特殊な改造手術を受け、特殊な加工がされた特殊な鉱石を持ち、特殊な環境下で特殊な呪文を唱える事で初めて使える特殊な個性 (重言 白)
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1

どうしてこうなった。

追記:学年を修正しました


 私には生き別れた兄さんがいる。

 母さん曰く、私と兄さんが4歳のころに突然、置き手紙を残して突如消えてしまったらしい。

 警察にも連絡したものの、結果は生き別れた現実がある時点でお察しである。

 あれから10年。

 私は中学生3年生になり、来年の受験を考えなければならない時期だ。

 

「進路調査の結果だが……どうせみんなヒーロー科だよね!」

 

 そういってついさっき集めた進路希望調査の書類をばらまく担任。

 私、ヒーロー志望じゃ無いんだけれど。

 不特定多数の他人よりも、家族の方が大切だから。

 だからヒーロー科のない普通の高校に通い、就職率の高い大学に入ってお金を稼ぐ。

 その過程で兄さんの捜索もするつもりだけれど、きっと見つからないんだろうなと思ってしまう。

 

「それから緑谷は後で職員室に来ること。良いな」

 

「今日は母さんのお見舞いに行く予定なので無理です」

 

「お前の母親、元気だろうが。絶対来いよ」

 

 ふぁっきん。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

「だから、緑谷みたいな優秀な生徒には是非とも雄英に行って欲しいの。頭脳明晰、品行方正、そして何より強い個性! 雄英ヒーロー科のトップ合格だって夢じゃないっていうのに、もったいないとは思わないのか?」

 

 まただ。

 大抵の人が私と会った時、ただ強い個性を生まれもったというだけでヒーローになれと強要しようとする。

 そこに私の意思は存在せず、私がどれだけ鍛えたかなんて考えすらしない。

 親しい人の中で、私にヒーローにならなくて良いと言ってくれたのは母さんと父さん、そして兄さんの3人だけ。

 一応友達を名乗る人もいるが、結局のところ彼らは強い個性の私とつるむ事で自分に箔を付けたい馬鹿ばかり。

 

「とにかく、受験にかかる費用全部学校側が負担するから受けるだけ受けてくれよ。そうしないと俺が教頭に嫌味言われるんだよ」

 

 …………ハァ。

 

「受けるだけですからね」

 

 進路希望を無視した挙句、半ば脅迫に近いことをして生徒の進路を変えさせる教師。

 クビになれば良いのに。

 

 

 

「女の隠れミノ……」

 

 そうして遅くなった帰り道。

 人通りの少ない細道を歩いていると、突然後ろのマンホールからヘドロが湧き出てきた。

 ヘドロは私の身体にまとわりつき、口から鼻から入ってこようとする。

 

「私に触れるな!」

 

 私の個性『貪恣掌』の効果は単純明解。

 私が欲しいと思ったものを引き寄せ、嫌なものは弾き飛ばす。

 昔は良く暴走していたので、今は手を向けるという動作で発動のコントロールをしている。

 が、やろうと思えば意識を向けるだけで発動可能なのだ。

 

「全く、イライラしている時に限って更にトラブルがやってくるな」

 

 私に襲いかかってきた全身ヘドロで構成された推定(ヴィラン)を壁に抑えつけ、携帯で警察に連絡……しようとした瞬間、ヘドロが湧き出てきたマンホールが吹き飛んだ。

 新手かと思いそちらにも手を向けたが、下水道から出てきたのは誰もが知ってるNo.1ヒーロー、オールマイトだった。

 

「HAHAHAッ! 敵退治に巻き込んでしまってすまない! しかし、自衛の目的以上に個性を使っちゃいけないぞ?」

 

「そんなことより早く捕まえて下さい」

 

 説教は良いから、早よ。

 

 

 

「いやー、助かったよ。なかなか逃げ上手の敵でね。しかし君の協力もあって無事、詰められた!」

 

 そういって掲げられたのは気絶しているヘドロ敵がパンパンに詰まった、コーラのペットボトル。

 こうなってしまっては、いっそ哀れでさえある気がする。

 ん?

 

「あの「では、私はこの敵を警察に届けねばならんので。液晶越しにまた会おう!」

 

 そういって彼は飛んで行ってしまった。

 ……ペットボトルのキャップが開き掛けだったから、伝えようと思ったんだけれど。

 まあ、オールマイトだから大丈夫でしょ。

 その考えが甘かったと気付くのは、この10分ほど後である。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 あの後帰りにおつかいを頼まれた私は商店街に来ていた。

 ついつい目的の物とは違うものも買ってしまうな。

 揚げたてのコロッケの香ばしい匂いと、安くしとくよって言葉の組み合わせは反則だと思う。

 おつかいに頼まれた商品を片手に、コロッケを食べながら帰るこの夕方。

 平和だなぁと思っていると突如、裏通りで大爆発が起きた。

 事故か? そう考えているとBOOOM! BOOOM! と爆発音が連続して聞こえてくる。

 ……聞き覚えのあるこの爆発音はまさか。

 

「ぉぉぉぉおおおオオオオ!!」

 

 路地裏から飛び出して来たのはさっきのヘドロ敵。

 その体内には腐れ縁である爆轟勝己(嫌いな奴)が埋まっていた。

 身体を乗っ取られているのか、ヘドロ敵の手から連続して爆発が起きている。

 やっぱり空中移動中にキャップが外れて逃げられたようだ。

 オールマイトや巻き込まれた市民には申し訳ないないが、あいつがやられているのを見ると心がスッとする。

 

「この個性があれば奴も、あの女もぶっコロせる!」

 

 ターゲットの1人は私らしいのでさっさと逃げる事にした。

 資格を持たない市民が個性を使う事は原則禁止だから、自分が襲われているわけでもないのに使う気はない。

 現場からさっさと避難して野次馬の中に紛れ込んでいると、ようやくヒーローが登場し始めた。

 

「私二車線以上じゃなきゃムリー!」

 

 なんで来た。

 

「爆炎系は我の苦手とするところ……! 今回は他に譲ってやろう!」

 

 仮にもヒーロー(英雄)を名乗るなら、苦手分野くらい対策しておこうよ。

 

「そりゃサンキュー。消火で手一杯だよ! 消防車まだ!? 状況どうなってんの!?」

 

「ベトベトで掴めねえし、良い個性の人質(こども)が抵抗してもがいてる! おかげで地雷原だ、三重で手を出し辛え状況!」

 

「ダメだ! これ解決出来んのは今この場にいねえぞ! 誰か有利な個性(やつ)が来るのを待つしかねえ!」

 

 報連相が出来ることは良いことだと思う。

 明らかに無理だとわかっている事態に突っ込めなんて無茶を言うつもりはない……が、だから待つという選択は悪手だろう。

 例えば、思い当たる有利な個性(やつ)に連絡をするという選択肢もあるはずだ。

 被害を抑えるにしても、さっさと野次馬を退かせばできることも増えるだろうに。

 いつものように無能なヒーロー達を見て、そろそろ帰ろうかと考え始めたその時だった。

 

「____そこまでだ」

 

 気づけば声がした方向に振り向いていた。

 ほかの野次馬もヒーロー達も、ヘドロ敵でさえも。

 そこから現れたのは私と同年代くらいの男だった。

 

「器物損壊、傷害、放火、公務執行妨害……よくもまあこんな短時間でこれだけ罪を重ねたものだ」

 

 誰も言葉を発する事が出来ない。

 パチパチと燃える炎の音が響くなか、彼が歩く音が何故か響く。

 そんな中、真っ先に正気に戻ったのは敵だった。

 

「ンなもん知るかよ! もう少しなんだから、邪魔するなああ!!」

 

 振るわれるのは、この場にいるどのヒーロー対応できないヘドロの爆破。

 私や出遅れたヒーロー達は凄惨な結果を連想して目を閉じて……

 

「……お前のような、自分を無敵と思っている液体型の異形系の対処は楽で良い。繋がってない部分は基本的に、強く意識しなければ動かない。ならば、その間の繋がりを切ってしまえばいいだけだ」

 

 何故か聞こえない爆発音。

 何故か聞こえる彼の声。

 それは、この場のどのヒーローも対応できなかったあの腕に対応できているという証明であり。

 

「そして身体を構成する液体の殆どと接続が絶たれると、意識を失う。先ずは人質の接しているヘドロ(貴様)。その全てを弾き、削ぎ落とす」

 

