クイズを売買する男 (紫 李鳥)
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1話

  

 

 

その男が公園に現れるようになったのは、秋も深まった頃だった。

 

サンドウィッチマンのような格好で、背中には、

 

【■Aコース】

 

■あなたのオリジナルクイズを買います!

■私が答えられたら、¥2,000いただきます。

■私が答えられなかったら、¥2,000差し上げます。

■制限時間:1分

■ヒントは要りません。

■教科書や広辞苑、辞書、辞典などからの抜粋はNG!

 

と、あり、そして胸元には、

 

【●Bコース】

 

●私のオリジナルクイズを売ります!

●あなたが答えられたら、¥1,000差し上げます。

●あなたが答えられなかったら、¥1,000いただきます。

●制限時間:1分

●ヒントなし

●ジャンルは選べない。

●解答者以外が答えた場合は無効

 

と、あった。

 

 

黒い野球帽に黒縁の眼鏡をした男は、音楽でも聴いているのか、ヘッドフォンをして、煙草をふかしていた。最初の頃は客もなく、浮浪者扱いで、皆は遠巻きに見ていた。

 

だが、勇気ある一人の若い男の挑戦がきっかけとなって、客が客を呼び、12月に入った頃には、クイズ男が占領していたベンチには人が集まるようになっていた。

 

僕も挑戦してみることにした。

クイズを創るのは苦手だったので、Bコースにした。

 

「じゃあ、行くよ。なぞなぞだ。

 

【1】アリよりちっちゃくて、クジラよりでっかいのな~んだ?

 

制限時間は1分だ。

じゃあ、スタートするよ。

3、2、1。

はい、スタート!」

 

クイズ男は腕時計を見ながら、スタートの合図を送った。

 

僕はヒントなしの条件が頭を過り、焦ったせいもあって、結局、答えられなかった。

 

「残念だな。制限時間が杉田か○るだ」

 

クイズ男はダジャレ混じりでタイムオーバーを告げた。

 

「チッ」

 

僕は小さく舌打ちすると、先月もらったバイト代から1,000円を払った。

 

「ありがとさん」

 

クイズ男はチラッと僕を見ると、ニヤリとした。

 

「……で、答えは?」

 

僕が遠慮がちに聞くと、

 

「他にも人がいるんだ、公にはできねぇよ。商品だからね、こっちに来て見ておくれ」

 

クイズ男はそう言って手招きした。

男が手にしたメモ用紙を覗くと、答えが書いてあった。

 

「?……なるほど。なぞなぞだからね」

 

合点がいった僕はニヤニヤした。

周りの連中も同じような顔で僕に視線を注いでいた。

 

「次の挑戦者はいるかな?」

 

「……じゃ、Bコースで」

 

後方にいた中年男が手を挙げた。

 

「あ、どうもね。じゃ、いくよ」

 

クイズ男はそう言って、ポケットからメモ用紙を出すと、ペラペラと捲った。

 

「じゃ、これでもいってみっか。

 

【2】『仲間を探せ!』って奴だ。

◇と◆は、それぞれ種類が違う。

では、クリーニングは、◇◆のどっちの仲間?理由も述べよ」

 

メモ用紙には、次のようにあった。

 

 ◇    ◆

クッキー クイズ

クラブ  クイーン

クリーム クォーツ

 

腕組みをした中年男は、何度も頭を捻りながらも、結局、答えられなかった。

 

「残念。時間が来ちまった。じゃ、1,000円いただきますか」

 

「やめときゃよかった……」

 

中年男はそう言って、渋々と財布を出した。

 

「はい、どうも。答えは、こうよ」

 

クイズ男はそう言って手招きすると、手にしたメモ用紙を見せた。

 

「……なるほどね。英語を勉強しとけばよかったな」

 

中年男はそう言って、残念そうに頭を掻いた。

 

「他にはいないかい?難問奇問、何問でもキモーン!(come on)」



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2話

【1】イルカ(そんなのいるか!)

【2】◇(英語にすると、頭文字がC)クリーニング(cleaning)

・-・-・-・-・

 

 

 

 

 

という具合に、結構、繁盛していた。

だが、まだ、クイズを売るという客はなかった。客からのクイズだと、正解したら倍になる。それだと、5人で1万稼げる。

 

クイズ男が妻子持ちかどうかは知らないが、仮に3人家族だとしても、雨の日以外は商売してるので、1日の収入が1万足らずの時があったとしても、十分に食べて行ける計算だ。

 

浪人生の僕は、クイズ男に会うのが毎日の日課になっていた。

それは、休日の午後だった。

 

 

「次はいないかな?」

 

「おじさん、こどもでもいい?」

 

小学4~5年ぐらいだろうか、頬に擦り傷を作った悪ガキっぽい少年だった。

 

「うむ……歳は関係ないが、子供向けのクイズとかは特にねぇぞ。いいか?」

 

「かといって、大人向けっていうほど、高度でもないじゃん」

 

ハハハ……。見物人が笑った。

 

「まあね。高度過ぎては客は寄らず、かといって、高度を下げ過ぎても儲からねぇってな。客も欲しいが、金も欲しいって奴だ。それより、金はあるのか?」

 

「おこづかいならちゃんともらってるよ。ぼく、チョチクがシュミなんだ。そのへんの大人より持ってるかもね」

 

「ほう、そりゃあスゴいな。すまないね、折角の貯蓄を、通りすがりのクイズ男に投資してもらって」

 

「まだ、わかんないだろ?ぼくのチョチクがふえるかもしんないじゃん。で、どんな問題?」

 

「だな。うむ……これなんかどうだ」

 

クイズ男は例のメモ用紙を捲って、適当なのをチョイスすると、ダウンジャケットからマッチ箱を出した。

マッチ棒を取り出すと、ベンチの上に並べた。

 

「じゃ、いくぞ。

 

【3】マッチ棒15本で作った数式だ。

この計算が成り立つように、マッチ棒を1本くわえてちょー」

 

 

|||+||-|=□

(3+2-1=0)

 

 

 

「加えるって、足すってことだろ?新しいのを使うの?」

 

「坊や、看板に、“ヒントなし”ってあるだろ?ヒントなしってことは、質問も受け付けねぇってこった。じゃ、スタートするぞ」

 

「チェッ、けち」

 

「3・2・1、はい、スタート!」

 

「えーと、えーと……」

 

急かされた少年は焦っていた。

 

「あああ、これもちがうし」

 

少年はマッチ棒をあっちこっちに置きながら、四苦八苦していた。……が、

 

「で、でけた!」

 

少年が大声を出した。

エーッ!周りが一斉に驚きの声を上げた。

 

「……マジで?」

 

クイズ男が目を丸くして、ベンチの上のマッチ棒を見た。

 

 

 

         |

|||+|| |= □

(3+3=6)

 

 

 

「な?あってるだろ?」

 

「ハハハ……発想は悪くないが、||と|に開きがあるじゃねぇか。これを|||に見せるのは無理があるよ。それに、くわえろって言っただろ?これだと単に移動しただけじゃないか。もっとスッキリと、それらしく、理に適ってなきゃ駄目だ」

