有澤重工×アイアンサーガ 〜アリサガ〜 (人類種の天敵)
しおりを挟む

始まり

リハビリ目的で今ハマってるアイサガとアーマードコア小説で短く書いていきます。
因みに心宿三ラブです。
既存BMの妄想改造マシマシで。



びゅうびゅうと嵐が吹き荒ぶ夜に、1人の少年は夜空に手を伸ばして座っていた。

 

「汝、こんな所にいたのか」

 

少年の背後から1人の女性が現れた。

透き通るような真っ白な肌に機械的な装飾を施した近未来的な服装の女性だ。

 

「何を見ている?」

 

「空」

 

「吾の目には旧世界を隔てる壁しか見えないが」

 

びゅうびゅうと音を立てる嵐に対して少年は鼻歌を歌っている。

 

「旧世界とか、この世界とか、どうでも良い。けど向こう側の空を飛んでるんだ。……黒い鳥が一匹。何にも縛られず、自由に空を飛んでいる」

 

ほう、と女性は目の前の壁に手を向けた。

彼女の目には何も見えないが、少年にはその向こう側の景色が確かに見えているらしい。

 

「汝は行くのか」

 

「ああ、俺は行くよ」

 

「吾も汝も、大君の兵だ。それが大君の思想から外れ、自由になるというのか」

 

少年は立ち上がった。

 

「あの鳥の名前。アレは鴉っていうらしい。お前の名前と同じだ。でも、あの黒い鳥はあの大空を好きなように生きて好きなように死ぬ。俺は鴉に、渡り鳥になりたい」

 

少年の言う、鴉と言う生き物を聴きながら、なんとも自分とは正反対の生き物だなと鴉は自嘲する。

自らは培養槽から生まれ出て、いずれ大君の尖兵として旧世界で朽ちる命だろうと考えながら。

 

「この周辺は吾らが既に包囲している。考え直せ汝。汝の力は吾らを遥か上回り、大君も汝には目を掛けている」

 

「無理なんだ。あの果てない空を飛ぶ。その姿を見たらもう、こんな鳥籠には居られない」

 

いつのまにか、少年の側に鋼鉄の黒い戦闘機が鎮座していた。

 

黒を基調とし、黄色のラインが入ったその戦闘機は、偶然か必然か、彼が夢見た渡り鳥と、そして彼の側に立つ女性と同じ名を冠していた。

 

「俺は此処を出る。そして、好きなように生きて好きなように死ぬ。ーーー鴉。お前はどうする?」

 

彼の言葉に女性は、鴉は刹那の時を迷った。

そして顔を上げた時、既に少年は夜空に消えていた。

 

「全く、敵わないな。汝には」

 

人狩の部隊を蹴散らし、舞うように空を飛ぶ黒い機体は、やがて嵐の覆われた世界を飛んだ。

その姿は、彼の言っていた渡り鳥のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー暗く、ごちゃごちゃとゴミや食料が密集した閉塞空間の闇の中に規則正しい寝息が響いている。

その寝息の主は寝心地バツグンのセールス文句を携えたシートに体を傾け、どうも機嫌が良さそうだ。

 

『起きて、レイヴン。時間、そろそろ来る』

 

「………ん?ぁあ、了解」

 

耳元から忍び寄る天使のように甘い声音に意識を覚醒させた彼は、コックピットにコードを繋がれたゴーグル型のHUDを覗くと、拡大された画面に現れた護送車両へ照準を合わせた。

 

「ーーったく、待機して数時間待った後一発喰らわせて終わるっつー簡単な依頼のはずが、蓋を開けてみれば二日間も待たされてやんの。ちゃんと料金上乗せしとけよ?雲雀」

 

『当たり前。幾ら依頼を仲介したのがミドリでも手加減しない。まだガレージには改造中のBMがあったのに……乙女の時間は有限。それに冷蔵庫の中のケーキも昨日が賞味期限だった』

 

たった 1日過ぎたくらいで腹を壊すタマかよ、と彼は相棒を笑ったが、やがて照準を合わせた車両に向けて引き金を引くと、ズドン、と大きな音と振動を起こして巨大な質量を持ったビーム状の弾丸が弾き出された。

森林に潜むギリーフォックスが持つビーム狙撃銃は計算された弾道距離を正確無比に飛んで護送車両を爆散させる。

護衛中のBMが慌てたように周囲を警戒するが、何処見てんだ間抜けっ、と彼はせせら嗤う。

 

『ーー命中。依頼目標の排除確認。お疲れ、早くお家に帰ろう』

 

「ああ、携帯食料の味にも飽きたし、何より身体が凝って仕方がない。だからこういう依頼は嫌なんだ」

 

バサバサバサ、と周りの偽装された木々をなぎ倒して鋼鉄の巨大が姿を現した。

6.0×7.3のサイズを持った迷彩柄のBMギリーフォックスが偽装コートを畳んで撤収準備を始めていると、白い色の輸送用ヘリコプターが着陸して格納庫の扉を開いた。

 

「こんな退屈なミッションはもううんざりだ」

 

『次は強襲ミッションが良い?それか、ミドリから面白そうな話があるけど』

 

彼の名はレイヴン。

数年前、流星の如く現れたA級傭兵である。

 

これは、高橋重工に国内シェアを奪われて業績の悪化したとある企業のテストパイロットになった傭兵が自重せず改造BMやガチタンで高橋重工の令嬢も男の娘もドールをも恐怖に陥れ、ついでに日ノ丸の君主様の護衛主力機の座を狙う物語である。

 

ガチタン「それはそれとしてビームは、マズイ……」

 




Aランク ギリーフォックス チューニングメカ
重量88 サイズ6.0×7.3 速度69

単発主砲 ビーム狙撃銃:ビーム
連発副砲 ビーム拳銃:ビーム
単発ミサイル 閃光弾 :爆発
単発ミサイル 煙幕弾:爆発
連発ミサイル 盾内蔵式ミサイル:通常
拳型格闘 ナイフ:通常

行動
狙撃
シールド
防御ミスト
ステルス
反撃副砲

コア:固定砲台
銃弾:エーテル弾
補助:レーザースコープ
装甲:迷彩装甲
塗装:偽装コート
ペット:AMIDA

備考
ゼネラルエンジン製の局地戦型BMシルバーフォックスの改造機。
リンクスの後継機として高い性能を持っていたが、更に熱帯雨林などの狙撃、待ち伏せ機としてカモフラージュ用に偽装コートやペイントを施した。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アフリカor日ノ丸

主人公の相棒の名前を雲雀に変えさせていただきました。


 

ヘリにしては驚くほどに静寂とした音で改造輸送ヘリの飛燕がゆっくりと格納庫に着陸する。

そして、飛燕の後部ハッチが開いて、雲雀の指示に従い、改造BMギリーフォックスを動かす。

 

俺と雲雀以外に誰もいないガレージは閑散としていて、ギリーフォックスの駆動音と輸送ヘリの飛燕が別の格納庫に収納される音だけが響いている。

 

「それで?次の依頼はどんなのがあるんだ」

 

マニュピレーターを動かして直接ビーム狙撃銃のレーザースコープを外したり武装を格納庫にぶち込んでいく間に次の依頼の詳細を雲雀に聞くと、彼女は可愛らしくも言葉少なめに話し始める。

 

『アフリカまで飛んでアンデット小隊と合流して戦争に参加するか、日ノ丸でテストパイロットをするか』

 

「アンデット小隊と言えばベカスの野郎とカルシェンかぁ…それはそれで魅力的なんだけど、あそこの隊長はおっかねえからパスで」

 

アンデット小隊と呼ばれるOATHカンパニーの傭兵部隊のやたら運の良いベカスとナンパ男のカルシェンの2人とは仕事をやってく中で知り合った仲で、あの2人とアフリカで馬鹿するのも面白そうではあるが、あそこの隊長を務めるフリーズって女がこれまたおっかないんだ。

 

男よりも男勝りな女とでも言うべきか、あいつの愛用してる散弾銃を向けられたら幾ら俺でもちびっちゃうね。

 

「日ノ丸の方は?」

 

『近々護衛機の開発コンペがある。それのテストパイロット。依頼主は有澤重工』

 

有澤重工……あまり聞かない名前だ。

それに日ノ丸と言えば高橋重工と言われるほど、あそこの国内シェアは高橋一択だった筈だ。

なるほどなるほど、新進気鋭の新興企業が日ノ丸にとっては一大事業とも言える護衛機の開発コンペで正式採用されるがために不安のある自社のパイロットではなく、実力のある傭兵を金で雇う訳ね。

 

『違う。有澤重工は古くから続く日ノ丸の軍事企業。でも今は落ちぶれた』

 

「は?」

 

『元は有澤重工の幹部だった社員がBMの登場と共に独立起業した結果、流行も戦車じゃなくてBMに傾いて、社員の殆ども引き抜かれた。今居るのは頭でっかちの熟練工ばかり』

 

あらら、社内クーデター喰らうよりもタチの悪いことだねぇ?

