魔導巧殻 もう1人の神殺し (ヴィヴィオ)
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国など

 ラウルバーシュ大陸の中央一帯は中原と呼ばれ、各地の文化が集まる中心とも言える場所。

その中原の東部、アヴァタール地方東域は未だ様々な勢力が国の為に覇を争う群雄割拠の地である。

 アヴァタール地方東域には高い魔導技術にて他国を圧倒するメルキア帝国と高い工業力を誇るユン・ガソル連合国。そして、魔法国家であるラナハイム王国。闇陣営国家であるザフハ部族国。そして、対立している光陣営国家であるアンナローツェ王国。それらに加え、エルフが住まう国、エレン・ダ・メイルやドワーフが住まう国、ドゥム=ニール。竜族など高位の存在が住まう意戒の山稜が加わり、中原東部を巡る状勢は混沌の中にある……。そんな世界に新たなる存在が現れる。

 

 

国家紹介

 

メルキア帝国

種別:魔導兵器国家

種族:人間族

 

 人間族の国家であるメルキアは皇帝が直接統治する帝都インヴィティアを中心とした

直轄領と、4人の元帥が当地するバーニエ、キサラ、ディナスティ、センタクスの4つの領によってなりたっている。

 各領の軍事・政治の要となる元帥の任命権は皇帝が有しており、元帥にはそれぞれの領の統治権が与えられている。そして、元帥の証明の証として魔導巧殻が与えられている。

 元帥の中でも帝国化へのきっかけとなった汚染問題を解決したプラダ一族は、帝国内で覆しようのない程の高い地位を築いているが、他の有力貴族や皇族との方針の違いからなる確執が残ってしまっている。

 

魔導巧殻とはメルキア帝国に存在する、4体の自律意志をもった70センチ程の背丈の魔導人形である。それぞれが神に由来した名と能力を持ち、四元帥の下に戦力として、或いは友人として傍らにある。

 

 

ユン・ガソル連合国

種別:重工業国家

種族:人間族

 

重工業において目覚ましい発展を見せる国家だ。特に超弩(バリスタ)や投石器、戦闘用馬車など多彩な対人および対物兵器を完備している。

 メルキアが王国から帝国化する際に反対した貴族達がユン・ガソルに亡命し、手土産として持ち込んだ魔導技術(粗悪な魔焔など)を独自に発展させて現在の大国となる。その功績

により、国政は元メルキア貴族血縁の者が中心となり担っている。

 現在はザフハ部族国と友好関係にあり、アンナローツェ王国を牽制したり、共に共同してメルキア帝国を攻めたりしている。

 

 

ラナハイム王国

種別:魔法都市国家

種族:人間族

 

魔法都市国家と称されるほど魔法技術が発展した国であり、険しい山岳地帯の各所に拠点を

築かれている。元は魔術師の集団が作り上げた組合で、それが長い時をかけて拡大し王国を名乗るほどまでに成長した。

 人口数と国土は列強国であるメルキア帝国などに見劣りするが、補って余りある質の戦力を有しており、その一つとして若き国王が率いる魔法剣士部隊(パラディ・アズール)が挙げられる。

 この国は周辺の強大な国々へ打ち勝つための力を蓄え続け、長く雌伏の時を歩んできた歴史を持つ。

 

 

ルモルーネ公国

種別:農業国家

種族:人間族

 

 人口が少なく、まともな戦力を有していない国ではあるが、国土のほとんどが肥沃な大地

であり、農作物を毎年大量に得ている。

 遊牧も盛んで、それらを上手く使って各国と取引している。さらには国内の戦力を徹底的に廃することで、すべてにおいて中立を維持し、国を守る政治を行って約百年が経とうとしている。周りをメルキア帝国、ラナハイム王国、ユン・ガソル連合国、エレン・ダ・メイルに囲まれている。

 ルモルーネは長く戦争には巻き込まれておらず、平和な国としても有名である。楽園とも呼ばれる事すらある。

 

その他、詳しくはこちらをご参照ください。

ttp://www.eukleia.co.jp/eushully/eu14/eu14_des.html

 

 

 

 



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目覚め

少し修正させて頂きました。


 

 

 

 俺は車に跳ねられて死亡した。そのはずだった。だけど気づいた時にはどこか知らない場所に居た。しかも俺は神殿みたいな所にある祭壇に居るのだ。全くもって理解出来ない。これはどこぞのテンプレみたく転生という奴や憑依なのか?

 片目も見えないし、録なことになっていない。

 

「って、俺は誰だ……名前が思い出せない」

 

 自分の顔に手を当ててみると包帯が片目に巻かれているのに気づいた。いや、それよりも手が小さく子供みたい……ではなく子供のようだ。髪の毛も銀色になっているし、いったいどうなってるのか……意味がわからん。

 

「ちっ、面倒だが仕方無いな。先ずは神殿の方を調べるか……」

 

 俺は祭壇から天井へと目を向ける。するとわかるのはこの神殿のような建物がかなり古いようだ。

 

「落ちたりしてこないだろうな……」

 

 俺は祭壇から立ち上がって周りを見渡すと信じられない物が目に飛び込んできた。

 

「っ!? おいおい、これは……」

 

 それは無数に存在する人間の死体だ。いや、よく見れば中には耳が長いエルフのようなのも居る。しかも、どいつもこいつも高そうな白銀の鎧を着ている。どうやら、完全に元居た世界ですらないようだ。そんな中、ひときわ目立つ死体があった。それは祭壇の直ぐ下に男だ。その男は巨大な漆黒の大鎌デスサイズに突き刺されて死んでいた。そして、そいつの握る剣には真っ赤な血が付いていた。取りあえず無性に気になったデスサイズを掴んでみる。

 

(目覚めたか)

 

 すると頭の中に声が聞こえて来た。

 

「お前は誰だ?」

『今まで戦っていた存在の名を忘れたか。いや、記憶がおかしいのか。私は……いや、どうでもいいな。どうせ私はお前と溶け合って消滅するのだからな』

「どういう事だ!」

 

 戦っていたとか全然身に覚えがねえよ!

 

『気にするな。貴様は見事人の身でありながら相打ちとはいえ私を打ち倒した。これはその褒美だ。私も神殺しに習っただけの事よ。それとここにある物は全てお前の物だ。好きに持っていけ。貴様はしばらく人間のままだからな。では、さらばだ』

「おい、待て」

 

 言いたい事だけ言って聞こえなくなった。何が褒美だ!

 って、ちょっと待て神殺しとか無茶苦茶不安な事を言っていなかったか?

 なに、カンピオーネか戦女神か?

 どっちも死亡フラグ多すぎだろ!?

 

「ああクソッ!! しかも、こいつらを見ると……やばいな」

 

 考えるのは取りあえず放置して必要な物だけ持って逃げるか。

 

「しかしこの大鎌邪魔だな。消えないかな……」

 

 そう考えた瞬間に大鎌デスサイズが消滅した。

 

「……出ろ」

 

 念じると出て来る。これはかなり便利だ。他にも死体の剣を剥ぎ取って念じてみると収納が可能だった。

 

「アイテムボックスか何かか……便利だな」

 

 取りあえず、身ぐるみを剥いでいく。貰う物は貰っていく。

 

「ちっ、やっぱりディル=リフィーナか」

 

 死んでいた奴らの鎧にはマーズテリアの紋章があったのだ。これは不味い。今の年代がいつかはわからないがさっさと逃げるに限る。だが、貰える物は貰わないと生きていけない。

 

「ん? これは神核か……色々あるな。貰っていくか」

 

 神殿を探して保存されていた資料なども根こそぎ貰ってさっさと逃げる。逃げる先は途中で見つけた転移陣だ。どんな場所にでるかはわからないが問題無い。さっさとここを出たい。

 何故なら複数の足音がするからな!

 という訳でさっさと転移して逃走する。

 

 

 転移された先はどこかの森だった。問題はどこかだが。しかし、転移酔いか何か知らないが身体が動かないし喋れない。むしろ無茶苦茶眠い。

 

「マスター、こちらに転移反応があったですの!」

「そうか。どうやら見つけたようだぞ」

「むむ、本当ですの」

 

 声のした方向を見ると、そこには小さ妖精と緑髪の女性が居た。こいつらは俺でも知っている。魔導巧殻リューンとエイフェリア・プラダだ。という事はここはメルキアか。

 

「どうやら生きているみたいだな」

「行き倒れですの?」

「人間にしては力が強いようだ」

「マスター、取りあえず持って帰るですの!」

「そうだな。子供を見捨てるのは寝覚めが悪い」

 

 俺は抱き起こされるままに身を任せて眠りについた。どうやら身体が限界だったようだ。起きた直後に無理をしすぎたのかも知れない。

 

 

 

 

 

 次に目覚めると目の前にリューンが居た。周りを見渡すとゲームで見たバーニエの部屋のようだ。

 

「おお、起きたですの。マスター、目覚めたですの」

「そうか。気分はどうだ?」

「まだだるい」

「ふむ。転移の後遺症か。まあ、しばらくすれば治るだろう。それと悪いが何があったか聞いていいか?」

「覚えていない」

 

 これは正しい。嘘でもあるが、殆ど覚えて居ないのだから。

 

「記憶喪失か。まあ転移事故の直後にはよくある事だな。しばらくすれば治るだろう。しかし、そうなると行く場所が無いか……」

「ならここに居るですの。マスターの部屋は散らかっているいのでお世話する人が必要なのです」

「うっ……」

 

 確か研究に没頭すれば周りが見えなくなるんだったな。確かにこの部屋も汚い。それにどうせなら魔導技術を習うのもいいだろう。一つやりたい事もあるしな。

 

「わかった。悪いけどお願いする」

「ああ」

「ふふ、これで家族ですの」

「それは違うが……まあ、しばらくは好きにしていろ」

「ああ」

「では私は研究に戻る。リューン、悪いが面倒をみてやってくれ」

「はいですの!」

 

 子供というのは便利だな。簡単に入り込める。まあ、しばらくいさせて貰おう。

 

「リューン、悪いけど手鏡とかあるか?」

「ちょっと待つですの」

 

 少しるとリューンが両手で一生懸命持ってくる。流石は70cmという小ささだ。

 

「どうぞですの」

「ありがとう」

「はいですの。ところで、名前はなんていいますの?」

「名前……覚えてないな」

 

 俺は受け取った手鏡で自分の顔を見る。するとそこに写っていたのは美少女だった。

 

「なら付けるしかないですの。何がいいか悩むですの」

 

 リューンが色々と言っているが、そんなのはどうでもいい。この顔は覚えがある。

 

「エルカ……」

 

 同じエウシュリーシリーズではないが、姉妹のアナスタシアから出ている蒼海のヴァルキュリアのエルカ・ザウネンに非常に似ている。いや、これはカンピオーネのアテナもだな。

 

「エルカ、それが名前ですの?」

「……そうだな。それが名前だと思う」

 

 どうするかも面倒だし、エルカでいい。アテナは不味い。神の、古神の名前だからな。しかし、俺は女なのか男なのか……いや、始まりからして女の身体なのだろうな。つまり、男にする為には俺もセリカと同じ方法が必要という事になる。なら、女が居る。どうせなら気に入った奴がいい。魔導巧殻ならラクリールだ。あの子が一番好きだ。後はコロナとかだな。どっちにしろしばらくは女でいよう。

 

「じゃあ、エルカ。私はリューン様ですの」

「リューンだな」

 

 華麗にスルーしておく。

 

「むむ……まあいいですの。それより身体はどうですの?」

「お腹が空いている以外は平気だ」

「なら、持ってくるですの!」

「いや、食べに行くしいい。身体は動く」

「わかったですの。ならリューンについてくるですの」

「ああ」

 

 俺はリューンの案内で食堂へと向かった。そこでご飯を食べながら説明を聞いていく事にする。

 

「それで、ここはどこだ?」

「ここはメルキア帝国にある西領バーニエですの」

 

 確か、バーニエは古くからあった魔導巧殻で出てくるメルキア帝国の領土で、帝国の西側に位置したはずだ。魔導技術による灌漑事業を受けた土地が多い為に西の都バーニエは魔導技師の聖地とも呼ばれている。その地を支配するのがバーニエ領を治める元帥であり魔導技術により国を復興させた者として名高いヴェルロカ・プラダの孫、エイフェリア・プラダだったはずだ。彼女はドワーフとのハーフなので若い姿のまま長い時を過ごしていたと思う。そしてリューンがゲームの代名詞となっている身長約70センチの機械人形、魔導巧殻と呼ばれる存在。

 こうなると問題は今が何時かという時だな。原作の開始前なら構わないが、事によっては大変になってしまう。やっぱり、聞くしかないな。まずは遠回りに聞いてみるか。

 

「軽くこの国の現状を教えてくれ」

「了解ですの」

 

リューンから色々と聞いていく。そして、補足してもらう。

 

「エイフェリアさん以外の他の元帥は?」

「北領キサラを治めるガルムス、南領ディナスティを治めるオルファン、東領センタクスを治めるノイアスが元帥ですの」

 

 まだ原作が始まってるか微妙な所だな。原作はセンタクスがユン・ガソル連合国にやられてノイアス元帥が行方不明になった所からだし。

 

「元帥はどんな感じ?」

「ガルムスは戦馬鹿で、オルファンは魔術馬鹿、ノイアスは変態爺ですの」

「……家族は?」

「オルファンの娘のリセルがこないだ来たですの」

「何歳くらい? ひょっとしたら友達になれるかも知れないしな」

「今は4歳ですの」

 

 よし、原作かなり前!

 介入可能だ。なら当分は戦闘能力を手に入れつつ魔導技術を習ってラナハイムに行くか。ラクリールがクライスに与えられる前に掻っ攫えばかなり楽だしな。

 

「ありがとう。早速で悪いんだけど、魔導技術について教えてくれ」

「ふふ、このリューン様に任せるですの! と、言いたい所なのですが、国防に関する事ですので契約魔法を交わして貰いますの」

「わかった。いいよ」

「こちらとしても働かざる者食うべからずなのでさっさとやるですの」

 

 リューンと契約魔法を行い、魔導技術を他国に漏らさない事や、裏切らない事などを明確に契約していく。契約後に魔導技術について習っていくのだが、この身体やばい。無茶苦茶高性能だ。瞬間記憶能力は持っているし、理解度は無茶苦茶早い。というか、すらすら改造案とか出てくる。本当にアテナだったら叡智の女神だけあるといえる。たったの数日で魔導技術の基礎をマスターしたのだから。

 

「くぅーまさかここまで飲み込みが早いとは予想外なのです……せっかく教師になれると思ったのにー」

「いや、まだまだ教えて貰わないとな」

「むぅ、仕方無いのです。次は応用編なのです」

 

 それからどんどん知識を貪っていく。それと同時に与えられた部屋で持ち出した資料を記憶していく。それらを元にしながら解析魔術を作り上げて魔導巧殻を解析するのだ。目指すは俺だけの魔導巧殻……いや、機工女神を作り出す事だ。幸い、手に入れた神核があるから可能だ。

 

 

 

 

 



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西の都バーニエ①

誤字修正
リューンの味覚についてエルカが改造した事にしました。辻褄を合わせる為で無理矢理ですが、すいません。


 

 

 俺がバーニエに来てから一週間の時間が経った。その間にした事は簡単だ。ぶっちゃけ家事と魔導技術の勉強、リューンが味覚を感じられるように少し改造した事だ。これによってリューンは料理に取り憑かれた。だが、エイフェリアに家事能力はほぼ無い。それと本来なら人を雇えばいいのだが、それも家の中に機密とかが適当に放置されていたりしたし、そもそも元帥になってから家に殆ど帰って来ないので意味がない。つまり、基本的に俺は家では1人になる。よって家事もしないといけない。だが、考えてもみろ。一戸建てに研究室付きを貰ったと考えればどうだ?

しかも衣食住は全てエイフェリア持ちだ。つまり、俺は現状紐状態。まあ、子供だから仕方無いんだがな。まあ微かに身長も成長しているので問題無い。おそらく、ある程度身長も自由にできるのだろう。子供状態はただの省エネモードだ。向こうの女神よろしく成長も可能だろう。

さて、そんな俺は現在ノーデンフェルト海軍の軍服を特注で作って貰って着ている。原案を作ってエイフェリアに値だったら作ってくれたのだ。作業着としても便利だし、厚手なので重宝している。

 

「出来たですの?」

「ああ。取りあえず玉子焼とは別にソーセージとサラダのサンドイッチだ。それとパンプキンスープだ」

「ヒャッホーですの! エルカの料理は美味しくて好きですのー」

 

大喜びなリューンを置いて、バスケットにサンドイッチと玉子焼のケースを仕舞う。もちろんふわふわで半熟だ。飲み物には豆を厳選して俺自信がブレンドしたコーヒーだ。デザートには作ったバニラアイスだ。このバニラアイスはリューンのお気に入りだ。それらが準備出来たらエプロンを外して仕舞う。

 

「さて、エイフェリアに届けに行くぞ」

「はいですの! あっ、銃を忘れていますの!」

「っと、そうだったな」

 

腰に小型の魔導銃が入っているホルスターを取り付けて移動する。回復しておらず人間と同じ、子供と同じ程度の力しか無い俺には魔導技術で作られた魔導銃は簡単で高い殺傷能力を与えてくれる。さっさとモンスター狩りとかしてレベルをあげないといけない。

 

「では行くですの!」

「ああ。戸締りは?」

「問題無いですの!」

 

リューンと共に家を出て扉にしっかりと鍵をかける。バーニエ城へとに移動しながら周りを観察する。この街は魔導技術に溢れている。この西の都バーニエは7万8千人も住んでいて、9万6千人くらいまで住める。基本的には魔導研究所が立ち並んでいる場所だ。

 

「しかし、あの家がピカピカで清潔な状態になるなんて思わなかったですの」

「無茶苦茶汚かったからな」

 

家の中は埃が大量にあり、散らかり放題で物が溢れているのだ。しかも、エイフェリアが失敗作のような成功作のような意味の分からない物とかを放り込んでいるからタチが悪い。危険な物もあるし使え無い物もある。俺の持っている魔導銃だってエイフェリアが昔作って家に放置していた物だ。これは秘印術に魔力を通して魔焔を活性化させて威力をあげたりできるし、込める魔力の質によって性質が変化する優れ物だ。ただコストが高くて生産は出来ないみたいだが。

 

「ふふ、それもエルカの御蔭でマスターも家に帰って寝るようになったですし、いいことずくめなのです」

「ぶっとうしで研究してるしな。まあ、帰らない時もあるけど」

「でも着替えだけでも清潔にしてくれるので嬉しいですの」

「それは、研究者の性だ」

「不潔ですの」

 

リューンとそんな会話をしながら警備を素通りして中に入る。俺はエイフェリアから直接許可を貰っているし、リューンが常に一緒に居るから何の問題も無く通過できる。もちろん、来客中とかは無理だけどな。

 

「さて、ついたな」

「ノックするだけ無駄なのでさっさと入るですの」

「ああ」

 

扉を開けて中に入るとエイフェリアが錬金術を利用した鍛冶をしている。

 

「お前達か」

「お昼ご飯を持ってきたですー」

「午後から教えて貰うからね」

「もうそんな時間か……教えるのは問題無いが基礎は大丈夫なんだろうな?」

「無茶苦茶優秀ですの。実地も完璧ですの」

「なら腕を見せてくれ」

「ああ」

 

俺はポケットから作った魔導技術で作った懐中時計を取り出そうとした。

 

「って、待つですの! 先にご飯ですのー!」

「「あっ」」

「ほら、ちゃっちゃと食べるですの!」

 

俺とエイフェリアは忘れていた食事を急いで食べる。

 

「ふわふわのとろとろで最高ですの♪」

「ふむ。確かに美味しいな。今日の晩御飯も期待できそうだ」

「晩御飯は唐揚げだ」

「それはなんですの?」

「食べてからのお楽しみだ」

「残念ですの」

「まあ、この数日でエルカの作る料理にハズレがないのは知っているから問題ない」

「そうか。あっ、そうだ。お風呂作っていいか?」

「風呂か?」

「ああ、風呂」

「作れるなら構わんぞ」

「なら作る」

 

日本人としてお風呂は絶対欲しい。しかし、勝手に作る訳にも行かないし許可を貰いに来たのだ。もちろんついでだが。最悪ドラム缶でも我慢するが女の身体だからな。セリカみたいに無理矢理身体を変えて居ないとはいえ、こっちはセリカより貧弱なのだ。男だろうが女だろうが現状は襲われたら終わりだ。まあ、護衛にちょっと離れた位置にリューンが居てくれるだろうけど。

 

「そういえばエルカは魔法を使えるのか?」

「……無理。魔力はあるから習えばできる……と思う」

「そうか。そういえば記憶を失っていたな。確か半年後辺りにディナスティに行く予定がある。あちらに一ヶ月くらいは滞在するから本格的なのはそちらで学ぶといい」

「そっか……ありがとう」

「気にするな。今はリューンに簡単なのを習うといい。初級の魔術書ならここや家にもある筈だからな」

「わかった」

「ふふ、リューン様にお任せですの!」

 

大いに張り切るリューンはかなり可愛い。魔導巧殻の中ではリューンとアルが好きだが、アルは声がいただけない。何故に不思議系だと何度も思った。クール系でいいじゃないか!

最初に見た時は小暮閻魔様演じるあかりんとかそっち系だと思ったというのに!

 

「エルカ?」

「なんでもない。期待している」

「偉そうですの」

「よし、食べ終えたから見せてくれ」

「早っ!? まあ、わかった」

 

懐中時計を渡して確認してもらう。この懐中時計には時を刻む以外に魔術を一発だけ込められるようになっている。

 

「確かになかなかの技術だ。込められる魔術は初級だけのようだが」

「流石にまだ無理だ」

「一週間でそこまでできる時点で異常ですの」

「確かにそうだ。まあいいだろう。ドワーフの技術を教えよう。そうすれば面倒なリューンのメンテナンスをしてもらえるからな」

「非道いですの! 私はこんなにもマスターの事を愛しているのにー」

「いや、お前のメンテナンスをはじめると細かい所までやらされて時間がかかりすぎる」

「あははは」

「うぅ、こうなればエルカに乗り換えるですの!」

「待て、それは困る。仮にも魔導巧殻は元帥の……待てよ、別に困らないか。むしろ研究がはかどるか。エルカは私の養子扱いだし……」

「いやいや、問題ありまくりですの!」

「冗談だ。まあ、メンテナンスをして欲しいのは本当だ。書類仕事が多すぎてメンテナンスしてやる時間がない」

 

開発責任者と領主としての仕事はとっても大変なんだろうな。

 

「じゃあ、リューンのメンテナンスは引き受けるよ。俺も自分で魔導巧殻を作ってみたいし」

「ほう、言うではないか。面白い……ドワーフの技術、受け継げるなら受け継いでみせろ」

「望むところだ」

「頑張れですのエルカー!」

 

リューンの応援を聞きながらエイフェリアからドワーフの技術を教えて貰う。これは流石に習得に一ヶ月掛かった。それでもエイフェリアは嘆いていたが。

 

「私の数年の努力を返せー!」

「いや、マスターも充分早いですの」

 

普通は数十年単位で習う技術らしい。素晴らしきは完全記憶能力と高性能なこの身体だな。

 

 

 

 

 

 



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西の都バーニエ②

 

 

 

 

 さて、教えて貰う技術は教えて貰ったので先ずは拠点である家を改造する。この家は館といえる規模だが、その殆どが研究施設である。人工魔石……魔焔を製造する魔導機械や製作機械などが多数存在しているのだ。個人の研究施設としては破格だろう。まあ、現在では旧式になるんだけどな。これはエイフェリアが元帥になって研究施設が完成する前まで使ってた奴だから。

 

「リューン、今日は改造するからこれを買ってきてくれ」

「結構必要なのですねー」

「ああ。魔導機械も作るからな。どうしても鉄とかは必要だ」

「了解なのです」

 

リューンに買い物を頼んだ後は探査(サーチ)の魔術を使って熱源を調べる。でも、上手くいかない。

 

「魔術はイメージだったな……なら、エルカならこれだろう」

 

俺は自分の耳に片手を当てて耳を押さえながら親指の爪を噛んで精神を集中する。エルカ・ザウネンは潜水艦の通信兵であり、聴音では抜群の成績だ。つまり、彼女をイメージしつつ同じ動作をする。魔法自体のイメージはソナーの様な感じをイメージして行う。探すのは水源と熱源だ。

 

「……見つけた。推定131メートル……行けるな」

 

問題は掘る機械だが……いっそクレーン機能付油圧ショベルを作るか。基本構造はゴーレムを利用して自動化を行いつつ……行けるな。魔焔の数は大丈夫だ。よし、やるか。先ずは図面から作らないとな。

俺は自室に戻って設計図を作る為に先ずは覚えている絵を書いていく。羽ペンしかないので書き直しは出来ない。なので何度か失敗しながら書いていく。絵が完成したら次に設計図を……クソ面倒だ。

 

「ちっ、製図機から作るか」

 

これから楽にする為にも先ずは製図機の作成に入る。製図機の中でも特に便利なドラフターを作成する。ドラフターは製図用に特化された製図台の一種で、製図板上にT定規、勾配定規、縮尺定規などの製図道具の機能を集約したアームがついている物だ。アームに取り付けられた定規自体が縮尺可能な定規になっているから、正確な寸法を直接読み取りながら同時に平行線や垂直線、正確な角度の斜線などが引けるのでとても便利だ。それに高さや傾斜角度が容易に調整できる専用脚にするとベストだが流石にそこまでは作れない。こちらの設計図はさっさと作成する。

 

「リューンが帰ってくるまでにさっさと作るか」

 

大きめの分厚い板を用意して上と下に別の大きめの板を接着する。こちらは充分はみ出すようにして滑り止めに使う。上下の板に小さな溝を作って紙がちゃんと固定されるようにしておく。後で押さえる枠も作るので問題無い。アームの方は鉄製にして丸い芯を使って動くアームにする。後はアームの先にT定規、勾配定規、縮尺定規などの製図道具などを作って取り付ける。かなり簡単に作成できるくせにかなり便利だ。

 

「さてと、クレーン機能付油圧ショベルの設計図だな」

 

作ったドラフターを使って絵に起こしたクレーン機能付油圧ショベルを設計図として書き上げていく。それが完成したら今度はパーツ毎に分けていく。

 

「って、また問題があるじゃねえか……」

 

メルキア帝国は魔導技術こそ高いが重工業による生産力はユン・ガソル連合国に圧倒的という程まで劣っている。原作ではその為に魔導戦艦の部品を敵国であるユン・ガソル連合国に新型の魔焔反応炉の設計図を渡して作って貰ったのだ。アレははっきり言っていらない。

 

「はっ、ならこの俺が工業力をあげてやればいいじゃねえか。そう、俺自身の為にな」

 

労働力はゴーレムでいい。こっちには魔導技術があるし、施設作成もゴーレムにやらせればいい。そして工場も作れる。いっそ、魔焔の製造すら工場化すればいいんだ。しかし、微妙に違うが鶏が先か、卵が先かという問題だな。工業施設の建設や労働力を得る為にゴーレムを作らねばならないのにそのゴーレムを大量に作る為に工業施設が居るのだから。まあ、こうなったら型鍛造でいこう。正確に図った状態の物を丸太をくり抜いて一度作る。削るのがクソ面倒だが仕方無い。

 

「ただいまなのです」

「おかえり。リューン、精密作業は得意か?」

「もちろん得意なのですよ! リューンは魔導技術で作られた魔導巧殻なのですから!」

 

えっへんと胸を張るリューンを見ながら俺はにやりと笑う。

 

「な、なんなのです……無茶苦茶嫌な予感しかしないのです! ここは戦略的撤退を……」

「逃げると飯抜き」

「なんですと!? 鬼、悪魔、鬼畜!!」

「五月蝿い。いいからこの設計図通りに掘れ。誤差0.01mmくらいまでしか許さんからな」

「む、無茶苦茶なのですよ!!」

「ただ、出来たらご褒美をやろう」

「ご、ご褒美……なのです?」

「ああ。クレープというそれは甘くて美味しいデザートだ」

「く、クレープ……」

「冷たいアイスクリームやホイップクリームに果物を入れた奴でな……とっても美味しいぞ」

「話しかけるでないです! ぬぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

瞬時にリューンが作業に取り掛かっていく。その速度はとてつもない速さで迷いなく掘り進んでいく。だが、失敗する。丸太が動いたのだ。

 

「エルカ、固定具をよこせです」

「わかった」

 

鉄のテーブルに穴の空いた杭を溶接してそこに丸太を突き刺す。次に横から前に刺した杭よりも細い物を突き刺す。前に刺した杭の穴に入れて突き通してしっかりと固定する。精密作業だが空間認識能力は高いので問題無い。リューンも同じだ。

 

「ふふ、これで大丈夫なのです。0.01とか言わずに0.0001mmまでやってやるですよ。そう、魔導巧殻長女の名にかけてなのです!」

 

デザートに釣られて凄い速度で生産していくリューンに俺も頑張って制作していく。まあ、俺は別の作業だがな。それは非常に簡単だ。上が空いていて左右に分かれる鉄の箱を作るのだ。そして、リューンが作り上げた物の上の部分に魔焔を取り付けた鉄の棒を取り付けて天井に固定する。これで箱の中で浮いてる事になる。箱には棒がちゃんと外に出るように大きめに作ってある。そこに溶けたドロドロの鉄を流し込んでいく。普通なら木も燃えるがそこは棒に取り付けた魔焔から魔術を発動して防ぐ。これでしばらく放置すれば型がほぼ完成する。後は真っ二つに割ればいい。もちろん、固まっているがそこは熱く熱した工具で割る。2回ほど失敗したが3回目からは問題なく出来た。後は割った場所に入っている木を燃やして排除する。すると金型ができる。箱の右側にはボルトを付けてたい焼きみたいに開閉式にしておく。後はこの金型に魔焔を埋め込んで秘印術で極薄の結界を発動するようにしておく。この暑さも計算して作っているので問題無い。これで上から流し込んで放置すれば部品が完成する。後は錬金術で細かい調整をして綺麗に整えるだけだ。それからはひたすら同じ事を繰り返すだけだ。

そして、10日後にリューンの作業も俺の作業も終わったので、改めてゴーレムの部品を生産していく。巨大な分大量の鉄が必要だった。

 

「エルカ、コストがかかりすぎなのですよ」

「わかってる。最終的に量産して売り払う予定だ」

「なるほどなのです」

 

作成したゴーレムは魔焔を5個必要とする。ぶっちゃけ1個じゃ出力が足りない。

 

「効率悪いな……新型魔焔でも考えるか」

「そんな簡単に言って……不可能なのですよ」

「それもそうだな。いや、魔焔炉の構造を変えればいいか」

「? どうする気ですの?」

「連結」

「それだけじゃ意味が無いですの」

「だから増幅させる」

「できるですの?」

「可能だ。多分……早速作るか」

 

5個だから五芒星の秘印術で増幅させるか。元から魔導銃とかも増幅させて使ってるんだし。

 

「ちょっと待つですの!!」

「なんだよ?」

「こんな場所でやったら大変な事になるですの! せめてちゃんとした研究所でやるですの!」

「いや、確かに危ないが許可が降りんだろ」

「ふふ、このリューン様に任せておけば大丈夫ですの。ほら、さっさと着いてくるですの!」

「はいはい」

 

確かに爆発したら危険だし、安全な場所があるならそっちでいい。なので、ちゃんと着いていく。いや、違うな。リューンは俺の頭の上で寝転がって道を指示するだけだし。

そんな感じで無事に魔焔炉を研究している研究所に到着した。しかし、ここは重要施設だ。なので当然の如く魔導鎧に身を包み、魔導銃と魔導槍で完全武装した屈強な兵士達が警備にあたっている。

 

「止まれ!」

 

直ぐに制止の声が聞こえたので俺は大人しく止まる。するとリューンが飛び上がって胸を張って言葉を魔導兵達にかける。

 

「者共ご苦労様なのです」

「りゅ、リューン様……いったい何の御用でしょうか?」

「研究施設を使うのです。この子はマスターの弟子……養子なのです。だから施設を使わせるのです」

「し、しかし……」

「私の言う事が聞けないのですかぁー!」

 

両手を振り上げて起こるリューンにどうするって仲間に相談するような視線を向けるが、他の人は全員目をそらす。

 

「しょ、少々お待ち下さい……元帥閣下に確認致します」

「なら先に入れるですの! こっちは新型の魔焔炉の実験をしに来たですの!」

「っ!? 新型っ!! わ、わかりました! おい、直ぐに結界の準備と元帥閣下に連絡を送れ! それともしもの時の非常警戒態勢を発令する!」

「了解!」

 

無茶苦茶慌ただしくなった。

 

「中でお待ちください。ただ、起動だけはこちらの準備が整うまでお待ちください」

「わかっているですの」

「了解」

 

俺は返事をした後、先導してくれるリューンの指示に従って移動していく。そして、分厚い扉を何枚も潜って地下の空間に移動する。

 

「あそこの部屋で作るですの。実験は別の部屋で行うのでくれぐれも起動はしないようにお願いするですの」

「ああ」

 

俺は小型魔導炉用のケースと複数の鉄板を取って狭い部屋へと入る。隣の部屋とはかなり分厚い壁がある。これももしもの為の対策だろう。

そこにある椅子に座ってテーブルにある工具を使って加工していく。普通は鉄板に秘印術を刻んで中央に魔焔を配置する。それをケースに何枚も並列に入れて動力炉である魔焔炉を作りあげる。だが、俺はそんな事はしない。先ずは五芒星を鉄板に刻んでいく。その後に秘印術で魔力を増幅する術式を刻む。五芒星のの端の一つに魔焔を設置する。他の3つの場所には増幅術式を刻む。使う増幅術式は神殿から持ってきた資料と現在の秘印術を合わせて改造した奴で従来のより効率は断然いい。あっちが1.5倍ならこっちは3倍だからな。

 

「ここには何を刻むです?」

「これは上にある魔焔に魔力を送る様に刻むんだ」

 

最後に残した場所には“上にある魔焔に魔力を送る”様に命令術式を刻む。そして、次の鉄板にも同じようにしていく。ただ違うのは魔焔を配置する場所が別の場所で、“最後に魔力を送る”と刻んだ術式の上だ。そしてもう一つは一箇所だけ端の場所に何もせずその周りを経由して増幅するようにする。もちろん増幅率は小さいがな。本来ならびっしりと術式を刻むのだから。そして、さっきと同じように“上にある魔焔に魔力を送る”と刻む。これの繰り返しだ。そして5枚出来たら確保しておいた一箇所の穴の真ん中をくり抜いてやる。

 

「それでどうするです?」

「次はパイプだな」

 