 

「……なんだよ、1,000円もらえるかと思ったのに」

 

「惜しかったな。正解は、こうよ。ほら」

 

クイズ男は手招きすると、少年にメモ用紙を見せた。

 

「……ケッ!そっちのくわえるかよ」

 

「悪いな、そういうこと。な?日本語は奥が深いだろ?」

 

「ぁぁ。ま、インチキじゃないけどな」

 

少年はそうボソッと言いながら、チノパンのポケットから綺麗に畳んだ千円札を出すと、惜しそうに広げた。

 

「はい、じゃ、これ」

 

少年は見切りをつけるかのように、ヒョイと手を伸ばした。

 

「すまねぇな。貴重な貯蓄から頂いちゃって」

 

「しかたないじゃん、男どうしの約束だもん」

 

「今度また、挑戦してくれ」

 

「気が向いたらな」

 

「待ってるぜ。次はいないかな?」

 

「あの……いいですか?」

 

エリート社員風の真面目そうな好男子が手を挙げた。

 

「はい、どうぞ」

 

「売りたいんですけど」

 

ほ~、と周りから感嘆の声が漏れた。

 

「エッ!マジ?」

 

クイズ男も感嘆の声を上げた。

 

「ええ。大したものじゃありませんが、一応、オリジナルです」

 

「やりー。楽しみだな」

 

「メモ用紙と鉛筆を貸してくれますか」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

クイズ男は、客からの初めての“売り”に興奮している様子だった。



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3話

【3】+のマッチ棒を1本、自分の口にくわえる。

|||-||-|=□

(3-2-1=0)

・-・-・-・-・

 

 

 

 

 

エリート社員風は、几帳面に何やら書くと、

 

「はい、どうぞ」

 

と、メモ用紙を差し出した。

そこに書いてあったのは、

 

 

 

N・U・T・□・T・M・U・H・S・T・I・I

 

 

のアルファベットの羅列だった。

 

「 【4】これらのアルファベットは、ある法則に従って並んでいます。□に入るのは何でしょう。ヒントは――」

 

「いや、ヒントは要りません。私もヒントなしの条件でクイズを売ってますから。それより、お客さんもこれに答えを書いてください」

 

クイズ男はそう言って、別のメモ用紙を渡した。

 

「あ、はい」

 

エリート社員風はメモ用紙に鉛筆を走らせると、それをコートのポケットに入れた。

 

「書きました。では、スタートしていいですか?」

 

「ええ、いいですよ」

 

クイズ男から笑顔が消えていた。

 

「3・2・1、スタート!」

 

エリート社員風が腕時計を見ながらスタートを切った。

クイズ男は、これまでに見たことのない真剣な面持ちで、身動ぎ一つせず、メモ用紙を睨みつけていた。

周りの連中にも緊張が走り、我がごとのように身を固くしていた。

顔馴染みの連中は、いつの間にか、クイズ男と一体感が生まれていたのだ。

皆、祈るような思いで、固唾を飲んで、なりゆきを見守っていた。

僕も焦燥感に駆られながら、腕時計を見つめていた。

この1分は、僕にも長く感じられたが、クイズ男には、60秒がたったの数秒にしか感じられないに違いなかった。

刻一刻と、秒針は針を進めていた。

 

――到頭、10秒を切った。

9・8・7・6・5・4・3・2

 

 

 

 

 

その時、

 

「解けましたよ」

 

クイズ男の低い声が、静寂の中に轟いた。

 

「エッ!ほんとですか?」

 

エリート社員風は、信じられないと言った顔をしていた。

 

「ヒントはなくても、問題の中に含まれてましたよ、12というヒントがね」

 

「さすがです」

 

「今、書きます。お客さんの書いたのと交換しましょう」

 

「はい、分かりました」

 

エリート社員風は、ポケットからゆっくりと、折ったメモ用紙を取り出した。

 

「では、交換しましょうか」

 

クイズ男に笑顔が戻っていた。

 

「はい」

 

エリート社員風は、交換したメモ用紙を見て表情を緩めると、顔を上げた。

 

「恐れ入りました。正解です。では、2,000円をお支払いします」

 

エリート社員風は、潔く自分の敗けを認めると、財布から千円札を2枚取り出した。

 

「こりゃ、どうも。ありがたく頂きます」

 

パチパチ……周りから拍手が起こった。

 

「お見事です。また違うクイズを考えて来ますので、その時はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

クイズ男が一礼すると、エリート社員風が握手を求めた。

クイズ男は腰を上げると、右手を伸ばした。

 

「それじゃ」

 

エリート社員風は、片手を上げて挨拶すると、颯爽と肩で風を切った。

 

パチパチ……周りから拍手が湧いた。

 

「おめでとう!」

「よかったね!」

 

誰からともなく、そんな言葉が出ていた。

 

「みんな、ありがとう……」

 

感極まったのか、クイズ男は眼鏡を外すと、ジーパンのポケットから出した皺くちゃのハンカチで目頭を押さえた。

 

「おじさん、やっぱりスゴいや。クイズで金もうけするだけのカチあるよ」

 

先刻の少年が生意気な口を利いた。

 

「ハハハ……ありがとさん。じゃ、次、いってみっか。難問奇問、何問でもキモーン!(come on )」



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4話

【4】U(干支をローマ字にした頭文字)U(卯)

・―・―・―・―・

 

 

 

 

 

「なかなか、面白そうですね。参加してもよろしいですか?」

 

フェミニストといった風貌の、ロマンスグレーの紳士だった。

 

「いらっしゃい。ぜひ参加してください」

 

「では、“売り”で」

 

「マジですか?今日はツいてるな。続けて“売り”だ。モチの論、買っちゃうよ」

 

「では、紙と鉛筆を拝借」

 

「はいはい、どうぞ」

 

紳士に差し出した。

 

「これに答えられなくても、さっきの儲けがあるから、プラマイゼロだ。気楽にやるか。答えのほうも書いといてくださいね」

 

「はい、承知しました。それでは問題です。

 

【5】○に入るのは何でしょう?」

 

 

 

 

 も・ど・て・か・○・き・か・す

 

 

 

 

「では、よろしいですか?」

 

「スタンバイOKですよ。いつでもどうぞ」

 

「では、いきます。

3・2・1、スタート!」

 

紳士は、高級腕時計を見ながら合図した。

先刻、儲けたせいか、クイズ男には余裕が見られた。

クイズ男の実力を知っている見物人にも緊張感はなかった。

 

 

「10・9・8――」

 

紳士がカウントダウンを始めた。

 

「はい、解けました」

 

クイズ男はそう言って、メモ用紙にスラスラと答えを書いた。

 

「早いですね。出血大サービスでしたかな」

 

「サービス問題をありがとうございます」

 

「いやいや、お役に立ててよかった」

 

「では、メモ用紙を交換しましょうか」

 

「そうですね。ま、見なくても正解してるのは分かってますが。ハハハ……」

 

