいしきどうたい)?っていう警察組織の下で日夜、荒魂と戦っているのよ。」

 

「へぇ…女子もタフになってきたんだな」

 

「ちょっと、何で私を見て言ってんのよ!」スパーン!!

 

「いってぇなぁ!」

 

 毎度の事だが、亜樹子にスリッパで叩かれる翔太郎であった。

 

「さっき御刀に認められたって言ってたがそれに認められなきゃ刀使になれねぇのか?」

 

「はい…御刀には神の力が宿っていると言われていてその力を引き出せるのが刀使…御刀に選ばれた高校生までの女の人と聞いています。」

 

「話を戻すが、その刀使様の学校とやらに入学したその娘がどうしたんだ?まさかとは思うが連れ戻すの手伝ってくれって言うならできない相談だぜ」

 

「実は…その入学式が終わってから、すぐに重い病気にかかって入院したんです…」

 

「そんな…私、聞いてない…」

 

 亜樹子は衝撃のあまり肩を落とす。

 

─だがここから、さらなる信じられない話を一同は耳にする。

 

「それから僕は毎日とは行かないけど、できる限り頻繁にその子のお見舞いに行って元気付ける為に毎回励ましていました…早く治りますようにと願いながら…」

 

「でも、その子はずっと治らない病気を患っていると聞いて……悲しくて…それなのにある日突然退院して、家族全員でどこかへ引っ越して行ったんです。」

 

「突然退院した!?」

 

「それから僕らも家族全員で引っ越すことになって…風都に越して来ました。

もう二度と会えないと思って過ごしていたんですが…ある日テレビでニュースを見てたら、その子が……立派に刀使の仕事をしていて、しかも昔刀使だった偉い人の親衛隊に入っているんです。まるで人が変わったみたいに……」

 

昇は涙をこらえて高ぶる感情を抑えながら自身の鞄からビニール袋を取り出し、翔太郎に差し出す。その中には大量の小銭と何枚かの千円札が入っていた。

 

「これ…僕が一生懸命貯めたお小遣いです。一万円まであるかどうか分かりませんが、どうか…『結芽ちゃん』を助けてください!

いつも一緒に遊んでくれたあの頃の様な笑顔に戻って欲しい…だから「もう分かった」

 

「お前のその娘への想い、俺達に十分伝わったぜ。」

 

「だから、男がそう簡単に泣くな。報酬はその気持ちとお前の…いや、お前達二人の『笑顔』だけでいい。」

 

 以前にも昇と同様に必死に貯めた小遣いを出して依頼しに来た子供達がいた事を思い出す。その子達と同じ思いをしている。そう思った翔太郎は彼の笑顔を取り戻す為、依頼を受ける事にした。

 

そして、昇は自分の涙を拭った。

 

「それにしても、今まで不治の病だったのがいきなり退院ってのは…やっぱり何か引っかかるな。」

 

 

 

 

 

「成る程、実に興味深い…」

 

 

 

「ゾクゾクするねぇ。」

 

「えっ?…あの、この人は…」

 

「ああ、こいつは俺の相棒だ」

 

 いつの間にか話に混ざっていたフィリップは好奇心を掻き立てる様にその不可解な現象に興味を示す。

 

「フィリップ、この一件…まさか『ガイアメモリ』が絡んでるのか?」

 

 翔太郎はフィリップに問いかける。

 

「その可能性もあるかもしれない、だけど調べてみない事には何とも言えない… 翔太郎、」

 

「『検索』だな、やるかフィリップ」

 

 フィリップは両方の腕を広げ自身の周りに少しふわっと風が舞い、光に包まれる感じでまるで瞑想でもするかの様な体制をとった。

 

 そして彼の意識は真っ白な背景の中にある無数の本棚が並んでいてまるで広大な図書館の様な精神世界の場所に飛び、そこには彼一人だけが佇んでいた。

 

 そこは『地球(ほし)の本棚』、フィリップの脳内に存在する地球上のあらゆる情報を探す事が出来るデータベースである。その検索方法は彼がこの状態でいる時に周囲の人物から『キーワード』を聞き、それを言えば膨大な本棚の中から知りたい情報が書かれた本に辿り着けるという彼の能力だ。

 

「あの…何が始まるんですか?」

 

「あ~、とりあえず降霊術みたいなもんだと思ってくれ」

 

「じゃあ、始めよう…まずは彼女の正確な名前が必要だ。」

 

「よし、じゃあ昇、改めてその娘の名前は?」

 

「…燕結芽(つばくろゆめ)です。」

 

「キーワードは『燕結芽』」

 

 フィリップはそのキーワードとなる少女の名を言葉にすると無数の本棚にあったほとんどの本が消えて行く中、一冊だけ本が残りその本を手に取る。

 

「意外と早く検索できた。さて、彼女の情報は…」

 

「燕結芽…年齢は12歳、確かに昇君が話した通りの経歴だ…彼と過ごした記憶もある。だけど…」

 

「ん? どうしたフィリップ…」

 

「妙だ…彼女の情報は不治の病によって両親に見捨てられたという所から…折神紫(おりがみゆかり)という特別刀剣類管理局(とくべつとうけんるいかんりきょく)局長、その直属の親衛隊に入隊した所まで本のページが破られている。」

 

「なっ…!!」

 

「そんな…」

 

「え…」

 

 検索した情報から燕結芽という少女が両親から見放された事を知ったと同時にページが欠如しているという異様な結果に三人は驚愕する。

 

「検索するワードを変えて見よう、キーワードは『折神紫』」

 

 フィリップは機転をきかせてキーワードを変更する。 

 

「折紙紫、20年前の相模湾岸大災厄で大荒魂の討伐に成功した刀使であり大英雄として称えられていて、今は折神家御当主となっている。」

 

「…彼女も妙だ。経歴によれば30代半ばであるはずだ。それなのに随分若々しく見える…何か技術の高い美容法でもあるのか「おいフィリップ、今はそんな事関係ねぇだろ!」「そうよ!これはレディーのデリケートな問題よ。それに触れるのはNG!!」

 

「えっと…あの…」

 

 三人のはた迷惑な掛け合いが始った。昇もさすがに困惑する。

 

「気になる点は色々あるが、結局ガイアメモリに関する情報は無いのか?」

 

「そうみたいだね。だが見過ごせない謎があるのは同感だ。めぼしい情報が見つからない以上、直接会って見るっていうのも悪くないかもしれない。」

 

「でも、どうやって?警察組織だから簡単に近づけないよ?」

 

 亜樹子がそう言うとフィリップは閃いて

 

「いや、亜樹ちゃんならそれを可能にする『切札』を持っているよ。」(ハートのAを見せるフィリップ)

 

「切札?…あっ、そういう事ね?分かった。竜君に聞いて見る!」

 

 ─数日後─

 

「いやぁ~、ここが鎌倉かぁ~」

 

 翔太郎、フィリップ、昇は折神家の本拠がある神奈川県鎌倉市に来ていた。亜樹子はどうしたのかというと、

 

「なんで私だけ留守番なのよ-!!私も鎌倉行きたかったのにぃ-!!」

 

 何故かミックと一緒に留守を任されていた。

 

「観光気分に浸っている場合じゃないよ、翔太郎。僕達は明日、折神家で行われる『伍箇伝』(ごかでん)という全国で五つの刀使の養成学校から選抜された刀使達が競う『御前試合』を観に行くんだろう?

その前に試合を特別に観戦させて貰える様、手配してくれた照井竜から頼まれた用件を済ませないといけない。」

 

「その試合観るの楽しみにしてる風にしか見えないが、お前の方こそ観光気分なんじゃないのか?」

 

三人は亜樹子の夫である刑事、照井竜の紹介により折神家が主催する御前試合を観戦すると言う名目で燕結芽に会う為に鎌倉にやって来た。

それと引き換えに、鎌倉市内にガイアメモリを売り捌いている『闇の商人』がいると言う。後日、彼がここに派遣され鎌倉署と合同捜査を行う予定で市の現状を事前に把握する為に調査をするというのが交換条件である。

 

 そして昇は─

 

「…結芽ちゃん。」

 

 必ず会って、苦しんでいるなら助けるんだと決意する。

 

「じゃあ、俺は照井に頼まれた用事を先にこなすか。フィリップは昇と一緒に喫茶店にでも…」

 

「翔太郎、見てくれ。色々な学生服を着た少女達がまるでギターケースを背負っているかの様に、刀を腰に逆さで差している。あれが刀使というのか…興味深いねぇ。」

 

「ばっ…フィリップ、変態じみた言い方止めろ!」

 

 フィリップはスイッチが入った様に、刀使達に興味を示した。その中には彼に気付き顔を赤らめる者もいれば、彼に引いたりする者もいた。

 

「おい、どうすんだよ!俺達あの女の子らに囲まれて観戦すんだぞ…ん?」

 

「…」

 

「…何だあのおっさん?」

 

 翔太郎が見た先には少し離れた所から刀使達を見ている不審な男がいた。その男はポケットから何かを取り出しその手を挙げる。

 

「あれは…まさかガイアメモリ!?」

 

 

「ヤーニング!」

 

 

 その男はガイアメモリのスイッチを入れ、首筋にあるタトゥーの様な印にメモリを差し込む。

 

 そして、『ドーパント』という怪人に姿を変える。

そのドーパントの姿は中世の騎士が着る銀色の甲冑の様な外見で、右側の頭から腹部までの数カ所に白い色のシクラメン、左側の頭から腹部までの数カ所に赤い色のフリージア、二種の花がそれぞれのちぐはぐな部分に咲いている。

 

「ウゥ…ウオオオオオオッ!!」

 

「きゃああああっ!」

 

「まずい、刀使達の方に向かって来る!」

 

「何あれ…新種の荒魂!?」「でもスペクトラムファインダーに反応がない…」「…怖い」「ワオ!とってもアメイジングデース!」「だるい…」

 

 向かって来るドーパントを目にした刀使達は少し様子を見たり、混乱したり、恐怖する者もいれば、変わった見方をする者もいた。

 

 一般の人々は当然蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。

刀使達は不測の事態でどうすれば良いか判らず、膠着状態となっていた。

 

「グゥワアアアアッ!」

 

「きゃあっ!!」

 

 ドーパントは一人の刀使に対し、自身の右肩に咲いているシクラメンの花粉を浴びせる。花粉には痺れさせる効果があり、動きを封じさせた。彼女は尻餅をつきひどく怯えている。

 

「やめて…誰か助けて!!」

 

 他の膠着状態だった刀使達はようやく我に返って、動きを封じられた彼女を助けようと動き始めるがドーパントは右手をハートの形をした切れ味のある大きな葉に変えて、彼女に迫る。

 

「いやあぁぁぁっ!!」

 

「翔太郎、変身だ!」「サイクロン!」

 

「ああ、フィリップ」「ジョーカー!」

 

 翔太郎とフィリップはそれぞれ紫色と緑色のメモリを取り出しそのスイッチを押す。

 そして、翔太郎は昇に

 

「昇、フィリップの傍から離れるな。あとそいつを頼む。」

 

「えっ?」

 

 皆と同じく、怯えていた昇にフィリップの事を任せると伝え、二人は

 

「「変身!!」」

 

 翔太郎が腰にベルトを付けるとフィリップにも同じベルトが出現する。中央にメモリを二つ差すスロットがあり、フィリップは右側に『サイクロン』翔太郎は左側に『ジョーカー』と名の付くメモリを差し込む。

 すると翔太郎のベルトにフィリップが差したメモリが移動し、フィリップが倒れ込むと昇は急いで彼の背中を支える。

 

「サイクロン!ジョーカー!」

 

 翔太郎は変身し、右側に緑、左側に黒、二つの色が一人の体に半分ずつに染まり、二人で一人の仮面ライダーW(ダブル)となった。すかさずWはドーパントにキックを放つ。

 

「ハアッ!!」

 

 バキッ「グウッ?!」

 

「大丈夫かい?レディ…」

 

「は…はい…」

 

Wは彼女の無事を確認し、ドーパントの方を向いて左手の人差し指を向けこう告げる。

 

「「さあ、お前の罪を数えろ!」」

 

「!?」(ドーパント・刀使達)

 

「…あれが、仮面ライダー」と昇は呟く。

 

 ~BGM:Cyclone Effect~

 

「グワアアアアッ!!」

 

「フンッッ!!」ドカッ

 

 翔太郎は左側の赤い目を光らせWの中にいるフィリップの意識に問いかける。

 

「フィリップ、あのドーパントは何だ!?」

 

「あのドーパントは『YEARNING』、日本語で『憧れ』と言う意味だ。恐らく使用者の憧れをエネルギーとして戦闘能力等を上昇させる能力を持つ。」

 

 ヤーニング・ドーパントは周りの刀使達を見回して、唸り声を上げる。

 

「ウゥ…ウオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 ヤーニング・ドーパントの右手のシクラメンの葉が刀の様に鋭利で細い刃物に変貌した。

 

 闘いながら二人は話を続ける。

 

「今のが能力か、憧れってまさかあいつ男なのに刀使になりたいって事か?」

 

「それなら刀使を襲ったりしないはずだ。

推測しよう、まず使用者は男であり憧れのヒントはそれぞれの『花』にある。」

 

「花?シクラメンとフリージアにか?」

 

「あの二種の花には共通点がある。それぞれの色によるが花言葉に『憧れ』と言う意味が込められている。

それ以外の花言葉も使用者の憧れによって反応するのなら奴のシクラメンの色は白、『清純』を意味する。対するフリージアの色は赤、『純潔』を意味する。それが奴の憧れ、そして刀使を見る事で戦闘力を上げた。これで分かるかい?」

 

「成る程、年頃の『女の子』に欲情したって事か。」

 

「そうみたいだ。さらに能力が上がる前に決着を付けよう!」

 

「ヒート!」「トリガー!」Wは二つメモリのスイッチを押す。

 

 そして、ベルトのジョーカーメモリとサイクロンメモリを外し交換する。

 

「ヒート!トリガー!」

 

 Wはトリガーマグナムを出し、マキシマムモードに変えてメモリスロットにトリガーメモリを差す。

 

「トリガー!マキシマムドライブ!」

 

「「トリガーエクスプロ-ジョン!!」」

 

 

「グワアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 ヤーニング・ドーパントを高熱の炎で燃やし尽くし、メモリブレイクに成功する。

 

 その光景を見ていた刀使の一人、『益子薫』(ましこかおる)は、

 

「……かっこいい。」と小さく呟いた。

 

 ─折神家・門前─

 

「あの制服…平城学館の?」

 

「あっ、こここ、こんにちは!貴方も明日の試合に…」

 ─ ─ ─

「「!?」」

 

 二人の刀使は何かを感じ取り御刀を構えた。

 

 その後、平城学館の刀使は何も言わずに去って行く。

 

 もう一方の美濃関学院の刀使は不思議そうな顔をしていた。

 

 「…どうしたの?」

 

 一緒にいた親友も少し心配そうに声をかける。

 

 ─翌日─

 

「…」

 

 折神家の敷地内、当主である折神紫は『鎮魂』(たましずめ)を終え、直属の親衛隊が彼女を出迎える為に待機していた。

 

「鎮魂、お疲れ様でした。」

 

 親衛隊第一席、『獅童真希』(しどうまき)が労いの言葉をかけて迎える。

 

「紫様、織田防衛事務次官が御到着です。本日の大会は決勝戦のみ、紫様に御上覧頂きます。」

 

「僕と寿々花と結芽は会場の警備を、夜見は紫様の自衛を。」

 

「…」

 

 その中には昇の想い人、燕結芽がいた。

 

 彼女は退屈そうにしながらもどこか上の空であった。

 

 ─今、物語の歯車が動き出す。

 

 ギュィィィィン!(続く)

 ────────────────────── 

 仮面ライダー W!

