テイルズオブゼ…? (アルピ交通事務局)
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登場人物設定的なの(ネタバレあるので最初に読まないでください)




はじめまして、読者の皆様。こんにちはこんばんわだ。





何時もテイルズオブゼを読んでいただきありがとうございます。
コレが初回だって言うならば今すぐに本編を見終わるまで見ないで。今までもこのクソみたいな小説を読んでいたのならばせめて見なかったことにしてくれ。作者の中2的妄想が爆発したキャラ設定だからね。
まだ本編で書いてないネタとかもあるから見ないほうがいい。ネタバレになりますので


転生者

 

元は閻魔大王が飢餓等による死が減った筈なのに自殺したり虐待されたりする若者の多い現代社会に絶望してどうにかしたいと作られたシステム。

子供がなんらかの理由で生物的に一回死んでしまった後に地獄で異世界(二次元)に転生できるけどするかどうかを訪ねた後に実弾入りの拳銃を発砲させる等の度胸試しをさせられる。

最初は転生特典を与えてそのまま転生させるだけのシステムだったが転生者が未熟な子供だったりしたので色々と問題があったので遊戯王、ラブライブ、ブラッククローバー、FAIRY TAIL、GOD EATER等どの様な世界に転生しても問題は無い様に鍛えつつ、その人が持つ才能を伸ばす訓練を行うようになった。

訓練は地獄そのものであり一度でも逃げ出せば転生者になる権利は剥奪される。人間の業や真理、残酷な社会を教えられたりするので無償の正義の味方などの漫画に出てくる絵に描いたような善人はおらず色々としっかりとし現実を見ている人間が多い。

転生者の容姿はその魂が決めるもので大抵はアニメのキャラの容姿となり、名前が一文字違いなのだが極々稀に魂が不安定で転生する度に容姿が変わる転生者も存在する。

最初は閻魔大王の救済システムだったが、転生者がやることが面白く娯楽に餓えていた地獄にとっての最高の娯楽となっており転生先で偉業を成し遂げたり面白いことをした転生者にはもう一度転生する権利を与えて更にそこでもう一度面白いことをすれば無限に転生する権利を与えられる。

転生者は本来の自分の名前を剥奪され、誰が口にしてもその名を聞き取る事は出来ない。

極々稀にだが地獄の転生者とは別の世界線から理由もなく急に転生させられた転生者の存在が確認されており、危険な存在であれば転生者ハンターと呼ばれる転生者が狩るのだが大抵は無理矢理転生させられた被害者だったので狩られる事は少ない。

転生者以外に転生者であるとか言っちゃいけない決まりなど色々と禁則事項はある。

 

 

登場人物設定

 

 

 ナナシノ・ゴンベエ(マサタカ・ニノミヤ)

 

パラメーターは1から5段階評価

 

 

戦闘力10
知識10(3,5)
精神力10
技術力9(4)
幸運

 

 説明

 

 テイルズオブゼ……の主人公。

 

 転生者になるべく地獄の転生者養成所で訓練をした転生者16期生。属性で言えば秩序・悪・星もしくは地に分類される。

 

 一番最初に転生したのが科学文明が全くといって発達していないなんだかんだでベルセリアに繋がっているゼスティリアの世界で今期1番のハズレの世界で転生特典としてゼルダの伝説に出てくる様々な力と道具、現代知識で知りたいことをなんでも教えてくれる文武両道な転生特典を貰うが、ゼルダの力が無くても神依アルトリウスを片手間でボコボコにするぐらいは強い。ナチュラルに強い。

 

 テイルズオブゼスティリアもベルセリアも原作を知らないが虚淵作品ではないのでバッドエンドは無いだろうと気楽になっているもののなにかとめんどくさい世界だと察しており、原作に自らの意思では介入しない様にはしている。

 

 圧倒的な力は持ってはいるものの、自分から何かをすることは特にせず人や世界を救うというのがどれだけ難しい事で世界と人間がどれだけ醜いのかを地獄で学んでおり、生半可な気持ちで助けるなんて言わない。そしてシンプルにめんどくさい。

 

 一番最初に出会ったアリーシャには色々と世話になっており、不遇な身の上と立場に同情してしまいついつい力を貸すが無闇矢鱈に力を貸すのではなく色々と考えさせたりして力を貸している。

 

 容姿が二宮匡貴で本来ならばマサタカ・ニノミヤという名前なのだが転生する度に諏訪部キャラになる魂が不安定な存在だと言うのと自分の本来の名前が使えない事を素で忘れており更には地獄の転生者運営サイドのミスで名前を与えるのを忘れられて、アリーシャに適当に名乗った結果、ナナシノ・ゴンベエとなり本人は割と気に入っているものの名無しの権兵衛だと知られると色々とまずいとは自覚しているので教えない様にしていたが赤司にバラされる。

 

 暴力という戦いでは右に出る者が居ない反面、その世界の技術を用いて新しいなにかを生み出すといった技術関係は苦手としており、転生特典がなければ新しい物を作ることは出来ない。地頭は中の上である。

 

 普段は紙芝居とコーラや雑貨品を売って生計を立てており、ある程度は纏まった貯金をしてはいる。しかし税金は一切納めておらず、その事がハイランドの上層部にバレて投獄される。ベルベットと結婚してからは財布の紐を握られてはいるがお金を増やそうと思えば沢山増やせるので不満は特にはない。戦闘系の仕事に就くと体育会系のノリがあるので絶対に嫌らしい。

 

 ゼスティリア編(第一部)では裏方に徹してアリーシャをサポートに周り、ヘルダルフに今は勝つことの出来ないスレイの代わりにヘルダルフを徹底的に叩きのめして封印。

 

 ベルセリア編(第二部)ではアルトリウスにはムカついてるものの、あくまでもこの時代の人間がどうにかすると一応の一線は引いているもののやっぱり我慢はすることは出来ずカッとなってボコボコにし、最終的には報われない終わりを迎えようとするクラウ姉弟をトライフォースの力を用いて報われる様にする。

 

 ゼスティリア編その2(第三部)ではハイランドとローランスの間に和平を結ぶべくアリーシャの意思を尊重して力を貸すがスレイがロゼを従士にしていたのを見て、こいつには頼れないと察してアリーシャと一緒にベルベットのもう一人の弟を救うことに。

 

 第三部の序盤にベルベットと夫婦になるのだが、アルトリウスの一例もあるので内心ビクビクしている。最終的には病まれるので別の心配をしろ。更にはハイランドが自身を抱き込む為に爵位を与えられ、アリーシャと結婚することで他の貴族達に狙われない様にする。

 最終的には頑張っているアリーシャの事が大好きだからアリーシャに力を貸している事を自覚して、躊躇いが無くなった。爆発しろリア充。

 

 必殺技はその場の勢いとノリで考えており、防御力もその時その時で変わる。

 

 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達では何度か別の世界に飛ばされており、その場にいる赤司や海馬と共にディズニーランドやUSJに行って完全に遊んでいるものの、最後の最後で戦闘においては右に出る者が居ないと証明するかの様に究極竜騎士(マスターオブドラゴンナイト)となりヘルダルフが作りし5つ首の竜(FGD)を圧倒する。しかし赤司に名無しの権兵衛だとバラされてヤンデレに愛されて夜も眠れない。

 

 魂が不安定な存在である為にティル・ナ・ノーグへ具現化する事が不可能だとされている。

 

 次の転生先は魔法科高校の劣等生で、アンジェリーナ・クドウ・シールズに刺される未来が確定している。

 

 死因はコンビニでジュースを飲んで休んでいたところでアクセルとブレーキを踏み間違えた老人に車に撥ねられて窓ガラスに激突し即死

 

 

 アリーシャ・ディフダ

 

戦闘力
知識
精神力
技術力
幸運

 

 説明

 

 テイルズオブゼ……の裏主人公でヒロインの一人である公式から堂々とハブられるヒロイン(笑)

 

 ご存知公式からなにかと不遇な目に合されている可哀想な子。アニメ版は存在しなかった。

 

 街のクソガキに制裁をくだしているゴンベエと最悪の形で遭遇し、第一印象は最悪な男と思っていた。

 

 1年というゆっくりじっくりな時間を掛けて警戒心が解かれており、気付けば1番の仲になった。そして依存する。

 

 今の世の中をどうにかしないいけないという気持ちがあるのだが所謂持っていない人間で霊力は普通で天族は見えず、おっぱいも年相応、女子力は皆無で時折男らしさを見せるなど容姿に恵まれているのに中々の残念さを見せる。というかゼスティリアのキャラの殆どが残念な女子力の持ち主であり、ゴンベエが裏でコッソリと色々とやってくれた事に気づいた時は期待に答える事の出来ない情けない自分に本気で絶望をしており涙を流す。

 

 ゼスティリア編(第一部)では途中までは原作通りだったがゴンベエの介入により戦場に参戦。スレイが倒せないヘルダルフを足止めするゴンベエを結果的に見捨てたことを本気で悔やんでいてトラウマになっており、二度とそういう事はしないと誓っている。

 ゴンベエを口説き落とすという謎の大役に抜擢され結果的にはそれがゴンベエを救うことになるのだがザビーダとの出会いで歴史が繰り返されてばかりであることに気付き強いショックを受ける。

 

 ベルセリア編(第二部)ではマオクス=アメッカとして残酷な世界と向き合い、なにがはじまりなのかと全てを見届けようとするのだがあまりにも残酷過ぎる現実に唖然としており、現代で未来はあるのかと真剣に悩む。そしてベルベットにゴンベエが構いまくるので嫉妬しまくっており、それが恋心から来るものと自覚はしておらずゴンベエに対する思いはなんとも言えない形になっている。

 

 

 ゼスティリア編その2(第三部)ではアリーシャ・ディフダとして平和をもたらそうと使命に燃えるのだが、ゴンベエがベルベットと結婚したり、スレイが自分を暗殺しに来た暗殺者を従士にしていたりとなにかと衝撃的な事になるが、アイゼンを元に戻したり、ザビーダとエドナの器になったりと一応のパワーアップは果たしており、一人で師匠を圧倒する。ゴンベエに爵位が与えられ、見合い話等を断る為に政略的な結婚をする事にしたのだがゴンベエが全く気付いていなかったのか物凄く愛されていた。ゴンベエが力を貸す理由はアリーシャが大好きだから、頑張ってほしいと思っている、願っているからだ。最終的にヤンデレになる。

 

 本人は決して弱くはないのだが周りが無駄に強い奴等が居るせいで弱いと思っており、ゴンベエが色々と魔改造を施した結果、真の力を発揮すればヘルダルフをも圧倒できる程の強さになっていることを自覚していない。マルトランなんて最早目でない。

 

 戦闘能力は物凄く向上してはいるが、女子力は向上する素振りは一切なく基本的には従者に任せっぱなし。ゴンベエと結婚後もベルベットかメイドに家事を任せきりで女子力の向上の気配が見えない。

 ゴンベエが生計を立てる為に国に役立つ物を開発しようとしているが危険な物や作ってはいけない物などもあるのを知っているのでゴンベエは自分の収入で養えばいいと本気で思っている。女性に必要なものと戦闘力の全てを兼ね備えているベルベットに少しだけ憧れている。

 

 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達ではゴンベエ以外の転生者から様々な事を学び精神面で成長していく。

 そして最後に赤司にゴンベエが名無しの権兵衛だと教えられてめでたくヤンデレになる。

 

 太ももがスケベだがゴンベエとはラッキースケベが起きない。しかしスケベしたいといえばあっさりと受け入れるチョロいん的な部分がある。異性として好きと言う気持ちはあるのだが色々と他の気持ちが邪魔をしている。

 ゴンベエが異世界の住人なのはなんとなく気付いてはいるもののこの世界の住人になろうとしているので深くは聞こうとはしない。男爵の正妻である

 

 ベルベット・クラウ

 

戦闘力
知識
精神力
技術力
幸運

 

 説明

 

 テイルズオブゼ……のヒロインにしてテイルズオブベルセリアの主人公。

 料理上手、姉御、ボインちゃん、ツンデレ、ダークヒーローと言った歴代のテイルズの萌え要素を全て詰め合わせて尚且つ主人公の座を手にしている。

 

 弟を義理の兄に殺された事に憎悪の念を燃やしてはいるものの何処か完全に復讐者になれきれない半端者。常に怒り続けるのは難しいもので怒るのは本当に大事な時だけだけでそれ以外はオフにしていたら多分天下取れる(人気的な意味で)

 

 ベルセリア編(第二部)からの登場であり、主人公らしいところと女性らしいところを見せていてゴンベエにラッキースケベられたりと色々と大変な目には遭っている。

 弟やアルトリウスの真実を知り死ぬ決意をした最中、味方に回ったフィーとゴンベエ。ただ単にムカつくというシンプルな理由で味方に回ったゴンベエには呆れてはいるものの心の底から感謝をしており、肩の力をゆっくりと抜いていった結果、ゴンベエの事が好きだと自覚をする。

 

 しかし弟のライフィセットの事もあり、永遠の眠りの道を選ぶのだが、どちらも報われない不幸な終わりを迎えようとしている事実にゴンベエは耐えきれなくなりトライフォースの力を用いた結果、両者ともに心臓を貫かれて弟のラフィは元気な肉体となり、ベルベットは石化して眠りに付く。

 

 その後、ラフィはアイゼン達アイフリード海賊団の元で世話になり、その際に手に入れた希少な鉱石をベルベットの幸せを願ったラフィがゴンベエに託す為に集める。

 

 ゼスティリア編その2(第三部)ではレディレイクの湖の底に封印されており、ゴンベエが心臓に刺さったマスターソードを引き抜いて封印から開放される。自分の覚悟を歪めて千年も放置したゴンベエは絶対に許すことが出来ないと殺しにかかるがアリーシャに止められ、ラフィが残したレコードを聞いて、改めて新しい1つの命としてこの世界を生きることを決意する。

 とりあえず過去の時代よりも比較的に素直になっており、ゴンベエに気持ちも伝えており行くところも無いのでそのままゴンベエの所で世話になった結果、事実婚みたいな形で結婚をした。

 本人的には悪い気分ではないのだがアルトリウスがあんな目に遭っているのをゴンベエが知っており、矢鱈と自分に尽くそうとする姿を見て、自分はお客様じゃないのよとブチ切れる。爆発しろリア充。

 

 当面の目標としてゴンベエに幸せにしてもらうのと同時にもう一人の弟であるフィーを助ける為にアリーシャに力を貸すのだが、スレイが暗殺者と手を組んでいる事を知り、結局は歴史を繰り返していてフィーは繰り返される歴史の負債を背負わされると怒りスレイ達無しで平和を築き上げることに。

 

 マスターソードに封印されていたせいか人間でも喰魔でも業魔でもなんでもない存在と化しているが、ゴンベエは普通に妻として受け入れており、周りをあまり気にしていないところがある為か特に問題はない。

 

 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達で赤司に名無しの権兵衛だとバラされてヤンデレに目覚める。男爵の正妻である。

 

 

 アイゼン

 

 説明

 

 ご存知天下に名を轟かせたアイフリード海賊団の副長を務める地の天族。

 

 死神の二つ名を持っておりその名の通り加護を齎すどころか厄災を振りまいている。

 

 ゼスティリア編その1(第一部)では既にドラゴン化しており、たまたまレイフォルクを訪れたゴンベエとアリーシャを見て僅かばかりだが意識を戻し、遂にやってきたのかと喜び、ラフィが集めた珍しい鉱石を託す。

 

 ベルセリア編(第二部)ではアイフリード海賊団の副長を務めていた頃の本人が登場。アリーシャとゴンベエを異邦人と理解した上で受け入れており、ゴンベエの持っている未知なる技術に興味津々なものの鉱石等が無いのでなにも作れない事にショックを受ける。エドナの為に書いた手紙が戦闘で燃えてしまったので声を残す道具の作り方をゴンベエから教わる

 ベルセリア編(第二部)が終わった後にはラフィを船に乗せて世界中を周り、何時か現れるゴンベエと封印を解かれるベルベットの為にラフィと一緒に鉱石を集めてエドナに託す。

 

 ゼスティリア編その2(第三部)ではゴンベエが本気になったのとエドナの為に生き抜くと決意を決めたお陰でなんとか元の姿には戻れたものの、死神としての力がドラゴンの面に持っていかれており天族としての加護は一切無くなった。

 ドラゴン化していた時の事はなんとなくで覚えており、自分を心配して誓約まで掛けてしまったエドナに対して申し訳無いと思う。お前の自業自得だろうとザビーダにツッコミを入れられても気にはしない。

 

 一先ずはスレイがどういう導師かをベルベットの様に見極めようとするのだがアリーシャを殺そうとした暗殺者と一緒にいる事を知り、ロクでもない導師と認定。そんな導師の元ではエドナは置いてはおけないとスレイを殴り飛ばす。

 

 結果的にはゴンベエが救った事なのでゴンベエが死ぬまではある程度は言うことを聞くつもりで、100年間はアリーシャ達を見守ってくれと頼まれている。

 

 ゴンベエが異世界の住人だと見抜いている。

 

 エドナ

 

 説明

 

 アイゼンの妹にしてフェスのヒロイン、皆の嫁であるエドナ様。

 

 毒舌だがそれがいいという変態を大量に作り出す合法ロリ。実年齢は結構いっているがそこは触れてはいけない。むしろご褒美である。ありがとうございます。

 

 ベルセリア編が終わってちょこっと経過した頃にアイゼンから何時の日か現れるゴンベエと封印を解いたベルベットの為に集められた数々の鉱石を託されるが本人はなにか説明をされていないのでよく分かっていない。転生してきたゴンベエとアリーシャに偶然出会い、アイゼンと弟のライフィセットに託されたレコードと貴重な鉱石を託す。

 

 ゼスティリア編その1(第一部)では概ね原作通りの展開だがゴンベエとアリーシャの事を少しだけ気にしている。

 

 ベルセリア編(第二部)ではアイゼンの思いを乗せたレコードが届けられており直接な登場をしない。

 

 ゼスティリア編その2(第三部)では原作通りだったがゴンベエがアイゼンを元に戻したので、スレイと一緒にいる理由が無くなり、スレイをアイゼンが倒してしまったのでそのままのノリというか勢いよくゴンベエ達についていくことになり、アイゼンを助けたお礼としてなんでも言うことを聞くと言ったのでアリーシャと契約して100年間は自分達を見守る契約をしアリーシャの槍に込める地神の唄の琴を弾く。爵位を与えられて厄介なものがやってくるゴンベエにアリーシャと結婚することで他の貴族達に厄介事を押し付けられなくなるという悪魔の囁きをする。

 

 ゴンベエが名無しの権兵衛であることに気付いていた。

 

 ザビーダ

 

 説明

 

 憑魔狩り、もしくは風のザビーダ。過去と現代をつなぐ役割を持つ。

 

 過去に起きた導師と災禍の顕主との争いと真実を全て知っており、語ることを固く禁じられている。

 

 

 ゼスティリア編その1(第一部)では終盤に登場。

 今まで何度も災厄の時代になっては導師が現れて世界を救う行為が繰り返されていることをゴンベエにカマを掛けられて確認をされる。

 

 ベルセリア編(第二部)では風のザビーダだった頃で行く先々で定期的に出会い、アイフリードを元に戻し、ドラゴン化してしまったデオドラを殺す殺さないの話の際に自分らしく生きていないと言うアイゼンに対して醜くも足掻くのもまた生きている事の証明だと言われて結果的には助けられなかったものの足掻いた事を否定されなかったことに感謝をしている。しかし一緒に旅をしていなかったのでゴンベエとアリーシャを異大陸からやって来た人達と見ている。

 ベルセリア編からゼスティリア編に掛けて浄化や導師のシステムが完成されたもののそれでも救うことの出来ない命があることに絶望をし、殺すことを救いとして捉えてしまう。

 ゴンベエ達と一緒に旅をしている訳ではないのでゴンベエ達が未来から来たという事を知らないまま別れて、何時の日か子孫に色々と教えるつもりだった。

 

 ゼスティリア編その2(第三部)ではレイフォルクに向かったゴンベエ達と再会をし、ベルベットが居た事を驚く。1000年もの間に起きた出来事や繰り返し続く導師のループや理不尽な世界に絶望しており、アイゼンを殺す事を手伝えと言われたのでアリーシャは断る。アイゼンを殺すのでなく助けることで報復することを決意。ゴンベエの助力もあったおかげでアイゼンを助けることに成功したので過去になにもしなかったゴンベエを一発ぶん殴ってそれでチャラにすることにし、もう1つの目的であるマオテラスをゴンベエ達と共に助けることになり、アリーシャを器とする。

 

 

 ライフィセット

 

 概ねゲーム通り

 

 ロクロウ、マギルゥ、エレノア

 

 概ね原作通りだが、最終的に海馬がとある人物に教わった禁術により擬似的に蘇る。 

 

 スレイ

 

 導師になりヘルダルフを浄化できる程の力を得ようとするがロゼを従士にしたことをゴンベエにバレて、アイゼンにボコられる。

 

 ロゼ

 

 アリーシャを暗殺しようとした暗殺者ということで一発ぶん殴られる。

 ゴンベエが風の骨の正体をバラまいたが為に表社会を歩くことが出来なくなっており、一部からは危険な存在だと言われており暗殺の依頼が浮上しており部下のルナールが災禍の顕主と繋がっているものと繋がっており、ゴンベエがコレから先負の連鎖を繰り返さない為に、最後の不必要な犠牲だと殺した。

 

 ミクリオ、ライラ

 

 概ねゲーム通り

 

 サイモン

 

 原作通りヘルダルフの配下でゴンベエがマルトランを殺さない代わりに法的手続きで裁くまでと島と呼ぶに烏滸がましい無人島に放置されており、暴力と言う戦い方では勝てないのではないのか?と一種の仮説を立ててゴンベエの領地を破壊しに現れる。

 敵だと分かれば問答無用で殺してくるのであくまでもこの土地の地の主になってみせようと言い出すのだが、ゴンベエは最初からヘルダルフの間者かなにかだと疑っていた。

 

 ゴンベエが天族=祀るべきもの、と言う認識があるにはある。しかし天族=偉いというのは間違いである。

 なにかしらの功績を残して今も目に見える成果を上げ続けている、働き続けているのが本当は偉いんじゃないの?という極々普通の正論を言われてしまい、更には採用試験を行わせる等の色々と奇妙な事に巻き込まれる。

 

 自身が誓約を付けたりして会得した幻術で1度だけ誑かしてみるのだがゴンベエが気力1つで全て押しのけるという荒業をやられて、あ、コイツに喧嘩売るのダメだ。寿命で死んでもらってから色々とやらなくちゃいけねえと思わせた。

 触覚や味覚なども作用する幻術をかける事が出来るので、もしかしてと試しにゴンベエは孤児の子供達や領地の人間にアイゼンやザビーダの存在を幻術をかけて見えるように出来るかどうかを試した結果、成功する。

 

 天族が見えない人間に対して、幻術をしかけることで擬似的に見えるようにする。

 人間側に特に負担を掛けることなく天族を認識させる事が出来る救世主だと言われており、自分がそんな存在なわけがない、疫病神だと一時のテンションに身を任せて言うのだが何事も人材適所だとゴンベエの言っている通りにやれば、ホントに人間と天族を繋ぐ希望の架け橋になれる存在である事を知り、更にはゴンベエが「あいつ、全人類憑魔化って言ってたけども飯とかはどうするんだ?天族ですら嗜好品で飯食ってるのに、ロクロウみたいに酒を嗜む憑魔も居るのに」と言われたりし「周りの人を幸福にすれば自分が不幸になれる」と滅茶苦茶な理論を言われるのだが心の何処かで納得してしまい、最終的にはヘルダルフをも裏切り普通の人に幻術を掛けることで天族を認識させる事が出来る様にする。

 

 ルナールの1件でツルッパゲにされており、流石にそれはやり過ぎだと周りから同情されたのでカツラを作って被っている。

 

 

 七人の導かれし愚者達

 

 説明

 

 サブイベで登場するゴンベエ以外の転生者。ゴンベエの代わりに色々といらんことをアリーシャに教えたり教えなかったりする。

 

 

 チヒロ(黛千裕)

 

 

 

 

戦闘力11(1)
知識10(4,5)
精神力12
技術力
幸運

 

 説明

 

 転生者第8期生で黒子のバスケの黛千尋と同じ容姿をしている。ゴンベエにとっては大先輩に当たる。 

 はじめて転生した世界は1番のハズレと言われているFate/Grand Orderの世界に転生した貧乏くじを引く宿命の星の元に生まれている。

 現在は恋姫†無双の世界に転生しており、ゴンベエと同じく現代知識限定で知りたいことを知れる力とオーマジオウの力を貰っており呉で世話になりつつ色々とやっている。転生者としては一番古い人なのだが戦闘能力は皆無に近く、かなりの年月生きているので知識が豊富だが人並みの範囲内を越していない。

 

 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達ではアリーシャを導く道先案内人として度々登場しており、最後にはオーマジオウとしてヘルダルフが溜め込んでいた憑魔の群れやドラゴン達と戦う。

 

 最後の最後に人生は楽しんだ者勝ちとアリーシャに伝えてゴンベエにオーマジオウのライドウォッチ(レプリカ)を託す。

 

 死因は無免許運転の原付に撥ねられて病院に搬送されたが受け入れ先の病院が中々に見つからずに治療が遅れたため

 

 

 マスク・ド・美人(飽田ヒナコ)

 

戦闘力
知識
精神力
技術力
幸運

 

 

 説明

 

 転生者第16期生で所謂ゴンベエと同期な転生者。FGOの虞美人と同じ見た目をしている。

 仮面ライダーゲンム+αセットを転生特典として貰っており人間をやめており人間の遺伝子を持つ残機99のバグスターウイルスへと生まれ変わっている。転生先は青の祓魔師で人間でも悪魔でもない色々と超越した存在でありめんどくさい事を言ってくる相手はゴッドマキシマムゲーマーでボコボコにした。

 

 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達では強くなりたいアリーシャには魂を鍛えるのは地獄の様な環境を歩むことが大事だと教えるべくゴンベエを殺そうとした。

 

 ファミスタのガシャットロフィーと太鼓の達人ガシャットをゴンベエに託す

 

 死因は過度なイジメによる殺害

 

 二狼

 

 

戦闘力14
知識
精神力
技術力
幸運10

 

 説明

 

 閻魔の3弟子と呼ばれるちょっと変わった転生者で黛よりも遥かに上な大先輩の転生者。

 ノッキング技術と再生屋としての知識と技量、圧倒的なまでの筋力を持っておりゴンベエよりも遥かに強い。

 基本的に美味い酒とツマミを転生者達と共に飲んで騒いでが出来ればそれでよくてそれを邪魔する悪人は徹底的に叩きのめす方針であるが原作キャラがぶちのめすなら基本的には手出しをしない。

 スマイルプリキュアの世界に転生しており、ナイトメア相手に卑劣様が色々とやっていることを愚痴っていた。

 

 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達ではアリーシャに一人でなにかをするのでなく誰かと手を繋いで、その誰かがまた違う誰かの手を繋ぐ繋がりの大切さを教える。後ついでにゴンベエに星のノッキングのやり方を教える

 

 

 蛇喰深雪

 

 

戦闘力
知識
精神力11
技術力
幸運

 

 説明

 

 顔が司波深雪、体が蛇喰夢子なハイブリットな肉体を持つ転生者16期生随一の変態。

 真紅の手品(レッドマジック)真拳と青藍の手品(ブルーマジック)真拳の使い手で暴力は基本的には好まない変態喪女(紳士淑女)

 ベルベットの服装を指摘した結果、ベルベットがゴンベエに自覚してないだけで気があるのを直ぐに気付き見事なまでにツンデレを発揮したのでこのまま破滅フラグへと行ってもらおうと余計なことをした結果、黛にシバかれる。テイルズオブゼスティリアとベルセリアの原作は知っており、悪意込みでアリーシャに真のヒロインになってもらおうとする(カス)

 作者の書いているワールドトリガーに出てくる蛇喰深雪とは同一人物で、テイルズオブゼ……に出てくる彼女は新米転生者だった頃の話。

 

 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達ではデートを一緒にストーキングをしているアリーシャに醜さ等の負の側面を受け入れることを教える。

 

 赤と青の薔薇をゴンベエに託す

 

 

 

 吹雪士朗

 

戦闘力7,5
知識
精神力
技術力
幸運

 

 説明

 

 割と何処にでもいる凡庸型の転生者でゴンベエと同期になる転生者16期生。

 今シーズン転生した転生者の中で最も平凡的な転生者だがゴンベエと同じく魂が不安定な存在で転生する度に宮野真守キャラになる。今回は容姿が吹雪士朗となっている。

 作者の書いているワールドトリガー、運命/世界の引き金に出てくるコシマエは彼で、変態であり初対面のライフィセットにおちんちん付いてるかを聞く。なんだかんだでゴンベエとは最も仲の良い転生者である。おち◯ちん付いてるか付いてないかは彼にとって大事な美学である。

 

 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達ではアリーシャに実はゴンベエは強い力を持ってはいるが特になにか目的があって生きている訳ではなくアリーシャが仕事を与えている事を伝えられる。

 

 友情のサッカーボールをゴンベエに託す。

 

 死因は生きる事に希望を見出だせず鬱となった為に自殺

 

 

 天王寺麟童

 

 

戦闘力10
知識2,5
精神力10
技術力
幸運

 

 

 説明

 

 ゴンベエの2個上の転生者で圧倒的なカリスマと強さを持ち合わせているゴンベエの上位互換に近い存在。

 容姿は火ノ丸相撲に出てくる天王寺獅童で出身も大阪で転生者になるべく言葉遣いを矯正されたにも関わらずそのままゴリッゴリの関西弁を喋っている。既に元いた世界では原作が終わっており、横綱を目指して頑張っているところを呼び出される。

 転生特典としてオーガ封珠鏡と妖聖剣を貰っており、ねこにんの里にたまたま現れたのだが半日ほど放置される。

 

 強くなっていけばいくほど力を扱う人間の責任が大きくなり醜いものを見て精神的に成長した結果、笑顔が減ってしまったアリーシャに難しい顔ではなく笑顔でいることの大切さを教える。

 

 力士なのが原因か四股を踏むと穢れを浄化することが出来る。赤司とは洒落にならないぐらいに仲が悪い。

 

 フドウ雷鳴剣、スザク蒼天斬、ゲンブ法典斧、アシュラ豪炎丸、ビャッコ大霊槍のキーホルダーを託す。

 

 

 海馬瀬戸

 

 

戦闘力9,5
知識11
精神力
技術力10
幸運10

 

 

 説明

 

 知識精神戦闘力、全てに置いてパーフェクトな転生者第16期生の中で最も優秀な転生者。

 総合的に見ればゴンベエをも遥かに凌駕している容姿が海馬瀬人で幼い頃に虐待された末に殺された転生者で実年齢は物凄く若い。遊戯王系の転生特典を持っている。

 ゴンベエにはオジマンディアスがアーラシュに敬意を向けるかのように敬意を持っており、仲は割と良好。

 暫くの間、世話になるお礼として石油探しを手伝うことにするのだが間違えてカースランドに辿り着きゴンベエへの復讐心に燃えているヘルダルフが5つの首のドラゴンや無数のドラゴンパピー、強力な憑魔を用意したので部下を召喚しようとするのだが呼びかけに応じず代わりに今まで集めた物を触媒にして他の転生者達ととある人物に教わった穢土転生の術で冥界からマギルゥ達を召喚。

 ゴンベエを素材に究極竜騎士を召喚しヘルダルフが作ったFGDを始めとする様々なドラゴンを倒す。別れ際に本気でゴンベエとデュエルをして遊ぶ。

 

 レプリカの青眼の白龍のカードと名刺と決闘盤をゴンベエに託しアリーシャ達にティル・ナ・ノーグでの再会を約束する。

 

 テイルズオブザレイズ編ではイクスを全身全霊を持って叩きのめし、ティル・ナ・ノーグの経済による支配を試みる。

 

 死因は実の両親に虐待及び育児放棄による兄弟諸共餓死

 

 赤司征十朗

 

 

戦闘力9,5
知識
精神力10
技術力
幸運

 

 

 説明

 

 容姿が黒子のバスケに出てくる赤司征十郎な転生者。

 転生特典とは別に天帝の眼を持っており、転生者の中でもトップクラスの実力を持つが基本的には遊んでいる。

 ゴンベエが飛ばされた先の世界の住人で、ゴンベエと海馬と一緒に遊園地に行って遊んでいる。海馬瀬戸がゴンベエとアリーシャが紡いだ縁を触媒に召喚した時に遅れてやってきて戦えなかったものの最後の最後に現れてゴンベエを名無しの権兵衛だとバラす。

 その件に関してはゴンベエもとい諏訪部は永遠に恨み続けている。



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転生したら…

書いちゃった。


 目を覚ませば知らない天井だった。と言うよりは知らなくて当然で、なにせ転生したんだから。

 

「ふ~…あ、あーーあーー」

 

 何処にでもある質素なベッドからゆっくりと腰を上げて声を出し、喉の調子を確認する。

 特に喉には異常らしい異常は存在せず、そこそこの諏訪部さんボイスが出ている。

 

「手足の感覚に異常なし。いや、それどころか力が溢れでる…って、これじゃあ噛ませの踏み台転生者だな」

 

 自分の溢れる流れでる神秘的なパワーを実感して、喜ぶが直ぐに気持ちを落ち着かせる。

 転生者の定番の踏み台転生者にならない。オレはそんな事の為に転生したんじゃない。

 

「幸せにならないとな…」

 

 オレは世に言う転生をしている。正確に言えば創作物の世界に転生する謂わば二次創作の転生者だ。

 良い行いをしまくったから転生?神様のミスだから転生?違う、そう言うのじゃない。神の子の宗教とかに鞍替えしていない日本人は死ねば自動的に三途の川を渡り歩き、地獄に一度落ちる。そこで裁判をして生前の行いやお供物とか供養の仕方とかで地獄か天国行きか判断する…鬼灯の冷徹に似ている感じだな。通常は裁判をするけど中には例外が存在している。生きたまま冥界に地獄に人、現代にはそう言う奴はもういないから省く、生きたまま地獄に来るやつなんて大抵ロクなことしない。

 

「って、どっかにアレがあるはずだ」

 

 例外の中には子供も入る。

 親より早く死んでしまった子供は問答無用で賽の河原とか言うところに飛ばされて、暫くすると転生する。

 異世界転生じゃなく、輪廻転生の方なんだが、最近システムが変わったらしく二次元に転生しようと思えば出来る様になった。強制じゃなくしたい奴だけするシステムで、即座に転生はさせてくれない。

 オレは比較的に青年に近い年齢で死んだから良いけど、10歳以下の子供も居るわけで、間違った価値観や倫理観を押し付けられると困るので色々と勉強させられる。オレはつい最近、そこを卒業して異世界…いや、二次元転生を果たした。

 

「お、あったあった」

 

 ベッドから降りたオレはあるものを探し、見つける。

 ベッドの下にエロ本を隠すかの様に置かれている縦でなく横に長い長方形のファンレターとかに使う封筒、コレには色々と書かれている。転生先、転生特典、自分以外に転生者が居るのか、自分の立ち位置等色々と書かれている。転生したら真っ先にコレを読んでおけと言われており、オレはゆっくりと封筒を開いて中に入っている便箋を出す。

 

【長くもなければ短くもない期間の研修、お疲れ様です。貴方が転生した世界は限りなくゲーム版に近いけど、何だかんだでベルセリアと連動しているテイルズオブゼスティリアの世界で、この世界に転生者は貴方しか居ません。私達は基本的に見ているだけで、此処からは貴方の人生です。どうか第二の人生をお楽しみください。尚、今回転生した世界で一番のハズレを引きました】

 

「え、っちょ、マジかよ!?」

 

 自分が居る世界が地獄目線ではハズレだと言われ、オレは衝撃を隠せない。

 あんだけ努力したのに、物凄くハズレって…まぁ、確かに行きたかった世界には行けなかったな。ワールドトリガーとかに転生してみたかったんだけど、文句は言えないし頑張ればまた転生できる。

 

「転生特典はっと…?」

 

 一番の問題は転生特典だと転生特典を確認する。

 使えそうな感じの程よい万能な転生特典…だけでなく、変わったものが入っている。

 

「知識限定で知りたいことを教えてくれる?」

 

 仮面ライダーのベルトやスタンド名とか分かりやすい転生特典じゃないものが紛れ込んでいた。

 コレはどういう意味なんだと考えてみるが、よく分からない…試してみるか。

 

「え~っと……7297491×4919…お!」

 

 適当な数字で掛け算をしてみると、35896358229と頭の中に答えが出た。

 

「じゃあ、大小大小大小大□小大小大、□に入るのは……なんも出ねえな」

 

 別の問題を浮かべるが今度はなにも入らない。

 

「ねるねる○るねの元素記号」

 

 ならばと別の問題を出すと答えがでる。

 C₆H₈O₇ + 3NaHCO₃ Na₃(C₃H₅O(COO)₃+3H₂O+3CO₂(CaCO₃+H₂O→Ca(OH)₂+CO₂と…合ってるかどうかと聞かれれば頷きづらい。けど、この転生特典の使い方はよくわかった。理系の問題の答えを簡単に出してくれる、そう言った感じのものだと思う。試しに吉○家の牛丼のレシピを考えて答えがほしいと思うと、投稿サイトに載っているレシピが出てきた。

 

「……どう使えと?」

 

 料理のレシピを教えてくれるのは嬉しいが、別に出来ないわけでもない。

 理系の問題の答えを教えてくれるのも嬉しいが、こう言うのは専門職しか役立たず知識よりも知恵重視な文系の方が社会で役立つ筈だ。

 

「考えたって無駄だし、外の空気でも吸うか」

 

 使い方がよく分からん転生特典を頭の隅に置き、外に出る。

 そう言えば、テイルズオブゼスティリアってなんだ?テイルズは聞いたことあるが、やったことはない。二次元の世界ってことはゲームかアニメのどちらかだと思うが……

 

「嘘だろ、おい……」

 

 外に出るとオレは驚いた。オレが眠っていたのは小さな一軒家だが、それ以外にはなにもない。

 

「直ぐ側に川って、洪水起きたら死ぬ……いや、転生特典使えば良いのか。って、ちげえ。文字通り広大なまでの草原にオレ以外の人の気配を感じねえ」

 

 オレは恐る恐る転生特典の一つである海賊が使ってそうな片眼の望遠鏡を取り出す。頼むから、そう言う感じの世界じゃない様にとオレは強く願った……だが、そんな希望は一瞬で消えた。

 

「道らしい道はなし…完全に現代でも江戸でもないな。文字通りの異世界で地球っちゃあ地球だけど、独自の方向に進化してやがる感じか?」

 

 望遠鏡で見ても、道の舗装はされている所や立札らしきものはなし。

 川が直ぐ側にあるからと試しに歩いてみるけど…中世風の世界観だが独自の方向に進化した異世界…いや、進化できなかった世界か。

 

「よくよく見たら、水車小屋みたいな感じか……」

 

 これ以上は歩いたらダメだと来た道を戻り、一軒家を見る。

 現代の一軒家とは遠く離れている石や木で出来ている一軒家で、中に入ってみると色々と無いのに気付く。

 

「エアコン、テレビ、炊飯器……湯沸し機も無し」

 

 現代じゃあって当たり前のものはなにもない。

 風呂は薪を入れて温めるタイプで、シャワーは…って、これテルマエ・ロマエで見たことある風呂だ。幸いにも水は直ぐそこにあるし、なんかトトロでみた上下に動かして出す水道は存在する。飲める水かは分からないが、沸騰させたりすればなんとかなるだろうし……物凄く綺麗な水だから、身体を洗うのにも使える。

 

「食器類全般も御丁寧にある。衣類も金らしきものも食材もあるが底をつく、か」

 

 色々と優しくしてもらっているのでありがたいが、あんま喜べねえぞ。

 冷蔵庫、氷を入れて冷やす大正時代の冷蔵庫って…いや、まぁ、転生特典で氷を作れるから良いんだけどよ。

 

「……ハズレだな」

 

 ベッドがあった部屋に戻り、寝転んで天井を見ながら考える。

 この世界、多分、ハズレの世界だ。ゲーム無いし、漫画無いし、バスケも無い。下手すりゃ吉○三の歌よりも酷い世界に転生した…いや、下手すりゃじゃない確実だ。

 ここが二次元ならば物語があり、確実にロクでもない事になるのは確か。えっと……確か、FGOの世界に転生して生き残った無限に転生出来る人が二次元は読者だから面白いとかそんな事を言ってたな。

 

「今後の事、考えねえとな」

 

 どうせオレが居なくても、物語の方は勝手にハッピーエンドを迎える。

 原作知らねえけど、純粋に強い人間が一人いれば少しぐらいは良い方向に向くだろうが、関わるつもりはない。

 世界救ったり魔王倒したり領地経営なんてする柄じゃない…高い地位につくとロクなことにならない。

 

「王族とか貴族制度ありありなんだろうな。国に仕えるに人間になりたくないし、ある意味この家は正解かもしれねえな…羽ペンとか始めてみるかな」

 

 寝ながら考えているだけじゃダメだと直ぐ側にある椅子に腰を掛けて、机と向かい合う。

 

【何処かの街に出る 王族貴族制度あろうがマイペース1 世界観を知る 2 文明のレベルを知る 3 そこよりも大きな街を知る 4 仕事を探す 5 戦闘系はNG 6 世界を救ったりとかしない 7 家のレベルを上げる 8 コネを作る 9 出会いを求める 10 一夫多妻だろうがハーレムNG】

 

「まぁ、こんなもんか…」

 

 これから先のしなければならないものを取り敢えず纏めてみる。今後、コレが変わってくる可能性があるがそれでもコレを守っておきたい…無理だと思うけど。

 

「原作次第だと関わってたけど、そうじゃないなら真面目に勉強して良い学校とか入ったり、スポーツで活躍してプロにって思ってたんだけどな」

 

 地球が舞台のファンタジーでもなければバトルものかどうかも分からない世界に転生してしまった。

 誰かを救ったりする暇なんて何処にもない。出会いを求める暇なんて無いかもしれない。初日だからか不思議と腹がすかないオレはもう一度、ベッドに戻り寝転んで手の甲を見る。

 

「オレ、楽器とか弾けねえんだけどな」

 

 手の甲は黄金に光り輝く。

 光り輝く三つの三角形が大きな三角形がオレの腕には宿っている…が、オレには勇気も知恵も力も特にない。と言うよりは楽器とか上手く弾けねえから、一部の転生特典は…無駄になるかもしれない…

 

「音楽家とかオレに一番、似合わねぇ……」

 

 オカリナにタクトにラッパにギターに竪琴にコンガにハープ。

 どれもこれも生まれてこの方触ったことねえし、地獄でも教わらなかった。オレはこれから先の生活を心配しながら、ゆっくりとゆっくりと意識を落として眠りについた。



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君の名は

「ふぁ~…って、暗っ!?え~っとって、スマホ無いんだったな」

 

 目覚めれば辺り一体が真っ暗闇だったので時間と明かりをと携帯を手に取ろうとするが、此処は異世界。

 携帯もないし懐中電灯もなにもない…故に真っ暗な時は物凄く暗い。現代の地球の日本だと何処かからか光を放ってるから、夜でもそれなりに明るい。

 

「腹は……まぁ、いいか」

 

 腹は減っているが作るのめんどい。こういうときは作らずに無視すれば良いとオレはランタンを取り出す。

 

「地図とかそう言うのを用意してくれたらありがたいんだがな…」

 

 今、自分が何処に住んでいるのかが一切分からない。

 その辺だけは親切にしてくれない、自力でどうにかしないといけないのが地獄らしい。

 

「……川沿いに沿っていけばどうにかなるか?」

 

 外に出て、川を見つめる。幾ら異世界とはいえ川は海に繋がっている。海がある。海があるなれば、海岸線に沿っていけば確実に何処かの港町につくことが出来る筈…だ。

 

「…港町となれば、どれだけあるか…今から行ってみるか」

 

 この地方の大きさをオレは知らない。時間はたっぷりある様で無いみたいなものだとオレは軽く身支度を整えて歩く。

 もしなにかがあっても川沿いに戻ればどうにでもなるから、余計なことに意識を持っていかなくても良いのはいい。

 

「きゅぅぇええええ!」

 

「うぉ!?」

 

 ランタンを手に歩いていると、見たこと無いが生物学上は鳥であろう生物が襲ってきた。

 この世界の初エンカウントが人間じゃなくて鳥ってなんか虚しい…って、違う。そうじゃない。

 

「テメエ、やんのか?」

 

 明らかに威嚇してくる鳥に対し、オレも威嚇する。無闇な殺生は好まねえが、そっちがその気ならばぶっ殺してありがたく異世界グルメにしてやる。腕をボキボキと鳴らして意識を臨戦態勢に切り替えると鳥は怯え、逃げ去った。

 

「ったく、相手見てモノを言えっての…見る?」

 

 もしかするとあの鳥はオレを見たから威嚇してきたんじゃねえだろうか?

 辺りは暗く聞こえるのは水が流れる音だけで、月明かりの様なものは無い。そんな中でオレは灯りを放つランタンを手にしている…生き物は色彩感覚には疎いが光や熱に敏感って言うからな。

 

「懐中電灯……は、持ってねえし、あ、オレの転生特典がアレだって言うなら、使えるのか?」

 

 ランタンの熱と光に生物が集まる以上は消さないといけない。

 こんな世界だから、市販薬を飲めばなおるレベルの風邪をひいたらおしまいの可能性がある。狂犬病とか怪しい病気持ちであろう生物…食うときは熱しないといけないな、うん。

 

「ワゥ…」

 

 ランタンの火を消し、狼を強くイメージするとオレは狼の姿になった。黒、白、緑とか言う現代じゃ中々にと言うか絶対に見ないであろう狼…なんか、元ネタよりも大きい。人二人を乗せることが出来そうな大きさだが、馬鹿みたいに大きいとかそんな事じゃない。

 

「フゥ…」

 

 狼になったことにより、暗闇でもよく見える。

 今まで匂わなかったものも、嗅ぎ分ける事が出来る…が、今はその能力は必要ない。

 地獄でバトル物の世界に行っても問題無い様に鍛えられてはいるものの、四足歩行なんてものはなれていない。これも早いところ慣れておかなければいけないものだとゆっくりと歩いていると、向こう岸に渡る橋を発見。

 

「ガゥ」

 

 これはと右の前足で橋を叩く。

 偶然の産物で生まれたものでなく、明らかに人工的に作られたであろう橋。そこそこの大きさの橋でボロボロじゃない…と言うことは向こう岸に渡るのによく使っていると言うことになる。

 

「……此処に鎮座していたら、人、いや、それは違うな」

 

 人の姿に戻り、橋に座っていれば人に会えると思うがやめる。人に会いさえすればついていったりすれば街に出れるが、それだと怪しまれる。自力で見つけ出さないといけない…変なのにあったら恐ろしい。

 

「なんかねえか…」

 

 なにか良いものがないかと腰につけている袋と言う名の四次元ポケットに手を入れる。

 なんで四次元ポケットとか思うかもしれないが、RPGあるあるの大量のアイテムを何処に入れてるのと同じでツッコミは禁止だ。こう言うときこそ地図が来いと思うと何かを掴み、取り出すと豚の顔が描かれた袋が出てきた。

 

「え~っと…なんだっけ、コレ?」

 

 中には粒の木の実と梨っぽい木の実が入っている。

 どっかで見たことあるけど、なんだったかと取り敢えずは梨っぽい木の実を取り出して豚の袋をしまう。

 

「きゅうええええ!!」

 

「あ、テメエ、さっきの!」

 

 何に使うんだったかと答えを教えてくれる転生特典を使おうとすると、さっき威嚇してきた鳥が空から急降下。

 オレを狙ってきたのかと思えば木の実をかっさらっていき、オレの上空を飛び回る。

 

「にゃろう、此方が空だけはNGだからって…っ!!」

 

 弓矢を出して光の矢で射ち抜いてやろうかと思うと、今見ている景色とは異なる景色が頭に流れ込む。

 コレはもしかしてと目を閉じると見ている景色とは異なる景色が鮮明に見えて、目で見えていた景色は消える。

 

「思い出した、これ空飛べる奴の視界を借りるエサだ」

 

 梨っぽい木の実がなんなのかを思い出したオレは別の方向を見たいと強く念じる。すると、鳥が動き出してゆっくりと視界は動き出していく…やっぱり、空を飛べるってのは強い武器だな。水中を泳げるどころか水中で生活出来る道具があったりするが、空を自由自在に飛び回る道具は存在しない…筈。

 

「何処かに……お、おぉお!……おぉ」

 

 割とあっさりと街は見つかった。見つかった…んだが、一つだけ問題がある。

 

「ハイラルと同じ…いやまぁ、防犯からしてそれが一番か」

 

 湖の上にある水上都市で入口は一つしかないが、かなり大きな街。

 一つしかない入口は今現在、開いておらず巨大な門に閉じられている…ハイラルと同じで、朝になれば開く筈…多分。だが、朝まで待つつもりはオレには無い。更に向こうにと強く念じて鳥を街の中に動かす。

 

「おぉ、街灯が…いや、これガスじゃなくてオイル式だ。ベネチアっぽい…違うな、単純に水の上にある街で教会らしきとこも存在している…街の中には大豪邸。あ~この国の首都かそれとも五指に入るレベルの街のどっちか…う~ん…」

 

 街の外観だけで、この世界が異世界だとよく分かる。それと予想通り電気の文明は無い…何処もかしこも窓からオレのよく知る灯りが無い。門前の人は騎士っぽい格好の連中で夜勤の奴等…これはオレの目で見て確かめないといけないか。

 

「家からあの街の距離はそれなりだが、歩いていけない距離じゃない。自転車…馬車があるし、製鉄技術が革新されて量産可能なら作ってもらう…あ、バイクみたいな乗り物あった」

 

 幸先の良い出だしに、喜びながらも、もう一度狼の姿になって水上都市まで歩く。

 人間の姿で門付近で寝ていると変なのに襲われてしまう可能性があるから、めんどくせえ。

 

「ぐぅ…ぐぅ…ぐぅ……」

 

 明日はどうするかとオレは少しだけ仮眠を取ることに。

 意識を完全に落とさずに、呼吸のリズムを整えて体全体の力を抜く

 

「狼?」

 

 意識を落とさずに、ボーッとしていると声をかけられた。

 何時の間にやら日は昇っていたらしく、オレを見て首を傾げている綺麗な女が目の前にいた。

 

「何故こんな所に狼が…いや、それよりもこの体毛。頭の部分が緑で、お腹周りは白、背中は黒…本でも見たことの無い種類の」

 

「がう」

 

「あ、すまない…」

 

 さも当たり前の如く人の体に触れるんじゃねえ。

 オレは女の手を肉球で弾き、軽く睨む。

 

「剣と盾を背負っている、となれば誰かが飼っているのか」

 

 別の事に女は意識を持っていっているので気付かない。

 オレが何処かの誰かに飼われていると分かると興味津々な顔をするが、なにか用事があるのか水上都市の方に去っていった。

 

「……改めてみるとデカいな」

 

 オレは人気の無い林に移動し、人の姿に戻ると水上都市に続く橋を歩く。

 空から見ていたから小さく感じたが、人の姿で距離を近付いてみるとデカい…うん、本当にデカい。村長が村回してる片田舎じゃない、領主的なのが存在するのは確実だな。

 

「ちょっといいか?」

 

「なんだ?」

 

「ここ、なんて街なんだ?」

 

 取り敢えずは情報を集めねえと。

 オレは門番と思う騎士にこの街の名前を訪ねると、門番は呆れた顔をする。

 

「此処はレディレイク、湖上の街だ。此処よりも大きい街となると後は皇都ペンドラゴぐらいで、この辺の人間なら誰でも知っているぞ。いったい、何処の片田舎から来た?」

 

「日出国にある出雲の黄泉比良坂を越えた先からやって来たんだよ」

 

「何処だそこは…」

 

「地獄だよ…景気は良いのか?」

 

「地獄に決まっているだろう。年々作物の実りは減るかと思えば、税は上昇、戦争は何時起きるかどうか分からん切羽詰まった状況、そんな中で祭りと来た」

 

「そうか…あ、通っても大丈夫か?」

 

「行商人でもなんでもないんだろ、勝手に通れ」

 

 門番から色々と聞きたいことが聞けた。

 不作の年で税が上昇、更には戦争のトリプル役満…普通に怖いな。しかし、行商人じゃなきゃアッサリと通れるのか…こんな領主制度の危険な街だから、通行手形作れとか持ってこいとか言ってきそうな感じなんだがな。

 

「なんかどんよりすんな…」

 

 よく分からんが、不思議とどんよりした空気を感じる。

 けどまぁ、現代の日本もこんな感じだし地獄なんてド腐れ野郎が集まるところだからもっと最悪で馴れている。やっぱ不景気になると何処もかしこも荒れるもんだな。適当な道を歩き、大きな通りに出ると露店商らしき店が立ち並ぶ所に出た。

 

「…」

 

 異世界だが、やっぱ現代と食うものは一緒……いや、一緒どころの騒ぎじゃないな。

 牛と豚、ニンニク、鱗の無い水生生物と色々と宗教的に食べてはいけないもののオンパレード。見た目こそ外人だが、中身は日本人。つーか、さっきの門番も普通に日本語だったな。

 

「そこの男前のお兄さん、リンゴ、如何ですか!」

 

「男前って御世辞言われると、逆に腹立つな」

 

 店側も売るのに必死なのか、声をかけてくる。

 しかし、男前とは…自身の容姿が酷いと思っているけど、親族とかがあんたが一番イケメンやと言う身内目線で言うアレ並みに恥ずかしい。そしてムカつく。

 

「朝っぱらから甘いもん食えるか…どっかに汁物売ってねえか?」

 

 日本人なら味噌汁を食わねえとやってらんねえよ。

 この辺で皇都除けば一番デカい街なんだから、味噌ぐらいは売ってるだろう…あ、炊き出しはねえか。色々と探してみたが味噌汁は無かった。

 

「おっさん、これ幾らだ?」

 

「900ガルドだ」

 

 仕方ないとケバブを食べる事にした。

 

「たっけーな、少しまけてくんねえか?」

 

「文句あるなら国に言えよ、1000ガルドじゃないだけましだ」

 

「何処もかしこも不景気なこった」

 

 出来れば無駄遣いはしたくないが、最初の方はある程度は妥協しないといけねえ。

 オレは財布を取り出して支払う…どうでも良いが、ガルドって金貨っぽいんだな……札束を量産できる文明じゃないのか?少なくともこの街を作れる技術があるなら、活版印刷術とか作れるだろう。

 

「ケバブ、旨いな…」

 

 買ったケバブは中々の味だ。

 日本人は舌が肥えているらしく、異世界の飯が合わんとかどうとか…まぁ、これは救いだな。ドラゴンの肉食えとか言われたら困るし…米、不味いの無理だ。

 

「……」

 

 ケバブを食べ歩きながら街を詮索しているとやはりと言うべきか、馬で荷車を引っ張っている行商をみる。

 こんだけ水が豊かならば水を利用した技術を…水力発電所を作ろうと思えば作れる。と言うか、水車ぐらいはあるよな?

 

「ど、どいて!」

 

 ケバブを食べ終え、何処かにゴミ箱が無いかと探していると子供とぶつかる。はしゃぎ回っていて元気があるもんだ……って、言うかボケえ!!

 

「おい、こらテメエ、なんのつもりだ?」

 

「な、なにがだよ!」

 

 ぶつかった拍子に上手く財布を抜き取ったクソガキ。

 油断も隙もない。と言うよりは明らかに狙ってスリに来やがった。

 

「惚けても無駄だぞ、ちょっと来い」

 

「は、はなせ」

 

「誰が放すかよ」

 

 財布を奪い返し、オレはクソガキの腕を掴み、体ごと持ち上げる。

 すると痛そうな顔をするクソガキだが、オレはそこで手を緩めるほど甘くはない。

 

「手口と良い、明らかに常習犯だろう。なにしたいかしらんが、オレを狙った事を恨むんだな」

 

「ひっ!?」

 

 水上都市だけあって、ヴェネチアみたいな感じのレディレイク。

 橋の下には下水が流れていたり、湖だと言う感じで、オレは腕を突き出して手を放せば子供が湖に落ちるようにする。

 

「……最後に、言い残す言葉はあるか?」

 

「あ……あぁ」

 

「……ッチ」

 

「そこで何をしている!!」

 

 オレに怯えたクソガキは冷や汗をかき怯えており、最後の言葉を言えない。

 人間一度酷い目に合わないといけないと思っていたが、直ぐに使いもんにならなくなると思っていると狼の姿のオレに興味津々だった女が現れた。

 

「その手を放せ!って、颯爽と現れたら手を放したんだがな」

 

 これ以上はやってられないとオレはガキを投げ捨てる。

 本当なら保護者呼び出して、色々とやっていたがこれ以上はやってられねえ。

 

「何処に行くつもりだ!」

 

「適当にこの街をぶらつくんだよ」

 

「その前にこの子に謝るんだ!」

 

「アホか、逆だよ逆…そいつはオレの財布を盗もうとしたんだ。ごめんなさいって言葉出ないし言い訳もしねえから、出そうとしたんだぞ」

 

「なに?」

 

 ピンチの状況ほど、人間は本性を現す。ごめんなさいの一言が聞ければ即行で戻してやろうとしたが、怯えるのは予想外だった。

 

「それは、本当なのか?」

 

「……アイツが俺の財布を盗んだんだ!!」

 

「…そう言っているのだが?」

 

 ああ言えばこう言うクソガキ。

 さっきまで静観を貫いていた街の住人達は盗んだのはガキじゃなくオレだと信じたのか、軽蔑の眼差しを向ける。

 

「はぁ……」

 

「子供からお金を盗むなんて…」

 

 女もオレに軽蔑の眼差しを向ける。なんで転生して辿り着いた最初の町でこんな目に合わなきゃいけねえんだろう。

 

「お前が良識ある人間なら、大人とか子供とか関係無いちゃんとした奴なら考えろ」

 

 オレは財布を取り出し、クソガキでなく女の方に渡した。

 

「どういう意味だ?」

 

 良くやったとか流石とかの尊敬の眼差しを向けられる女は疑問に思う。

 

「百聞は一見に如かず、っつー諺が存在する。百回聞くよりも一回見た方が価値があるって言葉だ…」

 

「百回聞くよりも一度見た方が良い……!!」

 

 オレが何を言いたいのかやっと分かってくれた。財布をチラリと開くと、目も大きく見開き驚いた顔をして慌てる。

 

「百聞は一見に如かずだろ」

 

「ああ…すまない。コレは紛れもなく貴方の財布だ…明らかに子供が持てる額じゃない!」

 

「そう言うことだ」

 

 女はオレの財布がオレの財布でオレの物だと分かった。

 そこそこの大金、入れてきて正解だったな。少量だったら確実に奪われていた。

 

「ダメじゃないか、財布を盗んだら」

 

 女は財布をオレに返すと、クソガキを叱る。

 常習犯だから、叱ったところで反省しないぞ。そこそこの酷い目に合わないと、なにも変わらねえ。

 

「うるせえ、腹が減ったことねえクソババアはとっととくたばれ!!」

 

「あっ……」

 

「あのクソガキ、将来有望だな」

 

 最初は反省らしい反省をするのに、あんな口を利くとは…恐ろしいクソガキだ。

 オレも女も去っていったクソガキは追わず、逃げるのを見守る。

 

「バカめ、手口からして常習犯なのは丸分かりだ。捕まえようと思えば捕まえれる」

 

「クソババア、か…はぁ…」

 

「そう落ち込むなって。オレの知り合いが言ってたよ、女は15過ぎた辺りから熟女やババアになるって。お前はババアにオレもジジイに何時かはなるんだから、問題はそこまで長生きすることだ。老人達にこれから長く元気に生きてねって言うけど、オレ達がそこまで長生き出来るかどうかが」

 

「私はババアじゃない、それどころか美少女…って違う。確かにあの子が貴方の財布を盗もうとしたが、幾らなんでもやり過ぎだ!」

 

「やりすぎねぇ…じゃあ、程好く確実に反省し、二度としない素晴らしい方法を教えてくれねえか?世間が流石とか立派とかその手があったと思えるような立派な方法を」

 

「それは……」

 

 代案を求めるが、答えることが出来ない。典型的な正義感が強いでしゃばり…いや、でしゃばりじゃなさそうだな。

 

「答えれないなら答えないでいい、別にそんなもん求めてもお前とは無関係なんだから…じゃ」

 

「待ってくれ、貴方を疑った事を詫びたい」

 

「何処の誰かも知らない奴に詫び入れられても困る」

 

 つーか、とっとと何処かに行きたい。こいつ容姿が良いだけじゃなくて人気者だから、悪目立ちする。

 

「すまない、自己紹介がまだだったな…私はアリーシャだ」

 

 そういう意味じゃないんだけど、そういう意味だと捉えた女もといアリーシャはオレに自己紹介をした……あ!!



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剣を引っこ抜くなど、朝飯前

「アリーシャねぇ…」

 

「だから、行こうとしないでくれ!」

 

 アリーシャに背を向け、別の場所に行こうとすると首根っこを掴まれる。

 

「ん、この剣は…」

 

「オレの剣がどうかしたのか?」

 

「いや……外で待っていた狼の飼い主はこの人か。人に名前を訪ねたんだ、貴方も名前を教えてくれないか?」

 

「名前、ね…」

 

 確かに名乗らせたし、尋ねた。

 それならば此方が名乗るのが当然っちゃ当然なんだろう。だが、一つだけ問題がある。

 

「名乗ろうにも、こちとら名無しの権兵衛なんだよ」

 

 転生したら自分の容姿によって大体の名前が用意されている。

 転生者の魂と似ている容姿が作られており、憑依者とか転生特典除けばずっとそれになる。

 極稀に容姿とは関係の無い普通の名前を持った奴や転生する度に容姿が変わるやつもいるが、そこは問題じゃない。転生した際に特典とか色々と書かれていた紙には、名前が一切書いて無かったんだよな。

 

「ゴンベエと言うのか、変わった名前だな」

 

「いや、そうじゃねえ…って、もう良いよそれで」

 

 明らかに和風の名前に違和感を感じるアリーシャ。日本的な国、探せば見つかるのだろうかねぇ…

 

「名乗ったんだから、もう良いだろ」

 

「そうは行かない、ゴンベエを疑った詫びをしなければ私の気がすまない」

 

「あのな…お前が謝る必要はまぁ、あるにはある。だが、お前がごめんなさいって謝って終わるだけで本当に頭下げねえといけねえのはさっきのクソガキだからな?」

 

「それは…」

 

 謝る暇があるなら、とっとと連れてこいっつーの。まぁ、もうビビってオレを狙うことは無いし、この街の住人なのは判明している。

 

「ったく、オレみたいなのに言い負かされてんじゃねえぞ。世の中には口八丁だけで生きてる奴等もごまんといるんだ…疑う事も覚えておいた方がいいぞ」

 

「肝に命じておく…だが!」

 

「しつけぇな、おい」

 

 責任感の塊だな。

 

「はぁ…お前、この街の住人か?」

 

「ああ、此処が私の育った街だ」

 

「だったら、案内してくれ。オレは余所から来たもんだから、どういう事をしているかどういうものがあるか知らねえ。詫びたいなら、街案内してくれ。あ、貴族街とかオレには一生縁の無いところは省いてくれ」

 

「…それなら御安い御用だ」

 

 街の事は街の住人が一番知っている。アリーシャは微笑み、街を案内してくれる。これで責任感が強いこいつの中にある罪悪感がチャラになって、街の文明も見れる。

 

「そう言えば、ゴンベエは何処からやって来た?」

 

「日出国にある出雲の黄泉比良坂の奥からやって来た」

 

「日出国…聞いたことの無い国、遥か遠くの異大陸に異国の住人なのか」

 

「まぁ、そうだな…しっかし、適当に言ってみるもんだな、うん」

 

「なにがだ?」

 

「貴族街だよ。うちの国は貴族制度とかそう言うのとっくに滅んでて、王様も飾りだけで国を動かしてねえ…」

 

 異世界でと言うか中世の世界では民主制ってありえないか。

 中世は絶対王政か絶対の宗教政治だから、現代になるまでは民主制はない。日本だって民主制になるまでは大分時間がかかってるしな…

 

「貴族がいなくて、王が国を動かしていない!?」

 

「一生アリーシャとは縁遠い話だし、オレももう無関係だから気にすんな」

 

「だ、だが…」

 

「もうそこには戻らねえんだし、向こうから此方の国に来ないんだから気にしなくて良いんだよ」

 

 王族貴族を撤廃した事に驚きを隠せないアリーシャ。だが、もう日本には戻れない。この世界で一生を過ごさないといけない。となると、病気とかが怖い…ファンタジーっぽい力で治されるのもなんか怖いし、作れるなら仁みたいにカビはえたミカンから薬作りたい…て言うかアレってどうやるんだっけ…あ、なんか頭に出てきた。

 

「そうか…この国ならきっと」

 

「なんか勘違いしてねえか?王族貴族制度よりも民主制度の方が国が回るからそっちになっただけだからな?確かに上の人間、ロクでもない奴ばっかだけど生活水準の最低基準は上回ってるからな」

 

 糞みたいな田舎だから上京してきた田舎の地方民に向ける目をオレに向けるな。

 少なくとも、この国よりはましだからな。中世の時代よりは進歩してっからな。

 

「最後は、この聖堂だ」

 

「あ、それはいいから」

 

 武具屋、飲食店、宿屋と色々と案内してもらった末に無駄にデカい聖堂に連れてこられた。

 聖堂、オレ達転生者が絶対に行ってはいけないと言うかあんま行っちゃいけない場所のひとつ。

 

「宗教変えると、糞ややこしいんだよ。オレは天の神様よりも空中に浮かぶ仏様とかを祈るんでな」

 

「ここは神でなく、天族に祈りを捧げる聖堂だ。とにかく入ってくれ…本当なら、聖剣祭がおこなわれて賑わないといけないのに……」

 

「聖剣祭?」

 

「この大聖堂にある聖剣を引き抜き最後に、湖の乙女と呼ばれる御方に祈りと炎を捧げるものなのだが、飢餓や疫病で災厄の時代と呼ばれているこの数年は世相の混乱を避けるためにしなくて本当なら聖剣を引き抜こうと色々な人達が集っていて」

 

「その聖剣、抜けたらなんかあんの?」

 

「その聖剣を抜けたものこそ、混乱と災厄の時代を救う導師と言われている」

 

「うわー……」

 

 なんだその良くあるベターな展開。

 つーか、剣を引っこ抜いた奴が導師って、剣を引っこ抜いた奴が勇者のごまだれーと一緒じゃねえか。いや、アーサー王伝説が近いのか?冷静に考えればペンドラゴとか言うのもあれだし、うん。

 

「アレが湖の乙女が宿ると言われている聖剣だ」

 

「聖剣ね……」

 

 大聖堂の奥に案内されるとぶっ刺さっている剣…の横でグースカ寝ているアリーシャよりも年齢が上な女が目に入る。

 あんな所で人が寝ているとなると、聖剣祭の聖剣、皆、どうでも良いと思っている良い証拠だな。

 

「なにが聖剣だ。あの剣が引き抜かれた所なんて、見たこと無いぞ」

 

 ボソリと何処かからそう呟く声が聞こえた。

 あ~やっぱりそうなるよな。人間は目に見えるものを信頼する生き物だから、見えない存在なんぞ信じられん。つーか、その湖の乙女と導師二人で災厄の時代救済って難易度半端ねえな。八百万の神並みにいれば、役割分担出来たのに。

 

「…本当は賑わっている所を、見せたかった…。今年は無理だったが、来年には聖剣祭を必ずしてみせる!」

 

「それはどうでも良いけど、したらしたでさっきの奴みたいな事を言うんじゃねえのか?聖剣、引っこ抜けないなら結局のところ国の金を使うだけで、無駄足だし…いっそのこと、この聖剣の台座ぶっ壊すか?」

 

「ゴンベエ、なにを言っている!!」

 

「ほら、お伽噺とかでよくあるだろ?伝説の剣を引っこ抜いた者が勇者とか選ばれし者的なあれ。アレって、台座の方を刺さってる方をこう、ガーっとぶっ壊して引き抜きたい」

 

 結果的には剣を引っこ抜いた事になる。

 昔から疑問に思っていた事をしてみたいと思っていると、アリーシャが全力で止めに入る。

 

「冗談だよ、冗談」

 

「冗談でも言っていい事と悪いことがある」

 

「言っていい事と悪いことがあるなら、やっていい事と悪いこともあるだろう。彼処で寝てる女なんか、オレよりも質悪いぞ。なに、ボンボンなの?国家権力乱用してるの?」

 

 ずっと聖剣の側で寝ている女を誰も気にはしない。

 もうなにを言っても無駄だと諦めかけているんじゃねえだろうな…いやまぁ、こう言う胡散臭いの信じろってのが無理か。宗教の名前を盾に好き放題するのは何時だって何処もかしこもやっているんだから。

 

「……なにを言っているんだ?」

 

「いや、だから彼処で寝てる女だって。あの聖剣、なんか重要な物なんだろ?グースカと横で寝てたら怒られるだろう」

 

「聖剣の横……ゴンベエ、聖剣の横には誰もいないじゃないか」

 

「……」

 

 オレが指差した方向を見るアリーシャだが、女に気付いていない。と言うよりはまるでそこに居るのが見えていないかの様で、オレを疑ってる。

 

「いやでも、女が寝てるぞ?」

 

 アリーシャが疑うのでオレは空き瓶をポケットから取り出し、聖剣の横で寝ている女の上に置いた。

 

「空き瓶が、浮いている!?」

 

「え~…逆にお前の視点が気になる」

 

 空き瓶を女の体の上に置いたら、周りがざわめき出す。ただ単に女の上に空き瓶を置いているだけなのに、アリーシャ視点だとどうなってるんだ?

 

「!?」

 

「まさか……湖の乙女と呼ばれる天族がそこに居るのか!?」

 

「あ~……乙女と呼べるかどうかはまぁ、怪しいとして」

 

「乙女ですわ!」

 

「ぬぅお!?」

 

 女が居ることをアリーシャに教えようとすると、女は目を覚ました。

 何処から会話を聞いていたかどうかは不明だが、乙女じゃないと否定しようとしていたオレを燃やそうとするので、オレは前転して炎を消す。

 

「今、燃えた……と言うことは、そこに湖の乙女様がいらっしゃるのですね!」

 

「え、なんで敬語…天だから?つーかなに、オレが燃えたから信じたのか?」

 

 オレ、そこまでしないと信じられないってどんだけ信頼無いわけ?

 確かに悪よりの人間だって地獄でも言われたけど、まだ悪いことを1つもしてないんだぞ?生まれた事を罪とするのか?

 

「まぁ、私が見えるのですか!」

 

「見えるよ」

 

 つーか空き瓶を返せ。湖の乙女と呼ばれる乙女じゃない女はオレを見て、驚く。と言うよりは天族ってなんだ……オレしか見えないから、霊的な存在の一種なのか?

 

「失礼ですが、お名前と出身を」

 

「オレは出身は…言っても分からんが日出国にある出雲の黄泉比良坂を越えた所に最近までいた」

 

「ゴンベエ、湖の乙女様はなにを仰っている?」

 

「オレに自己紹介しろとよ。あ、でもなんか出身を聞いた途端、違うと否定してるな…うん…」

 

 自分が待ち望んでいた人物がやって来たと思ったら、違う人だったのか。

 まぁ、確かにオレはこの世界の住人じゃないからどう頑張っても別人に過ぎない。

 

「ゴンベエ、自己紹介するならば名も名乗らなければ」

 

「だから、名無しの権兵衛だっつってんだろ」

 

「私にでなく、湖の乙女様にだ!」

 

 こいつ、その内なんかやらかすぞ。オレが湖の乙女とやらを見えると分かれば何処かウキウキとしているアリーシャ。

 結果的には今ので自己紹介をした事になり、湖の乙女はオレの事をナナシノ・ゴンベエとして記憶した。

 

「私はライラと申します…この街では湖の乙女と呼ばれています」

 

「ちゃんとした名前があるなら、二つ名じゃなく本名を記録しとけよ」

 

「申し訳ありません…長い間、私を視ることが出来る人が居なくなってしまい湖の乙女として通っていて」

 

「ああ、そう」

 

「ゴンベエ、湖の乙女様はなにを?」

 

「オレを介して会話をするな」

 

 アニメのポケモンのロケット団のニャースの様な役割になりかけている。オレを介さずに会話をしろ。

 

「だが、湖の乙女様の姿を見ることが、声を聞くことが出来るのはゴンベエだけで」

 

「すみませんが、間に介していただけないでしょうか?」

 

「……いや、筆談すりゃ良いだろうが。時間と効率悪いけど」

 

「「…あ!」」

 

 少なくとも物に触れることが出来るのは空き瓶で証明したんだから、わざわざ声を介さなくても良い。

 言葉以外の会話方法は幾らでもあるんだからそれをしろよと言うとその手があったかと二人は口を開いた。

 

「少し待っていてください、今、書く物をお待ちしてきます!」

 

 アリーシャはペコリと一礼をすると聖堂から出て、何処かに向かって走っていった。多分、帰宅して家にある書く物を持ってくるんだろうな。

 

「にしても、見えないんだなライラのこと」

 

「霊力の低い方は私の姿は勿論のこと声も聞こえません」

 

「だが、そこにいる事実は変わらないんだろ?」

 

「はい…私は確かにここに存在します」

 

 となると、霊力の低い人間とぶつかるとどうなるんだろうか?霊力の低い人間には見えない壁となるのか、それとも透過していくのだろうか?こう、透過していくならそれはそれで見てみたいが、やったら怒りそうだ。

 

「さてと……アリーシャが帰ってくる前に帰るか」

 

「え!?」

 

「いやなんか、これ以上は面倒でしかないだろう。取り敢えず筆談する事が出来れば、アリーシャ的にも色々と嬉しいだろうし……うん」

 

 アリーシャが戻ってくると、確実にややこしくなる。と言うよりは、この台座に刺さっている聖剣を引っこ抜いてくれとか言うんだろうな。

 

「取り敢えず、抜けるかどうか試してから帰ろうっと」

 

「それは私と契約し導師になる者のみしか抜くことが」

 

「あ、抜けた」

 

「ええっ!?」

 

 試しにと引っこ抜いてみると、割とあっさりと抜けてしまった聖剣。

 なにか不思議な力が剣に宿っているのを感じるが、その力はオレが持っている力と比べて余りにも弱い。

 ライラが言う契約して導師になる奴のみ抜ける術をも遥かに上回る力を持っているからか?

 

「天族ってなにかは知らんが、少なくとも神様よりは下か」

 

 自分の手に宿る勇気・知恵・力のトライフォースを見て呟き、聖剣を台座に戻す。

 背負っている剣と比べ物にならない程に弱いな…。

 

「さーて、帰るか…んだよ、なんか言いたいなら言えよ」

 

 アリーシャが居たからか、それとも剣を引っこ抜いたからか僧侶?達がありえない者を見る目でオレを見る。

 鬱陶しいので言いたいことがあるならば、とっとと言えとオレは強く睨むと眼鏡かけたおっさんがオレに近付く。

 

「あ、貴方は導師様なのですか!?」

 

「いや、違うけど?」

 

「で、ですが…その聖剣を抜くことが出来る者は導師とされていまして」

 

「導師じゃねえつってんだろ…導師が必要かなんかしんねえけど、居ねえならどうしようもないじゃなくて導師じゃなくてもなんとか出来る方法考えろ」

 

 オレは聖堂を去り、レディレイクを出て帰路につく。財布スラれるわ、女騎士に睨まれるわ、怪しい宗教団体の導師に間違われるわ悲惨な目に遭ったな。あそこが王都である事以外にはなんの成果もねえな。




スキット 帰っていったゴンベエ

アリーシャ「はぁ、ゴンベエは勝手に帰ってしまった」

ライラ 「勝手に帰って(かって)しまいましたねぇ」

アリーシャ「しかし、彼には悪いことをしてしまったな…この街が良くない街と出来れば思わないでほしい」

ライラ「そういう時は街の美味しい名物を、彼にカレーを食べさせましょう!」

アリーシャ「そう言えば、あの狼は何処に…結局、ゴンベエが私と居る間は影も形も無かった」

ライラ「狼と居場所がおお、噛み合いませんね」

アリーシャ 「もしかすると彼が災厄の時代を救う導師…なのかもしれない…」

ライラ「導師がいなくて、どうしようもない…」

ライラ アリーシャ 「はぁ…」


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電気はないけど、元気はある。

「あ~、逃げる前に地図買っておけばよかった」

 

 転生して一週間。この世界の文明での生活に馴れて…来ると思ったら、大間違いである。

 現代っ子にとっていきなりの中世に転生なんて無理。女子力高めの男子だろうが、中世レベルになったのならばどうあがいても女子力が通じない。

 

「アリーシャに見つからない様にしないと」

 

「私がなんだと言うんだ」

 

「!?」

 

 買いたいものとか色々とありレディレイクに再び戻ってきた。

 アリーシャに見つからずに欲しいものを手に入れようと思った矢先、アリーシャに見つかってしまった。

 

「ゴンベエ、私がなんだと言うんだ?」

 

「見つからない様に買い物をしに来たんだ。見つかっちまったらしょうがねえ……じゃ、オレは買い物をしてくる」

 

「待て」

 

 綺麗な笑顔とは裏腹に青筋を立てているアリーシャ。

 これは怒っているなと厄介な事になる前に逃げようとすると首根っこを掴まれたが、直ぐに外す。

 

「んだよ、怒ってるのか?オレが帰った後に何かあったの?オレが原因で何かあったの?」

 

「怒ってはいない。だが、ゴンベエが原因で一騒動だ。今まで誰も抜けなかった聖剣をアッサリと抜いたと思えば戻して……大慌てでゴンベエを探したんだ」

 

「言っとくが、オレは導師でもなんでもねえよ。宗教の教祖とか頼れるリーダーとかそう言うの向いてねえし、自分でもやりたくねえ」

 

 あの聖剣にはなんかの術らしきものが掛かっていた。

 ライラが許可したら抜ける的な術で、抜いた奴が導師だと言うんじゃなくて抜くことを決意して許可貰ったら導師なのが真実だろうな。

 

「ゴンベエが導師ではないとライラ様が仰っていた」

 

「あ、筆談が出来たんだな」

 

「ああ…だが、無闇に会話は出来ないと基本的には私にしか語りかけてくれない。とにかく、一度大聖堂の方へと来てくれないか?司祭達が君に会いたがっている」

 

「嫌だね」

 

 アリーシャは白だが、もうなんか見えるぞオチが。オレはアリーシャの頼みを断り、市場がある方へと足を運ぼうとする。

 

「待ってくれ!」

 

「災厄の時代で、どいつもこいつも救世主望んでるんだろ? 誰も抜けなかった聖剣を抜くことが出来る奴が例え本物じゃなくても導師にしようと言う考えが見え見えだ。神様仏様を心の拠り所にするのは悪いとは言わねえが、そう言うことをするのはいけねえ……今まで過去に導師の名を騙った奴っているか?」

 

「…」

 

 アリーシャはオレの質問に返事をしない。

 導師の名前を騙った馬鹿が過去にいて、詐欺したか導師と言う心の拠り所が欲しいと思っているか、どっちかは知らんがどっちかは有ったと言っているみたいなもんだ。地位なんかじゃない明確に分かる凄い人が自分達を助けてくれるなんて分かれば希望を持てる……が、助けるなんてしねえ。

 

「つーか、導師ってなにするの?」

 

「…伝承や伝説が確かならば、はるかな神話時代、世界が闇に覆われると、いずこより現れ光を取り戻したと言われている。この災厄の時代を終わらせ、嘗ては栄えた枯れた土地を復興したりするのが導師の仕事だと思うが…詳しいことは私にも分からない」

 

「んだよ、もっと具体性の分かるもん残しとけよ。邪悪な魔王的な奴をぶっ倒せば良いとか、そう言うのを、闇を祓うって無理だからな」

 

 闇も視点を切り替えれば光の一種なんだよ。

 邪悪な存在がいるからこそ人々は立ち上がれるし、争うからこそ人は進歩する。スマホなんかが良い一例だ。携帯電話は元を正せば軍の通信道具かなんかだった筈だ。

 

「闇をマイナス、光をプラスと考えれば…プラスは足しても割っても引いても掛けても変化する。それと同じようにマイナスも足しても割っても引いても掛けても変化するもので、打ち払うなんて神様にでも無理だ」

 

「……つまり、どういう意味だ?」

 

「0は数学上は存在しているけど、物理的現実的には存在していないししちゃいけない」

 

「ますます意味がわからない」

 

 人類史で一度も成し遂げられていない世界征服をして究極の絶対王政をするとか…うん、まぁ、いいや。

 とにもかくにも導師のやることが余りにも曖昧で余計に胡散臭くなってきた。

 

「つーか、オレは用事があるんだ。仮に司祭とかライラに祈ってる奴等に出会っても知らんぷりだ」

 

「っ……そう、か……」

 

 オレがどうあがいても来ることはないと分かり落ち込むアリーシャ。

 導師が欲しいのか、それとも自分の手が弾かれたのかどっちに落ち込んでるかは知らん。

 

「ゴンベエはなにを買いにレディレイクへ?」

 

「飯の材料と、出来れば鉄が欲しい」

 

 来れないならと別の話題を振ってきたアリーシャ。

 こいつ暇なのか?…いやまぁ、騎士や警察が暇ってのは良いことだから良いんだけども。この街の住人ならば鉄が何処に売ってるか知っているだろうと欲しい物を述べると難しい顔をする。

 

「ゴンベエ、レディレイクは王都だ。流通が盛んで確かに色々なものが売っている。だが、鉄鉱石となれば、此処よりも鉱山がある街の方が」

 

「そのレベルはいらねえよ、アリーシャの指から肘ぐらいの長さの四角い鉄の棒が欲しいんだよ」

 

「それぐらいならあるが……何に使うつもりなんだ?」

 

「磁石を作る」

 

「……磁石なら、少し値がはるが売っているぞ?」

 

「それ方位磁石だろうが」

 

 オレが貰った転生特典、知識だったらどんな事でも教えてくれると言うよくわかんねえ特典。

 これの使い方がやっと分かった…要はキテレツ大百科だと言うことだ。ドラえもんの秘密道具はくれねえが、代わりに似たような効果を持つ自分で作るキテレツ大百科だ。

 

「とにかく、鉄パイプ…後は地図だな。この辺の土地勘全然無いからな…一番大きな山にいかないと」

 

 雨が降るとかそう言う運要素はどうにでもなる。

 問題は鉄パイプを入手しない限り、どうにもならない…出来れば異常に遠いところに山があるとかなければ良いんだが。

 

「この辺で一番高い山……レイフォルク、じゃないだろうか?」

 

「レイフォルク?」

 

「この辺で一番高く聳え立つ山、霊峰レイフォルク。ドラゴンに関する伝承でも出てくる場所で、普通の山と違い草木が一つもはえていない…だが、雲をも越える高い山だ」

 

「雲をもって、雪積もっているのか?」

 

「此処は北国じゃない、雪はふっていない」

 

 雲を貫く高さって、下手すりゃエベレストよりも高い山だ。

 空気薄いし、北国じゃなくてもエベレストよりも高いんだったら雪の一つでも降ってそうなイメージがあるんだがな。

 しかしまぁ、雲をも越えると言うのが本当だったらそこならば確実に雷を落とすことが出来るな。ハズレを引いたら恐ろしいからとオレは武具屋に行くと廃材らしき鉄棒を貰った。

 

「あの……」

 

「なんですか、アリーシャ様?」

 

「これを磁石にすることは可能ですか?」

 

「いえ、それは無理です……鉄だけで磁石は不可能です」

 

 鉄棒を磁石にすると思ったアリーシャは武具屋のおっさんに鉄で磁石を作れるか聞いた。

 ハッキリとおっさんは無理と言う…電気による文明が無いから無理なのか?少なくとも現代じゃアホほどマグネットがあるから、量産出来ると思っていたんだが…まーいいか。

 

「だ、そうだが?」

 

「まぁ、このやり方は危険すぎるからな。なにするか気になるんだったらついてこい」

 

 オレがいったいなにをするのかが分からないアリーシャは疑う目を向ける。

 天族とやらが見える以外は胡散臭いし、平気で暴言を吐いたり疑ったりするからか、オレに疑心暗鬼する。ぶっちゃけそれがどうしたって思うけど、これから先この街利用するからアリーシャを敵に回すとめんどそうだ。

 

「鉄棒で磁石……」

 

 貰った鉄棒を一本ずつ持つアリーシャ。火の用心と言って拍子木を叩くかの様にカチンカチンと擦り合わせるが、今はまだ、ただの鉄なのでくっつかない。磁石とかを擦れば磁力を帯びるが、それで出来る磁石は求めていない。

 

「今はまだくっつかねえよ……てか、来んのか?ついてこいつったけど、マジで来んのか?」

 

「え……ダメ、なのか?」

 

「ダメじゃねえけどよ…あんま口外しないでくれよ、割と命懸けの要素もあるんだから」

 

「問題ない……それより、ゴンベエの方は大丈夫なのか?」

 

「問題ねえよ」

 

「いや、そっちじゃなくて食材も買いに来たんじゃないのか?」

 

「あぁ、そうだったな」

 

 食材の方がメインだった…まー、飯を作るのが面倒だから一日ぐらい問題ないんだけどな。

 こう言う自堕落な生活続けてたら、その内、変な病気になるんだろうな…

 

「カビがはえたミカン売ってねえか?」

 

「逆に聞こう、そんなの売るか?」

 

 武具屋から市場に移動し、カビのはえたミカンが無いかを聞くと店主に殺意の籠った目を向けられる。

 そんなのが売っていたら商売は出来ないし、店の名前は落ちて一瞬で潰れると怒っている。

 

「ゴンベエ…確かに北国の方にはカビのはえたチーズを食べると聞いたことがあるが、流石にカビのはえたミカンはお腹を壊すぞ」

 

「食わねえよ、抗生物質の元になるんだよ。あ、今の無し。無しな、聞かなかったことにしてくれ、本当に忘れてくれ」

 

 あんまり余計な事を言うと、蟻のように集ってくる奴等がいる。

 技術は分けあうじゃなくて独占し、上手い具合に売らないと…つーか、金稼ぐ方法考えないとな。

 

「……タケノコ」

 

 飯を何にするか考えながら色々と食材を見ているとタケノコを発見する。

 タケノコは下拵えすんの面倒だけど煮込んでも炒めても炊き込みにしても食える…が、そこじゃない。

 

「おっさん、これ何処で仕入れてる?」

 

「業者を教えるとでも?」

 

「そうじゃない…タケノコがあるって事は、竹がどっかにあるって事だろ?悪いんだけど、竹を仕入れてくれねえか?」

 

「それぐらいなら構わないが…水筒でも作るのか?」

 

「色々と竹細工作るんだよ…」

 

「籠ぐらいなら此処でも手に入るぞ?」

 

「籠じゃない…物凄い竹細工だよ」

 

 竹があれば、色々と竹細工を作ることが出来る。

 少なくともこの世界で一番必要…とは言いがたいが、あった方が絶対に良いアレを作るのに必要だ。

 

「はぁ…なんかなろうみたいな事をしてんな…」

 

 市場のおっさんは竹を入荷してくれると言ってくれた。

 これでどうにかなるなと一安心するが、オレは今の自分の状況がなろうの主人公みたいな事をしていると思い、落ち込む。そしてアリーシャの案内の元、オレはレイフォルクに向かった……

 

「なろうと言うよりはDr.ストーンだな、これは」




スキット ドラゴンの伝説

アリーシャ「ライラ様にはゴンベエの事を一言、告げておけばよかっただろうか…」

ゴンベエ「どうせ一度はレディレイクに帰るんだから、後で良いだろ」

アリーシャ「確かにそうだが…」

ゴンベエ「後の事を考えることもそうだが、今も大事だ。レイフォルクって山なんだろ?山に詳しくねえから、何があるか分かんねえぞ、なんかある?」

アリーシャ「レイフォルクはドラゴンに関する伝承がある…」

ゴンベエ「ドラゴンね…ライラみたいなのが居るって事は伝承は事実でドラゴンいるかもしれないな」

アリーシャ「なっ、それならレイフォルクに行くのはやめておいた方が!」

ゴンベエ「別にドラゴンぐらい、どうにかなるだろう」

アリーシャ「どうにかって…ドラゴンは破滅の使徒、災厄の象徴ともされている。どうにかだなんて…」

ゴンベエ「破滅の使途って、また大層なもんだな」

アリーシャ「ゴンベエの国では違うのか?」

ゴンベエ「蜥蜴に翼がついた奴をドラゴンと言うならそんなもんは存在しない」

アリーシャ「ドラゴンがいない?」

ゴンベエ「同一視して良いかはよくわからんが、うちの国ではドラゴンっつーか龍は蛇みたいな感じで伝説はそれなりにある。有名どころで言えば、定番のドラゴン退治だな…つっても、ドラゴン退治の伝説なんて何処にでもあるけど…て言うか、アレってドラゴンと言うよりも怪物だな」

アリーシャ「何処にでもって…ゴンベエの国のそのドラゴンはそちらの国の導師の様な人が倒したのか?」

ゴンベエ「伝説が事実なら神様が倒した」

アリーシャ「神様が…そうか…もし本当にドラゴンがいたら、この国なら導師が倒してくれるだろうか…」

ゴンベエ「いや、倒したっつっても、酒飲ませて酔い潰れてる間に首切ったから」

アリーシャ「酔い潰れた!?」

ゴンベエ「なんならうちの国は龍を水の神と見てるとこあるからな。
あ~でも、嘘をつかれて騙された女が憎しみで龍になったり、ムカデを殺して欲しいって人間に頼んでお礼に不思議な御宝を渡した龍も居るみたいだぞ」

アリーシャ「良いドラゴンもいれば悪いドラゴンも居る、と言うことか…レイフォルクにはどの様なドラゴンがいるのだろうか」

ゴンベエ「…ドラゴン居る前提になってる…」


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エレキ 閃き 電撃

「マジで植物の一つも生えてねえんだな」

 

 アリーシャの案内の元、レイフォルクへとやって来た。

 霊峰とか言われているだけあり、それっぽい雰囲気を醸し出してはいるものの、ある時を境に植物が一切無い。水が無いからコケもないがこれほどまでになにも無いのは生まれてはじめて見る。

 

「……」

 

「どうした、ゴンベエ?高い山になにか用があるから来たんじゃないのか?」

 

「用事があるにはあるんだが……」

 

 はじめてくる場所のせいか、色々と違和感を感じる。

 邪悪ななにかか清らかななにかか…どっちかは分からんが、ロクでもないのは確実だ。

 

「アリーシャ、なにか違和感を感じないか?」

 

「いや、特に違和感は…」

 

「そうか…取り敢えず、山頂を目指すしかないか…なんか、出てきたらぶっ倒せば良いし」

 

「此処には人は住んでいないから、問題ない」

 

「問題ないね…」

 

 そう言うのが一番恐ろしい。

 シバき倒す事が出来る存在ならまだしも、そうじゃない存在…自然災害とかだったらどうしようのない。どうでもいいけど、これでアリーシャを怪我させたらオレ、晒し首とかならねえよな?

 

「えっと、一番高い場所は……なんかロクでもねえもんばっか居やがるな」

 

「ロクでもないもの?」

 

 ハーピーにアルマジロにオーク…なんかアルマジロだけ浮いている気がするが、ファンタジーの定番がいる。

 

「……竜巻が起きている!?」

 

「は?」

 

 望遠鏡で覗いた先にいるモンスターの群れ。

 アリーシャにも見ておいて貰いたいと望遠鏡を渡すとアリーシャはおかしな事を言った。

 

「アリーシャ、竜巻って…あの辺にはハーピーとオークとアルマジロがいるだけだぞ?」

 

「ゴンベエ、なにを言っているんだ…小さいが竜巻が起きていて岩が不規則に動いているじゃないか」

 

「……」

 

 アリーシャはこう言う時にくだらない嘘をつく人間とは思えない。だが、オレの目には人外しかいない…となると、幽霊とか目には見えない邪悪なもの的なのか?

 

「天族とか言うんじゃないだろうし……こう言う時になんか使えそうなのねえかな」

 

 多分、オレが見ているものが正しく、アリーシャが見ているものが違うと思う。

 その辺を調整するものを、隠された物や幻から真実だけを見つける謎解きアイテムとか見えない幽霊が見えるようになるアイテムとかないかと探しているとなにかを掴んだ。

 

「これは確か…まことのメガネだったっけ?」

 

 掴んだので取り出してみると虫眼鏡の様な物が出てきた。

 確かこれは闇の神殿のボスの姿を見ることが出来るものだったよな。

 

「アリーシャ」

 

 もう一度アリーシャに望遠鏡を覗き込んで貰う。

 今度はさっきと違う、望遠鏡の先の方のレンズの前にまことのメガネを付けると直ぐにアリーシャは望遠鏡を目から離す。

 

「アレは…」

 

「なんか知ってるか?」

 

「いや…すまない、私にはさっぱりだ…」

 

 どう見てもモンスターだが、ハッキリとモンスターと言わないアリーシャ。まことのメガネを手に取ってもう一度覗いた。

 

「…私はこの虫眼鏡越しでないと竜巻が起きたり砂が動いている様にしか見えない」

 

「じゃあ、ライラと一緒……じゃないな。なんか邪悪っぽいからライラとは対になる存在なのか?」

 

「もしかするとそうかもしれない。あの様な存在の親玉を倒すのが導師の役目なのだろうか?」

 

「え~マジかー」

 

 下手するとラストダンジョン付近に来てしまった可能性がある。

 アレが雑魚で、頂上に邪悪な親玉的なのが居る可能性がある…いやでも、雑魚っぽいからな。

 アリーシャの話が本当ならドラゴンがこの辺にいるかもしれない…ファンタジーのド定番のドラゴンがラスボス。ドラクエじゃないんだからそれはないが少なくともラスボスよりも強い中ボス的なポジ、悪の幹部の可能性があるな。

 

「此処まで来て、家へ帰るのは嫌だしな…」

 

「だが、ああいったモノを私は相手にしたことはない。ゴンベエもそうじゃないのか?」

 

「まぁ、相手にしたことはねえよ。けど、そう言う感じの訓練は受けている」

 

 オレは弓と矢筒を取り出し、矢筒を背負う。

 

「此処は高所で、風を読むのは難しいぞ」

 

「オレだってこう言うのよりも、拳銃(チャカ)の方がよかったよ!」

 

 つーか、普通に袋から取り出したのに、質量とか保存の法則とか色々と無視してるのにツッコミを入れないんだな。

 オレは背中の矢を一本とるとゆっくりとゆっくりと矢を射つ構えに入る。

 

「アリーシャ、一応言っておくが此処でした事を誰かに言うんじゃねえ。今からどうやって天然物を上回る強力な磁石を作るのかもそうだが、オレがなにをしたのかもだ」

 

「!」

 

 的を絞っていると、矢の先端部分にゆっくりと電気よりも明るい光が集う。

 アレが邪悪なるものだと言うならば、それに対抗するものを使えばいい。矢を握っている手を放すと、矢は放たれた…が、外す。

 

「潔くぶった斬った方がよかったか」

 

 光に怯えたのか、何処かに消えてしまったモンスター達。まだなんか不思議な気配を感じるので、消したのじゃなくて逃げた可能性がある。今度は確実に仕留めたいから、背中の剣を抜かないとな。

 

「ゴンベエ…君はいったい…」

 

「だから、言ってるだろう…名無しの権兵衛だって。オレは導師なんてもんじゃねえし、なるつもりもねえよ…自分を犠牲にして世界を救う自己満足はしないし、世界を救うなんて曖昧な事は言わない…つーか、んなもんいらねえだろ」

 

 光の矢を射った事が余程の衝撃だったんだろう。馬鹿でもわかるハッキリとした凄いことをした為にアリーシャがオレを見る目を変える。何者かと言われても名無しの権兵衛としか言い様がない…と言うより、それ以外になにを名乗れと言うんだ。

 

「オレが何者なんかなんて、気にするな…少なくとも世間が待っている救世主じゃねえ。むしろ怠惰に過ごす為に努力をおしまない男だ」

 

「…」

 

 転生者なんですと言ったところで信じないし、ハイラルなんてもんも通用しない。色々と端折って事実のみを伝え、上を目指していく。

 

「ゴンベエの国では、今のような事が出来る人が沢山いるのか?」

 

「いねえよ…そもそもでうちの国はそう言うのを捨てた。島国だった影響もあるのか鎖国が上手くいって独自の文化を築き上げてて…色々とあって開国した。んでもって、色々な海外の文化を取り入れてごちゃ混ぜにして改善しまくって…ま~凄いぞ。神様とかに祈るのは基本的に新年と受験の時だけだから」

 

「なにその国の人間、都合の良い時だけって最低ね」

 

「!?」

 

「どうした、アリーシャ?」

 

 日本あるあるを話すと何処からともなく、現れた傘を指した少女。あるあるを軽蔑しており蔑んだ目でオレを見てくるのだが、オレを睨んだって仕方ない。それよりも、アリーシャはなにかに対して驚いている。

 

「今、誰かの声が聞こえた!!ゴンベエ、そこに天族の御方がいるのか!?」

 

「数日前までライラと筆談をする事すら浮かばなかったのにどうしたって、まことのメガネか」

 

 覗きこんではいないものの、アリーシャに渡したままのまことのメガネ。アリーシャは握ったままだ

 普通は見れない物を見れる様になる道具で、声を聞けるなんて聞いたことないが…この世界仕様に変わってるんだろうな。アリーシャは自分がまことのメガネを持ったままだと気付くと、まことのメガネで目の前にいる少女を見る。

 

「ライラと筆談?その虫眼鏡が無いと見えないからって、面白いことをするのね貴女……と言うよりは、それなんなの?」

 

「霊的なものとか隠れてるものを見つけるまことのメガネだ……え~っと」

 

「エドナよ……エドナ様と呼びなさい」

 

「は、はい。エドナ様ですね、私はアリーシャと言います。此方はゴンベエです」

 

「本当に呼ぶのね……ゴンベエ?」

 

 一先ずの自己紹介を勝手に済ませるとなにかに気付くと言うかオレの名前に反応するエドナ。変わった名前か、それとも名無しの権兵衛の権兵衛だと気付いたのか?

 

「貴方、ナナシノ・ゴンベエ?」

 

「…いやまぁ、確かにそうっちゃそうだけど……なんで知ってるんだ?」

 

 ゴンベエとはアリーシャが教えたけれど、名無しの方は教えていない。名無しの権兵衛でなく、ナナシノ・ゴンベエとアリーシャが聞き間違えた勘違いした風に名前を言った。てことは、名無しの権兵衛と気づいてナナシノ・ゴンベエと聞いてきたんじゃないのか。

 

「貴女はアリーシャなのね?」

 

「は、はい!アリーシャ・ディフダと申します……エドナ様?」

 

「……違うわね。ここになんの用かしら?言っとくけど、ライラになにか言われて来ているなら無駄よ」

 

 オレで反応したあと、アリーシャのフルネームを聞くと、首を横に振るエドナ。

 此処にきた理由がライラに言われてなんかしに来たと思っているが、別になにもしに来ていない。

 

「無駄とは?」

 

「私、人間は嫌いなのよ。都合の良い時にだけ、天族に頼って用がなくなればポイ捨てする奴等になんか力を貸さないわ」

 

 しかし、アリーシャはエドナが気になるのか深く関与する。

 人間が嫌いな理由は…うん…まぁ、うん…ごもっともちゃごもっともだ。

 

「そんな…」

 

「そんなじゃねえだろ、オレの目的を忘れるな…と言うよりは、まことのメガネを返せ」

 

 ライラとは違い、好意的じゃないエドナに落ち込むアリーシャ。

 だが、それは今関係ない。エドナがここにいるからやって来たんじゃない。

 

「頂上って、どっちにある?」

 

「あら、聞いてなかったの?」

 

「聞いてたし納得も行く理由だが、こんな所で嫌がってたら品格とかそう言うの…感情とか自我とか言語を持っている生物としては最低の部類に入るぞ?」

 

 奥に進むと段々と入りくんだ形になっているレイフォルク。

 富士山の様に道を作ってくれているわけでもないので、正しい道を歩まないといけない。

 エドナに聞いてみると、嫌がるのだが流石に此処で露骨に嫌がるのもどうかと思うと言うと、頂上がある方向を指差す。

 

「あっちだな」

 

「貴方、此処までなにをしに来たわけ?その子が私を見れないなら、導師じゃないのよね?」

 

「そんな怪しい胡散臭い人間じゃねえよ。しいて言うなら都合が良い時に天族に頼るこの国の人間とはちょっと違う、都合の良い時に神頼みする人間だよ」

 

「何処がよ、一緒じゃない」

 

「いや、違うな」

 

「ゴンベエ、エドナ様となにを話しているんだ?」

 

「…はぁ」

 

 気付けば普通にエドナと会話をしていた。アリーシャは不服そうな顔でオレのまことのメガネを見ているので、渡した。

 

「うちの国には八百万の神がいるからな…流石に毎日トイレの神様に礼拝するのは無理だ」

 

「トイレって…随分ピンポイントな変な神様が居るわね」

 

「変な神様なだけまだましだ。毎日人を1000人殺すと言って本当に殺していた時期があった神様、しかも凄く有名なのがいるんだから」

 

「…なにそれ」

 

 本当になんなんだろうね。

 世間は英雄や神様を綺麗に描いたりするけども、その実態はクソヤロウの集まりだって地獄の鬼も言っていた。むしろ地獄よりも地獄だと言ってた。取り敢えずはこれ以上は話すことは無いしとエドナと別れて頂上にやって来たオレ達。

 

「凄く今さらだが、どうやって強力な磁石を作るつもりなんだ?このレイフォルクは炭鉱でなく、人の手は特に加えられていないもので掘り進もうにも」

 

「誰が掘るって言った……」

 

 オレは四日目にして、この異世界ライフを無理だと分かった。

 テレビもねえ、ラジオもねえ…下手すりゃ吉○三の歌よりも酷いと言うことは分かっていた。

 世の中は努力友情勝利じゃない、努力なんて皆がしている事だろう、逆に見てみたいぞ…本物の天才を。

 

「失って気付く、本当に大事なものってのが、世の中はいっぱいあるわ…だからこそ、作り直さないとアカンな」

 

 何だかんだで世の中と言うよりは人生は環境が大事だと思う。

 沖縄で生まれたら、多分だけどプロのウィンタースポーツ選手になれない、基本的には雪降らないし、スキー場一個しかないし。環境は大事で、その環境を取り戻す。森人の槍を地面に突き刺し、漆を塗った鉄の棒に銅線を巻き付けて森人の槍にくくりつける。

 

「これに雷をぶち当てる…そうすれば磁石は完成する」

 

「雷に…だが、今日は」

 

「ああ、物凄く快晴だ…だから、雨乞いで嵐を起こす」

 

 オレは時のオカリナを取り出す。運要素は神秘の力で無理矢理にでもどうにかする。

 異世界の生活が無理と諦め数日間、強力な磁石を得るために色々としてきた。殆ど水車作るのに時間かけてたけど!

 

「雲が、動き出している…」

 

「よく見てみろ、真っ白の綺麗な雲じゃない汚い雲…雷雲だ!」

 

 嵐の歌を吹いたことにより、急速に動き出す雲。

 真っ白な雲は消えて光を遮るどんよりとした雲が出現しポツポツと雨が降っていく。

 

「っと、此処にいたら雷が当たる…アリーシャ、これ…って、また放心してる」

 

 マスターソード型の傘を取り出し、雷に撃たれない様に避難しようとアリーシャに渡すがまた固まっている。

 光の矢に続き、雨を起こした事で自分の中の常識が壊れたのか?

 

「…さ~落ちろ、落ちろ…雷落ちてこぉおおおおおい!!」

 

 雷雲を見ているアリーシャを引き連れ、少し下におりて傘をさす。

 ゴロゴロと音が聞こえ、雷が落ちそうな雰囲気を醸し出し

 

「きゃあ!?」

 

 雷が落ちた。木製の槍に向かって、文字通り光の速さで落ちた。

 距離を取ったとはいえ、至近距離にいるアリーシャは音と光に驚き尻餅をついた。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ…ゴンベエ…いや、違う。君は磁石でなにをしようとしているんだ」

 

 オレが何者なのかはついさっき聞いた。

 だから、磁石でなにをしようとするのかを聞いてくる…オレに向ける目は疑惑でも期待でもなんでもない。知りたいことを教えてほしい知りたがる目でオレを見た。

 

「教える前に、元に戻さねえと」

 

 雷は落ちたが、雨はまだまだ降っている。

 もう用件は済んだ、枯れた土地なら無視していたがそうでもない断崖絶壁の霊峰ならば話は変わる。時のオカリナを取り出し、嵐をやめさせる太陽の歌を吹くと雨はやんだ。

 

「鉄に雷を当てて磁石を作る……聞いたことも無い方法だ」

 

「だろうな」

 

 少なくとも、市販のマグネットなんかはそう言うのじゃない。

 別の方法で作られている、こんな命懸けの方法で量産は出来ない。

 

「一発で成功してくれれば良いんだけどな……何度も挑戦するのはいいが、材料も限られてるからな」

 

 一番の要である磁石を作るから材料がどうのこうのと惜しんでる場合じゃない。けど、漆や鉄を持ってくる事が出来る量は限度がある。

 

「アレだけの雷を受けたんだ、きっと磁石が出来ていぅわぁ!?」

 

「ありがとう、アリーシャ。お前のお陰で磁石が完成したのを証明出来た」

 

 金属製品を身に付けているアリーシャは、オレより先に上にのぼった。

 そのせいか、磁力に引き寄せられてしまい落ちている鉄棒とくっついた。

 

「ふん…ぐぐぐ!」

 

 靴にくっついた鉄棒を必死になって引き剥がす。腕が生まれたての小鹿の様にプルプルと震えている…そう言えば、昔なんかの動画で磁石の引っ付く力でリンゴを砕いてみたって動画あったよな。そのレベルの磁石が出来たんだろうな。

 

「っく、すまない。磁石が剥がれない!」

 

「うん、見たら分かる」

 

「力には自信が無いが…磁石程度なら引き剥がす事は普通に出来る。なのに、この磁石はとてつもない…」

 

「そう、とてつもない磁石だ……え~っと、あった」

 

 アリーシャの腕力で取れなさそうなので、オレは袋から自前の磁石をマグネキャッチを取り出す。

 本当ならコレで発電したかったんだが、こう言うのをぶっ壊すとなんかあった時が大変だし発電出来ないと壊し損だ。

 

「うぇーい」

 

 オレはマグネキャッチをアリーシャに向けると、くっついていた鉄棒を引き剥がして一ヶ所に集める。

 磁石の力は便利だな~その内、マグネットパワーとか出来ねえかな…クロスボンバーしてみてえ。

 

「さて、磁石でなにをしたいのか気になるんだろ?」

 

「この磁石でしか出来ない事があるのか?」

 

「ああ…オレの国は貴族制度なんかを廃止した…お陰で色々と裕福になった。まぁ、確かに色々と問題になってたり糞みたいな奴等もいるがそれでもレディレイクに住んでる奴等よりも生活が豊かだ…この磁石はオレの生活をより豊かにする、オレの国じゃ当たり前の物を作るのに一番必要なキーマンなんだよ」

 

 きっとこの国にはまだない物だろう。と言うよりは、作ろうとする事しか浮かばない…電気と言う概念があるかどうか怪しいな。天族とか言うものが見えて宗教と導師がいて、過去に導師がいるファンタジーな世界だと科学は異端なのだろうか?

 

「ゴンベエの国は、色々と技術が発達しているんだな…どんな国なのか聞かせてくれないか」

 

「聞いたところで、ロクなもんでもねえよ。文明や技術の歴史ならまだしも、王様や政治の歴史なんて考古学の専門家かお受験している学生しか使わねえ。そんなのを話すぐらいなら、お伽噺でも話して考えさせた方が良い…お伽噺か…」

 

 こう言う世界は独自の文化を築き上げ、独自の伝承や伝説を残している。と言うことは、桃太郎、金太郎、浦島太郎、一寸法師とかそう言うのが存在しない。

 

「紙芝居屋、物書き、案外悪くないかもな…国の話は出来ないが、うちの国で作られた話とかならしてやるよ」

 

 肉体労働系よりもデスクワーク。タイプライターとか作ったら、案外流行りそうだな。

 

「そうか、楽しみに待っているよ…一先ずはレイフォルクを降りよう、また雨が降ってくるかもしれない」

 

「降らねえよ、太陽を出す歌を吹いたんだぞ」

 

「その割には曇り空だ」

 

 空を見上げるアリーシャは雲を指差す。太陽の歌を吹いた筈なのに、雲は多くあり快晴とは呼び難い天気だ。

 

「天候無理矢理弄ったからなんかあったか…まぁ、いいか」

 

 アリーシャの言う通り、雨がふったらヤバい。とっとと下山して市場によって家に帰らないといけないと帰ろうとすると

 

「「!?」」

 

 アリーシャとオレは物凄いなにかを感じた…




スキット 一番の武器は?

ゴンベエ「光の矢を使うのははじめてとはいえ、ミスるとは」

アリーシャ「こんな高い山のしかも上の方だ、気流が乱れている…弓の達人でも何度か試し射ちしないと、正確には射てない、ましては竜巻が起きていたんだ」

ゴンベエ「そりゃそうだけど…潔くボウガン使えばよかった…」

アリーシャ「ボウガン…潔くなら、ゴンベエの背負っているその剣で斬りにいくんじゃないのか?」

ゴンベエ「この剣、あんまり抜きたくないんだよ。それに、飛んでる奴を相手にしてるから不利だ。槍、使った方が良い」

アリーシャ「槍も使えるのか…器用だな」

ゴンベエ「槍だけじゃねえ、斧も大剣もハンマーも…なんだったら魔法だって使えるぞ」

アリーシャ「魔法も、ゴンベエは魔法使いなのか!?」

ゴンベエ「魔法を使える人間=魔法使いと捉えるならそうだが、そうじゃないなら違う。魔法が使える人間だ」

アリーシャ「魔法が使える人間か…結局のところ、ゴンベエの武器はなんなんだ?」

ゴンベエ「あ~……魔法も出来て、剣も出来る奴の一番の武器って言ったら…勇気?」

アリーシャ「どうして疑問系なんだ」

ゴンベエ「昔、そう書いてあった本を見たんだよ。
魔法使いよりも魔法は上手くなく、戦士よりも力の無い奴の一番の武器は勇気だって」

アリーシャ「勇気か…確かに力が無いからと劣っているからと諦めずに挑む心は、勇気は一番の武器だな」


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天候パの弱点は天候パ

「なんだ…」

 

 背筋も凍るなんて例えがある様に背筋がゾッとするオレとアリーシャ。

 周りにはなにもいない…一つだけおかしなことがあるとするならば、オレは太陽の歌を吹いたのに太陽が出ていない事ぐらいだ。

 

「ゴンベエ!」

 

「分かってる、油断はしない」

 

「違う、そうじゃない!」

 

 気を引き締め直すなんてしなくても良いぐらいに集中している。だが、アリーシャはそうじゃないと別の事を伝えたい様でアリーシャを見てみるとまことのメガネがアリーシャの足元に置いてあった。

 

「私はコレを持っていないとなにも感じないし、聞こえない…だが!」

 

 今まさに異質ななにかを感じ取っている。

 まことのメガネを使った影響で敏感になって、この異質な気配を感じ取っているんじゃない。

 これは……逆だ。天族とかさっきの奴等みたいな霊的な存在に疎いつまり、霊感が無いアリーシャですら感じる事の出来るヤバいのが居ると言うことだ。

 

「っ、空が暗くなった!!」

 

 時刻は夕暮れだった筈なのに、何時の間にか夜を思わせるかの様に暗くなる。

 アリーシャは空に原因があるかと見上げるので、オレも見上げる……

 

「THE・ファンタジーのド定番中のド定番が出やがったか!!」

 

「グゥオオオオオオオオ!!」

 

 薄暗い雲の中から現れたのはドラゴンだった。

 ドラゴンに関する伝承がどうのこうのと言っていたが、本当に出てきた。

 東洋の龍じゃない、西洋の伝承とかでよく見る蜥蜴に翼がついた感じの竜が現れておりてくる。

 

「逃げるぞ、アリーシャ!」

 

 オレ達の目的はもう果たしたんだ。

 これ以上は此処にいる必要は何処にもないし、あんなのを相手になんかしてられない。アリーシャもオレの意見に賛成の様で、返事をする迄もなくドラゴンに背を向ける…が

 

「グルゥオオオオ!!」

 

 ドラゴンは走って追いかけてくる。

 翼で飛ぶか滑空した方が速い気もするが、それでも速い…つーか、シンプルにデカいのでオレ達の数歩がドラゴンの一歩。

 響く足音や呼吸音は小さく聞こえず、徐々に徐々に大きく聞こえていく。

 

「逃げ切れない…こうなれば!」

 

 ドラゴンから逃げ去る事が出来ない感じ、振り向いたアリーシャは槍をドラゴンに向ける。

 

「私が出来る限りここで食い止める、ゴンベエは逃げるんだ!」

 

「おう!逃げさせてもらう…じゃねえ!

てめえ見捨てて帰ったら、確実にオレ打ち首確定だろうが!!よくて、国外追放だ!!」

 

 ドラゴンとの格差を感じないほど、アリーシャは馬鹿じゃない。

 明らかに格上な相手を前に自分を犠牲にしてまで、誰かを救うと言う考えは立派だが…ただの、自己満足だ。つーか、見捨てたら本当にヤバいんだから出来るか!

 

「ったく…四の五の言ってられねえか」

 

 オレも逃げるのを止めて、アリーシャの隣に立つ。

 

「コレだけは使いたくねえんだけどな」

 

 背負っている剣の柄を握り、構える。

 如何にも邪悪の化身の様な雰囲気を出しているドラゴンには退魔の剣、最強じゃないけどゼルダの伝説で度々出てくる邪悪な存在をどうにかする剣ことマスターソードが有効…と思う。青白い光を刀身に纏っているし、やろうと思えばなんかビームを出せるし…最悪、封印すれば良い。

 

「ゴンベエ!」

 

「どちらにせよこんな狂暴なのが近所に居る時点で逃げても無駄だろうが」

 

 自分は構わないがお前は逃げろとオレの名を叫ぶが逃げない、逃げれない。

 こんなやり取りをやっているせいか、ドラゴンはオレ達との距離を詰めてきて何時でも殺せる距離にいる。

 

「…ドラゴンなのに炎を吐かねえ?」

 

 ドラゴンの定番とも言うべき咆哮がさっきから一切来ない。

 強靭な体で攻撃するのが威力があるかもしれないが、逃げる相手には飛び道具でいくのが一番だ。

 

「ゴンベエ、援護を頼む!」

 

「いや、オレも刃物!つーか、剣だから!」

 

 アリーシャは槍を持って突撃する。リーチ的には槍を持ってるアリーシャの方が上だから、援護はどちらかと言えばアリーシャだが、あのデカさだから通常攻撃が範囲の全体攻撃になって、気絶させるとか一本取ったら勝ちじゃない問答無用なら援護も糞もあるか。

 

「剣での援護つったら、コレぐらいしかねえけどな!!」

 

 マスターソードを大きく振ると、刀身に纏っていた光が斬撃となって飛んでいく。

 よくある斬撃を飛ばすアレ、剣で出来る遠距離攻撃と言えばコレしかない。

 

「あ?」

 

 飛んでいったのが良いが、前に使った時よりも光が弱い。アリーシャの胴体回りよりも太い木をスパンと綺麗に切った際の光と比べると脆く淡い。ドラゴンの体を切り刻むのには、出力が足りない…やっぱ刃物だから直接斬らないといけないか。

 

「ゴンベエ、それじゃあダメだ!光の矢を!」

 

「アレはポンポン射つもんじゃねえ…なによりも、効くかどうか怪しい」

 

 ドラゴンらしく空を飛んで咆哮する事をしないドラゴン。のろまなのか、振りかぶる前足をアリーシャは器用に避けていき

 

「魔神剣!」

 

 槍を大きく振って目に見える衝撃波の様なものを飛ばす。ああ言うのは魔法の一種じゃねえのかと言いたいが、此処じゃ当たり前なんだよな。

アリーシャの言う通りに光の矢を使っても良いが、アレに効くのか…それ以前に光が弱い原因…

 

「天候パのキーマンと同じか」

 

 ドラゴンが来てから感じるおかしな空気。光を遮らんと言わんばかりの黒い雲は闇と言うのに相応しい。このドラゴン、ポケモンで言うひでりやゆきふらし、あめふらしと同じ特性を持ってやがるな。

 

「タネが分かれば、こっちのもんだ!!オレは清らかな神様じゃねえ、闇の力も平気で使うんだよ!!」

 

 剣を強く握ると、青白く発光する。

 だが、今求めているのは光じゃない、黒くて禍々しい闇…相手が自分に有利なフィールドを作る天候パなら弱点はある。

 一つは天気を味方につけて効果を発揮する前にボコる、もう一つは此方が天気を変えるか天気が終わるかのパーティー、最後は自分も全く同じ天候パ。

 

「闇纏・無明斬り!!」

 

 今度は光でなく、闇を纏った斬撃を飛ばす。

 アリーシャがカッコよく技名を言ったので、闇の斬撃を飛ばすと言えばコレだとオレも技名をつけてみる。

 しかし、試してみるもんだな。退魔の剣だから、邪悪な物はNGかと思ったが…いや、善悪の区別は人次第だから、トライフォースが悪人の手に渡ったりするように純粋な闇と光は関係ないのか?

 

「やった!!」

 

 木を切った時にやったのよりも大きく早く威力のある無明斬り。

 ドラゴンの前足に命中すると、光の斬撃の時ではつかなかった傷がついてアリーシャは喜ぶが

 

「あ…」

 

「普通、そこは血だろう!」

 

 傷口から黒い靄みたいなのが出て来て、それの出てくる圧にアリーシャは押されてしまう。

 なんでそこでドラゴン汁ぶっしゃああああじゃねえんだよとオレは纏っている闇を伸ばして断崖絶壁に落ちそうなアリーシャの服の襟の部分に突き刺して引っ張りあげる。

 

「ありがとう、助かった!」

 

「礼は言わねえでくれ…ついてこいと言ったのはオレなんだから」

 

「だが、あのままだと確実に落ちて死んでいた」

 

「このままだとドラゴンに殺されそうだがな…くっそ、坂道戦いづらい!」

 

相手は飛べる、デカい、遠距離攻撃しようと思えば出来る(多分)に加えて戦っている場所は坂道、しかもオレ達が下の方で重火器類はなしであるのは刃物のみ…更にはアリーシャもいる。

 

「はぁ…はぁはぁ…」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫、だ…高地は空気が薄いから、呼、吸が乱れやすいだけで整えれば」

 

「明らかにそう言うんじゃねえだろ」

 

 黒い靄みたいなのに飛ばされたアリーシャは息を荒くしている。

 登山での疲れが今此処に来たんじゃなく、普通の人間が邪悪ななにかをぶつけられ体力削られて息が荒れている。

 

「長期戦はアリーシャの体に負担が掛かるな……山、ぶっ壊れねえよな?」

 

 草木がはえておらず、ドラゴンがブレスをしてこない。

 そのお陰でオレ達は戦う場所を、足場がある…氷の矢で凍らせるとか爆弾を腹の中に入れるとか戦う方法は色々とあるが、それやったらこっちが歩けなくなる可能性が、下手したら土砂崩れが起きる。

 

「ちょーっと、力を貸せよトライフォース」

 

 本気を出すしかないとマスターソードを強く握ると手の甲にトライフォースが浮かび上がる。

 トライフォースの影響かどんよりとした空気はなくなっていくが、ドラゴンから感じる邪悪ななにかは残ったまま。傷口から黒い靄が溢れている。

 

「ぶった斬ると、汁じゃなく靄がぶっしゃああああとなりそうだな」

 

 そうなるとアリーシャがやばい。

 無闇に剣でぶった斬るのはダメだとオレはマスターソードを鞘にしまうと、ドラゴンは両前足をあげた

 

「っち、ただの蜥蜴じゃねえか!!」

 

 向こうは飛べるが、此方は飛べない。

 圧倒的な火力で攻めることをドラゴンは確実にオレ達を殺すために前足を地面に叩き付けて足場の崩壊を狙おうとする。

 

「流石にそれをやられると、困るんだよ!!」

 

 二足歩行のドラゴンじゃない。四足歩行で動くドラゴンなら、後ろ足だけで立っているのはキツい筈だろう!

 大振りなドラゴンの腹に拳を叩き込むと、バランスが保てなくなり背中から倒れた。

 

「流石に心臓をぶっ刺したら死ぬよな?」

 

 ドラゴンの腹の上に乗り、マスターソードを抜く。一撃で仕留めさえすればこの黒い靄をそこら中にバラまかなくていい…んだが、相手はドラゴン。神話には特定の方法で無いと倒せない化物がいるように、こいつもその手の類いだったらどうしよう。邪悪なものをぶっ倒すのに毎回使われているマスターソードなら確実に倒せるよな?

 

「待って!」

 

 どの辺に心臓があるかと探していたらエドナが現れた。

 

「このドラゴン、どう見ても危ない奴だろう!アリーシャを見てみろ!」

 

 槍を杖代わりになんとか立っている。だが、顔色は優れない…高山病とかそんなのじゃない。この靄とかが原因だ。

 待ってもなにも無いと剣を強く握るのだが、エドナとのこの少しのやり取りが待ってだったのか、ドラゴンはもがく。ドラゴンの腹を足場にしているからこのままだと落とされると、ドラゴンの腹から降りてエドナの近くに移動する。

 

「ぐぅううおう……」

 

 殴ったダメージがあるのか、先程よりも吠えないドラゴン。

 マスターソードで刺しておけば、確実にとどめをさせていたんだがな…

 

「…お兄ちゃん」

 

 エドナが余計なことをと少しだけ睨むが、オレには目もくれない。見ているのはオレじゃなくドラゴンで、悲しそうな目で小さく呟いた。

 

「お兄ちゃんね……なんかやらかしてドラゴンになったのか?」

 

「貴方、天族が見える癖になにも知らないの?その口ぶりだと、穢れが多い生き物や植物が憑魔になることすらしらない子供なのね」

 

「生憎だが、ああいうのはうちの国じゃ見ないし神様は捨てたも同然の国なんでな……だがまぁ、人間とか神様が化物になるのはよくある話だ」

 

 日本でも、人を憎んだ末に龍になった女がいるからな。だが、これで色々と分かった。エドナが止めに入ったのはドラゴンになった兄を殺されたくないからだろう。危ない存在、ヤバいやつだと見なくても分かる存在…だが、それでもエドナの兄には変わりない。口ではなんとでも言えるが、何処かで殺されてほしくないとかそんな事を思っているんだろうな。

 

「…襲ってこねえな…」

 

 ドラゴンの次の手を見てから攻撃しようと待ち構える…のだが、なにもしない。

 

「……エ、ドナ……」

 

「!」

 

 代わりに喋った。渇いた声で、出ないのに無理矢理出してエドナの名前を呼んだ。

 ドラゴンになっていても、妹の事はちゃんと覚えている。攻撃しちゃいけないとか本能的に思う…兄妹の絆的なアレなのか?そう思っていると別の方向を、アリーシャがいる方を見る。

 

「ア…メ…ッカ…」

 

「!?」

 

「?」

 

 アリーシャを誰かと勘違いしたのか、何処かの誰かの名前を呼ぶ。

 

「ゴ、ン…ベ…エ」

 

「あ?」

 

 今度はオレの方を見て、オレの名前を呼んだ。

 オレはあのドラゴンの、エドナの兄の名前をしらない…そもそもで転生したばっかで会ったことすらない。なのに、あのドラゴンはオレの名前を知っている。オレがエドナの兄の言うゴンベエにそっくりな可能性があるかもしれないが…明らかにオレを見て、反応している。

 

「つい…き、た…こ、日……グゥオオオオオ!!!」

 

 なにかを伝えたかったいのか感涙しているのかよくわからんエドナの兄。急に黙り出したと思えば、大きく吠えて飛んでいった。

 

「…なんだったんだ、いったい…」

 

 ドラゴンが見えなくなると、ホッと一息。手の甲に浮かび上がらせていたトライフォースの光を消してみるが、違和感とか不快な感じはしない。

 

「アリーシャ、大丈夫か?」

 

「ああ…問題な、い…」

 

「どこがだよ」

 

 ドラゴンが消えて、緊張の糸が途切れたのか意識を失う。

 脈拍や呼吸音は荒いがとても健やかに寝ており、限界まで体力を使い果たして寝たと言った感じだ。

 

「磁石作るだけなのに、とんだ目に遭った…とっとと帰るか」

 

「待ちなさい」

 

「んだよ、此方は色々と疲れてるんだぞ」

 

「そいつ、マオクス=アメッカって名前じゃないの?」

 

「マオクス=アメッカ?なに言ってんだ、お前に自己紹介しただろう…街の住人もアリーシャって、呼んでたぞ?」

 

 とっとと帰りたいが、引き留めるエドナ。名前を確認してくるがアリーシャはアリーシャで、そんな名前じゃない。

 アリーシャの名前が偽名の線もありえるが、それは限りなく0だ。

 

「アリーシャの先祖かなにかが、マオクス=アメッカって名前なんじゃねえのか?」

 

「それだと貴方がナナシノ・ゴンベエなのがおかしいわ…貴方の名前は継承するものなの?」

 

「んなわけねえだろ…」

 

 そもそもで名無しの権兵衛で、ナナシノ・ゴンベエじゃねえ。

 和風っぽい名前は珍しいだろうが、探せば見つかるだろうし…やっぱり人違いかなんかか?

 

「……まぁ、いいわ。ついてきなさい」

 

 なにかを知っているエドナはオレ達と一緒に下山すると思ったのだが、来た道とは違う道を通る。

 山頂に続く分かれ道までは一緒だったのだが、山頂に続かない道に行く。

 

「おい、なにがあるって言うんだ」

 

 行き止まりまで連れて来られたが、なにもない。

 

「分からないわ」

 

「は?」

 

 エドナは傘を閉じ、傘の先で地面をつくと地面は盛り上がる。

 

「大きいのと小さいの、どっちが良い?」

 

 地面が盛り上がると、箱の様なものが出てくる。

 しかも2つ、大きい箱と小さい箱で…なんかどっかで聞いたことあるお伽噺みたいだ。

 

「箱…っつーか、これは土器だよな……」

 

 取り敢えず重いのかどうか確認する為に箱に触れる。

 感触は綺麗な模様が描かれた壺…じゃなくて、土偶とかに近い。土で出来た箱とか聞いたことねえんだがな…

 

「で、なんだこれ?」

 

「だから、分からないわ」

 

「もっと細かく説明してくれ」

 

「昔、頼まれたのよ。何時になるかは分からないが、ナナシノ・ゴンベエと言う男とマオクス=アメッカと言う女がやって来る。もしやって来たらこの箱を渡してくれって。だから、この箱がなんなのかは分からないわ」

 

「昔って、何時だよ?」

 

「大体、千年ぐらい前よ」

 

「アリーシャが親の腹の中にいるとかそんな次元じゃねえんだが…」

 

 親の金玉にいるとかそういう次元ですらない。

 千年となると数十世代もたっている…だけど、いや、だからこそエドナの兄が言うナナシノ・ゴンベエがオレの可能性もある。

 

「でも、貴方達に反応をしていたわ。持ってって」

 

「中身について聞いてないのか?」

 

「聞いていないわ…けど、明らかにおかしかったわよ。お兄ちゃんはお宝や大事な物は自分でちゃんと管理するのに、コレだけは私に託した。私へのお土産じゃない、絶対に未来に残しておかないといけないもので持ち歩けないって、わざわざ此処まで一人で運んできたほどに…」

 

 持ってきた事が余程の事だったのか、思い出しているエドナ。

 中身は金銀財宝…じゃ、ないよな…それするぐらいならば妹のエドナに渡している。妹にすら中身を教えていないとなると、余程のものが入っている…ん?

 

「取り敢えず、小さい箱だけを持って帰って良いか?アリーシャの事もあるし、流石に大きい方を持って帰るのは無理だ」

 

「好きにしなさい、コレはもう貴方達の物なのだから…盗まれても責任は取らないわよ」

 

 箱を受け取る事が分かると傘を開いた。中身がなんなのかは知りたいが、今はアリーシャの方が大事だ。小さな土の箱を腰にくくりつけるとオレは狼の姿になった。

 

「貴方、憑魔だったの?」

 

 エドナの質問には答えず、オレはアリーシャを背に乗せて下山した。





術技

闇纏・無明斬り

剣圧で衝撃波を飛ばしたりする所謂、飛ぶ斬撃に闇を纏わせたもの。
纏っている闇はあらゆるものを吸い寄せて消す性質を持っており、衝撃波や炎を飛ばしてかき消す事は出来ず触れれば衝撃波の傷がつく。決して魔法ではない


闇纏 旋空新月

オーラとかエネルギーを操り刃に纏ったり刃にしたりする技の闇属性版。
剣に闇を纏わせることにより闇が刃の代わりになり、太刀筋が急激に延び、予想外の所からの攻撃を受ける。
要は旋空孤月だが、落ちそうなアリーシャを救ったりと使用用途は色々とあるがトリオンは消費しない


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未来へのメッセージ(前編)

「!?」

 

 目覚めると見知った天井を私は見ていた。

 最初は事態が理解できずにいたが、ゆっくりと意識が戻り知っている場所だと分かると意識が完全に目覚めた。

 

「私は確か」

 

 天族が見える不思議な青年ゴンベエ。

 磁石を作るから近隣で一番高い山は何処かと聞かれて、レイフォルクを教えてどうやって磁石を作るか気になりついていった。その結果、山頂に鉄の棒をくくりつけた槍を刺して雷を落とし、とてつもない磁石を作った。

 

「そうだ、あの後はドラゴンに遭遇して」

 

「アリーシャ様!」

 

 覚えている事を全て思い出すと、メイドの一人が部屋に入ってきた。

 ドラゴンに遭遇して危険だと撤退したが、逃げきれずに戦うことになり、最終的にはゴンベエが追い払った。

 その後は…分からない。ドラゴンがいた間は呼吸が上手く行かずに苦しく、それでもと無理をしていたが追い払ったら気が抜けて気絶したのか。

 

「大丈夫ですか!?御身体に異常はございませんか!?」

 

「大丈夫だ」

 

 そして目覚めると自分の部屋のベッドにいた。私の事を心配してくれるメイドに腕を回して体の何処にも異常はないと見せる。

 本当に何処にも違和感は無い、しいて言うならば昨日の登山の疲れが残っているぐらいで怪我らしい怪我は感じない。

 

「よかった」

 

「心配してくれて、ありがとう…ところで、ゴンベエは?」

 

 私が此処にいると言うことはゴンベエが此処まで運んできてくれた。

 出会った時もそうだが、迷惑をかけたり面倒な事を起こしてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

「ゴンベエ…ああ、あのワンちゃんですね!」

 

「ワンちゃん?」

 

「はい、夜中に屋敷の前で犬が頻りに吠えていて何事だと覗くとアリーシャ様を背負っていて…」

 

「犬…今、その犬は何処に?」

 

「少し待ってください、今連れて…ああ、待っていたのですね!お利口ですね!」

 

「バウ!」

 

 ワンちゃんがなにかと気になると、呼びに行こうとする。だが、ドアを開くとそのワンちゃんが…犬と言うよりは狼に近い生物がドアの向こうに座っていた。

 

「ゴンベエの狼?」

 

 白、黒、茶色の三毛猫ならぬ白、黒、緑の不思議で独特な体毛の狼。

 ゴンベエがこの街にやって来た日に街の入口付近で眠っていた狼で、ゴンベエが背負っていた剣と盾を背負っている。

 

「クゥーン…」

 

「私は大丈夫だ、何処も怪我をしていない」

 

 心配する鳴き声を出す狼に心配するなと言い、頭を撫でようとすると肉球で手を弾かれた。

 

「………あ、あの狼しか居なかったのか?」

 

「あ、はい」

 

「…他には、誰も居なかったのか?」

 

「居ませんでしたが…真夜中で見えない所もありましたので、もしかすると…」

 

 狼だけで姿が見当たらないゴンベエ。

 屋敷の場所を教えていないが、此処に私が寝ていると言うことは見つけ出した筈だ…昨日、私を置いて逃げろと言ったのにゴンベエは逃げなかった。理由は私を見捨てたら打ち首や国外追放されると言う理由だ。王族や王位継承権があるなんて一言も言っていないが、地位のある人間だとゴンベエは気付いていた

 

「……ゴンベエに伝えてくれないか?」

 

 もしかすると、ゴンベエは遠い何処かに逃げたのかもしれない。だが、そこまでしなくていい。レイフォルクに行く際についていくと自分で決めたのだから、怪我をしたのも自分の責任だ。

 

「そこまで気にしなくて良い、そんな事にはならないし、絶対にしないと」

 

「…」

 

 言葉が通じるかは分からないが、名も知らない狼に頼む。すると、私の言葉が通じたのか狼は器用に前足でドアを開いて出ていった。

 

「アリーシャ様、ゴンベエとは?」

 

「えっと……?」

 

 ゴンベエの事を尋ねられたので、答えようとするが答えられない。

 今思えば、ゴンベエは何者だろう?天族の存在を見抜く不思議な虫眼鏡、光の矢、闇と光の斬撃を飛ばす剣、珍しい物を持っているだけでなく、鉄棒に雷を当てると強力な磁石になることも知っている。

 独特な名前に聞いたことの無い国からして、このグリンウッド大陸とは違う海を越えた遥か先にある異大陸の住人……天族の信仰を捨てた国の住人。

 

「……あの狼の飼い主だ」

 

 ゴンベエをどういう人物か説明することは出来ず、一先ずの説明をした。

 何時か私に何者なのかを教えてほしい、そう願った。

 

「……あの狼が出ていったと言うことは、追いかければゴンベエの家が分かる?」

 

 だが、よくよく考えればと止まる。この街には住んでいない、かといって何処かの街に住んでいると言っていないゴンベエ。

 そもそも彼は何処に住んでいるんだろうと疑問を持ち、さっきの狼についていけばどちらにせよゴンベエに会えるんじゃないのかと、迷惑をかけたのは私でゴンベエがこちらに出向くのは間違いだと立ち上がる。

 

「いけません、アリーシャ様!まだ、休んでいなくては」

 

「すまない…でも、行かなければならない!」

 

 私の身を心配してくれるのは嬉しいけど、行かないと…。

 ゴンベエはこの街の住人じゃない、出会った日に門の前にあの狼はいた。余計な道は行かずに、街の入口に先回りをすればあの狼に追い付くことが出来る!

 

「アリーシャ」

 

「ゴンベエ!!」

 

「五月蝿い」

 

 全速力で街の入口に向かうと狼はいない。だが、代わりにポケットに手を入れたゴンベエがいた。

 

「す、すまない」

 

 狼はいない。ゴンベエがいたことに喜んだが怒らせてしまった。

 よく見るとゴンベエは寝不足なのか目元に隈がある。

 

「お前が一人で此処に来たと言う事は、オレの打ち首や国外追放は無さそうだな」

 

「そこまでの事はしない…私が意識を失いさえしなければ、こうならなかった…本当に申し訳ない」

 

「謝るぐらいなら、少し時間を貸せ…行くのは嫌だが、聞くのが一番手っ取り早い」

 

「?」

 

 頭を下げるが、意識を失った事に関してはコレで終わりとするゴンベエは歩きだす。

 時間を貸せと言うのは、なにかを手伝ってくれと言う意味なのかと街の外でなく、中に戻ると竹を注文した市場…でなく、湖の乙女であるライラ様が祀られている聖堂へと向かう。

 

「おお、これはこれは!お待ちしておりました!」

 

「別にオレはお前に用件なんてねえよ」

 

 聖堂へ出向くと、神父の一人がゴンベエに待っていたと喜びながら近付くがゴンベエは威圧をする。

 此処に来てほしいとライラ様や司祭達が見つけたら連れてくる様にとなり、私が頼んだ際には行かなかった…が、今は来た。

 

「ささっ、此方の奥の部屋に…アリーシャ姫、案内御苦労様です」

 

「待ってくれ、私は」

 

 私がゴンベエを連れてきたと思った神父は、ゴンベエだけを連れていこうとするが、違う。此処にはゴンベエの意思でやって来て、私が連れてきたわけじゃない。

 

「私達はこの御方を見かけたのなら聖堂へと連れてきて欲しいと頼みました。それでもう結構です」

 

「お前がもう結構だよ」

 

「あいた!?」

 

 私の方を向いていた神父の背中に蹴りをいれるゴンベエ。

 さっき私に対して向けた怒りよりも強く怒っており、何処か苛立っている。

 

「な、なにをしますか!」

 

「オレは別に導師でもなんでもねえつってんだろ。あんましつこいと、しまいにはアリーシャと八百長試合して導師=雑魚のイメージダウンか、聖剣を根本から叩きおって花咲か爺さんよろしく枯れ木にばらまくか、海の底に捨てんぞ…もしくは乳首焙るぞ」

 

 ボォオオオっと手のひらから炎を出すゴンベエ。

 言葉遣いが荒い彼の姿は皆が待っている導師のそれとはかけ離れており、炎を見た神父は立ち上がる事も出来ないでいる。

 

「アリーシャはオレが連れてきた…まともに相手すんのはアリーシャぐらいだ。お前等が私腹肥やそうが好きにしても構わねえが、オレを利用するのは許さん、失せろ」

 

「ひぃい!!」

 

 神父は立ち上がると逃げるように去っていった。

 ゴンベエから放たれる威圧感に耐えられず、炎を見て圧倒されていた人達も声をかけるにかけれない。

 

「ゴンベエ、あんな言い方はよくない」

 

「自分を邪魔者扱いしてくる奴に情けをかけるとは、優しいな。言っとくが、オレはお前ほど善人じゃねえ…街の人間やお前が人質に取られようが躊躇いなく見捨てるぞ……つーか、神父に嫌われたり、あんな扱いされるってなに?なんかやらかしたの?」

 

「……」

 

 私自身、特になにかをしでかした記憶はない。しいてあげるならば、あの神父は…いや、神父の裏には恐らく内務大臣のバルトロがいる。私の事が気にくわず、ローランス帝国に戦争をすることを勧めている…なんてゴンベエには言えない。

 

「まぁ、いい。私腹を肥やす馬鹿は何処にもいる…オレはそんな事をしに来たんじゃねえ…おい、おっさん。どっか部屋借りて良いか?」

 

「え、ええ…何をなさるのですか?」

 

「…なんでも鑑定団…ちょ、色々と話があるからお前も来い」

 

 ブルーノ司祭に一室を借りると、なにも無い所に声をかけるゴンベエ。

 

「そこにライラ様が…は!」

 

 私の目にはなにも見えないが、声を出すと言うことはそこにライラ様がいる。

 姿を見ることも聞くことも出来ず、なにを言っているのだろうかと気になると思い出す。

 

「まことのメガネがあれば!」

 

 天族であるエドナ様の声が聞こえるだけでなく、姿がハッキリと見える虫眼鏡。

 アレならばライラ様の姿も声もハッキリと見えて聞こえると出そうとするが何処にも見つからない。

 

「ゴンベエ、まことのメガネを」

 

「さて、問題です…まことのメガネは最後、なにに使用したでしょうか?」

 

 天族が見れる不思議な虫眼鏡は貴重だ。

 見つからないのはゴンベエがレイフォルクを降りる際に回収していたと、ゴンベエにもう一度借りようとすると袋を取り出す。最後にまことのメガネを使ったとき?

 確か、磁石が出来て下山しようとした途端に不快な空気を感じて、それは気のせいかまことのメガネの影響かなにかと一度手放してみるも、なにもなく…それどころか、裸眼でドラゴンを見てしまい……

 

「あ!!」

 

「…」

 

 ゴンベエは袋を渡してくれた。

 受け取った私は直ぐに理解した、持っている感じが明らかにまことのメガネじゃない。試しに振ってみるとジャラジャラと音が鳴り、恐る恐る中身を開いてみると粉々になったまことのメガネのレンズの破片が入っていた。

 

「見事な迄に、ドラゴンに踏まれたぞ…ちょ、五月蝿い」

 

「す、すす、すまない!!」

 

 なんて事をしてしまったんだ!!

 天族の姿を見ることが出来る不思議な虫眼鏡を壊してしまった!

 こんな凄い物を弁償しようにも同じものを用意するなんて出来ないし、謝ってすむ問題でもない…どうすれば、どうすれば。ゴンベエの機嫌が悪いのは、この事が原因だったのか!

 

「土下座はやめろ…もう一個ある」

 

「だ、だが、どちらにせよ一個は壊してしまった。あの時、私がちゃんと回収しておけばこうはならなかった!」

 

 特に気にしておらず、強くは責めないゴンベエだが私の土下座では足りない。

 

「…そう思うんだったら、今後色々と手伝ってくれよ。此方は磁石作るだけで登山しないといけない身で、とにかくやらないといけねえことが沢山あるんだ」

 

「やらないといけないこと…私の力で出来ることならなんでもする!!」

 

「そういう発言はヤベーからやめろ…とにかく今はその辺じゃなく知っとかないといけないことがあるんだ」

 

 ゴンベエはそう言うと人のいない一室に行き、私にまことのメガネを貸してくれた。もうこれしかない…今度壊せば大変なことになる。

 

「あの、その虫眼鏡はなんですか?」

 

「コレは持っていると天族の姿や声が聞こえる不思議な虫眼鏡…貴女がライラ様ですか!!」

 

 恐る恐ると慎重に動かしていると、何処かから声が聞こえた。

 もしやと虫眼鏡でのみ見える人を探すとゴンベエの直ぐ側に綺麗な大人の女性が立っていた。

 

「はい、湖の乙女と呼ばれている天族、ライラです…霊応力が強くなくても天族が見える眼鏡ですか、ゴンベエさんは変わった物をお持ちですね!」

 

「正確には幽霊とか化物とかを見る眼鏡だ…そろそろ本題に入りたい」

 

 ライラ様を前にしても相変わらずのゴンベエ。

 本題と聞き、昨日は行きたくないと嫌がっていたのにどうして此処に来たと思っていると土で出来た箱、所謂、土器の様なものを袋から取り出した。

 

「ライラはナナシノ・ゴンベエと言う男を知っているか?」





ゴンベエの称号


新米転生者第16期生(初期)


説明


日本の地獄に導入された賽の川原の新システムで、二次元に転生した転生者の第16期生
第16期の転生者の中でも最も過酷な世界を引き当てており、転生特典はまーまーなもの!頑張って、人生を謳歌しオレTueeeをするんだ!


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未来へのメッセージ(中編)

「ナナシノ・ゴンベエですか?」

 

 土で出来た箱を取り出し、ある人物の名前を訪ねたゴンベエ。

 

「それはゴンベエさんの事、と捉えてよろしいのでしょうか?」

 

「そうだったらわざわざ此方まで来ねえよ…オレ以外でナナシノ・ゴンベエって名前の知り合いとかいねえか?」

 

 ナナシノ・ゴンベエと呼ばれる人に知り合いがいる。

 それは今目の前にいるゴンベエであり、それ以外には誰もいない。名前が全て被るだなんて余程の運が必要になる。

 

「…う~ん……申し訳ありません。昔の記憶を探っても、ナナシノ・ゴンベエと呼ばれる方と出会ったことも名前を聞いたこともありません」

 

「ゴンベエ、どうしてライラ様にそんな事を訪ねるんだ?それにその箱はいったい…」

 

「昨日、アリーシャが気絶した際にエドナに貰った」

 

「まぁ、エドナさんに……と言うことはレイフォルクに向かったのですか!?」

 

 エドナ様の名前を出すとレイフォルクに行ったことに気付くライラ様。

 確か、ライラ様の名前をエドナ様の口からお聞きした…お二方は何らかの交遊関係があるみたいだ。

 

「色々とすることがあってレイフォルクに向かって、偶然に出会った。ライラに頼まれて来たとかどうとか言っていたが…大方天族見える奴が導師になったんだと勘違いをしたんだと思う。問題はそこじゃなく、アリーシャがオレの名前をエドナに教えたことなんだ」

 

「名前をですか?」

 

「…そう言えば、ゴンベエのフルネームを言い当てていました」 

 

 ゴンベエとエドナ様に名前をお教えした。教えるとなにかに反応したエドナ様は、ゴンベエのフルネームを当てた…ゴンベエはこの国の人じゃない。そのせいか独特の名前で、ヒントもなにもなくフルネームを答えるのはとても難しい。だが、エドナ様は当てた。

 

「フルネームをですか…ゴンベエさんの先祖の方とお知り合いで名前が似ていたから、では無さそうですね」

 

「その後にレイフォルクでやらないといけない事があった。エドナも人間を嫌ってる節があったから、変に関わらずに山頂の道だけ聞いて別れてやらないといけない事を終えた。目的を終え、下山しようとした途端に違和感と不快な空気を感じ…ドラゴンに襲われた」

 

「ドラゴン、ですか…お怪我はありませんですか?」

 

「御心配、ありがとうございます。倒すことは出来ませんでしたが、私とゴンベエは五体満足でこうして帰ることが出来ました」

 

 殆どゴンベエがどうにかしていた…また、あのドラゴンと遭遇した時にはゴンベエの負担にならない様に強くならなければ。

 

「問題はその辺だ…ぶん殴って押し倒して、腹の上に乗って心臓に剣をぶっ刺そうとしたらエドナが止めに入った」

 

「……と言うことは、お聞きになっているのですね?」

 

「ああ…」

 

「ゴンベエ、ライラ様…なにを知っているのですか?」

 

 あの時はまことのメガネを持っておらず、意識を保つだけでやっとだった。だが、見えないなにもない所に会話をしているのを私は覚えている。

 

「あのドラゴンは……エドナさんのお兄さんです」

 

「な!?」

 

 エドナ様の御兄様?と言うことは、その御方も天族であり、あの様なドラゴンとは似ても似つかない。人々に加護を与えるとされる天族と真逆、厄災を降り注ぐドラゴンなんてありえない。

 

「そこが聞きたいんじゃない…天族と言うか人間が龍になる一例は存在している。神が化物になったり、神の逆鱗に触れて呪いで別の生き物にされるなんてよくある話だ」

 

「その様な話、ここでは余り聞いたこと無いんだが…」

 

「問題はそこと言うかその後だ。エドナが現れたからかどうかは知らない…だが、ドラゴンはオレ達と同じ言語で喋った」

 

 何故ドラゴンになったや、ドラゴンとはなにかと言う話を一切しない。

 ドラゴンが私達と同じ言葉で喋った…

 

「あのドラゴンがエドナ様の御兄様ならば、喋れることは普通ではないのか」

 

「まぁ、確かにドラゴンとかが喋ったりするの聞いたことある。だが、問題はその時に喋ったことだ…最初はエドナの名前を呼んでエドナを見ていた…次にオレの名前を呼んだ」

 

「!?」

 

「教えたわけでもなく、ゴンベエと呼んだ。その次にアリーシャの事を見て、アメッカと呼んで、最終的には飛び去った…その後にエドナから大きい箱と小さい箱を貰った」

 

「まるで、お伽噺の様ですね…」

 

 遠い異国のお伽噺の様な事が私が意識を失った後にあった。ゴンベエの手に持っている小さな土の箱は恐らく、その小さな箱のこと。改めてみると、何処かの時代の貴重な箱…なんてものじゃない、古びた箱だ。

 

「何時の日にか現れるナナシノ・ゴンベエとマオクス=アメッカに箱を渡してくれと頼まれたらしい…それも遥か昔にだ」

 

「エドナさんにですか?」

 

「ああ、エドナが頼まれたらしい」

 

「…」

 

「ライラ様?」

 

 箱の事を知るとなにかを考えるライラ様。

 ナナシノ・ゴンベエは知らないが、マオクス=アメッカと言う人物に心当たりがあるのでしょうか?

 

「それは……余程の物なのですね」

 

「余程、ですか?」

 

「私の知る限り、エドナさんのお兄さんは自分の事は自分でどうにかする御方です。何時の日にか現れる人に渡さなければいけない物を自分で渡さずに、エドナさんに託したと言うことは余程の事です」

 

 自分の事は自分でするしっかりとした御方なのか。

 もし、ドラゴンになっていなければ、ちゃんとした形でお会いしてみたかった

 

「マオクス=アメッカと言う人物に心当たりはないか?大分、昔と言うことはアリーシャの先祖の可能性が出てくる。オレはこの国につい最近来たばかりだから、ナナシノ・ゴンベエの方はもういい。アリーシャの先祖でアリーシャと瓜二つなら」

 

「…………申し訳ありません、マオクス=アメッカと言う人物にも心当たりが無いです。この大陸の伝承や伝説にもその様な名前は無いです…あの人は大陸中どころか、海を越えた先…異大陸にすらも足を運んだ程の方で交友関係や顔の広さは恐らく天族でも1、2を争うほどで私が全く知らない知り合いも多くいます」

 

「そうか。なら、プランBだ」

 

 ナナシノ・ゴンベエとマオクス=アメッカについての情報は得ることが出来ないが、落ち込まないゴンベエ。持っていた箱を近くのテーブルの上に置いた。

 

「エドナはナナシノ・ゴンベエとマオクス=アメッカと言う人間に渡せと託されていた。何時の日にか現れるかどうか分からない人物に、物を託す…世界中を渡り歩いて貯めた財宝の線かと思うが、それだと大きい箱一つで、小さな箱の意味がわからん…エドナが箱を託されたのは千年前…その際に直接託されたっぽい。つまり、千年前はドラゴンじゃなかった…アリーシャ、千年生きてる人間の知り合いとか有名人っているか?」

 

「そんな人、いるわけない…千年も前なら、とっくの昔に死んでいる!?」

 

 もしゴンベエの推測が正しければ、ナナシノ・ゴンベエとマオクス=アメッカと言う人はとっくの昔に死んでいる。

 

「それを託して100年の間、エドナの兄がドラゴンになっていなくて理性を保っていたら…うん……」

 

「じゃあ、コレはいったいなんの為に…」

 

 千年も生きている人なんて何処にも存在しない。

 もし、箱を託して100年もの間にエドナ様の御兄様がドラゴンになっていなければ…とっくの昔に死んでいる人に向けて物を届けようとしていた?

 

「多く見積もって200年…つまり800年前だ。エドナの兄が800年前はドラゴンになっていなかったら、色々と不可解な点が多い。だが、その不可解な点を解決する方法が一つだけある…この箱の中身がなんなのかを知ることだ…オレは骨董品には興味ねえ…エドナと知り合いで、恐らくこの街で1番長寿のライラなら中身を見て、なにか分かるかもしれない」

 

「ちょ、長寿…確かに長生きをしていますが…」

 

「落ち込むな、逆算すればエドナも最低1000年以上は生きているんだから」

 

「ゴンベエ、そういうことじゃない」

 

 女性にとって年齢と体重は語ってはいけないタブーだ。

 

「バカめ、人間と同じ感覚の時点で愚かだ。天族基準の年齢の感覚を覚えろ…爺みたいな見た目じゃなくておと…乙女かこれ?」

 

「迷わないでください!!中身を鑑定しませんよ!」

 

「勘弁してくれ……じゃあ、開けるぞ」

 

 軽い一悶着はあったものの、収まった。

 ゴンベエは箱の上の部分に触れて掴み、ゆっくりとゆっくりと持ち上げる。

 

「え~と………」

 

「これは、円盤?」

 

 真ん中に穴が空いている透明で綺麗な厚みのある円盤が入っていた。

 金銀財宝の山でなく、それしか入っていない…と言うことは、儀礼剣の様な昔の物で今は手に入らない稀少な古代の物か。

 

「少しお待ちを………」

 

 円盤を手に持ち、まじまじと観察するライラ様。

 一目で分からないものの様で、人差し指を曲げてコンコンと叩いて音を鳴らしたり、なぞったりして確かめている。

 

「ゴンベエ、アレがなにかわから──ゴンベエ?」

 

「……」

 

 マオクス=アメッカが誰かは分からないが、ナナシノ・ゴンベエは隣にいるゴンベエだ。

 異大陸の物なのかもしれないとゴンベエに聞こうとすると、ゴンベエは表情は変えていないが目が驚いていた。それがなにか分かっており、どうしてそれがあると言う顔をしている。

 

「分かりました!」

 

 無言でそれを見ていると、ライラ様の鑑定が終わった。

 

「これは……硝子です!」

 

「……貴重な硝子でしょうか?」

 

「いいえ、この時代でも普通に作る事が可能な硝子です。円盤になる様に作られた硝子ですが、何処にでもある普通の硝子です!」

 

「…そ、それはどういう意味でしょうか?昔は、硝子が貴重だったのですか?」

 

「いいえ、普通に作る事が出来ました…」

 

 そう言われ、私はライラ様から円盤を受け取る。

 触った感触は本当に何処にでもある硝子の瓶と同じで、この世で最も硬いとされている金剛鉄(オリハルコン)でもなんでもない何処にでもある硝子。

 

「…傷…!」

 

 なにか手掛かりは無いかと硝子を見ていると、不自然な傷が入っていた。

 土器の箱で約千年もの間、保存されていた硝子、傷がつく可能性はあるがそれでもおかしいと気付く。

 

「螺旋の様な傷がつけられています…なにかの仕掛けでしょうか?」

 

「私も最初はそのことを考えましたが、その傷と硝子の形の繋がりからしてなにも…ゴンベエさんはなにか御存じでしょうか?」

 

「……知ってるには、知ってる…だからこそ、分からない」

 

 どうしてこんなものが、そこにあるのかがゴンベエには分からない。

 それは、これがどういうものなのかをハッキリと分かっていた。

 

「針と木材とプラスチック…いや、プラスチックはないか…手動だからギアを作ってクルクル回す式の方がいいのか?」

 

「これはゴンベエの国の物なのか」

 

「いや、違う…そもそもこれ自体を見るのをはじめてだ」

 

「はじめてなら、何故わかる?」

 

「豚カツを作ろうとしたけど、家にあるのが鶏肉だった…後はわかるか?」

 

「……似たような物を見たことある、と言うことか」

 

「そう言うことだ…と言っても、硝子なんて聞いたことないからな…」

 

「それで、これはいったいなんなんでしょうか?」

 

 硝子の円盤をテーブルの上に置き、袋に入っているナニかを探すゴンベエ。

 ライラ様の質問で手は一度止まり、硝子の円盤をみる。

 

「しいて言うならば、未来へのメッセージだ」




ゴンベエの称号


名無しの権兵衛


説明


彼には名前が無い、転生者の容姿や名前は世界観とか余計な事がなければ大体、転生者の魂によって決まる。
一度、その容姿になったのならば転生特典を引かない限りはずっとその顔なのだが極々稀に不安定な人が存在している。
彼はその一人なのだが、全くと言って気付いていない。と言うよりは、周りが名無しの権兵衛の意味を知らなかったり気付いてなかったりする。


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未来へのメッセージ(後編)

「未来へのメッセージ…」

 

 改めて私は硝子の円盤を見る。硝子の円盤は不自然な傷以外は特になにもない、普通の円盤…いや、違う。

 よく考えれば、そもそも円盤型の硝子の時点でおかしい。片手で掴めるサイズならば尚更おかしい。

 

「ああ、この硝子は瞳石なのですね!!」

 

「瞳石、ですか」

 

「はい、天族のみが使える天響術を複数使い太古の記憶を封じ込めた物です」

 

「そんな大層なもんじゃねえよ…いや、大層なものじゃないからこそ大層なものか。あ、あった」

 

袋の中に手を入れていたゴンベエはなにかを見つけて、取り出す。

 

「箱?」

 

「アリーシャ…この国って昔の方が文明に優れていたか?」

 

「文明か…」

 

 遥か昔、天族と人間は共存し、誰もが天族を視認していたと言われている。

 それが本当ならば、この災厄の時代よりも大地の緑豊か作物の実りは豊富で…きっと、文明にも優れていた筈だ。だが、何故その様な事を今聞くんだ?

 

「アリーシャもライラもコレに関してなんも分からねえ。

考え方を変えれば、今の今まで見たことない存在していない物となる」

 

「ゴンベエが似たような事を見たことあるなら、異大陸の物じゃ」

 

「ちげぇっつーの、今の技術でも余裕でと言うかこの国でも作れる。

ただ作り方を知っている人がその事に気付いていないだけ…作り方を知らないだけ……」

 

 ジーっと硝子の円盤を見ているゴンベエは箱を開く。

 箱の中身は機械仕掛けで見たことのない構造になっており、分かるのはせいぜい箱の横についている手回し式のハンドルの様なもの。

 

「御丁寧に穴のサイズは一緒だな…いや、大体同じか」

 

 開いた箱の真ん中にある突起部分に硝子の円盤はピッタリとはまる。

 

「え~っと…先に針を刺せば良いんだっけか」

 

「ゴンベエ、針なんて刺したら硝子が傷つくのでは」

 

「逆だ、傷をつけないと…なぞらないと……その前にっと」

 

 不自然な傷の上に箱につけられた機材の針を刺そうとしたゴンベエは、一室のドアを開く。

 ドアを開くと神父達が慌てて何処かに走り去っていった…中でナニをしているのかを、聞いていたのか。

 

「アリーシャ、分かっていると思うがまことのメガネの事を喋るんじゃねえぞ」

 

「分かっている」

 

 この虫眼鏡がどれ程のものかは言われなくても分かっている。

 天族の姿と声を捉えることのできるもの…コレが悪人の手に渡れば、天族の皆様が危険に晒される。いや、こんな物を持っているゴンベエもきっと…。

 

「はい、じゃあいくぞ」

 

 ハンドルを握り右に回すと、硝子の円盤をはめている台が回り硝子の円盤も回る。

 

『こ…き…おね…ベルベット……』

 

「お、成功してる」

 

「……」

 

 私の耳がおかしくなったのだろうか。

 ぐるぐると回りだした円盤に針を刺すと音が流れる。音だけじゃない、聞いたことのない声も聞こえる。

 

『あーあー、ただいまテスト中…テスト中…オホン。ゴンベエ、アメッカ…コレを聞いていると言う事はオレの考えが当たったようだな』

 

 乱れていた音が徐々に徐々に整いだしていき、最後には人の声になった。聞いたことのない人の声で、私達の近くに誰もいない。

 

『もし、コレを再生させたのがナナシノ・ゴンベエ、マオクス=アメッカじゃないなら切ってくれ。心を響かせ踊らせる歌も素晴らしい曲もこの中には入っていない、御宝に関するありかなんてのも勿論の事、コレの作り方に関してもだ』

 

「確かに、これは未来へのメッセージだ…」

 

 声の主の正体はエドナ様の御兄様だ。

 姿は見えないが、声だけで分かる。立派な御方だと、ライラ様の言うとおり自分の事を自分でする人だと。硝子の円盤は声を記録するもの…そしてこの箱は記録した声を再生する装置。文字通りメッセージが伝えれる。

 

『……切らなかった、と言うことはゴンベエとアメッカだな。お前達が聞いていると言うことは、そこにお前もいると思っている。先ず最初に言っておくが、オレはお前達になにかを言うつもりはない。と言うよりは、オレはまだまだ生きる。アイツとの約束の日が来るまでは例えなんであろうとも死ぬわけにはいかねえ…代わりと言ってはなんだが、お宝を用意してある。お前なら充分にっと、このサイズだとどれだけ録音出来るか分からんからな。宝については見れば分かる』

 

「御宝…デカい箱の方に入ってたのかぁ…そっち持ってけばよかった」

 

『オレからのメッセージは以上だ。これ以上の無駄話は必要はない、会ってすればいいだけだ……代わるぞ』

 

『うん、ありがとう…おね』

 

「はい、終了」

 

「ゴンベエ、まだ続きが!」

 

 ゴンベエは針をあげた。メッセージはまだまだ続いている、それを最後まで聞かないと。

 

「いや、コレでいい…マオクス=アメッカがアリーシャの先祖だと仮定しても、最後のメッセージは聞かなくていいもの。大きい箱はナナシノ・ゴンベエとマオクス=アメッカに向けた贈り物で、小さな箱はもう一人の誰かに送り届けないといけない……」

 

 マオクス=アメッカかナナシノ・ゴンベエ以外の三人目。

 それらしき人物がいる…確かにそれっぽいことは言っていた。だが、その三人目は誰かは分からない。

 ライラ様に聞いてみるも、エドナ様の御兄様は交遊関係が広く、マオクス=アメッカとナナシノ・ゴンベエと言う自分も知らない人と知り合いの人は分からなかった。

 

「昔、体育館でレコード作る企画は見たことあるから、難しい機材がなくてもいけるのは知っていたが…にしても、レコードこれとはこの国の文明ひっくいな、大体の原因は分かるけども…」

 

 レコードと呼ばれる硝子の円盤を箱に戻すと、レコードの声を再生する装置も戻す。

 

「このレコードと言う物を届けたかった相手は何処の誰かは分からない。だが、文字でなく生きた声で、老朽化する紙ではなく硝子で残したのは、それほどまでに言葉にしてその人に伝えたい事があったのだろう…」

 

 何百何十年たとうが伝えたい思いが、このレコードには入っている。

 その思いが言葉が伝わって欲しい人にメッセージを聞いて欲しい…その人はもう死んでしまってるが、きっと天国でメッセージの先の会話をしている筈だ。

 

「アリーシャ、カッコよく締めようとしてるけど、まだ終わりじゃないからな。レコードが入っていた小さい箱、コレはナナシノ・ゴンベエとマオクス=アメッカに宛てた物じゃない、エドナですら知らない、三人目の誰かへの物だ…昔から大きい葛籠と小さい葛籠で欲張って大きいのを選んだらロクな目に遇わんと言うが、今回は逆だな…これを返して大きな箱を取りに行かないと」

 

「大きな箱……確か、宝が入っていると言っていたな。ナナシノ・ゴンベエでもマオクス=アメッカでも、その三人目でもないのに貰ってもいいのだろうか?」

 

 世界中を渡り歩いていると言う事は、相当な宝の筈だ。

 ナナシノ・ゴンベエがゴンベエの先祖なら、貰う権利が無いとは言い切れないが…

 

「いいんだよ、貰える物は貰わないと。オレの考えが間違っていなければ、その御宝はアリーシャやライラにこの街の人達からしたら宝じゃないと思う…じゃ、また明日に」

 

 ゴンベエは私からまことのメガネを回収すると出ていった。

 行き先はレイフォルク、もう一つの箱を取りに向かったが、この日は帰ってこなかった。

 

「アリーシャ様、よろしいでしょうか?」

 

「どうした?」

 

 次の日の昼時、ゴンベエと別れて丸一日たち彼はどうしたのだろうかと気になった頃だ。

 街の警備をしている騎士が困り果てた顔で私の元を訪ねてきた。

 

「実は、大荷物を持ち上げた怪しげな男がいまして…怪しいので、入口の検問で止めたらアリーシャ様の名前を出しまして…念のためにと」

 

 私の名前を出したという事はと、頭にゴンベエが浮かぶ。

 きっと彼なのだろうと入口の検問前に向かうとゴンベエがいたのだが

 

「お、大きくないか?」

 

「正直、小分けしろと言う思いはある」

 

 持ってかえった大きい箱が予想以上に大きかった。

 馬車並みの大きさで、土器で中に御宝が入っているのを考えれば相当な重さのはず。

 ゴンベエは両腕の力だけで持ち上げている。私もまだまだ精進しなければならないな…

 

「ゴンベエ、それの中身は?」

 

「まだ確認してねえよ…だが、ハッキリと重さを感じる」

 

 どっこいしょと石橋の上に箱を置いたゴンベエ。

 箱を置いた際にズシンと音が鳴り響き、箱の重さが伝わる。

 

「あの」

 

「ああ、彼の検問は私がする。ゴンベエ、流石にそれを中に入れるのも此処に置くのもダメだ。一度、別の場所に」

 

「え~…」

 

 嫌そうな声を出しながらも、もう一度大きな箱を持ち上げる。

 入口の検問前の石橋だと、商人の馬車が通り難くなるので石橋を越えた先に運んだ。

 

「…ふ、んんんんんんんん!!!」

 

 街に入る人の迷惑がかからない場所に置くと、私は箱を持ち上げてみようとする。

 腕に力を入れて必死になって持ち上げようとするも全く持ち上がらない。一昨日の磁石よりも力強く持ち上げているが、持ち上がらない。

 

「コレは…相当な重さ、この中にエドナ様の御兄様が託した未来への御宝が…」

 

「よーし、じゃあ開けるぞ」

 

 小さい箱と同じ作りで、取っ手を掴み開くゴンベエ。箱に立てかけると箱の上に乗った。

 

「あ~…アリーシャ、カモン!」

 

「どうした、ゴンベエ!」

 

 箱の中に入ったゴンベエに呼ばれ、私も箱の上に立った。

 

「壺?」

 

「几帳面な性格なんだろうな。よく本とか参考資料の挿し絵とかにある木製の宝箱に乱雑に金が入ってる的なのじゃない」

 

 箱の中身は綺麗に整頓された同じ形の壺が蓋をされた状態で綺麗に並べられていた。

 ライラ様の言っている事からして、エドナ様の御兄様は真面目な御方で宝の種類に分けられている…そう考えれば普通で何処もおかしくない。

 

「重い」

 

 適当な壺を掴み、持ち上げた。

 壺は予想以上に重かったが、持ち上げれる重さで試しにと横に振ってみると音が聞こえる。液体の様な物でなく、金属の様な硬い固形物が入っているのだろうか?

 

「…!?」

 

「アリーシャ、どうし」

 

「ゴンベエ、今すぐにコレを返すんだ!!」

 

「……どうしたんだよ?」

 

「大きな箱の中身は、文字通りの御宝だ」

 

 持っていた壺を開くと中には純金の塊が入っていた。

 興味こそ無いものの、一級品の宝石や金の物など見る機会は何度もある…だからこそ、分かる。このレベルの金の塊は早々に見つからない、これを受け取ってはいけない。

 

「……これはエドナ様にお渡ししよう」

 

 ナナシノ・ゴンベエもマオクス=アメッカも名も知らぬ三人目ももうこの世にはいない。ならはエドナ様へ託すのが一番だ。

 

「エドナから邪魔だから、持ってけって言われてんだぞ?返せば、邪魔だと木っ端微塵にして適当な所に埋められるだけだ…純金の塊…お、これ水晶だ。よかった」

 

 別の壺の蓋を開けると、純度の高い水晶が入っていた。

 これで眼鏡をいくつ作れるのか、それを横流しすればどうなるのか、考えただけでも頭が痛くなる。他にもなにがあるのだろうかと近くの壺を開くと銀が、別の壺を開くと銅があった。

 

「石?」

 

 他にもお宝があるのかもしれないと別の壺を開くと石が入っていた。

 中に宝石類が入っていて、取り出す前の状態なのだろうかと別の壺を開くとまた石が入っていた。

 

「コレも、コレも、コレも、コレも…殆ど、石じゃないか」

 

 更に他の壺を開き確認するも、どれもコレも石ばかり。

 宝石類の様なものは見当たらず、最初の金や水晶以外に価値のありそうなものはない。

 

「だから、言っただろう。アリーシャ達にとってはお宝でもなんでもないって…流石に硫酸とかの液体と植物類は無いか。硝子細工が出来るから、硝子の原材料も…いや、この時代でも普通に作れるから別のを優先したのか…お、これも知ってるやつだ」

 

 ゴンベエはまだ開けていない幾つもの壺を確認する。

 壺の中に入っている石がなんなのか分かっているのか、時折笑みを浮かべている。

 彩り豊かだったり、黒ずんでいる石…いったい、これがなにを意味しているのだろうか?

 

「コレは珍しい石なのか?」

 

「稀少な石かどうかなんて、オレは知らねえよ。マンガンとか硫黄とか聞いたことあるレベルで貴重かどうかなんて知らない…だが、使えるのは確かだ。アリーシャ、もし金が手元にあって寄付とかそう言う慈善活動に使う以外で、純金をお金として使わずに使用しろと言われたらどうする?」

 

「寄付以外……指輪などの装飾品や馬車の飾りにする?」

 

「成金趣味全開だな、おい」

 

 金をお金として使わずになんて聞かれても、それぐらいしか浮かばない。

 

「他にも色々な使い道があるんだよ…水車小屋に強力な磁石、果ては鉱石類。なにもかも順調すぎて、そろそろ酷い目にあいそうな…いや、自力でどうにかしないといけないから既に酷い目にあってるか」

 

 壺を元あった位置に戻し、蓋をして箱を持ち上げる。

 

「…結局名前を聞くことは出来なかったエドナ兄…ありがたく、貰っておく。マオクス=アメッカと三人目が何処の誰なのかは知らないが、ナナシノ・ゴンベエはオレでこの石を使いこなせるのもオレだけだ」

 

「ゴンベエ…持っていくのだな…」

 

 殆どがよく分からない石だが、価値のあるものも中にはある。

 置いていけとは言わない…言っても、なにがなんでも持っていこうとする。それこそ私を倒してでもだ。

 

「止めるならお前でも本気で潰すぞ。流石にこの鉱石を捨てるのは勿体ねえ、下手すりゃ集めるのだけで人生を終わらせる可能性がある。安心しろ、私利私欲の為にしか使わない」

 

「そうか……ん?」

 

「待ってろよ、オレの快適な生活!!」

 

「ま、待て!!」

 

 私利私欲の為にしか使わないとは、どういう意味だ!?

 こんな時は普通、悪事には使わないと言うのが普通じゃないのか?ゴンベエを追い掛けようにも、とてつもない早さで走り去った為に見失ってしまった。

 

「……」

 

 エドナ様の御兄様の声を記録するレコード、マオクス=アメッカにナナシノ・ゴンベエ、それに名前も知れない三人目。

 お宝と言っていいのか分からない色とりどりで見たことのない鉱石に、ゴンベエが作った雷を当てて作った強力な磁石、市場の人に注文した竹、たった三日で様々な謎を知ることが出来た…謎や疑問の解決は出来なかったが。

 

「…ゴンベエなら、問題ないか」

 

 私腹を肥やしていると言う噂のある者達がハイランドにはいる。

 水晶や金を売り捌けば、その者達と同じ様に私腹を肥やせるがゴンベエはそんな事をしない。何故かは分からないがそんな気がした。




ゴンベエの称号


勇者 ああああ


説明

転生特典はごまだれー!な勇者等の力と道具一式。
本人も何となくしかわかっておらず、まだまだ未知の物が多くあるもののこの世界を救うには充分すぎる力を持つ。
大空、時、黄昏、風、息吹、彼にはどんな名前があうのか…。
「もう面倒だからああああでいいだろ、オレ、世界救うつもりねえよ」 本人談


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オレはぁ…

「あ~死ぬ、マジで死ぬ」

 

 この世界に来て、一ヶ月。

 吉幾三の歌並みに文明が低いこの世界での一ヶ月は色々と辛かった。

 エドナの兄が残した鉱石をジャンル分けしてからの、海に行って色々な物を集めたりしないといけなかったり…人海戦術でどうにかする事が出来ることも、四人までしか分身出来ないので結構キツい。

 

「素材の倉庫を作ったり、硝子の砂探したり……何時になったら元の生活レベルに戻るのやら」

 

 転生特典で作りたいものをどうすれば作れるのか、作るまでの過程の知識をくれるからどうにかなる。

 よくわからんが手先の器用さがスケットダンスのボッスン並になってたから、作るものが汚いとかそう言うのもないが、限界がある。

 

「いい加減に仕事探さねえとな」

 

 何度目かは忘れたが、レディレイクにやって来た。

 曲がりなりにも王都…うん、いい加減に仕事を探さないといけない。まだお金には余裕があるし、最悪純金や水晶を売ればどうにかなるが、ある程度、ガッポガッポ稼いで老後の貯蓄を作りたい。50ぐらいで仕事しなくてもいい状況を作りたい。

 

「そこの者、止まれ!!」

 

 何時も通り市場にでも行って、なにかないかと探そうとするとそこそこ年食ってる女に吠えられる。

 

「んだよ、まだなんもしてねえだろうが」

 

 最初の子供とアリーシャと揉めたのと聖剣を引っこ抜いたのトリプル役満で、街の住人には変人とか悪人とか導師(偽)とか教会の犬とか言われているが、前科もなにもない一般ピープルだぞ。

 

「怪しげな物に乗ってると住民から通報を受けた」

 

「怪しげなって…木製のチャリだぞ」

 

 移動手段が欲しいが、石油ないし蒸気機関の車だと効率が悪いからと作り上げた木製の自転車。

 流石にギアやチェーンは鉄だが、タイヤの部分は竹の六編みを束ねて出来ていて余程の道じゃない限りは走れる。幸いと言うべきか、この近隣は異常なまでに険しい獣道が無いからもう楽々で、坂道も元いた世界と違い肉体が尋常じゃなく強いので苦じゃない。

 

「電気文明はなくても、このレベルの木工なら余裕で出来るだろう…馬か、馬がそんなに凄まじいのか?」

 

 乗ったことねえけど、馬ってそんなに凄まじいのだろうか?

 

「おばはん、オレは怪しいものじゃないからな。いやまぁ、胡散臭さはあるのは理解しているが悪人じゃ…いや、どっちだ?」

 

 一先ずは身の潔白を証明しないといけない。自転車を止めて、両手をあげて降参のポーズをとる。

 

「おばはん…だと?」

 

「見た目は若いが、騙されねえぞ。三十路は当の昔に過ぎてんだろ」

 

 異世界あるあるのロリババアとは逆の年食ってる美魔女的なあれ。

 目の前にいる騎士のおばはんはまさにそれだと言ってやると、黒い靄を出す。

 

「とにかく、オレは怪くて胡散臭いがなんもしてねえぞ。嘘かどうか気になるんだったら、アリーシャに聞いてくれ。少なくとも悪事を働いてないって」

 

「アリーシャだと?」

 

 身の潔白を証明するには第三者だと名前を出すとピクリと反応するおばはん。

 街の有名人(一部からはめっさ嫌われてる)らしいから、逆に怪しまれるか?

 

「師匠、ここに…ゴンベエか」

 

「やめてくんねえか、その目は」

 

「す、すまない…君が此処に来ると、何かしらの騒動が起きているから、つい」

 

 噂をすればアリーシャがやって来た。

 おばはん騎士の方に近付いてきてオレがいると思うとまたかという目で見られる。

 レディレイクに来るたんびに何かやらかすが、十中八九相手側が悪い。そう

 

 

 

 

 

オレは悪くねえ!!

 

 

 

 

 

 

「つーことだ、オレは怪しいものじゃないのを証明出来ただろう…」

 

「師匠、彼はナナシノ・ゴンベエです。遠い異国の人で、色々と変わった知識を持っていますが悪人ではありません」

 

「成る程な……ところで、今日はどういった用件でこの街に?」

 

「職探し、日出国から此方に来たから今は無職なんだよ」

 

 なにかをしようとするなら、やっぱり営業許可とか必要なんだろうか?

 治安悪いけど曲がりなりにも王都だからヤのつく人が金寄越せとかは言ってこなさそうなのは救いか。最悪、レディレイクから離れて別の街でなにかするってのもありか。

 

「職を探しているのならば、我が国の騎士になるのはどうだろう?」

 

「騎士だと?」

 

「騎士ですか。確かに強く知識も豊富で冷静さもありますので、ゴンベエにはちょうどいいのかもしれません。ゴンベエ、試しに入団試験を受けてみてはどうだろう?ゴンベエの実力ならば簡単に受かるはずだ」

 

「嫌だ」

 

 アリーシャは君なら出来る絶対にと後押しするが、絶対に嫌だ。

 

「国になんて仕えてみろよ、親の総取りにも程があるだろう」

 

「親の総取り?」

 

「権力者はずっと権力者、貧乏人は何処まで頑張っても貧乏人のままってことだ…分からないなら、分からないでいい。とにかく、この国にいるとはいえ宗教を変えたりとか国に仕える騎士になんてならねえよ…騎士なんてもんは柄じゃねえし」

 

 オレはそう言う団体行動は向いていない。

 地獄で戦闘訓練を受けてる際に言われた『君は今まで見た転生者候補生の中でもトップクラスの戦闘センス等を持っていますが、それだけですので自惚れずに』って…人を率いるカリスマ性や此処ぞと言う時の決断力とか行動力に欠けてる。なんでもそこそこに出来るから当然と言えば当然で…一番大事なやる気が無い。

 

「柄じゃない、か…」

 

 しょんぼりと落ち込むアリーシャ。オレと一緒に働けるのを想像していたのか、それとも戦力が欲しかったのだろうか。

 

「騎士なんて、どうせロクなもんじゃねえだろ」

 

「確かにそうかもしれないな」

 

「師匠!?」

 

「この国の騎士は、怠慢で傲慢な者が多い。騎士は本来、守るもののために強くあり、民の為に優しくある者だ…ロクなものじゃないと気付いている者だからこそ、今の騎士団に必要だ」

 

 どうでもいいけど、このおばはんは何時まで黒い靄を出しているのだろうか?

 何処かで聞いたことある綺麗ごとを語っているが、本性はどす黒いんじゃねえかと思うぐらいに黒いな。けどまぁ、それでも誰かが笑ったり平穏に過ごせるならば汚くても良いけども…

 

「そいつは、騎士じゃないとダメなのか?」

 

「なに?」

 

 何処にでもあるありふれた綺麗事を聞いて、アリーシャは流石ですと言う視線をおばはんに向けている。

 ある程度の理知的でカリスマを持った人間がそこそこの正論を言うと人は流石だと思うらしいが、価値観や常識が違うオレからすれば全く違う。

 

「争いはどうあがいても納まらないのは理解している。騎士が争う奴等とやりあうのは分かっているが、少しそれはおかしいだろ。弱いから守ってやらないとってのは間違いじゃないが、守る奴は頑張って清く正しくあれなんてのは間違いだろ」

 

 一人一人が清く正しく美しくなんてなっちまえば、世界は停滞しちまう。

 ある意味、この世界がこの国がそれを象徴していやがる。

 

「なにが言いたい?」

 

「騎士なんて時代遅れなもんで人は守れねえんだよ」

 

「ならば、問おう。なにならば人を守れる?」

 

「知らん」

 

 おばはんの問い掛けの答えをオレは持っていない。

 そんなコレを真面目にコツコツとやりさえすれば人を守る事が出来るなんて都合の良い職業は存在しない。見えないところで人は支えあって生きており、子供は大人になる…んじゃねえのか?よくわかんねえけど、そんなんだろ。

 

「ふっ…ゴンベエはアリーシャとは真逆の様だな」

 

「私と真逆、ですか?」

 

「お前は少々柔軟性が欠けている、かといって」

 

「おい、こらクソババアやめろ」

 

「クソババアだと?」

 

 いい感じに締めようとするが、そうはいかねえ。

 微笑ましく面白い事があったと笑い、期待の眼差しをするおばはんだが、オレはそれが嫌いなんだよ。

 

「自分よりも一回り若くて青いが面白い奴が来たと言う視線を向けんじゃねえ。アリーシャは頭が堅くて柔軟性に欠ける、オレはその逆で柔軟過ぎて真面目じゃないとか見るな」

 

 若い世代を見て、面白い奴が入ってきたなと微笑ましく見る老害キャラは嫌いだ。

 これはあれだ、お前の事を本当に思っているから厳しくするとかそう言う感じの事を言うタイプのババアだ。

 

「ゴンベエ、幾らなんでも」

 

「黙ってろ…どうも、さっきから嫌な視線を感じる」

 

 元々嫌な感じのするおばはんだが、アリーシャとオレをセットで見た際にハッキリと感じた。

 目を優しげにしているが内心ボロクソに思っていやがるな。アリーシャは気付いていないが、アリーシャも見下してるな。

 アリーシャは明らかに怒っている、師匠(せんせい)と呼んでいたから慕っているんだろう。

 

「…すまなかった」

 

 ババアは謝った。

 なにかを考えた後、ペコリと謝ると黒い靄を自分の中に閉じ込めてから謝った。嫌な感じの視線と言ったのが効いたのか、消したな。

 

「師匠!?」

 

「見ず知らずの人間を面白いものを見る目で見れば、不快になって当然だ。長く生き、様々な人を見ているせいかゴンベエの様にはじめて見る種類の人は面白いと思ってしまってな」

 

 なに若干自分が悪かった反省してる感出してんだか。まぁ、これ以上は関わっても意味ねえし上からのところもある。

 アリーシャが師匠なんて呼んでるんだから、そこそこの地位を持っているだろう。関わりはあんまり持たない方が良いと思い、逃げようとするが捕まった。

 

「だが、その言葉遣いは戴けない。目上の者に対する敬意が無い」

 

「生憎だが、歳上=目上じゃねえんだ。オレとは方向性が違ったりスゴいと認めさせたら言うことを聞くし、それ相応の敬意を抱く」

 

 先人達がなんて感情は何処にもねえよ。

 おばはん呼ばわりされてからのクソババア扱いに明らかにキレている。しかし、そう扱っても仕方ねえだろう。

 

「ならば、私の凄さを教えてやろう」

 

「ゴンベエ、師匠は『蒼き戦乙女』(あおきヴァルキリー)と呼ばれる御方だ。今すぐに」

 

「うわ、キッツ!!二つ名キッツ!!」

 

 ボコって矯正しようとするので、その前にとアリーシャがおばはんの偉大さと言うかスゴさを教える。

 しかし、オレは思う。痛い。もう痛い…いや、分かってるんだよ。天族とか言う胡散臭いのがいる時点でそう言うの当たり前だってのも。思わず引いてしまうと、抑えていた黒い靄が溢れでて目を光らせる。

 

「とりあえず、オレはそう言う暴力NGなんで。料理対決とかなら喜んで受けますので」

 

 このままだとバトルをする展開になる。

 そんな面倒なのはごめんだとオレは来た道を戻ろうとするが、そうはいかない。

 

「生かすとでも?」

 

 あれ、字が違うんじゃね?

 アリーシャに確かめようと見るも、アリーシャは青ざめている。おばはんの恐ろしげなオーラと怒りを直に感じ取っているのか、震えている…が

 

「喧嘩したきゃ、先に手を出せよ」

 

「ご!?」

 

 相手を見てものを言いやがれ。

 オレはおばはんの頭に肘を入れると、おばはんは綺麗に倒れる。

 

「まぁ、おばはん、おばはん呼ぶのは失礼だと思ったりムカつくなら名前名乗った方がいいぞ?」

 

「師匠を一撃で…」

 

 倒れているおばはんは白目を剥いて気絶している。やっぱり肘はまずかった。

 アリーシャはありえないと自分の尊敬する御方がたった一撃で、しかもしょうもない男にやられたと驚いている。

 

「……アリーシャ、その人に尊敬の念を送るのは良いけど、その人みたいになるんじゃダメだぞ」

 

 清く正しく逞しく美しくを体現しているっぽいおばはん。

 アリーシャが憧れたり尊敬したりするのはまぁ、分からんことでもない…だが、それじゃダメだ。

 

「師匠の様になってはいけない…それは、どういう意味だ?」

 

「そのまんまの意味だ…蒼き戦乙女だかなんだかしんないけど、その異名の時点でもう手遅れだ…て言うか、アリーシャはなんで騎士をしている?」

 

 本当に今更ながらの事をオレは聞いてみる。

 こいつ、ボンボンでそこそこの地位を持ってるんだから騎士なんてしなくても良いだろう。

 

「……目の前の現実に嘆くだけでは、なにも変わらない。先ずは自分が変わらなくてはならない。だから、私は騎士を目指した」

 

「アリーシャ、クソッタレな世の中を変えるのは騎士じゃないぞ」

 

 予想通りと言うべきか、定番のクソッタレな世の中を変えたい系の姫様だった。

 だが、世の中を変えるのは何時だってそう言う生真面目な存在じゃない。オレは否定するとアリーシャは肩を掴んだ。

 

「分かっている、分かっている!!そんな事は分かっている!!ただの小娘が憧れで自分を変えたく周りを変えたく独りよがりの事をしていることぐらいは!!」

 

 今までなにかが溜まっていたのだろうか、アリーシャは腹の内を開く。

 

「私は…ゴンベエの様に天族が見えない、雨を降らす魔法も使えない。もしあの聖剣を抜くことが出来るなら、私は今すぐにでも抜いて導師になり災厄の時代を終わらせたい!」

 

「アリーシャ……」

 

「でも、私はどうすることも出来ない!ライラ様の姿も声も聞けない…筆談した際に聞いた、私だとダメかって…貴女では出来ませんって、ゴンベエなら出来るって言われて…私には、私には…力がない」

 

 ポロポロと涙を流すアリーシャは悔やむ。

 綺麗な容姿に貧しいどころか裕福な家庭環境にそこそこの地位を持ち、戦いに置いては有能そうな師匠がいる。しかし、肝心のなにかを変える力を持っておらず、今の世界を変えるために必要な導師になれない事を悔しんでいる。もしあの聖剣が抜けるならば、抜く。例え世界を救うのが過酷な道のりでもやりきってみせる覚悟がある…だろう。

 

「オレが言いたいの、そう言うんじゃない」

 

「…ふぇ?」

 

 あ、可愛い。アリーシャの涙目からの女声を聞いて、オレは心をときめかす。人生に潤いが大事なんだとアリーシャの声で理解する。

 

「…どー説明すれば良いんだ?ライラに聞いたら…いや、ダメだな。導師=正義だと思ってるし…」

 

 オレが言いたい事をどう説明すればいいのか考える。

 本当に必要なのはお祈りとか信仰とかよりも人類の発展とか、薬作ったりとかだけど…ストレートに言ってもなぁ。アップルグミとか言うグミ食べればダメージ消せる世界で薬って、どんな扱いになってるんだ?

 

「……しゃあねえ、これやるよ」

 

 色々と考えた末に、オレは自転車を差し出した。

 

「この乗り物は…馬車に似ているが」

 

「自転車だよ…アリーシャが知らないって事はこの国にはねえのか。だったら、アリーシャ…自転車操業って言葉について考えてみろ…いや、これであってるのか…まぁ、いいか」

 

 作るのに一週間以上かかった自転車。

 チェーンとかは金型があるから作り直す事が出来るが木製の部分の調整に時間がかかる。出来て一週間もたっていなく、尚且つ自作を他人に渡すのは心が痛む…だが、こうでもしないと無理っぽい。

 

「市場にでも向かって仕事かなんか探すか…」

 

 オレはアリーシャに背を向け、市場に向かった。





スキット アリーシャ、はじめての…

アリーシャ「はぁ…情けない姿をゴンベエに見せてしまった…」

チラリと木製の自転車を見る。

アリーシャ「ゴンベエはいったい、私になにを伝えたかったのだろう?コレは…乗り物、のはず」

恐る恐る自転車に触れて乗ってみる。

アリーシャ「えっと……この足を置くところで…きゃあ!?」

試しにとペダルを踏むと前に進み、バランスを崩すアリーシャ。

アリーシャ「動き出した…そうか、コレはここを踏んで動かすのか…よし、もう一度!」

自転車について理解したアリーシャは挑戦する。

アリーシャ「ふっ、ほっ…きゃあ!?」

はじめての自転車に。
何度も倒れてしまうが諦めずに努力する…二十歳越えてはじめての自転車に。

アリーシャ「ふんんんんん……ふぅ…ふぅ…すー、すー…スゴい!!この自転車は馬車要らずな代物だ!」

そして遂に自転車を乗りこなす様になった…が、自転車操業について忘れていた。

アリーシャ「今度、何処か遠くに行く際にはこれに乗っていけば早くいける!」

ママチャリに乗った姫騎士をシュールだと誰もツッコまない。自転車の概念が無いのだから。



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二人の死神

「かーなーしーみー」

 

「おい、ちょっと待て」

 

「んだよ…もう常連客並みに見馴れてるだろ」

 

 何時もの様にレディレイクにやって来たのだが、はじめて検問に引っ掛かった。

 何時も検問をしている門番なのに、オレを検問で引っ掻けるとはいったいどういう風の引き回しだ。

 

「それはなんだ」

 

「お前、前回オレを止めなかったのに聞くか普通」

 

 調べるものを調べ終え、家に帰ってアリーシャに渡したチャリをもう一度作り直した。

 そして今回も乗ってきたのに止めてくるとは、ボケるのが早いんじゃねえのか?

 

「その後ろの荷車だ…確認させて貰うぞ」

 

「へーへー、とっととしてくれよ」

 

 自転車の後ろには荷車がついている。

 何時もの様に買い物や情報収集に来たのではなく、商売をしにやって来た。流石にはいそうですかと通してはくれないよなと諦めながらオレは荷車に入っているものをみせる。

 

「水瓶に氷に、硝子の容器に…絵?」

 

「この辺は娯楽がすくねえから、こう言うの需要あんだろ…もう良いか?」

 

「ああ、いっていいぞ…しかし、氷か。何処かに献上する品か?」

 

「…?」

 

 こいつはいったいなにを言ってるんだろう。

 氷は蒸留水をアイスロッドで凍らせたもので、何処にでもある氷だ。冷蔵庫がないから氷が貴重とか、そんな事を言うんじゃねえだろうな?……ありえるな。

 

「さーて、どうするかな……」

 

 市場まで来たが、売れそうなスペースが全く無い。

 こう言う大きな街だから、商業の組合かギルド的なものが存在しているんだろう。

 それに入っておかないといけないパターンだろうか…身分証明書とこの国の文字読めないから、キツいな。

 

「お~い」

 

「ん…って、マジか!」

 

 とりあえず、商業の組合かギルドを探そうとしたらアリーシャがやってくる。

 歩いて来たんじゃなくて、自転車に乗りながらやって来た…ぷっ…ふっ、は!?

 

「ちょうど良い時にきてくれた」

 

「ちょ…ちょ、ヤバい…」

 

 何時もの格好で自転車に乗っているアリーシャ。

 木製の特に塗装のされていない自転車を何時もの格好で必死になって漕いで来ている。

 その姿はマクドでドライブスルー(ママチャリ)をするおばちゃんよりもシュールで、アリーシャが恵まれた容姿で必死になって漕いでいるだけで笑える。

 

「ど、どうした!?」

 

「いや、なんでもなんでもない。本当に、気にしないで…くれ…ヤバい、っく!笑え!」

 

 余りの光景にお腹を抑えるレベルで笑ってしまい、アリーシャが心配する。

 医者を呼ぼうかと聞かれるが、こんな事で医者を呼ばれたら恥だし、この世界の医者は信用出来そうにない。

 

「ひーひっひっひ…」

 

 思う存分、腹の底から笑う事で思い出し笑いを防ぐ。

 いや、本当にスゴい。スゴいまでにシュールな絵面で笑うしかない。

 

「そ、そんなにおかしいか?」

 

「す、すまん…」

 

 流石に自分が笑われていると気付くアリーシャ。

 自分の格好を見ておかしなところはないが、おかしなところはない。おかしなところはないから、余りにもおかしい。

 

「と言うか、普通に乗ってるんだな」

 

「ああ、この自転車と言うのはとても便利なものだ。自分の行きたいところまで行くことが出来て、家の片隅に置くことが出来る…風を感じることも」

 

「あ、うん…因みに自転車操業の」

 

「コレを大量に作ることが出来れば、馬の負担も少なくなる」

 

 普通に乗りこなしているが、プレゼントとして渡していない。

 自転車操業の意味を理解して欲しいから渡したのだが、自転車の便利さに忘れているな。

 

「それで、オレになんの様だ?まーた、ロクでもない用件だったら普通に断るぞ」

 

「まずは、教会に来てくれ」

 

 あ~もうこの時点でロクでもない。

 しかしまぁ、一応は聞いてやらないと話は進まなそうだ。アリーシャの言う通りにオレは教会に向かう……自転車で向かう。絵面本当にシュールだよなぁ…ママチャリに乗った姫騎士とチャリアカーに乗った胡散臭いやつだ。

 

「それで、なにをしたいんだ?」

 

「実は…来年に聖剣祭をしたいんだ」

 

「聖剣祭?」

 

 確か、オレがはじめてこの街にやって来た際に言ってたな。

 この時期はライラがいる聖剣を引っこ抜いた奴が導師とか最終的に炎を捧げるとかそういう感じの儀式するんだったな。

 

「飢饉だか飢餓だかで、出来ないんだっけ?とにかくしたいならすればいいだろう、オレはこの街の住人じゃないしこの国に思い入れ無いから盛り上がんないけど」

 

 神聖な祭とかそんなのを言われても、特になにも感じない。

 日本の現代っ子にとって祭とはぼったくりされる場所であり、クジに当たりが入っていないのは常識である。

 

「ああ、私はしたいと思い色々と駆け巡っている。このままいけば聖剣祭をする事が可能なのだが、そうなればライラ様に炎を捧げる事になる…その役をゴンベエに」

 

「却下だ」

 

 予想以上にロクでもない事だとわかった。

 オレは手を交差し×の字を作って全力で嫌がり、断る。聖剣付近に座っているライラはしょんぼりとして悲しそうな顔をしているが、知るか。

 

「そう、か……どうしても、ダメなのか?」

 

「オレはオレの国の宗教を貫かないとダメなんだよ。聖剣祭でそんな事をすると宗派を変えた事になる…変えたら、ヤバい」

 

 どうしてもやって欲しそうな顔をしているが、それだけは出来ない。

 別の宗教に変えてしまえば二度と日本の地獄に戻ることは出来ない、それが例え異世界の宗教であろうとも。

 

「具体的には、どうなるんだ?」

 

「死後にオレの国の宗教に属する死後の世界に行けなくなったりする。下手すりゃあの世にもいけずに、この世に漂う地縛霊かなにかに生まれ変わり、うらめしや~…と、アリーシャの枕元どころか、夢の中に登場する」

 

 夢枕とか言う霊能力使うぞ。

 

「お、おばけに……天族じゃないのか?」

 

「そんな高尚なもんじゃねえよ。むしろ、お経とか唱えられて除霊されたりする」

 

「お経?」

 

 なんだそれはと首を傾げるアリーシャ。

 ジェネレーションギャップと言うべきか、世界観ギャップと言うべきか。神様じゃなくて仏が出るファンタジー……あ、それは低予算の勇者の物語だな。

 

「お前の用事はそれだけか?オレはとっとと自分のやりたい事をしたいんだ…流石に働かないといけないからな」

 

「働く、何処かに就職したのか?」

 

「いや、違う。どっかに就いても、何時崩壊するか分からんから出来ん…それよりも、自力でどうにかしないと」

 

 オレは外にあるチャリアカーに積んでいる水瓶を持ってくる。

 この街…と言うよりは、産業革命が起きていないレベルのこの世界だ。コレの作り方自体は驚くほどにシンプルだった。

 

「…コレは?」

 

「うちの国なら誰もが知っている飲み物だ」

 

 柄杓を取り出し、中身を硝子の容器に入れる。

 

「この黒い液体は…」

 

「っと、冷えてないから氷も入れて揺らす」

 

 最初の一杯は自分が飲む物だ。だが、二杯目はなにかと世話になっているアリーシャに飲んでもらいたい。

 グラスに入っている液体を見て、飲める物なのかと疑っているが飲める物である。

 

「それ飲める物だっつーの…多分、飲む機会少ないと思うが」

 

「そうか……ゴンベエを信じてみるよ」

 

「毒いれてる可能性ある前提で言うなよ」

 

「…!?……プハァ……コレは、お酒なのか!?」

 

 綺麗にイッキ飲みしたアリーシャは慌てる。

 自分が飲んだものがお酒だと騒ぐが、そんなもんじゃねえ。

 

「酒じゃなくて、炭酸水で、それジュースだ」

 

「炭酸水……炭酸水!?」

 

「そう、炭酸水」

 

 うちの国でもそれの量産なんかに成功して普通に販売出来るようになったのは約百年前。

 ならば、この国で量産する事は出来ないだろう。

 

「この辺に炭酸水が沸き出る所はない…随分と遠くまでいったのだな」

 

「…うん、っまぁ、うん…」

 

 人工的に作れるので、そこまで苦じゃない。

 酒を入れた壺に管がついた蓋をして、その管を水が入った筒にくっつけて、二酸化炭素が入るようにして川の滝の流れを利用したりして約一日ぐるぐると回したり、桶に水入れて酒樽の上に置いとけば良いだけだ。重曹的なの必要だと思ったが、案外そうでもなかった。

 

「…天然物じゃないんだけどな…」

 

 割と製造方法はシンプルだが、余計な事を言うとややこしいので黙っておく。

 アリーシャ曰く冷奴は三千円する世界だから、余計な事を教えるとレートが崩壊する。

 

「コレ、幾らぐらいで売ったら良いと思う?」

 

「そうだな…この容器に氷付きだから、一杯、800ガルドだな」

 

「たっけーな、おい」

 

 適正価格を聞いてみると、予想以上のぼったくり価格だった。

 ドリンクバーが無い店でも中々に500円越えないと言うのに、普通に越えている。そんな値段じゃ人が寄り付く筈もないだろう。

 

「んな値段じゃ上流階級ぐらいしか買わねえだろ」

 

「だが、氷と炭酸水は貴重でそうでもしないと採算が取れない」

 

「あ~…」

 

 炭酸水と氷の原材料は実質、酒と水だけだ。だが、稀少な物には変わりない…が、それじゃあダメだな。

 

「一杯150ガルドで売る…200越えたらコーラはぼったくりになる」

 

 この世界じゃ絶対に無いであろうコーラ。

 どんだけの価値があるかは知らないが調理は至ってシンプル。焼いた蜂蜜にパクチーにレモンを炭酸水にぶちこんでかき混ぜればそれっぽくなる。

 

「そうか…なら、最初のお客だな私は」

 

「別に最初の一杯は無料で良いんだがな」

 

 アリーシャは懐から150ガルドをだし、料金を支払う。

 貰える物は貰っておこうとオレはガルドを受け取ると、別の容器にコーラを入れる。

 

「ほらよ…この辺で商売するからサービスだ」

 

「まぁ、よろしいのですか?」

 

「サービスだ、サービス。黒い液体だなんて、ワケわかんねえ物を売ってても飲みたくないだろ?」

 

 ライラにもコーラをやる。

 とりあえず、コレを飲んでも問題ない。コレを飲んでもお酒じゃないと証明する奴が欲しい。コカ・コーラと違って安心と安定の信頼感が存在しないからな…大手のブランドのネームバリューは恐ろしい。

 

「その辺の神父達、今日は金取らねえから、飲んでくれねえか?あ、飲み終わったらちゃんと容器返せよ。流石に使い捨てのプラスチック容器作れねえんだから」

 

「プラスチック?なんですか、それは?」

 

「知らないなら知らないでいいんだよ」

 

 使い捨てのプラスチック容器があるなら、楽だったが文句は言えない。

 礼拝に来ている街の人達や神父達に無料でコーラを配る…ちゃんと次からは金を取ると言って。美味かったとレビューして口コミしてくれればそれで良く、味がよかったのかアッサリとコーラは完売した。

 

「持ってきたコレ、無駄になったな」

 

 売れなかった時のプランも考えていた。

 だが、思いの外に売れてしまったので使うことがなかった。コレからコーラ以外の商品を作るならば、コレはもう必要無いんじゃないだろうか?

 

「ゴンベエ、それは?」

 

「紙芝居だ」

 

「紙芝居!?」

 

 海水で作った水酸化ナトリウムで煮込んで作った紙擬き。

 こんな世界だから紙も高いとか言い出しそう。現に羊皮紙で物書いてるし。

 

「それはどんな内容だ!?」

 

 アリーシャは目を輝かせ、紙芝居を見る。

 

「ちょ、近いって」

 

「ああ、すまない。だが、紙芝居と聞いてつい…それは、ゴンベエの国の御話なのか?」

 

「あ~多分な」

 

「多分?」

 

「オレもそこまで詳しくないし、似たり寄ったりの話はあるから。この国にも似たような感じの童話があったら、なんか面倒になりそう…」

 

 流石にコレとそっくりなお話は早々にないだろう。しかし、万が一とかワケわからんお話があるのが異世界なんだよな。

 

「その紙芝居はどんな紙芝居なんだ?」

 

「最終的にタダよりも恐ろしい物は無いってオチの話……紙芝居するなら、なんかこう、タメになる話の方が良いかもしれねえ。この国のタメになるお伽噺とかって無いのか?」

 

「ハイランドのお伽噺…そうだな…」

 

 アリーシャに他の話がないかと振ってみると真剣に考える。

 良い話が多すぎるのか、アリーシャはぶつぶつと小さく呟く。

 

「ライラはなんかタメになる話はないか?」

 

「そうですね……タメになると言うものかどうかはわかりません、ですがある方から不思議なお話を聞いたことがあります」

 

「不思議なお話?」

 

「ゴンベエ」

 

「あ、わり」

 

 ライラと会話をしていると、私もと言う顔をするアリーシャ。

 まことのメガネを取り出して、ライラの声を聞こえるようにする。

 

 

 

 

 

スキット ★ 二人の死神

 

 

 

ライラ「題して、二人の死神」

 

アリーシャ「二人の死神、ですか」

 

ライラ「昔々あるところに死神と呼ばれる医者がいました。何故医者が死神と呼ばれているのか、それは彼の体が継ぎ接ぎだらけの男だったからです」

 

ゴンベエ「…んん?どっかで聞いたことがあるぞ、この話」

 

ライラ「しかし、その死神は医者としてはとても素晴らしい腕を持っていました。国一番の名医と呼ばれる医者の知識や腕を遥かに凌駕しています…ですが、彼は国に仕える医者ではありません。彼の腕は余りにも異端、治療方法も通常の方法とは異なるために国が作る医者の資格を持ってはいません」

 

アリーシャ「医者の資格を持っていないなら、それは医者ではないのでは?」

 

ライラ「はい、なので無免許で医者をしています。普段は海辺の崖の上に家で暮らし、死神の腕を聞き付けて依頼人が日夜やって来ます」

 

アリーシャ「……?そんなに依頼人がやってくるなら、普通に医者をすれば」

 

ライラ「いえ、そこが問題なのです。なんとその医者はとんでもない医療費を請求するのです!最低でも1000万、酷いときは10億ガルドを躊躇いなく要求するのです」

 

アリーシャ「10億!?そんな、法外な!」

 

ライラ「通常の相場の何百倍の請求するのですが、それでも腕は確かです。治療した人が経営する居酒屋で一年間無料や、ラーメンを奢って貰ったお礼と称して治療することもあります」

 

ゴンベエ「あ~うん…完璧にうん…」

 

ライラ「そんな彼の元に依頼者が今日もまたやって来ました。その依頼者は子供で、寝たきりの母を治して欲しいと言う依頼で、法外な医療費は一生を費やしても払うと言いました。取り敢えずはその人がどの様な状態なのか、どんな症状なのかを確かめに死神はその子の家に向かいました…」

 

ゴンベエ「あの話かぁ…」

 

ライラ「その子の家に向かうと…もう一人の死神がいました。彼とは違い継ぎ接ぎだらけではなく、それなりの容姿の男性です…しかし、継ぎ接ぎの死神よりも恐ろしい医者です。何故ならばその死神は人を殺す医者だから」

 

アリーシャ「人を殺す医者!?」

 

ライラ「はい…人を殺す医者です。母親はもう悟っていました、自分を治せる医者なんてこの世の何処にも存在しないんだと。寝たきりの自分は子供達の迷惑でしかない、寝たきりの自分の介護をさせては子供達が働けない。介護をするだけでお金が掛かってしまう…動くことも出来ない母は自殺も出来ない。だから、人を殺す医者にもう一人の死神に依頼したのです」

 

アリーシャ「そんな…最初のつぎはぎの死神はどうしたのですか!?」

 

ライラ「殺す方の死神は血にも尿にも残らない特殊な毒を用意し、母親に飲ませようとした瞬間に間に合いました」

 

アリーシャ「ほっ…」

 

ゴンベエ「ほっ…じゃねえんだよな…」

 

ライラ「つぎはぎの死神は無免許とはいえ医者としての誇りはあります。殺す医者の存在を認めず、私が治療すると母親を診断し、その結果、自分なら治せる事が判明しました…しかし、母親は拒みました」

 

アリーシャ「そんな…どうして」

 

ライラ「つぎはぎの死神の医療費は余りにも膨大でした。母親の子供がコツコツと酒にも女にも溺れずに真面目に働いて中年になる頃にやっと返済できるほど。自分の為にそこまでしなくていい。自分の夢を掴みなさい、自分のやりたいことをしなさいと母親は子供の幸せを願いました。自分が死ねば保険金が入り、子供が大人になるまで安心して暮らせると喜びました」

 

アリーシャ「…お金が…お金がそんなに大事なのか?」

 

ライラ「つぎはぎの死神は母親はこの世で何よりも大事な存在だと思っています。この世で最も美しいと思う女性は母親と思っているほどで、子供の母親が手術を拒む理由を聞いて、何かを重ねたのでしょう。医療費はタダにすると、タダにしました…そして、もう一人の死神からその母親を奪い、見事なまでに治療に成功。母親は元気に歩く事が出来るようになりました……おしま」

 

ゴンベエ「…おしまいじゃねえだろ?」

 

アリーシャ「これでおしまいじゃないのか?母親は助かり、膨大な迄の医療費を支払わずに済んで、もう終わりじゃ」

 

ゴンベエ「その話には続きがある…」

 

ライラ「御存じなのですね?」

 

ゴンベエ「うちの国の五本の指に入る画家が描いた話だ…終わりを知っているからこそ、弄くったな?」

 

ライラ「……」

 

ゴンベエ「最後のオチ言わねえなら、オレが言うぞ…やっと治ったと歩き回れる様になった母親は子供と一緒に出掛けて、子供もろとも死亡して治療が無駄に終わるどころか死人が増えました、おしまい」

 

 

 

 

 

「おしまい……終わり、なのか?」

 

 ライラが言わなかった最後のオチを言うと目を見開き、固まるアリーシャ。

 色々と改編しているせいで、もう一人の死神がどうして人を殺すのかを教えていない。確か軍医で、傷ついて治らなくて苦しんでいるから殺したとかそんな感じだったな。

 

「終わりだよ、これ以上はなにもない。医者の方の死神はなんの為に治療したのか苦しんだりするだけで、母親も子供も不思議な力で生き返ったなんて言うご都合主義も存在しない、コレで終わりな物語。色々と大事な部分を端折ってるがな」

 

 一番大事なものを言わないとは、どういうつもりなのだろうか?いや、それよりもだ…

 

「その話、何処の誰に聞いたんだ?」

 

「昔、ある方が語ってくれたのです。その方も別の人から聞いたお話で、その人が誰なのかが…」

 

 確実にそれはオレだろうな。いったいなんでそんな話をするようになったのだろうか…いや、それよりもだ。

 

「それをなんの為に話したのか理解しているのか?改編しているって、事は改編前のお話をちゃんと知っているんだろ?」

 

「……はい…」

 

 バッドエンドにはバッドエンドの役割があるんだ。無闇矢鱈にハッピーエンドに変えておけば良いなんてもんじゃない。特に創作の童話は、読者に伝えたい思いがあるから書いてるんだぞ…

 

「…なんで、未来のオレはそんな話をしたんだか…」

 

 エドナの兄が言ったナナシノ・ゴンベエにライラが語ったお話をしてくれた人。

 それはどちらもオレであり、何時の日にか未来か過去でそんな面倒な話をしないといけない。正直な話、面倒だから無視をしたい。





スキット タダよりも怖いものはない

ゴンベエ「なんか重い空気になったから、楽しめる話するか」

ライラ「そうですね、こう言う時こそパーっとした方がいいですわ!」

ゴンベエ「いや、重くしたのお前だからな」

アリーシャ「ライラ様は悪くはない…ゴンベエ、どんな話だ?」

ゴンベエ「声は重いな。至って普通の何処にでもある話だよ。屋台の蕎麦屋で一人の男性が蕎麦を食うんだが、その蕎麦を」

ライラ「ああ、誉めまくってお会計をタダにしたのですね!」

ゴンベエ「おい、ネタバレやめろよ!」

アリーシャ「無線飲食か?」

ゴンベエ「誉めに誉めまくって、最後にお会計をする。
細かいのしか無いから、一緒に数えてもらい今何時か聞いて、八時と言わせて頭に8を浮かばせて、勘定を誤魔化す。
それを聞いた奴が真似したのは良いが、時間帯を間違えて余分に多く支払う…そしてそれを聞いた奴がそれの真似をしようとしたら、蕎麦屋を見つけた。その蕎麦は今まで食べた蕎麦よりも美味すぎる。きっと上質な素材を使っているんだなと聞いた。
この蕎麦はどんな蕎麦粉を?さぁ、なんでしょうな?この蕎麦の出汁はなにで出来ている?さぁ、なんでしょうな?
この蕎麦の薬味は香りが良いが取れ立てか?さぁ、なんでしょうな?この蕎麦のトッピングは湯引きした肉とかき揚げだけど、何処の肉と野菜をさぁ、なんでしょうな?とはぐらかす。
蕎麦は今まで食べたことの無いほどに絶品だが、店主が余りにも胡散臭い。
しかしアレだけ美味い蕎麦、材料費が物凄く手間が掛かっているんだろうと男は蕎麦屋の店主はぼったくるのだと思った。
いざ食い終わり、勘定を済ませようとしたらなんと無料だった。オープン初日でもなんでもなく、客で賑わっているわけでもないのに、まさかの無料で驚いた。その驚きを見て、まだまだお腹を空かせてるんだと勘違いをした店主がもう一杯蕎麦を食べるか?何杯食べても無料だよと微笑むと、男は逃げ出した…お勘定を誤魔化すなんて出来ない。安すぎて怖い…世の中、高いよりも恐ろしい物が存在する。タダよりも怖いものは存在しないと男は身に染みました…おしまい」

アリーシャ「途中から、怖い話に変わっていないか?」

ライラ「いいえ、タダよりも恐ろしいものはないと教えるタメになる話です…ところで、コーラはなにで出来ているんですか?」

アリーシャ「あ、そう言えば…黒い液体だなんて、いったいなにを」

ゴンベエ「さぁ、なんでしょうな?」

アリーシャ・ライラ「「……タダよりも怖いものはない…」」


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夜明け前

 ゴンベエがやって来てどれぐらいたったのだろうか?

 一年もたってはいない、だが、とても長く一緒に居た気がする。

 

「ゴンベエ」

 

 今日も今日とてゴンベエはレディレイクにやって来た。

 何処で入手したか教えてくれない炭酸水を使って作ったコーラや暇潰しと作ったお菓子や雑貨品を持って。

 

「アリーシャか…コーラは樽単位で売らんぞ」

 

 酒ではなく、子供でも飲むことが出来る物として知られて圧倒的な安さを持っているコーラ。

 司祭や礼拝に来た街の人達に配った事がよかったのか、あっという間に噂は広まり何時も売り切れに。作り方や原材料を教えて欲しいと言う商人もいるほどだが、ゴンベエは一度も教えずにこの街でコーラを売っている。何処かの下戸の貴族が気に入って水瓶ごと購入しようとしたらしいが、それはダメだと纏めて売ることはしない。

 

「そうじゃない…だが、一杯買うよ」

 

「毎度あり…で、どうしたんだ?」

 

 コーラを入れた容器を渡してくれるゴンベエは、私になにがあるんだと気付く。

 面倒臭そうにしながらも、私の話を真剣に聞こうとしてくれている。

 

「…旅に出ようと思うんだ」

 

「旅ね…聖剣祭があると此処以外の街に告知しにいくのか?」

 

「それもある、それもあるが…一番は、導師に纏わる遺跡の調査だ」

 

 ライラ様と言葉を交わす機会は少なかった。

 だが、文字による会話をすることで、色々と聞くことが出来た。100年、200年も前に導師が実在し旅をしていたことを。この国で見つかる古代の遺跡は導師に力を貸していた天族を祀るものだったりする。

 

「もしかすると、古代の遺跡に今の災厄の時代を終わらせるナニかがあるかもしれない」

 

「お前は導師でもないのにか?」

 

「っ……ああ」

 

 災厄の時代の原因は、人の心の闇が生み出す穢れ。

 その穢れをどうにかするには導師の…ライラ様の浄化の力が必要だが、私は導師になれない。裸眼で天族を見れない私は、導師になることは出来ない。ゴンベエの様になにもなく言葉を交わし素で見れる人でないとなれない。

 

「導師が現れるのを待っていては、いけない。自分から切っ掛けを探さないと」

 

「…そうか……」

 

 遥か昔は天族と人が一緒に生活していた時代もあった。

 その遺跡に関する謎が解ければ、もしかするとという可能性もある。それと同時に多くの天族の方にお会いしたい。この街にいる天族はライラ様だけで、他に知っている天族はエドナ様だけだ。そのエドナ様は都合の良い時にだけ天族に頼る人間を嫌っていた…きっと、多くの天族もそう思っているのかもしれない。

 

「ゴンベエも来てくれないか?天族の方々に出会って、色々と聞いて…世界を見てみないか?」

 

 この街と家を往復する以外で何処かの街に行くことも無いゴンベエを誘う。

 決してまことのメガネが欲しいから、それだけの為にとは一切考えていない。

 

「ゴンベエがついてきてくれれば、心強い」

 

「やだよ」

 

「……」

 

 口が悪かったりするが賢いゴンベエ。彼が一緒に来てくれたら、とても心強い…が、即答だった。本当に嫌そうな顔で、深く考えることなく即座にゴンベエは答えた。凄く残念な気持ちになるが、心の何処かでアッサリと断ると思っていたのでそこまでは辛くない。

 

「オレはそう言うのパスだよ。世界を救うとか、柄じゃないし…例え何かを見つけたとしても、それで世界は救えない。前にも言った気がするが、騎士じゃ世界は救えない。弱いものを守ることは出来ても笑顔にできない」

 

「…ゴンベエは本当に酷いな」

 

「言い過ぎた感じはあるが泣きそうな顔はしないでくれよ」

 

 私の今までの全てを否定する事を言うからだ。

 泣きそうになる私を必死になって宥めてくれるゴンベエには何処か暖かみを感じる。

 

「…あ~…旅に出るなら、道具貸そうか」

 

「道具だなんて、そんな」

 

「いや、万が一とか恐ろしいからな」

 

 旅と言っても一月ぐらいの旅だ。

 それぐらいならば騎士団の遠征で馴れているとゴンベエから道具を受け取るのを断ろうとするが、ゴンベエは手を止めない。袋から銀紙に包まれた棒の様な物とガラスで出来た少し変わった銅線がついた球体の様な物を取り出した。

 

「遺跡がどの辺にあるかは知らないが、地下深くに眠ってる可能性が大きい」

 

「確かにその可能性が大きいが…それは」

 

 いったいなんだろう?

 それを聞こうとする前にゴンベエは小さい箱みたいな物とスイッチな様な物を取り出し、ガラスの球体の様な物から延び出ている銅線でスイッチな様な物の金属部分に空いている小さな穴と箱の様な容器にある片方の小さな穴に結び、それとは別の銅線を取り出して、箱の容器のもう片方の方にある穴に結んだ。

 

「はい、スイッチON」

 

 ゴンベエは結び終えると箱の容器に銀紙の筒を入れてスイッチを押した。

 金属と金属がくっついておらず、それをくっつけるだけのスイッチ…それなのに、それなのに

 

「綺麗…」

 

 思わずそう言ってしまった。

 スイッチを押すと、この街の街灯よりも炎よりもハッキリと鮮明な光がガラスの球体から放たれていた。こんな綺麗な灯りがあったのかと思うほどに美しかったが、直ぐにそれは消えた。

 

「コレなら陽射しが入らない暗いところでも使えるし、松明やランタンよりも安全だ……って、おーい」

 

 ゴンベエがくっついていた金属を放したから、スイッチをオフにしたから消えた。

 

「コレはいったい…」

 

 炎よりも明るい光を放つ装置に私は興味を向ける。

 

「あ~…深く考えない方が良いぞ?あくまでも灯りがつく便利な道具って認識で良い…それ以上は深く考えるな…いや、本当にマジで。オレが渡すのは便利な道具、遺跡に行くから貸してくれたラッキー。その程度の認識で良い…うん、本当に」

 

 蝋燭によるものでも動物性の油によるランプでも無い。

 生まれてはじめてみる不思議な物に疑問を抱くがゴンベエは深く探らないで欲しいと念を押す。

 

「大丈夫なのか?」

 

「安心しろ、ヤバい物は入っていない。前にエドナの兄が残した物で出来ているから…流石にガラスとかは無かったから、その辺は自分でどうにかしたが」

 

「…アレがコレに?」

 

 一部の鉱石以外はなにも分からないエドナ様の御兄様が残したもの。

 この不思議な物に成り代わると言うのは少し信じがたい。だが

 

「ありがたく使わせてもらう」

 

 コレが旅に役立つ事は確かなのだろう。

 

「おお、使え使え。それと変な病気に掛かると怖いから、抗生物質もやるよ」

 

 今度は茶色に近い赤色の粉を渡してくれる。抗生物質…!

 

「これは、青カビのはえたミカンの粉か!?」

 

「よく覚えてたな」

 

 青カビのはえたミカンを探していると随分と前に言っていた。

 抗生物質と言うものを作りたいからと…となると、コレは青カビのはえたミカンと何かを混ぜ合わせた物なのかもしれない。

 

「そっちの方は断念した。青カビのはえたミカン一個じゃなくて、十個ぐらい必要だし…何よりも、青カビのはえたミカンで薬作るのは人海戦術になる…一部命懸けだったが、別の方にした。とにかく、余程の病気じゃない限りはそれで治るはずだ」

 

「いったい、青カビでなにを」

 

「そこは知らない方がいい…この薬の原材料と同じくな。本当に危ないなと感じた時だけこの薬を飲んでおいた方がお得だ…」

 

 青カビのはえたミカンの意味を知らぬまま、抗生物質と呼ばれる薬を受け取る。

 色からして薬のようなものだが、どういう風に出来ているのかは教えてくれない。だが、ゴンベエの作る物は本物なのだろうと、もし病気になったら飲んでみようと懐にしまった。

 

「で、最後に」

 

「まだあるのか」

 

「安心しろ…コレは誰にも渡さない、お前だけの物だよ」

 

 ゴンベエがそういい差し出したのは長方形の箱。

 ただの箱でなく開けることが出来るので、ゆっくりと開けると中に眼鏡が入っていた。虫眼鏡でも片眼鏡でもない、一番有名な両眼鏡と眼鏡拭きが入っている。

 

「ゴンベエ、これは」

 

 受け取るわけにはいかない。

 確か、エドナ様の御兄様が水晶を残していた。それを材料にして作れるが、高級品の眼鏡を受け取るわけにはいかない。なによりも、私はそこまで視力が悪いわけでなく普通の裸眼でも充分に見れる。

 

「ちげーよ、普通の眼鏡作るなら事前に視力検査するわ。それは壊れたまことのメガネをベースに作っている天族見るための眼鏡だ」

 

「まことのメガネを!?」

 

 天族の方々を捉える事の出来る不思議な虫眼鏡。一つ壊してしまったのが、こうして生まれ変わったのか。

 

「こう言う好意には甘えておけよ。破片の一部を眼鏡作る際にぶちこんだだけだから、そこまで手間暇かからない」

 

「そうか…それなら、ありがたく使わせてもらう……眼鏡を作る際にぶちこんだ?」

 

「この国の眼鏡は水晶眼鏡か?こんなもん焼いた海草に貝殻を粉にしたものと、珪砂と鉛を混ぜれば出来るぞ…あ、無し。今の、無し。」

 

 ぶちこんだと言う事に疑問を持つと何気にとんでもない事をサラッと語る。

 この国とゴンベエの国の文明の差が一目で分かってしまう事だが、手を交差し×の字を作るのでこれ以上は聞かない。

 ゴンベエの言っている事が本当ならば眼鏡が高級品でなくなり誰の手にも入るようになるが、そうなると大変な事になりそうだ。

 

「まぁ、世界中とは言わねえが色々と回るんだ。取り敢えず何らかの成果ぐらいは出してこいよ…特に、コレがあるんだから」

 

 ゴンベエは眼鏡が入った箱を見る。霊応力の弱い私は天族の姿を見ることも声を聞くことも出来ない。だが、この眼鏡があれば霊応力の弱い私でも天族と触れあえるようになる。

 

「期待して、待っていてくれ」

 

 コレだけの物を受け取り、なんの成果も上げられないのは騎士の恥だ。

 後日、私は旅に出た。導師の伝承を調べるために、各地で聖剣祭が行われる事を商隊や村や町の人達に伝えに。だが、現実はそんなに甘くはない。こんな時に聖剣祭をするだなんて舐めているのか、金食い虫と罵られた。天族を祀っているとされる場所に向かい、眼鏡をつけてもそこには天族の御方が一人もいない。

 

「…」

 

 何処に行っても罵られ、希望となる災厄の時代を終わらせる切っ掛けを見つけることが出来なかった。

 もうすぐ聖剣祭がはじまると言うのに、コレではまことのメガネの欠片を眼鏡にしてくれたゴンベエに申し訳ない。

 

「綺麗…」

 

 余り行ったこのないアロダイトの森の奥をさ迷い、抜けるとそこはとても綺麗な山岳地帯だった。

 黒く淀んでいたレイフォルクと真逆、白い雲に満天の青空…空気が気持ちよくとても心地良い。

 

「レディレイクもこんな所なら…」

 

 あくまでも眼鏡では見たり聞こえたりするだけで、災厄の原因である穢れを感じ取れない。

 だが、分かる…此処には穢れが存在しないのを。なんとなくだが…レディレイクと雰囲気が異なる。清らかな空気を吸い生い茂る木々は延び延びと育っている。森を抜ける前と後ではなんとなくだが違うのが分かる。コレがレディレイクならば…

 

「いや、ならばではダメ…レディレイクも此処と同じように頑張らなくちゃ…あ!」

 

 心機一転しようとすると思わず女言葉になってしまった。

 いかんな、まだまだ頑張らないといけないのにコレでは。

 

「…コレは!?」

 

 山岳地帯を歩き、なにか無いか探していると、こんな人気も何も無いところに明らかに人工的に作られた場所に辿り着く。

 

「古代の文字…遺跡なのか…」

 

 近くにあった石碑に触れ、刻まれている文字を見る。刻まれている文字を読むことは出来ない…だが、これと似たようなものは何度も見かけたことがある。古代の事が記されている石碑で、天族を祀る祠で見かける。

 

「此処は天族を祀っていた場所、なのだろうか…」

 

 槍を握り、ゆっくりとゆっくりと奥へと進むと遺跡らしさが出てくる。

 一部が壊れてしまっている銅像を見かけたので、此処が天族を祀っていたものだと思うのだが…

 

「どうしてこんなとこ、がぁ!?」

 

 何故この様なところにこの様な場所があるのか?そう疑問に思おうとしたその前に、眩い光が私を襲い、私は意識を失った。





スキット そんなに…

ゴンベエ「アリーシャ、大丈夫だろうか?」

ライラ「大丈夫ですよ、アリーシャさんは心身共に強い御方です」

ゴンベエ「いや、あいつ案外弱いぞ」

ライラ「え?」

ゴンベエ「オレ以上に戦闘力に振ってるから、女子力が無い。生活力ってなんだっけとなるレベル」

ライラ「女子力、ですか?」

ゴンベエ「生まれて始めてみたぞ、おにぎりで失敗するやつ…」

ライラ「ま、まぁ…アリーシャさんは料理をする機会はありませんので」

ゴンベエ「それに、アドリブに弱い。咄嗟に嘘とかつかないといけない時に上手く演じれないし、口下手なところある」

ライラ「それだけ正直者と言うことです」

ゴンベエ「天族に出会って、生け贄にされたら」

ライラ「なりません!私達天族は人を器にこそすれど、供物になどしません!」

ゴンベエ「器って…いやでも、天族である事を盾にしてあんなことやそんなことを…もしくは天族を盾にされて、くっころな」

ライラ「それもありま…ザビ…ええ、ありません」

ゴンベエ「おい、待て。なんで、そこで間が空いた」

ライラ「そこまで心配をするなら、ついていけば良かったじゃないですか…」


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雨のち晴れ

「……」

 

「あ、よかった!!」

 

「!?」

 

 遺跡で眩い光に当たり、意識を失った私が違和感を感じながら目覚めると見知らぬ男性が目の前にいた。

 

「っ!」

 

「…ん?ああ、コレだね」

 

 人気の無いところにいる彼に驚きながら身を引くと槍が無いことに気付く。

 何処だと探すと彼が私の槍を渡してくれた。

 

「え~と…あ、そうか。名前か。俺はスレイ」

 

「スレイ…」

 

「うん、よろしく」

 

 彼が遺跡に関する学者か何かかと思ったが、聞いたことの無い名前だった。

 彼はいったい何者なのだろうか?