錬成してくり抜いた鉄を塊に戻し、輪っかを不空作る。その裏と表に強化の秘印術をびっしりと刻印する。そして1枚の五芒星の終着点にパイプを設置し、魔焔の下にも接続する。そう、これはバイパスだ。それをどんどん重ねて5枚がさねにする。最後には開けていおいた穴にパイプを通して一番下まで一気に最初の板まで降ろして接続させる。これによって循環して増幅し続ける事ができる。だが、これだけだと無限に増幅し続けて耐久性もいずれは超えて爆発する。よって、今度はケースに細工をする。ケースには魔力を魔導機械に流す為のコードがある。それを一番上の板にある下へ送る術式の上と一番下の板に魔焔の下に繋げる。二つに設定するのは一定以上の魔力が溜まったらそれを吸い取る事だ。ちなみにケースには鉄板を入れる為の溝があるので密着する事は無い。其の辺もちゃんと計算して作ったので問題は無い。

 

「出来た」

「どれぐらい出力が出るか楽しみなのです!」

「そうだな」

「新型の魔焔炉らしいなっ!!」

 

少し休憩していると、扉が開けられてエイフェリアが入って来た。しかも息が荒い。絶対に走ってきたな。うっすらと汗も掻いているし、肌も少し赤い。

 

「これだ。どうだ?」

「これは……駄目だな。実験を許す訳にはいかない」

「何故!?」

 

エイフェリアの言葉に俺は驚いてしまう。何故否定されるのかがわからない。

 

「術式と構造を見た感じ、確かにこれは素晴らしい。確実に従来のより遥かに上になるだろう。だが、理論値とはいえこれだけの高出力になる物だと制御する為の外付けの魔導機械が居る」

「反応炉?」

「そうだな。それが居る」

「それなら魔力を貯めて置く場所もあった方がいいのです」

「バッテリーか」

「バッテリー?」

 

エイフェリアは分かっていないみたいなので、バッテリーを説明していく。

 

「確かに貯めて貯蔵タンクが有れば便利だな。よし、今すぐ反応炉を作るぞ。それと貯蔵タンク……バッテリーか。そっちは任せる」

「わかった」

「仕方無いのでお手伝いするです」

「ああ。おい、誰か!」

「はい、なんでしょうか?」

「全研究員に作業を停止してこっちに集まるように言え。これから新型の魔焔炉……魔焔反応炉を作成する!」

「はっ!!」

「くっくく、楽しくなってきたじゃないか……」

 

直ぐに兵士が走っていく。エイフェリアはこうなると誰にも止められない。完全にスイッチが入っている。しかし、設計図を作った方が良いな。あ、そうなるとドラフターを取ってくるか。

 

「ちょっとドラフターを取ってくるから人を貸してくれ」

「それはなんだ?」

「ドラフターは……」

 

俺がエイフェリアに説明するとエイフェリアの言葉は凄く完結だった。

 

「よし、ちょっとその設計図を職人に渡して生産させるから渡してくれ」

「いや、世話になってるからいいけど……お金頂戴。研究費が欲しい」

「足りないのか?」

「全然。だって、目的は魔導巧殻を作る事だからな」

「そうだな。それが夢だったな。いいだろう……売上の1%を渡そう。生活費とか授業料とか色々と計算するとそれぐらいでいい」

 

設計図を渡すだけで1%か……確かに充分美味しいや。

 

「わかった。それでいいよ。それじゃあ取ってくる」

「ああ……いや、私も行こう」

「わかった。直ぐに取り掛かろう」

「この2人、似た者同士ですの……でも、甘いのですよ。こらっ、その前に晩御飯が先ですの!!」

 

俺達はリューンに注意されて仕方なく帰ったらご飯を急いで食べる。その後、ドラフターを運ばせ、設計図をエイフェリアに渡す。エイフェリアはその設計図を更に改良して瞬時に便利で生産効率のいい設計図に書き直した。こういうのはまだ全然かなわない。ちなみにドラフターは最優先生産項目に指定され、魔焔反応炉と同時作成される為、多数の職人と研究者達を徹夜に追い込んだ。

そして、一週間後には新型の魔焔反応炉の実験が開始され、高出力でありながら安定した魔力量を一定期間の間だけ無限に量産し続ける物が出来た。問題があるとすればそれは部品の摩耗が早く、交換が必要な事だ。白金色の魔法鉱であるアルブネア鋼で作ると約2年間持ち、ドワーフ族の製法によって作られるパール鋼で作ると約6年間持ち、結晶化した神獣の骨であるラミアス石で作ると約7年間持つ事がわかった。どれも高価な代物だ。買えばパール鋼やラミアス石とか4000もするしな。ちなみに建築用の木材が100だったり、綺麗な水が100だったり、石材が100だったりする。ちなみに石材1個と資金200で8人用の住居が建てられる。まあ、パール鋼やラミアス石は買取が800だったりするんだがな。

 

 

 

 

 

 

 



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西の都バーニエ③

 

 

 新型の魔焔反応炉が出来たら後は簡単だ。早速クレーン機能付油圧ショベル重工業ゴーレムを作成して庭に穴を掘らせる。リューンにはもう1台のゴーレム作成を依頼した。出力が高い御蔭で直ぐに穴が惚れて、そこからお湯が湧き出して来る。後はそこを錬金術の錬成で土を石に変えてしまう。お湯を貯めた場所の下に湯船の予定地を掘らせる。その高低差の間に濾過装置を作って綺麗な湯だけ流れるようにする。後は熱を管理する魔導器で調整する。

 

「やっぱ露天風呂は日本風だな」

 

石を敷き詰めて湯船の周りに日本庭園を作る歩く道は丸太を突き刺して庭園毎囲ってしまう。湯船は広くしたし、移動用の平らな石も用意した。浴槽の下も大きな石を切断して隙間なく配置して焼いて固定した。後は重機ゴーレムに雨よけの建物を作らせればこれで天然温泉の露天風呂が完成だ。

 

「だが、これだけでは終われない」

 

次にシャワーを作っていく。排泄されるお湯も浄化と濾過を得て再利用されるように調整しておく。自然汚染などさせない。それとお風呂の椅子と桶も作っておく。それも完成したので今度はゴーレム制作を手伝う。金型もあるので直ぐに組みあがっていく重機ゴーレム達。1日4体作れるようだ。

 

「エルカ、このゴーレム達はどうするです?」

「ああ、それなんだけどリューンが好きにできる兵力っている?」

「居るですよー。リューンちゃん親衛隊があるのです!」

「そうか。なら、その人達に重機ゴーレムをモンスターから守るようにお願いできるか?」

「それぐらいお安い御用なのですが、何をする気です?」

「バーニエの街をもっと広くして工業力をあげる」

「……OK、やるですの。それは願ってもないことですの。なら、この私に任せるですの」

「了解。じゃあ、行こうか」

「はいですの」

 

それからリューンの部隊の人にお願いして、バーニエの街から2キロ程離れた場所を掘らせる。計画書は兵士の人に渡してお願いしておく。掘り出した土は防壁に使うし、掘った場所はそのまま堀に使えるので実質高低差が結構できる。バーニエの防壁より低くしないとせっかくの魔導砲が意味ないのでその対策だ。

そして、俺達は差し入れに唐揚げとかを渡して帰った。するとエイフェリアも帰ってきていた。

 

「おい、なんか庭から湯気が出てるんだが……」

「ああ、温泉を作った」

「ほう、それは素晴らしいな」

「だろ? 温泉に入りながら酒を飲むのはいいものだ」

「まだ子供だろう。まあいい。なら今日は簡単な物でいいな」

「リューンは唐揚げがいいのです!」

「まあ、いっぱいあるからいいけどな」

「あれはツマミにしてもいいからな」

「じゃあ、風呂に入りながら食べるか」

「どうせなら洗いっこするですよー」

 

あっ、そういえば一緒に入る事になるのか。まあ、女の身体だしいいか。むしろ眼福だし、触れるみたいだからな。

 

「ほら行くぞ」

「わかった」

「ふふ、楽しみですの!」

 

それから、唐揚げとお酒の準備をして脱衣所に置いておく。後は服を脱いで先に入っているエイフェリア達と合流する。エイフェリアは既に身体を洗い終えているようだ。しかし、こうして見るとエイフェリアも凄く綺麗ないい女性……いや、その外見から美少女だな。

 

「何をしている。ほら、こっちに来い」

「早くするですよー」

「あっ、ああ」

 

2人の場所に移動して、進められるままに椅子に座る。すると後からエイフェリアが抱きついて来た。

 

「なんだこれは……綺麗なツルツルでもちもちの肌……」

「染み一つないのですよ……というか、髪の毛も何時もサラサラで気持ちいいのです」

「そういえば手入れには何を使っているんだ?」

 

女性同士の会話はこんな物なのか?

 

「んっ、なっ、何もしていない」

「そうか。ずるいな……」

 

身体を泡立てた手で洗われていく感覚は何か変だ。

 

「ふっふふ、恥ずかしがってるエルカは激レアなのですっ! たっぷり可愛がってやるですよ!」

「ちょっ、やめっ!? た、助けてエイフェリア!」

「諦めろ。リューンがこうなったら止まらない。それより徹底的に洗ってやるからな。しかし、うん……よかった」

「な、何がっ!? というか、一部を見ながらなに言ってんだ!」

 

エイフェリアは俺の胸を見詰めていたのだ。胸が小さい事でも気にしているのかも知れない。貧乳も悪くないと思うんだけどな。この一ヶ月……少し胸を大きくしてみたが重すぎて身体が変になった。だから小さくていいと思う。

 

「マスターはお仲間が増えて嬉しいのです。つまり、傷の舐め合いなのですよ」

「というか、俺って成長すると思うんだが……」

「駄目だ。するな! あんな脂肪は消してしまえばいいんだ!」

「それはどうかと……」

「そんな事をいうエルカはこうだ!」

 

エイフェリアに頭をぐしゃぐしゃと洗われていく。結構気持ちいい。というか、当たっているエイフェリアの身体が柔らかいし気持ちがいい。息子があったら元気になってそうだ。

 

「むっ?」

「どうした?」

「いや、何か力が抜けた気が……気のせいか」

「ほらほら、早く入るですよ!」

「そうだな」

「わかった」

 

俺は唐揚げとお酒をお盆に乗せて持っていく。そして、浮かべた桶に移し替えて一緒に入る。

 

「リューンはお湯とか大丈夫なんだよな?」

「ふふ、このリューン様達魔導巧殻はこの程度平気なのです!」

「そっか」

 

お酒を注いで、3人でグラスを合わせる。リューンのはかなり小さいけどね。それでもいい音がする。満天の星を見ながら温泉に浸かって唐揚げつまみにお酒を飲む。ましてや相手は美少女2人だ。文句など無い。

 

「しかし、エルカを気まぐれで拾ってどうなるかと思ったが、私にとって嬉しい誤算が多いな。まさか新型の反応炉まで作れるとは思わなかった」

「重工業ゴーレムもそうなのです」

「ドラフターも楽になる。そういえば兵に何かを命令したみたいだな。報告を聞こうか」

「簡単なのですよ。ちょっとバーニエを拡大する予定なだけなのです」

「拡大か……」

「ああ。バーニエは技術力こそあっても工業力が全然無いからな。だったら拡大してゴーレムメインに作ればいいからな」

「設計図はあるのか?」

「ああ、あるからそっちは後で見せる。簡単に言うと、今の街の周りに工業地帯を作って重工業ゴーレムを量産して一気に開発を行う。それと同時に部品を製造する工場も作成るする。工場のエネルギーは新型の魔焔反応炉を巨大化して配置すればいい。むしろ、小型を同じように配置して大型の増幅器を作って地下に埋めればいいしな」

 

地上は普通の施設としてカモフラージュしつつ、地下ではせっせと生産される訳だ。

 

「確かに重工業ゴーレムが量産されれば開発も楽になるな。他の街にも配布すれば……」

「お金は貰うけどね。手に入れた資金でどんどん開発を進めるからな」

「そうか。よし、ならその拡大計画は全部任せる。資金も人材もやるからもっと派手にやるといい」

「だけど土地は工場とか温泉とか使る予定でいっぱいだから他の人には売れないけどいいか?」

「ああ、構わない。私の変わりにリューンが権限を持ってエルカに付け。それである程度の問題はなくなるだろうしな」

「任せるですの!」

 

なら、先ずはゴーレムの増産から頑張るか。おっと、他にも言っておく事があった。

 

「エイフェリア、リューン。俺、ちょっとラナハイム王国に行ってみたい」

「ラナハイムか……」

「おお、また辺鄙な所なのです」

「あそこは魔法の国だろ。だったら役に立つ魔法技術があったりするだろうし、何か手がかりが掴めるかも知れない」

「いいだろう。どうせディナスティに転移の門で行くんだ。そっちに寄ってもいい。だが、今のエルカでは弱すぎて魔物に食われるだけだ。ちゃんと訓練を受けてからになるか……いや、オルファンに話を通して護衛もつけるか。他国に行くのならリューンを付ける訳にもいかないからな……」

 

確かに魔導巧殻は元帥に与えられる物だからな。でも、それなら作ってしまえばいい。今回の魔焔反応炉の御蔭で出力問題はなんとかなるだろう。本来は神核を調整して使う気だったが、核を別の物にしてプロトタイプを作ってしまえばいい。意志なき魔導巧殻……いや、それは魔導人形だな。とにかく魔導人形を作ってそれに武装を施せばいいや。もちろん、俺自身も訓練はすべきだが。

 

「わかった。頑張ってみる」

「じゃあ、手配するです。でも、何から習うです?」

「手っ取り早く強くなれるのは魔導銃だな」

「ではそちらの教官を手配しておこう」

 

エイフェリアが唐揚げをぱくつきながそんな事を言ってきたので了承しておく。これからバーニエの発展と同時に魔導人形の作成、武器の作成と色々と忙しい。本来は神核を使いたいが、性魔術で支配するしか方法が無いというのに、やった事も無い為に方法がわからない。つまり、危険をおかせないのだ。いや、可能か。感度を最初からあげまくっておけば……少し作ったら試してみるか。

 

「じゃあ、取りあえず街の発展を行いつつ訓練と開発に勤しんでみるか」

「期待している」

「ふふ、楽しみなのです」

 

さて、期限は迫ってきてるし、本格的にリューンを解析して頑張ろうかね。

 

 

 

 

 

 



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西の都バーニエ④

これぐらいなら平気です……よね?
リューンの味覚についてエルカが改造した事にしました。辻褄を合わせる為で無理矢理ですが、すいません。


 

 

 

 

 

 エイフェリアからラナハイム王国に行くために言われた条件はぶっちゃけて言うと俺が弱いから護衛の戦力を用意するなり自身の実力を上げろという事だ。でも、これでもレベル10なんだぜ?

つまり、傭兵の最弱騎士と同レベルという事だ。まあ、実戦経験は無いから確実に負けるけどな。だから、俺が優っている技術力で勝負する。そう、護衛が居ないなら作ってしまえ!という事だな。なので、俺はリューンを連れて研究室に居る。

 

「それで、何を作るのです?」

「魔導巧殻」

「……いきなりですの」

「冗談だ。その前の魔導人形だな。だから、リューンも裸になってメンテナンスベッドに寝てくれ」

「了解ですの」

 

先ずはリューンを徹底的に解析する。構造はほぼ人間と変わらない。だけど、心臓の変わりにリューンは清浄なる青き月の光を宿した聖石、月晶石で作られた核がある。そして、その魂の定着にはルーンエルフの生贄が使われている。だからこそ月晶石の変わりに神核を使う予定だ。

 

「腕の構造はロボットと変わらんな……いや、人間と足して割った感じか。中途半端としか言えない」

「そうなのです?」

「いや、小型だという事を考えればこれでいいんだろうけどな……」

 

4時間かけて徹底的にリューンの内部構造や素材、機構などを解析して記憶した。ここからは俺のオリジナル技術で改造する。魔導巧殻は遥か古の時代の産物だ。当時手に入っていた物が手に入るとは限らない。いや、むしろ無理だろう。だからこそ、今の技術力で行う。

 

「目指すは人間と変わらない身体だが……当分は無理だな」

「そうなのです?」

「そもそも人工皮膚をどうする? 培養……ちょっと待てよ……確か……」

 

俺は人工皮膚の作り方を乗っている資料を持っていた。正確にはこれは治療魔術の一種で、失われた太古の魔法、神話魔法だ。これなら人工皮膚も作れる。痛みと辛ささえ我慢すれば。

 

「まあいいや」

 

先ず基本の骨格や骨はパール鋼で制作する。鍛冶のやり方で叩いて伸ばして圧縮して空気を追い出してやる。そこに更に魔術を浸かって新型魔焔反応炉の魔力をふんだんに使って素材其の物に炎の属性を付与魔術で付与していく。更に不純物がなくなれば錬成して更に圧縮して強度と密度を上げていく。何度も何度も繰り返して大量のパール鋼を消費しながら特殊なパール製の骨を作り出す。この骨に硬化と再生の秘印術を刻んでやる。それと肘など可変部分も人間と同じように作る。限りなく精巧に人間に似せていく。146cmだとはいえ人間1人分の骨を作るのは苦労する。これだけで24日もかかった。

この間に重工業ゴーレムは金型其の物を大量に生産して一気に大量生産してから防壁制作の工事を行っている。それと近くになだらかな丘があって丁度良さげなのでそこに温泉宿を作り出して商業区に設計図を変更した。その辺りは大型の物になるので建物はかなり真面目に設計しておいた。温泉に関しては即座に調べ上げて全重工業ゴーレムを使用して一気に掘って大きな露天風呂と室内風呂を作った。もちろん男女別で魔導技術を使ってサウナや電気風呂などを作成してやった。もちろん、個人用も作って浴槽は木製にしたのもあるし、普通に石材で作ったのだってある。どちらも錬成して秘印術を使ってメンテナンスも簡単にしてある。御蔭で温泉を作った日こそあんまり人が居なかったが、直ぐに客が増えた。宿は未完成だから温泉だけ入りに来るので、そちらはお金1だけとって自由にさせた。後マナーの教え込みはちゃんとしているので問題無い。拡張工事に参加した皆は現在だけ無料で提供して疲れを取ってもらっている。この温泉の効果は疲労回復、美肌効果、アンチエイジング効果などをはじめ、かなり有効だ。うん、はっきりいうと俺の豊穣神の加護が入っているからだ。神格者でも気づかれない程度だけど。

 

「次は筋肉を作らないとな……これは赤魔力糸だな」

 

こちらの赤魔力糸は複数の薬品に漬け込んで錬金術で合成を繰り返して強化を施した後、数本の糸を螺旋状に絡める。そこから更に錬成して極細でありながら強靭な糸が完成する。それに炎属性を付与してしっかりと螺旋状に絡めながら靱帯などを接続していく。これは赤魔力糸の強化糸を作るのに13日、骨に貼り付けて人型にするのに18日もかかった。更にそこに魔焔反応炉と結晶で作った核を入れて接続していく。

 

「さて、子宮を作らないとな……だが、これはリューンでは無理だし、エイフェリアに頼む訳にもいかない……つまり、自分のを調べるしかない」

 

ごくりと唾を飲み込んだ後、自分の体内を調べる機械を作成する。そして、それを入れてちゃんと内部まで確認し、サンプルを採取する。この時点で大変痛かった。直ぐに回復魔術で回復させたけどな。

まあ、苦労して取った細胞サンプルをとある強力な再生魔法を魔焔反応炉10個も使って生み出した大量の魔力で細胞を再生させる。つまり、女性の大事な場所を作り上げた。これを作成中の魔導人形に搭載し、頭部に集める神経回路などと接続していく。頭部と心臓周りは無数の演算機を集めて作られたコアブロックが存在している。ここに本来なら特殊処理した神核を入れる。とりあえず、筋肉繊維や骨格、骨に至るまで徹底的に錬金術と科学の合わさった魔導技術で作り上げた。

 

「ちゃんと関節とかも動くな。じゃあ、後は髪の毛とか皮膚だな」

 

皮膚も俺から採取したのを神話魔法で培養し、覆っていく。今回の場合はちゃんと取り付けた状態で再生魔法を皮膚にかけると自動的に増殖して修復してくれる。魔焔反応炉の過剰運転で魔力はなんとか補っている。ちなみにこの子に搭載した魔焔反応炉は六芒星タイプのより強力な奴だ。容姿は俺が転生する前にやっていたABGというゲームのキャラを参考に作成する。名前も同じララで行こう。この子はぶっちゃけていえばテイルズのプレセアを機械兵にして少し正確を変えた感じだ。

 

「バストは……これも自分の細胞を使うか」

 

胸も少し膨らんで大人の掌に収まるか収まらないかの大きさにした。ぶっちゃけ、怖いし魔力不足が深刻だからな。

 

「後は肝心のデータだが……神核の意思が邪魔なんだよな。それを書き換える為に性魔術を使うつもりだが、先ずは感度を弄らないといけない。」

 

性魔術は神々の信仰力や魔力の源を必要とする魔術とは異なって個人的な意思や精神力を媒体とした儀式魔術の一つだ。性交渉により強制、契約、精気吸収等複合的な効果を得られて力を得る。そして、この魔術の優れた点は生殖能力を有する対象全てであり、それが例え悪魔だろうと天使だろうと神々だろうと有効なのだ。もちろん、感情豊かで知性的な種族ほど発動威力が比例して高るのだ。

「だが、元となるデータが無ければならない。流石にそれはやりたくないし、神を落とす程の快楽とかかなりやばいだろうしな。まあ、一度娼婦を買うか」

 

やる事が決まったら簡単だ。超強力な媚薬とその解毒薬、不感症になる薬とその解除薬を作成して実際に頼んで実行する。頼んだ相手は淫魔族の人で、その編の男を捕まえてヤってもらった。淫魔族でも一瞬でアヘっちまう快楽データを取って、それを持ち帰る。後は一度魔導人形を起動して動作不良が無いかを確認する。

 

「さて、起動……どうだ?」

「システム起動します。オペレーティングシステム正常起動。これより、各システムのチェックを行います。システムオールグリーン。次に身体チェックに入ります……右腕回路と左足回路に異常を確認しました。修復を要求します」

 

その場所を開いて確認すると接続が甘かった。しっかりと固定して外れないように更に強化しておく。

 

「どうだ?」

「問題有りません。これより触覚を確認します」

 

それからトライ&エラーを繰り返して修復と改造を重ねてあどうしようも無い物以外は問題無いようにした。本来なら魔導巧殻のリューン達と同じで空に浮かべるはずなのだが、そこまで出力は無いようだ。肉体強度は馬鹿みたいに強化しまくったので大丈夫みたいだが。

 

「これで完成。じゃあ、次だな……」

 

とってきた淫魔のデータを登録して快楽を与えると震えて痙攣しだした。

 

「エラー、エラー、想定以上の負荷がかかっており……おり……お……り……」

 

そして、核が砕け散った。だがこれで問題無い。後はこの神核を弄るだけだ。なので、この神核を魔導器にセットして核にする。もちろん制御術式の秘印術もしっかりと刻み込んである。その後、手足の接続を切断して物理的にも取り外し、口には猿轡を配置。完全に身体を拘束して性魔術の魔法陣と魔力を封じる枷をしっかりと嵌める。そして、淫魔のデータを960倍に設定して即座に流し込む準備をする。

 

「では、はじめるとするか……」

 

薬を飲んでから神核を投入して起動させる。起動して目を見開いた瞬間に淫魔のデータを叩き込んで一気に精神を叩き潰す。その後、痙攣しているのを男化して美味しく頂く。だが、流石は神。この状態でも12時間も持った。だが、屈服させられたので記憶を除去し、新たにララとして生まれ変わらせた。魔導巧殻と同じ……いや、本当の意味で魔導巧殻となった。本来なら魔導巧殻の枠すら超えて機工女神といえるかも知れない。だけど、肉体スペックが低いからそこまでの性能は無い。せいぜいが魔導巧殻より強い程度だろう。ちなみにこの神核はアシェラトと呼ばれるアテナと同一視される事もある神格で、旧神だ。

 

 

 

 

 

 

 



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西の都バーニエ⑤

 

 

 

 

 昨日はそのまま眠ってしまったので、俺の目の前に居るララも裸だ。手足が動こない状態なのだからどうしようもなかったのだろうが。一応、接続の前に確かめてみるか。

 

「おい、起きろ」

「んん~眠いのです……」

「起きろって言ってるだろうが!」

「ひぐっ!? ま、マスター……おはようございます」

「記憶はどうだ?」

「……データは存在しません。生まれたばかりのようです」

「自己診断プログラムを起動しろ」

 

どうやら問題無いみたいだ。首筋にあるコネクタにケーブルを繋げてこちらでもチェックする。

 

「イエス、マイマスター」

 

ララが行っているデータと俺自身で調査したデータを合わせて問題無い所を確認する。神核の稼働率はかなり低いがこれは仕方無い。神格は現状、適応しきれておらず特殊な力を一切発していない。しばらくすれば馴染むはずだ。その間は魔焔反応炉の出力のみで生活する事になる。

 

「システムオールグリーン。手足の接続以外の問題を見つけられません」

「わかった。今から接続する」

「了解」

 

ベッドに寝ているララの手足をしっかりと調整しながら接続する。これから働いて貰わないといけないんだから、ララの不調は俺の安全に直結する。

 

「どうだ?」

「問題有りません」

 

手足を動かしながら確認し、立ち上がるララ。その後、軽く身体を動かしていく。

 

「ララのこれからの仕事は俺の護衛と戦闘訓練だ」

「了解しました。マスターの命はララが守ります」

 

感情も抑揚もなく答えるララ。これは仕方無い。

 

「じゃあ、朝食に……その前に風呂にするか。付いてこい」

「はい」

 

ララを伴って外に出て、露天風呂へと向かう。そこで綺麗に身体を洗う。

 

「そこ違う」

「むむ。難しいのです」

「お前は俺の夜伽もするんだから身体は常に綺麗にしておけよ」

「了解なのです。マスターの為に綺麗にします」

 

しっかりと洗い方を教え込んだら結構な時間が経ったので簡単にご飯を用意するとリューンとエイフェリアがやって来た。ちなみにララはYシャツのみだ。

 

「その子はなんだ?」

「ああ、その子は魔導人形なのですよマスター」

「リューン、実は魔導巧殻にした。ちゃんと核も最高級の物だ」

「「ぶっ!?」」

 

俺の言葉に2人が吹き出した。

 

「ララ、自己紹介しろ」

「イエス、マイマスター。ララは大型魔導巧殻のララと申します。これよりマスターの護衛を行う事になります」

「ほ、本当に作ったのか……」

「ふははは、凄いのですよ! 新しい妹ができたのです! 私はリューン。ララのお姉ちゃんなのです!」

「むむ、そうなりますね。私はリューンを元に設計された部分もあります。では、ララのお姉ちゃんと登録しました」

 

エイフェリアは呆然として、リューンは大喜びだ。

 

「まあ、エルカならあり得るか。それより、その大きさはどういう事だ?」

「いや、ぶっちゃけると素材は足りないし小型が先ず無理だからどうしても人間サイズになってしまう。まだ技術力は完全には追いついていない。まあ、研究は続けるからそのうち追いつくだろうけど」

「そうか。なら、後は武器だな」

「そうなる。俺は非力だから魔導銃を作るつもりだ。必然的にララは前衛になるし、大剣でも持たせてみる。それと魔導銃について質問なんだけど、あれって実弾じゃなくて魔法弾を撃ってるんだよな?」

「そうだ。実弾は統一した物を大量生産出来ないからな」

 

メルキアの工業力は対しった事ないから仕方無い。

 

「なら、新型の魔導銃も作るか」

「面白そうだな。だが、流石に魔導銃の製造は許可できん。こっちで作った物を許可するから設計図を渡してくれ」

 

武器に関しては仕方無いか。

 

「わかった。って、リューンとララはどこに行った?」

「さあな。それより大剣にするなら砲剣すればいいんじゃないか?」

「砲剣か……確かに面白そうだ」

 

まあ、ララなら片手で振り回しそうだがな。

 

「設計図を用意するからちょっと待ってて」

「わかった」

 

俺は自室に戻って脳内で考えていた設計図を書き写していく。作るのは大型の魔導銃と片刃の刀身を巨大化させ魔導砲を装着した大剣だ。少し違うが一応だが砲剣に分類されるだろう。それと籠手も作成する。こちらには特殊な可変式大型魔導銃を設置し、両手に装備するようにする。この特殊な大型魔導銃はお楽しみだ。俺のも合わせてどの武装も魔焔反応炉を搭載するのでかなり大型兵器になる。

設計図を30分で書き終わったらリビングに戻る。そこではエイフェリアの服に着替えたララが居た。

 

「今は服がないのでマスターの……ややこしいのです。エイダ様の服を着せているので後で買いにいくですよ」

「そうだな。リューンに任せよう。俺なら軍服になるからな」

「……了解なのです」

「ララもいいな」

「はい、問題有りません」

「まあ、少し大きいようだから先に買い物に行ってこい。それと、エルカ……今日から訓練開始でいいんだな?」

「ああ、それで頼む。まあ、最初は基礎体力作りと射撃訓練だろうけど」

「当たり前だ。お前には後々私の後を継いで欲しいと思っている。少なくとも軍を扱ってくれると嬉しい。私は苦手だからな」

「そんな事ないのですよ! エイダ様は充分強いのです……甘ちゃんなのですが」

「あははは」

「甘ちゃんでは駄目なのです。戦場では大を助ける為に小を切り捨てるべきだとララは意見します」

「確かにその通りだ。それが私にはできない。だからエルカに頼みたい。まあ、成長してからの話だな」

「ふむ……」

 

俺が考えるのバーニエ軍を率いてセンタクスなどに攻め込む未来だ。これは結構面白そうだな。ただ。そうなると最初に攻めるのは同じメルキアのキサラかエイフェリアの同盟であるドワーフが納めるドゥム=ニールになる。後は大穴のエア=シアル。こちらは竜の国だ。かなり危険がある。さて、どうするかな……いっそ暗躍するか?

それとも傭兵に……そうか、傭兵になればいろんな所に居ても問題無い。センタクスもユン・ガソルもバーニエが支配すればいいんだ。これはこれでやはり面白そうだ。

 

「わかった。その為に色々と経験を積まないといけないから傭兵になるのもいいかな」

「そうだな。その辺は好きにしてくれていい。しかし、傭兵か……まてよ、実験部隊という事にすれば旨味も多いな」

「じゃあ、そうしようか。まあ、当分先だけどな。先ずは団員探しからしないといけないし」

「確かにそうだな。だが、他国の驚異もある。できる限り準備はしておくといいだろう。それにドゥム=ニールが何時までもつかもわからんしな」

「確かに」

 

下手したらあそこにハイシェラが来るんだよな……無茶苦茶危険すぎる。アペンドが入っていない事を願いたいね。

 

「難しいお話は終わりですの。さっさと訓練するですよ」

「時間は有限なのです」

「わかった」

「そうだな。私はこの設計図から作って見せようか」

「じゃあ、俺は射撃訓練でもしてくるか」

「エルカはこっちですの!」

「護衛しないといけません。買い物に付き合って貰います」

「ちっ」

 

抵抗は無駄だし仕方なく買い物に付き合う。だが、丁度言いので欲しいアイテムを何個か購入しておく。購入するのはアルブネア鋼、マジッククレイ 、知識の燐石、ブラッククレイ、コルシノ鋼だ。何故なら俺はちょっと特殊なアイテムを作る気だからだ。この材料でわかる人はやり過ぎだな。

3時間買い物をして、お昼ご飯を食べた後、本格的な訓練を開始する。といっても、射撃訓練……ぶっちゃけ的当てだ。こちらはやってるうちにどんどん習熟していき結構上手くなったと思う。流石に動く的にはまだ難しいが、慣れたら楽な物だ。ララはララで格闘訓練から入って、こちらも凄い速度で上達している。それとララは身体能力が人間とは違うし、筋力も凄まじいのでリミッターをつけて格闘技を習っている。まあ、今日は様子見だ。

そして、帰った俺は早速合成していく。ブラッククレイ、コルシノ鋼で魔法を付与し、錬金術で合成しながら指輪を作る。それを更に合成して加護を与えたりして首輪を作成する。するとアイテム名が変わって効果もかなり上昇した首輪が完成した。この首輪の名前はエルカの首輪。効果は小隊撃破時の獲得経験値を+5する努力家ⅤのスキルとLvアップ時に能力が上昇する確率が2倍になる効果が発生している。正に神の加護だ。アルケミと魔導巧殻の効果が一度に出るという素晴らしき事になっている。まあ、ステータスなんて見れないし、レベルはだいたいの予測になるんだけどな。それとこれと同じのを効果こそ下がるが指輪、足輪、腕輪のも用意する。つまり徹底的なブーストをかける。実際、指輪も10個装備できるし、足もその気になればできるので合計20個だ。そのブースト率は異常の一言になる。

 

 

 

 

 

 



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パルマナ大街道

短いです。
ラクリールをどうするか悩んでいます。
クライスをある好きになってるラクリールを買い取る寝取りか、普通に最初から手に入れるかで悩んでいます。どっちがいいでしょうか?