 

 「にひっ、私も混~ぜてっ!」

 

 「折神紫…彼女の背後に何か嫌な気配を感じた。」

 

 「俺に質問をするな。」

 

 「嘘だ!嘘だそんな事!!」

 

 これで決まりだ! 

    第二話「Yとの邂逅/衝撃の再会」




前置きが長くなってしまいすみません。
書きたい事をたくさん書いていたら結果こうなってしまいました(汗
もっと上手い文章が作れたら…

オリジナルキャラ設定
坂路昇(さかみちのぼる)11歳、燕結芽の幼馴染みだった少年。内気な性格だが結芽が好きで、彼女の事になると周りが見えなくなってしまう危うい一面がある。
とじともの六角清香とアマゾンズの水澤悠をモデルにしている。


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第二話「Yとの邂逅/衝撃の再会」

お気に入り、しおり、コメント、評価、そして、第一話を読んでくれた方々、本当にありがとうございます。
正直こんなに見てくれる人がいるなんて夢にも思わなかったので、目から汗が止まりません…

今回は翔ちゃん視点の語り部が多くなります。本当は最初の部分だけにしようと思ったのですが、何故か止められなくなってしまいました(汗
あと今回も自分の悪い癖が出てしまい、前回よりも長文になっています。では、第二話をお楽しみください。


 仮面ライダーW! 今回の依頼は、

 

 依頼人「重い病気になって入院したんです。なのにある日突然退院して…刀使の仕事をしていて、結芽ちゃんを助けてください!」

 

 探偵「いきなり退院したって言うのは…何か引っかかるな。」

 

 相棒「直接会って見るのも悪くないかもしれない。」

 

 想い人「…」

 ──────────────────────

 

 あれから俺達はドーパントを倒した後、鎌倉署の警察が来る前に退散する事にした。

 

 ここは風都とは勝手が違う。

 

 照井や刃野さん、マッキーと知り合いだからこそ向こうでは融通が利くが、ここで目を付けられたらドーパントや闇の商人の仲間と勘違いされて余計身動きが取れなくなる。

 

 幸い誰も変身前の姿には気づいていないみたいだ。

 

 密かに変身を解き、その場を離れた。

 

「ここまで来れば大丈夫だな…じゃあ、まず宿泊先を探して一息ついたら調査を始めるか。」

 

 当初、すぐに照井から頼まれた調査に取りかかる予定だったが、いきなりドーパントが現れた為にそれどころではなくなり騒ぎが収まるまで宿泊先を手配してから、調査を開始する。

 

 そしてホテルを見つけ、暫くしたら俺は市内を廻り闇の商人に関する情報を探していた。(フィリップと昇は喫茶店で待機している。)

 

「…これだけ調べりゃ、上等か。」

 

 市民から聞くには闇の商人は常に一人で行動していて、神出鬼没だと言う事。決まった場所や時間などは無く、個人や集団に複製品のメモリを売り廻って足取りが掴めない様にしているみたいだ。

 

「他に分かった事はそんな形でメモリを買った不特定多数の奴らが、一人または複数人で昨日と同じドーパントになって市内の人々に襲いかかる…それぐらいか。」

 

 俺は二人の所へ戻り、風都の皆への土産を買いつつホテルに向かう。

 

 そして、一日は終わった。

 

 ───

 

「結芽ちゃん、あそぼー!」

 

「うん!いいよー、いっぱいあそぼー!」

 

「結芽ちゃん、その本なーに?」

 

「これはね、『青い鳥』っていう絵本だよー」

 

「チルチルとミチルっていう兄妹(きょうだい)が魔法使いのおばあさんに青い鳥を見つけてほしいって頼まれて、それを探しにいくんだけどねー」

 

「うん」

 

「色んな世界をまわって青い鳥を捕まえるんだけど、その鳥が黒い鳥だったり、死んじゃったり、持って帰れないまま『夢』からさめるの」

 

「それで朝起きたら、家の鳥籠の中に青い羽根があってね、それを見つけたの!」

 

「…青い鳥はどうしたの?」

 

「青い鳥は実は自分たちが飼っている鳩でね、本当の幸せは自分たちのすぐ近くあったんだっていうお話なの!」

 

「青い鳥かぁ…結芽ちゃんみたいにキラキラしてるのかなぁ」

 

「もう、昇くんってばおませなんだからー///」ゴッ!!

 

「結芽ちゃん、いたい!いたいって!」

 

「結芽ちゃん、大人になったら僕と一緒に本当の青い鳥捕まえにいこー」

 

「うん!いいよー!」

 

 …… ハッ!「青い鳥…」

 

 昇は幼き頃の夢を見て、起床した。

 

 ───

 

「…」

 

「…と結芽は会場の警備に、夜見は紫様の自衛を」

 

「!……(そろそろ行かなきゃ。)」

 

 折神紫親衛隊第四席、燕結芽は上の空だったが真希の話が聞こえて我に帰り、任務に移る。

 

 ─折神家・御前試合会場─

 

「ここが会場か…」

 

「…(結芽ちゃん、どこにいるの?)」

 

 俺達は開始の時間まで、燕結芽がどこにいるか刀使達に色々聞いて探し廻った。

 しかし、なかなか見つからず、聞くのは彼女の悪い話ばかりだ。確かに刀使の中でも飛び抜けた実力を持つらしいが何やら親衛隊の権限を振りかざして部下を困らせたり、任務中に隊長でありながら一人で勝手に行動するという、相当我が儘なおてんば娘の様だ。

 

「おい、大丈夫か昇。顔色が悪くなってるぞ?」

 

「…いえ、大丈夫です…」

 

 無理もねぇ、好きな娘がそんな風に変わり果てた事を聞いたらそりゃ、暗い顔にもなる。俺も風都で色んな女に会って来たが昇の場合はまだ小学生だ。こんな苦い経験をするのは酷って物だぜ。

 

「聞いたかい?翔太郎。刀使の歴史、御刀を通じて『隠世(かくりよ)』から引き出される様々な能力、それぞれが習っている剣術の流派、実に興味深い。何で僕は今までこれ程魅力的な事に興味を持たなかったのか、不思議で仕方ないよ。」

 

「お前はこんな時に何調べてんだぁ!」

 

 そうしてる内にまもなく大会が始まる。アナウンスが終わった後、俺達は一旦客席に座り試合が終わるまで観戦する事になった。また探すのはそれからだ。

 

「第一試合、…平城学館、『十条姫和(じゅうじょうひより)』。」

 

 最初の試合は綾小路武芸学舎の刀使と平城学館のロングヘアでどこか冷たい顔をした刀使の対決だ。ただ、あの十条って娘の顔を見ると初めて会った頃の照井を思い出す。

 

 俺の思い過ごしならそれで良いが、まさか後になってその勘が当たるとは思ってもいなかった。

 

「礼…双方、構え、『写シ(うつし)』、始め!」

 

 刀使は基本、写シという御刀の力によってその体に張られるバリアみたいな物を纏い、『迅移(じんい)』という超スピードで荒魂を斬ると言う超常的な戦い方だ。他にも色々、能力があるらしいがこの先は難し過ぎて俺にも分からない。

あの少女達が人々を守る為に次元が違う世界で戦ってると思うと頭が上がらねぇ。

 

 フィリップは刀使の事に夢中で、彼女達に聞いて廻り密かに地球の本棚で調べて知識を吸収していた。それで今、こいつは試合を食い入る様に見ている。

 

 ザンッ!「それまで! 礼。」

 

「! おい、相手痛がってるぞ!」

 

「大丈夫、肉体にダメージは受けない。だが写シを切られた事よってある程度、精神を消耗するみたいだ。」

 

「十条姫和…彼女の迅移による素早い戦法は圧倒的だ。さらにそれを活かす鹿島新當流という流派、彼女はかなり強い。」

 

「第二試合、鎌府女学院、『糸見沙耶香(いとみさやか)』。美濃関学院、『衛藤可奈美(えとうかなみ)』。」

 

 (? 攻撃が当たらない…)

 

 (良く視る、良く聴く、良く感じ取る!)キィン!

 

「それまで!」

 

「彼女達も凄い、一方は無表情でどの様な手で来るのか分からない。その一方で相手は迅移による追撃を防ぎつつ、最後には逆転する。」

 

「勝ったのは柳生新陰流の使い手か…あの美濃関の刀使にはもっと凄い才能があるのかもしれない。」

 

 ─

 

「キエー」ドスン!「何だ、あの御刀!? でっけぇ!」

 

「山金造波文蛭巻大太刀(やまがねづくりはもんひるまきのおおだち)号 袮々切丸(ねねきりまる) 実物は重要文化財として扱われ、退魔の剣と言われる程の逸話があるらしい。」

 

「あんな小さな娘が持てるって、どんだけ馬鹿力なんだよ…」

 

「はっ!」ザンッ! 「それまで!」

 

 ─

 

「負けたー」「やる気無しデスねー。」

 

「…俺達の本業は荒魂を倒す…だ。」

 

「これはこれで大事デース。」

 

 ─

 

「ハッ!」カキィン! 

 

「柄で防いだ!?すげぇなあの金髪の美人。」

 

「タイ捨流だね…様々な地形での戦闘を想定した実践剣法で、体術を取り入れた技もあるという。」

 

「what!?」 ザンッ!「やられたぁ~」

 

 姫和が勝った。

 

 (凄い…昨日感じたのは錯覚じゃなかったんだ…)

 

 それぞれが勝ち進み、準決勝に同じ学校の刀使同士での一戦がこれから行われる。

 

「礼、」

 

 (可奈美ちゃん、今まで何百回も打ち合って来た。お互いに手の内は…)

 

 (舞衣ちゃんの正眼は簡単には崩せない。技を誘って…!?)

 

「この準決勝、まさか同じ学院で揃うとは…!?」

 

 会場の殆どがどよめき始めた。フィリップも少し驚いている。

 

「居合いだって!?」

 

「膝付いて構えてんぞ…」

 

 (私は、私のやり方で…可奈美ちゃんに追い着くんだ!)

 

 『柳瀬舞衣(やなせまい)』という刀使が居合いの体制に入り、相手の衛藤可奈美はすかさず迅移を使って後ろに回り込み彼女もそれに反応して、後ろを振り向く。

 

 そして、舞衣が御刀の柄を握る手を可奈美は手で抑えて止めた。

 

「…っ!?」

 

 通路にいる結芽も見てはいないが、会場の雰囲気で何かを感じ取っていた。

 

 (舞衣ちゃん、私、勝ちたい…勝って、あの子と戦ってみたい!)ザンッ!「それまで!」

 

 勝者は可奈美だった。倒れた舞衣に手を差し伸べて起こし、互いに健闘を称え合う。そして、客席からの喝采に包まれた。

 

「決勝、頑張ってね。」「うん!」

 

 ─折神家・本殿─

 

 俺達は決勝の舞台である本殿の白州に移動した。

 

「決勝はここで行われるのか…雰囲気からしてまるで聖域の様だ。」

 

「正に時代劇でいう、殿様の御前で試合みてぇな物だな。」

 

 昇は本殿の方を見ると、

 

「あっ! ………結芽ちゃ…」「待て、昇!」

 

 警備をしている親衛隊の中にようやく燕結芽を見つけた。彼女は年相応の外見でありながらも、どこか儚げで神秘的な別の世界から来た様な美しさだった。

 成る程、昇が惚れるのも納得がいく。だがもうすぐ時間だ、試合が終わるまで待つしかない。俺は昇にこう言い聞かせた。

 

「昇、試合が終わったら会いに行こう。そんで今まで溜め込んでいた、思いの丈をぶつけて来い。」

 

「…はい! やっと、やっと結芽ちゃんに会える…」

 

 そして本殿の奥から折神紫が現れ、席に着いた。

 

「いよいよ御当主の登場か…今まで何をしていたんだろうね。」

 

「さあな。」

 

「まもなく決勝を始めます。選手は前へ!」

 

「礼、双方、構え、写シ、始め!」

 

 (何だろう…わくわくするのに震えが止まらない。)

 

 (車の構え…?) 姫和の視線は別の方に向いていた。そして、一瞬で消えた ─刹那、

 

 キイン!