紳士はメモ用紙を交換すると同時に、コートの内側から分厚い財布を出した。

クイズ男から受け取ったメモ用紙をチラッと見ると、余裕綽々といった具合に財布を開いた。

 

「では、どうぞ」

 

紳士は、二千円札を1枚手渡した。

 

「こりゃ、どうも。指が切れそうなピン札だ。ありがとうございます」

 

「私はこういったクイズ物が好きでしてね。また、違うクイズを持ってきますよ」

 

「はぁ、楽しみにしています」

 

クイズ男が一礼した。

 

「“芸は身を助ける”と申しますが、知識もまた、身を助けますな」

 

「いえ、大した知識はないんですが、いわゆる“下手の横好き”でして」

 

「いやいや、大したものですよ。なかなかできることじゃない。立派だと思います。あなたは、生きる姿勢を教えてくれてるように思います。人間はどんな苦境に立たされようとも、考え方一つで生き抜けることを。……寒いので、風邪を召しませぬように」

 

「……ありがとうございます」

 

クイズ男は丁重にお辞儀をした。

 

「また、サービス問題を持ってきますよ。ハハハ……人の役に立てるのは嬉しいものです。では」

 

寛大なる紳士は、そう言って背を向けた。

 

「……みんな、いい人ばっかだな。こんな男に情けをかけてくれてさ」

 

「あんたが頑張ってるからだよ、この寒空にさ」

 

顔馴染みの一人が言った。

 

「そうそう。俺たちもあんたに会えるの楽しみにしてるし」

「話も面白いし」

「ダジャレも面白いし」

 

周りが口々に言った。

 

「……ありがとう。ま、これまで色々あって……これ以外、他に食ってく知恵が浮かばなくて。こんな男に情けをかけてくれて、……本当にありがとう」

 

クイズ男は、深々と頭を下げた。

 

「頑張れーっ!」

 

皆が口を揃えた。

 

「……ああ。頑張るよ」

 

鼻水を啜っていたクイズ男は、一変して笑顔になった。

 

「じゃ、次、いってみっか。難問奇問、何問でもキモーン!(come on )」



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5話

【5】ち(太陽系惑星の大きい順をひらがなにした頭文字)ち(地球)

・―・―・―・―・

 

 

 

 

 

“公園のクイズマン”というニックネームで有名になったクイズ男は、1月になっても、その人気は衰えることなく、むしろ、新規の客を増やしていた。

 

「ね、クイズマンさ~ん、私たちもBコース、クイズっちゃっていい?」

 

高校生風の二人連れだった。

 

「オッ、可愛いお嬢さん。構わないが、どっちの可愛い子ちゃんが挑戦するんだい?」

 

「どっちにする?」

 

2人は顔を見合わせた。

 

「どっちかが先で、1問ずつでも構わないよ」

 

クイズ男はそう言いながら、例のメモ用紙を捲っていた。

 

「じゃ、私からやっていい?」

 

そう言ったのは、白いニット帽から茶髪を覗かせたほうだった。

 

「うん、いいよ」

 

長い黒髪の子が承諾した。

 

「じゃ、私から」

 

茶髪が手を挙げた。

 

「はいよ。じゃ、Bコースいくよ。看板にもあるように、解答者以外が答えたら無効になるからね。教え合いっこはなしだ。OK?」

 

「OK!ふふふ……」

 

黒髪と顔を合わせて、茶髪が笑った。

 

「はいよ。じゃ、これでもいってみっか。

 

【6】定番の『仲間を探せ!』って奴だ。

漢字一文字が4列ずつある◇と◆は、それぞれ種類が違う。

では、次の問いに答えよ。漢字はみんな訓読み。瓜はどっちの仲間?理由も述べよ」

 

 

 ◇  ◆

 柿  梨

 愛  恋

 上  下

 菊  梅

 

 

 

 

 

「えー?意味わかんないし、どうしよう……ツメはどっちだろ」

 

茶髪は焦っていた。

 

「ハハハ……ツメじゃないよ、ウリだよ」

 

「あ、そうだ、ウリだった。けど、ツメって漢字と瓜二つ」

 

「“瓜に爪あり、爪に爪なし”と言ってな、ウリとツメの違いを言った覚え方だ」

 

「やっぱ、そうだよね。似てるもん」

 

「どうする?買うのか、それともやめとくかい」

 

クイズ男にそう聞かれた茶髪は、決めかねてか、判断を仰ぐかのように黒髪の顔を見た。

 

「大丈夫だよ、時間は1分あるし。それに、負けても1,000円じゃん。大したことないって。ガンバ」

 

黒髪が勧めると、

 

「……じゃ、やる」

 

茶髪が決断した。

 

「じゃ、始めるよ。3・2・1、スタート!」

 

クイズ男がスタートを切った。

 

「えー?ヤだ。どっちだろ……」

 

茶髪は独り言を呟きながら、首を傾げていた。

周りがシーンとして注目しているのを意識してか、茶髪は集中力を欠いている様子だった。

 

 

――茶髪は、独り言を呟いていただけで、結局、答えられなかった。

 

「残念。時間が北野た○しだ」

 

クイズ男はつまらないダジャレで制限時間を告げた。

 

「くやちー!」

 

茶髪は悔しそうに地団駄を踏んだ。

 

「私も分かんなかった」

 

黒髪が慰めた。

 

「答えは、こうよ」

 

クイズ男は手招きすると、答えが書いてあるメモ用紙を見せた。

 

「……アッ、そっか。ほんとだ、確かにあいうえお順だ。あ~あ~、やっぱ、くやちー」

 

そう嘆きながらも、茶髪はヴィトンの財布から惜しげもなく千円札を出した。

 

「はい、1,000円」

 

「あ、どうもね。ありがとさん。そっちの可愛い子ちゃんはどうする、やってみるかい?」

 

お金を受け取ったクイズ男が黒髪に聞いた。

 

「どうしょっかなー」

 

迷っている様子だった。

 

「やってみれば。私のより簡単かもよ」

 

茶髪が促した。

 

「だね。じゃ、やってみる。クイズマンさ~ん、Bコースで」



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6話

【6】◆(◇は、50音順で隣り合った次の文字との組み合わせでできる2文字の言葉)柿くけこ/愛うえお/あい上お/か菊けこ

・―・―・―・―・

 

 

 

 

 

「OK。じゃ、Bコース、いくよ。

 

 

【7】『ペアを探せ!』って奴だ。次の左右の組み合わせは、ある法則によって成り立っている。では、網の相棒は何?」

 

 

 

 狼 流れ

 

 今 勝った

 

 網 ?