社外秘の技術を丸々持ってかれた挙句、BM開発に必要な人員も丸ごと持ってかれて虫の息っていうことか。

 

『ただ、老舗なだけに繋がりもある。OATHの社長とか。それも、実はミドリのお得意先というか、お気に入り中の贔屓先らしい』

 

「武器マニアだもんな。あいつのコレクション性癖ははっきりいって病的だと思うぞ」

 

闇市から仕入れるプラズマ弾やらチェーンソーやら、社長亡き今(長期旅行中)荒くれ共ひしめくOATHカンパニーの一切を取り仕切るメガネがチャーミーなあの秘書は日々のストレスを発散するかの如く東西南北様々な武器を仕入れていることで有名だ。

 

『それをいうなら私たちもそう。偏屈な改造マニアと変態BMマニア』

 

「へっ、俺は実用性や汎用性も考えてるんですー。それに比べてお前のBMの魔改造はパイロットを殺すことを前提に弄ってんじゃねーか。つーか誰が変態か」

 

『でもレイヴンは死なないから平気。だから私も本気で弄られる』

 

狂った設計者(クレイジーアーキテクト)の異名で知られるこの相棒は、BM弄りを手伝ってくれることもあって重宝しているが、目を離すと要求していない機能を付けたり、当初予定していたエンジンとは別物を取り付けていたりと中々愉快な奴である。

 

「まあいいや。テストパイロットって事はコンペまでの拘束だろ?BMは何を持って行こうか、それかいっそ日ノ丸にガレージを買うか」

 

『飛燕じゃなくて大型輸送機の伽藍鳥を使うから今回は多目に入るよ』

 

伽藍鳥は個人が所有する輸送機では最大BM容量を持つと言われる輸送機だ。

というのも、元々の輸送機を改造したので雲雀以外にこいつを持ってる個人など見た事ないし容量も出会った傭兵の中じゃこいつのが1番多かった。

だから個人最大。

 

「ふんふふん♪ナイトレイヴンにボールス、未完成のモンスターマシーンはこの際日ノ丸で弄るとして、メタルウォードッグに……悩むなぁ」

 

2個小隊分(8機)+1機のBMを詰め込むことができる伽藍鳥は雲雀がOATHカンパニーに所属している性質上、傭兵部隊展開のための貸し出しで使われることがあったが、こういう時にこそ便利である。

 

「ギリーフォックスと……」

 

『ダメ、レイヴン。私もチュートンと毒鳥を持っていくから、それで終わり』

 

「マジか」

 

残念だがこいつの機嫌を損ねると更に俺のBM狂気度が加速するのでこの辺でやめとこう。

 

「それで、コンペで俺が乗る予定のBMの詳細は?」

 

やはり心踊ると言えば未知なるBMを操縦することだろうか。

古今東西南北のBMを乗り回した俺と言えど、開発中のBMのテストパイロットをやった事は数える程だ。

日ノ丸のBMと言えば近接戦を重視したものが多いし侍ごっこするのがとても楽しみである。

 

『………………タンク脚のBM』

 

「………はい?」

 

期待に胸ふくらませていた俺は、相棒が告げた残酷な真実につい首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の依頼主は日ノ丸の老舗軍事企業有澤重工です。

社長令嬢とは私の趣味で知り合った仲で、今回の開発コンペが社運を分けると言われましたので、私の方から是非レイヴン君を推薦させて頂きました。

レイヴン君の最近の実績を見ても高橋重工に引けを取らないと思います。

頑張ってくれたら私の方からもご褒美を差し上げますので頑張って下さいね♡

 

OATHカンパニー秘書 ミドリ

 

「この仕事が終わったら、俺あのメガネのおっぱいに顔を埋めてパフパフしながら、眠ってやるんだ」

 

「死亡フラグ?」

 

「なわけあるか」

 

日ノ丸のOATHカンパニー支部の滑走路に伽藍鳥で乗り付け、とりあえず支部の格納庫に愛しの改造BM達を収納する。

日ノ丸支部所属の傭兵たちの様々な視線を晴れやかな気分で一身に受けながら雲雀と冗談を言い合う。

 

「その令嬢様は?」

 

「もうそろそろ、らしい」

 

時刻は午後1時30分。

傭兵たちの視線の中、手持ち無沙汰に突っ立っていると、視線の向こうに男性と女性がこちらへ向かってくる。

 

「君が噂のレイヴンか。OATH日ノ丸支部の支部長の虎徹だ。よろしく頼む」

 

大柄でスキンヘッドの男がにこやかな笑顔を浮かべるが、はっきり言って気色が悪い。

しかし、この虎徹という男は元は日ノ丸を戦場にA級傭兵として活躍した腕利きでもあるった。

軍曹メカを長年愛用し、武士や月影のテストパイロットを務めた実績も持っているため、日ノ丸の企業から信頼されている程の安定感を持っていたのだろう。

 

「レイヴンだ。BMなら余程悪趣味じゃない限り何でも乗るしその辺の奴を乗せるよりかは動かせる」

 

「知っているさ。ありとあらゆる戦場を渡り、数多のBMで駆け巡った、全てを焼き尽くす渡り鳥……とな。ソロモン海戦での戦果は今でも語り草だよ。かくいう私も、その時居合わせたがね。軽く一蹴されたよ」

 

ソロモン海戦……懐かしい名前だ。

戦術支援用の戦闘機で空を飛びまくっては日ノ丸のBMを落として回った。

ちょうどあの時にベガスと、あと2人の友人と出会ったもんだが、今でも元気にしてるのやら。

 

「それで、そこのお嬢さんが?」

 

「ああ、今回の依頼主。有澤重工のご令嬢だ。本社から聞いているだろうが、今回の依頼は有澤重工の戦sh……BMである〝山城〟のテスト及び開発コンペでのパイロットだ。これ以上はクライアントから聞いてくれ」

 

「こほん。初めまして、レイヴンさん。私は有澤重工の山城計画の責任者を務める有澤斑鳩です。今回の計画を纏めていますのでこちらをどうぞ」

 

斑鳩から渡された端末画面から有澤重工製BM山城についての情報が飛んでくる。

 

BM山城

有澤の技術を集めて作られた装甲はいかなる重火器重火砲を物ともせず、キャタピラによる逆転の発想によって他の追随を許さぬ安定感を持っている。

更にキャタピラの採用によって多種多様な装備を積むことが出来る上に、主砲を射撃した場合の射撃硬直を無くすことに成功。

 

正に護衛対象を守る護送BMに向いていると言えます!

 

そしてこの山城に搭載する武器は、グレネードライフル、グレネードガトリング、グレネードキャノン、グレネードパイル、ロケットグレネード、グレネードグレネードグレネードグレネードグレネードグレネードグレネードグレネードグレネードグレネードグレネードグレネード

 

「いや怖いわ!なんだこれ!?お前ら護衛の意味分かってんのか!?逆に自分の攻撃で護衛対象ぶっ殺すわ!武器のグレネード率にドン引くわ!何なの!?グレネード付けないと死ぬの?生きていけないの!?」

 

ああ、こいつら頭おかしい。

見ろ、支部長も茫然自失してるし雲雀も呆れた目で見ている。

それもそうだろうさ、何せ護衛型というからにはどんな環境、どんな相手にも即座に対応できる性能と武装が好まれる。

 

例えばチュートン、アイツは良い機体だ。

可もなく不可もないライフル持って性能バランスも良好、そんで自分の装甲値も高く防御に重点を置いてる。

 

なのにこいつはキャタピラ脚ときた。

そうなれば……例えば速度一点型のBMには速度で追いつけず護衛対象がそれだけ危機に陥るし、武器のグレネードから察するに火力は高いものの弾速は低いと見て然るべきだ。

 

見敵先制必殺ならまだしも追いかけて戦うのには向いてねえ。

 

……ていうかこいつの火力で護衛対象が死ぬ方が可能性としては高い。

 

誰だこんなBM考え込んだの、明らかに戦闘用じゃねーか寧ろ拠点殲滅型だぞこの装甲値なら相手が格闘もしくは実弾部隊だったら中隊規模ならいざ知らず大隊まで相手どれるんじゃね?ってレベルで火力と装甲がありすぎる。