 

 

「…それがお前の一つの太刀か」「…っ!」

 

 姫和は目にも止まらぬ速さで、紫に刃を向けた。だがそれは本人によって容易く防がれた。

 

「あれは…一体、何だ!?」

 

「どうやら十条姫和は迅移を三段階に加速させたみたいだ。 …そして、折神紫に向けて攻撃した。」

 

 すぐに追撃を仕掛けようとしたが親衛隊の一人に背後を突かれ、阻まれた。

 

「くっ…」写シが消え、粛清されると思ったその時、

 

 キィン!「迅移!」可奈美がその一撃を防いだ。

 

 姫和に迅移を促し、二人は逃げ始めた。

 

「お任せください。」「良い、追うな。」

  (あのおねーさんなら、きっと…)

「にゃはっ!」「結芽!」結芽が嬉々として後を追う。

 

 

 

 

「私も混~ぜてっ!」

 

 

 

 

 キイン!「にひっ、アハハッ!」「…っ、姫和ちゃん!」

 

 可奈美は姫和の手を引いて迅移を使い、逃走した。

 

「ずるい!」

 

「…もー」結芽は残念そうに見つめていた。 

 

 会場の全員が動揺している中、俺は密かにメモリガジェットの一つであるバットショットを起動し、二人の追跡を命じて飛ばした。

 

 (今の騒動もだけど、もう一つ気になるのは…)

 フィリップは何かを考えていた。

 

 ─

 

「さぁて、紫様の所へ戻ろうっと…」

 

「結芽ちゃん!」「!?」

 

 昇は結芽の名前を呼び、彼女に話しかける。

 

「結芽ちゃん、やっと会えた… 心配したんだよ。」

 

「何があったの?まさか、誰かに脅されてるとか…」

 

「もしそれで無理をさせられてるなら、僕が…」

 

「あのさ、」「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーれ?君、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…」「「!?」」静観していた俺達も驚く。

 

「…嘘…だよね?結芽ちゃん、僕の事「知らない」

 昇は結芽の手を握り、

「そんな…「触らないでっ!!」

 彼女に突き離された。

 

「おい、いくら何でもそれはねぇだろ!」

 

「おにーさん達、この子の保護者?だったら早く連れて帰ってよ。」「昇の事覚えてねぇのか!」

 

「しつこいなぁ、だから知らないって言ってるじゃん!」

 

「妙だね…記憶喪失でない限り、君はこの少年を知っているはずだ。」

 

「結芽!」「どうかなさいまして?」

 

 他の親衛隊員がやって来た。まずい、事態が悪化しそうだ。

 

「これ以上、私に変な言いがかりつけるなら公務執行妨害になるよ!それでも良いの?」

 

「くっ…仕方ねぇ。行くぞ、二人共。」

 

「待って、結芽ちゃん! うあああああああああぁっ、嘘だ!嘘だそんな事!!」

 

 ─翌日・鳴海探偵事務所─

 

 あれから俺達は事情聴取を受けたが照井の紹介という事もあってかすぐに解放された。その代わりこの件の事は口外しない様にと言われ、それで難なく風都に帰って来た。

 

 スパーン!!「いってぇ!何すんだ亜樹子ぉ!」

 

「何すんだじゃないわよ、どうして私を置いてったのよ!私も鎌倉行きたかったのにぃ~」

 

「仕方ねぇだろ!フィリップが試合の観戦に行きたがって、事務所を留守にする訳にも行かねぇんだからよ。」

 

「それに、お前まで連れてったら春奈ちゃんの面倒誰が見るんだ?」

 

 春奈とは照井夫妻の娘である。

 

「うっ、それは…昼間は保育園で…一日位竜君に任せても…」

 

「亜樹子ぉ!」「じょ、冗談よ!冗談!」

 

「とにかく、土産に鳩サブレー買って来たからこれで機嫌でも直せ。」

 

「は、鳩サブレ…ってそれで済む訳ないでしょー!大体、誰のお陰で「所長、そこまでにしてくれないか?」

 

 亜樹子の話を遮ったのはこいつの夫であり、風都署超常犯罪捜査課の刑事である照井竜という正にハードボイルドを体現した様な男だ。

 

 俺は照井に昨日までの事を全て話した。口外するなとは言われたが、警察官であるこいつなら昨日の騒動はある程度知ってるはずだ。

 

「そうか。話には聞いていたが、事件の裏でそんな出来事があったとは…」

 

「ああ…昇にとっては辛い結果になっちまった。」

 

「あの親衛隊の三人…出会った時から凄まじい殺気を感じたよ。ゾクゾクする位にね。」

 

「一人は荘厳、一人は薔薇の刺、そして、燕結芽からはまるで血に飢えた獣の様な。仕事柄とは言え、あんな少女達が普通では有り得ない殺気を放つのはあまりにもおかしい。」

 

「それと…十条姫和という刀使が折神紫に攻撃した時、折神紫の背後に何か嫌な気配を感じた。」

 

「それは…ドーパントが背後に居ると言う事か?」

 

「これから地球の本棚で調べる所だ。早速検索して見よう。」

 

 フィリップは地球の本棚で検索を始めた。

 

「キーワードは『衛藤可奈美』、『十条姫和』、『折神紫』」

 

「…この三人、どうやら意外な接点があるみたいだ。だが、これだけではまだ…!」

 

「何か分かったのか?」照井が問いかける。

 

「読めた。追加キーワード『荒魂』」

 

 追加キーワードによって再び検索が始まり、新たな本が現れた。

 

「…見つけたか?フィリップ。」

 

「…大荒魂という名前の施錠された本が出て来た。」

 

 一同は驚愕した。

 

「えっ?それって…」

 

「閲覧出来ない以上、情報は分からない。けど、大体分かった。折神紫…いや、折神家は荒魂に関する重大な『何か』を隠している。」

 

「一体どう言う事だ!?折神家は荒魂を倒す為に刀使を仕切ってんだろ?」

 

「翔太郎、荒魂はどこから生まれるか分かるかい?」

 

「突然出て来るんじゃないのか?」

 

「言うと思った…」呆れた顔をする亜樹子。

 

「御刀を作る材料である『珠鋼(たまはがね)』という神聖な希少金属があり、それを精製する際に砂鉄から出来る不純物、『ノロ』と呼ばれる物から荒魂に変化し、刀使によって倒された後、またノロに戻る。」

 

「そして、荒魂の元であるノロを回収するのが折神家だ。」

 

「!?まさか…」事務所の電話が鳴る。

 

「はい、昇君のお母さん?いいえ、居ませんが…えっ!」

 

「どうした?」「大変!昇君が行方不明になったって!」

 

「何だって!?皆で手分けして探すぞ!」

 

 ─東京・台東区─

 

 昇は、行く当ても無いまま家出をしていた。

 

「…僕はこれから、どうしたらいいんだろう」

 

「あの人達、どこかで…」『翔太郎、見てくれ。…まるでギターケースを…』

 

「!」 二人の少女達の後を追う。

 

 ─

 

「昇は見つかったか?」「駄目、どこにも居ない!」

 

 スタッグフォンが鳴り「フィリップ、どうした?」

 

「翔太郎、昇君を見つけた。彼は今、原宿方面に向かっている。」

 

「原宿!?どうして分かったんだ?」

 

「今、スタッグフォンを通して昨日の二人を追跡しているバットショットの映像を見ていたら、彼女達の近くにいる彼を発見した。画像を送るよ。」

 

 送られた画像には紺色のパーカーを着て、ギターケースを背負っている逃走した刀使二名とその後を追う昇の姿があった。

 

「あいつ、二人を尾行してんのか!?」

 

「恐らく、捕まえれば燕結芽の助けになると思っているんだろうね…」

 

「亜樹子、フィリップと一緒にあいつの所に行って来る。お前は待ってろ!」

 

「ちょっと!また留守番なんて私、聞いてない!」

 

「フィリップもあの二人に聞きたい事があるらしい。悪いが任せたぞ!」

 

 ─

 

「ノロの回収はどうする?」「ええっと…」

 

「私が要請します。」「「!?」」

 

 可奈美と姫和は荒魂を倒し、その残骸を集めていた。

 

 後ろから刀使らしき声が聞こえ、振り向くと…

 

「舞衣ちゃん…?」「美濃関の追っ手か…」

 

「待って、姫和ちゃん。舞衣ちゃんは私の親友で…舞衣ちゃん、どうしてここに?」

 

「スペクトラムファインダーに荒魂の反応があったから。荒魂はもう退治してくれたみたいだけど、そのお陰で会えた。」

 

「親友だと言うなら、何故御刀を向けている…」

 

「私は可奈美ちゃんの親友です。だから、私が可奈美ちゃんを助けます。」

 

「ちょっと…二人共、一度御刀を収めて「向こうにその気は無い様だ。」

 

「舞衣ちゃん!」「聞いて、可奈美ちゃん!」

 

「羽島学長が約束してくれたの。私と一緒に帰ってくれば、罪が軽くなる様、全力で助けてくれるって…」

 

「可奈美、良い機会だ。お前は帰れ。」

 

「そんな、姫和ちゃん…「でも、一つ条件があるの。」

 

「十条さん、貴方も一緒に折神家へ投降してもらいます。」

 

「残念だが、それに協力は出来ない。」

 

「協力しなくて良いです。私が力ずくでねじ伏せますから。」

 

「やって見ろ。」二人は刃を交えようとした。その時、

 

 キイン! 「!?」変形したスタッグフォンが双方の剣を受け止める。

 

「お嬢さん方、刃物で喧嘩とは穏やかじゃないな…」

 

「誰だ!?お前達は…」

 

「僕達は探偵さ。君達の敵ではない、とだけ言って置こうかな…」

 

 翔太郎、フィリップ、昇の三人がやって来た。

 

「そんな事、信用できると思ってるのか?」

 

「十条姫和。僕は折神紫の正体が知りたくて、ここに来た。教えてくれないかい?」「お前…」

 

「舞衣ちゃん、お願い!聞いて?」「可奈美ちゃん?」

 

「ごめんね、舞衣ちゃん…私も姫和ちゃんも、まだ捕まる訳には行かないの!」

 

「どうして…?」

 

「私、見たの…御当主様が姫和ちゃんの技を受け止めた時、何も無い空間から二本の御刀を取り出して…その時後ろに良くない物が見えたの。」

 

「良くない物…?」「やはり、お前には見えていたのか…」

 

 

 可奈美は頷き、「一瞬だったし、見間違いかと思ったけど、やっぱりあれは…荒魂だった。」

 

 

「やっぱり、そういう事だったんだね…」

 

 フィリップは可奈美の発言に驚きながらも察する。

 

「荒魂!?そんなはず…あの人は御当主様で、大荒魂討伐の大英雄で「違う!!」

 

「奴は、折神紫の姿をした…大荒魂だ!」

 

「「!?」」翔太郎と昇は衝撃を受ける。

 

「じゃあ、折神家も…刀剣類管理局も…伍箇伝も…」

 

「その全てを、荒魂が支配している。」

 

「とにかく、私は姫和ちゃんを一人には出来ない。だからお願い、舞衣ちゃん!」

 

「…本気…なんだね?」

 

「…うん」可奈美は静かに頷く。

 

「…分かった。」「舞衣ちゃん…」

 

 舞衣は写シを解き、御刀を鞘に収める。

 

「分かってるよ。可奈美ちゃんがする事はいつも本気なんだって事…」

 

「これ、忘れ物。」

 

 舞衣は可奈美に自分が作ったクッキーを渡す。

 

「他の荷物は押収されちゃって、返して貰えなかったんだ。」

 

「ありがとう…じゃあ、行くね。」「うん、またね。」

 

「あっ、十条さん。」「?」

 

 

「可奈美ちゃんを、よろしくお願いします。」

 

 

 舞衣は姫和に対し、頭を下げる。

 

「…私は自分のすべき事を果たすだけだ。」

 

「これからどうする?よかったら、うちの事務所にでも…」

 

 翔太郎は二人にこう提案するが、

 

「断る。まだお前達を信用できない…それに、その方が色々とまずいだろう///」二人は迅移を使い、その場を去る。

 

「っ!…おいおい、そりゃねぇだろ…」

 

「…翔太郎、君は女心を分かっていない。」

 

「んだとぉ!?」

 

「…」(荒魂が…じゃあ、結芽ちゃんは…)ギリッ!

 

 昇は俯きながら、歯を噛みしめた。

 

 ─翌日・風都─

 

「照井、もう行くのか?」「俺に質問をするな。」

 

 照井竜は闇の商人がメモリをばらまき、人々をドーパントに変える事件を捜査する為に鎌倉へ向かおうとしていた。

 

 翔太郎、フィリップ、亜樹子は見送りに来ていた。

 

「照井竜、気を付けた方が良い。これは僕の予想に過ぎないが…今後、あの場所で何か大変な事が起こるかもしれない。」 

 

 フィリップは照井に忠告するが、

 

「…フィリップ、知っているだろう?」

 

「俺は死なない。」

 

 照井は自身のバイクに乗る。そして、亜樹子に

 

「所長、行って来る…」「竜君…」

 

 照井は風都を後にする。

 

 ─

 

 そして、昇は…

 

「…もう一度、結芽ちゃんを助けに行くんだ。」

 

 再び、鎌倉へと向かう。

 

 ─

 

「フフッ、さて…次は誰に売るか…」

 

 ビルの屋上から鎌倉市内を見下ろす怪しげな男が手にしていたのは、『Y』の文字が刻まれたショッキングピンクの色をしたガイアメモリだった。

 

 ギュィィィィン!(続く)

 ──────────────────────

 

 仮面ライダー W!!

 

「おねーさんじゃ、そもそもあの人達には勝てないよ」

 

「そんな魂の籠もってない剣じゃ、何も斬れない!」

 

「おにーさん、退屈しのぎに遊んでよ」

 

「全て…振り切るぜ!」

 

 これで決まりだ!

     第三話「退屈なY/全てを振り切れ!」

 




ご感想・ご意見・アドバイス等、励みになります。

オリジナルガイアメモリ設定:ヤーニングメモリ
「憧れ」の記憶を内包したガイアメモリ。
ショッキングピンクの色をした外装でまきびしの様なYの文字に炎のオーラを纏ったディスプレイマークが中央に描かれている。
オリジナルドーパント設定:ヤーニング・ドーパント
ヤーニングメモリを差す事で、その力を得て変身するドーパント。西洋の騎士が装備する様な甲冑に左上半身にフリージア、右上半身にシクラメン、それぞれの花が数カ所に咲いており、花の色が意味する花言葉に憧れがある事から使用者の憧れをエネルギーに変換して能力を向上させる力を持つ。花言葉が意味する色次第で適合率が決まり、能力の上昇によっては一度のマキシマムドライブではメモリブレイクできない可能性も秘めている。


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第三話「退屈なY/全てを振り切れ!」

久しぶりの投稿になります。大変長らくお待たせしました!

それと、新しくタグを一つ追加しました。


 仮面ライダーW! 今回の依頼は、

 

 想い人「だーれ?君、」

 

 依頼人「ウソダ! ウソダドンドコドーン!!」

 

 逃亡者「奴は、折神紫の姿をした…大荒魂だ!」

 

 刑事「俺は死なない。」

 

 謎の男「フフッ…さて、次は誰に売ろうか…」

 ──────────────────────

 

 ─照井竜が風都を出る数時間前─

 

 衝撃の事実を知り、可奈美と姫和を見送った舞衣は降りしきる雨の中、折神家から来たノロ回収班に作業を任せ、ある人物と連絡を取っていた。

 

「逃走中の十条姫和、衛藤可奈美を追跡中、渋谷区代々木神園町にて荒魂と遭遇。これを両名の協力を得て鎮圧。」

 

「しかし、確保には至らず。両名共、取り逃がしました。申し訳ございません…」

 

─[居場所を特定出来ただけでもお手柄よ…貴方は戻って来て。]─

 

 自身と親友である可奈美が刀使として学び、属している美濃関学院の学長、『羽島江麻(はしまえま)』に先の出来事を隠しつつ、発見はした物の確保に失敗したと報告し、その場を後にする。

 

 ─因みに翔太郎達にも、話を聞く前に逃げられてしまった。

 

 ─刀剣類管理局・作戦司令室─

 

「はぁ…」

 

 江麻は目を閉じ、軽く溜息をつく。

 

「わたくし達親衛隊に出撃許可さえ下りていましたら…」

 

「事件発生から30時間、現状この件に関しては緘口令を敷いています。」

 

 側で舞衣の報告を聞いていた折神紫親衛隊第二席、『此花寿々花(このはなすずか)』は不満を漏らし、隣に居る親衛隊第一席、獅童真希は折神家によって召集され捜査協力をしている美濃関学院と平城学館の両学長に事件の経過報告を話し始める。

 

「御前試合に参加した刀使達も調べましたが他に共謀者は無く、どうやら両名のみの犯行と思われます。」

 

「あの子らに…一体、幾つの罪状が付くのやろねぇ。」

 

 江麻の隣に居る平城学館学長、『五條(ごしょう)いろは』が心配そうにしていると

 

 

 バンッ! 