 

 

 

 

 

「何、これっ!めっちゃ難しい。てか、この漢字、アミだっけ、ツナだっけ、どっちだっけ」

 

「アミだよ。で、どうするんだ?買うのか、買わないのか」

 

クイズ男が催促すると、黒髪は戸惑ったのか、困った様子で茶髪を見た。

 

「大丈夫だよ、負けても1,000円だし。それに、1分あれば答えが閃くかもよ。いっちゃえ、いっちゃえ」

 

茶髪が囃し立てた。

 

「いっちゃえ、いっちゃえ!」

「女は度胸だ!」

「そうだ、そうだ!」

 

周りの見物人も煽った。

 

「……じゃあ、いく」

 

「じゃ、こっちもいくよ。3・2・1、スタート!」

 

クイズ男がスタートを切った。

 

「……ペアでしょ?エーッ、これだけじゃ、わかんないよ。……ヤだ、絶対無理。ああ、どうしょ」

 

黒髪もまた、独り言を呟いていた。

――結局、

 

 

「残念、無念、胸ないねん。仕方ないねん、時間やねん」

 

クイズ男は、何だか訳の分からないことを早口で言って、終了を告げた。

 

「……分かんなかった」

 

黒髪がベソをかくような顔で茶髪を見た。

 

「私だって、分かんなかったもん」

 

茶髪が同情した。

 

「答えは、こうよ」

 

クイズ男がメモ用紙を見せた。

 

「……アッ、そっか。英語だと確かにそうだよ、なるほど。この問題、面白い」

 

納得したのか、黒髪は気前よく千円札を出した。

 

「はい、1,000円。負けたけど、楽しかったです」

 

黒髪が笑顔で言った。

 

「ありがとさん。そう言ってもらえると嬉しいね」

 

「また来るね。クイズマンさ~ん、バイバ~イ!」

 

黒髪がそう言って手を振ると、茶髪も手を振った。

 

「ああ。また待ってるよーっ!次はいないかな?」

 

「おじさん、ぼく」

 

先日の少年だった。

 

「ヨッ、貯蓄が趣味の少年じゃねぇか。どうだ、貯蓄のほうは殖えてっか」

 

「あの1,000円のソンシツは、とりもどしたよ」

 

「すげえな、やっぱ。貨殖の才があると見たが、さすがだ。それに、ほっぺの傷も治って、男前が上がったじゃねぇか」

 

「オセジはいいからさ、ぼくのクイズ買う?」

 

「オー、今回は“売り”か?楽しみだな。だが、また坊やの貯蓄が減る可能性があるぜ。それでもいいのか?」

 

「自分で考えたクイズだもん、負けたら負けたで、ナットクいくよ」

 

「かっけー!それでこそ男だ。で、どんな問題だ?」

 

「ぼくが考えたなぞなぞ」

 

「なぞなぞか、いいね。謎めいた謎解きをなぞっちゃうよ」

 

「おもしくねー、ダジャレ」

 

「わりかったねー、どうも。ラベルが低くて」

 

「レベル。そろそろいっていい?」

 

「ああ、OK道場だ。いつでもドウジョ~」

 

「じゃあ、いくよ」

 

少年はチノパンのポケットから、畳んだ紙切れを出すと、クイズ男に差し出した。紙切れには、

 

【8】すっげースピードで、あっというまに飛んでいっちゃう昆虫、な~んだ?

 

 

と、書いてあった。

 

「……少年、やめとけ。折角だが、この問題は買えねぇ」

 

クイズ男が真顔で言った。

 

「なんでだよ」

 

「もう、答えが分かっちまったからだよ」

 

「チェッ、つまんねーの」

 

「皆さん、すまねぇ。公平さを欠くかもしれねぇが、この少年の問題は買いません。分からない振りをして最後に答えて、金を頂くこともできるが、それはしたくねぇ。……この子が可愛いもんでね」

 

クイズ男はそう言って、少年に微笑んだ。

 

パチパチ……周りから拍手が起こった。

 

「何事にも例外は付きもんだ。たまには、そういうのもありでいいんじゃない」

「そうそう。そういうとこが、クイズマンのいいとこだしさ」

 

馴染みの見物人がクイズ男の肩を持った。

 

「……ありがとう。すまねぇ、私情が入っちまって」

 

クイズ男は、ジーパンのポケットから出したヨレヨレのハンカチで目頭を押さえた。

 

「いいって、いいって、気にしなくて」

 

馴染みの見物人が言った。

 

「……おじさん」

 

少年はしんみりとして、クイズ男の横に座った。

クイズ男は少年の肩に手を置くと、顔を見た。

 

「クイズ絡みじゃなくてもいいからさ、たまに遊びに来い。おめぇ、息子みてぇで、……好きだからさ」

 

「わかったよ。クイズがらみじゃなく、おじさんとからむよ」

 

「後で、一緒にメシでも食うか」

 

「しかたないな、つきあってやるよ」

 

「よーし、決まりだ。次はいないかな?難問奇問、何問でもキモーン!(come on )」



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7話

【7】10(英語にすると、倒語になる)wolf flow /now won /net ten)

【8】ハエ(はえー!)

 

 

 

 

 

 

「クイズマンさん、お久しぶりです」

 

一度クイズを売ったことのある、ロマンスグレーの紳士だった。

クイズ男は慌てて腰を上げると、

 

「これはこれは、先日はありがとうございました」

 

と言って、会釈をした。

 

「いえいえ、お役に立てて何よりです。ハハハ……本日は再び挑戦しに参りました」

 

「それはそれは。わざわざご足労いただき、ありがとうございます」

 

「なんのなんの。私もあなた様にお会いできるのが楽しみでしてね。早速、こうやって伺いました」

 

「ありがとうございます」

 

「これです」

 

紳士はコートのポケットから手帳を取り出すと、挟んでいた紙をクイズ男に渡した。

受け取った紙をひっくり返した途端、クイズ男の表情が変わった。

 

それには、

 

【9】○に入る漢字は何?理由も答えてください。□に入るのはすべて同じですが、そのまま使うのは不可。

 

 

 

 □ 豹

 

 □ 豚

 

 □ ○

 

 □ 老

 

 □ 髪

 

 

 

と書いてあった。

 

「では、よろしいですか?」

 

紳士が尋ねた。

 

「ええ、いつでもどうぞ」

 

クイズ男は、紙を睨んだままで返事をした。

 

「では、いきます。3・2・1、スタート!」

 

腕時計を見ながら紳士がスタートを告げた。

クイズ男は身動ぎ一つせず、紙に視線を落としていた。

静まり返った重い空気の中、周りにも緊張が走った。

クイズ男は、一意専心といった具合に、ずっと紙を見つめていた。――

 

 

 

「10秒前。9・8・7・6・5」

 

紳士がカウントダウンを始めた。

周りの見物人は祈る思いで、クイズ男を見守っていた。

 

「4・3・2・1」

 

 

 

 

 

 

その時、

 

「解けました」

 

クイズ男の低い声が、静寂を切り裂いた。

 

「…………ぇ?」

 

紳士は茫然自失のごとく、一瞬、言葉を失った。

 

「……ヒントもなしに、凄いですね」

 

紳士は驚いた顔をしていた。

 

「いや、問題の中にありました。5というヒントが」

 

クイズ男は、自信に満ちた顔を紳士に向けた。

 

「うむ……さすがです。クイズを商売にするだけの実力をお持ちだ。感服しました」

 

紳士は、クイズ男に感心していた。

 

「まだ、正解かどうか」

 