 

 

 

 

 あれから数ヶ月。基礎の訓練を終えた俺とララはエイフェリアに頼んでいた武器を貰って、その試運転がてらに外へと出る事に決めてバーニエを出た。訓練の場所はバーニエの隣ある地域だ。そこがこちらの支配領域になっていない。そこを攻め落とす。まあ、ゲーム通りにはいかないだろうけどな。

 

「それで護衛として魔導巧殻と魔導銃騎士部隊、魔導砲部隊を派遣か……」

「エイダは過保護なのです」

「それほどエルカは大切なのです!」

 

今回は18名の護衛とリューン、俺、ララという戦力だ。普通に考えて狩りにでるには過剰といえる。ましてや行くのが隣のパルマナ大街道だ。そう、今回の目的はパルマナ大街道に出現しているグレイハウンドの排除だ。相手はパルマナ大街道に隣接している森に巣を作って繁殖しているようで、旅人や商人が襲われるという事件も起きている。今まではレウィニア神権国との問題とバーニエの戦力不足もあって手を出していなかったが、これからはそうも言ってられない。バーニエはより大きくなるしレウィニアの人間が観光に来てくれるとありがたいからだ。

 

「まあ、護衛だから戦うのは邪魔するなよ」

「もちらんなのです!」

「マスター早く行くのです」

 

ララが待ちかねたようにそわそわしているので、さっさとパルマナ大街道から森へと入っていく。今回の武装はかなりえぐい。VBGのララに付いていない装備がこっちのララにはある。姿と服装もそのままだが、腕の部分に取り付けられた籠手に凶悪な兵器があのだ。

 

「索敵を開始……生体反応を確認。人型ではない為、現住生物と認定。魔力計測……魔物と判定します。マスター」

「ああ、殺れ」

「イエス、マイマスター」

 

抑揚の無い声で淡々と報告し、指示を仰ぐララに俺は命令を下す。すると瞬時に背中から巨大な砲剣を引き抜いて突撃する。その速度は足裏で地面を陥没させる程の力で蹴られた為、かなり早い。視界の悪い森の中でも対象を確実に捕らえて瞬時に接近する。そして、大剣を振り下ろして生えていた木ごと切断してグレイハウンドを殺すララ。

 

「楽勝なのです」

「よくやった」

 

褒めてとヘルハウンドの死体を放置して無表情で近づいてくるララの頭を撫でた後、しばらくその場で待機する。すると、直ぐに反応があった。

 

「どんどん来るですよー」

 

リューンの声を聞きながら準備する。俺が準備する武器はただ一つ。それはアンチマテリアルライフル、へカートⅡだ。そう、狙撃銃。ただ色々と改造してレールガンを採用して実弾を飛ばす。実弾は錬成した物を使用するのでどこでも採取可能。射程距離も2000は軽くいき、威力もかなり向上している。ただ、反動が大きいので地面に寝転がりながら撃つのがいい。まあ、馬車の中から撃つけどな。汚れたくないし。

射撃体勢になったら弾丸を装填してスコープをしっかりと見る。スコープにはこちらに迫り来るグレイハウンドが映っている。

 

「照準よし……今っ!」

 

照準を合わせて他のグレイハウンドと重なる状態になった瞬間、引き金を引く。発射された弾丸は音速を超えて目標へと飛来して貫いて弾丸の内部から爆発を起こす。爆発によって弾丸の破片が撒き散らかされて周りのグレイハウンド達にも結構なダメージを与える。

 

「凄い威力なのです!」

「どうだ凄いだろう」

 

俺はリューンに自慢してやる。弾丸その物も魔法が込められるのでかなり威力は高い。

 

「マスター、遊んでいる暇はないようなのです」

「どうした?」

「むむ、これは……大量のグレイハウンドが接近中なのです!」

「どっちからだ?」

「正面と左からですの」

「なら、ララ……正面は任せた」

「了解なのです」

 

左の敵は少なかった、ある程度へカートで始末して小型の魔導銃で近づかれる前に撃ち殺す。近づかれたらデスサイズを出したらいいだけだが、、やっぱ問題あるだろうし。

 

「マスター、これの実験を行ってもよろしいですか?」

「構わないぞ」

「では、魔焔反応炉フルドライブ。サーキュレーター全力稼働。モードチェンジ……砲撃モード」

 

ララは大剣を背中に仕舞った後、両手を突き出して籠手に付けられた物を回転させる。それは魔焔反応炉がそれぞれ一つ取り付けられた高価な装備だ。細長い筒が円形に並び、過剰ともいえる程の魔力が供給される。

 

「武装とのコネクター接続を確認。エネルギーバイパスを形成。これより砲撃を行います」

「殺れ」

 

向けられた筒からは無数の魔法弾が発射された。それはとてつもない速度で魔法弾を散撒き続けている。散蒔かれた弾丸はグレイハウンド達をミンチにしていく。

 

「これはこれで面白いのです!」

「とっても面白いです」

 

ララに与えた追加武装はガトリングガンだそれで全てを蹂躙していく。近づく事すら出来ない。もちろん弱点もある。エネルギー効率が悪いのだ。

 

「あ、弾切れです」

 

一秒間に何十発も撃つので新型の魔焔反応炉とて魔力不足に陥るのだ。よって、燃費が悪くていろんな意味でかなり危険だが充分仕えると思う。だが、そのデメリットがあっても兵器としては充分だろう。

 

 

 

 

 

 

 



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ラナハイム王国①

 

 

 

 

 パルマナ大街道も支配下に無事置けたので拠点を構築して開拓していく。街道の整備と防衛施設の準備だ。むしろ今までバーニエに近い場所にちゃんとした防衛施設が無いというのがまずい。かなりレウィニアに近いのだから。それに水の巫女は中立だから大丈夫だろうが、その配下は別だから対策は必要だ。ちなみに拠点を作るのはかなり早くできる。何故なら今も重工業ゴーレムが大量生産されているからだ。既にバーニエの工業力もかなり上がり、どんどん改造と開拓を行っている。御蔭でバーニエは城塞都市となり、好景気で凄い人気だ。

 

「エルカ、準備できたか?」

「エイフェリア、こっちは大丈夫。ララは」

「こちらも問題有りません、マスター」

「なら行くぞ。今日はラナハイムを経由してディナスティへと向かうからな」

「わかった」

 

そう、今日はディナスティへと行く日だ。もちろん、ディナスティからラナハイム王国へと向かい、ラクリールを手に入れる予定だ。移動方法は転移の門だ。これはどこでも飛べるが、相手の座標が必要で同時に対になる転移の門を設置する必要がある。現在は戦争状態でもないため、事前に連絡さえ送れば問題無い。その分、あまり部隊を連れていけないし、あちら側に前もって連絡した部隊数じゃないと拒否される。といっても、こちらには元帥のエイフェリア・プラダが居るのだ。なので護衛は必然的に多くなる。

 

「それではリューンは先にナフカの所へ行ってますの」

「ああ、そっちは頼む」

「はいですの」

 

機密の塊である魔導巧殻を他国に連れて行く訳にはいかないので、リューンは先にディナスティへと行ってもらう事になった。つまり、俺とエイフェリア、ララがラナハイム王国に向かうメンバーだ。ララも魔導巧殻だが、こちらは正式には魔導巧殻と認められていないし発表する気も無い。これはバーニエでも極秘事項だ。

 

「さて、私達も行くぞ」

「ああ」

「楽しみです」

 

リューンを見送った後、転移の門を使ってラナハイム王国へと向かう。流石に一ヶ月前に連絡を入れて置いたので簡単に転移できた。もちろん、転移出来た場所は街の入口のような所で警備はかなり現住だ。特にラナハイム王国には精強と言われる魔法剣士部隊(パラディ・アズール)が存在する。まあ、本当かどうかは不明だが。ゲームでは強かった。もともとラナハイム王国は魔法都市国家と称されるほど魔法技術に明るい国で、険しい山岳地帯の各所に拠点を築く国だ。元は魔術師の集団が作り上げた組合で、それが長い時をかけて拡大し王国を名乗ったという歴史がある。人口数と国土は列強国に見劣りするが、補って余りある質の戦力を有しており、その一つが魔法剣士部隊(パラディ・アズール)だ。この国は周辺の強大な国々へ打ち勝つための力を蓄え続け、長く雌伏の時を歩んできた歴史を持つ。

 

「よくぞ参いられた。メルキア帝国元帥殿」

「歓迎いたみいる」

 

盛大に迎え入れてくれるのは現国王だ。その横には若いフェルアノとクライスが居る。そしてさらに後ろの方には目当ての少女、ラクリールが居た。それはつまり、既にクライスの元に居る事を示している。しかも、その瞳はクライスしか見ていない。これはこれで面白い。

 

「この2人はフェルアノとクライスと申します」

「フェルアノ・リル・ラナハイムですわ。以後お見知りおきを……」

「っ!? クライス・リル・ラナハイムです」

「成程。では、こちらも紹介しよう。この子が妾の後継者のエルカとその護衛のララだ」

 

エイフェリアは対外的に私が妾に変わっている。挨拶してきたのでこちらも返す。だが、明らかにクライスの表情がおかしい。俺を見て驚愕している。

 

「エルカ、エルカ・プラダだ」

「プラダという事は……」

「ああ、この子は私の養子だ。このまま問題無ければ名実ともに私の後継者だ」

「そうですか……では、こちらにご案内いたします」

 

メルキアとラナハイムでは格が違う。ラナハイムの扱う戦力ははっきり言って現在だとメルキアの元帥より下だ。まだ雌伏の時にある。そんな事を考えながら周りを観察していくと、王宮へと付いてエイフェリアと国王が話し出す。

 

「それで今回はどのようなご用件で?」

「エルカがラナハイム王国の魔法技術に興味を持ってな。それで精強といわれる魔法剣士部隊(パラディ・アズール)と妾の兵で模擬戦をしてみたいと思ったのだ。まあ、見学でもいいが……」

「いえ、構いませんぞ。こちらとしても願っても無い事ですしの。では、準備させますのでしばらくお待ちください。魔法技術に興味があるなら図書館もございます。そちらへ案内させましょう。フェルアノ、クライス、案内して差し上げろ」

「はい、父上」

「分かりましたわ。こちらです、エルカ様」

 

俺を案内するよう命令された2人に着いていく。クライスはチラチラとこちらを見てくる。しかし、それを無視する。それよりもフェルアノがこちらに近づいて話しかけてくるのだ。だが、当然の如く俺との間にララが割り込んでいる。そのララをフェルアノは嫌そうに一別して直ぐに笑顔に戻っている。流石女狐だ。

 

「エルカ様はプラダ様に魔導技術を教えて貰っているのですか?」

「既に教えて貰って免許皆伝だ。好きなように研究と開発をさせて貰っている」

「それは素晴らしいですわね」

「当然です。ま、エルカ様は私の主なのですから」

「そうですの……その子の身体には魔導機械が埋め込まれているようですが……」

「彼女はもともと身体が動かなくてな。それを魔導機械を埋め込んで動けるようにしてある。魔焔も搭載しているから魔力も豊富だ」

「それは素晴らしいですわ!」

 

大喜びしているフェルアノ。だが、その中ではどうやって俺に取り入ろうとしているか原作を知っているから丸わかりだ。こいつは俺を徹底的に利用してラナハイムの利益になるようにしようとしている。なら、こっちも利用させてもらう。

 

「そういえばクライス、さっきからどうしましたの?」

「いえ、何でもありません。少しそのような少女が身の丈を超える程の大剣を持っているとは信じられず……」

「そうですわね。それは重くないんですの?」

「平気です。私の身体は魔導機械でできておりますのでこれくらいならへっちゃらです」

「そうだな。振り回すのに問題は無い。ララは強いぞ」

「そ、そのようですわね……」

 

こんな会話を続けていると、図書室に着いた。

 

「ここにある本で私達は勉強しております。そうですわね、簡単な物から教えていきますわ」

「いいのですか、姉上」

「ええ、構いません」

「そうか。ならお言葉に甘えよう」

「では、私は護衛に徹しております」

「よろしく」

 

フェルアノに魔法書を教えて貰う。直ぐに理解できたのでさっさと読んでいく。そんな俺にかなり驚愕している。

 

「クライス様、訓練の時間ですが……」

「ラクリールか……わかった」

 

銀髪赤目の美少女ハーフエルフがやって来てクライスに告げる。

 

「訓練か……どうだろ、ララと一緒にやってみないか? 俺はここで読書をしているから」

「むむ、私は護衛ですが……」

「大丈夫だ。ここで俺に何もない事はラナハイムが保証してくれる。そうだろう?」

「はい、もちろんですわ」

「分かりました。それではついてきてくれ」

「はい」

 

ラクリールとクライス、ララが出て行ったので俺はそのまま勢いを付けて読んでいく。特に性魔術に関する場所を読んでいく。暗号とかもあるが、フェルアノに簡単なのを教えて貰ったし、後はそれから解析を使いながら全て覚えだ。その後はひたすら知識を増やしていく。フェルアノもまさか俺がここまで直ぐに理解するとは思わなかっただろう。

 

「そ、そちらは難しい方なので……」

「構わん。もっと難しいのを読む」

 

止めようとするフェルアノを無視してさっさと読んでいく。上級魔法の術式などについても色々と為になった。確実に俺の技術力は向上した。俺をここに入れた時点で間違いなのだ。なので、ラナハイムの魔法技術をありがたく頂戴する。好意には感謝しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ラナハイム王国②

お望み通りNTRだよ!
誤字修正しました。
エイフェリアの自慢の息子を娘に変更致しました。
修正させていただきました。


 

 

 

 

 滞在して1日でめぼしい物は全て頂いた。後はこっちで改造するだけで構わない。そんな訳で今日は少しラクリールを手に入れる為に行動する。そんな訳で本人を探していたのだが、クライス、ラクリールが庭に居た。どうせならと遠目で2人を観察してみる。

 

「クライス様」

「可愛い俺のラクリール……」

「あぁ……」

 

なんだか明らかに中身が違う気がする。アレは悠長な事を言ってられなさそうだ。最悪、原作が始まってると美味しく頂かれた後かも知れない。

 

「ララ」

「ここに」

「クライスと戦ってどうだった?」

「強いです」

「お前よりか?」

「魔術無しで私に対抗してきます。魔術を使われると通常モードでは勝てません」

 

魔導巧殻であるララと同等の能力など化け物以外有り得ない。何らかの力が働いているのかわからないが……危険だな。

 

「エミリネーターモードならどうだ?」

「勝てます。こちらも火炎が使えます。相手の効率の方が高いですが、こちらも相手の技工を頂いています」

「解析は順調か……」

 

魔法剣士部隊(パラディ・アズール)の力はこちらでも使える技術だ。今の生まれたばかりのララでは本気を出してようやく勝てるレベルだろう。だが、ララはまだまだ成長する力がある。本来のスペックは神並なのだから。

 

「今日もクライスと戦ってこい」

「了解しました」

 

ララを送り出した後、俺は国王の元へと訪れる。そこではエイフェリアが交渉をしている。交渉内容は色々だが、やはり生活関連の魔導機械の購入が主だ。

 

「入ってもいいですか?」

「エルカか。丁度いい。国王よエルカとも交渉してくれ。エルカが開発した物は彼に所有権がある」

「わかりました。入ってくだされ」

 

許可を貰えたので中に入れて貰う。中には流石に護衛が居た。もちろんラナハイムとメルキアの双方の護衛だ。その護衛を後ろに控えさせて、2人はソファーに座りながらテーブルを挟んで対峙している。

 

「こっちに座れ」

「わかった」

 

俺はエイフェリアの横に座って目の前の国王を見る。向こうは俺を見ながらもエイフェリアを警戒している。これは当然だ。俺なんかまだ子供だからな。

 

「それで、彼が開発した物とはなんなのですかな?」

「驚くぞ。これはラナハイムにもあった方が……いや、ラナハイムの方が必要だろう」

「それほどですか……」

「エルカも欲しい物があるらしいからそちらと交換になるだろう」

「こちらがその資料です」

 

俺は重工業ゴーレムの仕様書を見せる。そして実際に行っている工事なども見せていく。

 

「これは誠ですかな?」

「誠だ」

「実際に10機ほど持ってきているから自分の目で確認しますか?」

 

俺は王へと告げる。端っからこっちは売りつける予定だったからな。

 

「いえ、メルキアの元帥とその弟子の言葉です。信じましょう。貴女方は技術者だ。自ら作り上げた物に偽りはありますまい」

「ありがとうございます」

「それで、どうするのだ? エルカは売る気みたいだぞ」

「こちらとしてもありがたい。して、そちらは何を望むのかな?」

「それは……」

 

俺が話そうとしたら、扉がノックされてフェルアノが入って来た。

 

「父上、私も混ぜてください」

「ふむ、そうじゃな……よろしいかな?」

「妾は構わぬが……」

 

エイフェリアがこちらを見てくる。俺はフェルアノの事を考える。原作でもだが、ラクリールと仲が悪いのは同じようだ。なら、問題ないだろう。

 

「構いません。俺も同じ若輩ですから」

「ありがとうございますわ」

「さて、それでこの重工業ゴーレムと交換に求める物はなんなのかね?」

「確かにこれでしたらそれなりの融資を出せますわ」

「5体を差し出す変わりにクライス王子と一緒に居たハーフエルフのラクリールという少女を貰い受けたい」

「っ!?」

 

フェルアノの表情が変わる。それはエイフェリアも同じだが。

 

「気に入ったんだよね、あの子。売ってくれませんか?」

「ふむ……」

「いくらなんでも駄目よ。アレはクライスのお気に入りなんだから」

「なら、7機です」

「いくら積まれても……」

「いや、構わん。あのハーフエルフをそちらに売り渡そう」

 

フェルアノは抵抗するが国王がラクリールを売り渡す事に賛成してくれた。彼にとってラクリールは所詮ハーフエルフだ。どうでもいい存在だろう。

 

「半端者のハーフエルフ1匹で重工業ゴーレムが7機も入るなら安いものですからな」

「父上!」

「これも国の発展の為だ。構わぬ。儂が決めたのじゃ」

「くっ……」

「さて、残り3機じゃが……」

魔法剣士部隊(パラディ・アズール)が使用している剣が欲しいですね」

「それは駄目じゃな。変わりにお金でどうじゃろうか?」

「おいくらで?」

「1機3000でどうかの?」

「易いですね。5000は貰わないと。素材や動力炉もありますから」

「なら4000」

「ラクリールを貰う事も考えて4500が妥当かと」

「王よ、そもそもハーフエルフで7機も貰えるのだからそれで諦めよ。本来エルカが望まねば1機10000でも足りぬ所を格安にしておるのだぞ」

「……それもそうですな。では、4500で3機とハーフエルフの小娘と7機の交換でいいでしょう」

「では、契約書を」

「ええ」

 

俺は王様と契約を交わす。

 

「ああ、そこのお姫様は反対みたいですからしばらく捕まえておいてください。彼女の口から漏れて逃げられたり、王子に傷物にされたく有りませんから」

「よかろう。そうじゃな……ならさっさと済ませるか」

「ええ。一室をお貸しください。性魔術でさっさと隷属させます」

「わかった。おい、用意しろ。それとハーフエルフの小娘を呼び出して準備しておけ。それとフェルアノは休ませておけ」

「父上っ!?」

「「「はっ!?」」」

 

魔法剣士部隊(パラディ・アズール)を動員して即座に準備にかかってくれた。

 

「さて、今回の交渉はこれで終わりだな。なら重工業ゴーレムを実際みてみるといい」

「そうだな。実際、水源でも掘り当ててあげるよ」

「それは助かりますな。ぜひお願いいたします」

「ええ」

 

俺は王様と外に出て魔導機械の探知機……ヘッドフォン型聴音機を取り付けて調べる。調べた位置に異空間から取りだした重工業ゴーレム達に指示して掘らせる。

 

「今のは空間魔術ですか……素晴らしいですな」

「全くだ。アレはエルカの特殊な力で私も重宝している」

「でしょうな。我が息子も天才と呼ばれる程ですが、彼女も凄まじいですな」

「私の自慢の娘だからな」

 

なんだか後ろで親バカな話がされているが、直ぐに水源を掘り当てられたので組み上げ機を錬成して取り付ける。

 

「どうだ?」

「充分だと思うが……」

「ええ、充分です。今まではわざわざ魔術で飲み水を出さねばなりませんでしたから……しかし、便利なゴーレムですな」

「全くだ」

 

クレーンとシャベルまで付いているからな。後、ローラーも。

 

「陛下、準備が整いました」

「そうか。では案内して差し上げろ」

「はっ」

「じゃあ行ってくる」

「ああ、行ってこい」

 

俺は兵士に案内されて一室に入る。そこには裸にされて後ろ手で手枷を嵌められた幼いラクリールがベッドに転がされて居た。手枷から伸びる鎖はベッドの天井へと繋がれている。

 

「ふーっ!? ふーっ!?」

「何を言っているかわからないけど、今から教えるのは事実だ。お前は俺に売られた。今日からお前の主人は俺だ」

 

猿轡を嵌められているので喋れないようだ。なのでとってやる。

 

「巫山戯るな下衆が! 私は主人はクライス様だけだ!」

「だが売られたのは事実だ。これが契約書だよ」

「こっ、こんなのは無効だ!」

「もう渡したし有効だよ。まあ、お前の意思なんて関係なく俺の物にさせて貰う。だが安心しろよ。ちゃんと今の意思は残してゆっくりと俺の物だという事を教え込んでやる。そしてお前の中からクライスを消してやるよ」

「や、やめろっ!!」

「さあ、俺の物になれ」

 

嫌がるラクリールをたっぷりと堪能して性魔術を行う。契約内容は簡単で、俺に逆らわず危害を加えない事だ。約束通り意識をちゃんと残してある。

 

「ああ、どうせだからラクリールがイクごとに俺に依存するようにしてやろう」

「嫌だ嫌だ、そ、それだけは止めてくれっ!!」

「駄目だ。嫌ならイかなければいい。せいぜい楽しませてくれよ」

 

涙を流して必死に抵抗するラクリールの顔を舐めて綺麗にしてやる。もうこの女は俺の物だ。流石に眷属にはまだしないが、ちゃんと成長したら眷属にしてやる。

 

「ああ、クライスにはちゃんとお別れを言わせてやろう」

「くっ……屑が……」

「いいな、それ。やっぱりラクリールはそうじゃなくちゃ面白くない」

「私は絶対に貴様に負けない!」

「期待しているよ」

 

俺はそのままラクリールを抱き枕にして眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ラナハイム王国③

 

 

ラクリール

 

 

 

 最悪だ。今日は人生で一番最悪の日だ。そう、私は目の前で私を抱きしめて眠っている奴にクライス様に捧げるはずだった私の全てを無理矢理奪っていった憎い相手だ。いつか必ず殺してやる。しかし、こいつは女のはずだった。だが、男だ。どういう事なのだろうか。そんなことを考えていると部屋の扉が開いてもう1人の憎い奴が入って来た。

 

「遅かったようね、ラクリール」

「フェルアノ様……これはどういう事ですか?」

「貴方はその方に求められて父上が売ったのよ。私は反対したのだけど、どうする事もできなかったわ」

「っ!?」

 

絶対嘘だ。心の中では喜んでいるはずだ。こいつの事は私にはよくわかる。

 

「それで汚れてしまった貴方に命じるわ。クライスの為にメルキアのスパイになりなさい」

「それは……」

「そんな汚れた身体ではクライスにふさわしくないわ。それはわかるでしょう?」

 

確かに私はもはやクライス様には相応しくない。なら、私がクライス様の為に出来る事はそれぐらいしかない。

 

「わ、分かりました……」

「ええ、よろしく」

 

今ここでこいつを殺す事は出来ない。そんな事になれば確実に戦争に発展する。それをアイツも理解しているから出て行く。いや、それ以前に……

 

「おや、何もなかったですか。面白くないのです。マスターに何かすれば斬り殺そうと思っていたのですが」

 

いつの間に居たか分からないが、クライス様と戦っていたララとかいう女が居た。こいつはおそらアイツが手を出そうとした瞬間、斬り殺していただろう。それぐらい私にもわかる。

 

「スパイとか言っていましたが、そんな事できるとは思わない事です。お前は完全にマスターの支配下に入るまではマスターの傍に居るか、訓練になるのですから」

「くっ……」

「そう、お前の役目は一先マスターにその身体で奉仕する事です。しかし、あの女……危険ですね。隙あらば殺しましょう」

 

それには賛成したいが、アイツはクライス様に必要だ。特に汚された私よりも悔しいがクライス様の役に立つ。

 

「おっと、そろそろマスターを起こす時間なのです。マスター起きるのです」

「ん……朝か」

 

何度か揺すられ、私を抱きしめていた奴が目覚めた。

 

「おはよう、ララ、ラクリール」

「おはようございますマスター」

「……」

「返事くらいしろよ」

 

私は完全に無視する。もう私にはこいつを殺す事は出来ない。だが、心までくれやるつもりは……っ!?

 

「んぶっ!? やぁ、んんっ、んんんんんっっ!!」

 

いきなり唇を塞がれて舌で口をこじ開けられて口内を蹂躙される。凄く気持ち悪くて吐きそうになる。そんな私を奴は楽しそうにしながら無理矢理唾液を飲ませてくる。

 

「んぐっ、んんっ!?」

 

どうしようもなく飲み干すしか私に選択肢は無い。この無力な身体が恨めしい。

 

「ほら、朝の奉仕をしてもらおうか。ララ、しっかりとラクリールを押さえておけ」

「はい」

「や、やめっ……んぐぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

それから私は憎らしい奴の汚い身体でまた口を犯され、気持ち悪い物を飲まされた。

 

「毎朝するんだ。わかったな」

「ふ、巫山戯るな……こんな事誰がするかっ!」

「命令だ。お前は俺ララと共に生気を供給しろ」

「い、いやだっ、私は……」

「クライスの物か? 残念だったな。もうお前は俺の物だ。安心しろ、ちゃんと愛情をたっぷり注いでやるよ。永遠にな」

 

こいつは何を言っている?

人間にそんな事……まて、確か男と女が入れ替わり、無限を生きる存在が居たはずだ!

 

「ま、まさか……」

「ふふ、マスターは人間であって人間で有りません。そう、貴方はもう永遠にマスターの物です。マスターに感謝し、共に歩むのです。人の理を貴方は超えるチャンスを得たのですから」

「巫山戯るな!? 私はそんなの望んでいない!!」

「そうか? どんなに愛してもクライスは人間だ。ハーフエルフのお前とはいずれ別れる事になる。だが、俺にはそんな時間的誓約などない。だからラクリール、お前は俺に仕え、俺を愛せ。そうすれば俺もお前を愛し続けてやろう」

「こっ、断る! 私は絶対に貴様を許さない!」

「何時まで持つか見ものですね、マスター」

「そうだな」

 

こいつら、絶対に許さない!

覚えていろ!!

その後、私は着替えさせられたり着替えを手伝わされたりした。それから外に連れ出されて私は身支度を整えるように言われた。今日、もう少ししたらメルキアに帰るとの事だ。もちろん、私も強制的に連れて行かれる。

 

 

 

 

エルカ

 

 

 

 計画とはちょっと違ったがラクリールが俺の手に入った。ラナハイムの欲しい技術もある程度貰ったし、これで用はない。実際、そろそろディナスティに行かなくてはいけない。エイフェリアが四元帥会議に参加しないといけないからな。食事は最後という事もあり、王族の人達と一緒に取る事となった。その食事中、ずっとこちらをクライスが見てくる。なんだか原作と違うみたいだな。どちらにしろ食事を終えたら転移の門へと移動する。

 

「今回はありがとうございました」

「こちらもいい取引が出来た」

 

国王とエイフェリアが話している中、クライスがこちらにやって来た。

 

「聞きたい事がある。お前は……」

「なんだ?」

 

俺が聞き返そうとした時、荷物を纏めたラクリールがこちらへとやって来た。

 

「クライス様」

「ラクリールか、今はエルカと……む? その姿はどうしたのだ?」

「も、申し訳ございません、クライス様。私はお暇を頂く事になりました」

「どういうことだラクリール!」

「そ、それは……ぐすっ……わ、私の口からは……」

 

クライスの問い詰めに泣き出してしまうラクリール。確かにラクリールにはつらいだろう。なら、ちゃんと俺が説明してやろう。

 

「俺が説明してやる。こういう事だ」

「っ!?」

 

俺はラクリールの手を掴んで引き寄せて抱きしめる。

 

「い、いやっ、止めて……クライス様の前でなんて……いやっ、んぶぅぅぅっ!?」

 

そして、ラクリールの口に濃厚な口づけをして口内を蹂躙してやる。

 

「貴様っ!! 俺のラクリールに何をしやがるぅぅぅぅっ!!」

 

激怒したクライスは即座に剣を引き抜いて魔法を纏わせて斬りかかってくる。俺に抵抗する暇なんてない。

 

「マスターの保護を最優先……! 先ずは敵勢力を排除します……!」

 

ララが小さな掌で握っている魔焔反応炉を使った魔導エンジンが取り付けられた巨大な砲剣でクライスの一撃を受け止める。

 

「邪魔をするな小娘っ!!」

「お断りします……!」

 

神核の心臓と魔焔反応炉によって高密度の魔力で作られたエーテルの血液を循環させ出力を上げていくララ。今はまだ拮抗しているようだ。

 

「リミッター解除、イグニスドライブ、フルドライブ……! ストレングス、エリミネーターモード……!」

 

ララの言葉と同時にララの全身に施された秘印術に魔力が送られ、全身から炎が吹き出し、ララの周りを囲んでいく。それらの炎は大剣の魔導エンジンに吸われて刀身を真紅へと染め上げ、周りに蜃気楼を生み出す程の高熱となっていく。さらに刀身が振動しだしてあらゆる物質を消滅させる破壊の力へと返還されていく。灼熱の高周波ブレードといった所だ。

 

「やあああああああああぁぁぁぁぁ――ッ!!」

 

ララが受け止めている状態から思いっきり振り抜くと、クライスの剣は切断されて本人の命を刈り取る為に迫る。

 

「くっ、馬鹿な、この俺がっ!!」

「クライス、避けなさい!」

「クライス様っ!!」

 

ララの大剣がクライスの首を切断しようとした瞬間、ラクリールがクライスの足を払ってクライスを転けさせる。その御蔭でララの大剣は空を斬った。

 

「甘いのです……! マスターの敵はここで死ぬのです……!」

 

振り抜いた軌道から強制的に変化させて振り下ろしてクライスに止めを刺そうとするララ。

 

「エルカ、止めよ!」

 

エイフェリアはララに直接命令するのではなく、俺に命令した。それが正解だ。ララは絶対にエイフェリアの命令じゃ止まらない。それが俺の命に関わった事なら絶対だ。

 

「ララ、殺すな!」

「っ!?」

 

ララは俺の命令が届いたのか、瞬時に軌道をずらしてクライスの横にある地面へと大剣を打ち付ける。すると大地が剣閃を辿るように引き裂け、そして炎を噴出して火の壁を作り出す。

 

「命拾いしましたね。しかし、本当に殺さなくていいのですか?」

「ああ、構わん」

「お前達、クライスとフェルアノを連れていけ!」

「父上!!」

「クライス、駄目よ!!」

「しかし、ラクリールがっ!!」

「いいからっ!!」

 

無理矢理フェルアノがクライスを黙らせて近衛兵魔法剣士部隊(パラディ・アズール)にクライスを連れて行かせた。本人も付き添っている。

 

「誠に愚息が申し訳ございません」

「行き成り斬りかかってくるとは……この落とし前、どうつけてくれる? 仮にもメルキア帝国の公爵家に名を連ねる者に貴国の王族が斬りかかったのだからな。戦争でも起こす気か?」

「滅相もございません!」

 

本気で怒っているエイフェリアだ。どうやらかなり大切にされているようだ。

 

「ま、マスター……非常に不味いです……こっちにも怒気が向けられています……」

「端的に言って遣り過ぎたな……あそこまで短気だとは計算外だった」

「うぅ、クライス様……」

 

しかし、本当に戦争になりそうな雰囲気だぞ。

 

「丁度これから四元帥会議だ。そうなれば確実に戦争になるであろうな。就任したてのオルファンにとっていい成果作りになるだろうからな」

「お願い致します、それだけは……」

「しかしだな……」

 

これは不味い。まじで戦争になるぞこれ。原作崩壊……いや、まあラナハイムってぶっちゃけあってもなくてもいい連中だしな。いや、あの魔法技術は重要か。まてよ……まさか……ん、チラチラとこっちにエイフェリアが目を向けてくる。やっぱりそういうことか。

 

「エイフェリア、こっちは大丈夫だったから別に戦争まではいいよ」

「む? そうか? エルカがそういうならば他ので手を打とう」

「ありがとうございます!」

「では、何がいいかの?」

 

エイフェリアは俺の方を向いて笑った。俺も笑う。

 

「なら魔法剣士部隊(パラディ・アズール)の雷撃関わる技術を全て頂きましょうか」

「っ!? そ、それは……」

「おや、こちらは構わないが?」

「そうだね。時間もないし、早くいかないと会議に遅れるね」

「わ、分かりました……少々お待ち下さい……」

「いや、一緒に行こう」

「畏まりました」

 

それから、魔法剣士部隊(パラディ・アズール)の技術を貰った。これでラクリールを原作と同様にできる下地が完成した。まあ、更に強化するんだけどな。

貰う物を貰った後、ディナスティに転移した。転移してから少し空いた時間で無茶苦茶怒られた。逆らえないというか、逆らった瞬間魔導槍が飛んでくる。なので大人しく正座した状態で説教を受けた。

 

「だからエイダ様を怒らせると怖いっていったのです」

 

説教が終わり、エイフェリアが四元帥会議へと出生している間に俺はリューンに案内されて宿泊場所へと移動していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ディナスティ①

 

 

 

 

 案内された部屋で荷物を降ろして片付けていく。ラクリールも嫌々従って荷物の整理を行っていく。ただ、ララだけは何もしていない。

 

「Zzzzzz」

 

そう、眠っている。エリミネーターモードはかなりの魔力を消費する為、どうしてもチャージが必要だ。つまり、新型だろうがなんだろうが、ララの本気モードは出力不足に陥るという事だ。その為、普段からちまちまと貯めているんだが。

 

「さてと、先ずは挨拶からだが……ラクリールも付いてこい」

「……嫌だ」

「そうか。なら別にいいや。ならここで俺が戻るまで自分で慰めてろ」

「なっ!?」

「じゃあな」

「ま、待て!」

 

ラクリールの制止を無視して部屋を出る。そのまま廊下を歩いていると声が聞こえて来た。それは近くの扉からで知っている声だ。

 

「また無茶をしたそうじゃないですか!」

「五月蝿い。私の勝手でしょう」

「まあまあ、お二人共」

 

取りあえず、扉をノックして声をかける。

 

「リューン、来たぞ」

「エルカですの。どうぞですの」

 

許可が貰えたので中に入る。中にはリューンと銀髪に真紅の瞳を持つリューンと同じ魔導巧殻のナフカ。そして、黒髪の小さな少女と金髪の少年が居た。

 

「リューン、その子は?」

「この子はエルカ。エルカ・プラダ。エイダ様の娘ですの」

「そうなの……」

「エルカ・プラダだ。よろしく」

 

リューンの紹介の後、ちゃんと挨拶する。

 

「私はナフカよ。それでこっちがオルファンの娘のリセルよ」

「リセル・ザイルードです。どうぞよろしくお願いします」

 

リセルの母親はまだ死んでないみたいだな。だからオルファンとの確執も生まれていない。必然的にルルソンと名乗る必要も無い。

 

「俺はヴァイスハイト・ツェリンダーだ。よろしく。俺の事はヴァイスでいい」

 

金髪青目の少年。彼が魔導巧殻の主人公でメルキア帝国皇帝と使用人の間に生まれた庶子という血筋により、逆境こそが人を強くするという人生訓を有するんだったな。確か後見人である宰相オルファンの元で修行を積んだはずだから、今はここみたいだ。しかし、リセルの母親は救っても問題無いか。病で死んだとの事だったが、どうとでもなる。こちらにはその魔法がある。

 

「よろしくヴァイス。それと俺の事もエルカでいい」

「わかった」

「私もリセルでいいです」

「私もナフカでいいわ。それより他に2人居るんでしょう? そいつらはどうしたの?」

「ハーフエルフのラクリールとララは部屋で休んでいる。しばらくそっとしておいてやってくれ」

「そう。それより、貴方……私達を人間大のサイズに変更する魔導機械を作れるんだって?」

「リューン?」

「戦略的撤退ですの!」

 

勢いよく逃げ出すリューンに俺は小型の魔導銃(ベレッタM92F)を引き抜いて容赦無くリューンに向けて引き金を引く。

 

「ちょっ、本気で撃ちやがったですの!?」

 

発射された弾丸はリューンの展開する障壁に防がれるが、同じ場所に連打すると障壁を貫いてリューンの額に命中する。

 

「リューン!?」

「おい、何を考えているんだ!」

「大丈夫だ。ただの麻痺弾だからな」

「みたいね」

「し、しびれまずのぉ~~」

「リューンはあれ程漏らすなと言っておいたのに約束を破った悪い子だ。だからお仕置きを与えないといけない」

「しかし……」

「やり過ぎです!」

「ヴァイスハイト、リセル。これは当然のことよ。リューンの自業自得ね。まあ、味方にまで黙っているのはどうかと思うけど……」

「未完成品だからな。情報の公開はしない。ましてや事は魔導巧殻に関わる事だ。何重にもチェックが必要だ」

 

俺が説明しだすと納得してくれた。しかし、リューンが簡単に漏らすなんて思えなかったんだが……何故だ?