 

 

 ドアを強く開ける音が響き、一人の女性がもの凄い見幕で怒鳴りながら入って来た。

 

 

「何をやっている、親衛隊!」

 

 

「雪那…」「雪那ちゃん…」

 

 その女性は『高津雪那(たかつゆきな)』、鎌府女学院の学長である。雪那は親衛隊と内輪揉めを始めた。

 

 状況を理解した後、舌打ちをして勝手に指揮を取る。

 

「両名の消失点周辺の防犯カメラを解析させろ。」

 

「雪那…」

 

「紫様に御刀を向けるなど…逆賊を育てた罪は重いぞ、両学長!」

 

 江麻といろはを睨み、雪那は司令室を出て行く。

 

「昔は先輩、先輩言うて可愛かったのに…いつからタメ口になったんやろねぇ。」

 

 ─

 

「沙耶香、貴方は東京に向かい潜伏中の逆賊を打ち取るのよ。」

 

「…はい」

 

 雪那は廊下で待機していた沙耶香に可奈美達の討伐を命じる。

 

「試合で敗れはしたけれど私の評価は変わらないわ…」

 

「貴方こそ我が鎌府が誇る最高の刀使、親衛隊のような試作品とは違う。」雪那は沙耶香の頭を撫で、耳元で囁く。

 

 沙耶香は無表情でありながらも、雪那の言葉にどこか複雑な気持ちでいた。

 

 ─

 

「ここで合っているのか?」

 

「うん、電話でここでって…」

 

 可奈美と姫和は舞衣から貰ったクッキーの袋に同封されていたメモに書かれた誰かの電話番号に連絡を取り、駅の階段で待ち合わせをしていた。

 

 (荷物に入ってた手紙、舞衣ちゃんの字じゃない。けど…)

 

「罠だった場合、戦闘も有り得るぞ。」

 

「舞衣ちゃんが渡してくれた手紙だから、罠なんかじゃないと思う…」

 

「あっ!」スーツを着た眼鏡の女性が話しかけて来た。

 

 姫和は警戒心からか反射的に構える。

 

「いたいた、びしょ濡れじゃない。貴方が姫和ちゃんで、貴方が可奈美ちゃんね?」

 

「は、はい…」

 

「私、『恩田累(おんだるい)』よろしくね。」

 

 恩田累と名乗る女性は二人に対し気さくに接する。

 

 彼女はハンバーガーショップの袋を二人に持たせて自身の車まで連れて行き、車中で運転しながら話しをする。どうやら可奈美と同じ美濃関出身の元刀使で卒業後も何かと恩がある羽島江麻から二人の事を頼まれたらしい。

 

 彼女の話により、クッキーに同封された手紙は江麻が書いた物である事が判った。

 

 累の自宅に到着し、今日はここに泊めて貰う事となった。入浴や食事、着替え用の部屋着から制服の洗濯まで世話になる上に何も詮索しないと言う。

 

 姫和はまだ警戒しているが彼女からは何の悪意も感じず、罠に掛けようとする素振りもない。累は明日早いからもう寝ると言って自室へ行った。

 

「良いのかな…こんな色々してもらって…」

 

「可奈美、少し良いか?」

 

 姫和は可奈美に御前試合で見た折神紫の背後に現れた荒魂の特徴等を聞き、これからどうするか話し合い、二人は眠りに着く。

 

 ─翌日─

 

 取り調べを受けていた多数の刀使達が解放され、バスに乗りそれぞれの学校へ帰って行く。任務の為、一人残る事となった舞衣は彼女達を見送る。

 

「皆、帰るんだ…」

 

「? あの子、鎌府の…」舞衣が目を向けた先には車に乗り、送迎される沙耶香の姿があった。

 

「hey!milady柳瀬!」「長船の…」

 

 先の御前試合に出場していた長船女学園の刀使二人が話しをかけて来た。二人はまるでバカンスにでも行くかの様な格好をしている。

 

「古波蔵(こはぐら)エレンデース。こっちは薫~♪」

 

「…益子薫。」

 

「任務、ご苦労様デシタ!お友達の事、心配でしょうけど落ち込まないデー!」「は…はい。」

 

「ご挨拶出来て良かったデース。私の両親と貴方のパパは、お仕事のパートナーですので。」

 

「父と?」

 

「おい、エレン…早くしろ。」薫が急かす様に言う。

 

「えっと、どこかへ?」

 

「私達、やっと自由になりマシタ!これから湘南で「仮面ライダーを探しに行くぞ!!」「ねー…ねッ!?」

 

 薫の頭上に謎の生物が乗って来た。その生物は薫の発言に驚愕する。

 

「まだそんな事言ってるんデスか?」

 

「あ、荒魂!?それにか…仮面ライダーって?」

 

 薫とエレンは試合の前日にまだ駅前に居た時、突如現れた怪人とそれを倒した仮面の男の事を話す。特撮ヒーローに憧れていた薫はその男を仮面ライダーと呼び、探しに行くと言って聞かない。

 

「あ、その事件は聞いています。古波蔵さん達もその場に居たんですね。」

 

「yes!びっくりしましたが仮面ライダー、カッコよかったデース!」

 

「俺達のこの格好で悩殺すれば怪人が釣られて、そこに仮面ライダーもやって来るに違いない…」

 

「ハイハイ、来るといいデスねー」

 

「棒読みの様に言うな!因みにこいつは俺のペットだ。」

 

「ねねは薫の友達デース。」

 

 ねねと言う荒魂らしき生物は舞衣の胸を見てそこに飛び込もうとしていた。だが、薫に尻尾(?)を掴まれ阻止される。

 

「行くぞ。」

 

「ではまた会いマショー。see you! マイマイ!」

 

 エレンと舞衣はお互いに手を振って別れた。

 

「…マイマイ?」

 

 ─

 

 昇は再び鎌倉にやって来た。何がなんでも結芽を折神家から取り戻そうとしていた。

 

「結芽ちゃんはもしかしたら、荒魂に操られてるのかも知れない…だから記憶が無いんだ。」

 

「もう左さん達の力は借りない。あんなに冷たい人達だとは思わなかった…」

 

 話は昨日に遡る。鳴海探偵事務所で昇は二人にもう一度、協力して欲しいと依頼した。

 

「お願いします!大荒魂が支配しているならあんな所に居ちゃいけない…結芽ちゃんを連れ戻したいんです!」

 

「昇、気持ちは分かる。俺達もそうしたいが…」

 

「翔太郎、僕から言うよ。」

 

 フィリップが話を遮り、昇に話す。

 

「残念だけど、これ以上僕達に出来る事は無い…君からの依頼は受けられない。」

 

「! ど…どうしてなんですか!?」

 

「僕達は警察に知り合いが居て、彼のお陰で燕結芽に会う機会を設ける事が出来た。そしてあの騒動が起きた…今後、どんな手段を講じても彼女に会うのは困難だ。」

 

「そんな…」

 

「それにこの事は国家レベルの機密事項になっているだろう…だとしたら、そこに僕達が介入すれば大変な事件に巻き込まれる。」

 

「でも…あの時、逃げていたお姉さん達を匿おうとしてたじゃないですか!」

 

「昇…あれから考えたが、俺達は一介の探偵だ。それでありながら、仮面ライダーでもある。俺達の使命はガイアメモリとドーパントの脅威からこの街を守る事だ…」

 

「うっ、そんな…うぅ…うあああぁっ!」

 

 昇は事務所を飛び出して行った。

 

「…」翔太郎は窓の方を向き、深く帽子を被る。

 

「これで良いんだ。翔太郎…」

 

 ─その経緯があり、今に至る。

 

 来たは良い物の11歳の少年に何も出来る筈が無く、昇は当ても無いまま街を彷徨う事となった。

 

 ─

 

「裏に回れ」「はい」

 

「はい、どちら様で…「警察だ」

 

 鎌倉署に派遣されて来た照井は合同捜査に当たり、最近設立された新興のカルトが本拠としている建物の住人を尋ねた。その集団は闇の商人からガイアメモリを購入しているとの噂がある。それを確かめる為、話を聞こうとすると

 

「…! け、警察が来た!」

 

 その人物が叫びを上げると左の掌に刻まれたガイアメモリを差す為の生体コネクタを見せ、上着のポケットから例のメモリを取り出し

 

「ヤーニング!」ヤーニング・ドーパントに変身した。

 

 ドガァァン!!  ガシャーン!!

 

「ミンナァッ!!ニゲロォォッ!!」

 

「くっ、待て!」照井は急いで追いかける。

 

 ─刀剣類管理局─

 

「…以上です。」「時間の無駄でしたわね。」

 

「何故すぐに応援を要請しなかった!」

 

 舞衣は雪那達に捜査結果を報告した。

 

 寿々花は呆れ、雪那は舞衣に怒号を浴びせる。ノロの回収を優先したと話すが、雪那からノロなど放置しろというその立場では信じられない様な言葉が出て来た。

 

「あろう事か鎮圧など…貴様、まさか逃亡を幇助したのではあるまいな!」

 

「っ! いえ…」

 

「…まあ、良い。後は我々鎌府が処理する。」

 

「下がって良い。」真希が退室を命じ、

 

「…失礼します。」

 

 舞衣は司令室を出る。すると、

 

「柳瀬さん。」後から来た江麻が呼びかける。

 

「学長…」

 

 舞衣は江麻に勇気を出して言う。

 

「あの…事の重大さは理解しています!でも、それと同じ様に可奈美ちゃんを信じていて…」

 

 フフッ…「二人なら大丈夫よ。」「!?」

 

 江麻は何かを悟り、舞衣にこう話す。そして二人が歩き始めた。その時

 

 

 

「ねぇねぇ、折角見つけたのに逃げられちゃったて本当?」

 

 廊下の壁にもたれ掛かって居た結芽が煽る様に言う。

 

「! 親衛隊の…」

 

「にひっ、」

 

 結芽は抜刀し、舞衣の喉元すれすれに切っ先を突きつけた。

 

「あははっ!弱すぎ~。」

 

 

「おねーさんじゃ、そもそもあの人達には勝てないよ」

 

 結芽は氷の様な冷たい表情で薄ら笑いを浮かべながら、無慈悲に言う。舞衣は冷や汗をかく。

 

「燕さん、御刀を収めなさい。」

 

 江麻は冷静に注意し、

 

「はーい。」結芽はその場を後にする。

 

 ─

 

「あ~、退屈で死んじゃいそ~ …?」

 

「ねぇ、聞いた?」

 

「聞いた、聞いた。鎌倉市内で怪人が暴れ回ってるんでしょ?」

 

「しかも、荒魂じゃないんだって…」

 

「御前試合の前日にも刀使が襲われたって聞いたわ」

 

 管理局内の刀使達が市内で起きている怪事件の話をしていた。結芽はそれを影で聞いていた。

 

「じゃあ、その怪人を倒したら皆、驚くかも…」

 

 ─

 

 市内の公園に逃げたカルトの集団は少数で総勢8人、その中にドーパントが1体、そこに照井が追いつく。

 

「メモリを使って、一体何をするつもりだ!」

 

「…どうせこの世は力がなければ希望はないんだ!」

 

「だから俺達はこの力を使い、理想の世界を作る!」

 

 

「ヤーニング!」

 

 

 残りの7人もドーパントに変身した。

 

「そうはさせん!」スチャッ

 

 照井はバイクのハンドルとメーターが中心にあるベルトを腰に装着する。タコメーターを模した形状の『A』の文字が刻まれた深紅に輝くメモリを取り出し

 

「アクセル!」

 

「変……身っ!」

 

「アクセル!」ドルンッ!!

 

 そのメモリをベルト中央のスロットに差しハンドルをひねる。彼の前に燃え盛る炎の様な色をした光輪が現れ、エンジン音を轟かせて変身した。

 

 真っ赤な装甲を纏い、頭部にAの形をした鋭い銀色の角と複眼状の青いモノアイがあり、重量級の大剣を持ち、その戦士はこう言い放つ─

 

 

「さあ、振り切るぜ!」

 

 

 その戦士こそ、仮面ライダーアクセル。照井竜のもう一つの姿である。

 

 

 ~BGM:疾走のアクセル~

 

「はあっ!」 ガキィン!

 

「グワアッ!」

 

 アクセルはその手に持つ大剣、エンジンブレードでドーパント達を相手に応戦する。ブレードの刀身を押し下げ、メモリスロットが現れた。そこに別のメモリを差し込む。

 

「エンジン!」

 

 そして、ブレードのトリガーを引き

 

「エレクトリック!」

 

「はあああぁっ!」バシィン!

 

「グアアアッ!」

 

 アクセルの足の後ろにあるローラースケート状のホイールを駆動させて回転し、電撃を帯びたブレードを振り、囲んで来た複数の敵を斬りつける。

 

「お、俺達に希望を持つなと言うのか。俺達は力を持ってはいけないのか!」

 

「エンジン!マキシマムドライブ!」

 

「俺にくだらない質問をするなあっ!」

 

 4体のドーパントに斬撃を放ち、その周囲には横一閃に赤いAの文字が広がっていた。

 

「グワアアァッ!」

 

「そんな…俺達の希望が…」

 

「希望だと?…お前達が使って良い言葉ではない!」

 

 アクセルはベルト中央のスロットにあるアクセルメモリをエンジンメモリに交換する。

 

「エンジン!マキシマムドライブ!」

 

「全て…振り切るぜ!」

 

 すると、ベルトの中心部を取り外して自身がバイクに変形し、残り半数の敵に向かって炎を纏い突進する。

 

 ゴオオオオッ!

 

「絶望が、お前達のゴールだあっ!」

 

「ウアアアァッ!」その炎の衝撃で残りの敵を全滅させ、メモリブレイクに成功した。

 

「…終わったか。」アクセルは応援を要請する為、変身を解こうとした。

 

 ─その時、彼の背後に刀で襲いかかる影が

 

 

  ヒュッ

 

 

     ガキィン!  ドゴッ!

 

「ぐああっ!!」ドサッ!

 

 アクセルは間一髪で気付き、エンジンブレードで防いだが相手の足蹴りによる追撃を受け、吹っ飛ばされた。

 

「あーあ、私が怪人を倒して皆に凄い所見せたかったのになー…残念。」

 

「き、君は…刀使なのか?」

 

 彼の前には御刀を手に持ち、高貴な制服を着た刀使と思われる可憐で無垢な一人の少女が立って居た。

 

「ま、いっか…あの怪人達を一人でやっつけたって事はおにーさん、強いんでしょ?」

 

「な…何を言っているんだ…君は…」

 

「あ、自己紹介まだだったよね?『折神紫親衛隊第四席、燕結芽』まあ、四席って言っても私が一番強いんだけどね。」

 

 (燕結芽!?…左達の依頼人の…)

 

 少女は目つきが鋭くなり、彼にこう言い放つ─

 

「おにーさん、退屈しのぎに付き合ってよ」

 

 

  ガキィン! キィン!