 

「スレイ、この辺りに落ち着ける場所は無いだろうか?そろそろ都に帰らないといけないから準備をしなければならない」

 

「都から来たの?」

 

「…どうだろう?」

 

 こんな事を言ってはいけないのは分かっている。

 しかし、スレイが何者なのかは分からない以上は下手に名乗ることの出来ない。

 

「それだったら、うちの村に来なよ!」

 

「いいのか…その、余所者がやって来て」

 

 この近隣に村らしいものは存在しない。

 だが、スレイは村と言っている…恐らく、今のハイランドと関わりたくないと思っている人達が集う村なのだろう。

 現にゴンベエもハイランドに関わるのが嫌だと一線を置いて、ハイランドのどの町にも村にも住んでいないと言っていた。

 

「…困っている人に余所者もなにもないよ。そんだけ」

 

「…尋ねないのか、私の名を」

 

 もしかすると、住んでいる所で最も招かれざる客じゃない客かもしれない。

 私を連れていった時点でスレイが村八分にされる可能性もある。

 

「君にも君の事情があるんでしょ?少なくとも、俺は君が悪人に見えないよ」

 

「スレイ、重ねて感謝する」

 

「……うん」

 

「どうした?」

 

 やけに遅れて返事をするスレイ。

 なにかを、私が何者なのかを考えているのだろうか?

 

「いや、なんでもないよ」

 

「そうか」

 

「とにかく、一度外に出よう。こっちだよ」

 

 スレイの案内の元、遺跡の外へと向かう…のだが

 

「っ、無い!?」

 

「どうしたの?」

 

 目覚めた時からの違和感がやっと分かった。

 ゴンベエから貰ったまことのメガネの欠片で出来た眼鏡が無くなっていた。

 

「その、眼鏡が」

 

「眼鏡、あ~……」

 

 困った顔をしたスレイは頬を人差し指でかく。

 なにかを知っているようで、なんだろうと思っているとポケットから割れた眼鏡を取り出す。

 

「眼鏡が」

 

「その、君が倒れているとこの直ぐ近くに落ちていたんだ。粉々だったけど」

 

「まずい…」

 

「え、あ…もしかして、君、目が悪いの?」

 

 ゴンベエから貰った眼鏡が壊れているのを見て、顔を青くすると慌てるスレイ。

 君が悪いんじゃない。全ては私の不注意によるものだ。拾っていてくれただけでも、ありがたい。

 

「私は目が悪いわけではないんだ。その、この眼鏡は旅立つ際に貰った物で、壊したとなると」

 

「…カミナリが落ちるんだね」

 

 事細かな事を説明せずに大雑把な説明すると目線をそらすスレイ。

 カミナリ…落ちるな…大事にしろと手間暇かけて作った眼鏡が一ヶ月も満たない間に壊れたならば確実に落ちる。下手をすれば二度とまことのメガネを貸してくれない可能性も出てくる。

 

「お金…いや、ダメだ。ゴンベエはお金よりも変な物を要求する…住むところは嫌がるし」

 

「と、取り敢えずいったん、此処を出よう。もしかしたら、なんとかなる…かも…」

 

「ああ」

 

 なんとかなるだろうか?

 ゴンベエ曰く眼鏡のレンズは焼いた海草や貝殻を混ぜていると言うが…そんな物はこの山奥では手に入らない。確実になにか言われると思いながらも、外に出ると気持ちが変わった。

 

「なんという美しさだ…」

 

 来た道とは違う所から出ると、更に美しい場所に出た。

 

「大陸中がこの様な場所ならば、天族の皆様もお喜びになるかもしれない…」

 

 その為には頑張らなければ…

 

「へぇ、ホントに天族って呼ぶんだ」

 

「なにかおかしいのだろうか?」

 

 信じているか信じていないかはともかく、ゴンベエ以外は天族と呼んでいる。

 ゴンベエは自身の国では神様を天族とは呼んでおらず、名前で呼んでいたりもたらす加護+神様とつけて呼んでいるらしい。

 

「神、霊、魑魅魍魎と言った姿なき超常存在を人は畏敬の念を込めて、天族と呼ぶ…でしょ?」

 

「それは…天遺見聞録の引用…」

 

 神話に伝わる人と天族の歴史が残された古代遺跡を巡り、その謎に迫った人物が記した旅の記録が書かれた書物。

 それの引用をしていることに気付くとスレイは栞が挟まった天遺見聞録を見せた。

 

「君もそれを読んだのか」

 

「君もってことは」

 

「ああ、幼い頃に何度も読んだ…」

 

 そしてそれは本当だった。

 ゴンベエに出会うまでは半信半疑だったが、この目で捉えれなかったが見ることが出来た。声を聞くことが出来た。言の葉を交わすことは出来ないが、文字による会話をすることが出来た。

 

「っと、俺の住んでる所はもう少し歩くよ」

 

「了解した」

 

 他愛の無い会話をしながらも、私は歩く。

 美しい景色に意識を奪われずにスレイの後を追う。

 

「?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

 家らしき建造物が見えるところに来た瞬間、なにかが変わった。

 それがなにかは分からない。だが、不思議となにかが変わった気がした。

 

「…」

 

 それと同時に感じる。一つや二つなんて生易しいモノではない、無数の視線を。

 無数の視線は突き刺さる…余所者がやって来たと異物を見るような視線…だが、貴族や王族の社交界で感じる悪意の様なものではない。

 

「うん」

 

「スレイ?」

 

 先程から一人言が多いスレイ。

 まるで何処かを見ながら会話をしている様で、前を歩く。

 

「皆、来て。紹介するよ」

 

 この場にいるのはスレイと私だけだが、視線を感じる。

 私を警戒して家に隠れている…そう思ったが違う。スレイはまるで人と話し掛けている様に後頭部に片手を置いて笑う。

 

「これが杜で暮らす、俺の家族」

 

 自信満々に自慢気に語るスレイだが、そこには誰もいない…コレは、まさか!!

 

「スレイ…」

 

「え~っと」

 

「その家族に、コレを持たせてはくれないか?」

 

 似ている。この状況とあの日の…ゴンベエと出会った日の出来事と。

 似ているだけでなく、もしそうだとすればあの日と似たことを再現すれば良い。

 

「コレは?」

 

「それは…灯りをつけるものだ…その家族に持ってもらってはくれないか?」

 

 名前が分からないゴンベエから貰った灯りをつけるガラスの球をスレイに渡し、頼む。

 会って間もないがスレイは悪人でない純粋な人間で、私に嘘をついていない、嘘をつきそうにない人物だ。だからこそ…そうであってくれと願った。

 

「えっと…コレで良いの?」

 

 スレイはゴンベエから貰ったガラスの球を浮かした。

 

「…あ、ぁあああああ!!」

 

「ど、どうしたの!?」

 

 それを見て、理解できた。

 スレイが何処かに向けて語りかけているのを、私に向けられている視線が沢山あるのに人の気配もなにもないのを。

 どう言った原理でガラスの球が浮いているのを…今までの旅が報われた。ハイランドを渡り歩いたのは無駄ではなかった。

 

「そこに…天族の、しかも沢山の方々がいらっしゃるのですね」

 

「そうだけどって…え!?」

 

 ゴンベエがやって来た日、ゴンベエだけがライラ様の姿を捉えていた。

 声も姿も見えない私はゴンベエの言っていることを不審に思ったが、ゴンベエはライラ様の上に空き瓶を乗せた。

 ゴンベエにはライラ様の上に空き瓶を乗せただけだが、私から見れば空き瓶は浮いていた。

 

「よかった…本当によかった…」

 

 天族の皆様が集う場所に辿り着いたことに涙を流す。

 

「どうして…見えないんじゃ」

 

「ああ、見えない…スレイ、君は肉眼で見えるのか?」

 

「うん、見えるけど」

 

「そうか…」

 

 ゴンベエ以外にも肉眼で見える者がいたのか。となれば、道中の一人言はスレイの側にいた天族の御方との会話なのだろう。

 

「すまない、驚かせてしまって。天族や導師の伝承を紐解き、災厄の時代を終わらせる方法を探して旅をしていた…だが、此処に来るまで何一つ手懸かりもきっかけも見つけることは出来ずにいたんだ」

 

「そっか…天族も見えないのに、過酷な一人旅をしていたのか…」

 

 希望をやっと見つけた…が、直ぐに意識は現実に戻る。

 

「眼鏡…」

 

 天族を見ることが出来る眼鏡が壊れてしまった。

 つるの部分ならば良かったが、レンズの方が綺麗に壊れており、一番大きな破片が小指の爪ほど。

 コレさえ壊れていなければ姿と声を捉える事が出来た…いや、無い物ねだりはよくない事だ。

 

「…こんなにも、沢山、のかた、が」

 

「もしかして、その眼鏡の欠片に皆が写っているの!?」

 

 眼鏡のレンズ越しに天族が写っている事を驚くスレイ。

 スレイだけでなく、声は聞こえないが天族の皆様も驚いている。そんな物は聞いたことも見たこともないと。ゴンベエが持っていたまことのメガネは天族の方々も知らないとてつもない物なのか。

 

「写っている…だが、その…」

 

「あ、そっか…一番大きなレンズの欠片はそれなんだよね」

 

 小指の爪の大きさのレンズの破片。レンズ越しでなければ見えない為に皆様のお顔を見ることは上手く出来ず、レンズの破片のせいか声が聞こえない。壊れていなければ、声を聞き言葉を交わす事が出来たのに…

 

「声も響かないんだ」

 

「…眼鏡のままだったら、皆の声を聞くことが出来た?」

 

「ああ…」

 

 まことのメガネで出来た眼鏡に効力があるかどうかとライラ様で試すと普通に姿を見ることも声を聞くことも出来た。

 

「ゴンベエが居てくれれば…」

 

「ゴン、ベエ?それって、その眼鏡を君にあげた人?」

 

「ああ…この眼鏡はゴンベエと言う人が作ったんだ。私が天族が見える特殊な虫眼鏡を壊してしまい、虫眼鏡のレンズの欠片を眼鏡に」

 

「…う~ん…」

 

 ゴンベエが居てくれたら、まことのメガネで世界を見せてくれたかもしれない…私もスレイの様に肉眼で天族の皆様を捉える事が出来れば…

 

「まことのメガネなんて、聞いたこと無いけど…ジイジならなにか知ってるかも!」

 

「ジイジ?」

 

「…俺達の育ての親で、この杜の村長みたいな人。此処にいるみーんな、ジイジには頭が上がらなくて…ああ、うん…カミナリが待ってたんだ…はぁ…」

 

「そのジイジ殿がカミナリを落とすのは…私が原因か?」

 

「君は悪くないよ。悪いのは俺なんだ…外の人を連れてきてはいけないって決まりを破ったから、怒られて当然だよ…ミクリオ、上手く話してくれてるかな」

 

「スレイ、私もジイジ殿のところに連れていってほしい。君はなにも悪くない……悪いのは、あの様な場所で意識を失ってしまった私だ。出会ったのが君でなければ…下手をすれば命を奪われていたかもしれない」

 

 盗賊に殺し屋と色々と物騒な輩が多いこんな時代だ。

 スレイの様な純粋な人が私を見つけてくれたことに感謝しなければならないし、ジイジ殿がカミナリを落とすならば私に向けてほしい。スレイはなにも悪くはない。

 

「そんな、君を見つけたのは偶然で…って、眼鏡の事もあるからどっちにせよ会わないといけないか…きっと、ジイジはカンカンだろうな…こっちだよ」

 

 私はスレイと共にジイジ殿の家に向かった。




ゴンベエの術技

滅・魔神拳

下段蹴りをかました後に、勢いをつけ闇を纏った拳で殴る掛け突き。
キャプテン・ファルコンの使い回しとかコンパチとか言ってはいけないが、稀にF・パンチと言いそうになる。

F・パンチ

滅・魔神拳の炎版。
不死鳥を思わせる炎を纏っているが、不死鳥とは無関係。炎はディンの炎を使っており、浄化の力を持っている。
Fはフェニックスでなくファルコンなので、某最強の漢からクレームが来たり来なかったり


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希望は側に

「ただいま、ジイジ」

 

「キセルが…」

 

 ジイジ殿が住む家に入るとキセルが浮いていた。

 高さからして、そこにジイジ殿が座っておりレンズの欠片で確認するとご老人が座っていた。

 

「!」

 

「ごめんよ、ジイジ」

 

 なにを言っているかは分からないが、大きく叫んだジイジ殿。

 チラリと私の方を見て、スレイに説教の様なものをしているので恐らく私を連れて来たことを怒っているのだろう。

 

「ジイジ殿、お待ちください。スレイは倒れていた私を助けてくれたのです…彼はなに一つ悪くはありません。悪いのは私です。あの時、眩い光に襲われさえしなければ私が此処に来ることはありませんでした。罰するのならば私を罰してください、スレイに罪はありません」

 

 私は頭を下げた。

 正座の状態で頭を下げる、土下座をした。

 頭をあげるのは、罰を受けるときだと頭を上げずに、その間スレイが天族達の事に気付いていると教える。

 

「‥ああ、そうなの?でも、憑魔が直ぐ近くにいたよ…うん。ミクリオも見たんだ…ごめん…見捨てるなんて事は出来ないよ」

 

「っ…」

 

 分かっていた。

 私の様な小娘が頭を下げたところでなに一つ変わらないのを…

 

「えっと、ジイジが面をあげよだって」

 

「如何なる罰も受けます。この地にもこれ以上は」

 

「ジイジも悪かったって、謝ってるよ」

 

「謝るとは?」

 

「えっと君が気絶していた原因の光は、ジイジの雷なんだ」

 

 気まずそうに語るスレイ。

 レンズの欠片越しでジイジ殿を見ると申し訳なさそうな顔をしている。

 

「雷、ですか」

 

「うん。この辺の土地はジイジの加護が働く領域で、極力人が入れない様にしていて侵入者を撃退したり追い出したりする雷を落としたみたいなんだ…そう言えば、今まで誰かが入ってきたなんてなかったのに、どうして入ってこれたんだろ?」

 

 眩い光の正体を教えると考え込むスレイ。

 スレイの言うことが確かならば、どうして私は奥深くまで入ることが出来たのだろうか?

 この地はアロダイトの森の奥を抜けた先にあるが、最果ての地と呼ぶほどのものでない。険しい山道が多かったものの、鍛えている騎士団の者達ならば登ることが出来た。

 

「此処は私の様に肉眼で天族の皆様を見ることの出来ない人が居てはならない聖地、なのですね‥今すぐに」

 

「ジイジ!……!うん!ジイジが都に帰るまでの準備をして良いって、俺、手伝うよ」

 

「よろしいのでしょうか?」

 

「構わないって……眼鏡を壊したのも、ジイジだしね……ごめん、ごめん」

 

「ありがとうございます、ジイジ殿」

 

 キセルが浮いている場所に私は頭を下げる。

 本当に何から何まで…感謝の言葉だけでは、足りない。なにも出来ない事を悔む。

 

「あ、そうだ。眼鏡で思い出した…この眼鏡ってどうにか出来ない?」

 

 眼鏡を口にし、まことのメガネの眼鏡を思い出す。

 私は壊れた眼鏡とレンズを取り出すと、レンズは勝手に動く。ジイジ殿が触れて確認をしているのが分かる。

 

「まことのメガネって言う、天族を見ることが出来る不思議な虫眼鏡を改造して作ったらしいんだ。欠片しかないから声を聞くことが出来なくて、一番大きな欠片が小指の爪ぐらいしか無いからジイジや皆を見るのが難しくて…」

 

 スレイが眼鏡の説明をすると、欠片は大きく揺れる。

 天族を見ることの出来る眼鏡は天遺見聞録にも載っていない。ライラ様もその様な眼鏡は見たこと無いと言っていた。恐らくジイジ殿もこの眼鏡についてはなにも知らない。

 

「わかった……ジイジの容姿を当ててみてくれない?」

 

「ジイジ殿をですか?体格は小柄で目元が隠れる太い眉が特徴的で髪の色は白色ですが、上がっている前髪の一部が雷の様な色で、キセルを持っているのは左手で靴は高下駄を履いております」

 

「合ってるでしょ?だから、言ったじゃん。え、ミクリオも?」

 

「そちらの御方ですか?中性的な顔立ちをしており、毛先は水色がかかった銀髪で菫色の瞳。薄いグリーンブルーの様な衣装を身に纏っております。貴方がミクリオ様で?」

 

 スレイの隣に座っている天族の御方に声をかけるとバッと立ち上がる。

 この御方がミクリオ様の様で、驚きながらもまことのメガネに触れて観察をする。

 

「うん、うん……確かに俺も聞いたこと無いよ。天遺見聞録にも載っていないし、その感じだとジイジも知らないみたいだし、貰い物で」

 

「ジイジ殿、差し出がましい様ですがその、筆談は出来ないでしょうか?」

 

 何度も何度もスレイを経由していては、スレイの負担が大きくなるだけだ。

 言葉を交わす事が出来ないが、文字ならば交わす事が出来る。

 

「そうか、文字なら会話が出来る!ちょっと待って、家にある紙を持ってくるよ!」

 

 その手があったと喜び、スレイは飛び出していった。

 これならばスレイの負担が軽減する。

 

「この眼鏡は、都に、レディレイクで物を売っているゴンベエが作ったものです。その、聞いたことは無いでしょうか?ナナシノ・ゴンベエと言う男を千年ほど前に」

 

 ふと、エドナ様の事を思い出したのでジイジ殿に聞いてみる。

 エドナ様の御兄様が何時の日にかとエドナ様に託した箱、ゴンベエはなにかに気付いているが教えてはくれない。ジイジ殿ならばなにか御存知ではと思ったが、ジイジ殿も存じ上げておらず、首を横に振った。

 

「そうですか」

 

 エドナ様も詳しく知らないのであれば、誰にも教えていない可能性がある。

 千年前のナナシノ・ゴンベエもそうだが、マオクス=アメッカとは誰のことなのだろうか……私の先祖じゃないかと言っているが、本当にそうなのだろうか?

 

「お待たせ、持てる分だけ持ってきたよ!」

 

 会話も実らない中、沢山の羊皮紙を片手にスレイは戻ってきた。

 ジイジ殿に渡すとジイジ殿は文字を書き始める。

 

【その眼鏡を作ったゴンベエはいったい何者じゃ?】

 

「それは…私にもよく分かりません。ゴンベエはある日、レディレイクにやって来た、この大陸の海を越えた遥か遠くの日出国と呼ばれる国の人です。異国の民ゆえに不思議な知識や道具を持っていて、この灯りをつけるガラスの球もゴンベエが作ったらしいのです」

 

 三度、灯りをつける事が出来るガラスの球を取り出す。今度は見せるだけでなく、灯りをつける。

 

「すっげえ、これどうなってるんだ!?」

 

【見たところ、その筒の様な物が作用して灯りをつけているが、燃料かなにかか?】

 

 ガラスの球に興味津々なスレイとミクリオ様。

 

「申し訳ありません。その、どう言った物かは知らないのです。ゴンベエは灯りがつけられる便利な道具だと思えば良いと、深くは考えるなと」

 

「そう言われたら、逆に気になっちゃうって。ジイジ、眼鏡直せない?」

 

【馬鹿者、眼鏡がなにで出来ているのか知っているのか?水晶や宝石で出来ているのだぞ!普通のガラスとはわけが違う!】

 

「あの、作り方は知っています。焼いた海草と貝殻の粉と珪砂を混ぜれば出来ると」

 

「海草と貝殻の粉か、参ったな」

 

【もしそれが本当ならば、イズチでは絶対に作ることは出来ない】

 

 この杜は山岳地帯に存在する。滝や川はあれども海は存在しておらず、海草と貝殻は海辺でしか取れない。

 

【すまぬな、貴重な眼鏡を壊してしまって】

 

「いえ、ジイジ殿は当然の事をしただけです……一つ、よろしいでしょうか?」

 

【答えられる範囲なら、答えよう】

 

「都は、人の世は現在、災厄の時代と呼ばれております。原因不明の災害等は全て穢れが原因であり、今の人の世は穢れに満ちております…それをどうにかする方法も知っております」

 

【知っているのか、穢れをどうにかするのは、ワシ等天族の中でも浄化の力を持った者のみ】

 

「存じ上げております。浄化の力を持った天族と契約し、導師になれば穢れを浄化することが可能なのを……ですが」

 

【御主はその眼鏡を通さなければワシ等天族を見ることが出来ない。少なくとも天族と契約するならば、導師となるならばワシ等を肉眼で捉え、言の葉を交わす程の霊応力の持ち主でなければならん】

 

「分かっております。その上で、お聞きします。私の霊応力を強くする方法は無いでしょうか?」

 

 私の霊応力は弱い。それはイヤほど分かる。

 私と言う人間が弱いと言う事も勿論……だからこそ、力を得て強くならなければならない。私の霊応力が弱いと言うならば、強くすれば良いだけのこと。遥か昔にライラ様と契約した導師も導師になった頃は弱かったと聞いたので、もしかすればあるかもしれない。今まで巡った所には天族の方々がいらっしゃらなかったが、此処にいるジイジ殿ならばなにかを知っているかもしれない。

 

【すまない。そう言ったものに、心当たりはない】

 

「そう、ですか……」

 

 心当たりはなかった、か。

 

【その眼鏡を渡してきたゴンベエは天族を見ることは可能か?】

 

「はい。スレイの様に言葉も交わせるほどで、ただ、ゴンベエは導師にはなりません。なりたくないと本人も仰っています」

 

【導師になると言うことは穢れを浄化し災厄の時代を終わらせなければならない。危険極まりない過酷な試練が待ち受けている。無理はするものではない。勿論、御主もじゃ】

 

 力さえあれば今すぐにでも聖剣を抜いて導師となり穢れを浄化し、災厄の時代を終わらせ…穢れのない故郷を見てみたい。

 そんな私の胸の内に気付いたジイジ殿は引き留める。だが、このままでは、どちらかが滅ぶまで終わらない大きな戦争になるかもしれない。

 

「だ、大丈夫?」

 

 悔しい。彼やゴンベエは天族と言葉を交わす事が出来るのに、私はそれが出来ない。

 この災厄の時代を終わらせる方法は確かに存在する。直ぐ近くに希望や救いはある。どうすれば良いかの答えがある……それなのに、私はなにも出来ない。直ぐ目の前なのに、私は掴みとることも手を伸ばすことも出来ない。

 

「申し訳ありません、見苦しいところを見せてしまって」

 

 自分の無力さに、弱さに打ち拉がれ涙を流した。

 ジイジ殿とミクリオ様、それにスレイに見せてはいけないこんな姿を。

 

【災厄の原因を知り、為す術もなく辛いのだろう。だが、諦めるな、諦めなければ、必ず希望はやってくる】

 

「っ、はい」

 

 ジイジ殿が涙の理由を察し、励ましてくれた。

 声は聞こえない、ただの文字だけだったがとても暖かかった。

 

「うん……俺の家に来て。君が出る準備をしないと」

 

「アリーシャだ」

 

「え?」

 

「すまない、名を名乗らなくて。そして、ありがとう。名乗りもしない素性も明かそうとしない私を此処に連れてきてくれて。本当は連れてきてはいけないのに。私の名はアリーシャ、アリーシャ・ディフダだ」

 

 スレイに自分の名を教える。

 本当に本当に、ここに来ることが出来てよかった。

 

「じゃあ、俺も改めて、スレイだよ。よろしく」

 

 スレイも改めて自己紹介をし、手を差し出す。私はその手を握り、握手をした。




アリーシャの称号


選ばれない弱者


説明

彼女は容姿端麗だ。彼女は心か清らかで美しい。彼女はノブレスオブリージュの精神を持っている。彼女は勤勉で何事にも熱心に取り組む。彼女は人間関係こそ面倒臭いが経済的な苦痛が無い家庭に生まれた。彼女はかなりの社会的地位を持っている。彼女には見習うべき、模範となる師がいる。彼女を清く気高く美しいと思う者がいる。彼女に恋い焦がれる者もいる。

物凄く恵まれている彼女だが、ただそれだけである。彼女は弱い。
災厄の時代を終わらせる為の方法は直ぐ目の前にあるのに、手を伸ばす事すら出来ない。選ばれし勇者的なのではない。
彼女は世界が待っている人物ではない。彼女だけでは世界を世界を救うことは出来ない。


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お前が歌うんかいならぬお前が言ったんやろ

「アリーシャ、お帰り」

 

 何時も通りレディレイクに物売りに行くと、導師の伝承だかなんだかやってたアリーシャと石橋の前で遭遇した。

 後、数日で聖剣祭とか言う怪しげな祭りをするから帰ってこれてよかった……うん、本当によかった。

 アリーシャがいないからって、教会の一部の奴等が調子に乗りやがって聖剣を抜いてくれとか言いやがる。誰が抜くか。

 

「ああ、今帰った」

 

「帰って来て早々に悪いけど、貸したもの返してくれねえか?あ、眼鏡は返さなくていいぞ。日頃なにかと世話になってるし毎回まことのメガネ貸すの面倒だから作ったもんだから」

 

 街に入る前にアリーシャと会うことができてよかった。

 マンガン電池と電球と、小三とかで使う電気回路の実験装置擬きを回収しないといけない。

 抗生物質の方に関してはどっちでもいい。と言うか、むしろ持っていてくれ。

 

「その、ゴンベエ」

 

「薬、使ったのか?自分じゃない見知らぬ病気の子どもに使うなとは言わないが、オレが作ったって言うんじゃねえぞ」

 

 気まずそうな顔をするアリーシャ。

 病気になった時に飲めと言ったが、こいつの事だから、薬代もままならぬ貧しい家庭に配ったりでもしたんだろう。

 一応、肺炎を治したり出来るから奇跡の薬とか知られたりすると面倒臭い。いや、いいんだよ。疫病治せる薬が存在するって医学の発展事態はいいんだよ。オレが深く関わっていなければいい。

 

「薬の方は飲まなかった」

 

「そうか、病気なくて何よりだ。そいつも持っておけよ。こんな文明、じゃなかった。御時世だ。訳の分からない病気になったら怖い。全てとは言わんが、結構な病気は治る」

 

 何処まで効くかは知らんが、肺炎辺りは治せる。

 多分、わけわからんファンタジーなパワーかエリクサー的なのじゃないと肺炎は治せないんだろうな。

 

「すまない、壊してしまった」

 

「電球をか?灯りがつかなくなったら、電池の方に問題がって……え~」

 

 硝子の破片や折れた眼鏡のつる等を見せるアリーシャ。

 本当に申し訳なさそうな顔をしており、取り敢えずは受けとる。

 

「どれだ?」

 

「?」

 

「壊したのか?壊されたのか?壊れてしまったのか?」

 

 現代では高くても諭吉さえあれば眼鏡は作れる。勿論諭吉以上の眼鏡も存在するが、諭吉だけでどうにかなる。

 しかし、この世界ではくっそ高い。眼鏡に出来るレベルのクリスタルレンズの作り方が分かっていないのが原因だと思う。口を滑らせて作り方を言ったとはいえ、アリーシャはこの世界の住人で眼鏡の価値は重々承知の筈だ。

 

「えっと……その……」

 

「言いたくても言えないのか……成果があったな」

 

 三つの内のひとつを選ぶだけでいいのに、選ばない。

 持って帰って来たんだったら、どうして壊れたのかを知っている筈だ。なのに言わないのは、言いたくても言えないから。

 そう考えるのが妥当であり、アリーシャに口封じが出来るのであればそれ相応の存在、例えば何処かの土地に祀られている天族とか。人嫌いな天族に自分の事を人間に言うんじゃねえぞとか言われたんだろうな。

 

「すまない……私の口からはなにも言えないんだ」

 

「その時点で成果ありだろう」

 

「あっ!」

 

「適当な嘘つけばいいのによ」

 

 まぁ、なにもなしでぶっ壊して帰ってくるよりましか。なにかは分からないが、何らかの成果を上げることが出来たアリーシャ。

 

「これ作る欠片はあるし、レンズの欠片もそれなりに残ってる。炉に全部ぶちこんで溶かしてやり直せば、多分なんとかなるから作っておく」

 

「そうか……本当にすまない、貰ったばかりの物を壊してしまって」

 

「構わねえ、と言いたい所だがコレで最後にしてくれよ。鉛とかあるから普通の眼鏡のレンズは作れるが、この眼鏡は量産する事が出来ない。後、二個か三個が限界だ」

 

 もう一個のまことのメガネを壊せば五、六個作れるが、それは出来ない。

 欠片だけを使っているせいか、天族を見たり聞いたりすることが出来るだけで隠された道を見つけたりすることは出来ない。本物のまことのメガネじゃないと出来ない。

 

「祭り前に稼いでおきたかったが、四の五の言ってられねえか」

 

 聖剣祭は聖剣を引っこ抜かないといけない。

 試しの剣だかなんか言われてるが、その辺はどうでもよく取り敢えずライラが見えないのはまずい。オレは来た道をUターンしようとする。

 

「私にも手伝える事は無いだろうか?」

 

「あ?」

 

「眼鏡が壊れたのは私の不注意だ。新しく作るにしてもせめて、なにか手伝わせてほしい」

 

「いや、手伝わなくて良い。度が入ってる凹レンズの眼鏡ならまだしも、アリーシャは視力に異常は無いから視力検査とかしなくていいからなんもないぞ」

 

 眼鏡、眼鏡と言っているがその実態はサングラスに近い。容器に溶かした眼鏡の材料ぶちこんで、削って磨けば出来るだけで細かなピントの調整とかはいらない。

 

「っ、そうか……」

 

 断ると悲しい顔をするアリーシャ。なんで、そこで落ち込むんだよ……罪悪感じゃ、なさそうだな。

 

「なにも出来ない事を悔やんでるのか?」

 

「っ!」

 

 伝承の地を巡ったりして成果を上げたと言う割には、特に変化らしい変化はないアリーシャ。

 アリーシャの事を認めて力を貸そうとしている天族が何処かにいるわけでもなく、なにかを持って帰ったわけでもない。天族に出会ってお話を聞いたとかそんなレベルの成果だろうな。

 

「どうして…どうして、ゴンベエ達なんだ?」

 

「オレに当たるのかよ」

 

 口を開いたアリーシャは今にでも泣き出しそうだった。

 八つ当たりじゃないのは分かっているが、オレに当たって来た。

 

「目の前に、手を伸ばせば救うことが出来る人達がいる。災厄の原因である穢れをどうにかする方法もある……それが目の前にあるのに、私は手を伸ばす事すら出来ない。導師になればその力のせいで孤独になるかもしれない、マルトラン師匠よりも遥かに強いあのドラゴンの様な存在と戦わないといけない。穢れを浄化し、災厄の時代を終わらせるには険しい道程があるのも分かっている。その先に待ち受けている穢れなきレディレイクは、ハイランドは……きっと、きっと私の想像を絶するほど美しいものなんだろう」

 

「……まぁ、取り敢えず大前提として言うが」

 

「分かっている、ゴンベエに無理はさせない。天族を認識したりする霊応力が弱い私が悪いんだ」

 

「穢れの無い世界って具体的にどんな世界なんだ?」

 

 同情で導師になれとか、そんなのでなく純粋に自分の弱さに苦しむアリーシャ。

 こういう時にカッコいい事を言ったり、オレが君の代わりに!と言うのが主人公なのだろうが、オレは違う。取り返しのつかない事だけは一時のテンションに身を任せてはいかないと出来る仏に言われている。なので、試しに聞いてみる。

 

「……そうか、ゴンベエは見ていないか。アレはとても美しかった、空気も健やかで、生い茂る木々は伸び伸びと成長し……レディレイクを、ハイランドを彼処と同じ様にしたい、そう思った」

 

「ちょっとなに言ってるか分かんないですね」

 

 十中八九、オレの質問が悪かったがアリーシャが見たそれは多分、違う。

 あくまでも景色であって、中身とかそんなのが入っていなくて人と密接に繋がっていない。

 

「あの景色を皆にも見せることが出来れば」

 

「カメラ渡しておけばよかったか?」

 

「……あるのか、景色を見せる道具が」

 

「景色を保存する道具ならあるぞ、しかも白黒じゃなくてカラー版。白黒の方もあるにはあるが、撮影に時間がかかるし薬品使わないといけないから渡せねえ……旅行じゃないと渡さなかったけど、カメラ渡した方がよかったか?」

 

「そんな珍しいものは借りることは出来ない。なによりも、アレは生で見なければ、本物でないと感動が出来ない」

 

「そうか、オレはその辺に疎いがお前がそういうならそうなんだろうな」

 

 若干曖昧な所もあるが、アリーシャが見たものはきっと美しいものなんだろう。

 帰ってこれたからおかえりとオレはコーラの入った水瓶と氷をアリーシャに渡して家へと戻り、眼鏡を作る。

 

「アリーシャの顔のサイズ、測っとけばよかったな」

 

 前に渡したアリーシャの眼鏡は適当に作ったもの。

 アリーシャに合わせて作っておらず、帰ったからフレームのサイズ測っておけばよかったと少し後悔する。けどまぁ、前に作ったやつがサイズ合わなかったとかそう言うのを言ってないので大体合ってるんだろうな。

 

「徹夜はキツいな」

 

 アリーシャに手伝えとは言わんが、人手が欲しい。連徹で眼鏡を作ったオレはレディレイクに向かうが

 

「今日が聖剣祭だったぁああ!!」

 

 聖剣祭の日にやって来てしまった。入口の石橋には商隊の馬車が並んでおり、渋滞を作っている。数日前からこんな光景だったが、今日は特にそれが酷く大渋滞だ。

 

「おい」

 

「あ、ゴンベエさん!」

 

 検問をしている騎士に声をかけると何時もの騎士とは違う騎士だった。

 

「この渋滞はどうなってる?」

 

「商人のキャラバン隊が来たのですが、何処からともなく狼が現れて……馬車の歯車が壊れたので交換を」

 

 彼方にいるのがその商人のリーダーですと顎髭が濃い男性とアリーシャぐらいの女の方に手を向ける。

 

「時期が時期ですのでゴンベエさんも検問を、申請は此方の方でしておきます」

 

「言っとくが今日は商売しねえからな」

 

「え……ああ、聖剣を抜きに来たのですね」

 

「ちっげーよ」

 

 んなことぜってーにしねえからな。ライラも無闇に抜かないで欲しいって言ってるし、もう抜かない。

 

「ねぇねぇ、そこの人」

 

「オレの事か?」

 

 キャラバン隊のリーダーらしき男性と話していた女が興味津々な顔でオレに声をかける。

 

「そうそう、その乗ってるものって」

 

「ああ………譲らないし、作らないぞ?自分で作り方を考えろよ」

 

 木製の自転車が珍しいのか興味津々な女。コレは最低でも一週間以上かかり大量生産が出来ない代物で、アリーシャにあげたのと今オレが乗っているのしかない。作って売ればかなりの額で売れるらしく、コストもかからないが恐ろしい程に手間がかかる。

 

「って、事は君が作ったんだね。あ、自己紹介が遅れたね。私はロゼ、キャラバン隊のセキレイの羽の商人。ちょっと馬車が壊れてて、ごめんね」

 

「そこまで気にしてねえよ」

 

「そう、ならよかった!で、その乗り物なんだけど、どうやって作ったの?」

 

「滑車の原理を利用したって言えば良いのか?」

 

「滑車か、う~ん……」

 

 このままだと自転車が盗まれるもしくは乗せてとか言われそうになる。石橋から離れて、少しだけ距離を取る。

 

「アリーシャに眼鏡を届けに来たが、間に合うかコレ…」

 

「アリーシャの事を知ってるの!?」

 

 全部終わった後にアリーシャに渡すと面倒なことになりそうになる。早く部品の交換終わんねえかなと思うと、茂みから二人の男性が出てきた。

 

「知ってるもなにもアイツは王族で、数日前に帰って来たばっかだ」

 

「そうか、アリーシャは無事に帰ってこれたんだ……よかった」

 

「そうなるとあのキツネ男は追い付くことが出来なかったのか……それにしても、王族だったのか。導師の伝承の地を探しているとは言っていたが」

 

「まさか、お姫様だったなんて」

 

「まぁ、姫様がぶらりと旅するのはどうかと思うからな。伝承の地でなにかないかと探しているとか言っても、信仰とかが減っている御時世じゃ信じて貰えないしアホな事をしていると思われる」

 

「そんな事は無いって」

 

「彼女は凄く生真面目で、災厄の時代を終わらせる為にって……君は僕の事が見えるのか!?」

 

 アリーシャの事をよく知らない、姫騎士なアリーシャはなにかと有名である。

 この世界のこの国でアリーシャの名でアリーシャ・ディフダだと知らないとなると、かなりの田舎から来たのだろうかと思っていると、小柄な男性が驚く。

 

「ああ、本当だ!?普通にミクリオと会話してるから違和感なかったけど、ミクリオの事が見えている!?」

 

もう一人の爽やかっぽい男性も驚く。

 

「見えているとか会話しているとか、お前等、天族なのか?」

 

「いや、天族は僕だけだ。スレイは人間で……もしかして、君がゴンベエか!?」

 

「あ~はいはい、大体わかりました」

 

 名乗っていないのに、ミクリオと言う男性はオレの名前を言う。

 活動範囲がレディレイクと家と海ぐらいしか無いオレは他の街に行ったことない。だから、名前はそこまで知られておらずアリーシャが語ったとなる。

 

「ねぇ、アリーシャは」

 

「ストップ。そっちのミクリオは天族でスレイは天族が見える人間、で良いのか?」

 

「確かにそうだが、それが?」

 

「なら、簡単だ……じゃあな」

 

 馬車の車輪の入れ替えが終わるまで、別の所にいかねえと。

 

「待って、アリーシャは」

 

「オレもアリーシャの事を言わなかった、お前達もアリーシャの事を言わなかった。オレ達は出会わなかった…OK?」

 

「OKって、なにが」

 

「スレイ、ゴンベエの言う通りにするんだ」

 

 極力関わろうとしないオレの意図をミクリオは察してくれる。早々、此処で出会ってしまったら全て無駄になるんだよ。

 

「アリーシャは僕達やイズチの事を語らないとジイジに誓ったんだ。本当はアリーシャは招かざる客で、アリーシャ自身もそれを理解していた。僕達はイズチに関して喋るなとは言われていないが、此処で必要以上にゴンベエと接触すればアリーシャが言わなかった事が無駄になる」

 

「イズチにジイジに僕達って、天族の集落でも行ったのか、アリーシャは?」

 

「どうしてそれを!?」

 

「いや、吉本か!?」

 

新喜劇で見たことのある事をするミクリオ。

スレイが今言ったじゃんと呆れた顔をしている。

 

「今のは聞かなかった事にしておく。とにかく、必要以上に関わらないでおく……互いにアリーシャに用事があって偶然に被っただけ、それだけだ。今、商人の馬車が壊れてて足止めくらってるから、その間に街に入る申請してこい」

 

 これ以上は関わらない方が吉だ。つーか、アレだよな…イズチってのが天族の集落でスレイは人間ってことはコイツが主人公なんだよな?原作が何時辺りとかわかんねえけど、既に始まってたのか。

 

「スレイ、その方が互いの為だ」

 

「うん……でもさ、ミクリオ」

 

「スレイ!」

 

「ゴンベエもアリーシャに用があるなら、どっちもアリーシャの所に行かないといけないんじゃ」

 

「「あ」」

 

「えっと、あ、俺、ちょっと街に入る申請してくるよ!!」

 

 言っちゃいけない事を言い、気まずい空気が流れる。

 スレイは耐えきれなくなったのか、逃げる様に石橋に向かって走っていった。そしてどちらにせよアリーシャに会わないといけないので、アリーシャの住んでいる所を知っているオレはスレイとミクリオと一緒に行くことに。





スキット 海の向こうじゃなく

スレイ「ゴンベエ、そう言えば」

ミクリオ「スレイ」

スレイ「違うって、アリーシャに関してはなにも言わないよ」

ゴンベエ「つーか、聞かれても答えねえぞ。仲良いけど、知人レベルだし」

ミクリオ「知人……君の事を語っている彼女は嬉しそうで、頼れる人だと好意的だったが」

ゴンベエ「頼れる人で、それ以上もそれ以下もねえよ。で、なにが聞きたいんだ?」

スレイ「ほら、さっきミクリオに吉●かってツッコミを入れたじゃん。●本って、なに?」

ゴンベエ「ああ、それな。ざっくりと言えば劇団だよ。
さっきのミクリオみたいに隠している事を大声で喋って、隠している人にバレてどうしてそれを!って驚いて、お前が言ったんや!ってツッコミを入れるシーンがあるんだよ」

スレイ「なんかそれ、面白そう!」

ゴンベエ「ああ、面白いぞ。けどまぁ、この国にはねえからな」

ミクリオ「この国には無い?……そう言えばゴンベエはこの国の出身じゃないらしいが、ゴンベエの国にあるのか」

スレイ「ゴンベエの国って、日出国って名前で海を越えた先にあるんだろ、何時か行ってみたいな!」

ミクリオ「その前にアリーシャのところに向かわないと。それに、海を越えるにしても先ずはこの大陸を見てからだ」

ゴンベエ「海っつうか、三途の川越えた先にあるんだが……まぁ、いいか」


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必要悪の業界

「そう言えば、アリーシャになんの用事なんだ?」

 

 セキレイの羽の馬車が直り、レディレイクに入ると圧巻されるスレイ達。

 人里離れた集落から来たっぽいので所々田舎者感を出しているが、今は用事が優先だとアリーシャの屋敷に向かう道中、そう言えばコイツらなにしにアリーシャの元に来たのか聞いてなかったのを思い出す。

 

「えっと」

 

「スレイ、流石にこれは話した方がいい」

 

「そうだよな。実はアリーシャは命を狙われてるんだ、しかも憑魔に」

 

 言うべき事かと悩むが、事が事だけに用件を教えてくれる。

 

「僕達が住んでる所をアリーシャが出た後に憑魔がやって来たんだ。その憑魔は俺達の家族を殺して……その後に逃げていったんだけど、その時に主菜(メインディッシュ)って」

 

「それがアリーシャと?」

 

「多分、そうだと思う」

 

「どうしてアリーシャがと思っていたが、王族と聞いて納得した……アリーシャがもしあの憑魔に殺されれば、大変な事になるのは天族の僕でもわかる」

 

 なんか忘れ物があったから届けに来たとかでなく、予想以上に重い。

 しかし憑魔か。確か、人間の心の闇とかが生み出す穢れに犯されまくった末に生み出される化物だったっけ?

 この街にも普通にいるが、害意は無いので特になにもしていないが……アリーシャを殺すとなると、人間だった憑魔か。

 そいつはアリーシャをただ殺したいから殺しに来たのか?それとも別の奴に依頼されたのか?聞きたいが、どちらにせよシバき倒せば良いだけだな。

 

「一応、王族だから敵が多いんだな……その後、その憑魔はどうしたんだ?」

 

「イズチから逃げて、アリーシャを追い掛けた筈だ。だが、この様子だと、アリーシャは」

 

「五体満足で帰ってきている。まぁ、取り敢えずアリーシャに報告して警戒だけはしてもらわないと」

 

ここまでの経緯を話しながらも、アリーシャが住む屋敷前に辿り着く。

 

「昼前だからなぁ……」

 

「?」

 

「昼前がどうかしたのか?」

 

 屋敷前に来たのはいいが、今は昼前。

 アリーシャはこの聖剣祭の運営に携わっており、昼前には家にいない可能性が大きい。

 

「いや、気にするな。アリーシャが不在なら不在で、メイドとかに聞けばいいか……ん?」

 

 なんか物凄く犬が吠えている。と言うよりは、アリーシャって犬を飼っていただろうか?

 屋敷の中から物凄く犬が吠えており、敷地に入ると左端の隅っこに白い犬が吠えていた。

 

「うぉ!?」

 

「青い炎!?」

 

 こんな犬っていたっけと思うと、なにも無いところから青い炎が出てくる。

 いきなり出現したので驚くのだが、スレイとミクリオの驚き方が違う。知っているからの驚きだ。青い炎はゆっくりと消えたと思ったが、狐の様な顔の人になった。

 

「お前は!」

 

「間違いない。ゴンベエ、アレが僕達が出会った憑魔だ!」

 

「アレがかって、逃げたぞ!」

 

「追いかけよう!」

 

 憑魔のキツネ男は逃げていき、オレ達は追いかける。今の間にしばいておけば面倒なことにならないと探そうとするが見つからない。だが、さっき吠えていた白い犬がキツネ男の事を覚えていたのか追いかけていったので、ついていく。

 

「くっそ、こんな事なら狼になっとけばよかった」

 

 狐の匂いで辿っているならば、狼になっていれば匂いを覚えて追い掛けられた。

 何時もみたいに狼になってサラッと渡す感じにしておけば、匂いを覚えれた…。

 

「よかった、無事だったんだね」

 

 路地裏まで追いかけると、犬が立ち止まっていた。

 スレイはよかったと安心した顔をするが直ぐに表情は変わる。アリーシャの命を狙っているキツネ男が何処にもいない。

 

「こういう時は背中合わせで死角をカバーするんだ!!」

 

 まだすぐ近くにいると意識を杖を取り出し集中させるミクリオ。

 スレイの背中にぴったしとくっつく…幸いにもここはL字型の路地裏でこの国には拳銃の類が無い。

 互いに互いをカバー出来て超遠距離からの狙撃で脳天を貫かれることもない。

 

「ゴンベエ、君も!」

 

「問題ねえよ」

 

 オレは背負っている剣をさやごと抜き、腰につける。

 背負うよりも、刀の様に腰に差していた方が使いやすい。転生特典がゼルダ関連だから背負っていたが、帯刀の方がしっくりと来る。日本人だからだろうか?

 

「ゴンベエ、どうして目を閉じて」

 

「瞑想中だ」

 

 深く意識を集中させ、気配を気を感じる。

 オレにと言うよりは、スレイはミクリオに意識を向けており、今向いている方向は

 

「ミクリオの方だ!!」

 

 ミクリオの方から高速でなにかが走ってくる。

 だが、避けたり対処したりする事の出来ない速度でなくオレは剣を抜き、振りかぶる相手の腕を受け止める。

 

「ちぃっ!!」

 

「コイツがキツネ男で…予想以上に悪人面だな」

 

 剣で攻撃を受け止めると、キツネ男は一歩退いた。

 逃げたり隠れる事はもうしなさそうなので、オレは目を開くと思いの外、悪人面の男がいた。

 

「スレイ」

 

「ああ、キツネ男だ!」

 

 念のためにとスレイに確認するとコイツがアリーシャを狙っているキツネだった。となれば今の間にシバき倒しておく。

 

「あくまでも、邪」

 

「くたばれや、こぉらぁあああああああ!!」

 

 出る杭はとっとと打つ。

 スポーツの試合でなく、食べるための殺しでもないのならば手順もへったくれもない。スレイ達と因縁があるようだが、そんな事は知ったこっちゃねえとマスターソードをぶん投げる。

 

「てめえ、台詞ぐら」

 

「知るかボケぇ!!」

 

 マスターソードを腕で弾くキツネ男。マスターソードでぶっ倒すのでなく、コレは囮。オレはこの隙に鉤爪がついたロープを取り出す。

 

「人の話を」

 

「聞くわけねえだろうが!!」

 

 お前が既に悪人なのは判明している。カギつめロープでキツネ男を縛るとオレはキツネ男を押し倒した。

 

「取り敢えず2、3発ぐらいはいっとくから!オラ、オラ、オラ!」

 

「てっ、てめ、てっ」

 

 マウントポジションを取ることに成功したオレは殴る。

 的確に顔面に、主に鼻をメインにして殴る。無論、殺すつもりはない…もしするにしても、持ってる情報全て吐かせてからだ。

 

「ゴンベエ!」

 

「安心しろ、殺すつもりはない。相手の抵抗する意思を奪い、ギブアップを」

 

「そうじゃない、スレイが」

 

「あん?」

 

 ミクリオの慌てた声を聞きオレは拳を止める。

 何事だろうかとミクリオの声がする方を振り向くとそこには如何にも暗殺者っぽい奴等がスレイの首もとにナイフを突き立てていた。

 

「そこまでだ」

 

「……いったい、なにが」

 

「君があのキツネ男をボコっているのを見て放心していたら現れた。普通の人間の様で僕の姿が見えていない…」

 

 人質に取られていないミクリオに状況を聞くと、大体スレイが悪いと分かった。

 相手をボコるか自分がボコられるかの瀬戸際だと言うのに意外な事が起きたせいで気を緩ませやがったな。

 

「その男を放せ。さもなくばこの男が」

 

「あ、どうぞどうぞ」

 

「な!?」

 

「別にそいつと友達でもなんでもねえよ……てめえら、状況理解してんのか?数の利ではそっちの方が上かもしれねえが、人質を取ることに成功して優位に立ったと思ってるのか?」

 

 よくある展開になったが、そのまま御約束を守るほどの人間じゃない。

 既にコイツを捉えた時点でコイツらは下であり、オレ達の方が上でなによりもミクリオがいる。

 

「ゴンベエ、スレイを見捨てるつもりか!」

 

「……」

 

 その事にはミクリオは気付いていない。

 天族の集落に暮らしてるっぽいから、見えていて当たり前で自分が見えていない自覚が薄い。それを利用できていない。

 

「………なにが望みだ?」

 

「オレ及びアリーシャを狙うな。お前達が殺し屋で殺しをしている事を間違いだどうだと否定するつもりはないし、興味を持たない。アリーシャが望んで決闘に挑み死ぬんだったら、知ったこっちゃあねえが、そう言うのなら、暗殺するんだったら……マジになんぞ」

 

 スレイに人質の価値が無いと分かると暗殺者達は下に出る。

 スレイを殺して襲いかかれば良いのに襲いかかってこないとなると、自分達について語られるとヤバいのか?王族を殺そうとしている時点で相当な暗殺者集団だと思うんだが。とにかく主導権を手に入れたのでアリーシャとオレを暗殺しないことを求める。スレイは知らん。コイツらがはじめたての殺し屋じゃないならば理解させればいい、アリーシャとオレの暗殺は物凄く難しいと。結構本気の圧をぶつけるとスレイに向けているナイフがピクリと動き、ナイフをしまった。

 

「いいだろう」

 

「やけにあっさりしてるな……さてはてめえら、アリーシャの暗殺中止にしたな?」

 

 殺し屋と言えど、人である。

 快楽主義の殺人者でないのならば無差別に殺すのでなく、殺す相手を選ぶ。確かにアリーシャの存在は一部からすれば迷惑だが、迷惑だと思っている奴等の方が迷惑な存在だ。殺す意味は無いと止めたな。

 

「無駄な詮索はよして貰おうか?」

 

「ああ、オレとアリーシャを襲わないならな。とっとと連れてけよっと!!」

 

「ぐぁ!?て、てめえ」

 

「いくぞ」

 

「おい、放せ!!もう主菜なんざどうでもいい、あいつを!!」

 

 蹴り飛ばしてキツネ男を返すとスレイを解放する暗殺者達。

 キツネ男を背負い何処かに行こうとするが、キツネ男は暴れる……あ、殴られて気絶した。

 

「アリーシャ姫ならば教会にいる……」

 

「おーおー、御丁寧だな。こりゃ、完全にアリーシャから引い、たなっと!」

 

 忍者の様にピョンピョンと壁を蹴り、跳んで去っていった暗殺者達。

 一息をつけると思ったが、そんな暇は何処にもなくミクリオが殴りかかってきた。

 

「スレイが無事だったとはいえ、どうして見捨てようとした!!」

 

「ミクリオ、落ち着けって!結果的に怪我が無かったし、死ななかったんだからさ」

 

「だが、ゴンベエは君を救う素振りすら見せていなかったぞ!!」

 

「あ、なに当たり前の事を言ってんだよ?」

 

 アリーシャの命とスレイの命、天秤に掛ければ一瞬でアリーシャに傾く。二つに一つしか選べないのならば、オレは躊躇いなくアリーシャを選ぶぞ。

 

「アリーシャが君の事を頼れる人物だと嬉しそうに語っていたが、大違いだ!」

 

「そうかっかするな。つーか、オレは別に頼れる人じゃねえよ。お前達はなにしにわざわざこの国の王都にやって来た?アリーシャを狙う殺し屋がアリーシャを追いかけてるかもしれないって気付いてやって来たんだろ」

 

「ああ、そうだ!」

 

「だったら、覚悟してたんじゃねえのか?アリーシャを狙う奴と戦う覚悟を、多少なりとも怪我する覚悟を」

 

「それは……」

 

 アリーシャがヤバイと気付いて追いかけてきたのはいい。

 アリーシャに命が狙われていると伝えに来るのもいいが、コイツらはそれだけしかしに来てないんじゃないだろうな?

 

「納得しろなんて言わねえが、誰かの身を心配する前に自分の身は自分でどうにかしろ……少なくとも、自分で選んで此処に来たんだろ?」

 

「……ごめん、ゴンベエ」

 

「スレイ!?」

 

「ミクリオ、ゴンベエの言う通りかもしれない。アリーシャが危ないって気付いてイズチを出たのは良いけど、それしか考えてなかった。キツネ男以外にもあんなのが居るのは予想外だったし、俺やミクリオがアリーシャを殺されない為にキツネ男を捕まえないといけないかもしれないのに、アリーシャが狙われている事を伝えないといけないってだけでなんにも考えてなかった」

 

「そこまで謝られるのは予想外だが……まぁ、なんやかんやでスレイは五体満足で暗殺者はアリーシャを殺さない。一応は一件落着で良いのか?」

 

 スレイが物凄く怒らないので、怒るに怒れないミクリオは不満げだがそれ以上はなにも言わない。

 取り敢えずはこれにて一件落着……と言えば良いんだろうか?

 

「いや、まだ終わりじゃない」

 

「終わりじゃないって、あのキツネ男達はもうアリーシャを襲わないんじゃ」

 

「スレイ、奴等は個人的な恨みがあってアリーシャを殺しに来たんじゃない……ゴンベエ、その、アリーシャは人に恨まれたりなんかは……」

 

 絶対に無いであろうからこそ、聞きたくないミクリオ。

 

「清く正しく美しくを体現しようとしている真面目な王族だからな、一部から嫌われ過ぎて諸悪の根源は分からねえ。オレ、何だかんだでこの国の国民じゃねえし政治とかどうでもいいし、アリーシャもその辺は巻き込みたくないとかで言わなかったりと色々と被っててそう言うの聞いてない。一応は言っておくぐらいでいいんじゃねえの?もしそれでも心配なら、アリーシャの口から聞いて、ミクリオがコッソリと偵察すればいい。幸いにもミクリオは見えないから、それを利用すれば盗み聞きし放題だ……つーか、さっきスレイが人質に取られた時に後ろからシバけば良かったんじゃね?」

 

「その手があったか……普通の人には僕の姿が見えないのは、未だに慣れないな」

 

「でも、だからこそ出来ることがあるんだ。先ずはアリーシャに会いに行って、キツネ男の事を教えてから色々と聞いて、もし心当たりがあるんならミクリオが調べる。犯人さえ特定出来れば此方のもんだ!」

 

 オレが色々と言ったせいなのかは知らんが、一先ずの予定を組み立てるスレイ。

 ミクリオが犯人探しをさせるのはいいけども……なんか、えっらいのが出てきそうで恐ろしいな。

 

「アリーシャは教会にいると言っていたな、急ごう!」

 

「ああ!」

 

「はい、ストップ」

 

 さっきの暗殺者が言うことを信じ、アリーシャの元へと向かおうとする二人を止める。

 

「ゴンベエ、確かにさっきの暗殺者の言うことを信じるのは危険だが」

 

「違う違う、そうじゃねえ」

 

 罠かもしれないがそれでも行くとミクリオは覚悟を決めているが、そうじゃない。オレはポケットから眼鏡が入った箱を取り出してスレイに渡す。

 

「コレは?」

 

「アリーシャへのお届け物だ。オレは教会には行きたくねえんだ。特に今日みたいな日に教会に行くと、ロクな目にあわない。わりぃんだけど、オレの代わりにアリーシャに届けてくんねえか?」

 

「別に届けるぐらいなら良いんだけど……どうしても、行きたくないの?」

 

「ああ、行きたくない。理由は教会に行けば色々と分かる。多分、表の入口は行列が出来てるから裏口から入った方がいいぞ。オレの名前を出して、中身を見せれば嫌でも通してくれる筈だ」

 

「中身、って、これって!?」

 

「おい、こら勝手に見るな……とにかく、行ってこい」

 

 先に中身を開けて中に入っている眼鏡を見て驚くが、見るな。

 取り敢えずオレはアリーシャの屋敷に置いていった自転車を回収しに、来た道を戻る。途中、振り向くとスレイ達は居ない。教会に向かったみたいだ……

 

「多分、スレイがライラと契約して導師になるんだろうな……」

 

 物語は既に始まっている。多分、スレイがライラと契約して導師になる。そして穢れを祓って災厄の時代を終わらせる。その間にスレイは自分自身が何者とかそう言うのを知っていったりするんだろうが……

 

「見えねえなぁ……」

 

 アリーシャを殺せと依頼した奴やこの国にいる甘い汁を啜っている上流階級の奴等。

 更には災厄の時代の原因とも言うべき親玉を今後スレイがシバき倒したりしていくんだろう。

 それは良いことだ。良いことの筈なんだ。明確に分かる悪をシバき倒したりして改革するのは歴史的にもよくあること……だからこそ、未来が見えない。

 

「暴力で解決出来ない事が世界にはある……今は暴力で解決出来るが、あくまでも今だけ。1、2年でスレイが大陸の穢れとやらをどうにかすることが出来たなら、マジでどうすんだ?」

 

 かれこれ1年ほどこの王都に通い詰めている。

 水車を利用した設備はあれども、蒸気機関や電気による文明は一切無い。国の首都でこれならば大きな街も吉幾三の歌よりも下の可能性がある……

 

「明確に分かる悪が居なくなったら、この国はどうなるんだか」

 

 集団は善人しかいないとダメだが、社会には悪が必要だ。

 アリーシャを殺せと依頼された奴が国外永久追放とかでいなくなったら、穢れが無くなったらいったい何処に向かうのかを。下手すれば停滞するかもしれない。スレイが明確に分かる悪をボコって成敗したり、金が掛かりまくり将来を見越せば得かもしれんが勝とうが負けようが損な戦争を終わらせたりする事自体は良いことの筈だ。だが、それは本当にその場凌ぎでしかない。

 

「アリーシャは導師の伝承の地を巡ったりしてた。この街の教会にはライラがいて、ライラと契約した奴は導師となり穢れを浄化出来る。だけど、ライラと契約して導師になるには最低でも天族を肉眼で見えるぐらいの霊応力が無いといけない。そして現状肉眼で見えるのはスレイだけ……先代の導師が何処の誰だか知らねえけど、少なくとも十数年は現れてねえなら、導師のシステムは自転車操業に近い」

 

 特定の誰かしか世界を救えないのはしゃあねえとはいえ、それの繰り返しをしている。

 特定の誰かはあくまでも最初の切っ掛けになり、その後を普通の人達が追いかけて真似をして自分なりの形を見つける。

 その特定の誰かが死んだ後になにも出来ない感じだな。守破離の守しか出来てないって言うのか?

 

「…………コレ、使うか」

 




ゴンベエのDLC衣装

黒の暴牛・団長

説明

闇魔法を使う異国の魔法剣士
傍若無人だが締める時は締める、ここぞと言う時に頼りになる大魔法騎士。
「おい、これオレの声でチョイスしてんだろ。タンクトップにローブってダサいぞ」byゴンベエ


スキット どっち?


アリーシャ「えっと……」

ゴンベエ「んだよ?」

アリーシャ「その格好はいったい」

ゴンベエ「魔法使いの集団で束ねられた魔法騎士団の一つ、黒の暴牛の団長を模した衣装だ」

アリーシャ「魔法使いの集団で束ねたのなら、それは騎士団ではなく魔法使い団では?」

ゴンベエ「なんだよ、魔法使い団って。魔法騎士は魔法騎士でそれ以下でもそれ以上でもない」

アリーシャ「それは騎士の様に戦える魔法使いということなのだろうか?」

ゴンベエ「いや、騎士みたいに剣を使ったり馬に乗ったり槍を使ったりはしない。出来る奴は極僅か」

アリーシャ「では、魔法使いの様に戦える騎士か?」

ゴンベエ「オレの衣装は魔法剣士の衣装だから、それも違うんじゃね?」

アリーシャ「魔法騎士は騎士か魔法使いか……いったい、どっちなんだ」

ゴンベエ「魔法使いだが……その辺は自分で考えろ」


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そして伝説がはじまったりはじまらなかったり。

「ふんんんん……はぁ、はぁ……ダメだ、抜けない」

 

「お疲れ様です、コーラをどうぞ」

 

 聖剣祭がはじまり、湖の乙女……ライラ様が宿ると言われている聖剣を抜こうとする者がやって来る。

 だが、抜くことは誰にも出来ない。あの聖剣を抜くことが出来るのは、ライラ様を肉眼で捉えてライラ様と契約して導師になる者のみ……のはず。そう言う風にしているのに何故かゴンベエは抜けたとのことで、詳しいことはわからない。

 

「ありがとう……ふぅ」

 

 聖剣を抜こうと挑戦した者達に私はコーラを配る。

 私におかえしとタダで貰ったコーラと氷は私一人では使いきれない。

 おかえしと貰ったが、本来ならば私は貰う側じゃない。眼鏡を修理した上に貰うのは貰いすぎだ。

 せめてなにかに出来ないかと考えた結果、コーラを配ることにした。聖剣祭はハイランドの人達がレディレイクに集う、此処でコーラを飲んで貰えればコーラの噂が広まる。そうすれば買い手が増えてゴンベエの商売も繁盛する……私が出来るちっぽけな恩返しだ。

 

「未だ、ライラ様に気付く者はいないか」

 

 何処にいるかは分からないが、恐らくこの聖堂内にライラ様はいる。

 そのライラ様を肉眼で捉える事が出来る者こそ、あの聖剣を引き抜くことが出来るだが、そんな人は何処にもいない。

 

「アリーシャ様」

 

「どうした?」

 

「ナナシノ・ゴンベエの使いらしき人物が裏口から来ていますが、その」

 

「ゴンベエの使い?」

 

 次のコーラを入れていると警備をしていた衛兵がやって来た。

 ゴンベエからの使い、そんなのは今まで一度も見たことがない。この街と家の往復しかしておらず、物を売りに来るのと食材の買い出し以外は基本的にこの街に来ないのならばゴンベエの名を騙って裏口から入ろうとする者か?

 

「……実は、その物が眼鏡を持ってきていまして」

 

「っ、その者は何処だ!?」

 

「ハッ、裏にいますが、それが?」

 

「連れてきてくれ」

 

 警備の衛兵は私の命を聞くと、裏に向かう。

 ゴンベエの使いが誰なのかは知らないが、眼鏡を見せたと言うことはあの眼鏡を直してきた。

 

「姫、どうかしたか?」

 

「ゴンベエからの使いが、来たそうで」

 

「あの男のか?……名を騙っている者ではないのか?少なくとも、姫以外と親しき者と一緒にいる光景を見たことがないが」

 

「それは……」

 

 もしかしたら、偽者かもしれない。そんな不安が過ったが、直ぐにそれは消えた。

 

「アリーシャ!」

 

「スレイ!?」

 

 ゴンベエからの使いは、スレイだった。

 

「よかった、やっと会えた」

 

 手を振りながらやって来たスレイは一息つく。なにやら焦っているようで、私を見るとホッとしている。

 

「姫、こちらは?」

 

「彼は……」

 

「俺はスレイ……え~っと、そう。アリーシャが旅してる時に出会ったんだ」

 

「そ、そうです。彼は森で迷った私を助けてくれたのです」

 

 スレイについてどう説明しようと考えていると代わりにスレイが答えてくれた。

 師匠に対して嘘をついている事は苦しいが、あそこで起きた出来事は全て喋らないと誓った故に喋れない。

 

「そうか、感謝する」

 

「この方はマルトラン卿、この聖剣祭の実行委員長で私の槍術の師だ」

 

「俺はスレイです、よろしく」

 

「よろしく、スレイ殿」

 

「スレイ、どうして此処に?聖剣祭に参加しに来たのか?」

 

「ああ、そうだった。取り敢えず、先にゴンベエのおつかいをすませないと。はい、アリーシャにお届け物」

 

 此処に来た理由を聞くと箱を取り出す。私はそれを受け取り、中を開くと眼鏡が入っていた。

 

「ほぅ、あの男、姫に贈り物をするとはな」

 

「っ、マルトラン卿!違います、これは決してそういうあれではありません!!」

 

 眼鏡を見てニヤニヤと笑う師匠。だが、これは男性が女性に気持ちを現すものでなく天族が見える便利な眼鏡で、それ以上でもそれ以下でもありません。大体ゴンベエがそう言う気の利いた物を私に渡すはずがない。本人が損得勘定で生きている部分があると言っているぐらいですよ。

 

「そういうあれって?」

 

「す、スレイは気にしなくて良い!!」

 

「え~……あ、それって前に言ってた眼鏡か!」

 

 見えない誰かと会話をしているスレイ。

 それを見て私は冷静さを取り戻し、届けられた眼鏡をつけるとスレイの隣にミクリオ様が立っていた。

 

「見える……」

 

「レンズの色以外は何処にでもある普通の眼鏡なのに……伝承にもそんな眼鏡は登場しないのに彼はいったい何処でこんなものを」

 

 まじまじと私のつけている眼鏡を観察するミクリオ様。

 この眼鏡についてはなにも分からず、一先ずはゴンベエのおつかいは終わる。

 

「どうして、レディレイクに?」

 

「此処だとあんまり言えないから、裏でいい?」

 

「……余程のことか」

 

 あの場所を出てまで此処にやって来たのならば、かなりの事が起きたと考えられる。

 スレイの言う通りに聖堂の裏に向かい、人を払ってなにが起きたかを……私を狙って暗殺者がやって来たと、その裏に大きな誰かがいると教えてくれた。

 

「アリーシャ、もし心当たりがあるなら教えてよ。俺達が調査して証拠を見つけてアリーシャの暗殺を依頼した奴を捕まえる!」

 

「スレイ、気持ちは嬉しいがそれは無理だ」

 

「スレイ殿、恐らく姫の命を狙ったのは高官の者だ。この国で地位のある者故に犯人を特定する前に揉み消される可能性が、いや、既に消されたかもしれない」

 

 心当たりは決して無いわけじゃない。だが、スレイと普通の人には見えないミクリオ様が調べてどうにかなる相手ではない。

 暗殺者に狙われる危険性があるのに身を呈してまで此処にやって来て教えてくれたのは、本当に本当に感謝している。

 

「暗殺者が居ると分かっていても、狙われていると分かっていてもビクビクと怯えるわけにはいかない」

 

「けど、アリーシャ」

 

「心遣い、感謝する。だが、臆すわけにはいけない。間もなく、聖剣祭の締めの【浄炎入灯】が行われる……此処まで来たのならば、最後まで見ていって欲しい」

 

 浄炎を祭壇に捧げる儀式で、聖剣祭は終わりを迎える。

 だが、浄炎と言うが浄化の力は一切宿っていない……真実を知っているだけに、心苦しい。ゴンベエと出会う一年前に浄化の力等の真実を知り、なんどあの剣が抜ければと思ったのだろうか。

 

「アリーシャ、すごいね」

 

「為政者の覚悟と言うものなんだろう」

 

「ところで、その眼鏡を渡した奴は何処に?」

 

「教会に行きたくないって言ってて、多分、街の何処かにいると思う」

 

「何処かとなると、今から探しても間に合わないか……これはこれでよかったのだろうな」

 

 師匠はゴンベエが居ないことに少しだけ安堵する。

 

「ゴンベエ、なにをしたんだ?」

 

「私は直接見ていないが、奴はあの聖剣を抜いてもう一度突き刺して帰ったそうだ。神父達は当時は導師だと驚いていたが……スレイ殿は彼が伝承で伝えられている導師に見えるだろうか?」

 

「見えないな、彼が導師なんて何かの間違いか世界の終わりだ」

 

 師匠、ゴンベエは口や性格は酷い時がありますが本当はいい人です。それとゴンベエはこの少しの間でいったいなにをしたのだろう。ミクリオ様が嫌悪感を出している。色々と聞きたかったが、今は聞く暇はなく聖堂に戻って聖剣を引き抜く者がいないか見守る。

 

「ライラ様が寝ている……そうですか…この場には、いないのですね」

 

 見守っていたら、ライラ様が寝ていることに気付く。

 この聖剣祭の催しである聖剣を引き抜く剣の試練、それを抜ける者は何処にもいない。だから、ライラ様は寝ている。

 剣を抜こうと挑戦しに来た者達では誰も抜けないと気付いているから。もしかしたらという思いはあったが、儚い希望はあっさりと砕け散る。誰も抜くことが出来なかった。

 

「レディレイク、そしてハイランドの人々よ!」

 

 聖剣に挑むものは消え、浄炎入灯の儀がはじまる。ここ数年飢饉が続き、何時戦争になるか分からない。穢れが生み出した憑魔が原因で異常気象などが起きたりしている。そんな時に祭事と思うがだからこそしなければならない。改めて、天族への祈りを捧げなければならない。その思いを声にし私は免罪符を祭壇の炎に捧げようとするとライラ様が目覚める。

 

「湖の乙女よ、我等の憂いを罪を汝の猛き炎で浄化したまえ!!」

 

「アリーシャさん……」

 

 体をゆっくりと起こすライラ様は申し訳なさそうな顔をする。

 分かっております、祭壇の炎はなんでもない極々普通の炎で、浄化の力が宿っていないのを。私は炎に免罪符を捧げ、振り向いた。

 

「レディレイクよ、ハイランドの人々よ!この祭りを我々の平和と繁栄の祈りとしよう!!」

 

 この聖剣祭を切っ掛けに、天族への祈りと感謝の念を取り戻して欲しい。

 そう強く願うと石が飛んできた。

 

「祈りがなんだってんだ!!これで俺達の仕事が戻ってくるってのか!!」

 

 石を投げたのはこの街の住人……聖剣祭をよく思っていない者達で我慢していた不満が爆発した。

 何時大きな戦争になるか分からない、そのせいで武具や作物の通称権が制限されている。石を投げたのは、その制限で仕事を失った者だ。

 

「俺達はこんなご機嫌とりに誤魔化されねえぞ!!」

 

「貴様、祭りの邪魔をするな!!」

 

「やめないか!!」

 

 衛兵が槍を向けるが、その槍は民を傷つける者ではない。誰かを守るためにあるものだ!!

 私の言葉が届いたのか、衛兵は槍を向けるだけでなにもしないが代わりに別のところから石が飛んで衛兵に当たった。

 

「へへ。ざまあみろ!」

 

「っ!!」

 

 他の誰かに石を当てられキレた衛兵は槍を振るった。

 街の人達に槍の刃は当たらなかったが、尻餅をつき衛兵は歩く。一番最初に石を投げた男を無視して、何処かにいく。

 

「アリーシャ、この騒動、仕組まれたんだ!!」

 

 衛兵は感情に任せて槍を振るうことなく何処かに消え去った。端で見ていたスレイは直ぐにさっきの衛兵はわざと攻撃したと気付く。

 

「あの衛兵は、大臣の手の者かもしれぬ!!」

 

「っ、民までも利用して勢力争いをするのか!!」

 

 此処で暴動が起きれば怪我人が出れば、私の責任になる。

 そうすれば私の地位や権限、立場が危うくなり大臣はより強い力を手に入れれる。私が邪魔なのは知っている……だが、だが、ここまで堕ちたか!!

 

「皆の者、落ち着け!!」

 

「何時だって法は民を守らねえ!!誰のお陰で飯が食えてると思ってるんだ!」

 

 師匠の言葉は誰にも響かない。街の人は私に襲い掛かろうとするが、間にスレイが入って投げ飛ばす。

 

「アリーシャ!」

 

「スレイ、危険だ!」

 

 この場には沢山の街の住人達がいて、怒りの矛先を私達に向けている。このままだとスレイにまで向いてしまう。

 

「いけません、敵意に、負の感情に身を任せては!!このままでは穢れで憑魔が生まれてしまいます!!」

 

 ライラ様も暴動に慌てるが、スレイと私以外には声は届かずなにも出来ない。そして

 

「人間が憑魔になった……」

 

 邪心が悪意が怒りが生み出した穢れに飲まれて、熊のような憑魔へと変貌した。

 私とスレイ以外には憑魔として見えておらず、眼鏡のレンズを通さずに見ると白目を向いて理性を失ってる人が暴れていた。

 

「湖の乙女、どうにかならないの!?」

 

「君は浄化の力を持っているんじゃないのか!?」

 

「天族?それに、貴方は私が見えているのですか!?」

 

 この状況を唯一どうにか出来るライラ様にスレイとミクリオ様は助けを求める。だが、ダメだ。

 

「スレイ、ライラ様は浄化の力を持っているのではない。ライラ様と契約した者が……ライラ様の器となり剣となり導師となった者が浄化の力を扱える!!だが、ライラ様の器になれるのは天族を肉眼で捉えられるゴンベエだけで」

 

「天族を肉眼で捉えられれば、強い霊応力があればいいんだな」

 

「スレイ、避けろ!!」

 

 今ここにゴンベエはいない。ゴンベエが此処に居てくれれば、どうにかなるかもしれないと思っていると狼の憑魔が暴動の中で飛ばされ祭壇の炎の中に入り、火種がそこかしこに飛んでカーテンや垂れ幕に燃え移る。

 

「炎の色が!」

 

 燃え移るだけでなく、更には炎の色も変わった。

 

「ミクリオ、この炎を消して!!」

 

「無理だ、スレイ!普通の炎ならまだしも、あの紫色は穢れを纏っていて憑魔と変わらない!!僕がどうにか出来るのは普通の炎だけだ!」

 

「ああ、分かっている!だから!」

 

「スレイ……まさか!!」

 

 スレイは聖剣を握った。抜いた者こそが導師となる剣を握ったと言うことはスレイは導師に、ライラ様の器になるのか!?

 

「お待ちください!!貴方が私の声を聞き、姿が見えるならばそれは可能です!!ですが、導師になると言うことはコレから先に様々な困難が待ち構えています!ただ凶暴な憑魔を打ち倒し穢れを浄化するだけではすみません。強すぎる力ゆえに人々とから警視され続けるかもしれず、恐らく貴方が思っている以上のものです!!過去にゴンベエと言う方がいましたが、その御方はそれを理解し導師になる事をしませんでした!!」

 

「スレイ、ライラ様の言うことは確かだ!過去に私はとてつもない憑魔に……ドラゴンに出会った!!もし、君が導師になると言うことはいずれあのドラゴンと対峙しなければならない!」

 

 導師の力がどのようなものかは詳しくは知らない。

 穢れを浄化し常人では出来ない事を簡単に成し遂げて超常現象を引き起こせると言われているが、それでも危険がついてくる。エドナ様の御兄様の様にドラゴンになった方とも戦わなければならない。

 

「ドラゴン!?スゴいな、外の世界は。えっと、ライラだっけ?俺、古代の遺跡を探検したいんだ。古代の遺跡には人と天族の繋がりが眠っていると思う。俺は人と天族が共存して互いに認識しあって幸せに暮らす遥か昔みたいになればいいなって夢見てる……この剣を抜けば、君の器になれば夢へと近付く。人と天族、皆を救える!!」

 

「スレイ、分かっているのか!これは取り返しのつかないことだ!!確かに君ならば立派な導師になれるかもしれない。だが、考えもなしに行動したらダメだ!!ついさっき」

 

「でも、放っておけないよ……ライラ、俺の覚悟は出来ている」

 

 スレイは剣を強く握る。この場にいる者を救う為だけでなく、コレから先起きる導師の宿命を背負う覚悟が出来ていた。ライラ様はスレイの言葉を聞くと強く決心し、スレイの隣に立った。

 

「私は待っていました、私の器となる穢れを生まない御方を!」

 

 ライラ様がスレイの左手に触れると、スレイは燃え盛る炎の様なオーラを身に纏う。

 付けている導師の手袋がキラリと光るとライラ様はスレイの手を離した。

 

「スレイさん、剣を!!」

 

「ああ!!」

 

 スレイは掛け声と共に聖剣を抜く。

 誰一人、動かすことすらままならなかった聖剣をゆっくりとゆっくりと引き抜くとスレイは眩く光った。

 

「スレイ、君が……災厄を終わらせる導師だったのか」

 

「っく、スレイ!君が覚悟を決めて、導師になった事はもうなにも言わない!だが、そろそろ此方も限界だ!!」

 

「っ、何時の間にこれだけの憑魔が……」

 

 ミクリオ様が色々としてくださったが、気付けば憑魔が増えて限界が来た。

 人が変化しただけでなく地面からも沸き出るかの様に出現し、どうしようもない状況かに見えた。

 

「お任せください!!」

 

 だが、そんなどうしようのない状況かは一瞬にして変わった。

 ライラ様は札を取り出して穢れを纏った炎に向かって札を飛ばすと穢れの炎をかき消した。

 

「俺も!!」

 

 それを見て、襲いかかってきた憑魔をスレイは斬り飛ばす。すると、憑魔は浄化されて元の人の姿に戻っていった。

 

「すごい……っ」

 

 これが浄化の力、これが導師の力。

 災厄の時代を終わらせると言われるほどの力は凄まじく……如何に自分が無力だったのかを思い知らされる。

 足が早いが料理が下手、足は遅いが料理が上手い。足も遅く料理も下手だが、代わりに勉強が出来る人がいるように才能は人によって異なる。どうして自分じゃないという思いではなく、その才能が無い自分を悔やむ。

 

「アリーシャ、余所見をするんじゃない!!隣に憑魔が!」

 

「っ!」

 

 余計な事を考えていた為にミクリオ様に言われるまで、隣に憑魔が居ることに気付かなかった。

 10歳ほどの子供ぐらいの大きさの憑魔が私の隣に立っており、槍を持っていた。

 

「この憑魔は」

 

 直ぐに戦闘体制を取り、槍を構えて距離を取ったのだがおかしい。

 狼の様な憑魔とも熊の様な憑魔とも、おたまじゃくしの様なカエルの様な憑魔とも違う。皮膚が木々を思わせる色で、蛸の様な顔をしており他の憑魔と違い、緑衣を着ている。

 

「!」

 

「槍か、来るなら来い!!」

 

 体格と合わない青白い光を放つ槍を取り出した。

 そちらがそのつもりならば私も戦う……例え導師でなくとも浄化の力がなくとも私にも出来る事はある!!私も槍を取り出して、構えると

 

「……え?」

 

 木の憑魔は私に槍を差し出した。

 

「ど、どういうことだ?」

 

 コレは受け取っていいものなのだろうか?

 そう戸惑っていると木の憑魔は光る槍を地面に置いて、炎を纏う槍と冷気を纏う槍と雷を纏う槍を取り出して差し出す。

 

「アリーシャ、それ憑魔じゃない!!」

 

「憑魔じゃない?」

 

 何処からどう見ても憑魔に見える蛸のような木の憑魔(仮)。

 だがそうでないとスレイがいうので、どういう事かと試しに眼鏡のレンズを通さず、肉眼のみで見ると……蛸の様な木の憑魔がいた。

 

「肉眼で、見える?」

 

 憑魔を憑魔として見るには天族を見ると同様に強い霊応力が必要になる。

 穢れに穢れまくったドラゴンならば別だが、それ以外は普通の人の肉眼では見えない。肉眼で見える木の憑魔はドラゴンの様に強い穢れを放たず、あの時と同じ感じがしない。

 

「!」

 

「私に使えと言っているのか?」

 

 四本の槍を私に掲げる木の憑魔。

 敵対する意思も攻撃する素振りも見せておらず、試しに聞いてみると頷いた。

 

「この槍は……確か、確か」

 

 一番最初に差し出された青白く光る槍を手に取った。

 青白い神秘的な光を刃に宿す槍だが、何処かでこれと似たような物を見た記憶があるのだが、思い出せない。

 

「アリーシャ、危ない!!」

 

 槍に意識を取られていると狼の憑魔が襲いかかる。

 スレイの声で気付いた私は避けて、光る槍を構え

 

「飛燕月華!!」

 

 下から斬り上げて、打ち上げてから更に蹴りあげる飛燕月華を使った。

 

「アリーシャさん、いけません!!貴女が憑魔を倒しては浄化、が!?」

 

「ぐ、ぅううう!!」

 

 私が攻撃した狼の憑魔は苦しんでいる。穢れである黒い靄が表に出ており、時折人の姿に戻ろうとしている。

 

「穢れが、打ち払われています!?」

 

「まさか、この槍が?」

 

 浄化の力を持っていない私は憑魔をどうすることも出来ない。

 仮に出来ることがあるとするならば、命を奪うことだけであんな事は出来ない。そうなれば、憑魔がああなっている原因はこの槍しかない。この槍を差し出した蛸のような木の憑魔の様なものは何処かと探すと余っているコーラを飲んでいた。

 

「教えてくれ!この槍を使えば穢れを浄化する事が出来るのか!」

 

 青白い光を何処で見たかは思い出せない。だが、紛れもなくこの槍は普通の槍でないのは確かで聞いてみるのだが、知らないのか両手を肩があるところまで上げて首を傾げる。あの木の憑魔(仮)も詳しくは知らない、と言う事なのだろうか?

 

「ぐ、ぅるぁああああ!!」

 

 再び襲いかかる狼の憑魔。

 先程よりも動きが鈍くなっているのか寸でのところで簡単に避けることが出来て、もう一度と技もなにも使わずに攻撃をしてみた。

 

「う、うう……」

 

「穢れが出ていっている?」

 

 狼の憑魔は穢れが抜け出て、徐々に徐々に人の姿へと戻ろうとしている

 例えるならば穢れを浄化しているのではなく穢れを祓っている。それに近かった。

 

「……!」

 

 それに近いだけで、まだまだ未知な部分が多い。

 他になにか知らないかと聞こうとすると、木の憑魔の様な者は私の前に立ってシャボン玉を口から吐くと、飲んだコーラをも吐いてシャボン玉に纏わせ、シャボン玉を蹴り飛ばして憑魔にぶつけるとシャボン玉が勢いよく弾けて憑魔は吹き飛び、元の姿――人へと戻った。

 

「……大丈夫だ、気を失っているだけで大きな怪我も無い」

 

 ミクリオ様が元に戻った街の住人を確認してくださった。と言うことは、今の攻撃も穢れを打ち祓う一撃だったのだろうか?

 

「君は、いったい……」

 

 今、倒した憑魔が最後の憑魔で騒動は一先ずは納まった……が、目の前に憑魔でないナニかがいる。

 

「は、ライラ様!」

 

 もしかすればライラ様ならば御存知かもしれない。聞いてみようとするとライラ様は武器を構えていた。

 

「アリーシャさん、危険です!離れてください!」

 

「ライラ、あれからは穢れを感じないよ?」

 

「だからこそだ、スレイ!例え憑魔じゃなくても、あんな生物見たことも聞いたことも無い!」

 

 ライラ様とミクリオ様は危険だと感じ、構える。

 スレイも御二人の言葉を聞いて警戒をしており、周りの人々はゴクリと息を飲み込み緊張の糸を走らせる。

 

「ライラ、森にあんな感じの憑魔は」

 

「植物の憑魔も存在しておりますが、あの様な憑魔ではありません。一部の例外もありますが、あの様な姿の憑魔ならば穢れを感じます。しかし穢れを感じません、もしかすれば穢れを内包する新種の憑魔の可能性があります。幸いにも植物の憑魔…火が弱点の場合が多いです」

 

「フー」

 

 ミクリオ様とライラ様は襲ってくるかもしれないと警戒をするが、木の……人の様な方は呆れていた。

 全くと言って御二人に興味を持たず、私が受け取らなかった雷、炎、氷を纏った三つの槍を回収する。

 

「この槍も」

 

 私の持つ光る槍を返そうとするが受け取らない。

 手を差しだして、どうぞどうぞと私に槍を譲るという動きをした。

 

「貰っていいのか?」

 

 この槍をくれると言うのならば、大事に使わせて頂く。

 槍を返すのをやめると頷くのだが、次に首を横に振った……えっと

 

「貸して、くれるのか?」

 

 そう聞くと縦に何度も何度も頷く。この不思議な槍を暫くの間、貸してくれる。それはとてもありがたい。

 

「ありがとう」

 

 彼に感謝を述べる。それと同時に分かる。見た目こそ憑魔の様だが、彼は絶対に憑魔ではないと。私が槍を改めて持つと彼は右手の親指をあげてサムズアップした。

 

「ップ!」

 

「!?」

 

 槍を受け取ると彼は口から木の種を吐いた。

 吐いた木の種が地面につくと眩い閃光を放ち、光が消えるとそこには彼の姿はなかった。

 

「あ、あそこに!!」

 

 彼は一瞬の間に逃げ去り、子供が逃げた彼に気付き追い掛けようとし、私も追いかけようとするが出来なかった。

 

「静まれ、静まれい!!」

 

 追いかけようとすると、バルトロ大臣がタイミングよく現れた。




ゴンベエの術技


ファイアレモネード・スプラッシュ

説明

炭酸水を纏わせた魔法のシャボン玉を蹴り飛ばし相手にぶつけ、シャボン玉を弾けさせて相手も弾けさせる技。
デクナッツのお面をつけてデクナッツになった時しか使えない。


アリーシャの装備


不思議な槍


説明

刃が青白い光を放つ不思議な槍
邪悪な物などには強く反応し、光が強くなる。
邪悪を打ち祓う力を持っており、その光は何処かで見たことがある。


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マオクス=アメッカ

「あ~……あ~、うん」

 

 アリーシャの屋敷前でオレは空を眺めて、ついさっきの出来事を思い出す。

 デクナッツの仮面を使い、デクナッツになってアリーシャを手助けしたら憑魔と間違われた。

 幸いにもアリーシャだけは敵じゃないと信じてくれたが、喋れないのはキツかった。

 

「どうしようか……」

 

 今後、世界は大きく動いていく。戦争して、この国が大勝利!もしくは魔王的なのの登場で戦争なんてしてる暇は無いと停戦、そっから和平のどっちか。それに加えて魔王的なのはスレイがシバき倒し、ハッピーエンドを迎える……オレ、いらねえんだよな。この世界に転生したのは良いが、原作は知らない。転生特典はゼルダと知識という神秘と叡智。現代っ子のオレは異世界の生活に耐えられずに日夜、現代じゃ当たり前の物を作ったりして細々と暮らしている。

 

「ああ、くそ。本当に向いてねえな、オレ」

 

 自分が今後なにをすべきか、今後社会はどう動くか考えるがなにも頭に浮かばない。

 戦闘能力に999のパラメーターを振っているタイプの人間だと地獄で言われていたが、その通りだ。

 他の転生者ならば、例えばオレよりも先に転生した黛千裕とかだったら答えが出せてたかもしれねえ。

 

「ゴンベエ?」

 

「やっと来たか」

 

 色々とああだこうだと考え、時間を潰しているとアリーシャがやって来る。いや、この場合は戻ってくると言った方が正しいな。

 

「街の何処かに居るとは聞いていたが、屋敷の前にいたのか」

 

「まぁ、自転車を此処に置いてきたからな。それよりも、眼鏡に違和感はないか?」

 

「前に貰った物と同じで、ぴったりだ。それよりも、スレイが大変なんだ!スレイが聖堂にやって来て」

 

「聖剣引っこ抜いて、導師になったんだろ?」

 

「あ、ああ。確かにそうだが、どうしてそれを?」

 

「誰も抜けない聖剣を抜いて、暴動を収めたんだ。嫌でも噂になり、耳に届く」

 

 それと当事者だ。なんて言えないが、こう言っておけば納得する。

 アリーシャは噂が早まるのは広いなと驚くが、直ぐに微笑んだ。

 

「なにがおかしい?」

 

「聖剣が抜ければ、この災厄の時代を終わらせることが出来る。私にはあの聖剣を抜く資格はなく、指を咥えて見ているだけだった……だが、もう違う。スレイが導師となり、穢れを浄化し災厄の時代を終わらせる。勿論、スレイだけに世界は背負わせない、私も出来る限りの事を手伝うつもりだ」

 

 どうしようもない絶望的な状況だったこの世界に一筋の希望の光が注ぎ込む。

 導師スレイの誕生はそんな感じで、コレから世界は良い方向へと変わると喜ぶ。

 

「ゴンベエもスレイを手伝ってくれないだろうか?」

 

「え、やだけど?」

 

「凄くあっさりと断る、か」

 

 自分の事をどうにか出来ない奴が世界をどうのこうのなんてやれねえよ。

 それ以前に導師が自転車経営なんだから、どっちか片方いれば良いだろう。

 

「つーか、穢れを浄化するって具体的にはどうすんだ。憑魔一体一体をシバいて浄化しても永遠に終わらないだろうし、親玉をシバき倒しても鼬ごっこが続くぞ?」

 

「それに関しては私も詳しくは……だが、ライラ様なら御存知なのかもしれない」

 

「知らなかったら、スレイは別の意味で地獄味わうぞ」

 

 憑魔は穢れの塊みたいな物で生物どころか無機物に宿ったりするらしい。

 それを全て一体一体浄化なんて、日本のゴキブリを一匹残らず消すぐらいの難しさで実質不可能だ。

 

「そうだ、ゴンベエ。スレイの衣装を用意したいんだ」

 

「用意したけりゃしろよ。オレはそう言うのは門外漢だ」

 

「だからこそだ。今の服装は導師らしい格好ではない、導師らしい衣装をスレイには着て欲しい。一目見て、如何にも導師だと言う衣装を。」

 

「導師らしい衣装ねぇ。勇者らしい衣装なら知ってるけど、それは知らねえな」

 

 神父、巫女、坊さんの衣装しかしんねえ。ギリシャっぽい衣装にしとけば洋風なこの国的にはセーフなんじゃ無いだろうか?

 

「勇者らしい衣装?」

 

「オレの故郷とはまた別の国にある昔話に出てくる勇者の挿絵は確実に緑衣を身に纏っているんだ、ほらよ」

 

 オレは本をアリーシャに投げる。

 この本はただの本でなく、悪乗りして作った物でハイラル語で書いた風のタクトのOPで見る時の勇者の伝説とかが載っている。

 

「スレイは勇者じゃなくて、導師だからつくんじゃねえぞ……どうした?」

 

「この勇者が被っている帽子、さっき見た蛸のような者も被っていた」

 

 あ、やべ。アリーシャの言葉でムジュラの仮面やトワイライトプリンセスとかも書いている事を思いだし、本を回収する。開けていたのが時の勇者のところでよかった。ムジュラの仮面の所にはデクナッツの挿絵を書いているからバレる所だった。

 

「蛸のような者ってなんだよ、天族か?」

 

「それが、よくわからないんだ。ライラ様達も見たことも聞いたこともなく、暴動を起こした者や巻き込まれた者達の肉眼で見えていた」

 

「じゃあ、そう言う感じの生物なんだろう」

 

「そう言う感じの……木の妖精か!?天族が実在するならば、妖精も存在してもおかしくない!!」

 

 ごめん、それそんなに高尚な存在じゃない。むしろ邪悪な方に分類されている。お願い、目をキラキラと輝かせないでくれ。

 取り敢えずはスレイの導師の衣装を用意するとアリーシャは届け、暫くするとスレイ達がやって来た。

 

「あ、ゴンベエもいたんだ」

 

 アリーシャにお礼を言いに来たスレイ。導師の服を気に入っているが、真っ白な導師の服はカレーうどんが天敵だぞ。

 

「色々と聞きたいことがあるんだよ。ライラ、憑魔の穢れを浄化する事が出来るようになったらしいが、諸悪の根元的な奴をぶっ倒したら残った穢れも自然に減っていくのか?」

 

 スレイの礼は終わったので、隣に立っているライラに聞いた。

 諸悪の根元的な奴をぶっ倒せば自動的に穢れが減っていく御都合主義だったら、いいんだがな

 

「いえ、自然には減りません。諸悪の根元……とは言い難いですが、導師が最も浄化をしなければならない強い穢れを持つ存在、災禍の顕主を浄化したとしても穢れは消えません」

 

 ライラは無理だと首を横に振る。やはりそう都合よくは行かないようだ。

 

「先ずは、世界中の穢れの領域を減らしていく事が重要なのです。穢れを浄化するのはスレイさんの導師としての役目なのですが、浄化をして清らかになった土地に再び穢れを近付けさせない為には地の主が必要なのです」

 

「地の主…あ~はいはい、土地神的なアレか。この辺の地域はわしのシマじゃいって線引きして、余計なもんを近付けない代わりにショバ代としてお祈りを捧げんかい、供物を寄越しやがれ的なのか」

 

「ゴンベエ、その例え方は……神、と言うことはその地の主は天族で、天族に祈りを捧げれば穢れから私達をお守り頂けると言うことなのですか?」

 

 いや、だから一緒だろう。言い方はともかく、結果的には。

 

「はい、その通りです……ですが、今この街にいる天族は私とミクリオさんだけです。更に申し上げれば、地の主だけでなくスレイさんの様に穢れの無い器が必要で、その器と共に祀られなければなりません」

 

 要するにこの壺には神様が宿っている、神様ありがたや。壺ありがたや。毎日祈りを捧げろか……ん?

 

「人と天族、共に力を合わせて共存しなければ穢れはどうにか出来ないのですね」

 

 地の主のシステムを聞いて成る程と頷くアリーシャ。そのシステムって、どう頑張っても天族が上にいるから共存とは言い難い。

 霊的な存在で、炎とか出したりすることが出来るのは知っているが……これ以上は考えないでおくか。

 

「街一つにつき、天族一人祀るぐらいの事をすれば穢れを完全に退けるのか?」

 

「完全、とは言い難いですが余程の事がなければ問題ありません」

 

「そっか……ミクリオ」

 

「断る」

 

「でも、此処にいる天族はミクリオだけだよ!ライラは俺の中にいないといけないし……それに浄化の力を手に入れたのは俺で、ミクリオじゃない」

 

 地の主をミクリオがすればと提案するスレイ。サラッと酷い事を言っている気もするが、ミクリオと目線を合わさない。

 

「確かに浄化の力を得ていない。だから、はいそうですかと僕が納得すると思うか?君の考えはお見通しだ。僕が地の主になれば穢れを退けることが出来て、穢れから僕を守ることが出来る。そう思っているんだろう」

 

「……」

 

 ミクリオの質問に答えないスレイ。こういう時の沈黙はその通りですと言っているものだぞ。

 

「ライラ、僕にも浄化の力は扱えないか?」

 

「可能と言えば可能です……ですが、よろしいのですか?浄化の力を得れば今と同じくスレイさんと共に歩めますが、それと同時に穢れが強いところを常に歩き続けます。もしかすれば穢れに当てられミクリオさんが憑魔になり、スレイさんや無垢な民を傷つける可能性が出てきます」

 

「ミクリオ、俺、憑魔になったミクリオを斬りたくないよ。例え浄化の力を持っていても……親友を攻撃したくない」

 

 なんかくっせーのがはじまったぞ。

 ミクリオの心配をするスレイだが、その心配が大きな御世話だ。本人なりに気遣っているが、それがダメだと言わんばかりにスレイの胸ぐらを掴む。

 

「舐められたものだな。スレイ、僕も覚悟を決めて此処へやって来た!憧れと同時に危険もあると分かっていたが外へと出た!なのに、僕だけがノコノコと加護領域を作って引きこもり君だけを危険な場所に行かせるわけにはいかない!なによりも、加護領域を作れば、世界中の遺跡が探検できない!!」

 

 一番はそれかよ。いやまぁ、本人がやりたいことをやらせるのが一番だけども。

 

「スレイ、勝負だ!!僕が勝ったのならば、僕は浄化の力を得る!」

 

「ミクリオ……分かったよ。ただし、俺が勝ったら俺が災禍の顕主を鎮めるまではレディレイクにいて貰うよ」

 

 杖を手に取るミクリオ、剣を握るスレイ。互いに譲れない意思を武器に乗せて、にらみ合う。

 

「ど、どうすれば……このレディレイクに天族の加護が与えられるのは良いことだ。だが、そうなる為にはミクリオ様の御力が必要。しかし、ミクリオ様を留めるわけにもいかない。穢れが溢れる地に赴けば憑魔となる可能性がある。浄化すれば元に戻るとはいえ友を斬りたくないスレイの気持ちも…ラ、ライラ様、どうすればよろしいのでしょうか!?」

 

「なるようになれ、ですわ!これぞ正に青春の一ページです!」

 

「いや、言うてる場合か!!」

 

 殴りあった末に答えが出るとか古くさいんだよ。ライラは見守ろうとするが、こんな屋敷の庭で超常現象引き起こせる奴がタイマンしてみろ。確実に庭が荒れるし、下手すれば屋敷が崩壊してしまう。

 

黄金玉衝撃(ゴールデンショッキング)!!」

 

「ぬぅ、お!?」

 

「あひゅん!?」

 

 バトルしはじめたスレイのスレイとミクリオのミクリオに蹴りを入れる。

 具体的には飛び蹴りしVの字に股を開いて右足でスレイのスレイを、左足でミクリオのミクリオを攻撃している。

 

「お、おぉ」

 

「むごい、ですわ」

 

「そ、そんなに痛いのですか?」

 

「らしいです。金槌で間違えて指を叩いた時よりも痛いらしいです」

 

 地面に倒れて悶え苦しむスレイに青ざめるアリーシャ。

 この程度で済ませた事に感謝してもらいたい。

 

「臭い青春ドラマしてんじゃねえ。つーか、まだ話の途中だぞ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 生まれたての子馬を思わせるほどプルプルと震えるエグい内股で立ち上がるスレイ。

 ミクリオは劇画チックな顔になって痛みに苦しんでるが、天族ならなんとか出来んだろう。

 

「忘れんなよ、現時点で人間はスレイ一人だけだ。ミクリオが浄化の力を得たとしても、浄化の力を振るえるのはたったの三人だ。災禍の顕主が人間みたいに知識や知恵、それに考える事が出来るならば人海戦術されれば瞬殺だぞ」

 

 ぶっちゃけ適当な洞窟に誘い込んで爆弾で爆破的なのをしてみたい。

 一大決戦の末に破れたとかそんなんじゃなくて、あっさりと敗北する姿を見てみたい。

 

「その点についても問題はありません!導師となった者には従士を作る事が可能になります。そして主神となった私は陪神を作ることも出来ます。

従士や陪神となればスレイさんが放つ加護領域の中でなら浄化の力を振るう事が……ゴンベエさん!!」

 

 また便利なシステムがあったものだな。ライラは俺の手を握り、俺の目を見つめる。

 

「貴方が導師となるのを拒んだ事は責めません。それほどまでに導師は危険で、孤独な戦いを強いられるものなのです。ですが、今はスレイさんがいます。例え、困難な道程でも御二人が手を取り合い協力すれば一歩ずつ前に進むことが」

 

「それ、こういう時に聞きたくねえよ」

 

 結婚式とかで言うことだぞ、それ。と言うか、アリーシャを無視すんな。残念そうな顔をしているだろう。

 

「お願い致します、どうかスレイさんと従士契約を結んでください!!」

 

「無理無理無理」

 

「俺も出来れば、ゴンベエと従士契約をしたいかな?導師になる前は、レディレイクに向かうまでは深く考えてないとこもあった……従士でってのはおかしいけど、俺に色々と考えさせてほしいんだ」

 

「うん、無理」

 

 そう頭を下げても無理なもんは無理だ。

 

「ゴンベエ、どうしてそこまで頑なに拒むんだ?」

 

「一重に言えば、世界救うなんて面倒だから」

 

「……スレイ、もう諦めた方がいい。彼は絶対に動かない、それよりも陪神の方を」

 

「それともう一つ……俺は従士になることは出来ない」

 

「?」

 

「まぁ、物は試しだ。従士契約とやらをしてみろ」

 

 首を傾げるスレイに説明をしようとしても無駄だ。と言うか、どういう風に説明をすればいいのかがわからない。

 結果的には従士契約をしてくれるんだと喜ぶライラとスレイ。具体的になにをするかライラが説明をするとオレとスレイの手を握ると目を閉じた。

 

「我が宿りし聖なる技に新たなる芽、きゃあ!?」

 

「うわぁ!?」

 

「ライラ、スレイ、大丈夫か!」

 

 従士契約の呪文を唱えると、炎の様なオーラをライラが纏う。

 オーラを介して俺が従子になるのかと思えば、ライラとスレイは謎の光に弾かれて尻餅をついた。

 

「いててて。大丈夫だよ、ミクリオ。ライラは?」

 

「は、はい。怪我はありません……ですが、契約は失敗です」

 

「契約の詠唱中に噛んだの?」

 

「いいえ、噛んでいません」

 

「なら、呪文を間違えたんじゃないのか?」

 

「昔からこの呪文です。詠唱の方にもスレイさんの方にも問題はありません……ゴンベエさんに従士になる様にした瞬間に私やスレイさんの力が別のとてつもない謎の力に押し返されたのです」

 

「だから、言っただろう。無理だって」

 

 勇気に知恵に力のトライフォース、鬼神の仮面やデクナッツの仮面。

 他にも色々と神秘で胡散臭い力をオレは宿しており、従士契約なんてしたら主にトライフォースが拒む。

 

「謎の力って?」

 

「分かりません、今までこの様な前例はありませんでしたので」

 

「スレイが導師になったばっかで未熟者だからとかそんなのは関係ねえ。ざっくりと言えば宗教的な違いで出来ねえ」

 

「それはどういう意味だ、ざっくりとし過ぎだろう!」

 

「異教を持ち込むの面倒だろう。オレの話はこれで終了。オレは色々と余計なのがあるけど、アリーシャなら従士になれる筈だろ?」

 

「わ、私が!?」

 

 ずっと黙っていたアリーシャは指名された事に驚く。

 この場で肉眼で天族を見れないのは自分だけで、従士に指名されるなんてありえないと思っていたのだろうか?

 

「確かにアリーシャさんは穢れの無い純粋な御方です……」

 

「躊躇いがあるなら、言っておく。オレがこの街に来て、約一年の間、まことのメガネでアリーシャはお前を認知した……見ていたんだろ?」

 

 アリーシャはずっとずっと自分が剣を引き抜けたらと思っていた。

 災厄を終わらせる方法は直ぐ目の前に存在しているのに、手を伸ばす事を許されなかった。

 

だが、今はもう違う。伸ばせないならば、差し伸べればいい。それをスレイは出来る。

 

「スレイ、私が従士になっても良いのだろうか?私はこの眼鏡を使わなければ、ライラ様やミクリオ様の姿を見ることも声を聞くことも出来ない……ズルをしているも同然だ」

 

「う~ん、アリーシャはどうしたいの?」

 

「私は……穢れの無い故郷を見てみたい。私が物心ついた時から、権力者は私腹を肥やし、作物の不作が続いていた。きっと、その時からこの国は穢れていたのだと思う。だからこそ、私は見てみたい。穢れの無い故郷を、スレイと出会ったあの場所の様に美しいハイランドを……だが」

 

「決まりだね、ライラ」

 

「はい!」

 

 アリーシャの気持ちを聞いて、微笑むスレイ。ライラは先程と同じように手を繋いで従士契約をしようとする。

 

「良いのか?」

 

「構わない……いや、違うか。俺も穢れの無いアリーシャの故郷を見てみたくなったんだ」

 

「スレイ……」

 

「私も見たいです。穢れの無いハイランドを……では、参りましょう。我が宿りし聖なる技に新たなる芽いずる。花は実に、実は種に、宿りし宿縁はここに寿がん。今、導師の意なる命を与えよ、道理の証とせん。覚えよ、従士たる汝の真名は」

 

 さっきと同じ呪文を詠唱すると光るライラとアリーシャ。

 この後に古代の言葉でアリーシャに名前を与えるが、この国の古代の言葉ってイントネーションとかムズそうだな。スレイがセンスなくてアウトになる的な展開もありえそうだな。

 

 

 

「マオクス=アメッカ!!」

 

 

 

 

「……え?」

 

 スレイがアリーシャの真名を呼ぶと、ライラとアリーシャから光が消えた。だが、代わりにとんでもないものが出てきやがった。

 

「ど、ど、どうしてその名前にしたんだ?」

 

「えっと……なにか問題でもあった?」

 

「スレイさん、その真名なのですが、千年程前にいたアリーシャさんの先祖と思わしき方と同じ名前なんです」

 

「へ~そうなんだ!アリーシャの先祖と同じ名前なんだ。きっとその人も名前みたいに笑顔が似合う人なんだろうな」

 

「笑顔が似合う?」

 

「うん。マオクス=アメッカは、笑顔のアリーシャって意味なんだ!」

 

「おい、ミクリオ……スレイは素で言っているのか?」

 

「純粋に似合っていると思ってるからそう言っていると思う。スレイに下心なんて存在しない」

 

 要するに天然ジゴロなんだな。ヤンデレを量産して刺されなければ良いが、素でそう言うのを言えるのは羨ましい。しかしまぁ……今の今まで謎だったマオクス=アメッカについてこれでやっと分かった。

 

「ふっふふふふ」

 

「どうしたの?」

 

「気にすんな。スレイはお使いを済ませるだけじゃなく導師になったし、アリーシャは従士になった。ミクリオはどうなるかは知らないが、これ以上はオレが居ても無駄なだけだ。家に帰ってコーラでも作っておくか」

 

 笑うオレを気にするが、オレはここでおさらばだ。自転車を回収してアリーシャの屋敷を出ていった。

 

「未来は明るいどころか、暗くて絶望一色に染まってるな」

 

 時のオカリナを懐から取り出してオレはそう呟いた。





スキット ゴンベエの御仕事

スレイ「ゴンベエ、行っちゃったな」

アリーシャ「ああ、行ってしまった……だが、数日後にはまたやって来る。水瓶いっぱいに入ったコーラをもって」

スレイ「コーラ?」

ミクリオ「そう言えば、スレイが寝ていた宿の主人もコーラがなくてすみませんと言っていたが、それはいったい?」

ライラ「ゴンベエさんが御作りになる炭酸水のジュースです。
甘くて爽快なお味で値段もお手頃、この辺は水は豊かなのですが、炭酸水が涌き出ないので飛ぶように売れています!」

スレイ「へー、俺も飲んでみたいな!」

ミクリオ「この辺では手に入らない炭酸水なのに、どうして水瓶いっぱいの量を用意出来るんだ?」

アリーシャ「それは秘密とのことで、決して危険な事はしていないと……そのコーラを売ろうと、紙芝居をしたりする時もあります。ゴンベエの国のお話で、とても面白いです」

スレイ「異国のお話!?それって、どんなの!?」

アリーシャ「色々とある。例えば世界征服を企む悪の組織に改造された男が正義に目覚めて悪の組織と戦う話とか」

ライラ「子供達には大人気なんです……ただ、そのお話で出てくるダンクロト神と言う神様は色々と強烈過ぎます」

ミクリオ「ダンクロト神…いったい、どんな神様なんだろう」

アリーシャ「それはですね」

スレイ「待った待った、ネタバレは禁止だよ。またゴンベエに会った時にコーラを飲みながら、紙芝居で見ないと!」


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洞窟内のBGMは割と名曲が多い

「ねぇ、なにか聞こえない?」

 

 ゴンベエが帰ったあと、スレイとミクリオ様は戦った。

 スレイが勝てばミクリオ様がレディレイクの地の主に、ミクリオ様が勝てばライラ様の陪神となり導師の旅についていく。互いに譲れない信念の元戦い、引き分けた。

 

「音楽、ですね」

 

 引き分けたスレイとミクリオ様は笑いあい、最終的にはミクリオ様が陪神になることに。

 ただ、私の様に真名を用意すれば良いものではないようで、導師と天族が一つとなり強力な力を発揮する神衣をする為の神器が必要だった。その神器はレディレイクの北東にあるガラハド遺跡にあり、更には天族の器になりうる清らかな滝の水もそこにあり、向かった。

 

「これは琴の音色だろうか?」

 

 遺跡の内部には憑魔が住み着いており、浄化しながら進むと不思議な音が聞こえる。

 この辺りも加護領域ではない筈で穢れを感じるのだが、その音は清らかだった。ミクリオ様はその音がなんの音色なのかを考える。

 

「琴の音色ですが、弾く速度が早いですので恐らく他の楽器かと思いますわ」

 

「確かに、言われてみれば凄く早い!」

 

「……いったい、誰が弾いているんだ?此処で祀られていた天族か?」

 

「いえ、前に此処に来た時には天族の方々は一人もいませんでした」

 

「じゃあこの音楽はいったい……」

 

「もしかすれば、過去に此処で祀られていた御方がやって来たのかもしれません!!皆さん、音のする方に向かいましょう!」

 

 前に来た際に憑魔以外誰もいなかったこのガラハド遺跡、音楽を得意とする憑魔も見たことない。

 音の正体は謎で、もし天族の方ならばこの音楽は救援信号かもしれない。急いで音の主に会うべく走り出す。

 

「うわぁ、憑魔の群!?」

 

 音がする方向へ走り、段々と聞こえる音が大きくなりハッキリと聞こえるようになっていく。

 もうすぐだと曲がり角を曲がると憑魔の群が行進していた。

 

「憑魔にも色々と種類はありますが、その大半が別の生物です。この遺跡に住み着く事ができる生物が憑魔と化したなら私達の様に音を聞き取れます!」

 

「スレイ、ライラ、アリーシャ。音はこの憑魔の群の直ぐ奥から聞こえる!」

 

「お下がりください、ミクリオ様!私達が!」

 

 まだ陪神契約を行っていないミクリオ様に浄化の力は無い。私は木の妖精から貰った浄化の力が宿っている不思議な槍を取り出し、スレイはライラ様と共に神衣をした。

 

「燃ゆる孤月!」

 

「葬炎雅!」

 

 スレイは大剣となった聖剣に、私は槍に炎を纏わせ憑魔達を薙ぎ払う。

 薙ぎ払い、飛ばされた憑魔達は浄化されて元の生物に、虫に戻っていく。

 

「もう一回!」

 

 大剣を振るったスレイはその勢いをつけたまま一回転し、憑魔を切り裂く。

 

「スレイ、上だ!」

 

「サンキュー、アリーシャ!」

 

 上からも虫の様な憑魔が私達を狙っている。

 スレイは上を見上げると、ライラ様が使役する紙が舞い、スレイは光り、天族のみが使える天響術を使う。

 

「炎舞繚乱!!ブレイズスウォーム!!!」

 

 舞い散った紙に炎が宿り、熱風が巻き起こり天井にいる憑魔に当たり、落ちてくる。だが、まだ浄化しきれていない。

 

「魔神剣・焔!!」

 

 何時もの魔神剣に炎を加えた一撃を放つと浄化した。

 

「くそ、まだまだ憑魔が……ライラ、こうパーっと一撃で倒す方法は無いの!!」

 

「私のこの火の神依ではそう言う事は出来ません。もし出来るとするならば、水の神依で」

 

 斬っても斬っても減らない憑魔。

 いや、減ってはいるが雀の涙ほどの量でしかなかった。このままでは此方の根気負けしてしまう。

 

「水の神依か、それならば!」

 

「ミクリオ様、危険です!」

 

 後方に下がっていたミクリオ様は走り出す。この奥にあると言う水の神依に必要な神器を手に入れれば、この憑魔達をどうにかすることが出来る。危険な憑魔達の隙間を探し、奥へと出ようとするが危険すぎます!

 

「危険なのは僕じゃなく、戦っている君達の方だ!なにもせずにただただジッと甘えてくださいと言われて、はいそうですかと言えないよ!」

 

「でも、ミクリオ!」

 

「スレイさん、なにか飛んできます!!」

 

 ミクリオ様を心配し、制止しようとするスレイだがなにかが飛んできて、地面にぶつかった。

 

「コレは弓?」

 

 飛んできたのは大きな弓で、矢らしき物は何処にもない。

 確かに弓ならば威力もあり距離を取って攻撃することが出来るものだが、矢が無い。矢も飛ばされたのではと辺りを探すが見当たらず、代わりにスレイが神依を解除してライラ様と分かれる。

 

「ミクリオさん、この弓こそが水の神依に必要な神器です!アリーシャさん、今からミクリオさんと陪神契約を行います!時間稼ぎをお願いします!スレイさん、準備はよろしいですね!」

 

「わかりました」

 

「ああ、俺の方も何時でも準備万端だよ!」

 

 ミクリオ様が陪神になるまで時間を稼がねば!スレイの神依が解除されて、やや不利になったが水の神依になればこの場を切り抜けられる。気持ちを強くすると、それに答えるかの様に槍の輝きは増していく。

 

「信念と共に……罷り通る!月旋槍・雷鳥!!」

 

 槍で旋風を起こし、打ち上げた敵を一閃で貫く技、月旋槍・雷鳥を放ち浄化する。

 

「ライラ様、まだでしょうか!!」

 

「あともう少し、詠唱は長いので以下省略です!」

 

「そんなのありなのか!?」

 

 陪神の契約を一瞬で済ませるライラ様。

 驚くミクリオ様と共に姿を消したかと思いきや、ライラ様は私の隣に、ミクリオ様はスレイ様の隣に立った。

 

「スレイさん、後はミクリオさんの真名を!」

 

「真名なら」

 

「とっくに知ってるよ!」

 

 

 

「『ルズローシヴ=レレイ!!』」

 

 

 

「まぁ!」

 

 ライラ様との神依とはまた別の姿に変わるスレイ。

 埃を被っていた弓の神器も色鮮やかになり、周りから何処からともなく水が出現する。

 

「『全てを貫け!蒼穹の十二連!』」

 

 矢を持たず弦を引き、十二の水を放つスレイとミクリオ様。

 十二の水の矢は一体一体の憑魔に命中し、一度に十二体の憑魔を浄化する。

 

「蒼天裂天!アローレイン!!」

 

 続いて空に放つと、水の矢を雨のように降り注ぐ。

 

「アリーシャ、一体だけ射ち漏らした!」

 

「ああ、足音が聞こえる!」

 

 降り注ぐ矢の雨から逃げた一体の足音がする。

 この場をスレイ達に任せ、私は奥へと走り曲がり角に逃げていった憑魔を追い掛ける。

 

「逃がしはしない、此処で浄化を……光が消えた?」

 

 曲がり角を曲がると、今までいた虫の様な憑魔とは違う魚人間の様な憑魔がいた。

 槍を向けて、浄化しようとするが槍から放たれる光が弱くなっていき最終的には消えてしまった。

 

「……えっと……」

 

「アリーシャ、こっちは終わったって、まだいる!!もう一度、蒼天裂天!アローレイン!!」

 

 光が消えたのでこれは襲って良いものではないのかと槍をとめるとスレイ達が追ってきた。

 ミクリオ様との神依を保ったままのスレイは魚男を見ると、水の天響術を放つのだが

 

「あ、いたぁ!?」

 

 あっさりと避けられ殴り飛ばされた。

 

「スレイ、大丈夫か!」

 

「スレイさん、スレイさん!……ダメです、気を失っています」

 

 殴り飛ばされたスレイと分かれたミクリオ様とライラ様はスレイの身を心配するが白目を剥いて返事をしない。幸いにも体がビクンビクンと動いているので、命に別条はなく生きている。

 

「よくも、スレイを」

 

「ミクリオ様、待ってください!」

 

「だが、これはどう見ても」

 

「……あら、穢れを感じません?」

 

「憑魔……じゃないのか!?」

 

「あ、はい……一切、穢れを感じません」

 

 杖を取り出して構えたミクリオ様だが、ライラ様が穢れを感じない事を伝えると手を止める。

 魚男の方もスレイを殴り飛ばして以降、攻撃する素振りもしておらず私達を見つめている。

 

「っ、なにか取り出したぞ!」

 

「コレは……水が入った瓶ですね」

 

 腰布の中に手を入れると水が入った透明な瓶を渡してくれた。

 中に入っている水は何処にでもある極普通の綺麗な水で、それ以上でもそれ以下でもなんでもない。

 

「アリーシャさん、それを少し」

 

「あ、はい……なにか特別な水なのでしょうか?」

 

「恐らくですがこの遺跡の奥にある清らかな滝の水です」

 

 まじまじと瓶の中身を観察するライラ様。瓶に入っている此処に来たもう一つの目的である、清らかな水だと言うと魚男は頷く。

 

「この水を使えと?」

 

 ミクリオ様の質問に、魚男は頷く。スレイが気絶してしまった為、これ以上此処に長居をするのは危険だ。もう一つの目的である天族の器となる清らかな水を此処で手に入れる事はとてもありがたい。

 

「もしかして水の神器を投げたのは貴方でしょうか?」

 

 ライラ様の問いかけにも頷く魚男。

 

「貴方が投げてくれなければ、水の神衣が出来ませんでした。ありがとうございます」

 

「……すまない、憑魔と勘違いし、てぇ!?、な、なにをする!!」

 

「……瓶を返せ?」

 

 感謝と謝罪をする御二人に殴りかかる魚男。

 なにも入っていない瓶を取り出してミクリオ様と交互に指さした。瓶を返して欲しいと言っている気がした。

 

「ミクリオさん、瓶の中に入っている水を凍らせてください」

 

 その通りだと言わんばかりに頷く魚男。

 ミクリオ様が瓶の中の水を一部凍らせて取り出し、瓶を魚男に返した。

 

「コレで目的は達成しましたね」

 

「ライラ、その魚男に心当たりは?」

 

「ありません。この様な憑魔?を見るのははじめてで」

 

 成すべき事を終えた私達。後はスレイを連れてレディレイクに帰るだけなのだが、視線が来た道ではなく目の前にいる魚男に向いてしまう。憑魔でもなければ天族でもない不思議な存在、何処となく聖堂で出会った木の妖精に似ている。

 

「ライラ様、もしかするとコレは魚の妖精なのかもしれません!」

 

「まぁ、魚の妖精ですか!」

 

「待て、ライラ、アリーシャ!妖精と言うのはもっとこう、小さい感じの生き物で如何にも魚の様な見た目をしてい、いた、いた。ちょ、痛い!」

 

「ミクリオ様、ダメです。妖精さんをバカにしては!」

 

 妖精さんが怒っているではありませんか。怒る妖精さんの拳をなんとか抑えてもらい、ミクリオ様は謝った。

 

「ミクリオさん、魚男さんに関しては気になる事は沢山あります。ですが、瓶に入っている氷が水になり穢れる前にレディレイクに持っていかなければなりません。それにスレイさんのことも」

 

「っ……仕方ない」

 

「スレイは私が」

 

「いや、僕が背負うよ」

 

 気絶してしまったスレイを背負おうとすると、ミクリオ様が背負った。やれやれと言った顔をしているミクリオ様だが、何処か手馴れており微笑ましかった。

 

「スレイは、大丈夫なのだろうか……」

 

 それほどまでの一撃ではなかったが、かなりビクンビクンしていた。

 

「ミクリオさんが陪神となった為に、スレイさんと言う器に負荷が掛かりました。恐らく、それと魚男の拳が重なったのかと……御安心ください、数日眠れば元通りです」

 

「そうですか。よかった……ん?」

 

 ホッと一息したのも束の間、妖精さんに肩を叩かれる。

 なんだと振り向くと妖精さんは楽器を……魚の骨で出来たギターを手に持っていた。

 

「そうか、妖精さんが鳴らしていたのか」

 

 妖精さんがポロロンと軽く音を鳴らすと、先程聞こえた音と同じ音が聞こえた。

 改めて聞くとその音色はとても心地の良く、妖精さんの姿も相まって海を連想させた。

 

「御礼に弾いてくれるのは嬉しい……だが、私達は先を急がないといけない」

 

 ギターの調節をしているところ、本当に申し訳ない。きっと素晴らしい曲なのだろうが、今はレディレイクにこの氷を持っていかなければならない。妖精さんに謝り遺跡の入口に戻ろうと振り向くのだが、回り込まれる。

 

「どうしても聞けと言うのか」

 

「まぁまぁ、よろしいじゃありませんか。氷が溶けてなくなっても奥の方に行って滝の水を汲めば良いですし」

 

 曲を聞かないと此処を通してくれないと座るお二方。

 不謹慎かもしれないが、私は妖精さんがどの様な曲を弾くのか気になっており、聞けるのはとても嬉しい。お二方の様に座ると妖精さんは頷き、ギターを弾き始める。

 

「ん?リズムや速度以外、全て一緒じゃない、これは!?」

 

「な、なんですのこれは!?」

 

「鳥の翼が、背に!!」

 

 妖精さんの音楽を聴いていると、私達の背中から鳥の翼がはえる。

 

「おい、いったいなに、うぉ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「いったい、なにを!?」

 

 妖精さんの音楽で翼がはえたと立ち上がると、翼が私達を包み込む。

 これはいったいなんなんだと槍を出そうとするが上手く出せず、暗闇に閉じ込められた……と思えば一瞬で光が宿る。

 

「此処は……」

 

「ア、アリーシャ姫!?それに、つい最近剣を抜いたという導師!?」

 

「お前は……何故、此処にいる?」

 

「いえ、此処は自分の仕事場です!アリーシャ姫が何処からともなく現れたのですよ」

 

「なに?」

 

 気付けば何時もゴンベエと揉めたりしているレディレイクの入口で門番をしている衛兵がいた。

 どうして此処にと驚くが向こうが逆に驚いており、辺りを見渡してみるとレディレイクにいた。

 

「ガラハド遺跡に向かったと聞きましたが……」

 

「あ、ああ……確かについさっきまでガラハド遺跡にいた……」

 

 物凄く遠いわけではないが、それでも距離はあるガラハド遺跡。

 あの視界を奪われた一瞬ではどう考えてもレディレイクに辿り着く事は出来ないのに、今こうしてレディレイクの入口にいる。

 

「そうだ、妖精さん!」

 

「妖精?変な魚みたいのなら、先程湖に飛び込みましたが……」

 

「湖か……もしまた見掛けたのなら、教えてくれ」

 

 追い掛ける事が出来ないと分かり、落ち込む。

 

「あの魚男、いったいなにをしたかったんだ?」

 

「分かりません……ですが、聖堂の木の憑魔と思わしき方と今回の魚の憑魔と思わしき方は繋がりがあるのだと思います」

 

「違います、アレは木の妖精と魚の妖精です。木の妖精は私に武器を、魚の妖精は水の神依に必要な神器、器に必要な水、更にはここまで運んでくれました」

 

「運ばれたのか、僕等は……」

 

「ですが、アリーシャさんの言うとおり助けてくださりましたね……いったい、何者なのでしょうか?」

 

「この湖に飛び込んだそうです。スレイを寝かせた後、探してみませんか?」

 

「そうだ、スレイだ。アリーシャ、今すぐに宿に!」

 

 魚の妖精さんの事は一先ず置いて、スレイを寝かせに宿へと向かう。

 怪我ではなく疲労や負荷による昏睡だったので、暫くすれば起きるようで湖に飛び込んだ妖精さんを探してみるも、何一つ見つかることはなかった。





アリーシャの術技

魔神剣・焔

説明

通常の魔神剣に炎の追撃を加えた魔神剣・双牙

ゴンベエの称号

妖精さん

説明

冗談半分で言ったらアリーシャ、マジで信じてしまった。
妖精と言うかそういう感じの生き物であり、ドワーフとかエルフとかに近い。
「妖精っつーか、妖精が導く勇者なんだけどな」byゴンベエ


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命がけのトリック

「あ~疲れた」

 

 自分で手伝わないとか傍観主義に徹してる馬鹿はオレである。

 結果的にはスレイがパワーアップしたから良いものの、傍観主義に徹したいよ。でも、魔王が居るんだよな。

 

「本当、なにやってんだろ。どうせ放置してもハッピーエンドで良い感じに終わる話……だよな?なんかベルセリアがどうのこうのとか書いてたけど、続編があってまた災禍の顕主登場とか世界の真実的なのねえよな?そんなんしたら、炎上もんだぞ」

 

 あの後、水中で大翼の歌を弾いて、家へと帰ったオレは布団に引きこもる。

 何時もの様にコーラを売っておけば良かったのに、スレイのレベルが8ぐらいの時に幹部とかの負けイベント発生するかもと調子こいてついてったんだ。別にスレイが災禍の顕主倒さなくても良いんじゃねと思ったんだ。

 

「はぁ、本当になにやってんだろ。これじゃあナビィと変わらん……あ、雨降ってる。洗濯物入れねえと」

 

 色々と悶絶した後、雨が降ってることに気付く。

 雲の流れ的に降らないと思っていたのに、急に降りやがったな。

 

「って、うぉぁお……雨に対しての川の奔流の比率よ!」

 

 外に出ると…こう、あれだ。傘は差さないといけないけど、そこまで酷くない皮膚に当たっても痛みを感じないレベルの雨がふっていた。 

 しかし、直ぐ側にある川はおっそろしいぐらいに奔流しており、そこまで流れるかとツッコミたくなるレベルだった。

 

「流石に水車ぶっ壊されるのは嫌だからな……自然を無理矢理弄くると後々、面倒になるけども嫌な事から逃げる努力はしないと」

 

 このままだと家とか色々とぶっ壊れてしまう。

 アリーシャが不便な生活するぐらいならレディレイクに住めば良いのではと勧めてくれるが、王都なんぞに住めば税金の未払いとかがバレてしまう。脱税とか色々とやってるし、変なものを作った罪で処刑されるかもしれん。オレは時のオカリナを取り出して太陽の歌を吹いた。こう言うことをするとややこしいのだが、やっとかないと生活が危ない。

 

「取り敢えず、洗濯物を……ええーーー!」

 

 太陽の歌を吹いて、雲一つ無い爽快な青空にした……と思ったら、一瞬で雨雲が集まった。

 どんな自然現象だよと驚きながらも、オレはもう一度太陽の歌を吹いて雨雲を消して青空にする。

 

「っち、自然現象じゃねえのか」

 

 だが、また雨雲に戻ってしまう。

 如何に異世界といえども、こんなのはありえない。ビールとかシャンパンとかグミの雨ですら、普通の雨の様に降るんだから。そうなると考えられるのは憑魔になった自然を操るなにかだ。つーか、天族だな。

 

「このままだとこっちの生活がままならねえ、スレイが無理ならライラでも引っ張って来るか」

 

 自転車を取り出し、オレは川辺を下る。

 川になんかいるかどうか調べ、いなかったらレディレイクに向かって誰か引っ張る。スレイ達に恩を売っておくのは良いが、逆に恩を返さないといけなくなるのは嫌だから出来れば直ぐに終わってくれれば良い。そう思い、レディレイクに向かう目印となる橋がある所まで向かうのだが、珍しく大勢の人や王都の騎士達がいる。

 

「おい、どったんだ?」

 

「ん?ああ、コーラ売りか……見ての通りだ」

 

「いやいやいや、見てわかんないから聞いたんだ」

 

「川が奔流し、向こう側に行く橋が壊れたんだ。この辺で向こう側に渡る橋と言えばこの橋だけで、石橋作りの職人達もこの様よ」

 

 騎士はチラリと木陰にいる職人達を見る。

 蒸し暑いなと職人達は暑がっており、やる気を全くと言って見せない。

 

「いや、流石にこの川じゃ無理だ。ひのきぼうとか突っ込んだら根本からボキッといく」

 

「川の奔流を何度も何度もくらっても壊れないのが石橋だ。だったら、この奔流でも壊れない物を作れないでどうする?帝国からの支援金はちゃんと渡されているはずだ」

 

 そこそこ外道な発言をしている衛兵。職人達は無理なら無理で金を返せばいいだけなのに、税金が高くなったとかでなんかに使って返すに返せなくなったな。後、受け取ってから無理ですだと職人としての価値が落ちる。仕事が出来る様になれば、ちゃんとするんだろうな。

 

「奔流の原因はなんだ?何処かの水路ぶっ壊れたか?」

 

「いや、それが」

 

「水神様だよ」

 

「?」

 

「水神様が水を荒らしてやがるんだ。橋を壊すのを俺達はこの目で見たから確かさ」

 

「と、こんな事を言っている」

 

 木陰にいた職人のおっさんが橋を作れない理由を聞いて呆れる衛兵。

 水神様と言うことは、天族なんだろうな……穢れに呑み込まれて、エドナの兄みたいにドラゴンみたいに見えるレベルになった天族か。

 

「なにが水神様だ、仕事を放棄しおって」

 

「そう言うなら、聖剣抜いた導師を連れてきやがれってんだ」

 

「おいこら、オレを放置して喧嘩すんじゃねえ」

 

 いがみ合う衛兵と橋職人達。スレイは倒してしまったから、アリーシャを引っ張っていってもどうしようもない。ライラとミクリオに頼んでもダメっぽいだろうし、明日の生活の為に頑張るか。

 

「もうオレがどうにかするから、退いてろ」

 

「どうにかするだと?お前がか?」

 

「オレ、コレでも魔法使いなんでな」

 

 手から炎をボォオオっと出して、職人と衛兵を黙らせる。もしかしてという顔を橋職人達は浮かべるが、オレは導師でなく勇者である。

 

「はい、じゃあいくぞー」

 

 両手の指を指の間に入れて交差し、天に掲げるかの様に手を伸ばす。

 

「え~……天に輝くは万人を照らす焔。その道筋を行くは12の輝き、今その輝きの奇跡を御覧あれ。我が使いしは11番目の輝き、万人を癒す清らかなる水を入れし器を持ちし天帝の浮気相手」

 

「おい、待て。なんだその詠唱は」

 

「今こそ絶対…は無理っぽいけど、永久凍土を今此処に!!オーロラエクスキューション!!」

 

 適当な詠唱を言い、魔力を溜めて放ったのは冷気。目の前にある壊れた石橋の残骸ごと川を凍らせた。

 

「お、おお……川が瞬く間に凍りついた!!」

 

「いや……まだだ」

 

「なに?」

 

 割と手を抜いて放ったオーロラエクスキューション。

 威力的に言えば、ダイヤモンドダストと変わらず、水瓶座最強の奥義じゃない。凍らせたのは本当に極一部だけであり、川全体を凍らせたわけじゃない。

 

「っ、来たか!」

 

「す、水神だぁ!!」

 

 魚じゃなくて憑魔なら壊せるレベルの氷にヒビが入ると、竜巻が起こる。橋職人が水神だと騒いで逃げていく……て、おい、衛兵まで逃げんなよ。

 

「どうやら川の奔流の原因はお前の様だな」

 

 竜巻の中に蛇の様な憑魔がいやがる。

 アレをぶっ倒せば恐らくこの雨も川の奔流も止まる。

 

「はいじゃあ、ゼブルゥウ!!ブラストォオオオオ!!」

 

 ぶっ倒すべき相手を見つけたので、速攻でけりをつける。右手の拳に雷を纏わせて、蛇の憑魔を殴り飛ばすと当時に雷を放つ。

 

「はい、終了……雨が止んだか」

 

 憑魔を一撃で倒すと、雨が止む。それだけでなく川の奔流も弱まっていき、雨雲も消え去る。

 

「お、おい……今、竜巻に攻撃しなかったか?」

 

「もしかして、最近噂になっている導師様じゃ」

 

「ちっげーよ、最近噂になってる導師ことスレイはレディレイクで寝てる。オレはこの川の上流で暮らしているナナシノ・ゴンベエで、導師でもなんでもねえよ」

 

「だ、だけど今、雷とか氷を」

 

「使ったけど、オレは導師じゃない。名無しの権兵衛だよ。それよりも川の奔流もさっきと比べて収まったんだから、作ってくれよ」

 

「そうしたいのは山々だが……この流れではまだ橋作りは出来ない」

 

 流れがさっきよりも緩やかになっただけであり、強い激流に変わりはない川。

 橋職人達は申し訳なさそうな顔をしている。

 

「な、なぁ、もう一度、川を凍らせる事は出来ないのか?」

 

「出来なくはねえが、水圧とかで氷が砕けたり溶けたりする。根本的な所からカチンコチンに凍らせないといけねえが、水は自然の中で最も多い。

一ヶ所を凍らせてもどっか別の隙間から出て来て、その隙間をぶっ壊して大きな穴を開きやがるから……いや、待てよ?」

 

 川を凍らせている間に橋を作ると言うが、そこまで器用じゃない。

 しかし、代わりに良い案が…いやこれ、良い案なんだろうか?とにもかくにも、面白いのが浮かんだ。

 

「橋職人、ロープとかあるか?」

 

「ロープならあるけど、なにに使うんだ?」

 

「いや、ちょっとトリックに。アリバイを証明するトリックに……藁束も持ってきてくんない?」

 

「持ってくる、ちょっと待っててくれ」

 

 取り敢えずこのまま放置していると物流とかがヤバイ。

 頼むから藁束とかあってくれよと願っていると一人の男性が近付いてくる。

 

「すまない、助かったよ」

 

「ん、ああ気にすんな」

 

 お礼を言ってくるけど、オレの家が壊されない為にやっただけだ。と言うか後で洗濯物をどうにかしないといけない。後、今日の夕飯なにしようか。

 

「だが、君が居なければ元に戻ることが出来なかった。長い間導師がいなく、穢れに呑み込まれた私を助けてくれた事を本当に感謝する」

 

「……ん?」

 

「ああ、自己紹介がまだだった。私はウーノだ」

 

「え~と、お前」

 

「お~い、藁束もロープも沢山あったぞ!」

 

「あ、うん」

 

 天族かよ、お前。

 浄化した天族はオレを導師だと勘違いしているのだが、そんな暇は何処にもない。橋職人達からロープを受けとるとオレはペガサスブーツに履き替える。

 

「よーい、ドンっと!」

 

 ペガサスブーツの空を歩ける力を使い、向こう岸に渡り、向こう岸にロープで縛った杭を何本も打ち込む。

 

「よし、じゃあやるか」

 

「やるって、なにをやるんだ?」

 

「① 藁束を投げる ② 水をぶっかける ③ 凍らせるの繰り返しで向こう岸に繋ぐ。氷の橋を作って、それが溶けるまでの間に石を埋め込む……とにかく人手が必要だ!」

 

 かの有名な金田一の色んな意味で命がけのトリック。それを一時的に作っておいて、その間に橋を作らせる。

 その場しのぎにしかならないかもしれないが、やらないよりましだ。オレは藁束を投げ、バケツで川の水を掬い藁束に投げて凍らせる。

 

「……案外、頑丈だな」

 

 なんちゃって金田一のトリックなので怖く、地面にかかと落としを入れてみるも特に壊れない。

 

「おい、此処にも氷を頼む」

 

 それを見て、橋職人はやる気を出す。

 藁束を投げてバケツにいれた川の水をぶっかけてくれたのでオレは凍らせる。役割分担をし、一応の氷の橋は完成した。一応だけど。

 

「時間的にもって数日だから、それまでに何とかしろよ」

 

「ああ、助かったよ。導師様!」

 

「導師様じゃねえつってんだろ!それはレディレイクで寝てるスレイだ!」

 

 何度言わせれば気がすむ。此処にいる奴等はオレの事を導師だと勘違いしてやがる。

 

「雷とか氷を扱うのは導師だろう」

 

「でも、レディレイクに伝わっているのは浄化の炎だったような?」

 

「じゃあ、この人は……」

 

「オレか?オレは……ゆ……オレが誰だって構わねえだろ。こうして橋を直す切っ掛けは与えたんだ、後はこれをお前達が上手く活かす。困ったら導師様、導師様じゃねえ。導師様は一人しかいないんだから、お前達が頑張らないといけない。むしろ、導師様なんぞに頼るな」

 

 危うく勇者と名乗りかけたが、勇者なんて柄じゃないし面倒。

 魔王に世界の半分をくれてやると言われたら、オレは確実に寝返る男だ。世界の半分を貰ったら、アリーシャの屋敷ぐらいの大きさの家に暮らして美人なメイドを雇ってキャバクラに通いたい。もう最近、結婚とかよりも風俗で良いんじゃないかと思うようになってきた。

 

「さてと……ウーノだったっけ?さっきから何度も何度も言ってる様にオレは導師じゃない。今、導師はレディレイクにいる。レディレイクにある聖剣を引っこ抜いてお前が知ってるであろう手順で導師になった男がいるから、取り敢えずそっちの方にいかないか?」

 

「それは構わないが、君はいったい……」

 

「名無しの権兵衛だよ、ほらいくぞ」

 

 自転車に乗って颯爽と行きたいところを押していくんだ。オレ達はレディレイクに向かった。




ゴンベエの術技

オーロラエクスキューション

氷の魔法で絶対零度に近い冷気をぶつける。
詠唱の中に天帝の浮気相手と言っているが、紛れもなく浮気相手。水瓶座最強の奥義のパチもんだが、威力は強い。


ゼブル・ブラスト

絶対的な雷を拳に纏わせ、殴り飛ばすと同時に纏った雷を飛ばす魔王の咆哮。


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地の主

「ああ、なんと言うことだ」

 

「どうした?」

 

「レディレイクの穢れが、此処までとは……」

 

 ウーノを連れ、レディレイクにやって来たら項垂れるウーノ。

 レディレイクにある穢れが強いのか、心苦しんでいる。身体的な意味での苦しみはなさそうだ。

 

「そう思うなら、地の主になってくれよ」

 

「地の主……だが、人々は天族の存在を」

 

「今までの会話ちゃんと聞いてた?導師が現れたんだよ、人々が信頼しないなら何度でも天族は居るって証明を…………」

 

「どうかしたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

 前から天族はちゃんと存在していた。

 それなのに、今は居ないと思われておりスレイの存在でまた…………やっべ、深く考えないでおこう。

 

「とにかく、導師に会うぞ。オレは世界を浄化するとかそういうのしないけど、スレイはしないといけない。自分からその道を選んだからな」

 

「スレイ……それが今の導師の名前か」

 

「ああ……って、導師の事を知っているのか?」

 

「ああ、知っている……だが、大分昔の話だ。この街にいる御老人の祖父のそのまた祖父の代ぐらいに導師は確かに実在していた」

 

「導師の称号って、かなり前からあるんだな」

 

「私も詳しくは知らないが、約千年程前に導師が誕生したらしい。導師が居ない時代も何度もあり、その際には天族の信仰が……200年程前は特に酷かった。この大陸の人口が激減するほどのものだった」

 

「千年前ねぇ……」

 

 なにかある度に千年前、千年前と言う天族達。余程の事が千年前にあったんだろう。オレ達が時を越えるほどの出来事が。

 ウーノも詳しくは知らないようで、聞くことが出来ない。

 

「っ、誰だ!!……なんだゴンベエか」

 

「ゴンベエさん、なにか御用でしょうか?」

 

「あれ、アリーシャは?」

 

 スレイは宿屋で眠っているらしく、宿屋に向かうとライラとミクリオがいた。

 スレイはベッドで眠っている。ゆっくりと健やかに眠っており、放置すれば勝手に目を覚ます。

 

「アリーシャさんは、聖剣祭で起きた暴動の事後処理等を。間もなく帰ってきます」

 

「そうか」

 

「此処で待っていれば会える。ところで、君の後ろにいるそいつは?」

 

「私はウーノ、君も天族だが……見ない顔だな」

 

「なんか天族の集落に暮らしてるらしいぞ……あ、後は全部お前等に任せて良い?」

 

 ウーノを連れてきたことによりポカーンと固まっているミクリオとライラ。

 残りの細かな手続き及びウーノの事を押し付けてやろうとオレは帰ろうと振り向くと、ドアが開いた。

 

「ゴンベエ、来ていたのか」

 

「ちょっと野暮用と言うかお届け物だ」

 

「お届け物とは、私の事か?」

 

「それ以外になにがある。と言うか、オレにこれ以上どうしろってんだ?」

 

「えっと、どちら様でしょうか?」

 

「私はウーノ、何者かと言われれば……そうだな、敷いて言うならばこの地の主になる者とでも言っておこう」

 

「アリーシャさん、この御方は天族です」

 

 あ、よかった。取り敢えず連れてきただけで、地の主になってくれってさっき一度しか言ってないけどヤル気満々のウーノ。

 ライラがウーノは天族だと教えると驚き、ペコリとアリーシャは頭を下げる。

 

「も、申し訳ありません!!失礼な態度を」

 

「そこまで気にしなくてもよい。それよりも彼に地の主になってくれと頼まれたのだが、私を入れる器は無いのだろうか?」

 

「よ、よろしいのでしょうか?」

 

「ああ、構わない。つい先程まで憑魔になっていて彼が浄化してくれなければ無関係な人間を傷付けてしまうところだった。助けてくれた彼の頼みを叶えたい。この災厄の時代を……穢れに満ちた世界を終わらせる協力をさせてくれ。私が地の主になれば、この辺りは穢れを退けることが――」

 

「ちょ、ちょっと待った!!」

 

「おい、こらベラベラと喋んなよ!!」

 

「その反応……ウーノさん、ゴンベエさんが憑魔となった貴方を浄化して元に戻したのですか?」

 

 喜んで協力しようと言うウーノだが、余計な事をベラベラと喋りやがった。

 ミクリオはそれに気付き、連鎖的にライラも気付き、ライラの言葉でアリーシャも気付く。

 

「ああ、そうだが?」

 

「ッチ、余計な事を言いやがって……なんも教えねえし、答えるつもりはねえぞ。強攻手段を取るって言うならば、今すぐに此処で寝ているスレイを爆破して木っ端微塵にするからな」

 

「な、なんて大きさだ!」

 

 よくよく考えると異常な迄にデカい爆弾を取り出して、脅す。

 導火線に火はついていないが、何時でもつけようと思えばつけれる。攻撃したらドカンと一気に爆発させるとオレはスレイの真横に爆弾を置く。

 

「聖剣を引っこ抜いた者が居ると言う噂を聞きつけてどんな人物なのかと天族のウーノがやって来た……OK?」

 

「……どうしてもお話するつもりは無いのですね?」

 

「当たり前だ。つーか、話しても同じ力を手に入れられない。お兄さん、魔法使いだ」

 

 ゴゴォっと手のひらから冷気を出して見せる。

 本当は勇者だけど、それっぽく見せておいて騙しておかないと面倒くさい。

 

「……何時か君の正体を暴いてみせる!」

 

「無理だな……ウーノ、何度も言うがオレは導師でもなんでもない名無しの権兵衛だ。悪いが、浄化したんじゃなくて噂を聞き付けてやって来たと言う設定にしてくれないか?」

 

「構わないが、どうしてそんな事を?先程まで、人前で堂々と力を振る舞っていたのに何故今更力を隠す必要がある?」

 

「オレは誰かの為でなく己の私利私欲の為に動いている。オレはお前が荒らしていた川の上流に暮らしてて、あのままだと家が壊れそうだったから川を降りただけ。人前で力を使ったのも、あのままだと物流とかがおかしくなって物の値段が上がったりしそうだったからだよ。オレがあの時、いい人に見えたのならそりゃ間違いだ。オレはどっちかと言えば悪寄りの人間だよ。現にお前をスレイに押し付けに来た」

 

 興味なければ本気で見捨てる、自分と関わりなければ動かない。

 そう言う感じの人間であり、それを悪と言うのならばオレは悪人だろうな。けど、それのなにが悪い?家の近所で事故があった、通り魔が出た、火事が起きたとニュースになれば親近感が沸いてくるが、三つぐらい隣の県でスピード違反の事故があったと、無免許の学生が運転してたと言われてもバカじゃねえかで終わる。遠くの薔薇よりも近くの蒲公英、遠すぎたり高すぎたりすると興味は失せる。

 

「ゴンベエは、そんな悪い人間じゃない……ウーノ様、ゴンベエは私に」

 

「よい……少なくとも、私は彼に救われた。その事実は変わらない。導師への挨拶は導師が目覚めてからで、その前に地の主になっておこう。此処等一帯は穢れに満ちている、私を入れる器も何時穢れるか分かるまい」

 

 アリーシャはオレを弁明しようとするが、ウーノはそこまで気にしていない。それよりもと地の主になろうと必死になっている。

 

「あ、そう言えばウーノを入れる器ってなんだ?」

 

「ああ、ガラハド遺跡から涌き出る清らかな水を凍らせた物だ」

 

 あくまでも知らない面でいないといけないから、面倒だ。ミクリオが氷を取り出してウーノへと見せる。

 

「これならば、私の器になる。しかし、この器を祀る者がいなければ」

 

「それについては、問題ありません……ゴンベエもついてきてくれないか?ブルーノ司祭に会ってほしいんだ」

 

「まぁ、連れてきたのはオレだし危険な目には遭わなそうだから良いぞ」

 

「一言多いですよ、ゴンベエさん」

 

「多くてなにが悪い?痛いのは嫌なんだよ」

 

 ミクリオはスレイが心配なのでと残り、氷と言うかウーノが宿る予定の清水を祀る司祭に会いに教会に向かう。

 しかし、教会には司祭はおらず何処だろうと探してみると見つかった。

 

「この土地を守護せし天族よ、どうか彼の者の願いを聞き届けたまえ」

 

 街のおばさんの為に祈りを捧げているブルーノ司祭。ウーノは熱心な人間だと感心するのだが、おばさんが賄賂をブルーノ司祭に渡すのを見て固まる。ブルーノ司祭は全力で拒むが、受け取って貰わないとおばさんの方がヤバイらしく、仕方なく受け取った。

 

「はぁ……酒でも買うか」

 

「ブルーノ司祭!!」

 

「ア、アリーシャ姫!それに貴方は!」

 

「隠さなくても良いのです……」

 

 アリーシャとオレが出たことにより、金を隠すブルーノ司祭。

 やましいことに使うつもりはないが、見られたくないのは確かで申し訳なさそうな顔をするがアリーシャはそんな事では怒らない。

 

「おっさん、安心しろ。そう言う感じの罪悪感から一気に解放される手段を導師が体張って持ってきたから」

 

「導師、ですか?」

 

「そうです、実はですね……カクカクシカジカ…………と言うことなのです」

 

「な、成る程」

 

「おっさん、イマイチ分かってねえな。もうざっくり言えば新しい天族がこの街に住み着くから、今度からはそいつに祈り捧げとけ。司祭のお前を中心に管理とかしとけばモノホンの加護とか宿る」

 

 アリーシャは地の主のシステムを語るがイマイチ理解できていないブルーノ司祭。

 そんなブルーノ司祭をウーノはガン見している。

 

「どうやら我等の存在を認識していないようだな」

 

「おっさん、アリーシャ、メガネチェンジ」

 

「あ、そうか!その手があったか」

 

「メガネですか?これは私用に作ったもので度が、そう言えばアリーシャ姫は視力が悪かった、コレは!?」

 

「どうも、はじめまして!」

 

「む……今度は我等を認識している。そのメガネの力か?」

 

 見えないものよりも見える物の方が信頼しやすい。

 アリーシャとおっさんのメガネをチェンジし、ウーノとライラを見えるようにする。

 

「もしや、貴女は湖の乙女!?」

 

「はい、私が湖の乙女です。ブルーノ司祭、此方のウーノさんを祀る清水をこれから管理していただけますか?」

 

「は、はい!私に管理しきれるかは不明ですが、精一杯頑張ります!!どうか、末永くよろしくお願いします、ウーノ様!」

 

「うむ……分かっていると思うが、しっかりと祀れ。サボるなとは言わないが、もし我々への信仰を無くす真似をしたのならばこの地に加護は与えん」

 

「ははぁ!!精一杯、頑張ります!」

 

「……」

 

 天族の加護領域とやらは、人々の信仰が強ければ強いほど力を増す。

 互いに共存しあわないといけないが、この状態は共存でなく依存に見えてしまう。 

 しかしまぁ、そう言う感じの世界なんだろうな。現にアリーシャもライラもウーノもブルーノ司祭も疑問を持たない。そうであるのが当然だと思っている。

 

「おーい!」

 

「スレイ!」

 

 教会に戻り、氷をライラが溶かすとスレイがやって来た。

 後ろにいるミクリオは心配しており、寝起きのようだな。

 

「ミクリオから色々と聞いたよ……えっと、ウーノだっけ?」

 

「お前が此度の導師スレイか」

 

「あ、はい……まだまだ未熟な導師だけど、よろしくお願いします」

 

「やれやれ、自分で堂々と未熟と言うか……期待には答えてもらうぞ」

 

「はい!」

 

 スレイを見て、これならば問題ないなと頷くウーノ。

 光る玉になって水の中に入ると自ら青い光が放たれて波紋の様に広がっていく。

 

「何故だろう……今、胸の中がスゥっとした感覚が」

 

「それはウーノさんの加護が働いたからです」

 

「そうか?大して変わってない気もするが……おっさん、大事に祀っておけよ」

 

「はい。あ、アリーシャ様。此方のメガネをお返しいたします」

 

「ああ。すまない、本当ならこのメガネを譲りたいのだが」

 

「アリーシャ、メガネ無しでもライラの事を認識してない!?」

 

「は、そう言えば!?」

 

「ミクリオさんが陪神となったことにより、スレイさんの力が増して従士のアリーシャさんの霊応力も増し、見えるようになったのです」

 

 ウーノが地の主になると同時に色々と発覚する。

 スレイがパワーアップしたお陰で、アリーシャは肉眼で天族が見えるようになった。

 チラリとオレの方を見るので、オレは手を交差して×の字を作りダメだといった。肉眼で見えるなら、見えないウーノに譲ろうと考えているだろうが、誰かに渡してしまえば確実にややこしくなる。アリーシャだから渡したんだ。祭り騒ぎになるが直ぐにライラは加護の力を増す方法をアリーシャから眼鏡を借りたブルーノ司祭に教える。

 

「成る程、助言、誠に感謝いたします」

 

「やれやれ、予想以上に手間がかかるんだね」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「加護領域をしたのは良いが、強い穢れを感じる。そう、あっちの方に」

 

 ウーノは眉間に皺を寄せ、王宮がある方を指差す。

 

「あ~それ、アレだ。上流階級のドロッとした感じのやつだ……その辺は浄化がどうこうじゃなくて情勢をどうにかしないといけない。無理に浄化しても根本的な部分を解決出来ないと繰り返して憑魔になる可能性がある」

 

「む、ならば、これ以上の干渉は止しておこう。あくまでもそれは人間の問題である、と。憑魔化したのならばスレイ、君が浄化をしてくれ」

 

「うん、分かった」

 

「すまないな、スレイ。君は穢れを浄化して災厄の時代を終わらせる導師。穢れの原因は恐らく、上層部のいがみ合いや憎みあい……本当はあってはならぬものだと言うのに」

 

 穢れの原因に心当たりがありまくるアリーシャは申し訳ない顔をする。大方隣の国に戦争しろと戦争推進派のトップとか税金上げて私腹肥やしている馬鹿だろ、どーせ。そう言うのは無理に干渉せずに災厄の時代に起きてる災害とかの原因である穢れ浄化して間接的に干渉しとけばいい。

 

「それともう一つ、加護が働かない場所がある」

 

「加護領域の大きさにも限界があるんじゃないの?」

 

「ジイジの加護領域も現に此処まで届いていない。信仰も特にされていないし、これから」

 

「いや、そうではない……穢れと違う謎の結界が私の加護を通さず拒んでいる」

 

「謎の結界?」

 

 そんなもんがこの街にあるとは驚き、いや、ライラとか祀られてたし、水車を利用している街だから変なもんがあってもおかしくないか。

 

「謎の結界、それって何処にあるの?」

 

「このレディレイクがある湖の奥深くにある。清水を氷にしたと言う事はミクリオ、君は水の天族なのだろう。スレイ達を連れて奥深くを調査してくれまいか?」

 

「すまない。調査をするのはいいが……僕はそういった事が出来ない」

 

「空気の膜を作り水中でも呼吸を可能とする術だが、出来ないのか?」

 

「攻撃系の天響術は使えるが、そう言った補助系の術は余り……ライラはなにか知らないのか?」

 

 レディレイクがある湖の奥深くとなれば、恐らくこの地に最も長くいるライラが知っているはずだな。全員がライラをみると、ライラは困った顔をする。

 

「知ってはいますが……その」

 

「もしかして喋れないの?」

 

「いえ、そうではありません。なにも知らないのです。過去に何名か地の主を勤めてくださった天族の方々がいます。その度に、加護領域が働かないところがあると言うのです。数代前の導師は水の天族を連れ、調査に向かいましたが拒まれてしまい……幸い、私達を害するものではないと言うことでずっと放置しています」

 

「害するものじゃないって、そこだけピンポイントでウーノの加護領域を拒んでんだろ?」

 

「はい。申し訳ありません、私は火の天族でして水関係ですと力になれないのです」

 

「お前、湖の乙女だろ……」

 

 常々疑問に思っていたが、そこは普通は水属性じゃねえのか?

 湖なんだから水属性で聖なる水で浄化するとかそんな感じじゃねえの?何故に浄化の炎なんだよ。

 

「しかし、ライラの言う通り特に害意は感じない。ただ純粋に拒んでいるだけで、その中から強い穢れも感じない……と言うよりは小さいな」

 

「小さいとは、結界の事でしょうか?」

 

「うむ……形は上手く分からないが、そうだな。彼処にある台座ぐらいの大きさの結界で、本当に小さい」

 

 アリーシャの質問に答えるべく、ウーノは聖剣が刺さっていた台座を指差す。

 アレぐらいの大きさだとするならば、もしかしたらスレイがパワーアップするための武器が埋まってるんじゃないのか?少なくともスレイの武器は儀礼剣で、殺傷能力とか低い。スレイが火水風土の天族を従えたら抜けるとか、そんな感じじゃないのか?

 

「ライラ、ミクリオがこの短期間で一気にパワーアップする方法はあるか?」

 

「あるにはありますが、しかし」

 

「なら、決まりだろ。此処の事は一先ず置いて、ミクリオがパワーアップして水中を呼吸出来る術を覚えてから調査すればいい。少なくとも、それに害意はないんだから後回しにしとけ……ライラの話が確かなら、今までもなにもおかしな事がなかったんだ」

 

 ウーノを連れ、レディレイクに加護を与えた。ミクリオ達は誤魔化してくれたし、これ以上はなにもすることはない。

 急いで家に帰って洗濯物とか夕飯の準備をしねえと。食って帰るって手もありだが、この世界の飯って色々と値段がおかしいんだよな。なんだ、冷奴が3000ガルドって、舐めてんのか。

 

「……ん?」

 

 スレイ達が見知らぬ男と話している。

 男は招待状らしきものをスレイに渡しているが、アリーシャが身構えている。

 

「私腹肥やす馬鹿か、戦争推進派で戦わない馬鹿か、覇権を欲しがる王族か……まぁ、なんとかなるだろう」

 

 スレイを勧誘して政治の道具にしようとしているのだろうが、興味ないのでオレは家に帰った。




スキット もう一つのパワーアップ?

スレイ「う~ん」

アリーシャ「どうした、スレイ?」

スレイ「やっぱり気になるんだ。レディレイクの湖の底になにがあるのか」

ミクリオ「それは後回しだ」

ライラ「ミクリオさんの言う通りです。今は各地の穢れを浄化しなければいけません」

アリーシャ「ライラ様、私はこの街で育ちましたが、湖の奥底にそんなものがあるとは……私も気になります」

ミクリオ「アリーシャ、君もか……僕が水中でも呼吸出来る天響術を覚えたら、直ぐに歩かせる!それまで辛抱してくれ」

アリーシャ「一緒についてきてくださらないのですか?」

ライラ「水中なので私は戦えませんがもし憑魔が出れば、ミクリオさんの水の力が頼りですよ」

スレイ「え~っと、そのミクリオは」

ミクリオ「スレイ!!」

スレイ「ダメだって、ちゃんと泳げないって言わないと!」

ライラ「まぁ、泳げないのですか!?私、火の天族ですが一応は泳げますよ!!」

ミクリオ「スレイ、どうして言うんだ!」

スレイ「ご、ごめん」

アリーシャ「ミクリオ様、泳げないのですか?」

ミクリオ「ああ、そうだ。僕は泳げない!と言うよりは、泳ぐ必要はないだろう。僕達は今までジイジの加護領域で育ってきて、ジイジの加護領域には海がないんだから」

スレイ「でもこれから先、海辺の街にいって蛸とかの憑魔と出会ったら、水中で戦わないといけないかもしれないし」

ライラ「そうなると、私の炎が……」

アリーシャ「ミクリオ様、こうなれば特訓あるのみです!!安心してください、騎士は鎧を来た状態でも泳げる様に訓練されています!!」

ミクリオ「ま、待てアリーシャ!」

アリーシャ「問答無用!!此処は心を鬼にさせていただきます!!」

ミクリオ「うわぁああああああ!!」

スレイ「……いっちゃったな」

ライラ「いっちゃいましたね。ところで、スレイさんは泳げるのですか?」

スレイ「うん、水辺で遊んでたら泳げるようになったよ……ミクリオ大丈夫かな?」

ライラ「……ミクリオさんがパワーアップするための試練を挑む前の予備試練と思えばよろしいかと」

スレイ「今気づいたんだけど、水中で呼吸出来るようになったら泳ぐ必要ないんじゃ」

ライラ「あ…………て、天響術ばかり頼っていては体が怠けます!!陪神も心身共に鍛えなくてはいけません!」


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無償の……

「ずーだらら、ずーだらら、お!」

 

家に帰った次の日、炭酸水が出来たので今日も今日とてコーラを売りに行こうと川を下っているとアリーシャを石橋で見かける。

 

「遂に穢れを浄化する旅に出たか」

 

「ああ、この方です!」

 

「あ?」

 

別れの挨拶ぐらいはしてやろうと近付くと、橋職人の一人がオレを指差す。

アリーシャが振り向くとやっぱりかと言う顔をしていた。

 

「やはり、ゴンベエだったか」

 

「なにがだ?つーか、スレイは?」

 

「スレイは今ここにはいない。

それよりも問題はマーリンドとレディレイクを繋ぐこの石橋だ」

 

「石橋って、一時的な補強はしてやったぞ。

少なくとも、数日間はどうにかなるからその間に土台だけ作っておけば」

 

「その補強が壊れたんだ!」

 

「んだと?」

 

金田一と違って雪を使っていないが、ヘビィブーツで飛び跳ねてもヒビ一つ入らないぐらいの氷橋にしたはずだ。

橋職人のおっさんに連れられ石橋に向かうと、橋は壊れていた。

 

「あの後、土台を作ってたんだが急にカラスが襲ってきたんだ!」

 

「いや、カラスがぶっ壊せるレベルじゃねえだろう」

 

「魔法使いの兄ちゃん、もういっぺん橋を凍らせてくんねえか?

導師様、どっか行っちまったし頼れるのは魔法使いの兄ちゃんだけなんだ」

 

「別にそれぐらいは構わない……つーか、スレイは何処だ?」

 

「ゴンベエ……話がある」

 

橋職人の話が確かならば、ついさっきまでスレイはいた。

アリーシャがいるのが一番の証拠だが、本当に何処にいやがる?

 

「ここじゃダメなやつか」

 

人気のない木陰で話をしたがるアリーシャ。

オレの言葉にコクりと頷いたので、余程の事かとオレは耳を貸すことにした。

 

「実は、ゴンベエが帰った後…………」

 

聞けばバルトロ大臣という偉いさんから食事の御誘いがあったスレイ。

確実に裏があるのと善人ではないから行かない方が良いと薦めたが、穢れが気になるしと向かってバルトロ大臣の元に向かった。その後はテンプレと言うべきか、スレイをインチキ扱いしており、政治でアリーシャが有利になるために動いていると思っており、此方側に来ればそれなりの待遇をするという何処の魔王だと言うべき展開になった。

勿論、スレイは断ったがその後に暴動が起きて、風の骨と呼ばれる暗殺ギルドに助けられてどうにか屋敷を抜け出した。

 

「おーおー、逃げて帰って正解だったな」

 

「っ、ゴンベエ!!」

 

「喧しい。忠告を受けていたのに向かったスレイが悪い。

つーか、レディレイクじゃなくても天族なんか導師なんか存在しない!!って思っている町や村はあるだろう。

そう言う奴等にインチキでなくて本物なんですっていって巡業するのも導師の役目だろう」

 

日本じゃあんま聞かないけど宗教の人達、全員そうやってるはずだ。

神の子も目覚めた人も一回、言葉にして話し合っていて一人一人に信じてもらったりしているんだ。

 

「それで、その後は?」

 

「私は疫病が蔓延っているマーリンドに派遣される事になって、スレイもついてきてくれることに。

だが、ゴンベエの作った氷の橋は鳥型の憑魔に壊されていて、スレイと従士の私はミクリオ様の力があれば向こう岸に渡れるのだが……」

 

「他の奴等は渡れないし、ほっとけないってか。

けど、どうすんだ?確か天族とかには五つの属性があって、ライラは炎で、ミクリオは水。

ミクリオが川の流れを緩やかにするならこの場にお前は居ないだろうし……」

 

「地の天族の力を借りて、石橋の土台を作ることにしたんだ」

 

「……この辺に天族って、居たっけ?」

 

アリーシャもこの場でちんたらしていられねえ。

街に向かわないといけないから、地の天族を連れてくるにしても短期間の間だ。

 

「スレイ達は……レイフォルクに向かった」

 

「成る程、エドナか」

 

協力してもらえるかどうかは別として、此処から近い場所にあるレイフォルクには天族が、エドナがいる。

ライラとの知り合いみたいだし、エドナが話題に出ると言うことは地の天族だろう。だが

 

「あそこ、ドラゴンいるはずだろう。止めなかったのか?」

 

ドラゴン化したエドナ兄があの山にはいる。

山から降りてこないし、エドナがやめろと言っているから斬ってねえぞ。

山から降りて逃げさえすれば、追いかけてくることは絶対にないが……エドナ絡みだとヤバイな。

 

「私も彼処にいるマーリンドに薬を届けようとしているネイフト殿も危険だと言ったのだが……天遺見聞録に載っていないから大丈夫と、自分よりもエドナ様の方が危険だと」

 

そー言えば、あいつよく生き残ってるよな。

エドナの兄は襲わないとしても、あの辺は穢れまくっている。

いったい何時からドラゴン化しているかはしらねえが、少なくともこの一年の間はドラゴンのままだ。

ウーノみたいに憑魔にならないとは物凄いな。見た目は威厳とかないただのロリBBAなのに。

 

「カッコつけて、アホだな。

だがまぁ、コレから先、様々な困難や試練がスレイを待ち受けている。死地に活路ありなとこもあるだろう」

 

何だかんだで主人公だから、帰ってくるだろう。

 

「スレイは自分の意思で選んだんだから、後は知らねえ」

 

「だが」

 

「オレは何時も通りコーラを売りにいく」

 

「待ってくれ!」

 

約一年ぐらい会わなくなるかもしれないがじゃあなと別れようとすると台車を掴むアリーシャ。

 

「オレにこれ以上どうしろってんだ!」

 

「違う、そうじゃない。ゴンベエも狙われているんだ!」

 

「?」

 

「バルトロ大臣はスレイを奴と同じく偽の導師だと言っていた……その奴は恐らく、ゴンベエのことだ」

 

オレ、散々導師じゃねえって言い続けたんだけどな。

アリーシャとあのオバハンの前でしか戦っていねえし、魔法とかもこの橋を凍らせる際にしか使ってねえしなんでそうなるんだ。

 

「スレイで無理ならゴンベエを……もし、ゴンベエが政治の道具にされたら」

 

「まぁ、面倒だな…………ッチ、しゃあねえ。脱ひきこもりするか」

 

「え?」

 

「バルトロがどんな奴かは知らねえが、大臣なんだろ?おいそれと、首都を出てお忍びなんて早々に出来ない。だったら、アリーシャがいるマーリンドでコーラを売ったらいいだけだ」

 

あんまり、他の街に行きたくないんだよな。

国の首都が水力を利用している街だとすると、他の街がどんなのか想像が出来ない。

病気とかも怖い。薬草を煎じての世界で、抗生物質の概念がまだないんだよな。

 

「ゴンベエ……」

 

「取り敢えず、スレイの様子を見てくる。自転車置いてくから、コーラを盗まれない様に頼む」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

アリーシャは真名の通り、綺麗な笑顔になりオレから自転車を受けとる。

そしてオレはそのままレイフォルクに向かって走っていった……かの様に見せた。

どうせスレイが帰ってくんだろうから、下山した際に合流したかの様に鉢合えばいい。

 

「え~っと……今回はコレでいくか」

 

氷の橋でどうにか出来ると思っていたが、そこまで上手くいかなかった。

しかし地の天族で土台を作ると言う方法があるのならば、スレイには悪いが利用させて貰う。

 

「ぐ、ぬぅ、おおおおおおおおおお!!……!」

 

ゴロンの仮面を取り付け、オレはゴロンリンクに変身する。

はじめての変身なので無駄に長い喘ぎ声を出さないといけないのが難点だが、思ったよりも悪くはない。

だが、相変わらずの如く言葉は出せない。

 

「!」

 

丸くなり、来た道を逆走ならぬ逆回転する。

目が回ると思ったが、そこまで回らない。それと何故かは知らないが今どのへんを転がっているのか位置が分かる。

どこ転がっているのか分からないんじゃと思っていたが、よかった。

 

「た、大変だ!!岩が転がってきた!!」

 

ゆっくりと転がるオレを見かけた橋職人が叫ぶ。

ガヤガヤと声が聞こえ、避けようと逃げはじめるのでオレは止まる。

 

「と、止まった?」

 

「みたいだ……これ、よくよく見れば岩じゃないぞ」

 

オレが止まり一安心し、冷静になる職人達。

岩じゃない事に気づき、近寄ってくるのでオレは立ち上がった。

 

「ひぃい、ば、化物!?」

 

「水神様に続いて、今度は山神様か!?橋を作るなってことなのか!?」

 

この見た目だと、恐れ後退る橋職人達。

お前等には興味ない。オレは石橋に向かって歩き出すと、薬をマーリンドに届けないといけない爺さんことネイフトが立ち塞がる。

 

「お、お待ちください!!どうか、どうかこの石橋を壊さないでくだされ!!」

 

「……」

 

冷や汗をかきながらもオレに頼み込むネイフト。

足は震えているが、目はオレをちゃんと見ており覚悟を決めている。

しかし、そんな覚悟は必要ない。そう言う感じの事はしにきていない。

 

「なにかあ、憑魔!?」

 

騒ぎを聞きつけ、自転車をどっかに置きにいったアリーシャは戻ってきた。

オレの事を見ると憑魔だと驚いて槍を構える。

 

「全員、下がれ!!あれは穢れが生み出した……?」

 

槍を構えたアリーシャは橋職人を避難誘導させながらオレを睨む。

かと思いきや視線は上の方を向いている。

 

「その帽子は……」

 

ゴロンリンクになった際に被った覚えは無いのに被っていた帽子を見るアリーシャ。

ゾーラリンクの時は無かったがデクナッツリンクの時は被っており、それをアリーシャは覚えていた。

覚えていたのならばちょうど良い。この姿だと武器をちゃんと使って戦えない。

 

「この帽子……」

 

オレは帽子を差し出すと、アリーシャは受け取って観察する。

その間、橋職人達は岩や木々の影に隠れておりコッソリと此方を覗いている。

 

「木の妖精や魚の妖精さんとお知り合いですか!!」

 

木の妖精はまだしも魚の妖精とはなんぞやと思うが一先ずは頷く。

 

「レイフォルクから来たから、山の妖精さん!」

 

「……」

 

もうそれで良いです、はい。

アリーシャの言葉に適当に相槌をうち、オレは石橋に向かって歩く。

 

「あれは、災厄の化物では無いのですか?」

 

「いえ、違います。アレは恐らく山の妖精です」

 

「妖精……随分と大きい妖精ですなぁ」

 

「ええ……ですが、此処に来るまでに私は木の妖精と魚の妖精に出会い、そのお二方は力を貸してくれました」

 

「では、今回も?」

 

「はい、力を貸してくれるはずです」

 

唯一隠れていないネイフトに山の妖精だと話すアリーシャ。

一応の警戒心は解いてくれたが、疑心暗鬼なネイフト……及び橋職人達。

この姿ならば別に見られていても構わねえが、アリーシャ達と暫くは一緒にいる可能性があるなら、何れはバレる。

 

「あれは……コンガですな」

 

「魚の妖精さんはギターを持っていて、不思議な力を持っていました。恐らく山の妖精さんも」

 

「成る程、音楽になぞ……ち……Zzzzz」

 

「ネイフト殿!?こんな所で眠っては風邪をひいてしまいます!!」

 

いや、気にするところはそこじゃねえだろう。

オカリナもといコンガを出し、ゴロンのララバイを奏でるとネイフトや隠れている橋職人達は眠りについた。

が、何故かアリーシャだけは眠っていない。オレの槍が原因か、それともスレイと従士契約を結んでいるのかどっちかは原因で効果が無い。

 

「いったいなにを……」

 

アリーシャに効果が無いのならば、それはそれで構わない。

オレは袋からサンドロッドを取り出して、石橋に向かって振ると川底から岩や砂の塊が盛り上がった。

 

「これは、石橋の基礎となる土台?」

 

石橋の基礎となる土台はコレで完成した筈だろう。そう思いたい。

アリーシャがまじまじと石橋の土台を見ているので、今がチャンス。

 

「え、きゃあ!?」

 

川に飛び込んで逃げる。

ゴロンリンクは重いので、息を止めている極僅かの時間で仮面を取ってゾーラリンクに入れ替え。

石橋の土台となる岩や砂の塊に問題ないか確認した後に川の流れに逆らい上流を目指し、ある程度泳いだら抜け出る。

 

「くっそ、RTAやってるんじゃねえんだぞ!!」

 

とにもかくにも時間が無いと、後で考えればなんでこんな事をしてんだとオレは思ったが今は焦る。

素早く移動できる様になるスマブラでもお馴染みのウサミミを装着し、全速力でレイフォルクへとかける。

 

「あ、ゴンベエ!」

 

「割と近くにいたぁああああ!!」

 

「あんた、喧しいわよ」

 

「後、エドナもいたか!……ふぅ」

 

もうすぐレイフォルクだなと思えるぐらいまで走るとスレイ御一行に遭遇する。

正確に言えばスレイとミクリオとライラ……そしてエドナと遭遇した。

 

「久しぶりの再会なのに、もっと喜び崇めなさいよ」

 

「なんで、そんなことしねえといけねえんだ」

 

「えっと」

 

「ゴンベエさんは前にアリーシャさんと一緒にレイフォルクに行ったらしいんです。その際にエドナさんと」

 

「そうなんだ」

 

オレとエドナが知り合いな事に困惑しているスレイに説明するライラ。

直ぐに納得するのは良いが、アリーシャはその辺の事を説明……いや、磁石の事もあるからダメか。

 

「スレイ、ゴンベエにあの事を」

 

「バルトロ大臣の事だろ?大体は聞いている。

オレを庇ってくれるアリーシャが暫くはレディレイクにいないのならば、オレも厄介者だろう。

暫くはマーリンドの方で物を売っておくことにして……地の天族の力が必要だからレイフォルクに向かったって聞いて追いかけてきたんだが……よく、動く気になったな」

 

昨日今日でエドナの兄はドラゴンになったわけじゃない。

最低でも一年以上はドラゴンになっているのに、危険だと分かっているのにレイフォルクから離れないエドナ。

今更危険だぞと言われても兄と共に死ぬならばとか言いそうだし、よく連れて来れたな。

 

「あら、私がタダで動くとでも?そこの天族の坊やに一年間お菓子を献上させる契約よ」

 

「坊やって、僕のことか!?確かに坊やだがって、違うだろ。そんな約束をした覚えはない」

 

「ドラゴンになったエドナのお兄さんを元に戻す方法を見つける。それを条件に来てもらったんだ」

 

「因みに今言ったのも条件に追加ね」

 

どんまい、ミクリオ。

スレイはありふれた事を言ってエドナを連れてきたのかよ、主人公力高いな。

 

「まぁ、取り敢えずくたばってねえならちゃっちゃと帰るぞ。

わざわざ足が早くなるウサミミ使ってまで走ってきたのに、骨折り損じゃねえか」

 

ウサミミを外し、スレイ達と歩幅を合わせて歩く。

それっぽい感じの台詞を言って、骨折り損感を出しておけば騙せるはずだ。

 

「お~い、ってあれ皆、眠ってる?」

 

「スレイ、無事だったか。よかった」

 

「オレ、全力で向かったけど骨折り損だったぞ」

 

スレイの帰還でホッとするアリーシャ。

エドナを見つけるとペコリと頭を下げて、御挨拶をしエドナは軽くおちょくるが軽くなので本気ではない。

 

「んだ、こりゃあ?

さっきまでどうしようって困ってたりサボってたりしていた橋職人、全員、寝ちまってるじゃねえか。

アレか?川の流れは変わらないからこれ以上はどうしようもないしスレイもなにもしないし、諦めたってか?」

 

「導師だけに、ですわね」

 

今、一応は真面目な会話をしている所だからそう言うのやめてくんない?

眠らせた張本人だが知らぬ存ぜぬふりをし、寝ている奴等を見渡す。

 

「実は、ゴンベエがスレイを追ってレイフォルクに行って直ぐに山の妖精さんが現れた」

 

「今度は山の妖精さん!?」

 

「なに、それ?」

 

「ああ、エドナは知らないんだったっけ。

実は憑魔でもなんでもない、俺みたいに天族が見える人間じゃなくても普通に見える妖精と何度か出会ったんだ。

ライラがいたレディレイクの教会では木の妖精、ガラハド遺跡には魚の妖精がいて……山の妖精もいたんだ」

 

「ふーん」

 

適当に聞き流しながら、お前だろうとオレを睨むエドナ。

 

「見ろ、スレイ!石橋の土台が出来ている」

 

「あ、本当だ!!」

 

石橋の上にたつミクリオはスレイを引っ張り、石橋の土台を指差す。

アリーシャはそれは山の妖精さんがしてくれた事で、橋職人達が眠っているのも山の妖精さんの力と語る。

 

「あれ、貴方でしょ?」

 

「……じゃあなんで堂々と言わない?」

 

スレイ達が石橋の土台に意識が向き、一人になったエドナはオレがやったか聞く。

無理に隠し通してもエドナがポロっと溢すかもしれねえから、否定せずにスレイ達にその事を伝えない理由を聞いた。

 

「別に、教えるほどの事でもないわ」

 

「オレを見て、憑魔とか驚いていたのにか?」

 

「ええ。少なくとも、私はドラゴンになったお兄ちゃんをどうにかするのを条件に来たのよ。

貴方が何者なのか気にならないと言えば嘘になるけれど、私達に害意のあるものでもなんでもないのならそれ以上気にする必要はないわ。貴方も気にしない方が良いわよ。はげるわ」

 

一言多いな。

エドナは特に気にする事は無く、言っていないのならばそれで良い。

 

「う、う~ん……」

 

エドナの事が終わると徐々に徐々に目を覚ましていく橋職人達。

すぐ近くにいるネイフトも目覚め、ゆっくりと目を開く。

 

「お、爺さん、起きたか?」

 

「あ、ああ……どうやら、寝てしまったようだな」

 

「どの辺まで覚えてる?」

 

「確か……山神が降りてきた辺りだったかの。ところでお主は?」

 

「ナナシノ・ゴンベエ。

レディレイクの物価が上昇したり導師誕生したりと色々とあるので、商売先をマーリンドに変える者だ」

 

「マーリンドに……商魂逞しいのはいいが、マーリンドは今」

 

「大体の事情は知っている。んでもって、スレイがどうにかするだろ」

 

「導師殿が?」

 

石橋にいるスレイを指差すと驚くネイフト。

ゆっくりと腰を上げて、スレイの元に向かうと驚く。

段々と流れが弱くなっていくものの今はまだ強い川の流れにも耐えうる石橋の基礎となる土台が出来上がっていたのだから。

 

「おお、導師殿!!我等とマーリンドを繋ぐ石橋を築く基礎を作ってくれたのですね!」

 

「え、いや」

 

「爺さん、黙れ。

こう言う超常的な事を出来るやつをありがたやと祈れるほど、今の世の中甘くねえんだ」

 

ネイフトが勘違いをしてくれたので、オレはそれをそのまま利用させて貰う。

スレイが石橋の基礎を作り上げたと喜ぶが、あえて黙らせる。努力すればなんて世界じゃない凄い力を持っている人間は目をつけられやすい。と言うか既につけられている。

 

「し、しかしこれは導師殿のお陰で感謝せねばならんことだ」

 

「えっと、これは」

 

「そう言う見返りを求めるのは商売であり、導師の仕事じゃねえよ。

つーか、チンタラやってていいのか?アリーシャから聞いたけど、薬を届けないといけないんだろ?」

 

「お、おおそうだった……じゃが、基礎が出来ただけでまだ歩くには」

 

「安心しろ、オレが運ぶ。オレがするぞ、文句はないな、スレイ?」

 

「それは構わないけど……良いのかな?」

 

スレイはなにもしていないのに手柄を得た事に罪悪感を抱いている。

頬に汗を流して、右手の人差し指でポリポリと撫でるのだが、そんな事は気にしても問題ない。

 

「文句があるなら、その妖精に直接言えってんだ。

それとも、お前は自分でやりましたとかそういうのが欲しいから導師になったのか?」

 

「違うよ!天族と人間が共に暮らせる世界を知りたくて作りたくて、その為の一歩になるならって導師になったんだ」

 

「だったら、手柄がどうこうとかそう言うのは深く気にすんな。無償の正義を貫け。頼れる正義の味方になる為に知名度だけはあげとけ」

 

「なんか色々と矛盾してる気がするんだけど」

 

無償の正義なんて矛盾だらけ。道を貫いた先は地獄、理想を抱いて溺死する未来だ。

正義とか悪とかそんな難しいもんを考えるなんてオレはやりたくないが、スレイは自ら選んで取ったんだ。

例えそれ(無償の正義)をしないといけないと知らなくても選んじまったんだから、しないといけない。

問題ないかどうかは別だが、逃げても見捨ててもよかったんだからな。

強い力を持っている人間はあくまでも選択出来る権利を持っていて、それを選択しなければならないと言う義務はない。あったとしても精々、他の人は無理だが自分はそれを選択出来ると言う事を自覚する義務ぐらいだ。

 

「さてと、爺さん背中に乗りな」

 

妖精本人が現れないんじゃ仕方ないとこれ以上はこの事について触れず、マーリンドに向かうことに。

従士のアリーシャはともかくそうじゃないネイフトはミクリオ達のサポートを受けれないのでオレは前屈みに腰をおろす。

土台の基礎が出来上がったとはいえ、健康体なマッスルか導師じゃないと向こう岸に渡れない。

 

「ゴンベエ、大丈夫?

土台があるとはいえ、向こう岸にネイフトさんを連れていくのは難しいんじゃ」

 

「もし無理ならば、薬だけ届けてくれて構わんぞ?」

 

「爺さん一人ぐらい、運べるっつーの。

つーか、オレが本当に運ばないといけないの……アレだからな」

 

今じゃなくても良いと、とにかく薬を届けたいネイフト。

これぐらいなら余裕で次が問題なんだよとどっかに置いていたチャリヤカーに乗ってアリーシャが戻ってくる。

 

「あっちの方が運ぶのめんどいんだよ……ほら、この通り簡単に向こう岸に渡ったぞ」

 

「き、気のせいか?今、空を歩いていたかに見えたが?」

 

「気のせいじゃねえよ」

 

向こう岸に渡ると目を見開くネイフト。

土台をSASUKEの様に跳んで渡ったのではなく空中を歩いたことに驚いており、オレは来た道を空中を歩いて戻る。

 

「ゴンベエ、今のって」

 

「ホバーブーツ。少しの間だけ空中を歩ける様になる靴。

他の道具と一緒に使えば、空を蹴って跳んだりすることが出来る優れもの」

 

どうやってやったのか興味津々なスレイ。

オレは片足を上げ、ホバーブーツを見せる。

 

「凄いな、少しの間だけ空を歩ける靴だなんて。

天遺見聞録にも載っていない、ライラは知っているか?」

 

「いいえ、知りません。

ゴンベエさんはこの大陸の人でなく海を越えた遥か先にある異大陸の方です。恐らくそこの物かと」

 

「おい、もうそう言うの良いからとっとといくぞ。よいしょっと」

 

ミクリオとライラをよそに、チャリアカーを両手で持ち上げてもう一度向こう岸に渡る。

 

「……売る商品とか色々とあるけど、まぁいいか」

 

リヤカーに乗せている物はレディレイクで売る予定だったものと念の為にと持ち運んでいるもの。

マーリンドがどんな所なのかは知らんが、レディレイクで売る予定だったものが売れるかどうか心配だ。

取り敢えずスレイが向かうから穢れが原因系は大体どうにかなるだろうし地の主も見つけてくれるだろう。

 

「爺さん、後ろに乗れよ」

 

「いやいや、そこまで世話になるつもりは」

 

「良いんだよ。一度やるって言ったんだから、最後までやりきらねえと……それに歩いて疲れるよりも恐ろしい事があるし」

 

「?」

 

穢れの原因は、まぁ置いといて確実に憑魔はいる。

地の主ならぬ穢れの主的な……穢れの領域的なのを張っている奴をぶっ倒さないといけないのは確かだ。

んでもって、穢れの主的なのはウーノが憑魔化した時みたいにエドナの兄みたいに人間も見る事の出来るものなんだろうな。

 

「乗り心地は……まぁまぁね。72点よ」

 

「72点って、随分と好評価の気もするが」

 

「なにを言っているのよ、誰が何時100点満点と言ったの?200点満点よ」

 

「おい」

 

ネイフトに続いてさも当たり前の如くリヤカーに乗るエドナとミクリオ。

誰が乗れと言ったと問答無用で追い出す。

 

「なによ、歩けって言うの?」

 

「いや、歩けよ。そこまでの距離じゃねえだろうが」

 

「も、もしやそこに天族の方がおられに!せ、席をお譲りいたします!」

 

「あーーもう!!全員、乗れ!!」

 

「ゴ、ゴンベエ、私は歩いていくから」

 

「もういいよ。面倒だ、全員乗りやがれ!!」

 

ネイフトが席を譲ろうとしたのでギブアップ。

積み荷は大抵は木箱でその上に座れば良いし、なにも置いていないスペースもそれなりにある。

アリーシャは断ったが、もう誰か一人を乗せるなら全員を乗せないといけない展開になってしまったので全員を乗せる。

エドナはリヤカーに乗る際に計画通りと汚い笑みを浮かべるが、もう知らん。マーリンドについたら働け。

 

「ぐぅうううう!!」

 

「がんばれーがんばれー」

 

足にパワーリングを装備しているとはいえ、地味にきつい。

木製の自転車なのでヒヤヒヤとしながら必死にペダルを漕いでオレは思った。

 

マーリンドに先回りして、マーリンドで起きてるゴタゴタを解決しとけばよかった。と




スキット 不可能は愚か者に

ゴンベエ「あーくそ」

アリーシャ「すまない、ゴンベエ」

ゴンベエ「謝るよりも形を誠意を、具体的に言えばマーリンドで商売する為に必要な手続き省いたり代理でしてくれよ」

アリーシャ「それぐらいなら、御安い御用だ」

スレイ「それにしても色々と積み荷があるな」

ミクリオ「スレイ、勝手に触るんじゃない」

エドナ「と言っている貴方もさっきからチラチラと見ているじゃない」

ミクリオ「それは君もだろう」

ライラ「ゴンベエさんは色々な物を作って売ったりしていますから、色々と独創で不思議なものも多いんです」

スレイ「あ、コレってもしかして紙芝居!」

アリーシャ「っ、スレイ!ダメだ、その紙芝居を見ては!マーリンドの子供達と共に見なければ!私達だけ先に見てしまうのは」

ゴンベエ「いや、そもそも紙芝居しねえからな」

スレイ「え、そうなの?」

ゴンベエ「レディレイクでやる予定だったのが急遽マーリンドに変わったから、商品がマーリンド向けじゃない。紙芝居
もレディレイクでやってた奴の続きだ。取り敢えず紙芝居はせずに商品を赤字覚悟で売っておいて顔を覚えて貰ってマーリンドで売れそうな物をリサーチするんだよ。疫病が流行ってるらしいし、石鹸は売れるな、うん」

アリーシャ「石鹸か。確かに売れそうだが、一般の人達が買えるだろうか?」

ゴンベエ「……え、もしかして石鹸って高級品?」

アリーシャ「ああ、そうだが……ゴンベエの所では違うのか?」

ゴンベエ「貝殻の粉と油と海草だけでどうにかなる…………逆に聞くが、他の高級品ってなんだ?」

アリーシャ「やはり眼鏡……は、作れるのだったな」

ゴンベエ「それも貝殻の粉で出来る」

エドナ「羅針盤、高かっ」

ゴンベエ「天然の弱い磁石一個あればアホほど作れる」

ライラ「では、火薬で」

ゴンベエ「木炭はこの辺の木々で、硫黄は温泉や火山地帯で取れて、硝酸は白銀から無限に作れる。なんだったら白金で硫酸作って、硝酸と混ぜてもっと洒落にならん物作れるぞ」

スレイ「洒落にならん物?」

ゴンベエ「それに関してはマジで教えねえよ。製造中に死んだら笑い話にもならねえ」

ミクリオ「製造中に死ぬって、なにが作れるんだ!?」

ゴンベエ「秘密。安心しろ、土木作業の道具だ」

アリーシャ「ゴンベエには作ることが不可能なものは無いのだな……」

ゴンベエ「……オレは愚か者だから、不可能って言葉はちゃんと存在するんだけどな……つーか、忘れた頃にやって来るな、中世っぽいとこ。肉とか市民が普通に食ってたりするけど、やっぱ高い物は高いんだな」


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デラボン

「あーーー、疲れた」

 

「すまんな、導師殿だけでなくワシまで送ってもらって」

 

「礼なら言葉じゃなくてよ、この街で商売する為に必要な手続き省くとか商売するのにちょうど良い場所提供してくんねえか?」

 

自転車の荷台に乗り、マーリンドに辿り着いた私達。

ネイフト殿は荷台から降りて、此処まで運んでくれたゴンベエにお礼を言うが現金なゴンベエは別のものを要求する。

 

「それぐらいならば御安い御用ですが、その前に」

 

「薬届けるんだろ?とっとと行ってこい」

 

薬が入った袋を大事そうに持つネイフト殿は何度も私達に頭を下げて、離れていく。

疫病に苦しむ人達に薬を届けるために走っていった。

 

「しかしまぁ、レディレイク以外の街に来るのは初めてだが……レベル的に言えばどうなんだ?」

 

「レベル?」

 

「レディレイクがこの国で一番なら、マーリンドは何番目ぐらいの街かだよ。

オレもだがスレイもミクリオもあんまり土地勘とかどんな街かは知らない……此処って国で何番目ぐらいだ?」

 

本当にレディレイクと家とレイフォルクしか知らないゴンベエ。

スレイもミクリオもマーリンドが国で何番目かが気になり私の方を見る。

 

「すまない、そう言った事は余り考えた事が無かった。

だが、レディレイクから最も近いところにある街だから、かなりの街だ」

 

「……」

 

村ではなく街だからかなりのレベル。

恐らく上から数えたら直ぐに出てくるレベルと言うと、眉間にシワを寄せるゴンベエ。

荷台から三角巾を取り出すと、まるで盗賊の様に逆さにまいて口を隠す。

 

「一応、聞いておくが爺さんが薬届けても焼け石に水だろ?あ、ミクリオ、水くれ」

 

「はい。この街に蔓延る疫病の原因は憑魔。そしてその憑魔の原因は穢れの領域です。

私達の力があれば浄化は可能ですが、地の主と信仰が無ければ永遠に疫病が流行ったままです」

 

「オレ等ふっつーにマーリンドに来てんだけど、地の主になってくれる奴いんのか?レディレイクは……運良くウーノが来てくれたけど、コレから先必要になる地の主になる天族のあてはあんのか?」

 

石鹸とミクリオ様がお出しになる水で手を洗いながら聞いて良い話なのだろうか?

しかし、ゴンベエの言うことにも一理ある。元は私がマーリンドに派遣されるだけの事だが結果的にスレイが、ゴンベエがついてきてエドナ様も協力をしてくれることになった。だが、肝心の地の主となる御方が存在しない。

 

「天族はこの大陸の各地にいます。勿論、このマーリンドにも」

 

「でも、ライラ、この辺はレディレイクやイズチと違って加護を感じないよ?」

 

「恐らくですが、憑魔になってしまわれたのだと思います。

信仰が減れば加護も弱まり、加護そのものが無くなる可能性もあります。

信仰が減り、加護が弱くなり凶暴な憑魔が侵入し地の主は穢れに飲まれて加護領域を展開しなくなり、天族が凶暴な憑魔になり穢れの領域が連鎖的に」

 

「つまりは、各地の地の主だった憑魔を僕達が浄化してもう一度地の主になって貰うと言うわけか」

 

「おい、水圧もうちょい緩めろよ」

 

「僕は水道じゃない!!と言うか、なにをしているんだ!!」

 

ライラ様が具体的になにをすれば良いのかを教えると、手だけでなく肘までついた泡をミクリオ様の水で流すゴンベエ。

 

「しゃあねえだろう、疫病に掛かったら一溜まりもねえんだから。

アリーシャとスレイはその辺は大丈夫だが、オレはどっちかと言えばデリケートなんだよ」

 

「何処がよ。人間数人を運べる人間にデリケートって言葉は間違っているわ」

 

「外面じゃなくて中身だ。取り敢えず、あのドラゴン浄化したらどうだ?」

 

「え、あ、ドラゴン!」

 

ゴンベエは空を指差したので見上げると小さなドラゴンが飛んでいた。

前にあったエドナ様の御兄様よりは小柄なものの、ハッキリと穢れを感じる。

 

「ゴンベエ、下がっていてくれ」

 

「待って、アリーシャ。ライラ、ドラゴンは」

 

「はい……私の浄化の力を使っても元には戻せません」

 

ゴンベエに引いてもらい、槍を構えると手を出し止めるスレイ。

ライラ様は申し訳無い顔でドラゴンを見る。

 

「ドラゴンは浄化出来ないのですか!?」

 

だとすれば、危険だ。

エドナ様の御兄様程の脅威は感じないものの、それでもあのドラゴンは強くて危険だ。

ドラゴンを討伐なんてしたことはないが、出来るのだろうか……いや、するしかない。

 

「はい、ですがアレはドラゴンパピー。

所謂ドラゴンの幼体で、完全なドラゴンになる前ですので浄化可能です!」

 

「なら、決まりよ。スレイ」

 

「やるよ、エドナ!」

 

「デラックスゥボンバァ!!」

 

「え?」

 

まだ間に合うと分かると前に出るエドナ様とスレイ。

地の神依に……と思いきや、後ろから眩い光が放たれてドラゴンパピーを包み込む。

この光はと後ろを振り向くと自転車に乗っているゴンベエは手を前に突き出していて、掌から煙を出していた。

 

「冷静に考えたら見てるだけじゃダメかなって。

疫病とか地の主とかあるから数日は商売出来ねえけども、とっととどうにかこうにかしておいた方がいいだろ。

安心しろ、別に手柄がどうのこうのとかじゃねえから。全てスレイがやってくれたでいいから。あ、まだ倒してないから頑張って」

 

ドラゴンパピーを倒したことを全く気にしないゴンベエが。

まだ倒してないと言われ、元の位置に振り向くとドラゴンパピーは生まれたての馬の様に足を震えさせながらもゆっくりと立ち上がろうとしていた。

 

「調子崩されたけど、ちゃんとやるわよ」

 

「ああ……ハクディム=ユーバ!!」

 

出鼻は挫かれたが、地の神依を纏うスレイ。

ライラ様もミクリオ様も武器を構えて、傷だらけのドラゴンパピーと戦う。

本当ならば苦戦する相手だが、ゴンベエが放ったデラックス・ボンバーにより大ダメージを与えたお陰かアッサリと浄化出来た。

 

「これは、浄化の力……導師か」

 

ドラゴンパピーを浄化すると人に、いや、天族に変わる。

天族の御方はゆっくりと立ち上がり、自分の体を確認してスレイを見る。

 

「えっと、貴方は?」

 

「加護天族のロハン、このマーリンドの地の主……だった」

 

大きく深くため息を吐いた天族の御方、いや、ロハン様。

 

「穢れに飲まれてしまい、あろうことか憑魔になってしまうとは……きっと、意識が無い間にとてつもない疫病を振り撒いたに違いない。今さら地の主になど」

 

「そんな事はありません!!」

 

意識が無い間に起こした罪に苦しむロハン様。

だが、そんな事はない。

 

「お前は?」

 

「自分はアリーシャ・ディフダ。

此度の導師、スレイの従士を勤めております」

 

「従士……そうか、だから俺が見えているのか」

 

「はい。

ロハン殿、貴方が憑魔になったのは人心を荒廃させたのは我等人間に……私達ハイランド王室が原因です。

私腹を肥やす者や戦争に加担するものが多く課税に苦しむ者が増え、連鎖的に人々は穢れを生み出します。それが今のハイランドです」

 

元を正せば我等が祈りを捨てたのが原因だ。

邪な考えを捨て、天族への純粋な祈りを捧げなくなったのは心にゆとりがないためだ。

人々の心からゆとりを奪ったのは紛れもなくハイランドの上流階級の者達で私腹を肥やす為に、戦争をするために行った無理な課税だ。

 

「ですが、必ず人の世を変えてみせます!

ロハン様だけでなく憑魔になられた天族を浄化し、救いだした後に罰を受けます!どうか今一度、加護をお与えください!」

 

「随分と熱心な従士さんだ…………ふむ」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、器となっている大樹に戻ってもう一度加護をと思ったが……穢れが一段と強い憑魔が何体かいる。それを浄化しないと大樹を器にして加護領域を展開しても意味が無い」

 

「憑魔……まだいたんだ」

 

「スレイ、いきなりのドラゴンパピーだったけど僕達はこの街に来てから一時間もたってないんだ」

 

「あ、そうだった」

 

もうクライマックスな雰囲気にはなっているものの、マーリンドに到着してから一時間もたっていない。

ロハン様からこの街にいる一段と強い憑魔を倒せば終わりなのだが、まだ始まったばかりだ。

 

「……そう言えば、アイツ、何処にいったの?」

 

どうすれば良いのかが一先ず分かると、辺りを見回すエドナ様。

 

「ゴンベエが、いない?」

 

私も辺りを見回すと、何時の間にかゴンベエがいなくなっていた。

ドラゴンパピーだったロハン様を浄化するべく戦っていた辺りから声がしなくなっていたが、その頃から居なくなっていたのだろうか?

この事をゴンベエにも教えた方が良いかと思い、皆で探そうとするのだがライラ様が止める。

 

「……ゴンベエさんにはこの事を内密にしましょう」

 

「なんで?アイツ、役立つわよ」

 

「確かにあの方は強いです。

恐らく私達が全員で挑んだとしても敵わない程に……」

 

「待て、ゴンベエはそこまで強いのか!?」

 

「あ、はい……ゴンベエは私の師匠を一撃で倒すほどの実力です」

 

余り戦闘をしないゴンベエだが、剣に弓に斧に魔法と色々と出来る。

万能な上にスレイとは別物とはいえ浄化の力を持っているならば、此処は事情を説明して手伝って貰った方が良いのでは?

 

「だからこそです。ゴンベエさんは導師になる程の逸材でしたがあの方は自らで導師になるのを拒みました。ならば、ゴンベエさんを導師の宿命に巻き込むことは出来ません」

 

「確かにゴンベエは拒みましたが、事情を話せば」

 

「ゴンベエさんが協力して頂ければ直ぐに解決します。

ですが、そうすればスレイさんは導師として成長することが出来ません」

 

「スレイの成長、ですか」

 

「はい。ゴンベエさんは導師でもなければ従士でもありません。

力を貸して頂けるのは恐らくマーリンドだけで、此処で頼っていては何れ相見える災禍の顕主と戦っても負けるだけです」

 

導師としてまだまだ未熟なスレイ。

だからこそ、ゴンベエの力を借り続ける事は出来ない。此処で自力でどうにかしないとならない。

 

「分かったよ、ライラ、力は借りない。でも、その事を話して良いかな?」

 

「お話しするぐらいなら……」

 

その事にスレイは納得し、ゴンベエを探すことに。

とは言え、自転車と荷台が目立つので割と直ぐに見つかった。聖堂の前に自転車と荷台が置かれていた。

 

「あの、アレだ、アレ。

流石に薪ストーブぐらいはあるだろ?薪を燃やしてストーブの上にやかんを置いて湯を沸かして湿度あげろ」

 

この中に居るのだろうかと中に入るとゴンベエだけでなく、衛兵や傷付いたり病になった者達が寝込んでいた。

ゴンベエはネイフト殿や街の人達に指示を出しており、薪ストーブを要求していた。

 

「おお、導師殿!それにアリーシャ様も」

 

「爺さん、コイツらに驚いてる暇があるならストーブとっとと調達してこい。

病気になった奴等も横になって体を暖かくして寝ていろ。服がベットリしたら直ぐに着替えるんだ」

 

「あ、ああ……色々とお話ししたいが、すまぬ」

 

私達に気づいたネイフト殿は喜ぶが、直ぐに何処かに去ってしまった。

 

「ゴンベエ、なにをしているんだ?」

 

「売る商品決めるために街の調査してたら、此処に辿り着いたんだよ。

疫病が流行ってるらしいからどんなもんかと見てみれば、この通りなんも出来てなかったから手伝ってんだ。素手出せ」

 

液体が入った柄杓を持つゴンベエ。

言われた通りに素手を出すと柄杓に入れている液体をかけた。

 

「あれ、コレってお酒じゃないの?」

 

透明な液体は清潔に保つ香油、かと思えばお酒の匂いがした。

 

「酒を蒸留して抽出したエタノール擬きだ。

度数は知らねえが、少なくとも50は越えてると思うから効果はあるはずだ」

 

自分の手にもエタノール擬きをかけて手を擦り合わせるゴンベエ。

私達も真似して両手を清潔にする。

 

「ゴンベエ、実はさ」

 

「手伝うなだろ?」

 

「うん」

 

スレイが本題に入ろうとすると、ゴンベエが先に答えた。

まるでわかっているかの様に答えたゴンベエだが、特に気にしていない。

 

「元々手伝うつもりはねえよ、あのドラゴンパピーは襲ってきそうだから対処しただけにすぎねえ。

オレがたまたま立ち寄っただからやっただけで、大陸中に天族の加護領域をなんてことはしねえ。マーリンドかレディレイクと家を往復する生活をするだけでそれ以上もそれ以下もねえ」

 

「そっか……」

 

「ただ、降りかかる火の粉は払う。

もしオレの邪魔になるなら勝手にやらせて貰うだけ……と言うことでスレイは凄く頑張ってくれ」

 

特に不満もなにもなく、ゴンベエは手伝わない事になった。

その後はネイフト殿と若い人達が薪ストーブを持ってきて、ストーブに火をつけて湯を沸かさせた後に、今日はもう遅いのでネイフト殿が手配してくれた宿に泊まることに。

 

「オレはやることあるからパス」

 

だが、ゴンベエは動かない。

お面を取り出して装備して荷台から荷物をおろす。

聖堂にいる人達を助けるために物資をおろしている。

 

「私もなにか手伝えることはないだろうか?」

 

「あるぞ。宿で休んで一日の疲れを飛ばして、穢れを祓ってこい」

 

憑魔と戦わない代わりに疫病に苦しむ人々を助けるゴンベエ。

私もなにかと聞いてみるものの、それよりもと手伝わなくてもいいと拒まれる。

 

「アリーシャ、ゴンベエの言う通りだ。

今のところ憑魔をどうにか出来るのは僕達だけで、今は明日に向けて疲れをとらないと」

 

「……分かりました」

 

何故だろうか?

ゴンベエが私に手伝わなくても良いと言うのも、ミクリオ様が言う通り休んで疲れを取るべきなのも分かる。

だが、胸の内に謎の違和感が疑問がうまれている。今まで一度も感じたことのない不思議な違和感……コレはなんだ?





ゴンベエの術技


デラックス・ボンバー


説明


眩い光を放つ某極悪非道で人間の屑としか言えない正義の味方と同じ必殺技。
加減が出来る技で適当にうっても、シュヴァーンとかクラトスみたいな大物の中ボス以外の中ボスを一撃で倒すことが出来る。ぶっちゃけそれだけ使っていればどうにでもなるバランス崩壊の必殺技。デラボンと省略しても使える


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フェニックスはお前の後ろだぁあああ!

後書きに一部ネタバレあり。


宿で英気を養い、疲れをなくした次の日。

マーリンドにある強い穢れを持った強い憑魔と対峙し、時には書庫から本を持ち出して売ろうとした街の人を捕まえて心の闇から解放する。

 

「後は此処だけですね」

 

穢れを浄化し続け、最後にはダムノニア美術館前にやって来た。

災厄の時代が続きダムノニア美術館は閉鎖されており、この中からドラゴンパピーの次に強い穢れを感じる。

 

「いかにも出そうな雰囲気だね」

 

「スレイ、こんな時になにを言ってるんだ!!」

 

「あら、天族なのに幽霊が苦手なの?お子ちゃまなミクリオ、ミクちゃま」

 

「ミクちゃまは止めてくれ!」

 

足を震わせるミクリオ様。

エドナ様に叫ぶが視線は美術館をチラチラと見ており、怯えている。

 

「ミクリオ様、誰にだって怖いものはあります。それは恥ずべきことではありません」

 

「うぐっ……」

 

万能に見えるゴンベエも刺身や寿司、マヨネーズやドレッシングといったものが苦手です。

野菜はモリモリと食べる方だけど生で冷たいものが苦手と食うぐらいならばと嫌がっています。

 

「アリーシャさん、男の子は怖いものがあっても隠したがるものなんです。特に友人の前では」

 

「はっ、も、申し訳ありません!!」

 

「天然って、恐ろしいわね」

 

隠し通したい意地に気付かなかった。

ミクリオ様には失礼なことをしてしまった。これはこの憑魔退治で名誉挽回しなければ。

 

「っ!」

 

「怯え過ぎよ、ミクちゃま」

 

「こ、これは違う!武者震いだ」

 

誰もいない筈の美術館。

鍵もちゃんと掛かっており、本を持ち出した人から渡された鍵はスレイが持っている。

なのに、ドアが急に開きミクリオ様は一歩後ろに御下がりになった。

 

「来いってことか」

 

「行こうスレイ……ミクリオ様、此処に残っても構いません」

 

「アリーシャ、君までも子供扱いしないでくれ!!幽霊だろうが憑魔だろうが僕が倒す!」

 

「ああ、待って、ミクリオ!」

 

「また、失礼な事を言ってしまった……」

 

「いえいえ、あれはむしろ」

 

「やる気を出させるスイッチになったわよ」

 

怒りながら先頭を歩くミクリオ様。

美術館の中に入っていき、その後を私達も追いかける。

 

「閉鎖されているとは言え、美術館だけあって色々とある……けど、誰なんだろう?」

 

中に入ると取り残された美術品が幾つかあり、スレイは額縁に入っている絵を見る。

 

「アリーシャ、この絵の人を知っている?」

 

「すまない、美術品に関しては余り詳しくないんだ……」

 

ダムノニア美術館はハイランドが誇る場所なのだがクモの巣を貼り、階段は老朽化で壊れている。

国の重要文化財に指定されるほどだったのに、大きく変わってしまっている。

穢れなきレディレイクも見たいが、このダムノニア美術館が重要文化財となっていた頃も何時かみてみたい。

 

「う~ん」

 

「どうした、スレイ?」

 

「大きな穢れを退治しきれてない気がするんだ」

 

美術館内を見回り、中にいる憑魔を浄化しながら見回った。

これで穢れは祓えたと思ったが不満げなスレイ。まだ強い穢れを感じる。

 

「アッハッハッハッハハ!!」

 

何処もかしこも見回ったので何処にいるのだろうかと額縁に入った絵が飾られている場所に戻り考える私達。

背後から笑い声が響き、振り向くと黄金の鎧が立っていた。

 

「スレイ、アレは!」

 

「ああ、間違いない。この美術館にある穢れを持った憑魔だ!!」

 

他の鎧とは違い色褪せていない巨大な鎧。

手には巨大な(スピア)を握っており、穢れを感じる。

 

「フォエス=メイマ!!」

 

倒すべく相手だと分かると直ぐにライラ様と共に火の神依になるスレイ。

私達も武器を取り出して鎧に向かって構える。

 

「燃ゆる孤月!!」

 

大剣を構え、大きく振るうスレイ。

黄金の鎧は(スピア)で大剣を防ぐ。

 

「隙だらけだ!!逆雲雀!!」

 

大剣を防いだ事により、大きな隙が出来た。

そこを逃さず私は突き進み跳んで槍の青い光を強化し、剣術の烈空斬の様に前に回転して光の刃で切り裂く。

 

「アリーシャ、スレイ」

 

「は!」

 

「頼んだよ、ミクリオ!」

 

逆雲雀を決めると後衛にいたミクリオ様の天響術の準備を終えた。

私とスレイは天響術の巻き添えにならない為に距離をあける。

 

「フリーズランス!」

 

氷柱を大量に出現させ、飛ばすミクリオ様。

逆雲雀をくらった鎧は急いで体制を立て直し、横に跳んでフリーズランスを避ける。

 

「全く、ちゃんと当てなさいよね!ロックランス!!」

 

避けられたが、直ぐにフォローを入れるエドナ様。

フリーズランスを避ける為に跳んだ先に岩を生やして鎧の兜を飛ばす。

 

「やったか!」

 

「……中身が無い?」

 

ロックランスに飛ばされると、胸の中がスゥっとした。

ウーノ殿が加護を与えた時と似た感覚で鎧の憑魔が浄化されたとスレイは感じたのだが、鎧の中にはなにもなかった。

 

「中には誰も、なにもいない」

 

鳥、狼、人、他にも色々な生物が憑魔になっていた。

浄化すれば元に戻り今までもそうだったのだが、倒れている鎧の中身は空洞だった。

 

「あかん、あかんてぇ!」

 

「あれは…」

 

どう言うことだと困惑していると後ろから声が響く。

何事かと振り向くと鎧の兜を被った何処となく犬を思わせるぬいぐるみの様な御方がスレイに向かって走る。

 

「もぉ~あかんいうてるやん。も、このいけずぅ~!」

 

「えっと……ご、ごめ、うわぁ!?」

 

「アタックさん、アタックさんじゃありませんか!」

 

スレイに怒っていると、神依を解除するライラ様。

すると、ぬいぐるみの様な御方は怒りを納めてライラ様を見る。

 

「ライラはんやないの!」

 

「はい、まさかこの様な所でお会いするとは思いませんでした!」

 

「あの、ライラ様とお知り合いなのですか?」

 

「せやで。うちはアタック……アメッカはん!?」

 

ライラ様を見て怒りがなくなり、対話が出来るようになったぬいぐるみの様な御方。

色々とお伺いすると自己紹介をしてくださった……と思えば私を見て驚いている。

 

「アメッカとはもしや、私の先祖ではありませんか?」

 

「御先祖様?……せやなぁ、アメッカはんは他と違って普通の人やったからとっくに亡くなっとる。いや~親と子はよー似はるけど此処まで瓜二つやなんて珍しいわ」

 

エドナ様やエドナ様の御兄様の口からしか語られていない私の先祖に関する人。

イズチでジイジ殿に、レディレイクでライラ殿に聞いてみたもののなに一つ知らなかった。

エドナ様もあくまでも頼まれただけで、どの様な人物なのか知らない。アタック様は知っているのですか。

 

「アタック様」

 

「様なんてなんかこそばゆいわ~、さんでエエよ」

 

「では、アタックさん。私の先祖とはどういった御関係で?」

 

「えっとな~うち等の故郷は異大陸にあんねん」

 

「異大陸と言うと、このグリンウッド大陸ではない遥か海の向こうにある大陸ですか?」

 

「せやで~。うちらノルミン天族の故郷のノルミン島も海を越えた先にあんねんけど、昔、この大陸の人がやってきて……ああ!!」

 

「ど、どうかしましたか?」

 

なにかを思いだし、口を手で覆い隠すアタックさん。

なにかあったのだろうかと思うと私の足にしがみつく。

 

「忘れて、忘れてぇなぁ!!今のは無しや、無し」

 

「無しって、そこまでのものか?」

 

今の話からして、何処にも隠さないといけないものはない。

しいて言うならば昔は異大陸に行くことが出来る造船技術があったぐらいだが、今よりも昔の方が遥かに優れた文明を持っていたのは伝承の地や遺跡を見てなんとなくだが予想がつく。

私もミクリオさんも首を傾げる。

 

「この際だから、全部話しなさい」

 

「アタックさん、正直にお話した方がよろしいかと思いますよ。幸い、誓約は掛かっていませんし」

 

「そうそう。俺もアリーシャの先祖の事とか聞いてみたいし」

 

「うっ……いくらライラはんでも今の導師はんでもあかんねん」

 

ライラ様達の言葉で一瞬だけ揺らぐも頭を振って断るアタックさん。

喋ってはいけないと言うよりは、喋りたいけど喋らない様に我慢をしている。

 

「マオクス=アメッカはんとナナシノ・ゴンベエはんに関することは喋ったらあかん。

立会人が許可してくれへん限りは、うちは喋らへん。許可なく勝手に喋ってええノルミン天族は……フェニックス兄さん含めて三人しかおらへんねん」

 

「へぇ、そうなの」

 

チラリとエドナ様の傘につけられているストラップを見るアタックさん。

このストラップと同じ見た目の方が、フェニックス兄さんと呼ばれる御方なのだろう。

 

「許可があれば喋れるのですか?」

 

「正確に言えば立会人がいて、その上で許可してくれたら喋れるんや。ごめんな、子孫にも教えるのには許可が必要やねん」

 

「その許可をくれる立会人、誰なのよ?」

 

「許可くれる立会人はザビーダはんや」

 

「「「「!?」」」」

 

「?」

 

立会人の名前を出すと驚く天族の皆様とスレイ。

 

「そのザビーダと言う御方を知っているのですか?」

 

「ああ、知ってるよ……俺達がレイフォルクに向かった際に会ったんだ」

 

「迂闊だったわ。確かにアイツなら貴女やゴンベエの先祖について知っててもおかしくはない」

 

スレイがレイフォルクに向かう際に、私もついていけばよかったかもしれない。

そうすればそのザビーダ様にお会いして、私の先祖についてなにか聞けた。少しだけ過去の自分に後悔する。

 

「何故、ザビーダ様は私の先祖をご存知なのでしょうか?」

 

「アイツ、お兄ちゃんと付き合いが長いのよ……昔からの付き合いで、アレを託された頃には既に知り合いだったわ。だったら、知っていてもおかしくはないわ」

 

アレと言うのは恐らく、鉱石が沢山入っていた箱の事だろう。

ザビーダ様や私の先祖に関することは一先ずは置いておき、アタックさんが何故此処にいるのかノルミン天族がなにかと教えてもらった。

 

「しっかし、ホンマ瓜二つやなぁ。親子は似るのは知ってるけど此処までのそっくりさんやで」

 

「そんなに似ているんだ、アリーシャとアリーシャのご先祖」

 

「そうらしい」

 

「此処まで瓜二つやったら、導師はん大丈夫なん?

前はゴンベエはんがなんかしてたけど、導師はんはゴンベエはんよりもって、喋ったらあかんあかん」

 

「!」

 

「?」

 

またうっかり口を滑らせてしまうアタックさん。

だが、スレイが大丈夫とはどういうことなのだろうか?怪我らしい怪我はしていないし、穢れに苦しんだりもしていない。

 

「お~い」

 

「あらぁ~驚いたわ。あの人、ゴンベエはんの子孫やないの?」

 

一通りの大きな穢れを浄化し、大樹へと戻る私達。

ロハン様とゴンベエが帰りを待ってくれており、アタックさんがゴンベエを見て驚く。

 

「えっと、お前は?」

 

「うちはアタック。ノルミン天族や……ええっと」

 

「ナナシノ・ゴンベエだ」

 

「はぁ~こら驚いたわ。子孫も同じ名前を使っとるんやね」

 

「子孫、ねぇ……」

 

「ゴンベエ、実は」

 

「喋らなくてもいい、そいつが何者なのかは名前からして大体予想が出来る。それよりもまだ厄介事が残っている」

 

親指でロハン様をさすゴンベエ。

厄介事とはなんだろうと首を傾げると申し訳なさそうな顔をするロハン様。

 

「君達のお陰で大きな穢れの塊が浄化されていった、お陰でこの地に加護を与えることが出来るようになった」

 

「すんまへんなぁ、うちが憑魔になったせいで」

 

「なに、俺も憑魔になってしまった。お互い様だ。

それよりも導師殿、帰って来て早々に悪いのだがもう一体憑魔を頼む」

 

「もう一体?」

 

「ああ、どうもそいつが原因で雑魚憑魔が加護領域に侵入してきている。

そいつさえどうにかする事が出来れば雑魚憑魔達が侵入することは無い……のだが、彼は従士じゃないのか?」

 

ジロリとゴンベエを見るロハン様。

 

「従士でもなんでもない浄化の力を持っていない一般人に無茶を言わないでくださいよ、やだぁー!」

 

「ゴンベエは魔法使いだから一般人ではないのでは?」

 

「貴方の何処が一般人なのよ?」

 

「天族が普通に見えるだけで既に一般人ではありませんよ」

 

「君を一般人と言うなら、この街の人達はなんなんだ!」

 

「……泣いて良いか?」

 

「と、こんな感じでな。

疲れているところすまないが、此処から南西のところに憑魔がいる。そう遠くはない」

 

涙目のゴンベエを余所に話を進めるロハン様。

私達が美術館に居る間にゴンベエが向かえば解決していたのではないのかと疑問をもったが、解決しなかったのはゴンベエがスレイ達を手伝わないと言う意思を示す為だと解釈する。

 

「つーことだ、行ってこい」

 

「けど、俺達が今この街を離れたら」

 

「なんの為のオレがいると思ってんだ?

その原因の憑魔はお前が導師としてどうにかして貰うけど、この辺の雑魚憑魔はどうにかしてやる。大体デラボンでどうにかなるし、このおっさんが位置を教えてくれる。その気になれば四人ぐらいに分身できる」

 

「ゴンベエ……」

 

「笑うな、ど阿呆。

本当ならオレに頼らずにどうにかしねえといけねえんだ。

オレは導師や従士が面倒だからパスした人間で、ライラはそれについて深く責めない。その時点で導師関係はもう終わりだ。今はまだ未熟な導師だからなにも言わねえが、従士でもなんでもない人間に頼ってしまうのはダメなことだって頭に入れとけよ」

 

「うん、わかった。皆、行こう!」

 

自分が街を離れられない理由がなくなると、南西に向かうスレイ。

私達も後を追って南西に向かい、雑魚憑魔が侵入する原因である大きな穢れを持つ憑魔と対峙する。

 

「植物型の憑魔、だったら!」

 

大きな穢れを持っている大きな植物型の憑魔。

スレイは直ぐに火の神依になり、大きな植物型の憑魔の回りにいる小さい植物型の憑魔を凪ぎ払う。

 

「ドラゴンパピーやアタックと比べれば弱いわね」

 

「植物ベースと天族ベースの憑魔だと地力が違う。

それに今は微弱だがロハンの加護領域がかかっているのだから当然だ」

 

エドナ様やミクリオ様の言う通り、この憑魔は弱かった。

天族ではなく植物が、スレイが導師として一歩ずつ成長しているから、きっと色々な理由があるに違いない。

アタックさんとの戦闘からの戦闘で疲れはあるものの、それでも倒せる。ドラゴンパピーとの戦闘と比べれば圧倒的に気楽に行ける。勿論、油断はしない……だが、負ける気はしなかった。このままアクシデントがなければ普通に浄化できる、そのレベルだった。

 

「っ、スレイ!!」

 

そのレベルの筈なのに、スレイは蔓を大きく振るって右から攻撃する植物型の憑魔に反応できない。

私は咄嗟にスレイの前に出て蔓を槍で防ごうとするが蔓の力は強く、体ごと吹き飛ばされる。

 

「アリーシャ!」

 

「わた、しは、大、丈夫だ……今は、憑魔を」

 

今ので肋骨に違和感を感じるが、私の事よりも憑魔を……憑魔を浄化してほしい。

槍を握ったからには騎士となったからには従士となったからには無傷ですまないと覚悟している。

今ここで憑魔を逃がしてしまえば戦うことの出来ない者達が憑魔に襲われてしまう。

私の事は気にしないでほしいと言おうとするが声を出すことは出来ず、私は意識を失った。






DLC 特殊刑事課 三羽烏セット


ゴンベエの衣装 「海パン刑事」

説明

警視庁が誇るエリート刑事集団陸・特殊刑事課の陸の特殊刑事の衣装。
陸に事件が起きた時、海パン一つで直ぐに解決。時には海パンを脱ぎ捨てて解決する見た目はアレだがとっても優秀な陸の刑事。海パンの中は四次元ポケットになっている。
「いやもう、普通に水着扱いにしてくんない?ブーメランなの文句言わないからさ」byゴンベエ


アイゼンの衣装 「ドルフィン刑事」


説明

警視庁が誇るエリート刑事集団陸・特殊刑事課の海の特殊刑事の衣装。
海を愛し正義を守るお茶目なヤシの木カットが特徴的な海の刑事。
小型だが潜水艦を乗りこなし、イルカを調教して手榴弾を投げさせたりと意外に器用な特殊刑事で警視と意外に地位が高いが35℃を越えないと出勤しない。
「いや、こいつ気温が35℃を越えないと出動しないから干ばつはあれど地球温暖化と無縁なこの世界だと溶岩とか砂漠地帯ならまだしも海辺で35℃って難しいだろう」byゴンベエ


ライフィセットの衣装 「月光刑事」

説明


警視庁が誇るエリート刑事集団陸・特殊刑事課の空の特殊刑事の衣装。
夜間戦闘機「月光」を操縦し、検挙率は100%を誇りコスチュームを変えることにより様々な力を発揮する。
基本的な姿がセーラー服なのはパンチラで犯人を悩殺することが出来るからであるが、実際は気持ち悪いだけだから。
満月の夜にしか出動出来ず、雨天の場合は翌月まで出動出来ない。
「違和感、仕事しねえな」byゴンベエ 「最近は顔も知られているし、その格好もありよ」byベルベット


ロクロウの衣装 「美茄子刑事」

警視庁が誇るエリート刑事集団陸・特殊刑事課の空の特殊刑事の相棒の衣装。
基本的に解説担当であるが、一応はエリート。
「w違和感しかねえw」byゴンベエ
「いくらなんでも途中で着るのをやめるじゃろい」byマギルゥ
「し、下着が見えてしまいます!!」byアリーシャ
「それは明らかに女性物です!!」byエレノア
「ビ、ビエーン!目が穢れるでフー!」byビエンフー
「死ね」byベルベット


スキットは次の話で


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眼帯でレッツパーゥイー

「ぅ……」

 

「目を覚ましたか?」

 

「ゴン、ベエ?」

 

目を覚ますと、見知った顔がゴンベエがいた。

ゴンベエは何時もと違い優しい声で私に声をかけ、ホッとしている。

 

「ここはマーリンドの宿」

 

体をゆっくりと起こすと昨日御世話になったマーリンドの宿にいることに気付く。

 

「気絶する前までの事を覚えてるか?」

 

「……憑魔は!!」

 

ゆっくりとゆっくりと意識が覚醒し、植物型の憑魔を思い出すと完全に意識は目覚める。

そうだこんな所で寝ている場合じゃない。憑魔を倒さなければ、何時までもこのマーリンドに平和は訪れない。

 

「おっさんが言ってた憑魔に関しては問題ない、スレイが浄化した」

 

「そう、か……」

 

あの憑魔を逃がしてしまえば、取り返しのつかないことになる。

倒されて浄化された事で安心するが、ゴンベエは呆れた視線を私に向ける。

 

「すまない。私達を信じてマーリンドに残ってくれたのに、こんな無様な醜態を晒してしまって」

 

「死ねばお前が見たい綺麗な物を見れなくなる。生きてるだけましだ」

 

確かにそうだが……いや、ゴンベエなりのフォローなのだろう。

 

「甲子園みたいに一度負ければ終わりなトーナメントじゃないから、お前には次があるんだ」

 

「甲子園?」

 

「気にするな。とにかく、次がある。

負ければそこで終わりなのが常だが、お前には運良く次があるんだ。

こう言う言い方は本当に良くないことだが、敗けも時には大事だ……本当に良くないことだけどな」

 

大事な事なので二度言うゴンベエ。

生きているだけでなく五体満足で、何処も違和感なく体を動かせる。

これならばまた戦える。失態を犯してしまったものの、次こそは出来る。

 

「そう言えばスレイ達は?」

 

「……」

 

声も気配も感じないスレイ達。

恐らく宿には居ないのだろうが、いったい何処に行ったのだろう?

その事について聞くと口を開いたまま黙るゴンベエ。

 

「まさか、スレイの身になにかが!!」

 

バルトロ大臣が追手を放ち、襲われてしまったのか!?

 

「いや、生きてる。

今は傭兵達にマーリンドの警備を依頼しにいってる」

 

「マーリンドの警備を?」

 

あの憑魔を浄化したのならば、もう心配ないのではないのか?

