ケモノふれんずR 紅き偽りの心と失われた世界 (屑野すみれ)
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1ページ きおくはかなた #01-1 かみひこうきの伝説

ショウジョウ「では最後にかみこうきの伝説を披露したいと思います。さばんなに現れた帽子の子~♪あの子の名前はかばんちゃん♪バスに乗り込み図書館へ♪たのしい冒険始まるぞ♪」

 

 その場にいるフレンズ達にとって見たことのない楽器を奏でながら歌い始めたショウジョウトキ。

 彼女が歌う曲は我々のような読者達が知るあの物語である。

 ヒトがいなくなったパークにかばんと呼ばれるヒトが現れ、フレンズと仲良くなっていって最後はバスを船にして旅を始める。

 ショウジョウの素晴らしい歌声がジャパリカフェ内を包み込んだ気がした。

 歌が終わると長い拍手が部屋内に響き渡った。

 店にいた何匹かのフレンズ達がショウジョウに詰め寄って感謝の言葉を口々に言い始めた。

 ショウジョウも自分の演奏でここまでになったことがなくて少し困惑している。

 フレンズ達が満足して自分の席に戻り始めたところでカウンター席に座って一息つく。

 

ワカイヤ「聞かせてくれてありがとね~。はい、私の気持ち」

ショウジョウ「素敵。ありがとう」

 

 アルパカワカイヤの気持ち、それはショウジョウトキが描かれたラテアートだった。

 ショウジョウはラテアートの可愛さに中々飲めずにいた。

 

ワカイヤ「ところであのかみひこうきの伝説って歌、実話って聞いたんだけど本当?」

ショウジョウ「そうね。実話かもしれないし、実話じゃないかもしれない」

ワカイヤ「で、ほんとのところは?」

ショウジョウ「ほんと、って言ってもきっと信じてくれない。だって、あの子は絵に描いたようなヒトなんだから」

 

 そう言いながら飲めずにいたラテアートを飲み始めた。

 そんなところへ一匹のフレンズが声をかけてきた。

 灰色と白が目立つオッドアイの犬のフレンズ、イエイヌだ。

 エプロン姿でカウンターに立っているところからこのカフェのお手伝いさんのようだ。

 

イエイヌ「そんなことはないと思います。私、ヒトに会ってみたいんです!色んな子から話聞かされてすごく興味があって――ヒトっていい子なのかな、私とお友達になってくれる子なのかなとか、毎日考えるくらいには」

ワカイヤ「私も少し気になってたんだよね。ショウジョウちゃん、何か一品サービスするから教えてよ」

ショウジョウ「何か一品…それじゃあ、カレーライスを頼んでもいいかな?」

ワカイヤ「いいよぉ~。イエイヌちゃんも食べるでしょ、ホラ座って待ってて」

イエイヌ「は、はい!」

 

 エプロン姿のまま、ショウジョウの隣に座る。

 

ショウジョウ「カレーライスはあの子に振る舞ってもらった料理だったんだ。そう、私がトキちゃん、友達のことね。トキちゃんと一緒にごこくちほーにあるコンサート会場に行った時のことだったかな」

 



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#01-2 リクエスト・けものフレンズ1.2

 ごこくちほーにはゴコクオペラハウスという大きなコンサート会場がある。

 パークがまともに機能していた頃は外部から色んな演奏家、オーケストラ、オペラ歌手がやってきたりしていたみたいで、なにもない日はフレンズ達がステージに上がり演奏や歌唱をする特別な日があったという。

 ヒトがいなくなった今でもそのフレンズ達にとって特別な日は存在している。

 客がいようがいまいがフレンズ達は奏でたり歌ったりする。自らのここすきのために。

 

 

 

トキ「ほら、あそこがコンサート会場だよ」

ショウジョウ「すごい大きい所ね」

 

 二人仲良く空を飛びながらコンサート会場へと向かう。

 トキがコンサート会場近くにある何かに気がついた。ジャパリバスの屋根だ。

 トキにとってジャパリバスというのはかばん達が乗る乗り物というイメージだった。

 ショウジョウに一言断ってからバスと思われる物がある場所へ急いで飛んでいった。

 ジャパリバスでそんなに急ぐものなのか?なんて思いながらショウジョウはトキの後を追った。

 

?「――くたちは演奏を聞きに来たんです」

サーバル「トキは歌いに来たんでしょ?」

トキ「そうよ。カフェに遊びに来た子に教えてもらってショウジョウちゃんと――あっショウジョウちゃん!こっちこっち。ほら、この子が前に言ってた」

かばん「どうも初めまして。ぼくはかばんっていいます」

 

 そういってショウジョウの手を握って握手するかばん。

 ショウジョウは握手されたことに少しばかり驚いたが、すぐに正気を取り戻して笑顔を返す。

 まさか本当にトキちゃんの言っていたかばんって子がいるなんて。

 

ショウジョウ「どうも、ショウジョウトキです」

サーバル「私はサーバル!かばんちゃんとアライグマとフェネックと一緒に旅をしているの!」

フェネック「フェネックです、よろしく~。んでそっちで興奮してる子がアライさんね」

アライ「やっぱりすごい大きい建物なのだ!かばんさん!早く中に入ろうなのだ!」

 

 アライさんの足は今にでも会場の中に入っていきそうなくらい足が会場に向いている。

 

かばん「そうですね、行きましょう。ショウジョウさんも」

ショウジョウ「はい」

 

 ヒトがパークからいなくなって数年も経っているというのにこの劇場はヒトがいた時と同じくこれといった汚れや劣化がない。

 

かばん「なんか綺麗ですね」

ラッキー「ゴコクオペラハウスノセイビナドハホカノタテモノトクラベテネンイリニオコナッテイルヨ」

かばん「そうなんですね。ありがとうラッキーさん」

ショウジョウ「喋った…この腕につけてるのって何?ラッキービーストが付けてるのと同じみたいだけど」

 

 かばんの腕につけていたのはラッキービーストのお腹に付けられていたレンズのような部品。

 レンズいっぱいに淡い光を発光させてかばんに解説するそれはショウジョウにとって珍しいものだった。

 興味津々でラッキーを見つめるショウジョウにかばんは答える。

 

かばん「色々あってラッキーさんの心をこうして腕につけているんです。いつかは新しい体を作ってあげたいなって思うんですけど、ラッキーさんの代わりの体って中々見つからないんですよね」

ショウジョウ「そこら辺にいるラッキービーストから取り上げればいいのでは?」

かばん「そんなことできませんよ!ラッキーさんはラッキーさんです。他のラッキーさんの体を取り上げたところでそのラッキーさんが困るだけです。それに、自分たちの力でラッキーさんの体を用意してあげるのが僕がするべきことの一つだと思うんです」

ショウジョウ「そうなんだ、ごめんなさい。あんなこと言って」

かばん「いいんですよ」

アライ「「「でっかくてひろいのだ~!!」」」

 

 アライさんが興奮する声がかばんやショウジョウがいる一階にまで響いてくる。

 お互い顔を見合わせて笑いながら声がする方へと二人で階段を登って向かっていった。

 ――アライグマが興奮するのもなんだかわかる気がする。

 今までパーク内の会場という会場をほとんど渡り歩いて演奏したことがあったがここまで豪華で天井近くまで座席がある会場はショウジョウにとって初めてだった。 

 

サーバル「すっごーい…」

 

 拍手の代わりに銃弾と悲鳴が飛び交いそうなこの美しい劇場のステージにやってきた青白いフレンズ。

 客がいるいない関係なく口を開けて言葉のない歌を歌い始める。

 

トキ「これは人魚の唄かしら。でも見様見真似で歌ってるって感じのする歌い方ね」

かばん「そうなんですか?」

トキ「人魚の唄には歌詞があるの。私達が普段使ってる言葉じゃない言葉で海への愛を歌うの。きっとどこかで人魚の唄を聞いて真似してたんだと思う」

サーバル「真似っ子でもあの子の歌声はすごいよ!」

トキ「そうね」

アライ「なんだか眠くなってきたのだ」

フェネック「アライさんにはまだ早かったかー」

アライ「そ、そんなわけないのだ…アライさんはこういうのにも強い子なのだ…ムニャ」

 

 聞き惚れるほどの歌声はあっという間に終わると、かばん達はステージ向かって拍手した。

 青白いフレンズはまさか聞いてくれてた相手がいるとは思っていなかったのでこれにはびっくり。

 

かばん「素晴らしい歌を聞かせてくれてありがとう!ねぇ、そっちに行ってもいいですか?」

スカイ「…。…♪♪」

 

 腕で丸を作ってかばんに伝える。

 

サーバル「あの子、喋れないフレンズなのかな?」

かばん「どうだろう。たとえ喋れなくても僕達は友達になれるよ、そうだよねサーバルちゃん」

サーバル「うん!」

フェネック「かばんさーん、アライさん寝ちゃったから少しの間ここで見守ってるね」

かばん「わかりました!後で合流しましょう!」

フェネック「はいよー!」



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#01-3 リクエスト・人魚の唄

 かばん達は青白いフレンズと友達になるためにステージ前に降りてきていた。

 あの場所からではステージ前に直接行けず少し遠回りすることになってしまったようだが、あの子は待っていてくれたのでよかったのではないだろうか。

 

サーバル「ところでなんで喋れないの?」

 

 カキカキ。

 青白いフレンズ、スカイフィッシュは持っていたメモ帳に言葉を書き始める。

 

スカイ『わからない』

かばん「わからないって」

サーバル「えー!?わかんないの?」

かばん「もしかしたらラッキーさんが何か知ってるかも」

ラッキー「スカイフィッシュハカメラデシカカクニンデキナイミカクニンドウブツダヨ。ショウタイハムシナドノナニカガカメラニヘンニウツリコムコトデミエルモノナンナンダケド、アクマデヒトツノカンガエカタダヨ。フレンズノナカニハソウイウミカクニンナモノガフレンズカスルコトガヨクアルンダ。オボエテオイテネ」

かばん「そうなんだ」

サーバル「えっ、どういうこと?」

かばん「スカイフィッシュさんは未確認動物って言ってパークの外では存在が確認されたけど実際にいるかはわからないフレンズさんなんだよ。このパークでは絶滅した動物のフレンズさんと一緒でよくあることみたいなんだ」

サーバル「へー…ちょっとわかんないや!かばんちゃんは難しいことスラスラと言えてすごいね!」

かばん「そう、かなぁ?」

トキ「あなたの歌声すごかったわ、どう?私達とコラボしない?」

スカイ『コラボ?』

トキ「一緒に歌ったり演奏したりするの。私お歌と演奏が得意だから一緒に歌ってみたいなって。ショウジョウちゃんもそう思うでしょ?」

ショウジョウ「うん、私もそう思う。スカイフィッシュさん、よかったら私達と演奏してみませんか?」

 

 スカイフィッシュは腕で丸を作ってやりたいとジェスチャーで伝える。

 トキとショウジョウはお互いに嬉しそうな顔をして喜ぶ。

 

サーバル「楽しみだね」

かばん「うん」

サーバル「じゃあかばんちゃん、邪魔しちゃ悪いし私達はこの建物を探検しようよ!」

かばん「いいねえ!サーバルちゃん。トキさん、ショウジョウさん、スカイフィッシュさん。準備ができるまで僕達は探検してきますね」

 

 そう言ってかばんとサーバルはロビーに出ていった。

 私達は何を演奏するか何を歌うのか考えないといけない。

 無難に有名な所をいくつかつまんで奏でてもいいわけだけど、そうはいかない気がする。

 せっかくスカイフィッシュというきれいな歌声を、真似事ができるフレンズがいるんだ。それを上手く使わないという手はないだろう。

 

ショウジョウ「スカイフィッシュさんは演奏や歌唱でなにか得意なのあります?」

 

 まずは聞いてみることにした。

 人魚の唄以外にもレパートリーがあると思ったからだ。

 

スカイ『歌うだけしかできない』

トキ「大丈夫よ。そうね、今回は私達が演奏してスカイちゃんには歌ってもらおうかな」

ショウジョウ「歌う曲はどんなものにする?」

トキ「人魚の唄は外せないとして、天空鳥はどう?」

ショウジョウ「悪くはないけど、明るい曲とかのほうがいいんじゃない?例えば花の巴里とか」

スカイ『花の巴里?』

トキ「巴里っていう花の都の歌よ。こういうの――」

 

 花の巴里を歌い始めるトキ。

 トキの歌声は初めて会ったときと比べて大分良くなってきている気がすると思うショウジョウ。

 あのアルパカのカフェで出されるお茶を飽きもせず毎日飲んでいるからというのもあるんだろうけれど、たかが飲み物一杯でこんなに変わるはずがない。

 変わったのはきっとあのかばんという子のおかげなのかもしれない。

 

トキ「――こんな感じよ。どうかしら」

スカイ『すごく良い!これ歌いたい』

トキ「これで一曲決まりね。後は2曲くらい決めておきたいわね…」

 

 その後もトキとショウジョウの頭の中にある歌を引っ張り出しながら選曲してようやく練習に取り掛かれる。

 練習をしているとかばんがやってきた。

 

かばん「あの、僕達お昼ご飯を作ろうとしているんですけど一緒に食べませんか?もし食べれるんだったら嫌い物とか聞きたくて」

トキ「かばんの料理!私に嫌いなものはないわ。でも喉に負担がかかるものはやめて。ショウジョウちゃんは?」

ショウジョウ「私は特に」

 

 スカイはかばんの前までメモを書きながらやってきて見せる。『食べれるものなら何でも食べれる!』と。

 かばんは少しホッとしたような顔をして「わかりました!じゃあ楽しみにしててくださいねっ」

 かばんが好き嫌いを聞いたのは単に優しさというものがあるが、作ろうとしている物が甘口のカレーライスで鶏肉や野菜などを使うからだ。

 アニマルガールというものは半分ヒトで半分動物の謎多き存在。

 ヒトと同じ食べ物を食べることの出来る体になっているのだが、種族や個体ごとに好き嫌いがあったりなかったりする。鶏肉を食えるトリもいれば豚肉が駄目なブタもいる。草食動物だったのに肉を愛するフレンズもいる。肉食なのに魚を食べて満足するフレンズもいる。

 フレンズごとに配慮をしよう頑張って料理を作るパークガイドさんという図が出来ていそうな気がするが、実は甘口のカレーライスなのはアライさんが辛いの苦手というだけのお話だったのはここだけの話である。



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#01-4『かばんちゃんのスイートカレー』

かばん「出来ましたよー」

 

 料理が作り上がった頃には練習もいい感じに終わって後は本番のみ。

 サーバルやアライさんが建物内の食堂へと案内する。

 食堂へと近づくにつれて嗅いだことのない匂いが強くなってくる。

 

ショウジョウ「なんだろう、この匂い。いい匂い」

トキ「きっとカレーね。前に食べたことがあるの」

ショウジョウ「カレー?」

サーバル「野菜やお肉を入れて粉を入れて煮込むの!そうすると茶色い水になって美味しいカレーができるの!」

ショウジョウ「ちゃっ、茶色!?泥じゃないのそれ」

サーバル「ちがうよー!泥水なんかでこんな美味しい匂い出せないよ」

トキ「大丈夫よ、ショウジョウちゃん。泥水なんかじゃないわ」

 

 なんだか心配だったけれどその心配はすぐに晴れた。

 食堂のテーブルにきれいに並べられたカレーとおもしき物と見たことのない料理の数々。

 その料理を囲むように座るかばんとフェネックと匂いに誘われたであろうフレンズ達で埋まっている。

 その中に一度だけ会ったことのある相手がいた。

 

タビー「あらショウジョウトキさん、お久しぶりですわ」

ショウジョウ「お久しぶりですタビーさん」

 

 ゴールデンタビータイガー。

 さんかいちほーのオアシスランドの演奏会で会ったお嬢様。

 フルートを手にオリジナル曲を奏でる創作家でもある。

 ショウジョウはたった一度会って夕食を一緒に食べたくらいの仲でしかなく、彼女のことは音楽の話でそこそこ気が合う演奏家の一人という認識でしかない。

 

タビー「わたくしのこと覚えていてくださって光栄ですわ。いつもはここを拠点に練習したり本番やったりしてるんだけど、まさか珍しいヒトに出会って料理をごちそうしてもらえるなんて。なんて幸運!そしてあなたにも再開できた!これは奇跡!」

ショウジョウ「大げさですよ」

タビー「それで、これから演奏するんでしょ?そこにわたくしも加えてもらえないかしら。せっかくだしあそこにいるわたくしのお友達も入れて演奏会をしませんか?きっと楽しい夜になると思うんです」

 

 タビーはかばんのお手伝いをするフレンズ達を指差した。

 ここの子達はわたくしを含めみな演奏家なんですよ、と付け加える。 

 

トキ「いいわね。ぜひよろしく頼むわ」

スカイ『よろしく!』

タビー「スカイさんを見つけるとはおふた方は中々目の付け所がいいですわね」

 

 みんなで席に座った。

 目の前のカレーらしき料理や大皿に盛られたサラダやお肉料理。

 こんな光景中々見れるものではない気がする。

 

かばん「ではみなさん」

「「「いただきます」」」

タビー「この料理最高ですわ…!」

ショウジョウ「おいしい」

かばん「気に入ってくれてよかったです」

 

 カレーをひとくち食べて出た言葉。

 こんなに美味しい料理を食べたのはなかべちほーのパスタ以来だろうか。

 ガヤガヤと談笑しながら小皿に料理を持っていくフレンズ達。

 取り合い、譲り合い、奪い合いしていくなかでどんどん減っていく料理。

 サーバルやトキから早く取らないとなくなっちゃうよ(わ)なんて言われる始末。

 静かな所で食事をすることが多かったショウジョウトキにとってこの食事は初めての体験だったから戸惑ってどうすればいいかわからなかった。

 

トキ「いいのよ、ショウジョウちゃん。好きに小皿に盛って、メインのカレーも食べる。マナーとか気にしなくてもいいから、ほらサラダ」

ショウジョウ「ありがとう」

 

 サラダを盛り付けてくれたトキに礼をいいつつサラダも食べてみる。

 これも美味い。サラダにかかったドレッシングがうまい具合に絡んでいて食べやすい。

 こっちの肉とナスの料理も美味しい。素晴らしい。

 

ショウジョウ「どれもおいしかった」

トキ「そうね、かばんの料理は最高よ。作ってくれてありがとう」

 

 たまにはこういうのも悪くない、そう思うショウジョウだった

 

 

 

 



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#01-5『かなでて!ジャパリコンサート』

タビー「さあさあ、かばん様はこの特等席に」

かばん「あわわわ」

タビー「この位置からならわたくし達の演奏をよく聞き取れると思いますわ!」

フェネック「会場全体が見渡せる位置に座れるなんてかばんさんはさすがだなー」

 

 いよいよ演奏会が始まるという時にタビーはかばん様御一行を特等席に案内する。

 ショウジョウは比較的早めに準備を終えたこともあってタビーに引っ張られてかばん達の席案内に駆り出された。

 スカイフィッシュを初めて見た二階席の前列真ん中。

 見下ろしてみるとコンサートが開かれると聞きつけたフレンズ達が集まってきていた。

 

サーバル「かばんちゃん!席がどんどん埋まっているよ」

タビー「ここら辺に住む方は皆さん音楽が好きですからね、集まるのもわかりますよ」

マンバ「なんせ今回限りになるかもしれないスカイフィッシュとアルパカティーのお二人がコラボするんだからな――あっどーもはじめまして、私ブラックマンバと申します。まさかアルパカティーのショウジョウさんに間近で会えるだなんてー♪」

サーパル「アル」

アライ「パカ」

かばん「ティー?」

フェネック「ショウジョウさんとトキさんは時々二人で演奏会するときがあってその時に『アルパカティー』って名乗ってるんだよね」

ショウジョウ「説明、ありがとう」

 

 アルパカ・スリが出すお茶をよく飲んでいることからほぼ適当に名付けた名前。

 あのお茶がアルパカティーだなんて言うのかはわからないけど、ショウジョウ達は『いつもの』か『アルパカティー』と呼んでいる。

 

マンバ「いつものメンツよりそのコラボが目当ての奴が多いんじゃ――痛っ!おいわざと踏んだだろ」

タビー「なんのことでしょう?」

 

 しっぽをタビーに踏まれて抗議するマンバだったがタビーはしらばっくれる。

 タビーの反撃を恐れたのか、割とすぐに謝罪して、 

 

マンバ「悪かったよ。お前の演奏にも多少は期待してるよ。あの子達に影響受けて素晴らしい音色奏でてくれよ」

タビー「言われなくても奏でますわ。なぜならわたくしはごこくちほーのトッッッップスタァァァァなんですもの」

ショウジョウ「そろそろ行きませんか?本番前に少し落ち着いてからの方がいい演奏出来ると思うんです」

タビー「そうね。それじゃあかばん様、サーバル、アライグマ、フェネック。そしてマンバ!楽しみにしててくださいネ!オホホホ」

ショウジョウ「では私も。最後まで楽しんでいってくださいね」

 

 控室で気持ちを安定させてからショウジョウは楽器を持ってステージへとトキとスカイフィッシュと共に上がった。

 たくさんのフレンズ達からの盛大な拍手で迎えられてようやく本番だとスイッチが入ったような気がする。

 後は失敗しないように少しだけ祈りながらトキやスカイフィッシュと息を合わせるだけ。

 練習通りに、スカイの歌声を頼りに終わりまで丁寧に弾いていく。

 聞き惚れる観客達。こんなにフレンズが埋まった大きな会場で弾くというのは演奏家冥利に尽きるのではないだろうか。

 何事もなければこの演奏会は最高なものになるはずだと誰もが革新している中、突然暗くなった。

 演奏する側の誰もこういうことをするだなんて聞いてないし決めてなんかいないから普通に停電だろうか。

 停電しようが演奏をやめるわけにはいかない。

 これでもプロみたいなものだ。

 やめてしまうのはプロじゃない。

 だからこの暗闇の中でも演奏を続ける。

 そういうことに意識して演奏していると何かが這うような音、ノイズが小さく聞こえる。

 少しだけその音のする方を向くとほんの少し光ったブラックマンバが色んな色の光源を持ってショウジョウ達の周りに置いていくではないか。

 本当に僅かだけれど明るくなったし、どこか特別な感じがして気持ちがいい。

 スカイフィッシュの歌声も、トキと合わせる音色もすべてが特別に変わった瞬間だった。



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#01-6 さすらいのがいどさん

 特別な演奏は終わり、ショウジョウ達が退散する頃には停電は終わって劇場は明かりを取り戻していた。

 出番を待っていたタビーと横でぐったりしているサーバルがいた。

 タビーに呼び止められて問い詰められる。

 

タビー「あの演出は誰が考えたんですの?最高でしたわ」

スカイ「ショウジョウがやったの?すごかったよ!」

ショウジョウ「いや、私は何も」

トキ「多分かばんちゃんがやってくれたのよ。ショウジョウちゃんが考えたんなら事前に言ってくれているもの」

サーバル「…そう、かばんちゃんがブラックマンバの独り言で停電したって気付いて…」

かばん「あの、みなさん!大丈夫…でしたか?」

 

 かばんが息を切らして走ってきた。

 その後ろにマンバとアライさんやフェネックがいる。

 

アライ「トキ達の演奏もすごかったけどかばんさんの活躍もすばらしいものなのだ!」

フェネック「その様子だとみんな大丈夫そうだねー」

タビー「かばん様、この度はこのわたくしやお友達の危機を救ってくださり感謝してもしきれないくらい――」

かばん「わー!ほんと大丈夫ですから!パークガイドとして当然のことをしたまでで」

タビー「あらまあ!パークガイド!当然のことでもわたくしめにとっては神様のような行いで」

アライ「あの人いつもああなのか?」

マンバ「いや、あんなやつでは…それにしても、あのかばんって奴なんなんだ?」

アライ「かばんさんはなー、アライさんの命の恩人で、フレンズの恩人なのだ!」

 

 その説明でマンバに伝わったかはさておき、かばんというヒトは噂話の存在ではないのだ。

 それを今回の一件で身を持って知ることになってショウジョウだった。

 アクシデントも持ち前の叡智で軽々超えていく姿は聞いているだけならなろう主人公のような大げさ感。

 でもそのなろう主人公のような存在はこのジャパリパークで生きている。

 ジャパリパークを冒険している。

 

かばん「それじゃあ僕達はこれで。皆さんの演奏、素晴らしかったです!」

 

 演奏会も無事に終了し、次の場所へと行こうとするかばんはマンバ達にお礼を言ってバスへと乗り込んだ。

 バスの周りには何人かのフレンズが囲んで別れを惜しんでいた。

 

タビー「また、ここに遊びに来てくれますか?」

サーバル「もちろん!でしょ、かばんちゃん!」

かばん「うん。絶対にまた遊びに来ます」

タビー「楽しみにしてますわ」

 

 バスは走り出し、段々見えなくなっていく。

 私達もそろそろ…。

 

トキ「今回の演奏は楽しかったわね」

ショウジョウ「うん。初めてだった、こんなに素晴らしいと思ったのは。きっと、忘れることの出来ない演奏会になったと思う」

トキ「途中暗くなっちゃったけど、かばんちゃんのおかげでいい感じになったしああいうのも悪くないわね」

ショウジョウ「そうだね」

 

 なんだかトキがかばんのことを特別な子として見ているのはなんとなくわかる気がする。

 あの子がいたから良くなった演奏会があるんだから。

 なにか問題が起きてもあの子がどうにかしてくれる。

 あの子にずっと押し付け続けるのはどうかと思うけど、きっとあの子は必要になった時にしか現れない幻のような存在なのかもしれないとショウジョウは思った。



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#01-7 歪な楽園で星に願う

ショウジョウ「――という感じなんですけど…」

イエイヌ「いい話だった。聞かせてくれてありがとうございます!」

ワカイヤ「暗い場所で色んな光を足元に置いて演奏なんて想像しただけで綺麗だろうなー」

ショウジョウ「初めての体験だったけどあれはまたやりたいって思うくらいには綺麗でしたね。でもかばんさんほどのものは出来ないかもしれませんね」

ワカイヤ「そうかもねー。はい、カレーライスだよ」

 

 ふつうのカレーライス。

 かばんが作ったカレーと比べるとアライさんのこと考えて甘くしたりしてるわけでもなく、少し辛めに作られている。ワカイヤは自分が作ったカレーを気に入ってくれるか少しだけ心配のようだ。

 

ワカイヤ「どう?私が作ったカレーはかばんさんと比べて美味しい?美味しくない?」

ショウジョウ「かばんのはこれよりもっと甘かった気がするし、ウインナーが入っていたわ」

 

 そりゃそうだ。アライさんが辛いの食べれないしウインナー入れてたし、完全にアライさん専用カレーと化してた。対してワカイヤが作ったカレーというものはどちらかと言うと中辛に足を突っ込んだ辛さと旨さがあり、入っている具材は非常にシンプル。

 

ワカイヤ「カレーにウインナーかぁ。入れたら美味いだろうね。次回からはちょっと試しに入れてみようかな」

イエイヌ「いいですね!ウインナーは相性合うと思いますよ!あっ!魚肉だけどありましたよね、焼きませんか?」

ワカイヤ「いいね~焼こう!」

 

 ワカイヤは冷蔵庫から魚肉ソーセージを取り出して適当に切って特に味をつけずに焼き始める。

 いつもなら醤油とか使うんだけどねーなんて言いながら。

 小皿に魚肉ソーセージを乗っけてショウジョウとイエイヌの前に出す。

 ショウジョウは魚肉ソーセージをいくつか摘んでカレールーに置いて残りはイエイヌに上げた。

 

イエイヌ「いいんですか?」

ショウジョウ「大丈夫。ほら、食べて」

イエイヌ「ありがとうございます!」

 

 かばんの甘いカレーも悪くないが、こっちのカレーもいける。

 というか、ショウジョウの口にはこっちのワカイヤのカレーのほうがしっくり来るようだ。

 

ショウジョウ「こういうカレーの方が私には合うみたい」

ワカイヤ「気に入ってくれてよかった。おかわりもあるからね~」

 

 ちょうど良すぎたせいもあって二杯目に手を付けようとしたとき、イエイヌからこんな質問を投げかけられる。

 

「あの私って、ヒトに会えるんでしょうか」

 

 イエイヌはワカイヤとは違ってショウジョウの話をすごい聞きたかったように思えた。

 この質問のことを思えばイエイヌはきっとこういう場所でヒトの話を、かばんの話を聞いて興味が湧いたんだろうと。

 

イエイヌ「このカフェでヒトのことを知る度に私、合ってみたくなって。絶滅したって聞いたけどもかばんさんの話はどうにも作り話には思えなくて。だから、いつかかばんさんじゃなくてもヒトに会ってみたいんです。教えてください、どうしたら私はヒトに会うことが出来ますか?」

 

 ショウジョウはわからなかった。

 たまたま偶然に出会っただけだから。

 わざわざ会いに行ったわけじゃない。この島の長みたいに預言者でもない。

 だからイエイヌにどう返したらいいかすぐに思いつかなかった。

 少し考えて、こうイエイヌに返した。

 

ショウジョウ「私にもよくわからないです。でも、私が好きな歌にこういう歌詞があるんです。星に願えば願いは叶う、だから叶うまで何度も祈るんだ。って」

イエイヌ「祈る…」

ショウジョウ「本当に祈れば願いが叶うならいいんですけどね。でも願ってみる価値はあると思います。願っていればいつかは真実になる。会えると思えば、そう願っていれば会えるかもしれません。必ず、ではないと思うんですけど」

ワカイヤ「そのぐらいが一番気が楽だろうねぇ~。適当に信じてればいつか叶った時すごく嬉しいことになるよ」

イエイヌ「そうですよね、はい!答えてくれてありがとうございます!」

 

 願えば叶う。

 本当にそうならば誰でも願うことだろう。

 だけど、ここはジャパリパーク。奇妙な現象で生まれた存在が生ける楽園。

 その楽園はヒトをなくし、友達もなくして整っていた物が歪な形へと変化していく。

 その歪は紙飛行機となり、スケッチブックとなり変化を与える。

 歪は徐々に近付いてくる。イエイヌが望んでいたものに近い形で。

 

イエイヌ「星さんお願いです。ヒトに会わせてください」



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#01-8 一つ巴の予言

 この島には他の所にはないものがある。それはフレンズ用のキッチンである。

 他のちほーと違ってこの島はアニマルガールとヒトがもっと近くに、をコンセプトにした島になる予定だった。

 その一環としてなのかこの特注されたキッチンはある。

 フレンズが恐怖を抱かないような仕掛けとフレンズと共に料理を作るであろうヒトへの配慮を考えた素晴らしい物だった。

 

 

イエイヌ「よいしょ。うーん…今日はこのソースを使って…」

 

 せっかくなので人探しのついでにピクニックでもと思ったイエイヌは起きてすぐに支度を始めた。

 今日作るのはジャパリバーガー。

 プレーンのジャパリまんを切って間にフライにした魚を入れるだけのシンプルなもの。

 教えてもらったレシピはこんな感じだったが本来は肉と玉ねぎを使った料理らしい。 

 試しに作ってみたがジャパリまんにしたのがいけなかったのか美味しくなかった。

 ジャパリまんではないものならいけるんだろうか。

 

イエイヌ「よくできた!」

 

 綺麗に整ったものが完成したと思う。

 でも歩いている途中に崩れないだろうか。

 念の為あれやこれやして崩れないように慎重にトートバックに入れる。

 今日はいい天気、絶好の人探し日和。

 願った今なら何か見つかりそうな気がする。そんな気がする。

 イエイヌは少しだけ期待して外に出た。

 

イノシシ「おっ、イエイヌ殿!おはようでござるよ」

イエイヌ「おはようございます、イノシシさん」

イノシシ「くんくん…この匂いはジャパリバーガーでござるな!」

 

 イノシシに声をかけられた。

 いつもこの時間には外に出て何かしらの運動をしているのできっと今日も運動してる最中なのだろう。

 イエイヌに気付いたのも多分このバックの中に入ったバーガーの匂い。 

 そんなキツイものは使っていないはずなのになーと思いながら世間話を適当にすることに。

 

イエイヌ「よくわかりましたね。散歩がてらピクニックでもしようと思って」

イノシシ「ピクニックでござるかー!こういう日は運動なり日向ぼっこするのが一番だと思うでござるよ」

イエイヌ「そうですね。こういう日は特にそう思いますね」

イノシシ「うんうん。拙者は運動することしか能のない身。今日という日も運動をして一日を謳歌するでござるよ!ではイエイヌ殿さらばでござる~!」

 

 ものすごい勢いで走っていった。

 運動をしないイエイヌでもあの速さは少し憧れる。

 あの位速く走れればどれだけ気持ちいいか。その走った時にできる風でどれだけのお皿やタオルが乾くだろうか。いや、お皿は割れるか。

 

イエイヌ「さて、私も行かないと」

 

 人探しと言ってもメインはピクニックだろう。

 ヒトなんて会えないって少しは思っている。

 だけれど会えるならば、かばんさんのような存在に会えるならば私はセルリアンに食われたっていいと思うくらいには。

 

イエイヌ「いや、それは思いすぎですね…」

 

 イエイヌにだってやるべきことはある。

 それをすべて終えるまでは食われたら後悔しか残らないだろう。

 ヒューーーッ!風だ。

 この威力の風は冷たい気がする。

 風に当たるのは嫌いではないけれど暑すぎてもだめ、冷たすぎてもだめ。

 中間くらいの風が本当に心地よく思う。

 目指すはあの高台。ベンチに座ってこうざんエリアを眺めるのは最高だとイエイヌは思っていた。

 フレンズの姿はあまり見えないけど、面白い形をした雲や時々飛んでいるフレンズではない大きななにか。

 そういうのを見てご飯を食べるのが好きでしようがない。

 ヒューーーーッ!また風だ。

 今日の高台はもしかしてこんな風が結構な頻度で吹く日なのか?

 そうではないと信じたい。

 ウワアアア!

 誰かの叫び声が上から聞こえる。

 上?上を向いてみた。

 

イエイヌ「え…」

 

 ヒトが空からゆっくりと落ちてきた。

 突然の出来事で体が思う通りに動けなかった。

 やっと動けるようになった時にはヒトは地面に寝かされていた。

 

イエイヌ「会いたかっ…いや、そんな事言ってる場合じゃない!助けないと!」

 

 ヒトの肩を抱いて元来た道を引き返し、イエイヌは近所のマーコールの診療所へと向かおうと自分ができる早歩きで向かった。

 普段運動をしていない事が祟ったかも知れない。

 イノシシさんみたく運動を日々していればもしかしたらこういう場面で役に立ったかもしれないのに。

 今はそんな事考えてる場合じゃあない。

 多分大丈夫だろうけど一刻速く連れて行かなくてはいけない。

 

イノシシ「ん?イエイヌ殿ー!どうかしたんでござるか?」

イエイヌ「…実はこのヒトさんが落ちてきて」

イノシシ「とにかく、拙者がイエイヌ殿と共にマーコール殿の所へ連れて行くでござるよ!」

 

 ひょいっとイエイヌとヒトを抱えて診療所へ向かって走り出した。

 速いのはいいことかもしれないけど、抱えられている二人の事をあまり考えていないようで今まで体験したことのない少し痛い風がイエイヌを襲った。

 

イノシシ「マーコール殿ー!急患でござるよ!」

 

 マーコールの場所へと連れてこられたイエイヌはイノシシの突進じみた走りのせいで気分が悪くなっていた。

 マーコールもそれを察したのか、

 

マーコール「あらあら…。イノシシさんありがとうございます。後は私がやっておきますので」

イノシシ「わかったであります!では失礼するであります」

 

 元気な子はいいんだけどねー、なんて言いながらヒトをひとまずベッドへ寝かせた。

 

マーコール「ちょっと待っててね、今何か飲み物持ってくるから」

 

 そう言ってマーコールはお水を持ってイエイヌの前へとやってきた。

 

マーコール「どう?落ち着いた?」

イエイヌ「はい…ありがとうございます」

マーコール「それで、あの子はどうしたの?」

 

 イエイヌは自分の目の前にヒトが落ちてきたこと、イノシシがここまで運んできてくれた事を伝える。

 マーコールはそれを聞きながらヒトに異常がないかを調べる。

 

マーコール「ヒトって本当にいたのね。本に書いてある程度の存在だと思ってた」

イエイヌ「本当にヒトさんなんですね」

マーコール「ええ、肩に羽があるわけでもない。フードはないし、あっても蛇としては断定できないわね。蛇はもっとこう鋭い顔してるもの」

イエイヌ「そうなんですね。よくわかりませんけど」

マーコール「無理にわからなくていいのよ。興味があれば調べてみればいいわ。図書館はここからそう遠くないでしょ?」

イエイヌ「そうですね、興味があったら」

マーコール「興味があってこそ開花するのが趣味よ。さて、一通り出来たし後はこの子が目覚めるだけね。起きたら呼んで」

イエイヌ「はい!ありがとうございます!」

 

 ジーッ。

 イエイヌはヒトを見つめた。

 診療所内はオルゴール風の音楽が鳴っている。

 いつ目覚めるかわからない存在を見ながら聞く音楽というのはなんだか不安な気持ちになる。

 せっかくヒトに会えたというのになぜこういう気持ちを抱かなくてはいけないのだろうか。

 

ヒト「…んっ。ここは?」

イエイヌ「目が、覚めたんですね。ちょっと待っててくださいね」

 

 思いが届いたのかヒトが目を覚ました。

 イエイヌはマーコールを呼びに行き、すぐに帰ってきた。

 

マーコール「えっと…ヒトさん、おはようございます。どうですか?何か痛い所とか違和感とかありますか?」

ヒト「いわかん…ここは、どこ、ですか?」

マーコール「ここはジャパリパーク。アニマルガールと呼ばれた動物達の楽園です。自分のこと思い出せますか?」

 

 ヒトは少しだけ考えた。

 なんにも思い出せないけど考えればいくらかは出るだろうというそんな考えで。

 でもでなかった。

 

ヒト「わかりません。あたしは…誰なんでしょう」

マーコール「ヒトってつけるのも何か駄目な気がするし…」

?「ならば我々が考えてもよろしいでしょうか?」

 

 マーコールとイエイヌは声のする方を向いた。

 すると穏やかな風鳥と意地悪そうな風鳥が立っていた。

 

カタカケ「いきなり驚かせてしまって申し訳ありません。私はカタカケと申します」

カンザシ「私はカンザシ」

カタカケ「我々はある御方からそのヒトを見守るようにと頼まれた者です」

カンザシ「予定通り、記憶を失っているみたいだな」

マーコール「予定通り?」

カンザシ「そうさ、こいつがこうなるのはすでにわかっていたこと。ま、占いみたいなものだな。よく、当たるんだ。未来を見てきたみたいに」

マーコール「それで、この子の名前は知っているんですか?」

カンザシ「ああ、もちろん。ともえって言うのさ」

カタカケ「ともえ…?ちょっとカンザシさん!」

 

 カンザシはカタカケを抑えながら言い訳を始める。

 

カンザシ「まあまあまあまあ!いいではないか。ひとつやふたつ、同じような名前を使ったって誰も文句はいわない。少なくともこの世界ではな」

カタカケ「それもそうですが…」

カンザシ「だったらお前はなんてつけたかったんだ?レッドか?一郎か?ショルダーバックちゃんか?」

カタカケ「…」

 

 カタカケの顔は何も思いついてなくて悔しい、ムカつくというような顔だった。

 いくら仕事を一緒にする仲間とはいえ、時々ムカつく事を言う鳥だと。

 カンザシは少し勝ち誇ったような顔をしてクルクルと回ってともえと名付けられたヒトのところへ近づく。

 

カタカケ「だ・か・らぁ。お前は今日から『ともえ』だ。さ、名前も決まった所だし私は飯を食いに行ってくる」

 

 ファサッとポンチョのような羽をかっこつけながら見せつけ診療所をカタカケ一人で出ていった。



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#01-END 始まりと終わりのルネサンス

9月25日。私はいてもたってもいられなくなりボートを用意して閉鎖されたパークへと侵入した。
幸い警備が厳重ではなかったおかげで軽々と侵入できたが私の研究所がやっぱり破壊されていてイライラが抑えられなかった。
しかしそんなイライラを吹き飛ばす現象に遭遇した。
ヒトだ、ヒトがいたのだ。三人のアニマルガールを連れて旅をしていたという。
私はアレに興味を持ちしばらく同行することにしてみようと思う。
きっと新しい発見がある。あの研究所よりは面白いはずだ!

研究者「9月25日音声日記」より


 勝ったな、風呂行ってくるみたいな感覚で飯を食いに行ったカンザシを一同はただ見ることしかできなかった。

 取り残されたカタカケはカンザシの後についていくわけでもなく、優しいような、冷たいような、そんな顔をしてともえの側にいる。

 

マーコール「…では、もうちょっと休んでてもいいけど特に怪我があるわけでもないし退院してくださいね。私はこれで」

イエイヌ「ありがとうございました」

 

 イエイヌに合わせてカタカケは一礼してマーコールに伝える。

 さて、場には三人が残った。

 

カタカケ「イエイヌさんですよね」

イエイヌ「えっ!?あっ、はいそうです」

カタカケ「この度は彼女を助けていただき、あの御方に変わって感謝します」

イエイヌ「あの御方?」

 

 さっきも言っていた『あの御方』という言葉がイエイヌには気になっていた。

 二度目もあり、思わず疑問を呟いてしまった。

 

カタカケ「遠い濁った世界で悲しみに暮れ続けているフレンズです。我々は終わりしかない世界に可能性を広げて欲しいと願われてここまでやってきました」

イエイヌ「え。もう一回言ってくれませんか?なんだか、よく聞き取れなかったみたいで…」

カタカケ「だから遠い濁った世界で悲しみに――」

イエイヌ「えっと、もう大丈夫です。よくわからないことがわかりました…その御方はきっとすごい人なんですね!」

カタカケ「…そういう訳では」

 

 イエイヌは難しく意味がわからない言葉に拒否反応を示し話を打ち切って適当に返す。

 とりあえずわかったのはあの御方というのはそこまですごくはないということか。

 

ともえ「あの、あたしこれからどうすれば。何もかも思い出せないし、自分が何なのかもヒトってことぐらいしかわからない」

イエイヌ「それなら、私のところに来ませんか?私、ヒトと知り合いたかったんです。もしともえさんが嫌じゃなければ私のお家に…」

 

 わがままに近い提案だった。

 言った後にそれに気付いたイエイヌはすぐに訂正しようとするがカタカケに止められる。

 

カタカケ「いいではありませんか。例え興味本位の提案だとしても今はこれしかない。イエイヌさんならきっとともえさんを悪いようにはしないはずです」

 

 流されるような形だが、どうにしてもこの自分を少なからず知る存在に頼るしかないとともえは思う。

 彼女が言うならきっとそうなんだろう。

 とても不思議な感覚だった。 

 

ともえ「…わかった。イエイヌちゃん、こんなあたしでよければ」

イエイヌ「いいんですか?いいんですね…!ありがとー!!」

ともえ「うわぁっ!?」

 

 イエイヌは嬉しさのあまりともえに飛びつく。

 最初はほんの冗談だったかもしれない。

 けどそれは外側からの介入ですべて本物へと変わってしまった。

 しかしニセモノは偽物。

 偽物の噂は広まることはない。




おいなりよこく~♪

マナヅル「今回からオイナリサマの命で次回予告を担当させていただくことになりましたマナヅルです」
カラカル「カラカルだぞ~☆」
マナヅル「カラカルさん!大事な大事な次回予告なんですよ!少しは真面目に…」
カラカル「次回予告でそんな固くなることある?ということで次回、『いろんなふれんず』。お楽しみに~!」
マナヅル「閉めないでください!まだ話すことが――」


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2ページ いろんなふれんず #02-1 おうちにようこそ!

ジャパリパークで初めての共同マジック!

昨日ジャパリパークにてアニマルマジシャン アムールが特別来園者の少女と共にマジックを披露!無事大成功を収めました。
ジャパリパークではジャパリセラピープロジェクトといういじめなどによって傷ついてしまった子供や大人にアニマルガールと触れ合ってもらい、心を癒やすプロジェクトを現在試験的に行っており少女はそのプロジェクトのテストクライエントとしてパークに住み込んでいるようです。

次代新聞 ○月☓日朝刊

アーカイブNo.2 次代新聞


 ここはこうざんふれんずたうん。

 夢の国で言うところのトゥーンタウンを想像してもらうとわかりやすいだろうか。

 どのエリアにもこういったおうちが用意されているがこれは家を用意するのがめんどくさい、こういう家に住むのがしっくりきていると思う子しか住まない。

 だからどこのエリアでも最低何件か空き家があり、そういう空き家は旅をするフレンズ達の仮のおうちとして利用することが多いようだ。

 そして夢の国ばりに凝るつもりだったようでエリアごとに家の内外装が違う。

 こうざんエリアのおうちはレンガのような、絵に描いたようなおうち。

 じゃんぐるエリアならツリーハウス。さばんなエリアならしっかりとしたテントといった具合にどのエリアの家もそれぞれ違いと良さがあり、旅をするフレンズ達にとってこういった家に泊まってそのエリアのフレンズに歓迎会をしてもらったり一人でのんびりしたりする。

 

 

ともえ「すごぉい」

イエイヌ「それほどでも…」

 

 イエイヌのおうちは鉱山エリアにあるおうちの中でも個性のつまった家だった。

 人並みの感性で彩られたそれは無個性のこの場では異端な存在だった。

 だけれどそれだけで拒絶されるなんてことはない。

 むしろ尊敬されるのだ。そういう世界だからこそ起こる優しい世界。

 優しい世界だからこそこのおかしさ、場違い感は許されるのだ。

 お洒落な柄のカーテンに綺麗な花が咲いた花壇。

 イエイヌに案内されて中へと入ったともえとカタカケ。

 

イエイヌ「ささ、そこに座って待っててください。お茶を出しますから」

 

 キッチンへと向かう前に、トートバックからバーガーを取り出して冷蔵庫へと入れてからティーカップを用意してともえ達の前に人数分並べてからお茶を作ってそれぞれのティーカップに注いだ。

 暖かい紅茶。ともえはなぜだか飲めないと思いお茶を凝視した後にイエイヌの方を見た。

 ニコニコと笑顔でこちらを見ている。

 飲め、飲めと言っている。

 意を決してカップを掴んで一口飲んだ。

 

ともえ「…美味い」

イエイヌ「よかったですー。私もあまり紅茶は好きではないんですけどこれは飲みやすくて美味しいんですよ」

カンザシ「なに!?美味しいものがあるだと??」

イエイヌ「うわぁ!」

カタカケ「カンザシさん、急に出てくるのはやめてください。せっかくの紅茶が台無しです」

 

 美味しいという言葉に釣られてひょこっと顔を出したカンザシに叱るカタカケ。

 悪かったよと一言謝りつつ誰も座っていない席に座った。

 イエイヌからお茶を出されてカンザシは飲んで一息つく。

 

カンザシ「なぁ、カタカケ。お前ともえのバックの中は見たのか?」

カタカケ「まだ見てませんけど」

 

 ともえは自分の椅子の近くに置いたバックを見た。

 なんで自分はここまでこのバックを肌身離さず持ってきていたのだろう。

 

カンザシ「それじゃあ見ようぜ。記憶を失っているんなら中にヒントになるものが入っているはずだ」

 

 カンザシは紅茶を一気に飲み干してともえのバックを持ち上げてテーブルに置いた。

 ともえに許可なぞ取らずそのまま置いたバックを開けて中にある物すべてを取り出す。

 中に入っていたものはスケッチブックと画材とカメラだった。

 

カンザシ「ちっ、カメラは電池切れだしスケッチにはこれと言ったものはないな」

 

 ポイッとテーブルに放ったスケブをイエイヌが拾ってともえと一緒に見ながらめくってみる。

 スケブに描かれてあった絵はどれも風景画が多いがその中でも特に二人が気になったのはアムールトラらしき絵。お世辞にも上手いとは言えない絵ではあるが誰を描いてるかは判別付くくらいの画力はあったようだ。

 

イエイヌ「これ、アムールトラさんみたいですね」

ともえ「アムールトラ?」

イエイヌ「私聞いたことあるんです。昔ヒトと一緒にマジックをしたフレンズがいるって。それがこのアムールトラさんだったんです」

ともえ「ヒトとマジック」

イエイヌ「ともえさんのようなヒトと一緒に何かをするってきっと楽しいでしょうね!」

ともえ「そう、かな…」

 

 ――自分のようなヒトといて楽しいはずがない。なぜなら私は嫌われるほど醜い心の持ち主だから。

 なぜそう思ったのか、なぜそう自分を否定してしまったのか今のともえにはわからなかった。

 

 



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#02-2『夢は終わらない 〜こぼれ落ちる時の雫〜』

イエイヌ「…アムールさんの絵以外全部風景画でしたね」

カタカケ「風景画だらけと言うのは逆に好都合かもしれません。この風景を見つけさえ出来ればともえさんの記憶を一部でも取り戻せるはずです」

カンザシ「だけどその場所に言っただけで思い出せるものなのか?」

カタカケ「行っただけで思い出すものもあると思います。ですが大抵は刺激を与えないと」

カンザシ「刺激ねぇ、ムチで叩いたりロウソク垂らしたり――」

カタカケ「違います」

 

 刺激は刺激でも方向性が違う。

 記憶を甦らせるのに必要なのは拷問やSMプレイでもなく思い出の再現だ。

 ヒトにしろなんにしろ似たような物を見ればデジャブを感じてそのデジャブの正体を思い出す事があるはずだ。

 漫才のようなやり取りを遮るようにイエイヌが手を挙げる。

 

イエイヌ「あの、まずは絵を描いた場所がどこなのかを探しませんか?私の知り合いにそういうのに詳しそうな人がいるんです。その人に頼ってみませんか?」

カタカケ「そうですね。こんなしょーもないやり取りを続けているより手っ取り早いと思います。来てばっかりですがさっそくその方の所に行ってみましょう」

カンザシ「だな。おいともえ、スケブだけ持っていけよ。バッグはいらねえ」

ともえ「は、はい」

 

 また無意識にバッグを掴んで背負おうとしたともえだったがカンザシに言われて背負うことをやめて置いていくことにした。

 

ともえ「なんで持っていこうとしたんだろう」

カタカケ「それはきっと前のともえさんが大事にしていたのかもしれませんね。自分が持っていないと不安で仕方がない。そういうものだったんじゃないかと思います」

ともえ「そうなのかな」

カタカケ「どうでしょうね。さ、行きましょう」

ともえ「…はい」

 

 空は恐ろしいほどに真っ青で、綺麗だった。

 ともえの気持ちと違って空は何も迷いがないようにともえには見えた。

 どこか目の前にいるイエイヌや風鳥達に後ろめたさか何かを抱いている。

 当然それはともえによくわかることじゃない。ただ目の前にいるカンザシやイエイヌと後ろでともえが迷子にならないように見守るカタカケ。

 イエイヌに挨拶していくフレンズと呼ばれた者達を拒否している、拒否しなくちゃいけないという気持ちがあるだけ。

 なんだかすごく変な気持ちだった。

 

イエイヌ「ここがその人がいるカフェです」

 

<カフェ・ワカイヤ>

 今日のランチは美味しい味噌汁と焼き魚ダヨ!とワカイヤの絵が添えられた手書きの看板が目につく。

 外からでも何やらいい匂いが感じられ、お腹が空いているなら思わずグルルルと音を鳴らしてしまいそうなくらいだ。

 

カンザシ「ここ、さっき私が食いに行ったとこじゃねーか」

イエイヌ「そうなんですか?」

カンザシ「ここのはそこの看板に書かれている通り美味かったんだよなあ!」

イエイヌ「それはよかったです」

カンザシ「なんだよお前嬉しそうに返事して」

イエイヌ「私、ここで夜だけなんですけどお手伝いやってるんです」

カンザシ「へー。それじゃあ美味い飯も作れるってわけか」

イエイヌ「ワカイヤさんほどでは…」

 

 カランコロン。

 カフェのドアを開けると同時にそんな音が鳴ると店主であるワカイヤがこちらを向いて出迎えてくれる。

 

ワカイヤ「あーらイエイヌちゃん♪お友達連れてきてくれたの~?」

イエイヌ「実はこのともえさんのスケッチブックについていくつか教えてほしくて」

ワカイヤ「お客じゃないの?」

イエイヌ「ある意味お客さんです」

ワカイヤ「あっそっかー!じゃあ何でも聞いて!私にわかることなら答えてあげるよー!」

 

 ではさっそく。

 見せてあげてとカタカケに促されてともえは自分が持っているスケブをワカイヤに見せた。

 その渡し方はとても怯えているような、とにかく普通の渡し方ではなかった。

 ワカイヤはとりあえず何ページかめくってみてから。

 

ワカイヤ「うーーーん。なんか思い出せそうでここまで来ているんだけど」

 

 首の所まで出かかってるんだというジェスチャーをしつつ、

 

ワカイヤ「思い出すのにすっごい時間かかりそうだからちょっとそこで遊んできてくれる?多分遊び疲れて帰ってくる頃には思い出せると思うんだよねー――あっ!そういえばこんなのあるんだった」

 

 ワカイヤは奥へと一旦引っ込んでからそこそこ大きな箱を持ってきた。

 箱の中身は外で遊ぶ用の玩具がたくさん入っていた。

 

ワカイヤ「これで遊んできて☆」

イエイヌ「あ、はい」

カンザシ「いいじゃねーか。これだけ玩具があれば十分時間は潰せそうだな。ほら行くぞイエイヌ!私が箱持っておいてやるからお前は道案内しろ!ほらほらほら」

イエイヌ「わかった!わかりましたよ!」

 

 ともえとイエイヌを連れてカンザシはおもちゃ箱をもってカフェから出ていった。

 カタカケはまた取り残されてしまったが自分の役割を果たすためか残ることにしたようだ。

 

ワカイヤ「あれ?キミはいかないの?」

カタカケ「私はそういうことをするフレンズではないので…」

ワカイヤ「あっそっかー。それじゃあなんか飲み物だすよー!一緒にこれ(スケブ)の謎解いていこうか」

カタカケ「それじゃあ、コーヒーで」



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#02-3 トリニティ・ラリー

カンザシ「ぃよいしょっと。ここなら良さげだな」

 

 カンザシは持っていたおもちゃ箱を降ろして辺りを眺める。

 遊具とかそういう手ぶらで来ても多少は楽しめる物はともえ達がやってきた場所にはないが玩具を使って遊ぶ分には十分な広さがある。ここでなら危険とかそういうのを気にしないで遊ぶことが出来るのではないだろうか。

 

イエイヌ「ともえさん、どれから遊びましょうか」

ともえ「え?え…えーとこれ!」

 

 パッと目についたものをともえは自分の頭上に掲げる。

 フリスビーだった。

 

カンザシ「フリスビーかぁ、悪くないな。ともえ、やり方はわかるよな?」

ともえ「え…んあ…」

イエイヌ「あの、カンザシさん。私こういうの初めてでよかったら教えてくれませんか?」

 

 カンザシの態度に慣れてないからかともえは上手く答えられなかった。

 本当はフリスビーの仕方をよくわからなかった。

 だからイエイヌがああ言ってくれたことに内心ほっとしているともえがいた。

 カンザシ少し遠くに飛んでからフリスビーの投げ方を教えてくれる。

 慣れが必要な口調ではあるが優しいところはあるのかもしれない。

 

カンザシ「私は誰かになにかを教えるというのは得意じゃない。だからなんかこう、感覚で覚えろ。公式ルールとか大会とかそんなの気にしなくていい。今は自由に遊んで楽しむが目的なんだ。ほんとーに簡単だから一回しかしないからな!一回だけだからな!」

 

 カンザシはフリスビーを勢いよく投げた!

 フリスビーは綺麗に飛んでイエイヌのほうに段々勢いを落としながらやってくる。

 カンザシはイエイヌに取れ!取れ!と言いながらタイミングよくキャッチするよう叫ぶ。

 ここだ!とイエイヌは少し高く飛んでフリスビーを掴んで着地。お見事。

 カンザシとイエイヌはともえの方にやってきて、

 

カンザシ「こんな感じだ。いいか、こうだからな!すっごい簡単で後は私達がキャッチしたりするから。あとイエイヌ見たく取ろうと努力するな。あれ出来んのあんまいないから。それに落ちたら拾えばいい。生憎ここには泥とかめんどいものはない。なんか取れそうになかったら私にいえ、わかったな」

ともえ「は、はい!」

カンザシ「うんうん。よし、始めるか。んじゃ投げやすいようにちょっと離れてくれ」

 

 一回しかしないとはなんだったのか。

 わざわざ近くまで来て投げ方を見せてくれるなんて。

 ともえはカンザシに言われるがままに少し距離を取った。

 

カンザシ「それじゃあ次はイエイヌからだ。私とともえ、どっちに投げる?」

イエイヌ「えっと…ともえさんに投げます!」

カンザシ「OK。それじゃあともえ、当たらないように気をつけながらがんばれよ」

イエイヌ「それじゃあ行きます!」

 

 ともえに向かって投げる。

 マゼンタのフリスビーは空を飛んでともえの所へ向かっていく。

 ともえはどこで取れるかとタイミングを図っていたが、ともえを通り越して少し離れたところに落ちた。

 拾って次はカンザシの方へ。

 きっと初めてだから上手くカンザシの方へと向かうのか心配だった。

 とりあえず投げた。しっかりと届かないかもしれないと思いながら。

 フリスビーはカンザシから少し逸れた上に威力が足りなくてカンザシから見て前の方に落ちた。

 怒られるかも。まともに投げられなかった自分を。

 カンザシはそう、その調子だと返しつつ拾ってイエイヌへ。

 こうしてまたともえに順番は周ってくる。

 何度も何度も。その内にコツが掴めてきた気がする。

 カンザシへと返していくフリスビーは段々威力を上げて距離を伸ばしていく。

 

カンザシ「…ふぅ。んじゃちょっと休憩なー!」

 

 ただただフリスビーを拾っては返してなのになんだか楽しかった。

 ともえは疲れてその場に座り込んだ。

 

カンザシ「なんだか楽しいって顔してるな。そうだよ、これだよ。こうじゃなきゃパークにいる意味がねぇ。楽しまなきゃ。昔のお前は冷たいやつだったがこういう顔もできるんだなあ」

ともえ「え…知ってるんですか?あたしを」

カンザシ「いや全然。会ったこともなければ話したこともない。だけど知ってる、おかしいよな。でもこれがこの体の辿った道なんだ。なんで調べてたのかは知らねーけど」

イエイヌ「知らないんですか?」

カンザシ「記憶喪失みたいなものでね。肝心なことが思い出せない。でも思い出せないんならその程度でしょ。特に私の場合はね。頭の中は飯でいっぱいいっぱいなんで。時々黒魔術がどーとか考える時はあっけどさ」

 

 ガサゴソとおもちゃ箱を漁って面白そうなものを取り出すカンザシ。

 次はこれで遊ぼうぜ、と出してきたのはボールだった。

 

イエイヌ「ボールですか!いいですねぇ。これで何するんですか?」

カンザシ「うーん、出したはいいがこれは三人で遊ぶのは辛いものだよなあ。的当てにしても退屈だし…ん?」

 

 カンザシは何かに気付いた。

 そう、隅の方でこそこそと見ていたフレンズ達を見つけたのだ。

 ニヤリ。これはいい案を思いついた。

 ヒィッ!不敵な笑みに感づいたフレンズ達は逃げようとしたが、無駄だった。



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#02-4『カンザシのワルツ』

 カンザシは黒い羽を広げて踊り始めた。

 さあ、寄っておいで。

 私は何も怖くない。だから安心しておいで。

 さあいらっしゃい。私達と楽しいひと時を過ごしましょう。

 その踊りは安心感があるようで、どこか不安定で、恐怖のある舞。

 こそこそ隠れていたフレンズ達をおびき寄せるための黒魔術。

 効果はバツグン。隠れていたツンドラオオカミ、サバンナシマウマ、カモノハシがひょこっと顔を出してどんどんカンザシの方へ近付いてくる。

 さあおいでおいで。私は、私達はなんにも怖くない。だから仲良くしましょう。

 

カンザシ「…捕まえた」

シマウマ「はわわわ」

カンザシ「まあそう怯えなさんなって。お前らとボール遊びがしたいだけだから。人数が足りなくてね」

ツンドラ「今のはなんなんだ!私らを操って食べるつもりだったんだろう!」

カンザシ「たべないよぉ~!第一、鳥が狼やシマウマやカモノハシを食べるって言うのか?」

 

 まるでキャバ嬢みたいな大げさな動きでカンザシはそう言った。

 

ツンドラ「それもそうだ。パークで他のフレンズを食べる鳥のフレンズなんて聞いたことがない」

カンザシ「でしょ。んじゃさっそく遊ぼうか。中当てだ」

 

 カンザシはそこら辺にあった木の枝を拾って適当に枠を作る。

 ツンドラ達は一緒に遊ぶイエイヌと話している。

 

カモノ「私、カモノハシ。あなたカフェの店員さんよね」

イエイヌ「そうなんです。イエイヌです」

シマウマ「イエイヌっていうんだ!狼かと思ったよ」

イエイヌ「たまに言われるんですよね」

ツンドラ「んで、そっちの子は。犬ってわけじゃないよね」

 

 ツンドラはともえの方を向いて言った。

 そういえばこの子初めて見る気がするとそれぞれ言うシマウマとカモノハシ。

 

ともえ「はじめまして、ともえ、です」

ツンドラ「ともえ…そんなやついたかなあ」

シマウマ「あっ!もしかして、ヒトでしょ!ヒトの子なんだよね!」

ツンドラ「こいつがヒト?確かによく聞く特徴と似ているけど…」

 

 よく聞く特徴というのはあの、かばんのことだろう。

 読者からしたらこの特徴というのも全然似てないじゃん!と思われるかもしれないが、フレンズ達にとって衣服の違いは関係ないのだ。

 大体が姿形で判別する。もっと親しくなれさえすれば読者達と同じような判断をすることが出来るとは思うが。

 

カモノ「でもその子って『かばん』って子じゃなかった?ともえって名前じゃないよ」

ともえ「かばん?」

カモノ「キミと同じ人間の子でね、なんかすごい子なんだって。行く先々で困ったフレンズ達を助けてごはんを振る舞うの。信じてないけど話としては面白いよね」

カンザシ「よし、これでいいかな。んじゃ始めよっかー!」

 

 カンザシはボールを持ち枠の外側に立つ。

 ともえ達はそのまま枠の中に入ってボールがいつ来てもいいように身構えているがともえだけは棒立ちだった。

 

イエイヌ「ともえさん、当たらないようにお互い頑張りましょうね!」

ともえ「うん」

カンザシ「それじゃあいくぞー!」

 

 ボールは投げられた。

 シマウマやカモノハシがいる所をめがけて。

 カモノハシは軽々と避けたがシマウマは避けきれず当たってしまった。

 

カンザシ「交代だな」

ツンドラ「飛ぶなよ」

カンザシ「わかってるさ、ツンドラこそボールを傷つけるなよ」

シマウマ「いっくよー!えい!」

 

 シマウマの投げ方と威力はカンザシと違って優しかった。

 何バウンドかして誰にも当たらず外へ。

 それを何回か繰り返すがシマウマは中々当てられない。

 

シマウマ「うぅ…全然当てられない。でも投げなきゃ」

 

 シマウマは適当に投げた。

 ボールはフレンズが誰もいない場所に落ちるはずだった。

 しかしイエイヌがやってきて、当たった。

 

イエイヌ「当たっちゃいましたね、あはは」

 

 当たらないと思ってたのに、イエイヌはわざと当てられにいった。

 シマウマは少し驚いていた。当たったから。当たらないと思っていたから。

 

シマウマ「…やった。当たった!」

ツンドラ「やったなシマウマ!」

カモノ「わざと当たりに行ってくれた気がしますけど…」

カンザシ「いいじゃないか。んじゃイエイヌ続きヨロシクー!」

イエイヌ「はい!わかりました!」

 

 優しい中当てだった。

 当たらなければ誰かしらが当たりに行って外に行って。

 ともえもその勝手に始まったルールにいつの間にか乗っかって仲良く、誰でも楽しくできる中当てだった。



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#02-5 飛ばした!飛ばしたどぉ~!

カンザシ「さて、中当てもこれくらいにして次はなにしようか。まだまだあるからなあ」

 

 箱の方を見る。

 ボールとフリスビー以外にもたくさん入っている。

 一同はガサゴソと箱を漁って玩具を取り出すカンザシと、取り出された玩具を見ている。

 

シマウマ「これってなに?」

 

 シマウマはある玩具を手に取った。

 銃のようで銃ではない、不思議な玩具。

 それは1000円ちょいで買えるはずの紙飛行機シューターだった。

 

カンザシ「んー、それは多分紙飛行機シューターだ」

「「「紙飛行機シューター??」」」

カンザシ「ここに折り紙あるし、ちょっと作ってみるわ」

 

 カンザシが知っているデザインとは違っていたがやり方は変わらなかった。

 シューターと一緒に入っていた折り紙を一枚取り出して紙飛行機を作る。

 作った紙飛行機をシューターにつけてパシュン!と飛ばしてみた。

 

シマウマ「あぁ…すごい…」

 

 勢いよく飛んでいった紙飛行機は遠くまで飛んでいき、落ちた。

 イエイヌとシマウマが落ちた紙飛行機を拾って持ってきてくれた。

 

カンザシ「よし、やり方は変わんないみたいだし、誰が作った紙飛行機が一番飛ぶか勝負と行こうか」

カモノ「でも紙飛行機の作り方わからないんですけど」

カンザシ「大丈夫だ。どっちみち教えなくちゃいけねーだろうし改めておさらいと称してやり方教えてやるさ」

 

 そう言って人数分の折り紙を配って丁寧に紙飛行機の作り方をカンザシは教える。

 丁寧に教えるほどのものではないのかもしれないが教えるからにはしっかりとこの場だけでも覚えてもらって自分が楽しい時間を過ごしたいだけに丁寧に教えたのかも知れない。

 

カンザシ「な、簡単だろ?」

ともえ「初めてなはずなのに、すぐにできちゃった」

シマウマ「あの子もそうだけど、ヒトって紙飛行機誰でもすぐに作れちゃうんだね」

ともえ「そうなのかな」

カモノ「どうでしょうね。私達と同じようにヒトにも得意不得意があるはずですし」

 

 紙飛行機をせっせと作りながら雑談する。

 ヒトやフレンズにも得意不得意がある。噂話で語られるような存在にもそれはあるはずなのだ。

 当然かばんっていう子にも。

 

シマウマ「だからなのかな、あの子の話聞いても私達が作り話だと思ってたのって」

イエイヌ「私は信じてましたよ、ヒトがいるって」 

ツンドラ「できた!」

 

 雑談している中、集中していて折っていたツンドラがようやく紙飛行機を完成させた所でカンザシの提案で一度飛ばしてみようという話になった。

 

カンザシ「それじゃ、誰が一番最初に飛ばす?」

シマウマ「はいはーい!私がやりまーす!」

カンザシ「おっ、いい返事だ。んじゃ始めようか」

 

 シマウマが手を上げて立候補したので一番最初はシマウマになった。

 カンザシがシマウマが作った紙飛行機を取り付けてシマウマにシューターを渡す。

 突然渡されて困惑するシマウマに、

 

カンザシ「ここにトリガーあるだろ?撃ちたい方向にこう位置合わせて…飛ばすんだ」

シマウマ「えっ、こう?」

 

 パシュッ!と勢いよくシマウマの紙飛行機は飛んでいった。

 シマウマは興奮した。自分が作った紙飛行機が思っていた以上に遠くに飛んでいったから。

 

シマウマ「やったッ!遠くまで飛んだー!」

カンザシ「なんか印になるの必要だよな…ちょっと待ってろよ」

 

 箱の中に目印になりそうなものがないか調べるカンザシ。

 ガサゴソと漁ってもしっくりくる物はなかった。

 

カンザシ「すまん、なかったわ。覚えられたら覚えといて」

シマウマ「うん!」

ツンドラ「次は私だな」

 

 さっきのシマウマの飛ばし方を見て、ツンドラは狙いを定めて、上向きに飛ばしてみるが上手く飛ばなかった。

 

ツンドラ「もう一回やってもいいか?」

カンザシ「いいぞ~あっ、でも他のやつ事考えろよな」

ツンドラ「わかってるさ」

カンザシ「コツっていうかなんていうかさ、上じゃなくて斜めのほうが飛びやすくないか?」

ツンドラ「斜めか」

 

 カンザシのアドバイス通りに少し斜めにしてみて飛ばす。

 すると紙飛行機はシマウマよりも長く飛んで落ちた。

 

カンザシ「やるじゃん」

ツンドラ「よしっ!」

 

 ツンドラ思わずガッツポーズ。

 ツンドラに負けじとカモノハシとイエイヌが飛ばし、それぞれツンドラには及ばずとも遠くには行けた。

 

イエイヌ「さあ次はともえさんの番ですよ」

ともえ「うん」

 

 カンザシに紙飛行機をセットしてもらって、角度を決めて飛ばしてみた。

 勢いよく飛ばされた紙飛行機はシマウマやイエイヌを超えて、カモノハシの紙飛行機の近くに落ちた。

 

カンザシ「ま、そうだよな。気にするな所詮遊びってやつだ。次はもっと遠くに飛ばせるものを作ろうぜ!私はああいうの詳しくないけど一緒に考えることは出来るからさ」

ともえ「うん」 

 

 その後も飽きもせずに紙飛行機を作っては飛ばし、作っては飛ばしを繰り返していると夕方になっていた。

 夕方になっていることに気がついたカンザシはおもちゃが入った箱を持ち上げて紙飛行機で遊んでいる皆に終わりを告げる。

 さすがに夜通し遊び続ける訳にはいかない。

 

ともえ「まだ皆と遊んでいたいのに」

カンザシ「上を見てみろ、今はいつだと思う?夕方だぞ」

 

 ともえはカンザシに指摘されて初めて今が夕方であることを理解する。

 

ともえ「もう、夕方だったんだ。なら仕方ないよね。シマウマちゃん、ツンドラちゃん、カモノハシちゃん。明日遊べたら遊ぼうね!」

シマウマ「うん、楽しみにしてるよ」

ツンドラ「あんまり期待しないで待っておく。そっちにも都合があるだろうし」

カモノ「そうだね。遊ぶ時はそれ持ってきてね」

 

 カモノハシはそう言ってカンザシが持つおもちゃ箱を指差した。

 

カンザシ「ああ、遊ぶ時は持っていくさ。でも、折り紙は用意できるのか?」

ツンドラ「それなら大丈夫。ヤブワラビーの店で手に入るはずだし」

カンザシ「それなら問題ないな」

シマウマ「それじゃあね、ともえ。また遊ぼう!」

 

 シマウマはともえに手を振りながらおうちへと帰っていく。シマウマの後を追うようにツンドラやカモノハシも一言別れの言葉を言って帰っていく。

 

カンザシ「さ、一旦ワカイヤのとこに帰ろうか」

イエイヌ「そうですね。行きましょうともえさん」

ともえ「…うん」

 

 なんでこんな時に何も持ってこなかったんだろうとともえは思った。

 スケッチブックとお絵かきセットがあればこの綺麗な思い出に一生残るような夕日を描けたのに。



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#02-6 記憶の断片

ワカイヤ「おかえり~」

カンザシ「どうだ?なんかわかったのか」

 

 カフェ・ワカイヤに帰ってきたカンザシやともえ、イエイヌを店の主であるワカイヤは出迎えてくれた。

 

カタカケ「少しわかりました。ですが、完全にわかったわけではなくて…」

カンザシ「わかったんなら上出来じゃないか」

 

 そう言ってカンザシはカウンター席に座ってオレンジジュースを3人分頼んだ。

 はいはい~なんて言いながらワカイヤは支度を始めた。

 

カンザシ「あっ、お前オレンジジュース飲めなかったっけ?」

ともえ「飲めるよ」

 

 カンザシの隣にともえは座った。

 ワカイヤはニコニコしながらオレンジジュース三人分を出してきた。

 

カンザシ「ほらイエイヌも飲んで」

イエイヌ「あ、ありがとうございます」

 

 ごくごくごくごく。

 ぷはー。

 

ともえ「美味しい」

ワカイヤ「ねーねーともえちゃん、イエイヌちゃん達と遊んで楽しかった?」

ともえ「うん!すごく楽しかった!」

ワカイヤ「そうだよね~皆で遊べば楽しいもんねぇ。楽しかったのが顔を見てすぐにわかったよお」

 

 ―――やっと笑ってくれた。私のマジックそんなに楽しかった?

 なにか暖かい言葉を思い出した気がする。

 懐かしい。本当に懐かしい。

 何が懐かしいんだろう?でも涙が溢れてくる。

 カンザシがそっとともえにハンカチを差し出す。

 

ともえ「ありがとう」

ワカイヤ「ん?どしたのともえちゃん」

ともえ「少し、思い出したんです。『私のマジックはそんなに楽しかった』かって」

イエイヌ「マジック?きっとアムールさんですよ。他にもきっとマジシャンなフレンズはいるでしょうけど、あのスケッチブックにはアムールさんが描いてありましたしきっと前にお話したことがあるんじゃないかな」

ともえ「そうなのかな」

 

 声は思い出せてもその時の情景というものは思い出せなかった。

 ともえはカウンター席に置かれてあったスケッチブックをおもむろに取ってアムールのページを見てみる。

 笑顔のアムールトラの絵だった。その絵をなぞって何かを確かめてみたが、何も思い出すものはなかった。

 ぐるるるる。

 

ともえ「!?」

 

 びっくりした。

 まさかお腹空いているだなんて。

 カンザシはニヤリと笑ってともえにこう聞いた。

 

カンザシ「お前さてはおなかすいてるな?にしてもキュルルルルなんてお腹から鳴らなかったなー」

ともえ「そんな音鳴る?」

ワカイヤ「たくさん遊んでお腹空いてるよね。それじゃなんか用意するから待っててね」

イエイヌ「手伝います!」

 

 そう言ってイエイヌはエプロンをカウンター奥から持ってきて付けた。

 ワカイヤとイエイヌは慣れた手付きで分担作業を始める。

 イエイヌは材料を切って、ワカイヤは食器を選びつつ、材料を焼いたりする。

 

カンザシ「んで何がわかったんだよ」

カタカケ「それがですね、このページに描かれた山の絵はオイナリヤマのようです」

カンザシ「オイナリヤマ?ああ、島の長が住んでるっていう」

ともえ「島の長?」

カタカケ「パークにはちほーと呼ばれる細かいエリアを一纏めにした名前がいくつかあるんです。かんとー、あんいん、さんかい、なかべ、ほっかい、ほーとく、ごこく、りうきう。そしてこの島、ばみうだ」

 

 ともえはじゅもんのようにならべなられたことばたちにこんらんしている!

 混乱していてもカタカケの解説は緩めず進んでいこうとしている。

 

カタカケ「それぞれのちほーには長がいるんです。リーダーみたいなものですね」

カンザシ「市長とか大統領とか総理大臣とか言ったほうがわかりやすいんじゃないのか?」

カタカケ「そういう物を並べて言うのはここではマナー違反だと思いますが」

カンザシ「ハッ、それもそうだな。ま、要はその場所で偉いやつってことだ。いつも高い所に座ってシャロン・ストーンのように足組んで、隙を見てアイスピックでつついてくるya――」

 

 直後カンザシの頭上に唐突に現れたタライがカンザシに直撃し倒れた。

 その音にびっくりしてその場にいる誰もがカンザシの方を見た。

 

カンザシ「う…ぅぅ。つ、つまりこういうことだ…」

ワカイヤ「大丈夫?」

カタカケ「あー大丈夫ですよ、こいつ頑丈ですから。一昔前のカートゥーンばりの耐久度持ってますから」

ワカイヤ「カートゥ…なんだかわかんないけど大丈夫ならいいよネ!」

カタカケ「ともえさん、島の長をあまり馬鹿にしないように」

ともえ「はい、わかりました」

 

 頑丈とカタカケが言うように割とすぐに立ち上がって椅子を直し座り直した。

 ひどい目に会ったというような顔を浮かべながら。



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#02-7 暖かな食事を…

カンザシ「オイナリヤマってのはわかった。で、他のはないのか?」

カタカケ「この公園の絵が森林エリアにあるのではないかと言うことと、海の絵は言わずもがな水辺エリアで、この花畑の絵はどこにあったかは忘れたけど多分この島にあるはずだとワカイヤさんが」

 

 カタカケはカンザシにわかるように公園の絵と海の絵と花畑の絵を見せて説明する。

 スケッチに描かれた絵は正直言ってあまり役に立ちそうにない。

 前のともえがどういうことをしていたとしても絵を時々こうして描いていたこととアムールトラと何か関係が少しはあったことぐらいしかこのスケッチからは読み取れない。

 

カンザシ「これだけなわけ?」

カタカケ「えぇ、これだけです」

カンザシ「進展したようでしてないような…カタカケ、お前はどうするつもりだこれから」

カタカケ「記憶を思い出して良いことなんてないかもしれません。それでもともえさんが取り戻したいというのならあの御方のためにも手助けをしなくてはなりません」

カンザシ「だとよともえ。どうする?記憶を取り戻すか?こいつの言う通り、記憶を思い出した所でいい思い出はないかもしれないぞ?」

 

 ともえは考える。記憶を取り戻すために動くか動かないか。

 風鳥達の言い分もなんとなくわかる気がする。

 でも記憶を取り戻さなきゃあの温かい言葉を知ることが出来ない。

 だからあたしは――。

 

ともえ「辛いのは嫌だけど。それでも、知りたい。あたしがどういう人間だったかを。それにカンザシちゃんやカタカケちゃんが言うようなひどい記憶ばかりじゃないと思うんだ」

カンザシ「それがお前の選択か。いいだろう、協力してやる。それがあの御方の願いなのだから」

ともえ「さっきから気になってるんだけどあの御方ってなんなの?」

 

 イエイヌにも聞かれた質問。イエイヌは作業をしながらそーっと耳を澄ます。

 もしかしたら聞けるかもしれないと思って。

 

カンザシ「あの御方のことが知りたいのか?」

カタカケ「カンザシさん!駄目ですよそれは」

 

 ともえは首を縦に振る。

 カタカケを抑えつつ、カンザシはともえにこう教える。

 

カンザシ「あの御方って言うのは神様のような存在だ。この世界を生み出した神に等しい。でもあの御方は決して神なんかではない。お前達と同じ存在だ。忠犬ハチ公のように今でも大切な主人を待つ可愛そうなやつだ」

 

 カタカケはカンザシがあの御方の正体を言ってしまうのかと思ってヒヤヒヤしていたが取り越し苦労だった。

 カタカケはホッと一息をつく。ふと、イエイヌの方を見てみると彼女は少しだけ残念そうな顔をしていた。

 

ワカイヤ「ささ、ご飯できたよー。皆食べていってねー」

 

 イエイヌがカウンター席に座る三人の前に料理を運んでくる。

 ワカイヤとイエイヌ特製の豚の生姜焼きとサラダ。

 美味しそうな匂いだ。

 イエイヌがエプロンを脱いで自分の分の夕食を持ってきたタイミングで

 

「「「いただきます」」」 

 

 そこまで固くない生姜焼きを子供のように頬張るカンザシをワカイヤは嬉しそうに見つめる。

 

ワカイヤ「カンザシちゃんの食べっぷりいいねぇ。作った甲斐があったなと思えるよ」

カンザシ「それはよかった」

カタカケ「サラダも食べなさい」

カンザシ「わかってるさ」

 

 カタカケに促される形でカンザシはサラダにも手を出す。

 ごまドレッシングらしきものがかかったシンプルなサラダを食べる。

 そのサラダにうまいもまずいもないがドレッシングがうまい具合に絡んでいて食べやすい。

 

ともえ「おいしい!」

イエイヌ「ともえさんに気に入ってもらえてよかったですぅ」

ともえ「やっぱりこうやって食べるのはいいよね」

イエイヌ「はい!」

 

 あったかいご飯に心もあたたまるわかめと豆腐の味噌汁。

 ともえは久々にあたたかな夕食を得たような気がした。久々ってのがよくわからないけど。



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#02-8 月に見惚れて

 ワカイヤの厚意に甘えてイエイヌはともえと一緒におうちに帰ることになり、カフェから出た。

 辺りはすっかり真っ暗だったが街灯が点灯してたことで帰り道はわかりやすかった。

 

カンザシ「どうだ~黒いだろ~この黒さはただ黒いだけじゃない!光をも吸い込む本物の黒だぞぉ~」

 

 美味しいご飯を食べて気分がいいのかご自慢の黒い羽をともえとイエイヌに見せびらかすカンザシ。

 カタカケはそんなカンザシに呆れている。

 

ともえ「すごい真っ黒。先がないみたい」

カンザシ「だろ?こんな綺麗で素敵な黒はなかなかないぞ」

イエイヌ「確かに…!」

カタカケ「はぁ」

カンザシ「おいなんだよカタカケぇ。ため息なんかついてさー」

 

 酔っぱらいみたいにカタカケに絡むカンザシ。

 カタカケはそれを振り払ってカンザシに文句を言った。

 

カタカケ「仕事で来ているってことを忘れていませんか?私達は――」

カンザシ「ああ!わかってるわかってるって。あの御方のためにもともえを見てなくちゃいけないんだろ?それくらいできるさ。でもね、私は自由に好き勝手できないと仕事できないタイプなんだよ。しっかりと仕事するから黙ってみてろって」

 

 カタカケの言葉を遮ってカンザシは言った。

 (イマイチ信用したいと思えません)。

 

カンザシ「少しは信用しろって」

カタカケ「普段の行いが悪いから信用されないのでは?」

カンザシ「言い返せない自分が憎い」

カタカケ「憎い?肉い?お肉好きですよね」

カンザシ「俺の肉しみは消えないってか。違うわ!」

イエイヌ「二人共仲いいですね」

「「違う!」」

カタカケ「カンザシさんとは仕事で付き合っているんです。友達ではありません!」

カンザシ「誰がこんな血の通ってないような悪魔とつるむっていうんだ」

 

 ふふっ。イエイヌは笑った。

 まるで漫才のような慣れた会話劇。

 (今日はなんて幸せな日だったんだろう。ヒトであるともえさんに、ともえさんに関係のありそうなカンザシさんとカタカケさん。こんな素敵なめぐり合わせが一度に来るだなんて私、明日死んじゃうかも)。

 なんて大げさな。なんだか恥ずかしくなるわ。

 風鳥達の漫才は続いているがともえの耳には入ってこなかった。

 なぜなら月に見惚れていたからだ。

 特別な状況に立たされてしまったからとかそういうのも大きいだろうが今の月は見ているだけで癒やされる。

 ぽっかりと空いた心を埋めてくれる特別な存在。

 思わず手にとって見ようと歩きながら手を伸ばしてみる。

 当然だけど月を掴めてすらいないし、どんどんと遠ざかっているように思える。

 

イエイヌ「月を掴みたくなる気持ち、なんとなくわかる気がします」

ともえ「綺麗だもんね。思わず手にとって見てみたくなった」

イエイヌ「せっかくですし高台に行きませんか?月がよく見えると思うんです」

カンザシ「いいじゃねーかそれ。もちろん、食いもん持っていくよな?」

カタカケ「さっき食べたばかりでしょ…」

カンザシ「アハハハ!いいじゃねーかよぉ。食わなきゃいい話だろ。それになんか暖かい飲み物でも飲みながら月とか星とか見たいと思わないわけ」

カタカケ「確かに…」

カンザシ「だろ?じゃ、決定な。一旦イエイヌの家にしゅっぱーつ!」



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#02-9『月夜の森へ』

 月見の準備のために一度イエイヌのおうちへと帰ってきた。

 イエイヌは暖かい紅茶を作り始める。

 

カタカケ「カンザシさん…」

カンザシ「なんだよ、そんなじっと見て。お前ハシビロコウかよ」

カタカケ「あなたが変な気を起こさないように見張っているだけです」

 

 冷蔵庫を漁ろうと冷蔵庫の扉を掴んで今開けようかとしていたカンザシだったが、カタカケに睨まれて開けられない。

 

カンザシ「変な気ってなんだよ」

カタカケ「イエイヌさんの冷蔵庫の中がこの悪魔に食われて無くなるのではと」

カンザシ「そんな訳無いだろ。第一ここのはサンドスターやらなにやらで勝手に補給されるやつだろ。だから食べてもセーフ」

イエイヌ「冷蔵庫の中に朝作ったバーガーがあるんです。よければそれをチンすれば食べれるのでは?」

カタカケ「いいんですか、こいつに食わせても」

イエイヌ「大丈夫です!それにこのバーガー、自信作なんです!よかったらカタカケさんも食べてみませんか?2個作ったんです」

カンザシ「ではお言葉に甘えて」

 

 冷蔵庫を開けてバーガーを二個取り出してレンジへとシュート!

 温め中のバーガーをカンザシとカタカケはじーっと眺めている。

 くるくると回転する二個のバーガー。カンザシの口からはよだれが出てくる。

 間違いない、これは見ただけでわかる。美味いやつだと。

 チンッ!