 

 

 アクセルは結芽が繰り出す素早い斬撃に防戦一方である。倒すべき敵はドーパントであって、彼女と戦う理由は無い。

 

「ほらほら、どうしたの?反撃の一つでもして見せてよ。さっき戦ってたみたいにさぁ!」

 

 (成る程、フィリップが言っていたのはこういう事か…確かに彼女からは冷たく、ビリビリとした威圧を感じる。)

 

「…はっ、しまった!」

 

 突然、彼女の姿が目の前から消えた。アクセルは何かに気付き、後ろを振り向くが反応が遅れ…

 

 キィン! 「ぐあああっ!」

 

 繰り出される三段突きを受けきれず、重さ約30キロもあるエンジンブレードが打ち上げられ、彼の背後の地面に突き刺さる。

 

「くっ、何て力だ…」

 

 (これが刀使の…あの折神紫親衛隊の実力か…)

 

「もー、つまんない!何で本気を出さないの?」

 

「俺がこの状態で戦うのはドーパントを相手にする時だけだ。」

 

「君こそ、何故そんなに戦いたがるんだ…」

 

「皆に私の凄い所を見せたいの!私には」

 

 

「結芽ちゃん!」

 

 

 彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

 ─その方向には昇の姿があった。

 

 昇は結芽の元へと向かう。

 

 

「…っ!」

 

「結芽ちゃん、やっと見つけた…」

 

「また君?いい加減しつこいなあ…」

 

「…本当に忘れちゃったの?」

 

 アクセルは確信を持ち、昇に話をかける。

 

「君が昇君か。左達から話は聞いている…君達の過去の事も…」

 

「えっ、仮面ライダー?左さん達とは違う…」

 

 彼が翔太郎達の仲間と分かった為か、昇は自然に話をする。その後、アクセルは結芽に問いかける。

 

「何故そこまで彼を拒絶するんだ…フィリップの話では君がこの少年の事を忘れるはずは無いと言っていた。」

 

 結芽は段々、表情を曇らせる。

 

「結芽ちゃん、僕は…」

 

「もうやめてよ!さっきから聞いてれば『結芽ちゃん、結芽ちゃん』って、お母さん離れ出来ない子供みたいに!」

 

「…!? うっ!」

 

「結芽ちゃん!?」

 

「大丈夫か!?」

 

 結芽は胸を押さえ、苦しみ出した。昇は急いで介抱しようとするが

 

「来ないで!」ドンッ! 

 

 彼女に突き飛ばされてしまう。

 

「うっ…くっ…」

 

「結芽ちゃん、まさか…」

 

「どうやら彼女の病気は完治した訳では無いらしい…」

 

 昇とアクセルはその様子から察する。

 

 それでも、結芽は

 

「おにーさん…早く決着つけようよ…」ヒュッ

 

「また迅移か!?」

 

 迅移を発動し、さらに素早さを増した。それは通常の物とは異なる、『二段階』へと加速させた迅移だった。

 

 ─「これで…決めるよ!」

 

 二人には見えない中、彼女はアクセルに向かって真っ直ぐに突きを放つ。対する彼は

 

「エンジン!」エンジンブレードにエンジンメモリを差し込む。

 

 そして、ブレードのトリガーを引き

 

「スチーム!」ブレードから蒸気が噴出し、それを目の前に撒く。周りにその煙が立ち込める。

 

「…? 目眩ましのつもり?無理だよ。もう避けきれない…!?」ヒュバッ!

 

 

       チッ  

                                   

           ─タンッ!

 

 

 

「おにーさん、何考えてるの!?死にたいの!?」

 

 結芽は何かに気付くと寸止めをして翻り、後方へ着地した。煙が晴れたその先を見ると

 

 

 ─変身を解いた照井が険しい顔をして立っていた。

 

 

 その額には彼女の御刀である『ニッカリ青江』の切っ先がかすった傷跡からたらりと少量の血が流れている。

 

 結芽は煙で視界を遮られた中で彼の顔が見えた。それに気付き、攻撃を中止した。

 

 照井は結芽の問いに答える。

 

「…余計な真似をしてすまない。君を冷静にさせる為、敢えてこの手段を取った。」

 

「そして、今の質問で分かった。君の心はまだ優しさを失っていない。」

 

「教えてくれ…君は一体、彼に何を隠しているんだ?」

 

「!?」

 

 照井が命を賭してまでこの行動に至ったのは、彼女から真意を聞く為だった。

 

「もう、良いよ…つまんない…」

 

 結芽は照井からの問いに答える事もなく後ろを向き、その場を去ろうとした。そこに昇が

 

「結芽ちゃん、覚えてる?」

 

「…」彼女は足を止める。

 

「結芽ちゃんが入院して、僕がお見舞いに行った時…」

 

 

 ─

 

「昇君…私、重い病気なんだって…」ハァ…ハァ…

 

「そんな…」

 

「パパも、ママも…あんまり来てくれなくて、寂しいよ…うっ、ぐすっ…」

 

「きっと、病気を直す方法を探してくれてるんだよ。大丈夫、結芽ちゃんの病気は絶対に直るよ。」

 

「そっかぁ…ごめんね、ちょっと不安だったから…」

 

「良いんだよ。」

 

「昇君…昔、大きくなったら青い鳥を探しに行こうって…約束したよね?…うっ」

 

「もう無理しないで、休んだ方が良いよ…」

 

「もし、昇君との約束…破っちゃう事になったら…」

 

「結芽ちゃん…あれからあの本を読み返したけど、幸せは自分の近くにあるのかも知れない…その意味が今になって分かった気がする。」

 

「あの時はただ、キラキラと輝く感じがしたからその鳥と重ねてたけど…」

 

「僕に取っての『青い鳥』は『結芽ちゃん』だったんだ…そう思ってる。」

 

「うっ…昇君…」

 

 ─数日後─

 

「…」結芽は憔悴しきっていた。

 

 昇は枯れていた赤い花を取り替える。

 

 (結芽ちゃんのお父さんとお母さん、まだ探してるのかな…)

 

「僕が付いてるから…」

 

 昇は不安になりながらも、彼女の手を握って励ます。

 

 ─

 

 

「あれからいきなり退院して…刀使として立派に活躍してた。最初は驚いたし、心配もしたけど…」

 

「でも、嬉しかった。」

 

「!?」

 

「やっと、結芽ちゃんの病気が直ったんだと思ってた…」

 

「だけど、違うんだよね?…本当の事を」

 

 

 ヒュッ ─結芽は迅移を使い、姿を消した。

 

 

「結芽ちゃん、どうして…」

 

 ─

 

「…あの刑事、仮面ライダーだったのか。…邪魔だな。」

 

 謎の男は少し遠い場所からその一部始終を見ていた。

 

 ─

 

 その後、病院にて昇は治療を終えた照井と話をする。先日の御前試合の件で手配の協力をしてくれた事を知り、昇は彼に感謝の意を伝える。

 

「じゃあ、あれは照井さんが…ありがとうございます。お陰でまた、結芽ちゃんに会う事が出来ました…」

 

「良いんだ。それより何故、君がここに…」

 

 昇は照井に再び鎌倉を訪れた経緯を話す。

 

「そうか…左達がその様な事を…」

 

「頼れる人も居なくて、僕にはもう何も出来ない…」

 

「子供とは元々、そういう者だ。」

 

「これからどうすれば…」

 

 落ち込んでいる昇に照井はこう告げる。

 

「君は良く頑張った。今は辛いだろうが君のその想いはいつか、きっと実を結ぶ。例え遠回りになるとしても…」

 

「その中で再び彼女と向き合い、救い出す方法を見つける事が出来るかも知れない…」

 

「まずは左達と、もう一度向き合ってみないか?」

 

「あいつらは、君の笑顔を失わせる様な事は絶対にしない…」

 

「左さん達と…向き合う…」

 

 ─

 

 バンッ!「左さんっ!」

 

「あっ、昇君…」

 

「改めて、お願いがあります!」

 

 昇は翔太郎達に今、自分の決意を伝えようとする。

 

「無理だと言うのは分かってます…でも、僕は結芽ちゃんにまた会いたい!あの娘と向き合いたいんです!」

 

「昇君、昨日も言った筈だ…僕達は」

 

 フィリップの前を翔太郎は手で遮り、話を止める。

 

「翔太郎…」

 

「今は無理でも…例え遠回りになっても、諦めたくない!それ位…僕に取って結芽ちゃんは掛け替えのない存在なんです!だからもう一度、力を貸してください!」

 

「お願いします!」昇は頭を下げる。

 

「昇…本気なんだな?」「はい…」

 

 亜樹子が固唾を呑んで見守る中、翔太郎は

 

「…フィリップ、二人の居場所は分かったか?」

 

「えっ?」

 

 翔太郎の言葉に昇はキョトンとし、何かを察した亜樹子は嬉しそうな顔をして

 

「翔太郎君…」

 

 そして、フィリップはやれやれと言う感じで呆れながら

 

「立川にあるタワーマンションの一室に潜伏中だ…」

 

「翔太郎、君が衛藤可奈美の靴に飛ばしたスパイダーショックの発信機はいつ気付かれるか分からない…そろそろ動いた方が良いんじゃないのかい?」

 

「いや、まだ様子を見た方が良いな…もう夕方だ。下手したら余計、警戒されるからな…」

 

「あの…」

 

 昇はまだ状況を理解出来ずにいた。

 

「昇、そこまでの覚悟があるならお前も一緒に来い。あの二人に協力して、折神紫の振りをした大荒魂を倒しに行くぞ!」

 

「!? …はいっ!」

 

「けど、翔太郎…事と次第によっては何日かかるか分からない。未成年者を長期間連れ回すのは犯罪だ…」

 

「あっ…そうだったな…」

 

「僕が両親に上手く言って置きます!」

 

 こうして昇は翔太郎達と共に折神家に対抗すべく、衛藤可奈美と十条姫和の足取りを追う事となった。

 

 ─俺達は前へと進み始めた。この時から運命の歯車が狂い、険しい道を昇る事も知らずに…

 

       ─翔太郎は後に、こう語る。

 

 ─

 

「…了解、これより任務を開始します。」 

 

           ─

『立ち向かう覚悟はいいね?』

 

『Yes/No』

 

         『Yes.』

 

『今日と言う日は完璧になった!』

 

『以下の場所へ。』

           ─

 

「…」「…はっ!」「!?」ガキィン! キィン!

 

 可奈美と姫和は累の誘いで、彼女のパソコンに表示されているチャットを閲覧していた。

 

 そこで姫和が何者かとチャットにて会話をしていたが突然、敵の刺客が家の窓ガラスを突き破り襲いかかって来た。それを姫和が受け止める。

 

「可奈美!千鳥を取って来い!」「うん!」

 

「貴方も奧へ!」累も急いで避難する。

 

「貴様、鎌府の…」

 

 姫和の前には鎌府女学院の刀使、糸見沙耶香が居た。

 

 沙耶香は目を赤く光らせ、まるで機械の様に無表情であった。

 

 ─キィン!

 

 (何だ?この速さ…)

 

 姫和はベランダから飛び降り、彼女もそれを追いかける。二人は落下している間も応酬し合っていた。

 

 (一瞬の加速では無く、持続的に迅移を使っている?そんな事が出来るとは…)

 

 着地をした二人は戦闘を再開する。

 

「まだだ…ならば、こちらも!」姫和も迅移を発動し、応戦した。

 

 (もっと…もっと深く!) 

 

「はあっ!」─ザンッ!

 

 姫和は迅移を加速させ、沙耶香を斬り伏せる。

 

 (技の影響か、もう写シは張れない様だな…!?)

 

 写シが張れない状態になっても彼女は表情を変えずに立ち上がり、姫和に再度襲いかかる。

 

「まさか、写シ無しで!?」

 

 (…斬るしか、無い。)覚悟を決めたその時、

 

「駄目!」可奈美が駆けつけて来た。

 

「どいて、姫和ちゃん。私が相手する!」

 

「お前に…こいつを斬る覚悟があるのか?」

 

「斬らない!」

 

「!?」姫和は可奈美の発言に驚く。

 

 可奈美と沙耶香は再び、刃を交える。

 

 (この子の剣、前はこんなじゃなかった…剣から何も伝わって来ない。)

 

「そんな魂の籠もって無い剣じゃ、何も斬れない!」

 

 可奈美は彼女の御刀の柄に手を伸ばし、それを取って投げ捨てた。沙耶香は戦意を失う。

 

「…?」「覚えてる?一回戦で戦った衛藤可奈美。」

 

「あの試合すっごく楽しかった…沙耶香ちゃんの技、ドキドキしっぱなしだったんだよ。」

 

「また私と試合してくれない?」

 

 可奈美は彼女の手を取り、笑顔で握手を交わす。

 

「約束!」「…!」

 

 沙耶香は彼女の笑顔に少し驚く様な反応をした。

 

 (私には斬るという選択しか思い浮かばなかった。だが、可奈美は…)

 

 姫和はそんな可奈美の行動に違和感を覚えた。

 

 ─

 

「ごめんね。こんな所で…」

 

「…ここで、解放?」「連れ回す訳にも行かないし…」

 

 沙耶香は二人と共に累の車に乗っていたが途中、どこかの路地で降ろされる。姫和からは御刀を返され、ここで三人と別れる事となった。

 

 その後、進む先に検問を見つけた累は二人に逃げる様、促した。

 

 ─翌朝・鳴海探偵事務所─

 

「じゃあ、気を付けてね…三人共。」

 

「ごめんね。亜樹ちゃん、また留守を任せてしまって…」

 

「良いの。どの道、私は残らなきゃいけないし。」

 

 亜樹子には娘である春奈が居る。そして、夫である照井の帰りを待つ為に風都に残る事になる。

 

「亜樹子…」

 

「皆…必ず、無事で帰って来てね。」

 

「ああ。」「もちろん。」「はい!」

 

 こうして、翔太郎、フィリップ、昇の三人は出発する。その方法とは─

 

「そういえば、これからどこへ…どの様な方法で行くんですか?」

 

「…成る程、二人はどうやら伊豆へ向かっている様だね。」

 

「昇、ついて来い。」「は…はい…お邪魔します。」

 

 翔太郎は帽子が掛けられている扉を開け、それに昇もついて行く。

 

 螺旋階段を降りた先には壁の一部にホワイトボードが複数設置されている場所とその下にバイクが置いてあるガレージがあった。

 

「ここは…」「僕達の秘密基地さ。」

 

 周りを見渡す昇にフィリップはこう答える。

 

「そういや昇、親御さん達には何て言って来たんだ?」

 

 昇は両親に幼なじみであった結芽と再会した事を話し、まだ病気が治っていない事を知り、翔太郎達と共に色んな病院を回って治療してくれる医師を探しに行くという名目で同行の許可を得たと言う。

 

「はぇ~…んじゃ、行くとするか」

 

 機転を効かせた昇に翔太郎が関心すると、三人がガレージ最深部の中央に辿り着き、両翼から機械音が鳴り始めた。

 

 ウィィィン ガシャン! 「えっ?」

 

 下から上がる両翼は翔太郎達のバイク、『ハードボイルダー』を中心に三人を包み、その外側はWの顔を模した黒い装甲が覆う。これこそ、翔太郎達と共に戦って来た特殊大型車両『リボルギャリー』である。

 

 リボルギャリーが発進し、ガレージからの通路を経て風都の公道に出た。それに昇は驚く。

 

「ええええええええっ!!?」

 

 ─

 

 一方、可奈美と姫和はヒッチハイクをしてトラックに乗せて貰い、道の駅で降ろして貰う。二人は運転手にお辞儀をした。

 

「ありがとうございました。」

 

「助かりました。」  ブロロ…

 

「~結構、疲れた…姫和ちゃんは?」

 

「…姫和ちゃん?」

 

「可奈美…」

 

「何?」

 

 姫和は可奈美に何かを伝えようとしていた。

 

 

 ギュィィィィン!(続く)

 ──────────────────────

 

 仮面ライダー W!!