 

「今の今まで穢れてて、スレイ達がやって来て浄化して大樹への信仰が再び行われている。

これで一件落着に見えるけど、やっとスタートラインに立ったところなんだよ。凄くざっくりと言えば、まだ加護領域が弱いから、数日の間は領域の中にいる憑魔がどうにか出来ないらしい」

 

「数日間滞在すれば良いのでは?」

 

「オレもそう言ったんだけど、地の主と信仰と大きな穢れを浄化した以上は長い間、一ヶ所に留まるなって。

大臣と揉めたこともあるし、追手を放たれてなんかされる可能性があるからどうとか……まぁ、数日間此処で足止めくらうよりはとっとと地の主になる天族見つけて、器を用意して、大きな穢れを浄化して別のところに加護領域を展開した方が効率良いしスレイが納得したから良いんだけどよ……あの馬鹿、オレから傭兵雇う金借りやがった」

 

青筋をピクピクと立てて怒るゴンベエ。

 

「お金で雇ったのか?」

 

「いや、傭兵はそう言う仕事だろう?金貰うから警護してんだから、当然だろう?」

 

「……使命感や義侠心で動いてくれる者に頼んだ方が、それこそゴンベエが数日間此処に居てくれれば」

 

お金で働く者は信用できないとまでは言わない。

だが、そう言った人達にこの様な事を頼むのは納得がいかない。

浄化の力を持ち、傭兵達よりも遥かに強いゴンベエが居てくれれば、お金で解決しなくてもいいはずだ。

 

「アリーシャ、金は大事だぞ?」

 

「それは分かっている……だが、もので動くのでなく、善意で動かなければ意味が無いのでは?」

 

「綺麗な言葉で否定すんじゃねえ。

いいか、人間は色々な物を作ったがその中でも最も偉大な発明が金なんだよ。

そりゃあ50人ぐらいの集落だけだったら金は不必要だが、一万、二万の人間がいるなら金は必要なんだよ。

物流をスムーズに動かしたり、国を纏めあげたりするのに便利な道具、それが金……アリーシャの言う通りだ使命感とか善意は立派だが、それじゃ影響力は薄いんだ。金が全てと言うのは汚いかもしれねえが、金を使わないと社会は一歩も動かないのは事実だ、認めろ」

 

「論点がズレている気がするのだが」

 

「オレには頼らないスタンスだから、ライラもスレイもオレをパスしたんだよ。

かといって下手に従士を増やしたらスレイがヤバくなるし、今後ああいうのと繋がりがあった方がなにかと便利だから良い経験になったと思うぞ……20000は痛いが。利子トイチにしたけど20000は痛い」

 

確かにゴンベエの言っている事は間違っていない。

しかし、余り納得は行かないがなにも言えない。ゴンベエに頼れるのは今回だけで、次からはそう言った事をしなければならない可能性がある……?

 

「スレイがヤバい?

どうして従士を増やせば、スレイが危なくなるんだ?」

 

今、憑魔を浄化出来るのはスレイ達だけだ。

数で言えば私を含めてたったの五人で、それだけでは穢れを完全に浄化する事は出来ない。

従士を増やせば沢山の憑魔を相手にすることが出来て、今回の様に二手、三手に分かれなければならない時に対処が出来る。

 

「……話した方がいいか。

アリーシャ、お前はスレイの従士になってなにが変化した?」

 

「私の変化か……」

 

今までは感じる事がなかった微弱な穢れを感じることが出来るようになり、浄化の力を得た。

従士になった事により私は戦う術を手に入れることが出来た。だが

 

「色々とあるが、一番はライラ様達を肉眼で捉える事が出来るようになったことだ」

 

前まではゴンベエのまことのメガネで皆様を見ていた。それを手にしなければ声を聞くことが出来なかった。

だが、従士になった事によりもう使わなくてもすむ……ゴンベエから貰った大事な物なので何時もつけてはいるが。

 

「スレイと従士契約をした事により、アリーシャはライラ達天族が見えるようになった……なんでだ?」

 

「だから、私がスレイの従士に」

 

「悪い、そうじゃない。

どう言った原理でお前が見えるようになったかを聞いているんだ」

 

「原理……すまない、私にもよく分からない。ライラ様ならば、なにか御存知だと」

 

「ああ、そう言うのじゃない。確認をしただけだ」

 

ゴンベエは紙を取り出して、目盛りと数字を書いていく。

 

「まず、天族と会話するには霊応力が高くないとダメだ。

導師になる為とかじゃなく、天族と会話したり触れあったりするのに必要な霊応力を100とすんだろ?

大抵の奴等は50~80ぐらいしか持っていないから見えず、スレイは170ぐらい持っているから天族が見える。

アリーシャの霊応力は70後半ぐらいで、天族の視線ぐらいは感じるレベルで天族を認識する事が出来ない……ついてこれてるか?」

 

「ついてきている。

確かにゴンベエの言う通り、スレイと従士契約するまでは見ることが出来なかった」

 

精々視線を感じる程度のものであり、それ以上はない。

だが、今はもう違うからそこまで気にする事ではないんじゃないだろうか?

 

「100を越えないと天族と対話できないのに、どうやって70後半のアリーシャは対話している?」

 

「それはスレイの従士になったお陰で……私の足りない約30を補っているから……いや、どうだろう……」

 

特に深く気にしてはおらず、今改めて聞かれればどういう原理かは分かっていない。

100に満たないのならば100にすれば良いだけだが……

 

「アリーシャの考えは間違っていない。

70なら30足して100にしておけば良い、ただそれだけの話。物凄く簡単な話だ」

 

私の考えは間違っておらず、70の所に+30と書くゴンベエ。

つまり私がスレイの従士となった事により足りない30を入手したと言うことか。

 

「問題はその足りない30を何処から入手しているか……流石に分かるだろ?」

 

「まさか……その私の足りない30は!」

 

「そう、スレイの170から引いている。

憑魔を浄化して、気絶したお前を連れてスレイが帰って来た際に驚いた。

微弱とはいえ既におっさんの加護領域が働いてて、アタックやドラゴンパピーよりも弱い。

連戦だけど、それでもどうにでもなるレベルなのに怪我して帰って来やがった。いくらなんでも驚くわ」

 

「……すまない」

 

「謝るのはお前じゃない、スレイだ。

あんのアホ、右目の視力が低下している事を隠してやがった。

おっさんやアタックが教えてくれたが、従士が原因で負荷が掛かりまくってるらしい」

 

「!!」

 

そん、な……それだと、あの時スレイが反応できなかったのは大本を辿れば私のせいなのか?

 

「霊応力が強かったりすれば、負荷はそんなに掛からないらしいがちょっと高いぐらいの奴だと今のスレイには大分負荷が掛かる……負荷云々は事実だが、数字の方は分かりやすく説明する為だから鵜呑みにすんなよ」

 

「私が、原因で……」

 

「おい!!!」

 

「は!?」

 

スレイの視力が低下していた事に衝撃を受け、私はなにも考えられなくなっていた。

ゴンベエの大声により反応し、意識を元に戻す。

 

「話聞いてんのか?」

 

「す、すまない。聞いていなかった」

 

「なら、もう一度言うけども負荷が掛かっているのは事実だが数字の方は鵜呑みにすんな」

 

「……」

 

鵜呑みにするなと言われても、従士契約で……私が原因でスレイに起こる負荷は紛れもない事実だ。

この話が本当ならばスレイはコレから先、従士を増やせば失明する可能性がある。いや、もう失明しているかもしれない。

 

「ゴンベエさん、準備が出来まし……アリーシャさん!」

 

「起きたのね」

 

どうすれば落ち込んでいるとライラ様とエドナ様が部屋に入ってきた。

 

「ゴンベエさん、起きたのなら教えてください」

 

「悪いな。アリーシャにざっくりとスレイの事を教えてたんだよ」

 

「そう。なら、視力が落ちている事を隠してたの知ったのね?」

 

「っ……はい」

 

エドナ様の問いに頷き、俯く。

私が原因でスレイに、ひいては皆様に御迷惑をおかけした。

いや、今回はまだよかった方なのかもしれない。もしドラゴンパピーやアタックさんとの戦いだったら手遅れな怪我をおっていたのかもしれない。

 

「アリーシャさん、そう落ち込まないでください」

 

「ですが」

 

「くよくよしないでよ、穢れるから」

 

「っ……申し訳ありません」

 

「い、今のはエドナさんなりの励ましで、決してアリーシャさんを責めたのでは」

 

「おい、もうそう言うの後で良いだろう。此方もとっとと済ませたいんだ。言われた通りの物が出来たんだろ?」

 

「あ、そうですね」

 

励ますライラ様の間に入るゴンベエ。

会話は一度中断し、ライラ様は筒形状に丸まった大きな紙を渡す。

 

「……まぁ、これで問題ないか」

 

「それは?」

 

「視力検査のアレって、通用しないか。

スレイの視力が落ちているんだったら、視力を補う道具を使えば良い……片眼鏡作りゃ良いだけの話だ」

 

伸ばした紙をまた丸めるゴンベエ。

ライラ様達と共に外に出るので私も追いかける。

そうだ。視力が落ちてしまったのなら眼鏡を作れば良いだけだ。

眼鏡は高級品だが、ゴンベエは眼鏡に必要なレンズの作り方を知っている。天然の水晶や宝石類を使わなくても眼鏡を作れる。

 

「眼鏡は流石にそっこー出来ねえが、かめにんとか言うのが速達で届けてくれるらしいからアリーシャ達がオレが行った事のない街にいても届けれる」

 

「アリーシャ、達……か……」

 

スレイ達でなくアリーシャ達と言う言葉にはそんな思いが込められている様な気がした。

大樹へ向かうとそこにはスレイとミクリオ様がいて、スレイとミクリオ様に負担をかけてしまった事を謝るが、逆に謝られてしまう。

謝られる立場ではないと思っているとゴンベエに凸ピンされ、少しは前を見ろと怒られて気持ちを切り替える。

 

「はい、じゃあ視力検査な」

 

近くの家の壁に紙を貼って距離を取るゴンベエ。

ゴンベエの国では視力と言うのはこの様にして測るものなのだろうか?

 

「色と矢印の向きを言うんだ。

あの、例の黒いアレは無いから手で目元を隠してくれ」

 

「例の黒いアレ?」

 

「分からねえなら気にすんな。先ずは左目…コレ」

 

「えっと、右向きで黒色?」

 

「まつざきしげる色だ」

 

「誰よ、それ!」

 

視力検査が始まり、指定された矢印の向きと色を答えるスレイ。

一番下の小さな矢印の向きと色も間違いなく答え、左目には異常はなかった。

 

「じゃあ、次は右目だ…はい、これ」

 

「えっと……ごめん、見えない」

 

「じゃあ、コレ……」

 

「それも分かんない」

 

「はい、右目悪い!」

 

「おい!!左目の時と比べて適当すぎないか!!」

 

徐々に徐々に段階を上げて検査した左目と比べ、右目はたったの二回で終わってしまった。

余りにもあっさりと終わってしまった事にミクリオ様は抗議する。

 

「しゃあねえだろう。

左目で見えた一番下の一番小さな矢印が右目で見えないから、取り敢えず一番上の一番大きな矢印からスタートしたのに見えねえんだ。某芸人のコントみたいな事にもなる!!」

 

「某芸人……いったいどの様な御方なんでしょう?」

 

「気にしている場合じゃないわよ。

流石に一番上の矢印が見えないんじゃ、眼鏡を作ったとしても左右の視力が合わない可能性があるわ」

 

「お前、視力どんだけ落ちてんだ?

目が悪い奴みたいにピンぼけしてるとかそんな感じじゃねえのか?」

 

「えっと……本当に、本当に一部なら何となくで見えるんだ。

でも、殆どが真っ暗になっててあんまり見えなくて……ごめん、折角眼鏡を作ってくれるのに……」

 

「普通の視力低下とは違う視力低下か、ド近眼とかじゃねえなら眼鏡使っても意味ねえぞ」

 

眼鏡を必要としない、眼鏡ではどうにもならないスレイの視力低下。

流石のゴンベエも何時もの様になにかあると言えず、お手上げ状態だった。

 

「もうこれはスレイが眼帯をつけて右目なんざ使ってんじゃねえええええ!!をするしかないわね」

 

「スレイはそんな凶暴なキャラじゃないだろう」

 

「眼鏡の補助が出来ない事は残念です。

ですが、その代わりに私達がスレイさんの目となりましょう!」

 

「皆……ありがとう!!」

 

眼鏡の希望は断たれたが、それだけだ。

ライラ様達はスレイの右目の代わりとなると決心する……だが、ゴンベエは納得がいかない顔をする。

 

「大丈夫なのか?」

 

「うん、皆が俺の右目の代わりになってくれる」

 

「そう言う綺麗な感じで纏めて良い話じゃねえだろう」

 

「ゴンベエ、確かにスレイの右目は見えなくなっている……だが、その代わりに私達の右目はちゃんと見えている」

 

私達がスレイの目の代わりになってみせる。

こんな所で落ち込んではいられない。前に進まなければならない……

 

「お~い、導師」

 

「ルーカス、どうしたの?」

 

決意を新たにしていると、一人の傭兵が手を上げて近付いてくる。

手を上げていない方の手には袋を持っており、ジャラジャラとお金の音がする。

 

「この仕事、この額じゃ割に合わん」

 

「ええ、そんな!?」

 

「えっと、貴方は?」

 

「俺か?俺はルーカス。木立の傭兵団の団長、とでも言っておこうかお嬢ちゃん」

 

「傭兵……」

 

スレイに用事がある傭兵と言えば、心当たりは一つしかない。

少しの間、このマーリンドを警護する事になっている傭兵だ。このルーカスと言う傭兵、かなりの実力を持っている。

 

「ルーカス、割に合わないってさっきは依頼を受けるって」

 

「勘違いするな。仕事と貰う報酬の割合が合わない、ただそれだけだ。

お前の言った通り、異常なまでに凶暴化している野犬や狼がいるが数が圧倒的に少ない。なによりも見た目より弱い。これなら報酬は貰った額の半分で良い。要はこれは釣りだよ」

 

ルーカスはスレイに向かっておつりが入った袋を投げる。

だが、不幸かスレイの右側に投げてしまい、スレイは袋を受け取るのに失敗してしまう。

 

「ゴンベエ」

 

「ローンは受け付けてねえ。一括で支払え」

 

袋を拾い上げたスレイは、ゴンベエに返そうとする。

だが、ゴンベエは受け取らない。一括で以外は受け付けるつもりはない……のだが、まるで他のなにかに使えと言っている。

 

「トイチだから、ちゃんと利子揃えて一括で返せよ」

 

「トイチって随分とぼったくってんだ」

 

「スレイならば確実に返せると踏んでいる」

 

「はっはっは、確かに導師なら金を集めるのも簡単だな。

しかしまぁ、今回の依頼は簡単すぎて暇すぎるな。俺が動かなくても部下だけで充分過ぎるほどだ。ふぁ~」

 

気の抜けた大きなあくびをするルーカス。

本当に部下の人達だけで充分なようで、意識を緩めていて隙だらけだった。

 

「……ねぇ、ルーカス、もし暇なら俺と勝負してくんない?」

 

「スレイ?」

 

少しの間、お金が入った袋を見つめるとスレイはルーカスに勝負を挑んだ。

スレイの性格からして自らが勝負を挑むなどという事はしない筈だが、いったいどういうつもりなのだろう?

 

「おいおい、俺はあくまでも傭兵。守るのが仕事でそう言うのは専門外だ」

 

「そう言わず、もし俺に勝ったらこのお金はルーカスが好きに使ってよ」

 

「ほぉ、賭けをしようってか?

良いのか?俺はあの帝国の将軍クラスの実力を持ってると言われているんだ……例え導師だろうが、手加減しねえぞ?」

 

「うん、むしろ手加減しないで欲しいんだ」

 

「……分かったよ」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

ルーカスが剣を抜くと待ったをかけるスレイ。

私の元に近付きライラ様達を招いて、他の人達に声が聞こえないように囲む。

 

「エドナ、眼帯を持ってない?」

 

「あるわよ……つけるつもり?」

 

「うん、つけるよ」

 

「この際だからどうしてエドナが持っているか気にしないでおくが、スレイ、なにをしているんだ?

それはゴンベエから借りたお金でルーカスとの賭けなんかに使うんじゃなく大事に取っておかないと、何時ゴンベエに纏まったお金を返せるか分からないんだぞ」

 

「待ってください、ミクリオさん……スレイさんは、今の自分の力を確かめる為にルーカスさんと戦うのですね?」

 

「うん、そうだよ」

 

エドナ様から黒い眼帯を受け取って右目につけるスレイ。

ライラ様の言葉に頷き、戦う理由を説明し始める。

 

「皆が俺の目の代わりになってくれるのは嬉しいよ。

でも、それでも見えないのには変わりは無いから少しでも強くならないといけない。

天族の力を一切借りずに俺一人の力で傭兵として強いルーカスに勝てるぐらいじゃないと、何時か出会う災禍の顕主を相手には勝てないと思う」

 

何時か出会い対峙する災禍の顕主との戦いに備えての予行演習。

右目が殆ど見えないスレイはルーカスをその相手に選んだのか……

 

「ゴンベエから借りたお金、結構な額だから勝ちなさいよ」

 

「うん」

 

此処でゴンベエから借りたお金を失うわけにもいかない。

眼帯をつけ終えたスレイはルーカスと向かい合う。

 

「おいおい、ハンデのつもりか?」

 

「ええっと」

 

「スレイはこの街の疫病とかの原因の植物を除去してきたんだが、その際に花粉に右目をやられたんだよ。眼が真っ赤になるとかそう言うのがなくて分かりづらくて、本当についさっきまで隠してやがった」

 

「成る程な……怪我人相手だろうが、容赦しねえぞ!!」

 

ゴンベエが眼帯をつけている理由を適当に説明すると戦いがはじまる。

先程までの気の抜けた雰囲気と一転し、ルーカスは歴戦の強者の覇気を出している。

 

「手加減されるほど、弱くはない!!」

 

スレイも剣を取り構える……そして決着はあっさりとついてしまった。

 

「いててて……」

 

「俺の勝ちだ。約束通りこいつは貰っていく」

 

「うん、俺の負けだよ」

 

スレイがあっさりと負けてしまった。

神依や天族の方達の力を使い戦っている所もあるが、我流とはいえ狩りで鍛えた腕はそこらの一般騎士を遥かに上回っており、決してスレイは弱くはない。

戦ったルーカスと実力差はあるかもしれないが、それでも絶望的なまでの差はないのにあっさりと負けてしまった。

 

「太刀筋も速度も力も意識も悪くはない。

だが、距離感や右側からの攻撃を上手く掴めていないな。今みたいに右側から攻めれば俺の部下でも倒せるぞ」

 

「……やっぱり右側の攻撃と距離感か」

 

「導師、悪いことは言わねえ。

無理に戦おうとせずに、今は休んで目を治せ。

俺達人間は蝙蝠の様に音で空間を認識していない。犬の様に優れた嗅覚も持っていない。人間は目で世界を認識する。

生まれた時から目が見えないのなら優れた触覚や空間認識能力を持って育つが、ついさっき目に粉でやられただけだろ?だったら、無理に眼帯なんか付けずに治すのを優先しろ」

 

剣を鞘に戻すルーカスはスレイに助言をする。

至ってシンプルな助言を、目を治せと言う助言だ。

 

「此処数年色々とおかしな事が起きている。

それをどうにか出来るのが導師なのかもしれないが、そんな中途半端な状態で来られても困る。やるからには万全の状態で、右目を治してからにした方がいい。これは仕事をする者としてのアドバイスだ。大きな怪我をしている状態で依頼を受けるなんて傭兵として失格だ」

 

「やるからには万全の状態、か……」

 

「じゃあな、導師」

 

「うん……ルーカス、また別の街で会ったときは勝負してくれる?」

 

「いいぜ。ただし、負けたら酒を奢ってくれよ!」

 

「分かったよ!」

 

この場から離れるルーカスに手を振るスレイ。

するとエドナ様が傘でスレイの膝裏を突いた。

 

「良い感じに終わったのは良いけど、負けてるじゃない」

 

「ご、ごめん。けど、眼帯をつけた状態で何処まで出来るか分かったよ」

 

「距離感と右側からの攻撃に弱いか。今後この弱点を克服し、皆でカバーをしなければな」

 

「ですわね……一息ついた後、マーリンドから出ましょう」

 

……万全の状態で挑まなければならない……

 

「まぁ、なにかと大変だろうが頑張れよ。手伝わねえけど」

 

「うん。ゴンベエもマーリンドでの商売頑張ってよ」

 

「お前も頑張って俺からの借金返してくれよ。アリーシャ、私が立て替えようと言う感じのことは言う……アリーシャ?」

 

右目が見えなくなると言うのは、どの様な感覚なのか考えたこともなかった。

きっとそれだけで見ている世界が変わっている。一年以上右目が見えないのならばまだわかるが、本当に数日前までは目が見えていた。今から眼帯をつけて、距離感や右側からの攻撃に対応出来る様になるのには時間が掛かってしまう。

 

「スレイ……」

 

ルーカスが治せと言うのは最もなことだ。

だが、だが……スレイの右目は怪我や病気で見えなくなっているものではない。眼鏡を使えばいいだけの話じゃない。

スレイの目を治す方法はたった一つだ。





スキット 特殊刑事課三羽烏

アイゼン「野郎共、集まれ」

ゴンベエ「んだよ?」

ライフィセット「どうしたの?」

ロクロウ「なにかあったのか?」

アイゼン「お前達……気付いているか?」

ライフィセット「気付いている?」

アイゼン「ベルベット達の衣装に対してオレ達の衣装が圧倒的なまでに少ない事に気付いているか?」

ロクロウ「あ~まぁ、薄々は気付いていたぞ。奇術団だアイドルだ、色々とベルベット達だけの衣装があるってのは」

ライフィセット「アイゼン達の衣装は全員の衣装の時しかないよね……」

ゴンベエ「なんかすっげー危ない発言してる。本当、そう言うのバンナムさんに怒られるからやめねえか?」

アイゼン「ふっ、バンナムが怖くて死神なんぞやってられるか」

ゴンベエ「死亡フラグたてやがって……」

ロクロウ「それで、俺達を集めた理由はなんだ?」

アイゼン「決まっている、オレ達だけの衣装が完成した!」

ゴンベエ「なにやってんだ、お前……何時ぞやの海賊の時もそうだったか。で、今回はなんだ?魔法使いか?ジャージか?」

アイゼン「いや、違う。ベルベット達と対になるものだ」

ライフィセット「ベルベット達と対に……僕達もアイドルの格好をするの?」

ロクロウ「いや、それだと対にはならない筈だ」

アイゼン「ベルベット達はアイドルやら奇術団やらステージに立つ者の衣装を身に纏っている。
謂わば光り輝く花道を歩いているとするならば、オレ達は影を……ベルベット達を警備する警察だ」

ゴンベエ「お前、曲がりなりにも海賊だから警察の格好すんじゃねえよ……つーか、警察の衣装なら全員被るんじゃないのか?」

ロクロウ「確かに、警察は全員同じ制服を着ていて統一されているな」

アイゼン「その点は心配いらん。
ステージで客を楽しませるベルベット達を守るのはただの警備する警察じゃない。陸海空に長けたスペシャリスト達で、それぞれがオンリーワンな衣装だ」

ロクロウ「陸と海は分かるが、空?」

アイゼン「戦闘機と呼ばれる空を飛ぶ船に乗っている警察だから、空だ」

ライフィセット「戦闘機、どんな乗り物なのかな!!」

ロクロウ「面白そうだな、ライフィセット!一緒に空の警察になろうぜ!」

アイゼン「空の警察はちょうど二人一組のペアだ」

ゴンベエ「まぁ、戦闘機運転するの難しいからな……となると、オレは陸で良いのか?アイゼンは海を選ぶんだろ?」

アイゼン「当然だ。警察になろうともオレは海賊、海の男だ」

ゴンベエ「警察で怪盗じゃないんかいっと」

ライフィセット「海の警察って、どんな感じなの?」

アイゼン「潜水艦と呼ばれる海中を自由自在に行き来する乗り物に乗って海の犯罪者どもを追いかけ、調教したイルカに爆弾を投げさせたり、とにかく海のエキスパートだ」

ゴンベエ「ん、んんん?なんか聞いたことあるぞ」

ロクロウ「取り敢えず着替えてみようぜ!!」




~~~~~~お着替え中~~~~~~


ベルベット「ゴンベエ、ライフィセットを見なかっ……」

ゴンベエ「やっぱコレか……」

ベルベット「ゴンベエ、なに水着に着替えているのよ?あんた、水中でも呼吸出来るんでしょ?」

ゴンベエ「色々とあったんだよ。でもまぁ、オレがこれでよかった」

ベルベット「?」

アリーシャ エレノア 「いぃいいいいやぁああああ!!」

ベルベット「っ、今のはアメッカとエレノアの悲鳴!」

ゴンベエ「あ~、オレのが一番インパクト薄いからな……ははは」

アイゼン「全く、オレの姿を見て悲鳴をあげやがって」

エレノア「そ、そりゃあげたくもなりますよ!!」

アリーシャ「なんなんですか、そのへ、変な格好は!!」

アイゼン「海を愛し、正義を愛する。誰が呼んだかポセイドン。ドルフィン刑事(デカ)とでも呼んで貰おうか?」

ゴンベエ「言っちゃった、遂に言っちゃったよ」

ベルベット「アイゼン、あんたまでなに変な格好をしてるのよ」

アイゼン「なに、妹やお前達を守る警察に……ゴンベエ、いや、海パン刑事、ネクタイをちゃんとしろ。アメッカ達女に失礼だろう!!」

ゴンベエ「あ、やっぱネクタイは大事か」

アリーシャ「ゴンベエ、どうして海パン姿に」

ゴンベエ「陸に事件が起きた時、海パン一つで直ぐに解決するからだ」

エレノア「此処は船の、しかも海の上ですよ!」

マギルゥ「ぎょぇえええええ!!」

ビエンフー「ビ、ビェエエエエン!」

ベルベット「今度はマギルゥとそれにビエンフー!?」

ビエンフー「目が、目がぁ!!」

エレノア「なにがあったのですか!?」

マギルゥ「あ、あれはメルキオルのジジイの幻よりもキツい」

アリーシャ「マギルゥが此処まで苦しみとは……いったいなにが」

アイゼン「事件の匂いがする。調査するぞ、海パン刑事!」

ゴンベエ「いや、もう犯人が分かってるから」

ロクロウ「おい、どうした皆、叫んで」

エレノア「ロ、ロ、ロクロウなんて格好を。それは明らかに女性ものじゃないですか!」

ロクロウ「いやなに、満月の夜のみしか出動しない空の警察はこの格好をしなければならないらしいんだ」

ゴンベエ「w違和感しかねえw」

マギルゥ「いくらなんでも、途中で着るのをやめるじゃろい!!」

アリーシャ「その様な格好では、下着が見えてしまいます!!」

ベルベット「死ね」

ロクロウ「お、おう……思ったよりも辛口だな。俺は動きやすくて良いんだが」

ビエンフー「ビ、ビエーン!目が穢れるでフー!」

アイゼン「ロクロウ、いや、美茄子刑事。お前の役目はアシスタントだから、月光刑事の仕事を余り奪うなよ」

ロクロウ「おう!」

ベルベット「月光刑事って、あんたらまさかフィーにまでこんな変態染みた格好をさせたわけ!?」

ゴンベエ「アイゼンが全てやりました!!女性陣だけDLCが多いのに不満を持って独断と偏見でやりました!!」

アイゼン「海パン刑事、情報を横流しするな!!」

ゴンベエ「いやだって、お前……流石にこの格好はダメだろう。オレでももうちょいましなの用意するぞ」

アイゼン「ならば、次はお前が用意してみろ!」

ゴンベエ「よし、覚えとけよ。お前のよりスゴいのを用意してやるからな」

アリーシャ「二人の事はともかく、ライフィセットは何処に行ってしまったのだろう?」

マギルゥ「なに、先程から背後に視線を感じる、それが坊なのじゃろう」

ライフィセット「っ、バレてた!」

ベルベット「フィー、コイツらのばか騒ぎに付き合わなくても……」

エレノア「まぁ、とてもよくお似合いですよ。御人形の様で可愛いです」

ライフィセット「恥ずかしいよ、こんな格好」

アイゼン「ライフィセット、いや、月光刑事。その格好にはちゃんと意味がある。パンチラで犯人を悩殺し、大きな隙を作る為のものだ!!」

ゴンベエ「w違和感仕事しねえw」

アリーシャ「パンチラ……子供にそんな事をさせてはダメだ!」

ビエンフー「そうでフ。どうせならばアメッカさんやエレノア様みたいな清楚な方のパンチラを」

マギルゥ「アイゼン、このままだと保護者達からのクレームが来るぞい。それとビエンフー、格好があれなベルベットはまだしもワシを省くとはどういう了見じゃ?」

ビエンフー「つ、つい口がうっかりと!」

アイゼン「……仕方ねえ。だが、最後に口上だけは言わせてくれないか?」

エレノア「はぁ、一回だけですよ」

ゴンベエ「……え、これオレもやる流れなの?」

アイゼン「勿論、お前からだ」

ゴンベエ「…………股間のモッコリ伊達じゃない。 陸に事件が起きた時、海パン一つで全て解決!特殊刑事課三羽烏の一人、海パン刑事只今参上!!」

アイゼン「タ~リラリラ~♪海を愛し、正義を愛す。誰が呼んだかポセイドン。タンスに入れるはタンスにゴン。お茶目なヤシの木カットは伊達じゃない。オレがアイフリード海賊団副長。特殊刑事課三羽烏の一人、ドルフィン刑事只今見参!」

ライフィセット「華麗な変身伊達じゃない!月のエナジー背中に浴びて、正義のスティック闇を裂く!空の事件なら任せて貰おう!月よりの使者月光刑事、ただいま参上!!」

ロクロウ「同じく美茄子刑事もよろしく!」

ビエンフー「お、終わったでフか」

ゴンベエ「なんか大事なものも終わった気がする。おい、もう着替えるからちょっと……ベルベット、そこにいたら邪魔だ」

ライフィセット「ベルベット?」

ベルベット「最近は顔も知られているし、その格好もありよ。その格好をしていればバレないんじゃないかしら?」

ライフィセット「は、鼻血が出てるよ。拭かないと」

ベルベット「大丈夫、なにも問題ないわ!」

アイゼン ロクロウ 「ベルベット、現行犯で逮捕する!!」

ベルベット「は、離せ!!離しなさい!!私はなにもしていないわよ!」

ゴンベエ「……最後の最後で仕事したな、うん……一時のテンションに身を任せてアイゼンと衣装を作る約束したが、どうすっかな……」


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真の仲間

「アリーシャ、今なんて……」

 

「もう一度言う……私は、此処に、残る」

 

アリーシャは弱々しい声でマーリンドに残ることをスレイに伝えた。

ルーカスとか言うおっさんにあっさりと敗北したスレイを見て、気持ちが揺らいでしまったか。

 

「だか、ら……従士契約を解、除してくれ。そうすれば君の右目の視力は元に戻るはずだ」

 

スレイの右目の視力が悪くなったのは思いの外、やばかった。

ルーカスと戦った際に導師としての力を一切も使っていなかったが、あっさりと負けたのはマジでまずい。

昨日今日でバカみたいに視力が低下しちまっていきなり右目を使わなくての戦闘なんてオレでも難しい。

アリーシャはちゃんとした戦闘訓練を受けているから、視覚が奪われた状態での戦闘がどんだけヤバいかスレイ以上に理解している。

 

「アリーシャ、そんな、いた!?」

 

「察しなさい。アリーシャの苦しみを、現実を」

 

そんな気遣いはいらないとこのままで良いと言おうとするスレイだが、エドナが傘で突いて黙らせる。

ミクリオやライラはアリーシャが残る事についてなにも言わない。止めようとしない。

口では右目の代わりになってやると言えても、さっきの惨敗を見れば右目の視力は取り戻せるなら取り戻さないといけない。三人ともそう感じている。無論、オレもそう思っている。前々から眼帯キャラならば問題ねえが俄の眼帯キャラならば死角を確実に突かれる。

 

「も、勿論、スレイが心配だからだけじゃない。

ロハン様を正式に祀る者が必要で、この事をレディレイクに報告したり、またスレイがバルトロ大臣に襲われない様に内部から……」

 

「……分かったよ」

 

マジの泣き顔をしているアリーシャに首をふるスレイ。

ライラが間に入って手を繋いで赤く光りを放ち、恐らくだが従士の契約を解除した。

 

「本当、なら君と、皆様と一緒に世界を巡りたかった。災厄の時代を終わらせて、美しい世界を見たかったが……すまない」

 

謝る必要は何処にもないのに、なにを謝ってるんだか。

スレイの顔を見ることが出来ないアリーシャは段々と声が弱々しくなっていく。

 

「スレイ」

 

「……うん」

 

「さようなら、スレイ」

 

これ以上一緒にいると互いに苦しめあうだけ。

ミクリオは空気を読み、スレイを別の場所に連れていった。

 

「アリーシャさん、お元気で」

 

「くよくよしないの……別に今生の別れじゃないんだから」

 

ライラとエドナも去っていく……が、その声は届かない。

今のアリーシャは涙を拭くために眼鏡を外しており、天族の姿を見ることも声を聞き取ることも出来ない。

 

「ゴンベエ、頼みがある」

 

選んだのはアリーシャだ。

それならば下手に顔をつっこむわけにもいかないし、そろそろ家に帰ろうとすると服の裾を掴まれる。

後ろを振り向きアリーシャを見ると、服を掴んでいないもう片方の手に槍を……オレがあげた槍を握っていた。

 

「ゴンベエは、肉眼で天族が見える。

それだけでなくライラ様とは別の浄化の力を得ている……妖精さんから貰ったこの槍を使って、スレイの旅を助けてやってくれないか?この槍と浄化の力があれば……スレイの足枷にならない、共に同じものを感じられる真の仲間に、君ならば」

 

「やだ」

 

「っ!!」

 

アリーシャの頼みを断る。

何度も何度も言ってんだろ、導師とか穢れ浄化して世界救うとかそう言うのはしたくないって、パスだって。

確かにアリーシャが足枷になってスレイが弱体化したからアリーシャは従士をやめるって言う決意は苦しいだろうが、それとこれとは話が別である。

 

「ゴンベエ!」

 

「そう言う展開か!まぁ、そっちの方がシンプルでいいがな!!」

 

槍を構えるアリーシャ。

敵意は向けていないが明らかにオレと戦うつもりで、オレは背中の盾を握る。

勝ったらスレイの元に行ってこいって言うあれだな。ならば負けられん。

 

「王家の盾!!」

 

アリーシャの槍の突きを避け、間合いを詰めて盾で殴り飛ばす。

 

「鋼で殴ったが、鎧でダメージ軽減してるしこれぐらいで気絶するほど柔な鍛え方してねえだろ」

 

「ぐぅ、う」

 

アリーシャは槍を杖代わりにして立ち上がる。

軽減されたとはいえ、王家の盾のダメージは確かにあるのに、まだオレと戦うつもりだ。

 

「戦いでは勝ってたけど、根気負けしてオレの負けだなんてぜってー言わねえからな」

 

「あ、あ……君を倒して、スレイの、元に。今の私に、出来る一番のこと、だ!!」

 

槍を持って突撃するアリーシャ。

素早い突きを数回やった後に大きく凪ぎ払うが、オレは全てを避ける。

 

「どうした!!避けているだけでは、勝つことは出来ないぞ!!剣を抜くんだ!」

 

背中のマスターソードを抜かず、避けるだけのオレに苛立つアリーシャ。

 

「お前、今とんでもない顔になってんぞ」

 

「私の顔なんて、どうだって良い!!さぁ、剣を抜くんだ!!」

 

「……じゃ、ちょっと真面目にやるか」

 

穢れてはいないが焦ったりして、色々とおかしくなっているアリーシャ。

オレは盾を背に戻し、デクナッツの仮面を取り出す。

 

「これ、なんだと思う?」

 

「!?」

 

「こういうことだ」

 

今のアリーシャにこれは効くだろうと思ったが、案の定効果は絶大だった。

槍の速度は遅くなり、突きの洗練さもなくなった。

 

「ゴンベエが、妖精さん」

 

デクナッツの仮面をつけてデクナッツリンクに変身すると攻撃の手を止めるアリーシャ。

デクナッツリンクの状態で出来る攻撃は限られているのでゴロンリンク、ゾーラリンクと変身して更に揺さぶると槍を手から放す。

 

「どうした、オレを倒すんじゃなかったのか?」

 

「……なさい……」

 

「?」

 

「ごめん、なさい……ごめんなさい……」

 

アリーシャは膝をついて泣きじゃくる。

槍を握る力……強い意思的な意味での槍を握る力はなくなった。

 

「なんで謝るんだ」

 

「ゴンベエが……ゴンベエがくれた、この槍を。

力が無い私に、眼鏡も槍も与えてくれたのに……こんな、こんな醜態しかさらせない。スレイにも迷惑を負担をかけて、私は、私は!」

 

「落ち着け、本当にヤバい顔になってんぞ」

 

言葉を上手く出せないアリーシャ。

鼻水をジュルジュルと流しているので、鏡を取り出すと少しだけ落ち着く。

 

「なんで、なんで私は……」

 

「そう落ち込むな……と言っても無理だな。

確かにスレイと共に戦うことは出来ない……だが、それだけだ」

 

「なにが、それだけなんだ!」

 

「…………結局、スレイがやってるのは自然災害を起こさない様にしてるだけだ。

地球温暖化をどうにかしようとしているだけであり、あくまで経済をどうこうするとかそう言う感じじゃないんだ」

 

「地球、温暖化?」

 

スレイは確かに憑魔を浄化する事が出来るし、天族と対話できる。

だが、その代わりにスレイに出来ないことは沢山ある。この国の事情とかあんまり知らない。

如何に優れた土地であろうともある程度は正しい内政をしないと、天然資源等は枯渇したりするし社会は発展しない。

それをすることが出来るのは、少なくともアリーシャだけだ。

 

「スレイが導師として世界を巡りやすくする、それがアリーシャの出来ることだ……その槍はもうお前の物だから、返さなくて良いぞ。そしてオレは基本的にはスレイを手伝わない」

 

「……少しだけ、良いか?」

 

「ッチ、今回だけだぞ」

 

スレイを手伝わない事に関してこれ以上はなにも言わない。

代わりに思う存分に涙を流す。今の今まで溜まっていたストレスを、不安を吐き出すかの様に泣く。

此処で拒むとアリーシャが穢れそうな気がするので、今回だけはアリーシャに胸を貸して、今回だけは支えになる。

 

「すまない、恥ずかしいところを見せてしまって……」

 

「別に気にしてねえ……それよりも今後どうすんだ?」

 

「スレイにも言ったように、マーリンドの一件を報告する。

それと、ゴンベエの言ったようにスレイが世界を巡りやすいように……ゴンベエも行きやすい様にする」

 

「オレ?」

 

「結果的には助かったが、ゴンベエは本来はマーリンドに来る予定はなかった。

バルトロ大臣が君まで利用しようとしていたから、マーリンドに避難してきたが、元々はレディレイクに行く予定だった。またレディレイクで商売が出来るようにする」

 

「それは嬉しいが、爺さんに此処で商売するって言ったからレディレイクとマーリンド交互で売るよ」

 

「そうか……今回の件のお礼をしたい、一緒にレディレイクに来てくれないか?」

 

「なに言ってんだ?この街を救ったのは導師様でオレはなにもしてないぞ?」

 

割と今回はマジでなにもしていない。

スレイを運んできただけであり、雑魚憑魔を殴り飛ばしたりしただけで大きな穢れをどうこうしていない。

なにもしていないのに礼をされるのは流石にと思うと何故かアリーシャはクスリと笑う。

 

「とにかく、一緒に来てくれないか?」

 

「まぁ、レディレイクで商売出来るようになった方が楽だから良いけどよ」

 

一先ずは今回の件を報告する事にしたアリーシャについていくことにした。

スレイ達にはなにも言わず、ロハンとアタックにだけ別れを告げてマーリンドを出ていく。

 

「しかしまぁ、従士が下手に作れないとなるとスレイは更に努力しないといけねえな」

 

契約解除して視力戻ったのは良いが、その分人手が減ってしまった。

これから先、増やさないといけないのは導師としての力もあるが天族を認識できる人だが、そんな都合よく天族を認識できる人はいない。天族がコイツ気に入ったと人に憑いてたりすれば見えてたりするが、アリーシャが色々と歩いて色々と見たが最後しか天族が居なかったから無理っぽいか。殆どが憑魔化してるやつだな。

 

「ス、スレイならば」

 

「あ、悪い」

 

話題のチョイスをミスした。

スレイに関する事はこれ以上は追求するとアリーシャはまた泣いてしまうから、なんか別の話題を出さねえと……そうだ。

 

「マオクス=アメッカの情報、なんか掴めたか?

アタックがオレとアリーシャを何度も交互に見ていたが、あいつなんも言わなかったんだ」

 

「その事なんだが」

 

「いたぞぉ!!」

 

「ん?あれって、確かこの国の騎士だよな?」

 

モブ……と言うのは悪いのだが、そうとしか言えないこの国の兜を被って素顔が見えないこの国の騎士達。

十数人ぐらいがオレ達を円形に囲み、槍を向ける。

 

「これはいったいなんの真似だ!!」

 

「アリーシャ殿下、貴殿は導師を利用し国政を悪評にした流布とローランス帝国進軍を手引きした疑いがある!」

 

「進軍って、おい、それはつまり!」

 

「ああ、そうだ。間もなくローランスとハイランドの戦争がはじまる!!」

 

「マジかよ……あ、オレは関係ないんで帰って良い?」

 

アリーシャが戦争を反対している純粋な人間なのは知っている。

大方、バルトロ大臣とやらが罪をでっち上げて動きを封じるつもりだ。

オレは手を上げ、関係が無いので帰らせてもらう。巻き込まれるのはごめんだ。

 

「ナナシノ・ゴンベエ!貴様、ハイランドに1ガルドも納税をしていないだろう!」

 

「待て、それはなにかの間違いだ!!

私は悪評も進軍の手引きも、ゴンベエが1ガルドも納税をしていないのも全てでっち上げだ!!これは誰かが」

 

「ごめん、アリーシャ……未納だ」

 

「え?」

 

うん、本当にごめん。

この騎士達の言う通り、オレは1ガルドも納税していない。バレない様に頑張ってたんだけど、無理だったか。

 

「くそ、スレイに金貸すんじゃなかったな」

 

此処で賄賂を渡して黙らせておけば、オレは帰ることが出来る。

だが、金はスレイに貸してしまったから残念ながら遠慮の塊ぐらいしか持っていない。

 

「二人の身柄を拘束させてもらう」

 

「……アリーシャ、無闇矢鱈と動けば国家転覆とか国家反逆の罪で指名手配犯になる。悪いが、オレは手を上げさせて貰う」

 

やっぱ権力持ってる奴はつえーよ。

オレは両手を上げて自転車から降りて、拘束を受け入れる。

 

「さぁ、アリーシャ殿下も!さもなくば我等は貴女を力付くで拘束致します!」

 

槍をクイクイっと突くモーションをする騎士。

この騎士は本気でアリーシャが悪評や手引きをしていると思っているな。

 

「アリーシャ」

 

「……っく、殺せ!」

 

「いや、それ今言う台詞じゃねえだろ」

 

こんな屈辱を受けるぐらいならばと思っているかもしれないが、それは今言う台詞じゃない。

オレとアリーシャは武器を取り上げられ、騎士が持ってきた手錠に縛られレディレイクへと連行された。





ゴンベエの術技


王家の盾


説明


剣や槍は勿論、炎、氷、魔法弾、光の化身が放つ攻撃を防ぐ最強のハイリアの盾。そんな盾を片手に大きく振りかぶり、相手を殴り飛ばす。鋼で殴っているのでかなりの威力があり、相手からの遠距離攻撃を防ぐことが出来る。
決してGKの必殺技じゃない。


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ペンギンは空を飛ぶことを放棄した

「税金納めないといけないと言う気持ちはあったよ。

でも、此処って社会保険とか国民年金とかそう言う感じのねえだろ?

街に住んでないし、薬を作ろうと思えば作れるが福祉国家じゃないなら納めない方が良いかなって」

 

異世界ライフの定番とでも言うべきか、遂に牢屋に投獄された。

事情聴取とかそんなの抜きで問答無用にレディレイクの隅っこにある牢屋に投獄された。

いや、本当に税金納めなくても良いかなと、戸籍とか市役所とかそんなの無いしバレないかなと思ったんだが、遂にバレた。

 

「ルーカスのおっさんから返された金、受け取っておけばよかったな」

 

「……」

 

「無反応か」

 

向かい側の牢屋に投獄されているアリーシャは膝を抱え、座っている。

従士やめて、それでも出来る事があると前に進んだ矢先、こんな目に遭ったら落ち込むか。

 

「どうするか……」

 

脱出することは簡単だ。

剣と盾と袋を奪われただけで、それ以外はなにも奪われていねえ。

だから、余裕で出ていくことが出来る。だが、出ていったところでなんになる?

アリーシャがマジで邪魔ならば此処で息の根を止めておけば良い。だが、殺そうとしていない。

戦争が、大きな戦いが一旦休止するまでは身柄を拘束するつもりだ。

だったら此処で寝ていた方がいい。戦争に行かされるより戦争の道具にされた方がましだ。

 

「全く、薄汚いところだな」

 

「!!」

 

「……」

 

下手に騒がない様に寝ていると、綺麗な格好をした中年男性が入ってきた。

アリーシャはそいつを見た瞬間、立ち上がる。

 

「バルトロ大臣……何故、こんな真似を!」

 

「なにを言い出すかと思えば、導師を利用し国政を悪評するだけでなくローランス帝国の進軍を手引きした者を捕まえるのは当然だ」

 

「ふざけるな、私はその様な事をしていない!!導師の力を利用しようとしたのはむしろ、バルトロ大臣、貴方だ!!」

 

綺麗な格好をした中年男性はバルトロ大臣か。

なんと言うか、アリーシャを嘲笑いに来たのか。全てが終わってからすれば良いのに、なんで来るんだよ。

 

「なにを証拠に」

 

「おい、おっさん。オレ、家に金があるから帰って納税して終わりじゃダメか?」

 

このままいがみ合っても拉致があかねえ。

とりあえず、オレの方を終わらせようと起き上がる。

 

「確かお前は……税を納めていない異邦人か。

何処の馬の骨とも分からない愚か者が、さっさと30000000ガルドを持ってこい」

 

「はぁ!?」

 

「待て、確かに税は上がっている!!だが、その値段は法外過ぎる。一年間未納ならば十数万ガルドですむ筈だ!!」

 

確かに未納だったが、そこまでかと驚くとアリーシャが仲裁に入る。

と言うか何百倍も増やすんじゃねえよ。

 

「異邦人ならば、今後ハイランドの民となる証としてそれぐらい持ってこなければ」

 

「負けろ、戦争で負けて今の地位とか全部なくなって公開処刑されやがれ」

 

いっそのこと、こいつが溜め込んでる金を全部粉微塵に砕いてやろうか?

 

「それならば問題ない。此方側には導師スレイがいるのだから」

 

「なんだと!?」

 

「あ~……そう言うことか」

 

アリーシャを捕らえた理由を理解した。

オレは文字通り脱税で逮捕されたが、アリーシャは違う。

スレイと深い関わりがある人物を人質にすれば、スレイを意のままに操ることが出来る。

スレイが人間的な意味で最も関わり合いがあるアリーシャは人質として打ってつけだな。

 

「誠心誠意、ありのままを話すとハイランドの為に剣を握ってくれたよ」

 

「まさか、私が……」

 

「っと、こんな所で無駄話をしている暇はない。戦功を得る準備をしなければ」

 

アリーシャを絶望させるために残酷な事を教えに来たバルトロ大臣は出ていった。

あのおっさん、覚えておけよ。生き地獄を味合わせてやる。

 

「…………ゴンベエ」

 

「脱獄することは可能だ……だが、どうするんだ?」

 

オレならば脱獄は出来る。

アリーシャはオレなら出来るんじゃと期待しており、その通りだと頷くと立ち上がったがどうするんだ?

 

「戦争が始まったら、どっちかが白旗を上げるまでは納まらねえ。

戦争をしている暇がないぐらい国政が荒れてたり、災禍の顕主とか言う巨大な明確に見える悪が現れて戦争してる暇なんてないのどっちかじゃないと話にならん……」

 

「だが、此処で指を咥えて見ているなんて私には出来ない」

 

「スレイが戦争に出て、圧倒的な強さで勝つってのも悪いことじゃない。

此処でオレ達が抜け出るよりも、スレイが戦争に勝って戦争を即刻終わらせる方が」

 

「ゴンベエ!!」

 

「いいや、今回ばかりはダメだ。

オレ達がスレイの元に向かえば、スレイはもう戦争に参加しなくてすむ。だが、それだけだ。戦争止める方法はあるのか?」

 

「それは……」

 

確かに戦争なんてロクなもんじゃねえってのは十二分に理解している。

しない方が良いのも理解はしているが、止める方法は勝つか負けるか第三者の介入だ。

スレイ達とオレ達が第三勢力として介入して、喧嘩両成敗と全員をシバき倒す手は使えないぞ。それやったらマジで国家反逆罪だ。他になにか良い案があるかと思えばアリーシャはなにも言わない。

オレ的にはスレイが戦争で勝利した方が良いと思うぞ。

 

「私でもなにか出来るって前向きに思うのは良いことだが、形はハッキリとしとけ。

少なくともオレはスレイが戦争に勝って、ローランスはハイランドの植民地もしくは領土に……それで良いだろ」

 

そっから平和にしていく。

なんの犠牲も出さずに、世界を平和だどうこう言うならば今すぐに死ね。死んで、苦しみから解放されろ。

人は見えない所で見知らぬ誰かを犠牲にしている。誰かを不幸にする代わりに自分が幸福になっている。勿論、その逆もある。

それを間違いだと言うならばデスノートでも独裁スイッチでも用意して新世界の神にでもなりやがれ。人と言う種族は永遠に停滞するがな。

 

「争ったり苦しんだりするから、人は前に進める。

憎しみや怒りがダメなんて絶対にない、そう言うの全てあるから意味がある。

肉に含まれる成分が全て体に良いだけじゃないのと同じように、全てを含めてはじめて1になる。」

 

「……」

 

「あ、でもオレの言っていること=絶対に正しいじゃないからな」

 

数学や理科の様な絶対の法則じゃない。

国語みたいに方向は定まっているが、答えは決まっていないものと同じだ。

アリーシャもアリーシャなりに全と1とかそう言う感じの答えを出さないといけねえ。

少なくともオレを含めて転生者はその辺の価値観が色々とイカれてたりするが、そう言う感じの線は見えている……主にバトル物とかそう言う感じの世界でしか仕事しねえけど。

 

「取り敢えず、釈放されたらどっか逃亡するか。

あの石橋がある川、程良い流れで水力発電に使うのにちょうど良いんだけどな……」

 

現在預金は数百万程で、30000000ガルドなんて大金は支払えない。

マリファナとか依存性が滅茶苦茶ヤバい危ない薬を入れまくった酒をバルトロ大臣に献上し、依存している間に抜け出す。

とにもかくにも水車が必要なのでローランスのどっかの川に水車小屋を建てるしかないか。

 

「ゴンベエ、逃げるつもりなのか?」

 

「勿論だ!流石に30000000なんて払えないし、払いたくない」

 

「……どうして、ゴンベエは逃げる?

それだけ強い力があればスレイが聖剣を抜く前にライラ様と契約して、導師に……それが無理でも地の主と器のシステムだけ聞いていれば色々と出来たのに、どうして?」

 

「……逆に聞くが、なんでしないといけないんだ?」

 

「それは、ゴンベエが浄化の力を」

 

「笑わせんな。

確かに強い力を持っている奴は力を無闇矢鱈に振りまくるものじゃない。

世界の殆どが様々な意味で強く弱い人間で出来ていて、ただただ意味なく暴れたら世界が社会が滅びるだけだ。

だがそれと同時に絶対に正しく使わないといけない理由はない。

強い者は弱い者の為に正義の味方にならなければならない絶対のルールはない。鳥だから絶対に飛ばなければならないルールは無い、ペンギンは飛ぶことを放棄しても生きることが出来た。放棄した代わりに別の世界を手に入れる事が出来た。」

 

「別の、世界……」

 

「うちの国にはこんなお話がある。あ、フィクションだぞ。

神様が人間を作り、人間達はある程度文明とか生物として成長したのはよかったんだが、ある時を境に醜いことばかりしだす。

強い力を持った人間が弱い人間を貪り快楽として殺したりする世界になってしまって、それを見た神様は人間を皆殺しにする事を決定した」

 

「神様が人を殺す!?」

 

「ああ、そうだ。

神様が人間を殺すなんてよくある話だが、その時だけは規模が違った。

文字通り地上の人間全員を殺す予定だったんだが、一人の神様が待ったをかけた。

世界中の人間が争っているんじゃなく、争いを止めようとしたり真面目に生きたりしている人間もいるからそれはやり過ぎだといった。

だが、他の神々はそいつらが争いをしている奴等みたいにならないとは限らないと、なったらどうするんだと言う。

他の神々の言っていることは尤もだ。昔は良い人だったがある日を境に力に溺れて悪人になるなんてよくある話だ。

だから、その神様は神様をやめた。一人の人間となって地上に舞い降り、十人の人間を正しく導くことにした。他の人間は皆殺しにしてだ。醜く争ってる奴はもう無理だと殺すのを認めた……そして始まる元神様と十人の人間達の生活。清く正しく美しく完璧になろうとして日々精進した、が……無理だった」

 

「無理だったのか……」

 

「ああ、無理だった。

嘗て神だった人間を人間達は越えられなかった。神だった人間も自分を越えられないと諦めた。

そして一番最初に神様に選ばれた人間は悪魔になった。完璧とは程遠く、下等とも呼ばれる存在に身を落とした……そのお陰で神様を越えることが出来た」

 

「悪魔に……悪に身を落とさなければ神には勝てなかったっと、正義では善では神は越えられないと!」

 

「正義じゃない、完璧だ。

悪魔に身を落とし完璧とは全く異なる力を持って、唯一無二の完璧を越えることが出来た。

完璧であることを放棄した事により見つけた新たなる世界が、神をも越える力があった。案外、アリーシャが見ていない、見たくない、絶対に行かない考えない世界に、アリーシャの理想をも上回るものが待ち受けてるかもしれねえ……なんてな」

 

こんな話をしていたら牛丼とゆでたまごを食べたくなっちまった。

この牢屋、ちゃんと飯が出るんだろうな?アリーシャが豪華な食事でオレだけパン一個だったら脱獄しよう。

 

「ゴンベエは別の世界を知っているのか」

 

「ハイランドは王様が政治をしている国で、うちの国は王様はいるっちゃいるが政治してない国。それだけで別世界だ。

あ、因みにだが今の話はアリーシャに色々と考えて貰うだけであり、オレが色々と苦労しているんだぞとかそう言う感じの奴ではないから。オレはそう言うの面倒だからパスしてたりしてるだけだから。もうマジで面倒だ」

 

「面倒な理由が別の世界にあるのか……ゴンベエ、私を此処から出してくれ」

 

流石にそこには気付いたか、アリーシャ。

鉄格子を握り、オレに脱獄の手引きをして貰おうとする。

 

「脱獄してどうすんだよ?」

 

「スレイの元に向かう」

 

「……これ、オレも行かねえとダメなパターン?」

 

アリーシャは意地でもスレイ達の所に向かうつもりだ。

もう行くなら行けって感じだが、行ったところで犬死にになるかもしれないしなにも出来ずに指を咥えるだけかもしれん。

それどころか遂に立ち直れないレベルの絶望をして憑魔化するかもしれない。今まで自己嫌悪とかしてるが、憑魔にならないのは多分、心の支えとか希望とかがあるからだ。天族がちゃんと存在していて、ちゃんと見える人なら導師ならどうにか出来るとか色々と心の支えになってるが、戦争に介入したら絶望するかもしれない。

その場合はスレイがどうにかするだろうが、これはオレも行かないと行けないのか?

 

「……税金免除だ……」

 

「?」

 

「ゴンベエ、バルトロ大臣が徴収しようとした税の額は不当だ。

だが、未払いの分は払わなければいけない……それを免除する。今回だけじゃない、一生だ!

今後生まれる君の家族も君の子孫も永遠に1ガルドも税金を支払わなくて良い……今すぐに、今すぐには出来ない。

此処を抜け出て戦争を終結させた後、必ず君の税を免除する」

 

「ほぉ、どういうつもりだ?」

 

金で解決するんじゃなく誠心誠意で、心で解決する、善意とかの塊であるアリーシャ。

ルーカスの時も金でなく使命感や義侠心でやってくれる人にした方が良いと思っていた奴が、切羽詰まった状況とはいえ餌をぶら下げて走らせようとするとはらしくない。

 

「私の知らない、選ばない世界に私の理想をも上回るものがある。

君はそういった。だから、私が絶対に選ばない事を敢えて選んだ……今言った事は金で解決しているのと同じだ。税は納めなければならないものだ……」

 

絶対に選ばない道に足を踏み入れたアリーシャ。

まさか直ぐに実践するとは思わなかった。逞しすぎんだろ。

 

「税金免除は魅力的だからな、一緒に行ってやる。

だが、さっきも言ったようにスレイが戦争に勝てば良いとオレは思ってんだ。

スレイを見て相手側が白旗を上げて終わりなのが今後のハイランドを考えれば一番良いことだ……その辺は考えてくれよ。オレは別にハイランドが勝とうがローランスが勝とうがどっちでも良いんだから」

 

オレは重い腰をゆっくりと上げる。

交渉は成立した、アリーシャと一緒に一先ずは戦地に向かい……まぁ、なんかする。

 

「ところで、何処で戦争してるんだ?」

 

そして今更ながらな事を聞く。

レディレイクは王都で、そこから近いマーリンド付近での戦争なんてない。

そこで戦争をすることになったのなら、ハイランドは劣勢だ。

 

「グレイブガント盆地だ」

 

「……お前それ、確実に遠いだろう」

 

聞いたことのない場所だが、ハッキリと分かる。

此処から出て行ったとして、ウサミミつけて全力疾走しても数時間は掛かることが。

ウサミミ一個しかないから、どっちかは普通に走る……どう頑張っても一日以上時間を費やすぞ。

 

「此処を出たら先ずはなんとかして、馬を調達しないと……」

 

「あ~もう、家に来い」

 

「ゴンベエの家?」

 

「グレイブガント盆地には一度も行ったこと無いから、アレを走らせる事は出来ないがアレならば2人乗りなんとか出来そうだ……この辺で使うと高確率で盗まれそうで、使わなかったんだが今回は使わねえとな……はぁ」

 

オレ、原付の運転免許しか持ってねえんだよな。

 

「……エバラのごまだれ!」

 

「消えた!?」

 

「いやぁ、やんのははじめてだが使えるな」

 

「えっと、ゴンベエ?え、絵?」

 

「ああ、絵だ」

 

壁に手をつけ例の言葉を言うとオレの姿は消えた。

正確に言えばウォールリンクになって牢屋の壁の絵となった。

 

「ラヴィオの腕輪やパワフルグローブを奪われなかったから牢屋をぶっ壊す事は出来るが、それやると壊れるからな」

 

「もうなんでもありだ……」

 

「取り敢えず、アリーシャも絵になって武器回収して出るぞ」

 

壁を経由してアリーシャがいる牢屋に入ると元に戻って、アリーシャを回収。

アリーシャも壁画化し、牢屋を抜け出て宝箱の様な物がある部屋に入る。

 

「これだ、これに私達の武器……ゴンベエ?」

 

「エバラエバラエバラエバラエバラエバラエバラ……ごまだれぇええええ!!」

 

「ゴンベエ、声が大きい!」

 

「これをやっておかないとダメなんだよ!!」

 

ゼルダと言えばエバラとごまだれなんだよ!

宝箱を開けようとすると無意識に言ってしまう悲しい性なんだ。

 

「何事だ!」

 

「ッチ,バレたか」

 

「当たり前だ」

 

「はいじゃあ、エバラのごまだれ」

 

声を出してしまった事により、牢屋の監視をしている兵士にバレてしまった。

だが、既に武器は此方の手の内にあり後はもう逃げるだけだ。

 

「アリーシャ、スゲエ今更だが脱獄して大丈夫なのか?」

 

「なにがだ?そもそもこれは不当な拘束で、バルトロがでっち上げたものだ」

 

「それは分かってるが……これ、逃げた理由が戦争を引き起こしたのを認めたから、ローランスに寝返ったと言う事になんねえか」

 

「…………は!?」

 

アリーシャが脱獄をすると言うことは、白を無理矢利黒にさせる為の道具をバルトロ大臣に与えたも同然だ。

オレはローランスに寝返っておけばどうにでもなる。電球とか蒸気機関とかダイナマイトの作り方を教える代わりに、国民にしてって言えば良い。だが、アリーシャは王族で寝返るに寝返れない。

 

「……戦争を止めて、無実を証明してみせる!」

 

「やっぱそう言うの考えてなかったか……家に向かうぞ」

 

牢屋を抜け出したのはあっという間にレディレイクに伝わり、そこら中を徘徊している兵士達。

壁画化したことによりバレない様にと慎重に歩かなくてもよく、あっさりとレディレイクを抜け出る事が出来た。

 

「ゴンベエの家に向かうのは良いが、どうするつもりだ?

何時も自転車で台車を引いてやって来ていると言うことは、ゴンベエは馬を持っていないのではないのか?」

 

「馬よりも圧倒的に良いものがある」

 

「馬よりも……狼か!」

 

「残念、それは今から乗る乗り物だ!!」

 

「居たぞ!!」

 

「もう追手が!?」

 

「そりゃあ、街の出入り口は一ヶ所しかねえんだぞ。此処にいた方が確実に見つけれる。アリーシャ、乗れ!」

 

「乗るって、なに……ゴンベエ!?」

 

「グゥ、ワウ!!」

 

ウサミミは一つしかないから、家に行くまではオレが運ぶ。

久しぶりに狼になりアリーシャの前で屈んで、背に乗せる。

 

「アリーシャ姫、脱獄をするのは罪を認めると言うことです。今すぐにお戻りを」

 

「すまない。確かに逃げれば罪を認めるも同然だ。

だが、私はそれでも行かなければならない……スレイを戦争の道具にはさせない!!ゴンベエ!!」

 

「ア、ォオオオオオオオオン!!!!」

 

「!!」

 

アリーシャの呼び声と共に吠える。

集まっている兵士達はビクっとなり、一瞬だけ身が硬直する。

その一瞬がオレには必要だ。その一瞬が有れば、アリーシャを背負ったまま走れる。

 

「早い、これならグレイブガント盆地に……」

 

そっちにはいかん。

マーリンドとレディレイクを繋ぐ石橋まで走ると上流に向かって走っていった。




ゴンベエの称号

税滞納者

説明

バレないと思っていたが、調べればあっさりとバレた。
福利厚生がしっかりとしていないこんな国に税金なんて納めても意味がない、面倒だからとしてなかった。
危うく前作の主人公を越える借金を背負いかけた愚か者の称号。
「社会保険とかそう言うの利くんならちゃんと支払っていた」byゴンベエ


アリーシャの称号


道を踏み外そうとする者


説明

清く正しく美しく生きる彼女だからこそ見えないものが沢山ある。堕ちたからこそ下衆だからこそ分かる可能性がある。
完璧を捨てて悪魔になった者が完璧な神を越えれた様に、持てる権限を使って税を免除すると言う普段の彼女ならば絶対にしない事をあえてした事により道を切り開いた。
選ばなかった道の果てにあるのは選んだ道をも上回るものがあるのか、それともただただ下等に堕ちるのか……それはまだ彼女にはわからない。
だが少なくとも、選びたくない道を選んだ事により前に進めない筈の彼女は前に進む事が出来た。
「今ある方法をより良くするなら、無駄なところを省いたりすれば良いのではないだろうか?」byアリーシャ
「それは改良と言うんだよ。今あるものを越える方法は案外、正しいと思わないところにある」byゴンベエ


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マスターバイク

「……此処が、ゴンベエの家?」

 

「ワン!」

 

グレイブガント盆地に一気に向かうなにかがゴンベエの家にあるらしく、狼になったゴンベエの背に乗り、レディレイクとマーリンドを繋ぐ石橋がある川の上流に向かって十数分。

 

「なんだ、コレは……」

 

川の上流には確かに家があり、大きな水車が目を引いた。

 

「そこは作業場だ。オレが住んでる居住スペースはあっちで、其処は水車の力で色々とする小屋だ」

 

ゴンベエの背から降りると元に戻るゴンベエ。

水車小屋の奥にある小さな水車がついている家を指差した。

 

「色々とは、小麦を挽いて粉にしているのか?」

 

「第一次産業はしてない、効率が悪いからな。

水車を利用して空気を送り込んで製鉄したり、炭酸水を作ったり、発電したり、薬作ったり、とにもかくにも色々としている。アレを取ってくるから、少し待ってろ」

 

ゴンベエは直ぐ側にある滝の裏側に入った。

 

「……家が3つ」

 

大きな水車がついている家に小さな水車がついている家、小さな水車も大きな水車もついていない髑髏マークの看板がつけられた大きな扉がある家。ゴンベエは一人で暮らしているのに、どうして3つも家が必要なんだ?

水車のもたらす恩恵はレディレイクで育ったから深く理解している。色々な事をするのに3つ必要なのかもしれないが、髑髏マークの家にだけは水車がない。

 

「……コレは、あの時の磁石?」

 

大きな水車を利用して、何をしているのか気になり見た。

空気を送ると思わしき装置はまだ分かる。だが、鉄棒の磁石二つで二つの銅の円盤を挟み、一つは右回転をもう一つは左回転をさせているこの装置はなんだ?

 

「空気を送り込んで製鉄……は、分かる。

炭酸水を水車を利用して……作る方法があるのかもしれない。薬を作るのは、薬草を煎じる為に使う……発電?」

 

電と言うことは電気、真冬にビリっと来る静電気の電気なのだろうか?

ビリっと来る静電気を自力で再現する?なんの為に?静電気は驚き邪魔でしかない……?

 

「あの大きな扉は……」

 

ゴンベエの家が謎で気になる、なにもない大きな扉がある家が気になってしまう。

スレイ達の元に向かわなければならず、休んでいる暇はないのだが好奇心が私を動かし……ドアを開けてしまった。

 

「これは……」

 

大きな扉がある家は物置の様だ。

中は明らかに人が住むために作られておらず、ゴンベエの国の文字が書かれた紙が貼られた壺が沢山置いてある棚が右側にあった。

 

「……眼鏡の様に透明だ」

 

左側の棚にはそれこそメガネに使われるレンズの様に透明度の高いフラスコが並んでいた。

液体が入っていない物と入っているものがあるが、緑色の液体は野菜の絞り汁だろうか?

 

「おい」

 

「!?」

 

「勝手に触るんじゃねえよ。お前が持ってるそれは硫酸だ」

 

「す、すまない!今まで見たことのない物が多くて、つい」

 

緑色の神秘的な液体を眺めていると、ゴンベエが背後から現れた。

思わずフラスコを落としそうになるが、ゴンベエが直ぐに掴んで落ちないようにした。

 

「触るなっつったんだよ。

アリーシャじゃなくても、誰だって気になる。だから見るのは構わないが、危険な物が何個もあるんだ。

お前が今持っているそれだって、お前の鎧にぶっかければ余裕でお前ごと溶かす」

 

「この液体が!?ゴンベエ、それなら処分しなければ」

 

「アホ、硫酸は必要不可欠なんだよ。取り敢えず住居スペースの方に行くぞ」

 

「此処からグレイブガント盆地に一気に向かうなにかを取りに行ったのなら、今すぐにでも」

 

「脱走してから此処まで走ってきたんだぞ。少しは休ませろ……後、考えろ」

 

ただグレイブガント盆地に向かったところで、スレイに身の安否を伝える事しか出来ない。

スレイが戦線離脱するだけで戦争は納まらず、どうすれば一度戦争を中断する事が出来るのかを考える時間になった。

 

「随分と変わった作り……確か、遥か東の地方で用いられる畳と呼ばれるものだったか」

 

ゴンベエが普段寝ている住居スペースに入ると、独特の雰囲気だった。

家自体は何処にでもある数部屋ある家だが、畳と呼ばれる竹細工が敷かれていて……和を感じると言えば良いのだろうか?

マーリンドともイズチとも違う作りで出来ていた。

 

「元々買い物に行く予定もあったから……アリーシャ、コーラフロートで良いか?」

 

「別になんでも構わない……」

 

ゴンベエが異国の人だとこの家を見て、深く実感する。

 

「……あの丸いのは確か」

 

「そう言うのは全部終わってからだ」

 

天井についている球体型のガラスに見覚えがあったのだが、ゴンベエがアイスクリームの入ったコーラを小さな円形のテーブルの上に出したので中断させる。

 

「アイスクリーム、手間が掛かるというのにわざわざ?」

 

「数日前から凍らせていたから問題ねえよ」

 

「凍らせていたのが数日前なら、とっくに溶けているのでは……」

 

「アレの中に触れてみろ」

 

「?」

 

壁に嵌め込まれた二つの箱。

一つは大きく、もう一つは小さく、ゴンベエは小さな箱を指差す。

あの箱に何かあるのだろうと小さな箱を開いてみると、中は冷たく冷気が漂っていてアイスクリームが入れられている容器が入っていた。

 

「氷で冷やす……いや、違う。

確かに氷の冷気で冷やして食材の鮮度を保つ道具は屋敷にもあるが、その比じゃない。

隣にあるのも……コレならば、地下水で冷やした物よりも遥かに冷える」

 

隣にある大きい箱も開けてみると、小さい方と比べると温度は高いがそれでも充分に冷たく、家にある物と段違いでガラスの容器に入れられたコーラが入っていた。

 

「やっぱ、昭和初期の冷蔵庫か」

 

「昭和初期?」

 

「深いことは気にするな。

ポンプ二つ使って金の糸を間に挟んで空気を入ったり来たりさせて熱を飛ばしているもの。

と言っても理解しにくいだろうから、大きなのは食材を冷蔵して数日間鮮度を保つもの、小さいのは冷凍して長期に渡って保存する物だと思えば良い。小さい方に揚げる前のコロッケとか入れてたら、いざと言う時に揚げるだけで済むから便利だぞ」

 

「……ゴンベエの国ではコレが当たり前にあるのか?」

 

「笑わせんな、こんなもんは中々に見ない。

うちの国はコレよりも遥かに優れた物ばかりだ……エドナの兄が残した物に資源の王様が記された地図でも残ってたら楽だったんだがな」

 

「資源の王様?」

 

鉄、ではないな。

資源の王様と言われるもの……木材というわけでもなさそうだ。

 

「それないと確実に物作りの最中にどっかで詰むんだって……お前はそんな事を考えるんじゃなくて、戦争をどうにかする方法を考えろ!!」

 

「……そうだな……」

 

今、私達が向かって出来ることはスレイを戦線離脱させることだ。

だが、それは私達とスレイが鉢合わせして私達の無事を伝えれば良いだけでそこまで難しいものではない。

問題はどうやって戦争を止めるかだ……戦争が終わるのは、勝つか負けるかで、一時中断する方法は……!

 

「ゴンベエ、確か君は雨を降らせることが」

 

「出来るが……どうするつもりだ?」

 

「悪天候にして、戦にならない状態にする。

豪雨ならば爆薬の類はほぼ使い物にならなくなり、足場も不安定になって戦いづらい。」

 

両国共に鍛え上げられた騎士団ならば、豪雨での戦がどれだけ危険で困難なものか分かっている。

近くに雷が落ちたのならば怯える。雷は炎の様にどうすれば良いのか対処法が分からない、逃げなければならないものだ。

周りは山に囲まれている盆地ならば土砂崩れを意識しなければならず、優秀な将ならば撤退を考える。

 

「成る程……と、言いたいんだがな」

 

「なにか問題が?」

 

「オレは雨を降らせる事は出来るが、降らせた雨は簡単に上書きが出来る。

天族が無理矢理晴にすれば余裕で晴に出来るし、その逆もまた可能だ。戦地で確実に邪魔されるぞ」

 

「戦地に天族は……憑魔か!」

 

「そう」

 

戦地に天族はいない。

仮にいてもそれはエドナ様達で、雨を降らせて戦争を無理矢理中止にさせる方法を伝えれば賛成してもらえる。

天族はいないが、他に超常現象を引き起こせる存在が憑魔がいる。

 

「穢れが憑魔を生み出すならば、戦地は憑魔で……」

 

「溢れている、とは言い難いが確実に強い憑魔はいるだろうな」

 

「だったら、先ずはスレイに……ゴンベエが降らせる雨を邪魔する憑魔を浄化して豪雨を」

 

「それが一番良い方法だけど……それ、アリーシャいる?」

 

「っ!」

 

ゴンベエの言葉がグサリと胸に刺さる。

確かにそうだ……私は此処に隠れて、ゴンベエにグレイブガント盆地の場所を教えれば良いだけかもしれない。

向かったところで従士としての契約を解除した私はこの槍でしか浄化が出来ず、この槍を奪われたりすればなにも出来ない。

 

「……ごめん、なさい……」

 

「別に構わん……少なくとも、お前はあの場面でオレを動かすことが出来たんだ。

スレイでもエドナでもミクリオでもライラでもオレを動かすことが出来なかったと思っている」

 

結局のところ、ゴンベエとスレイ頼りだ。

ゴンベエなりに励ましてくれているが、きっと私じゃなくても動いていたはずだ。

 

「体も休まった事だし、行くぞ」

 

「ゴンベエ……私は残った方が」

 

「じゃあ、オレは行かんぞ?」

 

「別に、ゴンベエがちゃんと戦争を終わらせてくふぇ、ふぁ、ふぁふぃふぉふふ(な、なにをする)!?」

 

ゴンベエは私の頬を掴む。

 

「お前が来いつったから、一緒に出たんだぞ。

確かにお前が向かってもスレイに安否を報告する以外は糞の役にも立たんだろうが、それでも来い。

オレをわざわざ此処まで引っ張って来たんだから、最後まで責任を持て」

 

「糞の役にも……いくらなんでもそこまで私はなにも出来ない人間じゃない!」

 

「だったら、来いよ……少なくとも、顔としては必要だ。

スレイは導師と言う称号を持っているが、それはあくまで称号で社会的地位な意味ではそんなに力を持たない。精々、5%値引きをするクーポンぐらいの称号だ。だが、お前は王族である程度の力はある」

 

「君はスレイと私をなんだと思っている!」

 

「スレイは子供の教育に悪いドラえもん」

 

「ドラえもん?」

 

「アリーシャは……まぁ、今のところは脳筋で。

そんだけ騒げるんなら、もう大丈夫だな。オレの方も疲れがとれたし、いくぞ」

 

色々と聞き捨てならない事をサラッと言ったが、今は目を瞑らないとならない。

食器を洗って家を出ると、馬の造形がされている……自転車?が置いてあった。

 

「サイズ的に2人乗り出来るか……中型も大型も免許持ってないけど」

 

「確かに自転車は便利だが、馬の方が早い……いや、これは漕ぐところが無い?」

 

「これ、自転車じゃなくて自動二輪車だ。

オレ、車には興味ねえから果たして大型か中型かは知らんが……時速50kmは余裕で出るな、うん」

 

舵の部分を掴むと、自転車からブルンブルンと音が響く。

 

「さて、ヘルメットなんて存在しない。

更に言えばオレは原付の免許しか持っていないが、まぁ、なんとかなることを祈る……乗れ」

 

「……」

 

先程から不安しかないが、これに賭けるしかない。

ゴンベエの後ろに乗って、ゴンベエにしがみつく。

 

「アリーシャ、ちゃんと前を見てくれよ。

グレイブガント盆地には行ったことないから右とか左とか言ってくれないと!取り敢えずは、向こう岸に向かう!!」

 

ゴンベエが舵を捻ると、自転車は……自動車は走り出した。

足で漕いでいた時とは比べ物にならない速度で走り出し、僅か30秒でレディレイクとマーリンドを繋ぐ石橋に辿り着き石橋を飛び越えた。

 

「ゴンベエ、コレがあるのにどうして今まで自転車で来ていたんだ?」

 

「盗まれる可能性があるからだ……せめて、蒸気機関とか作れるレベルなら走らせてたがそうじゃないならな。

コレばっかりは一点物で盗まれればそこで終わり……オレ以外が運転出来ないようにはなっているけどな。アリーシャ、そろそろオレが知らん道だ。案内頼むぞ!!」

 

「少し右に曲がるんだ!」

 

自動車だったら、グレイブガント盆地にあっという間に辿り着く。

なんとかしてスレイを見つけ出し、身の安否を知らせ豪雨を降らせて戦争を止めてみせる。




DLC 超人血盟軍


アイゼンの衣装 「偽りの残虐筋肉男」

説明

とある星の王位継承権を持つかもしれない残虐の神が乗り移った男……を、打ち倒して成り代わったその星の王位継承権を持っていた男。王位継承権を争う実の弟の前に姿を変えて現れ、馴れ合いでない真の友情を見せつける冷静で的確な判断を持つがどう頑張っても衣装をペンキにつけて神父には化けれない。


ロクロウの衣装 「未完の大器」


説明

ドイツの鬼と恐れられた残虐超人の息子を用いた衣装
目にも止まらない速度の手刀、ベルリンの赤い雨はあらゆるものを切り裂く。
まだまだ未熟で、父の敵である美来斗利偉・拉麵男に助けられることが多い。


ライフィセットの衣装 「焦熱地獄の番人」


説明

悪魔将軍直属のエリート精鋭部隊・悪魔六騎士の一人。
悪魔の術と忍者としての術を巧みに扱う六騎士一のテクニシャン。
正義とは相容れぬ存在だが、真の漢に惚れ込み血盟軍に入る



スキットは次の話で


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表裏一体

「……!」

 

「っ!」

 

自動車の爆走で一気に遅れを取り戻し間もなくグレイブガント盆地につく……と言うところでゴンベエはブレーキをかけた。

 

「ゴンベエ、グレイブガント盆地は……戦場はもうすぐだ」

 

「それぐらい、分かってる……オレ達は戦争をしに来たんじゃない。

出来れば戦争そのものを無かったことに、無理でも停戦にしなければならない……極力無血にだ」

 

「……」

 

耳を済ませば争っている声と思える音が聞こえる。

水車は水が無くなるまで止まらない様に敵の将が討ち滅ぼされない限りは、終わることのない戦。

豪雨を降らせる手を取っても、どうにもならない可能性を感じゴンベエは自動車を降りて何時も背負っている剣とは別の剣を握る。

 

「流血沙汰となったら、コレを使わないとな……一先ずは雨を降らせる」

 

「出来ればそれだけで一時中断になって欲しい……天族の皆様、ゴンベエ」

 

「待て待て待て、それじゃない」

 

どうか作戦通り上手く行ってください。

そう天族の皆様に祈ろうとするとゴンベエが止めた。

 

「オレのは天族全く関係無い代物だ。

どっちかと言えばフロル、ネール、ディンの三女神様だ……そろそろざっくりとオレの力について教えてやるよ。これ、終わった後でだけど」

 

何時もその内と言っていたのに、珍しくちゃんと教えてくれる。

ゴンベエの中でなにか変わったのだろうか。考えていると、ゴンベエがレイフォルクでも聴いたあのオカリナの曲を吹き、雨が降り始めた。

 

「元々雲行きが怪しかったから、この分だと警報級の雨が降るな」

 

何時も背負っている剣……に、似た傘を取り出して一緒に雨宿りする私達。

ゴンベエの降らせた雨は長時間続けば土砂崩れを引き起こす程のもので、私ならば撤退命令を出す。

どうかこの雨が続いて欲しい、そう祈った……だが

 

「雨がやんだ……」

 

「まぁ、そうなるか」

 

通り雨だったのかと思わせるほど、ピタリと雨はやんだ。

降りだして数分しかたっておらず、雲行きはまだまだ怪しく淀んだ雲で日の芽は見ることが出来ない。

それはつまり、誰かが人為的に雨を収めたと取れる。

 

「スレイを見つけるとして……誰をシバき倒せば良いんだ?

戦場にいる憑魔は一体だけなんて絶対にありえない。一体一体を浄化している暇もない、一番大きいのを優先するにしても……」

 

「それならば両国どちらかの師団長の可能性がある」

 

戦争を望まぬ者は恐らくローランスにもいる。

それと同じ様にローランスにも戦争を推進するものがいて、そう言った者達は高い地位を持っている。

今回の私の不当な拘束を何事もなく行えたのは……恐らく騎士団に戦争推進派の息が掛かった者達がいたから。

ならば、最も穢れを持っているのは全ての事情を知っていて、尚も戦争を続けてそれなりの地位、例えば師団長クラスの人物だ。

 

「どちらにせよ戦いをしないことは許されない、か。

出来ればローランスの方の師団長の方が原因であって欲しい。ハイランドだと後々ややこしい……此処からは徒歩だが、少し待て。着替える」

 

出来れば戦う事自体が無いことを願う。

ゴンベエは茂みに移動し、隠れて何時も来ている海老が描かれた青いシャツから緑衣に着替えた。

 

「何故、今着替えを?」

 

「アリーシャもだがオレも割と切羽詰まった状況だし、ちょっと気を引き締める為だ……マスターバイク・零式はこれ以上は乗らねえ。無理に爆走して人を跳ねたら、高確率で死んじまう」

 

ゴンベエが指を鳴らすと自動車は勝手に走り出す。

来た道を逆走し、家へと帰っていった。

 

「じゃあ、行くぞ。あ、眼鏡かけとけよ。」

 

ゴンベエの声と共に戦地に赴く。

何時もよりも強く光る槍を取り出し、眼鏡をかけると……マーリンドよりも穢れで溢れていた。

 

「地の主はいないが、この近隣には村もない……戦争でこんなに」

 

改めて感じる戦争と穢れの恐ろしさ。

早くスレイと合流しなければと歩く速度を早めようとするも、止められる。

 

「思いの外、ヤバイな」

 

「なにが……!」

 

望遠鏡を貸して貰い、戦地を覗くとローランスもハイランドも殆どが穢れを放っていた。

このまま放置すれば憑魔になる程の穢れを纏っており、スレイは此処から見えるところにはいない。

 

「ぜぇはぁ……戦争なんてやってられるかよ!」

 

「お、ナイスタイミング」

 

どうすべきかと考えていると、一人のハイランド兵が逃げてきた。

戦場で怯え逃げるなんて……と普段なら思っていたかもしれないが、今は逃げてくれた方がありがたい。

 

「そこの者!」

 

「っひ!?」

 

「アリーシャ、威嚇するなよ」

 

「アリーシャ……アリーシャ殿下!?」

 

「ああ、そうだ。

少し聞きたいことがある、スレイは今何処に――なにをする!?」

 

スレイについて聞いただけだ。

何故、槍を私達に向ける!!

 

「悪く思うなよ。

逃げたオレは戻っても反逆罪だなんだ言われて殺されるに決まっている。

アリーシャ殿下は今、身柄を拘束されているんだ。それなのに此処にいるって事は脱獄したんだろ。今、此処で捕まえれば!!」

 

「っ……」

 

兵が叫ぶと穢れが更に強くなった。

きっと、戦争で心にゆとりが無くなってしまった者だ。

そう思いたくて仕方がなかった。生き残る為に私達を捕まえようとしている。

このまま捕まれば彼の命は救うことが出来る……かもしれない。その代わりにスレイに大量の命を奪わせることになる。

 

「アステロイド」

 

「っがぁ!?」

 

「なに躊躇ってんだ、お前?」

 

迷いが生じ、槍を握れなかった私に代わり兵はゴンベエが倒した。

四角形の大きな光をいくつもの三角錐に分割し、兵に向かって放つと浄化された。

 

「……この者にもこの者の生活がある。

戦場は恐ろしいもの。ましてや望まぬ戦争で逃げ出したくなる気持ちも分かるのだ……」

 

「一度、自分で槍握ったならそこから先は自己責任だ。

くだらない情けをかけている暇があるなら、とっとと相手を打ち払え」

 

「……」

 

「優しいというのは怒らないとか、誰かの事を思いやる気持ちだけじゃねえだろ。

本当に手遅れな事になる前に多少自分に泥が掛かってもなんとかしてやるのも一つの優しさだ……怒りや憎しみは時として最高の原動力だ」

 

ゴンベエは戦場に向かって歩き出す。

私はなにも言えぬまま、ゴンベエの背中を追っている。

このままだと本当に私は足手まといで邪魔になるだけだ。

 

「アリーシャ、表裏一体という言葉を知ってるか?」

 

「表と裏は二つでなく一つ、密接で切り離せないと言う言葉だ」

 

「そう言うこと……ハイランドやらレディレイクやらがいったいどれだけ長い間繁栄してきたかは知らん。

だが、栄えの中には汚い裏がある。世間がコロンブスをアメリカ大陸発見した良い感じの人にしたり、エジソンを偉大な発明王にしたりしているが、どちらかと言えばクソッタレな奴等だ」

 

「なにが、言いたいんだ?」

 

「穢いものは否定するんじゃなく、受け入れる事が大事だ。

残酷かもしれない仕方ないじゃなくて、そう言う方法もありっちゃありってな」

 

「……戦争やバルトロ大臣を認めろと言うのか!?」

 

「その辺は臨機応変にだ……少なくとも、今は戦争している暇はない。資源が足りん……次はいけるな?」

 

「……ああ!」

 

上手くゴンベエに乗せられた事に気付くが、少しだけ前に進めた気がする。

 

「しかしまぁ、参ったな。広範囲に及ぶ技は使えねえんだよな」

 

「次は私に任せると言ったはずだ」

 

戦地に赴くと穢れに溢れ、ハイランドとローランスが争っている。

中には憑魔化している兵士もおり、放置すれば見境無く襲って大変な事になる。

今ならばいける……ゴンベエから貰った槍が今までに無いほどに光り、勇気が湧いてくる。

 

「贖罪はいらん……だが、反省はしてもらう!!リトル・シャイン・フリンジ!!」

 

槍を天高く掲げると、青白い光が放たれ雨の様に降り注ぎ穢れを持った兵達に当たる。

 

「アリーシャ、お前そんな事、出来たっけ?」

 

「今ならばやれそうな気がして、やってみればでき、あれ……?」

 

「まだ、スレイにすら会えてないんだから倒れるのは勘弁してくれよ」

 

普段の私では絶対に出来ない事をしたせいか、足がふらつく。

リトル・シャイン・フリンジは勢いに任せて使って良い技ではなかったようで、体力とは違うなにかを消費したように感じる。

 

「これ飲め」

 

「……ぷはぁ……メロングミを液体化させたものか?」

 

「違う」

 

差し出された瓶に入った緑色の液体を飲めば、楽になった。

メロン味だったので最高級のグミ、メロングミかと思ったが違うのか。

 

「ぐぅうううう……」

 

「おいおい、勘弁してくれよ。取り溢してんじゃねえか」

 

「すまない……だがアレは部隊長で、他と格が違う」

 

リトル・シャイン・フリンジで倒しきれなかった憑魔がいた。

ハイランドの騎士の格好をしている憑魔だが、他とは違う印などがつけられており部隊長だ。

 

「デラックス」

 

「ここは私に!」

 

「ぐるぅううおおお!!」

 

倒し損ねたのは私の失態だ。ならば、成功で取り返す。

憑魔化した部隊長は理性を失っており、私を見てもなにも反応せずにところ構わず暴れようとする。

 

「手伝ってやろ……って、言ってる暇はないか」

 

部隊長だけあり、元から強い。

憑魔化したことにより、単純な力や早さが更に上がっている。だが、動きは鈍い!!

 

「見切った!!この一瞬に全てを賭ける!!翔破裂光閃!!」

 

我が師から直伝されたこの秘奥義で倒す!

翔破裂光閃を決め、部隊長を元に戻した。

 

「……ッチ」

 

「?」

 

「憑魔と穢れがこれだけある。

いくらアリーシャが人質になっているとはいえ、このレベルだと戦争に加担している暇は無い。

ハイランドだローランスだ言っている暇もなく全憑魔をシバき倒すか根底を、マーリンドの時の様に大きな憑魔を叩かないといけない、が手こずってやがるな、スレイ」

 

「大きな憑魔……仮にそれが師団長クラスの人物が元になった憑魔ならば、苦戦する筈だ」

 

何時も通りの師団長ならば神衣や天族の力を使えばどうににでもなる。

だが、憑魔化したのならば神衣や天響術で開いていた差は一気に詰まる。

 

「それだと良いんだけどな……他、行くぞ」

 

「ああ!」

 

まだまだ争っている声は聞こえる。

 

「スレイ!!何処だ!!」

 

私は無事だ。一時停戦になるだけかもしれないが、それでも争わずにすむ方法を用意した。

大声で叫び、憑魔になって理性を失った騎士達を薙ぎ払いスレイに呼び掛ける。

 

「ストップ、アリーシャ!」

 

「どう、!?」

 

ほぼ一人で憑魔を打ち倒し先を進むゴンベエ。

追いかける私を制止するが、入ってしまった……一年前に、磁石を作りにレイフォルク山頂に向かったあの時と同じ衝撃が走る。

 

「穢れの領域……」

 

「マーリンドやレディレイクと比較出来ねえ……レイフォルクで出会ったエドナの兄並だ」

 

胸の内がモヤっとするこの感覚、これが穢れだ。

今は眼鏡をかけているだけで、今はスレイと従士契約をしていない。眼鏡は天族や憑魔を見るもので、感じるものではない。それなのにあの時と同じぐらいの穢れを感じる。

 

「ぬぅおぁ!?」

 

「スレイ!?」

 

穢れの中を歩くと、前から飛んで……いや、飛ばされて来たスレイ。

 

「アリーシャさん!?それにゴンベエさんも!?」

 

「どうして此処にいるんだ!?君達は拘束されているんじゃ」

 

「馬鹿ね、アリーシャはともかくゴンベエは魔法が使えるのだから脱獄なんて何時でも出来るのよ」

 

スレイの中に入っていたライラ様達が姿を現して、私達に驚く。

 

「アリーシャ、ゴンベエ……」

 

「ああ、正真正銘、君が知っている……いや、マオクス=アメッカだ」

 

飛ばされた衝撃で意識が不安定なスレイ。

私達を本物かと疑ってしまうので、私達にしか知らない……私の真名を教える。

 

「どうやって此処に」

 

「ゴンベエの力を借りて出てきたんだ。

これでもう、君が戦争にハイランドに必要以上に加担する必要はもう無い」

 

「そっか、よかった。

アリーシャが俺を使って国政を悪評にしたとかローランスの進軍を手引きしたとか、ゴンベエが1ガルドも税を納めてないとか……全部、戦争を推進している奴等がでっち上げたんだよね」

 

「いや、ゴンベエの未納は事実だ」

 

「……え?」

 

「すまない。今のは忘れてくれ」

 

税を免除する約束だから、これ以上はもうなにも言わない。

だが、スレイにだけは真実を伝えておかなければならない。

 

「あんた、マジで未納だったの?」

 

「それ言ったら、お前等天族なんてオレの百倍以上未納だぞ」

 

「ライラはともかく私はハイランドが生まれる前からレイフォルク在住の先住民だからセーフよ」

 

「あ、じゃあライラはオレより酷い未納者だな。

なにせ湖の乙女としてレディレイクに伝わってるんだから」

 

「はぁ、ライラのせいで借金が増えそうよ」

 

「エドナさん、私を巻き込まないでください!!」

 

「ライラ様、私達は天族から税を徴収するなど愚かな事は致しません」

 

「アリーシャ、そう言う問題じゃないぞ!!」

 

ミクリオ様、御安心ください。

天族の皆様から税を徴収しない様に頑張ります。ゴンベエの税を免除するのと同じように!!

 

「っと、オレ達が出れたからもう大丈夫だよな?」

 

「え、ええ……スレイさんが戦争に介入する理由は無くなりました……ですが」

 

「アイツを野放しには出来ない!!」

 

「スレイ?」

 

何時ものスレイらしくない、激情に身を走らせているスレイ。

剣を杖代わりにし、必死に立ち上がる。

 

「おい、待て。

お前がなにを相手にしているのは知らんが、オレ達の方を優先してくれねえか?」

 

「スレイ、ゴンベエは豪雨を降らせる事が出来る」

 

「豪雨、さっきの通り雨はゴンベエがやったんだ……」

 

「だが、天候に影響を及ぼす程の憑魔が何処かにいるせいで直ぐに雨が止まる。

その憑魔を見つけ出して浄化してくれないか?そうすれば豪雨で両軍共に一時撤退を選ばなければならなくなるはずだ」

 

「……」

 

これしか道は無い。

スレイに憑魔の浄化を頼むのだが、スレイは難しい顔をする。

 

「天候に影響を及ぼす程の憑魔、か……」

 

「ミクリオ様?」

 

ミクリオ様も難しい顔をする。

 

「そんなの、アレしかないわよ」

 

「……はい」

 

エドナ様もライラ様も難しい顔をする。

 

「アレとは……この穢れの領域を展開している憑魔……」

 

「ああ……来る!!」

 

儀礼剣を構えるスレイ。

すると、この領域の穢れよりも遥かに強いナニかが近付いてくる。

ナニかの足音が響く……今まで狼や蛇の姿の憑魔が多かったせいか緊張が走る。

 

「災厄の時代の、導師が鎮めなければならない災禍の」

 

「デラックス・ボンバー!」

 

「顕主が此処に……え?」

 

「おーし、命中した」





スキット 超人血盟軍


ゴンベエ「野郎共、集合!」

アイゼン「なんだ?」

ロクロウ「なにかあったか?」

ライフィセット「どうしたの?」

ゴンベエ「前に言ってた衣装だよ。完成したからとっとと着替えてこい」

ロクロウ「おお、そう言えばそんな話になっていたな!」

ライフィセット「前のは酷かったけど、大丈夫かな?」

アイゼン「ふっ、三羽烏を越える物など早々に存在はしない。あるとするならば、この前の海賊の衣装だけだ!」

ゴンベエ「お前のその自信は何処からあるんだよ……とっとと着替えろ」

ビエンフー「アイゼンの声が聞こえたと思えば……これはマギルゥ姉さん達にお伝えしなくては!!」


~~~~~~お着替え中~~~~~~

ゴンベエ「なんでお前等がいるんだ?」

エレノア「なんでとはなんですか。前回の悲劇をお忘れですか?」

マギルゥ「ロクロウのあれはもう二度と見たくないからのぅ……」

アリーシャ「ゴンベエなら大丈夫かもしれないが、万が一が」

ベルベット「ライフィセットに変な格好をさせたら承知しないわよ」

ゴンベエ「お前が一番ノリノリだった癖に」

ベルベット「なんか言ったかしら?」

ゴンベエ「なんでもありませんよー……にしても、アイゼン達は遅いな」

アイゼン「おい」

アリーシャ「えっと……アイゼン?」

アイゼン「その声はアメッカか。
すまんが、マスクの紐が上手く結ぶことが出来ない。手伝え」

アリーシャ「それは構わないが……マスク?」

アイゼン「服と一緒にあった」

マギルゥ「ほうほう、短めの迷彩服に迷彩柄のフルフェイスのマスク……ダメじゃ、さっぱり分からん」

エレノア「これはどういうコンセプトの衣装なのですか?」

ゴンベエ「超人血盟軍だ」

マギルゥ「超人血盟軍とな?」

ゴンベエ「残虐の神が乗り移ったとある星の王位継承候補者……の衣装なんだがな」

アイゼン「ふむ、悪くはないな。なにか問題がある衣装なのか?」

ゴンベエ「その王位継承候補者は王位継承候補者じゃないんだよ」

アリーシャ「どういう意味だ?」

ゴンベエ「あ~病院で王妃が出産したのは良かったんだが、火災が起きてな。
実は王子だった男と普通の子供が取り違えられた可能性があるって、異議があった。
現王子に加えて王子かもしれない普通の子供を含めた6人の王位継承候補者が生まれて、一番強い者が真の王子だって事になった」

アイゼン「つまり、これは偽物の普通の人間の衣装だと?」

ゴンベエ「現王子が王子だったから、継承候補者全員偽物だ……ところがその衣装を着ていた男だけが違うんだ」

エレノア「もしや、自分が王子でないと知っていたのですか?」

ゴンベエ「違う。そいつもある意味、ちゃんとした王位継承候補者だった。
親のスパルタ教育に耐えかねて出ていった、現王子の兄で、王位継承候補者と四人の手下をぶっ倒して成り代わっていたんだ」

アイゼン「ほぉ、中々の男だな」

ロクロウ「おぉ、なんだお前達もいたか!」

ライフィセット「僕達も着替えが終わったよ!」

マギルゥ「おぉ……なんじゃ案外普通か」

アリーシャ「マギルゥ、変な衣装なのを期待していないか?」

マギルゥ「ま、多少はの」

エレノア「ロクロウのその姿は……軍服でしょうか?」

ロクロウ「おう、着やすくて動きやすいぜ!」

ベルベット「フィーのは……忍者よね?なんか、私のと違うわね」

ライフィセット「でも、これはこれでカッコいいから好きだよ、僕」

アリーシャ「忍者に迷彩に軍服……統一性が無いな」

アイゼン「確かに言われてみればそうだな……超人血盟軍とはなんだ?」

ゴンベエ「その忍者の衣装と軍服は派閥が違う」

ロクロウ「ん……まぁ、服の種類からして国が違うな」

ゴンベエ「そうじゃない。正義と悪で分けるならば、軍服は正義、忍者は悪だ」

ライフィセット「国のために働く軍人は善で、情報を盗んだり暗殺したりする忍びは悪だよね」

ゴンベエ「そう言う意味じゃない……アイゼンが着ている服は王位継承候補者の服で、王位継承候補者とその配下の者同士が戦わなければならず、軍服達をスカウトした」

アイゼン「正義と悪、両方か」

ゴンベエ「ただの正義と悪じゃない。王位継承候補者が現れる前にいた王子と競ったり戦ったりした関係のある奴等だ。王位継承候補者の王子が共に戦ってくれと言われると忍者はともかく軍服は縦に頷く。だが、入らなかった」

ライフィセット「どうして?その王子が王様だって認めるなら、そっちに」

ゴンベエ「その男を認めたからだよ」

アイゼン「ほぉ……」

ゴンベエ「男に集められた四人はプライドを持っている。
チームでの行動が向かないはみ出し者の集まりだ。だからこそ、全員が結束する事により馴れ合いにより生まれる友情ごっこよりも遥かに上回る絆が生まれる……今のお前達みたいにな」

アイゼン ロクロウ ライフィセット 「!!」

ゴンベエ「聖隷、海賊、業魔、喰魔、魔女、退魔士、貧乏旗本の三女、元一般人
統一性もなんもなく、主義主張も異なる。本来ならば相容れない存在……だが、今は一つの群れになっている。
一つの馴れ合いによる集団を遥かに上回る力を持っている……と言うのは、実感しているだろ?」

アイゼン「超人血盟軍……っふ、悪くはねえな」

ロクロウ「だな。主義主張が異なる者達が手を取り合って、聖寮に挑む」

ライフィセット「今の僕達にピッタリだね」

アリーシャ「……そう言えば、ゴンベエは今の格好のままだが」

マギルゥ「話を聞く限り王位継承候補者は四人の配下と共に他の王位継承候補者と四人の配下と戦うのじゃろ?残りの二人は……」

ゴンベエ「ベルベットの格好より酷くなりそうだからパスした……ぶっちゃけそこまで欲しいかって言われてもな」

ライフィセット「ゴンベエ、コレを大切にするよ!」

ゴンベエ「喜んでくれてなによりだ……どうした?」

ベルベット「私達の分は?」

ゴンベエ「いや、これは男性用のDLCだからねえよ」

ライフィセット「でも、これだとエレノア達が仲間はずれだよ!!」

マギルゥ「坊の言うとおりじゃ。ワシ等は仲間じゃろい」

エレノア「私は特にそこまで気にしませんが……」

ベルベット「と言うことよ。全員分の新しい衣装、作ってきなさい」

ゴンベエ「え~…………」

アリーシャ「次回、DLC第四弾をお楽しみにお待ちください」

ゴンベエ「メタ発言はやめろ」


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名無しの勇者

「な、なにやってんの?」

 

「なにって……スレイが戦わないといけない相手にデラボンを」

 

「それは見れば分かるよ!!」

 

「相手は災禍の顕主なのですよ!!」

 

「あ~……スレイが倒さないとダメだったか?」

 

「いや、スレイとか僕とかそう言う感じのルールはないが……」

 

だったら問題ねえだろう。

なんかこの辺で一番危険で尚且つオレの次に強い奴が割と近くにいる。

明らかに敵意を此方側に向けていたので、迷いなくデラックスボンバーをぶちかました。

 

「貴方、分かってるの!?相手は災禍の顕主よ!」

 

「大声で叫ぶな。災禍の顕主だかなんだか知らんが、所詮は人為的に生まれる存在。天然の災害の方が恐ろしい」

 

「成る程、確かに人為的な災害ならば何処かに悪人がいるが自然災害は悪人もなにもない」

 

そう言うことだ。

他の奴等は納得していなかったが、アリーシャは納得してくれた。

 

「ほぅ、今の一撃は中々だったぞ」

 

「っ!」

 

「……」

 

雑魚相手にはデラックスボンバーは通用する。

そうじゃない相手にはそこそこの攻撃だ……今のデラックスボンバーは本気で撃ったんだけど、生きているとはな。

災禍の顕主と思わしき二足歩行のライオン憑魔はピンピンしている。

 

「あれが、災禍の顕主……」

 

「如何にも、我こそが災禍の顕主。

そこの無垢なる穢れなき導師と戦う者だ、アリーシャ・ディフダよ」

 

「何故、私の名前を!?」

 

「さて、何故だろうな?」

 

「いや、アリーシャどっちかと言えば有名人だろう。

少なくともこのライオンさんは今までの様に理性を崩壊して暴れまわるだけの憑魔と違い、人間の様に考えることが出来る。世界を穢れに包んだりするつもりなら情報収集するだろう」

 

「そうか、確かに言われてみれば」

 

「ほぉ、貴様は……ナナシノ・ゴンベエか」

 

「……あ?」

 

初対面な筈なのにオレの名前を知っているライオンさん。

コーラ的な意味で有名だが、人脈的な意味ではこの国にっつーか、この世界では知り合いがいない。

街の有名人レベルのオレを知っているということは……

 

「てめえ、裏で色々と糸引いてんな」

 

「どういう事だ、ゴンベエ!?」

 

「コイツは1000年前のナナシノ・ゴンベエを知ってるんじゃなくて、オレを知っていやがる。

王家とか貴族とか凄いものを作り上げた発明家、武人でも無いオレを知っているってことはオレの事を誰かから聞いた事になる」

 

「誰かから…………まさか、バルトロ大臣と災禍の顕主が繋がってるというのか!?」

 

「いや、多分ローランスとハイランド両方と繋がってる。

ローランスにだって戦争はやめようってアリーシャみたいな人間がいる筈だ。それと同じようにあの糞野郎みたいなのもだ」

 

「つまりはなんだ、この戦争は全て仕組まれていた……僕達やスレイがやって来ることでさえ、奴の、ヘルダルフの掌の上だと言うのか!?」

 

そこまでは言ってねえよ。

だが、少なくとも両国を操ったり煽ったりして戦争を助長させているのは確かだろう。

理性のある憑魔なんて見たこと無かったし、元から興味なかったから考えなかったが……そう言うやり方もあるな。

 

「変人と聞いたが多少は頭が回る者の様だ」

 

ヘルダルフは両国を操ったりしている事を否定しない。

それはつまり、やっているということか。

 

「………………う~ん、どうするか」

 

「どうするもなにも、今此処で災禍の顕主を倒せば災厄の時代を終わらせる事が出来るんだ」

 

どう考えても負けイベントな感じがする。

天族は火水風土光がいて、光をスレイとするならば、風の天族が仲間になってないのに、如何にもなボスを倒すのはおかしい。ゲーム的な考えで悪いが此処で倒せない(スレイが)

 

「アリーシャ、貴女は下がっていなさい。

ついさっき、ライラとの神依のスレイがやられたのよ……足手まといよ」

 

「……」

 

事が事だけに何時も以上にハッキリと言うエドナ。

確かにアレの相手はなんの力もないアリーシャには無理だな…………どうにかしてアリーシャをパワーアップさせる方法って無いんだろうか?スレイとアリーシャの違いは霊応力だけで、それ以外の大きな違いはないはずだ。

 

「え、なに?やられたの?」

 

「ええ……流石と言うべきかしら」

 

「恐らくだが、僕とエドナの神依でも」

 

「お前等、てんこ盛り出来ないのか?」

 

神依は色々とやっていることが仮面ライダー電王と一緒だ。

自分になにか憑依とか融合的なのはブレイドでもしているし、キバでも似たような事をしている。

 

「てんこ盛り……それって、ライラとエドナとミクリオの神依を同時に使うってこと?」

 

スレイの中にエドナ達は入ることが出来る。

神依の原理は知らんが、三人を纏めて入れることが出来るんだったら纏めて出すことも出来る筈だ。

 

「そんな、無理です!!神依にも属性があり、互いの長所を潰し合うだけで」

 

「だったら、風の天族を加えるか同じ属性の天族揃えてのコンボとかにすりゃいいだろ?」

 

「風の天族……風で炎を、炎で水を、水で地を、地で風を強化して支えるなら出来そうね」

 

「同属性の天族を揃えた神依も、同じ属性を使うから相性で潰し合わないから使えないわけじゃなさそうだ」

 

まぁ、どちらにせよスレイにかかる負担は倍増どころの騒ぎじゃないだろう。

それ以前に目の前にいる奴が此処から抜け出す事を許してくれるかどうかすらも怪しい。

20年位は現れていない導師が、ライオンの天敵が現れたんだ。殺すならば弱いときを狙うしかない……狙わなさそうだけど。

 

「地水火風を纏めた神依か、それならば我と対等に戦えるかもしれぬな」

 

「つーことで、オレ達を見逃してくれよ。

出来ればお前もどっかにいってくんねえか?雨を降らそうにも、お前が邪魔で止んじまうんだよ」

 

「貴様、我が裏で者共を操り戦争を起こしたのだぞ?今此処で引くと思っているのか?」

 

「……良いのか?」

 

「なに?」

 

「お前の目的は知らんが、災禍の顕主なんてやってるんだ。

世界征服とか両国の王家を滅ぼすとかそう言う感じだろう……それならば、徹底してやらないと。

先ずはある程度はスレイの知名度や功績を高めたりする人達を増やすんだ」

 

戦争なんて今時は効率が悪すぎるんだ。

この世に金や宗教と言う概念があるんだから、それを上手く利用しないと。

 

「それでは地の主が増えて、穢れの侵入が妨げられるではないか」

 

「リスク無しで戦争なんて出来ねえだろ。

スレイによって救われる場所があると言っても、スレイはたった一人だ。あ、人間的な意味でだぞ。

それならば救われない村なんかに憑魔を放つ。殺すんじゃないぞ、生き地獄を味わわせるんだ。危険すぎて外に出れない隔離状態にする」

 

「今と同じでは?」

 

「いやいやいや、そこで自作自演をするんだよ。

知名度が高い奴に倒させ、導師なんぞ天族なんぞ糞の役にも立たないって言わせて……甘い汁を吸わせる。

危険な猛獣を打ち倒したりして格安で商品を販売してくれるキャラバン隊を連れてきて、導師はいても役立たない。天族達が加護を与えないとか言って天族関係の物を破壊し、not導師、not天族の状態を作り出す」

 

今は宗教に導師に頼らなければならない絶望的な時代だ。

肝心の導師と協力する天族は五本の指で数えるぐらいしかいないんだ……導師じゃないけど、救ってくれる人がいる。

導師は待ってたってこないし、天族は加護を与えない。

 

「ある程度は優れた人格を持った強かったり魅力があったりする人間がそれなりの正論をぶちかます。

待っていた人とは違うかもしれないけど、助けてもらった救世主で話の通じる優れた人格者が言うことだったら、正しいと思うもんだよ……危機的状況なら尚更な。

忘れるな、国の偉いさんは色々と腹の探りあいをしているが世間は今、導師フィーバーなんだ。導師様が災厄の時代を救ってくれると思っているんだ。ローランスは知らねえけど、ハイランドという国は国と宗教が密接に繋がっていて、スレイは宗教が味方してくれている。そういう時は宗教とかの崩壊も狙わねえと。経済面と心での支配は暴力で解決できない、手に入れれば素晴らしく役立つ」

 

後は導師なんぞ不要教と導師教が出来て、争わせる。

そこでパワーアップしたスレイ達とライオンが戦って、ライオンが勝利して実は悪でしたと言って、全体を絶望に叩き落とす。うん、我ながら良い作戦だ。

 

「ゴンベエ、その……今、思い付いたのか?」

 

「たりめーだろう」

 

良い作戦だが、割とガバガバなところがあんだぞ。

ちゃんと入念に計画練るならば、国でも太刀打ち出来ない商会を作ったり国よりも遥かに優れた村とか文明を作って圧倒したりする作戦にするわ!!

 

「貴様、中々の知将だな」

 

「前から思っていたが、どうして穢れないんだ!!」

 

ライオンはオレを認める。ミクリオは怒ってるっつーか、引いている。

あ、ミクリオだけじゃなくてライラ達も引いている。

 

「という感じの作戦もあるんだけど、引いてくんない?此処で引いてくれるなら、まだまだ良いものあるよ?」

 

「今の策よりも良いものだと?」

 

「ああ……オレはお前と戦わないと言う最高のカードだ……アステロイド」

 

論よりも証拠だ。

アステロイドを八分割してライオンに向かって放つと、ライオンは腕を交差させて防いだ。

 

「オレは腕の方だけはハッキリと自信がある。

お前がオレとアリーシャを潰しに来ない限りはオレはお前を倒しにいかない。

ああ、勘違いして貰ったら困る。お前自身が殺しに来たら倒すし、部下を放ってきたら部下をぶった斬る」

 

悪い交渉ではない。

転生者がオレTueeeeeeしてこないんだから、圧倒的なまでにお前に有利になっている。

これ以上に無いほどに良い交渉なんだけどな?

 

「貴様、光の天族か?」

 

「その前にオレの交渉について返事をしろ、ライオン」

 

「貴様との交渉など、呑む筈も無かろう!!真・獅子戦吼!!」

 

ライオンは腕を引いて、突き出すと同時に獅子を思わせるかの様な衝撃波をオレに放つ。

 

「ゴンベエ!!」

 

「確かに貴様の光は中々のものだ。

だが、導師でも従士でも天族でもない、ましてや異国の民ならば用はない!!此処で死ぬが良い!!」

 

オレを吹き飛ばしたライオンは吠える。

吠えたお陰か抑えている力を解放し、更に強い穢れを纏う。

 

「今までは本気じゃなかったのか!」

 

「このままではまずいです、アリーシャさん御下がりください!!……アリーシャさん!?」

 

今の時点でもヤバかったので慌てるスレイ。

ライラは一番弱いアリーシャを引っ張ろうとするが、アリーシャは動かない。

それどころか若干穢れを放っている。

 

「ゴンベエ……嘘だ……嘘だ、君がこんな所で死ぬはずが無い。

マルトラン師匠を一撃で倒したり、ドラゴンパピーを一撃で瀕死寸前に追い詰めたり……またなにかの悪い冗談だろ!!

何時もみたいに、やってくれ。ヘルダルフは此処では引かない。スレイと一緒にヘルダルフを、災禍の顕主を!!………ゴンベエ!!」

 

人を勝手に殺すな。

オレがやられた事に放心状態になるアリーシャ。

 

「アリーシャさん」

 

「無垢なる者が穢れれば強大な憑魔となる。

導師でなく姫故に期待はしていなかったが、これは面白いことになった」

 

「笑止、笑ってる暇は何処にあると言うんだ?」

 

「!」

 

この程度でオレを倒そうなんざ、百年早い。

ハートを半分破壊するぐらいの威力の技なんぞ、そんなに痛くない。ヘビーブーツを履いて、ハイリアの盾を構えておけば完全に防げる。

やり返すべくオレは炎を身に纏い高く飛び上がった。

 

「此処で死ぬ………ハッキリと言ってやる。それは、お前だぁあああああああ!!」

 

「ぐぅ、ぬぉおおおおお!!」

 

鳳翼天翔をライオンに向かって放つと、地面を削りながら後退していく。

 

「さて、オレに喧嘩を売ったんだから覚悟してるんだろうな?

スレイと真正面から殴りあうのは構わんが、オレを無実の罪で巻き込んだ事は許されねえ事だ」

 

「……思い出した……いや、そうだった」

 

本当は抜きたくないが、抜くしかない。

腰につけているマスターソードを掴むとアリーシャの槍とは比較できないほど強く綺麗な青白い光を放った。

 

「その眩き光……我が領域の穢れを祓っているだと!?

先程の光と言い、その剣と言い、天族でもなければ導師でもない……貴様は、何者だぁ!!」

 

「何者って何時も言っているだろう、名無しの権兵衛だ。

いや、こういう時はこう答えた方がいいか……オレは勇者だよ」

 

 





ゴンベエの術技

アステロイド

説明

光で出来た正方形の立方体を作り出し、三角錐に分割して撃つ技。
三角錐に分割出来る数に限界はなく、分割しなくても撃つことが出来る。
ゴンベエの見た目と一番しっくり来る技で、数少ない多数の敵を一度に倒す技



それはお前だぁああ(鳳翼天翔)


説明

相手が秘奥義を発動した際にカウンターとして発動される秘奥義。
要はラタトスクの騎士のエターナル・リカーランスと同じなのだが、体力全回復に加えて物理攻撃・術攻撃 物理防御・術防御が2倍になると言う効果を持っているチート。


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任■堂に記されし勇者

「勇者だと?」

 

「勇者だよ。

大空でも大地でも風でも時でも黄昏でもなんでもない名無しの勇者だ」

 

ライオン、伊達に災禍の顕主と呼ばれていないな。

穢れが多すぎるからか、マスターソードは何時も以上に青白く光っている。

 

「ライラ、勇者って」

 

「導師は過去様々な呼び方がありました。

対魔士とも呼ばれている時代もあったのですが……勇者と言う呼び名ははじめてです」

 

「ゴンベエは、この国の人じゃない……別の国の人間か。

さっきの光も、あの剣も俺やライラと全く異なった方法で出来ているのか」

 

ゆっくりと立ち上がるスレイ。

ライラに勇者について心当たりがあるのか聞くが、聞いたことはない。

 

「言っとくが、ノリで勇者って言ったが違うからな。

あくまでもオレは勇者が使っている道具とかを使えるだけであり、時でも風でも大地でも黄昏でもなんでもない、名無しの権兵衛だ」

 

勇者になんてなってたまるかよ。

導師が目の前にいるんだから、そいつに押し付ける。

 

「四人も勇者が居るのか?」

 

「時代によって現れるんだよ。

その昔、神々の力が眠ると言われた緑豊かな王国があったがそれを悪しき者に目を付けられ神々の力を奪われてしまい、王国は闇に包まれてしまい、世界は滅ぼうとしていた。

だが、滅ぼうとしたその時緑衣を纏った若者がどこからともなく現れ、退魔の剣を振るって悪しき者を封印し、王国に光を取り戻した。 人々は時を越えて現れた若者を「時の勇者」と呼び称え、彼の活躍は後世に語り継がれていった。

しかし時の勇者の活躍が伝説として語り継がれるようになった頃、王国に再び災いが起きた。 時の勇者に封印されたはずの悪しき者が蘇ってしまった。人々は時の勇者が再び現れてくれることを信じていたが、勇者が現れることはなかった…その後、王国がどうなったかは誰も知らない……これが時の勇者の伝説」

 

「それが、貴様の国に伝わる勇者の伝説と?」

 

「オレの国って言うか任天堂に記されてるものだ。

一から順に追っていくと、大空の勇者からになるが……お前に話す義理は無いな」

 

オレは剣に闇を纏い、闇纏・無明斬りを放つがヘルダルフははたき落とす。

闇、だから邪悪な存在で穢れの塊のヘルダルフには相性が悪いか?

 

「……ライラ」

 

「あ、はい!」

 

「オレは導師でも従士でも天族でもなんでもない異国の民だ……ぶっちゃけ、オレの存在は邪魔か?」

 

ライオンをぶっ倒そうと思えば、何時でもぶっ倒せる。

と言うか、オレを巻き込んだから一回はオレの手でぶっ飛ばす。コイツをぶっ倒せば災厄の時代の終わりが一気に近付く。

 

「な、なにを仰っているのですか?」

 

「正直に答えろよ、オレの存在が邪魔かどうか」

 

「邪魔って……確かに君は破天荒だが、悪では」

 

「おこちゃまね、ミボは。

善とか悪とかじゃどうにもならない話が世の中にはあるのよ」

 

ライラとミクリオは慌てるがエドナはオレの質問の意図を理解した。

 

「スレイがヘルダルフを倒すのと、ゴンベエがヘルダルフを倒すのでは大きく意味が異なるわ」

 

スレイが災禍の顕主を倒せば、明確に見える悪を明確に見える正義が倒したことになる。

だが、オレが倒せば正義でもなんでもない倒した後のアフターケアもなんもしない奴が倒しただけで、本当にそれだけだ。

悪を倒しただけで、それ=世界を救うとかそう言う感じじゃない。

 

「だから、正直に答えろ。

オレの存在が、邪魔かどうかをな」

 

「…………ゴンベエさんの事は、正直邪魔です」

 

「ライラ!?」

 

「ライラ様!?」

 

「スレイさん、アリーシャさん、勘違いしないでください。

邪魔な存在かどうかと聞かれれば邪魔なだけで大嫌いや死ねば良いなどと言う悪意の感情は一切御座いません。

スレイさんが導師として成長し自らの答えを出して欲しい、そう私は思っています。ですが、ゴンベエさんが居ればスレイさんは導師として成長できない可能性が大きくあります。ゴンベエさんは導師の道も従士の道も歩まないのならば、見守るだけにして欲しいと思っています」

 

ライラの言っている事には一理ある。

やるならやる、やらないならばやらないで一線を引いていて欲しいと思うのは当然だ。

オレみたいなたまたま自分が巻き込まれたから動く受動的な人間は動かずにスレイの様に誰かに言われなくても選択する上条さん型の人間が動いてどうにかして欲しいと思うだろう。

オレもどちらかと言えばそっちの方を選ぶ……第三者的な立ち位置だったらな。

 

「もう一つ聞く。

スレイが……いや、導師御一行がパワーアップする方法は本当にあるよな?

理論上とかそんなんじゃない。走るのが一秒早くなったとかそんなのでもない、神依の様にハッキリと分かるパワーアップって出来るか?」

 

「あります」

 

「なら、答えは決まった」

 

前に聞いたが、念のためにともう一度聞いた。

オレがコイツをぶっ倒すのは色々と迷惑の様だ。

 

「輝け、我が手に宿りし勇気の証!今一つの力となれ!」

 

「この輝き、貴様もまだまだ本気を出していなかったと言うことか!」

 

「ワールドワイド、海を越えし者が勇気ある者の一蹴!!ブレイブゥ!!ショォオオット!!」

 

青白い光の球を作り、オーバーヘッドを決めるとライオンとは別の方向に一直線へと飛んでいく。

ライオンが、災禍の顕主がいるからか憑魔は近付いてこないが一応はいる……そいつらを一気にはね除けて光は飛んでいく。

 

「ついでにお前の方もだ!!」

 

「ぐぶぅ!?」

 

道を切り開く事が出来た。

後は余計な感情とかオレがやるんだと言う責任感に邪魔をさせないだけだ。

スレイの腹をおもっくそぶん殴って、立てないようにする。

 

「ゴンベエ、なにを」

 

「アリーシャ、スレイを連れてけ。

従士契約をしていないとはいえ、眼鏡があるから一度ライラ達と一緒に逃げろ!!」

 

「それはわかったが、君は」

 

「オレは割とどうにでもなる。

今、ブレイブショットで道を切り開いたんだ。一直線に走れば戦場からは抜け出せる」

 

「見捨てろと言うのか!?」

 

「違うな、準備期間を与える。

ライラ、確か天族は大まかにわければ火水風土と光がいるんだろ?」

 

「はい、私は火の、ミクリオさんは水、エドナさんは土、地の天族です」

 

「だったらなんとかして、風の天族を仲間にしろ。

てんこ盛りは無理かもしれねえが四属性全ての神依が出来るようになって、お前が知っているパワーアップをしてこい。

この野郎とまともに戦えるぐらいに強くなるまでの時間は作ってやる……走れ!!」

 

「ゴンベエさん……分かりました」

 

「……すまない、ゴンベエ」

 

「行くわよ」

 

今のままではスレイ達は逆立ちしても災禍の顕主に打ち勝つ事は出来ない。

戦った本人達がそれを一番理解しており、走り去っていく。

 

「アリーシャ、お前も行け」

 

「ゴンベエ……」

 

「バルトロの方はお前をなんやかんやで釈放するつもりだから、レディレイクに帰れる」

 

今にでも泣きそうな顔をするアリーシャ。

弱くなにも出来ない事を悔やんでいるのか、はたまたオレが死亡すると思っているのか……

 

「マオクス=アメッカ」

 

「え?」

 

「スレイがお前につけた真名だ。

そんな状態じゃ、真名を涙目のアリーシャに変えられるぞ」

 

古代語、全く知らないけど。

オレが喋れるのは日本語と関西弁だけで、英語は無理だ。

 

「……また、後で会おう」

 

「ああ……それと時間を稼ぐのは構わないが、徹底的にシバき倒してしまっても構わんだろ?」

 

「ああ、やってくれ!!」

 

何処ぞの弓兵の死亡フラグを建てると、アリーシャは走っていった。

 

「……んで襲わない?追いかけない?」

 

今の今まで待っていてくれるライオン。

ライラ達が走り去っていくのを気にせず、攻撃する素振りも見せない。

 

「何れ導師達は我が元にやって来る。問題は貴様だ、ナナシノ・ゴンベエ」

 

「おいおい、さっきまでの会話を聞いてなかったのか?

ライラは自分やスレイがパワーアップする方法を知っていて、更には風の天族を仲間にする。

今はお前を倒すことの出来ない相手だが、確実にお前の喉を切り裂く程に強くなるぞ?」

 

倒さないといけない相手なのに、そう言う慢心をしているから負けるんだ。

想定外の一手を踏まれない様に至るところに仕掛けを作るのは良いかもしれんが、最後の最後にものを言うのは力だ。

その力をつけてくるってのに、傲慢が過ぎるぞ。

 

「……アリーシャ達は行ったか」

 

「よそ見をしている暇が、あるのか!!」

 

ライオンとは別の方向を見ると殴ってきた。

 

「あるぞ」

 

「なに!?」

 

今度はさっきとは違う。

戦うつもりだから、盾で受け止める。

 

「アステロイド」

 

「それは我には効かん」

 

「+アステロイド……ギムレット」

 

さっきとは違うんだ。さっきのは威嚇であり、戦闘じゃない。

アステロイドを二つ作り出し、無理矢理合成して徹甲弾の形にしドリルの様に回転させながらライオンに撃ち、貫く。

 

「貴様、まだ本気でなかったのか!」

 

「さっきまでは戦うつもりが無かったからな。今は違うが。

お前を徹底的にシバき倒す……なんでオレがわざわざお前と交渉してやったと思ってんだ?ハウンド+メテオラ……誘導炸裂弾(サラマンダー)

 

最初から勝とうと思えば勝てる相手だから、あんな交渉をしたんだ。

異なる性質を持つ二つの弾を合成して放つと避けようとするライオン。

 

「それは追尾機能持ちだ」

 

無数の弾を巧みに避けるが、それは追いかける。

飛んで避けた先に誘導炸裂弾が飛んできてライオンは爆発する。

 

「災禍の顕主と言うのがどれ程のものかと思ったが、この程度か……」

 

爆発の煙が晴れると体の一部が貫かれ、焦げているライオン。

ただただ光をぶつけているだけで、剣技を見せていない。

 

「粋がるな!!全力を出していないのは我も同じよ!」

 

いったい何処からそんな声が出るのか聞きたくなるぐらいに大きく吠えるライオン。

今まで力を抑えていたと言わんばかりに穢れを体から噴出させ、穢れの領域を深く重く強くする。

 

「なにを言い出すかと思えば……オレが今出してるのは本気だ、全力じゃねえ」

 

剣を両手で握り締め、何時も以上に闇を纏う。

 

「災禍の顕主に闇が通じるものか!!」

 

「勘違いすんじゃねえ…ぶった斬るのはてめえじゃねえ。世界だ!!」

 

オレとの間合いを一気に詰めるライオン、いや、ヘルダルフ。

大きく腕を引いて獅子戦吼を決めようとするが、此方の方が早い。

 

「闇纏・次元斬り!!」

 

マスターソードを全力でふり降ろし、ヘルダルフの左腕を肩から次元ごと切り落とした。




スキット 姫様の呪い ※一部ネタバレあり


アリーシャ「……」

ベルベット「アメッカ……ナニ、それ?」

アリーシャ「ベ、ベルベット!?な、なんでもない」

ベルベット「なんでもないじゃないでしょ。真っ黒焦げのものを持って、ゴミはちゃんとゴミ箱に入れなさいよ」

アリーシャ「ゴミ……そう、見えるか…ははは……はぁ……」

ベルベット「?」

アイゼン「おい、調理場が片付けられていないんだが誰が調理した?」

ザビーダ「オレとコイツはちげえし、ゴンベエは今掃除中だから御二人のどっちかだろ?」

アリーシャ「あ!」

ベルベット「はぁ……アメッカ、料理はするだけじゃなくてちゃんと片付けて初めて一つなのよ」

アリーシャ「すまない」

ザビーダ「お、なになにアリーシャちゃんの手料理?一口ちょーだい!」

アリーシャ「あ、あのコレはお出し出来るものではなく失敗作でして」

アイゼン「口調、敬語はやめろ。オレ達は天族だ人間だ関係無いただの友人だろう……真っ黒焦げだな」

ザビーダ「見事なまでに炭だな……」

ベルベット「アメッカ、料理下手だったっけ?あの時は普通に料理出来ていた筈だけど……」

アリーシャ「ゴンベエが見守っていて、少しでも手順を変えたりアレンジしたりしようとすれば拳骨を落として修整していたんだ」

ザビーダ「拳骨って、アイツDVなのか!?」

アリーシャ「ザビーダ様、じゃなかった。ザビーダ、アレは私がリンゴの芯を断鋼斬響雷で纏めて取ろうとしたのが悪かったからゴンベエに罪はない」

ザビーダ「アリーシャちゃんの槍術でもかなり強力なのじゃん!」

アリーシャ「もしあのまま断鋼斬響雷でリンゴの芯を取り除いていたら、船を破壊するところだった」

アイゼン「荒波に飲まれたのならまだしも、調理場の爆発で船が沈むのはごめんだぞ」

ベルベット「それ以前に包丁を使いなさいよ……で、それはなに?」

アリーシャ「皆に甘いものを、日々の疲れを癒すには甘いものが一番だと思って……捨ててくる」

ベルベット「待ちなさい」

アリーシャ「?……ベルベット、それは食べたらダメだ!!」

ベルベット「ん、ぐぅ……これは、まず……」

アイゼン「成る程……なら、オレも……む、ぐぅ……」

ザビーダ「お前等にだけはカッコつけさせねえぜ、いただきます!!ぬぅぉおおお……ぐぅ、むぅ……」

アリーシャ「ダメだ、黒焦げで味なんてしない……」

ベルベット「安心しなさい、糞不味いわ」

アイゼン「ああ、かなりの不味さだコレは」

アリーシャ「分かっているのに、どうして!」

ザビーダ「けど、一番大事なものがこのお菓子には入ってるんだよ……愛情って言う、最高のスパイスがな」

アリーシャ「愛情?」

アイゼン「そこまでのものじゃない……でも、そう言うものがこのお菓子には入っている」

ベルベット「誰かに食べて貰って元気になって欲しい真心や思いやりが入っている……次からは、私と一緒にするわよ」

アリーシャ「え?」

ベルベット「私も最初は失敗続きだったけど、セリカ姉さんがついてくれた……代わりになるかどうかは分からないけど、教えれることは教えてあげるわ」

アリーシャ「ベルベット……」

アイゼン「不安になる必要は何処にもない。死神の呪いを受けた状態でもオレは料理を覚えたんだ、お前にも出来る!」

ザビーダ「味見役は、このザビーダ兄さんに任せな!」

アリーシャ「……ありがとう」

ベルベット アイゼン ザビーダ 「礼はいらない」

ゴンベエ「いやー、やっと終わった。っておい、アリーシャ、料理するなとは言わないが後片付けぐらいしろよ」

アリーシャ「すまない」

ゴンベエ「もうオレがやったから良いけど……どうせ今回も失敗だろ?」

アリーシャ「それは……」

ベルベット「誰にだって失敗はあるのだから、落ち込むよりも次にどう生かせば良いのか考えた方が良いわよ」

アイゼン「失敗は成功の母だ」

ゴンベエ「……で、なにを作ったんだ?」

アリーシャ「お菓子に挑戦したが、ゴンベエの言うとおり失敗してしまった」

ゴンベエ「お菓子が欲しいなら、オレが幾らでも作ったのに……黒炭で、相変わらずマジいな、っぺ!!」

アイゼン「っ、おい!!」

ベルベット「……だったら、それの成功品を食べさせてあげるわ」

ゴンベエ「ん?ベルベットが作ったら意味ねえだろう」

ベルベット「作り方を教えるわ……だから、そう言う言い方はやめなさい」

ゴンベエ「……」

ベルベット「アリーシャ、材料を買ってきなさい。ちゃんと作り方を教えるから……コイツを見返してやるわよ!」

アリーシャ「……ああ!完成したアイスキャンディーでゴンベエをギャフンと言わせてみせる!!先ずは最上の材料を買ってくる!!」

アイゼン「ふっ、災禍の顕主を怒らせたのが……なに!?」

ベルベット「え?」

ザビーダ「ちょ、コレってアイスキャンディーだったの!?」

ゴンベエ「なんだ気付かなかったのか?」

ベルベット「いや、でもこれ炭よ?ジャリジャリするわよ?砂糖感一切無いわよ?」

ザビーダ「そもそもアイスキャンディーって冷やすもので焼くものじゃねえじゃん!?」

アイゼン「アレだ、アイスクリームに酒をぶっかけて燃やすフランベを」

ゴンベエ「アイスキャンディーつっただろ……オレもこんな事を言いたくないんだぞ。
アリーシャの手料理を食べてみたいと言う邪な考えはちゃんとあるんだ……だが、食った瞬間に意識を失って目覚めればベッドの上にいる料理は食えんよ。頑張って料理のやり方を教えても此方の方が効率が良いって槍を取り出したり、もう少しスパイシーな方が活気がつくって余計な調味料入れたり……もうオレが作ってやった方が良いってなって」

ザビーダ「にしても、アイスで暗黒物体を作るってどうなってんだ!?」

ベルベット「私が聞きたいぐらいよ!クッキーかなにかだと思ってたのに……」

アイゼン「最早、一種の呪い……姫様の呪いだな」

ゴンベエ「うまくねえよ……アリーシャ、本を読むタイプなのになんで料理の本とか読んでねえんだ……」


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別に封印しても構わんのだろ?

「ぐっ、がぁあああ!?」

 

 左腕を斬り落とされたヘルダルフ。

 馬鹿デカい声を出して悶え苦しむのだが、左腕からは血が一滴も流れない。

 代わりにおぞましいまでの穢れを放っている。

 

「こいつ、元はなんだ?」

 

 憑魔には元となってる生物とかがいる。

 狼とか人間とか植物とか、色々とあってオレ達がシバき倒せば元の姿に戻る。

 こいつも浄化すれば元に戻るんだろうが、いったいなにが元になってんだ?

 ライオンみたいな見た目だから、ライオンかと思ったが普通に人間の言語を話すことが出来る。

 強い力を持った天族、もしくはかなりの武人だった人間の可能性が高いが……う~ん、血が流れないからさっぱりだ。

 

「人の悪意の集合体だったら、やべえな」

 

「おのれぇ……」

 

 穢れを腕っぽくして水を放つヘルダルフ。

 ハイリアの盾で防ぎながらも、オレはこいつの正体について考える。

 穢れは人間の負の感情で、ヘルダルフの正体はそんな穢れの集合体……的なオチだったらヤバい。

 

「おい、ヘルダルフ……てめえは人間か?」

 

 災禍の顕主だけあって、その辺の有象無象やアリーシャより強い。

 ただ強いのでなく身体能力に任せた動きをせず、精錬された動きで攻撃をしてくる。

 明らかに人間の動きをしており、高位の人間を裏で操って戦争を起こしているから人間だと思うんだが……天族でも良いんだがな。

 

「さて、どうだろうな!!」

 

 今度は竜巻を起こすヘルダルフ。

 属性攻撃はオレには効かないぞと闇でなく、炎を剣に纏ってかき消す。

 ……う~ん、人間の穢れが集合し意思を持った。使っている術技は全て集まった穢れ……じゃない事を祈る。

 

「恐怖と絶望を味わってみよ、汝は絶望の淵にあり、我は霊霧を統べる者、汝は虚空に散り行きし者」

 

「ん?」

 

 近接戦メインのヘルダルフが呪文を詠唱する。

 さっき水とか竜巻を出してきて尽くかき消してやったのに、まだ呪文を使うとなると最大級の呪文を使うつもりか。

 

「天光満つる処、我は在り」

 

「……成る程」

 

 元から怪しい雲達がゴロゴロと音を鳴らす。

 ヘルダルフがなにをするか大体予想出来る……そして天候を操れる程の憑魔と言うのもだ。

 

「黄泉の門開く処に汝在り」

 

「……まぁ、あながち間違いじゃないな」

 

 詠唱を聞きながら黄泉の国から、地獄からやって来たオレは頷く。

 それと同時に身構える……オレを中心に、デカい立体的な魔方陣が出現した。

 

「出でよ、神の雷!!コレで貴様も終わりだ!!インディグネイション!!」

 

「20秒掛かるって、コスパ悪くね?」

 

 長々と詠唱をしていたのだが、20秒ぐらいかかっている。

 オレはその間、敢えてなにもしなかったがスレイ達ならば詠唱を中断させるべく全力でシバき倒していたぞ。

 その点に関してツッコミを入れるとオレ目掛けて雷が落ちてきた。

 

「はぁ、はぁ……さしもの貴様もマオテラスから得たこの雷の前では無力……っく、マオテラスを用いていない分、力の消費が激しいか。喜ぶが良い、貴様は文字通り時間稼ぎは出来た。我は暫くの休養が必要だ」

 

「おいおい、まだ裏に誰かいるのかよ。なんだ、大魔王的なのか?」

 

「!?」

 

今の術で恐ろしく力を消耗したヘルダルフがこぼしてくれた。

マオテラスって誰なんだ?この期に及んで、真の魔王とか歴代の災禍の顕主はマオテラスの配下でしたオチか?

そうなるとライラ……達はアレだから、ウーノを経由して教えておくか。

 

「な、何故生きて、何故無傷だ!!インディグネイションは神の雷だぞ!

人は炎、水、風、地を防ぐ術を持っている。だが、光からは……雷から身を守る術は無い筈だ!!

貴様が本当に勇者であろうとも、導師と同じく人間の枠からは抜け出ないであろう!!」

 

 ありえないと叫ぶヘルダルフ。

 20秒も長々と詠唱をしているお前を待ってやったんだぞ、耐える術があるに決まってんだろう。

 

「お前が神の雷を呼び起こしたのならば、オレは女神の愛を発動した……ただそれだけだ」

 

 青いダイヤ型のバリアーを張って見せる。

 これは地面に落ちた衝撃とか元からあるマグマの温度とかそう言う攻撃じゃない自然なダメージ以外を防ぐゼルダの伝説では全く使わないが、スマブラではゼルダの通常Bでお世話になっている魔法。

 

「反射してもよかったが、流石にそれだとお前が死んでしまうからな。オレの目的はお前の討伐じゃない、シバき倒すことだ」

 

「!」

 

「やっと理解したか」

 

 オレはちゃんとお前に有利な交渉をしたんだぞ。

 ヘルダルフはやっと理解した。まだなにかを隠しているかもしれないが、それでも現時点では最強の一撃を放った。

 その結果は無傷、全くといってダメージを受けていない……そしてオレにはまだまだ戦闘する意思がある。

 

「オレ、お前よりも遥かに強いぞ?」

 

 伊達に転生者になる前に訓練はしていない。その気になれば世界を作り変え得る転生特典すらある。

 色々とバフは掛けているが、素の状態でもお前を倒せるほどに強い。慢心とかそんなのは抜きでだ。

 災禍の顕主になっていたのが原因なのか、それとも格上の存在にあったことないのか逃げ出そうとするヘルダルフ。

 

「逃がすわけ無いだろう。クロスエッジ」

 

 十字の光の斬撃を飛ばし、ヘルダルフにぶつける。

 今度は闇でなく光を飛ばしたせいか、効果はありバランスを崩すが直ぐに走り出す。

 

「足の早さで、オレに勝てると思ってんのか?」

 

 だが、直ぐに詰める。

 オレはどっちかっつーと、足は早い方なんだよ。

 一瞬にして最高速度を出してヘルダルフの真正面に回り込み急停止、空いている隙を見つけ出して前に進みながら斬り込む。

 

「覇王戦舞刃!」

 

爪竜連牙斬とかいう技に似ている技を決める。

 

「……ん?」

 

 もう少し、もう少しシバき倒しておこう。

 そう考え斬り込んでいると、気付けば周りには大量の憑魔がいた。と言うか前からいたな。

 ヘルダルフが移動したから追いかけてオレも移動したから、オレ達が群れに飛び込んだ感じか?

 

「者共、この者の動きを封じろ!」

 

「……」

 

 自分が少しでも逃げる時間を増やす為に憑魔化した両国の兵士達に命令を出すヘルダルフ。

 なんか小者臭えなと思う。憑魔達が言うことを聞いているから、魔王的な感じはしているがそれでもだ。

 

「……やるか」

 

 質でなく量で攻める方法は間違ってはいない、スレイ達四人が如何に強くとも、1000の憑魔で襲えば誰か一人ぐらいは殺せる。

 スレイ達の質は凄いだろうが、それでも無限でなく限界がある。体力気力、他にも色々とだ。無論、それはオレにも当てはまる。だから、目を閉じて呼吸を整える……全力を出すために。

 

「人間本気を出している時があるがそれは本気であって全力じゃない……全力じゃない理由は様々だ。

相手が弱すぎて手加減しても勝てる、他にしないといけない事がある、腹が減っている、とにもかくにも色々とある」

 

 そう言った細かな雑念が、色々と邪魔して精神的にも肉体的にも極限な状態に出来ない。

 

「「「「さて、やるか……」」」」

 

 だが、オレはそんな事は知ったことじゃない。

 文字通り全力を出す。100%を……世に言うゾーンに意図的に入り、袋に入れているフォーソードの力を使って四人にわかれる。

 

「赤、青、紫のオレは行ってこい……」

 

 分かれたオレに向かわせ、マスターソードを構える。

 何時もの様に構えるのでなく中腰になり後ろに手を伸ばし青白い邪悪を討ち祓う退魔の光をこれでもかと宿す。

 

「大回転斬り!!」

 

 ゼルダの伝説とスマブラのリンクの復帰技としてお馴染みの回転斬り。

 それをも上回り、そこかしこに回転しながら切り裂く……アリーシャ達を逃がしていて正解だったな。コレは辺りを巻き込むから、確実にアリーシャ達を怪我させていた。

 

「ふぅ……とっとと終わらせるか」

 

 辺りのローランスだかハイランドだかどっちかは知らんが、憑魔になった奴等はぶっ倒した。

 もう此処には用は無いとヘルダルフを追いかけると、赤のオレが魔法の杖を、青のオレが弓矢を、紫色のオレが鬼神の仮面をつけて鬼神化しており、ヘルダルフをしばいていた。

 

「背中がスゲえ事になってるじゃねえか、雲丹だな。ウニダルフだな」

 

「……っぐ……マオテラスさえ、マオテラスさえいれば貴様など……」

 

「そのマオテラスってのはなんだ?大魔王様か?」

 

 背中に馬鹿みたいに矢が突き刺さっているヘルダルフ。

 意識が朦朧としているがオレ達を殺したい意思は消えておらず、さっきから誰かの名前を呼んでる。

 

「ふん……異国の民に分かる筈もなかろう」

 

「ならば王族に聞けば良いだけだ……戻れ」

 

 ヘルダルフはマオテラスについて答えるつもりはない。

 今重要なのはマオテラスじゃないので気にせず、オレは指を鳴らして元の一人に戻る。

 

「くっくっく……まさか、最後を飾るのが導師でなく貴様の様な目にも留めない輩だったとはな」

 

「勘違いすんなよ」

 

「なに?」

 

 物凄くやられているヘルダルフ。

 死期を悟ったのか最後を潔く認める姿は武人だが、お前は一つ盛大な勘違いをしている。オレはお前を殺すつもりなんて全くといって無い。

 

「言った筈だ、スレイ達が強くなるまでの間の時間を稼ぐと。

オレとアリーシャに迷惑を掛けた罪は重いが、アリーシャもオレもお前を倒す役目を持っていない。

まぁ、力を求めて必死になっているアリーシャは力を得たら調子に乗ってお前に挑む可能性はあるが……やるつもりは最初からない……故に次の一撃にオレ個人の恨みを乗せて終わらせる。貴様が裏で色々な奴等を操ったせいで脱税がバレてしまった」

 

「それは貴様の自業自得であろう!!我とて税は納めていたぞ!!」

 

「じゃっかましいわ!!つーか、お前は人間だったんだな!!」

 

 この恨みを乗せて八つ当たりさせてもらう!!

 

「ゾーン強制解放!!」

 

 アリーシャの翔破裂光閃、中々のもんだった。だから、オレもやってみる。

 

「輝け我が手に宿りし神々の力!!」

 

「ご、ぉおお!!!」

 

 ヘルダルフを中心に勇気・知恵・力のトライフォースと同じ正三角形が浮き出て光を放ち、無理矢理浮かせてオレは盾を放り投げてヘルダルフにマスターソードで乱撃する。

 

「悪しき者の体を斬り裂くは勇者!!悪しき者の心を鎮めるは賢者!!」

 

「……」

 

 ヘルダルフは声を出さない……が、穢れを出しているから生きている。

 オレは黄昏の光弓を取り出し、マスターソードを矢の代わりにして構え

 

「コレでとどめだ!神・斬魔滅矢光!」

 

 ヘルダルフの脳天に射した。

 

「……う~ん、オリジナルでつけてみたがこんな感じで良いのだろうか?」

 

 今までは漫画とかゲームとかからとっていたが、これは違う。

 ノリで言っただけであり、シンプル過ぎるところもある……まぁ、改名は何時でも出来るから後にするか。

 

『……ベエ……メン……ベルベットを……』

 

「ん?」

 

 脳内に不思議な声が流れてくる。聞いたことがなく、今にも死にそうな声で誰かの名前を叫んでいる……だが、それが誰かは分からない。

 

「……そろそろ、オレも色々とやらないといけないな……」

 

 何故ならばヘルダルフは石となり、周りにいた有象無象の憑魔や穢れを持った兵士達は文字通り色を失い時間が止まったかの様に動かない。動くことが出来ないので誰も喋れないし、脳内に語りかけることが出来る奴もいない。

 

「あ、しまった」

 

 封印をする前に一つだけお前に言っておかないといけないことがあった

 

「ヘルダルフ、さっきの詠唱は間違ってたぞ……雷はもう、神のもんじゃねえ」

 

 この言葉がヘルダルフに通じているかは分からない。だが、それでもハッキリと言ってやる。神の雷なんてものはもう存在しない。

 

「オレは雷を手に入れる方法を知ってる……人間は手に入れたいって思えば、雷すらも手に入れられる……流石に疲れたな」

 

 体の力をゆっくりと抜いて倒れる。

 城を脱獄してバイクを走らせて魔法をバンバン射って、最後に封印。流石に疲れた……

 

「……オレがやるだけの事をやったんだから、ちゃんとしろよ」

 

 ヘルダルフの事はスレイに託し、オレは雲一つ無い晴れた空を見上げた。




ゴンベエの術技


ブレイブショット

説明

ワールドワイド、世界を知る男のオーバーヘッド
一度の使用でTPが91程減るかなりの大技で遠くからでも攻撃できるロングシュート。何故か地属性判定がついている。


ギムレット

説明

アステロイド+アステロイドをして生み出された合成弾。
アステロイドよりも遥かに強い二重構造の徹甲弾で、ドリルの様に回転して相手を貫く


ハウンド

説明

追尾機能を持った光の弾。
相手の動きに合わせて弾道が変化するが、威力が低い

メテオラ

説明

光の弾の中でも最も強い相手にぶつけると爆発する炸裂弾。
かなりの威力があるのだが、遅いのが難点であるもののぶつけることが出来ない速度ではない

サラマンダー

説明

ハウンド+メテオラをして生み出された合成弾
早い奴には避けることが出来るメテオラをハウンドの追尾機能がカバーしている誘導炸裂弾

闇纏・次元斬り

説明

次元斬の闇属性版
闇を纏いし剣で次元ごと相手を切り裂く時空剣技。
防ごうにも次元ごと切り裂くので防ぎようがなく、相手の防御力を無視して攻撃できる


ULTIMATE ZONE


説明

無意識の内に抑え込んでいる力や何かしらの原因で出せない力を強制解放する文字通りの80%の本気でなく100%全力を引き出す技。
HPと素早さ以外のステータスが100%上昇し、素早さは150%上昇する。
時間制限付きで時間切れになると元に戻るのではなく、素早さ以外のステータスが20%下降するデメリットがある。


(しん)斬魔滅矢光(ざんまめっしこう)


説明

ゴンベエがその場のノリで作り上げた秘奥義。
勇気・知恵・力のトライフォースが相手を囲み、穴が開いている中心に捕らえて光を放って浮かせる。
光、森、炎、水、闇、魂の力が籠ったマスターソードで乱撃した後、黄昏の光弓を使いマスターソードを矢の代わりにして相手を撃ち抜く。
一撃ごとに相手の物理攻撃力 術攻撃力 物理防御力 集中力を弱体化させ、ダメージを与えるのと同時に相手の体力の上限値も減らす。


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84%は納税免除のため

「ヘルダルフの領域を抜けました!」

 

 ゴンベエに全てを託し、切り開かれた道を突き進む私達。災禍の顕主、ヘルダルフが放つ穢れの領域を抜けたことをライラ様が私に伝えてくださった。

 

「領域を抜けたのはいいがライラ、これからどうするんだ!?」

 

「詳しくはお話しできません。ですが、私達が確実に強くなれる方法があります」

 

「さっき言っていたやつね」

 

「はい。それとゴンベエさんの言う様に風の天族を仲間にしましょう!

全ての属性を同時に発動したり、同じ属性の人と纏めて神依は無理ですが風の神依はあります!!

地水火風、四つの属性の神依を使いこなさなければ災禍の顕主に打ち勝つことは出来ません!」

 

 走りながらも今後の予定を伝えるライラ様。

 ゴンベエの言っていた通りに動くしかない……それほどまでに、災禍の顕主はヘルダルフは強力な存在だった。

 

「……こ、こは?」

 

「スレイ!」

 

「スレイさん!」

 

 少しでも安全な場所に避難しなければと走っていると、背負っていたスレイが目覚める。ゴンベエが入れた一撃が余程のものだったのか、目覚めても意識が上手く覚醒せず、数秒間はボーッとしており、辺りを見回してやっと自分がどうなっているかに気付く。

 

「アリーシャ、おろして!!」

 

「ダメだ、スレイ。病み上がりの体で走るよりも私が背負った方が早い」

 

「そうじゃない。ゴンベエを助けにいかないと!」

 

「っ!」

 

 背中の上で暴れるスレイ。

 後ろを見つめており、私の背から無理矢理降りて逆走しようとするとライラ様に止められる。

 

「いけません!!今ここでヘルダルフと対峙しても、負けるだけです!!」

 

「だからって、ゴンベエを見捨てるなんて出来ない!!」

 

「……」

 

「スレイ、なんの為にゴンベエが残ったと思っているんだ!!」

 

「貴方が少しでも強くなる時間を稼ぐ為に残ったのよ!心配をする暇があるなら、先ずは逃げなさい」

 

 ライラ様が言うことが本当ならばヘルダルフに対抗する力をスレイは得ることが出来る。だが、それを得る代わりにゴンベエに大きな代償を、ヘルダルフの足止めをして貰わなければならない。

 

「誰かを見捨てて、災禍の顕主を鎮めたとしてそれって本当、に」

 

「……スレイ」

 

「アリー、シャ?」

 

 納得が行かないスレイの頬を私はビンタした……本当は、私がビンタされる側だ。

 

「君は……此処でゴンベエを犠牲にして、も行かないといけない。

私と違って、天族と対話が出来て、ゴンベエと違って宿命を背負う決意をして聖剣を抜いた君は、なにがあっても災厄の時代を終わらせないと、いけないんだ!!」

 

 憎い、憎い。力が無いことを今日まで憎んだ事は無い。ヘルダルフと対峙して以降、足手まといで邪魔にしかなっていない。なんの役にもたっていない。弱い自分が悔しくて仕方がなかった。

 涙を流しながらスレイを止めている私は別れ際にゴンベエが言った涙目のアリーシャで、真名のマオクス=アメッカ(笑顔のアリーシャ)とは程遠かった。

 

「アリーシャ……っ!?」

 

「なんだこの穢れは……今までの比じゃないぞ!?」

 

 説得に応じ立ち止まったスレイは顔色を変える。ミクリオ様は杖を取り出して警戒を強め、私は肌で穢れを感じる。

 

「まだ本気じゃなかったのね」

 

「スレイさん、お分かり頂けましたか?

コレが災禍の顕主の恐ろしさです。導師になって日が浅いスレイさんでは太刀打ち出来ません。

弱い自分を悔やむのならば、ゴンベエさんの犠牲を無駄にしないためにも……今は此処を抜け出し、更なる力を持っ……あれは!!」

 

 挫けそうになるスレイを必死になって立ち上がらせようとするライラ様の目に、雷が目に留まる。

 

「インディグネイション……っ……」

 

 偶然に落ちたとは思えない雷を見て、術名らしきものを呟くライラ様。大きく俯きホロリと一滴の涙を流し、拳を強く握った。

 

「……行きましょう、これ以上ゴンベエさんの様な犠牲を出してはなりません」

 

「ライラ様、それはつまり今の雷は」

 

 ヘルダルフがゴンベエに向けたものだと、今の一撃で死んでしまったものだと……

 

「戦地から離れるのは良いけれど、そろそろ目的地を決めないかしら?何時までも走り続けるの嫌よ」

 

「君の言うとおり、目的地を決めてそこで休まないといけないがこの辺にあるのは両国の陣ぐらいで休めそうな場所は何処にも」

 

「導師一行、此方に来い!!」

 

「お前は!?」

 

 このまま宛もなく走り続けるのはダメだとエドナ様が目的地を考えるも、この辺一体にはなにもない。

 変なところで休めばゴンベエと来たときに出会ったはぐれのローランスやハイランドの兵士と遭遇するかもしれず、かといってこの近隣に村はなくあるのは両国の陣営のみ。

 どうしたものかと考えていると、嘗てバルトロ大臣の屋敷に招かれた際に襲撃してきた暗殺ギルド【風の骨】の者が現れる。

 

「この様な時に!」

 

 スレイの命を狙ってきたのか!

 槍を出して構えるも、風の骨の暗殺者は構えない。

 

「此方に来い」

 

「なに?」

 

「両国どちらに行って救援を求めても無駄だ。此方側から行けば、どちらの国の兵士にも見つからない」

 

「信じろと言うのか!暗殺者を!」

 

「信じるも信じまいも、お前達次第だ……」

 

 暗殺者は消え去る、私達に教えた抜け道を通って。

 

「どうする?」

 

「どうするもなにも、奴は何度も僕達の前に現れているんだ。信じるなんて」

 

「ですが、あの暗殺者が通った道……ローランスとハイランドの陣営がある道ではなさそうです」

 

 教えられた抜け道を通るか通らないか話すライラ様達。暗殺者が教えた抜け道は確かにどちらの陣営にも行かない道だが、その先に暗殺者達が待ち構えているかもしれない。

 

「……行こう、皆」

 

「スレイ、もしかしたら」

 

「暗殺者の集団が待ち構えているかもしれないのは分かってる……でも、今はこれしかないんだ。

それに、もし襲ってきたとしても大丈夫だって。ヘルダルフにはやられちゃったけど、憑魔でもなんでもないなら対処することが出来る……相手はヘルダルフじゃないんだ」

 

「……わかった」

 

 負けたことが思いの外、心の傷となっているスレイ。思えば導師になってから周りの人達に疑われたりはしたものの、負けることだけはなく順調に進んでいたので此処に来ての敗北は心に来たようで無理に自分を奮い立たせる。

 そんなスレイに対して首を横に振ることも出来ず、頷いて抜け道を通ろうとしたその時だった。

 

「あの、光は……」

 

 背後からこれでもかと言うぐらいに眩い光が放たれ、浴びる。

 私だけじゃない。スレイもミクリオ様もエドナ様もライラ様も……曇りしかない空も光を浴びる。

 

「ゴンベエ……ゴンベエ!!」

 

「アリーシャ、戻っちゃダメだ!」

 

 あの眩い光はヘルダルフでなく、ゴンベエが放ったものだ。雷にやられたとライラ様は死んだとお思いになったがゴンベエはまだ生きている。

 雲しか無かった穢れた空は晴れ、胸の中にあったモヤっとしたものが消え去った。コレと似た感覚を知っている。ウーノ様がレディレイク周辺の地の主となり、加護領域を展開してくれた時と似ている。

 

「……なんだ、これは……」

 

 抜け出た穢れの領域にもう一度入るも穢れは感じない。だが、ゴンベエがなにかをしたのは確かで、一つだけ目に見えるおかしなものがあった。

 

「コレはローランスとハイランドの兵士達……であっているのだろうか?」

 

 よく出来た本物と見間違う程に精巧な作りの人形……と言えば良いのだろうか?

 私の目の前には時間が止まったかの様にピタリと動かなくなった交戦中のローランスとハイランドの兵士達がいた。まるで絵の様だが、絵とは違い色を失っていた。

 コレが人形でないのは分かる……ついさっきまで戦っていたローランスとハイランドの兵士達だ。

 

「スレイ達は来ないか……!」

 

 スレイ達は追いかけてこない、暗殺者が教えた抜け道を通って両軍に襲われない場所に抜け出していてほしい。

 私はスレイ達といても足手まといな事は今回のことで更に痛感した……もうコレはどうしようのないことだ。だが、それでも彼が、ゴンベエが無事かどうか見ることは出来る。スレイ達の無事を祈ることが出来る。

 来た道を逆走し、別れた所にはゴンベエがいなかった……だが、倒れている兵士達の位置が不自然で隙間が一つの道の様に繋がっていた

 

「…あ、れは」

 

 来た時には通って来なかった道を歩くと、見つけた。色を失ったこの場所で唯一色がある所を。

 左腕が無い精巧過ぎる今にでも動きそうなヘルダルフの石像、額にはゴンベエが背負っている私の槍とは比べることすら烏滸がましい程に神秘的な退魔の光が宿っていた剣が刺さっていた。だが、今はそれすら気にしない。

 

「ゴンベエ!!」

 

 その石像の下でゴンベエが寝転んでいるのだから。

 

「あ~……アリーシャか」

 

「よかった、生きててよかった……」

 

 ひょっこりと頭だけを起こすゴンベエに飛び掛かり、抱き締めて我慢しているもの全てを吐き出すかの様に涙を流す。

 ヘルダルフの恐ろしさを感じて、あの雷の音を聞いて、ライラ様の涙を見て、もうダメかと思っていたが生きていてくれた。

 

「アリーシャ、心配なんかしなくてもコレぐらいどうにでもなった……って、お前しか戻ってきてないのか」

 

「スレイ達は、行ってしまった……」

 

 体勢をそのままにし、私はスレイ達の事を伝える。

 ゴンベエの言った通り、風の天族を仲間にしてライラ様の知る方法でパワーアップをする。

 

「きっとスレイならヘルダルフを鎮める力を……そう言えばコレはどうなっているんだ?」

 

「封印した」

 

 石になっているヘルダルフや色を失って止まったままの両国の兵士達。

 私達が去っていこうとしたほんの一瞬でこんなものを作るのは無理で、聞いてみると封印をしたらしい。

 

「オレの剣は邪悪なものを封じ込める事も出来る。あの剣を引っこ抜く事が出来るのはオレだけだよ」

 

「じゃあ、ヘルダルフは二度と」

 

「いや、封印は解除するぞ」

 

「何故だ!?」

 

 出会った瞬間から感じた吐き気もするような穢れを持つ災禍の顕主。

 詳しくは語っていなかったが、戦争を裏で操っていたようで封印するならしておくべきだ。

 

「暴れるな」

 

「あ、すまない」

 

 腕の中で暴れては邪魔だったな。

 

「どうして封印を解くんだ……ゴンベエもヘルダルフの穢れを感じた筈だ」

 

「だが、オレはスレイとそう言う約束を交わしたんだ……倒すんじゃなくて、足止めする。オレはそう言ったんだ。

封印を解除したらヘルダルフはまたロクでもない事をしでかすのは分かっている……だが、それをどうにかして食い止めるのがスレイの仕事だ。今回だけだからな、手伝うのは」

 

 確かにゴンベエは足止めをすると言った、スレイが強くなるための時間を稼ぐためにだ。

 だから、スレイが強くなったらヘルダルフの封印を解除するのは一応の道理が通るが……それでも、解くべきじゃないと思ってしまう。

 

「スレイを信じろ、アイツならなんやかんやする」

 

「……私は、スレイよりもゴンベエを信じたい……」

 

 選ばなかった自分でなく選んだスレイを推すのは分かる。だが、スレイは導師になって間もなくイズチで育った為に情勢を全くと言って知らない。ハイランドの王の名前を聞いても答えることが出来ないぐらいだ。

 大きく成長する素質と力を無闇に振るわない立派な心を持っておらず、真面目にやっていないが確実に結果を残しているゴンベエを信じたい。スレイでなくゴンベエの選択が間違いじゃなかったと信じてみたい。

 

「はぁ、そう言うのはやめろ。

しかしまぁ、封印を解放したら今回みたいな事をしでかさなければ良いんだが」

 

「私が人質か…………大丈夫だ、ゴンベエ。

もしまた今回の様に私が人質となって今度はゴンベエが戦争に行かなければならなくなるならば、戦争の道具にされるぐらいなら――」

 

 

   ――私は迷いなく、命を捨てる。

 

 

 

 ゴンベエにそう言って、微笑んだ。だから、気にしないでくれ。

 

「……重いな……」

 

「あ、す、すまない」

 

 長い間、ゴンベエに抱きついたままだった。

 ゆっくりとゴンベエから降りると起き上がるゴンベエ。

 

「アリーシャ、持てる権限全て使って船を用意する事は出来ないか?あ、海に出る船だぞ」

 

「船、か。やろうと思えば可能だが、ゴンベエがいた国に行くのは無理だぞ?」

 

 このグリンウッド大陸の海はあるところを越えると海流が激しかったり、風が全く読めない海がある。

 ゴンベエの国はハイランドよりも遥かに優れた文明を持っているから、海を越える事が出来たがローランスでもハイランドでも別の大陸に向かう船を作る技術を持っていない。

 

「ある程度の海域に出れれば、それで良いんだよ……おらぁ!!」

 

 ハンマーを取り出して石像となったヘルダルフを叩くゴンベエ。

 

「な、なにをしているんだ!?」

 

「どうせだからもう片方の腕を削ぎ落としておこうかなと、拳主体で戦っていたから腕を落としておけばスレイが楽に戦える……くっそ、硬えな」

 

「……私も手伝うよ」

 

 なんだかんだでゴンベエは優しいな、スレイが出来るだけ楽できる様にしている。

 ヘルダルフを倒すことは出来ないかもしれないが、石像を壊すことぐらいならば出来る。槍を握って、壊れそうな場所を探す。

 

「…見切った!!ブンブン回してぇ!大!ジャーンプッ!夢と根性の流れ星!活伸棍・神楽ッ!!」

 

 貫くのでなく壊すならば槍術でなく棍棒の技術を使う。今、私は出来る最高の一撃を石像となったヘルダルフに叩き込むと右腕が落ちた。

 

「これでスレイもヘルダルフと楽に戦える」

 

「後はアリーシャが海に出る船を用意して、この石像を海の底に沈めてから剣を抜く」

 

「海の底……ああ、魚の妖精か」

 

「ヘルダルフは二足歩行型のライオンみたいな憑魔だ。

両腕を切り落とせば上に向かって泳ぐのは困難だ……あ~でも、穢れで水生生物型の憑魔を生み出すか。

宇宙にすっ飛ばすぐらいしかないけど、それやるには二十年ぐらいかかるから無理だよな……」

 

「今、完全に砕いておくか?」

 

「それやっても第二第三の災禍の顕主が現れるだけだ。

そうなったらもうスレイが頑張ることでオレがやることじゃない……よっこいっしょっと」

 

活伸棍・神楽のお陰か地面とくっついていた部分が壊れており、ゴンベエは軽々と持ち上げる。

 

「自動車に乗せるのか?」

 

「あ~そう言えば、帰りはアレだった。

アリーシャ、納税免除の件を忘れんなよ。今回頑張った一番の理由はそれで、84%はそれで出来ている」

 

 聞きたくなかった、そんなこと。

 ヘルダルフを置くと笛を……パンフルートと呼ばれる変わった形の笛を取り出して吹いた。

 

「まさかこんな大荷物ができるとは思ってもみなかった」

 

「……アレは、大きな自動車?」

 

煙突から煙を出しながら此方に向かって走る自動車。

私達が乗ってきた二輪の自動車よりも遥かに大きく、荷車の様な物もついている。

 

「大地の汽笛だよ……帰るぞ、レディレイクに」




スキット 腹が減っても戦は出来た


アリーシャ「これに乗ってグレイブガント盆地に向かったら良かったんじゃないのか?」

ゴンベエ「無理だ、大地の汽笛はオレが一度でも足を運んだことがある場所じゃないといけないんだよ」

アリーシャ「そうか」

ゴンベエ「元々、スレイ達も回収する予定だったからコレに乗せることにしてたが……あ、スレイで思い出した」

アリーシャ「今回の一件をスレイの手柄にしろ……と言うのだろう?」

ゴンベエ「ああ、そうだ……不満か?」

アリーシャ「此処まで来れたのは、ゴンベエのお陰だ……だから、なにも無いと言うのは」

ゴンベエ「サラッと税金免除の件を忘れるな!!不満があるなら飯をくれ。マーリンドを出てから口にしたの、コーラフロートだけだ。意識してなかったからそこまでだったが……腹減った」

アリーシャ「……」グ~

ゴンベエ「……今、鳴ったな」

アリーシャ「い、今のは」

ゴンベエ「恥ずかしがるな……丸一日なんも食ってないに近いんだ」

アリーシャ「そうじゃない……」グ~

ゴンベエ「潔く敗けを認めろ……腹減った」

アリーシャ「屋敷にいる給仕達に腕を振るわせるよ。なにか食べたい物があるか?」

ゴンベエ「牛カツと大根と人参の味噌汁と海苔がついた丸い形の醤油煎餅」

アリーシャ「醤油煎餅?」

ゴンベエ「凄くざっくりと言えば、うちの国のクッキーのような物だ。うるち米の粉を蒸して捏ねて薄く伸ばして鉄板で焼いたものだ。醤油味や塩味があって醤油味が旨いんだ」

アリーシャ「大好物なのか?」

ゴンベエ「ああ……全部が終わったら作ってきてやる。煎餅は、この周辺じゃ食えないからな」

アリーシャ「楽しみにしているよ」グ~

ゴンベエ「……その前に飯か」


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第一部 完

「ある程度は口裏を合わせてくれよ……でないと、えっらいめんどくさいことになる」

 

「……大丈夫なのだろうか?」

 

 レディレイクの外壁が見え、大地の汽笛と呼ばれる乗り物の速度を徐々に徐々に落としていくゴンベエはこの後の事を考える。

 バルトロ大臣を中心とした戦争推進派に嵌められて拘束された私達。全てはスレイを意のままに操り、戦争に勝つためであり、このまま脱獄していた方が良かったではないのかと少しだけ思ってしまう。

 

「大丈夫もなにも、アリーシャは帰らないといけないだろ。

オレは最悪逃げれば良いが、アリーシャは逃げるにしても色々と準備してからにしないと」

 

「私は逃げるなどと言ったことは絶対にしない」

 

「辛く苦しくてもか?オレはアリーシャに逃げたいなら逃げて良いぞとだけは言っておくぞ」

 

「……」

 

 王族だが王位継承権も無いに等しく末席の私は力がない。とにかく弱い。

 たった数日でそれを酷く思い知らされた。天族を肉眼で捉える事は出来ず、従士になればスレイの足手まといになり、中から変えようと思った矢先にバルトロに嵌められてスレイの足枷になってしまった。

 辛くて苦しく、ゴンベエの言うとおり、逃げ出したい気持ちもある。

 

「スレイはきっと強くなる。ライラ様が知っているパワーアップをしてくるはずだ。

そう簡単にパワーアップなんて出来ない。きっと私が想像する事が出来ない厳しい試練が待ち構えている。

スレイはそれを乗り越える。ならば、私が逃げるなんて真似は絶対にできない」

 

 挫けそうな気持ちは、逃げ出したいと言う気持ちはある。だが、逃げてはなにも始まらない。

 

「そうか……やっべえな、疲れがドッときた」

 

「大丈夫か!?」

 

「問題ない……仕込む事が出来る時間はある」

 

 眠たそうな顔をするゴンベエ、ヘルダルフの封印やスレイ達の退路を開くのは容易でない事が今になって深く実感する。

 大地の汽笛はレディレイクの出入り口である橋の前で止まり、まだ眠るわけにはいかないとゴンベエは歩くが足取りがおぼつかない。

 

「一緒に、歩こう」

 

「……報酬は負けんからな」

 

「そんなものは必要ない……」

 

 もう充分すぎる程に君からは色々と貰った。

 ゴンベエに肩を貸し、ゆっくりと大地の汽笛から降りるとレディレイクに残っていたハイランドの兵達が私達を囲む。

 

「ア、アリーシャ殿下!?」

 

「全員、武器を下げてくれ……」

 

「ですが貴女はローランスの進軍を手引きした疑いがあります……脱獄をしたという事は、罪を認めたも同然です」

 

「私の容疑は何もかもがでっち上げだ、調べれば簡単に裏がとれる」

 

「では、その間、身柄を拘束させていただきます」

 

「っ!」

 

 この兵がバルトロ大臣の息が掛かっているかどうかは分からないが言っている事は間違っていない。

 当事者で本当に無実な為に怒りが涌き出て叫ぼうとすると、ゴンベエが私の手を弾いて強く兵士を睨む。

 

「そんな事を、そんな事を言っている場合じゃないだろう!!」

 

「そんな事だと?進軍を手引きしたのは国家反逆罪も同然なのだぞ!!」

 

「今、今、グレイブガント盆地がどうなってんのか知ってるのか?導師の逆鱗に触れてしまったんだぞ!?アリーシャ、お前は見ただろう」

 

「え、あ、ああ……両国の兵士が……」

 

 こ、これで大丈夫なのだろうか?

 色を失い真っ白になった両国兵士達はゴンベエが封印したもので、スレイは一切関係無い。だが、封印された兵士達についての説明を利用すれば私達の容疑はなくなり、スレイを利用するものは減る。

 

「両国の兵士達がどうかしたのか!?」

 

「恐ろしくてなにも言えねえよ。自分で行って確かめろ。

今回、スレイが戦争に参加したのはあくまでもオレとアリーシャが無実の罪で拘束されたからだ……だから、オレ達は助かった。戦争なんてロクでもない事をしでかし、それに賛成する奴等には裁きがくだる。まぁ、甘い奴だからやり直す権利は与えてくれるが……争うんだったら、どっちが美味い飯を作れるとか美女コンテストとか凄い発明品を作るとかにしろよ……アリーシャ、肩を貸してくれ」

 

「調子が悪いのに、無茶をしないでくれ」

 

 スレイ、すまない。君をこんな風に利用しては、私もバルトロ大臣と同じ穴の狢だ。

 罪悪感を抱きながら私はゴンベエにもう一度肩を貸して兵に顔を向ける。

 

「ゴンベエが言ったように、急いでグレイブガント盆地に向かった方がいい。

それまでの間、私達は決してレディレイクを出ていかない。グレイブガント盆地で起こった出来事を君達が知るまでは……」

 

「お、おい!」

 

 私達を囲んでいた兵のリーダーらしき男が慌てて隣にいる兵になにかを指示すると隣にいた兵は走り出す。

 此処から最速の馬に乗って走り、馬の休憩、道中の憑魔の事を考えれば一日あれば余裕で伝えられる。

 

「入らせて貰うぞ」

 

「ど、どうぞお通りください」

 

 兵のリーダーはすんなりと道を開けてくれ、私達はレディレイクに帰ることが出来た。

 

「しまった。大地の汽笛についてなにも言っていない」

 

「アレはオレしか運転できないからなんも問題ねえよ……それよりも問題はこの後だ」

 

「私達の無実を証明した後でなら何時でも船を用意できる」

 

 流石に別の大陸に向かう船は出せないが、遠漁や小さな島々を移動するのに使われている大きな船はある。それを用意してヘルダルフを海の底に沈める作業は数日あれば出来る。

 

「問題はそこじゃねえよ。

ヘルダルフの奴は戦争を裏で操っている」

 

「バルトロ大臣との繋がりか……大地の汽笛が危ない!?」

 

「それに関しては問題ない。

マスターソードを抜けるのはオレだけで、人質を取ろうにもアリーシャは直ぐ隣にいる。

ヘルダルフよりも強い奴が襲って来ない限りはどうにでもなる。問題は誰が裏で通じているかだ」

 

「バルトロ大臣じゃないのか?」

 

 ある程度の地位を持つ人間ならば、国の事情を知っているものならばバルトロ大臣について知らない者はいない。

 戦争推進派の中核であり、ハイランドを支配しようと裏で様々な事をしている。ヘルダルフと繋がっている者が居ると言うならば私は真っ先にバルトロ大臣を思い浮かべる。

 

「アリーシャ、将棋、は無いんだった。チェスは知っているか?」

 

「知ってはいるが……」

 

「なら、話は早い。

クイーンの駒やナイトの駒だけでチェスは出来るか」

 

「そんなのは無理に決まって……そうか」

 

 バルトロ大臣は目立っているだけで、あくまでも氷山の一角に過ぎない。チェスに必要な駒がクイーンとキングだけでなく、ナイト、ビショップ、ルーク、ポーンも必要な様に他にも色々な者がヘルダルフと繋がっている可能性がある。

 

「偉いさんは基本的に現場では働かない。

だから、現場で働いている此処ぞと言う時に確実に成果を上げる奴…とかが、怪しい。

それと戦争反対派の派閥にも潜り込んでる可能性もあるし、国の重役クラスを暗殺出来る奴とかも怪しい」

 

「周りは敵だらけじゃないか……」

 

「一人だけ絶対に安心出来る奴が居るだろう……事情を話しておかないと」

 

「一人……そうか!!」

 

 右も左も敵かも知れない状況で、ただ一人だけ絶対に敵でないと言える御方がいる。

 その御方の元に向かう前に一度屋敷に戻ると、屋敷前でメイドが掃除しており窓に写った影を見て驚き振り向くと私と目があった。

 

「アリーシャ、様……」

 

「すまない、心配をかけてしまった」

 

 メイドに謝ると涙を流し、歩み寄ってくる。

 私の無実を信じてくれて、帰ってこないかもしれないのに屋敷を何時も通りにしてくれていた。

 

「よがっだ……よがったです。

進軍を手引きし拘束されたと聞き、更にはグレイブガント盆地にも向かったと……もう、もう帰ってこないのではと」

 

「私もそう思っていた……ついさっきまでは。

皆には秘密だが、全てゴンベエがしてくれたお陰なんだ」

 

 本人は手柄が必要ないからとスレイに押し付けているが、全てゴンベエのお陰だ。

 仮に一人で脱獄し、グレイブガント盆地に向かったら私はヘルダルフに殺されて終わりだった。

 

「……コイツがですか?」

 

「邪険にしないでくれ」

 

「ですが、彼は……本当に税を納めていないらしいのですが」

 

「……そ、それぐらいは私がなんとかしてみせる!!」

 

「っ!いけません、いけませんよアリーシャ様!

その男は自分でちゃんと働いて稼いでいるのですから、自らで支払わせなければ……大体、アリーシャ様が支払う必要は何処にもありません。その男とは距離を取っておいた方がいいです。その内、ヒモの如く執着するに違いありま」

 

「ゴンベエを客室で寝かせておいてはくれないか?」

 

「……わ、わかりました」

 

「それと、眠っているがゴンベエに失礼な事を言うな……」

 

 

  そんな事は絶対にしない。そう言うことは二度と言うな。

 

 

 ゴンベエをメイドに託し、私は屋敷を出ていき聖堂へと向かう。

 何処に敵がいるか分からない、誰が味方なのか分からない。だが、一人だけ敵でないと言える御方がいる。

 

「ウーノ様!」

 

 レディレイクの地の主たる天族、ウーノ様。この御方は絶対に災禍の顕主の味方をしない。

 聖堂に祀られている聖水に声をかけると光の玉が出現し、ウーノ様へと変わる。

 

「アリーシャか。

話は聞いている……人の欲とは醜いものだ。安心しろ、お前が導師を利用しているなど私は思っていない」

 

「ありがとうございます」

 

「だが、余り弁護は出来ん。

人が生み出す穢れは……特に政治関係の穢れは恐ろしく醜きものだ、下手に介入はすることはせん」

 

「ウーノ様、御話がございます。

色々と順を追いたいのですが、先ずはレディレイクの出入り口たる石橋の前にある大地の汽笛を見てはくださりませんか?」

 

「大地の汽笛とな?」

 

「それを見てから、全てをお話し致します」

 

 大地の汽笛には石像となったヘルダルフがいる。それを見てくださればきっと、ウーノ様の協力を得られる。

 ウーノ様は光の玉となり、聖堂を出ていきレディレイクの外へと向かっていき……数分すると戻ってきた。

 

「なんだあれは?車輪がついていたが見たことのない乗り物で、国の者達が確認をしていたぞ。乗り込もうとした者は追い出されていたがな」

 

「アレは大地の汽笛と呼ばれる乗り物です。

私とゴンベエがグレイブガント盆地から帰還する際に乗ってきたのですが……積み荷を御覧になりましたか?」

 

「ああ、不気味な石像だったが」

 

「アレは此度の災禍の顕主を封じ込めた物です」

 

「なに!?」

 

 石像の正体について語ると驚くウーノ様。

 天族の目から見ても、ただの剣が刺さった石像でしかない。それほどまでに穢れを封じ込めているのか。

 

「アレが此度の災禍の顕主か……となれば導師は成し遂げたのか!」

 

「いえ……その……アレはスレイでなく、ゴンベエがしました」

 

「ゴンベエ、か……私を浄化した上に封印とは……導師であれゴンベエであれ封印をしてくれた事に関しては本当に感謝しなければ。災禍の顕主を封じ込めたのならば、後は各地の大きな憑魔を浄化し、地の主となる天族を用意すれば穢れを退けられる」

 

「……その封印は後で解除します」

 

「なんだと!?」

 

 ヘルダルフを封じ込めた事を褒めるウーノ様に、残酷な一言を告げる。驚いたウーノ様は私の肩を掴み一気に詰め寄った。

 

「分かっているのか!?災禍の顕主はそこらの憑魔ではない。

過去にスレイの様に強い霊応力を持った者が導師となり浄化の力を得て、神依の力を振るった。だが、それでも勝つことが出来ずに見るも無惨に殺された時が何度もあったのだぞ!!」

 

「分かっております……封印する前の災禍の顕主に、ヘルダルフと出会いました。災禍の顕主は、余りにも恐ろしく……スレイですら手も足も出ませんでした」

 

 ウーノ様が災禍の顕主を恐れるのは無理もない。あれを見れば、誰でも恐れる。人々の希望たる導師が、スレイが敗北するほどの相手だと知れば絶望へと叩き落とされる。

 

「ゴンベエは何処だ、今すぐに封印を解除するなと言わねば」

 

「それは不可能です……災禍の顕主を封印したのはスレイとの約束を守るためであり、スレイとの約束がなければゴンベエは倒していました」

 

「どういう意味だ?」

 

 ウーノ様にグレイブガント盆地で起きたことを全て話す。

 災禍の顕主の封印はスレイが強くなる時間を稼ぐための封印であり、鎮めて世界から穢れを無くす為のものではない。その事をお教えすると呆れてしまうウーノ様。

 

「馬鹿か奴は……導師スレイは確かに成長望ましい逸材だ。

だが、それでも確実に災禍の顕主に勝てる保証など何処にもないと言うのに……」

 

「御言葉ですがウーノ様、スレイならばきっと」

 

「よい、導師の話は風の噂で聞いている。

ゴンベエがそれに賭けたと言うのならば最早なにも言うまい。教えてくれたこと、感謝する」

 

「あ、いえ、実はまだ残っているのです」

 

「?」

 

 ヘルダルフはローランスとハイランドの戦争を裏で操っていた。

 この事をお教えするとすんなりと納得するウーノ様。穢れを一気に増やすには争わせる事が一番であり、戦争は打ってつけのものだと知っており、裏で操っているのも納得できる。

 

「戦争推進派の中核とも言えるバルトロ大臣が一番怪しいのですが……恐らく、それ以外にもヘルダルフの手の者が忍んでいるかと思います。ですが、それが誰なのか分からず」

 

「手伝ってくれと言うのだな」

 

「はい……申し訳ありません。

誰が味方で誰が敵か分からない以上、頼れるのはウーノ様だけで」

 

「これ以上、災禍の顕主の好き勝手に世界を穢されてしまえば導師ですら太刀打ちは出来ん。

間者についてだが、幾つか心当たりがある。最近は信仰する者も増えて加護が強まり、弱い穢れは祓える様になったのだが、幾つかの強い穢れは祓えん。恐らくはその内のどれかが間者なのだろう。アリーシャ、お前が動けばまた無実の罪で拘束されるやもしれん。私が調べておこう」

 

「っ、ありがとうございます!!」

 

 ウーノ様の協力を得ることが出来た。これでまた一歩、平和への道が近付いた。

 ゴンベエにこの事を伝えようと急いで屋敷に戻るも、ゴンベエは寝ており報告はできない。メイドが叩き起こしましょうかと聞いてくるが、その様な事はしてはいけないと注意し、寝ている間に色々と準備をする。

 ゴンベエが納税をしなくてもいい手続きにヘルダルフを沈める為の船、今回の一件を世間や上流階級の者達にどう伝えるのか、やることは思ったよりも多かったのだが全くといって苦ではなかった。

 確実に平和な世の中へと進んでいってると感じ、大体の準備が終わる頃にはグレイブガント盆地で起きた出来事を両国は知り、終わることはなかったものの戦争は一時休戦となった。

 

「じゃあ、オレは帰る」

 

「ああ、また会おう」

 

 一時休戦となり、マーリンドの出来事等を証拠に私の進軍の手引きや国政の悪評の罪はなかったことに。と言うよりは元々無かった。

 後は恐ろしい程に順調に進んだ。ゴンベエが大地の汽笛を海辺まで走らせて、港町までは台車で運び、ヘルダルフを用意した船に乗せ、海の底に沈めて封印を解いた。

 これで本当によかったのだろうかと思うところもあるが、そう言う約束でそれ以上はなにも言えない。今はこの一時の平和を永遠の平和に変える努力をしようと決意する。

 

「……下手したら、アリーシャと次に会うのが最後になるな……」

 

 こうして私達の戦いは終わり、スレイ達に託した。後は何時もの日々が戻ってくる……そう思っていた。

 本当はただの序章に過ぎなかった。





此処まではヴェスペリアで言うバルボス倒したところで次からの話をシンフォニアで例えればテセアラ編。
スレイ達は今、真の仲間と出会っています。ゲーム通りになりそうです。


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そして日はまた沈む

 ゴンベエがした封印が解除され戦争が再開かと思ったが、一時休戦のままで時間は過ぎる。

 後はウーノ様が間者を見つけ、証拠を手に入れるだけならばよかったのだが、別の問題が発生してしまい、その問題をどうにかしろと命を受けてしまった。

 

「……どうすれば、良いのだろう」

 

 それの解決自体は至って簡単に出来る。だが、問題は解決してしまった後が大変だ。

 今までの事を考えれば、きっと縦に首を振ってくれるだろうが……それで、本当に良いのだろうか?

 

「お~い」

 

 どうすれば良いのか悩んでいると、その悩みの種である男が……ゴンベエがやって来た。

 今、一番会いたくはない人物だが向こうは私に用事がある様で歩み寄ってくる。

 

「ゴ、ゴンベエ……」

 

「よかった、レディレイクにいてくれて。行ったことねえ辺境の地に飛ばされたら、流石に会いに行けん」

 

「そう言ったことは今はできないから、安心してくれ」

 

 スレイが怒って、戦争を無理矢理止めた。私達はスレイと親しい間柄だった為に無事だった。

 そう上には伝わっており、戦争推進派の者達はもしかしたら自分達にと恐れて私にくだした命令以外はなにもしてこない。

 

「そうか……」

 

「それで今日はどうしたんだ?自転車は?」

 

 自転車に乗っていないゴンベエ。何時もの様にコーラを売りにやって来たというわけでなく、その事について聞くと何時も以上に真剣な顔をする。

 

「暫く遠出をするんだ。鍵、預かってくんねえか?」

 

「それぐらいなら、別に構わないが……何かあったのか?」

 

「まぁ、流石に色々と無視できないから動こうと……ちょっと探しものを」

 

「探しもの?鉱石でも探しているのか?」

 

 このレディレイクはハイランドの王都で、食料品衣類書物と大抵の物が揃う。商人もよく来るので、時間はかかるが置いていなくても手に入れる事はできる。ゴンベエが欲しがりそうな物で商人でも入手するのが難しい物と言うとよく分からない鉱石ぐらいだ。

 

「物じゃなくて者、人探し……いや、この場合だと天族探しだな」

 

「天族探し?」

 

 レディレイクと家を行き来するだけで、天族についても余り知らないゴンベエ。私の知る限り、ゴンベエと親しい天族はライラ様、ミクリオ様、エドナ様、ウーノ様だけで、それ以外に知り合いなのはマーリンドの地の主のロハン様とアタックさんぐらいで他にいない。

 

 もしかすると、ゴンベエと仲が良い天族の方がいるかもしれないが……どうなのだろう?

 

「きっかけはあるが、宛もない旅になる可能性が高い。

何時帰ってこれるか分からんから、家の鍵を預かっていて欲しいんだ」

 

「どういうことだ?ゴンベエは、誰を探している?」

 

「誰、と言われれば答えづらい。

それをこれから聞くんだよ……レディレイクに来たのは、探し人のロードマップを作るためだ」

 

 ゴンベエは聖堂に向かう。此処でロードマップを作るため……と言うことはウーノ様に会うのだろう。

 聖堂につき、器である聖水が汲まれた杯に近付くとウーノ様が出てきた。

 

「なんの用だ?悪いが、間者についてはまだなにも」

 

「いや、そうじゃねえ。聞きたいことがあってやって来たんだよ」

 

「聞きたいこと?」

 

「この近隣で……出来るだけジジイの天族が何処にいるのか知らねえか?祀られてた遺跡とかあるなら、それでもいい」

 

「ジジイか。人間を基準にするならば、私はジジイなのだがな」

 

「ウーノ様はお幾つなのですか?」

 

「ふっ、当ててみろ」

 

 100……いや、100は失礼じゃないだろうか?だが、湖の乙女の伝承は百年以上前からある。ライラ様は100歳以上でもあの見た目で、そのライラ様と親しい間柄のエドナ様は私よりも幼い姿で……ええっと、ええと!!

 

「そういう合コンみたいな質問はやめろよ……」

 

「これは何度やっても飽きない天族のちょっとした楽しみだ」

 

「楽しみ?」

 

「アリーシャの反応を楽しんでんだよ。趣味は……悪くはないな」

 

 それはいったいどういう意味だ?

 意味を聞こうと思ったが、コミカルな空気からシリアスな空気へと一気に変わったので聞くことは出来なかった。

 

「ジジイの天族、か。

ゴンベエ、アリーシャ、天族はどういった原理で歳を食うか知っているか?」

 

「知らん」

 

「私も知りません……人間の様にある程度まで成長して、ある時を境にピタリと止まるのではないのでしょうか?」

 

 ゴンベエの言う御老人の天族と言うのは心当たりがある。だが、それはたった一人しかおらず、今まであった天族の大半が若い容姿の天族ばかりで、あの御方が特殊なだけかと推測する。

 

「その考え方は間違っていない。

天族の容姿はその天族の力に関係がある。力の強い天族=容姿が大人と考えても良いほどにだ」

 

「……その理論で行くなら、エドナは弱いと言うことか?」

 

「エドナが誰かは知らないが、成長を抑える方法は存在している」

 

「さっき言ったことと若干矛盾してんだろう」

 

「あくまでも存在しているだけで、それをする者はそんなにいない。

そのエドナと言う天族が強く容姿と力がかけ離れているならば、なにかしらの訳があり肉体の成長を抑えてるのだろう」

 

「訳、あり……」

 

 肉体の成長を防ぐ訳……頭に浮かんだのはエドナ様の御兄様だったあのドラゴン。

 エドナ様はドラゴンとなった御兄様を元に戻すのを条件にスレイに力を貸している。もし、元に戻すことに成功した際に容姿が変わってしまってはエドナ様の御兄様はショックを受ける可能性があり、抑えているのかもしれない。

 

「それでジジイの天族に心当たりは無いか?

お前の話が確かなら、ジジイの天族ってのは物凄くて……数は少ないんだろ?」

 

「御老人の天族、となれば高位天族、光を操る事が出来る者になる。

レディレイク近隣で、容姿が御老人の天族となれば……雷神と謳われたゼンライ殿だ。祀られていた場所は此処からそんなに遠くはない」

 

「あの、もしやそのゼンライ殿と言うのは高下駄を履いている前髪以外が白髪のキセルを咥えた御老人の事でしょうか?」

 

「ああ、その通りだが……もしや、会ったことがあるのか!?」

 

「そ、それは……」

 

 ゴンベエが探している人物と私が知る人物は一致した。イズチで出会ったジイジ殿がゼンライ殿だ。祀られている遺跡についても心当たりがある。スレイとはじめて出会ったあの場所だ。

 

「スレイ達が言っていたジイジの本名がゼンライ、つーとこか」

 

「導師が?」

 

「スレイとミクリオは天族の村かなんかで育ったらしいんだよ。

アリーシャは一度だけ行ったらしいが、場所とかを絶対に言わない約束でスレイ達も詳しいことを言わない様にしている」

 

「つまり、私は」

 

「いや、言ってくれて助かる……そうじゃないと、なにも始まらないんだ」

 

 探し人があっさりと見つかるが、余り喜ばないゴンベエ。目をゆっくりと細く鋭くし、なにかについて真剣に考える。

 

「ゼンライ殿になにか用事があるのか?」

 

「ああ、いい加減に知らないといけない事があるからな。今の今まで無視し続けて来たが、そろそろ向き合わんと」

 

「ふむ……知らなければならないことか……」

 

 知らなければならないこと……今の今まで無視し続けて来たことに加えてジイジ殿…ゼンライ殿に聞かなければならないこととなれば、それは恐らくスレイの事だろう。

 気にならなかったと言えば嘘になるが、スレイはイズチの中で唯一の人間で天族の皆様が家族だった。だが、血の繋がりはなく、捨て子にしてもイズチの周辺まで、わざわざ足を運んで捨てるのはどうも納得が出来ない。

親はいったい何者なのか?そもそもどうしてスレイは捨てられたのか?気にすれば疑問は尽きることなく涌き出た。

 

「祀られてた場所を教えてくれ。多分、その周辺に住んでると思うから」

 

「それは構わないが……恐らく、お前では行くことは出来ない。

ゼンライ殿の加護領域は私と比べて遥かに強く、侵入者を意図も容易く撃退するどころか侵入する事すら儘ならない。

遺跡付近を永遠とグルグルしているだけで終わってしまう」

 

「でも、アリーシャはなんやかんやで辿り着いたぞ?」

 

「人の世を統べる者ならば入ることのできる結界を貼っているのだろう」

 

 人の世を統べる者……それはつまり王族か。それならば今の今までイズチ周辺に気付かなかった事に納得がいく。

 ゴンベエはジッと私の方を見つめる。

 

「道は覚えているが……行って、良いのだろうか?」

 

 ウーノ様経由でイズチの場所を割り出すゴンベエ。後は私が連れていけばイズチには着く。だが、私はゼンライ殿にイズチについてなにも語らないと約束した。その約束は破ってはいけない約束だ。ゴンベエを連れてきたとなれば、破ったも同然だ。

 

「なにも語るまいと誓ったのならば、教えてはならん。誓いを破ることは天族は許さん……アリーシャが教えないのであれば私も教えられん。自力で見つけ出してくれ」

 

「わぁったよ……となれば、一個一個しらみ潰しで自力で探さねえとな……情報、サンキュー……暫くはオレはレディレイクに現れなくなるから、なにかあったらアリーシャに頼むぞ」

 

 正確な位置は分からないが、確かな成果を得ることは出来た。

 聖堂を後にし、レディレイクを出ようとするとゴンベエは立ち止まる。

 

「アリーシャ、何時までついてくるんだ?」

 

「…え?」

 

「いや、これはオレ個人の用事だ。

確かにアリーシャが居てくれたら、色々と助かるが……それでもアリーシャにはしないといけない事があんだろ。

ウーノが見つけるまでの間に出来ることをしておかねえとダメって、鍵を渡してなかったな。わり」

 

「あ、ああ……鍵を貰っていなかったから、何時渡してくれるか待っていたんだ」

 

 流れで一緒に行きそうになってしまった。私にはやらなければならない事がある。

 ゴンベエから鍵を受け取り、見送る……見送る……

 

「おい、手を放せ」

 

「す、すまない」

 

 何時の間にか服の裾を掴んでしまっていたな。これだと行けないな、そうだな。

 

「……なにを隠してやがる?」

 

「いきなりなにを、私はなにも……う……大地の汽笛は量産可能だろうか?」

 

「今度はオレかよ……」

 

 右手で顔を隠して大きなため息を吐いたゴンベエ。私の一つの質問で大体を理解した。

 

「戦争は終わっても、こういった事は終わらないか」

 

 今回の一件で戦争推進派は息を潜めた。スレイが災禍の顕主を鎮めれば連鎖的に憑魔や穢れはなくなり戦争はきっと終わる。だが、それだけでハイランドとローランスの関係は変わらない。殺しあわないだけで、両国どちらも相手より優位に立とうとしている。戦争以外でローランスに対してハイランドが優位に立つ方法は優れた資源や技術を確保することだ。両国互いに似た国で、特にコレだといったなにかはない。国のレベルも同じぐらいで、優れた技術を手に入れた方がこれからの主導権を握る。

 何度か大地の汽笛をレディレイク前で走らせた為に、ゴンベエが優れた技術を持った技術者として目をつけられた。大地の汽笛をはじめとするゴンベエが知っている様々な技術を手に入れ、独占すればローランスに対して圧倒的なまでに優位に立つことが出来る。大地の汽笛や二輪の自動車があれば物資の運搬や遠出が楽になる。

 

「大地の汽笛はあれしかない、マスターバイク・零式もだ。

似たような物ならこの国の人達でも簡単には作れるが……産業革命……あ~~~~~」

 

 目を閉じて物凄く悩むゴンベエ。産業革命……確かに大地の汽笛と似たような物を量産すれば物資の運搬が効率よくなる。此処から数日かかる場所も数時間でつき、物を届けることが出来る。

 

「大地の汽笛と似たような物なら特別な材料なんか無くても簡単に作れる。と言うか動力源はストーブとヤカンだけで出来る」

 

「そ、そんなに簡単な物なのか?」

 

「毎回石炭が必要だが、基本的にヤカンとストーブがあればいい。超一流の職人でないと作れないとかそんなんじゃない……だが、教えられない。つーか、んなもん一部の奴にしか需要ねえから流行らん」

 

「……そうか、無理を言ってすまない」

 

「別に秘伝の技術とかそう言うのじゃねえんだよ。

アレを量産すれば……この国が栄えるどころか滅びる可能性がある。レディレイクの湖が溝の如く腐った泉に変わる。

アリーシャが見たがっていた穢れの無いレディレイクなんて一生見れなくなる」

 

「そこまでの物なのか……」

 

「優れた発明には多大な犠牲がある。

完璧とは言わないが、利用できる使用できる1の型を作るまでに9の型を犠牲にしないといけない。どんなものにもメリットとデメリットはあるんだ……アリーシャ、一つだけいいか?」

 

「ああ……答えられる事ならなんでも答えるが」

 

「オレから技術を取ってこいって指示を出したのは、バルトロ大臣の一派か?」

 

「いや、言い出した人はバルトロ大臣の一派ではない。

むしろ戦争に反対し、悪政をしない穏健な派閥の人達で争うぐらいならば王都や主要都市以外の小さな村などを発展させた方が良いと言う立派な、ゴンベエ!?」

 

「四方八方、囲まれやがった、コンチクショォオオオオ!!」

 

 膝と手をついて物凄く落ち込み叫ぶゴンベエ。突然の出来事に私は慌てる。

 

「なにを落ち込んでいるんだ!?」

 

「どうしたもこうしたも、四方八方囲まれたんだよ。

戦争推進派の奴等と戦争反対派の奴等両方に狙われて……くっそ、ヘルダルフ封印するんじゃなかった」

 

「両方に狙われた?」

 

「アリーシャ、そこは気付けよ。

多分、お前もモノの見事に操られてるぞ」

 

「?」

 

「オレがハイランドじゃなくて、ローランスに行くっつったら躊躇いなく罪をでっち上げる。

ハイランドでなくローランスに技術を売らせないように殺し屋を雇う。くそ……税金の免除がすんなりといった原因はそれもあるのか。ローランスよりもハイランドの方が良い国ですよアピールか!!アリーシャあげるから、国に残れか!!アリーシャでハニトラか!」

 

「……!」

 

 ゴンベエが他にも色々と技術を持っていると反対派の者達は考えている。その考えは間違っておらず、ゴンベエはまだまだ作っていないだけで凄い発明を出来る。効率が悪いからとしていないだけで、カビが生えた蜜柑から薬を作れる。

 ハイランドでゴンベエと最も親しい人物である私がゴンベエに頼み込み、そのままゴンベエを味方につけることが出来ればそこでめでたく終わる。だが、断れば……技術がローランスに売られない様にする。ついでに私も消そうとする。

 

「あ~……アリーシャ、ついてきてくれないか?」

 

「私が、ゴンベエの旅に?」

 

 私は、イズチの居場所を知っているのだが?

 

「此処でオレが普通に旅立てば、スレイを戦争に加担させた時と同じ手を使ってくる。だが、アリーシャが来てくれれば話が大きく変わる」

 

「!」

 

「アリーシャに技術を教える。しかし、オレはこの国に色々と疎く、この国でなにが取れるか知らない。

オレの作るものの一部は特殊な鉱石等が必要だったりするから、色々と回ってからなにを教えるか決めるって設定にする。

最終的に青カビからペニシリンを抽出する方法教えるからついてきてくれ!!」

 

「わ、分かった、分かったから、肩を離してくれ!!」

 

 肩をがっしりと掴み私を揺らすゴンベエ。

 何時もの様に余裕はなく慌てており、少し涙目だった。

 

「旅立つ前から色々とハードすぎる……すまねえな」

 

「いや、構わない」

 

 裏に隠されていた意図を読み取ることが出来なかった私が悪い。ゴンベエやスレイを政治に利用する事を私はしたくない。私がゴンベエと一緒にいるだけで、ゴンベエが救われるのならば喜んで私はゴンベエと一緒に旅立つ。ゴンベエから貰った物はとても大きい。

 

「そうだ、ゴンベエ。

ついでだからスレイ達の手伝いもしないか?パワーアップをするのに忙しい筈だから、地の主となってくれる天族を見つけて、祀るんだ」

 

「なんでそんな事をしないといけない……妙に嬉しそうだな。今、凄い崖っぷちに立ってるんだぞ?」

 

「それは何時ものことだ」

 

 上流階級の者で私を嫌う者は沢山いる。あわよくば死ねばいいと企てて、私を疫病が蔓延る街に飛ばすぐらいだ。

 本音を言えば、ゴンベエの旅についていき色々と見たかった。だが、スレイの時の様になにかしらの理由で断念しなければならないと心の何処かで諦めていた。

 だが、今は逆だ。ついてきて欲しいと私に手を伸ばしてくれている。私が手を伸ばしても届かなかった所から、手が伸びてきた。

 

「行こう、ゴンベエ」




衣装 DLC パワーレンジャー


ゴンベエ 猛る烈火のエレメント

説明

天空聖界では知らない者はいないとされる程の勇者が纏いし衣装。
魔法使いの息子達が束になっても敵わない相手を一蹴するほどの強さを持つ。


アリーシャ 煌めく孤高の快盗/気高く輝く警察官

説明

異世界から現れし犯罪者集団ギャングラー。
失った大切な人を取り戻すために戦う快盗、世界の平和を守るために戦う警察、二つの顔を持ち二つの戦隊を行き来した異世界人の衣装


ベルベット 真・志葉家十八代目当主

説明

300年以上昔からこの世の理から外れし外道と戦ってきた侍の一族の末裔で、真の十八代目当主の衣装。
外道の総大将を封印すべく、厳しい試練を乗り越えたものの彼女の存在は家臣達にとっては受け入れ難い存在だった。


ライフィセット ビッグスター


説明

究極の救世主11番目の戦士の衣装。
究極の救世主の中で最も幼いものの、その力は大熊級。地『球』代表の『究』極の『救』世主


ロクロウ レインボーライン 保線作業員

説明

世界を闇に包むシャドーライン元最強の怪人の衣装。
究極の雨男であるが、雨上がりの虹の美しさを誰よりも知っており、背負っているのは無駄に大きい警備灯

エレノア GSPO TACTICAL UNIT No.3

説明

異世界から現れる犯罪者集団ギャングラーと戦う国際特別警察機構戦力部隊の紅一点。
市民の正義と理想の未来のために戦い、快盗とは相容れない絶対のヒーローで饅頭とかのグッズ化がされている。


アイゼン 閃光の勇者


説明

十大獣電竜最強と唱われるブラギガスをパートナーとする閃光の勇者であり賢神でもある男の衣装。
巷で流行りの宇宙海賊とかあったのにアイゼンがコレなのは明らかに狙って作られているとの噂がある。

マギルゥ 自動車会社ペガサスの経理担当

説明

クルマジックパワーを与えられた星座伝説に準えた戦士……なのだが、別に特別な人でもなんでもなければ訓練もうけていないただのサラリーマン。
20万ちょっとのお給料で働いている上に無償で正義の味方までやらなければならない事に不満を持つ。
彼女が出るだけで、色々とおかしくなる。具体的には聖寮の対魔士がキムチが食いたいが為に聖隷をパシり、焼肉屋に行かせたけど、異大陸のキムチの方が遥かに旨いと聞いたので、異大陸のキムチを買いに行く為だけにバンエルティア号を襲撃したりする。


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にゃんと立派なニャゴヤ城

 予想以上にアッサリと旅立つ許可が降りた。

 屋敷のメイドさんに殺してやろうかと言いたげな敵意を向けられたが、アリーシャが来てくれないとより面倒になる。つーか、本当にアリーシャの身の安全が心配ならば今すぐに騎士を止めるように小言の一言でも言って精神的に追い詰めやがれ。

 

「今更ながら聞くが、その格好は?」

 

「ゼンライ殿が祀られていた場所を、イズチを見つけるのが本来の旅の目的だ。

だが、名目上は私と共に各地を巡ってハイランドの特色や特産品を知識に入れつつ技術を伝える……大丈夫だ。何時もの鎧はちゃんと隠し持っている。いざという時の王家の証も」

 

「どんだけ作りたいんだ……」

 

 蒸気機関が優れた発明品だと見抜いたのはいいが、蒸気機関は電化製品以上の諸刃の剣だ。一個や二個ならば作ったところで特に影響は無いが、レディレイク中に蒸気機関が配備されたとかになれば確実にレディレイクは終わる。

 川を使って物を運ぶ、川の水で水車を回すなんかは産業革命以前にある。蒸気機関もまぁ、産業革命より前からはあるが、蒸気機関が無いと機関車が作られなかった。

 電気の文明を知っているから実感は薄いが、蒸気機関の時点でハイランドとローランスでは恐ろしい発明なんだろうな。アリーシャに色々と渡しているし、わざわざ学生服みたいなのに着替えさせているし。

 

「成果を上げねえと、このままだと水戸黄門になるな」

 

「水戸黄門?」

 

「隠居した国の偉いさんが国でなく街や村の悪事を働いている役人をお供に頼んでシバき倒した後に、印籠と言う……まぁ、王家の家紋が入った物を見せるうちの国の実話を元にした物語……実話の方はあんまり知らないが、水戸黄門ならうちの国の大半の人間は知ってる程に有名だ」

 

「そんな話が……」

 

「まぁ、つってもうちの国の実話を元にした話って……似たの多いんだよな」

 

 時代劇あんま見ねえけど、身分を隠した偉いさんが悪人をシバき倒す系多い。

 将軍しかり金さんしかり黄門しかり……悪人を取り敢えずぶっ殺しまくる江戸時代って、何気にカオス。いや、三人の中で一番殺してるのって将軍か?

 

「前に来たときとは、比べ物にならないな……」

 

 色々と談笑していると、マーリンドに辿り着いた。

 流石に宛もなく旅をするわけにはいかず、間者を探すウーノに質問攻めをしまくるのはまずい。

 此処には加護を与えている天族だけでなくノルミン天族とかいうのもいるから、色々と聞ける。

 

「おお、ゴンベエにアリーシャ姫!」

 

「ネイフト殿、ご無沙汰です」

 

「爺さん、大丈夫だったか?」

 

 町中を歩いていると、ネイフトがオレ達に気付く。

 

「ああ、問題ない。導師殿が我等の身を心配し、避難させてくれた……それよりも、御無事でなによりです」

 

「……一応は聞いとくが、どういう風に話が伝わったんだ?」

 

「姫が悪評と進軍の手引きをしたと……このマーリンドの住民は誰一人、その様な事を思ってはおりませぬ。

導師殿と共に疫病を打ち払った貴女が悪評を流し進軍の手引きをするなど、絶対にありえないこと。姫と導師ならばこの災厄の時代を終わらせることが出来ると心から思っています」

 

「……そう、か……皆の期待に答えれるように精一杯頑張るよ」

 

 痛い……アリーシャには今のネイフトの言葉は物凄いまでに痛い。

 スレイがハイランドで一番最初に導師として穢れを浄化し、天族を元に戻して地の主を祀ったのがこのマーリンドであり、そこでアリーシャが足手まといどころか邪魔になっている事に気付いた場所であるから余計に痛い。

 

「……」

 

「……マーリンドに連れてきて、悪かった」

 

 ネイフトと別れると俯くアリーシャに謝り、手を握る。

 スレイだったら、主人公ならカッコいい言葉の一つや二つ送って励ますんだろうが、オレにはそんな事は出来ない。助けを求めてる人間を無責任には救えないし、救わないから、出来ることはコレぐらいだ。

 

「……」

 

「アリーシャ?」

 

 これでもかと言うぐらいに力強く手を握るアリーシャは無言で返事をしない。

 手を離そうとしても、指と指の間に指を入れているのでアリーシャに掴まれたら離せない。これじゃ目的地につかないじゃねえかと思い、無理矢理前に進もうとするとアリーシャは普通についてくる。

 

「熱々やねぇ」

 

「この若さは人間だけの特権だな」

 

 目的地である天族の器となっている大樹に辿り着いた。

 アリーシャと手を握ってやって来たのでアタックとロハンのおっさんはニヤついているが、アリーシャは気にしない。何時もならば慌てたりなんか反応するが、それを一切しない。

 

「噂や話は色々と聞いている。従士をやめたと言うのもだ」

 

「先に言っとくが、アリーシャの眼鏡は掛けたら天族を認識できる眼鏡だからな」

 

「そうなのか?なら、無事でよかったと言わせてくれ。穢れなき人間で、災厄の時代を」

 

「おっさん、そういうことを言うな……従士をやめた理由も含めて、色々と知っているなら敢えてなにも言うな。フレンドリーに接するおっさんで済ませておけ」

 

「……確かに配慮が欠けたな」

 

 これ以上、下手なフォローを入れるだけ入れ続けるのは傷口を抉るも同然の行為だ。アリーシャにだって色々と思うところがあり、心に溜まったものが爆発するかは分からん。

 

「それで、今日はどないしはったん?この辺、もうなんもおらへんで?」

 

「ああ、ちょっと色々と聞きたいことがあって来たんだ……ゼンライって天族が祀られた遺跡を探している」

 

「ゼンライ……まさか、雷神と唱われた光を操る高位天族のゼンライ殿のことか?」

 

「見た目がスゲエ爺の天族だ」

 

「あ、ゼンライはんやね。ゼンライはん祀られてた場所やったら物凄く近いで。えっとな」

 

「待て、場所は教えないでくれ」

 

 直接の場所を知っているので教えようとするアタック。出来たらそれを聞いて、イズチに向かいたいがそれだとアリーシャが教えないように努力しているのが無駄になってしまう。

 その辺について詳しく説明をすると、約束で喋らないならば教えられないなとロハンとアタックはゼンライが祀られてた場所を教えない。

 

「そのゼンライについて詳しく書かれてる書物とか無いのか?

そう言うのを経由して、自力で探し当てたい……それだったら、なんも問題ない」

 

「大分、裏技な行為だが……まぁ、自力で探し当てるなら問題ない、か?

だが、天族に関する書物だなんてこの街でも天遺見聞録ぐらいしか無いんじゃないか?」

 

「せやなぁ~けどあれ、ウチ等ノルミン天族に関して全く書かれてへんから使いもんにならん可能性高いで?」

 

 出やがったな、天遺見聞録。なんか色々と胡散臭い天族に関する事が書かれている胡散臭い書物。ノルミンに関して書かれていないとなると、かなり中途半端な書物……もしくは、あえて書かなかったかのどっちかだな。

 

「ノルミン天族とかで思い出したが……他にも人型じゃない天族とか見えない奴には見えない存在って居るのか?」

 

「そら、居るに決まっとるやん」

 

「例えば?」

 

「有名なところで言えば、かめにんやね~」

 

「かめにん?亀型の天族か?」

 

「かめにんはかめにんでそれ以上でもそれ以下でも無い」

 

 つまりジャスタウェイと同族か。

 今の今まで無視していたが、改めて謎な存在とか世界観だな、この大陸。

 

「トータス、トータス!」

 

「噂をすればやって来たぞ。アレがかめにんだ」

 

「コスプレだな」

 

「だぁれが、コスプレっすか!!」

 

 都合よく現れたかめにん。高級な亀のコスプレもしくは擬人化的な格好をしており、他の人達には見えていないっぽい。

 

「アリーシャさんは居るっすか?」

 

「アリーシャは私だが、なにか?」

 

「お手紙を預かってるっす!受け取りのサインをよろしくっす!」

 

「お手紙?」

 

 まだ旅立って半日しかたっていないのに、いきなりの手紙に首を傾げるアリーシャ。

 国のお偉いさんがアリーシャに対して伝え忘れた事があるから手紙を寄越した……と言うわけではなさそうだな。

 

「スレイが大丈夫かどうかの手紙を出してきたんじゃねえのか?」

 

 グレイブガント盆地で別れて以降、スレイの動向を掴むことが出来ていない。殺された線もあるが、流石にそれは低くローランスに行ってると考え、それ以上は深く考えなかった。スレイもアリーシャも互いに有名な人物なので、なんか騒ぎを起こしたりすれば直ぐに居場所がわかる。それを頼りにしておけば、生存確認が出来る。

 時の人という意味ではスレイの方が上だが、調べやすさではアリーシャの方が上で、生存していると判明したから手紙を出したとかそんなんだろう。かめにん、普通の人に見えてないっぽいからアリーシャの知り合いで手紙をかめにん使って送れるのスレイぐらいだし。

 

「スレイは、今どこに……?」

 

 スレイの事も心配だったアリーシャはサインをして、手紙を受け取ると即座に開けて中身を確認する。と言っても中は一枚の便箋だけで、物とかそういうのはなく開けた瞬間に異世界に来る的なのもない。

 

「どないしたん?ライラはん達、今どこにおるん?」

 

「オレ、この国の文字読めねえから言葉で頼む」

 

「それが……コレはスレイからの手紙なのだろうか?」

 

「守秘義務ってもんがあるから、差出人は教えられないっス」

 

「いや、それスレイが差出人じゃないと自白してるもんだからな」

 

「し、しまったっす!」

 

 手紙を読んで頭に?を浮かべるアリーシャ。スレイでないなら、ライラ達でもない。後、知っている天族はウーノと目の前にいる二人だけだが、ついさっきまでウーノと一緒にいた……マジで誰だ?

 

「読み上げてくれ」

 

「えっと……【初夏の日差しが一層眩しく感じられる今日この頃、貴殿等は如何お過ごしか?】」

 

「あ……」

 

 最初の一文を読み上げるとなにかに気付いたアタック。と言うことはアタックの知り合いか?

 

「【汝等を見たとき、我は驚いた、親から子へと血を継げば何れは形は変わる。しかし汝等は巡り巡って元に戻った。

更に導師が世に現れて我は確信した、これは運命というものなのだろうと。だが、運命というものは時には残酷である。

我は情けない、清く正しく美しくあろうとする乙女が流す涙を拭くことも出来ぬ己が。我が使命を果たす時は着実と近付いているが今すぐではない。乙女よ、汝が力を欲するならば語り部の勇気を探せ。奴ならばきっと乙女の力になる筈だ】……差出人は書かれていないな」

 

「どう考えても導師御一行様じゃねえな」

 

 内容が物凄く暑苦しくて苦手だ。

 スレイがこんなの書いてきたらゲロ吐くわ。

 

「それ、フェニックス兄さんやで」

 

「フェニックス?」

 

「ウチらノルミン天族最強のお人や」

 

「ノルミン天族……私はアタックさん以外のノルミン天族とは会ったことは御座いませんが?」

 

「あんな、これ皆に内緒にしてほしいんやけどな……エドナはんの傘にあったノルミン人形、アレがフェニックス兄さんやねん」

 

 あ~そう言えば、傘になんかついてたな。

 

「バレバレで思わず声かけそうやったけど、兄さん、形から入る御方やからあえて無視したんや。

あんな感じやったら他のノルミン達にも一発でバレそうやけど……知らんかったふりしとかんとアカンから黙っててや」

 

「分かりました……」

 

 差出人の正体が判明した……知り合いに一発でバレる文章で書くか普通?

 フェニックスは案外うっかり者なんだなと思っているとアリーシャはまじまじと手紙を見ている。

 

「この語り部の勇気はいったい……」

 

「語り部は恐らく、あの語り部だな」

 

「御存知なのですか!?」

 

「あくまでも噂程度だが……人と天族に纏わることを全てを知っている者がいて刻遺の語り部と呼ばれている。

刻遺の語り部は、それこそ世界に隠された出来事も知っている……しかし、語り部の勇気の方は悪いが、分からん」

 

「奴と書かれているから、人物だろうが……アタック?」

 

 語り部の方に関して考えていると、モジモジし始めるアタック。こいつ、本当に色々と知ってやがるな。

 

「ごめんな……ウチ、フェニックス兄さんがなにしろって言うたか分かったんよ」

 

「本当ですか!?」

 

「せやけど、話すことは出来ひんねん……そう言うルールやさかい」

 

「まーた、それか……」

 

「け、けどな!もしアリーシャはんが勇気を見つけることが出来たらアリーシャはんは強くなるんは確かなんよ!」

 

 余りにもざっくりとしているアタックの説明に呆れるしかない。

 フェニックスとかいうノルミンも回りくどい説明をせずに、細かく詳しく説明をしてくれれば良いのに何故に面倒なことにしやがるんだ。

 ただでさえゼンライを探してんのに、語り部の勇気とかいう奴を探せっていうのか?そいつから、アリーシャが持っていない力を手に入れる事が出来るのか?

 

「これも置いておかないといけないか……あ、かめにん」

 

「はいはい、なんすか?」

 

「かめにん以外にも天族的な存在って居るのか?」

 

「天族的じゃないっス、かめにんはかめにんなんすよ!」

 

「で?」

 

「ええっ!?……え~っと、ええっと……あ、ねこにんがいるっす!!」

 

 ジャスタウェイならともかく、かめにんはどうでもいいと聞くと、今度はねこにんが出てきた。

 このノリだとうしにんとかかえるにんとかいぬにんとかがいそうだな。

 

「世界は、まだまだ不思議で溢れているのだな」

 

「今は世界不思議発見の時間じゃねえよ……いや、待てよ」

 

 かめにんはノルミン天族や普通の天族を肉眼で捉えている。

 ロハン達が見られている気付いていても特に驚きを見せていないから何だかんだで天族の一種だろう。

 

「かめにんって、お前だけじゃないよな?」

 

「勿論、かめにんは他にも沢山いるっす!」

 

「……ねこにんも沢山いるか?」

 

「ねこにんもねこにんの里に沢山居るっす!」

 

「……そのねこにんの里にはどうやったら行ける?」

 

「ゴンベエ?」

 

「人の集落じゃ、どうあがいても限界がある。

オレ達の知りたいことを刻遺の語り部しか知っていない可能性もある……だが、天族の集落なら色々とある」

 

 オレ達人間があくまで知らない、気付かないだけで天族はずっと実在していた。

 人間と天族は再び歩み寄る関係だが、天族同士ならば話は別だ。恐らく、天族独自の繋がりやコミュニティが存在している。多分、遺跡や書庫を巡るよりも早くゼンライが祀られている遺跡の手掛かりを見つけることが出来る。

 

「ねこにんの里の行き方を、地図でもなんでも良いから売ってくれ」

 

「毎度あり!!って、言いたいんすけどね……」

 

「人間は入ったらダメなのか?」

 

「そうじゃないんス。基本的に一見さん御断りなんすよ」

 

 一見さん御断りの里って、里として機能しないだろう。

 アタックやロハンがコネを持っていないかを聞いたが持っていない。ウーノや導師一行も持っていない。

 

「コレでねこにんの里に行けないだろうか……」

 

 王家の紋章が入ったナイフを取り出すアリーシャ。それで通じるのは人間社会だけで、天族には……いけるか?ウーノはゼンライは人の世を統べる者以外を通さない結界を貼ったりしているとか言っていた。過去に人間と天族に繋がりがあったのは確かで、王家の者が来た可能性は高い。

 

「かめにん、オレ達をねこにんの里に運んでくれないか?」

 

「だから、一見さんはお断りっす」

 

「ねこにんの元に連れていってくれ……そこから、交渉するから」

 

「それぐらいなら良いっすよ……多分、近くにいるから直ぐっす!」

 

 こっちについてこいと言わんばかりに走り出すかめにん。オレとアリーシャは追いかけた。





スキット 豊作への遥かなるロードマップ


アリーシャ「眼鏡……眼鏡はダメだな。炭酸水は……問題なさそうだ」

ゴンベエ「なにやってんだ」

アリーシャ「ゴンベエから教えて貰っても問題なさそうな物を一応は纏めている。名目上はゴンベエに色々と教えて貰う事になっているから、定期的に手紙を出さなければならない」

ゴンベエ「オレ、ペニシリンの作り方しか教えねえぞ?」

アリーシャ「その、ペニシリン?はなんなんだ?」

ゴンベエ「薬だよ……流行り病を確実とは言えないが、大抵の物はどうにでもなる薬。作るのに手間、と言うより人数と運が関係しているから今の今まであんまり手を付けてなかったが」

アリーシャ「流行り病を治せる薬!?そ、そんな物があるのか?」

ゴンベエ「全部じゃないし、憑魔が作り出した病気には効かねえよ。憑魔が強化した病気なら効くがな」

アリーシャ「それでも凄い薬じゃないか。作り方は」

ゴンベエ「今は教えないし、教えたらダメだろう」

アリーシャ「何故だ?」

ゴンベエ「食べたこともない聞いたこともない変わった見た目の料理をお前は美味しそうに食べる事が出来るのか?」

アリーシャ「それは……難しいな。食べたこともない料理は食べなければ美味しそうに食べれない。誰かが毒味をしなければ」

ゴンベエ「それと同じで、本当に使える薬か適当な奴等で実験するぞ。医学の進歩なんてトライ&エラーでミス=死亡な世界だから、なんも言えないがな……」

アリーシャ「ならば、信頼を得れば良い。ゴンベエが知っている人体実験をしなくていい技術を教えていって試させれば」

ゴンベエ「まぁ、それが一番だけど……」

アリーシャ「ゴンベエは、その内教えると言っていたじゃないか。今がその時だと私は思う……君を政治に巻き込むのは心苦しい。だが、流行り病を治せる薬が有れば、今まで救えなかった人達を救えならば救いたいんだ」

ゴンベエ「電気の文明は、無しか……何気にキツいな……もう、プリンに醤油を掛けたら雲丹の味になるって送るのはダメか?」

アリーシャ「プリンに醤油!?…………ダメだ」

ゴンベエ「……じゃあ、先ずは紙の作り方だな」

アリーシャ「紙か……一般の人でも買えないわけではないが、書物等になればそれなりの値段になる。もし、大量生産が出来れば、書物が簡単に手に入り、教科書が量産されてハイランドの民の識字率等が上昇する。悪事にも利用できないな」

ゴンベエ「そっちの方の紙は水酸化ナトリウムで植物煮込めば簡単に出来る。オレが言っているのは、紫陽花を擂り潰した物を染み込ませた紙だ」

アリーシャ「紫陽花を染み込ませた紙?」

ゴンベエ「はい、今回教えるのはこれだけだ」

アリーシャ「それだけ!?紫陽花を染み込ませた紙なら私でも作れそうだが」

ゴンベエ「馬鹿言うな……その紙を持ってハイランドの土壌を調査するんだよ。地面にぶっ刺したら、紙の色は赤か青になる。それを記録しとけって書いておけ……でないと、ハイランドの耕せない土地は何時までたっても耕せない……穢れが無いのもいいが、ハイランドを豊かにしねえと」

アリーシャ「その為の第一歩が、紫陽花を染み込ませた紙なのか」

ゴンベエ「これ一つで全てどうにでもなる便利な道具は作れないし、あったらあったで迷惑だ……安心しろ、最後にはどうにでもなる便利な道具や物、技術にはなる。これは豊かなハイランドへの遥かなるロードマップだ……電気使えないのキツいけど」


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もしもしトータス、トータスよ

「もしもし、ねこにん、ねこにんよ!」

 

 かめにんを追い掛けるとマーリンドからちょっと離れた森林に入った。

 こんな所に人や天族が居るわけねえだろうと思っていると、かめにんは叫ぶ。

 

「ニャあ」

 

「あ、出てきたっす。

それではあっしはこれで失礼いたしやす!」

 

「あ、うん……え?」

 

「アレは、どう見ても普通の猫だが……」

 

 かめにんの呼び掛けに答えたのは、たった一匹の猫だった。

 感じる気配からして、普通の猫じゃないが……かめにんみたいな擬人化でなくマジの猫型の天族なのか?

 

「この猫……普通の猫だ」

 

「アリーシャ、変な病気を持ってるかもしれないから気を付けろよ」

 

 眼鏡を外して普通に持ち上げるアリーシャ。

 裸眼で猫が見えているってことは、この猫は普通の猫でありねこにんでもなんでもねえ事になる。かめにんの奴、面倒だから適当な猫をオレ達に押し付けやがったんじゃねえのかと思っていると、猫が暴れてアリーシャの手から離れて空中で宙返りをして煙を出す。

 

「消えた!?」

 

「そう言うパターンか」

 

「誰が病気持ちニャ!!おミャーさん失礼にも程があるニャ!」

 

 煙が消えるとかめにんと比べて安っぽい衣装……猫っぽい全身タイツを身に纏う人間がいた。

 アリーシャは裸眼で見えておらず、眼鏡をつけると猫人間が見えたので、オレ達が探していたねこにんで間違いない。

 

「猫に化ける天族も……」

 

「ねこにんはねこにんで、それ以下でもそれ以上でもなんでもないニャ!!」

 

「あ、申し訳ありません」

 

「分かれば良いニャ……で、おニャーさん等、なんか用か?」

 

「ねこにんの里に行きたいんだ」

 

「おぉ、お客様かニャ!!」

 

 お客様?……ねこにんの里に人が来ないから喜んでいるだけだよな?金、取られないよな?

 ねこにんの里に行きたいと言えば、予想以上に喜ぶねこにん。人間嫌い!とハッキリと言うかと思ったがコレは良いことだ。

 

「紹介状を出すニャ」

 

 だが、世の中そんなに上手くはいかない。ねこにんが元のテンションに戻ると、手を差し出す。

 一見さん御断りだと言っていたのは本当の様で紹介状が必要になる。

 

「コレではダメだろうか?」

 

「あ~……王家の方でもダメニャ。

ねこにんの里に行ったことある人とか高位天族の身分を証明するものじゃないと連れてけないニャ」

 

 王家の紋章が印されたナイフを取り出したが、ダメだった。

 

「そうなると、まだハイランドで加護が働いていない場所に行って、高位天族を探さなければならないな……そういえば、ゴンベエはなにか身分を証明するものは持っていないのか?」

 

「身分を証明する物か……」

 

 そんな物をオレは持っていない。天族の知り合いなんてライラ達ぐらいだ……だが、もしかするとの可能性がある。

 これから先、お世話になるであろう時のオカリナを取り出すとねこにんは一歩引いた。

 

「そ、そのオカリナは!?」

 

「お、ビンゴ……マオクス=アメッカって、知っているか?」

 

「過去に何度か訪れたお客様ニャ!」

 

「と言うことは、ナナシノ・ゴンベエもここに!!」

 

「はい、いっしょに訪れました!」

 

 今までかなり有力な情報をゲットする事が出来そうだ。

 一度ねこにんの里に行ったことのある者の紹介があれば、ねこにんの里に行けるとならこの時のオカリナで連れていってほしい。そう頼んだが、ダメだった。

 

「両方とも人間で、来訪してから1000年以上経ってるニャ!

