空と魔法 (赤ちゃんパイナップル)
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降り立つ少女


初めまして赤ちゃんパイナップルです。

仕事のストレス発散に書き始めました。






 

サリエリアは手元の手紙に書かれている内容に首を傾げた。

小難しくてなにやら見慣れない言葉も多々入っているようだが、そこはサリエリア11歳である。少なからず勉学に励んできた彼女は例えそれが理解できない単語であってもなんとなくニュアンスで把握できた。

要約すると、君は11歳になり魔法学校に入学する権利を得た。我が校に招待してやるからとっとと準備を済ませこのすっとこどっこい。と、いうことだ。

 

魔法学校。その言葉はついこの間、騎空挺内で聞いた言葉だ。こちら側の世界に飛ばされた後、情報収集に出ていたイオちゃんが開示した中にこの世界には11歳から魔法に適正にある子供達を教育する場が設けられるそうだ。良家の子供達も多く、色々な身分の子供達が集う。マナリア学園に少し似ているがその拡大版といったところなのかもしれない。

なんだかいろいろ考えているうちに興味が湧いてきた。まずはこの手紙のことを団長さんと小父さんに伝えよう。

サリエリアは小走りで駆け出した。

 

✴︎

 

「それで、帰還の目処はつきそうなの?」

「あはは、それが全然でさ……。正直、前回カタリナさんが起こした時空の歪みとは訳が違うっていうかそもそもの原因がよくわからなくて」

艇の会議室の椅子に腰掛ける2人。片方が短髪の青年、片方がショートカットの少女。幼い頃から共に育ってきた幼馴染でありこの団をまとめ上げる団長と副団長だ。

そのツートップが深刻に話す内容は既に3ヶ月という時間が流れているにもかかわらず一向に進展を見せない現状に対してだ。

順調に進んでいた空の旅の途中、緑の閃光と共に目の前の空間が歪み艇は瞬く間に飲み込まれた。幸いにしてけが人や艇の破損はなかったが艇から見える景色は見慣れた空ではなく全く別の場所だった。

これまでも似たようなことは何度かあったが、ルリアやオーキスに聞いたところ、この原因は星晶獣ではないらしい。加えてこの数ヶ月の調査によればここは地上だということが判明している。この時点でここが僕達のいた世界とは別であることが確定した。元の世界にも地上はあるが、大陸の形や星の位置も全然違う。

また、他にわかったことはこの世界には非魔法族と魔法族が住んでいて僕達はその魔法族よりの場所に転移させられたこと。どちらの文明も僕達の世界とは違う発展を遂げていることぐらいだ。大多数の団員は非魔法族の暮らす場所を気に入り美味しい料理やら精密機器やらを解析して過ごしているが、一部の団員はやはり未知の魔法に興味があるのか習得に躍起になっている。

正直、落ち込むより前向きな姿勢はとても嬉しいのだがこちらの生活に馴染みすぎていてなんとも言えない。今や真面目に会議に出るのも僕とジータだけだ。もう、いいんじゃないかとすら思えてくる。

 

ジータと現状を再認識して軽くため息をつく。それからジータが他の団員との用事で席を外すと重苦しい空気もようやく霧散した。話もひと段落して場が弛緩したところに丁度よくノックの音が響く。

 

「どうぞ」

 

中の様子を伺うように優しく扉を開けて出てきたのは黒髪のジータヘアーの女の子。たしかエグゼクレインの故郷で一悶着あった時に仲間になったサリエリアちゃんだ。この団にまた幼い子供が増えると当時は入団に反対したが、結局ナルメアさんを筆頭にお世話し隊の押し切りで承諾した覚えがある。入団してからその勤勉さも相まって団内の備品整理や発注で団に貢献してくれているし、本人も魔法の才があるようで力をつけてはいる。結果として正解だった訳だがその彼女がいったいなんのようなのか。