 

ーーー結論、こいつは護衛に使うBMじゃあねえ。

 

「だがそれが良い!!」

 

「分かってくれますか!」

 

「「!?」」

 

「こんな頭の悪いBMで護衛BMのコンペに殴り込もうっていう頭の悪い所が好きだ!矛盾した運用思想が好きだ!護衛対象を護るどころかそっちのけで敵をぶっ殺そうって考え方が好きだ!大好きだ!最早愛してる!」

 

ぶっちゃけ護るより先に相手を殺す方が楽だし簡単だよねって話なんだよ、逆にね。

そもそもこいつに護られてる奴を暗殺するのは無理だって相手に思わせるのが目的としたらこいつを作ったやつは中々考えてるんじゃね?逆に。

 

「やってやる!俺が!こいつを!使って!高橋の……なんだ、最新鋭BMだかなんだか知らんがコンペに参加するBMを片っ端からぶっ壊してぶっ壊してぶっ壊して!俺がこいつを正式採用させてやるよ!!」

 

「………本音は?」

 

「この火力で思うがままに焼き尽くしたい」

 

きっと楽しいだろう。

だって全身の至る所にでっけえ花火背負い込んでんだぜ?火薬庫の癖して要塞BMなんだぜ?それはそれは面白いだろう、楽しいだろう。

 

「レイヴンさん!貴方に我が社の社運を賭けます!」

 

「ああ、戦艦大和に乗ったつもりでいろ!俺が高橋重工をぶっ潰してやる!」

 

「「フハハハハハハハハハハハ!!!」」

 

俺と有澤文は肩を抱き合って笑いあった。

 

「………高橋重工は地獄を見る」

 

「……これが本社の傭兵……全てを焼き尽くす渡り鳥か」

 

雲雀と支部長が何か言ってるが、今の俺には関係ねえ!これで開発コンペを地獄に叩き込んでやんよ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 

 

 

 

 

この時俺たちはまだ知らなかった。

最近の高橋重工の最新型BMは実弾よりもビームとかそんなものを採用しはじめていたって事に………。




遥「遥こっわーいwwwwww」ドローン発sh

レイヴン「Nice joke」ドッカンドッカンドッカン

遥「遥……こっわーい(白目)」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全てを焼き尽くすグレネード

 

目の前に巨大なBMが立っている。

ーーー否、それは「立っている」と言えるのか。

なぜならば標準的なBMが二脚型であるのに対しそのBMの下半身は二脚の様相を外れ、大凡戦車などで見かけるキャタピラ、もとい無限軌道が格納庫の床を重厚に踏みしめていたのだ。

 

「これが〝山城〟」

 

「はい。6.7×8.5サイズ、重量……実に200越えの怪物級BM!!山城です!」

 

安定感、重厚感、そして驚異の装甲値を誇り、武装にあえてグレネード兵装のみを積み込むことで圧倒的な火力を得る事に成功したと豪語する山城。

 

確かに実弾火器を寄せ付けない装甲とC〜BランクのBMなら一発で粉微塵にできるグレネード兵装は対BMという点では比類ない強さを誇るだろう。

 

しかしその裏で実弾以外の属性……例えばビームや氷、例えばビームやビーム、というかビームに対しての耐性値が劣悪な上にただでさえ重い機体重量216に加えて全身至る所にグレネード兵器を積み込んだからさあ大変、重量は実に421の大台となり、ただでさえ遅い機体速度は更に亀さんのような鈍重さに磨きをかけたことで実弾耐性なんぞ知ったこっちゃねービームに糞遅い脚を更に遅く出来る氷属性は正に天敵と言っていいだろう。

 

「設計者の頭はファニーマシンだわ」

 

「頭ファ二ってるよね」

 

当然ながら山城は重量過多である。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ今から乗るんで」

 

「はい!練習用のダミーは外に用意してますのでどうぞお試しくださいね!」

 

今回のクライアントである有澤重工の令嬢兼企画主任の有澤斑鳩は満面の笑みを浮かべて格納庫の外にある特別な観客席に向かった。

 

その後ろ姿を見送りながら、俺はこの機体のコックピットの中を呆れつつも確認していく。

 

「なんてコックピットだ。いろんなBMに乗ったが、こんなに広い奴は初めてだ。日の丸の戦艦大和はホテルのようだと聞くが、日の丸の奴らは機体性能よりも居住性を求める性格なのか?」

 

山城のコックピットはとても広かった。

一般的なBMの1.8倍広いと言われる軍曹メカの更に2倍ほど広いだろう。

その、広いと思えるコックピットまわりも俺が愛用しているシートよりも座り心地の良さそうなクッションシート、機体を移動させるペダルの他にも何故か足つぼマッサージなんてものもありやがる。

 

「戦場にこんなものを持ち込む奴はバカだ。戦場を寝床にする日の丸のブシドー精神は理解できないね」

 

戦場で寛げても、それで死んだんじゃ座り心地が良くても意味が無いだろうに。

 

「さて、雲雀。今からテストを始める。記録の準備は?」

 

『出来てる』

 

「OK……そんじゃあ山城、出るぞ!」

 

操縦桿を握り、足元のペダルを思い切り踏み込めば山城は獣のような咆哮を上げて始動する。

キュラキュラと動き始める脚と重い挙動で唸り上げるマニュピレーター、やはりコイツは……重い!

 

「的を出せ!」

 

『ダミーBM射出』

 

上空、あるいは隔壁の向こう、あるいは背後、至る所から出現するBMを照準に入れ、全身のグレネード兵器の発射ボタンを指の腹でなぞりながら舌なめずりを一つ、更に頭の中で武器切り替えや行動の手順をシュミレーションしながら背中に背負ったグレネードキャノンを前方のダミーBMーーー軍曹メカに叩き込んだ。

 

『ーー命中。軍曹メカは一撃で大破。照準に−16の誤差を確認。修正して』

 

「ハッハァァァァァーーーー!!」

 

次弾装填、発射。

放たれた弾頭は頭の中で思い描いた放物線を描き、別の場所で回避行動を起こしていた軍曹メカを先回りしてそのコックピットを全身ごと「持っていった」。

 

ドガン!!

 

『軍曹撃破』

 

右手に持ったグレネードライフルを無造作に撃てば地面にクレーターを起こして軽い地揺れを発生させ、その爆風で持って目眩しと爆風ダメージを与える。

 

その爆煙を突っ切りながら山城の全体を持って目の前の武士に強烈な体当たりをかます。

たとえ遅くても十分にスピードに乗った山城の体当たりは凶悪な武器だ。

 

『武士の戦闘不能を確認。実戦だったら中のパイロットは圧死してる』

 

「ハッ!もしかしたら衝撃だけでミンチになったかもな!」

 

銃を構えた重装型の軍曹をグレネードライフルで小突き、そのままコックピットと頭部をセットで吹き飛ばす。

 

「うおっ」

 

軍曹メカと山城を爆炎が飲み込む。

正確に頭と胴体のみを狙ったつもりだったが、グレネードライフルの爆発範囲が予想より広かったようで、爆風によって軍曹メカのミサイルや弾薬までも誘爆したようだ。

 

『わかってると思うけど、グレネードの扱いには気を付けて』

 

そうは言うが、山城はやはり丈夫な上に、有澤の連中もグレネードを主武器とするからには爆発属性についての知識も耐性のある装甲を作るノウハウもある。

そういえば対爆射装甲の製造元は有澤重工だと雲雀が言っていたが、グレネードを熟知した故に山城は火力と装甲値を併せ持っているのだろう。

 

「他の武装も試そう。肩部グレネードミサイルーー発射」

 

右肩に内蔵されたグレネード弾頭のミサイルが3基発射される。

それらは弾速こそ遅いものの、その火力と爆数範囲で前方にいた軍曹を全て蹂躙した。

 

「………オーバーキルだろ」

 

『一個中隊の殲滅を確認。次が来る』

 

喧しく囀る警報音に眉を寄せ、周囲を索敵すれば一個大隊規模のBMが山城を包囲している。

残りの武装はグレネードガトリングガン、ロケットグレネード、グレネードレールキャノンの三つ、先ずは包囲網を噛みちぎるためのガトリングだ。

 

「抉れ!」

 

連なりあった砲身がグルグルと高速回転し、爆薬の詰まった弾頭を滝のように吐き出していけば目の前が衝撃と轟音と爆風で遮られた。

 

『これ……一つ幾らくらい?』

 

『そうですねー。軍曹が一つか二つ買えますね!弾薬込みで武士もイケますよ!』

 