仮に本物のオカリナだとしても、二人とも死んでるから……二人の繋がりを証明出来る物を出してほしいニャ!」

 

「証拠か……そうだ、私の鎧はどうだ?」

 

「ニャ……確かに、マオクス=アメッカが着ていた鎧ニャ!」

 

 何処にしまっていたかというツッコミはせず、アリーシャは鎧の一部を取り出してねこにんに見せる。

 オレの予想ならマオクス=アメッカがアリーシャだから、一度でも会ったことあるならば顔を知っている筈なのに……

 

「ねこにん、お前はマオクス=アメッカとナナシノ・ゴンベエに出会った事があるのか?」

 

「あるにはあるけど……ちょっと、諸事情で顔とか見れてないニャ」

 

「顔を知らないなら、実質知らねえじゃねえか」

 

 この世界にはカメラが無い。絵で見たことあるにしても、アリーシャの顔ならちゃんと覚えられる。こんな美女は中々にいない。

 

「実は魂だけの状態で、よく覚えてないニャ。一名様、ご案内!!」

 

「待て待て待て、オレも連れてけ」

 

 アリーシャを連れていこうとするねこにんを止める。

 オレが行かなければなんの話にもならない。オレがちゃんと聞いて考えないと……アリーシャはまだ気付いていない。ついてきてもらってなんだが、アリーシャにも知って貰わないといけない。

 ねこにんの腕を掴んで止めると、ナナシノ・ゴンベエとの繋がりを見せてくれたら連れていくと言った。

 

「多少は手間が掛かるが、私が何度もねこにんの里と此処を往復すれば情報が」

 

「オレが欲しい情報は、遺跡の場所だけじゃねえよ……他にも知らないといけないことがある」

 

 アリーシャは気遣ってくれたが、心配はいらない。

 繋がりを証明するもなにも、ナナシノ・ゴンベエはオレであり、繋がりもへったくれもあるか。

 時のオカリナを知っているならば、確実にねこにん達の前で吹いた事になる。時のオカリナの曲を手当たり次第吹いてみると拍手を送るねこにん。

 

「マオクス=アメッカとナナシノ・ゴンベエの紹介で二名様、ご案内します!!」

 

「やった!」

 

「……」

 

 果たしてなんの曲に反応したのか気になるが、今はねこにんの里だ。

 ねこにんが手を差し伸べるのでオレとアリーシャが握ると眩い光に包まれて、目を閉じて……もう一度目を開くと見知らぬ場所にいた。

 

「ようこそ、ねこにんの里へ!」

 

「此処がねこにんの里……とてものどかで平穏なところだな」

 

「つーか、ガリバー旅行記の主人公になった気分」

 

 レディレイクともマーリンドとも違う雰囲気を醸し出すねこにんの里。

 ねこにんがそこかしこに居るのだが、ねこにんとオレ達の体格はかなりの差があって階段とか橋とかねこにん基準になっている。

 

「調べもの……の前に飯だな。

さっきオレ達を客って言ってたから、飲食店ぐらいはあるだろ?」

 

 一先ずの目的地についたら、腹が減っちまった。

 高位天族がなんでこんな所に来たりしているかは知らないが、美味い飯を食いたい。

 

「勿論、此処には美味いニャゴヤ飯があるニャ!

エビフリャー、ひつまぶっし、天むすん、味噌っカツ、カリャーうどん、オーグラトースト、どれもコレも頬っぺが落ちるほど絶品ニャ!!」

 

「え、なに?ねこにんの里って愛知県にあるの?」

 

「違うニャ。ねこにんの里はニャゴヤ地方にあるニャ!」

 

「いやだから、愛知の名古屋だろ」

 

「ナゴヤじゃなくてニャゴヤ!」

 

 さっきから方言が出てくるなとは思っていたが、意外な場所にねこにんの里はあった。つーか此処って海外なのか。

 

「ゴンベエ、ニャゴヤ地方の料理を知っているのかニャ?」

 

「知ってるっちゃ知ってる……でも、味噌カツは東北の方が旨かった」

 

「味噌カツじゃなくて、味噌っカツニャ!」

 

 ねこにんの語尾がアリーシャに移ってしまったが、可愛いので特に気にせずに飯屋に向かう。

 飯屋は最近の日本じゃあんまり見ないと言うか常連さんの空気で入りづらくなっている、何処か素朴な昔ながらの定食屋であり、メニューは名古屋名物の物が多かった。

 

「私が未熟なせいで……もう少し、箸の練習をしておけばよかった」

 

 そしてアリーシャはカレーうどんを食べて、服を黄色くして何時もの鎧姿になった。

 真っ白い服でカレーうどんに挑戦するなと念を押したのに食べやがって、最後の方はもうやけくそだったぞ。

 

「このねこにんの里に図書館かなにかねえか?」

 

 腹も満たしたので、目的であるゼンライが祀られている遺跡の手懸かりを探す。

 天族のコネでねこにんの里に行けるならば、天族に関する記録が残っているはずだ。ガイドのねこにんに聞くと変な顔をされた。

 

「街…いや、里はずれの所にあるけど、おみゃーさん、ねこにんの里まで来て調べものって」

 

「それがメインでやって来たんだよ」

 

「ゼンライと言う光を操る高位天族について調べたいのだが……」

 

「ゼンライって、ゼンライ様ですニャ?」

 

「すごいジジイの天族なんだが、何度か来たことあるのか?」

 

 ウーノ達曰くゼンライは物凄い天族で、高位の天族。

 ねこにんの里が天族のコネが無いと行くことが出来ない場所なら、来たことになる。

 

「来たことがあるもなにも、今ニャバクラに居るニャ!」

 

「……割とあっさりと見つかったな」

 

 情報どころか御本人登場と出だし好調なんてもんじゃない、余りにも上手く行きすぎている。見つかった事は嬉しいが、もしかすると聞きたいことが聞けない可能性がある。

 

「ニャバクラ?」

 

「アリーシャ、それに触れるな」

 

 ゼンライが居る場所にキョトンとするアリーシャ。お前とは一生縁遠い場所であり、お兄さんが利用したいと思っている場所だ。

 

「飲んで騒いで、笑いまくって身も心も綺麗にする極楽無双のお店ニャ!」

 

「成る程……酒場ということか」

 

「ま、眩しいニャ……」

 

 純情過ぎるアリーシャ……もし、ニャバクラの実態を知ったのならばどういう反応をするんだろうか?此処はオレが先陣を切って、ニャバクラについて調べてみるしかないな。もしかすれば猫カフェ的なオチもありえるかもしれない。

 

「ゼンライ殿がそこに居るならば、行っても良いだろうか?」

 

「ニャバクラは大人の社交場ニャ」

 

「私は二十歳を越えている」

 

「あ、オレも越えてるから」

 

 実際の年齢は分からないが、この見た目は二十歳を越えている。

 ワインとかビールでなく日本酒派で、この辺では日本酒手に入りづらく一人身で二日酔いが来たら明日に響くから数える程度しか飲んでいないが酒は強い方だ……何名かの転生者を除いてだが。

 

「ニャバクラは2000歳を越えてからニャ!」

 

「2、2000歳……真の大人は2000を越えた者なのか」

 

「アリーシャ、それ多分天族基準だ……」

 

 人間でも不老長寿の術を極めて、西遊記みたいに食えば寿命が延びる桃を食い散らかしたりしない限りは2000年も生きられない。転生者の中でも2000歳越えてる人っつったら……転生のシステムが出来て間もない頃に転生した黛千裕ぐらいしか思い浮かばん。

 

「そこは精神年齢は2000歳を越えているでイケるニャ。今来ているダークかめにんさんも999歳の時に精神年齢は2000という事にして通ってるニャ」

 

「2000越えた精神年齢って……」

 

 それはもうなにも感じない植物人間とか目覚めた人とかと同じジャンルじゃねえのか?2000年も生きてたら、完全に性欲が消えてそうだ。

 ガイドのねこにんの案内の元、ニャバクラに向かう……アリーシャ、置いていかなくて良いのだろうか?

 

「なぁ!?」

 

「……セクハラで訴えられないよな?」

 

 ニャバクラは……まぁ、ニャバクラだった。中にいるねこにんだけ、なんかオレ達と同じサイズだった。良い感じのお姉さんがね……うん。

 アリーシャにとっては色々な意味で初体験なもので、顔を真っ赤にして両手で隠すが指の隙間からチラッと覗く。本当は気になるんだろ、お?真っ赤なアリーシャを連れてVIPルームに行こうとすると、アリーシャに腕を掴まれて無理矢理店の外に出された。

 

「ダ、ダダ、ダメだ。私達の年齢はまだまだ2000歳には程遠い!」

 

「精神年齢って言ってただろう……オレが行ってくる」

 

 純情なアリーシャにはニャバクラは早かった。と言うよりは一生縁の無い世界だ。夜遊びを覚えると大変だから、お兄さん一人で行かなければ。ゼンライに会って、質問するのはオレなんだからオレさえ行けば良いんだ。うん。

 タダで情報を聞くのもアレだし接待して色々と聞かないと。酒、飲むの久々だなぁ。

 

「……」

 

「アリーシャ、退いてくれ…!…そこ、そこはダメだ!!」

 

「……ニャバクラには行かないな?」

 

「正直、行きたい!!身も心も綺麗にしたい!ちょ、やめろ!」

 

 首の頸動脈を左手で掴み、ナイフを右手で持ち、オレの背中に当てるアリーシャ。何時でもオレを刺せると脅す。

 確かにあんな店に通うなんてと思うお前の気持ちも分からないでもないが、オレはフリーなんだ。問題ない。

 

「別に行っても良いじゃねえか!!

オレは一人身なんだから、別になんの汚点もつかん!!アリーシャとはそう言う関係でもなんでもないんだ。ちょっとぐらい出会いとか美味しい思いをしたいんだ!例え偽りだとしても、遊びたい!いや、むしろ偽りだからこそ良いんだ!余計な事を考えなくて良い。コレで終わりだから、諦めがあっさりとつく。また味わいたいと必死になって働く。明日でなく今日頑張ろうと思うようになる!!」

 

 真剣に交際する事は大事なのは分かるが、もう良いかなって思っている自分がいる。

 互いに変な感情を抱かない故に精神的なゆとりを持つことが出来る。堂々と遊んでくださいと言うのもまた一つの誠実だと黄帝に捕まった神獣も言っていた。

 

「……っ……酷い……」

 

「オレはイイ人じゃないんだ……」

 

 涙を流すアリーシャだが、オレには通用しない。

 キャバクラ好きで有名な【天帝】の異名を持つ転生者は今と似たような状況でお前よりもキャバクラに走っていったのを見たことある。それと同じ事を再現してやる。

 

「うぃ~っく……なんじゃ、喧しい」

 

 いざ、ニャバクラへと走り出したのだが店のドアが開き、小柄なジジイとガイドのねこにんが出てきた。

 

「やっぱりニャバクラは2000歳からじゃニャいとキツいから呼んできたニャ!」

 

 余計な事をしてんじゃねえよ、去勢するぞ。

 

「んん~……おぉ、確かお前さんは?」

 

「…………お久しぶりです、ジジイ殿」

 

 顔を真っ赤にして酔っぱらっているジジイもといゼンライの爺さん。アリーシャの顔を見ると、アレ?と首を傾げたのでアリーシャはゴミを見る目で挨拶をする。

 

「ジジイ殿!?」

 

「この様ないかがわしい店の常連だったとは思いませんでした……スレイはこの事を御存知なのですか?」

 

 物凄く冷たい声でゼンライの爺さんに話しかけるアリーシャ。

 スレイの事が話題に出されると血の気が引いて、一気に酔いが冷める。

 

「と、年寄りのちょっとした楽しみじゃから、その……」

 

「……っ……」

 

「あ~あ、泣かせやがった。爺さん、アリーシャは純情な分、こういうのに弱いんだぞ」

 

 膝をついて涙を流すアリーシャ。さっきオレに対して泣いていた時よりも泣いている。

 

「む、むぅ……どうすれば、良いんじゃ!?」

 

「諦めろ。もうそれしか道はない……一緒に飲んで、全てを忘れよう」

 

 こういう時こそ、酒の力に頼るんだ!

 駄目人間まっしぐらな発言をし、ゼンライの爺さんの肩に触れて一緒にニャバクラに行こうとする……が、アリーシャが槍を投げてきたので行けなかった。

 

「何処にいくつもりだ……目的のゼンライ殿には会えた筈だ」

 

「はて、お主には名前を教えたつもりは無かったが……」

 

「色々と調べたんだよ……自己紹介が遅れたな。オレはナナシノ・ゴンベエ。色々と知りたいことがあってあんたを探していたんだ」

 

「御主がナナシノ・ゴンベエか……悪いが、儂はナナシノ・ゴンベエにもマオクス=アメッカについても知らんぞ」

 

 これ以上はアホな事は出来ないとニャバクラを諦め、真面目な話をする。

 なんやかんやでここまで来れたんだ、色々と聞いておかねえと。

 

「その二人については、心当たりがあるからそれじゃない。そっちについては何時でも……とは言えないな。オレ達にも時間が限られている……スレイの方もだが」

 

「スレイか……風の噂で聞いたが、スレイは元気にしておるか?」

 

「スレイは皆が待ち望んだ導師となり、ミクリオ様は陪神になりました。

ほぼ全ての人が天族を見ることが出来ないので、力を恐れられたり政治の道具に利用されかけましたが……今は元気で旅をし、世界を巡りながら災禍の顕主を鎮める力をつけて頑張っております」

 

「……そうか、災禍の顕主を鎮めるか……」

 

 長生きしているせいか、アリーシャが導師とか陪神とかの用語を言ってもすんなりと話は通る。だが、何処か上の空でありなにかを思い出している。スレイの出自について、なにかを知っているんだな。

 

「無理なら無理で、知らないなら知らないでハッキリと言って欲しい。実は」

 

「よい……御主が聞きたいことは分かっておる……スレイの事であろう?

天族の杜であるイズチの中で唯一の人間であるスレイ。ただ捨てられていたから気紛れに拾って、育てたと言って納得する筈もあるまい」

 

「ゼンライ殿、スレイにはなにか秘密が」

 

「災禍の顕主を鎮めるのであれば、いずれミクリオもスレイも知らなければならん。

……御主達には先に話しておこう。天族を認識出来る者ならば、真実を知ってしまったスレイとミクリオの助けになるやもしれん。じゃが、二人にはなにも言わんでくれ。二人には自力で気づいてほしい……スレイとミクリオの秘密、それは」

 

「違います」

 

「……へ?」

 

 シリアスな空気になっているところ悪いが、そうじゃない。

 

「オレはそんなどうでもいいことを聞きに来たんじゃねえんだよ」

 

 確かにスレイが天族の杜で育ったのは謎だが、それはそれだ。ミクリオにも秘密があろうがなかろうが、そこまで気にならない。そう言うのは本人が色々と見てから答えを決めれば良い。オレはスレイ達の心の支えなんぞになるつもりはねえ。なったとしても精々きっかけを与えるだけで、選ぶ選ばないはスレイ達次第で選ぶ義務はない。あるとするならば、きっかけを与えられた事で選択肢が増えたということを自覚する義務だ。

 

「ゴンベエ、それだと何故ゼンライ殿を探していたんだ?」

 

「だから、聞きたいことが色々とあるんだよ。

長生きしている天族の方がなにかと知っていそうだから……」

 

 ウーノとロハンじゃなにも分からない。かといって、見知らぬ天族を探すのも一苦労だ。

 ならば、出来るだけ長生きでジジイな天族を見つけ出して聞いた方が早い。そいつで無理ならそいつより顔が広かったり長生きで物知りな奴を紹介してもらえば良い。

 

「スレイ達のことではないのか……此処まで来た者を帰らせるのも無礼じゃ。儂に答えられる事ならば、答えよう」

 

 スレイ達の事でないので若干しょんぼりする爺さん。

 その辺についてはオレは知らんと袋に手を入れて地図を取り出そうとしながら、爺さんにする質問の内容を頭に浮かべていると

 

「ごヴぁ!?」

 

 酒瓶が飛んできて後頭部に直撃して意識を失った。





スキット 黄色い悪魔

ゴンベエ「あ~腹減った……って、如何にもな店だな」

ねこにん「いらっしゃいニャせ~…ニャン名様ですか?」

アリーシャ「二名ニャマです」

ゴンベエ「……まぁ、可愛いからいいか」

アリーシャ「?」

ゴンベエ「え~っと、メニューはって、壁に釘で固定した木の板にメニュー書いてる……」

アリーシャ「メニューも余り見たことない物ばかりだニャ……」

ゴンベエ「殆どが名古屋名物だな。味噌系は好みがあるからパスして……よし、決まった」

アリーシャ「もう決まったのか?」

ゴンベエ「大丈夫だ、先に注文はしねえよ。ゆっくりと決めればいい」

アリーシャ「ゆっくりと考えて決めたいところだが、聞いたことのない料理が多くて難しいな……」

ゴンベエ「食品サンプルとか写真とかあれば楽なんだけどな」

アリーシャ「食品サンプル?」

ゴンベエ「蝋細工とかの一種で、蝋を料理の形にしたものだ。このメニューに載っている料理はこう言うものですよとかうちの店はこう言うの置いてますよとかに使われる……最近はスマホ一台が当たり前で写真の方が効率が良かったりするから、あんま見ねえけどな」

アリーシャ「食文化一つとっても、ゴンベエの国は優れているのだな……よし、私はコーチンチキンカリャーうどんの天むすんセットに決めた」

ゴンベエ「コーチンチキンカリャーうどん……アリーシャ、それはちょっと」

アリーシャ「美味しくないのか?」

ゴンベエ「……美味いよ、万人に受ける味だと思うから……」

アリーシャ「それならば、是非とも食べなければ。未知なる物を知るのは大事なことだ」

ゴンベエ「はぁ……すんませ~ん、ひつまぶっしーとSUGAKIYAラーメンとコーチンチキンカリャーうどんの天むすんセットで!」

ねこにん「ニャしこまりました!」


~~十分後~~


ねこにん「おニャたせしました!ひつまぶっしーとSUGAKIYAラーメン、コーチンチキンカリャーうどんの天むすんセットです!」

ゴンベエ「お~きたきた」

アリーシャ「うどんが入ったカレーとおにぎり?」

ねこにん「違うニャ!ニャゴヤ名物のコーチンが入ったチキンカレーと海老天を具に握った物!そんじょそこらのカレーうどんとは格が違う!」

ゴンベエ「いただきまーす……あ~久々に食っても美味いな。このラーメン」

アリーシャ「いただきます。汁に浸かった麺類を先に……あつっ!?」

ゴンベエ「カレーうどん、とろみがあるせいか熱が逃げにくいぞ。鰻美味い…」

アリーシャ「そ、そう言うのは出来れば早く言って欲しかった……熱かったが、出汁とカレーのコクが混ざりあっていて美味い……では」ズルズルズルズル

ゴンベエ「あ」

アリーシャ「んん……麺も腰があって美味しい。体の芯まで温まりそう……ゴンベエ?」

ゴンベエ「アリーシャ、服」

アリーシャ「?……!?」

ゴンベエ「カレーうどんを汚さずに食べるの、結構難しいんだ。その学生服っぽいの、白いから確実に汚れるぞ」

アリーシャ「知っていニャのか!?……は!何時の間にかねこにんの口癖が移ってしまった!?」

ゴンベエ「気付いてなかったのかよ!」

アリーシャ「……!」ズルズルズルズル

ゴンベエ「やけ食いかよ……あ、最後に余ったカレーに天むすぶちこんでカレー擬きにしたら美味いぞ」


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世界で一番おめぇほど

「ゴンベエ……ゴンベエ!!」

 

 考え事をしていたせいか、何時もなら簡単に避けることが出来る酒瓶を後頭部にぶつけたゴンベエ。

 グッタリしており、名前を呼ぶのだが返事はない。

 

「っ……血?」

 

 ゴンベエに触れるとヌルリと暖かい物を感じた。

 なんだと左手を見ると真っ赤に血で染まっており、ゴンベエの後頭部から大量の血が出ていることに気付いた。

 

「いかん、直ぐに傷を治さねば!」

 

「で、ですが私は」

 

「此処がねこにんの里で、儂がいたのが幸いじゃ」

 

 頭の傷は他の傷と違って、些細な傷でも命取りだ。

 ゼンライ殿が駆け寄り、ゴンベエの後頭部に手を翳すと出血が納まり徐々に傷も塞がっていく。

 

「治りますか?」

 

「なに、これぐらいならば治る。

頭の怪我は傷がなくなってもなんらかの後遺症になるが、ねこにんの技術や薬ならどうにでもなる」

 

「よかった……」

 

 此処で終わるのかと心配したが、傷が塞がっていくので胸をホッと撫で下ろす。

 だが緊張の糸を切るにはまだ早く、二個目の酒瓶が私に向かって飛んできた。突然の出来事に動くことは出来なかったが、ゼンライ殿が酒瓶を塵にしてくれた。

 

「やれやれ、二度目となると偶然ではなさそうじゃの」

 

「故意という事ですか!?」

 

「お前さん等、天族に怨みを……いや、その様なことはないか」

 

 狙って酒瓶を投げてきた事に驚くと三本目の酒瓶が飛んでくる。今度は来ると分かっていたので、簡単に避けることが出来た。

 

「この酒瓶、ニャバクラの方から」

 

「はて、儂以外に誰か飲んどったか?」

 

 飛んできた方向から投げた人物を推測しようとすると、ニャバクラに目が入る。ニャバクラの入口は酒瓶ぐらいなら余裕で通るぐらいに開いており、入口前にいたねこにん達は慌てている。

 

「も~しもし~♪ト~タ~ス」

 

「あれは……黒いかめにん?」

 

「あやつは確か、ダークかめにん。

千年ほど前からニャバクラに通い詰めているかめにん部長の息子じゃ」

 

 ドアが開くとサンマを握りながら歩み寄る黒いかめにんか出てきた。

 私達をねこにんの元へと連れてきたかめにんと違うかめにんで、ゼンライ殿のお知り合いの様だが……

 

「何故私達を襲った!」

 

「か~めにん~♪ト~タ~ス♪」

 

「歌っていないで、正直に答えるんだ!」

 

 穢れなきねこにんの里で、余りにも異質な存在であるダークかめにん。その異質さ故にねこにん達も下手に出だしが出来ず、ジッと動くのを見ているだけでなにも出来なかった。

 

「これはかめにんに伝わる古い歌っす。

亀のダークな呪いを込めた歌で……本当に本当に憎たらしい奴等が来たっすよ!!」

 

「憎たらしい奴等……それは私とゴンベエの事か?」

 

「お前達だけじゃないっす!!奴等もっすよ……」

 

「ま、待ってくれ。本当になにを言っているか分からない」

 

 ダークかめにんと出会うのは今日がはじめてだ。もっと言えばねこにんの里に来るものはじめてで、接点らしい接点は無い。

 

「あんた等に分からなくても、おれには分かるんすよ!!

死ぬかぁ!!消えるかぁ!!土下座してでも生き延びるか、選びやがれぇええ!」

 

「っく!!」

 

 サンマの小太刀二刀流で攻めるダークかめにん。王家の紋章が印されたナイフを取り出して攻撃を受けきるが、ナイフは刃こぼれする。

 あのサンマ、中々の名刀で戦う為に作られたのでない王家の紋章が印されたナイフでは分が悪い。槍を出そうとするのだが、槍が無いことに気付く。

 

「探し物は、これっすか?」

 

「それは!」

 

「先祖と同様、憎たらしい槍使いっすか。顔といい鎧といい、何処までも瓜二つっすね!」

 

「先祖……まさか、私達の先祖について知っているのか!?」

 

 投げた槍を盗んだダークかめにんは私を睨む。

 ずっと気にはなっているが私とゴンベエの先祖。ゴンベエは色々と心当たりがあり、情報を知る方法を私は知っているが、はっきりとした大きな情報はない。ノルミン天族の方々は知っているが、ハッキリとした情報は聞けていない。もしかすると、ダークかめにんから聞くことが出来る。

 

「ゼンライ殿、ゴンベエのポケットに袋は入っていませんか?」

 

「ん……これの事か?」

 

「それをください!」

 

 ゴンベエは色々な武器を使うことが出来る。それら全てを持ち歩いている。

 ゼンライ殿にゴンベエの武器や道具が入った袋を投げて貰い、私は直ぐに手を入れてなにか無いかと探すのだがダークかめにんは迫ってくる。

 

「今死ね!!直ぐ死ね!!甲羅まで砕けるっす!!」

 

「っく!!」

 

 咄嗟の攻撃だったが、鏡のような盾を取り出せたので防ぐことが出来た。なんて、一撃だ……まるで筋肉ムキムキな男が斧で攻撃したかのようだ。

 

「舞い踊れ、桜花千爛の魚吹雪!」

 

「王家の盾!!」

 

「ぐぅふうぉ!?」

 

「ゴンベエ!」

 

「はぁ、はぁはぁ……閻魔大王と仏4号が見えた」

 

 相手がとっておきを使おうとし、素早く私に斬り込んできた。素早い動きに翻弄されるも、ゴンベエが間に入り王家の盾で殴り飛ばした。

 

「今日のオレは紳士的だ……失せろ」

 

「お、覚えてろっすぅうううう!!」

 

 ふらふらで今にでも倒れそうなゴンベエに睨まれたダークかめにんは逃げ出す。

 

「傷が治ったとはいえ、直ぐに立ち上がりおって」

 

「え……大丈夫か、ゴンベエ?」

 

「膝かしてくれ」

 

 ゼンライ殿がゴンベエに呆れるとゆっくりと倒れるゴンベエ。

 意識は失っておらず、私が膝を貸すと目が合って傷がない私を見てよかったと微笑む。

 

「ゼンライ殿、ゴンベエは」

 

「心配いらん、傷は塞いだ。

後は寝て飯を食えば元に戻る……しかし、お前達の先祖はダークかめにんになにをしたんじゃ?」

 

「それは……分かりません」

 

 ダークかめにんがどうして私達を嫌っていたのか怒りを向けていたのか、それは分からない。ダークかめにんは逃げ去ってしまったので聞くことはもう出来ない。

 

「ヘルダルフより弱いのに、油断してた。続きをして良いか?」

 

「それは構わんが、スレイ達の事でないならばなにを知りたいんじゃ?」

 

「レイフォルクに居るドラゴンについてだ」

 

「ほぉ、奴か」

 

「エドナ様の御兄様について御存知なのですか?」

 

「まぁ、奴は色々と有名な天族じゃからの」

 

 ゴンベエが聞いたのはエドナ様の御兄様の事だった。ドラゴンになったエドナ様の御兄様のことは余り知らない。エドナ様は色々と御存知だが、恐らくゴンベエが求めている情報をエドナ様は持っていない。

 

「そいつと親交が深い天族を教えてくれ」

 

「奴と親交が深いか……妹が居ると聞いたが」

 

「妹のエドナはなんの情報も持っていなかった。

色々と放浪していたらしいから、その際に仲良くなった天族に色々と聞きたいことがあるんだ……出来ればアリーシャには聞いてほしくなかったんだけど、此処まで来た以上はアリーシャも聞いといた方が良いかもしれねえ」

 

「私に、知ってほしくないこと?」

 

「……」

 

 ゴンベエが知りたい情報は、私達の先祖についてだ。ゴンベエはその事について少しだけ心当たりがあるが、それについてはなにも教えてくれない。

 

「それは、儂では答えられそうに無い質問じゃのぅ」

 

「答えようと思えば、爺さんでも答えられる。

だが、オレは出来れば爺さんにその事について答えてほしくない……代わりに、答えてほしい事があるんだ」

 

「答えてほしいこと?」

 

「マオテラスって、知ってるか?」

 

「……」

 

 マオテラス……天遺見聞録に載っていた5大神の名前だ。浄化の力をもたらしたとも言われており、詳しいことは分からず謎は多いものの天族であることは確かだ。ゼンライ殿がご長命な天族ならばマオテラスについて御存知かもしれないが……どうしてゴンベエの口からマオテラスが出たのだろうか?

 

「すまんの。儂も長生きな方じゃが、知らない事もあっての」

 

「マオテラスは天遺見聞録に記されるほどなのですが?」

 

「爺さん、喋れないのか?喋ってはいけないのか?喋りたくないのか?」

 

 マオテラスについてなにも知らないと言うが、そんな筈はない。

 

「……すまぬの。

確かにマオテラスについては知っておる……だが、それは言いたくないんじゃよ。

我が儘なのは分かっておる。どうしてマオテラスについて聞いてくるかも予想はつく……察してくれ」

 

「嫌だ……と言いたいとこだが、質問を変える。

あんたの目論見通りにいけば最終的にはどうにかなるのか?」

 

「どうにかか。儂のしたことといえば、ちっぽけな事に過ぎぬ。

最終的もなにも目的は既に果たされておる……儂に野望があるとするならば、穢れのないこの大陸を見たいだけじゃ」

 

「狸か食えない爺さんか……部外者のオレに余計な希望を託していないか」

 

 此処でも知りたいことを諸事情で聞くことが出来なかったが、ゴンベエは満足した顔をする。

 

「さて、奴と親交が深い者じゃったの。それならば、ザビーダと言う風の天族を探すといい」

 

「ザビーダ……」

 

 アタックさん達ノルミン天族が知っていることを喋ってもいいと許可をする立会人の天族の名前が出て、目を見開く。ここでまたその名前を聞くことになるとは……と言うよりは、言えばよかった。

 

「爺さん、ニャバクラ中に呼びだして悪かったな」

 

「なに構わん……出来たら、スレイに内緒にしてくれんか?」

 

「いや、無理だろう……色々と教えて貰ったお礼といっちゃなんだが、これをやるよ」

 

 ゴンベエはポケットから金色のメダルを取り出し、ゼンライ殿に投げる。ゼンライ殿はメダルを受けとると首を傾げる。

 

「それは光のメダルだ。

災禍の顕主が何者なのかはオレには分かんねえけど、戦争を裏で操っていた。明らかに考えることが出来る奴だった。

天族を見ることが出来るのならば、何れは爺さん達にも牙を向けるかもしれない。なんかの足しになると思うから、持っておけ……」

 

「見たところ、とてつもない光の力を宿しておるが……本当に良いのか?」

 

「構わねえよ……つーか、むしろ持ってろ。

スレイは最終的に人間と天族が共存できる世界を作りたいらしい……もし、仮にスレイの夢見た世界になるなら、爺さんが天族の代表として居てくれねえと困る」

 

「そうか……スレイが夢見た世界になった時、その時に一緒にニャバクラで飲もう!」

 

「そん時は爺さんの奢りな!」

 

「ゴンベエ、ニャバクラにはいくな。ゼンライ殿もああいった所に行っては天族の代表として示しがつきません!」

 

 いい感じに纏まりそうだったが、最後の最後で台無しになった。ゼンライ殿は酔いが冷めたからとイズチへと帰っていき、私達はねこにんの里の宿で一泊することになった。

 

「とりあえず、ゴールには一気に近付いた……いや、まだ数歩か」

 

「そのザビーダ様にお会いして、私達の先祖について聞くのはいいが……聞いてどうするつもりだ?」

 

 私達の先祖が天族と深い関わりがあったことは実に興味深く、どの様な関係であった事か聞いてみたい。

 エドナ様の御兄様は世界中を旅していたとお聞きした。その時に出会ったのならば、きっと凄い冒険をしたのだろう……だが、それを聞いてどうするつもりなのだろう。

 先祖について知りたいと言う気持ちは分かるが、ゴンベエが今になってそれを知りたがるのはおかしい。

 

「どうして今になって、知ろうとする?」

 

「気になることが出来たんだ。今の今まで知らんぷりでもよかったが、ヘルダルフをシバき倒した時に知りたくなってな」

 

「マオテラスも、その時に?」

 

「ああ……そのマオテラスがなにかは知らないが、ヘルダルフと繋がっている」

 

「!?」

 

 ゴンベエの口から語られる衝撃の事実に声も出ない。

 マオテラスは神も同然の存在であり、人々に災厄を撒き散らす存在である災禍の顕主と繋がっているなんてありえない。

 

「ヘルダルフをシバき倒している最中にマオテラスさえいればって言ってた」

 

「そんな筈は……いや、まさか」

 

 神、霊、魑魅魍魎と言った姿なき超常存在を人は畏敬の念を込めて天族と呼ぶ。天響術を行使できる唯一の存在。

 5大神のマオテラスが天族で世界の殆どが穢れに満ちているならば、マオテラスは憑魔化してヘルダルフの配下となった……ありえるかもしれない。

 

「まぁ、爺さんがなんも反応しなかったしそれをどうにかするんはスレイだろう。

オレの目的はザビーダに会って色々と聞くことだ……アリーシャ、先に謝っておく。ごめん」

 

「……どうして謝る?」

 

 ゴンベエの私情で旅立つことが出来た。不思議な事だらけで、頭に?が浮かんでばかりいるがとても楽しい。謝る必要なんて何処にもないのに、ゴンベエは謝る。その理由は教えてくれない。

 

「例えなんであれ、私は大丈夫だ……」

 

「なんのつもりだ」

 

「私は、私はスレイと一緒に行くことが出来なかった。

強い霊応力があれば、スレイと共に旅をすることが出来た。穢れを浄化し、自らの手で穢れなきレディレイクを見ることが出来た」

 

 ゴンベエの手を強く握る。この手だけは絶対に離したくない。ゴンベエまでも私の前から居なくなったのなら、私はもうどうなるかが分からない。依存している、困ったらゴンベエが居ると頼りにし過ぎている自覚はある。それをどうにかしなければならないという思いもあるが、どうしても頼ってしまう。

 

「……スー……」

 

 この手だけは死んでも離さない。その思いは強く、眠った時もゴンベエの手を握っていた。ゴンベエと一緒の布団で寝ており、目覚めた瞬間に驚いて悲鳴をあげてゴンベエを殴りそうになったのだが逆にカウンターをくらった。





ゴンベエの称号


スケベ勇者

説明


ニャバクラになんの迷いもなく行こうとするスケベな男の称号。
大魔王でないのは覗きやラッキースケベを起こさず、堂々と行こうとしたからである。
オープンスケベでなにが悪い、性欲に身を任せてなにが悪い。勇者は大抵、スケベである。ボインのぱふぱふ最高!
尚、無自覚主人公では決してない。

アリーシャの称号

依存症?

説明

自分の事は自分でしなければならないと分かってはいる。
だが、それと同じぐらいに自分が弱いということも分かっており、ついつい彼に頼ってしまう。
依存している自覚はある分だけましだが、一歩間違えるとぶっ壊れる状態いると言うのは自覚していない。
ただただ頼れる人物だから依存しているが、その胸の内はいったいどうなっているのか?少なくとも、一緒の布団で眠ってもドキドキはせず、安心して眠れるらしい。


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日本の年齢は1000歳以上

「それは本当なのですか?」

 

 ねこにんの里で休み、ザビーダを探す旅になり数日がたった。

 天族の事は天族にしか分からないので、憑魔となった天族を元に戻してザビーダの情報を聞いているのだが中々に手がかりが見つからない。名前は知っている。各地を放浪している。ボウガンと大砲を合わせたかの様な不思議な武器を持っているぐらいしか分からず、有益な情報はない。

 Twitter等のSNSがある現代ならば直ぐに現在地を特定処か連絡先も手に入るが、この世界にんなもんはねえ。そもそも電気ねえし、天族は普通の人には見えねえ。

 

「どうした?」

 

 天族を元に戻して、地の主を増やしてしらみ潰しに探すしかない。

 憑魔化した天族が起こす災害は動物が元になっている憑魔が起こす災害よりも酷く、なにか情報が無いかと聞くアリーシャ(カレーうどんの染みが落ちたので学生服に戻った)は今いる村の住民から有力な情報を聞いたみたいだ。

 

「近くの村に導師が向かっているらしい」

 

「導師って……あいつ、なにやってんだ?」

 

 ザビーダに関する情報は一切出なかった代わりに出たのはスレイの情報だった。

 オレが時間を稼いだのはヘルダルフをスレイがシバき倒す為で、何故に大きな街がない細々とした小さな村に来ているんだ?この辺は普通に農耕しているだけの平穏な村ばかりだぞ。とっととパワーアップしやがれ。

 

「導師が向かった村には病が流行っている。スレイならば、放っておくことは出来ない」

 

「マーリンドみたいな事になっているのか」

 

「レディレイクから遠く、特にこれといった大きな街でもないから国が後回しをしてしまっている……」

 

「だから、導師様の出動か。村も国の一つだってのに、国の人間でなく宗教の人間が救わなければならないとは世も末……だったな」

 

「……耳の痛い話だ」

 

 大きな力ほど管理しきれない。人間、偉い地位になると大事なものが見えなくなる。

 偉い地位になるまでに受けた洗礼とか劣悪な事とかをこれは偉くなるための試練だと勘違いしやがる。あんなもん嘘だからな。真面目にコツコツ努力しても報われない時は報われない。遊び呆けてる奴は時には勝ち組になる。人生なんて理不尽だらけだぞ。努力友情勝利じゃなくて才能環境血筋だからな。

 

「スレイ達に会いにいこう」

 

「……」

 

「ゴンベエ?」

 

 正直に言えば、スレイ達に会いたくない。会えばザビーダに関するなんらかの情報を得ることが出来るだろうが、そうなるとどうして会いたいのか、なにを聞きたいのか聞いてくる。そうなれば……ライラ辺りが完全に邪魔になる。

 

「会いたくねえけど、会わねえとなんも始まらねえよな……はぁ」

 

「何故会いたくない?」

 

「聞くな……つーか、お前の方は大丈夫なのか?」

 

「……」

 

 行くなら行くで覚悟を決めるが、アリーシャは行って手伝える事があるのだろうか?貸している槍は邪悪な物に強いには強いが、邪悪な物を打ち祓う力は弱いし眼鏡だけだとヘルダルフやドラゴン並の穢れじゃないと感じることが出来ない。行ったところで、ドラゴンパピーとかいたらアリーシャは邪魔になる。もう一度、従士契約してくれなんて言うに言えないぞ。

 

「……それでも、行かなければゴンベエが知りたい事を知れない」

 

「それは卑怯だろうが」

 

 オレを出さんといてくれ。

 アリーシャも冷静に考え、会うに会えないけどもとオレを出して会いに行く覚悟を決める。そういう風に尽くすのやめろ、なんか重いし怖い。

 こうなったらと腹を括ったオレはその村まで行くことを決めて、この村の人にその村までの地図を貰い、スレイの元へと向かおうと草原を歩いていると憑魔が現れる。狼の憑魔で、アリーシャでも楽に倒すことの出来る相手だ。

 

「ったく、次から次に出てきやがって。時間が無いから、デラボンな」

 

 とっとと地の主を見つけるなりなんなりしないといけないので、手っ取り早くデラボンだ。

 手の平を狼の憑魔に向けてデラボンを放つとあっさりとやられるのだが、今の光に反応してか群れがやってくる。

 

「アリーシャ、任せた」

 

「ああ」

 

 これだけの数ならばアリーシャに任せる。

 リトル・シャイン・フリンジで倒して貰おうとアリーシャの後ろに回るとリトル・シャイン・フリンジを撃とうとするアリーシャ。

 

「風槍走ろう、ウィンドランス!」

 

「ん?」

 

 だがその瞬間、風の槍が出現して狼の憑魔を貫いてしまいリトル・シャイン・フリンジは不発に終わる。

 

「今のは風の天響術?」

 

「大丈夫だったかって、見えねえか……嘘だろ!?」

 

 突如放たれた風の槍に首を傾げるアリーシャ。すると少しだけ風が吹いて、上半身裸の男がアリーシャの目の前に現れてカッコつけるのだが、直ぐに固まる。アリーシャの顔を見て驚いている。

 

「あ、あの服を着てください!」

 

 アリーシャも服を着ていない男に驚き慌てる。

 

「見えてるのか俺が……いや、見えてて当然か。

つーことはそっちの方も……おいおい、なんだってんだ。タイムスリップでもしたっていうのか?」

 

 自分が見えている事に納得が行く男はオレを見て驚く。

 

「……割と直ぐ会えるもんなんだな。ザビーダ、って名前の天族はお前だな?」

 

「そういうお前さんは何者だ?」

 

「オレはナナシノ・ゴンベエ……」

 

「私はアリーシャ・ディフダと申します。少し前から、ザビーダ様の事をお探ししておりました」

 

「お、嬉しいね!こんな美女に探されるなんて、男冥利に尽きるってもんだ……と、何時もなら喜べたんだがな……」

 

 ジッとオレ達二人の顔を見るザビーダ。

 各地を放浪して憑魔を狩っているが、憑魔関係でなければ気前の良い男と聞いていた。オレ達は憑魔とは無関係とは言いがたいが憑魔でもなんでもないのに、難しい顔をしている。

 

「人間の親と子供は似るって言うけどよ、此処まで似ると不気味過ぎんだろ」

 

「ノルミン天族にエドナ様の御兄様も反応を示していましたが、それほどまでに似ているのですか?」

 

「……アリーシャちゃん、彼奴に会ったのか?」

 

「会いました……一年ほど前、ゴンベエがレイフォルクで磁石を作るのでそれを見に行った際にドラゴンとなったエドナ様の御兄様に会いました。その際にゴンベエと私に反応を」

 

「彼奴、まだ意識があったのか」

 

 エドナの兄と親交が深かっただけに、色々と思うところがあるザビーダ。

 自分の時間に浸るのは構わないのだが、そろそろ此処から動きたい。

 

「ノルミン天族に会ったって事は、知りたいのか?お前達の先祖について?」

 

「はい」

 

「……お前等、天遺見聞録って知ってるか?」

 

「天族とか導師とかについて書かれている本だろ?」

 

 読んだことはないが、どういう本なのかはざっくりと知っている。

 

「ああ、そうだ。誰が書いたかは知らねえが……アレ以外にも世界の何処かにたった一冊だけだが裏の天遺見聞録ともいえるものがある」

 

「裏、ですか?そのような話、聞いたことはありませんが」

 

「世間で知られてる天遺見聞録の作者とは違う奴が書いたんだよ。

それがどう書かれているかは知らねえし、何処にあるのかも分からねえが俺はその存在と何故存在しているのかを知っている。んでもって、知らないでほしい。ザビーダ兄さんのちっぽけなお願いだ」

 

「それは歴史の闇だからか?」

 

 光あるところに必ずと言っていいぐらいに影や闇はある。9を選んで1を切り捨て、1を選んで9を切り捨てるのが世の中だ。天族と人が良好な関係だった、導師が世界を救ったしか書かれていないのはありえない。世間や社会は、偉業を成し遂げた者を本当は悪いことをしているのに凄い人だとアピールするように、天族と人が険悪な関係だった事や導師が世界を滅ぼそうとした時代があってもなんらおかしくない。

 

「ああ、そうだ。アレは1000年以上生きている天族なら誰もが覚えている」

 

「1000年……いったい、なにがあったのだろうか」

 

「ん、知らないのか?」

 

 オレはこの国の住人でないのでこの国基準の教育は一切受けていない。だが、アリーシャはこの国で最上級の教育を受けているはずだ。歴史の授業なんて社会に出てもそんなに使わないが、王族ならば覚えろと暴君みたいな真似すんじゃねえぞと逆に徹底した教育を受けている筈だろう。

 

「そうか、ゴンベエは知らないのか。

この大陸の歴史は、途切れ途切れで分からないことが多いんだ。数百年前の事でも記録が全然残っていない事がある、千年以上も前となれば文字すら異なることも、ゴンベエの国は違うのか?」

 

「大まかとはいえ一応、2000年以上の歴史が……権力剥奪されたり与えられたりと色々とあったけど、今の王族になってから一回も血は途切れてねえし、なくなってねえぞ」

 

「2000年以上!?」

 

 場所が場所だけに日本は船か飛行機でしか攻められない。

 オレの知る限り世界大戦とか日清とか日露を除けばモンゴルとかと何回か揉めたぐらいで、海外から領土寄越せやぁ!と大々的に攻められて敗北して植民地化したとか歴史の授業では習っていない。むしろ内部で物凄く揉めに揉めまくったのが多い。

 

「途切れ途切れになってる要因は知らねえが、歴史の闇は裏の天遺見聞録に記されている。

それを読んだのなら、このザビーダ兄さんは二人の御先祖様について一から十まで教えてやるよ」

 

「ありがとうこざいます、ザビーダ様」

 

「ん?」

 

「私達の先祖についてはまだ聞けませんが、歴史の闇が記された天遺見聞録についてお教えいただき感謝します」

 

「ああ、気にすんな……俺はお前等の先祖に、特にゴンベエには世話になったんだ」

 

 オレに世話になっただと?

 

「俺を探しているなら、他の天族に俺を聞いたんだろ?俺の異名……憑魔狩りのザビーダをよ」

 

 ズボンと尻の間に挟んでいる拳銃を取り出すザビーダって、拳銃あんのかこの世界?

 今まで見たことなかった武器を見て、少しだけ心が浮わつくが真面目な空気なのでオレは無反応でいる。

 

「……聞いています。不思議な武器を持っており、その武器の力で憑魔を狩っていると。

何故、その様な事をしているのですか?憑魔を倒してくれるのは私達にとってありがたいことではありますが、ザビーダ様は浄化の力を」

 

「持ってねえぞ」

 

 ウィンドランスに貫かれた野犬の群を見るアリーシャ。これがオレ達ならば元の犬に戻っていた。

 浄化の力があれば元に戻すことが出来たのだが、ザビーダは浄化の力を持っておらず死んでいる。取り敢えず後で燃やしておこう。

 

「ライラ様の陪神となれば、浄化の力を」

 

「知ってるよ……ライラとは付き合い長いからな」

 

「ならば何故?浄化の力を得れば、無闇に殺さなくても」

 

「殺すことで救える奴も世の中にはいる……アリーシャちゃん、俺も昔はアリーシャちゃんみたいだった」

 

「?」

 

「ドラゴンとなった奴がいた。俺はどうにかしたかったが、当時は浄化の力もなくどうすることもできずにそいつが殺されるのを見ちまったんだ」

 

「だったら」

 

「そん時に、ゴンベエの先祖が話をしてくれたんだ。二人の死神って話をな」

 

 ほぅ、ライラが話していたブラックジャックの話。誰に聞いたのか言わなかったが、ザビーダだったか。

 

「そのお話は、ライラ様から聞いたことがあります。私はあの話がよく分かりません。最終的には、誰も救われずに終わっているではありませんか!」

 

 道中に聞いたザビーダの異名は憑魔を殺しているからついたもので、アリーシャはそれに納得が出来ない。ライラの陪神になればそれだけで浄化の力を得れる。恐らく、それ以外にも浄化の力を得る方法はあると思っている。

 アリーシャは手を伸ばしても、伸ばされても掴む事は出来なかった。だが、ザビーダは違う。必死になって頑張れば浄化の力を得ることが出来るのに、それをせずに憑魔を狩っている事に納得できない。

 二人の死神の端折った部分をちゃんと話せば、アリーシャは色々と考えることが出来るようになる……が、その前にだ。

 

「ザビーダ、覚悟は出来ているのか?」

 

「……ああ、出来ているさ」

 

 浄化の力で助けれない奴も存在しているようだが、助けようと思えば助けれる奴等は多々存在している。そんな奴等も殺しているらしいザビーダ。殺すことも一種の救いだが、絶対の救いではない。その辺の自覚をしているか聞いてみると、覚悟は出来ているらしい。

 

「何時かは俺が狩られる。

そうなったら俺は抵抗するつもりはねえ。俺の事を恨んでる奴からの攻撃は全部受け止める。

もし、俺が求めてるものを見つけることが出来たなら、犯した罪を全て償った後に罰を受ける……その覚悟は千年前から出来ているさ」

 

「そうか……他にも色々と聞きたいことがあるんだが、取り敢えずあっちにある村に行かないか?」

 

「聞きたいことだぁ?裏の天遺見聞録にお前が知りたいことは載ってるが」

 

「悪いが書かれた物じゃなく、生きた人から聞かないといけないんだよ。

出来たら導師が居ないところで聞きたいから、先にスレイがやってる事を片付けてからにしたい」

 

 この辺で聞いても良いが、万が一が怖い。

 

「……?」

 

「どうした?」

 

「いや、風の噂じゃ導師はこの辺じゃなくてローランス皇国に居るんだが」

 

「……え?」

 

 ローランス皇国にスレイ達がいる?それならアリーシャが聞いた話はいったいなんだ?新手の詐欺か?

 疑問や思うことが多かったものの、一先ずはと強制的に話に幕を下ろして一度その村に向かうことにした。




スキット 眠れない夜、君のせいだよ

アリーシャ「スー」

ゴンベエ「……なんでさ?」

アリーシャ「……どうした、ゴンベエ?」

ゴンベエ「おかしいぞ、アリーシャ」

アリーシャ「なにか変な事でもあったか?」

ゴンベエ「なんで一緒のベッドで寝ているんだ?」

アリーシャ「宿代節約の為だ」

ゴンベエ「ここの宿代二つのベッドでも100ガルドもかからない」

アリーシャ「今の御時世1ガルドでも命取りだ。幸いにも、気を使ってくれた店主が大きなベッドを用意してくれた。眠るのに何処も問題ない」

ゴンベエ「いやいや、オレ達そういう関係じゃないだろうに。絶対、昨日はお楽しみでしたねって言われるぞ」

アリーシャ「?」

ゴンベエ「とにかく、オレは床で寝る」

アリーシャ「ダ、ダメだ!」

ゴンベエ「んだよ、それが一番だろ」

アリーシャ「床で寝たら、疲れが余計に溜まるだけだ。二人で一つのベッドで寝れば問題ない」

ゴンベエ「だったら、手を離して、距離を置くぞ」

アリーシャ「……やだ……スー」

ゴンベエ「……一回ぐらい胸を揉んで、オレが悪人だって教えてやれば……ダメだ、それやったらアリーシャのハニトラ成功したことになる」


~~次の日~~

ゴンベエ「ねっむ……」

アリーシャ「寝不足か?」

ゴンベエ「うん……けど、これぐらいは別に馴れてる。朝六時起きとか割と普通だし」

アリーシャ「そうか……夜更かしは体に悪い」

ゴンベエ「誰のせいだと思ってんだ……腕をギリギリまで伸ばした瞬間に、一瞬で距離を詰めてビビっだぞ……やばい、本当にやばいぞ。これ、この旅が終わったらどうなるんだ…」


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フォーシング

 ザビーダ様と色々と言い争い、一先ずはスレイ達に会うこととなり導師が向かったと言う村へとやって来た。

 どちらかと言えば小さな村でなにか特産品やこの街出身の著名人が居るかと言われればそうでない普通の村で、マーリンドの時と同じく病に苦しむ人が多いが、マーリンドと違い大きな街でもなんでもないので戦争をするしないで争っている国に後回しをされている村。

 

「割と小さな村だな……アリーシャ、これ着けてろ。気休め程度にはなる」

 

「前もつけていたな……意味はあるのか?」

 

「口から病気が入らないようにするためだ」

 

三角巾を巻いて口を隠すゴンベエ。

口から病気の原因である憑魔が入るのをこれで防ぐことが出来るのだろうかと思ったが、此処はゴンベエの言うことを信じるのが一番だ。

 

「ありゃ、俺には無いの?」

 

「お前、そんな格好をしてるんだ……風邪ひかねえだろ?」

 

「確か、特定の人物は風邪をひかないと本で……特定の人物と言うのは、天族の事でしたか」

 

 ずっと気になっていた服を着ず上半身裸でいるザビーダ様。

 ずっと上半身を裸にしているならば風邪をひいてしまうが、風邪をひかないと言うのであらば着なくても良い。服や鎧は時として最大の重りにもなることがある。世界各地を放浪している風邪をひかないザビーダ様はそれを真に理解し、あえて脱ぎ捨てているのですね。

 

「アリーシャちゃん、それは違う。ザビーダお兄さんはその特定の人物じゃない」

 

「いや、どっちかと言えばお前はそちら側の住人だろう。

つーか、さっきから村人Aすら見当たらんが何処に居る?OKザビーダ、なんとかしろ」

 

「なんとかって人使い荒えな……お、一ヶ所に集まってるみたいだ。あっちだな」

 

 村に来たのに村の人達が何処にもいない。ザビーダ様が軽く風を吹かせて探索すると村人達が集う場所に移動する。

 村人達が集っている場所には、この村の人達全てがと思えるぐらいにいて、全員で会議をしているのではなく誰かを見ていた。

 

「あの、よろしいですか?」

 

「ん、此処等では見ない顔だな……」

 

「あ、はい、少し遠いところから来まして、ハイランド中を地質調査?をしている者です。この村の人達が一同に集っていますが、何かあったのですか?」

 

 近くにいたこの村の中年男性になにがあったかを偽りの身分を明かし、聞き込みをする。

 嘘をつくのは本当に心苦しいが、一応ハイランドの何処でどんな鉱石が取れるのかを調べているのであながち嘘ではないと罪悪感を無理矢理かき消す。地質調査の意味はイマイチ分からないが。

 

「ああ、導師がやって来たんだ」

 

「導師って、あの導師か?」

 

「どの導師かって聞かれれば、王都でこの前のローランスとのいざこざでマジギレした奴だ」

 

「その、導師はなにをしに此処へ?」

 

「この村は今、病気が流行っていて薬も入手しづらい。

そんな時、この街にあらゆる病気を治す薬を格安で売ってくれると言ってきたんだが……導師なんて胡散臭い存在をはいそうですかと受け入れる程に俺達は心は広くはねえ」

 

「……そう、ですか」

 

 スレイは紛れもなく世界が待ち望んでいた導師だ。

 天族の皆様と共に力を合わせて穢れを浄化し、災厄の時代を終わらせようとしている。だが、スレイを疑う者は危険視する者はまだまだ沢山居る。ネイフト殿の様に強く信頼している者は極僅かだと改めて思い知る。

 

「あらゆる病気を治す薬を売るだと?確かに胡散臭えな。そんな薬、絶対ねえだろ」

 

「いやいや、ところがどっこいあるんだよなそれが」

 

「?」

 

 どんな怪我や病気でも治せる薬を疑うゴンベエだが、ザビーダ様はその薬に心当りがあり語ってくれる。

 

「エリクシールつって、マオテラスが作った薬があるんだよ。

製造方法は俺も知らねえが、稀にだが古代の遺跡から見つかることがある」

 

「……マオテラスとかいうのが関わってる、エリクシールを製造する遺跡という名の工場をスレイが見つけ出した?」

 

「そもそもスレイがその様な事をするのだろうか?」

 

 ザビーダ様が言ったことから色々と考える私達。

 スレイが何故この様なところに来てまでエリクシールを売るのだろうか?病の原因は穢れなので、薬を売るよりも地の主を見つける方が大事だ。そうすればエリクシールを使わずに済む。なによりエリクシールを見つけたならば、無償で配るはずだ。

 

「オレへの借金返済の為に頑張ってるのか……無償でボンボン配るなとライラから言われたのかのどっちかだろう」

 

「え、なに、あの導師、お前に借金してるの?」

 

「20000ほど借金している」

 

「ゴンベエ、スレイに限ってそれは……後者の方はどういう意味だ?」

 

 傷や病を治す天響術は存在しているらしいが限界はある。マオテラスが作ったとされるエリクシールはそれをも遥かに上回るものだと言われている。もしそれが本当ならば、ライラ様が止める理由は何処にもない。

 

「なんでも治る薬なんて、争いの種だろう。

大量生産をすることが可能で普通の人に買える値段だったら医者要らずで、この国の医者は仕事を奪われて職を失う。

製造に必要な材料を商人が、国が、材料を作っている奴等が牛耳る。

今、この時代までエリクシールの製造法が伝わっていないのはそう言うのが原因で無償で、無料で渡すと確実に争いの引き金になる」

 

「……どんな、傷や病も治す薬が最も傷や病を作る戦争を生み出す道具に……」

 

「皮肉だろう。だが、そんなもんだ。

つーか、まだそれは良い方だぞ……仮に国が正しく管理して病気になった人に使ってねと一般の人達でも買える値段で売って、風邪をひいたらエリクシール、熱を出したらエリクシール、インフルエンザになったらエリクシールって世界になったら……あ~恐ろしい」

 

「インフルエンザ?……どうして恐ろしいんだ?」

 

「その辺は自分で考えろ」

 

 あらゆる病気を治す薬があり、それを安定して大量生産出来て国が正しく管理し、扱うのならば戦争の引き金にならない。何処に恐ろしい要素があるのだろうか?

 

「お、アレが導師様か……割と普通だな」

 

「……誰だあのおっさんは?」

 

 色々と話し合っていると、導師が村人達の前にやって来た……が、違う。

 導師スレイとは似ても似つかぬ男性で服装も私がスレイの為にと用意したものに似ているが異なるものを着ており、まるで世間で聞こえるスレイの噂だけで作られた格好だった。

 ザビーダ様もスレイを知っており、私とゴンベエが口に出来ない事を口にした。

 

「お集まりの皆様、この度は私の話をお聞きしていただき、ありがとうございます」

 

「……ライラ様達も何処にもいない。奴は明らかに偽者だ」

 

 導師の正体はスレイの名を騙る偽者、もしかすればバルトロ大臣の一派の者かもしれない。今すぐに捕まえなければ、また戦争にスレイが駆り出される可能性があると前に出て捕まえようとするもゴンベエとザビーダ様が止める。

 

「なにも理論上はできるけどスレイしか成功していない存在じゃねえだろ」

 

「?」

 

「世界に導師は一人じゃないってことよ。

天族と契約し、天族の器になった奴は過去に複数人存在している。もしかすると、導師の手伝いをしていたりする奴かもよ」

 

「成る程……」

 

 今までゴンベエとスレイしか肉眼で天族を認識することが出来る人はいなかった。もしかするとあの導師と名乗る人物はスレイの新しい従士なのかもしれない。もしかすると普通に天族を見ることが出来る人なのかもしれない。

 そう言った線を一切考えず、スレイの名を騙る悪徳な商売をする者だと勝手に決めつけた事を少し反省し、一先ずは見守ることに。

 

「しかし、皆様は私達の事を疑っているのは分かっています。

私には天族の方々が見え、声を聞くことが出来ますが皆様は見ることは出来ません。人は目に見えないモノを信じられない、そう言った存在です。ですが、私はそれについては攻めません。見えないなら、見える様にする努力をすれば良い。

この村は今、病に苦しんでいると聞き此度はかのマオテラスが作りし、ありとあらゆる病や傷を治す万能薬 エリクシールを私が製造し、持ってきた。」

 

「ゴンベエ」

 

「全員疑ってんぞ?」

 

 アレはもう黒じゃないのか?とてつもない胡散臭さが感じられる。

 なにか騒ぎを起こす前に捕まえた方がスレイの為でもあるのだが、導師と名乗る人物に村の人達は疑いの目を向けている。

 

「このエリクシールは飲めば病気を治すことが可能だ。

しかし、製造が可能なのは導師である私と極一部の限られた者しか出来ない。

本来ならば、この様な小さな村では絶対に買うことの出来ない代物だが、なんとか安く売れる様にと努力した」

 

「おいおいおい、こんなにハードル上げて大丈夫なのか?マジで天族居るのか?」

 

 エリクシールが入っていると思わしき箱を従者に出させる偽導師。もう村の人達は疑いしか持っておらず、帰ろうとしている者達もいる。ザビーダ様もこんなバレるボロが出る嘘をついて大丈夫なのかと笑い出す。

 

「此処にこの村の者達全員に行き渡る分がある。

なに、貴族や王家が課す馬鹿高い値段で売るなどと私は言わない。1000ガルドで売ろう」

 

 1000ガルド、エリクシールが本物だとすれば安すぎる。偽物なのだろうが……。

 

「きっと今、皆は私が胡散臭いのだろう。そう思われても仕方があるまい。

本来ならばこういう事に使うのは天族達が悲しむのだが、導師としての力の一端をお見せしよう……アレを持ってこい」

 

 導師としての力を見せる……神依?いや、神依は普通の人には見えない。となれば、浄化の力?それとも天響術と称して炎を何処かから出したりすることだろうか?

 どうせインチキだろうと思っている村の人達はついでだからと見ていくことにし、トリックを見破ってやろうと考える。

 

「これは御覧の通り、普通の炎だ。

この村の薪で出来ており、火打石で火を起こした……疑うと言うのならば、この火を消してから別の誰かが違う薪で火をつけてくれ」

 

「なら、私が」

 

「お前は行くな……ミスディレクションに近いのか?」

 

「?」

 

 偽の導師の前にある焚き火を消しに行こうとすると、止めるゴンベエ。目を細めて聞いたことのない言葉を出す。

 私が行かなかったので、先程話を聞いた村の中年男性が火を消して別の所から薪を持ってきて火打石で着火し、さっきと同じく炎に近い焚き火を燃やす。

 

「この者と私は通じていない。

それは村の者達が十二分に理解している筈だ。故に、炎を起こす薪に仕掛けもなにもない。

御覧の通り、これは皆が起こそうと思えば起こせる普通の炎……しかし、導師の私が力を加えれば、こうだ!!」

 

「!?」

 

七色炎橋(レインボーブリッジ)!!」

 

 偽の導師の目の前にある炎は、なにか特別でもなんでもない極普通の炎だ。

 火打石で着火した何処にでもある炎で、自分を疑っているならばと自分が用意した炎でない、この村の薪で、この村の人達がつけた炎だ。

 

「炎の色が!?」

 

「緑色に!?」

 

 それなのに炎の色が変わっていく。黄色、青、緑、紫と瞬く間に変化していく。

 

「どうでしょう、私の力の一端は?」

 

「凄い……」

 

 今の今まで胡散臭さしか感じることの出来なかった偽の導師。

 この力を見せられれば、本物としか言わざる終えない。天族が何処にも見えないのはライラ様達の様にあの男の中にいるからか。

 

「ほぅ、やるじゃねえか」

 

「皆様、私を信じ……なにか用ですか?エリクシールは村の人達全員に行き渡っても少しは余るので売ることは」

 

「……成る程ねぇ」

 

 偽者と思っていた導師に感心する私達を余所に、炎の前に出るゴンベエ。

 

「この村は特に大きな村じゃない。

名産品らしい名産もなければこの村出身の著名人もいない割と普通の村……だから狙ったのか?」

 

「な、なにを言っている?今のは、導師としての力の一つで種も仕掛けもない!第一、炎に仕掛けをするなんてどうやってすると言うんだ!?」

 

「いくらでもあんだよ、そんなもん。

自分が用意した炎だったら薪だったらなにか仕掛けがあると疑われるが、それを逆手に取る。

相手に炎を起こさせる事により、これで仕掛けもなくなったと思わせる。強制したんじゃなく、相手が選択して用意した物を使わせることにより、疑いを消す、無くす……コスい手使うなよ」

 

 冷たい目でゴンベエは男を見つめ、炎に向かって塩を投げる。すると、炎はさっきと同じ様に黄色くなった。

 

「歴史はとびとびで王政ならば社会系の授業は出来ない。

困ったら導師や天族に頼り、水車が限界で蒸気機関が無い国の小さな村なら文字の読み書きや因数分解辺りは教えそうだが、生物……はまだしも、科学に関しては教える機会はない。そもそもで理科は専門職以外は社会に出てもペーパーテストでしか使わない……炎色反応なんてちゃっちいことすんなよ。誰か、銅を粉にした物持ってないか?後、硫黄の粉末を」

 

「っ!」

 

「あ、逃げやがった……まぁ、どうでもいいか」

 

「ゴンベエ、いったい何がどうなっているんだ?」

 

「炎に塩とか銅とかぶちこめば、色が変わる。

それをする前に炎の準備を村の人達にさせて、種も仕掛けもありませんよと思い込ませる。

後はこの胡散臭いエリクシールとか言うのを売り付ける……多分、偽物だろうな。塩、入れてみろ」

 

「……本当だ」

 

 調理用の塩を渡されたので塩を投げると色が変化した。

 と言うことはさっきの導師は偽の導師で、偽のエリクシールを売って、一儲けしようとした輩……

 

「今すぐに追いかけて捕まえなければ!!」

 

「アリーシャちゃん、正義に燃えてるのは良いが、周り見た方がいいぜ」

 

「?……」

 

 追いかけようとするとザビーダ様に止められ、周りを見渡す。

 周りの人達は酷く落ち込んでおり、泣いている人達もいた。

 

「今すぐに、あの偽の導師を捕まえて皆様に謝罪を」

 

「……謝罪なんかで、病気が治せるか!!」

 

「病気、ですか」

 

「ああ、そうだ。今、此処にいない子供や若い連中は皆、病気で寝込んでるんだよ!!

薬を買おうにも、この前あったローランスとの小さないざこざのせいで値段が高くなった。やっとの思いで買えた少しばかりの薬も効き目がなかった……本物だと、本物のエリクシールだと思ったのに、くそ!!こんな小さな村じゃ、国は援助もなにもしてくれない。それどころか、まだ戦争を続けるかもしれず税を更に上げようとして、もう、おしまいだ……」

 

 悲しみに明け暮れる村の人達。私はつい、ザビーダ様を見てしまった。

 

「残念だが、このザビーダ兄さんは回復系の術は出来ねえ。悪いな」

 

「い、いえ……困ったら天族に頼ろうと考えてはいけないのに、申し訳ありません」

 

「そこは気にすんな。治せるなら治す……そこに天族だ人間だ境界線を勝手に引いてたら、治るもんも一生治らん」

 

 また誰かを頼ろうとしてしまった。

 こんな事をしてはいけないと、せめて偽の導師を捕まえて皆に謝罪をさせようと走ろうとすると、ふと思い出す。

 

「この薬なら治るだろうか?」

 

「お前、まだ持ってたんかい」

 

 聖剣祭の通達や伝承に纏わる地を旅する際にゴンベエから貰った薬。

 あの時は病気にならなかったので飲まなかったが、万が一にと保管している。

 

「治るかどうかは知らねえよ。

少なくとも、どんな病気なのか分からない以上は飲ませないとなんとも言えない……つか、それ一人分、毎食後に飲む一週間分だから誰に渡すんだ?」

 

「……作り方を教えてくれ」

 

「そう来るか」

 

 きっとゴンベエなら、この薬と同じものを沢山作っている。

 それを譲ってくれと言えば解決だが、それだとゴンベエに頼り過ぎている。これは宝石の様に天然の物でなく人為的に作ったものならば、私にも作れる筈だ。一度、作り方を覚えればゴンベエに頼らなくてもいい、ここ以外で同じ病が広まっても直ぐにこの薬を作って持っていける。

 

「……アリーシャ、これ渡してきなさい」

 

「確かにそれは嬉しいが……製造方法を知りたい、秘伝の物だとは分かっている」

 

 だが、それでも知りたい。知って、皆を助けたい。

 瓶に入った薬の受け取りを拒否し、作り方をゴンベエに聞くのだが渋い顔をする。

 

「あの、あれだ。

今からペニシリンの作り方を教えるから、そっちの方で……サルファ剤はちょっと」

 

「ペニシリン?というのは、人海戦術が、数が必要じゃないのか?」

 

 それならば、ゴンベエ一人で作れる薬を教えてほしい。

 

「……いや、あの……うん、ちょっとややこしい材料がある……アンモニアとか」

 

「アンモニア?」

 

「凄くざっくりと言えば……尿素」

 

「……やぁっ!?」

 

 薬の原材料を聞いて私は薬を投げてしまった。尿素、つまりそれは尿でこの薬にはゴンベエのアレが……

 

「それでも知りたいのならば……大丈夫。アリーシャのなら多分、ダイレクトでも、最早一種のご褒美と」

 

「なにを言っているんだ!?」

 

 なにも入っていない瓶を渡さないでくれ!

 

「な、治るのか?そんな汚い物が入っている薬で」

 

 少量の薬では全くといって治らなかったそうだが

 

「……まぁ、治せないのもあるが万能薬っちゃ万能薬だから割と効くぞ。

200年ぐらい前の男性死因の代表格と呼ばれている病気も治せるぐらいに強力な薬で、髪の毛抜けるとかの危険な成分が含まれていないし……使う?作るなら、アンモニアはアリーシャから採取する。今から家に帰ればアンモニアとか炭酸水を用意するだけで完成するが?」

 

「それしか……無いのか?」

 

「無い!因みにペニシリンでも治るが、一週間以上は掛かるし運要素も含まれるので100回やって100回とも同じものは作れない可能性が高い!青カビ採取からスタートだ」

 

「……っ……ん……そのペニシリンは教えてくれるのだな?」

 

「教えるけど、今救わないとヤバい奴はいるかもしれんぞ?」

 

「……背に腹は変えられないのか」

 

「安心しろ、最悪オレを晒し首にすれば良い……全力で抵抗するが」

 

 苦渋の決断に迫られた私は覚悟を決めて、ゴンベエから薬が入った方の瓶を受けとる。

 材料はアレだが、ゴンベエはこの様なところでは嘘をつかない。信じるしかないと村の人達に薬を渡す。

 

「お~い、偽の導師の居場所分かったけどどうする?成敗するなら手伝うぜ?」

 

 薬を渡し終えたところで、いつの間にか居なくなっていたザビーダ様。偽の導師を追い掛けていてくれたのですね。

 

「そっちの方はもうどうでもいい……それよりも聞きたいことがあるんだ」

 

「だから、先祖については裏の天遺見聞録を手に入れてからだって」

 

「ちげえよ……オレが聞きたいのはそれじゃない……このループは何時から続いているんだ?」

 

……ループ?





スキット 等価交換の法則

アリーシャ「その……他は大丈夫なのか?」

ゴンベエ「なにがだ?」

アリーシャ「この薬、そのゴンベエのアレが……べ、別に私は飲む分には構わないが、その……他にも危険なものが」

ゴンベエ「目に当たったら失明する液体で作られた皮膚にかけたらドロドロに溶ける液体とか、海水から出来た死体を溶かす液体とか、色々とある」

アリーシャ「そ、そんな物で治るのか!?もっと薬草的な物だと」

ゴンベエ「いや、流石に原材料そのまま飲んだら死ぬよ。色々と弄って作るんだ。青カビで出来た薬も色々と弄って作るんだよ。足し算と引き算を永遠とするんだ」

アリーシャ「とてもその液体で作れるとは思えないが……ゴンベエの国はこの薬で病を治しているのか」

ゴンベエ「いや、多分それもう効かないぞ」

アリーシャ「?」

ゴンベエ「病気も人間と同じで常に変化する。昔は効いていた薬が効かなくなったってのはよくある話だ。
インフルエンザって病気は年々変化してて、同じ薬で効かないとかあって……もし仮にエリクシールが今の時代まで当たり前の如く薬として普通に使われていたとなると、エリクシールで治らない病気が生まれて……あ~こわっ」

アリーシャ「……もしそうだったら、エリクシールだけに頼りきった国は新しい薬の製造が」

ゴンベエ「出来ないどころか、薬の概念すら無くなってたりしてな……改めて恐ろしいな、エリクシール」

アリーシャ「私としてはゴンベエの薬の方が恐ろしい」

ゴンベエ「馬鹿言ってんじゃねえよ、なんのリスクも無しに便利な物は作られない。
自然の法則や原理を無理矢理ぶん曲げて、偶然では生まれない物を人間は作っているんだぞ?お前の槍も鎧もその眼鏡もお前も偶然じゃなくて人為的に作られてんだ。なにかを得る代わりになにかを失う、これは絶対の法則で努力は失う物を極力最小限に抑えること。金ってのはある意味、失う物の代用品だからな」

アリーシャ「なにかを得るにはなにかを失う……」

ゴンベエ「名探偵は事件の謎を解決するから名探偵なのと同じだ……いや、これ違うか?……ともかく、これを間違いだと言うならばオレはそいつを全力でシバき倒す、もしなにも失わずになにかを得る世界になんてなったらおしまいだ。勿論、オレを犠牲に世界を救う的なので切り捨てられそうになっても全力で足掻いてやるさ。ワガママ人間なんでな」


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世界と社会

「ループだと?」

 

 オレの質問に首を傾げるアリーシャ。ザビーダもよく分かっていない。

 

「別にそこまで難しい話じゃない。えっと、ザビーダは今の導師には」

 

「一応、会ったには会ったぞ」

 

「そうか……今の(・・)導師にはあったことあるのか」

 

「おいおい、油断も隙もねえな」

 

 あっさりと引っ掛かるザビーダだが、まだ質問の意図を理解していない。

 

「あの、どういう意味でしょうか?」

 

「コイツ、過去に導師が実在したかどうか確認した(カマかけた)んだよ」

 

「実在した、ですか?

ゴンベエ、過去に導師はちゃんと実在している……どうしてそんな今更な事を確かめるんだ?」

 

「今更だからだ」

 

 アリーシャの言うとおり、本当に今更なことだ。

 過去に導師が実在してたなんて、天族と会う前に、スレイが導師になる前に調べておくもんだ。だが、今だからこそ見つめ直して気付くところもある。

 

「導師や天族知りたきゃ、天遺見聞録を」

 

「それじゃダメだ……ライラでもだ。

エドナならちゃんと答えてくれそうだが、他だと多分無理だ」

 

「……なにが知りたいんだ?」

 

「今の時代は災厄の時代と呼ばれ穢れが満ちている。

そんな時に天族が見える人間が王都にやって来て、湖の乙女の器となり導師となりました……これと似たの今まで何回あった?」

 

「ゴンベエ……どういう、ことだ?」

 

「……ライラはスレイに色々と教えていた。

見た目こそ大人の女性だが、レディレイクで一番のジジババよりも年齢が上だ。

過去に違う誰かが器になって、聖剣を手に穢れを打ち払う旅に出た。今、スレイがやろうとしているパワーアップをした。そう考えるのが妥当だろう」

 

「それは、分かるが……それがなにを意味している?」

 

「過去に導師が何人もいて、どうして今は災厄の時代になってるんだ?」

 

「それは……私達が天族への感謝の気持ちを忘れたから」

 

 スレイとオレしか肉眼で天族を見える人間はいない。見えないものを人間は信じないので、祈らなくなって天族は呆れて加護領域を消しました、おしまい……で、終わるほど甘くはないぞ。天族の方が穢れに弱いのをザビーダ探しの道中助けた天族に聞いたぞ。

 

「天族に祈らないから災厄の時代、導師が居ないから災厄の時代、両国の上層部が屑揃いだから災厄の時代……だけじゃねえだろ?

オレはレディレイクの地の主であるウーノが地の主をやる際に、ウーノは地の主について理解していた。地の主のシステムも神依も、浄化の力も大分前からあるんだろ?それも10年20年なんてもんじゃない、100年以上も前からよ」

 

「痛いところついてきやがるな。

お前の言うとおり、今の導師がやってることをやるまで何回か改良とか手順とか踏んだが、今のシステムになったのは大分昔のことだ」

 

「そうか……はぁ、ヤバいな」

 

「なにがヤバいんだ?」

 

「導師スレイが苦難を仲間と共に乗り越えて災禍の顕主を鎮めました。

めでたしめでたし……と、おとぎ話や童話ならそれで終わる……だが、それで終わらないのが現実だ」

 

「?」

 

 この世界が元いた世界視点で見ればフィクションだ。だが、今は現実であり物語が終わってもオレの人生は続くし、アリーシャの人生も続く。物語終わった時点ではハッピーエンドかもしれないが、その後は誰も知らないので、地獄ではその辺をちゃんと考えろとしつこく言われている。過去に転生者がハーレムエンドで物語を終え、その後、遺産相続で犬神家の一族並みに揉めたことがあった。後、誰が正妻とか誰の子供とか、誰の父親として出席するとかそういうのでも揉めてた。

 

「仮にスレイがヘルダルフも浄化して助けるって言って、全員を助けたとする……全員を助けたりしても50年位しか平和を保てないぞ」

 

「5、50年!?たったそれだけしか保てないのか!?」

 

「まず、スレイ達の戦ってる相手は悪魔とか妖怪とかそういう感じのジャンルだ。

なんやかんやで悪魔になってしまったとか妖怪になってしまった奴をシバき倒して元に戻しているだけだって、それ以上でもそれ以下でもない」

 

 人間の悪とか国のゴタゴタとは関係ない奴を退治しているんだから、やってることは害虫駆除と同じだ。

 そしてええ加減にこれを聞かないといけない。

 

「穢れのない、天族と人間が共存している世界って、どんな社会だ?」

 

「社会?世界でなく、社会?」

 

「お前もそうだが、スレイ達も形を持っていない。美しい景色とか言葉とかそんなんばっかだ」

 

 スレイがやっていること自体は悪でもなんでもない。むしろ+方面のことでありオレがなにかしないとヤバいとかそんな事になってないので特に問題ない。だが、オレにはなにも見えない。

 穢れが無くなった天族達と共存している社会はどういう感じになっているんだ?

 

「アリーシャさ、仮にスレイがヘルダルフやっつけてローランスにもハイランドにも地の主を置きまくって大陸中に加護領域を展開することに成功するだろ……その後、どうすんだ?」

 

「どう、する……」

 

「ザビーダも、意見を出してくれねえか?

もしスレイやオレ達みたいに、皆が天族を見えるようになった社会ってどんな社会かを」

 

「社会ねぇ……風来坊の俺には一番縁遠い世界だな」

 

 安心しろ、それはオレもだ。

 授業ではちゃんと点数を取れるものの、現代の若者が全くといって興味を持たない政治経済。今の今までその辺について考えておらず、穢れを浄化するとか地の主を祀るとか災禍の顕主をシバき倒すとかしか考えていなかったので改めて考えることになった、が

 

「ダメだ」

 

 アリーシャは開始数分でギブアップをした。

 

「天族の方々が普通に畑を耕しているイメージが出来ない」

 

「あ~……俺も無理っぽいな。

もし税金を払えとか農民みたいに働けって言われたら、逃亡するな」

 

「……お、おう」

 

 つい最近まで税を支払っていなかったのでザビーダの言葉が痛い。

 しかしまぁ、割とあっさりとギブアップを出すのは……あ~、うん……話の方向性を変えてみるか。

 

「ならば、こうしてみよう。

アリーシャがなんやかんやで世界一偉い王様になりました。さて、どうします?」

 

 地獄の転生者養成所で一度は考えさせられる問題をアリーシャにぶつけてみる。

 これは物凄く面倒な問題であり、この問題に関してこれといった答えを出した奴は数万人居る転生者候補生の中でもたったの数名だけだ。色々と考えさせられる非常に面倒な問題だ。

 

「いきなりだな」

 

「宝くじが当たって三億手に入れたらなに使うっていう妄想で話題を膨らますのと同じノリでやれば良いんだよ……難しくは考えてほしいがな」

 

「お、面白そうじゃねえか」

 

「なら、考えてみろよ」

 

 もしもたらればの話は危機的状況でするんじゃなく、暇潰しとかそういうので話すのは良いぞ。

 話題の方向性を変えてみると今度は色々と考えるアリーシャ。

 

「先ずは上流階級の人間を調べあげる。

バルトロの一派の様に戦争推進派を抑えたり、裏で横領や悪評をしている者達の罪を暴いて、堂々と裁く。そして、高くなっている税を軽くして導師の仕事をサポートを」

 

「アリーシャ、アリーシャ、それ違う。それはマイナスを0にするものであって、0をプラスに変えるもんじゃねえ」

 

「?」

 

「横領はやってはいけないことだ。

戦争もやっても効率が悪く、利益を出すのに何十年もかかる。

高くなっている税金は戦争だなんだと色々とあるから高いだけで、基本的に安いだろ?」

 

 何処ぞのお兄様じゃないが、当たり前のことを当たり前の如くするのは難しい。

 それは分かっているのだが、それはあくまでもやっちゃいけない事をやるなと言い、やらないだけである。

 世の中には越えてはならない一線があり、その一線を越えると屑、越えなければ普通の人で、その一線の内部で良いことをしなければならない。

 

「新しい皆がそれ待ってましたなにか出せつってんだよ」

 

「確かに横領は悪いからすんなって話だな……お前、さっきから色々と否定してばっかだけど、なんかあんのか?」

 

「wwwあるわけねえだろうwww、って危ねえな!!」

 

「真面目な話してんのに笑うんじゃねえよ!」

 

「つってもな……ぶっちゃけ、どうすれば良いんだ?」

 

 ザビーダが怒ってペンデュラムで攻撃してきたが、避ける。そして考える。

 医療費タダとかマイナンバー制度とかしか浮かばねえぞ。

 

「アリーシャ」

 

「私がどうかしたか?」

 

「アリーシャは家庭環境的な意味では知らないが、生活環境は優れている。本人も至って真面目で勤勉で容姿も性格も優れている」

 

「ど、どうしたんだ急に!?褒めてもそんな、なにもでないぞ」

 

「そんなアリーシャがお手上げな時点で、もう無理だぞ?」

 

「え?」

 

 結局はどんな世界でも努力はしなければならない。いや、努力はして当然であり求められるものは結果で過程は二の次だ。アリーシャは容姿、金銭や生まれた土地的な生活環境に恵まれており、立派な心と勤勉さを持っている。

世の中、努力でどうにも出来ないことが幾つかは存在している。国籍、性別、金、他にも色々とあるのだが代表的なのはこの三つである。

 

「勤勉で国の首都育ちで生活環境に恵まれている奴ですらなにも出来ない。

うちの国の神事が男性しか出来ない性別の壁とかはあるから、ある程度は納得出来る。だが、それでも導師関係はダメだろう。スレイみたいに天族を肉眼で捉えられる奴しかなれないのはまずい……現に今、それを証明している。スレイ死んだらどうすんだ?」

 

 一部のマニアな世界ならば特定の人物にしか出来ないは問題ないが、宗教なんてマニアも糞もあるかってもんで開祖ならまだしも、それ以外の特定の人物がどうのこうのはまずい。

 

「そうなったらライラは無理矢理にでもお前を導師にするかもしれねえな」

 

「勘弁してくれよ……でだ、それってやっぱダメだと思うぞ。

最初以外で特定の人物にしか出来ないとか特定の人物がいないと出来ないってのは、本当にダメだぞ……自転車操業になる。あ、やば」

 

 これはアリーシャが自力で答えを導き出さないといけないのに、うっかり言ってもうた。

 

「自転車操業、結局それはどういう言葉なんだ?」

 

「今している仕事をやめてしまえば、それで終わりになる。

つまり導師が、特定の人物が頑張らなくなったら終わってしまう。

世の中は賢い奴が難しい事をするよりも賢い奴が馬鹿でも難しい事を出来るようにしないとダメなんだ。

例えば今はスレイしか出来ないことを、スレイの力なしでこの街の住人で出来るようにするシステムを作るとか」

 

「それは導師に世界中の人間が天族を見えるほどの霊応力を手に入れる方法を作れってか?そいつはオススメ出来ねえな」

 

「いや、そうじゃない……なんて言えば良いんだろうな?」

 

 こういう時に上手く説明できない自分は馬鹿だと思ってしまう。

 なんて言えば良いんだ?歴代の導師は自分達にしか見えない道を勝手に歩いて、その道があると見えるようにしていない?道じゃない道を歩いていて、工事して整備していない……教科書を作っていない?

 料理なら教科書通りの作り方をすれば、その料理はちゃんと出来る。味はその本を出した人みたいに完璧じゃないが、一定以上の味を出すことが出来る……ああ、ダメだ。これじゃない。似ているけれど、なんか違う。

 

「そう焦んな……お前の言いたいことはなんとなくだが分かる。

お前の危惧している通り、今の導師が人として成長して災禍の顕主も救ってみせると救って、俺達天族が全員の肉眼で見えるようにしたら……確実にロクな事が起きない。悪いが、天族の代表と人間の代表が仲良くしようぜと握手をしている姿を想像することはできない」

 

「安心しろ、オレもだ」

 

 そもそもこの国の王様の名前を知らないし。

 

「数百人居る村に対して天族が一人いて崇めろ称えろ祈れは共存でなく、依存だからな……あれ、これ答えじゃね?」

 

「かもしれねえな」

 

 この大陸の人間はずっと昔から天族に頼りきっている。これをどうにかしないといけない。

 天族と仲良くしましょうじゃなくて、天族居なくても問題ねえ!って状態にする……うん、多分、これが答えだ。困ったら天族や導師に頼るんじゃなくて、自分達でどうにか出来るようにする。

 それこそ導師の力もなにも借りずに、健康で元気で普通の生活が出来る人間が努力すればどうにか出来るように……それやったらヤバいんだけどな。

 

「俺、もう行くわ。お前の話を聞いて、他の天族に色々と意見を聞きたくなった……」

 

「そう、ですか……怪我をなさらぬ様にお気をつけください」

 

「ありがとう、アリーシャちゃん……俺はどっちかと言えば、アリーシャちゃんの味方だ。またな」

 

 その後も色々と話をした後、ザビーダはオレ達と別れた。

 ザビーダにとってもオレ達にとっても今回の出来事や会話はかなりの経験になり、色々と考えさせられるものだった……特にアリーシャは今回の話は難しかった。

 今の今までそういうのを考えてこなかっただけに、天族と人間が共存している社会とはどういう社会なのか分からない。導師のシステムは間違いじゃないけど正しくもないと理解してしまい色々と頭を悩ませた。

 

「本当、これから先どうなんやろ……」

 

 戦争を起こしたりするバカや災禍の顕主なんて明確に見える悪がいるから、今はまだ問題ない。

 最終的にスレイやアリーシャはそいつらをどうにかこうにかしなければならず、それを終えた後はどうなるのだろうか?天族を普通の人間みたく受け入れろと言うのか? 天族>人間的な感じになっているから、例え普通の人達に見えたとしてもフレンドリーに接することは出来るのか?ゼンライの爺さんが天族の代表になって上下関係は一先ず置いて、これから仲良くしましょうの握手をしてくれるのか?王族の方はそれを認めるのか?そもそも見えるようになったら天族の術の危険性を感じるんじゃないのか?

 

「オレが考えることじゃないか」

 

 戦闘能力999で政治力とかカリスマ性とかそういうのに欠けているオレはこんなもんを考えることじゃないな。

 知りたい情報は知れた、これからやらないといけないことも出来た。いよいよ、行かなければならない。遂に吹かなければならない。

 

「お、おい!あんたらの薬を飲んだうちの子供が!」

 

「あ~はいはい、ちょっと待ってろ」

 

 だが、その前にこの村のことをしておく。

 薬を飲ませた村の人達は苦しみだしているが、これは特に問題ない。この村で流行っている病は肺炎で、サルファ剤を飲ませれば治る。薬を渡した以上は見捨てるわけにもいかないので、2日滞在してサルファ剤を飲ませ続け、肺炎を治した。

 

「物凄く時間が掛かると思っていたが、割とあっさりと見つけられてよかった。

世界は狭いのか広いのか、どっちかは謎だが……とっとと帰ってペニシリン作りするぞ。青カビとか米や芋の磨ぎ汁とか色々と用意しないと」

 

 聞きたいことはもう聞けた。知りたいことを知れた。考えなければならないことが出来た。行かなければならないところ時代が出来た。

 後はアリーシャにペニシリンの作り方や使用方法を教えれば終わりで、それをする時間はたっぷりとある。原作が終わっても、オレ達は普通に生きているんだからゆっくりと時間をかけてペニシリン作りに励む。

 今回は事前に旅をすると決めていたので風のオカリナを使ってパッとワープして帰れるようにしている。家にマーキングしているのであっという間に帰れるなと風のオカリナを取り出すと腕をアリーシャに掴まれる。

 

「……帰りたくない……」

 アリーシャには天族と人間が共存する社会についての考えやスレイが世界を救っても50年後にはまた同じ状態になるという話はかなり堪えた。マオクス=アメッカが嘘の様に思うほどに落ち込んでいる。 

 

「ザビーダと会って、色々と意見とか話を聞いただけだ。

なにかこれだってもんは見つかってねえし、それらしい答えも出てねえ。それに50年も平和を保障出来るのは……って、ダメか」

 

 励ましの言葉なんて物は見つからない。ネガティブじゃなくてポジティブと言っても無駄だ。

 導師が頑張ればなんとかなるという希望は一時の希望でしかない。ザビーダとした会話は今の導師のシステムの不完全なとこや、天族と人間が共存する社会は作れないの否定ばかりで、なんの代案も出さなかったものの、アリーシャの胸に刺さる考えや言葉は多かった。

 

「……家、来るか?」

 

 なに一つ、答えを出すことが出来ないし、諦めなければ信じあえば、皆が頑張ればと言った綺麗な言葉ではもう隠せない。そういった言葉を使っても今のアリーシャには効かなくなってしまっている。

 一先ずは家に帰りたいので、誘うとアリーシャはコクりと頷いた。




スキット 二人の関係

ザビーダ「ところで、お前達って親族かなにかか?」

アリーシャ「いえ、私達は別に夫婦ではありませんが……そう、見えるのでしょうか?」

ゴンベエ「どう見ても、血が繋がってないだろう」

ザビーダ「……ん?……まぁ、いいか」

アリーシャ「どうかしましたか?」

ザビーダ「いやいや、気にしちゃダメだよぉ!!それよりも、血は繋がってないんだな」

アリーシャ「私はこの国の人間でゴンベエは海外の」

ゴンベエ「生まれも育ちも摂津の国で、別に位が高い家系でもない家だ。数年前までは出雲の国の黄泉比良坂を越えた方で色々と学んでいたんだよ」

ザビーダ「ほぅほぅ……赤の他人、じゃないよな?鎧も背負っている剣も瓜二つだから……破局!?」

アリーシャ「……過去は過去、今は今ですよ?」

ザビーダ「いやまぁ、そうだけどよ……本人達否定していたけど、それっぽく見えるんだよ。で、御二人のご関係は?」

ゴンベエ「下世話だな……絶賛ハニトラされています」

アリーシャ「ゴンベエ!?」

ザビーダ「うっそだろ!?マジで!?」

ゴンベエ「これが事実なんだよ」

アリーシャ「違います、その様なことは……確かに国の重役達にゴンベエが持っている技術を伝授、或いは本人を王都に住ませろと言われましたが、決してそんなのでは」

ゴンベエ「政治の道具にされているだろう」

ザビーダ「見掛けによらず大胆だね、アリーシャちゃん!」

アリーシャ「そ、その様な事は決してしていません!!……そういう事をしろと言う意図はありましたが」

ゴンベエ「意図っつうか、それしなきゃオレ達晒し首だぞ?」

ザビーダ「……重くねえか?」

アリーシャ「……ハイランドの上層部は、私やゴンベエを厄介者として扱っていますので。先のグレイブガント盆地でのいざこざで力で制圧するよりも懐柔した方が良いと手を変えてきたのだと思います」

ゴンベエ「んなことしても、レディレイクに住まねえぞ?」

アリーシャ「私としては、川辺付近で住むよりもレディレイクに住んだ方が良いと思うのだが、レディレイクなら水車付きの家を簡単に作れる。私が用意を」

ゴンベエ「んなことしてみろよ、確実にお前関係で呼び出される」

アリーシャ「私もゴンベエ関係で呼び出される」

ザビーダ「……二人って、付き合ってんの?」

ゴンベエ「ちげえよ」

アリーシャ「確かに私やゴンベエの様な年頃になれば色恋沙汰で盛り上がりますが、今は災厄の時代であり、人の世も荒れています。恋愛に現を抜かす暇はありません」

ゴンベエ「けど、こういう事やってると、結婚適齢期過ぎるんだろうな」

アリーシャ「大丈夫だ。確かに愛する人との結婚は女性にとって幸せだが、なにもそれが全てではない。こうやって一緒に色々な物を見るのも一つの幸せだ」

ゴンベエ「言うねえ……どうしたザビーダ?」

ザビーダ「……もう、付き合った方がいいぞ(爆発しろ)

ゴンベエ「色々とおかしいだろう」

アリーシャ「ザビーダ様、ゴンベエと私は如何わしい関係ではありません!手を繋いだりベッドで寝たりしますが、一切如何わしい行為はしておらず、ゴンベエが手を出すこともしません!」

ザビーダ「じゃあ、アリーシャちゃんはこいつが付き合ってって言ったらどうすんのさ!?」

アリーシャ「時と場合によります」

ザビーダ「即答……やべえ、聞きたいけどそれ聞くと全女性天族を敵に回しそうだ」

ゴンベエ「オレ達は知人以上恋人未満みたいなもんだよ」

ザビーダ「絶対に違う!」


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ユクフー=アメッカ

ORZの形で押し倒しています。一緒の布団で手を握って寝てます。


「本当になんとお礼を言えばいいやら」

 

「いえ、気にしないでください……」

 

 病気に苦しむ村の人達にゴンベエが作った薬を分け与えると、病気は治った。

 小さな村で、若い世代が流行り病で死んでしまえば、この村は滅びる可能性がある。村を代表し、村長がお礼を言うが私はなにもしていない。薬を作ったのはゴンベエで、私はその一部を持っていただけにすぎない。

 

「しかし、それだけでは」

 

「そう思うなら、本物の導師がやって来た時になんかしてやれよ」

 

「本物、ですか?貴方達が導師ではないのですか?」

 

「噂と全く違うだろう」

 

 ゴンベエは紙を取り出して、スレイ達の絵を描いていく。

 人相画があればまたあの様な偽の導師が現れても騙されることがない。結局、あの偽の導師は捕まえる事が出来なかったので、スレイ達の人相画をハイランドに配布すれば捕まるかもしれない……家に帰ればだが。

 

「これが導師……」

 

「じゃあ、オレ達は帰るな。食料ありがとう」

 

「また此方にいらっしゃる時は精一杯おもてなしします」

 

「あ、うん……」

 

 数日分の食料を背負うゴンベエは何時もと違うオカリナを取り出して、何時もと違う曲を吹くと竜巻が発生し私達を包み込んだ。

 竜巻で視界が遮られてなにも見えなくなるが体が四方八方に吹き飛ばされる感覚は一切なく、竜巻が消えるとゴンベエの家の前にいた。

 

「こんな便利なものもあるのだな」

 

「つっても、マーキングしとかんといけねえ。

元々、レディレイクと家の往復を延々と繰り返していただけだから前はマーキングを…………」

 

「どうした?」

 

 川の下流を見つめているゴンベエ。

 望遠鏡を取り出して眺めた後、私に望遠鏡を差し出すので川の下流を見るとなにかを探して辺りをウロウロとしている人が数名いた。

 

「アレは?」

 

「大方、国の上層部に家を探ってこいって言われた間者かなんかだ」

 

「なに!?」

 

「大地の汽笛とかの作り方を教えてほしいって言っているのに、それとは無関係な焼土とか透明度の高いガラスの作り方を教えたのが仇となったか……ったく、簡単なんだから自分で考えろよ」

 

 彼等が何者なのかを推測するゴンベエは苛立つが、彼等の元には向かわない。

 倉庫に向かってなにか触られていないかの確認をし、特になにもなかったのでそこで終わった。

 

「彼等に会わなくて良いのか?」

 

「別に問題ねえ……と思う。

川の上流付近に家があんのにあの辺でウロチョロしてるってことは、此処まで来れない。なんか結界が貼ってあるから。

直接襲ってきたりしない限りは基本的に無視する方向だ。それよりも、貰った食材を冷蔵しねえと……家を開けてたから、汚くなってるし、掃除ぐらいは手伝ってくれよ」

 

「それぐらいなら、幾らだってする……いや、それ以上もしなければ」

 

「口動かす暇あるなら手を動かせ」

 

 予想以上に早く家に帰ってくることが出来たものの、全くといって手付かずのゴンベエの家。

 ある程度は綺麗にしてあったが、それでもと埃で床が汚くなっていたりしており私達は掃除をする。前回はコーラを飲んで一休みし、グレイブガント盆地に行ってなにをするのかと言う事に意識を向けていたが、レディレイクの一般的な家よりも遥かに物が充実しており、家の作りも違う。

 

「どうしてここだけ凹んでいるんだ?」

 

「炬燵使うのに凹みが必要なんだよ」

 

「炬燵?」

 

「暖房器具の一種だと思えば良い。冬の時期にしか使わないから、今は見せないが」

 

「そうか、なら冬になったら見に来るか……このレーズンが入っている瓶、腐っているのだが捨てた方が」

 

「それパン酵母だから捨てんな」

 

 物一つ取っても色々と違うゴンベエの家の掃除。

 埃を一ヶ所に集めると掃除機と呼ばれる吸引器に纏めて入れて、砂や塵などもなくなり綺麗になった。

 

「飯作るぞ、飯。

あの村、米とか栽培していないから銀シャリじゃなくてパンになるが大丈夫だな?」

 

「構わないが……その」

 

「働け、働け」

 

 ゴンベエはボウルを取り出し、小麦粉を入れてお湯を用意し始める。

 料理が苦手な私でも、パンを作ることぐらいならば出来る……かもしれない。材料を入れて、捏ねるだけだ。前にゴンベエが作った焼おにぎりと違う。変に難しいことをしなくて良いと自分に言い聞かせる。

 

「待て待て、アリーシャ……なにをしている?」

 

「発酵はある一定の温度が必要だ。

ならば、程良い熱を持つ私の鎧に被せて」

 

「おま、お前……お湯で濡らした布巾をボウルに被せれば良いだけだからな!?」

 

「そう、なのか?此方の方が良いと思うのだが」

 

「ちゃんとした道具を使え。レシピ通りに作れるようにしてからアレンジしてくれよ……何時か死人出すぞ」

 

「……私に料理の才能は無いのだろうか……」

 

 料理をするでなくしてもらって当たり前の環境にいるので、全く料理が出来ない。

 ライラ様やミクリオ様は天族で食事をしなくても良いが、料理は出来る方だった……私にはそう言ったものの才能は無いのだろうか?

 ゴンベエのパン生地と比べて自分のパンの生地がベタベタとしているのを見て、余計に落ち込む。

 

「才能以前の問題だ。

つーか、料理は導師関係と違って、お手本を何度も見て数をこなせば良いんだ。

レシピ通りに作っていれば完璧に絶対にその味にとは言わねえが、それでもそれなりに美味い味になる……発酵させている間に他の準備するぞ」

 

 ザビーダ様を探している間、野宿の際は基本的にゴンベエが作っていた。

 サンドイッチの様に簡単に出来る料理だったが、今日はゴンベエの家なので少しだけ手の込んだ物が作れる。

 ミートボールにジャガイモ、人参、ホウレン草のシチュー、アイスクリームと色々と作ることに。

 

「こうやって手のひらで丸めて……多少雑かもしれないが、これでどうにかなる」

 

「こう、だろうか?」

 

「そうそう」

 

 一緒に料理を作るなんてしたことがなく、初体験だったが悪い気分でなかった。自分で作ったご飯は一段と美味しく感じて楽しかった……だが、直ぐに自分でその時間を壊した。

 

「聞か、ないのか?」

 

 家にやって来てから、ゴンベエは一度も聞いてこない。

 私がレディレイクに帰りたくない理由を、なに一つ聞いてこずに何事もなく何時も通りに接している。ゴンベエなりの気遣いなのか、それとも普通に聞くのが面倒なのかは分からない。

 

「大体予想できるから聞かないだけだ。知ってほしいのか?」

 

「それは……」

 

 ゴンベエに知ってほしい……のだろうか?いや、ゴンベエは気付いている。言わなくても、大体分かっている。今の私はゴンベエになにを求めているのだろう?

 

「今まで自分の中にあった何かがザビーダとの一件で全て崩壊した、そんなんだろ?」

 

「……うん」

 

 ゴンベエに出会う前は自分を変えて世界を変えるんだと騎士となり頑張っていた。ゴンベエと出会った後は、導師のシステムやどうすれば良いのかを知ることができたが、私は力がなくてなにも出来なかった。

 スレイと出会い、スレイが導師となった事により停滞していた世界が前に進みだした。相変わらず、私は力がなくて足手まといだったが、それでも世界は良い方向に進みだした。

 頼ってばかりのゴンベエに頼られ嬉しくなり、旅について行きザビーダ様と出会い……今まで自分の中にあったナニかが壊れた。

 

「数百年間、同じ道ばかり辿った末が今の時代……導師を頼りすぎた私達は愚かだ!!」

 

「私達じゃない、オレを含めるな」

 

「導師じゃ世界は救えない……どうすればいい?」

 

「いや、知らんがな」

 

 なにも出来なかった、力を持っている人はなにもしなかった。だから、頑張った。だが、力がなかった。力を持っている人が力を分け与えてくれたが、そのせいで持っている人に迷惑をかけた。だから力を借りなかった。自分でも出来ることがあると頑張った……でも、その頑張り自体が無意味だった。一時的な物にすぎないと分かった。

 

「頑張っても頑張っても、諦めずに進もうとしてるのに前が見えない……なにをすれば良い?なにをしたら皆を本当に救えるんだ?」

 

「知らねえよ、そんなもん」

 

そうか……私よりも賢くて、色々と知っているゴンベエでも知らないのか。

 

「もう、疲れた……」

 

 陰口を叩かれる、疫病の街に派遣される、友人を導師を政治の道具に利用される、無実の罪で投獄される、災禍の顕主と国は繋がっている。

 人々の心が荒んでしまう仕方ない時代だからと必死になって耐え抜いて、頑張ってきた。ゴンベエと出会い世界の真実を知った。力が無くて悔やんだが諦めてはいけないと各地を旅した。

 スレイという希望に出会った。スレイは導師という希望となり、私が求めていた力を持っていて……私にも力を分け与えてくれた。だが、そこでも私は足手まといで邪魔になった。

 

「もう頑張りたくない」

 

 頑張って頑張って頑張ったけど、頑張っても報われない。希望はあると信じたけど、何処にもなかった。ザビーダ様とした会話は否定ばかりで、なんの答えもでなかった。

 一時の平和に楽しむ馬鹿になりたい。なにも気付かずに立ち上がらない臆病者に、卑怯者になりたい。

 疲れてしまった私はゆっくりとゴンベエの隣に座って肩に寄りかかる。

 

「……お酒、無い?」

 

「基本的に飲まねえから、ねえよ」

 

 ……飲んで全部忘れたいけど、無理か。

 

「ゴンベエ、わかってた?スレイが頑張っても意味無いって」

 

 もう我慢したり頑張らなくて良いなら、無理に固くしなくて良いよね。

 

「まぁ、一応というか薄々というか直感というか……この国を見ればなんとなくだが分かる」

 

「そうなんだ……」

 

「……逃げたいなら逃げても良いぞ。辛いなら泣けば良い。

別に強い人間とか高貴の人間の義務とかそういうのは言わないから、辛いときは誰だって辛いんだ。諦めることも大事だ、諦めてもオレは責めないし、嫌なときは嫌だって叫んだ方が良い」

 

「……ありがとう」

 

 私はそう言うとゴンベエを押し倒して泣いた。

 今まで我慢していたこと、バルトロ達にいじめられたり、何も出来なくて悔しかったり、どうすれば良いのか分からなくて怖いことを言った。ゴンベエに頭を撫でて欲しいと頼むとゴンベエは撫でてくれた。

 逃げるなとか諦めるなとか言う人は今までいたけど、ゴンベエみたいなのは居なかった。逃げて良いと諦めても良いと言ってくれて嬉しかった。今までそんなのはダメだって思ってたのに……ゴンベエがいっていた清く正しく完璧だと見えない世界ってこれなのかな?今まで通りだったら苦しみから解放されなかった。

 

「ゴンベエは苦しくないの?」

 

 私ばかりゴンベエに頼りきりはいけない。ゴンベエはこの事に関して苦しくないか聞いてみた。

 

「あ~……その辺は、色々と価値観が違うから。元から予想してたし、そこまでだ」

 

「価値観って、どうなってるの?」

 

「その辺は口で説明するのは難しい。

うちの国は、まぁ、豊かっちゃ豊かだ。生活水準が高い国で……学歴社会、だった」

 

「だった?」

 

「うちの国はある年齢までは学校に行く義務がある。

勉強して良い成績を取って有名な学校に進学して、大手の商会に就職する。オレがガキの頃はそれが正しいと思ってたし、現にそういう感じの社会だったが……徐々に変わっていったよ。それがどちらかと言えば間違った考えだったかもしれないってな」

 

「どうして?」

 

「知識と知恵は違う。普段はダメでもテストで点数を確実に取る方法はある。

有名な学校に通っていても一般教養しか出来ずに人としての常識が無い奴が増えたりした。

今まで正しいと思っていた考えや指導が実は間違っていたという事実も段々と明らかになってきた。

オレは摂津の国の出身だが少し前までは出雲の国にいて色々と学んでてな……結構酷いことを言う教官が居たんだが、ある意味そうかもと思える事ばかりを言いやがる。

仕事をする理由の大半は金のためであり、やりがいがあると思っているのは一種の洗脳教育かもしれない。やる気が無いなら帰れはアホが言うこと、やる気を出させるのが指導者の仕事、今時のガキは覚えたいと思えばある程度は勝手に覚えれる。そういう道具もある。漫画はある意味一番分かりやすい説明書。

中学以上の学校はどちらかと言えば人間力を鍛える場所で勉強したければ塾や通信教育の方が良い、高校からの勉強の殆どは専門職以外では使わない。数3とか数Bは考える力を鍛えるためだけにある。

社会は二十数年周期で考え方などが変わり、その考え方とどう向き合いどう柔軟になるかが大事。社会が求めているのは新しいものを作り出す天才でなく、今あることを効率よくそつなくこなして下手に逆らわないイエスマンの秀才で、むしろ天才は今までの社会の在り方を崩壊させるので危険な存在。二十年以上現場で働かなくなった業界のトップはなにも分からない。現場には現場の苦しみがあり、上には上の苦しみがあり理解し合えない……他にもまぁ、世間や社会は理解してても言わない事をストレートに言ってくる仏だったよ」

 

「酷いね……」

 

「逆だ、そっちの方がオレは好きだった。

イオン化傾向なんて専門職以外は使わないからぶっちゃけ覚えなくても生きていくことが出来るが、今現在は覚えておかないとダメな社会だから仕方なくでも良いし意味理解しなくても良いからテストで点数とれる様に記号だけでも覚えろって妥協しろって言うやつだ。ぶっちゃけ文字の読み書きと意味を覚えるのと基本的な計算以外の殆どの一般教養は覚えなくても良いと思うんだよ~それならパワポとかエクセル覚えろって、言ってくるぐらいにとんでもない仏だ……けど、それはあながち間違いじゃない」

 

「イオン化傾向?パワポ?エクセル?」

 

「気にしなくても良いことだ。覚えなくても生きていける……まぁ、でも考える力を養うために覚えたりする……あ~でも、理科だからそこまでなんだよな……」

 

 変わった方だね、ゴンベエの先生は。

 

「仕方ないと諦めて妥協するのも世の中大事だって教えられたな。

勇気をもって諦めずに前に進むのと同じぐらいに怯えて立ち止まって、第三者視点で客観的に見たりひねくれたり批判したりするのも大事だって……って、アリーシャになに話してんだ、オレは。忘れろ、今の」

 

「嫌よ」

 

 口調が崩れているけど、もうどうだって良い。

 逃げて諦めてしまい、穢れているかもしれない。でも、構わない。今、こうして落ち着ける少しの時間が何よりも欲しいから……。

 

「……なんでこんなことになったんだろう……」

 

 今までの努力が無駄だなんて言わない。本当に無駄だったとしても、それは私が選んだ事だから後悔しても仕方ない。

 だけど、どうしてこんな社会に、こんな世界になったのか気になる。歴代の導師達はなんで普通の人達に天族を見えるようにしなかったんだろう?なんで天族を信仰するんだろう?

 気持ちが大分落ち着いてきたから、今まで考えなかった事を考えてみると、答えらしい答えは見つからない。ゴンベエ、は無理か。この国育ちじゃなくて、信仰を捨てた国なんだから知らないよね。

 

「裏の天遺見聞録なら、なにか書かれているかな?」

 

 作者こそ違えど、私の知っている天遺見聞録と異なることが書かれている、表に出すことが出来ない歴史の闇が書かれている裏の天遺見聞録。ザビーダ様はなにが書かれているかは知らないがなにが語られているか知ってる。

 結局、ナナシノ・ゴンベエもマオクス=アメッカについてもなにも聞けなかったから、今度探してみよう。

 

「アリーシャ……多分、それオレ達だぞ?」

 

「……え?」




スキット 君の前だけ

ゴンベエ「ねっみぃ、今何時って、時計持ってなかった……あれ、アリーシャいない?」

アリーシャ「……」

ゴンベエ「アリーシャ,どうした?」

アリーシャ「っ!?」

ゴンベエ「なんかスゲえ顔になってる。朝飯作っとくから、気持ちを落ち着かせとけよ」

アリーシャ「うん……」

ゴンベエ「あ~、米食いたい。適当にベーコンエッグにでもするか」

アリーシャ「……確かに、確かに精神的に疲れていた。もう嫌だって思っていた、ゴンベエの言葉は嬉しかった……ゴンベエを堂々と押し倒した。なにをしているんだ私は!!!」

ゴンベエ「うるせえ!!」

アリーシャ「あ、すまない……本当になにをしているだ私は。ゴンベエを押し倒すて、泣きじゃくって甘えて……」

ゴンベエ「え、今さら?」

アリーシャ「……今までのとは違う。ゴンベエ、昨日は見苦しいところを見せてすまない」

ゴンベエ「うん、まぁ、溜まってたもんを発散出来たなら別に問題ないが……て言うかそれってキャラ作りなのか?」

アリーシャ「キャラ作りではない……女性としてでなく騎士としてと、平和な時代になるまではと自分にしていた誓約の様なものだ」

ゴンベエ「男女差別は何処に行ってもされるから……あれ、その場合だと、あのおばはんは……」

アリーシャ「いい加減にマルトラン師匠をおばはんと呼ぶのはやめてくれ」

ゴンベエ「やだよ、あのおばはんはなんか生理的に無理なんだから……とにかく、昨日のは頭の中から消しといた方が良いか?」

アリーシャ「……ダメ……」

ゴンベエ「そうか。あんまり触れねえ様にするよ……辛くなったら泣いたり弱音吐いたりしていい。けど、そればっかだとダメだ」

アリーシャ「うん……きっと、今から行くところは今より酷いんだろうね。覚悟はしてるよ」

ゴンベエ「また崩れた」

アリーシャ「これは、ゴンベエの前だけで見せようかな……」

ゴンベエ「え~~~~~~~~~」

アリーシャ「そ、そこまで露骨に嫌な顔をしなくてもいいじゃない!」

ゴンベエ「やだよ……時折アリーシャが恐ろしく感じるから」

アリーシャ「私、ゴンベエに暴力なんてしたこと無いけど?」

ゴンベエ「……依存してくれるのはありがたいが、もし力を手に入れたりしたらオレは捨てられるんだろうなぁ……まぁ、そんなもんだろうが」

アリーシャ「?」

ゴンベエ「一応のために聞いておくが、オレ達の関係ってなんだ?恋人関係じゃないだろう。と言うか、そんなのなったらオレ、この国の偉い方にああだこうだ言われるし、アリーシャはまたなんか言われるぞ」

アリーシャ「……分からないよ。夫婦でも友人でもない……知り合いだけど、それ以上の関係だし……」

ゴンベエ「……なんか抜けてる」

アリーシャ「私にとってゴンベエは弱さを見せれる人、弱いことを認めてくれる人かな?」

ゴンベエ「笑顔が似合うな。尊いとはこの事か?」

アリーシャ「でも、ゴンベエにとって私はどういう存在なんだろう……」

ゴンベエ「若干面倒だけど綺麗な女性でなにかと縁と義理と恩がある、以上」

アリーシャ「……嬉しくない!!」


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さかさまさかさま まさかさまさかさ

スレイ、ライラ様、エドナ様、ミクリオ様。

今頃皆様の力を合わせ、災禍の顕主であるヘルダルフを鎮める新たな力を得るべく厳しい試練に挑んでいるでしょうか?

私は力なく、皆様の旅に同行することが出来ず力になれず、色々と迷惑をかけていて申し訳ありません。

あの後、色々とあって私はもう疲れてしまいました。もう何もかもが嫌になりました。逃げて諦めた私を許してくださいとは言いません……頑張ってください。

 

「……何処だここは!?」

 

「うっそだろ!?」

 

 逃げた私は現在……いや、これは現在なのだろうか?

 ゴンベエと一緒にとある所に向かおうとし、今は……大空にいます。

 

「ヤバい、ヤバイぞ!!どうして真下が海なんだ!?」

 

「ついさっきまではゴンベエの家で、そこからなら大きな川辺じゃないのか!?」

 

「知らねえよ!!」

 

 予想していたところと違うところにいて慌てる私達。

 何時もならなんだかんだしているゴンベエも空を飛ぶことは出来ず、慌てている。

 

「このままだと海に墜落……いや、それの方が良いのか?」

 

「分からん!!とにもかくにも時間がほしい……えっと、こういう時はデクの葉だ!アリーシャ、オレに掴まれ!」

 

「ああ!」

 

 なにも分からず、このままだと海に落ちる。

 ついさっきまで時間がどうこうだったのに、今もまだ時間を求めているのは皮肉かもしれない。

 ゴンベエにしがみつくとゴンベエは巨大な葉っぱを取り出して端と端を両手で持つと降下する速度が落ちた。

 

「ふぅ……まさか、デクの葉を使う日が来ようとは……アリーシャ、何処かに島はないか?」

 

「……此処等一帯、全てが海だ」

 

「そうか」

 

 急な速度での降下を食い止めたが、ゆっくりと落ちていく。

 このままだと海に落ちるのは時間の問題で何処かに安全に降りる事が出来る島はないかと探すが、島はない。

 

「ゴンベエは魚の妖精になればいいが……泳いでいけるだろうか?」

 

「水中で呼吸することが出来る道具とかあるから、それに着替えれば……と言うよりは、オレが船に化ければ良いだけだ」

 

「船にもなれるのか!?」

 

「完全に一人乗りのやつだが、一応は化けれる……にしても、一面海は予想外だ。川か草原に出ると思ったんだがな」

 

「グリンウッド大陸は過去に地震や火山の噴火などで形が大きく変わったと聞いたことはある……だがまさか、1000年前のこの場所が海だとは思わなかった」

 

「いや、此処はオレ達が居た場所じゃない……明らかに違う場所に飛んでしまった。曲、ミスったか?」

 

「そもそも、今が1000年前なのも怪しい……本当に私達は時を越えたのだろうか?」

 

 海しかなく、知っている街や知っている歴史の偉人は何処にもいない。

 ゴンベエが使っているオカリナが普通のオカリナでない特殊な物なのは知っているが、流石に時間移動は疑ってしまう。なにも知らない分からない見知らぬ海に居るためか、様々な不安は過る。

 

「それを今から知りに行くから来たんだろう……きっとなんか大きなターニングポイントが此処にあったんだろう」

 

 本当に此処がターニングポイントなら、なにがあったのだろうか?裏の天遺見聞録に書かれている歴史の闇が今、起きているのだろうか?

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※時を遡ること少し前※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「マオクス=アメッカが私……確かにスレイがその名を与えてくれたけど、私の名前はアリーシャ・ディフダだよ」

 

 マオクス=アメッカが私で、ナナシノ・ゴンベエがゴンベエだと言い出したゴンベエ。

 あながち間違いじゃばいけど、あくまでもそれは千年も前の人で、私達じゃないよ。

 

「それを言ったら……いや、これは関係ないか」

 

「?」

 

「多分と言うか、確実にアリーシャとオレなんだよ」

 

「……私達の先祖じゃないの?」

 

 ねこにんの里に行く時やノルミン天族、それにザビーダ様は私達を見るだけでなく私達の鎧や剣を見て驚いていた。

 私の鎧の一部は先祖の代から使っているもので、ゴンベエの物もなにか由緒正しい物の筈だよね?

 

「アリーシャ……お前は知りたいか?」

 

「……うん、知りたいよ。

私の選択は間違っていた……後悔はしないけど、気になるよ」

 

 どうしてこんな事になったのか知りたい。

 ザビーダ様が言うには導師のシステムは色々と改良されていき、今のシステムになった。だったら、一番最初はどうだったのか?ザビーダ様は浄化の力が無かった頃も知ってる。歴史の闇も知ってる。

 

「次は裏の天遺見聞録を探す旅をするの?」

 

 それなら私もついていく。と言うよりは、ついていかなきゃダメだよ。

 ゴンベエ、この国の文字が読めないから、私が読んであげないとなにも分からない。

 

「違う、直接見に行く」

 

「?……遺跡巡り?」

 

「違う……1000年前にタイムスリップする」

 

 ゴンベエは一冊の本を私に渡す。

 押し倒した状態では読みにくいから私とゴンベエはゆっくりと起き上がって、ゴンベエを背もたれ代わりにして本を開く。

 

「これは確か……勇者の物語?」

 

 本の文字はこの国の文字でも古代の文字でもなく、読むことが出来ない。

 けど、一度だけ読んだことがある。ゴンベエが見せてくれた勇者の昔話が書かれた本。勇者と言えば緑衣だろうと見せてくれたものだ。

 

「……ゴンベエがあの時、着ていた服もそうだったね……」

 

 前は少ししか見ることが出来なかったが、今は読むことが出来る。

 文字は読めないが挿絵で分かる。悪い存在が世界を支配しようとした際に勇者がやって来て悪い存在を倒したりする物語で砂時計や大地の汽笛等も描かれている。

 

「オレ自身はそこに描かれている勇者じゃないが、その力は使っている。前に、そんな事を言っただろ?」

 

「……覚えていない」

 

 それっぽいのは聞いたけど、あの時は他の事に意識が向いていた。

 ゴンベエが勇者とかそれぐらいしか覚えておらず、なにを言っていたか思い出せない。

 

「覚えとけよ……時の勇者の物語。

悪い奴が世界を支配しようと闇に飲み込もうとした瞬間に何処からともなく退魔の剣を持った緑衣を纏った男がやってきて、悪い奴を封じ込めた。そいつは時を越えてやってきたから、時の勇者と呼ばれている」

 

 馬に乗った緑衣を着ている金髪の男性の挿絵のページを開くゴンベエ。

 何処からともなく時を越えてやって来た……本当に時を越えてやって来たのかな?時間を越えてやって来たって、事は絶望の未来からやって来たの?

 

「だが、時の勇者は悪い奴を倒して元の時代に帰った……が、禁忌を犯してしまった」

 

「過去を変えてしまった、か?」

 

「逆だ、未来を変えたんだ」

 

「?」

 

「時の勇者は元々は子供だった。

退魔の剣を振るうには幼かったから、強制的に大人に……七年後の未来まで封印されていた」

 

「じゃあ、時の勇者でもなんでもないじゃない」

 

「いや、過去と未来を行ったり来たりすんだよ。

過去と未来を行き来して、悪い奴を倒すための力を得ている……けどまぁ、問題は全てが終わった後だ」

 

「全てが終わった、後?」

 

「元の時代に戻った勇者は悪い奴を悪い奴だと密告して、別の未来を作り出した。

分かりやすく言えば七年後のハイランドはバルトロが支配していた。支配する切っ掛けは一週間後にあり、それを食い止めればハイランドは支配されない。しかし、アリーシャはなにも出来ずに七年間閉じ込められて七年後のバルトロを退治した後に、七年前のバルトロも退治した」

 

「……バルトロを退治したんだから良いじゃないの?」

 

「バルトロならな。

笑えないことに、この悪い奴は何度倒しても封印してもしつこく復活する。

時間を越えて歴史を大きく変えたせいなのか、七年後の未来の更に未来で復活したこの悪い奴の前に時の勇者は現れなかった。元いた時代でも倒した悪い奴が復活して勇者の子孫らしき奴と戦ったりした。二つの世界が、二つの未来が生まれた……話は戻すが、ナナシノ・ゴンベエとマオクス=アメッカはオレ達だ」

 

「……なんで、そう言えるの?」

 

「オレとアリーシャは時を越えたんだよ。

今みたいになにがどうしてこうなったんだって、知りたいって思って時を越えた。

越えた時代は恐らく1000年前、この大陸で大きく歴史が世界が動いた時代に飛んでいった」

 

「た、確かに私は今、知りたいよ。

どうやってこうなったのかって……時を越えてなにがあったのか見ることが出来るなら、見てみたいけど……本当に私達なの?」

 

 もしかしたら違う可能性があるよ。今までと違い、突拍子もない事だからすんなりと信じることが出来ない。

 ゴンベエは自分の剣を握って、刀身をジッと見つめる。

 

「オレはともかく、アリーシャとマオクス=アメッカがそっくりだ」

 

「私の先祖なら、そっくりな可能性が」

 

「お前、親と子供は似るがそこまで似すぎるのは中々にない。

アリーシャの遺伝子がバグって先祖返りしたって言うなら、今度は鎧の方だ」

 

「鎧の……私の鎧の一部は、先祖が」

 

「その先祖は1000年前の人間か?ねこにんの里の住人は、お前の鎧を見て驚いていた。

今までの事を考えるとザビーダと出会ったのは約1000年前で、その鎧は1000年前からあんのか?」

 

「……ない……」

 

 この鎧の一部は昔に作られたものの、1000年前に作られた物じゃない。

 だけど、私の鎧がねこにんの里に行く紹介状の代わりになった。丈夫な鎧で素材も上質だが1000年もたてば使い物にならなくなる。なのにねこにん達には普通に私の鎧が紹介状として通った。

 そもそもで鎧の透明な部分を作った人がマオクス=アメッカなら名前を知っているはずだ。

 

「……今日はもう寝るぞ。

明日、時を越える……いや、この場合だと遡るなのか?とにもかくにも、色々と見に行かねえと、気が済まねえ。

どうしてエドナの兄はオレとアリーシャに対して鉱石類を残したのか、レコードの作り方を知っていたのかが気になる。なによりも、あのレコードは誰の為に作ったものなのかが気になる……おやすみ」

 

「そのまま寝るの?」

 

 私の背持たれがわりになっていたゴンベエは、移動せずに足を伸ばしてそのまま寝転ぶ。布団ぐらい、敷かないと

 

「一人暮らしだから布団一つしかねえんだよ。押し入れにあるから勝手に使え」

 

「あ……うん……」

 

 ゆっくりと眠り出すゴンベエを追いかけるように私は眠った。

 ゴンベエを布団と枕代わりにし、何時もよりも健やかに眠ることが出来た。今まで溜まっていた物を吐き出せたお陰で、朝はスッキリとして……スッキリし過ぎて、今までで一番とんでもない事を仕出かしたと気付いて恥ずかしくなった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 家に帰るのに使ったオカリナと違う、何時ものオカリナを吹いたゴンベエ。

 吹いた曲も帰る際に吹いた曲と異なり、竜巻は発生せずに眩い光が発生して私達を包み込んで空にいた。

 

「時を越えたなんて、本当に実感がわかない……海ばかりだ」

 

「時の勇者も未来と現代を行き来するのに使っていたからな。

過去に戻るのも、三日前に戻るとかいうシンプルな使い方で千年も前に遡った事ないからな……」

 

 ついさっきの事を思い出している今でも、周りは海ばかり。

 色々と準備をしたが、まさか雲の上に飛び出るとは思っていなかったので船なんてない。ゴンベエがいなければ、死んでいたな。

 

「とりあえず、何処かの島を見つけて情報収集。

つっても、ハイランドかローランスのどっちかが存在しねえなら、それだけでタイムスリップに成功になる。

オレはこの大陸の歴史に全然詳しくないし、後世まで名が知られてる有名な人物とか出来事とか分かったら教えてくれよ、アメッカ」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

 残酷な世界、なにかとんでもない事が待ち構えているのは確かだ。

 先ずは何処かの島に、何処かの国に向かって情報を集めていく。導師がいるならば、なんとかして会えないか試してみる。

 此処では騎士でもなんでもないただのアリーシャ……今までの様にすんなりとは行かないだろうが二人でならきっと乗り越える事が出来る。

 

「あれを見てくれ!船だ!」

 

 ゆっくりと落ちていき、海の波や波紋、潮の流れ等が見える高さになると一隻の船が見える。

 

「なんか、見たことねえ感じの船だな……」

 

 一隻の船はヘルダルフを海に沈める時に乗った船とは大きく異なっていた。

 船に詳しくはないが、それでも見たことのない、どうしてそこに帆があるのだろうかと思えるような船だった。

 

「エリクシールと同じで、古代に滅んだ造船技術で出来た船だと」

 

「造船技術が滅ぶって、なにがあったんだよ……」

 

「それを知る為にやって来た」

 

「……ま、そうだな」

 

 エリクシールが滅びる原因は分かったが、造船技術が滅んだ原因は分からない。

 船に降りる事が出来れば、船員達に様々な事を聞くことが出来る。此処が本当に1000年前なのか知ることが出来る。この機会を逃してしまえば、此処が何処なのかも分からない。ゴンベエは船に向かった。

 

「がぁ!?」

 

「ゴンベエ!?」

 

 そして船の大砲に撃たれてしまい、ゴンベエは急降下する。私もゴンベエから手を放してしまい落ちて、海に墜落してその際の衝撃で意識を失った。




スキット 奴等は何者

??????「副長、撃ち落とした二人、上がりました!」

????「そうか」

??????「いやそれが、網に普通に引っ掛かって数人で引き上げて……今は意識を失ってるっすよ」

????「なにか分かったか?」

??????「男女のペアで、アイツ等に近い年齢……けど、聖寮じゃないぽいっすよ」

????「聖寮じゃないか……だが、紛れもなく奴等は空にいた。その二人はオレ達が引き受けた……万が一もあるから警戒を怠るな」

??????「了解っす!」

????「てことだ、さっき撃ち落とした奴等の身ぐるみ剥ぐの手伝え」

??????「身ぐるみ剥ぐの!?」

?????「なんでそんな事を私達がしないといけないのよ?」

????「万が一だ。ベンウィックは聖寮じゃないと言っているが、奴等は空からやって来た。もし、聖寮の関係者ならば身ぐるみ剥いで空を飛ぶ術を此方も手に入れなければならない。そうでなくてもだ」

????「流石に空を飛ばれて来られちゃ、かのアイフリード海賊団でもお手上げか」

????「相手が空の男ならば、海の男では太刀打ち出来んと言うわけじゃのう」

?????「空を飛ぶ術……それがあれば殺すのに無駄な移動が省けるわね」

??????「拷問とか、するの?」

?????「嫌なら見なければ良いでしょ」

????「それは最終手段で、そう言う手は余り通じない。拷問されて口を割らない様に訓練されている所は多く、最悪自害する。一先ずは身ぐるみを剥がして、独房にぶちこむ。その間に持ち物から何処の住人なのか推測する」

??????「そうなんだ……よかった……」

????「まぁ、流石に戦う意思のねえ奴をいたぶるのは趣味じゃねえよな」

????「お主と坊の考えが若干噛み合っとらんぞぉい」

?????「それで、コイツらが空を飛んでいた奴等?女の方、大きな鞄を背負っているわね」

????「待て……なにがあるかは分からない、下手すれば爆発するかもしれん。オレが先にこいつから鞄を取る」

????「おお、そうだった……もしかするとコイツらは死神の呪いが呼んだのかもしれねえな。お、男の方の剣、束からしてかなりの業物とみ、ぬぅおあ!?」

????「おい、言った側から勝手に触れるんじゃねえ!!」

????「す、すまん」

????「じゃが、触った事で一つ分かったの。この剣はロクロウを拒みおった。剣は何処まで行っても剣で、斬ることしか出来ん……なにかはあるのう」

??????「なにか?」

????「うむ、なにかじゃ!」

?????「なによそれ、分かってるならハッキリと言いなさいよ」

????「いやはや、残念じゃが魔女の叡知を持ってしても分からんのじゃよ」

????「魔女の叡知がなにかは知らねえが少なくとも、この剣はコイツにしか触れない選ばれし物の剣と言ったところか……」

??????「あ、普通に取れた!」

????「なに!?」

?????「予想、ハズレてるじゃない。あんたが触れるなら、私も触れるんじゃ……っ!?」

??????「ベルベット、大丈夫!?」

?????「大丈夫よ……ちょっと痺れただけだ」

????「どうやらライフィセットだけにしか触れな」

????「おお、意外に重いのぅ!」

????「マギルゥも普通に触れたぞ?」

????「……貸せ!」

????「なんじゃなんじゃ、がっつく男はモテんぞい……って、お主も触れるか」

????「みたいだな……俺とベルベットは業魔だから触れなかったのか?」

????「かもしれん……後は盾と袋と靴を取ってっと……次は女のほぅ、!」

ゴンベエ「……」

?????「こいつ、起きてた!?」

????「いや、意識を失っているぞ……剣の達人は寝ていても無意識で防衛したりすると聞く。恐らくそれだ」

??????「そうだったら、剣を取られる前に守ろうとするんじゃ」

????「よく見てみろよ。女の方は身なりが整っていて、何処と無く気品があるだろ?こいつにとって、女は守らないといけないものなんだろう」

??????「言われてみれば……そう、なのかな?」

????「そうじゃのう。この女の方はワシの様に気品と色気が」

?????「あんた、何処でなにを教えようとしてるの?」

????「酷いのぅ……とにかく、誰かが其奴の両手を封じている間に鞄を奪い取らんと。と言うことで頼んだぞい」

?????「なんで私が」

????「では、坊に身ぐるみを」

?????「やればいいんでしょ……はい」

????「割とアッサリと取れたな」

?????「武器らしい武器も無かったわよ、騎士っぽい格好をしているけどコスプレなの?」

????「コイツらの事はコイツらが十二分に知っている。考えるよりも聞いた方がいい……牢にぶちこむとして、鞄の中身は……鉄棒?」

?????「随分と汚い鉄、ぶぅおう!?」

????「おい、なにやってん、どうぅおあ!?」

????「鉄棒にくっついて、なーにやっとんじゃ?」

?????「違うわよ、急に棒に引っ張られたのよ!」

????「棒……そうか、これは磁石か!!ベルベットとロクロウの武器は刃物、磁石に引き寄せられたのか」

????「磁石にって、こんなに強力なもんなのか!?」

??????「ううん、そこまでの物じゃないよ。こんなに強力な磁石、はじめてみたよ」

?????「……確かに磁石を使っている羅針盤はそこまでの筈だったわ……」

????「ほっほーぅ……なにやらまだまだ色々な物が入っておるぞ。水晶並みに透明度が高いガラスの球じゃの。中になにかが入っておるぞ」

????「蒸し焼きした竹だな。他にも見たことのない物が多いな……とりあえず、牢にぶちこむか」


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風の指揮者

「……?……牢屋か」

 

 目を覚ませば、船の牢屋らしきところにいた。

 時のオカリナの時のさかさ唄を吹いた筈なのにどうしてこうなった?そもそもなんで海の上にいたんだ?千年前に地殻変動であの辺が出来たと言うには無理あるぞ。日本みたいな火山地帯とか、資源の量はともかく質は最上級で石油も取ろうと思えば取れるとか言うわけじゃないだろう。

 

「……脈も臓器がずれたとか骨が逝ったとかないか」

 

 隣で寝ているアリーシャを見つけて、何処かに異常が無いかを確認する。

 大砲の弾に当たったのはオレでよかった。アリーシャなら下手すれば死んでいたかもしれねえな……

 

「情報収集したいなら、少しだけ待てよ」

 

「!」

 

 扉の向こう側から気配を感じる。オレ達を見ておけと頼まれた奴だろう。

 今、この船の船長を呼びに行ってもアリーシャが意識を失ったままでなにも出来ない。此処が何処とか言われても、その辺に疎いオレはなにも分からない。こういうときに傷を治したりする魔法が無いのは苦しい。

 

「……前よりはましか」

 

 前に牢屋に入れられた時よりも厳重に閉じ込められている。ご丁寧に腕輪や靴も奪っており、逃げたり暴れられない様にしている……前に捕らえてきたバルトロの一派よりは頭が回るか。

 

「あんた達、何者?」

 

「ただの一般人だよ」

 

「くだらない事を言わないで。

今、自分がどういう状況に置かれているか理解しなさい」

 

「でも実際、一般人だぞ?

水車を利用して作った物を売ってて生計建ててるんだ。騎士になるとか偉い学者とか医者でもねえからな」

 

 扉の向こう側にいる奴は女だったか。

 かなり危ない発言をしているものの、身ぐるみをぶんどってポイ捨てする様な奴じゃなくてよかった。一応の話し合いが通じる……更に言えば、アリーシャと一緒の牢屋に入れているのが幸いだな。どっちかの無事が分からない状態で精神的に揺さぶられるとゲロを吐く可能性がある。

 

「一応聞くが、殺すつもりなのか?」

 

「知らないわよ、そんなこと。そう言ったのはこの船の面子が決めることで私には関係無いわ」

 

「ふーん、つまりお前はこの船の船員じゃない何らかの事情で乗ってるのか」

 

「つ!」

 

「そんな謀ったなって舌打ちしないでくれよ。

ぶっちゃけ、オレも状況が理解できない所が多いんだから……アメッカが、女の方が目を覚ますまで待ってくれ」

 

「……分かったわ」

 

 割と話が通じる女性でよかった。声が某アイドルに出てくる運営の手先に似ているから少しだけ心配だが、よかった。

 

「う……此処は」

 

「起きたか……とりあえず、起きたぞ」

 

「そう」

 

 アリーシャはやっと目覚めた。これで本題に入ることが出来る。

 女はドアを開いてオレとアリーシャの顔を見て、なにも言わずに背中を見せる。どうでもいいけど、えっらいスケベな格好をしているな。ドスケベ礼装よりもエッチだな。

 

「ついてこいって、ことか。アメッカ、行くぞ」

 

「……なんで名前じゃないんだ?」

 

「偽名は大事なのと、もしこの時代でアリーシャの先祖がそこそこの役人とかだったら迷惑かけるだろう」

 

 アリーシャはマオクス=アメッカと名乗らせる。真名は大事かもしれんが、命の方がもっと大事だ。と言うか、オレなんて名無しの権兵衛だぞ。

 

「とにかく、右も左も分からねえんだから慎重にだ」

 

「なにしてるの?早くついて来なさい」

 

 あ、やばい。チンタラしているオレ達にイラッとしたのか女は睨んでくる。

 これはまずいぞと少しだけ急ぎ足で女を追いかけると船長室らしい所に入ると船長っぽいのと子供と魔女っ子と侍っぽいのが……

 

「統一感0かよ!」

 

「ゴンベエ?」

 

「悪い、なんか魔女とか侍とか色々とツッコミたいの居たから……サーカス団かなにかかよ」

 

「いやはや、溢れんばかりのオーラは隠せんか。そう、ワシ等はマギルゥ奇術団じゃ!お前さんを連れてきたのは見習いでハトマネしか出来ないベルベット」

 

「マギルゥ、少し黙れ」

 

「というか殺すわよ?」

 

「折角盛り上げようとしたのに、つまらんのう……」

 

「けどまぁ、この男の言うとおり、この面子だと統一感一切無いからワケわからんのも無理はない」

 

 魔女がボケると威圧する船長っぽいのと女。子供はビクりと怯えており、侍らしき男はそりゃそうかと笑う。

 なんだこの面々は、人の事を言える義理じゃないけどもわけがわからねえな。

 

「オレはアイゼン……どうした、なにかついているのか?」

 

「い、いや、そうではない……少し知り合いに似ていて」

 

 あ~確かに誰かに似ているなこの男。声も姿も似ている……だが、人違いだな。アリーシャ、素で見えてるし。

 

「オレに似た奴だと……まぁ、良い。オレはアイゼン」

 

「それさっき聞いた」

 

「……こう言うのは形から入らないと気が済まん」

 

 んだよ、面倒だな。

 

「オレはアイゼン、アイフリード海賊団の副長をしている……この意味が分かるか?」

 

「……そこは船長じゃないのか?」

 

 溢れんばかりのオーラとかそういうのを除いても船長っぽい男アイゼン。船長っぽく見えるだけであり、本当は副長。何故にドヤ顔が出来ると恥ずかしくなったのか顔を手で隠して数分間なにかを考える。

 

「オレはアイゼン、わけあって不在の船長に代わってこの船を率いている」

 

「もうとっとと進めなさいよ。あんたが船長でも副長でもどっちだって良いじゃない」

 

「そう言うわけにはいかん。アイフリード海賊団のイメージと言うものがある。アイゼン海賊団……確かに悪くはないが、それでもアイフリードがこの船の船長だ」

 

「なんか、ごめん……」

 

 今度からはその辺を気を付ける。アイゼンの自己紹介から全然進まずに苛立つ女もといベルベット。

 これ以上アイゼンに任せるとグダグダになると感じたのか会話の主導権を握る。

 

「あんた達、何者なの?なんで空から降りてきたわけ?」

 

「そうだな、その辺を教えないといけないな。オレはナナシノ・ゴンベエ。こっちは……アメッカ?」

 

「アイフリード海賊団……」

 

 やっと話が進むと一番最初の自己紹介をするが固まり目を見開くアリーシャ。

 アイフリード海賊団、その名前に心当たりがあるのかオレの言葉を聞いていない。アリーシャが知っているって事は後世にまで名を残す海賊か……最初に出会った人物がとんでもない奴等だったのか。

 

「ふっ、そうだ。あの泣く子も黙る、天下のアイフリード海賊団。オレは副長のアイゼンだ」

 

「お前、何度も言うんだな……コイツはマオクス=アメッカだ」

 

「……随分と疎いな」

 

 怯えるアリーシャに喜ぶアイゼン。

 海賊やっててよかったとかそんなの思っているのだが、オレはアイフリード海賊団なんて聞いたことないので特に驚きもなく、ホゲェとしている。その事が気にくわないのかムッとする。

 

「仕方ねえだろ。

オレはお前等の活動地域よりも遠い国の住人なんだぞ?」

 

「……お前は異大陸の住人なのか?」

 

「まぁ、お前達風に言えばそうなるんじゃないのか?

少なくとも、お前達が住んでいる大陸とは違うところの住人だから……あの、あれだ。鞄とか袋とかあっただろ?中に色々とあっただろ?それで証明できるはずだが……取り上げた際に中を見たか?」

 

「ああ、強力な磁石が入っていた。羅針盤を作るのに使う磁石とは比較出来ない程に強力な磁石だ」

 

「そうか……よかった」

 

 あの磁石が無いとなにも出来ない、科学の根底である電気が使えなくなるのは本当に痛いので磁石が残っていることを知ってホッとする。

 海賊とはいえ考えることが出来る比較的に話が通じる奴等でよかった。無闇矢鱈と欲望に突っ走る奴だと今頃は海の藻屑だった。

 オレ達が異国の住人だと分かったものの、アイゼン達には疑いの眼差し等はまだある。未来から来たと言っても信じてくれないので、取り敢えずはなんとかして警戒心を解かないといけない。

 

「どうやら、聖寮の者じゃなさそうだ」

 

「聖寮?」

 

「ミッドガンド聖導王国の教会の対魔部門。

正式名称はミッドガンド国教会・対魔聖寮 理を貫く事で秩序と平和をもたらすという思想の下、王国の政治を主導し、対魔士を王国各地に派遣している……本当に知らないのか?」

 

「ミッドガンドは聞いたことはあるが、そう言うものは全く。

私はハイランドと言う国からやって来たのだが、聞いたことはあるだろうか?」

 

「ハイランド、ハイランド……う~む、さっぱりだ」

 

 アリーシャ、上手いな。

 無意識でしているのだろうが、ハイランドを知っているか知っていないかで此処が本当に1000年前なのかを確認している。侍擬きの男性はハイランドについて考えるが全く心当たりが無い。

 

「ハイランドなら聞いたことはあるよ。

ハイランド神聖王国、遥か昔にドラゴンの怒りを買ってしまい滅んだとされる国だって本に載ってた」

 

 だが、子供の方は知っていた……が、それじゃない。似た国か?

 

「あ、いや、それじゃない……少なくとも、そっちの方ではない…」

 

 心当たりがあるのらしいが、違うとアリーシャは首を振る。

 

「因みにオレはその出身でもアメッカの国でもなくて摂津の国の出身だ……自己紹介や腹の探りあいはもう良いか?」

 

 あくまでも自己紹介しかしていないオレ達。

 どうして空を飛んでいたのか、どうやって空を飛んでいたのか、なにをしにやって来たのか、他にも聞きたいことは山ほどあるだろう。色々と手順を踏んで懐柔して聞くのも一つの手だが、互いに時間は残されていなさそうだ。

 

「ああ、もう構わねえ……お前達はなにをしに別の大陸までやって来た?」

 

「アメッカ」

 

 アイゼンの質問に答えるのはオレじゃない。

 なんでこうなったのかどうしてと思う疑問はあるが、アメッカ程じゃない。だから、答えるのはアメッカに任せる。

 

「私は知りたい。

この世界で起きている、世間や社会が隠そうとしている事を、闇を知りたいんだ。

先人や国の上層部が揉み消そうとしている全てを……私は、気付かない内に正しくない選択をしてしまった。

その事については後悔はしていない、私の意思で選んだことで……後悔はしたくはない。正しくない選択をしたと気付いた時、私の中にはどうしてなんでと言う素朴だが誰も答えられない疑問が幾つも出来た。……真実を知れば、わかるかもしれない。どうしてこんな世界になってしまったのかと。だから、ゴンベエの力を借りて此処までやって来た」

 

「特権階級の人間が楽して暮らせて凡人が安い給料でこき使われて、演劇や小説なんかの娯楽を生き甲斐にして世の中の理不尽とか不公平に気付かずに上司に媚びへつらって流れるように生きたくないらしい。世界の仕組みに関して知りたいんだよ」

 

「世界の仕組みか……それを知って、どうするつもりだ?」

 

「それは……まだ決めていない!」

 

「なに?」

 

「私はまだなにもわからない、正しいことも間違っていることもなにもだ。

だからこそ、知って自分の中で答えを見つけ出したい……もしかすると、その答えはアイゼンにとっては残酷すぎる答えになるかもしれないが、それでもだ」

 

 ちなみにだがオレは知りたいだけで、知ってなにかをすると言うのは特にしない。

 仮になにかをすると言うのならばヘルダルフをシバき倒すぐらいだぞ。彼奴、倒しておけば数十年はなんとかなる。シバき倒したら何時も通り……は、難しそうだがそれでも発明品とかそういう感じのを作ってアリーシャ経由で国に売る。電球ぐらいなら売っても問題ない。レディレイクは水路があるから水力発電するのに申し分ないしな。

 

「……今のミッドガンドは、いや、聖寮は余りにも多くの事を隠している……通常の方法では絶対に知ることが出来ず、仮に知ったとしても消されるだけだ」

 

「それでもだ」

 

「ふっ……自分の舵はしっかりと握っている様だな。

暫くこのバンエルティア号に乗船させてやる……真実を暴き闇を知るには」

 

「正々堂々普通の手段ではダメ、なのだろう?世間や社会が隠そうと言うのならば、反社会的な存在でなければ知ることが出来ない……」

 

「ああ、そうだ。理解をしているようだな」

 

「ああ。前にゴンベエが教えてくれて、実戦済みだ……よろしく頼む」

 

 アリーシャの知りたい心が気に入ったアイゼンは乗船を許可する。

 その事についてアリーシャは喜ぶが、海賊の力を借りなければならないとは……オレ達が思っていたよりも、遥か昔に起きた出来事の闇は深いと言うことか。

 

「ところで私の眼鏡は何処に?

私達が何処の誰かか分からないから、槍を取り上げたのは分かるが……」

 

「眼鏡に槍?そんなもん、引き上げた時には無かったぞ」

 

「なっ!?」

 

「安心しろ、槍ぐらいなら船にある。最悪、デッキブラシでも戦える」

 

「ち、違う。そうじゃない……ゴンベエ」

 

「材料持ってきてねえし、取りに行くなんて出来ねえぞ」

 

 再びと言うか今回は完全に何処かに行ってしまったアリーシャの眼鏡。

 まことのメガネのレンズの粉末を眼鏡を作る際に混ぜれば出来るが、粉末は家に置いてきた。と言うか工房がねえだろう。

 

「あの槍と眼鏡がなければ……天族との対話も儘ならない」

 

「最悪オレが通訳するし、筆談すれば良いんだが……」

 

「その天族って、なに?」

 

「え~っと、地水火風の人型の精霊的な存在でノルミンとかわけわからんのもいて……どうした?」

 

 少年の小さな疑問を答えると一同は首を傾げてしまう。なにかおかしな事を言ったのだろうか?

 

「それは恐らく此処で言うオレやライフィセット……つまりは聖隷だ」

 

「聖隷……天族ではなく?」

 

「ああ、そうだ……なんで頭を下げる」

 

「い、いえ、まさか天族の方だとは思わずに無礼な真似を」

 

「やめろ、オレはそう言う人に祈りを捧げて貰う聖隷じゃない……むしろ、人に災厄を撒き散らす死神だ」

 

「死神……私は天族を見るほどの霊応力が」

 

「ああ、もう終了。

アメッカ、これ以上は余計なことを今は考えないでおくぞ!!オレ達の常識と違う!」

 

 天族を天族と呼ばずに聖隷と呼んでいる。今の今まで天族が見えないのに天族が見えるようになったアリーシャ、更には海賊をやっている天族、聖寮と呼ばれる組織。

 アリーシャが全くといって知らないことは歴史の闇に隠されていたことであり、恐らく裏の天遺見聞録に載っていることだろう。

 

「一度に今までにない情報が入ってきて、頭がこんがらがって来た。

つーか、アリーシャの眼鏡と槍が無いんだったらオレの剣とかは何処にあるんだ?アレないとやばい。」

 

「それなら」

 

「副長、大変です!」

 

 もし剣……いや、オカリナがなくなっていたら大惨事だ。

 骨をこの時代に埋めなければいけないし一から素材集めとかしないといけない。また水車小屋を作らないと……いや、今と大差変わらんか。

 とにかく武器とか何処かとアイゼンに教えてもらおうとすると、前歯が欠けているしたっぱっぽいのが入ってきた。

 

「ベンウィック、なにかあったか?」

 

「何時の間にか無風帯に入ってたんすよ。直ぐに指示を」

 

「わかった、直ぐに行く……武器や道具はちゃんと返す。少し待っていろ」

 

 したっぱっぽい人と共に船長室を出ていったアイゼン。

 副長もなにかと大変だが、船長はなにをしているんだと考えていると無愛想な女が口を開く。

 

「無風帯って、なに?」

 

「無風帯はその名の通り風が吹かないところだよ。

向こう岸に渡るだけの渡し船なら手で漕いだり水の流れを利用すれば良いんだけど、島を渡ったりする大きな帆船は、風の力を利用して進むから……無風帯だと進まない!?」

 

「おぉ、ナイス反応」

 

 少年もといライフィセットの説明により、船が進まない事に気付く一同。

 このままだと目的地に着くことは出来ないとアイゼン達を追いかけるので、オレとアメッカも追いかける。

 ライフィセットの反応、よかったな。

 

「アイゼン!」

 

 船の上に出ると船員達と話し合っているアイゼン。オレ達を見るとお前達も来たかと納得するが残念そうな顔をする。

 

「来たのは良いが、なにも出来ない。ムカつくぐらいの晴天で、雲の流れも読めない」

 

「あ~、晴れはむしろ敵か……」

 

 海で遊ぶのには最高な雲一つない晴れ渡る青い空。

 海を航るのには最悪な天気で風を読むのは難しい。と言うか暑い。

 

「風とか起こすこと、出来ないの?」

 

「オレは地の聖隷だ。そういった事が出来るのは風の聖隷だ」

 

 無愛想な女もといベルベットはアイゼンの天響術を期待するが、アイゼンはなにも出来ない。ライフィセットもなにも言わないということは、ライフィセットも風を操ったりは出来ないのか。

 

「安心しろって。

無風帯なんて今まで来た嵐や雪、それに雷と比べれば屁でもねえぜ!数日間の足止めはくらうけど……目的地にはちゃんとつくさ」

 

 前歯の欠けたしたっぱもといベンウィックは気楽にいる。

 こう言うときはポジティブとネガティブを使い分けないといけず、今みたいに少しでもポジティブにいないと鬱になるから、この気楽さは羨ましい。と言うかメンタル強いな。

 

「数日……そんな暇はないわよ」

 

「じゃが、泳いで行くわけにも行かんぞ」

 

「なら、空を飛べば良いじゃない」

 

「?」

 

 まさか既に空を飛ぶ技術があるのだろうか?いや、気球は割と簡単に作れるからそれか?

 別に地の天族だからって炎の術が絶対に使えないと言うわけではないから、アイゼンが燃料の代わりをしてくれれば燃やせるか?

 

「あんた、空を飛べるでしょ?」

 

「は?」

 

 ベルベットはオレに近付いて、鋭く睨む。空を飛べるって……ゼルダはマリオとかドンキーとかと違って、空を飛べない。たぬきスーツなんて便利な道具は持っておらず、スコークスとかコークスとかの頼れる相棒もいない。

 

「隠しても無駄よ。あんな所から降りてくるなんて、空を飛べないと無理でしょ?」

 

「炎を出したりは出来るが、空は飛べない。

噴出口とか風を利用したりして……あ、アレがあった」

 

 なにをしに行くかは知らないが、ベルベットには時間がない。生憎な事にゼルダは空関係はと気球の作り方でも教えようかと考えると、全く使っていない道具でこの状況をどうにかする道具を思い出した。

 

「アイゼン、オレ等の荷物は何処だ?」

 

「海水で濡れていたから、船頭で天日干ししている」

 

「そうか」

 

 海水で濡れてたか……爆弾とか湿気て使い物になら無いとか言うオチは無いよな?

 ここが海賊の船なら金銀財宝が、プラチナがあるだろうからそれを使って硝酸作って黒色火薬を作れば良い。いや、硝酸作れるなら、ニトログリセリン……ああ、ダメだな。船の上で作ったら爆発しそうだ。

 

「ええっと、オカリナじゃなくてハープでもなくて何処だ?」

 

 船頭に置いてあるオレ達の荷物。

 下着泥棒や制服を集める変態が捕まった際にテレビでよくやる、これだけの下着が盗まれましたと並べるかの様に武器や三角フラスコ等が並んでおり、目的の物はない。

 

「接着剤に解熱鎮痛剤アセトアニリドはあるけど……サルファ剤は落としたか」

 

 それどころか、何個か足りない物がある。

 硫酸を作るのに必要な硫黄はこの時代でも余裕に手に入れれるし、硫酸を作るのに必要な蒸留器のガラス細工は残っているが、薬や熱に強い鉱石等、一部が無くなっている。

 

「あんた、なに探してるの?」

 

「この状況を打破できる物だ……おい、これだけか!?

オレの剣とか盾とか置いてないだろう。まだまだあった筈だが?」

 

 追いかけてきたベルベットはオレがなにを探しているか聞くが、それとほぼ同時にそれが此処には無いとオレは気付く。

 もっと色々と持ってきたのに船頭で干されている物だけしか無いのはおかしいと船員に聞いてみると数が多すぎて全部干せず、干し終えた物なんかは鞄に戻したと教えてくれる。

 オレは直ぐにその鞄を受けとり武器とか爆弾とか入っている袋を取り出し、中に入っていた風のタクトを取り出す。

 

「それなに?」

 

「なにかと言われれば、よく分からん。

使い方は知ってはいるものの、使い道が無かったから使わなかったが……今が使うときみたいだ」

 

 タクトを構え、上に左に右に振るう。

 

「どの向きの風が欲しいんだ?」

 

 演奏は終わった。

 ベンウィックに欲しい風向きを聞くとアッチだぞと船の後ろ方を指差すのでタクトを船の後ろに向けると風が吹いてきた。物凄く強いわけでも物凄く弱いわけでもないこの船にとってちょうど良い風が吹いてきた。

 

「……あんた、何者なの?」

 

 風が吹いてきた事により、動き出す船員達。

 アイゼンとライフィセットを除くオレ達から情報を聞き出そうとした三人は動かない。と言うよりはなにをすれば良いのか分かっていない。

 ベルベットは風のタクトやオレを変な目で見てくる。と言うよりは疑っている。

 

「ただの名無しの権兵衛だよ、オレは」

 

 何者かと聞かれればオレは名無しの権兵衛でしかない。

 爵位もなければ大手の会社の地位もなにもない、勇者の力はあるが勇者として邪悪な存在は倒さない。どちらかと言えば、オレが邪悪な存在に近いな。残念なものを見る目で見るなよ。

 風は海賊というか海を航るものにとって命であり、それを操る事が出来るオレは海賊達に感謝される。一応はこれでそれなりの信頼を勝ち取った……アイゼン達は若干疑ったりしているが。




スキット 新米姫海賊

アイゼン「と言うことで、今日から暫く乗船するマオクス=アメッカとナナシノ・ゴンベエだ」

アリーシャ「アメッカです……船に関しては知識しか無いですが、よろしくお願いします」

ベンウィック「いやいや、こんな美人が乗船してくれて華があって嬉しいって!」

アリーシャ「美人だなんて、そんな」

ゴンベエ「転校生を紹介するノリだな、ナナシノ・ゴンベエだ」

ベンウィック「……変わった名前だな?」

ゴンベエ「先生、凄い男女差別をされました。これはいじめですか?昨今問題になっているキラキラネームは親がつけたもので子供がどうこうすることは出来ません」

アイゼン「誰が先生だ……しかしまぁ、変わった名前と言えばアイツもだろう」

ロクロウ「ん、呼んだか?」

アイゼン「変わった名前だと話していたところだ」

ロクロウ「そうか?俺は六男だからロクロウだが……おっと、自己紹介がまだだったな。俺はロクロウだ!」

アリーシャ「アメッカです、よろしくお願いします」

ロクロウ「そう固くなるな、無理せずに普段通りしてくれ」

アリーシャ「だが、世話になる身で」

アイゼン「船での上下関係こそあるが、そこまで厳しくはない……お前」

マギルゥ「喋り方といい身なりといい、そこそこのお嬢様じゃのう。お主」

アリーシャ「えっと……」

マギルゥ「ワシはマジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルン・ドゥ。長いからマギルゥと、隣の客はよく柿食う客だの柿食うと同じイントネーションで呼んでくれ」

アリーシャ「わ、分かった」

ゴンベエ「しかしまぁ、お前達だけなんか変だな」

アリーシャ「ゴンベエ!」

マギルゥ「いやいや、事実じゃ。ワシ等は別にアイフリード海賊団でもなんでもない」

ロクロウ「たまたま意見ややりたい事が一致して一緒にいる。協力関係であって仲間でもなんでもない」

アイゼン「そう言うことだ。ところで、アメッカは何処かの令嬢か?」

アリーシャ「えっと……」

アイゼン「隠しても無駄だ、オレの目は誤魔化せんぞ。歩き方は鍛えた騎士だが所作の一つ一つが洗練された貴族の様だ」

ゴンベエ「お前、下手したらセクハラだぞ。アメッカは……まぁ、良いとこのお嬢と言えばお嬢だが……聞くか?」

アイゼン「いや、それが聞けただけで充分だ……アメッカの国の政治は腐りきっている。そんなところか」

ゴンベエ「まぁ、大体そんなんだ。導師だか対魔師なんだか知らんが、ちょっと厄介なのがいてオレもアメッカも巻き込まれて無実の罪で投獄されたりして……最終的に色々と分からなくなった」

ベルベット「!」

アイゼン「だから、全てを知りたいのか。知らなくても良い知ったところでどうにもならない事だとしても」

ベンウィック「この国が隠してるもの、マジでヤバいぞ?船長以外は見ることが出来なかった副長を見れるようにしたりとかしたし」

アリーシャ「天族を普通の人達に見れるように!?」

ゴンベエ「それってプラスか……いや、マイナスか……」

アイゼン「オレとしては、お前の方が謎だらけだがな」

ゴンベエ「名無しの権兵衛だっつってんだろ」

ベルベット「……彼奴等も、あの男と似たような奴に……」

アリーシャ「……すまない、スレイ」


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鶴は千年、亀は万年もいきれない

世に言う全員と会話しないとストーリーが進めないあれである。


「というわけだ」

 

「ふ~ん」

 

「聞いているのか?」

 

「アイフリード海賊団が現代にまで名を残した奴等だって事ぐらいしか耳には入れない」

 

「はぁ……」

 

 色々と疑われたりはしているものの乗船員として認められたオレ達。

 目的地には明日に到着するようで、アリーシャはその間に此処が本当に過去の時代だと今の時代との違いを照らし合わせる。オレはそれを聞きながら、無くした物がなにかを確認する。

 

「今のハイランドよりも前のハイランド、それがハイランド神聖王国と呼ばれている」

 

「その辺の授業はいらねえよ。この時代に関する事は無いか?」

 

「千年も前となれば、あまり」

 

「滅びと再生繰り返しまくってるな、この大陸」

 

「それなんだが、これを見てくれ」

 

 何処かから持ってきた地図を広げるアリーシャ。

 地図をチラリと見るが、見たことのない大陸の地図だ。

 

「この国の地図だ」

 

「……こんな島々じゃねえだろう」

 

 オレの記憶が間違いじゃねえなら、グリンウッド大陸は島々に囲まれてんじゃなくて一個の大きい島だ。

 小さな孤島があったりするのならば分かるが、千年でこんなにザックリと変わるか?地図を作る技術が大幅に進化した?いや、違うな。

 

「大陸が変わるのは地殻変動、地震や火山の噴火が原因とされている。

様々な説はあるものの、学者達の間ではそれが一般的な考えとされているんだが……問題はそこじゃない。今、私達はここにいる」

 

 地図の海辺のところを指差すアリーシャ。

 そりゃ船の上なんだから海辺の方にいないとおかしいだろう。

 

「ゴンベエの家はレディレイク周辺。

そこがこの時代で海だったとしても、明らかに距離がある」

 

 未来ではレディレイクがあるところを指でなぞり、円を描く。今いるところを中心に円を描くと、互いに全く被らない位置にあることが判明する。

 

「過去に遡ると言うだけで大それた事だが、どうして全く違うところに来てしまったのだろうか?」

 

「なんだ、不満なのか?」

 

「……海賊、と言われてイメージしていたものと彼等は違う。

だが、現代にまでその名を残す海賊達と一緒にならなければならないと思うと少し……ベンウィック達が気の良い人達なのは分かるが……」

 

「出来ればこの時代の導師とかそんなのに会いたかったのか?」

 

「ああ」

 

 オレの言葉にゆっくりと頷くアリーシャ。

 確か、この時代に世界で最初の導師が誕生したとかどうとかウーノが言っていたが……

 

「多分だが、これは不慮の事故とか偶然とかそんなんじゃないと思う」

 

「海の上に出たのは、なにかがあったからと?」

 

「ああ……」

 

 右手の甲に宿る三つのトライフォースを見て、考える。

 

「オレ達は此処に来る決意も覚悟もしていたが、宛なんて一つもない旅だ。

歴史の闇に葬り去られる出来事を知るのは予想以上に難しい、後世ではそう語られているけど実は違っているなんてこともある……多分、導いてくれたんだよ」

 

 数の少ないドラゴンボール擬きでもあるトライフォース。

 オレ達の隠されている出来事やなんでこうなったかを知りたいと言う願いに反応した可能性がある。

 アイフリード海賊団と共にいれば消される歴史の闇を知ることが出来る。

 

「導いてくれたか……海賊達と過ごせば色々と知ることができるか……」

 

「そして今、一つだけ分かったことがある」

 

「?」

 

「……大事なもの、海に消えやがった」

 

 一応納得したアリーシャにオレ的には残酷な現実を突きつける。

 どれだけの旅になるかわからないし、過去で流行った病気もあるからと色々と持ってきたんだが殆どが海に消えていった。

 

「サルファ剤消えたのは痛いな」

 

「サルファ剤と言うと、病気を治す薬か……」

 

 残っているのが鎮痛剤と接着剤と固まる前のフェノール樹脂とかで、大事なものがない。

 木炭を粉にしたものとか、蒸留水とかアルコールが無くなったのはキツいな。よく使うもの程、失うとめんどい。

 並べられていた物を鞄に詰め込んで、背負う。天日干ししていたお陰か乾いているのでべとっとしない。

 

「空いている部屋は無いか?」

 

 鞄を背負い、部下達に指示を出しているアイゼンに声をかける。

 

「あるにはあるが、どうする気だ?」

 

「お前等に撃ち落とされたせいで、色々とどっかに行ったんだよ。怪しい薬とか怪しい液体とか怪しい粉とか蒸留水とか」

 

「最後以外は全部怪しいが」

 

「……その、ちょっとアレかもしれない。だが、効果は保証できる」

 

「あ、アンモニアはアリーシャので」

 

「ゴンベエ!!」

 

「アンモニア?なにを作るか分からんと、流石に部屋はそう易々と貸せんな」

 

「商売上手め」

 

「異大陸の住人に会える機会なんぞ、早々にない」

 

 部屋を貸す代わりに技術提供を要求するアイゼン。

 世話になるからある程度の技術は提供するつもりだったから良いんだが……何処まで教えて良いんだ?

 海賊だが、何処かの偉いさんと繋がっている可能性が高いからな……

 

「安心しろ、口外するつもりはない。

広めて良い技術と広めてはいけない技術があることぐらいはこの船にいる奴等は知っている」

 

「そうか……因みにだが、この辺の国でこれは作れるのか?」

 

「いや、作ることは出来ないが……そもそもこれはなんだ?」

 

「灯りをつける道具」

 

 電池と電球を取り出し、電気をつけると驚くアイゼン。

 1000年前の時代だから、オーパーツ的な感じで電球が作られている……と思ったが、作られていないか。船が蒸気でなく帆船だから……下手したら現代と同じレベルの文明の可能性があるな。

 

「動力源が消えなければ2000時間以上ぶっ通しで使えるぞ」

 

「2000時間だと!?」

 

「るせえぞ!!耳元で騒ぐな」

 

「すまん……だが、2000時間以上もか……」

 

 マジマジと電球と電池を見つめるアイゼン。

 壊したり分解したりするなと釘を指してから渡すと空いている部屋を教えてくれる。

 

「ゴンベエ、アレは2000時間も使えるのか?」

 

「どうした?」

 

 顔がスーーっと青ざめるアリーシャ。

 そう言えば前に貸したんだったな、使った形跡は無かったが。

 

「蝋燭やランタンだと火があるから読書に向いていないから貰えないだろうかと思っていたのだが……2000時間……」

 

 電球の価値と言うかスゴさを知って驚くアリーシャ。

 2000時間も使えて凄いと思っているが、電球のスゴさはそこじゃない。この世界じゃ無理な24時間営業を可能とするところが、夜に打ち勝つところが凄い。

 アイゼンから貰った部屋に辿り着いた。

 

「お、ここにいたか」

 

「ロクロウ、どうした?」

 

 荷物を並べているとロクロウがやって来た。

 なにをしに来たんだと思っているとロクロウの手に槍が握られていた。

 

「その槍は?」

 

「いやなに、槍を無くしたそうじゃないか。

どんな槍かは知らないが、かなり大事な槍のようだからな……代わりと言ってはなんだが用意した。

大事なものが、特に武器がどっかいっちまうのがどれだけのことかは十二分に理解している……使っていた槍よりは質が落ちるかもしれんが、中々の上物だ」

 

 アリーシャに槍を渡しに来てくれたロクロウ。

 槍を受け取って刃の部分を見るが、しょんぼりと落ち込んでしまう。

 

「ダメ、か……」

 

「いや、この槍が悪いわけじゃない。

二つ前の槍よりも上質な槍だが……ゴンベエから貰った一つ前の槍と比べれば」

 

「ほう、お前は槍も使うのか」

 

 オレが槍を使えることを知るとニヤリと笑うロクロウ。面白い玩具を見つけたか子供のような笑みで、襲いかかって来ないだろうな……あ、そう言えば

 

「オレの剣は何処にある?」

 

 天日干しにされている物の中にマスターソードが無かった。

 アレも無くなってたらやばいぞ。恐らくこの時代にも憑魔がいるから、それに対してマスターソードが一番有効だ。フォーソードで戦えない訳じゃないが……マスターソードの方が良い。

 

「あ~あるにはあるんだが……」

 

「刃溢れでも起こしてたか?

安心しろよ、アレは自動修復っつー便利な能力を持っている。剣の柄の部分さえ残ってればどうにでもなる」

 

「便利だな!じゃなくてだ、どうもあの剣は俺には持てん」

 

「見たところ、ロクロウの背負っている剣の方が重そうだが?」

 

 如何にも剣士ですって見た目をしているじゃねえか。なんでマスターソードを持てないんだよ?アリーシャでも簡単に持つことが出来る切れ味抜群だが重さは普通の剣だろう。

 

「よく分からんが、剣に触れようとすると拒まれる。

アイゼンにマギルゥにライフィセットは触れて、俺とベルベットだけ触ることが出来なかったから恐らく業魔には触れない剣だと思う」

 

「業魔?」

 

 憑魔のこの時代の呼び方か?

 それとなく聞こうとするとロクロウは髪で隠れている顔の右側を見せる。

 

「ダイルも堂々と出るのはって思ってて引きこもってるし、俺やベルベットは一目見て業魔だと分かりづらいからな……俺は業魔だ」

 

「憑魔……」

 

 ロクロウの顔の右半分は、禍々しかった。

 顔にボディペイント的なのが入っていると思っていたが違う、目は文字通り赤色の人間じゃない目をしておりアリーシャは固まる。

 

「憑魔……お前達のとこではそう言うのか。ああ、安心しろよ。

別にお前等を斬り殺すつもりなんてない……お前達が知りたいのは世界の真実で、別にあいつを斬りたいわけじゃない。きっとお前達が探しているものは、あいつも握っている……その時は俺があいつを斬り殺す。その邪魔さえしなければ他の奴等を斬るのを手伝うぜ!」

 

「おい、お前の世界に入るな」

 

「おおっ、すまんすまん。

とにかく剣の方はマギルゥに任せてあるからな……今度手合わせしようぜ」

 

ロクロウは槍を渡し、マスターソードのありかを教えると出ていった。戦闘ジャンキーだな、あいつ。

 

「……ロクロウは憑魔……」

 

「ああいうの、はじめてだな」

 

 今の今まで憑魔と言ったら如何にもモンスターですよと言いたい生物ばかりだ。

 人間が元の憑魔もリザードマンみたいな感じになってた時もあるし、彼処まで人間成分が残っている憑魔は善悪という点を除けばヘルダルフぐらいだ。

 ロクロウが憑魔だと言われても違和感を感じるぐらいに人間感があったので、アリーシャは驚きを隠せない……最後の斬るとかの発言は憑魔と言うよりは善悪の境界線が無い感じだったがな。人のことを言えないけども。

 

「しかしまぁ、ベルベットも憑魔なのか。

オレ達のところもロクロウやベルベットみたいな奴等だったら……あ~どうだろう」

 

 ただただ獣のように暴れる方がましかもしれん。シバき倒すだけで済むから。

 

「浄化は……」

 

「しても無理っぽいぞ。

ロクロウはオンオフが出来るタイプの人間で、敵には容赦ないとかそんな感じ……サイコパスに近い。ベルベットの方は……なんだろうな?とにかく、戻してもまた元に戻る、根本的な部分をどうにかしないとその場しのぎにしかならない」

 

 何時もみたいにシバき倒して元に戻した方が良いっちゃ良いかもしれない。

 しかしまぁ、シバき倒したところで地の主……は、アイゼンがなれるな。だが、ああなった原因を知らない。

 ただただ何時もの憑魔みたいに暴れまわるんじゃなくて、なにか目的を持っている。浄化するにしてもそれを知らなければなんも始まらん。暴れているなら無理矢理力でどうにか出来るがああいうのは厄介だ。

 

「ロクロウも後回しだ。

それよりも、その槍で……大丈夫か?一応、似た効果の剣はあるが」

 

「問題ない。ゴンベエに貰う前に使っていた槍と比べればかなり」

 

「それは何処まで行っても普通の槍だぞ……」

 

 なんの力も宿っていない恐らくだが、現代でも金をかければ手に入る上物の槍。

 オレが貸した槍は邪悪な物に強えがその槍は普通の槍だ。

 

「……そう言えば、前にアタックさんがゴンベエがなんとかしたと言っていた。

マオクス=アメッカが私でナナシノ・ゴンベエがゴンベエだとすれば、まだなにかあるんじゃ」

 

「なにかって……武器の素材ならあるが……」

 

 使っていない武器は沢山ある、マスターソードは貸せないけどフォーソードなら貸すことが出来る。

 アタックが出会ったアリーシャはなんらかの形で力を得ているが……どうやって力を得た?夢幻の剣を作る素材は持っているが、あくまでも上質な鋼であって武器じゃない。

 

「悪いけど、それに心当たりはねえよ。

オレはあくまでも勇者の力を使ってるだけであって勇者でもなんでもねえただの名無しの権兵衛だ」

 

「いや、気にしないでくれ。

ゴンベエばかりに背負わせたくない。この槍で憑魔とも渡り合える様にしてみせる」

 

「無理っぽいならフォーソードを貸す……」

 

 マスターソードと比べれば劣るけど、邪悪な物を打ち倒す事の出来る剣だから役立つ筈だ。

 荷物の整理も終わったので、マスターソードを持っているマギルゥを探すと割とあっさりと見つかった。

 

「なんで、こんな煤まみれに……しかし、まぁ、ボロボロじゃのう」

 

「いや、撃つなっていったのに撃って暴発させて、その上でもう一発アメッカ達を撃ち落とすのに使ったのお前だろう」

 

「おい、お前だったんかい」

 

「ん、おぉ、ちょうど良いところに来たの!」

 

 煤で顔が汚れているマギルゥ。

 サラッとベンウィックが言っていたが、お前がオレ達を撃ち落としたのかよ。

 

「ほれ、預かっておった剣じゃ」

 

「サンキュ……じゃねえよ。なんで撃ち落としたんだよ」

 

「な~にを言っとるか、空飛ぶ存在など怪しいじゃろう」

 

「私としては、マギルゥの方が怪しいのだが」

 

「魔女は怪しいから魔女じゃ……しかし、なんの用があって此処まで来た?」

 

 ボケていた雰囲気を一瞬にして変えるマギルゥ。こいつもオンオフを使い分ける事が出来るタイプの人間か。

 

「なんの用もなにも、色々と知りたいと」

 

「確かにその気持ちは分かる。じゃが……お主等はこの国の人間では無いはずじゃ」

 

 中々に勘が鋭い女だこと。

 アリーシャが言っている事は嘘ではない、だからこそおかしな点が幾つもある。恐らく、アイゼンもそれとなーく疑問を持っているだろうが、アリーシャの気持ちは本物だからと敢えて触れなかった部分を触れる。

 

「今の世は偽りだらけで、それを作った奴等もいる。

しかし他所は他所、自国は自国(うちはうち)というもの。アメッカの様な正義感丸出しの小娘が、わざわざ外国のしかも異大陸まで来るとは、いやはや聖寮は異大陸まで手を伸ばしたのか」

 

「おい、それ以上の詮索はすんな。ロリババア」

 

「だーれが、ロリババアじゃ。魔女といえ魔女と。

まぁ、これ以上は下手に聞かんよ……全てを知れば自動的に分かるんじゃからの」

 

「……言い触らすんじゃねえぞ」

 

「酷いのぅ、魔女は契約を守り口が固いんじゃぞ?」

 

「いや、お前撃つなって言って大砲を暴発させただろう……聞かなかった事にする」

 

「悪いな」

 

 ベンウィックはマギルゥとの会話を頭の中から消す。

 気遣いが出来ることに感謝しながらオレはマスターソードを確認する。切れ味抜群で使いやすいが一応は剣だからな。海水に浸かったら錆びる可能性がある。刃溢れとか起こしていたら叩き折って自己修復させる。

 

「問題ないな」

 

「は~、業魔を拒む剣って聞いたけどスゲエなそれ」

 

「どういう意味で凄い?」

 

「剣としてもお宝としても凄いって事だよ、それ見た目こそ新品だけどかなりの年季が入ってるだろ?」

 

 中々に見る目があるなベンウィック。マスターソードは新品同然で汚れらしい汚れがない聖剣なのに目が良いな。

 

「使っている素材からして、私達の武器と大分違う。その剣はどうやって作られた物なんだ?」

 

「アメッカ、前にこれ退魔の剣だっつったよな?」

 

何度かチラッと言った気がするぞ。

 

「……言ったか?」

 

「……ごめん、覚えてない。

とにかく、大空の勇者のために神様が何度も何度も鍛え上げた剣で同じものを作ることは出来ない」

 

「ほぅ、勇者とな……ならば、邪悪な者を斬るのかえ?」

 

「明確に見える悪がオレの前に立ち塞がるならな……少なくとも、此処に斬らないといけない奴はいない」

 

 後、これ神様から貰ったものじゃなくてどちらかと言えば仏様から貰ったものだ。

 これ以上此処に居るとなんか余計なことをベラベラと喋りそうなので、部屋に戻ろうとすると子供が、ライフィセットが部屋前に立っていた。

 

「なにをしているんだ?」

 

「あ……えっと、色々と見たことの無い物ばかりだなって」

 

 アリーシャが声をかけるとすんなりと答えるライフィセット。

 オレが持ち込んだ物に興味津々で、入口の隙間からコッソリと覗いていた。

 

「そうか、ゴンベエの作る物は色々と見たことの無い物が多い。

中には危険な物もあるから、入る際には許可を貰ってから入らないとダメだぞ」

 

「うん……入って良い?」

 

「別にまぁ、危険なのはないが今から薬作るから、あんまり説明できないぞ?」

 

「薬?なにを作るの?」

 

「ペニシリン」

 

「ペニ、シリン?」

 

 なんだそれと首をかしげるライフィセット。この時代にも抗生物質は存在しないか。

 

「青カビで出来る薬……らしい」

 

「ええ、青カビで!?そんなの本でも見たこと無いよ」

 

「私もだ。作り方を教えると言って、何だかんだで教えてくれたことは無いが……どうするんだ?」

 

「なにをするにしても素材集めだ。

ライフィセット、見るのは良いが他人に教えるんじゃないぞ?これ、安定して製造出来ない欠点があるから誰にも言うな」

 

「うん、わかった」

 

 本当に頼むぞ。

 電気が当たり前の文明になってからじゃないとペニシリンをはじめとする医薬品や医療技術は発展しない。王政+電気文明なんてやったらこの世界がどうなるかオレにもわからん。バカだから。

 先ずは素材の確保だと青カビが無いかを探す。無いなら無いで酢酸水とかアルカリ液とか水酸化ナトリウムを製造する。

 

「なにやってんの、あんた達?」

 

「あ、ベルベット……な、なんでもないよ!!」

 

 青カビを探しに厨房に行くのだが、ベルベットと遭遇した。

 さっきから色々とうろちょろしているオレ達と一緒にいるライフィセットを気にしたのか声をかけてきて、ライフィセットはビクッと反応する。

 

「なんでもないって」

 

「それよりもベルベットはなにをしているんだ!?」

 

 露骨に話題をそらすアリーシャ。お前等、もう少し演技出来るようになってくれ。息を吐くかの様に嘘をつけとは言わないが、大分酷いぞ。ベルベット、露骨にそらしたなって眉を寄せてるぞ。

 

「掃除……この船、男ばっかのせいか汚いのよ。見なさい」

 

 ベルベットは手に持っていた袋からオレ達が探している物を……腐ったミカンもとい青カビがはえたミカンを取り出す。

 

「青カビだ!」

 

「ええ、そうよ……腐ったミカンが一つでもあったら腐っていないミカンにまで繁殖するわ。彼奴等、その辺のこと理解しているのかしら?」

 

 どうでもよさげに語るベルベットだが、野郎の代わりに掃除をしていてくれている。無愛想だが、根は良い人間……ロクロウもマギルゥもベルベットもなにかしらの事情で船に乗っている。これ、予想以上に重たいものを抱えてそうだ。

 

「ベルベット、そのミカン頂戴!」

 

「こんなの食べたらお腹壊すわ。さっさと海に捨てるか燃やすかで」

 

「そうじゃない、その青カビで薬を作ることが出来るんだ……あ!」

 

「アメッカ、言っちゃダメだって!」

 

「す、すまない……」

 

「この船の奴等には嫌でも知られるから、そこまで気にしていない」

 

 うっかりしすぎだろう。ライフィセットはともかく、アリーシャは此処までポンコツだったろうか?

 

「青カビで薬……聞いたこと無いわよ、そんなの」

 

「僕も聞いたこと無いよ」

 

「私もだ」

 

「安心しろ、オレも作るのはじめてだから」

 

「……」

 

 ベルベット、ゴミを見る目で見ないでくれ。一部の変態には今のベルベットはご褒美だが、オレにそっちの趣味は無い。

 芋の煮汁と米のとぎ汁あるかと聞くとあるらしいので、それを混ぜた物にカビを移して培養する。

 

「海草の煮出し汁と海水を酢をベースとした酸性水を……」

 

 壺とかの器はアホみたいにあるし、簡単に手に入る。

 炎と氷を使って上手く温度や湿度を調節すれば青カビの培養はできる……どちらにせよ陸路を歩く事になるから、道中雑草を拾って、水酸化ナトリウムとかで煮込めば簡単な紙になる。

 

「アルカリ液、植物油、酸性水、紙、活性炭、青カビ、寒天……ブドウ球菌……」

 

「本当にそんなので薬になるのだろうか……」

 

「問題ない。江戸末期でも作れる薬だ」

 

 なんだかんだやっているが、結局のところは仁で出てきた方法でペニシリンを作る。

 その上で粉末化させて飲み薬にしたりして…………。

 

「最終的にアメッカが頑張らないといけないんだったな……」

 

「?」

 

 普通にペニシリンを作ろうとしているのはいいけども、最終的にはこれをアリーシャが覚えないといけない。

 技術を伝えて、今まで治らないと思っていた病気が治ったならばハイランドはローランスよりも優れた技術を持っていることになり、政治的にも有利になる……多分。

 作っておいてなんだが、アリーシャは大変だなと思いながらもオレはライフィセットとアリーシャになにをするかの説明をした。途中からアイゼンも入ってきて、説明を聞いた。

 

「信じられんな……異大陸では既に微生物をどうにかする薬が出来ているのか」

 

 後、すごく今更なんだが微生物の概念があるんだな。

 ペニシリンという言葉はカビの学名なんだぞと教えて話は終わり、飯を作ることに。と言うか作れとの指示があったので、うどんを作ることに。

 

「足で踏んで腰を出すんだ!」

 

 アリーシャ一人に作らせると死者が出そうなので、手伝う。

 数が数なのでアリーシャには足で踏んでうどんを作らせる……衛生管理はちゃんとしているから問題ない。むしろ管理していない方が需要はありそうだが。

 

「おい……汁が薄いぞ」

 

「なに言ってんだ、うどんと言えばこの出汁だろう」

 

 余っていた保存食でトッピングを、米でおにぎりを作り全員に配る。

 

「こんぶを数分間だけ煮込んだ出汁。色は薄いかもしれんがしっかりと旨味がある」

 

「いや、かつおを一時間は煮込んだ出汁の方がうまい」

 

 アイゼンは西の方でなく東の方のうどんが好みだったのかふて腐れる。しかし、ロクロウは西の方だったので喜ぶ。

 

「うどんなんてはじめて作ったが、大丈夫か?」

 

「うん、とっても美味しいよ!」

 

「ワシとしてはさっぱりした冷うどんが良かったんじゃが、まぁ、これはこれでイケるのぅ」

 

「そうか!」

 

 はじめて作ったうどんを誉められて喜ぶアリーシャ。

 よかったな……粉の量とかそう言うのはオレがしたが、捏ねるのはアリーシャがやったからちゃんとした手作り……足作りだな。

 

「いやぁ、かつおの出汁も良いけど、こんぶの出汁も悪くないな。アメッカ料理上手だな」

 

「ああん!!」

 

「ひぃ!?」

 

「ベンウィック、黙っとけ。それ以上その手の会話をすると身を滅ぼす。と言うか出汁とか作ったのオレだからな」

 

 ロクロウとアイゼンは似ていたりする部分はあるが、きのことたけのこの様な関係だから触れないようにするのが一番だ。そんなこんなと言い争っているのを微笑ましくみていると

 

「私になにをした!?」

 

 左腕を化物みたいに変化させたベルベットに体を掴まれた……過去に来てから、踏んだり蹴ったりだな。




スキット 隠し味は心

ベルベット「……」

アリーシャ「……ギリッ」

ベルベット「悪かったわよ……」

アリーシャ「私に謝るのは間違っているゴンベエに謝れ」

ベルベット「……分かったわ」

アリーシャ「……」

ロクロウ「おい、凄い顔になってるぞ」

ライフィセット「アメッカ、落ち着いて!」

アリーシャ「問題ない……ゴンベエが許せばな」

ロクロウ「ゴンベエならきっと許すだろう」

ライフィセット「それよりも、なんでベルベットはあんなことをしたんだろう?」

ロクロウ「やっぱ、あいつも鰹の出汁は嫌だったのか?」

アリーシャ「ロクロウ!」

ロクロウ「冗談だ……材料になにか問題があったのか?」

アイゼン「それはありえんな。彼奴が使った材料はオレ達のだ。海を生きるオレ達が用意した材料の保存はちゃんとしている。うどんのトッピングに使ったものもちゃんと香辛料で保存が効くようにしている。昆布は干した昆布だ」

ライフィセット「それに食べた僕達になんの異常も無かったよ?」

アリーシャ「ベルベットにだけ効くなにかが入っていたのだろうか?」

アイゼン「尋常じゃなく美味いものでも、気絶するほどクソマズい物でもなかった」

ライフィセット「……ベルベットの味覚がおかしいとか?」

ロクロウ「ん、どういうことだ?」

ライフィセット「ベルベット、雪の中でもあの格好で平気だよね?」

ロクロウ「ん、ああ。業魔になると腹もすかんし、暑さも寒さも感じない」

ライフィセット「だったら、ベルベットは味も感じないんじゃないかな?」

アリーシャ「味が感じない……だから、怒ったのか?」

ロクロウ「いや、待て。俺はアイツにリンゴを渡して、食べるのを見たぞ。その反応はおかしい」

アイゼン「なら、逆だ……恐らくだが、アイツは味を感じたからゴンベエにかかった」

ライフィセット「それだとどうしてリンゴの時はなにも感じないんだろう……甘いのだけが感じなくなってるのかな?」

アリーシャ「だが、それだと甘い部分だけ感じずうどんの出汁がおかしくなる……味覚そのものが無いのだろうか?」

アイゼン「真相は闇の中、か……」

ベルベット「……あんた、なにをしたの?」

ゴンベエ「彼奴等の会話、聞こえなかったのか?材料は此処にあったもんだぞ?甘いのを感じれない味覚障害じゃないのか?」

ベルベット「……此処数年まともな食事はしていないわ。けど、食べたのはあの味は昆布をベースとした出汁だった。味覚障害なら、それすらも理解できないわ」

ゴンベエ「まともな食事をしていないか……味覚そのもの崩壊しているのか?」

ベルベット「そうだけど、なに?」

ゴンベエ「いや、原因が分かっただけだ。ベルベットが味を感じたのはオレのせいだよ」

ベルベット「っ、なにをした?」

ゴンベエ「別に特にこれといった事はしていない、左腕を構えるな……自分の分だけじゃないから、ただただ願っただけだ。美味しくなれってな」

ベルベット「ふざけてるの?」

ゴンベエ「ふざけてねえって……でもまぁ、良かったんじゃねえの?美味いものが食べれるようになったんだから」

ベルベット「笑わせないで、あの程度の出汁で美味いなんて思わないわ。私が作った方が美味しいわよ」

ゴンベエ「じゃあ、作ってくれよ……お前がなにを腹に溜め込んでるかは知らんし、基本的に文句は言わねえが関係の無いことで当たるのはやめてくれ。オレだからケロッとしてるけど、アメッカだと流血沙汰だからな」

ベルベット「……大事なのね、アメッカが」

ゴンベエ「まぁ、なにかと世話になってるからな……じゃあ、うどんを楽しみにしてる」

ベルベット「……あんたのも美味かったわよ、それなりにだけど」

ゴンベエ「否定しないつーことは作ってくれるのか……美味しくなれと心を込めた、美味しくなれと願った。だからトライフォースが反応したのか?」

アリーシャ「なにか大変な事が起きている気がする……」


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糠味噌にパチンコ玉

「いやぁ、新鮮だな!まともに港につけた」

 

 過去に来てから遡り踏んだり蹴ったりな船旅だったが、遂に港町に辿り着いた。

 ロクロウは普通に港についた事を喜んでいる。コイツら、オレ達が来る前になにやってたんだ?

 

「ここが港町……」

 

「……ヤバくね?」

 

 如何にも中世の港町と思わせる風貌の港町、ゼクソン港と呼ばれているらしい。

 オレはこの街に来て、直ぐにヤバいと感じた。

 

「はっ、海賊船が港に入れば」

 

「問題ないみたいだぞ」

 

 アイゼンが知り合いらしき人物と話をしている。

 何度か知り合いらしき人物はアイゼンに頭を下げており、アイゼンも何度かコクりと頷いている。

 

「海賊に加えて、闇っぽいの見れたな」

 

「……闇、か……」

 

 チラッと聞こえるアイゼンと男の会話。

 ノースガンド領が荒れたからとか荒らしたとか、売るならば確保するなら今だという話が所々で聞こえる。

 

「裏で市場操作……は、ダメだな。となればインサイダー取引みたいな事をしているのか」

 

「インサイダー取引?」

 

「凄くざっくりと言えば公開前の極秘情報を入手し、それを利用して資源の独占とかをして高値で取引する。

何処かをわざと襲撃して、世間の市場操作をしているかと思ったが、それをやれば味方以外は全て敵になるから……入手不可能な情報を提供しているといったところだな」

 

 冒険家に近く人間臭いところもあるせいか分かりにくいが、恐ろしいことをしているな。

 ただまぁ、何故海賊にそれを任せているかが気になる。アイフリード海賊団は冒険団に近いから、話は通じるし理不尽も少ないだろうが……それでもというべきリスクが多い

 

「そういえば、海賊の船が到着したというのに誰も騒がない。いったい、どうして……」

 

「これが海賊の船とすら分かっていない?……やばい、やばいぞ」

 

 アリーシャがアイフリード海賊団を知っているということは後世にまで名を残す存在だ。

 今いるこの時代がアイフリード海賊団達が暴れまわっていた時代だとするならば、名前以外にも色々と残す。つーか、情報があるはずだ。船の形とか、独特でバレるのに……町の奴等は気付いていない。船関係で色々と縛られていると見るのが妥当か?

 

「おい、アメッカ」

 

「な、なにかあったか!?」

 

 二人だけの世界に集中していたせいか、何時の間にかベルベット達と距離を取ってしまった。

 アイゼンの声で距離に気づき近付くと人を数人殺してそうな顔でアイゼンは口を開く。

 

「お前、アイフリードが今何処か知らないか?」

 

「アイフリードが……すまない、私達も知らない」

 

「そうか……ところで、ベルベット達の船だがあれも海門要塞を抜け出した。今後は探索船として使わせてもらう」

 

「好きにして、勝手に乗ってきたものだから」

 

「探索船って?」

 

「詳しいことはベンウィックが説明する。

ついでに少し休む……今の間に武器や物資の補給、他にもすることをしておけ。王都に向かえば何時戻れるかわからん」

 

「了解……ザワークラウト注文しとこ。てか、この辺ってどこら辺なんだ?」

 

「えっと……確かこの辺りだよ。この後、向かう王都はここ」

 

 アイゼンからしばし休めと休息というか準備時間を貰えた。

 船長代理も大変なんだと思いつつも、オレは今何処にいるのかと何処に向かっているのかを聞くとライフィセットが地図を取り出して指差してくれた。

 

「……ライフィセット、王都は何処だ?」

 

「ここだけど、もしかして間違ってた?」

 

「いや、合っている……恐ろしいまでに……」

 

 徐々に徐々に顔を青ざめていくアリーシャ。

 この辺ってなんかあんのか?とベンウィックの元にいったベルベット達と程よく距離を保ち、声を聞こえない様にしてから話を聞く。

 

「私達の時代で皇都ペンドラゴ、ローランスの首都がある場所だ」

 

「つまり、お隣さんは1000年以上も?」

 

「いや、ハイランドと同じで王家(トップ)は何度か変わっている……場所は変わっていないが、まさかこの時代にもあるだなんて」

 

「アメッカ……驚くのはそれだけか?」

 

「え?」

 

「天族が見えて当たり前の人達、憑魔と戦う為の組織、海賊をやっている天族、なにかある業魔と歴史に名を刻む海賊団。

初っぱなからのインパクトが恐ろしいぐらいにデカ過ぎるせいか、気付きにくいが……ぶっちゃけ此処って現代(いま)と変わらなくね?」

 

「!?」

 

 100年200年という生半可な時代じゃない、1000年という桁違いの時代を遡った。

 鎖国して独自の進化を遂げていた日本も海外との交流をし、たった200年で急成長して生活水準とかが高い国になった……蒸気機関もない水車とかがやっとなハイランドと1000年前を合わせると、恐ろしいぐらいに違いや違和感を感じない。本当に1000年前かと言いたくなるぐらいにだ。

 

「……」

 

「怖いか?」

 

「……行く……」

 

 武器も眼鏡も失ったし、船に残ってオレが全部を見るという手段も一応はある。

 今も昔も変わらないという事実に衝撃を隠せないが、アリーシャはそれでも前に進んだ。

 

「異大陸で思い出したが、お前等どうやって此処に来たんだ?」

 

 そしてなんかの地雷を踏んだ。

 ベストというかなんというか、異大陸に関する事を話していたのかロクロウはオレ達を見て首を傾げる。

 

「皆が、あえて触れんかったのを触れるかのぅ?」

 

 そうだそうだ。マギルゥの言うとおりだ、空気を読めロクロウ。

 

「考えなくても簡単だ。

オレ達の船は異大陸を知る技師が作っていて、異大陸の技術も幾つか加わっている。ならば、異大陸の人間で色々と知識を持つお前がなにかを作り、海にやられた、そんなところか?」

 

「……一応のために言っておくが、オレが本気出せばかなり恐ろしいの作れるからな」

 

 フォローを入れてくれるアイゼンには悪いけど、それだけは言っておく。

 元を正せばアリーシャと一緒にいるのはオレの身の安全を保証するためだから……忘れないようにしないと。

 

「恐ろしいものって?」

 

「そうだな……風が不要な世界を渡ることの出来る船、馬車よりも早く、馬車のように休むことなく陸を走る乗り物、空を飛ぶことが出来る乗り物、隠された鉱石を発見する探知機、A地点から遥か遠くのB地点に誰でも簡単に声を届ける道具、土木作業には持ってこい、人を殺すにはもっと持ってこいのお手軽で強力な塗るだけで良い液体の爆弾、貫く事が難しい障子、音の爆弾、食材を冷やすどころか氷すらも作れる箱、2000時間も灯りを灯せるガラスの球、声のみを記録する円盤、風景を絵のように残す写し絵の箱……おし、忘れろ」

 

「いや、忘れられないだろう!」

 

 転生特典に頼りまくりとはいえ、作れない物は……現代の技術じゃないでも出来ないとかそんなんじゃなければない。

 改めて欲しい知識を与えてくれる転生特典の恐ろしさを理解する。これ本当にやべえな。

 

「風が不要な世界を渡ることが出来る船だと!?」

 

「あ、それに反応するか」

 

「というよりは、そんな物まで作れるのか……手綱をしっかりと握らないと……」

 

「空を飛ぶ乗り物……乗ってみたいな」

 

「貫く事が難しい障子か……切ってみたいな!」

 

 少年と大人の感想が違うぞ。つーか、障子の方に関しては今すぐにでも作れるんだよな。固まる前のプラスチック残ってるから、紙に塗ればカーボンみたいなの作れるから……。

 

「空を飛ぶ乗り物……それがあれば空からの襲撃が出来るわね。空からなら聖隷達も手薄だし、なによりも現れるなんて誰も思わない。確実に息の根を」

 

「ワシとしては、写し絵の箱というのが気になるのぅ」

 

「作るにしても時間も材料もないから、基本的に作らねえよ」

 

 このままだと作れと言われそうだから、先に言っておく。

 ベルベットは作れと言う目線を向けるが……気球は作りたくない。めんどいとかそういう次元じゃないぐらいにめんどい。布が本当にやばい。同じ素材で厚さも均一にした超大型の布を用意しないといけない……あれは死ねる。

 

「余り、余計なことは言わない方がいい……此処でも、同じ目にあってしまう」

 

「だろうな……だが、一応のために言っておかないと無茶を言われるし、もしかすれば作らないといけない日が来るかもしれない」

 

 余計なことを言い過ぎたのでオレを心配してくれるアリーシャ。

 船は無理でも蒸気機関の車とかを作ろうと思えば割と簡単に作れる。この時代が現代と大差変わらないというならば、ストーブと石炭があるからそれでどうにかなる。

 

「……そんなことには絶対にさせない、ゴンベエは守ってみせる、絶対に……」

 

 オレの右手を両手で握るアリーシャは真剣な顔をする。守ってみせる、か……それは此方の台詞なんだがな。

 

「やれやれ、若いのは羨ましいのう」

 

「?」

 

「言っとくが、普通に言ってるだけだから悪意も裏もなんもねえぞ」

 

「そっちの方が尚のこと、恐ろしい」

 

 マギルゥが色々とニヤつくのだがアリーシャに裏は無い。

 本当に純粋なまでに自分の事を心配してくれているだけでそれ以上でもそれ以下でもない。

 とにかく材料無いので作れないと話を終わらせ、ベルベット達が乗っていた船は異大陸に出港して探索する為に使うことを教えられた。

 

「お宝よりも、美味しい魚の方がいいわ」

 

 ベルベットは異大陸の探索はどうでもよさげだった。花より団子といったところだが、お宝は割と大事だぞ。下手すれば純金とか宝石の相場を崩壊させる可能性があるが上手く使えば億万長者だ。

 

「準備は終わったか、いくぞ」

 

 アイフリード海賊団がどうして船を停泊出来るのか、町の人達はどうしてあの船をアイフリード海賊団の船だと分からないのか、その理由を準備時間中に聞いたりしているとあっという間に準備時間は終えた。

 

「ではでは、改めてローグレスへ!!」

 

「……あんたも来るのね」

 

 王都に向かって歩き出すオレ達なんだが、マギルゥは何故についてくるのだろうか?オレとアリーシャは色々と見たいから、アイゼンは船長の居場所を知るために、ロクロウとベルベットは誰かを探していて、ライフィセットは天族で色々と便利だからと連れてこられているが、マギルゥは何故来るのだろうか……なにか隠してるのか?

 

「まぁ、そういうでない。ワシ、これでも結構色々と出来るぞ」

 

「囮として最悪じゃない……今度は見捨てるわよ」

 

 本当にオレ達が来る前になにがあったんだろうと思えるほど物騒な会話をするマギルゥとベルベット。

 その内、嫌でも分かるんだろうなと少しだけ気持ちがドヨンとしながらも前に進む。

 

「気をつけろよ、王都前とはいえ業魔は色々と居やがる」

 

「……加護領域が何処にもない。天族が皆に見えるのならば、地の主の信仰も増えるはずなのにどうして無いんだ?」

 

 この辺り一帯を歩きながらも感じる穢れや憑魔の気配。

 人間は目に見えるものに対しては正直な生き物で、天族が見えるならば、天族なんて居るかと言う奴等が沢山いる現代よりも遥かに信仰が優れている。この辺が王都付近だったら、加護領域の一つや二つ展開されていてもおかしくはない。

 アリーシャはその事について疑問を抱くが、大方まだシステムが完成してないとかそんなんだろう。ザビーダがチラッとまだ浄化の力が無かったとか導師のシステムは何度も何度も改良されたりしてるとか言ってたし。

 

「アメッカ、他所は他所、家は家だぞ。

ハイランドでは当たり前かもしれないが、この国じゃまだ未発見とか使ってないなんてあって当然だろうが」

 

「……どういうこと?」

 

「各地……大体一つの村に一人の天族つまり、聖隷を祀って信仰する事によって憑魔……ああ、業魔から身を守ってくれたりするんだ」

 

「……ここで言う聖主みたいなものなのね」

 

「聖主?」

 

「説明は後にしておけ、業魔の群だ!」

 

 アリーシャは文化の違いをベルベットと共に感じていると、憑魔の群がこっちに向かってくる。

 明らかにオレ達を狙っている憑魔の群で、やる気かとマギルゥ以外が構える。

 

「マギルゥ、下がっていてくれ」

 

「うむ、か弱い魔女は下がっておくぞ……じゃが、良いのか?」

 

「なにがだ?」

 

「アメッカも下がっておった方が良いぞ?」

 

 魔女と言っているが、天族でもなんでもない普通の人間であるマギルゥ。

 武器らしい武器も持っておらず、普通に下がってくれたが下がれと言ったアリーシャに汚い笑みを浮かべる。

 

「って、ロクロウの剣は飾りかよ!」

 

「悪いな、大事な剣だが抜くに抜けん。というか、お前もか」

 

「一人ぐらい、こういうの出来る奴がいた方がいいだろう!」

 

「おう、援護頼むぜ!」

 

 如何にもな剣を背負っている癖に小太刀二刀流で戦うロクロウ。

 背中の剣は飾りかと思えるぐらいに綺麗な剣技で業魔の群を斬っていき、オレは弓矢で援護する。

 ベルベットは籠手から出る剣と化物の様な左腕、アイゼンは素手、ロクロウは小太刀、アリーシャは槍と見事なまでに近距離での戦闘のメンツで、ライフィセットはライラの様に札で戦うが基本的に天響術で支援したりしばいたりしている。

 この状況でオレまで剣を使えば明らかにバランスが悪い。取りこぼしはないが、ライフィセットに負担がかかりそうだから此方でいく。

 

「……この距離でこのレベルならばボウガンの方がいいか」

 

 黄昏の光弓でなんの力も込めていない普通の矢を撃って倒したり瀕死寸前に追い詰めることが出来る。

 物凄い強い憑魔はいない。現代でも割とよく見たのもいて、これならば威力が一定だが最強であるボウガンを使った方が良い。

 黄昏の光弓をしまって、ボウガンの皮を被ったマシンガンを取り出す。

 

「おーし、全員下がれ。

これ本当に危険だからTASの如くボウガンを扱うからマジ下がれ」

 

 ボウガンだけは本当に危険なので、下がってもらおうとするのだが誰も下がってくれない。

 

「しゃあねえ」

 

「ゴンベエ、アメッカが!」

 

 精神的に疲れるが、ベルベット達の隙間からボウガンを撃つかと構えるとライフィセットは叫ぶ。

 何事かと見ると他の面々は軽々と戦っていた業魔に……現代で戦ったことのある雑魚の憑魔に苦戦していた。

 

「なにやってんだ、お前!」

 

 それぐらいのならば何時も軽々と倒していただろう。

 直ぐに鳥の憑魔の脳天を撃ち抜いて、ベルベット達の方も一気に片付ける。

 

「危険地帯過ぎるだろ、王都付近。物資運ぶ時とかどうすんだ?」

 

「対魔士達が護衛についているよ」

 

 核で包まれて焼け死んだ世紀末よりも恐ろしげな1000年前。

 導師的なのが護衛をしなければならないとなれば、現代の方がまし……なのだろうか?

 

「すまない、助かった」

 

「助かった、じゃないわよ……あんた、普通の人間?」

 

「ああ、そうだが……」

 

「だったら、さっさと船に戻って。足手まといで邪魔よ」

 

「なっ!」

 

「おいおい、もう少しオブラートに包んでやれよ。

アメッカ、お前の槍捌きは……まぁ、悪くはない。だが、これから向かうところは、そんなただの槍じゃどうにもならん。

雑魚の業魔なんて目じゃない奴等がウヨウヨと居やがるから、ベンウィック達と一緒に異海の探索の方をしていた方がいい」

 

 業魔に苦戦していたアリーシャに苦言するベルベットとロクロウ。

 

「今でこそ、聖隷は霊応力が低い人間でも見れる。

だが、それだけで人間自体に特別なにか大きな変化があったわけじゃない……聖隷と契約した対魔士ならばまだしも、普通の人間に業魔は倒せん。いや、あれだけ戦えただけ立派な方か」

 

「……」

 

 アイゼンは一応は誉めるが、見方を変えれば足手まといだと言っている。

 オレが貸した槍ならば余裕で倒せていたが、船にあった刃物としては上質の槍だと限界があるか。

 

「聖隷と契約した人間が業魔と戦える?」

 

「なんだ、お前達のところでは違うのか?」

 

「いや、あってる筈だが……その辺のシステムとか知ってる奴等は少ないんだよ」

 

 霊応力が高い人間がライラの器となり、導師に。その後にライラを経由したりして従士なり陪神を増やす。

 それ以外にどうにかこうにかする方法を一切知らないので、これは有力な情報と言えば情報だ。

 

「けどそれやったら、アメッカの方が死ぬかもしれねえ」

 

 スレイはミクリオを陪神にした時ぶっ倒れた。ライラの器になった時も意識を失っていたらしく、普通に見えるスレイがそれならば、普通に見えないアリーシャが器になればどうなるか分からん。

 

「色々とお前達には悪いが、アメッカは同行させてくれないか?アメッカの分のフォローもオレがする。その気になれば四人に分身できるし」

 

「お前、聖隷かなにかじゃないのか?」

 

「そんな大それたもんじゃねえよ」

 

 何度聞かれても名無しの権兵衛と答えるだけだ。聞いた奴がどんな意味か分かっていなくてもだ。

 アリーシャを連れていく事を言えば好きにしろと王都に向かって歩き出すベルベット。

 

「じゃから、言ったじゃろう?下がっておかなくてもいいかと」

 

 全員が歩き出す中、マギルゥはアリーシャにそう言う。

 マジの魔女かどうかは不明だが、この中でこの時代の人間であるマギルゥは分かっていた。アリーシャじゃ、憑魔一体を相手にするのでもやっとだと。

 

「……また、なのか?……」

 

「……行くぞ、アメッカ」

 

 今まで一緒にいたのは絵にかいたような善人のスレイで、酷いことは言わない。エドナが毒舌ぐらいで、それ以上はなかったが今回は違う。ベルベットはハッキリと、ロクロウは遠回しに邪魔だと言う。

 ハッキリと言われ、マーリンドでの出来事を思い出すアリーシャの右手をオレは握る。この手は差し伸べる優しい手じゃない。無理矢理前に歩かせる厳しい手だ。

 ベンウィック達のところに戻って異海の探索をするのが、一番安全だが、身の安全を得るために過去に来たんじゃない。絶対にこの手は離さないと歩く速度を合わせず、前を歩く。

 

 




スキット そういうのではない

アリーシャ「…弱い……」

ゴンベエ「ちゃんと歩け……悪いな、アメッカのフォローやアメッカが入れないといけないフォローは全部いれる」

ベルベット「勝手にしなさい。それで死にそうになっても、どうでもいいわ」

ゴンベエ「ああ、それはそれと割り切るし、割り切らせる。此処に来ると決意させた以上は無理矢理にでも前を歩かせる。あ、目の前にちょっと段差あるから気をつけろよ」

アリーシャ「うん……」

アイゼン「……此処に来る前はどうしていた?」

ゴンベエ「憑魔に有効な槍を使っていた。同じ性質の剣はあるにはあるが、アメッカは槍使いで剣士じゃない……」

ロクロウ「やっぱ撃ち落としたのはまずかったか」

ゴンベエ「そこまで気にすることじゃない……いずれと言うか限界は来ていた。さっきやりやった奴等よりも遥かに格上相手には普通の槍も同然だ」

ライフィセット「今から向かう王都には、退魔士達が沢山いるよ……あれぐらいの業魔を簡単に蹴散らす退魔士達が沢山」

アリーシャ「……そうか……」

ライフィセット「アメッカは退魔士じゃないの?」

アリーシャ「私は基本的な力が弱いからな……そのせいで前も足手まといに」

ライフィセット「前?」

ゴンベエ「聞くな」

アリーシャ「いや、別にいいよ。前までここで言う退魔士の従者をしていた。色々と停滞していた世界がやっと動き出したと喜んで協力したが、私が弱いせいで彼の邪魔をしてしまって……私自ら従者をやめることを提案した」

アイゼン「彼、と言うことはお前じゃないのか?」

アリーシャ「ゴンベエは違うよ。ゴンベエは退魔士なんてなるかと堂々と拒否している……」

マギルゥ「堂々と拒否しているのならば、何故ゴンベエと一緒に旅をしておる?」

ゴンベエ「その後にも前にも色々とややこしい事に巻き込まれた、主にオレが。で、色々と知りたいとなってここまで来た……下手な詮索はよしてくれよ」

マギルゥ「うむ、ただのバカップルとしておこう!」

アリーシャ「……マギルゥ、先ず大前提でおかしい。私とゴンベエはそう言った関係ではない」

ゴンベエ「前にも似たことを言われたが、違うとだけはハッキリと言えるぞ」

マギルゥ「いや、手を繋いでそんな甘ったるい胃に重いものを見せつけてる時点でバカップルじゃろうが!!手の繋ぎ方とか特に」

ゴンベエ「気のせいだろ。あ、そこ糞あるから気をつけろ」

アリーシャ「今、蹴らなかったか?」

ライフィセット「あれが普通じゃないの?」

ベルベット「そんなわけないでしょ……多分」

アリーシャ「そう見えるのも無理がないかもしれない。私自身、ゴンベエに依存している……だが、そういった感情は無いと断言できる」

マギルゥ「ならば、その手を離してみい」

アリーシャ「依存しているとはいえ、それぐらい出来る……」

アイゼン「今度は服を掴んだか……」

ベルベット「……バカらしい、さっさと行くわよ」

ロクロウ「確かこういう時は、え~と、あれだ。末永く爆発しろ!だったな」

ライフィセット「なんで爆発なの?」

アイゼン「お前にはまだ早い」

アリーシャ「それは知らない側の住人で良いんだ……そして何度も言うが違う」

マギルゥ「逆に考えるんじゃ……そうだったらどうだろうとの」

アリーシャ「……ダメだ、想像できない」

アイゼン「想像できないんじゃなく、今と大して変わらないから……これ以上は下世話な話が」

ゴンベエ「もう大分前からだぞ」


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恐れず一歩前に進む勇気と怖がり一歩立ち止まる臆病さ

「なんだろうな……」

 

 現代ではローランス皇国の中枢であるペンドラゴがある場所へと向かう私達。

 ゴンベエは離すまいかと私の手を強く握り、引っ張ってくれる……本人は無理矢理歩かせているつもりだが、そんな些細なことでも私には嬉しい。

 

「さっきから、なにを考えている?」

 

うーんうーんと頭を捻るゴンベエを気にするアイゼン

 

「いや、オレ自身が素で気付いていなかったり忘れてたりする事があるようななかったような……」

 

「物忘れしたって、こと?」

 

「ライフィセット、その言葉は痛い」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 なにかを必死になって思い出そうとするゴンベエにライフィセットの言葉が突き刺さる。ゴンベエが物忘れ?……あるだろうか?

 

「忘れていることを忘れていたら、もうボケが始まっている。今のうちに発明品の作り方をメモしておけ」

 

「おう!って、そういう感じのボケじゃねえよ」

 

 アイゼンにノリツッコミを入れるゴンベエ。そういう感じの物忘れじゃないとはどういう意味だ?

 

「オレはオレ自身の力を把握しきれていない。持っている物の使い方も使い道もだ。

凄く分かりやすく言えば、プリンに醤油掛けたら雲丹の味になるが、何故雲丹の味になるかは分かっていないのと同じだ」

 

「プリンに醤油を掛けたら雲丹の味になるの!?」

 

「それっぽくなるだけだ」

 

 なんだか物凄く分かりにくい例えを出すゴンベエ。ライフィセットはプリンに醤油を想像するが、そこは特に気にすることではない。

 ゴンベエの力は与えられたり借りたりしているものらしく、どういう効果なのかどういう時に使うのかゴンベエ自身も分かっていないのが多いらしい。

 

「使い方がよく分からん物もあれば、風のタクトみたいに一度も使ったことのない物がある。例えば」

 

「その話は後にしなさい……検問よ」

 

 ゴンベエがマントを取り出すのだが、此処で話は中断。ベルベットがこの国の衛兵を見つけて立ち止まる。

 ベルベット達が検問で検査を受けると……ダメだ。アイゼンとライフィセット以外はすんなりと終わらない。ロクロウとマギルゥとベルベットには何がなんでも声をかけて調べなければならない。

 

「全員を調べるものじゃない。

堂々と町中に入れば、怪しまれることはない……声をかけられるな。この国は聖寮が発行する通行手形がなければ、旅することすら出来ない」

 

「……普通の人間に業魔を倒すのが難しいとはいえ、やりすぎじゃねえか?」

 

 旅をすることすら制限する聖寮と呼ばれる組織……何故、それほどの組織が後世に語られていないのだろうか?ゴンベエは聖寮の行為がやりすぎだと疑問を持ち、私はどうして現代(いま)にまで伝わっていないのかを疑問視する。

 

「やりすぎなのは今に始まったことじゃない。

船での物資運搬等も聖寮が許可をしなければままならん。船乗りを止めていいのは自然だけで、人間が止めるなんて烏滸がましいにも程がある」

 

「お、海の男らしくてカッコいいな」

 

「らしくじゃない、海の男だ……平然と行け」

 

 アイゼンはポケットに入れている金貨でコイントスをし、私達に忠告を入れてから歩きだす。

 それにつられ、他の面々も歩く。検問をしている兵士の数は少なく、殆どが誰かの検査をしている。ならば、出来る限り検問中の衛兵の後ろを歩けば視界に入らずにすむ。

 声をかけられた時点で終わりな為に手を繋いでいれば怪しまれる。ゴンベエと繋いでいた手を離してゆっくりと歩いていき、衛兵に声を掛けられることなく突破

 

「待て、そこの黒コートの女、手形を見せてもらおう」

 

 出来たのだが、ベルベットが捕まった。

 

「ちょ、おまっ!」

 

「ゴンベエ」

 

「喋るな……つーか、あのアホは……」

 

 使ったことの無いものだと説明しようと出していたマントを一緒に被る。

 こんなところでマントを被ればベルベット以上に人目が……つかない?

 

「ベルベットと一緒に立ち止まるのは悪いことじゃないが、それすれば自分達も調べられるリスクに気付いてねえのか」

 

「それ以前に、密入国だ……どうしてこうなったのだろう……」

 

 普通の人なら気軽にローランスとハイランドを行き来できるが、普通の人でない私は出来ない。お忍びや身分を明かさない時は過去に何度もあったが、密入国なんてしてはいけない事をしなければならないことはなかった。今更ながらどうしてそうなったと感じる。

 

「イカにも!ご覧の通りクセが強い者達が勢揃い……?その名もマギルゥ奇術団と称しまする~♪」

 

 衛兵に捕まったベルベットを上手くフォローするマギルゥだが、一瞬だけ間があった。何かあったのだろうか?

 

「ほれ、兵士様の不信を解くために得意のハトを見せんか!」

 

「……すみません、師匠。仕込みを忘れました」

 

「くそ、凄く面白い状況なのに写し絵の箱が使うことが出来ない!」

 

「な、な、な、なんと!

芸を志す者が仕込みをしておらんとは……」

 

「お、おい、此処でハトを出されても困る」

 

「いいや、勘弁なりませぬ!

お詫びにハトマネをしなければ気がすみませぬ!」

 

「……」

 

「ハ・ト・マ・ネ!」

 

 明らかに嫌がっているベルベットにハトマネを強要するマギルゥ。

 ジロリと威圧するも、やらなければならない空気になってしまいベルベットは仕方なくと手を口に近付ける。

 

「ポッポ……」

 

 顔を真っ赤にしながらもハトマネ?をしたベルベット。

 すると、マギルゥの手が光を放ち何処からともなくハトや紙吹雪を出した。

 

「泣く子も笑うマギルゥ奇術団!此度はローグレスの皆々様に挨拶の一席を参りました~」

 

「こ、こら!ここで宣伝をするな!とっとと散れ」

 

「おおっと、失礼。では、散るかのぅ」

 

 マギルゥが上手く誤魔化したことにより衛兵はさっていく。

 私達が奇術団の一員だという印象を残したお陰で街の人達は怪しむことなく友好的になった。

 

「ははは!中々の手口だな、マギルゥ!」

 

「あんなものは子供だまし、調べられればバレる今回限りのことじゃよ」

 

「……」

 

「おお、怖い怖いポッポ~」

 

 なんとか入れたことを喜ぶロクロウだが、ハトマネはいらなかっただろうと怒るベルベットはマギルゥを睨む。

 

「ハト、凄かった……あれ、そう言えばゴンベエとアメッカは?」

 

「ん……言われてみれば、何時の間にかいなくなってるな」

 

 さっきまでの芸を思いだし笑顔を浮かべるライフィセットは辺りをキョロキョロとする。ロクロウもキョロキョロと私達を探す……?

 

「さっきからずっと此処にいるのだが?」

 

「!?」

 

 ゴンベエと一緒にマントを被っていて、私は一歩も動いていない。

 声を出してもまだ回りをキョロキョロするので、ライフィセットの前に立つと全員が驚いた顔をする。

 

「どうかしたか?」

 

「どうかしたって、お前今、なにもない所から現れたぞ?」

 

 ロクロウにそう言われたので後ろを振り向くとなにもなかった。

 現代と大して変わらないよくみる風景でそこにはゴンベエはおらず、どういうことかと驚くとゴンベエは急に現れる。

 

「ハトマネ、良いものを見せてくれてありがとう、マギルゥ」

 

「うむ、楽しんでくれてなによりじゃ!次はイヌマネもさせてみてはどうじゃ?」

 

「見てみたいわ~……どうした、ベルベット?」

 

「それ、さっき出してたわよね?」

 

 マギルゥにお礼をいうゴンベエの左手には、さっき説明しようとしたが出来なかったマントが握られていた。

 

「ああ、マジックマントと言って姿を消せるマントふぁ……ふぁふぃふぃふぁふぁふ(なにしやがる)

 

「そう言うのは先に出しなさい!!」

 

「あべし!?な、ナイスな一撃……」

 

「ちょうどいいものが手に入ったわね。これさえあれば何処にでも侵入し放題よ」

 

「待て、それはゴンベエの……姿が消えてないぞ?」

 

 ゴンベエに強烈なビンタを叩き込み、マジックマントを奪ったベルベット。

 頭にマントを被るのだが、姿は全く消えておらず普通に赤いマントを被っているだけだった。

 

「あ~いてて、かなりどころか全力でビンタしやがって」

 

「姿が消えないんだけど、どうなってるの?」

 

「被れば誰でも使えるもんじゃねえ。オレの持つ道具の一部は動力が必要で、お前はその動力源を持ってない。アメッカの時はオレが動力を支払って動かしてるから姿を消せた」

 

 起き上がったゴンベエはベルベットに透明にならない理由を説明し、マントを取り返す。

 何時も色々と道具を入れている袋にマントを戻すとベルベットは袋を見る。

 

「……その動力源って、どうすれば手に入れられるの?」

 

「う~ん、妖精に会う?」

 

「ふざけないで」

 

「ふざけるもなにも本当にそうなんだよ……なんも聞かんなら、此方が聞くがベルベットはなにをしに此処に来たんだ?」

 

 マントで姿を消す動力源が手に入れられないと分かれば、ゴンベエに対してなにも聞かないベルベット。

 今度はゴンベエからベルベットに質問をする。アイゼンは船長のアイフリードを探している。ライフィセットはなにかと便利だからと連れてこられた。マギルゥは普通についてきた。ロクロウは誰かを斬りたがっている……ベルベットはなんの為にここに来たのだろうか?

 

「……ある男を、アルトリウス・コールブランドを殺すためにここまで来た。此処にいれば何処にいるのかの情報を……」

 

「成る程。で、具体的には何殺で?何処かに閉じ込めて毒ガス流して一酸化炭素中毒とか一ヶ月間絶海の孤島放置で餓死とか色々とあるぞ?」

 

「……」

 

「ゴンベエ……」

 

 ベルベットが旅をしている理由が、憑魔になった理由がなんとなくだが分かった。

 ベルベットは怒っている……誰かは分からないけど、とても大切な人を失った。失った原因がアルトリウスにある。だから、憎み怒り憑魔へと変貌した。

 

「復讐鬼というやつじゃのう……アメッカは止めはせぬのか?」

 

「……?」

 

 どうしてだろう?マギルゥにそう言われるまで気付かない自分がいた。

 復讐はしても今度は襲われる側になるだけで、誰かが止めなければならない争うことにより次の争いの種を残す半永久的に終わらない。何時もの私ならば止めることをしている。復讐なんてダメだと言っている……なのに何故か言う気になれない。

 頭でも心でも体でも復讐はダメだと分かっている。つい数日前に出会っただけで、物凄く付き合いが長いわけでもなく掛けてはいけない情で動くこともない。

 此処ではアリーシャ・ディフダでなくただのアリーシャ……マオクス=アメッカだから、止めない……と言うわけでもない。

 

「どうし、てだ?殺して復讐なんて間違い……正しくはないはずだ?」

 

「……なにやら厄介な事になっておるのう」

 

 どうしてなにもしないなにも言わないのかが分からなくなり、私は困惑する。

 体調に特に異変は無く、問題ないので立ち止まらず私達は奥へと進んでいくと大きな門の向こう側から声が聞こえる。

 

「「「「ミッドガンド!ミッドガンド!」」」」

 

「そう言えば、さっき式典がどうのこうのって言ってたな」

 

「見事なまでに躾られておるが、喧しいのう」

 

「この様子だと、中に入るのは無理……いや、下手をすれば顔が割れるか」

 

 レディレイクとは……ハイランドとは真逆で、国の人々達から歓声が門の向こうから鳴り響いている。

 大事な式典……恐らく王族や著名人が顔を出す式典かなにかで、今は門の向こうにいくことは出来ないとロクロウ達が足を止めるので私達も足を止める。

 

「王国民よ、ミッドガンド聖導王国第一王子!パーシバル・アスカードである!」

 

「王子が出るレベルでの式典か。

となれば各地の地位や権力もった著名人が一同に集う可能性があるな。お前等の目的も直ぐに果たせればいいが」

 

「ベルベットやロクロウはともかく、オレはそう易々といかん。あくまでも探しているのはアイフリードだ」

 

「いやいや、それをいったら俺もだぞ?

著名人が沢山いるとなれば、斬りたい奴と一対一(サシ)でやれん。他の奴等が介入したり、行くまでの道中に厄介な敵がいる……疲労困憊の状態で斬れるほどあいつは甘くはない」

 

「無駄話してる暇あるなら、何処か登れる所を探しなさい」

 

 ロクロウが斬りたい相手が誰なのか分からないまま、門の向こうの歓声が静まる。

 王子の一言で静かになり、声が聞こえるようになるが姿は見えない。向こう側でなにが起きているのか想像は簡単に出来るが、恐らく私の想像を遥かに越えることが起きている。

 

「十年前の開門の日以来、業魔病と業魔の驚異によって我が国の存亡の危機を迎えていた」

 

「……業魔病?」

 

 何処かに見晴らしのいい場所は無いかと探していると、聞いたことの無い病を語る王子。

 

「あんた、そんなのも知らないの?原因不明で治療不明の病気……異大陸では流行っていない?」

 

「業魔が憑魔で、聖隷が天族だとするならば、私達のところにもある。

薬を飲んだりして治療する病気のようなものではない……精神が病んでいると言われればそうだが」

 

「……アメッカ、お前は業魔病がなにが原因なのか知っているのか?」

 

「ああ、ゴンベエも私も知っている……」

 

 この時代では天族や憑魔を普通の人達が見ることが出来る。

 それならば、普通の人達が急に化物に変わったと驚き病の一種だと勘違いを起こすのは分かる。

 だが、なにかが引っ掛かり、アイゼンは私達が業魔病の正体を知っていることを知ると少しだけ俯く。

 

「なら、言っておく。此処では業魔病は治すことの出来ない病気として扱われている。被害が出ないように仕留めている」

 

「……」

 

 治すことの出来ない病気……現代では浄化の力を使えば、元に戻った。

 1000年前の過去では、治すことの出来ない……ザビーダ様が言っていた浄化の力が無かった時代、それが今になるのか……?

 

「だが、命が朽ち、心が尽き果ててゆかんとする地に奇跡の剣が持ちたつ者が現れた!」

 

「あった!」

 

 見晴らしの良いところを、門の頂上に誰も居ないことに気付くベルベット。

 

「登るのはいいが、流石に襲撃は無謀……なによりも、登れるのか?彼処に誰も居ないのは良いが、王子が出てくるとなると警備は何時もよりも入念に、特に狙撃対策はしてある」

 

「確かそういうときに使うものがある……人数分あったっけか」

 

「誰あろう、アルトリウス・コールブランドである!!」

 

「!」

 

 門の頂上に登るまでの道具を取り出そうとするゴンベエだったが、その前にベルベットは動き出す。

 復讐の相手であるアルトリウス・コールブランド、聞いたことの無い名前だが民衆の誰もが知っているのかアルトリウスコールが鳴り響く。

 

「待て、ベルベット」

 

 先走ったベルベットに鎖付きの錨を飛ばす道具を向けるゴンベエ。ベルベットに命中するとベルベットはゴンベエの手元に引き寄せられていく。

 

「っ、離せ!!」

 

「走るよりも、これ使った方が早く行ける。お前等の分もあるから、使ってくれ」

 

 暴れるベルベットを抑えながら、ゴンベエは門の頂上に向かって錨を発射する。

 錨は頂上の煉瓦に引っ掛かり、今度は先程とは真逆、錨を発射する道具を持っているゴンベエが移動してベルベットと一緒に一瞬で頂上に辿り着いた。

 

「中々に便利な物だな」

 

 ゴンベエが置いていった錨を発射する道具を拾うロクロウ。先程のゴンベエの様に頂上に向かった。

 

「後で他になにがあるのか、聞いてみるか」

 

 後に続くようにアイゼンも使って飛んでいった。

 私達もと続くように頂上に飛んでいくとゴンベエはベルベットを抑えていた。

 

「っ!」

 

「やめとけ、やめとけ。

今ここで襲ったところで勝てんぞ……色々と面倒なのがいるし、なによりも此処で下手に喧嘩を売れば全勢力でアイフリード海賊団+αを潰しに来る」

 

「+αとは、ワシ達のことかの?」

 

「それ以外、何処にいるってんだ……」

 

 必死になって暴れるベルベットを簡単に抑えるゴンベエ。

 アイゼン達も今ここで襲撃するのはまずいと言葉をかけて落ち着かせて一先ずは納得させるが、ベルベットは唇を噛み右手を強く握り血を流す。

 

「アルトリウスの偉業は誰もが知っている!彼は業魔に苦しむ民の救済に全てを捧げた!」

 

「でも、殺した」

 

「五聖主の一柱たるカノヌシを降臨させ、聖隷の力を我等にもたらした!」

 

「でも、殺した!」

 

「ベルベット、血が!」

 

 王子の解説と共にベルベットの拳は強くなり、出てくる血の量もましていく。ライフィセットはそんなベルベットの傷を治そうとするが、ベルベットは拒んだ。

 

「これぐらい、ライフィセットの痛みと比べたら!」

 

「ライ、フィ、セット?」

 

「おい……それは違うだろう」

 

 左腕を変化させてライフィセットを拒んだベルベットを睨むゴンベエ。空気が更に重くなる。

 

「混沌の世に理という希望を与え、今、その希望が絆となり我々を結んでいる!」

 

「でも、お前は……私の大事な物を全部!」

 

「ったく、聞いちゃいねえか……」

 

 ゴンベエの言葉にも心配をしてくれているライフィセットにも耳を傾けないベルベット。

 どうすることも出来ないと一先ずは抑え込み、街の様子を見る。

 

「今、アルトリウスの功績と献身を称え、今此処に災厄を祓い民を導く救世主の名を……導師の称号を授けん」

 

「……導師!?」

 

 この時代に来てから聞いたことのない、この時代では当たり前の用語の数々。

 私が分かるのは精々、アイフリード海賊団ぐらいで他は知らない……天族=聖隷だということは分かるが、それでも私の知っていることと異なることばかり。

 だが、今まさに私が知っている用語が、導師の称号が出てきた。

 

「この国で今まで導師と呼ばれる奴はいたか?」

 

「……恐らく、奴の為に用意された称号だろう」

 

 ゴンベエがさらりと探りをいれるとアイゼンは直ぐに答えてくれた。

 導師アルトリウスは……世界で一番最初に誕生した導師……だが、どうしてそれが後世にまで伝えられていないのだろうか?