「珍しいね。サリエリアちゃんが僕に用事があるなんて」

「サリエリアちゃんじゃなくサリィって呼んでください。ボク、そう呼んでほしいです」

「あー、ごめん。それでサリィどうしたんだ?」

「はい! これです!」

 

元気よく差し出されたのは魔力が宿った一通の手紙。ひっくり返してもなにも書かれていないしこの魔力にも覚えはない。

 

「中身は見たのか?」

「はい。魔法学校への入学許可が書いてました」

「え? 入学? 魔法学校? どいうこと?」

 

すぐに中の手紙に目を通す。そこにはサリィの言葉通りに規定の年齢になったから才あるサリィへのホグワーツ魔法学校への入学許可を認める旨が書かれていた。しかしおかしい。イオやアルタイルが調べた情報には身元の確認が魔法省で取れている子供達に、という前提がつくはずだ。僅か3ヶ月前に現れた僕達を魔法省が認識しており、その内部の人員を把握しているとはとても思えない。それに年齢なんて団長の僕ですら把握できてないものを外部の組織が知っているとは到底考えられない。そもそもニオやノアによってグランサイファーは認識阻害の魔法がかけられている。この世界の魔法使いの腕など知らないがあの2人の魔法を突破するのは至難の技だろう。

となると、いったいだれがどうやってここにこの手紙を送ってきたのかがまるでわからない。それに会議前にあったイオやアレクにはそれらしい反応もなかった。ヴェトルやコッコロはその種族から手紙がこないことも、理解できるが同じ人間のサリィにきてあの2人に手紙がこない理由も不明だ。

 

「あの……」

「っ! あ、ああごめんごめん。ちょっと考え込んじゃってた」

 

これ以上1人で考えていても拉致があかない。問題は後に回してまずはこの手紙をどうして僕に持ってきたかを聞こう。

 

「それでサリィはどうしてこれを僕に?」

「はい! ボク、入学したいんです。我儘だってわかってるけど、それでも今より成長できるキッカケになると思ったから……。イオちゃんやアレク君はボクよりずっと先にいます。ずっと前から頑張ってきた2人に簡単に追いつけないってことはわかるけど、それでも少しでも早く並びたいから! それに団長さんやボクを受け入れてくれた人達の為にももっと役に立ちたいから! ……それがボクが入学ししたいと思った理由です」

 

なるほど。微妙に質問の意図とは違う解答だったが彼女の意思は伝わった。大事な仲間の一大決心だ。僕個人としては大変心揺さぶられたがそう簡単に彼女の入学を決定できることじゃない。まずは団員を集めて話し合う必要があるな。

 

「サリィの気持ちはわかった。なら次はその気持ちをみんなにも伝えよう。大丈夫、サリィの気持ちはきっと届くよ」

「はい!」

我ながら顔に似合わない台詞だと思うがこれがサリィの心を軽くするなら羞恥心などトイレにポイだ。この笑顔が見れただけ良しとしよう。入ってきた頃は顔にアイシクルネイルがかかってたからね。

 

 

「——-ってことです。さっきサリィがみんなに伝えた気持ちを僕は尊重したいと思う。確かに未知の世界に1人だけ向かわせるのはとても危険な判断なのかもしれない。けれど危険だからと簡単に避けていては僕達の旅にいずれは取り残されるかもしれないというサリィの気持ちはよくわかる。ここ数ヶ月でこの魔法界だけだがある程度の情報は得ることができた。僕も最大限のバックアップをする。どうだろう、サリィの入学に反対の人はいるかい? ——-ありがとう。サリィ、これから頑張ってね」

「——-はい! 皆さんありがとうございます!」

 

 

✴︎

 

見事に同意を勝ち取ったサリィの笑顔から数日後、この世界の魔法を勉強していた僕の元へノアが訪ねてきた。

 

「やぁグラン。少し気になることがあって知らせにきたんだ」

「それで」

「うん。相手の意図は不明だけどグランサイファーの真下に魔法使いが1人。この間君が作った家の周辺でなにやら誰かを探してるみたいなんだ。もしかしたらこの間の魔法学校の関係者かと思ってね」