 人質が抵抗しているせいでそれ以外の攻撃を持たないヘドロ敵には、もうどうしようもないということで。

 あとはもう、劇的な事があるわけでもなく。

 まるで手慣れた作業のように、逆転の目など一切ないまま。

 ヘドロ敵は捕縛され、人質は解放された。

 

 この後散ったヘドロ敵はヒーロー達や警察の手で回収され、無事警察に引き取られた。

 彼はヒーロー達や野次馬が集まるより早く消え、逆に人質になってたアイツはタフネスと個性を賞賛され、ヒーロー達の勧誘を受けていた。

 私は熱に浮かされたように、フラフラとしながら家に帰った。

 心配する母さんの声も雑に対応してしまった事を後で謝らなきゃと思いつつ、ベットに入って夕方の事を思い出す。

 今思えば、よくあの場で欲望のままに引き寄せなかったと思う。

 

「__ハ、あは」

 

 あの場の誰よりも雄々しく、そして誰よりも誰かを救うことに本気だった彼に強く強く惹かれた。

 きっかけはわからない。

 もしかしたら、一目惚れというやつなのかもしれない。

 攫って監禁したかったが、何故か再会できるという確信があったから自制できた。

 

「雄英受験、少し本気出そうかな」

 

 何故雄英かって?

 女の勘というやつだ。

 彼が不合格になるはずもないし、私は当たり前のように合格できる自信はある。

 でも、本気を出さずに適当に過ごしている姿を彼に見られるのが、恥ずかしく思う。

 昨日までの自分に怒りすら湧いてくるな。

 

「決して逃がさない。他の誰にも渡さない。__彼のすべてを私が奪う」




チトセネキ+本気おじさんみたいになってしまった。

追記:検索から除外してるのに、なんでUA付いてるん?
というわけで、公開にしました。


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2

前回のお詫び!
視点の彼女のプロフィール書いてなかった!
のでココで公開します。

名前:緑谷 引天 性別:女
個性:貪恣掌
容姿:母似、アマツ系の美少女
備考:この子視点なだけで、主人公ではありません

だって主人公(光の奴隷)ご本人視点にしたら、あらゆる悪が一瞬で消し飛び、ついでに世界ごと木っ端微塵に粉砕される気しかしないんだもの。


 あれから雄英の入試までの10カ月はあっという間に過ぎた。

 私が雄英受験のためにやる気を出したことで、担任が狂喜乱舞したり。

 突然やる気を出し始めた私に、母さんがどこかで頭を強く打ったか心配したり。

 個性鍛錬の一環として、海浜公園に溜まりに溜まった不法投棄の山を片付けたりしていた。

 私の個性には、より重たい物ほど動かしにくいという限界値が存在する。

 コレは鍛える事で上限を上げる事ができる。

 久しぶりに……本当に久しぶりに、全力で個性を使った気がする。

 

「ひっろいなぁ……」

 

 去年までヒーローに興味もなければ、ヒーロー育成高校なんて関心すらなかった。

 まさかこんなに敷地が広いとは思ってもみなかった。

 

 東⚪︎ドームのような広さの講堂で、実技試験の説明を受ける。

 要約すると、市街地を模した演習場の中で、10分間の間に仮想敵という名のロボットを破壊して、他の誰よりもポイントを稼ぐこと。

 同中のアレとは別会場なあたり、協力とかはさせないようになっているようだ。

 受験生の1人が0ポイントについて質問していたりしたが、そのあたりは割愛して。

 

「ハイ、スタートー!」

 

 開始の合図と共に、誰よりも早く演習場の中に駆け込んだ。

 

「どうしたぁ!? 実戦じゃあカウントなんざねえんだよ! 走れ走れぇ! 賽は投げられてんぞ!?」

 

 その言葉を聞いてようやく動き出した他の受験生達。

 その間に私は既に10ポイントは稼いでいた。

 

「標的捕捉! ブッコロス!」

 

 近くの壁を壊して現れた新たな仮想敵に掌を向け、出てきた壁の向こうに叩きつけて破壊する。

 更に点の追加だ。

 そして100ポイントを超えたあたり、試験開始から8分ちょっとが過ぎた頃。

 

 THOOOM

 

 ようやく姿を見せた0ポイント仮想敵。

 それはビルを上回るほど巨大で、それに比例した力と頑丈さを兼ね備えた……まさしく圧倒的な脅威であり、対処のしようがないギミックといわざるおえないだろう。

 __だからこそ。

 

「彼なら例えどれだけ強く、圧倒的で、相対することすら馬鹿馬鹿しくなるような相手であろうと! 決して逃げはしないだろうさ!」

 

 そしてそんな彼に焦がれた私が、この程度の鉄屑から逃げるなんてありえない。

 

「吹、き、と、べええええ!」

 

 全ての力を振り絞り、個性を発動する。

 私の個性の上限を遥かに超えたその一撃は、確かに0ポイントの仮想敵を市街地の外まで吹っ飛ばした。

 

「……流石に疲れた」

 

 この演習場にいる受験生が特別劣等生というわけでなければ、私の成績なら合格は確実だろう。

 そう確信したので、残りの時間は瓦礫の下敷きにされた他の受験生達を救助にあてることにした。

 流石にしばらくは軽くしか個性を使えなさそうだし、少し休ませてもらおう。

 そんな行動をとっているうちに、試験は終わった。

 筆記は完璧、実技も問題なし。

 私は合格を確信したので、晴れやかな気持ちで帰宅した。

 ……そういえば、彼とは会えなかったな。

 しかしまあ大丈夫だろう、私の勘がそう言っている。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

「実技総合成績出ました」

 

 コレは入学試験の舞台裏。

 雄英の教師であるヒーロー達が、今回の受験生に対して話し合う場である。

 真ん中にある大きなディスプレイには、公表されていた敵ポイントと、審査制であり公表されていない隠し点数である救助ポイントを合わせた、実技試験の総合点数が大きく映し出され、他にもいくつかのハイライトシーンを映し出していた。

 

「今年は本当に豊作でしたな! まさか敵ポイントのみで100を超える受験生なんていつ以来だ? それも2人も!」

 

「救助ポイント0で3位まで行ったこの子も凄いけど、上2人が隔絶し過ぎているね」

 

「2位の子の個性は……なんて読むんだコレ?」

 

「『貪恣掌』って読むのさ! (ほしいまま)に貪る掌。とっても強力な個性みたいだけれど、万能ってわけではなさそうなのさ!」

 

「ええ、移動に個性を使っている様子はありませんでしたし、おそらく対象にのみ作用するタイプなんでしょう。もしくは、使うまでもなかったか」

 

「最後にアレを演習場の外へ吹き飛ばした後は、他の受験生の救助をしてたな」

 

「アレに立ち向かったのは過去にもいたけど……ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね。それも一回の試験で2人なんて、初めてだよ」

 

「思わずYEAH! って言っちゃったからなー」

 

「しかし1位の彼、個性が不明ってどういうことなんだろうね?」

 

「仮想敵はある程度脆く作っているが、無個性が武器を持った程度で壊せる程ではないぞ? 0ポイントなんて論外だ」

 

「しかし、彼が個性を使った様子は見られなかった。つまりアレは、彼の地力なのだろうね」

 

「それこそありえねえだろ! ただの竹光で、アレを両断するなんて個性でもなきゃありえねえ! 持ったものを硬化するとか斬れ味上げるとか、そういったなんらかの個性を隠し持ってるって事だろうぜ!」

 

「まあ僕らとしては、正式な手順を踏んで受験した学生を怪しいからなんて理由で不合格にはできないのさ! それに、ヒーローとしての道に導くのも僕らの役目さ!」

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 受験から瞬く間に1週間が過ぎた。

 そんな今日、ついに雄英から封筒が届いた。

 ずっしりと重いので、多分合格だろう。

 中に入っていたのは手のひら大の小さな機械だった。

 

『私が投影された!』

 

 封筒から出されたら起動するように設定されていたのか、部屋の壁に派手なスーツを着こなしたオールマイトが映し出された。

 

『筆記は満点、実技も敵ポイントだけで112点。おめでとう、この時点で合格は確定だ! しかし我々が見ていたのはそれだけにあらず!』

 

『審査制の救助活動(レスキュー)ポイント! 点を稼ぐことより人助け(正しいこと)を優先した人間を、排斥しちまうヒーロー科などあってたまるかって話だよ! 君の救助活動ポイントはほぼ満点の58ポイント! 合わせて170点で総合2位で合格だ! おめでとう、雄英が君のヒーローアカデミアだ!』

 

 合格は初めから分かっていた。

 それよりも

 

「ふふ、私が2位。つまり誰かに負けたって事? アハ」

 

 きっと彼なんだろうなぁ……

 そんな事を真っ先に思うあたり、相当キテる気がする。

 誰かに負けるなんて、小さな頃……兄さんに守られていた頃以来かしら。

 適度に手を抜いても文武両道、そのどちらも首席を譲った事はなかったというのに。

 あんなに本気で努力したつもりだったというのに、まだ上に居るという事が悔しくて、そしてそれ以上に嬉しくて。

 私程度(怠けていた鳥)なんて、本気の努力をし続けた凡人()には敵わないのだという当たり前の現実が楽しくて。

 __ああ。

 

「私は努力をしても! 本気を出しても良いんだ! アハ、あははは!」

 

 母さんにうるさいと怒られるまで、笑いが止まらなかった。

 おのれ母さんめ。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 そして春。

 

「引天、いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

 私は今日から雄英に通う。

 これまでの学校と比べて縮尺が大きくなっているのは、バリアフリーの一環だろうか?