 あつっ、あつっなんて言いながら二人は紙袋に突っ込んだ。

 

イエイヌ「ともえさん、お待たせしました!行きましょう」

 

 椅子に座ってぼーっとショルダーバックを眺めてたともえはバックを持って皆と外に出た。

 向かった先はともえとイエイヌが初めて出会ったあの高台。

 高台への道も十分、月と星がよく見えていたが高台と比べると別次元。

 

ともえ「うわぁ」

 

 思わず声が出るほど美しい夜景だった。

 上を見れば綺麗な月と星がこちらに微笑み、下を見れば電球で作られた星が僅かに輝く。

 暗いがなんだ、ともえはスケッチとお絵かきセットを取り出しておもむろに書き始める。

 

カンザシ「くりゃくにゅわぁいのか」

カタカケ「食べながら喋るのはよろしくないですよ」

 

 カタカケはそう言いながらどっからか取り出したランタンでともえとスケッチを照らす。

 

ともえ「カタカケちゃんありがとう。もう少し持ってて」

カタカケ「いいんですよ。ゆっくり赴くままに書いてください」

 

 明かりを得たことが書きやすくなったともえはさっきよりもペースが上がってあっという間に完成した。

 

ともえ「できた!」

カンザシ「どれどれ…いいじゃないか」

イエイヌ「ここから見える夜景を描いたんですね!すごく描けてると思います」

ともえ「よし」

 

 思わずガッツポーズ。

 描かれたのはこの高台から見える夜景だった。

 今こうして目の前にある景色と比べてしまうとやはり見劣るものではあるが、描きたくて描いたというはっきりとした想いは伝わってくる気がする。

 

カタカケ「この下に書かれた家らしきものは、ここの真下にある居住区のものですよね」

ともえ「うん。上にも下にも星があって綺麗だなって思って」

カンザシ「電気を星と捉えるか。いいじゃないか。ところでこれ、どこの画廊で飾られんの?」

ともえ「そんなとこに飾られるほどすごい絵では」

イエイヌ「そんなことないですよ!この絵、見てて気持ちが暖かくなるんです。きっとともえさんは前は画家さんだったんですよ!きっとそうに違いありません」

カンザシ「ともえ、前は画家説」

ともえ「違うって絶対!」

イエイヌ「私は信じてます!これは画家さんです、間違いありません」

 

 ともえの絵に惹かれたイエイヌはこんな絵を描く人が画家じゃないはずはないと確信して画家説を推すのであった。

 それを尻目にカタカケは水筒から紅茶を紙コップに注いで月を眺めた。

 

カタカケ「やはり、あの世界と違ってこちらの月は綺麗ですね…」

 

 そう誰にも聞かれることのない呟きをしながら。



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#02-10 黒キ夢ノ叫ビ声

ひどい考察!こんなのただの子供が書いたチラ裏よ!


 幸せなお月見も終わり、あとは寝るだけ。

 歯磨きを済ませてベッドに潜り込むだけ。

 イエイヌはともえと協力して押し入れから布団を取り出して敷いた。

 

イエイヌ「そういえばフウチョウさん達がどこに行ったか知りませんか?」

ともえ「知らないよ」

 

 いつの間にか風鳥達がいなくなっていたことに二人は気付いていた。

 まるで幻。初めからいなかったかのようにいなくなっていた。

 それでも紅茶が入った水筒がからっぽだったから存在していたんだと確認できる。

 

イエイヌ「そうですか。まあ大丈夫ですよね、あのお二人なら」

ともえ「多分大丈夫だと思う」

 

 考えるだけ無駄に近いような、そんな気がしてた。

 布団は敷き終わって

 

イエイヌ「はい、出来ました。後は寝るだけです」

ともえ「今日はありがとうね。明日もよろしく」

イエイヌ「はいっ!それではおやすみなさいともえさん」

ともえ「おやすみ」

 

 部屋の明かりは消えてともえが布団に寝たのを確認してからイエイヌは自分のベッドに潜った。

 ――いい夢を見てくださいね。

 ともえは闇に沈んだ。

 本物と自称する黒いそれらよりも黒よりも真っ黒な海に沈んでいく感じ。

 どんどん、どんどん沈んでいく。

 沈んだ先で目が覚めた。覚めたといっても夢の中での話である。

 ここがどこなのかわからない。

 わかるのは自分の手が死人のように冷たく、まるで自分の腕じゃないみたいに紫に変色しているように見える。

 

ともえ「ここは、どこ?」

 

 暗闇の世界。

 はっきりとわかるのは小さな光が足元を照らし、その光のおかげなのか少しだけ建物やポスト、看板などがあるのがわかる。

 さっきまで寝ていたはずなのに。なんでこんなところを歩いているのだろうと。

 ともえは誰かにぶつかった。

 

ともえ「ぁあ…ごめんなさい」

 

 橙色の猫の背中。どこか赤く汚れているように見えた。

 

橙猫「いいのよ、私は気にしていないから」

 

 振り向く橙猫の顔はこの世のものとは思えない、異形の顔立ちだった。

 フジツボのようなおできが目立っていて気持ちが悪い。

 目があるはずの場所からだらりと血を流した後がある。

 ともえは悲鳴を上げながら橙猫らしき異形を突き飛ばし逃げ出した。

 グギッ、グギギギなんて後ろから音が聞こえる。

 

橙猫「マッテ、マッテヨォォ」

 

 待つだなんてとんでもない。

 捕まったら最後なにかされるだろうと本能か何かが告げていた。

 手当たり次第に目に入った道に飛び込むような感じで何度も入り込んだ。

 帰り道がわからなくてもあの橙猫からは逃げられるはずだと信じて。

 必死になってともえは逃げる。

 逃げても逃げても猫は追いかけてくる。

 

ともえ「そんな…」

 

 何度か曲がった先の道はなかった。穴だ。

 ともえの目の前には底なしの穴しかなかった。

――逃げたきゃ堕ちてみろ。お前みたいな偽物に、臆病者にできやしないだろうがな。

 挑発されているかのような。

 穴に飛び込むかどうか考えていると橙猫に追いつかれてしまう。

 ゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。

 

橙猫「モウ、ニゲラレナイヨ…コッチニオイデ。コワクナイヨ」

 

 迫りくる死の腕。

 安心させようとする言葉を言う橙猫だが姿が姿なので無意味だった。むしろより一層怖さが増しただろう。

 逃げ道は穴しかない。追い詰められたともえは――

 意を決して飛び降りた。

 どんどん橙猫の姿は遠のいていく。

 これでよかった。何が良かった?

 自滅に走っただけで何を喜ぶの?

 グチャ。

 お人形さんは壊れた、はずだった。




※読み飛ばし推奨の勝手にたまげてろ案件の考察・妄想


 これまでに「どこかの国の工作員」「キングダムハーツ」「将棋」「魔法陣」「屍人が跋扈する異界」「キチガイ専用海底都市」「神曲」「ヤギ」と2.6%の生き返り頭脳ゲーム愛用者をb…称賛するかのような説が提唱されてきた『けものフレンズ2』。
 そんな素晴らしい作品に塩コショウを大量にふりかけている時にふとサントラのことを思い出し、閃いたのでタツノオトシゴのフレンズの名にかけてここに書き記しておくことにする。
 背景には鉄塔らしき絵があり、これを使って地上へと上がって地上を自分達のものにしよう(全百何話の大人気アニメシリーズ)と企てていたのではないだろうか。
 異界説でよくネタにされているSIRENシリーズにもあれと同じように地上へと向かおうとしており、鉄塔を足に使おうとしていた話があった。
 そしてその鉄塔をうんこと煙草で偶然鉄塔を破壊しちゃった人が現れたことで計画は破綻。
 これを現実に置き換えれば□に対する何らかの感情などで人気コンテンツへの可能性という鉄塔、そして地上への進出(ケロロ軍曹ばりの長いアニメ放映)を破壊されてしまったと言えるのではないだろうか。
 地獄の住人にとって爆発しちゃったガスは□に対する怒りや悲しみである。
 地獄の住人たちの中には今回の地獄での騒動にショックとがっかりが隠しきれなかった者、希望を持って足を踏み入れたがボロクソに叩かれて弱ってしまった者など様々な感情を持つ住人がいたはずで、それらの感情がガスとなり、地獄のトイレに溜まっていたと考えている。
 これが煙草という火で大きく着火しなぜか爆発してしまった。
 思いの外ガスが貯まりすぎていたというのは投げた人=視聴者も地獄の住民も予想外だったのでは?
 ボンッボンッボンッ!とびっくりするくらい連鎖爆破して計画を破壊してしまった。
 そしてその後破壊しちゃった視聴者は地獄とかそういうものがない平和な世界(元ネタにとっては悲しい世界)に犬と共に飛ばされてしまう。
 犬…?我々はこの犬を知っている!そう、イエイヌなのだ。
 元ネタの考察によると犬と共に脱出できたのは最終戦に参加せずに鉄塔を破壊したから。
 視聴者は最終戦=12話に参加していない。見ていただけである。
 イエイヌは最終戦に参加していないはずだ。
 つまり、お互い最終戦に参加せずに平和な世界(おそらくRの世界)に脱出できたということ。
 となると、鳥や虎はどうなったとなる。
 鳥は最終戦に参加し、かつ黒幕に少なからずダメージを与えているはずなので元の地上へと帰ったのではないだろうか。
 ゴマすりクソバードというのは地獄なくしては呼ばれない名前と扱われ方をされているからだ。とてもじゃないが平和な世界に飛べたとは思えない。
 そして虎は黒幕にしっかりとトドメを刺されている上に死体の上でライブというオーバーキルもされているため、地上を手に入れた地獄がある世界に飛ばされてしまったのではないだろうか。
 ちなみに、12話で地獄の住民が虎に対する反応と元ネタのムービーでの彼に対する反応はほとんど一致しているはずだ。


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#02-11 風鳥と夜語り~かたかけぼん編~

ともえ「戻ってこられた…ふぅ」

カンザシ「本当に悪夢から抜け出せたと思うか?」

ともえ「うわぁっ!?」

 

 上半身を起こして部屋の周りを見回してやっとあの嫌な夢から抜け出せたんだと一安心したのも束の間、寝る前はいなかった風鳥達が姿を現し驚かしてくる。

 

カタカケ「ごめんなさいともえさん。こら、謝りなさい」

カンザシ「チッ…ハンセイシテマース」

 

 ちっとも反省していない。

 形だけ謝れる分マシなのかもしれない。

 

ともえ「あの夢から抜け出せてないのかな」

カタカケ「人にもよりますがあれを悪夢だと思うならば抜け出せたのかもしれません」

カンザシ「だけど人によってはこの世が悪夢だと見るやつもいる。お前はどっちだ?」

ともえ「わかんないよ…」

カンザシ「そりゃあそうだ。一日生きただけで悪夢と決めつけるのは早すぎる。だが安心しろ。ここはお前が拒まない限り幸せな夢だよ」

ともえ「拒まない限り」

カンザシ「そうさ。動物って見てると癒やされるだろう?お前が拒まなければ動物ってのは触らせたりしてくれるんだぜ。ほぉらこのモフモフを体験なさい!」

 

 そう言ってカンザシはともえの前に腕を持ってきて触ってほしそうに動く。

 ともえは恐る恐る触ってみると確かにモフモフだった。

 

カンザシ「あっ、爪を当てるんじゃないぞ。痛いもんは痛いんだから」

ともえ「気をつけるよ」

カンザシ「よしいいぞぉ。どうだ~なんか癒やされてきたろ」

ともえ「…全然」

カンザシ「ズコッ」

カタカケ「アハハハハハ」

カンザシ「何笑ってんだよお前!」

カタカケ「いえ、面白くてつい」

 

 カンザシはカタカケに向かってむくれたような顔をした。

 

ともえ「カタカケちゃんが笑ってるところ初めてみた」

カタカケ「そうですか?」

カンザシ「そうですかじゃねーよ。お前はもっと笑え、ほら」

 

 カンザシはカタカケのほっぺをつまんで伸ばす。

 カタカケが笑っているような口をしているが目は笑っていなかった。

 つまんでも面白いものが大して出ずにカンザシはつまむのを辞めた。

 

カタカケ「さ、ともえさんは横になって目をつぶってください。寝るまで我々はここにいますので」

カンザシ「そうだぞ。私達は寝なくてもいいような体してるがお前は寝なきゃ駄目だろ」

 

 そう言って横になるよう言われてともえは横になって目をつぶった。

 

ともえ「また悪夢を見ちゃうのかな」

カンザシ「そんなことはないぞ。なぜなら…カタカケさんが素敵な素敵な踊りで悪夢を追い払ってくれるからデス!」

カタカケ「えっ!?」

カンザシ「というわけで、どうぞ」

 

 突然のフリに困惑するカタカケだったが、覚悟を決めたようだ。

 立ち上がり踊り始める。

 カンザシが昼に使ったものとは違う魔術。

 カタカケの魔術に合わせてカンザシは適当な歌詞をつけて歌い始める。

 

 ラ~ラ~ラ~カタカケはくぅるくぅるまわぁーーーる~♪

 トロイメライよりもふあぁぁぁぁんてぇぇぇい!♪

 おーおーおおーおー♪

 

 ボク知ってる!おーおーおーって歌ってる時は歌詞考えるのに困ったやつだって!

 かなりふざけて歌ってるため、本当にともえが寝れるか不安な所はあるが…。

 ぐっすり寝ちゃったんだなあこれが!

 それでもカンザシの適当な歌は続く。

 

 あくまで悪魔♪

 心を乗っ取ってどこへ行く♪

 我らは気まぐれで悪戯な悪魔♪

 

カタカケ「もうやめていいですか?」

カンザシ「いや、お楽しみはこれからだ!ってやつだぞ。せっかくいい具合に歌詞が湧いてきたっていうのに。それ潰すのかよ」

カタカケ「はい潰します。潰しました」

 

 そう言って踊ることを辞めてしまった。

 カンザシはすごく悔しそうにカタカケを見つつ、

 

カンザシ「私はともえの側にいるからお前は休んでろ」

カタカケ「では明日は私が」

カンザシ「そうしてくれ」

 

 そんな会話はともえには届かない。

 ともえは今、悪夢ではない夢に堕ちたのだから。

 少なくとも、さっきの夢よりは。

 

ともえ「うーん…増えないで…タンバリン…」

カンザシ「どんな夢見てんだともえは」



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#02-12『おはようコウザン』

 カオスな夢を見ていた気がする。

 なんだったんだあれは。

 曲に合わせて踊るカタカケが段々増えていき、カンザシがひたすらタンバリンを叩くだけの夢。これは悪夢…?

 眩しい光、太陽に起こされ目を覚ましたともえ。

 窓の外を見ていたカンザシはともえが起きたことに気付いて挨拶してきた。

 

カンザシ「おはようシスター!」

ともえ「おはよう」

カンザシ「どうだ?悪夢は見なかったか?」

ともえ「変な夢を見たよ」

カンザシ「ほう…どんな夢だったんだよぉ」

 

 ぼーっとした頭と口で覚えてるところまでをカンザシに伝えるとゲラゲラ笑いだし、

 

カンザシ「あいつの踊り面白かったしなあ。フッて正解だった!夢にも現れるほどおもs――素敵な舞いはさぞよく眠れたか考えるだけで笑えてくる!アハハハ…」

 

 そう言ってキョロキョロとカンザシは見回した。

 カタカケからの天誅が来るのではないかと頭に浮かんだのかもしれない。

 だが天誅は来なかった。

 ふぅ、なんて一安心。

 

カンザシ「んじゃ行こうか。もうそろそろ朝食できてる頃だろうし」

ともえ「うん」

 

 リビングに向かえば朝食を作るいい音が聞こえる。

 トントントン。グツグツグツ。

 

イエイヌ「おはようございますともえさん!もっとゆっくり寝ててもよかったのに」

カンザシ「私が起こしちゃってさ。いやー朝って気持ちいな!」

イエイヌ「確かに。もうちょいしたら朝食できると思うんで座って待っててください」

カンザシ「はいはーい」

 

 そう言ってともえとカンザシの二人は座った。

 二日目の朝はカンザシが喋りかけてこない限り料理の音しか聞こえず、本当に静か。

 この静かさがイエイヌにとっては日常。

 誰もいない、自分ひとりしかいない世界で料理を作ってカフェに行っては手伝いをする日々。

 そんな空間に現れたともえという存在はイエイヌにとって太陽でしかなかったかもしれない。

 

カンザシ「ともえ、今日は何して遊ぶ?」

ともえ「うーん紙飛行機とか」

カンザシ「それもいいがなんか別のもやろうぜ。あの箱にまだあったし」

 

 静かな世界を壊したのはカンザシだった。

 あの箱というのは当然ワカイヤが持っていたおもちゃ箱のことだ。

 

カタカケ「遊ぶことよりも大切なことはあると思うんですよ」

カンザシ「え、なんだっけ」

カタカケ「はー…。記憶を取り戻すためにスケッチの絵の場所に行くことですよ」

カンザシ「んなこと言われたって森林エリアにしろ水辺エリアにしろここから遠いじゃねーか」

ともえ「遠いの?」

カンザシ「当たり前だろここどこだと思ってんだよ。ショッピングモールじゃねーんだぞ」

カタカケ「これがこの島の地図です」

 

 そう言ってカタカケは地図を開いた。

 

・ばみうだちほーまっぷ

 これさえ見ればこのちほーで歩くのに便利! 

 

 なんて可愛らしい絵と共に描かれたマップ。

 ちなみに絵はマナヅル、文はコモドドラゴンがやったと小さく書いてある。

 わかりやすくどこに何があるのかというのがよくわかる。

 

カタカケ「ここが私達のいるこうざんエリアです。ここから森林エリア、水辺エリアに移動しているとかなりの長距離になると思うんです。それにここに書いてある通り『1つの1つのエリアが広く作られているから移動する時は乗り物に乗ることをおすすめする』と」

カンザシ「乗り物なんてあるのか?」

カタカケ「ええ、バイクや車、列車があるはずです」

カンザシ「モノレールは?」

カタカケ「セルリアンとの戦いで一部レールが破損して使用不可。一応他のエリアへの移動は可能だと思いますが、いかんせんレール部分とか肝心なところはヒト任せだったみたいで…」

 

 パークの設備をラッキービーストがしているとは言っても、モノレールのレール部分に関しては対応外で年数がそれなりに経っていることもあって、ほんのちょっとした行動で壊れてしまう可能性がある。

 ちなみにかばんにもレールの修理は無理なので諦めるある。

 

カンザシ「そっかそれならモノレール以外の移動手段を見つけないといけないわけだ」

カタカケ「もしよかったらでいいんですけど昼間にともえさんと一緒に探しに行ってきてくれませんか?もしかしたら見つかるかもしれなくて」

カンザシ「あぁいいけど、遊びながらになるがいいか?」

カタカケ「構いません。もし見つからなかったらカンザシさんが夜中、休みを返上して飛びながら探し回ってもらうことになるだけです」

カンザシ「あぁぁ!?なんでそうなんだよ」

カタカケ「昨日のお返しです」

 

 かたかけぼんの逆襲をくらうカンザシ。

 予感は意外と後から来るもの。

 

カンザシ「うぐぅ。こうなったら意地でも探すぞともえ!」

ともえ「え!?…う、うん」

イエイヌ「はーいおまたせしました!朝ごはんできましたよ」

カタカケ「手伝います」

イエイヌ「すいません」

 

 心があたたまる朝食を食べた一同は一先ずアルパカのカフェへと向かうことにした。



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#02-13 寄り道

ワカイヤ「おはようみんなぁ~あ、おもちゃ箱はそっちに置いておいたよ」

カンザシ「サンキューな」

 

 そう言ってカンザシはおもちゃ箱を持ち上げた。

 

カタカケ「あの、ワカイヤさん」

ワカイヤ「何?」

カタカケ「この近くに乗り物ありますか?ともえさんの記憶を取り戻すのに使おうと思いまして」

ワカイヤ「うーん…」

 

 ワカイヤは思い出そうと少し頑張ってみたが、ダメだった。

 

ワカイヤ「ごめん!わかんないや」

カタカケ「そうですか…。カンザシさん、夜中探し回ることになったかもしれませんねイヒヒヒヒ」

カンザシ「キャラが壊れてるぞ!」

ワカイヤ「あ、でもぉ、カンザシちゃん達と一緒に遊んでた子達ならなんか知ってるかもしれないよ。遊んでる最中に珍しいもの見つけてるかもしれないし」

カンザシ「そうしてみる。いくぞともえ、イエイヌ」

カタカケ「今日は私も行きます」

カンザシ「一緒に遊ぶのか?」

 

 カタカケが遊ぶとは思えないが一応聞くカンザシ。

 

カタカケ「いえ、あなた達が遊んでいる間に探そうと思いまして」

カンザシ「そっか。見つかるといいな」

カタカケ「見つかるといいな、じゃありません。カンザシさんも探してください」

イエイヌ「あ、あの!私が時々カンザシさんの代わりに見ておきますよ」

カタカケ「すいません、そうしてください…」

カンザシ「うぅ…なんだか私、信頼されてないな。でもそんなの気にしないもんね」

カタカケ「気にしろ阿呆鳥」

 

 カタカケからの辛辣でありがたいお言葉を無視しカンザシはともえとイエイヌを連れてカフェから出て行き、カタカケはそれを追いかけるように出て行った。

 

 

 

カンザシ「というわけでお前らなんかここら辺で珍しいもの見たことない?」

ツンドラ「記憶喪失ねぇ…」

 

 軽く事情を三人に説明して協力してもらおうと考えたカンザシは珍しいものを見たことがないかと聞いてみる。

 

カモノ「珍しいといえば…、ほら私の家の近くにあるボロボロになった変なぬいぐるみみたいな…」

ツンドラ「あれって確かラッキービーストだろ」

カンザシ「ボスかあ、ちょっと行ってみようぜ」

 

 カンザシの提案でボロボロになったボスことラッキービーストを見に行くことになった。カモノハシを先頭にして歩き出す。

 

イエイヌ「なんだか探検してるみたいでワクワクします!」

カンザシ「こんな時に探検家の帽子があればなー」

カタカケ「そんなもの持ってたんですか?」

 

 カンザシは首を横に振って否定する。

 

カンザシ「持ってたら被ってるって!」

カタカケ「それもそうですね」

カモノ「ほら、あれがボロボロのぬいぐるみだよ」

 

 そう言ってカモノハシが指をさした場所を見てみると、確かにボロボロになっているラッキービーストがあった。

 

ともえ「なんでこんなにボロボロに…」

カタカケ「時間経過でしょうね。でもそれだけじゃない」

イエイヌ「それだけじゃないって?」

 

 カタカケはそれだけじゃないところをいくつかわかりやすいように上げ始める。

 

カタカケ「まずはここ、かわいいお耳がついているはずなのに食い散らかされたみたいになっている」

 

 確かにそのラッキービーストには耳がなかった。

 誰か凶暴な獣が食い散らかしたかのような跡が目立って痛々しく見える。

 

カタカケ「そしてこのラッキーは片目が壊れています」

ともえ「かわいそう…ねぇ、この子直せないの?あたしだけじゃ無理でも、皆で力を合わせれば直せるよね」

カタカケ「ガワだけなら直せると思います。ですが内部は私達では直せません」

シマウマ「内部?ボスの中のこと?」

カタカケ「そうですね。ここまでボロボロにされているといくら技術があってもヒトに頼らないと直せないでしょうけど、ガワだけなら縫うだけでいいと思うので我々でもできます」

ツンドラ「詳しいんだな」

カタカケ「以前ヒトが残したラッキーに関する文献を読んだことがあるので少し覚えがあっただけです」

ツンドラ「へーそんなのがあるんだなー」

 

 ともえは帽子を脱いでラッキービーストの耳を帽子で隠してから手に取った。

 

ともえ「それでどうすればいいの?」

カタカケ「そうですね、イエイヌさん」

イエイヌ「は、はい!」

カタカケ「裁縫道具ありますよね?それをお借りしてもいいですか?」

 

 イエイヌのおうちならばその位持っていてもおかしくないと思ったが、

 

イエイヌ「私は持ってないですけど、ワカイヤさんなら…」

 

 持っていなかった。 

 

カンザシ「なあ、カタカケ。ただ直すだけじゃあれだし、私達で何か使えそうなの探してアレンジ加えないか?」

カモノ「アレンジ…!」

 

 自分達でラッキービーストを直せることもそうだが、このボロボロラッキーに手を加えられる事にカモノハシは目を輝かせた。

 

カモノ「そうだ。ねえ、私の家にボスにつけてあげたいものあるんだけど取りに帰ってもいいかな?」

 

 それなら私もとシマウマもカモノハシと共に一度おうちに戻っていこうとする二人にカンザシは、

 

カンザシ「ワカイヤのカフェに来いよ!場所わかるよな!」

シマウマ「もちろん!」

 

 と念押しした。



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#02-14 Give Gifts, Give Life

ワカイヤ「早いおかえりだったねぇ」

ともえ「あの、ワカイヤちゃん。このラッキーを直してほしいの!」

ワカイヤ「これってボスじゃない!どしたの?」

ともえ「皆で乗り物探そうとしてる時にこのラッキーの話になって…」

 

 そう言ってともえは自分の言葉でここまでの経緯を説明する。

 

ワカイヤ「うんうん、それじゃあボスの外見が良くなればいいんだよね」

ともえ「うん」

ワカイヤ「それじゃあちょっと待っててね~」

 

 ワカイヤは奥から裁縫道具を持ってきてともえの前に置いた。

 ともえはかわいい箱の裁縫道具を見つめる。

 

ともえ「?」

ワカイヤ「皆で直すんならともえちゃんが直さなくちゃねぇ」

ともえ「え」

カンザシ「なんでもかんでもワカイヤに頼るのは良くないよなあ???――イタッ」

カタカケ「どの口が言うか」

 

 カンザシは普段の行いが悪いせいでカタカケに軽いチョップをくらった。

 

ともえ「これを自分で…?」

イエイヌ「大丈夫です!私がついてます!一緒に完成させましょう!」

ともえ「う、うん…」

 

 不安だ。

 裁縫をしたことがないはずだから上手くできるかが心配で不安だ。

 テーブル席に座ったともえの横に座ったイエイヌが優しい手付きで裁縫の仕方を一から教えてくれる。

 ともえはイエイヌに言われるまま針と糸を使って裁縫を始めようとしていた。

 

イエイヌ「ともえさん、生地は何色使います?」

ともえ「そうだなあ…」

 

 赤、青、桃、緑…と基本的な色の生地があった。

 ともえはその中から桃色の生地を選んで使い始める。

 ラッキーの耳にぴったりと合うようにハサミで調節しながら切って縫っていく。

 

シマウマ「どう?やってる?」

カモノ「ともえ持ってきたぞ」

 

 二人がカフェへとやってきてともえが座っているテーブルに持ってきたものを置いた。

 花のようなペンダントと黄緑色のボタン。

 

カモノ「これ、ボスに合いそうかなって持ってきたんだ」

カンザシ「花のペンダントか?」

カタカケ「これは…ローダンセだと思います」

カモノ「へぇーローダンセっていうんだ」

カタカケ「確か花言葉は『終わりのない友情』だったかと」

カンザシ「んじゃ、ともえ達にぴったりなんじゃないか?フレンズとの友情に終わりなんてないってね」

ともえ「使ってもいいのかな」

カモノ「使ってよ。そのために持ってきたんだから」

ともえ「ありがとう。これは、、、ここにつけよう」

 

 ローダンセのペンダントの紐をベルトに合わせて縫い合わせた。

 

カモノ「いい感じじゃん」

ともえ「うん!それでこのボタンは目につける」

 

 黄緑のボタンを片目の代わりに縫った。

 

ともえ「できた」

ワカイヤ「よく縫えてるよぉ」

ともえ「イエイヌちゃんのおかげだよ!ありがとう!イエイヌちゃんがいなかったらあたし一人でできなかった」

イエイヌ「いえいえ…エヘヘ」

 

 照れるイエイヌ。

 

ワカイヤ「ねぇ、お菓子食べない?今度新メニューに出したいのがあって感想聞きたいんだよね!完成したしお茶会しようよぉ」

カンザシ「どんな菓子なんだよ」

ワカイヤ「自家製のジャパリまんっぽい菓子パンなの!」

カンザシ「いいじゃないか」

 

 そう言って用意された菓子パンを2つとって食べ始めるカンザシ。

 

カンザシ「うっま!お前も食べてみろよともえ!」

 

 そう言ってカンザシは菓子パンをともえの口に突っ込んだ。

 

ともえ「はぐっ!…うまぁい!

ワカイヤ「まだまだあるから食べていってねー」

 

 軽いお茶会が始まり美味しくて甘い菓子パンに夢中になっている一同はラッキーの瞳が光り始めた。

 

ワカイヤ「ねぇ、あのボスって光ってたっけ?」

イエイヌ「え?」

 

 一瞬の閃光。

 

シマウマ「眩しいぃ!」

ツンドラ「何が起こった!?」

 

 キュイイイイイイイン!と機械な音がなり始めたかと思えばラッキービーストは天井まで飛んで落ちた。

 一同はラッキーの周りに集まる。

 

ツンドラ「なんか、さっきまでともえが直してたのと色とか違くないか?」

カモノ「いつもの色だったよね」

シマウマ「でもこれピンクだよ?」

 

 ヒョコっと起き上がったラッキー。

 

ラッキー?「アワワワワ、、ココハ、ココハドコナンダ?イ、イソイデモトノイチニモドラナイト」

 

 そう言ってカフェのドアを押して出ていった。

 あまりにも突然の出来事に皆は困惑していた。

 

カタカケ「――ハッ!急いでラッキーを追いましょう!」



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#02-15『飛行船、乗ります!』

 そう言ってラッキーの後を追いかけたわけだが、ラッキーが途中でクルクルとその場を周りだし一同は困惑した。

 

ラッキー?「アワワワ、ドコニモモトノイチガナイ!ナゼダ、ナゼナインダ」

カンザシ「そろーりそろーり、よし捕まえた!」

 

 カンザシはラッキーを捕まえた!

 ラッキーはばたばたとお魚のように暴れ始める。

 

ラッキー?「ハ、ハナセ!モウランボウニサレタクナイ!ソレニ、モトノイチハドコニアルンダ」

カンザシ「モトノイチとはなんだ!」

ラッキー?「モトノイチハモトノイチダ!」

カンザシ「何いってんだオメェぶっ飛ばすぞ」

ラッキー?「アッ!ミツケタ、ニタヨウナモノヲミツケタ!」

 

 カンザシの手から離れて森の奥へと進んでいくのをまた追いかければそこには飛行船があったのです!

 PPPBEAT ほっかいちほーアウロラシアター…と何やら書いてある飛行船だった。

 

ともえ「ペパプ、ビート…」

カタカケ「乗り物だ…」

イエイヌ「あれが乗り物なんですか?」

シマウマ「初めてみた」

ツンドラ「私が知っているのと違って大きいな」

カモノ「乗り物のこと知ってたの?」

ツンドラ「本で見たことがあるんだ。でも、これはなかった」

シマウマ「ねぇ、入ってみようよ」

 

 飛行船の中に入ろうとしたがドアが開かない。

 ラッキーは普通に入っていったのに、自分達は入れない。

 

シマウマ「あれ?入れない」

ツンドラ「なんでだ?…もしかして、ともえ!ドアの前に立ってくれ」

ともえ「うん」

 

 ともえがドアの前に立つとドアが開いた。

 ツンドラと風鳥以外は驚いた顔をしている。

 

ツンドラ「やっぱりヒトならこのドアを開けれると思ったんだ。元々こういうのはヒトが乗る物だったから」

シマウマ「すごい…ヒトってすごいんだね!」

カモノ「すごいのかな?」

カンザシ「ここにいるのも何だし入ってみようぜ」

 

 カンザシは先に階段をあがって飛行船の中へと入っていった。

 ともえ達も階段を上がって中へと入ると、そこはPPP一色の船内だった。

 

シマウマ「これってPPPだよね。へーこういうのにヒトは乗ってたんだ…あっ、ここ柔らかい!」

 

 シマウマはポンポンと近くにあったソファを触る。

 

ともえ「ペパプって?」

カモノ「ジャパリパークの人気アイドルだったかな。最近また活動を始めたらしいよ」

ツンドラ「聞いたことあるな。なんか5人組なんだろ?」

カモノ「そうそう!確か初代で叶えられなかった夢の5人組…とか聞いたことあるよ」

 

 ラッキーそっちのけでPPPのことについて盛り上がる3人とイエイヌ、飛行船を探索するカンザシ、ラッキーを探しに向かったカタカケ。

 ともえはどこか記憶に違和感を感じていた。

 PPPをどこかで聞いたことがある。

 

イエイヌ「?――ともえさん、どうかしたんですか?」

ともえ「いや、別に」

イエイヌ「ならいいんですけど…」

 

――助かりましたっ!あなた達がいてくれなかったら一時はどうなることかと思いました!

――いいっていいって。フレンズは助け合いでしょ!ねっ!

 

 あたしではない誰かが前に思い出した言葉をかけてくれた人に助けられた所。

 その誰かの姿はペンギンのようだった。

 またひとつ何か大切なものの欠片を思い出したような気がするのと同時に頭痛がしてソファに座り込む。

 イエイヌはそれに気付いて心配してくれた。

 

ともえ「大丈夫。少し、思い出しただけだから」

イエイヌ「思い出したんですか!」

ともえ「うん、そのテーブルにあるペンギンと会ったことがある気がする」

 

 そう言ってともえはテーブルに置いてあるペンギンのアクリルフィギュアを指差した。

 

シマウマ「この子ってプリンセスだよね」

カモノ「ともえってアイドルに会ったことあるんだ、羨ましいなあ」

ともえ「羨ましいのかな?」

カモノ「そうだよ!羨ましいよ!PPPはらいぶつあーがない限りほっかいちほーでしか見れないんだから」

 

 カモノハシとシマウマに羨ましがられるともえだった。



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#02-16 こんにゃくを置くかひよこにするか

カンザシ「ここにいたのか」

カタカケ「さすがはジャパリパークと言った所ですね。操縦席だというのにからっぽなんて」

カンザシ「単に作者が飛行船の操縦席知らないだけなんじゃないのか?」

カタカケ「メタなことを。でも違いますよ。これは元々ヒトを乗せるために作ったものであってヒトに運転させるために作ったわけじゃない。ラッキービーストだけいれば事足りるようにシステムが組まれているんです」

カンザシ「そうかい。私はこういうのよくわからないし知りたくもないからどーでもいい。しっかりと動くか、私にとって便利なものであるかしか興味ないんだよ。それで、なんかわかったのか?」

 

 操縦席というのは機械だらけで素人は触っちゃいけないけど見てるとなんかワクワクするあの乗り物で大事なお部屋なのだが、この飛行船にはそんな機械はない。あるのは操舵輪とラッキーのリンク用台座。

 ぽんぽんとラッキーの頭を軽く叩きながらカタカケは口を開いた。

 

カタカケ「そうですね、わかったと言えばこのラッキーは普通のラッキーじゃないってことでしょうか」

カンザシ「普通のラッキービーストじゃない?確かに色は拾った時と違うようだが」

 

 拾ったときはもっと普通の色をしていたはずだ。

 だけどともえが直したことで発光してあんな風な色になった。

 

カタカケ「普通じゃないと言っても他のエリアにいるラッキーのような条件が揃えばアニマルガールと喋る個体とは違って多分無条件で喋ってくれる変異体だと思います」

カンザシ「へぇー変異体ねぇ…おいお前!本当に私と口聞くってのかよ」

ラッキー?「…」

カンザシ「だんまりってわけか」

ラッキー?「……」

 

 ラッキーは喋らない。

 カタカケは私に嘘をついたのか?いや、カタカケはそんな奴じゃないはずだ。

 なら、こいつは敢えて黙っている。

 それならばとカンザシはどこからか火かき棒を取り出した。

 

カンザシ「しゃべらないなら痛めつけるまでだ」

ラッキー?「マッ、マッテ!ワルカッタ!ボクガワルカッタ!ダカラタタカナイデ」

カンザシ「なんだ喋れるじゃないか」

カタカケ「そう言ったじゃありませんか」

 

 ようやく喋ってくれたので火かき棒をしまった。

 

カンザシ「んで、お前は普通のラッキービーストじゃないらしいが、そこら辺わかってんのかよ」

ラッキー?「ウーン、フツウカドウカハワカラナイケレド、コワサレルマエトクラベタラドコカヤリヅラクナッタキガスル」

カタカケ「システムへのリンクがですか?」

ラッキー?「ソウダネ。フレンズダッタモノニランボウサレタセイデウマクイカナイノカナトオモッテイタンダケレド、チガウミタイ」

 

 フレンズだった者。

 二人共その言葉が気になった。

 

カタカケ「フレンズだった者?」

ラッキー?「リセイヲウシナッタフレンズニオソワレルヨウメイレイヲウケテアンナコトニ、、、モウ、オモイダシタクナイ。ダカラキカナイデ」

カタカケ「…わかりました。聞かないでおきます。フレンズだった者…?まさか、ビースト?」

 

 無理やり言わせた所で何が起こるかわからない。だって普通のラッキービーストではないのだから。

 だからカタカケはラッキーから追求することをやめた。

 

カンザシ「ビーストってこの世界にはいないはずじゃ?」

カタカケ「どうでしょうね。今我々にできることは少しずつ変えていくことです。変え続けていけばきっと変わります。我々には導く力はなくても仕掛けることはできます」

カンザシ「だな。んじゃ、手始めにこいつに名前をつけてやろうか」

 

 そう言ってカンザシはラッキーを持ち上げた。

 ラッキーはバタバタと足をバタつかせるが、さっきと違って強く握っていることもあって手から逃れることが出来ない。

 

ラッキー?「ナ、ナマエ?ボクニハラッキービーストッテナマエガ」

カンザシ「なーにしぃんぱいご無用。シドみたいには扱わないさ。これから長い付き合いになるんだ。名前ぐらいつけて愛でてもバチは当たらんだろ」

 

 ラッキーに拒否権はなかった。

 喚きながらラッキーはともえの元へと連れて行かれるのだった。



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#02-17 名前をつけてあげて

ラッキー?「ハナセ!ボクニハヤルベキコトガアルンダ」ジタバタ。

カンザシ「あのクソ遅リンクだろ?ならちょっと休憩して私達に面を貸せ」

 

 ともえ達がいるラウンジにやってきたカンザシとカタカケ。

 ジタバタと暴れるラッキーの声に気付いた三人に物珍しいものを見たかのような目でラッキーを見つめる。

 

カンザシ「これから長い付き合いになるんだ。名前をつけてやりたいと思ってな」

カモノ「ボスとかじゃ駄目なの?」

ラッキー?「ソーダソーダ!ソッチノヨバレカタノホウガシックリクル!」

カンザシ「こいつは他のと違って特別なんだよ。さっきこいつが光ってから動き出したの見ただろ?それにこうしてお喋りになったんだ。こいつはもう、普通のラッキービーストじゃないんだ。だから特別な名前をつけてやりたくてな」

ラッキー?「トクベツナナマエ…」

カンザシ「そうさ、んでさっそく考えたんだけど『マングル』とかどうだ?」

ラッキー?「ハ?」

カタカケ「マングルって言い方はよろしくないのでは?」

ともえ「何が駄目なの?」

カタカケ「ずたずたとかバラバラとかそういう意味の言葉で名前としてつけるのはよろしくなくて…」

イエイヌ「駄目ですよそういう変な名前つけるのは」

カンザシ「じゃあ、『真紅』」

シマウマ「なんか違う気がする」

カンザシ「じゃあ何がしっくりくるんだよ」

 

 シマウマはしっくりくる名前を考える。

 しっくりこないと言っても中々自分にとってしっくりくるものをひねり出すのは難しい。

 それでも考えてシマウマは口に出してみた。

 

シマウマ「『キノメ』!」

ツンドラ「それお前が好きな食べものの名前じゃないか?」

シマウマ「だってそれしか思いつかなかったんだもん」

カモノ「キノメって名前悪くないんじゃないかな」

シマウマ「そう?」

 

 カモノに悪くないと言われて嬉しそうな声のシマウマ。

 

カンザシ「キノメって名前もいいだがなぁ…こいつって感じがしない」

カタカケ「いい加減諦めたらどうですか?ネーミングセンスがなさすぎるから却下されてるってことを自覚するべきだと思いますよ」

 

 すごく辛辣な言い方でカンザシに言った。

 その言い方に怒ったカンザシはカタカケにこう言った。

 

カンザシ「だったらお前のセンスはどうなんだよ!言ってみろ」

カタカケ「ともえさんはなにか思いつきました?」

 

 無視した。

 無視された事に腹が立つカンザシをまた無視してともえに聞く、ともえさんならどういう名前つけたいですか?と。

 ともえはラッキーを見て、考える。

 『マングル』みたいな蔑称になりかねない名前はダメ。『真紅』みたいになんかよくわからないものはダメ、な気がする。『キノメ』って名前も確かにいいんだけどカンザシちゃんの言う通りこの子って感じがしない。

 ピンク色で、ピンクの花。

 

ともえ「…さくら」

イエイヌ「さくら?」

ともえ「そう!さくらだよ!ねぇ、悪くないでしょ?」

カモノ「サクラ?」

ツンドラ「ピンク色の花だよ。春になると咲いてるだろ」

 

 カモノハシはツンドラの話を聞いて納得したようにポンッと自分の手を叩いた。

 

カモノ「あぁ、あれね、あれ!あれってさくらって言うんだ。いい名前だね」

ともえ「なんか、ピンク色になったさくらを見ているとさくらがいいなって思って」

カンザシ「さくらか、悪くないな」

さくら「サクラ…?ソレガアタラシイナマエ?」

ともえ「そうだよ。あたしが考えたの!」

さくら「…」

ともえ「あれ?聞こえなかったのかな?さくらって名前、あたしが考えたんだけど」

さくら「…」

 

 ラッキー、もといさくらは名前を考えてくれたともえに一言も返さなかった。

 嫌われているのかな?

 

カタカケ「…さくらって名前もらえて嬉しいですか?さくら」

さくら「カワイスギルナマエダトオモウ」

カンザシ「あぁかわいそうに。さくらに無視されるなんてさーともえ」

イエイヌ「大丈夫ですよ。きっといつかはともえさんに喋ってくれますよ」

 

 イエイヌの精一杯の励まし。

 ともえはその励ましがすごく嬉しかった。

 

シマウマ「ねぇ、ツンドラ。ボス――さくらってヒトにはお喋りしてくれるんでしょ?」

ツンドラ「そうなんだけど、なんかさくらは違うみたいだな」



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#02-18 あべこべの機械、あふれこで騙す

 イエイヌ達はさくらにともえにも喋ってもらおうとあれこれしているが上手くいっていないようだった。

 

カモノ「あっ、そうだ!あの箱に何か助けになる物があるかも!」

ツンドラ「そうか?遊び道具しか入ってないと思うがな」

カモノ「あるさきっと」

 

 希望を持ってカモノハシはガサゴソとおもちゃ箱をあさり始める。

 

カモノ「うーん、これでもない」ポイッ。

カモノ「違うなあ」ポイッ。

ツンドラ「おいこら散らかすな」

 

 床にはおもちゃ箱からカモノハシが出した物で散らばっている。

 

カモノ「あっ、これなら行けそう!」

シマウマ「何々~」

イエイヌ「これってワカイヤさんが面白がって一時期やってたボイスチェンジャーだ」

カモノ「これでさ、イエイヌの後ろにともえが隠れてさくらに喋りかければ返してくれるんじゃない?」

イエイヌ「そんなのでいけるんですかね?」

カモノ「まーまー、やってみないとわからないでしょ」

ともえ「一回だけやってみようよ」

 

 イエイヌをさくらの前に立たせる。

 そしてイエイヌの後ろに隠れるともえ。

 

ともえ<こんにちわ~>

さくら「コンニチワ」

ともえ<やった!あのね、あたし色々話したいことあるんだけど、良いかな?>

さくら「イイヨ」

ともえ<えっと、じゃあ…直してくれたヒトの事どう思ってる?>

さくら「ナニソレ。ワカラナイ」

ともえ<、、じゃあ、さくらってつけてくれたヒトについてどう思ってる?>

さくら「マエノナマエノホウガシックリクル。ダガ、イイナマエダトオモウ。サクラハキレイダカラネ」

ともえ<よし!えっと、これからもよろしくね>

さくら「ヨロシクネ、イエイヌ」

イエイヌ「喋ってくれましたね…」

シマウマ「ねえさくら、なんでともえには喋ってくれないの?」

さくら「トモエガダレナノカワカラナイ」

ともえ「あたしがともえだよ、さくら」

 

 ひょこっとイエイヌの後ろから出てきてさくらにボイチェンなしで話しかける。

 だけれど、さくらはともえの声には反応しない。

 何度も何度も聞いてもなぜそうなのかはさくらにはわからない。

 

さくら「ワカラナイモノハワカラナイ。ボクニハオマエタチシカミエナイ。トモエトイウヤツハミエナイ」

ともえ「見えない?」

 

 さくらはともえ以外の相手としか喋らなかった。

 それは決してさくらがともえを嫌っているということではなく、何か特別なものがあるんじゃないだろうかとカタカケは考えた。

 

カンザシ「何考えてんだよ。さくらのことか?」

カタカケ「そうですね、少し気になることがあって」

カンザシ「にしても、ヒトにガイドするメカがフレンズだけにしか喋らないなんてさ、まるであべこべになったみたいだな。そういえばドラえもんにそんなのあったよな。タケノコプター!とか言って土を掘り進んでいったりとか真面目なのび太とかさ」

カタカケ「あべこべ…この世界は、いやともえさんがあべこべな存在なのかもしれません」

カンザシ「どういうことだよ?」

カタカケ「まだわからないし、確信が持てないんです。だからもう少し考えます」

 

 現状のピースでは未だわからない。

 ともえの謎がわかればきっと、さくらが喋らなかった理由もわかる。

 そう信じてカタカケはこの問題に考え続けることを決めた。



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#02-19 もうすぐ夜が始まる

 忘れちゃいけないのは飛行船を見つけ出したのはともえの記憶を取り戻すために必要だったからだ。

 ともえの記憶のピースが一欠片でも取り戻せたのはあくまでも偶然の産物。

 一通りさくらで遊び尽くしたともえ達からさくらを引き剥がして操縦席でのお仕事をさせる。 

 

カタカケ「どうです?できそうですか?」

さくら「モチロン!サッキトクラベテイカラカマシニナッテキタ!アシタニハオワル」

カタカケ「明日出発ですね」

カンザシ「出発となるとイエイヌが悲しがるな。あいつ、ともえの事すっごい気になってたみたいだしさ」

カタカケ「そうですね。皆さん、二日間という短い期間だったとは言え仲良くしてくれましたからね」

カンザシ「でさ、イエイヌのことなんだけど…」

カタカケ「わかってます。連れていきたいんですね」

カンザシ「うん。連れて行ったらなんか面白いことになりそうだなって思ってさ。でも、お前のことだから『そんなもの、あの御方の願いには関係のないことです。諦めてください』とでも言われるのかと思ったんだけど、どうかな?」

カタカケ「私を何だと思ってるんですか」

カンザシ「血の通ってないやつ」

 

 カンザシの一言にキレそうになったがカタカケは堪えた。

 こいつはいつもこうなのだ。こんなのでキレていたらキリがない。

 

カタカケ「…。まあいいでしょう。イエイヌさんの件は別に構いません。あの御方は細かい事を言う人ではないですし」

カンザシ「んじゃ、決定だな」

 

 操縦室から見える夕日。

 それは眩しいほど橙に輝いている。

 

カンザシ「綺麗な夕日だ。カタカケ、ここはさくらに任せて帰るぞ。さくら、明日来るまで終わらせとけよ」

さくら「カンガエトイテヤルヨ」

 

 ラウンジで遊ぶともえ達に呼びかけてワカイヤの所に戻ることにした。

 

カンザシ「突然だけどさ、明日出発できそうなんだ。ともえ、別れは済ませておいてくれ」

カモノ「もう行っちゃうの?」

シマウマ「仲良くなったばかりなのに」

ツンドラ「仕方ないさ。記憶を取り戻すのが最優先なわけだし。私達と仲良くしてくれたのはたまたまだよ。本当ならすぐにでも出発したいはずなのに」

 

 イエイヌが悲しそうな顔をした。

 行かないで、もっと私と楽しい事をしましょうよだなんて言ってしまいそうだったが、ともえにはともえのするべきことがある。

 そのするべきことを自分の都合だけで止めてはいけない。

 だからイエイヌは言葉を殺した。

 

カンザシ「まあね。でなんだけどさ、このまま別れるってのもなんだし、ワカイヤの所でお別れ会でもしないか?」

カタカケ「お別れ会と言ってもワカイヤさんが協力してくれるかは…」

カンザシ「協力してくれるでしょ」

 

 やがて夜が始まる。

 この夜はともえにとって最後のこうざんエリアでの夜だった。



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#02-20 いろんなふれんず

カタカケ「ほんとすいません…」

ワカイヤ「いいのいいの。ともえちゃんが明日出発するかもしれないなら盛大にお別れ会開こう!」

 

 風鳥達がイエイヌと共に手伝いをするという条件でやることになった。

 

イエイヌ「すごい!料理作ったことがあるんですか?」

 

 料理できるフレンズなんてそんないないわけで、風鳥達が慣れた手付きで一品を作る姿にイエイヌは驚いた。

 

カタカケ「いや、そのこれは…体が覚えているというか…」

カンザシ「久しぶりで料理作れるか心配だったんだよな?」

カタカケ「そうです!その通りです」

 

 助かりました。

 

イエイヌ「私もなんだか、負けてられませんね!」

ワカイヤ「あんまり力入れてると失敗しちゃうよぉ」

 

 とは言ったものの、イエイヌは何を作ろうか迷っていた。

 フウチョウさん達はおかず作ってるみたいだし…私はデザートを作ろう!

 冷蔵庫から缶詰をいくつか取り出して作り始めた。

 お団子をフレンズたちの形に形作ってみる。

 団子を作っている間にどんどんとともえ達がいるテーブルへと運ばれてくる料理達。

 魚を使った料理からサラダ、肉料理!そしてイエイヌが作ったフルーツポンチ。

 美味しそうな匂いがカフェ内を包む。

 その匂いは外に漏れていたのか窓やドアを見れば沢山のフレンズ達が並べられた料理を見てよだれを垂らしている。

 

ワカイヤ「ねぇともえちゃん、外の子達もお別れ会に参加してもらってもいい?」

ともえ「いいですよ」

ワカイヤ「わかった。さあさあみんなー!入っておいで!皆で一緒に食べましょう!」

 

 こうざんエリア近辺に住むフレンズ達がカフェの中へと入ってくる。

 人数分の食器やフォーク・スプーンを配って仲良く食べ始める。

 

「こんなに美味いサラダ食べたの初めて!」

「この魚料理もいいぞ」

「おにくがやわらかい!」

イエイヌ「ともえさん!よかったら…」

 

 ともえのために作ったフルーツポンチは愛に満ちた甘いデザートだった。

 

ともえ「甘い!このお団子かわいいね。ほら、これってイエイヌちゃんでしょ?」

イエイヌ「そうです!よくわかりましたね!」

ともえ「これはカモノハシちゃんで、これはツンドラちゃん、これはシマウマちゃんでしょ?」

 

 団子を見つけては誰を元にしたのかともえは一つ一つ考えてると他のフレンズがフルーツポンチの存在に気付いてイエイヌに声をかけた。

 

「おいイエイヌ!私にもそれ食わせろよ」

イエイヌ「はいはーい!今分けますから~」

カンザシ「こっちにも頼む!」

カタカケ「食べ過ぎですよ」

カンザシ「うるせぇな。お前が食わない分を私が食べてるんだぞ。ほら、お前はもっと食え」

 

 カタカケのお皿にお肉が大量に盛られたのだった。



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#02-21『明日からの前途』

 賑やかになりすぎたお別れ会もお開きとなった。

 カモノハシ達は明日の見送りのためにもうおうちへと帰った。

 ワカイヤにもう帰ってもいいなんて言われてもイエイヌは皿洗いだけはしてから帰りたいと言って残った。

 風鳥達も昨日と同じくいなくなり、ともえはイエイヌが終わるのを待つことにした。

 カフェは後片付けの音しかしない。

 

ワカイヤ「カタカケちゃんの魚料理美味しかったねぇ!」

イエイヌ「骨も綺麗に抜かれて焼き具合もよくて、お魚にかかってたタレがよく合ってましたね!」

ワカイヤ「そうそう、あーカタカケちゃんからレシピ聞いておけばよかった」

 

 二人はずっと食べ物の話をしている。

 楽しそうな会話には入らずともえはさっきまで賑やかだったテーブル席を見ながらさっきのことを思い出す。 

 こんなに楽しい時間を経験したのはきっと初めてではなく、久しぶりだと心が告げている気がする。

 

 もっと遊びたい、もっと楽しみたい。

 欠けた心に湧いてくる欲望。

 

イエイヌ「ともえさん、お皿洗い終わったので帰りましょう!」

ともえ「うん!」

ワカイヤ「見送りには行くからねぇ~おやすみぃ~!」

 

 カフェの入り口から手を降ってくれているワカイヤがどんどん遠くなっていった。

 

イエイヌ「もう少しすると明日になってしまうんですね。そして明日になったら…」

ともえ「出発しちゃうね」

イエイヌ「ともえさんとはもうお別れなんですね」

ともえ「お別れじゃないよ。また会える、忘れない限りね」

イエイヌ「忘れない限り…」

ともえ「あたしが言うのもなんだと思うけどさ」

 

 アハハハハ。

 

ともえ「もう少しイエイヌちゃんと一緒にいたかったな。でも記憶を思い出したいし、一緒に来てくれればなあ」

イエイヌ「私も、そう思います!まだともえさんと一緒にいたいです。きっとヒトなら誰でもいいのかもしれませんけど、ともえさんはなんだか特別な人のように見えて…」

ともえ「特別…あたしはそんな特別じゃないのにな」

 

 少しだけ黙ってしまった。

 イエイヌはともえの事を特別だと言うが、ともえは自分を特別だとは思えなかった。

 それは心が否定的だったからだ。

 

ともえ「ねえ、もしイエイヌがよければ、一緒に行かない?大丈夫カンザシちゃんやカタカケちゃんはきっと歓迎してくれるよ」

イエイヌ「気持ちは嬉しいですけど、私には無理です…ともえさんとは行けない」

ともえ「そうなんだ…ごめんね誘ったりして」

イエイヌ「いいんです!ともえさんは優しいんですね。こんな私に嘘でも誘ってくれるなんて」

ともえ「嘘なんかじゃないよ!あたしが嘘を付くような人に見えるの?」

 

 赤い瞳が輝いた。

 

イエイヌ「ごめんなさい、疑って」

ともえ「大丈夫だよ。あたしは気にしてないから、ほんとだよ?」

 

 ニッコリとともえは笑った。



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#02-22 カンザシのアドリブな毎日編

カンザシ「寝れないんだろ?なら私がご本を読んでやろう」

 

 さっきまで居なかったのにいざ寝るとなると現れる謎バードことカンザシフウチョウ。

 カタカケはいないのかと聞いてみれば、

 

カンザシ「あいつはさっさと寝た。ほんとはあいつに今日も押し付けてやろうと思ったのに」

 

 ぷすーとむくれた顔で言った。

 目をつぶって耳だけを拝借。

 カンザシはどこからか取り出した黒くて分厚い百科事典のような本をパラパラとめくって読み始める。

 

 

 真空亜民話集、333ページ。

 異聞録9章・勝利の美酒

 作、マオエ・ノロー 朗読、カンザシフウチョウ。

 

 昔の話でございます。

 ある一人の男がいました。

 その男は名をルシファーと自称し人々を騙し、宝を奪う旅をしていたのでありました。

 そんなある日のことです。

 ルシファーは策にはまり、捕まってしまいました。

「僕をどこに連れて行く気だ!」

 檻の中で暴れるルシファー。

 それを鞭で黙らせる捕まえた者達。

「あの人のところにさ!」

「お前を連れてこいと言われたんだ。だからおとなしくしてろよ。あの人に死体を届けることになるんだからなあ!」

 連れてこられた場所は幸薄そうな少女が住むそこそこ大きなおうちでございました。

 ルシファーは思いました。

 この家には大きな宝が眠っているはずだ。

 思わずニヤリと微笑んでしまいました。

 そうと決まれば先程までの態度を変えて、挨拶をするのです。

「こんにちはお嬢さん。私はルシファーと言います」

「初めましてルシファーさん!わたしはトクルと言います!急に呼び出してしまって申し訳ありません。不愉快、でしたでしょう?」

「いえいえ不愉快と感じたことはありません。ですが、少々荒っぽかったですね」

「それは失礼いたしました」

 トクルは謝り、連れてきた者達を叱ろうとしましたが、

「あの人達を怒らないでやってください。私が変に暴れたのがいけないのです」

 良い人だとトクルは思いました。

 それからと言うものトクルはルシファーをもてなし、ルシファーはもてなされた分だけ嘘で喜ばせたのです。

「私が栽培した茶葉で作ったお茶でございます。ルシファー様のお口に合うといいのですが」

 トクルが一から作った紅茶。

 茶葉の作り方から紅茶の入れ方まですべての工程を色んな人から教えてもらい、それを自己流にアレンジして完成させた物である。

 誰に出しても恥ずかしくはない紅茶だと自負するほどにはトクルに自身はあった。

 しかし、ルシファーは口をつけなかった。

 無言の圧のようなものを押してもルシファーはびくともしない。

「どうしてですか!なぜ、わたしのお茶を飲んでくれないのですか」

 我慢できなくなってルシファーに理由を聞いた。

「僕はお茶が嫌いだ。ふん、そういうのもわからないで平気でお茶を出すとはな」

 素の性格が出るほどルシファーは紅茶が嫌いだった。

「ごめんなさい!本当に本当に…」

「すまないトクルよ。僕は嫌いな紅茶の前だと化け物のように豹変してしまうんだ。許しておくれ」

 まるで王子様のような顔でトクルに謝罪するルシファー。

 トクルは段々その顔に騙されていくのです。

  ☆

 月が経ち、トクルはルシファーを愛するようになりました。

 そしてトクルはある日の晩、ルシファーに告白をすることにしました。

 場所はトクルが大好きなベランダ。そこにルシファーを呼び出しました。

「ルシファーさん、あなたと暮らしてみてわたし、あなたのことが好きになってしまいました。もし、あなたでよければこのわたしと生涯を共に過ごしてくださいませんか?」

 トクルは人生で初めての愛の告白をルシファーに捧げたのです。

 あとはルシファーからの返答を待つだけでした。

「トクル、嬉しいよ。しかし、お前に興味なんて無い」

 そう言ってトクルを殴った。

「なん、で…」

「まだわからないのかよ。僕はね、愛より金がほしいんだよ。お前みたいなガキを愛して何の特がある?子宮におかえり、クソガキ。お前みたいなのはこの世にはいらないんだよ。アハハハ!おっ、どうしたんだい?その目をして、僕は悲しいなあ。トクルがそんな目をするだなんてさ」

「お前…わたしの心を裏切って…」

「裏切ったかどうかなんて主観の問題だろ?そんなの。僕はそうは思ってない。これが僕だ。ほら、いつものようにルシお兄様って呼んでくれよ。え?言ってない?あぁ、失敬失敬。それは前の奴のところだったな。あいつにも同じことしたけど、その時は滑稽だったなあwwwwwwwwww」

 素顔をさらけ出したルシファーはもう隠す必要がないからか今まで以上に饒舌にトクルに投げかける。

「お前みたいなの誰が愛するっていうんだ?僕様がこうでもしてやらないと愛なんて何一つ知らなかっただろう!お前に付き合ってるだけで3倍も疲れたわ!6倍にして返してやるからな」

 トクルは何度も何度も殴られ、蹴られる。

 このままわたしは死んでしまうんだろう。

 そう思った時だった。

「おや、これは…」

 ルシファーの動きが止まった。

 ルシファーはトクルを暴行することを辞めて、部屋にあった酒瓶に手を取った。

「勝利の美酒…?ふふふふ…僕に相応しい酒じゃないか。トクル、これが僕の大好きなお酒だ!酒を飲みながら女を犯し、泣かせるのが大好きなんだー!」

 ルシファーは酒をごくごくと一気飲みをした。

「はぁ…美味しい。なんだ、価値のある物を持っていたじゃないか――うっ」

 ルシファーは苦しみだした。

 トクルはなんとか体を起こしてルシファーの顔を見た時は、ルシファーの顔は死人のように真っ青だった。

――ウフフフ…ルシファー、よくぞ飲んでくれました。

 死神だ。

 死神がルシファーの前に現れた。

「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!僕はルシファー様だぞ!ルシファー様なんだぞ!」

――何がルシファー様だ。お前には沢山の人が泣かされてきたんだ。王様ごっこはもうおしまいなんだぞ!さあ、あの世へ帰るのだルシファー。貴様に恨みを持って死んでいった愉快な愉快な仲間達がお前が来るのを待っているぞ!

「や、やめろぉぉぉぉぉ―――」

――トクル。

 死神はトクルに呼びかける。

――君は運がよかった。良くなかったら今頃我々の仲間になっていたことだろう。そしてありがとう。君のおかげでこの世界に平和が訪れた。実はルシファーは堕天使が乗り移った奴だったんだ。君がああして留めていてくれたおかげで我々はルシファーの居所が掴めた。感謝する。

 死神はトクルに最大の感謝をして、

――いつか、君には幸せが訪れる。だから決して恐れないで。外に出ればきっと太陽が君を、トクルを照らしてくれる。君は我々が成し遂げられなかった明日を生きられる。今日までのことはすべて私達が運んでいく。ありがとう、トクルちゃん。

 と言い残して死神は沢山の蝶になって空へと飛んでいき、あの世へと帰っていった。

 ☆

 死神・堕天使と唐突で突然な非日常を体験したトクルは心機一転、外に出て散歩を始めた。

 あの悲しい出会いを忘れたいという想いもきっとあったのかもしれないけれど、きっとあの死神の言葉を信じたかったからなのかもしれない。

「あっ、これ、落としましたよ!」

 トクルは目の前で歩く人が何かを落としたことに気付いて届けようとする。

 歩く人はトクルの言葉を聞き立ち止まり、振り向いた。

 髪の短い女の子だった。

「拾っていただきありがとうございます。これ、すごく大切なものなんです」

 そう言って見せてもらったのは鍵だった。

「もし時間があるなら、お礼をさせてもらえませんか?すぐ近くの喫茶店、あそこの私のお兄ちゃんがやっているんです」

「ちょうど喉が乾いていたんです。よろこんで」

 トクルは明日を歩いていく。その先にある幸せを掴むために。

 おしまい。

 

カンザシ「よし、寝たな」

カタカケ「読み始めた所から聞いてたんですけど」

カンザシ「どうだ、面白かっただろ?」

カタカケ「雑すぎ。そもそも真空亜民話集ってなんですか?聞いたことありませんよ」

カンザシ「当たり前だろ、全部アドリブだ」



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#02-23 ネバークロス・フレンズ2017

 今日の夢は変な夢だった。

 あの朗読を聞いたせいなのだろうか。

 森の中にいた。

 昨日みたいに恐ろしい夢ではありませんようにと願いつつあたしは前へと歩き始める。

 

(ここはどこなんだろう?)

「ここはけものフレンズ2の世界だ」

 

 カチャ!カチカチ。

 マゼンタのシャツがよく目立つパークガイド姿の男は古めかしいカメラで私を撮った。

 

「どうやってここに来たのかは知らない。だが、意味はあるかもしれない」

(意味?)

「ついてこい」

 

 男に付いていくと目の前には大きな建物があった。

 建物の前には変な服を着た男達がフレンズ達と何やら会話をしている。

 

「きっと、これをあなた達に渡すために拾ったんだと思います」

「駄目だよかばんちゃん!せっかく、せっかく私思い出したのに!そんな…」

「大丈夫だよ、サーバルちゃん。あのヒトも言っていたでしょ、『強い想いがあればきっと忘れない』って。だから忘れないで。僕がここにいたことを、サーバルちゃんやラッキーさん、アライさんやフェネックさんと旅した事を」

「かばんちゃん…」

「使ってください。そうしないとあの子を助けられないんですよね?救ったらサーバルちゃんと居させてあげてください。サーバルちゃんならあの子を笑顔にできると思うんです」

「絶対に助けてみせる。それが俺の覇道だ!いくよ――!」

「ああ!」

「あの子をよろしくお願いします!」

 

 男達は見たことのない鎧を一瞬で纏ってバイクに乗って走り出した。

 

「じゃあね、サーバルちゃん…あの子をよろしくね…」

 

 かばんと呼ばれた子は初めから存在していなかったかのように消えてしまった。

 

「…?あれ、なんでこんなところにいるんだろ、、、それに…どうして涙が出ちゃうのかな」

 

 サーバルというフレンズは消えてしまったかばんのことを忘れたかのような素振りをしていたがその瞳には涙が溢れていた。

 場面が突然変わり、森の中へ。

 そこでは鎧を着た男達は異形の怪物と攻防を繰り広げている。

 

「あいつらが戦っている怪物、お前と似ているな」

 

 確かによく見てみれば歪んだり尖っていたりするがどこか自分と雰囲気も何もかも似ている。

 男達は玩具みたいな色をした機械を使って姿を変えて怪物に攻撃をする。

 

「はぁー…たぁっ!」

 

 バチのような武器で怪物は叩かれて膝をつく。

 そこにもうひとりの男がヒット!と共に殴って上空へと飛ばし、怪物の逃げ場をなくす。

 

「トドメだ」

<サーバル!><かばん!>

 

 ガイダンス音が響いて先程のように姿を変える。

 男達はそれぞれサーバルをイメージしたオレンジ色の鎧とかばんをイメージした学者のようなローブと鎧を身に纏った。

 オレンジ色の鎧を身に纏う男は腕から爪を出して空高く飛び、怪物を切り裂いた!

 切り裂いた怪物の落下地点にもうひとりの男が模様を映し、模様からラッキービーストが出てきて、怪物を飲み込んだ。

 ぱっかーん!!!

 ラッキーが消えたと同時に怪物は消え、怪物だった少年がゆっくりと落下してくる。

 学者ローブ男がそれをキャッチしてこの戦いは終わった。

 

 

 ☆

 

 

「サーバル」

「え?あなた、誰?」

「…サーバルを大切に思っている子からこれを預かったんだ」

 

 さきほどかばんから受け取ったあのウォッチと、怪物になってしまっていた少年をサーバルに渡す。

 

「忘れないで、強い想いがあればきっと思い出せるはずだ」

 

 かばんとの約束を果たした男達はサーバルと別れて森の中を歩き出した。

 

「おい、いいのか渡して」

「いいんだ。あれを受け継ぐ資格があるのは俺達じゃない、かばん自身だ。俺は決めたんだ最高最善の王になると。民には悲しい想いをしてほしくないんだよ俺は」

「…そうか。あいつを倒したことで元の世界に帰れるようになったはずだ。帰るぞ」

「そうだね、早く帰らないと――や――が悲しんじゃうもんね!」

 

 男達は元の世界に帰っていった。

 

「お前はあいつと同じだ。一歩間違えればあいつと同じように怪物になる。肝に銘じておけ」

 

 マゼンタの男は灰色のオーロラに消えていった。

 あたしがあの子と同じ。

 一歩間違えれば怪物になる。

 最後にあの男が言った言葉が妙に心に刺さった。



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#02-END『空へ…』

 あの変な夢はあのままともえを朝まで連れて行った。

 起きた時にその事を説明すると、

 

カンザシ「よかったじゃねーか。出発する時に悪夢なんか見られて暗い顔してたらどうしようとか思ってたくらいだ」

カタカケ「思ってないくせに」

カンザシ「うるせー」

カタカケ「それにしても興味深い内容の夢ですね。変な服を着た男達がかばんとやり取りをして、化け物と戦う。それにピンク色の服が目立つ男の人が忠告したんですよね『一歩間違えればあいつと同じように怪物になる』と」

ともえ「うん。なんだかその言葉がすごく刺さったんだ」

カンザシ「ま、大丈夫だろ。私らがいるんだ。お前が化け物になる未来はないはずだ」

カタカケ「随分と自信があるんですね」

カンザシ「まぁな!なぜなら私はあくまで風鳥だからだ!ヴェハハ」

 

 沈黙が起こった。

 

イエイヌ「はぁい朝ごはんできましたよー」

カンザシ「美味そうだな」

 

 絵に描いたような和食。暖かい味噌汁や卵焼きと焼鮭。

 旅立つ日でも普通さを忘れさせない、そんな朝食だった。

 朝食を食べ終われば、後は出発のための確認のために飛行船に行くだけだった。

 ともえはイエイヌに昨日の答えを知りたかったけれど、自分からはすぐには言えなかった。

 せっかちな人に見えてしまうからというのもあるだろうが一番はイエイヌはまだ考えているように見えたから。

 ともえでもイエイヌが悩み続けているのは見てわかったし、そんな状態のイエイヌに返答を聞くのは駄目な気がして。

 ともえはイエイヌ達と一緒にカフェで待つことにした。

 出発できなければ遊びに行って時間を潰せばいいし、出発できれば見送ってもらえばいいという軽い気持ちの待ちになる。

 カタカケとカンザシがやってきた。

 

カタカケ「ともえさん、出発できます」

カンザシ「行こうかともえ」

ともえ「…うん」

 

 ともえはイエイヌを見た。

 辛そうな、悲しそうなそういう風に見える顔をしていた。

 

ワカイヤ「へぇ~これがその乗り物なんだぁ~!おっきいねぇ」

シマウマ「でしょでしょ!」

ツンドラ「とうとうこれが動くんだな」

カモノ「動く姿が楽しみではあるけど、動いたらともえとはお別れなんだな」

ともえ「お別れじゃないよ。また会えるさ」

 

 乗り込む風鳥達。

 ともえは飛行船に乗る前に勇気を出してイエイヌに返答を聞いた。

 

ともえ「ねぇ、イエイヌ。そろそろ聞かせてほしいな」

イエイヌ「…私には、ともえさんと一緒になんていけません…だから、私、代わりにこれ作ったんです。お腹が空いたら食べてください…」

ともえ「そう。ごめんね、色々と辛い思いをさせちゃって」

イエイヌ「いいんです!私が悪いだけですから…」

ワカイヤ「いいの?イエイヌちゃん?本当は行きたいんでしょ」

イエイヌ「でも…」

ワカイヤ「でもじゃない!イエイヌちゃん、あなたはヒトに会いたかったんでしょ?かばんちゃんやサーバルのあのお話に憧れていたんでしょ!」

イエイヌ「…」

ワカイヤ「それなら行かなきゃ駄目じゃない!ここで諦めたらきっと後悔する。あなたには後悔してほしくない」

シマウマ「そうだよ。本当はともえと行きたいんでしょ」

ツンドラ「カフェなら任せろ。私達がワカイヤの手伝いをするさ」

カモノ「えっ、私も?が、頑張るよ!う、うん!」

イエイヌ「皆さん…私、行きます!ともえさんやフウチョウさん達と一緒に!」

 

 気持ちがスッキリしたようなそんな顔で飛行船に乗り込んでともえにこう言った。

 

イエイヌ「ともえさん、行きましょう!」

ともえ「うん!」

 

 ともえも飛行船に乗り込んだ。

 

さくら「シュッパツー!」

 

 飛行船がゆっくりと浮上していく。

 ラウンジの窓から外を見れば、ワカイヤ達が手を降ってくれている。

 ともえとイエイヌはワカイヤ達が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

イエイヌ「このお弁当、一緒に食べることになっちゃいましたね」

ともえ「うん!皆で食べよう!」

 

 記憶を取り戻す旅はこうして始まった。

 一歩間違えないためにも、強く取り戻したいと思いながらイエイヌ達と共に前に進もうとそう決意したともえだった。




おいなりよこく~♪

カラカル「次回は公園で遊んじゃうぞ☆」
マナヅル「そういえば森林エリアの公園ってセルリアンではない何者かの手によって破壊されたと聞いたのですが」
カラカル「えっ!?あの公園破壊されたの!??嘘でしょよく行ってたのに…」
マナヅル「行ってたといっても数年も前の話でしょう。時間の流れというのは残酷なんですよ。次回、『すやすやとぶらんこ』。お楽しみに」
カラカル「もうこうなったら公園を私の手で」
マナヅル「あっ、こら!まだ病み上がりでそんなことできる体では――」


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3ページ すやすやとぶらんこ #03-1『あなたが選んだこの時を』

 飛行船の窓から見えるジャパリパークは新しい世界を見ているような気持ちにさせられる。

 目を凝らしてみてみればもしかしたらトリのフレンズが飛んでいるかもしれない。

 最初の目的地は森林エリア。

 段々窓から見える景色が緑一色へとなっていく。

 呑気に窓を見ながらお弁当を食べれば、もう森林エリア。

 降り立った場所はやはり森の中である。

 

カンザシ「森、森、森ばっか!蚊にでも刺されるんじゃないかってくらい森じゃないか!」

カタカケ「文句を言わないでください。この先に公園があるらしいんですから」

イエイヌ「あの看板の通りならそうなりますよね」

ともえ「うーん…」

イエイヌ「ともえさん、どうかしたんですか?」

ともえ「いや、こういう場所ならそういうフレンズがいるんじゃないかなーって思って」

カタカケ「そういえばここに来てから全然フレンズに会いませんね」

カンザシ「昼寝でもしてんじゃねーのか?」

カタカケ「さすがに全員がそうというわけではないでしょ」

 

『公園はあっち』

 

カンザシ「あっちか」

 

 全然フレンズに会えない。

 鉱山エリアはあんなにいたのに。

 

ともえ「ここが公園?なんだか、壊れてるみたいだね」

 

 公園らしき場所に辿り着いてみれば壊れた遊具だらけで公園らしさというものが何一つなく、ゴミ捨て場のように見えてしまってもおかしくはなかった。

 しかし、ベンチがそれなりに原型を保っているので公園と言い張れるかもしれない。

 壊れた遊具さえなければ危険を考慮して撤去されてただの広場と化した読者達が知るような公園そのもの。

 そんな広場な公園のベンチですやすやと眠るフレンズが一人。

 

カンザシ「よくもまあこんなところで寝れるな」

カタカケ「ジャイアントパンダですね。起こして色々と聞きたいところですが、寝ている人を起こすのはよくないので、先にこの場所で間違ってないかスケブを見てみましょう」

 

 ともえはバッグからスケッチブックを取り出して公園の絵を開いた。

 ともえ達はそのページの絵を見ながらどの位置で描かれたものなのか公園内を歩きながら確認してみる。

 

カタカケ「多分、ここから描かれた絵なんじゃないかと」

イエイヌ「なんでわかるんですか?」

カンザシ「見りゃあわかるだろ。いいか、この絵には『滑り台』と『ぶらんこ』の絵が描かれている」

イエイヌ「そうですね」

カンザシ「それで、この滑り台のここ、この色をよく覚えておいてくれ。んで、あの残骸を見てご覧よ。この絵の滑り台のこの色と、あの残骸の色はよく似ていないか?」

イエイヌ「あぁ!本当だ!」

ともえ「すごいよ!カンザシちゃん!」

カンザシ「やめろ、私はなろう主人公じゃない」

ともえ「なろう?」

カンザシ「あぁ…今のは聞かなかったことにしてくれ。とにかく、あの残骸の先にあるバラバラになっているぶらんこっぽい物がここから見えるってことはここから描かれたってことだろうよ」

ともえ「それで、あたしはどうすればいいのかな?ここからそれを見たって何も、思い出せないんだけど」

カンザシ「決まってるだろ、直すのさ。この遊具を。直せば記憶も一部治るはずだ!なんてな。ま、直さないと多分始まらないぞこれは」

イエイヌ「直すと言っても誰が直すんですか?私、できませんよ?」

カンザシ「ああ大丈夫だ。私達が直す。このカンザシお姉ちゃんにまっかせなさーい!」

 

 自信満々にポーズを決めるカンザシだった。



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#03-2『かくざいもくざいギャラクシー』

黒い手帳に黒いペンで描かれた少しだけ禍々しいサイン。
何も知らない人からしてみればこれは中二病の単なる落書きだが分かる人からしたら
このサインは独特な美学を持つ愉快犯の残り香に見えるのではないだろうか。

アーカイブNo.97「少し禍々しいサイン」


カタカケ「よくもまあ、私達がやると言ってくれましたね」

カンザシ「いいだろ別によ。ラッキーに修理頼むって言うのか?」

カタカケ「それは…」

カンザシ「な?んじゃ始めようぜ。まずはどの部品がまだ使えるかだ」

 

 ともえとイエイヌには少し休んでもらって、風鳥達は残骸を漁っては使えるか使えないか仕分けていく作業を始めていく。

 

カンザシ「テッテレー!スーパー手袋ー!」

 

 スーパー手袋、と言ったものの21世紀の未来デパートに売られてるアレではない。

 普通の手袋にちょいとファンタジーなものを突うずるっ込んだやつ。

 普通の人間なら機械を用いたり複数人で持ち上げられるような物を軽々と持ち上げてはカタカケに見せて使えるか使えないかを診てもらう。

 

「これは駄目」

「これは大丈夫」

「これは折れてる」

「これは危険」

 

 診てもらった結果、残ったものは数えるほどしかない。

 

カンザシ「なあ、この滑車は?」

カタカケ「ターザンロープのでしょうが、それらしき部品は見当たらないので必要ないと思います」

カンザシ「そっか」ポイッ

カタカケ「ちょっと投げないでくださいよ。誰かに当たっても知りませんからね」

カンザシ「へいへい。で、明らかに素材足りないってやつだけど、集めるしかないよな」

カタカケ「ええ、だから集めようと思います。前回はあなたが担当してましたし、今回は私がともえさんとイエイヌさんを連れていきます」

カンザシ「んじゃ、私は休んでるよ。どうせ直すのは私が全部やるんだろうし」

カタカケ「そうですね。その時までゆっくりと休んでください。多分1時間以上はかかるでしょうし」

カンザシ「スーパー手袋貸してやるよ」

カタカケ「それはどうも」

 

 手渡された手袋をしっかりとつけたカタカケはともえ達のところへ向かった。

 飲みますか?と手渡された紅茶を飲みつつ、

 

カタカケ「今回は私があなた達と共に材料を集めることになりました。なので頑張ってさがしましょう」

イエイヌ「そうですね、頑張りましょう!」

ともえ「何を集めればいいの?」

カタカケ「絵を再現するためには『ぶらんこ』と『滑り台』が必要です。なのであそこの使える素材から考えると木材とぶらんこの椅子を用意するために、そうですね、タイヤなんてどうでしょう。タイヤが一個あればいいです。椅子は一つだけ無事なのがありましたから」

イエイヌ「えっと、木材とタイヤですか?」

カタカケ「それだけだとすぐに崩れてしまうので固定させるのに必要な道具類ですね。多分この近辺に倉庫があるはずなので揃えられると思うんですが…」

 

 ないなら形だけでも作るしかない。

 そんなことだけして記憶が戻るとは思えない。

 きっとしっかりとしたものを作って遊べるようにしなくちゃいけない。

 

カタカケ「とりあえず、倉庫を見つけましょう。この近辺にいるフレンズなら何か知っているはずです」

 

 いるかすら怪しいフレンズを探すためにカタカケ達は森の中へと入っていった。

 公園に来るまでの道と変わらない風景で飽きるという一言が飛んできそうなくらい退屈な一本道である。

 一応道が整備されていて歩きやすいのが救いか。

 

?「ん?珍しい。こんなところに来てくれるお客さんなんて」

カタカケ「どうも初めまして。カタカケフウチョウと申します。こっちがイエイヌでこっちがともえ、ヒトの子です」

レッサー「ヒトの子?ヒトってまだいたんだ!懐かしいなー!やあやあはじめまして!私はレッサーパンダっていうの!」

 

 レッサーパンダはともえがヒトの子と知るなり、ともえと強引に握手を交わした。

 ヒトに会えた事が嬉しいようだ。

 

イエイヌ「懐かしいってヒトに会ったことがあるんですか?」

レッサー「うん、生まれてちょっと経ったくらいかな?ヒトに、パークガイドに会ったことがあるよ。私のことすごいかわいがってくれたんだ!」

イエイヌ「そうなんですか。パークガイドさんかー、会ったこと無いんですけど聞いたことあります。ジャパリパークの管理をしていたヒトですよね」

レッサー「そうそう。パークで困ったことあったら私に言ってくださいね!なんて言ってて良いヒトだったなー」

カタカケ「あの、私達あっちにある公園の遊具を直そうとしているんですけど、ここら辺に倉庫とか木材が大量に置かれてある所ってありますか?」

レッサー「遊具?ああ…あの壊れたやつね。倉庫は知らないけど木材があるところなら知ってるよ。付いておいで」

 

 

レッサー「これで合ってる?」

 

 レッサーにつれてこられた場所は木材が大量に放置されていた。

 これくらいあれば十分足りるだろう。

 

カタカケ「ありがとうございます!これなら十分に足りると思います」

レッサー「後は倉庫だけだよね。私は倉庫の場所わからないけど、クジャクならなんか知ってるかも?」

ともえ「クジャク?」

レッサー「背中に綺麗な羽を持った高飛車な子なんだよ。決して悪い子じゃないんだけどね」

ともえ「へー」

レッサー「ところでこの木材、どうやって持っていくの?」

カタカケ「こうやって持っていくんです」

 

 木材をカタカケは掴んで軽々と持ち上げた。

 

レッサー「すごい、鳥のフレンズってこんなに力持ちだっけ」

カタカケ「まほう、ですかね」

レッサー「まほう!」

ともえ「カンザシちゃんもあの手袋使ってたけどすごいんだね、その手袋」

カタカケ「確かにすごいものかもしれません。私からしたらそういうありがたみっていうものはないんですけどね」

 

 カタカケはまほう!のような手袋を使って木材すべてを持ち上げて一先ずカンザシの所へと帰ることにした。

 

カタカケ「さて、一度帰りましょう。これを持ったままクジャクの所には行けないでしょうし」

イエイヌ「そうですね。一度戻ったほうが良いと思います」

レッサー「私もついていっていい?クジャクの所まで案内するからさ」

カタカケ「すごく助かります」

レッサー「ねえ、そんなに持ち上げてて落とさないの?」

カタカケ「大丈夫ですよ――おっっと」

 

 カタカケは木材を落とすフリをしてみる。

 ともえは自分の所に木材が落ちてくるんじゃないかと焦った。

 

ともえ「ちょっと!落とさないで!」



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#03-3 森林のオウジョサマ

名声のためにどれだけ私の手を、足を、口を汚してきたか。
その結果で得てきたものはなんだったのか。私にはわからない。
どうしてあんなもののために私は自分を汚したの?
大量のコインと私の存在と同じように汚れた月。
それが私への報酬だった。 


 一度カンザシがいる公園に戻り、カタカケは大量の木材をジェンガみたいに並べて置いた。

 こんなに木材が置かれればもはやアートのような感じがする。

 

カンザシ「ちょっと汚れてる所もあるが、これだけあれば遊具作り放題だな。せっかくだし、シーソーとか作ってみるか?」

イエイヌ「シーソー!いいですね!」

カンザシ「だろ?んじゃ、留め具とかそういった道具を見つけてきてくれ。すぐに組み立てられるように準備しておくから」

イエイヌ「はい!行きましょうレッサーパンダさん!お願いします!」

レッサー「うん、わかった」

カンザシ「さてとやりますか」

 

 レッサーの案内でクジャクの所に向かうイエイヌ達。

 

ともえ「ねぇ、レッサーパンダちゃん」

レッサー「なぁに?」

ともえ「ここって他のフレンズっていないの?」

レッサー「いるよ?でも、ここら辺にはあまり近寄る子はいないね。なにせここは危ないところだから」

ともえ「危ないところ?」

レッサー「前にね、遊具やここら辺一帯が誰かに破壊されちゃってね。おうちが壊されたり、大切にしていたものがどこかに飛んでいったり、お気に入りの遊具を壊されたことにキレて最終的にここら辺に住んでた子達みーんな引っ越しちゃった」

ともえ「ひどいことをする人もいるんだね」

カタカケ「…」

イエイヌ「カタカケさん、どうかしたんですか?」

カタカケ「いえ、別に。何もありません」

レッサー「ほら、あそこがクジャクのおうちだよ」

 

 クジャクのおうちは森の奥にある隠れた秘密基地のようなツリーハウス。

 木の幹が扉になっていて、ここから入って家に入るようだ。

 来客が来たことがわかったのかひょこっと家の窓からクジャクは顔を出した。

 

クジャク「なんだ、レッサーパンダ。この私に何のようだ」

レッサー「公園を直したいって子が来ててね、直すための道具とかが入った倉庫を探しているんだって」

クジャク「倉庫か…知っているぞ」

イエイヌ「本当ですか!?」

クジャク「だが、ただでは教えん。教えたらつまらないからな」

カタカケ「何をすれば良いんですか?」

クジャク「公園に私の像を建てよ。それを約束してくれるのならば倉庫の場所を教えてやろう」

カタカケ「もし、約束を破ったら?」

クジャク「その時は暴れてやるぞ」

クジャク「めちゃくちゃ暴れてやるからな。覚悟しておくんだぞ」

ともえ「ひえー…」

カタカケ「暴れたらあなたの羽が汚れたり傷ついたりするのでは?」

クジャク「大丈夫だ。で、約束してくれるか?」

カタカケ「ええ、もちろん。私が作るわけではありませんが、カンザシさんならぶつくさ言いながらでも作ってくれるでしょう」

クジャク「そうか。ではそちらに行こう」

 

 そう言ってクジャクは中に引っ込んで木のドアから出てきた。

 

ともえ「飛んで出てくると思ってた」

クジャク「あの窓から出ようとするとどっかしらに引っかかるのでな…」

イエイヌ「その羽根、すごい綺麗ですね」

クジャク「そうだろう、そうだろう。私の羽根は自慢の羽根だ。ではこの羽根を見せつけながら倉庫に案内するとしよう。ついてこい。あっ、お前ら私の羽根に見惚れすぎて転んだりするなよ。転ぶ姿は見ていて不快だ」

 

 倉庫はここからそう遠くはなかったがちゃんとした道に出るまでは木の枝なんかが邪魔で邪魔で。

 ちゃんとした道は普段からラッキービーストに整備されているのか綺麗で歩きやすい。

 

クジャク「ここが倉庫だ」

 

 倉庫の扉が見事に壊されているが一同は特に気にしない。

 フレンズの誰かしらがここに用があったのか壊したんだろう。

 中に入ってみると自動的に明かりが付く。

 ともえやイエイヌ、レッサーには調べてもよくわからないものばかりなので適当に倉庫内を周って何があるのかを見ていた。

 

クジャク「公園を直せるだけの道具類は見つかったか?」

カタカケ「ええ、すぐにわかりました。やっぱり倉庫に修理道具や材料がありました」

 

 カタカケは必要な物を自身の羽根の中へと閉まっていく。

 

クジャク「ほう、羽根の中にしまえるとは。その力どこで手に入れた?それはアニマルガールの力ではないだろう」

カタカケ「遠い世界ですかね」

クジャク「そうか、遠い世界か…ふうん。まあいいか。ほら、そこに取扱説明書が入った箱があるぞ。持っていったらどうだ?」

カタカケ「ほう、取説ですか」

 

 取扱説明書の箱は遊具に関する説明書が多かった。

 きっと何か不測の事態のためにこうして箱に入れておいたのか。処分することが禁止されていたかしてこうして保管せざるを得なかったかのどちらかだろう。

 カタカケはこれも羽根の中へとしまって倉庫を出た。

 

ともえ「カタカケちゃん、何も持ってないけど何もなかったの?」

カタカケ「いえいえ、ちゃんと持ってますよ。この羽根の中に」

レッサー「羽根の中に!?」

イエイヌ「すごい…トリのフレンズって皆こうなんですか?」

クジャク「いや」 カタカケ「そんなはずないじゃないですか」 



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#03-4 第3の断片

あいつらは私達が律儀に自分らの願いを叶えてくれるとばかり思っていたようだが、
もうこの世界は手遅れだ。私達の力では解決できないほど黒く染まっている。
しかし、世界を壊すことぐらい私達にだってできる。そう、乗っ取ることだ。
乗っ取ってしまえばそいつにとって世界を壊したことと同義!
というわけでさっそくあいつの手持ちにあった手帳に記念のサインを書き記そう。
完璧だ!