「成る程。それについては心当たりがある。教えてくれてありがとう」

「うん。じゃあ僕は艇内の整備に戻るよ」

「ああ」

ようやく来たか。おそらく手紙に記載されていた入学必需品を買い揃えるための案内人とやらだろう。ユグドラシルや物作り系に強い団員に手伝ってもらった小さい家がこの下にある。おそらくその家にサリィがいると判断したのだろう。と、なれば保護者として僕が向かうか。

 

「サリィ、いるかい? 学校の案内人が下に来てるんだ。すぐに着替えて出ておいで」

サリィの部屋を叩いて返事を待つとノータイムで返ってきた。

「今いきます!」

「っとと」

勢いよく飛び出してきたサリィを抱くようにして受け止める。よほど期待してたのだろう。だとすれば僕も嬉しい。

「あ、ごめんなさいっ。き、気をつけます」

「いいさ。それより捕まって。テレポートで下の家にいく。この前話したことは覚えてる?」

「はい! 団長さんはお兄さんで両親はなし。艇のことは内緒で2人で暮らしてる設定で、合ってますよね」

「バッチリだ。じゃ、いこうか」

 

次に視界に入ったのはユグドラシルの木でできたからなのか優しい魔力が充満する家の中だった。その中でも一際魔力を放つ木造の扉からコンコンと音がする。僕はさっそくそれに応えるために扉を開けた。

 

「どちら様でしょう」

 

開け放たれたドアの前にはしかし、誰もいない。

「にゃあ」

いやいた。猫だ。可愛いトラ猫。だがしかし、残念ながらこの猫はウチの猫マスターたるダーントやセンのお眼鏡には叶うまい。いや、可愛いければ関係ないとかいうかもしれない。まぁ、どっちでもいいか。とりあえず今言いたいことは目の前の猫は猫ではないということだ。

とりあえず猫を一瞥した後に猫とサリィが対面できるように一歩脇にずれる。

「サリィ、挨拶するんだ。魔法学校の方が来てくれたぞ」

「え? ……………あ! 初めましてサリエリア・ムーンリーフです! 今日はよろしくお願いします!」

その言葉に猫は僅かに目を見開いた後、すぐさまその姿を変えた。

 

「ご丁寧にありがとうございます。まずは先ほどの比例をお詫びいたします。私はホグワーツ魔法学校で副校長を務めさせていただいておりますミネルバ・マグゴナガルという者です。こちらこそよろしくお願いしますねムーンリーフ」

「……すごい。一瞬で猫さんから人に変わった」

「ふふふ、貴方がこれから先ホグワーツで懸命に努力することができればいつか貴方も同じことができるようになります」

「ボク、頑張ります!」

「よろしい。と、家主を置き去りにして申し訳ありません。ついつい目の前の子がやる気に溢れていたもので夢中になってしまいました」

「いえ、構いませんよ。そう言っていただけるのであればサリィをホグワーツ校に預ける甲斐があるというものです。遅れましたが、ボクの名前はグラン・ムーンリーフ。この子の兄です」

「お兄さんでいらっしゃっいましたか。失礼を承知でお聞きしますがご両親の方はご在宅でしょうか?」

「いえ、両親は僕達が幼い頃に……」

「そう……嫌なことを思い出させてしまって申し訳ありません。ところでどうして私が人であることがわかったのか聞いてもよろしいでしょうか」

これまでの温かな視線とは変わって若干少し鋭い目で僕達を見てくるマグゴナガル副校長。とはいえ鋭いと感じたのはこの人の顔が元から厳しめの表情だからかもしれない。おそらく興味を持った視線が鋭さに現れているのだろう。こちらを見極めようとしているのかもしれない。サリィに悪感情を抱かれるのは避けたいし、ここは正直に答えるのがいいかな。

 