 

「この二人、まるで二人で一人…」

 

「私は決めた…母さんのやり残した務めを私が果たすと…」

 

「さあ、山狩りだ」

 

「……許さないよ。」

 

  これで決まりだ!

   第四話「Yの獣道/山狩りに怒りの咆哮を」




スランプも含め色々あってちびちびと執筆していた為、更新が遅れてしまいました…(汗

とじみこの時系列がまさか2018年だとは思わなかったので「じゃあ、照井夫妻の娘が居ないとおかしいよなぁ…」と思い、作中にて春奈ちゃんの事について書きました。
第二話にも事務所で話している場面に付け加えてあります。
これからも時間がかかる作品になるかもしれませんが、どうか気長に待って読んで頂けると幸いです。


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第四話「Yの獣道/山狩りに怒りの咆哮を」

薫「この連載は悪魔の化身、真庭紗南の提供でお送りします。」


 

 仮面ライダーW! 今回の依頼は

 

 想い人「折神紫親衛隊第四席、燕結芽。まあ、四席って言っても私が一番強いんだけどね。」

 

 刑事「教えてくれ…一体、彼に何を隠しているんだ?」

 

 依頼人「例え遠回りになっても、僕は諦めたくない!」

 

 逃亡者A「斬らない!…また私と試合してくれない?約束!」

 

 逃亡者B「私には斬るという選択しか思い浮かばなかった。だが、可奈美は…」

 ──────────────────────

 

 翔太郎達は、風都を後にして伊豆方面へと向かう。衛藤可奈美に付けた発信機の反応はまだ途絶えておらず、それを追って進んでいる。

 

 車内では色々な話をした。昇は自ら再び鎌倉へ行き、結芽と再会したがそこで彼女と戦っていた照井と出会い、またもや彼女に逃げられた。その後、彼の言葉に勇気付けられた事を二人に話す。

 

「そんな事が…しっかし、あいつもとんでもねぇ目に遭ったな。」

 

「けど額のかすり傷だけで済んだ…照井竜の強運には毎回驚かされるよ。それはそうと、」

 

 フィリップは持参していたクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、二人に渡した。

 

「まだ夏場ではないが暫く窓の無いリボルギャリーの中に居る事になる…結構蒸すだろう。」

 

「水分補給は大事だ。必要な時に飲みたまえ。」

 

「はい…ありがとうございます。」

 

 昇が受け取る。

 

「どうしたフィリップ、やけに気が利くな…」

 

「何を言っているんだ、備えあれば憂い無しと言うじゃないか。」

 

「今日は雪でも降るんじゃ」

 

 

 キイィッ! 

 

 

 翔太郎が皮肉を言う途中でリボルギャリーは突然、急停止した。

 

「ってぇ…何だ、いきなり!」

 

「翔太郎、あそこに人だかりが!」

 

 フィリップが前方を確認すると少し先にある道の駅の方に多くの人々が集まっていた。

 

 三人は外に出て様子を見に道の駅へと向かう。そこで目にした物は幾つもの大きな直線状の傷跡がめり込んでいる駐車場の光景だった。既に警察によって警戒線が貼られており、現場検証が行われている。

 

「あれは…ドーパントの仕業か!?」

 

「あの傷跡は…」

 

 フィリップはある事を思い出す。

 

「翔太郎、御前試合で見た巨大な御刀を使用した刀使を覚えているかい?」

 

「ああ…あの小っこい少女か、ねね…何とかっつうでっけぇ御刀を持ってたよな?」

 

「祢々切丸さ…あれによる攻撃なら傷跡の形状と一致する筈だ。」

 

「確か彼女は長船女学園の代表だった。その実績を見込んで、折神家があの二人への刺客として送り込んだのかもしれない…」

 

「だとすりゃ、もう戦ってるって事か…こうしちゃいられねぇ。急いで探すぞ!」

 

「そうだね…戦闘中に発信機が壊されたら捜索が困難になる。行こう!」

 

 三人はリボルギャリーに戻り、急ぎ彼女達を追う事となった。

 

 

 

 ─数時間前─

 

 可奈美達は道の駅に降り、乗せてくれたトラックの運転手に感謝を伝えた。トラックが去った後、姫和は可奈美に話を切り出す。

 

「可奈美…」 「何?」

 

「お前には色々と助けられた…礼を言う。」

 

「だが、やはりここで別れよう。」

 

「…だから、私も姫和ちゃんと一緒に行くって…」

 

「この先は…無理だ、一緒には行けない。」

 

「どうして?」可奈美は納得が行かず、姫和に問う。

 

「昨夜の事で分かった」

 

「お前の剣と私の剣は別物だ。私は『斬る剣』、対してお前は『護る剣』だ。この先は斬る剣しか必要ない…」

 

「そんなの…勝手に決めないで、姫和ちゃんがそう思ってるだけだよ。」

 

 可奈美は少し声を荒げ反論する。そして、姫和の口から衝撃の言葉が出て来る。

 

 

 

 

「可奈美、お前は実際に人を斬った事があるか?」

 

 

 

 

「え…?」可奈美は姫和の問いに戸惑う。

 

 

 

 

「写シ…じゃなくて?」「ああ、もしくは荒魂化した人を…」

 

 

 

 

「ない…けど…」

 

 

 姫和は更に話を続ける。近年、人が荒魂化する事象は殆ど無いが姫和の母が刀使であった時代では珍しくはなかったと言う。

 

 荒魂化すれば最早人間ではなく、稀に記憶を残し言葉を話す個体もいるがそれでも荒魂と変わらず、斬らなくてはならなかった。斬って祓う事でしか救う手段が無いからである。

 

「私達刀使は…人々の代わりに祖先の業を背負い、鎮め続ける巫女なんだ。」

 

「…分かってるよ」

 

 冷静に話す姫和と辛い現実に打ち拉がれる可奈美、ここでそれぞれの覚悟の違いが明確になる。

 

「これから私がやろうとしてる事は荒魂退治だ。だが、限りなく人斬りに近い…私は折神紫を斬る。」

 

「それを阻む者も、それも極めて私怨と変わらない動機でだ…」

 

「…お前には斬れない、だからここで別れるんだ。」

 

 姫和の決意はその凛とした表情と共に揺るがず、再び歩みを始めた。可奈美は彼女を引き止めようとして手を伸ばす。

 

「待って…」 

           キィン!

「緩いな」 

 

 姫和は自身の御刀『小烏丸(こがらすまる)』を可奈美に対して振り下ろした。彼女もそれを自身の御刀『千鳥(ちどり)』で受け止める。姫和の顔は先程までとは違い、鬼気迫る表情となっていた。

 

「お前は戻れ…戻って荒魂から人々を護れ。」

 

 姫和はこう言い残して去って行った。

 

 可奈美はただ呆然と立ち尽くすだけだった。

 

 

 ─刀剣類管理局─

 

「鎌府学長…」 「は…はい!」

 

「追撃を許可した覚えは無いが?」

 

「は、反逆者の所在を特定しましたので…お手を煩わせるまでも無いかと独自の判断で」

 

「勝手な真似は許さん」

 

 紫は雪那を執務室に呼び出し、これ以上独断で動く事の無い様にと釘を刺した。

 

「ですが、許せないのです!」

 

「紫様に御刀を向けた逆臣が手の届く場所でのうのうとしている事に…何故私にお任せくださらないのです!」

 

「高津学長、お言葉が過ぎます」

 

 雪那の話を止めたのは折神紫親衛隊第三席、『皐月夜見(さつきよみ)』である。夜見は紫の警護の為、常に傍に付いている。

 

「貴様…」

 

 雪那は夜見に対し、憎悪の目を向けていた。何故か親衛隊の中でも彼女を一番目の敵にしている。

 

「雪那」 「はい!」

 

「貴様は先ずやるべき事をやれ」

 

「…もう良い。下がれ」

 

 雪那は夜見を睨み付け、執務室を出る。

 

 夜見は何も感じる事が無いかの様に表情を変えず立っていると

 

「夜見」 「…?」紫は彼女にある命令をする。

 

 ─

 

 ガラッ… 

 

 黒のワゴン車から二人の刀使が降りた。

 

「んん~…デース。」

 

「ったく、あのオホーツクババア…」プルルル…

 

 ピッ ─[薫、何か言ったか?]─

 

「ウェッ! マリモッ!」 ピッ…

 

「…どんだけ地獄耳なんだよ」

 

「薫も大変デスネー」他人事の様に言うエレン。

 

 

 ─それは昨日の事、

 

「日射しは最ッ高…だが、」

 

「…仮面ライダーに会えなかった。」シュン…

 

 折神家から解放され、湘南のビーチにて薫とエレンははバカンスを満喫していた。しかし、まだ夏ではなく少し肌寒い位の気温なのに薫はそれを感じない程、仮面ライダーを見つける事が出来ずに項垂れていた。

 

 エレンとねねはビーチバレーをしている。ねねのレシーブをエレンがジャンプサーブで打ち返すと薫の方へ勢い良く飛んで行った。

 

「ゴメンナサーイ、薫もやりマセンか~?」

 

「…遠慮します。」

 

 プルルル…ピッ 「ハイ、…えっ、任務?急デスね?」

 

「知らん、休暇中だと言って置け」

 

「知らん、休暇中だ…だそうデス。」

 

 エレンは悪戯を思い付いた様な笑みで薫の耳にスマホを当てると…

 

 ─[ゴルアァァァ!!薫、てめえ!ざっけんなぁ!]─

 

 電話の相手から凄まじい怒号が放たれた。その衝撃で傍にあった日傘も吹き飛ばされる。

 

「…だが、任務と言っても祢々切丸が無い。昨日宅配便で送ったからな」─[送り返した]─   

 

「…は?」

 

 すると、空から黒い飛翔体が薫達の前に落ちて来た。その飛翔体には宅配便で長船に送った筈の薫の御刀、祢々切丸が縄で括り付けられている。

 

「ワオ…」 「税金の無駄遣い…」 

 

 ─そして、今に至る。

 

「でも良い子にして頑張ったら、いつか仮面ライダーに会えるかも知れマセンよ…準備は良いデスか?」

 

「そうだな…行くか。」 「ねーっ、ねっ!」

 

 スーッ… 薫の頭に乗っているねねはその身を透明化させた。

 

「では…ミッション、スタートデス!」

 

 エレンが張り切りって取り仕切る。

 

 ─

 

「…!」タッ

 

 立ち止まっていた可奈美は何かを決心し、姫和を追いかけようと走り始めた。その時、

 

「見つけマシタァァァッ!」 キィン!

 

 ─新たな刺客が襲い掛かる。

 

「…美濃関学院、中等部二年、衛藤可奈美デスね?」

 

「っ!…そうだけど…」

 

「長船女学園、高等部一年、古波蔵エレン。」

 

「…で、こっちが薫~。」

 

「さあ、お前の罪を数えろ…」

 

「えっ?(私の罪状って他にもあったっけ…?)」

 

 薫の唐突な発言に困惑する可奈美。

 

「折神家当主に刃を向けた不届き者~、覚悟するデース!」

 

「…ところで、十条姫和はどこデス?」

 

「姫和ちゃんなら居ないよ…でも、追うなら私が相手になる。」

 

「なら、話は早いデス!」  ドガァッ!

 

「糞面倒臭い…」薫はエレンの隣で祢々切丸の鞘を割る様に破壊し、自身の御刀を構える。

 

 (薬丸自顕流…)

 

「キエー」  ドガァァァン!

 

 祢々切丸の斬撃の跡が地面にめり込んだ。

 

「何て威力…」

 

「ちっ、避けてたか…めんどくさ、受けたらそのまま潰せたのに「っ!」 ガキィン!

 

「はあっ!」 

 

 すかさず攻撃に移る可奈美の前に金色の輝きを纏うエレンがその身で防ぎ、蹴り上げて反撃する。

 

「金剛身!?」

 

 『金剛身(こんごうしん)』とは刀使の能力の一つで、写シとは違う防御方法である。肉体の耐久度を上昇させ、物理的な攻撃を防げるがその効果は長時間持続させる事が出来ないという。

 

 それに加えてエレンの流派は剣と格闘術を併用するタイ捨流である。尚更、金剛身と相性が良い。

 

 (金剛身を使ったタイ捨流と体術…?)

 

「…っ!」 キィン! キィン! キィン!

 

 可奈美が怯んでいる隙に薫は続けて斬撃を繰り出す。

 

 ガラガラ…

 

 (この子相手に距離を取ったら駄目だ、間合いを詰め無いと…)

 

「はっ!」戦況を分析している可奈美に間髪入れずエレンが攻撃し、邪魔をする。

 

 (これじゃ間合いが詰められない。この二人、まるで二人で一人!?)

 

 益子薫と古波蔵エレン、二人は刀使としてもいかなる時でも最高のコンビである。

 

 ガシッ! 「しまっ…」 「やった!」

 

 エレンはようやく可奈美の腕を掴み、薫の方へと振り向く。

 

「捕らえマシタ!今デス、薫…」

 

 

 

 

 

 振り向いたエレンの眼前に見えるのは斬りかかって来る十条姫和の姿だった─

 

 

 ザンッ!

 

 

 

 

 間一髪の所でエレンは姫和の斬撃を回避した。

 

「…はぁ~、危なかったデース…」

 

 

「姫和ちゃん、何で!?」「お前こそ何故逃げない!」「だって…」

 

「これでやっと2対2デスね!」

 

 可奈美と姫和は森の奥へと逃げる。だが完全に巻く事は出来ず、二人に追いつかれた。

 

 四人は戦闘を再開する。

 

「駄目!この人達、息がぴったりで…」「くっ…」

 

「ふふ~ん、私と薫はベストマッチ!デスから。」

 

「ならば…」姫和はエレンに対し斬りかかろうとするも、フェイントをかけて突進し、懐に飛び込む形で近くの木にぶつけた。

 

 一方で薫は祢々切丸をフリスビーの様に可奈美に向けて投げるが当然、彼女にそれ跳んで避けられてしまう。

 

 だが、  「ねねー、…っ!」ブンッ!