 バサバサと黒い羽根を揺らせば出てくる倉庫で集めた道具や材料達。

 それらを持ってカンザシが遊具を作る。

 

クジャク「わかってるだろうが」

カタカケ「ええ、もちろん」

カンザシ「な、なんだよ。私に何をさせるつもりだ」

クジャク「私の像を建てよ、そこのフウチョウ」

カンザシ「像!?…んまあ、それくらい作れそうではあるが」

 

 カンザシはあのジェンガのように積まれた木材を見てから言った。

 

クジャク「よろしい。ならばさっそく作ってもらうか。そうだな、あそこに作れ」

カンザシ「へいへい、カタカケ、返してもらうぞ」

 

 カタカケから手袋を返してもらい作業へと入った。

 クジャクからの細かい注文を受けながら物の見事にクジャクの像を作ってみせた。

 

カンザシ「お気に召してくれると嬉しいんだが」

クジャク「最高だ。私の専属芸術家にしてやりたいところだ」

カンザシ「それはどうも。後は色塗るだけなんで楽にしてくれ」

クジャク「そうか」

 

 彩りをつけて、本当の意味での完成である。

 クジャクは完成した自分の像をニヤニヤとしながら自惚れているのを横目にカンザシは本来の目的をやっとこさ始める。

 と言っても、すぐに組み立てられるようにしてはいたので留め具で固定をしながら組み立てるだけの簡単な作業だった。

 

ともえ「ねえ、カンザシちゃん。何か手伝えることある?」

カンザシ「んじゃ、完成した遊具に色を付けてやってくれ」

 

 ペンキ類をともえに押し付ける。

 

ともえ「うんわかったよ。イエイヌちゃん!レッサーパンダちゃん!一緒にやろう!」

イエイヌ「やります!」 レッサー「やるやる!」

 

 好きな色で彩っていく。

 赤、黄、青、緑…。

 お互いの気持ちを考えつつ、塗っていった。

 

ともえ「よしできた!」

イエイヌ「すごいよく塗れてますね!この色、混ぜたんですか?」

ともえ「うん、少しだけ余った木の板を使って混ぜてみたんだ」

レッサー「いいなー、私もやってみよ。ねえ、どうすればいいか教えてよ」

ともえ「この色とこの色を合わせて…」

レッサー「おお!こんな風になるのか!色んな色で試してみよ」

 

 ともえ達は乾かしも含めて2時間位ですべて塗り終えた。

 乾かすのにかなり時間がかかるのかと考えていたレッサーやクジャクを驚かせるほどのやり方で乾かしてしまった。

 カンザシとカタカケは色が塗られた木材達の上空に飛んでから、クルクルと回りだしたかと思えば加速し小さな嵐を起こす。

 構えてないと飛ばされるかもしれないというような威力だ。

 

パンダ「うわぁ!?!?」

 

 寝ていたパンダは嵐で飛ばされかけた。

 嵐が辞めば見えてくるのは乾いた木材達とベンチから転げ落ちて木に頭を打ったパンダだった。

 すりすりと風鳥達が塗られた木材を触って乾いている事を確認すると、あっという間に組み立ててしまった。

 

カンザシ「はい、できました」

カタカケ「意外と難しくありませんでした。カンザシさんのおかげです」

カンザシ「それほどでもないな」

ともえ「あっ…あ…」

 

 言葉も出ない。いきなりのとんでも現象に追いつかない。

 そんな状況をぶっ壊したのはパンダだった。

 ゆらゆらとゾンビのような動きでこちらに来たと思えば、カンザシに襲いかかってきた。

 

パンダ「ウワアアアア!」

カンザシ「うおっ!」

 

 カンザシは華麗にクルクルと避けてパンダを躱すが、パンダはすごい速さで方向転換しカンザシを捕まえた。

 油断していた。

 

パンダ「よくも、よくも寝ている所を邪魔してくれたな!許さん、許さんぞキサマアアア!」

カンザシ「そうカリカリすんなよ、ポテトか?」

パンダ「覚悟しろ貴様、お前を葬って――」

レッサー「待って!パンダちゃん!」

パンダ「えっ?レッサーパンダ?」

レッサー「確かに寝ている所を起こしちゃった事は悪いけど、あんなに暴れることはないでしょ?」

パンダ「でも…」

レッサー「でもじゃない」

パンダ「うーん…あの、ごめんなさい」

カンザシ「こっちこそ悪かったな。起こして」

パンダ「いいの。あれ?ここってこんなだったっけ?」

カタカケ「私達で直したんです。ともえさんの記憶を取り戻すために」

レッサー「記憶が無いんだ」

ともえ「うん。それを思い出すためにあたし、ここまで来たんだ」

レッサー「思い出すといいね」

ともえ「うん」

カンザシ「さあさあ、記憶を思い出すためにも遊びの時間だ」

クジャク「確かに記憶を思い出すには刺激を与えないといけないな」

 

 まずは滑り台から遊んでみることにした。

 赤色の階段を登って滑る。

 崩れて倒れてしまうんじゃないかという不安がなかったなんて嘘になる。

 でもそんな不安は滑ったらもうなくなっていた。

 

イエイヌ「どう?思い出しました?」

ともえ「うーん、特には」

レッサー「じゃあ次はブランコを…あっ」

カタカケ「そういえばタイヤを持ってくるのを忘れてました」

カンザシ「気付かなかったこっちも悪いが、忘れんなよ…」

パンダ「タイヤなら持ってるから使ってよ」

カタカケ「本当ですか!?ありがとうございます」

 

 パンダはそう言ってタイヤを持ってきてくれたのでカンザシはカタカケと一緒にタイヤをブランコの椅子にした。

 

カンザシ「落ちちゃうかもしれないけど、先に乗るか?」

パンダ「乗るー♪」

 

 パンダはタイヤの椅子に座ってカンザシに押してもらいながらブランコを楽しむ。

 

パンダ「わーい!たのしー!」

カンザシ「楽しんでくれてよかったぞ!」

 

 ともえもブランコの椅子に座って自分でやろうとすると、

 

イエイヌ「ともえさん、私が押してあげますよ」

ともえ「いいの?ありがとう」

イエイヌ「では行きますよ~こんな感じでいいですか?」

ともえ「大丈夫!なんだか久しぶりにブランコに乗った気がするよ!」

イエイヌ「次はシーソーやりませんか?」

ともえ「いいねえ!」

 

 ハイジのOPのような軽快さでシーソーへと向かって遊び始めた。

 ぴょーんぴょーんと飛ぶだけ。

 

ともえ「シーソーで遊んだの初めてかも」

イエイヌ「そうなんですか!どうです、シーソーは」

ともえ「イエイヌちゃんとやってるからか、楽しいかも!」

イエイヌ「よかった!」

ともえ「そうだ。ちょっと、絵を描いてきてもいい?」

イエイヌ「いいですよ」

 

 ともえはこの幸せな景色を絵にして残しておきたくて、バッグからお絵かきセットとスケブを描き始めた。

 レッサーやパンダ、フウチョウ達が遊ぶ絵を――。

 イエイヌが描いてる所をじーっと見ているのに気がついた。

 ウフフ。イエイヌと自分をササッと描いて完成。

 

ともえ「出来たよ!」

イエイヌ「おお!やっぱりともえさんの絵は素晴らしいです!」

ともえ「でしょでしょ」

 

――これを使えばいいんだ。

――これを…使えば…。

―――なんで、なんで涙が…また…

ドカーン!

――――ああ、やってしまった。ごめんなさい、ごめんなさい!!

 森の中を泣きながら走る誰か。

 そして走りながらその誰かはこう思った。

 

(なんでこんなに苦しいんだ?神様が何度も何度も言っていたじゃないか。これは正義な行いだと。天罰なのだと。ボクがしていることは正当なことなんだって)

 

?「――さん?」

?「―――どうしたんだよ」

ともえ「はっ!」

 

 元の世界に帰ってきた。

 

イエイヌ「大丈夫ですか?」

クジャク「…よっぽど嫌なものでも思い出したか?」

イエイヌ「何か思い出したんですね!」

ともえ「いや、何も思い出してない。何も思い出してなんかない!!」

 

 我に返った時に気付いた。

 怖がらせてしまった。

 レッサーを、パンダを、イエイヌを。

 

ともえ「ごめんなさい、ごめんなさい!あたしが、私が…!ボクが!」

 

 ともえは意識を失った。

 失いかけているとき、遠くから小さな星のように輝く声が私に心配する。

 心配なんかしなくていいのに。

 私は、ボクは、あたしは…。



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#03-5『軽蔑していた愛情』

 ピコーン、ピコーン。

 機械の音がする。

 目を開ければそこは見知らぬ天井。

 身動きが取れず目だけで状況を早く知ろうと動かしてみると、視界の端に点滴か何かがあった。

 

 

「――目が覚めたのか。ふん、まったくお前も不幸な奴だな。どんなことしてそうなったのかは知らないし俺には知る権利はない。だが次やる時はもう少し考えることだな。あのような安直なやり方ではまたここに連れてこられるだけだ」

 

 ぶつくさとボサボサ髪の医者は呟きながらあたしを――いや私を診ている。

 そのぶつくさは私に対する助言とも取れるものであり、医者のくせに否定をしない男だった。

 

「尾崎先生、彼女が起きたんなら私達にそう伝えてくださいと何度も」

「あーすまない、美奈くん。さっき目が覚めたみたいでね、伝えようかとは思っていたんだが彼女を診てからにしようかと思って―――」

 

 ぴこーん、ぴこーん。

 生き残ってしまった。何に?誰が?どうして?

 

α

 

「あれがこないだ自殺未遂を起こした」

「まったくあいつのせいで書きたくないものを書かされたり、気を使わなくちゃいけなかったりさ」

「腹が立つんだよね」

「あんなんだから――」

 

 聞こえる。私を蔑む声が。

 もらった手紙達は一部を除けばどれも心がこもっていない。

 きっと無理やり書かされたんだろうな。

 書きたくもないだろうに。

 それがよく滲んで見える。

 歩く場所はずっとずっと大雨。

 ずぶ濡れだから傘を差しても体は塗れて意味がない。

 言葉の雨。

 きっと私を殺すほどの強くて尖った雨。

 次があるとかどうの言う奴はなんなんだ?

 私の人生はこれっ限りだ。

 人生にコンテニューなぞない。

 人生という残機に払える100円玉もセーブできるカードも、読み込む機械もない。

 だから次なんてない。

 誰もが皆人生をロードするために飛び立つんじゃない。

 明確なゲームオーバーを打ち出すために飛び立つんだ。

 なのになんで、なんで?

 邪魔をするの?不愉快だから。

 わかるさ。でもそんなことして嬉しいのはお前だけだろ?

 お前が警察かなんかから賞状受け取って喜ぶだけだ。

 邪魔された方は何一つ救われない。

 救われたこともあるかもしれない。

 けど救われないやつだっていたはずだ。

 きっと私は後者であり、私はまた自殺する。

 

?「雨ばっかりで嫌になっちゃうね。ほら、私の傘に入りなよ。どうせ風邪引くだろうけど、雨になんかもう打たれたくないだろう?」

「だれ…?」

魔美「ああ、私は麗日魔美。君の親戚に当たるヒト、かな?仕事が忙しくてあんまり親戚の集まりとかには出られていないけど。ねえ、もしよかったら私と一緒にジャパリパークに行ってみない?君を利用する形になるかもしれないけど、私今、ジャパリセラピーっていうプロジェクトに関わってるの。考えといてくれる?」

 

 雨は止んだ。

 まだ晴れてなんかいないけれど、きっとこれは晴れになる前触れなのだろう。

 だから私は心の傘に手を伸ばした。

 

                              

 

                                                                     Continue to NEXT DREAM…



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#03-END 少女スカビオサ

 あたしはずっと記憶を失う前は今みたいな姿だったんだろうとばかり思っていた。

 でもそれはさっきの夢で粉々に砕けた。

 あれがあたしの姿だったの?あたしがあの公園を壊してしまったの??

 

 夢が終われば始まるのは現実。

 現実という地獄。

 生き地獄が待っている。

 

イエイヌ「ともえさん、起きたんですね」

 

 すっかり夜になっていた。

 ともえはベンチに寝かされていて、イエイヌはともえに寄り添うような感じでベンチのすぐ近くに座っていた。

 風鳥達はこの森林エリアで出会ったクジャク達と夕食を食べていた。

 カタカケはともえが起きたことがわかると、鍋から暖かい汁物を注いでともえに持ってきた。

 

カタカケ「ともえさん寝ている間、皆で作ったんです。もし食べれるんなら」

ともえ「ありがとう…」

カタカケ「イエイヌさんの分も持ってきますね」

イエイヌ「ありがとうございます」

 

 温かい汁物。じゃがいもや人参、玉ねぎ、そしてソーセージ。

 

ともえ「あったかい」

イエイヌ「これ、ポトフって言うらしいですよ。おいしいですねっ!」

 

 死体のように冷たくなった体に染みる。

 このポトフを飲む事でようやく人に戻れたような気がする。

 

ともえ「イエイヌちゃん」

イエイヌ「なんですか?」

ともえ「さっきはごめんね。あたし、取り乱しちゃった」

イエイヌ「ちょっと怖かったけど、気にしてませんから」

ともえ「あたしさ、なんだかわからなくなってきた。あたしの本当の記憶はきっとそこまで辛いものじゃないとばかり思ってきた。でも、最近嫌な夢を見たり、さっきみたいなことがあったりして本当に思い出す必要があるのかなって」

イエイヌ「思い出さなくてもいいと思うんです。途中で辞められるなら、辞められて逃げられるのならそれはそれで良いと思うんです。きっとともえさんなら逃げた先でも自由に飛べるはずですから」

ともえ「自由に飛べる…」

 

 なぜだかわかっていた。

 あたしの翼は折れていることを。

 それはもう治らないことを。

――にげばしょなんてないよ?

 私があたしに答える。

 

ともえ「逃げても逃げなくてもきっと…」

イエイヌ「大丈夫です。私がいますから。もう一人じゃないんですよ。私が、イエイヌがいます」

ともえ「イエイヌちゃん…そうだよね。あたしはヒトリじゃない。もう少し頑張ってみるよ」

イエイヌ「はい!その意気だと思います!私も一緒に頑張ります!だから、明日に行きましょう」

 

 小さいけど星はあたしという夜空で光っている。

 その光に応援されて明日のあたしが生まれる。

 とにかく明日に行かないと何も始まらない気がした。



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#03-333…かくれんぼか鬼ごっこよ

☆△

 

オーアル「ねえ、ねえってば!いい加減教えてよ、オーセン」

オーセン「教えるも何もわかりきったことだろう!」

 

 オーセンはキレながら道を歩く。

 何がわかりきったことなのかわからないから聞いているんじゃないのか?

 

オーアル「わかんないよ!急にヒトを探す!とか言い出してさ!」

 

 オーセンは立ち止まってオーアルの方を向いてこう言い放つ。

 

オーセン「私は許せないんだ…私の、私のお気に入りのジャパリまんステーションと家を壊されたことを!これはパークの危機だ!あんな優しくもない奴をのさばらせるなんてこの世の終わりだ!島の長は何をしているんだか!」

オーアル「まだあれのことで怒ってたの?というか、ヒトがやったの!?ヒトはもうすでにこのパークからいないはずなのに??」

オーセン「私は証拠を見つけたんだ。これだ!」

オーアル「ん????」

 

 目を凝らすとよくわかるのだが、髪の毛である。

 髪の毛を腕に巻いたコンパスのようなものに入れているのをオーアルに見せる。

 

オーセン「これを研究所で調べてもらったらヒトの毛だったッ!ということはヒトが犯人なんだ!」

オーアル「はあ…これって、研究所の奴だよね?」

オーセン「借りたんだ!ヒトを見つけるために!さあ行くぞオーアル!一刻も早く捕獲しないといけないんだ!!」

オーアル「はあーあ、しょうがないなー…。わかったよ、行くよ。あんまり急ぎ過ぎたら転ぶよ?」

オーセン「大丈夫だ、問題――うげっ!?」

 

 ほら言わんこっちゃない。

 オーセンは細い谷のような亀裂に足を引っ掛けて転んだ。

 

オーセン「くぅぅぅぅ!なんなんだー!このクソみたいな奴はよおおおおおお!」

 

 オーセンの叫びがこうざんエリアに木霊するのだった。

 

△β

 

 一歩、足りなかった。

 足りなかったからそのまま素直に帰ってしまったのかな?

 本当はあの子とまだいたかった。

 もうあの日は帰ってこない。

 そしてあの月の綺麗さも。

 もし、もし願えるのなら私は、あの子と一緒にいたい。

 

「こんばんわ」

「わぁっ!?」

 

 突然の知らない声に驚いて私は椅子の裏に隠れた。

 ガクガクと震えながら早口で叫んだ。

 

「た、食べないでください!私なんか食べたって何も美味しくないですよ!?」

「は?私がお前を喰うってか?ハハハハハハハ!冗談はその泣き顔までにしておけよハチ公。お前なんか食ったって美味しくねーわ!私達は見世物小屋の連中じゃねーぞ」

「軽く見世物小屋のヒトをディスってませんか?あと、ハチ公じゃないですその人」

「ああそれはわるかった。すまんな。詫びとしてなんか願い叶えてやるよ」

「願い、ですか?そうですね、ヒトと一緒に暮らしたいです!あのヒトにおうちをあげたいんです。私がいるおうちを」

 

 わがまますぎる願いではあるが、願えるなら願いたかった。

 

「ほうそれはいい願いだ」

「しかし、この世界は濁っています。もうその願いはきっと叶えられない」

「濁っているから叶えられないんですか?」

「いやいや、叶えられないのはこの世界のパークにいるヒトのせいだ。奴はある程度の所まで行くとムクナリウムという殺人ウィルスを出して徐々に世界を壊していく。月が濁っているのはそのせいだな。月が濁っているとな、段々空が赤くなって、その内クリオネがぷかぷかと空を浮かんでいるように見える。そんな世界にいるお前みたいなのはそのおかしい世界を楽園と勘違いして喜び始める。最後はどうなると思う?」

「…世界が壊れるんですよね」

「Exactly」

「へ?」

「その通りだと言ったんだ。だからお前の願いは叶えられない」

「そう…ですか」

 

 がっかり、ではあるけれど仕方ないよね。例えそのなんとかリウムのせいだったとしても。叶えられないものは叶えられない。

 

「だけど、一つだけ叶える方法があります」

「え?」

「それは別の世界に逃げることです。別の世界に逃げてしまえばあなたは救われるかも」

「でも、別の世界にはここと同じようにムクナリウムを芽生える可能性のあるヒトがいる。もしその世界に逃げてしまうのならお前はそのヒトからムクナリウムを奪って壊す必要がある」

「壊すには…」

「殺すんだよ。殺せば救われる。たかがヒトリの命で救われる世界。そのヒトリを守るために世界を壊すか、それとも殺して世界を救うか…」

「そんなこと、できません…」

 

 私の大好きなヒトを殺して生きるだなんて考えられない。

 だから拒んだ。

 

「ふん、ならば願いはどうする?」

「もしなんとかリウムを殺さずに取り除けるのなら、あのヒトとその世界にいる私を救ってほしいんです。私はどうなっても構いません!別の世界でも幸せになってもらえれば…」

「難しい願いですが…やれなくはありません。やりましょう」

「契約だな」

 

β☆

 

――オイナリよ、エネミウムを植え付けられた子供が3度目の目覚めを起こした。子供を苦しみから解放しろ。殺すんだ。でないと、世界は終わってしまう。エネミウムの生みの親よりも厄介な存在へと生まれ変わる前に殺してしまうんだ。

 

 殺せない。

 あの子供は我が守るこの島の初めての客人なんだ。

 そんな特別な客を殺すわけにはいかない。

 お告げがそう告げているなら果たさなくてはいけない。

 しかし、命を奪いたくはない。

 でも島を危険な目に合わせたくはない。

 

「誰だ!」

 

 気配を感じた。

 何者かの、ヒトでもフレンズでもエネミアンでもない何かの気配を。

 足音が段々でかくなっていく。

 そして足音は消えた。

 

「お前は…何者なんだ?」

 

 我の前に現れた月の光に当てられても顔がわからないほど黒かったが決して肌が黒いとかそういうわけではない。影が濃いのだ。影が濃くて顔が判別できないのだ。

 しかしその男は背中に動物を一撃で葬れる武器を背負っているのはよくわかる。

 泥だらけの緑色の上着。

 そういえば、前にこんなのお告げがあったはずだ。

 

『近い内にヒトならざる者が現れ、道を示してくれるだろう』と。

 

 まさかこいつなのか?このヒトを辞めてしまった存在なのか?

 男は何もない空間に向かって誰かと喋ってるかのような言葉を呟き、こう言った。

 

「ここで何をすべきかは教えてもらった。君を導けばいいんだね。よろしく、俺は――」




おいなりよこく~♪

コモド「ほんと、この場所で飲む紅茶は美味しいですわ」
オイナリ「確かにここから見える景色は最高だな。特にここからあの異物が見えるのが」
コモド「まったく、誰があんなのを建てたんだか。元々なかったんでしょ?」
オイナリ「いつの間にか建ってやがりました。すごく腹が立つ」
コモド「自分が把握できなかったから?」
オイナリ「それもあるが、あれはエネミアンが建てさせた奴だろう。だからだ」
コモド「ああ。ところであの子は?」
オイナリ「次は庭園に行くらしい」
コモド「あそこは面白いわよ~。今までの常識が壊れるかも、なんて。次回は『あたらしいにわ』。お楽しみに」


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4ページ あたらしいにわ #04-1 オンライン見世物小屋

今更だけど観覧注意


 もう少し頑張ってみる。その言葉に偽りはないかと言われると微妙な所だった。

 悪い夢はまたあたしに襲いかかってくる。

 それは一週間に一回くらい出てきては暴れるあの怪物たちみたいな感覚。

 気が付いた時にはあの暖かった世界ではなくて冷たい、腐った臭いしかしない地下へとやってきていた。

 足以外縛られてて身動きが取れない。

 引きづられるような感じでそのまま明るい部屋へと連れて行かれる。

 

『早くそのガキを壊してしまえ!』

『破壊者は殺してしまえ!』

『ヘイト人形は無残に叫んで壊れてしまえ!』

『ゴミはゴミ箱へ!!墓場へおかえりーーー!』

<さあ始まりました!みなさん!!こちらにおりますのは毎度お馴染みヘイト人形ー!キュルルちゃんでーす!この人形をぶっ壊して楽しむべく、今回はコメントの皆様の意見を大いに反映してこちらを用意してみましたー!>

 

 スピーカーから聞こえる不愉快な声、私からでもよく見える大きなモニターには私と一緒に大量の言葉の雨が流れてくる。

 その言葉はどれも人間とは思えないトゲがある言葉達。

 突き刺さってないようで突き刺さっている。心に。

 ゴゴゴゴ…と目の前の壁が扉のように開けば出てくるのは私と同じ人形。

 その人形は蛹のように化けの皮を剥がして骨格を、本性を出す。

 こんなのどこかで見たことある気がする。

 そうだ。アニマトロニクスだ。

 そのアニマトロニクスはスピーカーからの声に合わせて私に飛びかかり、私を無残に殺しかけた。

 暗転した画面の向こう側では私は食われ千切られ剥がされ、ヒトとしても存在としてもぞんざいに無価値に扱われる。

 痛みなんてない。もう、慣れてしまった。

 何度繰り返しているんだろう。画面の向こうの観客達は飽き飽きしているだろうが、私が子供に乱暴に扱われる玩具のような扱われ方されるのはいつ見ても面白いんだろう。

 なんせ、私は嫌われ者。

 嫌われ者が無様な姿になるんだから見ていてすっきりでしょうよ。

 私だって嫌いなやつを処刑できるならとっくにしているもの。

 ここは海底都市のように無法地帯となった世界。

 何でも許される。神様が望むものならばそれは許される。

 神や神の仲間には罪などない。

 罪はすべてこの私に流れて消える。

 神にやり直しはない。

 神はやり直しをしない代わりに否定して乱暴に扱って壊し尽くす。

 それは本当に神様なの?

 神様がやることなの?

 すべてが終わり、後処理する時には神や神の仲間は誰一人いやしない。

 私は強引に生かされる。

 死にたいと願っても私という人形は再び直されておもちゃ箱へ戻される。

 もう壊れた。

 壊れてしまった。

 壊れていく内に私という○○○という存在は心の奥へ、墓場へと還っていった。

 

 

 夢から現実へ。現実から夢へ。

 どこがどこだかわからなくなる。

 あたしは、私はどこにいるんだろう?

 目覚めた場所はベッドの上。また悪夢なのかな?

 イエイヌ…そうかここは現実…。

 

「あぁっ!!??」

 

 フラッシュバックするさっきまでの『夢』達。

 無残に無価値に弄くられて死んでいく私の出来事を現実でも記憶する。

 吐いた。

 ベッドはもうあたしの吐瀉物でいっぱい。

 

カンザシ「お、おい!大丈夫か?」

カタカケ「片付けは私に任せてください」

イエイヌ「ともえさん…大丈夫ですか!?」

ともえ「ごめんなさい、ごめんなさい…」

 

 今のあたしは泣くことしか出来なかった。

 ただただ辛い悪夢に恐怖して泣き続けることしか出来なかった。

 あたしの夢は、あたしの正体は…。

 知りたくない、知りたくない、知りたくなんかない!

『おまえはあいつと同じだ』

 その通りだった。

 あたしは、私はあの夢に出てきた怪物とおんなじなんだ。

 もうたくさんだ。

 もう、思い出したくもない。



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#04-2『惡の華』

 落ち着いた頃にはもうすべてが片付いていた。

 カタカケがすべてやってくれたのだろう。ベッドは綺麗なままの頃に戻っていた。

 ともえ達は中々寝付けないでいた。

 深夜の飛行船内は静かで月の光が嫌という程輝いてやかましい。

 

ともえ「あたし、もう記憶を思い出すのはやめようと思うんだ」

カンザシ「は?」

カタカケ「どういうことですか?」

ともえ「さっき見た悪夢とか、これまで見た悪夢とか、公園で思い出してしまった事とか、もう見たくないんだ。どうせ思い出した所であたしは悪い子なんだって、殺されても仕方がないくらい悪い子なんだって!その事実を知っていく度に怖いんだ。イエイヌちゃんのとこから出発する前に見た夢で言われたんだ。『お前はあいつと同じだ。一歩間違えれば怪物になる』って。一歩間違うってこれ絶対すべての記憶を思い出すことなんだ!公園を自分の手で壊してしまったことや、一回死のうとしたことや、死にたくても死ねないくらいに暴力を振るわれたことや…きっと、あたしが思い出すのは悪い記憶ばかりなんだ!もうそんな記憶を思い出したくない。もう、何も知らないまま生きていたい…」

カンザシ「お前は前にこう言ったよな、『辛いのは嫌だけど。それでも、知りたい。あたしがどういう人間だったかを』って撤回するわけ?」

ともえ「…撤回する。わかったんだよ、やっぱり二人言う通りひどいだけだった」

カンザシ「まあ、お前が撤回するのは勝手だ。それで救われるのならこの願いは完了なのかもしれない」

カタカケ「…違う。違う違う違う!」

 

 カタカケはともえに詰め寄る。

 さっきの夢に出てきた奴らとは違った怖さがある。

 

カタカケ「我々にとって契約は大事なもの!途中で破棄するのは許されるものではない!お前は記憶を取り戻したいと。我々と契約したッ!」

ともえ「契約なんて、してない」

 

 あまりのカタカケの威圧に怯えるともえ。

 

カタカケ「あれは契約だった。我々は確認したんですよ?取り戻したいのか取り戻したくないのかと。我々の契約はヒトが使うモノより複雑でしたか?騙すために作ったものでしたか?違いますよね?」

 

 まずい、ムクナリウムが出かかっている。

 カタカケが地雷をうっかり押しそうになってる。

 

カンザシ「まあまあ。そこまでにしておけ。いいかともえ。私はともかく、こいつは仕事熱心なやつだ。一度交わした契約は自分か本人が満足するまで終わらないんだ。もう諦めろ。お前は記憶を取り戻さなくちゃいけない道に入ってしまった」

ともえ「嫌だ!あたしはもう何も思い出したくない!」

カンザシ「ちょっと大仏になるのやめてくれない?私すごく困るんだけど」

ともえ「知らない!」

カンザシ「もう!お前のせいだぞカタカケ!お前が仕事モードにならなきゃこうならなかったのに!あぁもう!とりあえずカタカケは私が考えつくまで黙れ、何も言うな。これ以上この場をギスらせるな」

 

 カンザシはイライラしながらどうすればいいかを考える。

 カタカケに任せた所でイエイヌが止めに入るような状況になるだろうし、かといってともえの好きにさせるのは…。

 

カンザシ「あっ…」

 

 閃いた、かもしれない。

 そうだ。次の場所は『庭園』!

 ならばこれを使ってこいつの心を癒やすか。

 花には癒やし効果があるはずだ!

 きっとこいつのことだ、あまりにも美しい花を見て「めっさ絵になる~!」とか言いながら描き始めるはずだ!

 絵描きは花と果物と彫像と裸体の女が好きだからな[要出典]

 よし、そうだ。そうしよう。これでギスを終わらせられるぞ!

 

カンザシ「なあともえ、頼む、次に行く庭園にだけは一緒に来てほしいんだ。そこで考えが変わらなかったらそれでいい。私はともえの意見を尊重して思い出すための旅を終わらせてこうざんエリアに帰ろう。だから、一緒に花を見に行こう!綺麗だぞ~(ほら、釣られろ)」

 

 イエイヌはカンザシの考えを察したのか

 

イエイヌ「そ、そうですよ!行きましょうよ庭園に。花を見るだけなら記憶を思い出すことにはならないと思うんですよ!」

カンザシ(よし!いいぞ!ナイスフォローだ!)

ともえ「花…?じゃあ、庭園行くよ」

カンザシ「いや、ほんとよかった…ってなんで私がこんなことしなくちゃいけないんだ。んーまあいい。とにかくお花見よ?花見の準備をしよう!そうしよう…」

ともえ「うん…」

 

 渋々だった感じはあるが、なんとか庭園に行くことになった。

 明日から出発だが大丈夫だろうかと心配するカンザシとイエイヌであった。

 

 

 

 

 

 

 

カンザシ「仕事熱心なのもいいが、あんなマジトーンで言ったらともえはびっくりしてひっくり返るぞ。少しは反省しろ」

カタカケ「はい…すいませんでした」

カンザシ「あとお前のせいで危うくムクナリウムが出かかってたんだぞ。イライラとか恐怖とかでも出るんだからな。この体がなんでできてるか、この姿がどういう意味を持つのかお前は私より考えろ」

カタカケ「後でともえさんに謝っておきます」

 




ムクナリウムの発生条件

・ある一定の条件をクリアする(恐怖・イライラなど)
・改善されないまま12話を突破し、かつこれまでの目標をぶん投げる
・思い出を踏みにじる
 
ムクナリウムが生まれてしまうと?

・無自覚の破壊者になる(ハルヒ状態)
・段々月が濁り、赤い空になる。
・フレンズやヒトはその異常を異常とは考えない、むしろ楽園と勘違いする。
・地獄のような環境となり発生した場所を中心に異界化

曖昧でふわふわとした謎の物質であり、これはエネミウムと同時期に生まれた物と俺は考える。エネミウムの共通点は破壊なわけだが、エネミウムと違うのはフレンズや生物ではないものに与えた所で何一つ変化がないということだ。
ヒトの形をした化け物が作り出すのではないかと考えてはいるんだが、もう少し検証を重ねないといけないかもしれない。


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#04-3 いざ行かん!庭園へ!

 翌朝。眩しい。こんなに太陽の陽が眩しいとは。

 ドラキュラだったら一瞬で灰になるほどの眩しい光。

 ともえは思わず手で顔を隠した。

 

カンザシ「今日はいい天気だな。私らにはもったいのないお天道様だ」

クジャク「私らにはもったいない、か。確かにその通りだろう。これはすべて私のためにあるんだからな!」バサッ!

 

 綺麗な羽根を広げて存在をアピール。

 この綺麗な羽根を広げたとしてもともえは笑顔にならない。

 昨日の事をずっと引きずっている。

 悪夢。あれは悪夢だったのだろうか。

 すべて悪夢と感じていた物は現実でこちらが夢なのでは?

 どっちにしても夢幻来園者は終わらない。どこかにある好きな夢が見れる機械を停止させてデパートに返さない限りは。

 その方法がわからない以上、この不安定な鉄骨を渡り続けないといけない。

 

レッサー「ねえともえ、大丈夫か?心配なんだ」

ともえ「大丈夫…大丈夫だから」

 

 心配そうな目でともえを見るレッサー。

 ともえが返した言葉はとてもじゃないが大丈夫そうには聞こえない。

 

レッサー「だといいんだけど」

カタカケ「準備ができました。行きましょう」

レッサー「ここでお別れかな?頑張ってね、ともえ」

パンダ「公園直してくれてありがとう」

 

 二人はともえ達に向かって手を振るが、

 

クジャク「何を言っている、お前達も来るんだ」

二人「え」

クジャク「ほら、来い。私だけ行くとかおかしいだろお前達も来るんだ」

 

 そう言って二人の腕を掴んで連れて行った。

 連れて行った場所は倉庫でもクジャクのおうちでもなく、駅だった。

 

[森林エリア駅]

 

 駅のホームに来ればそこには蒸気機関車が停車していた。

 

クジャク「カタカケ、やれ」

カタカケ「わかりました。ほらさくら、これを動かしてください」

さくら「ワカッタ」

レッサー「すごい」

パンダ「ボスが喋った」

イエイヌ「こんな乗り物初めて見た。どうやって動くんだろう」

クジャク「石炭を入れて動かしているらしい。私にもよくわからん」

イエイヌ「へー」

さくら「タシカニ、コレハセキタントイウイシヲイレテウゴカシテタ。デモココノノリモノハタイヨウヤミズ、デンキノチカラでウゴカシテイルカラ、イシハイラナインダ」

ともえ「へーそうなんだ。もっと教えてよ!」

さくら「…」

ともえ「そういえばそうだった」

 

 しゅーんとせっかく機関車で気分が上がった物が下がってしまった。

 

レッサー「え?ボスとは喋れないの?」

イエイヌ「そうなんです。ともえさんはさくら…ラッキービーストとはお喋りができないんです」

パンダ「ボスってヒトにしか喋らないんでしょ?」

イエイヌ「そうなんですけど、なぜか逆さまなんです。私達には喋ってくれるのにともえさんには喋ってくれないんです」

レッサー「なんか面白いね。そういえば、イエイヌは知ってる?このさくらみたいにフレンズによく喋ってくれるボスがいるってこと」

イエイヌ「いるんですか?」

レッサー「もちろん!確か砂漠エリアにあるアトラクションにいるんだよ。名前は…なんだったかな?」

クジャク「そろそろ出発するぞ」

さくら「アワワワ」

 

 クジャクはさくらを抱いて運転室に入っていった。

 乗り物はラッキービーストなくしては動かせないんだから仕方がない。

 ガシャン!とラッキー用運転席に乗せてリンクを開始する。

 飛行船の時と比べると物凄く早くリンクを終えていつでも発車できる状態になる。

 

クジャク「出発だ!」

さくら「リョウカイ!シュッパーツ!」

 

 けものふれんず、あーる。

 あたらしいにわ、、というおはなし。



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#04-4 ネガティブとパネル

 ガタンゴトン。ガタンゴトン。

 列車は庭園へと向かって走り出す。

 ジャパリパークは複数ものちほーがあり、そのちほー間での移動を乗り物に乗る事を推奨している。

 それは沢山の動物と出会って欲しいという考えであり、決してひとつのちほーに留まる事を非推奨にしているわけではない。それはそれで新たな出会いがあるとは思うが一日ではこのパークを回りきれない。

 列車内から見える景色はやはり森だったが、森に住まうフレンズ達の姿を少しだけ見ることが出来た。

 

クジャク「こうして動いてる所を乗って実感するのは初めてだ」

カタカケ「そうですね、後ろを見る感じ皆同じ気持ちだと思いますよ」

 

 乗客達は動く列車に乗っている事に子供みたいに興奮しているがともえだけはあまり興奮していないようにも見える。仕方ないことだろう。

 それを横目にカタカケは車掌室にかけてあった帽子を被った。

 

クジャク「被る意味はあるのか?」

カタカケ「車掌というのはこういう帽子を被るルールがあったのです。被ればそれらしくなって面白いというものでしょう」

クジャク「それもそうだな!私にも被らせろ」

 

 クジャクはカタカケから帽子を奪い取って被った。

 

クジャク「我ながらこの帽子もよく似合う…」

カタカケ「それはよかったですね」

クジャク「では、この車掌である私がさくらとやらに問おう。後何分で着く?」

さくら「モウスコシ、アトフタエキクライ」

クジャク「それはよかった。早いほうがいい。この程度で満足していては後が辛いのでな」

 

 トンネルを抜ければトンネル…なわけはなく、庭園らしき姿が見えてきた。

 らしきと称したのは庭園があの公園と同様破壊されているからだ。

 本当に庭園なんだろうか?という疑問が出るくらいには瓦礫とかそういうのしかない。

 しかし、明らかに広いスペースとこんなスペースを列車に見せつける意味がわからないのできっと庭園だろう。

 寂れた駅を降りればそこは花園でした、なはずはなく、窓から見た景色そのまんまの場所だった。

 風鳥は駅名が書かれた看板を見てここが確かに庭園であることを確認してから、

 

カンザシ「あそこに建物がある。行ってみればなにかわかるんじゃないか?」

カタカケ「他のフレンズがいるとは思えませんが」

カンザシ「もしかしたらいるかもしれねーだろ?こういうとこは冒険するのが楽しいんだぜ」

パンダ「そうなの?」

レッサー「さあ?」

 

 建物はそこまでボロボロというわけではない。

 他のラッキーが定期的に整備してくれているのだろう。

 聞こえるのは反響した自分達の足音のみ。

 

ともえ「何もない」

パンダ「これ見て!ほら!」

レッサー「おっ!それはパネルってやつだよ。ほらともえもおいで」

ともえ「うん」

イエイヌ「これってなにか意味があるんですか?」

 

 パネルから顔を出すパンダやレッサー、ともえ。

 しかし写真を取ってくれる相手はいないのでこのパネルから顔を出してもあまり意味はないのかもしれない。

 

ともえ「そうだ。イエイヌちゃん、こっち来てパネルから顔出してくれる?」

イエイヌ「はい!わかりました!」

 

 さすがにこの程度で前回みたいな事は起こらないだろう。

 少しそうなってしまうんじゃないかという可能性を頭に入れながら、パネルと三人を描いた。

 

クジャク「おいヒトの子。私も描け」

 

 パネルの横で羽根を広げたクジャクは主張する。

 

ともえ「わかりました」

 

 三人が邪魔にならないような場所にクジャクを描き足した。

 

ともえ「どうでしょうか」

クジャク「素晴らしいではないか。さすがはヒトの子だな」

ともえ「そんな…さすがって言われるような事は…」

 

 本当に、本当にあたしはさすがって言われるほどすごい子なんかじゃない。

 むしろ蔑まれるような忌み子なのに。

 

クジャク「…これはすまない事を言ってしまったな。今の話は忘れろ」

レッサー「絵を見せてよ」

パンダ「すごい!絵、上手なんだね」

ともえ「いや、そんな」

レッサー「いい絵だと思うよ」

 

 笑顔が眩しくて眩しくて。

 辛かった。

 そんな事をしてもらうような人ではないというのに。



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#04-5 サンドスターフラワー

 この建物は二階まであって二階には図書室があり、自由に動物や植物に関する本が読めるわけだ。

 ともえ達はカンザシに連れられて図書室へとやってきた。

 

カンザシ「見た感じここにはありとあらゆる動物や植物に関する図鑑が置かれてあるようだ。例えばこの本とか」

 

 その辺にあった本を手に取る。

『綺麗な花と美しい花言葉』次代出版。

 綺麗だなと思う花と明るくもあるし悲しくもある美しい花言葉が詰まっている本だ。

 美しいものなら大体収録されているとかなんとか。

 パラパラとめくったが興味がないみたいで元の棚に戻した。

 

レッサー「へーこれがヒトが読む本なんだ。私にはよくわからないけど、ともえなら何かわかるんじゃない?」

ともえ「えっとこれは…」

 

 レッサーに見せられたページには『花を見ながら聞くと気分が良くなる曲特集』と書いてあり、専門家と思わしき女性の解説が乗せられている。

 

――この曲は何ていうんですか?

――今どきの子が興味あるなんてね、ちょっと意外かな。この曲は東エリの『私の彼の左手に肉球』だよ。オカルティック・クイーンのテーマソングに使われていた曲でね。

 

 頭痛。

 ともえは思い出したくもない記憶の断片を思い出す。

 辛くない内容でさえも今のともえには凶器である。

 頭を抑えて蹲りかけたともえを支えたのはイエイヌだった。

 

イエイヌ「ともえさん、確かすぐ近くに寝転がれる椅子がありましたよね?」

レッサー「ごめんね、ともえ…」

ともえ「大丈夫、大丈夫だから…」

 

 何度も何度も大丈夫と繰り返しながらともえは寝転がれる椅子へとイエイヌやレッサーに運ばれようとしていると、

 

シマリス「え…ヒト!?」

 

 シマリスが立っていた。

 シマリスはヒトであるともえを見るなり悲鳴を上げそうになるがともえの姿を見ると、勇気を振り絞ってともえに近付いて顔を見た。

 

シマリス「…大丈夫。これなら、治せる。付いてきて」

 

 

☆○

 

 

シマリス「これで、もう、大丈夫なはず…私、なんで助けちゃったんだろう…」

 

 医務室。

 ともえのためにハーブティを用意して飲ませた。

 飲んだともえに眠気が襲い眠ってしまった。

 よっぽど辛かったのだろう。

 

カタカケ「これは…サンドスターフラワー?」

クジャク「サンドスターがよく湧く場所で咲くと言われている綺麗な花のことか」

イエイヌ「そんな花があるんですね」

クジャク「まあな。中々条件が揃わず咲かないがな」

シマリス「そうなんです。ここはその条件に合ってるみたいでいっぱい咲くんです」

 

 茶葉として使われていた虹色の花はサンドスターフラワーというパークにしか咲かない奇跡の花である。

 

クジャク「へえ。だからお茶にして楽しんだりしているわけだ」

シマリス「サンドスターフラワーで作るお茶は飲むと希望がもらえるんです。だって花言葉は希望と二度目の目覚め、終わることのない優しさですもの」

 

 目を輝かせながら花の話をするシマリスだったが、

 

シマリス「そんなものをまさかヒトに飲ませてしまったなんて」

カンザシ「なあ?ヒトが嫌いなのか?」

シマリス「私、死にかけたんです。ヒトがこの庭園を壊そうとして投げた物に巻き込まれて。私が大好きだった庭園を一瞬で壊して…」

 

 シマリスはその時の嫌な思い出を思い出して泣き出した。

 パンダがヨシヨシと慰めている。

 

クジャク「爆弾か…巻き込まれたのに無事だったんだな」

シマリス「助けてくれたんです、セルリアンが、いや、ルリアンさんが」

レッサー「あのセルリアンが!?」

クジャク「これは興味深いな。是非聞かせてもらおうか、そのルリアンというヤツのことを」




綺麗な庭だ。
そんな庭をこれから破壊しないといけないのが辛い。
なんで辛いと思うんだ?
神様から何度も何度も言われたじゃないか。
「これは正義の暴力だ。のうのうと生きているフレンズ達を潰して泣き叫ばせたり、醜く争わせたりするのは最高に気持ちがいい」
だから僕の行いは正義なんだ。正義の暴力は最高に気持ちいいんだ。
なのに、なのにどうして涙が出るんだろう…


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Prologue『broKen NIGHT』

 暗闇。聞こえてくるのは私の声と誰かの声。

 それだけしかない。何もない。

 

「この曲は?」

「あぁ、これは璃花子が、私の友人が好きだった曲だ。あいつが死んで一ヶ月。思い出す度に私はこの曲を、夢見ていようを。あいつに、明日なんてなくなったのに…」

 

 曲が流れ始めた途端、周りは一気に明るくなってパレードが始まる。

 影が踊り、フロート車が輝き、フロートの上に乗る動物たちは見えない観客達に手を振る。

 それらが全て過ぎ去れば私の目の前に幼い少女が現れた。

 パレードに参加していたんだろうか。服装はどこか新しくて、黒く輝く。

 それがお世辞にも美しいとか楽しそうとかそんな感想がこれっぽちも湧いてこない。

 表情がなくヒトらしさのない操り人形。作られた存在のためだけに作られた操り人形。

 どんなに新しくても愛や魂が込められていなければただの人形。

 きっと私も人形。でも目の前の少女ほど輝きを失ってはいないと信じたい。信じていたい。

 

――彼女を泣かせたのは誰?

――悲しませたのは誰?

――気付いていないの?

―――お前だよ、お前!お前がパークなんかに来るから赤里璃花子は死んだんだ。赤里がお前が来ることに反対した創造主に歯向かったから、だから死んだんだ。死んで詫て?お前には生きる価値などない。お前には死しかない。あの時死んでいればお前はヒトを殺さずに済んだんだよ?だから今すぐ死んで赤里にお詫びしろ。死ねないならこの私がお前を殺してやる!死ね!シネ!

 

 少女の腕がありえないくらい伸びて私の首を掴んで絞め殺そうと、私を壊そうと強く握ってくる。

 目の前が紅く染まりかける。

 生きる価値がない。確かにそうかもしれない。

 私は僕として大切な思い出を壊し続けた。

 だからその報いを受けちゃいけない。

 これで死ねるのなら私はこれで――

 

 その時、私の首を締めようとしてる人形は青い炎に包まれ、腕を何かで斬られる。

 人形の腕で死ぬことが出来ずその場に倒れてむせる私に、

 

「大丈夫か?」

 

 と男の子が声をかけた。

 背中には物騒なものを背負っている。

 

((あいつはまだ動いてる!))

 

 あの人形は燃えながらまだ私を殺そうと立ち上がり襲いかかろうとするが、男の子に邪魔をされて上手く殺せない。

 

「行くんだ、キミ!あのまままっすぐ走り続ければいい!そうすればキミは助かるから」

 

 一度だけこっちに向いてから人形に立ち向かいに闇の中へと消えた。

 

((わかってるでしょ。――があなたのために戦っているんだから、ここで立ち止まらないで。前に進んで))

 

 どこからか聞こえる声に従う形で私は先が見えない闇に向かって走り出した。

 走り出してからすぐに私が走る道の空には火の玉のような物が現れ照らし始める。

 その火の玉に導かれるように走り続ければ、そこには古めかしい建物があった。

 

『どーるはうす』

 

 カランコロンと鳴る扉を開けて中へと入ってみればそこは名前のように人形のおうち。

 私やあの燃えた人形とも違って本当の意味での人形。

 アンティークドールって言うんだったっけ。

 火の玉が照らしてはいるけど暗い場所でその姿を見るというのはホラーってやつだった。

 私は何かに足をぶつけた。

 よく見てみるとそれはトランクだった。

 何のためらいもなく、そのトランクを開ける。

 中には可愛らしいお人形が入っていた。

 

「うわっ!」

 

 火の玉が突然私の目の前に現れて人形と私を照らした。

 

「この人形の服…前にもどこかで…あっ、あの時の」

 

 マゼンタの人が来ていた服に、パークガイドの服にそっくりだったが、シャツの部分が黄色だったりと違いがある。

 私は一枚の折り畳まれたカードを見つけて開けてみた。

 

『開けるか、開けないか』

 

 どういうことなんだろう…。

 カードには何かのキャラクターのような頭になった銀色の鍵があった。

 

「何を開ければいいんだろう?――これ?」

 

 人形の背中に錠前のようなものが付けられていた。

 これを使えば良いのかな。

 私は錠前に鍵を挿して回した。

 ガチャン。ギギギ…。

 私は突然動き出そうとする人形を放り投げてしまったが、人形はうまく着地して振り向いた。

 

人形「これでようやく、我はお主の力になれる」

「え?」

ヒーナ「ここまで我の所にお主を連れてきてくれたアヤツに感謝だ。初めまして。我はヒーナちゃんだ」

「ヒーナ、ちゃん…?なんだか懐かしいかも」

ヒーナ「そうだろうそうだろう。なにせお主の記憶に強く残っていたキャラクターなのだからなあ。普通の姿でも十分だったが、驚かれてしまうのは少々怖くてな。だからこの姿にしたんだ。うんうん。これで正解だったようだ」

 

 唐突にお喋りを始めたヒーナに私は返す言葉がない。

 

ヒーナ「そういえば名前を聞いていなかったな。お主はなんていうんだ?」

「私は…」

 

 ○○?○○○○?ともえ?

 私の名前は…そうだ、ともえだ。

 

「ともえ…ともえって言います」

ヒーナ「ほう、トゥモエか」

「ともえです」

ヒーナ「ともえな、覚えた」

 

 ヒーナは背中から鍵を抜き取ってどこからか取り出した紐に結んでともえの首にかけた。

 

ヒーナ「これはともえが持っていろ。この鍵はお主が記憶を思い出すのに必要な心の鍵だ」

「記憶なんて、思い出したく、ないです」

ヒーナ「辛いことを思い出すからか?」

「うん…」

 

 ヒーナという小さな体が私という大きな体を抱きしめた。

 

ヒーナ「辛い思い出があったとしてもそれをなかったことにしてはいけないんだ。それらがあったからこそ今のともえがいるんじゃないか?過去の自分を知れば今の自分をもっと好きになれる。だから否定しないで。自分のしてきた過ちに。我と共に自分自身を許していこう」

 

 その言葉と共にどーるはうすに電気が付いた。

 濁った瞳も明るくなった部屋のせいなのか元の輝きを取り戻し青く輝いている。

 

「私に、できるのかな…」

ヒーナ「できるさ。この我がいるんだからな。どんなに闇が深くてもこの我が照らし祓ってみせよう。さて、もう時間だな。ともえ、世界は騙せる。騙しつくして自分自身を許せ。そうすればカコもミライもきっと信じていられる。楽しみにしていられる」

 

 視界がぼやけてくる。

 もう時間だというのはこういうことだったのか。

 こっち寝ればあっちで起きる。

 あっちが寝ればこっちで起きる。

 また会えるよね…?




どっからどう見ても雛苺です。どうもありがとうございました。
雛苺が元ネ…パクっているのはそれなりに関係のあることなのでお楽しみに。


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#04-6 そうしてあたしたちは庭園に彩りを、

 現実へと帰ってくればイエイヌと目が合った。

 

イエイヌ「起きたんですね」

ともえ「うん」

イエイヌ「もう、大丈夫なんですか?」

ともえ「大丈夫。もう元気だから。みんなごめんね、あたし迷惑かけちゃったみたいで」

カンザシ「いいんだ。困った時はお互い様というやつだろう。それに、なんだかスッキリした顔してるな。これもそのお茶のおかげか?」

 

 サンドスターフラワーのハーブティーを飲んだせいかヒーナに会えたとすればおかげなのかもしれない。

 

ともえ「多分そうかも。えっと…ありがとう。お茶、飲ませてくれて」

シマリス「…」

 

 ともえはシマリスが抱く物を知らない。

 だからシマリスが複雑な表情を浮かべていた意味がわからなかった。

 でもシマリスがともえの事をよく思っていないのは鈍感な人間でもわかるはずだ。

 

ともえ「もしかして、あたし、前に何か悪いことをしたのかも。公園を壊してしまった時と同じように」

レッサー「公園を!?ともえがそんなことするわけないでしょ」

ともえ「多分本当のことだよ。倒れた時に思い出したんだ…だから、ひどいことをする人だったよ…ごめんね、あたしは悪い子だった。だから自分が自分を許せても他人には許されない」

クジャク「そんなことはないぞ。普通なら許されないものかもしれない。だがここはどこだと思う?」

ともえ「ジャパリパーク?」

クジャク「そうだ。そんな罪深き奴でもここなら許される。さすがに動物虐待とかは許されるようなものではないがな…」

パンダ「そうだよ!皆許してくれるよ!それに、壊れたんなら一緒に直そう!きっと皆なら直せるよ」

イエイヌ「そうですよともえさん!だから、庭園も一緒に直しましょう!それで、前よりも良いものを作ってみましょうよ!」

ともえ「直す…?そうか直しちゃえばいいんだ」

カタカケ「ですが、直し方によっては怒られるものはありますよ」

カンザシ「大丈夫だろ、そこが心配なら私達が示してやればいい。こいつらに足りない叡智とやらを使って」

レッサー「なんだか馬鹿にされてるみたい…」

カンザシ「悪気があって言ったわけではないぞ!」

カタカケ「なのでシマリスさん、どうか我々にひとつ、チャンスをください。きっとあなたが満足してくれるような庭園にしてみます」

シマリス「じゃあ、やって見せてください。あなた達に私が大好きだったものが作れるかはわかりませんが」

 

 こうしてあたしたちは庭園に彩りを取り戻すために動き出した。

 

 

 まずどうするべきかの会議を始めた。

 医務室だと締まりがないというカンザシの意見で建物内にあった会議室で会議することになった。

 会議室に座ったともえ達とボードの前に立つカンザシ。

 

カンザシ「じゃあさっそく始めていこうか」

カタカケ「持ってきましたよ」

カンザシ「サンキューな」

 

 ドンッと置かれた本の山。

 ともえとイエイヌは一冊、上にあった本を手にとって表紙を見てみた。

 

『楽しい庭の作り方』

『月間アフタヌーンフォール 特集 華やかな庭でおやつを』

 

 どれも庭や花に関係のある本ばかりだ。

 

カタカケ「これらを参考にしながら作っていきたいと思うんです。それでなんですけど、シマリスさん、花の種ってありますか?」

シマリス「ありますよ。でも、いくらやっても咲かないんですよね」

カタカケ「いくらやっても咲かない…?それはやり方が間違っているからだったりするのでしょうか」

シマリス「それはないです!ルリアンさんに読んでもらいながら育てましたから」

カンザシ「ルリアンねえ、んじゃまずはルリアンに会ってみることから始めるべきなのかな?そいつならなんか知ってるだろう。それに、もし知らなくても一緒にやればそれなりに片付くだろうし」

クジャク「それなら役割分担してみないか?花をどう飾るかどういう物を設置するかはこっちで片付けておこう。だからそっちはルリアンと知り合い、花を咲かせる方法を見つけてくるんだ」

カタカケ「そうですね、そうして見ましょう。では飛行船組と公園組で分かれましょう」

 

 ボードには『飛行船組 イエイヌ、ともえ、フウチョウ、シマリス』『公園組 クジャク、パンダ、レッサー』と邪魔にならない程度に書いてあった。



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#04-7 (セ)ルリアン

 ルリアンさんはですね、ヒトが壊した庭園で死にかけた私を助けてくれた命の恩人なんです!優しくて、文字が読めて、サンドスターフラワーの育て方もルリアンさんが教えてくれたんです!正直言ってまだ怖いところはありますが、ルリアンさんを信じていたいんです!

じゃぱりていえん シマリスちゃん(ばみうだちほー)


カンザシ「これ、井上なら鬱展開に入るやつじゃねーか?」
カタカケ「キバみたいなことにはならないと思いますよ」
クジャク「何を話している。イノウエとはなんだ」
カンザシ「なんでもないぞ」


 ルリアンというのはセルリアンだった者が名乗った名前である。

 フレンズからしてみればセルリアンというのは驚異の存在であり、自分の輝きを奪う泥棒でもある。

 それをどうにかしようと立ち向かったのがパーク職員、パークガイドであって、それらがいない今は戦えるフレンズ達に戦ってもらわないといけない。

 

ともえ「セルリアン?」

イエイヌ「ともえさんは知らなかったでしょうけど、このパークにはセルリアンという私達フレンズを食べてしまう恐ろしい怪物がいるんです。食べられてしまうと私達の大切なものが亡くなってしまう。ともえさんも気をつけてくださいね。見つけたら触れずに逃げるが一番です!ルリアンさんがどういう人かはわかりませんがそれなりの覚悟を持ったほうがいいかもしれません」

シマリス「ルリアンさんは覚悟がいるような人じゃないです!」

カンザシ「だといいがな。私らは聞いたことないんだよ、セルリアンがフレンズと仲良くしてるなんて」

 

 シマリスに案内されたのは建物に裏にある小さな花畑。

 そこには頭がセルリアン、体が成人男性の物体が花畑に水をやっていた。

 上着は脱いで肩からタオルをかけて帽子を被っている。

 

シマリス「こんにちはルリアンさん」

ルリアン「やあシマリス君。おや、そちらの方は?」

カタカケ「初めましてルリアンさん、私はカタカケフウチョウ。こっちがカンザシフウチョウで、こっちがイエイヌ、そしてともえ、ヒトの子です」

ルリアン「ヒトの子…君が噂の…」

ともえ「ど、どうも」

ルリアン「そんなに怖がらなくてもいい。私は君達を襲うつもりはない。今のところは」

カタカケ「今のところは?」

ルリアン「そこについては話が長くなりそうなので少し日課を片付けてからでいいですか?」

カタカケ「いいですよ。もしよければお手伝いしましょうか?」

ルリアン「いえいえ大丈夫ですよ。あちらで待っていてくれませんか?シマリスさん、バスケットからお菓子とお茶を」

 

 あちら、と指差した先には手作りのテーブルと椅子があった。

 しかし全員分はなく、風鳥達はともえ達に譲って立って待つことにした。

 

シマリス「お口に合うかはわかりませんが」

ともえ「ありがとう」

シマリス「…!感謝されるようなことは」

 

 紙皿に置かれた絵に描いたようなかわいいクッキー。

 食べてみるとそれはそれは幸せになれる美味しさ。

 暖かい気持ちになれるようなそんなクッキー。

 

ルリアン「お待たせしました。ではお話します」

 

 ルリアンは普通のセルリアンだった。

 フレンズや輝きを持つ者を見つければそれを食べて自分の物としコレクションにする虫のような存在だった。

 ある日、ルリアンになる前のソレは輝きを求めてこの庭園へとやってきた。

 庭園には輝きがたくさん詰まっているように見えたのだが、そこに輝きがない人の形をした同類に近いけど同類ではないモノが同じようにやってきていた。

 その人の形は歪で理解不能な輝きらしきナニカを体から吹き出しているように見えた。

 セルリアンの視界はそうやって何かの輝きが吹き出しているように見えるようになっている。

 ナニカは徐々に自分の体に纏わりついて食い荒らし、殺していく。

 ハチのような何かに刺されたような痛みが長く続いたような感じだった。

 そして気がつけばルリアンは生まれていた。

 セルリアンとしての機能はもう無いに等しい。

 僅かながらにそれがあるがそれは別の方向に流れていくように体ができてしまったのでセルリアンとしては死んでいるようなものだった。

 ルリアンはただただ自分の置かれている状況に理解が追いつかなくて、混乱している時に大きな音が聞こえた。

 音のする方を向けばあの輝いていた庭園は無残に破壊されていて、輝きを失いかけていた。

 居ても経ってもいられなくなって庭園へと走っていって、今にでも消えそうな輝きを掴み取ろうと瓦礫やぐちゃぐちゃになった花をどけて輝きを見つけた。

 それがシマリスだった…。

 シマリスを助け出して看病して少し余裕が出たのかルリアンは考えた。自分の置かれている状況などを。

 元々セルリアンだった。それがあのナニカのせいでセルリアンからフレンズに近い何かになっているということ。

 

カタカケ「フレンズに近い何か。どうやってわかったんですか?」

ルリアン「それがですね、あの建物にあったこの庭園用の制服を着てみたんです。そうしたらラッキービーストが私にだけ喋ってくれるようになりまして。それで色々聞いてみたんですけどなんか別の場所の誰かと通信することになっちゃいまして、それでわかったんです。私がもうセルリアンではないこと、フレンズ未満の存在だと言うことを」

カタカケ「そういえばラッキービーストには通信機能がありましたね」

ルリアン「で、今の所はというのが私みたいなケースは珍しく、データが取れてなくてよくわからないみたいで。それでもしかしたらこの先セルリアンとしての本能を取り戻してしまう日が来てしまうのではないかと言われたんです」

イエイヌ「なんだかよくわからない話ですね」

ともえ「うん、そうだね」

カンザシ「アハハハ…さて、私達はシマリスのために庭園を直したいと思ってるんだ。そのためにも数多くの花が必要だ。ルリアンにも協力してもらうぞ。なにせ、お前やシマリスが頼りなんだ。庭園に彩りを取り戻すためにも」

ルリアン「前々から私も庭園を直したいと思ってたんですけど中々出来ずじまいで。でもあなた達が来てくれたおかげでシマリスさんが大好きな庭園を取り戻せそうだ。私で良ければ力をお貸ししますよ」

 

 風鳥達は庭園や花弄りに自信があるフレンズではないのでルリアンの参戦にはかなり心強いという気持ちがあった。

 ルリアンの意見を元に種を選んだり、土を選んだりして庭園の残骸の前にひとまず置いた。

 

ルリアン「まずはこれらをどけないといけませんね」

カンザシ「それなら任せな。パワー手袋!」

 

 カンザシがあっという間に残骸を片付けて綺麗な更地に変えてみせた。

 

カンザシ「残骸はここに置いて、後でクジャク達と相談しながら色々作る」

ルリアン「次は土を蒔きつつ下地を作っておきましょうか。ともえさんとイエイヌさん、シマリスさんは土を蒔いてくれませんか?」

 

 イエイヌが手押し車を押しながらシマリスとともえで蒔いていく。

 

シマリス「そこはこう蒔いた方がいいかと」

ともえ「こう?」

シマリス「そうです!でももう少しゆっくりにしたほうがいいかもしれません」

 

 シマリスにアドバイスを貰いながらともえは蒔いていく。

 その蒔かれた土をガーァッ!とか言いながら耕していくカンザシだった。



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#04-8『ポロロッカ星の春』

クジャク「ではこちらも初めていこうか」

レッサー「わかってると思うけど」

クジャク「なんだ?」

レッサー「庭園に私の像を建てようとか私の顔が掘られた何かを作ろうとかそういうのはなしだからね」

クジャク「わかっている!ここは私の庭園ではなく皆の庭園だ。私のものを置いた所で意味がないものだろう」

パンダ「あっ、これいいかも~」

 

 カタカケが集めてくれた雑誌類や本の中から一冊の本を手に取り適当に読んでいたパンダが何やら面白そうなものを見つけたようだ。

 クジャクとレッサーはパンダが指差した所を見た。

 指差したところは絵本の1ページ。『春のアラシ』

 文字が読めなくても絵本の絵ぐらいならどんなもんかフレンズでも読み取れる。

 

クジャク「ふーん。確かにいいかもしれないな」

レッサー「ねえ、クジャク。これなんて書いてあるの?」

クジャク「アラシという少女がジャムパン持ってピクニックに行くという話のようだ。どこにでもあるような話だが、このページに描かれている野原は素晴らしい絵だ。これを参考にして考えてみるのも悪くはないな」

 

 アラシという少女がニコニコしながらジャムパンをむしゃむしゃと食べているだけの絵ではあるのだが、野原などの背景は丁寧に描かれていてこれを自分の本棚に入れておきたいと思うほどの価値はあるはずだ。

 キュッキュッ。ボードに追加でクジャクがこう描き足した。

 

『なにをつくりたい? 春のアラシに出てくる野原のような庭園』

 

クジャク「これだけだと物足りないな。もう少し付け足したいんだがなんかないか?パンダ」

パンダ「え?えーと…これとかどう?」

クジャク「テーブルに椅子か、悪くないな」

レッサー「こういう入り口とか作ってみようよ」

クジャク「いいじゃないか。んでそのアイデアをこうしてこうすれば…」

 

 ボードに出た案をまとめつつ全体図を膨らませる。

 入り口は明るく華やかに!

 真ん中辺りに椅子やテーブルを置いて周りに花を。

 

クジャク「後は倉庫とかその辺にあったものを上手く使ってアレンジ加えるということで材料を揃えに行くか」

レッサー「うん!」

クジャク「手分けして探したほうが手っ取り早い。何か重たいものがあったら風鳥達かルリアンに頼め」

 

 クジャクは一人で、レッサーとパンダは二人で探すことにした。

 

 

クジャク「さてと、入り口はあいつらに任せるとして私は使えそうなものを集めるか」

 

 テーブルと椅子は建物内にあったレストランから拝借するから問題はない。

 後は使えそうなものを適当に集めるだけだ。

 ここには色々と眠っていそうだな。

 

ヤブノ「クジャク?何しにきたの?」

クジャク「ヤブノウサギか。ちょっと付き添いでな、今庭園を作り直そうとしているんだ」

 

 ヤブノウサギと出会った。

 普段からここに来ているんだろうか。

 

ヤブノ「あーさっきシマリスに会って話したけどそんなこと言ってた。クジャクが協力するなんて何の気まぐれ?」

クジャク「興味深い奴がいたんでな。それに列車に乗ってきたんだ」

ヤブノ「あのデカイヤツに乗ってきたの!?いいなあー!ねえ、後で乗せてよ」

クジャク「別に構わないが、乗せてほしければ私に協力することだな」

ヤブノ「わかった、やる!」

クジャク「よーしいいぞー。んじゃあさっそく私と一緒に庭園に会ったら良さそうなものを探すか」

ヤブノ「それなら、ちょっと来て!」

 

 ヤブノに連れられて私は搬入口にやってきた。

 

ヤブノ「これなんてどう?」

 

 そう言って開けられているトラックの荷台からラッキービーストやフレンズの装飾品を見せられた。

 ラッキービーストやサーバルなどの一部フレンズを元にした人工の植木がいくつかあった。

 他にも色々と使えそうなものがあって元々この庭園に置くつもりで用意してたんじゃないだろうか。

 

クジャク「いいじゃないか」

ヤブノ「でしょ?初めて見たときから気に入ってたんだ。これ使えるんじゃない?」

クジャク「確かに使えるな。後はこれを持っていくだけだが――あの台車を使うか」

 

 台車が目に入ったからあれを使って持っていこう。

 そうすれば上手く持っていけるだろう。

 

クジャク「ほれヤブノウサギ、台車で運ぶから手伝え」

ヤブノ「はーい」



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#04-9 虹色に輝く花々

ルリアン「一先ず休憩しませんか?」

イエイヌ「ともえさん、疲れましたね」

ともえ「うん」

レッサー「おーいともえー!持ってきたよー!」

 

 レッサーとパンダが持ってきた物をともえ達はひとつひとつ見ていく。

 大きな傘とテーブル掛け、それから看板。

 

パンダ「あっちに入り口に使えそうなのがあったから手伝って!」

ルリアン「わかりました。案内してくれますか?」

パンダ「うん!付いてきて」

ルリアン「シマリスさんとともえさん達は休んでいてくださいね。私が取りに行ってきます」

カンザシ「いってらっしゃーい」

 

 カンザシはクジャク達が持ってきた椅子に座ってテーブルに突っ伏した。

 

カンザシ「疲れた」

カタカケ「あとは種を植えたりするだけなんですからもう少し頑張ってください」

カンザシ「うるせえなあ、私にだけ重労働させやがって。続きはお前がやってくれ。私はここで休む、休むぞ!休んでやる!」

 

 カタカケは深くため息を付いた。

 

カタカケ「わかりました。続きは私がやります」

カンザシ「おう、よろしく」

イエイヌ「庭園が完全に出来上がるのってどれくらいかかるんでしょうね」

シマリス「サンドスターの具合にもよりますけど早くて二日、長くて1週間程度。これはここに元々いた人達が残していった書類に書いてあったそうです」

ともえ「へーそんなに早いんだ」

シマリス「咲くまでは直したなんて言えませんからね」

ともえ「うん、わかってる」

 

 ルリアンとパンダが入り口に使えそうな柱を持ってきて適当な場所に置いてみた。

 

パンダ「どう?悪くない?」

ルリアン「良いと思いますよ」

パンダ「よかった」

ルリアン「後はこれに看板を作って付けてみるのはどうでしょうか」

パンダ「あの看板じゃだめなの?」

 

 パンダ自身が持ってきていたあの看板を指差した。

 

ルリアン「あれだとこれには合わないと思うんです。だからパンダさんや皆さんの力でここに相応しい看板を作ってみてはどうでしょう」

パンダ「作る!私看板作るよ!」

イエイヌ「ともえさん!私達も一緒に看板作りましょうよ!」

ともえ「でも、材料はあるの?」

ルリアン「それなら倉庫にあったはずです。持ってきますよ」

 

 

 ともえはハケを手に持って考え込んでいた。

 看板のデザインを描いて欲しいだなんて言われても、ともえは別に絵がちょこっと描けるだけでこういうのが得意な奴ではない。

「ともえさんならできますよ!」

 なんて押されてもう後には引けないようなそんな感じがある。

 

シマリス「どうしたんですか?手が止まってますよ」

ともえ「そんな事言われても」

シマリス「ヒトって大したことないんですね。あなたと会ってそれがよくわかりました」

 

 トゲのある言葉。

 

シマリス「でも、庭園を直そうとしてくれたのは嬉しい。その思いはきっと嘘じゃないはずだから。私は他の子の心が読めるわけじゃないけどあなたが苦しんでるのはわかった。だからなのかな、あなたにハーブティーを飲ませたのは」

ともえ「あのハーブティー、とてもよかったです。そのおかげで少しは勇気持てましたから」

シマリス「よかった。あれを飲んでるとほんのちょっぴり勇気がもらえるんですよね。あっ、そうだ!サンドスターフラワーを描いてみるのはどうでしょうか」

ともえ「サンドスターフラワー見たことがない…」

シマリス「じゃあちょっと付いてきて」

 

 ともえは一旦ハケを置いてサンドスターフラワー畑を見にシマリスと共に向かった。

 

 

 

 サンドスターフラワー畑。

 虹色の花が辺り一面に広がっている。

 シマリスはニコニコしながら花畑の中に入ってともえにこう呼びかける。

 

シマリス「ほら、ここにある花達がサンドスターフラワーなんです!」

ともえ「綺麗…」

 

 太陽に当てられて虹色に輝く花々。

 地面には反射してできた虹色の道が出来ていて、それはもう虹の上を歩いているかのような気分にさせられること間違い無しの世界だった。

 

シマリス「こっちに来てよく見て。この花はね、こんな風に虹色に輝いていて種も虹色なんです!」

 

 さっきまでのどこかヒトであるともえに大して距離があったシマリスもこの虹色の花の前ではそんな物気にならないみたいだ。

 ひとまずスケッチしておこう。

 ともえはバッグからスケッチを取り出しサンドスターフラワーを描き始めた。

 なんとなくともえはスケッチするのは苦手だったんだと思った。

 

シマリス「ペンを貸してください、ここはこういう風な感じだと思うんです」

 

 赤ペン先生登場。

 シマリスは普段から花を見ているからかほぼ正確な花の絵を描いてみせる。

 

シマリス「それで色は…」

ともえ「これ使って」

 

 そう言ってシマリスに色鉛筆セットを開けて見せた。

 シマリスはそこから必要な色の鉛筆を取り出して塗り始める。

 

シマリス「こんな風に看板に描けばいいかと思います」

ともえ「おお…」

シマリス「さ、看板作りに戻りましょう!」

ともえ「うん、わかった」

 

 ヒョコヒョコヒョコ。ムクムクムクムクッ!

 たくさんのセルリアンが花畑に突如として現れ合体し巨大なセルリアンになった。

 そのセルリアンはヒトのような形をしており、見るだけで不快になること間違い無しの姿をしている。

 

シマリス「!?」

ともえ「なに…あれ?」

 

 巨人型セルリアンは手を上げて花畑やともえ達目掛けて振り下ろされそうになったその瞬間、

 パッカーン!!とセルリアンは崩れ落ちた。

 

カンザシ「アハハハ!おまたせー!」

 

 セルリアンに向かってカンザシは飛び蹴りをお見舞いし見事に着地。

 その後は腰を少し振りつつ手を上げて存在をアピールするカンザシ。

 実写版デビルマンの冒頭で見た動きによく似てる。

 

ともえ「カンザシちゃん…」

カタカケ「カンザシさん、アピールしてる場合ですか!」

カンザシ「おっといけねえ」

 

 崩れ落ちて大量の個体へと戻ったセルリアンが襲いかかってくる。

 カンザシとカタカケはまるでバレエを踊るような動きで避けては蹴り、避けては蹴りを繰り返していき花畑から遠ざけていく。

 そうして少しずつ減っていったセルリアンは最後のあがきか演出のためか残った力でヒト型のセルリアンとなり二人に襲いかかる。

 さっきまで潰していったセルリアンと比べたら戦いごたえのある敵ではないだろうか。最後の力とは思えない強さがある。

 

カタカケ「ここはカンザシさんに任せました」

カンザシ「あいよ。この姿でこれを見せるのは初めてだよ」

 

 聞いたことのない言葉がともえの耳にはっきりと聞こえる。

 その言葉と共に寒気を覚え、その場に崩れ落ちそうになる所をカタカケに助けられる。

 目は黒色に染まり、本性を向き出す。

 カンザシの羽は黒い鳥へと変わってヒト型セルリアンを襲う。

 セルリアンは手で何度も払おうとするが払えず黒い鳥に食べられていった。

 

カンザシ「セルリアンなんぞ大してうまかないだろうが、おやつくらいにはなるだろうよ」

カタカケ「あんなまずいものをよくもまあ…」

シマリス「…」

 

 シマリスは眼をぱちくりとさせた。

 あれがフレンズのすることなのだろうか?

 というかあのフウチョウはフレンズなんだろうか。

 動物の特徴があるんだからフレンズには変わりないんだろうけれど、あれはフレンズのするようなことじゃない。

 

カンザシ「お、どうした?シマリスちゃん?随分と怯えてるように見えるが」

シマリス「な、なんでも…ないです!」

カタカケ「あなたがあんなの見せるからですよ」

カンザシ「しょうがねぇじゃん!あそこはああしたいなと思ったからやっただけで」

カタカケ「はあ…」

カンザシ「ため息つくなよ!ため息つかれた人の気持ち考えたことあるの?ねえ!お母さんが――」

カタカケ「そこまで」

シマリス(本当に、なんなんだ…この人達は…)



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#04-10 あたらしいにわ

カンザシ「いんやー!まさか意味もなくセルリアンが湧いてくるとは思わなかった」

カタカケ「あんなことしなくても倒せたと思うんですけどね」

カンザシ「確かに!ありゃあワンパンチ・ワンキックで沈むレベルの雑魚さ加減だった」

ともえ「すごかったよ二人共」

カンザシ「えへへー。それほどでもないな!」

 

 呆れたような顔でカタカケはカンザシを見た。

 

カタカケ「シマリスさん、大丈夫ですか?我々が何か怖い想いをさせてしまったようで…。ほら、謝って!」

カンザシ「すいませんでした」

シマリス「いいんです!私がフレンズのことよく知らなかっただけですから」

ともえ「それにしてもよくわかったね。セルリアン?が出てきたの」

カンザシ「フウチョウセンスのおかげさ!」ドヤァ

カタカケ「…」

 

 そんなセンスはどこにもない。

 四人が戻ってくるとイエイヌ達が風鳥達のところにやってきた。

 

イエイヌ「あんなに速く走っててびっくりしましたよ!」

パンダ「どうやってあんなに速く走れるの?教えてー!」

カンザシ「フウチョウにのみ許された高速移動だから真似するのは難しいと思うぜ。実はフウチョウは足が速いんだ」

「「すっごーい!」」

カタカケ「嘘を教えるな」

イエイヌ「えっ、嘘だったんですか?」

カタカケ「少なくとも我々はそんなに速く走れません。錯覚ってやつですよ」

レッサー「そうなのかなー?」

ルリアン「そろそろこちらは作業を再開しませんか?」

カンザシ「んじゃ、頑張れよカタカケ」

クジャク「頑張れよじゃない、お前も頑張るんだぞ」

カンザシ「それもそうだな。休憩することを頑張るわ」

クジャク「ダメだこいつ」

 

 

 ともえも作業に戻ることにした。

 今なら描けそうな気がする!

 下書きしてシマリスに確認してもらいつつ、清書に入る。

 カンザシはともえの方に付いてカタカケがいないのをいいことにゆっくりと休んでいる。

 

シマリス「…あの人休んでるんですけど注意した方がいいんじゃないんですか?」

ともえ「うーん。助けてくれたし休ませてあげようよ。それになんかあったら起こせばいいよ」

シマリス「そうしましょうか。あっ、ここ紫です」

 

 複数のペンキを混ぜてできた紫や他の色を縫っていく。

 できた。ともえはシマリスの方を見る。

 にっこりと微笑んだ。

 よかった。出来た。ちゃんとした看板が出来た。

 

シマリス「後は乾かすだけですね」

ともえ「ねえカンザシちゃん、この看板乾かしてくれない?」

カンザシ「えー!いやd…待てよ、いややろう!」

 

 バサバサバサバサ。

 軽く羽根を揺らすだけで少しだけ大きな風を起こして乾かした。

 

カンザシ「このぐらいでいいか?」

 

 少しだけ看板に触って乾いてるか確かめるともえ。

 

ともえ「大丈夫、ありがとう!」

カンザシ「よし!じゃあ後は持っていくだけだな」

 

 カンザシは看板を持ってそそくさと庭園へと向かった。

 夕方。庭園まで行けばカタカケ達の手によって完成間近になっていたがさすがに花は咲いていない。

 風鳥達は看板を掴んで飛び上がり、看板を入り口に掛けた。

 

イエイヌ「うわあ…ともえさん!すごいです!」

ともえ「そう、かな」

ルリアン「よく出来ていますね。ともえさんが絵を描いてシマリスさんがアドバイスした感じでしょうか」

シマリス「そうなの!ルリアンさん、私頑張ったよ!」

ルリアン「よしよし」

 

 ルリアンはシマリスの頭を撫でた。

 

ルリアン「さて皆さん、せっかくですから完成した庭園でパーティーでもしませんか?」

イエイヌ「お手伝いしてもいいですか?」

ルリアン「ええ、助かります」

 

 ルリアンとイエイヌはパーティー料理を作るためにキッチンへと向かった。

 

カンザシ「パーティーするのはいいけどせっかくなら花を見ながら食べたかったな」

カタカケ「仕方ないでしょう。"奇跡"が起こらない限りそうすぐには咲きませんよ」

カンザシ「ま、しゃーないか。どんな料理が来るんだろうなあ」

 

 ワクワクしながら待つカンザシだった。

 

 



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#04-END 不都合で唐突な奇跡

 パーティーが始まった。

 ブロッコリーやゆで卵をマヨネーズで和えたサラダや花の形をした具材が入ったちらし寿司。

 

カンザシ「うんまい!これイエイヌが作ったんだろ?」

イエイヌ「はい!私が作りました!」

クジャク「専属料理人にしたいくらい美味しいな」

 

 ともえは適当にちらし寿司を皿に盛り付けて殺風景な庭を眺めながら食べ始めた。

 

イエイヌ「ともえさん、どうかしたんですか?」

ともえ「早く咲かないかなって」

イエイヌ「早く咲いてほしいですよね」

ともえ「早くても数日だっけ」

イエイヌ「そうですね」

ともえ「あたし、ちゃんとこの庭園を直せたのかな」

イエイヌ「きっと直せたと思いますよ」

ともえ「そうかな。なんだかちゃんと咲かない気がしてしょうがないんだ」

 

 咲かない花なんてまるで今のあたしかもしれない。

 

ともえ「咲いてくれればいいんだけど…」

 

 ふと空を見上げる。

 あたしや私を照らす無数の星。

 この星達みたいにあたし達も輝けたらよかったのに。

 

『できるさ。この我がいるんだからな。どんなに闇が深くてもこの我が照らし祓ってみせよう』

 

ともえ「あたしにもできるかな」

 

 夢の中の存在が言うにはできるって言うけれど、自信ってものがない。

 あの人形はあたし達を信じてる。できることに。

 そのためにどんな壁も壊してくれるかもしれない。

 でも今はその人形はいない。ここが現実だからだ。

 きっとできないと思ってしまえばあの人形にもう会えないような気がする。

 

ともえ「…信じてみる。自分も、あの人形にも」

 

 赤い目は微かに輝く。

 ともえは自分の中にナニカを感じ取った。

 でもそのナニカがなんなのかはよくわからなかった。

 

ルリアン「あれは…」

シマリス「どうかしたんですか?」

ルリアン「いや、なんでもありません」

 

(あの時に見たアレとよく似ている…!)