 

「この子、凄く自慢してたのだけど……」

「てへぺろですの」

「よーし、あと10発くらい追加いっとく?」

「お断りしたいですの」

「まあいいや。ナフカだっけ」

「ええ」

「確かに作っているから完成したら回すよ」

「ええ、お願いするわ」

 

床に転がったリューンを抱き上げているリセルとその横に居るヴァイス。その2人を無視して俺はさっさと1人用のソファーへと座る。

 

「あっ」

 

するとリューンがリセルの所から抜け出して俺の膝の上に座ってくる。だから、俺はリューンの身体を触っていく。

 

「異常はないな」

「もちろんですの。あの程度の弾丸ではリューン様のボディに傷つける事は出来ませんの!」

「次は大口径を用意してやろうか……」

「それは無理ですの! というか、エルカじゃ撃てませんの」

「まあな」

 

身体に異常が無いのを確認したら、髪の毛を綺麗に梳いてやる。

 

「うふふふ」

「な、仲いいですね……」

「ああ……」

「当然ですの。エルカは家に来てからリューンが基本的に面倒みていますの! つまりリューンもエルカの母親ですの」

「そうなのか?」

「ああ。確かにエイフェリアよりリューンの世話になっている」

「というか、家に来てからという事は……」

「ああ、俺は拾い子だから」

「す、すいません……」

「気にするな」

「まあ、リューンは世話焼きだから丁度良かったんでしょう」

 

確か原作でもナフカに世話を焼いてたんだっけ。

 

「ナフカも手間をかけさせるですの。というか、まともにメンテナンスされてますの?」

「それはもちろんよ!」

「オーバーホールは?」

「そ、それはやってないけど……できるのってエイフェリアぐらいじゃない。他はドゥム=ニールに行かないと……」

「ふむ。エルカ、命令ですの!」

「ん?」

「ナフカをオーバーホールするですの!」

「ちょっ!?」

 

リューンが飛び出してナフカを羽交い締めにする。

 

「あわわ、どうしましょうヴァイスハイト様!」

「あ……」

「さあ、エルカ! ナフカを剥いてやっちゃうですの!」

「ちょっと、その子はそもそもできるの!!」

「ふっ、このリューン様とエイダ様の後継者なのですよ! そんなのお茶の子さいさいなのです!」

「まあ、リューン以外の魔導巧殻を調べるいい機会だ。やってやるよ」

「なにやる気になってるのよ!! リセル、助けて!」

「えっと、ごめんねナフカ。あの、私も見学していいですか?」

「構わんぞ」

「この裏切り者!!」

「ほら、ヴァイスハイトもナフカを押さえつけるのを手伝うですの!」

「あっ、ああ……」

「い、いやっ、やめてぇぇぇぇぇっ!!」

 

ナフカを裸にした後、手足を取り外し、道具をアイテムボックスから取り出してリセルに説明しながら教えていく。手足を取られたら流石のナフカも抵抗を止めた。

 

「ヴァイスは確かお菓子作りが得意とリセルから聞きましたの」

「ああ、得意だが……」

「なら、ナフカのオーバーホールが終わるまで作ってくるですの」

「わ、分かりました」

「エルカ、ついでにナフカにも味覚を与えてあげるですの」

「ん、了解」

「ちょっと、勝手に変な事をしないでよ!」

「却下」

「却下ですの」

「あははは」

 

俺は徹底的にナフカをメンテナンスと同時に術式の効率化を行っていく。とっても楽しい時間だった。ナフカの整備が終わったらヴァイスの作ったお菓子でお茶会を行った。その後、お菓子を包んでもらって部屋に戻ると痙攣しながら羞恥と屈辱に耐えているラクリールとラクリールを虐めているララが居た。もちろん、俺も参加させてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ディナスティ②

 

 

 

 

 

 俺はラクリールの身体で色々と練習させて貰った。ぶっちゃけ、俺の女性を喜ばせる技術なんてたかが知れているし、基本的に薬頼りだ。なのでラクリールで練習したのだ。もちろん、ラクリールにはしっかりという様に命令して嘘偽りなく答えさせる。それとやりたくなったらやらせてもらう。例えラクリールが気持ちよくならなくても関係無い。

 

「うぅ……この下種……絶対殺してやるぅ……」

「楽しみに待っているぞ。さて、ララ俺は出て来る」

「護衛はどうしますか?」

「いらん」

「分かりました。では、ラクリールで遊んでいます」

「ふ、巫山戯るな!」

「好きにしろ」

 

俺は悲鳴をあげるラクリールと楽しそうにラクリールに向かっていくララを置いて外へと出る。既にディナスティに到着して二日が経っている。四元帥会議も明日で終わり、皆が別れるようだ。だが、ここでやりたい事もある。

 

「あっ、エルカ様」

「リセルとヴァイスか」

 

廊下を歩いていると先の方から顔見知りの2人がやって来た。

 

「ああ、リセルの母親のお見舞いに行こうと思ってな」

「ふむ。丁度いい。俺も一緒に行こう。大丈夫か?」

「はい。丁度今ならお父様もいらっしゃいますから大丈夫です」

「わかった」

「しかし、エルカはリセルの母親の事を知っているのか?」

「ああ、病気だという事はだが……」

「そうか」

 

リセルの案内に従って館内の奥へと進んでいく。そして、リセルが一室の前で立ち止まってノックする。

 

「リセルです。お父様、お母様、大丈夫ですか?」

「ああ」

「ええ、お入りなさい」

「失礼します。どうぞ」

 

中に入ると茶髪の男性と黒髪の女性が居た。

 

「ヴァイスハイトはわかるが、君は……」

「初めまして。俺はエルカ・プラダ」

「おお、君がそうか。エイフェリア元帥から聞いている。重工業ゴーレムを作成したらしいな。アレは是非とも我が領にも欲しい物だ」

「現在量産体制を整えている状態ですのでお待ちください。近日中にはまとまった数のお渡しができるかと」

「うむ。よろしく頼む」

 

俺はオルファン元帥と話し込んでいく。そのそばでリセルとヴァイスが母親と会話していく。

 

「貴方、その子は?」

「おお、すまんな。この子はエイフェリア元帥の娘だ」

「まあ、エイダのですか!」

「養子ですが」

「それでもあの子が独り身じゃないだけいいわ。心配していたのよ。ほら、あの子は不器用だから……」

「確かに」

「その、エイフェリア元帥はそんなに不器用なのですか……」

「家事は全滅ね。リセルにも家事をしっかりと教えて……ごほっ、ごほっ」

「母様!」

「無理をするな」

 

どうやらかなり問題があるみたいだ。さて、ここでオルファンに貸しを作っておくのがいいか。それに色々と面白そうだ。

 

「ちょっと失礼」

「なんだ?」

「なんですか!」

「おい!」

 

俺は3人をどけて女性の近くにいき、頭に手を置いて魔術を発動させる。その結果はかなり不味い物だった。

 

「余命一ヶ月程度か」

「「っ!?」」

「今のは知らん術式だな。探査系か?」

「ええ、そうです」

「お母様は助かりますよね!」

「すまんな、私にはどうしようもない」

「そんな……」

「リセル……」

 

泣き崩れるリセルをヴァイスが抱きしめる。そんな姿を見た後、俺はオルファンへと向き直る。

 

「貴方、どうやら何か手があるみたいですよ」

「そのようだな」

「「え?」」

「治せるのだろう、エルカ・プラダ」

「ああ、俺なら治せる。だけど……」

「代価が必要か」

「おっ、お願いします! なんでもしますから!!」

 

リセルがそんな事を言ってくる。ちょっとグラッとくるじゃないか。でも残念。寝取り要員はラクリールだけでいいんだよ。

 

「娘さんがあんな事を言っていますが、どうする?」

「私に条件があるのか」

「そうだね。いや、奥さんにもかな」

「構わん。叶えてやるから言ってみろ」

「貴方……」

「お前も構わんだろう」

「そうですね。リセルを残していくのは嫌ですから」

「なら3つ言う事を聞いてもらうね。まず一つは誰にも言わない事。これはヴァイスやリセルも含む」

「いいだろう」

「ええ、リセル達もいいわね?」

「はい」

「ああ」

 

これは絶対必要な事だ。主に面倒だから。

 

「後は……」

 

俺はオルファンを見てニヤニヤと笑う。

 

「何を願う気だ」

「くっくく、ナフカを愛して妻に迎える事」

「何っ!?」

「まあ……」

「え?」

「ナフカは魔導巧殻だよな……」

「大きくする為の物は用意してるから、ちゃんとできるよ」

「いや、しかし……」

「あら、いいじゃない。私もナフカは気に入っているわ。私が死んだあとリセルを任せようと思っていたし」

「むぅ……」

 

たじたじで狼狽しているオルファンを見れただけでも価値があったな。

 

「最後の一つは保留。これでいいなら治してあげよう」

「食えん奴だな……おまえがいいなら私は構わん」

「私は大丈夫よ。お願いするわ」

「OK。プランとしては二つある」

「「二つもあるの(か)!」」

 

ヴァイスとリセルが驚いているが無視して続ける。

 

「一つは俺が連れているララのように身体のほぼ全てを魔導巧殻と同じ魔導機化してしまい、意思を宿らせる方法。これなら寿命は尽きる事なく部品さえ交換すれば永遠に生きられる。もう一つはそのまま再生する事。ただ、こっちはあんまりオススメできない。また病が発症するから」

「身体その物に問題があるという事か……」

「お母様……」

「つまり、根本的原因の排除かただの先送り……どっちかという事ね。いいわ、先ずはそのララって子を見せてくれる?」

「わかった連れてくる」

 

その後、俺がララを引き連れて戻ると部屋にはオルファンと奥さんだけだった。どうやら帰らせたようだ。

 

「マスター、私は何をすればいいのですか?」

「彼女に触らせてあげてくれ」

「まあ、構いませんが……」

「ごめんなさいね。ああ、貴方は出ていください」

「わかった」

 

オルファン元帥が出て行くと好き勝手に触りだした。

 

「あっ、んんっ! そ、そこは駄目です! 私はマスターの……」

「いいじゃない……素晴らしい出来ね。私も同じのができるのかしら?」

「えーと、高いよ。高性能だから」

「高性能でいいわ。いままで私はあの人に迷惑ばかりかけてきたらから私も戦場に立てる身体が欲しいの……ああ、どうせなら若い姿にしてくれる?」

「それは構まわない。どうせならリセルを参考にして作るか」

「そうね。それじゃあ……」

 

俺は2人で絵を書いてどんな身体にするか外見を設定する。その間にララがオルファンを呼んでくる。

 

「どうなったのだ?」

「ええ、機械の身体にしてもらう事にしたわ。そうすれば貴方とも戦場に立てるから」

「別に構わんのだが……」

「駄目よ」

「まあ、それでなんだけど……鉱石とかは材料費で構わないんだけど、問題が核になる物なんだよね。出来れば魔力が沢山入っていて、結晶みたいなのがいいのだが……ある?」

「これでも可能かね」

 

オルファン元帥はペンダントを取り出して渡してきた。それは手作り感があり、お世辞にも綺麗とはいえない。ただ、真ん中に大きな結晶がある。

 

「あら、そんなのをまだ持っていたのね」

「お前から渡された物だからな。これにはその日一日に余った私の魔力を込めてある。使えそうか?」

「ん……これなら大丈夫だね」

 

水晶系の魔法鉱石であるリエン石に幾年もの魔力が入れられて核になるには充分な素材だ。あとはこれを慣らすだけだ。

 

「それで流石にお金は高くなるけどいくらくらいまで出せる?」

「そうだな……80000だ。それ以上は出せん」

「あなた……」

「どう考えても個人で出せる金額じゃないんだけど!」

 

どんだけ溜め込んでんだ!

 

「研究費にと貯めていた分とリセルの嫁入りに使おうと思っていたのも含めてだがな。構わんからそれで最高の物を作ってくれ」

「了解。じゃあ、魔神の神珠とパール鋼だろ……」

「なんだか不安になる素材が使われるみたいなんだけど……」

「大丈夫だろう」

「よし、依頼は確かに受けた。最高の物を用意してやる。それと武装はこっちが適当に取り付けておく」

「わかったわ」

「頼む」

 

俺は直ぐにペンダントに秘印術を刻んで魂の移動する術式を刻んでいく。一度これをやると記憶も消えるがバックアップをとっておけばいい。そっちは既に作ってある。

 

「じゃあ、このペンダントを体に埋め込む。死亡と同時に魂がこちらに移動するように術式を刻んだから。それと毎日この機械を繋いで眠る事。今からしばらくは繋ぎっぱなしにして」

「これはなんだね?」

「こっちは記憶を保存しておく物。この術式だとどうしても魂から記憶は一度消去される。でも、それをあとでこっちの機械から移せば問題ない」

「大丈夫なのか?」

「一度消えるとはいえ、覚えていたことに変わりは無いから拒絶反応も起きない。問題無いよ。ただ若干性格が変わるかも知れないけどね。身体が若い頃になるからそっちに引っ張られるかも」

「まあそれぐらいなら構わんか」

「ええ、問題無いわ」

「だいたい3、4ヶ月かかるけど死にそうになったら連絡するかして。24時間以内に処置するから」

「わかった」

「じゃあ、こんな感じで……」

 

3人で色々と詰めていく間にララには機械の設置をお願いしておく。これで問題無いだろう。むしろオルファン側に強力な隊長が増えたくらいだ。何も問題は無い……と思う。

 

「ああ、そうだ。エルカに魔法を教えるように頼まれていたな。ナフカに習うといい」

「はーい。そっちはいいとして、元帥通しで飲み会とか開いたら楽しそうだけど……」

「ふむ。エイフェリア元帥には世話になる訳だからコイツの事が片付いたらそれも悪くないか」

「そうですね。夫婦でお伺いします」

「わかった。じゃあ、そっちは任せて。ララ、記憶を撮り終えたらあとは好きにしてていいから」

「イエス、マスター」

「じゃあ、ナフカに話に行ってくる」

「ああ、行って来い」

「またね」

 

それから俺はナフカの元に行く。そこにはリセル達も居たが、直ぐに俺に抱きついて来た。

 

「ちょっと、リセル達が言ってた事は本当なの!」

「ああ、本当。だからナフカもオルファン元帥の妻になるね」

「やった! ナイスよ貴方! 褒めてあげるわ!」

「そっちはいいから魔法を教えてくれ」

「魔法ね! 任せて!」

「あ、俺も教えてくれ」

「私も知りたいです。魔導技術もですが……」

「いいわよ! 気分がいいから皆私が面倒見てあげる!」

 

それからハイテンションのナフカに色々と手ほどきを受けた。ラナハイムで手に入れた物も合わせて徹底的にだ。ここに命令したラクリールも入れて、更にララも入って魔法を習っていく事になった。滞在期間が終わると、俺はバーニエに戻ってナフカとリューンの身体の制作を後回しにしてリセルのお母さんの身体を作成していく。これにはリューンとエイフェリアにも手伝って貰った。というか、バーニエ全体で作成した。それによって明らかに納期の短縮が起きて死亡する前になんとか完成した。それどころか魔導巧殻の大型パワードスーツまで作り上げられた。まあ、お母さんがこっちの予想より生きた事もあるんだけどね。どちらにしろリセルの母親は魔導人形として……いや、魔導巧殻として生まれ変わった。魂が宿っているのだから魔導巧殻で問題無いだろう。

 

 

 

 

 

 



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センタクスへ

原作前の本当の手前です


 

 

 

 

 

 完成した身体に即座に核を移動して起動させる。全システム問題無く稼働し、立ち上がる。横には自分の死体が存在するが気にしていないようだ。それと実際、細胞も利用さしてもらったから魔導巧殻というより機工人と行った方があっている。

 

「お母様……?」

「リセル、問題無いよ」

「おい、若過ぎないか……?」

「言われた仕様通りなんだけど?」

 

オルファン元帥の言葉に俺は答える。黒い髪に青い瞳。十代後半の身体。その姿は創刻のアテリアルの仙崎美來(せんざきみらい)の後ろのポニテを長くし160cmくらいに身長を高くしたくらいだ。胸はスレンダーのまま変化がない。こっちは生きていた時も同じだ。それと原作のリセルより頭一つ分小さい。

 

「別にいいじゃない。武装は……これか」

 

真紅の翼を作り出したり、血から無数の鎖を作り出したりする。その力は植え込んだ魔神の神珠の力だ。

 

「たのしそうだな。まあ、構わないか」

「うっ、うう……お母様が凄く若くなっちゃった……」

「記憶は問題ないのだろう?」

「うん、大丈夫。なんなら出会った頃から言ってあげる?」

 

近づいて囁くとオルファン元帥の表情が変わっていく。

 

「いやそれ以上はいい。確かに妻だ」

「じゃあ、どうする?」

「流石にこちらは死んだという事にして新しい名前をつけた方が良いか」

「じゃあ、ミライでいい」

「わかった。直ぐに葬式の手配をしよう。リセル、ミライの事を頼む」

「は、はい」

「じゃあリセル、手合わせからしようか」

「え? ちょ、ちょっと待ってお母様!」

 

引きずられていくリセルを哀れんだ目で見たあと、俺はナフカの元へ向かって例の物を渡してやる。ナフカは大喜びだ。そっちのチェックもしたあとは部屋を借りて寝る。ある意味無駄な葬式に出席したあと、帰宅してララとラクリールの2人で遊ぶ。

ラクリールは徹底的に羞恥と屈辱と快楽を与えつつ人間の尊厳を奪ってペットのように調教してやった。するとかなり従順になった。肉体だけだが、完全なマゾ奴隷だ。さらに調教を加え、訓練もさせて原作まで徹底的に鍛えてやった。御蔭で口元に宛ててやると自分から舐め出すようにはなった。それが足だろうとなんだろうとだ。ただ、こっちを睨みつけてくるが。それでも愛を囁いてやるだけで濡れるほど身体は俺の物になっている。

 

 

 

数年後、ユン・ガソル連合国が宣戦布告をして本格的な戦争が始まりだした。前線となるセンタクス領は大変な事になっている。実際に陥落しかけだそうだ。

 

「エルカ、エルカは居るか!」

「何、エイダ」

 

俺もここ数年でエイフェリアをエイダというようになった。だが、そんな事よりかなり急いでいるようだ。

 

「ここ居たか。準備はどうなっている?」

「こっちは万全だよ」

「ララも問題無いです」

「……私も問題無い」

「で、どうする?」

「行ってこい。暴れまわって構わん」

「了解」

「それと付いてこい。プレゼントをくれてやるぞ」

「何?」

 

俺が先頭で後ろにララとラクリールが着いてくる。そして、到着した格納庫には巨大な地上を走る陸上艦が存在していた。

 

「こいつの名前はルナ=ゼバルだ。これを旗艦として使うといい」

「あ、ありがとう……」

 

俺は無茶苦茶驚いていた。だってこれって次は魔導戦艦ヴァリアントって事だよな。原作開始前にもうそんな所まで来ているのかよ……センタクスの協力とかいらないって事だよな。確かにユン・ガソルに頼らないようにはしたけどさ……やり過ぎじゃない?

 

「ところでこれって?」

「魔導戦艦の前に作った奴だな。魔導戦艦は流石にまだ1ヶ月はかかる」

 

既にそこまでいってるのか……流石はエイフェリア・プラダだ。

 

「ふふ、仕事を押し付けられてましたから当然なのです!」

「あれ、リューンの仕事がこっちに来てたって事は……」

「マスターも沢山仕事していましたから、お二人でバーニエを回していた事になります」

 

人間サイズとなったリューンが言ってくれるが、あの山のような書類の原因はこれか。別にいいけど。

 

「マスター、量産型魔導機人を搭乗させますね」

「ああ、頼む」

 

魔導人形というよりはやはり機人というのを入れたかったので、魔導機人を正式名称にした。こいつらを量産して俺個人の兵力としたのだ。これから本格的に原作に介入するのだから戦力は多い方が良い。

 

「センタクスにはオルファン元帥の所からも援軍が派遣されるはずだ。キサラからは出せんそうだから、そっちと協力してやってくれ」

「了解。んじゃ、戦争を楽しみに行きますか」

「ああ、転移門でキサラの城塞都市ヘンダルムまで行く事は許可を取ってある。そこから南下してセンタクスへと迎え」

「ああ、行って来る」

「気を付けて行ってこい」

「吉報を期待してるですよ!」

 

俺達はエイダ達に見送られて戦場へと出向いていく。狙いは簡単だ。センタクスを助けるのとコーラリム山道にある村でコロナを手に入れる。だが、最優先は助ける事なのだが……その辺りをどうするか悩みどころだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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センタクス①

原作開始だぜ、ヒャッハー!
でも、暴れるのはお母様!


ヴァイスハイト

 

 

 

 

 ラウルバーシュ大陸中原において五大国の一つとも称される強国、メルキア帝国。メルキアの東・センタクス領は現在、宿敵ユン・ガソル連合国の猛攻に晒されていた。

 メルキア帝国は皇帝の下、国内が有能な四人の武将『四元帥』と共に統治される中、東領の元帥が戦死した報せを受けたメルキア皇帝は激怒し、凄惨な戦場と化したセンタクス領へ増援を送る事となった。これに答えたのがバーニエとディナスティであった。

一面を覆い尽くす焼け焦げた木々や兵士の死体に打ち据えられた鉄塊に今なお燻り続ける戦場の熱気。それはこの地での戦闘が集結してから二日は経つというのに、目の前には未だ戦火の傷跡が広がっていた。そう、大地に突き刺ささった剣は煤にまみれながらも鋭さを保ち、残された残骸もまた朽ち果てていない。その情景は名残と呼ぶには生々しく、死臭さえも嗅ぎ取ることができる。

 

「こうなってしまえば敵も味方も関係無いな。できることなら弔ってやりたいところだが……生憎と俺は聖職者ではなく、彼らと真逆の立場にいる」

「仕方ありません。それが私達の選んだ道ですから……ですがヴァイスハイト様、そんな私達だからこそ……せめて味方であった方々の魂に報いる方法があります」

「ああ、センタクスを俺達の手で奪還する。街を守るために戦った同胞の思いに答えるためにも必ずな。リセル、お前の力……あてにさせてもらうぞ」

「微力ながら、副官として支えさせていただきます」

 

ようやく辿り着いた戦場を前に、過敏になっていた心をリセルの言葉が解きほぐしてくれる。そう、俺達はユン・ガソル連合国に奪われたセンタクスの街を奪還するそのためにやってきたのだ。

 

「北にいる本隊の戦況は聞いているか?」

「敵軍に阻まれ、苦しい状況に立たされているらしいですね。本来であれば、私達と本隊でセンタクスを挟撃することはできたのですが、ザハフ部族国が攻めて来ましたから……」

「キサラが主力を担う本隊はその対応に追われることとなり、当初の予定は変更を余儀なくされたと……」

 

ユン・ガソルが手を回していたのだろうな。面倒な事をしてくれたものだ。

 

「俺達がする事は戦況を見極め、然るべき時に背後から強襲を仕掛け、敵将を撃破し、センタクスを奪還することだ。予定とは少々異なるが、命令はなによりも優先される。少しでも早くセンタクスの情報を得たいところだな」

「それはもう少しかと。行っているのがあの人ですから」

 

リセルの言葉に軽く笑い、今か今かと斥候を勝手でたお方を待つ。

 

「ただいま。リセル、ヴァイス」

「噂をすれれば、か……」

 

俺の目の前に現れたのはリセルよりも頭一つ分ほど小さい十代後半の少女。その服装は明らかに戦場に出る姿ではない。襟元のボタンを外した白いYシャツと真ん中で止めていない黒いブレザーというらしい物に青い丈の短いスカートと黒いベルト、黒いストッキングにグリーブという姿なのだ。かろうじて靴だけまともだ。

 

「お変えなさいませ、お母様」

「ご苦労様でしたミライ様。お疲れのところすいませんが、報告をお願いします」

「うん、いいよ。センタクスは完全にユン・ガソル軍の制圧下にあったよ。守備隊は壊滅し、ノイアスの爺様も生死不明の状態。それと東門で指揮していると思える敵将の金髪……名前なんだったかな……」

「えっと、有名な方ですと三銃士ですね」

「そうそれの金髪」

「金色の髪という事はエルミナ・エクスですね」

「それが居た」

「喧嘩を売ってないでしょうね」

「失礼な……暗殺しようとしただけだよ」

「お母様……」

 

この身体になった後、ミライ様の戦闘意欲は凄まじかった。人間とまったく変わらない姿に血を媒介とした戦闘能力は桁が違うといえる。だが、御蔭で色々と無茶な事をなさるので俺とリセルは大変だ。

 

「しかし、噂に名高い三銃士が相手か……」

「私が相手をするからリセルとヴァイスは露払いをすればいい」

「それは助かりますが……」

「お母様、無茶はしないでくださいね。メンテナンスするこっちの身にもなってください」

「……負ける事じゃなくてそっちを心配されるとは思わなかった。わかったから私にもその胸を寄越して……」

「むっ、無理です……私にはどうする事も……」

「おのれリセル……まさか私の子だというのにここまで成長するとは……」

「やぁっ、お母様、やめてください!」

 

リセルはミライ様に胸を揉みしだかれている。

 

「あんなに小さかったリセルが……もぎ取ろうか」

「止めてください! というか、ヴァイスハイト様も助けてください!」

「ミライ様、今は敵の配置をお教えください。センタクス奪還が優先されますから」

「仕方無い。えっと、こんな感じ」

 

ミライ様が兵士から渡された図面に敵の布陣を書き込んでいく。その光景を見ながら剣を交える事になる敵将の高名を思い起こす。

『三銃士』とはユン・ガソル連合軍の中枢ともいえる3人の将軍の総称だ。それに伴い、国王の側近中の側近でもあるそうだ。この三銃士はそれぞれ、鋼鉄の軍師、戦の申し子、謀略の魔女と呼ばれる異なる特色を持った3人の美女で構成されているそうだ。

 

「エルミナ・エクス、三銃士の中で軍務全般を担当する才女でしたね。私やヴァイスハイト様とそう年齢は離れていませんが、幾多の戦場で勝利を収めた歴戦の名将ですね」

「それに敵に対しては一切の容赦をしない苛烈な性格らしい」

「成程、流石は鋼鉄の軍師という事か。一筋縄でいかない相手のようだな……」

 

名のある将が指揮をしているだろうと覚悟していたが、まさかユン・ガソルの誇る三銃士とは……先生も予想されていたのだろう。だからこそミライ様を寄越したという事か。ミライ様も居るし、敵の布陣は俺が思い描いていた通りの配置だ。

 

「本隊を警戒するあまり、ユン・ガソル軍の主力は北に集中している。攻めるのは楽だな」

「それにバーニエからも援軍がくるはずだから、気にせず戦っていいよ」

「バーニエからですか……まさか……」

「誰が来るかわからないけど、通信でエイダが驚くがいいとか言ってたから期待できるよ」

「エイフェリア元帥のお墨付きですか……それは楽しみですね」

「ですが、それでは困りますよヴァイスハイト様」

「ああ、そうだな」

 

俺が上に行く為にはこの戦で手柄を立てなければならない。エイフェリア元帥自身を持って送りだされる戦力が生半可なはずはない。あちらにはミライ様を開発したエルカもいるのだから。

 

「俺達の存在は気づかれていると思われますか?」

「大丈夫」

「お母様の言うとおり、今しばらくは大丈夫でしょう……ですが、時間の問題かと思われます」

「敵兵との遭遇は避けたけど、強行軍で痕跡はそのままだからいずればれるよ」

「ならば俺達が優位に立てる時間は短いですね。別働隊である俺達の戦力は決して多くはないですから。それに先の一戦で消耗しているとはいえ、未だユン・ガソル軍の方が我々の戦力を上回っている事実もあります」

 

攻めては相手の数倍の戦力を用意するのが定石だ。この戦力で挑むのは本来なら自殺行為だ。だが、今という時ならば無謀が無茶に変わり、勝利への道を歩む事ができる。

 

「ですが、ユン・ガソル軍が籠城を行おうにも、センタクスの防衛力は前の決戦で大きく削られています。補強は行われているでしょうが、この短期間では元の防御力を発揮する事はできないでしょう。ましてや彼らは民の協力が得られず、常に反乱の可能性を考えねばなりませんから、録に進んでいないでしょう」

「籠城に大切なのは援軍と守る者達の結束。そのどちらが欠けても籠城は成功しない。今回は成功するはずがない。ましてやここは都市なのだから」

 

要塞や砦ならまだしも都市の場合は守り手に市民も含まれる。故に占領直後のセンタクスで機能的な籠城戦が可能かと言われれば不可能だ。

 

「それにユン・ガソル連合国の主力は攻城兵器です。あらかじめ襲撃に備えていたのならばともかく、この状況ではその性能を活かすことはできないでしょう。用意された攻城兵器の殆どが北側に配置されているのですから……」

「そうだな。ユン・ガソル軍の意識が本隊に向いているから俺達に気づいていない。それに本隊の戦況が思わしくないことが結果的にセンタクスの街を前線から遠ざけ、油断を生んでいるはずだ。そこを突き、南からユン・ガソル軍に奇襲を仕掛ける。北から来る本隊への警戒を強めている以上、南からの対応は微かな隙を生む。そして、その隙を致命的にする存在がこちらにはいる。ならば勝利は確実だ」

「任せてよ。可愛い子供達の為に頑張るから」

「俺は……」

「ヴァイスにはリセルを貰ってもらうから子供で間違い無いわ」

「おっ、お母様っ!!」

「なに? 手柄を立てたら結婚してもらうから。これはオルファンとの決定事項よ」

 

既に手回しはされているだろうな。まあ、リセルの事は嫌いではないし、俺は構わないのだが……リセル次第だな。

 

「諦めろ。既に手回しはされている。それとも俺では嫌か?」

「嫌だなんて事は有りません! ですが、私では釣り合いが……」

「馬鹿。元帥の娘が何を言っているの? 釣り合いとか取れてるに決まってる。その脂肪に知能が吸われた?」

「うぅ……非道いですお母様……」

 

ミライ様はリセルを弄って遊んでいるな。この自然体のような余裕が俺達の緊張を確かに解きほぐしてくれる。

 

「さて、部隊配置も完了した。じゃあ、ヴァイス、リセル」

「はい。ヴァイスハイト様、ご命令を」

「ああ。待たせたな諸君。然るべき時が来た。我々は任務を忠実に遂行し、目的を達するのみ。目標はメルキア帝国センタクス領、東の都センタクス。ユン・ガソルに奪われた我らの地をこの手で奪還する。全軍、全身せよ!」

 

熱い視線を向ける兵達の前に一歩踏み出し、拳を振り上げながら号令を発する。それと同時に全軍が進軍を開始する。

 

 

 

 

 

 



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センタクス②

書き忘れて居ましたが、エルカも成長しております。
身長がだいたい160から166くらいまでになっております。
ラクリールと同じくらいと思います。身長はラナハイムでいくとフェルアノが真ん中でクライスが一番高いでしょうし。フェルアノとヴァイスハイトが同じくらいかな。
流石ハーフエルフ、ラクリールちゃん若いですね。


 

 

 

 

エルミナ・エクス

 

 

 

 センタクスの支配は完了しました。次にする事はこちらの援軍を待ちつつセンタクスを防衛する事です。それと並行してもしもの場合を考えて今の間にメルキアの持つ魔導技術をできる限り奪い取る事が必要です。

 

「進歩状況はどうですか?」

「はい、残された魔導技術はやはり我々より進んでおりなかなか解析が進みません」

「そうですか。ならばさっさとまとめて本国へと持ち帰ります」

「よろしいのですか? ここで解析しても構わないのでは?」

「駄目です。おそらくこのまま待っていてもバーニエの戦力が投入されればこちらが持ちません」

 

あの重工業ゴーレムに始まり、バーニエの発展力は凄まじい一言につきます。既に我が国よりは少ないとはいえ、新たに作られた工業地帯はあちらの方が技術が高く、小さな規模だというのにこちらに迫る勢いです。送り込んだスパイからの情報もありますが、相手の考え方と技術力は私達の遥か先を言っています。実際に真似て作っただけでも8割や9割もの効率化ができ、生産能力が格段に増えました。

 

「バーニエですか……」

「奴らの技術力は馬鹿げています。今は魔導戦艦なる物の開発を行っているそうです。最新技術とはいかないまでも、ここにある技術は私達にとってはかなり使えます。その為、なんとしてでも持って帰らないといけません」

「分かりました。直ぐにまとめます」

「ええ、よろしく。準備が出来次第出発させてください」

「はっ!!」

 

さて、民の協力を得られないのは予想通りですし、それなりの対策は取らせて頂いていますが……北を突破されるのはまだまだ時間がかかるでしょう。ザフハ部族国に協力を要請してキサラを抑えているのも大きいでしょう。そんな状態なので北は大丈夫でしょう。むしろ、危険なのはバーニエとディナスティですね。そうなると西ですが……私ならこの配置から考えて南から奇襲を仕掛けて攻め落としますね。相手がそれなりの存在だと油断していれば気づけずに裏をかかれるでしょうが、この三銃士の1人、エルミナ・エクスに油断はありません。そもそもこちらの目的はセンタクス領の制圧でもないのです。いえ、制圧を続けられるならそれでいいのですが。

 

「エクス様」

 

私の背後に黒装束に身を包んだ者達が膝を付いて現れる。彼らは私の子飼いの工作部隊でかなり優秀です。

 

「仕掛けはどうですか?」

「問題有りません。既に設置が完了しています。しかし、よろしいのですか?」

「構いません。手に入らない物に執着し、みすみす相手の利益にする必要は有りません。それより住民の避難はどうですか?」

「そちらは街の外へと追い出し、完了しています。残っているのは死を覚悟した連中だけです」

「では構いませんね。技術者の確保は?」

「既に捕まえた者は本国に移送を開始しております」

「分かりました。網に獲物がかかり次第撤退してください」

「はっ。エクス様もご無事で」

「ええ、わかっています」

 

さて、こちらの準備は完了しています。相手がどう出るか楽しみですね。このエルミナ・エクスの本気をとくと思い知らせてあげます。メルキアの皆さん、覚悟してください。

そんな事を考えならが外へと出てしばらくすると私の元へ兵士が慌ててやって来ました。

 

「エクス様、南方より敵影を確認しました! メルキア軍です!」

 

やはり奇襲を仕掛けてきますか。まあ、当然ですね。

 

「旗は!」

「ディナスティの旗です!」

「バーニエは来ていませんか……仕方ありません。バーニエ諸共も始末したかったのですが、そうはいきませんか」

「どうなさいますか? バーニエを待ちますか?」

「いえ、その必要は有りません。それで事を仕損じてはなりませんから実行します。各自配置につきなさい。これより、私が直接指揮を執り、敵を殲滅します。総員戦闘配置!」

「総員、戦闘配置ッ!」

「――三銃士が1人、エルミナ・エクスが指揮を執る! ユン・ガソル連合国の兵よ、華々しい戦果を期待します!」

 

舞台を率いて南側へと向かい、同時にあちらに居る部隊には防壁の外には出ずに上から弓で攻撃するように指示を出して置きました。さて、どこまで戦えるか楽しみです。

 

 

 

 そして、門へと向かい、私は出会った。正真正銘の化け物と。その者は門を身体から生やした先端が刃となっている無数の真紅の鎖で門を文字通り破壊し、さらには防壁の上に存在した兵士を鎖で薙ぎ払いながらこちらへと進んでくるのだ。

 

「見つけた。貴女がエルミナ・エクスね」

「いかにも、私が三銃士の1人、エルミナ・エクスです」

 

メルキア軍の先方として堂々と歩いてきた少女といえる女性に対して私は最大限の警戒を行う。その背後から部隊を引き連れた男性と女性が現れる。

 

「ミライ様、やり過ぎでは……」

「お母様、やり過ぎです」

「気のせいよ」

 

信じられない事にこの少女は後ろの人の母親ですか……むしろ姉妹や逆でも納得はできますね。

 

「さて、私が名乗ったのですから、そちらも名乗るのが礼儀ではないですか?」

「だそうだけど?」

 

少女は後ろにいた男性を前にだした。その間も彼らの兵士が続々と入ってきます。こちらは今の間にやられた兵士を門から回収しておきます。

 

「失礼した。私はメルキア帝国ディナスティ所属の将軍、ヴァイスハイト・ツェリンダーという。この部隊を指揮している。」

「私はヴァイスハイト様の副官であるリセル・ザイルードです」

「ミライ・ザイルード。オルファンの妻でリセルの母親。これでいい?」

「若いですね……ええ、構いません」

 

私は剣を引き抜き、後ろに回していた手を引き上げます。

 

「時間稼ぎは終了しましたから。やりなさい」

 

私の指示に従って起動する術式と装置。それは盤面をひっくり返す仕掛け。このセンタクスと共に墓場へとご案内致します。

 

「っ!? 罠かっ!!」

「逃げろ!!」

 

門の周辺が光り輝き、爆発の魔術によって門の近くで無数の爆発を起こす。これだけなら大した事は有りません。ですが、そこに火薬と油、装置に繋がれた魔焔が無数に置かれていたら?