 過去に導師が実在していたのはザビーダ様もライラ様もエドナ様も知っている……だが、誰一人として現代(いま)の導師であるスレイ以外の名を口にしない。それどころか、歴史に名が残っていない。

 導師が活躍するのは災厄の時代、その時代には常にバルトロの様な者がいる。スレイの様な事を防ぐために名を残さないのかと考えるも、それだと民衆の心を掴み、スレイと違い国が全面的に支援していて尚且つ一番最初の導師のアルトリウスならば歴史に名を残していてもおかしくはない。

 なのに、その名前を知らない……。

 

「お、出てきたぞ」

 

「ベルベット、暴れるなよ」

 

 ここから見える大きな城から出てくる中年の男性。ベルベットはその男性が出てくると暴れようとするも、抑えられる。

 

「……世界は災厄の痛みに満ちています。なのに、私は皆さんに頼まなければならなかった」

 

 アルトリウスが口を開くと民は口を閉じる。

 導師と言えばスレイが頭に過るが、アルトリウスはスレイとは違い、一般の人がイメージをする様な導師そのものと言える感じだった。

 

「理という苦痛に耐えてくれと、意志という枷で自らを戒めてくれと。

何故なら揺るがぬ理とそれを貫き通す意志、これが災厄を斬り祓う唯一の剣だからです」

 

…………

 

「アメッカ、どうして」

 

「ライフィセット、少し黙ってろ……おもろいことになっとる」

 

 アルトリウスは左腕を掲げ、一度だけ目を閉じて見開く。

 

「今ここにその剣がある!私は誓おう!我が体と命を、全なる民の為に捧げよう!

全ての人に、聖主カノヌシの加護をもたらし災厄なき世に導くことを……世界の痛みは、私が必ず止めてみせる!!」

 

 大観衆の前で宣誓するアルトリウス。

 人々にとってはその言葉はなによりも喜ばしいことで、アルトリウスコールが響く……

 

「導師、アルトリウス……離しなさい」

 

「襲いに行くか?」

 

「……行かないわ……」

 

「分かった」

 

 アルトリウスコールを聞いて、ベルベットは襲撃するのをやめた。今はだが。

 中でなにが起きているのか、ベルベットの復讐相手が誰なのかが分かった。この場所に長居をすれば面倒な事になると、立ち去ろうとするとベルベットは私を見て変な顔をする。

 

「あんた、なに泣いてるのよ?」

 

「……え?」

 

 ベルベットの一言に私は固まった。

 

「アルトリウス様が演説をはじめてから、アメッカは泣き出してたよ?」

 

 ライフィセットがそう言うと私は目元に触れた。ライフィセットの言うとおり、涙は流れておりゴンベエは小さな手鏡を取り出すと私は両目から涙を流していた。

 

「なんで、なんで泣いているんだ私は!?」

 

「いや、俺に言われても……」

 

「今の演説に感動して涙を流したのではないのか?」

 

「感動もなにも、そんなものは……あれ?……」

 

 導師アルトリウスの演説は凄まじかった。

 言葉の一つ一つに重さとなにがなんでも成し遂げてみせるという揺るぎない信念が籠っており、災厄の時代をどうにかしようとする意志を感じた。

 何時もならば素晴らしいと称賛する、私もその手伝いをしたい、災厄なき穢れなき世界を見てみたいと言う……なのに、なのに

 

「なにも、思わない?」

 

 アルトリウスの演説に対して、私は素晴らしいと思わなかった。

 私が絶望の未来からやって来たから?今はアイフリード海賊団と共にしているから?……どれもこれも違う。

 

「よかったな、アメッカ」

 

「ゴンベエ?」

 

「……お前、今、疑う心を持った」

 

「疑う、心?」

 

 私の肩に手を置いたゴンベエは冷たい声で耳元に語りかける。

 

「あのおっさんからは揺るぎない信念や意志を感じる。

だが、ハッキリとした形を持っていない……頑張れば努力すればは形ではないのと同じように、あのおっさんが語ったことには具体性を感じない」

 

「!」

 

 ゴンベエが語ったことで私は理解した。

 アルトリウスの演説は信念や意志を貫き通してみせると言ったものであり、具体的になにをするのかをなに一つ言っていない。聖隷と共に国を潤すわけでも、未知なる大陸を調査させるわけでもない。

 

「オレ達はバカでも分かる形を見たい、想像したいんだ。

恐らくだがアルトリウスはスレイの何百倍も身も心も強い……だが、なにをするのかを言っていない。

オレ達は此処に来る前に形があるものを見ようとして、何度も何度も何度も何度も何度も何度も失敗に終わっただろう」

 

「……そうだったね」

 

 綺麗な言葉で隠そうとしているが、具体的にはなにをするのかをアルトリウスは言っていなかった。

 なんでどうしてそうなったと知りたいから過去にやって来た私達だが、過去にやって来る理由が誕生したのは形を見ることも想像することも出来なかったからだ。

 

「すまない、驚かせてしまって。急いでここから離れよう」

 

 驚いたり心配したりしている皆に謝り、私達は下に降りていく。

 

「どうして、泣いてたの?何処か怪我をしたの?」

 

「ライフィセット、私が涙を流した理由は口で説明するのは難しい……いや、簡単なのかもしれない」

 

「……どっちなの?」

 

「それは私にもわからない」

 

 現代での自分と変わってしまったから、私は涙を流した。

 人を信じたり思いやる心とは別に、人を疑ったり具体性を求める心が生まれた。だから、涙を流した。

 変わってしまった自分を感じ、不思議と気分はよかった。

 

「思いやり、優しさ、友情、使命感、どれもこれも素晴らしいものだ。

だが、それだけでどうにかなるほど甘くはない。それだけを極めれば良いだけじゃない。

太陰太極図に描かれているように陰も大事なんだよ。人を疑ったりする心は大事で、理なんて面倒な事を言ってそれなりの正義を振りかざしてる奴に、なろう系とは違う転生者(オレみたい)なのに影響された奴の心には響かねえよ」




スキット 心霊ライフィセット

ゴンベエ「いやぁ、さっきのは面白かった」

ライフィセット「ハト、凄かったね」

ゴンベエ「そっちもだが、ベルベットとマギルゥのやり取りだ。ハ・ト・マ・ネと一つの言葉に威圧感を感じ、その後の恥ずかしがりながらのポッポ~、尊いとはあの姿の事をいうんだ」

ライフィセット「尊い?」

ベルベット「あんた、まだ言うの?」

マギルゥ「そう怒るでない。ワシ等の芸を褒めてくれとるじゃからのう」

ゴンベエ「そうそう……カメラに納めとけばよかったな」

ライフィセット「カメラ?」

ゴンベエ「ここ来る前に言った写し絵の箱だ、ベルベット、マギルゥ、チーズ」

マギルゥ ベルベット 「!?」

ライフィセット「箱が光った!?」

ゴンベエ「そういう風に出来てるんだ。だが、驚くのはまだ早い……ここをこうしてこうやってっと、はい、写真完成」

マギルゥ「おぉ、ワシ達がクッキリハッキリと写っておるではないか!?」

ベルベット「あんた、なにをやったの?」

ゴンベエ「暗い部屋に壁や板戸の小さな穴から光が入ると、反対側の壁に外の景色が写るのを利用した」

ベルベット「……もう一度言って」

ゴンベエ「暗い部屋に壁や板戸の小さな穴から光が入ると、反対側の壁に外の景色が写る小穴投影を応用しているんだよ」

マギルゥ「うむ、さっきと若干違うこと以外、さっぱりと分からん」

ライフィセット「でも、スゴいよ。一瞬でこんなのが出来るだなんて」

ゴンベエ「スゴいっつーか、これのお陰で、色々と便利になったからな。図鑑とか絵じゃなくて実物を色付きで載せれたりするんだから。硫黄があれば、カメラの劣化品を作れて貸せるんだが……何枚か写真を撮っとくか」

マギルゥ「では、風景をバックにワシ等を思う存分撮るが良いぞ!」

ゴンベエ「いいぞ。ライフィセットもベルベットも並べ並べ」

ベルベット「なんで私まで」

ライフィセット「ダメ、かな?」

ベルベット「……時間が無いから早くしてよね」

ゴンベエ「……はい、チーズ」

ライフィセット「チーズ?」

ゴンベエ「何故かは知らないが、これを言うのが伝統なんだ。次は個人写真撮るぞ。誰から行く?」

ベルベット「私はパスよ」

ゴンベエ「そう言うな……ババアになった頃にあの頃はって思い出せるぞ」

ベルベット「そこまで長生きするつもりはないわ……アルトリウスさえ殺れればって、なに撮ってるのよ?」

ゴンベエ「美人のそう言う顔も面白いんだよ」

マギルゥ「ほぅ、中々にキザったらしい事を言うのー。アメッカが聞くとカンカンになるぞ」

ゴンベエ「キザったらしい事じゃなくて、事実だ。お前等を含めて知り合いに美男美女腐った人向けの奴等率が圧倒的に多い……故に美女とかイケメソとかいうのもう面倒くさい。褒め方ひとつでセクハラになる時代になるから褒めない」

マギルゥ「何気に最悪じゃの」

ゴンベエ「と、んな不毛な会話をしている内に写真ができ……あれ?」

ベルベット「どうかしたの?」

ゴンベエ「……これ」

ライフィセット「右にベルベット、左にマギルゥ、真ん中に真っ白くてボヤけた人型のなにか……もしかして、これ僕なの!?」

ベルベット「そう、なるわね……」

ゴンベエ「うん……アメッカと風景以外撮った事なかったからこうなるとは思わなかった……肉眼で見えているが、霊的な存在で鏡にも写らない。だが、実在しているから空間になんらかの影響を及ぼしているからこうなった。ざっくりと言えば心霊写真だな」


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暴力は大体の事を解決できる(パワーワード)

「導師アルトリウス、あれがお前の標的か」

 

「お前、殺るなら殺るでプラン練ってからにしろよ。ストレートに殴りかかっても死ぬぞ」

 

「……ええ、そうね」

 

 アルトリウスの形の無い暑苦しい演説も終わり、少しだけ人気の無い場所にたまるオレ達。

 ウーノが言っていた1000年も昔に誕生した最初の導師、それがアルトリウス。ベルベットの標的が人類史初の導師とはまた、神がかった運命……いや、これこそがベルセリアというやつか。

 

「アルトリウス様を殺す……」

 

「どうして、どうして、そうなったんだ?」

 

 此処にと言うよりは、この時代に来てから一気に変化の兆しを見せるアリーシャ。

 何時もの調子ならば真っ先に間違っているとか言いそうだが、そんな事は言わず、頭ごなしに否定する事もなく自分を制御し、取り敢えずと立ち止まり、同じ場所を別の方向から見ようとする。

 

 

「……あんたには関係の無いことよ」

 

「だが、ベルベットはさっき」

 

「別に、手伝ってって言ってないわ!」

 

 知ろうと歩み寄ろうとするアリーシャを拒むベルベット。

 復讐の手伝いが欲しいのならば、理解者の一人や二人集っておかなければ裏切られるぞ。

 

「ところで、二人の目的の人物は?」

 

「俺の方は居なかった。

まぁ、ああいう堅苦しいのには出ないし、出ても問題を起こすだけだから居ないだろうとは見る前から感じていた。

だが、ある程度の情報はあるから嫌でも見つかる……向こうからやってくるかもしれん」

 

「オレの方に関しては人は見つけたが、それだけだ」

 

「そうか……手懸かりだけでも、ましな方か」

 

 オレの方は、手懸かりどころかなーんにも掴めていない。

 いや、掴めているには掴めているんだろうが、どうしてそうなったという疑問は残っているし……三人目を見つけないと。

 

「さて、そろそろワシはおいとまするかの」

 

「ん、どっかに行くのか?」

 

「うむ、実は捜し物があってのう。名残惜しいが、此処でお別れじゃ」

 

 マギルゥの捜し物?胡散臭そうだな。

 

「さよなら」

 

「うむ、坊も達者にの。皆の大願成就、七転八倒を祈っておるぞ」

 

「お前、悪魔か!」

 

「残念、ワシは魔女じゃよ。じゃあの~」

 

 マギルゥは最後の最後にクソッタレな事を言って、去っていった。

 

「ったく、嘘とかそういうの言うにしても優しげな言葉を選びやがれよ」

 

「七転八倒って、七回転んでも八回起きる、何度でも挑戦しろ……じゃないの?」

 

「それは七転八起、七転び八起きだ。

七転八倒は激しい苦痛などで、ひどく苦しんで転げまわることで、七回転んで八回目には倒れる……遠回しにクタバレって意味だな」

 

 七転八起をせめて言って去ってくれよ、マギルゥ。

 ベルベットとアイゼンが結構イラッとした顔を……何時も通りの顔だな。

 

「お前等にはウザいかもしれんが、オレ達はこのままお前達について行かせてもらう。

どうも色々と不明な点が多すぎる……復讐鬼ベルベットが誕生した原因、行方不明の海賊団船長、開門の日、世間的に治らぬ病とされる業魔病、数えたらキリがない。これを知るには、お前達と一緒に居た方がいい、綺麗な言葉にはもう飽きた」

 

「好きにしなさい……それと、これは暫く借りるわよ」

 

 フックショットの便利さに気付いているベルベットはオレが使ったフックショットをしまった。

 

「それで、これからどうするんだ?

相手は導師で国の重要人物、近付こうにも近付けん……さっきのゴンベエの透明マントは」

 

「残念ながら一品物だ。

というよりはあれは姿を消すだけであり、コウモリみたいに超音波で、蛇みたいに熱で探知されたら引っかかる」

 

「なら、先ずは情報を知ることが大事だ。

お前が言ったように、色々と不明な点が多すぎる……奴等が何をしようとしているのかを知らなければ話にならん」

 

「とは言うが、王国の重要人物。そう易々とは知れず世間で出回っている情報は遅すぎるし、信憑性が薄すぎるぞ?」

 

「問題ないだろ」

 

 ロクロウの言うとおり、アルトリウスに関する情報は少ないだろうしガセネタが多い。だが、心配することはない。

 

「SNSどころか、Wi-Fiもインターネット、いや、発電所の一つすら無いこの大陸。

船を泊めてくれるグレーな奴がいるように、情報を売り買いしているグレーな奴等も存在しているだろう」

 

「SNS?」

 

「ソーシャルネットワークサービスのことだ。

説明すると洒落にならない程に時間がかかるから教えない……というか、教えたらこの国、色んな意味で滅ぶ」

 

 オレの言っていることに疑問を持つライフィセットだが、SNSについては教えられないな。それを教えれば、オレ達は下手したら全滅、それどころかこの大陸が崩壊する。

 

「SNSだか、インターネットだかよくわかんないけど……グレーな奴はいるの?」

 

「確かアイフリードが懇意にしていた闇ギルドがあったはずだ。

バスカヴィルとかいうジジイが仕切っていて、王都の酒場が窓口だとか」

 

 お前の方がジジイだろう?とアイゼンにツッコミを入れようかと思ったが、取り敢えずは言わない。

 しかし、闇ギルド……アリーシャを襲おうとした奴等はどうしたんだ?つーか、スレイは今、なにやってんだ?

 現代のスレイは順調かと少しだけ気にしているとライフィセットのお腹が鳴った。

 

「わっ!?」

 

「ははははは!とにかく酒場に行ってみよう。そこなら腹ごしらえも出来るはずだ」

 

「う、うん……」

 

 取り敢えずはここに固まっても意味はないと酒場に向かうことにするオレ達。

 歩きだすのだがアイゼンは足を止めており、オレとアメッカの背後を睨んでくる。

 

「なにか?」

 

「……お前達は何処まで知ってる?」

 

「何処まで、か……なにも知らないんだ、私達は」

 

 恐らくはさっきの業魔病が切っ掛けだろう、アイゼンはオレ達を怪しんでいる。

 乗船させると言ったのはアリーシャの思いは本物だと認めているからだが、それはそれ、これはこれと一線を敷いて色々と気にしだしたか。

 

「なにも知らないのに、業魔病の正体は知っているのか?」

 

「なんもでねえぞ」

 

 アイゼンが疑いを持つのも無理はないと思う。

 業魔病、穢れて業魔になることをこの時代では病とされている。菌やウイルスが発見されるまで病気は呪いだなんだと言われている時代があったから、そう言われていてもおかしくはない。オレは怪しむアイゼンに先に言っておく。

 

「オレ達が見ているものが正しいのか正しくないのか分からなくなってるのに、信じろなんてふざけたことは言わねえ。

お前がお前の目で見て、それから答えを出してくれ……少なくとも、オレ達は敵になるつもりはない。色々とこっちの方も頭がこんがらがってる」

 

「アイゼン、すまない……話した方がいい事はあるかもしれない。

だが、それはそれと同時に話すことができないもので……今は絶対に無理なんだ……」

 

 未来から来たなんて言って、はいそうですかと信じられるわけないし未来の知識なんて糞の役にもたたん。

 アリーシャの顔をみて、これ以上は聞いても無駄だとベルベット達を追いかけていった。

 

「アイゼンなら、話しても信じて色々と察してくれるだろうが……心苦しいな……」

 

「どうしてなんでっていうシンプルな疑問はもっていいが、難しいことを考えるな。

オレ達が今やることは見て、覚えること……なんでこうなったって、知ってから自分の中で色々と混ぜて答えを出すんだ。ただまぁ、今から見ようとしているのは汚い世界なんだよな……」

 

「大丈夫……汚い世界は慣れている」

 

 アリーシャはそういい、アイゼンを追う。

 

「汚い世界には慣れている、か……オレは色々と大事な事を教えれるほど、器用じゃない。うん、無理だな」

 

 綺麗な世界を見てみたいとは汚い世界を知っているということ。

 今から見る汚い世界を、結末を見て、アリーシャはどうするのかが心配だが、それはオレがどうにか出来ることじゃない。結末を見て、変わるのは案外オレなのかもしれない。典型的な主人公にだけはならねえけどな!

 

「ところで、アイゼン……この国とまともにやりあえる奴等って居るのか?」

 

「なにを言ってやがる、オレ達アイフリード海賊団は王国の海軍とまともにやりあえる唯一の海賊だぞ?」

 

「……うん……」

 

 分かっていたとはいえ、これから先、戦うであろう相手は遥か過去のローランス帝国の奴等もといミッドガンドという国だ。

 スレイは仕方なくで戦ったのに、オレとアリーシャは分かっていて普通に戦おうとしている……本当になんでこうなったと思う。皮肉どころの騒ぎじゃない。

 一応の為にと確認するが、予想通りと言うべきか戦えそうなのがいない。

 

「聖寮の雑兵の実力は知らねえが、最終的に狙うは導師の首だ。

道中までの雑魚は導師と戦う際の予行演習だとしても数が多すぎるしなによりもって、導師だから強いか。

質はこっちの方が圧倒的に上かも知れないが、数による戦法は洒落にならねえ。此方もなんとかして数を揃えられねえのか?」

 

「闇ギルドや聖寮の政策に不満を持つ者はごまんといる。そいつ等を束ねれば、数だけなら対等に渡り合える……数だけならな」

 

 それはつまり雑兵の質も物凄いということか。

 ベルベット達が一緒にいるがベルベット達はアイフリード海賊団の一員ではない。

 ベンウィックとかの部下が色々といたのに誰一人連れてこないとなると、船員は船乗りとしては超一流だが戦うものととしては別で、他の闇ギルドの奴等もか。

 

「ならば、天族の方々に頼るのは……そういえば、王都に来てから天族の方々を見ていない。

アルトリウスが導師で、対魔士達が従士だとすれば天族の方々はいったい何処に……スレイの様に人を器にしているのだろうか?」

 

「……お前達のところの聖隷は、どうなってやがる?」

 

「聖隷は天族と呼ばれていて……人との共存……とにかく、人と歩み寄ろうとしている」

 

 地の主のシステムは共存じゃない、どちらかと言えば依存させるに近いシステムだ。

 前にそう言ったことが響いているのか共存と言うのを途中でやめた。

 

「……大陸が変われば、在り方一つも変わるか」

 

「ライフィセットとアイゼン以外の天族はいったい何処に……」

 

「対魔士達の中だ……器にしていると言ったら分かるだろう?」

 

「それは分かるが、導師アルトリウスが功績を残したとしても、どうして天族の方達には称号を用意されていない?」

 

「天族は、聖隷は意志を奪われている」

 

「!?」

 

「おおっと……いや、そういうことか」

 

 ここに来てからアイゼンとライフィセット以外は天族を見ていない。

 天族が見えて当たり前で、世間も天族を認知しており、天族と契約して戦っている奴等…どころか組織がある。

 なのに、さっきの式典ではアルトリウスばかりを持ち上げていた。国としては人間を持ち上げたいのかもしれないが、本当に持ち上げなければならないのは天族だ。

 

「どういうことだ?」

 

「どういうこともなにも、聖寮は聖隷を捕まえて意志を抑制して契約している。今ではオレの様な聖隷が稀なぐらいだ」

 

「……人間が、聖寮がその様な事をしているのか!?」

 

「そうだ。お前達のところは……三年以上前の対魔士と同じか」

 

 わけがわかんねえな、マジで。

 アイゼンの口ぶりからして数年以上前はスレイみたいな奴にしか見えなかったが、なんらかが原因で見えるように。

 見えるようになったから、聖隷と契約して戦える力を手に入れて…………。

 

「ある意味、オレ達が想像できなかったしなかった答えだな」

 

「っ、違う!!天族の意志を抑制して、正しいとは言えない!

もしこれが正しいというのならば穢れがないというならば私は真っ向から否定する……少なくとも、私はこんなのを想像しなかった」

 

 天族が見えるようになれば種族間での政治とかパワーバランスがおかしくなる。

 意志を抑制する事により力だけを摘出すれば天族が余計な事をいってこない。至ってシンプルだが、そういう感じの非情な事を思い付かなかったのはオレもまだまだだということだな。

 

「そうなると、アイゼンが正しい答えだな」

 

「オレが正しい答えだと?」

 

「……天族と人間の繋がりとはどうすべきか、繋がりはなんなのか答えを出すのが、私達の旅の目的の一つだ。

アイゼンは……失礼だが、私の知る天族の方達とは大分違う。私が勝手にそう思っている、思い込んでいた部分もあったが、大きく違う」

 

「だろうな、海賊をやっている聖隷なんぞオレ以外には存在しない」

 

「そうじゃない。いや、確かにそう言った部分もあるが、アイゼンは……人間臭い?のだろうか……」

 

 アリーシャの言いたいことは、なんでそう思ったのかは分かる。

 天族も術を使える以外は人間以外と大差変わらないというのと信仰する存在で祈りは大事なものとどうとか思っていたが、アイゼンはウーノ達とは違い色々と異なる天族だ。と言うよりは人間に近いな。

 種族での差や壁を作っていない。

 

「聖隷や人間といったものなんて関係無い、普通の関係を築いている」

 

「……そうか」

 

「すまない、上手く説明できなくて。全てを教えれば簡単に説明が出来るのだが、それが出来ないんだ。

だが、聖寮が天族を無理矢理使役しているというのならば見過ごすことはできない。人と同じで、心を持っていて、ちゃんと誠意を持って話せば力を貸してくれる。災厄の時代をどうにか出来るならばと、力を……忘れてくれ」

 

「悪いが、それを聞いて忘れることは出来ない……お前が一発ぐらい、アルトリウスや聖寮の奴等をぶん殴らねえとな」

 

「ああ!反省をしてもらう!」

 

「なんか上手い風に纏まっているが、ベルベット達に置いて行かれたぞ」

 

「「!?」」

 

 ロクロウと色々と話しながらスッと行った。

 その事を伝えるとアイゼンは走り出して、ベルベット達がいるであろう酒場に向かう。

 

「数の有利を無くさないとどうにもならない、マジでどうすん……え、マジで?」

 

 このまま戦ったとしても、数的な意味で分が悪すぎる。

 アリーシャが戦えるようになっても焼け石に水、どうしたものかと考えていると黄金の毛を持つ狼の姿が見えた。





DLC

アリーシャ

謎のヒロインX

説明

サーヴァントユニヴァースと呼ばれる謎の時空から来訪したストレンジャー。
騎士として正々堂々と闇討ちを行い、自分以外のヒロインを、自分と似た顔を殺そうとする危ないやつの衣装。
色々とツッコミを入れたい衣装だが、アリーシャは恐ろしいまでに違和感なく着こなす。
呪われた装備なのか、これを着た途端にベルベットとライフィセットとロゼにとてつもない殺意を抱く。
だがしかし、彼女達は無実であり真に倒さなければならない悪はPである。

ゴンベエ

絶版おじさん

説明

天を掴めライダー!刻めクロニクル!今こそ時は極まれり!
あらゆるゲームの力を凌駕する全知全能の神であり究極のバグスターであるラスボス、ゲムデウスを理論上攻略可能にする伝説の戦士。能力やスペックをはじめとするあらゆるものがチートなのだが、それをも上回るチートが何体かいる。
これを着るとなんだか不出来なゲームとか制作者を絶版にしたくなる。


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古の骸骨

「……うん、うん、見なかったことにしよう」

 

「なにが見なかったんだ?」

 

「気にするな」

 

 黄金の毛並みの狼を見かけたが、見なかったことにしてベルベット達に追い付き酒場へと入る。

 どちらかと言えば宅飲み派のオレはこういった場所に来るのは何気に初だが、大手のチェーン店の居酒屋と異なる雰囲気の確実に当たりだなと思わせる酒場だ。

 

「いらっしゃい!」

 

「この子になにか食べ物を」

 

「なら、マーボーカレーを。特製のマーボーカレーで、一週間も煮込んでいるのよ」

 

 お腹がすいているライフィセットの食事を注文するベルベット。

 酒場にいる従業員の老婦人は微笑むのだが、この老婦人、オレ達が店に入った途端になんか変わった。

 だが、そんなことよりも一週間もマーボーカレーを煮込んだということに意識が向く。一週間も煮込んだとなれば、豆腐が煮崩れを起こしてグッズグズになってるだろう。

 

「マーボーカレー……」

 

「じゃあそれをお願い。ところで、バスカヴィルって人を知らない?ここで会えるって聞いたけど」

 

「……その爺さんは聖寮の規律に逆らった悪人だ。とっくに処刑されたよ」

 

「……そう」

 

 なんでこう、不幸続きと言うか上手くいかない旅なんだろう?

 現代で運を使い切ったのか、目当てのバスカヴィルはいない。それどころか国の方針に逆らって処刑されている。江戸時代かここは!……いや、中世っぽい世界だから、そう言うのは当たり前か。

 

「お~い、アメッカ、ゴンベエ、お前等もどうだ?」

 

「ロクロウ、何故飲んでいる?」

 

 頼みの綱とも言うべき人物が居ないと分かる中、ロクロウは陶器の酒瓶を片手に飲んでいた。

 

「何故ってお前、酒場で飲まんのは失礼だろう。お前等もイケる口だろう?」

 

「この様な時に、飲んでいる場合ではない!」

 

「つっても、頼みのバスカヴィルは居ないんだろ?」

 

「それはそうだが……」

 

「なら、飲め飲め」

 

「いや、まだ飲まない方がいいぞ」

 

 なにをしようにも情報が必要で、その情報を持っているやつが此処にはいない様に見えるが違う。

 どうも空気が、本当になんとなくとかのレベルでおかしいと感じたのでロクロウが勧める酒を断る。しかし、酒場でなにも頼まないのもなんなんのでマーボーカレーを頼む。

 

「あ、美味い」

 

 豆腐が崩れているものの、マーボーカレーは美味かった。手作り感とお店で食べてる感を程好いバランスで両立しており、スパイスとかが違う。

 

「一週間煮込んだだけあって、コクが違う……私にも作れるだろうか?」

 

「あら、だったらレシピが必要ね。待ってて、今からメモするから」

 

「よろしいのですか?」

 

「美味しい物を作りたいんでしょ?自分じゃなくて、彼のために」

 

「……彼だけでなく皆のためですが?」

 

 気前が良い老婦人だが、結構余計な事を言ってくる。

 下世話だし、アリーシャにそう言うことを言っても面白い反応が無い。

 

「あら、残念」

 

「オレを見て言うなよ……しっかし、美味いな」

 

「うん、美味しいね!」

 

 マーボーカレーを堪能するオレとライフィセットとアリーシャ……だが、ベルベットだけは堪能していない。

 スプーンを動かす手は止まっており、ジッとマーボーカレーを見つめている。

 

「ベルベット?」

 

「あら、嫌いなものがあったかしら?」

 

「違うわ……」

 

 ライフィセットと老婦人が心配をすると、口にマーボーカレーを運ぶベルベット。

 咀嚼しているが、途中で口を止めて真剣な表情となり、また咀嚼して飲み込んだ。

 

「……あんた、本当になにをしたの?」

 

「え、オレ?」

 

 なんか変なの入ってたとか、好みの辛さじゃないとかそういうアレでなくオレに当たってきたベルベット。

 そういえば味覚がどうのこうのと船内で話したが……ベルベットの味覚でなく料理の方に影響を及ぼしていたから、マーボーカレーの味がしないのか?

 

「なにをしたって、前に言っただろうが」

 

「美味しくなかったの?」

 

「いえ、違うわ……」

 

 心配するライフィセットを余所に食事を再開するベルベット。

 味もなにも感じないならばと食べる速度は早く、ライフィセットと同じぐらいの速度で口にする。

 

「あらあら、仲の良い姉弟かしら?」

 

「いえ……」

 

「そうよね、貴女の弟さんは殺されたんですものね」

 

「何故それを!?」

 

 老婦人が仲良い姉弟を勘違いをした……と思えば、とんでもない事を語った。

 ベルベットに対してカマをかけたんじゃなく、元から知っている様に語りベルベットを驚かせ立ち上がらせる。

 

「弟が殺された……まさか!」

 

「アメッカ、やめとけ」

 

 導師アルトリウスを憎む理由を、ベルベットが業魔化した理由が一気に明白になった。

 だが、それでも何個か足りない。理由なき快楽の殺しならば確実に穢れを生んで、天族を使役するなんて出来ない。

 導師がそんな事をするだなんてと驚きアリーシャも立ち上がり、ベルベットに本当かどうかを聞こうとするが止める。まだ何個かピースが足りない。ベルベットの弟を殺さないといけない理由が。

 

「闇は、光を睨む者をよく見ているのよ」

 

「答えになってねえだろうが、詩人か?」

 

「いいえ、闇ギルドよ」

 

 酒場に入った時から微弱だが感じるおかしな空気。成る程、闇ギルドならばおかしくて当然か。

 

「バスカヴィルが捕まっても、闇ギルドは動いているのか?」

 

「ええ。船長が消えても止まらないアイフリード海賊団の様に……」

 

「おいおい、まだなにも言ってないぞ?」

 

 街にいた誰もがアイゼンを見て、ただの強面の男性だと思われていた。

 誰一人アイゼンがアイフリード海賊団副長と知っていないのに、老婦人はアイフリード海賊団の名を出した。

 優れた情報を持っていると言う証明になるが、余り口が過ぎるとロクな目にあわんぞ。

 

「あなたは窓口なの?」

 

「御用はなにかしら?」

 

「アルトリウスの行動予定を知りたい」

 

「それはちょっと値がはるわよ?」

 

 酒場の気の良い従業員から一転し、仕事人の顔に変わる老婦人。

 金を寄越せと言ってくれればどれだけよかったことか、文字が書かれた紙を渡す。

 

「この三つの非合法の仕事をしてこなしてくれれば、此方も情報を提供するわ」

 

「非合法の仕事!?」

 

「アメッカ、うるさい……ごめん、なんて書いてるか分かんない。ベルベット、読んで」

 

「あんたね……」

 

「仕方ないだろ、オレが分かるのは日本の文字だけだ」

 

 いや、本当にオレが使ってる転生特典はこの国の文字の書き方とか教えてくんないんだよ。

 文字が書かれた紙がロクでもないと言えるのは、話の展開とか流れとかやってることを読んで予測しているからだ。

 

「倉庫にある赤箱の破壊、メンディという学者の捜索、王国医療団を襲撃する襲撃者の撃退の三つよ」

 

「一番最初はともかく、どうして残り二つが非合法の仕事なんだ?」

 

「アメッカ……レディレイクでなにを見てきたんだ?」

 

 非合法の仕事と言う割には後者二つの仕事が非合法な理由がわからないアリーシャ。

 オレも全容は読めないが、この三つの依頼だけでそれとな~く裏が読める……アリーシャならばオレ以上に答えが分かる筈だ。一応のきっかけを与えると考える。

 

「倉庫にある赤箱の破壊……中身?行方不明になった人探し……邪魔者?襲撃者の撃退は……どうして非合法、いや、逆だ。見る方向を変えればいい……まさか」

 

 見る方向を変えることにより、アリーシャはオレと同じ感じの答えに辿り着く。

 最初はともかく残り二つを黒かどうかと言われれば怪しい……だが、この国には黒に出来る人間がいる。オレとアリーシャは現代で白を問答無用で黒に変えるクソッタレを知っている。

 

「それは、後にしてね。

引き受けるなら、通行手形(これ)を持っていって。偽造だけどまず見抜けないわ」

 

 オレが本気を出せば見抜ける装置を作れることは黙っておこう。

 しかし、この老婦人……オレ達を試している部分があるのか、アリーシャに少しだけ注意をしている。余計な事を言わないように、無理矢理口を閉じているな。

 

「マギルゥ奇術団って書いてあるんだけど……」

 

「あら、門前でそう名乗っていたでしょ」

 

「……そっちの力はよくわかったわ」

 

 情報料こそ高くつくものの、本当についさっきの出来事を見て偽造の通行手形を作り出す闇ギルド。

 此処に来ることさえ予想していた、偽造の通行手形だけで知恵も知識も技術も優れていると証明をした。

 

「達成したらここに報告に来てね。もし、失敗した時は……」

 

「あたしが勝手にやったこと、でしょ。迷惑はかけないわ」

 

 闇ギルドというか、社会の切り捨てとかの闇っぽいところを見せつけるベルベット。それに対して特になにも言わない面子、遥か未来の導師御一行とは大きく異なるな。

 

「その心がけに応じて、宿をサービスするわ。依頼は明日からになさいな」

 

「つーか、彼奴等飲みまくってるぞ」

 

 結構シリアスな会話をしている筈なのに、後ろで酒を飲んでいるロクロウとアイゼン。

 この依頼をどうにかこうにかするにはベルベット一人だけでは出来ない。後ろの二人の力が必要だが、結構飲んでるぞ彼奴等。

 

「アメッカ、嫌ならお前だけパスするなんてさせないからな」

 

 色々と精神がボロボロだったり、新しい心の拠り所的なのが出来ているので一応言っておく。

 

「分かっている……私自身も色々と気になるところが多い」

 

 とか言う割には槍を強く握っているアリーシャ。

 最後の襲撃者の撃退に関しては確実に足手まといになる……どうにかして、戦えるようにしないといけないが、どうすれば良いんだ?他の奴等がやっているみたいに、アリーシャを器にして力を得る?

 幸いにもライフィセットとアイゼンがいる……アイゼンは嫌がりそうだが、ライフィセットなら普通に受け入れてくれそうだ。だが、そいつはその場しのぎみたいなもので、現代に帰ればライフィセットとの契約を切らないといけない。

 もっと別のパワーアップを見つけないと、せめてスレイみたいに肉眼で見えるようになり穢れを感じることが出来れば良いんだが……。

 

「!」

 

「ベルベット、露骨なのは止めとけよ」

 

 なにか無いかと必死になって頭の中を探すが見つからない。

 そんな中、別の客が来たのかビクりとベルベットは反応してしまう。表向きには普通の酒場で今の会話を聞かれるのはまずいからだが、もう少し演じる力を身に付けようぜ。

 

「あら、随分と変わったお客様ね」

 

「ん~……ウゲッ!?ついて来やがったのか!」

 

 老婦人の言葉で後ろを振り向くと見なかったことにしようとした狼が後ろにいた。

 

「知り合い?」

 

「餌付けなんかしたの?飼うつもりはないから、とっとと捨ててらっしゃい」

 

 首を傾げるライフィセットとオカン的な事を言うベルベット。

 そんなことを言ったって、しょうがないだろう。勝手に向こうがついてくるんだから。

 

「……」

 

「どうした、アイゼン?」

 

「いやなに、見たことの無い種類の狼だと思ってな」

 

「そういえば、僕も見たことないな……」

 

「いやまて……何処かで見た覚えがある」

 

 毛並みからして普通の狼と異なるこの狼。

 アイゼンとライフィセットは珍しそうに見るがアリーシャはなにかを思い出そうとしている。

 

「しかしまぁ、お前を追い掛けて来たってことは……ん?」

 

「そいつは霊的な存在で、触ることは出来ない……はぁ、んでこんな所にいやがるんだ」

 

 あんたは此処にはいない筈なのに、どうしていやがるんだ?あれか、またトライフォースが勝手になんかやらかしたのか?

 逃げたところでしつこく追ってくるのが分かったオレは潔く諦めて狼の姿へと変貌した。

 

「業魔病!?」

 

「思い出した、そうだ。狼の姿になったゴンベエにそっくりなんだ」

 

「ガウ!」

 

 いきなりの変貌に業魔化したと驚き構えるベルベットだが、アリーシャが止める。

 ちゃんと意識はあるぞと一度吠えると狼は酒場を出ていったのでオレも追いかけ、後に続く様にベルベット達も追い掛ける。

 

「彼奴、何事もなく普通に業魔になってたけどアレが本性なの?」

 

「違う、ゴンベエは自分の意思であの姿と人間の姿になれるんだ」

 

「つまり業魔から人間に、人間から業魔になれるのか。どうなってやがるんだ?」

 

「それは……」

 

「言えないのか、それも」

 

「いや、言えないのではなく分からないんだ。

ゴンベエが持っている物やゴンベエにとっての常識は私にはどれもこれもはじめてのことで」

 

「話は後よ。彼奴等が止まったわ」

 

 アイゼン達が色々と話しているが、今はこっちに集中しないと。

 人気の無い所にやって来たオレ達。黄金の狼は振り返るとオレの頭の中に不思議ななにかが……闇のノクターンの吠え方が流れ込む。ちょ、キツくないか?

 

「……ウゥウウウ!!」

 

「あ、吠えた!ゴンベエもあの狼も一緒に……歌ってる?」

 

 共鳴しあうかの様に互いに闇のノクターンを吠える。そしてきっついぞ、これ。

 何度も何度も闇のノクターンを奏でると、狼は吠えるのをやめてくれた。

 

「……よかろう!」

 

「喋った!?」

 

 いや、よかろうってなんだよ。

 狼が喋った事に驚く一同だが、驚いている隙を逃すことなく狼は六匹に分身してオレ達全員に飛び掛かるとオレ達はほんの一瞬だけ意識を失い、意識が元に戻ると文字通り真っ白でなにもない場所にオレ達はいた。

 

「あ~あ……」

 

「此処は……何処だ?」

 

 オレを除き真っ先に目を開いたのはアリーシャだった。

 なにもないこの場所に驚くが、慌てることなく辺りを見渡し、人間の姿になったオレを見て近付いてくる。

 

「ゴンベエ、元の姿に戻ったのか」

 

「戻った、と言うよりは戻らされたと言った方が良いと思う」

 

「何処なのよ、ここ」

 

 アリーシャが目を開くのに反応し、連鎖的に目を開いたベルベット達。

 オレが元の姿に戻っているので、詰め寄ってくる。

 

「此処が何処かかと聞かれれば答えづれえ。

だが、なんのためになにをする為に連れてこられたかは知っている……あ~来たな」

 

 ベルベット達にこの場の説明をしていると、やって来た。

 尋常じゃない程のオーラを纏う、骸骨の騎士か此方に向かって歩いてくる。

 

「業魔……いや、違う!」

 

 アイゼンは戦う構えに入るが、骸骨の騎士から穢れを一切感じない。

 

「汝、力を求めるか?」

 

「さっきと同じ声?」

 

「問おう、汝は力を求めるか?」

 

「……私は力を求める」

 

 骸骨の騎士がアリーシャに問い掛け、答えると骸骨の騎士は槍を取り出す。

 

「あの骸骨、何者なんだ?」

 

「しいて言うならば、オレが使っている武器等を前に使っていた奴だ」

 

 アレがなんなのかと聞かれれば説明しづらいが、オレが使っている武器を前に使っていた奴なのは確かだ。

 ロクロウはそれを聞くと笑みを浮かべるが、襲いに行くことはせずアリーシャと骸骨の騎士を見守る。

 

「……これが出来るか」

 

 骸骨の騎士は何処からか正方形の立方体みたいな石を三つ出して投げる。

 それを槍で弾いて回転させながら空中に浮かせ続け、最終的には槍で三つの石を貫いて刺した。

 

「それならば、私でも出来る」

 

 骸骨の騎士から三つの石を受けとるアリーシャ。

 器用に空中を回転させながら、骸骨の騎士と同じように石を貫いた……が、違う。

 

「アメッカ、似ているが違うぞ」

 

「?」

 

「あ、サイコロになってる!」

 

 骸骨の騎士が貫いた石を拾うライフィセット。

 石についている槍で弾いた際に出来た傷はサイコロの様につけられており、骸骨の騎士は三つとも一の目を貫いていた。

 

「三つを適当に弾いていたわけじゃなく、サイコロの目を入れていたのか……」

 

「ロクロウ、お前なら出来るか?」

 

 神業に近い槍技をこなす骸骨の騎士。

 アイゼンはこの中で剣を使うロクロウに出来るかどうか聞くが首を横にふった。

 

「今の俺じゃ無理だな」

 

「どうでも良いけど、さっさと帰してくれないかしら?」

 

 骸骨の騎士がアリーシャに槍術を教えるのは分かった。

 それは分かったが、自分には関係の無い事だとオレを睨むベルベット。オレに言われても、どうしようのない事だと言うと骸骨の騎士に同じことを言うが、骸骨の騎士は帰してくれない。

 

「断鋼斬響雷!!」

 

 感覚的に言えば、一時間ぐらいか?

 アリーシャがなんか変な技を覚えた……と言うか、雷を落とした。

 

「うむ……」

 

「やっ……た……」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「案ずるな、ただの疲労だ」

 

 断鋼斬響雷とか言う今まで使ったことの無い技を使ったせいかゆっくりと倒れていったアリーシャ。

 骸骨の騎士は倒れた理由を説明すると槍を背中にしまった。

 

「我が槍術、しかと教えた……次はお前もだ」

 

 ベルベットを指差すと、骸骨の騎士が……古の勇者の姿が薄れていきオレ達はまた一瞬だけ意識を失って元居た場所に戻った。

 

「……なんだったのかしら?」

 

「深く考えない方がいいぞ……」

 

 狼はもういないので、オレ達は酒場の宿に向かった。

 アリーシャが断鋼斬響雷を覚えるまで、結構時間が掛かっていたのだが此方の方では全くといって時間がたっていなかった。




DLCスキット 実在の人物や団体とは一切関係ありません。

ゴンベエ「諸君、如何なものか?」

アリーシャ「はい、私以外のヒロイン、全員ぶっ殺します!ロゼを消します!」

ベルベット「……なにこれ?」

ロクロウ「なにって、アレだよアレ。確かにアリーシャの気持ちは深いほど分かる」

ベルベット「アリーシャじゃなくて、アメッカでしょ?」

ロクロウ「俺もあんな感じに終わったんだから、本編は無理でも裏ボスとかそういう感じに登場したかったよ。ミスリルの剣が最強とか、クロガネじゃなくてオリハルコンの武器で壊せるぞ」

ベルベット「だから、本編ってなによ?て言うか、ゴンベエ、アメッカ、なんなのその格好」

アリーシャ「私にも雪国で手を繋いだり、デートしたり、王子様と出会ったりしたい!」

ライフィセット「アリーシャ、怒るのも良いけど他にも色々と問題点があるよ。カメラワークとか」

ベルベット「カメラって、あれよね?人を写す道具」

ライフィセット「3Dのバトルはいいけど、バランスが圧倒的に悪い。ラスボスの倒し方がややこしかったり、もう出番がないのに武器とか用意されてたり、コンビニで買わないと覚えられない技があったり、移動する足がなかったり」

アイゼン「メインだけでなく、サブイベントも悪い。死ぬ覚悟こそ出来てはいるし、エドナとザビーダはまだ分かるがなんでアイツに殺されなければならねえんだ。あっさりと殺したと思えば、別れの一言も回想シーンも無いとは、なにも考えてねえ」

エレノア「貴方は出番があるだけましじゃないですか。私なんて、なに一つ……」

ビエンフー「エレノア様の言うとおりでフよ!僕なんて、生きててもおかしくないのになにもないんでフよ!」

マギルゥ「どーせ、そこは刻遺の語り部が死んだのは罪をおかしたからで、その際に使役していたものもとか言う後付けじゃろう」

アリーシャ「叩けば叩くほど、出てくるじゃないか!やはり、ロゼを消さなければ!」

ライフィセット「待って……ロゼにそこまで罪はないよ」

ベルベット「そこまでって、一応の罪はあるのね……なんの話をしてるのよ?」

アリーシャ「……ヒロインであり主人公であり、ボインちゃんで、操作性に優れたベルベットにはわからない事なんだ!!」

ベルベット「あんた、ふざけてるの?」

アリーシャ「ベルベットが全てを持っていった!!どうして私にはヒロイン力が無いんだ!」

マギルゥ「ヒロインは、その人が決めるも」

アリーシャ「黙れ、ババア!」

マギルゥ「ぐぅふうお!?アリーシャの言葉は重すぎる」

ライフィセット「落ち着いて、アリーシャ!穢れて業魔に」

アリーシャ「業魔……そうだ、一度闇に落ちればいい。業魔になって求めていた力に溺れた設定を足せば」

ロクロウ「確かにその設定はありと言えば、ありだな。それがきっかけで見えるようになるって設定を足せば神依を使えるようになる。ちょっと無理矢理だが、いけんこともない」

アイゼン「クロスとは違う第3のルート、真のヒロインルートか……想像が出来る」

ゴンベエ「諸君待ちたまえ……そもそもこうなったのは誰の原因だ?腐女子以外盛り上がらない物を作ったのは誰だ?過去編で全て回収しなければならなくなったのは何故だ?」

アイゼン「!」

エレノア「!」

ライフィセット「!」

ロクロウ「!」

アリーシャ「……そうか、やつだ……」

ゴンベエ「そういうことだ……BBP、君は絶版だ!」ポーズ

ベルベット「……このスキットはフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません」


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未来の自分に

「結局、アイツはなんだったんだ?」

 

「説明すると、凄く長いからパス」

 

 断鋼斬響雷を骸骨の騎士から教えてもらったものの、一度撃つだけで物凄く体力を消費するせいかあの後は直ぐに休んだ。倉庫にある赤箱の破壊をする前に朝食を頂いていると、ロクロウは骸骨の騎士の正体についてゴンベエに聞くが、ゴンベエは語らない。

 

「けど、アイツは中々の腕前だ。

見事な槍さばきでお前が使っていた武器の前の所有者となると、生前は相当名のある騎士だったんだろう」

 

「逆だ、逆」

 

「逆?」

 

「確かに名は功績は名誉は得たが、自らの意思で失った。

使命を全うしたが為に、使命を失った。使命を全うしたものの、自らでその使命を破壊したやつ……だった筈だ」

 

「つまりなんだ?」

 

「オレにも分からん」

 

 ゴンベエが使っている武器をゴンベエの前に使っていた。

 と言うことは、ゴンベエが持っている勇者について書かれているあの本に載っているのではないだろうか?

 

「アメッカ、ベルベット、スプーン、進んでないよ?」

 

「大丈夫だ、少しだけ考え事をしていただけだ……」

 

 これからすることを考えると、少しどころかかなり気分が悪くなる。

 倉庫にある赤箱の積み荷を破壊、人探し、襲撃者の撃退。どれも非合法の仕事であり、後者二つは良いが、一番最初は心苦しい。

 後者二つを含めて三つの仕事がどうして非合法なのかは、なんとなくだが分かる。これをしなければ、これをする立場でなければ分からない事もあると悪でしか見えない世界もあるのが本当だと思い知らされる。

 こういう時、マオクス=アメッカでなくアリーシャ・ディフダとしてならば色々と手を出すことが出来るのに、今の自分が悔しい。

 このミッドガンドは一応は平和であり現代のハイランドとローランスと比べても、色々と充実している。だが、それでも確かに存在する、裁きにくい存在が。

 

「……」

 

「ベルベットの方は違うみたいだな」

 

「喋りながら、食べないで。行儀が悪いわ」

 

 ベルベットも私と同じく食事の手が動いていない。

 アイゼンに動いていない理由を指摘されると、スプーンを動かして食べるが……どうも美味しいと感じていない。

 一定のペースで食べ続けている姿は機械を思わせる。

 

「……」

 

「睨まないでくれよ……これならどうだ?」

 

「……!」

 

 睨まれるゴンベエはパンをベルベットの口に入れる。すると、ベルベットは驚いた顔をする。

 

「なんなのよ、あんた……」

 

「オレが言いたいぐらいだよ」

 

 少しだけ変な空気の中、朝食を終えた私達。

 三つの仕事の一つである、ゼクソン港の倉庫にある赤箱を破壊すべくゼクソン港へと戻ろうとすると、見知らぬ女性に……闇ギルド、血翅蝶の一員が声をかけてきた。

 なんでも憑魔の中にはかなり強く、聖寮ですら相手にするのが難しい甲種警戒業魔と呼ばれる存在がいるらしく、それを討伐すれば報酬を支払う、見つけたら、見つけたらで良いから倒してくれないかと言う話だった。

 

「オレは大根と人参の味噌汁だな。

米の磨ぎ汁で茹でた短冊ぎりした大根と人参に、ワカメとうす揚げを入れたのが好きだ」

 

「ほぉ、中々の拘りを持っているな」

 

「オレの国の汁物と言えば、味噌汁だからな」

 

「そう言えば俺の御先祖様の国の汁物も味噌汁だった……もしかして、お前の国って、御先祖の国か」

 

「ロクロウとゴンベエの名前からして、ありえるかもしれん……異大陸の先にある国か、何れは行きたいものだ」

 

 ゼクソン港までの道中、これから本当に倉庫の赤箱を襲撃するのかと思えるぐらいに仲良く談笑するゴンベエ達。

 なにが好きなものなのかという極々ありふれた会話……だった。

 

「あ~硫黄があったらな」

 

 ゼクソン港に入った途端、話題が急に切り替わった。アイゼン達の顔も変わった。

 

「硫黄がどうかしたか?」

 

「いや、硫黄があったらスゴいの作れたんだ。

アイゼンは海賊の汚名を誇りに思っているかもしれないが、やっぱ目立つにはなにかと困る。硫黄があれば……」

 

「爆薬を作ろうにも、赤石が無いから無理よ」

 

「いや、硫黄があれば良いんだよ。船でプラチナ見つけたから、それがあればな」

 

「……プラチナと硫黄で爆弾だと?」

 

 一気に危ない会話に変わるが、何事もなくゴンベエと会話するアイゼン、ベルベット。

 プラチナと硫黄で爆弾……どうやって作るのだろうか?

 

「爆薬は硝酸カリウムに木炭と硫黄を粉末化したもので出来る。

割合は硝酸カリウム75%硫黄が10%木炭15%に砂糖を大さじ二杯で出来る。

鍵である硝酸カリウムはまず、アンモニアをプラチナ触媒にして900度程度で熱して一酸化窒素を得る。放置してたら二酸化窒素になるから水と混ぜれば硝酸の完成。後は硝酸と炭酸ナトリウムを混ぜて硝酸ナトリウムにし、塩化カリウムと硝酸ナトリウムを混ぜれば、塩分ナトリウムが析出されて硝酸カリウム水溶液が出来る。

木炭は説明はいらねえだろ?硫黄は温泉地で普通に見つけることが出来るし、砂糖はブドウからブドウ糖を作れば出来る……はい、分かった人!」

 

「えっと……硝酸って言うのが無いと爆弾は作れないんだね!」

 

 すまない、私はなにをいっているか分からない。

 

「硫黄とプラチナがないなら作れないんでしょ?無い物ねだりしても無駄よ」

 

「手厳しいが、そうだな……アイゼン、今のは船代な」

 

「っち、商売上手め」

 

 全員に爆弾に必要なものの説明をするゴンベエ。

 アイフリード海賊団に役立つ情報を、爆弾を安定して量産する方法を教えた。

 一部の材料が不明だが、それでも爆弾を量産する方法はとてつもなく有益なもので船代代わりにした。

 

「因みにだが、そんなものをオレは求めていない。

火薬はどうしても足がつくから、もっと便利な物を用意する……アンモニアが沢山いるけど。硫黄とプラチナとアンモニアとグリセリンがあれば液体の爆弾出来るんだけどなぁ」

 

「そのアンモニアと言うのはなんだ?」

 

「アメッカが持ってる」

 

「な!?」

 

 何度も何度も出てくる唯一よく分からない用語、アンモニア。

 アイゼン達がそれがなんなのかと疑問に思うのは当然なのだが、自分に振られるとは思っておらず声をあげる。

 

「ゴンベエ、どうしてそれを」

 

「……」

 

「目を合わせてくれ!」

 

 アンモニアを持っていると言うことで全員から視線を受ける。

 何故どうして今そんな事を言うんだ、と言うよりはなんで自分に聞いてくるんだ。ゴンベエが答えればいいのに……

 

「アメッカ、アンモニアってなんなの?」

 

「ええっと、その……」

 

 純粋にアンモニアについて気になるライフィセットにどう答えればいいのか悩む。

 ゴンベエに助けを求めるのだが、ゴンベエは目線を合わせてくれない。

 

「ベルベット」

 

「なに?」

 

「その、実は……アンモニアは……らしい」

 

「!?」

 

 この中で唯一の同性であるベルベットにアンモニアについて教えた。

 未だに本当かどうかは怪しいが……おしっこが、尿が原材料。堂々とライフィセットに言えないことで、ベルベットに伝えるとゴンベエをゴミを見るような目で見ている。

 

「あんた……」

 

「ベルベット、アンモニアってなんだったの?」

 

「知らなくていいわ」

 

「でも、爆薬とか色々と作るのに必要なんでしょ?もし、アメッカが持っているのが使いたくないなら他に」

 

「必要ないって言ってるでしょう!!」

 

「っ!……ごめんなさい」

 

「……アンモニアがあっても、硫黄が無いなら今すぐに爆弾を作れないわ。チンタラしている暇なんて無いわ」

 

「なんかごめん」

 

「全くよ」

 

 アンモニアについての話は終わり、赤箱がある倉庫付近についた私達。

 アイフリード海賊団の船ことバンエルティア号は何処にもなく、アイゼンの指示通り上手く警備を誘導してくれていて倉庫に入っても、誰も怪しまない。

 

「赤い箱、これを壊せばいいのね」

 

 倉庫の中にこれでもかと積まれている赤い箱。

 倉庫内には他にも荷物があるが、これだけ目立つ様に置かれており箱の色も数も段違い。

 ベルベットは箱の数や位置を確認していると、なにかに気付く。

 

「ミッドガンド教会の封紙?」

 

「!」

 

 赤い箱にだけつけられている封紙のマークに気付いたベルベット。

 何処宛かを呟いた途端に背筋が凍る。今から非合法の仕事をする罪悪感ではなく、教会宛の荷物を破壊しなければならない非合法の荷物があったという事にだ。

 天族と人の共存とは程遠いとはいえ、国としては潤っているのに国の大事な機関の一つである教会は現代のハイランドと同じく腐敗しているという現実が辛い。

 

「中身を確かめるか?」

 

「必要ないわ。燃やして、ライフィセット」

 

「もしかすると稀少な金属かもしれないから、ストップ!あ、無理か」

 

 念のためと聞いたアイゼンの言葉を無視し中身を燃やしにかかる。

 ゴンベエは待ったをかけるが、それよりも先に赤い箱は火にかけられたので、ゴンベエは箱を殴って凹ませて中身を無理矢理とる。

 

「あっつ!?」

 

「なにをしているんだ……ん?」

 

 炎の熱さに耐えられなかったものの中の荷物を取り出すことに成功した。

 中には小さな小瓶が沢山入っており、ゴンベエの手にも同じものが握られているのだが何処かで見たような気がする。

 

「燃やしたのならとっとと出るぞ、長居し過ぎると足がつく!」

 

「アイゼン、爆弾持ってるがどうする?今思い出したけど、自分の意思で遠隔爆破出来る道具あったんだが」

 

「……今は使うな」

 

 倉庫内にある赤箱だけを燃やすといった器用な真似は出来ない私達。

 倉庫ごと燃やすことになるので、直ぐに倉庫から出ていった。

 

「……アメッカ」

 

「どうした?」

 

「……なにを考えている?」

 

「……全てを見て答えを出すよ」

 

 ゴンベエと出会う前の自分なら、ベルベットを全力で止めていた。

 だが、ゴンベエと出会ったから、まずは知ってみようと自分自身が立ち止まって様子見をする。

 これが正しいのか間違いなのかは分からない。きっと国語の、文章の問題の様に正解こそあれども数字のように決まった絶対の答えは無いのだろう。もしこれで間違ったのならば、その分の罪を私は償わなければならないな。

 

「あなたは!」

 

 足がつく前に早くミッドガンドに戻ろうと走り去ろうとする私達。

 すると一人の女性が驚いたような顔をして、ベルベットが声をかけられるとベルベットは足を止めて私達も釣られるかの様に足を止める。

 

「っと、涙目の」

 

「知り合いか?」

 

「ええ、涙目の退魔士よ」

 

「一等退魔士のエレノア・ヒュームです!」

 

 反応して止まったベルベット。ゴンベエの質問を答えると、女性は……エレノアは怒りながら槍を出す。

 

「!」

 

 それだけならば、まだなにもおかしいところはない。

 強いて言うならば、私達が聖寮の敵だと認識されている事ぐらいでそれ以外は普通だったが直ぐに一転した。

 エレノアの体から二つの光る玉が飛び出ると、一瞬にして顔を隠した全く同じ格好をした天族が現れた。

 

「退魔士……」

 

 思い出せば、この時代で戦ったのは憑魔だけ。

 元の時代では憑魔だけでなく、山賊や暗殺者等といった、世間一般で言う悪党ばかりで今目の前にいるエレノアの様な人物と敵として戦うことはなかった。

 エレノアがこの時代で天族と共に戦っている導師の様な存在だと後ろにいる天族の出現により改めて思い知らされる。それと同時に思う、エレノアは理想の自分じゃないかと。

 

「アステロイド……アメッカ、なにを考えている?」

 

 三角形の光の弾を放ち二人の天族を一瞬にして気絶させるゴンベエ。

 私に向ける目は気だるさも真面目さもなくただただ冷たく、恐ろしかった。

 

「今になって、たらればの話をするなとは言わねえけどよ……あくまでも、それはたらればの話だぞ」

 

 天族が肉眼で見えていたのならば、聖剣をスレイでなく私が抜いていたら、導師となった私がゴンベエを従士として連れて浄化の旅をしていれば。

 力の無い自分を悔やんで何度も何度も現実から逃げるように想像したこともあるたらればの話、理想が、答えが私の目の前にいる。

 

「あんた、そんな事も出来るのね」

 

「空を飛ぶ以外は基本的に色々と出来る。言っただろう、フォローはちゃんと入れるって」

 

 天族を一瞬にして倒したゴンベエに感心するベルベット。ゴンベエは次のアステロイドを出現させる。

 

「……私がやる!」

 

 たらればの話、成りたかった理想の自分が目の前にいる。

 何となくでも分かる。エレノアは真面目で誠実な人なんだと、清く正しく真面目に生きている悪を許せない人だと。

 だからこそ、私は越えなければならない。私の中にある考えや思いはゴンベエとザビーダ様が天族と人間の将来について話した時から崩れている。この時代に来てからも、日々崩れていっている。それは決して悪いわけではない。無論、絶対的な善と言うわけでもない。

 少なくとも今までの理想の自分像を越えなければ、全てを知ることはできない。今までの理想の自分ならば、きっと残酷な現実に気付かなかったのだから。

 

「刮目せよ、断鋼斬響雷!」

 

 頭で考えるよりも先に私は体を動かしていた。

 覚えたばかりの断鋼斬響雷で攻撃するのだが、エレノアは槍を盾がわりにして防いだが、確かな手応えがありエレノアの槍は折れていた。

 

「っく……」

 

「よくやった……と言えばいいのか」

 

 一気に力を持っていかれるこの感覚、断鋼斬響雷は予想以上に、体に来る。

 

「勝負あったわね。聖隷も武器も無しでまだやる気?」

 

「……!まさか、倉庫に火を!?」

 

 武器を破壊してもまだ折れずに立ち向かおうとするエレノア。

 焦げ臭い匂いがし、倉庫を見ると黒煙があがっており、ここでなにをしていたのかを理解した。

 

「災厄の中で、人々が築き上げたものをどうして……どうして壊せるのですか!」

 

「人間じゃないからよ」

 

「オレとアメッカ、人間だぞ」

 

「……」

 

「水をさすな……エレノア、と言ったな」

 

「……貴女達は人間なのに、どうして業魔の味方をするのですか!!」

 

 私とゴンベエを強く睨むエレノア。

 きっと悪人として見ている……不思議だ、心苦しくない。

 

「ベルベット達が味方、と言われれば少しだけ答えづらいけどまぁ……少なくとも今は、味方だな」

 

 怒るエレノアをさらっと対処するゴンベエ。

 ……今の私の胸のうちはエレノアにとって物凄く失礼だろう。

 

「倉庫にあったものは、人々が築き上げたものだ。

だが、あくまでも人々が築き上げたものであってそれ以上の価値はまだ決まっていない」

 

「なに……どういう意味ですか?」

 

 私はエレノアと自分を重ねてしまっている。

 導師になりたいのではなく、力を得て災厄の時代をどうにかしたいと強く願っていた。エレノアはそんな私の理想像だが、その理想像は壊れていっている。ゴンベエが壊していっている。

 その事について私は感謝している……もし、あのままだったらなにも知らない自ら知ろうとしない考えない愚か者の無知のままだった。

 

「アメッカ、そういうのはどうかと思うぞ?」

 

 なにも知らないエレノアと過去の自分を重ねていることをゴンベエは注意する。

 

「すまない」

 

「どういう意味かは知りませんが、此処で逃がすわけにはいきません!!」

 

「真打ち登場か!」

 

 まだ契約している天族が居たようで、エレノアの体から光る玉が出てくる。

 一瞬にして天族を倒したので戦うことの出来なかったロクロウは笑みを浮かべるのだが、直ぐに消える。

 

「エレノア様は、僕が守るでフよ~!!」

 

 出てきたのはアイゼンやライフィセットの様に人の姿をした天族ではなく、ノルミン天族だった。

 今までに何名か出会ったノルミン天族と見た目も雰囲気も口調も全て異なるが、確かにエレノアから出てきたのはノルミン天族だった。

 

「……かわいい」

 

「そ、そうでフか?」

 

「流石にそれじゃ無理だろう」

 

「悪いことは言わねえ、ノルミンだけじゃ無理だ」

 

 出てきたノルミンを見て、やる気を無くしてしまうロクロウ。

 たった一人のノルミンでは私達を相手に勝てないとゴンベエは苦言するが、ノルミンは怒る。

 

「バッド!それは全ノルミン天族に喧嘩を売る発言でフよ!何がなんでも、倒して」

 

「見ぃつぅけたぁぞぉおおお!」

 

「こ、このバッドなお声は~!?」

 

「裏切り者ビエンフー、珍妙にお縄につけーい!!」

 

「で、出たぁああああ~!!」

 

 だが、マギルゥの登場により怒りは怯えへと変わった。

 マギルゥが目の前に現れるとノルミンは、ビエンフーは直ぐ様エレノアの中に戻った。

 

「こ、こら、戦いなさい!!」

 

「おい、煙があがっていないか!?」

 

「本当だ、火事だぞ!」

 

「……火が回る時間は稼いだ。逃げるわよ」

 

「お前も来い!」

 

「尺が無いので、手っ取り早くフロルの風!」

 

 エレノアが倉庫に意識を向けている一瞬の隙をついて逃げるベルベット。

 ロクロウがマギルゥを俵担ぎし、連れていこうとするとゴンベエが私達の肩を触り風を体に纏わせる。

 

「は~な~せ~、魔女さらい~~!!……ん?」

 

「ここって……王都?」

 

「人気の無い路地裏……なにをしたの?」

 

「どうせ行ったり来たりするからと、マーキングしたポイントにワープしたんだ……とっとと婆さんに報告するぞ」

 

「……そうね」

 

 ゴンベエがすることをいちいち気にしているとキリがない。

 ベルベット達は深く考えることなく、酒場を目指す。

 

「そういえば、さっきの聖隷とは知り合いなのか?」

 

「うむ、お主達のせいで捕まえそこなったがの!」

 

 マギルゥにさっきの聖隷との関係について聞きながら。




スペシャルスキット 中の人、外の人 予告詐欺(かもよ)


例によって今年も開催されるテイフェス。
出演者であるアイゼンは同じく出演する妹のエドナを死神の呪いに巻き込みたくがないために、同じルートで会場には向かわず別ルートから横浜へ向かおうと考え、妹の為にと覚悟と心意気と兄力を認めたセネル、ヒスイはアイゼンと共に船で向かうことに。
三人だけの船旅では危険だとエドナに遠回しに手伝ってほしいと頼まれたアリーシャとベルベットとユーリ。
無風帯や渦潮対策にと4属性の精霊を使いこなすミラ、列車よりも船がいいと言うルドガーを連れていこうとすると死神の呪いについて取材したいとレイアもついてくることになり、ついでにと出演予定のないゴンベエまでも引っ張られていった。
嵐に襲われたものの、なんとか辿り着いた一行だが何時も見知った場所とは似ているが異なる中華街に間違って辿り着いていた。彼等を待ち構えていたのは、分かる人には分かるゴンベエと同じ転生者(同業者)だった。
本来ならば会うことすら不可能な彼等と何故会えたのか?


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つまりのところ、薬物依存症

「……あ、あれだあれ」

 

 酒場に向かい、一つ目の報告を終えたオレ達。

 馬車を襲撃しようとする奴等の撃退はまだ出来ないようで、もう一つの依頼である行方不明となった学者を探すべく最後に姿を目撃されたガリス湖道に向かうことに。

 マギルゥはあのビエンフーという聖隷をどうにかしてお仕置きするからと、どっか行った。なんでも契約してたのに、逃げたらしい。

 

「どうしたの?」

 

「思い出したんだよ、これがなんなのか」

 

 ベルベットが先を急ぐせいで一個しか手に入れる事の出来なかった赤箱の積み荷こと液体が入った瓶。

 アリーシャとオレはこれを何処かで見たことがあるのだが思い出せずにいたのだが、オレはやっと思い出せた。肝心なアリーシャのパワーアップは忘れたまんまだがな。

 

「おぉ、そうか……で、なんなんだそれ?」

 

「エリクシールだ」

 

「なに!?」

 

「そうか、通りで見たことがあったんだ!」

 

 エリクシールの名前を出すと驚くアイゼンと思い出すアリーシャ。

 アリーシャも思い出したか、これがなんなのかを。

 

「そのエリクシールって、なに?」

 

「あらゆる病や怪我を治す薬で、製法は分からない。

けど、色々な本に製法は記されてないけど書かれている幻の薬……」

 

「製法が記されていないなら、なんであんなに大量にあったんだ?」

 

「たった一つでも売れば億万長者で、聖寮も国もオレ達海賊も欲しがるものだ」

 

「あ~説明不足で悪いが、オレとアメッカが見たのはエリクシールと偽って売ってた飲み物だ」

 

 色々と考えるアイゼン達には悪いが、オレが見たのは本物じゃない、偽物のエリクシールだ。

 

「ハイランドで病に犯されている村に偶然に立ち寄った際に、これと同じものを売ろうとしている偽のどう……対魔士がいた。

幸いにも悪さをする前にゴンベエが追い払ったが、薬をエリクシールと言っていて中身は大きく異なるもので……少なくともどんな病気も治せるといった物ではなかった」

 

 ザビーダと出会い、色々と話をする前にいた偽の導師が売り捌こうとしていた偽のエリクシール。

 中に入っている液体といい、容器といい、そっくりで恐らくは使われている原材料も同じなんだろうが……エリクシールなんか胡散臭いし偽物で過去に行くし興味は無いと頭の中から消していた。

 

「それがなんだっていいわ」

 

「ベルベット、もう少し他の事に興味を持てよ」

 

 アルトリウスとの間になにがあったかは察することは出来るが、あえて詳しいことはオレ達は聞いていない。

 老婦人がさらりととんでもないことを言っていたが、聞かなかったことだと都合よく頭の中から消してはいるが、ベルベット、もう少し視野を広げろ。

 

「偽のエリクシールとアルトリウスの復讐とどう繋がるっていうの?」

 

「……汚職事件とか?

ただただぶっ殺せば人々にとってアルトリウス様を殺すなんてよくもと思うだろうし、神格化される。だから、今の間に色々と奴の汚職を調べあげて殺した後にバラして、アルトリウスのクソがぁ!と世間から蔑まれて死後も魂が報われない様にする。彼奴、絶対に見えないところで汚職してたり、汚職させた仲間を切り捨てたりしてるぞ」

 

「陰湿すぎる……」

 

 オレの手口に若干引くアリーシャだが、これぐらいはまだ優しいし悪党がしているから良いんだよ。

 ヤンデレとかなら主人公と別のヒロインを消して、互いの心にも思い出にも残らない様にするんだぞ。

 

「成る程、その手もあったわね……」

 

「殺して復讐は良いかもしんねえが、それだとそこで終わる。

本当なら村八分にして精神的に追い詰めて自殺させるのが良いかもしんねえけど、それは無理っぽいが少しずつ反アルトリウス勢力を作り出した方がいい」

 

「それで、その薬はなにで出来ているの?」

 

 アルトリウスを出すと思いの外、乗ってきたベルベット。

 こいつ割とチョロいんじゃないかと思いながら、極細の試験管に偽のエリクシール(仮)入れて中身を確認するがこの状態だとただの液体で中に含まれている物が分からない。

 

「遠心分離機に掛けないと分からねえな」

 

「遠心分離機?」

 

「あれだ、蜂蜜とかチーズ作る際にグルグルと回すやつだ」

 

「ああ、アレね……そんなもの、何処にも無いわよ」

 

「問題ない」

 

 そもそもで遠心分離機なんて持ってきてない、現地の材料があれば簡単に作ることが出来る。

 紐と厚紙を取り出して素早く工作を……極細の試験管を挟んだぶんぶんごまを完成させる。

 

「……なに作ってるのよ」

 

「こう言うのが意外と役に立つんだよ」

 

 ぶんぶんごまを何度か回してから紐を思いっきり引っ張る。

 すると音を鳴らしながらコマは物凄い早さで何度も何度も回転していき、数分間ずっとずっと回しっぱなしにした。

 

「やっぱり、ロクでもない物だな」

 

「おぉ、さっきまで普通だった液体が何層かに分かれている!」

 

 遠心力により中身が分離した液体をみて、ロクロウは驚くがまだ此処で終わらない。

 一番底に沈んでいる赤い粉について調べなければなにも始まらないと顕微鏡を取り出して中身を確認するが、分からない。

 転生特典で大抵の事が分かる知識を貰っているのになにもわからないとなれば、考えられるのは元の世界にはなくてこの世界には存在するもの。

 

「なにか分かった?」

 

「オレの知らない素材が含まれているのが分かった」

 

「……時間を無駄にしたわ、いくわよ」

 

「ああ、すまんな」

 

 こう、マリファナとか脱法ハーブとかコカインとか阿片とかが出てくるのかと思ったが、この世界の物が出てくるのはお手上げだ。薬の成分がなんなのか分からないまま、ガリス湖道を歩むオレ達。道中、此処等の業魔とは文字通りレベルが違う奴を見かける。

 

「デラボン」

 

 そしてデラックスボンバーで一撃で倒す……そう言えば、此処に来てから穢れの浄化がされていないな。

 何時もならば浄化がされている筈なのにされていない。穢れで負の感情で業魔になると知られておらず、病気扱いなら浄化の力が無い時代だから強制的に制御されているのか?背中のマスターソードなら、浄化出来そうなんだがな……。

 

「今のって?」

 

「甲種警戒業魔だが、一撃で倒したな……」

 

「できたら、戦いたかったんだがな……」

 

「あ、悪い」

 

 ああいうのを放置していれば面倒な事になるとデラボンを放ったが、ロクロウ達は戦いたがっていた。

 ロクロウ達は最終的にアルトリウスをはじめとする聖寮の奴等と戦うことになるので、力をつけないといけない。ロクロウが狙っている奴は今の業魔を一太刀で倒せるらしく、ライフィセットが知る限りは結構いるらしい。

 聖寮のトップを倒すには自分達も力をためないといけないとなり今度からは全員でシバき倒す事となった。

 

「……痕跡も残されていない、か……」

 

 行方不明になった学者が最後に目撃された場所に辿り着くも、痕跡は残っていない。

 アリーシャは行方不明になった学者を心配している……どうして行方不明になったのかは分からないが、何となくだがアリーシャも答えが見えている。この三つの依頼が繋がっているのを。

 居なくなった場所以外は手掛かりもなにもない。此処にいるのは戦うことに特化している奴等であり、探偵でもメンタリストでもない。これはもうお手上げだなと思っているとベルベットはなにかを思い出す。

 

「ゴンベエ、あんた、狼になれたわよね?あれって姿が変わるだけなの?」

 

「一応は狼になる……ああ、そういうことか」

 

 ベルベットがなにを言いたいのかを理解し、オレは狼の姿になる。

 

「あんたがしたこと、無駄じゃなかったわ」

 

 赤箱の積み荷の破壊と行方不明の学者の依頼は繋がっている事に気づいたようで、分離した偽のエリクシールをオレに嗅がせる。

 目に見える物的証拠は無いが、目には見えない証拠はある。

 

「ワン!」

 

 偽のエリクシールの決め手となる赤い粉と同じ匂いが直ぐ近くにある。

 距離はそんなに遠くない……人の匂いもする。大分前に誰かが歩いた痕跡も残っている。

 

「分かったのね?」

 

 ベルベットの問い掛けにオレはコクりと頷く。

 匂いがする場所までの道案内をしようとするが、オレは立ち止まりアリーシャの前で屈む。

 

「ゴンベエ?」

 

「グゥルオウ!!」

 

「……もしかして、乗れって言ってるの?」

 

 道案内をせずに吠えるオレに戸惑うアリーシャ。ライフィセットがなにを言いたいのか察してくれた。

 アリーシャのフォローもアリーシャが入れないといけないフォローもオレが入れると言った。狼の姿はなにかと不便で上手くフォローが出来ないので乗って貰うことにした。

 

「ゴンベエに乗るのは、あの時以来だ……」

 

 ベルベット達に合わせて歩いていると、現代での出来事を思い出すアリーシャ。

 前に乗せた時は急いで家に帰る時で、全速力で走っていたな……過去に行くのは分かっていたが、後世にまで名を残す海賊達に厄介になるとは思いもしなかった。

 

「あの頃より、私は変われたのだろうか?」

 

「……」

 

 オレが道案内する為に必然的にアリーシャも一番前にいる。

 ベルベット達に聞こえない様に小さく呟く。

 

「港で会ったエレノアは理想の私だが……どうしても憧れやあの人の様にと思えなかった。

自分自身が変わりだしているのは自覚している。そうじゃないとどうすることもできない世界が今目の前にあるのを今、学んでいる……同情して哀れんでいるのだろうか?」

 

 知ってて得する知らないと別に損しないことを知り、今の自分が分からなくなっているアリーシャ。

 この質問にオレはなにも答えない。こういう時こそ悩んで悩んで一つの答えに辿り着く事が大事だと思う。切っ掛けは既に与えているから、後は歩くだけだ。

 それよりも問題はベルベットの方だな。アルトリウスの復讐だけに固執していて、それ以外に意識を向けていない。アルトリウスがやったことは、ベルベットが憎んでいることは大体の予想がつくが、何故そんな事をしたのかを知らないといけない。

 人々が業魔に苦しめられているのならば、元に戻せないなら殺るしかない。それをするのが対魔士ならばああだこうだ言わない。街に出没する熊が危険だから殺すのと同じだから。

 天族が見える様になって憑魔がハッキリと見えるようになったのならば、例え浄化の力が無くてもやれることは幾らでもある。ロクでもない事をしてるんだろう。

 

「何者だ!!」

 

「人探しをしている」

 

「アメッカ、言っちゃダメだよ!」

 

「だが、正直に話した方が」

 

「お前達、まさか!?」

 

 アリーシャの悩みや愚痴に付き合っていると、匂いが強いところに辿り着く。

 そこには傭兵らしき二人がたっており、アリーシャが行方不明の学者について聞くと剣を構えて体から光る玉を……聖隷を出した。

 

「こいつら、ただの傭兵じゃねえ!」

 

 襲い掛かるラミア型の聖隷と傭兵達。

 アイゼンはラミア型の聖隷を殴り飛ばし、傭兵達が敵だと見抜き、ベルベット達は武器を構える。アリーシャに天響術がとんでくると危険なので、直ぐに身を引く。

 傭兵達は尋常じゃないほどに強いというわけでもなく、マーリンドで出会ったルーカスよりも弱く聖隷達もそこまでなのであっという間に撃退した。

 

「コイツら、誰を見張ってたんだ?」

 

「……迷子の誰かさんでしょ……ゴンベエ」

 

「もう目と鼻の先だ、案内はいらねえよ」

 

 傭兵達を倒したので、ベルベット達のところに戻ろうとするとベルベットに呼び出されるが薬に入っていた赤い粉の匂いは本当に近く、もう狼の姿にならなくていい。

 元の姿になり、こっちだと歩いているとくたびれた死んだ目の七人の男性がいた。

 

「大丈夫ですか!!」

 

「っ、あんた達は?」

 

 男性達の顔を見て、ロクでもない事が起きていたと察したアリーシャは声を出す。

 男性達はビクりと怯えるのだが、アリーシャはよかったとホッと一息つく。

 

「メンディって人はいる?迎えにきたわ」

 

「助かった……やっと帰れる……」

 

 大きな石を背もたれにしている眼鏡の男性が死にかけの声で立ち上がろうとするが、足がふらついておりコケそうになるがアリーシャが肩を貸す。

 

「こんなに窶れるまで、いったいなにをしていた?」

 

「アレを」

 

「そうか、あの赤い粉は赤精鉱か……赤精鉱を掘らされていたのか」

 

 眼鏡もといメンディが背もたれにしている石からはえている赤い石を指差し、アイゼンはこの石を見て驚く。石から赤い石がはえている……普通の石になんらかの手を加えて、この赤い石を作っていたのか。

 

「ああ。これの精製法を発見したせいで酷い目にあった」

 

「セキセイコウ……この石、そんなに珍しいのか?」

 

「あ、ロクロウ、ついでだから細かく砕いてくれ」

 

「おう!」

 

 赤精鉱と言われても特にピンと来ないロクロウは、手のひらに置ける大きさの赤い石を持ったのでついでだからと粉末状にしてもらうべく、ハンマーを渡す。

 偽エリクシールの中に含まれている赤い粉だろうが、万が一があるから調べておく。なにかに使えそうならば、何個か持っていきたい。

 

「大地の栄養が結晶した珍しい石

薬になるけど、毒があって扱うのが難しい」

 

「正解だ」

 

「つまり、あんたは薬を作っていたのね」

 

 オレ達が検査している中、なにを作っているのか聞くベルベット達。

 毒にもなる薬……いや、大抵の薬の材料は毒にもなるか。ペニシリンなんて元は青カビだからおかしくはない。

 

「ああ、赤聖水(ネクター)という滋養薬を作っていたんだ」

 

「滋養薬を作るだけで、どうしてこんなところに閉じ込められていた?」

 

「赤聖水の原料である赤精鉱は強い常習性がある」

 

「ああ、そうだ……だから、断ったけど脅されて」

 

「成る程な……赤箱に入っていた液体の赤い粉はこの赤精鉱だ。このサイズで箱があの数だから……千は越えるな」

 

 顕微鏡で赤精鉱を覗きながら、破壊した赤い箱に入っていた数を言う。

 大体の予想で越えるだけであり、どれぐらいの数があるか正確に言ってはいないがそれでも千は越えている。

 

「アイゼン、これ何本で中毒患者になる?いや、そもそもでこれは国ではどういう扱いをしているんだ?」

 

「国が色々と制限をかけている。

今までは数自体が少なくて天然物しかなかったから、独占や量産はできなかった。だが、確かな精製方法が確立されたとするならば……悪いが、何本で中毒症状かは知らん」

 

「あの婆さんに買う……いや、たこつくな」

 

 ハッキリとした全貌は見えないものの、うっすらと見える闇の一端。

 中毒性の高い薬を教会が持っている……日本でも昔は煙草は健康にいいものとか阿片や大麻は薬とかそういう時代があった。おかしくもなんともない……とは言いがたいな。

 

「おっさん、これに中毒性があるのは割と有名なのか?」

 

「あ、ああ……普通に本に載っているぐらいだ」

 

「大丈夫なのか、この国は!?」

 

 中毒性が高いんだったら、それが分かっているんだったら法律レベルで規制する。

 考えようによっては吸わなければ問題ない、吸っているだけで周りに害になる煙草よりましかもしれないが、所持しているだけで無期懲役とか終身刑とかにするぐらいの事をしておかないとダメだろう。

 

「大丈夫じゃないから、非合法な仕事なんでしょ」

 

「……その話を聞く限り、赤聖水は大分……」

 

「かなり出回ってしまっている……すまない、遅れてしまって」

 

「いや、謝るのは此方だ。

赤精鉱の精製法を見つけたと喜んだのはいいが、こんな技術はあっちゃいけない……今回の件で下手に技術を見せびらかさない方が良いってわかったよ」

 

「うん、それに関してはオレも同感だ。オレなんて、アメッカの国から色々と狙われて泥棒に入られかけたこともあったぞ」

 

「お前も、なにかしたのか?」

 

「色々と、な……アメッカのお陰で首の皮一枚繋がっている」

 

 アリーシャは助けるのが遅れたことを謝り、メンディも謝る。

 優れた技術は時には色々なものを滅ぼしたり、犯罪に手を染めさせたり、社会のあり方を変えてしまったりする。

 もしアメッカ以外に、それこそアイゼン達みたいに一応の線を引いていない腹黒い奴等に技術をポロっと言ってしまったのなら、こうなっていた……いや、違うか。

 

「今回は運が良かったと思っていた方がいい。

毒にしかならない薬を売っているだけで、社会を変える程の発明じゃない……思い出しただけで、胃が痛むな」

 

「薬ならあるわよ」

 

「いらねえよ」

 

 赤聖水を指差すベルベットだが、皮肉にすらなっていない。

 誰からの依頼と足がつくとややこしいので、メンディには一人で帰ってもらうことに。

 

「社会を変える程の発明って、そんなスゴいものがあるの?」

 

「ノーコメント」

 

 フロルの風で王都に戻り、酒場に報告したオレ達。

 ライフィセットはオレがチラッと言った発言が気になるようだが、はいそうですかと教えられない。

 

「……アレは凄かった」

 

 だが、アリーシャは語った。

 

「お前な……いや、まぁ、コイツらなら問題ないけども」

 

 少なくとも、赤聖水を量産してばらまいて金儲けをしようとしているクソッタレは此処にはいない。

 アリーシャは目を閉じて、数回だけ見た大地の汽笛を思い出す。

 

「アレがあれば、同じものを作れない国に対して一気に優位に立てる。

ヤカンとストーブがあれば大量生産も可能で、恐らくは今までの国のあり方や考え方までも変わる」

 

「そんなに、スゴいの?」

 

「凄くざっくりと言えば、馬なしで走る馬車だと思えばいい……」

 

「馬の代わりがヤカンとストーブか……どうやって走る?」

 

「言うわけねえだろう」

 

 それを隠すためにアリーシャと一緒に旅だったんだぞ。

 蒸気機関に関してなにも教えないと聞こえるレベルの舌打ちをハッキリとするアイゼン。お前は天族だから、千年後の現代でも普通に生きているだろ。現代に戻って会うことが出来れば、マスターバイク零式に乗せるぐらいはしてやるよ。

 

「ゴンベエ、偽のエリクシールと赤聖水は一緒だ……その」

 

「問題ねえよ……帰りは一瞬で帰れて、数分間の出来事になる」

 

 偽のエリクシールの正体はオレでも見過ごせないかなり危険なものだと判明した。

 此処で赤聖水を売り捌いている奴をシバき倒したとしても、現代で売り捌いている奴になんの関係もない、歴史が変わって売っていないとかにならず、普通に売り捌いている……と思う。タイムスリップ系は4パターンあるから、どうなるかはオレにも分からん。

アリーシャは現代の事を心配しているが、時のオカリナで現代に帰ると過去に行こうと時の逆さ歌を吹いた数分後の時間に戻るだけで、中身が分かっているからお手軽遠心分離機とかで危険な薬だという証明が出来て流出を防ぐことが出来る。

 

「そうか……よかった」

 

「よくねえと思うぞ」

 

 過去は犯人の目処がついているが、現代は誰がどうさばいているのか分かっていない。

 

「そういや、三つ目の依頼の王国医療団ってなんだ?」

 

「名前から大体わかんだろう」

 

 残すところは三つ目の依頼の襲撃者の排除で、襲撃者が襲撃しようとしている相手を気にするロクロウ。

 名前からして国の医療機関かなんかだろう。

 

「王国医療団はあちこちで診察と治療をする、動く病院」

 

「民間の寄付で活動している慈善団体の筈だ……が」

 

「これが関係してるってことか」

 

「ロクロウ、何故持っているんだ!?」

 

 さっきの赤精鉱の採掘場からパクってきた赤聖水を取り出したので驚くアリーシャ。

 なにかの役に立つかもしれんからとパクってきたらしく、ロクロウは懐にしまった……ん?

 

「王国医療団、なんだよな?」

 

「ええ、そう書いてあるわ」

 

 民間からの金で動いている、王国の名前がつく医療団体か。

 病院とかは公的と私的、両方がいける数少ない職業で……民間の寄付で活動している王国と名のつく慈善団体、胡散臭いというかなんというか……。

 

「今、なにか音がしたわね」

 

 闇の深さについて考えながらダーナ街道を歩いていると、変な音が聞こえた。

 荷物かなにかが崩れ落ちていったり、馬の鳴き声が混ざりあった音でベルベットは音が聞こえた方向を睨む。

 

「行くわよ」

 

「おう!」

 

 ベルベットは音が聞こえた方へと走っていき、ロクロウが追いかけてオレ達も追いかける。

 音がした方向は割と近く、辿り着くと赤いバンダナをつけている目付きが悪く……穢れを発している数名の男性と倒れている荷車と赤い箱があった。

 

「邪魔をするな……それは……俺たちが喰らう!!」

 

 現れたオレ達を見ると熊だかゴリラだかよくわからん憑魔に変貌する男性達。

 

「それを寄越せぇ!!」

 

「箱の中は赤聖水、か。この憑魔達は……その……」

 

「完全にラリって欲望に負けた成れの果てだな」

 

 赤い箱に向かって突撃する憑魔。

 アリーシャは赤い箱に亀裂を入れて中身を確認すると赤聖水が入っており、何故奴等が憑魔になったのか理解した。

 常習性、つまり中毒性がある薬を飲み続けて依存した奴等だ。ニコチン切れて煙草を吸うに吸えない奴が物凄く苛立って八つ当たりしたり凶暴化したりする奴等を更に酷くした感じだな。

 

「救えない、だろうか?」

 

「救うってなにに対してどうやってだ?」

 

「その剣なら、浄化を」

 

「可能だが、それだけじゃ救えないぞ」

 

 トライフォースとは別に退魔の力が宿るマスターソードならこの時代に来てから出来なくなっている浄化をすることが出来るだろうが、あくまでも人間に戻すだけでそれ以上もそれ以下でもない。

 

「薬物依存症は心と脳ミソ両方に異常をきたしていて、治っているように見えてもほんの少しの切っ掛けかあれば、どっぷりと浸かって再発する。

治すにしてもちゃんとした医療機関を作って隔離するぐらいの事をした上で人間的環境を変えねえと薬物依存症はどうにもならねえ。中毒性のある薬物を飲んだあいつらが悪いのか、それともそれを売っている医療機関が悪いのかは不明だがな」

 

 憑魔を浄化する力がないこの時代。

 人々に危害を与える前に殺すのが当たり前で、それをするのが対魔士。浄化の力が無いならばとある程度は妥協している部分もあるアリーシャだが、オレなら救えるんじゃと期待している。

 だが、薬物中毒患者を救うなんて知識はあったとしても、したくない。一個人が薬物中毒の奴を救える訳ねえだろ、行政機関とかいるぞ。

 

「終わったわよ」

 

「奪おうとした赤い箱の中身は赤聖水だ。恐らくだが常習性がある薬を飲み続け依存し、性格が狂暴となり憑魔となった」

 

「そう……これで三つの依頼はこなしたわ、ゴンベエ」

 

「分かってるが、箱を壊させてくれ……そういや、医療団は?」

 

「逃げていったみたいだ」

 

「そうか」

 

 赤い箱を燃やしながら、オレは医療団が何処にいるのか辺りを見回すとアイゼンが教えてくれる。

 もし居たら捕まえて箱の中身はなんだと自白させてやろうと思ったんだが、逃げちまったら探すのは難しい。フロルの風を使い、オレ達は王都へと戻った。




スキット 怪しくも羨ましい実験

ライフィセット「……小麦粉だ」

アリーシャ「どうしたんだ、小麦粉を舐めて?お腹がすいたのなら、クッキーが」

ライフィセット「ううん、違うよ。味がしないって、どんな感じなのかなって」

アリーシャ「味が、しない?」

ライフィセット「ベルベットは食べ物の味が分からない、それって凄く辛い事だと思うんだ」

アリーシャ「そうだな……食事は心も体も両方を癒す事が出来る数少ない事で、睡眠と同じで絶対にしなければならないことだ。味が分からないのは辛い」

ライフィセット「うん……僕も、最近やっと味が分かるように、ご飯を食べて美味しいって感じることが出来た。ベルベットは業魔だけど、業魔になる前は人間だった。同じ業魔のロクロウは心水とイモケンピが好きだって、アイゼンも心水が好きだって、ゴンベエは味噌汁が好きだって……人間も業魔も聖隷も好きなものがあって、その好きなものを食べて美味しいって気持ちを知ってたのに、無くなったら辛い……きっととっても」

ベルベット「辛いなんて、今にはじまったことじゃないわ……失ったのが味覚だけだったら、どれだけよかったか」

ゴンベエ「ベルベット、憎悪を持ったとしてもライフィセットに当たんな。余計な御世話かもしれないが、お前を純粋に心配しているんだ」

ベルベット「……それで?」

アリーシャ「それでって」

ベルベット「私の味覚がなくなって、あんた達は同情しているだけでしょ?」

アリーシャ「そんな事はない!」

ベルベット「じゃあ、なにかあるの?私の味覚を取り戻す方法……自分達も味覚が無い状態にするなんて傷の舐めあいなんてごめんよ」

ゴンベエ「思いの外乗り気だな。けどまぁ、料理とかがまずいとかじゃなくて、ベルベット自体に原因があるからな」

アリーシャ「浄化」

ゴンベエ「それはダメだ、と言うかしたとしても無駄だろう。鼬ごっこだ」

アリーシャ「それ以外に、方法は……思い付かない。ゴンベエは?」

ゴンベエ「あ~……此処とは違う世界にある新しい味覚や古い原始的な味覚を呼び起こす魚が存在してるぐらいしか知らねえよ」

アリーシャ「違う世界……異世界!?異世界には、そんな魚が存在するのか!?」

ゴンベエ「けど、何時現れるか分からねえし、そもそもであれは調理に60万年かかるからな」

ライフィセット「60万年……聖隷なら生きれるかな?」

ベルベット「知らないし、そんなに待つつもりは無いわよ」

ゴンベエ「安心しろ、異世界に行く技も持っていないからその魚は絶対に手に入らない」

ベルベット「だったら、出さないでよ」

アリーシャ「そういえば、うどんを食べた時は驚いていたが味はしたのか?」

ベルベット「したわよ。なんでしたのか、こいつに聞いてもロクな答えを言わなかったわ」

ゴンベエ「一応、ちゃんと言っているつもりだが?」

ライフィセット「他には、他には味がした時があった?」

ベルベット「……確か、パンを口に入れられた時に味がしたわ」

ライフィセット「小麦粉なら味がする、のかな?」

アリーシャ「いや、違う。ベルベット、パンを口に入れたのではなく入れられたのだろう?」

ベルベット「ええ、そうよ。無理矢理こいつに突っ込まれたわ」

ライフィセット「両方とも、ゴンベエが関係してる……でも、両方とも小麦粉を使ってる……」

アリーシャ「分からないなら、検証してみればいい。きっかけやヒントはある。何度も何度も調べればきっとベルベットの味覚も」

ライフィセット「うん……ゴンベエも手伝ってくれる?」

ゴンベエ「構わねえけど……」

ベルベット「好きにしなさい」

ゴンベエ「ベルベットが許可くれればと思ったが、よかった……で、具体的にはなにするんだ?」

ライフィセット「えっと……アメッカの持っているクッキーを食べさせる?」

アリーシャ「よし、先ずはそれを」

ゴンベエ「そういう実験をする時は先ずはメモしろ、クッキーに含まれている成分とか時間帯とかベルベットの体調とか作った人とかそういうのを書いてからだ」

ライフィセット「あ、うん……」

アリーシャ「このクッキーを作ったのは私で材料は小麦粉、有塩バター、水、卵、砂糖で特に変わった材料は使ってはいない……珍しく失敗しなかったクッキーだ……」

ゴンベエ「機械のオーブン無いから、焦がす焦がさないはあるだろうが生地の配分を間違えるってなんなんだろうな……」

ライフィセット「?……ベルベット、体調は?」

ベルベット「別に、普通よ」

ライフィセット「普通っと……これで良いの?」

ゴンベエ「まぁ、大体そんなので良い……じゃあ、先ずは一枚目から」

ベルベット「ん……なにも感じないわ」

ライフィセット「えっと、一枚目は特になにも感じない……次はどうするの?」

ゴンベエ「そこにベルベットが食べたからって、書いておけ。二枚目は……ライフィセットが食べさせるんだ」

ライフィセット「僕が?」

ゴンベエ「ベルベットが味を感じたのはオレが作ったうどんとパンだけで、此処から考えられるのは小麦粉の味だけは分かるかもしれないで、クッキーが味をしなかった事によりそれは否定された。となれば食べさせられたのが関係している可能性がある……はい、ということで二枚目はライフィセットが食べさせるだ」

ライフィセット「わかった。ベルベット、口を開けて!」

ベルベット「……味、しないわ」

ライフィセット「食べさせるでも、小麦粉でもない……ゴンベエが関係しているのかな?」

アリーシャ「うどんの出汁はゴンベエが作り、パンはベルベットの口が……三枚目はゴンベエが」

ゴンベエ「了解……はい、あーん」

ベルベット「子供扱いしないで……!……味がする……」

ライフィセット「やった!ゴンベエが食べさせたら、ベルベットが味を感じた!」

アリーシャ「あ、ああ、そうだな……」

ゴンベエ「ライフィセット、喜ぶにはまだ早えーよ。感じない味があるかもしれねえんだから。」

ライフィセット「うん。クッキーの次はこのバーニャカウダで、これで味が分かったら、野菜は食べれるって分かるよ。ゴンベエ」

アリーシャ「……つ、次は私がしても良いか?」

ライフィセット「でも、ゴンベエじゃないと味が分からないよ?」

アリーシャ「も、もしかしたら、ゴンベエがなにか条件を満たしているかもしれないから、その条件を探せば」

ゴンベエ「そういうのするとなると血液とか調べないといけないぞ」

ライフィセット「今はベルベットに美味しいって言ってほしいから、それは後にするよ。先ずはにんじんから」

ベルベット「……普通にニンジンね。いえ、そもそもニンジンを丸かじりしたことってあったかしら……」

ゴンベエ「基本的にニンジンは火を通して味付けしたりスープにぶちこんだりするからな。にんじんメインの料理もそんなにないし、切り干し大根みたいな感じのもあるし、中々ないぞ」

アリーシャ「……いいな……羨ましい」

ベルベット「何処がよ、人に食べさせて貰わないといけないなんてお年寄りじゃあるまいし最悪よ……次」

ゴンベエ「文句を言っている割には嬉しそうでよかったよ」

ベルベット「うるさいわね。ソース付けすぎでトマトの味がしないわよ!」


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それは正義を貫くRPGです。

「お帰りなさい、大変だったでしょう」

 

 フロルの風で王都に戻り、素知らぬ顔で酒場に戻ったオレ達。

 老婦人はよかったと微笑み温かく出迎えてくれるが、笑顔がなんだか胡散臭い。

 

「マーボーカレーはいかが?それとも、特製のピーチパイの方が」

 

「約束の本題よ」

 

 話題をそらすと言うよりは、まるでなにかに誘導するかの様に接してくる老婦人。

 ベルベットも薄々感づいてはいるものの、それと目的であるアルトリウスの首は関係ないと興味を持たない。

 

「オレ的にはピーチパイがいいな……ライフィセットは?」

 

「僕は、マーボーカレーがいいかな」

 

 料理の名前が出ると嬉しそうな顔をするライフィセット。ベルベットが話をぶったぎったので、シュンとした表情になるけれどオレとしては少し腹が減った。

 

「導師アルトリウスの居場所は、ダーナ街道の北にある聖寮の新神殿【聖主の御座】しばらくそこに籠るそうよ」

 

「新しい拠点に引っ越すつもりなのか?」

 

「ある意味そうね。聖主カノヌシの遷座儀式を行っているとか」

 

 オレとライフィセットの会話を普通に無視する老婦人。

 目的であるアルトリウスの情報を教えてくれると、ロクロウは何故にと疑問にもつがそこも答えてくれる。

 

「聖主カノヌシ……聖寮が掲げる新しい神様ね」

 

「カノヌシ……」

 

 未来の知識があるアリーシャはカノヌシの名前に心当たりがあるのか小さく呟く。

 そう言えば、あの無駄に喧しい演説で五聖主の一つであるカノヌシとか言っていたがあれか?マオテラスとかいう奴と同じ奴か?朱雀玄武白虎青龍の四神に真ん中の麒麟の五体の神獣みたいなのと同じ感じか?

 

「厳粛な儀式だから、付き添うのはメルキオル達をはじめとする数名の高位対魔士だけらしいわ」

 

「好都合だ」

 

「あいつもいるかもな」

 

「十分よ、それなら隙を狙えるわ」

 

 物騒な会話をしているベルベット達。

 取るべき首の居場所がわかれば後は向かうだけで良いとなるのだが、どうも都合よくはいかない。神殿に行くためには検問を通り抜けなければならず、抜けたところで結界があるので王都に入る時みたいな嘘はついても無駄らしい。

 

「あんた、結界を壊せる?」

 

「やったことねえし、そういうのは力技よりも正攻法がいい」

 

 闇纏・次元斬りをすれば結界を空間ごと斬り裂くことが出来ると思う。何回か使えばオレ達が入るスペースを作れるが、結界を力技で破壊なんてしたら向こうが確実に気付く。

 

「アルトリウス以外に高位対魔士数名がいるなら、結界を通り抜ける鍵があるはずよ」

 

 オレが無理だと分かると正攻法で抜けようとするベルベット。

 

「ええ、今、仲間が鍵について調べているわ。ただしそれは」

 

「別会計ね」

 

 このババア、確実に誘導しやがったな。

 口で説明する事をせず、かといって今から紙に依頼内容を書くわけでもない。普通にスッと依頼が書かれた紙を取り出した。本当は依頼が3つじゃなくて、4つだったとか言うオチか試してやがったな。

 

「……これは最高に穏やかじゃないぞ」

 

 背後からベルベットの持つ依頼書をチラ見するロクロウは一歩引くが、笑っている。

 

「なんて書いてあったんだ?」

 

「ミッドガンド教会のキデオン大司祭の暗殺よ」

 

「な!?」

 

 字が読めないのでベルベットに聞くと、第4の依頼はとんでもなかった。

 アリーシャは驚いているが、まぁ……殺されて当然と思われるぐらいの事を仕出かしているんだろうな。

 

「水酸化ナトリウムを作れれば、死体を溶かせる。証拠隠滅出来るぞ」

 

 暗殺ならば足跡は残さない方がいい。闇ギルドをはじめとする闇の業界は殺されたのを知っているとしておいた方がなにかと便利だろ。幸いにも海水はあるし、電気を作る磁石も電線もあるからロクロウとアイゼンに腕力発電させればいい。

 

「あら、聞かなくていいの?大司祭を殺す理由を」

 

「一つ目の赤箱の破壊は今ある赤聖水の流出を防ぐため、二つ目は赤聖水の製造に必要不可欠な赤精鉱の製造を終わらせる、三つ目は赤聖水の中毒者、大方貴女達の仲間の撃退……四つ目は赤聖水を売り捌いている奴を消す。大方、大司祭が赤聖水の元締めなんでしょ?」

 

「気付いていたのね、三つの依頼の関連性に」

 

「それが本当の試験じゃなかったの?

真っ先に依頼の関連性に気付いたゴンベエとアメッカの口止めをしたのも、その為でしょ?」

 

 本当に食えない婆さんだこと。

 無闇矢鱈と剣を振り回すだけの脳筋の馬鹿は必要ないと、ちゃんと考えられる知識も知恵も人格も持っている人間じゃないと情報は売れないとかどうとか。

 

「勘違いしないで、私はアルトリウスに辿り着くためならなんだってする。鞘なんてとっくに捨てたのよ」

 

「そう、貴女は剣そのものなのね……改めて名乗りましょう。私はタバサ・バスカヴィル。闇ギルド、血翅蝶の長よ」

 

「……アイゼン」

 

「まさか、女とは知らなかった」

 

 老婦人もといバスカヴィルが引き継いでギルドを運営していると思ったら、あんたがバスカヴィルだったのかよ。

 アイゼンの情報が中途半端すぎるのでちょっと睨むとすまんと目を閉じる。

 

「男だろうが女だろうが関係ないわ。大司祭の情報を」

 

「大司祭は毎晩、ローグレス王城の離宮で災厄祓いの祈りを捧げているそうよ。しきたり通りなら礼拝は単身で行うはず、狙うならこの時が一番よ」

 

「離宮に入る方法は?」

 

 何処までバスカヴィルの婆さんは読んでいたのか、逆に知りたくなった。

 記章を渡され、それさえ見せれば血翅蝶の面々から離宮に入る手伝いをしてくれる。国の中枢に血翅蝶が居るってヤバイな。

 

「礼拝は夜だから、今の内に休みなさい」

 

「鍵の情報、頼んだわよ」

 

「……それしか、ダメなのか?」

 

 ヤバい取引が成立、というところでアリーシャが待ったをかけた。

 

「赤聖水の依存者がどうなるのかは、分かった。

原材料の赤精鉱が危険な代物だと知られていることも、赤聖水が現時点でどれほど製造されていたのかも見た。

そのギデオン大司祭がどんな理由で赤聖水を量産していたとしても許される事じゃない……だが、殺すのは間違っている」

 

「ええ、そうね間違っているわ」

 

「!」

 

「あら、意外かしら?」

 

 殺されて当然とかいう結構あれな発言が飛んでくるかと思ったが、普通にアリーシャの発言を認めるバスカヴィルの婆さん。

 

「どんな理由があったとしても、殺すなんて間違っているわ。

証拠を突きつけて世間に晒して法的手段をとって、国が罪を裁けばいい。それが最善の理よ」

 

「だったら、それをすれば良いのではないのですか?

赤精鉱の製造方法を発見した為に監禁されたメンディが証言をすれば、そこから売っているルートなどを調べられる」

 

「それが出来ないからこうして依頼しているのよ。

社会や法律では裁けない人間は多数に存在しているの……ギデオン大司祭もその一人」

 

「っ……」

 

 法律で裁くことの出来ないまごうことなきクソッタレを知っているアリーシャはなにも言えない。

 殺せばそこで終わりで、もっと良い方法を探せばあるかもしれないが相手は裁くに裁けない相手よりも力を持っていないアリーシャはなにも出来ないままだ。

 

「いつだって法は力を持つ者の味方よ。

貴女の志は立派だけれど、力が無いとなにも出来ない。例えあったとしても、力を持つ人より弱ければこうしたことしか出来ないの」

 

「……力……」

 

「婆さん、これ以上はやめてくれ。アメッカには色々と毒になる」

 

「ええ、これ以上はやめておくわ」

 

 暗殺の決行は夜となり、二階で休憩してと場所を貸してくれた。

 1日で三つの依頼をこなしたので、思ったよりも疲れた。と言うかフロルの風を連発しすぎたな。マギルゥを含めて7人で跳んだりしたら魔力を結構持ってかれた。

 

「……」

 

「どうする?」

 

 オレは膝を抱えて俯いているアリーシャに時のオカリナを渡した。

 アリーシャを甘やかすのはいけないことだとは頭では分かっているが、暗殺となると流石に救済措置は一度だけ出さねえと。

 

「いらない」

 

 逃げても良いんだぞと言う甘い言葉の代わりとして渡したオカリナを返してくる。

 

「ことがことだけで、コレが最初で最後のチャンスだ。

断るならそれで構わないが、コレを返す以上はもう後戻りは出来ない……帰る時は全てが終わってからだぞ?」

 

「分かっている……私は、恵まれていたんだな」

 

「なんだ、急に?」

 

 位は低いとはいえ王家の出で、優秀な師匠と容姿を授かり、非の打ち所は女子力だけというアリーシャ。それが恵まれてたって、自慢か何かか?

 

「今の私はアリーシャ・ディフダでなくマオクス=アメッカ、アリーシャ・ディフダとしてならば、今ある証拠でギデオン大司祭を捕まえて裁くことが出来た。だが、アリーシャ・ディフダでないただの一人の人間なら、マオクス=アメッカとしては余りにも無力だ」

 

「……で?」

 

「でって……」

 

「不幸自慢をしたいのか?力が無いと思っていたら実は持っていましたと喜びたいのか?また迷惑をかけた罪悪感に苦しみたいのか?」

 

 自分が恵まれていたのと弱い人間はこうすることしか出来ない現実を突きつけられ落ち込んでいるアリーシャ。何時だって現実は理不尽まみれだ。オレなんてアクセルとブレーキ踏み間違えた糞な老害に殺されたんだぞ。十王の裁判で天国行きなんだぞ、轢いた糞老害。

 

「ゴンベエなら、ゴンベエならどうする?」

 

「オレはオレ、お前はお前だ」

 

 転生者になる為には人を殺しても悪いことをしたがそれはそれ、これしかなかった、何時かは報いを受けるかもしれないと一線を引いて割り切って生きれるように訓練されている。

 基本的に転生者は二十歳未満の子供がなれるもので、子供がやって良い訓練じゃない。自分で鳥を育てて絞めて余すことなく美味しく食べる道徳の授業は最初は辛かった。

 その辺の説明をざっくりしても良いが、オレははね除ける。答えを出すのはアリーシャで模倣するもんじゃねえぞ、アリーシャに色々と影響を与えているのは認めるが、あくまでも切っ掛けを与えているだけで、それを選択する義務は何処にもねえよ。

 

「…やだ…」

 

「!?」

 

「ゴンベエ、教えて……どうすればいいの?」

 

 こういうのは甘やかすもんじゃないと一線を引くと、アリーシャから穢れが出てきた。

 諦めて良いとか色々と誘導してたし、精神的に何度も何度も絶望に叩き落としたから穢れが出てきてもおかしくはないが、よりによって今出てくるのか?

 

「オレは、取り敢えずは見るぞ」

 

「見る……ギデオン大司祭は、黒だ。それは三つの依頼で分かったはずでしょ?」

 

「バルトロよりもゲスい事を平気で言う奴かもしれないが、それでも見てみるんだ。まごうことなきゲスなら斬るがな」

 

「ゴンベエは、なにも思わないのか?殺すことについて」

 

「思うには思う……だが、誰かがこうしないといけない時は何れ来るぞ?」

 

「……誰かに」

 

「逆だボケ」

 

「!?」

 

 誰かが痛みを受け止めないといけない汚れないといけない世界は、不条理は間違っていると言いたいアリーシャ。

 優しい人間なら良いそうなことだが、そんな考え方こそ間違っている。

 

「ライフィセットが食べたマーボーカレー、肉が入っていただろ?」

 

「それは」

 

「人間と食用の家畜は違う理論か?

確かにそれも一つの考えだが少なくともオレはそう思わない、なにかを得るにはなにかを失うのが絶対だ。

その法則を否定するならばテロリストにでもなれ、今の世界を滅ぼせ。そして新しい世界の繁栄を失敗しやがれ……目に見えないだけで、自覚がないだけで、オレ達は常になにかを得て失っている」

 

 食用の家畜を生きるために食うためにオレ達は殺している、これに対して違うと否定したりする時点でもうなにかと間違っているぞ。仏みたいに悟り開いた奴等以外はそんな言葉を使う権利は何処にもない。

 

「覚えておけ、いただきますは最高のありがとうだって……話変わってるな」

 

 何時の間にか、アリーシャから出る穢れが納まっている。

 ザビーダと話をした時と同じでなに一つ答えを出すことが出来ないものの、少しだけ意識が切り替わったお陰で抑え込む事が出来たのか?

 

「ゴンベエは汚れる覚悟はあるのか?」

 

「あるにはあるが、お前が思うものとは違えよ。

天秤に乗って、自分を軽くするんじゃなく、0という崖の頂点から如何にして下に落ちまくらないかを、汚れる前提で汚れないのはない話だ」

 

 必死になって上に登るんじゃなくて、如何にして墜ちないかを必死になって一寸先は闇の崖の壁に掴まって頑張るのが人間ですと転生者養成所の教官が言っていた。+も-もない人間なんてこの世に居るわけねえだろうって笑ってたな。

 

「大分、酷いね」

 

「綺麗事は言わない。才能の無い奴に才能無いぞとハッキリ言うような、褒めて伸ばす教育なんて一切しない所で色々と教わったからな……もう大丈夫か?」

 

「うん……先ずは、見てみるよ」

 

「そうか……手遅れな時はどうする?」

 

「……分からない。でも、その時の私がきっと教えてくれる」

 

「そうか」

 

 その時にならないと頭で考えても、暗殺について答えを出せないとアリーシャは腹を括って仮眠を取りに行った……が、それだけだ。結局はなにも決められず、未来の自分に丸投げだ。

 

「オカリナ……」

 

 返されたオカリナを見て、オレは考える。

 アリーシャが戦う事が出来るようになれば、アリーシャの考えや見ている世界は変わる。その為には力が必要になるが、恐らくだが聖寮の対魔士の様に天族と契約することはできない。穢れてしまっているから、器に出来ない。

 浄化すればと言いたいが、浄化は病原菌を殺す薬みたいなもので体内にある抗体を強化するとかそういうのじゃない。穢れの原因をどうにかこうにかしないといけない。それはアリーシャ自身が今後どうするとかの答えを出さないとどうにもならない。その為にも戦える力で、その力がオカリナにあるはずだ。

 

「謎解きの鍵は何時だって新アイテムだが、今回は謎解きじゃなくて力……」

 

 貰った転生特典の中でもよく分からないものがある。オカリナの曲がよく分からないものの一つだ。

 時の逆さ歌でオレ達は過去に来たのならば時の歌で元いた時代に帰れる、時の重ね歌は自分の時間を倍速にするものだった。嵐の歌は豪雨を起こし、太陽の歌は晴れにする。エポナの歌は恐らく馬を手懐ける歌だ。

 ゴロンのララバイは睡眠、目覚めの歌は封印の解除とか眠ってる奴を起こす歌。使ったことがないのもある。ぬけがらのエレジーみたいに何が起こるか分かってはいるものの、使い道がよく分からんのもある。

 

「……なんも、起きねえな」

 

 効果がワープという大翼の歌、そしてワープ先がこの世に無いので使い道がマジで無い光のプレリュードを吹いてみるも、なんも起きない。

 この使い道が無い曲が鍵を握っていると思っていたが、オレの間違いなんだろうか?

 

「今の、ゴンベエ?」

 

「ライフィセット、喧しかったか?」

 

 光のプレリュードが聞こえたのかやって来たライフィセット。今はゆっくりと休んだりしたり、準備をしたりしているのでオカリナを吹くのはまずかったと思っているとライフィセットは首を横に振る。

 

「……五月蝿くなんかないよ、とってもよかった」

 

「そうか」

 

「他にも吹けるの?」

 

「まぁ、色々とな。

だがまぁ、寝ている奴も居るだろうしそれはまた今度吹いてやるよ」

 

「ほんと!?」

 

「ああ……っと、ベルベット達は起きてないか?」

 

 ライフィセットはよかったと言うが、ベルベットならハッキリと喧しいと言ってきそうだ。

 他の面々の様子を確認するとアイゼンはバスカヴィルの婆さんと結構真面目な会話をしており、ロクロウは剣の手入れを、アリーシャは普通に寝ており……ベルベットは魘されていた。

 

「大丈夫?」

 

「病気……は無いか。ライフィセット、飲み水と清潔なタオルを持ってきてくれ」

 

「うん」

 

 ついさっきまでピンピンしていたベルベットが魘されているのは、悪夢を見ているからだな。

 

「ちが、う……違うの」

 

 どんな夢を見ているのかは知らないが、怒っているイメージが強いベルベットが出しているとは思えない弱々しい佐藤■奈ボイス。

 起こして夢を見ていると言えば終わりだと触れようとすると、背後からマギルゥの気配を感じる。

 

「なんのようだ?」

 

「なに、ちょっとのぅ。

それよりも触れたところで無駄じゃぞ。夢とは何時か覚めるから夢で、夢は都合よく出来ておる」

 

「現実が辛いなんて、今に始まったことじゃねえだろ」

 

「触れて夢だと言ったところでその悪夢は終わらんよ」

 

「……だったら、これか」

 

 精神安定剤がわりになるお香とか作るのには時間がかかる。現在進行形で悪夢を見ているベルベットに必要なのはいやしの歌でなく、鎮魂歌。魂のレクイエムを吹いてみるとベルベットの呟きは消え、少しだけ表情が柔らかくなった。

 

「ゴンベエ、持ってきたよ」

 

「何時でもベルベットが目覚めて良いように氷を」

 

「あ……あああ……嫌」

 

「ベルベット?」

 

「嫌だぁああああああああ!!!!」

 

「!?」

 

「聞くもんか、お前の言うことなんか聞くもんか!!」

 

 オレが魂のレクイエムを止めた途端、悪夢に魘されるベルベット。

 どんな内容かは知らないが予想以上にロクでもない悪夢なのは確かで、悪夢で目を覚ますと混乱して周りが見えておらずライフィセットの首をしめた。

 

「おい、なにやってんだよ」

 

 どんだけ恐ろしい夢を見たのかは知らんが、ライフィセットは無関係だ。

 オレが声をかけると自分が夢を見ていて混乱していることを自覚し、ライフィセットから手を離す。

 

「あんた達、どうして?」

 

「ベルベットが……うなされてた……から」

 

 掴まれていた首が離されたので、咳き込みながらも此処にいる理由を教えるライフィセット。

 するとベルベットが驚いた顔をし、ライフィセットから目をそらす。

 

「気安く近寄るな!!あたしが業魔だって、分かっているでしょ!!」

 

「ごめ、んな」

 

「謝るな」

 

 ライフィセットとなにかを重ねて八つ当たり気味に叫ぶベルベット。

 心配なんて余計な御世話とドライな対応ならまだ良いが、八つ当たりならば話は別だとライフィセットに謝らせない。

 

「あんたもよ!」

 

「オレにも当たるな」

 

「……」

 

 あーあー、ライフィセットが逃げちゃったじゃねえか。

 

「お前、後で謝っとけよ。純粋にお前を心配してたんだぞ」

 

「……っ、くそっ……」

 

 タオルと飲み水を見て、余計に苛立ちが増すベルベット。

 

「寝ても覚めても悪夢の続き」

 

「マギルゥ…」

 

「モノは石をぶつけて壊れるが、キモチをぶつけるとイキモノになる。扱うにも捨てるにも、モノの方が楽じゃぞ?」

 

「なにが言いたいの!」

 

「つーか、マジでなにしに来たんだ?」

 

「いやなに、【お主らとおれば、ビエンフーを使う女対魔士が現れるぞよ~】とマギルゥ占いに出たのでな」

 

 此処に来た理由を……いや、これからついてくる理由を教えるとマギルゥは去っていった。

 

「汗拭いて、水分取っとけよ。酷い汗だぞ」

 

「あんたも何処かに消えなさいよ」

 

「そうしたいのは山々だけど、幾らなんでもそこまでの奴は見捨てられねえよ」

 

 本当は見捨てないといけないけど、どうもオレは甘い。

 ベルベットはライフィセットが置いていったコップに水を注いで口に含み口内のベタつきを取る。

 

「私は業魔なのよ?」

 

「ベルベット……うちの国にはこんな言葉があるんだ」

 

「なに?」

 

「男の子は男の子同士で 女の子は女の子同士で恋愛すべ……じゃなくて、可愛ければ、それで良いのではと」

 

「待って、今なにかとんでもないことを」

 

「ベルベットはその世界に触れなくて良いから、忘れろ」

 

 冥府魔道の道があるのは知っているが、そこは関係無い。何故、間違ってそれを言いそうになったんだ?

 

「お前が憑魔とか天族とか、そう言うのは特に関係無いぞ?世の中って、基本的に顔とかだからな。

そりゃ腐った死体とかならウォっとドン引きするかもしれないけど、ロクロウもお前も人間姿を維持してて尚且つイケメソで、話が通じる相手だから種族どうのこうの言わんぞ。

どっかの研究者も人間は五感の中で視覚からの情報を頼りに生きてたり、基本的に視覚の情報を第一にしているとか言ってたし、研究結果もあった。比較的人間に近い……いや、元から人間だったな」

 

 業魔と接する変人だと思われているが、基本的には見た目だからな。

 

「これでも?」

 

 色々とあれな発言をしていると左腕を変化させるベルベット。

 

「特に問題ないぞ……自分は化け物なんだとかアホな事を考えても、世の中にはそれでも構わないって言う奴はいるぞ」

 

 人はそれを変態と言う。

 

「とにかく、まだ時間があるから休んどけよ」

 

「……」

 

 さっきのアリーシャみたいに膝を抱えて……体育座りをするベルベット。

 目を閉じてはいるものの、眠ってはいない。いや、必死になって眠らないようにしているのが正しいんだろうか?

 

「これぐらいはしてやるよ」

 

 オレはベルベットの隣に座り、魂のレクイエムを吹いた。

 ベルベットはオカリナを五月蝿いと一言も言わずに聞いており、途中で膝を抱えるのをやめ、ゆっくりとゆっくりとオレの肩に落ちてきた。

 

「……もう少し、吹き続けて」

 

「了解」

 

 魂のレクイエムを吹き続けていると、ベルベットはさっきと違って健やかに眠っていた。

 ワープにしか使えない魂の鎮魂歌(レクイエム)にはこういう使い道もあるんだな…………あ!

 

「アレをすれば、もしかしたらアリーシャが……だが、今の槍だと出来ないか」




スキット 異世界(他の転生者達がいるとこ)①

ゴンベエ「はよ、煮えろ」

アイゼン「なにを煮込んでる?」

ゴンベエ「その辺に這えてた無駄に長い草」

ライフィセット「食べれる野草?」

ゴンベエ「いや、その辺に這えてた雑草だぞ」

アイゼン「毒か?」

ゴンベエ「もう少し、優しさのあることを言ってくれよ。紙を作ってるんだ」

アイゼン「紙は竹や麻からじゃないのか?」

ゴンベエ「木材とか雑草で良いんだよ。その辺の雑草を水酸化ナトリウムとか煮込んで解して水洗いして、潰して干せば出来る。そろそろ紙が切れそうだから作ってるんだよ」

ライフィセット「紙って、簡単に作れるんだね」

アイゼン「……お前の知識は何処で得たものだ?」

ゴンベエ「アメッカと出会う前に、黄泉比良坂を越えた先にある訓練所に居たとだけ言っておく」

アイゼン「そこで学んだのか」

ライフィセット「訓練所……学校みたいなところ?」

ゴンベエ「一般教養とかも学ぶから、学校みたいなところと言えばそうだな。詳しい数はオレも知らんが年間1500人ほど入ってくる。何年間通ってたら卒業出来るとか言うのじゃなくて、完全な実力主義の学校でなにを基準に卒業かはオレも知らんが、かなりの脱落者がいる」

アイゼン「訓練に耐えきれなくなった奴等か……なにに成るための訓練をしている?」

ゴンベエ「しいて言うならば幸せになるために生きる訓練だ、一般教養はともかくわけわかんねえ訓練とか多くて、毎日毎日脱落者が出ていた。卒業して未熟な奴等ばっかで、生き残っているのは極僅かしかいない」

ライフィセット「皆、死んじゃったんだ……」

アイゼン「訓練をした上でそれは弱かった、弱肉強食の世界で生き残れなかった奴か」

ゴンベエ「いや、違うぞ」

アイゼン「どういう意味だ?」

ゴンベエ「オレもよく分かんねえけど、世の中は腕っぷしが強いだけじゃダメだ。頭がいいだけじゃダメだ。コミュニケーション能力なんかの横の知識があるだけでもダメだ。此所とは違う世界でオレより先に卒業したけど生き残ってる奴等は全員、変人だったり人間臭い奴ばっかだ」

アイゼン「文字通り、人間として強い奴等が生き残っているのか……異世界にだと!?」

ゴンベエ「どちらかと言えば平行世界に近かったりするが、ざっくりと言えば異世界だな。言っとくが、オレは行ったことねえし知識しかねえこの世界の住人だから聞いても異世界の事を少しか出来ひんからな」

ライフィセット「聞いてみたいな、異世界がどんなところか」

ゴンベエ「まぁ、ある程度落ち着いたら話をしてやろうか?アメッカが居るときにだけど……あいつ絶対、無視したら怒るからな」


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彼女は古代語は読めません。

ゼスティリアのDLCをやって思った。アリーシャ、古代語は読めないんかいと。


「むふふ、間に合ってよかったわい」

 

「マギルゥもついてくるのか?」

 

「うむ!

【お主等についていけばビエンフーを使うあの女対魔士に会えるぞよ~】とマギルゥ占いに出たのでな!」

 

「……今から会いに行くのは、あの女性じゃない。礼拝中のギデオン大司祭で……暗殺をするのだぞ?」

 

「はて、それとワシになんの関係があるかの?少なくとも、斬られて当然の事は充分しておるじゃろ?」

 

「っ!」

 

 永遠に来ないでほしいと願ったが、時間はあっさりと過ぎてやって来てしまった。

 赤聖水の元締めであるギデオン大司祭の暗殺……いったいどうしてこうなったのだろうと、自分の記憶を何度も探る。闇だからこそ、汚い世界だからこそ知りうる事があるのは段々とわかっていたが、辛い。

 ゴンベエ以外はギデオン大司祭を殺すことについて目的を果たすための踏み台程度にしか思っていない。赤聖水の流出を食い止める事が目的でないなら当然と言われれば当然だが……。

 

「今は揺れるな」

 

 ギデオン大司祭を見てから、どうするかはその時の自分が教えてくれると言ったのに心が揺れ動く私にゴンベエはその一言だけ伝える。

 私の中の常識や考えを壊す不思議で変な発言はせず、ただただジッと私の顔を見て、不安定な私を無理矢理立たせている。

 

「アイゼン……殺すことは救うことだと思うか?」

 

「……オレに綺麗事を言って欲しいのか?」

 

「え?」

 

 ふと同族を殺すことにより救っているザビーダ様が頭に過り、今回の一件と重なってしまう。今の力の無い私では、真正面からギデオン大司祭を裁くことは出来ない。証拠を集めて世間に公表しても、赤聖水に依存している人達はそれでもと手を伸ばしてしまう。非合法だが、大元となるギデオン大司祭を殺せば赤聖水の流出は止まる。

 この殺しは誰かを救う為の事なのだろうかと聞けば、アイゼンは私を強く睨んできた。

 

「お前や他がなんと言おうがコレがアイフリードに繋がる道ならオレは殺す、ただそれだけだ。

殺すことはどういうことか悩んで苦しんでいて、誰かに助けを求めているかもしれないが自分の舵は自分で取るものだ」

 

 甘えるなと一喝するアイゼン。

 知らず知らずの内に誰かに甘える癖がついていたことを認識し、私は気を引き締める。きっと今の私に足りないのは覚悟だと自分に必死に言い聞かせているとベルベットは口を開いた。

 

「嫌なら酒場で待ってなさい。

あんたは居ても居なくても変わり無い、ゴンベエがいればそれで良いわ」

 

「色々と酷えな、おい……」

 

 戦力外通告……良い方に考えれば、来なくていいと逃げ道を示してくれたベルベット。

 彼女なりに私を気遣ってくれた。此処で見なかったことにすれば、自分が当事者にならなければ苦しまずに済む……なんて事は出来ない。

 

「私は行く……」

 

 足手まといだろうが、なんだろうが必死に食らい付いていかなければなにもわからない。

 現代であり遥か未来の導師であるスレイも今ごろは必死になって打倒ヘルダルフと頑張っている筈だ。

 

「そう。ゴンベエ、途中で邪魔をしたらあんたが止めなさい」

 

「了解……」

 

「それと、ライフィセット」

 

「!」

 

「……その、ごめん、なさい」

 

 名前が呼ばれるとビクリと反応し、私の背中に隠れるライフィセット。

 ベルベットは掠れた声を振り絞りながらも、謝った。なにに対してかはしらないが、私が眠っている間になにかがあったらしい。

 

「どうする?」

 

「……うん、許すよ」

 

「そう……とっとと行くわよ」

 

 ライフィセットはベルベットの事を許すと、私達は歩きだす。

 血翅蝶の工作員が王宮への抜け道へと教えてくれる手筈となっており、甲冑を身に纏っているこの国の騎士なのに何故か赤いバンダナをつけている騎士がいた。

 

「手形を拝見」

 

 私達が近付くと、暗殺しに来た一行だと語る間もなく手形を要求される。

 ベルベットは馴れた手付きでバスカヴィルから頂いた手形を見せると騎士は立っている場所を変えた。

 

「この地下道は王城へと繋がっている。離宮にも出られる筈だ」

 

「成る程、緊急の出口は緊急の入口ってわけか」

 

 足元の下水路の入口を見て感心するロクロウ。

 王城は何時なんどき攻められても良いように隠し通路が幾つも存在していると聞いたことはある。この時代にも存在していたとは少しだけ意外だが、もしかすると現代のローランス帝国にもここと同じものが同じところにあるかもしれない。

 

「あ、ちょっと良いか?」

 

「なんだ?」

 

「腕の良い武器職人を知らないか?出来れば足が付かない奴で、物凄い武器職人を探してて」

 

「ふむ……一応は探しておこう」

 

「そうか、助かる」

 

「武器職人を探してるってその背中の剣、問題ない筈だろ?」

 

 何時も背負っている剣を見て、疑問に思うロクロウ。

 背中の聖剣は自動修復機能を持ち、斬れないものが無いと言っても良い聖剣。他にも多数の武器をゴンベエは持っているが、使っていないので目立った歯こぼれはしていない。

 

「剣を作って欲しいんじゃねえ、槍だ槍。記憶の片隅に放置してた事を思い出すことが出来たんだよ」

 

「それは、もしかして……」

 

 無くなったあの槍の製造方法を思い出すことが出来たのだろうか?

 戦うことが出来なくなった私に再び戦う力を与えてくれるゴンベエ……だが、今の私に戦うことが出来るのだろうか?

 

「硝子細工とか科学用品ならまだしも武器は専門外で今回はただただ切れ味の良い武器を作るんじゃないからな……材料が材料なだけに失敗も出来ないし、そこいらの凡百の職人じゃ困る」

 

「ほぉ……どんな槍が出来るんだ?」

 

「作る過程でどうしてもロクロウやアイゼン達の協力もいる……いや、本当に出来るかどうか怪しい。その行程をどうにかしないと作れる物も作れん」

 

「オレ達になにをさせるつもりだ?」

 

「職人を見つけるまでは教えねえよ……行くか」

 

 王城へと繋がる下水路への道は血翅蝶により開かれた。

 ベルベットを先頭に一人ずつ降りていくのだが、地下にあるだけあって月の光は差し込んでこない。

 

「あっ!」

 

「足元、気を付けなさいよ」

 

 入口付近でコケるライフィセットを支えるベルベット。

 よく見れば地面は濡れており、所々濡れており足元には水溜まりが出来ている。

 

「ここから城まではそれなりに距離があった筈だが、中は……一本道じゃ無さそうだな」

 

 落ちていた地下道の路面の破片を投げるアイゼン、それなりに力を込めて投げると直ぐに壁にぶつかる音が聞こえた。

 それは此処がかなり複雑な地下道だと言う事を証明するのに充分な音で、それなりに響いた。

 

「いや、下手すると王城が狙われた際の隠し通路じゃなくて下水道で……うんことかが、もしかすると国中の水道とかと繋がっていて国全体のうんこが集まってる可能性が……」

 

「幾らなんでもそれは無いじゃろ……無いじゃろう!?流石に見たくないぞ」

 

「はぁ……暗殺しに行く一団とは思えないわね」

 

「そっちの方が、気楽で良い……」

 

 くだらない馬鹿みたいだけど面白い会話をしているゴンベエ達の空気が心を和らげる。

 気休め程度にしかならないが、それでも心が安らぐ……内容がかなりアレだが。

 

「ゴンベエ、光る硝子細工を持っていなかったか?」

 

「電球と呼べ、電球と」

 

 この暗い中を歩くのは危険だと、あの硝子細工を思い出す。

 この時代に来る際にも持ってきたものの中にあったはずだと聞くとゴンベエは取り出して灯りをつける。

 

「ランタンも一応はあるが、オイル切れるの怖いしこれで行くか」

 

「確かそいつは2000時間ぶっ通しで明かりがつくんだったな」

 

「どうなってるんだろ?」

 

「作るの簡単だから、埠頭でガラスの原材料である珪砂を手に入れて、暇な時に基礎だけを教えてやるよ……人に伝授したらシバき倒すけどな」

 

 ゴンベエから電球について教えて貰えるとなると嬉しそうにするアイゼンとライフィセット。地下道には憑魔が大量に住み着いており、直ぐに気持ちを切り替えて倒す。

 

「業魔から市民を守ると言う城塞都市じゃと言うのに、王家の足元に業魔が住み着いているとはなっとらんのぅ」

 

「……面目ない」

 

「いや、おぬしに言っとるんじゃないぞ」

 

「マギルゥ、その言葉は物凄くアメッカに効くからやめてくれ」

 

 レディレイクの地下もこんな感じになっているのをマギルゥの一言で思い出す。

 天族が見えるのにこの時代では信仰されておらず加護領域も一切無いから当然かもしれないが、民を守ろうとする王都がこの様に危険な憑魔が住み着いている事に文句を言われると何一つ反論できない。

 

「はい、泳げる人!」

 

 地下道を進んでいくと、水溜まり……とは言いづらいちょっとした小船がいるぐらいに水がはっているところにつく。

 此処を抜けなければ先に進む事はできず、何処かに掴まって移動も出来ずゴンベエは振り向いて泳げるかどうかを聞いてくるが、さっきの話を聞いた以上は泳ぎたくない。

 

「悪いが、オレは地の聖隷……水に浮かぶことはない。ペンギョンフロートさえあれば、オレの泳ぎは世界を狙えるが……」

 

「それ以前に泳ぎたくないのぅ」

 

「つっても、フックショット使っても無理っぽいぞ?」

 

 一直線に続く道ならまだしも結構長く左右に曲がらなければならず、水がはっている。

 ゴンベエの持つ道具でもどうすることも出来ず、ゴンベエは魚の妖精に変身する仮面をつけて泳いで行く。

 

「狼になったり、魚人間になったりなんでもありだな、あいつ」

 

「泳いでみたが、かなりの水路でフックショットを使ってもいけない感じで、途中何個も似たような所があった」

 

「っぐ……泳ぐしかないのか?覚えておれよ、ビエンフー!」

 

「ねぇ、彼処にあるアレってなに?」

 

 苦渋の決断に迫られる中、ベルベットはなにかのレバーを発見する。

 もしかしてと思い私が試しにレバーを引いてみるとはっていた水が引いていった。

 

「エバラのごまだれ!」

 

「……なに言ってんの、あんた?」

 

「……コレを言わないといけない呪いに掛かってるんだよ、オレは」

 

 前に牢を脱出して箱から武器を取り返した時も似たような事を言っていたな。

 ゴンベエの呪いはともかく、泳いでいかずに済んだことにホッとし水を引くレバーを探しながら奥へと進んでいく私達。

 

「ここは、書庫か?」

 

 降りたり登ったりを繰り返しているうちに、王城内部に辿り着いた。そこは書庫で、右を見ても左を見ても本棚と、大量の本で埋め尽くされている。

 

「わぁ……」

 

「見たことの無い本ばかりだ」

 

 私とライフィセットは目を輝かせる。

 此処にあるのは1000年以上前の本、どれもこれも現代には残っていない物ばかりで残っていたとしてもローランス帝国の物で、私が見ることは難しい。

 

「ほほぅ、流石は王城の書庫じゃ。珍しい本が沢山揃っておるのう」

 

 マギルゥも本の価値が分かるのか、本棚にある本に触れる。すると、本棚が横に動き出して壁の中に隠れている別の本棚が出現する。

 

「古代語の本!」

 

「なに!?」

 

 隠し本棚に入っている本を見て驚くライフィセット。今、つまりは千年よりも遥か昔に栄えた文明の言語や出来事や研究成果などが書かれている3000年以上前の書物。現代では本当に一握りで、破損している物が多く、無傷なのは先ず存在しないとまで言われており、本棚が丸々一つ埋まる程となるとレディレイクやマーリンドでも無い。

 

「読めるのか?」

 

「いや、私には読めない。

古代語の中には翻訳が独特のものが存在していて、ただ現代の言葉や文字に置き換えれば良いと言うわけではない。

そう言った文を読み解く才能が必要なのだが……ライフィセットは読めるのか?」

 

「ううん、僕も読めない。でも、僕」

 

「暗殺には必要の無いものよ」

 

 此処にあるものをスレイが見れば、どれだけ喜ぶのだろうか?そんな思いはベルベットの言葉で一瞬にして消え去り現実へと戻される。甘い一時はほんの一瞬だったが、本当はこの場に居ること自体があってはならない事だと忘れていた。

 

「だから、一冊だけよ」

 

「ベルベット……」

 

「あんた等はどんなに良い子のフリをしても、大司祭を暗殺しようとする業魔を止めようとすらしない悪よ。なら、悪らしく盗みなさい。嵩張るから、これで良いでしょ?」

 

 本棚から適当に一冊抜き取りライフィセットに渡したベルベット。

 予想外の出来事に戸惑うが、ベルベットは全くといって無関心なのか書庫を出ようとする。

 

「あいつ、素直に優しくすることが出来ないのか?」

 

 そんなベルベットの背を見て呆れるロクロウだが、私は少しだけ違うと思う。

 

「逆、じゃないのだろうか?」

 

「逆?」

 

「厳しくなれない、必死になって怒ろうと頑張っているように私には見える」

 

 ずっとずっと導師アルトリウスの命を狙おうと憎悪を燃やしているが、憎悪を燃やし続けることは難しい。

 時折ベルベットが見せる復讐者としての甘さは考えようによっては、ベルベットの本来の素顔で、本来は優しい女性だ。一側面しか見ていないし、付き合いが長いわけではないから確かかどうかは怪しいが、少なくとも私はそう思う。

 

「マ、マギンプイプイ!」

 

「お前はしなくていいぞ……ええもん、見れた」

 

 礼拝堂に向かう道中、マギルゥから教わった緊張を紛らわす方法を試しているとゴンベエから止められる。ゴンベエは何故か私を見て、満たされた顔をしているが、どうしてだろう?




スキット 犯人も辛いよ

ゴンベエ「マギルゥは無理だから、アイゼンが、いやロクロウでも……あ~さっきの書庫に」

ベルベット「なにぶつくさ言ってるのよ?」

ゴンベエ「誰が大司祭を殺るか考えているんだよ」

ベルベット「誰でも良いじゃない……それとも、アメッカに殺らせたくないの?」

ゴンベエ「彼奴には無理だろうし、土壇場で殺そうとするお前等を止めに入る可能性があるからさせねえ。と言うか問題はそこじゃない。誰がやるかだ」

ベルベット「?」

ゴンベエ「幸いにもこの国にカメラを作る技術は無いから、まだアイゼンがアイフリード海賊団副長とか、ロクロウが業魔とか一般人に知られていない。今から殺すのはクソッタレかどうとかは別として大司祭、殺せば嫌でも騒ぎになる。あの女退魔士はオレ達の顔をハッキリと見ている。犯人だと分かり、人相書かれて指名手配されたら行動が制限される可能性が高い」

ベルベット「確かにそうね……マギルゥに殺らせようかしら?」

ゴンベエ「誰が殺ろうが同じだ。つーか、オレ達は暗殺しに来たんだ。堂々とスパッとするんじゃなくて暗殺、足跡を残す時点で間違いだ」

ベルベット「じゃあ、どうしろって言うのよ?」

ゴンベエ「こういう時こそ、死神かと思うんだがな」

アイゼン「呼んだか?」

ゴンベエ「呼んでねえよ。死神つったんだ」

アイゼン「ならば、オレだ。オレは死神だ」

ゴンベエ「オレが言っている死神は探偵って意味なんだよ」

ライフィセット「なんで探偵が死神なの?」

ゴンベエ「推理小説、それこそシリーズ化されて10冊以上も出ているものがあるだろ?」

ライフィセット「うん」

ゴンベエ「一冊につき一回は殺人事件に巻き込まれる、そういう感じの仕事してなくても旅行先で偶然に巻き込まれたりを繰り返しまくる……疫病神よりも死神だろう」

アイゼン「確かに推理小説の主人公は幾つもの殺人事件に偶然的に遭遇する文字通りの死神だな」

ゴンベエ「そういうことだ……話を戻すが、足をついて人相書きされて町中にばらまかれるのはまずい。偶然の事故死を装った方が良いと思う……で、書庫に推理小説があったかなと」

ベルベット「推理小説に出てくる密室トリックを真似するのね」

ライフィセット「でも、それだとその推理小説を知っている人達にトリックがバレちゃうよ。自力で考えないと」

ゴンベエ「自力で考えるっつっても、そんなトリック浮かばない変人揃いだぞ」

アイゼン「それなら問題は無い。推理小説に出てくる犯人は大抵は一般人だ、一般人に出来て海賊に出来ないなんてことは絶対に無い!名探偵でも現れない限りはな!」

ライフィセット「なんでだろう、アイゼンが程よいキャリアと中途半端な地位を持っているそれなりに偉い人に見える」

ゴンベエ「声的に警視、じゃなくてトリックだトリック」

ベルベット「そうね……事故死にするか、自殺にするか、他殺にするか……他殺だと私達に容疑が掛かるわね。足跡はもうある程度残しているから事故か自殺に見せるトリック……」

ライフィセット「名探偵でも見抜けないトリック……難しいね」

ゴンベエ「言っとくが、考えるよりも実行する方が難しいんだぞ」

ベルベット「覚悟は出来ているわ」

ゴンベエ「いや、そういう意味じゃない。今回はサクッといけるけど、トリックって色々とな……」

ライフィセット「どういうこと?」

ゴンベエ「まず大前提で名探偵が出てくる可能性がある」

アイゼン「先に名探偵を殺しておけ」

ゴンベエ「馬鹿野郎、それでも名探偵は帰ってくるんだよ!と言うか分かってるのか、トリックに必要なのは殺す覚悟以外なんだぞ」

アイゼン「殺す覚悟だと?」

ゴンベエ「例えばタロットカードに見立てた殺人事件を起こすとしよう。運命の輪のカードと風車が似ていることに気付いたら、どうする?」

アイゼン「風車に括りつける」

ゴンベエ「術とか無しで風車にオレを数分で括りつけてみろ。後、素知らぬ顔で泥道に足跡を残さずに別館から本館に行ったりする方法をやってみろ。ライフィセットはトリックに使う何処にでもいる犬を調教してみろ」

ライフィセット「動物を調教って……どうすれば」

ベルベット「しつける時間なんて無いわ」

ゴンベエ「ベルベットは変装して島の子供達に嘘の言い伝え的なのを流し続けたりするんだ!もしくは金持ちの坊っちゃんの恋人になって家族に気に入られるのを」

ベルベット「絶対に嫌よ」

ライフィセット「……トリックって、頭よりも心と肉体を使うんだね」

ゴンベエ「他にも色々とある。容疑者達そっくりの蝋人形を作ったり、蝋人形の中に入って死にかけたり、名探偵を追い返したと思えば帰ってきたり、名探偵の宿敵である殺人鬼に狙われたり、犯人も犯人で大変なんだ。呼んでないのに来るんだぞ名探偵。ミステリーあるあるの絶海の孤島とかそういうのじゃないのに、殺人事件起きまくってるのに現場に普通にいるんだ……だが、忘れるなよ」

ライフィセット「なにが?」

ゴンベエ「犯人は大抵は、一般人だ」

ライフィセット「一般人……名探偵は一般人じゃないから、トリックを見抜けるんだね」

アイゼン「犯人だと思わせない演技力、風車に死体を括りつけるフィジカル、時には自分を刺して被害者面する発想力、友人を殺した相手と彼氏彼女の関係を築き上げるモテ力を持つ一般人を見抜くか……どうすれば勝てるんだ?」

ゴンベエ「正直それはオレにも分からねえよ。
底無し沼に沈めても、雪山に捨ててきても普通に生還するし、二人がかりで挑んでも両方バレるし、それなりの権限で事件を強制終了させようとしたらその権限よりも強い権限持った奴が出てくるし、名探偵を犯人に仕立てあげても普通に逃亡に成功して逃亡中に謎を解くし、名探偵の危険性を知っているから呼ばなかったのに向こうから現れるんだぞ」

ベルベット「犯人も探偵も一般人の枠を越えているわ……密室トリックは無しよ」


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裁くのは拳だ

 ギデオン大司祭がいる礼拝堂の入口前まで来た私達。既に後戻り出来ないところまで来ているのは分かっているが、緊張の糸が走る……私だけだが。

 

「遺書残すとしても、筆跡鑑定される可能性がある。

こういう時は本とかの一文を切り抜いて繋ぎ会わせたら文章になる怪文書にしておく。

その際に切り抜く本になんらかの統一性を持たせるのはダメだ。名探偵はたった一つのヒントで真実を見抜くからな」

 

「だが、そうなると文章を作り出すのが難しいぞ」

 

「そこを暗号にすれば良いんじゃないかな?アナグラムは難しそうだけど、なんらかの統一性を持たせた文章ならいけるよ」

 

 暗殺で足跡を残すのは危険だと密室殺人を考えるゴンベエ、アイゼン、ライフィセット。

 あの手この手を考えてはいるものの、密室トリックを作る時間は何処にもない。だが、どういうトリックを作るかと言う談義で盛り上がっておる。

 

「やれやれ、聖寮に名探偵がおっても知らんぞ」

 

「そういう時は名探偵を一刺しだ」

 

「……それやっても普通に生きてそうな気がするのはワシだけじゃろうか?」

 

「知らないわよ……ロクロウ、あんたが殺る時は背後じゃなくて腹にしなさいよ。背中だと確実に他殺だと足がつくわ」

 

「自殺だと思わせる切り口か、中々の難易度だな」

 

「……」

 

 本当に誰一人として殺すことに悩んだり苦しんだりしない。

 人じゃないから?いや違う、それは違う。少なくとも天族は人の様に笑い、考え、時には苦しむ。ベルベットとロクロウは元々は人間で、何かしらの事情があって憑魔へと変貌した。元々は人で、心はちゃんとある。

 生殺与奪について深く考えることも出来る……イズチに迷い込んだ際に帰り支度をする際にスレイは生きるためと山羊の命を奪った。私は守るためにと槍を握っているが、食うために殺すと言うのをしてこなかった。

 そう考えると、ある意味家畜を育てている農民は私よりも覚悟が出来ているな。

 

「あんたがギデオン?」

 

 色々と考えたりしたが、密室トリックは無理なので堂々と入る私達。

 礼拝堂に一人居るギデオン大司祭であろう人物にベルベットが声をかける。

 

「祈りの途中だぞ、何者だ」

 

「漬け物です」

 

「……先に質問をしているのは私よ」

 

「無礼な。だが、業魔なら当然か」

 

「!!」

 

 後ろを振り向いていないのに、顔も見ていないのにベルベットが憑魔だと当てたギデオン大司祭。

 

「そこまでです!!」

 

 どういうことかと驚いている間もなく女退魔士のエレノアと操られている天族の方々が現れる。

 

「マギルゥ占い、大当たりじゃ!」

 

「待ち伏せか」

 

「これも死神の呪いか?それとも、婆さんに売られたのか?」

 

「違うわ……調べたのね、そいつが赤聖水の元締めだって」

 

「そう……貴女達が起こした事件の数々を調べ、ギデオン大司祭に辿り着きました」

 

 此処にいる理由を言い当てると頷くエレノア。

 最初の仕事以外は細心の注意を払っていたが、気付かない内に大きな足跡を残してしまった……だが、だが。

 

「赤聖水の大本である大司祭をどうするつもりだ?」

 

「……貴女達を倒した後に、聖寮で処罰するつもりです」

 

「そうか……よかった……」

 

「え?」

 

 本当によかった。

 色々と制限をしている国の大司祭となれば、相当なコネと権限を持っている。

 ただただ罪を告発したとしても揉み消される。今の私にはどうすることも出来ないが、彼女ならばどうにかすることが出来る。エレノアの出現は私にとっての救いに近かった。

 

「エレノア、油断をしてはいけない。

今からが本番だ、きっと大司祭はあの手この手を使って逃げようとする。先ずは赤聖水で儲けた資金を抑えて、賄賂による口止めを阻止するんだ……私はそれで逃げられたことがある。それと出来るだけ権限の強い人を味方にするんだ。権力に対抗するには悔しいが権力しかない。今の地位から少し降格するが無罪放免は普通にしようとしてくる」

 

「今まさに暴力による解決をしようとしてんだがな……」

 

「……心遣い、ありがとうございます。

御安心ください、聖寮は権力などには屈しません。証拠はもう抑えてありますので、確実に裁くことが出来ますが……先ずは貴女達を裁きます」

 

「処罰だと!!何故私が処罰されねばならん!!」

 

 自身が処罰されると分かると、怒り叫ぶギデオン大司祭。

 自分が有実の罪で裁かれる事を不満に思っているが、それはお門違いだ。

 

「悪いことをしたのなら、裁かれるのは当然だろう!中毒性のある薬を量産、製造方法を知っている人の拉致監禁、飲んでしまった者達は中毒患者となり、憑魔……業魔化し暴れまわっている!」

 

「な、業魔化!?」

 

 もしかしたら、何かしらの理由があって赤聖水を作っていたかもしれないと言う線もあった。致し方なく犯罪に手を染めてしまう人達は、私達の時代にも何人もいた。ブルーノ司祭の様な善人も金を受け取り、酒で心を誤魔化さなければならない時代だったが……ギデオン大司祭は違った。バルトロ大臣の一派と同じく私腹を肥やしている者だった。

 

「ふざけるな!私がどれだけ聖寮に便宣を図ったと思っている!」

 

「おい、聖寮権力に屈してんぞ。赤聖水の売上金で、被害者に支払われる賠償金とか賄えるかこれ……」

 

「そもそも赤聖水を増やしたのは、お前達聖寮の為でもあるのだぞ!」

 

「どういう意味ですか!」

 

「神殿建立の費用が必要だと言われ、金を集めるために赤聖水の量産を」

 

「神殿建立……そういうことね」

 

 ポロポロと大司祭の口から溢れ落ちる言い訳と聖寮の深い闇。

 ベルベットは大司祭が赤聖水で大儲けしたお金が何処に行ったのかを見抜いた……聖寮も闇は深かった。かなり、深かった。

 

「聖寮も既に結託している可能性がある……正しい処罰をくだせるのか?」

 

「揺れるな……そう言った筈だぞ」

 

 今のエレノアと自分を被せてしまった。

 此処で私達の撃退を成功しても、ちゃんと処罰をくだすことが出来るのだろうかと思った。過去に似たようなことがあり、揉み消されたことがあった。既に聖寮も買収されている。エレノア一人でどうにかすることが出来るのだろうか?もし出来ないとなると、戦える力を求めても無駄になる。

 

「ベルベット、そやつを追い詰めてくれたら良いことが起こるぞ~」

 

 これ以上言葉を交わすつもりは無いと構えるアイゼンやロクロウ。戦いを感じたマギルゥは攻撃が当たらない範囲まで逃げていく。

 

「こいつを捕まえたところで、あんたはただの退魔士よ。それでも守るの?」

 

「……殺させるわけには、いきません!」

 

「で、どうすんだ?」

 

 エレノアとの戦いが始まる中、ゴンベエはなにもしていない。

 正確に言えば飛んでくる攻撃を何時も背負っている盾で防いで私を守っているだけで、自ら攻めようとしない。私がなにをするのか、どんな答えを出すのかを待っている。

 

「どうすれば、どうすれば……」

 

 エレノアが捕まえても、ギデオン大司祭は裁ききることが出来ないかもしれず、下手をすれば無実扱いでよくて多少の痛手しか負わせられない。赤聖水の流出は食い止めることが出来る。製造方法を知っているメンディを助けることは出来たが……それで本当に良いのだろうか?受けなければならない罰をギデオン大司祭は受けなければならない……殺すことは違うが、少なくともなにかしらの罰は必要だ。

 

「うぅ……あぁ……」

 

 頭が割れるかと思うような激痛が私の中に走る。

 それと同時におぞましい穢れも感じる……これは、私の中にある穢れだ。今まで、必死になって頑張ったけどなにも出来ない自分が悔やんだりして生み出した穢れだ。

 

「業魔病!?」

 

 エレノアが私を見て、驚いている。ああ、そうか……憑魔になっていくのか。

 ゆっくりと自分の意識が消えていくのが分かる。ベルベットやロクロウの様に自分を保って憑魔になることは出来ないのか……私には強い意思も覚悟もなにもない。

 

「ベルベット、手は止めるな……さて、此処が正念場だぞ」

 

「……どうしろと言うんだ。

きっと彼女が捕まえたとしても、逃れる術を持っている……もしかすれば、殺して口封じをするかもしれない」

 

 ゴンベエは私と向き合ってくれるが、もう無理だ。

 もう、力が無いとかそう言うのじゃない。なんとなくだけど、力とか関係無い気がする……もう、どうでもいいけど。

 

「……はぁ……」

 

「ゴンベエ、浄化はしなくていい……疲れた」

 

 大きなため息を吐いて、背負っている剣を握るゴンベエ。

 その剣で私を斬れば私の穢れを浄化することが出来るが、意味なんて無い。頑張ればと頑張るほど、どうしてそうなったと知ろうとすれば知るほど、絶望に近付いていった。諦めなければと必死になって前を向いたけど、もう前を向いて歩くのが辛い、とっても辛い。ゴンベエでなくスレイが浄化の炎で私を燃やしても、きっと直ぐに穢れてしまう。

 

「浄化はしねえよ。それは自分で乗り越えないといけないもんだろうが」

 

「乗り越える……無理だ、いったい何時何処にゴールがあると言うんだ?」

 

「あるだろ、ずっとずっと目の前に。

本当にこう言うのは自力で考えねえとダメなんだぞ?と言うか、それらしい答えを出してるだろうが」

 

「目の前……?」

 

「時間が無いから、手っ取り早く色々と言うぞ。お前を導くなんて本当は嫌だからな。

法律は壁じゃなくて線だと考えるんだ。世の中には越えるのは余り良くなかったり絶対に越えてはならない線が沢山ある、法律は絶対に越えてはいけない線で、権力者はその線の位置を若干ずらす事が出来る……越えてない様に見せられる」

 

「ははは……面白い例えだな」

 

 ゴンベエらしいが、とっても分かりやすい例えだ。確かに越えてはいけない一線を権力者は弄くることが出来る、揉む消す事が出来る。その逆も、越えてはいけない線を増やしたり、縮めたりも出来る。良い例えだ。

 

「アメッカ……アリーシャ、お前にはもう色々と見えている筈だ。

越えちゃいけない一線とか、見えなかった世界とか、そうしないとどうにもならないこととか……なら、一つぐらい答えは出るはずだ……なんの為に悪を知った?裏と闇を見た?」

 

「殺せ、と言うのか?」

 

「違う……答えは目の前と言うか自分の中にあるはずだろう。

法律は壁とか守って貰うものじゃなくて、越えちゃいけない一線……後は考えるんだ」

 

 どうするか最後の最後まで私を見守ろうとしているゴンベエ。ここまで期待しているなら、答えを出さないといけないがなにを出せというんだろう……。

 

「殺すのは間違っている……汚いことをしないと見えない世界がある……越えてはいけない一線……」

 

 ゆっくりと意識が薄れていっていたのに、ゴンベエと話をしていたり答えを考えているとむしろ意識がハッキリとしてくる。それと同時に自分の中にある今まで学んだことや持論が少しずつ少しずつパズルのピースの様にくっついていく。

 

「法律は越えてはならない一線、権力者は越えてはいけない一線を消したり伸ばしたり出来る、今回の事はベルベット達についていかなければ分からなかった……法律で裁いても、苦しんだ人は救われない。遺族にとっては殺したいほどに憎い。だが、遺族には殺すことすら出来ない」

 

「……その場しのぎのごめんなさいはうちの国じゃよくあるぞ。

命とか大怪我をして本当に手遅れなレベルになってやっと悪いことをしたと自覚し反省するクソッタレが社会にはいる。

悪ふざけだって暴力だってしたことの無い人間はいない。でも、それは絶対に越えてはいけない線を越えるもんじゃねえ。そういうことをしている奴等でも最低限の一線は理解している。それは越えることはよろしくない一線で、お仕置きされる……裁くのは法律じゃない、お前だ」

 

「私が裁く……自分の舵は自分で取る……」

 

 消えて行こうとした意識がゆっくりと元に戻っていく。最後のパズルのピースが埋められるのが、本能的に分かった。

 

「おい、数が増えてきた。そろそろ此方にも手を貸せ!」

 

「ああ……って、マギルゥ、何時の間に前に」

 

「なにぃ!?ワシの口上、全部聞いておらんかったのか!?」

 

「すまない、また後で聞かせてはくれないか?」

 

「いや、恥ずかしいじゃろう!こういう時に言うから意味があるんじゃ」

 

 気付けば聖寮の退魔士達が増えている。

 何時の間にか戦えるようになっていたマギルゥだが、数からして此方の方が不利でゴンベエに戦えとアイゼンは言ってくる。

 

「ゴンベエ、もう大丈夫だ」

 

 最後のパズルのピースが填まると、頭痛も無くなった。なにをすべきかという決意もした。

 ゴンベエに守って貰う必要は……まだまだあるかもしれないが、今は問題ない。戦うことを優先してほしい。

 

「ただ一つだけ、頼みがある。ギデオン大司祭までの道のりを作ってくれないか?」

 

「どうするとは聞かないし、止めるつもりはねえ。だが、これだけは言っておく。止まるんじゃねえぞ」

 

「ああ」

 

 もう迷いを捨てた、覚悟は決めた。後はやるだけだ。

 

「業魔病が治った!?」

 

「ふっ、どうやら自分の舵をしっかりと握ることが出来たようだな」

 

「すまない、アイゼン。穢れは天族にとって毒だ。辛いものを撒き散らしてしまって」

 

 もう覚悟は出来た。憑魔になったとかなってないとか、そんなのはもう関係無い。私は私の選んだ道を行く。

 

「人の身で業魔に味方をするとは、恥を知りなさい!」

 

 私もゴンベエも戦うと分かると今以上に警戒を強めるエレノア。

 確かに、この様なことに力を貸すのは間違いだ。だが、そうじゃないと見えてこない世界もある。そうじゃないと出来ない世界もある。

 

「なら、こう言おう。人が無理矢理天族を従えるとは……恥を知れ!!」

 

「皮肉かそれ……ベルベット、ちょっとデカいのするから退いてろ」

 

 ギデオン大司祭までの道のりはゴンベエが作ってくれる。

 これほどまでに心強いことはなく、私は走り出して逃げようとしているギデオン大司祭を追いかける。

 

「させません!」

 

「たまには悪らしい技を出してみるか」

 

 追いかけようとすると立ち塞がるエレノアだが、ゴンベエが先に動いた。

 

「なんじゃ、そのポーズ?」

 

「ズルい悪がイッヒッヒと笑うゼンリョクポーズだ!さぁ、たまには悪の深淵を見せてやる!!」

 

「っ、離れるわよ!!」

 

 悪らしいと言うよりはまるで熊が吠えている様なポーズを取ると、若干だが赤みがかかった黒い頭ぐらいの大きさの球が出現する。ベルベットはその球を見た途端、危険だと察知して一気に距離を取る。

 赤みがかかった黒い頭ぐらいの大きさの球は、徐々に徐々に渦を描いていく。それと同時に段々と体が引っ張られていき、髪の毛が風に当てられたが如く浮いている。それだけじゃない、礼拝堂にある椅子や蝋燭を立てる蝋台も徐々に徐々に引っ張られていく。

 

「ブラックホール・イクリプス!」

 

「なんて、おぞましい闇!きゃあ!?」

 

「全力の悪に飲み込まれろ」

 

 エレノアを筆頭に一気に吸い込まれていく退魔士達。

 ロクロウ達も吸い込まれない様に必死になって耐えると、吸い込みは納まり渦が爆発を起こした。

 

「お、のれ……」

 

「お前一人でもベルベット達をどうこうすることが出来なかったんだぞ?

お前よりも実力の低い奴等を幾ら束ねようが、お前より弱い時点で足止めにすらならないのを理解しとけ。もう少し強いやつを……ああ、無理か。そいつら、赤聖水を売った金を貰ってるんだからな」

 

「そんな、わけ、ありま…せん……」

 

「お前、強いよ。

アレをしてきたら、ベルベット達だけだと負けていたかもしれない……生きてるけど、どうする?」

 

「放っておきなさい」

 

「そうか」

 

 ギデオン大司祭を守る退魔士達はもう何処にもいない。

 一番強いであろうエレノアは、ゴンベエのブラックホール・イクリプスによって倒されてしまった。彼女より強い退魔士は……恐らくだがこの場所には居ないだろう。導師アルトリウスがいる聖主の御座にいる。

 

「もう守る者はいない……いや、最初から貴方を守ろうとするものはこの場には居ない」

 

 あくまでもエレノアは殺させまいと守ろうとしていたが、それだけであり私達が来なければ実力を行使してでも大司祭を捕らえようとしていた。此処には何処にもいない。

 

「ま、待ってくれ!確かに薬の製造量を増やしたのは悪かった!だが、全ては聖寮の為なんだ!話し合おうじゃないか!な、な!神殿建立の費用に使ったが少しばかり金なら残っている」

 

「っ、言いたいことはそれだけか!!」

 

 此処まで来ても、全くといって反省の色を見せない。それどころか、私達まで買収をしようとする。

 何処まで腐れば気がすむ。何処まで堕ちていけば理解する?私は槍を取り出して喉元に突きつける。

 

「元を正せば、アルトリウスが悪い。

奴はちゃんと知っていた、今の聖寮にどれだけの金があるのかを、それなのに神殿建立等といいだして、私に援助を求めおって!」

 

「……そうか」

 

「あ、ああ、そうだ。

あの若造は救世主面をしているが、裏では何度も賄賂を受け取ってい、ぐヴぉあ!?」

 

「……もう黙れ……違う、黙らせる」

 

 私は槍を投げ捨て、ギデオン大司祭の顔を掴んだ。

 

「お前を裁くのは、怒りと法律の二つだ」

 

 顔に拳を入れる。次にお腹に拳を入れる。最後に金的を蹴りあげる。

 私は三回ギデオン大司祭を殴打して、ゴンベエの所に戻ろうとするとゴンベエはなにも言わなくても、私がなにを求めているのか分かっているようで赤聖水を投げた。私はプルプルと震えているギデオン大司祭の横に赤聖水を置いた。

 

「赤聖水、アレの痛みは治るのか?」

 

「絶対に治らん……アレを蹴られた痛みは自然に身を任せるしかない」

 

 前屈みのロクロウとアイゼンは少しだけ顔を青ざめさせている。蹴りあげたのははじめてだが、くらっていない二人が怯えるなら余程の効果があったようだ。

 

「ふぅうう、ざけるなぁあああ!!」

 

「なに!?」

 

 顔と腹を全力で殴った挙げ句、金的を蹴りあげたのに起き上がったギデオン大司祭。お腹を殴った際に腹筋の固さは全くといって感じられなかった。普段から鍛えている人なら起き上がってもおかしくはないが、ギデオン大司祭は鍛えていない人だ。

 

「こんなところで、終わってたまるかぁあああ!!」

 

「いかん!!」

 

 怒りの叫びと共に強い穢れを発すると、蜥蜴の様な姿の憑魔になるギデオン大司祭。放つ穢れがとてつもなく大きく、その際に発生した強風が吹き荒れる。

 

「アイゼン、ライフィセット、無事か!」

 

「これぐらい、日常茶飯事で問題ねえ」

 

「大丈夫だよ……ギデオン大司祭は?」

 

 穢れに飲み込まれる事なく無事なライフィセット。辺りを見回し、ギデオン大司祭が何処に居るのかを探すが見つからない。代わりにドアが閉まる音が聞こえた。殺されまいと必死に足掻いていたから、全力で逃げ出したのか。

 あの状態のギデオン大司祭を野放しにするわけにはいかない。ベルベット達と共に逃げた大司祭を追いかける。

 

「こいつは……なに!?」

 

 ギデオン大司祭を追い掛けると、大きな広間に出た。

 そこにはまるでお伽噺にだけ出てくるグリフォンの様な憑魔がいた。

 

「あれは、ギデオン大司祭……穢れを食べている?」

 

 ギデオン大司祭がいたのだが、時既に遅かった。

 グリフォン型の憑魔に食べられており、死んでしまったが私の意識はそこには向かずグリフォンの方に向く。グリフォンはギデオン大司祭を食べているが、ギデオン大司祭よりも穢れを食べており、ギデオン大司祭が元に戻った。

 

「業魔が人に戻った!?」

 

「お前、地味にしぶといな」

 

 蜥蜴の様な憑魔になっているギデオン大司祭の沢山の穢れを食べ続けるグリフォン型の憑魔。憑魔になってしまう原因はただ一つ、穢れでその穢れは浄化しなければならないが、ギデオン大司祭を穢れごと食べていたのならば結果的には穢れが消えるので元に戻るのはおかしくはない。

 浄化の力がないこの時代、一度でも憑魔になったらその時点でもう終わりだとされており、殺すしかない。槍を杖代わりにして追ってきたエレノアにとってそれは常識で、この事に驚いていた。

 

「それに……この業魔は?」

 

 グリフォン型の憑魔を見て、驚いている。

 

「どうにかして穢れを消す方法を、実験をしているのではないのか?」

 

 このグリフォンは、穢れを食べていた。

 この時代では穢れをどうにかする術は無い……だが、未来には浄化の力が存在している。と言うことは、これは浄化の力の元となるなにかではないのか?

 

「穢れを消す……貴女はなにを言っているのですか?」

 

「……」

 

 穢れの事を全くといって知らないエレノア。エレノアは聖寮の退魔士で、この事を知っていてもおかしくない筈なのに穢れの事を知っていない……。

 

「アメッカ、後ろよりも前だ!」

 

 エレノアが穢れについて知らない理由を考えていると、グリフォン憑魔は空を飛ぼうとする。このグリフォン憑魔はとてつもなく強い。もし此処で暴れられたりすれば、城が崩壊するかもしれない。急いでどうにかしないといけないと思ったが、直ぐにグリフォンは飛び立ち墜落する。飛ぼうとした際に光る線のようなものが出現し、飛ぶのを拒んだ。

 

「結界が……閉じ込める結界がはられている」

 

「聖寮がこいつを捕まえてるってことか!?」

 

「この結界、前にも……」

 

 憑魔を倒す組織である聖寮が閉じ込めている……エレノアはその事については全くといって知らなかった。辺境な地ならまだしも、此処は王城で結界が……。

 

「いったい……いったい、なにをするつもりなんだ?」

 

 浄化の力を開発しているわけではなさそうで、何故ここに捕らえられているのかが分からない、アルトリウスがなにをするのかもだ。一つの決意をしてもまだまだ謎は深まるばかりで、どうしてこんなことをしていると考えるも分からない。

 

「なにはともあれ、依頼は果たせたの。結果的じゃが」

 

「……そうね、報告しに戻るわよ。ゴンベエ」

 

「あいつ、どうすんだ?」

 

 もうこれ以上は此処には長居をする必要はないと帰ろうとゴンベエに指示するが、ゴンベエはエレノアを親指でさす。

 

「聖隷が居ない以上、もうなにも出来ない。どうだっていいわ」

 

「了解」

 

「大司祭になにを……それに、この業魔はいったいなんですか!?」

 

「知らないし、興味も無いわ」

 

 エレノアの問い掛けを無視するベルベットは、ゴンベエによりワープさせられる。

 順を追ってロクロウもライフィセットもアイゼンもマギルゥも送られ、残るは私とゴンベエだけになる。

 

「大司祭になにが起きたか知りたいのならば、探せばいい」

 

「探す……貴方達は、知っているのですか?業魔病の原因を、この業魔を!」

 

 これもゴンベエが狙ってしたのだろう、本当にゴンベエはなにもかもお見通しのようだ。

 エレノアはなにも知らない、知らされていない。憑魔になる原因を、穢れについて知らない……私はエレノアに知ってほしいと思う。少なくとも、今回の一件だけで導師アルトリウスが裏で色々としていることが分かった。

 私はエレノアに探せとだけいい、詳しいことはなにも言わずにゴンベエと一緒にワープした。

 

「少し遅いからって置いていきやがったな、あいつら……ま、そっちの方がいいか」

 

 ワープした先にベルベット達はいなかった。何度も何度も使っている王都の路地裏で、先に酒場に向かったようだ。

 

「……アレがお前の答えか?」

 

「斬ることや奪うことは出来ない、命を奪うことだけは間違っている。ならば、殴ることが私の答えだ。

被害者自身も法律でも裁くことが出来ない相手を、私が代わりに殴る。殴って、どれだけ辛いのかどれだけ痛いのかどれだけ悪いことなのかを身で味わってもらい反省して貰う。

証拠が無いと言うのならば、今回の様な事をして証拠を見つけ出す。それでもないというのなら、証拠を作り出す。法律と私が裁く。だから、殴る」

 

 悪いことをしたという自覚を持たせないと、変わらないのならば私はよろこんで殴る。

 殴って心から反省し、罪を償ってもらいたい。一歩間違えれば、風の骨と同じ暗殺者の道を通るかもしれないが、今の私にとってこれが答えだ。

 

「元の時代に戻れば、私はバルトロを裁く方法を探す……その時は、手伝ってくれるか?」




アリーシャの称号

 罪殴り代行業

説明

殺すことはよしとしない、だがそれぐらいなことをしないといけないまでの外道は世に蔓延る。
悩みに悩んだ末に辿り着いた一つの答え、それはシンプルな暴力、殴ることである。
人間、一度酷い目に遇えばかなりの反省をするのでその効果は実に絶大であるが一歩間違えれば、真の仲間と同類である。
殺さず生かし、殴って反省させる。罪を罪だと自覚させ改心させ、法的手段を持って裁く。その為に殴る。その為には正義では見えない出来ない方法で証拠を集めたりでっち上げたりもする。裁けぬ悪を裁けるようにする覚悟を決める。

「称号と説明のとこ、おかしくないか?」byゴンベエ


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つまるところそげぶ

「おいこら、置いてくな」

 

「!」

 

「あら、驚いたわね」

 

 結果だけを見れば大司祭はくたばった。

 殺ったことに関しては代わりなく、洒落にならない悪事をしでかしてある程度の証拠が揃っていて、更に言えば暗殺者まで来てくれたと国としては色々と大助かり。

 あることないことでっち上げられ人相書きされて指名手配にされたら、たまったもんじゃないと姿を隠す透明マント(仮)を使って酒場まで戻った。

 

「おぉ、無事だったのか」

 

「無事もなにも、あの状況でどうやって死ねというんだ」

 

「オレ達と比べて少しだけ遅かったから、殺られたと判断しただけだ」

 

 うっわ、酷えな……海賊だから酷くて当然か。

 

「ノルミン……私達が来るまでになにを話していたんだ?」

 

 シルクハットを顔まで被っているノルミンを見て、此処に帰って来て報告し終えたのだと判断するアリーシャ。

 どうやら面倒なことになっている……と考えた方が良いんだろうな。ベルベットは鍵さえ分かればとそのまま行きそうだし。

 

「ベルベットがどうしてもワシについてきてほしいと泣きついてきてのぅ」

 

「言ってないし、泣いてないわよ。あたしはただ、その聖隷がいれば良いだけであんたは必要無いわ」

 

「……1からの説明を頼む」

 

 どういうことなのか、オレでも状況が理解できない。アリーシャは大きなため息を吐いて、オレ達が来る前の出来事を聞いた。

 ギデオン大司祭がくたばったのを血翅蝶は既に知っており、結果的にはくたばったから依頼達成とのことでベルベットが求める情報を教えた。

 現在の導師がいる聖主の御座に入る方法は、高位対魔士だと証明すれば良いらしく、Aランクの聖隷を四人連れていけば良いらしく、オレ達が来る前にライフィセットがマギルゥに一緒に来てくださいと言い、ならば行ってやろうという辺りでオレ達がやって来た。

 

「……数が足りなくはないか?

今、此処にいる天族はアイゼンとライフィセットと……えっと」

 

「あ、自己紹介が遅れました。僕はビエンフーでフ!マギルゥ姐さんの……聖隷でフ」

 

 おい、今ちょっと間があったぞ。若干嫌そうな顔をしたぞ、このノルミン。

 

「ビエンフーの3人で、突破するには4人の天族、聖隷が必要で数が足りないぞ」

 

 開けるのには四人で、今この場にいる天族は3人。船に乗っていたのはアイゼンとこいつらを除けば人間だけで、天族は3人だけだ。

 その事を指摘するとベルベットがオレに視線を向けてくるので、オレは両手で×印を作った。

 

「オレは人間で、天族とはなんもない。

オレとアメッカにはそういうのを頼っても無理っぽいし……潔く協力してくれる天族探せば良いんじゃねえの?」

 

「確かに、それが一番の正攻法だ。だが、聖寮に捕まらず従っていない聖隷で、高位の聖隷となれば限られている」

 

「高位の天族……ゼンライ殿?」

 

 力業でも小手先でもなく、普通に通る方向でアリーシャは考え、この時代でも生きている可能性がある天族の名を出す。

 天族基準で比較的に若い年齢のウーノが、物凄く長生きをしてたとかそんなことを言ってたから恐らくは生きているがアイゼンとマギルゥとビエンフーは渋い顔をする。

 

「ゼンライ、か……確かにAランクを越える聖隷だが」

 

「絶対に協力してくれんのぅ。

業魔と共に導師を殺そうなどとごめんじゃろうし、かといって聖隷の意思を奪う聖寮にも手を貸さん。中立でなく、人の世と完全に関係を断とうとしておる」

 

 良い案だが無理っぽいと無しにするマギルゥだが、ニャバクラに行けば会えそうな気がする。

 

「そのゼンライって、誰なんだ?」

 

「イズチの雷様と呼ばれる程の聖隷でフよ。

少なくとも、僕が生まれた頃にはもう居た聖隷で恐らくでフが世界でも10本の指に入る長生きな聖隷でフ」

 

「おお、そんなに長生きなら老練の強い聖隷でAランクは越えているだろうな」

 

「見た目ジジイで中身は更にジジイで……とにかく、ゼンライのジジイの協力は無しだ」

 

 良い作戦だが、絶対に協力してくれないとゼンライの件は無しにする。というか、元から無理っぽいとは思っていた。

 

「……フェニックス?」

 

「バッド!!それだけは御勘弁を!」

 

 ノルミン天族最強と呼ばれる漢を上げるとビエンフーは全力で嫌がる。

 マギルゥも暑苦しいから嫌と言い、そもそもで何処にいるか分からないのでNGとなった。

 

「となると…………お手上げだな」

 

 残りの知り合いも何処にいるのかわからず見つけ出さないとならないので、手を上げる。

 仮にアリーシャがイズチの場所を教えたとしても、この辺は未来ではローランス帝国で、ハイランドにあるイズチに行くまで時間がかかる。

 

「対魔士から奪うしかないわね」

 

「まぁ、それが……一番だな。やることが決まったとなれば、今日はもう休まないと…ライフィセットはもうギブアップみたいだ」

 

 途中からずっと眠っているライフィセットをみて微笑むオレ達。

 

「無理もない、子供には長い夜だ」

 

 ロクロウは窓をみて、今日は長い1日だったと微笑みベルベットはバスカヴィルの婆さんをみる。

 

「援助、頼めるかしら?」

 

「ええ、お安い御用よ」

 

 オレ達は今日もバスカヴィルの婆さんの世話になることになった。

 

「……4人いればか」

 

 ライフィセットを布団に入れている間に、オレは考える。

 余りにも現代と文明レベルが変わらないが、あくまでも此処は過去。さっき、アリーシャに余計なことを言わせないようにと強制的に会話を変えたが、フェニックスとザビーダは何処かでオレ達と会っている。いや、会うことになっている。

 ザビーダはなんらかの形で嫌でも会う。ザビーダは1000年前の事を色々と思ってて、そん時に出会ったと言っていたからな。

 

「ああ、そうそう。貴方の依頼の方なのだけれど、もう少し待っててね」

 

「オレの依頼……ああ、槍か。そこまで難しいものなのか?」

 

「適当な職人を見繕うのは簡単だけど、それだとどう考えても導師以前に特等対魔士である男には勝てないわ」

 

「男?」

 

 色々と考えていると、オレの方の依頼の進行状況を教えてくれる。

 暗殺とか拉致された奴の救出とかと比べれば何万倍も楽そうな依頼だが、オレ達の方も考慮してくれて考えてくれておりその際にとてつもない障害があるようで話を聞いていたロクロウが入ってくる。

 

「まぁ、確かに何れはアイツと会う。

お前の持つ素材がどんなものかは知らんが、少なくともアメッカの槍術は本物で後は実戦経験を積めば良いだけ。そうなると、問題は職人だ。どんなに良い素材を使っても、職人がどうしようもないんじゃマトモな武器は出来ない。それこそ業物の槍を簡単に作る腕を持っているぐらいの職人でないと、アイツの剣で真っ二つだ」

 

「その言い方だと、そいつは腕も武器も最上級と言ったところか……オレが作れれば良いんだがな……」

 

 ガラス用品とかそういうのは作れる。色んな意味で作るのが疲れたが、真空管を作るためにヒックマンポンプを製造したこともある。だが、あくまでもガラス用品とかの科学に使う物であり武器は基本的に専門外。

 転生者の中でも武器開発出来る奴はオレの知る限りは居ない。なろうみたいな既存の武器を融合させたりした感じのを作れる奴ならばそれなりにいるが、メイドインジャパンと言わしめる程に純粋に素晴らしい性能の包丁とか刃物を作れる職人はいない。そっち系が得意なの、地獄の傀儡師とかぐらい。

 余りにも長引きそうならば、そっちがお手上げなら依頼は無かったことにしてくれと頼むと今度はアリーシャがバスカヴィルの婆さんに色々と聞く……いや、色々とだけだが結果的にみれば一つだけなんだろうか?

 

「……聖寮は此処でしか言えないことをしていて、導師アルトリウスも加担したりしているか?」

 

「ええ、しているわよ」

 

「そうですか……情報料は」

 

「必要ないわ、少なくとも貴女達が動いてくれるだけで此方としてもありがたいのよ」

 

 この酒場は表向きには酒場だが、実際はヤバい奴等の集う酒場でヤバい奴が経営をしている。

 アリーシャはそれを理解した上で、聖寮が一般的にはやってはいけないことを平気でしているかどうかの最後の確認をする。

 

「いえ、それでは私の気がすみません。導師アルトリウスの顔をおもいっきり、殴り飛ばします」

 

「……そう。それが貴女の出した答えなのね」

 

 拳をグッと構えると表情を変えるバスカヴィルの婆さん。

 アリーシャは此処に出る前と今とでは心構えが大きく変わっており、微笑ましく思っている。

 

「裁けぬ悪を裁くのではなく、裁けぬ悪を裁けるようにする。それが私の答えで、それでも満たされない人のために私は槍ではなく拳を振るいます。貴女からすれば、甘い考えかもしれませんが」

 

「いえ、そんな事は無いわ。貴女の考えは立派よ。

裁けぬ悪を裁く人間は何処にいってもいる。けれど、裁けぬ悪を裁けるようにする人なんて滅多にいない。その道はとても険しいけれど、頑張ってね……導師アルトリウスをはじめとする聖寮の中枢を担う人物を殴ってやりなさい。私個人としても、聖寮は気にくわないわ」

 

「はい」

 

 決意を改めて表明し、拳を握るアリーシャ。

 出した答えに深く追求しないが、果たしてそれを続けることが出来るのかどうか考えているのだろうか?少なくとも、過去だからマオクス=アメッカで通じるが、現代だとアリーシャ=ディフダにならなければならない。

 アリーシャが選んだ道は上流階級とは決して交わらない、交わっちゃいけない道であり……王族とかそういうのをやめます的な覚悟を決めないとできないぞ、必殺仕事人は。

 

「さてと……オレも寝ようっとと」

 

「大丈夫か、足取りがおぼつかないが」

 

 伝える事も伝え、次にすべき事も決まった。

 今日はもう寝ようと二階に行こうとすると足元がふらついてしまう。

 

「問題ない、パラパラパパパ~すればいい……ガス欠なんだよ」

 

 フロルの風約25回にブラックホール・イクリプス、その他諸々で約一日で消費した魔法力的に300は越えている。

 確か時のオカリナでのリンクのMPは数値化すれば48だったから、4倍以上の力を使っている。一度眠っておけば、勝手に回復するがベルベットにオカリナを吹いてたから、寝てなかったんだよな。

 

「パラパラパパパ~って、なに?」

 

「分かりやすく言えば、睡眠だ。お前にオカリナを吹いてたからオレだけ寝てないんだよ……」

 

 ドラクエの効果音を口にしていると戻ってきたベルベット。

 今日はもう本当に限界なので、大きなあくびをしながらベッドに向かおうとすると前に倒れて真正面にいたベルベットのふかふかベッド(意味深)に顔を突っ込んでしまうが、今は性欲よりも睡眠欲の方が勝っている。

 

「シバき倒すのは明日でお願い、本当に眠い。おやすみ」

 

 ベルベットのベッドから顔を出し、オレは何事もなかったかのようにベッドを目指す。

 アリーシャは顔を真っ赤にしているが今は知らんと眠りに落ちた。




ゴンベエの術技

ブラックホール・イクリプス

説明

ズルいぞ悪いぞ、悪役のゼンリョク技。
ブラックホールを引き起こし、飲み込んだものを爆発させる超火力で連発は出来ない。
使う際には詠唱をしなくてもいいが、代わりに悪のゼンリョクポーズをとらなければならずなにをするのかがバレる。


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果てなき冒険スピリッツ

「起きた?」

 

 目を覚ますとライフィセットがオレの顔をジッと眺めていた。

 

「起きた……ちょっとベルベットにシバかれてくる」

 

「え?」

 

「ベルベット~目覚めたから取り敢えずグーで頼むわ」

 

「ま、待って!ゴンベエ、殴られるの?」

 

 ベルベットの事だから、簡単に許すとかそう言うのはしてくれない。左手憑魔化させて殴られれば痛いから出来れば右手の拳骨をお願いしたい。

 

「殴られて当然の事をしちゃったんだよ」

 

「……なんでしたの、そんなこと?」

 

「偶然だよ、偶然」

 

 痛い目に遇うのにどうしてそんな事をしたのか気になるライフィセットだが、オレは意図的にしたんじゃない。

 割とマジで偶然にあんな事が起きただけであり、そこになんらかの意図があったかと言えばオレは違うと全力で否定する。

 意識がハッキリしないまま身体をゆっくりと起こして、ライフィセットにベルベットが何処かと案内してもらい、一階に降りるとベルベットはそこにいた。

 

「はい、じゃあ1発。気持ち的に足りないなら4……3発まで追加して良いから……ごっほ!?」

 

 けじめをつける為にオレはベルベットから腹パンを受けた。

 憑魔化した左手で殴ってこなくてよかったものの、腹に一切力を入れていない状態での腹パンなので結構痛い。

 

「……その反応はそれはそれで腹が立つのよ」

 

「楽しみたいけど、そんな状況じゃないんだよ。

ベルベットもオレも、互いに色々と切羽詰まっている状況なんだから恋愛もくそもあるか?」

 

「……アメッカとそういう関係じゃないの?」

 

「これから先、何度も言うことになるだろうが違う」

 

「そういう関係?」

 

「あんたにはまだ早いわ」

 

 ライフィセットに早いと言っているベルベット、まじ姉さん。

 痛みが収まってきたので、オレはゆっくりと立ち上がる。ベルベットが殴ってくれたお陰で意識が一瞬にして覚醒した。

 

「ゴンベエ、大丈夫?」

 

「大丈夫だから、術で治さんくても良い。これは受け止めんといけねえ痛みだ」

 

「……どういう意味?」

 

「世の中には辛い苦しい汚い痛いと分かっていても、やらなきゃいけない時がある……今のは関係無いけど、ベルベットのやろうとしていることは辛くて苦しくて汚くて痛いことだ」

 

「強いんだね、ベルベットは」

 

「強くなきゃいけないのよ。仇を討つためには……出発するわよ」

 

 強くなければ仇を討てないと言う考え自体は間違っていない。だが、ベルベットは導師アルトリウスを殺すことばかり考えていて周りをよく見ようとしていない。ベルベットは何時壊れてもおかしくない精神状態で、今を生きるのに必死と言えば聞こえは良いが、ちょっとしたきっかけで壊れてしまうだろうな。

 

「おぉ、生きてたか」

 

「ロクロウ、第一声がおかしいだろう」

 

 酒場を出ると、ロクロウ達がいた。

 ロクロウはオレを見て微笑むのだが、第一声が余りにもおかしい。そこは目覚めたかとかおはようだろう。その事に関してツッコミを入れるとなんか哀れなものを見るような目でオレを見る。オレは哀れなのが否定しないが、やめてほしい。

 そう思っているとロクロウは人差し指でオレを指す。

 

「後始末、大変だったんだよ」

 

「そうか……振り向くの怖いから、行こ、いったぁ!?」

 

 背後にアリーシャの気配がするのだが、恐ろしいので振り向かない。

 目指すは導師アルトリウスの首だと無視しようとすると耳に噛みつかれた。

 

「アメッカ、それは本当に洒落にならないからやめてくれ!」

 

 一切の慈悲なく耳にがぶりと噛みついてきたアリーシャ。

 振りほどいて、怒るのだがアリーシャは俯いて反省の色を見せない。

 

「……これでよし」

 

「なにがよしだ……不慮の事故だからな、あれは」

 

「分かっている、だからこそだ……さぁ、行くぞ!」

 

 耳に噛みついていったいなにをしようと言うんだ。

 マギルゥがニヤニヤしているが、そう言うのは本当に勘弁してくれ。鬱陶しい。

 

「そう急ぐな、聖主の御座に行く為には結界を突破しないと話にならん。

結界前を陣取れば、結界の中にいる対魔士と外にいる対魔士両方と戦うことになる。

中を通ることが出来て、外と中を行き来する中継兼検問役の対魔士がいるはずだ。検問の様子を偵察してこいと既に仲間にシルフモドキで伝えている」

 

「なら、先ずはゼクソン港ね……」

 

 次にどうするかが決まるとオレを見るベルベット。フロルの風を求めているかもしれないが、オレは腕を交差させて×印を作る。

 

「ゼクソン港にマーキングしてねえよ。路地裏のマーキングも消したから、ワープできない」

 

 無理だと言うと露骨に舌打ちをするベルベット。オレはそこまで便利なドラえもんじゃないから、無理なものは無理だ。

 歩いてゼクソン港に戻ることとなり、ダーナ街道を歩くオレ達。道中憑魔が出てくるが、ローグレスの地下道にいた憑魔と比べて弱く、更にはマギルゥも戦える様になったので数秒の瞬殺で終わる。

 

「赤聖水の一件は無駄な時間にならなかったな」

 

「そこらの平凡な業魔なら瞬殺じゃろう。じゃが、今から挑むのは導師に加えて聖主じゃぞ」

 

「導師はともかく……聖主?」

 

「知らないでフか?聖主は世界を作ったと言われる神様でフよ」

 

 このままの調子でとなるが、それはちょっととマギルゥは止める。

 聖主、名前からしてなんとなく分かる存在だがアリーシャは余りピンと来ていない。

 

「聖主なんて偽物に決まっている。アルトリウスが民衆を操るために神話を利用したのよ。本当に神様なら、業魔病ぐらいどうにかすることができるはずでしょ」

 

 聖主の存在を否定するベルベットだが、それは絶対に無い。神話や伝承は後世で一部を弄くられたり改変されたりしていたりするものの、確実に起きた出来事だ。そうでなければ後世にまで話は伝わらない。宗教なんてもんが生まれないし、神殿なんて建てられない。

 

「カノヌシは存在しないのか?」

 

「いいえ、カノヌシと呼ばれているなにかは存在しているわ」

 

「……それがカノヌシじゃないのか?」

 

 ベルベットが言っていることが若干矛盾しており、アリーシャは首を傾げる。

 

「あの子を食ったやつが、神様なわけないじゃない……」

 

「……お前等にとっての神様の定義が物凄く気になるな」

 

 神様=正義とかいう時代は、当の昔に過ぎている。

 人間臭くて非情で割とワガママな存在、それが神様であり下手な犯罪者よりもたちが悪い。

 

「ほほう神様でないならば、勝機がありそうじゃの」

 

「もちろんよ。第一狙いはアルトリウス、それ以外はどうでも良いわ」

 

「どうでもいいね……本当にそれで良いのか?」

 

「なにが言いたいの?」

 

「ヒントは目の前にあんだろ」

 

 ベルベットの弟を犠牲にして、導師になって、そして聖寮という組織を作ってまでして、一体何をしたいのか。

 普通の人にも天族が見えるようになったのならば、後は信仰するだけで良い。現代ならば、それだけで穢れをどうにかこうにか出来る。なのにそれをしていない、そのシステムが全く出来ていないのかと思ったが教会らしきものは存在している。

 

「導師と戦うにしても、恐らくだがスレイよりも遥かに強い」

 

「スレイ?」

 

「アメッカの国の対魔士だよ。

新米だが才能はある……スレイに関しては置いといて、今はアルトリウスだ。

あのエレノアとかいう女対魔士はボコボコにすることが出来たが、アルトリウスは遥かに強いんだろ?エレノアは使ってこなかったが、アルトリウスは導師だからアレ使ってくるだろう。カノヌシというなにかとのアレは想像するだけでも恐ろしい」

 

 一個人としてはそこまで強くないスレイも神依を使えば、物凄く強くなる。

 素のスペックが物凄く高い人間に加えて、ライラ達よりも遥かに強い天族での神依は恐らくだがオレの想像を遥かに越えてしまうだろうな。

 

「もし、エレノアがアレを使ってきたら私達は負けていたかもしれないな」

 

「あ~ありえるな」

 

「ちょっと待って、そのアレってなに?」

 

 エレノアが使わなくてよかったとホッとしているとアレについて聞いてくる。

 

「……知らねえってことは使ってこないのか」

 

 ベルベット達はアレこと神依についてなにも知らない。

 浄化のシステムが存在していないのと同じで、この時代にまだ神依は誕生していないとなる。これ以上口を滑らせるとロクな事にならない。というか、敵に塩を送る可能性があるので喋らない。

 神依を使ってこないなら、それはそれでいいやとこれ以上はなにも言わず何だかんだで辿り着くゼクソン港。

 

連絡(シルフモドキ)は届いている?」

 

「ああ。検問に偵察をだした」

 

「まだ戻らないのか?」

 

「はい、もう少しすれば戻ってくると思いますが」

 

「なら、小休止だな。小腹もすいたし、なんか食べるか」

 

「うん」

 

 アイゼンの仲間のベテラン海賊に話しかけ、進行状況を確認する。

 思ったよりも手間取っているようでオレ達は休憩を取ることにし、腹がすいているライフィセットと一緒にマギルゥから貰ったリンゴを食べる。そのまんまで丸かじりしようとしたので切ってから食べる。

 

「美味しいね」

 

「美味しいだけじゃないぞ。余った芯と皮を消毒した瓶に水と一緒に突っ込めばパン酵母の完成だ」

 

「パン酵母か、小麦からなにまで全部自分で作ってみたいな」

 

「パンを作るんだったら、シュトーレンの作り方を覚えた方がいいぞ」

 

「あんた、なに教えてるのよ」

 

 モグモグとリンゴを食べていると、その辺をぶらついていたベルベットがやって来た。

 ロクロウもマギルゥもアイゼンもアリーシャも色々とやってたりするのに、暇なんだろうか?

 

「シュトーレンの作り方だよ」

 

「シュトー……なにそれ?」

 

「長期保存が出来るパン。ちゃんと正しく保存さえすれば数ヶ月は持つパンで、長期航海なんかには使える……要するにドライフルーツが入ったパウンドケーキみたいなものだ」

 

「そう」

 

「ライフィセットがオレ達がいなくなった後にアイゼンの船に厄介になった際に覚えておけば役立つことだ」

 

「!?」

 

「……」

 

 オレの爆弾発言にモグモグとリンゴを噛っていたライフィセットは驚き、口に加えていた八等分にしたリンゴの真っ二つに噛んでしまい落とす。

 結構どころかかなり気が動転しているが、別に驚くことでもなんでもない。ベルベットは分かっているようで、なんで今そんな事をいうんだとオレを睨むが、遅かれ早かれそうなるんだし違うなら否定すればいい。

 ベルベットは特になにも言わずにライフィセットの隣に座ったのでオレはリンゴを乗せた皿を差し出すとベルベットは一つ摘まんだ。

 

「……甘い」

 

 味がしたのかボソリと呟くベルベット。ライフィセットはそれを見て喜ぶが、直ぐに笑みは消える。

 

「海、好きなのね」

 

 そんなライフィセットに話題を変えるかのように羅針盤を見るベルベット。

 そう言えば、船に置いてきてる筈の羅針盤が何時の間にか隣に置いてあるな。

 

「海は……好き、なのかな?」

 

「どういうこと?」

 

「波や鮫、変な魚は怖い……けど、凄く大きくてその先になにがあるのかなって考えるとドキドキする」

 

「それは好奇心だ……なんでどうしてという疑問から生まれる知りたい知ってみたいって気持ち。海が好きなんだな」

 

「そうなんだ……僕は海が好き……うん、海が好きなんだ」

 

 と言うよりは海の向こう側を見てみたいという気持ちが強いんだろうな。

 海が好きだという自覚をしたライフィセットは嬉しそうで、羅針盤を見つめる。

 

「……あたしの弟も海が好きだった」

 

「ベルベットの弟も?」

 

「岬でよく海を見ていた。

潮風は体が冷えるって、なんども叱ったのに全然言うことを聞かなくて……この子もあんたと同じように思ってたんだね」

 

 急に自分語りをはじめたかと思うと、弟について語りだしたベルベット。

 怒ってたり無関心だったり呆れたりするのが多いベルベットだが、今は見せたことの無い悲しい顔をしている。どちらかといえばこれが素なんだろうなと話を聞く。

 

「羅針盤……買ってあげたかったな。旅だってさせてあげたかった」

 

「病弱、だったのか?」

 

「ええ……なのに、自分の事は後回しにして私に櫛を買ってくれる子だったのよ」

 

 ……う~ん、さっぱりだな。

 ベルベットの弟について聞いても、アルトリウスがなにをしたいのかが分からないな。

 

「お~い、偵察隊が戻ってきたぞ!」

 

 色々と考えてもなにも浮かばなかったが、良い知らせは届いた。

 最後のリンゴの一切れをオレは口にし、椅子がわりにしていた積み荷の箱から立ち上がる。

 

「ライフィセット、あんたは残っても良いのよ」

 

「……はい、アウト」

 

 偵察隊が戻ってきたので、ベンウィック達の所に行こうとするのだがベルベットは色々とアウトな発言をする。

 

「なにするのよ」

 

「デコピンだ馬鹿野郎が……それはやっちゃいけないことだ。あいつはあいつ、弟は弟だぞ」

 

 弟について話をしていたせいか、若干の気の緩みが生まれてしまっている。話をするきっかけがライフィセットで、ライフィセットと自身の弟がなにかと被っている為に、ライフィセットに対して色々と情が生まれてしまっている。

 

「っ!……」

 

 オレが言ったことを即座に理解する。弟とライフィセットを重ねている事を言われる前から自覚していたようで、改めて指摘された為にどうすればいいのかと悩み頭を抱えてしまう。

 

「憑魔だかなんだか知らねえけど、お前は善人だな」

 

「いきなりなによ……」

 

 アルトリウスに対しての憎悪は紛れもなく本物だけど、憎悪の炎が油断すると変わる。

 常に最大限の憎悪を抱き続けるなんて、普通は出来ないことだから当然と言えば当然としかいえない。

 

「ベルベット、僕は行くよ……」

 

「そう……怪我をしても知らないわよ」

 

「要約すると怪我をしないでね、心配なんだからねだ、ぐっふぉお!?」

 

「……お前、本当に黙れ」

 

 ライフィセットは自分の気持ちを出せるようになってきたけど、ベルベットは自分の気持ちを必死に押し殺そうとしている。後、ベルベットに殺されそう。ツンを翻訳するのは、男の宿命なんだからやっておかねえといかんだろう。

 洒落にならんぐらいガチ目のトーン+憑魔の左腕でオレを強く睨むがライフィセットが引いてしまったので、元に戻してベンウィック達のところに戻る。

 オレ達が一番最後のようで、既に偵察隊からの報告をある程度は聞いているのかオレ達を無視して、アイゼンとベンウィックは会話をしている。

 

「そいつはペンデュラムを使ったんだな?」

 

「うん!しかも検問の対魔士を全員ぶっ飛ばした!あいつなら船長とやりあえる!」

 

「……どういう状況?」

 

「ペンデュラムを使う聖隷が、検問の対魔士達をぶっ飛ばしたんだとよ」

 

 遅れてきたオレ達は会話に入る余裕が無いので、聞いてるだけのロクロウにベルベットは聞く。

 それを隣で聞いているアリーシャは手で口を押さえてペンデュラムと小さく呟いており、色々と考えている。

 

「ペンデュラムは船長が行方不明になった時に落ちていた唯一の手懸かりなんだ」

 

「そいつがさらったってこと?」

 

「分かんないけど、無関係とは思えないよ」

 

「……アイフリードは聖寮に捕まっている。捕らえているなら、どうして聖寮の検問を襲撃する……」

 

 居なくなった船長に現れたペンデュラム使い、点と点が繋がりそうで繋がらない。そういう時は間になにかがあって、第三の点が二つを繋ぐ。

 その事を教えようとするのだが、アイゼンが先走りオレ達を完全に無視していってしまった。恐らくはペンデュラム使いの元だ。

 

「考えているところ悪いが、鍵が一本逃亡したぞ~」

 

「追いかけるわよ!状況が混乱しているなら更にかき回して、一気に突破するわ!」

 

「ひょえ~!カゲキ~!」

 

「言うとる場合か、今はそれが一番だろう……凄く嫌な予感がするが」

 

「奇遇だな、ゴンベエ。私もなんだか胸騒ぎがする……もしかすると」

 

「考えるよりも見るだ、行くぞ」

 

 先走ったアイゼンを追いかけるオレ達。

 聖隷(天族)でペンデュラムを使って戦っている。そんな奴は探せばいるかもしれないが、そこに聖寮に歯向かう奴となれば心当りは一人しかいない。

 少なくとも遠い未来で会っているオレとアリーシャの頭にはこの時代で何時か会うんじゃないかと思っている、ある人物の顔が過る。

 

「やるじゃないの、何者(なにもん)だい?」

 

「ザビっ!」

 

「うるさいぞ、アメッカ……余計なことは言うな

 

 海賊の船長ことアイフリードが行方不明な理由は分からないし、ペンデュラム使いとの接点はわからない。二人の間になんらかの接点があるようで、それが分からないと謎は解けない。

 だがそれとは別にペンデュラム使いが誰かとかいう謎はとけた。アイゼンと絶賛戦っているペンデュラム使いの聖隷、それは遥か未来で出会い、この時空を越えた旅をする切っ掛けとなった男、ザビーダだった。




スキット それだけじゃねえだろう

ビエンフー「で、どうだったんでフか?」

ゴンベエ「え、なにが?」

ビエンフー「惚けても無駄でフよ。もう証拠は出揃ってるでフ。ベルベットのあのベットにダイブインしたのを僕たちは知ってるのでフよ」

ゴンベエ「何故にわざわざ醜態を晒すんだ、発信源は……いや、聞くのはやめておく」

ビエンフー「誰が言ったかなんて、どうだって良いでフよ。問題はその感想でフ!!どうだったんでフかベルベットのベットは!!ハァハァ」

ゴンベエ「意識失いかけてたから一切覚えてねえよ」

ビエンフー「バッド!!お前、それでも男でフか!!」

ゴンベエ「男に決まってるだろうが、この諏訪部ボイスは男しか出せん!」

ビエンフー「なに言ってるんでフか……あ、もしかしてゴンベエはおっぱいではなく、お尻……いえ、稀少種の太もも派?」

ゴンベエ「下ネタから離れないか?」

ビエンフー「隠さなくても良いんでフよ。アメッカはとっても優しく真面目で、自分に出来る事はないかと必死に探していて健気で……太ももの絶対領域が凄まじいでフ」

ゴンベエ「お前、かなりゲスい……アメッカにそういう感じの目で向けた事はない」

ビエンフー「正直に」

ゴンベエ「そりゃ女に餓えてるかどうかと聞かれれば餓えている。アメッカもベルベットも絶世の美女だ。だが、そういう風に見ないようにしている」

アメッカ ベルベット「!?」

ビエンフー「つまり、むっつりスケベとなんでフね」

ゴンベエ「ばっか、オレはその辺は割と正直だ。いけるならニャバクラ行きたいと思っている。
ベルベットもアメッカも色んな意味で目に毒だし、そういう風に見ている奴もいる……だがな、ビエンフー、見るのはそこだけじゃないぞ」

ビエンフー「?」

ゴンベエ「ベルベットはアルトリウスをどつき殺すと考えているけど、殺意を常時抱くなんて不可能だ。時折見せる素を見て、あいつ、アルトリウス関係が無いとめっちゃ良い奴なんだな分かる。スタイルも性格も良いし、人の料理にケチつけるぐらいに料理出来る、中々にいねえぞ」

ビエンフー「外だけでなく中身もでフか。因みにアメッカは?」

ゴンベエ「……女子力という概念を捨ててると思う時が多々ある。
だけど、その代わり純粋だし真面目だし、女子力以外は非の打ち所が全くと言ってない……まぁ、本人は最近女子力と戦闘力を求めているが」

ビエンフー「その両立は難しいでフよ」

ゴンベエ「だろうな……とにかくオレは二人をそういう感じで見ないようにしている」

ビエンフー「逆の場合は?」

ゴンベエ「ん?」

ビエンフー「逆だったら、どうするんでフか?ちょっとおめかしした時に変なことを言うのは、男としてダメでフよ」

ゴンベエ「馬鹿だな、お前は。
そもそもでアメッカもベルベットも何処をどうみても絶世の美女だぞ、基本的になにを着たとしても似合うんだ。褒める方としては色々とめんどい。つーか、話脱線してるだろう」

ビエンフー「まぁ、ゴンベエの言うとおりでフね……なんで見ないでフか?ベルベットのベットに顔を入れたのならば、脱出する時にパイタッチを……マギルゥ姐さんでは無理なパイクローを」

マギルゥ「ワシだとなにが無理なんじゃ?」

ビエンフー「そりゃあ勿論、パイキャッチぃいいいい!?ま、マギルゥ姐さん何時の間に!?」

マギルゥ「両立のところ辺りじゃのう。全く、お主はなにくだらん猥談をしておるんじゃ。確かにアイゼンとロクロウはワシという絶世の美女を放置し、坊にはまだ早い。ベンウィック達よりもゴンベエの方が話しやすいが」

ゴンベエ「待て、マギルゥ!!」

マギルゥ「ああ、安心せい。ワシはビエンフーのお仕置き担当じゃ」

ゴンベエ「お前は一切話題に出してない!!」

マギルゥ「これぇい!!なに堂々と言うんじゃ!!あえて触れんかったのを」

ゴンベエ「……色々とキツいです」

マギルゥ「ぐふぅ!?」

ビエンフー「まぁ、実際キツいでフからね」

ゴンベエ「脇とか臭そうな感じがする人で一番最初に名前が上がりそうな雰囲気を醸し出してるぞ、お前は……とにかく、マギルゥが出てきたらこの話は終了だ」

ビエンフー「そうでフね……鮫の餌に、それともスプーンで海水を掬い上げて樽を一杯にするおしおきが待ってるのか」

ゴンベエ「後半は、お仕置きなのか?」

ベルベット「全く、とんだエロ聖隷ね」

アリーシャ「そうだな」

ゴンベエ「んだよ、お前等も居たのかよ。で、拳骨何発?」

ベルベット「殴ったところで、大した効果は無いでしょ。それよりも、あのエロ聖隷がなにかする前に服を買いに行くからその時に付き合いなさい。ジュースぐらいは奢ってあげるわ」

ゴンベエ「はいはい」

アリーシャ「……!?」


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違和感は時として仕事をしない。

 本当につい最近まで探しに探していた尋ね人ならぬ、尋ね天族ザビーダ。

 なにやら1000年前にどえらい目にあったようで、その事について色々と思っており更には1000年前にオレ達の先祖(オレ達)に出会い、深く関わっていたらしい。

 今現在1000年前にいるから、何時かは会うのだろうなとは思ってはいたが意外な形で会うとは……アイフリード海賊団副長と知り合いとか何気にスゴいぞ。

 

「落ち着きなさい、アイゼン!」

 

 オレ達を無視して喧嘩をはじめるザビーダとアイゼンだが、ベルベットの一声で止まる。

 すごくどうでも良いことだけども、ザビーダ服着てるな。あいつ、未来じゃ上半身裸だったのに、そういうタイプの男だと思ったのに違うのか。

 

「そうです、じゃなかった。そうだ。アイゼン、そちら……じゃなくてそっちにいるのは」

 

「聖寮に捕まっていない聖寮を襲うぐらい度胸ある聖隷だろう……お前はちょっと黙ってろ」

 

 演技が下手なアリーシャ。

 言いたいことはわかるのだが、物凄く噛みまくっている。今の今まで知り合いとそっくりとかそんなのがおらず、ライフィセットとアイゼンとビエンフーだけしか天族がいなかったが、目の前にいるザビーダは遥か未来で会っている存在で相手にしづらいのでオレが代わる。

 

「協力しなさい。その検問の結界を越えるには、聖隷が4人必要なのよ」

 

「ベルベット、もうちょい優しく言えって無理か」

 

 単刀直入でなにをするのかいうが、もうちょいどうにかならないのかと思うが無駄か。

 色々と面倒な手順を省き、一気に説明したので分かってくれるのかと思ったがザビーダは首を横に振った。

 

「つまらねえ理屈言うなって」

 

「オレは、オレのやり方でけじめをつける」

 

「「邪魔をするな!!」」

 

 まぁ、ザビーダはまだ分かる。

 現代では知り合いだが、過去では初対面だから好き勝手できて色々と言う権利はある。だが、アイゼン、お前は当初の目的を忘れてるよな。ザビーダがアイフリードの行方の鍵を握っている可能性があるとはいえ、当初の目的を忘れている。

 

「そう」

 

 あ、ダメだ。

 

「じゃあ、あたしはあたしのやり方でやらせてもらうわ……二人とも動けなくしてから結界を開く!!」

 

 アイゼンとザビーダの態度にキレたベルベットは左腕を憑魔化させ、戦闘体勢に入る。

 

「なんでこうなるんだ!?」

 

「とにかくベルベット側に立つんじゃ……そうせんと後が怖い」

 

「う、うん」

 

 怒りを見てしまい、一種の恐怖を植え付けられたロクロウ達。

 中立で見守るという立場を貫くことは出来ず、武器を取り出してアイゼンとザビーダと敵対する。

 

「あんたもやりなさいよ」

 

「生け捕りは苦手なんだけどな。アメッカ、退魔士が来ないか警戒しとけ」

 

「あ、ああ……その」

 

「殺るわけねえだろう……殺ったら洒落にならんことになる」

 

 現代でも生きているやつを無闇矢鱈と殺せば、どうなるか分からねえ。

 歴史の修正力とかそういうのがあったとしても、ザビーダは色々と深く関わりこの時代に来る切っ掛けとなった人物で、なにが起きるか分からない。弓矢とか爆弾だと洒落になら無いので程よくシバき倒すのにはうってつけの武器だと木刀を取り出す。

 

「お、遂に使うのか?」

 

「……いや、こっちの方が良いからこっちにする」

 

 ロクロウが期待した顔をするが、木刀よりも効果あって痛めつけるのにちょうど良い鞭があった。

 ある程度シバき倒しておかないとオレまでとばっちりをくらいそうで恐ろしいから真面目にやらないと。

 

「おいおい、俺はそっちの趣味はねえぜ。仮にあったとしても、野郎よりもあの子の方に頼みたい」

 

「安心しろ、オレも無い。お前が大人しく言うことを聞いてくれるなら別だがなって、割合おかしくね?」

 

 ザビーダとバトルする良い感じの展開になったのは良いけど、オレ以外がアイゼンに挑んでいた。

 誰でも良いから一人でもと思ったが、無理っぽいのでそっちの方に混ざろうかと動こうとするとペンデュラムが飛んできた。

 

「おいおいおい、色男を残すなんてやめてくれよ」

 

「鏡見て言えよ、バイパー」

 

 アイゼンの元には行かせまいとは言わないが、無視されることは気にくわないザビーダ。

 こりゃ嫌でもやらないといけないなと変化弾をブラフとして撃つがザビーダは変な反応をせずに的確に避ける。チャラい感じの風来坊だが、戦いに関しては真面目にやっている。

 

「その鞭は飾りかよ。破門者(キャンドル)!!」

 

「お前も大概だろう!」

 

 左右のペンデュラムを交差させ、衝撃波を飛ばす。そこはペンデュラムでぶっ刺すとか紐で縛るとかいう攻撃をしやがれよと思いながらも、盾を取り出して衝撃波を防ぐ。

 

「そっちの方、手伝った方がいいか?」

 

「割とどうにでもなる……そっちの方は?」

 

「殺さずに生かして斬るのが難しい!!」

 

 少し不利なオレと背を合わせるロクロウ。

 さっきのさっきまではどうしてこうなったと呆れていた癖に、戦いになった途端に一気に変わった。こいつ、マジで斬り殺さねえか心配だ。

 

「余所見してる暇なんてあるのか?磁界、乱そう。ジルクラッカー!!」

 

 ロクロウと話をしている隙に、天響術を詠唱し、発動するザビーダ。

 オレの周りに通常の何倍もの重力場を発生させるが

 

「そいつは悪手だぞ」

 

「がっ!」

 

 そういうのはオレには効かない。

 重力場から簡単に飛び出てザビーダに拳を叩き込む。

 

「天響術……じゃなくて、聖隷術の詠唱はやめとけよ。ヒットアンドアウェイで隙をついてやったとしても、大した効果はない」

 

「だろうな。そっちは後衛と前衛、ちゃんと分かれてて羨ましいぜ」

 

 拳を叩き込んでも立ち上がるザビーダはアイゼンと戦っているベルベット達を見る。

 一人ぐらいはこっちに来てくれよとオレも期待して見ると、アイゼン相手に4人は多いと感じたのかベルベットが来た。

 

「あんた、手こずってるの?」

 

「生け捕りなんてやったことないからな、そういうの上手いのは閻魔の三弟子のマスター次狼だ」

 

 転生者と聞かれれば転生者だけど、若干異なる転生者の名前を出しながらオレは避ける。

 

「多少傷つけても、ライフィセットに治させるわ。紅火刃!」

 

「おっと、炎はイケねえな。次の相手はお前か?」

 

「いいえ、私達よ」

 

 風の天族であるザビーダは炎に弱く、炎を纏った斬撃を寸でのところで避けた。

 油断も隙もできず、大技を使ったり剣を抜いたりすればザビーダを殺すことになる。手加減するの難しいな。

 

「ところで、ベルベットはライフィセットやマギルゥみたいに術できるか?」

 

「出来るわけないでしょう。業魔だけど、元々は人間よ?」

 

「憑魔で、似たようなこと出来る奴いるんだけどな……まぁ、いい。隙作るから大技頼む」

 

 オレは鞭を強く握り腕を引く。

 

「そういう武器での勝負、良いねえ。拳での喧嘩も好きだが、こういうのも好きだ!」

 

 鞭での捕獲でなく攻撃をすることに気付いたザビーダも動く。強風で鞭の軌道を反らさず、ペンデュラムを鞭の様に使うべく腕を引いた。

 

「オレ達の喧嘩の相手はお前じゃねえよ」

 

 あくまでも狙うはアルトリウスだ。なにを企んでいるのかは知らねえが、ロクでもないことなのは確かだ。

 鞭に炎を纏わせて、蛇のごとくうねらせて飛んできたペンデュラムを弾く。

 

「ベルベット、上下右右下前左右下右上下左左右下左下右下左上上左右下下上上右左下上だ」

 

「は?」

 

サルト・ヴォランテ(光速)ヴェローチェ・コメ・ルーチェ(天翔)

 

 

「ッグ、ハッハー!!おもしれえじゃねえか!!」

 

 鞭は余りの素早さにまるでタコの足の様に分裂したかの様にうねり、ザビーダを襲う。だが、ザビーダは倒れない。一応、炎を纏ってシバいているのだが避けたりするのが無理だと判断したザビーダが風で上手く反らして威力を落としてやがる。

 

「良いね、お前の鞭!いいもん見せてくれたお礼に、こっちもビートを上げるぜ!!」

 

「いいえ、終わりよ」

 

「なに!?」

 

「ヘヴンズクロウ!!」

 

 鞭の攻撃に馴れてきたザビーダが本腰を入れようとした瞬間、ベルベットは突如ザビーダの前に現れる。避けることが出来ず、威力を弱めて受けるのがやっとだったザビーダは突然の出来事に驚き一瞬の隙がうまれる。その隙を逃すほど、ベルベットは甘くはない。

 憑魔化させた腕を掬い上げるように動かしてアッパーをくらわせて、ザビーダを空中に浮かせる。

 

「ついでよ」

 

 ザビーダに言うことを聞かせるにはちょうど良い大きな一撃を与えることは成功したのに、物足りないベルベット。空中に浮いているザビーダを逃すまいとオレから鞭を奪った。

 

「ゴンベエ、あんた良いことを教えてくれたわ。電気鞭よ」

 

「いらんことを言ってしまったな」

 

 ヘルダルフは水とか炎とか色々と出しており、術も使った。

 ベルベットも出来るかなと思って聞いただけだったのだが、いらんことを言ってしまったようだ。炎とかを出す要領で鞭に電気を纏わせてベルベットは全力で振り回し、ザビーダの金的に一発で当てた。なんかもう、すごくあってる。ベルベットに鞭ってあってる。

 

「Oh……」

 

 流石にそこは鍛えようがないので苦しみ倒れてもがくザビーダ。ゴロゴロと左右に転がりながら痛みに苦しんでいると、ロクロウを相手にしているアイゼンが踏んでしまい、アイゼンはバランスを崩す。

 

「今じゃあ!!」

 

 バランスを崩したアイゼンの隙をつき、式紙を取り出すマギルゥ。

 

「伸びろ、伸びろぉ!!」

 

「って、なんだそりゃあ!?」

 

 式紙を物凄く縦長に伸ばしていくマギルゥ。オレやベルベット達の身長を足したぐらいに伸ばしていく。

 霊的なものを呼んだりとか、お札で渇!するんじゃなくてまさかの物理かとオレは見守る。

 

「光翼天翔くん!!」

 

「おっそろし~」

 

 魔女っぽい見た目に反しての圧倒的なまでの質量による物理技。式紙を伸ばすまでに時間がかかる大技だが、威力は確かのようでアイゼンとアイゼンの下に埋もれているザビーダは立ち上がろうとしない。

 

「ナイスだ、ベルベット」

 

「全く、あんな無茶振りをして……結果的にどうにかなったけど、アルトリウスの時は止めてなさいよ」

 

 オレの鞭が当たらない正しい避け方を教え、それをしたことによりベルベットは鞭に当たらずザビーダの前まで出ることが出来た。だが、なんの仕込みも練習も無しでぶっつけ本番でやったことについて怒っている。

 

「安心しろよ、裁くのはお前とアメッカだ。

お前とアルトリウスが因縁あるが、基本的にはオレにはなんにもない。お前が殺らんとダメだろう?」

 

「っ……あんた、本当調子が狂うわ……さっさと、起きなさい!!」

 

 真面目に返答するとは思ってなかったのか苛立つベルベット。ほぼ八つ当たりで鞭を振って意識が朦朧としているアイゼンとザビーダを無理矢理叩き起こす。もう、手足の如く使いこなしてるな。猛獣使いがよくやる丸めてある鞭を引っ張ってキッって睨むやつを簡単にやってるよ。

 

「はは……お~いてえ」

 

「てめえ、変なところで倒れてんじゃねえぞ」

 

「うるせえ、お前も踏んだだろう。お陰でケンカに負けちまったじゃねえか」

 

「お前だけはな。オレの方はまだまだどうにでもなった」

 

「んだと?」

 

「あんたら!」

 

「ひっ!」

 

「ライフィセット、離れていよう。今のベルベットは恐ろしい」

 

 オレ達をそっちのけで喧嘩を再開しようとするザビーダとアイゼン。ベルベットは鞭を聖寮が作ったであろう柵に叩きつけて破壊し、問答無用で黙らせるのだがライフィセットが怯えてしまい、戦闘に巻き込まれない様に避難していたアリーシャが出て来て落ち着かせる。

 

「ああ、負けだ負けだ。

このケンカはあんたの勝ちだよ……で、俺にどうしろって言うんだ?この結界の先になにがあるかしらないなんて言わせねえぞ」

 

 負けを認め、なにもない空中をザビーダはポンポン叩くと叩いた場所を中心に白く光り波紋が広がる。また嫌らしい感じの見えない結界なのか。

 

「導師を殺す」

 

「ひゅー、そいつはまた随分と恐ろしい」

 

「こいつは本気だ……」

 

 ベルベットの言っていることを冗談だと笑うザビーダだが、アイゼンはマジだと言うとベルベットの顔をみる。眉一つ動かさないベルベットの顔は本気であり、ザビーダは冗談でないことを理解する。

 それと同時にマギルゥの中にいたビエンフーが出て来て、結界を解除するんでフよと教えてくれた。

 

「では、聖隷のお歴々、結界の前に!」

 

 今、こんなことを言うのはあれかもしれないけれども天族四人で結界を突破できるってもしかして四人と契約していたら結界を通ることが出来るとか、そんな感じのオチじゃねえだろうな?

 

「あ」

 

 嫌な予感は珍しく外れてくれた。結界はパリンと硝子が割れるかの様に粉々に砕けちっていくのだが、ライフィセットが何故か慌てている。

 

「後は任せたぜ。その方が退魔士どもの慌て顔を見られそうだ」

 

「良いのか?この中には導師が、意思ある聖隷にとってはぶん殴りたくて仕方ねえ奴がいるんだぞ?」

 

 結界は壊れた。

 先走って行くのかと思えば、ザビーダはこの場から去ろうとするので一応聞いてみる。少なくとも、現代のザビーダは1000年前の事を色々と怒ってる。殆どの天族の意思を奪われたりしているから当然といえば当然なのだが。

 

「確かにぶん殴りたいが、俺以上の奴がいるだろう」

 

「待て、まだ肝心な事を聞いていねえ」

 

「それ以上はやめておこうぜ、アイゼン。そこから先は命のやり取りになっちまう」

 

 さっきまで軽かったザビーダはアイゼンの質問で雰囲気を変える。オレ達の想像を遥かに上回るなにかを知っているようで、アイゼンも察して別の質問をする。

 

「何者だ、お前は?」

 

「風のザビーダ、ただのケンカ屋さ」

 

「風のザビーダね……」

 

 現代では憑魔狩りのザビーダと呼ばれているが、今はまだ違うのか。ザビーダは普通に歩いて去っていった。

 

「結界は開いたわ。追うなら止めないわよ」

 

「いや、神殿に向かう。アイフリードの行方に近いのはメルキオルの方だ」

 

「バカね、割り切れるなら最初からそうすればいいじゃない」

 

「そんなに器用じゃない、だからここにいる」

 

「つーか、ベルベットも人の事を言えないだ、ろぉおう!?」

 

「なんか言った?」

 

「鞭を、返してください」

 

 ポロっと溢した一言でベルベットを怒らせてしまい、鞭が振るわれる。

 ベルベット、ボンキュボンの細身体型だが、業魔なので筋力とかのスペック上がってるせいか、威力が割と洒落にならないので結構痛い。そして鞭を引っ張ってる姿に違和感を感じない。

 

「これ」

 

「ダメです」

 

「ッチ」

 

 フックショットと違って、鞭は一つしかない。というより、鞭なら探せば簡単に購入できそう。SMショップとかで売ってそう。鞭を回収しておかないと今後ロクなことにならないと取り返し、オレ達は奥へと進んでいく。




スキット 転生者(男)が目指す先はキリトくんでなく野原ひろしか荒岩一味

アリーシャ「……よし、ゴンベエにビンタを一発叩き込もう」

ゴンベエ「待て待て待て、なにがよしだ」

アリーシャ「?」

ゴンベエ「オレ達は非合法な事をしているが今更だろう、地味に痛いんだから勘弁してくれよ」

アリーシャ「違う、そうじゃない」

ゴンベエ「?」

アリーシャ「ゴンベエは、その……ベルベットの事が、女性として好きなのか?」

ゴンベエ「……どうしたんだ、唐突に?」

アリーシャ「マギルゥがベルベットとなんだか良い感じとかイチャイチャしているとか……この間もサラッとデートの約束を。いや、構わないんだ。ゴンベエの言うとおり、ベルベットはとても素晴らしい女性だ。復讐鬼として常に怒り続けているが、そうでなく素を出せば家庭的で優しい……私とは天と地だ。私なんて未だにコロッケ一つ作ることが出来ない無能で、ベルベットはキッシュをあっという間に作って、ライフィセット達から大好評なのも知っている。
だが、此処に来てからと言うもののベルベットの事を構いすぎじゃないか?確かに弟を殺されて、怒り憎しむのは分かるが、殺すことを平気で手伝うのもいけない。それに、ベルベットの食事もだ。
ベルベット自身が作っても味がしないとはいえ、毎食毎食ベルベット用にと作るのも甘やかしすぎだ。勿論、それはベルベットの為を思ってやっているのもわかる。だが、甘やかしすぎだ」

ゴンベエ「早口でなにを言っているのか」

アリーシャ「甘やかさないといけないぐらいに苦しい思いをしているのは理解している。ベルベットが女性として素晴らしいのも分かっていて、ゴンベエが好きになるのも無理はない。だが忘れてはいけない、私達は未来から来たのを。何時かは未来に帰れなければならない。そう、そうだ。私達は元々は知りたいことを知るためにこの時代までやって来た。知りたいことを知り終えれば、私達は帰らなければならない。そうなるとベルベットとはお別れになってしまう。
ライフィセットとビエンフーとアイゼンは天族、1000年以上は生きることが可能で探せば見つかる。だが、マギルゥは人間で、ロクロウとベルベットは憑魔で1000年生きれるかどうか怪しい。殺されたり浄化されて人間に戻って寿命を迎えることもある。だから、一線を何処かで引いておかねばならない。なのに、ベルベットをなにかと甘やかしすぎている。これだと最後が辛くなる。だから、耳を噛んで痕を残し、現代に戻らなければならないと意識をさせたのだぞ」

ゴンベエ「あれってそういう意味だったのか」

アリーシャ「分かっているのか?」

ゴンベエ「まぁ、分かっている……何時か帰らないといけないのは。ベルベット達と仲良くしても、最後の一線は引いているつもりだ」

アリーシャ「いや、私からみれば全然一線を引いていない。ゴンベエは甘すぎる」

ゴンベエ「とはいっても、ベルベットは甘やかさないと」

アリーシャ「どうしてそうなる!?」

ゴンベエ「いいだろう、別に。つーか、恋仲とかそういうのにはな」

アリーシャ「言い切れるのか?」

ゴンベエ「ベルベットは嫌がるだろう。オレ自身も色々とあるし」

アリーシャ「色々、なにがある?」

ゴンベエ「そこは、色々だよ……」

アリーシャ「ゴンベエは……ヘタレ、というものなのか」

ゴンベエ「モテるだけでもありがたく思えと教えられているんだって、そういうんじゃねえよ」

アリーシャ「違うのか?」

ゴンベエ「そういう意味での色々じゃねえ。分かってんのか?」

アリーシャ「分からないから聞いている……なにがダメなんだ?」

ゴンベエ「……ベルベットもオレも頼れる人いない、一人身だぞ。オレはもう家族に会えないし、ベルベットの方はアルトリウスに殺られている。互いに一人身だ……なにかあった時の為に入念にしておかないといけない」

アリーシャ「入念に、か……」

ゴンベエ「住んでるところが川の水車小屋で、街じゃない。自転車とかあるからと思うが、何時かは限界が来る。水車はレディレイクで回せるんだから、そっちに移る。都心だと学校もある収入も今みたいに不安定なのだとダメだから、安定したのに変えねえとダメだろう。なにかあった時の為に二年ぐらい働かなくても良いと言う貯金を持っておけって教わった」

アリーシャ「そこまでしないと、ダメなのか?」

ゴンベエ「重いかもしれねえけどよ、経済的苦痛って地味にヤバいんだぞ?良い学校を卒業したと思ったら、その学校の学費が借金になって、借金背負った状態で就職とかあるし、少なくともハイランドは福利とか福祉とか充実してねえだろ」

アリーシャ「……私には縁遠い世界、か」

ゴンベエ「腹立つから落ち込むな。それに落ち込んでる暇はないぞ。
今回の事が終わっても、オレはスレイの代わりにヘルダルフをシバき倒すぐらいのことしかしない。明確に見える悪を倒した後は、裁くに裁けない悪をどうにかしないといけねえ。そいつらを裁いても、常に変化する世の中をどうにかしねえと……小さな村の子供が農業を手伝うんじゃなくて、学校に行って勉強をする制度を作ったりとかな」

アリーシャ「まだ落ち込んでいる暇は何処にもなかったないな……取り敢えず、一発を入れるぞ」

ゴンベエ「諦めろよ!?」

アリーシャ「私が諦めるのを。諦めるんだ。ゴンベエ、収入を気にするならば私に全てを任せれば良い。私は使わないお金は山ほどある……仮に何処か辺境の地に飛ばされても、私達二人ならどうにかなる……うぉおおおお!!」

ゴンベエ「少しは手加減しろよぉおおおおお!!」


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負けイベントに無理に勝つとバグる

「お~……裏金や血税で建てられた神殿(笑)」

 

「やめないか、不謹慎だ……そう言うのは聖寮の上層部に取っておくものだ」

 

 柵もとい結界を通り抜けると、そこは如何にもな中世のEU方面で見そうな神殿だった。

 大司祭(故)が金を集めていたのは、私腹を肥やすためで神殿建立は言い訳だと思っていたが、これを見せられるとあながち嘘とは思えない。

 

「しかしまぁ、なんでこんな所に神殿を作るんだ?導師様なら王都に神殿の一つや二つ、作れるだろうに」

 

「……スレイ……」

 

 裏ではクソッタレな事をしているとはいえ、表向きは英雄的な存在であるアルトリウスの権力と、絵に描いたような反吐が出るほどの善人であり駆け出しの導師であるスレイを比較してしまうアリーシャ。

 今ごろなにをしているのか、結果的には戦争に関わってしまったから両国共に敵視されてたりしてなにかと大変だろうな。周りがこの時代よりもクソッタレだらけだからしゃあないとはいえ、導師の権力差を哀れに思ってしまう。

 

「……ここって」

 

「お前も感じるのか」

 

 周りをキョロキョロと見るライフィセットとアイゼン。

 

「そういえば、地面に物凄いエネルギーを感じるな」

 

「お前もか……どうやら此処は大地を流れる自然の力、地脈が集中している場所のようだ」

 

「成るほどのぅ、カノヌシを祀るにはちょうど良い場所じゃ」

 

「襲撃にもよ」

 

 物騒な事を会話するベルベット達。

 大地に流れているエネルギーが半端ないんだが、これ本当に大丈夫か?何事もなくとはいわんが、順調に進んでいってるけどアルトリウスに挑んでも大丈夫なのか?負けイベントじゃないのか?ドラクエでいうレベル18辺りで挑む、終盤にやっと倒せるボス戦なんかじゃないよな?

