特異な携帯獣に関する記録。それと私の主観と偏見。 (ふにゃ)
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白狐キュウコン

 

 ポケットモンスター、略してポケモン。これを読んでいるキミたちの周りにも、きっとポケモンが居るだろうと思う。ポケモン嫌いの人間はこんなものを読まないからね。

 

 まあ、悩みに悩んだ末こんな書き出しになってしまったことを許して欲しい。文章の書き出しは物書きにとってはある種最も重要なものの一つだが、生憎私は研究者。知り合いに書き出しだけでも一緒に考えてもらおうと思ったが、彼女も多忙な身でね。大学のサイトにコラムとして載る程度の文章だ、こんなところで妥協してしまうのも仕方が無いことなのだよ。ちなみに書籍化の予定はない。

 

 さて、話題を戻そう。ここでは私が主に研究している、ポケモンの異常個体についていろいろ書いていこうと思う。異常個体とは言っても、その原因や形態は様々だ。疾患だったり、突然変異だったり、異常進化だったり、私がこれまで見てきたものだけでも挙げればキリがない程だ。というわけで、私の体験を交えて一つ一つ話していく。もし良ければ、これを読んだキミたちの所感を伝えて貰えると嬉しい。匿名でも構わないから、率直な意見を貰えないだろうか。私にはない目線からの意見は、ときに研究を大きく進展させる材料となる。

 

 では、まえがきはこれくらいにしておこう。

 どうかこの記事を読んだキミたちが、この学問に興味を持ってくれることを望む。

 

タマムシ大学 携帯獣学 環境生命学科 進化研究分野

 

准教授 サクラギ コウハ

 


 

 記念すべき第一回は、私と最も縁が深いポケモンにしようと思う。彼女は私が出会ったポケモンの中で最も美しく、そして逞しいポケモンの一匹だ。

 

 私が彼女と出会ったのは、カントー地方とジョウト地方の中間に位置する霊峰、シロガネ山だった。当時大学生だった私は教授の助手として護衛と共に調査グループに参加しており、シロガネ山に生息するポケモンの調査を行なっていた。調査隊の旗はかなり有名な教授だが、ここであえて名前を出さない辺り色々と察してもらえると助かる。知りたければ私の経歴からでも調査グループの名簿に飛んでくれればいい。

 ご存知の通り、シロガネ山はポケモンチャンピオンやそれに準ずる資格がないと立ち入りできない真の魔境である。あの時はリーグの認可により調査グループの結成が認められたが、その後はシロガネ山は封鎖されたままだ。

 

 密猟者が侵入して死亡する事故が後を絶たないこのシロガネ山だが、封鎖されているからにはもちろん相応の理由があるのだ。

 少しだけ、私の体験を書いておくとしよう。

 

 まず、山に入って直ぐに感じたのは緊張感だった。山全体に張り詰めた空気が、緊張と警戒に染まっていた。

 それから直ぐに現れたのは、興奮した様子のギャロップの群れ。幸いにして護衛のトレーナー3人がかりで撃退することができたが、野生個体とは思えないほどの強さはなるほど、シロガネ山の脅威を私に悟らせるに十分すぎるほどだった。

 

 それから洞窟に入って、そこで私はこの調査に着いてきたことを後悔することになる。

 群れで突進してくるドンファン。背後から命を狙ってくるゴルバット。地中から飛び出てくる巨大なイワーク。

 そのどれもが矮小な人間など瞬時に死に至らしめる脅威で、生きた心地がしなかったね。

 

 いつの間にか調査グループは分断され、私は一人になった。魔境とも言われる洞窟で、護衛のポケモンもなしにただ一人放り出された私は、その時漠然と己の死を予感していた。動けば死ぬし、動かなくても死ぬ。どこか遠くに聞こえるバンギラス達の縄張り争いの声に怯えながら、這いずるように出口へと向かっていた。尖った岩に皮膚を傷つけられながら、だけどそんなことを気にしてはいられない。私はただの人間だからね。死ぬ勇気なんてなかった。生き延びたい一心で、護衛のトレーナーと合流しようと動いていたさ。

 

 途中、人の声が聞こえて岩陰から覗き込むと、丁度護衛のトレーナーがリングマに噛み殺されたところだった。そのトレーナーが連れていたヘルガーも死体になって転がっていて、私を絶望に追い込むには十分すぎる状況だった。何せ、トレーナーとの合流は私の唯一の希望だったのだから。

 

 この分だと他の人間もほとんど死んでいるだろうと考えた私は、誰かと合流することを諦めて山を降りることにした。途中で死ぬだろうと思ってはいたが、万一にも生還できないとも限らない。心は折れかけていたが、死にたくないという思いはいつまでも残る。生存欲求というのはなかなか凄まじいものでね。サバイバルをしたことがない人はぜひやってみて欲しい。貴重な体験になるだろう。心の安寧は保証しないが。

 

 結果的に、私は命からがらシロガネ山を出ることができた。生存者三名、死者十一名という悲惨な結果ではあったが。ポケモンも含めると被害は倍以上にもなるだろう。結局、備えが不足していたのだ。

 

 まあこんなことを今更書き綴ったところで、私の講義を受けている諸君には聞き覚えのある話だろうから、これ以上詳しい話はしない。聞きたければ来年にでも私の講義を取ってくれ。

 

 

 私が生き延びることができたのは、彼女に出会ったお陰だった。

 

 アルビノ個体のキュウコン。白銀の火狐。

 