「ええ。魔力の流れが純粋な猫とは違いましたから。人であると確信はできませんでしたが、猫ではないという確信はありました」

「……貴方は体内の魔力が見えるというのですか?」

驚いた、というより信じられないという面持ちでこちらを見るマグゴナガルをみるにもしかしたらこちらの世界では普通ではないのかもしれない。

「ええまあ。とはいえそうハッキリとしたものではありませんし、それで何が変わるということもありません」

「そう……ですか。ええ、失礼しました。ミス・ムーンリーフはどうでしょう」

「はい。ボクは最初は全然わからなかったです。でも兄が魔法学校の方だというのでよく観察してみたら、魔力が違ったもので」

「貴方も、お兄さんと同じで見えるのですか?」

「えっと、はい。もしかしてなにか拙かったですか?」

「いいえ、いいえ。ただあまり聞いたことがないことだっただけです。決して不利になることはありませんよ」

「はぁ、よかったです」

 

どうやら一連の反応から見るに普通ではないが、問題もないらしい。あまり口外さえしなければ特に問題視することでもない。けれどあちらとこちらの常識の違いが思わぬところで出てくる可能性がは考えてはいたが、こうも簡単に出てくるとは違いは意外と多いかもしれない。サリィは苦労するかもしれないな。

 

「ムーンリーフ。リストに記載されていた必需品はまだですね?」

「はい」

「よろしい。では今から揃えに行きますよ。お兄さんはどうしますか?」

「いえ、ここで待つとします。ホグワーツでは僕と離れ離れだ。その予行練習みたいなものです」

「それでは、ムーンリーフは私がお預かりしました。日が沈む前には戻ります」

「この子をよろしくお願いします」

 

若干付いてきて欲しそうな目でこちらを見てくるサリィから目をそらす。ガーンとでも頭の上に文字が出そうなリアクションをとるサリィを無視してマグゴナガルに預けると、この世界の魔法なのか一瞬でも目の前から姿を消した。

 

✴︎

 

 

必需品を揃えてから2週間後。ついにその日はやってきた。

「忘れ物ない? ハンカチは持った? あ、ローブの裾がめくれてるわ。女の子は身嗜みが大切なんだから気をつけないと。最後にもう一度リストと照らし合わせて確認しなくていい?」

「大丈夫! 大丈夫だからナルメアさん!」

「ナルメアお姉ちゃんでしょう?」

「いい加減にしないかナルメア。これではいつまでたってもサリィが出発できない」

「うー、ほんとにほんとに大丈夫? お姉ちゃん着いていこっか?」

「ううん。大丈夫だよ。それに頑張るって決めたから」

既に成長の兆しが見え始めたサリィの笑顔はこの場のほとんどの団員を安心させるに値した。が、それでも心配なのがナルメアという人物だ。本当ならもう少し構わせてやりたいが時間がない。

 

「ナルメアさん。もう時間ですよ、ほら、見送りの顔がそんなんでいいんですか?」

「うー……はぁ。 サリィちゃん、何かあったら必ず連絡するのよ。何かなくても必ず連絡するのよ。それと、精一杯楽しんで来なさい」

「——うん!」

 

その日、1人の少女が空から地上へと降り立った。

 

「なんか楽しそうだな。オイラも着いてこうかな」

「ビィくんはダメ」





✴︎ サリエリア

見た目可愛い11才の女の子。村の村長の娘で村民からの重圧の中で育ってきたボクっ娘。本編ではシリアス感全開で憑依後は顔芸要員になっている。
ぐらぶるっ! では同じ11才のイオや年下のサラやフェンフの凄さに圧倒され、自らの非力さに土下座して詫びている。可愛い。
若干、腐の匂いがしなくもない。

✴︎ ムーンリーフ

サリエリアの苗字。特に特別な意味はない。cv担当者の葉月をそのまま使用した。語呂がよくて気に入っている。

✴︎ ナルメア

全空のお姉ちゃん。お姉ちゃん力は53万らしい。

✴︎ オイラ

オイラ!


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