 

 透明化していたねねが尻尾で祢々切丸を掴み、振り回されそうになりながらも薫の方へ向けて投げた。

 

「荒魂!?」「そうだ。目が良いな…」薫の手元に戻る。

 

「どう言う事~?!」可奈美は更に困惑する。

 

 ─

 

「先日は試合で負けマシタが…今回はどうでしょう?」

 

 姫和が攻撃するとエレンは金剛身で防ぐ。

 

 彼女の余裕の理由と強みを大体、理解した姫和は

 

「こんな戦いを…」

 

「試合でやると、怒られマスねー。」

 

 エレンは挑発する様に右足を上げ、構えていた。

 

「…っ!」「!?」

 

 可奈美が目配せをして姫和がそれに気付く。

 

「覚悟!」エレンが攻撃を始める。

 

 対する可奈美も千鳥を振り下ろし、彼女は金剛身を発動するが─

 

「…っ!」

 

 攻撃を止め、エレンが狼狽えた隙に姫和が彼女の喉元に切っ先を突き付けた。

 

 その直後、薫は可奈美に狙われて動きを封じられる形となった。

 

「今度の刺客は長船か…何故この場所が分かった?」

 

「フッフッフーン、それは秘密デース。」

 

 姫和がエレンに質問していると、

 

  ガブッ 「ねねー…」

 

 ねねが姫和の足に噛みついて来た。

 

「何だ…? 荒魂!?」

 

「あの子の言う事を聞くみたい…」

 

 薫の方に目をやり、姫和に伝える。

 

「荒魂を使役か…質問に答えろ。さもなくば、」

 

「姫和ちゃん!」

 

「私は目的を果たす。阻む者は斬る…」

 

「ちょっと、待ってクダサイ!」

 

「話す気になったか?」

 

「もう少し、あと5秒程…」

 

「5秒…?」可奈美が疑問に思ったその時、

 

 ドオォォン! 「…ゲホッ、ゲホッ。」

 

 落ちて来た黒いロケットの様な飛翔体が二機、地面に突き刺さっていた。それを見た姫和は

 

「S装備!?対荒魂殲滅用の…?」

 

「えっ?私なんて研修で1回しか着た事無いよ?」

 

「私もだ…」

 

 その飛翔体は『S装備』、別名『ストームアーマー』と呼ばれる物が入っている運搬用のコンテナだった。

 

 S装備とは刀使が強力な荒魂や大荒魂に対抗する為に作られたパワードスーツでまだ試験段階にあり、滅多に装着する事の出来ない特殊武装である。

 

 煙の向こうにはS装備を装着した薫とエレンの姿が…

 

「フッフーン、お色直し完了デス!」

 

「仮面ライダー薫、見参…」

 

 薫がある意味、衝撃的な一言を発する。

 

「…は?」

 

「仮面…ライダー?」

 

「薫、二輪免許なんて持ってマシタっけ?」

 

「いや、俺はまだ…って、雰囲気だけで言っても良いだろうがぁ!」

 

 格好良く決める為の台詞が逆に空気を重くしてしまった事に薫は気付いていない。

 

「おい、こいつはさっきから何を言っている!」

 

「こっちの話デース、気にしないでクダサイ!」

 

「とにかく…これで形成逆転デスね!」

 

 エレンが仕切り直した後、可奈美と姫和は御刀を構えて

 

「姫和ちゃん!」「ああ…」

 

 

「行くよ、せーのっ!」  ヒュッ

 

 

「…えっ?」 二人は迅移を使い、その場を去る。

 

 静かな森の中、S装備の状態でいる薫とエレンだけが取り残された。

 

「おい!ヒーロー物の主役が活躍するシーンだろうがぁっ!」

 

 薫はこう叫んだ。

 

 ─

 

 刀剣類管理局の作戦司令室では雪那が紫に命じられ、鎌府女学院に戻る準備に取りかかっていた。

 

「鎌府の者は撤収だ。この件から手を引く…」

 

 (何のお役にも立てぬまま…)

 

 そう考えていた矢先、周りがどよめく。

 

「どうした?」真希が鎌府の生徒に尋ねた。

 

「横須賀基地から問い合わせが。南伊豆の山中にてS装備の射出があったかと…」

 

「そんな報告、受けていませんわ…」

 

 寿々花も戸惑う。

 

 送られてきた映像を見ると二機の飛翔体が上空を飛んでいる様子だった。間違い無くS装備の運搬用コンテナである。

 

 それは折神家の許可無くして発射する事は出来ない筈だと、殆どの者が驚愕した。

 

「撤収は延期だ!」 

 

 雪那は息を吹き返したかの如く、嬉しそうに声を張る。

 

「今すぐ正確な着地点を割り出せ!」

 

  ガチャ

 

 

「獅童さん、此花さん…」

 

 扉を開けたのは夜見であった。

 

 そして、二人に

 

「紫様から出撃命令が出ました」

 

 

      「ご準備願います」

 

 ─

 

「紫様も勿体つけますわね。」

 

「君が紫様のお傍を離れるとは珍しい…」

 

「索敵には私の力が役立ちます」

 

「結芽は居残りですの?」

 

「彼女が出ると、不必要な血が流れますので…」

 

 親衛隊の三人はヘリポートへと向かう。

 

 ─

 

 執務室にて、結芽は中央のソファに座っていた。

 

 その様子はかなり思い詰めている表情だった。

 

 

 

 「…」

 

 

 

 何も無い。まるで世界に自分一人しか居ない空間みたいで、恐怖で押し潰されそうだった。

 

 

 そんな中、彼女は考えていた。

 

 

 

 思い返していた─

 

 

 

 『結芽ちゃん!』『!?』

 

  嘘…

 

 『心配したんだよ。』

 

  止めて…

 

 『もしかして誰かに脅されているの?』

 

  見ないで…

 

 『無理をさせられてるなら僕が…』

 

  ─になった私を…

 

 

 『あのさ、』『えっ?』

 

 

 

 

 

 

 『だあれ? 君、』

 

 

 ─

 

 

 『いきなり退院して…刀使として立派に活躍してた。最初は驚いたし、心配もしたけど…』

 

 

 『でも、嬉しかった。』

 

 

 『!?』

 

 

 『やっと、結芽ちゃんの病気が直ったんだと思ってた…』

 

 

 

 

  決して後ろを振り向かなかった結芽─

 

 

  その瞳から流れる涙が頬を伝う。

 

 

 

 『でも、違うんだよね?本当の事を』

 

 

 

 

   ヒュッ

 

 

 ─

 

 

 「…」

 

 

 沈黙だけしか無い。

 

 

 その中で結芽は─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「昇君の馬鹿ぁっ!!」ガシャァァン!

 

 

 

 テーブルに置かれていた花瓶を取り、思い切り投げた。

 

 

 

 花瓶は細かい破片しか残らない程、粉々に割れて床や壁は水でびしょ濡れになっている。

 

 

 

 花だけが放り出され、残っていた。根元から水分を吸収出来なくなって、後は枯れ行くばかりである。

 

 

 

 結芽は声を漏らす事も無く、ただ一人で泣いていた。

 

 

 ─

 

「追って来ないね…」可奈美達は何とか逃げ切った。

 

「まだ開発中の特殊装備だ。使用時間に制限があった筈…」

 

 パラパラ…

 

「…雨か、強くなりそうだな。」

 

「あっ」廃屋を見つけた。

 

 二人はそこで、雨宿りする事に

 

 ─

 

 ザーッ…

 

「で、どうだった。アイツらは?」

 

「能力的には問題無しデスね~。後は…」

 

「薫は、どう思いマシタ?」

 

「…ただの向こう見ずじゃ、なさそうだな」

 

 ─

 

 可奈美と姫和は見つけた廃屋の中で休息を取っていた。

 

 二人は黙り込んで座っている。雨音しか聞こえない中、可奈美が話しを始めた。

 

「ありがとう、助けに来てくれて…」

 

「…」

 

「…あの二人と戦う前、思ったんだ。姫和ちゃんの剣は重たいって」

 

 可奈美は続けて、今まで戦ってきた刀使の話をする。昨夜の敵の事、さっき戦った二人の事、それでも姫和の剣が一番重さを感じたと言う。

 

「…何が言いたい?」

 

「姫和ちゃんの剣には意志が乗ってる。目的を成し遂げようって意志、だから重たい…そう思った。」

 

 可奈美は御前試合で姫和と戦う事を楽しみにしていたと彼女に話す。だが、姫和の目には自分など映っていなかった事を不満に思っていたと伝える。

 

「私、結構頭に来てたんだ。姫和ちゃんに無視された事…」

 

「…あと、黙って見てたら殺されちゃう事にも」

 

「!?」姫和は可奈美の言葉に驚く。

 

 それもその筈、彼女の様な奇特な考えであの時の自分を助ける者などそうそう居ないからだ。

 

「私には覚悟が無かった。何をするって意志も…」

 

「でも、今なら言える。私の剣が護る剣なら…姫和ちゃんの目的と姫和ちゃんを護る!」

 

 可奈美の決意を聞いた彼女は閉ざしていた口を開く。

 

「それは結局、人斬りの手助けをするという事だ。」

 

「違うよ!」

 

「御当主様に化けた荒魂を斬る。それ以外は私が斬らせない!」

 

「…それが私の覚悟だよ。」

 

 彼女の覚悟を聞いた姫和は

 

「私が折神紫を倒す理由…」「えっ?」

 

「話したくなったら話せと言っただろう?」

 

「…今、話す。」

 

 二人が都内で逃亡生活をしていたある日の夜、姫和は可奈美に何も聞かないのかという質問をした。彼女は話したくなったら聞く。それまでは聞かないと言って問い詰める様な事は一切しなかった。

 

 姫和は可奈美の事を信頼した。だからこそ真相を打ち明けると決めたのだった。

 

「20年前の事件は知っているな?」

 

「相模湾岸大災厄?江ノ島で史上最悪の大荒魂が現れて、それを紫様率いる今の伍箇伝の学長達によって編成された特務隊が討伐したって言う…」

 

「その特務隊に…私の母もいた。記録には残されていない。」

 

「当然だ…世に知れ渡っている事の顛末は何もかもが虚偽だからな…」

 

「…どう言う事?」

 

 姫和は隠し持っていたある手紙を渡す。その内容は可奈美も知っての通り、大荒魂の事である。

 

「唯一、奴を討ち滅ぼす力を持っていたのが私の母だ…だが完全には倒せなかった。」

 

「…奴は折神紫に成りすまし、生き延びた。」

 

「刀使の力を使い果たした母は年々弱って行き去年、私が見守る中で息を引き取った。」

 

「その夜、私は誓った…母さんの命を奪ってそれでも尚、人の世に潜み続ける奴を討つと、母さんがやり残した務めを私が果たすと…!」

 

 姫和は押し殺す様に涙をこらえながら自分の決意、それによる覚悟を彼女に話した。

 

「お前の言う重たさの半分は刀使としての責務、半分は私怨だ。だからお前が付き合う必要は無い…」

 

 すると、可奈美は

 

「そうだね…でも、重たそうだから」

 

「私が半分持つよ」姫和の手を取りこう言った。

 

 ─

 

 南伊豆の山中、折神家が特殊機動隊『STT』を従えて拠点を敷く。その指揮は親衛隊である獅童真希が取っていた。

 

「雨、上がりましたわね」「ああ…」

 

 寿々花が空模様を伺い、真希は険しい表情で号令をかける。

 

「さあ、山狩りだ」

 

 ─

 

「雨…止んだね。」「指定された場所までもう少しだ…行くぞ、可奈美。」

 

 雨が止み、二人は廃屋から出てきた。目的地への移動を再開しようとするが

 

「…見つけマシタ、こんな所で仲良く雨宿りしてたのデスね。」

 

 薫とエレン…先程まで戦っていた相手に見つかってしまう。二人は雨の中探し回り、びしょ濡れになって疲れ果てていた。

 

「さっきの!」可奈美と姫和は再度、御刀を構える。

 

 対する二人は何故かクラッカーを構えていた。

 

 その時である。

 

 

 ゴ オ オ オ オ オ ッ 

 

 「…」

 

 ライトに照らされた四人は道路に現れた黒く光る大きな装甲車両を見て固まっていた。

 

 車両は黒い外観の中央に赤い目の様な物体が二つ、その上にYの文字にも見える銀色の触覚の様な突起物、後方には何か機械の様な物が収納されている円形状のコンテナがある。

 

 正に特撮ヒーロー物に出て来る巨大マシンその物だった。

 

 それを見た薫は

 

 (見るからに怪しい…けど、何かドキドキする…)

 

 ウイーン

 

 車両は中央から左右に分かれて開き、その中から二人の青年と一人の少年が出て来た。

 

 タッ

 

「雪ではなく雨が降った。翔太郎、読みが外れたね…」

 

「うるせぇ!」

 

「あっ、お姉さん達が他の刀使達と戦っています!」

 

 翔太郎、フィリップ、昇の三人はようやく可奈美達を発見し、四人の方へと足を進める。

 

「やっぱり、長船の代表二人が刺客だった。」

 

「ああ、お前の読みは当たったな。」

 

 可奈美と姫和は御刀を構えているのだが、後の二人はクラッカーを構えたまま目を丸くして固まっている。その異様な光景を見た翔太郎は

 

「なあ、フィリップ…良く分かんねえがあれも刀使の攻撃の一つなのか?」

 

「閲覧した本にそんな事は書かれていなかった…興味深い。今度、検索して見よう。」

 

「お前達は…」

 

「あの時、助けてくれた。確か…探偵…さん?」

 

「そうだ。やっと見つけたぜ…」「何故ここが…」

 

 姫和の問いにフィリップがこう答える。

 

「衛藤可奈美。君の靴に発信機を付けさせて貰った。」

 

「えっ…?」可奈美は靴を確認し、スパイダーショックの発信機を見つけた。

 

「積もる話は後にして、それよりも…」

 

 ここでフィリップはある提案をする。

 

「翔太郎、変身だ。」「!?」

 

 変身という言葉に薫は反応する。

 

「は?ドーパントじゃねぇんだぞ!」

 

「相手は刀使だ…相当な戦闘訓練を受けている。この状況を打開するにはそれが最善だ…」

 

「サイクロン!」

 

「…やるしかねえのか。」

 

「ジョーカー!」

 

 

      「「変身!!」」

 

 

    「サイクロン!ジョーカー!」

 

 

 二人は吹きすさぶ旋風に包まれる。それが止むと一人の青年は倒れ、もう一人は緑と黒、二色の戦士に変貌する。

 