 彼と同じクラスで、アレとは違うクラスだと良いなぁ。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や、机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

 

「思わねーよ、てめーどこ中だよ端役が!」

 

 残念。

 彼もいないようだし、運がないなーと思ったその時だった。

 

「すまない。通してもらっても構わないかな?」

 

 後ろから聞こえたのはあの人の声で。

 

 

「好き!!(挨拶)」

 

「……申し訳ないけど、現状誰かと共に生きるつもりはないんだ。他を当たってくれ」

 

 フラれた!

 ショック!

 

「……惚れた腫れたをしたいなら他所へ行け」

 

 そんな風に私が打ちひしがれていると、いつの間にか彼の後ろに寝袋に入った草臥れた男が寝転がっていた。

 

「ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 寝袋の中からウィ○ー的な物を取り出し、ヒュゴっと飲んでいた。

 ……誰!?

 

「ハイ。静かになるまで10秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」

 

 そう言ってのそのそと寝袋から這い出してくる。

 寝袋に入って過ごす方が……非合理的じゃないの?

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね。早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 ……あれ? この後は入学式とガイダンスの予定では?

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ」

 

 ええ……




才能比較表(?)
・緑谷引天
愛染、甘粕、袋小路阿修羅並。
努力しなくても、本気じゃなくてもできてしまうという、天才ゆえの悲しみを背負った人達。
人生ってヤツを……楽しんじゃいけねえのさ。
とか
いつも耳の奥で聞こえる風のーーー音……
とか思っていたら、精神力だけで自分を上回る光の奴隷を見て箍を外してしまった。

・爆轟、轟
阿散井恋次並。
優秀ではあるが、サボっていると普通の努力でひっくり返るレベル。
ラスボスには勝てないイメージ。

・主人公
総統閣下並。
はっきり言って凡人。
気合と根性でありとあらゆる壁を乗り越えていく不条理の塊。
例え兎や鳥が全力疾走(飛行)していたとしても、気合と根性でガメラにメガ進化する亀には負けるよねっていう……
自分で書いててなんだが、頭おかしいとしか思えない。


追記!
貪恣掌ってどう読むか知ってる方はいらっしゃいませんか!?
どんししょうなのか、たんししょうなのか、ドンほしいままてのひらなのか……カタカナや漢字のルビが振られるようなキラキラネームなのか。
わからん!


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3

前回後書きに書こうと思って忘れてた事。

紙で割り箸を切れる人がいる。

かの岡田以蔵は笹の葉で人を切ったらしい(昔なんかで見た)。

じゃあ光の奴隷なら、竹光で0ポイント仮想敵ロボットくらい切れるよね。

以上。


「「「個性把握テストォ!?」」」

 

 結局体操服に着替えた私たちは、グラウンドに出ていた。

 グラウンドも広いなー。

 

「中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている、合理的じゃない。まあ、文部科学省の怠慢だよ」

 

 それは思ったことがある。

 私のような発動型の個性には不利で、常に発動し続けているような異形型の記録がずば抜けていた。

 まあ、あくまで1つの結果だけが特化したようなものだったから、総合では勝っていたのだが。

 あの頃は、チーターの異形型相手に短距離走で勝つとかないわーって思ってたから……

 

「緑谷。中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」

 

「確か70mでした」

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なければ何しても良い、早よ」

 

 ああ、なるほど。

 そういう趣向ね。

 それなら……

 特級の嫌悪を込めて、視界に入ることすら嫌だと思いながら……

 

「吹っ飛べ!」

 

 投げた瞬間に個性を使い、遠く遠くへ弾き飛ばした。

 おお、結構飛ぶなぁ。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 記録は1576.6m。

 もうちょっといけそうかな。

 

「なんだこれ! すげー面白そう!」

 

「1km越えってマジかよ!」

 

「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」

 

「…………面白そう……か。ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しとみなし、除籍処分としよう」

 

「「「はあああああ!?」」」

 

 あ、この人目が本気だ。

 見込み無しと思えば、本当に除籍される。

 

「雄英は自由な校風が売り文句でね。そしてそれは、先生側もまた然り。つまり、生徒の如何は先生(おれたち)の自由。ようこそ。これが、雄英高校ヒーロー科だ」

 

 ……仮に今日除籍になったとして、学費は返ってくるのだろうか?

 

「最下位除籍って……入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても、理不尽すぎる!」

 

「自然災害、大事故、身勝手な敵たち……いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽(ピンチ)を、覆していくのがヒーロー。放課後マックでで談笑したかったならお生憎。これから3年間、雄英は全力で君達に、苦難を与え続ける」

 

Puls Ultra(更に向こうへ)さ。全力で乗り越えて、来い」

 

「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

「……ああ、それと山田。ちょっと来い」

 

 彼、山田っていう名前だったのか。

 は! 私、名前すら知らないまま告白したのか。

 まあ、今は計測に集中しよう。

 

 第1種目、50m走

 

「私の個性、反動をつけられないのがなあ」

 

 中学 7:05→6:56

 

 第2種目、握力

 

「取っ手の部分を掌握して思いっきり……あ、壊れた」

 

 計測不可(最高値)

 

 第3種目、立ち幅跳び

 

「特にいうことも無し」

 

 中学 182cm→214cm

 

 第4種目、反復横跳び

 

「あれ、私の個性。汎用性低すぎ……?」

 

 中学 56回→65回

 

 第5種目、ボール投げ

 

「せいやー」

 

 最高飛距離、1736.8m

 

 第6種目、腹筋

 

「……」

 

 中学 52回→67回

 

 第7種目、長座体前屈

 

「身体の柔らかさには自信がある」

 

 中学 48cm→50cm

 

 第8種目、持久走(1000m)

 

「軽い軽い」

 

 中学 250秒→187秒

 

 さて、ようやく全ての計測が終わった。

 そういえば、彼はどうして相澤先生に個別に呼び出されていたんだろうか?

 

「……んじゃ、パパッと結果発表」

 

 そんなことを考えていたら、全員の評価が終わっていたらしい。

 順位は各種目の評点の合計値。

 それなら一個ブッとんだ結果があるより、平均的に高い方が有利かもしれない。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 ……?

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

「「「はーーーーーー!!?」」」

 

 いやいや、あんた本気の目だったでしょうが。

 アレは演技ってレベルじゃなかった。

 

「あんなのウソに決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ……」

 

 結果は彼が2位で私が3位タイ。

 流石に握力で万力、ボール投げで大砲、長距離走でスクーター使ってる人には勝てませんでした。

 その後は教室で授業カリキュラムとか、諸々の書類に軽く目を通した後、下校となった。

 

「……貴方には負けない」

 

 それと下校中、同じクラスの子に宣戦布告をされた。

 オッドアイで髪の色も違う非対称な彼女は、それだけ言って早足で帰っていった。

 ……誰? せめて自己紹介をして?

 

「あ! おーい! 緑谷さーん!」

 

 ん?

 彼女は確か……

 

「……ボール投げで∞を出した子!」

 

「麗日お茶子です! 緑谷さん、実技試験の時は助けてくれてありがとう!」

 

 ……はて?