『買う。二つともカードで』

 

『ありがとうございます。って、凄い入ってますね。傭兵ってそんなに儲かるんですか?』

 

『レイヴンくらいになるとロクでもない依頼の代わりに報酬が高いものばかりだから』

 

『へぇ〜』

 

グレガトが弾幕を吐き出す合間合間に聞こえる女二人の会話に避けないことは喋んなよ?と心の中で祈りつつ、上空の毒鳥、ハチクイ、夜雀、赤黒青羽戦闘機部隊を左肩のロケットグレネードで撃ち落としていく。

 

爆風に煽られて制御も効かず、パタパタと墜落していく様は殺虫剤を吹き付けられた虫のようだ。

 

「おら、こいつで最後だ」

 

グレネードキャノンとは別に背負っていたもう一つの砲身がその全容を露わにした。

弾速の遅いグレネードの欠点をレール砲を使って超高速弾頭にした、ドン引きの一品だ。

 

コイツはチャージに時間が掛かるもののその威力と速度はどんな敵も粉砕すること間違いなしだ。

 

「チャージ完了。グレネードレールキャノン発射」

 

丁度目の前に現れた巨大戦艦に向けて発射ボタンを押すと、超高速すぎて目では捉えられなかった弾頭がゼロコンマ数秒で巨大戦艦のブリッジに着弾、巨大戦艦は登場して間も無く退場となった。

 

「テストはこんなものか。このBM凄いよ。さすが変態企業の実験機!大隊規模を単機で殲滅可能とか頭ファニファニですよ雲雀さんや」

 

『私もそう思う。機体速度さえクリア出来れば単機で国とも戦えるんじゃない?』

 

「恐ろしく護衛任務には向いてねえがな。取り敢えずコンペまでにはグレネード系は全部下ろしとけよ。これじゃあ評価も何もマイナス方向に振り切れるわ」

 

コイツが護衛予定の神皇が何者なのかは知らんがこんな奴に護衛されるとあっちゃ生きた心地がしないだろうな、俺だったら拒否る。

 

『ん、取り敢えず最初のテストはこれで終了。お疲れ様』

 

 

 

 

轟々と燃え盛る模擬戦場に軽く罪悪感を感じつつも、小鳥がさえずるような雲雀の声に「了解」と返した。




山城 有澤重工
サイズ6.7×8.5 重量421
武装
グレネードライフル
グレネードガトリングガン
グレネードキャノン
グレネードレールキャノン
グレネードミサイル
ロケットグレネード

機体行動
全速前進
全弾発射
ブーストチャージ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心宿一の報告書

ヴェロニカ専用機ナイトメア来ましたね。
心宿三とヴェロニカ、互いに特殊部隊所属、互いにステルスが特徴、互いに近接志向、互いにSSS機体待ち、なのに機体は片方は太陽で片方は翼。

挙句にフレーム特性などからアル・ニヤトはヴェロニカ専用機、ナイトメアは心宿三の専用機とネタにされる始末。

どこでどう間違えたんでしょうねー。いつものダッチーと言われれば納得するしか無いんですけど……。
せめて超改造に期待。


 

 

春の麗らかな日差しが差す豪邸の隅、そこに1人のメイド服姿の少女が腰を下ろして草弄りをしていた。

 

幼気な顔立ちではあるが、千年に1人といっても過言ではないほどの美少女である、否、美少女だ。

 

「三、ここに居たのね」

 

「二お姉様」

 

徐に少女が顔を上げると、屋敷の曲がり角からひょっこりと赤髪の少女が顔を出した。

 

ジャケット姿に乳首を隠すだけのブラとパンティ一枚というーー流石に薄着過ぎではないかと心配になる程の痴女然とした女性だ。

 

彼女はぽやぽやとした顔持ちの妹と彼女がしていた草弄りに少し顔を顰めると、この豪邸の主であり、彼女達のお屋形様が執務を執り行っている部屋を指で示した。

 

「私たちを呼んでる。仕事だってさ。私は先に行くから、あんたは着替えて来なさいよー」

 

「うん!分かった」

 

草いじりをやめて立ち上がると、彼女は更衣室にて纏っていたメイド服を脱ぐ。

きめ細やかな美しい白い肌が姿を現し、小さくも膨らんだ乳房の上から本来の仕事着を着こなす。

 

姉2人から常々ブラを着けろと言われるものの、違和感を感じて着ける気はまったくないこの天然娘は手早く着替えを済ませると高橋家当主の部屋へ音も気配も無く参入するのだった。

 

「〜のため、失礼。来たか、三」

 

投手に報告していたのだろう資料から目を離し、白髪の少女が持っていた資料の一つを少女へ渡す。

 

少女は、高橋家特殊部隊の1人、心宿三は、その手に持つ資料を眺めながら今回は〝誰を殺すのか〟を考え、そのあとは途中で終わった草いじりのことばかり考えていた。

 

「三が来たから要点だけ最初から話します」

 

三の姉にして心宿家の長女、心宿一が話を始めるのは有澤重工という古臭いだけが取り柄の企業が、ある一機のBMの開発に成功したこと、そのBMが近々開催されるBMコンペに参加すること、そして彼女自身が観たBMについての戦闘力雑感といったものだ。

 

「BMの名前は山城。カテゴリーについては……新しいタイプと呼べる、BMタンク。BMの下半身に無限軌道を備えたもので、火器に様々なグレネード兵装を装備。火力は高橋家が所有するBMを軽く凌駕するかと」

 

へぇ、と目を光らせたのは痴女然とした姿の心宿二。

面白そうに見つめるのは山城ではなく、山城が持っているグレネード兵装の数々だ。

しかし、その中に己の好みそうな装備が無いと知り唇を尖らせる。

 

「ちぇ、火炎放射器は無いのねー」

 

「二。報告中だ」

 

「はいはーい」

 

「搭乗者はレイヴン。OATHカンパニーの独立傭兵で、様々なBMを所有及び使用し、どんなに危険な依頼も受けることで有名なA級傭兵です。ーー曰く、どんな死地にも戦いを求めて参戦し、真っ向から敵を叩き潰した上で帰還することから、付いた渾名が全てを焼き尽くす黒い鳥……と」

 

「ヒュウ♪そんなの雇うなんて戦車屋も本気ってわけね。戦闘は?」

 

「それについては私が見たことを言うより、直接見たほうが早いだろう」

 

ピッ、と執務室に現れたホログラム映像は、先日の模擬戦闘の記録されたものだ。

 

一機の無骨なBM戦車が、手持ちや背負っているグレネード兵装でバカスカと高橋重工のBM達を爆壊していく様は呆れを通り越して最早爽快感すら漂っている。

 

最後に巨大戦艦のブリッジを一瞬で爆発させたところで映像は終了するが、その時には血気盛んな心宿二はお肌ツヤツヤで伸びをしていた程である。

 

「気持ちいいくらいに有澤の持ち味を生かしたBMね」

 

「ああ、代々戦車産業で培って来たノウハウ。特に装甲と榴弾、これが単純故に恐ろしい」

 

特殊部隊の隊長を持ってして恐ろしいと言わざるを得ないその火力に心宿三はコテン、と小首を傾げるので、2人の姉は恐ろしい才能の片鱗を持つが本業として経験の少ない可愛い妹に補足をつけるのだ。

 

「有澤重工は先代の高橋家が幹部をやっていた所よ。代々戦車や装甲車、グレネード兵器を売りにしてたの」

 

「その有澤が技術の枠を集めて開発した山城は、正に有澤重工を体現したBMと言える。その火力と装甲は近づくものに等しく圧力を与えるだろう」

 

「?こんなものは全て避ければ問題ない。吾やお姉様方なら簡単だ」

 

無邪気にドヤる妹の天然ぶりに、2人の姉は「それがどれだけ難しいことやら」と少し心配になるのだった。

 

「………分かった。では、命令を出す」

 

「!」

 

高橋家当主の言葉を皮切りに3人に緊張が走る。

 

「山城計画の全ての人員を消せ。パイロット、整備員、開発者、全てだ。我ら高橋家を脅やかすものは一つとて要らん。戦車を作るしか能の無い老害に高橋家が天下を思い出させてやれ」

 

「「「はっ!」」」

 

賽は振られ、指令は下された。

 

高橋に刃向かうもの、全てを抹消せよ。

 

そして3人の姉妹は、心宿三は出会う。

 

己と同じ、戦いの天才たる1人のドミナントにーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイヴン。準備出来たよ」

 

「うっし、じゃあ始めるか」

 