 

「ちっ!? リセル、ヴァイス」

「ぐっ!?」

「お母様!!」

 

ミライと名乗った少女が瞬時にヴァイスハイトとリセルと近くに居た兵士を鎖に巻きつけて自身に引き寄せ、何重にも鎖を重ねて防御していく。その間に私も急いで結界のある場所へとスライディングで逃げ込む。その瞬間、外部から衝撃を受けた魔焔は装置によって暴走し、大爆発を起こして何もかも吹き飛ばす。

 

「さて、これでどうですか?」

 

門を跡形もなく吹き飛び、周りの家々も粉々になっています。そして地面にはクレーターが出来ているのですが、その一部には鎖が何重にも巻かれて、地面にも幾多にも突き刺さり爆発を耐えた物が有りました。

 

「化け物ですね……全軍、東に退却!」

「はっ!!」

 

指示をだしたあと、私達は急いで東に逃げます。次第に崩れて溶けていく中から叫び声が聞こえてきました。

 

「やってくれたな、小娘!!」

 

急いで逃げる私達の後を少女が鎖を器用に使いながらこちらへと駆けてきます。

 

「っ!?」

 

そして、瞬時に私達が張っていた結界魔法陣へと侵入してきました。その瞬時、爆発を起こします。辺りは魔焔に汚染されますが気にしません。化け物に勝つ手段は選べませんから。

 

「罠が一つだけなんて誰がいいましたか。既にセンタクスのあちこちに罠が仕掛けてありますよ」

「最初から制圧ではなく破壊が目的だったという事かっ!!」

「その通りです」

 

迫り来る鎖を横に飛んで回避する。私が移動した直後、私が居た地面に鎖が突き刺さり、次々と私に向かってくる。私も片手に持つ二本の剣で弾いていく。

 

「ちっ」

「甘いですよ。三銃士の1人、エルミナ・エクスを簡単に討ち取れるとは思わないで貰いたいですね!」

「ヴァイスハイト様、準備出来ました!」

「よし、撃て!」

 

魔導兵士達が銃口をこちらへと向けてくる。撃たれたら終わりでしょう。

 

「だけど、甘いのですよ!」

 

発射と同時に地面に仕掛けておいた魔法陣が起動して爆発を起こし、魔法弾を弾き飛ばしていく。

 

「これもあげます!」

 

撤退中の兵に指示してボタンを押させる。これによって仕掛けが起動して坂の上から無数の樽が落ちてくる。それらの中には油と火薬が満帆になっています。それが魔導兵を含み大爆発によって相手を駆逐していく。

 

「手に入らないならば街ごと破壊してみせましょう。相手の拠点となり、我がユン・ガソルを脅かす存在に戻るのならば尚更です」

「くそっ、本気か……」

「予想外でした。まさかここまでするとは……」

「本気で狩りに来てる」

 

どうやら追撃を止めてくれたようです。なら、私は逆に待ってあげます。それからはあちらが襲いかかって来てこちらが反撃し、罠に誘導して敵兵を削り、あちらが止まる。それの繰り返しです。そして、その途中で私は姿を見せずに他の者に指揮を取らせながら撤退します。最後に残った者達はここで散る覚悟を持った者達です。いえ、ユン・ガソルの為にここで死ぬ事を望んだ者達です。

 

「さあ、最後の罠です。我が勇敢なる兵よ、その偉業を私達が本国へと持ち帰りましょう」

 

丘の上からセンタクスを見下ろし、私はスイッチを入れる。魔力信号が放たれ、センタクスの街の各所至る所に設置された爆弾や術式が起動していく。そして、センタクスを炎に包み、全てを焼いていく。それを見ながらしばし黙祷を捧げる。

 

「全軍、レイムレス要塞に撤退する!」

「「「はっ!!」」」

 

ヴァイスハイトにリセル、ミライでしたか……流石にあの者達もこれだけやれば倒せるでしょう。よしんば生きていても直ぐには動けないはずです。魔焔による汚染を取り除かなければ外には出れないでしょう。しかし、あのミライというのは完全な化け物でしたね。あんなのがメルキア帝国には沢山いるのならば対策を考えないといけません。このままでは私達が負けてしまう。しかし、尋常ならざる相手をするのは疲れますが、放置はできません。今回のような罠に嵌めるのは辛そうですし……いえ、今はそれよりもゆっくりと休憩が取りたいですね。

 

「っ!?」

 

撤退中、私は殺気を感じて急いで横に飛ぶ。すると私が居た場所がえぐれているのが見えた。そして音が聞こえて来た。直ぐにその方向を見ると、影になってわからないが、巨大な魔導機械の前に立つ数人の姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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エルミナ・エクス遭遇戦

 

 

 

 

 センタクス近郊に到着してみれば火の手があがり、明らかに大変な事になっている。俺達はルナ=ゼバルのブリッジで確認している。

 

「さて、どうしようかな……」

「きゅ、救助に行かないのか?」

 

膝の上に乗せて胸を揉みしだいているラクリールが質問してくる。このブリッジに居るのは俺とララ、ラクリールに加えて魔導機人が20人居て、それぞれ担当している。ブリッジにこれだけいるので、全体で見ると80名の魔導機人が搭乗している。なのでブリッジの20人と館内活動の30人の計50名で魔導陸上艦ルナ=ゼバルを動かしている。残り30人が戦闘部隊で俺とラクリール、ララの元にそれぞれ10人つく。ちなみにこの艦の登場人数は130名だ。なので残り47名になる。そして母親の愛か何か知らないが、とっても怖い……いや、頼もしい事にこの艦の格納庫には魔導砲が装備され、優れた攻撃性能と高い防御性能が両立している魔導外装の完成系であるアシュラクーナが20機も搭載されているのだ。まあ、ルナ=ゼバルには遠距離攻撃ほとんどない突撃タイプの陸上艦なんだからこれは助かる。

 

「無駄だと思いますけど……」

「そうだな。近くに生命反応はあるか?」

「肯定。軍団規模の部隊の移動を確認。方向はセンタクスより撤退しているもよう」

 

センタクスから撤退しているなら、そいつらがユン・ガソル連合国の連中だろう。確か原作ではエルミナが指揮を取っていたな。ならば決まりだ。

 

「そいつらをユン・ガソル連合軍と仮定し、進路をその先に取れ」

「御意」

 

即座に俺の指示に従ってルナ=ゼバルを移動させていく。

 

「ラクリール、ララ。戦闘準備をしろ」

「イエス、マスター」

「……いいだろう。だから離せ」

「はいはい」

 

俺が解放してやるとさっさと膝の上から退こうとするラクリール。だが、その身体は残念そうにしている。そして、ラクリールはララと共に準備をしに向かった。

 

「さて、俺も準備するかな」

 

それからしばらくして俺達は連中の予定進路の先がよく見える崖の上に到着して部隊を降ろした。地上に降りて俺は狙撃体勢に入る。軍用に開発した暗視機能と赤外線、拡大機能などを取り付けた特別な軍用ゴーグルをつけて目標を狙う。俺の下についている10人も同じようにアンチマテリアルライフルを持って射撃体勢を取っている。ああ、魔導機人がイメージしやすいのは木洩れ陽のノスタルジーカのフローライト・アルヴェガだ。こちらはゴーグルをつけていない。そんな物、瞳に直接搭載してある。

 

「マスター、準備が完了しました」

「こっちも終わったぞ」

「ご苦労」

 

ララはVenusBlood-GAIA-の姿そのままでラクリールも同じスク水のような服だ。こちらも原作通りだな。ただ、装備が違う。ラクリールの装備が普通の剣だったのが魔導剣になっており、雷の力を扱いやすいように調整した魔焔反応炉を使った魔導エンジンを取り付けた物だ。こちらは小型で出力こそ低いが芸術の域まで強化してある。そもそもラクリールに魔力を供給し、強化しながら剣自身もパール鋼で鍛えあげた特別製で雷を纏う。強度も切れ味もかなり鋭い。そして身体強化まで行ってくれる優れ物だ。

 

「それじゃあ俺が射撃したらラクリールが魔法を撃ってララが突撃しろ」

「了解です」

「……いいだろう。だが、ルナ=ゼバルは使わないのか?」

「ルナ=ゼバルは援護射撃だけでいい。壊されてもかなわんし、撤退する時の為に温存しておく」

「逆襲をくらいたくないのです」

「それもそうか」

「というか、せっかくエイダから貰ったんだから大切に使いたいしな」

「マザコンなのです」

「マザコンだな」

「五月蝿い」

「エルカ様、来ました」

 

魔導機人の報告に即座にゴーグルを降ろして対象を睨む。確かに来ている。俺は指示を出して何時でも行けるようにした。そして、連中が通りかかる瞬間にエルミナ・エクスに向かって引き金を引いた。発射された弾丸は音速を超えて飛んでいく。本来なら命中してこれで終わるはずだった。だが、驚いた事に既にエルミナは回避行動をとっていた。

 

「っ!?」

 

そして、直ぐにこちらを見てきた。エルミナは即座に指示を出して盾を構えるように指導し、撤退していく。

 

「攻撃開始!」

 

俺の声に長距離射撃が開始される。同時にラクリールの詠唱が開始されて雷雲が現れ出す。その時には既にララが部隊を引きずれて突撃する為に崖を降りていく。その間に俺も狙撃を行っていく。もちろんルナ=ゼバルからの援護砲撃も行っていく。

 

「防御魔術を切らしては駄目です! 対雷撃術式展開準備!」

 

魔術師を重点的に狙撃して殺していく。だが、流石は三銃士の1人という事か、防御力が凄まじい。だが、それでもラクリールが詠唱を完了した。

 

「ユン・ガソルの雑兵如きが……立ち向かうのは愚かだとその身に教えてやる」

 

目を瞑り、天に掲げた長刀に膨大な魔力を収束させていくラクリール。一見無防備に見えるラクリールの周りには魔導盾が浮遊し、詠唱を阻害しようとする敵の攻撃を本来なら阻害する。いや、阻害するどころか自動で反撃してしまう。この盾も一つ一つに魔導砲と魔焔反応炉が取り付けられているのだから、一つの兵器だ。これはラナハイムの魔法剣士隊(パラディ・アズール)の技術が応用されている。

 

「――死ねぇッ、有象無象どもがぁぁぁぁぁあ!!」

 

剣を通して頭上に放たれた光線は途中で雷雲と合流し、四方八方へと枝分かれを繰り返して改めて審判の落雷として地表へと向かう。そして着弾すると同時に焼き切り、爆風で吹き飛ばしていく。それは神秘的な光景でまさに審判の轟雷と名付けられるに相応しき魔術であり、圧倒的な破壊力を持つ。

 

「くっ!?」

 

審判の轟雷がなり止むと同時になんとか耐え抜いていた生き残り達にララ達が突撃していく。

 

「全軍、食らいつくのです! マスターの望むままに敵を撃破して褒めてもらうのです! それこそ最高のひとときなのです!」

 

炎を纏わせた大剣を振りまわし、盾毎敵兵を切断し、取り付けられたカノンをぶっぱなす。大剣から取り付けられたカノンから発射された弾丸は敵陣を突き進み、盾に命中すると中の力を解放し大爆発を起こす。吹き飛ばされる兵士達は即死した者達以外、後続の部隊が直ぐにとどめを刺して確実に殺していく。

 

「我々も行くぞ! ユン・ガソルに地獄を見せてやれ!」

 

ラクリールも戦場へと向かう。もはや一方的な虐殺だ。少人数で大人数を虐殺するという奇襲戦法ならではの戦いが行われている。

 

「ヒャッハー、なのです!」

 

ガトリングガンをぶっぱなし、辺り構わず殲滅していくララに合流したラクリールが斬りまくる。

 

「むむ、負けないのです」

「抜かせ。私の方が凄いという事を見せてやる」

 

ララはガトリングを収納し、ラクリールに合わせて大剣でぶった斬り続ける。ラクリールもラクリールで剣戟と魔法を使って確実に敵兵を殺していく。だが、エルミナも負けていない。双剣を使ってララとラクリールを牽制し、隊への被害を減らしている。

 

「落ち着いて対処なさい! こちらの方が圧倒的に数が多いのです! 5人で確実に1人を包囲して殺しなさい! ユン・ガソルの兵ならばこの程度の数に負けるのなど許されません!」

「「「はっ!」」」

 

流石は三銃士。奇襲から持ち直してきたか。初撃の砲撃とラクリールの審判の轟雷、ララの突撃でかなり数は減っているが元の数が違う。そもそもこっちは100人も居ないのに1000人以上の部隊に喧嘩を売る方が間違っているのだ。

 

「信号弾を撃て。これより俺達は甲板より援護射撃を行う」

「「「了解」」」

 

全員で瞬時にルナ=ゼバルへと搭乗していく。

 

「発進させろ」

「了解」

 

そして、発進させる。

 

「あれは……まさか!?」

「撤退だ! 遅れるな!」

「逃げるですよ!」

 

崖を飛び降り、戦場の真っ只中へと落ちてくるルナ=ゼバル。そして、前方に設置されているブレードユニットで敵兵を斬り裂きながら突き進む。

 

「乗れ!」

「急げ!」

 

魔導機人達は魔力を足にある魔導機に集中させて、推進力を得て一気に飛び上がって腕からワイヤーアンカーをルナ=ゼバルへと打ち出して走っているルナ=ゼバルへと戻っていく。ラクリールとララはそのまま走りながら飛び上がり、下に向かって互いの魔術を放って、その爆風でルナ=ゼバルへと飛び上がる。むろん、その撤退を援護する為に俺も狙撃しているし、甲板から二人に向かってアシュラクーナのアンカーを射出して確実に回収する。

 

「行け!!」

「エンジン出力全開。敵陣を突破します」

 

敵兵をひき殺し、アシュラクーナを背後に展開して砲撃と防御を担当させながら俺達は撤退する。

 

「ラクリール、やるぞ」

「……仕方無い。わかった。いいぞ」

 

俺はラクリールが天へと掲げる剣を握って魔力を込めていく。そして、共に魔術を発動する。

 

「「置き土産だ、もう一度喰らえぇぇぇぇえッ!!」」

 

ラクリールは嫌そうだが、その身体は確実に俺の物になっている。既に眷属化の準備も整って、もはや俺の命令には逆らえないし、何時でも眷属にできる。ただ時期を待っているだけだ。

 

「センタクスへと進路を取れ」

「了解」

 

放たれた審判の轟雷により敵陣は足を止めるしかできず、俺達は悠々とセンタクスへと向けて撤退していく。

 

 

 

 

 

 

 

 



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センタクス③

 

 

 

 センタクスへと向かうルナ=ゼバルのブリッジ、艦長席に座りながらさっきの事を考える。内容は簡単だ。エルミナ・エクスの事だ。あいつ、明らかに原作より強いだろ。もしかして難易度が難しいでレベル上限なしか?

 どんどん送られてくるセンタクスの状況はかなりまずい状況になっている。本当に容赦無く破壊されてもはや都市としても機能していない。最初から放棄を前提にしていなければこうはならないだろう。しかし、これで確実なのは三銃士がしょっぱなからガチで潰しに来てやがる。まあ、今回の件でそれなりにダメージは与えたはずだから大丈夫だろう。

 

「マスター、まもなく到着なのです」

「わかった。中に入れるなら入ってくれ」

「了解なのです」

 

隣に控えているララに指示を出すと後は見ているだけだ。統率に関してはぶっちゃけ俺よりも凄いしな。魔導機人限定だが。

 

「では、ラクリールを先行させます」

「頼む」

「ラクリール、ゴーです」

「……なんで私が……」

 

ぶつくさ言いながらも言ってくれるラクリールはかなり堕ちてきたと思う。しかし、これって復興資材と資金、人手がかなり重要だな。

 

「ララ、バーニエに重工業ゴーレムと資材を大量に発注しておいてくれ」

「了解なのです」

 

これでなんとか復興は早くできるだろう。だが、もう一つの問題がある。それは住民だ。住民がどうなったかわからない。

 

「近隣の生体反応はどうだ?」

「調査していないのでわからないですが……アシュラクーナを調査に向かわせるです」

「そうだな。生き残りが居るかも知れないから急いでくれ」

「了解なのです」

 

ルナ=ゼバルよりアシュラクーナが発進していく。ちなみにラクリールは部隊を率いてセンタクスの中に既に入っている。

少しするとアシュラクーナより生命反応があった場所を光点で伝えてきた。その数は無数に存在する。

 

「生命反応多数……軍かも知れません……」

「これだけじゃわからないな。一度戻して映像を出してくれ」

「了解なのです」

 

アシュラクーナに搭載してあるカメラの映像をこちらへと映し出す。流石に電波での送受信はできない。だから、一度戻すしかない。だが、ここまでくれば既にオーバーテクノロジーだろう。

 

「これは……避難民ですか……?」

「みたいだな。流石に三銃士も一般人を殺す事はしなかったみたいだな……」

 

無数の住民がセンタクスの外へ避難され、途方に暮れている姿だった。それといくらか物資は置かれているようで、なんとか生活できるようにはなっているようだ。

 

「むむ……ラクリールより連絡なのです。ディナスティの生き残りを見つけたらしいのです」

「先ずはそっちと合流するか」

「了解なのです。ん、連絡を送ったです」

 

魔導機人達は相互に連絡を取り合えるし、そのトップに居るララにも当然の如く伝わる。これを利用して情報の伝達を行っている。

 

「よし、直ぐに行くぞ」

「先導するのです」

 

俺達はルナ=ゼバルで瓦礫を強制的に退けてセンタクスへと入っていく。そこで知り合いを見つけた。ミライとヴァイス、リセルだ。後はその配下達だな。しかし、全員がボロボロで焼け焦げた服を着ている。そんな彼らにラクリールが説明している。それにしても消火事態は終わっているようだが、殆どが焼失してしまっている。だから、俺は甲板へと出て声をかける。

 

「お前ら、取りあえず中に入って来い!!」

 

俺の声が届いて、ヴァイス達がこちらへと歩いてくる。俺は指示してハッチを開けさせて彼らを迎え入れる。

 

「治療準備。それと何か食べ物と寝る場所を用意してやれ」

「了解なのです」

 

館内に招き入れた彼らを迎えに移動する。そして入口に向かうとしきりに内装を気にしながら治療を受けている彼らが居た。

 

「災難だったようだな」

「ああ。まさか制圧ではなく破壊だとは思わなかった」

「確かにな……」

 

確かに原作通りに行くと思い切っていた。だが、現実はどうだ。確かに現実通りに進んでいる。だが、被害の規模は明らかに違う。ひょっとしたら介入しすぎたのかも知れない。明らかに現状のバーニエの技術力はかなり先を行っている。

 

「あの、すいません……お母様の修理をお願いできますか?」

「ん?」

 

リセルが気まずそうに言ってきたのでそちらを見ると、リセルに抱かれて横たわっているミライが居た。その方腕は弾け飛び、残った腕も皮膚が剥がれて筋肉繊維の魔法糸も切れて金属部分が露出している状態だ。身体中傷だらけで服もボロボロだ。

 

「何やったんだよ……」

「私達を守る為に無茶をして……」

「俺からも頼む」

「私の腕じゃここまでになると直せません……」

 

機能停止しているようだが、確かにこのままじゃ不味いな。本隊は無事みたいだし、本格的な修理といってもそこまで非道い感じじゃない。

 

「わかった。じゃあ、メンテナンスルームに連れて行ってくれ」

「了解です」

「リセル達は休め。それとヴァイスは話がある。休むのは後だ」

「当然だ。先にこのセンタクスの状況をどうにかしなければいけない。リセルには悪いが……」

「わかっていますから大丈夫です。お母様の修理は後で構いません。その、大丈夫なんですよね?」

「ああ、それは大丈夫だ。少し時間が経っても問題無い。というか、徹夜で直すから問題ない」

「あ、ありがとうございます」

 

それだけ言うとリセルは先導する魔導機人に連れられて移動していった。しっかりと部屋で休めるだろう。

 

「さて、これからのセンタクスについてだが……」

「どうする? 一応、住民は見つけた」

「本当か!」

「ああ、生きている」

「なら最悪ではあるが最低ではないな。重工業ゴーレムだったか、あれと資材をいくら投入できる?」

「一応、大量発注はかけておいた」

「助かる。しかし、防壁の建築から始めないといけないとなると……モンスターが危険だな」

「確かに。ああ、避難した住民が居る場所も大変だな……ちっ、疲れるが仕方無いか」

「何か方法があるのか?」

「ちょっとした大規模な魔法を使う。それでセンタクスに結界を張るからそれでどうにかするしかない。ただし、このルナ=ゼバルは動けなくなる」

 

足で床をコツコツと叩きながら教えてやる。

 

「それでも頼む」

「そうか。じゃあ、どうせなら徹底的に区画整理もやって綺麗にするか」

「ふむ。確かにそれはいいな。わざわざ壊す必要もないくらい徹底的にやってくれたんだからな」

「それじゃあ、設計図はこちらで用意する。いや、その前にルナ=ゼバルで先に避難した住民を回収しに行く方が良いか。どうせ動けなくなるし」

「そうだな。わかった」

 

それからルナ=ゼバルを発進させて避難している住民を迎えに行く。住民の対応は全てヴァイスに任せる。何故なら俺はセンタクスに興味がないからだ。なので原作通りにヴァイスには元帥になっていただく。

 

 

 

 

 

 



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センタクス④

 

 

 

 

 メルキア帝国歴 102年

 

 一進一退の攻防が続き、長い硬直状態にあったメルキア帝国とユン・ガソル連合国の戦況は倒叙として始まったユン・ガソル連合国の大攻勢によって大きく崩れた。それはユン・ガソル連合国が新型の攻城兵器を投入した事が原因だ。この戦いにより、センタクスを守る東の元帥の決死の抵抗も虚しく、メルキア帝国は東の守りの要であるレムレス要塞を奪われた。

 初戦を制したユン・ガソル連合国は勢いを衰えさせず、さらに侵略の手を広げてレイムレス要塞を含めて東の都センタクスと折玄の森の三つの領土を制圧した。これに対してメルキア帝国も大規模な反攻作戦を展開する。

 皇帝自らが直属の軍団を引き連れて帝都より出陣し、帝国最強と名高いキサラ領の精鋭と合流し、街道沿いに南下を開始した。その行軍は途中まで順調だった。だが、それは想定外の横槍が入って変わってしまった。それはメルキア帝国の東に位置するザフハ部族国がユン・ガソル連合国の動きに合わせるかのようにメルキア帝国に侵攻を開始したからだ。御蔭でクルッソ山岳とし、城塞都市ヘンダルムを奪われ、キサラに集結したメルキア軍は出鼻を挫かれることとなったのだ。

 こうしてセンタクス領を完全に奪われたメルキア帝国だが、この状況で動きだしたのがバーニエとディナスティだ。ここに俺とヴァイス達が入っている。まあ、正確には違って、俺はさっさと落とされる前にヘンダルムへと転移してそこからザフハ部族国を突破してセンタクスへと入った。

 別働隊として結成されたヴァイス達は、本隊から先行する形で南から迂回し、センタクス領へと潜入した。それはユン・ガソル連合国の支配下になった折玄の森を突破し、東の都センタクスの近郊へと到達するという無茶を行ったという事だ。

 ザハフ部族国が北方を抑えたことにより、周辺の警戒を緩めたユン・ガソル連合国を強襲した。だが、それは罠でもあった。

 ユン・ガソル連合国の三銃士、エルミナ・エクスが率いる部隊による東の都センタクスを利用したメルキア帝国の拠点破壊と増援部隊の殲滅。それこそがユン・ガソル連合国の狙いだった。エルミナの狙いは最初からこれが狙いだったと思われる。そうでないと被害の規模があわない。ただ、唯一の救いは事前にエルミナ・エクスが住民を避難させていた事だけだ。民間人を傷つけない辺り、高潔な人物ともいえなくないが……甘いともいえる。住民が残った御蔭で復興がまだたやすくなったのだ。物はまた作ればいいが、命はそうはいかない。まあ、怪我人や仮設住宅の建設などで費用がかさむのだが、そこは仕方無い事だ。

 

「―――以上がこれまでの経緯か」

 

 リセルから貰った報告書をブリッジで読んだらこんな感じだった。まあ、ルナ=ゼバルで住民達を迎えに行って、センタクスに戻ってきた所だ。正確には跡地となるがな。

 

「そうですね。間違いはありません」

「どうだ? リセルの報告書は分かりやすいだろう」

「確かにな。ララも読むか?」

「嫌です。そんな面倒な物は好みません。ララはマスターの名に従い、マスターを守るだけです」

「ラクリールは?」

「私は……読ませてもらおう」

 

 俺はラクリールに資料を渡して、改めて周りを見渡す。艦長席に座っている俺の左右にララとラクリールが控えていて、目の前に置かれた大きめのテーブルにはヴァイスとリセルが席についている。

 

「さて、その報告書に俺達の報告書を合わせて帝国へと送っておこう。ララ、頼む」

「了解なのです。そこのお前、これを帝都に送るのです」

「了解」

 

 ララはあっさりと受け取ったこちらの報告書とラクリールから回収した報告書を魔導機人に渡して何事もなかったかのように俺の傍に立っている。

 

「「「……」」」

「? どうしたのですか?」

「いや、あっているんだが……目の前でやられるとな」

「そうだよな……」

「間違ってはいないんですが……」

「効率的でいいのではないか?」

 

 俺とヴァイス、リセルは微妙だが、ラクリールは賛成のようだ。まあ、確かに効率的だけどな。でも、どちらかというと面倒だというのもあるんだろうな。どちらにしろ、これだけ仔細に状況を記してこちらの復興計画も記したのだから、本国の指示も現状に即したものが送られてくるだろう。流石に上層部が無能だとは思いたくない。

 

「さて、次の報告を頼む」

「私が調べた街の被害状況に関する報告だが……」

 

 ラクリールは沈痛な表情を浮かべ、俺達に報告書を渡してくる。

 

「防壁は完全に大破。内部の住居は壊滅し、焼け落ちた残骸のみ存在する。軍事関連や商業関連の施設だけではなく、センタクスという街その物を完全に破壊されたといえる」

「攻める上で防衛施設が潰されていたのは幸いでしたが、今度は逆の立場になりますから大変ですね……」

「本城ですら既に瓦礫の山だから大変という言葉すら生ぬるいがな」

 

 ラクリールの報告が終わり、俺達の空気はなんともいえなかった。これからまたあのエルミナ・エクスと戦わないといけないのだから。

 

「状況は理解した。最後は周囲の状勢についてだが……リセル、頼む」

「はい。それではこちらの地図をご覧ください」

 

 沈んだ雰囲気の中、ヴァイスの声でリセルがテーブルの上に地図を開いて再び会議を進行させていく。

 

「私達が奪還したのはこのセンタクス領の中心都市である東の都センタクスです。レムレス要塞と折玄の森に関しては依然としてユン・ガソル連合国の支配下にあります。それと一時的に追い払ったとはいえ、ユン・ガソル連合国の本隊はレイムレス要塞に健在です。その戦力は計り知れません。そして……」

「無視できない勢力としてセンタクスの北方にある城塞都市ヘンダルムとクルッソ山岳都市を制圧したザフハ部族国の存在があるのだな」

「でも、そっちはキサラにいる本隊と睨み合いを続けているので、挟撃される心配はないのです」

「逆に言うとザフハ部族国が崩れない限りはキサラにいる本隊が到着する事もないという事だ」

 

 リセル、ラクリール、ララ、ヴァイスの順で答えてくれる。つまり、次は俺か。

 

「つまり、それまでの間、俺達だけでこの滅んだセンタクスでユン・ガソル連合国を食い止める必要があるという事だな。はっきり言って無理ゲーだ。どんだけ戦力差があるか考えるだけでも馬鹿らしいな」

「私達がこの状況下で取れる手段は二つです。一つ目は市民を連れてルナ=ゼバルでセンタクス領を脱出し、キサラにいる本隊との合流を目指すという案です」

「確かにルナ=ゼバルの性能から考えて、封鎖されている街道を突破するのは被害さえ考えなければ容易いのです」

「だが、この船の構造上、乗せられる人間の数には限界がある。一時だけでかなり無茶をすれば3千人が限界だ」

「その3千というのは?」

「部屋や倉庫に詰め込んでだ」

「もちろん、怪我人も増えれば機動力も落ちるのです」

 

 無茶な起動をすれば確実に怪我人は増えるだろう。

 

「ふん。使えるのは囮くらいではないか。バーニエの最新鋭艦も大した事ができないな」

「ラクリール、後でお仕置きな」

「なっ、なんだと!」

「五月蝿い、エイダが俺の為にくれた物だ。許さんから」

「ぐっ……」

「馬鹿なのです。そもそもルナ=ゼバルは少数精鋭による高機動型陸上魔導戦艦なのです。千人以上の部隊移動を想定していないのです」

 

 ルナ=ゼバルの戦法は突撃が基本だからな。しかし、どんなお仕置きをしてやろうか……っと、今はそれどころではないな。

 

「うっ、うぅ……お仕置き怖いお仕置き怖い……」

 

 ガタガタと震える身体を抱いているラクリールを無視して俺は会議を進める。ドン引きしている二人も無視だ。

 

「ヴァイス、リセル、続き」

「そうだな。俺達の任務はセンタクスの奪還だからそれは既に果たされている。仮にセンタクスを放棄したとしても、市民を連れて脱出したならば十分な功績として評価されるだろう。しかし、この街に住んでいた数万の市民を連れての脱出劇は決して容易くない」

 

 ヴァイスの言葉通り、街道を避けるという事は魔物……モンスターの襲撃を考慮する必要があるだけでなく、ザハフ部族国に見つかる可能性が限りなく高い。やつらは獣人がメインなのだ。そんな所に何万規模の人間が移動するれば匂いなどで絶対に気づかれる。例えルナ=ゼバルで囮をかって出たとしても半分も助からないだろう。

 

「わ、分かりました。二つ目はこのままセンタクスに留まり、本隊の救援を待ち続けるという案です」

「その場合、この街でユン・ガソル連合国の攻撃を耐え続けなければならないのが問題だな」

「確かに前回の戦いはこちらもそちらも攻城兵器がなかったからな」

「しかも、次は壊滅状態の街を微かな戦力でユン・ガソル連合国の猛攻から防衛しないとならないと……不可能なのです」

「レイムレス要塞を攻略し、万全の状態のセンタクスの街を陥落させたユン・ガソル連合国相手にはララの言うとおり不可能だな」

 

 センタクスを守りきる事ができるのならばそれが最高の結果であることは間違いないが……ちょっときついな。

 

「しかし、これだけの報告書をよく少ない時間でまとめてくれたな」

「ヴァイスハイト様の副官として当然のことです。それにラクリールさんも手伝ってくれましたから。ヴァイスハイト様達は遅くまで街の方々と一緒にお仕事をなさってたではないですか」

「確かにそうだな。特にエルカはあのあとからミライ様の修理に入ったんだろ?」

「ああ、御蔭で寝てないぜー」

 

 粗方の修復は終わったが、やっぱり完全な修理はこの艦の設備では不可能だ。幸いというか、ララの予備パーツでなんとかなったがな。一部では骨のパール鋼まで歪んでやがったからな。全く、ここまで攻められるとは……ん? 攻められる?