 何のこと……ああ、0ポイント仮想敵に巻き込まれていた子か。

 瓦礫の下敷きになってた気がする。

 

「アレを吹っ飛ばして疲れてただけだから、気にしないで。それと、引天(ひてん)で良いよ。同い年なんだし」

 

「じゃあ私もお茶子って呼んでよ、引天さん」

 

 放課後マックはなかったけれど、駅まで談笑しながら帰った。

 朝のこと(挨拶)は驚いたらしい。

 だって……ねえ?

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

『んじゃ、次の英文の中で間違っているのは?』

 

 いくらヒーロー科と言えども、普通の授業はある。

 今はプレゼントマイク先生の英語の授業なのだが、はっきり言うと退屈だ。

 授業をラジオのテンションでやられても、対応に困る。

 午前中はこんな、必修科目などの普通の授業だ。

 

「白米に落ち着くよね! 最終的に!!」

 

 昼は美味しいご飯を安価で頂ける。

 ……ランチラッシュの個性ってなんだろうか?

 料理が上手になったりする個性なのかな?

 

 そして午後、ついにヒーロー科ならではの授業……ヒーロー基礎学が始まる。

 

 「わーたーしーがー!」

 

 「普通にドアから来た!!」

 

 先生、うるさいです。

 

「すげえや、オールマイトだ! 本当に先生やってるんだな……!」

 

「画風が違いすぎて鳥肌が……」

 

 しかしヒーローに憧れて入学した他の生徒からすれば、憧れの存在であるオールマイトのキャラとして受け入れられるものらしい。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため、さまざまな訓練を行う科目だ!! 単位数も最も多いぞ!」

 

 ヒーロー科らしい授業と思えば良いのかな?

 

「早速だが、今日はこれ!! 戦闘訓練!!!」

 

 !が増えていくのは仕様なのか?

 

「そしてそいつに伴って、こちら!!! 入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!!」

 

「「「おおお!」」」

 

「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!!!」

 

「はーい!」

 

 

 

「八百万さんの戦闘服、露出凄いね」

 

「個性の都合上というやつですわ。実際にはもう少し、布面積が小さい物を要望していたのですけど」

 

 露出狂かな。

 他の子のも、パッツパツで身体の線が出ているのが多い。

 要望として、ゆったりとした物が良いと書いといて良かった。

 

「……発育の暴力」

 

 肩こりの元だし、運動の時は邪魔なんだけどな。

 

 

 

「さあ!! 始めようか、有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!」

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 そう質問したのは、露出0のロボットみたいな飯田君。

 ここまでとは言わないけど、八百万さんはもう少し露出を減らした方がいいと思うな……

 山田君は刀を携えた……昔の日本の軍服のような格好だ。

 確か……帝国陸軍だったっけ?

 

「いいや、もう2歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

 実際、屋内の方が凶悪な敵は多いらしい。

 まあ、屋内の方が色々隠れてできるよね。

 

「君らにはこれから敵組とヒーロー組に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!」

 

 設定は核兵器を所有する敵の無力化、もしくは核兵器の処理。

 敵は制限時間まで核兵器を守り抜けば勝利……敵側なら勝ったな。

 チームはくじ。

 私は引いた番号はIで、尾白君とペアだ。

 山田君はAでお茶子さんとだ……おのれ。

 

「続いて最初の対戦相手は……こいつらだ!」

 

 先生が引いたくじは……あ。

 

「Aチームがヒーロー! Dチームが敵だ!」

 

 あー……あー……あんな腐れ縁の奴でも、冥福くらいは祈っといてやるか。




おねがい、死なないで爆轟!
あなたが死んだら、誰が林間学校で誘拐されるの!?
まだライフは残ってる。
ここで耐えても主人公は覚醒するけど、頑張って!
次回「爆轟 死す」

ふと、主人公に追い込まれたAFOに対してお前を倒すのはこの私だろうが! とOFAが声援を送り、最終的にAFOとOFAがホモ合体した結果、個性生成能力とか生まれて個性特異点になって最終的に宇宙が滅ぶエンドとか考えてしまった。
……やりません。


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4

アルテミスパッケージを買おうとしたら、目の前で売り切れたり、なんとか買えたと思えばパソコンにCDドライブがなかったり……色々あってサボっていました。
ほんと……辛かった……


 戦闘訓練。

 ヒーロー側は時間内に建物内の何処かにある核を見つけて確保すれば勝ち、全滅せずにそれを防げばヴィラン側の勝利だ。

 考えれば考えるほど、ヴィラン側が有利な条件設定。

 強さに自信がないなら逃げ回っても良いし、戦闘になっても時間を稼ぐだけで良い。

 自信があるならヒーローを潰しにいけば良いし、逃げられたとしても戦力は分断できる。

 機動力に自信があるなら、分断した後各個撃破するのもありだろう。

 逆にヒーロー側は、まず核の場所を見つけなければならない。

 探知系の個性があったとしても、常に同じ位置に核を起き続ける必要もないし、少なからず個性に意識を取られる。

 機動力に劣れば逃げ切られるし、そもそも実力が足りなければ普通に負ける。

 敵の分断策に対しても、敵を逃すわけにはいかない故に、分断されざる得ない。

 敵側の生徒が完全に敵に成りきったとして、果たして何組勝てるだろうか? 

 あの誰よりも敵っぽい幼馴染なら、なおさらだ。

 

「まあ、山田君なら大丈夫か」

 

 それでも彼が負ける姿を全くイメージできない。

 倒れる姿や爆破される姿、傷を負う彼は想像できるのに、負けるとなると思えない。

 だからまあ、なにかを得るためにこの試合を観よう。

 

 デク君! 

 

 ……ふ、ふふふ。

 私より先に彼を名前で呼ぶとは……! 

 私と戦うことがあれば、覚えていろお茶子め。

 具体的には、雄英体育祭とかな! 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 ……!? 

 なんかすっごいゾクッとした! 

 例えるんやったら、蛇に睨まれたカエルになったような感じ! 

 ととっ、そんなことに気を逸らしてる場合やない。

 

「デク君! 大丈夫!?」

 

 わたし達が訓練用のビルに入ってすぐ、爆豪君が襲ってきた。

 突然のことでわたしは反応できなかったんやけど、デク君が突き飛ばしてくれたから爆風を少し受けただけで済んだ。

 でも、代わりにデク君が!? 

 

「大丈夫」

 

 爆煙が晴れたとき、爆豪君を組み伏せ、腕を掴んで掌を上に向けさせているデク君の姿が見えた。

 多分やけど、爆発の被害を抑えるためなんやと思う。

 

「彼は僕が抑えておくから、核をよろしく。麗日さん」

 

 今、この場に残ってわたしが出来ることは何もない。

 端的にそう言われたわたしは、駆け出した。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

「……さて」

 

「クソがッ!」

 

 BOOM! 

 

 爆豪少年は、負傷することを覚悟して逆の手で爆破を行い、山田少年に組み伏せられていた現状から脱した。

 ビキリと、掴まれていた左腕の肩から嫌な音が鳴った。

 

「死ねァ! 無個性野郎!」

 

 BOOOOOM!! 

 

 そしてその壊れかけの左腕で山田少年を爆破。

 ……かなり早いが、ドクターストップをかけるべきか? 

 あの距離、あのタイミング、あの速さならば間違いなく回避は不可能……重症とは言わずとも、跡の残る怪我を負っているかもしれない。

 

「……やはり、爆破出来るのは掌からだけだな?」

 

 ……マジかよ。

 なにをしたのかはわからないが、山田少年は無傷。

 増強系や異形系ならわかるが、彼の個性は発動条件が不明。

 流石にこのタイミングで、盾を出すような個性が発現したとは思えない。

 

「威力が何に依存しているかはわからないが、咄嗟に使える威力もおおよそわかった。そしてその個性を操る高い身体と戦闘センス……俗に言う天才、というやつだということも理解した」

 

 山田少年はようやく、刀を抜いた。

 ……斬らないよね? 

 

「だが、勝つのは僕だ」

 

「勝つのは俺だッ! くたばれッ!」

 

 BOOOOOOOOM!!!! 

 

 先程よりも強力な爆破。

 爆豪少年の個性は、手のひらの汗腺からニトロのような汗を出し、それを爆発させる個性だったはずだ。

 つまり動けば動くほど強力になるスロースターター、今はそれだけ体が温まってきたという事なのだろう。

 

「威力は時間経過で増加……いや、汗か。体が熱を持つほど強くなっていくということか」

 

 山田少年、察しが良すぎじゃない? 

