GOD EATER~求道の徒~ (アグナ)
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タブー

シリアスです。




 ゴッドイーター。

 

 それは退廃の世に君臨する裁きが如き天災『アラガミ』に対抗すべく、神機と呼ばれる特注の武器を持って彼ら『アラガミ』と退治するものたち……即ち、神を喰らう者(ゴッドイーター)

 

 残された人類を守護すべく、『フェンリル』という組織の名の下、各国支部らでアラガミと日夜過酷な戦い、ひいては生存競争を続けている。

 

 取り分け―――此処、フェンリル極東支部は世界中の支部と見比べても過酷な激戦区である。そのため、ゴッドイーターたちは休む暇も無く、次々と現れる強力なアラガミたちに少数精鋭で立ち向かい続けていた……。

 

 

 

 ―――ラウンジ。

 激戦続く極東で、戦いの合間に息つく為の休憩所。一休みの酒場。

 その一角、カウンターに二人の男が存在していた。

 

 一人は、真壁ハルオミ。世界各地に存在する支部を渡り歩き、現在は此処、フェンリル極東支部にて第四部隊の隊長を務めるベテランのゴッドイーター。

 

 一人は、御門カナデ。フェンリル極東支部で無所属ながら単騎掛けも多くの功績を打ちたて、極東のヤベェ奴、若きエース、支える篭手、出来るイケメンと数多くの異名を持つゴッドイーター。

 

 そんな彼らはまるでこれから大きな作戦に挑むような、とても真剣な様子だった。

 

「ハル先輩、俺らは今まで多くの知識、知恵を振り絞り、真理を見つけるため言葉を交わしてきました」

 

「ああ、そうだな。同士よ……数多ある結論、答えの無い探索は厳しく、真理への道は遠い……」

 

「ええ……ですが、万人が求める回答、俺たちと同じく『道』を探し、そして無念にも届かず消えていった先達の同士たち。彼らに報いるためにも俺たちはその探索を、真理の探究を諦めるわけにはいかない……!」

 

 それはさながら答えの無い答えを探す求道者が如く。挑みかかるような勢いで言うカナデ。その彼に同調するようにハルオミもまた強く頷いた。

 

「その通りだ。もしかしたらこの道に答えなんてないのかも知れない。俺たちもまた先に散っていった先達達のように無念の中に消えていくのかもしれない……だが、それは無駄な道ではないんだ! 積み重ねた努力が無駄でないように、俺たちが見つけ出してきた数多の結論、答えが次の世代に繋がれば……!」

 

「それは自ずと、真理への光明となる……!」

 

 例え答えが出ずとも次に繋がれば、と。二人は強く頷き、ガシッと強い絆の籠もった悪手をする。年齢的には先輩と後輩であるものの、ともに潜った戦場は数知れず、既に彼らの関係は年齢の差など関係なく、さながら兄弟の如く、戦友の如く、魂の友が如く、強いものになっていた。

 

「そうだ、だからこそ、俺たちはこの求道を諦めてはならない。たとえ見果てぬ夢であろうとも……俺たちは探索を続けなければならない、いつか答えに続くと信じて! 行こうぜ、相棒。真理に至るその日を信じてッ!!」

 

「ハル先輩……!」

 

「カナデ……!」

 

 中天に輝く太陽が彼らを優しく照らしている。

 周囲の喧騒も聞こえないと二人の探索者は戦友の絆を確かめる。

 彼らの決意は揺らがず、彼方にある真理を目指し、今日もまた、求道の日々を送るのだ。

 

「だからこそ、思うんですよハル先輩。今まで俺らは真理とは難解で、遠く、まだ見ぬ輝きにこそあると思ってきました。……ですが、極東にはこういう言葉があるんですよ、灯台下暗し、と」

 

「! ……そうかッ!」

 

「気付きましたかハル先輩。流石です」

 

「俺たちは遠くを見すぎて足元を見ていなかった……そういうことだなカナデ!」

 

「そうです! 先輩! 真理とは原典にこそあり、だからこそ俺たちは思い出さなければならない俺たちの道の原典、当たり前ゆえに見落とし、古典的だと忘れてしまったその結論を……!」

 

「それは、まさか……!?」

 

 

 

 

「そうです、それこそ……求道者が始まりに描いた答え、『チラリズム』。その中でも最古に描かれたもの……パンチラですッ!!」

 

 

 

 

 パンチラです……

 パンチラです……

 

 と無意味に反響する言葉。気のせいか、遠くでカラスが鳴いている。

 

「チラリズム─────ふとした瞬間に見えてしまう女性の体。例えば肩や太股、突き詰めれば胸や下着の露出などの部位が奇跡のような偶然によって観測される状況。いうなれば一瞬に見られる光景に感じる魅力と背徳感を意味する言葉。普通に見えてしまうのとは違った状況に対する魅力を顕す極東に古くからある概念か……!」

 

「そう、王道と言うなかれ、古い言葉と言うなかれ! 子供の頃。思い出せば未だ紳士の心を知らない未熟な時代に一度ならばやったことがある男子が宿業スカート捲り。どうしてこれをやってしまうのか、何故俺たちは女性を悲しませるこの愚かな風習を止められないのか。大人の紳士になってからというも幾度となく後悔してきました。ですが、違ったんです。この行為、この行動こそ、俺たちの魂の根幹に刻まれた魂の欲求。いわば真理へと通じる一つの道だったんですよ!」

 