 

「くっくくく……」

「おい、どうした?」

「大丈夫ですか?」

「リセル、それは違う意味で非道いのです」

「あっ……すいません」

「おい、いい手を思いついたぞ」

「どんな物だ?」

「第3の選択肢。やられたらやり返す。つまり、こっちからレイムレス要塞を強襲して、ぶっ壊してやる」

「ぶっ!?」

「ちょっ!?」

 

 俺が提案したのは不可能に近い事だ。だが、これはかなり有効だろう。時間稼ぎとしてもだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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センタクス⑤

 

 

 

 

 レイムレス要塞を攻略する気なんてない。ただ、可能かといえば不可能ではない。何故なら色々とできるからだ。

 

「ララ、お前が部隊を率いてレイムレス要塞を攻撃してこい。そうだな、新作の魔焔反応炉でも持っていけ」

「ふふふ、爆発させるのですね。任せてください。効果的に爆破してきてやるですよ」

「時間稼ぎか……大丈夫か?」

「魔導機人達をアシュラクーナに取り附かせて送り込む。そして色々と爆破してもらう。何、移動に時間がかかるがどうにかなるさ」

「わかった。そっちはそれで任せよう。こちらはさっさと復興させる」

「ああ、頼む」

 

 話を終えたら、少し離れていたリセルが慌ててこっちにやって来た。

 

「では……えっと、バーニエより支援物資が飛んできました……」

「飛んで?」

「ええ、飛んで」

 

 慌てて外に出ると確かに飛んできていた。それは形からいえばロケットだ。そこから沢山の重工業ゴーレムが出て来る。周りにはロケットの残骸が転がっている。つまり、ミサイルで叩き送ってきたのだ。なんて無茶しやがるんだ。そして、もう一つの問題があった。

 

「くっくくくく、このリューン様が来たからにはもう安心ですの!」

 

 それらのゴーレムを率いるリューンが居たのだ。

 

「何機あるんだ?」

「さあ? 見た感じ、100体か?」

「多いな……これならどうにかなるか。リセル、とりあえずリューン様を迎えにいってくれ」

「はい。分かりました」

 

 リューンをリセルが迎えに行った後、俺達は改めて話し合った。リューンが持ってきたのは107機の重工業ゴーレムと膨大な数の資材だった。どうやら、大量に資材を購入したようだ。バーニエは他領とかに色々と製品を売っていて膨大な利益を上げているからこそできる物量作戦だ。幸い、落下の衝撃はリューンの魔法で防いでいたので傷なども問題無く、直ぐに使える。その為、急ピッチで建造が開始された。その間、ルナ=ゼバルは本城の建設予定地前に停泊させてその魔力を使ってセンタクスに施した結界を張る装置になってもらう。次いでなので地下施設と下水などをしっかりと建築してやる。

 さて、会議が終わった俺はひたすらメンテナンスルームに篭ってミライを修理していく。サポートにララとリューンがついてくれるので素早く修理できる。ついでなので新型に魔焔反応炉を変えて、ソフトウェアをアップデートしたり、効率化を測ったりしておく。これで戦闘能力はさらに上昇する。

 

「ふふふ、リューン達が強くなる為に実践データは必要なのです」

「戦闘データの回収も完了なのです」

「OK.なら、再起動だ」

 

 起動プロセスを行うとメンテナンスベッドに寝ている裸のミライが目を開ける。

 

「システムチェック開始……ん、問題無し」

「どうだ?」

「完璧。さすがにスペックまで上昇しているとは思わなかった。でも、よく考えれば私の身体が作られたのは数年前。技術が進歩しているのは当然」

「そういう事。旧式じゃないぜ。最新型だ。思う存分暴れられると思う」

 

 ベッドから起き上がったミライはララとリューンから受け取った服を着ていく。ちなみに着ていくのは例の制服だ。しかし、目の前で着替えられるとはな。

 

「さて、ミライ。早速なのですが……ユン・ガソル連合国の連中に仕返しに行くのですよ」

「へぇ……面白い。やられっぱなしは嫌だし、いいよ」

「では、マスター。二人で部隊を率いて行ってくるですよ」

「ああ、頼む」

「任せて」

「お土産を期待しているです」

「任せるですよ」

 

 二人がさっさと出て行ったので、俺はリューンに向き直る。

 

「大型の魔焔反応炉を作るぞ。そいつをセンタクスの地下に配置する」

「了解なのです!」

 

 街は現在防壁と地下施設の建造、下水工事を行っている。なので、本城の地下はまだ時間がかかるので間に合う。

 

「行くぞ」

「ふふふ、徹夜は継続なのです!」

 

 徹夜でひたすら作成して、疲れたらお仕置きとして吊るして機械を設置して放置していたラクリールを犯して生気を回収。それを使ってまた徹夜を行っていく。センタクス領の復興は最重要項目だ。少なくともレイムレス要塞には部隊の派遣が片道一週間はかかる。まあ、高機動部隊なら違うが、センタクス攻略の為に大部隊を率いてくるだろうし確実に一週間はかかる。あいつらなら一週間もかからないだろうし、問題無いだろう。

 そして、一週間の時が経った。

 

「も、もう許してぇ……」

「そうだな」

 

 一週間、暇を見ては徹底的に苦痛と快楽を与えて精神を責め立てた。だから、俺はラクリールの耳元で囁いてやる。

 

「クライスじゃなくていいんだな?」

「はぁ、はい……クライス様じゃなくて……ご主人様がいいれす……らから、たしゅけて……」

「ああ、お望み通りたっぷり愛してやる」

 

 ラクリールを落とすのは何時でもできるが、できるならラクリール自身にクライスを殺させたい。それが一番いい展開だ。そうなればクライスとは完全に決別し、後は俺につくだけだからな。依存してくれれば後はこっちの物だ。眷属にして永遠に俺のものとして可愛がってやる。

 

 

 

 

 



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レイムレス要塞①

 

 

 

 

 

 エルミナ・エクス

 

 

 

 

 

 予想外に被害を受けました。しかし、こちらの兵力は問題ないレベルです。そもそもセンタクスに送った兵は本隊の極僅かなのですから。しかし、その後に現れた連中は不味い。明らかにセンタクスを襲った連中と装備の質が違いました。そもそもなんですか、あの陸を走る船は……あんなのを相手にするには大型の攻城兵器や大規模な魔法が必要ですよ。あちらの将が使ったような魔法をですが。

 

「エル姉、大丈夫?」

「パティルナ……ええ、こちらは平気です。ただ、あの陸を走る船とその船に乗っている連中は要注意です。センタクスを襲って来た者達も油断は出来ませんが……」

 

 私に話しかけてきたのはユン・ガソルが誇る三銃士の一人パティルナ・シンク。彼女は頭ではなく天性の勘により敵の策を見破り、その対処方を導きだす戦の申し子で、戦況を変える切り札として行動して貰っている。ルイーネの講じた策略と、私の製作した兵器。この二つを携えて戦場へ赴き、自らの腕でもってユン・ガソルに勝利をもたらすのが彼女の役割です。

 

「確かにそうみたいだね」

「ええ。あの部隊の者達も何か変でした。まるで生きていないような……意思の無い人形を相手にしているみたいでした。御蔭で兵の皆も怖がっています」

「死を恐れない兵士って奴?」

「ええ、その通りです。しかも、その全てが精鋭……親衛隊レベルの実力者達でした」

「何それ、化け物じゃん! っ!?」

「どうしました?」

「エル姉、何か西の方から嫌な感じがする……」

「っ!? 総員、戦闘配置! 偵察隊を出しなさい!」

 

 パティの感覚は非常に頼りになります。そのパティが嫌な感じがするといったのです。杞憂であればいいのですが……そううまいことは行かないでしょうね。

 

「センタクスに攻め込む準備をしてたのに、こんな時に来るなんて最悪だよ」

「そうですね。しかし、センタクスの連中は自殺志願者ですか? こんな短期間では街の復興もできていないはず……いえ、それ以前にこちらの戦力とあちらの戦力を考えれば数倍どころの差じゃないのですが……」

「エル姉がやり過ぎたとか?」

「……それは……あるかも知れません。ですが、そうなれば普通はセンタクスを破棄して撤退します」

「だよね」

 

 となると、考えられるのは時間稼ぎですね。しかし、そんな事をしてもたかが知れるはず……どういう事ですか?

 とりあえず、今は戦の準備をしましょう。

 

 

 

 

 

 

 ララ

 

 

 

 

 ララは現在、ミライと共に魔導機人20機に新型魔焔反応炉に細工をした物を搭載してアシュラクーナに乗りながらレイムレス要塞を目指しているのです。

 

「ララ、到着予定時間は?」

「休憩を入れるので明日の2300の予定なのです」

「わかった」

 

 ミライはアシュラクーナに乗りながら自身の血液で構成された鎖を放ったです。それは蛇のように意思を持って空を駆け、見張りをしていたユン・ガソル連合国の兵を反抗する間も無く羽交い締めにして捕らえたのです。私達に奇襲は不可能なのです。何故ならサーモグラフィで検知できるのですから!

 

「確保」

「ふふ、それじゃあ少し待つのです」

 

 ララは気絶している兵士の身体を斬り裂いて、ちょっとした物を埋め込んでやるのです。そして放置するのです。これを何体かに繰り返し行って、ミライ達はレイムレス要塞を目指していくのです。

 

 

 

 

 

 エルミナ

 

 

 

 

 

「報告します!」

「どうぞー」

「お願いします」

「監視所の兵と偵察に出していた多数の兵がこちらに逃げてきます!」

「敵は?」

「森の中を進軍中につき不明です。ですが、真紅の鎖が見えたとの事です!」

 

 真紅の鎖という事はセンタクスで出会った者ですね。しかし、生きていたのですか……いえ、生きているのは構いません。ですが、これほどの短期間で戦場に復帰できるなどと信じられません。では、違う者という事ですか?

 

「鎖使いか……ふふ、あたしといい勝負ができそうじゃない」

「パティ、気を付けてください。もし、その存在が私がセンタクスで出会った存在なら相当な実力者です」

「わかってる。でも、その前に森に向けて掃射した方がいいよね?」

「そうですね。味方の収容後、直ちに発砲します。砲門を開いて命令あるまで待機!」

「はっ!!」

 

 私の命令を聞いて、直ぐに兵士が指令を伝達しに向かう。私とパティは城門の上へと移動する。そこで見た物は、森の中から出て来る鎖達が執拗に兵隊を追い回し、捕らえようとしている場面だった。そして、砦の中から彼らを助ける為に数隊の部隊が救助活動を行い、鎖に貫かれて殺されている。だけど、そこに私は違和感を覚える。

 

「射程圏内より味方部隊の撤退を確認しました!」

「分かりました。目標は森の中に居る敵部隊。攻城兵器部隊、放て!」

「撃てぇええええええええええっ!!」

 

 次々と轟音と共にレイムレス要塞の防壁に設置された無数の攻城兵器から放たれる攻撃が森の中へと放たれていく。それらの砲撃を真紅の鎖で叩き落としたりして防御していく。そして、次第に鎖は引いていく。

 

「まさか、鎖使い1人で襲撃に来たの?」

「確かに足でまといが居ない方が強いでしょうが……」

 

 あの時、私が対抗出来ていたのは悔しいですが、あの司令官の男とその傍に居た女性を攻撃するふりをする事で防いでいました。お母様と呼ばれていただけあって、あの二人は彼女にとって大切なようでしたが……その二人がいなくなると手がつけられないかも知れません。少なくとも、私とパティの二人か、1人を多数の部隊で囲んで相手をしないといけません。

 

「パティ」

「駄目だよ。まだだ。まだ嫌な感じがする。違う。もっと悪くなってる!」

「……」

 

 さっきよりも悪くなている? 敵を追い払い、味方を救助したというのに?

 今と前で違う事はなんでしょうか……まず一つ目は敵がやって来た事。二つ目は一度出した兵士が戻ってきて救助されている事。

 

「被害報告です。駐留していた部隊の43名が死亡、23名が重症。駐留していた部隊と撤退して来た部隊合わせて231名が軽症です!」

「分かりました。ご苦労様です。引き続き救助を……待てください。こちらに逃げてきた部隊で死傷者はでていないのですか?」

「はい、全員無事です! 奇跡的な事です」

「そうだよねーまるで……っ!?」

「そういう事ですか!! 全軍に通達! 直ちに救助した兵を隔離しなさい!!」

「ど、どういう事ですか?」

「いいから早く!!」

「は、はい!!」

 

 連中はわざとこちらに逃げる者達を追いかけるだけで殺したり行動不能になるような攻撃をしてこなかった。それなのに助けに入った駐留部隊は容赦無く殺している。そっちに目を逸らされたが、明らかにおかしい。これが違和感の正体です。

 

「エル姉、なんで敵はこんな事をしたのかな?」

「決まっています。私に対する意趣返しです。それも最低最悪な方法で!」

「ど、どういう事?」

「助けられた兵士はおそらく……」

 

 私が答えようとした瞬間、レイムレス要塞の内部と外で複数の爆発が起きた。それは連鎖的に反応し、レイムレス要塞内部を煙に満たしていく。そして、私達の近くでも爆発したのか、私やパティの頬うにベチャと何かがついた。私はそれを無視して全軍に向けて指令を出す。

 

「全軍、警戒せよ! メルキア帝国軍が来る!」

「エル姉、これって……」

「ええ……救助した兵士の身体の一部でしょう……」

「あいつら!!」

「効果的な方法です。どうやら私は追い詰めすぎたようです……いえ、先に仕掛けたのはこちらですが……人を人とも思わないとは……」

「っ!? エル姉、やばい! 来るよ!」

「くっ!?」

 

 煙を斬り裂いて飛来した真紅の鎖をパティの声でなんとか反応した私は双剣を引き抜いて弾く。だが、何本かの鎖は防壁の上を超えて途中で先端が変化し、鍵爪のようになって固定された。

 

「みーつけた」

「あははは、凄いね。ご指名だよ、エル姉」

「そのようですね。歓迎したくはないですが……」

 

 先程まで居なかった存在が防壁の上に有った。そいつは無数の真紅の鎖を手に付けた指輪から出し、浮遊させながら私達を見た。黒い髪の毛を後ろでくくった青い瞳の少女。

 

「前はよくもやってくれた。今度はこっちが仕返しに来たよ」

「それにしては非道い方法ですね」

「やられたら、やり返す。倍返しだ!」

 

 そして、少女が無表情のまま不気味に笑い、空を指差すと空から無数の魔導機械が降りてくる。それには統一された鎧に身を包んだ見覚えある兵士達が乗っている。

 

「まさか、空から攻めてくるとは……予想外です」

「メルキアの技術力を甘くみたね」

「くっ」

「何アレ、凄いんだけど! アレ欲しい!」

「パティ、今はこの状況をどうにかしないといけません!」

「そうだね。2対1になるけどいいよね?」

「2対1? 違うよ、2対2だ」

「そうなのです!」

 

 その声と共に私達は瞬時に左右に飛ぶ。するとそこに巨大な剣が防壁の一部を破壊してクレーターを生み出す。とんでもない怪力と言えます。

 

「はじめましての人はこんにちは。また合った人は……別にいいや。えっと、名前はララ。よろしくなのです」

「あ、あたしはパティルナ・シンクだよ」

「これはご丁寧にありがとうなのです」

「いえいえ、こちらこそ……」

「「そこの二人!」」

「挨拶は大切なのですよ。こっちはミライ・ザイルードなのです」

「そうだよね。こっちは知ってると思うけどエルミナ・エクスだよ」

 

 まったく、パティルナは……いえ、ちょっと待ちなさい。ミライ・ザイルードと言いましたか?

 確かミライ・ザイルードといえば新しくオルファン・ザイルードの妻になった人ではないですか……そんな人がこんな所に来るんですか……メルキア帝国は何を考えて……いえ、それは我が国も同じでしたね。しかも、こっちは王ですのでさらにタチが悪いです。

 

「ああ、それとさっきのミライの発言は訂正しておくのです」

「ん?」

 

 訂正する所はありましたか?

 

「メルキアの技術力を甘くみたんではないのです。バーニエの技術力を甘くみたのです。ここは重要なのです」

「どうでもいい」

「どうでもいいよね……」

 

 いえ、どうでもよくありませんよ。これは結構重要な情報です。

 

「ぎゃああああああああぁぁぁぁっっ!!」

「た、助けっ」

「何がどうなってるんだ!!」

 

 下から無数の悲鳴が聞こえてくる。これは非常に不味い。早く行きたいのですが……そんな隙はありませんね。

 

「さて、戦場も出来上がってきた頃合なので……たっぷりララ達と遊んでもらうのです」

「ちっ」

「仕方無いね……」

「遊びは終わり。はじめよう」

 

 下手を打てばレイムレス要塞を奪われるかも知れません。しかし、被害は出たとしてもここは奪われるべきでは有りません。ならば死力を尽くして勝利するのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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レイムレス要塞②

 

 ララ

 

 

 

 

「さて、ララはそっちのエルミナ・エクスを希望するのです」

「私もそっちがいい」

「モテモテだよ、エル姉」

「嬉しくないですね。しかも同性ですし」

「というか、ララにとってパティルナを相手にする方が面倒なのです。あの武器から考えると……」

「確かにそっちの方が効率的。わかった、今回は諦める」

 

 ミライもちゃんと理解してくれて助かったのです。

 

「それじゃあ、こっちはどうする? あっちのお誘いに乗っちゃう?」

「そうですね……残念ながら乗る方が賢明ですね。接近戦メインの私と彼女、中距離がメインのお二人で戦う方が早く決着が付きます。時間が掛かれば掛かるほど被害は増していきますから」

「早期決着の為にお互い同じ回いの戦いがいいでしょう。パティルナが大剣の彼女を相手にするならおそらく逃げ切れるか勝つのは問題無いと思います。ですが、それは私の相手にもいえます」

「遠距離から逃げながら攻撃だよね」

「ええ」

「そっか。了解。ミライっていったけ、この三銃士が1人、パティルナ・シンクが相手になるよ!」

「そう。なら、元帥の妻が相手になってあげる」

「ミライ、撤退の為にフルドライブは禁止なのです」

「了解。それじゃあ、ついてきて。あっちで戦おう」

 

 ミライが腕をあげて指し示したのは煙の立ち込める城壁の内側なのです。

 

「確かにそっちの方が良いかな……」

「では、行きます」

 

 ミライが防壁の中へと飛び込んでいくのです。そして、パティルナも防壁の縁に足をかける。

 

「おや、ここでミライを負わずにララを二人で攻撃しないのですか?」

「ああ言ってるけど、どうするエル姉?」

「必要有りません。むしろ、彼女を放っておいた方が危険でしょう。兵達が虐殺されるのが目に見えています」

「ちっ、気づかれましたか……」

 

 こっちにくればエレミネーターモードフルドライブで戦ってやったのですが、そうは上手くいきませんか。ちなみにフルドライブを使うなといったのは簡単です。ララがガス欠になればミライに連れて帰ってもらうのです。もちろん、その反対もなのですが。

 

「それじゃあ、いってきまーす」

「気を付けてね」

「うん。エル姉もね!」

 

 飛び降りたパティルナはミライが煙を吹き飛ばして作った場所へと向かったのです。なので、こっちも大剣を構えて……獲物をみます。

 

「では、こちらもはじめるですよ」

「そうですね」

 

 手数の多い双剣の相手は疲れるのですが……蹴散らしてやるのです。

 

「イグニスドライブ、戦闘モードに移行……! ストレングス、エリミネーターモード……!」

 

 ララの全身に施された秘印術に魔力を送って出力をあげる。そして炎の属性を持つ魔力を大剣の魔導エンジンに吸わせて刀身を真紅へと染め上げ、刀身を高熱にしてやるのです。すると刀身が振動しだしてあらゆる物質を消滅させる破壊の力をララは手に入れるのです。灼熱の高周波ブレード。

 

「魔法剣ですか……それはラナハイムの魔法技術……いえ、魔法技術を魔導技術で再現しましたか……」

「忠告してやるのです。あたるとドロドロになって死ぬのです」

「いえ、その前に燃えそうですが……」

 

 会話をしながら隙を探すのですが、流石はユン・ガソル連合国が誇る三銃士が1人、エルミナ・エクスなのです。全く隙がないのですよ。

 

「まあ……隙が無いのなら作り出すまでなのです!」

 

 ガトリングモードを起動させて銃身を出現させる。

 

「させませんっ!!」

 

 すると直ぐにエルミナがこちらに駆け抜けてくるのです。ララは落ち着きながら大剣を上に構えた状態からタイミングを合わせて一気に振り下ろしてやるのです。

 

「っ!」

 

 エルミナは直ぐに横に飛び退いて直ぐにこちらへと踏み込んでくるですが、甘いのですよ!

 

「なっ!?」

 

 ララの一撃が地面を打ち付ける瞬間。身体を回るように高速回転させてエルミナに打ち付けてやるのです。

 

「くっ、なんて馬鹿力ですか!!」

 

 大剣は避けられたですが、出力に物言わせて振り抜いたので風圧でエルミナは吹き飛ばされたのです。まあ、飛び退いたのもあったのですが。しかし、それは失策なのですよ。

 

「っ、ごほっ、ごほっ! の、喉が熱い……」

「熱風をもろに喰らえばそうなるのです」

 

 ララは周りの温度は高温なのですよ。まともに戦って勝てると思うなです。

 

「今度はこちらの番なのですよ!」

 

 離れたエルミナに両手のガトリングをお見舞いしてやるのです。

 

「ちっ」

 

 走って防壁の一部が出ている場所の後ろに隠れやがったのですが、甘いのです。ちょろ甘なのです。

 

「ふははは、くらいやがるのです!」

 

 カノンをぶっぱなして出ている場所ごと破壊してやるのです!

 

「くっ!!」

 

 慌てて出て来た彼女はこちらに突撃してくるのですが、無駄なのです。

 

「うりゃあああああああああぁぁぁぁっ!!」

 

 既にこちらは構えて振りかぶっているのです!

 

「くっ、だが!」

 

 ララの大剣を飛び上がって避けるエルミナですが、ララの武器はそれだけではないのです。ガトリングを上に向けてエルミナにぶっぱなしてやるのです。重低音が響いて吐き出される魔法弾が何度もエルミナの身体を叩きつけていく。それでもなんとか耐え切ったエルミナは防壁から飛び降りていきやがったのです。

 

「どこへ行こうというのかね、なのですよ!」

 

 サーモグラフィでしっかりと煙の中でも場所を理解しているララはガトリングで追いかけながら自身も降りていくのです。逃がさないのです。ここで三銃士を討ち取ればかなり楽になるのです。まあ、捕獲してマスターへの供物にするのもありなのですが……そこはついででもいいのです。余裕が出たついでにララはガトリングをぶっぱなしながら、片手でカノンの弾丸を排出させ、新しい弾丸をセットした後、改めて自身も煙の中に入っていくのです。

 

「さて、うさぎ狩りなのです」

 

 煙の中に潜ったのは飛んで火に入る夏の虫とかいう奴なのです。そこはララにとって絶好の狩場なのですよ、エルミナ・エクス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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レイムレス要塞③

 

 

 

 

 ミライ

 

 

 

 パティルナとの戦いは私が優勢で推移している。これは当然の事。だって、あちらは人間でこちらは意思がある魔導機械。それに熱源探知まであるから煙の中でも問題無い。そして、何より――

 

「くっ、これはきついね!」

 

 パティルナの鞭を鎖で弾き、そのままパティルナへと向かう。それを体を回して避けられる。そこに追加の鎖が殺到する。そう、私の血で作られた鎖は私の意思を持って行動する。

 

「ほんとっ、化け物だね!」

「当然と言っておく」

「肯定された!?」

 

 頑張って鎖を弾いているところに接近して蹴りを叩き込む。

 

「ぐっ!?」

 

 パティルナは腕をクロスして吹き飛んだいった。その間に鎖を周りに飛ばして周りの兵士を殺しながら追撃を放つ。追撃は先端が刃になった物で四方八方から襲わせる。一時たりとも休ませない。それでも、流石は三銃士。立ち上がってこちらの攻撃を瞬間的に見切って最小限で回避しながらこちらに特攻してくる。

 

「あははは、楽しいね!」

 

 紙一重で避け……いや、避けられずに薄皮一枚を切られて傷を負っている。中には結構深い傷すらあるのにパティルナは気にせずに突撃し、剣と鞭で攻撃してくる。

 

「傷を気にしないか……」

「気にしちゃ勝てないしね!」

 

 足を狙って襲いかかってきた鞭をジャンプして避ける。その瞬間に突き出されてくる刃を状態を後ろに倒す事で避けながら、身体を捻って鎖を放つ。

 

「よっと」

 

 その鎖を鞭で迎撃してくるので、そのまま鎖の先端の刃を鎖を跳ねさせる事で首を狙う。だけど、首を傾げるようにして薄皮一枚で避けられる。何十回も繰り返し行われる。

 

「パティルナ様!!」

「パティルナ様を援護しろ!!」

 

 パティルナの援護に沢山の兵士達が駆けつけてきた。そいつらの装備は弓矢が基本でこちらに矢を射てくる。私は飛んでくる矢を鎖の輪っかで受け止めて弾く。直ぐに鎖を放って殺しにかかる。

 

「っ!?」

「防御しろ!」

「はっ!!」

 

 パティルナの指示で盾持ちの兵士が割り込んで盾で鎖を塞ぐ。鎖は盾を貫いてその身に突き刺さる。だけど、それだけ。その後ろの弓兵までは殺せていない。だから、そのまま鎖を引っ張って死体をパティルナに向ける。

 

「次は二人で盾を二重にして!」

「はっ!!」

 

 いつの間に気づけば周りに兵士が沢山遠巻きに居て、包囲網を形成している。でも、甘い。そっちがその気ならこっちもやるだけだ。

 

「アクセス……完了。該当領域にアシュラクーナによる殲滅攻撃を要請」

 

 私自身は鎖を盾として眉を形成し、上空から掃射される無数の魔導砲から身を守る。放たれた魔導砲は敵兵ごと施設を蹴散らして破壊する。

 

「くそっ、やってくれる!!」

 

 味方に庇われてなんとか防いだパティルナを殺すべく、近づく。

 

「これで終わり」

 

 満身創痍になっているパティルナを貫いて、その血を自らの力に変えようと思い、中が空洞になった注射器のような先端と管が内蔵されている鎖を作り、パティルナへと放つ。

 

「させません」

 

 だが、救援に入って来たエルミナが私の鎖を弾き飛ばした。ただ、そのエルミナ自身も満身創痍みたいな感じだからかなりましだ。

 

「ちっ。ララ、何をしている?」

「遊び過ぎたのです。それに撤退する時間なのですよ」

「……」

 

 レーダーを広域に展開すると大量の生体反応がこちらに向かってきている。その中に巨大な反応もある。

 

「充分すぎるほど敵兵力には打撃を与えたのです。なので、我々はこれより撤退するのですよ」

「確かにそうね。わかった……全軍、撤退。これより帰還する」

『……了解……』

 

 魔導機人やアシュラクーナより連絡が入り、私達は降りてきたアシュラクーナの背中へと取り付いて、足を乗せて空高くへと飛び上がる。

 

「パティルナ・シンク……」

「エルミナ・エクス……」

 

 私達はそれぞれに声をかけながら懐から新型の魔焔反応炉を取り出す。

 

「「プレゼント(なのです)」」

 

 そして、それを投げ捨てる。

 

「生きていたらまた会おうですの」

「ごきげんよう」

 

 私達は急いで帰る。後方の爆発を無視して。

 

 

 

「被害は?」

「魔導機人が9体ほど負傷で、廃棄が2体なのです。爆破してるのでそっちは安全なのです」

「アシュラクーナは?」

「そっちは装甲に多少の傷が着いただけなのです」

 

 もともと空からの攻撃だし、当然か。

 

「相手の被害は?」

「5712人が死亡、重症、軽症ぐらいなのです。そして、攻城兵器は全部破壊しておいたのです」

「そう。なら、こちらの任務は無事に達成したと考える」

「それで大丈夫ですの」

「後はセンタクスの街か……」

「マスターが居るので大丈夫ですの」

「ヴァイスもリセルも居るし……平気ね」

 

 私達はそのまま上空を移動する。しかし、私達は手段を選んでいられないとはいえ、リセルが怒るかなな……でも、混乱と被害を考えるとアレが一番だった。まあ、オルファンのやっている事も似たような物だし、問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 



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センタクス攻防戦①

明けましておめでとう御座います(遅
そして、お待たせしました。


 

 

 

 

 

 

 

 大量の重工業ゴーレムを運用して急ピッチで再建されていくセンタクス領。その速度は異常に尽きる。何故なら3週間程経ってほぼ完成しきっているという驚異の速度なのだ。もちろん、これはバーニエから毎週、追加で6200機も送られてきた事も原因だ。結局、今回のセンタクスに投入された重工業ゴーレムは2万前後となっている。

 

「しかし、エイダ様の過保護というか、親バカっぷりは凄いのです~」

「そうですね。こないだまでバーニエの生産能力をほぼ全て重工業用ゴーレムにあてていたらしいですからね」

「まあ、御蔭でセンタクスはどうにかなった。それにこの重工業ゴーレムは拠点防衛用と考えれば戦力としても数えられる」

 

 リューンとリセル、ヴァイスが現状を話し合っている。ちなみに重工業ゴーレムを戦闘用にするとシャベルで襲いかかったり、土砂や岩を投擲する投擲機として使える。

 

「どうでもいいが、そっちは問題無いのか?」

「ああ、街も随分活気が戻ってきた。むしろ、兵に志願する者達が多いな。今はエルカの所のラクリールが調練してくれている」

「軍事力は回復してきていると見ていいか」

「はい。防衛に特化こそしていますが、街の外に魔導砲を搭載した防壁も作成しています。投擲も行える重工業ゴーレムも合わせれば本体が到着するまでは耐えられるかと。それに防壁の前にはアレが存在しますから」

 

 リセルの報告であがった物はかなり非道い物だ。簡単にいえば堀なのだが、水が入っているのは変わらないが、そこに電撃発生装置がついているのだ。それを防壁とセットでセンタクスを二重三重に覆うように建設してある。そこに魔導砲を無数に搭載されればえぐさが理解できるだろう。

 

「それと、ミライ様達からの報告はどうなっている?」

「ああ……それか、どうなってる?」

 

 魔導機人に聞くと、報告が上がってくる。

 

「問題有りません」

「まあ、あの二人が失敗するとは思えないのですよ。それより、どれぐらい被害を出させたのかが知りたいのですよ!」

「リューン……」

「被害報告では、こちらは魔導機人が9体ほど負傷、廃棄が2体との事です。アシュラクーナに至っては装甲が削れた程度です。相手側の被害に関しては……5712人が死亡、重症、軽症ぐらいとの事です」

「流石なのです!」

「あははは……」

「あの方は……」

 

 リューンが喜び、リセルとヴァイスが頭を抱えている。まあ、理解はできるな。たった20の魔導機人とアシュラクーナに将軍クラス2名でだした戦果では断じて無いのだから。正に魔神の力を持つとしても納得できる。

 

「それと追加報告です。現在、大規模なユン・ガソル連合国の軍隊がレイムレス要塞を出陣し、こちらに向かってきているようです。到着は2週間後です。その一週間前にはララ様とミライ様が帰還予定です」

「あれだけの被害を出してもまだ攻めてくるか……」

「しかし、こちらには対策があります。それに……」

「リューンも居るのです。まあ、一度本隊に指示を頼めばいいとリューンは思いますの」

「そうだな。リセル、本隊に連絡してくれ」

「了解しました」

 

 ファラ・カーラの魔弾……撃たれるかどうかはわからないな。だが、そもそもオルファン元帥がファラ・カーラの魔弾に細工しているかどうかも分からない。その場合、ジルタニアに対してもかなり警戒が必要だな。いや、ちょっと待てよ……原作と違う理由でオルファン元帥が細工している可能性もあるな。まあ、そっちはそっちで面白いんだけど。それにミライも加わってるだろうしな。

 

 一週間後、伝達された情報によると、キサラに居る本隊が城塞都市ヘンダルムを落としたとの情報が入った。それと同時に俺達になんとしてでもセンタクスを死守しろとの命令が届いた。それに対する対応は全てヴァイス達に任せて、俺は壊れた魔導機人やララ、ミライのメンテナンスと調整に入った。二人はかなり無理をしていたようだしな。

 

「私達は戦わなくていいのか?」

「構わんよ、ラクリール。だって、本隊とユン・ガソル連合国の軍が同時に到着する感じだからな」

「私達は籠城していればいいという事か」

「そういう事。それにこっちだって負けていないしな」

「わかった。だが、緊急時には備えておく」

「よろしく」

 

 ラクリールが出て行った後、俺は作業を行っておく。最悪に備えて脱出用にルナ=ゼバルも用意しておく。

 

 

 

 

 

 エルミナ

 

 

 

 

 メルキア帝国センタクス領とユン・ガソルの最前線。その近くにある街道を遮るようにして展開している鉄色の軍団。我がユン・ガソル連合国が誇る重装歩兵。刃を通さず魔弾すらも防ぎきる重厚な鎧が列を成し、鉄壁と呼ぶに相応しい鋼鉄の兵団を組織している。その強固な彼らの後ろには投石機や大型弩砲(バリスタ)を始めとする大型攻城兵器郡。これらは魔導技術を工業へと転用したことで、圧倒的な工業生産力を手に入れたユン・ガソル連合国のみが可能とする大型兵器の大量投入。私達はこれによってレイムレス要塞を陥落せしめた。

 

「これだけの戦力を集めたのですが……」

「フリードとスティの予想通りだね」

「どうせ奪われる予定でした。問題は有りません。ですが、雪辱は晴らすべきです」

「エル姉は執念深いね~でも、あたしも賛成だよ。だけど、二人の言っていた事もちゃんと考えないと駄目だよ」

「わかっています。その為の準備はおこなってあります」

 

 メルキア帝国の新兵器の存在。それをフリードとスティアが教えてくれました。ですが、どちらにしろセンタクスの復興速度は異常と言って問題ないレベルまで復興しています。

 

「二人の報告に有りましたか?」

「ないねー。でも、彼らも言ってたけどバーニエの技術力は異常だってさ」

「そうですね。切り札も一応、預かっていますが……」

「出来れば使いたくないよね。未完成だしさ」

「ですが、そうも言ってられないでしょう」

 

 私は85名の者達の部隊と数万の軍勢の前に立つ。

 

「ユン・ガソル連合国の兵よ、これよりセンタクスに対して攻撃を仕掛けます。かの地を奪還した部隊は本隊から離れた別働隊。精鋭ではありますが、その数は決して多く有りません。どのような抵抗も、我が軍の前では無意味といいたいのですが、現在敵軍には増援としてメルキア帝国が開発した大量破壊兵器の存在が確認され、それを導入してくるとの情報がありました。よって、我々はセンタクスに対して予定通り攻撃を開始します」

「いい~? 予定通りだよ。わかったぁ~みんな~!!」

「「「「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!!」」」」

「全軍、戦闘開始!!」

 

 私の指示に従い、部隊は動き出す。85名が前に突撃し、残りが援護射撃を行った後の準備を行う。彼らの予想通りなら、85名の者達の生還は絶望的。その為、彼らの部隊は犯罪者を使っている。

 

「どうなるか楽しみだね、エル姉」

「メルキア帝国とユン・ガソル連合国……どちらが優れているか、見せてあげましょう」

 

 この戦い、勝つのは私達です!