クイズ男は、謙虚にそう言いながら、答えを書いた紙と、紳士が手にした正解が書かれた紙を交換した。

が、クイズ男は正解が書かれた紙は見ず、紳士の挙動を窺っていた。

紳士は、クイズ男の書いた解答をチラッと見ると、内ポケットから財布を取り出した。

 

「間違いなく、正解です」

 

そう言って、紳士は真新しい二千円札を手渡した。

 

「これは、どうも。今回もまた、見とれんばかりのピン札だ」

 

「本当に、クイズマンさんには感服しました」

 

「いえいえ、紛れ当たりですよ」

 

「いや、実力のほどは把握しました。次回は必ず、唸らせてみせますよ。ハハハ……」

 

「楽しみにしています」

 

「近いうちにまた、伺います。あなたと話すのは楽しい。では」

 

紳士は笑顔でそう言うと、片手を上げて挨拶をした。

 

「ありがとうございます」

 

クイズ男は、深々と頭を下げた。

 

パチパチ……周りから拍手が湧いた。

 

「やっぱ、スゲーなクイズマンは」

 

馴染みの見物人が感心した。

 

「おじさん、やっぱ、スゴいや」

 

少年も感心していた。

 

「そうか?ありがとな」

 

クイズ男はそう言いながら、少年の頭を撫でた。

 

「次はいないかな?」

 

「ネッ!Bコースを」

 

20代半ばだろうか、毛皮のコートを着たケバい女が手を挙げた。

 

オ~。周りから嘲笑が漏れた。

 

「こりゃあ、別嬪さん、いらっしゃい。条件は看板どおりだ。いいかい?」

 

「ええ、いいわ」

 

女は、クイズ男の傍らに歩み寄った。

クイズ男は、例のメモ用紙をパラパラと捲り、適当なのを選んだ。

 

「じゃ、これにするか。Bコース、いくよ。

 

【10】『仲間はずれを探せ!』って奴だ。

次の4つの中で、他の3つと異なるのはどれ?」

 

 

 

 ぼたん

 

 もみじ

 

 さくら

 

 すみれ

 

 

 

「じゃ、いくよ。いいかい?」

 

「……ぇぇ、ぃぃゎ」

 

女は、小さな声で返事をした。

 

「3・2・1、スタート!」

 

クイズ男がスタートを告げた。

女は無言で、手にしたメモ用紙を見つめていた。

周りの連中も、女に気を遣うかのように息を殺していた。――

 

 

 

「30秒前――」

 

クイズ男が残りの時間を教えた。

すると、

 

「もう、解けてるわ」

 

と、女の口から予期せぬ言葉が発せられた。

 

エーツ!周りから驚愕の声が漏れた。

 

「ホー。では、これに書いてください」

 

女の解答を不正解と見たのか、クイズ男は余裕でメモ用紙を手渡した。

 

「簡単よ。見て、すぐ分かったわ」

 

女はメモ用紙に走り書きすると、間髪を容れずクイズ男に差し出した。

解答を見たクイズ男は、案の定と言わんばかりに、

 

「うむ……残念」

 

と、嘆いた。

 

「なんでよ。私の書いたのだって、正解でしょ?」

 

女がムキになった。

 

「これには、〔もみじ以外は花の名前〕とあるが、ぼたんだって、花だけじゃなくシャツに付いてるボタンもあるよ」

 

「……ぁ、そっか」

 

「残念だな」

 

「でも、惜しかったでしょ?」

 

「ああ。残りの30秒を有効に使えば、もしかしたら正解してたかもしれないな」

 

「そうね。今度からは制限時間ギリギリまで粘ってみるわ。で、答えは?」

 

「答えはこうよ」

 

クイズ男は手招きして、メモ用紙を見せた。

 

「……へぇ。こんな呼び方になるんだ。全然知らなかった。勉強になりました」

 

女は納得すると、シャネルのバッグから財布を出した。中から千円札を抜き取ると、クイズ男に差し出した。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとさん」

 

クイズ男は、快く受け取った。

 

「ねぇ、クイズマンさん。私、パブで働いてるの。一度飲みに来て。安くするから」

 

女はそう言いながら、バッグから取り出した名刺を、クイズ男に手渡した。

 

「今日の負けを10倍にして取り戻す気だな?」

 

ハハハ……周りが笑った。

 

「当ったり。お待ちしてま~す。じゃあね」

 

女は手を振りながら背を向けた。

 

「ありがとう!さて、次はいないかな?難問奇問、何問でもキモーン!(come on )」



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8話

【9】胆(□に入るのは海。読みがあいうえお順になっている海の生き物)海豹アザラシ/海豚イルカ/海胆ウニ/海老エビ/海髪オゴ

【10】すみれ(他は鍋料理の異名)ぼたん鍋/もみじ鍋/さくら鍋

 

 

 

 

 

2月に入っても、クイズ男のベンチには人集りができて、活気があった。

 

「クイズマンさん」

 

チューリップハットにメガネとマスクをした、腰の曲がった老婆が声をかけた。

 

「え?クイズ男でいいですよ」

 

「クイズ男さん、わしのような年寄りでもチャレンジできるかのう?」

 

「どうぞ、どうぞ。年齢、性別、不問で、カモーンですよ」

 

「そうかい?じゃ、Bコースでもいってみるかのう。ヨッコイショっと」

 

老婆はそう言いながら、クイズ男の横に座った。

 

「OKですよ。ジャンルは選べませんが、得意なジャンルとかありますか?」

 

クイズ男は、例のメモ用紙をパラパラと捲りながら聞いた。

 

「ん?ジャンルダルク?」

 

「ハハハ……。お婆ちゃん、面白いですね」

 

「そうよ。面(おもて)は白いが、腹は黒い。略して、ハラグロじゃ。だが、それでは芸がないから、腹黒イダー(パラグライダー)と、美しく称しておる。ゲヘ」

 

「うまいっ!座布団1枚」

 

「サンキュー。年寄りは腰が冷えるからの。では、頂きますよ」

 

老婆は、毛糸の手袋をした両手で、座布団をもらうジェスチャーをすると、

 

「ヨッコラショっと」

 

そう言って、尻に敷く真似をした。

 

ハハハ……。周りが笑った。

 

「お婆ちゃんは、なかなかチャーミングですね」

 

クイズ男が褒めた。

 

「ん?チャーミーグリー○?」

 

老婆がとぼけた。

 

「ハハハ……。よく分からないが、クイズ、いくよ」

 

「はいよ。いくよ、くる○」

 

「ハハハ……。楽しいな」

 

「雪の降る夜は楽しいペチカ~♪」

 

「ハハハ……。切りがないから、問題いこ。

 

【11】次の1~4を日本語にし、同じ漢字を加えて熟語にせよ」

 

 

 

1 tea

 

2 flower

 

3 mouth

 

4 salmon

 

 

 

その問題を見た途端、

 

「わしが年寄りじゃと思て、横文字で来たの?こう見えても、漢字検定準1級合格の上に、現代英語翻訳講座も修了しとるのよ」

 