 

パンダ「見てよみんな!花が咲き始めたよ!」

 

 さっき植えた種が急激に成長して花が咲き始めた。

 突然の出来事に驚くルリアンとシマリス。

 レッサーとイエイヌとパンダは興奮していた。

 

レッサー「こんな魔法みたいなことが起こるなんて!」

カンザシ「マホウ!」

 

 咲いた花はどんどん増えていって花畑が出来上がってしまった。

 シマリスは思わず花畑の方に行き、その場にあった花を観察してみた。

 

シマリス「うそ…本当に咲いてる」

 

 どの花もみなちゃんとした育て方じゃないとここまで綺麗に咲かない。

 それがたった数時間で咲くなんてどんな魔法なんだろう。

 ありえない。こんなことありえない。

 

シマリス「本当に、本当になんなんですか!あなたたちは!あなた達が来てからこんなおかしなことが立て続けに起こるなんて」

カンザシ「あくまでフウチョウだからな私達は」

カタカケ「フウチョウは万能生物だとは思われたくないですね…」

クジャク「こんなサプライズを用意しているとは中々やるなあ、ともえよ」

ともえ「え?ええ!?あたしのせい?」

クジャク「どうだろうなあ。だが、お前のおかげでこうなったのかもしれないな」

パンダ「ともえって魔法使い!?」

ともえ「ち、ちがうよー!」

 

 ともえには自覚なんてない。

 自分の力で咲くはずなんかない。ヒトにそんな力はないとわかっているから。

 ルリアンはともえを見ながら色々と考える。

 

(私をこうしてくれたのはきっと、ともえさんのおかげなんだ。でも、ともえさんにはそうしたという記憶はきっとどこにもない。あの時は恐ろしいなにかだったけれど、今は違う。ともえさんは絵本なんかで出てくるヒトのまんまだ。ともえさんならどんなことがあっても乗り越えていけることでしょう)



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Tutorial Dream Drop Distance

 夢の中。

 せっかくですからとルリアンさんが用意してくれた布団で寝ることになった。

 あの夢の続きを見れるだろうか。

 また嫌な夢じゃないかという考えが頭を過る。

 

 

 次に眼を開ければそこは夜中の噴水広場。

 金髪の人形は噴水広場の石に座りながら油揚げを食べていた。

 こっちに気付くと立ち上がり近付いてきた。

 

ヒーナ「待っていたぞともえ」

ともえ「よかった。ちゃんとまた会えて」

ヒーナ「我も会いたかったぞ」

ともえ「ねえ、ここはどこなの?」

ヒーナ「ここは様々な存在が見る夢が集まる国、ハーミットネイション。この国にあるものすべてが誰かの夢で出来ている。例えばこの噴水とか」

ともえ「あたし達もそうなの?」

ヒーナ「そりゃあそうだ。夢で出来てない者はこんな所に来れない。でも、我らみたいにしっかりと意識のある存在は中々居ないぞ」

 

 この国の話をしながら夜中の道を歩く。

 ヒーナのおかげかはっきりと周りの景色が見える。

 照明柱がちらほらと見えるが確認できるくらいの明かりが灯っているだけで期待はできない。

 ヒーナというランタンだけが今のあたし達の光だった。

 

ヒーナ「ほら、あれを見てご覧」

 

 ヒーナが見る先には屋根がある丸型のベンチを足場にして立つゴールデンタビータイガーがいた。

 

ヒーナ「我らに見えている彼女は彼女の夢から産まれた幻だ。会話することもできるし関われば夢を見ている本人に少しだけ影響を及ぼす事ができるんだ」

 

 タビーはフルートを吹き始めた。

 

ともえ「なんでベンチの上でやってるんだろう?」

ヒーナ「さあ?でもベンチの上でやったらなんかかっこいいってやつなんだろうな。なんだかわかる気がする」

 

 こっちにも綺麗な音色がよく聞こえる。

 まるで歓迎しているかのような明るくも悲しくもある曲だった。

 

ヒーナ「いい演奏だな」

ともえ「そうだね。でも、ベンチの上に座る必要はあったのかな?」

ヒーナ「これしたらかっこいいって思ってやってるんだろうな。なんとなくわかる気がする」

ともえ「ああ」

 

 演奏をし終えればタビーは挨拶をし始めた。

 

タビー「今宵はこのわたくしめの演奏会にご参加いただきありがとうございます。では次の一曲は――」

ヒーナ「もう行こう、ともえ。あれは長くなるぞ」

ともえ「もう少し聞いていこうよ」

ヒーナ「これ聞いてたら起きる時間になるぞ」

ともえ「…わかったよ」

 

 名残惜しさを残りつつ二人は演奏会を抜け出した。

 先がはっきりとしない場所だけれど、段々この闇にも慣れてきた感じがする。

 今まで見えなかった建物なんかの形がうっすらとだけどともえには見えた。

 ここは、公園だ。

 噴水がある時点でそう考えるべきではあったのかもしれない。

 闇の中の公園には何人かのフレンズの形を見ることが出来、何かをしていたり叫んでいたりしていたがそれがなんなのかはわからなかった。

 

ともえ「ここっていつも夜なの?」

ヒーナ「時期にもよるが基本ここは夜だ。夜な上に時々不気味なもんも出てきたりするからここがあの世と勘違いしてしまいそうだ」

ともえ「あの世」

 

――待っても待っても来やしない。

――もう辛くて耐えられないからさようなら。

 

ヒーナ「…?大丈夫か?」

ともえ「大丈夫。少し、ほんの一瞬だけ頭が痛くなっただけ」

ヒーナ「そうか。ちょっとあそこで休もう」

 

 『あの世』という言葉があたしにとってどういう意味を持っているんだろうか。

 よくわからない。

 近くのベンチに座って闇とヒーナを見つめる。

 ヒーナを見ているとどこか安心する。

 まるでお気に入りのぬいぐるみを抱いているような、心の支えになってくれるようなそんな存在。

 この子になら話しても問題ないようなそんな風に思える。

 →打ち明ける  打ち明けない

 

ともえ「ねえヒーナちゃん、少し話を聞いてくれる?」

ヒーナ「いいぞ」

ともえ「さっき頭痛がしたのは少しだけ思い出したんだ。けどまた、嫌な記憶だった。『待っても待っても来やしない。もう辛くて耐えられないからさようなら』って」

ヒーナ「さようならか。何かからさようならしたってことだろうがまだわからないな」

ともえ「記憶を取り戻すために進むのは怖いけど、ヒーナちゃんがいてくれるならあたし頑張れるかも」

ヒーナ「そうか。それなら居てやらないとな」

ともえ「ありがとう。あたし、頑張ってみるよ」

ヒーナ「さて行こうか」

ともえ「うん」

 

 夢の中をヒーナを先頭にして歩いていく。

 公園の出入り口に辿り着いたがおかしな壁と扉があって進めなかった。

 

ヒーナ「ゲーム的に言えば次のステージに進むために鍵が必要なんだ」

ともえ「鍵?」

ヒーナ「ほら、首につけている鍵があるだろう?ここは多分それで開けられる」

 

 ともえは首につけていた鍵を取って扉にある鍵穴に挿した。

 ガチャ。

 

ヒーナ「ほら開いた。こういう場から別の場所に行くには鍵が必要だ。我らの力だけではここの扉を開けるのが精一杯みたいだな」

ともえ「もしかして次の場所にいる誰かに話しかけて親睦を深めれば鍵がもらえたりするの?」

ヒーナ「そうだ。我らは夢を自由に行き来できない。だからこうして鍵がないと入れない。さあ次の場所に行こう」

 

 扉を開ければそこは全くの別世界。

 明かりのついたどこかの建物。

 フレンズ達を使った映画のようなポスター。

 グッズ売り場らしき所には『ここでしか買えないPPPグッズ!』とPOP広告がある。

 

ともえ「PPPって確か…」

 

 飛行船の中がそんな名前のアイドルグループ一色で、私の記憶に関係のある人物がいるであろう大事な存在。

 

ヒーナ「アウロラシアターか。ともえよ、PPPは知っているか?」

ともえ「知ってるよ。けどよく知らなくて」

ヒーナ「ここはPPPが普段活動しているシアターなんだ。夢の世界にこんなのをこさえれるのはよっぽど強い思いがあるからに違いない」

 

 カラッカラッカラッカラカラ。

 

ヒーナ「ともえ隠れてろ」

ともえ「え?」

ヒーナ「いいから!」

 

 ともえは言われるがままに隠れられそうな所に隠れて様子を見ることにした。

 変な音の正体は不気味な操り人形達。

 ヒーナはどこからか取り出したハサミのような武器を逆手に持って人形達に向かっていった。

 狭い通路で人形達と戦うハサミを持った人形。

 ハサミと硬い腕パーツがぶつかる音が響く。

 

ヒーナ「今だッ!」

 

 人形達の隙を見てヒーナは飛び上がり、糸を断ち切った。

 糸が切られた人形は動く事ができなくなりその場でバラバラになって床に沈んでいった。

 

ヒーナ「――いいぞ、ともえ!」

 

 ともえは出ていこうとしたが足を止めた。

 

ともえ「ヒーナちゃん後ろ!」

ヒーナ「えっ?」

 

 ヒーナが振り向くと新たな人形が襲いかかろうとしていた。

 ヒーナは咄嗟にハサミを盾にして人形からの攻撃を防ぎ反撃しようとした瞬間、バババババッ!と人形の背中が撃たれて怯み、その怯みをヒーナに突かれてトドメを刺された。

 

?「まさか、こんな場末の国にお客が来るだなんて」

 

 クセ毛で白髪、スケバン姿の女が機関銃を持ってヒーナやともえの前に現れたのだった。




カラカル「ジャパァァァァァァァァァァリレェェェス!それは、熱きフレンズ達の戦い!」
マナヅル「カッ、カラカルさん?ど、どうしたんですか!?」
カラカル「ジャパァァァァァァァァァァリレェェェス!それは、人生の縮図ッ!フレンズ達のロマン!」
マナヅル「あ、あの!もしもし!聞こえてますかー!どうしよう…えっと次回!『れーすするけもの』。お楽しみに~」


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5ページ れーすするけもの STAGE-1<嘘付きと幻のいる夢世界>

大衆の心に残していった思い出が作り出したのは歌声と拍手喝采が響き渡る劇場。
楽屋に入るには関係者でないと難しいでしょう


「まさか、こんな場末の国にお客が来るだなんて」

 

 彼女はクセ毛に白髪、そしてスケバンという古臭く感じる姿でともえ達の前に現れた。

 

ヒーナ「感謝しよう。クイーン」

アンゼ「クイーンだなんてその名前はもう捨てた。私はアンゼ。元セルリアン」

ともえ「元…!?」

 

 セルリアン!?

 

アンゼ「肉体が滅んじゃってね、そのところはお前自身がよく知っているんじゃないのか?お前達さえいなければ今頃私はパークを征服していたのに」

ヒーナ「悪いが、我はその時居合わせた"我"とは違う」

アンゼ「あぁ…そっか。世代交代ってやつか」

ヒーナ「神に世代交代もない」

アンゼ「ふーん、よくわかんないの」

ヒーナ「肉体が滅んだと言っていたが主は誰かに倒されたのか?レポートでは逃亡した以降消息がわからないと書いてあったが」

アンゼ「ムクドリに弱ってるところを突付かれて、こうだ。どうだ?きゅーとでくーるって奴だろ?この姿気に入ってるんだ」

 

 全身を見せるようにアンゼは回ってみせる。

 キュートでクールかはさておき。

 

ヒーナ「それでその後ヒトのコピーを最後に作って滅んだと」

アンゼ「は?何言ってんだオカルトギツネ」

 

 アンゼにとってこの発言は寝耳に水だった。

 

ヒーナ「お主最後っ屁でヒトのコピーを作ったんだろ?」

アンゼ「いや作ってない。あのさ、セルリアンっていうのは輝きが欠けたフレンズのなりそこないのようなものだ。内心フレンズや輝きを持つ存在に憧れと嫉妬があってだから輝きを求めて輝きを食べてそいつになろうとするんだ。でもな、どれだけ食ってもセルリアンは輝くことができない、輝きを生み出せない。例外もいるがそいつは輝きに囲まれたからこそ輝けたんだと思うぞ。だからヒトをコピーできたとしてもそいつはヒトではない。セルリアンだ。セルリアンは無関係なヒトのコピーなんて作れやしない」

ヒーナ「そうかそれはすまなかった」

アンゼ「ここでずーっと話してるのもあれだしステージの方に行こうか。あそこなら沢山椅子がある」

 

 アンゼに案内されてステージへと向かう。

 廊下の壁には沢山の作品のポスターが貼られている。

 どれも見たことありそうでないものばかり。

 

アンゼ「ポスターはあまり見るものじゃない、特にここのはな」

ともえ「なんで?」

アンゼ「夢を形にしたポスターなんだ。歪んでるのが時々紛れ込んでるから見すぎるとひどいことになる」

ともえ「そうなんだ。あっ、そうだ。世代交代って?」

ヒーナ「フレンズには死という概念がない。ただあるのは忘れ去ること。死ぬような傷を負って倒れたり、寿命を迎えれば記憶などをすべてやり直して新しい存在に生まれ変わる。その新しい存在が前世という生まれ変わる前の事を覚えている事は滅多にない。我みたいな神聖なるフレンズでも世代交代のことは詳しく知らない。それほど未知の要素なんだ。寿命と言っても匙加減でその辺どうとでもなる。生きたいと思えば長く生きられるし、もう死にたいと願えば寿命は縮んで最後には消えてしまう。本当に曖昧で難しいものだ」

アンゼ「フレンズってややこしくて難しいんだな。ヒトと変わらない。だが死ぬ事を望めばゆっくり死にに行くのは幸運かもしれないな」

ヒーナ「幸運?どこがだ?」

 

 ヒーナがキレかけてるのを察してアンゼはすぐに詫びを入れる。

 

アンゼ「ああすまない。価値観の違いってやつだ。オカルトギツネも一度ヒトの闇を知ればわかるよ、死にに行ける事がどれだけ幸運かって事を」

ヒーナ「カコ博士がそう思っていたのか?」

アンゼ「いや、彼女はとっても輝いていたさ。でなきゃ私は彼女を食べようとすら思わない」

ヒーナ「それは安心した」

 

 ヒトもフレンズも難しさとややこしさは同じ。

 カコ博士とはどういう人物なのだろう?なんて思いながらともえはステージへと足を踏み入れた。

 



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STAGE-1 Chrysalis

カコが行方不明になったと聞いた時は驚きもしなかった。
奈々は驚いてたみたいだけど、きっとカコは今パークにいるって信じていたから?
私も、いや私達もいつかはパークに向かってみせる。
そのためにももう少し活動を続けなくちゃいけない。
そんな時にかばんと名乗る子供から通信が届いた。

「ミライの日記」より


 アウロラシアターのステージはオーロラをイメージとしたカーテンや寒い地域に住むフレンズ達のシルエットが壁にデザインされていたりと子供向けという印象を受ける。

 現在ここに居るのは嘘つき達だけである。

 

アンゼ「なるほどな。夢っていうのは起きてる時の記憶や心の中で思っていた物が混ざって出来ているとか見た事がある。ならばお前がここに来たのもそういうことなんだろう。心の奥底に眠る記憶がここに連れてきた。多分一度はここに来ているんじゃないか?」

 

 アンゼは記憶を取り戻すためにここまで来たというともえの話を聞いて意見を出した。

 

ともえ「そうなのかな」

アンゼ「どうだろうな。一先ずここを周ってみるというのもありだと思うぞ。一般客として来ていたはずなんだから奥までは行かなくても大丈夫だろう。もしそれでも引っかからなかったら奥まで行けばいい」

ヒーナ「そうと決まればさっそく行動に移すか。お前も来るだろ」

アンゼ「当たり前だ」

 

 座席から立ち上がりステージの近くまで行ってみる。

 

アンゼ「ここがPPPが普段ライブをしている場所だ。ライブしてない時は演劇とかをしているらしいな」

ヒーナ「よく知ってるな」

アンゼ「この国に居続ければ嫌でもわかる」

 

 ステージに上がってみると一瞬だけガラガラの席がすべてお客とフレンズで埋まっているように見えた。

 

ともえ「ここでライブをしてたんだ」

アンゼ「実際に見たことはないがここには楽しい思い出が多くあった」

ともえ「悲しい思い出もあったの?」

アンゼ「…まあな。次行こう」

 

 ステージを降りてともえ達は入ってきた扉とは別の扉から出ていくとこの建物ではじめてのフレンズに出会った。

 ヒメアリクイだ。

 ヒメアリクイはひょこっと積まれたダンボール箱の横から顔を出し、こちらを見ると顔を引っ込んで逃げてしまった。

 

ともえ「今のは…」

アンゼ「ヒメアリクイだ。私がここに来てからずっといる。だけど私の顔を見るとすぐ引っ込むんだ」

ヒーナ「それはお主の顔が怖いからだろ」

アンゼ「そんな馬鹿な」

ヒーナ「鏡でも見ろ」

 

 近くにあったトイレの鏡を見るアンゼ。

 鏡にはアンゼのきつい顔がよく映り込んでいる。

 

アンゼ「うわっ、私の顔怖すぎだろ。こんなきつい顔してたらそりゃ怖がられる」

ともえ「…?」

 

 ともえは自分が鏡に映り込んでいないことに気が付いた。

 少し目をこすってもう一度鏡を見ても映り込んでいない。鏡に手を触れてもそこに自分の体は映らなかった。

 

ともえ「あのアンゼさん、ヒーナちゃん。あたしのこと鏡に映ってる?」

アンゼ「は?何を――映ってない!どういうことだオカルトギツネ」

ヒーナ「我にもわからん。ともえのことをすべて知ってるわけじゃない。ただ」

アンゼ「ただ?」

ヒーナ「ともえは普通のヒトではない。でもお主みたいにセルリアンってわけでもない。だからわからないんだ」

 

 "普通のヒトじゃない"

 そんなはずがないはずなのに、どうしてか否定しきれない所があるのはなんでだろう。

 でもその否定しきれない所がよくわからない。

 

アンゼ「ま、ヒトじゃなかろうがどうだっていい話だな。ここといいパークといいあそこに集まるのは大抵ヒトじゃない奴らだ」

ヒーナ「それもそうだな。さて周るとしようか、なあともえ」

ともえ「う、うん」

 

 なんとなく特に建物内のどこに行こうかなんて決めていなかった。

 ただアンゼが適当に先を歩いているので付いていっている感じだった。

 そうして付いていってれば壁に手作りの装飾が展示されてあるのを見つける。

 

ともえ「かわいい」

 

 展示品なんて本来触っちゃいけないものだ。

 そんなことお構いなくともえは触れてしまう。

 するとバチバチッと静電気が走ったような痛みと共に忘れていた記憶が一部分だけ呼び起こされる。

 

アンゼ「おい、大丈夫か」

ともえ「大丈夫」

ヒーナ「何か思い出したのか?」

ともえ「ここだ…。ここで私はあの子と初めて出会ったんだ」

ヒーナ「あの子って?」

ともえ「PPPの…確か、ロイヤル。そう!ロイヤルだよ」

アンゼ「ロイヤルペンギンか。前にここで見たことがあるな。あの時は練習をしてたような」

ともえ「探せば会えるのかな?」

アンゼ「いるかもしれないがそう簡単に見つかるとは思えないな。いくら夢の中でも四六時中ずっと居るわけじゃない。時間や日によって居る時といない時があるんだ」

ともえ「そっか。でも会えなくはないんだよね?」

アンゼ「もちろん。ただいつになるかはわからないしどこに現れるかもわからない。それだけは覚悟しておいたほうがいい」

ともえ「うん」

ヒーナ「一先ず目的は決まったってところか?でも一応このシアター内をすべて周りきっておいたほうがいいと思う」

 

 眠気がともえに襲ってくる。

 もう時間切れなのだ。

 

ともえ「…眠い」

ヒーナ「時間切れか」

アンゼ「時間切れ?」

ヒーナ「起きる時間になったってことだ。じゃあなともえ、明日の夜会おう」

ともえ「うん。またねヒーナちゃん、アンゼさん」

アンゼ「おう、また会おう」




この話全体すごいぐだぐだしてます


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#05-1 この記憶は"いつ"の思い出なのか

 カンザシとカタカケとヤブノとクジャクはともえ達より先に駅へとやってきてともえ達が来るのを待っていた

 

カンザシ「お前もしかしてずっとここにいたのか?」

 

 カンザシは車掌室で待機し続けるさくらを見てそう言った。

 

さくら「ナニモイワレナカッタカラ」

カンザシ「…わかったよ。次からはともえに付いていってやれ」

さくら「ワカッタ」

ヤブノ「すごい!ボスって喋れるんだ」

さくら「マアネ」

ヤブノ「ワァーー!」

 

 ヤブノは興奮してさくらをベタベタと触る。

 ヤメテヤメテと言われてもヤブノは止める気がない。

 

カンザシ「こいつ、ハッピーセットのCMのガキみたいだな」

ヤブノ「なんか言った?」

カンザシ「いや、なにも」

 

 カンザシは車掌室から出てカタカケの所へ行った。

 カタカケはともえ達がいる庭の方を見ていた。

 

カタカケ「島の長が何かやってることどう思いますか?」

カンザシ「どうもなにもないだろう。好きにさせればいい」

カタカケ「なにか悪影響が出なければいいですが」

カンザシ「ただ夢世界を行き来しているだけだろ?それにあそこは記憶を取り戻すのには必要な場所なはずだ」

カタカケ「夢世界の奥に辿り着ければの話ですがね。辿り着くにはそいつにとっての鍵を見つけて下に潜り続けなくちゃいけない」

カンザシ「ともえ一人では無理だろうが島の長が付いてる。仮に長が倒れたとしても長の仲間が立ち上がるだろうし問題はないと思うがな」

クジャク「島の長のことを話しているようだな」

カタカケ「あなたには関係のない話です」

 

 クジャクが風鳥達の会話に割って入って来た。

 カタカケはクジャクに冷たい態度を取って会話から出てもらおうとするが無駄だった。

 

クジャク「パークに関係することなら私に関係のあることだ」

カタカケ「そうですか…」

クジャク「島の長は預言者だ。何らかの方法で未来を知って行動に移してる。よくわからないがともえに関わっているならそれ絡みってことだろう」

カタカケ「ええ、知ってますよその位。どういう予言を受け取ってともえに関わっているかが気になるだけなんです」

カンザシ「そうか!だから心配してたのか!もしかしたらともえが殺されてしまうんじゃないかって。契約が果たせなくなるんじゃないかって」

 

 カタカケに指差す位に思ったことを口にした。

 ピコッ。優しい暴力だった。

 

カンザシ「ピコピコで叩くことはないだろう!」

カタカケ「ちょっと苛ついたので」

カンザシ「ひどい!」

 

 

 新しくなった庭をあたしはイエイヌちゃん達と見てからここを離れようとしていた。

 綺麗な花が咲き誇っていてまるで昨日までの瓦礫などに埋もれた残骸が夢のように思えた。

 夢でも起きてるのになぜか現実のように思えるあの世界よりも。

 

シマリス「本当に不思議、なんで急に咲き始めたんだろう」

イエイヌ「そんなにすぐ咲く花じゃないんですよね?」

シマリス「基本どの花もすぐには咲かない。だからこそ不思議で」

イエイヌ「サンドスターのせいだったりするんじゃないでしょうか」

シマリス「それはない」

 

 きっぱりと否定した。

 

シマリス「万能物質サンドスターでも花なんてすぐに咲かせられない。もし咲かせられるんならサンドスターフラワーだってすぐに咲くはず。これはよく調べる必要があるかも」

 

 深く考え込むシマリス、特に考えもせずにあたしと共に花を見ているイエイヌ。

 

ルリアン「考え過ぎはよくありませんよシマリスさん。まずは意外と早く咲いたなくらいでいいんです」

シマリス「…そうですね!そういうことにしておきましょう」

ともえ「綺麗な花だ。なんだか見てて癒やされる気がする」

 

 荒んでる気がする心をこの花の綺麗な色と少し強めの匂いで癒せるような気がする。

 

ルリアン「フラワーセラピーという療法がヒトの世界にはあるそうです。色んな花の匂いや色、形なんかで悩み事やストレスを無くしていく。あっ、そういえばこのパークにジャパリセラピーというセラピーが計画されていたようですが白紙になったみたいです」

 

 ジャパリセラピー…?

 どこかで聞いた覚えがある。

 

――はじめまして、私はレトロ。今日から君の主治医になる者だ。

――気に入らない所は多々あると思うがまずは君がどういう人間なのかを教えてほしい。

 

 ワタシ達は頭を抱えた。

 レトロって誰なんだろう。

 これはいつの記憶なんだろうか。

 また変な事を思い出していた。

 

シマリス「ともえさん…?どうかしたんですか?」

ともえ「いや、大丈夫!うん!」

イエイヌ「もしかして何か思い出したんですか?」

ともえ「うん。セラピーの話聞いて思い出したから、あたしジャパリセラピーを受けたことがあるのかも。ジャパリセラピーって言葉なんだか懐かしく感じたし」

ルリアン「白紙になる前にテストクライエントとしてともえさんと同じ位の女の子をパークに住まわせて様子を見ていたようです。もしかしたらともえさんはその女の子なのかもしれません」

ともえ「そうなのかな」

ルリアン「どうかはわかりませんよ。もしかしたらその女の子の友達かもしれない」

 

 またこれで一歩自分の過去に近づけたかもしれなかった。

 ジャパリセラピー。

 あたしはどうしてそんなセラピーを受けることになったんだろう?



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#05-2 "だれ"が彼女の友達を誘拐したのか

今回の動物紹介で気になる事があったら報告なりして私に教えて欲しい。
ネットで調べた程度の情報を突っ込んだだけだから


 ともえ達はようやく駅へとやってきた。

 カンザシからすれば遅すぎるの一言だったろうがヤブノには早すぎるの一言だった。

 

ヤブノ「もっとゆっくりしていればよかったのに」

さくら「ハ、ハナセ!ハナスンダ!」

イエイヌ「あのヤブノウサギさん。さくらを離してあげてください」

ヤブノ「ごめんね」

さくら「フー、ヤットカイホウサレタ」

シマリス「ヤブノウサギさん、ここから公園は遠いでしょ、それでも行くの?」

ヤブノ「大丈夫!歩いて帰るから」

シマリス「それならいいですけど…」

ヤブノ「なに?心配してくれるの」

シマリス「いや、そんな!」

ヤブノ「あはは!そんなはずないよね。じゃあまた会おうシマリス」

シマリス「はい、また会いましょう」

 

 ヤブノは一足先に席に座った。

 

ルリアン「お土産のクッキーです。おやつにどうぞ」

イエイヌ「ありがとうございます!」

ともえ「ありがとう」

 

 ルリアンからお土産として受け取ったのはクッキーが入った袋。ここにいるお客さん全員のためにわざわざ用意してくれたみたいだ。

 よく見るとイエイヌとともえで袋に使われてる紐の柄が違う。

 イエイヌは赤色でともえは青色。

 

シマリス「記憶取り戻せるといいですね」

ともえ「うん!ありがとうシマリスちゃん」

 

 ポッポー!

 列車は動き出し、手を降って見送ってくれるシマリスやルリアン達が段々小さく見えていった。

 来た道を戻るのではなくグルっと一周して公園へと戻る。

 行きも帰りもまた違ったものが見れるというのは新たな発見に出会えそうで楽しいと思えた。

 

さくら「ヒダリガワニミエルノハ『ゴールデンライオンタマリン』ダ。ライオンナンテナマエダケドジツハオサルサン。ザッショクデ、ヨク『カエル』ヤ『コンチュウ』ヤ『カジツ』ナンカをタベルミタイナンダ」

ともえ「へー」

 

 さくらによるガイドが始まった。

 

カンザシ「いくら壊れてたと言ってもガイドとしての機能はそれなりに残ってるわけか」

クジャク「あのラッキービーストは壊れていたのか?」

カンザシ「ああ、壊れてたのをともえが直したんだ。だけどともえはそういうのに詳しいわけじゃない。ただ外見だけを縫って直しただけだ。それなのにこうやって動くんだぜ?すごいだろ」

クジャク「そうなのか。確かにすごいな。昨日もそうだがまるで魔法という言い方が正しい」

 

 クジャクはともえの方を見ながら、

 

クジャク「お前らみたいなのが付いてるんだ、やはりともえにはなにかある」

カンザシ「何かあると良いな。私は知らん」

クジャク「知らないのか?」

カンザシ「私はあまり仕事内容を見ないで動いたりしてるんでね。どうせ行った場所で知れるし、カタカケがほとんど目を通しているはずだからな」

クジャク「お前いつかそれで痛い目見そうだな」

カンザシ「実は前の仕事で一回泣きを見たけどカタカケのおかげでどうにかなった」

クジャク「そうか…」

 

 

 列車は目的地である公園へと到着した。

 さくらは車掌室からぴょんっと飛び出るとすぐに列車内にやってきてキョロキョロと見渡す。

 

さくら「トモエハドコ?」

ともえ「ここ!」

さくら「トモエハドコニイルンダ?」

イエイヌ「ともえさんならここに…ってともえさんとは喋ってくれないんですよね」

 

 とりあえずイエイヌがさくらを掴んで抱いた。

 

イエイヌ「さあ行きましょうともえさん」

ともえ「うん」

 

 未だにさくらとは仲良く出来ていない。

 仲良くしたいなという気持ちはあれど、喋ってくれないなら意味がない。

 雑談を交えつつ、ともえ達は公園に到着した。

 

レッサー「ここでお別れかな」

パンダ「皆で食べたごはん美味しかったよ!また一緒に食べようね」

イエイヌ「そうですね、今度はもっと豪華なの作って食べたいですね!」

クジャク「お前達とはまた会えそうな気がする。じゃあな風鳥達。私の面白いと思った物を潰すんじゃないぞ」

カタカケ「面白い物がどういう意味かはわかりたくないですが、それは本人次第なのでなんとも」

カンザシ「じゃあな、意味深扇子バード」

ともえ「そういう言い方は良くないと思うよ」

カンザシ「うっさい」

 

 あっさりとした別れではあったけれど別れを済まして公園を後にした。

 

 

 飛行船へと帰ってきた。

 相変わらず突然いなくなる風鳥達にともえは気付きつつ乗り込むと、飛行船はどこかへと向かって動き出した。

 

イエイヌ「なんだか飛行船に乗るの久しぶりですね、たった二日位だと思いますけど色々ありましたし」

ともえ「うん、公園と庭を直した」

 

 そしてヒーナと出会った。

 たった二日でも体験した事は多かった。

 この二日はあたしにとって大切な一歩を進むための準備期間とも言えたのかもしれない。

 

イエイヌ「あれ?フウチョウさん達は?」

ともえ「乗る前からいなかったよ」

イエイヌ「あの人達変な時にいませんよね」

ともえ「あはは、きっとなにか用事があったんだよ。そんな感じがする」

イエイヌ「次ってどこに行けばいいんでしたっけ?」

 

 スケッチブックをバッグから取り出して確認してみる。

 海の絵。

 

ともえ「次は海だ。海に行こう」

イエイヌ「海ですか――私、一度も海行ったことないんです。だからすごく楽しみです!」

ともえ「あたしもイエイヌちゃんと海に行くの楽しみ!」

 

 飛行船が突然大きく揺れた。

 

ともえ「うっ!?」

イエイヌ「な、何が起こってるんですか!?」

さくら「ケイコク、ケイコク。ナニモノカノシュウゲキニアッテイマス。ラッキービーストタチノヒナンユウドウニシタガッテクダサイ」

ともえ「ひ、避難!?」

イエイヌ「どうすれば」

 

 アワアワしている二人にさらなる衝撃と大きな派手な音がした。

 ドアが突然開き何かを投げ込まれる。

 投げ込まれたものから煙がムクムクと立ち込め辺りが見えなくなる。

 

イエイヌ「キャッ!?」

ともえ「イエイヌちゃん!!」

?「お前が例のヒトの子か。こいつを返してほしければレースに参加しろ。詳しいことは今から投げる箱の中を見ろ」

ともえ「イタッ」

?「すまない」

 

 ともえに向かって投げられた箱は見事にともえに命中し思わず悲鳴をあげてしまう。

 謎の襲撃者は一言詫びを入れつつ今にも落ちかけそうな飛行船からイエイヌを連れて脱出した。

 

カンザシ「おいともえ!大丈夫か!?」

ともえ「カンザシちゃん!イエイヌちゃんが!イエイヌちゃんが!!」

カンザシ「わかってる、早く出るぞ」

 

 カンザシの手がともえの腕を掴んで一瞬で飛行船の外へと脱出していた。

 カンザシの空いた手には投げられた箱を持っていた。

 

ともえ「イエイヌちゃん…」

 

 ともえは沈んでいく飛行船を眺めながらいなくなった友達の事を思っていた。



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#05-3 たのしいレース

ともえ「なんで変な時に居いなくなるの!なんでこんなときにいないの!」

カンザシ「仕方ないだろ私だって一応やらなくちゃいけないことあったんだから」

ともえ「おかげでイエイヌちゃんが、イエイヌちゃんが攫われちゃった!」

 

 泣き出すともえにカンザシは何も出来なかった。

 

カンザシ「悪かったよ。まずは落ち着こうぜ、私が言うのもなんだけどさ」

ともえ「落ち着いてなんて…!」

カンザシ「この箱もらったんだろ?だったら見てみようぜ。何かわかるはずだ」

 

 そう言ってカンザシは箱を開けてみる。

 箱の中にはゲストと書かれた何かの証明カードと手紙が入っていた。

 

カンザシ「なになに、『大切なモノは預かった。返してほしければ改造カートを使って競うルーニー・レースに参加しろ。参加するのに必要なものは一緒に入れたゲストカードだけ。それだけあればジャパリレーシング会場の受付ですべてやってもらえる。追伸 大切なモノは丁重にもてなすから心配はするな』あら誘拐した割に優しいやつ、なのかな」

カタカケ「誘拐した者なりのもてなし方があるのであまり期待しないほうが」

カンザシ「うわぁ!お前何急に現れるんだよびっくりするだろこのタコ!」

カタカケ「タコじゃない」

 

 突然湧いてくるカタカケの腕にはさくらが抱かれていた。

 

カタカケ「ともえさんすいませんでした。報告のために少し離れている時にこんなことになるなんて」

カンザシ「謝ったのはいいがこれからどうするかだよな。一先ず受付に行く必要があるってのはわかったけど、レース会場ってどこだ?」

カタカケ「あの大きな建物では?」

 

 大きくそびえ立つ建物が見えた。

 

カタカケ「ちょっと飛んで見てきてくださいよ」

カンザシ「えー…ちっ、しょうがねぇなあ」

 

 カンザシはあの建物に向かって一度飛んでからすぐとんぼ返りして帰ってきた。

 

カンザシ「あそこで間違いないみたいだ」

 

 カタカケはともえをしばらく慰めて落ち着かせてから、

 

カタカケ「じゃあ行きましょう。行かないことには何も始まらないみたいですし」

 

 

 ジャパリサーキット。ここはフレンズ達のロマンとか色々詰まった会場。

 アニマルガールが各々専用の機械で作った改造カートに乗って様々なレースに挑戦していたことだろう。

 でも今この島にはヒトらしき者はともえくらいしかいないと思われる。

 

アイアイ「ようこそ、ジャパリサーキットへ!私、受付のアイアイと申します」

カンザシ「ちーっす」

ともえ「こんにちは」

カタカケ「こんにちは。実はこれを持っていけばどうにかしてくれると聞いて持ってきたんですけど」

 

 そう言ってカタカケはゲストカードを出した。

 

アイアイ「あぁ~、あなたが例の…。ルーニー・レースの主催者さんから話は聞いてます。ちょっと待っててくださいね」

 

 アイアイは一度裏へと向かってからさくらとは違うラッキービーストを置いて受付から出てきた。

 

アイアイ「それじゃあ行きましょうか。主催者さんからは簡単な施設説明とルールブックの配布を申し付けられています」

 

 二階へと案内されると車やトロフィーが展示された博物館のような室内だった。

 

アイアイ「ばみうだちほーでは"アニマルガールともっと仲良くなれる場所"をコンセプトにしており、このサーキットも例外ではありません。普段はアニマルガール達が参加するレースや練習する姿を見学するだけですが土日や祝日、大型連休などの時にはアニマルガールと一緒にレースをするフレンズシップというのが開催されるはずだったのです」

ともえ「はずだった?」

アイアイ「はい。ジャパリパークにはもうオキャクサマはいないんです。セルリアンの襲撃によってオキャクサマはこのパークからいなくなってしまったから。しかもこのばみうだちほーはオープン前でしたので一度もオキャクサマが来たことがありません。もしかしたらあなたが一番最初のオキャクサマなのかもしれませんね」

ともえ「お客様って感じがしないな」

アイアイ「でしょうね。ばみうだちほーはそういう意識が生まれる前になくなってしまったちほーですから」

 

 アイアイは次に展示されている車の説明をしだした。

 真っ白でシンプルなデザインをしている。

 

カンザシ「これに乗ってレースしてるのか」

アイアイ「乗っているアニマルガールの個性を強く魅せるために改造しやすいように敢えてシンプルなデザインにしているみたいです。改造はルールブックにも乗っていますがカートファクトリーで行ってください。あそこで改造を行うのが一番安全で安心なやり方になります」

 

 そして最後に見せられたのは、

 

アイアイ「こちらがこのサーキットで手に入るトロフィーとなります。三位を取ると銅トロフィー、二位を取ると銀のトロフィー、一位を取ると――」

ともえ「金色…」

アイアイ「どうです?綺麗ですよね」

ともえ「うん!確かに綺麗。これを手に入れられたらきっとすごく嬉しいよね」

アイアイ「私は参加したことがないのでよくわかりませんが、参加してトロフィーを手に入れた方々はみな嬉しそうでしたよ。時々悔し涙を浮かべる方も居りましたが」

 

 参加するだけでいいとは言え、この金色に輝くトロフィーを見ると手にとってみたいなとか思ってしまった。



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#05-4 ドカン・ドカン・ドカン

アイアイ「以上でサーキットの説明を終わらせていただきます。カートファクトリーは外にある案内板を頼りにしていけばすぐに着けるかと思います。もし何かわからないことがあればお近くのラッキービーストに声を掛けるかルールブックを参照してくださいませ」

 

 アイアイはルールブックをともえに渡した。

 ルールブックは同人誌くらいの薄さ(大体20ページそこら)で読みやすそうではある。

 一礼をしてアイアイは元いた受付に帰っていった。

 ともえ達はカートファクトリーという場所に向かうために外に出た。

 案内板というのはすぐにわかった。

 

カンザシ「あっちがカートファクトリーでこっちがフードコートか。飯行ってきていいか?」

カタカケ「駄目です」

カンザシ「ちぇっ」

 

 カートファクトリーの外観は見ていて楽しい。

 まるでアニメから飛び出してきたかのような、どこか懐かしく感じる建物は中へ入ってもそれは変わらなかった。

 食うことだけしか考えてなかったカンザシはこの内装を見て言葉に出すほど興奮していた。

 

カンザシ「すごい。これだァ…これだよ!テーマパークはこうじゃなくちゃなァ!ともえ見ろよこんなに楽しいこと間違い無い場所があるかよ!」

ともえ「確かに楽しそう!」

カンザシ「だろ?見て周ろうぜ!カタカケはルールブックでも見ておいてくれ!」

 

 カンザシはともえを連れて部屋の奥へと連れて行った。

 

カタカケ「またこれですか。まあいいですけど…さてとあそこの椅子にでも座って読んでおきますか」

 

 目についたこの建物仕様の椅子に座って読み始めた。

 中身はカートゥーン調のキャラクターがわかりやすくルールを説明している漫画形式の本だった。

 

カタカケ「これならカンザシでも読めたじゃないですか」

 

 ルールと言っても大きくまとめて3つ

①カートに乗り込めるのは最大二人。カートを動かすにはラッキービーストが必要

②カートの改造などはカートファクトリーで行うこと

③アニマルガールだということを忘れないために運動などを忘れないこと

 

 細かいルールはともかくこれさえ守れば問題はないはず。

 一先ず読み終えたカタカケはカンザシ達が戻ってくるのをぼーっとしながら待つことにした。

 

 

 ゲストカードを使えば中に入れるはずだが、ここは敢えて見学コースへと階段を登っていったともえとカンザシ。

 

カンザシ「Hey!Sakura!カートファクトリーの事教えてくれ」

さくら「カートファクトリーハ、レースニサンカスルアニマルガールタチガカートヲカイゾウシタリチョウセイスルタメニリヨウスルタテモノナンダ。ケンガクコースデハオモニエイゾウヲミタリソウチデアソンデココヲシレルンダケド、ウンガヨケレバアニマルガールガカートヲカイゾウシテイルトコロヲミラレルカモシレナイネ!」

 

 説明通り確かにボタンを押すと再生するモニターと遊べる装置がたくさんある。

 装置についているボタンを押すと仕掛けが作動して何も弄られていない真っ白なカートが現れた。

 

<自由にカスタムして好きなカートを作ってみよう!>

 

 ガイダンス音と共にいくつもの選択肢が出てきた。

 

カンザシ「面白そうじゃん」

ともえ「先にやる?」

カンザシ「いや、ともえの後にやるよ」

ともえ「わかった」

 

 まずは全体カラーを何にするか。

 ともえは特に深くは考えずピンクを選んだ。

 

カンザシ「女の子らしい色だな」

ともえ「うーんなんか、これ選びたいなって思って」

カンザシ「ピンク選んだからには可愛くしないとな」

ともえ「可愛くする必要はあるかな?」

カンザシ「確かに。かわいくする必要なんてないよな。こう、ドーンと派手にするのもいいよな。ほらこれをこうしてさ。おっ、細かく色変えられるんじゃん!」

 

 ピンクとは合わないような装飾を勝手にカンザシが足していってはピンクに合いそうな色で合わせていく。

 トゲトゲ、ウィング、傘。

 

ともえ「翼とトゲはいらないんじゃないかな」

カンザシ「そうか?うーん、自分で入れておいてなんだけど傘いらねえな」

ともえ「それにしてもすごい種類が多いよね」

カンザシ「確かに。これだけあるならやりたい放題ってやつだな!」

 

 カンザシとキャッキャッしながらカートを完成させた。

 

ともえ「出来た…!」

カンザシ「いい感じじゃねーか。後はこの完了ってやつをタッチするだけだな」

 

 ともえは完了のところをタッチすると『印刷中』と表示されて数枚の厚紙が出てきた。

 

カンザシ「へぇー出来たのはこうやってペーパークラフトとして出してくれるのか」

ともえ「ペーパークラフト?」

カンザシ「紙で作る工作だよ。ハサミとのりさえあればさっき私らが作ったカートを作れる」

ともえ「後でやろっと」

カンザシ「そうだな」

 

 ともえは手に入ったペーパークラフトの台紙をバッグにしまった。

 

さくら「タノシンデクレタカナ?ツギハウエカライツモアニマルガールタチガカートヲツクッテイルバショヲミテミヨウ!ジッサイニツクッテイルトコロガミレタライイネ!」

 

 上から眺めると機械で出来たアームがよく目立って見えた。

 真ん中には操作するパネルがあって目先にはホログラムで出来たカートが映っている。

 

カンザシ「ちょうど誰か作ってるみたいだな」

 

 青い服を来た鳥のようなフレンズがぴょんぴょんと飛んではパネルに戻って修正してを繰り返しているようだ。

 

カンザシ「さてそろそろ私達も作り始めるか。これ以上待たせたらあいつ怒りそうだし」

ともえ「そうだね」



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#05-5 とことんやれば

カタカケ「おせーよクソ鳥。後少し遅かったらバーナー持って探し回ってたぞ」

カンザシ「フウチョウの焼き鳥はまずいと思うぞ!」

ともえ「ごめんねカタカケちゃん。これ作るのに夢中になってて」

 

 そう言ってバッグからさっき作ったペーパークラフトの台紙を見せる。

 

カタカケ「いいんですよともえさん」

 

 カンザシは無罪の紙をカタカケに見せつけるが、

 

カタカケ「お前は有罪だ」

カンザシ「ガーン!」

 

 

 ファクトリールームと呼ばれた部屋は2つある。

 幸いなことにもうひとつの部屋が空いていたのですぐに作業に入れた。

 

<ようこそファクトリールームへ>

 

カンザシ「上から見た時もわくわくしたがここに来るともっとワクワクするな」

カタカケ「そうですか?私にはよくわかりません」

 

 冷たい機械は冷たい声でともえ達の事を出向かえてくれた。

 自動点灯、そしてホログラム起動。白いカートがゆっくりくるくると回っている。

 

カンザシ「やり方はさっきのと大して変わんないだろう。お前の感じるままに作ってみろ」

カタカケ「大切なのはこれに乗っていて楽しいと思えるかだと思いますよ。こいつみたいにネタに走ってもいいとは思いますが、それで乗っていて楽しいですかね。初っ端からネタに走るくらいならまずは少しだけネタを入れて自分の色を出してみると良いと思います」

 

 自分の感じるままに。それに乗っていて楽しいと思えるカートを。

 色は黒。特にまどろっこしい物はつけないけど柄は欲しいので追加しておく。

 

ともえ「いい感じ」

 

 次はカートに付け足すスキル。

 自作することもできるみたいだけど今は特に考えてない。

 また調整できるだろうしここは適当かつ無難なものに。

<ブースト><スキルジャミング><スキルコピー>

 この辺りでいいのかな。

 

ともえ「こんな感じかな」

カタカケ「悪くないんじゃないですか?」

カンザシ「確かにな」

ともえ「それじゃあ、これで完了っと」

 

<作成に時間がかかります。準備が出来次第お知らせいたしますので外でお待ち下さい>

 

 

カンザシ「どの位時間がかかるんだろうな」

カタカケ「1時間以上はかかると思いますよ」

カンザシ「うーん、ちょっと食いもん食ってきていいか」

カタカケ「ともえさんはどうします?」

ともえ「あたしも食べに行こうかな」

カタカケ「では私も」

カンザシ「さくら、車が出来たら知らせてくれるか?」

さくら「ワカッタ」

カンザシ「よし行くか」

 

 フードコートにやってきた。

 でもやっているのはハンバーガーショップのみ。

 

カンザシ「フードコートの意味とは」

カタカケ「仕方ないでしょ」

 

 メニューを見てみる。

 ✕とか○とか印付いてるのは作れるか作れないかってことなんだろうか。

 

ともえ「うーん…チーズかチキンか」

?「それならチキンの方を選んだほうがいい。ここのチキンバーガーは美味い!」

ともえ「さっきの――」

 

 見学コースから見れたあのぴょんぴょん飛び跳ねながらカートを弄ってた鳥のフレンズだった。

 

カンザシ「他に美味いのはないのか?」

鳥「そうだなぁ、どれも美味いがおすすめは…これだ」

 

 鳥はビックリバーガーと書かれた所を指差した。

 

鳥「何がびっくりかってでかくてびっくりってやつだ!お前結構食べそうな面してるからおすすめするぜ!」

カンザシ「サンキュー!これ頼んでくるわ」

鳥「いいっていいって気にすんな」

ヤブ「いらっしゃいませご注文はお決まりですか?」

 

 ヤブワラビーにカンザシとカタカケはバーガーセットを注文した。

 

ヤブ「オーダー入りましたー」

ラッキービースト「「「はーい」」」

 

 ラッキービースト達はそれぞれ役割を分担しながら3人分のセットをあっという間に作ってしまった。

 その動きはとてもかわいらしく、見ていて楽しい。

 

ヤブ「できました!ごゆっくり~」

 

 ともえ達が座ったテーブルに後から鳥が座ってきた。

 

カタカケ「他にも席空いてますけど?」

鳥「いいじゃねぇかよ隣に座ったってさ。あっ、まだ名前言ってなかったな」

 

「Gはグレート!俺様はG・ロードランナー様だ!――覚えとけ」

 立ち上がり、椅子を足場にして高らかに名乗り口上を宣言。おまけにポーズ付き。

 

ヤブ「いくら人いないからって大声出していいなんてルールありませんよー!」

ゴマ「わかってるよ。悪かったな」

 

 そう言っておとなしく座った。

 

ゴマ「というわけでロードランナー様だ。よろしく!なあなあお前らどっから来たんだ?ここじゃあ見ない顔だろ?よかったら教えてくれよ」

ともえ「実はあたし、記憶がなくて。それで旅をしてるんです。だけど、イエイヌちゃんが攫われちゃって」

ゴマ「攫われた!?おいおいこんなところで誘拐騒ぎとかあるのかよ」

ともえ「それで返してほしければルーニー・レースに参加しろって。それでこういうのもらったんです」

 

 ともえはゲストカードを見せる。

 ゴマはそのカードを見るやいなやとても驚いた顔をして、

 

ゴマ「これって主催者じゃないと渡せないカードだ。まさか…あいつならやりかねないな…」

カタカケ「あいつ?」

ゴマ「ルーニー・レースの主催者はぎろろ、あいつは悪いやつだ。俺様の感がそう伝えてるッ!あいつは絶対悪いやつなんだと。だからお前達に力を貸すぜ!あの最低野郎をギャフンと言わせてイエイヌを取り戻す!」



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#05-6『必要とされるって悪くねえ』

カタカケ「少し聞きたいことがあるんですがいいですか?」

ゴマ「ああいいぜ!」

 

 バーガーやポテトを食べながらカタカケは気になったことを質問してみる。

 

カタカケ「ぎろろならやりかねないって言ってましたけどどういうことですか?」

 

 ゴマは口に入れていた物を飲み込んでから

 

ゴマ「あいつ、見ればわかるんだが、人を殺したみたいな目をしてんだよ。んでその顔を見て俺様はピンと来たわけだ。こいつは悪いやつだとな」

カタカケ「でもそういう目をしているからって悪いやつとは限らないんじゃないんですか?」

ゴマ「いいや!あいつは悪役だ!」

 

 カタカケの言葉を聞く耳がない。

 

カタカケ「わかりました。そういうことにしておきます」

ゴマ「そうしてくれ」

ともえ「ねえ、ロードランナーちゃん」

ゴマ「俺様の事は気軽にゴマとでも呼ぶといいぞ。こういう名前のせいかよくゴマって呼ばれてるから」

ともえ「そうなんだゴマちゃん」

ゴマ「ちゃんはいらねぇ。ゴマでいい」

ともえ「わかった、ゴマ。それでゴマはレーサーなんだよね」

ゴマ「あったりまえよ~。俺様はなんと言ってもここいらでは結構強いほうなんだぜ」

ヤブ「自分で言うんだ…」

さくら「ソコニイルオオミチバシリハネ――」

ゴマ「俺様はG・ロードランナーだ間違えるな」

さくら「オオチミバシリハジソク36kmノハヤサデハシルンダ」

ゴマ「俺様はオオミチバシリなんかじゃあない!」

さくら「…ソウナンダ。ゴメンネ」

ゴマ「おおう次からはG・ロードランナーで呼べよ」

さくら「ワカッタ」

ともえ「オオミチバシリ?」

ヤブ「そこにいるロードランナーちゃんはーなんと」

ゴマ「黙れ!」

ヤブ「ヒィー!こわーい」

ゴマ「いいか、G・ロードランナーに本名はなぁい。なぜならこれが本名だからだ」

ともえ「うん、わかったよ…ゴマ」

ゴマ「よろしい」

 

 適当な会話しつつともえはチキンバーガーの味を堪能した。

 美味い!美味すぎる!

 ちょっと辛めのソースがよく効いててやみつきになりそう。

 ポテトも程よい塩加減だし。

 

 

 食べ終わった後、一致団結だとかなんとかでゴマのアジトへと行くことになったんだけどその前にカートが出来たという知らせをさくらから受けてファクトリーへと戻ってきた。

 

ゴマ「ほう、これがともえがデザインしたカートか。いいじゃないか」

 

 あたしが考えてデザインしたカートを褒めてもらえてちょっとだけ嬉しかった。

 

ゴマ「スキルは…あぁデフォのか。ともえ、このスキルだと多分勝てないぞ」

ともえ「そうなの?」

ゴマ「他の参加者が持ってるスキルは全部自作だからな。と言ってもつまらなくならないように調整はされてるから大丈夫なんだけど、デフォのだとまず勝てないから自作する必要がある」

ともえ「ゴマ、あたしにスキルの作り方とかレースのやり方とか色々教えてくれない?」

ゴマ「あったりまえだろ!俺様の目的のためにもともえには頑張ってもらわなくちゃな!ま、ともえの戦いを邪魔するようなことはしねーからよ!」

 

 俺様の目的が気になるけど、ゴマが教えてくれるんならなんだか心強い気がする!

 あたしはさっそくカートの練習をしながらゴマのアジトへと向かうことになった。



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#05-7 よ~いでビュン!

ゴマ「んじゃ初めていこうか。ここにこいつをセットして」

 

 さくらをセットすることでエンジンがかけ始めた。

 

ゴマ「お前達は飛んでこいよ」

カタカケ「わかってます」

カンザシ「しゃーねー」

ゴマ「まずはアクセルだ。そこを踏んでみてくれ。何かあったらこいつのシステムが作動して止まるはずだから気にせず踏め」

ともえ「わかった」

 

 アクセルをゆっくりと踏むとカートもゆっくりと進み始める。

 

ゴマ「いい感じじゃないか。そのままもっと踏み込め」

ともえ「でも――」

ゴマ「いいから」

ともえ「ぶつかるー!!」

 

 一気にスピードが上がっていってそのまま勢いよく木にぶつかりそうになるがギリギリの所で勝手に避けた。

 

ともえ「あっ、あれ?」

ゴマ「カートにはこういうのが仕込んであるから大丈夫なのさ。でもこれがあるからって無理した運転するなよ」

ともえ「うん!」

ゴマ「さあ続きだ。行くぞここをそのまま真っすぐ行くんだ」

 

 ともえはゴマに指示されるままに運転をやってみる。

 

ゴマ「なあ初めて運転するんだよな?」

ともえ「うんそうだけど」

ゴマ「どっかでやったことがあるのかってくらい運転上手いじゃねーか」

ともえ「そうかな?」

ゴマ「ああそうさ!だがもっとスピード出さないと。こんなんじゃ負けるぞ!」

 

 

ゴマ「よーしとうちゃーく。ここが俺様のアジトだ!」

ともえ「じー、あーる、しー?」

 

 GRCとデカい手書きの文字が壁に書かれているガレージのようなアジトだった。

 

ゴマ「おーいコヨーテ、帰ってきたぞー!」

コヨーテ「おかえりゴマ。その人達は?」

ゴマ「こいつはともえ。そんで後ろのが…えっと…」

カタカケ「こんにちは。カタカケフウチョウと申します。こっちがカンザシ」

カンザシ「どうも」

ゴマ「こいつ、あのぎろろに大切な友達を誘拐されたらしくてさ、返してほしければ今度のレースに参加しろって。俺様いてもたってもいられなくなって協力しようって持ちかけたんだよ」

コヨーテ「ふーん」

ゴマ「おい!なんだよその疑ってる目は!」

コヨーテ「いやあ、お前さんにそんな優しさがあるなんて思わなくてサ」

ゴマ「俺様だって優しさはある!」

コヨーテ「そうかい。大方ぎろろのパートナーのプロングホーンを倒すついでに利用しようとしてるんじゃ…なんて」

ゴマ「ギクッ」

コヨーテ「やっぱり」

ゴマ「お、俺様は確かにプロングホーンをライバル視してるけどそんな人様の大切な友達をダシに使ってライバルを倒すとかそんな事を考えたことは」

コヨーテ「わかった。ゴマのことを信じるよ」

 

 ゴマはほっと一息をついた。

 

コヨーテ「改めて、私はコヨーテ。こいつのパートナー。こいつが色々迷惑かけるかもしれないけどよろしく」

ともえ「よろしくお願いします」

コヨーテ「レースに参加するってことはカート、あるんだよね?よかったら見せてくれないかな」

ともえ「いいですよ」

 

 コヨーテはバギーのようなともえのカートをタブレットを操作しながら見る。

 

コヨーテ「スピードをメインにしつつ操作性もそこそこ入れてる。初めて作った割には結構よく作れてると思う。後は走りながら調整したほうがいいかも。スキルとかも自分にあった物を選ばないとね」

ともえ「そうだよね。そうしなくちゃいけない気がする」

ゴマ「こいつ操縦上手いんだぜ。記憶がないからどこで覚えたのかは知らないみたいなんだけどさこいつもしかしたら前はレーサーだったのかもしれねぇ」

カンザシ「前は画家で今回はレーサーか。多趣味だったんだなともえ!」

ともえ「画家でもレーサーでもないと思う。あたしは多分ただのヒトだよ」

ゴマ「それってけものなのか?」

ともえ「うーん…どうなんだろ」

 

 けものかけものじゃないなんて今のあたしにはわからなかった。

 



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#05-8『エプロンガール』

 イエイヌが目を覚ますとそこはともえ達のいない世界だった。

 椅子に縛り付けられて身動き一つ取れないところにぎろろがやってきた。

 

ぎろろ「起きたか。色々すまないことをしたな。お前達を放置したら俺の大切なもの達が壊されてしまうと脅されてしまって。昔はこんなんじゃなかったのにな」

イエイヌ「いや、いいんですよ。でもよかった」

ぎろろ「なにがだ」

イエイヌ「あなたが良い人で」

ぎろろ「そんなわけないだろ。冗談はよせ」

イエイヌ「こういう事をする人はきっと悪意持ってやっているでしょうし、私に謝ることなんてないと思うんです。だから謝ってくれたあなたは良い人だなって」

ぎろろ「あまり人を信じすぎるな。でないと足元をすくわれてお前の純粋な心が殺されてしまう」

 

 ぎろろはイエイヌを縛っていた紐を解いた。

 イエイヌは少し驚いた顔でぎろろにこう聞いた。

 

イエイヌ「なんで解いちゃうんですか?」

ぎろろ「約束しろ。俺の目が届く所にいろ。勝手に逃げたり連絡なんてしたらあの女の元へは返してやらないからな」

イエイヌ「は、はい!わかりました」

ぎろろ「じゃあついてこい。お前を紹介しておかないといけないやつがいる」

 

 そう言ってぎろろに連れられてイエイヌはリビングへと連れてこられた。

 そこには角の生えたフレンズが座って本を読んでいた。

 こちらに気付くと本にしおりを挟んで

 

ホーン「ぎろろさん、どうかしたんですか?」

ぎろろ「紹介しよう。こいつは…」

イエイヌ「イエイヌです!よろしくおねがいします」

ホーン「こちらこそよろしく!私はプロングホーンっていうんだ。気軽にホーンって呼んでよ」

イエイヌ「わかりました、ホーンさん」

ぎろろ「プロングホーン昼食の時間だ。一緒に食べるぞ」

イエイヌ「昼食は何を食べるんですか?」

ぎろろ「ジャパリまんだが?」

 

 

『もしよければ私がなにか作りましょうか?』

 その提案に乗ってくれたおかげでイエイヌは倉庫へとやってきていた。

 ショッピングカートを押しながら何を作ろうか迷っていた。

 

ホーン「もしなにか決まってないんだったらサラダとかこう、野菜たっぷりの物が食べたいな」

イエイヌ「じゃあそうですねえ。野菜炒めなんてどうでしょう」

ホーン「いいねえ!」

イエイヌ「お味噌汁は豚汁でもどうでしょうか」

ホーン「さつまいもって豚汁に入れられる?」

イエイヌ「いけますよ」

ホーン「よかった。デザート選んできてもいい?」

イエイヌ「どうぞ」

 

 ホーンは一人デザートを取りにいってイエイヌを一人にさせる。

 倉庫の入り口でぎろろが待っている以上イエイヌは逃げ出すことは無理。

 でも仮に逃げられたとしてもイエイヌが逃げ出すことなんてなかったはずだ。

 それはともえという少女が迎えに来てくれる事を信じているからだ。

 だからこそイエイヌはちょっとだけ安心して待っていられる。

 カゴに野菜や味噌と言った必要な物を入れていく。

 

イエイヌ「よーし」

ホーン「デザート決めてきた!これでどう?」

 

 そう言ってホーンが見せてきたのはイチゴ味のカップアイスとコーヒー味のカップアイス。

 イチゴのはきっと私達のだ。コーヒーはきっとぎろろさんのだろう。

 

イエイヌ「これで十分作れるかな」

ホーン「イエイヌの料理楽しみだよ」

 

 

 全く使われたことのなさそうなキッチンに立ち、さっそく料理を始める。

 ホーンと協力して材料を切って鍋やフライパンに投入して焼いたり煮込んだりした。

 

イエイヌ「お皿とお椀出しておいてください」

ホーン「わかった」

 

 ホーンが持ってきたお皿はどれも可愛らしいものだった。

 受け取ったお皿に野菜炒めを、お椀にはご飯を盛った。

 最後に別のお椀に豚汁を注いで完成!

 

イエイヌ「できました!お口にあうといいんですけど」

ぎろろ「ありがとう。では」

「「「いただきます」」」

 

 ぎろろは無言で豚汁を食べ始める。

 

ぎろろ「美味しい」

イエイヌ「よかったです!」

ホーン「うんまい!」

 

 食後のデザートはホーンが選んできたカップアイス。

 スプーンで少しすくってみればいちごの果肉のようなものがアイスに混じっていた。

 硬い果肉と冷たくて甘いアイス。

 囚われてる身なのになんて幸せなご飯だったんだろう。

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 

 後片付けを始めるイエイヌとホーン。

 ぎろろは部屋から出ていったかと思ったらすぐに帰ってきた。

 

ぎろろ「イエイヌ。お前の友達がプロングホーンのお友達と手を組んだようだ」

ホーン「友達…?ああ!ゴマのことか」

イエイヌ「ゴマ?」

ホーン「G・ロードランナー。ゴマって色んな人に呼ばれてるレーサーだよ。あいつすごい面白いやつなんだよ!いつも面白いスキル考えて上位に食い込んだりするんだけど一位取れたことがなくてね。あいつの駄目なとこは変に捻り過ぎってやつかな。アイデアは悪くないんだけど捻りすぎてだめになってるんだ」

イエイヌ「そうなんですか」

ホーン「特にこないだのレースなんて――」

 

 私があいつの後ろを走ってた時バナナの皮を四方八方に投げて一時はどうなるかと思ったけど何とか避けれたんだよ。多分あいつのことだから前も後ろもスリップさせて一時的に行動不能にしようとしてたんだと思う。

 実際引っかかったやつもいたし効果はあったんだけど、あいつ自分が出したバナナの皮でスリップしたんだ。

 

ホーン「惜しかったんだよなあ。面白いアイデアだったけどあれじゃあね」

ぎろろ「スリップしないようなタイヤを使えばよかったんだ」

ホーン「そうなんですよ~。ほんとあいつはすごく惜しい子」

イエイヌ「よく見てるんですね」

ホーン「まあね。一位になることも大切だけど楽しいレースにすることも大事じゃない?だからゴマのこと尊敬してるんだ。私もあんな楽しくできそうなスキル考えたいなあ」



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STAGE-1 20/20/20/20…

ともえ「う…うぅ」

 

 頭が痛い。寝る前はこんなに痛くなかったのに。

 頭痛を起こすような事をした覚えがない。

 ただ運転を見てもらって明日から本格的にやっていくと決めただけじゃないか。

 それのどこに頭痛が?

 

ともえ「え…?ここは?」

 

 禍々しくて歪んだ世界。

 昨日までの世界とは違った暗い暗い世界。

 あたしと私はただ一人、その世界に存在していた。

 ヒーナと出会う前の夢のような狂気が襲いかかってこようとしている。

 

ともえ「ヒーナちゃん!アンゼさん!」

 

 叫んでもその言葉が届くはずなんてなかった。

 

ともえ「とりあえず、探さなくちゃ」

 

 赤い赤い赤い。

 目に見えるものすべてが紅く、恐ろしく見える。

 

 キヒヒヒヒッ。

 キヒヒヒヒヒヒヒ。

 

 狂った笑い声が奥から聞こえる。

 怖くて近寄りたくないという気持ちあれど足は奥へと向かって進んでいる。

 止めることも出来ずに奥へ奥へと進んでいく。

 

橙猫「マタ、アエタネ」

ともえ「――」

橙猫「ドウシテ、ニゲタノヨ。ワタシハ、アンタノコトキライジャナカッタノニ」

 

 以前会った時と同じように不気味な顔をしている。

 

橙猫「デモ、コレデイッショ。モウナニモコワクナイ」

橙猫「コワクナインダヨ」

 

 橙猫はともえの頬と自分の頬を合わせようと近付いてくる。

 嫌だ。来ないで。

 動いて。あたし達の体動いて!

 次の瞬間、橙猫が紐か何かに巻かれて後ろにに引っ張られた。

 

アンゼ「やっと見つけたぞともえ」

 

 橙猫を引っ張ったものはヨーヨーだった。

 

橙猫「ナンデ、ナンデヒキサコオウトスルノオオオオオ!」

 

 アンゼに向かって襲いかかろうとする橙猫をアンゼはヨーヨーだけであっという間に橙猫を床に突っ伏す。

 

ヒーナ「あれは…」

 

 遅れてやってきたヒーナはアンゼが踏みつけているソレを見て驚いたような顔をしていた。 

 

アンゼ「本物から切り取られた"余計なもの"がこの私に勝てると思うな」

 

 踏みつけられた橙猫は溶けてなくなっていく。

 それと同時に辺り一面は昨日までの姿を取り戻した。

 

アンゼ「これで少しは大丈夫だろ」

ともえ「あれは」

アンゼ「ビーストって聞いたことあるか?」

ともえ「聞いたことない」

アンゼ「だろうな。どっかの馬鹿が私に関するデータを使って永遠の輝きを得ようとした時に偶然生まれた物質があった。これをアニマルガールに与えるとビーストという存在になる。ある専門家はアニマルガールのなりそこないとか称していたがあれも立派なアニマルガールだ」

ともえ「あの子は大丈夫なの?」

アンゼ「あれは遺恨のようなものだ。あれの素になった本体は元気に暮らしてることだろうよ」

 

(我が完全に断ち切れなかったからともえを苦しめているのか…?)

 ヒーナは複雑そうな顔でこう言った。

 

ヒーナ「確かに、元気だよ」



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#05-9 とめないで!ハイスコア

コヨーテ「ルーニー・レースまで後数日…」

 

 カレンダーに✕印が増えていく。

 

ゴマ「今日はスキル作ろうか。なーに結構簡単だからさ、俺様と一緒に作っていこうぜ」

ともえ「うん」

ゴマ「ではさっそく」

 

 タブレットからスキルと書かれたアイコンをタッチすると男心くすぐられそうな起動画面が出てスキル作成のメニューが出てきた。

 

ゴマ「いいか、スキルを作るのはゲームをやるのと同じだ。ゲームが得意ならお前はどんな強いスキルも楽に作れる」

ともえ「逆にうまくなければ?」

ゴマ「一応稼いだ点数分のポイントが貯まるからそれをため続ければなんとか一つ作れるくらいかな。逆に上手ければ好きなものを自由に作れる」

 

 このゲームは障害物を避けたり撃ち落としたりして車をどこまで走らせられるかというゲーム。

 点数を稼いでいけば行くほど自分が望む最高のスキルを作ることができる。

 ※ただしあまりにも強すぎる物はNG。

 

<準備はいいかな~?>

<それじゃあレッツゲーム!!>

 

 ゲームのマスコットキャラの掛け声と共に車は走り出した。

 ともえは最初は何度か失敗していたが段々コツがわかってきたようで慣れた手付きで障害物を避けたり上に現れる障害物をタッチして壊していく。

 

<なかなかやるねぇ!ここからは難易度をレベルアップ!頑張ってね!>

ゴマ「すげー。こんな台詞言うんだな」

 

 ゴマの声はともえには届かない。

 

<ぼ~なすた~いむ!>

<ふるこんぼ!>

 

 こういうゲームを前にもやったことあるような気がした。

 と言ってもここまでやり込むことはなかったはず。

 

ともえ「あっ」 

<げーむおーばー…>

 

 わかっていたはずなのに上手く頭が回らず岩のような障害物にぶつけて見事ゲームオーバー。

 それでもかなりの高得点が出たようで、

 

ゴマ「すげー…ランキング一位だ」

ともえ「な、なにかの冗談じゃ…」

ゴマ「よくみろよともえ!これどう見ても歴代ランキング一位だ!」

<こんぐらちゅれいしょーん!>

ゴマ「ほら名前打たなきゃ」

ともえ「う、うん!」

 

 ともえがこのランキングに名前を刻むとしたら当然「TME」なんだけども、

 

ゴマ「M?」

ともえ「あえ」

 

 体は勝手にMをタッチしてそのまま決定ボタンをタッチした。

 

ともえ「体が勝手に!」

ゴマ「体が勝手になら仕方ないな」

ともえ「ふう、なんだか疲れた」

ゴマ「結構長くやってたしな。ちょっと休憩するか。それからでもスキル作るのは遅くないだろ」

ともえ「そうだね…」

ゴマ「ちょっと気分転換に外行ってくるわ。帰ってきたらともえにスキルの作り方教えてやってくれ」

コヨーテ「えぇ…それはゴマがやれよ」

ゴマ「お前のほうが得意だろこういうの」

 

 

 気分転換がてら外へとやってきたともえとゴマ。

 ゴマが運転する鳥のような車に乗って適当な所をドライブ。

 

?「あああ!いつも一位だったのにこのMって言うプレイヤーに抜かされたー!」

?「そんなの知らないわよー、それにニ位だっていいじゃない」

?「よくない!」

ゴマ「なんか盛り上がってんなー」

 

 少し離れているのにここまで声が届いている。

 

ゴマ「よーお前ら、どうしたんだよそんなに盛り上がってよ」

 

 キタキツネとギンギツネだった。

 

キタ「聞いてくれよ、ボクが今までゲームのランキング一位だったのにこのMっていうプレイヤーに抜かされたんだ」

 

 そう言ってキタキツネが見せるのはあのともえが一位を取ったあのランキング。

 Mの下にキタキツネと書かれているのが見える。

 

ゴマ「M?それってさっきともえが付けてたやつだよな?」

ともえ「Mってあたしがつけたよ」

キタ「き、君がM!?M、教えてくれボクはどうすればMみたいにハイスコア叩けるようになるんだ!?」

 

 ともえに詰め寄るキタキツネ。

 これには思わず困惑する。

 

ともえ「えっ、そんな事言われても」

キタ「いいから1機だけでもいいから、ボクにMが戦うところを見せてよ」

ともえ「わかったよ、でもさっきのようには行かないと思うんだけど」

キタ「いいから見せて!」

 

<準備はいいかな~?>

<それじゃあレッツゲーム!!>

 この障害物避けゲームには完璧に慣れたと言ってもいいくらい物凄い速さで点数を稼いでいく。

 

ギン「すごい…」

キタ「速い」

 

 これは参考にできないレベルの上手さだった。

<げーむおーばー!>

 

ともえ「さっきほどじゃあなかったな」

 

 それでもともえが出した点数は六位に入っていた。

 

キタ「M…いや師匠!このボクを弟子にしてください!」

ともえ「えっ、ええ!?弟子なんて」

キタ「お願いします!ボクを弟子にしてください!」

ギン「キタキツネがこんな風になるなんてあなたすごいわね」

ともえ「あたしなんかの弟子になっても良いことなんかないよ?」

キタ「ありますって!師匠が普段どういうことをしているのかを知ればきっとボクも師匠みたいに速くなって点数だって!」

ギン「キタキツネ、私達の目的はレースよ。ゲームじゃない」

キタ「えぇーだってー」

ゴマ「でもいいんじゃないか?ゲームでいい点数取れればお前もスキル面で苦労することはないだろ」

ギン「今のキタキツネで十分すぎるほどたりてるんだけど」

キタ「もっと高みを目指したい、強い子の真似して強い奴に会いに行くッ!」

 

 

 とりあえずキタキツネの師匠になったともえ。

 特に教えられることはないんだけどなという気持ちを持ちながら、ギンギツネが用意してくれた缶ジュースを飲みながら皆で一休み。

 

キタ「師匠は今度のレースのゲストレーサーなんだ」

ギン「それで今イエイヌって子のためにゴマと一緒に練習してるんだ」

ゴマ「あったりまえよ。俺様はともえの師匠なんだぜ、だからお前は俺様の弟子!」

キタ「えー!ゴマ団子の弟子なんて嫌だー」

ゴマ「誰がゴマ団子だ」

キタ「うわぁーッ!ゴマ団子が怒った!」

ギン「例え弟子だろうが師匠だろうがレースでは敵同士。お互い死力を尽くして頑張りましょう」

ともえ「うん!」

ギン「イエイヌが帰ってくるといいわねともえ」

キタ「師匠なら大丈夫ですよ!きっとどんな困難も乗り越えられますって!」

ともえ「絶対頑張らなくちゃね」

 

 りんごジュースを飲みながらともえは青空を眺めた。



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#05-9.5【裏技】ジャパリレーサーキタキツネ 

<レッツゲーム!>

 素早い手捌きで点数を稼いでいくともえ。

 これを教わりたいというのはちょっと難しいんじゃないかとキタキツネ以外の誰もが思ってたことだった。

<げ~むお~ば~!>

 ともえが稼いだ点数はほとんどランキングを独占するような形で記録されていった。

 

キタ「どうやったら師匠みたいに上手くなるんだろう」

ギン「そうね、本人に直接聞けば…って記憶がないのよね」

ともえ「徐々に思い出してはいるんだけど肝心なのがまだなんだ」

キタ「ゲームが上手いならゲームを色々やれば思い出すんじゃない?」

ゴマ「それだー!」

ギン「うるさい」

ゴマ「ごめん」

ともえ「ゲームか…」

キタ「実は近所にゲームセンターがあるんだけど師匠行こうよ!」

ともえ「うん、行ってみようかな」

 

☆☆☆

 

<ジャック・オー・ランタンのハロウィンプラネットへようこそ!ここでは毎日がハロウィン!お菓子を楽しみながらゲームを楽しんで!あっ、こぼしたりしないでね!ジャック様との約束よ!>

ともえ「うわあ~」

 

 中へ入ってみると説明通りハロウィン感漂う内装。目立つ所にはカボチャを持つジャックのオブジェが飾られてある。

 どこか懐かしくもあって

 

キタ「ここはね、ボクのお気に入りの場所でね、特にあっちにあるファイターガールズ2が好きなんだ!師匠と対戦がしたいな。一緒にやろうよ!」

ともえ「いいよ!でもなんだろう、あたしこういうの得意じゃない気がする」

キタ「大丈夫!技を出すのが簡単なゲームだからバシバシ決まるよ!」

 

 ファイターガールズ2は戦うのが大好きな女の子が頂点を目指して戦うシリーズの二作目。

 キャラクターは昨今の事情を含めて色々いて中には心が女の子のファイターがプレイアブルで参戦していたりするくらいには気をつけてはいるゲームである。

 

キタ「ささ、キャラ選んで!どれ選んでも性能はほとんど変わらないから」

ともえ「うーんそれじゃあ…」

 

 宝塚みたいな服装したユウミというキャラを選ぶ。

 キタキツネはアサシンを選んだ。カラーを別のに選択している辺りこれがキタキツネのお気に入りなのかもしれない。

 少しのロードの後戦いは始まる。

 ユウミの登場演出は階段から降りてきて薔薇を画面に向かって投げるというもの。

 アサシンは満月をバックに高く飛び上がり、着地。

 

キタ「適当に押してれば適当に技が出るから」

 

 適当すぎるアドバイスを受けて合図と共にともえはガチャガチャとボタンとレバーを弄くり回す。

 ガチャプレイな入力に合わせてユウミはトリッキーな動きをしだす。

 キタキツネはそれを上手くガードしつつ、タイミングを見ては攻撃をしていく。

 

<KO!>

 

 一回目はキタキツネの勝利。

 でもともえはこれでどうすればいいかコツがわかったような気がした。

 二回目が始まる。今度はガチャガチャしつつ時々技コマンドを打ち込んでいく。

 このゲームの技コマンドはそう難しいものじゃなく、同時押しで出すようなものなのですごく簡単に、初心者でも出しやすい。

 ともえはそれを上手く使ってアサシンをユウミが蹴り技で倒した!

 

キタ「師匠、コツが分かってきたでしょ?」

ともえ「少しは」

キタ「じゃあ本気出していくよー!」

 

 ファイナルラウンド。

 キタキツネは3つのボタン同時押しで超必殺をお見舞いしてこようとするがガードされてミス!お返しと言わんばかりにともえも同時押しで超必殺技をお見舞いする。

 超必殺、エンドストライク。 

 レイピアの突きが炸裂してキタキツネが操作するアサシンは吹っ飛んで負けてしまった。

 

 

キタ「次はあれやろ!」

 

 そう言ってキタキツネが指差したほうを見てみればそこにあるのは『ランタン・ザ・ダイナミックVRX』

 

ともえ「VR…?」

ゴマ「こんなのあるのか」

ギン「前にキタキツネに誘われたやったけど中々楽しいゲームだったわ」

キタ「このゲームはそこにも書いてある通り、VR世界で戦う対戦ゲームなんだ!」

ともえ「一人でもできるの?」

キタ「できるよ。でも友達と一緒に遊んだほうが楽しいでしょ?」

ともえ「確かに」

キタ「さあ行こう師匠!」

<ランタン・ザ・ダイナミックVRXによく来てくれたわね!このゲームはVR世界で敵チームと戦う対戦ゲームよ!ステージはこっちで決めるから武器をちゃちゃっと決めちゃいなさい!>

 

 アトラクションの入り口に入ってしまえばもうVR世界。ゴーグルも3Dメガネもいらない。

 ジャックの案内を受けながらあたしは鍵の形をした杖を選んだ。

 なんだかすごくこういうのが好きだった気がする。

 

<ふーん。それを選んだわけ?ちょっと待ってなさい。まだ誰か選んでるみたいだから…もういいみたいね!それじゃあこの私を楽しませるようなバトルを見せて頂戴!>

<チーム分けはともえ・ギンキツネVSキタキツネ・Gロードランナーね!>

<じゃじゃーん!本日の舞台は、私の故郷、ハロウィンランド!VRの世界だから気にする必要なんてないわ!思う存分戦っちゃいなさーい>

 

 

 何もかもが不気味で常時夜な世界。

 至る所にある灯りのおかげで足場や建物などがはっきりと見えている。

 ともえは杖を見つめる。

 

ともえ「これをどうすれば…」

<なに、あんた初めてなわけ?まあいいわ。誰にでも初めてはあるもの。このジャック様がわかりやすく教えてあげるわ!>

 

 突然現れたジャックはともえに戦い方を教えてくれる。

 

<ただこういう技出したいとか思えば出るから!ほら、火出したいとか念じなさい>

ともえ「えいっ」

 

 炎が噴水のオブジェに向かって飛んでいき爆発する。

 

<できたじゃない。杖を使うからにはMPに気をつけない。MPはわかる?マジックポイントって言って魔法を使うにはこれを使わないといけないの。無くならないように考えてから行動するのね>

「ありがとう」

<いいのよ。ジャック様はここのゲームマスターなんだから。教えてあげるのがマスターとしての使命。それじゃあ他のプレイヤーも準備出来たし、レッツ・スタート!>

 

ともえ「まずはギンキツネと会わなくちゃ」

 

 ギンキツネを探してランドを走るとゴマと遭遇する。

 ゴマはこちらを見つけるなり超高速でこっちに向かってきてパンチをお見舞いされる。

 ゴマの武器はグローブ。攻撃がもろにくらってちょっとHPが削られる。

 HPが削られればこっちの負けだ。魔法で衝撃を和らげるクッションを生み出しつつ、ともえは雷を放つ。

 ゴマは避けようとしたが範囲外に行けず痺れる。

 そこに魔法で杖をハンマーに変えて二発。

 MPはあと少し、ここは温存。回復してから追加で攻撃するつもりだった。

 今逃げた所でゴマに追いつかれちゃうかもしれないからだ。

 

ゴマ「おうなかなかやるじゃねーか!でも、こっからが俺様のステージだ!」

 

 そう言って連続で殴りかかってくる。

 こっちも回復しかかってるMPで作った盾で防ぐしかない。

 

ゴマ「おいおいどうしたビビってんのかよともえ!そんなんじゃバトルになんねぇぞ!」

 

 そう言ってフェイント仕掛けてきたのでこっちもそれに応える。

 

ゴマ「ああもう!こうだ!」

 

 力を溜めてゴマはともえの作った盾を壊した。

 

ゴマ「うおりゃああああ!――あれ?」

 

 ゴマは動きを止めた。

 よく見てみれば布か何かで動きを止められているではないか。

 

ギン「やっと見つけた!ここは広すぎて大変だわ!」

ともえ「ギンキツネちゃん!」

ギン「今よ!」

ともえ「わかった!」

 

 ともえは動けないゴマに向かって氷の槍に変えた杖で一突き。

 するとゴマがパリーン!と消えてなくなった。

 

ギン「よし!後はキタキツネだけよ!」

ともえ「うん!でもゴマちゃんは?」

<ゲームに負けたプレイヤーはバトルが終わるまで観覧してもらうから安心して戦いなさい!>

ともえ「わかった」

 

 

 パートナーと合流したともえはギンキツネを探す。

 するとギンキツネが一人でアルマジロコンビの相手をしているのを発見する。

 VR世界だからこそなのか物凄い動きで慣れないアルマジロコンビを翻弄している。

 

オーセン「オーアル!お前はあっちだ」

オーアル「ふぇぇ!」

キタ「ボクに会ったのが運の尽きって奴だよっ!」

 

 オーアルに投げキッスをしてメロメロにしてから武器である斧で速攻で片付ける。

 それからオーセンの武器である剣によるやけくそ攻撃を避けて切り倒した。

 

オーセン「くそう!こんなところで――」

キタ「お疲れ様。さあて、やろうか二人共」

ギン「見てただろうけど、気をつけて」

ともえ「うん!」

 

 ともえに出来る事はサポート。

 そんなの知らなかったはずなのに頭にどうすればいいか案が色々浮かんでくる。

 じゃあ攻撃を上げて、それから防御も上げる!

 そして炎や氷でキタの邪魔をすれば勝てるはず!

 だけどその作戦もこのゲームの上級者であるキタにはあまり通用しなかった。

 斧の力で遠距離からの攻撃を弾きつつギンキツネを瞬殺したからだ。

 やるしかない。

 斧対杖、遠距離を跳ね除けながら斧は杖とともえに斬りかかる。

 それを防御しつつ、カウンターでねじ伏せる!

 すきを狙って痺れさせつつのハンマーで大ダメージ!

 

ともえ「トドメだ!」

キタ「これで決まりだ!」

 

 両者の攻撃が同時に当たり、お互いのHPを0にした。

 

<バトル終了!お疲れ様!中々いいバトルを見させてもらったわ。参加してくれたお礼に初参加の二人にこれを上げるわ!また遊びにいらっしゃい>

 

 

ゴマ「くぅ~なかなか楽しかったな」

ギン「そうね」

キタ「やっぱり師匠はすごいや!初めてなのにボクと相打ちなんて」

ともえ「勝てそうだったのになあ」

キタ「あのアルマジロ達と戦わなかったらもっと上手くいってたかも」

ともえ「次来る時は一対一でやらない?」

キタ「いいねえやろやろ」

ギン「レーサーって事忘れてそう」

ゴマ「あはは…」

 

 ギンは呆れた顔でともえとキタキツネを見ていた。



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#05-10 サーキット場の懲りない奴

オーセン「ここだ、ここに奴はいる」

オーアル「そうなの?」

オーセン「レーダーがびんびんに反応してるだろ。きっとやつはここにいるんだ」

 

 アルマジロコンビはともえを追ってサーキットまで来ていた。

 

オーアル「で、捕まえるんだよね?どうやって捕まえるの?」

オーセン「それはこのカタログの中から選ぶ」

 

 アクメ通販カタログ。

 オーアルはそのカタログの表紙を思わず二度見。そして目をこすったり自分の頬をつねった。

 

オーセン「何やってんだよ」

オーアル「い、いやその、これあっ、あっ、アクメって」

オーセン「アクメ社がやってる通販のカタログだからな」

 

 アクメというのは頂点とかそういう意味なので決して卑猥な言葉ではないが馴染み深そうなのが性的な意味でのアクメなのでオーアルが恥ずかしそうな態度を取るのはあながち間違いではないんだけどスケベなのかもしれない。

 ちなみにアクメ(Acme)は電話帳の最初の方に乗っかるからという理由で一時期新しい会社の社名にそうつけるのが流行ったとかでルーニー・テューンズでアクメ社という会社が頻繁に出るようになったのはそれが理由なんだとか。

 

オーセン「ここにちょうどいいのがあるんだよほら!」

 

 人間を捕まえるための道具特集。

 どれも無傷で捕まえられそうにないものばかりである。

 

オーセン「オーアル、この中でどれが一番いいと思う?」

オーアル「えっ、えーと…これかな」

オーセン「人間絶対キャッチ!シャイニングアルティメットマジックハンドサバイブ…長ったらしいな。でも使えそうだな」

 

 どこからか携帯らしきものを取り出して、アクメ社に電話をし始めた。

 すると上空からマジックハンドが入った木箱が落ちてきた。

 

オーアル「今の電話注文の電話でしょ?ナンデこんな早くに」

オーセン「アクメ社はそれが売りだからな」

オーアル「そうなの?」

オーセン「さぁーってとでは捕まえますかね、人間を!」

 

 

オーセン「いいかオーアル、さっき言った通りにやるんだぞ。私は人間を見つけたら捕まえるために行動起こすから、お前はタイミングを見計らってこれを引くんだ。するとあっという間に人間が捕まってこっちに引っ張られてくるから」

オーアル「わかったよ」

 

 そう言ってオーアルは別の場所に待機しにいった。

 待機して数分、ともえ達がやってくる。

 オーアルがともえの前に現れて足止めを始める。

 さあ早く引いて捕まえろ!そういう風な物を感じる。

 

?「そこじゃあ当たらないぞ」

オーアル「えっ!そうなの?」

タンビ(偽名)「私はマジックハンドギネス世界チャンピョン、タンビカンザシフウチョウッ!」

 

 鼻眼鏡をかけた謎の風鳥。ダリナンダアンタイッタイ

 

タンビ(偽名)「そのマジックハンドは欠陥品でな、狙った所に上手く行かないんだ。だからここをこう動かして」

 

 オーセンの方に照準を合わせて――

 

タンビ(偽名)「撃て」

 

 伸びていくマジックハンドはガシンとオーセンを掴んでオーアルの方へと引っ張った。

 

オーセン「お前さあ…」

オーアル「え?え?だってタンビさんが――」

オーセン「は?そんなやついないぞ」

 

 振り向けば誰もいなかった。

 

 

オーセン「まったく、なんでそんなのに騙されるんだよ!」

オーアル「ごめん…世界チャンピョンって言うから」

オーセン「いいかオーアル。そんなやつはいないんだ。次は私がやるからお前はドローンと一緒に追い詰めてくれ」

オーアル「わかった」

 

 カタログの中からアクメ・ドローンズと呼ばれたたくさんのドローン軍団と人間ホイホイを注文した。

 説明書をよく読みながらドローンを飛ばしてみる。

 

・本商品は搭載されたAIが対象を追い回しあなたのハンティングライフをサポートします

・防水ですが大量の水を浴び続けると正常な動作が難しくなりますのでご注意ください

 

オーセン「ここにシールを貼って」

オーアル「ここを山折りにする」

オーセン「よし出来た!後はここに追い詰めるぞ」

 

 作戦決行!

 人間であるともえを捕まえようと大量のドローンと共にともえ目掛けて突っ込むオーアル。

 しかしともえと共にいたゴマがともえの腕を掴んで物凄い速さで逃げ出したのだ!

 ドローンが攻撃してもゴマの速さには勝てず全て避けられてしまう。

 

オーアル「…ハア。早すぎる」

 

 突然明らかに自然のものではない痛くて冷たい雨がドローンとオーアルを襲う。

 

オーアル「いたっ!冷たい!」

 

 パチパチ、ドカン。

 ドローンは正常な動作ができなくなりオーアルを襲い出した。

 

オーアル「うわああああああ!」

 

 走って走って走りまくって、オーセンのとこまで戻ってきた。

 

オーセン「うわっちょっやめ。なんでこうなってんだよおおおお!」

オーアル「知らないよお!」

 

 アルマジロコンビは自らが用意したドローン達に追い回されて、最後は人間ホイホイに突っ込んだ。

 

オーセン「最悪だ…」

 

 

オーアル「もうこんなことやめようよ!」

オーセン「駄目だ!」

 

 オーアルの叫びも届かずオーセンはあんな酷い目にあっても人間を捕まえようとする。

 

オーアル「もう怒ったぞ!もうオーセンとは、オオセンザンコウとは絶交だ!そんなに人間が好きならひとりで勝手にやってろよ!」

 

 そう言ってオーアルはオオセンザンコウと絶交してこのサーキット場を後にしたのだった。

 

オーセン「…」

 

 一人取り残されたオオセンザンコウは舌打ちをした。



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STAGE-1 ピンクパンサー

 ルーニー・レース前日。

 あたしはここ数日このシアターの施設を一通り周ったけれど結局プリンセスに会わないと始まらないような気がした。

 

ともえ「こんばんわヒメアリクイちゃん」

ヒメアリ「!?こ、こんばんわ…」

ともえ「ねえ、プリンセスがどこか知らない?」

 

 ヒメアリクイがひょこっと顔を出したことに気付いてともえは挨拶をした。

 答えてくれないかなと思ってたけれどちゃんと返してくれる。

 だったらここでヒメアリクイにちょっと聞いてみようとともえはプリンセスのことを聞いてみる。

 

ヒメアリ「プリンセスって良いですよね」

ともえ「うん。あたし、今プリンセスに会わなくちゃいけなくて。もし知ってたら教えてほしいんだ」

ヒメアリ「プリンセスなら、知ってる」

ともえ「ほんと!?」

ヒメアリ「うん…でもただでは教えない」

ともえ「あたしに出来ることならなんでもやるけど」

ヒメアリ「なんでも。それなら私の悩み聞いてほしいの。それでその悩み解決してほしいなって」

ともえ「わかった。どんな悩みがあるのかあたしに教えて」

 

 ともえとヒメアリクイはアンゼに頼んで二人きりで居られる場所を紹介してもらってそこで悩みを聞くことになった。

 

 …私ね、勇気がほしいの。

 話しかける、勇気が。

 誰かと話したいなとかそういう気持ちがあっても上手く踏み込めないでいるの。

 ここでもそう、あなたと行動してる黒い服の人。あの人一度話してみたいなとか思ってて、でもなかなか話しかけられない。怖いっていうのもあるし、拒絶されるのが嫌なの。

 きっとあの人は私を拒絶するんじゃないかってそう思うとなかなか踏み込めないんだ。

 どうすればいいと思う?