 

 

 

 

 

 



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センタクス防衛戦②

 

 

 

 

 

 ユン・ガソル連合国が攻めてきた。俺達は城壁の上からあちらを監察する。相手の数は万を超える。それに対してこちらの戦力はなんとたったの936人。他はルナ=ゼバルや量産型魔導機人と大量の重工業ゴーレムだけだ。まあ、高い魔導防壁に深いギミック付きの堀が何個も作られているし、戦力差はどうにか出来るだろう。

 

「さて、エルカ。どうする?」

「決まっている。当初の予定通り籠城だろう。態々打って出る必要もないくらい防衛戦力差はあるだろ」

「そうだな。こちらから一方的に攻撃できる」

「はい。第一防壁に取り付けられた魔導砲の数は約5000門。等間隔にほぼ隙間無く設置していますから1回の攻撃で相手の大部隊を攻撃できます。攻城兵器など近づけさせません」

 

 そして、それはあくまでも第一防壁だという事だ。センタクスの周りを重工業ゴーレムの数とルナ=ゼバルのドリルに物言わせて掘りまくりこの辺一帯を盆地にしてやった。つまり、簡単に説明すると大きなクレーターの中心にある高台に城が存在し、段々と下がっていく毎に魔導砲が標準装備された魔導防壁が存在する。設置してある魔導砲にしても砲門が上下左右に動く可変式なので問題無く長距離攻撃も可能だ。

 

「隠し玉は大丈夫か?」

「本当にこんなのを使うのか?」

「面白いだろ。アクティブ魔導防壁」

 

 領地の殆どを改造して広げられたセンタクスの防壁の上や前などにはレールが接続されており、100メートルの魔導防壁が動き回って攻撃する。もちろん、破壊された場所を取り外してその魔導防壁をそこに嵌めれば修理は完了という超便利機能。最終的にはこれほどまでになった。後、この戦いが終わったら鉄道をセンタクスに設置して領地の移動をスムーズにする予定だ。

 

「面白いが……この技術が敵の手に渡れば大変な事だな」

「おいおい、ヴァイスはバーニエと敵対する気なのか?」

「いや、そんなつもりは“今の所”は無い」

「今の所は、か。まあいい。バーニエを……いや、俺と母さんを裏切ったらどうなるかは分かっているだろう?」

「もちろんだ。だが、お前達が道を踏み外すならばどのような事になろうと正すのが友としての役目だろう」

「はいはい。じゃあ、そうならない事を祈ろうか」

「全くだ。バーニエの技術力は桁違いだからな」

「そうですね。数世代は先を行っています」

 

 リセルとヴァイスは技術革新を警戒しているが、まあそれもわかる。今のバーニエは兵力こそ少ないが、隠している物も含めればその戦力はキサラを軽く凌駕し、メルキア帝国の皇帝が指揮する帝国軍と同等だろう。量産型魔導機人を乗せた陸上魔導戦艦はそれ程までに恐ろしい。ゲームでは調整されていたがこちらではそんなの存在しない。あの質量が高速で突撃するだけでも敵軍の被害は甚大なのだ。ましてや、空を飛ぶ魔導戦艦が完成すればバーニエ一領でメルキア帝国の帝国軍と領主軍を相手に戦えるだろう。キサラがあちらについてもだ。ディナスティとセンタクスをこちらに引き込めば勝利は確実と言いたい。だが、問題はファラ・カーラの魔弾だろうな。

 

「あっ、どうやらお母様達が帰ってきたようですよ」

「ん?」

「あそこだね」

 

 リセルの声に空を見上げるとアシュラクーナに乗った量産型魔導機人とそれを率いていたララとミライさんがこちらに飛んでくる。

 

「とぅ」

 

 ララがわざわざ声を上げてアシュラクーナから飛び降りて防壁の上に着地する。すぐ横にミライさんも降り立った。ララは俺に敬礼をするがミライさんはそのままだ。

 

「ただいま帰還しましたマスター。遅くなって申し訳ないのです。ユン・ガソル連合国の威力偵察を終了したのです」

「ご苦労様。そっちは構わないよ」

 

 彼らの部隊にはユン・ガソルの威力偵察と、布陣を調べて来てもらていたのだ。まあ、威力偵察の方は空からの一方的な嫌がらせなんだがな。

 

「ただいま、2人共そっちは大丈夫?」

「もちろんです」

「はい。ご無事でよかったです」

 

 リセルは母親を抱きしめて身体を触って確認している。傍から見れば姉と妹だ。もちろん、妹の方が母親なのだが。

 

「アシュラクーナと魔導機人達は全員魔導機区画にあるルナ=ゼバルでメンテナンスと補給を受けろ」

「「「了解」」」

 

 空から俺の命令を聞いたアシュラクーナと魔導機人はすぐさまルナ=ゼバルに帰還していく。それを見送った後、俺は改めてララに向き直る。

 

「身体は平気か?」

「問題はないのです。でも、出来たらオーバーホールをして欲しいです」

「そうか。なら、とりあえず奴等を退けてからだな」

「やったです」

 

 オーバーホールは人間にとってのお風呂みたいな感じだ。普通のメンテナンスがシャワー感覚だな。まあ、こんな事は置いておいてずっと遠くに布陣しているユン・ガソルの連中を改めて見詰める。

 

「どうやら進軍を開始したみたい」

 

 ミライの言葉にあちらを見ると確かにユン・ガソルの兵が進軍を開始してきた。

 

「だが、数が少ないな」

「よく見えますね……どうしますか、ヴァイスハイト様?」

「攻撃を開始……いや、引き寄せた方が良いな」

「有効射程は1キロくらいだし、もっと引き寄せた方が確かにいいね」

 

 しばらく待っていると馬に引かれた馬車が何台かこちらに突撃してきた。明らかに数が少ない。だけど、あの中に人が居ればそれはそれで鬱陶しい。

 

「ララ、熱源を調べろ」

「はいなのです。あの中は……無人なのです」

 

 ララに熱源を調べさせると空な事が判明した。だが、エルミナがあちらに居るのだから絶対に何かを仕掛けて居るだろう。あのエルミナが何も仕掛けていないなんて有り得ないだろう。

 

「様子見なのだろうが、撃破した方が良いな。荷物はどうだ?」

「荷物はあるわね」

 

 ヴァイスの言葉にミライさんが返事をする。しかし、尚更怪しいな。

 

「ちょっと試して見るか」

「頼む。魔導防壁は一度放つと全ての砲が連動するからな。正直に言って勿体無い」

「だな」

 

 俺はヴァイスの言葉を聞きながらゴーグルを付けてアンチマテリアルライフルを構えて発砲する。爆音と共に発射された弾丸は馬車の屋根を貫いて吹き飛ばし、大爆発を起こした。

 

「中に火薬と発火用の魔法陣でも乗っけてるのかね……」

 

 適当に何個か撃って判明したのは爆発する物と爆発しない物があるという事だ。これは非常に面倒といえる。どれが爆発するか見分けられないのだ。

 

「しかし、送られてくる数は少ないが継続してきているな」

「面倒な……」

「エルカ、悪いが魔導機人達に狙撃を頼んでいいか?」

「まあ、そっちの方が効率的だな。いや、どうせなら魔導砲を装備させた兵士達に的当てをさせようぜ」

「なるほど。それならば確かに兵士達の訓練になります。ヴァイスハイト様、理にかなっていますが、どうでしょうか?」

「それでいい。リセル、頼む」

「はい。直ぐに」

 

 リセルは金属管で作られた通信装置である伝声管(でんせいかん)で矢継ぎ早に指示を放っていく。俺はその間に狙撃を行なっていく。だが、対応はしきれない。

 

「私がやる」

「ミライ様は帰られたばかりでは……」

「問題無い。任せて」

 

 手首を切って大量の血を流していく。それらは直ぐに真紅の鎖へと変わって俺が撃ち漏らした馬車を破壊していく。いや、それもただの破壊じゃない。馬車が爆発する前に鎖で掴んで敵陣の方へ放り投げている。もちろん、命中はしないがどんどん送られてくる馬車を破壊できるし、妨害できるので問題はない。

 

「しかし、幾らなんでも消極的過ぎるな」

「そうだな。だが、俺達にはセンタクスを防衛するしかない。本隊が到着するまでな」

「まあね」

 

 それからしばらく睨み合いが続いた。本来なら有り得ない事だ。奴等はこちらに援軍が来る事が分かっているはずなのにあちらから構成を仕掛けて来ないのだ。まさか、このまま撤退する気なのか?

 そう思っていたが、結局一週間もの間、殆ど何もして来なかった。そして、皇帝率いる帝国軍とキサラ軍がこの地に到着した。それと同時にファラ・カーラの魔弾が本陣よりユン・ガソル連合国の陣へと放たれ、巨大なクレーターを作成しやがった。もちろん、こちらも暴風で非道い事になったが、言ってしまえばそれだけだ。

 

「アレはなんだっ!!」

「新兵器だろうね。皇帝が何か作成していたのは知っていたけど、いや~こんなとんでもない代物とはね」

「それより、ヴァイス」

「ああ、分かっている。リセル、準備は出来ているか?」

 

 ヴァイスが被害の報告を聞きながら返事をしてくれる。非常に優秀だなリセル。

 

「はい。こちらは問題ありません。センタクスの防衛機能は殆ど無傷です。むしろ城や街の方が被害が大きいですね。爆風でガラスが割れたりしたそうです」

「そうか。掘っていて正解だったな」

「味方の攻撃で分からされてもねー」

「それはそうだが。それよりも……来るぞ」

「ああ、ここからが本番だ」

「そうですね。ヴァイスハイト様」

「ああ。全軍、ユン・ガソル連合国が攻撃を仕掛けて来るぞ! 存分に注意しろ!!」

 

 伝声管を使ってヴァイスが伝令を放つ。ファラ・カーラの魔弾でユン・ガソル連合国が消滅した?

 そんなのは幻想だ。だって、あの陣に人は殆どどころか“20人”くらいしか熱源反応が無かったのだから。そう、奴等は分かっていたのだ。ファラ・カーラの魔弾が放たれるという事を。故に適当にしか攻撃しなかった。そして、遠くから雄叫びと共に大量の敵軍が本隊とセンタクスに別れてやって来る。こちらにやって来る数は約8万。本隊にはどれだけ行ったか分からないが尋常じゃない数だ。

 

「メルキア帝国、センタクス領の実力を見せてやるか」

「楽しそうですね、ヴァイスハイト様」

「まあ、防衛力に関しちゃ、この倍は連れて来いって堂々といえるしねー」

「倍じゃないだろう。50万でも耐えれるさ」

「魔導炉が耐えられる限りという条件を無視すればですけどね」

「あはははは」

「リセル、魔導炉はエルカに作らせればいいんだ。つまり、現状は何も問題無い」

「非道いな。まあ、確かに作れるけどさ」

 

 そんな会話をしていると、ユン・ガソル連合国の兵士達がファラ・カーラの魔弾で出来た坂を下って一斉にこちらにやって来る。そいつらが第一防壁まで残り400メートルまでやって来ていた。

 

「第一防壁、攻撃開始!」

「了解。撃て」

 

 ヴァイスの指示を受けたリセルが伝声管を通じて第一防壁に連絡を入れる。その直ぐ後に5000門からなる魔導砲が地獄を展開するべく轟音を放ち、敵兵を蹂躙していく。それは正に人がゴミのようだと言える光景だった。うん、ヘッドフォンを付けてないと耳が痛くなるね。

 

 

 

 

 



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パティルナVSガルムス

 

 

 

 

 

 パティルナ

 

 

 

 

 アタシは部隊を率いて、メルキア帝国軍本隊へと攻撃を開始する。アタシの部隊は総勢5100の騎馬で構成された部隊だ。強靭な身体に鉄の鎧を装備した馬による突撃はかなりの威力がある。この部隊は魔法技術による身体強化を馬と隊員全員に行ってようやく運営できる防御力と攻撃力。それに咥えて機動力を強化した特別な精鋭部隊だ。

 

「みんな、張り切って行くよ! あっちがお披露目してくれたようにこっちもお披露目しちゃうんだから! 目標、本陣! 突撃~~~~~!」

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」

 

 相手の新兵器で出来た場所を迂回して敵の本隊へと突撃する。

 

「ユン・ガソルの雑兵共に遅れを取るなぁ!! 飢えた獣の如く全てを喰らいつくせ! 赤き月よ、血に飢えし者達を狂乱へと誘え!」

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」

 

 女性の声が言葉が聞こえると同時に赤い光を纏った連中がこちらに突撃してくる。そんなに簡単に行かせてくれないか。

 

「第四、第五部隊は目標を変更。鮮血の魔女を討って!」

「「はっ!」」

「残りはこのまま突撃!」

「「「おぅっ!!」」」

 

 アタシの部隊の一部が鮮血の魔女へと方向を変える。方向を変えた皆は弓を取り出して馬を走らせたまま放っていく。放たれた矢は命中すると同時に小さな爆発を起こして敵兵を弾き飛ばしていく。それでも狂乱された者達は気にせずに追ってくるだろう。

 

「後ろは気にしちゃ駄目だよ!」

「はっ」

 

 そして、本隊の近くまで突撃すると当然のように立ちはだかる存在がいる。その人の一撃で騎馬の速力が粉砕されて、前方が吹き飛ばされる。

 

「三銃士よ、儂自らが相手になってやろう」

「やっぱ出てきたねおじいちゃん! 年齢考えてよね!」

「ふははは、儂はまだまだ現役よ!」

「元気なおじいちゃんだ! みんな、ガルムス元帥はアタシが抑えるから今の間に帝国の新兵器を破壊して!」

「「「はっ!!」」」

 

 ボクは騎馬から飛び降りてメルキア帝国元帥、ガルムス・グリズラーと対峙する。もうかなり歳をとっているのにその武は異常という言葉に尽きるよね。

 

「ユン・ガソル連合国、三銃士が一人、パティルナ・シンク! いざ尋常に勝負!」

「来い、メルキア帝国元帥、ガルムス・グリズラーが受けて立ってやるわ!」

「行くよ!」

 

 アタシは普通の武器ではなく、ステイが作ってくれたとっておき魔法武器を使って勝負する。こいつはグラビティーコメット。剣から伸びた鎖によって鉄球が繋がれている。剣を持って、鎖を掴みながら鉄球をおじいちゃんに向けて放つ。

 

「ぬるいわっ!!」

 

 かなりの速度で迫る鉄球を簡単に避けるおじいちゃん。でもね、甘いんだよ!

 アタシは鎖を操作して再度鉄球を放つ。やっぱり、見切って最小限で回避を選択する。

 

「腕力は関心するがその程度では……ぬっ!?」

 

 グラビティーコメットがアタシの意思に従って急激に早くなり、おじいちゃんの予測を狂わせて命中する。でも、直ぐに槍で防ぎに掛かる。だから、アタシは一気に鉄球の重量を増やす。

 

「10倍!」

「ぐぅぅぅぅっ!?」

 

 質量も増大した強力な一撃を受けておじいちゃんが吹き飛んでいく。アタシは即座に軽くして追撃をかける。走りながら距離を見極めてどんどん攻撃力していく。決して槍のまわいには近づかない。

 

「なかなかやりおるわい」

 

 おじいちゃんは地面に槍を突き刺して速度を殺してなんとも無かったかのように立っている。少しはダメージが入ってるだろうけど、化け物だよね。

 

「全く、とっておきの魔道具を使ってこれとか、とんだおじいちゃんだ」

「儂も流石に自ら飛んで衝撃を殺さねば腕や槍が折れていたであろうな」

「ちぇー」

「次はこちらの番だ」

「そうだけど断るよ!」

 

 アタシは連続で攻撃していく。時間を稼げればそれでいい。だって、こっちの方が数が多いし、あちらは連戦なのだ。戦力の大半を温存していたアタシ達と違って向こうはそうは行かない。何より、もう一つの切り札の準備が出来るしね。ふっふふ、さっきみたいな新兵器が自分達だけだと思わないでよ?

 目に物を見せてあげるんだから。

 

 

 

 

 

 

 



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ユン・ガソルの切り札、その1

 

 

 

 

 防壁の上から見れる相手陣営に変化が起きた。それも尋常ではない。というか、かなりやばい。

 

「おい、あれは……」

「やってくれるなっ!」

 

 敵陣営で起き上がる巨大な存在。それは恐竜のような存在で、真っ黒な存在。それが複数立ち上がってくる。全部で4体。その正体はルン=フィアレスだ。数十メートルもある巨体だが、何より厄介なのがある。いや、それ以前に……

 

「ルン=フィアレス。薙ぎ払いなさい!」

 

 エルミナの命令により4体のルン=フィアレスが口を大きく開いて光線を放つ。放たれた光線は文字通りメルキア帝国の軍勢を薙ぎ払っている。

 

「やばいぞこれはっ!」

「直ぐに救援を……しかし、これはまずいです」

「待て、よく見ろ」

「あれは……溶けてますね」

「早すぎたんだ……」

 

 そもそもユン・ガソル連合国に歪竜が居るのがおかしい。歪竜とはオルファン元帥が未来に開発した物だ。歪竜とは数多の力を集結させて混ぜ合わせた強大な魔力。それに強大な力の受け皿になる強靭な肉体。魔力と肉体を制御し、一つの個体として制御する核。これら3つの要素を集約させた最強の魔法生物だ。それが色々と改造されているようで、巨神兵ならぬ巨神竜になっている。まあ、俺という存在や、ラナハイムの怪しい奴らを考えれば転生者かトリップ者、憑依者が居るのだろう。メルキア帝国に俺が居るように。

 

「まあ、アレを倒さなくては負けるぞ」

「だな。ラクリール!」

「なんだ?」

「狩りに行くぞ!」

「了解した」

 

 ルナ=ゼバルを突撃させて連中を倒すしかない。

 

「ルナ=ゼバルで突撃する。最低限の防衛部隊を除いて全員で行こう」

「そうだな。全軍、ルナ=ゼバルに搭乗させよ」

「はい!」

 

 リセルが指示を出していく。直ぐに俺達はルナ=ゼバルに搭乗して敵陣へと突撃する。センタクスから出て敵陣へと突撃する。ユン・ガソルの連中を薙ぎ倒し、一体にルナ=ゼバルを横這いから突撃させて切り裂き、体内に砲撃して1体を落とす。しかし、同時にルナ=ゼバルは航行不能になるが仕方ない。

 

「エクリール!」

 

 艦長席からエクリールに指示を出す。指示に従い、ラクリールが目を瞑り、天に掲げた長刀に膨大な魔力を収束させていくラクリール。剣を通して頭上に放たれた光線は途中で雷雲と合流し、四方八方へと枝分かれを繰り返して改めて審判の落雷としてルン=フィアレスに膨大な数の雷が直撃する。

 

「ちっ、仕留めきれんか」

「全員、降りて戦うぞ!」

「「「はっ!」」」

 

 2体目を攻撃全力で攻撃する。敵の攻撃はルナ=ゼバルに襲いかかる。この際仕方ないので盾にして戦う。ルン=ファレスの攻撃は本陣を優先しているのでなんとかなっているが、残り3体も居る。魔導歩兵達による砲撃によりなんとか2体目を倒す。

 

「親衛隊、ルン=ファレスを守りなさい!」

 

 しかし、エルミナがそう簡単に許してはくれない。

 

「ここで会ったが100年目なのです!」

「お前は、あの時の! よくもあの時はやってくれましたね!」

「ここで決着をつけてやるのです! 魔導エンジンフルドライブ!」

「くっ!?」

 

 炎を撒き散らかし、この世の地獄を再現するララ。炎によって大地は焼けて溶かされていく。その中をエルミナは逃げたり、地形を利用して反撃したり部隊を指揮しつつララを防ぐ。

 

「ミライ様、あのデカ物を止めてください」

「任せて」

 

 大量の鎖を作り出してルン=ファレスを拘束するミライさん。本当に自分で作ってなんだけど、かなりやばいくらいの能力だな。

 

「ってか、ラクリール!」

「何よ!」

「鎖に向かって雷撃! それでダメージが上がる!」

「そうか、ミライ様、鎖を地面にも」

「そうね。ラクリール、やって」

「わかった!」

 

 大量の落雷を降らせ、鎖を通して拡大していく。そんな中でもルン=ファレスは攻撃をやめない。

 

「うりゃあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 そして、そのうちの1体が元帥によって切り裂かられた。絶対に有り得ない現象だ。まさに化物といえる。俺も奴の瞳を狙撃したりして行動を妨害する。

 

「残り1体だ! このまま押しきれ!」

 

 攻撃する度に崩壊していくルン=ファレス。製造がまだ甘いのが救いか。

 

「ちっ、しかしここまでか」

「よくやりましたね。ですが、まだです」

 

 遠くの方から大量のディケイルがこちらを目指してくる。ルン=ファレスすら時間稼ぎかよ。これはまずいな。

 

「ユン・ガソルの兵よ、後退しますよ!」

「むむ、逃げるのですか!」

「こちらの攻撃はまだ終わりではありません!」

 

 煙幕などを展開して逃げる三銃士や兵士達。だが、それらに対応する間もなく、俺達にはディケイルとの戦闘を行わなくてはいけない。

 

「ぬしら、無事か」

「ガルムス元帥!」

「無事のようだな」

 

 ご老人とベルがやって来た。

 

「皆の者、良く聞けぇぇぇっ! これよりセンタクスに撤退する! 増援は来る。それまで持ちこたえるぞ。良いか!」

「はっ。センタクスの防御力はかなりの物です」

「よかろう。最悪の場合は皇帝陛下の撤退の時間を稼がねばならん。我らがセンタクスにて殿を担当するのだ。エイフェリア元帥が来るまでな」

「母さんか……なら問題なさそうだね」

 

 というか、早く来そうだな。

 

「ラクリール、ララ、撤退する。ララは全開の一撃をディケイル達にぶち込んでやれ」

「了解なのです」

「仕方ない。撤退の援護する」

「ふふ、頼むです。おりゃぁああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 巨大な炎剣が文字通りディケイルをなぎ払い、巨大な炎の壁を生成する。

 

「ヴァイス!」

「全軍センタクスまで後退!」

 

 ラクリールがララを持って撤退する。どうにかセンタクスまで逃げ込めた。皇帝陛下もここに一旦逃げ込んでいる。ファラ・カーラもここにあるのだろうが、場所はわからない。

 

「さて、ヴァイスハイトよ、ここの装備でどれだけ持つ?」

「それは私よりエルカから説明させましょう」

「ふむ。貴様がエイフェリア元帥の娘で秘蔵っ子か」

「まあ、そういう扱いだね。ここの防備なら魔導炉の魔力が尽きるまでだから一週間は常に打ち続けられるけど、必要はないね」

「ほう?」

「どうしてだ?」

「だって、もう援軍が来たし」

「ふっふふ、流石はエイダなのです」

 

 遥か遠くの空に見える点。それはどんどん大きくなってくる。

 

「うそっ、空を飛んでいるんですか!?」

「馬鹿な……」

「ふはははは、こんな隠し玉を用意しておったのか!」

 

 そして、船がキラッと光るとビームが飛んできて、ディケイルを今度はこっちが薙ぎ払った。それに加え、船から無数の魔導榴弾砲などが撃たれ初めて、艦底からは数百機にもなるアシュラクーナがこれでもかと発進させられる。しかも装備が違うのか、魔導銃ではなく魔導砲を搭載していて、容赦ない砲撃を与えていく。

 

「凄いな」

「しかもまだ終わんないみたいだ」

 

 近付いて来た船……ヴァリアントはハッチを開いて中からルナ=ゼバルを2機吐き出した。空中にだ。そのルナ=ゼバルは空中でパラシュートを展開して速度を殺し、着地と同時にパラシュートを焼却して敵陣を薙ぎ払う。揚陸艦みたいだ。というか、ゲームと違ってかなり巨大な気がする。そして、何より全身魔導鎧の魔導機動隊が翼を展開して降下しながら砲撃をアシュラクーナと共に行なってくるのだ。その移動速度もホバーリングしていて、スムーズに動いて馬並みの速度を出して瞬く間に連携して撃破していく。ルン=ファレスが最後の抵抗とばかりに口を開くが、そこに一条の光が貫いて、消滅させる。まさにビーム兵器。それを撃った存在はヴァリアントの甲板で立ちながら、砲撃を行った槍の先端が左右に割れた音叉のような武器を持ち、緑の髪を靡かせている。この身体の以上スペックだからこそ見える。

 

「ふぅ……お前ら、私の大切な子に何しようとしてくたのか、たっぷり教えてやる。バーニエ全軍に通達。構わん、殲滅しろ。アシュラクーナ隊は全て敵本陣に特攻させて自爆させろ」

 

 拡声器で放たれた言葉は親バカっぷりでありながら、容赦ない事だった。数百体、下手をすれば千体のアシュラクーナがユン・ガソル兵に襲いかかる。まあ、ユン・ガソルもヴァリアントが現れた瞬間に撤退を行い出していたが、相当な数の被害を出した。お互いの国で戦死者は数万を超えるだろう。

 

「エイフェリア元帥め、頼もしくなっておるな」

「マスター、いいのですか、アレは……」

「構わん。帝国の為になる」

「ベル、エイダ様は素晴らしいのです! 私のマスターであり、エルカの母親なのですから!」

「ふん。とんだ親バカだな」

「しかし、納得できたな」

「ヴァイスハイト様、どういう事ですか?」

「こいつの母親だけはあるという事だ」

「ああ、なるほど」

「納得するなよ!」

 

 ここまでしないと……思う。思いたいな。

 

「マスターは絶対に嬉々としやるのです」

「そうね。作ったばかりで手に入れたばかりの玩具を絶対使うわ。私にしたように」

「あははは、ナンノコトカナー」

「諦めなさい。事実でしょ」

 

 ミライさんにも言われたけど、まあやっちゃうだろうな。うん、科学者の業だね。作ったら試さずにはいられない。自重しないお母様だ。ふむ、しかし……これは、いいね。俺は冥府の神でもあるアテナの神殺し。ここには大量の魂魄が存在している。いずれはタルタロスの所へいくのだろうが……頂戴してくれる。

 

「ちょっとルナ=ゼバルを回収してくるよ」

「お一人で大丈夫ですか?」

「護衛にラクリールとララを連れていく。行くよ」

「了解なのです」

「人使いが荒い……」

 

 ラクリールとララを連れていき、ルナ=ゼバルの周辺でバレないように魂を大量に回収する。両軍合わされば10万に行く量の魂は格別の力を生み出してくれる。

 

「マスター?」

「エルカ……貴方……」

「ふふふ、はははははははっ!! いいね、今までの身体が嘘みたいだ! 力が、力が溢れてくる! 信仰を集める連中の考えも分かるよ。でも、どう考えても体内で飼った方が効率的だ。意識を消滅させ、純粋なるエネルギーへと変換する。そもそも俺は古き女神の肉体を持つ。現神どもとは違うが、これはこれで使えるな」

「「っ」」

「ああ、お前達にも力を後で与えようか。ラクリールには言ってなかったっけ? 俺は神殺しだ」

「聞いてないわよ!」

「それでお前は俺の眷属。やったね」

「あぁ、クライス様……」

「マスター、マスターは変わられるのですか?」

「んにゃ、変わらない。俺は俺だ。力が覚醒しようともな」

「じゃあ、これからも同じように過ごすのです?」

「そうだな。ただ、本格的にラナハイムを潰しにかかるか。ユン・ガソルはヴァイスに任せればいいだろう。しばらくは大人しくするはずだ。ああ、ザフハでネネカは欲しいな。でも、コロナも欲しいし。うん、やっぱりヴァイスに頼めばいいか。代わりに母さんに頼んでいっぱい戦力を与えればいい」

「ら、ラナハイムを攻める? 待て、頼むからそれだけは止めてくれ! 私はそれをさせない為に……」

「嫌だ。といいたいが、いいよ。でも、あちらが仕掛けてこなければの話だ。もし、向こうから仕掛けてきたら俺は容赦しない。いや、そうだな。お前がラナハイムと戦うんだ」

「っ!? わ、わかった」

「このままラナハイムが野心を出さずに大人しくしている事を願うんだな。そうすれば……ああ、どうせならこちらから同盟の話を持ちかけてやろう」

 

 どうせ、ザフハと戦う時の尖兵は必要だからな。ラナハイムの人間を使えばいい。今回の事でキサラは兵力が格段に減った。メルキア帝国軍もだ。無事なのはバーニエとディナスティだけだろう。これから楽しくなるな。

 

 

 

 

 

 

 



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姉妹機

 

 

 

 

 

 ユン・ガソル連合国を退けた俺達を待っていたのは皇帝陛下との謁見だった。いや、まあヴァイスハイトだけだけどな。俺は母さんと謁見だ。

 

「無事で何よりだ」

「母さんのお陰だ。まさかあんなのを用意しているなんてな」

「私ももしもの為に用意しておいたんだがな。ルナ=ゼバルも1機大破か」

「ごめん。壊した」

「構わんよ。お前達が無事ならそれでいい。それに代わりを持ってきたしな」

「2機だっけ?」

「1機はジルタニアに譲渡する。ヴァリアントに関してはまだ未完成だからな。それよりも、だ」

 

 母さんは真剣な表情をする。そして、窓から見つめる先にはファラ・カーラの魔弾を搭載しているルナ=ゼバルの姿があった。

 

「ファラ・カーラの魔弾か」

「どう思う?」

「危険だね。あれはまだ手にすべき物じゃない。現神の介入を招く事になるだろう」

「やはりか」

 

 それに今介入されると非常にまずいんだよな。俺の正体がバレる。はっきり言ってまだまだ戦力が足りない。

 

「なら、アレの破壊に賛成するか?」

「もちろん」

「ディナスティも賛成してくれている。ならば、やるぞ。幸い、敵になりそうなキサラの勢力は先の戦いで激減している。ユン・ガソル連合国もそうだ。しばらくは攻めてこれまい。その間に逆らうならキサラを平定する」

「あのおじいちゃんと事を構えるのか。まあ、皇帝もついでに始末しよう。代わりはヴァイスが居る」

「そうだ。ディナスティはヴァイスハイトを新たな皇帝に押すだろう。私もバーニエの元帥として押す。反対はキサラくらいだろう。不在のセンタクスは問題あるまい」

「で、どうやるの?」

「あのルナ=ゼバルには自爆装置が積んである。それも特大のだ。それの発動と同時にヴァリアントに搭載させた主砲で一気に始末する」

「簒奪すると」

「これも愛する子の為だ。現神を招くわけにはいかない。そうだろう、エルカ。お前は神殺しなのだから」

「知ってたんだ?」

「ララの作成。あんなものを普通は作れるか。動力に神格を使って普通に居る時点でありえん。乗っ取られるか暴走するのが関の山だ」

 

 確かにアレはやりすぎたか。でも、知ってて匿うんだ。

 

「エルカは私の子供……家族だからな。家族を守るのは当然だろ」

「ありがと。じゃあ、やっちゃおうか。ボクが最初に攻撃を仕掛けるよ。神殺しとしてね」

「いや、既にオルファンがディナスティの勢力を航行ルートに配置させている。大人に任せておけ」

「わかった。それじゃあ、俺とヴァイスハイトは……」

「ザフハ部族国など敵対国を相手してくれ。その間に国内は片付ける」

 

 魔導戦艦の開発が終了した今、バーニエが本気で動くか。それもディナスティと組んで。これは原作乖離も凄まじいな。殆ど順番が逆転してるよ。

 

「では、私は準備してくる。リーンは連れていくが、大丈夫か?」

「大丈夫、任せてよ。ラウルバーシュ大陸中原、全て俺とヴァイスハイトでメルキア帝国に変えてみせるよ」

「よく言った。魔導戦艦は量産に入っている。そちらにも回す予定だから期待して待っていてくれ」

「了解」

「くれぐれも気をつけろよ」

 

 抱きしめられる。そのまま身を任せていると、少ししてそのまま離れて出て行った。

 

「ラウルバーシュ大陸中原制覇。その為にもやはり、ラナハイムには消えて貰おうか。その為の手駒、ルルを作成するとしよう。ララの稼働データと実戦データは充分ある」

 

 渡されたルナ=ゼバルに移動すると、魔導工房がそのまま設置されていた。ここでの開発などは難しいかも知れないが作成などは可能だ。とりあえず、ララの姉妹機であるルルを作成する。身長は確かララよりも微かに大きかった。10cm大きいだけだから156cmだな。髪の毛は青みのかかった銀色で瞳は水色。手にはガントレット。これには小型魔導炉を搭載して出力を上げてしまえ。服装は首の機械からスクール水着の肩がない版……ララとは色違いだな。他の機械類も原作をメインに作成する。基本的にはヴィーナスブラッド・ガイアと同じだが、つなぎ目をなくして出力を徹底的に上げてある。ララもバージョンアップする予定だしな。

 ルルの武器はエーテルアックス、エネルギーでできた斧だ。だが、流石にまだそんなのは作成できないので実体の武器にする。ルルの特性はララと逆で氷にする。ララが炎だからな。斬った切り口から動力を送り込んで血液を瞬間凍結させる。他にもスカートのような四つに別れている機械には補助装置と演算装置にして、周りを凍結させて氷柱を作成する補助も出来るんようにしよう。頭のパーツは高感度センサーして、宝玉は小型魔導炉とレーサー兵器にして……ファラ・カーラなんて目じゃねえよ。まあ、力を抑えるから大丈夫なはずだ。妨害用の術式も入れておこう。他にもララとのリンクシステムを搭載する。

 

「マスター、そろそろ休むのです」

「ん?」

「もう一週間は寝てないのです」

「もうちょっとだから。それにこの子の後はララのバージョンアップだ」

「寝ないと駄目です」

「じゃあ、この子が完成したらな」

「むう。なら手伝うのです。ララの妹なのですから」

「じゃあ、よろしく」

 

 気が付いら時間が過ぎていたようだ。とりあえず、ルルを完成させてから一度眠る。

 

 

 三日ほど寝続けて起きてからルルを手足や武装をはずした状態で起動して、ララと同じように犯しまくって性魔術で勝利し、邪魔な神核の情報をデリートする。

 

「ふふ、この子がララの妹なのです。お姉ちゃんですよ!」

「……」

「状態はどうだ?」

「問題ありません、マスター」

「こら、ルル! ララにも返事するのです」

「黙れポンコツ」

「なっ!? お姉ちゃんに向かって……」

「大体貴様は旧式なのだ。これからマスターの役に立つのは最新型の私だ」

「ぐぐぐぐ、マスター! 早速バージョンアップをお願いするのです!」

「了解。それとルル。ちゃんとララの事を姉と認めろよ」

「む。マスターの命令ならば仕方ない。感謝しろ、姉」

「可愛くないのです!」

「原作と変わらんな。よし、仲良くしろ。姉妹機のリンクシステムが使えないだろう。お互いの波長を合わせないといけないんだからな」

「それは問題ないのです」

「問題ないな」

「なぜに?」

「「マスターの為ならば(だからなのです)」」

 

 最重要事項に設定してあるからか。まあ、ならリンクシステムは大丈夫か。メドローアシステムとも言うがな。

 

「さて、ララのバージョンアップをするか」

「申し訳ありません、マスター。その前に情報をもらわないと行けません」

「む。そうなのです。無線はまだララにはないので有線で渡すのです」

 

 ルルの首輪のようなリングパーツにララが髪の毛から伸びているコードを接続する。数秒でデータが移ったのか、動きを止めていた2人が活動を再開する。

 

「情報の習得を完了」

「では、マスターの事はお願いするのです」

「任せろ」

 

 ララがベッドに横になる。俺はララの身体を開いていき、頭部を外して脳と心臓部を取り出して保存する。そして、改めて身体の作成に入る。といっても、ルルのを作るついで粗方作成しておいたので問題ない。全てはバーニエの技術力が急速に伸びているせいでもある。ララを作った当初から急激に技術が進化し、搭載される魔導炉も高水準なものになっているし、使える部品も多いのだ。無線のシステムとか、バーニエで作成されたものだ。距離こそまだ短いが、こちらが作成したネットワークを元にしているのだろう。ネットワークを改造して誰でも使える物にしているし、無線機を開発したり、研究所同士などバーニエ市内限定だが、インターネットすら開発したようだ。

 