 爆豪少年は巧みに個性を用いて3次元的に攻勢に出ているが、それはより巧みな動きで即座に対応されている。

 爆破を用いた高速移動による接近からの近接戦闘は、先程の焼き直しのように拘束されかけた。

 目潰しの爆破で背後に回ってからの爆破は、背後に回ったタイミングで刀で撃墜された。

 籠手の機能である大規模爆撃……止める間もなく放たれたが、どうやってか斬り払ってダメージすら負っていない。

 

「うわぁ……ヤダヤダ。2人とも才能マンかよ」

 

「むむ、それは違うぞ上鳴少年! 確かに爆豪少年の動きは個性と身体能力……つまり才能や本能に寄った戦闘だが、山田少年は違う。アレは愚直に純粋に、ひたすら自らを鍛え続けたが故の、個性にさえ見えてしまうほどの技術だ!」

 

 最初の拘束からそうだ。

 山田少年の動きは全て理に適っている。

 人体を熟知しているからこそできる拘束術。

 目くらましを受けたとしても、直前の挙動や音、経験から移動先を即座に割り出す観察力と経験則。

 そして一撃でも直撃すれば敗北必至の状態での、常軌を逸した冷静な判断力。

 15歳という若さであの境地に至るのに、一体どのような努力を積んできたのか……

 最低でも10年以上、年齢から考えてまともな訓練で辿り着けるようなレベルではない。

 私はそれが、何よりも恐ろしい。

 

「……それを短期間で可能にするような個性? だとすれば成長速度促進の異形型か……?」

 

 それなら相澤君に消せないのも納得なのだが……

 いや、それならそうと検査で判明するはずだ。

 ま、今は訓練のチェックをしなきゃね! 

 

「爆豪少年捕縛。あとは飯田少年を捕まえるか、核を狙うか」

 

 飯田少年は麗日少女対策として、部屋から荷物を運び出していたね。

 ヒーローの個性を把握し、その対策を練る。

 うんうん、素晴らしい対応だ。

 核と飯田少年を見つけた麗日少女も、これでは殆ど手が出せない。

 そして隠れているのがバレてしまった麗日少女は、ジリジリと間合いを詰められ追い込まれていく。

 

「……行くで!」

 

「来い!」

 

 うん? 

 麗日少女はヤケになったのか、飯田少年に向かって突進していく。

 むむ、これでは大幅減点だぞ? 

 自分自身を無重力にして核を狙おうという戦法なのかもしれないが、飯田少年の方が早い以上それは通用しない。

 そう思っていた時だった。

 ちょうど飯田少年の立っている足場が、抜けた。

 核を守ろうと反転していた飯田少年は、その突然の出来事に対応しきれていない。

 何とか飛び上がって落下を避け、駆け出したがその時には既に遅く。

 

『ヒーローチーム。WIN!!』

 

 麗日少女は既に、核を確保していた。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 やっぱり彼はすごいなぁ。

 私がヒーロー側だったなら、敵役の人は遠くに弾き、核を引き寄せるくらいしかできないから。

 やっぱりどうせなら、私が敵側で彼がヒーロー側なら良いのに。

 

「次はBチームがヒーロー! Iチームが敵だ!」

 

 ん? Bチームといえば……ああ、この間いきなり宣戦布告してきた非対称少女のチームか。

 彼女のことはよく知らないが、負ける気はしない。

 

 

 そんなことを考えていたときが、私にもありました。

 え、なにあの子の個性。

 いきなりビル全体が凍らされたんですけど。

 私は体についた氷を弾くことで動けるようになったが、ペアの……尻尾君は動けなさそうという連絡が来た。

 はーつっかえ。

 ビル全体が凍らされてから数分、彼女がようやくこの部屋に来た。

 

「……凍れ」

 

 それはもう見た……見た? 

 彼女の足元から床が凍りついて行くが、それは私の周りだけは別だった。

 私に氷像にされる趣味はない。

 つまり、コレは嫌なものだ。

 なら、私の個性は十全に働いてくれる。

 私は私を凍らせようと侵食してくる氷を弾きながら、もう片方の手を彼女に向ける。

 

「それ以上、こっちに来るな」

 

 個性発動、向かいの壁に彼女を押し付ける。

 このルールだと私が有利すぎてつまらない。

 もっとこう……血湧き肉躍るみたいな、全力で戦える方がいい。

 

「気づいてないと思った?」

 

 窓から入ろうとしていた触手野郎はそのまま吹き飛ばした。

 ……多分死なないでしょ。

 

「まあ運がなかったとでも思って、諦めて」

 

 最初のビルごと凍結されたのは驚いたけど、負けるほどじゃない。

 フレ◯ムの群れの中にフレイザ◯ドが居たような物でも、私はバ◯ンには勝てないでしょ? 

 レベルが違いすぎた。

 

「……膨冷熱波!」

 

 おお、びっくりした。

 色的にそうかもと思ってたけど、火も使えるのか。

 やっぱりフレ◯ザードじゃないか! 

 

「舐めるな……! 私はまだやれる!」

 

 背中から氷を出す事で、体勢を整えたのか。

 氷が砕けるような威力で押し付ければ良いのかもしれないが、そしたら多分全身潰れて死んじゃうよね。

 だから、そうならない程度にどうにかしないと。

 

「……氷壁!」

 

 おお、氷の壁で視線を遮られた。

 私が手を向けて個性を使うように心がけている以上、見えなければ確かに使えない。

 正確には、手を向けている物を対象として発動しているため、対象が遮った氷の壁に移ってしまう。

 壁が吹き飛ばされ、砕け散ったときには彼女は居なくなっていた。

 

「隠れんぼ? なら炙り出してあげる」

 

 尻尾君が違うフロアにいて助かったわ。

 壁を吹き飛ばし、柱を吹き飛ばし、屋根を吹き飛ばし、瓦礫を吹き飛ばす。

 隠れんぼの必勝法、隠れる場所をなくしてしまえばいい。

 全てが視界に入る状態なら、逃げ場はない。

 

「……氷晶神殿」

 

 どこからか彼女の声が聞こえた。

 それと同時に、私が破壊した場所が修復……いや、透明度の低い氷で新たに形作られていく。

 おお、隠れる場所が潰されていくなら、新たに作れば良いということか。

 

「……一刀赫炎!」

 

 そして出来上がった氷の神殿を貫通し、炎で象られた刃が私目掛けて突っ込んでくる。

 おいおい、コレじゃあ授業中に死者が出かけない。

 まあ……

 

「無駄なんだけどね?」

 

 私の個性は、私の価値観で嫌なものは遠ざけ、良いものは近づけるという効果がある。

 意識的に使えばその強弱を操作できるが、基本はそれだ。

 つまり、戦闘を……危機を意識している間、全ての危機は私の側には近づけない。

 私を害する危機なんて全て、どこか遠くへ行ってしまえ。

 そしてそれはこの炎の刃も変わらない。

 近づけば弾かれ、ただ霧散するだけだ。

 

「……そうだと思った」

 

 炎の刃が通った後から、彼女が姿を見せた。

 隠れんぼは辞めたらしい。

 

「だからこそ私の、私達の勝ち。貴方と違ってこっちは、チームだから」

 

『ヒーローチーム、WIN!!!』

 

「……私が貴方を殺さないように、手加減して倒せなくても……核だけを動かすだけなら余裕」

 

 建物の外では、落下した核をキャッチしている触手野郎の姿が。

 

「あー……隠れ場所を大量生産した時?」

 

「……そう。落としている間に核に意識向かないよう、邪魔をした」

 

 確かにやられたなー。

 核ごと巻き込みかねない攻撃をしてきた時点で、気づくべきだったな。

 こういう勝つための戦略が、私には足りないのかな。

 

「まあ、今回は負けだ」

 

 ならば改善だ。

 負けを認め、敗因を洗い出し、その原因を潰して私はもっと強く……高くまで行くだけだ。

 

 

 良し。覚えたぞ非対称少女。

 いや、轟冬火。




最初若干凍らされた理由
・油断してた
・攻撃ってほどの被害がなかった

攻撃の威力が強ければ強いほど、強い力で弾かれる仕様。
突破するには、最も強い力を貫通するようなぶっ飛んだ攻撃力が必要。
数十倍で足りないから、数百倍まで出力を上げようね?