 アルビノ、という言葉を知らない者は少ないだろうが、軽くだけ説明しておく。先天的白皮症、まあ、色素欠乏症と言ってもいい。ある色素が生まれつき生成できず、皮膚や毛は真っ白に。瞳は紅くなる疾患の事だ。紫外線への耐性が低くなり、目が悪くなる個体も多い。皮膚ガンなどの発症率も数倍になると言われている。

 説明は雑だが、これくらい知っておけば特に問題はなかろう。本当はあと5倍くらい語りたいところだが、話が脱線しすぎるのでな。

 

 やけになった私が洞窟を歩いていると、唐突に目の前に現れたのがこのキュウコンだった。体毛は白く輝いていて、血のように紅く光る瞳に魅入られて、私は思わず足を止めた。

 ポケモンに出会ってしまった時点で死は確定したものと思っていたし、何より、これほどまでに美しい存在に命を手折られるのならそれも悪くないかと考えてしまった。

 

 

 しかし、キュウコンは私にその炎も牙も向けてこなかった。九本の尾を私の身体に擦り付け、匂いを嗅いで甲高く鳴いた。

 私にはその行動に覚えがあった。それはまさしく、キュウコンの求愛行動だったのだ。

 

 そしてその行為の最中、私にはテレパシーのようなものが送り続けられていた。それは言葉にしにくい感情の波であったが、好意的なものであることは分かった。

 

 それで私は、今となっては随分と肝が据わっていることだと思うが、キュウコンの尾を撫でて、交渉を持ち掛けたのだ。(キュウコンの尾に無闇に触ると祟られると言われている)

 

『私をこの山から連れ出してくれるのなら、私は貴方の伴侶となろう』

 

 自分でも不思議なことに、このキュウコンの傍にいるだけで気分が和らいだ。まさか伴侶なんて言葉が自分の口から飛び出すとは思わなかったが、彼女の求愛行動に釣られたのだろう。この時点で、私は完全に彼女に気を許していた。

 

 私の言葉の意味を理解してか、キュウコンは一つ頷いて私の前を歩き出した。見立て通りにキュウコンはシロガネ山でも強者の部類に入るらしく、ゴルバットの不意打ちやリングマのタックルも寄せ付けることなく全て追い払ってのけた。

 

 山の麓まで下りると、彼女は私の荷物からモンスターボールを取り出して、自らその中に収まってしまった。こうして私達はポケモンとトレーナーという関係を結び、同時に異種間ではあるが、伴侶となったのだ。

 

 まあ、ここまでではただの強い白狐で終わってしまうが、彼女にもきちんと特異性があるのでそこの解説もさせて欲しい。私がレスキュー隊やらメディアやらから解放されて、研究室に戻ってからの話だ。初めにアルビノ個体とは言っていたが、私は初めこのキュウコンをただの色違い個体だと思っていた。彼女がアルビノだと分かったのは、研究室で彼女をしっかりと観察し、調査するようになってからだ。

 

 多くのアルビノ個体の例に漏れずというか、このキュウコンは視力が乏しかった。ほぼ盲目と言っていいだろう。代わりに嗅覚と聴覚は他の同族よりも優れていたが、これは他の多くの盲目個体にも見られる特徴だ。

 しかし彼女の特異性はこれだけではない。なんと彼女は、後天的にエスパータイプを獲得していたのだ。

 

 人間にも超能力が使える者がいるということは、ジムリーダーナツメを初めとしたサイキッカー達によって多くのものが知るところであろうが、エスパータイプ以外のポケモンが後天的に超能力を体得するという前例は今までにない。

 

 だが、良く考えればこれは普通に有り得ることだ。何故ならキュウコンという種族は神通力や催眠術といった技を覚え、超能力者としての素養は人間よりも余程高いと言える。

 

 失った視力の代わりに念力や透視能力を得たキュウコンが存在することは、理に反したことではないと考える。また、特性として通常のキュウコンが持ち得ないテレパシーを保持し、彼女は良く私に思念を送ってくる。おかげでコミュニケーションはかなり容易だった。

 今となっては隣に居なくては落ち着かないほど、私に馴染んでいる。

 後の話でも多く出てくるはずだから、おいおい彼女の魅力を知っていって欲しい。

 

 彼女は、ポケモンが後天的に別のタイプを得ることが可能であると知らしめた第一例である。その後の研究も、いつかはこの記事に載せることだろう。

 

 ふむ。それと、次の予告でもしておこうか。次は……そうだな。イーブイの話なんてどうだろうか。多数の進化があることと希少性で有名だが、それ故に起こってしまう事故もある。

 次回も呼んでくれると嬉しい。

 

 

 

 ──そう言えば、彼女は何故あの場で私を救ってくれたのだろうか。それだけは、未だに教えてくれない。

 

 


 

【キュウコン(アルビノ)】

 

 タイプ:ほのお・エスパー

 体高:123cm

 体重:20.4kg

 特性:テレパシー

 性別:♀

 

 アルビノ個体のキュウコン。シロガネ山で発見された。

 視力を喪失している代わりに透視能力や念力によるソナーなどを獲得しており、むしろ知覚範囲も知覚精度も通常個体より上だと考えられる。また、通常は獲得し得ないはずの特性テレパシーを得ており、トレーナーとの意思疎通をより高い精度で行える。

 

 なお、野生のキュウコンはシロガネ山に存在しないため、この個体は何処かから渡って来たのだと思われる。




不評であればレポート形式ではなく普通の小説として書き直そうと思います。


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