「バーニエはやっぱすごいな」

「現在、バーニエでは!魔導機人の作成が人気だそうです」

「なぜに?」

「単純に人間と同じサイズで高出力ですし、ネットワークにより知識をダウンロードできますので、鍛冶をさせたり、重機の入れない場所で働かせる事ができますから。それにバーニエの殆どが研究者で人手は不足していますし、何より危険な実験も可能ですから」

「まあ、そうか。意識を持つまでは至って居ないので、私達と同じにして欲しくはありませんが」

「じゃあ、意識のある魔導機人はエンブリオって名前にしようか」

「そうですね。そちらの方がありがたいです。我々はその気になれば魔導機人を支配下に置けますから」

「……バーニエの制圧にどれくらいかかる?」

「約6時間もあれば細部まで完全制圧が可能です」

「絶対に敵の手に渡るな。最悪、重要な部分を転送させて自爆しろ」

「了解しました」

 

 重要な部分さえあれば修復は可能だ。神核さえあればどうとでもなる。脳のデータはバックアップがあるからな。常にバックアップを別の所に保存するようにしているので大丈夫だろう。

 

「ああ、そういえばヴァイスハイトが呼んでいたそうです」

「おい」

「経過から話せば簡単です。皇帝陛下が乗ったルナ=ゼバルが襲われ大爆発を起こし、仇を撃つ為に前方を飛行して警戒に当たっていたヴァリアントが反転し、砲撃を行ったそうです」

 

 ああ、殺ったんだ。

 

「皇帝陛下は確実に死んだのか?」

「同時に搭乗して消滅した魔導機人が確認しております。跡形もありません」

「そうか」

 

 まあ、あの転移できるくそ爺の事があるし油断はできないが、これで大丈夫だろう。すくなくとも隠れるはずだ。なんてったって、今のバーニエの戦力ははっきり言って、単身でメルキア帝国全軍と対等に渡り合えるはずだしな。レウニィアに援軍を求める事も可能だし。

 

「じゃあ、ヴァイスには来週の頭にそっちにいくと伝えてくれ」

「了解しました」

 

 さて、さっさとララを完成させて寝るか。ガタがきてるパーツを変えて、火力とパワーをあげた新型に変えて、大剣の方も更に改造してと。容量と封印を一部開放してこれでよしと。いらないコードは全部消えたし、見かけだけなら本当にララとルルは普通の少女になった。実際は殲滅兵器である動く神核搭載型高機能エンブリオだ。まあ、どちらも可愛い俺の最高傑作の女の子だが。この姉妹は怖いぞ、三銃士。

 

 

 

 

 



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援軍要請

 

 

 

 

 

 数日をまとめて睡眠にあてて目覚めると、俺の腕の中で睨み付けてくる美少女が居た。とりあえず、キスしてみる。

 

「んぶっ!? じゅるっ、んんっ!?」

 

 唇と舌を堪能しながら意識を覚醒させていくと反対側にも温もりがある。それと鼻につくアンモニア臭など。

 

「おはよう、ラクリール」

「起きたらさっさと離せっ!!」

「はいはい。粗相したみたいだな」

「五月蝿いっ!? 貴様のせいだぞ!」

 

 立ち上がって慌てながらトイレに駆け込んでいくラクリール。シーツは色々と凄い事になっている。

 

「数日抱き枕にされて拘束されていたのですから、当然なのです」

「ふん。マスターに必要とされているのだ。名誉な事だろう」

「ララ、ルル、おはよう」

 

 背中からの声と少し離れた場所から聞こえた声に返事をしながら身体を起こす。背中に居たのはララで、扉にもたれかかって警戒しているルルが居た。

 

「おはようなのです、マスター」

「おはようございます、マスター」

 

 挨拶した後、軽く口付けをして立ち上がる。身体は女神化して女体になっている。寝る前にラクリール達を散々犯して精力を吸収したのだが、何か違和感がある。

 

「……なにこれ?」

「愚かにもマスターを襲おうとした有象無象です」

「全部ララとルルで蹴散らしたのです」

 

 床に転がっている無数の氷漬けにされた霊体のような者達。こんなのでも魔力に変換できるので素手で触れて吸収してしまう。

 

「苦労。それじゃあ、俺もシャワーに行くから着替えを頼む」

「はいなのです」

「了解しました」

 

 裸だったのでそのままシャワーをしに向かう。向かった先には既にラクリールが居て必死に身体を洗っていた。俺とのセックスが終わったら何時もの事だ。一生懸命俺の痕跡を消そうと頑張っているのだ。

 

「ラクリール」

「っ!? な、なんだっ!!」

「一緒に入るぞ」

「嫌だっ、来るなっ!」

 

 トイレとシャワーと浴槽が一緒になった場所なので身体は自然と密着する。というか、する。嫌がるラクリールを無視してその身体を洗っていく。直ぐにララとルルも入ってくるので更に狭くなる。そこで嫌がるラクリールの身体を隅々まで洗いつつ、綺麗に洗っていたラクリールに新しいのを注ぎ込んでやる。俺自身はララとルルによって綺麗に洗ってもらう。

 洗い終わって一部意外綺麗に流したら外に出て水滴を拭いてもらいながら服を着せて貰う。

 

「そういえばさ、今まで襲われた事なかったけどなんで今回は襲われたんだ?」

「マスターの身体が女神として覚醒したからではないのですか?」

「出力の問題でしょう。今回の睡眠によって全開吸収した魂を順次変換していたのが完了し、それによって釣られてきたのではないかと」

「ちっ、封印の増強も考えないとな」

 

 現在の力は封印を施してあるので精々が神格者より低い程度だが、総量が増大すれば封印に綻びが出るのは必然か。

 

「うぅ……また穢された……申し訳ございません……クライス様……」

 

 完全に落ちてはおらず、時折こんな風になる時がある。まあ、命令には従ってくれるのだけどな。

 

「おい、コイツは大丈夫なのか? ララのデータからではバーニエの技術を盗もうとしているみたいだが……」

「ふふ、何も問題ないのです。基本的に重要施設はララがマスターに付き従うのです。その時、ラクリールは命令されてひたすら自己鍛錬か軍隊での調練をさせられるだけなので技術を盗む暇もないのです。何よりラナハイムとの接触などは禁止しているのです。見つければ自ら殺すか捕らえるように命令してあるので問題ないのです」

「相手はプロでも戦闘技術の方は武装で補っているのか」

「もちろんそうなのですが、昔と違って今のバーニエは……人外魔境なのです」

「人間にとってか?」

「そうなのです。管理社会なのですよ。基本的にどこもかしこも魔導機人が警備し、戦闘用ゴーレムが多数存在し、警備システムとしてアシュラクーナが飛び回ってるのが現状なのです。住民は全て腕輪型のID機器をつけており、つけてないと問答無用で攻撃されて捕縛されるのです」

「やりたい放題だな」

 

 適当に警備システムとして案を出して置いたのが魔改造されて採用されたみたいだ。うん、今のバーニエはスパイにとって地獄だな。捕まったスパイはありとあらゆる手段で情報を聞き出して送り込んだ国に請求するか、実験台にされるだろうし。

 

「まあ、ラクリールは大丈夫だ。そうだな、俺の(・・)ラクリール」

「……はい……」

 

 ラクリールの瞳からハイライトが消えて無機質な声で返事をする。仕掛けは上々。ラクリールは自らラナハイムを滅ぼす尖兵となる。そして、それは確実にラクリールの心を傷つけて立ち直れないほどの傷を与える。だが、原作であったようにラクリールは自らの心を守る為に次の依存先を探す。それは確実に俺になる。我ながら非道いが、これは生存競争なのだから手段は選んではいられない。気に入った強い女の子を使徒にして絶対に生き残ってやる。

 

「対策がされているのなら構いません。それより、本日の予定ですが……」

「ヴァイスハイトが呼んでいるのです。いい加減に行かないとまずいのです」

「そうだな。よし、行くぞ」

「「はい」」「了解した」

 

 ラクリールも着替えさせて元に戻して一緒にヴァイスの元へと向かう。ヴァイスの執務室の前で止まり、ララ達を見る。

 

「ルルは一緒に来い。ララとラクリールはルナ=ゼバルを何時でも発進できるように準備しておいてくれ。話の内容次第では直ぐに出る事になるからな」

「了解なのです。補給物資は食料以外積み込みが完了しているのです。後は野菜など新鮮な物だけなのです」

「兵は……既に待機している。こちらに居るのは量産型魔導機人だからな」

「じゃあ、ラクリールはララの手伝いで。各部点検もさせておいて」

「わかった」「了解なのです」

 

 部屋の扉をノックする。

 

「ヴァイス、エルカだ。いいか?」

「ああ、大丈夫だ。入ってくれ」

「了解。それじゃあ、そっちは頼む」

「ああ」

「ルル、マスターの事をお願いするのです」

「任せておけ」

 

 2人に見送られながら扉を開けて中に入り、ヴァイスに近づく。中にはリセルも居る。丁度報告していたようだ。そして、見慣れない者で、ある意味見慣れた存在が居る。

 

「おや、この人がリューンやエイフェリアが言っていたエルカなのですね」

「そうだ。エルカ、こいつが魔導巧殻のアルだ。まあ、説明するまでもないだろうが……」

「まあね」

 

 魔導巧殻アル。身長約70センチで感情が希薄で、常に論理的に考えて行動する。実際は四姉妹の中ではボケ担当であり、声がババ声で色々と物議を醸し出している。ディル=リフィーナに存在する四つの月の内、『闇の月』を司る月女神アルタヌーの名前と、力を模しているが、その体内にあるのは色々とやばい代物だ。ちなみに俺は許せない派だ。よって、強制変更する。

 

「その子、ちょっと整備するから貸してくれ」

「おや、どうしたのですか? 私の整備ならリセルで……」

「五月蝿い。ルル、捕えろ」

「イエス、マスター」

「あ~れ~」

 

 瞬時に捕らえるルル。唖然としている2人を無視しながら道具を取り出して喉の部分を切り開いて弄っていく。音声部分の場所にデータを切り替えて、かつフィルターを設置。作り上げた音声は無表情系の元祖声優林原めぐみ。つまり、レイの声だ。そちらに変更する。

 

「あの、その子は?」

「ララの姉妹機でルルだ」

「ルルだ。マスターの忠実な下僕だ」

「よろしくお願いしますね。私はリセルです」

「記憶している。ヴァイスハイトも記憶しているので問題ない」

「そうか。これからよろしく頼む」

「マスターの命令次第だな」

「じゃあ、よろしくしてくれ。それで、ヴァイスはなんの用だ?」

 

 ルルに命令をしつつ、要件を尋ねる。

 

「ああ、皇帝陛下が亡くなられて喪に服する事になっているが、他国はそんな事お構いなしだ。ザフハ部族国は国力が衰えて混乱しているこちらを虎視眈々と狙っている。ユン・ガソル連合国はレイムレス要塞に兵力を多少残して撤退している」

「そっちはまだ落としてなかったんだ?」

「皇帝陛下が亡くなられたせいで軍を動かせん。もうまもなく喪が開けるがな。まあ、この2国はまだなんとかなる。問題は……」

「ラナハイムがルモルーネ公国に攻め込んだか?」

「知っておられてたのですか?」

「まあ、動くと思ってたからな」

 

 ルモルーネ公国はこの世界の楽園とも呼ばれる事のある国。彼方まで続く田園風景は故郷を思い起こす和やかな国と言われている。

 

「既にルモルーネ公国の一部の村が制圧され、ルモルーネ公国より救援要請がメルキア帝国に届いております」

「だろうな」

 

 ルモルーネ公国は列強国に囲まれながら今までは戦争の気配などなかったろう。神の恵みを得たかのようなこの国は大量の食物を多くの国に輸出する事で平和を保つ事が可能だった。

 

「ラナハイム王国からすればルモルーネ公国の土地は喉から手が出るほど欲しい土地のはずですから、進軍は当然の事でしょう」

「ラナハイムは食料をほぼ輸入に頼っているからな。アル……は無理だからリセル、頼む」

「はい。ルモルーネ公国はメルキア帝国、ユン・ガソル連合国、ラナハイム王国に挟まれた小国です。肥沃の大地に恵まれ、農作物は中原でも有数です。その反面、軍事力はないに等しいです。今までは食料支援を行う事で永久中立を歌いながらも戦争に巻き込まれる事はありませんでした。それが現在、ラナハイム王国に攻め込まれております」

「相手方はラナハイム王国からの驚異を振り払ってくれるなら属国になってくれるそうだ」

「まあ、喪に伏しているメルキアを頼るなら当然だな。それで、どうするんだ? 俺的には受けていいと思うが……」

「メルキア帝国としては直ぐに受けられない。そう、メルキア帝国としてはあと数週間かかる。だが、それまでにルモルーネ公国は落ちるだろう」

「なるほど。つまり、メルキア帝国軍に所属していない俺達がやればいいんだな」

「そうだ。ラナハイム王国の勢力をエルカの単独勢力で防いでくれ。こちらは喪が終了しだい援護に向かう」

「いや、それはいらない。お前達はザフハ部族国とユン・ガソル連合国に集中しろ」

 

 普通ならあちらと停戦している間にラナハイムを落とすのがいいが、こちらではそうは行かない。何故なら連中には俺と同じような存在が居る。そいつがルン=ファレスなんかを作り出しやがったんだからな。それにこちらの国力は原作よりも圧倒的に大きい。

 

「いいのか?」

「問題ないだろう」

「そうですね。エイフェリア様より喪に服す期間が終了次第、バーニエ全軍の半分の軍勢をこちらに送り込んでエルカさんに指揮権を移譲するそうです」

「バーニエ全軍の半分ね……」

 

 多分、ってか、十中八九魔導戦艦もくれるんだろうな。残り半分でキサラを押さえるつもりか。今のキサラならそれで充分だろう。ガルムス元帥がどう動こうが、それを完全に封殺できるだけの勢力が存在するのだ。ゲーム内ならまだしも魔導戦艦を生身で落とすことはかなり難しい。魔法でも余程のものでないと不可能だ。それだけ制空権を支配するのは強い。まあ、グリフォン部隊とか出されるとまた話は変わるが、それこそ、こちらはアシュラクーナを大量に出せばいいのだからな。

 

「ディナスティはセンタクスへと兵力を送るんだな?」

「はい、そうなります。ディナスティからはお母様、ミライ将軍が大部隊を引き連れて参戦します」

 

 ナフカとオルファン元帥は周りを支配下に置くのだな。まあ、それが正しいか。バーニエの周りは既に殆どの空いた土地がバーニエの支配下に組み込まれているからな。実戦経験の相手として魔獣や盗賊団を滅ぼし、試運転などで魔導機械を導入して魔導機人達に休まず開発を行わせているはずだ。

 

「では、ディナスティ全軍の半分とセンタクス全軍はバーニエからの武器、防具などの補給を受けながらザフハ部族国とユン・ガソル連合国を相手しよう」

「それでいいよ。ああ、条件つけていいか?」

「条件か? なんだ?」

「ザフハ部族国に居る金髪で赤目のテグルゥ族部族長であるネネカ・ハーネスを捕えて引き渡して欲しい」

「構わないが、捕獲できるかわからんぞ?」

「出てきたら連絡をくれ。ララとルルに捕獲させに行かせる。まあ、ミライさんなら簡単だろうが」

「梃子摺りそうなら連絡をしよう。しかし、2人が抜けて大丈夫なのか?」

「はっはっはっ、バーニエの技術力を舐めては駄目だよ。戦況を維持するくらい余裕だ。こっちはバーニエ全軍の半分だからな。言ってしまえば前のメルキア帝国の半分の戦力を全て投入すると同義だ」

「確かにラナハイムは2国を同時に相手するほどの戦力と戦う訳になりますから……充分可能かと思われます」

「そうか。では、その条件を受け取ろう。その代わり、功績は貰うぞ」

「構わないよ。俺は欲しいのが手に入ればいい。よし、完成」

「流石ですね。私ではそんなに早く改造できませんよ」

 

 アルの改造を終了し、拘束を解除する。

 

「これは……声が変わりました」

「そっちの方が確かにいいな」

「そうですね……私は前の方でもいいですけど」

「何を言っている。マスターの行われた事に間違いがあるはずないだろう」

「あはははは……」

「さて、じゃあこんな所で俺はさっさと出撃する」

「頼む」

「了解。行くぞ、ルル」

「イエス、マスター」

 

 ルルを連れてルナ=ゼバルへと移動する。既に準備を終えていたので直ぐにルモルーネ公国へと向けて進軍を開始した。目指すはコロナとギルクを殺さずに捕獲する事。まあ、ギルクはコロナのついでだけどな。コロナは闇でない方がいいからな。できれば両方がベストだが、無理はしない。心を壊さないように懐柔し、手懐けないとな。

 

 

 

 

 



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コーラリム山道

 

 

 

 ラナハイム王国親衛隊、副隊長

 

 

 

 ルモルーネ公国コーラリム山道。ラナハイムからは一週間で到着する事のできるここに我々は現在進軍して制圧した。コーラリム山道には多数の村があり、農業を営んでいる。大した軍事力を持たぬこの国など容易く制圧できる。問題はこの後に控えている事だ。

 

「伝令! 首都フォミアルにメルキア帝国から書状が届いたとの事です」

「クライス様はなんと?」

「釣れたと……」

「了解した」

 

 これでメルキア帝国が動く。連中が進軍してくる前にフォミアルを落とす。既に何度か攻めて破壊しているから容易いだろう。

 

「進軍時期は何時頃になりそうだ?」

「それが、喪に服する為に来月になるとの事です」

 

 センタクスより折玄の森を超えて2週間で到着できるこの場所に一ヶ月後に来るだと?

 それは容易いどころではないな。

 

「随分とのんびりだな」

「はい」

「了解しましたと、クライス様に伝えておけ」

「はっ!」

 

 伝令を返して私は村の者を捕らえている場所に向かう。そこにはこの村を制圧するにあたって、邪魔をしてきた者達を縛り付けてある。そのうちの一人が目的だ。

 

「お前達に決定を伝える」

「「っ」」

 

 銀髪の小娘と隻眼の男の元で告げる。綺麗な顔をした小娘はクライス様が求めていたが、これ以上女が増えるのは困るのでな。ここで死んでもらおう。

 

「死刑だ」

「待てっ」

「またん。処刑は三日後だ。だが、そうだな……貴様から殺してやるよ。その三日後に小娘を殺そう。それまでにメルキア帝国の連中が来る事を願うんだな」

「くっ……」

「ギルク……」

 

 私は部下に指示を出して、二人を村の真ん中で打ち立てた木の十字架にくくりつける。周りには枝を置いておき、放置する。処刑が早まるかもしれんが、構わんさ。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

「なんだ……?」

「どうなさいましたか、マスター」

「大丈夫なのです?」

 

 慌てて起き上がると、隣に寝ていたラクリール達が驚く。俺も皆も裸で一緒に寝ていたのだから当然だろうが。

 

「夢を見た」

「お前は子供か」

「五月蝿い。そんなんじゃない。今のは夢見だ。セリカもやってたっけ」

「夢見ですか?」

「そうだ。現実に起こっている事を見る事ができる力だ」

 

 神殺しセリカ・シルフィルもやっていた。結果的にそれに従うといい事が起きる。特に今回はコロナとギルクを助ける事ができる。

 

「ルル、現状の位置は?」

「折玄の森です。道が狭い為、木々を伐採して道を作りながら進んでいます」

「コーラリム山道まではどれくらいだ?」

「あと四日です」

「間に合わないな……三日で到着したい」

「無茶を言うな。今でも充分に速いはずだぞ」

「それは分かっているが、ラナハイムの連中がクライスの命令を無視して人を殺そうとしている」

「なんだとっ!?」

 

 ラクリールはそっちに反応するよな。まあ、そっちはどうでもいい。ここから三日、一日分を短縮するとなると……不可能ではないか。

 

「ララ」

「アシュラクーナなら準備できているのです」

「流石だな」

「航空戦力なら確かに速いですね。ですが、普通の人間には耐えられません」

「大した力はないが使徒ならば耐えられるだろう。俺とララ、ルル、ラクリールでアシュラクーナと魔導機人を率いて先行し、敵を殲滅して殺されそうな人を救助する」

「「イエス、マスター」」

「ラナハイムと戦わなければいけないのか……」

「そうだ。ラクリールはもう俺の物だからな。そうだな、お前がクライスを倒してラナハイムを潰すならクライスの命だけは助けてやってもいい」

「っ!? 本当だな!!」

「ああ」

 

 これでこちらはある程度問題ないだろ。約束も命だけで、身体は保証していないしな。着替えて格納庫へと行き、装備を整える。しかし、あれだな……アシュラクーナに身体を持たせるのとか、ちゃんと飛行ユニットは考えた方がいいか。IS(インフィニット・ストラトス)みたいな。魔導鎧をそういう風に改造するか。まあ、先に二人を救出してからだな。

 

 

 

 

 ルナ=ゼバルより出撃し、アシュラクーナで空を駆け抜けていく。食事は適度に休憩を入れてだが、基本的に昼夜問わず飛行した為、なんとか目的の村へと到着する事が出来た。それも、まさにいいタイミングだ。

 

「やゅ、やだっ、ギルク! ギルクっ!!」

「……」

「さあ、処刑の時間だ」

 

 やつれた銀髪の美少女コロナが悲鳴をあげる中、木々に火が付けられていく。炎は燃え上がり、ギルクを焼こうと迫る。

 

「ルル」

「イエス、マスター」

「ララも行くのです」

 

 アシュラクーナから飛び降りる二人。ルル達は空中で己の武器を取り出してどんどん加速していく。そして、空中で回転しながら魔導戦斧エーテルアックスをギルクの足元付近に居る兵士へと上から振り下ろした。

 

「なにっ?」

 

 兵士は一刀両断され、エーテルアックスは地面へと激闘してクレーターを作成し、更には周りを急速に氷らせていく。それはギルクを焼こうとする炎すら例外ではない。もちろん、ギルクもだ。

 

「まったく、ルルは手加減が下手なのです」

 

 ララがギルクが縛られた十字架を引っこ抜いてギルクが氷漬けになるのを防いでいた。

 

「黙れ。こっちは初戦闘の初装備だ。出力調整など適当だ」

「まあ、そうなのです」

「お前達は……」

「味方なのですよ。とりあず、大人しくしているのです。動いたら怪我をするのです」

 

 ララがギルクを降ろして、大剣を振り回して縄を切断する。コロナも同じように斬るが、コロナはララの言葉をそのまま信じたのか、動かない。ギルクは元々諦めていたようだ。

 

「おい」

「っと、そうだな。ラナハイムの兵を狙撃しろ。女は生かせ」

「「「イエス、マスター」」」

 

 魔導機人やアシュラクーナ達に指令を出して上空からラナハイム兵を狙撃させて殺していく。俺とラクリールも地獄絵図のような光景が展開されている地上に降りる。俺はアイテムストレージから拾っていたデスサイズ、冥府の大鎌を取り出す。ラクリールは剣を引き抜いて準備する。

 

「何なんだ、何なんだこれは!? 一体何処から現れた!?」

「現実逃避するとは、それでも魔法剣士部隊(パラディ・アズール)の指揮官なのか。私が目指していた頃より質が落ちたのか」

「貴様はっ、ラクリール・セイクラス! こんな事は聞いていないぞ、役立たずめっ!! そうか、貴様は裏切ったのだな!」

「黙れ。程度が知れるぞ。これ以上、魔法剣士部隊(パラディ・アズール)を貶めるな」

 

 ラクリールが足に雷を纏って、瞬時に指揮官の女に接近するとそのまま雷を纏った長剣で首を跳ね飛ばした。

 

「弱すぎる」

「いや、ラクリールが強いだけだから。それと、殺すなよ……」

「あっ」

「まあいいけどさ」

 

 会話しながら襲いかかってくる敵兵の剣を冥府の大鎌で敵もろとも切断して殺す。すると、死体は冥府の大鎌に吸い込まれるようにして消えていく。同時に俺の力が増える。いや、回復すると言った方が正しいのかも知れない。

 

「くそっ、こうなれば魔法で殺せ!」

「馬鹿どもが……詠唱なんてさせると思うな」

 

 もう一本の長剣を引き抜き、敵兵の中を瞬時に駆け抜けて行くラクリール。その後には身体を一刀のもとに斜めに切断されてズレていく者達が居た。

 

「まあ、魔法なんて斬れば問題ないんだけどな」

 

 迫り来る5メートルもある火球を冥府の大鎌で一閃すると、それだけで魔法は主滅する。こちとら、神殺しだし、引き連れているのは使徒と魔導機人と魔導兵器なのだ。人間なんて一切いねえよ。この小さな身体でも覚醒してしまえば敵を虐殺するのは容易い。魔術を使うまでもない。

 

「全軍に通達。攻撃を中止。敵兵を北、フォミアル方面に誘導して逃がせ。ラナハイムの方には逃がすなよ」

『了解なのです』『イエス、マスター』

 

 無線機で全軍に通達し、敵兵を逃がす。その間に手足を撃ち抜かれて動けない女達を捕虜として回収する。こいつらは犯して性魔術で情報を収集し、娼館に送り込むか、適性試験に合格すれば装備を与えてラクリールの元につけてラナハイムを滅ぼしたあとに戦力として扱う。流石にラナハイムと戦わすのは色々と問題があるからな。性魔術を行うのは俺じゃなくてもいいし、適任は今回手に入る。クライスと同じ穴兄弟なんて絶対にごめんだしな。

 

「エルカ、フォミアル方面にラナハイム兵の撤退を確認した」

「そうか」

 

 俺はハーブを巻いたタバコのような物を吸いながら報告を聞く。

 

「しかし、そっちで良かったのか?」

「構わない。これでフォミアルに進軍する口実ができたからな」

「奪うつもりか?」

「元よりそのつもりだ。全てをメルキア帝国が支配する。竜族とて例外はない」

 

 そんな話をしていると、ララとルルがこちらに人を連れて来る。一人は老人で、残りは助けたギルクとコロナだ。

 

「マスター、この村の村長なのです」

「この度は娘達を助けて頂き、ありがとうございます。それで、その、そちらの要求は……」

「こちらの要求は簡単だ。そこに居る娘を貰おうか」

「わたし……?」

「そうだ。お前が俺の物になれば村も守ってやろう」

「……」

「コロナ」

「コロナよ……」

「いいよ。なる。だから、守って」

 

 流石は自ら進んで生贄になるだけはあるな。簡単だ。まあ、目的の一つは達成できた。あとはコロナの中の奴も手に入れる。それで完璧にコロナを支配下における。ダークコロナも欲しいのだ。

 

「交渉は成立だ」

「すまん、コロナよ……」

「いいのか?」

「村の人達の為だから……」

「そうか……その、ところであなた方は何処の者なのでしょうか?」

「俺達はメルキア帝国センタクスの元帥からの依頼でルモルーネ公国を助けるように依頼された傭兵部隊だ。まあ、報酬は働き次第だが、この村はしっかりと伝えて守らせるから安心しろ」

「……お前達の使っている魔導技術は普通の傭兵部隊が使うような物ではないな。バックに居るのはバーニエか」

「そういう事だ。バーニエより最新鋭魔導兵器のテストを頼まれたりもしている。メルキア帝国が今は動けないから、代わりに俺達が来た。で、コロナを連れていくが、アンタもうちに入らないか? 福利厚生はしっかりしているぞ」

「……コロナを守れるなら構わないだろう。無謀な作戦は拒否するぞ」

「勝算がないとやらないさ。基本的に使い捨てにするつもりはない。使い捨てできる兵士は量産されてバーニエから送られてくるしな」

「時代は変わるか……」

 

 これでギルクも大丈夫だろう。彼にもいろいろと装備を渡さないとな。

 

「では、2、3日世話になる。それからここに防衛部隊を置いて、フォミアルに向かう。ルルはアシュラクーナ達を偵察に送れ。ララとラクリールは村の防衛部隊の指揮を北と南で頼む」

 

 返事をした3人を置いて、俺は早速コロナに近づく。

 

「村長、家を一つ貸してくれ」

「構いません。どうかわしの家をお使いください。わしは息子夫婦の家にとまりますので」

「助かる。じゃあ、コロナ、行こうか」

「うん」

 

 コロナを連れて村長の家の一室で性魔術を使いながらコロナを犯して快楽を教え込む。これでコロナを支配下に入れる。そして、もう一人をたたき起こす。

 

「……何の用かしら?」

「お前も欲しい。その身体を二人で使え。普段はコロナで、戦闘などはお前が担当しろ」

「それは楽しめそうね。でも、条件があるわ。私を満足させてくれなかったら嫌よ」

「いいだろう。満足させてやる。ただし、俺以外の男とするな。コロナは俺だけの物だ」

「いいわよ。満足させてくれるならね。それに男だけという事は、女は食べていいのでしょう?」

「ああ。むしろお願いする。連中から精気を集め、俺に渡すんだ」

「わかったわ。それじゃあ、楽しませてね」

 

 ダークコロナにもたっぷりと快楽を教え込みながら三日ほど犯し続ける。彼女も屈服したので俺の騎獣にもなってもらう事とする。その間にララとルルにはある事を命令し、ラクリールには到着したルナ=ゼバルとその中の部隊と共に防衛戦を構築してもらう。さらに二週間ほどコロナとダークコロナ、ラクリールとイチャイチャしつつ知らせを待つ。そして、ラナハイム王国にフォアミルが陥落したとの情報が入った。

 

 

 

 

 



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ルモルーネ公国首都フォミアル

 ルモルーネ公国首都フォミアル

 

 

 現在、この国は厳戒態勢を敷かれていた。ラナハイム王国より宣戦布告され、コーラリム山道を制圧されたからだ。直ぐにメルキアとユン・ガソルに増援要請を送ったが、ユン・ガソルは答えず、メルキアは喪に服す為に表立って送れないと行ってきた為、来るのを期待して耐えるしか道は残されて居ない。

 

「おい、どうだ?」

「今の所は問題……っ!? 誰かきやがった!!」

 

 森の中から2人の人影が競うようにして出てくる。その者達の顔はフードでよく分からないが、剣や鎧にはラナハイム王国の紋章が刻まれており、パラディ・アズール(魔法剣士部隊)の物だと直ぐにわかった。

 

「てっ、敵襲!!!」

「げ、迎撃用意!!」

 

 直ぐに指令が伝えられるが、その者達の速度は早過ぎる。門の上から矢が無数に放たれるが、それらを避けたり、叩き落としたりしながら突き進む。そして、閉ざされた門に到着すると1人が炎を纏った大剣を振り上げて門に叩きつける。轟音と共に強固なはずの門は粉砕されて2人は街の中に入ってくる。

 

「ば、化け物めぇぇぇぇっ!!」

「なんとしても防げぇっ!!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」

 

 突撃してくる兵士に細い剣を持った者が瞬時に駆け抜けて兵士の手足を切り裂いて駆け抜けていく。その後を大剣を持った者も駆け抜けるが、直ぐに兵士がバリケードを作って邪魔をする。それに対して2人は飛び上がって屋根の上に着地し、そのまま王城へと目指して行く。

 

「止めろ止めろ!!」

「「かの者を燃え尽くせ、火弾!!」」

 

 放たれる無数の火弾を見もせずに背後にそれぞれの武器を回して弾いてしまう。次々に攻撃魔術を放ち、なんとか妨害しようとするが城門に到達されてしまう。更にはその城門すら屋根から飛び上がって越えてしまった。兵士達にはもはやどうする事も出来ずに時間が経つ。そして、次に2人が現れた時、その手には公王の首が有った。

 

「これから後に本隊が来る。抵抗は無意味だと知れ」

 

 無機質な男の声で告げられ、2人は去っていく。それを見送った兵士に加え住人達は沈んだ気持ちになった。

 

 しかし、ラナハイム王国の本隊は到着せず、メルキア帝国が雇った傭兵部隊がラナハイム王国の軍勢を打ち破ってやって来た。その司令官である女の子はメルキア帝国にルモルーネ公国を合併させると宣言し、民の生活と身の安全を保証し帝国国民として扱う事を元帥の署名入りの書類を持って宣言した。こうしてフォミアルとコーラリム山道はメルキア帝国センタクス領の支配地域となった。

 

 

 

 

 フォミアル⇒コーラリム山道、ルナ=ゼバル

 

 

 

 フォミアルからコーラリム山道に向かうルナ=ゼバル内部。自室であるベットの上でコロナとラクリールを犯し、その精気を貪った。2人は白目を向いて気絶している。

 

「さて、待たせたね。報告を聞こうか」

「「全てはマスターのご命令通りに……」」

 

 ララとルルが跪いてこちらに報告したのだが、2人はバチバチと視線を交差させる。

 

「私が報告する」

「ルルは引っ込んでてください。マスターにはララが報告します」

「いや、私が報告する!」

「ルルだけマスターに褒めて貰おうだなんて許しません!」

「お前ら喧嘩するな。もういいや。結果は知ってるし。ご褒美をやるから服を脱げ」

「はい!」

「イエス、マスター」

 

 2人はいそいそと服を脱いで裸になる。腕などに線が入っているくらいで人間と一切変わらない。そんな2人がラクリールとコロナを簡単に抱え上げて別のベットへと移す。それから俺の前に寝転がって身体を開いた。

 

「んで、捕えたラナハイムの兵士は?」

「ルナ=ゼバルの牢屋に閉じ込めてあります」

「裸にして安全にしてあるのでマスターが何時でも楽しめるのです」

「男は?」

「「殺しました」」

「そう」

 

 2人の身体を撫で、感触を楽しみながら遊んでいく。捕えたラナハイム王国の兵士も若くて綺麗な可愛い子だったら性魔術で味方に引き込む。それ以外は娼館に売り払う。うちはあくまで正規部隊じゃないし、捕虜をどう扱おうが問題無い。今回はルモルーネを手に入れたのだから美味しい展開だ。まあ、こちらからもユン・ガソルに対して警戒をしないといけないのだが。

 

「んっ、んんっ。マスター、フォミアルの警備はどうするのです?」

「魔導戦艦を使う。それ用の停留所も作成するよう伝えて置いた。フォミアルは要塞化して防衛拠点ともする。まあ、その辺は母さんが派遣してくれるから気にせず南下しよう」

「了解なのです」

「マスター、早くご褒美をください」

「そうだな。ルルは今回声を変えてまで頑張ったしな」

「ララも門を壊したりしたのです!」

「ああ、もちろん。2人共、たっぷり可愛がってあげる」

 

 なんて事はない。2人にラナハイムの兵士としてフォミアルを攻めさせて陥落させ、後ほどラナハイムの本隊が来ると教えて俺達がラナハイムを潰し、堂々とフォミアルに入る。公王が殺されて混乱している時にたった2人で陥落せしめたラナハイムの精鋭を本隊ごと撃破した俺達がくればルモルーネ公国の取れる手など決まっている。ある程度有利な条件も提示してやったら飛びついた。こちらとしては鬱陶しい交渉をせずに支配領域が増えて助かるという事だ。ルルやララの声を変えるなんて容易い事でもあるしね。

 まあ、頑張った2人にもたっぷりとご褒美の快楽を与えて精力を吸わして貰う。来るべき戦いの為に力を蓄えねば。

 

 

 

 



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