 

 あたし達はヒメアリクイにどう答えてあげればいいのか少し考える。

 まずはあたしがヒメアリクイと同じ立場だったらどうしてほしいか。

 話しかけてほしいよね。そしてあたしに合わせてお話して欲しい。

 でもそれはすごくわがままで夢みたいな…。

 

ともえ「そうだ!勇気がもらえるような人をつくればいいんだ」

ヒメアリ「え?」

ともえ「ここは夢の世界だし夢を使えば勇気をくれるような人、作れるはず。ヒメアリクイちゃん、ちょっとまっててもしかしたら勇気をあげれるかもしれない」

 

 そう言ってヒメアリクイを置いて部屋を出た。

 

ともえ「ねえ、ここは夢の世界でしょ?だから夢で何かを作れると思うんだけど、作るためには何をすればいい?」

アンゼ「夢で何かを作るか。やったことないから知らん。オカルトギツネはなにか知ってるか?」

ヒーナ「やり方は人それぞれというやつだが、まずイメージをすることだ。何をしたい?何をするかによってこの世界で自分の武器になるものを作れるはずだ。その武器がペンとか我のようにハサミだったり工作に向く物ならばこの世界で何かを作れるはずだ」

ともえ「イメージ」

ヒーナ「まずは想像してみろ。ともえは何がしたいんだ?」

ともえ「あたしは…」

 

 (あたしはヒメアリクイのために勇気をくれるような存在を作りたい) 

 (私は自分という駄目な人間の何もかもを消してあのゲームキャラのような人間に変わりたい)

 

 あたし達の思いは一つになって、ひとつのシャーペンを作り出した。

 このシャーペン、どこか懐かしい感じがするけどこれは今のあたしが使ってるペンと同じ。

 

ヒーナ「できたじゃないか。これがともえの武器だ。さっそく試してみてはどうだ?何かを作りたかったんだろ?」

ともえ「うん」

 

 何もない空間を紙に見立ててあたしは勇気をくれる存在を生み出そうと描き始めた。

 ペンを持つ腕はあたしが思う物を上手く拾ってひとつの作品を、存在を生み出した。

 

 青い瞳が薄く輝く。

 

 生み出したのはピンクのヒョウだった。

 

ピンク「あれ?ここは…」

ともえ「成功したのかな?」

ヒーナ「お主、どこかで見たことがあるぞ」

アンゼ「ああ!お前、ピンクパンサーだろ!」

ピンク「違いますよ!私はピーチパンサーです!マッサージが得意なんです」

アンゼ「男の一物をしゃぶりながら尻穴のマッサージ…?」

ピンク「健全なマッサージなんですけど、よかったらどうです?マッサージ受けません?」

 

 アンゼはますます顔を赤くして、

 

アンゼ「まさかレ、レ、レズプレイってやつか!?いくら不良みたいな格好だからって心は乙女なんだぞ!」

ピンク「ああもう!私をなんだと思ってるんですか!わかりましたよ、見せてあげますよ私のマッサージを」

アンゼ「あぁ~んらめぇ~らめぇなのぉ」

ピンク「あんたがやらしい言葉だしてどうすんの!」

 

 キレたピンク…もといピーチパンサーは目の前でマッサージを始めだした。

 決して如何わしいものではなくちゃんとした健全的なマッサージだ。

 

ピンク「結構体カチコチですね…気持ちいいのはよくわかったのでおとなしくしててくださいね」

 

 

アンゼ「やばい、まじ最高だった。悪かったピーチ」

ピンク「わかればいいんです」

 

 マッサージは最高に気持ちよかったらしい。

 

ヒーナ「くぅ…この体が本物だったらなあ」

ともえ「あ。あのピン…ピーチパンサーさん」

ピンク「なに?お嬢ちゃん」

ともえ「実は会わせたい子がいて、その子を勇気づけてあげたいんです」

ピンク「わかった。どこに行けばいいのかな?」

ともえ「こっちです」

 

 ヒメアリクイを大分待たせてしまったけれどこれでもう大丈夫。

 

ともえ「ごめんねヒメアリクイちゃん待たせちゃったね」

ヒメアリ「大丈夫です」

ピンク「この子が会わせたい子?」

ともえ「そうです」

ピンク「はじめましてヒメアリクイちゃん。私はピーチパンサー、マッサージが得意なんだ」

ヒメアリ「マッサージ?」

ピンク「うん!私が得意とするマッサージはマッサージを受けた人が元気になるマッサージなんだ!受けてみない?」

ヒメアリ「はい」

ピンク「じゃあそこに横になって――」

 

 用意した普通のマットを床に敷いてそこにヒメアリクイを寝かせる。

 ゆっくりゆっくりとマッサージを始める。

 

ピンク「最近はどう?」

ヒメアリ「正直寂しく感じるときがあります。話したいのに話せないのが辛くて、拒絶されるんじゃないかなって思ってしまって」

ピンク「生まれた時だったかな?私ってほんとは動物じゃなくてね、だから周りから少し避けられてたんだ。そんな時にジェーンと出会ったんだ。彼女は私にこういってくれたの」

 

――この花を見て。綺麗でしょ?これ紙で作られてるの!きっとさ、花じゃなかったとしても綺麗なものは綺麗だしフレンズもフレンズなんだよ。だからさ私と友達になることから始めよ。友達がいればきっとあなたも元気になると思うから

 

ピンク「きっと大切なのはどんなものでも自分は自分だって事を認めることだと思う。自分を認めさえすればきっと誰かともっと話せるはず」

ヒメアリ「そうだといいですね」

 

 結構長くマッサージをしていたような気がする。

 ヒメアリクイの顔は悩み事とかがすっきりなくなったような顔をしていた。

 

ともえ「どうだった?」

ヒメアリ「ありがとう。あなたのおかげで悩みがなくなった」

ともえ「よかった」

ヒメアリ「これあげる」

 

 鍵だった。

 

ともえ「これは?」

ヒメアリ「これがあれば、プリンセスに会える。楽屋を探してみて、きっとPPPの楽屋があるはずだから」

ともえ「うん」

ピンク「もう時間かね。お嬢ちゃん、もし現実で会うことがあったらマッサージしてあげるね」

ともえ「その時は、お願いします」

 

 二人はキラキラと輝いて消えていった。

 時間切れでも死んだわけでもなく、解決したから消えたんだと思った。



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STAGE-1『STYX HELIX』

 ヒメアリクイから鍵をもらったともえは二人に話して楽屋を見つけることにした。

 以前周った時そんな部屋は見つけられなかったような気がしていたが…。

 

アンゼ「楽屋と言ったらステージの近くだろうよ」

ともえ「前に行った時、そんな部屋あった?」

アンゼ「なかったな」

ヒーナ「でも鍵を手に入れたんだから見つけられるようになってるんじゃないか?それに、なかったら作ればいい」

ともえ「ああ…!」

 

 なければ作ってしまえばいいのか。

 とりあえずステージ近くの通路にやってきた。

 やっぱりここには楽屋らしき部屋がない。

 

ともえ「作ればいいんだよね…」

 

 青い目を少し輝かせる。

 楽屋への扉を壁に描き込んだ。

 

ともえ「出来た」

 

 描いたからってあたし達がプリンセスに会えるかはわからない。

 ヒメアリクイから貰った鍵を見つめてから扉の鍵穴に鍵を挿した。

 ガチャリ。

 楽屋に入ってみればそこにはロイヤルが驚いた顔でともえを見ていた。

 

ともえ「こんにちわ」

ロイヤル「え…?うそ…いや、そんなはずないよね」

 

 ともえはロイヤルの言っている事がわからなかった。

 

ロイヤル「こんにちは。ファンでいいんだよね、よかったら握手する?」

ともえ「はい!」

 

 ともえとロイヤルは握手を交わすと同時にともえが見たことない記憶が流れ込んできた。

 それはどれもロイヤルと一緒だった思い出で、彼女と私の隣にはアムールトラがいて仲良く笑い合っている。

 

ロイヤル「大丈夫?」

ともえ「ぁ…大丈夫。あの、もしかして前にあたしと仲良くしてくれた事があったり、する?あたし記憶喪失で思い出すためにここまできたんです」

 

 ロイヤルは少し考えてから、

 

ロイヤル「ごめんなさい。多分ないと思う。でもあなたと顔が似てる子と友達だった時がある」

ともえ「友達、だった?」

ロイヤル「…絶交とかそういうのじゃなくてもう、会えないの」

 

 辛そうな顔。

 会えないという言葉の意味はきっと…。

 

ともえ「ごめんなさい。思い出させちゃって」

ロイヤル「いいのいいの。もう何年も前の話だし、私だけでも切り替えて前に進んでいかないと。ああ…そうはいってもあなたの顔を見てるとその子を思い出す。あの子達がいなかったら今の私は3代目PPPなんて作れてなかったと思うし、かばんやマーゲイに会うこともなかった。だからもしまた会うことができたらその時は…お礼がしたいなって。マイやアムールのおかげで今の自分がいれてるんだって」

 

 マイ…。

 なにか懐かしくてしっくりする名前だった。

 

ロイヤル「もう時間だ。ねえ、もし時間があるんなら今度ライブツアーするんだけどよかったら遊びにおいで。これチケット。お友達と一緒に遊びに来てね」

 

 ロイヤルはともえにライブツアーのチケットが入った封筒を手渡して楽屋を出ていった。

 可愛らしいPPPカラーの封筒。

 

ヒーナ「プリンセスからその封筒を貰ったようだな」

ともえ「うん。ライブツアーのチケットみたい」

ヒーナ「ほうライブツアーか…そういえばともえがいるばみうだちほーでPPPのライブが開かれるとか聞いたな」

ともえ「ほんと!?じゃあ現実の方でも会えるんだ」

ヒーナ「それはともえの頑張り次第だ。ライブの開催日までに開催場所に辿り着けるか」

ともえ「頑張ってみる」

 

 その時、楽屋の鏡が一枚光出した。

 

ともえ「光ってる」

ヒーナ「もうここですべきことはないのかもしれないな」

ともえ「そうなの?じゃあアンゼさんにさよならを言わなきゃ」

ヒーナ「あぁそれならあいつはもうここにはいないぞ」

ともえ「いない!?」

ヒーナ「あいつも旅人だからな。別の場所に行くって言ってここを去っていった。ともえによろしくってさ」

ともえ「そうなんだ。さようなら言えなかったのちょっと残念かな」

ヒーナ「その鏡に手をかざせば次の場所に行けるはずだ」

 

 ともえは光っている鏡に手をかざすと目をつぶってしまうほどの眩しい光に当てられてともえ達は次の場所へとやってきた。

 

ともえ「ジャパリ、こども科学館…?」

 

 ともえの目に飛び込んできたのはジャパリこども科学館と書かれた錆びた看板だった。

 

ヒーナ「ばみうだや他のちほーにはない建物みたいだ。こんな建物知らないぞ」

 

 空は怖く感じるほどの赤い空で曇っていなかった。

 

 STAGECLEAR!Continue to NEXT NIGHT…




「すまないなともえ、私はさようならを言うのが苦手でな」

 かつて女王と呼ばれた存在は一人夢の国を歩く。
 次行く先なんて彼女は特に考えていなかった。
 赤い赤い空の下を歩いていく。
 
『そこのお嬢さーん!ここがどこだか知ってるぅ?』
「『英語は苦手だからわからない』」

 この場にはふさわしくない金髪の女性が彼女に声をかけたが英語だったのでなんて言っているのかわからなかった。

<ココガドコダカシッテイマスカ?>
「私にもわからん。じゃあな」

 そう言って彼女は女性を無視していこうとすると、

<ソレジャアワタシトイッショデスネ!コノワタシトイッショニコノバショニツイテシラベニイキマショウ!>
「お、おいちょっと!」
<ワタシノナマエハ✕✕✕✕✕デース!ヨロシクネ、スケバンガール!>

 彼女の腕を掴んで女性は夢の果てへと沈んでいった。


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#05-11 ダッシュ・クラッシュ・バタンキュー

 \リポート聴くなら~ばみうだアンテナーズ!/

リョコ「こんにちは!現場のリョコウバトです!この後始まるルーニー・レースのリポートにやってきましたー!」

 

 マイクを持ち、不特定多数のリスナーに向けてリポートを届けようとするリョコウバト。

 

リョコ「というわけで今回のレースの主催者であるぎろろさんにお話を伺いたいと思いまーす」

ぎろろ「このルーニー・レースは行く先々に設置された仕掛けや手持ちのスキルを上手く利用して競うなんでもありなレースだ。コースを進行不可能にすることや人殺しさえしなければどんなことをしてもセーフだ」

リョコ「なんでもあり、ですか。これは面白そうなことになりそうですね!でも、これだけじゃないんでしょ?」

ぎろろ「今回は特別ゲストとして人間を参加させている」

リョコ「なんと!人間といいますとあの『かみひこうきの伝説』で登場したかばんという子なのでしょうか?」

ぎろろ「いや違う。ともえという女だ。実力はまあ、期待して損はないと言っておこうか」

リョコ「これは楽しみです!ぎろろさん、ありがとうございます!ではお知らせの後、選手情報とインタビューをお送りしまーす!」

 

□☆

 

ゴマ「起きろー!」 カンカンカンカンカン!

 

 ゴマはフライパンをフライで叩いてともえを叩き起こした。

 

ともえ「うっ、うぅ…」

ゴマ「O☆HA☆YOともえ!ほら起きろ起きろ起きろ!飯ができてるんだぞ」

 

 ともえはふと自分の手に握られている封筒が目に入った。

 

ともえ「これって昨日の…」

 

 ロイヤルから受け取ったチケット入りの封筒を手に握っていたのだ。

 ともえはこれ一発で一気に眠気が吹っ飛んだ。

 

カンザシ「ハヤクダセー!お腹がベーコンを求めているッ!」

コヨーテ「飯食う時だけ現れる集り鳥め!これでも食って黙ってろ」

 

 コヨーテが投げたのは魚肉ソーセージ。

 

カンザシ「ちっ、魚肉で我慢してやるよ」

コヨーテ「ああ我慢しろ」

ともえ「おはよう」

カンザシ「おはよう(もぐもぐ)ともえ」

コヨーテ「おはようともえ。悪いが冷蔵庫から牛乳出してくれないか?ゴマ、お前はコップを出しとけ」

ともえ「わかったよ」

 

 ゴマがコップ出した所に牛乳をともえが注ぐ。

 

コヨーテ「できたぞ」

カンザシ「やったー」

 

 食パンとジャムとベーコンと目玉焼き。

 シンプルなものだった。

 

ゴマ「いい焼き具合、最高」

コヨーテ「いよいよ今日か。ともえ、覚悟は出来てるよな」

ともえ「もちろん」

カンザシ「あっ、そうだ。ともえのカートに私も乗るから」

ともえ「え!?いいけど」

カンザシ「お前だけじゃちょっち頼りないからな。この私が助っ人として入るからにはどーんと任せろ」

コヨーテ「ともえの足を引っ張らないように」

カンザシ「わかってるさ。このレースが終われば私達は次の場所に行かなくちゃいけない」

コヨーテ「ああ、記憶を取り戻す旅をしているんだったな。次はどこなんだ?」

カンザシ「うーん…海だったかな。元々そこに行くつもりで動いてこのザマだったからな」

コヨーテ「ちゃんとともえの友達が帰ってくるといいな」

ともえ「うん」

 

 正直不安ではあった。

 ちゃんと帰ってこないんじゃないとか五体満足で帰れないんじゃとかそんな事が頭のどこかにある。

 

ともえ「とにかく、今すべき事はレースに出ることだよね!頑張らなくちゃ」

ゴマ「無理はするなよ。出ないと昔のこいつみたくなっちゃうぞ」

コヨーテ「昔の話はお互いしない約束だろ!」

ゴマ「あぁすまねぇ」

 

 

ヒメアル「なんでもありな障害物レース、ルーニー・レース!主催者はプロングホーンの師匠、ぎろろ!なんとぎろろ今レースのために特別なゲストを参戦させています!あっ、申し遅れましたワタクシ今レースの実況を担当します、ヒメアルマジロと申します!皆さん熱すぎて倒れないように水分をしっかりとって!お腹が空いたら売店でバーガー買ってね!え?バーガー以外?フードコートなのにお店が一件しか動いてないんですよ!――とまあ、そんなことは置いておいて、今回はこの実況席にスペシャルなゲストをお呼びしておりまーす」

 

 会場内に響き渡るヒメアルマジロの声が準備中のともえ達にも嫌というほど耳に聞こえる。

 

ヒメアル「ほら、君の出番だよ」

イエイヌ「えっ!?あっ、はい!イエイヌです」

ともえ「イエイヌちゃん!?」

ヒメアル「今回は特別参戦のレーサー、ともえの応援に来てくれたんだよね?ちょうど今準備してるだろうし、ともえチャンにエール送ってみてよ!」

イエイヌ「あ、あのともえさん!私は無事です。ぎろろさんには色々良くしてもらって、きっとあの人ならこのレースが終われば私を返してくれると思います!だから心配しないでレースに集中してほしいです」

ヒメアル「はい!ありがとう!にしてもぎろろのやり方ちょっと汚いよね~ヒトの子であるともえチャンを参戦させるためにイエイヌチャンを誘拐しちゃうだなんて!」

\ぎろろきたねーぞ/ \やっぱ最低なやつだった/

ヒメアル「うぉー、たくさんのヤジが飛んできてる。ヤジバリ3だよぉ!」

 

 その後も長々と説明や雑談を繰り広げている。

 

カタカケ「わかってるとは思いますが…」

カンザシ「わかってるよ。暴れねーから安心しろ」

カタカケ「そうしてくれるとありがたいです。ともえさん、こちらを」

ともえ「ゴーグル?」

カタカケ「私達はともかくともえさんは付けてないと目が乾いちゃいますよ」

ともえ「ありがとう」

 

 ともえはそう言ってゴーグルを掛ける。

 

ともえ「どう?」

ゴマ「いいじゃねーか」

カタカケ「そういえばあなた鳥でしょ?そのゴーグルはかっこつけですか?」

ゴマ「まあな。レーサーにとってゴーグルはひちゅじゅひんだからな」

カタカケ「ひつじゅひん」

ゴマ「そうとも言う」

カンザシ「よし行くぞともえ!」

ともえ「うん!」

 

 バギーに乗り込んだともえはすでに乗りこんでたさくらの頭を撫でながら

 

ともえ「よろしくね」

さくら「…」

 

 相変わらず声を返してくれなかった。

 

ヒメアル「さあ各レーサー位置に付きました!いよいよレースが始まります!」

イエイヌ「ともえさん…」

ヒメアル「レッツ…スタート!!」

 

 各カート一斉に発進した。

 なんでもありなレース、ルーニー・レースが幕を開けた!



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#05-11-2『B.A.T.T.L.E G.A.M.E』

 スタートダッシュに若干ゃ遅れ気味だったがそこそこいい具合の所を走れてるのではないだろうか。

 

ヒメアル<先頭を走っているのはホッキョクウサギ!その後をジョフロイネコとコハクチョウが追いかける!一方の注目選手でありゲストレーサーであるともえチャンはなんとも無難な6位だ!>

カンザシ「まだ始まったばかりだ焦るなよ」

 

 前方を走るレーサー達はコヨーテが言うには皆強敵揃いで特にホッキョクウサギはこのサーキット場の一番人気であり1位をよく取るとか。

 

ネコ「ウハギィ!これを喰らうでちよ!」

 

 カートから複数のパイ投げのソレを持ったアームが生えてウサギに目掛けて飛ばした。

 しかしウサギは涼しい顔をしてボタンを押した。

 すると巨大なホッキョクウサギ型のメカが現れソレをすべて吸い込んでスイカのタネのように飛ばしてネコに返す。

 

ネコ「うわぁ!?」

 

 ネコはカウンターに対抗したスキルを用意していたが効果がなく、カートごと吹っ飛びリタイア。

 吹っ飛んでくるカートを後方のレーサー達は避けていく。

 

カンザシ「スキルとかは私に任せろ!お前は運転に集中しろ」

ともえ「わかった!」

ヒメアル<このレースには仕掛けがたくさん♪まずは第1エリアは時間経過と共に崩れていくドミノ倒しエリア!急いで行かないと道が壊れてっちゃうよ!このコーナーでスキルを使うと一気に崩れちゃうので使えなくなりまーす!第2エリアはたくさんの爆弾から避けなくちゃいけないボンバーエリア!当たっちゃったら一時的に動けなくなっちゃうから気をつけてね!第3エリアは…なんと私もよく知らないの!そこまで行ったらのお楽しみってやつだね!>

 ドミノ倒しエリアとやらに突入。

 カタカタカタと不穏な音が響く中、ともえ達のカートに別のカートが突撃してきた!

 

オーセン「ここで会ったが数年目ッ!ここでお前を捕まえる!」

 

 ヘルメットを投げ捨て姿を表したのはオオセンザンコウだった。

 

ともえ「こないだの!」

オーセン「こないだはオーアルにしてやられたが今回は私一人だ!足を引っ張る奴はいない!」

カンザシ「仮にもフレンズだったやつにその言い方はどうなんだよ」

 

ヒメアル<おおっとこれはー!ブタじゃなくてオオセンザンコウだ!あれ?ブタはどこへ?>

ぎろろ<ブタなら俺の部下が発見して保護している>

ヒメアル<あっどーも今回の主催者サン!>

 

 オーセンは何度も何度もブタのカートをともえのカートにぶつけては手にした大きな虫取り網で捕まえようとするがともえの運転やこのエリアの揺れのおかげで上手くかわせている。

 

オーセン「そーこーだー!」

カンザシ「前をよく見ろ」

オーセン「え?前?――あっ」

 

 オーセンは捕まえることに夢中で曲がらないといけないことに気付かなかった。

 落下する。オーセンはふかーく息を飲み込んでから覚悟を決めて落ちた。

 

ともえ「どうにかなった?」

カンザシ「ああいうのはしぶといからなあ。一応警戒しておく」

ともえ「お願い!」

 

 脱落した人ら以外はなんとか第1エリアを突破。

 先方を走るレーサー達はエリアから外れたやいなやスキルを使ったりして相手を抜かそうと激しい攻防を繰り広げている。

 ここはスキルを温存して前の人達には争ってもらおう。

 

オーセン「うおりゃあああ!」

カンザシ「しぶとい!しぶとすぎる!」

 

 オーセンが乗るブタのカートのシャーシ部分にアニメで見るような大きなバネがあり、スキルで飛んできたんだとわかった。

 もう一度レースへと戻ってきたオーセンはもう一度ともえを捕まえようと攻撃を始める。

 

オーセン「今度こそ!」

カンザシ「お前はどこ行ってもしつこいやつだな!だったら見せてやる」

 

 カンザシはボタンをひとつ押してから3Dメガネをかけた。

<スキル:キャッチャーシュート>

 カートからアームが出てきてオーセンを掴み、お皿のような物に乗っけてシュート!

 お皿はくるくると回転して近くのそこそこ大きな石に当たって動きを止める。

 オーセンは回転させられたせいもあってお皿同様くるくるしてた。

 いくらしぶといやつでももうこのレースに出てくることはないだろう。ないはず。

 

カンザシ「これで私もガイだー!」

 

 そう言って3Dメガネを羽根の中にしまった。




カタカケ「あの野郎…」

<スキル:キャッチャーシュート>
カンザシフウチョウ考案のスキル。
相手をカートからアームで引きずり下ろしてお皿のようなものに乗っけて飛ばすスキル。
元ネタはスパイキッズ3Dゲームオーバーらしいが…。


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#05-11-3 勝利は誰の手に

ヒメアル<第2エリアに続々とやってくるレーサー達!どのレーサーもすごすぎて誰を見ていいかわからなくなってきたぞー!>

 

 第2エリア、ボンバーエリア。

 走る道にピコンピコンと赤く光るなにかが無数にある。

 ゴマを含めた先方の何人かが爆弾で動けなくなってるなか、プロングホーンはスキルを使わずにテクニックで華麗に他のカートも爆弾もかわしていき、タスマニアンデビルは自慢のスキルで土の中に潜りながらどんどん抜かしていっている。

 

ギン「どうするつもり?」

キタ「決まってる。ボク達はタスマニアンデビルが作った道を使う」

ギン「でも後ろから来る子らに向けて攻撃スキル使ってくるでしょ?」

キタ「大丈夫。こういうこともあろうかとスキル作ったから」

 

<スキル:ムテキでゲーマー>

 

キタ「これで行く」

 

 キタキツネとギンギツネが乗るカートがキラキラと輝き出してデビルが掘った穴の中へと進んでいった。

 ギンキツネの予想通りタスマニアンデビルはカートの後ろから爆弾を落としていくがムテキでゲーマーの前では通用しない。

 

ギン「やるじゃない!」

キタ「でもそろそろ切れそう」

ギン「はぁ!?」

 

 キタキツネの言う通りタイムアウト。

 効果がなくなってしまった。

 そしてそのタイミングで二度目の爆弾を用意されて危機一髪。

 爆発しそうなその時、

 

ギン「爆弾が消えた!?」

 

 爆弾が消えたのだ。

 

カンザシ「無効化スキルがあって助かったぞともえ」

ともえ「こうじゃないと」

 

<スキル:コンファイントリガー>

 

キタ「師匠ー!助かりました!」

ギン「助かったわともえ」

デビル「くそう!俺のスキルが無効になるなんて!」

カンザシ「大人しく私らを外まで安全に案内してもらおうか」

デビル「くぅ…!」

 

 

カタカケ「あんなインチキなスキル、通るんですね…」

コヨーテ「相手の発動スキルを1つだけなかったことにできるスキルだからな。これがレース中とか一定時間とか設定されてたらアウトだった」

 

 レースの模様をピット内で見届ける二人。

 モニターにはデビルが作った穴から出てくるともえ達が映し出されている。

 

コヨーテ「一時はどうなるかと思ったがよくやれてるな」

カタカケ「そこまで期待してなかったんですけど順調に4位まで来れてるのはすごいと思います」

コヨーテ「第1は妨害さえ無ければ楽に済んで、第2はテクニックかスキルでゴリ押せばどうとでもなった。問題は第3だ。何があるかによって変わってくる気がする」

カタカケ「ロードランナーさんの方は気にしなくていいんですか?」

コヨーテ「あいつは問題ない」

カタカケ「そうですか」

 

 

ヒメアル<第3エリアに突入!特に仕掛けはないようだが…?>

ぎろろ<そろそろだ>

 

 突然ともえ達の前に全身灰色のレーサーが現れた。

 

ぎろろ<うふふ…見ろ!これがレーサーセルリアンだ!>

ヒメアル<レーサー、セルリアン?>

 

カンザシ「あれは、セルリアン!?」

キタ「え!?あれがセルリアン?」

 

 セルリアンはタイヤのような形をした円形の何かを飛ばし始めてくる。

 ともえ達は上手く回避していってるが後ろを走るレーサー達はモロに喰らったりして再起不能に陥ったりしてる。

 

ホーン「ねえ、イエイヌの友達!ここは協力して奴を倒そう。こいつを倒さないと私達にゴールはないと思うんだ!」

ゴマ「あぁん!?だからってお前と協力するってのか」

キタ「ライバルだった奴と同じ目的のために戦うなんて最高!師匠、ここは協力してドカーンとあのセルリアンをやっつけましょう!」

ギン「やるしかないみたい」

ともえ「うん、やろう!」

ホーン「よしじゃあ作戦は――」

ゴマ「ヒトの話聞けーッ!ちっしょうがねぇなあやってやるよ」

 

 いつ喰らって脱落してもおかしくない状況で簡単な作戦を決めて行動に移す。

 

<スキル:シューティングスター>

 

 キタとギンが乗るカートのボンネットに大砲が現れ、ギンがセルリアンや投げてくるタイヤ目掛けて撃ち込む。星の形した弾丸がタイヤに当たってキラキラとタイヤごと爆散!

 

キタ「いい感じ!」

ホーン「次は私だ」

 

<スキル:クロックアップ>

 

 ホーンのカートがセルリアンに急接近しカートをぶつけて弾き飛ばす。

 

<スキル:シャボンギフト>

ともえ「当たれ!」

 

 弾き飛ばした先はともえのスキルの範囲に入っていた。

 見事にセルリアンはシャボンに包まれ行動できなくなる。そこへ――

 

<スキル:ミッミースペシャル>

 

 ものすごい勢いでシャボンに体当りするゴマのカート。

 この力強い体当たりにセルリアンが耐えきれずパッカーン。

 

ゴマ「さらにこうだ!」

 

<スキル:お空をミッミッ>

 

 ゴマのカートは今まで隠していた翼を広げ猛スピードでゴールを通過した。



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#05-END『星を辿れば』

<スキル:ムテキでゲーマー>
<スキル:コンファイントリガー>
<スキル:クロックアップ>
平成仮面ライダーが元ネタのスキル達。
一時的にムテキになったり、相手のスキルをキャンセルしたり、物凄いスピードになったり色々と強いスキル達

<スキル:シューティングスター>
キングダムハーツ3や銀河超特急が元ネタであろう

<スキル:シャボンギフト>
喰らって田舎に帰りな

<スキル:ミッミースペシャル>
<スキル:お空をミッミッ>
砂漠をミッミッ。
元ネタのルーニー・テューンズから。ミッミースペシャルというサブタイはない。


ヒメアル「今回のレースは今まで以上に盛り上がったレースでした!1位がG・ロードランナー、2位がプロングホーン、そして3位が――」

 

 あたしだった。

 

キタ「師匠おめでとー!!」

ともえ「うわぁっ!?」

 

 カートから降りたともえを抱きしめにやってきたキタキツネ。

 

ギン「もう、困ってるじゃない」

キタ「あぁごめん」

ともえ「いいの、大丈夫。終わったんだレースが」

カンザシ「そうだな。まさかゴマが1位になるなんて誰が予想してたんだろうな。これが賭けだったら大半がプロングホーンに賭けてただろうに」

ギン「賭け?」

キタ「確かに言えてる。ボク達に賭けてくれる子は誰もいなかったろうなー」

ゴマ「どーだプロングホーン!俺様の勝ちだ!!」

ホーン「今回は負けたよ。まさかセルリアン倒した勢いでそのままゴールに行っちゃうなんて」

ゴマ「咄嗟に閃いただけだ。今回のために用意しておいた飛翔スキルが役に立ってよかった」

ホーン「飛ぶのとブースト入るの一緒にできたんだ」

ゴマ「ともえがいなかったら作れなかったができるぜ」

ホーン「イエイヌの友達が?」

ゴマ「あーっ!!お前、ともえにイエイヌを返せ!」

 

 ゴマに体を揺すられるホーン。

 

ホーン「私じゃなくてぎろろさんに言って!」

ゴマ「くそう!ぎろろはどこだ!」

ぎろろ「俺ならここだ」

 

 ぎろろがイエイヌを連れてともえ達の前に現れた。

 

ともえ「イエイヌちゃん…!」

イエイヌ「ともえさーん!」

ともえ「よかった!無事で」

イエイヌ「ともえさんこそ無事にレース終えられてよかったです!」

 

 ぎろろがともえの前にやってきて頭を下げてきた。

 

ぎろろ「すまなかった。お前の大切な友達を誘拐した挙げ句お前達が乗ってた乗り物を破壊した。許してくれとは言わない」

ともえ「頭を上げてください。いいんですよ。最初は不安だったし許せなかったけど、今なら許せる」

カンザシ「3位取ったからか?」

ともえ「もう!」

ぎろろ「お前、変わったな」

ともえ「え?」

ぎろろ「いや、なんでもない。ひとつ忠告しておく、真実よりも一番恐ろしいのは真実を作った原因だ。原因はお前に牙を向いてくるかもしれない。その時は逃げることをおすすめする」

 

 ぎろろが何を言っているのかともえにはわからなかった。

 

カンザシ(ふーん…原因ねえ)

カタカケ(ともえさんの場合だと真実が記憶喪失前の出来事ですよね)

カンザシ(私達が起こした事はその原因じゃないと思うんだが)

カタカケ(多分アレのことを指しているはずなので我々ではないはずです)

カンザシ(だよな)

ゴマ「おい、なにぼーっとしてんだよ。これから授賞式だぞ?」

カンザシ「ああ!今行く」

 

 

リョコ「初めまして!私はばみうだアンテナーズのリポーター、リョコウバトと申します!」

ともえ「どうも」

カンザシ「おう取材はお断りだぜ」

リョコ「いいじゃないですか~一応許可もらってます」

 

 そう言ってリョコウバトは取材許可のカードを見せる。

 

カンザシ「じゃあ手短に」

リョコ「はーい。では今回のレース最高でした!ともえさんは初レースなんですよね?それなのにハンドル捌きやスキル使いが上級者顔負けだったのですが前に何度かこういうのをやっていた経験があるんでしょうか?」

ともえ「あたし記憶喪失だからそこんとこわからなくて。でもレーサーじゃないってのは心でわかるんだ」

リョコ「記憶喪失なんですか。そういえば前に"げーむき"というのをジャパリホテルで見たことがありますね」

ともえ「ゲーム機?」

リョコ「そこそこ大きな鉄の塊でジャパリコインを入れると動くんですよ!他にもぽっぷこーんっていう美味いお菓子を作ったり、写真を撮ったりと色々ありましてあるフレンズが言うには『これは元々ヒトが遊ぶために作ったもの』だ――」

 

 その時、ともえの脳裏にはアムールとゲーム機で遊ぶ姿が映り、いつもの頭痛が起こる。

 

リョコ「大丈夫ですか?」

ともえ「大丈夫、気にしないで。思い出しただけだから」

リョコ「そうですか…取材はここまでにしておきます。また今度何かあった時にはよろしくおねがいしますね。それじゃあお元気で!」

 

 リョコウバトはともえにさよならを告げて空へと飛んでいった。

 

 

ぎろろ「今日はルーニー・レースに参加してくれて感謝する!コースの仕掛けについて色々と迷惑かけた。そのお詫びと参加してくれた礼としてささやかではあるが食事を用意させてもらった。楽しんでほしい」

 

 お疲れ様会のようなもの。

 毎回レースを行うと参加者が集まって食事を振る舞うとかなんとか。

 お疲れ様会で振る舞われる料理は手料理かバーガーショップかのどっちかなのだが今回はイエイヌが作ることになった。

 ともえと風鳥、ゴマ達も手伝って完成させた料理は寄せ鍋だった。

 

イエイヌ「熱いので気をつけてくださいね」

ゴマ「美味そうだ」

ホーン「うまっ――あつっ!」

ゴマ「ヒャハハ!」

ホーン「お前もこの熱々しらたきを食え」

ゴマ「ぐわああ!!??」

ともえ「美味い!」

イエイヌ「そう言ってくれるの嬉しいですぅ」

 

 皆でワイワイしながら鍋を突くのはあたし達にとってきっと初めての思い出だった。

 肉が柔らかいし汁もおいしい。

 

カンザシ「ほれプレゼント」

(心優しいカンザシちゃんはカタカケちゃんにお野菜をプレゼントしたのでありました!)

カタカケ「いらないです…」

カンザシ「野菜も食べよう!」

イエイヌ「追加でーす」

 

 カンザシの皿に野菜を盛り付けてあげるイエイヌ。

 

カンザシ「なんてことを…!」

 

 

 翌日、ぎろろに呼び出されてともえ達はファクトリーへとやってきていた。

 

ホーン「待ってたよ」

ゴマ「よっ!プロングホーン。それで今日はどういう了見なんだ?」

ホーン「それは秘密」

ゴマ「ちぇっ」

ぎろろ「よく来たお前達こっちへ来るんだ」

 

 ぎろろの後についていくとそこには見覚えのあるカートがあった。

 

ともえ「これって」

ぎろろ「そうだ。お前がレースに使っていたカートだ。これをサーキット外でも使えるように改造しておいた。カートはこのエリアでしか使えないんでね。それとちょっと弄らせてもらったがお前が設定したものはそのままだ」

ともえ「ありがとう!ぎろろさん!」

ぎろろ「飛行船を壊したのは俺だ。これくらいしなきゃ駄目な気がしてな。さあこれに乗ってどこへでも行くがいい。もうお前達に用はない」

 

 そう言ってひとり帰っていった。

 

ホーン「えへへ…大丈夫。ぎろろさんの分まで見送ってあげるから」

ゴマ「まったくお前の師匠はれーぎしらずってやつだな!」

コヨーテ「お前が言えた口か」

ともえ「ねえ出発する前にキタキツネ達に挨拶しに行っていいかな?」

イエイヌ「構いません!」

ともえ「そうだ!」

イエイヌ「?」

 

ともえはバッグからスケッチを取り出して書き始めた。

 

ともえ「できた!」

 

ともえが描いたのはゴマたちがカートに乗っている絵だった。

 

ゴマ「おお、いいじゃあねーか!」

ともえ「思い出にしておこうと思って」

ゴマ「ちょっと貸してみな」

 

ゴマは自分のサインを描いた。

 

ゴマ「なーに礼はいらねぇ」

ともえ「ありがとう」

 

 ともえ達はそれぞれのカートに乗ってキタキツネ達のところへ向かった。

 

 

キタ「師匠!」

ともえ「キタキツネちゃん、ギンキツネちゃん。今日はお別れを言いに来たの」

キタ「えっ!?もう行っちゃうの!?ボク、師匠と遊び足りないよ」

ともえ「大丈夫!次会った時は一緒にまた遊ぼ?」

キタ「約束してくれる?」

ともえ「もちろん!」

キタ「じゃあ、小指出して」

 

 ともえは小指を出すと指切りげんまんを始める。

 

キタ「指切りげんまん、嘘ついたらセルリアンに食ーわす!ゆびきった」

ともえ「ぜーったい次会った時は遊ぼう!」

カンザシ「『そう言ってともえちゃんは次会った時その時の約束を忘れているのでありました』おっと、先を読みすぎましたね」

ともえ「そんなことないもん」

カンザシ「ほんとかあ~??」

ともえ「本当だよ!」

カンザシ「まーいいだろう。その顔に免じて信じてやるよ」

ギン「えらそーに。ともえ、一緒に遊んでくれてありがとう!また会う時があったらその時はよろしくねっ!」

ともえ「うん!さようなら!また会おう」

キタ「じゃあねー!師匠ー!!」

ギン「また会いましょう!」

 

 遠くなっていく二人。

 

ともえ「また、会えるよね」

イエイヌ「もちろん!次会う時は記憶を取り戻した後ですかね」

ともえ「多分そうかも」

ゴマ「それじゃあ俺様達ともお別れだな」

ホーン「イエイヌが作るご飯美味しかった!また食べさせてくれ!」

イエイヌ「はい!」

ゴマ「ともえ!あいつらも言ってたがまた会おうぜ」

ともえ「うん!」

 

 別れ道手前で止まる。

 

ゴマ「ここから俺様達はそれぞれの道を行く!ホーン、俺様と一緒に」

ホーン「ああ!どっちが速いか勝負でしょ!勝ったら…」

「「どっちかの言うことを一日だけ聞く!」」

ゴマ「それじゃあ行くぜ」

 

 ともえ達とゴマ達はそれぞれの道へと向かって走り出した。

 旅はまだまだ続く。この旅に終わりなんてない。




急ぎ足なのは異界入りのために急いでいたからなのをここで懺悔します
ギンとキタとのお話はもしかしたら落ち着いたら書くかもしれません

おいなりよこく~♪

マナヅル「いいですか、カラカルさん」
カラカル「…はい」
マナヅル「世の中には怒らせてはいけないものがあります!」
カラカル「あっ、わかった!それってk――」
マナヅル「違います!正解はオイナリサマです!お稲荷を切らしたらめちゃくちゃ怒られます」
オイナリ「マナヅルよ、味噌汁を作ってくれ」
マナヅル「はっ!わかりました!次回は『おたまじゃくしのごきげん』です。お楽しみに」


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#05.1 おまえはだれだ

ガバガバおまけ小説シリーズ
5話全話投稿前に書いたネタなので矛盾が生じていると思います


 テレレン♪

 ポテトが揚げ上がった。

 

ワラビー「はい、ご注文のセットになります」

 

 注文したのはチキンバーガーとサラダとポテト、コーラのセット。

私は窓の外が見える席に座ってバーガーの包を少しだけ開けてかじりつこうとする私。

 気分はもう陽気なBGMを流しながら舌打ちに聞こえそうな音を口の中で出しながら食べる海外の作品のキャラみたいな。

 口の中にチキンとパンを突っ込んでもぐもぐしようとした矢先、とんでもないやつと出会った。

 

かんざし「あ、ああ…なぜ、なんだ」

カンザシ「ん?」

かんざし「なんで、私がいるんだ!?」

カンザシ「あー…」

 

 そこにいたのはもうひとりのカンザシフウチョウだった。

 どう言い訳つこうか。そうだ。

 懐から鼻眼鏡を取り出して、かけてからこう言った。

 

カンザシ「忘れたのか?お前の姉のタンビカンザシフウチョウだぞ」

かんざし「姉さん…!」(irodori風顔)

かんざし「って違う!」

カンザシ「ちっ」

かんざし「なぜだ!なぜ私がもうひとりいるんだ。ありえないだろう!」

カンザシ「ありえない?なぜだ?」

かんざし「なぜって、そりゃあ同じフレンズが複数いちゃ駄目だろ!」

カンザシ「いや、同じ種類のフレンズが複数いちゃいけないなんてルールはないぞ」

かんざし「え、ほんと?」

カンザシ「そうだぞ」

かんざし「それもそうか。なあ、そっち座っていいか?」

カンザシ「いいぞ」

 

 ふう。どうにかなった。

 かんざしは私が座る席に座ってきた。

 あいつが持ってきたものは食いかけのホットドックとフィッシュバーガーとオレンジジュース。

 

かんざし「いやあ、ここのは美味いな。評判通りだ」

カンザシ「全部を試したことはないが聞く所によると全部美味いらしいぞ」

かんざし「そうなのか。だが全部は食べられないな。レースが終わればおうちに帰る」

カンザシ「レースを見に来たのか」

かんざし「かたかけと一緒に見に来たんだ。お前もレースを見に来たんだろ?」

カンザシ「…そうだな。見に来た」

かんざし「なあ、誰が優勝すると思う?私はプロングホーンだと思う。あいつはぎろろの弟子としてレースの上位に毎回入るやつなんだ。きっと今回はロードランナーを抜いて一位になると思うんだ」

カンザシ「そうだなあ。ロードランナーも捨てがたいが、私は特別参加枠のやつが優勝するかはさておき、結構行けそうな気がするんだがどう思う?」

かんざし「特別参加枠ってかみひこうきの伝説に出てきたあのヒト?」

 

 パークにはかみひこうきの伝説という歌がある。

 かばんと呼ばれるヒトがサーバルとボスを連れて紙飛行機や知識を使ってフレンズを笑顔にしていき、ごこくへと旅立って行ったという内容の歌だ。

 歌として活躍が広がっていったのはよかったことなのだが、絵に描いたような人物像だったので当の本人と出会うまで出来の良い作り話という程度に留まっている悲しい実話。

 

カンザシ「いやそいつじゃない。最近もうひとり増えたんだよ、ヒトの子が」

かんざし「へーそれは知らなかった。ヒトって実在したんだな」

カンザシ「当たり前だろ。ヒトは絶滅したんじゃない、避難したんだ。だから今もどこかで生きてる」

かんざし「で、ヒトは強いのか?」

カンザシ「どうだろうな。だが見た感じだとそんな悪い物ではなかったように見えたが、練習次第だな」

かんざし「そういえばお前一人で来たのか?」

カンザシ「いや、サルとイヌとカタカケの四人で来たんだけどさ、イヌは鬼ヶ島に連れて行かれるわサルはイヌを取り戻すために船を漕ぐ練習始めるわで皆バラバラで私は私で暇をつぶしながらこうして昼食を取りに来たってわけさ」

 

 ぼかしてはいるが間違いではないので。

 ともえの事をサル呼ばわりはちょっと乱暴だったか。

 

かんざし「そうなのか。そっちもかたかけと一緒に行動しているんだ。そっちのカタカケにも会ってみたかった」

カンザシ「会わない方がいい。私より面白みのない奴だからな。あいつを見たら気分を害すぞ」

かんざし「そのくらいやばいのか…」

カンザシ「ごっそさん。片付け、そっちでお願いできるか?」

かんざし「いいけど」

カンザシ「よかった。じゃあなかんざし。レースを楽しめよ」

 

 そう言って席を立ちお店から出た。

 

カンザシ「それにしても」

 

 まさか別の世界のこいつと鉢合わせするなんて。

 鉢合わせしたからって特になんもないが、会ったら会ったで面倒なんだよなこれが。

 

かたかけ「かんざし、ここにいたのか」

カンザシ「うげっ」

 

 最悪だ…



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6ページ おたまじゃくしのごきげん #06-1『ユーフォリア』

 次なる場所は海!

 海へと続く道をカートで走りながらともえ達はお喋りしている。

 

イエイヌ「いよいよ海に向かうんですね」

ともえ「ねえイエイヌちゃん!海で何をする?」

イエイヌ「そうですね…泳いだり、砂のお城作ったり…焼きそば作って食べましょう!」

ともえ「焼きそば!」

カンザシ「焼きそばいいじゃねーか。当然多めにくれるんだよな?」

イエイヌ「もちろん!」

 

 ともえ達は内心、海に行くことに胸が踊っていた。カタカケ以外は。

 

カンザシ「おいおいなんだよそんな顔してさー。せっかく海にやってきたっちゅーのにそんな顔だとちっちゃなカニちゃんにほっぺ挟まれるぞ」

カタカケ「あっすいません。考え事してました」

カンザシ「考え事?」

カタカケ「ええ、なんだか海にはぎろろ同様めんどくさい相手がいるんじゃないかと」

カンザシ「ゲームとかアニメで言えば確かに敵を倒せば新たな敵が出てくるもんなー、おまけに海と来た。まさかうみのごきげんとやらと対決するんじゃ…?とか思ってたり?」

イエイヌ「うみのごきげんってなんですか?」

カンザシ「うみのごきげんっていうのは昔話さ」

 

 冥府から現世という陸へと上がり、かつての居場所を手に入れ自分の世界に作り変えようと画策した恐怖の邪神魚。母胎だの鳩ぽっぽだの色々呼ばれてるが有名な名前が"ウミノゴ・キゲン"。それが昔話として伝わっていく内に"うみのごきげん"となった。

 いつの時代に生まれたのかはさておき、ウミノゴ・キゲンの話は基本的に海に近い村に起こる病気、または飢えをどうにかするために若者たちは刀のような鋭利な刃物、巨大魚の骨で作った武器を用いて退治しに向かい、犠牲者を出しつつも撃破。

 こうして村人達は救われ、彼らは英雄になったのでありました!というお話だ。

 

カンザシ「詳しい話は覚えてないから私に聞くな」

イエイヌ「へー、カンザシさんって物知りなんですね」

カンザシ「いやいや、何でもは知らない。知っていることだけしか知らないのさ」

 

 少し首を曲げて――そうシャフ度をカンザシはやったのだ。

 

カタカケ「キモッ」

カンザシ「キモッてなんだよキモッて。傷つくんですけど」

カタカケ「心も体も傷物のくせによく言うわ」

カンザシ「こらー!そういうこと言うなー!」

ともえ「ねえその邪神って色んな所に出てるの?」

カンザシ「ああ、似たような物がちょくちょく目撃されていたようだ。それのせいで各地方ごとにウミノゴ・キゲンの呼び名が違うんだよ。そしてウミノゴ・キゲンという名前も正式なものじゃなかったりする」

ともえ「そうなんだ。じゃあ正式な名前は?」

カンザシ「知らん。ウミノゴに聞かんとわからんことだ。11万4514人のウミノゴ学者はそれを知りたいがためにありとあらゆる方法で調べようと模索したがみんな別のなにかしらの第一人者になった」

ともえ「うーんなんかよくわからないけど、すごいんだね」

イエイヌ「ともえさん!海です!海ですよ!」

 

 ともえはカートを止めて遠くに見える海を見据えた。

 



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#06-2 人魚の唄が聞こえる

カンザシ「こんなに綺麗なのはサンドスターのおかげか?」

カタカケ「でしょうね。それとムクナリウムがまだ発生していないことも」

イエイヌ「海だ…!」

ともえ「海ってこんなに綺麗で優しそうなんだ」

 

 遠くから見えるその海はでっかく、恥ずかしい台詞が飛んでくるくらいに、素敵な出会いだった。

 

ともえ「こうしちゃいられない。皆!早く海に行こうよ!」

カンザシ「それもそうだ」

 

 

 間近に見る海は遠くで見るよりも大きく感じる。

 ともえはなんとなく小さくなった波に手を入れてみた。

 

ともえ「冷たい――キャッ!?」

カンザシ「海に来たからには水の掛け合いだ!ともえ!イエイヌかかってこい!」

イエイヌ「いきますよー!」

 

 バシャバシャと水の掛け合いを始めるともえ達をぼーっと見るカタカケ。

 決してのけものにされてるわけではない。

 

カンザシ「お前も来いよカタカケ!」

カタカケ「遠慮しておきます」

カンザシ「ちぇっ」

 

 カタカケは翼から日傘を取り出してその場に座り込んだ。

 涼しい風がこっちに吹いてくる。

 

カタカケ「涼しい」

 

 うるさいのがいるのを除けばここはまさにいい場所だった。

 

カタカケ「あれは…」

 

 奥に見えた建物が気になってマップを読んで見る。

 

カタカケ「水族館ですか」

 

 ボチャン!

 

カタカケ「え?」

イエイヌ「ともえさん!」

カンザシ「任せろ!私が行ってくる!」

カタカケ「なにやってんだあいつら…」

 

 

 ともえは水にかからない所まで飛んだカンザシにどう水かけるかに夢中で目の前の状況を理解せずに進み、無事沈んだ。

 沈むともえを捕まえようと潜ってきたカンザシは海中に響いてくる歌声に魅せられて動きが止まってしまった。

 決してそれは魔法とか呪いとかじゃなくて単に素晴らしい歌声に聞き惚れてしまっただけ。

 

カンザシ(あっいけね)

 

 カンザシは沈みゆくともえの腕を掴んで海から飛び出した。

 ともえを砂場に寝かせる。

 カタカケは寝かされたともえの前に立ち、聞き慣れない言葉を早口で呟く。

 

ともえ「うぅ…」

イエイヌ「ともえさん!よかった…」

カタカケ「おい糞鳥どういうことかあっちで説明してもらおうか」

 

 そうやって風鳥達はともえ達には聞こえない場所に移った。

 

ともえ「…あたしはしゃぎすぎちゃった。カタカケちゃんには後でお礼を言わないと」

 

 少々ぐったりとしている。

 

イエイヌ「海だから思わずはしゃいじゃいましたね」

ともえ「うん。まさかいきなり深くなるなんて――そういえば沈んだ時に歌が聞こえてきたんだ」

イエイヌ「歌が?」

ともえ「うん、何の曲だったかは知らないけど綺麗な歌声だった」

?「うわあ!?ちょっと大丈夫ですかー?」

 

 カルガモがぐったりして倒れてるともえを見るなり走ってきた。

 

ともえ「もう大丈夫、かな」

カルガモ「いやいやそのままだったら風邪ひいちゃいますよ!ほらえーっと、イヌさん!この子を私と一緒に医務室へ運びましょう!早く」

イエイヌ「え?えぇー!?」

 

 カルガモの圧に押される形でぐったりとしたともえの肩をカルガモと共に組んでイエイヌは目先にあるあの建物、水族館の医務室へと向かうことになった。

 

 



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#06-3 真説ばみうだちほー事件

カルガモ「これで大丈夫なはずです。ゆっくり休んでてください!」

イエイヌ「ありがとうございます」

 

 全体的になんか変な臭いがする気がする医務室に運ばれたともえは誰も使ったことのなさそうなベッドに寝かせられた。

 イエイヌは椅子に座ってじーっとともえを見ている。

 

ともえ「そんなに見つめられるとちょっと照れちゃうな」

イエイヌ「ごめんなさい!」

ともえ「いいの。ちょっとだけだから」

イエイヌ「ここはどういうとこなんでしょうかね」

ともえ「そうだね」

カルガモ「おまたせしましたー!飲み物を持ってきました。ささ、イヌさんも飲んでください」

イエイヌ「これはどうも」

 

 カルガモが持ってきたのは冷たいりんごジュース。

 

ともえ「美味しい」

カルガモ「でしょ~!これここの皆がよく飲んでる飲み物なんですよ!」

 

 なんだかこのジュースを飲んでいると気分が良くなってくるような気がする。

 

カンザシ「おい!私にも飲ませるんだ」

カルガモ「うわぁ!?鳥だー!」

カンザシ「おう鳥だぞ」

ともえ「もう慣れたからいいけどそれ、できればやめてほしいなあ」

カンザシ「おう考えといてやるよ」

カタカケ「どうも突然出てきてすいません。私はカタカケフウチョウ。こっちはペットのゴミ鳥とともえさん、そしてイエイヌさんです」

カンザシ「そう!おいらはゴミ鳥♪って違うわ!カンザシフウチョウって名前があるんですけど!」

カタカケ「アースイマセンデシター」

カルガモ「お二人は漫才が得意なフレンズさんなんですか?」

「「違う!」」

カルガモ「これはごめんなさい」

カタカケ「ともえさん、その服のままだと風邪を引きます。これに着替えてくれませんか?」

 

 そう言ってカタカケは変わりの着替えを手渡した。

 

イエイヌ「き、着替え?」

カンザシ「フレンズっていうのは意識することでこれを脱ぐことが出来るんだぜ?試してみるか?」

イエイヌ「いや、いいです」

カンザシ「そっか」

 

 カーディガンっぽい上着にワンピース。麦わら帽子。

 

ともえ「これいいかも」

カタカケ「よかったです。用意した甲斐があったものです」

カンザシ「前の服は…適当に乾かしておくか」(本当はクソダサいから燃やして捨ててやりたいなんて言えない)

カタカケ(そんなことすんなよ)

カンザシ(わかってるよ)

 

 

 ともえが回復するのを待ってから水族館内をカルガモが案内してくれることになった。

 

カルガモ「さあさあこれより水族館ツアーをはじめたいと思いまーす!ワタクシカルガモがこのばみうだ水族館をご案内いたします」

カンザシ「イエーイ!」

カルガモ「良い返事!好きかも!では早速行ってみたいと思いまーす」

 

 カルガモによる水族館ツアーが始まった。

 最初に通ることになるこの場所は小さなフレンズ達が住まうおうちだった。

 

カルガモ「ここには小さくてキュートなフレンズさんがいるんです!ほら例えばこの

子とか名前は…えーっと…」

ともえ「バミウダリトルフィッシュって書いてあるね」

カルガモ「字が読めるんですか!?すごいなあ。私も案内人としてやるからには字を読めるようにしなくちゃなあ」

 

 バミウダリトルフィッシュ。

 夜見島付近で見つかった小魚で三角形の模様が特徴の不思議なお魚。

 焼いても煮ても美味くないがはにゅうめんや羽生蛇蕎麦に入れると劇的に美味くなる。

 

カンザシ「はにゅうめんとか羽生蛇蕎麦とか知っちゃあいけない」

ともえ「わかった」

 

 

カルガモ「お次はこの子!」

カンザシ「これ明らかに魚じゃねーだろ」

カタカケ「変な村で食い物にされてそうな姿してますね」

カルガモ「えーっと…タツノオトシゴ?さーん!こんにちわー!」

 

 タツノオトシゴ?は語りかける、『こんにちは』。

 そしてこちらに振り向いた。

 タツノオトシゴ?はともえの顔を見るなり段々青ざめていき――

 

『キェアアアアアア!切り落とさないでくださーい!』

 

 ひどい耳鳴り。この場にいるタツノオトシゴ?以外の誰もが耳をふさぐ程の酷い音だった。

 そうしてタツノオトシゴ?はどこか別の場所へと引っ込んでいった。

 

カルガモ「…逃げちゃいました。ともえさんはあの人?とはお知り合いで?」

ともえ「いや…?そもそもあんなのと知り合う人いるの?」

カルガモ「いるんじゃないですかね」



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EX-STAGE ReBIRTH

ふうちょうとうらいするまえのきおく
おちたことりをもとめ、いっぴきのあわれなきじゅつしはひとりかぎがついたすいそうへとおもりをつけてしずんでいく。



 船が遠のいていく。

 もう私は決めたんだ。あの子を見つけ出すと――

 

 

 傷がなんだっていうんだ。

 あの子が経験した痛みと比べればこれぐらい…。

 

「うぐっ」

 

 痛い。

 痛い痛い痛い痛い。

 元はと言えば私が傷を負ったからだ。

 負わなかったらあの子は自分を犠牲にするようなことはしなかったのかな。

 

「セルリアン!」

 

 痛いけど、戦えないわけじゃない。

 懐から取り出したるはトランプ。

 これを投げつければ、セルリアンくらいになら効果はあるはずだ。

 

「うそ…!」

 

 セルリアンはこっちを見るなり自分と同じ姿に変わっていってこちらへと襲いかかる!

 私はトランプを投げナイフのような感じで数枚投げつける。

 しかし相手はびくともしない。

 迫る、どんどん迫ってくる。

 駄目だとわかっているのに何度も何度もカードを投げて。

 時間稼ぎにもならないの頭でわかってるはずなのに。

 セルリアンは私という餌に飛びついて食い殺そうとしたが飛びかかってきた矢先にセルリアンは灰となって消えた。

 

「え…?」

 

 何が起こったのかわからなかった。

 

「賢いやつなら船に乗っていたと思うんだが」

 

 その時空から九尾が舞い降りてきた。

 

「いくら目的あれどその傷ではさっきみたいに殺されるだけだ」

「一刻も早く、あの子を――を探したかったんだ!」

「ほう。人の子を探したかったのか。だがどうしてそいつに固執する?人の子なぞ星の数ほどいよう。そいつに固執するほどの価値はどこにもないだろうよ。ましてや社会というサバンナが辛くて仕方ないからなぞと命を捨てようとした者のことなぞ」

「価値はある!私には価値のある子なんだ。一緒にマジックをして、一緒にパークを周って私は――と一緒にこれからもいたいって思ったんだ!お前に決められるほど私と――の友情は低くない!」

 

 九尾は少し無言の後、

 

「そうか、それはすまなかった。価値が低くないと言うならその友情が見たくなったなあ。――決めた、お前さん私の弟子になれ。意見は求めん」

「うわっ」

 

 私は九尾の力で宙に浮かび九尾の後に付いていくことに。

 

「早く探さないといけないのに!」

「そう焦るな。その傷じゃどれだけ探し回っても見つける前にお陀仏になるぞ。まずは体を直してからだ。こっちで調べておくからとにかく休め」

 

 

 めちゃくちゃいいニュースとちょっとだけわるいニュースがあるの。

 まずいいニュースはあの子が生きていたこと。

 わるいニュースはあの子が操られてる事だった。

 操られてるあの子をもとに戻すためには力が必要だ。

 またあんなことになりたくはない。

 だから九尾に弟子入りすることにした。

 九尾の戦い方は御札や狐火をよく使う。

 さすがに私は狐火を使えるはずもなく御札くらいならとトランプを御札に改造した物を頑張って作って武器に採用した。

 それからコツが掴めたからか色々とマジックに絡めた武器を作るようになっていた。

 

「さすがは奇術師。仕掛け作りが得意なようだ」

「そこまで得意とは思ってないです。ただこれ作ったら楽しいことできそうだなって」

「戦うことも大事だが楽しむことも忘れない、か。いいぞ、そうでなくちゃいけない。だがここはこうした方がいい。きっと派手になるぞ」

「そうですか?ちょっと弄ってみます」

「それが調整できたら修行を始めようか」

 

 調整し終えて九尾が訓練に使う森の中で私と九尾の修行が始まる。

 と言ってもやることはもう模擬戦くらいだけど。

 

「それじゃあ行くぞ」

「はい、いつでも!」

「――幽玄」

 

 九尾の尾が青白く燃え上がっていく。

 

「――壮大」

 

 九尾が徐々に浮かび上がっていき手を上げ

 

「無限光弾ッ!」

 

 振り落としたのと同時に尾から放たれた狐火は私に目掛け飛んでくる。

 それを私は――、

 

「来い!デコイラビット!」

 

 ハットから取り出したのはうさぎの形をしたデコイ。

 光弾はデコイを目掛けて飛んでは行ったがそれだけでは防げずこちらに向かって飛んでくる。

 

「お前さん、毎回デコイを出しては対策されるぞ!この私みたいにな」

「でも奥の手はある!」

 

 ハットを投げて大きくしその中に入ると、外からは無数のハットが現れているはず。

 

「もはや幻術だな、ほれここか?」

 

 ハットの中で次の一手を考える。

 よしこれなら――

 最後のハットが燃える前にハットからこっそり脱出して身を隠し、タイミングを見計らってから突っ込む!

 ――しかし、九尾にはその手は読まれており御札一枚で作り出した青い龍が迫ってくる。

 

「多重玄武結界!」

 

 4枚のディスクで作り出す結界。青い龍の攻撃を防ぎつつ、次の一手である――

 

「天来浄化の業火・改!」

 

 複数枚のコインを上に軽く投げてから、一枚を指で弾く。

 すると他のコインが弾いたコインと共に燃え上がりながら九尾へと向かっていく。

 九尾は軽く払って止めるがコインはあくまでも目を逸らすための一手。

 燃えるリングは九尾を捕まえて離さない!

 投げられたリング目掛けて私は飛び上がり宙を回転しながらリングを通り抜けてそのまま一発――

 

「疾風白虎拳」

 

 九尾を殴りその場に着地。

 

「フレイムリングキャッチ。私の勝ちかな」

 

 通り抜けて役目をとっくに終えていたリングをキャッチした。

 

「油断は大敵と言ったろう」

 

 その瞬間、九尾を捕まえていたリングが私の体を捕まえていた。

 

「しまった!」

「ボルケーノリング・エクスプロージョン!」

 

 二本のリングを通り抜けて青白く燃える九尾の爆発的な拳を受けて、爆発!

 私の負けだ。

 

「リングキャッチに見せかけて白虎拳とはな驚かされたぞ」

「リング爆弾、前より威力上がってません?」

「つい、威力上げちゃった」

「やっぱすごい。適わないや」

「お前さんのおかげで私も強くなったんだぞ。お前も四神の技の他に私の技も真似てみろ。まずはボルケーノリングから盗め、そしてアレンジして私に見せてみろ!」

「は、はい!わかりました」(元は私の技なんだけどなあ)

 

 まだまだ時間かかりそうだけど、大丈夫だよね?

 絶対にマイを取り返してみせる。

 そうしてまた、一緒にマジックをしよう。




令和初☆異界入り記念の特別回でございました。
初めて日付設定を使っての投稿になったわけですが…大して変わらないですね。
SIRENは本編をちょこっとしかやったことない程度のものではありますが漫画はあります。ちゃんと完結すればいいなあと思いつつ。
四神の力パクるとかブロットっぽいものにはなくて完全にアドリブですよこいつぁ…
ちゃんとここに繋がるように頑張りまーす


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#06-4『Shoot Your Heart Out!』

ともえ「うわあ…」

カルガモ「どうです?このトンネル水槽は水族館一番のおすすめなんです!ワタクシもこれが大好きで!このトンネル水槽は海と繋がってまして、他の子達がよくここを通って遊びに来るんです!」

イエイヌ「あっ、誰か来ましたよ!」

カルガモ「あれは、シナウスイロイルカさんです!」

 

 そう言ってカルガモは水槽の中にいるシナウスに手をふる。

 するとシナウスはともえとイエイヌの前までやってきてリング状の泡を作った。

 

ともえ「おお!」

 

 これには思わず驚きと感動。

 ともえ達に会えたことを喜んでいるのか二人の前でくるくると回ったり芸を見せてくれたりする。

 そして最後は手を振って奥へと泳いでいった。

 

イエイヌ「カルガモさんがこのトンネルが好きなの、なんだかわかった気がします」

カルガモ「たまにしか他の子ここを使わないから中々こんな事ないんですよね」

ともえ「そうなんだ」

カンザシ「そこら辺は仕方ないだろ。ほんとはヒトのために作ってたものなんだ。ヒトがいなけりゃこんなものだ」

ともえ「そっかあ」

 

 

 トンネルを抜けたともえ達に待っていたものは屋外のステージだった。

 

カルガモ「ちょっと待っててくださいネ!」

 

 そう言ってカルガモは一人ステージの奥へと入っていった。

 

カタカケ「念の為、この雨合羽をどうぞ」

ともえ「なんで?」

カンザシ「決まってんだろ、これからショーなんだよ。ずぶ濡れになりたくなかったら着たほうがいい」

 

 ともえとイエイヌはカタカケから手渡された雨合羽に身に纏った。

 

カタカケ「バッグはこっちで預かっときます。カンザシさんは守らなくていいです。さっさとずぶ濡れになってください」

カンザシ「ずぶ濡れになるの前提で話してるのおかしくない?」

カルガモ「みなさーんこんにちわー!」

ともえ「こ、こんにちは」イエイヌ「こんにちは」

カルガモ「お返事ありがとう!これから皆にはカリフォルニアアシカとバンドウイルカのショーを楽しんでもらいます!それでは、まずはカリフォルニアアシカから!おいで!クロちゃん!」

 

 クロちゃんことカリフォルニアアシカが手を振りながら登場してくる。

 

クロ「カリフォルニアアシカのクロと言います!精一杯頑張りますのでよろしくおねがいします!」

カルガモ「クロちゃんが頑張ったら拍手お願いねー!それじゃあクロちゃん、いっくーよ!」

 

 カルガモが持ってきたボールをクロに向けて投げると同時に曲が流れ始める。

 クロはボールを頭で転がしながら、派手なダンスを披露した。

 カタカケを除いた三人はこのダンスに拍手で応える。

 カルガモが腰から小さなジャパリまんを取り出してクロに食べさせつつ、

 

カルガモ「次はこの輪っかを取ってきて!いくよ!」

 

 カルガモはプールに向かって輪っかを投げた。

 クロはプールへと飛び込み投げられた輪っかを自分の首にかけて戻ってきた。

 

カルガモ「よーしよし。それじゃあ最後は観客の中からお手伝いさんがほしいかも…」

イエイヌ「はーい!お手伝いしたいです!」

カルガモ「それじゃあイヌさん!こっちにきてー!」

イエイヌ「はーい」

 

 イエイヌの立候補を快く受けてイエイヌをステージに上げた。

 

カルガモ「イヌさん!この輪っかをここで持っててください!」

 

 そう言ってカルガモはイエイヌに輪っかを手渡す。

 プールの前に立ってイエイヌは輪っかをプールに向かって持った。

 カルガモは台座に登って輪っかを持った。

 

カルガモ「今からクロちゃんがこの輪っかを通るからね!」

 

 クロはすいすいと泳いでからジャンプして輪っかを連続でくぐった。

 間近で輪っかをくぐるクロを見るイエイヌは楽しそうにしていた。

 

カルガモ「イヌさん手伝ってくれてありがとう!滑らないように気をつけて席に戻ってね」

イエイヌ「ありがとうございました!」

クロ「こっちこそ手伝ってくれてありがとう!」

 

 お礼を言ってからイエイヌはともえのところへ戻ってきた。

 

ともえ「楽しそうだったね」

イエイヌ「はい!いい体験が出来ましたよ」

カルガモ「これにてアシカショーを終わりにします!クロちゃんありがとうね」

クロ「こちらこそ、カルガモありがとう!手伝ってくれたイヌさん、ありがとうね!じゃあねー!」

 

 手を振りながらステージ横へと退場するクロ。

 そしてクロと交代する形で出てくるバンドウイルカ。

 

カルガモ「それでは次はバンドウイルカのショーを続けてやりたいと思います!ドルカちゃん、自己紹介よろしくね」

ドルカ「みんなー!こんにちわー!バンドウイルカのドルカだよー!元気な子も元気じゃない子も盛り上がっていこー!」

カルガモ「ドルカちゃん、準備はいい?」

ドルカ「もちろんっ!」

カルガモ「ミュージック、スタート!」

 

 カルガモの合図と共に音楽が流れ始める。

 ドルカは勢いよくプールへとダイブ!曲に合わせて飛び跳ねて宙にくくりつけられた円形のそれをタッチしたりとパフォーマンスをしていく。

 カルガモがフリスビーをともえ達に向かって投げればドルカはすれすれの所で飛び跳ねながらキャッチしてボチャンッと水しぶき上げて観客席の方へ水を飛ばしてくる。

 

カンザシ「うへー」

カタカケ「やっぱずぶ濡れになった」

 

 雨合羽のおかげで助かったともえとイエイヌはドルカのショーを楽しそうに眺めていた。

 

カルガモ「はーいよく出来ました。ジャパリまんです」

ドルカ「ありがとう!」

カルガモ「さあクロちゃんもおいで!」

クロ「はーい」

カルガモ「今日は最後まで見てくれてありがとう!頑張ったクロちゃんとドルカちゃんに大きな拍手を!」

 

 精一杯の大きな拍手をクロとドルカに送る。

 

クロ「これがショーってものなのね」

ドルカ「初めてのお客さんに喜んでもらえたよ!やったね、クロ!」

クロ「うん!ここまで練習してきてよかった!」

 

 クロとドルカは嬉し涙を流した。



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#06-5 グリーティング・アーシカイールカ

カルガモ「どうでした?」

ともえ「すごかった」

イエイヌ「最高でしたよ!」

カルガモ「実は二人共お客さんに見せるのが今回が初めてなんです」

イエイヌ「初めてなんですか?」

カルガモ「なかなかお客さん来ませんから」

イエイヌ「そうですよね…」

カンザシ「仮にもヒトを楽しませるために出来た建物だろ、旅するフレンズが興味を持たないはずがないと思うが」

カルガモ「実は最近になるまで水族館がどういうところなのかよくわかってなかったんです。でもあなたと同じヒトが遊びに来てくれてから――」

ともえ「ヒト?あたし以外にもこの島にいるの!?」

カルガモ「今はどうかはわかりませんけど、前に来てくれましたよ。その方がここが水族館だということを教えてくれたんです」

ともえ「ねえ、その子がどういう子だったか覚えてる?」

カルガモ「そうですねぇ…」

 

 カルガモはその時のことを思い出してみる。

 

カルガモ「白い帽子に黒い上着、白いズボンの子でした。確か名前は…カバンって」

カンザシ「え?おいおい、何かの冗談だよな」

カルガモ「冗談じゃありませんよ。本当のことを言っただけですけど」

カンザシ「そんなはずはない!かばんさんは、こんなところに来れるはずがない」

イエイヌ「かばんさんってかみひこうきの伝説の…」

カルガモ「あー、どっかで聞いたことあると思ったらあの詩のヒトだったんですね!本当に居たんだあ」

 

 ともえがかみひこうきの伝説に興味を持ちイエイヌから教えてもらっている間、カンザシはずっと考え込んでいた。

 

 

 カタカケは一人考え込むカンザシの所へやってきてこういった。

 

カタカケ「考え込んでいても仕方のないことです」

カンザシ「わかってるが…」

カタカケ「カルガモさんが食事に誘ってくれたんですから食べに行きましょう。ここの名物はシーフードピザだって聞きましたよ」

カンザシ「シーフードピザか…いいじゃないか。行こう」

カタカケ「それにしても、まさかこの島にかばんがいるだなんて話が流れてくるとは思いませんでした。あのヒトはなかべの方にいるのでしょう?それなのにこんな特別な方法を用いらないと入ってこれないような場所にいるだなんてカンザシさんの気持ちわかりますよ」

カンザシ「そうかい」

カタカケ「おまたせしましたみなさん。それでは行きましょう」

 

 一言詫びを入れてからカンザシを連れてカタカケはともえ達の前に戻ってきた。

 そしてカルガモの案内でドルカやクロも連れてレストラン・ケットシーへと向かう。

 海辺にあるお店で看板はやはりケットシーのシルエット。

 このきれいな海を見ながら美味しいシーフードピザを食うなんて最高じゃないだろうか。

 注文して数分、焼き上がったピザ数枚を普通より大きいサイズのラッキービーストが持ってきてくれる。

 魚介類が散りばめられたピザなのだが、実はこのピザはプランクトンで作られたピザもどきだったりするのだが味はピザそのもの。

 

ともえ「おっきいラッキービーストだ」

イエイヌ「かわいいですね!」

さくら「…アレハコノオミセニイルラッキービーストダネ。チホーニヨッテハコレヨリオオキナラッキービーストガイルンダヨ」

イエイヌ「そうなんですか!大きなラッキーさんに一度会ってみたいです!」

さくら「ソレナラセントラルノラッキーズピザニイッテミルトイイヨ」

 

 この島からセントラルは当然遠い。

 

イエイヌ「セントラルですか…それって遠いですよね」

カンザシ「ああ、くっそ遠いな」

カタカケ「行儀が悪いぞ」

 

 むしゃむしゃとピザを食べながらイエイヌの疑問にカンザシは答えた。

 

ドルカ「ねえ、君達ってどこから来たの?」

ともえ「こうざん、でいいんだよね。あたしは記憶喪失だから本当の場所を知らないけど、イエイヌちゃんと初めてであった場所ならこうざんエリア」

イエイヌ「そうですね!こうざんエリアから来ました!」

ドルカ「こうざんかあ…ねえそこってどんなとこなの?」

イエイヌ「うーん…なにもない所かな。でも、カフェ・ワカイヤってカフェがあるんです!ここも素敵ですけどあそこも私にとっては大切な思い出で素敵な所なんです」

ドルカ「へー、思い出がある場所かあ」

クロ「私達だったらきっとあのステージよね」

ドルカ「確かに!私達ずっとあそこでお客さんに見せるために練習してきたから思い出が一杯で」

クロ「ねえ、私達の芸はどうだった?拍手してくれたのはわかってるけど実際にどうだったか知りたくて」

ともえ「最高だった。なんだか久しぶりにこういうの見た気がする」

イエイヌ「私、初めてショーを見てもう興奮しっぱなしで!」

クロ「私が輪っかくぐった時いい顔してたもんね」

イエイヌ「いい体験でしたぁ~」

 

 思い出しただけでイエイヌは笑顔になった。



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#06-6『バルカローレ』

 オオアルマジロは一人夜道を歩く。

 わけもわからずにただ怒りだけで来てしまったせいで帰る道がわからなくなってしまったからだ。

 

オーアル「海だ…」

 

 月光で輝く海。

 明らかに前来た道とは違う道なのがわかる。

 

オーアル「せっかくだし海に行ってみるか」

 

 そう言ってオーアルは海へと向かった。

 

 

オーアル「綺麗だなあ」

 

 波が当たらない場所に座った。

 

オーアル「あいつ、何してるのかな…何考えてんだ!あんなのもう私には関係ないのに!なんだか、余計なこと考えちゃうな…」

?「海っていいですよね。何もかも嫌な洗い流してくれそうな気がして」

オーアル「びっくりしたー、驚かせないでよ」

ジュゴン「ごめんなさい。なんだか仲間に出会えた気がしてつい…あっ、私ジュゴンっていいます!驚かせてしまったお詫びというか、よかったらゴンドラに乗ってみませんか?」

オーアル「ゴンドラ…?いいかも」

ジュゴン「それじゃあ付いてきてください」

 

 オーアルはジュゴンの後ろについて行く。

 このみずべエリアはヴェネツィアをイメージして作られているせいかゴンドラが至る所にあり乗ることができるんだが乗るより泳いだ方がいいじゃんというフレンズばかりが集まっていたので手つかずだったのだ。

 ジュゴンはゴンドラを海へと降ろすと乗ってからオーアルに向かって手を伸ばす。

 

ジュゴン「私の手を掴んで乗ってください。多分普通に乗ると落ちちゃうと思うので」

オーアル「お気遣いありがとう」

 

 オーアルはジュゴンの手を掴んでよいしょとゴンドラに乗ってゴンドラに付けられている椅子に座った。

 

ジュゴン「それじゃあ行きますね~」

 

 夜の海へと漕ぎ出した。

 ジュゴンは漕ぎながらこのみずべエリアの建物やフレンズ達について楽しそうに語りだした。

 

ジュゴン「ここはゔぇねつぃあと呼ばれるこのパークから遠い場所にある都市を元にして作られたそうなんです。だからこうやって所々水路があるんですよ。せっかくですし通ってみましょう」

 

 おしゃれな街灯がいい味を出している。

 

ジュゴン「昼の水路もいいんですけど、やっぱり夜の水路が好きです。こうやって街灯が所々私達ごと水路を照らしてくれてまるでどんなに闇があっても必ずどこかに光があるんだ。ひとりじゃないってそう感じさせられそうで…あゝ、友達に恥ずかしいこと言わないでと叱られてしまいます!」

オーアル「ひとりじゃない…友達…」

ジュゴン「素敵な友達っています?」

 

 オーアルは黙った。友達はもう絶交したからいないんだ。

 

ジュゴン「私にはいますよ!キタオットセイちゃんって言うんですけどね――」

 

 友達自慢はオーアルには響かなかった。

 

ジュゴン「あっ、ごめんなさい。何か気分悪くさせちゃいましたね…」

オーアル「ごめんなさい。考え事していて」

ジュゴン「考え事ですか、私で良ければお話聞きますよ?悩みごとはまずは一度他人に話してみるといいんです。そうしたら気分が少し晴れますし、もしかしたらその他人が良い答えを出してくれるかもしれません」

オーアル「実は…」

 

 オーアルはジュゴンに今までのことを話した。

 

ジュゴン「そうですか。お友達と絶交しちゃったんですね…それでなんかもやもやしていると」

 

 ジュゴンは少し考えてから、

 

ジュゴン「きっと仲直りしたいのかも、なんて。本当に嫌いならそんな気持ちにならないもの」

オーアル「仲直り…」

ジュゴン「あなたはその子と仲直りしたいですか?」

 

 ジュゴンの問いにオーアルは答えられなかった。

 

ジュゴン「すぐにじゃなくていいんですよ。こういう問題はゆっくり考えるのが第一だと思います」

オーアル「ゆっくり考えるって言っても」

ジュゴン「うーん…そうだ!一曲歌っても、いいですか?」

オーアル「え?」

ジュゴン「きっと歌を聞けば悩みも解決しそうな感じがして!」

オーアル「そう、なのかな?」

ジュゴン「物は試しです!では聞いてください、バルカローレ…!」

 

 街灯に照らされながら歌うジュゴンは美しかった。

 目は薄く輝き、当たりには綺麗な形をしたシャボン玉がぷかぷか浮かび上がってくる。

 素晴らしすぎて言葉が上手く出ない。

 歌声はオーアルの心にある黒いもやもやを洗い落としてくれたような気がした。

 歌が終われば拍手。

 

ジュゴン「拍手ありがとう。そっちの橋にいるアルマジロの子もね!」

 

 橋にはオオセンザンコウが拍手をしていた。

 

オーアル「オーセン…!」

 

 オーセンはオーアルの顔を見ると複雑そうな顔を浮かべた。

 

オーアル「ジュゴンさん!ここで降りたいんだけど。オーセン!ちょっとそこで待っててくれ!」

ジュゴン「うん、わかった」

 

 ジュゴンはオーアルが上がれそうな所まで漕いで通路に寄せた。

 寄せるなりオーアルは急いでオーセンのところへと向かった。

 

オーアル「ハァ…ハァ…。オーセン、ごめん。私ひどく言い過ぎた。でもオーセンのやり方は間違ってるよ!あんなことし続けたって意味なんかないよ!今からでも遅くはない。一緒に謝りに行こう!」

オーセン「…うん。ごめんなオーアル。オーアルを振り回したりして迷惑をかけて。もうあんなことはしないよ!でも、あいつにも謝ってもらう。私の大切な思い出を壊したんだから」

オーアル「うん、それでいいと思う。もう危ないことは絶対しないでね」

オーセン「ああ、約束する。指切り」

 

 二人は指切りを交わした。

 

ジュゴン「いやあよかった」

 

 嬉しそうにジュゴンは二人に別れを告げてゴンドラを漕ぎ始めた。



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STAGE-2<二律背反のフラグメント>

この世界にはないはずの廃墟には別の並行世界を生きるフウチョウが住まう。
人形はまだ自分に時間がないことに気がついていない。


 この赤い空、ジャパリこども科学館は誰の夢であろうか。

 ボロボロの建物に錆びた看板は私達を怖がらせるのにうってつけの場所なのかもしれない。

 ヒーナはこの建物を見ながら考え事をしているようだった。

 

ともえ「なんだか怖い」

ヒーナ「我にとっては懐かしくもあるがな…耐性がなければそう思うのも仕方ないか。よし、こうなったら中に入ろうではないか」

ともえ「うん。あたしを守ってね」

ヒーナ「心配するな。我にどーんと任せればいい。行こう」

 

 ヒーナとともにともえは科学館というダンジョンへと足を踏み入れた。

 

 

 外観でボロボロであれば中もボロボロ。

 きっと昔はみんながだいすきだったアニメと同じように輝いていたことでしょう。

 

ヒーナ「こう中がこんな感じだと怖さ倍増だなともえ!」

ともえ「もう…!」

ヒーナ「むっ」

 

 片腕を広げてともえを止める。

 紫の4つの何かが輝いて、近付いてくる。

 その姿はともえにとって衝撃的なものであった。

 

ともえ「カンザシちゃん!?カタカケちゃん!?」

ヒーナ「ともえは逃げろ!ここは我がどうにかする!」

 

 ヒーナは御札を数枚取り出して投げる。

 御札から現れるのは、忍者とヒトの形をしたロボと…。

 

クイズ「ニューヨークへ行きたいかぁー!」

 

 フウチョウ達に似た人形と戦う中、一体だけ場違いなクイズの出題者。

 お決まりの口上であるニューヨーク云々を言うが誰一人乗ってこない。

 仕方のないことだ。ここには回答者がいないんだから。

 

ヒーナ「…は?」

クイズ「おい、そこのお前!新天地であるニューヨークに行きたいかと聞いているんだ」

ヒーナ「は?何言ってるんだお前!眼の前の相手に集中しろ阿呆!」

 

 人形の攻撃を避けたりしながらクイズに切れるヒーナ。

 

クイズ「なんだか今日の回答者はノリが悪いですね…。まあいいでしょう!それではさっそく第一問!回答者であるそこのお嬢さんに答えてもらいましょう!」

ともえ「えっ!?あたし!!?」

 

 ロボやら忍者やらが必死に戦っているというのにともえにクイズを出題し始める。

 なぜかバラエティ番組さながらの回答者席に座らされたともえはキョロキョロとこのセットを見回す。

 ロボ達の攻撃を掻い潜りクイズやともえに襲いかかるカタカケ人形だったが――

 

クイズ「では行きましょう、第一問!」\デレン/

 

<まずはこちらを御覧ください>

 ともえは先導アイチが喋っているワンシーンを見せられる。

<このキャラクターかっこいいでしょう?さて問題です。このキャラに声を当てている声優さんの性別は女性である○か✕か>

クイズ「ではそちらのお人形さんにも回答席で答えてもらいましょう」

 

 カタカケ人形も回答者席に座らされる。

 もう一度さっきのワンシーンを見せられてからさっきと同じ問題文を聞かされる。

 

クイズ「さあ、それではお答えいただきましょう!」

ともえ(よくわからないけどとりあえず…)「✕!」

人形「ま…る…」

クイズ「では正解は…✕です!ともえ選手の勝利です!」

ともえ「え、え?わ、わーいやったー!」

 

 とにかく喜んだ。

 

クイズ「正解者にはこのタチコマをプレゼントしまーす!この戦闘中だけ使えるので使いまわしちゃってくださーい!」

ともえ「うわっ!?」

 

 突然目の前に現れたタチコマがともえの体を掴んで上に投げたかと思いきやタチコマの背中の大きなリュックのようなものに収納した。

 

クイズ「正解者を安全な場所へ避難させて護衛しろ」

タチコマ「はーい!ボク、タチコマ!少しの間だけどヨロシクネ!」

 

 タチコマは全速力でともえを安全な場所へと連れて行った。

 

クイズ「さあーってと脱落者にはお仕置きだーッ!」

 

 脱落者であるカタカケ人形は白い煙を噴射され、活動を停止した。



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STAGE-2 めぐりあう4人の被害者

 瓦礫やらを乗り越える度にガタンとポッドが揺れる。

 激しく揺れまくった時には階段を登っているんだとともえは悟った。

 

タチコマ「色々とすいませ~ん」

 

 詫びても遅い!