老婆はそう言って、

 

「ほれ、紙と鉛筆、カモーン」

 

と、手を伸ばした。

 

「……あ、はい」

 

予想外の展開に、クイズ男は動揺している様子だった。

 

「人間を見る目が、まだ甘いのう。すすいのすいと。ほれ、答えじゃ」

 

老婆は、受け取ったメモ用紙に走り書きすると、素早い動きでクイズ男に渡した。

答えを見た途端、クイズ男は目を丸くした。

 

 

 

 

 

「…………正解……です」

 

クイズ男が呟くように言った。

 

「人を見かけで判断してはいかん。教訓じゃ、よく覚えときなされ」

 

「……はあ」

 

クイズ男は恐縮しながら、ジャケットのポケットから千円札を差し出した。

 

「悪いのう。では、遠慮なく。うひょ。もう1問いきたいとこじゃが、顰蹙(ひんしゅく)を買うおそれありーだ。じゃあね」

 

老婆は、受け取った金をコートのポケットに仕舞うと、スッと腰を上げて、早足で立ち去った。

その様子を見て、クイズ男も見物人も呆気にとられていた。

腰を曲げていたのは演技だったのだ。

 

「フン……参ったな」

 

初めての失態に、クイズ男は自嘲(じちょう)していた。

 

「スゲー婆さんがいたもんだ」

「人は見かけによらないね」

「演技賞もんだな」

 

周りの連中が口々に言った。

だが、余程ショックだったのか、周りのそんな言葉にも反応せず、クイズ男は深刻な面持ちで俯いていた。が、

 

「まだまだ、修行が足りないな俺も」

 

気持ちを切り替えたのか、クイズ男はそう言って、おどけた顔をしてみせた。

 

「そんなことないよ、あれじゃ、誰だって騙されるって」

「そうそう。一筋縄ではいかないタイプだった」

「クイズマンが落ち込むことは何もないよ」

 

周りが助け船を出した。

 

「みんな、ありがとう。みんなからそんなふうに言ってもらえて、俺は幸せもんだ。じゃ、次、いってみっかな。難問奇問、何問でもキモーン!(come on )」



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9話

【11】紅(紅茶、紅花、口紅、紅鮭)

・―・―・―・―・

 

 

 

あのチューリップハットの老婆に一撃されたのがよほどの痛手だったのか、あれ以来、公園でクイズ男を見ることはなかった。

 

それでも一縷の望みにかけて、僕は毎日のように公園に行っていた。

 

 

 

 

それは、5月に入って間もなくだった。例のベンチに人集りができていた。まさかと思いながらも、期待を胸に小走りになると、急いで人垣を掻き分けた。

 

そこに居たのは、紛れもなくクイズ男だった。僕は思わず笑みが溢れ、無意識のうちに握手を求めていた。

 

「よぉ、お馴染みさん。またよろしく頼んますよ」

 

クイズ男は笑顔を向けると、そう言って、気安く握手に応じた。

 

「えー、3ヶ月のご無沙汰、玉置セマシです」

 

ハハハ……。周りが笑った。

 

僕も嬉しかった。クイズ男は余計なモノが吹っ切れたかのように快活で、こっちまで気持ちがよかった。

 

サンドウィッチマンの格好は相変わらずだったが、着ている物がダウンジャケットからTシャツに変わっていた。

 

「信州信濃の新蕎麦よりも、私ゃあんたの側がいいってね。またまたやって来ましたクイズ男。難問奇問、何問でもキモーン(come on )でぃっ!」

 

「よっ、待ってましたっ!」

 

常連の一人が声をかけた。

 

パチパチ……。周りからも拍手が起きた。

 

「嬉しいね。ありがとさん」

 

「じゃ、俺からいくか。快気祝いだ。Bコースを」

 

馴染みの見物人が名乗りを上げた。

 

「悪いね、どうも。快気祝いってこた、こっちが頂かなくっちゃな。じゃ、これでもいってみっか」

 

クイズ男は、例のメモ用紙をパラパラと捲ると、適当なのを中年男に見せた。

 

【12】次のスケルトンから、ナナメに四字熟語を探せ。

 

 

 

雨音 一時雨 情熱

台 風物 風流 帯

風媒花 姿 星月夜

 酌 花見客 下 

偉人伝  車海老 

大 書留郵便 人情

 

 

 

「ゲッ!マジかよ。俺から金を巻き上げる気だな?四字熟語なんて、キキイッパツかキキキリンぐらいしか知らないや」

 

ハハハ……。周りが笑った。

 

「どうする、やめとくかい?」

 

「いや、やるさ。武士に二言はないやい」

 

「じゃ、スタートするぜい」

 

「あいよぉ」

 

「3・2・1、スタート!」

 

クイズ男がスタートの合図を送った。

 

中年男は腕組みすると、ああでもない、こうでもないと呟きながら、頭を捻っていた。――

 

 

 

 

「もう時間が来たろうでぃ。おーい、きたろー!」

 

「うむ……たぶん、これじゃないかな」

 

「どれ?」

 

「とき、かぜ、ほし、した」

 

「で、どういう意味?」

 

「風が吹く時は星の下がキレイだなぁ、みたいな?」

 

「ブー!残念。答えはこうよ」

 

クイズ男は手招きすると、答えを見せた。

 

「……何これ?難し過ぎだよ。それに誰よ、このセアヤって」

 

「ハハハ……。セアヤじゃないよ」

 

「さっぱりだ。ま、ご祝儀だと思えば、安いもんだけどね。はいよ、1,000円」

 

中年男はそう言いながら、財布から千円札を出した。

 

「こりゃどうも。ありがたく頂きますよ、ご祝儀を。エヘヘ。次はいないかい?難問奇問、何問でもキモーン!(come on )」



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10話

【12】風姿花伝(世阿弥が記した能の理論書)

・―・―・―・―・

 

 

 

 

「クイズマンはん、Bコースを」

 

20代半ばだろうか、和服の美人だった。

 

「おっ、京美人さん、いらっしゃ~い」

 

「あら、どうして京都だと?」

 

「クイズマンさんじゃなくて、クイズマンはん、て言うたさかい」

 

ハハハ……。クイズ男の下手な京都弁に周りが笑った。

 

「さすがやわ。先斗町で芸妓してます。よろしゅう」

 

「富士の高嶺に降る雪も~、京都先斗町に降る雪も~♪って奴だな。で、京美人のお得意なジャンルは?」

 

「クイズマンはんに、お任せします」

 

「そう?じゃ、これでもいってみっか、よっか、いつか、むいか」

 

クイズ男は、例のメモ用紙を捲りながら、芸妓をチラッと見ると、ベンチに置いたボストンバッグからマッチ箱を出した。

 

「ふふふ。クイズマンはんは、おもろいわ~」

 

「おおきに。ほな、いくへぇ」

 

「ええ。ふふふ」

 

 

 

【13】「マッチ棒5本からなる、この4分の1を、1本動かして、答えが2になるようにしてちょーだい」

 

 

 

  1

  ―

  4

 

 

 