書いてて思った。
この子の属性、闇じゃないか!?
防御面だけなら、反粒子クラス?
イメージ本気おじさんだったのに…


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リメイク版
1-re


『私はこんな風に拙作の欠点を指摘してくれる人をずっと待ってたんだ』

『私の悪いところを運営から文句を受けることを覚悟して指摘してくれる人を心から待っていたんだ』

『本当になんて嬉しいんだろう』

『おかげで目が覚めた!』

『これで成長したぞ』

『ありがとう』

『きみには本当に感謝するよ』

『だからこの拙作を罵倒された恨みはきみに迷惑をかけないよう』

『最新話からリメイク版として、新たに1話から投稿し直すことにしたよ』

あれ?普通にプラスでは?


 ヒーローという職業がある。

 個性が生まれたばかりである個性黎明期……かつて人類は突如発生した個性という異能を持て余し、個性を欲望のままに振るう者達で溢れかえった。

 

 手の届かないほど遠くの物を引き寄せる個性で、気に入らない相手を駅のホームから引きづり落とす者。

 

 テレポートのような個性で、貴金属店や銀行から窃盗を繰り返した者。

 

 単純に強くなるような個性であれば、暴行・殺人などなど……

 

 無数の個性により起きた無数の犯罪により、行政は対応しきれていなかった。

 というより、当時小説やオカルトでしかあり得なかった異能(絵空事)がいきなり現実となって、対応できるわけがない。

 人間を相手にする事を前提とした、画一的な警察や法律、規則では被害を抑えることさえ困難だった。

 そんな時、個性を使う犯罪者……のちに(ヴィラン)と命名された彼らに、対抗する勢力が生まれた。

 その勢力の名は自警団(ヴィジランテ)

 これがのちのヒーローへと繋がっていく。

 彼らは自らの個性を使い、率先して他者を助けた。

 

 破壊活動を行なっている敵を見つければ、自らの個性を使ってこれ以上被害が出ないように拘束した。

 

 誰かを陥れようとする敵に気づけば、事前にその策を潰しにかかった。

 

 困っている人を見かければ、自身でできる事なら荷物持ちのような雑用でも率先して行った。

 

 彼らは最初から受け入れられたわけではなかった。

 個性を持たない人からすれば、敵も自警団も変わらなかったのだ。

 

 敵に家族を殺された人から、石を投げられたこともあった。

 

 助けたはずの人に、後ろから刺されるようなこともあった。

 

 しかし彼らは諦めなかった。

 

 そしてそんな彼らを見て、協力する人が現れ始めた。

 無個性であろうと関係なく、彼らは受け入れた。

 

 さらに時が流れ、敵を倒すために個性を使う事を公に認める法案が通った。

 そして不法行為であった自警団は、公的にヒーローとして認められた。

 

 人類の殆どが個性を持つようになった今、ヒーローという職業に憧れる人は少なからずいる。

 

「僕は将来、ヒーローになる」

 

 兄はいつもそう言っていた。

 当時の4歳にもなっていない私はその意味をよくわかっておらず、いつも守ってくれる兄ならきっとなれると思っていた。

 ……一応、公の場で個性を使う事は法律で禁止されているが、子供にとってそんなのは知ったことではない。

 生まれ持った才能(個性)、好きに使って何が悪いと言わんばかりに個性を使う腐れ縁を、思えば私は当時から冷ややかな目で見ていた気がする。

 腐れ縁の幼馴染はそんな私の何が気に入らなかったのか、よく突っかかってきた。

 取り巻きを連れて私を囲む姿は、まさしくいじめっ子達といじめられっ子の図であろう。

 まだ個性が発現していなかった私をいつも助けてくれた兄は、無個性……だったらしい。

 お母さんがそう言っていた。

 ヒーローとは個性を使って敵を倒す仕事……なのでどれだけ努力しようと無個性ではヒーローにはなれない。

 そんな当たり前の現実が、兄の前に立ちふさがっていた。

 誰よりも努力していた、誰よりもヒーローらしかった兄は無個性というだけで冷遇され、才能だけのまるで敵のようだった腐れ縁の幼馴染は、強個性というだけで教師陣や周りから優遇され続けた。

 そして兄が4歳の誕生日を迎えたあの日、兄はまるで煙のように消えた。

 4歳までに個性を発現しなければ、一生個性が発現することはない。

 そして私の個性は皮肉のように、兄がいなくなったその日に発現した。

 警察やヒーロー達が捜索してくれたが兄は見つからず、残されていた置き手紙から事件性はないものとして、兄は家出少年という扱いになった。

 そして10年が経った今では私は中学3年、兄は正式に死んだということになった。

 それなのに何故か、私は兄が生きているとどこかで思っている。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

「だから、緑谷みたいな優秀な生徒には是非とも雄英に行って欲しいの。頭脳明晰、品行方正、そして何よりヒーロー向きの強い個性! 雄英ヒーロー科のトップ合格だって夢じゃないっていうのに、もったいないとは思わないのか?」

 

 私は今、担任の教師に呼び出されて職員室にいる。

 理由は私が進路希望調査で、ヒーロー科のない高校を選択したかららしい。

 私は自分以外の誰かのために、自分の命をポイポイ捨てられるような人間じゃない。

 だから普通の企業に就職して、平凡な人生というものを送りたいのだ。

 そしてその過程で、兄を探すつもりでいる。

 そんな私の意思は一切無視して、担任は私に雄英高校ヒーロー科を受験させようとしてくる。

 私の意思も1度きちんと伝えたのだが……ああ、今でもムカつく。

 

『そんなもう死んだ人間のことなんて気にするなよ。それに無個性だったんだって? 足を引っ張られる前に消えてくれて、むしろありがたいくらいだろ?』

 

 なんてこの担任は言いやがった。

 その時衝動を何とか抑え込み、拳を振るわなかったのは奇跡に近かった。

 

「とにかく、受験にかかる費用全部学校側が負担するから受けるだけ受けてくれ。そうしないと俺が教頭に嫌味言われるんだよ」

 

 こうなってしまうと、この担任は意見を通すまで私を居残らせるだろう。

 …………ハァ。

 

「受けるだけですから」

 

 進路希望を無視した挙句、半ば脅迫に近いことをして生徒の進路を変えさせる教師。

 クビになれば良いのに。

 

 いやいやながらも受験する事を了承した帰り道。

 人通りのないちょっとしたトンネルの近くを1人で通っていた時だった。

 

「女の隠れミノ……」

 

 マンホールから、ヘドロ状の身体の敵が私を狙って襲いかかってきた。

 臭くて汚くて気持ち悪くて犯罪者とか、救いようがないんじゃないだろうか。

 私は自身の個性を使って、その敵の接触を防いだ。

 私の個性『貪恣掌』は、良いものを近くに引き寄せ、嫌なものを遠くへ弾き飛ばすという単純明快な個性。

 今回はこの救いようのない敵による接触を、嫌なものとして弾き飛ばしたのだ。

 

「私今、結構イライラしてるんですよね……そんな時にトラブルを持ってくるとか、サンドバッグにでもしてほしいんですか?」

 

 主に担任への恨みを込めて。

 

「HAHAHAッ! もう大丈夫! 私が来た……って、大丈夫そうだね」

 

 弾き飛ばした敵をトンネルの壁に押し付けながら、ストレス発散に使うかどうかで悩んでいたら、敵が出てきたマンホールから人が出てきた。

 おお、私でも知ってるくらい有名なヒーローだ。

 No. 1ヒーロー、オールマイト。

 昔なんか凄い大きな災害? のとき、被害者をたくさん救い出したヒーローだ。

 

「HAHAHAッ! 敵退治に巻き込んでしまってすまない! おかげで無事、詰められた! しかし、自衛の目的以上に個性を使っちゃいけないぞ?」

 

「はあ」

 

 哀れヘドロ敵、なんと一瞬のうちにコーラのペットボトルに詰められてしまった。

 質量保存の法則とかどうなってるんだろう? 

 ……って、アレ? 