時は変わり、有澤重工。

先日の模擬戦闘をフィードバックして護衛として要らないものは降ろし、要るものを載せることにした。

 

「ん?……おい!ガトリング砲の中身は榴弾仕様じゃないだろうな?」

 

「うっひぃ!すぐ換装します!」

 

「ったく、油断も隙もあったもんじゃねえ。確かにグレネードで焼き尽くすのは面白いけど、これも仕事だからな。なんとか護衛としては使えるように弄らねえと」

 

現在の山城の装備は、ガトリングガン、バズーカ、グレネードキャノン、グレネードミサイルだ。

護衛対象に接近する敵にはガトリングとバズーカで弾幕を張りつつ、狙撃手にはグレネード兵器で潜伏場所もろとも灰燼に帰してもらう構成となっている。

 

「これならどんな相手でも通用するだろう。相手は要人云々の前にコイツをどうにかしなきゃならねーってわけだ」

 

正に要人暗殺最後の砦ってワケ。ケケケ、っと底意地悪く笑うレイヴンに、相棒の雲雀は問う。

 

「私なら諦めもつくけど。レイヴンならどうする?」

 

「それでも無視して狙撃か、最初の不意打ちで沈める。それさえ防ぐなら懐まで潜って要人とダンスだ」

 

歴戦の傭兵をもってして暗に正攻法ではやらないと示唆するほどのBM山城を、有澤重工の令嬢はキラキラとした瞳で「山城は名機になる!」と確信するのだ。

 

「それじゃあ試し行くぞォ!」

 

「次は帝国機の襲撃想定」

 

「はっ、定期切符を切る前に降車させてやるよ!」

 

「分かった。帝騎システムが発動したら即終了ね」

 

「例えだろ!例えー!くそっ、やってやる。やればいいんだろ!」

 

その背中に忍び寄る魔の手に気付かず、有澤重工は今日も元気だ。

 

 

 




かんそうもらうと、つぎのとうこうも、はやくなる、きがする


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

山城破壊命令

 

 

 

 

高橋重工の特殊部隊〝心宿〟に一つの指令が下った。

 

ーー山城計画に関わるパイロット及び有澤重工の人員を全て消せーー

 

心宿の雇い主にして高橋重工の社長を務める男にそれを命令され、心宿姉妹の長女、次女、三女は高橋家の一室で計画を立てていた。

 

「今回の任務は山城計画に関わる人間の排除だ。と言っても有澤重工全てを相手にするわけにはいかない。そのため、山城計画の中でも有澤重工製BM山城の整備員、パイロットをターゲットにし、武器弾薬については調査の下高橋家の圧力で製造を止めるならそれで良し。圧力を掛けても造るのであれば頭を潰すことにする」

 

心宿一が集めた資料には山城計画の現在の開発メンバーが事細やかに記されている。

 

その人員は約50人ほどで、外様の人間はテストパイロットの傭兵とそのパートナーのみだ。

 

「シナリオは?」

 

「有澤重工の武器弾薬が試験場に辿り着いたところ、不慮の事故によって火薬が全て爆発。不幸にも現場にいた人間は死ぬことになる」

 

「過激ね〜♪」

 

「二、お前の火炎放射器は証拠隠滅に使うからそのつもりでいろ。三、お前はこの人物を攫ってもらう」

 

「これは?」

 

三が手に取った資料には彼女と同い年だろうか、無表情の少女が写り込んでいる。

 

「雲雀。かの天才リヒャルトにも、才女セラスティアに引けを取らないと言われた才嬢。ムラクモ社のクレイジー・アーキテクトこと雲雀・叢雲だ。彼女を高橋家の管理下に置ければBM技術の水準は帝国や連邦の上を行くだろうとの事だ」

 

「あのムラクモのねぇ。ああ、思い出した。数年前に列車事件で突如失踪したやつね。そんなのを欲しがるなんて高橋家も変わり者やらBM開発に必死やら……ね」

 

雲雀・叢雲。

ムラクモ・ミレニアム社きっての天才と呼ばれ、数多の機体開発、あらゆる実験にその名を連ね、全て成功に収めてきたムラクモ社の原動力と、当時騒がれていたアーキテクトだ。

 

その裏では独自の設計理論で数えきれないほどの被験体を廃人に追い込んだと噂され、いつしかクレイジー・アーキテクトと呼ばれるようになった少女である。

 

その少女を手中に収めて高橋家の当主は一体何をしようと言うのか、高橋家の忠実なる暗殺者達は思考を、感情を、全て排して今回の計画を練っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くちゅん」

 

「風邪か?……おい俺のパーカーで拭おうとすんじゃねーよ。バッチいだろ。ほらティッシュ、それ使え」

 

「……うん」

 

有澤重工の格納庫に山城を格納し、本日の仕事は終わりと帰り支度を始めていたレイヴンと雲雀。

 

2人は日本に来た観光として自称温泉マイスターの有澤斑鳩から是非行ってみるべしといくつかの温泉の名所を教えて貰っていたのでその中の一つに向かっている途中だった。

 

「さてさて、今日は帰ったら有澤から買った武器を伽藍鳥に取り付けるのか?手伝うか?」

 

先日購入した有澤重工の狂気グレネードガトリングはOATH日本支部に既に送られており、雲雀はそれを大型BM輸送ヘリ伽藍鳥に取り付け用と考えていたのだ。

 

「アレがありゃ乱戦なかに突っ込むのも逃げるのも楽になるな。ついでにミドリのコレクションに加わるかもな」

 

実際ガトリングの威力だけでも高いのに銃弾は有澤製の超小型榴弾なのだ、レイヴンとしても毎秒何十発のグレネードを撃ちまくる上に9機ものBMを抱えることが出来る伽藍鳥と戦場では出逢いたくねえなぁ、とぼやく程度には伽藍鳥は魔改造されている。

 

「こっちは良いよ。レイヴンはレイヴンで弄りたい子がいるんでしょ?」

 

「ん?そんなに急ぐことでもねえけどさ」

 

レイヴンが持ってきたBMは五機。

バイエルングループ製の突撃機ことフレンチナイトの改造機ーーナイトレイヴン。

 

ゼネラルエンジンの最新機、海兵隊〝GHOST〟のヘビーマシン改造機ーーモンスターマシン。

 

同じくゼネラルエンジンの機体にして同社の趣味機体と言わざるを得ない全身銃座ことメタルウォーヘッドの改造機ーーメタルウォードック。

 

帝国工業の傑作、騎士級帝騎ランスロットの改造機ーーボールス。

 

そして前回の仕事の際に使用していたBMギリーフォックス。

 

この内ギリーフォックスは狙撃機として完成されており、ナイトレイヴンは武装と外装に追加ブースターの装着、モンスターマシンは有澤重工よりライフル用のグレネードランチャーと無人機の爆雷を発注、メタルウォードッグは何も手を付けておらず、ボールスに関しては銃と盾を取り外し、現在の武装はレーザーブレードのみとなっている。

 

「この通りちゃあんと予定を組みながら弄ってんやで」

 

「メタルウォーヘッドだけ除け者になってない?大丈夫???」

 

「アイツはいつか四足歩行形態にするからモーマンタイモーマンタイ。で?お前は?」

 

「うん。もう取り付け箇所は決まってるから実際に扱ったみて使い勝手が良かったら飛龍用に二丁買おうかな……って」

 

無表情で指を絡めつつ、今後の予定を話している雲雀を、数年前に出会った頃と比べりゃ表情が柔らかくなったとレイヴンは口の端を歪ませた。

 

「ああ、あの竜胆の。確か近接機体が取り付いたら爆発するクレイモア仕込んでんだろ?可愛い顔しておっかねえBM作るもんだぜ。うちのアーキテクト様はよ」

 

「……ん」

 

無表情ピースを披露しながら雲雀は彼と出会った頃を思い出していた。

 

当時ムラクモ本社から支社へ移動するための列車に搭乗していた時、本来は極秘裏の筈の彼女の乗る列車は一機の黒いBMと見覚えのあるオレンジ色のBMに襲われたのだ。

 

二機のBMは雲雀のいるVIP車両以外を徹底的に破壊した後、突然互いに攻撃を始め、オレンジ色のBMが沈黙する事で戦闘を終了した。

 

『お前、俺のオペレーターになれよ』

 

そして彼はムラクモ社から雲雀を攫った。

 

『いやー、依頼人の奴が報酬を払うのを渋ったのか攻撃してきたのをこうやり返してな?それで支払いのアテがないから仕方なくお前を攫うのさ。なんせ俺は悪い奴だからな?』

 

彼女を攫った時にボヤいた彼の台詞である。

 

だから彼女はレイヴンが寝ている隙にBMの戦闘ログを解析してオレンジ色のBMと彼との会話を聞き、ムラクモ・ミレニアムには戻らない選択をした。

 

『レイヴン…協力してほしい…。私は何か…されたようだ…。…人間でなくなってしまった…。ムラクモを…列車を…襲撃したい…。これ以上手術を…。解放…されたい…。協力してくれ…。そして、彼女……を…』

 

彼女が聞いたのはその部分だけだ。

 

オレンジ色のBMは……ムラクモ社の実験体となったワイルドキャットと呼ばれる男は列車の破壊と、自身の後始末を傭兵に依頼したのだろう。

 

そして彼はそれを了承するとワイルドキャットをBMごと灰に還し、しかし彼女を誘拐するに留めた。

 

 

 

ワイルドキャットは私を殺してほしいとは言わなかったのだろうか。

 

ムラクモ社の実験や開発に参加し、実験体達の悲鳴を聴くうちに表情も感情も閉ざした少女は、毎日そればかりを考えていてはレイヴンに聴けないでいる。

 

聞いたら彼は答えてくれるだろうか、私を殺してくれるだろうか。

 

(わたしは、生きていていい……人間?)