 

「どないしよう、算数は苦手やさかい」

 

「やめとくかい?」

 

「ううん。そんなん、クイズマンはんに失礼やわ。やります。けど、ヒントは無いんどすやろ?」

 

「へぇ、無いんどす。個人的にはやりたいんどすけど、京美人にだけヒントやれまへんのどす。分かっておくれやす」

 

「ふふふ……了解どす。ヒント無しでやってみます」

 

「すまないね。じゃ、スタートしますへ」

 

「へぇ、構しまへん」

 

「3・2・1、スタートどすへ」

 

「ふふふ」

 

芸妓は、マッチ棒を動かしながら、クイズ男の似非京都弁に笑っていた。――

 

 

 

 

結局、芸妓は解けなかった。

 

「京都からわざわざ来てくれはったのに、堪忍え。時間も来はったわ」

 

「ふふふ。クイズマンはんに会えただけでよかったわ」

 

「可愛いこと言っちゃって、嬉しいね。答えは、こうよ」

 

手招きすると、答えを見せた。

 

「あら、ほんまや。確かに2になるわ。答えは算数やのうて、数学のレベルに変身やわ」

 

「上手いこと言うね、京美人は」

 

「楽しかったわ。はい、1,000円」

 

和柄の財布から千円札を抜き取った。

 

「すまないね、ありがとさん」

 

「京都に来ることがあったら、電話しておくれやす。観光案内しますよってに」

 

そう言いながら、和装バッグから名刺を出した。

 

「京都に行ったら、電話しますよ。ありがとう」

 

「こちらこそ、おおきに。ほな」

 

芸妓は袂を摘まむと、軽く手を振った。

 

「ありがとう!……いやぁ、歩く姿は百合の花だなぁ」

 

「クイズマン、鼻の下が伸びてるよー」

 

馴染みの見物人が茶化した。

 

「ん?あら、ほんまや。お客はんと同じ長さやわ」

 

鼻の下に指を置きながら、茶化した見物人と息を合わせた。

 

ハハハ……。周りが笑った。

 

「さて、次はいないかい?難問奇問、何問でもキモーン!(come on )」



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11話

【13】1を4の左に置く(√4)

・―・―・―・―・

 

 

 

 

あれから夏が過ぎ、秋が過ぎ、そしてまた冬が来た。

 

クイズ男の人気は未だ衰えず、指定席のベンチにはいつものように人垣ができていた。

 

「寒い中をありがとう」

 

去年と同じダウンジャケットのクイズ男が、ギャラリーに礼を言った。

 

「なーに、クイズマンの寄席を聴いてりゃ寒さも吹っ飛ぶさー!」

 

常連客の一人が巧みなツッコミを入れた。

 

「寄席って、おいら、落語家か?そんなことを言うのはよせ」

 

ハハハ……。クイズ男のダジャレに周りが笑った。

 

「さて、挑戦者はいないかな?」

 

「あの……いいですか?」

 

清楚なイメージの三十半ばが名乗りを上げた。

 

「おお、なかなかの美人さんがチャレンジャーだ」

 

クイズ男がニヤリとした。

 

「ありがとうございます。では、Bコースで」

 

「了解なりなり成田山」

 

そう言いながら、例のメモ用紙を捲った。

 

「じゃ、これにすっか」

 

手を止めると、女を見た。

 

「じゃ、いきますよ」

 

「あ、はい」

 

女が一歩前進した。

 

 

 

【14】「あるところに、わらの家と木の家とレンガの家がありました。

わらの家にはスズメが住み、木の家にはキツツキが住んでいました。

では、レンガの家には、次のどれが住んでいたでしょう?」

 

 

 

 ①鶏 ②烏 ③鷲 ④鷹 ⑤鳩

 

 

 

 

女は真剣な表情で、渡されたメモ用紙を見つめていた。

 

「スタートするよ。いいかい?」

 

「ええ。どうぞ」

 

「3・2・1、スタート!」

 

クイズ男がスタートの合図を告げた。

 

女は微動だにせず、メモ用紙に目を落としていた。

 

周りにも緊張が走った。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、時間が喜多方ラーメンだ」

 

「もしかして、……これかしら」

 

女が独り言のように呟いた。

 

「残り、10秒だ。9・8・7・6・5・4・3・2」

 

「分かりました」

 

女は明確に言葉を発した。

 

「えっ?」

 

クイズ男は女の目を見て、“当てられた”と直感したようだった。

だが、チューリップハットの老婆の時とは違って、今回は落胆した様子は無く、むしろ喜んでいるように見えた。

 

「では、これに書いてください」

 

「あ、はい」

 

女は、渡されたメモ用紙に鉛筆を走らせた。

 

クイズ男は、女の解答を見る前から千円札を用意していた。

 

そして、女が差し出したメモ用紙と、正解を書いた紙を交換した。

 

「……正解です。理由もその通り。スゴい」

 

クイズ男はそう言って感服すると、千円札を手渡した。

 

「ありがとうございます」

 

女が頭を下げた。

 

パチパチ……。周りから拍手が起こった。

 

「クイズマンのクイズを解くとは、スゲーや」

「ホント、大したもんだ」

 

常連の見物人が感心した。

 

クイズ男は、女と目を合わせて笑っていた。

 

と、その時。

 

「お母ちゃん!」

 

そこに現れたのは、クイズにも挑戦したことのある、貯蓄が趣味の例の少年だった。

 

「……お母ちゃん?」

 

クイズ男は、合点がいかない表情をしていた。

 

「おじさん、紹介するよ。ぼくのお母ちゃん」

 

少年が女の手を握った。

 

「エッ!」

 

不釣り合いの取り合わせに見えたのか、クイズ男は、釈然としない顔つきだった。

 

「息子がいつもお世話になっています」

 

母親が頭を下げた。

 

「あ、いいえ。明るくて元気があって、なかなか爽快な少年で。あら、そうかい?なんちゃって」

 

ハハハ……。周りが笑った。

 

「ありがとうございます。でも、わんぱくで困ってます」

 

「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい。○大ハムなんてね」

 

「おじさん、お母ちゃんスゴいだろ?おじさんのクイズ当てるなんてさ」

 

「ああ、スゴいよ」

 

「たまたま、この子の教科書にあったのを覚えてて」

 

「……なるほど。それで、いとも簡単に当てられたわけだ」

 

クイズ男が納得した。

 

「お母ちゃん、ぼくのおかげだね?」

 

「ええ、そうね」

 

「へへへ」

 

少年が得意満面の表情を浮かべた。

 

「これを機に、また挑戦してちょー」

 

「はい。次は“売り”に挑戦してみます」

 

「それは楽しみだ。待ってますよ」

 

「ええ」

 

「さて、次はいないかな?難問奇問、何問でもキモーン!(come on)」



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12話

【14】②烏(部首がれんが)

・―・―・―・―・

 

 

 

「あ、ハイハイ!」

 

手を挙げたのは、常連の初老の男だった。

 

「おう。お馴染みさん、ありがとさん」

 