 ここまでスムーズに事が運んでいる事に不安を抱いていると、如何にも結界ですと言わんばかりの空中に浮かぶ術式を見つける。

 

「どうやら、何重にも聖隷術で鍵をしてあるようだな」

 

 結界らしき術式は目の前にあるもの以外にも複数ある。

 

「どうすんだ?さっきと同じ開け方だと、開けられねえぞ」

 

「流石にそれはないはずだ……この手のものはオンオフ可能なタイプだ」

 

「長年の勘というやつか」

 

「そうだ……あれか」

 

 結界らしき術式と似たような感じの術式が浮かんでいる台座をみるアイゼン。

 ベルベットが触れると目の前にある結界のみ消え去り、神殿の奥へと続く道が開かれた。

 

「エバラのごまだれ!」

 

「……あんた、ふざけてんの?」

 

「これを言わないといけないんだ、悲しい定めなんだ」

 

 気付いたら言ってしまうんだ、オレ自身も制御できないんだ。エバラのごまだれは。

 ベルベットに冷たい視線を向けられながらも奥へと進んでいくオレ達。まだまだ結界があるので、それを開く鍵を探そうとするのだが、その前にとオレは結界に触れてみる。

 

「……アメッカ、ちょっとこれで結界をシバいてくれないか?」

 

「どうしたんだ?」

 

「ちょっと、気になることがある。

オレだとあっさりとパリンとやってしまいそうだから、頼む」

 

「わかった」

 

 メガトンハンマーを取り出し、アリーシャに渡す。

 結構重い物なので一瞬だけぐらつくが、直ぐに重さに馴れたのか持ち上げて全力で振り回し、強烈な一撃を叩き込む……が

 

「ダメだ……天族の作ったものだ。

マギルゥや対魔士の様に天族と契約している人間ならまだしも、私ではどうすることも出来ない」

 

「そうなるよな……」

 

「お主等なにをサボっておるんじゃ。鍵を探さんとベルベットにどやされるぞ?」

 

 予想通り壊すことの出来なかったので、次はどうするかと考えているとマギルゥがやって来た。

 

「ちょうど良いとこに来た。マギルゥ、この結界に攻撃してみてくれ」

 

「なにを言い出すかと思えば……ま、謎解きよりは楽しめるから良いぞ。炎飛び交ってしまうのか?ブレイズスウォーム!」

 

 結界に激しい炎の奔流を向けるマギルゥだが、結界は壊れない。

 さっきのハンマーでの一撃でも今の一撃でも全くといってビクともしない。

 

「ビエンフーが無理でフと言っておるが、どうする?」

 

「安心しろ、最初から頼むつもりはない……あ~どうすっかな?」

 

 今ので分かったことが幾つか存在する。

 これは本当にどうするつもりなんだと頭を抱えていると、結界が解除されてベルベット達が戻ってきた。

 

「早かったな」

 

「おう、コレがあったお陰でな」

 

 フックショットを見せるロクロウ。

 立体起動装置の如く、飛び回ってたけど普通はそういう風に使うもんじゃない。そういう風に使うのTASさんだけだ。

 取り敢えずは結界が解除された事を喜ぶのだが、そんな暇はないと歩むベルベットの手を掴んで止める。

 

「突っ走るのは良いが、流石にまずい……アイゼン、この結界は術の一種なんだよな?」

 

「ああ、そうだ」

 

「今さっきアメッカとマギルゥに力技で解除出来るかどうか調べたが無理だった……これがどういう意味か分かるか?」

 

「アルトリウスには勝てないって言いたいの?」

 

「……まぁ、そう言いたいのもある」

 

 転生特典とかで異常なまでに強いオレはともかく、他はどっこいどっこいだ。鍛えているがなんの力も持たないアリーシャと特殊な力を持っているマギルゥの一撃をくらっても結界はうんともすんとも言わない。

 

「分かっているわよ、それぐらい。

あいつは右腕を使えないけれど、それでも尋常じゃない程に強い。その上に、シアリーズっていう聖隷を使役していた……今はもう居ないけれど」

 

 オレに止められた事により、少しだけ冷静さを取り戻したのか立ち止まってくれた。

 

「今まで相手にしたので……多分、あの女対魔士だ。

忘れてるかもしれねえが、此処には導師アルトリウス以外にも選りすぐりの対魔士もいる。アイゼンが探してるやつと、ロクロウが狙ってる奴も居ると仮定して……あ~何処にもおらんが見たか?」

 

 導師アルトリウスだけならばまだどうにかなるかもしれん。

 だが、アルトリウスクラスが数名いるとするならば、この大地から出ている無駄に莫大なエネルギーを蓄えている奴が数名ならば、どうあがいてもベルベット達に勝ち目はない。

 

「ただの喧嘩じゃ済まない世界に入ってる、もう戦争だ。

喰うか喰われるかで、喰い終わるまでは絶対に終わらないくそ面倒な奴……ロクロウ、お前が狙ってるやつは一対一(タイマン)じゃなくて、複数で襲ってきたら対処できるやつか?」

 

「あいつの性格的に、複数は早々に無いが……もしあいつレベルの腕前が数名なら勝てないな」

 

 ベルベットに考えさせるべく、オレ以外の意見を出させる。

 

「選りすぐりとなると、オレ達と同じか少し。

一人一殺を前提にしたなら、オレはメルキオルのジジイをぶっ飛ばす」

 

 なんつー会話をしているんだと思いつつも、アイゼンからも色々と出た。

 ボス戦前のボス対策というなんともあれな会話をしているオレ達。取り敢えず、どうするかと改まって考えるようになり張り付めた空気が何処かに行き、全員が座る。

 

「やれやれ、ここまで来てのノープランか」

 

「だが、コレでよかったのかもしれない。

相手は格上の導師で、そのまま挑めば私達の敗けは確かだ。カノヌシが何なのかはハッキリとしないが、確実に強い。なにも考えずに闇雲に挑めば死ぬだけ。作戦を考えないと」

 

 マギルゥは空気が変わったことよりもなんの考えもないことに呆れてしまう。仕方ねえだろう、基本的にノープランで他力本願な部分が多いんだから。実際問題、暗殺じゃなくて堂々とシバき殺すんだからな。

 なにも考えていない事に気付いたことで立ち止まれたとホッとしながらもアルトリウスをどうやって攻略するかを考えるアリーシャ。

 

「中に複数の対魔士がいるパターンといないパターンを想定しよう。

要心に要心をしておいて、導師アルトリウス一人だったらよかったという策でいかなければ。

個の実力を同等と考えれば聖寮は組織、恐らくは連携の訓練をしている。そうなるとそういった訓練をしていないベルベット達には些か不利だ」

 

「今から僕達も連携技の練習をする?」

 

「却下、そんな事をしていたら気付かれるし増援が来るわ。大体、あんた戦えないでしょうが。戦力数が同等どころか、若干不利よ」

 

「……すまない」

 

 鍛治屋、早く見つかれ。

 ベルベットの言っていることが確かなだけあり、アリーシャはなんの反論もできない。謝り悲しそうな顔をするアリーシャを見馴れてきたとはいえ、割と辛い。

 

「連携が取れんとなると、多対一で確実に倒して数を減らすのが得策じゃろう」

 

「つっても、エレノアとエレノアよりも弱い奴数名でお前等そこそこ時間かかってたじゃねえか」

 

 エレノア同等かそれ以上の対魔士数名いるだけで、その作戦はパーだぞ。

 

「な~に、あの時は場所が場所だけに派手な技が出来んだけじゃ。

しかーし!!今回はどれだけ派手な技をしても問題は無い!!どれだけ喧しくてもの!」

 

「ほぉ、つまり良い作戦があるということか?」

 

「勿論、この作戦の鍵を握るのはビエンフーじゃ!」

 

 自信満々のドヤ顔になるマギルゥは良い作戦を思い付いたんだなと笑うロクロウ。

 作戦の鍵だと言われてテンションを上げたのかマギルゥの中からビエンフーが出てきた。

 

「具体的にはなにをすれば良いんでフか?」

 

「なーに、相手の顔にしがみつくだけじゃよ。

その程度の隙ならば、例え導師でも此処にいる面々でどうにかなるじゃろう」

 

「成る程、相手の視界を奪うんでフね!急に目が見えなくなったら、動きが悪くなりますもんね」

 

 珍しくまともな作戦を考えるマギルゥ。元から盲目なら空間認識能力に長けるが、急に目が見えなくなったら馴れるまでに時間がかかる。多数を相手に人間が一番使う視界を防がれてしまったのならば、割とどうすることも出来ない。

 

「マギルゥ姐さん、お任せくださいでフ!僕も役立ちます!」

 

「うむ!では、ゴンベエ、まずはビエンフーに爆弾を縛りつけるぞ?」

 

「え?」

 

「上半身や下半身を鍛える方法はいくらでもあるが、頭を鍛える方法はない。人は腕や足を無くしても生きれるが、頭を無くしては生きられん。ということでビエンフーに爆弾を縛りつけて、ボカンと一発するぞ。なに、安心せい。ダメージを受けない様にある程度はワシの術で防御力を高めておく」

 

「ダメだダメだ!!幾らなんでも惨すぎる!」

 

「むご、い?」

 

 余りにも卑劣な作戦なので、却下と叫ぶのだがビエンフーは首をかしげる。

 こいつ、マギルゥに馬車馬の如くコキ使われるから逃げたといっていたが感覚が麻痺していないか?

 

「惨いというのは、岩をくくりつけて海に捨てられることでフよ」

 

「……もうやめるんだ!!ビエンフーのライフは0だ!!」

 

 コンプライアンスとかそういうのを無視すれば良いだけなのだが、その一線だけは絶対に越えてはいけない。

 強制的にビエンフーボムの作戦は無しということになり、また振り出しに戻る。

 

「あんた、なんか作れないの?」

 

「無茶苦茶な注文をすんなよ」

 

 こういう時にとベルベットはオレを頼るが、道具もなにもないんだ。

 

「出来ることって言ったら……あの、扉を完全に閉じる事ぐらいだぞ?」

 

「閉じたらアルトリウスを殺れないじゃない」

 

「いや、だからあの扉を閉じてその前で焚き火するだろ?

黒煙を徹底的に扉の中に入れて、一酸化炭素中毒にするぐらいしか浮かばんが……流石に気付くよな」

 

「お前のが一番酷い作戦だな……お手上げか」

 

 相手が人じゃなかったら、一酸化炭素中毒で殺す作戦が一番使える。

 黒煙を流し続けたら流石にアルトリウスも気付くだろうし、見当たらない対魔士達が炎を消しに来るかもしれないし、中の広さが分からないから、どれだけやれば良いのか分からん。

 つーか、アイゼン、オレよりもマギルゥの方が酷いだろう。

 

「はぁ、もういいわ」

 

 全くもって良い作戦が浮かばず、呆れてしまうベルベット。立ち上がったので、アルトリウスの元に行こうとするんじゃと思うのだが、ライフィセットを見つめる。

 

「中に居るのはなんであれ対魔士か聖隷だけの筈よ。

だったら私が一体ずつ聖隷を喰らう。そうすれば対魔士達はただの人間になる……アメッカでも倒せるわ」

 

「確かにそれが一番だが、対魔士1人に聖隷1人としても、4人いれば倍の8人計算だ。

下手をすれば数で上回り、一体ずつ的確に潰していくとなるとこちらの鍵がお前だと判明して集中砲火を喰らう」

 

「問題ないわ。斬られようが焼かれようが、喰っていく。傷はライフィセット、あんたの術で治しなさい」

 

「攻撃を受けるのを前提にした特攻か、それならば一気に喰えるな」

 

「即死しなければ、のう」

 

「でも、それじゃあベルベットが!」

 

「これは命令よ」

 

「……はい……」

 

 ベルベットに関するリスクを除けばある意味一番の策で挑むことになる。だが、それは危険だとライフィセットは止めようとするが一睨みでライフィセットは黙ってしまう。ベルベットに逆らうことが出来ない、か。

 

「本当に危なかったら、オレがアイツをシバいて気絶させるから安心しろ」

 

「ありがとう、ゴンベエ」

 

「構わねえよ……」

 

 ところでさっきからアルトリウスをどうシバくかどうかを話し合っているが、アイゼンの目的であるアイフリードが一切話題に上がっていねえよな?アルトリウスをシバき倒せば、ベルベットの復讐劇が終わるだけでありそれだけだ。

 こんな神聖なところに海賊がいるとしたら、生け贄にしか使えない。だが、それなら殺したと言えば良いだけ……。

 

「まだ続きそうだな、この旅は」

 

 オレ達はゆっくりと立ち上がり、ベルベットの後を追う。

 奥へと進む度に物凄く強い気配を感じていき、これ本当に今の状態で挑んでも大丈夫なのかと少しだけ焦りを感じる。

 

「おぉ、自動ドア……あ、ラッキー」

 

 神殿内部の一番奥のドアが自動ドアだった事に驚きつつも、オレ達はアルトリウスの元に辿り着いた。

 運が良いことにアルトリウス一人で、他に対魔士の気配は感じない……代わりに、物凄く危険でヤバいと思えるエネルギーをアルトリウスから感じるが。

 

「アルト!!」

 

「デラックスボンバー!!」

 

「リウスゥウウウウ!!……お前……」

 

 取り敢えず、狙うは今しかあるまいとデラックスボンバーを撃つ。

 怒りに身を任せて叫ぶベルベットは一瞬で冷静になり、オレに殺気を向けてくる。

 

「業魔に聖隷……随分と変わった仲間を揃えたな」

 

「ッッチ」

 

 大抵の雑魚ならば一瞬にして倒すことの出来るデラックス・ボンバー。

 アルトリウスには直撃しており、着ている服が燃え尽きてしまい上半身裸になってはいるが、全くといって傷がついていない。若干だが、血の痕が見られる。少しだけダメージがあった。




スキット 満足とまた食べたい

ライフィセット「はむっ……」 

アイゼン「う~む……」

アリーシャ「美味しくなければ、別に吐き捨てても構わない。無理に愛想笑いをするよりも、ハッキリと言ってくれ。そうでないと、何時までたっても上達しない」 

ライフィセット「美味しいよ、アメッカの肉じゃが」

アイゼン「ああ、良い味を出している。材料をざっくりと大きく切っていて、食いごたえもある」

アリーシャ「その割には、余り箸が進んでいないが……」 

ロクロウ「お、なんか良い匂いがすると思ったら肉じゃがか!」

アリーシャ「ああ、試しにと作ってみたのだが……失敗したみたいだ」

ライフィセット「そんなことないよ、とっても美味しいよ!」 

ロクロウ「どれどれ…ハグ……ん、おお、良い味出してるな」

アイゼン「芋は男爵、肉は豚肉……旨いには旨いが……」

アリーシャ「なにか失敗してしまったのだろうか?」 

ベルベット「なにやってるのって……あんたも肉じゃが?」

アリーシャ「あんたもと言うことは、ゴンベエも肉じゃがを作っているのか?」 

ベルベット「ええ、そうよ。長時間煮込んで崩れかけた肉じゃがが良いってまた雑に切って、小さく切った方が味の染み込みも火の通りも早いっていうのに」

アイゼン「いや、ゴンベエの気持ちはオレには分かる。崩れた肉じゃがを米の上にかけてどんぶりの様に一気に掻きこむ。貧乏臭いがそれがまた良い男の飯だ」

ベルベット「煮物が崩れたらおしまいよ……」 

ゴンベエ「お~い、ライフィセット、肉じゃがをって……アメッカ、肉じゃがを……大丈夫か、誰も気絶していないよな!?普通の奴等ならまだしも聖寮と戦える奴等が倒れたら、終わりだぞ」

アリーシャ「流石にそこまで私の腕は酷くはない!それよりもゴンベエも肉じゃがを作ったのか」

ライフィセット「同じ肉じゃがでも、違うね」 

ゴンベエ「肉とか芋の種類とか違う、男爵じゃなくてメークインで、肉は牛肉だ……あ、旨いな、これ」

アリーシャ「そういってくれるとありがたい……だが、どうも成功したと思えないんだ。ライフィセット達は美味しいと言ってくれるが、余り箸が進んでいない」

ベルベット「なにか変なものでも入れたんじゃないの?」

ゴンベエ「あ~なんか出汁以外にも違う味混ざってるな、これ。ということで、ベルベット、口を」 

ベルベット「……ハム……白葡萄の心水に、バターを混ぜてるわね。美味しいけど、これだとダメよ」 

アリーシャ「レシピ通りに、作った方が良かったのだろうか?」

ベルベット「違うわよ、これじゃあおかずじゃなくて一品物の料理よ。家で食べる料理は、毎日作るもので美味しくてまた食べたいと思えるものが良いの。外で食べる料理は一回で満足する料理がいいのよ。これだと味が美味すぎるわ。ゴンベエのと食べ比べてみたら分かるわよ」

アリーシャ「……本当だ」 

アイゼン「素朴でシンプルな味付けだが、これは良いな」

ゴンベエ「醤油と砂糖だけで出汁とか使ってない。しいていうなら牛肉とじゃがいもの出汁で煮込んだ」

ロクロウ「一日の仕事終わりのつまみにちょうど良いな。確か米で作った心水があった筈だ、ちょっと持ってくる」

ゴンベエ「これ、一応はベルベット用なんだけどな……」

ベルベット「根こそぎ食ったら、あいつらを食ってやろうかしら」


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痛みと傷は進化の代償

「やべえよ、確実に早く来すぎちゃったよこれ」

 

 分かっていたことだが、物凄く強い導師アルトリウス。

 デラックス・ボンバーをくらってダメージを受けたが、ほんの少しで一瞬にして傷を治している。ヘルダルフは治さんかったが、アルトリウスは導師で天族が味方ならば傷を治すのは赤子の手を捻るよりも簡単だ。

 だが、それよりもアルトリウスが硬い。防御力を上げる術でも掛けてるのかはしらんがデラックス・ボンバーで大抵の奴等は倒せる。倒せなくても瀕死寸前になる……そうなると、考えられるのはこいつはヘルダルフ同等、いや、それ以上だな。加えて、肝心のカノヌシの姿が見えないのも気にかかる。

 

「……お前は、何者だ?」

 

「もうそろそろいい加減にそのくだりをするのは飽きてきたが、名無しの権兵衛だ」

 

 オレ達の顔を見た後、オレを睨み付けるアルトリウス。アメッカは深く警戒しておらず、オレを警戒しているな。

 アイゼン達が此処に来るのは読んでいたが、オレ達二人の存在は読むことが出来なかった。遥か未来の住人がポンっと現れるなんて、予想出来ないだろうな。

 

「今度は前のようには、いかない!!あの子の、ライフィセットの仇を討つ!」

 

「……いいだろう……かかってこい!!」

 

 地面に鞘ごと剣を突き刺し左手で刃を抜くアルトリウス。

 戦闘体勢に入ったことにより、抑えていた力を解放したのか暴風が吹き荒れる。これはまずい、こいつこの時点でヘルダルフよりも上の力を持っている。仮に神依を使ってきたら、此処でオレ以外が全滅してしまう恐れがある。

 

「飛燕連脚!」

 

 怒りに身を任せてはいるものの、動きが雑になるといったことはないベルベット。

 アルトリウスを蹴り上げて空中に浮かせようとするが、アルトリウスは簡単に防ぐ。

 

「粉砕しやがれ、ストーンエッジ!!」

 

 が、防いでいること自体が天族であるアイゼンにとっては隙だった。

 地面から岩を突き出し術を使い、無理矢理空中にアルトリウスを飛ばし、ベルベットは空中で宙返りをしながら後方へと下がり空かさずロクロウが走る。

 

「瞬撃必倒!この距離なら、外しはせん!零の型・破空!!ちぃい、防がれた!!」

 

 外さなくてよかったなと言えば良いんだろうか?

 ロクロウがストーンエッジで出現した岩を踏み台にしアルトリウスの元まで跳び、左手の小太刀で切り上げ、右手の小太刀でついたのだがそれも防がれる。

 

「今じゃあ!!伸びろ、伸びろぉ!!光翼天翔くん!!」

 

「上手い、これなら防ぎようがない!!」

 

 空中でロクロウに対応したアルトリウスを上から一気に叩き落としたマギルゥ。

 連携のれの字も練習していないが、土壇場で物凄く良い感じに連携が取れておりこれならとアリーシャは喜ぶのだが、喜んでいる暇がない。オレのデラックス・ボンバー受けてかすり傷程度の奴が打撃技一撃で倒されるほど、弱くない。

 

「マギルゥ、中にいる天族を無理矢理に表に出す方法は知っているか?」

 

 さっきから一向に姿を現さないカノヌシ。アルトリウスをどうにかするには、とにもかくにもカノヌシとアルトリウスの繋がりを切らなければならない。対魔士関係で一番詳しい事を知っているであろうマギルゥに聞いてみるも首を横に振る。

 

「知らんの、そもそもお主達はどうして契約をしておるのか知っておるじゃろう」

 

 穢れに弱いから、穢れないものに宿る。天族との契約は本来はその為にある。

 穢れの塊であるロクロウとベルベットがいないから姿を現さない……なんて都合の良いことじゃないだろうな。狙ってやっている可能性がある。

 

「カノヌシがなんだろうが、関係ないわ!アルトリウスごと殺せば良いだけよ!あんたも見てないで手伝いなさい!」

 

「アメッカに注意を割いているから立ち位置交換してくれるなら良いぞ」

 

 ベルベットの回復役のライフィセットは戦闘に大きく参加しない。

 回復役は狙われて倒されれば厄介で、更に言えばライフィセットはライラと同じ感じの戦闘でありアルトリウスは剣による戦闘をするので近付かれれば近距離での戦闘が不得意なライフィセットはおしまいだ。

 オレは回復役でないのだが、何時アリーシャが狙われるか分からないので極力側にいて戦っておらず、ベルベットが戦えやと睨むので、護衛役を交代する。

 

「というわけで選手交替だ」

 

「……お前が誰であろうが、私がすることは変わらん」

 

 ベルベットにアリーシャを託し、オレの番だと前に出ると目に見えるレベルのオーラを体から出すアルトリウス。

 さっきよりも威圧感が増しており、ベルベット達は手を抜いていたか……乳首丸出しだからしまらねえが、実力は本物だ。そして何よりもオレを警戒している。見る目が違う。

 

「そのお前がすることはなんだ?」

 

「世界の痛みを無くす……ただそれだけだ」

 

「馬鹿かお前……」

 

 ずっと見えない目的をアルトリウスに直接聞いてみたが、抽象的な答えしか帰ってこない。

 痛みをこの世から無くす、そんな事は出来るわけ……無いと言いたいな。痛いのは苦しくて嫌だが、だからこその意味がある。プラスがあればマイナスがあるのが世の通りだぞ。世の中は諦めと妥協も大事なんだぞ。

 

「部外者のお前に話しても、無駄か」

 

「そういうことだ。

悪いが、どう考えてもお前がいらんことをしようとしているのは確かだ。

生殺与奪の権限はベルベットにくれてやるとして、ある程度はシバき倒させてもらう。アステロイド」

 

 話し合いをしても平行線、なにをするのか具体例もなにも教えてはくれないアルトリウス。何だかんだで部外者で、殴り倒すのも恨みを持つベルベットがするのが一番だが、もうそうはいってられない。

 何時もの様に三角錐に分割した大型のアステロイドをアルトリウスに向けて放つのだが、剣を突き出して防御壁的なのを貼り、防いだ。

 

「アステロイド、アステロイド」

 

 今度は二つのアステロイドを出し一つはさっきと同じ様に三角錐に分割を、もう一つは9×9×9で分割した細かな四角い粒の様なアステロイド729個に分割し、先に729個に分割したアステロイドを撃つ。

 

「悪くはない手だ……ふんっ!!」

 

「まだ上がるか……ベルベット、引くぞ」

 

 細々した散弾を撃ち、全体に防御させて大きな一撃に耐えられない様にしようとしたが、出来なかった。アルトリウスは更にパワーアップをし、さっきよりも強力な防御壁を貼った。アルトリウスは余裕の表情を浮かべてはいないが、焦りらしい焦りを余り見せようとせず、まだまだ力を出していない。神依が無くても何段階かパワーアップが残っているどころか、カノヌシの姿が未だに見えない。

 背中の剣を出し惜しみしている場合じゃない相手なのは分かっているが、今は撤退した方が一番得策だとベルベットに言うのだが、ベルベットは言うことを聞かない。

 アリーシャの側から離れてオレの隣に来る。

 

「アメッカの隣にいてくれよ」

 

「ふざけるな!!なんの為に此処まで来たと思っている!!」

 

「アルトリウスがどんどん力上げてきてるだろう。二段階ぐらい変身残してるって言われても違和感ねえぐらいに余裕ぶっこいてるだろうが!」

 

「余所見をしている暇はあるか?」

 

「!」

 

「割とあるぞ」

 

 アルトリウスがまだ余裕をぶっこいてられるように、こっちも余裕を残している。

 とはいえ、現時点ではベルベット達とアルトリウスの間には絶望的なまでに差があるので、それを埋めるためにフォーソードを抜かなければならない。

 

「ふん!!」

 

 ベルベットを襲うアルトリウスの一太刀を防ぎ、隙が生まれる。

 その隙を逃すまいとベルベットは手甲から出した剣で斬りかかるが何度も何度も避けられる……これ、斬って良いやつなんだろうか?

 カノヌシがなんなのかは知らないが、ジャンルで言えば天族であることには変わりない。天族の加護領域があれば、穢れをどうにかこうにか出来るのが本当だ。カノヌシもその一例に盛れないというならば、アルトリウスごとぶった斬って、殺しても大丈夫な存在か?

 神仏の類は下手に殺せば、世界に何らかの影響を与えるのが割と多い。神仏の類をぶっ殺す際には世界に与える影響を考慮しておかないと、下手すれば世界が滅びる。大抵は神様じゃなくするのが一番だ。

 

「アイゼン、なんか変なもん感じねえか?曲がりなりにも神様だ、斬ったら世界滅亡はまずい!!」

 

「まだなんとも言えん……だが」

 

「だが?」

 

「お前の言うとおり、アルトリウスが今より何段階も力を上げれるとするならば、カノヌシはもうただの聖隷とは言えん」

 

「本物だろう、完全に」

 

 息継ぐ暇なく回る戦局。

 数に任せてどうこう出来る相手でなく、ベルベットがメインで攻めて隙を探して突撃しようとするロクロウ。アイゼンとマギルゥは術でフォローを入れようと模索しているが隙が見つからない。

 そしてスレイが将来的にこの領域にまで達するかと言われれば無理っぽい気がする。

 

「がはっ!?」

 

 回りに回った末に、ベルベットはアルトリウスの剣に刺され貫かれてしまう。

 胃の穴を防ぐとかの臓器の手術という概念がないこの世界ではそれは致命傷。後は放置しても大抵の生物は死んでしまう……だが、例外はある。

 

「ライフィセット!!」

 

「!」

 

 刺された光景を見て固まったが名前を呼ばれた為に意識を現実に戻し、ベルベットに向かうライフィセット。

 刺されたままだと回復したとしても気休め程度にしかならない。アルトリウスさえ殺せれば文句は無いベルベットにとってその気休めは充分過ぎるもので、ライフィセットが傷を治すと剣を振りかぶる。

 

「戦訓その4!!」

 

「!」

 

「揺らいだ!」

 

 どう考えても効率も道理も悪い戦法だが、アルトリウスにとってはその戦法は予想外の一手だったようで、驚きを見せてアルトリウスに大きな切り傷をつけるとアルトリウスは後退して剣からベルベットを抜いた。

 

「アメッカ、ダメだ。最初を忘れたのか!こっちに出来ることは基本的に向こうも出来るんだ、ライフィセット、傷を治せ!」

 

 剣が抜けたことにより大量の血を流すベルベット。ライフィセットは即座に傷を治していくのだが、アルトリウスは攻めてこない。

 

「ふっ……勝利を確信しても油断するな、か。

お前を取りこぼすわけにはいかない。戦訓通り全力で相対しよう……聖主カノヌシとともに」

 

 ベルベットの予想外の一手に、アルトリウスは本気を出すことを決めた。

 例えるならば、フリーザ第2形態からフリーザ最終形態に変貌するように一気に変わっていき、掲げた剣は眩い光を放つ。するとアルトリウスにつけた傷が治る。上半身裸だからはっきりと分かる。

 

「一瞬で治っただと!?」

 

「この力……本物なのか!?」

 

「そりゃ反則じゃろ~!!」

 

 今まで見た天族や対魔士、それに憑魔と比較することすら間違いな程の光。

 

「こ、この感じは……!?」

 

「こいつ……あの時の、あの夜の!!」

 

 そりゃもうヤバい……んだが、此処までしてもカノヌシは現れることはない。

 アルトリウスがカノヌシの力を使ってはいるものの、全くといって姿を現さないってどうなんだ?全力なら、これだけの力を持っているならば自身も出て来て戦うはずだ。

 

「「「「お前ら、大丈夫か?」」」」

 

「ゴン、ベエ?」

 

 眩い光に衝撃波が混じっている。

 漫画とかでもよくある眩い光が弾けたと思ったら、全員ふき飛ばされるあれが来ると感じ即座に四人に分かれる。

 アリーシャ、ライフィセットとベルベット、アイゼンとマギルゥ、ロクロウと分かれてフォーソードを盾代わりにし、さっきアルトリウスがやった防御壁擬きをして防いだ。

 

「「「「抜いたのフォーソードでよかったぁ!!」」」」

 

 攻撃らしい攻撃でもなんでもない一撃を防いだが、フォーソードじゃないと誰かに衝撃波がぶつかって死んでたかもしれない。

 

「なに……」

 

「ライフィセット、まだか?」

 

「待って、もう少しだよ!」

 

 ベルベットの治癒がすんだら、とっととずらかる。

 これは対策とか、聖隷と人間の契約を断つ、もしくは初期化する術的なのを用意したりしないと話にならん。

 

「血が流れてるとこは絶対に防げよ……3分の1を越えてなきゃいいが」

 

 腹を刺されたベルベットはかなりの血を流している。血液型なんてこの世界じゃ分からないし、分かったとしても輸血してくれる人なんていない。そもそもオレって何型ってレベルだ。

 憑魔に変貌してるから致死量の上限が越えているとしても、血液が足りないことには変わりない。どちらにせよ、ベルベットを休ませてやらないと。

 

「ま、だ、よ……」

 

「もういい……ライフィセット?」

 

「なんで……なんで、そこまで頑張れるの?」

 

 まだ戦えると立ち上がろうとするベルベットを見て、回復の手を止めてしまう。

 臓物は見えなくなったが、それでも血が流れてるから出来れば止めんなよ。

 

「痛いのに、苦しいのにどうして……どうしてそこまで出来るの!?」

 

 ライフィセットには、ベルベットが此処まで頑張れる事が理解出来なかった。

 此処に来るまでに何度も何度も危険な目に遭い、挙げ句の果てには腹を刺されるどころか貫かれた。常人ならば、もう嫌だと投げ捨てたくなるだろうが、ベルベットは折れることなく此処までやって来て、まだまだ憎悪を抱いている。

 

「どうして、ベルベットは戦えるの!?」

 

「……ライフィセットは、もっと痛かった……」

 

 ベルベットが答えられないのならば、オレがそれっぽい答えでも教えようかなと思ったがしなくてもいい。

 

「あの日だけじゃない……ずっと、ずっと痛かった。

なのに、なのにあたしは……なんにも出来なかった……あの子よりも、全然痛くないのに……ごめん、ごめんね」

 

 我慢していたものが吹き出したかの様にベルベットは涙を流しながら、戦える理由を教える。

 

「ベルベット……」

 

 痛みというのは、肉体にだけあるものじゃない。心にもあるものだとライフィセットは知る。

 本当の痛みを知ったライフィセットはベルベットの治癒を再開しようとするのだが、ベルベットはまだ立ち上がろうとするのでオレはベルベットに蹴りを入れる。

 

「ベルベット!?」

 

「悪いが、蹴ったところも治してくれ……こうでもしないと、まだ立ち上がりやがる」

 

 何度でも何度でもやろうとするのは良いことだが、相手が悪すぎる。

 幸いにもアルトリウス一人だから、あの手この手を使いまくれば逃げることぐらいは出来る。今はまず、蹴りいれたところの治癒をライフィセットにしてもらおうとライフィセット待ちをすると、急にライフィセットが光り出す。

 

「あああああっ!?」

 

「は!?」

 

 明らかに苦しんでいるライフィセット。

 ベルベットの治癒の手を休めている……さっきならまだしも、今は手を休める要素なんて何処にもない。

 

「ッチ」

 

「どうやら、タイムアップじゃの」

 

 ライフィセットの身に何が起きているのか知っているのか、焦りを見せるアイゼンとマギルゥ。

 なにがタイムアップかと思っていると、入口が光り女対魔士ことエレノア……と見たことのない三名の対魔士が入ってきた。

 

「今度は逃がしません!」

 

 そういう感じのフラグを建ててくれて、ありがとう。エレノア。





DLC 学生服

ゴンベエの衣装

キセキの世代の点取り屋

説明


帝光中学男子バスケットボール部に同時に現れた5人の天才の1人にしてエース。
型にはまらない変幻自在のプレイスタイルを持ち、DF不可能の点取り屋(アンストッパブルスコアラー)とも呼ばれる男の進学先の新鋭の暴君と呼ばれる桐皇学園高校の制服を身に纏っている。
尚、本人はまだ気付いていないが遥か遠い未来で青峰になるらしい。


DLC アイドルマスター

アリーシャの衣装

ストイックな歌姫系アイドル

説明

私が歌うことで、皆の心を救うことができることなら……。
と思ってたら、高確率で騙されてあれよあれよと色々な事をされてそうなバラエティーからなにまでこなせるアイドルになってそうな純粋な彼女の衣装。天海春香似の女性と仲が悪そう。

ベルベットの衣装

運営の犬

説明

鬼!悪魔!邪神!災禍の顕主!よりも恐ろしいガチャ爆死後にスタドリを渡して周回してこいと言ってくる事務員の衣装。
本人の容姿的に明らかにアイドル向けだが、ステージ上だと確実に上がるので裏方の事務員をすることに……決して中の人繋がりとかはない。笑顔で愛想よく接するのでなく、お疲れの所に缶コーヒーを置いて、「これ飲んで元気出しなさい」とか言ったり、居酒屋で愚痴に付き合ってくれたり愚痴られたりするクーデレ系事務員だと思う。


ゴンベエの衣装

プロデューサー

説明

歴代キャラのDLCと違って、これはもうただスーツを着ているだけに過ぎない。
ゴンベエの容姿がワールドトリガーの二宮なので特にこれと言う違和感は存在しないから、スーツはいい。
だが、Pヘッドは違う。プロデューサーのPヘッドあり被り物じゃない。Pヘッドは頭部である。こういう感じの形質の生物である。故に被り物とかそんなんじゃない。なのに何故かP字の被り物が存在しているんだろうか?(殺)


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ワープは何気に最強の魔法

「申し訳ありません、アルトリウス様。

シグレ様が警護をしていると思い、油断していました」

 

「!」

 

「シグレなら修行に出た。

そもそも私を一番斬りたがっているのは、あいつだ」

 

 そんなのを警備に回して良いのか、実力主義なのは良いかもしれないがもうちっと考えた方が良いんじゃないかと思う。と言うよりは、一番斬りたがっているのはベルベット……殺したいだから、別カウントか?

 現れた四人の退魔士の1人である青年がアルトリウスに頭を下げているのをみて、色々と考える。

 

「変わらないな」

 

 ロクロウがなんか言っているが気にしない方向で行く。

 これ、此処から逃げ出すことが出来るか?何時もみたいにパッとワープしたいけど、妨害してきそうだ。

 

「まったく、アイフリードの時といい、勝手だな」

 

「このジジイが……」

 

 アイゼンは船長の名を出す片眼鏡ジジイに怒りを向ける。

 この場にいるのはオレ達だけで他にはいない。となると、アイフリードは此処にはいないということ……此処にいないなら、何処にいるんだ?カノヌシの生け贄に捧げるとかいう線があったのに、それもなくなった。

 

「業魔と馴れ合い、挙げ句の果てにはアルトリウス様を殺しに来るとは……二号、お前には罰を与えましょう。その業魔を殺して、貴方も命を絶ちなさい」

 

「な!?」

 

「ぐ、ぁああ!!」

 

 青年の姉と思わしき退魔士がライフィセットに杖を向けると、苦しむライフィセット。

 少しずつだが体が動いていき、このままだとベルベットに手を向けてしまう。

 

「その女を倒せ!!ライフィセットは、その女に操られている!!」

 

「わかった!!」

 

 このままだとライフィセットがベルベットを殺す。なんとしてでも止めねえと、全てが無駄になってしまう。

 

「アステロイド」

 

 アルトリウスは無駄に硬かったが、他の奴等なら問題ない。

 何時も通りのアステロイドを放つと、女は手を翳した。すると、体から光の玉が出現し、ライフィセットぐらいの天族が出て来て防御壁を貼った。

 

「人の身でありながら、業魔に味方をするとは……その業魔共々、地獄にお送りしてあげます!!」

 

「がぁあああ!!」

 

「地獄ならとっくに見てるわ!!アステロイド、アステロイド!」

 

 アルトリウスに通じないが、お前になら通じる。

 防御壁の精度はアルトリウスのと比べれば弱い。細々したアステロイドを放ち、大きな結界を貼らせて力を分散。三角錐の大きな威力重視のアステロイドをぶつけて防御壁を突破。

 

「姉上、危ない!!」

 

 後は顔面に当てるだけだと言うところで、弟が入ってきた。

 顔の目の前に小さく高密度な防御壁を貼って、アステロイドを防いだ。

 

「チェックメイト」

 

 そういうのは予想済みだ。

 さっきまであった多対一の数による有利は消えている。相手側に隙が出来ても、別の誰かがフォローをするぐらいは折り込み済みだ。

 指パッチンをすると、姉弟の頬に強い衝撃が走り殴り飛ばされたかの様に飛んでいく。

 

「一号、オスカーを!」

 

 頑丈なの多いな、聖寮の退魔士は。

 一号と呼ばれている天族は弟の方に向かっていった。

 

「ライフィセット!」

 

「ぐぅ……命令なんかに、従うものか!」

 

 殴り飛ばしたが気絶すらしていないので俄然動くに動けない、だが少しだけ進展があった。

 なんとか命令を無視しようと必死になって抵抗している。ライフィセットが時間を稼いでいる間に、アルトリウス以外の退魔士を倒す。とにかくにも倒さないと抜け出せない。

 

「まずは、お前からだ!」

 

 あの女を倒さないと、ライフィセットがベルベットを殺してしまう。

 フォーソードに闇を纏い、走り出して剣を向けるのだが片眼鏡をかけたジジイが氷柱を何本も飛ばしてきたので、斬り裂いて、弾いた。

 

「いかん、ゴンベエ!」

 

「何処も問題ねえよ!!」

 

 大技を撃つための時間稼ぎだとしても、もう遅い。

 女退魔士の目の前までやって来たオレにマギルゥはなにかを言おうとしているが、この機会を逃せば二度と来ない可能性がある。

 その心臓を貰い受けると何処ぞの槍兵の様に心臓を貫こうと女の顔を見ると……そこには女退魔士でなく、アリーシャがいた。

 

「姉上に、手出しはさせん!!」

 

 突然の出来事にピタリと一瞬だけ動きが止まり、その隙に治療を受けた男の退魔士がオレを斬りかかるが防いで距離をとる。

 

「あのジジイはの、人を騙すのが上手いんじゃよ」

 

「あ~そういうタイプか」

 

 マギルゥからの説明を聞いて、さっきジジイが放った氷柱は幻術をオレに掛けるために意識を向けさせるもの。

 氷柱一本ならば簡単に斬れるが数本だと嫌でも顔の向きを変えねえと斬れず、変えた先にはジジイがいる。斬るのと女退魔士の方に意識を向けていたから、ジジイにそこまで注意していなかった。

 圧倒的な力よりもこういう人の嫌がることをするのが得意なタイプのジジイ、うざい老害タイプだな。

 

「アメッカ、頼むから人質にはなるなよ……多分、斬ってしまう」

 

 SASUKE以上にスタイリッシュに斬ってしまいそうな自分がいる。

 さっきは戸惑ってしまったが、タネさえ分かってしまえば怖くもなんともない……アリーシャを人質に取られなければだが。幻術で周りの姿を変えて撹乱させる作戦をされたら、下手したら全部斬ってしまうから人質になるなよ。

 

「覚悟は出来ている……足手まといになれば、命を絶つ覚悟は」

 

「なら今は見ておけ」

 

 剣に女退魔士を襲おうとすると、弟が出て来てオレの剣を止める。

 弟が持っている剣には大きなヒビが入っており、あと何回か唾競り合いをすれば壊れそうな感じだ……。

 

「これ以上、姉上には手出しはさせん!」

 

「と、思うだろう?」

 

 汚ならしい笑みを浮かべてオレは弟の腹に蹴りを入れて、女退魔士を見る。

 そこにはフォーソードで分かれたオレが立っていた。

 

「な!?」

 

「便利な道具を色々と持ってるんでな」

 

 女の方にいるオレは透明マントを見せつける。

 さっきこの姉弟をぶっ飛ばしたのはロクロウの側にいたオレで、透明マントで姿を消して背後に近づいて裏拳を叩き込んだ。

 

「んじゃ、まぁ一丁……ヘッドシェイカー!!」

 

 左手で顎を、右手で頭を掴んで一気に左右に揺らす分かれたオレ。

 ヘッドシェイカーを使いこなせる転生者はただ一人で、オレにはあんまり向いていない技だ。

 

「がぁっ!?」

 

「っち、仕留めそこなったか!」

 

 口、鼻、目から体液を出す女退魔士。ゴキブリの様にピクピクと体が震えており、意識を失っている。

 本当ならば一振りで絶命するとんでもない技だがその為には尋常じゃない程の腕力が必要で、必要な腕力をオレは持っていない。脳を揺らして脳震盪を起こして体から色々と体液を出させるのが限界だった。

 

「結果的にはぶっ倒した、ライフィセット!!」

 

「僕は!………僕は、ベルベットが死ぬなんて、殺すなんて、嫌だぁああああ!!」

 

 女退魔士を結果的には倒すことに成功した。ライフィセットはどうだと様子を見ると、まだ縛られていた。

 発動した奴が解除しないと気絶してもまだ発動し続けるのか、必死になってもがき、女退魔士の命令を拒むことに成功……すると同時に神殿の一部が、アルトリウスの背後の紋章っぽいのが光り出す。

 

「この力は!」

 

 ライフィセットの叫びと共鳴するかの様に紋章が光る。アルトリウスはこの光りに、力に心当たりがあるのか驚いて背中を見せると同時にブラックホール……と言うよりは、次元の裂け目の様なものが開いた。

 

「あれは……全員、アレに飛び込め!!」

 

 次元の裂け目的なのの正体を知っているのか、真っ先に飛び込んだアイゼン。

 これがなんなのかは分からないが、少なくとも中に飛び込んだアイゼンは死んでいない。これはこの場から抜け出すのに一番だと理解すると気絶させたベルベットと今の叫びで意識を失ったライフィセットを抱え、飛び込む。

 

「いくぞ、アメッカ!」

 

「ああ!」

 

 アリーシャの側にいるオレもアリーシャの手を握り、飛び込む。

 

「こぉれ、ワシを忘れるな!!」

 

「そんなことを言えるぐらい元気だろうが!」

 

 マギルゥも後から入り、最後にロクロウも飛び込む。

 この黒い次元の裂け目的なのの中は……よく分からない。時間の概念とか暑いとか寒いとかそういうのが薄れていく感覚がする。このままだと意識を失いそうだが、失ったらベルベットとライフィセットが何処かに行ってしまう。

 空中に居るのか、歩いているのか、前を向いているのか、後ろを向いているのか、立っているのか、寝ているのかが分からなくなってきた頃、真っ暗闇な景色は消え去った。

 

「何処だ、ここは?」

 

 神秘的でエネルギーが漂う場所に出た。

 空を見ると、何時も見ている青空じゃない。此処に来る前は日が沈んでいたが、月は出ていた。空には雲もなにもない。遥か遠い場所に出たとしても時間がずれたりするだけで、なにもないといった感じにはならない。

 ベルベットとライフィセットを寝かせて、少しだけ辺りを見回す。

 

「酸素がある……が、水とかは無さそうだな。

ロクロウ達が近くにいないとなると、バラバラになった可能性は大きい」

 

 アルトリウス達が全くといって追ってくる気配はない。落ち着く時間が出来たので深呼吸をし、冷静になって状況を理解する。こういう時こそ一度冷静になる、限られているとはいえ余裕の時間を手に入れた。

 後から入ったアリーシャ達が近くにいないとなると、バラバラになった。入口があんなんだったから、出口がバラバラだった説はあってもおかしくはない。

 幸いにも、フォーソードの力で分かれたオレが直ぐ側にいるからなにかが襲ってきても問題ない。オレ達以外が此処にいるパターンもある。

 

「ベルベット、ライフィセット……ライフィセット!?」

 

 とりあえずはどっちも起こそうとするのだが、ライフィセットに黒いモヤの様なものが纏わりついていることに気付く。

 何度も何度も見ているどころかどうにかする方法も知っている穢れだ。ライフィセットは穢れにやられており、このままだと何時かのウーノの様に憑魔化してしまう。

 

「とりあえず、これで代用しておこう」

 

 背負っているマスターソードを鞘ごとおろしてライフィセットの上に乗せる。すると、マスターソードはポワァっと青白い光を放ちライフィセットに纏わりついていた穢れが一瞬にして消え去っていった。

 

「脈拍は……若干弱いな。心臓の音はちゃんとしていて、苦しんでいる顔はしていない」

 

「ベル、ベット…し…なないで……」

 

 触診等をしての体調を確認していると、寝言を呟いた。

 弱々しい声だが強い思いが込められており、意識を失っている筈なのに手を動かそうとしている。

 

「大丈夫……ベルベットは健やかに眠っている。

だから、お前も眠るんだ。起きて、お前がボロボロだったらベルベットは泣くだろう」

 

「う、ん……」

 

 オレの言葉に返事をすると、ライフィセットは完全に眠った。

 とりあえずはこれでライフィセットは眠って飯食えば元気に……なるよな?天族は穢れに弱い。今の今までライフィセットはロクロウとベルベットと一緒にいて、何度か皮膚の接触とかあった。ベルベットやロクロウの側にいるのを何度も何度も見た。今になってライフィセットが穢れましたはおかしい。

 

「……マスターソードでの応急処置は出来ているし、アイゼン達と合流してから聞けばいいか」

 

 難しいことを考えるのはやめる。転生特典で知識を貰っていても、肝心のオレがアホなので使いこなせない。餅は餅屋に任せる。アイゼンに聞けば大体のことがわかるはずだろう。

 一息つきたいが、ベルベットが眠っているのでつけない。ベルベット、結構な量の血を流していた。貧血どころか血が少なくて上手く循環していない可能性がある。

 

「貧血程度で済んでくれよ」

 

 ライフィセットと違ってピクリとも反応していないベルベット。

 あんだけ血を失っているなら、意識が深く落ちていてもおかしくはないなと首筋に触れて脈拍を測る。

 

「……え?」

 

 時計が無いのでなんとなくの時間感覚で脈を測るのだが、脈が動いていない。時折ピクリと動いてはいるものの、衰弱しているライフィセットと比べても弱々しく脈打つ回数が少ない。2、3回程度の誤差なんてものじゃない。結構な差がある。

 

「え、待って、待ってくれよ」

 

 まさかと青ざめながらベルベットのお腹に手を置いてみる。

 お腹が全くといって動いていない。少しだけお腹に圧をかけてみる……あ、結構な腹筋だ。

 

「……あ、よかった……じゃねえ!!」

 

 口元に手を翳すと僅かだが熱を感じる。

 本当に極僅かだが、ベルベットは呼吸をしている……が、喜ばしいことじゃない。

 

「……」

 

 胸に耳を当てて心音を聞いてみると、物凄いまでに衰弱した音が聞こえる。

 自分の心臓に手を当てて鼓動の差を確認すると物凄いまでの差が開いていることに気付く。

 

「……まずいな」

 

 ベルベットの普段の呼吸とは大きく異なっている。脈も心音も弱く、衰弱する一方だ。

 ライフボトルとかいう胡散臭いものを飲ませればどうにかなるだろうが、そんなものは持っていない。あるのは知識と胡散臭い魔力回復とかの薬だ。

 

「電気ショック……電圧等は知識から出せるか」

 

 AEDがあれば良いんだが、生憎なことにこの世界にはそんな便利なものは存在しない。

 電気をベルベットに流せばどうにかなるかと電気ショックの電圧等をググるのだが、機械無しでやって良いものなのかと手を止める。

 

「……前回はガチのビンタ……今回は、なにされるんだろう?」

 

「お前等、無事だったか!」

 

「無事じゃねえよ、ベルベットは死にかけだよ……はぁ」

 

 覚悟を決めようとしていると、アイゼンが来たので気分が悪くなる。ベルベットの心肺が停止しそうな事を伝えた。




スキット ※高校生と小学生設定です

ゴンベエ「ブレザー……」

ライフィセット「どうしたの?」

ゴンベエ「いや、オレは学ランとこだったからさ。ブレザータイプの方はなにかと新鮮で……此方の方がいい」

ベルベット「……ッブ……似合っているわよ、あんたの学生服」

ゴンベエ「今なんで笑った?」

マギルゥ「いや~、どう考えてもお主が学ランは合わんじゃろう。どちらかと言えばスーツの方が似合うじゃろう」

ゴンベエ「スタイリッシュなのが似合うのはこの見た目のせいだ……」

ライフィセット「これで皆の制服が揃ったね!」

エレノア「揃ったのは良いのですが……アメッカとゴンベエの制服が私達と違いませんか?」

アイゼン「まぁ、二人は製造元が違うから仕方ないと言えば仕方ない……」

マギルゥ「そういう時は他校の生徒との交流と考えるんじゃよ」

ロクロウ「他校の生徒との交流……決闘か!」

マギルゥ「ちがーーーう!!なんでそうなるんじゃ!!お主、一応は軽音部なんじゃからそこはボランティアライブで偶然に出会ったとかそんな感じのがあるじゃろうが!」

エレノア「そこからはじまる恋物語、ですか?」

アリーシャ「エレノア……それは絶対に無いから、想像するのはやめてくれ……やめろ」

エレノア「っ、は、はい!申し訳ありません!!」

ライフィセット「ゴンベエとアメッカが他校の生徒として、どんな生徒なんだろう……図書室で本を読んでいる文芸部員?」

ベルベット「品行方正の生徒会長で、学園のマドンナとかもありそうね」

ロクロウ「じゃあ、両方を取って品行方正の生徒会長兼文芸部員の部長……ついでだから、学年首席でスポーツ万能も入れておくか」

ゴンベエ「属性盛りすぎだろうが!」

エレノア「そこからはじまるとして、どういう感じの物語を……」

ゴンベエ「おい、待ちやがれ。何故、ラブコメを前提としている?それをすれば誰かが負けヒロインになるんだぞ?」

アリーシャ「良いじゃないか……真のヒロインとか、そういうの」

ゴンベエ「言わせねえよ!!……つーか、お前等、オレの設定を忘れてないか?」

ベルベット「文句を言ってる割にはあんたもノリノリじゃない……学園の支配者?」

マギルゥ「年齢偽装してバイトをしている不良」

エレノア「え、ええっと……」

ゴンベエ「エレノア、無理にボケんな。二人は顔を見て、言っているだろう」

ロクロウ「まぁ……ぶっちゃけ、学ランだとコスプレに見えるからな」

ゴンベエ「……ブーメランって言いたいが、黙っておく。オレはアレだ、特待生になれたのを蹴って一般入試で入ったバスケ部員だ」

アイゼン「中々にドラマ性が有りそうな設定だな」

ゴンベエ「百戦百勝を絶対としているバスケ部に5人同時に現れた10年に一人の逸材の1人……と言っても、他の4人も同じく一般入試で進学したがな」

ロクロウ「全員が同じ学校って、そんなんじゃ面白くねえだろう」

ゴンベエ「そこが大事なんだよ。ズガタカオヤコロ系PG、能天気トトロ越えC、シャララ系ワンコSF、クソマジ眼鏡占い信者SG、オレに勝てるのはオレだけPF、どんな高校にも入るだけで全国区になる天才がどうして1つに纏まったとか色々な物語があるんだ。なにも戦って勝ったり負けたりだけがドラマじゃないだろう」

ライフィセット「天才5人の設定が凄い……けど、僕達ってどうやって出会うんだろ?ゴンベエとアメッカ、違う学校の生徒で、僕達も違う学校の生徒だから……合宿かな?」

ロクロウ「学校を使った合同合宿か。確かにそれなら複数の学校を集めれるが……そうなるとアメッカだな」

アイゼン「そこはバスケ部のマネージャーが急病で代理で手伝いを、顧問を生活指導のザビーダの野郎がしていることにすれば繋がる!」

エレノア「そこで私達がどんな試合をしているか見に行って出会う……で、良いのですよね?」

アリーシャ「ああ、それならば出会うことが出来るし違和感も感じない!」

ゴンベエ「……違和感と言えば、アイゼンは教師だからセーフとして、エレノアとライフィセット以外は学生服着れない年齢なんだよな……制服ある大学はあるけど、大学生の設定じゃなさそうだし」


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人工呼吸にそこまで効果は無い

久々に書くせいか、色々とおかしくなってる可能性がある……


「ここは?」

 

 アルトリウスに挑むも、圧倒的なまでの実力差を見せ付けられて撤退した私達。

 どうやってかは分からないが、咄嗟に開いた穴にゴンベエと共に飛び込み、意識を失っていたが気付くと見知らぬ遺跡の様な場所にいた。

 

「おお、起きたか!」

 

「ロクロウ、それにマギルゥ……ここはいったい?」

 

「さ~、ワシにもさっぱりじゃ。

少なくとも、あの場から逃げれたのは確かの様じゃがの」

 

 周りを見回すとロクロウとマギルゥがいた。この場所について聞くも二人は心当たりがなく、首を横に振る。

 二人が分からないとなると、飛び込めと言ったアイゼンならばなにかを知っているかもしれないと周りを見るがアイゼンがいない。アイゼンだけじゃない、ベルベットも、ライフィセットも……ゴンベエもいない。

 

「他の4人は何処に?」

 

「……ワシ達しかおらんかった」

 

 悲しげな顔をして俯くマギルゥ。

 私達しか居なかった?……それはつまり

 

「ゴンベエ達は、何処に」

 

「分からん……じゃが、あの様なキテレツなものに入った末に、全く見知らぬ土地に出た。

更にはお主が気絶している事を考えれば、あやつ等は……時空の塵となって消えたのやもしれん……」

 

「嘘だ……」

 

「うむ、嘘じゃよ!」

 

「そんなことが、あってたまるか!!

あの時、ゴンベエはちゃんと私の手を握っていてくれた!!暗闇の中で、私が何処か遠くに行かない様に、ずっとずっと!!」

 

「いや、じゃから」

 

「ゴンベエは死なない、どんな時だって平気な顔をしていた!!」

 

 あの時もそうだ。ヘルダルフの圧倒的なまでの力を見せつけられていもゴンベエは普通にしていた。

 疲れてはいたが怪我らしい怪我は特になく、ヘルダルフの腕を斬り落としていた。確かに導師アルトリウスはヘルダルフよりも驚異的な存在だったが、それでもゴンベエは戦っていて大きな怪我をしていなかった。

 

「そうだ、もう一度、聖主の御座に行こう。

あそこでもう一度、あの黒い穴を出現させればいい。そこに入ればきっとゴンベエの元に」

 

「わん!!」

 

「ゴンベエ?」

 

 急いでマギルゥとロクロウを引っ張り、元いたところに戻ろうとすると狼に吠えられる。

 この狼のことを知っている。ゴンベエだ。どうやってかは知らないが、ゴンベエは狼と人間の姿を使い分けることが出来る。

 

「よかった……」

 

「がう!」

 

 生きていたことが分かると緊張の糸が切れて涙を流して膝をつく。

 ゴンベエはそんな私の側によ……らずに、マギルゥ目掛けて突撃して噛みついた。

 

「ぐるぅあああああ!!」

 

「ギャアアア!!ほ、本気で噛みおったの!?

ちょっとしたジョークじゃよ、ジョーク!!ブラックかもしれんが、場を和ませようとしての」

 

「ガルゥウウウウウ!!」

 

 ゴンベエはマギルゥの頭に噛みついた。

 マギルゥは頭から血を流しているが自業自得故、心配する気にはなれない。

 

「俺達が此処に出た際にお前達が先にいて、ゴンベエは狼の姿だったんだ。

俺達が来るまで物凄く周りを警戒していて俺達が来たら、安心したのか辺りを探索しに行っていたんだよ」

 

「バウ!」

 

 何処でなにをしていたのかロクロウが説明をすると吠えるゴンベエ。

 マギルゥへの制裁を終えると私の隣に寄り添い、眠ろうとしている。

 

「その様子だと、なにも無かったみたいだな」

 

 探索したが成果は0。ベルベットやアイゼンは此処にはいない。

 この遺跡から出て、何処かの村や街に向かった方が良いかもしれないがゴンベエは動かずに私の隣で眠っている。

 ロクロウの言葉を聞き何処かに移動せずにベルベット達がこっちに来るのを待て、と言うことなのだろうか?と考える。確か、穴に飛び込む際にゴンベエは分身を二体消して、1人はベルベットとライフィセットを、1人は私と共に穴に飛び込んだ。

 此処にいるゴンベエは1人で、ベルベット達が居ないとなるともう1人のゴンベエはベルベット達と一緒にいて、此処にいるゴンベエの居場所が分かって探しに来る……のだろうか?

 

「!!」

 

 色々と仮説を立てていると、背後が眩く光を放つ。

 いきなりのことで反応が遅れたが、槍を手に取り構える。ロクロウ達も武器を取り出して何時でも戦えるようにと構える。

 

「アイゼン……ベルベットも、無事だったのか!?」

 

「……全然、無事じゃないです。

こいつ、思ったよりも血を流しすぎてた……血中のヘモグロビンが少ないとか、そういうのじゃなくて物理的に血液が足りなくて、危なかった」

 

「ゴンベエ?」

 

 眩い光が消えたと思えば、アイゼンとベルベットを背負っているゴンベエが出てきた……のだが、誰とも視線を合わせようとせず俯いており、声に覇気もなにも感じない。棒読みというよりは無気力な感じの声を出している。

 

「……うん?ライフィセットは何処だ?」

 

「……あいつが居ない?まさか、まだあっちに」

 

「それはない。

あの時、オレ達全員が光に飲み込まれた。考えられるのは、オレ達と違うところに出た……一緒の光だ。恐らくは近くにいるはずだ」

 

「なら、探すわよ。ゴンベっ!?」

 

「感情的になって血圧を上げるな。

とにもかくにも、お前は血を作らないとなにも出来ないだろう」

 

「……」

 

 ライフィセットの居場所に心当たりがあるのか急ごうとするベルベット。

 ゴンベエの名前を大声で呼ぼうとした途端、頭痛が走ったのか頭を抑えた。

 

「ベルベット、ライフィセットだけが居ないことや、今まで何処に居たのかを話してくれ。

血圧についてはよく分からないが、少なくともあの時ベルベットはお腹を貫かれた。血を多く失っている……少しぐらいはゆっくりした方が良い」

 

「アメッカの言うとおりだ。

休むタイミングを逃すのは命取りだ……少なくとも、今は休むのが一番だ」

 

「……分かったわよ」

 

 私やアイゼンに休めと言われ、ライフィセットを探すのを一時中断する。

 一先ずは地面に腰を降ろすアイゼン達。ベルベットもゴンベエから降りて座ろうとするのだが、尻餅をつく様にペタンと倒れてゴンベエの肩に寄り添う。

 

「辛いなら、別に寝転がっても良いんだぞ。

あっちで狼になってるオレを枕代わりにして寝ても大丈夫、だから……」

 

「……なにがあったんだ?」

 

 血を多く失い、何時気絶してもおかしくない状態なのかベルベットに何時も以上に優しいゴンベエ。

 ベルベットの方もベルベットで、なんだかよそよそしい感じで……いったい、私達と離れている間に何があったのだろう?

 

「アイゼンが、レイズデッドとかいう便利な術を教えなかった……」

 

「……すまん。レイズデッドは使えるだけで使ったことはなかった。死神の呪いで何かしらのアクシデントが起きるならと思って」

 

「結果的にはアクシデント以上のアクシデントが起きたじゃねえか……」

 

「っ……あんたね、私の……がアクシデントだって言うの?」

 

「オレだって、もうちょいムードあるシチュエーション欲しいんだよ……こう言うのって大事なんだよ!!」

 

「うるさい」

 

「あ、はい、すいません」

 

 私達と一切目線を合わせずに、会話をする三人。

 アイゼンとゴンベエはベルベットに対して強く出れず、小さく縮こまっている。

 

「で、なにがあったんだ?」

 

「……え~、此処とは全く違う場所に行きまして、そこでベルベットの心臓が止まりましてなんやかんやで復活しました。ベルベットはとりあえず血液の失いすぎで終わりまして……え~ライフィセットくんにですね、問題が発生したんですよ。あの女退魔士、ライフィセットくんに命令をして無理矢理体を動かそうとしていたの見てましたよね?」

 

「……なんやかんやになにがあった?」

 

「触れるな」

 

 未だに私達に一切目線を合わせないゴンベエ。

 なにやらとてつもなく大事な部分を折っており、ライフィセットがどうなったかと話題を変えていこうとしている。その事について聞こうとするとアイゼンが首を横に振る。

 

「今はそれよりもライフィセットだ」

 

「それより?確かにあの子の方が大事よ。

だけど……あんたがそれよりって言う資格があると思ってるの?」

 

「……」

 

 蛇に睨まれた蛙の様になにも言えないアイゼン。

 なにも言わなかったのでもういいとベルベットは起きたことを説明してくれる。

 私達が入った穴は地脈に通じるものの様なもので、世界の至るところと繋がっている地脈を経由して遥か遠くの場所に出た。だが、ゴンベエ達は何故か私達と同じ場所でなく中間点とも言うべきところに出てしまった。

 そこまでならまだよかった(よくない)が、どうも女退魔士の命令に逆らった際にあの女退魔士との契約が切れてしまった。清浄なものを器としなくなった為にライフィセットは放置していれば憑魔化しそうになった。

 最初はゴンベエを器にしようとしたのだが、器にしようとする際になんらかの力が働いてゴンベエがライフィセットを受け入れず弾いた。

 マギルゥがおらず、どうすることも出来ないそんな時にエレノアが現れて、一時停戦で一先ずはとライフィセットの器になった。

 

「私達の居ないところで、そんなことがあったのか……」

 

「ちょうどあの女が契約の詠唱を終えたところで、光に飲み込まれて……今に至るわ」

 

 私達の居ないところで、大変なことになっておりライフィセットが憑魔になりかけたなんて……短い付き合いだが、幼いライフィセットと戦うことはしたくはない。

 

「で、なにがあったんじゃ?」

 

「だから、あの子が危うく業魔になろうと」

 

「いやいや、そっちじゃない……ゴンベエとなにかあったんじゃろ?」

 

 大体の事情は分かったが、それだとゴンベエとベルベットのおかしな態度が分からない。

 マギルゥはその事について根掘り葉掘り聞いてくるのだが、無言を貫く二人。

 

「ゴンベエ」

 

「なにも……あ、あの女退魔士が後で勝負しろって決闘を挑んできたぞ。誰が出る?」

 

「あたしが」

 

「お前はダメだ。普段の半分も動けない状態なんだ、その辺に居る憑魔も相手にするなよ」

 

 話題を反らしているな。

 

「マギルゥ、なにか分かるか?」

 

「ワシは探偵じゃなくて、魔女じゃぞ?しかーし!!ワシはハッキリと聞いたぞ、のぅ、ビエンフーや!」

 

 私と同じぐらい知りたがっているマギルゥに聞けば何かに気付いており、ビエンフーが姿を現す。

 

「はい、でフ!ゴンベエはアイゼンに対してレイズデッドと言ってたでフ!」

 

「レイズデッド、それはいったい……」

 

「聖隷術の中でも特に難しい術で、死んだ人を生き返らせる術でフよ!」

 

「死んだ人を生き返らせる!?」

 

「正確には死んで間もない五体満足なものを生き返らせる術じゃの。

肉体に刺激を与えても全くと言って反応しなかったりする状態じゃと無理なもので、まぁ、要するに三途の川を渡る寸前で逆戻りさせる術じゃ!」

 

 そんな術をアイゼンは使うことが出来るとは……。

 改めて天族の凄さを感じる私だが、直ぐに大変な事になっていたと気付く。

 

「レイズデッドを出したということは誰かが死んでいたと言うことなのか!?」

 

「っ、ええそうよ!血を大量に失ったお陰様で心臓が止まったわ!危うく死にかけたわよ!」

 

「ベルベット、騒ぐな。傷口は塞がってるとはいえ、興奮して血圧を上げるとどうなるか」

 

「あ?」

 

「す、すみませんでした」

 

 蛇に睨まれた蛙のように大人しいゴンベエ。やはり、なにかあったな。

 

「つまり、こう言うことだな。

ベルベットが一度、死んでしまってゴンベエ達がそれを発見して、アイゼンがレイズデッドを使った」

 

「この感じからしてゴンベエ達がベルベットを発見してアイゼンがレイズデッドを使うまでになにかあったでフよ!」

 

「あんたら、いい加減にしろ!」

 

 ロクロウとビエンフーが纏めるとキレたベルベット。

 腕を憑魔に変えて襲いかかろうとするのだが、上手く立ち上がれずにふらついてしまう。

 

「お前等、流石にそれ以上はやめろ。ゴンベエとベルベットの威厳に関わる」

 

「……」

 

「アメッカ、そんなに睨んでもベルベットもゴンベエも教えん。オレも教えない」

 

 二人の秘密がどうしても知りたく、気付いたら睨んでいた……いったいなにが。

 

「これ以上は無しよ、無し。

それよりもあの女を見つけないと……私達とアメッカ達が一緒の場所に出たのなら、あの女も何処かに居る筈よ」

 

「おう!、っと、そういやここって何処なんだろうな?見た感じ遺跡みたいだが」

 

 ライフィセットの器となったエレノアを探すことになり、歩き出す私達。

 余り気に留めていなかったが、今いる場所の詳細についてロクロウが気になり、声に出すとアイゼンが色々と説明をしてくれる。

 

「っ、離しなさい!」

 

 聖主について色々と教えてくれ、細かい解説をマギルゥがしてくれて何時もならば集中して聞くのだが今は耳に入らずベルベットとゴンベエに目が向いてしまう。

 

「離しなさいって、真っ直ぐに歩けてないだろうが。

この辺はデコボコしてたりするんだから、ほら、今も蹴ってるぞ」

 

「左を使わないでよ」

 

「戦闘も禁止だっつってんだろ」

 

 足元が覚束無いベルベットに肩を貸すゴンベエ。

 包帯が巻かれた左腕を掴み、肩を貸しておりベルベットは物凄くイライラしてしまうのだが貧血の為に頭痛に悩まされてしまう。

 

「ねぇ、1つだけ聞いて良い?」

 

「答えれる範囲内ならな」

 

「……あんた、アルトリウスを倒せたの?」

 

 導師アルトリウスはとてつもない強さを持っていた。

 それこそマルドラン師匠をも遥かに上回るほどで、ベルベットを赤子の手を捻るかの様に倒した上でまだまだ底を見せていなかった。

 

「あんただけがアルトリウスの力に気付いていた。

それと同時にあんただけがアルトリウスを傷付けることが出来て、底を見せなかった」

 

「ベルベット……オレ達はただ見に来た、知りに来ただけで戦争とか復讐とかしに来たわけじゃない」

 

「……そう。そういえば、そうだったわね」

 

 あくまでも私達は過去に色々となにがあったのか色々と知るべくこの時代にやって来た。

 ゴンベエならばどうすることも出来たが、ベルベットの復讐相手でゴンベエの戦う相手ではない。あくまでも、この場に居るのは仲間というよりは協力者の様な関係であり、利害が一致しているから一緒に居る……そういう関係の筈だ。気のせいだが、ベルベットがゴンベエを頼ろうとしてる。だが、あくまでも利害が一致しているから私達は一緒に居る。そうだね、うん。

 

「って、結局外に出ちまったな」

 

 道中出てくる憑魔を倒しながら遺跡を周り歩き、遺跡を出た私達。

 同じところに出ているのならばエレノアと遭遇すると思っていたが、遭遇することはなかった。

 

「俺達、遺跡をグルリと一周をしたから、違うところに出たのか?」

 

「そんな筈はない。あの女退魔士はオレ達の近くに出た。なら同じ地脈から出るはずだ」

 

「じゃが、何処にもおらんのぅ」

 

「いや、近くに居るぞ……めっさ気配感じる」

 

 外に出てもエレノアの姿は見当たらず、違うどこかに行ったのでは、逃げたのでは、と色々と考察するロクロウ達。

 ゴンベエは何処かに居るエレノアに気付いているようで、目を細めると近くの岩陰に隠れていたエレノアが現れる。

 

「てっきり逃げたと思ったわ」

 

 ゴンベエの肩を借りるのを止めて腕を組み、嫌味を言うベルベット。

 

「その事については申し訳ありません。

貴女達と同じように出ましたが場所が違いましたので、外に出て待たせていただきました」

 

「ライフィセットは?」

 

「私の中で眠っています。容態は落ち着いたようです」

 

 この場に居ないライフィセットの容態を教えてくれるエレノア。

 それを聞いて私は少しだけホッとするのだが、ベルベットは冷たい目でエレノアを見つめる。

 

「エレノア、だっけ?

あたしが勝ったら、器として死ぬまでしたがっ」

 

「危ない!!」

 

「セーフだ!」

 

 一歩前に出て、決闘で勝った時の内容を語ろうとするベルベット。

 足に力が上手く入らずに盛大なまでにコケそうになりエレノアが叫び、助けようとするのだが、その前にゴンベエがベルベットの右腕を掴んで胸元に引き寄せる。

 

「病み上がりとかいうレベルじゃないんだ」

 

「だったら、あんたが代わりにやりなさい!!」

 

「え~……」

 

「じゃあ俺がやろうか!一等の退魔士とやる機会なんざ早々に無いからな!」

 

「お前は喜ぶな!」

 

 戦えないベルベットは代打としてゴンベエを出すのだが、嫌がる。

 ロクロウはじゃあ自分がと挙手をするが、今はその時じゃないから黙っていて欲しい。

 

「アメッカ、パス」

 

「ゴンベエ、ベルベットは病み上がりとかいうレベルじゃないんじゃないのか?」

 

「……気にすんな」

 

 軽く勢いをつけてベルベットを引っ張り、私へとパスするゴンベエ。

 さっきまで怪我がどうのこうのと言っていた相手を雑に扱うのはダメだぞ。

 

「と言うことで、不本意ながらオレが相手だ」

 

 ここ最近は裏で色々とやっていたりした為に真正面からの戦闘は久々なものの、ゴンベエならば大丈夫だと言う安心感があった。

 

「貴方が相手ですか」

 

「ああ……オレを倒したら、次の相手を選べよ」

 

「え!?」

 

 え?

 

「いや、当然だろ。

お前はオレ等を捕まえたり斬らなアカン立場やろ?

当初の流れはベルベット倒せばベルベットの命を貰う。負ければ、死ぬまで言うことを聞いてやる条件だ。

お前が仮に万全の状態のベルベットを倒したとしてベルベットの命とライフィセットしか手に入らず、残りのオレ達はなんも無いんだぞ?」

 

 間違ってはいないが、人として間違っているぞ。

 

「まぁ、確かにそうだな。

俺が負けて死ぬのならまだしも俺以外が負けて死ぬのは気に食わん。ゴンベエが負けた場合は俺だな」

 

「こういったやり方は少々思うことはあるが、そうしなければならないのがお前達のルールだ。ロクロウが負ければオレが相手をしよう」

 

「お主等が負ければワシか。うむ、連戦に続く連戦ならば余裕じゃわい!」

 

「……良いでしょう!!元より貴方達を倒さなければなりません!!4人だろうが100人だろうが幾らでも相手になります!!」

 

 段々と話が脱線していき、当初ならばエレノアとベルベットの決闘の筈が何時の間にやらエレノアの四人抜きという不利な条件へと塗り変わっていた。

 

「アメッカ、ベルベットのと一緒にお前の命もチップインさせて貰うぞ」

 

「ああ……頑張れ」

 

「ああ、頑張る」

 

 私はエレノアと戦うことは出来ない。だから、応援するよ。頑張れ。

 ゴンベエがバキバキと腕を鳴らし、一歩前へと出ると手を出すまいと私達は一歩後退をする。

 

「あの女の命を賭けて、よろしかったのですか?」

 

「構わない」

 

「っ、ゲスめ……」

 

 ゴンベエを強く睨むエレノアの目には怒りや憎しみといった負の感情でなく、軽蔑の視線を向ける。

 

「ゲスく無いだろう。なんでそんなに怒っている?」

 

「業魔とはいえ、死んでいる女性の胸を触り、顔を近づけあろうことか唇を奪った男は女の敵です!!」

 

「テメェ、それは言うなって出る前に言ったやろ!!」

 

 エレノアはゴンベエの拳による一撃を顎にくらい意識を奪われ気絶をした。




スキット ホワイトかめにんvsゴンベエ&アリーシャ

かめにん「トータス!トータス!」

アリーシャ「あれは……」

かめにん「あ、らっしゃいっす!!」

アリーシャ「かめにんさ、ん……で間違い無いのか?」

かめにん「かめにんはかめにんっすよ。それよか、さんは止めて欲しいッスね。ちょっとむず痒い」

アリーシャ「そうか。ところで、こんな人気の無い場所でなにをしているんだ?」

かめにん「人気の無いところで出来る商売っすよ。
こういうところは危険でケガもしやすいので、アップルグミなんかが重宝っするっす!」

アリーシャ「つまり行商人というわけか……現代では見掛けなかったな」

かめにん「なにか言ったすか?」

アリーシャ「な、なんでもない!」

ゴンベエ「アリ、じゃなくてアメッカ、なにしてるんだ?」

アリーシャ「行商をしているかめにんを見つけた。なにかアイテムを切らして無いか?」

ゴンベエ「その辺の管理はベルベットがしてるから、知らん」

かめにん「ウゲェッ!」

アリーシャ「どうかしたのか?」

かめにん「い、いえ、なんでも無いっすよ。
お客さんが、自分の商売の邪魔をする適性価格で販売させてくれない方達を知り合いなんてちーっとも知らなかったっす」

ゴンベエ「アイツ等、揺すってるのか……因みにアップルグミ1つで幾らなんだ?」

かめにん「600ガルドっす」

アリーシャ「600ガルド!?アップルグミが6個も買える値段じゃないか」

ゴンベエ「ぼったくりにも程があるだろ!」

かめにん「いやぁ、そう言われましてもこういう場所に足を運ぶにはそれなりに経費が嵩みまして」

ゴンベエ「高い。10個で600ガルドに負けろ」

かめにん「無理っすよ!!そんなのしたら首が回らなくなってしまって」

ゴンベエ「ところで話は変わるが、ベルベット達にも売ったのか?」

かめにん「唐突っすね!あの方達はもう、相手にしたくは無いっす」

ゴンベエ「つーことは売ったんやな……」

かめにん「まぁ、そうなるって、お客さまの情報は聞いたらダメっすよ!信頼に関わるっす!」

ゴンベエ「いやなに、ちょっと気になってな。
アイフリード海賊団の副船長という国が捕まえないといけない賊の一味にアイテムを売ってるんだな、お前は」

かめにん「ど、どきーん!」

ゴンベエ「犯罪者の犯罪活動の手引きをしたことになるな、うん」

かめにん「……アップルグミ、1つで60ガルド、如何っすか!!」

ゴンベエ「高い、どうせなら半額にしろ!」

かめにん「うぅ、今までで、一番最悪な人っす」

アリーシャ「……このかめにん、何処かで見覚えがあるような」


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はじめてのチュウ。眠れる夜、君のお陰だよぉ。

マジで久しぶりすぎて駄文になった。とりあえずはリハビリがてらにイチャつかせたい。


「ゴンベエ、エレノアを背負うんだ。ベルベットは私に任せてくれ」

 

「……はい」

 

 女対魔士改めエレノアを一撃で倒し、脳震盪で気絶をさせた。

 これにより決闘はオレが勝った事になり、エレノアはライフィセットの器としてベルベットに死ぬまで従う事になったのだが、アリーシャが怖い。いや、堂々とセクハラをしていたと知られれば怖くもなるな。

 

「ワシらの知らぬところでちちくりあってたとは意外じゃの。ゴンベエにはアメッカが」

 

「ゴンベエの名誉や、ベルベットの女としての威厳もあるから言っておくがアレはそんなんじゃない。

胸骨を圧迫し血液を無理矢理循環させるもので、性的な事は一切していない。それどころか、物凄く慌てていたんだ」

 

 ベルベットの心臓が止まってると分かるとオレは慌てた。

 アイゼンは直ぐにライフボトルさえあればどうにでもなると道具が入った袋を取り出すのだが何故か穴が空いており、ライフボトルだけが失くなっていた。

 段々とベルベットの血の気が無くなって来ているのを感じたオレは直ぐに心肺蘇生法をした。

 

「アイゼンがレイズデッドとかいう便利な術が使えた癖に、使おうとしなかったのが悪い」

 

「……すまん」

 

 心肺蘇生法の結果は心臓は動き出したのだが、暫くすると止まると言う喜べない事態。

 AEDがあれば蘇らせることは出来たのだろうが、そんなものはこの世界の何処を探してもなくオレも作っていないので、どうしようもなかった。諦めずに心肺蘇生法を繰り返すも、心臓が時折動くだけでベルベットの意識は目覚めず、よくよく考えればそんなにしなくても良い人工呼吸をしている際にアイゼンがレイズデッドを掛けてベルベットが生き返った。

 

「最悪のタイミングで使いやがって」

 

 人工呼吸をしている際にレイズデッドを使ったので、空気を送ってる時に目覚めた。

 ベルベットは直ぐにオレを殴り、なにをしていると叫び自身の乱れた服装を見て、殺しにきた。

 

「アイゼン、謝る相手が違うわよね?私に謝るのが道理よね?」

 

「……悪かった」

 

「……今日はそれで勘弁してあげるわ。それよりも大丈夫なの?」

 

「軽く脳震盪をしてるだけだ」

 

「そいつじゃないわよ、ライフィセットよ」

 

 エレノアを指差して安否を聞いてくるので、容態を答えたのだがエレノアの安否を一切していない。ライフィセットの事だけを心配している。

 

「あの子は力になるわ……此処で死なれたら、困るのよ」

 

「っ、ベルベット!ライフィセットは君のものじゃ」

 

「アメッカ、違うぞ」

 

「?」

 

「あの子は私なんかの為に必死になってくれたのよ。死なないで欲しいわと言ってるんだ!」

 

「お前は死ね!!」

 

 ベルベットの素直な気持ちを代弁してあげただけだ。

 口ではああだこうだ言ってはいるが、ライフィセットを心配しているのが丸分かりだ。

 

「僕は大丈夫だよ、ベルベット。ゴンベエ、下ろして」

 

「ん、了解」

 

 ベルベットの素直な気持ちが分かるものの、ライフィセットの安否が分からないと思いきや発光して動き出すエレノア。

 口を動かしておらず光からライフィセットの声が聞こえ、なにをしているのかなんとなく分かったのでエレノアを降ろす。

 

「ライフィセット、なの?」

 

「うん、そうだよ」

 

「エレノアの体を操ってるのはなんとなく分かるが、スゴいことになってるぞ」

 

「え!?」

 

 白い目でエレノア(ライフィセット)を見つめるロクロウ。

 どういうことかとマギルゥが鏡を取り出してライフィセット(エレノア)に見せると、口からヨダレを垂らし、白目を向いているエレノアが写っていた。

 

「脳ミソ揺らしたから、無理に動いたらダメだ」

 

「ご、ごめん……」

 

「別にそいつがどうなろうと構わないじゃない」

 

「ベルベット、なにを言ってるんだ?

器となる人や物が穢れれば、器としている天族も巻き込まれてしまうんだぞ?」

 

「なんですって!?」

 

 エレノアを雑に扱うベルベットに、器だという事を忘れていないかとアリーシャが補足する。

 詳しい説明をアイゼンはしていなかったのでベルベットは強くアイゼンを睨むのだが、器になればそれで終わりと言う都合の良いことなんて無いだろうと自身が器にしているコインをコイントスをした。

 

「ベルベット、生きてくれてありがとう」

 

「……あんたこそ、無事なんでしょうね?」

 

「今、外には出れないけど大丈夫だよ。多分、僕よりもエレノアの方が重症だと思う」

 

「やりすぎたか……」

 

「いんや、違うの。人間が聖隷の器となれば、体調が悪くなる」

 

「マギルゥ姐さんの時もそうだったでフね」

 

「そういえば、スレイの時も三日ほど意識を失っていたな。ベルベット、君の体調のこともある。一度、遺跡に戻ろう」

 

 器となるエレノアや胸骨圧迫で肋をやっているベルベットの体調を考慮し、来た道を逆走するオレ達。

 遺跡内部の憑魔は出てくる前に倒しているので、安心して休むことが出来る。外に何時でも出れる大きな場所につくと、今日は休むことにし野営の準備をする。

 

「お前等は寝ておけよ」

 

 一応の為に、ベルベットに釘を刺す。

 ベルベットも寝ないとダメな容態だからな。

 

「エレノアの隣に並べないでよ……」

 

「じゃあ、焚き火を間に挟むか?」

 

「もういいわ」

 

 諦めろ。諦めることは諦めないことと同じぐらいに大事なんだ。

 ベルベットとエレノア(ライフィセット)を寝かせると、薪を拾い、木屑をファイヤーピストンで着火し、火を炊く。

 

「業魔に聖隷に魔女にわけわからん奴に続いていて対魔士か、旅は道連れと言うが随分と厄介なものを引き込んでしまったな」

 

 皮肉ってもカッコよくねえぞ、アイゼン。

 

「それで、これからどうするつもりだ?」

 

 周りに敵もおらず場の空気も暖まり、アリーシャが今後について聞く。

 

「決まってるじゃない。アルトリウスを殺す」

 

「……そうか」

 

 ベルベットの目には諦めるというものは無く今まで通り憎悪の念を燃やす。

 アリーシャはやっぱりかと納得をしたのだが、ベルベットは更に続ける。

 

「だから、カノヌシの正体を、なにをしようとしているのかを知るわ」

 

「!……そうか」

 

 憎悪の念を燃やし続けていたベルベット、アルトリウスに負けたことやライフィセットのこともあるのか変わろうとしている。いや、逆か。憎悪の念を燃やすのを止めて素に戻っているか。

 暴れるだけの感情を抑制する姿を見て、アリーシャは一先ずはホッとする。

 

「しかしカノヌシとはいったい、なんなんだ?書物で少しだけ名を見たことはあるが、詳しいことは載っていない」

 

「オレにも分からん……が、少なくとも並の聖隷ではないのは確かだ。

本物の聖主かどうかも分からないし、それを紐解くことが最初の一歩となる」

 

「じゃあ、こいつに聞けば良いのね」

 

 熱に魘され、汗を流すエレノアを見る。

 あの神殿に居た対魔士は数人で、エレノアもその内の1人。なにか重大な情報を持っている……とは思えないのはオレの気のせいだろうか?

 

「こいつなら、色々と知ってる筈よ」

 

「知っててくれないと困るな。

アルトリウスはまだしも、カノヌシは姿を現していない。流石に姿を現さない奴は斬れん!」

 

 威張って言うことじゃない。

 エレノアとライフィセットが起きるまでは話が進まないと、この話は終わりとなりこれ以上は考えないと休むことになるのだが、アリーシャが無言で見つめてくる。

 

「……」

 

「言いたいことがあるなら、言えよ」

 

「ゴンベエは、ベルベットのはじめてを奪ったのか?」

 

 心肺蘇生法だと何度も説明をしたのに掘り下げるアリーシャ。

 泣きそうな顔をしており、目がうるうると揺れている。

 

「ノーカンでお願いします」

 

 ベルベットははじめてだと言っているが、ノーカンでお願いします。

 心肺蘇生の際に使う道具を作っていなかった事を激しく後悔し、アリーシャと目線を合わせないでいるとアリーシャが距離を縮めてくる。

 

「胸を触ったと言うのは?」

 

「胸骨を圧迫しただけで、揉んでない」

 

「それはつまり触ったり見たりしたんでフか!?」

 

「お前は黙っていろ!!」

 

 言葉遣いが酷くなっているぞ(よくやった)

 ビエンフーを蹴り飛ばすとアリーシャは胡座をかいているオレの足に寝転んだ。

 

「どうした?」

 

「……疲れた」

 

「疲労の度合いで言えば、お前が一番楽な筈だが」

 

「私が一番苦労した。ベルベットが思っていたよりも重かった……今日は色々とありすぎて、精神的に疲れた」

 

 ゆっくりと瞼を閉じるアリーシャ。思えば今日は大変な事だらけだ。

 過去のザビーダに会うし、当時の導師を暗殺しようとするし、危うく死にかけるし、ベルベットは死ぬし、わけのわからないところに出るし、アリーシャが怖くなるし、大変な事ばかりで、訓練してるオレはまだしもアリーシャの心労はとてつもないだろう。

 甘やかすのもどうかと思うが、それでもとオレは動かずアリーシャの髪が絡まない様にする。

 

「あの二人、平然とあんなことをして出来てないんでフよ」

 

「マジか……何処かの国の姫様とチンピラが駆け落ちしたんじゃないかって思ってたけど違うのか」

 

「魔女でも限界なくらいに、胃が甘ったるいわ。はよ、くっつけい」

 

「……ちょっと待っててくれ」

 

 ロクロウ達のこそこそ話が聞こえたアリーシャは立ち上がる。

 今の間に足を入れ換えておかないとエコノミー症候群的なのになるかもしれないとどういう向きにしようかと足を動かしているとベルベットと目線が合う。

 

「あんた、なにやってんの?」

 

「なにやってんだろうな」

 

 なんでこんな事になったんだろうと今更なことを思った。

 

「?」

 

 左手の人差し指をクイクイとするベルベット。

 普通ならば挑発をしてるのではと思うのだが、動くに動けない状態なので近くに来いと言う意味だと思い近付き、正座をする。

 

「なんで正座をするのよ?」

 

「まだ怒っているかと思いまして」

 

 事情はちゃんと説明をしてはいるものの、アイゼンのレイズデッドで蘇ったのでなんとも言えない。

 オレよりもアイゼンを怒るのが道理じゃないかと思ったが、先に手を出したのはオレでありなんも言えん。グーパンかナイトメアクロウか、それとももっと酷い一撃をくらうのかと覚悟を決めていると、ベルベットは大きなタメ息を吐いた

 

「あんたとアメッカはなにかを知りに此処に来たんでしょ?」

 

「ああ……お前達と一緒に居るお陰で色々と見れる」

 

 天族が見れて当たり前の時代。

 スレイの様に天族の力を使っている人達が組織を作っていて、天族は感情を奪われるどころか人権すらなく崇められていない。

 元いた災厄の時代よりも繁栄をしていると言われれば、そう見えるかもしれないが、実際のところは大きく異なっている。

 オレとアリーシャ以外の三人目が誰なのかがまだ分かっていない。いったい、誰なのか?その人物にレコードは届けねえと。

 

「残りなさいよ」

 

「?」

 

「私に最後まで付き合いなさい。今日からあんたは私の下僕1号よ」

 

「……ん?」

 

 色々と低血圧なのか、色々と言っていることがおかしいベルベット。

 最後まで復讐に付き合うのは分かるのだが、下僕1号なのはよく分からない。

 

「人の胸を揉んだり、勝手にキスをしたり、責任を取りなさい。とりあえず、オカリナを吹きなさい」

 

「唐突だな、おい」

 

 こいつ、オカリナを吹いて貰いたいからこんなことを言ってるのか?

 低血圧で頭痛が激しいのか、右手で頭を抑えて痛みに苦しむのだが、直ぐに納まりなにかを思い出して無言になる。

 心臓とかが痛むのだろうかと思うが、ベルベットは無理をしているといった気は感じない。ベルベットにしか分からないなにかがあったのだろうと深く追求しない。

 

「ゴンベエ、なにをしてるんだ?」

 

 顔を真っ赤にしながらも、戻ってきたアリーシャ。

 マギルゥが満足げな表情をしているのを見ると、確実に煽られたな。

 

「血圧が低くて色々と辛いみたいだから、落ち着く音楽を」

 

「そうか。だが、正座だと足が辛くなる、さっきみたいに胡座で座った方がいいぞ」

 

 なにか言ってくるかと思ったが、割と平静としているアリーシャ。

 何時までも正座をするわけにはいかないと胡座に変えると足を枕代わりにして、寝転び目を閉じた。

 

「おやすみ、ゴンベエ」

 

「ああ、おやすみ……♪」

 

 髪の毛を絡まない様にするとすややかに眠るアリーシャ。

 とても心地良く眠っている姿に♪のようなものが見え、リラックス出来ているのが分かる。

 

「ねぇ、ゴンベエ」

 

「ん?」

 

「その状態じゃオカリナは吹けないわよね?」

 

「あ~……」

 

 足を枕にして寝ているアリーシャ。

 オカリナを吹けば大音量で聞こえてしまい、五月蝿いと怒られる。寝ている奴の間近で五月蝿くすんのはぜってー、嫌だ。

 

「アメッカ、ちょっと退きなさい。そこだと喧しくなるの。寝るならばエレノアの横に行きなさい」

 

「……ヤダ…ぐ、ぐー」

 

 体を揺すり、起こそうとするのだが狸寝入りをするアリーシャ。

 普通に嫌だとオレの膝を掴んで離さないようにし、不動を貫く。

 

「グ,グー悪いとは思っているが先に頼んだのは私の方だ。

ゴンベエと関われば色々と驚いたり怒ったりすることが多い。血を失い低血圧のベルベットにゴンベエは毒だ。だから、私がこうして動けないようにしているグ,グー」

 

「寝言になってないわよ。ゴンベエ、ご主人様からの命令よ。アメッカを退かしなさい」

 

「……ご主人様?」

 

「今日からこいつは私の下僕になったわ」

 

「!?」

 

 火に油を注ぐんじゃねえ!!

 アリーシャがクワッと目を見開き、オレを睨んでくるのでオレはどうすべきかと必死になって考える。

 このままいけばアリーシャが暴力系ヒロインの様なことをしてしまう。それだけは困る。耳に噛み付かれる以上の酷いことを、遊戯王の墓守の一族的なことをされる可能性がある。

 どうすべきかとアリーシャの顎を猫の顎を撫でるかの様に撫でて、その場を凌ぐのだがベルベットが早くしろと目で訴えて来ている。

 

「間をとってこうするか」

 

 二人の間を取る方法を思い付いた。

 アリーシャには申し訳無いが、ベルベットと少しだけ距離を開いてもらい、ベルベットとアリーシャの間にオレが寝転び、右手でベルベットの左手を、左手でアリーシャの右手を掴む。

 

「なによ、これ」

 

「二人の間を取った結果がこうなった」

 

 二人の間を取ったというよりは、二人の間に寝ただな。

 ベルベットはジト目でオレを見つめてくるので、右手を離してみると強く握ってくる。

 オカリナを吹けと文句は言わないのか?と聞けば、色々と言われそうなのでなにも言わずに強く握るとベルベットの握る力が弱くなった。

 

「ライフィセット、表に出れるようになったらベルベットの右手を握ってやれ。

ずっと握り続けると大変なことになるから、苦しそうな顔をしている時に数分間だけ握ってやれ……疲れた、眠る」

 

 オレはゆっくりと瞼をおろし、眠りにつく。

 

「……どうしてこうなるのかしら?」

 

「嫌ならば、手を離せば良いじゃないか」

 

 オカリナを吹かせる筈が、川の字の様に寝ている状況になんとも言えないベルベット。

 アリーシャはこの状況に不満も違和感もなく、何時もの様に距離を詰める。

 

「別に、嫌じゃないわよ……ただ、間違えて喰い殺さないか心配なだけよ」

 

「その割には調子が悪そうじゃないか」

 

 オレが居るせいで、色々と調子が狂うベルベット。

 脅迫ネタを手に入れて手綱を握り都合良く利用してやろうと思えば一瞬にして形勢逆転されてしまう。

 オレに心の内側を見透かされているのか、優しくされるのに馴れていないのか、それとも心の傷を癒したいのか、どれなのかは分からないが、ベルベットは仮眠を取っている間、オレの手を離すことはなく、悪夢には苦しめられなかった。




ゴンベエの称号


災禍の顕主の下僕1号


説明

その名の通り、災禍の顕主の下僕1号。心肺蘇生法をセクハラとされ、恐喝された末に成った。
災禍の顕主の心臓が止まっており、ライフボトルも切れていたので心肺蘇生法で頑張ってたら死神がレイズデッドを使ったので、胴体裸に加えてキスをしている際に目覚めちまった。
心肺蘇生法を全くといって知らない彼女は、目覚めた瞬間にキスをされて何事かと思い、状況を確認すれば上半身は丸裸で、大怒り。とりあえず、死神と勇者には拳骨を一撃与えた。
しかし、女を捨てて復讐鬼に成り果てた災禍の顕主の乙女心に大打撃を与えた。尚、心臓が止まっていたので心肺蘇生をしたと知ったのでノーカンとカウントせずに、お前に対して心を許しているぞ


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優れた文明の利器の原理等は100人中98人は説明は出来ないが、なんとなくで使える

「……!?……そうだった」

 

 目を覚ますとゴンベエの顔が間近にあり、驚き思わず叫びそうになるのだが直ぐに顔が間近にある理由を思い出す。

 色々とあり疲れた私がゴンベエの膝を借りて寝ようとしたらベルベットに奪われて、最終的には3人で寝た……私、今、思い返せばとてつもなく恥ずかしい事をしてる。

 

「場所が場所だけに寝相が悪くなる」

 

 何時もはもう少し距離がある筈なのに、今日は思わず叫びそうになる程に距離を詰めており寝る前に握っていた手を離している。

 私自身の寝相がどういったものなのかはわからないが、これからの事を考えればゴンベエがちゃんと眠れない。ゴンベエがちゃんと眠れるなにか良い方法は無いかと体をゆっくりと起こし、ベルベットの方を見る。

 

「包帯……」

 

 左腕を憑魔化させていない時に何時も付けている包帯を巻き付けてゴンベエの右手を固定しているベルベット。

 この手があったかと思ったのだが、これはベルベットにしか出来ない手段で一瞬だけ手錠をつければと誘惑されるが、投獄された苦い思い出があり、それはやめようと踏み留まる。

 

「……ベルベットの方が大きい」

 

 ついでにベルベットの胸元に目がいってしまう。

 現代でも中々に見ない破廉恥な格好であり、度々ゴンベエも触れている大きな胸。あれがゴンベエを誑かせる悪の象徴……ベルベットは色々と気にしていないが、何時になったら普通の格好をしてくれるのだろうか?今後のことも考えて言って……いや、ダメだ。普通の格好をしろと言えば、ゴンベエと買い物に行く。そういう約束だ。

 

「ウー……」

 

「アメッカ、起きてるの」

 

「ラ、ライフィセット!?」

 

「僕、だけど……どうかしたの?」

 

 どうすれば良いのかと考えているとライフィセットが声をかけ、驚いて体を跳ねあげる。

 幸いにもベルベットもゴンベエも眠ったままでホッと一息つく。

 

「もう、体の方は大丈夫なのか?」

 

「うん、もう大丈夫だよ。僕もエレノアも」

 

 ライフィセットにそう言われ、寝ているエレノアを見る。

 スレイはライラ様の器となった際は数日間熱を出して気絶していたが、たった数時間で治るなんて、スゴいな……器にすらなれない私とは大違いだ。

 

「ん……」

 

「「!?」」

 

 自分と比較していると、目覚めるエレノア。

 起きていることは悪い事ではないのに、何故か私は寝ているフリをしてしまい、ライフィセットはエレノアの中に戻ってしまう。

 

「……ここは、遺跡の内部です、ね」

 

 辺りを見回すエレノア。

 此処が何処か分かると、意識を失う前までの出来事を思い出して苦い顔をし、寝ている私達に視線を向ける。

 

「未熟……なんたる未熟!!」

 

 導師を殺そうとした賊との戦いにあっさりと破れ、殺されもせずに解放された己を恥じる。

 私達は敵であり倒さなければならない相手だ。憎むべき敵とも教えられていると考えれば、解放されたことは屈辱的なものであり、顔に出ているのか顔を隠す。

 

「……」

 

「!」

 

 槍を手に取り立ち上がるエレノア。

 私達の方へ近づいてくる……まさか、寝ている私達を闇討ちで殺すつもりなのか!?

 

「っ……」

 

 そうはさせないと止めようと起き上がる前に踏み留まるエレノア。

 

「決闘を持ち掛けたのは、私です。そして負けたのも私です。

勝ったのは彼等であり、負けた私は従うのは道理……闇討ちをすれば、それこそ私は荒れ狂う業魔も同然です」

 

 自分は違うと否定するエレノア。

 

「……お許しください、アルトリウス様!」

 

「っ、なにをしているんだ!!」

 

 刃を自身の首元に向け、自決しようとするエレノア。

 それもダメだと起き上がり止めにいくのだが、間に合わない!このままだと、命を断ってしまう!!

 

「ダメ!!」

 

 止めにいくのが間に合わず、首を斬ろうとした瞬間、エレノアが発光する。

 正確にはエレノアの中に入ったライフィセットがエレノアの動きを抑制している。

 

「なにをしているんだ!!

ゴンベエに負けて介抱されたことが屈辱的なのは分かる。闇討ちをしようという気持ちを踏み留まったのに」

 

「あ、貴女、起きていたんですか!?」

 

「起きていた……ライフィセット、そのまま動きを抑えてくれ」

 

「うん」

 

「なにを」

 

「危ないものは取り上げさせてもらう」

 

 エレノアの服に手を入れ、隅々まで探る。危険なものがあれば、取り上げる。そうじゃないと死のうとする。

 

「ど、何処を触っているんですか!?」

 

 身体中の隅々まで調べるが、命を断てそうなものは槍しかなかった。

 

「これは取り上げさせてもらう」

 

「っ……分かりました」

 

「ライフィセット、もう解除してもいいぞ」

 

 エレノアから槍を取り上げ、ライフィセットにエレノアの拘束を解除させる。

 

「……聖隷が、人を操るだなんて」

 

「……ん?普通、じゃないのか?」

 

「普通じゃありません!」

 

 動きを抑制されたことに驚くが、普通なんじゃないだろうか?

 神衣という天族と一つになる技術があり、ライフィセットは天族で今はエレノアの中にいる。

 

「天族は私達人間よりも遥かに優れた力を持っているんだ。

ライフィセットは聖寮とやらがA級と定めている強い力を持っている。それぐらいは、できるんじゃないのか?」

 

「天、族?」

 

「聖隷の事だ。私達のじ……じ、地元では、そう呼んでいる」

 

 危うく時代と言いかけたものの、なんとか上手く誤魔化す。

 

「熱は、納まったみたいで良かったよ」

 

「器に死なれては困るからですか?」

 

 キッと私を強く睨むエレノア……そう、なるな。うん、頑張らないと。

 

「違う。私やライフィセットは純粋に心配をしているんだ」

 

 ベルベットはゴンベエやエレノアを便利な道具扱いをしているが、私は違う。

 導師を殺そうとした者達に加担したと言われれば、その通りだと言うしかないが、とにかく違うんだ。

 私の言葉に共鳴するかの様にライフィセットがエレノアの中から出て来て、良かったと微笑む。

 

「……何故、貴方達は業魔と一緒に居るのですか?」

 

「僕は、ベルベットと一緒に居たいから一緒に居るんだよ」

 

 ライフィセットがベルベット達と一緒に居る理由を聞くと、驚く。

 

「業魔、ですよ?」

 

 穢れた末に至る存在、業魔。

 ベルベットはそんな業魔で、ライフィセットは穢れに弱い天族。本来ならば一緒に居てはならない存在である。

 

「分かってる……でも、関係無いよ。

僕はベルベットに死んで欲しくなかった。だから、テレサ様の命令に逆らったんだよ」

 

 ベルベットといればどうなるか?

 最後は私にも分からないが、少なくともこれから色々危険な目に遭い、ロクな事にはならないのは分かっている。それを分かった上でライフィセットはベルベットと歩む。

 その気持ちに嘘偽りはなく、戸惑いを隠せないエレノアは私に視線を向ける。

 

「私は色々と知るためだ」

 

「色々、ですか」

 

「ああ……例えば、導師アルトリウスがなにをしているか」

 

 何故、今の時代まで負の連鎖は続いているのか、他にも色々とあるが今はそれを知りたい。

 戦っていない私だが純粋な剣技だけでも規格外の強さを持っている。ベルベットは家族の命を奪った憎むべき存在だが、なにも知らない人から見れば優れた人格者に見える。無知だった頃の私が見れば、きっとそう見えただろう。

 

「それは、その……」

 

 私の質問に答えれず、言い淀むエレノア。

 

「それは答えたくないのか?それとも答えられないのか?」

 

 私とライフィセットがどうしてと思うエレノア。

 嫌悪感を向けてこないものの、敵同士であることには代わりは無い。

 

「私に答えられなくても、後でゴンベエやベルベットは聞くぞ?」

 

 あのカノヌシがなんなのか知るところからアルトリウスへの復讐をベルベットは再開し、ゴンベエはそれに付き添う。

 ……違う。そう、アレだ。偶然とはいえゴンベエはベルベットの胸を揉んだりしたから仕方なく付き添っているだけであり、ベルベットと一緒に居たいとかそういうのじゃない。悲しいことだが、最後には皆と分かれて元の時代に戻らなければならない。

 

「……」

 

 今度は目線を合わせずに俯くエレノア。

 

「なにをしようとしてるの?」

 

 ライフィセットが真下から目を合わせに行くが、顔を反らす。

 

「答えたくない、ではなく答えられないのか……」

 

「……ハイ」

 

 観念したのか小さく呟くエレノア。

 

「あの場所に居たのは退魔士、とやらの中でもかなりの精鋭の様に思えたが」

 

「確かに、あの場に居たのは退魔士の中でも特に選りすぐりの精鋭です。

ですが、アルトリウス様がなにをしようとしているかは知らされておらず御存知なのは、メルキオル様かと」

 

「……」

 

 エレノアが言った答えに私はどう反応すべきか悩んでしまった。

 反則だが、未来から来ている私はマオテラスが浄化の力を与えたということだけは知っている。故にカノヌシが浄化の力を天族に与えて器となる人に浄化の力を振るわせる……とは、考えづらい。

 もしそうだとすれ。カノヌシの名前が後世にまで残り、天遺見聞録に記されているマオテラスのことが全て嘘となる。

 

「なんで知らないの?」

 

 なにも知らないエレノアに素朴だが答えづらい質問をライフィセットはぶつける。

 

「なにも知らないというわけではありませんよ。

カノヌシの力を使えば、世に蔓延る業魔を打ち倒し業魔病を治すことが出来ると聞いております」

 

「……」

 

「どうやって?」

 

 ますますおかしい。

 業魔病、つまり人が憑魔になるのを病気としているならば治す薬は浄化の力で、それを使う。そうエレノアに伝えれば良い。ただそれだけだ。

 人が憑魔になるのは穢れを多く発したが為で、その穢れを生み出すのが人間の負の感情だ。負の感情が原因で人は憑魔になると、天族も憑魔も見えるのが当たり前なこの時代で伝えれば混乱するだろうが、少なくともそうならないような人物には真実を伝えるべき、ましては憑魔になるのをどうにかしようとしてるならば尚更だ。

 それなのにエレノアはなにも知らない。ライフィセットのどうしてという問いかけに、なにも答えることは出来ない。

 

「どうして、なにも知らないで平気なの?」

 

「それは……」

 

「痛いのに辛いのに、ベルベットはそれでも前に進もうとしていたのが僕は分からなかった。

でも、ベルベットはちゃんと知っていた痛くても辛くても前に進む理由を……僕はその事を知って、(ここ)の痛みは体の痛みよりも痛いんだって知ったんだ。

僕はあの時、余り攻撃を受けなかったけど、とっても胸が痛かった。ベルベットが傷付くのを見て、傷つけられるのを見て、とっても」

 

 自分が知ったことにより起きた変化や心境を語るライフィセット。

 

「だから、教えて。どうしてなにも知らないで平気なの?答えられないなら、胸の中に変なモヤモヤはあるんじゃないの?」

 

「……」

 

 なにをしているのか分からず、かといってなにも知ろうとしないエレノアとなにかを知って、なにかを知ろうとするライフィセット。対となる二人の話し合いはそこで終わった。

 胸のモヤモヤがエレノアにあるのかどうかはエレノアにも分かるかどうか怪しいもので、エレノアはなにも知らないという事に少しだけ疑問を抱き、膝を抱えた。

 

「僕、変な事を言っちゃったのかな?」

 

「それは私にも分からないことだ」

 

 ライフィセットが言ったことが変な事だったかどうかは、誰にも分からないことだ。

 

「エレノアやベルベット達は立場は違えども当事者達だ。

私とゴンベエは居てはならない部外者達だ。そんな部外者から見てもおかしいのは確かだ。どうにかして、真実を知らなければならない」

 

 ここからはその為の旅になる。

 

「……!…少し、失礼します」

 

「何処に行くの?」

 

「……顔を洗いにいきます」

 

「じゃあ、僕も行くよ」

 

「別に逃げたりしたりはしません」

 

「疑ってるんじゃなくて、僕も顔を洗おうかなって」

 

「っ……その、貴女」

 

「アメッカだ」

 

「出来れば、聖れ……ライフィセットを」

 

「……!あ、ああ、そういうことか」

 

 モジモジと足を擦り合わせるエレノア。

 顔を洗いに外に出ようと言うのは真っ赤な嘘で、なにをしたいのか察した。

 

「ライフィセット、エレノアはその、花を摘みにいく」

 

「花?……!」

 

「その、そういうことです」

 

 どういう意味なのかと理解し、顔を真っ赤にするライフィセット。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「いえ、ハッキリと言わない私の方にも問題があるかと……申し訳ありませんが、いかせて貰います」

 

 エレノアは両手で顔を隠しながら、外へと向かった。

 

「あの様子だと逃げることはしないだろうな」

 

「アイゼンさ……アイゼン、何時の間に!?」

 

 エレノアが外へと出ると姿を現すアイゼン。

 

「なにを驚いている?オレ達は昨日、この遺跡で休んだだろう」

 

「そうだったな。姿が見えなくて、つい忘れていた」

 

「ロクロウとマギルゥは?」

 

「あの二人ならば、外の空気を吸いに出てる……オレはお前達が起きるまではこの遺跡の中を調べていた」

 

「そうか……」

 

 この場に居ない面々の事を聞き、冷静になる。

 

「全く、オレが遺跡について説明をしてやろうと言うのに逃げやがって」

 

「あの二人は、そういうのには余り興味は無さそうだから仕方ない。ところで、ベルベット達は起こさなくて」

 

「とっくに起きてるわよ……コイツの変な寝言のせいで」

 

 何時ぐらいに出発するかを聞くと、ひょっこりと体を起こすベルベット。

 意識がぼんやりとはしておらずハッキリと目覚めており、外に出る道を見つめる。

 

「あんた、なに外に出してるの?」

 

「此処でしろというのか!?」

 

「そうじゃないわよ!!あんなの嘘に決まってるでしょ!!」

 

「そう、なのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「外に出て、どうするつもりなんだ?」

 

 エレノアの武器となる槍は取り上げている。

 エレノアが憑魔とまともに戦う為にはライフィセットの力が必要となり、ライフィセットが力を貸そうとせずに拒もうと思えば何時でも拒める。ここの正確な場所は私にも分からないが、人里離れた遠い地なことだけは分かる。

 外に出ても、なにが出来る?

 ベルベットに聞いてみるも、ベルベットは答えなかった。

 

「……なんか、感じる」

 

「どうした、ライフィセット?」

 

「よく分からないけど、地面からなにか伝わってる気がするんだ」

 

 ベルベットが私の疑問に答えを出さないでいると、ライフィセットはなにかを感じる。

 

「地脈を経由してなにかが伝わってるのを感じているのか!?」

 

 アイゼンはライフィセットが感じているものがなにか教える。

 この遺跡と地脈は密接な関係を持っていると昨晩、アイゼンは解説していた。それをライフィセットが感じている。

 

「お前等、あの女を追い掛けるぞ!!」

 

「エレノアは、トイレに」

 

「んなもんは、嘘だ!!」

 

「じゃあなにを」

 

「地脈を経由して聖寮と連絡を取ってやがる!!」

 

「どういうことだ!?」

 

「細かな説明は後だ。とにかく、追い掛けるぞ!」

 

 よく分からないが、大変なことにしてしまった。

 エレノアを追い掛ける為にアイゼンは走って外に出ていく。

 

「あんた、本当に余計な事ばかりして」

 

「っ……ごめん、なさい……」

 

 ベルベットの言葉になにも言えない、言い返せない。

 これで導師アルトリウスが大量の退魔士達を引き連れて私達を襲撃してくれば、全て私のせいだ。簡単に騙されてしまった私のせいだ……。

 

「ゴンベエ、あんたも何時までも狸寝入りしてないで起きなさい!!」

 

「……グー……」

 

「ゴンベエは本当に寝ている」

 

「あんた、危機感が無いの!!早く、起きなさい!!」

 

「おかん、うちは私服やから、今から300数えるからそれまで待ってって何時も言ってんだろ。意識を叩き起こすから、はい1、2」

 

「誰がおかんよ!!」

 

 今の姿は主婦みたいだ。

 寝たフリをしておらず本当に寝ていたゴンベエは寝惚けており、このままだとエレノアが聖寮と連絡を取ってしまう。私達はライフィセットにゴンベエを託してエレノアを追った。




スキット 不思議な不思議な夢

ゴンベエ「ふ、ぁ……眠い、もうちょい寝るか」

ライフィセット「ダメだよ!」

ゴンベエ「この時……ベルベットと出会ってからあんまり睡眠を取ってないんだぞ」

ライフィセット「そうなの?」

ゴンベエ「そうだ……けどまぁ、なんか面倒くさいこと起きとるみたいだから……って、アカンアカン。寝惚けてる」

ライフィセット「ゴンベエって、時折おかしな喋り方をするよね」

ゴンベエ「一応の矯正はしてはいるが、今みたいに寝惚けたりしてると戻ったりする……方言を喋るのはおかしいから極力すんなって言われてるんだがな」

ライフィセット「なんでダメなの?」

ゴンベエ「方言は住んでる土地とかがバレるからだ……まぁ、この世界じゃ関係無いだろうが」

ライフィセット「?……ところで、なんの夢を見ていたの?」

ゴンベエ「なんで夢を見てたって言える?」

ライフィセット「夜中に寝言で魔鏡技!って叫んでたよ。ベルベットはそれで目覚めてた」

ゴンベエ「……ん?」

ライフィセット「どうかしたの?」

ゴンベエ「その魔鏡技ってのはよく分かんねえぞ。夢の内容と一致しねえ」

ライフィセット「どんな夢だったの?」

ゴンベエ「女から逃げる夢だ」

ライフィセット「……なにをしでかしたの?」

ゴンベエ「待て。何故、オレがやらかした前提なんだ?」

ライフィセット「ゴンベエってなにかする度にアメッカとベルベットを怒らせてるから」

ゴンベエ「いや、オレに非は……まぁ、それなりにはある。
けど、それとは全く異なる夢なんだ。ベルベットでもアメッカでもない女から逃げている夢だ……念のために言っておくがな、オレが逃げるんじゃないぞ?オレは逃げている奴を笑って見ていただけなんだ」

ライフィセット「夢だとしても、酷いよ!?」

ゴンベエ「そう思うだろ?でも、これが案外酷くもなんとも無いんだよ」

ライフィセット「どういうこと?」

ゴンベエ「よく分からんが、逃げてる奴は追いかけてる女に好かれていたみたいだ」

ライフィセット「よく分からないのになんでそんなことが分かるの?」

ゴンベエ「最終的に女が男を捕まえる事に成功して、鎖がリード代わりになっている鉄球がついた首輪をつけてたからだ。アレは自分のモノだと言い張ってるも同然の証で、物凄く大事に抱き締めたりキスしてたりしたな」

ライフィセット「そうなんだ……変わった夢なんだね」

ゴンベエ「全くだ。なんか分かんねえけど、顔とかは見えなかったが金髪のスタイルの良い女が逃げようとする男を捕まえようとあの手、この手を……他に変な寝言を言ってなかったか?」

ライフィセット「ヴァイスって言ってたよ」

ゴンベエ「う~ん、分からないな。これはその内、首輪的なのを付けられるという予知夢なのか?」

ライフィセット「ゴンベエに首輪を?ゴンベエは人間、だよね?」

ゴンベエ「キョトンとしないでくれ……後、十数年すればその意味が分かる様になるから」


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浸透してしまった悪い風習は中々に無くならない

「止まれ」

 

 エレノアを追い掛け、外へと出た私達。

 入口付近にエレノアは立っており、声が聞こえる範囲のところでアイゼンが歩みを止めるように指示する。

 

「なんだ、あの光は?」

 

 エレノアの前に突如として地面から出現する光の玉。

 今まで色々とおかしなものやスゴいものを見てきたと思うが、あのようなものを見掛けていない。

 

「メルキオル様の交信聖隷術!?」

 

「交信聖隷術……名前からして、あの光る玉を経由して会話をしているのね」

 

 遠く離れた人と会話をする術。

 戦う術や癒す術、強化する術は見たことあるが、あんな術まであるのか……そういえば、ゴンベエはあれと似たような物を作れると言っていたな。

 もしそれをハイランドに伝えればあらゆる情報戦を有利に進めることが出来てしまう。

 

『メルキオルに地脈を辿らせれば、妙なことになっているな』

 

「っ!」

 

「落ち着くんだ、ベルベット」

 

 光の玉から聞こえる導師アルトリウスの声に過敏な反応を見せるベルベット。

 ここで私達が出れば、もっと大変なことになる。

 

「アルトリウス様、この失態は」

 

『顔を上げなさい、エレノア。お前に導師の特命を授ける』

 

「!?」

 

 自分の失態を悔やみ片膝をつき謝るエレノア。

 謝罪の言葉を特に耳に入れず、状況確認もせず直ぐに自身の用件を述べる。

 

『ライフィセットと名乗る聖隷を保護し、ローグレス本部へと回収しろ』

 

「あの子を……」

 

 今すぐにベルベット達をどうこうしろとの命でなくライフィセットを連れてくる?

 

「あの聖隷を連れて王都へと連れ帰れと?」

 

『ああ……巧みに器となれたのは好都合だ』

 

「ですが、あの者は器である私の身に干渉ができるのですが……」

 

「普通、じゃないのか?」

 

 人間よりも遥かに優れた力を持つ存在と繋がっているのならば、操られてもおかしくはない。

 そもそもで天族にはエドナ様の様に人間を好きになれない方も要れば、ザビーダ様の様な風来坊もいる。

 スレイとミクリオ様の様に信頼しあう相棒の様な関係やライラ様の様に導師を導こうとする天族でなければ目的や行動が噛み合わずに破局する恐れがある。

 

「オレに聞くな……ライフィセットが普通の聖隷でないこと以外は知らん」

 

 アイゼンなら知っているのではと思ったのだが、アイゼンも余り知らないのか。

 

『聖隷が意思を持つならば、その意思を操れば良いだけだ』

 

「操る……」

 

『それと、もう1つ、ナナシノ・ゴンベエについて調査をしてくれ』

 

「ナナシノ・ゴンベエを、ですか?」

 

 ゴンベエについての調査?

 

『あの者とマオクス=アメッカに関する情報がないも等しい。

マオクス=アメッカはただの女だが、ナナシノ・ゴンベエは違う。奴は聖寮を脅かす存在だ』

 

 確かにあの時、不意打ちとはいえ導師アルトリウスに一撃を決めて衣服をボロボロにした。ヘルダルフをその気になれば倒せて簡単に封印するゴンベエを危険視することは当然だ。

 エレノアもゴンベエに一撃でやられた為に危険だと承知し……ライフィセットの時と異なりすんなりと頷く。

 

「あの男は業魔とはいえ、元は女の身ぐるみを剥ぎあろうことかキスをした最低な下衆です」

 

「……そういうのじゃなかったから」

 

 私の居ない間に起きたなにかを許しているのか……。

 

『奴は私でも手を焼く猛者だ。情報収集をし、あらゆる手を用いて始末をしろ』

 

「その命、必ずや成し遂げます」

 

『この二つは導師アルトリウスの名に置いて、特命完遂に必要な如何なる行動も許可する』

 

「!……業魔に従うということですか?

ゴンベエという男はまだ分かりますが、あの聖隷は一体……」

 

『できないのか?』

 

 エレノアの問い掛けに一切答えるつもりの無い導師アルトリウス。

 出来ないのかと軽く圧力をかけるとエレノアは追求せずに真剣な表情になった。

 

「屈辱は所詮、一時の感情。理と意志こそが、災厄を振り払う剣……この命、アルトリウス様の教えに従って使います」

 

 そうしなければならない。

 憑魔であるベルベットに従う事は屈辱だが、それでもとエレノアは割り切り、仕事を成し遂げて見せることを誓う。

 理と意志こそが災厄を振り払う剣……。

 

「その、理と意志が間違っていたら、どうするつもりなんだ……私は間違っていたかもしれないから、此処にいるのに」

 

 この時代と私のいた時代は異なっていることが多い。大陸の形からして違う。

 導師アルトリウスがなにをするか、なにをしているかは分からないが、現代から逆説して考えれば間違った事をしているのは確かだ……。

 私達が知っている事を伝えることは、出来ない……ダメだ、この様にネガティブに考えては。私達はこの時間の人間じゃない。昔は悪くても、未来では良くなる。私とゴンベエはコレからの未来を見なければならない。

 

「……戻るわよ」

 

「良いのか?」

 

 隙あればライフィセットを拐い、ゴンベエの命を奪う。

 その命を命じられたエレノアをこのまま見過ごして、良いのだろうか?

 

「喰ってやりたいけど、アイツは器で喰えないし……ゴンベエなら、殺される事は無いでしょ?」

 

 確かに、そうだが……ゴンベエは戦いの時は頼れる人で、その気になれば災禍の顕主であるヘルダルフをも封印できる。心配する要素はない。

 私達はエレノアに気付かれる前に遺跡に戻り、最初からそこにいた様に見せるべく寝たフリをし、朝を迎えた。

 

「で、これからどうすんだよ?」

 

「そうね……女対魔士、知ってる情報全て教えなさい。教えないというなら、力で吐かせるわよ」

 

 全員の身支度を整え、軽めの食事をした後、遺跡から出た私達。

 歩きながら今後についてベルベットに聞き、ベルベットは寝ていたという体なので、エレノアになにかを知っているかを聞いた。

 

「力とは野蛮な……女対魔士でなく、エレノアです。貴女方が知りたい情報についてはお答え出来ません」

 

「おいおい、まだなにも言ってないだろ?」

 

 ロクロウ、既に私が色々と聞いてしまっている。

 

「教えるつもりが無いのかしら?」

 

 左腕を憑魔化させるベルベット。

 エレノアの見る目がますますと強くなる。

 

「違います。私は決闘をする前に負けた場合は相手に従うという誓約の枷をつけて力を強化しました……」

 

「オレを見るな」

 

 呆気なくゴンベエにやられてしまったな。

 

「貴女達が知りたいのは、アルトリウス様のことやカノヌシの事でしょう。

聖寮がカノヌシを使い業魔を消し去り、開門の日から続く大災厄の時代を終わらせることしか知りません」

 

「どうやってだ?カノヌシが業魔を全て消すというのか?」

 

「そこまでは……その辺りはメルキオル様の管轄で、知っているものはいません」

 

「エレノア、ベルベットやロクロウを見て分かる様に人間が憑魔になることもある。

もし仮にそうだった場合、導師アルトリウスは聖寮を使いカノヌシで大量虐殺を目論んでいることになる……殺すことしか手段が無いと、救いが無いと言っているも同然だぞ」

 

 悩み苦しんだ末に1つの答えを出した。

 それを出す前に裁けぬ罪を個人で裁くしかできないのかと悩み、穢れに満ち溢れてしまった。それでも諦めず、ゴンベエの励ましや支えがあり、前を向き、裁けぬ罪を裁ける様にすれば良いという答えに辿り着いた。

 アイゼンの言っている通りのことならば、やっていることは……そう、バルトロの屋敷に現れた風の骨と同じだ。

 

「そんな事はありません!

きっとアルトリウス様はカノヌシを使い業魔病を治す薬や力を手にしようとしているのです」

 

「その為なら、業魔でもなんでもない私の弟は死んでも良いわけ?

沢山の人間を救うためならば、例え家族であろうとも犠牲にするだなんて、大層な御身分ね、導師様とやらは」

 

 私の言葉に反論するも更なる追い討ちがエレノアを襲う。

 詳しい事は聞けていないが、ベルベットの弟は導師アルトリウスに殺されている。何故、どうして?

 もしスレイならば誰かを犠牲にした上での平和なんて絶対に認めようとしない。別の手段を探そうとする。導師アルトリウスの人間性は知らないが、世界から痛みを無くそうと言うのならば、痛みを与える事はしない筈だ。

 第一、今いる憑魔をどうにかしたとしても第二第三の憑魔が生まれてその度に憑魔を倒していたらただの鼬ごっこだ。

 

「ゴンベエ」

 

 エレノアに真実を教えたいとゴンベエとアイコンタクトを取ろうとするのだがゴンベエは首を横に振った。

 今ここで憑魔になる原因の穢れを打ち払う力があることは未来になにかしらの影響を及ぼす……言いたい、事実を……。

 

「エレノアは力を持ったお前に近い。言うだけじゃダメだろ」

 

「……そう、だな」

 

 間違った道を歩まされている。間違ったことを手伝わされている。

 エレノアになんらかの罪があるかどうかは分からないが、導師アルトリウスが教えずに都合良く利用している筈だ。

 

「あんた等、なんの話をしてるのよ……まぁ、良いわ。それよりも振り出しになったわね……」

 

 私達の話を適当に聞き流し、なにも得られなかったのでどうするかと考える。

 エレノアが情報を握っていない以上は、なにをすれば良いか分からない。

 

「アイゼン、自分よりも高齢の天族を知らないのか?」

 

 カノヌシの細かな詳細は分からないが、少なくとも人でない天族の様な存在であるのは確かだ。

 だったら、天族に聞けば良い。ゼンライ殿を探す過程で使った方法を使い、カノヌシについて知っている天族を訪ねる。

 

「……カノヌシを知っている聖隷を探す、か。

確かにそれも1つの手だが、それは最も使えない手段だ」

 

「どうしてだ?」

 

 カノヌシを知っている天族は居るはずだ。

 

「どうしてもこうしても、決まっておるじゃろう。

数年前から聖隷は意思を抑制され、今では殆どの聖隷が意思を抑制され聖寮におる。

無論、アイゼンの様に聖寮に捕まらず意志も抑制されていない聖隷は極々僅かじゃが存在しているものの、奴等は姿を隠しておる。今の人の世とは関わるべきではないと、関わってはいけないと結界やらなんやらと使い、外界との交流を閉ざしての」

 

「外界との交流を……」

 

「仮に会えたとして、そいつ等が友好的にはならん。人が聖隷を道具扱いしていることに聖隷は怒っている。

ただの人間、魔女、変な人間に加えて聖隷の天敵である業魔二人に聖隷の敵である対魔士一人の計、6人。そんな奴等と一緒に居る奴等には協力はしない」

 

「おい、変な人間ってオレか?」

 

 ゴンベエ、黙っていてくれ。

 使えると思った手段はこの時代では使うことが出来ない手段だと分かると、ますますこの時代と現代の差異を知ってしまう。

 

「あの、でしたら王都に向かうのはどうでしょうか?」

 

「……何故、向かう必要がある?」

 

 エレノアの提案に私は嫌悪する。

 ライフィセットを連れ去り、ゴンベエの情報を集めて始末しなければならない。その為に王都に向かおうと提案している魂胆が丸見えだ。

 

「王都は敵の本拠地と言っても良い場所だ。

準備もなにもせずに導師アルトリウスの元に向かった結果が今だ。行って、なんになる?」

 

「……アルトリウス様は国の助力を得ています。王都でならば」

 

「却下。そんな曖昧すぎる考えで行くことはできないわ」

 

 嘘を上手くつくことができず、却下されるエレノア。

 王都に行くことは出来ない云々はさておき、本当にお手上げな状態。アルトリウスの身辺調査からスタートを、どうやってカノヌシを見つけたなどを調べないと……でも、それは分からないから困っている。

 

「ねぇ、皆、これ見て」

 

 無言の静寂が続いているとライフィセットが本を取り出す。

 それはギデオン大司祭を暗殺しに行こうとした際に盗った古代の文字が書かれた本で、古代の文字を解読した……ではなく、表紙の部分を指差す。

 

「コレって、あの神殿にあった!」

 

「うん、神殿にあった紋章と一緒なんだ……もしかして、コレ、カノヌシの事が書いてあるの!?」

 

「古代語だから読めないけど……多分」

 

「偶然に手に取った本がカノヌシの本だったとは、良い掘り出し物だな!で、なんて書いてある?アイゼン、お前なら読めるんじゃないのか?」

 

「いや、オレにも読めん。古代語を現代の文字や言葉に戻すのは生半可な事ではできない。

例えば文のはじまりにある文字があれば、意味がしたになる。文の最後にある文字があればしている。文のはじまりにある文字があるが、間にある文字があればする予定だったとな」

 

「おぉ……滅茶苦茶頭が痛い話だな。オレにはさっぱりだ」

 

 古代の文字を読むことが出来るか出来ないかは、勉強云々の問題じゃない。

 ある程度は知識が必要だが、最後は読み取る才能の様なものが必要で……私にはその才能が無い。スレイにはその才能があるようだが。

 

「古代の文字を読めるんは、やっぱそれが使われてた時代を生きてた長生きの聖隷に……振り出しに戻っちまったな」

 

「これもダメなの?」

 

「そうしょげるでない、坊よ。

グリモワールというワシの知人ならば解読できるかもしれん」

 

「ほんとう?」

 

「……か、どうかは会わねば分からんがの」

 

「曖昧すぎないか!?」

 

「ワシに言われてものぅ。

グリモワールには世話になった身ではあるものの、少なくとも古代語に関して世話になったことは一度もない!」

 

「どうすんだ、ベルベット?」

 

「なんで私に聞くのよ」

 

「だって、お前の喧嘩相手だろ」

 

「……はぁ、そうね」

 

 あ、ゴンベエに言い負かされた。

 読めるかどうか分からないが、今はそれにすがるしか無いベルベット。

 サウスガンド領のイズルトを目指すこととなり、遺跡を出た。




スキット ゴンベエ監察書 1

エレノア「そういえば、挨拶がまだでしたね」

ゴンベエ「ん?軽く自己紹介はしただろう」

エレノア「貴方の事ではありません」

ゴンベエ「?」

ビエンフー「僕のことでフね、エレノア様!!」

エレノア「ビエンフー!……そういえば、居ましたね」

ビエンフー「バッド!?僕のことじゃ無いんでフか!?」

エレノア「違います。それ以前に、貴方は元とはいえ私の聖隷じゃ無いですか。今さら自己紹介をするほど関係ではありません」

ビエンフー「言われてみれば、そうでフね。僕とエレノア様は自己紹介をしなくても良い、心と心が繋がったフカーい関係でフ」

ゴンベエ「言い方よ……で、自己紹介まだなのって?
ベンウィックとかのアイフリード海賊団は、会ってないから自己紹介はまだ以前に出来ないぞ」

エレノア「違います、海賊と馴れ合うつもりはありません。
その、貴方の聖隷についてです。ビエンフーもライフィセットも出ていますし、貴方の聖隷も外に出してみては?」

ゴンベエ「あ、オレ、聖隷は居ないぞ」

エレノア「聖隷がいない……貴方は人間、ですよね」

ゴンベエ「人間で、ジャンル的には勇者だな」

エレノア「勇者!?貴方の様な勇者、聞いたこともありません!」

ゴンベエ「お前が聞いたこと無いだけで、存在はしているんだよ。お前の基準で測るんじゃねえ」

エレノア「勇者とは弱い者を助け、悪どき圧政者を倒す存在です!」

ゴンベエ「ちげえよ、バカ。
勇者ってのは他人の家に勝手に押し入って勝手に宝の壺とかぶっ壊して中身を押収し、カジノで旅の軍資金を稼ぎ、はぐれた水銀的なのを乱獲し経験値を稼ぎ、汚いおっさんのおっぱいでパフパフし、魔王から世界の半分をくれてやるから仲間になれと言われて、はいと返事をしても戦闘になってしまう憐れな存在なんだ」

エレノア「ダメ人間まっしぐらじゃないですか!何処が憐れなんですか!」

ゴンベエ「国王からひのきぼうと100ガルドだけ渡されて魔王を倒して来いって無茶を言われて、魔王を倒したら倒したで、勇者は魔王よりも強い存在なんだと思われて化物扱いされる。それを憐れと言わねえのか?」

エレノア「!?」

ゴンベエ「別に驚くことはねえだろ、魔王を倒した勇者は魔王よりも強い。シンプルな考えだ……お前達だって一般人にどんな目で見られてるのか」

エレノア「……貴方は、もしかして迫害を受けたのですか?今でこそ聖寮が存在し、聖隷が認知されていますが、それは開門の日以降。それよりも前は」

ゴンベエ「……」

エレノア「……申し訳、ありません……」

ゴンベエ「あ、オレは魔王は倒してないぞ」

エレノア「騙したのですか!!」

ゴンベエ「騙したかと聞かれれば、騙したぞ」

エレノア「人の身でありながら、業魔や賊に手を貸す貴方は最低です!穢らわしい!」

ゴンベエ「……似たような状況にはなってるんだがな」

アリーシャ「ゴンベエ、エレノアは尋問をしている。余計なことは言ってはいけない」


スキット 取られたくないだけ

ベルベット「いい、エレノアはライフィセットを隙あらば拐おうとするわ」

ライフィセット「そんな風に見えないよ?」

ベルベット「騙されちゃダメ!現にゴンベエの情報を聞き出そうとしているのよ!」

アリーシャ「ゴンベエは上手く避けているみたいだぞ」

ベルベット「……とにかく、騙されないで!」

ライフィセット「エレノアと仲良くしちゃダメなの?」

ベルベット「それは……」

ライフィセット「僕はエレノアと契約して、器にしてるんだ。
だから仲良くしたいと思うんだ。命令とか誓約とかそんなの関係なく、仲良くしたい、かな」

アリーシャ「ベルベット、ライフィセットもこう言っているし、そこまで邪険にするものどうだろうか?」

ベルベット「ダメよ。エレノアみたいなのと仲良くしちゃ」

アリーシャ「ベルベット、お母さんみたいな事を言ってるな」

ベルベット「誰がお母さんよ!どっちかと言えばお姉さんでしょ!」

アリーシャ「いや、主婦が合う」

ベルベット「なんでそう思うのよ……とにかく、あんまり仲良くしちゃダメよ」

ライフィセット「ダメなの?」

ベルベット「……私が一番、ゴンベエが二番、アメッカが三番で一番下にあいつ!その優先順位を作りなさい……それなら少しぐらい会話していいわよ」

ライフィセット「!……うん!」

アリーシャ「ベルベット、束縛が強すぎる気も」

ベルベット「あんたが言う!?」

アリーシャ「私はただ依存してしまっているだけだ。
ベルベットのはそう、例えるなら弟を取られた姉の心境に近い。ライフィセットとエレノアは歳が離れているから、仲の良い姉弟に見えるからそれに嫉妬を」

ベルベット「違うわよ。そんなんじゃ、無いから……」

スキット 優先順位

ライフィセット「……」

ゴンベエ「どうしたんだ、ライフィセット?」

ライフィセット「ゴンベエ……ベルベットにエレノアと距離が近すぎるって怒られたんだ」

ゴンベエ「あのオキャンは細やかな嫉妬が多いな」

ライフィセット「嫉妬?」

ゴンベエ「気にすんな……それよりも、ちゃんと優先順位は分かってんのか?拐われたら元も子も無いだろう」

ライフィセット「えっと……たま~に、忘れちゃうかな。
エレノア、色々と面白い本を知ってて教えてくれるんだ。つい、話し込んでて」

ゴンベエ「そら、怒られるだろう」

ライフィセット「どうすれば忘れないでおけるんだろう?」

ゴンベエ「ん~……あ、アレなんてどうだ?」

ビエンフー「そういえば、マギルゥ姐さん。
僕とマギルゥ姐さんはなにか目的があるから行動をしているわけでもエレノア様の様に負けたからというわけでも無いのに、なんで皆さんと一緒に居るでフかね?今更なことですが疑問でフ」

マギルゥ「さー、成り行き上そうなったからの。
乗り掛かった船じゃ。例え泥船だろうがなんじゃろうが最後まで見届けなければならん」

ビエンフー「ど、泥船でフか!?」

マギルゥ「お主も見たじゃろ、導師の圧倒的な強さとワシ等の弱さを。ワシ等は今、世界を相手に喧嘩しておるんじゃ」

ゴンベエ「あんな感じを真似れば良いんじゃないのか?」

ライフィセット「どの辺りを真似るの?」

ゴンベエ「ビエンフーの呼び方。
マギルゥの事を姐さん、エレノアの事を様、ベルベットの事を呼び捨てで呼んでるだろ?
呼び方をちょっと変えて、優先順位があるんだなと思わせる様にしてみれば良いんじゃねえの?」

ライフィセット「呼び方を変えてみる……うん、やってみるよ!!」

ベルベット「ゴンベエ、グローブ油が切れそうだから買い足しといて。ついでに羊毛もお願い」

ゴンベエ「お前、普通に人をパシるんだな……まぁ、良いけどよ」

ライフィセット「買い出しなら僕が行こうか?」

ベルベット「別にあんたが行かなくて良いのよ?」

ゴンベエ「一応、オレはベルベットの下僕だから言うことを聞いてるからな」

ベルベット「一応?」

ゴンベエ「すみませんでした」

ベルベット「分かればいいわ。とにかく、買い出しはゴンベエに……違うわね。ゴンベエと一緒に行ってきなさい」

ライフィセット「!」

ベルベット「いい?知らない人にはついていかない。寄り道はしない。無駄な買い物はしない。ゴンベエの言うことをしっかりと聞いて、ゴンベエの右側を歩くのよ?」

ライフィセット「もう、子供扱いしないでよ!」

ベルベット「……」

ゴンベエ「ほら、母さんに反抗したらダメだろう。母さん悲しそうな顔をしてるじゃないか」

ベルベット「だから、誰がお母さんよ!!」

ゴンベエ「お前の言ってること、うちのオカンも昔、散々要ってたんだよ。
ライフィセット、子供扱いされたくなければ早く一人前の真の大人だってベルベットに見せてやらんと」

ライフィセット「……うん、そうだね。いってきます、ベルベットさん(・・)!!」

ベルベット「いってらっしゃ……あんた、今、なんて言った?」

ライフィセット「行ってきますだよ?」

ベルベット「そうじゃなくて、ベルベットさんって言ったじゃない。なんで急に」

ライフィセット「優先順位を分かりやすくしようかなって。
ビエンフーはマギルゥとエレノアをただ名前で呼ばず、ベルベットさんとアメッカを名前だけで呼んでるからそれの真似をしてみたんだ」

ベルベット「……そう……」

ゴンベエ「ライフィセット、今すぐにベルベットにさん付けを止めろ」

ライフィセット「でもベルベットさんが一番だって分かりやすくしてるんだよ?」

ゴンベエ「分かりやすいぐらいにベルベットが泣きかけてるから、本当にダメだ。早くしないと、穢れの領域が広まる」

ベルベット「別に、泣いてなんか、無いわよ……あんた、余計な事を教えないでよ。せめて、エレノアにさんをつけなさい」

ライフィセット「それだとエレノアが特別になるよ?」

ゴンベエ「じゃあ逆はどうだ?
油断とこんな純粋な子をと罪悪感に苦しませるべく、エレノアに懐いていると見せ掛けるべくエレノアの事をエレノアお姉ちゃんと」

ベルベット「態度で示しなさい。あんたもゴンベエも、優先順位は私よ!」

ゴンベエ「……え、オレも?」

ベルベット「当然じゃない。あんた、私の下僕でしょ?さっさと買い出しに行って来なさい」

ライフィセット「そういえば、そうだった。行こう、ゴンベエ」

ゴンベエ「なんか釈然としねえが、まぁ、行くか」


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そこに山があるからだ(意味深)

はい、ということで久々です。また変な風になってたらすいません。


 マギルゥの知り合いに会いに行くべく、先ずはここが何処だと歩くのだが

 

「人っ子、一人、いねえな」

 

 人に会わない。

 天族を祀るっぽい遺跡を出て誰かが作ったであろう橋を通ったが、誰とも会わない。

 橋の先端部分に雑草がはえていたりする感じから、長い間整備されていない感じだな。

 

「そういえば、ゴンベエ。あんたワープする事が出来たわよね?船にワープ出来ないの?」

 

「マーキングしてねえから無理だよ。

それ以前に此処がそのグリモワールが居る領地だったら、二度手間だろ」

 

 フロルの風を使い、アイフリード海賊団の船に戻れないか聞いてくるが、そんなもん出来るならとっくにしている。

 出来ないから地道に歩いて此処が何処だろうか探している。

 

「オレよりもアイゼンの方が知らないのか?

海賊だが、そこらの人間の学者よりも博識だろ?この辺に生息している生き物を見て、場所が分からないのか?」

 

「そんなもんが分かれば、とっくにやっている。

例えば、今空を飛んでいる鳥。あの鳥は様々な地方でもよく見られるから見分けれない。オレが分かるのは全く知らない、アイフリード海賊団も行ったことは無い大陸には行ってないことしか分からない」

 

 博識だったり整った設備さえあれば、砂の一粒から何処の地層だと当てることだって出来る。

 生物もそう。この生物が生息するのはこの地方のみとなるのだが、流石にそこまでは都合よくはいかない。

 

「僕たちも、鳥みたいに空を飛べれば良いのに」

 

 ライフィセットは空を飛んでいる鳥を見て、呟く。

 確かに空を飛べればこんな場所からおさらばすることが出来るし、何処か分かる。

 

「鳥はどうして空を飛ぶ……」

 

 そんなライフィセットの言葉に反応するベルベット。

 

「お主等、ワシに良い案があるぞ!」

 

「……絶対ロクな案じゃねえだろ」

 

 当てもなく歩いていると閃いたと綺麗な笑顔になるマギルゥ。

 知ってるぞ。魔人探偵脳噛ネウロで見たことあるぞ、その表情は。転生者の大先輩である高遠耀一が極稀に見せるぞ。

 

「ガーン、そんな、折角、ワシが、お前たちに、道標を教えてやろうと思ったのに……」

 

「どうせインチキな占いかなにかでしょ?」

 

「違うわ!」

 

「そうでフよ、マギルゥ姐さんの占いは割と当たります!!」

 

 当たるのかよ。

 胡散臭さしか感じないぞ。

 

「まぁまぁ、一応は聞いてみよう。

この場で占いで行こうという行き当たりばったりな事をいくらマギルゥでもしない筈だ」

 

「アメッカ、お主の言葉が一番傷つくぞ!?」

 

 日頃の行いとかおちゃらけが問題だろう。

 

「ワシ達が今いるところはズバリ、山じゃ!!」

 

「そりゃ見れば分かる」

 

「ロクロウ、話の腰を折るでない。山に居るのならば、山頂を目指せば良いんじゃよ」

 

 思ったよりもまともな事を言うマギルゥ。

 此処が何処か、正確な名前は知らないが一番上を目指せば良い。山頂から見下ろせば良いと言う考えはありと言えばあり……なのだが

 

「この辺は山と言うよりも山脈に近いし、この辺りは人間が作ったであろう橋があるんだから行く必要あるのか?」

 

 わざわざ頂上まで歩くのは色々と無駄になるんじゃねえのか?

 

「勿論、その事についても考えておるわ。ここでワシの力が発揮される!」

 

 マギルゥの力って、鳩を出すことか?

 何をするつもりなんだよと黙って見ていると、本を掲げるマギルゥ。

 

「伸びろ、伸びろぉおおおお!!」

 

「出たぁあああ!光翼天翔くん!式神をこれでもかと伸ばして一刀両断するマギルゥ姐さんの十八番!!」

 

「とまぁ、ワシの十八番を使うんじゃ」

 

「……え、どういうことでフか?」

 

 シュッと元の大きさに式神を戻した。

 普通に光翼天翔くんを使うものだと思っていたビエンフーはキョトンとしている。

 

「こういうことじゃよ」

 

 ガシリと帽子を掴むと、光翼天翔くんに使う式神を張り付ける。

 突如のことに驚くビエンフーだが、マギルゥは待ってくれず、これでもかと式神を伸ばした。

 

「ほーれ、人里なりなんなり探すんじゃぞ~」

 

「ビ,ビエーーーーン」

 

「鬼だ……」

 

 ビエンフーはどうかは知らないが、高いところが苦手な奴には拷問だ。

 いや、高いところが苦手じゃなくても命綱もなにもなしとかぜってービビるしトラウマになる。

 

「マギルゥ、いくらなんでもやりすぎだ!!ビエンフーが泣いてるじゃないか!?」

 

「なーに、後でコロッと復活する。倒れても倒れてもコロッと起き上がるのがビエンフーの良いところなんじゃ。

これはの、今は辛いが近い将来あの時あんな事があったなと飲み会の際に笑い話として使えるレベルのかるーい出来事なんじゃ」

 

「そうだったのか……頑張れ、ビエンフー!!」

 

 絶対に違う。

 本気で涙を流しており、落ちたくないと震えている。

 その為に全く前を見ておらず、此処が何処かだと分かっていない。

 

「し、死ぬかと思ったでフ」

 

「よくぞ戻ったぞ、ビエンフー。

途中で強風に煽られて飛ばされんかと思ったが、無事でなによりじゃ」

 

「そう思うのでしたら最初から飛ばさないで欲しいです!」

 

「成果はなにかあったかの?」

 

「辺り一面、山でした!!」

 

 ビエンフー、色々と手遅れなとこまでいってねえか?

 

「よーし、なにか見つけるまでやり続けるぞ!」

 

「おい、もういい。もういいから、コント繰り広げるのやめろ」

 

 グダグダとなっており、ベルベットが苛立っている。

 くだらない茶番をするなと怒られる前にマギルゥを制止するのだが、じゃあなにか出来るのかと聞かれる。

 ワープさえ出来ればすごく楽だが、それが出来ない。はねマントを使ってものすごく高く跳んだとしても少しの間しか跳べない。

 

「ビートルは目視できるとこしか飛ばせないし、なんかあったか……お、これならいける」

 

 風のタクトで登場するエサが入った袋を取り出し、その中に入っているヒョイの実を取り出す。

 

「果物、よね?」

 

「ヒョイの実と言ってな、鳥が大好きな木の実だ」

 

 これを頭に乗せれば、あら不思議。

 ヒョイの実の匂いだかフェロモンだか分からないが、釣られた鳥が颯爽と実を咥えて飛んでいった。

 

「鳥が食べてくれれば、桃太郎印のきび団子よろし…」

 

 あれ、おかしい。

 眠くもない、空腹でもない、疲れを感じないほど疲れてしまっているわけでもない。

 それなのに電源をオフにするかの様にフッと意識が無くなってしまう。

 

「ゴンベエ!!」

 

 突如として意識が無くなった。

 どうして無くなったのかは意識を取り戻すと直ぐに分かるのだが、その前に意識が無くなったオレは立っていることが出来ずにバランスを崩し、異変に気付いたアリーシャは倒れようとするオレを受け止めようと前に出る。

 

「あんた、逆よ」

 

 前に出て胸で受け止めようとしてくれるアリーシャをオレの体は無視し、後ろに倒れて後ろにいたベルベットのベットにダイブ。この前と似たような状況になる。

 

「なんで……鎧か、鎧が邪魔なのか!?ベルベットの方が柔らかいと言うのか!!」

 

「落ち着きなさい。てか、何時まで人の胸に挟まってるのよ……ほら、起きなさい……起きろ!!」

 

「ほっほーぅ、なんだかんだでお主もむっつりスケベなんじゃの」

 

「あの、白目を向いてませんか?」

 

 中々にベルベットから離れないオレを見てニヤニヤと笑うマギルゥ。

 一向に反応が無いオレの異変にエレノアは気付き、白目を向いて完全に気を失っている事に一同は気付く。

 

「くわー!」

 

 一方のオレはと言うと、ヒョイの実を食べた鳥になっていた。

 ゼルダの伝説風のタクトに出てくるヒョイの実は使用すれば鳥視点になり、リンクじゃ行けない場所を見たりすることが出来る。多分、鳥がヒョイの実を食べたらその鳥にオレが憑依している感じだ。

 鳥の様に自由に空を飛び回る道具は無いが、鳥に憑依して自由自在に飛び回ることは出来る。街を探してそこに向かうか、人を探して道でも聞けばここがどの辺りなのかアイゼンなら分かんだろう。

 肉体の意識を失っているので長引けばアリーシャを心配させるし、とっとと探そうと飛び回るが山脈なだけあり、街らしい場所は見掛けず、橋などの人工物があるところを飛び回ってみる……!

 

「やっぱ、ロクなもんが……アメッカ、なにをしている?」

 

 人を見つけ、目を開けるとアリーシャの顔が真正面にあった。

 いや、これ体の感覚からして寝転んでて……アリーシャに膝枕をされている状態だ。

 

「なにをしているはこっちのセリフだ。頭に変な木の実を乗せて鳥に食べられたと思えば意識を失って……心配したんだぞ」

 

「わりぃ、わりぃ」

 

「謝るのでなく、なにをするのか教えてほしい。

ゴンベエが私達の為にナニかをしようとするのは構わない。だが、それで私を心配させないで欲しい……」

 

 目覚めてよかったとホッとするアリーシャ。

 口の中に違和感があり、近くには空のライフボトルが落ちている。

 

「心配させて悪かったな」

 

「ああ、全くだ」

 

「2人とも、そこまでにしなさい……ライフボトルが無駄になったじゃない」

 

 アリーシャに謝り、許されると入り込んできたベルベット。

 空になったライフボトルを回収し、道具を入れている袋に戻す。

 

「何時までそうしてるつもりなの?あんな変な事をしたんだから、なにか分かったんでしょ?」

 

 ボキボキと腕を鳴らしながら聞いてくるベルベット……

 

「分かってないなら、ライフボトルを無駄にした分は働いて貰うわよ」

 

 怒りを言葉から感じる。

 

「人を見つけた」

 

「人を見つけたのか!……ん?お前、さっきまで意識を失ってたよな?」

 

 行き道が分からなかったから、オレの一言でよっしゃと笑顔になるロクロウだが、どうやってと疑問をもった。

 

「さっきの木の実を食った鳥に憑依して空からここは何処か見てたんだよ」

 

「また随分と変わった術じゃのう……それで、その人は何処におるんじゃ?」

 

「方角的に言えばあっちなんだが……」

 

「まだなにかあるのか?」

 

 あるっつーか、なんつーか……。

 

「格好がおかしい」

 

「どういう意味?」

 

「なんて言うか、こう……なんか書くもんないか?」

 

 口で説明をするのが難しい。

 アリーシャの膝から頭を離してマギルゥが持っていた紙とペンを借り、オレは見つけた人の格好を書いて見せるとベルベット達はなんとも言えない顔をする。

 この世界基準では普通の服装の上にレザーグローブや胸辺りのみの小さなレザーアーマーを着たフルフェイスの兜を被っている体格からして男だと思う。

 

「この辺りをザックリと見た感じだが、鉱山で炭鉱っぽい」

 

「明らかに発掘をする様な格好じゃないね……」

 

「どうでもいいわ。そいつがなんであれ、適当に締め上げれば何処かぐらい分かるわよ」

 

「っ、いきなり締め上げるのですか!」

 

 バイオレンスなベルベットの発言を聞いて強く睨むエレノア。

 いきなり締め上げるのは良くない……とは言え、この辺りをあんな格好で歩いているとなるとなんか理由があったりするんだろう。ロクでもないかどうかは知らんが。

 一先ずは、そいつを見掛けた場所に向かって歩き始めるオレ達。

 

「この石って……」

 

 途中、ライフィセットが落ちている石を拾った。

 

「鉱石だな……ん?」

 

 あれ、おかしい。鉱石なら転生特典がなんの鉱石なのか教えてくれるのに教えてくれない。

 

「これは確か……煌鋼、だったはず……」

 

「キラハガネ……虫?」

 

 いや、どっからどう見ても鉱石だろうが。

 古い記憶から知識を捻りだしたライフィセットになにそれとベルベットは何故か名前から虫を連想する。

 そしてオレの転生特典に引っ掛からないと言うことは……アレか?オリハルコンとかと同じで現実には存在しないファンタジー世界限定の金属かなにかか?

 

「剣や武器の素材になる金属で……確か、何処かの地方でしか取れない稀少金属(レアメタル)だな」

 

「煌鋼の産出地はエンドガンド領かテイルガンド領、どっちにしろミッドガンド領から離れた場所にあって聖寮の手も薄い」

 

「流石は海賊、金目の物と警備には詳しいの」

 

「つまり、追われる可能性は薄いって事ね……お手柄よ、ライフィセット」

 

「うん!」

 

「でも、手は洗いなさい」

 

「はーい!」

 

 ベルベットに褒められたのが嬉しいのか笑顔になるライフィセット。

 

「まるできょ──」

 

「地雷を踏みにいくな、バカ」

 

 ベルベットがなんの為に戦っているのか、それは復讐の為でアリーシャの一言は謂わばベルベットの逆鱗。危うく、言いそうになったので止める。アリーシャは一瞬だけなにをすると驚くが、直ぐに止めた理由に気付き、シュンとなり危うく余計な事を言いそうになったと反省する。

 

「……」

 

「お前、なに驚いてんだ?」

 

 笑顔になっているライフィセットか、それともベルベットか、はたまた種族を越えて仲良くしている2人共なのか、エレノアは異様な物を見る目で驚いている。

 

「アイゼン、煌鋼が落ちてて人の手によって作られた橋があるって事はこの辺りは」

 

「鉱山で炭鉱に違いない……どうした?」

 

「お前達がオレ達を撃ち落とした時に色々と落としたから回収してえんだよ」

 

 家に帰れば材料はあるが、おいそれと元いた時代に戻るわけにもいかない。

 この時代でしか手に入らない珍しい鉱石もあるかもしれないし、家にあるものも何れは底をつく……補充できる時にしておかないと。元の時代は何時戦争が起きてもおかしくない、てか、一回戦争が起きたから下手したらここよりもヤベえことになる。

 

「それに下手な鈍を持ったままだとこの先、危うい」

 

 オレのは自動修復機能があったりするが、ベルベットとロクロウのはただの武器だ。

 ロクロウはさっきまで使っていた二本の小太刀を見る。刃がボロボロどころか小さなヒビが入っており、こりゃいけねえとライフィセットが拾った煌鋼を見て大きさを確認する。

 

「ベンウィック達と合流し、物資を補給する時に武具になる鉱石を採取しにいく」

 

 採取しに行くのか……いやまぁ、そっちの方が楽だが私情が混じってるな。

 

「おーい」

 

 今後を決めつつも、第一村人もといレザーの男の元に辿り着く。

 色々と聞かないといけないので、フレンドリーにと手を上げて気軽に声をかけたのだが

 

「……ひっ、刀斬りの仲間か!?」

 

「は?」

 

 なんか勘違いされて剣を抜かせてしまった。

 

「ま、待ってくれ話を、私達は」

 

「く、来るな!」

 

 勘違いをしている事に気付いたので、先ずはとアメッカは対話をしようとしているが男は焦る。

 声から死にたくないとかそう言った感情が読み取れ、視線が……うん、アイゼンとロクロウに向いている。

 

「ここは任せな」

 

 ロクロウ、お前が行くとまた面倒な事に……既になっているか。

 相変わらず背中の太刀は使わずに器用に小太刀で剣を、斬鉄をする。

 

「剣が斬られた!?」

 

「どうする?まだやるか?」

 

「ひぃっ……業魔様、命だけはご勘弁を」

 

「それ、業魔じゃなくて天族、てか聖隷」

 

 剣を斬られて実力差を感じ取った男は降伏して頭を下げる……アイゼンに。

 

「落ち着いてくれ、先ずは話を……!……この方は聖寮の人だ」

 

 対話をとアリーシャは頑張ったけど、上手く行かずエレノアを出す。

 すると男はエレノアを見て、聖寮の人間だと分かると少しだけ落ち着く。

 

「わ、私は聖寮の一等対魔士、エレノアです。 落ち着いてお話をお聞かせください」

 

「対魔士……なんで対魔士が業魔と一緒に」

 

「いや、そういうお前こそこんな鉱山になんの用事なんだよ?ここには石と神殿しかねえぞ」

 

 エレノアと俺達が一緒な事に疑問を持つが、そんな事を教えるつもりは無い。

 質問を質問で返された事に怒りはせず、男は呼吸を整えて答える。

 

「知らねえのか、最近この辺りに剣士を襲っては剣を叩き斬る業魔が現れたんだ」

 

「ほぉ、業魔がか。だったら、そいつらを斬る聖寮はどうしている?」

 

「一等対魔士を派遣したよ。けど、やられた。1人や2人じゃない、既に何人もボコボコにされたよ」

 

 あ、ロクロウの奴、笑いやがった。あれ、獲物を見る目だ。

 

「業魔1人に何人もの一等対魔士がやられているのですか?」

 

「ああ、そうだ。なんでもその業魔は異国の業物を持っているらしくて……あんたとそこの兄ちゃん、背負ってる物を奪われるかもしれねえから気を付けな」

 

「異国の業物……忠告、サンキュ」

 

「オレのは聖剣だから邪悪な奴は基本的には触れることすら出来ねえよ」

 

 例え折られたとしても自動修復機能を持ってるから、問題ない。

 

「しかしまぁ、業魔から刀を盗もうとしてワシ達と遭遇するとはバチが当たったのう」

 

「いや、考え方によってはオレ達は救いの神かもしれねえぞ?」

 

 ロクロウに瞬殺されてんだから、どう考えても殺されてただけだ。それをする前にオレ達と出会えたことはある種の救いかもしれない。

 オレの言葉にマギルゥはなる程と結構ゲスい笑みを浮かべ、その光景にアリーシャが呆れているとエレノアが男に近付く。

 

「業魔に殺されなかった幸運な命を、もう悪事で穢さないでください」

 

「……」

 

 男はエレノアの一言になにも言わないものの、改心はしていると感じ取れる。

 今後の人生はこいつのものだとそれ以上、刀斬りの事は話題にせずにアイゼンがこの辺りがどの領地なのか聞き、港町までの道のりを聞いて分かれる。

 

「ダメだ、こいつもただの石だ」

 

 濃いメンツの集まりのせいか、わざわざ襲いにかかる馬鹿もおらず、色がちょっと珍しかったり変わってる石を拾うロクロウ。

 

「当たり前だ、煌鋼がその辺どころか地上にある時点で極々稀だ。

鉱物の発掘は山師と呼ばれる職人達の技術と経験がものを言う。同じ鉱物が発見された土地と似たような環境が無いかを調べ上げ、そこに出向き鉱脈が無いかを調べるのが常だ」

 

「そんなに手間暇が掛かるのか。出来れば、武器だけでも新調したかったんだが……」

 

 チラリとライフィセットの煌鋼を見るロクロウ。

 

「こ、これはダメだからね!!」

 

「それはお前の煌鋼だ、好きに使えばいい」

 

 というか、そのサイズだけだとお前の武器は出来ないだろう。

 

「もっと手っ取り早く見つかんないの?」

 

「……ペンデュラムを使って地下水や金属を探る方法があるって本で見たことがある」

 

「ダウジングじゃの」

 

「ダウジング?」

 

「ペンデュラムを翳してマギンプイ!と呪文を唱えればあら不思議、クンクンワンワンと金銀財宝の元に連れてってくれおるんじゃ」

 

「眉唾ね」

 

「占いと同じで当たらぬも八卦、当たるも八卦。鉱物を探す山師の名にはばくちの意味も含まれておる」

 

「仮にペンデュラムが本当だとしても、それはなにか特別な術かなにかで私達には使えないんじゃないのか?」

 

 アリーシャ、それ言っちゃいけない。

 科学的にはこっくりさんみたいなとか言われてて、今いるのはこういう感じのファンタジーな世界だからペンデュラムでマジのダウジングが出来んだろうが、そういう感じの術を覚えとかないとダメなのは分かるが。

 

「金属探知機、いや、作るのしんどいからパスするか」

 

「なんだ、そのシンプルな名前の機械は」

 

「作るのスゴく面倒臭いが金属を比較的簡単に見つけれる道具っと、詳しい説明は後だ」

 

 禍々しいオーラを体から放っている、西洋の甲冑でなく東洋の、日本の甲冑を纏った落武者みたいな黒い太刀を持った業魔が橋の前に立っている。噂の刀斬りだ。




スキット 夢いっぱい、胸おっぱい

アリーシャ「いや…そんな筈は」

ベルベット「さっきからぶつぶつと、なんの本を読んでるのよ?」

アリーシャ「ベルベット……ゴンベエはもしかすると病気なのかもしれない」

ベルベット「あいつが?なにかの間違いでしょ」

アリーシャ「私もそうだとは思いたい……だが、この本に書いている症状と似ているんだ!」

ベルベット「……突発性ハレンチ症候群?」

アリーシャ「ゴンベエが悪気は無いのに毎回狙ったかの如くベルベットの胸になにかしらのTOLOVEるを起こしているから、なにかの呪いなんじゃないかとマギルゥに聞いてみるとビエンフーが貸してくれたんだ」

ベルベット「あいつら……」

アリーシャ「もし突発性ハレンチ症候群なら、治療の手立ては……無い」

ベルベット「深刻な顔をしてなにを言ってるのよ。そんなわけのわからない理由で何度も揉まれてるって、ふざけんじゃないわよ」

アリーシャ「だが、そうでないと……明らかに前に倒れる筈なのに、ベルベットのところに倒れたのはオカシイ」

ベルベット「目がおかしいわよ」

アリーシャ「そんなに、そんなにベルベットが……コレがそんなに良いのか!!」

ベルベット「ちょっと揉まないでよ!」

ゴンベエ「ライフィセットと一緒にドーナツを作るんだけど、なんか……ごめん」

ベルベット「待ちなさい!!」

ゴンベエ「いや、そういうの好きなのは否定しないし見てて興奮するタイプだから問題ねえよ。オレが修行してたところにTSしてからもう一回TSするという荒業をし、レズなのかよくわからないけどハーレムを気付き上げた変態な先輩居るから」

ベルベット「あんたなにを……ちょっと、揉むのを止めたなら顔と手を離しなさい!!」

アリーシャ「ゴンベエ……宇宙だ。ベルベットの谷間(ここ)は、1つの宇宙だ……夢が、詰まっている」

ゴンベエ「なにを今さらなことを言ってんだ?」

ベルベット「あんたら……」


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今を越え続けなければならない次

イチャイチャを書きたい……。


「敵よ」

 

 アリーシャが使っている様な西洋の鎧でなく、東洋の、それも日本の甲冑を纏っている憑魔。

 ベルベットやロクロウの様に体の一部のみが憑魔で後は人間となんら変わらない見た目をしている。

 形状は人型だが頭の部分が兜と一体化しており、元々そういう感じの格好だったのか憑魔になってそういう感じの見た目になったのか、どっちだ?

 

「フーーー」

 

 ベルベットが敵だと判定をすると、向こうも敵だと判定して刀を出す。

 

「その刀、征嵐か」

 

 出てきた刀に驚くロクロウ。聞きたいが、今は聞けねえ。

 

「異国の業物を使う業魔……あんたが刀斬りね」

 

「ベルベット……あの憑魔、私達をちゃんと見ているぞ」

 

 そっちがその気ならと臨戦態勢に入ろうとするベルベットをアリーシャは止める。

 

「それがどうしたのよ?」

 

「ベルベットやロクロウの様に対話が出来るのではないだろうか」

 

 普段から戦っているのと異なる憑魔だと感じるアリーシャ。

 現に刀を出してはいるものの、乱暴に暴れることもなければ居合い斬りみたいななにかの構えもしておらず、こっちをジッと見ている。

 

「そこの憑魔……いや、違う。貴方の名を教えてはくれませんか?」

 

「……クロガネだ」

 

 名前を教えてくれる鎧武者改めクロガネ。

 理性を失わずにいる憑魔かと思っていると、刀を両手で持って襲ってきた。

 

「待ってくれ、私達は無益な争いをしに来たわけではない!貴方はどうして憑魔になったかを教えて」

 

「俺が業魔になった理由はコイツだ!!」

 

 アイゼンやベルベットを無視し、オレとロクロウにのみ標的を絞ってくるクロガネ。

 なにか特殊な術を使って来るわけでもなく、純粋な刀の斬れ味のみでオレ達を斬ろうとし、ロクロウは面白いと小太刀を出す。

 

「ロクロウ、それ(小太刀)そろそろ限界だからオレが代わりにやる」

 

「いいや、そいつは無理な相談だ。相手は征嵐……斬り甲斐があるぜ」

 

 憑魔となっている右目をキラーンと明るく光らせるロクロウ。

 

「斬っ!!」

 

 クロガネと同時に走り出し、斬り合うのだが

 

「うぉ!?」

 

 限界を迎えた小太刀が砕け散った。

 なにやってんだと二太刀目を入れようとするクロガネの前に移動し、クロガネの持つ刀を真っ二つに斬り落とす。

 

「危ない!!」

 

 ナイスアシスト、ライフィセット。

 刀を叩き斬って直ぐに後ろから、黒いのと白いエネルギー弾的なのをぶつけてクロガネを吹き飛ばす。

 今の攻撃からして、絶対にクロガネは生きている。直ぐに体制を立て直す為にも武器が使えなくなったロクロウには下がってもらおう。

 

「ライフィセット、ゴンベエ!!テメエ等……なに人の獲物をとってんだ!!」

 

「ひっ!」

 

「仲間を殺す気ですか!!」

 

 自分の時間を邪魔されキレるロクロウ。

 怒りの矛先をライフィセットに向け、憑魔化している左目が赤く光らせて襲いかかろうとするのだが、エレノアが槍を向ける。

 

「その子を殺すなら、あんたを殺す!!」

 

 ベルベットとエレノア(セコム)の圧が凄えな。

 

「……すまん。つい熱くなった」

 

 光っていた目は元に戻りロクロウは冷静さを取り戻し謝る。

 

「なんかもう終わった感じになってっけど、なんも終わってねえぞ」

 

 この話はコレで終わった感が出ているが、まだなんも終わってねえ。

 ライフィセットの攻撃をくらってふきとばされたクロガネは何事もなかったかの様に立ち上がって来た。

 

「ロクロウ、武器ねえからアメッカの側にいろ。

マギルゥとライフィセットは術系の遠距離攻撃でやってくれ。エレノアとベルベットはクロガネをライフィセット達が術を当てやすい様に距離の調整をしながら、アイゼンは状況に応じて遠近頼む」

 

 クロガネは如何にもな日本の甲冑を纏っている鎧武者みたいな見た目をしている。

 持っていた武器とか人型の点から考えて、ロクロウみたいに刀で戦うのがメインでヘルダルフみたいに術を使ってこないタイプ。だったら、こっちは思う存分に術を使わせてもらう。

 

「お前はなにをする?」

 

 オレの指示に納得してくれ、文句は言わないがオレがなにをするか言わないことを気にするアイゼン。

 

「なにをするかって、決まってんだろ」

 

 足元に落ちたまんまの真っ二つにした刀の刃の部分を谷底に捨てる!

 これを拾って、なんかくっつけたりされると困る……あ、でも、ビームサーベル的なのをしてくるかもしれねえな。

 

「待ってくれ!」

 

 戦闘体制に入るが中々に襲いかかりに来ないクロガネ。

 来ないならばこっちがとベルベットとエレノアが攻めようとするとアリーシャが2人の前に立った。

 

「退きなさい。あんた戦えないんだから、怪我するわよ」

 

「っ……ああ、そうだ。私は戦えない!!」

 

「ならば、下がっていてください」

 

「いや、下がれない……クロガネ、貴方はどうして憑魔になったんだ?訳を、胸の内を話してくれないか?」

 

 戦う事が出来ないアリーシャは……いや、違うな。

 戦う事が出来ないからこそ、力付くで浄化して終わりが出来ないアリーシャだからこそ、戦う事を選ばずに対話を試みた。

 何故に今更と思うが、ベルベットみたいに根が善人で真面目な奴が家族を殺された憎しみで憑魔になっているのを見れば、もしかすると憑魔になった原因が、本当に叩かなければならない悪が何処かに居るのではと疑いだした可能性があるな。

 

「なにを言っているのですか?業魔病は未知の病で特効薬も原因も分からない物で」

 

「だからこそ、その原因を探るんだ!」

 

「それ以上はまずい」

 

 エレノアと若干噛み合っているようで噛み合っていない勘違いされる会話はやめろ。

 

「おい、コレをやったのはどいつだ?」

 

「ゴンベエだが?」

 

「アメッカ、素直に答えなくていい」

 

 アリーシャの言葉が通じたのか、話し合う事は出来そうになるんだが代わりにオレが売られる。

 さっきから襲って来ないと思ったら、折られた刀の事を物凄く気にしていたみたいで折ったオレに近付いてくる。

 

「んだよ、刀の恨み晴らすならやんぞ?」

 

 見た感じ、かなり良い刀だったし、斬った事に文句あるならやんぞ?そういう感じで解決するなら、それはそれで楽だから良いんだぞ?暴力で物事を解決するのは最低だが最適な手段であるって教えられてんだ。

 

「ゴンベエ、そうやって力付くで解決しては意味は無い。まずは、クロガネの話を聞こう……その、もし刀を真っ二つにしてしまった事を恨んでいるのならば申し訳ない」

 

「嬢ちゃんが謝る事じゃない、むしろ叩き斬ってくれてよかったよ……このままだと、また斬られるだけだったからな」

 

「また斬られる?失礼だが、持っていた刀は名刀に相応しい物で、貴方は何人もの刀を斬ったと聞いていますが」

 

「そこらの有象無象を斬っても嬉しくもなんとも思わん。斬りたいのはただ1つ」

 

「號嵐か?」

 

「なんで、いや、その背中の刀……」

 

 突如会話に乱入してきたロクロウ。

 斬りたい物を当てられクロガネは驚くが、改めてロクロウの武器や服装を見てなにかに納得する。

 

「俺の名はロクロウ……姓はランゲツだ」

 

「ロクロウ・ランゲツ……ロクロウか」

 

「おぅ、6番目に生まれたからロクロウだ」

 

 シンプル……いや、名無しの権兵衛のオレが言えないな。

 つか、2人だけの世界に入っていってるから説明をしてほしいんだけどな。

 

「その剣で征嵐を真っ二つにしたんだよな?ちょっと見せてくれねえか?」

 

 持ってた刀をポイっとその辺に投げ捨てるクロガネ。

 

「待て、クロガネ。その剣は」

 

「なに見るだけだ。奪いはしねえしお前達と斬り合うつもりも、ぬぅお!?」

 

「剣が青白く光った!?」

 

 勝手に触ろうとするからだ。

 

「オレのコレは聖剣だからお前みたいなのが触るだけでもダメなんだよ」

 

「そうか……こんなんなっちまって便利だと思ったんだが、まさかこんな所で邪魔になるとはな」

 

 憑魔となっているのを便利って、変わってんな……いや、元から変わってる奴なのか?

 ベルベットとロクロウを除けば日曜朝の典型的な悪役っぽい憑魔ばっかだったせいか、段々とおかしくなってんな。

 

「もう終わったでしょ、さっさと港に行くわよ」

 

 ベルベット、苛立ってないか?

 

「いや、まだ終わってない」

 

「なによ、まだなにかあるってわけ?」

 

 さっさと港に行きたいベルベットだが、珍しく食い下がるロクロウ。

 クロガネの捨てた刃が殆ど無い刀を手に取ってさっき砕けた小太刀の破片を見比べる。武器が無いから、それを寄越せって言うつもりか?

 

「ダメだな、コイツで挑んでも勝つことは出来ん」

 

「たった今、それが証明された。今から作り直しだ」

 

「なら、そいつを俺にくれねえか?」

 

「ロクロウ、寄り道するならあんたを置いてくわよ?」

 

「まぁ、そう急かすな。これからの事も考えたら、寄り道は大事だ。急がば回れって言うだろう」

 

「……お前達、港に行きたいならついてきな」

 

 テコでも動かない感じで、クロガネが道案内をしてくれるのでとりあえずはついていく。

 

「あんた達、顔見知りなの?」

 

「「いや、今日会ったばっかだ」」

 

 2人だけしか分からない事を話したりしているので、ベルベットは疑問をぶつけるも息を合わせて否定される。

 じゃあ、なんで2人は色々と話しているんだと思っているとずっと黙っていたマギルゥが口を開いた。

 

「もしや、あの征嵐とクロガネかの?」

 

「知っているのですか?」

 

「それは何時、誰が打ったものかは知らん。

しかし、誰もが認める絶世の刀であり、その斬れ味は海をも割ると言われており、人は神の刀と呼んだり呼ばなかったり」

 

「神の刀じゃないけど、神の剣ならオレのだぞ」

 

「話の腰を折るでなーい。

その刀に魅せられた刀鍛冶がおったそうじゃ。名はクロガネ、稀代の刀鍛冶で其奴は心血を注ぎ込んで、その神の刀を越えようとした。(さけ)ぶ嵐を征する刀を、征嵐を生み出した」

 

「……スゴい刀は出来たの?」

 

「結果は惨敗じゃ。何十回と挑んでは征嵐は神の刀に叩き折られ、遂には勝てぬ事に絶望したクロガネはその刀に首を斬られてスパンと死んだ……もしくは絶望して命を絶ったと言われておる……何百年も昔からの」

 

「よくある怪談話ですね」

 

「コレーぃ!ゴンベエといいエレノアといい、話の腰を折るでない……ま、本当かどうかは眉唾物じゃからワシもさぱらんよ」

 

 とは言うものの、目の前にはそれっぽい人物が居るわけだ。

 

「その話は大体は本当だよ」

 

 エレノアがよくある怪談話の一種だと否定すると、ロクロウはそれを否定する。

 クロガネが魅了された太刀はロクロウの家、ランゲツ家に代々伝わる太刀、號嵐でロクロウも幼い頃にチラリとクロガネの話を聞き、何度か征嵐を目にしたことがあるらしい。でも、クロガネの存在は信じていなかったとよ。

 

「刀に勝ちたいって思ってたら業魔になったの?」

 

「ああ、寝るのも飯食うのも忘れて没頭してたらこうなってた」

 

「なんでそこまでして勝ちたいの?」

 

「それがオレの全てだからだ」

 

「クロガネの全て……」

 

「分かる、分かるぞクロガネ。俺も勝ちたいと思い続け、色々とやってたらこうなっちまったんだ」

 

 クロガネが憑魔になった事にどうも納得がいかないと言うよりは、なんで?と疑問を持つライフィセット。

 ロクロウはその気持ちは分かると頷いているので益々分からなくなっている。物作りの人間は頭のネジが1本か2本外れてるって言うが、ライフィセットには色々と分かりにくいだろうな。

 

「ライフィセット、クロガネは譲れないものがあったから憑魔になったんだ」

 

「譲れないもの……征嵐で號嵐に勝つことが?」

 

「クロガネはそれこそが自分の生きる意味、人生だと見出だした。そう思えば分かりやすいか?」

 

 もう人じゃないから人生とは言えねえけど。

 

「クロガネが生きる意味……」

 

「だからといって、業魔にまで身を落とすのは愚かでしかありません」

 

 ライフィセットがクロガネの事を少しだけ納得しているが、エレノアは納得しない。

 

「ライフィセット、エレノアの言っている事は気にするな。

それを気にしたら、憑魔のベルベットと一緒にいたいと思うお前の強い意志は愚かだって事になる。違うだろ?」

 

「ベルベットと一緒にいたいのは、僕の強い意志……エレノアから見て、間違いだったりおかしかったりしても僕は後悔もなにもない……クロガネもこんな感じなのかな?」

 

「大体そんな感じだ」

 

 話を聞いた限り、クロガネは稀代の刀鍛冶で人を殺したとかそう言うんじゃなくて、刀を作り続けた結果、ああなったっぽいし……。

 

「アメッカが対話をしようとしたのは正解だったな」

 

 あの手のタイプが何だかんだで一番面倒なんだよ。

 

「私はただ、どうしてそうなったか知りたかっただけだ……ただ、理解者にも共感者にもなることは出来ずじまいだ」

 

 お前、本当に真面目だな。

 

「業魔の共感者や理解者になどならなくてもよろしいのでは?」

 

「そうはいかない、憑魔が世界各地で色々と暴れているのは分かっている……だが、元々は人間だ」

 

 憑魔を憎む様に仕込まれたのか、それともなにかあったのか否定し続けるエレノア。それでもアリーシャは引かない。

 

「こういう事を言うのはなんだがあの手のタイプは理解するのが難しいし、理解しても原因は他所にある場合もある」

 

「どういうことだ?」

 

「ああいう職人タイプは、それこそが生き甲斐だと思っている奴もいるが周りの目なんかが恐ろしい奴もいるんだよ」

 

 クロガネは絶対に成し遂げてみせると思って色々とやった末にああなったけど、そうじゃないパターンもある。

 

「自分は名に相応しい一流でなければならねえ、次は今作った最高を越えなければならねえ、今あるもので満足せずに新しいナニかを生み出さなければならねえ、作って貰う側はそれが出来て当たり前だと思ってしまうから作り手は、職人は色々と背負わされちまう」

 

 んで、そこに作り手と作って貰う側の境界線は無い、あるのはより苦しむのは作り手ぐらい。

 

「そんなことは」

 

「無いなんて言わせねえ。今より美味いものを、今より綺麗な物を、今よりももっとと人は求める、それが破滅の道だと知っていたとしても、甘い汁を啜る」

 

 それはオレだってそう。今よりも楽な生活を、楽になる様にと求める。

 そして何時かは停滞する。自動車産業が昔と比べて年々赤字続きなのもある意味停滞している証、低燃費で普通に乗れれば良いやとある程度で満足して終わる奴等が増えたからだ。

 

「この世で最も恐ろしくて醜いもの、それは人の心……そして最も偉大で輝かしく美しい物もまた、人の心だ」

 

「言っている事が真逆じゃないか」

 

 いや、真逆じゃねえ。

 

「裏と表だ。貪欲なまでに求め続ける人の心は醜い物だが、求め続けた結果、とんでもない物を生み出す。

料理に芸術、技術、それがなんであれ妥協せずに後先考えずにやり続けた結果、結果…………お前に絶賛、ハニトラを掛けられているという事になったんだったな……」

 

 自分で撒いた地雷を自分で踏んじまった。

 そう、色々と作れると醜い心が生み出した偉大な物が原因でアリーシャに助けて貰わなきゃならない状況になったんだ。

 カッコつけようと思ったけど、自分で地雷を踏み抜いて嫌な事を思い出してしまい落ち込んでいるとアリーシャは頭に手を置こうと伸ばすんだが、オレの背が180越えているので、ちょっと距離を開けられると届かない。

 

「お前、なにやってんだ?」

 

「ゴンベエを落ち着かせようと……言いたいことは分かった、別々に考えてはいけないということだな」

 

「2つは一緒、表と裏、表裏一体と考えてくれ」

 

 クロガネはスゴいものを作ってやると職人魂に火が着いた末にああなった。そこに善とか悪とかの基準を加えるな。1つの側面でしかない。

 とりあえずオレは頭を下げてアリーシャに撫でられるのだが、ベルベットからなにやってんのと絶対零度の視線をくらったのでアリーシャから距離を取る。

 

「お前達、そういう関係なのか?」

 

「そういう関係とは?」

 

「男と女の関係だ」

 

「アイゼン……よく間違われるが、ゴンベエとはそんな関係じゃない。

色々とあって結果的にはゴンベエを誘惑しなければならない事になっているが、そういった関係性は一切無い!!」

 

「……そうか」

 

「落ち込んでる大の男の頭を撫でて慰めようとする大の女は普通、彼女と言うんじゃがの」

 

 そういう関係じゃねえよ、何処に目玉がくっついてんだ。

 

「ついたぞ」

 

 そうこうしている内にクロガネの案内が終わった。

 特に気にしていなかったが、途中から山道を下らずに炭鉱内を通り、無数の折れた刀が立ち並ぶ……刀鍛冶の工房と呼ぶにはお粗末な場所に辿り着いた。

 わざわざオレ達をこんな所に連れてきたということは、アレか?

 

「私達は早く港に行きたいのよ」

 

「ここは煌鋼が埋まってる炭鉱だ。掘り出した煌鋼を輸出する為の港町までの道はある。下手な山道を通るよりも、そこを通れば確実でなにより近道だ」

 

「……」

 

 だったらいくわよとオレ達を先導せずに黙るベルベット。

 ここにどうしてオレ達を連れてきたのか理解しており、その目的を果たさなければ今後に差し支える事も理解している。なんと言うか、素直になれないなろうとしないのがここまで来るとスゴい。

 

「俺の目的は號嵐だ」

 

「俺の目的は號嵐を持っている奴だ」

 

 向き合うクロガネとロクロウ。

 胡座で座り、改めて互いの目的を語る。どちらの目的も似ている、使い手か武器かの違いで殆ど一緒だ。

 

「俺はコイツらと一緒に色々と巡らないといけない、最終的に何処に行くかは分からない」

 

 行き着く先は破滅か、それとも繁栄か。

 オレ達が居た時代から1000年以上経っているから、逆説的に考えるのも難しい。アリーシャが言うには所々歴史が途切れているらしいし。

 

「だが、道中立ち塞がる奴はハッキリと分かる。俺はそいつを斬らないとならない」

 

「それがお前の生きる意味か?」

 

「ああ、そうだ。どうしても斬りたいと思った末にこうなっていた……それでも斬れなかった。卑劣な手を使い、この背にある號嵐・影打ちを使っても斬ることは出来ず、それどころか叩き折られた」

 

「ずっと抜かないと思ったら、そういうことだったのか」

 

 背中の刀を抜かない理由を納得するアイゼン。

 今まで一度も抜く素振りを見せなかった背中の太刀。抜かないじゃなくて抜けない、折れていて使い物にならないから。

 それでも背負い続けるのは、失敗した自分を戒める物として背負っている、もしくはそれに変わる相応しい刀を手に入れるまで背負うのどちらかか。

 

「立ち塞がる奴と號嵐を斬るためにも俺に刀を作ってくれ」

 

「……分かっているのか、俺がどんな理由でこんな姿になったのかを。

號嵐を越える為に何度も何度も挑んで、挑み続けては簡単に真っ二つにされる號嵐に折られるだけの刀しか作れない奴だぞ?」

 

「確かに號嵐に勝ててはいない、今はな」

 

「お前……」

 

「俺もそうだ。あの時、アイツには勝てなかった。だが、折れてはいない。

お前もそうだ。何度も何度も刀を折られようがその度に新しく刀を打っている。俺には分かる」

 

 ロクロウの目は何時も以上に真剣で、本当にそう思っている。

 ここに出てクロガネと出会ったことも運命的なナニかを感じている。

 

「アイツを斬るのは俺で、號嵐を斬るのはお前が作った刀だ!

何十年、何百年も折れることなく刀を打ち続けるお前の執念と奴を斬りたいと強く思う俺の恨み、この2つのどちらが欠ければ成し遂げる事は出来ない。だから頼む……刀を俺に託してくれ」

 

 熱くなったのか、言っている事が若干変わってんぞ。

 

「お前が折れない限り、俺は何度でも打ち直してやる。號嵐・影打ちを貸せ」

 

「悪いが、コイツは使わない。

號嵐・影打ちは過去の自分を戒める為の物で、俺はアイツに勝つためにランゲツ流の裏芸を、二刀小太刀を磨いた。作るならば、小太刀や短刀を……ゴンベエ、煌鋼を採取しに行くぞ。炭鉱だから、掘れば出てくるだろう」

 

「それは良いんだけどよ……」

 

 モグラグローブを使えば、簡単に掘り進む事が出来る。

 無くした鉱石を一気に補充できればWin-Winなところがあるが……それよりもやらないといけねえことがある。

 

「クロガネ、お前、槍を作れるか?」

 

「作れるには作れるが、お前にはその剣があるだろう。

仮にその剣を槍にしてくれと頼まれても触れる事が出来ない以上、俺はなにも出来ない」

 

「この剣を打ち直して欲しいんじゃねえよ」

 

 血翅蝶に頼んでおいたが、クロガネよりも腕の良い職人は何処にもいねえ。今のオレ達みたいに犯罪者的な立ち位置だから一般的なのに頼み込むのも難しい。後、下手すりゃとんでもない額の金を取られるかもしれねえ。

 

「アメッカの槍を作ってくれ」




スキット そういう関係じゃないその3

ライフィセット「……ねぇ、アイゼン、聞きたいことがあるんだけど」

アイゼン「なんだ?」

ライフィセット「ハニトラってなに?」

アイゼン「……すまん、もう一度言ってくれ」

ライフィセット「ゴンベエがアメッカにハニトラされてる関係とかたまに言ってるでしょ。ハニトラって聞いたことが無いからなんなのかなって……」

アイゼン「あいつ等……いや、ライフィセットも男だ。むしろ知っておくべきか」

ロクロウ「なんの話をしてるんだ?」

ライフィセット「ロクロウ、アイゼンにハニトラってどういうことなのか聞いてたんだ」

ロクロウ「あ~……それはだな」

アイゼン「待て」

ロクロウ「安心しろ、幾らなんでもストレートには言わない。ライフィセット、ハニトラと言うのを知るには先ず女の恐ろしさを知るところからはじまる」

ライフィセット「ベルベットは怒ると恐いけど、本当は優しいよ?」

ロクロウ「それに騙されるなと言っているんだ」

アイゼン「息を吐くように嘘をつく女、それを見抜けずに騙される男」

ロクロウ「分かる。分かるぞ……」

ライフィセット「2人とも、なにか悲しい過去があるんだね……」

ロクロウ「刀で斬られた傷よりも女につけられた心の傷の方が痛み、治りが遅いこともある」

アイゼン「女の涙には気をつけろ、偽の涙を流す事が出来て見抜けなければ大きな損害を受ける」

ライフィセット「女の涙には気を付けろ……うん」

ベルベット「ちょっとあんた達、ライフィセットになにを教えてるのよ!」

アイゼン「女について教えている」

ベルベット「変な事を教えるんじゃないわよ……それ以上、教えるって言うなら喰らうわよ?」

マギルゥ「おー怖いのぅ……そこまで言うのならば、こやつらの代わりにお前が坊に色々と教えてやらんとの」

ベルベット「っ、なんでそうなるのよ?」

ロクロウ「お前が余計な事を教えるなって言うからだろ」

ライフィセット「ベルベット、教えて。ハニトラってどういう意味?」

ベルベット「っ──それは、その」

マギルゥ「おや、まさか教えれんと言うのか?」

ライフィセット「……ベルベットは恥ずかしがってて、マギルゥは面白がってる」

アイゼン「どうやらお前は本質が分かってるようだな」

ライフィセット「え?」

ロクロウ「あの二人を見て、色々と分かってりゃ女はそこまで怖くはない!……多分」

エレノア「言っておきますが、私は違いますからね!息を吐くように嘘をつける女性がいるのも、涙を自在に操る事が出来る女性もいますが、断じて私は違います!!私は嘘は嫌いです!!」

ライフィセット「エレノアは嘘が大嫌いな正直者なんだね」

エレノア「あ、はい……」

ライフィセット「じゃあ、ハニトラの意味を教えてくれるかな?」

エレノア「それはですね……どうしてそんな事を聞く気になったのですか?」

ライフィセット「ゴンベエがそう言ってたから、なんだろうって」

エレノア・ベルベット「「ゴンベエ!!」」

ゴンベエ「んだよ、こっちは今、道具の整理で忙しいんだぞ」

エレノア「貴方はいったいライフィセットになにを言ったのですか!!」

ゴンベエ「オレが悪いの前提か?ざけんなよ、犯罪は……犯しまくりか」

アリーシャ「皆で騒いで、なにかあったのか?」

エレノア「アメッカ、ちょうどよかったです。この際だからお聞きしますが、貴方達はハニトラな関係なのですか?」

アリーシャ「……そうであればどれほど楽だったか。そうなっていることになっているが事実は違う、ゴンベエが私の命を握っている。私はゴンベエを縛り繋ぎ止める鎖の役割だが、何時でもゴンベエは逃げ出そうと思えば逃げる……それをすれば最後、私は処分されて終わる」

ゴンベエ「あのド腐れどもからは逃げたいが、お前から逃げようなんてあんま考えねえよ。何だかんだで世話になっている身なんだ。なんかあったら力を貸したり、背中を押してやる」

アリーシャ「世話になっているか……私が税金の免除をすんなりと通せたのは裏で様々な陰謀があったからだ。応援し背中を押してくれたのに期待に応える事の出来ない自分が時折憎い。そうだ、ゴンベエ。レディレイクに住まないか?幸いにもレディレイクは資源豊かで水車を回すには最適だ。研究費用と言えば国からある程度は出せるし、土地も選べる」

ゴンベエ「税金の免除だけで充分だっての」

アリーシャ「そうか……もし困ったのなら何時でも言ってくれ。私に出来るのはお金しかないんだ……」

ベルベット「……ヒモね」

アイゼン「ヒモだな」

ロクロウ「ヒモだ」

マギルゥ「ヒモじゃの」

エレノア「最低のヒモですね」

ゴンベエ「オレは普通に働いてるわ!!」

ライフィセット「……見掛けや嘘に騙されちゃいけない。これって女性だけじゃなくて男性にも当てはまるんだね


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強き志が宿りし刃は地面に置いても輝く

「私の槍……待ってくれ、ゴンベエ」

 

 クロガネに前に言っていた私の槍を作ってくれと頼み込むゴンベエに待ったをかける。

 工房の周りに落ちている無数の折れた刀、一つ一つが業物と呼ぶに相応しい名刀だが、クロガネはそれに満足する事なく更に強い刀を打とうとしている。その根底に執念が宿っている事に対して些か思うところはあるが、さっきの職人の話を聞いて考え様によっては妥協を一切許さない向上心の強い優れた職人だと言うことは分かり、頼んだのも分かる。

 

「気持ちはありがたいが私の場合、そういう問題じゃない」

 

 持っている槍を取り出す。

 

「刀ばかり作ってきたとは言え、その槍よりはましな槍ぐらい作れる」

 

 バンエルティア号の大砲に撃ち落とされ、槍を失ってしまい、代わりに貰ったこの槍はそれなりの物で、元の時代で使っていた自前の槍と遜色無い。クロガネの打った征嵐と比較すれば見劣りするが、充分すぎる代物で戦う事は出来る……鍛えている普通の人に対してまではだ。

 

「そうじゃない、そうじゃないんだ……私はただの人間だ」

 

 ここに来てからも鍛練は続けているが、槍を振るう機会は無い。

 ゴンベエが私を守ってくれるから、と言うわけでなくただただ単純に私が弱いからだ。憑魔や聖寮と戦うには、エレノアやマギルゥの様に天族の器になるしかない。

 だが、私に入ってくれる天族は何処にもいない。なによりも器となるには最低でも、肉眼で天族を見えるほどの霊応力を持っていなければならない。この時代では何故か肉眼で見えているが、私の霊応力が低い事には変わりない。

 あの槍と似たような物を手にし、果たして戦う事が出来るだろうか?導師アルトリウスの強さを目の当たりにしただけに、自信が無い。あの状態から神衣が残っていると考えれば尚更だ。

 

「ベルベットも、ただの人間だった」

 

「……私にそれは無理だ」

 

 超常的な力を得る方法はもう1つあるが、それは出来ない。と言うよりは、それは無理だ。

 今の私の心は大きく揺れ動き、なにが正しいのかなにが間違いなのか、何故?どうして?と言う疑う心が段々と強くなり、色々と見えるものが増えて1つの答えを出せた。

 精神的に大きく成長した私にそれは難しい。

 

「ちげぇよ、その方法がダメなら別の方法を探す。人間の無限の可能性と諦めの悪さを舐めるんじゃねえ」

 

 ゴンベエはそう言うと神秘的な白い輝きを放つ大剣を取り出す。

 背負っている剣が放つ青い光と比べても遜色無い程の清らかさを感じる。

 

──ボキッ

 

 ゴンベエは剣を両手で持ち、膝で真っ二つに折った……え?

 

「ベースはこの六賢者の剣だ」

 

 ポイっと地面に投げ捨てるゴンベエ。

 

「森のメダル、炎のメダル、水のメダル、闇のメダル、魂のメダル、緋色の鋼、紺碧の鋼、深緑の鋼、勇気の紋章、マスターストーン、影の結晶石、フロルの神珠……こんなもんか」

 

 次々と道具を取り出しては一ヶ所に投げ捨てていくゴンベエ。

 最初の剣ともゴンベエの背負っている剣とも違うが、どれもこれも不思議な力を纏っている。

 

「こんだけの素材を使えば、最上級の槍が出来んだろ」

 

「見たことの無い素材、それだけでなく力が宿っているな。それも同じ力じゃない、1つ1つが似ていて異なる力を宿している」

 

 ゴンベエが出した物に触れ、鑑定するアイゼン。

 私も顔を近付けて、素手で触れてみると金属なのは分かるが、今までに触ったことの無い感じで、宿っている力が伝わってくる。

 

「コレ等を槍の素材にすればとんでもない槍が生まれる……だが、いいのか?

幾つか鉱石は混じっているがこのメダルや珠は明らかに武器や防具の素材じゃない、財宝に近い物で二度と手に入らない一品物だぞ」

 

「いいんだよ、この辺のもんは持ってても埃を被るだけだ。それだったら使える物にして、求めている奴に使わせる」

 

 それが一番だと私を見るゴンベエ……。

 

「私が、そんな大それた槍を作って貰って良いのか?」

 

 もっと大事な事に、大事な物に使うべきじゃないのか?

 

「構わねえよ。何度も同じ事を言わせるな……戦って、裁けぬ罪を裁ける様にしたいんだろ?」

 

「……ありがとう」

 

 本当に、何時もゴンベエには世話になってばかりだ。

 

「アメッカ、手とその槍を見せろ」

 

「ああ」

 

「俺の刀はどうすんだ?」

 

「悪いが、先にこっちを片付ける。こっちは一回勝負、お前とは長い戦いになるから少しだけ待ってくれ」

 

「すまない、ロクロウ」

 

「ったく、しゃあねえな」

 

 結果的に横入りしてしまった事に申し訳無いと感じながらも、手と槍をクロガネは見る。私の手の大きさや形、背丈にあったちょうど良い大きさの槍を作るために。

 

「……こりゃあちょっと無理があるだろう」

 

「やっぱそうなるよな」

 

私の手や背丈を見終え、少し困った声を出すクロガネ。ゴンベエはそんなクロガネに相槌を打つ。

 

「どうして槍が作れないんだ!?」

 

 目の前には見たことの無い鉱石や素材が沢山ある。それでもまだなにか足りないと言うのか?

 

「逆だ、逆。多すぎる」

 

 クロガネはそう言うと私の槍を新しい槍の素材の横に置いた……。

 

「素材、多いね」

 

 ライフィセットのその一言に作れないと言う理由に納得がいった。

 私の持っていた槍とゴンベエが出した素材を比べて明らかに多い、いや、多すぎる。一番最初に出した剣だけで私に合った槍が出来るのでは?そう思えるぐらいに素材は多かった。

 

「前に言っていた作る過程でオレ達の協力が必要だと言うのはそういうことか」

 

 ボキボキと腕を鳴らすアイゼン……そう言うことか!

 

「素材を砕くのか!」

 

 1つ1つ全てを使うことは出来なくても、砕いた素材の破片を一番最初に膝で真っ二つに折った剣に混ぜていき新しい金属を生み出し、その金属を用いて新しい槍を作り出す。

 この数となればゴンベエ一人だとそれなりの時間がかかるので、ロクロウやアイゼン達の力が必要になる。

 

「ハンマーなら幾らでもあるから、思う存分に使ってくれ」

 

「おう!」

 

「オレは素手でいく。誤って死神の呪いが発動してハンマーの鉄槌部分だけが飛んじっちまう」

 

 文字通り腕を鳴らし、どれから砕くかと吟味していくロクロウとアイゼン。

 

「僕も手伝うよ」

 

 それに続き、ライフィセットも加わる。

 

「……ライフィセット、あんたは天響術で砕きなさい」

 

 そう言いながら、ベルベットはライフィセットが持ったハンマーを取り上げた。

 

「要約すると、ハンマーは重くて危険な物なんだからあたしに任せ──」

 

「あんたはいい加減にしろ!!」

 

「──っ──なさいと言うベルベットの優しさだ、実際問題重いから甘えろ」

 

 素直になれないベルベットの気持ちを代弁しようとしたせいで、怒らせてお腹を殴られるが耐え抜いたゴンベエ。

 痛いと呟きながらも小さくガッツポーズをしていたので更に怒らせてしまい、持っていたハンマーで殴られそうになる。この二人はどうしてこうなるのだろう……。

 

「勘違いしないで、砕いて破片を混ぜるなら幾つか余るでしょ。

私はそれで新しい武器を作ってもらうだけよ。ロクロウもそうだけど、私の武器も新調しないとこの先どうにもならないのよ」

 

「……ああ、使ってくれ」

 

 言っている事は本当だろうが純粋な善意で手伝ってくれるのがよく分かる……なんだろう、この気持ちは。

 

「オレの」

 

「あんたは私の下僕でしょ?私の物は私の物、あんたの物は私の物よ。エレノア、命令。手伝いなさい」

 

「分かりました……では、参ります!奥義、スパイラル・ヘイル!!」

 

 斬り上げ、螺旋状の衝撃波を槍に纏わせ刺突でフロルの神珠と呼ばれる物を砕きにいくエレノア。

 これは威力が強すぎないか?最終的には合成して新しい金属にするから良いのかもしれないが、砂レベルまで細かくなると金属を作れなくなるかも……。

 

「お見事!!……って、ヒビ1つ入っておらんぞ!?」

 

「あんた、手を抜いたでしょ」

 

「人聞きの悪いことを言わないでください。

貴女達を強くする事は癪ですが、誓約がある以上は手を抜けません。これは……この珠が異常なまでに硬いのです」

 

 たった数回振るっただけなのに、刃溢れを起こしているエレノアの槍。

 

「ゴンベエ、こいつ、滅茶苦茶硬いぞ!!」

 

 ガキンと金属を叩く音と共に叫ぶロクロウ。メダルが置かれている場所は凹み、何度も何度も打ち付けた跡があるもののメダルには傷1つ入っておらず、何度も何度もハンマーを大振りで打ち付けるが形は変わらない。

 

「アイゼン、そっちはどうだ!」

 

「っち、こっちもだ!」

 

 拳で挑むアイゼンは舌打ちをする。

 メダルを殴って砕こうとしてはいるが、ロクロウと同じくメダルを置いている場所に凹みこそあれど、メダルその物に傷が1つも入っていない。

 

「今度は僕が、意思連なり怨敵貫け!出でよ!ディバインセイバー……ごめん」

 

 ライフィセットの天響術でも傷1つつけれない……。

 

「坊の天響術でまともな傷1つつけれんなら、ワシにも傷をつけることは不可能じゃ」

 

 道具でも拳でも術でも砕くどころか傷1つつかない素材。

 アイゼンやロクロウでダメなら、ベルベットや私がハンマーを力ずくで叩いたとしても砕く事は出来ない。

 

「お前さんならどうにか出来るのではないのか?」

 

「背中の剣を使ってメダルがある空間ごと叩き斬る技はあるが、斬った空間が無くなるから破片がちょこっとしか残らねえ。流石に予備の材料無しは色々と困るって、言ってられねえか」

 

 背中の剣でなく、弓矢を取り出すゴンベエ。

 

「アメッカ、誰も居ないところに置いてくれ……結構大きめなのをやる」

 

 矢筒から一本の矢を取り、弓の弦を引き、私が壁に置いたメダルに狙いを定める。

 すると矢尻の部分に眩い光が収束していき、最終的には矢全体が光に包まれる。

 

「天誅・パワーアロー!!」

 

「っ!!」

 

 なんて光だ!

 何時も使っている技よりも神々しい一撃を、一矢をメダルに向けて放つ。

 眩い光を直視する事が出来ない私達は腕で目元を被い、光を直視しないようにした。

 

「……どうなった?」

 

 放った矢の威力は凄まじく、新しい道が出来たと言われてもおかしくない穴を開けた。

 これでダメなら、どうすることも出来ないと私は穴の中に足を踏み入れてメダルは何処かと探し

 

「これでも、ダメなのか……」

 

 見つけた。……傷1つついていないメダルを。

 光のせいでちゃんと見れなかったが、光の矢はメダルに命中している。常人どころかアイゼンやライフィセットの様な天族が受けても即死は免れないであろうあの一撃でも砕けなかった。

 

「硬くてスゲえ頑丈なのは分かっていたが、ここまでとは……コイツが欠片になるなら、メダルもバラせる筈なんだがな……次元ごと叩き斬って、欠片サイズにするか」

 

「ゴンベエ」

 

「ベルベット、悪いがコレばかりは聞けねえぞ。

幸い、今の一矢で出来た穴からなんか色々と石が出てきたっぽいから、それでクロガネに作ってもらえ」

 

「違うわよ、アレってこの前のよね」

 

「アレ……こんな時にかよ」

 

 私達がクロガネの工房に来た側とはまた別の側に、黄金の狼が立っていた。

 あの狼は私に断鋼斬響雷を授けてくれた骸骨騎士で、授け終えた後に次はベルベットだと予告をしていた。今、私達の目の前に現れたということは、ベルベットに技を授けに来たのか。

 

「ちょうどいいタイミングね。武器が手に入らないのなら、技の1つでも覚えてやるわ」

 

「……わふ……」

 

「狼の姿に……貴方も業魔だったのですか!?」

 

「いや、業魔というよりは」

 

「そんなのどっちだっていいでしょ。あいつ、どっかに行くわよ!!」

 

 はじめて狼になったゴンベエに驚くエレノアを他所に、何処かに行こうとする狼を追いかける私達。

 先程までいたクロガネの工房よりも少し大きな場所に出ると狼は止まり、ゴンベエと向かい合い前とは異なる吠え方で共鳴するゴンベエと黄金の狼。

 

「よかろう……」

 

 前回と同じく、真っ白でなにもない場所に連れてこられた私達。

 エレノアが何事かと驚き続けているので簡単に説明をしていると骸骨の騎士が現れる。

 

「汝、力を──」

 

「求めるわ。アルトリウスを殺せるなら、あんたやゴンベエみたいにわけの分からない奴の力だって求めるわ」

 

 前回の私の時同様に問い掛けるのだが、ベルベットは言い終わる前に答えた。

 

「ならば、汝に技を授けよう!!」

 

 即答について気にしない骸骨騎士。

 技を授ける声と共に何処からともなく穢れを纏った憑魔が出現した。

 

「っ、業魔!」

 

「お前は後!!」

 

「下がっていろ、エレノア……どうやら、アレはベルベットの為に用意されたみたいだ」

 

「そういうことみたいね」

 

 槍を構えるエレノアを骸骨騎士とアイゼンが止めると、ベルベットは走り出す。

 ここはエレノアやベルベットが居たと言う地脈の中でもさっき居た場所とも異なる空間で、憑魔が何処からともなく出たのもこの特殊な空間のお陰なのだろう。

 

「ヘヴンズクロウ!!」

 

 出てきた憑魔を倒せと言う意図を読み取り、左腕を変えるベルベット。

 狼、オーク、中身の無い甲冑、下半身がエビ、上半身が人間のケンタウロスの様な甲殻類、ハーピィ、クラーケン、木、多種多様な憑魔を左腕を大きく振って高く飛ばす。

 

「終わりよ、スカーレット・エッジ!」

 

 飛ばした憑魔に追撃の手を緩めず、紫色の炎を左手に持たせて大きく腕を振って投げつける。

 憑魔は炎に焼きつくされ倒された。こうやって改めて見るとベルベットは強いのがよく分かる……が、なにを教えるのだろうか?ベルベットは憑魔の力を使った戦い方をしている。武器も独特すぎて余り見たことの無いスタイルで、新しい技と言われてもピンと来ない。

 

「で、なにを──また?」

 

 倒した筈の憑魔があっさりと復活した。

 

「何度やったって同じよ、ヘルズクロウ!!」

 

 さっきとは少し異なるものの、左腕を使った技で攻撃する。

 さっきより強い技で、これだとさっきと同じ様な終わり方をするのではないだろうか?そう思い見守っていると、攻撃された憑魔は消え去る。

 

「で、私にどうしろって言うの?」

 

「……アレに得意なのをぶつけてみろ」

 

 骸骨騎士がそう言うと、なにもないところから案山子の藁人形が出てくる。

 

「植物なら燃やす、インフェルノ・ブルー!!」

 

 藁人形に青い炎をぶつける。

 炎から熱は感じる。凍らせに来ているのかと思うほどに冷たい炎で、それでも燃えていると言うことはベルベットの特殊な力でそう感じる炎になっているのが分かる。

 

「もう一度だ」

 

 三度現れる憑魔。

 さっきから倒してばかりでなんの進展もなく、どういう技を教えてくれるかの説明の無い骸骨騎士に若干の苛立ちを感じながらも左腕を使って一掃。

 

「炎を焼き尽くし、越えてみせろ」

 

 二度目と同じく憑魔は直ぐに消えて、さっきと言うか現在進行形で燃えている藁人形のみ残る。

 炎は色や雰囲気こそ違えど、空気を遮断したり水をかけたりすれば消える炎ではない。穢れを纏った炎で、スレイがライラ様の器となった日の事をふと思い出す。

 あの時は水の天族のミクリオ様が居たが、炎に穢れを纏っていて鎮火出来ないと言っていた。この炎も種類こそ違えど一緒なのだろう。

 

「炎を焼き尽くす?炎は炎でしょ?」

 

「否、ただの炎ではない」

 

「……スカーレット・エッジ!!」

 

 炎を焼き尽くすと言う言葉の意味が分からないまま、別の炎をぶつけるベルベット。

 インフェルノ・ブルーの青色の炎は目に見える変化らしい変化は起きておらず、そのままだった。

 

「未熟者」

 

「なんですって!」

 

「窮地的な事態、状況であるにも関わらず風が吹けば振り子の様に心が揺れ動く。それを未熟者と言わず、なにを未熟者と言う?」

 

「それは違う!」

 

「アメッカ?」

 

 骸骨騎士の言うとおり、ベルベットの心は揺れ動いている。だが、それは未熟者だから揺れ動いているんじゃない。

 

「ベルベットは本当に優しい人間だから、揺れ動いているんだ!!」

 

「あんたまでなにを言い出すのよ」

 

 ベルベットが憑魔になったのは弟が殺されたから。大事な家族が殺されたのならば、誰だって憎む。

 現にベルベットは殺したアルトリウスを憎んでいる……だが、それだけだ。理性を失いそこかしこに意味もなく暴れる様な憑魔ではない。それどころか、不器用な優しさをライフィセットに見せる。

 そしてその不器用な優しさは無理して出している感じがある。本当ならば素直に出せるのに、やらなければならない事とか色々とあって出せていない。

 

「アメッカの言うとおりだし……お前、焦りすぎだ」

 

 ゴンベエも狼から元に戻り、援護する。

 それと同時にベルベットはゴンベエを殴った。

 

「ベルベ──」

 

「あんたになにが分かるの!!私は一刻も早くアルトリウスを」

 

「殺したいんだろ?」

 

 ベルベットに殴られ、尻餅をついたが何事もなく立ち上がる。

 殴られた事に対してなにも言わず、ベルベットに声を掛けようとする私をチラリと見て邪魔をするなと目配りをする。

 

「ええ、そうよ!!その為には武器を、力を、カノヌシがなんなのか知ることが必要なのよ!!」

 

「その通りだな。ただ殺すと殺意を挑んで色々と無茶した結果が今なんだから」

 

「お前っ!!」

 

 右手で胸ぐらを掴み、左腕を変えてこれ以上喋れば殺すと脅す。

 

「なにをしているのですか!!」

 

「これでええ、これで」

 

 見守っていたエレノアが止めに入ろうとするが、ゴンベエは止める。

 

「オレは無責任な事もカッコいい言葉も言いたくないし言えねえし、そこまで器用じゃねえんだよ……とにかく、一旦落ち着けよ」

 

 ゴンベエがそう言うと、今度は左腕で殴る。

 かなりの一撃だが、一歩も動かず一歩も引かず、防ぐことすらせずに受けきってベルベットを見つめる。

 

「アメッカが言った通り、お前は本当に優しい人間だ。さっきだってライフィセットにハンマーを持たせるのが危険だからって」

 

「黙れ、黙れ、黙れ!!」

 

 何度も何度も殴り続けるベルベット。

 

「私は、あいつを、アルトリウスを殺す!!

その為にはなんだってやってみせる。それを阻むものは、どんな者だろうと喰らい尽くす!!それが、それが自分の心であろうと!心なんて、優しさなんて」

 

「力を、強さを求めるのだって心だ、欲望だ」

 

 なにがなんでも成し遂げて見せると決意を見せつけようとするベルベットの拳はゴンベエは受け止める。

 

「自分の気持ちを一旦整理しろよ。お前は色々と不安定で、その不安定をどうにかしないと固い意思や決意を持った奴には勝てねえぞ」

 

 ベルベットの気持ちは不安定だ。

 憑魔になった原因や大敗が大きな要因となっていて、それをどうにかしようと必死になっている。いや、なりすぎている。早く港に行きたいと言い続けているのも、新しい武器や力を貪欲なまでに求め続けているのも、必死になりすぎた結果生まれた焦りだ。

 

「よいしょっと」

 

「なにを──」

 

「一なにも考えるな、なにも見るな、ボーッとしろ。無になれ、リスタートしろ」

 

 ベルベットの頭に紙袋を被せて、無理矢理正座させるゴンベエ。

 必死になって暴れるもののゴンベエに抑え込まれ、息苦しくなったのか紙袋を外そうとするがそれも止められ、呼吸が上手く出来ないのか弱々しくなり、暴れなくなった。

 

「なにがしたいのか、なにをしなければならないのか、どうしたいのかを書いてみろ」

 

 暴れなくなったベルベットに紙と筆を渡す。

 冷静になったのかゆっくりと紙袋を外し、紙に自分がやりたい事やすべき事を、その為になにが必要かとゆっくりと書いていく。

 

「あんま良いことじゃねえけど、1つだけ教えてやるよ。

優れた殺し屋はくだらねえ争いはせず穏便に済ませる。今みたいな小さなイザコザを起こしたり焦ったりすれば大きな標的を逃すからだ……殺意を理性で抑えて、理性で殺意を解放しろ」

 

「イザコザを起こしてるのはあんたじゃない……まぁ、いいわ」

 

 よかった、生じていた焦りを拭うことが出来たみたいだ。

 

「もう一度……アルトリウスを殺すために、やってやる」

 

 自分がすべき事をしたいことを書いた紙を見て冷静になって左腕を憑魔の姿に変え、殴っている時もずっと燃えたままだった冷たい炎に再挑戦する。さっきの様に攻撃するのでなくまずはどうすれば良いのかと一度立ち止まり考え始める。

 

「炎を焼き尽くして越えてみせろ……あの骸骨騎士、おかしな事を言ったわよね」

 

「確かにおかしな事だ。だが……適当な事を教えようとはしていない」

 

 あの骸骨の騎士は私達に技を授ける為に私達の前に現れている。

 私に断鋼斬響雷を教えてくれた様にベルベットになにかを教えようとしている。その答えが、炎を焼き尽くす事なのだろう。

 

「お前達、アレが本当にただの炎だと思っているのか?」

 

 アイゼン?

 

「修行の一つだと口出しせずにいたが、言わせてもらう。何処の世界に冷たい炎が存在している!!」

 

「ここにあるじゃないか」

 

 なにを今更な事を言っているんだ?

 

「アイゼン、それ以上はダメだろう」

 

「……とにかく、それは普通の炎じゃない。それだけは理解しておけ」

 

 ゴンベエに抑止されるとアイゼンはそう言うと引いていった。

 普通じゃない……青い炎は穢れを纏った炎で、熱さでなく冷たさを感じる。普通に水をかけても鎮火する事が出来ない炎で、浄化しなければならない。それを出来るのは天族で、ベルベットは憑魔。真逆の存在で浄化をすることは出来ない。あの時も穢れを浄化してから炎をどうにかした……いや、待て。

 

「別に浄化をしなくてもいい?」

 

 浄化の力で穢れを祓わなければならないが、今の状況とあの時の状況では大幅に異なっている。

 浄化の力があればと何度も思うときがあったがこの時代には浄化の力が無いどころかベルベットは憑魔。浄化の力はどう頑張っても使えない。なによりも浄化をしなければならないわけではない。

 

「浄化、浄化って、なにを言ってるのよ?」

 

「っ、気にしないでくれ」

 

「そう……アイゼンが言いたい事、なんとなく分かった気がするわ」

 

 青い炎の前に立ち、左腕から紫色の炎を出す。

 

「あんたの言うとおり、私は人間だった。エレノアやマギルゥみたいに術が使えるわけでも聖隷が見えるわけでもなかった、業魔になってからこんな事が出来るようになった。だったら、普通の炎じゃない……普通じゃない炎を普通じゃない炎で、焼き尽くす!!」

 

 ベルベットの出す炎が徐々に徐々に大きくなる。

 

「違う、コレじゃない……コレだと大きいだけ……」

 

 その炎でも満足する事は出来ず、ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせる。

 それに答えるかの様に大きくなっていた炎も段々と小さくなっていき、形が変わっていく。

 

「ベルベット、これはまずい!」

 

 なにかの技になっていくのを見守っていたが、この技はまずい!!

 蛇の様な形に変わっていくと今度は段々と黒ずんだ色に変わり、それと同時に背筋に悪寒が走る。私はこの感覚と似たようなのを二度感じている。

 これはヘルダルフやドラゴンの穢れの領域に入った時と同じ感覚で、ドラゴンの時より弱いがヘルダルフのものよりも強い。ベルベットは憑魔だから、穢れの領域を出したとしてもおかしくないが、まずいと私のなにかが言っている!!

 

「それ以上はよせ!!どうなるか分からないぞ!」

 

 もしかすると、ドラゴンになるかもしれない!

 

「まだ、よ……後、もう少し、もう少しでっ……」

 

 ベルベットは苦痛の表情を浮かべる。

 息を荒くしながらも耐えていると蛇の形をした紫色の炎は墨の如く雑じり気の無い黒色の炎となり、先端部分が少しずつ変化していき龍の頭部になった。

 

「今よ!!」

 

 炎が龍の形になると、青い炎に放った。

 黒い龍の形をした炎は生きているかの様に動き、青い炎の中に入ると青い炎から感じていた冷たさは無くなり、私でも感じるほどの強力な穢れに代わり、青い炎は黒い炎へと変わっていく。

 

「青い炎を喰らった……」

 

 浄化の力でなく更なる穢れの力で喰らい、焼き尽くした。

 

「邪王炎殺黒龍波、見事に体得したな」

 

 ドラゴンに変化する程の穢れを持った炎で相手を喰らい焼き尽くす、骸骨の騎士はこの技を教えたかった様で満足そうにする。

 

「邪王炎、殺黒龍波…はぁはぁ…コレなら、アルトリウスも、っ!!」

 

「ライフィセット、早くベルベットの治癒を」

 

「うん!」

 

 技の威力を見て、満足するけれども満身創痍のベルベット。

 立っているのもやっとで、左腕に巻き付いている包帯も黒く焦げていて太もも等の素肌を晒している部分に火傷をしている。

 

「ベルベットの傷、治りが遅い……」

 

「その技は諸刃の剣の様じゃの」

 

「そんな……」

 

「驚く事は無いぞ。龍の形に変化するほどの力を込められた炎を憑魔では扱い切れぬのは当然の事、ましてやベルベットはダイルの様に肉体が別の生物となっておる訳ではない。第3の手となる尻尾を得たわけでも空を飛ぶ翼を得たわけでもなく左腕以外はそのままで耐えきれんのは道理じゃろ」

 

 ドラゴンは憑魔となった天族が憑魔となり、浄化することが出来ない程に穢れた末になるもので、ベルベットは憑魔。

 黒炎は龍の形に変化するほどに穢れていて、単純に考えれば憑魔のベルベットよりも強い穢れを、強い力を持っている。

 

「……その技を使い続ける事は己の身を滅ぼす事と同じだ」

 

 技を覚える為にと見守っていたアイゼンも邪王炎殺黒龍波にいい顔をしない。

 

「それがどうしたのよ、この技ならアルトリウスにだって──」

 

「ダメ!!」

 

 己の身を滅ぼす可能性すら秘めている邪王炎殺黒龍波。

 ベルベットはその力ならばと自分の体を省みない意思を見せるが、ライフィセットは叫んだ。

 

「この技を使ったら、今度こそベルベットは死んじゃう……そんなの、そんなの、僕は嫌だよ!!」

 

「ライフィセット……」

 

 今までの傷と違って邪王炎殺黒龍波の傷は明らかに治りが遅い。

 切り傷だろうが治せるライフィセットの治癒術でも治らないとなれば、尚更でベルベットを抑止する。

 

「僕が、ベルベットの分まで頑張るから、だから、その技は……僕に、技を教えて!!」

 

「……」

 

 骸骨の騎士に頭を下げ、技の教えを乞う。

 しかし、骸骨の騎士はなにも答えずにライフィセットの横を過ぎ去り私の元に来る。

 

「槍を取れ」

 

「待ってくれ、私は前に技を教わった」

 

「言った筈だ、次はお前()だと」

 

 確かに……あれはベルベットにも技を教えると言う意味だったのか。

 

「だったら、私よりもライフィセットに技を教える事を優先してくれ……技を会得したところで、今の私では使い物にならない」

 

 戦えない私よりも、戦えて技を求めるライフィセットが覚えた方が良い。

 

「汝が戦える様になれば、結果は同じだ」

 

 それは……そうだ。

 骸骨の騎士には私の言葉は通じず、それどころか論破されてしまう。

 

「1つ、技を教える前に聞いておきたい事があるんだが良いか?」

 

「汝に教える技は無い!」

 

「いや、オレはいらねえよ……コイツの砕き方を知ってるか?」

 

 槍を取り出し、技を教えてもらおうとすると間に入ったゴンベエ。

 ここに来るまでにあの手この手と尽くしたが傷1つつける事が出来なかったメダルを取り出した。

 

「オレの記憶が正しければ、コイツよりも更に頑丈なのが砕け散った。それだったら砕けない筈がない、砕くなんらかの方法が存在している筈だ……それ分かるか?」

 

「愚か」

 

「あ?」

 

「それは賢者に目覚めし者が、勇者を支える為のメダル。

誰が賢者として目覚めるかは不明だが、目覚めし者に力を授け汝を支える」

 

「んなの、どうだっていいんだよ。オレはアメッカに色々と支えられてんだし、戦える様になってほしいんだよ。何処の誰か知らない奴に支えて貰うぐらいならオレの事をよく知ってくれてるアメッカに支えて欲しいし、支える事が出来る」

 

「支える、か」

 

「支えるってより、支え合うのが正しいのか?まぁ、とにかく砕けるなら砕き方を、なんだったら砕いてくれ」

 

「……汝に技を授け、メダルや神珠を砕こう。しかし、その後にどうなるかは自己責任だ」

 

 私は骸骨の騎士から新しい技を教わる。

 技を覚える過程で、メダルや珠は粉々に砕けて私の新しい槍を作るのに必要なサイズが出来た。

 

「次はお前だ」

 

「ほぅほぅ、次はワシの番か。楽しみに待っておるぞ」

 

 骸骨の騎士がマギルゥに槍を向けると、眩い光に包まれて炭鉱に戻った。

 

「……アレは、夢だったのですか?」

 

「そんなわけ無いでしょう」

 

 見たことの無い場所から炭鉱に戻ってきて、現実味が無いせいでエレノアは夢かと思うが夢じゃない。

 あそこで起きたことは現実でベルベットはボロボロになりメダルや珠は砕け、私は新しい技を会得した。

 

「メダルは砕けて、新しい技を覚えれたわ。さっさとクロガネのところに戻るわよ」

 

「戻るわよってお前結構ボロボロだろうが」

 

「ライフィセットが治してくれたわ……っ……」

 

「ダメだよ、まだ完治してないんだから無理しないで!」

 

「はい、主治医からドクターストップをくらったから連行な」

 

「ちょ、ちょっと!恥ずかしいから止めなさい!」

 

 さっきあんなことがあったのか、少し前までピリピリした空気を纏っていたベルベットの雰囲気が変わった。

 何処となくさっきよりも柔らかくなった感じがする……それはそうとしてだ。

 

「何故お姫様抱っこ(それ)なんだ!普通、おんぶ(こう)じゃないのか!?」

 

 ゴンベエのベルベットの抱え方に問題がある。

 ベルベットが邪王炎殺黒龍波の反動で歩くのが辛いのは分かる。この中で体格の良いアイゼンは天族なので、憑魔のベルベットに下手に触れることは出来ないからゴンベエが補助するのも分かる。だが、お姫様抱っこは違うのでは?

 

「バッカ、お前。背負ってるマスターソードに触れさせちまうだろうが」

 

「だったら、私がその剣を持とう。そうすればベルベットを背負える」

 

 だから、ベルベットを背負え。

 

「そうしてちょうだい。流石にこの体勢は色々とキツいわ」

 

 ほら、ベルベットもこう言っているじゃないか。

 

「いや、それでも良いけどよ……」

 

「なにか問題があるのか?」

 

「ベルベット、布切れみてえな服だからダイレクトに胸が当たんだよ」

 

「……あんた……」

 

 背負うのを嫌がる理由を言うと冷たい目でゴンベエを見るベルベット

 

「げ、ゲスが!!」

 

 そしてエレノア……。

 

「ベルベット、いい加減に服を変えないか?」

 

「変えるもなにも、こんなところでどうしろって言うのよ?買いに行く暇すらないのは知ってるでしょ」

 

「私の服のカラバリがあるから、それを着ればいい」

 

 今すぐに服を買うなんて無理なのは分かっている。

 だから、今は私の服のカラバリがあるからそれを着てくれればいい。そうすればゴンベエのセクハラを免れる、そう、そうだ。なんかよく分からないポッと出の暗殺者に着られるぐらいならそれが良い。

 

「着替える時間があったらとっくに歩けるぐらいには治ってるわよ。

もうこれで良いわ。どうせ色々と見られてるし、わざと変なとこを触りに来ないし……」

 

「…ッチ…そうか」

 

 ベルベットの傷は少しすれば回復するから、待てば良いだけだ。

 

「早いとこクロガネのとこに戻らないと、待ちくたびれてるな」

 

「そうだね。あの骸骨さんのお陰でメダルは砕けたけど、クロガネはなんにも知らないから驚いてるかも」

 

「いや、砕けたならとっとと寄越せって言ってきそうだ……ベルベットが使っても余ったら少し分けてくれないか?あんだけ頑丈な素材なら號嵐とやりあえる短刀を作れる」

 

「あ~多分、無理だと思うぞ」

 

「そいつはやってみなくちゃ分からんだろう。俺としてはメダルで作った刀なら真正面から打ち合えると本気で思ってるんだぜ?」

 

「そういう意味じゃなくて、クロガネが嫌がるって意味で無理つってんだ」

 

「どういうこと?」

 

「クロガネ、本人の口から──!」

 

 金属音が響いている。

 私達が金色の狼を追いかけてしまい、体感で1時間弱の間、技を教わっていたからクロガネが私の槍でなく、ロクロウの短刀を先に作り出したのだろうか?