「なん、だと……! ……いや、そうか! 立ち返ってみればというものまだ美しさとは魅力とは何かと言う俺たち普遍の答えを導き出す前、そんな未熟な時代だったにも関わらず、子供の悪戯という名目を以ってして俺たちは皆この無意味で愚かな行為を行なってきた……だが、違う。人は無意味なことに全力を尽くさない、人間は根本的に怠惰であるが故に自発的な行動には必ず何らかの意味が付与されるっ……!」

 

「そうです。それこそがチラリズム……俺たちは未熟であったが故に子供であったが故に、大人には見えないその答えが見えていたんです……」

 

 何故気付かなかったのかと頭を抱え、自分の愚かさを恥じる。

 だが、同時に見つけた新たな答えに熱狂する二人。

 

 興奮する二人を傍目に、ラウンジには自然と人の気配がなくなっていく。

 たった一人でラウンジシェフを務め、ゴッドイーターたちの食を支えるムツミも見ればいつの間にか姿が見えない。

 空々しいラウンジで、しかし知ったるかという具合に二人の求道者(仕事が出来る馬鹿)はより熱を帯びていく。

 

「だが、カナデ……チラリズムは俗的だ。偶発的に女性の下着が見えるというパンチラは求道の始まりであったとしてもそこにあるものを果たして真理と呼べるだろうか?」

 

 何処か苦々しい顔でリビドーに振り回されるものたちの俗的な結論だというハルオミ。

 恐らくは長年の同士が出した余りにも浅はかな答えに一種の、無念を覚えているのだろう。

 

 そんなハルに対して、しかしカナデは不敵な笑みを浮かべる。

 俗物の答えだからといって見逃す、根底にある真実に気付かないハルオミに。

 

「確かに女性の下着にリビドーを感じ、それを真理と呼ぶのは浅はかな結論……ですが、先輩。違う、違うんですよ! 大切なのはその状況、奇跡の所在こそが重要なのです!」

 

「奇跡の所在こそが重要……!?」

 

「思い出してください! 人は見えないものに対して意味の無い期待を覚えます。見るなと言われれば見ようと見てしまう……パンドラの箱、鶴の恩返し、見るなのタブーが今の今まで様々な形で語り継がれているのは、人には見るなと言われれば見てしまう、そんな禁忌欲求があったからでしょう。そう、見えないものを見ようとするのは禁忌の行動、しかし同時に人とは未知への探求者……見果てぬ光景を見るために歩き続ける旅人なのですッ!!」

 

 未知への期待。知的生命体である人が、人である故に思う渇望。

 知識を収集し、積み上げ、次へと進化するために人が持つ本能。

 

「それこそが……チラリズム……叶わぬ夢、しかして叶えようと突き進む人が覚える衝動ですッ!!」

 

「そ、そうか……! 冷静に考えれば人の目があるところで下着が見える何ていうのは下品な行為……。しかし風に揺られてスカートから覗く下着に対して、俺たちは一欠けらほどの違和感を、下品と見下げるような感情を抱いてこなかった! それは……!」

 

「そう、それこそが本来見えないモノが見える奇跡、それに感じる感動と未知のものに対する期待……奇跡という境界の彼方に見る事が叶う神秘!」

 

「なんてことだ……こんな近くにあった答えを俺たちは今まで見逃してきたのか……!」

 

「ええ、俺たちはなんて愚かなんでしょう。答えに近づこうとしてきてその実、遠回りな道を歩いてきました……」

 

「まさしく……灯台下暗しって奴だな」

 

 戦慄する二人。 

 

 例え、それが傍から見ればクソどうでも良い下らない真実だったとしても、愚かな馬鹿二人は一顧だにしない。何故なら───二人は馬鹿だから。

 

「俺たちは愚かでした、ですが……終わりではない、いえ、此処からが始まりなんです!!」

 

「ああ!! 俺たちの探索は次なるステージを迎えるんだ! ……行こうぜ、相棒! 俺たちの探索は此処からだ!!」

 

「はい、ハル先輩ッッ!!」

 

 走り出すハルオミとカナデ。

 二人が消えるとラウンジは寒々しい空気がもの悲しげに沈殿する。

 

 ────その日、二人は勢いのまま、あるミッションを受諾。答えを胸に走り抜ける。

 

 次の日、極東支部支部長代理ペイラー・榊の下に報告が届く。

 アラガミ犇く激戦区極東。その場所から何故かアラガミ、サリエルが消えたと。

 

 この不可思議な事態に対して、極東支部第一部隊が調査に乗り出した結果、判明したのは曰く、ハルオミとカナデ。

 この両名がサリエルに対し、近づくわけでも逃げるわけでもなく、望遠鏡を片手に遠めに追跡し続けるという変態行為を繰り返していたということ。

 

 最初のうちはサリエリも見かけた人間を殺し、喰らおうと襲い掛かっていたものの、何故か反撃せず、かといって逃げもせず、ただただ望遠鏡片手に観察をし続けるという二人に対して、サリエリは本来ありえない行動したという。

 

 即ちは───逃亡という前代未聞の行為を。

 

 さらには一匹逃げられば新たな個体に、それも逃げれば新たな個体にという粘着行為を繰り返した結果、過去の研究調査では確認されなかった未知の行動、サリエリの大移動なる大事変が起こったのだということが分かった。

 

 ……その報告を受けた榊は「興味深い話だね」と白目を剥いたらしい。

 

 因みに予断だが、その報告を行なったある第一部隊のゴッドイーターは「ドン引きです」と言い残した。

 その日からベテランゴッドイーター、ハルオミと若きエースカナデは新たな異名を得る。

 

 サリエリストーカー……アラガミをビビらせた男達である、と。




シリアスです(本人達的には)。
嘘は言ってませんよね? 私は。

続きは私が新たな真理(答え)を見つけたら続くかもしれません。


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