「たまにゃ、挑戦してみっかな。じゃ、Bコースで」

 

「OK牧場!じゃ、これでもいってみっか、よっか、いつか」

 

クイズ男はメモ用紙を捲って、適当なのをチョイスすると、別のメモ用紙と鉛筆を渡した。

 

 

【15】次の四字熟語の○に入る漢数字の合計を答えよ。

※すべての四字熟語に〈千〉が含まれている。

 

 

 

○載○遇

 

○変○化

 

○差○別

 

○騎当○

 

○日○秋

 

海○山○

 

 

 

「ゲッ!一番苦手な四字熟語に当たっちまった。その上、算数までおまけ付きだ」

 

「どうする、やめとくか?」

 

「今更ジロ~ごめんとジロ~言わないわよっよ~♪」

 

ハハハ……。へたくそな歌に周りが笑った。

 

「じゃ、いくよ?」

 

「はいな。いくよ、くる○」

 

「どっかで聞いたフレーズだな。……アッ!チューリップハットのおばあちゃんのセリフだ。俺より有名になっちまってら。ぼちぼちスタートいくよ」

 

「はいな。いくよ、く○よ」

 

「5・4・3・2・1、スタート」

 

クイズ男がスタートを告げた。

 

「うむ……。すべてに〈千〉があるってことは、最低でも6千以上だな。〈一〉とか〈二〉とか付いてるかも知れないから、一桁まで正確に当てるのは無理だ……」

 

「ペチャクチャ喋ってると、時間が来ちまうよ」

 

「えーい。どうせ考えても分からんから、勘でいくか」

 

「勘も実力のうちだ」

 

「うむ……何にするかな。生年月日、電話番号、名前の語呂合わせ……」

 

「残り、20秒!」

 

「よし!じゃ、俺の名前が船尾だから……」

 

「残り10秒。9・8・7・6・5」

 

「ふなおおっさんで、○○○○○だ!」

 

「!……ありかよ?当たっちまった」

 

「エーッ!……マジで?」

 

まさか当たるとは思わなかったのか、正解した当人が目を丸くしていた。

 

「山勘、空き缶、第六感で、当てられちまった――」

 

「やったー!ツナ缶にせんでよかった」

 

アッハッハッハッ!周りが笑った。

 

「はいよ」

 

クイズ男が千円札を手渡した。

 

「サンキュー。マッ○でカプチーノしよう」

 

「カプチーノでも、アルパチー○でもしてくれ」

 

「じゃーにー」

 

船尾と名乗る男は手を振ると、鼻歌まじりでスキップしながら帰っていった。

 

「クイズマン、たまには愛嬌だ」

 

常連客の一人が慰めた。

 

「だな。……たまにゃ、こんな時もあるわな。さて、気分を変えてっと。次はいないかな?」

 

「あの、……いいですか?」

 

手を挙げたのは、OL風の30代の美人だった。

 

「おう、別嬪さん、いらっしゃい」

 

「売りですが」

 

「売り、大歓迎でっせ。“瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声”ってね。で、どんなクイズかな?」

 

「なぞなぞで」

 

女が紙切れを手渡した。

 

「なぞなぞ、大好きッス」



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13話

【15】27003

千載一遇

千変万化

千差万別

一騎当千

一日千秋

海千山千

・―・―・―・―・

 

 

【16】生命の危機から何とか生き残ろうとする時に偉そうにする生き物は何?

 

※理由も書いてください。

 

 

 

それを読んだ途端、クイズ男の表情が緩んだ。

 

「別嬪さんも答えを書いておいてくださいよ」

 

「はい、もう書いたのがあります。スタートしていいですか?」

 

「プリーズ、フリーズ、ファブリー○」

 

「では、スタート!」

 

女がスタートを告げた。クイズ男は問題を読んだ時点で、すぐに解いたように僕には見えた。

 

そのことを気付かれまいとしているのか、クイズ男は一度も顔を上げず、紙切れを睨んでいた。

 

 

 

「10秒前!9・8・7・6・5」

 

「解けました!」

 

クイズ男が鉛筆を走らせた。

 

「えー?……」

 

ため息にも似た女の声が微かに漏れた。

 

「では、別嬪さんの答えと交換しましょう」

 

女はショルダーバッグから手帳を取り出すと、挟んでいた紙切れをクイズ男のメモ用紙と交換した。

 

「スゴい。……正解です」

 

女は感服したように表情を和らげた。

 

「いやいや。まぐれ当たり、気まぐれヴィーナスですよ」

 

「では、2,000円ですね」

 

女は財布から千円札を2枚抜き取ると、惜しげもなくクイズ男に差し出した。

 

「ありがたくいただきます」

 

クイズ男は拝む格好をした。

 

「また、新しいのを考えて来ますね」

 

女はそう言って、くるりと背を向けた。

 

「待ってますよー!へへへ。さっきの負けを取り戻した上にプラ1,000だ」

 

「クイズマンは、やっぱりスゴいや」

 

常連客が感心した。

 

「いやいや。まぐれ当たりの気まぐれヴィーナスよん。さて、次はいないかな?」

 

「あのう……いいですか?」

 

黒縁メガネの40前後の女性が声をかけた。

 

「おう、インテリ美人さん、いらっしゃい。今日は美人が多いね」

 

「Bコースを」

 

「はいよ。Bコースのフルコースだ。どれにするかな?」

 

 クイズ男は、例のメモ用紙を捲っていた。

 

「じゃ、これでもいってみっか。いじわるなぞなぞだ」

 

 

【17】テーブルの上にバナナとリンゴとミカンをおき、さらにブドウをおいた。テーブルの上にあるのは何種類のフルーツ?

 

 

問題が書かれたメモ用紙を見た途端、女は含み笑いをした。答えが分かったようだと僕は思った。クイズ男もそれを察知しているように見えた。

 

「それじゃ、スタートするよ。いいかい?」

 

「ええ。どうぞ」

 

メモ用紙と鉛筆を受け取った女は、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と言った具合にクイズ男に微笑んだ。

 

前回の(もう)けがあるせいか、クイズ男にも余裕が見えた。

 

「じゃ、参りますよ。3・2・1、スタート!」

 

クイズ男がスタートを切った途端、女は鉛筆を走らせ、

 

「書きました」

 

と言って、クイズ男を見上げた。

 

「速っ!新記録達成だ」

 

クイズ男は女から受け取ったメモ用紙を見て、にんまりした。

 

「大正解!」

 

パチパチ!周りから拍手が起きた。

 

「ありがとうございます」

 

女が周りにお辞儀をした。

 

「簡単過ぎたかな?」

 

「まぐれ当たりの気まぐれヴィーナスです」

 

クイズ男のせりふを真似た。

 

ハッハハハ……周りが笑った。

 

「クイズマンさん。……実はお詫びに来ました」

 

女が真顔でクイズ男を見た。

 

「えっ?」

 

なんのことか分からないクイズ男は、女を見つめた。

 

すると、女はショルダーバッグから、何やらたたんだモノを取り出して広げると頭に被った。

 

それは、チューリップハットだった。



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