 タチコマの動きが止まった。

 

タチコマ「とりあえずここが安全そうなので待機!」

ともえ「あの…一度降ろしてくれない?」

タチコマ「降ろす?降ろしたら守れないと思うんですけど」

ともえ「一度姿勢を正したいんだけど」

タチコマ「あぁ!それは考えてませんでした」

 

 タチコマのポッドが開き、中からともえが転げ落ちる。

 少し背筋を伸ばしてから、ポッドの中に戻ってちゃんとした姿勢で座る。

 

ともえ「中ってこんなだったんだ」

 

 暗かったからよくわからなかったけれど、メカメカしいというのだろうか。モニターなりハンドルなりあって――

 

ともえ「最高…!めっちゃ興奮する!」

 

 そう言って小さな子供のようにはしゃぎながらタチコマに乗り込む。

 

ともえ「ここをこうすると、おお!動いた!もしかして――やっぱり!」

タチコマ「ぎゃー!目が回る~」

ともえ「そしてここを押すと」

 

 ババババババ!

 右腕から発射されたのは銃弾。

 

ともえ「え」

 

 ともえはこれ以上タチコマを弄るのをやめた。

 怖かったのだ。こんな物騒なものをガチャガチャと動かしていた自分とこんなものを装備したタチコマに。

 

タチコマ「もぉー。怖がらないでよ」

ともえ「ごめんなさい。あんなのが出てくるとは思わなくて」

タチコマ「仕方ないよね。ボクが戦車だってこと知らなかったんだし」

ともえ「戦車だったの!?」

タチコマ「うん!これでも戦車だよ!すごいでしょ!」

ともえ「そりゃあすごいけど、なんだか怖く感じちゃう」

タチコマ「それはきっと本物の銃を一度も使ったことがないからだよ。慣れてる子は絶対そんな事思わないもの。ヒトを簡単に殺せるものを触りたがる子なんてなかなかいないから――もう時間みたい」

ともえ「時間?」

タチコマ「戦いが終わった」

 

 タチコマのポットが開きともえは降りるよう促され降りた。

 

ともえ「少しの間だったけど守ってくれてありがとう」

タチコマ「また、会えるかな?」

ともえ「どうだろう…わかんないや」

タチコマ「じゃあね」

 

 タチコマはポンっと一瞬で消えた。

 まるで初めからそこにいなかったみたいな。

 

ヒーナ「ともえー!」

 

 ヒーナが駆け寄ってきた。

 

ヒーナ「大丈夫だったか?」

ともえ「うん、大丈夫だった」

ともえ「カタカケちゃん、カンザシちゃん!」

 

 ヒーナの後ろにいた二人は驚いた。自分達のことを親しい友人のように呼ぶ彼女を。

 

シザンカ「お前、あいつか…?」

ともえ「あいつ?」

ケカタカ「こいつはあいつではない。よく見ろ、顔が似ていない。それに全然魂の形が違うじゃないか」

シザンカ「それもそうだ。それで、お前がキュルルじゃないなら何者なんだ?」

ともえ「忘れちゃったの?あたしはともえだよ!そう名付けてくれたのはカンザシちゃんだよ?」

シザンカ「…?誰かと勘違いしてないか?」

ともえ「え…」

ヒーナ「そうかわかったぞ。ともえ、こいつらはお前の知るカンザシフウチョウとカタカケフウチョウじゃない。こいつらは別の世界を生きているフウチョウ達だ」

ともえ「別の、世界…?」



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STAGE-2 境界面上のドクトリン

シザンカ「別の世界?お前達にはそう見えるのかもしれない」

ケカタカ「でも我々にとってどの世界もすべて同じ一つの世界であり、別という概念はない」

シザンカ「でもそう思うのも無理はない。夢というのは一つの大きな空港であり、その空港を通してお前の言う別の世界を知ることが出来る」

ケカタカ「それにしてもこの夢は酷く腐っている。きっと終わってしまった世界から来ているのだろう」

シザンカ「我々の世界では?」

ケカタカ「我々の世界は終わってなぞいないだろう。ただ霧が濃すぎて見えなくなっただけだ」

シザンカ「誰も観測しようとも思わなくなった壊れた世界に輝きは生まれない。手を入れた日にはその世界は分岐して新しい世界が増えるだけ」

 

 ぴょんぴょんと瓦礫から瓦礫へと移るフウチョウ。

 

「「ひとまず、助けてくれて感謝する。お前達は命の恩人と言える。だからひとつお礼として伝授しよう、この世界の輝き方を」」

 

 くるくると周ってともえの前へとやってきた。

 

シザンカ「お前はあいつと同じく特別だから力を持ってるはずだ」

ケカタカ「あいつが進行上必要としなかった力を」

ともえ「力…?もしかして、これ?」

 

 ペンを取り出した。

 

シザンカ「ふむふむ。そうか描く事で別のものをその場に作り出す…」

ケカタカ「そういえば前にそんな力を使うバケモノと会ったことがありましたね」

シザンカ「アレのことか?」

 

 ペンをじっくりと見ながらシザンカとケカタカは雑談を繰り広げる。

 

ケカタカ「そうですそうです」

シザンカ「アレ、自分のことを死神とか言って好き勝手暴れて帰ってったよな」

ケカタカ「まさか本来のルールを無視した上にあの大きな兵器を幼児向けにして黒幕を倒すなんて。まぁ、そのおかげで元の場所に帰れたんですけれど」

ともえ「もう、いいかな?」

「「いいや、まだだ!」」

ヒーナ「我はここでさっき受けた傷を回復させとくから好きにしてくれ。ともえになにかしたら…」

シザンカ「我々をゲスなクズ野郎と勘違いしてないか?」

ケカタカ「そう思われるのは誠に不愉快。仮にも島の長が発言していい台詞ではありません」

ヒーナ「悪かった。すまない」

シザンカ「それじゃあゆっくり休むんだな。我々がみっちりきっちり鍛えておく」

ケカタカ「大切なのは厳しさと優しさですよ」

シザンカ「厳しすぎて優しさを感じてもらえないなんてことがないように控えめの厳しさで」

ケカタカ「それでは始めましょう」

 

 

 助けてくれたお礼として始まったのは夢世界での輝き方というよくわからないお勉強会だった。

 

シザンカ「この世界で自我を長く保てる存在は普通の存在ではない」

ケカタカ「何を持って普通の存在じゃないのか」

シザンカ「なぜ普通の存在じゃないのか」

「「それは神の匙加減」」

 

 バレエダンサーのようなポージング。

 

ともえ「時々声を合わせるのはなんなの?」

ケカタカ「我々は波長が合いすぎたせいで時々こうなってしまうのです」

シザンカ「だがそのおかげで我々は特別な存在になれた」

ケカタカ「お前はなぜ特別な存在なんだ?」

シザンカ「不思議で不思議でしようがない」

「「なぜ?」」「「なぜ?」」「「なぜなの??」」

ともえ「わかんないよ…」

ケカタカ「この世には不思議なことばかりだ」

シザンカ「それを解明できないのは少々辛いところですね」

ケカタカ「では本題に行きましょう」

シザンカ「このペンにはお前の願望である変身願望が形となって現れている」

ケカタカ「あの死神も変身願望でしたっけ?」

シザンカ「気持ち悪いやつだったな」

ケカタカ「ですね。確かあの死神は『大切なのはそういう自分がいることを妄想すること』とか言ってましたっけ。これ使えませんか?」

シザンカ「確かに使えるな」

ケカタカ「では物は試しというやつです」

 

 瓦礫の上に指差してから、

 

シザンカ「今からここにジャパリまんを出してみてくれ」

ケカタカ「ここにジャパリまんがあるんだと妄想することです」

シザンカ「ゆっくり深呼吸。今は練習ですから焦らずに」

ケカタカ「いつかは人差し指の先に数字を出すが如く」

シザンカ「息をするかのように」

「「妄想を描けるようになること」」

ともえ「静かにして」

「「すいません…」」

 

 集中する。

 今はまだ練習だ。

 二人が言っていたじゃないか。今は焦る必要はないんだと。

 深呼吸をして、少しだけ落ち着かせてから―――

 一気に描く!ジャパリまんがあるという妄想を!

 頭でそう考えるだけでペンは勝手にジャパリまんを描き出し具現化させた。

 出来たジャパリまんを二人は掴んで食べる。

 

ケカタカ「ま、こんなもんですか」

シザンカ「初めてにしては上出来」

ケカタカ「無味無臭というのは面白みがないですが我々が少々急かしてしまったせいでもあります。次は慎重に攻めていきましょう」

シザンカ「まるで黒ひげ危機一髪」

 

 餅つきのような感覚でともえは言われた通りの物を描いていく。5つ描いては休み、5つ描いては休みを繰り返していればあっという間に時間切れになったのです。



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#06-7 因果律のジャメヴュ

この回の執筆にあたってちょっとだけ3-333…の台詞を修正したよ


☆β

 

「よっ」

 

 あの御方は今日も窓の赤い赤い空を見上げている。

 

「あっ、今日も来てくれたんですか」

「あなたに死なれては困りますから」

「ほらよ、美味しいごはんだ」

「ありがとうございます」

 

 美味しいごはんとして出されたのはお弁当箱だった。

 弁当箱の中身は魚のフライがよく目立った可愛らしいものだった。

 あの御方は美味しそうにフライを頬張る。

 

「それにしても別の世界の食いもん食い続けてるだけでムクナリウムに対抗できるとはな」

「崩壊しかけてて不安定になっているからこそ許されているだけです。多分このまま食べ続けていれば別世界の存在になり、完全にムクナリウムの影響を受けないはずです」

「ただこれには弱点があるんじゃないのか?」

「ええ、問題はその別の世界がムクナリウムなどのせいで崩壊したら終わりということです」

「ま、そこは私達の頑張り次第だろ」

「ええ、我々次第です。余計な邪魔がこれ以上入らなければの話ですがね」

「余計な邪魔ねぇ…」

「これ美味しいです!」

「それはよかった」

「こいつが選んできたんですよ。仕事はできないくせに食事メニューの選定は上手いんですから」

「いやーそれほどでもないぜ~」

「褒めてないんですけど」

「いつもありがとうございます!」

「どうってことないさ」

 

β

 

「それではいつもの報告をさせていただきます。ともえさんは水族館を見学した後、ピザを夕食に一日を終えました。特に進展はありませんでした」

「水族館ですか…どういうところなんですか?」

「海の生き物を見ることの出来る建物さ。イルカやアシカのショーとか見たりできるんだよ。楽しそうだろー?きれいな魚を見たり、ショーを見たり、場所によってはヒトデとか小さな魚とかを触れるんだ!」

 

 ――は楽しそうに水族館について語る。

 

「へぇーいいなあ。行ってみたいなあ」

「確かそれっぽいのはあったと思うが…」

「もう手遅れです」

「そっかー。あの御方をあっちの世界に連れて行ってやれればなぁ」

「我々の力では自分自身を飛ばすことしか出来ません」

「悲しいかな」

「お気持ちは嬉しいですけど私は大丈夫ですから」

「何が大丈夫なんだ!お前はずっと気持ちを押し殺してそんなんだから――」

「やめましょう。その話は」

「すまねえ」

「いいんです。全部、私が悪いんですから」

「あまり自己否定をするのはやめになったほうがよろしいかと思います」

 

 あの御方はずっと自分を否定し続けている。

 憧れと他人のためにしなくちゃいけないという2つの選択のどれか一つを切り捨てられないからずっと悩んでは否定を繰り返している。

 このまま否定し続けた先に何が待っているのかは大方予想がつく。

 この世界が死ぬのが先か彼女が苦しんで消えていくのが先かすべてはやはり我々の手にかかっているのかもしれない。

 

β☆



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#06-8『ケットシーの行進』

 ここ数日、本来の目的そっちのけで現実ではショーのお手伝い、夢では別のフウチョウによるドクトリンと呼ぶ謎の訓練。

 ともえはしっかりと休めていなかった。

 

イエイヌ「今日はお休みにして散歩でもしませんか?」

 

 ともえが疲れている事に察したのか、イエイヌはクロ達に提案してみる。

 

クロ「あぁ…ともえさんごめんなさい。色々と無理させたみたいで」

ともえ「いいのいいの。ちょっと疲れが溜まってるだけだから」

 

 まさか夢での疲れが溜まってるだなんて言えない。

 自分で自分の特訓器具作らされたり、ジャパリまん作ったりジャパリまん作ったり。

 ドクトリンとやらでわかったことはアレをやりまくれば疲れが溜まるということ。

 あれからずっとヒーナが休んでいるのが気になる所ではあるけれど今は目の前の事に集中していなくては。

 

ドルカ「ごめんねーともえ。でも今日はいっぱい休んでいっぱい休もう!」

クロ「いっぱい遊ぶんじゃ疲れるでしょ?」

ドルカ「えへへそうだった」

クロ「せっかくだから私達も休みましょう」

ドルカ「わーいおやすみだー!それでどこへ行く?」

ともえ「え…?」

ドルカ「もう!駄目でしょドルカ!ドルカにはドルカの、ともえさんにはともえさんの休み方があるんだから」

ともえ「あたしなら大丈夫だよ。一緒にどこか行こう?」

ドルカ「やったー!」

 

 ドルカは大喜びだった。

 

 

 相変わらず風鳥の姿なく、ともえ達は4人でみずべエリアを散歩することにした。

 

さくら「コノミズベエリアハヴェネツィアトイウイタリアニアルトシヲモデルニシタウミノミヤコナンダ。アニマルガールニヨルゴンドラクルーズヤパークガイドニヨルガイドクルーズガオススメダネ」

ドルカ「くるーず?そんなのあったっけ?」

クロ「ジュゴンが水に浮かぶものに乗っかってなにかしてるのは知ってるけど…」

さくら「ジュゴンガノッテイルノハキットゴンドラダネ」

ドルカ「ウワァ!シャベッタァ!」

クロ「私達の言葉を聞いて返してくるなんて」

さくら「カエシチャイケナイノカ?」

ドルカ「すごい!すごいや!ねえこの子飼っていい?」

さくら「ボクハカウモノジャナイ!」

ドルカ「あははわかってるよ」

 

 涼しい風が吹いてくる。

 

ともえ「涼しい…」

イエイヌ「涼しいですね」

ドルカ「ねえ二人共、ちょっと遠い所にあるけどもっと涼める場所あるんだけど行ってみない?」

「「行きたい行きたい!」」

ドルカ「それじゃあ付いてきて!」

 

 変な歌を歌いながら歩くドルカを先頭にしてついていく。

 

ドルカ「ここ!」

 

 ドルカが指差したのはお土産さんらしき店の隣りにある地下へと続く階段だった。

 ともえはちかくに倒れてあった立て看板を見てみた。 

 

 フレンズレビュー Athena

 アニマルガール達の踊りや歌を聞きながら食事を楽しみませんか?

 スタッフおすすめのメニュー

 

 …文字がかすれていて読めなかった。

 

イエイヌ「さくらさん、ここってどういうところなんですか?」

さくら「ココハアテナッテイウオミセダネ。ショクジヲシナガラアニマルガールノショーヲミルコトガデキルンダ」

イエイヌ「そうなんですか」

ドルカ「早く行こうよ」

ともえ「うん」

 

 暗い暗い地下へとゆっくり降りていく。

 明かりはあるんだろうか。

 

ドルカ「ちょっと待っててね!」

 

 そう言ってドルカは真っ暗な地下室を進んでいく。

 

クロ「真っ暗でよく見えない~」

ドルカ「あった!」

 

 バチンと音を立てて目の前のステージらしき場所が明るくなった。

 

ドルカ「あれ?またやっちゃった?それならこっち!」

 

 地下室全体が明るくなったが完璧に明るいというわけではない。

 薄暗いがさっきと比べれば全然良いほうだ。

 

ともえ「わあ~!」

 

 ともえは無意識にペンとスケッチを取り出してその場で地下室を書き始めた。

 

ドルカ「ねえ、ともえ何してるの?」

イエイヌ「ともえさんは絵を描いてるんです!」

クロ「絵を描くなんてすごいじゃない」

 

 三人の声はともえには届かない。

 

ともえ「できた」

 

 満足そうな顔をしながらバッグにしまうところを、

 

ドルカ「ねえ、どんなの描けたのか見せてよ!」

ともえ「え!?まあいいけど…」

ドルカ「すごいかわいい!これってクロでしょ?」

クロ「確かに私ね」

 

 地下室に置いてあるテーブルに座るクロとドルカとイエイヌの絵。

 

イエイヌ「ともえさんは描かれてないんですね」

ともえ「え、別にあたし自身を描かなくてもよくない?」

イエイヌ「たまには描きましょうよ」

ともえ「うーん…考えておくよ」

ドルカ「ねえ、何飲む?」

 

 そう言ってカウンターテーブルに飲み物をいくつか置いた。

 

クロ「それって誰かのものじゃないの?」

ドルカ「え?私が持ち込んだものだけど。ここ誰も使ってないみたいだし、私が使ってもいいかなーって思っちゃって」

クロ「もう…ここの持ち主が来たらどうするのよ」

ドルカ「そこは…えへへ借りてまーすって」

 

 クロはため息を付いた。

 

クロ「まあいいわ。何かあっても知らないんだからね、それで何があるの?」

ドルカ「んーとね、りんごにオレンジにぶどう」

クロ「じゃあオレンジ」

ドルカ「はーい。ともえ達はりんごでいい?」

ともえ「いいよ」

イエイヌ「お願いします」

 

 ドルカが注いだ冷たいりんごジュースをクロが持ってきてくれた。

 涼しい場所で飲むジュースは格別だった。



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#06-9 ひとつのおわりかた

☆γ

 ともえ達が地下室で涼んでいる間、おたまじゃくしはたくさんの部下を引き連れてみずべエリアにやってきていた。

 部下の装いは軍服にケーキの被り物。

 

「ここがみずべエリアですかぁ~おい、お前達!ボクのために偵察をするです!」

 

 たくさんの部下はいくつかの班に分かれて分散していった。

 残った班はこのおたまじゃくしのお守りだ。

 

「おいお前!ここの名物はなんだ!」

 

 モンブランの部下がプラカードを使ってこうおたまじゃくしに教える。

<ピザ>

 

「ほうピザですかァ。それにしてもお前らはボクとそんなに喋りたくないんですかァ?ほんとは喋れるんでしょ?」

 

 部下は一斉に首を傾げた。

 

「はぁ、もういいですよ。慣れましたしー。それじゃあピザでも食べに行きますか」

 

 おたまじゃくしはレストラン・ケットシーへと向かった。

 

γ△

 

オーセン「ちっ、なんか最近調子悪いんだよなあ」

 

 例のコンパスがここへ来て中々反応しなくなった。

 

オーアル「ここら辺にいるのは確かなんでしょ?」

オーセン「そうなんだけどよぉ~、あれ?あいつは…」

 

 チーズケーキの被り物をしたやつが彷徨いているのを見つけた。

 

オーアル「あの子って研究所にも居なかった?」

オーセン「いたけど違うやつだろ。あんな変な被り物してなかったし」

オーアル「どうする?声かける?」

オーセン「かけない。今することは人間探すことだろ?」

オーアル「謝ってね」

オーセン「わかってるよ」

 

 反応しないコンパスよりも頼れるのは自分の感覚。

 そう信じて二人は人間を、ともえを探した。

 そして――、

 

オーセン「あー!見つけたぞ!」

 

 オーセンはオーアルを置いて駆け出した。

 オーアルが追いついた頃にはイエイヌが構えのポーズを取ってオーセンを威嚇している姿だった。

 

オーセン「ここであったがなんとやら!人間!私に謝ってもらおうか!」

ともえ「え!?あ、あやまる?」

オーセン「そーだ!お前のせいで私の家と私が好きだった場所が壊されたんだぞ!」

ともえ「壊した!?…もしかしたらあたし、本当に壊したのかも」

オーセン「本当に壊したかもってなん――」

オーアル「もう!何してんの!あの、人間さん、この間はごめんなさい!ほら、オーセンも!」

オーセン「こないだは悪かった。でも、お前が悪いんだからな。お前にも謝ってもらうぞ」

 

 オーアル達は頭を下げて謝った。

 

ともえ「あたし、記憶がないからわからないけど、きっと二人に悪い事したんだと思う。そんな感じがするんだ。ごめんなさい」

イエイヌ「ともえさん…」

 

 顔を上げたオーセンはあることに気が付いた。

 

オーセン「…すまない。よく見たら人違いだった」

 

 ともえやオーセン以外のその場の誰もが驚いた。

 

オーセン「また会うことがあったらその時は手を貸すよ。じゃあなヒトノコ」

 

 オーセンはそう言って去っていった。

 ポツンと取り残されたオーアルは一言詫びを入れてからオーセンの後を追った。

 

オーアル「ちょっと!ねえ、待ってよ!人違いってどういうことなの?ねえ!」

 

 オーセンは辺りを見回してからオーアルにこう告げた。

 

オーセン「私が謝った時のあいつの顔見たか?」

オーアル「え?」

オーセン「あいつ、自分の胸を押さえて苦しそうな顔してたんだ。あんなの見せられたら怒りすら失せてきた。私はなんて馬鹿なんだ…」

オーアル「オーセン…」

オーセン「カーッ!考えるのはやめた!ほらいくぞオーアル!このみずべエリアを満喫するぞ」

オーアル「あぁ…!ちょっと待ってよ!」



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#06-10 おたまじゃくしのごきげん

 アルマジロコンビの勘違い?から数分後、水族館に帰ってきたともえに待ち構えていたのはケーキの被り物をした集団とおたまじゃくしだった。

 

?「というわけでここが気に入ったから今日からボクのモノです」

カルガモ「そんな!ここはみんなのものですよ!誰のものでもないんです」

?「誰のものでもないんならつまりボクのものでは?」

クロ「ちょっとちょっと!カルガモなにが起きてるの」

カルガモ「聞いてくださいよ。このおたまじゃくしさんが今日からここら一帯はボクのテリトリーになったから出ていけって」

クロ「はあ!?」

?「さっきも言った通り、このみずべエリアは今日からボクのものになったんですぅ。だから出ていけって言ってるんですよ」

ともえ「あまりにもひどすぎる…」

?「あぁん?このボクに文句言うんですか?」

 

 ともえを見ようとおたまじゃくしは振り返った。

 

?「お前は…ああ、あのガキが言ってた奴ですかァ。随分と生意気な顔してますね」

ともえ「生意気なのはそっちのほうじゃない?」

?「言わせておけばお前…ボクの事を馬鹿にして…タマm――」

カンザシ「おっとタママ二等兵。そこまでにしてもらおうか」

 

 そう言ってタママインパクトを放とうとするタママの口をまあまあ棒らしきもので塞ぐカンザシ。

 

カンザシ「まーまーまーまー。わがままなのは結構こけこっこーだが急にやるのは面白くはないしむしろ不快だ。せっかくだしここは勝負でもしてこのエリアを誰のものにするか決めないか?もちろん、戦う相手はそこにいるともえ達だ」

ともえ「え!?」

たまま「なかなか面白そうですねえ。対戦内容はこっちで決めてもいいですよね?」

カンザシ「もちろん!だがラッシュの速さ比べとかそういう戦いを必要とするのはなしだ。そんなことしたらお前が有利ってやつだからな」

たまま「わかってますよ鳥さ~ん。やるのは料理対決!ボクは食べる専門なので部下にやらせるけどね!そっちが全員で来るんだからこれぐらいしてもいいでしょ」

カンザシ「まあな。というわけで料理対決だ。お題とか材料なんかは公平を期すためにカタカケにやらせる」

カタカケ「そう来ると思ってましたよ」

たまま「そのかたかけが不正をしない保証はどこにあるんですかね」

カタカケ「頼まれたからには誰かが不正を起こさないようにきっちりと見させてもらいます。場所作りの時にはあなた達の部下を借りることになると思いますが、不正はしないように」

 

 鋭い眼差しがたままを刺し殺そうとする。

 まずいこのままでは視線一つで殺されてしまう!そう判断したたままは全力でカタカケに誓った。

 

たまま「うわっ!?なんですかその眼!わかったから、わかったから!その眼をするのやめるです。不正なんて絶対にしないから!」

カタカケ「わかればよろしい。あなた達がいい人であることを願っています。それではさっそく準備に入らせていただきます。おい屑、私はお前を見ているからな。余計なことはするなよ」

カンザシ「わかってるよ」

 

 カタカケは準備をするためにどこかへと消えていった。



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STAGE-2 ちいさなほしのゆめ

ケカタカ「そろそろフェイズ2に入らなくちゃいけないと思うんです」

シザンカ「フェイズ2というと兎か龍か」

ケカタカ「そんなのどうでもいいじゃないですか。というか違いますよ」

シザンカ「じゃあなんだっていうんだ」

ケカタカ「ドクトリンフェイズ2、お前の手であの建物をあるべき姿に修復すること」

シザンカ「しんどそうだな」

ケカタカ「でもやるのはこいつなので」

シザンカ「なら問題ないな。おいお前、これまで教えてきたものをフルに活かしてあのボロっちい建物をどうにかしろ」

ともえ「いきなり言われても…」

 

 ハーミットネイションのどこかにあるのかもしれないジャパリこども科学館。

 特訓の中で作った丸太の椅子に座るシザンカとケカタカ。

 

「「さあ行くがいい」」

ともえ「なんだか偉そう」

ケカタカ「我々はいつだって」

シザンカ「かーなーり、偉い!どっかのお偉いさんの愛人ほどの豪さが我々にある」

ケカタカ「そんな下品な偉さは我々にはない」

シザンカ「そうだったか…」

 

 いつも通りの長々とした会話を適当に流しながらヒーナに声をかける。

 

ともえ「こんばんわヒーナちゃん」

 

 すごくだるそうに見える。

 

ヒーナ「あぁ…ともえ。こんばんわ」

ともえ「どうしたの?最近元気ないみたいだけど」

ヒーナ「召喚札を使ってから疲れが取れない。起きればそうでもないんだが、こっちに来ると辛くなる」

ケカタカ「それは単にお前の体が本物じゃないから」

シザンカ「常日頃人形の体にいるからそうなる。人形は必要なときにだけ使われて、必要じゃない時は飾られるか放置される運命。それが本棚の上だろうがベッドの下だろうがね」

ケカタカ「ベッドの下に放置されたからってジェシーにはなれないんですよ」

シザンカ「今のお前って引っ張れる紐が取れたウッディみたいなもんだ」

ヒーナ「つまり何が言いたいんだ」

ケカタカ「お前が魂を定着させてる人形は」

シザンカ「そろそろぶっ壊れる」

ケカタカ「無理なことしなければ」

「「長く持つかもしれない」」

シザンカ「我々を助けるために強大な力を使ったのは感謝しかないが、その力はその小さな体には見合ってなかった」

ケカタカ「元々溜まってた疲れが前回の戦いで爆発したのだ」

ヒーナ「そうか。でもどうすればいいんだろうな。この体なくしてはともえと歩けない」

シザンカ「そうか?お前には食物の神としての側面と噂などで作られた恐怖の存在としての側面の2つのお面があるというのに」

ヒーナ「それとこれとは関係ないだろう」

ケカタカ「どうだか。ほら、お前はさっさと直しに行くんだ」

ともえ「はーい」

 

 聞いているだけで頭痛くなりそうな会話から切り上げられたともえは科学館直しのために建物の中へと入っていった。

 

 

ともえ「――来い」

 

 現れたペンを掴んだともえはウョチウフに言われた通りのことをするために集中して描き始める。

 すると描き終えた場所が次第に描いたものに近い形に変化していっていく。

 ともえは段々調子が良くなってきたのか花畑の中で踊るような動きでくるくると描いていった。

 ああ、なんて楽しいお絵かきなのでしょう。

 あたし達はこんなことしていい子ではないのに。

 なんだか心の悪魔は好きに描いてしまえ、どんどん描いてしまえと囁いているようだった。

 思うがままに描いてしまえ。心の赴くままに。

 それが今私達に出来ることなのだから。

 

ともえ「いてっ!」

 

 踊りながら思うがままに描くことに夢中になりすぎたせいで透明ではない普通の扉に頭をぶつけてしまう。

 

ともえ「これは…?」

 

 なんの部屋に続く扉だろう…?

 ともえは扉を開けてみた。

 扉の先にあるものはプラネタリウムだった。

 広くて、そして大きい。

 ともえは思った。

 こういう場所に来るのは初めてなんだと。

 

?「あらぁ?お客さんかしら」

ともえ「あっ、どうもこんばんわ」

モア「こんばんわなのかしら?まあいいわ。初めまして、ジャイアントモアって言うの。あなたの名前は?」

ともえ「あたしは、ともえです」

 

 モアはともえの1.5倍くらいはあるんじゃないかってくらい長身だった。

 

モア「これでもいつもより少し小さいのよ?」

ともえ「そうなんですか」

モア「ところでトモエチャンはここがどういうところか知ってる?」

ともえ「それが記憶喪失でよくわからなくて…。でもここはきっとあれを使って何かを見るためにあるんですよね」

モア「そうねぇ、椅子がこんなにあってあんなに大きい機械があれば何も知らなくてもそういう風に見えるわよねえ。ここはプラネタリウムっていうの。あの機械から投影された星や惑星を見て学んだり楽しんだりするものなの。もし時間があるなら見ていかない?」

ともえ「いいんですか」

モア「いいのよ。今日は流したいモノがあったから。一人で流して見るより誰かと一緒に見たほうがいいでしょ?」

ともえ「ありがとうございます」

モア「ほら、好きなところに座って」

 

 ともえは目の前の椅子に腰掛けた。

 

モア「それではただいまより投影を開始します。最後までごゆっくりお楽しみください」

 

 機械が動き始めたと同時にプラネタリウムは暗くなる。

 モアはともえの隣の席に座って椅子の背を倒した。

 

ともえ「倒せるんだ」

モア「そうよ。出ないと首が痛くなっちゃう。ほら、ここを引っ張って」

 

 ともえはモアの言う通りにやると確かに背が倒れて見やすくなった。

 

<アークトゥルス、スピカ、デネボラを線で繋げる事でできる三角形を春の大三角と言います>

<そしてりょうけん座のα星であるコル・カロリを加えると春のダイヤモンドになります>

 

 星座解説は春にちなんだものだった。



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STAGE-2『For the Damaged Coda』

 星座解説の後に投影された物は一本の映像作品だった。

 タイトルはズバリ『ザ・パラレルワールド』。

 パラレルワールドについてハリネズミのヒヤ・ジョウコが語る。

 

<パラレルワールドはご存知ですか?>

<パラレルワールドはある時間から分岐しそれに並行して存在している別世界を指します>

<これを何かに例えるならばアイスを買うか買わないかで変わる、でしょうか。仮に買ったとして何味を買うかで困りませんか?もしこの味を買っていたら…なんて。そういう考えがパラレルワールドなんです>

<この考え方はとても都合が良くて様々な創作に用いられているくらいには有名なネタなんですよ>

<それで一番気になる所はパラレルワールドって本当にあるのかってことです。私達はその無数にある世界を観測することができないのです。もしかしたら科学が発展してアニメや映画なんかで見るような物が現実になる可能性もありますが――>

 

 なんだか眠くなってきた。

 きっと時間切れだろう。

 ともえは目を閉じた。

 

 

 眼を開ければそこは水族館なはずはなく、誰もいないプラネタリウムだった。

 不思議に思いながらともえはプラネタリウムから出てくれば、

 

ともえ「え」

 

 そこにはたくさんのともえがいたのだった。

 髪型が違う、服が違う、持ち物が違うなんて違いはあれど大体は最初に着ていた服と同じ服を着ている。

 はっきり言ってこの光景は気持ち悪い。

 

ともえ「どういうことなんだ…」

TME「どうだっていいじゃないか!」

 

 画家のような姿をしているTMEはそういった。

 

トモエ「私達は同じともえとしてこうして集まったんだ!」

 

 おさげのトモエはそう言いながらともえの手を掴んで真ん中に立たせた。

 するとともえの姿に気がついた他のともえ達はまるで転校生に群がる子供達のようにともえに興味津々である。

 

都萌「あなたは一体どんな物語のともえなの?」

 

 着物姿の都萌はともえに質問した。

 

「「教えて」」「「教えて」」

と・もえ「大丈夫!私達は決して同じともえを否定しない」

 

 1900年代のドレスに身を包むと・もえはその言葉でともえを安心させようとする。

 

えもと「それが創造主たる主様が定めたルールなんだから!」

 

 白衣を纏うえもとはまるで舞台の中心でスポットライトを浴びる役者のように叫んだ。

 

巴「教えて?」

 

 カメラを持つ大学生のような姿をした巴は写真を撮りながら喋った。

 

ともえ「あたしは…」

「「うんうん」」

 

 トモエ達は耳を澄ましてともえの話を聞く。

 

ともえ「記憶喪失で」

「「うんうん」」

ともえ「絵が好きみたいで」

「「うんうんうん!」」

ともえ「誰かを悲しませるほどの悪い子…」

「「うんう…ん??」」

 

 トモエ達はお互いの顔を見て何かを相談しだす。

 そして――、

 

えもと「お前は創造主のルールを破った」

と・もえ「あなたは私達と同じともえではない」

巴「あーあ、一枚無駄にしちゃったな」

都萌「Rの物語にそんな悪い子はいらない!」

TME「祝いを破るガキには死あるのみ。大人になれない哀れなガキは死んでしまえ」

トモエ「いったい誰が…こんなゴミみたいなキャラを産み出したのか!」

「「殺せ」」「「殺せ」」

 

 ゲームオーバー!

 ともえは手足を縛られ、口を縫われ床に倒れる。

 トモエ達は各々持ち合わせるペンでともえを刺して刺して刺しまくる。

 叫ぶことすら許されない。それが筋書きの奴隷の運命なのだから。

 いつか見た悪夢と同じようにあたしは私と同じように消えていくんだ…。

 

?「ねえ…ねえちょっと。起きて」

ともえ「はっ!」

 

 ともえは咄嗟に口を触ったり体を見たりする。

 

モア「何してるのぉ?」

ともえ「いや、なんか良かったなぁ~って」

モア「???」

ともえ「さっきのパラソ…パラレルワールドの話聞いてる時に眠くなっちゃって、それで見た夢が自分と同じような顔をした人間否定されてペンで刺され続ける夢だったんだ」

モア「ひどい悪夢だったわね。どんな世界に行っても悪夢からは逃げられない。けれどいい夢は見られる」

ともえ「いい夢…」

モア「いい夢の見方って知ってるかしら?」

 

 ともえは首を横に振った。

 

モア「いい夢っていうのは、悩みがない状態で楽しい日を過ごすこと。トモエチャンはたくさん悩んでる。それは悪くないことだけど、あまり悩み続けてると良いことは起こらない。時には悩むことを忘れてぱーっと生きてみるのもいいと思う」

ともえ「そうなればいいけど…」

 

 避けられない運命っていうのがある。

 絶対あたし達の記憶という悩みは避けられないことなんだと。

 

モア「いつかそういう日が来るといいわね…」

ともえ「うん」

モア「さてと、私そろそろ行かなくちゃ。皆が待ってる」

ともえ「皆?」

モア「友達のこと。トモエチャンも私と同じように友達を大切にね。はい、きっとこれはトモエチャンが持つべきだと思う。さっき拾ったんだ」

ともえ「これは…」

 

 鍵だ。

 きっとここから出るための鍵なはず。

 

ともえ「いいの!?」

モア「うん。私には必要ないから。それじゃあね、トモエチャンとはまたどこかで会えそうな気がする。できれば現実の方で会いたいけど、トモエチャンと私はお互い遠すぎる」

ともえ「また会おう!できたら!」

 

 そう言ってともえに手を降ってからプラネタリウムの出口から出ていった。

 

 

シザンカ「遅すぎて見に来てしまったが」

ケカタカ「悪くない」

「「我々の教え方が上手かったおかげで彼女はレベルアップした!」」

シザンカ「やったか」

ケカタカ「やったわ」

シザンカ「やったぞ」

ケカタカ「やったぜ」

ヒーナ「よく出来てるじゃないか」

ともえ「もう大丈夫なの?」

ヒーナ「さっきよりは良くなったぞ。こやつらのおかげだ」

シザンカ「仕方ないから」

ケカタカ「応急処置を施した」

シザンカ「でもセロハンで貼ったようなもんだから」

ケカタカ「ちょっと難しいだろうな」

ともえ「そんなことより、ほら鍵もらったんだ。モアさんから」

ヒーナ「そうか、遅くなったのはジャイアントモアと話してたからか」

ともえ「プラネタリウム見てたの」

「「は?プラネタリウム」」

シザンカ「なぜそれを早く言わない」

ケカタカ「まったく使えない羊だ。行くぞカンザシ」

シザンカ「早く行って投影祭りだ」

「「フューチャータイム!」」

 

 そう言いながらプラネタリウムへとフウチョウ達は向かっていった。

 

ヒーナ「さてめんどくさいやつも居なくなったことだし、さっさと次行ってしまおう」

ともえ「うん」

 

 不思議な鏡を通りすぎた時にともえは何か不思議な感覚を覚えた。

 

ともえ「?」

ヒーナ「どうした?」

ともえ「なんか今、鏡に写ってたのが別人みたいだった」

ヒーナ「ほう、真実を映す鏡か。でも今はともえのまんまみたいだがな」

ともえ「気の所為だったみたい」

 

 ともえ達は近くにあった非常口の扉の前でモアから貰った鍵を使って扉を開けた。

 

 

 扉を通ればそこは夜道。ヒーナの姿はない。

 ともえはとにかく目の前の光に向かって真っ直ぐ歩くことにした。

 歩いた先に待ち構えていたものは悲劇だった。

 

ともえ「ヒーナちゃん!?」

 

 ともえは目の前にある人形の残骸に向かって駆け出した。

 明らかにヒーナそのもの。

 

ともえ「まさか」

 

 フウチョウ達の言っていた事をなんとなく思い出す。

 この体はもう限界云々。

 

ともえ「そんな…あたしどうすれば…」

<ウェルカム!ここはカラカル☆ランド!キラキラと奇跡が詰まった幸せの遊園地!>

 

 ヒーナの残骸が放置された場所から目と鼻の先にあるのはカラカル☆ランドと呼ばれた遊園地だった。

 明るい曲がともえの耳に聞こえてくる。

 回る観覧車、無人のジェットコースター、甘い匂い。

 

ともえ「きっと私を呼んでいる…私達を呼んでいる」

 

 ともえは残骸をその場に置いて一人遊園地へと向かっていこうとしたところで時間切れ。

 遊園地には入園できず。

 とりあえず残骸と共に眠った。

 

 TO BE CONTINUED




 わかっていたはずなのに助けることが出来なかった。
 それがどれだけ辛いことか。島の長である我が、客人に何もしてやれないだなんて。
 なぜ我が島の長であるのかわからなくなる。
 あぁ、お前達だけだ。我のことを慰めてくれる者は。
 その慰めてくれる者達のために今できることを精一杯にやるしかない。
 我がこの力でお前に縫い付けられた傀儡師の糸を断ち切ってやろう―――。


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#06-11 心の大掃除

 早朝、きっといつもより早い時間に起きてしまったともえは一人海岸に向かって歩いていた。

 もう一度寝ようなんて考えても冴えた状態では寝れやしない。

 仮に寝れたとしてあれをどうすればいいんだろう?

 描けばまたヒーナに会えるのだろうか。

 

―――あたしは忘れているだろうけど、私は知ってる。

―――こういうのは直した所で魂が戻らなければ意味がない。

―――時空神でも体は直せても魂は、心は直せない。

――だから2周目雪輝の願いは叶えられなかった。

 

ともえ「ゆき、てる…?」

 

 心の奥から聞こえてくる私の声に何か引っかかるところがあったがそれ以上のことは思い出せなかった。

 

?「おーい!なにしてんだー!」

ともえ「え?」

 

 振り向けばオーセンとオーアルがいた。

 オーアルは手にバスケットを持っている。

 

オーアル「おはよう!」

ともえ「おはよう…」

オーセン「なんだよ元気ないな~ほら口を開けるんだ!」

ともえ「えっ…?ふぐっ!?」

 

 ともえの口に突っ込まれたのは長いパンを使ったサンドウィッチの一切れ。

 口の中にマヨネーズとカリカリベーコンとレタスが広がる。

 

オーセン「どうだ?美味いか?これさっきあっちでステラーカイギュウの店で手に入れてきたんだよ!」

ともえ「おいしい…」

オーセン「そうかそうか!よし!オーアル、今日の朝食はここで食うぞ」

オーアル「わかった。けど気をつけてね」

オーセン「わかってるさ」

 

 オーアルはバスケットからレジャーシートを取り出して砂の上に敷いた。

 

オーアル「さぁさぁ、君も一緒に食べよう。たくさんあるし気にしないで」

ともえ「うん」

 

 レジャーシートにともえは座った。

 オーアルはバスケットから水筒を取り出して紙コップにお茶を注いでともえに渡す。

 温かい。

 

オーセン「うっま!これは当たりだな!」

オーアル「確かに!」

ともえ「美味い」

 

 目の前のサンドイッチに夢中になっている中、ともえ達は背後から近づく謎の黒い影に気付かなかった。

 バスケットに向かって伸ばされた黒い手はがっしりとサンドイッチを掴み――、

 

カンザシ「うまっ!おいこれどこで買ってきたんだよ」

オーセン「うわあ!?」

 

 オーセンは驚きのあまり丸まった。

 

カンザシ「おーすげぇ、丸まったわ。あれ?お前は丸まらないのか?」

 

 カンザシはオーアルに聞いてみた。

 

オーアル「丸まらないけど」

カンザシ「そっか。それで、どこで手に入れたんだ?」

オーアル「ステラーカイギュウのとこだけど」

カンザシ「わかった。教えてくれてありがとう!とっても感謝している!」

オーアル「なんだったんだ?」

ともえ「いつものことだから気にしないで。あの、もういなくなったよー?」

オーセン「へ?」

 

 オーセンはキョロキョロ見渡して一息つく。

 

オーセン「ふぅ…本当になんだったんだ…」

カンザシ「私はあくまでフウチョウなカンザシフウチョウさんだ」

オーセン「さっきいなくなったんじゃないのかよ」

カンザシ「知らないのか」

カンザシ「カンザシフウチョウはめちゃくちゃ速い。クロックアップとかゲイツリバイブとかラトラーターとか目じゃないくらいに」※実際のカンザシフウチョウはそんなことありません

オーセン「明らかに動物というレベルを超えている…」

 

 オーセンはカンザシに恐怖した。

 

オーアル「そう言えばなんで人の子さんはここに?」

オーセン「そりゃあ記憶を取り戻すために決まってるだろ」

オーアル「それはわかってるけど早朝にここに一人で来るってなんかあんのかなーって」

カンザシ「あーそれ私も気になった」

オーセン「お前はなんのために来たんだよ」

カンザシ「決まってんだろ~ともえが消えたからどこ言ったのかな~って探したら美味そうな匂いを感じてな、思わず匂いを嗅ぎながら無意識に飛んでた」

オーセン「やべーやつだ」

カンザシ「ブタのカート奪ってともえを捕まえに来たやつに言われる筋合いはないが」

オーアル「えっ!喧嘩してた時にそんなことしてたの!?」

オーセン「いや、あれはその…もう謝っただろ!」

カンザシ「大切なものを壊されたから怒っていたんだよな」

オーセン「ああそうだが」

カンザシ「その気持ち忘れるなよ。そう思えるのはまだここが幸せな場所だって言う証拠なんだ」

オーセン「はぁ?意味ワカンネ」

カンザシ「わかんなくていいさ。こっちの話だからサ」

ともえ「あたしがここに来たのは、色々と考えとかを整理したくて」

オーアル「考え?」

ともえ「うん、笑っちゃうかもしれないけどさ、あたし夢の中でヒーナちゃんって言う子と夢の中を冒険してて、それでヒーナちゃんが壊れたんだ。どうしてあげればいいのかなって言うのと、あたしはこれからどうすればいいのかなって」

カンザシ「それで一人でここにきたのか」

 

 カンザシは一人納得した。

 風鳥は夢の内容は把握してないが"誰が"ともえに干渉してるのか位は把握していたので理解は早かった。

 

カンザシ「うーんそうだなあ。どうもしなくていいと思う。そいつにしてやれることは自分自身に向き合うことだ。きっとそいつもそれを望んでいる。だからこそお前と行動していたんじゃないのか?」

 

 自分自身と向き合う。

 

ともえ「それってあたしが私と戦うってことだよね」

カンザシ「戦うんじゃなくて認めることだ」

オーセン「自分の今までの生き様を否定しちゃあいけないよな」

オーアル「そうなのかな。誰だって嫌なことあるし。忘れたいなら忘れてしまうのも」

オーセン「自分から逃げるつもりなのか?忘れるって自分から逃げることだぞ」

ともえ「逃げる…」

オーセン「あぁそうさ!逃げることは自分の否定と同じ!どんな生物だろうと自分の否定なんてしちゃあいけないんだ!どんな否定されようがその否定する存在と戦うべきなんだよ。それがフレンズってもんだ」

ともえ「それじゃあきっとあたしはフレンズじゃないかも」

オーセン「自分がフレンズじゃないとかどうのこうの決めるのは私達だ。お前は間違いなくフレンズだよ」

オーアル「ねえもし私達が否定したらどうするわけ?」

 

 オーアルの疑問にオーセンは答える。

 

オーセン「お前は生きていたいか?どんなに否定されても自分はこの世界で生きていきたいと、そう思っているか?今までのことを思い出して見るんだ」

 

 今までのことを思い出してみる。

 初めてイエイヌと出会った日の事を、皆と仲良くなったことを、一緒に夜空を見たことを…。

 振り返る新しい記憶はどれも輝いていていた。

 そんな記憶だけを見ていたいなんて欲がないわけじゃなかった。

 それでも知りたい。

 否定されたとしても知りたい記憶がある。

 アムールトラ。

 彼女を描く私は何を思っていたのか、スケブの絵を描いていた私の心が知りたかった。

 

ともえ「わからない…わからないけど…あたしは私の心が知りたい。知ることが怖かった時があったけど、今はもう怖くない。あたしには大切なフレンズがいるから。もちろん、あなた達のことも…」

オーセン「お前のことを追い回してたやつのことをフレンズって…優しいな。私ならお前みたいなことしないもん。私はオオセンザンコウ、オーセンだ。んでこいつが…」

オーアル「オオアルマジロ、オーアル。よろしく、えっと――」

ともえ「あたしはともえ。よろしくねオーセン、オーアル」

 

 こんな大事な話をしているというのにカンザシはサンドイッチに夢中で話半分に聞いていた。



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#06-12『ウミガメスープ』

 ともえ達は呑気に朝食を済ませて水族館へと帰ってくれば不機嫌な顔をしたイエイヌが待っていた。

 

オーセン「なぁ、なんでこいつ不満そうな顔してるんだ?」

オーアル「さあ?」

カンザシ「ともえがどこか言ってたことに怒ってるんじゃないかな?」

「「あぁ~」」

 

 二人はカンザシの言葉に納得した。

 

ともえ「お、おはよう!イエイヌちゃん!」

イエイヌ「…」

カンザシ「連絡もよこさず飲み会して遅く帰ってきた夫にキレ気味の妻みたい」

オーセン「その例えはどうなんだ?」

イエイヌ「ともえさん…私に何か言うことありますよね?」

ともえ「えーと…勝手にいなくなってごめん。色々と考えたいことがあって」

イエイヌ「考えたいこと、ですか」

ともえ「うん。夢のことで色々とね」

 

 カンザシ達に説明したようなことをイエイヌにもするともえ。

 

イエイヌ「夢だったとしても大切な人と会えなくなるのは悲しいですよね…私もそうなったらともえさんのように悲しいと思います。でも、だからって一人で勝手にどこかいかないで…お願いだから…」

ともえ「わかった。どこかに行く時は言うね」

イエイヌ「はい…!そうしてくれると嬉しい」

 

 フラグじみた物を感じ取るカンザシだった。

 

イエイヌ「ところでこれから朝食なんですけど――」

ともえ「実はもう食べたんだ」

イエイヌ「もう!」

 

 

 一足先に朝食を終えていたともえ達だったが、イエイヌに付き添って朝食の席に座った。

 

イエイヌ「お腹いっぱいじゃなければスープ、飲みませんか?心も体も温まりますよ」

ともえ「いいかも」

カンザシ「私も食べるぞ!」

イエイヌ「はいはい。アルマジロさん達はどうです?」

オーセン「オオセンザンコウ、オーセンだ。私も食べる。お前も食べるだろオーアル」

オーアル「もちろん!」

 

 コンソメスープの中に浮かんでいるのは海の生き物の形をしたマカロニといくつかの刻まれた野菜。

 飲めば飲むほど心も体も温まる。

 

オーアル「おいしい!」

イエイヌ「よかった」

オーセン「これお前が作ったのか!すごいな」

イエイヌ「いやいやそれほどでも」

 

 照れるイエイヌ。

 ともえはスプーンでマカロニをかき集めては見てを繰り返す。

 

ともえ「この亀の形したのかわいいなあ」

ドルカ「私の方にもあるかな」

クロ「行儀が悪いよ」

ドルカ「別にいいでしょ。あっ、ともえ見て!これなんかかわいい!」

ともえ「ほんとだ」

オーアル「私も探してみよ」

 

 ドルカがともえに見せたのはあんこうの形をしたマカロニだった。

 

イエイヌ「探すのはいいですけど、冷めちゃいますよ」

カンザシ「そうだぞ」

クロ「まったく、こんなんであのたままって言うおたまじゃくしをどうにかできるのかな~」

イエイヌ「料理なら私に任せてください!私、自信があるんです!」

クロ「こんな美味い料理が作れるなら期待したいところだわ。でも、一人でやるなんて思わないで。私達もちゃんと手伝うから」

カルガモ「そうですよ!足引っ張らない程度にがんばりますから!」

イエイヌ「頼もしいです」

 

 

 準備ができるまでまだ時間がたっぷりとあるはず。

 その時間で出来ることはいつも通りの日課をすることだった。

 バシャン!と高く水中から飛び上がるドルカはいつ見ても素晴らしい。

 

オーセン「すげー!おい見たかオーアル!」

オーアル「もちろん見たよ!こんなに高く飛ぶなんて!」

オーセン「うへぇ~ずぶ濡れだ~」

 

 前の方にいたアルマジロコンビはドルカが出した水しぶきがもろにかかった。

 

カンザシ「あははは!あいつらもろにかかってやんの!――ぐへぇ」

 

 どこからか投げられたビーチボールがカンザシの頭に当たる。

 

カンザシ「くそう!あいつ見てるな!って見てるのか」

 

 『おい屑、私はお前を見ているからな。余計なことはするなよ』なんてカタカケが言っていたのをカンザシは思い出した。

 

カンザシ「あいつ段々辛辣になってきてるんだよなぁ…私何か悪いことでもしたのかな」

 

 自覚がないのは本当に恐ろしい。

 

イエイヌ「はい、タオルです」

オーセン「助かる」

オーアル「ありがとう!」

 

 イエイヌに用意していたタオルを手渡されてアルマジロコンビはお互いの体を拭いた。

 

ドルカ「ねえ、大丈夫だった?」

 

 ドルカが心配して声をかけてくれる。

 アルマジロコンビはドルカに大丈夫だと伝えて、

 

オーセン「続き見せてくれよ!」

 

 と付け加えて言った。

 その言葉にドルカは嬉しくなり、

 

ドルカ「クロ!来て!」

クロ「わかった!いくわよ~!」

 

 クロがやってきてプールへと飛び込み、水中で二人は手をつなぎながらくるくると回りながら飛び上がって落ちてきた場所へそのまま落ちていくと―――

 水しぶきが二人のかわいい顔を形作った。

 

ともえ「すごい」

 

 思わず声が漏れ出るほどの凄さがあった。

 

ドルカ「どうだ!これが私達が考えた」

クロ「ハッ、ハッピーマリン・シャワーよ!」

 

 自信満々に言うドルカと恥ずかしそうに名前を言うクロだった。



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#06-13『けもの達のクッキング』

 日課を終えたちょうどいいタイミングでカタカケはともえ達の前に姿を表した。

 

カタカケ「準備終わりました。今日の夜、料理対決を行いたいと思います。とても急ではありますが材料や道具一式はこちらで用意しましたので心の準備だけしてもらえればと思います」

カルガモ「もっと掛かるかと思ってました」

カタカケ「ええ、後二日くらい掛かるかと思ってたのですが、ケーキ頭の方々が良い仕事をしてくれるので予定よりだいぶ早く作業を終えることが出来ました」

オーセン「んで、場所は?」

カタカケ「海岸です」

 

 

 心の準備をしっかりとしてからともえ達は手ぶらで海岸へと向かう。

 バッグは邪魔だから水族館に置いてきた。

 海岸には料理対決をすると聞いて駆けつけてきたであろうフレンズ達が席に座って待っていた。

 

ドルカ「すごい。きっとショーの席が埋まったらこんな感じかも」

 

 ドルカは自分達のステージの席が目の前みたく埋まっている姿を妄想していた。

 

クロ「確かに。いつかは席を埋めたいわね」

ドルカ「それできるかな」

クロ「頑張ればいつか…!」

ドルカ「まずは勝たないとね」

クロ「うん!」

 

 一日くらいで仕上がった割には出来の良いステージ。

 ステージには料理道具一式なんかがしっかりと置いてあり、いつでも料理ができそうだった。

 たままがケーキ頭の部下を連れてともえ達の前にやってきた。

 

たまま「逃げずに来たのは偉いですね。ボクは食べる専門ですから、君達が来なくても料理は作らせるつもりでしたよ」

ともえ「作らないの?」

たまま「作るわけ無いでしょ!ボクは王様なんですから。料理をするために生まれてきたわけじゃないんですよ。ほら出ておいで!ボクのコック!」

 

 たままに呼ばれてやってきたのはコック姿のセルリアンだった。

 ともえ達はセルリアンコックに驚いた。

 

ともえ「セルリアン…!」

たまま「ただパンチやキックしてるだけじゃこのコックは倒せないですよ。コックを倒せるのは料理のみ!」

 

 そう言ってたままはビシッと指をステージに向かって指差した。

 

カンザシ「ほう、料理で倒すセルリアンか。こないだのセルリアンレーサーもそうだが面白いセルリアンが出てきてくれて私は嬉しいぞ!」

イエイヌ「あれ面白かったんですか?」

カンザシ「あぁ面白かったぞ。レースのルール通りに攻撃しないとあいつ倒せなかったはずだし」

イエイヌ「そうなんですか」

カンザシ「あのセルリアンを倒せるかはお前の腕次第だぞ。頼むぞイエイヌ」

イエイヌ「あ、はい!わかりました!頑張ってみます!」

ともえ「イエイヌちゃん、あたしも手伝うから」

イエイヌ「心強いです」

カルガモ「私達だって水族館を守るためにお手伝いさせてください!」

ドルカ「足引っ張らない程度に頑張るからさ!」

クロ「ドルカが一番引っ張りそう」

ドルカ「それじゃあ引っ張らないようにクロ、よく見ててね」

クロ「わかった」

ともえ「よし、それじゃあ手を出して!」

ドルカ「?どうして?」

ともえ「いや、ほら、こうすれば一致団結!って感じがして」

 

 ちょっと恥ずかしそうにともえは言った。

 

クロ「いいじゃないそれ。ほら皆も出して」

イエイヌ「はい!」

 

 クロに続いてイエイヌ、ドルカ、カルガモ、カンザシとともえの手に合わせていく。

 

イエイヌ「ほら、ともえさん」

ともえ「え?う、うん!頑張るぞー!」

「「「おー!!」」」

 

 

 お互いステージに上がったタイミングでカタカケはマイクを持ってやってくる。

 

カタカケ「皆様お待たせいたしました!これより、このみずべエリアを賭けた料理対決を始めたいと思います!審判はこの私、カタカケフウチョウが務めさせていただきます。ルールは簡単。お題の料理を作り、そこにいる審査員3名を多く喜ばせた方の勝利となります!それでは審査員3名を紹介しましょう!」

 

 審査員席に座るのはステラーカイギュウとシナウスイロイルカとキタオットセイ。

 

ステラ「こんにちわー!」

シナウス「美味しい料理を期待していますわ」

キタオ「よろしく!」

 

 パチパチパチと観客席から拍手が響いてくる。

 

カタカケ「それでは今回双方に作ったもらう料理は――カレーです!」

「カレー?」「カレーって何?」「もしかしてあのカレー?」

 

 カレーのことを知らない観客が大半だったせいか観客席から聞こえる呟きはそんな声が多かった。

 

カタカケ「カレーというのは有名な詩であるかみひこうきの伝説に登場する料理です。様々な野菜や香辛料を鍋で煮込んで作る料理なります。人によって味付け方が分かれ辛いものから甘いものまで様々あります。今回の料理対決は自分の好きではなく相手を思った料理を作ったほうが勝ちやすいかもしれません。材料は早いもの勝ちではないのでゆっくりと何を作るか考えてから行動に移ってください。それでは料理対決、開始!!」

 

 合図と同時にセルリアンコックは材料が置かれている場所へとやってきてケーキ頭の部下に指示しながら材料を選んで持っていっている。

 

カルガモ「イエイヌさん!私達も何かしないと」

イエイヌ「そうですね…まずは何のカレーにしたらいいんでしょうか」

ドルカ「え?カレーっていろんなのがあるの?」

イエイヌ「シーフードカレーとかチキンカレーとか色々ありますよ!」

カンザシ「そうだなぁ…審査員は海の生き物だ。彼女らにちなんだ物を選んで具材にしたほうがいいかもしれないな」

クロ「ちなんだもの…?」

 

 クロは審査員の顔を遠くから見たがよくわからなかった。

 

イエイヌ「ちょっと具材を適当に選んできます。みなさんは何かいいアイデアがないか考えておいてください。ともえさん!一緒に選びましょう!」

ともえ「うん!」

 

 カレーに使える材料の種類は豊富だった。

 野菜や魚、肉、果物なんかは当然のことチョコやカフェオレや牛乳、コーヒーと言った飲み物類などの関係なさそうなものまで置いてある。

 イエイヌは審査員の顔をちょこちょこ見ながら具材を適当に入れていく。

 カタカケが言っていた『相手を思った料理』を作るためでもある。

 ちょこちょこ見てわかったことはシナウスは上品でステラはイエイヌやセルリアンコックの動きを観察していて、キタオは早く食べたがっているようだった。

 

ともえ「ねえ、これ使ってみない?」

 

 ともえがイエイヌに見せたものは板チョコ。

 

イエイヌ「チョコ…ですか」

 

 イエイヌは少し考える。

 カレーにチョコはどうなのだろうかと。

 そう言えばワカイヤさんがチョコを隠し味に使っていたっけ。

 

イエイヌ「いいと思います!このカゴに入れておいてください!」

 

 イエイヌに言われてともえはカゴに板チョコを一つ入れた。

 

イエイヌ「大体は手に入りましたし、作り始めましょうか」

ともえ「これだけでいいの?」

イエイヌ「必要なのはもう揃いましたし、私あんまり豪華なものは作れないですし。あっ、いけない忘れてた」

 

 ワカイヤがいつも使っているカレー粉の缶を掴んでかごに入れた。



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#06-14 カレーなるハイトリップ

 セルリアンコックが一歩どころが大分先を行っている中、ともえ達はようやくカレー作りを始めたのだった。

 イエイヌはそれぞれに指示しつつまな板と包丁と野菜を用意した。

 

イエイヌ「ドルカさんとともえさんは私と一緒に野菜を切りましょう!クロさんとカルガモさんはお肉を切ってください!カンザシさんは鍋を用意してごはん炊きつつ野菜切り終わるまでともえさんのサポート!」

カンザシ「了解」

 

 作業を分担し始めた。

 イエイヌに切り方を教わりながら切っていくともえ達。

 カンザシはひとり鍋に水を張ってすぐにともえのところへやってきた。

 

カンザシ「手伝いに来たぜ。なにかすることはないか?――うぉっ!玉ねぎの切りすぎで涙流してるぞお前。ほら、このゴーグルを使え」

 

 カンザシが取り出したのはレースの時に使っていたゴーグルだった。

 

ともえ「これってあの時の?ありがとう」

カンザシ「ほら、がんばれ。イエイヌ!もう切り終わったのは鍋に突っ込んでいいのか?」

イエイヌ「炒めてからいれてください!」

クロ「切り終わったわ!」

カルガモ「次はどうすれば」

イエイヌ「肉を炒めます!」

 

 カンザシとイエイヌで野菜と肉を炒めて鍋に突っ込んだ。

 

イエイヌ「ともえさん達はお皿を選んできてもらえませんか?」

ともえ「わかった!」

ドルカ「かわいいのあるかな」

クロ「カレーに合うお皿を選ばなくちゃいけないんだから」

ドルカ「えぇー」

ともえ「行こう!」

カルガモ「えっと、私は…」

 

 カルガモにイエイヌはストップウォッチを渡した。

 

イエイヌ「これで時間を計ってくれません?これから作るカレーは時間が大事なんです」

カルガモ「やった…!頑張ってみます!」

イエイヌ「19分になったら教えて下さいね」

カルガモ「はい!」

 

 カルガモは元気よく返事した。

 

 

 セルリアンコックはもう完成間近というところ。

 そんなことなぞ気にせずお皿選びに夢中になるともえ達。

 ケーキ頭の部下達もともえ達と同じく選んでいる最中だった。

 

ドルカ「ねえともえ、クロ!こんなのどう?」

 

 かわいい柄のお皿をともえ達に見せる。

 

クロ「うーん…これどうなのよ」

ともえ「可愛いけどなんか違うような…」

 

 フルーツタルト頭の部下がやってきてドルカが選んだお皿を見る。

 

部下「悪くはないけどカレーには合わない。デザートに使うなら十分行ける」

ドルカ「なるほど。ねえイエイヌー!デザートって作るのー?」

 

 可愛いお皿を持ってイエイヌのところへと向かうドルカ。

 

クロ「いいの?アイデアなんか与えちゃって」

部下「問題ない。僕達は楽しめればそれでいいから」

クロ「そうなのね…ありがとう」

部下「いいってことさ。後でカレー一杯頂戴な!」

 

 なんて言ってフルーツタルトは仲間のところへと戻っていった。

 クロはあの鍋の量考えて皆で食べる分なのに、と思った。

 

ともえ「ねえこれなんかどう?」

クロ「いいじゃない。これ悪くないかも」

 

 ちょっとした可愛さを持つお皿を選んでともえはイエイヌのところへ戻った。

 

 

 結局ドルカのアイデアは時間の都合や合いそうなデザートを作る時間を作れなさそうだったので断念。

 しょんぼりとするドルカだったが、イエイヌからカレーの味見を貰って元気になっていた。

 

ステラ「あぁ~早く食べたいぃ~」

 

 元気になっているドルカの顔を見てステラは呟いた。

 

シナウス「あちらのかれーがいいんですの?私的にはあっちのセルリアンが作ってるほうが…」

キタオ「どっちおいしそうだね!」

 

 セルリアンコックはもうすでに出来上がっており、おしゃれなカレーの容器に流し込んでいっている。

 カレーの匂いが会場内に立ち込める。

 審査員も観客も皆この美味しそうな匂いにワクワクが止まらない。

 セルリアンコックがやってきて一礼。

 ケーキ頭達が審査員達の前にカレーの容器とナンを置いた。

 シュークリーム頭の部下が前に出て――

 

部下「カレーをナンに絡めて食べてもらえると嬉しいとコックが申しております」

 

 コックは頷く。

 審査員達はナンを千切ってカレーと絡めて食べ始める。

 

キタオ「おいしい!」

ステラ「このなん?っていうのも美味いしカレーによく合ってる気がする」

シナウス「とろける~」

 

 美味しそうな顔をしている審査員を見て少しばかりイエイヌに不安になる。

 

カンザシ「大丈夫だイエイヌ、自分を信じろ」

カルガモ「時間です!」

 

 カルガモの言葉を聞いて板チョコをポキポキ折って入れてかき混ぜながら、ワカイヤ直伝の隠す気のない隠し味をすっと入れる。

 後はゆっくりと少しだけ煮込んで…

 

イエイヌ「できました!」

 

 炊けているご飯をお皿に盛り付けつつ、カレールーをかける。

 慎重に、こぼさないようにお盆で審査員達に持ってきた。

 

イエイヌ「お口にあうかどうかはわかりませんが、どうぞ私達のカレーライスを食べてみてください!」



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#06-15 カレーなる変身

 イエイヌ主導で作られたカレーライスはセルリアンコックが作ったカレーと比べると家庭的なカレーだったこともあって見劣って見えてしまうかもしれない。

 

シナウス「さっきの比べると大分クオリティが落ちているような気がしますが食べないことには始まらないですわね」

 

 そう言ってシナウスはイエイヌ達が作ったカレーを口に運んだ。

 

シナウス「美味しい…なんだか心が暖かくなるわ」

ステラ「ちょうどいい辛さ!これならいくらでも食べれる!ねぇ、あなたがメインで作っていたんでしょ?どんな隠し味を入れたの?」

イエイヌ「隠し味ってほどではないんですけど…」

 

 イエイヌは隠し味が入っている小瓶を持ってきた。

 

イエイヌ「置いてあるとは思わなかったので助かりました。これが隠し味に使った、スザクの調味料です」

 

 デフォルメ化されたスザクのラベルが貼られた小瓶に詰められた調味料。

 どこぞの究極だの至高だのこだわる人達からしたらこれは激怒物だがここではそこまで本気な勝負ではないので怒られないだろう。

 

ステラ「でもそれだけじゃないでしょ?チョコ入れてたみたいだし」

イエイヌ「そうなんです!ともえさんのアイデアなんですよ!」

ステラ「ともえ…聞いたことないフレンズさんだな」

ドルカ「ともえは人の子なんだ!あのかばんみたいに!」

キタオ「あれって作り話じゃないの!?うそ…ヒトなんていないと思ってた」

 

 カレーに夢中になっていたキタオだったがともえがヒトであることが耳に入ってきた思わずスプーンを動かすのを止めてしまった。

 審査員二人にじーっと見られてともえの目が泳ぐ。

 

シナウス「その子がヒトだからって審査を甘く見ちゃいけないわ。そんなことしたら彼女たちに失礼よ」

ステラ「わかってるよ」

キタオ「そういうの抜きにしてもこのカレー美味しいよ!」

イエイヌ「ありがとうございます」

 

 

 食べ終わった審査員達は誰が一番美味かったかを決めるためにシナウスを除いて迷っているようだった。

 キタオの口から漏れ出てくる『どっちも美味しかった』は嬉しかったけれど、決めてくれないと水族館どころか水辺エリアがあのおたまじゃくしのものになってしまう。

 ともえは玉座に座るたままを見る。

 よだれを垂らしながらカレーの匂いを嗅いでいる。

 …見なかったことにしよう。

 

ステラ「よし!」

カンザシ「キタオットセイさん、どうでしょうか」

キタオ「うーーーーん…決めた!」

カタカケ「それでは誰のカレーが美味しかったか挙手でお願いします。まずセルリアンのカレーが美味かったと思う人――」

 

 シナウスだけが手を上げた。

 

たまま「そんな…」

カタカケ「もういいですか?それではイエイヌさんのカレーが美味しかったと思う人――」

 

 ステラが真っ先に手を上げて、遅れてキタオが手を上げた。

 

カタカケ「勝者、イエイヌ、水族館チーム!」

 

 カタカケの宣言と共にセルリアンコックはぱっかーんと崩れ落ちた。

 

カルガモ「やった…!」

ドルカ「クロ、これで守れたんだね」

クロ「うん。ありがとうイエイヌ。あなたやともえのおかげで水族館やこの場所を守れた」

イエイヌ「私何してもないですよ。皆さんが頑張ってくれたおかげですから」

ドルカ「いいや!イエイヌのおかげだよ!ありがとー!」

カンザシ「おーいカタカケぇーもうカレー食っていいか?」

 

 カタカケはため息を付いてから、

 

カタカケ「いいですよ。皆で食べるんですから一杯だけですよ」

カンザシ「ぃよしっ!」

カタカケ「それじゃあカレーがほしい方は一列に並んでお待ち下さい。ただいまから両チームが作ったカレーを振る舞います」

 

 カタカケはケーキ頭の部下たちに指示して観客用と関係者用に分けるように指示した。

 部下たちは小さな鍋を二つ用意して自分達の分を確保しつつ、対決の時に使っていた鍋を観客席の近くに運び込んだ。

 お皿は一皿で2つのカレーが食べられるように出来ているものを選んでご飯と一緒に観客に振る舞った。

 

たまま「さて、ボクのセルリアンに勝ったカレーを食わせてもらうとするですかね」

 

 お皿を持って自分でよそって食べ始めた。

 

たまま「うまっ!ヒトが関わってるくせに生意気な美味しさですね…」

ともえ「ヒトのくせにって…」

イエイヌ「ささ、早く食べましょう!でないとカンザシさんに全部食べられてしまいますよ!」

カンザシ「そ、そんなに食わないぞ!」



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#06-16 眩しい笑顔達

イエイヌ「美味しいですね!」

ともえ「うん!あのセルリアンのカレーも美味しいけど、やっぱりイエイヌちゃんのが一番だよ」

イエイヌ「嬉しいですぅ」

 

 ガヤガヤと賑わっている。

 それを見ながら食べるカレーライスは本当に美味しかった。

 

ともえ「あ~!スケブ持ってくればよかったなあ。皆の笑顔描きたくなってきたよー!」

 

 笑顔があの庭園で見たサンドスターのように綺麗に輝いているように見えた気がした。

 だからともえはその光景を絵にしたかったが、あいにく置いてきてしまったので描けなかった。

 

イエイヌ「確かにこの光景は絵に残しておきたいですね。もしともえさんみたいに絵が描けたらきっと消えないように急いで描いてたと思います!」

ともえ「絵に上手いも下手も関係ないよ。描きたいと思うなら描けばいいんだよ」

イエイヌ「そうか…描けばいいんだ。そうですね!私もともえにならって描いてみたいと思います」

 

 

 水族館へと戻ってきたともえ達。

 寝る前にやることはイエイヌと共に絵を描くことだった。

 フウチョウ達はいないし、ドルカ達は疲れて眠っちゃったしで。

 正直ともえとイエイヌも眠たかったけど絵を描いてから寝ることに決めた。

 ビリビリビリとともえはスケブから一枚破ってイエイヌに渡した。

 

ともえ「一緒に描こう!あの料理対決の思い出を。ほら、色鉛筆はここにあるわけだし」

イエイヌ「いいんですか?」

ともえ「大丈夫!これはきっと、こういうためにあるから。さーてさっさと忘れない内に描いて早く寝よう!」

 

 ともえは料理対決の記憶を思い出しながらすらすらと描き始める。

 イエイヌは何をこの真っ白い紙に何を描こうか迷っていた。

 料理対決の時の皆の笑顔を描きたいと言ったものの、どう描けばいいかなんてわからなかった。

 

ともえ「できた!イエイヌちゃんは?」

イエイヌ「いや、あの…まだ描けてなくて。ともえさんはいつもこんなに早く描けていていいなあ。いざ描くことになったら頭がこの紙みたいに真っ白で上手く思いつかなくて」

ともえ「絵っていうのはその場の思いつきっていうか、勢いなんだよ。滑り台を滑るような感じ。一回滑り落ちてしまえば、後はもう流れで浮かんでくる。イエイヌちゃんもきっと一度思い浮かんでしまえばあっという間に描き終えちゃうよ」

イエイヌ「そうですね…あっ!」

 

 すらすらとイエイヌは真っ白な紙に描き始めた。

 ともえの言った通り、後は流れ。

 本当に滑り台を滑るような感じで描き終えてしまった。

 

ともえ「何を描けたの?」

イエイヌ「うふふ…ともえさんです!」

 

 イエイヌが見せた絵は上手いというより下手な部類ではあったけれど、それでも愛はあった。

 

ともえ「ありがとう。あたし、もしかしたら誰かに描かれるのは初めてかも」

イエイヌ「本当ですか!私が初めてなんですね!」

 

 イエイヌは自分がともえを初めて描いたことにとても嬉しかった。



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#06-END『Go!Now! 〜Alive A life neo〜』

 海を見た所で何も思い出すことはなかった。

 何を思って私はこの絵を描いたのだろうか。

 あたしにはわからなかった。

 

カンザシ「もう行くのか?まだ思い出していないんだろ?あの海の絵について」

 

 朝食時、あたしはそろそろ出発したいと宣言した。

 水族館の皆は驚いた顔をしていたが

 

ともえ「なんだか、これ以上いても思い出せそうにない気がする」

カンザシ「そうか?お前がそういうんならそうなんだろうな」

カタカケ「次は、どこを目指すんですか?」

ともえ「次行く場所は決まってる。これ」

 

 ロイヤルから受け取ったチケットが入った封筒。

 

ともえ「このライブを見に行く。絶対にPPPは"私"に繋がるアイドルなんだ」

オーセン「PPP!?おい、おいおいおいおい…なんでそれを持ってるんだ!そのチケットは、そのチケットは…中々手に入ることのないチケットじゃないか!」

イエイヌ「そんなにそのチケットがすごいものなんですか?」

オーセン「ああ、そうさ!PPPはパークのアイドルだ!パーク内のフレンズのほとんどがこのツアーチケットを求めて――」

 

 オーセンの熱いPPPトークが炸裂してうるさくなる朝食の席。

 カンザシはともえのところまでやってきて耳打ちで伝える。

 そうでもしないとオーセンの話でかき消されそうだったからだ。

 

カンザシ「さっきたままの部下が私のところに来てたままがお前とイエイヌに会いたがっているって。だから朝食後に行くぞ」

ともえ「わかった」

 

 

 朝食を食べ終わったともえはイエイヌと風鳥と共にドルカ達の秘密基地へとやってきていた。

 外観が前来たときとは随分違く、誰かが弄くり回したとひと目で分かる。

 

カンザシ「おーい来てやったぞー」

たまま「やっと来てくれましたか」

カンザシ「ここ、元から先客がいたとは思うが」

たまま「別にいいでしょそんなの。そいつらが文句言ったらここを一緒に使おうと提案するまでです」

カンザシ「あーそうかい。それで、ともえに何の用なんだ?」

 

 たままは部下にジュースを持ってこさせる。

 もちろんこれはドルカ達が置いておいたもの。

 

たまま「忠告かな」

ともえ「忠告?」

たまま「わかってるとは思うがお前はこの島に居続ける限り、永遠に創造主と自称する馬鹿とその仲間に狙われることになるです。だからいま考えられる限りの自衛はきっちりしておくといいですよ」

カタカケ「なぜ、それを言う必要があるんです?」

たまま「美味しかったからな、その犬が作ったカレーが。お礼ってやつですよ。美味しい料理を褒める時はシェフを呼んで感想を直に言うべきだ。だからこそお前とその犬を呼んだまでです」

イエイヌ「えっと…ありがとうございます!美味しいって言ってもらえるなんて!」

 

 嬉しそうなイエイヌ。

 正直あたしはあまり喜べていなかった。

 なんかよくわからないのに付け狙われているって知ったからだ。

 

カタカケ「あのセルリアンはあなたが作ったってことでいいんですよね?」

たまま「そうですね。僕が作ったことになるんですかね?」

カンザシ「自分が作ったんならはっきりと自覚すべきだと思うが」

たまま「とはいっても僕には作れる力なんて何一つないんだ。だからあの馬鹿から押し付けられた小瓶を使って処分したんだ」

カタカケ「小瓶…?」

たまま「これだよ」

 

 そう言ってたままが投げたのがセルリウムが入っていた小瓶。

 負の結晶が少しこびり付いて残っているのを見てカタカケはこの小瓶に何が入っていたのかを悟った。

 

カタカケ「これは…こんな塊、作れるはずがない」

たまま「作れるはずがない?僕にはさっぱりわからないですけど、これってそんなに難しいものなんですか?」

カタカケ「難しいも何もセルリウムはサンドスター・ロウを兵器化するために計画されかけた空想の存在だ。仮に出来上がったとしてもこんな瓶に詰め込んでおける代物じゃない!」

たまま「軍事偏諱だったんですかぁ?そんなものを自分の体から生み出していたあの馬鹿と馬鹿と同じのお前は一体…いや、考えるのは僕に会いません。おいお前達!マカロンもってこい!マカロン!僕からはここまでだ。お前達がこの先辛い思いをすることになるだろうが、あんな美味い飯を作れるなら問題はないはずだ!信じているぞ!」

ともえ「えっと、心配してくれて、ありがとう。あたし、行ける所までは進んでみるよ。どうやって自分を守るかは考えてないけど」

たまま「何か困ったことがあればフレンズを頼ればいい。それがこのパークのルールではないんですかね」

ともえ「ふふ…そうかも」

 

 

 自分を守る力。

 夢世界にあってもこの現実世界には何一つありやしない。

『何か困ったことがあればフレンズを頼ればいい』

 確かにそうだけども。

 あたしの中の私はどこかそれを拒んでいる気がする。

 なぜかはわからないけどきっとその答えはこの先にあるような気がした。

 

オーセン「おいもっと詰めろ!」

カンザシ「まだ詰めるのか」

オーセン「そうでもしないと、お前の連れが座れないだろ!」

カタカケ「私はお気になさらず。おいグズ!なんでそこ座ってるんだ。お前も私と一緒に飛ぶんだよ」

カンザシ「やーだー」

 

 あたし達の車に乗り込むのはアルマジロコンビ。

 二人もライブを見たいからと乗り込んできたのだ。

 チケットは人数的にも全然足りなかったけれど、カタカケの提案で風鳥達の分のチケットを上げることにした。

 カンザシはぶーぶーと文句を言いそうだったが特に文句を言わなかったのが少し謎だった。

 

ともえ「よし、じゃあ出発するよ!」

イエイヌ「出発ー!」

オーセン「目指せ!PPPのツアー会場!」

ドルカ「じゃあねーまた遊びに来てねー!」

クロ「その時はもっと腕を磨いておくから。カルガモさっそく練習よ!」

カルガモ「はい!皆さんお元気で!」

 

 水族館の皆は笑顔であたし達を見送ってくれた。

 




そも
歪んだ心が生み出す遊園地
狐の代わりの蜥蜴とかつての夢達と共に
目指す場所はユッセ城
行く手を阻む茨を取り除けるのは
姫と関わりのある王子様のみ
さて…

次回『じゃぱりほてる』


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#06.9 2XXX:ロイヤル・タイム

限りなく近い世界線に生きる子達は大きな翼を作って思い出の地に向かって飛び立った!


 ○月×日。

 ライブツアーを始めてから数ヶ月。

 ほーとくからツアーを始めて最後はほっかいで終わらせるライブツアー『ゴー・アラーイブ!』もそろそろ折り返し地点って感じがした。

 

ロイヤル「りうきうちほーのライブは大成功だったわね!これもあなた達のおかげよ」

 

 ライブは無事に大成功をして今はその打ち上げ。

 

ピンク「私は何もしてませんよ。ここまで成功したのはロイヤルさんやジェーンさん、フルルさんやイワビーさん、コウテイさんがSTAGEで輝いてくれたおかげですから」

ヒメアリ「そ、そうです!私達は褒められるようなことは何もしてません。当たり前の事をしただけです」

イワビー「でもよー、アリクイの提案なかったらあのライブのチャレンジ企画はあそこまで受けてなかったと思うぜ」

 

 マーゲイが私達のために残してくれたペパプチャレンジ企画。

 りうきうでのチャレンジは琉球民謡を演奏しながら歌うこと。

 これがかなり大変で民謡を探すのにりうきうのフレンズ総出で探したり、琉球楽器を教わったわいいものの覚えるのに苦労したり…。

 うん、これこそチャレンジって感じがする。

 マーゲイの企画はいつも面白くて楽しかった。

 そんな彼女がこのライブツアーについて来れなくなってしまったのは残念だけれど、

 

フルル「これもっと食べていい?」

コウテイ「おういいぞ、もっと食べな」

ジェーン「次ってどこでしたっけ」

ピンク「今の所ばみうだっていう聞いたことのないちほーなんですけど」

フルル「それって、ロイヤルが行きたいって言ってるところだよね?」

ロイヤル「そうよ。あそこは、私にとって大切な場所なの。こんな機会じゃないと行くことが出来なさそうな気がして…」

イワビー「でも、そこどうやって行くんだ?」

ロイヤル「はかせ達に任せてるんだけど…」

 

 突然、大空ドリーマーの着信音が鳴り始める。

 はかせから持たされた連絡用、キネマトロンだっけ?