 

「走るぞ!!」

 

「どうしたんだ、急に!」

 

 音を聞いて、さっきまでの表情を変えるロクロウ。

 急いで走り出しクロガネの元に向かうのだが、走り出した。

 

「この音、金属を打つ音じゃない。金属を斬ろうとしている音だ」

 

「そんな細かな違いが分かるのか!?」

 

「ああ!この音は間違いない!」

 

 それなりの距離があるから、私にはよくわからない。

 クロガネが痺れを切らして私の槍を後にし、煌鋼を使いロクロウの短刀を先に打っているのかと深く考えてみると納得がいかない。

 あの場には折れている刀しか残っておらず、ロクロウは短刀を求めていて、煌鋼を取りに行くか行かないかのところで私の槍の話となり、短刀を作るのに必要な煌鋼はなく、折れた刀を素材にして打ち直していると言われれば違和感を感じる。

 クロガネは號嵐を斬ることの出来る刀を作りたい思いの末に憑魔になった。そんなクロガネが斬れなかった刀をもう一度使うとは思えない。

 

「ぐぅ!」

 

「クロガネ、大丈夫か!」

 

 クロガネの工房に戻ると、誰かにやられて尻餅をつくクロガネ。

 左手に折れた刀を握っており、刀をよく見れば亀裂が入っていて強い衝撃を受ければ粉々に砕ける。コレはもう武器としては使うことは出来ない。これはその場しのぎに使っている。

 

「面白い業魔だな、刀よりも体の方が硬ぇってか」

 

 クロガネを斬ろうとした男は大きな太刀を肩に置き、クロガネを見て高らかに笑う。その姿は何処かロクロウと似ていた。




ゴンベエの術技

天誅・パワーアロー

説明

光を纏い、光と化す強烈な矢。撃つと決めた相手にある程度は向かう追尾機能持ち。
撃つのに少しの溜めが必要だがアステロイドやデラックスボンバーと比べ物にならない程の威力で、アリーシャの屋敷ぐらいの大きさなら余裕で一撃で粉砕出来る。

ベルベットの術技

邪王炎殺黒龍波

説明

穢れた紫色の炎と色が異なり雑じり気の無い黒炎を放つ。黒い炎はドラゴン並みの穢れを持つ。
ドラゴン並みの穢れを持つ影響か、黒い炎は龍の形となり生きているかの如く動き、相手に突撃して燃やし尽くす。
ドラゴン並みの穢れを持った黒炎の威力は凄まじく、ただの水は勿論の事、浄化の力をもってしてもどうすることも出来ず、穢れた炎すらも燃やし、どうにかするには基本的には黒炎を同等か上回る程の穢れを持つ炎で燃やし尽くすのみで、攻撃対象を燃やし尽くせば自動的に炎は消滅する。
圧倒的な力を持つ反面、黒炎を出すのにそこそこに時間を喰い、体力を多く奪い、憑魔となっても変化らしい変化をしていないベルベットの左腕以外を炎の熱で焼いてしまう等、力が強すぎるが為のデメリットを多く持つ諸刃の剣。


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刃は斬るものでありビームを出すものではない。

「シグレ様!?」

 

 クロガネが戦っていた相手を見て、驚くエレノア。

 

「誰だ、こいつは?」

 

「……聖寮の2人しかいない特等の退魔士です」

 

「特等、というとメルキオルと同じか」

 

 これは、まずいかもしれない。

 エレノアの言うように特等と言うことは、単純に考えてエレノアよりも強く導師アルトリウスよりは弱い。

 導師アルトリウスに手も足も出なかったベルベット達は勿論の事、まだ戦えない私が勝てないかもしれない。

 

「おう、エレノアじゃねえか」

 

 私達の声に反応し、振り向くシグレ。はっはっはと笑っている。

 

「んだ、お前。業魔に捕まったのか?それとも裏切ったのか?」

 

「それは……」

 

「まぁ、どっちでも良いわ。好き勝手やってる俺がああだこうだ言えた義理じゃねえからな」

 

 私達は誓約に従いライフィセットの器となり従っていると言うことになっているが、裏では密命を受けている。

 その事を知らないと思っているので密偵として動いていると言えず、答えられずにいるがシグレは一切気にしていない。

 

「にしても、今日は本当についてるわ。

征嵐と出会うどころか、征嵐作ってるジジイとまで出会えたんだからよ。久々に良い物を斬れたぜ」

 

「良い物って、お前は何処の石川五ェ門だ」

 

「誰だそいつ?」

 

「コンニャク以外ならなんでも斬れる剣、いや、武士だ」

 

「コンニャク1つまともに斬れねえのかよ」

 

「バッカ、お前。コンニャク舐めんなよ。

斬るときにはちょっと手で抑えとかねえと弾力がありすぎて斬れ味抜群の包丁でも斬るの難しいし、コツを掴まねえとスンナリと刃が通らなくて隠し包丁入れたみたいで終わんだぞ。プルンプルンしてっけど、プリンや茶碗蒸しみたいにスプーンで簡単にはぶっさせねえだろ?」

 

「言われてみればそうだな。よし、後で飲む心水のつまみをおでんにしてそん時に片っ端から材料斬って試してみるか」

 

「やめなさい、號嵐で斬ったら確実に食あたりを起こすわよ」

 

 猫が喋った!?

 

「シグレ、なんかスッゴく睨んでいる子が居るわよ。無視しちゃ可哀想よ」

 

 いや、それよりも猫が喋っている事に驚きを隠せないんだが……。

 

「悪ぃ、悪ぃ。昔から弟をいじめるのがクセでな……なぁ、ロクロウ」

 

「変わらないな……シグレ」

 

「弟!?」

 

 2人が兄弟だと分かると驚くベルベット。

 何処となくロクロウと似ている理由は兄弟だったから、言われてみれば顔付きが似ていて独特の服装も似ている。

 

「バカ野郎、滅茶苦茶強くなってるっての。

そっちこそ相変わらず俺を出来もしねえ事を考えてんのか?」

 

「ロクロウが斬りたい人って、お兄さんなの!?」

 

「こっちもあん時とは違う!」

 

 驚くライフィセットを他所に右目を光らせるロクロウ。

 

「おぉ、お前、業魔になったのか」

 

 業魔化したとハッキリと分かる右目を見て、シグレは笑う。

 

「待て、號嵐と戦えないだろう!」

 

「わりぃが、そうはいかん!!ライフィセット、シグレは俺がやる。手を出すんじゃねえぞ!」

 

 シグレに勝つためにここで色々としていたのに、それを忘れたのか落ちている無数の折れている刀から小刀ぐらいの大きさに折れている刀を二本手に取るロクロウ。シグレはかかってこいと號嵐を向け、軽く挑発する。

 

「何年ぶりだ、お前と斬り合うのは!」

 

「死んで後悔しろ!あの時俺を殺さなかった事をな!」

 

 斬り合うシグレとロクロウ。

 短刀の二刀流と號嵐の太刀筋は大きく異なるものの、細かな動作は似通っており、どちらも優れた剣士な事が分かる剣撃が繰り広げられる。

 

「四の型 疾空!」

 

「お!」

 

 三連続の鎌鼬を飛ばしながら斬り込むロクロウ。

 

「重ね陽炎!」

 

 鎌鼬に続く様に自分の体を動かし、突きに行くが避けられる。

 ロクロウは動じずに揺らめく炎の如く切り返し振り向き、連続の突きを浴びせ

 

「八股大蛇!」

 

 八連続の目にも止まらない斬撃で攻撃し、足元に小さな竜巻を起こして軽く飛ばす。

 

「やったか?」

 

 若干だが我を忘れたもののロクロウは押しまくっている。今の一撃は見事に決まった。

 

「……コレぐらいで倒せるのならば、シグレ様は聖寮に二人しかいない特等退魔士になりません」

 

 エレノアが俯きながらボソリと呟くと、小さな竜巻に飛ばされたシグレは空中で体勢を整えて綺麗に着地する。

 

「さすが、業魔だ。悪くねえ……だが、これまでだな」

 

「うぉおおおお!!」

 

「そいつじゃ俺は斬れねえ、よ……斬っ!!」

 

「っ!」

 

 號嵐を両手で持ち、上段の構えをとり大きく一太刀振るう。

 ロクロウは刀を交差させて防御に入るが、刀は簡単に折られてしまい、吹き飛ばされる。

 

「ここまでの様だな」

 

「ロクロウ!!」

 

 元々折られていた刀が更に折られて短くなり、絶体絶命の時、ライフィセットが声をあげる。

 

「えっ!?」

 

 するとエレノアが動きだし、槍を取り出してロクロウの元へと走り出す。

 

「体が……勝手に!?」

 

 自分の意思と反する様に体が勝手に動き出すエレノア。

 シグレに向かって突撃しようとするが、その前に更に短くなった刀をロクロウは投げた。

 

「邪魔すんじゃねえ、ここからが勝負だ」

 

「ほう、今度は折れねえか」

 

 今まで抜こうとしなかった背中の號嵐・影打ちを抜いたロクロウ。

 それを見て面白いオモチャを見つけたとシグレは好戦的な笑みを浮かべ

 

「ここからが勝負じゃなくて今から勝負の準備に入るんだろうが、アホ」

 

 二人の間にベルベットを抱えたままのゴンベエが割って入った。

 

「おいおい、邪魔すんじゃねえよ。折角面白くなってきたってのによ」

 

「悪いけど、こっちからしたらあんたみたいな化物がいて面白くないのよ。

ロクロウ、私が言えた義理じゃないけど頭を少し冷やしなさい。なんでここで足を止めてるのか忘れたの?」

 

「……クロガネ」

 

 細かな理由はそれぞれ違うが、港に行かずにここで止まっているのはこれからの戦いに備える為にも新しい武器をクロガネに作って貰うため。その事を思いだし、クロガネを見る。

 

「あんたは使ってたのも壊れたんだから、早いところ作らないと」

 

「そいつはいい。今のお前が強え刀をもったら、面白え」

 

「面白いって、一応お前を殺そうと必死になってんだぞ?」

 

「んなもん、昨日今日始まった事じゃねえよ」

 

 そう言い背を向けるシグレ。

 

「この先のカドニクス港で待っててやる。俺を倒さねえと、島からは出られねえぞ」

 

「ロクロウ」

 

「やめろ、シグレは俺の獲物だ……やるなら俺が死んだ後にしてくれ」

 

「へーへー」

 

 今この場で隙をついて倒そうかとアステロイドを出すゴンベエ。

 ロクロウから撃つ許可が降りなかったのでアステロイドは消えたのだが、背を向けていたシグレは振り向く。

 

「別に一対一じゃなくて、束になってかかって来ても文句は言わねえよ」

 

「随分な自信だな」

 

「気にくわなきゃかかってきな!」

 

 ゴンベエを煽る様にシグレは號嵐を団扇を扇ぐ様な感じで軽く振って威嚇しているのだが、威嚇にならない。

 斬り倒す為でなく威嚇なのに突風が吹き荒れており、それが今の私達とシグレの実力差を知らしめている。

 號嵐だけでもかなりの重さがあるのに、それを軽々しく振って突風を起こすのは恐らくだがマルトラン師匠でも出来ないこと。慢心にも見える自信と余裕を見せているシグレの力に私達は圧倒される。

 

「じゃあ、お言葉に甘えるわ」

 

「っ!」

 

 ゴンベエ!?

 

「てんめえ、今じゃねえだろ今じゃ……っ!」

 

 不意打ちに近い形で、ベルベットを左腕で抱え、空いた右手で剣を鞘ごと抜いたゴンベエ。

 シグレは咄嗟に反応して攻撃を防いだが、持っていた號嵐を手から放す。いや、落とす。

 

「こういう技もあっから覚えとけよ」

 

「……ああ、良い勉強になったわ。

それとエレノア、お前マジで裏切ったんだな。次あった時は容赦なく叩き斬るぞ」

 

 手をプルプル震わせ、ゆっくりと號嵐を拾うシグレ。

 鋭く強くゴンベエを睨んでいるが襲いかかることはせず、そのまま去っていった。

 

「あんた、なにをやったの?」

 

「號嵐を経由して振動を腕の神経に伝えて一時的に麻痺させる技を使ってやった。

シグレの剣が滅茶苦茶強いならば、剣を持たせれない様にすりゃ簡単にぶっ倒せるかと思って試したんだよ……アイゼン」

 

「あの野郎、まだ全然本気じゃないな」

 

「問題無いわ、ゴンベエが今の技をもう一度ぶつければ良いだけのことよ」

 

「いや、効かねえ可能性高いぞ。

剣とか持ってる手だけ麻痺させる技で、持ってない手で麻痺した方をぶん殴って無理矢理動ける様にする荒技もあるんだ……餅は餅屋に任せようぜ」

 

 そう言うとアイゼン達の視線はロクロウへと向き、ロクロウの視線はクロガネへと向いた。

 

「クロガネ、大丈夫か?」

 

「ああ、体の方も心の方も無事どころかより斬って欲しくなった」

 

 よっこいしょと立ち上がったクロガネ。

 自分の体をまじまじと見ており、なにかを考えている。特に目立った怪我はしていないし、腕が折れているという事も無いが違和感かなにかを感じるのだろうか?

 

「オレ達があの黄金の毛を持つ狼を追いかけるのと入れ違いであいつが来たのか?」

 

「何処ぞの誰かさんがとんでもねえ穴を開けた音が聞こえたのか駆けつけて来やがった」

 

「……悪い」

 

「謝るな……少々腹立たしいが、お陰でヒントを得た」

 

 どういうことだろう?

 

「それよりも、メダルの方はどうした?」

 

「それならば、砕く事が出来た」

 

 これならば槍を作るのに必要な新しい金属を作れる。

 クロガネに砕けたメダル等の破片を1つずつ渡していく。

 

「この大きさなら、槍を作るのに必要なちょうど良い大きさになる」

 

「クロガネ、その前に良いか?」

 

「なんだ?まだ、誰かの武器が欲しいのか?」

 

「アメッカとロクロウの武器を作る順番を変えてほしい」

 

「っ、何故だ!?」

 

 なんとか納得のいくサイズにし、これからだと言う時に水をさすアイゼン。

 なんでいきなりそんな事を言い出すんだ。

 

「既にベンウィック達にカドニクス港に来るようにシルフモドキを飛ばしている。

ベンウィック達ならばカドニクス港に行く事は容易だが、カドニクス港には聖寮が待ち構えている。

そこらの雑魚なら心配はいらないが、今からそこにシグレが加わる。あの感じからして人質の様な非道な真似はしないだろうが、真正面からぶつかれば全滅させられる。號嵐と撃ち合える刀を一刻も早く作らなければ、先に進めん」

 

 シグレと戦う為にも私の槍でなくロクロウの短刀を優先させてほしい理由を説明する。

 ゴンベエにやられるまで見せていた余裕とアイゼンが言う様に本気じゃなかったとすれば、私の槍よりもロクロウの刀を優先させた方がいい。アイゼンはそう判断した。

 

「……分かった」

 

 悔しいが、私よりもロクロウの方が強い。

 本当なら嫌だと言いたいが、世話になっているアイフリード海賊団を見捨てるわけにはいかない……っ!

 

「悪いな、この借りは何れ返す……つーことだ、この素材を使って短刀を作ってくれ」

 

「断る」

 

 な!?

 

「どういうつもりだ!さっきまでやる気満々だっただろう、今さら怖じ気づきやがったのか!?」

 

 突如として刀を作る事を拒むクロガネにキレてアイゼンは首元を掴む。

 目の前にある極上の素材を使えば號嵐にすら対抗出来る刀を打てるのにどうしたなんだ?私は後に回しても構わないし、なにが不満なんだ!?

 

「そんなわけあるか」

 

「じゃあなんで作らねえ!」

 

「アメッカやベルベットなら作ってやる。だが、ロクロウのとなれば話は別だ」

 

 アイゼンの腕から抜け出し、メダルの破片を手に取ったクロガネ。

 骸骨の騎士が砕いてくれたメダルは力任せに振って叩きつけたロクロウのハンマーでもアイゼンの拳でもライフィセットの天響術でも傷はつかなかった。

 

「素材がダメか?」

 

「素材がダメだなんて、これほどまでの物は何処を探してもないはずだ」

 

 私の槍を作ったとしても素材は余る、遠慮はいらない。

 

「確かにメダルを素材にすれば號嵐ともやりあえるだろうが、征嵐じゃない別の物が出来る」

 

「別の物……」

 

「よく見てみろ」

 

 砕けたメダルの破片を見せつける。

 メダルだった時と比べれば神秘的な力が若干だが弱まっているが、それでも神秘的な力を感じ取れる。

 

「メダルを素材にすれば雷やら炎やら氷やら色々と変なビームを撃つことが出来る変な刀が、妖刀や聖剣の類いが出来ちまう」

 

「ふむ、確かにそうじゃのう。

このメダルと言い、珠と言い、材質は勿論のこと特殊な力を持っておる。これを打てば、お主の野望が達成は出来ぬの」

 

「そう言うことだ」

 

 あくまでも征嵐で號嵐を斬ることに執着し、譲るつもりは無いクロガネ。

 ゴンベエが嫌がると言っていた事はこういう意味だったのか。

 

「クロガネ、お前の気持ちはよく分かった。ビームとか出る刀は面白そうだがお前が嫌ならば仕方あるまい。

だが、どうすんだ?この辺りを掘れば出る煌鋼で打った刀だとさっきみたいに簡単に折られちまう。煌鋼よりも頑丈な稀少金属(レアメタル)を今から探そうにも時間が無いぞ」

 

「安心しろ、素材ならもう見つけている」

 

 そう言うので辺りを見回すのだが、何処にも見つからない。

 あるのは折れた刀の数々とさっき砕いたメダルで、片方は使えば簡単に折られ、もう片方は征嵐にならない。

 

「號嵐とやりあう刀を作るには生半可な素材だと無理だ。だが、生半可でない素材ならば話は別だ」

 

「生半可じゃない……まさか、オリハルコンか?」

 

 生半可でない素材を浮かべ上げるアイゼン。オリハルコンは最も硬いと言われている稀少金属。

 硬度も去ることながら、そのあまりの稀少性に本当に存在しているかどうかすら怪しい代物……そんな物があるのか?

 

「號嵐と戦う為に生まれたかもしれないものだ」

 

「成る程、そう言うことか……何処を使う?」

 

「頭部で頼む」

 

 素材がなにか分かったロクロウはクロガネの頭部を折れた號嵐・影打ちで切り落とした。

 

「な、なにをしているのですか!?」

 

 首から上が切り落とされ、ガクリと膝をついたクロガネ。

 

「落ち着け、素材を切り離しただけだ」

 

 ロクロウがそう言うとクロガネの体が何事もなかったかの様に立ち上がり、切り落とされた頭部を掴んだ。

 

「成る程、確かに號嵐と戦う為に生まれたかもしれないわね」

 

 クロガネが見つけた號嵐を征する征嵐に必要な素材、それはクロガネ自身。

 憑魔となり肉体が変化したクロガネはライフィセットの攻撃を受けてもビクともせず、シグレにやられていた時も刀よりも硬い体だと言っていた。

 素材が號嵐を斬りたいという怨念で憑魔となったクロガネ自身なら號嵐と戦う為に生まれたと言っても過言ではない……だが。

 

「そこまで、するのか……」

 

 なんの迷いもなく己の頭部を差し出した。

 成し遂げようと言う思いは理解出来るが、ここまで来れば別のものを感じる。

 

「そうだ、この恨みの塊で新しい刀を打つ。

これならば、メダルと異なりビームとか変な力を持たず號嵐とやりあうことの出来る刀になるはずだ」

 

 クロガネは金床の前に座るとなんの迷いもなく己の頭部を燃やし、小槌を出現させ叩き始める。

 

「かなりの時間が掛かりそうだな……その間にこっちも仕上げに移るか」

 

 充分過ぎる程の素材に腕の良い職人、それでもまだ足りないのか?

 

「アメッカ……とりあえず、ごめん」

 

「っ、急になにをするんだ!?」

 

 私に謝罪をしながら数本の髪の毛を引っこ抜いた。

 髪の毛が引っこ抜かれるなんて早々に無いことで、いきなりの痛さに涙目になりながら抗議をする。いったいなんのつもりだ。

 

「アメッカDNA(成分)を抽出してるに決まってんだろ!」

 

「わ、私の成分?」

 

 何故か逆ギレ気味に答えるゴンベエ。

 アンモニアの時と同じなのかと引いていると逆に呆れられ、大きなため息を吐かれる。

 

「いいか、このままクロガネに槍を作って貰ったとしてもそれはもうなんか凄い力を持ったアメッカの手にちょうどピッタシ合うサイズの槍でお前がパワーアップしたとかそんなんじゃねえ」

 

「……分かっている、それぐらい」

 

 憑魔とまともに戦えていたのは、スレイと槍の力が大きい。

 私自身になにかがあったと言うわけではない。

 

「だから、お前自身をパワーアップさせるんだよ」

 

「言いたいことは分かるが、それが出来なかったのが今じゃないか」

 

 私自身がパワーアップをすれば大体の問題が終わることで、現代でもそれを真っ先に思いつき、イズチで方法は無いかと訪ねたが無かった。その後二転三転と色々とあり、今こうして過去に来ている。その方法はもう諦めている。

 

「出来ねえなら出来る様にするのが人間だ。だから、アメッカの成分が必要なんだよ」

 

「余計に意味が分からない!?」

 

「はえー話が槍を作る過程でお前の一部を混ぜんだよ」

 

「そんな事をして意味はあるのか?」

 

 金属を加工するには料理で使う炎をよりも更に高い超高温で熱して加工しやすくする必要がある。

 塊の金属を平らにして小割にして同質の物のみを熱して鍛接、そこから何度も熱しては叩く工程を繰り返して不純な物を無くす。他にも色々と工程がありなにに加工するかによって更に細かく工程が変わるが、基本的には熱しては叩くの工程を何度も何度も繰り返す。叩く工程で入れた髪の毛が無くなっている。

 

「世の中には起源弾という魔術師に絶大な効果を及ぼす不思議な弾がある。色々と細かな説明は省くが魔術師殺しの起源弾は術師の肋骨を擂り潰した物で出来た弾だ。クロガネが嫌がった様にあんだけの材料を使えば普通じゃない槍が出来る。そこにお前の成分を混ぜれば……なんか起きるだろう」

 

 薬や道具の知識を多く持つゴンベエがなんか起きる。

 それは起きない可能性もある……けど、ゴンベエの言うようにこのままだと普通じゃない物凄い槍が出来るだけで、私がなにかパワーアップするわけではない。

 

「ベルベット、髪を切ってくれないか?」

 

 私の一部を入れてなにかが変わる可能性があるなら、やるしかない。

 とはいえ髪の毛が引っこ抜かれるのは嫌なので、ベルベットにある程度の長さまで切ってもらおう。

 

「とりあえず、手当たり次第にぶちこむから髪の毛はもういい」

 

「となると爪……瓶?」

 

 髪の毛以外に加えれそうな私の成分と言えば、爪ぐらいだが何故か小瓶を取り出す。

 爪を入れる小瓶だとしても結構な大きさで、それしかなかったのかと思ったが私に差し出してくる。

 

「とりあえず、そこの裏で……アイゼン、ライフィセット、ちょっと別の場所に行くぞ」

 

 アイゼンとライフィセットを連れ、何処かに行こうとするゴンベエ。

 

「なんでここから離れるの?」

 

「アメッカが今から──」

 

「花を摘みに行くんだ」

 

 この場から離れようとする事がよく分からないライフィセット。

 ゴンベエが答えようとする前にアイゼンが先に答えると私はゴンベエに向かって瓶を投げつける。

 

「ゴンベエ、この量を一度に出せるわけないだろう!」

 

「アメッカよ、論点がズレておらぬか?」

 

 はっ、しまった!こういうのが多いせいで馴れてきている自分がいる。

 

「とにかく、絶対に嫌だ!!爪だ、爪を使うんだ!」

 

「爪って、お前、そういうのの手入れをちゃんとしてるんやから切れば深爪みたいになんぞ」

 

「それでも構わない!!……瓶に……は流石に恥ずかしい」

 

 強くなるためならば、色々な事を知るためならば多少の事は覚悟できている。

 だが、これはそういう感じのじゃない。体が痛いとか心苦しいとかと大きく異なる。

 

「アメッカよ、背に腹は変えられんぞ。

毛や爪以外に色々と混ぜたとしても金属を熱して打つ過程で消し飛ぶ、別の工程でアメッカの成分を……っ……くふふ」

 

 他人事だと思い爆笑するマギルゥ。

 背に腹は変えられないのは分かっているがそれをすれば人として大事ななにかを失う。別の意味で越えてはならない一線を越えてしまう。

 

「アメッカの成分、瓶……も、もしかしてその中におし──」

 

「それ以上は言うな!!」

 

 敢えて誰も言わない様にしているんだ、言わないでくれ!!

 瓶になにを入れるように言っているのか分かったエレノアはゆでダコの様に顔を真っ赤にし、両手で隠す。一番恥ずかしいのは私なんだよ!!

 

「とにかく、アメッカの力を強めるにもアメッカの体液も必要だ。こればかりは譲ることはできねえ」

 

 改めて瓶を渡すゴンベエ。

 体液を入れることはもう決定事項で、それを入れなければ私の槍は完成しない……っ……。

 

「アレには体の中の不要な成分が詰まっている。

アメッカから採取するならば、もっと別の体液にした方が良いんじゃないか?」

 

「あのメダルは邪悪ななにかに晒されたりしないと錆びたりはしねえから問題ない。アメッカの聖水を直接混ぜんじゃなく冷やす過程で使うからある程度の量が必要なんだよ。薄めるにしても最低でも一瓶丸々必要で鼻水とか唾液だと満タンになるまでどんだけ掛かるか分かんねえ……」

 

「コイツら、ぶん殴った方がいいかしら?」

 

 真剣な顔で議論するゴンベエとアイゼンに青筋を浮かび上げるベルベット。

 私は親指を突き上げ首元に近付け横に一線。思う存分にやってくれと合図をするとゴンベエとアイゼンに拳骨を叩き落としにいった。

 

「ライフィセット、私の血をこの瓶に入れる。腕に傷をつけるから、ある程度の量が入ったら治してくれ」

 

「う……うん…」

 

「お前っ、一番安全で確かな量が手に入んのに、血液は一番危険なんだぞ……」

 

 ベルベットの拳骨や膝蹴りをくらっているゴンベエとアイゼンを無視し、瓶に血を満たした。




スキット テイルズオブりたい

アリーシャ「ゴンベエ、次回予告だ!」

ゴンベエ「……ん?」

アリーシャ「だから、次回予告だ!ザクロスで終わりにスキットをして最後に次回を予告するアレだ!」

ゴンベエ「お前なに言い出してんだ?」

エレノア「成る程、そういう感じなのですね」

ゴンベエ「なにに納得してんだ。オレは納得できねえぞ」

ライフィセット「細かい事は気にしたらダメだよ……特に祭りの時は」

ゴンベエ「祭りって、お前……」

アイゼン「第4の壁を撃ち破っていると考えろ」

ベルベット「他所のザビーダとかと出会ったり、本編そっちのけでテーマパークや横浜に毎年行ったりしているアレよ」

ゴンベエ「横浜!?この世界、横浜ねえだろ!てかなに遊んでんだ!?」

ライフィセット「もっと具体的に言えば横浜アリーナ……驚く事かな?」

アリーシャ「驚くのも無理はない……スペシャルスキットに出ようにもゴンベエ(諏■部)は……天を掴みとれライダー、今こそ時は極まれりで」

ゴンベエ「おい、そのルビやめろ」

アイゼン「オレやベルベットの様にテイルズオブれる様になれよ、ゴンベエ(諏■部)……あーあー、ダオスコレダー!……この声であっていたっけ」

ゴンベエ「だからそのルビはやめろっつってんだろ……次回予告は何処行った?」

エレノア「何処に行ったと言えば、マギルゥとロクロウもいませんね」

ライフィセット「あ、あそこにいる。お~い」

ロクロウ「……ッチ……」

マギルゥ「ぷーんじゃ!」

ゴンベエ「お前等、なんでそんなに機嫌悪いんだよ」

アリーシャ「そんなに嫌悪感を出していては、次回予告が出来ないじゃないか」

ロクロウ「……お前等だけでやればいいだろ」

ゴンベエ「お前、なにすねてんだ?」

マギルゥ「別にぃ~、ワシ達が挨拶で出演したというのに出てるのが毎年お主達が祭りに出ているのを怒っているわけではない!!」

ロクロウ「ゴンベエ、お前はこっち側だ来い」

マギルゥ「毎年毎年呼ばれおって、ワシ達にもちっとはオファーせんかぁ!!」

アリーシャ「それを言うなら、私も──」

マギルゥ「シャーラーップ!!出てもおらんのに缶バッジを作られた小娘の戯れ言なんぞ聞かんわ!……ん?」

アリーシャ「呼ばれていない……スレイも、ミクリオ様も、二代目ライラ様も、ザビーダも、ほぼ毎年声がかかっているのに、エドナ様に至ってはメインを……私はっ、私は!!真の──うっ」

ロクロウ「そうか……そうだよな、お前も同じ、こっち側だ」

アリーシャ「エレノア……いいよね、貴女はちゃんと出演したんだから」

ゴンベエ「地獄兄弟みたいになりやがった!?」

マギルゥ「ワシ達の出番の為にも、先ずは手始めに一粒で二度美味しいザビーダを!」

アリーシャ「何れは真の主役であるゼ■スを……」

ライフィセット「ダメだよ、二人とも!そんな力ずくで奪うだなんて、未だに声がかからない人達は沢山居るんだよ!!」

ベルベット「一度出れただけでもありがたく思いなさい」

アイゼン「お前達2人が言っても説得力に欠ける」

エレノア「声がダオスに変わっている貴方もです……3人とも、落ち着いてください。特に貴女は来年、出番が」

アリーシャ「スレイのヒロインはミクリオ様だ!」

ゴンベエ「……次回、【目覚めよ、内なる魂】……こいつらは別のなにかに目覚めていやがる」


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目覚めよ、その魂

「ライフィセット、もう、いい」

 

「うん……大丈夫?」

 

「私は、戦闘をしていないんだ、この程度の傷、今まで戦っていた皆の傷に、比べれ──っ!?」

 

 血液を採取し終え、ライフィセットに傷口を治癒してもらうが激しい頭痛に襲われる。

 血液を採取する為に腕に傷をつけた傷は今までした怪我の中でも物凄く軽いもので途中傷口から血が出なくなり別の所に傷をつけてを何度か繰り返したが、大ケガと呼べないものだ。

 

「血を失いすぎだ。この牛乳瓶は500ちょっと入るから満たすとなるとヤベえんだよ。

アメッカの詳しい体重は知んねえけど、60キロの奴が800mlほど血を失うとショック死する恐れがあんだよ……だから、嫌だってのに」

 

 アレを使う方がもっと嫌だ。

 血で満たした瓶に蓋をし、ゴンベエに手渡してゴンベエに座り、持たれかかる。

 

「これで、後はクロガネの方を……長かった」

 

 クロガネがロクロウの短刀を打ち終えれば、私の槍作りがはじまる。

 本当に長かった、スレイとの繋がりも槍も失い、おんぶにだっこ状態が長い間続き迷惑を掛けてきた。

 この時代に来て私達の時代と大きく異なる事があり、ベルベット達を見届けて色々と知りたい。その為にも新しい槍と私の血が混ざり、私自身がパワーアップすることを強く願う。

 

「……あ~アメッカ」

 

「大丈夫、焦らないよ」

 

 ゴンベエが出した手鏡に写る私の顔色は最悪だ。

 血を失いすぎてこうなっているのは分かっている、今は体を治すのを、失った血液に代わる血が生まれるのを待つ。

 今までなにも出来ない自分に苦しんできた時間と比べれば、新しい血が出来る時間なんて一瞬だよ。

 

「……まだ、もう1つ工程が残ってんだ」

 

「……え?」

 

 まだ、なにかあるの?

 こうしてゴンベエに持たれ掛かっている今でも物凄く頭が痛いのに、まだなにかあるの?

 

「槍が完成した後にすることで、もしかしたらちょこっと時間がかかる……」

 

「だったら、それを教えなさい。後、血を入れる瓶もちょうだい。私も作るから、今の内に採取していた方がいいでしょ」

 

 素材が余れば、ベルベットの分に回す事になっており、それだったらと私の様にと髪と右手に触れる。

 

「やめろ、心臓止まるぐらいの血液をお前は失ったばっかだ。

憑魔になって人体構造が若干変わってんだろうが、人間基準で言えば普段と比べて血液が足りねえ。今やったら傷を防いで治癒すれば治る云々のもんじゃなくて、単純な血の量が足りなくなって死ぬ可能性がある……血液型を調べる道具があって一致して適合してたら輸血出来たんだけどな」

 

「血液型?」

 

「血液にある成分が入ってるか入ってないかで幾つか型があんだよ。

型が一緒の者同士で異常を起こさなければ、血液を分け与える事が出来る……まぁ、道具が無いし、作る予定も今のところは特にないから無理だがな」

 

「だったら、その作り終えた後にすることを教えなさい」

 

「ベルベットはその工程いらん、むしろベルベットの邪魔になるから絶対にすんな。

血を混ぜたり色々とやってんのはアメッカをパワーアップさせる為で、アメッカに合ったやり方でやってる。真似しても意味は無い」

 

「……そう」

 

 ベルベットは納得したのか、あっさりと引いた。

 

「カドニクス港にダッシュで行かせたビエンフーから連絡が来たぞ」

 

「さっきからずっと黙ってると思えば、そんな事をしていたの?」

 

「ワシって優しくて気の利く魔女じゃからのう……今のところはなにも無いそうじゃ」

 

「そうか」

 

 アイフリード海賊団が既にカドニクス港に来ていて、聖寮と鉢合わせすれば今のこの状況だとどうにもならない。

 マギルゥからビエンフーの報告を聞いて、アイゼンは少しだけ安堵している。

 

「しっかし、アメッカもクロガネも似たような物を求めておるのに血や肉を使うとは、やっておるのは生け贄の儀式かなにかじゃのう」

 

「生贄……業魔ならではの手よ」

 

「私は、憑魔ではないんだが」

 

 マギルゥの皮肉を反論したいにも反論出来ない。クロガネは自らの体を使い刀を、私は自らの血を使い槍を作る。

 血か肉かの違いでありやろうとしていることはなにも変わらない。憑魔と同じ事をしている……だが、不思議な事に悪い気分ではない。

 自分の力の無さを痛感し努力でどうこう出来る事じゃないのを理解していても諦めきれなかったからか、それでいいと思い受け入れている自分がいる。

 

「強い力を手に入れるには、なんらかの犠牲が必要なのよ……コレもある意味そう」

 

 戦いに活用している左腕をベルベットは犠牲を……弟が殺された怒りで手に入れた。

 その事を思い出しているのか、自分の左腕を悲しそうに時に憎しみを混ぜた視線で見つめている。

 

「必要な犠牲か……非情じゃのう」

 

「今更ね」

 

「ま、どうなるか結果をご覧じろじゃの。

神の腹を満たす為だけの命を丸ごと差し出したとしても、供物に過ぎぬ。じゃが、志を宿した血肉ならば髪の毛一本でも贄となる。彼の者達が捧げしは贄か餌か……」

 

 無駄にはさせない。

 アレだけの素材を私の為になんの惜しみもなくゴンベエはくれた。

 私よりも優先して使った方がいい人は探せば何人もいる。スレイもその内の一人だ。

 

「ロクロウといいクロガネといい、なんなんですか……」

 

 さっきの事を思い出したのか、嫌そうな顔をするエレノア。

 

「見ての通り、イカれた業魔よ」

 

「そうですが、あんな明確な目的を持って生きているだなんて……」

 

「業魔にだって譲れないものはあるわ。ただ人を殺して暴れるだけの怪物だと思っていたの?」

 

「意思がある事を知っていましたが……あれではまるで、人間みたいな情熱で」

 

「みたいじゃねえよ」

 

 エレノアとベルベットの会話にゴンベエは呆れながら割り込んだ。

 

場所(時代)が変われば根本的な部分が違うのは分かんけど、そもそもでロクロウもクロガネも、ベルベットも人間だろう」

 

 エレノアは憑魔=人間でなく憑魔≠人間と考えている。

 その考え自体は間違っていない、現に現代でもこの時代でも憑魔となった自然物や動物を何度も目にしている。だが、人から憑魔になった人を全く別のものと見ている事についてゴンベエは指摘をする。

 

「人間と業魔は違います!!業魔は──」

 

「私はロクロウやクロガネと違って好きで業魔になった訳じゃないわ。アルトリウスが弟を生け贄にしたせいでこうなったのよ」

 

「ふざけないでください!!聖寮はそんな組織じゃありません!!

聖寮は民を守るための組織、多数を守るために冷徹な選択をする事はあっても生け贄なんて真似はしません!ましてはアルトリウス様は導師として世界を──」

 

「具体的にはどうやって救うわけ?」

 

「そ、それは……」

 

「世界を救う組織の割に、トップしかなにも知らないって言うの?」

 

 憑魔に強い憎しみを抱いているのか、激しく叫ぶもののベルベットの一言で静められる。

 アルトリウスが具体的にはどうやって世界を救うのかエレノアは答えられない。ここで穢れを浄化の力で祓える様にすると言えない。

 

「お前、そんなに否定しまくってても聖寮もアルトリウスもどす黒いからな」

 

「……何故、そう言い切れるのです!」

 

 更に追い討ちをかけるゴンベエに言い返すエレノア。

 

「言い切れるもなにも、赤聖水を売った汚え金を聖寮に渡して神殿作ってんだろうが」

 

「っ……」

 

 ギデオン大司祭は神殿を設立する為の費用を集めるために赤聖水を作っていた。

 そしてそのお金を聖寮に渡し、聖寮は神殿を設立しており、あの時のギデオン大司祭の口振りからして聖寮もその事を認知している様に思えた。あの場にはエレノアがいて、エレノアもその事をハッキリと耳にしており否定する事の方が難しい。

 

「嘘だと思うのなら、疑っているなら聞いてみなさい。

どうやって世界を救うつもりなのか、三年前になにをしたのかをね」

 

「そのような事は……絶対に……」

 

 ゴンベエに言い負かされ、あの時の当事者であるエレノアは弱々しくなっていく。

 そうでないと強く否定しようにも否定をする材料が少ない。逆に肯定する要素の方が多くあり、心が揺れ動く。

 

「あった場合はどうするつもりだ?」

 

 私達はあの演説の場に居た。

 真意は不明だが、導師となったアルトリウスは揺るぎない信念や意志を持っているのは確かで信じたい気持ちは分かる。だが、それが間違いだった時、黒であった場合はどうするつもりなんだ?

 その事について答えることは出来ずエレノアは俯いたまま歩き、私達と少しだけ距離を置いた。

 

「ロクロウは命をかけてでもお兄さんを斬りたい、クロガネは強い刀の為に自分の首を使う、アメッカはパワーアップする為に沢山の血を使う……なんでそこまで出来るんだろう?」

 

「分からなくて当然よ、業魔なんだから」

 

「ベルベット、私は憑魔じゃない」

 

 危うくなりかけたが、乗り越えることが出来た。

 

「ロクロウもクロガネも怖いけど、スゴいなって思う。僕にはあんな風にやりたい事が無いから」

 

「まだないだけよ、何時かは見つかるんだから焦る必要は無いわ……けど、あそこまでなっちゃダメよ。アイツ等は業魔であんたは聖隷なんだから、そこまで真似しなくていいわ」

 

「うん……」

 

 ベルベット、そこに私は含まれているのか?

 もしかしたらカウントされているのかと思わず考える……今の私を見て、ライラ様はどう思うのだろうか?

 後世にまで名を残す海賊達の船に乗り当時の導師を殺そうとする憑魔と共に行動している……ヘルダルフもベルベット達の様になにかがあって憑魔になったのだろうか?

 

「アメッカ」

 

「なんだ?」

 

「足、痺れて来たからどいてくんねえか?」

 

 今までに見たことの無い苦痛の表情を浮かべるゴンベエ。

 

「……やだ」

 

「やだって、お前な」

 

「……ゴンベエ、私はワガママを言っているんじゃない。

血を多く失った為、頭痛以外にも色々と体に異変が起きていて寒気もする。こういう時は体を温かくしなければならない」

 

 少しでも体調を元に戻す為にも安静にしなければならず、本来ならば温かいベッドで寝ていなければならないがそんなのは絶対に出来ない状況だ。

 鉱石が眠っている炭鉱は全体的にゴツゴツとしていて寝る場所には向いていない。体を動かそうにも力が入らないので、憑魔や聖寮に襲われた時に邪魔にならない様にこうしてゴンベエに座っている。

 

「こうして背に持たれかかるのも、自分の心臓の音とゴンベエの心臓の音の違いを確かめる為だ」

 

 決して邪な理由ではない。

 現にゴンベエの心臓の鼓動は一定のリズムを刻み、私の心臓の鼓動はバラバラ。医学に詳しく無い私でもこの状態が危険な事ぐらいは分かる。

 

「坊よ、ちょっと火を起こしてくれんか?ビエンフーを港にパシらせておるから、上手く出せんくての」

 

「うん……寒いの?」

 

「いや、なにコーヒーが飲みたくなって湯が欲しくての。ブラックのストレートを、坊も飲むか?」

 

「ブラックは苦いから、カフェオレが」

 

「残念じゃが、今のワシが求めているのは無糖のミルク無しのストレート!しかもドギツいのじゃ!!口ん中まで甘ったるくてかなわん」

 

 口の中まで甘くなる?

 いったい、マギルゥの身になにがあったのだろうか?

 

「ヤバいヤバい、足が固まってきた。足が痺れる前兆来やがった…………あ、ダメ」

 

「……つん」

 

「はぅあ……」

 

 足が痺れて来て表情が変わったゴンベエ。

 試しに靴の裏を軽く叩いてみると絶望の表情を浮かべ、プルプルと震える。

 

「アメッカ、頼む。やめろ、やめてくれ、やめてください。

痛いのにある程度は馴れてるけども、この手の痛みは訓練されてへんねん。頼むから」

 

「つんつん」

 

「ひぃっ」

 

 驚く顔は満足している顔、余裕ぶってる顔、真剣な顔、ゲスな顔は何度も何度も見ている。

 痺れた足の裏を触れられたゴンベエは今までに見たことの無い表情を浮かべている……楽しい。

 

「アメ、アメッカ、しゃま!?

お願いします、足に触れるのはひゃめてくれ。なんでもすりゅから」

 

「なんでも?……なんでもか……」

 

 ここまで弱ったゴンベエはこれから先、見れるかどうか怪しい。

 もう少しみてみたいが、なんでもすると言っている……コレは深く考えなけれ──

 

「ふん!!」

 

「あーーーーっ!!」

 

 きゃっ!?

 

「おまっ、おまっ」

 

「ゴンベエ、急に叫ばないでくれ!」

 

 頭にガンガンと響いて痛い。

 

「文句言うんやったらベルベットに……靴経由とはいえ蹴りはアカンて」

 

「あんた達ね、さっきから浮わついてるのよ」

 

 ベルベット、物凄く怒っていないか?

 

「シグレが港で私達を待ち構えるって事は、聖寮に私達の居場所がバレたのよ。何時、聖寮の対魔士達が集団で現れるか分からないんだから気を引き締めなさい」

 

「無実、オレ、無実」

 

「あんたはあんたで満足そうにしてるでしょ、コレはお仕置きよ」

 

 ベルベットはそう言い、ゴンベエの足の裏を蹴る。

 優しくとかイタズラとか私がやっていたレベルでなく、本気で蹴る。

 

「アーーーッ!!」

 

 痺れた足を蹴られ、叫ぶゴンベエ。前に倒れる……そう、前にだ。

 一番最初に足の裏を蹴られ、ゴンベエが叫んだ際に私はゴンベエの足の上から降りており、今現在直ぐ横にいる。

 後ろにはさっきの事で殴られたアイゼンが反省の意を示すために正座をしており、ゴンベエ以上に足が痺れたのか震えている。直ぐ近くではマギルゥがライフィセットに出してもらった炎で湯を沸かしており、そことは別の場所でエレノアは落ち込んでいる。

 そして前方……ゴンベエの足の裏に蹴りを入れてお仕置きをしていたベルベットがいる。

 

「そう何度も何度も揉まれないわ」

 

 何時ものかと頭に過り、ベルベットは後ろに避ける。

 ゴンベエは綺麗にベルベットの真下に倒れる。

 

「わざとやってんじゃねえよ……あ」

 

「なによ?」

 

「黒色か」

 

「っ、死ね!!」

 

 ゴンベエからはベルベットは逃れられなかった……

 

「わざわざ言う必要はあるのか、ゴンベエ?」

 

「あいつ履いてんのか履いてへんのかよくわかんねえ格好してるやん。

普段から下乳ポヨンポヨンと動かしていて、あんなんやったら気になるやん!!」

 

「……ベルベット」

 

「なんでそこで納得をするのよ!」

 

 そうやって怒っている時も若干揺れている……なんとしてでも私の予備の衣装を着せなければ。

 

「ビエーーーーン!!」

 

「おぉ、ちょうどいいところに。ビエンフー、火を貸せい!!」

 

「マギルゥ、これ以上火力を上げるとヤカンが溶けちゃうよ!」

 

「ブラックコーヒーを飲まねば、胃もたれが起きる!!」

 

 どうにかしてベルベットの服装を変えさせようと思っていると、泣きながら戻ってきたビエンフー。

 

「マギルゥ姐さん、それに皆さん、そんな事よりも大変でフ!!」

 

「そんな事とはなんじゃそんな事とは、ワシの胃が砂糖まみれになって構わんと言うのか!……で、なにがあった?」

 

「港にいた一等対魔士達が、裏切り者のエレノアを粛清するってこっちに向かってくるでフー!!」

 

「粛清……」

 

 さっき言っていた事が本当に起きてしまった。

 

「そこにシグレはいたの?」

 

「ビエ、いませんでしたが?」

 

「だったら話は簡単ね……迎え撃つわよ。エレノア、戦いなさい」

 

「……命令ですか」

 

「そうよ、ライフィセットを守って対魔士達を倒しなさい」

 

「……分かりました」

 

 屈辱に耐えながらエレノアは歩き出す……。

 

「命令するのは構わないが、忘れるなよ。エレノアが壊れれば、ライフィセットは業魔化する」

 

「分かってるわ。けど、足手まといを連れていくわけにはいかない。アメッカ、あんたはゴンベエと一緒に残ってなさい」

 

「……エレノアになにをさせるつもりだ?」

 

「思惑を利用して、こっちの戦力にするわ。

悪いけど、頭がスッキリしてもアルトリウスへの憎悪は消えない。あんた達に八つ当たりしない為にも、あの時の様な無様を晒さない為にも後続の憂いを断つ」

 

「やれやれ、お主に絡んだのが運の尽きか」

 

 私とゴンベエを残して移動していくベルベット達。

 追い掛けようにも体が思うように動かず、無理に動かそうとすれば頭痛に襲われる。

 

「は~やっと納まった。足、痺れた……連れてって欲しいなら、連れてくけど、どうするかは考えろよ」

 

 ベルベット達の姿が見えなくなった頃に、ゴンベエは目覚める。

 追い掛ける素振りは見せず寝転んで私の返事を待っている……ゴンベエは斬るならそれはそれで構わないと思っている。どうすれば良いのかと聞くことは出来ない。あの時と同じ様に自分で納得の行く答えを、いや、自分とベルベット達を納得させることの出来る答えを出さなければならない。

 

「……聖寮は黒、だけど、中枢を担う人達だけ。エレノアはなにも知らない」

 

 自分がどうしたいのか、どういう状況なのか言葉にして冷静になる。

 私は黒い原因である人達に被害者の気持ちを込めた一撃をお見舞いし、犯した罪を裁き償わせると決めた。

 その為には聖寮と戦わなければならないが、なにも知らされていないエレノアを利用し続けて苦しめれば聖寮の中枢を担っている者達と変わらない。エレノアに聖寮は黒だと頷かせる徹底的な証拠は無い……ダメだ。

 

「私を連れていってほしい」

 

「なんも浮かんどらんなら、行きたくねえんだけど」

 

「答えはもしかすると目の前にあるかもしれない」

 

「対魔士達が倍近い人数いたら問答無用で殺るからな……ワン!!」

 

 ありがとう

 狼になったゴンベエに乗り、対魔士を迎え撃ちに行ったベルベット達を追い掛ける。

 

「来たの……余計な事をするんじゃないわよ」

 

「エレノアが一人で戦って、っ!?」

 

 頭痛に苦しみながら、ベルベット達の元に辿り着くと4人の対魔士達とエレノアが戦っており、ベルベット達は少し離れた距離で見守っているだけだった。

 

「安心しなさい、死なれたら困るから危なくなったら手を出す……けど、危なくならない限りはエレノア一人にやらせる」

 

「裏切り者め!!」

 

「アルトリウス様の理想を汚しおって!!」

 

「対魔士の堕落は大いなる厄災の種となる!!」

 

「潔く、死をもってその罪を償え!」

 

「ちが……っく……」

 

 4対1で戦うエレノア。

 相手の対魔士達から罵倒を受け、否定をしようとするが近くにいるベルベットを見てアルトリウスから極秘の命を受けていると言えず、屈辱に耐えながらも槍を振るう。

 4対1の戦いで数で言えば、対魔士達が有利だけどエレノアと大きな実力差が開いていてエレノアが優勢に立ち続けている。

 けど、エレノアは決めにかからない。決めにいけば対魔士達の命を奪ってしまうから。かと言って、アルトリウスの命を遂行しなければならず、やられることも出来ない。

 

「このままいけばエレノアは壊れてしまう……対魔士達を気絶させるしか」

 

「敵か味方かイマイチな奴か分からん者を思いやるのは立派じゃが、それはその場しのぎと言うものじゃ。

お前さんは色々と見たい、導師達を、あのクソジジイをぶん殴ると決めておるんじゃ。その為にも聖寮とは戦わなければならん。今ここで軽く気絶させたとしても聖寮の対魔士はしつこい。文字通り死ぬまでワシ達を追い掛けてくる。喰うか喰われるか、ワシ達と聖寮はそういった関係にある……喰らう覚悟が無ければ、この先にはいけんぞ」

 

「……それでも私は、他の方法を探す、いや、作り出す」

 

 それしかないなら、それ以外の方法を新しく生み出す。

 無いならば、新しく作ればいい。今まで歩んだ道が、前にあると思った道がダメだったら、別の道を見つけるんじゃなく自分で作り出せば良い。

 

「……私を納得させれるなら、好きにしなさい」

 

 ベルベットは私を止めずに見守るに留まった。

 

「無いなら作る、人間らしい答えだな。だが、どうするつもりだ?」

 

「答えは目の前や自分の中にある……自分の中に?」

 

 なにか引っ掛かるワードだ……いや、待て。

 

「エレノア、そこにいるのは対魔士なのか!?」

 

「はぁ!?なんですか、急に」

 

「だから、対魔士なのかと聞いている!!」

 

「見て、分からないのですか!一等対魔士が1人、二等対魔士が3人です!!」

 

「そうか……そうなの、かっ!」

 

 怒られ頭痛に苦しめられながらも、得た情報に喜ぶ。

 今、エレノアが相手をしているのは聖寮の対魔士達……そう、対魔士達──

 

 

 

『「坊よ、ちょっと火を起こしてくれんか?ビエンフーの奴を港にパシらせて、火が上手く出せんくての」』

 

 

 

 頭の中にさっきの光景がフラッシュバックの様に浮かぶ。

 

 

 

『「その点についても問題はありません!

導師となった者には従士を作る事が可能になります。そして主神となった私は陪神を作ることも出来ます、従士や陪神となればスレイさんが放つ加護領域の中でなら浄化の力を振るう事が……ゴンベエさん!!」』

 

 

 

 

 今の名をつけられた時の事が浮かぶ。

 

 

 

 

『「ライラ様は浄化の力を持っているのではない。ライラ様と契約した者が……ライラ様の器となり剣となり導師となった者が浄化の力を扱える!!」』

 

 

 

 

 スレイが導師になった日が浮かぶ。

 

 

 

 

『「なら、こう言おう。人が無理矢理天族を従えるとは……恥を知れ!!」』

 

 

 

 

 エレノアに対して言った一言が浮かぶ。

 

 

 

 

『どういうこともなにも、聖寮は聖隷を捕まえて意志を抑制して契約している。今ではオレの様な聖隷が稀なぐらいだ』

 

 

 

 この時代に来て、最も驚いた事が浮かぶ。

 

 

 

「そうだ……そうだよ」

 

「なにかあるの?」

 

「私は弱く、戦うことが出来ない!!」

 

「……あんた、なに今更な事を言ってるのよ」

 

 エレノアは憑魔と戦うことが出来る、スレイも憑魔と戦う事が出来る。私は憑魔と戦う事が出来ない。

 ベルベットやロクロウの様に人から憑魔になったわけでなく、三人とも人間なのに私は戦う事が出来ない。私とエレノアの違いはなにか?

 

「ライフィセット、エレノアに力を!対魔士達を気絶させてほしい!」

 

「うん、わかった!!」

 

 その違いがあるから2人は戦える。

 

「霊子解放!!仇なす者に秩序を齎せ、バインド・オーダー!!」

 

 霊子の籠った札が作り出した鎖つき結界に縛られて、ライフィセットの掌底で真っ直ぐ飛ばされる対魔士達。

 私達に何時か裁きがくだると言い残すと意識を失った……ここからは時間との勝負になる。意識を失っている間にどうにか出来ればいい。

 

「起きてください!!」

 

 もう、これしかない。

 

「私の声が聞こえるなら、目覚めてください!!」

 

 頼む、届いてくれ!!

 気絶している対魔士の体を揺さぶるものの、なんの反応もない。

 

「まさか……聖隷と対魔士の繋がりを断つつもりか?」

 

「それなら、どちらも納得出来るはずだ」

 

 ルーカスの様にある程度の実力者となれば並の憑魔と倒すことは出来るだろうが、ヘルダルフやドラゴンパピーの様な並ではない者達とは倒せない。

 スレイはライラ様の器にエレノアはライフィセットの器になる事で憑魔達と戦える様になる。現にマギルゥはビエンフーと再会するまでは戦えず、ビエンフーの器となった以降には戦う事が出来ている。対魔士達もその例に漏れない筈だ。だったら、後は簡単だ。無理矢理従わされている天族の方達を解放すれば対魔士達は私達と戦えなくなる

……っ……。

 

「出てこない、ね」

 

 対魔士達の中にいる天族の方々は反応を示さなかった。

 

「エレノア、天族の方達を出す方法を知らないか!」

 

「そんな方法は……」

 

「やめとけ、退魔士達は聖隷を道具としか見ていない。従える術はあってもその逆は期待をするな。

前にも言ったが、聖隷の意思は縛られている。お前の声は対魔士達の中にいる聖隷に届いても聖隷の心にまでは響かん」

 

 答えは目の前に、自分の中にあった。だけどそれを実現することが出来ない。

 私の言葉は耳に届いていても心には届かない。どうにかして縛られた心を解放しなければならないが、私にはどうすることも出来ない。

 

「マギルゥ、エレノアからビエンフーを奪って契約したよね?」

 

「その方法ならば出来ぬ、アレはビエンフーだからできたことじゃ」

 

「そうでフ、あれはマギルゥ姐さんと僕の絆があってこそ出来ることなんでフ」

 

「ワシの前から逃げたからああなったんじゃろうに。とにかく、ビエンフーを奪った時の様な事は出来ん。

似たような術ならば探したり時間をかければどうにかなりそうじゃが、器の中に入っておる中身を引きずり出さねば、話にならん」

 

 今、その中身が出すことが出来ずに私は頭を抱えている。

 天族との繋がりを断つにも、天族が中から出てこようにも、まずは天族の縛られた意思を解放しなければならない。解放すれば、無理矢理従わされていた事に激怒して契約を切ろうとする……。

 たった1つの事が出来れば、芋づる式で色々と出来るのに出来ない。私にはどうすることも出来ず、諦めるしかないのかと思っていると誰かが足にツンツンと触れる。

 

「ゴンベエ?」

 

 足元にはゴンベエがいた。

 

「あんた、なにその姿?」

 

「……」

 

「ゴンベエは森と魚と山の妖精にも変身する事が出来るんだ。ただ、この姿になると喋ることは出来ない」

 

「……なんでもありね」

 

「さっきまで狼の姿になって寝ていたのに……」

 

 なにも言わずにただただ見守ってくれていたゴンベエ。

 喋ることが出来ない森の妖精の姿になってなにをするつもりだろうと思っていると紫に近い色のオカリナを私に差し出す。

 

「これは……」

 

 私達がこの時代に来る時にゴンベエが吹いたオカリナ。

 普通のオカリナと違って神秘的な光を微弱だが放っている。

 ゴンベエの持つ楽器には不思議な力がある。

 ハイランドとローランスの戦争が開幕した際、ヘルダルフに邪魔をされたもののオカリナを吹いて天候を操った。魚の妖精となったゴンベエが持っていたギターを弾くとレディレイクにワープした。このオカリナとは違うオカリナを吹いた時は一瞬でゴンベエの家に戻っていた。

 

「吹けば、いいのか」

 

 そう聞くと頷く。

 恐る恐るオカリナに口をつけるとゴンベエは顔ぐらいに大きなベルの部分が5つに分かれているラッパを出した。

 

「↑!」

 

「……レ?」

 

 軽くラッパを鳴らすゴンベエ。

 手を差しのべて私に吹けとジェスチャーをするので、本で読んだ記憶を頼りにレの音を出す。

 

「←!」

 

「次は……シ」

 

「↑←」

 

「もう一度、二回吹けばいいのか?」

 

 その通りだとゴンベエは頷く。

 レとシを交互に吹くとなにかの曲のようなものになるが、単調過ぎる。

 

「A!」

 

「レ……」

 

 音階が少し違うが、レ……

 

「→A」

 

 ラとさっきの音階が違うレ。

 吹き終えたのかゴンベエはラッパをしまって、仮面を外して狼の姿で眠った。

 

()()()()()()()……」

 

 音楽に物凄く詳しい訳ではないが、明らかに短い曲。

 吹けば直ぐに終わるもので、ゴンベエがオカリナを吹いている時は同じ曲をループし続けている。ならばと先ずは教わった曲を吹いてみる。

 

「……なんだろう」

 

 ?

 

「こう、なにか伝わってくる……よく分かんないけど」

 

「お前も感じるか」

 

 ライフィセットとアイゼンが笛の音色になにかを感じ取っている……これは、良い兆しなのかもしれない。

 

「……」

 

 無言で様子見をしていたベルベットも目を閉じて、曲を感じる。

 

「なんだか、不思議な曲で心に響く感じがするデフ~」

 

 もう少し、もう少し……

 

「見て、対魔士達の体が光ってる!!」

 

「アメッカのオカリナに反応をしたのか!!」

 

 曲を何度も何度も繰り返す内に光りを放つ対魔士達。

 対魔士達の意識は失ったままで、体の中から光の塊の様なものが、ライラ様やミクリオ様がスレイの中に入る時にチラリと見せる光る玉の様なものが徐々に徐々に出てくる。

 このまま吹き続ければ天族の方達を解放して目覚めさせる事が出来る……もう少し、もう少し…姿がみ──

 

「だから、安静にしろって言ったじゃない」

 

 最後の最後で私の体が限界を迎え、私は意識を失った。




スキット 修行

ライフィセット「………ん、んん……なんの音だろう?」

ゴンベエ「ZzzZz」

ライフィセット「ゴンベエ、起きて」

ゴンベエ「ん~だよ、ライフィセット。トイレか?お前、10歳なんだからトイレぐらい1人でいけよ」

ライフィセット「違うよ!そうじゃなくてなにか音がしない?」

ゴンベエ「あ~この宿、事故物件かなにかじゃないのか?ある意味、霊的なものがいるし」

ライフィセット「幽霊とかそういうのは感じないよ。感じたら、直ぐに起きるようにしてるから」

ゴンベエ「お前、サラッと恐ろしい事を言うよな……なんの音か見に行くか?」

ライフィセット「いいの?」

ゴンベエ「見に行った方がいいだろ。誰かが聖寮の敵が居ますって通報したかもしんねえし……こんな真夜中に襲ってきたのならば、ボコって素知らぬ顔で眠るぞ」

ライフィセット「うん」


ロクロウ「ふん!ふん!」

アリーシャ「ふっ、せい、やぁ!」

ライフィセット「ロクロウとアメッカ?」

ロクロウ「おぉ、起こしちまったか」

アリーシャ「すまない、出来る限り静かにやっていたのだが」

ライフィセット「なにしてたの?」

ロクロウ「日課の素振りと言ったところだ」

アリーシャ「ロクロウの剣術は型が独特で勉強になる」

ロクロウ「アメッカの槍術も中々のもので、良い勉強になる」

ゴンベエ「アメッカ、徹夜して槍を振って鍛えんのはいいけど寝るときはちゃんと寝ろよ?
人間、無茶をして限界を超えねえとダメな時はあるが少なくとも今がそんな時じゃない。旅してるから仕方ないとは言え、髪質とか肌とか若干荒れだしてるぞ」

アリーシャ「自分の体が傷付くのを恐れていては、槍を握れない」

ゴンベエ「それがその辺のブスなら無視してるけど、お前となるとそうは言えねえだろう。リンスとかココナツオイルがあれば作れるから、今度作るか。コツさえ掴めばコーラに続く売りもんになるだろうし」

ロクロウ「お前、サラッとそういうことを言うんだな」

ライフィセット「アメッカの肌は綺麗だよ?」

ロクロウ「うん……お前にはまだ早いか」

ゴンベエ「ライフィセットの年頃で知ってたら、マセガキじゃないのか?」

ロクロウ「そう言われれば……って、言い出したのお前だろう」

ゴンベエ「言い出したもなにも、事実だろう。言うのめんどくせえけど」

アリーシャ「?」

ライフィセット「も~子供扱いしないでよ!」

ロクロウ「悪い、悪い。とにかく、起こしちまって悪かったな、次からは出来る限り静かにする」

ゴンベエ「(そういう風に言うのが、1番子供扱いしているんじゃねえのか?)」

ライフィセット「……僕も、修行するよ」

アリーシャ「夜に修行したからと言って、大人になれる訳じゃない」

ライフィセット「違うよ……少しでも、ベルベットの役に立ちたいんだ」

アリーシャ「……そうか」

ゴンベエ「微笑ましい感じの空気を出してんのええけど、お前ってどういう修行すんの?」

ライフィセット「えっと……なにをすればいいんだろう?」

ロクロウ「剣とか槍なら素振り、拳なら正拳突きとか技の型の練習とか色々とやれるけどライフィセットの場合は……聖隷術の練習か?」

アリーシャ「だが、火や水を出せば音でベルベット達が目覚める」

ゴンベエ「じゃあ、もう寝ろよ。寝て英気を養えばいいだろ」

アリーシャ「それだと修行とは言わない……そういえば、ゴンベエと出会ってから修行をしている姿を見たことは無いが」

ゴンベエ「自分の生活費を稼いだり飯作ったりしねえとダメなんだから、そんな暇はねえよ」

ロクロウ「つまり、今まで修行とか無しで戦ってたのか……」

ゴンベエ「いや、アメッカと出会う少し前まで修行はしていた」

ライフィセット「どんな修行なの?」

ゴンベエ「……今から皆さんに殺しあいをしてもらいます?」

アリーシャ「殺しあい!?」

ゴンベエ「あ、本当に殺しあうわけじゃねえぞ。既に死んでるみたいなもんだし、あくまでも戦う事が出来る覚悟を作る修行だ。自分の体と心を鍛えるんじゃなく、人を傷付ける事が出来るようにならねえと話にならねえだろ?」

ロクロウ「成る程、確かに斬る意志が無いとどれだけ凄い剣術も腐っちまうからな」

ゴンベエ「踏んだら爆発する地雷って爆弾を埋めている地雷地帯を歩いたり、SASUKEを完全制覇させられたり、普通に勉強させられたり……カードゲームもやったな」

アリーシャ「カードゲームだけ異様に浮いていないか?」

ゴンベエ「色々とあんだよ、色々。けど、案外バカには出来ねえぞ。
カードゲームってのは、チェスと違って運要素を含み不平等で自分が出来る事を理解したりしねえといけねえから頭の回転が早くなる。同期でやたらカードゲーム強え奴が居たんだよな……あいつ、今頃なにしてんだろ」

ライフィセット「ちゃんと意味のある修行なんだね」

ゴンベエ「実際のところそういう意味でしてんじゃねえけど……ライフィセット、修行ってのは、昨日今日、今からはじめようってもんじゃねえんだ。日々精進って言葉があるように、日常の中に修行があるんだよ」

ライフィセット「……日々精進って、毎日向上を目指して努力するって意味じゃないのかな?」

ゴンベエ「……ライフィセット、修行ってのは昨日今日はじめようと思うもんじゃねえんだ。日々の中に修行がある。生きることもまた大いなる修行なんだ。特にオレ達はとんでもないのと喧嘩を売ってんだ」

アリーシャ「どうして何時もカッコよく決められないんだ……」



戦闘終了時掛け合い


ベルベット+ゴンベエ


ベルベット「あんた、手を抜いてるでしょ?」

ゴンベエ「抜いてるっつーか、本気も全力も出さなくてもいい相手なだけだ」

ベルベット「本気と全力って、どう違うのよ?」

ゴンベエ「本気は戦うぞと80%、全力はペース配分考えずに100%の力(ゾーン解放)で挑む」

ベルベット「だったら命令よ、最初から本気で戦いなさい」

ゴンベエ「それをやったらお前が復讐出来なくなるぞ?」

ベルベット「……程好く戦いなさい」


マギルゥ+ゴンベエ+ライフィセット+アリーシャ

マギルゥ「ふっ、ワシにかかればこの程度造作でもないわ。一昨日来やがれじゃ」

ライフィセット「どうやって一昨日に行くんだろ?」

アリーシャ「……ゴンベエなら出来るんじゃないか?」

ゴンベエ「そういうことやると過去の自分と遭遇したりして面倒な事になりそうだ」

ライフィセット「タイムパラドックスって現象が起きるんだよね」

アリーシャ「確か時間逆行物には何種類か存在していて別の未来が生まれたり、過程が変わるだけで結果が同じとなったり」

マギルゥ「お主等、真剣に議論するでない!」

ゴンベエ「つっても出来そうな感じなんだよな。過去に戻ってお前を殺るの」

マギルゥ「ならば、言いかえよう!ワシに勝つには100年はやい!!」

ライフィセット「業魔と聖隷は倒されない限りは100年以上生きるよ?」

アリーシャ「その頃にはマギルゥは年老いた老婆になっている。今の様に力を振るうのは至難の技で弱くなっていると言う意味合いではないか?」

ライフィセット「そっか……マギルゥはその頃にはおばあちゃんだよね」

ゴンベエ「……残りの余生を楽しめよ」

マギルゥ「ワシはまだまだピチピチの14歳じゃ!!」


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挑戦者が真に欲しいのは勝利のみ

「ったく、無茶をしやがって」

 

 エレノアとベルベット、双方が納得できる天族との繋がりを断ち切る答えを出したアリーシャ。

 どうすれば良いかは分かったが、それをどうやってするかは出来ずに困ってたのでオカリナと目覚めの歌を教えたが限界を迎えた。

 

「う……あ……」

 

「ん、どうした?」

 

 4人の対魔士達で一人だけ格好の違う一等対魔士から出てきた天族がなんか呟いてる。

 凄くどうでもいいことだけど、出てきた天族達、服装が一緒だな。意思を抑制し統一している証ってか。規律と統制は大事だが意思まで奪っちゃ停滞するだけだぞ。

 

「う……あ……」

 

 なにか言えよ。

 

「ゴンベエ、アメッカが吹いてた曲を吹いて」

 

「まだ足りねえ感じか」

 

「僕、分かるんだ……この状態、ベルベットに名前を呼んで貰う少し前の僕と同じだって」

 

 シリアスな空気を醸し出してるが、オレ、お前とベルベットの出会いは知らねえぞ。

 

「コイツらもオレ達の様に強い意志がある。抑制された意志を解放すれば聖隷の方から契約を解除する事が出来るはずだ」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「天族の方が力あんのに、なんで捕まってんだ?」

 

 天族と契約云々をアリーシャは出来ないし必要ないとあんま気にしなかったが、なんで捕まってんだ?

 手からハァ!と炎に水に風に岩を出すことが出来て天響術とかいう魔法的なのも出来る。アリーシャやあのババアみたいにある程度鍛えて実力があっても攻撃が届かねえと話にならねえ。剣とかで勝てなくても距離を開いて天響術でシバくだけで勝てる可能性がある。清浄な器は人じゃなくてもいい。現にアイゼンはコインを器にしていて、ウーノの奴も水を器にしてる。憑魔化するのは分かるが、捕まるのはおかしい。

 シグレとかが普通に捕まえてんのか?いやでも、そういうのしなさそうだな。

 

「力があっても意志が抑制されては力を振るう事は出来ぬ」

 

「いやだから、聖寮……違うのか。エレノア、お前の同僚とかの器になってる天族ってどんな感じなんだ?」

 

「……ビエンフー以外は大体この様な感じでした」

 

「……アイゼン」

 

 エレノアじゃ無理なので、天族の意見くれ。

 

「その辺りに関しては色々と分かってはいない。ただ3年前にあった降臨の日になにかがあったと言うのは確かだ」

 

「3年前……」

 

「降臨の日?」

 

「知らないのですか?」

 

 残念だが、1003年前の事は知らない。

 なんか数年前に色々とあって、ベルベットは心当たりがある様で思い出す。

 

「三年前、紅く染まる満月の日。

その日を境に人間が聖隷を視認出来るようになった……それから暫くして聖寮が出来た」

 

「……4年前まで聖隷を見ることは出来なかったわ。その頃は左腕が業魔(こう)じゃなかった私の目にはね」

 

 憑魔になったから見えるようになったんじゃねえのか?ヘルダルフ、ライラ達認識してたぞ。

 と言いたいが、アリーシャがこの時代に来て早々に肉眼で天族を見れる様になってるから、そうじゃねえんだろうな。

 

「三年前のあの日から人間全体でおかしくなった、力や器のある聖隷以外はおかしくなった」

 

「……とりあえず、起こすか」

 

 ヘルダルフがクソザコに見えるぐらいヤベー相手に喧嘩を売ってるのは分かった。

 アリーシャが握っていたオカリナを取り、目覚めのソナタを吹いて意識が覚醒しかけていた天族を叩き起こす。

 

「ここ、は……」

 

「起きたか」

 

「お前は……業魔!?」

 

 仮面が割れて素顔を晒す天族。

 アイゼンが声をかけると知っているのか驚いているのだが、ベルベットを見て直ぐに構える。

 

「待って!僕達は皆を目覚めさせたんだよ!」

 

「目覚めさせた……!」

 

「このままいけばベルベットに喰われていたかもしれん。アメッカに感謝するんじゃぞ~」

 

 全力で恩を売りにいくスタイルだな。

 気絶している対魔士達を見て、憤怒の表情を浮かびあげる天族。蹴り一発ぐらいなら見なかったことにするからとっとと蹴ろ……よし、蹴ったな。

 

「意志を解放してくれた事、感謝する」

 

「礼なら私達じゃなくて、アメッカに言いなさい」

 

「彼女が我等を……身を呈してまで、なんと感謝すればいいのか」

 

 言えない、アリーシャ気絶してんの別件だと言えない。

 意識を失っているアリーシャに感謝する4人の天族。意志を奪われていた事について憎んでいたのか、どさくさ紛れに何回か無理矢理従えていた対魔士達に蹴りをいれる。

 

「とっととどっかに行ってくれ、聖寮の力の源はお前達だ。お前達が力を貸さなければただ鍛え上げた人間達で終わる」

 

「お前達は、彼女はどうするつもりだ?」

 

「諸悪の根元をぶん殴る……はよいけ!」

 

 お前等がどっかいかんとなんも出来ん。

 アメッカの事を少し気にしながらも、この場から去る4人の天族。

 

「遅れちまったか」

 

 入れ替わる形でロクロウがやってくる。

 クロガネを素材にして出来た二本の短刀を手にして。

 

「準備は出来たな」

 

「ああ、コレでシグレを斬るだけだ」

 

「俺も見届ける」

 

 おい、待たんかい。

 

「お前、アメッカの槍はどうした?」

 

 後ろから登場するクロガネ。

 自身の短刀で斬る様を見たいのは分からんでもないけど、最優先すべき仕事を放置すんなよ。

 

「ロクロウの方を優先する、だったら最後まで見させろ」

 

「最後までって」

 

「安心しろ、ここで斬れても斬れなくてもアメッカの槍を作ってやる」

 

 ロクロウがシグレを斬って勝ってしまったら、成仏するとかしそうでこえーんだが。

 

「それに、問題はまだまだ山積みだ」

 

 オレの手にメダルの破片を置くクロガネ……そうか。

 

「アメッカは大丈夫なのかえ?さっきからピクリともせんぞ?」

 

 アリーシャの返事はない、ただの屍のようだ。

 そんな皮肉が皮肉にならない程にピクリとも動かない。大きなダメージを受けたわけじゃねえから、ライフィセットの回復術に頼れない。アップルグミとか使っても、血を失ってるから鉄分とか豊富な物を食わせた方がいい。

 絶対安静だが聖寮の対魔士達を放置して行かないといけないから、ここに寝かせる訳にもいかないので砂地とかで使うスピナーを出してその上に乗せる。

 コマの様にグルグルと回転しているが、乗っているアリーシャは回転しない……ラブホのベッドとかって回転するとか誰か言ってたな。

 

「お前、それ背負ったままでやんのか?」

 

 準備が出来たので向かおうと歩きだすが、ロクロウは號嵐影打ちを背負ったままだ。

 そいつを弄くるのが嫌なのは分かるが、そいつを背負ったまま戦ったら邪魔になるだろう。

 

「號嵐・影打ちは俺が未熟者だったという証だ。そう易々と手放せん」

 

「今から未熟者じゃないって証明するんだろう。背負ったままにするんだったら、せめて使えるようにはしとけよ」

 

 ジャックナイフぐらいの刃しかねえんだから、それこそ勿体無い

 

「影打ちってなに?」

 

「刀を作る時に同じ刀を複数作ってその内の1番良いものを真打、他を影打と言うんだ。

俺の一族は当主になった者に真打を、そうでない兄弟の者に影打の號嵐を渡すことになってる」

 

「偽物と本物ってこと?」

 

「……そうだな。シグレの剣が本物で、俺の剣が偽物かもしれん」

 

 ライフィセットがポロっと言ったことに深く考えるロクロウ。

 

「優劣はあったとしても真偽は存在しねえだろ」

 

 ロクロウはロクロウ、シグレはシグレ。

 シグレは優れた使い手でシグレに劣る使い手がロクロウで偽物も本物は関係無い。

 

「世間はここまでやれただけでも凄い立派と言ったり、逆にもっとやれるだろうとなんもせずに見ているだけかもしれない。だが、挑戦者は挑戦者になった時点で欲しいものは称賛の言葉じゃない……1番であると言う事実、自分よりも優秀な奴に勝利した証のみ」

 

 勝たなければ屑であり、ある程度勝つことにより世間は認める。勝てばある程度は正しくなる。

 転生者になる際に綺麗な言葉で誤魔化すのでなく、取り敢えずは勝たなきゃなにもはじまらないと言われたのを思い出す。

 

「シグレが1番、俺が2番……俺が勝ってシグレが2番になるか、悪くはないな」

 

 オレに言われた事が妙にしっくりと来ているロクロウ。

 シグレもロクロウも兄弟だなとシンプルに考えれる二人が被る。言ったら、物凄く怒りそうだけど。

 でも、あれだよな~ロクロウが折れたままの號嵐・影打ちを背負ったまま戦っても無理っぽいぞ。兄弟だから使っている剣術は同門みてえだから、二刀流の型もバレてる。もう一本剣を加えたりして……3刀流はシグレの方が似合うな。声的な意味でも。

 

「ベルベットにとっては、ライフィセットは真打ちなのか影打ちなのかどっちじゃろうな~」

 

「!」

 

 

「どういう意味です?」

 

「僕の名前はベルベットの弟の名前なんだ」

 

「えっ!?」

 

「僕はベルベットにとって本物なのかな?偽物なのかな?」

 

 目元の辺りとか何処となくベルベットに似ているライフィセット。

 姉弟に見えるかと言われれば見えんこともなく、ベルベットは時折ライフィセットを弟と重ねている時がある。ベルベットにとってライフィセットはベルベットの弟の代わり(偽物)、それともライフィセットと言う1人の天族なのか、どっちなのかと言われれば前者に近い。

 

「偽物が本物に勝てない道理は無い」

 

「偽物は、偽物だから偽物なんだよ?」

 

「いいか、そもそもで世の中は大体偽りだらけなんだよ。スッピンじゃなくてあの手この手とメイクをしたりお洒落をしている、素じゃなくなってるんだ」

 

「その本物と偽物は断じて違います!そういうのは綺麗に見せる、綺麗になる努力と言うのです!」

 

「だが、世の中どう頑張っても綺麗に見せられないブサイクが存在している。そいつ等はあの手この手を尽くす。顔を弄くるのは勿論の事、子供を不幸にしない為にイケメンの血を取り入れたりする!」

 

「醜いアヒルの子と言うお話をご存知でしょうか!」

 

「カエルの子はカエルと言う諺を知っているか!大体、あれ、アヒルと思ったら白鳥の雛でしたってオチだろ。ブスの心が美しくて美人の性格最悪な純愛ラブストーリーの方がまだ説得力あんぞ!」

 

 てか、あるんだな醜いアヒルの子。アレって、アンデルセンが作った話だろ?

 

「お主の思う真実とベルベットの思う真実、どちらが真打ちでどちらが影打ちか……って、聞いておらんか」

 

 取り敢えず、アルトリウスがヤベー事をしている奴なだけは分かってるからその辺はあんま気にしない。

 クロガネに入り組んでいる道を教えて貰いながら炭鉱を抜けると港だった。炭鉱と港が繋がっていたのか……。

 

「よう、き」

 

「デラックスボンバー!!」

 

 港湾まで足を運ぶと立っていたシグレと対魔士二人

 挨拶代わりにデラックスボンバーを撃つ、結構本気で撃つ。

 

「まだシグレ様が喋ってるじゃないですか!?」

 

「諦めろ、ゴンベエは復讐の憎悪を燃やしているベルベットを横にしてアルトリウスに一撃を与えるぐらいに卑劣だ」

 

 取り敢えず、やる。

 ヘルダルフに撃った時よりもちょっと強い威力で撃った……。

 

「おいおい、まだ喋ってんだろ?」

 

 だよなー。

 デラックスボンバーが直撃した対魔士2人はぶっ倒れてるが、シグレは上着が燃えて乳首が見えている以外は何事も無かったかの様に立っていた。ほんと、ヘルダルフより強いのばっかだな。

 

「それを言うならば、ワシ達の元に対魔士達が来おったぞ」

 

「そいつは悪ぃ。アイツ等じゃお前等では勝てないって忠告してやったんだけど、どうにも頭が固くてな」

 

 どうせそんなオチだろうと思った。

 

「で、どんな刀を打ったんだ?」

 

 やられた対魔士達には興味なく、ロクロウの新しい刀に興味津々なシグレ。

 ロクロウは無言で構えると面白いと笑みを浮かべて號嵐を鞘から抜いた。

 

「やってみりゃ、わかるか」

 

 それはそうとして、シグレの直ぐ側にいる猫、天族なんだな。

 

「ゴンベエ、手は出すなよ!」

 

「シグレよりも、あの対魔士達だ」

 

 アリーシャが必死になって知恵と経験を振り絞って出したんだ。

 威力こそ死ぬほど痛いがフルパワーで撃ってねえから意識を失ってるだけだ。

 

「簡単に終わっちまったらつまんねえ。手段は選ばなくていいぜ!!」

 

「っ、舐めるな!」

 

「だったら、お言葉に甘えさせてもらおうかしら!紅火刃!」

 

 挑発的なシグレにキレるロクロウだが、チャンスとばかりに突っ込むベルベット。

 それと同時にアイゼン達もシグレを狙いに行くのだが、オレはスピナーで横を通りすぎる。気絶している対魔士達と契約している天族の意識を起こさねえと。

 

「おいおい、お前も来いよ!」

 

「っ、お前の相手は俺だ、シグレ!!」

 

 多対一でも優勢に戦っているシグレ。

 無視しているオレに挑発してくるがオレは乗らず、眼中に無いとロクロウはキレる。

 前と違って冷静さがあり、剣は荒々しいもののシグレと撃ち合う事が出来るものになっている。

 

「ほおう、中々良い刀じゃねえか」

 

「お前を斬る刀だ、拝んでおけ!」

 

「その威勢、最後まで続けよ」

 

 余裕の笑みを溢さないシグレ。

 人の事を言えた義理じゃねえけど、こいつどんだけ手を抜いてんだ?まだまだ本気じゃねえんだろ?

 

「瞬撃必倒!!」

 

 撃ち合う事は出来ているが、決め手にかけており仕掛けてきたロクロウ。

 

「阿頼耶に果てよ!」

 

 斬りに加えて蹴りを何度も何度も入れて斬りぬける

 

「嵐月流・翡翠!」

 

 直ぐに往復して斬り込む。

 シグレに当たったが、ちょっとの斬り傷しか出来ていない。致命傷になるもんじゃない……

 

「うっ……ヒロ、イン……」

 

「大丈夫か?」

 

 出来れば宿で休ませたいが、シグレ達がどっか行ってくれねえと休ませる事が出来ねえ。

 ロクロウにぶん殴られるの覚悟でシグレを殺るか?過去の時代だから、あんまそういうのやりたくねえんだけど。

 

「やりやがるなぁ!!」

 

「っ、全員避けろ!!」

 

 ロクロウの攻撃を受けたシグレはちょっと本気を出しやがった。

 

「避ける必要はねえ、何処にいたって同じだからな!!」

 

 目の前にロクロウはいるが、號嵐の制空権でないのにゆっくりと上げる。

 

「嵐月流・白鷺!!」

 

「ぐあああああ!!」

 

 號嵐を力任せに振り下ろす。

 無明斬りと同じく飛ぶ斬撃がロクロウを襲い、更にはなんか地面からエネルギーが出てくる。

 

「アリーシャの上にいてよかった……」

 

 アリーシャが寝ているスピナーの上で、ネールの愛を発動。

 これでオレだけでなくアリーシャもシグレの技から身を守ることが出来た。

 ロクロウも短刀を重ねて×の字にして飛ぶ斬撃を受けきり、ダメージを軽減するがクロガネがクロガネで作った禍々しい短刀は見事なまでに折れてしまった。

 

「お前の腕は悪くはねえよ。だが、業魔になったってのに出来の良いランゲツ流じゃ当主である俺には敵わねえ」

 

「……だったら、見せてやるよ。俺の剣をな!!」

 

 ロクロウは左手に持っていた刀を捨てて突撃する。

 二刀流で戦っていても弄ばれていたところがあり、名刀と呼ばれる刀並みに切れ味のあるクロガネの短刀でも折れてしまっていてはただのナイフで、簡単に対処されて吹き飛ばされる。

 既存の型通りにやっても勝てず、型を無くしても勝てない。

 

「ぐぉおおおお!!」

 

「おぉう!?」

 

 ちょ、そういう感じでやるのか!?

 正面に向けられた號嵐の先端部分に左手をぶっ刺して突き進む。剣の技術云々の捨て身の特攻は流石に予想外で、號嵐を使って戦うのならば號嵐を押さえれば良いと鍔の部分をガッチリと掴む。

 

「もらった!」

 

 よっしゃ、殺れってベルベットとアイゼンが今がチャンスとばかりに走り出しやがった!

 

「なっ!?」

 

 首を斬ろうとしたその瞬間、シグレは動く。

 ロクロウの背負っていた折れた號嵐・影打ちを抜いて短刀を防いで

 

「勢っ!!」

 

 ロクロウをベルベット達の元へ吹き飛ばす。

 背負ってなければ、今の一撃で仕留めきれていたのに惜しい。

 

「はっは!それでいいんだよ、それでやりゃあ出来るじゃねえか!!

驚いたぜ、腕を捨てて首を狙いに来るとは。後、一瞬遅れてたら斬られてたわ」

 

 ポイっと號嵐影打ちを投げ返すシグレ。

 良いものを見せてくれたと満面の笑みを浮かべている……乳首が立ってるから絵にならねえな。

 

「よっし、今日はここまで!」

 

「なんじゃ見逃してくれるのか?」

 

「おう!いいか、てめえ等!もっとスゲえ刀を打って、もっと腕を磨いて、俺を斬りに来い!!」

 

「お前、そういう風に余裕ぶっこいてたら斬られんぞ?」

 

 ゲーム序盤でよくある負けイベントで、本当なら主人公達を殺せるが面白い物を見せてくれたとか今日はこの辺でとか言って殺そうとしないシグレ。

 こういうのってムカつく糞みたいなタイプなら物語中盤から終盤にかけて再会して秒殺されて、戦うのが好きなんだタイプは終盤に良い感じの見せ場をもらえる。シグレ、最後辺りに良い感じの見せ場をもらえるぞ。

 

「だったら、てめえが斬りに来いや。

その女がぶっ倒れちまってて、守るの優先してるから見逃してやったが、次は容赦はしねえぜ」

 

 ぐうの音も出ねえ正論を言い返されちまったな。

 

「次は折られんじゃねえぞ、ロクロウ」

 

「……斬ってやるさ、何百回負けようが、何千回折られようが」

 

「はっはっはっは、いい顔だ。いい悪い顔だ……と、1つ言い忘れてたわ」

 

 エレノアの事か?

 

「コンニャク、中々に強敵だったぜ」

 

 マジで挑んだのか……刀で斬ったコンニャクなんてお腹壊すぞ。

 

「なんという人……」

 

 ほんと、色々な意味でスゲエよ。あの男。

 

「他人の心配をするよりも、自分の心配をした方がいいわ。貴方の裏切りは聖寮中に伝わったわよ」

 

 最後に猫型の天族がエレノアの状況を伝えると完全に去っていった……。

 

「一応、コイツら生きてんだけどな」

 

 瀕死寸前だが、対魔士達は生きているのに連れて帰ろうとしなかった。

 やっておいてなんだが可哀想だなと思いつつ目覚めのソナタを吹いて縛られていた天族を解放し、それとほぼ同時にアイフリード海賊団の船であるバンエルティア号が到着した……オレ達が来るの、ちょっとでも遅れたらベンウイック達はシグレにやられてたのか……危なかったな、おい。




スキット 姫が寝ている間に隙あらば

マギルゥ「のぅ、ゴンベエ」

ゴンベエ「なんだ?」

マギルゥ「お主、さらりとじゃがアメッカが吹いたオカリナを吹かんかったかの?」

ゴンベエ「吹いたが……ああ、そういうことか」

マギルゥ「やれやれ、気付いておらんかったのか」

ゴンベエ「ちゃんと後でうがい薬使ったりして嗽しろってことだろ。
アメッカの口の中は汚いどころか舐めても問題無さそうだが、オレは不摂生な生活をしているし、こんな旅だと不衛生になるからな」

マギルゥ「ちっがう!お主、アメッカと間接キッスをしておるじゃろ!」

ゴンベエ「……今さらかよ」

マギルゥ「確かに散々ベルベットのバリボーな肉体を堪能しておるから、アメッカでは満足出来んか」

ゴンベエ「いや、アイツ結構着痩せするタイプだしベルベットと方向性が違うし、太ももが売りだとノルミン達が言ってたぞ」

マギルゥ「確かに、アメッカの絶対領域は魔性じゃの」

エレノア「貴方達、本人を目の前にしてなんて会話をしているのです!」

マギルゥ「なーに、聞かれてなければなんの問題もない」

ゴンベエ「つっても、知人をエロの妄想に使うのには罪悪感はある。
やっぱ、こんな状況だし御時世だし、ベルベットもアメッカも綺麗な女性だけど口説くとか恋愛とかにうつつを抜かしてる暇なんてねえだろ……」

ベルベット「……服、買いに行くんでしょ?私、そういうのあんまり興味無かったりしてたから、選ぶの手伝いなさいよ」

ゴンベエ「お前、なに着ても似合うだろうが。現にその格好もなんだかんだで似合ってるぞ?」

ベルベット「……どういう意味でよ?」

ゴンベエ「言わなきゃダメなのか?」

ベルベット「当たり前じゃない。油断すれば直ぐに人の事を綺麗だなんだ言って、具体的にはどの辺とかちょっとは言ったらどうなの?ハッキリ言うけど、お世辞にしか聞こえないわよ」

ゴンベエ「でも、お前それ明らかに身ぐるみ剥がれた後か適当に有り合わせで着ている性能重視に近いだろ?」

ベルベット「それでもあんたにとっちゃこんなの着てる私も美女なんでしょ?」

ゴンベエ「……いや、当たり前だろ?」

ベルベット「……そう」

エレノア「あ、あの、お2人とも、そこまでで」

ベルベット「なんて言われて、誤魔化されると思った?言いなさい」

ゴンベエ「そうだな……ゴスロリっぽいと言うか、悪の女幹部的な感じで綺麗な女性のベルベットにセクシーさを与えている。だけど、ベルベットの内面をなんとなくレベルとは言え知っているオレからすればギャップが感じられる。姉力たっけーよ、おかん力もあんだろ」

ベルベット「誰がおかんよ……そういえば、あんたずっとその緑色の服よね?」

ゴンベエ「後、溶岩地帯で着る赤色と水辺で着る青色もあるぞ」

ベルベット「流石にて言うか前々から思ってたけど、ダサいわよ、その格好。あんた、無駄に顔はいいから余計に」

ゴンベエ「おい、無駄とはなんだ無駄とは」

ベルベット「そのまんまの意味よ。女一人引っ掻ける事が出来てるんだから、他の女に目移りしないの」

ゴンベエ「いや、アメッカとはそういう関係じゃねえからな」

マギルゥ「アメッカ、早く起きるんじゃ!!このままだと、糖尿病になってしまう!!」

ゴンベエ「歳なんだろ……次回、番外編 転生者(ゴンベエ)ができるまで」


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番外編 転生者ができるまで

特に意味もなにもない番外編です。


「え~っと、何処や?」

 

 目を覚ますと、全く知らない場所にいた。

 んだ、ここ?

 

「さっきまで……あれ、なんだっけ?」

 

 さっきまで何処に居たのかが思い出せへん。

 昨日食った晩飯とか、通ってる高校の名前とか自分の名前とか家の住所とかハッキリと覚えとるけど、今日の記憶が曖昧やった。なんやこれ?新手の誘拐?素人ドッキリ的なのか?

 

「落ち着け、落ち着くんや……どっかの公園じゃなさそうやな」

 

 辺りを見回して見るけど、なにもない。

 何処かの山っぽくてあるのはなんか分からない木とか岩とかで家の近所にはこんな場所はない。いったい、何処なんやろ?

 

「ん、なんか人が並んどるな……すみません、コレってなんの列なんですか?」

 

 なんかやたらジジババが並んどるな。

 

「……お若いのに可哀想に」

 

「え?」

 

 声をかけたジジイは涙を流しながら合掌する。

 人を見ていきなり哀れむとか舐めてんのか、死期がはやいのはどっちかっつーとテメーだろう。

 

「深夜に徘徊してる老害達、か?」

 

 てか、これなんの列だ?

 先頭に行けば若い誰かが居るかもしれないと奥の方に行くとメガホンを持った和服の男性がいた。

 

「押さないで、押さないで。

別に渋滞を起こすとかそんな事は無いから、あ、そこの若いの、ちゃんと列に並んでくれよ!」

 

「あの、これなんの列なんですか?」

 

「並んでたら分かるから」

 

 なんの列かは分からねえけど、並んでいた方が良いっぽいか。オレは列の最後尾に向かい並ぶ……ほんま、ここ何処なんやろ?

 一先ずは言われるがままに列に並んで奥に進み、先頭付近に来た時にある物が目に入る。2本の円柱の木材が刺さっていて、縄で縛られている、なんか神社の鳥居っぽい感じになっており、そこから先には誰もいない。

 

「うぉっ、ワープした!?」

 

 鳥居みたいなところを通るババアがヒュンっと消えた。

 ワープだよな?あそこを通ったら、どっかに行くのか?

 

「はい、次は君ね」

 

「コレって、何処に繋がってるんですか?」

 

「三途の川だけど?」

 

 はぁ!?

 

「三途の川って、どういうことだよ!?」

 

「とりあえず、入れ」

 

 っちょ、押すな!

 よくよく見れば角がはえている鬼と思わしき男に押され、オレは鳥居(仮)を通ってしまい川原にワープしていた。

 

「……三途の川」

 

 何故かは知らねえが、橋や船を使わずに川を歩いて渡ろうとするジジババ。

 右見てもジジイ、左見てもジジイ、時折中高生ぐらいの奴はあんま見当たらなく、基本的にはジジババ、次におっさんおばはん。川の向こうには真っ白な着物を着て三角のハチマキみたいなのを巻いているジジババ……。

 

「せや、オレは……死んでもうたんや……」

 

 死後の世界とこの世の間にある三途の川。

 その名前を聞いて曖昧な記憶がハッキリとし、自分が死んだ、殺された事を思い出す……。

 

「あ、そこの君。そこでボーッと突っ立ってないで早く歩いて」

 

「鬼……」

 

 タブレット端末を持った鬼がオレに声をかける……マジの地獄なんやな。

 

「ほら、そこに船があるから」

 

「はぁ……」

 

 こうして意識がハッキリしとるから、死んだ実感が薄い。

 言われるがままに向こう岸までの船がある場所に向かうと、そこにも鬼がいる。

 

「えっと、船渡ししてくれるんすか?」

 

「向こうに渡りたければ、6文を」

 

「文って、江戸時代の金っすよね?」

 

 んなもん、持ってねえよ。

 

「ちょっと、船橋さん。

この御時世、6文銭が簡単に手に入らないから、300円で向こう岸まで送る様にこの前の会議で決まったじゃないですか?」

 

「あれ、そーでしたっけ?」

 

「そうですよ。すみません、ちょっと報連相が上手く行き届いてなくて。300円で向こう岸に送ります」

 

 地獄の沙汰も金次第って、マジなんだな。

 幸い、買い物に行ってたから金ならたんまりと……あれ?

 

「財布が無い」

 

 財布だけじゃない、スマホとかも無い。

 なんでだ?あんとき、買い物にいって、色々と考えてて……そんでオレは死んで……。

 

「あ~お兄さん、それアレね。

こっちに来るときは身一つになるから、財布とか携帯とかそういうの持ってても自動的に無くなるんだ」

 

「はぁ!?じゃあ、どうしろって言うんだよ!」

 

「遺体を火葬する時に遺体と一緒にこの国で使われてるお金、なんでも良いから300円になるように詰め込んで燃やしてくれれば」

 

 いや、滅茶苦茶罰当たりだろう!?

 遺体と一緒に金を燃やすなんて誰もやらへん……道理で、どいつもこいつも川を経由してるのか。

 まぁ、着衣水泳とか小学校の時にやったりしたし、流れが緩やかなところが──

 

「服、寄越さんかクソガキヤァアアア!!」

 

「うぉおお!?」

 

 乳丸出しの鬼のババアが現れやがった!?

 

「ちょっと、奪衣婆さん。いきなりのそういうのはダメですって、特にこういう人には」

 

「なんだい、あたしは昔からこういうやり方なんだよ。今さら変えられるかっての。小僧、ここを通りたきゃ服を寄越しな!」

 

「体格はおろか、種族が違うババアになんで服をやらなきゃいけねえんだよ!?」

 

「昔からそういう決まりなんだよ!」

 

 ババアは無理矢理服を奪おうとする。あ、ちょ、やめろ……あ~ーー!!

 

「ほら、これ着て渡んな」

 

「ババア、覚えてろや……」

 

「本当だったら、服を脱いでこっちに着替えてもらうんだけど……なんか、ごめんね」

 

 まったく、なんでこんな目にあわにゃならんのや。

 

「どうせ濡れるんやから、服は着替えへんとこ」

 

 真っ白な着物と頭に巻くやつを渡されるが、川を歩かなアカン。

 本当なら橋の上を通りたかったけど、さっきのババアがスタンバってるから通られへん。

 

「着ろや、クソガキ!!テメエの罪の重さが量れんだろ!!」

 

「るせぇ、クソババア!!未成年に淫行した自分の方が罪が重いやろが!!大体、和服なんぞ着たことねえんだよ!」

 

「システム上着てくれないと困るんだけど……とにかく、着て。ボタンでパッチン出来るように改良してるから」

 

 あ、ホントだ。じゃねえ!なんで着ねえといけねえんだよ

 

「坊主、そこの緩やか流れのところを渡りな」

 

「いや、オレの服!」

 

 雑に木の枝にオレの服をかけるジジイ。

 ホント、なんだってんだとぶつくさ言いながらも取り敢えずは三途の川を渡りきる……三途の川、思ったよりも浅かったな。

 

「っち、最後の最後まで着なかったか」

 

「着てたまるかってんだ……あっちか」

 

 さっきの鬼は向こう岸に居るから、次なにすれば良いのかわかんねえ。

 取り敢えずは白装束に着替えて三角巾を巻いて、ジジババとかが向かっている方向に歩いていくと大きな和風っぽい屋敷に辿り着き、そこにも行列が出来ていた。

 

「皆様、静かに一列にお並びくださいませ」

 

 ……列の誘導してる鬼、転スラのシオンに見える。おっぱい、揺れてる。たゆんたゆん言ってる!!

 あのデカパイ、生で見るとマジでスゲエ!

 

「日本の地獄は、自慢の地獄!

聖書、エジプト、ギリシャの地獄とは大幅に異なります!まずは、裁判を受けていただきますので罪は認めてくださいませ!」

 

 なんか凄い恐ろしい事を言ってる。けど、それよりもおっぱいに目がいく。11081や……。

 汗をかきながら列を調整するシオン(仮)のおっぱいを眺めながら、列に並んでいると段々と前に進んでいく。もうすぐ自分が屋敷の中に入るぐらい前になると意識はおっぱいでなく屋敷に向き、この後の事を考える。

 

「閻魔大王が、おるのか……」

 

 閻魔大王が天国か地獄に行くか決める。

 ドラゴンボールとかかいけつゾロリとかでそういうことをやってるシーンを見たことがある。裁判って言ってたけど、生前の事とかそういうのを知られてるんだろうな……。

 

「次の者、入るがいい」

 

 無駄に渋い声で扉の向こうから声をかけられる。

 これ、アカン。アカン奴や……。

 

「アレが、閻魔大王……」

 

 屋敷の扉が開かれるとそこには平安時代の偉い人が着ていそうな和服を着て、烏帽子を被っている髭が特徴的な男がいた。

 オレは神様の存在は信じてるけども祈らないタイプの人間やけど、こらアカン。なんというか、雰囲気が違う。閻魔の前では嘘はつかれへんとか言うけども、マジや。こんなんなんか嘘ついたらどつかれる。

 

「っしゃあ!!」

 

「……え?」

 

 何時の間にか中に入っていたシオン(仮)はガッツポーズをする。

 

「これで私の32047連勝です、秦広王」

 

「っぐ、我輩、最近鬼灯の冷徹とかで取り上げられてるのにまだ間違われるのか」

 

 忌々しそうな顔で財布を取り出し、1円玉をシオン(仮)に渡す閻魔大王……じゃない人。

 オレの方を見て大きなため息を吐く。

 

「我輩は閻魔大王でなく、秦広王だ」

 

「秦広王……如何にも閻魔大王っぽい見た目と色合いなのに?」

 

「よく見てみろ、烏帽子に秦広と書いてあるだろう。

閻魔がメジャー過ぎるせいで余り知られていないが、日本の地獄は10人の裁判員が居て我輩がトップバッターを勤め、閻魔大王は5番目なのだ」

 

「はぁ……」

 

 豆知識が手に入ったが、物凄く落ち込んどるな。

 

「もう、日本の地獄=閻魔大王のイメージが強いんですから諦めた方がいいですよ」

 

「そういうお前は化けて転スラのシオンになっとるだろう!!」

 

「この方が色々と分かりやすいですし、ちょうどいいんですよ。それと秦広王を閻魔大王と間違われる度に1円を私に渡す貯金で間もなく60年物のロマネ・コンティが買えます」

 

「待て、そんなに間違われたのか?」

 

「はい。付け加えるなら秦広王を知っていた方は大抵は鬼灯の冷徹で知ったらしいですわ」

 

「う~む」

 

「あー、すみません」

 

「あ、申し訳ありません」

 

「あ、大丈夫です。まだぐだぐだしてても」

 

 こっちの気持ちの整理もつかんわ。

 目の前にいる閻魔っぽい人は閻魔でなく、秦広王とか言う人で隣にいるシオンっぽい鬼は秘書なのか?てか、普通に転スラとか言ってたな。

 

「紫煙、お前が色々とややこしくするから動揺しているではないか」

 

「なにを仰いますか。閻魔大王じゃなかったのかで皆、一回はここで驚きます」

 

「むぅ……お主、色々と思うところはあるがこの鬼女は転スラのシオンっぽい見た目になっているだけで本人では無いぞ」

 

「あ、それはなんとなく分かります……その、そういうのを読んだりするんだなって」

 

「そりゃあ読みますよ。

最近は振り込み詐欺とか転売屋とかネタの盗作とか煽り運転とか昔は無かった罪が増えたりしましたので、現代の情報は逐一更新しています」

 

 あ、そうなんだ。

 あくまでもそれっぽい見た目になっているだけで、本人でなくそっち系の知識を持った鬼なんだと納得をする。

 

「では、お主の裁判を行う。汝は……紫煙、コレなんて読むんだ?」

 

 気持ちが落ち着くと、巻物を取り出して広げる秦広王。

 老眼なのか巻物に書いている内容が読めずに、シオン(擬き)に巻物を見せる。

 

「え~っと……秦広王、彼はお主とかお前とかでいきましょう。これは所謂、キラキラネームで」

 

「待たんかい!!それ、もしかしてオレの名前について書いとるん!?」

 

「お主の名前どころかお前が今までやった事を全部書かれておる……安心しろ、名前では呼ばん」

 

 あ、そりゃ助かる!じゃねえ!

 

「コンプライアンスとか守秘義務とかそんなんを一切無視してんじゃねえか!?」

 

「嫌ですね、ここは地獄でございますよ……コンプライアンスはおいしくいただきました」

 

 せやね!ここは地獄やね!!

 

「では、改めてお主の裁判をはじめよう」

 

「裁判……そんだけ証拠があるんだったら必要ないだろ」

 

 落とすなら、とっとと地獄でもなんでも落としやがれ。

 生前の行いを思い出しても本当にロクでもない人生で、悪いことをしている部分が多々ある。良い行いはそんなにしてねえから、問答無用で地獄行きだ。弁護士を寄越せといっても、こんなところに弁護士もいねえんだろ?

 

「お主、自分の最後を自覚してるか?」

 

「……まぁ、一応は」

 

 オレの事が書かれた巻物を読み終えた秦広王。

 嘘をつかないのか確認しているかもしれねえが、死んだ時の事は余り思い出したない。

 

「車に跳ねられて死んだ」

 

「っ、言うんじゃねえ!!」

 

 思い出すだけでも殺意が沸いてくる、マジでやめろ。

 

「アルバイトの給料が入り、携帯代等の支払いをしてコンビニで一休みをしている最中車に跳ねられた」

 

「っ……!!」

 

 死んだ時の事を言いやがる秦広王。

 ああ、そうだ。その通りだ。コンビニでジュースを買って一休みをしているとオレは跳ねられた。車がぶつかって来た。

 その際にコンビニのガラスにぶつかり、割れたガラスが刺さってオレは大出血。手の施しようが無い。

 

「コレ、バックで跳ねられてますね」

 

「こんなもん聞いてもどうこうなるって訳やないけど、オレを殺した奴は誰なん?」

 

「82歳の高齢運転手で、役所に免許返納に車で行ってそのまま帰りにコンビニに寄って踏み間違えです」

 

「っ……そのジジイはどうなるんや!!」

 

「今、現世の方で裁判中で、寿命的な意味では後、10年は生きます」

 

「はぁ!?」

 

 そんな事まで分かるのかとかそういうので驚いてるんやない。

 オレを殺した奴はまごうことなきクソジジイで、オレは本当にしょうもない理由で殺された。悪いことをしたと思える様な事は幾つもあるが、それよりも悪い事をしたジジイは更に生きる。ふざけんじゃねえ。

 

「しかも、裁判で揉めてます。

免許返納関係で踏み間違いが問題になってて、高齢で結構なボケが入ってますからワシはしてないと」

 

「殺せ!!そのジジイを今すぐに殺せ!!無理だったら化けて呪い殺す!!」

 

 ふざけんじゃねえよ!!オレを間違えて殺しておいて、無実だなんて許さねえ!!

 

「死後の世界の住人が生きてる人間を殺すのは基本的にご法度だ。精神的に追い詰めて自殺させるのは大丈夫だが、呪い殺すのはできん」

 

「っ……クソ、クソ、クソ!!!」

 

 なんだよ、なんなんだよ。

 オレがなにをしたって言うんだよ。コンビニで買ったジュースを飲んで休憩してただけじゃねえか!!

 

「落ち着け」

 

「落ち着けるか!このまま地獄に落ちるんだったら、せめてあのジジイも巻き込んでやる」

 

 悪夢を毎日見せてやる。毎日化けて出て、クソジジイと関わる奴等を苦しめてクソジジイを孤独死させてやる。路上で野垂れ死にさせてやる。

 

「お前は地獄に落ちない」

 

「なんだと?」

 

「親よりも先に子供が死ねば賽の川原と呼ばれる場所に向かう事が自動的に決まる。お前はそこで新しく生まれ変わる……所謂輪廻転生というのをする」

 

「輪廻転生……」

 

「仮に貴方が大人だとしても、コレぐらいならば私のグーパンで罪が帳消しになりますので天国行きです」

 

 暴力で全てを終わらせるのかよ……にしても、転生か。

 

「最近流行りの異世界転生じゃありませんよ。文字通り記憶も人格もリセットして、全く違う人間になる転生です」

 

「それぐらい分かるわ……」

 

 前世の記憶を持ってるとか、そういう感じのアレだろう。

 自分の今後の処遇について聞かされ、無言になる。全く別の人間になるのが怖いって感情があるが、それとはまた別の感情がある。

 

「……生きる意味を見出だせないのか?」

 

「ちゃうけど近い」

 

 キラキラネームで苛められたりして、苛めてた奴に復讐したり色々とやったりした。

 今思えばロクでもねえ人生だったが、それでも大人になった後でも酒を飲める本当の友人が出来たりして良い人生だったとは思っとる。けど……

 

「未来が見えてなかったんだよ」

 

 将来に希望を持っておらず、やりたい事を見つけていない。

 小学生の頃は勉強して良い学校に入って良い会社にってなってたけど、高校生になる頃にはその考えは大きく否定された。

 大手で儲かってる筈なのに人件費を削りまくるブラック企業、昔は英語が喋れるのが凄いとかどうのこうの言われてたが、今じゃ英語が喋れるのが当たり前。○○が出来るのスゴい!じゃなくて○○出来て当然になった。常に新しいものを求め続けて、○○出来てスゴいからの今時○○出来て当たり前のループが何度も何度も起きて求められる最低基準が年々上昇。

 なにかをやりたいと思っても、立ちはだかるのは生まれた場所や環境、そして金。どれだけ才能があってもはじめる為の支度金が無いとなんにも出来ない。

 業界のトップどもが古い考えを持っていたり、ずっと頂点に座っていて親族で幹部の席を回していたりするから、新参者は幹部の誰かと結婚して玉の輿を狙うぐらいの事をしねえといけねえ。

 会社に入ってヘコヘコと頭を下げて毎日理不尽に叱られたりしてコツコツと努力するんじゃなくて、自身で会社を立ち上げたり、自分が思う面白いことをしたり周りを気にしない発言をしたりした方が良いって証明されたりした。

 社会科担当の教師が言っていた。政治家になるにはある意味、芸能人になって知名度を上げた方がいいかもしれないって。政治家と芸能人、どっちに投票が入るかと言われれば芸能人って、皮肉にもならねえことを言いやがった。

 海外みたいに戦争らしい戦争は起きてはいないし、治安は良い。けど、それだけで……やりたいと思える事も無いし、将来の事を考えれば不安しかない。趣味はあっても夢はない。

 

「バイトをはじめたのだって金目的で、お客様の笑顔とか人と触れあいたい云々は1ミリも思ってねえ」

 

 理不尽だらけで、それが仕事だと言われても我慢は出来ても納得は出来ねえ。

 本当になんで頑張ってんだと思いながら社会を動かす歯車の1つになっている。

 

「現世は地獄よりも地獄だからの」

 

「地獄行きかどうか決める人がそんな事を言うんか……」

 

「仕方があるまい、非行に走らず真面目にコツコツと頑張り続けても無駄なのが今の現世だ。仮にこれが安土桃山時代や明治時代ならばあの手この手で政権を崩したり実力行使に出ているぞ」

 

 でも、そういう奴等が血祭りになってなんやかんやあって出来たんが今の国だろう。

 

「その賽の川原とか言うの無しに出来ひん?……ぶっちゃけ、金持ちの子供になったとしても生きれそうにない」

 

 年々税金とか色々と上がってきとるんや。

 東京の六本木とかに住めるレベルの金持ちの子供にならへんと、仮にやりたい事を見つけたとしてもどうにもならん……まぁ、やりたい事も見つからない。もうどうすれば良いのかが分からへん。最終的に手に職をつけてるタイプじゃないとアカンのかな……。

 

「賽の川原が嫌ならば、異世界転生になるぞ」

 

「……え?」

 

「あ、異世界といっても二次元の世界に限りなく似てる世界です」

 

「……あんの、そんなの?」

 

 さっき異世界転生じゃなくて別の人間に生まれ変わるどうのこうの言うてたのに、異世界転生があるってどうなん?

 

「お主、テレビで自殺のニュースを見たことはあるか?」

 

「……あっけどよ」

 

 一時期ブームかってぐらいに取り上げられてたから、嫌でも目に入る。

 そんでその理由が人間関係とかで、大体がいじめ云々。

 

「死後の人間を裁いたりしているから言えるのだが、若者の自殺は将来に希望を持てない者が多い。

昔と比べて飢えや快楽、くだらぬ戦争による死は大きく減ったものの心が絶望してしまい生きる希望や意味を持てずに死ぬ者が多い」

 

 ……まぁ、生きてたって意味が無いって時が多々あるからな。

 

「特に2000年以降、そう言った理由で死ぬ者達やくだらぬ事に巻き込まれる者達が多くなった。

幼児虐待は勿論のこと待機児童にお前のキラキラネーム、無責任に子供を産むなどを数えればキリが無く、現世は地獄よりも地獄だ」

 

「現世が地獄だから異世界転生させてくれるんか……」

 

 こっちとしてはありがたいんやけども、現世が地獄と言われ続けると異世界転生の気力も無くなるわ。

 

「ある日のこと、お主の様に自我がある奴は基本的に転生の順番が回ってくるまで石積をさせ、赤ん坊の場合は問答無用で即座に転生させるのだが悲劇は起きた……転生させた赤ん坊が赤ん坊のまま再び地獄にやってきた」

 

 ……生まれ変わっても赤ん坊のまま死んだってことか。

 

「戦乱の世、物資の運搬もままならぬ時代ではその様な事は当たり前であった。

しかし今は違う。飽食と言われても当然なぐらいに食べる物はあり、学校に通わなければならない義務が出来た。くだらない殺しあいは減った筈なのに、平和を維持する事が出来ているのにそうなってしまった事に我輩達十王の長たる閻魔大王は悲しみ、1つの決断をした……それがこちらの世界から干渉が出来るこの世界の創作物と限りなく似てたり似てなかったりしておる異世界に転生させる、異世界転生だ。お主の様な者達に勧めておる」

 

 ……重い。

 

「聞いとったけど、それって現実から物理的に逃げてるんやないの?」

 

「なにを言うと思えば、酷すぎる現世が地獄だと命を断つ者達が多くいるのだ。

無理に立ち向かえと言ってもどうにもならんし、我々としても幸せに生きてほしい……辛いのならば、逃げても構わぬ」

 

 地獄なのに優しすぎひん?

 

「ぶっちゃけ向こうの世界も地獄と大差変わらないんですけどね。

あ、でも楽しい事とか夢とか希望には満ちていますよ。お陰で私達も良い酒の肴に」

 

「酒の肴って、え、なに、見てんの?」

 

「勿論、見てますよ!暇潰したり出来ますし、原作が作れないからって安易に漫画に頼る改悪実写映画よりも面白いですし、負けヒロインがヒロインになったりしますし」

 

 うわ、趣味最悪。

 

「この異世界転生は飴と鞭でもある。

よくある異世界転生物の様にチートと思わしき力を与える一方、お前達に苦痛を与える」

 

「苦痛って、なんか呪いの武器的なのか?」

 

 こう、使えば使う度に代価を支払わないといけないやつとか鋼の錬金術師の真理の門の向こう側を見た代償を、体の一部を支払わないといけない的なのか?

 

「いや、お前がお前であり続ける事だ」

 

「オレがオレ……それのなにが問題なんや?」

 

 顔とか体格とかならばまだなんも問題ない。

 人格とかそーいうんが、記憶がリセットされて色々と違う人間になる方が怖い。

 

「はぁ……まだまだガキか」

 

 へーへー、ガキですよ。

 

「転生先で億万長者になったり綺麗な子と結婚したりするでしょ?その時に本当に報告したい人達に絶対に永遠に報告することが出来なくなるのです」

 

「……そういうのか」

 

 母方と父方、両方の祖父母は糞みたいなので人の名前をキラキラネームで勝手に提出した事は憎んでいる。

 お陰さまで苛められたりしたが、それでも両親の事は嫌いじゃない。むしろ好きだ。高校に入って出来た気の合う友人達もだ。結婚の報告とかスゴい人間になったときとか、本当に自慢したい報告したい人達に報告出来ない。

 

「それに転生先はくじ引きで決めるから行きたい世界には行けない可能性が高い」

 

 ……プラスとマイナス、あるんやな。

 

「転生するには試験を受けなければならん」

 

「試験って、学科試験とか無理だぞ!?」

 

「そういうのでなく、転生先で生きれる様に色々と鍛えなければならん……紫煙」

 

「はい」

 

 シオン(擬き)は谷間から拳銃を取り出す。

 何処になんつーもんをしまってるんだよ、よく入れる事が出来たよな……ありがとうございます。

 

「どうぞ、秦広王を撃ってください」

 

 取り出した拳銃をオレに渡した……え?

 

「コメカミ、いや、いっそのこと眼球目掛けてもいいですよ」

 

「待て、何時も撃たれるのはお前だろう!何故今回に限って我輩が」

 

「ちょっと有給が欲しいので」

 

「この前、休んだばかりだろう!!」

 

 ズシリとおもちゃの銃とは比べ物にならない重さを感じる拳銃。

 こういうのはあんま詳しく無いが、多分、本物の弾丸が入っている。コレを撃てと?

 

「さぁさぁ、秦広王の何処を撃っても構いませんよ!!」

 

「撃つなよ、ふりとかそんなんじゃなくて絶対に撃つなよ!!撃って良いのは、紫煙の乳袋だけだ!!」

 

「……」

 

──バン

 

 オレは恐る恐る空に向けて発砲する。

 おもちゃの銃とはでは絶対にありえない衝撃が腕を襲い、痺れる……マジで弾丸が入ってやがった。

 

「惜しい!けど、撃つことは出来たので合格です」

 

「え、合格?」

 

「その引き金を引くのが転生者養成所の入学試験だ」

 

 さっきまでの痴話喧嘩が嘘の様にオレに拍手を送る、秦広王とシオン(擬き)。

 オレを試していた様で、試しにもう一度拳銃を撃ってみると二発目が撃たれた……どういうこっちゃ?

 

「転生者には生半可な覚悟ではなれん、ある程度の度胸が最低でも必要だ」

 

 撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけだ的なのか?

 なんだかよく分からないが、合格したことに一先ずは喜ぶ。

 

「その転生者養成所ってなにを学ぶん?」

 

「どんな世界に転生しても問題ない様に鍛える為に、色々と学ばせます。ホント、転生先ではなにが起きるか分かりませんので」

 

 拳銃の時と同じく谷間からスマホを取り出すシオン。

 今度はなんだと画面を見ると動画が流れはじめる。

 

「黒子のバスケの黛千尋?」

 

「転生した者の容姿はその者の魂で決まり、大体がなんかのキャラの容姿になる。あくまで本人でないから黛千尋でなく黛千裕という名前違いで生きている」

 

 黛千尋に似るって、結構ひねくれてんねんな。

 取り敢えず動画を見てくださいと言われ、動画を見ていると黛さん?は苛められている。

 転生先でも苛められるのかと胸くそ悪い動画を見ていると、ふと苛めている側が着ている服が遊戯王GXのオベリスクブルーの制服だと気付く。

 なんでリアルファイトやってんだよ、遊戯王の世界なら遊戯王で決着をつけろよ。

 そう思っているとオベリスクブルーの生徒が黛さんのデッキケースを奪い、カードを何枚か抜いて去っていった。

 

「カード、カツアゲしてたのか!?」

 

 なんでよりによってカードなんだよ……あ、なんか返り血を浴びてるブラックマジシャンガールが出てきた……泣きながら黛さんに謝ってる。

 

「この子、デュエルアカデミアの入学試験でAtoZ軸のユニオンデッキを使おうとしたら勝手に取り憑いているブラマジガールが自分を使ってと勝手にマジシャンガールデッキに変えて、結果的には圧勝で終わりましたがヤバい奴等に目をつけられたの」

 

 社長が嫁を手に入れる為にコレクターにマフィアをけしかける世界だからな……。

 てか、返り血を浴びとるって事はブラマジ、ブラックバーニング(リアル)をしたん!?あ、盗られたカードを返しとる。

 

「本当に転生先ではなにが起きるか分かりません、そもそもで転生先によって求められる物が色々と変わります。

食戟のソーマの世界では料理の腕、遊戯王やバトスピの世界ではカードゲームの知識を、魔法科高校の劣等生では科学の知識を、イナズマイレブンならば超次元サッカーの技術を、FAIRY TAILの世界では戦闘力を求められます。どんな世界に転生してもある程度は問題が無いように鍛えなければいけません」

 

 遊戯王の世界で筋肉を鍛えまくっても意味はない。ゼロの使い魔の世界で遊戯王の知識を極めても意味はない。

 物語には世界観があったりして、その世界観に合うスキルを持っていないとダメで……オレにはそういうスキルは無い。キラキラネーム以外は割と普通の高校生だ。

 

「でなければ、チートを渡したとしても十二分に扱いきれない。

あくまでも漫画の様な世界に転生させるだけであって、我輩やお主にとっては現実だ。未熟者を無責任に送り出すわけにはいかん、メイドインジャパンの名に相応しい転生者を送り出さなければ」

 

 秦広王はオレに巻物を渡す。

 なんだと思い開けてみると転生者や異世界転生について事細かく書かれており、最後のところに汝は異世界転生をするかと名前を記入する部分があった。契約書的なのかとオレは目を通す。

 

「養成所に入る資格は得た、最後に決めるか決めないかはお主次第。

養成所に入れば誰もが転生者になれるわけではない。途中で何百人も脱落していく……脱落者は強制的に転生させられる」

 

 そうは言うが、生まれ変わっても現実には希望なんて無い。だったら、暇潰しとか酒の肴にされようが異世界でもなんでも転生して幸せに暮らしてやる。オレは巻物に自分の大嫌いな名前を書いた。

 

「お主は養成所の16期生になる。まだ他にも若者の死者は沢山いてその者達が入るかどうか決まるまで、入学式がはじまるまでの暫くの間は待機だ」

 

「待機室はこちらです」

 

 秦広王の屋敷から去ってシオン(擬き)の案内の元、待機場所に向かう。

 待機場所は何処からどう見ても完全個室のネットカフェで、漫画は勿論の事、テレビゲームのレンタルとかがパソコン1つで出来るようになっていた。

 

「まずは、コレを読んで後はお好きに。原作知識を蓄えるのも手です」

 

 既に試験がはじまっているとかそう言う感じのは一切無いと念を押して消えるシオン。

 

「え~っと……鬼灯の冷徹、読んだことないなぁ」

 

 とりあえず、置いていった漫画を読もう。




次回、アリーシャの槍


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アリーシャの槍

アリーシャの笑顔は曇っている時がエモかったりする。


「お前等、運が良かったな。

オレ達が数十分遅れてたら聖寮の特等対魔士に血祭りにあげられてたぞ」

 

「げぇ、マジかよ!?」

 

 マジだ。

 シグレ達が完全に港から去った後、アイフリード海賊団の船は港に停泊。

 船員を代表してベンウィックが出てきたので、命拾いしたことを言う。ほんと、危なかったぞ。

 

「ミッドガンドにいる筈の副長達が何時の間にかアイルガンド領にいて迎えに来いって言われてヒヤヒヤしましたよ」

 

「オレが居なくなった時の予行演習だと思えばいい。どうだった、オレの居ない船は?」

 

「何時もより快適でしたけど、なんか物足りなかったすよ……あ、でも早く辿り着きそうになって逆にヤバくなりそうになったって考えればコレもまた副長の呪いかも」

 

 遠回しどころか結構な嫌味に聞こえるぞ。

 アイフリード海賊団達からオレ達が突然別の地方に居たことに文句を言われるのだが、軽く受け流す。

 

「それで、船長についてなにか分かったんすか?」

 

「ペンデュラム使いは、ザビーダはアイフリードについて知っていた」

 

「じゃあ、そいつを追えば船長に」

 

「早々上手く行く話じゃない、聖寮はオレ達が思っていた以上のナニかを隠している。

ザビーダを狙って追うのも1つの手だが、あいつも聖寮に喧嘩を売っていた。なら、聖寮の真の目的を探っていればメルキオルのジジイにもザビーダにも、そしてアイフリードにも辿り着く」

 

「その為にも先ずはサウスガンド領のイズルトに向かわねばの」

 

「お前等……少しは休まないとダメだろ」

 

 聖寮がなにをしようとしているかが不明で、ロクでもない事をしているのは確かで時間は残されていない。

 一刻を争う状況だが、アルトリウスにボコられて以降まともに休みを取っていない。ベルベットとアリーシャは大きく血を失っていて、ライフィセットは憑魔になりそうになり、ロクロウはついさっき武器がぶっ壊れた。

 カノヌシがなんなのかアルトリウスがなにをしようとしているのかが分かるかもしれない本を読める人に会いに行く為に別の地方に向かうってことはこれから長い長い旅になるかもしれねえ。

 限界を越える時は頑張らねえといけねえが、休める時にちゃんと休まねえと……特にアリーシャは寝たまんまだ。

 

「別に私なら問題無いわよ」

 

「んなわけねえだろうが、明らかに疲れてんだろう」

 

「……疲れてるの?」

 

「特になにも変わった様子ではなさそうですが……」

 

「アメッカは肉体的に疲れてる。けど、お前は肉体だけじゃなく精神の方も疲れている……色々とあったからな」

 

 自分一人で突き進み、ライフィセットをあんま見ようとしなかった。

 少しでも一歩でも早くアルトリウスを殺すと、殺せるきっかけを見つけて早くやるんだと焦りまくっていた。そしてオレはタコ殴りにされて、殺意をそこかしこに散らかさずにアルトリウス関係以外では頭が冷えた。

 ほんと、1日ちょっとで色々とありすぎじゃねえか?

 

「ベンウィック、少し休息を取る」

 

「了解!」

 

「オレはこの辺りの組合と話をしてくる、適当に宿を取っておけ。流石に病人を船に乗せっぱなしはできん」

 

「そうか……ロクロウ、悪いがアメッカを宿に連れてってくれねえか?」

 

「それは構わないが……良いのか?お前が連れていかなくて?」

 

「いや、誰が連れていこうが変わらねえだろ?」

 

「いやいや、お前は何だかんだでアメッカにべっとりだろう」

 

 そう言われればそうだけど、あくまでもこの時代に連れてきたりしたからだ。

 お姫様を守る勇者とかそういうのじゃない、ビジネスパートナーとか友人に近い関係性の筈だ!力が無さすぎて絶望していて甘えてきてるのを強く言えないけど、そういう関係じゃねえ。

 

「とにかく、連れてってくれ」

 

 ロクロウが宿屋へと向かうと、マギルゥも休むと後を追っていきライフィセットも向かい、エレノアもついていく。

 

「ベルベット、お前は残れ」

 

「なんで……武器ね」

 

「そういうことだ」

 

 最後にベルベットが宿に向かおうとするが止める。

 今、この場に居るのはオレとベルベット、そしてクロガネ。なにをするかと言われれば、ベルベットの新しい武器についてだ。

 

「號嵐を持ったシグレが居たし、状況が状況だけに優先してやったが、作れよ」

 

「約束は守る……だが、肝心の號嵐に勝つことは出来なかった」

 

 折れたロクロウの短刀を持ち、悔しがる。

 顔はないが雰囲気で分かる。號嵐に太刀打ち出来る最高の武器が出来たと思ったらあっさりと折られちまった。

 

「號嵐を破るには神の太刀と同等の刀だけでなく神業を持った使い手が必要になるか」

 

「言っとくが、オレはやらんからな」

 

 お前の作る刀が半端ねえのは分かるが、それはやらん。

 

「號嵐を破る事が出来るのはお前じゃない、お前には執念が無い」

 

「……まぁ、そりゃな」

 

 創作物みたいになんかやってて死んでしまって異世界に転生じゃなくて現世に絶望している人間が転生してんだから。

 

「休んだら私達は別の領地に移動する……後でアイゼンに掛け合ってくるわ」

 

「助かる……それで、お前さんとアメッカの武器だったな」

 

「コレと似た感じの大きさで、頼むわよ」

 

 手甲から出てくる剣って、ベルベットの武器って変わってるよな。

 

「そういえば、私に向いたやり方は無いの?」

 

「ベルベットに向いたやり方ね~」

 

 アリーシャには槍が完成した後にやらなければならない事があり、ベルベットはそれをしなくていい。

 そんなのがあるならば逆にアリーシャがしなくても良いが自分がした方が良い方法があるかもしれない……確かにある。

 

「あるにはあるが、それは結構危険だ」

 

「危険は承知の上よ」

 

「そうじゃなくて、こう、持ってるだけで周りを巻き込むレベルのヤバい剣になる」

 

「……なにをやらせるつもりなの?」

 

「剣が出来た後に歌を歌ってもらう」

 

「歌って……オカリナの時もそうだけどあんた変な音楽を知ってるわね」

 

「言葉や音には科学的にも神秘的にも計測できねえとんでもねえ力があんだよ」

 

 ロッキーのテーマを聞いて燃え上がる、ヘビメタを聞いてハイになる、般若心経を聞いて心を落ち着かせる。

 アニメだって、そう。処刑用BGMなんてものがあったりしてコレが流れたら勝ち確定だと思っちまう。歌詞や音に込められた意味とかそういうのにも力がある。

 

「音に力……」

 

「暑い場所でセミの鳴き声を聞いたら余計に暑く感じ、暑い場所で暑いと言われ続けばより暑く感じるだろ?アレも音や言葉の力だ」

 

 ベルベットの場合、ヤバい力を歌って込めねえといけねえ。

 憑魔のベルベットが込めるとなると嫌でも穢れ関係になって、憑魔以外には猛毒でしかない。穢れに当てられて、憑魔化したりしそうで怖い。

 

「安心しろ、素材の時点でやべえ武器になる」

 

 アリーシャの槍よりは弱いが、號嵐とやりあえるレベルの業物にはなるのは確かだ。

 

「……使うなら、この2つだけを使って」

 

「はいはい」

 

 ベルベットは闇のメダルと炎のメダルの破片を選んで髪の毛を数本抜くと、宿屋へと戻っていった……。

 

「先にアメッカの槍を作るか……逆戻りだな」

 

 ここは産出した煌鋼を輸出する港、アイゼン達、ヤバそうな裏社会の住人達の協力を得れれば工房の1つや2つ借りれそうだが炭鉱の工房に戻る。

 

「クロガネ、普段通りの刃を作るんじゃない。作る過程で血や髪の毛を混ぜたりして、完全にアメッカ専用の槍を作る」

 

「純粋な鋼を作るために余計な物をぶちとばすのが刃物を作る時の鉄則だぞ?」

 

「んなことは分かってる」

 

 混ぜる事に意味があったりする……多分。

 

「それとアメッカの槍なんだか、こういう感じに出来っか?」

 

 ドラゴンレンジャーの獣奏剣や仮面ライダーワイズマンのハーメルケインみたいに笛機能をつけてほしい。

 アリーシャが時のオカリナを吹いて効果があったのならば賢者のメダルを用いて作った笛でも効果はある。

 

「槍じゃないナニかが出来るのは分かってたが、形から別物か」

 

 笛機能はあるが、アリーシャの槍の原型は残しとるわ!

 

「やらねえのか?」

 

「まさか、コレはコレでどんな物が出来るのかが気になる……ただ、1つだけ問題がある」

 

 工房に辿り着いたクロガネは、椅子に座りロクロウの時と同じく金槌を何処からともなく取り出す。

 

「ベースとなる剣を寄越しな」

 

 そういうので、叩き折った六賢者の剣の刃部分を渡す。

 自身の頭を加工した時と同様に炎を燃やす……燃やす、燃やすと言ったら燃やす……のだが

 

「俺にはこれ以上は無理だ」

 

 真っ赤にはならない。

 

「クロガネ、お前の炎、何度だ?」

 

「知らんが、マグマ並に熱い筈だ」

 

 それは絶対に無い。

 マグマの温度は1000~1200ぐらいで、刀を作るにはもうちょっと温度が高くないと出来ない……2000℃ちょっとってところか?となると、難しいな。

 

「最低でもタングステンを溶かせる温度を出さねえと」

 

 六賢者の剣は元の世界に存在する金属で出来てない。

 アリーシャの槍に使う超合金を生み出す為には最低でも熱に滅茶苦茶強いタングステンを溶かせる温度が必要だ……

 

「そのタングステンとやらを溶かすにはどれぐらいの温度が必要だ?」

 

「マグマの約3倍だ」

 

「おいおい、どうやって溶かすんだ?」

 

 転生特典が言うには、特殊なガスや電熱とかで溶かせる。

 特殊なガスは無理だが、港に戻ればバンエルティア号に置きっぱなしにしている磁石と海水の流れを利用すれば電気を作り出し、電熱はどうにかなる……が、あくまでもタングステンを溶かせる温度でありオレ達が相手にしているのはタングステンよりもやべえ金属。

 

「ここはオレも頑張らねえと……アイツらに無茶を言いまくったんだから」

 

 何時も着ている緑の衣装を脱ぐ。

 リンクお馴染みの緑の衣装は本当にただの服で、なんの力も無い。今からすることを実行すれば燃え尽きるだけ……オレは赤の衣装に着替えてグローブをつける。

 

「クロガネ、死ぬほど熱いが我慢しろよ」

 

「熱いなんてもんは、随分昔から体に感じないな」

 

 

─────────────────────────────────────────────────

 

 

「……ここ、は」

 

「目が覚めたの」

 

「ベルベット……私は」

 

「あんた、あの後倒れたのよ。まぁ、あんだけ血を流したんだから当然と言えば当然だけど」

 

「そうか……」

 

 場所と時間は変わり、パッと目覚めるアリーシャ。

 看病にあたっていたベルベットは意識を失うまでの事を説明すると、心配そうな顔をする。

 

「安心しなさい、聖隷達の意志は取り戻せたわ」

 

「そうか!」

 

 演奏を途中で止めたことを気掛かりで、あの後の事をざっくりと語ると喜ぶアリーシャ。

 危うく自分が死にかけたのに他人の心配をしているなんてとベルベットは少しだけ呆れるが、本人が喜んでいる以上は特になにも言わない。

 

「お~目覚めおったか」

 

「起きたんだね」

 

 部屋から声が聞こえ、入ってくるマギルゥとライフィセット。

 

「体調はどうじゃ?」

 

「……スゴく快調、いや、それ以上だ」

 

 血を多く失って、ずっと眠っていた。

 多少の空腹は感じるものの意識がスッキリとしていて体が羽根の様に軽い。

 生まれてからで多分、一番調子が良い日と体を軽く動かす。

 

「丸二日飲まず食わずで眠っておったのにか?」

 

「そんなに寝ていたのか……すまない、1日でも早く向かわなければならないのに私のせいで」

 

「別に、あんたのせいじゃないわ」

 

「物資を補給したり、異大陸に偵察船を出したり色々とやったりしたからどっちにせよ数日間はここに居たよ」

 

「そうか……ところで、ゴンベエは?」

 

 自分の側に居るのが当たり前なのにオレが居ない事に疑問を抱くアリーシャ。

 

「カドニクス港に来て直ぐに炭鉱に逆戻りじゃよ。

対シグレ用に作ったロクロウの短刀は折られるし、お主やベルベットの武器もあるからの」

 

「それにしても遅いよね」

 

「ロクロウの分も含めて3つだから、仕方ないわよ」

 

「ロクロウは二刀流じゃから4つじゃよ」

 

「うーす、待たせたな」

 

 4人がオレや武器の事を話している中に、オレ参上!

 宿屋の一室の入口を足で蹴り開け、4人の顔を見る……アリーシャは目覚めている……うん。

 

「ありがとう」

 

「っちょ、抱きつくな」

 

「お礼を言わせてくれ……ありがとう。私1人では、口先だけで終わるところだった」

 

 目覚めのソナタを教えた事についての礼を言ってくるアリーシャ。

 オレに抱きついて心の底から感謝してくれるのだが、抱きつく必要はねえんじゃねえのか?

 

「アメッカ、体調はどうだ?」

 

「おかげさまで、快調だ!何時でも出発は出来る!」

 

 残念だが、アイゼン達の方が無理だから出発は出来ねえ……にしても、快調か。

 

「ベルベット、お前の方はどうだ?」

 

「……よく分からないけど、スゴく快調よ」

 

「そうか」

 

 よっしゃ。

 

「アメッカもベルベットも失った血を取り戻した、わけではなさそうじゃの」

 

 快調の理由はそれだけではないと見抜くマギルゥ。

 ぶっちゃけた話、この世界の住人の身体能力が超人的だとしてもたった数日で致死寸前まで血液を失ってからの全快以上の快調は無理だとオレも思う。

 

「……無駄にはならなかったようね」

 

 自身の髪を撫でるベルベット。

 髪の毛とか血液とか色々と採取したベルベットとアリーシャの一部をぶちこんだ結果か、2人の力が底上げされている。

 2人から感じる気的なのが少し前と段違いに上がっている……一部をぶちこむんで効果があれば良いなと思っていたがここまでだったのは予想外だが、パワーアップできて越したことは無い。

 

「クロガネ……問題ないぞ」

 

 オレは周りを見てクロガネを呼ぶ。

 なんだかんだで頭の無い鎧武者だからなにも知らない一般人に見られればなに言われるか分からねえからな、慎重にしねえと。

 

「思ったよりも苦戦したが、中々の物が仕上がった。恐らく、お前達の武器は世界の何処を探してもそれ以上の物は無いだろう」

 

 布にくるまれた武器を置くクロガネ。

 布越しでも物凄い力を持っているのが肌で感じる。

 

「ベルベットの武器は変わってるから、アレってどうなってるの?」

 

「明らかに剣と手甲の長さがおかしい……おかしな武器じゃ」

 

 お前も大概だろう。

 

「……秘密よ」

 

 ホント、どうなってんだろうな?

 ベルベットは布にくるまれている自身の新しい武器を取り出す。と言っても、形が大きく変わったとかそういうのでなく、前と色以外はなにも変わらない手甲等が中に入っている。

 

「……悪くはな──」

 

「ベルベット!?」

 

 え、っちょ、ベルベットが燃えた!?

 

「とてつもない武器が出来るのは分かっておったが、お主が燃えてどうするんじゃーい!!」

 

 直ぐに水を出してベルベットにぶっかけながらツッコミを入れるマギルゥ。

 ライフィセットも心配をしながらベルベットに水をかけて助ける……あれ?

 

「ベルベット、大丈夫?」

 

「別に熱さを感じないから……?」

 

「お主、何時早着替えを修得したんじゃ?」

 

「いや、そういうレベルじゃねえだろ」

 

 炎に包まれたベルベット。

 ライフィセット達が火を消してくれたのだが、なんか若干だが見た目に変化が起きていた。炭の様に黒くて綺麗な髪の先端が熱を帯びた鉄の様に真っ赤になっており、着ている服もそれに合わせるかの様に燃える炎をイメージする様な色になっていた。

 服自体は変わっていない。カラバリと言われても違和感が無い感じの変化で……

 

「神衣……」

 

 スレイが天族と融合する神衣ぽかった。

 ベルベットは天族と融合していないから、違うけどそれっぽいと感じたアリーシャは思わず呟く。

 

「……悪くないわね」

 

「文字通り目に見えるパワーアップをしたの」

 

 誰が上手いことを言えと……。

 

「言っとくが、パワーアップしたからってアルトリウス殺れる訳じゃねえからな」

 

「分かってるわ」

 

 力を得たことによりなんかやらかさないかと思ったが、冷静なベルベット……

 

「ところでこれ、どうすれば戻れるの?」

 

「知らん」

 

 まさかこんな事になるなんて思ってもみなかった。

 血や髪を混ぜる事でなんかパワーアップし、凄い素材で凄い武器と結構軽いノリだったんだが、ここまでとは予想外だ。

 

「あ、戻った」

 

「……コツがいるわね」

 

 元の姿に戻ったベルベット。

 自分の意志で戻れたというよりは偶然元に戻れたようで、この力をどうやって使いこなすかと考えているようだ。

 

「この槍も材料が同じだからアメッカも」

 

「多分、なんか起きるな」

 

「この素材で刀を作らなくて正解だな。これで號嵐に勝てても、嬉しくはない」

 

 ホント、断って正解だったな。

 

「私の、私だけの槍……」

 

 ゴクリと息を飲んで布にくるまれた槍を見つめる。

 ベルベットの武器に使ったのは闇と炎のメダルだけだが、アリーシャの槍に使ったのはそれ以外にもゼルダの伝説に登場する不思議な力を持ったアイテムをこれでもかと混ぜまくった槍……なんだけどな……。

 

「アメッカ、槍もいいがコイツもある」

 

「盾?」

 

 腕につける小さい盾を渡すクロガネ。

 

「材料が結構余ってな。残すのもなんだから盾にした。腕のサイズに合うかどうか確かめてみてくれ」

 

「ちょうどいいサイズだ……力が湧いてくる……」

 

 盾だけじゃ、姿は変わらないみたいだな。

 

「この野郎が余計な機能を後から注文してきて、若干だが形状が異なっている。違和感が無いか確認してくれ」

 

「余計じゃねえよ、毎回毎回オレのオカリナを借りるわけにはいかないだろう」

 

「別にゴンベエのを借りるのは面倒ではないんだが……」

 

「お前が一人立ちした時にオレはお前の側に居ないんだぞ」

 

 流石にオカリナを目の前で貸すのは良いが、貸し与えるのは無理。

 

「え?」

 

「……んだよ?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 なにかに驚き落ち込むアリーシャ。

 落ち込みながらも槍をくるんでいる布を取り外す……。

 

「……コレが、私の槍……」

 

 持った時の重さや長さ等の違和感を感じず、槍の力を感じるアリーシャ……なんだけど。

 

「禍々しいのぅ」

 

 その槍は禍々しい闇を纏っており、先端部分は紫色だった。

 穢れは纏っていないが禍々しい闇を纏っていて、本当にあんだけの材料で作った槍なのかと思わず疑っちまう。槍としては最上級で、神秘的な力を纏っている。それなのに禍々しい闇を纏った槍が出来た。

 闇=悪じゃねえから、問題は無いがあんだけの材料を混ぜ混んだのになんで……まさか、混ぜすぎて闇になったのか?

 

「これで、私も戦える」

 

「あ!アメッカの周りに闇が!」

 

 色々と考えているとベルベットの時と似たような事が起きる。

 ベルベットは燃えたが、アリーシャの周りには純粋な闇が出て来てアリーシャを飲み込もうとしている。

 

「もう周りに迷惑をかけない、もう足手まといにならない」

 

 ……

 

「凄まじい、なんて力だ……ゴンベエもスレイも関係無い、私だけの力。これなら、これならばヘルダルフと戦える!!ゴンベエを置いていかずに、見捨てずに済む!!」

 

「ちょ、ちょっと、力が湧き出るのは分かるけど、制御しなさいよ」

 

 ミシミシと立っている場所にヒビを入れるアリーシャ。

 湧き出る力に興奮してしまい制御する事が出来ない……いや、そうじゃない。

 

「制御なんてしていてはダメだ。そうだ、この力があればなんでも出来る。今までの見ているだけの私じゃない、私はもう──」

 

「闇に飲まれるっと!!」

 

 目からどんどん光を失いハイライトが0になるアリーシャに蹴りを入れて飛ばす。

 よし、アリーシャから槍を離した。

 

「なるほどのぅ、確かにこんな槍を持てば誰でも力を得た優越感に浸れるわ」

 

 床に転がる槍を拾うマギルゥ。

 槍から感じるとんでもない力を持つ事により、より強く感じてアリーシャに起きた変化に納得する……力に溺れかけた。

 今までとは比べ物にはならない文字通り目に見えるパワーアップをする事が出来る禍々しい闇を纏ったこの槍、その槍から伝わる力にアリーシャは飲まれかけた。

 

「おかしい、おかしい……こんな事があんのか!?」

 

 戦闘的な意味では弱い。

 だが、精神的な意味ではアリーシャは成長したのにあっさりと飲み込まれた。力を得た優越感に浸るなんてアリーシャらしくない。貪欲なまでに求め続けてはいるが、手に入れたからといって慢心して力に溺れる様な人間じゃない。となると、武器の方に問題がある。作った奴に問題は……多分ねえし、いったいなにが原因だ?

 

「あ、あのぅ、ちょっとよろしいデフか?」

 

「あんだよ?」

 

「ビエッ!?あ、あのですね、その槍なんでフが……その、スゴく不安定なんでフよ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「聖隷にも力が宿しやすい武器とか色々とあるんでフ。炎の聖隷ならば紙とか、風の聖隷ならばペンデュラムとか」

 

 そういえば、煌鋼をライフィセットが見つけた時にザビーダがペンデュラムと相性が云々の説明をアイゼンがしていたな。

 

「ビエンフー、言いたいことがあるならハッキリと言うんじゃ。このままではただの失敗作に終わる」

 

「は、はい!その槍は地水火風、四属性の聖隷が使っても相性がとっても良いでフ!」

 

「当たり前だろうが」

 

 メダル以外にも大地、炎、しずく、風のエレメントも混ぜ混んでんだから。

 

「でも、そのせいでダメになってると思うんでフよ」

 

「いや、それは無いだろう。ひっくり返せばいいんだから」

 

 風が炎を、炎が水を、水が地を、地が風の良いところをぶち壊しにしているならばその逆も出来る。

 炎が風を、風が地を、地が水を、水が炎をで、スレイに四属性のてんこもりをやれつった。

 

「バランスが悪いっつーなら、ベルベット、なんか変なことは起きてないか?」

 

「強い力を感じるには感じるけど、それだけよ」

 

 闇と炎のメダルしか使っていないベルベットは特になにも起きていない……。

 

「この禍々しい闇が色々と邪魔をしているんでフよ!」

 

「あれだけの凄い素材を使って、どうしてこんな槍になったんだろ……」

 

 これだけ禍々しい闇を纏った槍を持てば心に変な影響を及ぼしそうで、アリーシャはその影響をモロに受けてしまった……最後にものを言う精神力が弱かったという事になるが、アリーシャの心は強い。

 闇の誘惑的な事をこの槍がしているとなるが、闇と炎だけでバランスが更に悪いベルベットは普通に使いこなしてる。力が湧き出ているがそれに溺れたりすることなく、ベルベットは制御してるとして、なんでアリーシャは槍で暴走をする?ライフィセットの言う様に物凄い素材……あ、ヤベ!!

 

「クロガネ、あんたなんか余計な事した?」

 

「俺よりもコイツの方が余計な事をしてきた。

材料が余れば鎧にして変形する機能をつけろだ、笛としてドレミファソラシドが出せる様にしろだ、槍じゃないなにかを作らされてる気分だった……ああ、そういえば1つだけ気になった事がある」

 

「なに?」

 

「お前の武器にも使った賢者のメダルとか言うの、関係しているかは知らんが槍を作る際に5つだったが足りていたのか?」

 

 六賢者の力が籠った剣に混ぜたメダルは5つ。

 闇、炎、森、水、魂の5つで、ゲームで一番最初に手に入る光のメダルを入れていない……光のメダルは現代でゼンライの爺さんに渡してしまっている。

 六賢者の剣は神秘的な光を放っていたが、この槍は光を放っていない。メダルが一枚足りていないから、六賢者の槍になっていない。

 

「やらかした、材料が足りなかった」

 

 現代に戻って、いや、そう簡単に会えるか?ニャバクラに爺さん居るか?

 

「材料が足りたとして同じことになっておるよ」

 

「そう、なのか?」

 

 槍を手にしてるからか闇を直に感じるマギルゥ。

 

「アメッカが力を求めるのは誰かの為であろう。求めた力を誰かの為に使うとして、その使うとはいったいなんじゃ?」

 

「……」

 

「この闇はワシ達になにかを植え付けるものでない。ワシ達が植えておる種を開花させて毒とするもの。毒も少量ならば薬となり、薬も多量ならば毒ともなる。毒を薬とするか、薬を毒とするかは使い手次第……少なくとも、この槍は毒でもあり強力な薬でもある」

 

 禍々しい闇を纏ってはいるものの、槍としてはクロガネもこれ以上は無いと認めている。

 槍の持つ闇からは禍々しさこそ感じるものの、穢れは感じない。持っているだけで人の負の感情を押し付けるとかそんなのでなく、禍々しい闇を感じるだけ……要するに、使い手の方が問題ありで武器自体は問題無い。

 この闇をどうにかできる強靭な心を持ってさえいれば、この槍を使うことが出来るわけか。

 

「……これ以上、どうしろってんだ?」

 

 アリーシャに足りないものがなんなのか、オレには分からない。

 

 

─────────────────────

 

 

 

「……!」

 

 目を覚ますとベッドで寝ていた。

 

「……そうか、私は……」

 

 一瞬だけどうしてと思うが、ゴンベエに気絶させられた事を思い出す。

 新しく作った槍を受け取ったまではよかったものの、その槍から伝わる力になんとも言えない高揚感を得て今ならばどの様な事も、それこそヘルダルフをも倒せると言う気持ちになった……ヘルダルフがどれほど恐ろしい存在なのか、十二分に理解しているにも関わらずだ。神衣でスレイが挑んで敗北したのを知っているのに、神衣の様な姿になったとしても勝てる筈が無いと頭では分かっているのに……。

 

「強い力を持てば、それに溺れて悪用する人は大勢といる……そんなわけない」

 

 私が力を求めていたのは、今の世界をどうにかしたかったから。

 世界が災厄が溢れているのは穢れに満ちているから。それを浄化して、天族を信仰し加護を得れば良いと知ってい……違う。

 

「ゴンベエがそれを否定したんだ」

 

 浄化の力も天族の信仰も、昨日今日ではじまったものではない。

 遥か昔から存在しているもので、現代にまで伝わっている……そしてその結果が災厄の時代。浄化の力や信仰による加護のシステムだとダメだとゴンベエは否定した。このままスレイがヘルダルフを倒しても50年位しか平和を保てないかもしれないと、私はその言葉を疑い否定することは出来ない。ベルベット達と出会い、よりそう思える様になった。

 

「……くよくよしてちゃ、ダメだ……頑張ろう!」

 

 気付けば気分は沈みまくっていたけど、こんなんじゃダメだよ。

 私は気持ちを切り替え、迷惑をかけた事をゴンベエに謝りに部屋を出る。

 

「ほら、早く口を開けなさい」

 

「……」

 

「一度に入れる量を、もうちょっと多くしてくんない?」

 

「ダメよ。ドカ食いなんて体に悪いんだから、ほら」

 

「目覚めたのですか」

 

「ああ、気分がスッキリとしている……」

 

「ほほぅ、槍の影響か?それともこの状況でかのぅ?」

 

 黙れ、マギルゥ。

 部屋を出て、ゴンベエに会うのだが食事時だった。

 マギルゥ達、何時もの面々が食事をしており私の体も空腹を訴えているので食事時なのだろうが……

 

「逆、じゃないのか?」

 

「安心しろ、何時も通りだ」

 

「何処がだ!?」

 

 見馴れたくはなかったが、見馴れてしまったゴンベエがベルベットにご飯を食べさせる光景。

 ゴンベエがベルベットに食べさせなければベルベットは料理の味を感じない。何故ゴンベエが食べさせたら味を感じるかは知らないが、例え空腹を感じず食事を必要としないと言えどもなにも食べないのは私達からして気分は良くない。

 ベルベット自身も味が感じる食事をすることで気持ち的にも落ち着いているが……。

 

「何故、ベルベットがゴンベエに食べさせているんだ?逆じゃないのか!?」

 

「逆なら違和感を感じないのですか!?」

 

 何故か今日は逆。

 ゴンベエがベルベットでなく、ベルベットがゴンベエにご飯を食べさせていた。

 

「ベルベットはゴンベエから食べさせて貰わないと味を感じないが、ゴンベエがベルベットにそうしてもらわないといけない理由は無い!!」

 

 むしろ行儀が悪い!今すぐに止めるんだ!!

 

「アメッカ、違うよ」

 

「なにが違うと言うんだ?アレだとただのバカップルじゃないか!!」

 

 ベルベットが女性として素晴らしく、綺麗なのは分かるがそれは禁断の恋だ。

 いずれは私達は現代に戻らなければならない……だから、別れの日がやって来るから、その……とにかくダメだ!

 

「私だって好きでこんな事をしてるんじゃないわよ……コイツの腕が治るまで、期間限定。それが終われば元通りよ」

 

「それって結果的にゴンベエがお前にやるに変わるだけじゃねえのか?」

 

「全然違うわよ!ロクロウ、いったい私とゴンベエをどういう目で見てるの?コイツは私の下僕よ?」

 

 いや、ただ単に今度はゴンベエがあーんをしているだけの気もする。いや、それよりもだ

 

「腕?」

 

 ベルベットがゴンベエの腕が治るまでこんな事をするつもりだが、なんの話だ?

 

「こういうことよ」

 

「っ……アイゼン、ライフィセット、エレノア、マギルゥ!!」

 

「無駄だ。既に試したが、コレは時間をかけて治すものだ」

 

 ベルベットはゴンベエの手を取る。

 ゴンベエの両手はボロボロに変わっていた。手にタコや豆が出来ていたというんじゃない。まるでなにかで叩いたかの様に変な風になっており、皮膚が真っ赤になっており、見るからに痛々しかった。

 コレは直ぐに治すしかないと治せる術を使えそうな4人に頼むがアイゼンが無理だと言う。

 

「色々とやってみたのですが、効果があまり……」

 

「本当か?」

 

 ゴンベエは敵だからと、手を抜いたわけではないだろうな?

 

「アメッカ、落ち着いて。エレノアの言うことは本当だよ」

 

「こやつはワシ達と使っとる力が違ったりするせいか、治りが遅いんじゃよ。

なに、天響術でちゃんと治せるレベル。暫くすれば元通りになるはずじゃから、安心してこの甘いのを見ておけ」

 

「……どうしてこんな怪我を」

 

 ヘルダルフと戦った時でさえ無傷だったのに、今は見るも無惨な両手。

 火傷となにかで殴打した様な怪我で、いったい何時こんな怪我を……まさか、今まで受けていたのを黙っていたのか?

 

「……コレよ」

 

「ベルベットの剣?」

 

 燃える炎の様な色合いのベルベットの刺突刃。

 それのなにが関係している?

 

「刃物を作るには、先ず加工しやすい様に金属を燃やさなければならない」

 

「それは知っている」

 

 その刃と私の新しい槍を作ったのはゴンベエでなく、クロガネの筈だ。

 現にあの時、クロガネが居た。今はこの場にはいないが、クロガネが作った物だ。

 

「問題はそこだ、金属は種類によって溶ける温度が変わるんだよ。

タングステンなら3500、銀なら1000、鉛は350、鉄は1500……さて、問題。アレはなんの金属でしょう?」

 

「……なんだ?」

 

 ゴンベエの言うアレとは、砕いたメダル等の事だ。

 アレの材質がなにかと聞かれれば、なんだとしか答えられない。砕くこともまともに出来ない程の硬度を持っている。

 

「メダルを含めた素材は生半可な温度じゃ加工できない。

それこそクロガネが頭を燃やした時の炎でも、どうすることも出来ず……ちょっと頑張った、っつう」

 

 痛みに耐えながら手袋をつけるゴンベエ。

 手袋から炎が出る……まさか

 

「ファイアグローブで3500℃以上の炎を出して、なんとか加工しやすくした。けど、今度は加工する台が熱に耐えきれずに……最終的に手の上に置いてやった」

 

 刃物を作るには叩かなければならない。

 加工しやすくなったマグマよりも熱い熱を持つ金属を持ったまま、クロガネの金槌を何百と受け止めた。

 

「どうして、どうしてそこまでしてくれるんだ?」

 

 槍の素材の時点で、とてつもないお宝だ。

 それをなんの惜しげもなくゴンベエは使わせてくれただけでなく、作るために手を犠牲にした……どうしてそこまでしてくれるんだ。私なんかの為に。

 

「お前が頑張ろうとしてるからだよ……頑張ってても報われないのは、ごめんだ」

 

 ゴンベエ……。

 

「槍を必ず使いこなしてみせる、絶対に……」

 

「おぅ、頑張れ……ベルベット、次」

 

「はいはい……コレ終わったら、次は私の番よ」

 

「おう」

 

 まぁ、それはそれとしてベルベット、代わるんだ。

 ゴンベエの手をボロボロにしたのは私の槍を作るのに数十の素材を燃やしたからで、ゴンベエの餌付けもとい食事の補助は私がしよう……代われ、代われと言っている!!いや、確かにベルベットも作って貰ったが主に原因は私で……ゴンベエが終われば今度は私の番だと?そんな……

 

 

 




スキット サブイベント時のみ

アリーシャ「さて、次回予告を」

???「おい」

アリーシャ「っ、何時の間に!?」

???「何時の間にじゃない。最初からここにいた」

アリーシャ「そうでしたか……失礼ですが貴方は?」

???「オレか……気にするな、次回予告風のスキットなんだろ?続けてくれ」

アリーシャ「続けろと言われましても……気のせいか、ミクリオ様と何処となく似ている様な」

???「そういう危ないのは止めておけ……この小説のタグになにがあるか知ってるか?」

アリーシャ「えっと……」

???「今回はオレが代わりにしてやる……」

?????「お、なんやもうはじまっとるん?」

???「もう終わってるみたいよ」

???「どうやら遅れたみたいですね」

???「なんじゃ、折角良い酒を持ってきたと言うのにつまらんのぅ」

???「まったく、オレも忙しい。女一人を相手にしている暇は無い」

???「一度に喋るな、ややこしい。それとお前の出番は最後で現代に戻ってから……1人、遅刻か?」

???「そもそもで私達、今日が出番じゃないわよ」

???「そうか……次回、【サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その1】」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その1

サブイベントはストーリーが進むにつれて解放することが出来ます。
あ、前話若干加筆してたりします。

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。



 布にくるまれた槍を持つ。

 布にくるんでいる影響か、私が使おうと求めていないのか力は感じるが力は伝わってはこない。

 もし私が使おうとすればこの槍は答えてくれる……私の血を混ぜているか、なんとなく分かる。

 

「私の方が遥かに多いがそれでも同じだ……」

 

 ベルベットは新しい武器で力を得た感覚があり、文字通り目に見える変化が起きた。

 力に飲み込まれておかしな感じになりかけたものの私にも神衣の様に文字通り目に見える変化が起きかけようとしていた。この槍自体は正真正銘本物である……つまり

 

「私自身の未熟さが招いた結果……心の弱さか」

 

 心の弱さが招いた悲劇。

 ベルベットはこの力に飲み込まれることなく自分であり続け、力を使う矛先を誤らなかった。

 誰かに頼りきらず、自分だけの力だと感じた高揚感に慢心しない様にしようと私は目を閉じ、心を落ち着かせる。あの時は私の力だと喜んでいたが、今はもう違う、一度溺れかけたという事実がある。

 揺れるバンエルティア号の上で動じず慌てない強靭な心を保つ。

 

「今度こそ……」

 

 私は力には溺れない!!

 

 自分にそう言い聞かせながらゆっくりと槍をくるんでいる布をはずす。

 私が力を求めると呼応するかの様に槍の禍々しい闇が私を飲み込もうとする……貰った時と違って、良い調子だ。力を得たと感じるが、なにも問題無い。コレならばいける。後はベルベットやスレイの神衣の様に姿が変わるのを待つだけだ。

 

「……笛」

 

 禍々しい闇の力を感じながら、槍に口を添える部分がある。

 槍として使えるだけでなく笛の機能もついている。あの曲を吹けば、天族の縛られた意思を解放する事が出来る。この槍を使いこなせればヘルダルフとも渡り合える。

 

「笛を吹けば、天族達を助け出す事が出来る……ゴンベエに頼らずに済む……」

 

 ゴンベエは元々ハイランドの住人でなく、レディレイクの直ぐ近くの川の上流に住んでいる物売り。ハイランド王家とは全く関係なく、導師になることを拒んだ。ライラ様は強要をしなかった。

 力が無い私に力をくれるが、基本的には一線を引いている。ヘルダルフを倒さなかったのがその例だ……ゴンベエにはゴンベエの生活がある。災厄の時代を終わらせる旅を嫌がっている。

 仮にこの槍を使いこなせる様になりベルベット達を見届ければ現代に戻るが……そうなれば、ゴンベエは──っ!

 

「おい、アメッカ!!」

 

「えっ、っぐ!?」

 

 気付けば闇に飲み込まれない様に高め鎮めていた精神は大きく揺れ、闇に心を飲み込まれそうになった。

 アイゼンが私に攻撃してくれたお陰で槍を手放して頭の中のモヤモヤが消え去り、私の周りにあった闇は消え去った。

 

「話には聞いていたが、オレよりも恐ろしい槍だ」

 

「……すまない、今度こそいけると思ったのに」

 

 また、意識がおかしくなりそうになっていた。

 こんなんじゃ、この槍を使いこなせるわけがない……いったい、どうすればいいんだ。

 

「心を鍛える方法は、なにかないか?」

 

「心を鍛える方法……そんなものは決まってる」

 

「本当か!?」

 

 いったい、どんな方法なんだ?

 

「心を鍛えるにはズバリ、冒険に出ることだ。

大海原を越えていき遺跡にダンジョン、凶悪な怪物を相手にし、謎を解いて財宝を手にする過程で様々な経験を積むことにより人は大きくなる」

 

 確かに、冒険に出れば強くなる……だが

 

「私達は今まさに冒険に出ているみたいなものじゃないか?」

 

「……」

 

 お宝を探すとは全く異なるものだが、隠されている真実を解き明かすべく旅をしている。

 行方不明になった人を探そうとしている……それはもう、一種の冒険談になるんじゃないだろうか?現に私も少しとはいえ成長している。

 

「……いいか、アメッカ。コレは冒険じゃない……オレ達と聖寮の喧嘩だ」

 

 上手いことを言えないのか、それともそう思っているのか勢いを失うアイゼン。

 冒険をすれば心を鍛える事が出来ることが分かったものの、現在冒険中で、やらなければならないことが沢山ある。今はカドニクス港で異大陸を探索している船の帰還も待っているが、本を解読する為に別の地方にいかなければならない。

 

「……ゴンベエに聞いて──!?」

 

 地震だ!?

 

「バカな、急に地震だと!?」

 

「なにを驚いているんだ!?」

 

 突如として起きるもので、予告して地震が起きるわけないじゃないか!!

 

「お前等、無事か!!」

 

 船の一室で何かを作っていたゴンベエも地震に反応して、飛び出し──

 

「ぬぅおあ!?」

 

 体が半透明になり消え去った……え?

 

「ゴンベエ?」

 

「副長、大丈夫っすか!!」

 

 ゴンベエが跡形もなく消え去ると、飛び出てくるベンウィック。

 

「ああ……」

 

「どうかしたのか?」

 

 突如として消えたゴンベエもそうだが、アイゼンもなにかおかしい。

 私が精神統一をしていた時の様に目を閉じ、何かを感じている……いったいなにを感じている?

 

「この地震、おかしい」

 

「おかしい?」

 

 地震に変もおかしいもあるものなのか?

 

「アメッカ、地震がどうして起きるか知っているか?」

 

「……私達が立っている場所よりも遥か地の底、それこそ温泉が出る場所よりも深いところでなにかがあれば起きるものじゃないのか?」

 

 地震がどうやって起きるか詳しくは知らないが、地の底でなにかがあった時に起きる。

 例えば大地の底に眠る火山の様な熱が噴出したりして地殻変動が起きたりした時……もしかすると、この時代と現代が大幅に異なるのは地殻変動が原因なのかもしれない。

 

「概ねその考えが正しい……この地震、大地からなにも感じなかった」

 

「?」

 

「オレは海の男だが、地の聖隷でもある。

地震が起きれば地殻に何らかの影響が起きる……だが、今回はなにも起きていない」

 

「それのなにが問題なんだ?」

 

「この地震、普通の地震じゃない……ゴンベエが消えたのもそれが原因なのかもしれない」

 

「なんだと!?では、この地震はいったい……」

 

 アイゼンは首を横にふる。

 私達の知らないことを多く知っているアイゼンでも知らないとなれば、誰も分からないこと。もしかすると、何処かにゴンベエがいるのかもしれないと私はベルベット達にゴンベエが消えたことを伝えようとするのだが、その前に空が太陽の光とは異なる眩い光に包まれる。

 

『ちょ、ちょ、なにやってんのなにやってんの?お盆の時期は色々と忙しいの分かってるよね?分かってんだよね……なんで、地獄の釜を開けっぱなしにしてんだよ!!おまっ、変な事になっちまったじゃねえか!』

 

 なにやら声が──

 

「なんだ、あのブツブツ頭は?」

 

「頭?」

 

「見えないのか……あの額にホクロみたいなのがあるブツブツ頭を」

 

「……声は聞こえるぞ」

 

 眩い光から声は聞こえるが、姿は見えない。

 

 

『え、なに、なんで……あ、カメラ、入っちゃってるよ!!お前、まだだって、こっちも準備しないとさぁ!』

 

 光が消えた!

 

「……何処だここは?」

 

「うお、誰だお前!?」

 

 光が消えてなんだったんだと思っていると見知らぬ男性が立っていた。

 アイフリード海賊団の者でもなく、ベンウィックやアイゼンが驚いており構えている。

 

「……明らかに違う場所だな」

 

 男性の人はそう言うと近くにある木箱を背もたれにし、本を読みはじめる。

 

「お前は何者だ?見たところ、聖寮ではなさそうだが」

 

「……呉と言う国で文化科学大臣を勤めている、まゆず──チヒロだ」

 

 自己紹介をしてくれるチヒロ……だが、聞いたことのない国に聞いたことのない役職。

 アイゼンも余りピンと来ない様で私に知っているかと目で聞いてくるので軽く横に振る。

 

「聞いたことのない国、といった顔か。まぁ、聞いたこともなくて当然と言えば当然で……オレとしても些か気になることがある」

 

 チラリと私を見た?

 

「雲が動き出した」

 

『……皆の者、私の声が私の姿が聞こえるか?』

 

「姿は聞こえないぞ」

 

 警戒心を高めていると怪しい動きをする雲。

 一ヶ所に固まると眩い光を放つのだが……

 

『驚くのも無理は無い。我はこの世の理から外れし仏である』

 

「仏……聞いたことは無いな」

 

『うむ、この世界には仏教は無いって、おいおいおい、なんで移動しているんだ?』

 

「いや、この位置では見えないのかと思って」

 

 アイゼンやチヒロがなにか見えている様だが、私にはなにも見えない!

 幸いと言えばいいのか、声だけが聞こえるのでもしかしたら後光の様なものが変な風に反射してと別の方向から見てみるものの眩い光しか見えない。目が痛い。

 

『え、待って待って!私の事、見えないの!?

あの、他の場所にいる奴等はなんか見えてるっぽいのに見えないの?』

 

「アメッカ、変なブツブツの被り物を被っている額のホクロが特徴的なキャベツぐらいに顔の大きい男が見えないのか?」

 

「……すまない、キャベツぐらいに顔の大きい男は見えない」

 

『待って、なんで色々とある特徴の中でキャベツが出るわけ?てかおい、おい、おーい!!なんで見えないの?私の事、なんでよりによって見えないの?なんだよ、おーい。真のヒロインに見えなくて声が聞こえないなら出る必要無かったんじゃないの?』

 

「おい、危ない発言はやめろ……ちょっとコレをつけてみろ」 

 

「……なんだコレは?」 

 

「パピヨンマスクもとい、華蝶仮面だ」

 

 チヒロは私にお金を掛ければ普通に作れる何処にでもあるありふれた蝶々を模した素顔を隠すマスクを渡す。

 ゴンベエの持つ不思議な道具の様にコレも変わった力があるのかと手に取るが、本当にただのマスクだった。

 チヒロの目がコレをつけろと言っているので試しにつける。

 

「み、見えた!」

 

 アイゼンの言うようにキャベツぐらいに顔の大きい変な被り物をしている中年男性が見えた!

 

「スゴい、大きい……」

 

 明らかに顔と体のバランスが合っていない!

 

『うん、それは聞く人が聞けば喜ぶ台詞だけど今言う必要は無いよね』

 

「色々と気になることはあるが、ここはオレとは無関係だ。元の世界に返せ」

 

「元の、世界?」

 

 異世界にはとゴンベエから異世界について色々と聞いたことはある。

 食べれない物を食べると食べれる様になる魚がある美食の海、国民一人につき魔法の本を一冊配られる三つ葉の国、他にも色々と。

 

『皆、聞け。ティル・ナ・ノーグなる異世界より、この世界は微弱だが干渉を受けている。

それによりこの世界ともティル・ナ・ノーグとも異なる世界にも影響を及ぼしており、なんの手違いかそこにいるまゆゆんがこちらの世界に』

 

「まゆゆん言うな……そういうことにはしておいてやる」

 

「ティル・ナ・ノーグ、仏、ゴンベエはいったい何処に?」

 

『お前達の知るナナシノ・ゴンベエは……え~と……ちょっと待ってて。調べるから……Wi-Fi無いからおっせーな、ホント』

 

「なんだあの薄い板は?」

 

 シュッシュと薄い板を動かして何かをしている仏。

 あれは仏の世界で言う魔法の道具かなにかなのだろうか?

 

『HEY、siri、ゴンベエの居場所を教えて!』

 

「おい、大丈夫なのか?なにか明らかにおかしな事をしていないか?」

 

「きっとなにか妖精的なのを召喚して願いを叶えてもらっているんだ!!」

 

 ゴンベエの持つシーカーストーンという不思議な力を持った板と似ている。

 仏がシュッシュとスライドして動かしていてなにか頼み込んでいるのはきっと召喚魔法の様なものだな。

 

「ゴンベエはいったい、何処に……」

 

 異世界であるのは確実だろうが、いったいどの様な世界に居るのだろうか?

 昔言っていた、スライムが王を勤めている魔物の国に行ってしまっていたらゴンベエは……。

 

『え~彼は今、ビッグ□□□□(ピー)・マウンテンにいる』

 

「……すまない、もう一度言ってくれないか?」

 

 なにか変な音が邪魔をして聞こえなかった、もう一度頼む。

 

『だから、□□□(ビッグ)サンダー・マウンテン』

 

「おい、おい、なんでよりによってそこなんだ!?」

 

 仏が場所を教えてくれるが、声がよく聞こえない。

 なにかピーと言った音が邪魔をしており、チヒロはちゃんと聞こえていたのかさっきまでの余裕はなく焦っている。

 

「ビッグサンダー……」

 

 直訳すれば巨大な雷の山。

 名前からして恐ろしさを感じる山で、仏は板をジッと眺めている。

 

『あ~スッゴい、スッゴい、叫んでるね。大絶叫だ』

 

「……大絶叫」

 

 基本的に動じないあのゴンベエが、泣き叫んでいる!?

 

「落ち着け、そういう意味での大絶叫じゃない」

 

「そのビッグサンダー・□□□□□(ピーー)とはいったい何処にある!!」

 

 ゴンベエを迎えに行かなければ!!

 

『夢の国だよ』

 

「夢の国、それはいったい何処に」

 

「異世界にあるから行くに行けない……そもそもこの人数でいけば、どれだけ入園料を取られるかわからない」

 

『夢の国は東京と言っているが実際のところは千葉県の舞浜にある』

 

 トウキョウ、チバケンのマイハマ……っく、聞いたことも本でも見たことは無い。

 文字通り異世界で行く術がないと悔やみ拳を強く握る。

 

「あいつは、この世界に戻れるのか?」

 

『戻れるというよりは戻すよ。あの、仏、今から迎えに行くから。ただ、アレ、アレだよ。

まゆゆんちょっと預かってくんない?まゆゆんも元の世界に返さないといけないから……あ、私、年間パス持ってるから、私が行きます!』

 

 ゴンベエを迎えに行く為に仏は黒くて丸い耳がついたカチューシャとサングラスを装備する。

 

「おい、あいつ完全に遊びに行く気満々だぞ!!年間パスとかいう恐ろしいワードが出てきたぞ」

 

『あ、因みにまゆゆんは肉体は18だけど実年齢3000を越えてるからな』

 

「人の実年齢をばらすな……」

 

 最後に衝撃の事実を言い残すと、仏の光は消えていった

 □□□□□(ピーーー)ダー・マウンテンで遭難をしていなければいいのだが。

 

 

 

 ※夢の国には迷子センターはちゃんとあります。

 

 

 

「お前は夢の国についてなにか知っているみたいだな」

 

「……あそこは遊園地だ。それ以上は話さないでくれ」

 

「……遊園地?」

 

 ゴンベエの様にさも当たり前の様に分からない単語を出してくるチヒロ……さん。

 名前からして遊ぶ場所だが、そんなものは聞いたことは無いし見たこともない。

 

「ああ、そうか、そうだな……この世界はそのレベルか」

 

 私が首を傾げているとチヒロさんはスゴく落ち込んだ。

 それはまるで文明が発達した国で育ったのかレディレイクを見て色々と落ち込んでいた、はじめて出会った頃のゴンベエの様だった。

 

「数時間すれば、そのゴンベエとかいうのが帰ってくる。悪いが、数時間だけ休ませてもらうぞ」

 

 再び木箱を背もたれにして座り込むチヒロ、さん。

 帰れる事が分かったのか隙だらけで気が緩んでいる……なんとも言えない不思議な感じだ。

 ゴンベエと出会い天族の方々を目にする事が出来てから様々な人と関わってきていたが、どれにも当てはまらない余りにも変わった感じをしており、全体的に影が薄い。声はミクリオ様にそっくりなのに、別人だと分かる。

 

「チヒロさんは、なにをしている方なんですか?」

 

 ゴンベエが暫くすれば帰ってくると分かり、ホッとしたのでチヒロさんが何者なのかを聞く。

 

「話を聞いていなかったのか?オレはこことは違う世界の住人だ」

 

 こことは違う世界の住人だから、知っていても意味は無い。

 チヒロさんは私を冷たく突き放す。私の事をその辺に落ちている石ころの様に興味なく、視界に入れない様にしている。

 これは聞くに聞けそうにない。本当ならどんな世界なのか聞いてみたいが、チヒロさんの言う事にも一理はある。私は私の事を集中しよう……でも、どうすればいいんだ。

 

「なんだ、その槍は」

 

 禍々しい私の槍にピクリと反応を示すチヒロさん。

 

「コレは私の槍です……ですが、まだ使いこなせなくて」

 

 後もう少しで使いこなせると思っていたら、頭の中がおかしくなりそうになっていた。

 興奮しないように心を落ち着かせていたのに、力に飲み込まれるかと思っていたのに力に飲み込まれかけた。

 

「そんな危ない槍を使いこなそうと言うのか……」

 

「確かに禍々しい闇を持っていて危険です。ですが、闇を制御して乗り越えればこの槍は何者にも負けない最強の槍になります」

 

「……少し、貸してみろ」

 

 チヒロさんがそう言うので槍を貸すとなにも起きない。

 私の血を混ぜる事により完全に私専用となっており、私以外になにか不思議な反応を起こさない。

 

「魔槍とか聖槍とかに分類される物になっているな……また、随分と変な物を」

 

「私にはコレが必要なんです。例え今は使いこなせなくても、何時かはこの闇に飲み込まれずに乗り越えてこの槍の真の力を」

 

 そうすれば私も戦えるようになる。

 

「……そんな考えじゃ、一生掛かっても無理だな」

 

「え!?」

 

 チヒロさんは望遠鏡の様なレンズが入った筒を取り出し、なにかのスイッチを押す。

 レンズが入った筒は光を放つ……コレは、ゴンベエが作っている2000時間程明かりを灯せる物を改造した物?いや、それよりも

 

「どうして私に槍が使いこなせないと言うのですか!」

 

「なら、お前には使いこなせると言いきれる自信があるか?」

 

 それはっ……無い。

 自信どころか一種の恐怖を感じている。ゴンベエには本当に色々としてもらっていて私がしたいと思ったことを出来る様にしてくれているが、今回は少し違う。ゴンベエもお手上げで、ベルベットはどうにかする事が出来ている。私には出来ないんじゃないかと言う気持ちが苦しめている。使いこなせる様になりたいと言う思いはあるが、使いこなせるではない。

 

「この槍の闇に飲み込まれない強い心はどうすれば手に入るんだ……」

 

「そんなもんは最初からいらない……後ろを見てみろ」

 

「後ろ?」

 

 私の後ろには、光が当たることにより出来た大きな私の影がある。

 

「これが、なにを意味し……いない」

 

 振り向けばチヒロさんは消えていた。

 光を浴びた事により大きくなった影で私になにかを伝えたかった様だったが、私にはなにも分からなかった。

 数時間後、ゴンベエは仏がつけていた黒い耳のカチューシャをつけて帰って来てチヒロさんに出会った事を教えるがこの事についてはよく分からなかったので教えなかった。




ゴンベエの秘奥義


サモン・リバイバル



サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達を全てクリア後に修得。



地獄で働く獄卒達がお盆の日に地獄とこの世を繋げる場所を間違えて爆発させてしまったが原因で異世界同士が若干干渉しちゃったぜい。これも全てティル・ナ・ノーグって世界のせいなんだ(嘘)
今生では絶対に会うことはなかった先輩や同期の転生者達の内の一人を呼び出す巨大ルーレットで相手を押し潰し、ルーレットで出た転生者を呼び出して最大火力で相手を攻撃する。使うだけで即死確定する出目ばかりのクソゲー不可避の最強秘奥義。要するにパティのサモンフレンズ



アリーシャのアタッチメント


華蝶仮面


説明


まゆゆんが現在居る原作がエロゲの女体化三國志の世界で手に入れた顔を隠す蝶々のマスク。
本当にただのマスクであり、ゴンベエが持つ仮面と違いなんの効果も持たないが、コレをつけなければアリーシャは仏を見ることは出来ない。要するにヨシヒコが仏を見るために何時もつけている物。


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準備よりも終わった後の方が大変

「……」

 

 予想以上に時間は食ってしまったものの、遂に目的地に向かって船は走り出した。

 ベルベット達は船の上でなにかしているがオレはそんな事をしている暇はなく、ベンウィック達に無理を言って取り寄せて貰った鉱石の種類分けだったり、ペニシリンの製作をしている。

 

「こんなカビが薬だなんて、到底信じ難いな」

 

 ペニシリンの薬効反応をロクロウの刀を作るためについてきたクロガネがオレの手の事もあるので手伝ってくれている。もっと正確に言えば頑丈に出来ている特別な船の上と言えども炎なんぞ出せばなにが起きるかは分からないから、船を出してる間は刀を作るのは出来れば勘弁してくれとベンウィック達、アイフリード海賊団からNG出された。

 

「いや、じいさん、カビが生えたチーズがこの世にはあってだな、これがまた絶品なんだよ。カビの生えたチーズが食えるんなら、食えるカビの薬もあるんじゃねえの?」

 

 後、二足歩行のワニの憑魔も。

 名前はダイル。色々とやってたらこうなったとかどうとかであり、その辺はベルベット達と出会う前に終わっている。

 

「お前等、知ってるか?世の中にはウジ虫入りのチーズもあるんだぞ」

 

「うげ、そいつ美味いのか?」

 

「確実に体は壊すな」

 

 海外じゃ食用の虫とか当たり前云々だが、流石にオレも食いたくはない。

 ペニシリンを確認しつつ談笑をしていると、入口がノックされてアイゼンが入ってくる。

 

「ゴンベエ、お前、色々と物を作れるそうだが薬を作れるか?」

 

「今、まさに薬を作ってる最中だ……効果はあるか検査していないが」

 

 今はまず、ペニシリンの元となる芋の煮汁とかで培養したカビを油なり酸性水なり蒸留水なりなんなりと入れて混ぜる。

 そうしてペニシリンのみを抽出しないとこれだとただの青カビで、薬じゃなくて毒。体にいれたら死んでしまう。

 

「この薬は、壊賊病に効く薬か?」

 

「おいおい、マジかよ」

 

 病名を聞いて驚くダイルだがオレはピンと来ない。

 転生特典を使ってみるものの引っ掛からないとなれば、この世界特有の病気だ。

 

「恐らくはペニシリンは効かないが、なんだその病気は?」

 

「原因不明の高熱を出して数日後には死ぬ病気だよ。

大昔に四海を制覇した大海賊団がいたんだが、これにかかっちまって全滅した事から壊賊病なんだよ!」

 

「壊血病じゃねえのか?」

 

 壊賊病で引っ掛からないが、別のものでは引っかかる。

 このバンエルティア号はどんな海でも制覇出来る通常の船とは異なる構造らしいが、電気でもオイルでも動いていない帆船でアイゼンが術で出した氷を使って冷やす昭和や大正初期の冷蔵室の様な物はあるにはあるが小さい。後、アイゼンの酒が多い。

 船旅をする以上は潮風に当てられて食材が痛むのが早かったりするから香辛料につけたりして保存が効きやすくしているが、それが出来ない食材は多数あり冷蔵室に入らなかったら買っていない。

 

「聖隷を天族と呼ぶ様にお前達の国ではそう呼んでいるのか?」

 

「症状は?」

 

「原因不明の発熱だ」

 

「……むしろ原因が分かるのか?」

 

 微生物の概念がある癖にウイルスの概念が無かったりする、なんともまぁあやふやな世界。

 抗生物質とかそういうのが無い世界で、ウイルスとか細菌を知ったのも元の世界でも1900年の近代。明治に入る前の勝海舟とか西郷隆盛とかが活動していた1860年代でもその概念が無い。

 

「だから、原因不明なんだ……お前なら分かるのか?」

 

「病気は大体、2つのパターンだ。1つは病気の原因を体内に取り込むこと。もう1つは体が弱くなって起きる病気」

 

 糖尿病とかの成人病は健康に気を付けた食生活をすれば、糖質やプリン体を分解とかしにくい体でない限りは若い内はならない。健康に気をつけて色々とやっても歳食って臓器が弱まってしまって体のバランスが悪くなったら、無駄に終わる。

 

「壊血病は後者に当てはまる。アスコルピン酸を含む食材を長い間食ってないと体調を崩す」

 

「アスコルピン酸?」

 

「ビタミンC……レモンや蜜柑なんかの柑橘類とか野菜に多く含まれる成分だ。

長期に渡る航海では食べられる食材に限りがある。野菜や果物なんかは長期に渡る航海には向いていない……腐った蜜柑が1つでもあれば連鎖的に物が腐ると言うだろ」

 

 金八先生でなんかそんな事を言ってた。

 

「確かに長期に渡る航海では食べる物は限られる。だが、ここ最近はアイフリードを探す為に船を停めている事が多い。健康を気にした食事をしているとは言えないが、野菜や果物は口にはしている筈だ。恐らくは、別の病気だ」

 

 だろうな。

 オレのこの転生特典では壊血病で発熱するとは出てこない。

 

「改めて聞く。この薬で壊賊病は治るか?」

 

「不健康が原因で起きる病気なら効かねえ……第一、まだ実験段階のレベルでその薬は安定しねえ」

 

「そんな不安定な薬を使うよりも、さっさとサレトーマの絞り汁を飲ませようぜ。クソマジいが、飲めば一発だ」

 

「……薬、あるんかい!」

 

 物凄くシリアスな空気が流れてて、話の内容からして誰かが発症したんだろうが特効薬があるんかい!

 なんだったんだよ、このペニシリンのくだりは!

 

「あるにはあるが、この船には無い。進路を変えてレニード港に行けば、手に入るが万が一と言うことがあるからな」

 

「あ~そうだな」

 

 天族の加護が逆に働いているのか不幸を呼び寄せるアイゼン。

 もしかすれば薬が底をついているということもありうるし、死んでしまう病だから治すなら早いに越したことは無い。

 

「レニード港に進路を変えるとして、ゴンベエ、1つ確認したい事がある?」

 

「なんだ?この前の異世界についてか?」

 

「あんな影の薄そうな男と頭がぶつぶつの男が異世界云々言われても信じられるか」

 

 バッカ、お前、仏はともかく黛さんはマジでやべえ人なんだよ。

 あの人、究極のハズレと言われるFGOの世界に転生して唯一生き残った精神力の化け物なんだよ。逆レされるエロゲ的展開になってばっかやけど。

 

「お前は業魔か?それとも人間か?」

 

「お前、その辺気にするタイプだっけか?」

 

「気に入れば種族なんぞ関係無い、ただの確認だ。壊賊病は聖隷や業魔にはかからない人間にだけかかる病気だ。お前は色々と謎めいている部分が多いから、ハッキリとしておかねえとなにがあるか分からん。」

 

 確かにそれはハッキリとしておかねえとな。

 ダイルが憑魔で良かったと小さくガッツポーズをしているのに若干だが苛立ちながらもオレは近くに置いているマスターソードを手に取る。

 

「主にマスターソード(コイツ)で境界線を弄くってる。だから、今は人間だ」

 

 デクナッツとかゾーラとかゴロンはそういう見た目の生物で憑魔じゃない。ただ、狼と鬼神は憑魔になる。

 大体はオカリナとマスターソードで境界線を操っている。分かりやすく言えばベルベットの左腕、常時でなく必要な時のみ変化させるのと同じみたいなもの。

 

「だったら、今から業魔になれ」

 

「お前、サラッと恐ろしい事を言うよな」

 

「お前だから言っているんだ。コレは原因不明の未知の病気、例え対魔士でもかかる。治す薬があるからと言って油断は出来ない」

 

 不治の病ではないが死の病であることには変わりない。

 その事を釘指すのでオレは部屋から出て、外にいるアリーシャ達を探す。アイゼンには悪いが、優先順位は決まっている。症状なんざ関係ねえ。

 

「……どうやら今のところは無事の様だな」

 

「ベンウィック、進路の変更だ」

 

 ライフィセットとベンウィックと談笑しているアリーシャは元気そうだ。

 だが、それはまだ本格的に発症していないだけかもしれないから出来ることは色々とやらないといけない。

 

「なにかあったの?」

 

「詳しい話はアイゼンから、オレはオレでやることがある」

 

 治すのが1秒でも早い方が良いのならば看病も1秒でも早い方が良い。オレはアメッカを抱える。

 

「ゴンベエ、ど、どうしたんだ!?」

 

「説明はアイゼンかベンウィック辺りから聞けっつっただろう」

 

 突然の事に慌てるアリーシャ。

 説明をしている暇はあるかもしれないが、取りあえずは寝かせると誰もいない船内の一室に連れていく。

 

「ゴンベエが今までの貸した分を返せと言うのならば、その……」

 

「お前はなにを言ってるんだ、さっさと寝ろ」

 

「きゃっ!」

 

 可愛らしい声を出して覚悟を決めた女の顔をしてもオレは知らん。

 オレは床に布を敷いて簡易的な布団を作りアリーシャを寝かせて、もう一度船の上に戻る。

 

「お主、大胆じゃ──」

 

「次はお前だ」

 

「ぬぅお!?こ、これぇい!!離さんか!?」

 

 アリーシャが終わったので今度はマギルゥを抱える。

 オレをおちょくるつもりだったろうが、予想外の事に驚き暴れるがオレの力には勝てずに連れていかれるマギルゥ。

 

「お主、ベルベットだけに留まらずワシまで、ワシは高いぞ?」

 

「そんなボケを噛ましてる場合じゃねえだろう」

 

 マギルゥを連れていこうと船の上に戻った時、ベンウィック達は慌てて進路を変えようとしていた。

 ということは壊賊病について聞いている筈だろう。ボケて言い場合じゃねえ。

 

「アルコールがあるから、両手を拭いとけよ」

 

「マギルゥまで……いったいなにがあったんだ?」

 

「マギルゥから聞け」

 

「事態は一刻を争うのは分かるが、丸投げしすぎではないか?」

 

「口を動かすことはお前にでも出来る」

 

 マギルゥが来たことに驚き、冷静になるアリーシャ。

 船の上だから密もクソもあるかとオレは説明をせずにそのまま船の上に戻る。

 

「おお、そういえばお前はどうなんだ?」

 

「オレは憑魔と人間の境界線を弄くれるから、後で憑魔になっておく」

 

 3度目となる船の上では壊賊病について話をしており、オレを見たロクロウは首を傾げる。

 さっきのアイゼンと同じ事を聞いているのが丸分かりなので、ざっくりと説明をするとエレノアは驚く。

 

「業魔と人間の境界線を弄くれる……貴方は狼人間の業魔ではないのですか?」

 

「お前、そんな風に見ていたのか……お前もだ」

 

「え、ちょっと!!離してください!!歩けますから!!」

 

「歩かなくていい」

 

 三度目となれば馴れた。エレノアを抱っこして部屋に連れていく。

 

「あの、私もですが3人とも壊賊病にはなっていません。確かに船の上は逃げ場の無い場所で、どうあがいても感染は免れませんがまだ元気です!」

 

「病気が流行ってる時は感染予防が大事に決まってんだろうが!」

 

 まだ元気だからセーフで調子こいてたら酷い目に遭う。

 昔、インフルエンザが流行した時に学級どころか学年、学校閉鎖が起きたりしたんだぞ。オレは普通にピンピンしてたけど。

 

「お前等は、取りあえずは、寝転んで安静にしろ!」

 

 エレノアを部屋に連れていき、色々と言いたそうな3人をこの一言で黙らせる。

 マギルゥは然程気にしていないが、エレノアとアリーシャはビクりと引いているがコレでもまだ優しい方。麻酔と言ってぶん殴って気絶させてないんだからな。

 

「アルコールで手を洗わせるとして、なにを」

 

「ゴンベエ」

 

 ライフィセット?

 なにをするか考えていると部屋にライフィセットが入ってきた。

 

「聖隷は絶対に感染しないってアイゼンが言ってたんだ。僕に手伝えることはあるかな?」

 

「でしたら、ボクもお手伝いするでフよ!壊賊病なんかでマギルゥ姐さんを死なせるわけにはいかないでフ!」

 

「お前等……」

 

 ぶっちゃければ船の手伝いをしてほしいんだけどな、オレ、4人まで分身出来るし。

 エレノアを心配するライフィセットとマギルゥの中から出てきたビエンフーにそんな事は言えない。

 

「ライフィセット、私はまだ」

 

「ダメだよ。今はまだかもしれないけど、もしかしたら急に、それこそ海みたいにドバッと来るかもしれないんだよ……器とか、そんなの関係無く、エレノアに死んでほしくはないよ……」

 

「……ありがとうございます」

 

 おねショタか?おねショタのはじまりか?

 なんだか甘酸っぱいものを見せられてしまい、むず痒い。エレノアも嬉しいのか頬を真っ赤にしている。

 

「症状は出てないが、何時出るかは分からない。

原因が不明で一応の特効薬はあるみてえだから、発症しても安静に出来る様に今の内にリズムとかなにやるかとか決めるぞ」

 

「特効薬があるのは幸いだが、薬を作っていなかったか?」

 

「原因不明だから無理だ」

 

 抗生物質はあくまでも菌をどうのこうのするもの。

 不健康が原因でなる成人病の類いは薬も大事かもしれないが生活面の改善が必要だ。

 

「お主なら、壊賊病の原因を解明出来るんではないかの?」

 

「……出来ないことは無いが、お前等死ぬぞ?」

 

「死ぬって、なにをするつもりですか!?」

 

「医術の進歩は死ぬか生きるかの何億回の挑戦なんだよ」

 

 エレノア達に壊賊病になってもらい、血液を採取してぶんぶん独楽を使って遠心分離し、血液になんらかの異常が無いかを確認するところからスタートし、血の中に原因が見つかれば、それを培養したりして色んな薬品を試す。

 血の中になにもなければ色々なところから調べねえとダメで、解剖も普通にある。更に言えば、抗体が出来ているかどうかの確認も必要で、失敗しては挑戦するの無限ループの世界だ。

 

「なに、安心しろ。料理と同じで失敗=経験になる」

 

「いや、失敗=死じゃろうが」

 

「特効薬がある以上は余計なことはしねえよ」

 

 第一、道具が船には無い。

 知識と顕微鏡があれば見てなにか分かるだけで、その後に色々としなければならない事とかが出来ない。

 特効薬がある以上はそれを使うにこしたことはないとビエンフーはマギルゥ、ライフィセットはエレノア、オレはアリーシャのマンツーマンで準備をする。

 つっても、エレノアが言うように症状は出てねえから備えたりするぐらいだな。

 

「どうした?」

 

 色々と備える為に部屋の扉を開くとベルベットが立っていた。

 

「何時までも来ないから、こっちから来たのよ」

 

「そうか……悪ぃ」

 

 ベルベットに呆れられたせいで、少しだけ頭が冷える。

 ヤバい状況だからこそちゃんとしとかねえといけない、医療の現場とか特に報連相が重要だ。

 

「死人が出る奇病なんでしょ?あんたが作ってた薬も効かないのなら、慌てるぐらいは普通よ」

 

「とはいえ、色々と無視してて……アイゼンには謝らないと」

 

 色々と丸投げしちまったからな。

 

「……アイゼンに?」

 

 ペニシリンを使っても効かない病気で特効薬はある。

 それを手に入れる為に今、進路を変えようとしているがこの船は帆船。進路を変えるには帆を弄くったりしなければならず、プロとも言える海賊達は何名か倒れている。あての無い航海でなく目的地が決まっているから発症していない奴等で進路変更をすればいいが、発症していない動ける3名を問答無用で寝かせている。

 猫の手も借りたい状況だろうが、病気なのに無茶して起きる損害の方がひどくなるんは目に見える。

 

「船を預かる身として指揮を取っているアイゼンには悪いが、オレ達は居ない扱いだ。後で謝らねえと」

 

「……そう」

 

 アイゼンに悪いと思っていると不機嫌になるベルベット。

 

「ライフィセット達を待たせてるから、じゃ」

 

「待って……あの子になにをさせるつもり?」

 

「もう口で言うのもアレだから、ついてこい」

 

 ここにベルベットが来たのはナイスタイミングだ。

 背後に刺さる視線を気にせずにベルベットを連れ、何時もの一室に戻る。ライフィセットとビエンフーは既にいた……部屋に置いている物を興味津々に見ていた。

 

「お前等、触れてねえだろうな?」

 

「触ってないよ……ただ、見たことない物が沢山あるからなにに使うのだろうって?」

 

 無害な物からヤバい物まで一応は置いているからやめてくれよ。

 

「ベルベットも来たんデフか?」

 

「来いって言われたのよ……それよりも、なにをしてるの?」

 

「エレノアの看病だよ。ゴンベエだけだと3人纏めては無理でしょ。だから、僕は手伝おうかなって」

 

「っ!……問題ないわ。コイツ、3人ぐらいに分身出来たはずよ」

 

 エレノアの看病だと分かると明らかに苛立つベルベット。

 当然と言うべきか、オレに余計な火の粉がふりかかる。フォーソードで数を増やしてもいいけど、それは上の人手が足りない時用にしておきたいんだよな。

 

「ライフィセットがやりたいって言ってんだし、やらせてやれよ」

 

「あんたは黙ってなさい」

 

「何時もならば黙るが今は嫌だ……病気は出来ねえ」

 

 この世界、四面楚歌とか川柳とか人の名前や状況が語源になってる言葉が異世界なのに一部が何故か通じたりしていて、電気や蒸気機関による文明が無いだけである程度はしっかりしている……だが、病気は違う。

 

 風邪をひいた? あ、じゃあ病院に行って診断して処方箋もらって薬局で貰った薬を飲んで寝とけ。

 

 それが現代、それが地球、それが日本。

 でも、ここはそうはいかねえ。

 

 風邪をひいた?……死か……

 

 とかも、ふっつーにありえる。ありえるじゃない、普通にある。

 レディレイクが国の首都で物流が安定してたりしたが、ちょっと小さな村に行けば田舎と都会との格差があるとか言うレベルじゃねえんだよ。

 

「とにかく、アホな事をするなら真面目な事をするぞ」

 

「ぼく達はなにをすればいいんでフか?薬の調合ならマギルゥ姐さんの方が得意でフよ」

 

 だから、薬が効かねえから進路を変えてんだよ。

 

「コイツを混ぜるだけだ」

 

 蒸留水と3つの粉を取り出す。

 おい、こら。ヤバい液体とヤバい粉かもと引くんじゃない。塩とクエン酸と砂糖でなんも問題ない食えるもんだ。

 取りあえずは手本にと秤を使う。ひとつまみとかなんとなくの感覚でやってもええんやけど、ライフィセット達もするから、感覚じゃなくて理論でいかんと。

 

「はい、完成」

 

「え、もう!?」

 

 量った粉を蒸留水とガーッとかき混ぜて、終わり。コレで終わり。

 

「……なんなの、これ?」

 

 余りにもあっさりとし過ぎているせいで、ピンと来ないベルベット。

 

「ん」

 

 口でああだこうだ言うよりも飲めば色々とわかる。

 オレはスプーンを取り出して、ベルベットに近付ける。

 

「……レモネードみたいなのじゃない」

 

 飲めと言っていると分かったベルベットはスプーンを口に入れ、素直な感想を言う。

 

「レモネードは知らんけど……それっぽい味になってるな」

 

 ベルベットの感想だと若干分からんから、一応は飲む。

 あくまでもアリーシャに飲ませる物だから味見で良いとスプーンで一啜り。アクエリとは似ているが違う、ポカリっぽい味がする。

 

「ジュースを作ってたの?」

 

 ペロリとライフィセットも味見をして首を傾げる。

 ……スポドリってジュースのジャンルなんかな……。

 

「原因は知らんが、壊賊病の症状は高熱。

うちの国では熱を出した時は薬に加えてコレをもっと上手く作った物を飲んだりしている。熱を出せば体から水分を奪われて、脱水症状になる。水を飲めばと思うが水分以外にも色々と体から失ってて」

 

「水分と水分以外を補給する為にコレを飲めばいいんだね」

 

 そういうことだ。

 今作ったのはアメッカに飲ませる分なのでエレノアとマギルゥの分はお前等がやれ。

 コーラばっかり作っていた自分がまさかのスポドリを作るとは少し思いながら、他にもぶっ倒れてる奴等の分も作る。ぬるいから若干凍らせてみるか?いや、それよりも若干濃いめに作って氷を入れた方がいいかもな。

 

「ベルベット、上の奴等も何時ぶっ倒れるか分からないから持ってけ」

 

 人手が足りない分、普段以上に働いているだろう。

 そうなったら普段以上に汗をかいたりして、そこで壊賊病でぶっ倒れて寿命縮まったなんてのもありえるかもしれない。

 完成したポカリ擬きをベルベットに渡すと不機嫌そうな顔で見つめる……。

 

「お前、なんでそんなに機嫌悪いんだよ?いやまぁ、確かに出鼻挫かれまくりだけどよ」

 

 ずっと苛立ちっぱなしのベルベット。

 ライフィセットの事とかあったとしても苛立つ要素が多々あり、本来の目的地に中々に迎えず順調とは程遠い。

 けど、その辺はこの前物凄く殴られた時にある程度は落ち着きだったり余裕が出来たのに……。

 

「……別に」

 

「いや、別にでそんな不機嫌です。早くご機嫌を取りなさいよオーラを出さないだろう」

 

「はぁ?なんであんたなんかにご機嫌を取らせてあげるのよ!」

 

 逆ギレ気味のベルベットは扉を蹴って開けて出ていく……。

 

「お前、いっぺん死んだ方がイイでフよ!」

 

「なんでだよ?オレ、なんもしてねえぞ」

 

 例によって乳を揉んだりしてねえ。

 セクハラな事もしていないし、なんか苛立つ事もしていない。一方的にあいつが怒ってるだけだろう。

 

「なにもしてないのが問題なんでフ!」

 

「…………いや、待て。おかしいだろう。その段階はおかしい」

 

 呼んでいないのにベルベットは部屋の前に立っていた。

 あいつは憑魔になってしまった人間で壊賊病にはかからねえとアイゼンからの説明があったはずだ。エレノアやマギルゥを連れていったから、流れで私もと思ってたのか?いや、ねえだろう。

 でも、思い返せばアイゼンに謝るとかベルベットを特に気にしていない様にも聞こえる発言で物凄く苛立っていたな……おかしくねえか?こう、心の距離感が一気に飛躍してる。アリーシャの時と同じぐらいにだ。

 

「おかしいもなにも、既に一気に飛んだことしてるでフよ!」

 

「ねぇ、なんの話をしてるの?」

 

「ライフィセット、まだ聞くな……」

 

 アリーシャですら一緒の布団で留まっているのに、ベルベットはもう色々と次元が違う。

 揉んだり見たり、口づけしたりと本当に色々としていて……いや、違う。

 

「確かにベルベットはアリーシャに負けず劣らず、むしろおっぱいや女子力は10:0の割合で勝ってる出来た女性だ。

だが、この前耳を噛られた時にしつこく言われたように、あくまでもその場限りの関係。知らなければならない事とかを色々と知ったら家に帰らないといけない」

 

 そうしたら前と似たような生活……そういえば

 

「ライフィセット、氷を貰えないかしら?冷たくないから飲みにくいって言うのよ」

 

「あ、うん」

 

「……」

 

「なによ?」

 

 戻ってきたベルベット、ライフィセットに氷を作ってもらい袋に入れる。

 明らかにオレを無視しているなと無言で見ていると視線に気付いたのか睨まれる。

 

「氷を入れると味が薄くなる。本来の味とは程遠いから、こっちを冷やすから持ってけ」

 

 味的に言えばポカリじゃなくてポストニックな感じで、水を入れれば美味しくなくなる。

 既に出来ている分を凍らない程度にアイスロッドを使って冷やしてベルベットに渡すと強く睨まれる。

 

「コレ、アメッカの分でしょ?」

 

 そんな細かいことを気にすんなよ。

 そう言うとぶん殴られるんだろうとオレはもう一度、いや、二度ポカリ擬きを作る。アリーシャの分と同じ様に冷やす。

 

「なんで2つなのよ?」

 

「1つはお前の分だ」

 

 ベンウィック達の分とお前の分じゃ明らかに量が違うだろう。

 少ない量の分が自分用だと分かるとマジマジと見るベルベット。呆れた顔でオレを見る。

 

「壊賊病は人間にしか掛からないわよ……私が掛かってるのは業魔病よ」

 

「……そういえばさ」

 

「なに?」

 

「アルトリウスを殺したら、その後はどうすんだ?」

 

 ここは過去の時代、でもオレ達にとっては今。だが、何れは元の時代に戻って過去の出来事となる。あんま気にしたりしちゃいけねえが気にはなる。復讐の憎悪は燃やし続けているが、その目的を達成したらどうするのやら。

 

「……先の事なんて考えてないわ。アイツを殺せるならどうなったっていいのよ」

 

 ベルベットにとってはその辺りはどうでもいい。殺すことに己の全てをかけているので、寿命と引き換えに殺せるならば喜んで殺す……。

 

「ライフィセット、ベルベットの事、好きか?」

 

「きゅ、急にどうしたの!?」

 

 ベルベットが完全に去っていった姿を見て色々と思うところがあり、ライフィセットに質問をする。

 ライフィセットは思春期の少年の様な反応をして顔を真っ赤にしてポカリ擬きを落としそうになるので素早くキャッチ。

 

「女性的な意味合いで好きかどうか聞いてねえよ。人間として好きかどうかだ」

 

 聞いてんの天族だけども。

 

「ベルベットのこと……好きだよ。

ベルベットは怒りっぽくて怖いところは多い。けど、それと同じぐらい優しくて暖かい。怒りっぽいけど、本当は怒っているのが辛い。色んな顔があってまるで海みたいだけど、僕は好き」

 

「ライフィセット……そこまで言わんくてもええのに」

 

 イエスかノーで答えれば良いのに、わざわざどういうところがとか色々と言ってくれる。

 ライフィセットがベルベットと一緒にいる理由は仕方なくとか利害の一致云々じゃないのは分かってるし、そこまで言わんくてもエエんやで……にしても、海か。

 海の気候は変わりやすい様にベルベットもコロコロと変わっているな。

 

「ゴンベエが言わせたんでしょ!?」

 

「まぁ、そうだな……ライフィセット、1つ頼みたいことがある」

 

「ゴンベエが僕に頼みたいこと?」

 

「アルトリウスをぶっ殺した後、ベルベットと一緒に居てくれ」

 

 アイゼン達とベルベットは仲が良いが、あくまでもそれだけで友達とかそんなんじゃねえ。

 利害が一致していて話が通じているから一緒で、なんかやらかそうとしているアルトリウスをぶっ殺せば全てがそこで終わる。そうなれば解散!で解散する。アイゼンは居なくなった船長と一緒に冒険に出て、ロクロウは斬り甲斐のある相手を探し、マギルゥは……分からん。けど、そう易々とくたばりそうにないな。

 

「ベルベットと一緒に……どうして頼むの?」

 

 オレの言っている事にイマイチ、ピンと来ないライフィセット。

 自分にとってベルベットと一緒なのは当たり前ってか。

 

「あいつ、殺った後はどうなるか分かんねえんだよ」

 

 アルトリウスを殺った後、その後は分からねえ。

 ベルベットはボコボコにされても諦めずにいる。今も尚、復讐に燃えているがそれが終わった後はどうするか?そこだけが心に残る。転生前は将来に特に夢も希望も持たずになぁなぁで生きていたから、目的を果たして脱け殻になったベルベットを想像すると凄く嫌な気持ちになる。

 復讐鬼になったんじゃなくて、なってしまったんだから……。

 

「オレの言っている事がよく分からなくてもいい。ただ、殺った後もベルベットの側に居てくれ」

 

「……うん、分かった」

 

 出来ればオレの言っている事がよく分からないままでいてほしい。




スキット 愛に触れなきゃ祟られない

ロクロウ「おお、良いタイミングだな。こっちも進路変更を終えたとこだ」

ベルベット「……どれくらいで着くの?」

アイゼン「このまま順調に行けば、レニード港に直ぐに辿り着く。港にさえつけば薬は簡単に手に入る」

ベンウィック「壊賊病になった時は副長の呪いだけど、天気まで荒れなくてよかったよ……ところでその持ってんのって?」

ベルベット「さっきのを冷やしたやつよ。あんた達の分だから適当に飲みなさい」

アイゼン「さっきのやつは中途半端にぬるかったからな…ング…冷えてたら結構いけるな」

ベンウィック「副長、それオレ達の分!」

ロクロウ「そうケチケチすんなよ、無くなったらゴンベエに作って貰えば良いんだし」

ベンウィック「そういう問題じゃない……あ、そうだ。あいつ等はどうだ?壊賊病になってないか?」

ベルベット「……問題無いんじゃないの、アイツが側に居るし」

ロクロウ「……なんで不機嫌なんだ?」

ベンウィック「さっき見てただろうが、3人が問答無用で連れていかれたの。3人とも女だったから自分も来るって期待を」

ベルベット「壊賊病とは別の熱で苦しみたいの?」

ベンウィック「ぬぅおあ!?船の上で炎はダメだろう!」

ロクロウ「ハッハッハ、触らぬベルベットに祟りなしだぞベンウィック」

アイゼン「今のベルベットは鬼よりも恐ろしい」

ベルベット「あんたら……暫くはお酒は禁止よ」



スキット 愛に触れたら祟られる


ベルベット「そういえば、あいつの手の怪我、治ってたかしら」

アイゼン「ゴンベエの手ならまだ全然だ」

ベルベット「治ってないの?」

アイゼン「治ろうとはしているが、お前達の武器を作るには数千度の熱では足りなかったからな。怪我の度合いが普通の火傷とは比べ物にならない」

ベルベット「……」

アイゼン「船は順調にレニード港に向かっている。戦うことは出来ても海に関しては素人が一人減った程度でなにも出来なくなるほどうちは柔な海賊じゃない」


移動中


ベルベット「……あいつの手がああなったのは、私に原因がある。ただそれだけよ……」

ビエンフー「なにぶつぶつ言ってるんでフか?」

ベルベット「っ!あんた、何時の間に」

ビエンフー「何時の間にもなにも、僕はマギルゥ姐さんの看病をしているんでフから、ここに戻ってきてもおかしくは」

マギルゥ「ビエンフー、とっととプリンを持ってこーい」

ビエンフー「あ、はいでフ……そこに突っ立ってると邪魔でフから入るなら入ってください」

ベルベット「はいはい……ゴンベ──」

エレノア「あの、別にそんな事をしなくても良いのですよ?」

ライフィセット「ダメだよ!自分で平気だって思ってても、もしかしたらもう掛かってるかもしれないんだから。ほら、口を開けて」

アリーシャ「エレノア、ここはライフィセットの好きにやらせてはどうだろう?」

マギルゥ「そうじゃぞ。坊は必死になってお前を看病しようとしておるんじゃから好意は無駄には出来んじゃろう?それとも何だかんだで敵の施しは受けんと突っぱねるのかえ?」

ゴンベエ「切るんだったらバッサリと施しは受けません!(キッ)って言ってやれよyou!」

エレノア「う……あ、あ~ん」

ライフィセット「……変な味しない?」

エレノア「甘くて美味しいですよ」

アリーシャ「……ゴンベエ」

ゴンベエ「はいはい、口を開けろ。あーん」

アリーシャ「あ~ん……ん……ベルベット、どうかしたのか?」

ベルベット「……なにしてんの?」

マギルゥ「見て分からんのか、看病をされとるんじゃよ。
人の事をいきなり病人扱いしたのは気に食わんが、コレはコレで悪くはない」

ベルベット「あんたには聞いてないわよ、エレノア、ゴンベエ、なにをしてるの?」

エレノア「なにをと言われましても、この甘い飲み物を飲ませて貰っているだけです」

ゴンベエ「スプーン使ってアメッカに飲ませてるんだよ」

ベルベット「っ……」

アリーシャ「ベルベット、そんな嫉妬の眼差しを向けないでくれ。
私達も出来ればベンウィック達を手伝いたいが、問答無用でゴンベエがこの部屋に居ろと言われているんだ」

ゴンベエ「特効薬が存在しているとはいえ、手元にはない。
海のプロとも言うべきアイフリード海賊団だってあっさりとなっちまった。もしかするとなんの段階もなくいきなり高熱でぶっ倒れる事もありうるんだ。後、倒れた後に自分はなにをすれば良いか分からねえ状態だとダメだろう……」

マギルゥ「そういうことじゃ。いや~ワシ達も死にたくないし、レニード港に行く手伝いをしたいのは山々じゃが何時ぶっ倒れるかわからんからの~ま、ベルベットには関係ない話じゃ」

ビエンフー「マギルゥ姐さん、プリン持ってきました!!」

ベルベット「……け……」

ゴンベエ「ん?」

ベルベット「全員元気で口を動かす暇があるなら、とっとと働きなさい!!」

ゴンベエ「おまっ、なんだよ急に!」

ベルベット「あんた達は、そんなにピンピン、元気なら、とっとと、表に出ろ!!」

アリーシャ「そんな……」

ベルベット「そんなじゃないでしょ、そんなじゃ!!あんた明らかにこの状況に楽しんでるでしょ!」

アリーシャ「馬鹿を言うな!命が掛かっているんだぞ!大体、なんでベルベットがそこまで怒る!」

ベルベット「っ、それは……とにかく、全員出ろ!私達が薬を買いに行かないとダメなのよ」

マギルゥ「やれやれ魔女使いが荒いの……しかし、面白いものが見れたから、それでチャラとしてやるか」

エレノア「面白いものですか?ベルベットとアメッカが言い争っているだけに見えますが」

マギルゥ「カーッ!若いの!のう、ゴンベエ」

ゴンベエ「おい、オレに話を回すんじゃねえ」

マギルゥ「お主が諸悪の根元じゃろ?」

ゴンベエ「……」

ライフィセット「なんでゴンベエが悪いの?」


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消えゆく笑顔

1000年あればザビーダお兄さんはめっちゃ変わる!!(アリーシャの笑顔が曇る!)


「さて、薬屋は何処だ?たしか、サレトーマとか言う薬なんだよな」

 

 一悶着あったものの、レニード港に辿り着いたオレ達。

 ロクロウは薬屋は何処かと辺りを見回す……ん?

 

「正確にはサレトーマの絞り汁だ。そのまま食ったら治るには治るが下痢を起こす」

 

「おお、それは別の意味で水分を持ってかれるな。じゃ、ちょっくら買ってくるわ……薬屋は何処だ?」

 

「薬屋はここにはない」

 

「はぁ?」

 

 自身が憑魔で病気にならないからか率先して行動してくれるロクロウ。

 見知らぬ港だからアイゼンに薬屋の居場所を聞くが、薬屋が無いってどういうことだよ?お前がこっちまで進路を変えたんだよな?

 

「薬屋はここから少し歩いた小さな村にある」

 

「壊賊病に効く特効薬なのに置いてねえのかよ」

 

「サレトーマの絞り汁は高熱を治す時に用いられますのでなにかと重宝しているんです。それにここは港ですので潮風に晒されると傷みます」

 

「高熱にって、インフルにも効くんか!?」

 

「インフル……どんな病気ですか?」

 

「……」

 

 インフルと言われ、インフルエンザと考え付かないエレノア。

 周りにいる奴等もなんだそれといった顔をしておりキョトンとしている……そうだよな、風邪は風邪だよな。インフルとかそういうのじゃねえよな。

 でも、絞り汁を飲ませて治すってことはジャンルで言えば漢方薬とかだから、壊賊病はやっぱ不健康が原因で起きたんだろうな。

 

「ところで、私達が出歩いても大丈夫なのか?」

 

「そうです!感染した者が街に出れば広まってしまえば、サレトーマの花が足りなくなる可能性が」

 

「なに心配するに及ばんよ、壊賊病は不思議な事に海の上でしか移らんのじゃ。

空気中の塩分濃度が関係しているとも海水に潜む微生物が関係しとるとも言われておる」

 

「微生物ねぇ……」

 

 マギルゥが適当に言っているのか、それとも本当なのか微生物の概念があるのに抗生物質は無いのか。

 

「真相はどうあれ海の上だけの病気で、陸で広まった話は0だ」

 

「……本当に奇病ですね」

 

「その辺りは時間を掛ければ医者かなんかが解明してくれるだろう。

今はまず、薬を手に入れる……アメッカ、一応感染してるかもしれないからヤバくなったら即座に言えよ」

 

 陸の上で感染しないだけで、海の上では感染する。

 既にここにいる奴等は病気を貰ってる可能性は大きく、アリーシャもその一人。

 

「そういうゴンベエも、船に乗ってから1度も狼の姿になっていないが大丈夫なのか?」

 

「……大丈夫じゃねえの?」

 

 アリーシャもオレも普通にピンピンしてる。なんか体調悪いなーとかそんなのはない。

 やっぱアレか。食生活と不規則な生活で体調管理が出来ていないから引き起こすタイプの病気か。

 

「そうやって油断をして倒れたら迷惑よ。とっとと狼の姿になりなさい」

 

「それはそれで構わねえけど、アメッカと一緒に船に残るぞ?」

 

「……そのアメッカが壊賊病に掛かってるかもしれないんだから、来なさい」

 

「じゃあ、この姿のままいくぞ」

 

「……あんた、そんなに狼になりたくないの?」

 

「ちげえよ、コレだよコレ」

 

 ベルベットに両手を見せる。両手には包帯が巻かれている。因みにだがこの包帯はベルベットの左腕の包帯だ。なんかくれた。

 アリーシャとベルベットの武器を作るために怪我した手は火傷だけじゃなく、金槌で叩かれたりもした。泣かない様に我慢しているが動かすだけで痛い。

 

「狼になったら四足歩行になるだろう。そうなると手の部分が前足になって歩くのスゲエしんどいんだよ」

 

 結構我慢してるが、いってえんだよ。ライフィセットの術でポンっと治らないし。

 

「……狼になりなさい」

 

「んだよ」

 

「いいから」

 

 ベルベットがそういうので仕方なく狼の姿になる。

 4本の足で体を支えて立つと前足に不可が掛かるのでオレは2本の足で立つ。が、割としんどい。

 たま~に2本の足で歩く犬を見たりするが、アレって結構頑張ってんだな。

 

「ワ、ワフ……」

 

 言われた通りなったぞ。

 

「……思ったよりも、大きいわね」

 

 オレもベルベットの色々な部分を見たが、コレはすごい。

 狼の姿になって下から見るベルベットの姿は絶景であり、中々に良いものが見れる。ホント、絶世の美女だよなベルベット。

 

「それでゴンベエに狼の姿になってもらってどうするつもりなんだ?」

 

「別にどうもしないわ。この姿の方が──っ!」

 

「キャン!?」

 

 ちょ、痛い!?

 突如オレを抱えようとしたベルベット。

 残念な事に抱えた位置が悪かったのか、マスターソードに阻まれてしまいその際に起きる衝撃波的なのが背中にヒット。

 

「ベルベット、なにをしてるんだ!?憑魔はその剣に触れたら阻まれるだろう!」

 

「ち、ちが──」

 

「大丈夫か、ゴンベエ?」

 

「ワン!」

 

 突然の事に驚いたが、なんにもない。

 

「その剣、外しなさい。抱えるのに邪魔よ」

 

「……ワン!」

 

 マスターソードを外すとこの姿と人間の姿の切り替えが出来なくなる。

 ベルベットには悪いが、ここはアリーシャに抱えて貰おう。

 

「改めて、こうして触れるがフワフワした毛並みだ」

 

 オレが抱っこしろと言っているんだと分かると抱えてくれるアリーシャ。

 ここぞとばかりに頭を撫でてオレの毛並みを確かめる。

 

「薬はオレ達が買ってくる。お前達は残っていろ」

 

「了解です!」

 

 ベンウィック達を残し、港を後にする。

 

「そういえば、サレトーマの絞り汁が効くらしいが、どれぐらい必要なんだ?」

 

「コップ一杯分だ。アメッカ、お前は良く知らないから先に言っておく……吐くなよ」

 

「吐く!?」

 

 吐くって……そういう感じか。

 

「……サレトーマの絞り汁は、この世の物とも思えない程に不味いのです」

 

 苦虫を噛み潰した顔で、物凄く嫌だなと言うのが分かる声で語るエレノア。

 

「それこそ業魔も泣くほどに」

 

「そんなにか!?」

 

 物の例えだとしても、そんなにまずいのか。

 いつぞやアリーシャが作ったダークマターと比べて、どっちがまずいのか気になる。アレ、本当に糞まずかったな。

 サレトーマの味についてマギルゥやエレノアが色々と語っており、よく知らないアリーシャは顔を青くする。飲まなければ死ぬとは言え、死ぬほどクソマズい。こう言うときにこの姿は便利だ。

 

「サレトーマの花はあるかしら?」

 

 道中憑魔に襲われると言ったことは特になく、港を出て直ぐの村に辿り着いた。

 薬屋の場所を村の人に聞き、薬屋を訪ねる。

 

「珍しい物を欲しがるね。もしかして、壊賊病かい?」

 

「ああ、最初の奴が熱を出して数日経つ。早いとこ手当てをしてやりたい。いくらだ?」

 

 オレ達を見て、特に怪しむ事もない店主。

 なんでその薬をとあっさりと話を理解してくれ、金なら弾むと財布を取り出すのだが店主は渋い顔をする。

 

「売ってやりたいのは山々なんだが、生憎切らしてしまって」

 

「切らしただと?今は花が咲く季節の筈だろ」

 

「それがサレトーマの咲くワァーグ樹林に業魔が出たんだ。

それで聖寮が樹林を立ち入り禁止にしてしまって、入ることが出来ないんだ」

 

「立ち入り禁止……退治をしていないのですか?」

 

「なんでも100回に1回ぐらいしか見ないんだとよ。

退魔士達に頼もうにもしかも見た奴は帰ってこなかったらしくて……他の街から取り寄せようにも数日じゃな」

 

「……そうか」

 

 特効薬のサレトーマはここにはない。

 それが分かるとアイゼンはすんなりとこの場を後にするのだが、ベルベットは動かなかった。

 さっきサレトーマが無いと言われた時と同じ反応を店主がしており、ベルベットは直ぐに諦めてこちらに来る。

 

「なにを話していたんだ?」

 

「バカにつける薬はないかって聞いてきたのよ」

 

「そうか……ゴンベエの火傷を治す薬は無かったか」

 

「っ、なんでコイツのことを」

 

「ゴンベエの事じゃないのか?」

 

 本人を抱えたまま、首を傾げるアリーシャ。

 こんな姿だから鼻と耳は良くなっているから、聞こえたがベルベットは火傷に効く薬は無いのか訪ねていた。店主は薬を作れるらしいが、肝心の材料がワァーグの樹林にあって手元には無いと言っていた。

 

「……仮にコイツの事だとして、文句あるの?」

 

「何故ゴンベエの事で文句を言わなければならない?こうなってしまったのは私達が原因なんだ」

 

 おい、手で遊ぶな。

 こうクイクイッと手を動かして怪我をしましたよアピール的なのをするな。

 

「分かってるわよ……」

 

「お前達、人で遊ぶな」

 

「あっ!」

 

 どさくさ紛れに頭を撫でようとするベルベット。

 完全にペットの犬扱いだと元の姿に戻るとアリーシャは残念そうな顔をする。こいつ、この状況を楽しんでいたな。

 

「お前達、さっさと来い」

 

「お前等のせいで怒られたじゃねえか」

 

 ぐだぐだとやっているとアイゼンに怒られたので早足でワァーグの樹林へと向かう。

 道中にビエンフーが如何にゲスなのかとかアイゼンの死神の呪いがどれだけ恐ろしいのかとか色々と聞き、ワァーグの樹林に辿り着くとマギルゥからサレトーマの花がどんな花なのか聞いて探す。

 あくまでもここにあるだけで、何処にあるか正確な位置が分かっていない。どうにかして見つけ出さないといけないのだが、厄介な事に憑魔がいる……んだが

 

「普通、だな」

 

「ああ、手応えがあるわけでもないが、かと言って無いわけでもない中途半端な感じだな」

 

 割と普通だ。

 オレは色々とぶっ壊れて強いから感覚がおかしいが、ロクロウ達からしてもここにいる憑魔は特別に強い訳じゃない。

 シグレの方が何万倍も強く感じて、今まで戦った聖寮の奴等が束になればどうにかなる筈のレベルだ……1体を除けばだ。どうも1体だけ変な憑魔の気配を感じる。それが薬屋の店主が言っていたのだろう。

 

「ゴンベエ、この辺りにもサレトーマの花は無かった」

 

 樹林と言うだけありそこそこ広い。

 何処にあるか分からないので、オレが憑魔をシバいている隙にアリーシャに探して貰うも見付からず、この樹林の地図を取り出してチェックを入れる。

 どちらかと言えば入口側は大体探し尽くしており、後は奥の方。

 

「お前達、ここでなにをしている!」

 

「それはこっちの台詞よ!」

 

 樹林の奥の方に進むと聖寮の対魔士がいた。

 エレノアやシグレの様に顔を出していないフルアーマーなモブとも言うべき対魔士でベルベットが新しい剣を出し、相手の槍を一刀両断。すかさず蹴りを入れて気絶させる。

 

「これでいいんでしょ」

 

「ん……ああ、そういうことか。そうしてくれるとありがたい」

 

 ベルベットは殺さずに気絶させた。

 この前はオレがボコったりしていたが、今回はベルベットが気絶させた。ベルベットにとって、聖寮は敵でアルトリウスを殺すためにも殺っておいた方がなにかと得なのだが、それでもアリーシャを気遣ってくれた。

 

「ゴンベエ、オカリナを」

 

「いや、槍の方に笛の機能を付けといたからそれを試してくれ」

 

 オレからオカリナを借りようとするので、槍の事を伝える。

 時のオカリナ以外にも時間移動する方法はあるが、流石にコレを壊されたりすると本当に洒落にならない。それに何時も何時もオレが居るわけじゃないんだ。もしなんらかの状況で現代でオカリナの力が必要になった時、槍の笛が代わりをしてくれるかどうかついでに確かめねえと。

 

「槍……」

 

 禍々しいオーラを纏った槍を手に取るアリーシャ。

 

「……」

 

「…………しゃあねえな」

 

「あ、いや、吹く。直ぐに吹くぞ」

 

「いや、そういう展開は省略したいからとっととこっちで吹け」

 

 アリーシャの槍を持つ手が僅かだが震えており、口を付けるところに近づける素振りすら見せねえ。

 一回やらかしちまったせいかビビってやがる。今回は槍を使って戦うんじゃなくて笛の機能を使うから、その心配は無いとは言えない。笛を吹こうとしたら今度は別のナニかが起きるかもしれないと思ってやがる。

 

「やれやれ、滑稽じゃの」

 

「……本気になってる奴を馬鹿にすんなよ」

 

「馬鹿にはしておらん、ただ面白いからそう言っただけじゃよ」

 

 オカリナを吹いているアリーシャを見て、面白そうなものを見る目をするマギルゥ。

 底知れない主人公を一方的に試そうとする主人公に既に追い抜かされているけれどもそこそこ強い奴が向ける視線が大嫌いなんだよ。もし、主人公が調子に乗ってるとか試してやろうとかで舐め腐った真似をしてきたら全力でシバき倒す。もう本当に完膚なきまでに叩きのめして、縁を作らないようにする。

 

「ずっと求めていた力を得た筈なのに今までと変わらんどころか恐れを抱いている。

それは求めていた当人に問題があるのか、求めていた力に問題があるのか、はたまた求めていた世界に問題があるのか。少なくともあの槍はアメッカに無い戦う力を得るには十二分過ぎる物。同じ素材を使っておるベルベットは目に見えるパワーアップを果たした。しかしアメッカはむしろ逆、パワーダウンをしておる。コレを面白いと言わずなんと言う?この先の事を考えればわくわくが止まらんじゃろう」

 

「……なんかあんのか?」

 

 そんな事を言えるってことはパワーアップできる方法を知っているのか?