 

「あの「では、私はこの敵を警察に届けねばならんので。液晶越しにまた会おう!」あー……」

 

 ペットボトルの蓋が緩んでいたようだったので伝えようと思ったのだけれど、それより早く何処かへ行ってしまった。

 ……まあ、いっか。

 No. 1ヒーローであるオールマイトなら大丈夫だと思ったのだが、その考えが甘かったと気づくのは数十分後のことである。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 あの後お母さんからおつかいを頼まれた私は、商店街に来ていた。

 揚げたてのコロッケの香ばしい匂いと、安くしとくよって言葉の組み合わせは反則だと思う。

 頼まれたおつかいをつつがなく終え、つい買ってしまったコロッケを頬張りながら家へと帰るこの夕方。

 あんな敵が出たばっかりなのに平和だなぁ……なんて思っていると突然、裏通りで大爆発が起きた。

 事故か? そう考えているとBOOOM! BOOOM! と爆発音が連続して聞こえてくる。

 ……って、聞き覚えのあるこの爆発音はまさか。

 

「ぉぉぉぉおおおオオオオ!!」

 

 腐れ縁の幼馴染である爆豪勝己と先程のヘドロの敵が融合し、暴れながら商店街の表通りに飛び出してきた。

 やっぱり蓋、外れちゃったのか。

 

「この個性があれば奴も、あの女もぶっコロせる!」

 

 ターゲットの1人は私だったらしい。

 さ、避難しよう。

 私の個性ならばヘドロの敵と腐れ縁を分別して、再び詰めなおすことは簡単なんだけど……

 

「資格を持たない市民が個性を使うのは犯罪だからなー。さっきも自衛以外で使ったらダメって言われたばっかりだしなー。いやー、助けたいのはやまやまだけど、避難しなきゃー」

 

 棒読み? 気のせいですよー。

 ヘドロと腐れ縁が融合して腐ったヘドロのようになった敵なんて、まとめて可燃ゴミ行きになってしまえばいいのに……なんて思ってないですよー? 

 

「見つけたアアア!!」

 

 あ、見つかってしまった。

 この状態で避難してしまうと、まあ間違いなく野次馬が巻き込まれるだろう。

 それはそれで別に良いんだけれど……

 あとで何だかんだ言われるのも面倒なので、仕方なく対応することにした。

 自衛のためだからー? 

 決して、決っして! いつも突っかかってくる腐れ縁への恨みを発散したりしてませんよ? 

 いやー、私の個性で吹き飛ばしたりしたら、大怪我を負ってしまうかもしれないし? 

 拳で対応するのは仕方ない事なんだー。

 

「私二車線以上じゃなきゃムリー!」

 

 襲いかかってくる敵の対応(腐れ縁をサンドバッグに)し始めてから5分くらい経ち、ようやくヒーローが到着し始めた。

 無理とわかっているなら、なんで来た。

 

「爆炎系は我の苦手とするところ……! 今回は他に譲ってやろう!」

 

 なら対策する努力とかしなかったの? 

 イチョウとか火に強い木もあるはずだけれど。

 

「そりゃサンキュー。消火で手一杯だよ! 消防車まだ!? 状況どうなってんの!?」

 

 多分、誰も通報してないよ? 

 最近の消防車は5分くらいでくるらしいし、まだサイレンすら聞こえてこない。

 

「ベトベトで掴めねえし、良い個性の人質こどもが抵抗してもがいてる! おかげで地雷原だ、三重で手を出し辛え状況!」

 

「ダメだ! これ解決出来んのは今この場にいねえぞ! 誰か有利な個性やつが来るのを待つしかねえ!」

 

「それまで被害を抑えよう! 何、すぐに誰か来るさ!」

 

「あの子達には悪いが、もう少し耐えてもらおう!」

 

 どうやら、足手まといしかいないらしい。

 誰も通報していないのだから、近隣以外のヒーローが助けが来るわけがないのに。

 顰蹙を買うことを覚悟して、さっさと避難しようかなと思い始めていたその時だった。

 

「____そこまでだ」

 

 その声は、それほど大声であったわけでもないのに、爆発音以上によく響いた。

 まず感じたのは安堵だった。

 助かったのだと、もう大丈夫なのだと。

 

「器物損壊、殺人未遂、傷害、放火、公務執行妨害……よくもまあこんな短時間でこれだけ罪を重ねたものだ」

 

 そして彼は現れた。

 その姿は今ここに居るどのヒーローよりもヒーローらしくて……

 ああ、これ以上は語ろうとするだけ不粋というものなのだろう。

 劇的なピンチなどないまま、ヘドロの敵は散らされて意識を失い、捕縛された。

 彼はヒーロー達が動き出すより先に何処かへ消え、私と腐れ縁はヘドロの敵に対抗していたタフネスと個性を賞賛された。

 そんな事、私にとってはどうでも良かった。

 

「__ハ、あは」

 

 彼は本気で生きていた。

 自分以外の誰かを助ける、ただそれだけのために。

 そんな彼に、私は強く惹かれた。

 もしかすると、一目惚れというやつなのかもしれない。

 

「ハハ、アッハハハハハハッ!」

 

 欲しい! 

 彼のことが! 

 あの全てを魅了するような輝きを、私だけが見れるようにしてやりたい! 

 

「そのために……雄英受験、本腰入れようかな」

 

 きっと彼は雄英高校を受験する。

 なんでそう思うかって? 女の勘だ。

 彼が不合格になるはずもないし、私は今のままでも当たり前に合格できる自信はある。

 でも、本気を出さずに適当に過ごしている姿を彼に見られるのは、なんだかとても恥ずかしい。

 こうなってくると、昨日までの怠惰な自分に怒りすら湧いてくる。

 

「決して逃がさない。他の誰にも渡さない。__彼のすべては私が奪う」




結局のところ、展開は変わらず。
むしろチート度が加速していくまでありそう。


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2-re

ゲームで泣いたの初めてな気がする。
ムラサメ大尉とのシーン……


 あれから雄英の入試までの10カ月はあっという間に過ぎた。

 

 私が雄英受験のためにやる気を出したことで、教師陣が狂喜乱舞したり。

 兄の暴言を吐いた担任を許す気は無いので、受験料から入学費まで、全額負担させる予定。

 雄英高校は公立だがその特殊性か、受験料が非常に高いのだ。

 

 突然やる気を出し始めた私に、母さんがどこかで頭を強く打ったか心配したり。

 恋はいつでもハリケーンなんだよ! 

 運命の人を見つけた女の底力を舐めるなよ! 

 

 訓練の一環として、海浜公園に溜まりに溜まった不法投棄の山を片付けたりしていた。

 個性の操作性や出力の上昇を目指す事はもちろん、肉体の鍛錬にもなった。

 その結果今では、私の腹筋は割れ気味になった。

 

「広いなぁ……」

 

 今日は雄英高校一般試験実技試験当日。

 学校説明会とかで来た時も思っていたが、ほんっっとうに敷地が広い。

 さらに異形系の個性に対応したバリアフリーなのか、基本的に縮尺が大きい。

 女子としては背が高い方なんだけど、腕を伸ばしても扉の上に届かないほど。

 だいたい5mくらいはありそうだった。

 自分達がまるで小人になったかのような錯覚を覚えつつ、先生方の誘導で着いたのは大きなホール。

 ここもライブ会場か!? って言いたくなるくらい広い。

 既に席がほとんど埋まっているあたり、無用の長物ではなく、本当にこの広さが必要なようだ。

 このホールではこれから、実技試験についての説明がある。

 隣は……

 

「そういえばお前も受けるんだっけ? ヘドロの敵の時みたいな無様を晒さないよう、せいぜい頑張りなよ」

 

「うっせえよ。この舐めプクソアマが。テメェこそせいぜい死なねえようにするこったな。今回は誰かが助けに来てくれたりはしねえんだからな」

 

「「ッチ!」」

 

 なぜよりにもよってこいつなのか。

 いやまあ、同じ学校から出願したのが私とコレだけだからだろうけど。

 

『今日は俺のライヴへようこそー!! エヴィバディセイヘイ!!』

 

 あれ? 試験会場間違えた? 

 ……いや、合ってるわ。

 突然出てきて彼は何を言っているんだろうか? 

 案の定会場の空気は凍り、シーンっという無音の音さえ聞こえそうな感じだ。

 

『こいつぁシヴィ──!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!?』

 

『YEAHH!!!』

 

 またもや無音。

 真剣な思いで緊張しながら来ている受験生に反応しろというのは理不尽とは思うが、なんかちょっと可哀想なくらいレスポンスがない。

 

『入試要項通り! リスナーにはこの後、10分間の「模擬市街地演習」を行なってもらうぜ! 持ち込みは自由! プレゼン後は各自、指定の演習会場へと向かってくれよな!!』

 

『O.K.!?』

 

 チラッと見たが、私とコレの試験会場は別だった。

 同校同士、協力させないという配慮なのだろう。

 

「これじゃあテメェを潰せねえじゃねえか」

 

「私としては、足を引っ張られる心配がなくて安心だけどね」

 

「「……あ゛?」」

 

 ステイステイ。

 ここで問題を起こせば、受験資格すら失いかねない。

 

「質問よろしいでしょうか!?」

 

 おお!? 