 

自問自答を繰り返すことに自分がおかしくなっていく。

自分が誰なのか分からなくなっていく。

目的地の銭湯の脱衣所でぼーっと立っていた彼女は、自分の背後に立っていた者のことなど、この時は知る由もなかったのだ。

 

 

 

「あーっ!いい湯……。生きかえる」

 

景色満載の露天風呂で人生のなんと素晴らしいことかと馬鹿な妄想に浸る男レイヴン。

彼は石で出来た囲いに体を預け、日々のBM戦闘で疲労した身体を労っていた。

 

「……ったくぅ、俺が話を振ってやったっつーのにあんな顔するなんてな」

 

浮かべるのは先程の相棒の顔、他人には無表情にしか見えないだろうが、訓練された彼の目によれば随分と気落ちしているようだった。

 

「ここ最近の依頼のせいかねぇ。どうもムラクモがちょっかいかけてるようにしか思えねえ。OATHまで嗅ぎつけたかな」

 

ここ数ヶ月、受ける依頼でムラクモ社のBMや傭兵達の姿を見ることが多くなった。

それは敵としても、味方としてもだ、それならばまだいいが、奴らは全員が全員雲雀の事を遠回しに聞いてきてうざったい。

 

ミドリやOATH社長自身もそれを考えてか、今回の有澤重工の依頼をレイヴンに持って来たのかもしれない。

 

「あー……邪魔だなぁ」

 

タオルで顔を覆い、彼は一言呟いた。

 

(この際箔付けだーって言い訳で潰すかね)

 

今更狂犬だの全てを焼き尽くす黒い鳥だのと忌み嫌われている彼だ。

企業の一つを潰したところでさして世界が変わるわけでもあるまい。

 

「何も変わらねえよな、結局」

 

大君だなんだと顔も知らない奴の手駒として縛られたままなのが嫌だった、それを親しい者から期待を掛けられているのだと喜ばれるのが嫌だった、それでも世界は彼を駒としていて、それが面倒でいつしか考えることを辞めていた。

 

ーーーーふと、外に目を向けると、鳥籠の向こうを一羽の黒い鳥が飛んでいた。

 

ソレはとても自由に空を飛んでいた。

 

何にも縛られず、自分以外を不自由な存在だと嘲笑っていた。

 

だから成りたいと思った。

 

あの鳥に、渡り鳥に。

 

戦場を掻き乱し、BMを撃ち、人を殺し、その度に親しき者の影は彼に囁くのだ。

 

『そして汝は何を成す?』

 

大君の手駒だった時と何ら変わらぬ、と嘯くその影にいつも同じ言葉を返してきた。

 

「この空を飛ぶ。何にも縛られることのないあの渡り鳥のように」

 

その結果が今の自分だろう。

ランクはAとなり、いろんな恨みも羨望も買って、ある依頼人からは報酬の後払いとして嫁も貰った(と本人は真面目に考えている)。

 

雲雀の様子がおかしいと感じたのは、今回の依頼がBMの開発だったからだろう。

単にBMの改造なら自重しない彼女もBMの開発となるとムラクモ時代を思い出してナーバスになっている。

 

「ああ、本当に邪魔だ」

 

列車襲撃依頼で任された3つの仕事。

1つは列車の破壊、1つは依頼者の破壊、もう1つは少女の解放。

 

彼女の声はとても心地良くレイヴンの耳に余韻を残す。

 

「渡り鳥は、カラスは自分の縄張りには厳しいぜ」

 

現在進行形で雲雀が拐われたのにも気付かない馬鹿がキメ顔でそう言って脱衣所に上ったところーー。

 

「悪いが、任務だから」

 

そこに、死が立っていた。

 

 

 





アイアンサーガをしながらアルドノア・ゼロのBGMを流すのが好きです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

打ち上げ花火、遠くでみるか?間近でみるか by有澤重工

 

 

「誰だ?お前」

 

目の前にいる少女の暗殺者を前にして腰巻状態のレイヴンは脱衣所のロッカーから服装を取り出す仕草をして中の拳銃を抜きはなった。

 

「誰だよ、おい」

 

「用意ーー抜刀」

 

放たれた銃弾は少女に命中する直前で半分に別たれ、床に音を鳴らす。

 

「ほー、銃弾を空中で両断するなんて、中々やるなぁ」

 

感心した顔つきでパンパンパン、と乾いた音が連続する。

 

殺し屋ーー心宿三はレイヴンに向かいながら次々と銃弾を切り弾く。

 

ーーカチカチ

 

「チッ」

 

弾が切れたーーレイヴンはガラクタに変わり果てたソレを勢いよく心宿三に投げつけるとロッカーからジーパンとパーカーを取って早着替えを披露し、脱衣所から逃走する。

 

「逃がさないよ」

 

その背後から迫り来る刃を横目で流すと紙一重で避ける。

 

「んん?」

 

たしかに避けたはずの斬撃だったが、レイヴンの服は切れ、血が滲んでいた。

 

(何か細工でもあんのか?)

 

迫る双剣の剣戟を先ほどよりも距離を離して避けつつ、ロッカーに隠れているだろう仲間(?)へ大声を上げる。

 

「そら飛び出せAMIDA!お嬢ちゃんが遊んでくれるらしいぞ!」

 

「アミィィィイアイ!!」

 

「?ーーーッ!?」

 

怪訝な顔持ちの三の背中に何か異質な存在がしがみつくと同時に三の身体中を凍てつくような鳥肌が走る。

 

「くっ」

 

「アミアミ?」

 

その正体は緑色のグロテスクな姿をしたスイカ大の大きさの蟲だ。

それが赤い複眼をいくつも光らせ、三にしがみついている。

さしもの感情を制御することができる彼女もその悍ましさに恐怖というものを覚えた。

 

「行け!AMIDA!白濁液をした液体攻撃だ!」

 

「アッヒィィーーー!!」

 

蟲の口から白濁とした液体が迸り、三の身体中を満遍なく汚す。

 

これは流石に不味いとAMIDAを直ぐに振り落として距離を取る三だが、ジュウジュウと溶け落ちる音に自身の体を見下ろすと、自分の着ていた戦闘服が瞬く間に溶けていくではないか。

 

驚愕する三を他所に彼女の白い肌はその大部分を露出していき、彼女の肌を守るのは辛うじて両腕でそれぞれ隠した秘所だけになる。

 

「ふっふっふ。AMIDAが吐くこの酸攻撃は通常の酸が余りにも強すぎるために生み出した技ーーーその名も創作物でよく見かける都合よく服装だけを溶かす御都合主義白濁液だぁーー!!はっはっは!俺が丸腰と見て抜かったなぁ!この間抜けェ!!」

 

三に叩き落とされて渋々と羽ばたくAMIDAをキャッチし高笑いを上げるレイヴン。

因みに手元のAMIDAも聞くだけでSAN値が狂気に陥りそうな断末魔で鳴いている。

 

「さてさて丸裸になったメスガキめ!どっから雇われたか吐いてもらおうかねぇ?吐かなければひっどいことするよぉ〜?エッロいことするよぉ〜?見た奴全員「エッッッッ!」って白目剥くレベルでやっちゃうよぉ〜?」

 

既に絵面は強姦魔と可哀想な少女である。

 

「くっ、しくじったか。…これではお姉様方に笑われるな」

 

「おおっとぉ!?くっころ!?くっころなの!?ねぇそれくっころで合ってる!?」

 