 変な真四角な機械から流れ出す私達の曲はとても聞き取りやすかった。

 

ロイヤル「もしもしはかせ?」

はかせ「ふふふ…ついにできたのです!」

じょしゅ「だから早く来てほしいんです」

はかせ「お前の喜ぶ顔が見れるのを楽しみにしてますよ」

?「お、コノハ博士。ロイヤルと話しているのか?」

はかせ「そうなのです」

ロイヤル「どうもお久しぶりです。カコ博士」

カコ「やあやあロイヤル。ようやくキミが求めていた異界侵入装置『MYK-33』が完成したんだ!」

ロイヤル「それはよかった!なるべく早めに行きます。今、りうきうなので」

カコ「あぁ、りうきうかぁ~。そっちはどうなんだ?暑いのか」

ロイヤル「ええまあ」

カコ「じゃっ、また会おう」

 

 通信は終了。

 

イワビー「ロイヤルすごい笑顔だったぞぉ~」

ジェーン「それほど嬉しかったんですよ」

コウテイ「さっきのってあのばみうだに行けるようになったって知らせだったのか?」

ロイヤル「うん!だから皆、色々と迷惑かけると思うけど…私がこのツアーで一番やりたかったことだから。最後まで付き合って」

フルル「もちろん!」

 

 フルルはエビフライを食べながら私に返事した。

 やっとあの場所へと行けるんだと思うと私はワクワクして夜眠れなかった。

 だから一人温かい飲み物を持って宿泊してる家の縁側へとやってきた。

 

ピンク「眠れないんですか?」

 

 ピーチがロイヤルの隣に座ってきた。

 

ロイヤル「やっと、あの場所に行けると思うとね」

ピンク「ばみうだってどういうところなんですか?」

 

 ペパプのメンバーもそうだったけれど、マネージャーもばみうだちほーの事は知らなかった。

 当然だ。

 あの島の事を知っているフレンズは数少ないから。

 

ロイヤル「できてなくて入れない建物が多かったかな。きっと今行けばどの建物にも入れるようになってるんだろうけど、私が行った時はフレンズも少なかったし正直楽しくなかった」

ピンク「そんな楽しくないところに行くんですか?」

ロイヤル「うん。大切な友達が二人もあそこにいるから私だけずっとこのままっていうのも…なんだか、逃げてるようで。今ならきっと過去に向き合える。そしてまた会えるならマイやアムールにまた会いたい」

 

 私は二人の顔を思い浮かべていた。

 あの時の日々は、あの時の輝きはもう戻ってこない。

 

ピンク「会えるといいですね」

ロイヤル「どうかな」

 

 行ったとしても会えないかもしれない。

 それでも私は今のばみうだに行ってみたかった。

 そんなことを思えるようになったのは数日前に見た夢のせいかもしれなかった。

 

 

 ○月△日。

 最優先事項で目指すはきょうしゅう。

 ペパプキャンピングカーに乗って目指す。

 車内では私以外皆お菓子を食べながらトランプで遊んでいる。

 別にのけものになったわけじゃなくて、今日はそういう気分だったから。

 窓の外を眺めながら一人思い出す。

 ペパプの皆にばみうだちほーに行きたいと言い出した時の事を――。

 

ロイヤル「みんな、聞いてほしいの。もし許されるなら私、ばみうだちほーでライブがしたいの!」

 

 ぼんやりと覚えていた夢の影響か私は嫌な思い出の地、ばみうだちほーに行きたいと思うようになって皆が集まっているこの場で切り出した。

 

フルル「ばみうだ?」

イワビー「なんじゃそりゃ。バミューダかっての」

コウテイ「ばみうだちほーなんて聞いたことないが本当にあるのか?」

ロイヤル「あるはずなの。だって私が一度行ったことがあるんだから」

ジェーン「だったら博士達に調べてもらえばいいんじゃないかな?」

 

 ジェーンの提案で一度キョウシュウにいる博士の所へ向かった。

 博士にその事を伝えれば博士達は嫌そうな顔をしていたのを今でも覚えている。

 

はかせ「そんな架空かもしれないちほーを探すなんてめんどくさいのです」

じょしゅ「そうです。我々はかれーらいすの新たな開拓に忙しいのです」

ロイヤル「お願い!私どうしてもばみうだちほーに行きたいの!どうすれば行けるか力を貸してほしいの」

 

 私は博士や助手に向かって頭を下げた。

 どうしても行きたかったから。

 頭を下げる私の姿ははかせ達もそうだが図書館で本を読み漁るメンバー達にも驚かれてしまった。

 

じょしゅ「あ、あたまを上げるのです!」

はかせ「そこまでお願いされては…我々もかれーどころじゃなくなるのです」

じょしゅ「でもやるんですか?」

はかせ「うーん…あっそうだ!あいつに頼むのです。あいつならどうにかできそうなのです」

ロイヤル「あいつ?」

 

 博士と助手は見たことのないボタンが付いた鉄の塊を取り出して助手の耳元に当てた。

 

じょしゅ「あっ、もしもしカコ博士、こんにちは。――――実はですね、ばみうだちほーというちほーをご存知でしょうか?――え?知ってる?それはよかった。実はですねロイヤルペンギンがPPPを連れてそのちほーでライブがしたいと」

 

 助手はカコ博士と呼ばれる誰かと話し合いを続けている。

 なんだか話の内容が食べ物に関することになっていたような気がするが気にしない。

 博士に私はカコ博士について聞いてみることにした。

 

ロイヤル「はかせ、カコ博士って?」

はかせ「カコ博士はセルリアンの女王に食べられたパークのスタッフです。元々絶滅動物の研究がメインだったそうですがキテレツじみた事も出来る才能の持ち主です」

ロイヤル「え?キテレツ?」

はかせ「キテレツはキテレツです」

 

 わからないよ。

 

ロイヤル「とにかくすごいことはわかったわ」

はかせ「じょしゅ、代わるのです」

じょしゅ「切れちゃいました☆」

はかせ「は?」

じょしゅ「ロイヤル、感謝するのです。やるかどうかは別としてカコ博士が一度見に来てくれるそうです。頼み込んでみて駄目なら諦めるのですね」

はかせ「来るまでここにいるといいです」

 

@@

 

 図書館の中は当たり前だけど本が沢山棚の中に詰まっていて、試しに一冊取ってみれば紙いっぱいにびっしりと詰まった文字の海。

 パラパラとめくり、適当に短そうなものだけ読んで見るが難しい言葉が波のように押し寄せてきて断念。

 いくら読書が好きといえどこんなに多いものは慣れが必要かもしれない。

 いつかは読みたいなと思いつつ別の本に手を出す。

 これならなんとか読めそうだ。

 タイトルは羽生蛇七不思議。

 羽生蛇村という架空の村に纏わる七不思議を夏休みで村に立ち寄った須田と村長の娘、ミヤコとそのお兄さんと共に七不思議を解明し怪人ヤ・オを倒すミステリーもの。

 お兄さんが突然死人となって須田に襲いかかってきたり、ヤ・オを完全に倒しきれなかったりと微妙な展開があるがそれでも面白い作品ではあった。

 

ロイヤル「あっという間に読めたわね」

 

 こういう場所で本を一冊読み終えたことがなかったからか読み終えてしまっていた自分に私は驚いていた。

 

カコ「初めまして、私がカコだ」

 

 かばんと同じく人間だった。

 ひと目ではかせやじょしゅと同じ存在なんだとわかった。

 白衣を纏い、髪を束ねた真面目そうな人間。

 

ロイヤル「どうも初めまして、私はロイヤルペンギンです。皆からはプリンセスと言われています」

カコ「キミはPIPの新入りだったよね?あの馬鹿達のせいでそれがおじゃんになってしまったのはああいうのに関わってない私の耳にも入ったよ」

ロイヤル「あはは…」

カコ「立ち話はなんだ、あっちで話そうじゃないか」

 

@@@

 

 案内されたのは誰も来ないような個室。

 少しばかり広く、私達の控室として使えそうなくらい椅子や長いテーブルがある。

 ホワイトボードにははかせ達が描いたのか落書きがされてある。消したら怒られそう。

 

カコ「さて…」

 

 カコは本題を切り出す。

 

カコ「キミが言っていたばみうだちほーは確かにあった。私も一度資料で見たことがある。開発とか進んでいたはずだし、誰かがそこで行方不明になったと報告があったから残っているはずなんだが…」

ロイヤル「見えないんですか?」

カコ「そうだ。だけど噂に寄ればトリのフレンズじゃないと行けない島があるらしくて私の考えだとその島がばみうだちほーなんじゃないかと」

ロイヤル「それでばみうだには行けるんですか?」

カコ「トリのフレンズの協力次第だ。その子達の力があれば多分解決するはず。時間はかかるだろうけど必ず入るための装置を作ってみせる。約束しよう」

ロイヤル「あ、ありがとうございます!よろしくおねがいします」

カコ「そうだ。必要になるだろうしこれを渡しておこう」

 

 はかせ達が持っていたものと大体同じようなものをカコから渡される。

 

ロイヤル「これは?」

カコ「これはキネマトロンだ。人間側からしたら携帯の玩具と言われそうだけどこれも立派な通信道具だ。ラジオ代わりとしても使える。電話をする時はこのボタンを押して誰にかけたいか選んで、ここの決定ボタン押すだけだ。試しに私にかけてみてくれ」

 

 カコに言われた通りにしてみれば白衣からメロディが流れてくる。

 

カコ「「私だ。良好のようだな」」

 

 通信は切れた。

 

カコ「それじゃあ私は元の所に一度帰ることにする。お前はお前の出来ることをしててくれ。私は私の出来る事をしてみるから」

 

 そう言ってカコとさよならをした。

 カコは時々進捗をわかりやすく聞かせてくれた。

 ちょこちょこ知り合ったフレンズの話を交えながら。

 かばん以外の人も悪くないなと話をしていて思った。

 

@@@@

 

ヒメアリ「着きましたよ!」

 

 キャンピングカーを降りれば図書館の前には大きな飛行船があった。

 

マーゲイ「やあやあ皆さん。お久しぶりですね!久しぶりに会うPPPの皆さんは眩しくて、失明してしまいそうです!」

イワビー「マーゲイ久しぶりだぜ!」

マーゲイ「イワビーさんお久しぶりです!」

ロイヤル「お互い仕事が片付くまで会えないものだと思ってたわ」

マーゲイ「たまたま時間空いたので見送りにでも…あ、あと!ばみうだでライブする時の企画考えたのでこれを読んでおいてください!私、腕によりをかけて頑張ったんですから!」

 

 マーゲイから手渡されたのはシンデレラと書かれた脚本だった。

 フルルやジェーンはこの脚本に興味津々のようだった。

 

マーゲイ「ばみうだでやるチャレンジ企画は…ずばりお芝居!というわけでお芝居のプロやお歌のプロを呼んだのでその方達と相談して頑張ってくださいね!」

ロイヤル「プロ?」

トキ「こんにちはロイヤル」

ロイヤル「トキ!久しぶりじゃない!」

トキ「マーゲイに呼ばれてきたの。また同じ舞台に立てるなんて嬉しいわ」

マーゲイ「まだまだいるんですよ!あれ?…あぁ!見つけた!パフィンさん、PPPの皆さんが来ましたよ」

 

 マーゲイは一人でお菓子を食べているパフィンを連れてきた。

 

パフィン「(もぐもぐ、ごっくん)はじめまして!飛んで泳いで、ちまちま演じる!それがパフィンちゃんでーす!食べ物を食べたりお芝居をするのがパフィンちゃんの幸せなんです!」

ロイヤル「こんにちは。私はロイヤルペンギン、皆からはプリンセスって呼ばれてるわ」

パフィン「ねえ、これ食べる?ウォンカバー」

ロイヤル「それじゃあ少しだけ…」

 

 パフィンからウォンカバーと呼ばれるチョコを一欠片もらった。

 口にしてみれば甘い甘いいちごの味がして美味しい。

 こんなお菓子もあるんだな~なんて思いながら味わっていると、

 

パフィン「どう?このチョコ美味しいでしょ!」

ロイヤル「うん、美味しいわ!」

パフィン「でしょでしょ~♪パフィンちゃんのお気に入りのチョコなんですヨー!」

?「プリンセス…うふふ。なんて素敵な愛称なのでしょう…」

ロイヤル「うわぁっ!?」

 

 耳元に囁いてきた少し冷たい声に私は驚いて思わず尻もち。

 お尻が痛い。

 

パフィン「大丈夫?」

ロイヤル「うん、大丈夫」

?「驚かしてしまってごめんなさい。ワタクシ、ナミチスイコウモリと申します。立てます?」

 

 ナミチはロイヤルの前まで来て手を差し伸べる。

 私はその手を掴んで立ち上がり尻を手で少し払った。

 

ロイヤル「ナミチスイコウモリね、よろしく。お互いいいお芝居にしましょう」

 

 ナミチと握手を交わす。

 

マーゲイ「どうです?この方達となら最高のシンデレラができそうでしょ?」

ロイヤル「うん。さっすがはマーゲイね。目の付け所が素晴らしい」

マーゲイ「うわぁぁぁん!プリンセスさんにそんなこと言われるなんて私嬉しくて涙がぁ」

ロイヤル「いつもありがとうね」

 

 さっとハンカチをマーゲイに差し出す。

 PPPのマネージャーやってて本当によかったです~!なんて更に嬉し泣き。

 マーゲイが泣き止んで一息ついた所で、

 

じょしゅ「ようやくおわったのです」

はかせ「まったく、自己紹介でどれだけ尺を取ってるんだか。こんなことしてたら日が暮れてしまうのです」

ロイヤル「そうよね。ねえ、あの飛行船って…」

はかせ「探すのに苦労したのです」

じょしゅ「我々をあいつと同じく褒めるのです」

ロイヤル「はいはい。私のために探してきてくれてありがとう。あなた達のおかげで私のやりたいことが一つ叶いそうなの」

はかせ「それほどでもないのです」

じょしゅ「褒められるの、悪くないですね。ついでに頭をなでなでするのです」

 

 ロイヤルは二人の頭をナデナデしてあげる。

 こんなものでいいんだろうかなんて思っていたが嬉しそうな顔をしていたのでこれでよかったんだろう。

 

ロイヤル「おっきい…」

 

 飛行船の近くまでやってきて出た言葉がそれだった。

 真っ白くて自分よりも何倍も大きい飛行船。

 こんなもの一体どこに隠れていたんだろう。

 飛行船からカコが出てきた。

 

カコ「やあ皆。いよいよ今日という日が来た。しっかり動作してくれればいいんだが…」

じょしゅ「カコ博士なら大丈夫だと思いますよ」

カコ「こういうのは初めてなんでね。ちょっと不安が多いんだ。さてロイヤル、覚悟はできてるか?」

 

 そんな、できてるに決まっている。

 

ロイヤル「もちろん出来ています!」

 

 大きな声で返事した。

 

@@@@@

 

 飛行船にはかせ達がマーゲイに言われて用意していた機材などを詰め込み、キャンピングカーを押し込んだ。

 押し込めるスペースなんてないと思っていたのにあっさりと入ってしまった。

 なんでも船内は最新の技術で中が物凄く広いらしい。

 先に入ったコウテイが驚いて二度外に出てきたくらいだ。

 私も入ってしまおう。

 飛行船の足場を登って中へと入った。

 コウテイが二度も外に出たのがよくわかった。

 中が聞いた通りだったからだ。

 

カコ「どうかな?これを作るのになかなか苦労したんだ。内装も凝りたくてかばんに手伝ってもらったんだ」

ロイヤル「かばんのこと知ってるんですか?」

カコ「もちろん。一瞬若い時のミライと見間違えて驚いたけどね。かばんとは一緒に旅する仲でね、今はこうして別行動中だけど終われば合流するさ」

ロイヤル「そうなんだ…もしかばんにあったら感謝してたって伝えてください」

カコ「うーん…まあ覚えていたらな」

 

 曖昧な言い方だけれどどうしたんだろう?

 気にしないことにした。

 

マーゲイ「それじゃあ私はこれで。皆さんのライブが成功するように私、このきょうしゅうで祈ってます!」

ロイヤル「ありがとうねマーゲイ。新しいグループってのがよくわからないけど、そのグループが良いグループになるといいね」

マーゲイ「はい!頑張ってみますよー!私、こういうのには自信があるんです!」

 

 マーゲイが皆に手を振りながら飛行船を降りていった。

 

カコ「さてそろそろ行きますか」

ロイヤル「え?カコ博士も行くんですか?」

カコ「当たり前だろ。あの装置がしっかりと動くのを間近で見ていないといけないなと思ってね。それに、これが壊れたら誰がこのキョウシュウに君達を送り返すんだい?ロケット工学でも学んで解決するつもりか?」

ロイヤル「ロケ…え?」

 

 ロケット工学がよくわからないけれど…

 

ロイヤル「一緒に来てくれるなんて心強いです!」

カコ「勘違いするなよ、君達のはついでだ。ばみうだちほーに興味があるだけさ」

 

 カコは一人操縦室と書かれたドアの前に立ち、

 

カコ「それではこれよりこの飛行船はばみうだちほーへと向けて飛行を始める!失敗しても文句は言うなよ!」

トキ「失敗したらどうなるの?」

 

 トキの口から出た疑問にカコはこう答える。

 

カコ「最悪次元の狭間に墜落するだろうな。だがトリのフレンズなら辿り着けることがわかった以上、トリのフレンズにこの飛行船が近づければ成功することだろうよ」

ナミチ「中々面白そうな遊びになりそうだわ!」

パフィン「あっちにもお菓子あるのかな?」

トキ「聞いた話だと特に珍しいものはなかったと聞いているわ」

パフィン「ガーン…!」

トキ「大丈夫よ。新しいお菓子なら皆で作ればいいのよ」

 

 パフィンはハッ!と閃いてトキの手を両手で掴んだ。

 

パフィン「そうかお菓子を作ってしまえばいいんだ!トキ、閃かせてくれてありがとう!」

トキ「え!?あっ、うん。どういたしまして」

 

 飛行船が少しだけ揺れて飛行を始める。

 トリのフレンズにこの飛行船が近づけれているのかはわからないが私はカコを信じるしかなかった。

 

ジェーン「あっ窓の外が霧深くなったわ」

ナミチ「こんなに濃い霧を見たのは初めてよ!」

 

 ナミチの顔が潤っているような…。

 

ナミチ「こういうのがたまらない!わかるかしら、この状況を!実にミステリアスで何かが起こってもおかしくない!人が死ぬのか、それとも誰かが消えるのか。あぁ~!たまらない!たまらないたまらない!」

パフィン「大人しい子だとパフィンちゃんは思っていました」

トキ「誰でも好きなことに直面すればあんな風になるわよ。あなたなら大好きなお菓子が目の前にあったらナミチスイコウモリみたいになると思うわ」

パフィン「確かに…!」

フルル「ねえ、ジェーンはどんなの見たらあの子みたいにはしゃげるの?」

ジェーン「えーーっと…そうね、私は花を見たときかな。ばみうだに珍しい花があるといいけど…」

アリクイ「あの、みなさんよかったらなにか作りましょうか?」

イワビー「さんせー!小魚アーモンド頼むぜ!お前もなんか食べるだろパフィン?」

パフィン「そうですねぇ…」

アリクイ「簡単なものしか私作れませんよ…?」

パフィン「それじゃあ、ポテト!」

アリクイ「ポテトフライ…ですね。細長いのでいいですか?」

パフィン「そうでなくちゃ!」

 

 アリクイが船内のキッチンでポテトフライを作りに行ったの同時にカコがやってきてジュークボックスを起動させてソファに座った。

 ジュークボックスから流れてくるのはなんて言ってるのかわからないおしゃれな歌だった。

 

ロイヤル「操縦室にいなくていいんですか?」

カコ「安定したから問題ない。次やる時はラッキービーストにやらせるか…あっ、そうかばみうだのラッキービーストを拝借すればいいんだ。ま、私こう見えて副所長やってたし勝手に弄くり回しても誰も文句は言わんだろう」

 

 そういう問題なのかな?

 フヘヘヘヘなんてナミチが奇声を発していたけどそれが突然止んだ。

 

ナミチ「これが…ばみうだ」

 

 私は窓まで言って窓の外を見た。

 至って普通の青空、青い海。

 ちょっとだけ小さく見える島。

 間違いない、これが私が前にやってきたばみうだだ。

 飛行船を着陸してロケットのように飛び出した私は近くにいた島のフレンズを捕まえて聞いてみた。

 

ロイヤル「ねえ、ここはばみうだちほーでいいのよね?」

ドール「え!?あ…はい!ここはばみうだちほーです」

ロイヤル「やっと…やっと来たんだ。マイ、アムール…ただいま」

 

 ドールはロイヤルの行動に若干引いていたがロイヤルはそんなことは気にしていなかった。

 ロイヤルの大切な友達が残ったあの島に戻ってきたという喜びが勝っていたから。

 




多分これまでで一番長いと思います


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EX-STAGE 幸運のロボ

そういうのに詳しいわけではないので絶対に間違ってると思いますごめんね


 あの女が私に『私の名前はラチェット』だとラッキービーストに読ませていたが、こうして何日も行動を共にしていればその名前は嘘なのはこういうのに疎い私でもわかったことだった。

 

ラチェット『スケバンガールトノタビハタノシイデスネ!スケバンガールガモットエガオヲミセテクレタラモットタノシイノニ』

アンゼ「悪かったな笑顔を見せないで」

ラチェット『イツカデイイノデエガオヲミテミタイモノデス』

アンゼ「はいはい」

ラチェット『トコロデツギハドコニツクンデスカネ?』

アンゼ「さあな」

 

 この夢の国に案内標識はない。

 あるのは霧のようにもやもやした道と真っ暗な天井。

 あいつらと違って私達は旅人のようなものだからあいつらと同じやり方で移動することができない。

 

ラチェット『スケバンガールノオカゲデコノクライミチヲアルキツヅケルノガコワクナクナリマシタ!デモ、デモ、デキレバオハナシシテホシイデス…。ナンダカサビシクカンジマス…』

アンゼ「話すって言ってもな。何を話せばいいんだか」

ラチェット『ワタシトアウマエハドウイウトコロヲタビシテイタノカオシエテホシイデース』

アンゼ「それじゃあ…ジャパリ子ども科学館の話でもしようか」

ラチェット『ジャパリコドモカガクカン!?ソンナタテモノガアルンデスネ!』

アンゼ「ああ、あったよ」

 

 

 ジャパリ子ども科学館は少なくとも私が生きていた頃には存在していなかった建物だ――

 

ラチェット『エッ、スケバンガールシンジャッテルンデスカ!?』

アンゼ「茶々を入れるな。お前も似たようなもんだろずっと私とべったりくっついていてさ」

ラチェット『ウェッ!?ソレトコレトハカ、カンケイナイデスヨー!』

アンゼ「…そういうことにしておく。別にお前が死んでいようが私にはどうでもいいからな。ここは生者だろうが死者だろうが集まる境目だ。ほら、話に戻るぞ」

 

 

 存在していなかった割には何年もそこにあったかのように汚れっぷりだったのを今でも覚えてる。 

 とにかく中に入ってみない限りには何もわからない。

 私は建物の中へと足を進ませた。

 なんというか設備が大分古く感じる。

 今の時代なら中々お目にかかれないブラウン管のようなPCモニター。

 遊びにやってくる子供のために作られた手作りされた張り紙。

 

?「ようこそいらっしゃいました」

アンゼ「そいつはご丁寧にどうも」

シャンス「ワタクシ当館の案内役を努めております、シャンスと申します」

アンゼ「何のフレンズなんだ?見たことがないが」

シャンス「申し訳ありません。ワタクシ、アニマルガールではございません。アンドロイドです」

アンゼ「アンドロイド…ロボか。こんなボロっちい所にアンドロイドを置く金があるとは思わなかった」

 

 シャンスは顔色ひとつ変えず私が発した言葉を拾う。

 

シャンス「ワタクシがこの科学館へ配属されたのはこの科学館がお客様でいっぱいになる数週間前でございます」

アンゼ「最初からいたんだな」

シャンス「はい」

アンゼ「それじゃあ、せっかく来たんだしこの館内を案内してくれるかな?」

シャンス「承知いたしました」

 

 シャンスの後を私はついていった。

 紹介されたどれもが子供向けではあるし古かったがこういうものは見たことがなかったから新鮮だった。

 

アンゼ「なあ、これはどういうものなんだ?」

シャンス「この装置はあちらにあるもう一つのアンテナを使ったものになります。お客様はそちらの台に立ってお待ち下さい」

 

 アンテナの前に固定された台に立ち待っていると――

 

シャンス<きこえますかおきゃくさまー?>

アンゼ<このアンテナってこういうものなんだな>

シャンス<そうでございます!ふしぎだとおもいませんか?>

アンゼ<たしかにな>

シャンス<このアンテナはパラボラしゅうおんきといいまして、おきゃくさまのことばをこのアンテナがあつめてわたしがいるほうにとどけてくれるんです。こういったアンテナをつかえばえいせいからでんぱをもらうことができるんですよ>

 

 シャンスが私の所に戻ってくると次に紹介してきたのがこの古いPCだった。

 

シャンス「これは惑星がどういう風に回転しているのかがよくわかるものでございます。このマウスを使って自由に惑星をクリックしてみてください」

 

 カチカチとクリックしてみると冥王星という文字と詳細が出てきた。

 

シャンス「ムービーが見れるみたいです」

 

 ムービーを再生してみると隣りにいるシャンスみたいなキャラクターが出てきて冥王星について簡単ではあるが紹介を始めた。

 隣りにいるこいつと比べて明るくアニメキャラクターのように動き始める。

 

映像の中のシャンス<1930年、天文学者のクライド・トンボーが発見した準惑星なんだ!冥王星という名前はヴェネチア・バーニーという当時11歳の、神話に興味を持っていた女の子がプルートって名前を決めたんだよ!プルートはローマ神話に出てくる冥府の王なんだ!>

 

 準惑星になった経緯とかが子供でもきっとわかりやすく解説されていた。

 

アンゼ「なかなかおもしろかったな」

シャンス「ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げるシャンス。

 なんだか褒められたことに嬉しそうだった。

 

Q

 

 シャンスが科学館を紹介している姿はキラキラと輝いているように見えた。

 そう見えたのは私がセルリアンだからだろうか。

 ソノカガヤキヲタベテシマエバワタシハイマヨリモットカガヤケルノデハ?

 セルリアンとしての本能が少しだけ顔を見せる。

 食べた所でセルリアンは輝くことはない。

 憧れと嫉妬が混じったからっぽの器では何も満たされない。

 だからこのロボを食べてもなんにも起きない。

 食べれば目の前に現れるのは鉄の塊。

 

シャンス「どうかされました?」

アンゼ「いや、なんでもない。続けてくれ」

シャンス「かしこまりました。おや、もうこんな時間」

アンゼ「どうしたんだ?」

シャンス「食事の時間です。お客様、お腹は空いていませんか?良ければ当館のカフェをお使いください」

アンゼ「そんなものがあったのか」

シャンス「はい。入口前にあるカフェがこの科学館のカフェでございます」

 

 夢世界の食べ物を食べた所で膨れるものではないが、味は感じることができた。

 感じることが出来るからなのか私は

 入口前へと戻って私達はそのままカフェへと入る。

 カフェには当然人なんていない。

 だからなのか、シャンスがメニュー表を持って私が座るテーブル席の前に立った。

 メニューに書かれてあるものはどれも科学館にちなんだメニューが多かった。

 私はその中から七夕ゼリーと四季のダイヤモンドピザと実験ジュースを頼んでみた。

 

シャンス「了解しました。少々お待ち下さい」

 

 シャンスはそう言ってキッチンの奥へと消えていった。

 ここが夢じゃなければきっと窓の外は綺麗な景色が広がっていたのだろうか。

 見えるのは赤い空と薄暗く恐怖を感じる森。

 他の夢もこんな空だったわけで特段驚くようなものはなかった。

 ヨーヨーを取り出してなんとかテクニックをだれかに見せるわけでもないのに披露しているとシャンスが料理を運んできた。

 

 キラキラと輝いて見える七夕ゼリー。

 ダイヤモンドの形をしていて四季にちなんだ野菜などが乗っかっているピザ。

 透明な水に三色のシロップが付いた実験ジュース。

 

シャンス「実験ジュースはこのシロップを上手く組み合わせて自分だけのジュースを作ってみてください」

 

 シャンスに指示されるままに私は適当にシロップを手にとってかけ始める。

 すると透明な水は不思議な色に変わっていった。

 赤のシロップを入れたのにオレンジに変わって、次に青のシロップを入れれば緑色に変わった。

 そして最後に黄色のシロップを混ぜればあ~ら不思議!

 

アンゼ「すごいピンクになった!」

シャンス「飲んでみてください」

 

 飲んでみれば口に広がるのは桃の味。

 どうなっているのかはわからないがこれは美味しいぞ。

 まだまだシロップが残っているし、かけたらかけたで色が変わるんだろうか。

 そう思って私は赤色のシロップをかけてみた。

 桃色から変わるのはオレンジ。当然飲めばオレンジジュース。

 色々と試して味わっている内にシロップは空になった上に実験ジュースを飲み干してしまっていた。

 

シャンス「おかわりどうですか?」

アンゼ「いやいい」

シャンス「そうですか」

 

 次はピザにでも手を出してみようか。

 ダイヤモンドの形のピザはその名前の通り四季をイメージした具材が乗っかっていて美味しそうに見えた。

 秋っぽい所を切って食べてみればすごく美味しい。

 ピザにも美味いが生地に乗っているきのこも美味しかった。

 

シャンス「いい食べっぷりですね」

アンゼ「おう、ありがとな」

 

 食べ物に夢中で気が付かなかったがこいつ、私のことをずーっと見ているのに気がついた。

 

アンゼ「なあ、お前私なんかじーっと見ていて面白いのか?」

 

 思わず思ったことを口にしてしまった。

 シャンスの表情や声のトーンは変わることはなかったが、

 

シャンス「久々のお客様の顔を私のメモリーに焼き付けたく思いまして。それに、私はお客様の笑顔を見るのが大好きみたいなんです」

アンゼ「そうか…」

シャンス「お客様は当館に満足していただいているのでしょうか。私のメモリーに残るお客様達は輝いておられました。お客様はどこか輝いていないように映ってしまって。少し不安なのです」

アンゼ「大丈夫だ。ここは楽しいよ」

シャンス「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

Q

 

シャンス「お次はプラネタリウムでございます。本日の投影は秋の大三角についてとプラネタリアンでございます」

アンゼ「プラネタリアン?」

シャンス「あちらのポスターを御覧ください。何年も前に制作されたプラネタリウムを題材としたアニメーション作品でございます」

アンゼ「へー面白そうじゃん」

 

 シャンスから受け取った特別デザインのチケットを懐にしまって私はシャンスにおすすめされた席に座ってプラネタリウムを楽しんだ。

 プラネタリアンは戦争によって変わってしまった世界にあるプラネタリウムが舞台のお話。

 ロボットであるほしのゆめみと男のやり取りは見ていて星のように輝いていた。

 

アンゼ「いい話だった」

 

 タベテシマイタイホド。

 いけないいけない。食欲とか沸かないくせにこうして本能がチラ見してくるのはどうにかしてほしいものだ。

 

アンゼ「ん…?あれはなんだ?」

シャンス「あれは真実の鏡というものです。鏡を見ると一瞬だけ本当の姿が見れる魔法の鏡です」

アンゼ「それって科学になにか関係があるのか?」

シャンス「メロン粒と呼ばれるカンタロープ粒子を使った鏡でして、この真実の鏡がカンタロープ粒子の可能性を広げた道具だとされているのです。宇宙にはまだまだ未知の粒子が存在しているはず、お客様がこういうものに触れて宇宙への憧れを持ってもらえたならば当館を作った吉田千寿元宇宙飛行士もお喜びになると思うのです」

アンゼ「ふーん…」

 

 真実の鏡の隣にはシャンスが言っていた吉田千寿なる人物の写真と紹介文が壁に貼られていた。

 吉田千寿という男はジャパリパークで行われた大規模な宇宙飛行実験に参加しカンタロープ粒子を持ち帰ったはいいもののこの鏡が出来るまであまり見向きもされなかった上に出来た所で注目されたのが鏡を作った職人という…。

 千寿は激怒した。自分より職人の方が知名度があって。

 怒りのあまりジャパリパークでこんな建物を構えたが吉田千寿って誰だよと言われる始末。

 ショックのあまりどこかに姿を消して消息不明。

 

アンゼ「ボロクソに書いてあるんだがこれ大丈夫なのか?こいつが建てたんじゃないのか」

 

 吉田千寿はここでは文豪やどこぞのアスリートみたいに神格化されなくちゃいけないはずだ。

 それなのにあの説明文はとても正直に書かれている。

 正直に書かれすぎている。

 

シャンス「そうしておいた方が消息不明の吉田千寿様はお喜びになるだろうと当時のスタッフ達が考えてやったそうです」

アンゼ「へー…」

 

 シャンスの発言から吉田千寿のことを嫌いなスタッフは大勢いたんだろうなというのが垣間見えた気がした。

 もう一通り見終わったわけだしそろそろここから出て別の場所に行こうと思った私はシャンスに声をかけた。

 

アンゼ「そろそろ行くよ。楽しかった」

シャンス「お客様、お土産なんかいかがでしょう?」

アンゼ「お土産か。ちょっと見ていこうかな」

 

 お土産が置いてあるスペースはとても綺麗だった。

 Tシャツやキーホルダー、コップなんかが置いてある。

 その中でも私の目に止まったのはリストバンドだった。

 

アンゼ「これもらってもいいか?」

シャンス「ええ、もちろん」

 

 リストバンドをお土産としてもらって私はシャンスに別れを告げて科学館を後にする。

 

シャンス「また、来てくれますよね!」

アンゼ「ああ!いつかはな」

 

 また来れるかはわからない。夢というのは一期一会みたいなものだから。

 

Q

 

アンゼ「こんな感じだが…面白くはなかったろ」

ラチェット『オモシロカッタデスヨ。ワタシ、ハクブツカンスキデナンドモアシヲハコンデマシタ。コンナトコロニモハクブツカンハアルンデスネ』

アンゼ「誰かの記憶で出来ているからな。誰かがあの科学館に思い入れがあるなら立ち寄れるくらいには形作られている時があるんだ」

ラチェット『モシカシテ、イマモソノスケバンガールガタチヨッタカガクカン、アッタリシマス?』

アンゼ「どうだろうな」

 

 私は腕につけていたリストバンドを眺めた。

 

ラチェット『コレガソノカッタリストバンドデスカ?』

アンゼ「ああ、そうだけど」

ラチェット『ワルクナイリストバンドデスネ!ワタシモオソロイノリストバンドホシイデス!』

アンゼ「お揃いって…科学館はもうないかもしれないんだぞ?」

ラチェット『キットアリマス!ナクテモモンダイナシ!サア、イキマショウスケバンガール!ムゲンノカナタ、イヤ、ハクブツカンヘ!』

 

 ラチェットに引っ張られて私はあるかどうかすらわからない科学館へと足を運ぶことになってしまったのだった




吉田千寿はどの世界線でも亡くなっているので物語に干渉してくることはないんじゃないかな


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7ページ ジャパリテッペンブルース/じゃぱりほてる #07-0『Dearly Beloved』

☆β

 

 赤い空。濁ったお月様。

 私が生きるこの世界は誰から見ても終わっている。

 それを認めず彼女らはこの終わった世界を楽園と称して生き続ける。

 私には彼女らのことがわからなかった。

 どうしてこんなになってるのに認めることが出来ないんだろうと。

 

「こんなところにいたのか」

「外にいるのは危険ですよ」

「わかってますけど、たまには外に出たいなって」

「こんなところをか?気分転換なんてできやしないようなところを散歩だなんて少々不用心ってやつじゃないか?」

「わかってますよ…」

「まあまあ、せっかくだし我々も散歩しようじゃありませんか。何かあれば我々が武器となればいい話でしょう。それに、この世界の情報を知っておくのはとても重要だと思いますよ」

「確かにそうだが…まあいいか。それでどこに行くんだ?」

「散歩ですから気ままにいこうかと」

 

 先頭で歩くのはこの私。

 後ろに二匹の悪魔がついてくる。

 薄気味悪い森の中を歩き続ける。

 無言で、正直言って退屈な散歩。

 なんとなく進んだ先にあったのは広場だったものだ。

 昔のここは綺麗な花が咲いているいい場所だった。それが今では花が枯れ果てなんにも残っていない。

 

「昔に帰りたい…」

 

 昔のような綺麗な、大好きだったあの場所に。

 ヒトと一緒に遊んでいたあの時間に。

 

「そりゃあこんな場所見てたら昔に帰りたいなんて思うわな」

「えっ!?あっ、声が漏れてたんですか?」

「そりゃあダダ漏れよ。というかそれを聞かなくてもお前が何を思っているのかは大体予想できるぞ。なにせお前の顔はわかりやすいからな」

 

 悪魔の片割れが私に親しく接してくれている。

 もうひとりと違って。

 もうひとりは私から離れてこの広場に夢中のようだった。

 

「昔はどうだったんだ?」

 

 片割れは私に聞いてくる。

 

「昔はキラキラとお星さまのように輝いていて、ヒトが遊びに来たりして。ああ、楽しかったなあ、あの時が」

 

 少しずつ私は昔の思い出を思い出していく。

 

β 4XXX→2XXX

 

 いつの頃だったかは忘れてしまった。

 それほど、私にとって時間が経っている昔話だから…。

 

 

「こんにちは――。今日からあなたの担当飼育員になったカナです。よろしくね」

 

 カナと名乗る女の子は私よりも背が大きくて、短めの髪型。

 手にはクリップボードを持ち、私を見て何かを書き込む。

 足元には大きな箱があり、その中には遊び道具が入っている。

 

「よしっと!それじゃあ――、何して遊ぶ?」

「遊んでくれるんですかー!やったーッ!」

 

 舌を出して飛び跳ねるほど私は喜んだ。

 

「それじゃあ遊びに行こうか」

「はい!」

 

 大きな箱を持って歩き出すカナさん。

 

「その荷物、私が持ちましょうか?」

「大丈夫!私こう見えても力持ちだから!あ、あぁ…」

 

 カナさんは倒れそうなふりをする。

 

「大丈夫ですか!」

「大丈夫!問題ない!ガハハ!」

「それならいいですけど。無理しないでくださいね」

「うん。何かあった時は――を頼るよ」

 

 いつかは頼りあえる仲になりたいと思ってました。

 

「ここで遊ぼう!」

 

 着いた場所はこの広場でした。

 あの時は今と違って綺麗な花が咲いていたり、変な子達もいませんでしたし。

 フレンズたちが仲良く遊んでいる。

 その中にはヒトの姿もあって、遊びに来てくれたヒトなんだとすぐにわかりました。

 

「なにしてあそぶ~??」

 

 ガサゴソと大きな箱を漁るカナさん。

 私は箱を漁るカナさんを視界に捉えながら箱の中身を見てみる。

 フリスビーやテニスボール、ラケットやバトミントンなんかが入っていた。

 

「これがいいです!」

 

 そう言ってフリスビーを取り出した。

 カナさんはニコニコしながら私が持っているフリスビーを受け取って、投げた!

 私はフリスビーを全速力で追いかける。

 

「ごめんなさーい!」

 

 他の子達を避けながらフリスビーを飛んで掴んだ。

 

「カナさーん!!とれましたー!」

 

 カナさんの所にフリスビーを持って帰ってきた。

 カナさんはフリスビーをしっかりと持って帰れた私の頭をなでてくれました。

 優しい手付きだったのは今でも忘れられません。

 

「次はカナさんの番ですよ!」

「うん!」

「えいっ!」

 

 私が投げたフリスビーは広場を通り過ぎて近くの森へと入っていってしまった。

 

「あぁ!?ごめんなさい!」

「だいじょうぶー!とりいってくるから待っててー!」

 

 私は言われた通り待ちました。

 数分後カナさんはフリスビーを持って帰ってきました。

 

「いやー遠くまで飛んでいくとは思わなかった!――はフリスビー投げるのが得意なんだね!」

 

 怒られるわけでもなく褒められた。

 それが私にとってかなり予想外だった。

 

「次はバトミントンしよっか。やり方は知ってる?こうやるんだけど…」

 

 カナさんが目の前でバトミントンのやり方を教えてくれた。

 

「ちゃんとしたやり方じゃないかもしれないけど、軽く遊ぶ分にはいいでしょ?」

 

 カナさんがやっと通りに私もカナさんと始めてみる。

 ラケットと球が触れる音が聞こえる。

 パシッとカナさんが飛ばしてきた球を返した。

 

「やった!返しました!」

「喜んで気を抜かないでね。出ないと当たらなくなっちゃうよ!」

「どうですか?上手く出来てますか!」

「できてるよ――!」

「やったー!あっ」

 

 私のラケットに当たらなかった球は私の足元に落ちた。

 アハハハなんて笑いながら拾って続ける。

 

「どう?楽しい?」

「楽しいですぅ!」

 

β 2XXX→4XXX

 

「なんだか懐かしいな…」

「はい?」

 

 片割れの悪魔は今の私の話で何かを思い出したようだった。

 

「いや、ともえとやったことあるから」

「ああ…!そういえばそんなこと言ってましたね」

「あいつと仲良くなったのはあの時に遊んだからなわけだし。なんていうかさ、私から見えたともえって何だか怯えてるように見えたんだよ。だから私は怖くないんだってそう思わせるために色々とあっちのお前と一緒に遊んだもんさ」

「あっちのワタシ…。あっちの私は元気なのでしょうか」

「元気だよ元気。こないだなんてさ、ともえが一人で海岸に行ってたのを怒っちゃってさ。それに朝食を食べてたことも怒ってたんだっけな」

「あはは。あっちのワタシは私よりいい日々を過ごせているのですね」

 

 嬉しいような悲しいような。

 私はワタシと違って幸せではないんだなというのがよく感じるから?

 私みたいな頭では答えが見つからなかった。

 

「そろそろ、行きましょうか」

「おおいいぜ。おーいそろそろ行くって」

「言われなくてもわかってますよ」

 

 こうしてまた二匹の悪魔と退屈気味な散歩を再開する。

 

「景色が変わらない上にこんな薄暗かったらなんか出てきそうだな」

「そういう事を言わないでください。出てきてしまうじゃないですか」

『キミ達、楽しんでないね?こっちはいいよぉ~苦しくもないし、怖くもない。楽園のような世界。空には綺麗な天使が飛んでいる。キミ達にもこの素晴らしい世界を見せてあげたい。見せてあげたいのぉぉぉぉぉ!』

 

 突然現れた私達のような姿をした人形は私を襲おうと飛びかかってくるが、悪魔が同じ片割れの悪魔を人形目掛けて投げ飛ばしたことで私は助かった。

 私は悪魔に引っ張られて後ろへと下がった。

 

『あぁぁあぁぁ』

「このやろー!投げることはないだろう!」

「そこにいたのが悪い」

「私はサイじゃない!―――だ!」

「悪魔でしょ」

 

 片割れの悪魔は立ち上がり自分を投げた相手に憤慨した。

 

「後ろ」

「え?ちょっ!?」

「ガンバレー」

 

 回避を取った片割れの悪魔は人形の攻撃を避けつつ、タイミングを見計らっては攻撃を加えていく。

 

「終わりだ」

 

 羽根は黒い鳥へと変貌し人形を食い殺した。

 

「そんな…!ひどい…」

 

 むごたらしい死に方だった。

 

「よく見ろ」

 

 よく見れば鳥に食われた人形は私達と同じフレンズの姿に戻っていた。

 

「殺したほうが手っ取り早かった。でないとまた人形になって襲ってくるだろうし」

「その中途半端なの直したほうがいい」

「うるさい。私はあんまり、こういうことはしたくないんだ」

「それは"元の持ち主"の影響ですか?」

「私は元からこうだ。それがこいつのおかげで意志が強くなったのさ」

「そういえばそうでしたね。さあ行きましょう。これで邪魔者はいなくなったはず。さっきのあれでしばらくは恐れて我々に襲いかかってくることはないはずです」

「ありがとうございます。助けてくれて」

「いいってことよ」

 

 退屈なのもあれだったのでせっかくだしさっきの続きとも言える話を語ることにした。

 片割れは私の話をよく聞こうと隣までやってきて歩幅をあわせてきた。

 もうひとりはどうしたのかと振り向けば無感情で私を見ていた。正直それが怖かったけれどそんなことを言ったらいけない気がして言わなかった。

 

β 4XXX→2XXX

 

 カナさんと過ごしていく内に私はカナさんのおうちにお呼ばれすることになりました。

 セントラルにあるスタッフ専用のおうちだそうです。

 

「ようこそ、私のおうちへ!」

「ここがカナさんのおうち…広いですね!」

「何にもなくてとっても退屈だと思うけどね」

「そんなことはないです!私、カナさんがいるだけで幸せです」

「そう思ってくれるなんてうれしいな」

 

 カナさんは私の頭をなでなでしてくれた。

 殺風景な部屋にちょこんと座った私はカナさんをじーっと見つめる。

 カナさんはキッチンで何かをした後、用意したティーカップとティーポットとお菓子をテーブルに置いた。

 

「カナさん、これはなんですか?」

「これは紅茶っていうんだよ。いちいち説明を聞くよりも飲んだほうが速いかも。ほら飲んで」

 

 私はカナさんが注いでくれた紅茶を飲んでみた。

 

「熱いからちょっと気をつけてね」

「ふーふー…美味しいですぅ!」

「でしょ?この紅茶に使っている葉っぱはね、こうしてお茶にしてしまえば私みたいなヒトを落ち着かせる良い飲み物になるんだ」

「魔法みたいな飲み物なんですね」

「そうかもしれない」

 

 そう言いながら私達はお菓子を食べました。紅茶と合ってとっても美味しかったです。

 

「ねえ、もしよかったらでいいんだけどさ」

「はい」

「私と一緒に住まない?なんにもないところだけど―――がいてくれれば私は幸せになれる気がするんだ」

 

 私はカナさんがそう誘ってくれることが嬉しかった。

 

「いいんですか!私と一緒にいても!」

「――じゃなきゃ駄目なんだ。もう私は…」

 

 一瞬、カナさんは辛そうな顔をしたように見えました。

 この時に気付いていればなにか変わったのでしょうか…。

 

β

 

 カナさんがお仕事に行くのにもお休みの日も私はカナさんについていきました。

 カナさんは私がいるととても安心するって言ってくれてますます嬉しくなるのです。

 ――はカナさんに必要とされているんだと。

 

「カナ?」

「…あっ、ごめん。なんだっけ?」

「だ・か・ら!新しい遊具を建ててほしいの。運動がバリバリできちゃう楽しいやつ」

「そんなあったかなー。後でカタログ見てみるよ」

「カナ、最近のあなたは仕事よりも休養したほうがいいように見えるわ。鏡を見てみなさい!あなたの疲れ切ったこわーい顔がよく見えるはずよ」

 

 カナさんの事を心配してキングチーターさんは休むように言ってましたがカナさんの心には届かなかったようです。

 

「大丈夫大丈夫!キングチーター、私からこのお仕事を取ったらなんにも残らないよ」

「残るわ!カナには良いところがたくさんある。だからこそ――がカナを好いてくれているんでしょ?なにもないはずがない。なんでそう思うの?もっと自分を大事にしてよ!」

「…心配してくれて、ありがとう。でも、ごめんなさい。そう簡単に休めないよ」

「もう、どうなってもしらないわ。お前もある程度覚悟しておいたほうがいいかしら」

 

 ある程度の覚悟ってなんだろう?

 私はその日中、ずっとそればかり考えていた。

 ある程度の覚悟がなんなのかわかるのはそう遠くなかった。

 時々カナさんは気分を悪くしてトイレに駆け込んだりしていました。心配するとカナさんは『大丈夫大丈夫』と言って問題ないような顔を取り繕っていた。

 

「キングチーターさんの言う通り、休んだほうがいいですよ!ね、今日は休みましょう!」

「駄目だよ…許してくれない」

「いいや、休みましょうよ!ほら!また私に紅茶の作り方教えて下さい!」

「…うん。教えてあげる」

 

 その日はもう一日中カナさんから紅茶の作り方を教わりました。

 

「お湯はこのぐらいでいい。飲みやすさが大事だもの」

「はい!」

 

 カナさんの瞳はどこか遠く、濁っているように見えた。

 遠い場所を見つめている。カナさんは何を見ていたのか今の私でもわからない。

 

「おやすみ――。明日も楽しもうね」

「はい…楽しみましょうねムニャムニャ」

 

 あっという間に私は夢の中に入ってしまいました。

 これがカナさんと最後の別れになるなんて思いもしていませんでした。

 

β 2XXX→4XXX

 

「…」

「おい、どうした?」

「いや、別に」

「お前が何を察したのかは大体わかるぜ。にしても、こっちの話を断片的に聞いてみてもなるべくしてなった感があるな」

 

 話をしている内に私は私のおうちへと帰ってきました。

 暗い暗い。あのおうちに。

 いいなあ、ワタシは明るい場所にいれて。

 私は永遠にずっとこのまま。

 きっとこれは私の罰なんだ。

 あの時私がカナさんを休ませなければ…。

 

「罪悪感に押しつぶされすぎだ。こういうときこそ、紅茶を飲むべきだ」

「紅茶は我々が作るのであなたはそこで待っていてください」

 

 優しい。

 本当に優しい。

 悪魔なのに、なんでこんなに優しいんだろう。

 

「はい、どうぞ」

「あれ?私の分は?」

「ない」

「えぇー!?」

「そもそもカップは2つしかなかったんですから」

「2つしか…」

「あ、あの!私のでよければ」

 

 片割れの悪魔に私は自分の、まだ手を付けていない紅茶入りのカップを渡そうとしたが断られてしまった。

 

「嬉しいが、それはお前のために作ったものだ。ありがたく飲んでくれ。こいつに失礼だろ?」

「…!そうですね、ありがとうございま…あれ?なんでだろ、なんで涙が」

「涙はこれで拭いとき」

 

 片割れの悪魔がハンカチを私のために出してくれた。

 ありがたく私はそのハンカチで涙を拭いた。

 

β 4XXX→2XXX

 

 何日も、何日もカナさんが帰ってくることはありませんでした。

 おうちにあったお菓子をつまみながらカナさんの帰りをただずっと待っていたのです。

 

「…!カナさん!私、私、ずっと待っていたんで…」

 

 言葉を失った。

 おうちの扉を開けたのはカナさんではなかったのだから。

 

「えっ!?あ、あの…ごめんね、私、カナじゃないんだ…。初めまして、私はカナの友人の菜々っていいます」

「カナさんは!?カナさんはどこにいるんですか?教えて下さい!」

 

 菜々さんは黙ってしまった。

 それだけでなにか嫌な予感がする。

 

「カナはね、亡くなったの。だから私がこうしてカナのおうちの整理をするために」

「嘘だ…嘘だと言ってください!カナさんは生きてると、これはドッキリだと、そう言ってください!」

「気持ちはわかるよ。私だって信じられなかったから。でも棺桶に入ったカナを見た時、あぁもういないんだなって。もう辛いことから逃げれたんだって、そんな顔してたよ」

 

 菜々さんが言うにはカナさんは重い鬱っていうのを持ってて、それが爆発してしまったんだと言うんです。私にはよくわかりませんでしたけどきっと私が悪かったからこうなってしまったんだと思います。

 私が悪いから。

 私が引き止めてしまったから。

 

β 2XXX→4XXX

 

「だから決めたんです。私、次は絶対に自分の気持ちや思いをヒトにぶつけないって。ヒトに忠実な犬であろうと」

「そんなの間違ってると思うがな」

「間違ってなんかないです!私が気持ちを吐き出してしまったからカナさんは…!」

「いいか、イエイヌ!カナって女はお前のわがままのせいで死んだんじゃない!お前じゃない誰かの心の泥で殺されたんだ…!お前は何も悪くないんだ!だから、そんなことは思うな」

「うるさい!…ごめんなさい」

 

 片割れの悪魔に謝った。

 

「真実を知りたいとは思いませんか?」

「真実…?」

 

 悪魔は唐突に私に問いかける。

 真実を知りたくないかと。

 

「あなたは自分のせいでカナさんが死んでしまったと、追い込んでしまったと思っている。でもそれが違ったら?我々の力ならあなたの苦しみが本当に自分のせいだったのかを答え合わせすることができると思います。さあ、答えが知りたければ私の手をとってください…」

 

 答えが知りたいか?

 わからない。知った所で、今更知った所でなんになるっていうんだ。

 カナさんはもう帰ってこないのに。

 

「帰ってこないのがすべてなのか?帰ってこない者のためにすべての真実を明らかにして自分の心に区切りをつけておくのがお前やカナにとって必要なことだと思う」

「…わかりました」

 

 私は悪魔に――カタカケフウチョウの手を取った。

 すると私の体は重くなってそのまま床へと倒れ込む。

 

――いってらっしゃい。これが最初の旅になることでしょう。

――あいつによろしくな!私達はあっちには行けないからさ!

 

 フウチョウ達の声が聞こえる。

 あいつとは誰なんだろう?

 

 

β→→→→☆

 

「いたっ!」

 

 激しい痛みが私を襲った。

 高いところから落とされたみたいだった。

 

「え!?イエイヌ…ちゃん?」

 

 声がする方を振り向けば…



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EX-STAGE アンゼ・ザ・エピソード

 ランララランララーン♪

 引っ張られる私の耳にはラチェットの鼻歌が延々と聞こえる。

 

アンゼ「気分良いな」

ラチェット『アッタリマエデース!ハクブツカンニイケルンデスカラー!』

 

 ラチェットの言葉は私馴染みの言語ではないからラッキービーストがラチェットの言葉を翻訳して聞かせてくれる。逆も同じ。

 博物館が好きだったという割とどうでもいいような情報を知っていればあの話なんてしなかったんじゃないかと引っ張られながら思う。

 

アンゼ「なあ、もう諦めたらどうだ?延々と彷徨ってるだけじゃ目的地につけっこないぞ」

ラチェット『ダイジョウブデス。モウスコシシタラツキソウナキガスルンデス』

アンゼ「その勘が当たるとは思えないが」

ラチェット『ワタシニマカセテクダサイ!ゼッタイタドリツケマスカラ!』

アンゼ「その自信はどこから来てるんだよ!」

ラチェット『ココロデース!ユウメイナゲームデモイッテマシタ。ココロノオモムクママニススメバイイト。ソウスレバキットタドリツクンデス!』

アンゼ「ココロの赴くままで行けるなら苦労なんてな…!?」

 

 赤い空が私の視界いっぱいに広がる。

 ラチェットの足は止まり、目の前にそびえる建物を見ている。

 私はラチェットの腕を振り払って隣に立つ。

 

アンゼ「まじかよ…」

 

 ラチェットの言葉通り本当にあの科学館にたどり着いてしまったのだ。

 ラチェットがキラキラと輝いたように見えた。

 それもそうだ。ラチェットが好きな場所にやってこれたのだから。

 

ラチェット『モウガマンデキマセン!ワタシ、ハイリマース!』

アンゼ「あっ、おい待て」

 

 私の言葉なんて聞く耳持たず館内へ。

 

アンゼ「あっ、あえ?こんなところだったのか…?」

 

 なにかおかしい。

 前来た時はこんなんじゃなかったはずだ。

 夢なんて作った人物にしか弄くり回せないはずで、これは大衆が作り出した夢。

 大衆の夢は誰にも弄ることが出来ない。

 館内は真新しく改装されていたが所々古っぽいものも残っているような気がする。

 

アンゼ「お土産のとこは前と変わっていない」

 

 ラチェットは私を置いて一人で楽しんでいる。

 そういえば――、

 

アンゼ「シャンス?いないのか?」

ケカタカ「シャンスとは誰だ?」

シザンカ「シャンスとは何なのだ?」

アンゼ「うわっ」

ケカタカ「うわっ、とは何だ」

シザンカ「それは我々に失礼に当たるのではないか?」

 

 明らかにめんどくさい相手そうな二羽のフウチョウが現れた。

 セットで喋り続けるこいつは壊れた拡声器なのだろうか。

 

ケカタカ「我々は拡声器ではない!」

シザンカ「私はカンザシフウチョウ!」

ケカタカ「私はカタカケフウチョウ!」

シザンカ「我々はウョチウフ!偉大なる黒き悪魔」

 

 バサリと黒い翼を見せつけながら踊りのような動きで自己紹介するフウチョウ達。

 正直恥ずかしくてすぐにでも目を背けたくなる。

 かつての女王としてパークに君臨したカコノジブンジシンを見ているようで。

 

アンゼ「自分で言ってて恥ずかしくならないか?」

ケカタカ「ぜんぜん」

シザンカ「モーマンタイ」

アンゼ「…」

ケカタカ「珍しい客」

シザンカ「しかも先程の言い方からして前にも来たことある様子で」

「「リアクションがちょっとおもしろかったぞ」」

アンゼ「うるせー」

ケカタカ「それで」

シザンカ「今日はどういった要件で?」

 

 私はこのめんどくさいフウチョウ達の前でキャッキャッしてるラチェットを指差してこう言った。

 

アンゼ「あいつの興味のせいでここに連れてこられた。せっかくだからここのロボのシャンスに挨拶しようと思ったんだが」

 

 フウチョウはお互いの顔を見た後に

 

「「できてるのか?」」

アンゼ「できてないわ」

 

 即答で返してやった。

 

「「なんだつまらない」」

アンゼ「つまらなくて悪かったな」

ラチェット『スケバンガール、ドウカシマシタカ?』

アンゼ「はぁ…めんどくさいのが増えた」

ラチェット『メンドクサイトハナンデスカ!ワタシ、オコリマスヨ』

アンゼ「その時はそのラッキービーストを壊す」

ケカタカ「ラッキービーストに喋らせている」

シザンカ「翻訳させている」

ラチェット『ハジメマシテ!ワタシ、ラチェットトモウシマス!コノコハジェミニ!オキアガッタトキニチカクニアッタキカイノザンガイタチヲツカッテナオシタコデース』

ケカタカ「ラッキービーストの改造は」

シザンカ「怒られるぞ」

ラチェット『ゴメンナサイ…。ナンダカ、ミテイテナオサナクチャイケナイトオモッテツイナオシテシマイマシタ…』

 

 すごく申し訳なさそうに謝るラチェット。

 

ケカタカ「過ぎた事は仕方ない」

シザンカ「だが罰を与えないと気がすまない」

ケカタカ「気がすまない?いつからお前は神様になった?」

シザンカ「今からだ」

ケカタカ「じゃあ神棚でも作って祀らないとな」

シザンカ「あっちょっと」

 

 カタカケに縛られたカンザシはどこかへと連れ去られようとしている。

 

アンゼ「おい、その茶番もう止めてもらえないか?見ていて辛いんだが」

ケカタカ「それはすまなかった」

シザンカ「まったく、こないだ来たあいつもこいつと同じような顔してたの忘れたのか?」

ケカタカ「そういえばそうだったな」

シザンカ「さてケカタカ…」

ケカタカ「我々の力を使ってお前が探してるシャンスを探すことにするか」

シザンカ「付いてこい」

ケカタカ「もしかしたら裏にいるかもしれない」

 

 フウチョウらの後を追って私は科学館の裏へと入っていった。

 

Q

 

アンゼ「何もお前は付いてくることなんかないんだぞ」

ラチェット『セーッカクウラガワミレルキカイナンデスカラ、ツイテイクノハトウゼンデース!』

アンゼ「そうかい」

シザンカ「ここが裏だ」

ケカタカ「ここはあいつが手をかけていないからひどいもんだ」

シザンカ「さあ探すがよい」

アンゼ「言われなくても探すさ」

ケカタカ「夢に時間なんてない。だから思う存分探せ」

 

 そんな事知ってる。

 私はまずは事務室から調べ始めた。

 机ばかりでどう見てもシャンスがいるような場所ではない。

 奥へと進んでいけばそこは倉庫のようなところになっていて、段ボール箱が沢山積まれていた。

 

シザンカ「『さっきからずっとそれだがニホンゴしゃべれないのか?』」

ラチェット「あぁ…スケバンガールが普段喋ってる言葉はニホンゴって言うんですね!私、他の言葉は学んでなくて…」

ケカタカ「『同じ言葉でしゃべれないことに不満とかはないのか?』」

 

 私がシャンスの事を探している最中にラチェットの言葉で喋りだすフウチョウ。

 私にはラチェットの言葉がわからないから何を喋っているのかなんて知らない。

 

ラチェット「不満はないですよー。だってジェミニがいますからね!この子がいればスケバンガールとお話できるんです」

シザンカ「『もしお前の口から出た言葉がそのままこいつの耳にわかるように届くならお前はそれを望むか?』」

ラチェット「うーん…もし喋れたらジェミニの出番がなくなっちゃいそうですね」

ケカタカ「『そう思うなら出番を作ってやればいい』」

ラチェット「出番を…」

シザンカ「『そうだ。ラッキービーストは乗り物を動かすカギだ。それさえあればほとんどの乗り物を動かすことが出来る』」

ラチェット「それならいいかもしれませんね」

ケカタカ「聞いたかシザンカ」

シザンカ「聞いたぞケカタカ」

アンゼ「ちょっと手伝ってくれないか?」

「「断る」」

ラチェット『ダッタラワタシガテツダイマース!ドコヲサガセバイイデスカ?』

アンゼ「それじゃあここを探してくれ」

ラチェット『ハーイ!』

 

 段ボール箱の山をラチェットと協力して一つずつ開けていった。

 中に入っているのは誰かが作った手作りの工作でどれも僅かではあるが輝いて見えた。

 

ラチェット「nn?」

アンゼ「なんか見つけたのか?」

ラチェット『ナンカオクノホウニハコジャナイノガミエタキガシマス』

 

 私とラチェットでダンボールをどけていけばそこには眠っているシャンスとシャンスが座っている機械――充電器があった。

 

アンゼ「見つけた…シャンス、こんなところにいたのか」

ケカタカ「我々が記憶する限りでは我々が来たときにはもう廃墟同然の場所だった」

シザンカ「お前が記憶しているここはあの驚き具合からして経営時代の時の夢だったのだろう」

「「お前がここを離れてから時間が経過、もしくは忘れさられたかして廃墟同然の場所に変わってしまったのだろう」」

ケカタカ「だからこそそこにいる機械はこうして今も眠り続けている」

シザンカ「こいつだけは建物よりも覚えてくれている人間が多かったのだろう」

ケカタカ「ヒトやフレンズが死ぬ時は忘れられた時」

シザンカ「忘れなければ死ぬことはない」

「「きっとお前との出会いのおかげでこいつはここに残っていたのかもしれない」」

ケカタカ「でなければきっと」

シザンカ「こいつはこの夢にはいられなかったはずだ」

アンゼ「また来たぞ、シャンス…」

 

 眠るシャンスに私は語りかける。

 当然だが返答が帰ってくることはない。

 

 ランララランララーン♪

 引っ張られる私の耳にはラチェットの鼻歌が延々と聞こえる。

 

アンゼ「気分良いな」

ラチェット『アッタリマエデース!ハクブツカンニイケルンデスカラー!』

 

 ラチェットの言葉は私馴染みの言語ではないからラッキービーストがラチェットの言葉を翻訳して聞かせてくれる。逆も同じ。

 博物館が好きだったという割とどうでもいいような情報を知っていればあの話なんてしなかったんじゃないかと引っ張られながら思う。

 

アンゼ「なあ、もう諦めたらどうだ?延々と彷徨ってるだけじゃ目的地につけっこないぞ」

ラチェット『ダイジョウブデス。モウスコシシタラツキソウナキガスルンデス』

アンゼ「その勘が当たるとは思えないが」

ラチェット『ワタシニマカセテクダサイ!ゼッタイタドリツケマスカラ!』

アンゼ「その自信はどこから来てるんだよ!」

ラチェット『ココロデース!ユウメイナゲームデモイッテマシタ。ココロノオモムクママニススメバイイト。ソウスレバキットタドリツクンデス!』

アンゼ「ココロの赴くままで行けるなら苦労なんてな…!?」

 

 赤い空が私の視界いっぱいに広がる。

 ラチェットの足は止まり、目の前にそびえる建物を見ている。

 私はラチェットの腕を振り払って隣に立つ。

 

アンゼ「まじかよ…」

 

 ラチェットの言葉通り本当にあの科学館にたどり着いてしまったのだ。

 ラチェットがキラキラと輝いたように見えた。

 それもそうだ。ラチェットが好きな場所にやってこれたのだから。

 

ラチェット『モウガマンデキマセン!ワタシ、ハイリマース!』

アンゼ「あっ、おい待て」

 

 私の言葉なんて聞く耳持たず館内へ。

 

アンゼ「あっ、あえ?こんなところだったのか…?」

 

 なにかおかしい。

 前来た時はこんなんじゃなかったはずだ。

 夢なんて作った人物にしか弄くり回せないはずで、これは大衆が作り出した夢。

 大衆の夢は誰にも弄ることが出来ない。

 館内は真新しく改装されていたが所々古っぽいものも残っているような気がする。

 

アンゼ「お土産のとこは前と変わっていない」

 

 ラチェットは私を置いて一人で楽しんでいる。

 そういえば――、

 

アンゼ「シャンス?いないのか?」

ケカタカ「シャンスとは誰だ?」

シザンカ「シャンスとは何なのだ?」

アンゼ「うわっ」

ケカタカ「うわっ、とは何だ」

シザンカ「それは我々に失礼に当たるのではないか?」

 

 明らかにめんどくさい相手そうな二羽のフウチョウが現れた。

 セットで喋り続けるこいつは壊れた拡声器なのだろうか。

 

ケカタカ「我々は拡声器ではない!」

シザンカ「私はカンザシフウチョウ!」

ケカタカ「私はカタカケフウチョウ!」

シザンカ「我々はウョチウフ!偉大なる黒き悪魔」

 

 バサリと黒い翼を見せつけながら踊りのような動きで自己紹介するフウチョウ達。

 正直恥ずかしくてすぐにでも目を背けたくなる。

 かつての女王としてパークに君臨したカコノジブンジシンを見ているようで。

 

アンゼ「自分で言ってて恥ずかしくならないか?」

ケカタカ「ぜんぜん」

シザンカ「モーマンタイ」

アンゼ「…」

ケカタカ「珍しい客」

シザンカ「しかも先程の言い方からして前にも来たことある様子で」

「「リアクションがちょっとおもしろかったぞ」」

アンゼ「うるせー」

ケカタカ「それで」

シザンカ「今日はどういった要件で?」

 

 私はこのめんどくさいフウチョウ達の前でキャッキャッしてるラチェットを指差してこう言った。

 

アンゼ「あいつの興味のせいでここに連れてこられた。せっかくだからここのロボのシャンスに挨拶しようと思ったんだが」

 

 フウチョウはお互いの顔を見た後に

 

「「できてるのか?」」

アンゼ「できてないわ」

 

 即答で返してやった。

 

「「なんだつまらない」」

アンゼ「つまらなくて悪かったな」

ラチェット『スケバンガール、ドウカシマシタカ?』

アンゼ「はぁ…めんどくさいのが増えた」

ラチェット『メンドクサイトハナンデスカ!ワタシ、オコリマスヨ』

アンゼ「その時はそのラッキービーストを壊す」

ケカタカ「ラッキービーストに喋らせている」

シザンカ「翻訳させている」

ラチェット『ハジメマシテ!ワタシ、ラチェットトモウシマス!コノコハジェミニ!オキアガッタトキニチカクニアッタキカイノザンガイタチヲツカッテナオシタコデース』

ケカタカ「ラッキービーストの改造は」

シザンカ「怒られるぞ」

ラチェット『ゴメンナサイ…。ナンダカ、ミテイテナオサナクチャイケナイトオモッテツイナオシテシマイマシタ…』

 

 すごく申し訳なさそうに謝るラチェット。

 

ケカタカ「過ぎた事は仕方ない」

シザンカ「だが罰を与えないと気がすまない」

ケカタカ「気がすまない?いつからお前は神様になった?」

シザンカ「今からだ」

ケカタカ「じゃあ神棚でも作って祀らないとな」

シザンカ「あっちょっと」

 

 カタカケに縛られたカンザシはどこかへと連れ去られようとしている。

 

アンゼ「おい、その茶番もう止めてもらえないか?見ていて辛いんだが」

ケカタカ「それはすまなかった」

シザンカ「まったく、こないだ来たあいつもこいつと同じような顔してたの忘れたのか?」

ケカタカ「そういえばそうだったな」

シザンカ「さてケカタカ…」

ケカタカ「我々の力を使ってお前が探してるシャンスを探すことにするか」

シザンカ「付いてこい」

ケカタカ「もしかしたら裏にいるかもしれない」

 

 フウチョウらの後を追って私は科学館の裏へと入っていった。

 

Q

 

アンゼ「何もお前は付いてくることなんかないんだぞ」

ラチェット『セーッカクウラガワミレルキカイナンデスカラ、ツイテイクノハトウゼンデース!』

アンゼ「そうかい」

シザンカ「ここが裏だ」

ケカタカ「ここはあいつが手をかけていないからひどいもんだ」

シザンカ「さあ探すがよい」

アンゼ「言われなくても探すさ」

ケカタカ「夢に時間なんてない。だから思う存分探せ」

 

 そんな事知ってる。

 私はまずは事務室から調べ始めた。

 机ばかりでどう見てもシャンスがいるような場所ではない。

 奥へと進んでいけばそこは倉庫のようなところになっていて、段ボール箱が沢山積まれていた。

 

シザンカ「『さっきからずっとそれだがニホンゴしゃべれないのか?』」

ラチェット「あぁ…スケバンガールが普段喋ってる言葉はニホンゴって言うんですね!私、他の言葉は学んでなくて…」

ケカタカ「『同じ言葉でしゃべれないことに不満とかはないのか?』」

 

 私がシャンスの事を探している最中にラチェットの言葉で喋りだすフウチョウ。

 私にはラチェットの言葉がわからないから何を喋っているのかなんて知らない。

 

ラチェット「不満はないですよー。だってジェミニがいますからね!この子がいればスケバンガールとお話できるんです」

シザンカ「『もしお前の口から出た言葉がそのままこいつの耳にわかるように届くならお前はそれを望むか?』」

ラチェット「うーん…もし喋れたらジェミニの出番がなくなっちゃいそうですね」

ケカタカ「『そう思うなら出番を作ってやればいい』」

ラチェット「出番を…」

シザンカ「『そうだ。ラッキービーストは乗り物を動かすカギだ。それさえあればほとんどの乗り物を動かすことが出来る』」

ラチェット「それならいいかもしれませんね」

ケカタカ「聞いたかシザンカ」

シザンカ「聞いたぞケカタカ」

アンゼ「ちょっと手伝ってくれないか?」

「「断る」」

ラチェット『ダッタラワタシガテツダイマース!ドコヲサガセバイイデスカ?』

アンゼ「それじゃあここを探してくれ」

ラチェット『ハーイ!』

 

 段ボール箱の山をラチェットと協力して一つずつ開けていった。

 中に入っているのは誰かが作った手作りの工作でどれも僅かではあるが輝いて見えた。

 

ラチェット「nn?」

アンゼ「なんか見つけたのか?」

ラチェット『ナンカオクノホウニハコジャナイノガミエタキガシマス』

 

 私とラチェットでダンボールをどけていけばそこには眠っているシャンスとシャンスが座っている機械――充電器があった。

 

アンゼ「見つけた…シャンス、こんなところにいたのか」

ケカタカ「我々が記憶する限りでは我々が来たときにはもう廃墟同然の場所だった」

シザンカ「お前が記憶しているここはあの驚き具合からして経営時代の時の夢だったのだろう」

「「お前がここを離れてから時間が経過、もしくは忘れさられたかして廃墟同然の場所に変わってしまったのだろう」」

ケカタカ「だからこそそこにいる機械はこうして今も眠り続けている」

シザンカ「こいつだけは建物よりも覚えてくれている人間が多かったのだろう」

ケカタカ「ヒトやフレンズが死ぬ時は忘れられた時」

シザンカ「忘れなければ死ぬことはない」

「「きっとお前との出会いのおかげでこいつはここに残っていたのかもしれない」」

ケカタカ「でなければきっと」

シザンカ「こいつはこの夢にはいられなかったはずだ」

アンゼ「また来たぞ、シャンス…」

 

 眠るシャンスに私は語りかける。

 当然だが返答が帰ってくることはない。

 

ラチェット『マルデニンゲンミタイデス。デモ、アンドロイドナンデスヨネ?』

アンゼ「ああ、そうだ。なあ、フウチョウ。こんなところにいるのもあれだから入口前に置いてもいいか?」

ケカタカ「それは構わない」

シザンカ「我々はただの不法侵入者だ。我々にそういう許可なぞしなくていい」

アンゼ「ありがとう」

 

Q

 

 なぜシャンスを入口前に置いておきたかったのかはわからなかった。

 ただ、彼女はそこにいたほうがいいと思ったからだ。

 重たい体を私は一人で持ち上げて歩き出した。

 

ケカタカ「あんなに重たい物を一人で持ち上げるとは」

シザンカ「さすがは女王」

アンゼ「女王だからとかいうな!今も昔も私は女王じゃない」

ラチェット『女王?』

アンゼ「昔の黒歴史だよ。お前にだってあるだろひとつやふたつ」

ラチェット『マァ…アリマスケド…』

アンゼ「じゃっ、深く掘り下げるのはやめような」

ラチェット『ハーイ』

アンゼ「よいしょっと」

 

 私はシャンスを入口前の客がよく見えるような場所に座らせてあげた。

 

アンゼ「これでシャンスもいつか来る客の顔が見えて嬉しいはずだ」

ケカタカ「そうなのか?」

シザンカ「眠り続ける相手のことを思い続けるのは毒だと思うぞ」

アンゼ「毒でもいいさ。結局こういうのは全部自己満だ。本人が喜ばなくてもいい。私の勝手でやったことだからな。シャンスが目覚めて嫌だと思うならここから動けばいい。ただそれだけのことさ」

 

Q

 

ラチェット『コレガココノプラネタリウムデスカァ…』

モア「そうだよぉ~外人さ~ん」

ラチェット『ガイジンサンジャアリマセン!ワタシノナマエハラチェットデース』

モア「ラチェットちゃんだったのね。ごめんなさい」

 

 プラネタリウムに行けば少しだけ小さいジャイアントモアがいた。

 小さいとは言ったが実際の大きさと比べればの話だ。

 彼女は普段からこのプラネタリウムに入り浸りぼーっとしているようだ。

 

モア「お詫びとして、ラチェットちゃんのためにとっておきの投影をしてあげるわね」

ラチェット『ヤッター!』

 

 投影機が動き始め、モアはラチェットの隣に座った。

 

モア「これはね、私のお気に入りのひとつ。PIPの宇宙旅行。PIPが宇宙船に乗って宇宙を旅するお話なんだ」

ラチェット『PIP…キイタコトアリマス。パークノアイドルダッタンデスヨネ?』

モア「今はそうじゃないのかしら?私は最近のよく知らないから…」

 

 新しい情報がやってくることはない。

 常にやってくるのは古い情報。

 そいつにとってもう既に知り得た情報だから。

 ジャイアントモアが夢でしか生きられない奴か本体の残骸かなんてどうだっていい。どっちにしろ夢の中を歩ける奴は明日を手に入れられない。

 あいつらは特別な存在だからこれには当てはまらない。

 頭上のスクリーンにはPIPを元にしたアニメキャラがぴょんぴょん飛び跳ねている。

 私にとって退屈の二文字でしかなかったがラチェットやモアは楽しそうに見ている。

 楽しそうに見ているこいつらが羨ましいよ。

 

Q

 

モア「またいらっしゃい」

ラチェット『モチロン、マタキマース!』

アンゼ「なあお前、お土産持っていくか?」

ラチェット『アァ!?ワタシ、ワスレテマシタ…エヘヘ』

アンゼ「ほらこっちだ」

 

 ラチェットが欲しがっていたお揃いのリストバンドを渡した。

 

ケカタカ「おそろとは」

シザンカ「やはりできているのでは?」

アンゼ「うるせー」

ケカタカ「いいんですよ」

シザンカ「我々はそういうの気にしてないんで」

 

 ひょこっと顔を出したフウチョウ達にからかわれた。

 

ケカタカ「他にもおみやげはあるんで」

シザンカ「よかったら見ていけ」

アンゼ「これくらいしかいいのないだろ」

「「それもそうだ」」

ケカタカ「あっ、でも…このハンカチは悪くないと思うのです」

シザンカ「そうか?ダサいだろ」

アンゼ「とにかくこれだけでいい」

「「まいどあり~」」

ケカタカ「まいどありとは言ったが」

シザンカ「ここではどの通貨が必要なんだ?」

アンゼ「そんなのはいらない。ここは夢なんだから」

「「ああ、そうか」」

ケカタカ「それじゃあ一応レジに通すか」

シザンカ「そうでもしないと締りがないからな」

ケカタカ「なんのしまりだ」

シザンカ「なんでもいいだろう」

 

 レジへと通す時、フウチョウ達の口は高速に動いた気がした。

 ほんの一瞬の違和感だったが特に気にすることはないだろう。

 

ケカタカ「予兆を感じる」

シザンカ「お前達とは、色々と共通点があったようだ」

ケカタカ「何かに導かれる気がした」

シザンカ「共通点のせいだろうな。共通点の導きで我々は力を行使してしまった」

「「その共通点が我々をもう一度表舞台へと上げる!!」」

アンゼ「は…?じゃあな」

 

 後ろから聞こえてくるフウチョウの笑い声は不気味だった。

 共通点ってなんだよ。

 

ラチェット「いやーそれにしてもあの博物館は狭かったけど楽しかったですね!」

アンゼ「ああ、そうだな…あ?」

ラチェット「?どうかしましたか?スケバンガール」

アンゼ「お前、、ラッキービーストの声を通さなくても喋れるようになったのか!?」

 

 ラチェットは私が言っていることがよくわからなかったみたいだったがすぐにそれを理解して嬉しがっていた。




アプリ記念のお話。そして幸運のロボの続き。

私の知ってるけものフレンズからしてみれば私が書く話は真逆な話書いてることになるんだよね
明るい話ならともえはただの観光客として出すべきだと思うのにこの話は暗くて自殺未遂の疑いがあるともえがいるわけで。
こんなことになったのは私が鬱に両足近く突っ込んでいるから。
明日以降に見れるものに期待しつつ、明日もしかしたら…なんていう最悪の事態を妄想して辛くなってる。
この作品もどきは私の□に対する気持ちそのものかもしれない。
自殺未遂の描写なんて普通こんなので書かないよ。
鬱だから書いてるんだよ。
セラピー設定なんてけものフレンズにいらないもの。
でも炎上ネタや自分の鬱具合からこうなってしまった。
カナさんごめんね。
多分カナさんはアナザーウォッチかライドウォッチがないと助けられないや


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STAGE-3『my stomach is rumbling!』

傷ついた心が生み出したのは遊園地
楽しいはずなのにそこはトゲに溢れてる


<ウェルカム!ここはカラカル☆ランド!キラキラと奇跡が詰まった幸せの遊園地!>

 

 すぐ近くの遊園地から聞こえる大きなアナウンスでともえは目を覚ました。

 目を覚ましたという言い方はこの夢の中でどうなんだろうとは思うけれど。

 

ともえ「今夜ならきっと、入れそうな気がする」

 

 あたしはペンで現実で記憶を失う前から使っているショルダーバックを描き、具現化させてバッグにヒーナの残骸を入れた。

 一度は置いておこうと思った。けれど、置いていけなかった。

 

ともえ「行こう、ヒーナちゃん…」

 

 抜け殻で残骸の人形を持って遊園地の門をくぐった。

 

 

 門をくぐって最初に出迎えるのは等身大のカラカル像と花壇。

 目先には眩しいほどたくさん照明を輝かせているガラスの屋根がついた建物が見える。

 ぽんぽんぽん。

 面白い足音が聞こえてきたのであたしは振り向いた。

 カラカルのキグルミがあたしを抱きしめた。

 どうやらあたしの来園を歓迎してくれているようだった。

 

ともえ「え?あっち?」

 

 建物の方を指差すキグルミ。

 あの建物になにかあるみたい。

 

ともえ「わかった、行ってみるよ」

 

 ともえは手をふるキグルミに手を振り返しつつ、目の前の建物へと入っていく。

 

☆・ウェルカムエントランス

 

 ここがどういうところかと一言で言えばお土産市場。

 海外の映画で見るような建物がずらっと並んでいて中に入ればそこにはお土産が沢山売ってある。

 店の中に入ってみれば無人でとっても不用心。

 売られてあるグッズ類はどれもカラカルがメインのものばかりだった。

 寂しい寂しい無人の遊園地を歩くともえ。

 何がウェルカムだ。キグルミしかウェルカムしてくれなかったぞ。

 

「あれ?いい匂い」

 

 あたしは美味しそうな甘い匂いを感じた。

 甘い匂いの正体を知るためにともえは匂いをかぎながら初めての場所を歩いた。

 

「おっきい…」

 

 ウェルカムエントランスから出た先で見えたのは大きなお城だった。

 たららら…。

 楽しげな音楽が聞こえてきた。

 

<あ、あー。こんにちは新しいゲストさん!アタシはこの遊園地の王様、カラカル!かわいいゲストさんのためにこれからパレードをやるからそこで待っていてほしいの!>

 

 街灯につけられたスピーカーから聞こえる女の子の声。

 そして瞬き一回で現れる可愛い椅子。これに座れってことなのだろうか。

 恐る恐るあたしは椅子に近づくと、

 

<大丈夫!その椅子は怖くなんてないよ!ただ立っているだけじゃ大変だろうし椅子を用意したんだ!>

 

 その声を信じてあたしは椅子に座った。

 椅子のデザインはまるでメルヘンを感じるピンクの、スポンジのように軽い、まるでケーキのような椅子。

 椅子に座って待っていれば、あっちの方からフロート車がオルゴールのような音楽を流しながらともえの方へとやってくる。

 

<ようこそ!アタシの楽園、カラカル☆ランドへ!アタシはこの楽園の王様、カラカルよ!ここでは楽しいことがたーくさんあるんだから!あなたも辛いことを忘れて楽しんでいって…だって、久しぶりで二人目のゲストさんなんだから!>

 

 フロート車の上からあたしに向かって王様カラカルは手を降っていた。

 その顔はとても幸せそうで、苦しみ一つなさそうだった。

 フロート車は止まって、そこからカラカルが飛び降りてあたしの所までやってきた。

 

王様カラカル「こんばんわ!」

ともえ「こんばんわ」

王様カラカル「あたしの楽園に来てくれてありがとう!よかったら、名前を聞かせてくれない?」

ともえ「あたしは…ともえ。ともえって言うの」

王様カラカル「ともえ!いい名前だね!そんなキミには…はい!このガイドマップをあげちゃうわ!これさえあればこの楽園をもっと楽しめるはずよ!あたしはやるべきことがあるからもう行くけど、何かあったら近くのおにいさんおねえさんに頼ってね!それじゃあまたね!」

 

 王様カラカルはフロート車へと飛び乗ってあたしの前からいなくなった。

 あたしは王様カラカルから受け取ったガイドブックを眺めてみる。

 

ともえ「ポップコーンステーション!」

 

 ポップコーンという字面にあたしは興奮して、そのステーションがある場所へと駆け出したのだ。

 

☆・ポップコーンステーション

 

 さっきまでの甘い匂い、その正体はここから流れていた匂いだった。

 ポップコーンと言う割には近未来感溢れるデザインの建物で、それもまたともえの心を躍らせる材料になった。

 

<ヨウコソ!ココハ、アリトアラユルポップコーンガアツマリ、ジブンノテデアタラシイアジヲツクレルポップコーンステーションダヨ!>

 

 機械音声がこの建物に入ったあたしを歓迎した。

 無人だと言うのにポップコーンを作る機械は動いていて次々にポップコーンが作り出され、味付けされて袋詰されていっている。

 

ともえ「はぁ~いい匂い」

 

 レジの方にはメニュー表が置いてあった。

 塩やキャラメルやチョコという当たり前な味があれば明太子やカレー、フルーツミックスなんて見たことない味もある。

 

<ドレニシマショウカ?>

 

 レジにやってきたロボットに聞かれる。

 

ともえ「そうだな~これにしよっ!」

 

 あたしはメニュー表からバター醤油味を選んだ。

 

―――私はこの味が好きだった。

 

 また聞こえる、私の声。

 ロボがくるくると回ると同時に天井に仕掛けられたものが動き出してくるくるくると音を出して回る。

 チンッ!

 

<バターショウユアジデス。アツイノデオキヲツケテ>

ともえ「ありがとう」

 

 確かにこのロボが言う通りポップコーンが入ったカップは暖かかった。

 

?「そのポップコーンを食べないほうがいいと思うわ」

ともえ「え?」

 

 レジが置かれたテーブルに座るフードを被った女の子があたしに忠告してきた。

 

ともえ「なんで?おいしそうじゃん」

?「うまいまずいではなくて、それを食べちゃいけないの。食べるとこの夢の持ち主の嫌な記憶を見ることになるわ」

ともえ「…?ま、いいや。教えてくれてありがと」

 

 女の子の言葉を無視してバター醤油味のポップコーンをひとつ、あたしの口の中へと入れた。

 

?「あーあ」

ともえ「!?」

 

 何かが見える。

 

 誰かに追われているようだった。

 ハァッ、ハァ…と息遣いを荒くしながらひたすら森の中を走っていたが転んで機械に捕まってしまう。

 捕まった誰かは手術台に寝転され…。

 

ともえ「うぅっ!」

 

 ポップコーンが入ったカップを落とし、胸を抑える。

 痛い、痛い。

 激しい痛みがあたしの体を襲っている。

 これは精神的な不安じゃなくて、本当の痛み。

 胸に何か鋭いもので刺されたような、そんな感覚を覚える。

 

?「大丈夫?ほら」

 

 女の子はあたしの頭に御札を貼った。

 するとだんだん痛みが引いてきた。

 

?「だから言ったでしょ、そういう記憶を見てしまうって。しかもその様子じゃあの記憶を見てしまったのね」

 

 何を言っているかわからなかった。

 

?「ねえ、アナタはどうやってここに来たの?ここにはアナタみたいなのは来れないはず」

 

 あたしが落ち着くのを見計らって女の子はあたしに聞いてきた。

 

ともえ「このカギを使って扉を開けたらここに来たんです。そうしたら今まで一緒にいてくれたヒーナちゃんが…」

 

 そう言ってあたしはカギを見せた。

 女の子はあたしからカギを取ってじっくり見始めた。

 

?「これは…不思議なカギね。それでヒーナチャンってのは?」

 

 バッグから取り出したのはヒーナの残骸。

 バッグに入れた時の状態より悪化していたがまだ原型を保っていた。

 

?「オイナリチャン…?ふーんそっか。最近なにかしてると思ったらそういうことね…。アナタ、名前なんていうの?」

ともえ「ともえ、です」

コモド「ともえチャンね!私はヒーナチャンの中の人とお友達の、コモドドラゴンっていうの」

 

 お嬢様のようにコモドはともえに挨拶した。



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STAGE-3<Caracal and the Theme park>

コモド「そ・れ・で、ともえチャンはここで何がしたいのかな?」

ともえ「さあ?ただ呼ばれてる気がして入っただけで。あたしがここで何をしたいかなんて、わからない」

コモド「わからないか~、それなら私の仕事を手伝ってみる?なぁに、簡単なことだよ。この遊園地を周るだけ!細かいことは私が全部やるから。ともえチャンはただ、私と一緒にいるだけでいい。話し相手になって」

ともえ「それくらいなら」

コモド「なら成立。さっそくお仕事しましょ。マップは持ってるかしら」

ともえ「これですか?」

 

 ともえはバッグの中に入れていたマップを出した。

 足元に散らばっていたポップコーンはいつのまにか消えていた。

 

コモド「ふーん、あいつ、私にはマップ渡さないでともえチャンには渡すんだ…」

ともえ「もらってないんですか?」

コモド「私は夢幻療法っていう治療法で入ってるからゲストとして認められてなくて」

ともえ「むげんりょうほう?」

コモド「壊れた心を治すために夢の中に入って泥を洗い落として癒やす療法、それが夢幻療法。アニマルセラピーやアロマセラピーみたいなものよ」

ともえ「アニマルセラピー」

 

 どこかで聞いたような…。

 

コモド「もし興味があるなら現実の方でいつか教えてあげるわ。今はそうね…着替えましょ」

ともえ「え」

コモド「せっかく遊園地に来たんだからそれなりの服装に身を包むのが当たり前ではなくて?そんな服じゃ、まるで修学旅行よ」

ともえ「しゅうがくりょこう?」

コモド「とにかく!その姿でずっと歩かれるのは私が嫌なの!ささ、ここに立って。痛みは一瞬だから」

ともえ「え、うわぁ!?」

 

 言われるがままに立たされるともえ。

 コモドが着るフードが動き出し、ともえをガブッと丸呑み。

 

ともえ「痛い!」

 

 何かにお腹を噛まれたような感覚。

 でも針を刺したくらいの痛みしか感じられなかった。

 それは幸運だろうか、痛みがあるという時点で不幸か。

 次にともえが姿を表した時にはコモドと同じようなフードとドレスを身にまとっていた。

 そのドレスは真っ黒で赤い目、しかも血を流している。ショルダーバッグもそれに合わせたものへと変わっている。

 

 おめでとう!ともえはコモドの毒を以てこの狂った夢の毒を制した!

 

 ニコニコしながらコモドはともえに手鏡を差し出す。

 ともえは手鏡に映る自分の姿を見て驚いた。

 

ともえ「な、なにこれ!?なにこの服!」

コモド「うん…まあ、悪くないわね。その服はここにいるときだけだから安心して。さ、行きましょ」

 

☆・ココスキロード

 

 ココスキロードと呼ばれる一つのエリア。

 ここにはコモドとともえが初めて出会ったポップコーンステーションがあった。

 その名前の通りなのか遊園地の持ち主自身のここすきが多く詰まった建物が多く、フードコートなのでは?と感じるくらい料理を扱うお店が多い。

 

コモド「どこもかしこも食べ物のお店。匂いも飛んでくるから厄介ね」

 

 ともえはいい匂いだなと感じつつもさっきのを思い出してただ見ているだけだった。

 またあんなのを見せられたらひとたまりもない。

 

ともえ「さっきからキョロキョロ見ていて何を探してるんですか?」

コモド「泥を探してるの」

ともえ「さっき言ってましたよね、泥を洗い落とすとか」

コモド「夢幻療法でこういうところに入れば、心にとって不必要なものが泥として視覚化されるの。あっ、見つけた」

 

 路地裏へと入るとそこには大きな泥の塊が壁にこびり付いていた。

 コモドはオレンジ色のキノコを取り出してその泥の塊へ投げた。

 すると泥の塊はみるみるうちに溶け出していってなくなった。

 

ともえ「きのこで泥を消した?」

コモド「今のが心の泥よともえチャン。泥はこういうきのこを使って消すことができるの。けれど誤解しないで。私の場合はきのこだっただけで他の人はきっと違うから」

ともえ「違う?」

コモド「私にこれを教えてくれた師匠は確か自分自身のぬいぐるみだったっけ。ヤマバクだったんだけどね。ほら、バクって夢を食べるっていうでしょ?だからなのかな、泥をヤマバクのぬいぐるみが吸い取るような消し方するの。そんで溜まった泥は自分で食べてしまう。あんなの食べ続けて体に悪影響とかないんですか?なんて言ったら師匠はなんて言ったと思う?」

ともえ「え…?大丈夫!とかですか?」

コモド「半分正解。答えは『あんなのおやつでしかない』って」

ともえ「お、おやつ…」

コモド「うふふふ。私もそれを言われた時はともえチャンと同じ気持ちだったわ」

 

 

 その後もココスキロードにある泥の塊をひとつひとつきのこを投げて消していった。

 ともえ達は大きなきのこのかさに乗って屋根の上へとやってきた。

 

コモド「わーお。こんなに大きい泥はここでは初めて見たかも」

 

 コモドは泥の数だけきのこを出して、目掛けて投げた。

 しかし、ひとつだけ消えなかった塊があった。

 

コモド「…?」

 

 コモドは消えなかった泥の塊に近づくと、塊からカラカルのような形をした人形が生まれでてきた。

 全身が泥にまみれていて顔部分がカラカルに近い顔じゃなかったらカラカルに似た人形なんて誰が気づくのだろうか。

 

コモド「カラカル…。ともえ、私の近くにいて!」

 

 泥人形はコモド目掛けて襲いかかってくる。

 コモドは大きなきのこを作り出して飛びかかってきた泥人形を大きくした勢いで吹き飛ばした。

 泥人形は吹き飛ばされた勢いで下まで落ちていった。

 コモドはその隙にヒーナと同じような御札を取り出してともえの方へ投げてから泥人形を追いかけて屋根の上から飛び降りた!