 右斜め前の人が突然立ち上がり、舞台上でプレゼンをしている教師に質問した。

 彼はプリントには4種の仮想敵が書かれているのに、説明では3種の仮想敵と説明していたことに対してついて聞いていた。

 

「ついでにそこの君たち! 先程からボソボソと……気が散る! 物見遊山のつもりなら即刻、雄英から去りたまえ!」

 

 きっと彼は、クソがつくほど真面目なのだろう。

 なかなか面白い奴だ。

 気に入った、潰すのは最後にしてやる。

 まあ、アンチヒーロー行為が禁止されている以上、彼が合格すればという話になってしまうが。

 結局、残りの1種は他の3種とは違い1体のみの、スーパーマリオブラザーズ? っていうレトロゲーのドッスン? とかいうお邪魔虫みたいなものらしい。

 一体何年前のゲームなんだろうか……

 

『俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校の校訓をプレゼントしよう! かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!』

 

Puls Ultra(更に向こうへ)!!』

 

『それでは皆、いい受難を!!』

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

「やっぱり広っ」

 

 試験会場までバスで移動だった。

 模擬市街地演習というだけあって、試験会場もかなり広い。

 割と大きなビルがひいふうみい……

 

「……修繕費とか、請求されないよね?」

 

 私の個性の都合上、最も楽な攻撃方法は対象を何かに叩きつける事だ。

 一応出力を上げれば貫通も不可能ではないが、それではスタミナのロスが大きくなってしまった。

 さて……

 

『ハイ、スタート!』

 

 スタートの合図がなった! 

 索敵しながら街へ飛び込む……まだ近くにポイント(良いもの)はなさそう。

 近くにある良いものは直感でわかる。

 逆に遠ざけたい嫌なものも直感でわかる。

 私はこれを、物欲センサーと呼んでいる。

 

『どうしたぁ!? 実戦じゃあカウントなんざねえんだよ! 走れ走れぇ! 賽は投げられてんぞ!?』

 

 遅れて他の受験生が街に向かって動き始めた。

 ん? 物欲センサーに感あり。

 

『標的捕捉! ブッコロス!』

 

 確かコイツは……3ポイント仮想敵だ。

 こちらに向けてミサイルを発射……した直後にミサイルを対象にして弾き飛ばす力を使った。

 発射されたミサイルは内側へと戻っていって派手に暴発、まず3ポイントゲットだ。

 って、おお? 今の音を聞きつけたのか、何体かこちらに向かっているみたいだ。

 さっきの仮想敵で大体の強度はわかったし、蹂躙しますか。

 

 

 大体8分くらい経った。

 物欲センサーで捕捉した仮想敵を引き寄せ、近くの仮想敵に叩きつけるという単調な作業を続けた結果、さっき100ポイントを超えた。

 私に注意していた真面目な彼の得点は、さっき45ポイントだった。

 さっきすれ違った少女は、28ポイントくらいでバテ始めていた。

 彼の個性は脚力強化系、少女の個性は仮想敵を浮かばせていたので浮遊させられる発動系なのだろう。

 彼らの取得ポイントが受験者の平均値……かどうかはわからないが、この状況で迷いなく動ける彼らが劣等ということもないだろう。

 ならその倍以上のポイントを取っているなら、合格は確実と確信を得られる。

 

 THOOM!! 

 

 そういえば0ポイント仮想敵は見てないなー……なんて思いつつ、寄ってきた3ポイント仮想敵を潰していた時、向こうの通りからビルを超えるほど巨大な仮想敵が現れた。

 なるほど、お邪魔虫なんて言われるわけだ。

 

「……でも、あの人ならここで逃げずに立ち向かうんだろうな」

 

 なら私もこの程度の脅威、逃げるわけにはいかない。

 そもそも自分が敵わない敵が出たからといって、被害者を見捨ててさっさと逃げる奴なんかにヒーローになる資格があるのかという話だ。

 まずは0ポイント仮想敵の近くで倒れている他の受験者を引き寄せ、個性を使うための射線を確保。

 アレは敵。寄ってくるだけで被害を及ぼす、何の価値も無いクズ以下の敵。

 だからといって単純に吹き飛ばしてしまえば、それはそれで大きな被害が出る。

 さてどうしようか……そう考えていた時、引き寄せた少女がさっきの仮想敵を浮かばせていた彼女だと気づいた。

 ふむ……良し。

 

「そこの仮想敵を浮かばせてた貴女。その個性で私を浮かばせる事は出来る?」

 

「え? あ、うん。できるよ? でも、何する気なん? って、それよりも先にお礼言わなな。助けてくれてありがとう!」

 

「ちょっとあのデカブツを潰してきます」

 

 どこかへ飛ばすから被害が出るなら、上から押しつぶしてしまえば良いんだ。

 そういうことで渋る彼女を説得し、私の体を無重力にしてもらった。

 おお、フワフワして不思議な感じだ。

 軽く地面を蹴っただけで、私の体は浮上していく。

 飛び上がった先にあった街灯を踏み台に、加速をつけてビルの壁へ。

 ビルの壁を駆け上り、おおよそ0ポイント仮想敵の直上に到達した。

 

「お前は敵、私の人生に不要な害悪。なら、私の側に近寄るな。どこか遠くに逝ってしまえ」

 

 貪恣掌・全力発動。

 

 まあ結果はいうまでもないだろう。

 しかし……叩きつけたトマトのようにグシャリと潰れた仮想敵の残骸の上で、フヨフヨと浮いてる私はどうすれば良いんだろうか? 

 このままだと、試験終了まで浮きっぱなしになってしまいそうだ。

 

『終──了──!!』

 

 終わったらしい。

 もう少しで、反対側のビルに辿り着きそうなんだけど……

 こう、どう動いても進行速度も方向も変わらないって辛い。

 

「よし、良いよー!」

 

「りょーかい! 3ー2ー1! 解除!」

 

 ようやく向かいのビルの屋上の上空に辿り着いた私は、無重力化の個性を解除してもらう。

 割と高いところから落ち始めたが、なんとか受け身をとって着地した。

 

「いやー、なんというか凄かった!」

 

「貴女のおかげで、被害を最小限に抑えるように倒せたわ。協力してくれてありがとう。入学式で、また会いましょう」

 

「いやいや、私なんか。もしも助けてもらえへんかったら、0ポイントに踏まれてぺっしゃんこになってたやろうし」

 

 あんまりポイントも取れへんかったし、多分私は不合格やろうなーなんて、泣きそうな顔で笑ってる彼女に私の推測を伝えることにした。

 いやまあ、気づいたのは試験が終わってからだったけど。

 多分この試験は仮想敵の破壊によるポイント以外にも、隠されているポイントがあると思う。

 ヒーローはあくまで慈善活動、誰かを助けるのが仕事。

 つまり、誰かを助けようと行動すれば、それもポイントとして計上されているはずだ。

 

「つまり他の受験者を守ろうと行動したことは、多分だけれどポイントに加算されるはず。だから他の受験者を守るため、私に協力した……貴女が不合格にはならないと思う」

 

「えへへ、そうやといいね! あ、私は麗日お茶子っていいます!」

 

「緑谷引天。よろしく、麗日さん」

 

「お茶子でええよ。引天さん!」

 

 そういえば今の今まで彼女の名前すら知らなかったのか。

 結局今日あの人に会うことは叶わなかったが、仲のいい友人が進学先にできたというのは良いことだと思う。




物欲センサー
近くにある良いものと悪いものを漠然と感じ取れる。
ガチャでレア度が高いのが出やすいタイミングとかもなんとなくわかる。
点数は良いものなので、良いものとして反応。
0ポイントは邪魔なだけでどうでもいいものなので、反応しなかった。

貪恣掌・全力発動
文字通り、個性を全力で使うだけ。
今回は嫌のものを最大威力で叩きつけましたが、逆に良いものを引き付ける時も同じ技名。

壁を登っていくイメージは、ゴートシミュレータの無重力羊みたいな挙動で。



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