煽りに煽るレイヴンをキッと睨みつけ、双剣を手繰り寄せると、少女はそのまま闇へと消える。

 

「あ……」

 

しまった、と彼が声を漏らす頃には彼女の姿は何処にもなく、AMIDAの羽が擦れる音だけが虚しく響くのみだ。

 

「あーあ。面白い奴だと思ったのに」

 

天然鬼畜野郎はぶつくさ呟くと脱衣所から上がり、コーヒー牛乳を一気飲みし、雲雀が湯から上がるのを待つ。

 

既に彼女は拐われた後なのだが、彼はそれに気付くそぶりも見せず、その日の営業が終了するまでずっと待ち続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?雲雀さん拐われたんですか!?」

 

「ああ。だからちょっとこっちから出向こうと思うんだけど、今日は中止で良い?つーかなんか此処焦げ臭くね?」

 

翌日、有澤重工に出向いたレイヴンは妙に黒焦げになった有澤社のアリーナで斑鳩と話をしていた。

 

「あー、なんか昨日社員が火遊びしてたみたいで!いやー私は火炎放射器なんて玩具は辞めてグレネードにしろって言ったんですけどね」

 

「んーさらりと火炎放射器を玩具扱いするのを辞めろと俺は思うんだけどねぇ。やっぱアレだよな。国が違うと文化も違うっていうかさ、ホラ頭がおかしいかナニカサレテル奴とまともな奴は分かり合えないっていうかさ」

 

言外に「キチガイ」だと発言しつつも照れたように頬を染める斑鳩、これでも軍事企業の令嬢である。

 

「んで、話を戻すけど。何があった?俺は無防備なところを襲われて有澤重工じゃ爆発事件とかただ事じゃねえだろ」

 

相棒も姿を消したとあってレイヴンの目付きは鋭さを増すが、反対に斑鳩はおちゃらけた態度で回想に入る。

 

「アレはレイヴンさん達がオススメした銭湯に向かった後の事でした。私たちがアリーナでグレネード兵器の良さについて語っていると………」

 

「んー。ナチュラルにグレネード兵器を語ってるっていうのがこの会社がどれだけ頭ファニーマシンかを物語ってるよね」

 

「五月蝿いですよ。それで私たちが話をしてる最中に一台の輸送車が来たんですね。あれー?おかしいなぁって思ったんですけど、ちゃんと本社からの輸送車でしたし、載せてるものもグレネード兵器だったんで、取り敢えず何を持ってきたか見てみようかって話になったんですけど」

 

それがアリーナの爆破とどう関連するのだろうか、レイヴンはとても興味深げに話を聞いている。

 

「徐に運転手が火炎放射器をブッパしちゃったんですねー。やっぱりアレですかね?持ってきたグレネード兵器の爆発で火薬の量とかを確かめたかったんじゃないかってみんな推測してるんですよー。ああ、あの子はとても仕事が真面目なんだなー、と」

 

「んー、うん。やっぱこの会社いっぺん潰れた方がいいんじゃね?」

 

おもっくそ暗殺要件じゃねえかソレ、つーか殺されそうになったのに仕事に真面目?頭沸いてんのか?とレイヴンは有澤重工のキチガイっぷりに頬が引きつる。

 

「あ?そういえば輸送車に積んでたグレネードの火薬が爆発してなんで生きてんのお前ら?」

 

「むっふふー!いいことを聞いてくれました!我が社では対爆性能の高い作業着を着ることが義務付けられてまして、有澤にとっては火薬量を間違えて誤爆なんてしょっちゅうですから!至近距離の爆発なんてサウナみたいなものですよ!」

 

「お前ら人間辞めてますか?」

 

普通人間は至近距離で爆発を受けたら死ぬと思いますーーー死なねえ奴は人間じゃねえか有澤の人間だけだな!とレイヴンはまた一つ賢くなったのであった。

 

「それで!火炎放射器で火遊びなんて有澤の人間としてはまだまだですよ!先ずは手榴弾でお手玉とかグレネードランチャーで射的でもしますか?って聞いたら青い顔してどっかに行っちゃったんですよねぇ……うーん。あの子新入社員だったのかなぁ。若い子って貴重なのになぁ」

 

「そりゃあ暗殺者も爆発に巻き込まれといてケロっとしてる上に火炎放射器じゃなくてグレネードで遊ぶぞなんて言われたら恐怖を覚えるわなぁ。ーーイかれてるよ、お前ら」

 

それどころか老害という名のベテラン達は至近距離で爆風を喰らったことで腰痛が治っただの10歳くらい若返っただのとほざくレベルである。

しかもそれが嘘でもなくマジでおっさんの顔が青年風に若返ってたり昨日まで腰の曲がってた爺が空中大回転を何発も繰り広げているので有澤重工の連中は確実に人間ではねえ、とレイヴンは確信している。

 

「それで雲雀さんが拐われたって、当てはあるんですか?」

 

「まあ、お前らとは規模もレベルも違うけど俺も昨日襲われたんだけどね。その時の暗殺者の匂いをうちのペットが覚えてるから、それを辿っていく予定だな」

 

そのAMIDAは今朝から白濁液の酸を飛び散らかしてやる気十分だ。

 

「ほぁー。便利なペットさんですね。まっ、そういうことなら今日のテストは気にしなくて結構ですよ!私たちでやりますから」

 

「サンキュ。あいつ連れて、直ぐ帰ってくるわ」

 

話が終わり、ひらひらと手を振るレイヴンの背中はいつの戦場と同じ、あっけらかんとしたものだった。

 

 

 

 

 

 

高橋家

 

心宿三姉妹の長女、一は昨夜帰ってきた2人の妹、二と三の様相を見て早くも頭痛がしてきた頭を片手で抑えている。

 

「何があった?報告を」

 

まず報告に応じたのは次女の二、彼女はいつもの勝気な笑顔を崩し、真っ青を通り越して土気色の表情で爆発に見せかけた暗殺結果を報告する。

 

「私は、作戦の通り事故を装って社員を巻き込むように爆発させたわよ。でも……でも、あいつら人間じゃない!至近距離で爆風に呑まれてケロっとしてるばかりか私に火炎放射器なんて玩具よりグレネード兵器の方がイイですよ!って安全装置の抜けた擲弾発射機渡してくんのよ!?死にかけたのにたーまやー♪とか「打ち上げ花火、遠くで見るか?近くで見るか?」とか言うのよ!?正気じゃない!アイツら正気じゃないわ!!」

 

「そ、そうか。ご苦労だった、お前は少し休め」

 

飄々と人を喰ったような次女がこんなに取り乱すとは思わなかった一は彼女を休ませることにし、次は三に結果を聞く。

 

「吾は目標の確保には成功したが、もう一つの目標の殺害には失敗した。そればかりか心宿特注の戦闘服まで失ってしまう始末。……ごめんなさい、お姉様達。吾が不甲斐ないばかりに」

 

「いや、どう失敗すれば双剣とブーツ以外全裸になるんだ???私もあの時ばかりはびっくりしたぞ」

 

「男に、白濁液を掛けられて……」

 

「は??????」

 

謎の白濁液男レイヴンと至近距離の爆発を花火と笑うキチガイ集団。

 

高橋家当主から、命令の際に、「アイツら、揃いも揃ってキチガイだからくれぐらも気を付けろよ」と言われていたのにも関わらず、有澤のキチガイっぷりを過小評価していた心宿一の受難は、始まったばかりだ。





斑鳩「やっぱりグレネード弾の爆発は間近で見るに限りますよねー(恍惚)」

レイヴン「アッハイ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

AMIDAに惹かれて〜めぐりあい変態〜


ギリーフォックス設計図?