  仮面ライダーW、サイクロンジョーカー

 

 翔太郎とフィリップの意識が一つとなり、『二人で一人』となった姿である。

 

 昇は気絶したフィリップを支え見守る。

 

「さあて、長船の刀使達…ここからは」

 

 パァン! 突然、クラッカーの音が鳴る。

 

「仮面ライダー!仮面ライダーだ!やっと会えた!」

 

 薫は大喜びした。

 

「ワンダホー!貴方達があの時の仮面ライダーだったんデスねー?」

 

 エレンは驚いたが薫と同様に喜ぶ。

 

「かっこいい!それ、どうなってるんですか?」

 

 可奈美もワクワクしながら聞いて来る。

 

「……えっ?…えっ?…えっ?」

 

 勿論、Wは困惑する。

 

「フィリップ、一体どうなってんだ?」

 

「…僕にも理解出来無い。」

 

「…ん?」

 

 何か気配を感じ、下を向く。

 

「ねー」 「ねねー…」

 

 ねねがWの足元に寄って来た。

 

「う、うわああああぁっ!ば、化け猫ぉ!」

 

「ねねーっ!」「違います!ねねは俺のペットです!」

 

 Wの左側に居る翔太郎は恐怖の余り、叫び声を上げた。薫は弁明し、ねねは心外だったのか怒り出す。

 

「翔太郎、落ち着くんだ!」

 

「だってよぉ!フィリップ、化け猫が…変な尻尾の化け猫がぁ!」

 

「それは荒魂だ!」「…えっ?…あ、荒魂?」

 

 更にこの状況について行けない者が居た。

 

 当然、姫和の事である。彼女は唖然としている。

 

 薫、エレン、可奈美にWが詰め寄られている中、少し離れていた姫和は話を聞く為、ポカンとしながらも歩みを始めた。

 

 ─

 

 Wは変身を解き、一同は落ち着いて話の整理をする事に。

 

 翔太郎、薫、エレンは地面に散らばったクラッカーの残骸をかき集め、掃除をした。

 

 そして

 

「…話は大体、分かりマシタ!」

 

「つまり…そこに居る燕結芽のボーイフレンドである小さな依頼人の為に、折神紫を倒すという目的でカナミンとヒヨヨンを探していたんデスね!」

 

「ひ…ヒヨヨン!?」

 

 いきなりあだ名で呼ばれ、姫和は戸惑う。

 

 昇は恥ずかしいのか、翔太郎の後ろに隠れる。

 

「そう言えば、君達はクラッカーを持っていたね…あれは一体、どういう意味なんだい?」

 

 フィリップが薫とエレンに尋ねると、

 

「あ…忘れてた、お前ら合格な。」

 

 薫が我に返り、可奈美と姫和にこう伝えた。

 

「あの…エレンさんと薫ちゃん、合格って…」

 

「待て!俺はエレンと同い年だ!」「えっ!?」

 

 以外な事に、翔太郎が驚く。

 

「翔太郎さんなら良い。だが、お前らには「あっ、私もエレンちゃんが良いデス!」

 

「うん、エレンちゃん!」「畜生、確定しちまった…」

 

「なんつーか、お前も苦労してんだな…」

 

 翔太郎は不敏に思い、愕然とする薫の肩に手を置く。

 

「文字通りの意味デス!お二人は『舞草(もくさ)』のテストに合格しマシタ!」「もく…さ?」

 

「舞草…初めて日本刀を作った鍛冶集団の一つと聞く。その名前を用いて刀剣類管理局内で変革派の折神紫に反発する組織がいると言う…成る程、それが君達だね?」

 

「良く調べたな…公になっていない情報の筈なんだが…」

 

「…そう言えば、閲覧や検索といった言葉を発してマシタね。貴方、もしかしてハッカー…デスか?」

 

 薫とエレンはフィリップに対し、警戒する。

 

「あぁ…いや、違う。まあ、似た様なもんだが…」

 

 翔太郎がフォローに回る。なってはいないが…

 

「そんな曖昧な言い方で「信じます!翔太郎さんの言葉なら!」薫?!」

 

 薫は何故か翔太郎の言葉を信用する。彼女は先程から、彼に憧れの眼差しを向けていた。

 

「信じて貰えないだろうが、僕等は君達の味方のつもりだ…力を貸して欲しい。」

 

 フィリップは率先して四人に頼み込む。翔太郎は驚いた顔をした。彼が他人に頭を下げる事など滅多に無いからだ。

 

「フィリップ…お前、一体どうしたんだ?今日は何かおかしいぞ…」

 

「…折神紫から燕結芽を救い出す為には刀使の協力がどうしても必要だ。」

 

「お願いします!結芽ちゃんを助けたいんです!」

 

 昇も必死に頭を下げる。そして、翔太郎も

 

「…頼む、この通りだ。」

 

 その時、

 

「…! ねねーっ!「どうした、ねね?」ねーっ!」

 

「荒魂だ!囲まれているぞ!」姫和の持つ方位磁石の様な物が、荒魂の反応を感知した。

 

 ブワッ! ねねはその方向へと走り出し、薫とエレンが追いかける。

 

「!? 来るよ!」可奈美が叫ぶ。

 

 すると、森の方から蝶の様な荒魂が群れをなして一同に襲いかかる。

 

「凄い数…何でこんなに?」

 

「とりあえず、お話の続きはここを突破してからデース!」

 

「分かった!行くぞ、フィリップ! 昇!」

 

 エレンの指示で全員四方に別れて荒魂を巻いた後、合流する事に。しかし、

 

「うわあああっ!」「昇、どこ行った!?」

 

「サイクロン!メタル!」サイクロンメタルに変身し、メタルシャフトと言う棍棒で荒魂を振り払おうとするが

 

 ブワアッ! 「ぐわあぁっ!!」

 

 Wは簡単に吹き飛ばされてしまった。

 

 ─

 

 郎…翔太郎…

 

「ん…」「翔太郎!」

 

「はっ!フィリップ、昇は!?」

 

「…すまない。大量の荒魂が押し寄せ、為す術が無かった。昇君とは…はぐれてしまった。」

 

 キュオン!

 

 Wの変身は強制的に解かれていた。フィリップの身体はエクストリームメモリが回収し、翔太郎の元に彼を届けた。

 

 このガイアメモリはフィリップをデータ化して取り込み、彼を守る事が出来る特殊なメモリの一つである。

 

「このままじゃ昇が危ねぇ…急いで探すぞ、フィリップ!」

 

 ザッ… 他の者の足音が聞こえる。その先には

 

「君達は…どこかで会った気がするな…」

 

「思い出しましたわ…確か御前試合の時、結芽に話しかけていましたわね。」

 

 翔太郎達が出くわしたのは真希と寿々花だった。

 

「荘厳と薔薇の刺か…」フィリップは含みのある言葉を口にする。それを耳にした真希は

 

「何の事だ?」「…こっちの話さ」

 

「おい!お前ら、折神紫の親衛隊だよな!」

 

 翔太郎が食ってかかる様に真希に話しかける。

 

「いかにも。親衛隊第一席、獅童真希だ…」

 

「知らないだろうが、お前らの御当主様は大荒魂だ!もうそんなのに…」

 

 ピクッ 

 

「!?」フィリップが真希の様子の変化に気付く。

 

「…今、何と言った?」

 

「だから、御当主様は大荒だ」「翔太郎!」

 

 ─カッ

 

 真希は自身の御刀を鞘から抜き、瞳が赤く光り、燃え上がる闘気を纏いながら、鬼でも憑依したかの様な鋭い目で翔太郎達を睨む。

 

 何も知らない彼女は紫を大荒魂呼ばわりされた事に激昂する。そして、

 

     ゴオオオォッ…

 

「紫様を愚弄するかっ!無礼者おおっ!!」

 

 

     ドオオオオオンッ!

 

 真希は御刀を振り下ろす。その斬撃はまるで、光の衝撃波を縦に飛ばした様な一閃だった。

 

 パラパラ…

 

「…っ。翔太郎、ここは一旦」

 

「! 翔太郎!!」

 

 フィリップが血相を変える。翔太郎の左上腕には切り傷があり、そこから血が流れていた。

 

「大丈夫かい!?翔太郎!」「ああ、問題無ぇ。ただのかすり傷だ…」彼の傷は幸い、浅かった。

 

「お前の言う通りだ。今すぐ逃げ」

 

 すると、フィリップは

 

「…よくも翔太郎を……許さないよ」

 

「フィリップ?」

 

「何を抜かすかっ!」

 

 ガキィン! 「!?」

 

 フィリップに斬りかかろうとした真希の剣が何かに弾かれた。

 

 ガシャン! ガシャン! 

 

 玩具の恐竜の形をした自立型の機械が彼への攻撃を防いだのだった。

 

「これはファングと言ってね…独立した思考回路を持つ…僕のSPの様な物さ」カチャッ!

 

 ファングと呼ばれる機械がフィリップの手の甲に乗り、彼はそれをある形状の物に変形させる。

 

 それはガイアメモリであった。

 

 ガシャ! 「ファング!」

 

「よせ、フィリップ!刀使相手にファングを使うな!」

 

「翔太郎…彼女の目は本気だ。戦わなければ僕等が殺される…」

 

「…」「ジョーカー!」

 

「ふざけた真似を…許さんっ!」「真希さん!」

 

 流石に状況が不味いと判断した寿々花は真希を止めようとする。だが、彼女の耳には届いていない。

 

「獅童真希、これ以上来るのなら…僕はもう、知らないぞ…」ガシャン!

 

 ジャキィン!  「変身!」シュイイイン!

 

 

    「ファング!ジョーカー!」

 

 

  オ オ オ オ オ オ オ オ オ

 

 

 大気は揺れ、その衝撃が周りを襲う。

 

 砂埃が消え、現れた戦士は満月に照らされ、猛る咆哮と共に姿を見せる。

 

 右側に白、左側に黒、歪な刺々しさを思わせる。正に獣と言える様相だった。

 

 

   ─仮面ライダーW、ファングジョーカー

 

 

 フィリップのみが変身出来る。強力なWの一つの形態である。

 

「…こんな」「真希さん?」

 

「こんな異形の者達が紫様を侮辱するのか…」

 

 ─カッ

 

 真希は完全に冷静さを失っていた。

 

「…っ、真希さんっ!」寿々花の制止も効かず、彼女は突撃して行く。

 

 ガシャン! 「アームファング!」ギィン!

 

        キィンッ!

 

 

 「はああああああああああああああっ!!」

 「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

   ギリギリギリッ…  ガキィン!!

 

 真希の御刀『薄緑(うすみどり)』とファングジョーカーの右腕から生えた刃、アームセイバーが激しい鍔迫り合いを起こし、お互いが交差する様に跳んだ。

 

「しっかりしろ、ファングの力に呑まれかけてるぞ!」

 

「…問題無い、君が居る限り…僕は正気さ。」

 

 フーッ フーッ 

 

 フィリップは翔太郎にこう答えるが彼もまた、冷静さを欠いていた。

 

 ヒュッ (後ろが…がら空きですわ!)

 

 ファングジョーカーの後方から寿々花が迅移を使い、斬りかかって来た。彼女は真希の支援に回ろうと攻撃するが…

 

 ガシャン! ガシャン!

 

 「ショルダーファング!」キィン! ドカッ!

 

 「きゃあっ!」「寿々花!」

 

 ファングジョーカーの右肩から突き出る刃、ショルダーセイバーが寿々花の剣を防ぎ、彼女を弾き飛ばす。

 

「己、よくもおぉっ!」ヒュッ ダンッ!

 

 真希も迅移を発動する。彼女はまるで壁を蹴る様に相手の後ろにある木を踏み台として、空中まで跳んだ。

 

 真希はファングジョーカーの頭上へとその剣を振り下ろす。

 

「はああああっ!!」 ブンッ!

 

     ガキィン!

 

「オオオオオ…」ギリギリッ…

 

 ショルダーセイバーで受けた彼女の剣が肩に重くのし掛かって来る。当然、その重さに耐えかねて 

 

 ギィンッ! 「「ぐああぁっ!!」」 

 

     ドガァッ!

 

「ぐっ…」フィリップの動揺と翔太郎のドーパントで無い相手に対する配慮もあり、真希の圧倒的な剛剣に追い詰められていた。

 

「そんな…有り得ない!ファングジョーカーのパワーと互角…いや、それ以上だなんて…」

 

「伊達に親衛隊を名乗っちゃいねぇって事か…悔しいが、退くしか「…ぁ」フィリップ?」

 

「…あああああああああああああああっ!!」

 

「おい!どうした、フィリップ!!」

 

 フィリップは理解が追いつかず、混乱状態に陥る。そして、彼が取った行動は─

 

  ガシャン! ガシャン! ガシャン!

 

 

  「ファング!マキシマムドライブ!」

 

 

    「止めろ!フィリップ!!」

 

 ファングジョーカーの右足、その後方から最後の刃が出て来た。

 

 マキシマムセイバーと呼ばれるその刃で空中へと跳び、回転蹴りを繰り出す。

 

   ブォン  ブォン

  

「…所詮は化け物、本性を現したか」

 

 真希は薄緑の刀身を光らせ、マキシマムセイバーに目がけて

 

 重く鋭い一撃を放つ─

 

 

   「ファングストライザァァァッ!!」

 

 

     「喰らえっ!鬼突き!!」

 

 

 ドオオオオォォォォォッ! …ギギギギッ!

 

 

 

   バキィンッ! ドサッ! 

 

 

 互いの攻撃が反発しあい、凄まじい衝撃が巻き起こり双方共に吹き飛ばされる。

 

「ぐっ…!」ファングジョーカーは力を使い果たし、動けずにいる。

 

 

 

 だが、その前には真希が佇んでいた。

 

 

 

 彼女の瞳は赤く染まり、その眼光でファングジョーカーを見つめ、こう言う。

 

 

    

     「……終わりだ。」 ブンッ!

 

 

 

 真希は薄緑を振り下ろす。

 

 

 

 

 ギュィィィィン!(続く)

 

 ──────────────────────

 

 仮面ライダー W!!

 

「行きなさい、あの方の御為に…」

 

「通りすがりの刀使デース。」

 

「紫様ぁ~♪あーそーぼおっ!」

 

「…俺も少し、本気出す」

 

   これで決まりだ!

 

     第五話「迷えるY/露わになる禁忌」




お久しぶりです。

諸事情により、なかなか執筆に手を付ける事が出来ませんでした…(汗
この間、ふと思ったんですが「あれ?リボルギャリーって公道走れたっけか…W本編で普通に走ってた気がするから大丈夫だと思うけど…」
ですが、これしか移動手段が無いと思うので無理矢理押し通しました。

読んでくれた方々、お気に入り登録してくれた方々、ありがとうございます!
何かと不安定なペースで更新しますが、これからもご愛読頂けたら幸いです。

ご感想、お待ちしております。


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