 御札は白いラッキービーストへと変わってともえを守ろうとしてくれる。

 

<ダイジョウブ、ココハボクニマカセテ>

 

 恐る恐るともえは屋根の上からコモドが飛び降りた場所まで言ってコモドと泥人形が戦うところを目に焼き付ける。

 泥人形の攻撃を躱しながら、尻尾を振り回して泥人形に攻撃。

 

コモド「初めてづくしで嬉しいわ。でも、もうあなたには飽きちゃった」

 

 口元まで赤いきのこを近づけて、食べた。

 鋭く恐ろしい眼光。彼女は瞳から光線を撃ち出した。

 泥人形はこの光線に耐えきれず溶けていった。

 

コモド「ふぅ…、やっと終わった。どうだった?私の戦いぶりは」

 

 コモドは上で見ていたともえに向かって声をかけた。



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STAGE-3 はじまりのキーカード

 コモドに屋根から降ろしてもらったともえは、

 

ともえ「すごかったです!」

 

 と返した。コモドは嬉しそうな顔をしながら白いラッキービーストを元の御札に戻した。

 

ともえ「それ、ヒーナちゃんも使ってた」

コモド「この御札はね、オイナリヤマに住むオイナリサマの力がこもったありがたーい御札なのよ。ヒーナチャンが使うのも当然だと思うわ。だって、ヒーナチャンこそがオイナリチャンだもの」

ともえ「オイナリチャン!?…そうか」

 

 あたしは今までのことを思い出していた。

 アンゼさんは『オカルトギツネ』とヒーナちゃんのことを呼んでいた。

 こっちのフウチョウちゃん達は『神』とか言っていたっけ。

 

――オイナリサマはオカルト話の存在だって"今のあたし"なら薄々気付いてるんじゃない?オカルトは恐ろしいものだって隣から聞こえてこなかった?

 

 心の奥にいる私があたしに問いかけてくる。

 

コモド「そんなの気にする必要はないわ。今のあなたはともえチャンなのだからともえチャンの心に従うべきだわ」

 

 今のやり取りを聞かれていたような言い方をしてきた。

 

コモド「それにオイナリチャンが怖くないのなんてともえチャン自身がよく知っているんじゃない?いい、聞くのはともえチャン自身の心、もうひとりのあなたではないの」

 

"私"ではなく"あたし自身の心"に問いかける。

『オイナリサマは怖くないよね?』と。

 帰ってくるのは当然、怖くなんてない!だ。

 

コモド「それでいいのよそれで。それがともえチャン自身の心なのだから」

ともえ「あたし自身の心…」

コモド「なんだかまだよくわかってない感じね。今はただオイナリチャンは怖くないと思えばそれだけでいいのよ」

ともえ「そうだよね」

コモド「ささ、まだまだ続けるわよ~泥消し!変なカラカルもどきが出たってコモドお姉さんの尻尾と眼光でイチコロなんだから☆」

ともえ「はあ…」

 

☆・ちゅうかなおみせ

 

 たいおぱらなおみせ。

 回転するテーブルが多くあって夢の持ち主はきっとこのテーブルに憧れていたことでしょう。

 

ともえ「こないだの…」

コモド「あれはもしかして」

 

 カラカルもどきではあったけど今回は違った。

 回るテーブルのひとつに座っているのはともえの前によく現れる方の橙猫=カラカルだった。

 

橙猫「アハハハハ…」

 

 ただただテーブルを回しているだけだった。

 そしてこっちに気づけば当然寄ってくる。

 コモドは何も言わず御札を投げつけた。

 橙猫のおでこにあたったそれはピカーンと光出して消えた。

 

コモド「残りカスはああしたってどうしようもないけれど、少しはマシになったかな」

ともえ「ねえコモドさん、アレがなんなのか知ってるんですか?アンゼさんもなんかよくわからないこと言ってたし」

コモド「アンゼって子が誰かは知らないけど――」

 

 コモドは椅子に座ってからカゴを出した。

 

コモド「その話は肉まんでも食べながらにしない?ほら、座って」

 

 カゴから肉まんと水筒とティーカップを取り出す。

 ともえはコモドの隣に座って肉まんに手を付けようとしたが…。

 

コモド「大丈夫。ここの食べ物じゃないから。なぁに?私が用意した食べ物を食べれないってわけ?まあ、嫌いならば仕方ないけど…」

ともえ「いや!嫌いじゃないです!むしろ、好きだった、かも?」

コモド「かも??」

ともえ「昔の記憶がなくて。覚えてないけど肉まんは好きだったなって、なんだかそんな感じがするんです」

 

 肉まんを食べる。

 

ともえ「美味しい。なんだか懐かしい感じがする」

コモド「気に入ってもらえてよかったわ。さて、ちょっとアレについてお話でもしましょうか。ともえチャンはアレのことをどう思う?」

ともえ「うーん…アンゼさんは確か『余計なもの』って言ってたんです」

コモド「アンゼって子はそこそこ詳しいみたいね。彼女の言う通り、アレは余計なものよ。本来生まれるはずのないものがオイナリチャンの手によって切り取られたことでこっちで生まれてしまった泥の塊。多分こんな事になったのは全部悪魔の装置のせい」

ともえ「悪魔の装置?」

 

 コモドは手で小さな四角を宙に描いた。

 

コモド「これくらいの小さい鉄の塊。これがアニマルガールの体に埋め込まれるだけで埋め込んだやつの操り人形になる。これを埋め込まれるなんて想像したくないわね…」

 

 ともえはポップコーンの悪夢を思い出して胸を抑えた。

 ほんのわずかに胸が痛い気がしたからだ。

 

コモド「大丈夫?」

ともえ「大丈夫…ちょっと痛みを思い出しただけだから」

コモド「大丈夫ってレベルの顔じゃないけど」

 

 確かに大丈夫と言えるほどの痛みじゃない。

 なんだろう、この痛みがすごく懐かしく感じる。

 物理的な痛みじゃなくて精神からくる物。

 

ともえ「大丈夫、いつものことだから…」

コモド「ちょっと休んだほうがいいわ」

ともえ「うん…そうする」

 

 椅子を複数並べてともえは素直に横になった。

 変な模様の天井をぼんやりと眺める。

 

ともえ「なんだかこうやってぼんやりと眺めるのがすごく懐かしく感じる」

コモド「ともえチャンはどこまで思い出してるの?」

ともえ「自分が場所を壊すような悪い子で…」

コモド「悪い子で?」

ともえ「一回死のうとしたことがある」

コモド「わーお」

 

 ひとつひとつ自分の言える言葉で思い出したことをコモドに話した。

 コモドは静かにあたしと私の話を聞いてくれていた。

 なんだかすっきりする。心のもやもやが取れたような。そんな気分。

 

コモド「すっきりした?」

ともえ「はい…」

コモド「私はこれでもそういうのの専門家だから、話しやすい場を作るのは得意なのよ」

ともえ「コモドさん、ヒーナちゃ――オイナリサマは元気なんですか?」

コモド「ちょっと元気がないかな。でもともえチャンが頑張ってることを知れば元気になるかも。だから頑張らないとね。大丈夫!オイナリチャンの代わりになるかはわからないけど、私がいるから。少なくともこの夢の中ではね」

 

☆・カラカルのためのパーティー会場

 

コモド「ふむふむ一通りこのエリアは全部消したんじゃないかしら。反応も次行く所で最後のようだし」

ともえ「印とか付けないんですか?」

コモド「忘れんぼさんや心配性の坊やには必要だろうけど、私には必要ない」

 

 ともえから受け取ったマップとにらめっこしながらコモドはそういった。

 

ともえ「次はどこなんですか?」

コモド「ここ、パーティー会場」

ともえ「パーティー会場?」

コモド「ココスキロードだからあるんでしょうね。パーティーは例外除いて誰もが好きな行事よ。美味しいもの食べれるんだから」

 

 豪華な装飾がよく目立つこれまたキラキラとした外観。

 カラカルの顔がドドンと印刷された垂れ幕。本日の主役が誰なのかよくわかりますね。

 

コモド「あれ?開かないわ」

ともえ「開けられるかも」

 

 ともえはさっとペンを取り出してカギを描こうとしたが――

 

王様カラカル「コラコラコラコラー!まだ準備中なんだから入ろうとしないで!」

 

 王様カラカルがすっ飛んできた。

 

王様カラカル「パーティーは今みんなで準備してるんだからはいっちゃだめなの」

コモド「カラカル、私はこの先に用があるの。どうしてもだめ?」

王様カラカル「だめー!そもそもおばさん、招待状持ってないでしょ。だからだめだめだめー!」

コモド「おばさん…?お姉さんでしょ?」

 

 なにか嫌な予感を感じる。

 王様カラカルは小さく悲鳴を上げて、

 

王様カラカル「わ、わるかったよぉお姉さん。招待状上げるから許して」

コモド「それでいいの。それで」

 

 これでそのなにか嫌な予感はいなくなった。

 

王様カラカル「でもまだ準備中だから待っててね!」

ともえ「ねえ、何か手伝うことってない?」

王様カラカル「うーん…あっ、そうだ!パーティーにとってかかせないケーキとジュースを取りに行ってきて!あっちにあるトラック使っていいからさ。それじゃあよろしく~」

 

 王様カラカルはパーティー会場の中へと入っていったがすぐに扉を開けて、

 

王様カラカル「言い忘れていたけど受け取る場所はケーキの看板が目立つお店よ」

 

 王様カラカルが言うトラックというのはこの可愛らしいケーキみたいな装飾がされたあの車のことだろう。

 二人はトラックに乗り込むが、動かない。

 

ともえ「もしかしてこれって、ラッキービーストがいないと駄目なんじゃ?」

コモド「それなら大丈夫!さっきのを使えばいいわ」

 

 御札を取り出すと御札はあの白いラッキービーストへと変化して、ちょこんと接続口に座った。

 

<リンク、カンリョウ>

コモド「ケーキの看板ってさっき見たから場所を探さなくて済みそう。それじゃあ出発よ」

 

 トラックはケーキの看板が目立つお店『オーガスタス』へ向かっていった。



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SECRET-STAGE『マリオネット』

んーん
なつかしい きょくが
ながれてるじゃないか。
あのころは、よかったな。

みんなすきだったもんな。
・・・・・
それにひきかえ、なんだ
こんかいのやつらは、
やっとおわった。
かばんはせいいきだと
ふざけんじゃねェ


 このばみうだちほーに流れ着いてから数ヶ月が経った。

 僕は創造主様から僕とサーバルの思い出の地のひとつ、ゆうえんちを貰った。

 ゆうえんちの主としてすべきことはビーストと呼ばれるフレンズさん達の成り損ないの研究。

 創造主様が用意した実験体を使ってビーストが使えるか見るだけの仕事。

 

「ビーストさん、研究の時間ですよ」

 

 そう言って僕は檻の中にいる成り損ないに挨拶する。

 成り損ないは元気よく返事をしてくれる。

 

「あはは、そんなに元気が良くてもこの檻は壊せないよ。さてと、今日は何をするんだったかな」

 

 研究ノートを読んで振り返る。

 そうか、今日は回復力テストか。

 

「おいで!ビーストテスター達!」

 

 ビーストテスターと呼ばれたロボが現れる。

 僕は今日は回復力テストがしたいと言うとテスター達はビーストを串刺したり燃やしたりしてこの個体はどの位回復するかどうかをテストする。

 この檻がある部屋はビーストの悲鳴しか聞こえない。

 最初はそれを聞く度に罪悪感を覚えることがあったが創造主様のおかげでその気持ちはなくなった。

 ビーストには個体ごとに回復力があって、刺したり焼いたりしても元に戻ろうとするが大量の出血やぺちゃんこになったり、心臓を潰したりすれば当然命はない。

 でも創造主様はビーストに命なんてありはしない、思う存分やれと言ってた。

 ビーストはけものでもヒトでもムシでもさかなでもない。

 瀕死の状態にまでして放置したビーストは徐々に傷を直していく。

 直していく姿は骨らしきものが体から突き出ていたり、真っ赤な血が体から溢れてきたりと生々しくて気持ちが悪い。

 

「ん?なんだい?キュルル」

 

 キュルルの一人が黒の上着を引っ張った。

 

「え?ほんと!わかった、すぐ行く」

 

 キュルルは僕を置いて一人、部屋を出ていく。

 

「ついに出来るんだ。サーバルを作るぞ」

 

 今の僕の願いは僕だけのサーバルを作り出して一緒に旅することだった。

 

 

 ビーストテスターに後を任せ、僕は研究室へとやってきていた。

 研究室には僕が触っちゃいけないものがたくさんあるけれど、ここを拠点としているクルルは触っていいらしい。

 

「かばん、やっと来たか」

「遅れてすいません。さっそく始めましょう」

「あいよ」

 

 ケロロフレンズに心なんてない。

 それは心の回路を持たない機械から生まれたフレンズだから。

 クルルは創造主様の言われるがままに研究を続けている。

 

「創造主様から頂いたこのエネミウムを使って今日こそサーバルを産み出してみせよう。まずセルリウムをあるったけ入れろ」

「うんわかった」

 

 棚からセルリウムの瓶を取り出して大きな鍋に注ぐ。

 

「そしてこれだ、エネミウム」

 

 手渡された試験管からエネミウムを取り出して鍋へ。

 後はクルルがカレーを作るような感覚で色々と混ぜて僕だけのサーバルを作る。

 これまで何度も失敗してきた。

 今回こそは、今回こそは成功するはずなんだ。

 

「後は待つだけだ」

 

 下準備を終えたクルルは僕の元へとやってきて二人で鍋を見つめた。

 突然のことだった。

 眩しい光が研究室を一瞬だけ包んだ。

 クルルは慌てて鍋の中を覗き込むと――

 

「失敗かもしれない」

「かも?」

「ああ、とりあえず見てくれ」

 

 クルルに言われて鍋の中を見てみるとそこには緑色のサーバルがいた。

 

「さー、ばる?」

 

 緑のサーバルは僕達を見るなり怯えた顔をして震え始めた。

 

「大丈夫、怖くないよ」

「カバン、こいつは失敗作だぜぇ~?どうするんだ??」

「サーバルは失敗作なんかじゃない!僕のサーバルなんだ」

「それなら良いけどよぉ。調教とかはそっちに任せるぜ」

 

 緑のサーバルは調教という言葉に危険を感じたのか逃げ場のない鍋から出ようとしてた。

 

「大丈夫だよサーバル。調教?なんてさせないししないから」

 

 緑のサーバルは喋れなかったけど、僕を信じようとしているっぽくて嬉しい。

 きっとサーバルじゃなかったとしてもあんな顔を見せられたらかばんだって僕と同じような事をするはずだ。

 かばん…?僕はカバンじゃないか。

 

 

 今日からビーストの研究をテスターとキュルル達に任せてサーバルと遊ぶことにした。

 緑のサーバルなのがちょっと不満だけれど、かばんはそんなこと考えないだろうから自分もかばんであり続けなくちゃいけない。

 ――なぜそう思う?僕はカバンだ。サーバルやラッキーさんと一緒に旅をしたあのかばんではないか。

 

「サーバル、おはよう」

「…」

「もしかしてしゃべれないのかな?」

 

 サーバルは首を傾げた。

 

「とりあえず、仲良くならないとな。ねえサーバル、紙飛行機作ろうか」

 

 用意した折り紙で紙飛行機を折って飛ばしてみる。

 飛ばした紙飛行機をサーバルは目で追いかけた。

 

「作り方教えてあげるから一緒に飛ばそ?」

 

 サーバルになるべく丁寧に紙飛行機の作り方を教えてあげる。

 そして二人で楽しく飛ばした。

 サーバルが作った紙飛行機は上手く折れてなかったこともあってすぐに落ちちゃうことが多かった。

 

「どう?サーバル。楽しい?」

 

 サーバルは笑顔で頷いた。

 その笑顔がとても輝いて見えた。

 僕はこの笑顔を何度も見たいがためにサーバルと遊び続けた。

 サーバルと仲良くなって一緒に旅をするという当初の目的を忘れてまで。

 

 

 時間が経っていくにつれてサーバルは言葉を覚えた。

 そして僕のことをカバンちゃんと呼ぶようになった。

 そこまではよかった。けれど、このサーバルは僕が知ってるサーバルじゃない。

 声が違ったのだ。

 僕が知ってるサーバルはこんな声じゃなかった。

 それでもかばんなら否定はしないはずだ。

 だから僕はこのサーバルを受け入れることにした。

 

「外に出たい」

 

 昼食の時、突然のことだった。

 サーバルが外に出たいなんて言い出したのは。

 

「だったら外に出してやればいいだろ。でも出すならこの中だけにしておくんだな」

「うん、わかったよクルル」

 

 クルルの言う通りに僕はこのゆうえんちの中限定でサーバルを外に出すことにした。

 ここはゆうえんち。

 夢と輝く光が詰まった楽園、かもしれない。

 創造主様が僕のために作ってくれたひとつの箱庭。

 僕とキュルルくらいしか手を付けないアトラクションがピカピカと太陽にあたって光っている。

 

「窓から見てたのがこんなに近くで見れるなんて!」

「ねえ、乗ってみない?」

「え、いいの?」

「うん。何に乗りたい?」

 

 サーバルはメリーゴーランドを指差した。

 

「メリーゴーランドだね。乗ろう」

 

 キュルル達を連れてきていてよかった。

 彼らに僕はメリーゴーランドを動かすよう命令する。

 

「さあ、どれに乗る?」

「えーっとねー、このおうまさんに!カバンちゃんも一緒に乗ろう!」

 

 サーバルはぴょんっとジャンプして馬に乗っかった。

 サーバルが僕に向かって手を差し出した。

 僕はその手を掴んでサーバルの後ろに座った。

 座ったと同時にメルヘン感じる音楽が鳴りながら動き始めるメリーゴーランド。

 

「うわーい!たのしーなー!!カバンちゃんもそうでしょ?」

「うん!楽しいよサーバル!」

 

 ただくるくると回るだけなのにサーバルといるとこんなに楽しくなるなんて!

 本当のかばんも…本当の?僕こそが本当のかばんなんだ。

 自分が本当のかばんだと強く心に刻んでいる内にメリーゴーランドの回転は止まって、サーバルが降りていた。

 

「カバンちゃん!ほら、はやくはやく!次行こうよ!」

「う、うん!行こう、サーバル!」

 

 僕もメリーゴーランドの馬から降りてサーバルの後をついていった。

 

「ゆうえんちっ♪ゆうえんちー!たのしいなぁ~♪」

 

 かわいい。

 サーバルは歌いながら次に何乗ろうか考えているみたいだ。

 

「ねえカバンちゃん!次はあれ乗ろう!」

 

 サーバルが指差したのはローラーコースターだった。

 

「あれに?」

「うん!」

 

 満面の笑顔で僕にそう答えた。

 これはやるしかない。頑張るしかない。

 僕はこういうアトラクションは苦手だった。

 キュルル達が急いでローラーコースターへと駆け出す。

 はやくはやくと急かすサーバル。

 

「ねえ、僕はここで見ててもいいかな~?」

「だーめー」

 

 僕に逃げ道なんてなかった。

 ラッキーさんの顔が乗っかった車両の先頭にサーバルと一緒に座った。

 どこから聞きつけたのかキュルル達が僕達の後ろの席に座ってきた。

 どうやらキュルル達はこういうのが大好きみたいだった。

 ウキウキのサーバルを横目に僕はガタガタと短い山なりのレールを上がっていく車両と同じように震えていた。

 こわい、こわい!

 

「キャアアア!」

 

 サーバルの悲鳴が聞こえる中僕は無言でただひたすら車両のバーにくっついていた。ほんの数十秒だったが勢いが早くて魂が抜けそうになった。

 

「カバンちゃんごめんね。あれ、苦手だったんだね」

 

 サーバルがベンチに座る僕に謝ってきた。

 

「いいんだよ…サーバルが、楽しめればそれで」

 

 キュルル達が飲み物とお菓子を持ってきてくれた。

 

「ありがとう!キュルルちゃん達!」

 

 僕は疲れていたからかお礼は言わなかった。

 お菓子は甘い甘いカスタードケーキ。

 飲み物は黄色くて結局何味かはわからなかったけれど、パイナップルとリンゴの味がした。

 一息つけばもう夕方。

 

「ねえサーバル、最後にあれ乗っていかない?」

「いいね!乗ろうよ!」

 

 向かった先は観覧車。

 僕のお気に入りだった。

 遊園地や遊園地周辺の景色を眺める事ができる。

 僕はキュルルから双眼鏡を受け取ってサーバルと共に乗り込んだ。

 

「わぁ~!ひろ~い!カバンちゃん!ここの外ってこんなに広かったんだね!」

「うん、ここの外にはたくさんのたのしいが詰まってるんだ」

「たくさんのたのしい…」

「双眼鏡使ってみる?」

「どう使うの?」

「こう使うんだよ」

 

 サーバルは僕がしたように双眼鏡を持って遠くを見つめた。

 

「すっごーい!カバンちゃん、あっちに鳥の子が飛んでるよ!」

「え、どれどれ――ほんとだ」

「でしょ!」

「うん!」

 

 夕日が眩しい。

 僕はきっと一生、サーバルと見たこの景色を忘れることはないかもしれない。

 

 

「カバンちゃん!これ一緒に食べようよ!」

 

 サーバルと沢山遊んでいる内にいつの間にか言葉を覚えて喋ってくれるようになった。

 緑のサーバルは部屋にあった料理の写真集の中からカレーライスを指差しながらそういった。

 

「カレーかあ。僕作ったことないんだよね」

「そうなの?じゃあ一緒につくろう!」

「うん。キュルル達に頼んで野菜や肉を持ってきてもらうよ」

「一緒にキュルル達のとこ行くー!」

「わかったよ」

 

 二人でキュルル達の所へ行こうとしている最中、ドロロに会った。

 ドロロは木の棒に荷物が入った風呂敷を結んで持っている。

 

「やあカバン殿。それに、さーばる殿」

「どうしたの?それ」

「ああ、これはでござるな…実は拙者、ここを出ようと思っているでござる」

「そんな…でもこういうかばんは引き止めもせず送り出すはず…悲しいけど、ドロロさんがそうしたいなら」

「…。カバン殿もさーばる殿も元気で」

「うん!じゃあねどろろちゃん!」

 

 心がないと思っていたケロロフレンズの面々がケロロを除いてこのゆうえんちを出ていったのだ。

 悲しいことだけれど、かばんは笑顔で送り出す。

 だから僕はサーバルと一緒に笑顔で送り出した。

 ケロロがなぜここから出ないのかというと――。

 『は?出るわけ無いじゃん。創造主様がプラモデルくれるっていうのに。まったく他の奴らは馬鹿だよね~、こんな楽園みたいなところから出ようとするなんてサ』なんて笑いながら言ってた。

 初めはゲームみたいな会話が多かったけれど段々柔らかくなっていった気がする。

 もしかして彼らに心が生まれたのかな?

 

「それにしても皆居なくちゃうとこんなに広くなっちゃうんだね」

「そうだねサーバル。例え広くなったとしても僕はサーバルと一緒だよ」

「うん、私とカバンちゃんはずーっと一緒だよ」

 

 お互い指切りを交わして、約束し合った。

 絶対にずっと一緒。

 

「やあキュルル達!」

 

 キュルル達はなんだか前より減った気がする。前は結構多かったのに。

 彼らから野菜や肉などを受け取って調理室でサーバルと一緒にカレー作りに奮闘する。切ったり煮込んだりするのがとっても大変で料理ってこんなに難しくて大変なんだというのを思い知ったけど二人で作ったカレーライスはとっても美味しかった。

 

 

 創造主様がいきなり呼び出したので急いで創造主様の部屋へとやってきた。

 

「お、セーバルと一緒か」

「サーバルです」

「そうか。早速だがお前に一つ命令を与える」

「なんでしょうか」

「我らを裏切ったキュルルがいる。そいつを見つけて殺せ」

「殺すん、ですか?」

「当たり前だろう。俺様の楽園にあのような汚物はいらない!俺様の思う通りにならないやつは誰であろうと死んでしまえばいい。あー、いらいらする!あんなゴミみたいなやつが俺様の楽園を歩き回るのが!いいかカバン、あいつは俺様の楽園を汚す最低最悪の怪物だ。それを殺さなければお前のゆうえんちは閉園だ。そんなのは嫌だろう」

「もちろんです、創造主様。僕達の楽園を踏み潰そうとするものは誰であろうと容赦はしない」

「そうだ、その意気だカバン!俺様は別件で忙しいから手は貸せられないがお前やテスターが記録してくれたデータを元にこのセルリアンロッドを開発した。これを使えばこの楽園を平和にできる」

 

 セルリアンの柄が目立つ杖を手渡された。

 この杖には不思議な魅力を感じる。

 きっとこれなら裏切り者を殺せる。

 

「それと研究室にあるウォッチは自由に使え。だが取り扱いには気をつけろ。俺様からは以上だ。出ていけ」

 

 僕とサーバルは二人で部屋を出た。

 

「ねえ、カバンちゃん」

「なに?」

「誰も殺さないよね?」

「いいかいサーバル。僕達がこうしていられるのも創造主様のおかげなんだ。僕はあの人にお礼をし続けなくちゃいけない。だからあの人が殺せと命じたら僕はそれに答えなくちゃいけないんだ」

「人殺しなんてよくないよ!お願いだから私と一緒にまた遊んで」

「これが終わったらたくさん遊んであげるよ」

 

 サーバルは僕の後についてこなくなった。

 ごめんねサーバル。すぐに終わらせるから。

 それまで辛い思いをするかもしれないけど、僕頑張るから。

 裏切り者のキュルルを殺すために!

 

 

 7ページ目に続く… 




かばんちゃんというキャラは聖域で扱うのが難しいキャラという印象。
この作品には二人のかばんが出てくるわけで、一人は本物。
もうひとりはかばんの名を騙るニセモノ。
ニセモノの設定はタイトルにも引っ掛けたことではあるけれど基本的な設定なんかは前に描いて動画にちょっと乗っかった絵から変わってない。
聖域だからこそできるニセモノの設定なので聖域は聖域のままでいてもらいたいと思ってます。
だからかばんはばみうだちほーには来ないし夢の方にも現れない。

これからもよくわからないキャラが結構出てきそうな気がしますがよろしく。
例えば未だに書いてない頭の中だけにしかない作品からスターシステムした過去の亡霊ちゃんとかライドウォッチの力でパワーアップした○○ー○○○リバイブとか


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#07-1『happy bite』

 ホテルへと向かって車は走っていく。

 

オーセン「なぁ、カタカケ。お前カンザシに対して辛辣すぎないか?」

カタカケ「仕事をほったらかしにしてご飯を食べに行くわ、勝手につまみ食いして相手方を困らせたり、私の仕事を邪魔したりとこれだけやられればそれはね」

カンザシ「おいそれどういうことだよ!」

オーアル「まあまあ落ち着いて」

 

 憤慨するカンザシをオーアルはなだめた。

 

オーセン「まあ大体わかったよ。でも私は納得いかないな、どうしようもない奴だからってああもグズとか言うのはさ」

カンザシ「そうだぞ!」

オーセン「…だがお前はもう少し反省しろ!お前が反省した所見せればカタカケだってグズとか言わなくなると思うぞ」

カンザシ「…なら決めた!私、カンザシフウチョウはもうつまみ食いとかしないし、飯食いに行くときはちゃんと言ってからにする!」

カタカケ「守れそうにないな」

カンザシ「信用なさすぎだろ。もっと私を信用しろ!信用するんだ!」

カタカケ「信用しないことを信用してる。それでいいだろ」

カンザシ「(´Д⊂グスン」

イエイヌ「なんだか賑やかになりましたね、ともえさん!」

ともえ「うん、そうだね」

イエイヌ「ともえさん!」

ともえ「え?」

 

 ともえは車を急停止させた。

 後部座席に座るカンザシは勢いで前の座席と座席の間に顔をハサンでしまった。

 

カタカケ「アハハハ…シートベルトをしてないからですよ」

カンザシ「うぐぐぐ、おいともえ…なんで急に止めるんだ…あぇ?」

 

 カンザシが前を見ればそこには立入禁止と書かれた立て看板が無数に建てられている。

 よいしょと引っこ抜いて、

 

カンザシ「なんじゃこりゃあ」

カタカケ「どっかのお馬鹿さん達の嫌がらせでしょう。突っ切りましょう」

カンザシ「突っ切るのかよ!車が傷つくわ!」

?「やいやいやいやい!ここから先はあたい達の組長であるゴリラ様の縄張りだ!通るなら通行料を払ってもらおうか!」

 

 どこからか飛んできたのはアモイトラ。

 

アモイ「とにかくその鉄の塊から降りてもらおうか」

 

 アモイに言われる通りに降りたともえ達。

 

オーセン【おい、オーアル】

オーアル【なに?】

オーセン【これはなんかまずい気がしてきた。このままじゃPPPのライブにいけねぇ】

オーアル【だからどうにかしたいんだよね?】

オーセン【そうだ。私が動くからお前は私に合わせてあのトラを屏風にでもつっこめ】

オーアル【えぇ…】

 

 アモイはともえ達をジロジロと見ながら、

 

アモイ「アルマジロとイヌとトリときてお前は…サルか!しかもサルのくせにいい召し物を着ていやがる。ではこの鉄の塊とこのサルを通行料としていたたくことにする!」

イエイヌ「えっ、そんな!」

 

 風鳥達は微動だにせず事の様子を見ている。

 アモイはともえの腕を掴んでそのまま連れて行こうとする。その時だ。

 

?「そこまでだ!」

アモイ「出やがったな!メガネェ!!」

メガネ「何度も言うようにこの場所はあなたのような野蛮フレンズが仕切って良いような場所ではありません!」

アモイ「なんだとぉ~オメェ…出てこい!ヒョウ姉妹!あたい達の力を見せてやるぞ!」

 

 ヒョウ・クロヒョウのヒョウ姉妹が現れた!

 

ヒョウ「たかがメガネ一人に私らを出す必要なんてありませんぜ姉貴!」

クロヒョウ「そうですよ姉貴!」

アモイ「こいつらにあたいらの恐ろしさを見せてやるのさ!」

「「さすがは姉貴!そこに痺れるぜ!」」

カンザシ「さすがはリアル姉妹、息ピッタリだな。事務所は同じじゃないのに」

オーセン「なにいってんだこいつ」

カタカケ「いつものことです…」

インドサイ「すまない、遅れ…なに!?お前ら…」

 

 インドサイが遅れてやってきてアモイ達を見るなり構えた。

 

アモイ「たかが二体いる所であたい達に勝てるかな?」

 

 今にでも戦いが起こりそうな感じがした。

 今がチャンスな気がした。

 オーセンはオーアルの前でさっと丸まって、オーアルに投げられた。

 あまりにも唐突で突然のものだったのでその場にいる風鳥以外は皆驚いていた。

 投げられたオーセンはスーパーボールのような勢いでポンポンとアモイ達に当たっていく。

 オーアルはその隙をついてともえの手を掴んで車に走って乗せた。

 

オーアル「走らせろともえ!」

 

 オーアルが車に飛び乗ろうとするがアモイに捕まってしまう。

 本当ならアルマジロコンビとともえで車を走らせて、なんとなく察してくれた風鳥がイエイヌを拾って持ってくることを考えた作戦であった。

 なおこの作戦は適当に考えたことであり、失敗する可能性もあったが…失敗してしまった。

 ともえは捕まってしまったオーアルが捕まったことや突然言われた『走らせろ』に混乱して動けずにいた。

 

?「お前ら!いい加減にしろ!どうしてそうこういうことをするんだ!」

 

 ジャージみたいな毛皮を持つゴリラがカンカンでいらっしゃる。

 今にでも腕がアモイ達目掛けて飛んできそうなくらいにカンカンだった。アモイ達はゴリラを見るなり膝をついて許しを請う。

 

「「すいませんっした!」」

ゴリラ「それで、これはどういうことだ?ん?」

アモイ「これはですね…ゴリラ様やあたい達の暮らしをもっと豊かにするべくそこにいる鉄の塊とサルをゴリラ様に献上すべく…」

ゴリラ「メガネカイマン、お前は?」

メガネ「はい!私はこいつらがよからぬことを企んでいると見てインドサイと共に駆けつけました」

ゴリラ「そうか。ではお前らは帰れ」

「「はいわかりました」」

 

 とぼとぼと解散していくアモイ達。

 アモイ達が帰っていくのを見届けてからゴリラは鉄の塊こと車を椅子代わりにして座った。

 

ゴリラ「それじゃあ少し、面を貸してもらおうか」

 

 

 ゴリラのおうちは野外ホールの隣にある荒れた音楽室のような倉庫だった。

 倉庫の中は荒れてる割には楽器類は綺麗に置いてあり、使われた跡なんかもある。

 

ゴリラ「ちょっと汚いが座れる場所はあるはずだ」

カンザシ「よっこらしょ。ゴリラよ、音楽が好きなのか?」

ゴリラ「少し嗜む程度だ」

 

 ゴリラは自分のお気に入りのパイプ椅子に腰掛けた。

 

ゴリラ「ふー。それにしてもすまなかったな。あんなのに絡まれるなんてなんて災難ではなかったか?」

ともえ「大丈夫です。気にしてないですから」

ゴリラ「それなら良いんだが…」

オーアル「自分の仲間なのにそんな事言うの?」

ゴリラ「あいつらは仲間ではない。私があいつらの危機を救っただけでこうなっただけだ。それでなんだが…」

カンザシ「よーしなんとなく言いたいことはわかったぞ」

 

 カンザシはゴリラの肩を掴む。

 

カンザシ「ともえにこの状況をどうにかしてほしいと」

ゴリラ「そうだ!私があいつらを助けてからというものああしてどっちが私の右腕なのかと争っていてな、それのせいでいててて…」

 

 ゴリラはお腹を抑えてうずくまった。

 

オーアル「大丈夫?」

ゴリラ「気にするな…いつものことだ…頼む、このままじゃストレスで死んでしまいそうだ。私が何言っても言うこと聞いてくれないし、頼れるのはヒトであるお前だけなんだ」

 

 コンコンと扉を叩く音がした。

 

イリエ「俺だ」

ゴリラ「…入れワニ」

イリエ「大丈夫か?…おう、随分と賑やかだな」

ゴリラ「聞いてくれワニ。こいつはヒトの子のともえだ。私のストレスの素をどうにかしてくれるらしいんだ」

イリエ「ほう、お前が?」

 

 部屋に入ってくるなりともえの顔を見るのはライダースーツを着たイリエワニだった。

 

イリエ「随分と弱そうだな」

ゴリラ「大切なのは見た目よりも実力だと思うけどな」

イリエ「それもそうだ。お嬢さん、俺はイリエワニだ。よろしく頼む」

ともえ「よろしくおねがいします」

ゴリラ「それでワニ、何のようだ?」

ワニ「また暴れてたぞあいつら」

ゴリラ「はぁ…またか」

 

 ゴリラはお腹に手を当てた。少し痛むようだ。

 

カンザシ「深刻なようだな」

ゴリラ「早くこの痛みからおさらばしたい。お前に頼るしかないんだ。もし何か見返りがないと動けないならそれ相応の見返りを用意しよう…そうだ、ジャパリホテルの宿泊券なんてどうだ?」

ともえ「見返りは、大丈夫です。あたしが役に立つかはわかりませんが、皆で頑張ってどうにかしてみようと思います」

ゴリラ「ああ…本当にすまない…」

 

 

 ゴリラは疲れたのか一眠りするなんて言って眠ってしまったのでともえ達とイリエは外に出ていた。

 

カンザシ「さて」

オーセン「なにか考えあんのか?カンザシ」

カンザシ「いや、なにも」

オーセン「それにしても、めんどくさいのに巻き込まれた気がする」

イエイヌ「いいじゃないですか。ライブまでに間に合えばそれで」

オーアル「ねえオーセン、ライブまで後何日なの?」

オーセン「知らねぇな。他のライブツアーははっきりと日程があるのにこの島のだけは日程がないし、というかそもそもこの島でライブするなんて知らなかったんだ」

イエイヌ「知らなかった?」

オーセン「ライブツアーはゲンブの拠点であるほーとくから初めてそのままりうきうまで順々にライブをしていく。りうきうまで行けばあとはPPPの拠点であるほっかいで終わり!この島は一覧に入ってなかった。そうしたらともえのチケットなわけだろ?ここでやるなんてびっくりだぜ」

イリエ「その、ペパフというのはすごい人気なのか」

オーセン「あぁそうさ!PPPは元々PIPという名前のアイドルグループだったんだが、PPPに改名するって時にスタッフの不祥事だかで解散。その後はセルリアンの暴走とかもあってフレンズが怯えた中で活動しはじめたのが2代目。初代のメンバーはプリンセスを除いて完全に引退。2代目の活動期間は短かったもののそれなりにPPPブームを再熱させた。それから1年かちょっとでかみひこうきの伝説の話通りにヒトの後押しもあって三代目PPPが大・復・活!2代目ブーストも含めて大人気!今ではこうしてライブツアーできるほど大きくなっちゃって…お姉さん大感激!」

イリエ「すごいんだな…」

 

 若干ゃ、いやそれどころではない引きっぷりだった。

 こんなに早口でいらんこと説明されれば誰だって引いたような顔と鬱陶しいと思う顔をするはずだ。

 イリエワニも例外ではなかった。

 

オーアル「ゴメンナサイ。PPPのことになるとオーセンはこうして早口になっちゃって」

イリエ「大丈夫だコウラ。俺は気にしてない」

オーセン「コ、コウラァ?私はオオセンザンコウっていう名前が!」

イリエ「うるせえ」

カタカケ「一先ず、相手方がどういう人らなのか知るところから始めてみませんか?相手方を知ればどうすればいいかわかるでしょ」

オーセン「解決するにも証拠を集めないといけないものな」

イリエ「そうか。ここからならアモイトラの縄張りが近いな」

イエイヌ「えっと、あの息ピッタリだった人達が姉貴とか言ってた人ですか?」

イリエ「ああそうだ。アモイトラは戦闘力はここら辺でも一番でゴリラに心酔する前はここの王みたいなもんだったのに気がついたらああなってた。はっきり言って変わりっぷりは気持ち悪かったぞ」

 

昔のアモイ『ここはあたいのものだ!文句があるなら食い殺す!命令に背くやつは食い殺す』

今のアモイ『ゴリラ様!美味しそうなジャパリまんを持ってきましたァッ!』

 

イリエ「王からいきなり下っ端みたいな動き方して当時はゴリラと二人で顔を見合ってお互いの顔をつねるほどたまげたものだ。そしてあぁ…これ夢じゃねぇんだと思ったわけで」

オーセン「急にキャラ設定変わると読んだり見たりするこっちが一番困惑するんだよな」

カンザシ「メタか!?メタなのか!」

 

 カンザシはオーセンの言葉に過剰に反応した。

 

オーセン「メタじゃねぇ。それは私が愛読してたホラー探偵ギロギロの話だよ」

オーアル「懐かしいね、その漫画」

オーセン「ギロギロの彼女兼パークスタッフのミフユが急にまともになってびっくりしたんだぞ!今まで乳首ポロン、アホ、犯罪に巻き込まれて犯人疑惑持たれたり死体と一緒に寝たりと散々な役回りだったのに!何があったんだよぉ!」

イリエ「お喋りはここまでにしろ、ここからはアモイの縄張りだ」

 

 アモイの縄張りに一歩足を踏み入れた。

 アモイの縄張りは王と例えられるだけあり、何一つともえ達以外の動くものがいないような感じすらある場所だった。




ホラー探偵ギロギロ 自費出版→次代出版(後にちゃんとした所で書籍化された)

パーク初、漫画を出版した漫画家フレンズ タイリクオオカミが描いた有名シリーズ

パーク解放以前に描いた作品をリメイクしたものをホラー探偵ギロギロRとして全5巻出している。
漫画としては金田一少年の事件簿のような作風を持っている物で作者であるタイリクオオカミ本人も『執筆に困ってロッジに籠もっていたらたまたま見つけた金田一少年の事件簿に影響を大分受けた』とコメントしている。
巻を重ねる毎にヒトが読む漫画らしくなったがこれはかばんというヒトのおかげらしい。

現在パーク解放前に出していた物をリメイクした本も含めて14巻発売している。(2XXX年××月△日時点)


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#07-2 あたしらはラッパッパ

 アモイのおうちは王らしく玉座がドドンと構えており、いつもこの玉座に座っているのだろう。

 茂みの中からちらっと顔を出すともえ達。

 イリエワニは木の裏に隠れている。

 

イリエ「アモイはさっきも言ったがゴリラが助けなければ王様だった。いつもああやって玉座に座ってぼーっとしている。ヒョウ姉妹ぐらいしか相手がいないからな」

イエイヌ「友達いないんですか?」

イリエ「望まれた王なら友や家臣がいる。望まれなければああして玉座に座っているだけしかできない。王は一人だけでなれるものではない」

イエイヌ「もしかして、ゴリラさんに絡んでいるのって――」

イリエ「ヒョウ姉妹が来るぞ」

 

 イリエは小声でともえ達に伝える。

 すると本当にヒョウ姉妹がやってきた。

 アモイの顔を見ればとても嬉しそうな顔を一瞬するがすぐにいつもの顔になる。

 

クロヒョウ「姉貴!おやつ持ってきましたぜ!」

アモイ「!?た、助かる…だが、またこれか」

 

 アモイは何かを慌てて隠した。

 ヒョウ姉妹が持ってきたおやつというのはともえがいつぞやの夢で見た見たことのない鎧を身に纏った戦士がプリントされたスナック菓子の箱。しかも開けてある。

 

アモイ「お前ら、当たらなかったからってあたいに食わせるのはな…」

ヒョウ「嫌なら食べなくてもいいんですよ姉貴」

クロヒョウ「そうですよ」

アモイ「いや、食べる」

ヒョウ「一緒に食べましょうぜ、姉貴」

 

 そして仲良くスナック菓子を食べ始める。

 飽きてるような素振りを見せて履いたが嬉しそうにお菓子を食べながらヒョウ姉妹の話を聞くアモイ。

 

クロヒョウ「やっぱり姉貴の力は最高っす!」

ヒョウ「あんなに強そうなセルリアンをワンパンで鎮めるんですから」

クロヒョウ「私も姉貴みたいにあんな力強い技でセルリアンやフレンズを倒したいなあ」

ヒョウ「もっと修行あるのみだ妹よ!」

アモイ「ゴリラ様と比べたらあたいなんて大したことない」

「「いやいや!姉貴の力は十分強いですよ!」」

ヒョウ「ゴリラなんてポーンと一発殴っちゃえば良いんっすよ」

クロヒョウ「そうすれば力に惚れて姉貴の女になってくれる!」

アモイ「姉貴の女とか言うな」

「「はーい」」

イエイヌ「やっぱりアモイさんは友達が欲しいんじゃ…?」

イリエ「俺にはあいつがどう思ってるのかはわからん。だが、あのゴリラが頼ったお前らがそう言うならそうなんだろうな」

 

 カンザシは必要もないのに双眼鏡を用意してアモイたちを観察していた。

 

カタカケ「双眼鏡持ち出して何見てるんです?また余計なもの探してるんですか?」

カンザシ「いやーほら、あそこ。あっ、ともえも見るか?」

ともえ「うん、ありがと」

 

 カタカケに双眼鏡を手渡し、ともえには新しい双眼鏡を渡した。

 カンザシが指差す方を見てみれば隠れてはいるけどここからならバレバレ。

 ピンク色の可愛らしい本がチラチラと見えている。

 

カンザシ「あれきっとアモイの日記か愛読書だ。さっき何かを慌てて隠してたからなにかあると思ったんだ」

カタカケ「人のものを盗み見ようとするだなんて関心しませんね」

カンザシ「うるせぇなあ…」

オーセン「私にも双眼鏡を貸してくれ」

カンザシ「ほいよ」

オーセン「おー…あれか。見かけはああなのに可愛い物持ってるんだな」

オーアル「いいじゃん。ああいう子も女の子なんだよ」

カンザシ「女の子やぞぉ~♪♪」

カタカケ「黙れ」

 

 これ以上見ていた所で進展はないかもしれないと思い始めていた時に、

 

クロヒョウ「それにしてもあのサル、もしかして噂に聞くヒトなんじゃないか?」

ヒョウ「まさか!あんなのがヒトのはずない!ヒトってもっと偉大で賢くてかっこいい奴なはずだ」

アモイ「確かにあんな細い体のやつがヒトだとは思えない。それにヒトってありとあらゆるアニマルを従えて戦わせられるんだろ?恐ろしいやつがあんなヒョロヒョロじゃない」

 

 なんてやり取りがともえの耳に入ってきた。

 

ともえ「…」

イエイヌ「大丈夫ですともえさん!ともえさんはヒトですよ!」

ともえ「うん、そうだね。うん」

 

 イエイヌの優しいフォローが眩しい。

 

イリエ「なあ、どうしてあいつらがあんなにヒトの事持ち上げてるんだ?」

オーアル「かみひこうきの伝説ですよ。あの詩、結構流行りましたから」

イリエ「あぁ…詩か。あいにく俺はそういうのに疎くてな。よくわからん。だからなのかな、あいつらがヒトに大して大げさなもの持ってるのが不思議に思えたよ」

カタカケ「アモイトラ達を見るのはこれくらいにしておきましょう。これ以上見ていたところであまり意味はないように思えます」

カンザシ「あの本は読まねぇのかよ」

カタカケ「読む気はないです。行きましょう」

カンザシ「ちぇっ」

 

 

イリエ「次はメガネカイマンのところだな」

オーアル「あの人ってどういう人なんですか?」

イリエ「ん?まあ、見た通りというか…言葉使いは綺麗だとは思うがあまり触れたくはない。攻撃的なやつだし」

オーセン「攻撃的?」

イエイヌ「な、なんだか怖そうな人みたいですね…」

イリエ「触れなければ奴は無害だ。だが触れたら最後止められるやつなんてここら辺にはいないだろうな」

カンザシ「そんな奴がゴリラの右腕がどうので争ってるわけだろ?一体何したらそういうのに好かれるんだ?」

イリエ「アモイがどうだったかは知らないが、メガネカイマンなら知ってるぞ。あいつはよくゴリラの演奏を聞きに来るんだ。あいつは今回の一件が起こるまでずっと一人だったから寂しかったんだろうな。あいつの適当な音楽聞いて救われたとか言ってたっけな。ある日音楽を聞きに来たら」

オーセン「あのアモイトラが来て騒がしくなったと」

イリエ「そうだ。あいつは自分の楽しみが取られたのとうるさい事に憤慨して右腕がどうのってアモイと争うようになったんだろうな」

カンザシ「トラだけに!」

カタカケ「黙ってろ」

 

 メガネカイマンはイリエが言うには孤独で寂しいと感じている子。

 それは彼女の気性が荒いことが関係しているようで、彼女の縄張りはどこか寂しげでアモイとは違って近寄りがたい雰囲気があった。

 メガネカイマンのおうちは薄暗く感じる池だった。

 

メガネ「くぅぅぅ!あのクソトラめぇ!」

インドサイ「うぉっ!?」

 

 メガネカイマンはともえ達の目の前にあった大きな木を拳で叩き割った。

 

「「うわあああ!」」

メガネ「なっ!?お、おまえら…!」

イリエ「まあまて落ち着けメガネ。こいつらはゴリラの客だぞ。こいつらを傷つけると…?」

メガネ「はっ!それはいけない。インドサイ!お茶を!」

 

 さっきとは打って変わって優しい態度でともえ達に接してくれているメガネカイマン。

 おしゃれなテーブル掛けがかけられているテーブルにお茶とお菓子、それから照明を用意してともえ達を座らせる。

 

メガネ「さっきはすいませんでした…」

イリエ「構わないが、こいつら震えてるぞ」

ともえ「コ、コロサナイデ…」

イエイヌ「…」

 

 ともえとイエイヌはガクガクブルブルと震えている。

 

カンザシ「女と子供の肉は柔らかくて美味いと古事記にも書いてある」

カタカケ「書いてません」

メガネ「大丈夫ですよ、私怖くなんてありませんから」

オーアル「まるでギロギロに出てきた怪人みたいだぁ…」

オーセン「あー、あんなのいたなあ。確か…鏡の迷路殺人事件の犯人だっけ?」

メガネ「私は犯人なんかじゃありません!」

インドサイ「そうです!強いメガネさんがそんなことするわけありません!」

オーセン「わーかってるって!」

 

 オーセン達は平然とお茶を飲んでいる。

 

カンザシ「大丈夫かともえ、イエイヌ。安心しろって、私がいるんだ。何かあればこの私がぎったんぎったんにしてやるから」

ともえ「頼もしい…!」

 

 ともえとイエイヌはカンザシの言葉でなんとか落ち着いた。

 ポテトチップスとポッキーをつまみながら話を始める。

 

メガネ「なんであんな所でコソコソ見てたんですか?」

イリエ「ゴリラがこいつらにお前らの争い止めてきてほしいってお願いしたんだ」

メガネ「!?私、ゴリラさんに迷惑かけてたんですね…」

インドサイ「メガネさんが迷惑かけてるはずがないですよ!」

メガネ「いや、かけてるわ…ほんとごめんなさい。私のせいでゴリラさんに迷惑かけてるの知らなくて。私はただあの素晴らしい世界をアモイっていう野蛮なフレンズに奪われたくなくて…」

イリエ「そうか…」

メガネ「もし許されるなら…なんでもやります!まだ嫌われたくないんです!」

カンザシ「な(ry」

 

 カンザシは粛清されました。

 

 

 なんでもやってくれるというならアモイの説得をするために一緒にやろうということになった。

 インドサイはメガネがそういうならと快く引き受けてくれた。

 

メガネ「ごめんなさい!私、ゴリラさんのこと考えてませんでした…」

ゴリラ「いいんだ。謝ってくれただけでいい。これからも仲良くやっていこうではないか」

メガネ「…はい!」

オーセン「これでまずはひとつ解決したな」

カタカケ「後はアモイトラさんだけですね」

オーアル「だけど、何するつもりなの?」

ともえ「うーん…」

カンザシ「私にいい考えがある」

 

 カンザシは眼をキラキラさせながら言った。

 カタカケはすごく、呆れながら言った。

 

カタカケ「で、どういう考えがあるの?」

カンザシ「それはな、ともえをこの一帯のボスとして立たせることだよ」

ともえ「は?」

カンザシ「いいか、あいつらはヒトのことを動物を自由自在に操れて賢くてかっこいい恐ろしい奴だと勘違いしている。私らはその勘違いを使ってアモイ達をねじ伏せてゴリラの腹痛をなくす。ともえにはフレンズを従えるかばんよりも恐ろしくて強い存在を演じてもらう。力比べで私達がアモイを倒し、ともえに『ここら辺の一帯はあたしのものだ!あたしは争いをやめて皆仲良くしてほしいと願ってる!』とでも言ってアモイを説得しろ。ああいうやつは自分より強いやつの言うことを聞くものだ」

カタカケ「悪くないかもしれませんね」

カンザシ「だろぉ!衣装はこっちで集めるからお前は野外ホールを衣装に合った物に装飾してくれ」

オーセン「それで成功するのか?」

カンザシ「大丈夫だ。このフウチョウがいるんだぞ。成功するのは決まったものさ。どーんと大船に乗った気でいてくれ!」

イエイヌ「なんだか、すごいことになっちゃいましたね。私、ともえさんの役に立てるように頑張りますね!」

ともえ「うん、頼りにしてる」

 

 

オーアル「これでいいの?」

オーセン「これ、中々悪くないな!」

 

 カンザシがたった30分程度でかき集めた衣装を身にまとうともえ達。

 その衣装を着ることで王であるともえの家臣としているような感じが出る、らしい。

 単純にカンザシがやりたかったからの一言で片付けられてしまうことだった。

 

ともえ「うーん…なんだか初めて着るのに初めて着た感じがしないな」

イエイヌ「ともえさん!よく似合いますね!」

 

 着替えた自分の姿を鏡で見てともえは呟く。

 その姿は夢とほぼ変わらぬ制服姿。しかし一つ違うところは制服がアンゼと同じくスケバンっぽいところだった。

 

カンザシ「それじゃあ行こうか。ともえ、教えた通りにやるんだ」

ともえ「わかった」

カンザシ「成功するおまじなーい♪くるくる」

 

 くるくるといつかのようにともえの前で踊った。

 これがカンザシなりのおまじないだったようだ。

 

ともえ「行くよ、みんな!」

「ああ!」「はい!」「いくぞー!」「おう!」

 

 野外ホールへと向かえばそこにはゴリラが呼んでいたアモイとヒョウ姉妹がいた。

 

ヒョウ「誰かと思えばお前らか」

クロヒョウ「この間の服はどうした~?」

ともえ「アモイトラ!あたしはともえ、ヒトであり、フレンズを従えるラッパッパのリーダーだ!ラッパッパのリーダーとして今日からこのゴリラとメガネカイマンの縄張りはあたしのものだ!後はお前だけだアモイトラ!私という存在に跪き、縄張りを明け渡せ!」

アモイ「ゴリラ様を倒しただと?許せねぇ…!ヒョウ姉妹!」

 

 ヒョウ姉妹がともえ目掛けて飛びかかろうとしたが毛皮の上着を羽織ったカタカケと黒いスカジャンを着たカンザシに阻まれてしまう。

 

カンザシ「フヒヒ…怒ってる?」

カタカケ「我々のリーダーに手を出すな」

ともえ「あたしは戦いは好きじゃない。だからこそ勝負しよう。お互いの縄張りと意地をかけて」

アモイ「誰がそんなものに乗るか!」

ともえ「いいのか?お前が敬愛しているゴリラはこの誘いに乗ってくれたんだけど…」

アモイ「く…」

ともえ「お前が乗らないのは勝手だ。乗らなかったらゴリラはお前のことを嫌うだろうな。戦いを好む野蛮なフレンズだと、お前を蔑むだろうな」

アモイ「…いいだろう、その勝負、乗った!」

 

 こうしてラッパッパ対アモイ軍団の縄張りと意地を賭けた戦いが始まろうとしている!

 一方イエイヌはともえのノリノリの芝居に驚いていた。



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#07-3『ぽんこつブルース』

ともえ「勝負はドッジボール、3対3で勝負だ」

アモイ「こっちの人数に合わせてやってくれるのか」

ともえ「当たり前だろ。一方的な勝負は見ていてつまらない」

 

 とてもとてもしっくりと来る言葉の一つ一つはきっと私の口調はこんな具合に近かったのかもしれない。

 あたしとは真逆の、逆さまの存在。

 カタカケが柔らかいボールを取り出してあたしの方へと投げる。それをしっかりと拾って、

 

ともえ「このボールを使う。柔らかいぞ」

 

 そう言ってアモイに投げる。

 アモイ達はボールを触って確認する。

 

ヒョウ「これなら当たってもそこまで痛くないな!」

クロヒョウ「確かに…」

アモイ「おいサル、ドッジボールとはどういうルールだ?」

カタカケ「ドッジボールはコートの中にいる人をコート外や中からボールを当ててアウトにしていき、相手チーム側のコートに誰もいなくなったら勝ちです」

クロヒョウ「つまり、こいつら全員ボールで当ててそのコートって所から追い出してしまえばこっちの勝ちでいいんだな」

カタカケ「その通りです。我々は人数が多いので誰を出すかを決めますが、そちらは何も準備しなくて結構です」

カンザシ「さーて、リーダー。誰を出す?」

ともえ「オオセンザンコウ、オオアルマジロ、カンザシフウチョウ、よろしく頼む」

オーセン「任せろ」

オーアル「りょうかーい」

カンザシ「仰せのままに」

 

 

 野外ホールのステージを贅沢にドッジボールのために使う。

 外野はカンザシとアモイ。

 カタカケが少しだけ空を飛び、そこからボールを落とす。

 オーアルとクロヒョウが飛び上がり、ボールを掴もうとするが二人はぶつかってヒョウのほうへ。

 

ヒョウ「よしっ!」

 

 ボールを拾ったヒョウはオーセン目掛けて投げるが避けてアモイへ。

 アモイの力のこもった一球がオーアルに目掛けて投げる。

 オーアルは自分の力を解放させてアモイが投げたボールを掴んでみせた。

 

オーアル「えぇい!」

ヒョウ「アァウ!」

 

 オーアルの投げたボールはヒョウに当たってアウトになった。

 

オーセン「よっしゃあ!あとはクロヒョウだけだ!」

ヒョウ「負けんなよ!クロヒョウ!」

クロヒョウ「わかってる!」

カタカケ「では仕切り直しで」

 

 もう一度、カタカケが飛んでボールを落とす。

 

クロヒョウ「次は逃さない!」

 

 クロヒョウは独特なポーズを決めた。

 それに何の意味があったのか、すぐにわかった。

 

オーアル「ヒィッ!?」

 

 飛び上がったオーアルをその独特なポーズで驚かせ、判断を鈍らせたのだ。

 

クロヒョウ「もーらいっ!でやぁ!」

 

 クロヒョウの投げたボールはオーアルのお腹に当たり、アウトになった。

 オーアルはオーセンに向かってごめん、と一言。

 

オーセン「いいんだ。後は任せろ。オーアルはカンザシと一緒にサポートしてくれ」

オーアル「うん」

クロヒョウ「これでお前はひとりだ」

オーセン「ひとりじゃない。仲間がいる、ここまで来たら負けられないでしょ。だからクロヒョウ!お前には負けてもらう」

クロヒョウ「ふん!減らず口を!」

カタカケ「仕切り直していきます」

 

 最後だ。 

 カタカケがボールを落とす。

 クロヒョウはオーアルを倒したポーズを決めるが、オーセンには効かなかった。

 自分があのポーズで仕留められるとぬかしていたクロヒョウは一歩遅れ、オーセンにボールを取られてしまう。

 オーセンが投げたボールはクロヒョウに避けられカンザシのほうへ。

 

カンザシ「待ってました!」

 

 投げられたボールを掴んでオーセンではなく、アモイに目掛けて投げた!

 

アモイ「高速…、無影殴打券!!」

オーセン「うぉっ!」

 

 間一髪だった。

 ボールが破裂しそうなくらいの一撃を間一髪で避けれるとは。

 

オーセン「助かった…」

 

 アモイの力がこもったボールはクロヒョウでは掴み取れずカンザシの手の中へ。

 カンザシはオーアルに渡して投げさせた。

 

オーアル「行くよ!オーセン!」

クロヒョウ「させるかー!」

 

 クロヒョウはまたポーズをとって妨害しようとするがカンザシの眼差しに恐怖して三度目も成功しなかった。

 

オーセン「サンキュー!終わりだ!」

 

 ボールを軽く上に投げて、自分もボールを追いかけるように飛び上がり回転しながら尻尾でクロヒョウ目掛けてボールを叩きつけた。

 アモイほどではないが威力は付いている。

 クロヒョウは避けたがステージ上に叩きつけられたボールが跳ね返って当たってしまった。

 

カタカケ「勝負あり!勝者、ラッパッパ」

オーセン「やったぁぁ!」

 

 

アモイ「負けた、さあ好きにしろ…」

クロヒョウ「姉貴!こんなところで諦めるんですか!」

ヒョウ「そうっすよ!ここで諦めるなんて姉貴らしくありません!」

アモイ「負けたんだからしょうがないだろ。なんだ文句あるのか?」

ヒョウ「こいつ戦ってないじゃないですか!」

クロヒョウ「姉貴はしっかり戦ったのにずるいぞ!」

カンザシ「知らないのか?ヒトはこうして動物を使役していたんだ。こんなガリガリな体でもこの体より数倍も強く、大きい動物を手駒にしてきた。(半分ウソではあるがな)」

 

 カンザシの言葉にヒョウ姉妹は恐怖した!

 こんな弱っちいやつでもこんなに強いフレンズを従えられるんだから。

 

ヒョウ「しっ、しつれいしました!ともえ様!」

クロヒョウ「我らはあなた様のものでございます…!」

ともえ「ヒィ」

「「さあ、なんなりと申してください」」

ともえ「えっと」

 

 ともえはカンザシを見る。

(さあ、言った通りに宣言してやるんだ!)

 そういう眼差しを送る。

 

ともえ「皆仲良くしろ。争うのなんてくだらない。ほら、ゴリラとメガネカイマンと握手して仲直り」

ヒョウ「はい!」クロヒョウ「わかりましたっ!」

 

 目の前でゴリラとアモイ軍団の仲直りが始まる。

 

イエイヌ「これって解決したことになるんですか?力でねじ伏せるなんてやってることひどいというか…」

カタカケ「私もそう思いますよ。でもよく見てください。仲直りの場を設けたことで前より良くなっていませんか?」

 

 カタカケが言うように仲直りの場を設けた事でさっきまでのが嘘みたいに仲良くなっているような気がする。

 

ゴリラ「アモイトラが出したあの技かっこよかったぞ!」

アモイ「ほんとか!?なあ、今度一緒にドッジボールやろうぜ!」

ゴリラ「もちろんだ!」

メガネ「そ、それは私も入れてもらえるんでしょうね!?」

ゴリラ「当たり前だろ」アモイ「やろうぜ」

メガネ「…!ありがとう!」

ヒョウ「姉貴が出るなら」

クロヒョウ「我らも参加するぞ!」

インドサイ「私だって!」

カタカケ「ね?」

イエイヌ「長く続けばいいですね」

オーセン「そこらへんは大丈夫だろ。ヒトというリーダーの下につく同じ仲間同士なのだから」

オーアル「上下とかそういうのなくなったってことでいいのかな?」

オーセン「ま、そんなとこだな!さ、私らはPPPのライブへレッツラゴーだ。ほらいくぞほらいくどー」

イエイヌ「ふふふ」

ともえ「ゴリラちゃん、みんな、これからもずっと仲良くいてね」

「「…」」

 

 素のともえに驚いたアモイ達だったが、

 

アモイ「ああ!もちろんだあたい達はともえ様の仲間なのだから!」

メガネ「何か大変なことがあったら呼んでください。助けに行きますから」

ヒョウ姉妹「我らもいるぞー!」

インドサイ「ちょっと!」

 

 ヒョウ姉妹がインドサイの肩を掴んで寄せた。

 

ともえ「よし描けた!」

イエイヌ「なーに描けたんですか?」

ともえ「ないしょ」

イエイヌ「教えて下さいよー!」

ともえ「いーやーだー!」

ゴリラ「お前には助けられたな」

ともえ「いやいや、助けられたかどうかわからないけど、解決したんならよかった」

ゴリラ「ほらお礼だ」

イリエ「ほうこの近くにあるじゃぱりほてるの招待券か。良いものを上げるんだな」

ゴリラ「まあな、私にできる最大のお礼だ。受け取ってくれ」

ともえ「うん、じゃあありがたく」

 

 ともえはゴリラからジャパリホテルの招待券を受け取った。

 

ゴリラ「ジャパリホテルはここを真っすぐ行った先にある。すぐにわかるさ」

イリエ「俺の友達を助けてくれてありがとう。俺にはあんなことできそうになかった。さすがはヒトってところだな」

ともえ「いやいや!あたしはそんなすごいものじゃ」

イリエ「十分すごいと思うがな」

 

 

アモイ「何かあったら呼んでくれよな~!」

ヒョウ姉妹「お達者で~!」

 

 ゴリラやアモイ達に見送られてともえ達はジャパリホテルへと向かった。

 カンザシは車についているボタンを押して音楽を流し始めた。

 車から音楽が流れる。

 ぽんこつブルースというタイトルの歌が。

 

カンザシ「さっきの奴らにピッタリの曲かもな!」

カタカケ「そうですか?」

ともえ「なんだかこの歌声、どこかで聞いたような…」

オーセン「もしや歌で思い出しちゃう系か」

ともえ「でもなんだか思い出せそうにない」

 

 ともえは思い出せないことについて考えるのを止めてさっき描いた物を思い出していた。

 カンザシの提案で着ていた服装に身に纏った自分たちの絵だった。

 初めて自分を描いた気がするからともえはイエイヌに恥ずかしくて見せれなかったのだ。

 

オーアル「ねー、何で脱がなかったの?」

オーセン「これが気に入ったのさ」

オーアル「そっか」

カンザシ「カタカケはすぐ脱いじゃったよな。似合ってたのに」

カタカケ「あんなのは似合ってません!」

カンザシ「またまた~すげー似合ってたぜ!」

 

 オーセンとカンザシだけがさっきのままで他は皆元の服に着替え直していた。

 ぽんこつブルースの曲を聞きながらともえはホテルへと向かった。

 



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#07-4『何かいい事きっとある』

イエイヌ「あれが、ホテルですか?」

オーセン「それっぽいな」

 

 ピロピロと車から流れてくるゾンビの歌を聞きながら、ともえは目の前に見える大きな建物に向かって車を走らせていた。

 パークの移動は基本的に乗り物を経由しないとやっていけないので綺麗で通りやすい道がたくさん作られている。

 

さくら「ソロソロジャパリホテルニツクヨ」

イエイヌ「ホテルってどんなところなんですかね?私、そういう所行くの初めてで…」

さくら「ジャパリホテルハコノアタリデイチバンオオキイシュクハクシセツダネ。アニマルガールトスタッフガイッショニナッテカンガエタリョウリヲタベタリ、オフロニハイッテアタタマッタリ、ツカレタカラダヲヤスマセタリデキルヨ」

イエイヌ「へー、フレンズとスタッフさんが考えた料理ですか…ちょっと楽しみです!」

カンザシ「私もそう思うよ」

カタカケ「食うことしか考えていない…」

 

 

 ジャパリホテルと名付けられた洋風のホテルが大きく構えていた。

 決してどこぞのホテルと違って海の近くにあるわけではないので沈むことはない。

 万が一沈むようなことがあればその時はラッキービーストによる避難誘導があることだろう。

 

オーセン「ヒャーッ!大きい」

 

 中に入れば広いロビーに豪華な装飾。

 

オーアル「…すごい」

イエイヌ「ここがホテルなんですね!」

ともえ「綺麗だ」

 

 チンッ!とベルを鳴らすカンザシ。

 

カンザシ「アッ、テンションプリーズ!!」

 

 中々来ないのでベルを連打しまくる。

 

カタカケ「こらっ遊ぶな」

カンザシ「正解は――」

オオミミ「遅くなってゴメンなのね!」

 

 オオオミミギツネは受付にひょこっと出てきてベルを引っ込めた。

 

カンザシ「いったぁ!」

 

 思いっきりベルを叩くつもりが引っ込められたせいで机を叩くことになりカンザシの腕に痛みが走る。

 

オオミミ「大丈夫?」

カンザシ「おおう!大丈夫だ」

オオミミ「ようこそ!ここはジャパリホテルなのね!えっといちにーさんしー…ろくね!どの位いるつもりなのねん?」

カタカケ「PPPのライブが終わるまで」

オオミミ「ああ!PPPのライブね。最近ここに来る子達皆それ目的多いのねん。PPPライブは2週間後なのねん。だから二週間滞在にしておくねん。延長する時は言ってねん」

カンザシ「部屋はスイートを頼む」

ともえ「あっ!招待券!」

 

 カンザシがともえからゴリラがくれた招待券を勝手に取り上げていたようで、ともえは慌ててバッグの中を見ればそこにはPPPのチケットとスケブと壊れたカメラしかなかった。

 

オオミミ「…これ、スイートじゃなくて普通の部屋への券なのね」

カンザシ「Σ(゚д゚lll)ガーン」

オオミミ「でもどの部屋もスイートみたいなもんだから安心してほしいなのね!」

カンザシ「やったぜ」

オオミミ「さっそくご案内するのね~!6名様ごあんなーい!」

カムチャ「はいはーい!荷物持ちまーす」

 

 カムチャッカオオヒグマがやってきてともえのバッグを持って部屋へと向かおうとする。

 

オオミミ「ささ、ついきてなのね!」

 

 オオミミに付いていくとエレベーターに乗って3階へと上がっていく。

 エレベーターにガラスがありそこから下の階層を見ることが出来た。

 

イエイヌ「ともえさん!上がっていきますよ!」

ともえ「そうだね」

オオミミ「イヌのお客様はこのエレベーターに乗るのが初めてなのね?」

イエイヌ「はい!ここへ来ること自体も初めてで」

オオミミ「いい思い出作れるように支配人として頑張るのねん!だからよろしくねん」

イエイヌ「はい!」

 

 

オオミミ「ここがお客様のお部屋なのね。人数多いからこのファミリールームにしてみたのね。きっと気に入ってくれるはずなの」

 

 カギを使ってドアを開ければそこには小綺麗な内装が広がっていた。

 かけられている絵画はどれもアニマルガールの絵だった。

 

オーアル「ふかふかだー!」

オーセン「いやっほー!」

 

 ぴょんぴょんとベッドの上を飛び跳ねるオーセンとベッドを触るオーアル。

 

オオミミ「気に入ってもらえてよかったのね。でもあんまり跳ねすぎると危ないからほどほどにするのね」

オーセン「はーい!」

カムチャ「それじゃここに置いちゃうねぇん」

 

 カムチャはともえのバッグを優しく置いた。

 

カタカケ「ともえさんの荷物持ってくれて感謝します。これつまらないものですが…」

カムチャ「わーお!これがチップなのね♡初めてもらっちゃった☆」

カタカケ「それはコインチョコなので…」

カムチャ「コインチョコでも嬉しいわ!ありがとね☆お客様」

オオミミ「食事は一階の食堂に来てほしいのねん。あと、一階にはゲームコーナーもあるから興味あったら行くといいのねん。もし何かあったら一階に誰かしらいるから声かけてほしいのねん。それじゃあゆっくりくつろいで言っでくださいねん!」

 

 オオミミとカムチャは部屋を出ていった。

 出ていったと同時にベッドに寝っ転がるカンザシとオーセン。

 

「「気持ちいい…」」

カンザシ「お前も運転しっぱなしとアモイ達とのやり取りで疲れただろ、少し寝たらどうだ?」

ともえ「寝るのはゲームコーナー行ってからかな。なんだか行きたくなっちゃって」

カンザシ「そうか。私は寝る。夜に備えてな」

イエイヌ「私がともえさんのお供します!」

オーアル「私もゲームコーナー行くよ!」

オーセン「私もカンザシと同じく休む」

 

 ともえはバッグを持たずにイエイヌとオーアルと一緒にゲームコーナーへと向かった。



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#07-5 歪んだ鏡に映るモノ

☆幸せ届けてヒーナちゃん!フレンズVer☆
 ボタンを叩いて白黒の世界に色をつけろ!
 モノクロになってしまったパークをフレンズ達と共に演奏会で色を付けてもとに戻すゲーム。
 収録曲は45曲。オリ曲は10曲で20曲が発売元の会社のゲームソングやBGMから来ている。
 残りの15曲はPPPやパークでデビューした歌ったり奏でたりできるフレンズの楽曲であり、ステージに出てきて演奏してくれるフレンズのひとりとして出てきてくれる。


ともえ「ゲームコーナー!」

 

 ともえの眼がキラキラと輝く。

 いくら旅館レベルのラインナップと言えど、懐かしく感じる筐体に触れるのはともえからしてみれば興奮物である。

 これはあたしとしてではなく私としての興奮。

 

イエイヌ「結構ありますね。ともえさんは何をやりたいんですか?」

ともえ「うーんそうだなあ…」

 

 ともえはコーナー全体を見回して何のゲームがあるか見ていく。

 レース、クイズ、UFOキャッチャー、じゃんけん…。

 

オーアル「私はとりあえず、じゃんけん!」

<ジャンケンポンっ!>

 

 ボタンを押してじゃんけんするゲーム。

 オーアルは適当にチョキのボタンを押す。画面に映し出されたのはグーでオーアルの負け。

 

オーアル「あっちゃあ~負けちゃった。よし次のゲームでも探すかな」

 

 オーアルは一人でやりたいゲームを物色し始めた。

 ともえはともえのペースで何をしたいかじっくりと見て回って…見つけた。

 

ともえ「そうか、ヒーナちゃんは…」

 

 ともえはあの時夢の中のヒーナ――、オイナリサマが言っていたことを思い出していた。

 

『ヒーナ、ちゃん…?なんだか懐かしいかも』

ヒーナ『そうだろうそうだろう。なにせお主の記憶に強く残っていたキャラクターなのだからなあ』

 

 そう、あの時ともえはその姿、その名前の響きを懐かしいと思った。

 

イエイヌ「どうかしたんですか?」

ともえ「これやるよ――あっ、でもお金がないんだった」

 

 かわいいピンク色の筐体の前でお金がないことを思い出してやることをやめようとするともえ。

 そこに遠坂凛のお面をつけたヒトらしき何かが現れてともえの服の裾を引っ張った。

 

ともえ「な、なに?」

 

 お面の人は首を縦に振って、

 

お面「コインなくても遊べます。僕達がそういう風に弄ったから」

ともえ「弄った?」

 

 お面の人は頷いて、筐体のボタンを押した。

 

お面「ほら」

ともえ「ありがとう!」

お面「このゲーム二人で遊べるから、そこのイヌと一緒に遊べるよ」

 

 そう言ってゲームコーナーから去っていった。

 

ともえ「やろっか二人で」

イエイヌ「はいっ!」

 

 イエイヌは大喜びでともえの隣に立った。

 

ヒーナ<曲を選んでね!>

 

 沢山の楽曲の名前が画面いっぱいに表示される。

 それをともえは慣れた手付きで選ぶ。

 

ともえ「イエイヌちゃんは何の曲がやりたい?」

イエイヌ「そうですね…あっ、これなんてどうですか?」

 

 ジャパリX団『ヨビダシファンタジア』

 ゴシゴシ×ラクラク『みんなであらう!』

 エゾ☆えぞ『らっこなべ』

→Desmodus『足跡』

 

ともえ「じゃあイージーでやろうか」

イエイヌ「はいっ!」

 

 足跡という楽曲が筐体から流れ始めてる。

 ともえは慣れた手付きでポタンを叩いて点数を稼いでいく。

 イエイヌはともえの動きを見様見真似で押して、慣れてきたのか楽しそうに叩く。

 

<成績発表~♪これだけ良いとヒナが大好きなうにゅ~が美味しく感じるの!>

 

イエイヌ「ともえさんすごいですね!私は、やっぱりこういうのやったことないですからまずまずといった…」

ともえ「そんなことないよ!イエイヌちゃんも十分良い点取れてるよ」

イエイヌ「ほんとですか!嬉しいですぅ」

 

<もう一曲遊べるの!>

 

ともえ「じゃあ、次はあたしが選んでいい?」

イエイヌ「モチロンです!」

 

 ともえは楽曲の中から『ヒナイチゴのように』という楽曲を選んだ。

 ヒーナちゃんのテーマBGMのようなもので特別演出が始まる。

 白黒のヒーナが一人で演奏して色を取り戻していって、制服姿の女の子に褒めてもらうという内容のムービー。

 出来の良い映像が流れていくなか、ともえは体になにか違和感を感じ始めた。

 その違和感が何なのかはわからずそのままボタンを叩いて点を稼いでいく。

 曲を進めていく毎に違和感は徐々に大きくなり、胸辺りから痛みが出始めてきた。

 痛みを抑えるためにともえは自身の胸を強く掴んで片手でボタンを押す。曲が終わるまでは途中で切り上げたくなかったームコーナー!」

 

 ともえの眼がキラキラと輝く。

 いくら旅館レベルのラインナップと言えど、懐かしく感じる筐体に触れるのはともえからしてみれば興奮物である。

 これはあたしとしてではなく私としての興奮。

 

イエイヌ「結構ありますね。ともえさんは何をやりたいんですか?」

ともえ「うーんそうだなあ…」

 

 ともえはコーナー全体を見回して何のゲームがあるか見ていく。

 レース、クイズ、UFOキャッチャー、じゃんけん…。

 

オーアル「私はとりあえず、じゃんけん!」

<ジャンケンポンっ!>

 

 ボタンを押してじゃんけんするゲーム。

 オーアルは適当にチョキのボタンを押す。画面に映し出されたのはグーでオーアルの負け。

 

オーアル「あっちゃあ~負けちゃった。よし次のゲームでも探すかな」

 

 オーアルは一人でやりたいゲームを物色し始めた。

 ともえはともえのペースで何をしたいかじっくりと見て回って…見つけた。

 

ともえ「そうか、ヒーナちゃんは…」

 

 ともえはあの時夢の中のヒーナ――、オイナリサマが言っていたことを思い出していた。

 

『ヒーナ、ちゃん…?なんだか懐かしいかも』

ヒーナ『そうだろうそうだろう。なにせお主の記憶に強く残っていたキャラクターなのだからなあ』

 

 そう、あの時ともえはその姿、その名前の響きを懐かしいと思った。

 

イエイヌ「どうかしたんですか?」

ともえ「これやるよ――あっ、でもお金がないんだった」

 

 かわいいピンク色の筐体の前でお金がないことを思い出してやることをやめようとするともえ。

 そこに遠坂凛のお面をつけたヒトらしき何かが現れてともえの服の裾を引っ張った。

 

ともえ「な、なに?」

 

 お面の人は首を縦に振って、

 

お面「コインなくても遊べます。僕達がそういう風に弄ったから」

ともえ「弄った?」

 

 お面の人は頷いて、筐体のボタンを押した。

 

お面「ほら」

ともえ「ありがとう!」

お面「このゲーム二人で遊べるから、そこのイヌと一緒に遊べるよ」

 

 そう言ってゲームコーナーから去っていった。

 

ともえ「やろっか二人で」

イエイヌ「はいっ!」

 

 イエイヌは大喜びでともえの隣に立った。

 

ヒーナ<曲を選んでね!>

 

 沢山の楽曲の名前が画面いっぱいに表示される。

 それをともえは慣れた手付きで選ぶ。

 

ともえ「イエイヌちゃんは何の曲がやりたい?」

イエイヌ「そうですね…あっ、これなんてどうですか?」

 

 ジャパリX団『ヨビダシファンタジア』

 ゴシゴシ×ラクラク『みんなであらう!』

 エゾ☆えぞ『らっこなべ』

→Desmodus『足跡』

 

ともえ「じゃあイージーでやろうか」

イエイヌ「はいっ!」

 

 足跡という楽曲が筐体から流れ始めてる。

 ともえは慣れた手付きでポタンを叩いて点数を稼いでいく。

 イエイヌはともえの動きを見様見真似で押して、慣れてきたのか楽しそうに叩く。

 

<成績発表~♪これだけ良いとヒナが大好きなうにゅ~が美味しく感じるの!>

 

イエイヌ「ともえさんすごいですね!私は、やっぱりこういうのやったことないですからまずまずといった…」

ともえ「そんなことないよ!イエイヌちゃんも十分良い点取れてるよ」

イエイヌ「ほんとですか!嬉しいですぅ」

 

<もう一曲遊べるの!>

 

ともえ「じゃあ、次はあたしが選んでいい?」

イエイヌ「モチロンです!」

 

 ともえは楽曲の中から『ヒナイチゴのように』という楽曲を選んだ。

 ヒーナちゃんのテーマBGMのようなもので特別演出が始まる。

 白黒のヒーナが一人で演奏して色を取り戻していって、制服姿の女の子に褒めてもらうという内容のムービー。

 出来の良い映像が流れていくなか、ともえは体になにか違和感を感じ始めた。

 その違和感が何なのかはわからずそのままボタンを叩いて点を稼いでいく。

 曲を進めていく毎に違和感は徐々に大きくなり、胸辺りから痛みが出始めてきた。

 痛みを抑えるためにともえは自身の胸を強く掴んで片手でボタンを押す。曲が終わるまでは途中で切り上げたくなかった。

 

イエイヌ「ともえさん…」

ともえ「大丈夫、だから」

 

 イエイヌが心配してともえに声をかけるがともえにはそれが届かなかった。

 

<成績発表~♪>

 

 楽曲が終わった。

 それと同時にともえは力が抜けたのかその場に倒れてしまった。

 ともえの耳元に遠くなってきてはいるがイエイヌやオーアルの声が聞こえる。

 あたしを心配する、その声が。

 

 

 気がつけばあたしは私として暗闇の中にある階段を上り続けていた。

 出口の見えないそれをなぜ上り続けているのかはあたしにはわからない。

 ただ心の奥底でそこに辿り着ければ幸せになれると思い込んでいることはわかった。

 なぜ幸せになれるのか。

 なぜこの階段を上ればそこにいけるのか。

 そんなのあたしにはわからない。

 上りきった先に待っていたのは光が漏れている扉だった。

 あたしの手は勝手に動いて地面らしき所に置いてあった紙袋に突っ込んで、ガムテープとハンマーを取り出した。

 そして扉のガラス部分をガムテープで多いきってから思いっきり叩き割ってやった。

 何度も何度も叩き割って綺麗に、人一人入れるくらいの大きさに叩き割れればその入れる穴の先に一人の女の子が立っているのが見えた。

 夕日が眩しく感じる場所に少女は立っていた。

 少女はあたしが叩き割れたことに気がついてこっちに向かって話しだした。

 

「私だって最初は驚いた。だって、漫画の知識だけでこれができちゃうんだから。学校って変な所が昔のままなんだからきっとこのガラスが脆かったんだろうな」

ともえ「だれ?」

「おいおい、忘れたの?私はあたし。あたしは私。わあたしー!さあ、早くこっちにおいでよ。私のこと追いかけているんでしょ?だったらここまで追ってご覧よ」

 

 深くて黒い青い髪の女の子はいたずら小僧のように笑いながらあたしにこっちに来いと催促してくる。

 これが私?これが昔のあたし?

 

「?どうしたのぉ?あたしがこんな私で驚いちゃった?」

 

 さっきまで遠くにいたのにいつの間にか穴から顔を出してあたしを見ていた。

 

「大丈夫。あたしなんだから。私に怖がる必要なんてないの。あたしはフレンズに優しくしてくれるのに私には優しくしてくれないの?それって差別じゃない?のけものはいないんじゃなかったの?それがあたしが今まで見てきた世界だったの?」

ともえ「違う…」

「違うなら、おいで」

 

 私の手があたしの顔をつかむ。

 一瞬であたしが立っていた場所が穴の外に変わっていた。

 少しだけ驚いた。

 

「ほら、これた」

 

 うふふなんてニッコリと笑う私ははっきり言って不気味だった。

 

「ここはね、私が死んだ場所。あたしが産まれた場所はここではないけれど、これがきっかけだったんだから産まれたも同じだよね」

 

 屋上で踊っているかのような動きをする私は上機嫌のようだった。

 

「それにしてもよくこんな所に来れたね。今のあたしなら来れないとばかり思ってた…なんでそう思ってたか知りたい?」

ともえ「うん」

「それはね、あたしには毒が足りないんだ。毒が足りないから私みたいな毒まみれの女に辿り着けないと思ってた。でも来れちゃった。あのゲームのおかげね。あのゲームシリーズは私のお気に入りだった。どんなに辛いときでも楽しいときでもずーっと一緒。あたしにべったりとくっついてるゴミみたいなイヌみたいに!」

ともえ「ゴミみたいなイヌってイエイヌのこと…?」

「ああ、そんな名前なんだ。さすがはあたしだよ。あんなのとずーっといるなんてさ、虫唾が走るっていうの?イライラしないの?」

ともえ「イエイヌちゃんは大切な友達なんだ。ゴミなんかじゃない」

 

 イラつく。

 昔の私があたしの友達を貶したことに。

 

「あぁ~ら、怒らせちゃった。ごめんねあたし」

ともえ「謝ってよ。イエイヌちゃんに」

「えー!なんで?謝る必要なんてないんじゃないの?確かにお友達を貶したことについては謝るけど、それはあたしに対してよ。ゴミに向かって謝るなんて恥じゃない?あたしもそう思うでしょ?」

 

 私、何か悪い事しました?と言いたいような顔をしている私。

 その顔が、その態度が本当に腹が立つ。

 きっと初めて腹が立った相手かもしれない。

 

ともえ「あたしはそうは思わない…!こんなのが記憶があった頃のあたしなんてあたしは信じたくない!」

「そう、これがあたしの昔」

 

 私はあたしを押し倒してその上に覆いかぶさった。

 

「悲しいけどこれが真実なの。だから認めて、あたしはゴミと仲良くしてる害虫だって」

シザンカ「なぜ、なぜ認める必要がある?」

 

 塔屋に真っ黒な羽根を持つウョチウフがかっこつけて立っていた。

 

ケカタカ「認めたくなければ認める必要はない」

シザンカ「そもそもそいつは昔のお前ではないぞ」

「何を言って」

 

 私は立ち上がり、ウョチウフを睨むように見る。

 

ケカタカ「お前はこいつの心が不安定だったせいで生まれたこいつを元にしたセルリアンだ」

「違う!私はセルリアンじゃない!人間だ、人間なんだ!記憶から生み出された、あたしの昔の姿!あたしそのものなんだ!」

 

 あたしの近くで取り乱し始める私。

 ウョチウフ達は冷静に、私を追い詰めていく。

 

シザンカ「ならば、こいつの名前を当ててみろ。もし正解ならこいつの心が反応するはずだ」

「私は…