【挿絵表示】



 

 

 

「ふふ、森へお帰り」

 

「アミィ〜」

 

有澤重工近くの公園でペットのAMIDA(♂)を放してやると、AMIDAは背中の羽をパタパタ羽ばたかせて機嫌良く周囲をグルグルと飛び回ったあとに昨日遭遇した少女の残り香を頼りに空を飛んでいく。

 

「いい天気だ。散歩日和だな」

 

「アミィ〜」

 

周りを見れば何処かの学園の生徒達だろうか?俺とAMIDAをギョッとした表情で凝視し、目が合えばサッと顔を伏せて全速力で駆け抜けていく。

 

「失礼な奴らだ」

 

「アミィ」

 

「ママー。あのお兄ちゃんへんなの飼ってるよー?私も欲しいー」

 

「こ、コラ!辞めなさい!ペットなら他に色々居るでしょ!アレはダメよ!あ、アレだけはダメ!」

 

幼女と母親のやり取りを聞いたAMIDAがしょんぼりと高度を落とし、地面スレスレを飛ぶ。

 

AMIDAは並みの生物と違い、培養液の中で産み出された智庫ーーーもとい鴉特製のペットで、本来なら大君のあほ間抜けが飼う予定だった生き物だ。

 

しかし俺が北境を飛び出す際に戦闘機にしがみつき、以後は雲雀を含め、二人と一匹で行動してきた……俺にとっては家族のようなものだ。

 

「偶にBMの装甲をかじったり、くしゃみで酸を飛ばすことを除けば可愛い奴なんだが」

 

やはり北境と北境以外の人間の感性は少し違うのだろうか?鴉に教えてやれば喜ぶだろうなぁ。

 

「アミアミ!アミー!」

 

と、AMIDAが突然キョロキョロし出すと、一目散に飛び出していった。

 

その先にはオレンジ色の髪の毛の少女がいる。

 

見た感じで分かるが、何処かの令嬢だろうか?しかも有澤重工のあのーーー火薬にまみれてグレネード兵器が爆発する度に狂気の笑みを浮かべる有澤斑鳩とは違う、正真正銘のお嬢様…と言った感じだ。

 

「んー?全然昨日の娘じゃねーけど……姉妹かなんかか?」

 

一度高度を取り、一転して急降下を敢行したAMIDAは、少女に激突する寸前でポゥッ、と燃え上がりそのまま黒焦げの姿で墜落した。

 

「あら、羽虫かしら?」

 

「日ノ丸の諺に飛んで火に入る夏の虫……なんて言葉があるらしいけど、実際に目にするとは思わねえわな。おい、大丈夫か?」

 

お嬢様は派手な音を立てて墜落したAMIDAを気にすることなく歩いていく。

 

また、AMIDAはピクピク痙攣していたが数秒後には立ち上がり、焦げ付きと煤を羽を動かして払うと、また飛び上がって今度は別の方向へ飛んで行った。

 

「最初から正しい方向に行けよ」

 

「アミ!!」

 

どうやらあのお嬢様が纏う雰囲気?に惹かれて暴走していたようだ。

 

実はAMIDAは天才と凡人とを嗅ぎ分ける嗅覚を持っていて、天才に出会ってしまうととりあえず引っ付こうとするので大抵の人間はビビって泣き出すのだ。

 

「それにしてもACE学園かー。面白い奴らがゴロゴロしてそうだ」

 

ちらほら見かける通行人は、実力を隠してる奴や堂々としている奴も含め、OATHカンパニーのC、Bランク相当が多く在籍しているようだ。

流石は日の丸随一の名門校といったところか。

 

「さて、寄り道してないでとっとと雲雀を探……あれ?AMIDAがいない」

 

さっきまでパタパタ飛んでいたAMIDAが姿を消した?

 

「AMIDAはどこにーーー」

 

「見てくれエディ!新種の生き物を見つけたんだ!この可愛いフォルムにこの体表!さらにつぶらな赤い瞳に肌触りもGOOOOOOOO OOD!!!!!早速家の研究所で隅から隅まで研究し尽くしたいよォ!!僕はッ、ハァッ!!」

 

「うわっ……如月くん。なんだい?その生き物は。僕には見た者の精神を汚染する生物に見えますよ。そんなことより僕は最新作の爆薬を実験してくるから」

 

「アミィ!?」

 

ボサボサ髪の眼鏡と長髪で前髪の隠れた眼鏡がAMIDAを抱えて話し込んでいた。

 

ボサボサ眼鏡は明らかにAMIDAに対して嫌悪感を持ち、長髪眼鏡は恍惚とした笑顔でAMIDAの全身を残像が見える程高速で撫で回している。

 

「ふふふふふふ。この艶かしい脚、ご飯は何を食べるんだろう?生態はどうなのかな?それにこの様子だと人と言葉を理解する知性も持ち合わせてるよね?」

 

AMIDAと目を合わせ独り言を呟き続ける如月に彼の友達であるエディはいつのまにか姿を消していた。

 

恐らく如月がこうなったら話が長引くだろうと予測して逃げ出したのだろう。

 

レイヴンは紛れも無い〝変人〟又は〝変態〟という言葉がしっくりくるだろう如月を前に「ちょっとアレに話しかけるのは嫌だ」と思ったものの、肝心のAMIDAから強烈なSOSを受け取ったので、仕方無しと覚悟を決めて話しかけるのだった。

 

「もしもし?お兄さん。そいつ、俺のペットなんだわ」

 

「この子は渡さんッッッ!!!!」

 

「ふぁー」

 

即答だった。

こちらを振り返り、鬼の形相で睨み付けると、その懐からリモコンを取り出して操作すること数十秒ーーー何処からか高橋重工製の戦車が3機飛び出して来た。

 

「僕の家は高橋重工で戦車の火炎放射器開発を担当する如月家だ!邪魔するなら燃やし尽くしてやる!!行けっ!黒羽・火炎!旋風・火炎!突撃戦車・火炎!」

 

「えー」

 

「うわー!!またキサラギ社のボンボンが戦車を持ち出してるぞー!」

 

「火炎放射を撒き散らすんじゃねえ!ボケ!」

 

「誰か夏美様を呼んでー!!」

 

何がどうなって戦闘に発展するのか意味が分からなかったレイヴンだが、売られた喧嘩は喜んで叩き潰すのがOATHカンパニーの流儀である。

こちらも適当なBMを呼び出すことにした。

 

「戦車相手なら武器もいらねえわな」

 

如月と呼ばれた生徒の戦車がレイヴンを踏み潰そうかという時、レイヴンが呼び出したBMーーーボールスが目にも留まらぬ速度で出現し、黒羽・火炎の砲塔を片腕で捻じ曲げた。

 

「ウワァァァァァァァァァ!!僕の戦車がぁぁぁぁぁぁぁ!!ゆ、許さないよ!撃ちまくれえ!」

 

「はっ!ボールスのスピードに目を回すなよ!」

 

即座にコックピットに体を滑り込ませ、ボールスを起動させると、一本角の兜を持つBMのスリットから紅いバイザーが妖しく灯る。

 

起動したBMボールスは途端にその姿をブレさせると戦車の死角ーーー上空から旋風・火炎を踏みつけ、これもまた砲塔を折り曲げることにした。

 

近くにいる如月は2機の戦車の大破に大声で喚き散らしている。

その様子にレイヴンは愉快げに笑い、そのまま突撃戦車の砲塔も他同様に使えないようにした。

 

「そんな……僕の、戦車が」

 

「はっはっは、実力差を理解したかね?さあ、AMIDAを返したまえ。良い子だから!」

 

戦車を壊されては何も出来ないと如月は素直にAMIDAをボールスの元へ離すと、AMIDAは可愛げに鳴いてコックピットの中へ飛び込む。

 

そのままレイヴンのBMのコックピットに設置されてある彼の特等席へ腰を落とすと、マップ上に本来の目的である少女の位置を更新した。

 

好奇心に惹かれて動けば痛い目に遭う事は分かったのでもう勝手なことはしないという意思表示だろう。

 

「さて、ここから少し離れたところだな」

 

ボールスを動かそうとするーーー直後、離れたところから警察のサイレンとBMがこちらへ向かってくる気配を感じとる。

警察御用達のSSSランクBM、ライオットポリスだ。

 

警察が所有するBMの中でも特に高性能なこのBMを操縦するからには余程腕の立つ操縦者なのだろう。

 

ただでさえ相棒の少女を助けねばならないのに厄介なBMの相手はしてられないと、帝国製BMに搭載された〝切り札〟こと帝騎システムを発動させると、ボールスはその機影を瞬く間に消し去るのだった。





ボールス チューニングメカ
帝国機ランスロットをベースに射撃武器を取り外し、白兵戦をテーマに黒く塗り直した機体。
邪魔な物を取っ払ったおかげで帝機システムを使わずとも残像が残るようになったのは嬉しい誤算。
超改造をすると帝騎の父リヒャルトが「芸術」と称して勝手に破壊天使砲を付けてくれるぞ!上手く集って金を稼ごう。
アーサーに対して無慈悲な強さを持つ。アーサーは死ぬ。

武装
剣型格闘 レーザーブレード ビーム属性
AP6240 重量94 サイズ6.4×7.7 速度 97

行動
騎士剣術
シールドバッシュ
シールドL1
後方回避
高速移動
反撃突撃
光波ブレード
帝騎システム

イメージはアーマードコアfAのオーギルです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。