 

「無関係なワシを頼ってどうする。

あの槍は本物であることには違いない。後はアメッカがなにかあればどうにもなる……良くも悪くもの」

 

 それを人は行き当たりばったりと言う。

 アリーシャの槍を使いこなすのにアリーシャに足りないものは分からねえ。あいつはちょっと変に抜けてたりするが、性格も顔も良い。反吐が出るレベルの善人だ。

 最初の一歩を踏み出す勇気とそれが本当に正しいのか疑う心を持っていて、挫折に近いものも知っている。つーか、天族と出会ってからあいつ絶望してばっかだぞ。

 

「終わった……その」

 

「ゆっくりで構わない。今はそれを使いこなす事よりも色々と見るのが優先だ」

 

「……すまない」

 

 んな、今にでも泣きそうな顔をするんじゃねえ。

 お前につけられた名前ってそぞろ涙のアリーシャじゃなくて笑顔のアリーシャだろう。美女は笑え。

 

「さっきの対魔士、明らかにここを調査しようとしていなかったな」

 

「奥に来て欲しくないって感じだったよね」

 

 奥へと進みながらさっきの対魔士について話すロクロウとライフィセット。

 確かにあの対魔士達はここにいる憑魔を倒しに来たんじゃなく、ここに来る人を通さない様にしていた……。

 

「憑魔が強すぎるから閉じ込めたか、聖寮が表沙汰に出来ない事をしてるパターンだな」

 

「表沙汰って、聖寮はそんな事を」

 

「神殿を作るための裏金」

 

「するわけは……わけは……」

 

「ものの見事に粉砕されたのう!……ま、鬼が出るか蛇が出るかは見てみねば分からん」

 

 とにもかくにも前に進もうぜ、どうあがいたって現実だけは変わらないんだから。

 聖寮の事を強く否定されてなにも言えないエレノアを他所に歩き出そうとするのだが、何故かライフィセットが発光する。

 

「……え、お前、なにやってんだ?」

 

 まだ日が登っていて、周りは明るい。

 明かりが必要な時間帯でも場所でもなく、懐中電灯は持ってきているのでわざわざ光らなくても良いんだぞ?

 

「ち、違うよ!急にこうなっちゃって……」

 

「大丈夫なの?」

 

「……大丈夫?かな」

 

 なんで疑問系なんだよ。

 急に光り出したライフィセットに心配するが特になにも起き……いや、起きている。

 ライフィセットが持っているやたらと大きな羅針盤がグルグルと周り出している。富士山とか日本の一部の地域では方位磁石が使えないがそれなのかと自前のコンパスを確認するが正常だ。

 

「なんか変な感じがする」

 

「変な感じ?」

 

「うん、地脈に居た時と似たような感覚」

 

「つまりカノヌシの力に近い……奥に居るのはただの業魔じゃなさそうね」

 

「カノヌシに繋がる業魔もいいが、今はサレトーマの花だ」

 

 話を元に戻すアイゼン。

 なにが居るか調べるにしてもタイムリミットがあるので、そっちを優先しようと更に奥に進むと紫色のラフレシア並に大きな悪趣味な花があった。

 

「あ、紫色の花が咲いてる!」

 

「あれがサレトーマの花だ」

 

 目当ての物が見つかり一先ずはホッとするアイゼン。

 サレトーマの花を見て興奮したライフィセットは近付こうとする――って、まずい!!

 

「ライフィセット、ストップ!!」

 

「え、うわぁああああ!?」

 

「「ライフィセット!!」」

 

 ライフィセットの直ぐ側に憑魔が居た。

 昆虫型の憑魔だがベルベットの左腕の様に変身することが出来る憑魔でカブトかクワガタか分からない手乗りサイズから一気に人間並に大きくなりやがった。

 

「薬屋が言っていた業魔はこいつか!!」

 

「滅多に出会わないと言うのに……これが、死神の呪い」

 

「こんなもの、序の口だ!」

 

 直ぐに臨戦体勢に入る一同。

 此処等に居る憑魔よりは遥かに強いが倒せない相手じゃないと思っていると、昆虫型の憑魔は何処かに行こうとするのだが弾かれる。結界が昆虫型の憑魔を閉じ込めている……。

 

「またあの結界!」

 

「あの結界は……」

 

 ベルベットとエレノアはあの結界に心当たりがある。

 と言うことは偶然にも貼られた結界とかでなく、閉じ込める結界か。

 

「なんにせよ空飛ぶ虫を倒さねばサレトーマの花は手に入らんぞぉ」

 

「ちょうどいい、コイツがカノヌシに繋がるなにかなのは確か。新しい力も試させてもらう!!」

 

 新しい神衣的な力の試運転で憑魔をぶっ倒してサレトーマの花を手に入れる。一石三鳥な事だ

 

「ストップ、お前、それはアカン」

 

 だから止める。

 炎の渦に包まれて服装を若干変えたベルベットを止める。

 

「虫は燃やすのに限るわ」

 

「お前、本当に物騒だな……ありゃ、殺しちゃアウトなものだ。それだと強すぎる」

 

「どういうこと?」

 

「カノヌシがなんなのか分からなくて、それを知ろうとしているんだろう。

目の前に居る虫はなんにせよカノヌシに繋がっている、殺してしまえば取り返しのつかないことになるかもしれない……形はなんであれカノヌシは天族の様な存在なのは確かだ。間違ったやり方だと結果的に世界消滅とかもありえる」

 

 遠回りしまくっていてまだ分かっていないが、カノヌシは確かに存在している。

 そしてジャンルで言えば虫や魚でなく天族の様な、所謂オカルト的な存在であり、そういうのは世界の均衡だか調和だかを保っている。簡単に殺せたとしても殺すと大変な事になる。

 殺しても問題無いのか、その辺りを考慮しておかなければならず、ベルベットのそれは強すぎる。確実に殺す。あの昆虫、そこまで戦闘力無い。

 

「第一、サレトーマの花の直ぐ近くにあるんだぞ。如何にも火属性な見た目のそれで戦闘してみろ……確実にアイゼンの死神の呪いと連鎖して燃える」

 

 もうオチが読める。

 

「……分かったわよ」

 

 人命には変えられないと元の姿に戻るベルベット。

 

「アメッカの命も掛かってんだから、オレも本気でやる──」

 

「ゴンベエ、終わったぞ」

 

 あ……そうか。

 ぐだぐだとやっていたせいで気付けば戦いは終わっており、ベルベットから白い目を向けられる。

 オレは関係ねえだろう。

 

「……ねぇ、ベルベット」

 

 倒したことにより、小さいクワガタだかカブトムシだか分からない姿に戻った昆虫憑魔。

 ライフィセットはそいつを手に取りベルベットの顔を見る……あっ……。

 

「連れてっても、いいかな?」

 

 上目使いでおねだりをするライフィセット。

 その姿はまるで母親に頼む子供のようである……まだ、子供なんだけどな。

 

「……ちゃんとあんたが世話するのよ」

 

「……うん!」

 

「それ絶対にお母さんが世話するパ」

 

「なんか言った?」

 

「オカンが世話するパターンだなと」

 

「誰がオカンよ!」

 

「お前以外にありえないだろう」

 

 もう完全にライフィセットは保護者としてみてるぞ。

 エレノアじゃなくてお前の方を保護者として……いや、エレノアも保護者として見ているのか?そうなるとライフィセットはどちらを優先するんだろう……ベルベットが嫉妬の炎を燃やす展開は見えるな。

 

「あんた、なに考えてるの?」

 

「ベルベットは何だかんだで人間らしい人間なんだなと」

 

「人間らしい人間って、どういう意味よ?」

 

「喜怒哀楽がちゃんとあるってことだよ」

 

「……それ、馬鹿にしてない?」

 

「逆だ、逆……ベルベットはちゃんとした人間だって感じてんだよ」

 

「……」

 

 オレの言葉になにかを思ったのか、早歩きになったベルベット。

 マギルゥがなにかに気付きちょっかいをかけにいくと、それはもう見事なまでに綺麗なドロップキックを決められて沈められた。




スキット 私の戦いはなに?私の敵は誰?

アリーシャ「ベルベット、ありがとう」

ベルベット「どうしたのよ、急に」

アリーシャ「先程の対魔士達、手加減をして気絶させてくれたのだろう。そのお礼をと思って」

ベルベット「別に礼なんて要らないわ。聖隷を解放すれば邪魔になるアルトリウス以外の対魔士を倒す時に役立つと思っただけよ」

アリーシャ「それでもだ……私には、気絶させる事すら不可能なのだから」

ベルベット「……」

アリーシャ「ベルベットの復讐については色々と思うところはあるが、復讐相手のアルトリウスは黒なのは確かだ。
色々と知らなければならない状況となった今、少しでも役にたてればと思っているのに……私はなにも出来ていない」

ベルベット「別に役立たなくていいわ。これは私の復讐よ。弟を殺した以外に裏でどんな悪行をしていたとしても、あんたにはやらせない。ゴンベエにもよ」

アリーシャ「そうか……」

ベルベット「だから、あんたはあんたの戦いに集中をしなさい」

アリーシャ「私の戦いに?」

ベルベット「マギルゥはともかく、ロクロウもアイゼンも聖寮と戦う理由はあるわ。
でも、あんた達は違うでしょ。あんた達は知りたい事を知るために私達と一緒なんだから、それが終わった後の事を、戦わなきゃいけない相手が居るんでしょ」

アリーシャ「戦わなければならない相手……」

ベルベット「その時までに槍を使える様になっておきなさいよ……いざという時、力が無いとなにも出来ずただただ絶望するだけだから」

アリーシャ「……槍を使える様になったとして、私が戦わなければならない相手はいったい誰なのだろう?
戦争を裏で手引きしている災禍の顕主のヘルダルフ?悪政で私腹を肥やし続けているバルトロ大臣の一派?……どちらも民を傷付ける悪で、この槍の力が必要になる時が来る……だが、それだと今までと同じことの繰り返しだ。スレイよりもずっと前の導師も国も似たような事をしている……今はベルベット達と旅をして、色々と見て考えてみるしかないか」


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生き方を教えてもらった地

「先手必勝だ、こらぁ!!」

 

 ワァーグ樹林を抜け出ようとすると、またまた聖寮の対魔士がいた。

 取りあえずはと問答無用で不意打ちをくらわせて気絶させる。

 

「コイツらも探そうとしていなかったわね」

 

「余程、このカブトムシが大事なようだな」

 

 さっきの対魔士と同じく探す素振りを見せていなかった対魔士達。

 この虫が実はカノヌシでしたってオチはねえだろうし……カノヌシの分霊的な、全てを集めたらカノヌシ(完全体)が出てくるパターンか?

 

「そもそもで、結界に閉じ込める事がおかしいよな。

俺達が脱獄したけど、業魔を閉じ込める為の監獄は存在してんのにわざわざこんな所にコイツだけ閉じ込めるなんてよ」

 

「この虫は、特別だからだよ」

 

「ワシは余り興味が無いから無視する虫じゃが、なにか特別かの?」

 

「そりゃやっぱ三本角の珍しいクワガタ」

 

「バカか!コイツは三本角の新種のカブトムシだ!!」

 

「お~い、ワシの渾身のギャグは無視か!!」

 

 そんなに面白くねえからだよ。

 ライフィセットが連れ帰った虫がカブトムシかクワガタかで言い争うアイゼンとロクロウをガン無視して、この対魔士達に意識を奪われている天族を目覚めさせる。

 

「……あの」

 

「なんだ?ベルベットの情報を聞き出そうとしてるんだったら、オレよりも他に当たれよ」

 

「ち、違います!情報を聞き出すのではなく純粋な興味です……貴方達はこことは違う異大陸の住人との事ですが、その業魔病について詳しいのですか?」

 

 ベルベットが倒した憑魔が元に戻る(死んでるけど)のを知り、ふと思い出したかの様に聞いてくるエレノア。

 穢れ云々を一切語ってはいないものの、人がどうして憑魔になるのか知っている素振りを今まで見せている。穢れ云々を知らないので疑問に思ったエレノアはその事について聞いてくる。

 

「……覚悟は出来ているか?」

 

「覚悟ですか……やはり、業魔病の事を?」

 

「知っている……だが、その、薬の様な物が」

 

「アメッカ、それ以上は言うな」

 

 言うべきかと悩んだ末に、アリーシャはエレノアの覚悟を確認するもアイゼンから待ったをくらう。

 現代ならば浄化の力の救済システムがあるが、この時代では憑魔なったらそれで終わりの様なもの。強い心を持っている人間が折れた時ほど絶望が強いとかよく言うが、今語れば大変な事になる。

 

「お前達は知っているなら分かる筈だ。ベラベラと語って良いものじゃない」

 

「言ってしまえば、きっと大変な事になるのは分かっている。

だが、カノヌシの事をこれから知っていく上では1番知らなければならない事じゃないのだろうか?」

 

 ライフィセットの持つ虫を見るアリーシャ。

 あれがなんにせよカノヌシに繋がる憑魔であることは確かで、今からそのカノヌシの事が書かれた本を読める人に解読をしてもらう。そうなれば嫌でも憑魔になる理由云々が出てくる。

 ベルベット達もよく知らないので、その事について事前に説明していても……問題はねえだろう。

 

「少し待て……少なくとも、今は語るべきじゃない」

 

「……わかった。すまない、教えるのは少しだけ待っていてくれ」

 

「え、ええ。教えていただけるのでしたら、少しぐらいならば……」

 

 この濃いメンツならば、穢れ云々を言っても問題ないか。

 それをどうにかする方法も未来では見つかっているし、どうにかなる……なんて考えてたらダメだ。

 

「よ~、元気かい!」

 

「ザビーダ!!」

 

 サレトーマの花は取れたので、とっとと戻ろうとしているとザビーダと再会する。

 アイゼンはザビーダを見た途端にさっきまでアリーシャに穢れ云々を言うなと言っていた大人な雰囲気から一点、感情的になり襲い掛かろうとするのだが、拳銃を向ける。

 

「喧嘩の相手はまた今度だ。デートの相手を待たせてるんだよ」

 

「……それは、アイフリードの」

 

「アレは……」

 

 ザビーダが向けている銃にアリーシャは見覚えがあった。

 現代で色々とザビーダについて聞き込みをしていた際に天族達が言っていた見たことの無い武器で、自分に弾を撃ち込めばパワーアップをする死ぬ気弾的なのを撃つ銃とかだったはず。

 

「何故、てめえが持ってやがる」

 

「拾ったんだよ、どっかで」

 

「茶化すな喧嘩屋。力ずくで聞いても良いんだぞ?」

 

「生憎、今はお前には用はねえんだ……用があるのは、お前だ」

 

「私!?」

 

 ザビーダが用事があるのはまさかのアリーシャだった。

 この時代に来て、出会ったには出会ったものの深い接点らしきものはない……いったいなんだ?

 

「ちょっと礼を言いたくてな、ありがとよ」

 

「……なんの事ですか?その、お礼を言われる様な事はしていない気が」

 

 ザビーダに対してなんかやったっけ?てか、若干敬語になっとんぞ。

 

「したさ……さっき、ワァーグ樹林から出てきた奴に聞いたぜ。対魔士達から聖隷を解放してんだろ。

ここだけの話、オレも昔はその1人でな、思い出すだけでもムカつく。オレはこうだが、他の奴等は捕まったままだ。どうにかしてやりてえんだが、オレもオレで忙しくてよ」

 

「……お礼を言われる事はしていない、天族を無理矢理捕らえる事が間違っている。

人間には出来ない事が出来たとしても、人間の様に笑ったり泣いたりしている。それなのに無理矢理捕らえて意思を奪うのは間違っている。もし本気で世界をどうにかしたいと思っているのなら、共に歩まなければどうにも出来ない……筈だ」

 

 お礼を言われる様な事をアリーシャはしているつもりはない。

 そもそもで意識を奪ってる時点で天族云々を置いてもアウトなんだよ。

 

「……筈、ねえ」

 

 最後の最後で揺らいだ事を気にするザビーダ。

 双方の力を合わせて頑張ろう!とした結果が現代にいる最後の導師であるスレイなので、なんとも言えない。

 

「まぁ、とにかく礼は言った。これからも対魔士達から聖隷を解放してくれよ」

 

 アリーシャの背中を後押しすると銃口を頭に向けるザビーダ。

 

「なにを……」

 

「問題ねえよ」

 

 バンと頭に弾を撃つザビーダ。

 オーラ的なものが見えないが、纏っている空気とか雰囲気が変わりザビーダは明らかにパワーアップをしていた。

 

「来い、今ここで決着(ケリ)をつけてやる」

 

「悪ィな!!アゴヒゲのおっさんとデートの待ち合わせているんだよ!!」

 

 あ、逃げた。

 ここは戦う流れなのかと思いきやザビーダはすたこらさっさと逃げていき、この場を後にした。

 

「てめえ、待ちやがれ!!」

 

「アイゼン、薬は!?」

 

「お前に任せる!!」

 

「おまっ、一応副長だろう!!」

 

「船長の方が大事だ!」

 

 逃げたザビーダをアイゼンは追いかけていった……。

 

「本来の目的からどんだけ変更すんだよ……」

 

 カノヌシについて書かれた書物を読める奴を訪ねに行こうとすれば、壊賊病に掛かり進路変更。

 薬屋には壊賊病に効く薬は置いておらず、自力で取りに行かないと駄目でその結果、カノヌシに繋がる虫をゲット。

 かと思いきや今度はアイゼンがザビーダを追いかけてどっかに行ってしまった。

 

「アゴヒゲ……」

 

「どうしたライフィセット?」

 

 ザビーダが言っていたことを気にするってことはなんかあんのか?

 

「ザビーダはアイフリードに会いに行ったんじゃないかな?

ベンウィックがアイフリードはアゴヒゲが特徴的って言ってたし、アイゼンも船長の方が大事だって」

 

「……さっさと船に戻るわよ」

 

 ベルベットのその一言に誰も反論しない。

 アイフリードがどんな目に遭ってるかはしらねえが、生と死の境界線にいる。そしてそれは今、船で寝込んでいる面々も同じでアイゼンは船を預かる身として船員か船長かを選ばなければならず、船長を選んだ。

 ライフィセットにサレトーマの花を届ける事を託して。それならば、その任を果たしてから追いかけるのが道理だ。

 

「サレトーマの花よ」

 

 急いで戻り、ベンウィックにサレトーマの花を渡すベルベット。

 

「助かったよ。っと、そうだ副長!……あれ、副長は?」

 

「ペンデュラム使いの聖隷を追いかけてビュ~っと消えおったぞ」

 

「な!?なんで追いかけねえんだよ!」

 

「アイゼンが僕達に持っていけって花を託してくれたから」

 

「それでもだよ!!」

 

 おめー、自分が比較的に無事だからってそれはどうなんだよ。

 

「聖寮を相手にしてる商人から聞いたけど、ロウライネでメルキオルって対魔士がザビーダを捕まえようとしてて」

 

 メルキオルと言うと、片眼鏡のクソジジイか。

 アリーシャの幻影を見せてオレを邪魔しやがった……。

 

「そんな所に飛び込んだら副長もただじゃすまない!」

 

「そこに飛び込まなきゃ肝心の船長に関する手掛かりが無いだろう。

ザビーダは船長であるアイフリードについてなにかを知っているが、一緒にいたり、居場所を知ってたりしねえ」

 

 この時代で最初に出会った時、その時にはザビーダは1人で聖寮の対魔士達と戦っていた。

 ザビーダが天族を助け出す為に対魔士達と戦っていたなら、最後に天族を解放していたがそんな事はせずにさっさとどっかに行ってしまった。あいつも船長のアイフリードを探しているんだろう。

 

「罠を張って待ち構えているのなら、最初から無視をすれば良い。わざわざ引っ掛かりにいく馬鹿は居ない。それが罠だと分かっていても、行かなきゃならねえ理由がそこにある」

 

 そう。ザビーダもアイゼンも血の気が多くて一時のテンションに身を任せるタイプではあるが、馬鹿じゃない。

 例え罠だと分かっていたとしても居場所が分かるなにかに切っ掛けがあるならば、それを確かめる。こんな世界じゃ、ただ闇雲に探しても見つかる筈がねえんだ。

 

「副長と船長が戻ってきたら、直ぐに船を出せる様にしておきなさい。こう何度も何度も目的地が変わってたら一生辿り着かないわ」

 

「え~翻訳すると、アイゼンとついでにアイフリードを連れ帰るかぁっ!?」

 

 ちょ、左手のグーパンはあきませんよ!

 オレ達がアイゼン達を迎えに行くというと任せてくれるベンウィック。サレトーマの花の一輪をアリーシャとエレノアに渡して船へと戻っていった……。

 

「コレはどう飲めばいいんだ?」

 

「握れば勝手に汁が出るから、それを啜れば良いんじゃよ」

 

 どんだけ大雑把な飲み方なんだよ。

 

「早く飲んで、アイゼンを追い掛けねば……エレノア?」

 

「……アメッカ、お先に」

 

「早くしなさい、時間が無いのよ」

 

 腕を組んでるベルベットの右手の人差し指がトントントンと動いてて、明らかに苛立ってるから早くしろよ。

 

「……あぐぅっ!?」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 苦々しい顔をしてサレトーマを絞り、出た汁を飲むとぶっ倒れるエレノア。

 薬を飲んでぶっ倒れるのは予想していなかったのかベルベットは慌ててる。

 

「サレトーマの花、そんなに苦いのか……」

 

「お前、飲まなくていい立場で良かったな」

 

 エレノアがぶっ倒れたのは、サレトーマの花の絞り汁の味が酷すぎたから。

 タンの様な香ばしい匂いがする癖に洒落にならないほど苦く、匂いと味がミスマッチであの手この手を加えても不味いらしい。

 

「ア、アメッカ、人体に害は、ありません」

 

「ほ、本当なのか?明らかに弱っているように見えるのだが」

 

「口の中がなんとも言えない感じで、暫くすれば元に……うぷっ」

 

 ゲロを吐くなら、海でしろよ。

 

「チューブあるけど、そっちを使うか?」

 

「チューブ?」

 

「ゴムの管で、鼻に差して直接、胃に流し込む」

 

 薬が飲めない体調の時とか老人とかに使う奴はあるぞ。

 

「いや、エレノアも飲んだんだ。私だけ楽な道を選ぶ訳にはいかな───っ!?」

 

「アメッカ……あ~硬直してやがる」

 

 チューブを拒み、絞り汁を飲んだアリーシャの表情は固まった。

 白目を向いていないところ、まだ意識は吹っ飛んではいないが……これより不味いのが乾汁か……。

 

「後はマギルゥだけね」

 

「ワシはビエンフーを経由してサレトーマの絞り汁の効果のみをいただ──」

 

「ダメだ」

 

 自分だけ楽しようとすると、それ相応の報いを受けるんだな。

 

「アメッカ、何故ワシの肩に手を置くんじゃ」

 

「エレノア、すまないが足を抑えてくれ」

 

「構いませんよ……貴女だけ、楽はさせません!」

 

 上半身をアリーシャが、下半身がエレノアに抑え込まれるマギルゥ。

 

「は、離せ!!ワシはあんなもんを飲むのはごめんじゃ!!」

 

 ジタバタと暴れるが、近距離で戦うアリーシャとエレノアの力に敵うわけなく抜け出ないマギルゥ。

 

「ビエンフー、出てこい!ワシの代わりにサレトーマの絞り汁を飲むんじゃ!」

 

「マギルゥ姐さん……世の中は諦める事も大事でフ!」

 

「一度ならず二度もワシを裏切るのか!!」

 

「さっさと、飲みなさい!!」

 

「ぎょえええええええええ!?ま、まずぅいいいい!!」

 

 うわ、ダイレクトだ。

 エレノアとアリーシャは絞り汁だったけど、マギルゥ、サレトーマの花をダイレクトに食わされた。あれ、下痢とか起きるんじゃねえのか?

 ピクピクと虫の死骸の如く痙攣を起こすマギルゥに合掌をし、オレは飲まなくて良かったと心からこの転生特典に感謝をする。

 

「それで、ロウライネって何処なの?」

 

「ウエストガンド領の北方にある対魔士の訓練をする塔です」

 

 サレトーマの絞り汁の苦しみから抜け出して落ち着くと、アイゼン達が向かっているであろう場所についてエレノアが教えてくれる。

 

「きっと対魔士達が沢山いる……アイゼンは大丈夫かな」

 

「そこらの対魔士にやられる奴じゃないだろう」

 

「むしろ、死神の相手をする方が大変じゃよ」

 

 港から今度はロウライネに向かう。

 レニード港を出て直ぐの街に戻り、ワァーグ樹林じゃない方を出て歩く……。

 

「……ザビーダとアイゼンは、目的が一緒なのにどうして協力出来ないんだろ?」

 

「確かに、どちらもアイフリードを探しているならば情報交換をして協力をすればより早く見つかると言うのに、どうして協力をしないのだろう」

 

「くだらん男のプライドじゃよ。

どっちも良い歳をしていて大人なのに、いや、大人だからこそ譲ろうとしない」

 

「否定しづらいな」

 

 ザビーダとアイゼンが協力すれば、効率は良いかもしれねえが無理だろうな。

 

「ベルベットの復讐と同じだと考えろ」

 

「ベルベットの?」

 

「自分がやらなきゃならない、自分以外の誰かにやらせたくない……例えそれが非効率的でもな」

 

 ザビーダとアイフリードの関係性は知らねえが、なにかあったのは確かだ。

 アイゼンとアイフリードにも色々とあって、アイゼンもザビーダもアイフリードに対してなんらかの恩義があり、だからこそ助け出したい。そう言った感情があり、それを他の誰かに取られたくない。

 

「不思議だな、目的が同じでも協力する事が出来ないとは」

 

「不思議でもなんでもねえよ……答えは同じでも、それまでの道のりが違うんだ」

 

 譲れない誇りや信念なものを持っていて、その信念に従って生きている。

 オレの様にあんまそういうのがないのほほんと生きている奴よりも生きている。

 

「それでも、目的が同じな事には変わりない。協力が出来れば良いと私は思う」

 

「……僕もそう思う」

 

 まぁ、そっちの方が効率も良いしな。

 けどあれなんだよな。ああいうタイプって、大事な人の命とプライドを天秤に掛けるぐらいに切羽詰まらないとダメなベジータ的な感じなんだよな。

 オレと同期の奴が地獄の養成所で、自身の道と相手の道が交差しなければ力を合わせる事など永遠に不可能だって言ってたな。

 

「船の連中にサレトーマの絞り汁を飲ませたか?」

 

「うん」

 

「そうか、礼を言う」

 

「お前は礼を言ってくれたけど、薬が必要なベンウィックはお前を追い掛けなかった事についてキレたぞ」

 

「……すまん」

 

 ロウライネ、ではなくその間にある対魔士達の駐屯地と思わしき場所に辿り着くとそこにはアイゼンがいた。

 追い掛けてきたオレ達に頼んでいた事をしてくれたのか確認をするので、嫌味の1つだけは言わせてくれ。怒られるのは理不尽だから。

 

「これはアイゼンがやったのか?」

 

 そこかしこに倒れている対魔士達を目にするアリーシャ。

 よく見ればまだ息があり、ワァーグ樹林でベルベットが手加減をした時と同じようにアイゼンが気絶させたのか?

 

「オレが来た時にはこうなっていた。ザビーダの野郎がやったんだろう」

 

「1人も殺さない流儀、か」

 

「……」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、少し違和感の様なものを……」

 

「違和感?」

 

 誰1人死んでいないので、ザビーダは誰も殺さない流儀と呟くがアリーシャは違和感を感じる。

 ザビーダは現代では浄化の力を用いずに憑魔になった奴を殺してる。浄化が出来ないらしい実体を持ったドラゴンはまだしも、まだ戻せる憑魔に対して浄化の力という元に戻す事が出来る力があんのに使わずにいる。殺すことで救える命があると思っていて、割と殺さなくても救える命を結構奪ってたりすると天族達から聞いた。

 

「余程、聖寮はザビーダを捕まえたいんだな」

 

「あいつもコレが罠だと分かっている……分からんのはオレを巻き込んだ理由だ。

手を組む気も、情報を教えるつもりも無いのならアイフリードの居場所を仄めかす必要は無いはずだ」

 

「分からねえなら、本人に聞いてみるのが1番だろ……ハウンド」

 

 青白く光る正方形の立方体を出し、5×5×5×2に分割して空に向かって撃つ。

 弾は空中で綺麗にUターンし、直ぐ近くのテント裏に向かって矢の雨かの如く降り注ぐ。

 

「おまっ、なんてもんをぶつけんだ!?」

 

「追尾弾」

 

「そういうのを聞いてんじゃねえよ!」

 

「お前っ!」

 

 割と直ぐ近くで聞き耳をたてていた。

 言っても出てこなさそうなので、力技で焙り出させてもらった。

 

「俺としてはどうしてお前がそこまでアイフリードに固執するか聞きてえな。同じ船に乗っているからだけじゃねえんだろ?」

 

「……確かめるためだ」

 

「確かめる?」

 

「アイフリードは死神の呪いを解こうと躍起になっていたオレにこう言った。『無駄な事はやめろ、呪いの力を持って生まれたなら呪いごとお前だ』『自分の意志で舵を切れば、死神だって立派な流儀になるはずだ』……ってな。だから、バンエルティアに乗った」

 

 どういう状況でその言葉を言ったのかは分からない。

 だが、人生のターニングポイントの様な事をアイフリードがしてくれて変わる事が、受け入れる事が出来たのか。

 

「アイフリードはアイゼンに生き方を教えてくれたのか……」

 

「……確かめる必要がある。

例えアイフリードが死んでいても、あいつの意志を──流儀を貫いたのならそれでいい。だが、そうでないのなら、あいつの流儀を踏みにじったのなら、誰が相手であろうと許さない……ただそれだけだ」

 

 譲らないプライド、生き方、流儀、ね……オレには縁の無い話だな。

 

「生きる流儀ねぇ……」

 

 アイゼンの話に納得するザビーダ。

 

「ザビーダは、アイフリードを助け出したいの?」

 

「いや、借りた物を返すだけだ」

 

「だったら、僕達と一緒に行かない?アイフリードが居るかどうかは分からないけどこの先は、罠だよ。それもザビーダを捕まえる為の」

 

「お、嬉しい誘いだね……だがそいつは」

 

「「ケジメをつけなきゃ手は組めん!」」

 

 はい、交渉決裂。

 アイゼンとザビーダ、どっちも似たような性格をしているせいか絶妙なまでに馬が合わない。

 同族嫌悪をしているというよりはこれはどちらかといえば、似ているが似ていない部分のせいで噛み合わないと言った感じだ。

 

「っち」

 

「ま、そういうこった……ああ、そうだ。1個、頼みがあったわ」

 

「なんでお前の頼みを」

 

「お前じゃねえよ……対魔士に捕まってる聖隷を解放してくれ。この状態じゃどうすることも出来ねえんだ」

 

 この状態って、こうじゃなかったら解放する事が出来るのか……。

 ザビーダはアリーシャに対魔士に捕まっている天族の解放を頼むと一足先に進んでいった。




スキット 助けるといえば

ゴンベエ「あ~」

アイゼン「なんだ、そのめんどくさそうな声は」

ゴンベエ「今、向かってる場所が塔で捕らえられてるのがアゴヒゲのおっさんだと思うと少しだけな」

アイゼン「嫌なら船に戻ってろ」

アリーシャ「ゴンベエ、例えアイフリードがアゴヒゲのおっさんであろうともなにか特別な理由で捕まっている。助け出さなければ」

ゴンベエ「分かってるけど、塔に閉じ込められてるのがアゴヒゲのおっさんってなるとモチベーションがな」

アイゼン「アイフリードが、何処かの姫……いや、待て。悪かった」

ライフィセット「自分で想像して自分で自滅してる!?でも、ゴンベエの言っている事はなんとなく分かるかも。城に捕らえられているお姫様を助け出す物語とかいっぱいあるし、そういうのを想像しちゃうよね」

アイゼン「今回は城ではなく塔だ、確か【ドルアーガの塔】という話があったな」

ライフィセット「あ、それ知ってる!」

ゴンベエ「……ん?」

ライフィセット「神様が授けた杖のお陰で栄えていた国が隣の大国に襲われて、神様が授けた杖を奪ったんだ。
栄えていた国の人達は奴隷の様にこき使われ天にも届く塔を作り上げ、神様が破壊しようとしたけどもう手遅れでドルアーガって悪魔が復活したんだよ。復活したドルアーガは杖を奪って、取り戻そうとした巫女が逆に囚われてしまって、栄えていた国の王子様が黄金の鎧を纏ってドルアーガが居る塔を登るお話」

アイゼン「最上階である60階制覇をし、助け出したと思えば今度は降りる冒険もある。かなりの名作だ」

ゴンベエ「……バンナムのな……でまぁ、話は元に戻す、いや、戻して良いのか?
囚われの身であるアゴヒゲのおっさんを形はどうあれ助けに行かなければならんとなるとモチベーションがな……そこそこの力は貸す」

アイゼン「……そこでめでたしめでたしとはいかんがな」

ライフィセット「そうだよね。お伽噺とかならお姫様と結婚してハッピーエンドで終わるけど、これはお話じゃなくて現実……本来の目的地に向かうだけだよね」

アリーシャ「助け出されたお姫様と結婚……出来ていないな」

ゴンベエ「いや、実際そうなったらそれはそれで困るだろう。
お互いの事をよく知らないのに結婚って……2、3年したら絶対に浮気関係の不祥事を起こすぞ」

アリーシャ「……ゴンベエ、夢が無いぞ」

アイゼン「だが、否定は出来ない。助けてくれた事に関しては感謝しきれないが、結婚に発展するのはおかしい。
そいつの事を信頼できて全てを捧げる心意気は見事だが、そいつの事を本当によく知っているのか?囚われの身である姫は外の情報を遮断されている筈だ。互いの事をよく知らなければ恋愛もなにもないはずだ」

ライフィセット「実は幼馴染みとか、そういうのは」

ゴンベエ「現代において幼馴染みとか一番付き合いが長いとか言うのは完全な甘えであり、マイナスのステータスだ。距離感がイマイチ掴みづらいんだよ」

アリーシャ「うぐっ!?」

ライフィセット「そうなの?」

ゴンベエ「そうだ。考えてみろよ、恋愛物で幼馴染みが登場する場合は……いきなりでなく、第2のヒロインと言う名の負け犬的登場だ。こう、最初のヒロインと変な出会いしてからの登場がパターン化してるだろ」

アリーシャ「話の都合上、そうなるとはいえ言われてみれば……いや、違う。現実と小説は違う。
確かにベルベットとはなんとも言えない形で出会っているが、そういう感じではない筈だ……その理論でいけば私が第2になる。何故、負けヒロインに、こう色々と私にもイベントの様なものが」

アイゼン「なにをぶつぶつと言っている。とにかく、アイフリードがむさ苦しいおっさんであろうともロウライネでは力を貸せ」

ゴンベエ「一番使える力を貸してやるよ……でも、むさ苦しいおっさんか」

アリーシャ「……助け出すならばベルベットの様な綺麗な女性の方が良いのか?」

ゴンベエ「モチベーションが上がるだけだ……第一、オレはお前を助けたりするのに忙しくて他にあんま構ってられねえよ」

アリーシャ「ゴンベエ……」

ゴンベエ「それにベルベットだと自力で城から脱出してきそうだろ」

アイゼン ライフィセット アリーシャ 「「「確かに!」」」


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声の正体

本当ならば石破ラブラブ天驚拳を撃つ動作をしてベルベットと協力して極大消滅呪文を撃つ予定だけどボツにした。


「そういえば、結局分からずじまいのままだ」

 

「なにがだ?」

 

 ザビーダ様の後を追うかの様にロウライネを目指すが、1つだけ分かっていない事があるのを思い出す。

 

「どうしてザビーダが狙われているかだ」

 

 ザビーダ様を聖寮が狙っている。

 どうして?沢山の天族を捕らえていて、それを使役しているにしてもザビーダ様だけをピンポイントに狙うのはおかしい。ザビーダ様がなにか特別な天族なのかと言われても思い当たる伏は無い。

 

「……狙いはあいつじゃなく、あいつの持つ武器の可能性がある」

 

「武器……」

 

 ジークフリートという不思議な武器を用いて、パワーアップをするザビーダ様。

 ゴンベエはなにやら似たような物をしっているが、それを持っているのは現代でもザビーダ様だけで、天族の方々も不思議な武器だと言っていた。

 

「あれはアイフリードのお気に入りの1つで、異大陸で見つかった物だ。

大昔の滅んだ文明の技術で出来た物の様で、どんなものなのか詳しくは教えなかったが、次にオレと戦う時の切り札になると笑っていた」

 

「……待て」

 

「なんだ?」

 

「アイフリードはアイゼンと戦えるのか?」

 

 サラリと語っているが、それはとんでもない事だ。

 

「あいつは3年前の開門の日よりも前からオレを見ることの出来た人間で、オレとやりあえる」

 

「……天族の力を借りずにか?」

 

「海賊に手を貸す聖隷なんて、オレぐらいだ」

 

 天族と真正面から戦える人間が居るだなんて……。

 

「業魔が対魔士にしか倒せないと勘違いされがちだが、聖隷の器となることにより、パワーアップをしているがそれでも元の力が強くないとたかがしれている。アイフリードが一際強いというだけで、やろうと思えばお前もある程度の業魔と渡り合える筈だ」

 

 ……果たして、今の私に戦うことが出来るのだろうか。

 

「とにかく、ザビーダ自身が特別でないと聖寮の目的はアレだろう。お前達は異大陸の出身だが、アレについてなにか知らないのか?」

 

「私は特には……私の国はこの国と大して変わらない文明だ。

ゴンベエはそことはまた違う大陸の国の住人で、異世界に関しても色々と知っている様だからなにか分かるかもしれない」

 

 本当は遥か未来から来たのだが、言うわけにもいかない。

 上手く誤魔化しながら、ゴンベエに意識を向けるとゴンベエは懐に手を入れてなにかを探していた。

 

「何処だっけな」

 

「なにをしている?」

 

「ちょっと探し物……それよりどうかしたか?」

 

「ザビーダの使っていたアレについてだ。

自分に向けていた時、エレノア達は驚いていたがお前は動じていない……アレがなにか知っているのか?」

 

「類似している物は知っている。1つはアレと似た見た目で大砲を小型化させた物で、それは簡単に人を殺す事の出来る戦争の歴史を変える武器だ。うちの国はそれを大量生産することに成功させた」

 

「戦争の歴史を変える!?」

 

「あいつは自分に向かって撃っていた。それとは異なる物だ」

 

「本で見たんだよ、後悔している人間に撃ち込む事により火事場の馬鹿力を発揮することが出来る特殊なのもあるって」

 

「だから、驚かなかったのか……」

 

「まぁ、他にも色々とあるが……なんでそんな事を聞くんだ?」

 

「聖寮がザビーダを捕まえようとしているのは、ザビーダでなくあの武器が目的だからじゃないかと」

 

「……なんでアレがいるんだ?」

 

 ゴンベエのその一言に私とアイゼンは答えれない。

 確かにアレが天族をパワーアップさせる特殊な道具だとしても、それを欲する理由が分からない。

 既に聖寮の力は国の中枢にまで及んでおり、スレイとは異なり国から全面的にバックアップを受けることができ、戦える人間が1人じゃない。先日ロクロウが戦ったシグレの圧倒的な強さを見ればこれ以上パワーアップをしてなんの意味があるかわからないし、ヘルダルフの様な災禍の顕主に対抗するためでは無さそうだ。

 エレノアがロウライネについて教えてくれがが、対魔士として鍛える訓練所だが一人一人に合った鍛え方をしていて、聖寮は軍隊の様に少佐から中佐に昇格するシステムがない事を言っていた。上を目指すというものでもない。

 

「……ホント、なんも分かってねえな」

 

 聖寮はなにかをしようとしており、その為に必要な事や物の準備が順調で、なにをしようとしているのかも理解していて私達はなにも知らない。後手に周り続けていて、罠でしかない場所に足を踏み入れなければならない。

 

「それを知るために船を出したんでしょ……寄り道ばかりだけど」

 

「寄り道ばかりだが、それが時には良い方向に進むこともある。

ロウライネにアイフリードが本当に居るならば、どうして拐われたのかなにがあったのかが知れる。居ないならば、オレ達を嵌めようとしているジジイの口を割ればいい」

 

「割れればいいがのぅ」

 

 急がば回れを本当に体験しているんだな、私達は。改めて過去に起きた現代に繋がる出来事は壮大だ。

 

「警備がおらぬとは、罠丸出しじゃの」

 

「こっちが罠を警戒するのが折り込み済みなんでしょ……その上で、どんな手を打ってくるか」

 

 前へと進み、ロウライネへと辿り着くが警備らしい警備は1人も居なかった。

 罠が待ち構えているのは覚悟はしていたが、まさかここまで堂々としているとは……。

 

「慢心、いや、違うか」

 

 自分達の力に過信し過ぎていて慢心していると思ったが、それは違う。これは自信だ。

 エレノアが私達の足取りを伝えさえすれば何百もの対魔士をその場に向かわせる事が出来る。それどころか、バンエルティアが商船と扱い港に停泊していることを突きつければ港に止めることは出来なくなる。

 罠を仕掛けているにせよ、油断しすぎとも思える警備0のこのロウライネは聖寮の自信と強さを表している……。

 

「ゴンベエ、このまま進んでもいいのだろうか?」

 

「十中八九ザビーダ用の罠でアイフリードは居ないだろうな。けど、進んでも無駄って言って止まると思うか?」

 

 残っている一や二にアイゼンやザビーダ様は賭ける。

 それは分かっているが、今回ここにいるのはこの前会ったシグレと同格の対魔士。ロクロウを相手に余裕を見せつけており、仮にベルベット達が加わっても負けるビジョンが見えなかった相手。

 その大雑把な性格か、見逃したが今回の相手はそうはいかず、真正面から戦わずに罠に嵌められて終わる可能性も出てくる。相手が何段階も格上となれば、急いでいても慎重にならなければ。

 

「でもまぁ、罠に掛かるのはまずい。

シグレみたいに戦いでどうこう出来る相手ならまだしも、今回の敵の目的は戦いじゃない。勝利条件が異なっていて戦わなくても勝利が出来る相手の罠だらけであろう本陣に突撃しないといけねえ」

 

「……なにかあるのか?」

 

「こういう物があるぞ」

 

 アイゼンの問いかけに答えると何処からか深い青色の導火線の着いた鉄球をって

 

「爆弾じゃないか!?」

 

「逆に聞くが、こんなザ・爆弾な見た目をしていて爆弾じゃねえつったらなんだよ」

 

 如何にもな、それこそ絵本にでも出てきそうな形の爆弾をこれでもかと取り出すゴンベエ。

 いったいこんな物を何処に仕舞っていたんだ。いや、それよりもだ

 

「これを使って、なにをするつもりだ……」

 

 とんでもない事をするつもりだろう?

 

「んなもん決まってんだろ、相手の根城をボカンだ。相手がどんだけ罠を仕掛けようともぶっ壊せば怖くない!!なに、こんだけデカい塔だ、一番下の支えをぶっ壊せば連鎖的に崩壊する」

 

「ゴンベエ、流石にそれはまずい!」

 

「ふざけるな。万が一アイフリードが本物だったらどうする!」

 

「お前、なんの為のレイズデッドだ?」

 

「……根に持っているか」

 

「そこそこな。このまま普通に行けば嫌なオチが待ち構えてるんだぞ?」

 

 嫌なオチ?いったいなにが待ち受けているんだ?

 

「アメッカ、アイフリードが居るとするならばどの辺りにいると思う?」

 

「それは……頂上じゃないか?」

 

 牢獄の様な場所に閉じ込めていたら、罠にはならない。

 ある程度は広々としていげ罠が仕掛けやすい場所となると入り組んでいる内部よりも頂上が最適だろう。この大きさでこの高さの塔ならば跳んで逃げるといった事も不可能だ。

 

「そう、大体の奴は頂上を思いつく。

上を目指すのは勿論でこんな構造だから嫌でも目指してしまう……そして頂上にはアイフリードがいる」

 

「……それの何処が嫌なオチなの?」

 

「ライフィセット、忘れたのか?相手は待ち構えているんだ。そこにいるアイフリードは偽物で隠し部屋的なのにアイフリードが捕らえられている。

このまま特に深くは考えずにザビーダに先を越されてたまるかと頂上にダッシュで向かったとして、そこにいるのは偽のアイフリードでなんらかの罠に引っ掛かる、或いは手こずっていると……ザビーダが横から現れて助けてくれるどころか本物のアイフリードを連れている……目を閉じて想像してみろ」

 

 …………ダメだ。

 ゴンベエの言っている事が簡単に想像できてしまう、罠に嵌まる展開からザビーダ様が颯爽と助けるシーンまで。お前達が囮になってくれたお陰で探せたわと言ってる姿が浮かぶ。それどころか、これが正しいのではないのかと訴えかけている自分が居る。

 

「っく、このままアイツの噛ませ犬になれと言うのか!」

 

 アイゼンも想像できたようで、噛ませ犬の様な役割に腹をたてる。

 

「小説ではその様な事が定番ですが、ありえません!このロウライネに隠し部屋の様なものはありませんし、対魔士達が訓練をする為の場所ですので爆弾で壊れる作りではございません!!」

 

「エレノア……そんなにベラベラと言って大丈夫なのか?」

 

 私達の感情にカッとなっているのは分かるが中の情報をベラベラと喋って、一応はスパイ状態なのだろう。

 

「あ、いえ……貴方達が物騒な会話をしているので忠告したまでです!」

 

 素で口が滑ったのか。

 

「爆弾が無理なら、魔法で壊すしかねえか……うーっし、退いて一ヶ所に固まってろお前達」

 

「……罠だとしても潔く中に入りませんか?」

 

「嫌に決まってんだろ。

入口手前でぐだぐだやってんのに、対魔士1人出てこねえんだぞ。頂上に罠があるんだったら、向こうからやってこさせる。この辺りには罠はねえからな」

 

 そういうとゴンベエは塔の外壁をコンコンと軽く叩く。

 何処を破壊すれば良いのか、塔の形から計算して割り出しており、最適な場所を見つけると右手に冷気を、左手に炎を出した。レンガは炎に強く、凍らせるにしてもレンガは無機物で効果は0だぞ。

 

「極大消滅呪文を──あっちゃ!?」

 

 引火した!?

 ゴンベエの左手から出ている炎が左手に巻き付けている包帯に引火し、煙をあげる。

 ライフィセットが直ぐに水の天響術で鎮火をしてくれたので、大事にならずにすんだ。

 

「エレノアの言うように潔く中に入って登ろう。確かに噛ませ犬の様な役をするかもしれないが、人命には変えられない」

 

「……っち」

 

 ゴンベエは舌打ちをしたものの、渋々承諾したようで塔を破壊することをやめて中に入った。

 私達も後を追い、中に入るのだがそこには沢山の対魔士達が待ち構えていた……とは、ならなかった。

 アイフリードについて聖寮の人間であるエレノアが知らない事が多々あり、聖寮からそれ以上は知るなと調べる事も禁じられている事から、ザビーダ様を捕まえるのは限られた面々にのみ伝えられており情報を秘匿にしているというところか。

 情報を知らされた対魔士達はついさっきの駐屯地の様な場所にいた対魔士達で、ここにいるのは特等対魔士のメルキオルだけ……考えようによってはチャンス、と言えない。

 

「アイフリード……」

 

 頂上に居るものだと思っていたが思ったよりも複雑な構造で坂を上ったり下ったりを繰り返し、塔の文字通り真ん中にやって来た。マトリョーシカ?と言う何処かの国の伝統工芸品の様に塔の中にまた小さな塔があり、そこは日の光が当たる場所で、十字架に吊るされた海賊が居た。

 

「あれが海賊アイフリード」

 

「あれが……」

 

 ライフィセットが言うようにアゴヒゲが特徴的で、左目に傷のある海賊の男性。

 あれが後世にまで名を残した海賊の船長……だが

 

「ここにも人が居ない……アイゼン、明らかに罠だ!」

 

 何処からどう見ても罠でしかない。

 天響術の様なもので作動する罠が仕掛けられているに違いない。

 

「新入りか?……随分と、変なのが増えたな」

 

「変なので悪かったな……アメッカの言うとおり、明らかに罠だ。だから、そのアイフリードが偽物の可能性もある」

 

 アイフリードへと近付くのを止めようとゴンベエは虫眼鏡を投げる……!

 

「メルキオルは幻術のプロだ。ここに入る時にベルベットが言っていたが、こっちが罠を警戒しているのも折り込み済みだ。メルキオルは幻術のプロ。ならこっちは幻術に惑わされない様にしよう。そう思わせる可能性がある」

 

「……!……成る程な」

 

「それでも進まないといけないなら虫眼鏡で観察しておけ。本物そっくりにメイクをしていて、幻術じゃないから本物だと思わせる可能性がある。術で服を燃やして黒子とか誤魔化せない部分を探してみろよ」

 

 虫眼鏡を手に取り、ゴンベエの言いたい事を理解したアイゼン。

 天響術を撃つ為の準備に入る……やはり、罠か。

 

「粉砕しやがれ、ストーンエッジ!」

 

 アイゼンはゴンベエに言われた通り術を使った。だが、それ以外はゴンベエの言っていた事とは大きく異なっていた。

 使った術はアルトリウスにも使った名前からして地の天響術だと分かるもので、効果は地面から岩が飛び出るもの。アイフリードの服を破ることは出来ても燃やす事は出来ない術で、それをアイフリードに当てなかった。

 私達とアイゼン達の間の少し右側に向かって、ストーンエッジを使った。

 

「っぐ!」

 

「メルキオル様!?」

 

 なにもないところに撃った筈なのに、水が刺激を受けて波紋を起こすかの様に空中が渦巻き現れるあの時にいた片眼鏡の老人。私達の事を見ていると思っていたが、まさかこんな直ぐ近くに隠れていたとは。

 

「何故、儂がここにいると……」

 

「こいつのお陰だ」

 

「おい、言うんじゃねえよ」

 

 音も姿も気配も感じなかったメルキオルを見つけれたのは、ゴンベエの投げた虫眼鏡……まことのメガネのお陰だ。

 私は天族と視認し対話をする為に用いているが、本来は幻で隠された物等を見つけ出すもので文字通り真のみを映し出す。メルキオルが特殊な術で姿を隠していても見ることは出来た。

 

「アイフリードが消えた……最初から居なかったのか」

 

 アイゼンやザビーダ様を嵌める為の罠だったか。

 

「言え、アイフリードの居場所を!!お前等聖寮の目的を!」

 

「アイフリードか……あいつは中々の強者だった。

開門以前に聖隷を認識するだけでなく、己の中で区別をつけており穢れを産み出さない……今となっては人質にすらならんがな」

 

「てめえ!!」

 

 いったいアイフリードになにをしたんだ!?

 アイゼンは怒りに身を任せてメルキオルに向かって拳を振りかざすが、メルキオルは瞬時に姿を消して避ける。だが、無駄だ!

 

「何処に姿を消そうが、こいつがあれば逃すことはない!」

 

 アイゼンの手にはまことのメガネがある。

 ここで逃せば何時メルキオルと対峙するか分からず、ここにはアルトリウス達がいない。このチャンスを逃してはならない。

 

「な!?」

 

 このチャンスを逃してはいけないと思っているとアイゼンの背後に突如として現れる幻。

 メルキオルが幻術を使い、さっきまで居たアイフリードが幻で直ぐ様消えた為にアレも幻だと分かっている……そう、分かっている。それでもメルキオルの幻術があまりにも本物とそっくりで私は驚いてしまう。

 

「性懲りもなく、幻だと分かればっ!?」

 

「……そうか、そういうことか」

 

 振り向き、その幻を見たアイゼンも固まる。ゴンベエは納得をする。

 

「……エドナ、様……」

 

 そこにいたのは、1000年後の遥か未来で出会った地の天族、エドナ様が立っていた。

 1000年前となんら変わらぬ姿……この時代にはザビーダ様は居る。エドナ様が居ても別におかしな事はなにもないが、天族を無理矢理使役する組織がある為に頭に不安が過る。

 それと同時にアイゼンが驚いている事に頭の中でなにかが訴えかけている……アイゼンが驚いている理由、アイゼンもまた天族ならば1000年先の時代まで生きていてもおかしくはなく、エドナ様と知り合いでもおかしくはないがなにかが引っ掛かる。

 

 

 

『「ア…メ…ッカ…」』

 

 

 

「……あの時の、ドラゴン」

 

 ゴンベエも私もアイゼンの声を何処かで聞いたことがあった。

 何処で聞いたことがあるのか思い出せず、互いに交友関係がそこまで広くない為に思い出せないのならば、声がそっくりな誰かと出会ったのだろうと片付けていたが違う。

 アレは……そう、エドナ様のお兄様……レイフォルクにいたドラゴンがほんの一瞬だが意識を取り戻した際に聞こえた声と同じ、更に言えば、音を残すレコードと言うものから聞こえる声と似ている。

 

「いったい、なにが、なにがあったと言うのだ……」

 

 アイゼンがエドナ様のお兄様なら、より一層に謎が深まる。

 私達が遥か未来でエドナ様と出会う事を予見してゴンベエに発明品の素材を残していたとしても、あのレコード。最後まで内容は聞いていないが、私達になにかを託そうとしていて、誰かに伝えたい言葉があった。

 この旅はまだまだ続くのは分かっているが、それでもなにかを残さなければならないのかと、それほどまでの出来事がこれから待ち構えているのか……。




スキット 幸せが1番の復讐

ゴンベエ「人の気配は感じねえ……やっぱぶっ壊した方がよかったか」

アリーシャ「あの時、なにをしようとしていたんだ?炎と氷の魔法を使おうとしていたが、この塔はレンガで出来ていて耐熱性は抜群だぞ」

ゴンベエ「大魔導士の極大消滅呪文、メドローアだ」

アリーシャ「メドローア?」

ゴンベエ「燃やす力と凍らせる力はプラスかマイナスかの違いで、同じ力だ。
同じレベルのプラスの力とマイナスの力を合わせて0の力である光の矢を作り出して、放つ技だ」

アリーシャ「0の力、数学上は0は存在するが物理的には無いのでは?」

ゴンベエ「それが生まれるんだよ。オリハルコンだろうがなんだろうが問答無用で消す0のエネルギーが。この塔は爆弾で爆破しても頑丈だが、ただ頑丈なだけならメドローアで破壊は出来る……筈だったんだけど、まさか引火するとは」

アリーシャ「手は大丈夫なのか?その……私達の武器を作るために怪我を」

ゴンベエ「ゆっくりと治ってってるから問題ねえよ」

アリーシャ「……包帯が、焦げたままじゃないか。手にこの様な物を巻いていたら、治るのも遅くなる。私のリボンを」

ベルベット「包帯、出来たわよ。片手だからこれぐらい有れば足りるでしょ」

ゴンベエ「おー、サンキュー」

アリーシャ「ちょうど良かった。今、ゴンベエの包帯を代えるところだったんだ」

ベルベット「包帯を変えるところって、なにか代わりになる物があるの?」

アリーシャ「髪を束ねているリボンを」

ベルベット「……どっちもどっちもね」

アリーシャ「なにがだ?」

ベルベット「気にしないで。それよりも、早く包帯を代えるわよ」

ゴンベエ「足とかなら自力でどうにか出来るが手だからな、頼むわ」

アリーシャ「待て。ここは私が」

ベルベット「私がした方が良いのよ。万が一、足りなかったら補充する事が出来るから」

アリーシャ「……補充?そういえば、さっき出来たと言っていたが」

ゴンベエ「言ってなかったか?この包帯、ベルベットの左腕の包帯だぞ」

アリーシャ「な!?」

ベルベット「なに驚いてるのよ、こんな所じゃ薬屋もなにも無いでしょ。
左腕を変えたら包帯は完全に消し飛ぶけど元に戻したらどんな時でも絶対に包帯が巻かれた状態に戻るわ。それを利用して作ったのよ」

ゴンベエ「お前のその包帯のシステムって、どうなってんだろうな?」

ベルベット「私が聞きたいぐらいよ」

アリーシャ「……私のリボンを使おう」

ゴンベエ「なんでだよ?リボンはそう使わねえだろ」

アリーシャ「既に使用済みの包帯を使うのは、不衛生で汚い!」

ベルベット「ちょっと、汚くは無いわよ!」

アリーシャ「だが、使用済みには変わりはない!」

ベルベット「そりゃそうなるわ。巻かれているのを使っているんだから」

アリーシャ「なら私のリボンを」

ベルベット「明らかに足りないわ。私のは嫌でも使用済みだけど、ほら、新品同様よ。大体、あんたのだって毎日つけてて汗が染み込んでるんだから、どちらにせよ使用済みでしょ。いや、むしろあんたの方が汚いわ」

ゴンベエ「どっちも新品以上の価値があるから、どっちも巻いてくれ」

アリーシャ「……いきなりぶちこむのはやめてくれないか?」

ゴンベエ「もうなんかオチが見えてるからな……どっちも使えるだけありがたいし」

アリーシャ「そういうのじゃなくて……その……」

ベルベット「私にコイツが取られると思ってるの?」

アリーシャ「っ、ち、違う!私は本当に汚いと思ってだな」

ベルベット「はいはい……私はコイツに対してそういうのは無いわ。あくまでも下僕よ」

ゴンベエ「安心しろ、オレもそういうのは無いようにしている……てか、ダメだろう。オレ達的には」

アリーシャ「そう、だな……何れは元の時間に戻らねばならない」

ベルベット「私は愛だの恋だの、そんなのにうつつを抜かしてる暇なんて無いのよ。アルトリウスさえ殺せれば……」

ゴンベエ「……終わった後はどうするんだ」

ベルベット「……後の事なんかどうだって良いわ」

ゴンベエ「そうか……じゃあ、オレから一言。幸せになれよ、ベルベット……ある意味、それが1番の復讐になるからな」

ベルベット「……世界を救おうとする導師を殺した化物を好きになる物好きは居ないわ」

ゴンベエ「例え導師を殺しても、お前は化物じゃねえ。何度も言わせんなよ。
お前は本当は優しいけど、その優しさを表に出せないぐらいに無茶苦茶にされた被害者だろ」

ベルベット「っ……アメッカ、あんたがゴンベエに包帯を巻きなさい。足りなくなったら補充をするわ」

アリーシャ「わかった」

ベルベット「なんなのよ、あいつ……本当に、調子が狂うわ」

アリーシャ「……次回、過去の希望と絶望の未来……ゴンベエ、ここでの出来事は」

ゴンベエ「あくまでも知るのが目的だ……結末がどうあれな」


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過去の希望と絶望の未来

アイゼンの命を奪い救う事についてはベルセリアをやれば深いんだなと思える。
だが、そこまで因縁が無いのを殺るのはどうなのよ……スレイが苦戦してたりしてっけども。


「は!?」

 

 エドナ様(幻)の登場により、意識が変なところにいってしまい緊張感や警戒心がなくなってしまっていた。

 

──バン

 

「エド……消えている」

 

「よ~、囮役ご苦労だったな」

 

「てめえ……」

 

「やっぱこういう感じになってしまったか」

 

 なんとか意識を現実に戻すと突如撃たれるエドナ様。

 上から弾が来たのを見たので、上を見るとザビーダ様がそこにはおりゴンベエがさっき言った様な展開が起きていた。

 

「アイゼン、メルキオルは何処だ?」

 

「オレ達が入ってきた入口だ」

 

「どうやら本当に見えているらしいな」

 

 何時の間に!?

 気が抜けた私はともかくベルベット達は警戒を怠っていなかったのだが、気付くことなく背後を取られていた。

 

「ジジイ、アイフリードを何処に連れ去りやがった!」

 

「ふむ……」

 

 髭を擦り、なにかを考えるメルキオル。

 すると3人の天族の方達が現れる……無論、今までの例に漏れず意志を抑制された状態で……。

 

「ゴンベエ」

 

「ちょっと、時間かかるぞ」

 

 今まで戦ってきた相手と一癖も二癖も違うメルキオル。

 シグレの様に真正面からの戦闘をするつもりはなく、天族の方達を解放する為にオカリナを吹こうにも相手を動けない様にしなければオカリナを破壊される恐れがある。あのオカリナはこの時代に来るのにも使った物、破壊されれば天族が解放出来なくなるだけではない。

 

「いんや、一瞬だ」

 

 警戒心を高め直すと、ザビーダ様は例のアレを撃った。

 自分でなく、意志を抑制されて使役されている3人の天族に対して。

 

「いったいなにを」

 

 どういう理屈かは知らないが天族に撃ち込めばパワーアップする。それを相手に撃ち込むなんて

 

「う、う……私は」

 

「ここは、何処だ?」

 

「何故、こんな場所に」

 

 意思が戻った!?

 

「意思が戻った……それもアレの力か」

 

 これもあの武器の……いや、驚いている暇はない。

 

「天族の方々、貴方達は意思を抑制されていました!今すぐに、逃げてください!!」

 

 意思さえ解放すれば、天族の方々は逃げれる。

 本物そっくりでメルキオルの幻術は幻と呼ぶには難しいが、天族との繋がりが断たれれば弱体化は免れない筈だ!

 

「意思を抑制……そうだ、私は──っがぁ!?」

 

 私の声に反応し、状況を理解しようと頭の中で意識を失う前までを思い出そうとする天族の方。

 完全な無防備で油断も隙もあり、背後から攻撃をした……メルキオルが。しかも、ただ攻撃したんじゃない。

 

「ッグゥルオオオ!!」

 

「聖隷を業魔に!?」

 

 黒く淀んだゴンベエとも私の槍とも違う闇の塊をメルキオルは天族の方にぶつけた。

 ぶつけられた天族の方は苦しみワイバーンへと、憑魔へと変貌した。

 

「まさか、そんな!?」

 

 人が憑魔になる原理を知らないエレノアは驚く……。

 

「そんなじゃない……メルキオルは、奴は……穢れをぶつけたんだ!!」

 

 まさか、こんな事が出来るなんて……メルキオルは憑魔なのか?

 でも、天族を使役しているから穢れていない……違う。憑魔か人間かなんて関係の無い事だ。

 

「メルキオル、自分でなにをしたのか分かっているのか!!」

 

 現代でなら、まだワイバーンの段階でならば浄化して元に戻すことが出来る。だが、この時代ではそうはいかない。

 この時代にはまだ浄化の力が無い。

 

「ほぅ、業魔病の正体について知っているのか」

 

 私の問いかけにメルキオルは答えない……ふざけるな!!

 

「ぬ、ぅ、あああああ!?」

 

「がぁあああ!!」

 

「っ、そんな!?」

 

 攻撃を受けていない天族の方もワイバーンになった!?

 

「死神の力が負の連鎖を起こしたか……大した力だ」

 

「逃がすかよ!!」

 

「待て!!」

 

「って、おい!」

 

 逃げるメルキオルを私とザビーダ様は追い掛ける。

 ゴンベエに制止をされるが私はどうしても追い掛けなければ、メルキオルを捕まえなければならない。

 

「今はいがみ合っている暇はありません!協力しましょう!」

 

「そいつは良いが、お守りはごめんだぜ!!」

 

 なんとしてでもメルキオルを捕まえなければならない。

 来た道を逆走するので坂道を下っていき、逃げていったメルキオルを追う。

 

「アメッカ。お前、なんか遠くから飛ばせる技はあんのか?」

 

「魔神剣という剣圧をぶつける技があります」

 

「魔神剣って、剣術の初歩的な技か……」

 

「魔神剣ではダメなのですか?」

 

「あのジジイは特等対魔士だけあって真正面から殴りあっても強えが、それよりもあの手この手を使うのが1番厄介だ。

現に今も俺達と真正面からやろうとせずに、姑息な手を……なにをして来るか分からねえ以上、何処かで不意を突いて捕まえねえと」

 

「魔神剣で何処まで不意を突けるか……」

 

 魔神剣は剣術の中でも初歩的な技。

 そこから様々な技の派生に繋がる大事な基礎ではあるものの、初歩的な技でありそこまでの期待は出来ない。

 

「って、なんだその槍は!?」

 

「特殊な素材で作って貰った槍です」

 

「槍なのに魔神剣なのか」

 

 拳ならば魔神拳で刃物を使えば魔神剣です。

 とにかく、一か八かの可能性に賭けて使うしか……確か、この槍はベルベットの剣と同じ素材を使っていて、混ぜ合わせた素材が少ないベルベットは神衣の様な姿になり炎を扱えていた。私がこの槍を使おうとした時は失敗したが……!

 

「あの技なら……」

 

「なにかあるみたいだな、頼んだぜ!」

 

 修行も訓練もなにもせず見ていただけだが、これに賭けるしかない!!

 

「闇纏・無明斬り!!」

 

 遠くにいるメルキオルに向かい、紫色の刃に黒い闇を纏わせ、槍を横一線。

 魔神剣の様に衝撃波が飛んでいくのだが、今までと異なり禍々しい闇を纏っておりメルキオルは光の球で撃ち落とそうとするが、逆に光の球を飲み込んだ。

 

詐欺師(フラウド)!」

 

 無明斬りが命中し、空中に体を浮かせるメルキオルを逃さず地面にペンデュラムを突き刺すザビーダ様。

 ペンデュラムが緑色に光ると緑色の鎖が地面から出現し、メルキオルを縛りつける。

 

「ぐっ……」

 

「苦しんでるな……コイツが本物か」

 

「気を付けてください、4人目が居る可能性があります」

 

 浄化の力関係は違うのだろうが、天族の器となるシステムは同じの筈。

 スレイはエドナ様、ミクリオ様、ライラ様の器となっているが、風の天族の協力も得なければならない。そうなれば地水火風4人の天族の器となり、スレイが出来るのならばメルキオルにも出来る可能性がある。

 

「なに、出てきたらコイツで戻せば良いんだよ」

 

「……それもそうですね」

 

 ザビーダ様にはソレがあるから、心配無用だったか。

 

「それにしても、光を飲み込む闇を纏った斬撃を飛ばすとは」

 

「一か八かの賭けでした」

 

 ベルベットの剣には火と闇のメダルという物を使われており、ベルベットは如何にも火属性な姿に変わり火の神衣を彷彿とさせる姿に変わり、今まで以上に火を扱える様になった。

 私にも同じ素材が使われているのならば、あの時、私を包み込もうとしていたのは闇だったからゴンベエが現代で剣を抜けば必ずと言っていいほど使っていた無明斬りを撃ってみた……なんとか使えた……ん?

 

「槍が使えている?」

 

 神衣の様な姿になってはいないものの、槍を使いこなす事が出来た……何故だ?

 瞑想をして心を落ち着かせたり色々としてみたがうんともすんとも言わなかったのに、どうして……いや、今は使える様になった事をよかったと思うだけにしよう。それよりも知らなければならない事が沢山あるのだから。

 

「策士策に溺れるって奴だな、ジジイ」

 

「果たして溺れたのはどちらかな?」

 

 ペンデュラムの紐にグルグルに縛りつけられ、身動きも取れないのにどうして余裕なんだ?

 

「「はっ!!」」

 

 ちょうどワイバーンとの戦闘も終わりかけだったか。

 アイゼンはアッパーをベルベットは憑魔化させた左腕で喰らい尽くす。後、1体で──

 

「なにっ!!!」

 

 ザビーダ様?

 ワイバーンにとどめをさしたベルベットとアイゼンに驚き、さっきまで見せていた勝ったという余裕の表情から怒りの表情へと変貌し、メルキオルの拘束を解いて3体目のワイバーンに攻撃しようとしたベルベットにペンデュラムを鞭の如く振るう。

 

「え……」

 

 こちらの勝ちが決まっていたのに、一瞬にして瓦解した。

 ワイバーンに向かって弾を撃ち込むと、瀕死寸前が嘘の様に甦る。

 

「あっさりと殺しやがって!!それがてめぇらの流儀か!!」

 

 なにを……言っているんだ……。

 

「業魔の力すら増幅するとは……素晴らしい、ジークフリート、求めていた力だ」

 

 拘束から解放されたメルキオルは姿を消し、ザビーダ様の背後を取った。

 両手を翳し緑色の光る弾を作り出すと、目当ての物に……ジークフリートに緑色の光る無数の光線を当てる。

 

「なに!?」

 

「なにじゃねえよ、拘束解いたのお前!」

 

「目的は達した」

 

「っち……随分と便利なスキャン機能だな」

 

「待ちやがれ!!」

 

「奴等を追うぞ!!」

 

 ジークフリートに光を当て終えると、メルキオルは逃げていきザビーダ様が後を追っていき、更にそれをベルベット達が追う……。

 

「あいつ、怒っていたな」

 

 ゴンベエ……。

 

「怒っていた……」

 

 1体は何処かに行ってしまったが、アイゼンとベルベットは憑魔となった天族を殺した。

 ザビーダ様はそのことに対し、思わず拘束を解いてしまう程に怒っていた……。

 

「現代では各地を放浪し、ジークフリートという見たことの無い武器を用いて憑魔を狩っている憑魔狩りの異名を持っている男が過去では憑魔を殺したら怒ったか……逆だな」

 

 逆……そうだ、逆なんだ。

 この時代には浄化の力が存在しない。浄化の力が無ければ、憑魔となった物や人を戻すことは出来ない。

 ライフィセットとエレノア、マギルゥとビエンフーの様に意思を抑制していない関係でも憑魔を浄化でなく殺さなければならない。

 ベルベットがあの剣を普通に使っていて戦っているのにワイバーンのままからして、この槍にも浄化の力が宿っておらず、ゴンベエはこの時代に来てから背中の剣を抜こうとはしない。

 

「アリーシャ、いくぞ……歴史を変えたりする為にここに来たんじゃない。知るためだ」

 

 遅れてベルベット達を追い掛ける。

 メルキオルが形はどうあれ自分の力となっている天族の方々を無理矢理に憑魔にした怒りも槍が使えるようになってよかったという気持ちも無くなり、頭の中に靄がかかる。

 

「アイフリードを救うならば、共に戦えばいいじゃありませんか」

 

 メルキオルは逃げきったのか、塔の前にいたベルベット達。

 ザビーダ様となにかを話しておりエレノアは共闘を提案していた。

 

「そいつは出来ねえ」

 

「どうして?」

 

「てめえ等は目的の為ならば殺せる。

俺は喧嘩屋であって、殺し屋じゃねえんだ。あのジジイは無理矢理に業魔化させた屑野郎だ。ボコボコにしてやるが、命は奪わねえ……それが俺の流儀だ。お前等がこれからその流儀に乗るんだったら協力はしてやるよ」

 

「……海賊の流儀は変えるつもりは無い」

 

 どちらも譲れない流儀がある為に、目的が一緒でも共闘を断る。

 絶対に譲れないもの……そう、絶対に譲れないものなんだ──なら、どうして……

 

「待ってください!」

 

 確かめなければならない。

 

「……その一線を越える気か」

 

「……その為にここにいるんだ」

 

「まだなにか用があんのか?」

 

 コレを聞くのは、怖い。

 聞いてしまえば最後、より非情で辛い現実を見せられて私は更なる絶望へと叩き落とされる……でも、聞かないともっと酷いことになるよ。だけど、踏み出さないと。

 

「もし、憑魔化した人間や天族を元に戻す方法が有るとすればどうします?」

 

 ザビーダ様に対するこの問いかけに最終的にどうなるのかを知っている。でも、どう答えるのかは知らない。

 

「そんなもんが有るのか?」

 

「有るか無いかでなく、有ったのならばどうしますか?」

 

「もしもの話はやめてくれよ」

 

「なら、言ってやろう。お前のそれは迷惑でしかない」

 

「あ?」

 

 ゴンベエ!?

 

「さっきのベルベットやロクロウ、ダイルの様に自我を保てている憑魔ならともかくあの天族がなったのはワイバーン。

完全に自我を失っていて、ただただ暴れるだけの獣畜生になっちまってんだ。殺しておかねえと邪魔でしかない……生かす理由は何処に有る?自己満足でどれだけ迷惑をかける?」

 

「喧嘩を売ってるなら買うぜ?」

 

 いったいなんでそんな怒らせる事を言うんだ?

 

「アイゼンみたいに三枚目も器用にこなす頭がキレる奴だと思っていたが、ただのまぬけか」

 

 心底呆れてるゴンベエ。

 段々とザビーダ様は怒りで自分を制御出来なくなっていき、ゴンベエに対してペンデュラムの鞭を叩きつけようとするが、ゴンベエは颯爽と避けて背後に回り込み膝かっくんをして転ばせる。

 

「てんめぇ……」

 

「オレは喧嘩を売ってんじゃねえんだよ、アメッカと同じ様に聞いてるだけだ。

生かす理由は何処に有る?それに対して、そもさんせっぱじゃなくて暴力で解決してるんじゃ、それこそお前もこっち側なんだよ!」

 

「違う!!俺は喧嘩屋だ!喧嘩の売り買いはするが、命のやり取りはしねえ!!」

 

「だったら、答えろ。流儀を貫く様を見せてみろ!周りに認めさせろ!

お前は見ていた筈だ!メルキオルが天族を無理矢理に憑魔化させたのを!それは己の流儀でもなんでもないのはここにいる奴等全員が理解している!理性を無くして理由もなくただ暴れるだけの存在になったのもだ!」

 

「……業魔になった奴を戻すもんがあるならよ、とっくに使ってんだよ!!

テメーは二十歳そこらの人間だからなにも知らねえが、そんな物はこの世には存在しねえ!!んなもんがあるなら、誰かがとっくに使ってる筈だ!!」

 

「……そうか、それがお前の本音か」

 

 ……それを引き出す為にわざわざ怒らせたのか。

 感情的になったザビーダ様はカッとなり口を滑らせた。本音が聞き出せたとゴンベエが満足しているとしまったと言った顔をする……。

 そうか……憑魔に、いや、業魔となった者達を元に戻す方法が有るとすれば、ザビーダ様はとっくに使っていたのか……。

 

「……ドウセナラオレガモトニモドスカラコロスナッテイエヨ」

 

 ザビーダ様の答えを聞いて、頭の中の靄が晴れる。

 裁けぬ罪を裁ける様にしようと決意をした時と感覚は似ているが、異なる。あの時は清々しい気分だったが今は真逆で、暗く沈んで鬱陶しい。

 

「めんどくせえ真似をしやがって……」

 

「そう怒んじゃねえ。こうでもしねえと、本音を語らねえだろ。まぁ、詫びぐらいは」

 

「顔面を一発殴らせてくれるのか?」

 

「オレは痛いのはごめんだ。もっと良いもんだよ……ということでペンデュラムを貸せ」

 

「っち……」

 

 ザビーダ様の答えを聞いたお詫びか、それともお礼なのか4人に分身するフォーソードを取り出す。

 前みたいに4人に分身をするのかと見守っていると、4人ではなく2人に分身して1人はバイオリンを、もう1人はタクトを取り出す。

 

「一曲、弾こうってか?俺は詩人じゃあねえんだがな」

 

 そうは言うものの、ゴンベエの演奏の邪魔をしない。

 聞き取るつもりなのだと分かっているのかゴンベエはタクトを動かし、バイオリンを弾いた。

 

「……良い曲だ……」

 

 目を閉じ、曲にのみ意識を集中して心に響かせている。

 この曲はなにかを祈り歌の様な曲で不思議と心地の良い風を連想させ、ザビーダ様は心地良さそうにしている。

 

「はい終了」

 

「今、良いとこだろう──ペンデュラムが!?」

 

 もう少し続くと思っていたが、演奏は急に終わった。

 良いとこで終わったので閉じていた目を開けたザビーダ様は驚く。バイオリンの演奏に共鳴するかの様にペンデュラムに光りが収束していき、薄いが青白く光っている。

 

「こいつは……」

 

「期間限定だが、パワーアップをしてやった……まだ顔面を一発殴りたいか?」

 

「……礼は言わねえぞ」

 

「言葉じゃなくて、行動で示してくれりゃそれで良いんだよ……無駄だろうがな」

 

「!」

 

 ゴンベエにペンデュラムをパワーアップをしてもらい、満足したザビーダ様は去っていった。

 

「さてと……お前等、先に帰ってくれ。オレはちょっと残る。港にマーキングしてるから、パッと行けるから心配しなくていい」

 

「残るって、もうここには誰も居ないでしょ?マーキングしてるなら私達をさっさと連れていきなさい」

 

「……行けっつってんだよ」

 

「っ……分かったわ」

 

 ゴンベエに威圧されたベルベットは、アイゼン達と共にワープをせずに歩いて港へと戻っていく……。

 

「はっ……ぁ……ザビーダの為に弾いたけど手が痛い。後、もう濃すぎる。

なんだよ、なんでこんな1日に全てを纏めて持ってくんだよ、おかしいだろう」

 

 ベルベット達の姿が見えなくなると階段に座り、大きなタメ息を吐いて落ち込む。

 時間にしてたった1日、いや、1時間があるかないかといったところで……それは余りにも濃かった。私達の心に大きな爪痕を残す程に。

 

「エドナの兄がアイゼン。ドラゴンになっていて声しか分からなくて、レコードの声も質がそこまでで似ているレベルになってたな」

 

「ドラゴン……」

 

「ザビーダの奴は現代でやってることと今、言ってることは真逆だしよ」

 

「ザビーダ様……」

 

「……お前、聞いてるのか?」

 

「聞いてる……」

 

 ゴンベエの話は聞いている。

 けど、頭が全然回らない……憑魔狩りのザビーダと喧嘩屋ザビーダが同一人物だと思いたくない……。

 

「膝、借りていい?」

 

「……好きにしろよ」

 

 ゴンベエから許可を貰ったから、ゴンベエの膝の上に座る。

 さっき言っていた様に、手を怪我しているから頭を撫でて貰うことはしないけど、それでも落ち着く……けど、頭の中からは消えない。別の事を考えることが出来ない。槍を使えたってゴンベエに言えないよ……。

 

「……ゴンベエ、私、この時代で強くなる事が……ううん、変わることが出来たかな?」

 

「変わったよ……良くも悪くもな」

 

「良くも悪くも……」

 

 そうだよね、変わることは出来たよね。

 自分が憑魔になるかもって感じたことがあったし、ついさっき闇を纏った斬撃を飛ばせた……それと今は──

 

「現代に帰りたいか?」

 

「……分かんない」

 

 アルトリウスの目的とかカノヌシとかまだなにも分かっていない。

 この世界の何処かにいるマオテラスや浄化の力についてもジークフリートを狙っていた理由も分かってない。単純にその理由を知りたいって気持ちもあるけど、それと同時に怖い気持ちもある。

 アイフリードは現代まで名を残しているのに聖寮なんて名が1つも残っていない。それは歴史の闇に葬り去られたもので、いったいなにをしたのか、今のところ世間的には聖寮は国の為に頑張っている組織なのにそれをひっくり返す出来事が起きるんだよね……。

 

「ゴンベエ、もしこの槍を使いこなせる様になればスレイと共に戦えるかな?」

 

「まだやらなっきゃいけねえ事が残ってるが、使いこなせればヘルダルフにも勝てる」

 

「そっか……でも、それだとダメだよね」

 

 スレイがやっていることが間違っているとは言わない。

 けど、今までとなにも変わらない……私はスレイとは異なる方法でどうにかしたい。具体的にはなにをすれば良いのかは分かっていないけど、それでも私に出来ることがある筈だよね。よし

 

「今からでもベルベット達を追いかけよう……あれ?」

 

 体が震えている……なんで?

 急いでベルベット達のところに、ゴンベエがパッと港にワープする事が出来るんだったら、皆、纏めた方が良いし、早く追いかけないといけない……なのに、どうして。

 

「気持ちの整理が色々と追い付いてないんだよ。

ザビーダの事もあるけど、アイゼンの事も……処理できてないし、なにより怖いんだろ。変わることに」

 

「変わることが怖いだなんて、そんなことは」

 

 私が槍を握ったのも、今のままではダメだと自らで変わろうとしたのが始まりなんだ。恐れていては──

 

「力を持ってる強い信念を持っていた奴が堕ちる前と後を見てもか?」

 

 無い、なんて言い切れなくなった。

 

「……なんで、なんで彼処まで立派な信念を持っている方が現代では憑魔狩りをしてるんだろ?」

 

「知らん」

 

「知らんってそんな……」

 

「アリーシャ、オレ達は今、過去を振り返ってるんだ」

 

「うん」

 

 なんで今さらな事を言うの?

 

「この旅が終われば、過去から現代に戻らないといけない。

それまでになにを見るかはオレにもまだ分からねえけど、ザビーダは現代にちゃんと生きているのは確かだ……現代に戻るまでにザビーダが変わる理由が分からなかったら、聞けば良い。いや、聞かないとダメだ。オレ達が去った後をザビーダは知っているんだから……」

 

「……旅が更に延びたね」

 

 色々と知るのと3人目が誰なのかと、ザビーダ様に空白の1000年になにがあったのかを……。

 

「ゴンベエ」

 

「はいはい」

 

 先伸ばしにしただけって言われればそうだけど、なんとかの一区切りをつけることは出来た。

 それでも見ていて心が痛くて苦しくて悲しくてどうしてこんなにも自分が無力なのかなって思っちゃう。だから、ほんの少しだけ泣かせて貰うね。




スキット 槍が使えないのに使えたのは……

アリーシャ「さっきザビーダ様に弾いていた曲なんだけど」

ゴンベエ「物凄く手が痛いから弾かねえよ」

アリーシャ「違うよ、どういう効果があるのかなって。ゴンベエが弾いたってことはただの曲じゃないんだよね?」

ゴンベエ「オレはただの曲も弾けるっつーの」

アリーシャ「ペンデュラムが光り輝いていたけど」

ゴンベエ「アレは背中の剣と同じ力を与える祈り唄みたいなもんだ」

アリーシャ「同じ力って、浄化の力を!?」

ゴンベエ「たま~に言ってるけど、オレのは浄化じゃなくて退魔の力だから」

アリーシャ「だがどちらにせよ人に戻せる……そんな力を限定的とは言え与えたら、その、歴史がおかしくなったりするんじゃないの?」

ゴンベエ「問題ねえよ……現代で会ったザビーダは既にオレ達と出会ったザビーダだ」

アリーシャ「えっと……あ、そっか。既に過去に渡った私達と出会っていたんだ!じゃあ、ゴンベエが風神の唄を弾いたのも」

ゴンベエ「現代では既に過去の出来事として起きたことになっている」

アリーシャ「……ややこしいね」

ゴンベエ「タイムパラドックス物なんてややこしいから無理に理解せずに、そうなって良かったって思えばいいんだよ。それよりも風神の唄はお前の槍を完成させる為に残っている行程の1つだから、弾ける様になれよ」

アリーシャ「あの曲が……あ、そうだ。聞いて!あの槍を使える様になったんだ!」

ゴンベエ「あの槍を……マジで?」

アリーシャ「ああ、見ていてくれ……闇纏・無明斬り!……あれ?」

ゴンベエ「それただの魔神剣じゃねえか、無明斬りは剣に闇を纏わせねえと」

アリーシャ「も、もう一度……闇纏・無明斬り!……」

ゴンベエ「魔神剣だな」

アリーシャ「そんな、どうして……あの時は使えたのに」

ゴンベエ「あの時って言うと、ザビーダと一緒にメルキオルを追っかけていた時か?」

アリーシャ「一か八かで出たから、本当に偶然に出た……でも、この槍から闇を出そうと思えば簡単に出せるのに」

ゴンベエ「そん時と精神状態が違うからじゃねえの?」

アリーシャ「メルキオルを追いかけた時は、無我夢中で……許せないと、絶対に捕まえると思ってたのに」

ゴンベエ「絶対に捕まえる……何時ものアリーシャだってそういう事を思う。けど、あん時は天族を問答無用で憑魔化させたメルキオルにカッとなってた……カッとなっていたから使えた……カッとなっていたからか」

アリーシャ「ゴンベエ?」

ゴンベエ「……作っておいてなんだが、ロクでもねえものを作り上げちまったな」

アリーシャ「?」


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幸せは幸せな時以外に理解する

「闇纏・無明斬り!……出ない」

 

「火事場の馬鹿力的なので使えてたんだ、諦めろ」

 

 ゴンベエの胸の中で泣き、港に戻り本来の目的地であるイズルトを目指す。

 壊賊病に誰一人倒れることなく、風が吹かない等のアクシデントもなく順調にいけるとのことで、その間に私はゴンベエの闇纏・無明斬りの練習をするのだが全くといってでない。

 あの時は槍に闇を纏っていたのだが、今はうんともすんとも言わず、ベルベットの様に姿を変えようと試してみると闇に飲まれそうになる。

 

「火事場の馬鹿力……心の力の1つだが、自由自在に扱えないか」

 

 切迫した状況に置かれると、普段では出せない力を出せる。

 あの時の私の心理状態は普段とは大きく異なっていて再現しようにも出来そうにない。あの状態を常に維持するというのも無理で振り出しに戻る。あの時のは偶然、一時的な物だ。

 

「……」

 

「あそこにいるのは……」

 

 コンパクトを手に難しい顔をしているエレノア。

 聖寮に向かっている場所について報告をしているのかと思えば光る玉は無い。なにかを考えているようで……手に取る様に分かる。

 

「疑っているのか?」

 

「!……なんですか、急に」

 

「少し前までの私と同じ顔をしていたから、気になったんだ」

 

 エレノアがしていた難しい顔は、なにかを疑っている顔だ。

 

「貴方と同じ顔、ですか?」

 

「ほんの少し前まではそんな顔をしていた……本当に少しの間だけだが」

 

 今はもう、それを解決する方法があるから滅多にしない。それを解決する方法はエレノアには……。

 

「なにを疑っているんだ?」

 

「疑うだなんて、そんなこと」

 

「……私達が今から知りに行くのは導師アルトリウスがやろうとしていることだ」

 

「!」

 

 私と会話をしたくないのか、そんなことは無いと否定したいのかは分からないのでアルトリウスの名を出すとビクリと目に見えて反応する。アルトリウスを出されたことによりエレノアは否定しなくなる。

 

「……世に平和と秩序をもたらす為に聖寮はあります。聖寮やメルキオル様の行動はアルトリウス様の深いお考えに従ってのもの」

 

「それなのに疑っているのか」

 

「疑ってなどはいません!!ただ……不安と違和感が」

 

 それを疑っていると言うじゃないか。

 そう言おうとするが止める。言っても違うと否定されるだけで、疑っていると納得のいくことは言えない。話題を変えよう。

 

「エレノアはどうして聖寮に入ったんだ?」

 

「……業魔が憎いからです」

 

「す、すまない!その、聞いてはいけない事を」

 

「余計な気遣いはいりません」

 

 聖寮に入った理由を聞けば表情を変えた。

 さっきまでしていた難しい顔と異なり怒りを露にしている顔で、地雷を踏み抜いた。触れてはいけない部分に触れた。

 

「十年前に私の村は業魔の群に襲われ全滅しました」

 

「お前、生きとるやん」

 

 ゴンベエ、黙ってくれ。

 

「その混乱の中で、たった1人の家族だった母が……残されたのはこの手鏡だけでした。

こんな思いをするのは私だけでいい。だから業魔を討つ為に私は聖寮に入りました……!情けも気遣いも無用です」

 

 まだ、なにも言っていないのだが。

 エレノアは逃げる様にこの場から去っていく……。

 

「なにかを言われるのが怖くなったな、あいつ」

 

「……信じたいんだ」

 

 憑魔は並大抵の人間ではまともに相手をすることが出来ない。

 並大抵じゃない人間はいるにはいるが、それは本当に一握りで基本的には天族の器とならなければならない。

 その為には肉眼で天族を見れるぐらいに霊応力を持っていなければならないのだが、この時代では何故か全員が見ることができ、形はどうあれ憑魔を退ける組織がある。

 私とエレノアと似ている所が多々ある。

 1番の違いはゴンベエが居るか、居ないか。私には側にゴンベエが居てくれたから、疑う事が出来た。正しくない道の歩き方を知れた。だが、エレノアは──

 

「それは止めろつってんだろ」

 

 考え事をしているとゴンベエに怒られた。

 

「難しい事とかんな事を考えても無駄だ……今から答えを知りに行くんだから」

 

「……私は幸せ者だ……なによりも、ゴンベエと出会えた事が」

 

「お前さ、言いたい事は分かるんだけど間を飛ばしすぎだ」

 

 なにを飛ばしていると言うんだ?

 色々と大変な事があるがゴンベエと出会えた事は1番の幸せなんだ。

 

「おーい、もうすぐ着くぞ」

 

「さぁ、行こう」

 

「……あっさりと知れたら良いんだがな……」

 

 自分の境遇を幸せだと改めて感じると本来の目的地にやっと辿り着く。

 

「なにあれ……」

 

「ペンギン……見たことの無い種だな」

 

「アレはペンギョンですよ」

 

 船から降りると見たことの無いペンギンの様な生物がいた。

 過去の時代なだけあって、現代では中々に見ない生物が多いな。

 

「この地方独特の魚鳥類でお肉がプリプリでトマトシチューに入れると美味しいんです」

 

「へぇ、どんな味がするんだろう?」

 

「……あれを食べるなんて、野蛮ね」

 

「貴女に言われたくありません……母の得意料理だったんです」

 

「……そう」

 

 ペンギョンが意外にもエレノアの地雷を踏むきっかけとなり、少しだけ重い空気になる。

 ベルベットも悪いことをしたと思っているのかそれ以上はなにも言わない。

 

「ペンギョンで野蛮となればフグの毒袋を食べる石川県はいったい……」

 

「毒を食べるの!?」

 

「糠漬けにして食うらしいぞ

どうやって毒を除去してるかイマイチ分かってないが、毒を除去できていて珍味として知られている」

 

 それをはじめて試した人は凄まじいな……。

 

「マギルゥ、例のグリモワールとはどんな奴だ?」

 

 食べ物の話はそこで止め、マギルゥに目当ての人物の特徴をアイゼンは訪ねる。

 ざっと見ただけでこの辺りにはかなりの人が居る。そこから見つけなければならない。ここにいない可能性を頭に入れながらだ。

 

「そうじゃの端的に現すのであれば……『ふぅ、はぁ、あっそ』じゃの」

 

「全然分からん」

 

「やれやれ想像力に乏しいの。グリモ姐さんは例えるならばアンニュイな有閃マダムの黄昏じゃよ」

 

「……お前、この状況で人間性を答えてどうすんだよ」

 

 今、答えなければならないのはそのグリモワールと言う人の容姿で性格とかじゃない。

 知らなければならないことだが、それは今ではないと言うのに……いや、やめておこう。ゴンベエも呆れてそれ以上はなにも言わないんだ。

 

「ベルベットともエレノアともアメッカとも違う女性って事かな?」

 

「坊よ、何故そこでワシを省く?」

 

「ハハハ、違いねえ。オトナを探せばいいんだな」

 

「うん、探すのは大人の女の人」

 

「……アバウト、圧倒的にアバウトすぎる」

 

 マギルゥの言っている事を理解していく一同に頭を抱えるゴンベエ。

 

「アバウトだが、名前が分かっている。この辺りに居るなら聞き込みをすれば探し出せるだろう……お前の国では違うのか?」

 

「カメラがあるからな」

 

 カメラか……確かにそれがあれば大きく異なるな。

 現に私達がこうして堂々とイズルトの港に入れるのもカメラが無いお陰だ。私達を撮った写真を大量に刷って世界中にばらまけばそれだけで私達は表を歩けなくなる。

 ゴンベエの国では逃亡している犯罪者は顔写真をどうにかして用意して駐在所の様な所に貼っているのが当たり前になっているらしい。

 

「写真があれば無駄な手間は省ける……あ、そういえば」

 

 探し人を見つけるのは苦労をする。

 けど、現代でザビーダ様を探す為に色々と歩いたりしたが、その時と比べれば簡単な事だ。

 

「マギルゥはそのグリモワールに会ったことあるんだろ」

 

「まぁの」

 

「どんな見た目だ?」

 

「口で説明するのはそれはそれは大変での」

 

「安心しろ、口じゃなくて体で教えてもらうから」

 

 な、なにをするつもりだ!?

 僅かだが口元が緩んでいるゴンベエ。明らかになにかよからぬ事をしようとしている顔で……まさか!

 

「マギルゥに拷問を、あんなことやそんなことを!!」

 

「お前とベルベットはイケるけどもマギルゥでは無理!!ということで、モシャス!!」

 

 足や脇に羊の好物や蜂蜜を縫って、痛みとはまた別のジャンルの拷問をするつもりなのか!?

 ゴンベエは何処からか手にした粉をマギルゥ目掛けて投げつける。

 

「ぎょえ!?」

 

「……お前、ふざけんのもエエけえどもうちょい言えよ」

 

 ノルミン?

 粉を投げつけられたマギルゥはノルミンに姿を変えていた。

 知的な印象はあれども、ノルミンなのは誰もが予想外でゴンベエは文句を言いながら写し絵の箱でノルミンになったマギルゥを撮影して元に戻す。

 

「中々に面白い経験をしたのぅ」

 

「こんな状況でもまだそんな事を言えるのか……もっと自分の気持ちをさらけ出したりは出来ないのか?」

 

 こう、チャラい?軟派な性格をしている人でも自分らしさがある。

 怠惰でダメなところが多いゴンベエも自分と言うものをちゃんともっている。それなのにマギルゥはそういうのを見せず、さっきまでの事も面白い事だったと一笑いで終わらせようとしている。

 

「自分の気持ちか……生憎、当の昔に砕けたんじゃよ。バリーン!グシャーン!ドゴォーンっての」

 

「気持ちが砕けた?」

 

「……さっさと街へ行くわよ」

 

 マギルゥの言っている事がよく分からないまま、街へ足を運ぶ。

 さっきマギルゥを変身?させた姿がグリモワールで、写真があるからと思ったのだがすんなりといかない……そういえば

 

「ノルミン天族を余り見かけないが、捕まっているのか?」

 

 アタックさんはこの時代で私達と出会った様な事を言っていた。

 だけど、この時代に来てからは基本的には意志を抑制された天族の方達ばかりで顔も知らない人達ばかり。唯一知っているのはザビーダ様だけで、エドナ様はこの時代の何処かに居るのは確かで、ミクリオ様やライラ様はどうしているのだろうか?まだ生まれていないのだろうか?ゼンライ殿もどうしているだろうか?

 

「捕まっていない聖隷はイーストガンド領の何処かに身を寄せていると聞いております」

 

「イーストガンド領……」

 

 地図的にイズチがあった場所と被るな。

 

「あいつは!」

 

 顔写真があれども手懸かりは中々に見つからず、少しだけピリピリしているとなにかに気づくベルベット。

 アレは……確か、アルトリウスと対峙した際にいた後から駆け付けた男性と女性……女性の方は包帯を着けている。

 

「姉上、本当によろしいのですか?」

 

「心配していただきありがとうございます。ですが、問題はありません。着任と同時に貴方の指揮で皆が動く様にしておきました」

 

「……助かります。

でも、姉上の手際に比べられて僕の至らなさが皆に知られそうだ」

 

「バカなことを。貴方にはとくべつな力と才能があります

パラミデスへの派遣もアルトリウス様が期待してくれたからこそ……なによりも、私が貴方を信じているからこそ安心して目の治療が出来るのです」

 

「姉上……」

 

 目元に包帯を巻いていたのは、目が見えなくなったからか。

 あの時、ゴンベエにくらった一撃で頭が揺さぶられて目から汁が出ていたな。

 

「もう行かないと」

 

「道中お気をつけて……なにかあれば何時でも駆けつけます」

 

「逆よ……なにかあれば、目が治った私が貴方の元に駆け付けます」

 

「姉上……」

 

 なにか、見てはいけない様なものを、野次馬の様な事をしている気分だ。

 

「そうそう、ハリアの業魔には気を付けてください。思いの外手強くて既に手負いの者が何名も出ています」

 

「心得ました」

 

 そういうと女性の方は、姉は去っていき、弟の方も顔が見えなくなると何処かに向かった。

 よかった……この場にいることは気付かれていない。

 

「ハリアで業魔が暴れているのか」

 

「それが本当なら、利用できそうね」

 

「利用って、ノルミン探しが最優先だろ」

 

「その通り。グリモ姐さんを探さねばならん……にしても、奇遇じゃのー。ワシ達がここに来たと同時にオスカー参上とは」

 

 確かに偶然だ……だが、本当に偶然だ。

 

「エレノアは無関係だ」

 

 ゴンベエとライフィセットと私以外がエレノアに視線を向けるが、完全にエレノアは白だ……だけど

 

「さっき、なにを考えていたんだ?」

 

「なんの事ですか?」

 

「あの二人の会話を聞いて、一瞬だけ考える素振りを見た」

 

 あの二人の会話に特におかしな点は見当たらなかった。

 聖寮は私達を年中追い掛け回して殲滅する様な組織でなく憑魔を退治したりするのが主な仕事で、パラミデスと言う場所に派遣された事を聞いてもおかしな点は無い。

 それなのにエレノアは一瞬だけなにかを考える素振りを見せている。どうやって私達を出し抜いて、と言った事ではなくそこになにかあったか?と言う疑問を考えていた。

 なにを考えていた?

 

「……パラミデスにロウライネの様な聖寮の施設はありません。

聖寮にも色々と部隊がありますが、少なくともオスカーが派遣される様な場所では無い筈です」

 

「……またそのパターンか」

 

 私はこの時代の住人でなく情勢も詳しくないが、エレノアは詳しい。

 それなのにエレノアはなにも知らされていない。誰が何処に派遣された事をいちいち知らせる必要は無いが、派遣された理由が分かっていない……エレノアにはなにも教えていないのか。

 

「あんたが呼び出したわけじゃないようね」

 

「……逆に聞きますが、証拠はあるんですか?」

 

「死ぬまで従う約束でしょ?」

 

「おいおい、今ここでお前達が殺しあってどうすんだよ?」

 

「裏切り者と厄介な業魔がいっぺんに片付くだけだ」

 

 一触即発のピリピリな空気で何時争うかが分からない。

 さっきの姉弟の様にもう少し仲良くは出来ないかと思うが、ここにいるのはあくまでも利害の一致等でありスレイとミクリオ様の様な関係ではない……けど、もう少しは仲良くしてほしいものだ。

 

「ああ、アメノチ様人形か!それならあっちで売ってるよ!」

 

「人形?」

 

 グリモワールさん探しを再会し、写真片手に聞き込みを再会すると別の情報が出てくる。

 聖主アメノチ、アメノチと言えば五大神アメノチだが……。

 

「あの、すみません。こんな天族、聖隷を見ませんでしたか?」

 

 よく分からないから、まずはその人形を売っている店主に聞いてみよう。

 

「おぉ、凄い絵だな……あっと、すまん。聖主アメノチ様だな、見たぞ。威厳があって怒っていたな。当然と言えば当然だけど?」

 

「怒っていた?」

 

 いったいなにをしたんだ?

 

「サウスガンド領は、聖主アメノチ様を信仰していたんだが聖寮がそれを禁止にしたんだ」

 

 ……聖主アメノチが誰なのかは不明だが、天族であるのは確かだ。

 五大神アメノチと同一と考えてもおかしくはなく、信仰をしていれば加護が働く……それはこの時代でも適用する筈なのに、聖寮はいったいなにを企んでいるんだ。

 

「その事について申し訳ないって謝ったけど、なにを言っても『はぁ…ふぅ…あっそ』と片付けられてしまってな」

 

「それって!!」

 

「おお、まさにグリモ姐さんじゃ!土産屋よ、そのカミサマは何処におった?」

 

「この先のマクリル浜だけど」

 

「渚に黄昏ているとはなんともまぁ、グリモ姐さんらしいの」

 

 目当ての人物の居場所を知り、街を後にして私達はマクリル浜へと向かった。




スキット ライフィセットくんorライフィセットきゅん

ベルベット「さっきのアレはなんなの?」

ゴンベエ「アレって?」

ベルベット「マギルゥをノルミン聖隷?に変身させたやつよ。あんたのワケわからない力なの?」

ゴンベエ「オレの力じゃなくてこの魔法の粉の力だよ」

ライフィセット「ゴンベエの力じゃないの?さっき、モシャスって言ってたけど」

ゴンベエ「それは勢いというか一時のテンションに身を任せて言っているだけだ」

ベルベット「その粉は私の腕みたいに姿形を変える事が出来るのよね……カノヌシがなんなのか分かって、もう一度アルトリウスと対峙するにはまた厄介な結界だなんだのあるから、コレを使えば簡単に」

ゴンベエ「それは無理だ」

ライフィセット「どうして?変化したら、見つかったりしないでしょ?」

ゴンベエ「例えば、オレがベルベットに」

ベルベット「ストップ!」

ゴンベエ「んだよ?」

ベルベット「私で例えるのは止めなさい。
どうせあんたの事だから、実際に変身するんでしょ?なにが悲しくて自分を見ないといけないのよ」

ゴンベエ「じゃあ、エレノアで例えるぞ」

ベルベット「……アイゼンとロクロウが居るでしょ」

ゴンベエ「アイゼンとロクロウよりもベルベットとかエレノアの方が例えやすいんだよ。この粉ではあくまでも見た目が変わるだけで、根本的な部分が変わらない。
憑魔を感知する結界とか天族にしか壊せない結界とかは普通に引っ掛かったりするし能力は変わらない。ライフィセットが筋骨粒々のスキンヘッドのムッキムキな男に変身しても筋力はパワーアップしないんだ」

ライフィセット「見た目だけしか変わらないんだね」

ゴンベエ「それだけじゃなくて変身する対象をよく理解してないとダメなんだよ。
体重、身長、髪の長さ、髪の質、服装、脛毛、その他諸々を理解してないと変なのになって仮に変身しても何処か違うところが生まれちまう……」

ベルベット「街中に溶け込むぐらいでアルトリウスに行くのには使えないか……」

ゴンベエ「他にもまだまだデメリットはあるぞ」

ライフィセット「まだあるの!?……でも、本物そっくりで同じになれない以上のデメリットってなにかな」

ゴンベエ「と言うわけで、ライフィセットにモシャーース!!」

ライフィセット「え、うわぁ!?」

ベルベット「っ、あんた!!」

ゴンベエ「怒るな、粉をぶつけただけだ」

ライフィセット「大丈夫だよ、ベルベット。ちょっと驚いたけど別になんとも──!」

ベルベット「……大丈夫そうね」

ライフィセット「う、うん、そうだよ。なんともないよ!!」

ベルベット「そう。こいつは後で〆と……さっきマギルゥはノルミン聖隷になったのにライフィセットはなんともなっていない?」

ライフィセット「……」

ベルベット「さっきからモジモジして、なんともないんじゃないの?」

ライフィセット「大丈夫、大丈夫だから!」

ベルベット「じゃあ、どうしてモジモジしてるのよ」

ゴンベエ「ライフィセットくんはライフィセットきゅんになったんだ……違和感はねえけど」

ベルベット「ライフィセットが、ライフィセットに?」

ゴンベエ「違う。ライフィセットくんがライフィセットきゅんにだ」

ライフィセット「ゴ、ゴンベエ!!!」

ベルベット「ライフィセットくんがライフィセットきゅん……まさか!?」

ゴンベエ「女の子にした」

ライフィセット「なんか足りなくて変な感じがするから早く戻してよ!」

ゴンベエ「見た目が大きく変化するから、その分感覚も変わるんだ。ライフィセットがロクロウに変身しても、ロクロウとの体格差に違和感を感じる。男から女に変わっただけでもライフィセットきゅんは違和感を感じてるだろ?」

ベルベット「……服装が変わっても違和感を感じるの、それ?」

ライフィセット「ベ、ベルベット?」

ベルベット「近距離で戦わないあんたが違和感ありまくりなら、私達には使えないわ……先ずはメイド服を」

ライフィセット「服装を変えるんだったら、別に魔法の粉を使わなくても」

ベルベット「いいの。ほら、変化するわよ。ゴンベエ、写し絵の箱を貸しなさい」

ゴンベエ「イエス……頑張れ、ライフィセットきゅん!ベルベットが可愛い子を着せ替え人形にする顔になってるから、満足させろ……じゃないとオレが〆られる」

ライフィセット「僕は可愛くなんかないよ!!……ううっ……股間に違和感しか感じないよ」


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古文は現文に翻訳してもややこしい

「あれって」

 

「アステロイド」

 

 マギルゥの目当ての人物であるグリモワールと思うノルミンをマクリル浜で見かけたはいいものの憑魔に囲まれていた。

 一体だけならば何時もの様にデラックスボンバーでどうにかするけど、結構な数が居るから大きめのアステロイドをぶつけて殺る。面倒な手間はいらん。

 

「……相変わらずね」

 

 戦おうとした自分よりも早くに攻撃をしてほぼ全ての憑魔を殺ったので呆れるベルベット。

 そこで普段からしっかりと戦えと言わないのは一線を引いている証拠だと感じる。

 

「まだ大きいのが居るわ……命令よ、倒しなさい」

 

 めんどくさいのが居ないから、あっさりとしてんな。

 コレがゲームならばイベント前のちょっとしたボス戦的なので、誰がどう倒そうが関係無いんだろうな。

 ベルベットの命令を受けたので、蜥蜴の様な憑魔の群のボスであるデカい蜥蜴を分割していない塊のアステロイドで貫いて倒す。

 

「あんたがグリモワール?」

 

「ふぅ……」

 

 あ~そういうタイプか。

 

「頼みたいことがあって探したんだけど」

 

「はぁ……あんた誰?」

 

「ベルベット、魔女の知り合いよ」

 

「ああ、そう……」

 

 ついさっき憑魔に襲われていたのが嘘の様なマイペースぶりを見せるグリモワール。

 ベルベットの声に反応はしているものの耳は傾けておらずどうでもよさげだ。

 

「グリモ姐さん、ご無沙汰じゃのー」

 

「ご無沙汰でフー!」

 

「ああ、あんた達……相変わらずちんちくりんね」

 

 マギルゥとビエンフーにすら薄い反応。

 こりゃ厄介な相手だな。

 

「どういう関係なんだ?」

 

「魔女の修行をしていた頃の先輩なんじゃよ」

 

「で?」

 

「中々に興味深い古文書があっての、解読を頼みたいんじゃ」

 

「へぇ、あんたが他人に肩入れをしてるなんて珍しいじゃないの」

 

「ま、暇潰しにはちょうどよくての」

 

 マギルゥが肩入れをしている事に驚いている?

 こういうタイプの人間は使命感とか損得勘定とか道徳心で動くんじゃなくて面白いか面白くないかで決めるサイコパスに近いタイプの筈だろ?

 

「あたしはヒマじゃないのよ」

 

「そこをなんとかお願いしますでフーー!!」

 

「そういうのをやってないわ」

 

「……なんか、ゴンベエみたいだ」

 

 ちょっとアリーシャ、オレはもうちょっとお前の頼みを聞いてるぞ。

 

「なら、頼まないわ……やれ」

 

 ジャキンと剣をグリモワールの喉元に出すベルベット。

 もうちょっと何段階か踏めよ……とはいえ、通用はしなさそうだが。

 

「……殺れば?」

 

「脅しでも冗談でもないわよ?」

 

「でしょうねぇ……」

 

「……っち」

 

 諦めたか。剣を出してもすんなりといかない相手だと分かると剣を直す。

 マギルゥが姐さんと着けているだけあり、酸いも甘いも知り尽くしているのか精神が大人であり多少の事では動じない。こんな状況なのにベルベットの目を見て呆れている。

 

「あんたみたいな目をしてる子と関わるととんでもないものを背負わされるのよ。若かった頃ならともかく、この年になるとそういうのは重ったるくて嫌になるわ」

 

「この歳って、幾つなんだ?」

 

「それ以上踏み込むと、あんたのケツに花火を突っ込むわよ」

 

「応……これは失敬しました」

 

 怖いな。

 過去に聖堂が出来た時からライラの実年齢を逆算してみようとした際に軽く炙られたが、その時は別に怖くなかったが、これは怖い。ロクロウも若干ビビってる。後、今までで1番の反応だ。

 

「取り付く島も無いようだな」

 

「南の島なのに、ごめんねぇ……」

 

 さて、どうするか。

 グリモワールなら古文書の読み方とかを知っているが、それを本人はやりたがらずに力でどうこう出来ない。本人がやりたいと思ってやってくれないとダメだ。

 

「古代語、どうやったら読める様になる?勉強する本とか無いの?」

 

「へぇ、自分で勉強して読む気?」

 

「うん……僕、本が好きだし、昔の事とかしりたいし……なによりも必要なんだ」

 

「随分と熱心ね」

 

「背負いたくないなら、僕が読めるようになって……そうすればベルベットの力になれるから」

 

「ライフィセット……」

 

「授業料、高いわよ?」

 

「……金を使う種族か?」

 

 あんた完全に世捨て人な感じだよな?

 

「冗談よ……その子の健気に免じて読んであげるわ。古文書はどこ?」

 

 なんか掴みづらい人?だな。

 ともかく、オレ達を見て興味無しから協力にまで漕ぎ着ける事まで出来た。後は解読するだけだ。

 

「古代アヴァロスト語……また、厄介なものを。

本もかなり痛んでるし、所々読めないわね。これは時間が掛かるわ」

 

「さらっと片言だけじゃ無理なのか?」

 

「普通の古代語なら現代語に訳せば良いが、中には出来ないのもある」

 

「じゃあ、どうやって解読すんだよ?」

 

「その……なんとなくと勘だ……」

 

 そんな解読法って。

 いや、でも文の長さとかから逆算して文の内容を当てるやり方とかテストの時に使ってるし、否定は出来ないのか。

 

「あら、詳しいのね」

 

「一応は見て、過去に自分で勉強したりしたが……読めなかった」

 

「そう簡単に読めたら、考古学なんて発展しないわ」

 

「時間が掛かるか……ゴンベエ、船をマーキングしてるか?」

 

「してるには、してるけど……連れてくと面倒な事になるぞ?」

 

 聖主アメノチ様人形を土産屋の主人が売ってた。

 写真を見せても街の人達がそこまでピンと来ていなかったから、まだ知名度はそこまでだろうがグリモワール人形の販売を停止しなければ、アメノチ様と間違われるぞ。

 

「さっきの失言、忘れてあげる……この先にハリアって村があるわ」

 

「応、かたじけない」

 

「さっさと行きましょう、そのハリア村とやらに」

 

「そんな、怒るなよ」

 

「怒ってないわ」

 

 何処がだよ。

 すんなりと行かなかったことに若干だがベルベットは苛立っている。多分だが、カノヌシの正体が分かったりしたら今度はカノヌシをどうのうこうのでアルトリウスがより遠退くぞ。

 ハリア村の宿に足を運び、グリモワールに読んで貰うのだが解読に時間が掛かるのでライフィセットを除いて各自自由行動を取る……のだが

 

「狙って来やがったか」

 

 宿の前に金色の狼が座っていた。

 宿に入る前は居なかったくせに、居やがってからに……

 

「ゴンベエ、早く狼になれ。時間潰しには最適じゃ」

 

「へーへー」

 

 ちょうどと言うかライフィセット以外はこの場にいる。

 狼の姿になり、遠吠えで共鳴をして何時ものなにもない真っ白な場所へとやってくる。

 

「汝、力を求めるか?」

 

「そうじゃの~」

 

「あ、求めるらしいんで」

 

 何時もの骸骨が来て、何時もの問いかけが来たのだがマギルゥが焦らす空気を出していたので代わりに答える。

 

「……私にもなにか教えなさい」

 

「汝には技を授けた」

 

 前回技を授けて貰ったばかりのベルベットは技を要求する。

 

「あの技は強いわ。けれど、実用的じゃないのよ」

 

「ならば変えよ。己の手で」

 

 基本となる技は既に授けている。

 後はそれをどうやって自分の物にするのか、自分に合う技に改造するのかはベルベット次第か。

 

「なによりも汝の刃は届く。届けられる事が出来るかどうかは別だが」

 

「……そう」

 

 新しい剣はアルトリウスを殺せる武器。

 ただし殺せるかどうかは、ベルベット次第か……ところで、マギルゥになにを教えるんだ?

 今までは刃物だったが、マギルゥの武器って物凄く特殊で基本的には術での攻撃だよな?

 

「で、ワシにはどんな技を授けてくれるのかの?」

 

「汝に授けるのではない。汝等に授けるのだ」

 

 そういうとマギルゥの体が光り、ポンっと飛び出るビエンフー。

 

「バッド!?ボクも戦うのでフか!?」

 

「無論、この技は二人でしなければならない技だ」

 

 骸骨騎士は腕を交差させて胸元まで引き寄せ、弧を描く様に腕を戻した後に右手を下にして両手を重ねる。って、そのポーズは。

 

「ギデオン大司祭がいた礼拝堂で使っていた技に似ているな」

 

 アリーシャも見覚えがある動き。

 最初の構えから手を突き出すところまでは一緒だが、そっからは違っていた。あん時はアクのゼンリョクポーズを取っていたが、ここからは違った。

 両手を合わせて頭の上に持っていくと、右左右左とクネクネとまるで稲妻を表すかの様に手を動かして頭の上に左手右手と順番に持っていった後、頬をぷにぷにする動作をして最後に両手を頭の上に持っていきウサミミを作り、片足を前に出す。

 

「なにも起きんぞ?」

 

「お前もしろ」

 

「ボクもでフか?」

 

 その技はビエンフーも動きをしなければならないな。

 骸骨騎士に言われるがままにさっきと同じポーズを一緒にするマギルゥとビエンフー。同じタイミングでポーズを終えると、ビエンフーとマギルゥに目に見える程のオーラが出現する。

 

「力が、力が涌き出てくるでフ……マギルゥ姐さん!」

 

「うむ、やるぞ!」

 

「見せてやるでフよ。ボク達のゼンリョクを……あれ、マギルゥ姐さんなんで掴んで」

 

「試しに行ってこいビエンフー!!」

 

「ビ、ビエーーーーン!!」

 

 マギルゥに抱えられてぶん投げられるビエンフー。

 するとビエンフーの体から電撃が放出されていき、ビエンフーの形もあいまってか電撃の球の様な物に変化して骸骨騎士が出した大岩にぶつかり稲妻が落ちる。

 

「マ、マギルゥ姐さん、そこは七色の雷で1000万パワーな技を」

 

「お主にはこういうのがお似合いじゃよ。名付けて、必殺のビエーンシュート」

 

「シュートってまさか!」

 

「次からは、オーバーヘッドじゃよ」

 

「そ、そんな……ガクッ」

 

 マギルゥのオーバーヘッドで推進力を増した必殺のピカチュートならぬビエーンシュートか。

 なんともまぁマギルゥらしい技だな……やべえな、今です自爆しなさいを思い出してしまうな。

 

「次は、汝の番だ」

 

「あの……その前に1つだけ聞きたいことがあるのですが」

 

 前と同じく技の伝授を終えるとアリーシャに技を授けに行くのだが、待ったをかける。

 

「この槍をどうすれば使いこなせるか、私に足りない物はありませんか?」

 

 槍の力の引き出し方か……どうすればいいのか、ザビーダと共闘した時にほんの少しだけ力を引き出せた。

 その時に一時的とは言えアリーシャに足りないものが満たされていて、今は満たされておらず使えなくなっている。足りないものがなんなのか、素材を砕くことが出来た骸骨騎士なら分かっているのかと聞いてみる。

 

「……お前は何だ?」

 

「私、ですか?」

 

「狼か?猿か?蝙蝠か?鳥か?」

 

「私は人間です」

 

「では、問おう。人間とはどんな生き物だ?」

 

 修行でなく問答に入るのだが、直ぐに答えに悩む問題を出される。

 凄く遠回しに凄くややこしくしているが、アリーシャに足りない物を満たすにはちょうどいい。

 

「人間がどんな生き物……」

 

「また随分と哲学的問題じゃの」

 

「ですが、改めて聞かれれば答えるのは難解です」

 

「ただ食って糞して眠るだけの生き物なら、ごまんといるからな」

 

 どういう生物かと答えるのが答えではないと頭を悩ませる。

 見ているエレノアも考えてみるのだが、答えは出てこない。人間とはなにかと聞かれれば、誰だって答えづらい。と言うよりは、これは数学や科学の様に正しい答えがあるんじゃなくて、国語の様に答えが定まっていない問題だ。

 

「人間は醜い生き物だ」

 

 頭を悩ませ答えを一向に出せないアリーシャの代わりに骸骨騎士が答える。

 人間とは醜い生き物。その答えに対して強く反発することは出来ない。ここに来るまでに醜い物をアリーシャは沢山見てきた……。

 

「確かに人間は醜いです。困ったら天族に頼ると言った者や、己の私利私欲を満たす為に穢れていく──」

 

「人間は美しい生き物だ」

 

 それでも人間はとよくあるテンプレな台詞を言おうとしたが、その前にさっきとは真逆の事を言う。

 

「人間は馬鹿な生き物だ」

 

 今度はさっきとも最初とも違う答えを言う。

 

「人間は賢い生き物だ」

 

 そしてそれと真逆の答えを次に言う。

 そこからはアリーシャは答えずに考えることにだけ集中した。

「人間は強い生き物だ」

 

「人間は弱い生き物だ」

 

「人間は気高い生き物だ」

 

「人間は下卑た生き物だ」

 

「人間は勇気ある生き物だ」

 

「人間は臆病な生き物だ」

 

「人間は情けある生き物だ」

 

「人間は非情な生き物だ」

 

「ストップ、タイムだ」

 

 ここからはなにを言うのかが読めた。

 人間を表すなにかを言い、それと対となる次に言う。それの繰り返しであり、途中からアリーシャが理解出来なくなってきている。

 

「後はきっかけだけが有れば良いだけだ。これ以上色々と教えてたらアメッカの方がバグる……ただでさえ、コレから色々と大変な事になるってのに」

 

 字面にすれば矛盾している。言葉にすれば矛盾していない。

 全てが間違いでもなければどれか1つだけ正しいわけでもない答えだけを見れば全て人間の一側面であり、ある意味全部が間違いで正しい。それがアリーシャにとってなにを意味するかまでは分からないが、それを理解できれば心が大きく成長してその槍を使いこなせる様になるだろう。と最後に必要なのは非常に面倒な感情だけど。

 アリーシャには悪いがここで強制的に問答を終わらせて、技だけを覚えて貰った……そして普通に忘れていたが、この空間での時間の経過は皆無に等しい。暇潰しにはなったかもしれないが、時間潰しは出来なかった。

 

「古文書の解読は進んだ?」

 

 そこそこ時間を潰したが、ライフィセットとグリモワールから解読終えた報告は無いので逆にこっちから来た。つーか、ベルベットが痺れを切らした。

 

「ええ、坊やのお陰でね。この坊や、語学のセンスが抜群よ」

 

「グリモ先生の教えが良いからよ」

 

「うっ……」

 

「アメッカ、胸が苦しいのですか?」

 

「いや、なんでもない」

 

 教え方とかよりもセンス無くて読めなかったアリーシャの心は痛いだろうな。

 

「そんな風に言われると本気になっちゃいそう」

 

「は?」

 

「グリモワール、今すぐに謝るんだ。

ベルベットにはその手の冗談は伝わらない。なんだったらさっきのグリモ先生のお陰と言ってるところでジェラってた」

 

 もうなんか明らかに反応が違う。

 アリーシャと違って色々と感情を表に出してたりするから、余計に伝わる。もうなんか字にしたら恐ろしい字になってる。

 

「あらあら、若いわねぇ」

 

「っ……」

 

 くそ、どっちかと言えば悪いのはグリモワールなのになんでオレの弁慶の泣き所を蹴られなければならない。

 いや、良いんだよ。ベルベットの感情がそれで安静になったり変に焦ったりしなかったらそれはそれで……でも痛いんだよ。ダメージ皆無だけど。

 

「さぁて、坊や、読んであげて。古文書に書かれていた歌を」

 

「はい、先生」

 

 ベルベットの八つ当たりも終わり、古文書に記されている内容をライフィセットが教えてくれるが……歌か。

 

「八つの首を持つ大地の主は七つの口で穢れを喰って、無明に流るる地の脈伝い、いつか目覚めの時を待つ」

 

 ふむ……。

 

「四つの聖主に裂かれても、御稜威に通じる人あらば、不磨に喰魔は生えかわる」

 

 四つの聖主……。

 

「緋色の月の満ちるを望み、忌み名の聖主心はひとつ 忌み名の聖主体はひとつ」

 

 原文をそのまま翻訳したのだが、ライフィセットはそれ以上はなにも言わない。

 代わりにグリモワールが説明をしてくれる。

 

「カノヌシを表す図、かぞえ歌。この古文書はその意味を解読した注釈書なのよ」

 

「勿体ぶらずに、その注釈を教えて」

 

「それは言わんお約束やろ」

 

 原文じゃなくて馬鹿にでも分かる様に要点だけ纏めろとかそれは言ったらアカンって。

 

「ごめん……まだ、数え歌の歌詞しか解読出来ていないんだ」

 

「そう……あんた、なにかに気付いてるの?」

 

「なんでそう思うんだ?」

 

「あんただからよ」

 

「それ、褒めてんの?」

 

「認めてるのよ……あんたはふざけてるだけだって」

 

 なんか色々と大事な言葉を抜かしてる。

 ベルベットのオレに対する評価はなんか気になる。正直な話、どう思ってんだ?

 

「教えなさいよ。なんか気付いてるんでしょ?」

 

「……嫌だね」

 

「……なんで嫌なの?あんた、私の下僕で復讐を手伝ってくれるんでしょ?」

 

 そりゃまぁ、喜んで手伝わせて貰う。けど、教えるか教えないかは別だ。

 

「なんとなくの推測程、面倒な物は無いんだよ。

オレが今ここで考察した事を言ったらお前はそうだと思ってしまう。時間を掛ければ正しい答えがあってもだ」

 

 あの分からなんとなくの考察は出来る。だが、それが正しいとは言えない。

 そこそこ考察こそ出来てもそれで間違った行動をするかもしれないし

 

「ゴールが分かっていない」

 

「ゴール?」

 

「……アルトリウス達のゴールだよ」

 

 解読出来た部分から考えられるのはアルトリウスが現在進行形でなにをしてるかだ。

 最終的にそれを終えたらなにがどの様に変化をするのか?そこが大事なんだよ。

 

「聖寮のゴールなんて知らなくて良いわ。私がトップを殺るんだから」

 

「アルトリウスを殺してすんなりと終わるわけねえだろ、アホか」

 

 お前はいったいなにを見てたんだ。

 道中、何名かの対魔士達を殺ったがその時にそいつが使役していた天族は解放されていない。器が壊れてたら道連れで天族も死んじまう。カノヌシがなんであれとんでもない存在であり、殺してしまえばそこで終わりだ。

 

「知っている人に聞く、と言うのはどうだろうか?」

 

「……あんた、なにを言ってるの?」

 

 ベルベットに教えろと睨み付けられていると、ずっとなにかを考えていたアリーシャは口を開く。

 この本しかカノヌシに関する手掛かりはなくてグリモワールを訪ねたのに知っている人に会うって、オレ達は未来から来たからコイツら以外に知り合いは居ねえぞ。

 

「四つの聖主とは恐らく五大神、じゃなかった。

ここに来る前に聞いた聖主アメノチの事で、他にも似たような存在が3人居る。この本がなんにせよ、カノヌシが実在をしていると言うことはそのアメノチも実在をしていて、カノヌシの事についてなにか知っているんじゃないか?」

 

 ああ、そう言えばなんかそんな事を言っていたな。

 ここに来てまさかの知っている人が居るというどんでん返しだったが、それは良い案だ。

 

「残念だが、それは不可能だ」

 

「どうしてだ?聖主アメノチを信仰していたのならば、祀る神殿がある筈だ」

 

「探せばあるだろうが、そこにはいない。

オレ達が地脈から出てきた際に居たあの場所は聖主ウマシアを祀る神殿だったが、そこには聖隷の気配も力もなにも感じなかった。聖寮がアメノチの信仰を禁止にして加護もなにも無いと言うのなら、恐らくアメノチの神殿になにもいない。この四つの聖主が嘗て信仰されていた聖主ウマシア、ムスヒ、ハヤヒノ、アメノチだとすればどの神殿にも聖主はいない筈だ」

 

「更に付け加えるのならば、アメノチを祀る神殿は現在聖寮が施設として使っておるらしいぞ」

 

 おいおい、下手すりゃ聖主とやらも敵の可能性があるな。

 

「八つの首を持つ大地の主がカノヌシで、七つの口で穢れを喰っている。

喰った穢れは地脈を通じて本体に向かって……力を蓄えていったいなにをするつもりなんだ?」

 

 無理だと分かれば自分なりに考察をしてみるが、やはり最後に行き詰まる。

 そう。そこまではこの歌だけで考えれるが、最後につまる。この歌を簡単に言えばこうだ。

 世界の何処か7ヶ所で穢れを喰っていて、地脈を経由して八つ目の本体に送られる。四人の聖主がカノヌシを倒しても、カノヌシを求める人間が居れば蘇る。喰魔が変わるって言うのは、なんかの条件を満たした奴が喰魔となっていて、そいつがいなくなったら条件を満たした次点の奴が喰魔になる。

 最後の方に関しては色々と不明だが……カノヌシは大地の主で……ああ、そういうことか。

 

「カノヌシの本体は何処かは知らないが、カノヌシの一部は地脈に居る。なら、この喰魔とやらは地脈点にいる。穢れを地脈経由でカノヌシに送り込むならば地脈点が1番の効率だ」

 

「地脈点?」

 

「地脈の力が集中する場所の事じゃよ」

 

 なんか知らねえ単語がポンポンと出てくるな。

 

「この紋章って……クワブトが居たところにあったやつだ!」

 

 本に書かれている挿し絵で思い出すライフィセット。

 

「それが喰魔ですか……」

 

「そういや、そのクワガタに会う前にライフィセットはカノヌシの力を感じていたな」

 

 足りない。

 古文書の細かな内容が分かっていないから、なにをすれば良いのかがなんとなくでハッキリと分かってねえ。

 後、1つか2つなにかが填まればこれからやるべき事が向かうべき場所が見えてくる感じだ。

 

「ギデオン大司祭を暗殺しに行った時に居た業魔もカブトムシと同じ結界に閉じ込められていた」

 

「カノヌシにその穢れとやらを送り込む為に……それなら納得が、でも……それでどうなるの……」

 

 アイゼンは大司祭暗殺の際に見た大鷲を思い出し喰魔だと判明し、一先ずの納得を見せるエレノアだが、その結果が分かっていないのでまだ疑心は晴れない。

 全部をどうにかするにはこの本の内容を翻訳しなければならない。こればかりは時間の──

 

「あっ!!」

 

「どうした?」

 

「ワァーグ樹林の時と同じ感じがした!」

 

 急になにかに気付いたかと思えば、羅針盤を手にする。

 ライフィセットを中心に足元が光り、波紋が広がり羅針盤の針はクルクルと回転する。

 

「……あっちの方からだ!」

 

 ピタリと針が止まるとライフィセットは力を感じた正確な方角を指差す。

 

「この方向は、聖主アメノチを祀る聖殿パラミデス……今は聖寮の施設じゃったか?」

 

「聖殿や祭壇は霊的な力に満ちている場所に作られると聞いたことがあります。地脈点を意味しているのではありませんか?」

 

「地脈点は世界中の至るところにある。喰魔が7体だとするなら、殆どの地脈点がハズレだ」

 

「しかし、俺達にはこの本以外になにもない。

地脈点に喰魔が居るのが分かっても、何処にいるのかは書いてないかもしれんし可能性があるなら行ってみる価値はある」

 

「解読を待つ気は無いわ。ライフィセットの感覚の正体もわかるし」

 

 取りあえずは行くわよと宿屋を出ようとするベルベット……うん。

 

「ちょっと寝させろ」

 

「おお、すまんすまん。そういえばまだこんな時間だったな」

 

 さっきの技の習得とかで時間の感覚は狂ってはいるが日は沈んでいる。

 オレは24時間ぶっ通しで動くことが出来るが、アリーシャ達人間組はそうはいかない。割と寝ている時間帯だ。

 かくゆうオレも眠いか眠たくないかで言えば眠たい。

 

「……朝一に行くわよ」

 

「ああ、おやすみ」

 

「…………おやすみなさい」

 

 最後の最後でベルベットの方がデレたと思いたい。




スキット 考古学は論争

アリーシャ「四聖主は恐らく現代で言う五大神のことで、残す1つがマオテラスもしくはカノヌシ。
極々稀に聞くだけで細かな詳細が書かれた文献は一切存在しないがこの時代では、カノヌシに関する古文書がある。と言うことはカノヌシや神様と崇められていた四聖主は天族」

ゴンベエ「なにやってんだよ、明日は朝一で聖殿だぞ」

アリーシャ「すまない、起こしてしまったか」

ゴンベエ「寝る時間を惜しんでまでなにしてんだよ」

アリーシャ「かぞえ歌を自分なりに考察しているんだ、この時代ではまだマオテラスが居ない。代わりにカノヌシがいる。詳しい内容は未だに不明だが、現代で五大神と呼ばれる天族と四聖主は同一。ならば、何故カノヌシがいないのかマオテラスがいないのか……コレは私達が絶対に知らなければならない事だ」

ゴンベエ「だからって、睡眠時間は削るな。ベルベット達みたいに都合良い感じになっていねえんだ。倒れたら元も子も無い」

グリモワール「そうね、夜更かしは美容の大敵なんだから折角の綺麗な肌が台無しよ」

アリーシャ ゴンベエ「「!?」」

グリモワール「そこまで驚かなくてもいいんじゃない?」

アリーシャ「あの、何時から要らしたのですか?」

グリモワール「ついさっき……なんにも聞いてないわよ」

ゴンベエ「それを言うのは本当は聞いてるけど、大人の判断で聞かなかったやつだろう」

グリモワール「本当になにも聞いてないわよ……本当よ」

ゴンベエ「……下手に突っ込まないからそれでいいか。グリモワールはなにを?」

グリモワール「古文書の内容を考えてたのよ。頼まれて引き受けた以上は翻訳するだけじゃなく意味も理解してあげないと……けど、こういう古文書って言い方が三枚目の口説き文句並に周りくどいのよね」

ゴンベエ「まぁ、いとをかしとかワケわからん単語が出てきたりするからな」

グリモワール「それで、あんた達は何処まで理解しているの?」

アリーシャ「私はそこまでは。それこそエレノア達となにも」

グリモワール「嘘おっしゃい……穢れがなんなのかを理解しているのでしょ?それに私達の事を天族と言っている……知ってるんでしょ、加護をはじめとする様々な真実を」

アリーシャ「それは、知ってはいますが……その」

グリモワール「あんた達しか知らない、そんな感じかしら?」

ゴンベエ「言うなって釘を刺されているからな」

グリモワール「聖隷の間では言ってはならない掟の様なものよ」

アリーシャ「先程も言った様に私は詳しい事はなにも、ゴンベエはなにか分かっているんじゃないのか?」

ゴンベエ「一部だけで、アルトリウス達の最終的なゴールが分かってないし間違ってるかもしれねえから下手な事を言って混乱させたくねえ」

グリモワール「あら、考古学は推察から始まったりするのよ。そこから物的証拠を色々と集めて詰め込むものだから、そういうのは語り合うべきね」

ゴンベエ「……意地でも聞く気か」

グリモワール「こういう意見は大事なのよ」

アリーシャ「ゴンベエ、ここは言った方が良いんじゃないか?幸い、誰も聞いてはいない」

ゴンベエ「ったく……オレから言えることは2つ、だけど鵜呑みにするなよ。1つは天族、ここで言う聖隷がありとあらゆる人間が見ることが出来るのはカノヌシのお陰だ」

グリモワール「開門の日にカノヌシがなにかをしたと?」

アリーシャ「……スレイ」

グリモワール「スレイ?」

アリーシャ「私達の知り合いに、元から天族を見れたスレイと言う人がいます。ゴンベエは元から素で見えるのですが、私は見えないのでスレイの力を借りてみていたんだ。今、思えばアレも天響術の一種なのかもしれない。カノヌシが天族ならば、その術が使えてもおかしくはないのではと」

グリモワール「霊応力が高い子が聖隷術で見えない子を見える様にね……それって大分危険な事じゃないかしら?」

アリーシャ「はい……私とはもうしない様にと既に契約を…っ…」

ゴンベエ「傷口を自分で弄くってどうすんだ……カノヌシの事を大地の主と書かれているのが引っ掛かってな」

グリモワール「……大地の主、まさか」

ゴンベエ「とある天族は樹を器としている。とある天族は水を器にしている。アイゼンは大地から産出された金属を加工したコインを器にしている……だったら出来ない方がおかしい。それなら世界中の至る人物と触れあえて見える様にすることが出来る」

グリモワール「かぞえ歌の一節だけで、それだけ分かるだなんて。あんた案外、古代語の才能があるんじゃないの?」

ゴンベエ「やめてくれ。母国語以外はまともに書けないし読めねえんだよ」

アリーシャ「そういえば、何時になったらゴンベエは私の国の文字を覚えるんだ?」

ゴンベエ「もうアメッカが代わりに読んだりしてくれるから良いかなって思ってる」

アリーシャ「まったく……仕方ないな」

グリモワール「あら、若いわね……と、早く寝なさい。寝坊したらなにを言われるか堪ったもんじゃないわ」

ゴンベエ「もう一個は聞かないのか?」

グリモワール「これ以上は今の時点では踏み込まない方が得策なだけよ」

ゴンベエ「そうか……じゃ、おやすみ」

アリーシャ「お先、失礼します……」

グリモワール「……普通に一緒に寝てるわね。これも若さなのか、それとも若さ故の過ちなのかしら?」



マギルゥの術技


 必殺のビエーンシュート


 説明


 世界一有名な電気ネズミ専用のゼンリョクポーズを取ることにより、100まんボルトをビエンフーに装填。
 高く投げられたビエンフーをマギルゥはオーバーヘッドキックで蹴り飛ばして相手に叩き付ける元ネタと若干異なるものの、威力は元ネタよりも凄まじいゼンリョク技。
 言うまでもなく、体をはっているのはビエンフーで、ビエンフー的には雨雲を呼び出して7色の電撃を相手にぶつける技をイメージしていたがビエンフーごときが電気ネズミが世界一有名になった大きな要因であるアニメのサトピカ様と同じ技を使えるわけがない。


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親業魔、子喰魔

定期的に人を絶望に叩き落とす、それがベルセリアです。


「ふぁ~」

 

「……ふぁ……」

 

「なんだお前達、寝不足か?」

 

「すまない。ちょっと考え事が多くて寝るのが遅くなったんだ」

 

 グリモワールに変に勘繰られて無いだろうな?

 ザビーダもアイゼンも形はどうあれ生きているから、探せば現代の何処かに居ると思うけど。

 

「ほっほーう、2人同時に考え事かのぅ?」

 

「マギルゥ、そんな事を言ってもなにも出ないぞ?」

 

 ニヤニヤと笑うマギルゥだが、慌てる要素は皆無なので動じない。

 やったことと言えばカノヌシについてオレが気付いている事を喋らされただけで特になにもない。

 

「……お主達、一緒に寝ておるんじゃろ?」

 

「予算節約の為だ……ゴンベエがふしだらな事を私にすると思っているのか?」

 

「いや……お主がそれで良いなら良いんじゃよ」

 

 アリーシャのオレに対する感覚って本当にどうなってんだろ?

 寝不足だが体が動かないとかそんな事はなく、普通に歩けるので目的地であるパラミデスへと向かうべく宿をチェックアウトしようとするのだが、やたらとオレ達を見てくる。

 まさか伝説の昨夜はお楽しみでしたねえとか言ってくるんじゃねえだろうな?

 

「あの、聖殿パラミデスへと向かわれるのですか?」

 

「!……通報したの」

 

「通報?対魔士様がいらっしゃるのに何故?」

 

「……用があるなら対魔士様に聞きなさい」

 

 まさかパラミデスへ行かれる事を聞かれていたとは予想外だった。

 

「……聖寮対魔士のエレノア・ヒュームです。どんな御用ですか?」

 

「人探しをお願いしたいのです」

 

「人探しですか?申し訳ありませんが、今は」

 

「パラミデスへと向かわれる事は知っています。そのパラミデスにいる母娘(おやこ)を探して欲しいのです」

 

「母娘ですか」

 

「はい、母は聖主アメノチ様の巫女マヒナさん。娘はモアナちゃんという小さな女の子です」

 

「アメノチ様の巫女ということは……」

 

「はい。アメノチ様の聖殿を聖寮に接収されてから何度も抗議をしました。

でも、ある日帰ってこなくて……そしたらモアナちゃんまで何時の間にか居なくなってしまって。きっとマヒナさんを探しに行ったんだと思います」

 

「その二人が聖寮の施設に居ると?」

 

「いえ……ですが、この辺りで探せていない場所はそこしか無いんです。

モアナちゃんもマヒナさんが居なくなったと分かれば、そこに居ると向かうはずで……巫女の後継者としてモアナちゃんを厳しく育てていましたが、本当に愛していてモアナちゃんもその事が分かっていて……」

 

「分かりました。出来る限りの事はやらせていただきます」

 

「ありがとうございます!!その……今までの抗議の非礼をなんと詫びれば」

 

「私も母と2人で他人事とは思えないのです」

 

「……行きましょう、対魔士様」

 

「ちょっと待て」

 

 話が終わり、やることが1つ増えたのだが

 

「それって他の誰かも同じことがあったってのは?」

 

「いえ、居なくなったのはモアナちゃんとマヒナさんだけですが」

 

「そのパラミデスって礼拝堂みたいに聖寮が使用しているのか?」

 

「そこまでは……」

 

「基本的に誰かが警備してるぐらいか?」

 

「はい……あの、何故その様な事を?」

 

「つい最近派遣されたから現地の情報を知らねえんだ。

書類上色々と知っているけど、その母娘みたいなのは聞かされていなくてな……悪い、待たせた」

 

 出来れば違った答えを聞きたかった。

 だが、今の答えから物凄く最悪なものが浮かんでいる。

 

「エレノア、それはオレも手伝う」

 

「結構です。親娘の件は私が個人で探します」

 

「いや、それだとダメなんだ」

 

「……なにか気付いたのですか?」

 

「それはオレが言うべき事じゃない。目の前にある真実を見るしかない」

 

 どう頑張ったって、もう未来は決まっているんだ。

 過去に来てしまっているオレが言っちゃいけないことだけれど。

 

「目の前にある真実……私はその真実を知りたいと思っています。

悔しいけど、私はその真実を教えてもらえる程に信頼を得ていませんでした。だったら、自分で見つけ出すしかない」

 

 ほーっ、疑う心を持ちはじめたか。

 

「聖寮が表の道ならば、貴方達は裏の道です。裏表は違っても、辿り着く先は同じです」

 

「……道に裏も表もねえよ」

 

「裏も表もない」

 

「ゴールが同じなら、ただ見ている場所が違うだけだ。

お前が見ている方向からでは見えなかった物が見える……正しいと思っていた道を踏み外す事によりはじめて見える景色があるって、似たような事を前にも言ったか」

 

「初耳ですが?」

 

「お前じゃなくてアメッカだよ」

 

 どちらも強い信念を持っているが、それが絶対と思っていた伏がある。

 でも、ほんの少しだけ違う道を歩めばその強い信念を打ち砕く事が出来る非情な現実や理不尽が待ち構えている。

 

「その真実が酷く残酷で自分が許せない、認めないと思ったものだったらどうするつもりだ?」

 

「今はまだ……分かりません」

 

「分かりませんじゃダメだろ……アメッカみたいに1つの答えを出さねえと」

 

 今はまだ残酷な現実に振り回されているアリーシャだが既に1つの答えを出した。

 証拠が無いならばでっち上げる。殺しはしないが二度とそんな事をさせない為にも被害者の為にも槍ではなく拳を振るう。現代に戻れば私腹を肥やして悪政を強いる裁けない者達を裁ける様にするつもりだ。

 道中憑魔が出たりしたものの特になにか変なのとかやたら強いのとかに絡まれる事は無く、如何にも水の神殿と思える様な場所に辿り着いた。

 

「これは……ダメだ」

 

 何時ものよく見る聖寮の量産型対魔士達が神殿の入口付近でぶっ倒れている。

 アリーシャが駆け寄って意識を確認してみるも既に手遅れで死んでいた。

 

「こいつら、喰魔が殺ったのか?」

 

「いや、入口担当の警備みてえだ」

 

「もし喰魔が居るなら結界に閉じ込められている筈だ」

 

 オレ達以外の誰かが……ザビーダは無さそうだな。

 アイゼンの言う様に結界で閉じ込められてたら外に出ることは出来ない。中に喰魔が居る場合はそれとは別のがいると考えるのが1番……そうなるとなぁ。

 

「グォオオオオオ!!」

 

 来てみれば、既に警備の奴等はポックリ逝っていて唖然としていると中から獣が吠える声が聞こえる。

 

「うわああっ!」

 

 後に続くかの様に人の声が響く。

 

「業魔!?」

 

「噂の業魔かの?派手に暴れておるようじゃの」

 

「この混乱に乗じるわよ!」

 

 なにはともあれ、パラミデスの内部に侵入をすることには成功したんだが……なんでダンジョンになってんだよ?

 

「……似ていないか?」

 

「んだよ、急に」

 

「ガラハド遺跡とだ」

 

「天族関係の遺跡なら似ているもんだろ」

 

 水の中にある神殿なので物理的に破壊すればこっちも死ぬので、仕掛けを解きながら進むんだがアリーシャは遺跡を見回す……あ、そういえば。

 

「ライラが言っていたパワーアップ、ここの事じゃねえの?」

 

 今頃何処でなにをしているのか知らねえがパワーアップはあると言っていた。

 あんな危機的状況でふざけたことをライラが言うわけねえし、どちらにせよパワーアップさせんとヘルダルフとまともに戦えない。神衣という融合以上のパワーアップでパッと出来る方法となれば限られている。それこそ神様から力を授かるとか。

 

「……私はスレイと同じ道を歩んでいるのか……共に歩む事が出来なくとも」

 

「後悔をしてるか?」

 

「そんなの今更だ……だけど、前を見ないと」

 

「今絶賛後ろを向いてるがな」

 

「あんた達、なに立ち止まってるのよ!早く来なさい」

 

 っと、何時の間にか置いていかれたな。

 先々進んでいくベルベット達を追いかけ、憑魔を蹴散らしながら進んでいく。

 

「警備を蹴散らしてくれたけど、こいつは……」

 

 憑魔だけでなく対魔士達も殺られているお陰で、迷子にならずに先に進めた。

 厄介な仕掛けがあるダンジョン地帯から抜け出し大きなところに出るとさっきまで倒していた憑魔達とはレベルが違う憑魔がいた。

 

「グゥウウウ」

 

「あの声、外から聞こえたのはあいつか」

 

 ボキボキと腕を鳴らすアイゼン。

 獣人型の憑魔はオレ達の方を振り向き少しだけ近寄ってくる。戦闘は避けられないか。

 

「こやつ、胸にアメノチの紋章をつけておる!あれは巫女証じゃぞ!」

 

「あ~そう言われれば乳あるな」

 

「あんた何処を見てるのよ!!」

 

 おっぱいに決まってんだろ!

 

「じゃあ、あの業魔は」

 

「さっき聞いた、親娘の……母親の方、マヒナか」

 

「そんな……」

 

 あの憑魔がマヒナだと分かりショックを受けるエレノア…………。

 

「ゴンベエはこの事を気付いていたのか!?」

 

 アリーシャはついさっき聞いていた事はこれの確認なのかと聞いてくる。

 

「いや、まだだ」

 

 オレがここに来る前に聞いていたのはこの事に気付いていたからかと聞かれれば、それは違う。

 これと似たような事を想像しており、色々とあった可能性の中でも最も最悪な事をしている可能性が浮上をしている……胸糞悪いことをしやがって。

 

「巫女を務め、村の人達から慕われていた方が業魔になってしまうなんて……」

 

「エレノア……?」

 

 槍を出して、オレ達よりも前に出るエレノア。

 さっきまで居た有象無象の憑魔を倒していた時とは違うことにライフィセットは気付く。

 

「もう元には戻れない。こうするのがせめてもの……理であると!!」

 

 さっきとは違い、決意した顔に変わるエレノア。

 この時代には浄化の力は存在しない。だが、戦う力は存在している。

 ベルベット達の様に自我を保っているならまだしもマヒナにはそれがない。

 ああなってしまえばただ暴れるだけの獣畜生となり、イイ人だったと余計な情で見逃せば最後、無関係な人達が傷付いてしまう。ならば自分で決着をつける。

 

「あっ、これって!?」

 

 いざ戦いがというところで水が差された。

 ライフィセットがなにかを感じとり、声を出してしまいエレノアは一瞬振り向いてしまった。

 

「しまった!!」

 

 本当にしまっただよ。

 一瞬の隙をついてマヒナは物凄い速さで更に奥へと突き進んでいった。

 

「業魔は放っておけばいい」

 

 追いかけられない速度で走るので追いかけないエレノア。

 そんなエレノアに対してそれなりのフォローを入れつつもベルベットは前に進んでいく……世界は残酷だな。

 

「宿の娘への質問は、確認の為だったのか?」

 

 奥の方もやっぱりダンジョンで、憑魔が居た。

 倒しながら進んでいるとアイゼンは宿での事について聞いてくる。オレがマヒナが憑魔になっていたことを考えていたかどうかの確認か……

 

「それもあるが、それだけじゃない……アイゼンは穢れ云々は理解しているんだろ?」

 

「穢れとは人間の心にあるエゴや矛盾から目をそらす独善から生まれるものだ」

 

「……負の感情じゃねえの?」

 

「それも該当している。そしてそれらと向き合える者は穢れを生まない」

 

「……成る程」

 

 いつぞやの風の骨だかなんだか知らないが暗殺ギルドが憑魔になっていなかったのはその為か。

 

「知らなかったのか?」

 

「詳しい事は知らん」

 

 オレはあくまでも穢れは人間の負の感情が生み出すものだと認識している。

 人の業だ罪だと難しい話をされても困るんだよ。業とか罪とか、んなもん全員持ってんだよ。一蓮托生、全員同罪で道連れだ。

 

「簡単に考えれる事を難しく考えてどうするんだって話だ……まぁ、それでもなにかを言えと言うのならば言ってやるが」

 

 答えの無い哲学的な事とか答えが複数あることとか、ロジハラと逆ギレされてもいいこととか。

 難しい事を考えるのは好きじゃねえし、舌戦はそんなに強くはねえんだ。

 

「今必要なのは、その言葉じゃない」

 

 何処まで理解しているかを教えろか……。

 

「あの巫女さん、なんで憑魔になったんだろな」

 

「人が業魔になるのは穢れ……違うか」

 

「話を聞く限り、それはねえ」

 

 宿の娘が心配して今までの非礼を詫びて頭を下げに来た。

 他人から見ても立派な人で、親子の関係は好調。問題らしい問題があるとすれば聖寮にここを返してくれと抗議しているぐらい。どんな人かは知らんが曲がりなりにも巫女を名乗る存在。チャラついているわけがねえ。

 穢れに飲まれて憑魔になるのをヘルダルフの時にチラリと見た。けど、そういうのも無さそうだ。

 

「そうなるとベルベットと同じ、か」

 

「あたしとなにが同じなの?」

 

「……」

 

「私とアメノチの巫女の何処が同じなのって聞いてるのよ」

 

「どっちも本当に優しいから、憑魔になってしまったんだよ」

 

「……そう」

 

 ベルベットが憑魔になった理由は至極真っ当な理由だ。

 アメノチの巫女も恐らくだが、ベルベットと同じ理由で憑魔になった。

 

「待て、それだと色々と矛盾や不可解な点が多く生まれる」

 

「それを今から確かめにいくんだよ」

 

 母親の憑魔化は納得の理由だが、それだと様々な不明で矛盾な点が生まれる。

 獣人になった母親は外からやって来た。聖寮の計画の要は喰魔であの虫や鳥は結界で閉じ込められていたので、あれは喰魔じゃない。ライフィセットが喰魔の力を感じれるとした場合、獣人になった母親は違う。閉じ込められているのならばこの聖殿の奥だ。

 じゃあなんで憑魔になっているのかとなり、考えるのは娘を失ったと言うのが妥当なんだがそうなると少しだけ変な空白が生まれる。宿の娘が言っていた話からして、先に居なくなったのは母親で後から娘が居なくなった感じだった。

 娘が殺された時の怒りで憑魔になったとして、何故そんな事をしないといけないのか?喰魔も一括りにすれば憑魔の一種で人間の喰魔も居てもおかしくはなく、なんの迷いもなく天族をドラゴンパピー化させるジジイがいるんだ。喰魔になれるかもしれない奴を喰魔にしてもおかしくはない。でも、母親は喰魔じゃなかった。

 アメノチを祀る神殿を返せと喧しいから殺した?いや、そんな事をしてもなにも得策じゃない。なによりも先に娘の方を拐う。そうじゃないと神殿に誘き出せない。

 

 

 母親が娘関連で憑魔になった。

 娘は母親の後に居なくなった。

 憑魔になった母親は喰魔じゃなかった。

 それとは別の喰魔がここの更に奥に存在している。

 

 

 この4つの点と矛盾や不可解な点を組み合わせると最低最悪な答えしか出てこない。

 

「やっぱりいたわね……」

 

 聖殿の1番奥の大きな広間に、巨大な樹木の憑魔がいた。

 今まで見た憑魔達とは明らかに異なっており、異質な雰囲気を醸し出している。

 

「オッギャアアア!!」

 

 樹木の憑魔はオレ達に向かって飛びかかる……が、結界に拒まれた。

 

「当たりだな、コイツも喰魔ってわけだ」

 

「ベルベットの予想通り、七つの首は個体ごとに姿が違うようだな」

 

 え、なにその話。聞いてないんだが。

 

「感じてた場所はここだよ!」

 

「どうやら、坊の方も当たりのようじゃの」

 

「ワァーグ樹林の時と同じ感覚……僕が感じていたのは地脈点だったんだ」

 

 ……本当にロクでもねえな。

 

「さて、コイツをどうする?クワガタみたいに小さくなってくれればいいんだが」

 

「生き死になんてどうでもいいわ。喰魔(こいつ)を倒して、カノヌシの首を潰す。それだけよ」

 

 ロクロウがどうやって連れ出すかを考えるが、ベルベットは潰せば良いと先に進む。

 

「待て!!」

 

 結界を足に踏み入れる前にアリーシャはベルベットの左手を掴む。

 

「邪魔しないで!」

 

「違う、そうじゃない……口の中に、子供がいないか?」

 

 今からというところを邪魔されて苛立つベルベット。

 アリーシャは邪魔をしたくてしたのではなく、気付いてしまったから止めた。

 

「ふむ、言われてみれば坊ぐらいの子がおるの」

 

 オレ達の目の前にいる憑魔は樹木のモンスターみたいな見た目をしている。

 今まで見てきたのと明らかに姿が異なっているので他の奴等は余り意識をしていなかったが、よく見れば口の中に子供の様なものが居る。そしてそれ以外になにもいない……。

 

「さっき出会ったのは憑魔となってしまった母親で、外から侵入してきた。

宿の人はこの辺りを探していて確認していないのはこの聖殿の内部で、私達はまだ(こども)には会っていない」

 

「……まさか、そんな」

 

「いや、それで合っている」

 

 

 母親が娘関連で憑魔になった。

 

 

 娘は母親の後に居なくなった。

 

 

 憑魔になった母親は喰魔じゃなかった。

 

 

 憑魔となった母親じゃない憑魔が奥にいた。

 

 

 別の喰魔が最初から存在しているのならば、母親を憑魔にする必要は何処にもない。

 

 

 なら、何故憑魔になった?それは娘関連なのは間違いない。じゃあ、娘に何があったか。

 

 

「あの喰魔が娘のモアナだ」

 

 

 聖寮が娘を喰魔にした。

 何故娘を喰魔にしたのかは分からない。だが、喰魔も何かから喰魔になっている筈だ。その元となるのが娘のモアナ……。

 

 

「クククク、ハハハハ、ハーッハッハッハハ……笑えねえな、おい」

 

 胸糞悪いことをしてんじゃねえよ、聖寮。




スキット 最速を目指す走者達(RTA)

ライフィセット「えっと、ここがこうなっててこうだからここをこうしてっと」

ベルベット「解除できそう?」

ライフィセット「ちょっと待ってて。もう少しで終わるから」

ベルベット「そう……早くしてね」

ゴンベエ「神殿っつーのに、なんでこんなややこしいダンジョンになってんだか」

ベルベット「知らないわよそんなこと。それよりもフックショットみたいに便利な道具で先に進めないの?あちこち行ったり来たりして手間が掛かるのよ」

ゴンベエ「そんな都合の良い道具は……あ~」

ベルベット「なにかあるならとっとと出しなさい」

ゴンベエ「道具って言うより、技術だ。最速を目指す走者達が多用するダンジョンとかで使う技があるんだが……」

ベルベット「教えなさい」

ゴンベエ「結構難しいぞ?」

ベルベット「構わないわ」

ゴンベエ「一回しかやらないからよく見とけよ。
例えば、こういうライフィセットが開けようとしている仕掛けを解かないと開かない扉の左端に寄って壁に背中を向けるだろ……ひたすら扉に向かって横っ飛び!!せい!やぁ!はっ!」

ベルベット「ちょっと、めり込んでるわよ!」

ゴンベエ「このめり込みが大事だ!」

ベルベット「消えた!?」

ゴンベエ「これぞ最速を目指す走者達がダンジョンの攻略に使用する技術、壁抜けだ。
他にも1フレームごとに上下に移動する事によりジェット機よりも素早く泳いだり、爆弾を用いた高速移動や空中歩行とか色々とある。なんだったらアーウィンという世界観が別物な物を呼び出して進む方法もっと、これは難しいか……じゃ、先ずは壁抜けからだな」

ベルベット「……あんたしか出来ないわね、それ」


スキット 由緒正しき殺し方。


ロクロウ「はっ、そういえば!」

アリーシャ「なにか忘れ物をしたのか?」

ロクロウ「違う。よくよく考えてみれば、喰魔を見つけても肝心のカノヌシを斬らなきゃ意味が無い事に気付いてな。グリモ姐さんが解読した感じだとカノヌシは八つの頭を持つドラゴンだろ?
もし戦うとなったらそれこそ、この神殿よりもデカい本体と戦わなくちゃならねえ。大蛇みたいな見た目で八つの頭のドラゴンが毒だ炎だ吐いてくるんだよな」

ゴンベエ「8つの首の大蛇……」

ロクロウ「そうなると、一人一殺で戦わなきゃならん。だが、まだアメッカは戦えない。その時が来るまでに戦えなかったら、1つ余っちまう」

アリーシャ「そ、その時までに戦える様にしてみせる!!」

ロクロウ「期待はしている。とはいえ、相手は災厄のドラゴン。今まで相手にして来た奴等とは比べ物にならん。誰かが殺られる可能性も頭に入れなきゃなんねえ」

アリーシャ「私達も過去に……過去に1度だけドラゴンと遭遇したことがあるがアレは憑魔とは別次元の存在だった」

ゴンベエ「じゃあ、こっちもドラゴンを用意するか?強靭無敵最強究極の竜に混沌の戦士が乗っただけの究極の竜騎士は地水火風闇の5つの属性の首を持つドラゴンを銀河をも砕く一撃でぶっ倒したって言うし」

ロクロウ「ドラゴンの使役か……ピンと来ないな」

アリーシャ「私達のパワーアップよりもカノヌシのパワーダウンの方が良いんじゃないか?」

ゴンベエ「穢れの代わりに腐った賞味期限切れの芋羊羹を食べさせるとか?」

ロクロウ「8つの首全部を食中毒にさせるとなると芋羊羹だけだと限界があるぞ」

ゴンベエ「仕方無い。アメッカ、なんか作れ」

アリーシャ「それはいったいどういう意味だ!!私だって日々精進している。最近は一人で卵焼きなら焼ける様にはなった!」

ロクロウ「一人で焼けるだけで一人では巻けないのか……食い物を粗末に扱うのはよそう」

ゴンベエ「となると、後はもう定番中の定番で酒を飲ませて寝込みを襲うしかないな」

ロクロウ「定番なのか、それ……」

ゴンベエ「由緒正しい大蛇の殺し方だ」


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救いの手は負の連鎖

浄化すればどうにかなる?カノヌシとアルトリウスを倒せばどうにかなる?
甘いわ!ベルセリアはゼスティリアみたいに甘くは無いんだよ……本当に甘くは無いんだっ!(モアナはあの姿の方が萌えるんだよ!女の子状態も可愛いけど、それでもあっちの方がいいです(変態))


「捕まえろ絶対に殺すんじゃねえ……ちゃんと説明するからそうしろ。でないと、更に余計な手間が掛かる」

 

 大きく笑ったゴンベエは凄く冷静だった。

 今目の前で起きている現実を予見していたからかは分からない。だけど、怒っているのは確かだった

 

「ロクでもねえことしやがって」

 

 目の前に居るのがアメノチの巫女の娘のモアナ。

 宿の娘が捜索をエレノアに依頼されていて、確かにパラミデスに居た。変わり果てた姿で。

 聖寮に対して色々な疑いを持っていた私の頭には最悪な事が過りゴンベエはその通りだと冷たい目をする。

 少し前までは親娘はハリアの村にいて、居なくなったかと思えば聖寮が管理している聖殿に閉じ込められているとなると

 

「違います!!」

 

「なにが違うんだ?」

 

「アレは業魔で、モアナではありません!

モアナは業魔に喰われて、それでマヒナが業魔病にかかって……きっとそうに違いありません!」

 

「それだと色々と矛盾してたりおかしな事があったりするが?」

 

 最悪な答えがエレノアにも過り、強く否定する。

 だがそれだと幾つか腑に落ちない点や矛盾していたりする点が多々ある。目の前に居るのがモアナでない喰魔ならば、それこそワァーグ樹林の時の様に立ち入り禁止にして最初から入れない様にしている。ここに入るには私達が入った入口しか無い。

 

「とにかく、事情を聞かねえとなんの話にもならねえ……手加減出来るかどうか怪しいな」

 

 ワァーグ樹林にいた虫はある程度、傷付ける事により憑魔の姿から元の姿に戻った。

 目の前に居る樹木の憑魔の姿になっているモアナをある程度、傷付けたりすれば元に戻る可能性がある……絶対の保証は何処にも無い。

 

「浄化だ……浄化をすれば」

 

「アカン」

 

「分かっている……だが、それでも!!」

 

 この場を切り抜ける最善の手は浄化の力を使うこと。

 この時代には浄化の力がなく憑魔となった者達を斬らなければならず、ゴンベエはこの時代に合わせてか意地でも抜こうとしない。マオテラスがまだ居ないからか無闇に浄化してはいけないと一線を引いている。

 だが、それでも浄化をするしかない。聖寮がカノヌシに穢れを送り込む為に喰魔を閉じ込めているというのならば浄化をして元に戻せば全てが終わる。助け出せる。

 

「それをすればモアナは助けれるが、見知らぬ誰かを不幸に叩き落として負の連鎖がはじまる」

 

「負の連鎖だと……」

 

 まだ、なにか分かっているのか?

 

「……古代の文字が使われていた時代に、モアナはいないんだぞ」

 

 本当に当たり前の事を言うゴンベエ。

 なにを意味しているのか考えようとするも頭は働かず、私は理解できない。

 

「喰魔が生えかわるって、もしかして!!」

 

「誰かが喰魔になるということだ」

 

「どういう意味だ!?」

 

 ライフィセットは分かったようだが、私には分からない。

 

「あの本に記されている喰魔はモアナの事か?」

 

「それは……そういうことか……」

 

 ゴンベエの言いたいことをやっと理解した。

 古代に関する書物は色々とある。例えば古代の文明等の考察が書かれた本。これはあくまでも考察であり、もしかしたらの予測が書かれており本と実態が異なるということがある。

 ライフィセットが手に入れた古文書はそれとは別で、古代の人が書き記した実際に起きた出来事等を纏めた書物だ。まだ全容は不明だが、かぞえ歌に喰魔のことが載っていた。

 古代アヴァロスト語が使われていた時代にはモアナは生きておらず、喰魔は生えかわる……かぞえ歌に出てきた喰魔と目の前にいる喰魔は同種だが、同一個体ではない。それはつまり

 

「……浄化をすれば、別の誰かが喰魔になるというのか!!」

 

 背中の剣を抜いて一振り。

 ゴンベエが少しだけ真面目になりたったそれだけのことをやればモアナを元に戻すことが出来る。

 結界をベルベットが壊すことが出来てモアナを助け出すことが出来る……それをすれば最後、私達が会ったことも無い人が代わりに閉じ込められる。

 

「あくまでも、可能性の話だがな」

 

 ゴンベエが色々と気付いていて、なにも言わなかった理由がよく分かる。事前に聞いていれば余計に場を混乱させていた。浄化をすればどうにかなるという希望が心の中にあったがその希望は無くなった。

 

「誰かを犠牲にしなければ助け出せないのか」

 

 悔しい、情けない。

 浄化の力さえあればと甘えていた自分が情けない。この場にいる誰よりも弱い自分が悔しい。

 もっと力があれば?違う。これはそういったことじゃない。なにをすれば良いのか、なにが正しいのかなにが悪いのかが分からない。

 

「アメッカ、危ない!!」

 

「!?」

 

 胸の中の蟠りのせいで周りの警戒心を反らしてしまった。

 その隙を狙ってか入って直ぐに遭遇した憑魔と化したマヒナさんが私に向かって襲ってきた。

 

「大丈夫!?」

 

「ああ……油断をしていた。すまない」

 

 咄嗟の出来事で攻撃をくらいそうになったものの、左手の盾が攻撃を防いだ。

 ライフィセットに無事だと立ち上がり、モアナとマヒナがいる方を振り向く……っ!!

 

「喰魔と業魔……いや、どちらも業魔か。普通に見ればただの化物じゃが、見方を変えれば親と娘じゃの」

 

 私達の目に写る光景を言葉で表すマギルゥ。

 樹木の憑魔の前に出て私達に威嚇をする狼の獣人型の憑魔。今までならば誰かが憑魔にといったところだが、今はそんな風には見えない。私の目には娘を守ろうとする母親の姿にしか見えない。

 

「ダイジョ──モ、アナ」

 

「喋った!?」

 

 手を出さない私達に警戒心を緩めたのか、背を見せて喋る。

 ハッキリと言った、自分の娘の名前を。穢れて憑魔になり理性を失ったとしても、大きく姿が変わろうとも娘は娘だと歩み寄ろうとすると

 

「喰魔が……業魔を食べている……」

 

 モアナがマヒナを食べ始めた

 

「ゴッ……ベン……ネエ……」

 

「ゴンベエ!」

 

「任せ……ダメだ」

 

「なにをしているんだ!早く、剣を」

 

 喰魔となったモアナを元に戻すか戻さないかの矛盾の決断を出来ない。

 けど、せめて憑魔のマヒナさんをと思いゴンベエを見るが、ゴンベエは一度だけ剣を掴んだだけで抜くことなく離した。

 

「ごめんね……」

 

「これは……」

 

 喰われていくマヒナの姿に異変が起きる。

 獣の姿から段々と人の姿に変わり、姿だけでなく声までも人間になっていく。その代わりなのか、身体中からこれでもかと穢れが溢れでていてまともに近寄れない。

 

「喰魔が食べた……穢れって、業魔のことなんだ!」

 

「業魔を喰らう……だから、喰魔か」

 

 かぞえ歌の一部が分かり、納得をするライフィセットとベルベット。

 

「戻った時点でオレにはなんも出来ない……知ってるだろ?オレはそれだけは出来ない」

 

 ゴンベエは極稀に勇者だと言っており、剣を使って戦える。槍を使って戦える。斧を使って戦える。弓を使って戦える。鎖を使って戦える。牙を使って戦える。武芸百般だけでなく天響術とは異なる魔法も使える。

 それだけでなく古文書の内容を誰よりも理解する理解力や薬や大地の汽笛をはじめとする様々な道具を作る知識もある……たった1つを除いて出来ない事は無いと言っていい。

 

「喰われた時点で、もう手遅れだ」

 

 モアナが穢れを肉体ごと喰らった。

 そうなってしまえば傷を回復させる術を持っていないゴンベエにはどうすることも出来ない。

 

「……お母さん……お母さん」

 

「喰魔が女の子になった!?」

 

「ちげえよ……女の子が喰魔になっていたんだ」

 

 マヒナを食べ終えると樹木の姿から人型に変わるモアナ。

 ベルベットの様に何処から見ても人間の姿、とは言い難くロクロウの様に一部が豹変している訳でもなく全体的に人に似ている姿をしていてライフィセットが変貌に驚くがゴンベエが訂正をする……そうだ。この子は女の子で喰魔になっていたんだ。

 

「なんでお母さんはモアナを置いて居なくなっちゃったの?」

 

「!」

 

「……」

 

 私達に目もくれず、さっきあった出来事が記憶に無いのか泣いている。

 自分の事をモアナと言うモアナを見て、ゴンベエの言っている事を否定していたエレノアは手で口を覆う。

 

「モアナが悪い子だから?弱かったから?ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

「……こんなのって……」

 

 いったい、この子にモアナにどんな言葉を掛ければいいんだ。

 起きている出来事を受け入れきれないエレノアの手は震えており、目は怯えていた。残酷すぎる現実にだ。

 

「モアナ、頑張って強くなったから……聖寮の人が強くしてくれたから……だから、帰ってきてよぉ、お母さん」

 

「聖寮がモアナを強くした?」

 

「喰魔にした……ということかの?つくづく生け贄の必要な連中じゃて」

 

「そんな……じゃあ、最初から娘を救うために!!」

 

「……これが、これが聖寮のやり方か!!これの何処が救世主だ!!これの何処が導師だ!!」

 

 モアナは泣いている。母に会えないことを悲しんで苦しんでいる泣いている!

 スレイは……いや、違う。

 

「こんな事で世界を救える筈がない……こんな事をしなければ世界が救われないなら、救わなくていい!」

 

「落ち着け、アメッカ……聖寮に関して文句を言うのは後だ。先ずは、モアナをここから連れ出すぞ」

 

「喰魔に手を出すことは許さない」

 

「お前はっ!!」

 

 港で偶然に見かけた対魔士。

 騒ぎを聞き付けてやって来たようだが、喰魔とハッキリと言った。

 

「オスカー!聖寮はなにをしようとしているの!!お願い、教えて!」

 

 喰魔とハッキリと言った為に何もかもを知っていると分かり問い詰めるエレノア。

 

「エレノア、君は知らなくていい」

 

「よくない!!この娘は、モアナは!」

 

「例の業魔を喰らったか……君が気に病むことはない。全ては世界の痛みを止める為に必要な犠牲なんだ」

 

「……業魔じゃない!!」

 

 エレノア……

 

「あの人は母親だった!!たった一人の娘の親で──お母さんだった!」

 

 世界でたった一人、何処を探してももう一生見つかることはない。

 そんな大切な命を大切な者が奪ってしまったことを、気に病まない理由が無い。必要な犠牲ではない。

 エレノアの叫びを聞き、私達と目を合わせないオスカー。

 

「だとしても、強き翼を持つものは──がぁ!?」

 

「女の涙には気を付けなさい」

 

「もっと言えば、女の怒りは男の怒りよりも怖いぞ……強さを理由に強要してんじゃねえ、優等生」

 

 喋っている最中に攻撃をし、油断していたオスカーを蹴り飛ばすベルベット。

 私の様に感情を大きく出していないが明らかに怒っている。

 

「てめえに日本式の拷問をしたところで、つまんねえからな……オレのストレスの捌け口としてこれだけで勘弁してやるよ」

 

「がっ、あっ、は、な……」

 

「るせえよ」

 

 バキボキと一本ずつ手の指の骨を折っていくゴンベエ。

 抵抗しようとするオスカーの左胸に強い蹴りを入れて気絶をさせると今度は身ぐるみを剥がしだす。

 

「殺るのはオレにとっては簡単だからな……水路があったから、落書きをした後に全裸で流してやる。その内、死んで苦しみから解放されたいと狂わせてやる」

 

 筆を取り出し、ゴンベエは全裸となったオスカーに落書きをはじめる。

 

「うう……お母さぁん……」

 

「……今の弱い私に出来るのは、これだけだ」

 

 私の槍はアルトリウスにはまだ届きすらしない。

 モアナを閉じ込めている結界を壊すことは今の私ならば出来る。私は結界に向かって槍を振るうと結界は硝子細工の様に粉々に壊れた。

 

「僕はライフィセット。モアナ、ここから一緒に出よう」

 

「……お母さんは?一緒じゃないと寂しいよ……」

 

「寂しくないですよ。離れていても、お母さんはずっとあなたを見守っていますから」

 

「どうして分かるの?」

 

「……私のお母さんも、そうですから」

 

「行こう、モアナ」

 

「……うん」

 

「お前はいかなくて良いのか?」

 

 モアナの側に歩み寄るライフィセットとエレノア。

 私はモアナの側に歩み寄ることはせずに、ゴンベエの元へと近寄る。

 

「私には、エレノアの様にモアナにかける言葉が無いんだ」

 

「……そういえば、まともに見たことねえな」

 

 家族の大切さを頭では理解している。だが、心ではイマイチだ。

 ディフダ家はハイランド王家の分家で、父はその当主で、母は父が市井で一目惚れをした女性。言い方を変えれば一般人、庶民だ。

 これが恋愛小説ならば素晴らしい恋愛譚なのだろうが現実ではそう上手くいかず、結婚したのはいいものの色々と冷えきった関係になってしまっている。家族らしい事をしたのかと思い出を駆け巡って見るが特に見当たらない。ここ数年、まともに顔を合わせた記憶も無い。

 

「ゴンベエはどうなんだ?」

 

「オレは……親子がどうのこうのと言える立場じゃねえ。

今の自分に成る為には前までの自分を捨てなきゃいけねえし、なによりも転生者(この)システムが生まれたのは……」

 

「私と同じ、なのか?」

 

「いや、下手をすればお前よりも酷い。全部を捨てたみたいなもんなんだ」

 

 ゴンベエにも人に言いたくない事はあるか。

 それを聞いて、ますますと親近感が沸いてくる……似た者同士だな、私達は。

 

「ゴンベエ、この戦いを私の戦いにしていいだろうか?」

 

 モアナを連れて来た道を歩きながら、心に決めた事を言う。

 ここは過去での出来事で、私達はあくまでも知るためにこの時代にやって来た。だから、無闇に関与してはいけない。そうなってしまえばなにが起きるか分からない。

 でも、もうそんな事を気にしている場合じゃない。私はモアナを見て、聖寮を許す事が出来なくなった。

 

「お前の腕だと、あの片目包帯にすら届かないのにか?」

 

「……関係無いよ」

 

 弱いから下がるとか、もうそんな事は関係無い。

 今までは見ているだけだったけど、もうそんな自分をも許すことは出来ないんだ。

 

「やりたきゃ勝手にしろ……オレもある程度は好き勝手にする……ん?」

 

「どうかしたのか?」

 

 パラミデスを抜けて、少しずつハリアの村に戻っていく私達。

 ハッ!このままだと喰魔に変えられてしまったモアナと村の人達が遭遇してしまう。世間では業魔になることを病気の1つだと教えられていて、モアナの姿を見た村の人達がなにかを言ってしまうのでは!

 

「ゴンベエ、あの粉だ!あの粉を使えば」

 

「いや、そっちじゃない……なんだこりゃあ」

 

「?」

 

 なにかを感じたゴンベエ。

 私にはなにか分からずハリアの村に通じる門を開くとゴンベエがなにを感じていたのかが分かった。

 

「これは……」

 

「あんた達、さっきからなにを言ってるのよ?」

 

「分からないのか……いや、そうか。ベルベットは感じないか」

 

 ハリアの村のそこら中から穢れが溢れ出ている

 黒い靄の様なものが地面から噴出していて、村の人達の意識が虚ろになっており、宿の娘も私達が帰って来た事に気付いていない。

 

「グリモ姐さん、どうしたんじゃ?解読でなにか分かったのかえ?」

 

 そんな中で私達に歩み寄ってきたグリモワールさん。

 

「違うわ。急に穢れが強くなって、宿屋で本を読んでいる場合じゃなくなったのよ」

 

「……急に穢れが強くなった?」

 

「なんで私を見るのよ?」

 

「ああ、そっちじゃないわ。あんた達が来る少し前によ」

 

 ヘルダルフやドラゴンは穢れの領域を持っていた。

 日に日に強くなっているベルベットがそれを無意識の内に展開しているんじゃないかと思ったが、そうではなかった。

 1日泊まっただけで詳しい実情はまだ分からないが、飢餓や疫病に苦しんでいるといった穢れを生み出しそうな事はなかったのに、何故急にこれほどまでの穢れが?ベルベット達が来たからでもない……。

 

「ぐ、がぁっ!?」

 

「これは、まずい!!」

 

 急に苦しみだす村人達。

 自身が出した穢れとは別の穢れに飲み込まれていく。

 これはグレイブガント盆地で起きた戦争で見た、強い穢れに当てられて憑魔となっていった各国の兵士達と同じ現象に見回れていく。

 

「大丈夫だ」

 

 ゴンベエはそう言うと、鞘ごと背中の剣を抜いて大きく一振りした。

 

「わた、しは……」

 

 意識が虚ろとなっていた宿の娘は意識を取り戻す。

 宿の娘だけでなく他の村人達もなんでここに?と驚いてはいるものの、意識を取り戻しておりなんとか憑魔化する前に穢れを祓えた。

 

「お主、今、穢れを……!」

 

「……やべえな、こりゃあ」

 

「貴女達は……うっ、ぐっ……」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 穢れを祓った筈なのに、また苦しみ出した宿の娘。

 なにかの病気かと慌てると足元から黒い靄が……穢れが出現していく。

 

「ぐあああっ!!」

 

「業魔病!?」

 

「剣を」

 

「ダメだ……焼け石に水だ」

 

 私達から遠い位置にいる村人を皮切りに、憑魔と化していく村人達。

 剣を鞘から抜けば元にとゴンベエを見るのだが、ゴンベエは諦めた目をしていた。

 

「村人達が、突然どうして!?」

 

「これは……大地その物が強い穢れを放っている!?」

 

 黒い靄が地面の中から出てきている。

 これだとゴンベエが、いや、憑魔化した人を誰が元に戻しても、直ぐに憑魔化してしまう。この大地から溢れ出る穢れを──大地の主

 

「あんた達、なにを……この黒い靄が業魔病の原因だって言うの?」

 

 今まで憑魔となる人は見てきたものの、純粋な穢れを見るのははじめてなのか驚くベルベット。

 

「業魔病とは……業魔とはいったい、なんなのですか!?」

 

 穢れについて知らないエレノアは私達に詰め寄る。

 

「待て……その件に関しては、オレから」

 

「まだ遠くにはいっていない筈だ!探しだせ!」

 

「くそ、オスカー様をこんな面白い……酷い姿にしやがって!!」

 

「……業魔が対魔士達の足止めをしている間に港に戻るぞ」

 

「待ってください!」

 

「港に着いたら話す」

 

 アイゼンはそう言うと港に向かって走り出す。

 聖寮の対魔士達が追いかけていることもあってベルベット達も港に行くことを優先してアイゼンを追い掛けていく……。

 

「あいつら、オレが船をマーキングしてんの忘れてんな……アメッカ、先に回るぞ」

 

 私はゴンベエの魔法で、先に船へと戻る……

 

「あの穢れは大地から溢れ出ていた」

 

 地の主が居ない土地を幾度となく足を運んだが、ここまで酷く穢れた場所は早々になかった。

 あれと同じぐらいの時はヘルダルフの様な強い穢れを持っている憑魔が原因だったが、あの場にはいない。

 

「カノヌシが原因なのか?」

 

 大地から穢れが放たれているのを見て、かぞえ歌を思い出す。

 かぞえ歌には大地の主という単語が出てきてそれがカノヌシであり、カノヌシは地脈点を通じて穢れを喰っている。ならば、大地にいるカノヌシがなにか関与しているかもしれない。

 

「それを知るために頑張ってるんだ……あ、帰って来た」

 

 走って港に戻ってきたベルベット達がやって来た。

 

「あんた達、何時の間に」

 

「いや、オレ、マーキングしてるつっただろ……」

 

「そうだったわね……話してもらうわよ」

 

 私達が先に戻っていた理由に納得をすると、直ぐに穢れについて訪ねるベルベット。

 アイゼンは海を見て、なにを話すべきか真剣に考える。

 

「あんた、聖隷の禁忌を破るつもり?」

 

「……これから先に進む上では絶対に避けては通れない道だろ?」

 

「聖隷の禁忌?」

 

「事は業魔だけの話じゃないわ、この世界の仕組みと言っていい真実。下手に知れば、人間そのものの足場が崩れるかもしれない程のね……だから、聖隷はこの事を人間に語るのを禁忌にしていたのだけれど、何故か知っている子も居るみたいね」

 

 私達を見るグリモワールさん。

 現代では導師や天族にまつわる文献はごまんとあるが、穢れと言う言葉は出てこず災厄と言った曖昧な言葉で記されている。

 

「……それでも知りたいか?」

 

「……知らないままで、自分を誤魔化し進むことは出来ません」

 

 エレノアは残酷な現実を受け入れる覚悟を決めた。

 

「……業魔病という病気は存在しない」

 

 そこからはアイゼンの口から語られる。

 人間はなろうと思えば誰だって憑魔に、いや、業魔になれることを。心の闇、負の感情や業から生み出される穢れを。

 殆どの人間が穢れを生み出しながら生きていることを。憑魔こそが真の姿なのかもしれないと皮肉を交え、その真実を世間に伝えていることを。

 

「嘘です!!だって開門の日には業魔なんていなかった!」

 

「エレノア、それは違う……憑魔はちゃんといた。ただ私達が見えていなかっただけなんだ」

 

 今の私達には憑魔が当たり前の如く見えているが、本当はそう見えない。

 天族と同様にある程度の霊応力を持っていないと憑魔も竜巻等の通常ではありえない自然現象や理性を失うほどに怒り狂った人にしか見えない。

 マギルゥやアイゼン達もその通りで、獣人化や悪魔憑きと呼ばれていた病気も実は業魔となった人だと言う。

 

「なんで見えるようになったんだ?」

 

「さぁ……カノヌシのせいじゃないの?遠いところだと、聖隷を見えない人の霊応力を底上げして見えるようにする危ない術があるらしいし」

 

「おい、それ言わない約束だろう!」

 

「そんな約束、した覚えはないわ……とにかく、カノヌシがなにか関係してあるわ」

 

「ったく……その辺りは難しく考えずに大体の事はカノヌシのせいにしておけばいい」

 

 モアナが喰魔となったのも、ハリアの村の人達が憑魔化したのも、ベルベットの弟が殺されたのも、全てがカノヌシのせい、か……。

 

「八つの首もつ大地の主は七つの口で穢れを喰って……喰魔は穢れを吸収してカノヌシに送る。でも、僕達が喰魔を地脈点から……」

 

「坊は賢いのぅ。吸収されなくなったから穢れが溢れたのじゃ」

 

「つまり、こいつのせいね」

 

「でも、こうしないとベルベットがアルトリウスを殺れなくなる。全てはベルベットの為だ。つまりベルベットのせいだ」

 

「……私がこうなったのはアルトリウスのせいよ」

 

「そのアルトリウスはカノヌシを使っているってことは、だ」

 

「カノヌシが全て悪いわ」

 

 巡りめぐってやっぱりカノヌシが悪いと分かった。

 人柱の様な事をしなければ救えないなんて、そんなのは間違っている。

 

「……古文書の記述が信用出来るものだと分かったわ。

地脈点から喰魔を引き剥がす。カノヌシの力を削ぎ覚醒を阻止する為に」

 

「でも、喰魔を奪ったらどんどん業魔になっちゃうんじゃ……」

 

「やらなきゃアルトリウスは殺せない」

 

 例え他の人が憑魔になろうとも、それでもやってやると強い意思を見せる。その姿にライフィセットは強く言えない。

 

「げに、恐ろしい女じゃの~」

 

「真実を知って進むか……いいだ──」

 

「喰魔もいいが、聖主も探さないか?」

 

 真実を知った上で覚悟を決めるベルベットになにかを言えるほどの人間ではない。

 でも、それでもなにかが出来るだろうと聖主の事が頭に浮かび上がった。

 

「聖主が天族なら信仰すれば加護を与えてくれる。

天族の加護領域ならば穢れの力も大きく弱まり、憑魔化も防げる筈だ」

 

 そうすれば喰魔を引き剥がした後の事を心配する必要がなくなる。

 

「それは難しい話よ」

 

「その聖主とやらをオレ達聖隷ですら見たことは無い。

仮に居るとしても、さっきまで居たところはその聖主の一人、アメノチを祀る神殿だ……そこに居ないとなれば、何処にいる?」

 

 肝心のその聖主が何処に居るのかが分からない。

 人々に天族が見えたとしても、信仰すべき対象が居なければ話にならない。一番居ると思わしき聖殿に加護の様なものを感じなかった。

 天族の方々に頼もうにも、世界中に聖寮の根が這っている為に地の主となっても捕えられる……ダメか。

 

「……四聖主探しは頭の片隅ぐらいには入れておくわ」

 

「!」

 

「覚醒していない状態であれだけの力、喰魔を引き剥がしてどれだけ弱くなるかは分からないわ。古文書の記述通りなら、四聖主も使えるわ」

 

「……そうか」

 

 何時もならゴンベエが解釈するが、なにも言わない。本当についでぐらいと思っている。

 このまま進んでいけばアルトリウスやカノヌシと対峙しなければならず、頭の隅に入れてくれているだけでもありがたい。

 

「……どうすれば、いいのだろうか」

 

 空を眺めて私は一言呟いた。

 ベルベットの事か、アルトリウスがやろうとしている事か、自分が戦えないことか、天族と人間はどの様にすれば共存出来るのか?どれに対してかは分からない……違うか。どれに対してもか。




スキット 喧嘩するほどイラッとする(見てる側が)

ゴンベエ「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ふっ」

ベルベット「なに長いため息をついてるのよ」

ゴンベエ「いや、頭では理解していたけども、いざ目の当たりにするとな」

ベルベット「……それがアルトリウスのやり方よ。あいつは個より全を選んだ」

ゴンベエ「あ、そっちじゃない。と言うよりもそれは矛盾してんぞ」

ベルベット「……どういう意味よ?」

ゴンベエ「全だったら、その個も全の内の1つの筈だ」

ベルベット「じゃあ、なんだって言うのよ?」

ゴンベエ「個と個に決まっているだろう。数字の0の概念は存在しているが、概念だけで実態は無く、世の中はプラスとマイナスで出来ていて0は存在しねえ……誰かの幸せは、誰かの不幸によって成り立っているんだ」

ベルベット「なによ、それ」

ゴンベエ「美味い肉を食べて幸福に満たされている奴は、肉となった生き物の死と言う不幸で出来ている。幸せになっている奴等が居るのと同時に不幸になっている奴等が居る……だから、個と個なんだ」

ベルベット「……ここにいる奴等は、ライフィセットのお陰で……っ……」

ゴンベエ「その怒りの刃は今は置いておけ、一度酷い目に遭っただろ」

ベルベット「……分かってるわよ」

ゴンベエ「幸せだけが存在しない、不幸だけが存在しない……個を全部選べば全になるなんて言葉遊びでしかない奴がいるならば思いっきり殴る……ああ、そうだった……はぁ」

ベルベット「結局、なにが理由でため息を吐いてるのよ?」

ゴンベエ「いや、分かってた事だけどよ……アルトリウスとカノヌシをぶっ殺して、はい、終わりの事態じゃねえだろ?」

ベルベット「……は?」

ゴンベエ「その気になれば、何時でも殺せる。あん時感じた力には驚異も畏怖も感じねえ。ベルベット達がやろうとしているから線引きをしているがアルトリウスとシグレとメルキオルを同時に相手にしても余裕で殺れる」

ベルベット「どんだけ強いのよ、あんたは」

ゴンベエ「でも、殺ったら最後、余波がエグい……世界をこんな風にしているのはよくも悪くも聖寮なんだ」

ベルベット「国の中枢が死ねば、そうなるわ」

ゴンベエ「殺れねえとなると……オレは使い物にならねえポンのコツだ。
主に暴力で物事を解決する時、その時ほどオレは動けるけどもそうでないとなればオレは糞の役にもたたん。オレは暴力超特化の戦闘タイプ。暴力によって全てを解決出来る……ああ、こうなると本当に頭が痛い」

ベルベット「あんたは変わった物が作れるじゃない」

ゴンベエ「それはちょっと反則染みた方法だから無しだ。オレから戦闘能力を取ると本当になんも無くなっちまうから、頭の痛い話だ」

ベルベット「……別に、強いだけがあんたの良いところじゃないでしょ」

ゴンベエ「そうは言うけど、オレ、お前並に良いとこねえぞ」

ベルベット「探せば1つぐらいあるでしょ」

ゴンベエ「おいこら、1つぐらいってなんだ1つぐらいって!
巨乳!料理上手!姉!スケベ衣装!絶世の美女!性格良し!戦闘力有り!なんでも御座れだからって憐れむんじゃねえ!」

ベルベット「なっ、そこまで言ってないでしょ!」

ゴンベエ「じゃあ、言ってみろ!戦闘力と知識を除いてオレの良いところを!やべえな、なんか涙が出てきた」

ベルベット「その……顔は、いいわよ。結構イケメンよ」

ゴンベエ「顔()ってなんだよ顔はって!性格悪いのは自覚してっけど、お前は顔も性格も良いから言われるとイラッとくる!!」

ベルベット「じゃあ……アレよ!あんたは私の食事係よ!それだけでも充分に利用価値はあるわ!」

ゴンベエ「お前、そんな事を言ってるけど毎回毎回人の料理にケチつけたりするじゃねえか」

ベルベット「当たり前よ。私が作った方が……」

ゴンベエ「お前の方が料理上手じゃねえか」

ベルベット「じゃあ──」

ロクロウ「なんだアレは……口喧嘩をしてるのか?」

ビエンフー「殺意の波動に目覚める場所で、何処からどういう見ても、イチャついてるだけでフよ!!」

スキット 次回予告は忘れずに

アリーシャ「魔神剣!月閃光!霧氷烈火!絶氷刃!葬炎雅!」

「おい……」

アリーシャ「逆雲雀!熱震集気法!……よし、破邪聖獣球!」

「……聞いてるのか?」

アリーシャ「きゃああ!?……あ、貴方は確か」

「さっきから声をかけているってのに、無視しやがって……」

アリーシャ「すみません、気付かなかったもので……その、何時の間に」

「最初からだ……まぁいい。次回予告しなきゃいけないのに、それをせずになにをしている?」

アリーシャ「槍術の訓練を、少しでも強くなるために」

「無駄な事だ、やめておけ」

アリーシャ「無駄ではないです。こういった日々の訓練を怠れば」

「後ろに下がる事は無いが、前には進まないぞ」

アリーシャ「っ!!!……じゃあ、どうすれば強く」

???「ちょっと何時まで待たせるつもりなの!」

アリーシャ「えっと、この前来ていた……あ、それは次ですか」

???「全く、貴重な次回予告を無駄な事に使うんじゃないわよ」

アリーシャ「無駄……」

???「当たり前じゃない。ただの小娘が頑張っただけでどうにかなるほど事態は甘くないのよ。大体、ベルセリアってゼスティリアをやってたらあれこれどういう感じの心境で終わりなんだってモヤモヤに」

「その辺のメタい話はするな……次回予告だ」

アリーシャ「あ、はい次回!【サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その2】……どうすれば強くなれるんだ」

???「そんなの簡単よ」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その2(PART1)

※読む前の注意点



このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。



お詫び


その2でなにをやったりなにを言ったり考えて、取りあえずこんな流れにしようとなり書いてました。
その結果、前後編で終わる感じにならず更にはなんか果てしなくカオスな事になってしまった。いや、本当になんでシリアスな感じに書いてたらこんなことになるんだ……。4話ぐらい続く!


 真実を知った上で突き進もうとするベルベット。

 

「大丈夫、だろうか?」

 

「真実を知りたいと言ったのはあいつ自身だ」

 

 それに対して、まだ悩んでいるエレノアをアリーシャは心配をするが心配しなくて良い。

 自分の答えが出せる日は近いだろうが、世界はそれを待ってくれない。

 当面は喰魔探しだが、モアナの様な事がある。モアナの時点で大分堪えており、人間をベースとした喰魔と会ってしまったらどうなることやら。

 

「当面は喰魔探しがメインになる。アメッカ、覚悟はしているな」

 

「分かっている……ただ」

 

「元に戻すのは全てが終わってからだ」

 

 非情な現実が待ち受けて、受け止める覚悟は出来ている。

 でも、そのままなのは心残りなんだろう。元に戻せば見知らぬ誰かを仕方ないで見捨てられないんだろう。このままモアナを放置するのも釈だし、元には戻す。

 

「お前がな」

 

「……え?」

 

「忘れたのか?その槍は未完成なんだぞ」

 

 アリーシャの血を加えて様々な力が宿った最高で最硬の素材を使っている。

 それだけだと凄い力をもったアリーシャ専用の槍であり、退魔の力は宿ってはいない。

 

「全部が終われば最後の行程をやって、お前が元に戻せ」

 

「……ゴンベエ、頼みがあるんだ」

 

「現代に戻ったらスレイ云々は絶対しねえぞ」

 

 ヘルダルフを倒すためとか戦争を回避する為とか、そういうのはごめんだ。

 そういう政治とか向いてないから。個として滅茶苦茶強いだけのただの転生者なんだ。

 

「そうじゃない、私を鍛えてくれないか?」

 

「……えぇえ」

 

「どうしてそんなに引くんだ?そんな今まで程の無茶を頼んだつもりはないんだが」

 

「お前、この期に及んで鍛えてくれって……」

 

「強く、なりたいんだ」

 

 迷いも曇りも無い瞳でオレに頼み込むアリーシャ。

 

「お前、貪欲すぎるだろ……」

 

 そんなアリーシャにオレは引いた。

 まだそんな事を言うとか、正直引くわ。

 

「貪欲!?私はそんなに貪欲なのか!?」

 

 無自覚は恐ろしいぞ。

 

「お前な、気付いてないだけでそれなりに強くなってんだぞ?」

 

 具体的に言えば天下一武道会にでた桃白白があのオバハンだとすれば、お前はヤムチャぐらいになってるぞ。

 

「それなりではダメなんだ」

 

 そりゃこの時代の住人がやたらと強いよ。

 その辺の対魔士ですら神衣スレイと同じぐらいじゃないかと思えるぐらいの強さは持っている。エレノア、スレイと戦ったら絶対に勝つし、ライフィセットもライラと勝負したら勝つ。シグレとかもう別次元で、なんかやたらと手を抜いてる節がある。あいつ、真の強さを隠してるぞ。

 

「鍛えてくれつったってどうしろって言うんだ?オレからなにかを教わるって事はオレが出来ることが出来るようになるだけだぞ」

 

「それは……それでもだ!」

 

「それでもねぇ……オレは既にお前に十二分過ぎる程の力を与えてるんだぞ?」

 

 あの槍はシグレの號嵐と真っ向から勝負出来るぞ。

 それだけじゃなくて色々と変わった技とかも骸骨騎士から色々と教えて貰ってると言うのに、まだ更に要求するか。

 いや、それでも足りないのは分かるが……そろそろ強いとかそういうのがなんなのか自力で考えてくれよな、ったく。

 

「必殺技の様な物を授けてくれとは言っていない。なんというか……その」

 

「ちょっと槍を貸せ」

 

 どう言えばいいのか悩んでいるアリーシャ。

 なにを教えれば良いのか分かっていないのはこっちも同じで、一先ずは槍を借りる。

 

「これ、お前専用なんだよな」

 

 血を混ぜた事によりアリーシャもしくはアリーシャの子孫に使える感じの槍になっている。

 スレイとかが使っても絶対に十二分に使いこなすことは出来ない……。

 

「海鳴閃!」

 

 目にも止まらぬ速さで海に向かって槍を振るう。

 するとモーセが海を割った時の様に海は真っ二つに割れた。

 

「これから先、操られている天族と対峙する事がある。

そうなると天響術をどうにか出来る様にならなければなんねえ。この技は水や炎、風と言ったものを斬る技だ」

 

「すごい……どうすればその技を」

 

「いや、教えねえよ」

 

 教えて貰う流れになっているが、教えねえよ。

 

「オレは無駄な事はしたくねえんだよ。お前も無駄な事をするんじゃねえ」

 

 覚えておいて損は無いが、覚えておいて得も無い。

 アリーシャなら数日かければ覚えれるが、オレよりも弱い威力になるだけ。焼け石に水なだけで無駄である。真っ先にやることは、ベルベットと同じ神衣みたいなのを自由にオンオフ出来る様にすることだ。

 

「ゴンベエ……」

 

「甘えるな……それがお前の選んだ道だ」

 

「いや、そうじゃなくて後ろ」

 

「ん?」

 

 アリーシャがそう言うので振り向くと何時の間にやら津波が迫っていた。

 ……え、ちょ、待って。なんで?そんな予兆が一切無かっただろう。

 

「おい、こらぁ!!お前、なに海を割ってんだよ!!こんな事をしたら、ぬぅお!?」

 

 船上から顔を出してオレに文句を言うベンウィック。

 海鳴閃で割った海が元に戻る際の余波かなにかで結構大きめの津波が起きてしまったって、アレ、なんか地震も起きてねえか?ベンウィック、転けてるけども、こっちまで大きな波がまだ来てないよな。

 

「アリーシャ、逃げとけっとぉ!?」

 

 やべ、言ってる側から足を滑らせた!!

 船着き場から足を滑らせ、海へと落ちるオレ。津波にも飲み込まれるが意識を失うなんて事は無い。

 

「ぷはぁ……地震と津波、同時に来るとは」

 

 てか、海水が目に入って痛い。

 

「……ったく、またか」

 

 ん、この声はミクリオ?

 んでここに……あ、そう言えばアイツも天族だったな。エドナとザビーダがこの時代に居るなら、別に居てもおかしくはない。

 

「そこの水の天族、津波をどうにか出来ねえ?」

 

「声で人を判断するな。オレは人間だ」

 

 ……オレ?

 

「……あ、どうも」

 

「急に海の中と思えば、別世界か……まだ現代の銭湯の方がましだな」

 

 段々と目の痛みが無くなり、目を開くとそこには黒子のバスケの黛千尋にそっくりな男性が居た……うん。

 

「また、なんですね」

 

 元居た世界がお盆だかなんだか知らないが、地獄の釜を開けっ放しにしていたらしく、それが原因でこの転生者のシステムを運営している地獄sideがてんやわんや。

 そのせいか知らないが、他の世界で転生者ライフをしている人達が別の世界に行ってしまっているらしい。因みにこの前オレは別の世界に行ってしまい、■□ズニーランドを満喫していた。

 

「ゴンベエ、大丈夫か!直ぐにロープを」

 

「オレじゃなくて、黛さんに投げてくれ」

 

「早くロープを、着衣水泳はそこまでなんだ」

 

「貴方は、チヒロさん?」

 

 ロープを持ってきてくれたアリーシャに助けられ(黛さんが)、海から抜け出す。

 地震と津波の余波かなにかが来ると思ったが特にそんな事はなく、なにも無い……おい、なにも無いってなんだ。

 

「出てこないな」

 

「そうっすね」

 

 こう、オレを育てた鬼とはまた別のが出てくる感じの展開なのに一向に出てこない。

 

「お前達、無事か!」

 

「無事だけど、無事じゃなかった」

 

「え!もしかして何処か怪我をしたの!?」

 

 代わりに船で色々と荷物整理とか色々としていたアイゼンとライフィセットが降りてきた。

 さっきの地震の事があったので興奮をしており、オレの一言で側に駆け寄り傷が無いかを確認する……勿論、オレのみだ。隣にいる黛さんに気付いていない……影が薄いな。

 

「何処も怪我をしてないけど……」

 

「ライフィセット、ゴンベエだけでなくチヒロさんも見ないか?」

 

「チヒロさん?……!?」

 

「お前は、この前の!」

 

 やっと黛さんの存在に気付き、驚くライフィセット。

 アイゼンはこの前、会ったのか驚いているが反応が異なっている。

 

「この間といい、また地震か?」

 

「カノヌシが地面におって穢れを吸っておるんじゃ。地面になんらかの影響はあるじゃろう」

 

「これもカノヌシのせいってわけね」

 

 ライフィセット達に続くかの様にやって来るマギルゥ、ロクロウ、ベルベット。

 

「皆さん、空を見てください!!」

 

 そして空を指差してこちらに来たエレノア。

 空を見上げれば雲が不穏な動きをしており、一ヶ所に集まり眩い光を放つと……某勇者を導く仏様が出てきた。

 

「なんじゃあのぶつぶつ?」

 

「すんげー髪型だな」

 

 前回はアイゼンとアリーシャだけで、仏の初見のマギルゥとロクロウは変なものを見る目で見ている。

 

「……なにも言ってこないね」

 

 何かあるのかと待ち構えるが、なにも言ってこない仏。

 

『はい、本番5秒前!』

 

 おい、カチンコ出てきたぞ。

 もうカメラ回ってるぞ、そこカットするとこだろ。

 

『5、4、3、2、1』

 

『ファークション!』

 

「いや、お主が言うんか!!」

 

 うん、それがあの仏だからな。

 

『え、っちょ、おい。生中継だからカメラを止めるなつったけど先に回すなよ!』

 

「お~い、もうそう言うのいいから。はよせえ」

 

 あんたの相手をしてると色々と疲れるんだよ。

 

「あの方が何者なのか御存知なのですか?」

 

「知ってるかと言われれば知っている様な知らない様な……」

 

「こいつが言うには仏と言う存在らしい」

 

『仏は仏であり、それ以上でもそれ以下でも無い……オホン』

 

 しかし、コイツらにどういう感じに説明しようか……。

 

『前に聞いた者も今から聞く者も心して』

 

「すまないが、少し待ってはいただけないでしょうか!!姿が、見えません!」

 

 え、なに、アリーシャ見えないのか?

 どうする?あれ、まことのメガネを使ったとしても見ることは出来ないだろう。なんかこう、マスクあったっけかな。

 

「取りあえず、これをつけてみたらどうだ?」

 

「いや、あんたこれ、ダメなやつだろう!」

 

 3Dメガネ的な物が無いかと探していると、黛さんは仮面を出した。

 真紅目の黒竜を模した仮面、遊戯王GXに出てくるダークネスの仮面を渡した。

 

「安心しろ、見た目だけだ……つけてみろ」

 

「……っは!凄い、飛び出て見える!」

 

『いや、それは赤色だけだからね。青色もないと仏は飛び出ないから』

 

 じゃあ、カイバーマンのマスクを用意すれば仏は飛び出るのか……って、違う。

 

「それで、なんの用なの?」

 

『え、ちょっと、なんで怒ってるわけ?」

 

「買い物が終われば船を出す予定だったんだ……また、ティル・ナ・ノーグとかいう世界からの干渉か?」

 

「どういうことだ?」

 

「この前、異世界云々を話しただろ……それだ」

 

「あれ、本当だったんですね……」

 

 あんま異世界に関してベラベラと喋ってはいけないからな……どうせいけねえし。

 いけるんだったらトリコとかの世界に行って美味い物を食ってみてえよ。

 

「仏、前回で終わりじゃなかったのか」

 

『我々が思ったよりも大変な事になっていた。

恐らくは、これから先何度かお前がこの世界に飛ばされたり、ゴンベエが逆に行ってしまったりする』

 

「そういうのいいから、とっとと元の世界に返せ」

 

『……おぉい、お前等さっきから人の話の腰をどんだけ折るんだよ。

今回はって言うか今回からまゆゆんだけじゃねえんだよ、下手したらヤバいのが来てたりするんだよ、バカヤロー!』

 

「るせえぞ、そもそもでお前達のミスが原因だろ」

 

 そうだそうだ、ティル・ナ・ノーグとかいう存在しない世界を適当にでっち上げてその世界のせいにすんじゃねえ。

 

「そのヤバいのって、どんな奴なんだ?」

 

『うむ……それは仏にも分からん!』

 

「ヤバいのが来たりしているって貴方が言ったじゃないですか!」

 

『そんなん仏に言われても知らねえよ。

ここ以外でも似たような事が起きてたりするし、もうとにかくヤベエの来てたりするかもしれないんだよ。

とにかく、アレだよ。お前等は今からここを出て直ぐの浜辺行ってこい』

 

「おい、鼻くそをほじるんじゃねえ!」

 

『仏だって鼻くその1つや2つ、ほじくるわ!!』

 

 あ~もう、グッダグダだな。

 

「仏さん!そのヤバいのって例えばどんな感じなの?」

 

『ええっと、ちょっと待ってて。今調べるから』

 

 おい、タブレットを取り出すなよ。

 

『ええ、ヤバいと言うのは例えば死と言う概念を持たない不死の獣とか』

 

「不死身ってことか?」

 

『ああ、違う違う。死と言う概念が無いだけで、殺そうと思えば殺せるから』

 

「……さばらんのぅ、他にはどんなのがおる??」

 

『え~魔法とか剣とかの攻撃が一切通じず言葉による暴力でしか倒せないけど向こうは攻撃してくるラブリーなモンスターとか』

 

「言葉の暴力でしか倒せないのですか?……他にはなにが」

 

『あのさ、お前等。仏、展開が読めたから言うけどもそれ、永遠と続くよね?子供がよくやるなんで攻撃だよな!言っとくけど、こっちも暇じゃないんだよ!』

 

「まだそこまで聞いてないよ!?」

 

『ライフィセットくん、仏がなんて言われてるか知ってる?器の小さい仏だよ。この時点でキレるんだよ、バカヤロー!』

 

「威張って言うことじゃないわよ」

 

『とにかく、港を出て直ぐの浜辺に行ってこいって。

そこになんか居るから上手い具合に頑張ってさ、仏達に楽させてくれよ』

 

 遂に本音が漏れたぞ、このやろう。

 

『一瞬で大陸中の空気を食べ尽くせる馬とかアラガミとかいない……あ、ごめんアラガミはいたわ。とにかく頑張って』

 

「おい、お前今なんかとんでもない事を言わんかったか!?」

 

 え、いるの!?

 この世界、人間とかが穢れでモンスター化してるのになんでそんな他所の世界のモンスターがおるん!?

 アレってオラクル細胞の塊で、この世界だと変な進化を遂げてるかもしれんぞ!?

 

「消えちゃったね」

 

 仏は最後にとんでもない事を言い残し、消えていった。

 やべえよ、この世界GOD EATERのIFかなんかの世界だったのかよ……クレアとかアリサとか居るのかな?

 

「ちょっと浜辺に行ってくるわ」

 

 大体は地獄の運営sideに原因があるが、この世界には無い物がやって来ている。

 もしさっき上げた死の概念が無い生物や大気食の馬王とかがこっちの世界にやって来たのならば、本当に洒落にならん。

 ベンウィック辺りをマーキングしておけばパッと行くことが出きるから先に行って貰おう。

 

「黛さん、行こう」

 

「ああ」

 

「……そう言えば、そいつは誰なの?」

 

「別の世界の住人だ……じゃ、行ってくるから先に」

 

「待てよ。1人だけ面白そうな事をするなよ」

 

 先に行って貰おうとすると、ロクロウが止めに来る……はぁ。

 後ろを見るとベルベット達がオレを見ており、ついて来る気満々だった。

 

「なにがあるか分からねえぞ?」

 

「聖寮となにも関係無い奴に邪魔はされたくないだけよ」

 

「それにその人みたいに、異世界から迷って来た人かもしれないし……」

 

 念のために忠告はしてみるものの、折れそうに無い一同。

 目的は違えども一緒に向かうこととなる…………あ。

 

「何処に向かえば良いんだ?」

 

 あのクソ仏、具体的な位置を教えてくれなかった。

 ここを出て直ぐの浜辺って、何処だよ?もっと具体的な場所を言えよ。

 

「ここを出て直ぐの浜辺となると、グリモ姐さんがおったマクリル浜の事じゃろうな」

 

「とりあえず、行ってみよう」

 

 アリーシャがそう言うとオレ達はマクリル浜に向かって歩き出す。

 

「ここに来てから、骨のある奴を相手にしていなかったからな斬り甲斐があるな」

 

「話を聞いていなかったのですか?下手をしたらです。もしかすると、異世界の住人とやらが来ているかもしれませんよ?」

 

「そっちなら楽なんだがな」

 

 異世界の住人、多分だがそれはオレ達と転生者だろう。

 よくある異世界転生物みたいな感じで転生せずに、鬼灯の冷徹みたいな世界の地獄で訓練を受けた後に異世界転生をしている。だから、変なのは基本的には居ない……変なのは来るな。

 余程のことじゃなかったら転生者は無闇に喧嘩せずに仲良くしておけよと言うのが養成所の方針だし、わざわざ殺しあうのも無駄だし、話が通じる相手がいやがれ。

 

「……ん……」

 

「なんかありましたか?」

 

 もうすぐグリモワールと出会った場所につきそうな頃、なにかを感じた黛さん。

 そう言えば、この人はなんか転生特典を持ってんだろうか?この人、何処の世界に転生しても戦闘系の転生特典無ければ肉体を天響術でパワーアップさせたライフィセットと殴りあって負けるぐらいのスペックだからな。影の薄さとメンタル以外は何処までいっても凡人とオンリーワンな珍しいタイプなんだが、妖怪とか来てたらやべえぞ。

 

「どうやら厄介ごとにはならなそうだ」

 

 なにかに気付いた黛さん。

 するとオレ達の目の前に槍を持った頭がオレンジ色のなんか変な生命体が現れる……マジか!?

 

「迷い人でなく、迷いモンスターの様だな」

 

「なんでそこで笑うんだ」

 

 人でないと分かれば、小太刀を握るロクロウ。

 

「あの、返さなくて大丈夫なのですか!?」

 

「その辺はあのぶつぶつは言っていない。なによりモンスターならば倒しても文句は言われた。いざ……あれ?」

 

 ロクロウが素早く斬ると一瞬にして消滅する頭がオレンジ色のモンスター。

 アレを倒して良いのかとエレノアは心配するが、アレはこの世界では百害どころか世界を滅ぼすやべえやつだ。

 

「んだよ、手応えがねえな」

 

「いや、手応えとかそんなん無くて良いから……それはまずい、本当まずい」

 

 それは本当に洒落にならないことだ。

 この世界にこいつがいたら人類滅亡する。ていうか、地獄で教わったぞ。転生特典を適当に決めて渡したら、コイツらで世界観と合ってなかったりしたから世界が滅亡したって。本当にこれはまずい。というか、黛さんはよく気付いたな。

 

「そんなにまずいのか?見たところ、アメッカでも倒せそうだが」

 

「こいつは雑魚中の雑魚だからなんも問題ねえんだよ。

でも、そうじゃない奴とか色々とあって、そうじゃない奴もそうだが、こいつ等は居る時点でヤバいんだ」

 

「どういう意味ですか?」

 

「どうやらああいう意味じゃぞ」

 

 相手が相手だけに上手く説明しづらい。

 細かな説明をしようとした瞬間、マギルゥはグリモワールが座っていた石の上に立っている人を指差す……あ!

 

「どうやらあんたが親玉みたいね」

 

「……はぁああああ……」

 

 白と黒を基調とする骸骨のような禍々しい姿をオッドアイのソレは大きなため息を吐いていた。

 なんでこんな事になったんだと言う物凄い落ち込んだ時のため息で、憂鬱なのが伝わってくる。

 

「久々の休日を返しなさいよぉおおおおおおお!!!」

 

「おいこら、八つ当たりすんじゃねえ!!」

 

 ハンマーを手にオレ達に向かって来るバカヤロー。

 よくよく考えれば、皆、それぞれ生活があったりするのに急に異世界に飛ばされており苛立つのは分かるが、明らかな八つ当たりは止めろ……仕方ない。

 

「アメッカ、ちょっと槍を借りるぞ」

 

「ゴンベエ、アレはいったいなんなんだ?そう言う見た目の生物なのか?」

 

「いや、違う」

 

「敷いて言うならば神(自称)だな」

 

 とにかく、無駄な戦いをするつもりは無いしアレは戦うと言う行為をすること事態が危険だ。

 アリーシャから借りた槍を手に取り目の前に居るオレ達に八つ当たりをしてくるバカヤローに狙いを定める。

 

「ブラッディースクライド!」

 

 腕を捻りながら神速の突きを放つ。

 突きの剣厚は渦を巻きながら飛んでいき、突撃してくるバカヤローの上半身を吹き飛ばした。

 

「お前等、絶対にそいつに触れるなよ。そいつ変な病気持ってっから」

 

「誰が病気持ちよ!!」

 

「喋った!?」

 

 オレが注意をすると喋るバカヤロー。

 上半身が吹き飛んで無くなっているのに喋った事にライフィセットは驚くが、それよりも更に驚くことが起きる。

 残された下半身が立ち上がり、グチュグチュと気色の悪い音を立てながら上半身を生やしていく。

 

「あの一撃をくらったのに、不死身なのですか!?」

 

「そいつは既に死んでいる……死の瞬間を維持している状態を維持しているのが正しいのか」

 

 誰がくらっても確実に死んだであろう一撃をくらったのに起き上がるどころか甦った事に驚くエレノア。

 黛さんは説明をするもそれについての説明は非常にややこしく、エレノア達は理解出来ていない。それもそうだ。

 白と黒を基調とする骸骨のような禍々しい姿をしている【仮面ライダーゲンム ゾンビゲーマーレベルX】についてテレビゲームの概念が存在しないこの世界で説明をするのは難しい。

 

「全く、なんで私がこんな目に遭わないといけないのよ。折角の休日だってのに」

 

 ぶつくさと文句を言いながらも、さっきとは異なりオレ達に襲い掛かる事無く変身を解除するバカヤロー。

 あ、違った。見た目が某愚かな美人と書いて愚美人と呼んでも良いのではと思う時があるパイセンだった……うん、オレと同じ転生者だな。

 

「人間の姿になった!?」

 

「……あぁ、ここはそういう感じなのね」

 

 ベルベット達を見てなにかに気付く。

 こいつはこの世界についてなにか知っているんだろう……主に原作的な意味で。

 

「えっと、貴女は……」

 

 イマイチ状況を掴めていないものの、戦闘にはならないと分かり警戒心を解くアリーシャ。

 一先ずはと名前を訪ねるのだが、何故か仮面を取り出す。

 

「あのメシバナ刑事から前に聞いてるわ。ここは異世界で私の世界じゃないんでしょ?だから、敢えてこう名乗らせて貰うわ!マスク・ド・美人と!!」

 

「自分で美人とかいうとか正直ないわー!」

 

 某使い回しされている仮面をつけたって既に手遅れじゃないですか、ヤダー!

 それと思い出した。こいつ、同期だ。




スキット ロクでもない世界だけれど

ゴンベエ「なんかすんません。こんな変な事になって」

「何故お前が謝る?」

ゴンベエ「だって、あんたこういうの向いてないだろ?この世界、モンスターとかやべえのごまんといるからさ」

「安心しろ、戦える転生特典を持っている」

ゴンベエ「転生者(同業者)の間じゃ、あんたの事は色々と有名だよ……転生特典とか無い限り、そこそこ体を鍛えてるだけのただの人間だって。持ってるなら取り上げさえすれば終わりだろ」

「……時折、オレと会う奴はオレに頭を下げてきたりするが、いったい地獄でオレについてどういう風に教えているんだ?」

ゴンベエ「しくじり先生」

「あ?」

ゴンベエ「怒らないでくれよ、あんたの事を説明しようにもそれしかないんだ。
まだ養成所が出来て間もない頃に転生したのは良いけれども、異世界転生はヤバいと様々な失態を犯した人だと」

「……まぁ、転生してもロクな目に遭わない時がかなりあるな」

ゴンベエ「それを見てちゃんと訓練しておかないと異世界転生は出来ませんって思わせたりする……将来的にも、オレも異世界転生した人はこんな事をしますって後輩達に見られるんだろうな。雷落ちてこぉおおい!って科学文明が無い世界に転生してしまって生活苦になってるアホな奴的な紹介をされたりするんだよな……」

「言っておくが、オレもちゃんと転生者になる為の訓練をしているからな……才能の有無は別だが」

ゴンベエ「あんた突然変異タイプだからな」

「お前みたいにバトルものの世界だと絶対無敵な奴が羨ましい……まぁ、力があるせいで面倒ごとに更に巻き込まれるからなりたいとは思わない」

ゴンベエ「無いなら無いで辛いだろ」

「今更だ」

ゴンベエ「なら、スゲエよあんたは。そもそもで一番のハズレ世界と言われているFGOの世界がはじめて転生した世界なんだろ?」

「……あの世界は本当に地獄だった、本当に辛かった」

ゴンベエ「あんたの活躍でソシャゲの世界はストーリー云々以前に大勢のキャラと仲良く出来るか出来ないかの問題だって教える教材になってる……そういや、あんた今、何処の世界に転生してるんだ?」

「真かなんかは知らんが恋姫無双の世界で、今は呉の国に居る」

ゴンベエ「え~と、女体化三国志エロゲだっけ?」

「合ってはいるが、その言い方はやめろ……知識限定で知りたいことを教えてくれる転生特典といざというときに戦える転生特典を貰っている」

ゴンベエ「んだよ、オレと丸被りじゃねえか」

「んなわけないだろう。主人公もとい天の御使いだと思われて、違うと否定したけど色々と主人公と被っていて、この影の薄さのせいでこいつ出来る!試してみるか!ときっと攻撃を防ぐだろうと防ぐのに成功する前提の試し斬りで背中を斬られて死にかけたんだ……お前は同じ目に遭ったか?」

ゴンベエ「……ホント、ロクな目に遭ってないな。同情する」

「影の薄さや異質さを理由に面白い試してやろうとえらそうな奴に不意討ちされる事は多々ある、今更なことだ。
それにそのお陰で色々と有利に事が進める様になった。孫策に仕えてこの転生特典を用いて国のレベルを上げたりする仕事で絶対に戦線に立たなくて良い……怪我の巧妙だな」

ゴンベエ「皮肉にすらなってねえ!?」

「ロクな目に遭っていないのはある意味お前の方だろう……過去も未来も、最悪な事だらけなこの世界でわざわざタイムスリップまでしてなにがしたいんだ?」

ゴンベエ「黛さん、あんた……」

「聞くか?」

ゴンベエ「……いや、いいよ。聞いたところで無駄だ。戦闘で解決できる事じゃねえから」

「お前、物凄い脳筋だな……」

ゴンベエ「それだけが取り柄みたいなものなんでな……それにここがどれだけロクでなしな世界で残酷な現実でも今の方が昔より何倍も幸せを感じる」

「違いないな。オレもなにもない人間として生きてた頃よりも今の方が幸せだ」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その2(PART2)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。



お詫び


その2でなにをやったりなにを言ったり考えて、取りあえずこんな流れにしようとなり書いてました。
その結果、前後編で終わる感じにならず更にはなんか果てしなくカオスな事になってしまった。いや、本当になんでシリアスな感じに書いてたら■■がはじまるんだ……。


「自分の事を美人って言ってるんじゃないわよ!そういうコードネーム的なのよ!」

 

「お前は愚かな美人と書いて愚美人で良いだろう」

 

「誰がポンコツよ!」

 

「お前しかいねえだろ、忘れたとは言わせねえぞ。

今時、料理なんて本さえあれば誰でも出来るからちょっとやそっとじゃ料理上手とは言えないわ。レシピを見ずにオリジナルの作り方が出来る奴が料理上手なのよ!って言って料理を始めたと思ったら美味い物と美味い物を掛け合わせる事により更に美味しくなるわ。カレーとチャーハンを合わせたカレーチャーハンよ!ってドヤ顔でドライカレーを作ってきただろ」

 

 異世界から迷い混んで来た人?であるマスク・ド・美人と知り合いなのか心底呆れているゴンベエ。

 

「仕方ないじゃないの!私にとってドライカレーって言ったら、なんかこうキーマカレー的なのが乗ってるのしかイメージが無かったんだから!」

 

「キーマカレー言うとるやないか」

 

 なんだかとっても嬉しそうに笑うゴンベエと顔を真っ赤にするマスク・ド・美人。

 するとマスク・ド・美人はなにかに気付いた様でハッとする。

 

「なんであんたがそんな事を……そうか、分かったわ!

あんたはアレね!主人公おちょくったり暴力振るうタイプのヒロインが主人公に見限られて捨てられて、別の男に同じことやろうとしたらやり返されたりして自分がどんなに主人公に甘えていたのか実感して恋心を自覚して戻ってみようとするけど別のヒロインとくっついていて、一人ぼっちになり絶望の淵に落ちる姿を見てみたいって言ってた」

 

「長い。そしてあいつは女だから、オレは違う」

 

「あ、じゃああいつね!!

ツンデレでデレた姿は可愛いけども日常的にダメな奴がメインヒロインはちょっと。僕的には良妻で人気投票でも勝ってるサブヒロインと主人公は結ばれるべきだ!ってカップリンク押しをする!」

 

「そいつも違う、そいつと仲良かったが違う。

アレだ。戦闘の実技訓練で人質を取られた際にどうするかで、その女に人質の価値はねえってお前を全力で蹴り飛ばした奴だ」

 

「ああ……あんたね」

 

「あんた等、いったいどういう関係なわけ?」

 

「アメッカと出会う前に色々と修行してた時の知り合い」

 

 なにやら色々と面白そうな事を語るマスク・ド・美人。

 会話からしてももしかしてと思っていたが、私と出会う前に出雲の国の黄泉比良坂を越えた先にある場所で色々と修行をしていた頃の知り合いだった。

 確か、出雲の国の黄泉比良坂を越えた先では異世界に関する様々な研究をしていて異世界にいく方法もあると言っていたな。彼女はそこから異世界に行って、ティル・ナ・ノーグという世界の干渉を受けて、こちらに戻ってきたのか……ん?

 

「ここは」

 

「細かいことを気にするな。アレは異世界の住人だと思えば良い」

 

 色々とおかしな点が浮かぶが、それを口にする前にチヒロさんが止める。

 口にはしなかったが、頭で考えてみるがよく分からずマスク・ド・美人もチヒロさんも異世界から来た人だと思えばいいと完結をした。

 

「大体の事は知ってるわ。私の世界でも似たような事が起きていたから」

 

「お前の世界というのはどんな世界なんだ?異世界はそれこそ人間の髪の毛の数ほど存在しているらしいが」

 

 興味津々に聞くアイゼン。

 スライムが統治する魔物の国がある世界、数百年先まで未来を視る事の出来る占い師が未来の技術を逆輸入し本来あるべき歴史から大きく変えた世界、城下町を暴れまわる最低でも家一件程巨大な蟲を倒す侍が居る世界。

 ゴンベエから聞いたことのある世界は幾つかあるがそれでもまだまだ世界は沢山あるらしく、語りきれないほど。

 

「言う義理は無いわ……それに、言ったところで行く方法は無いわ。

それこそあんた達が私みたいに向こうからやってくる形じゃないと……いや、あんた達の場合はコピーになるわね」

 

 アイゼンの質問を断るマスク・ド・美人。

 なにか意味深な事を言っておりその意味は分からない。私達の場合はコピーとはどういう意味だろうか?

 詳しい事を聞いても語るつもりは無いのかつけていた仮面を取り外してサングラスをかける。

 

「とにかく、あんた達が来たから帰る事が出来るわ……大事にならずに済んだわ」

 

 空を見上げ、そう呟くマスク・ド・美人

 これで仏の依頼は終わった……のだが、一向に仏が出てこない。

 

「出てこないわね」

 

「そもそもで、仏って一方通行だからな」

 

 そういえば私達から連絡を取ることは出来ない。

 一向に仏が出てこないとなると諦めたのか少し大きなため息を吐いた。

 

「ニノミヤ、あの腐れ仏が来るまで拠点かなにか貸しなさい」

 

 ……ニノミヤ?

 

「ニノミヤ言うな、ゴンベエだ」

 

「ゴンベエって、あんたどっからどう見ても」

 

「ちょ、こい」

 

 知らない名前を出し頭に?を浮かべる私達。

 そんな中、ゴンベエは自分はゴンベエだと主張するのだがマスク・ド・美人はおかしな事を言うと眉を寄せてなにかを言おうとするのだが、その前にゴンベエが連れていった。

 

「1つ聞きたいが、アイツの名前はゴンベエであっているのか?」

 

 ゴンベエとマスク・ド・美人が岩辺で話し合っていると、チヒロさんがおかしな事を聞いてきた。

 

「あっているもなにも、私と出会った時にナナシノ・ゴンベエと名乗りましたよ?」

 

 衝撃的な出会いをしたあの日、ゴンベエは自分でそう名乗った。

 レディレイクで商売や買い物をしたりするのに偽名を名乗るわけは無いですし……そもそもで私とゴンベエは一年以上の付き合いがあり、ハイランドで一番付き合いが長いと言っても良い私に偽名を名乗り続けるだなんてありえない。

 

「名無しの権兵衛……そういうことか」

 

 なにか1人に納得をするチヒロさん。

 なにがそういうことか聞こうとしたが、その前にゴンベエとマスク・ド・美人が戻ってきた。

 

「そんな名前でいいの?もうちょっとましなのあったんじゃないの?」

 

「いや、もうこれでいいかなって。

キラキラよりもシワシワの方がまだましだし、そもそもで今さらはな……なんか大変な事になるし」

 

 なにか気まずそうな顔をしているゴンベエ。

 チラッと私の方に視線を向けたが、いったいなんだと言うのだろうか?

 

「じゃ、あんた達がやってる事を再開しなさい。私はここで本でも読んで4号が来るのを待ってるから」

 

 何処かから持ってきたビーチチェアに寝転ぶマスク・ド・美人。

 私達の事を考慮してくれたのかさっさと行けと手を動かしている。これは……行った方が、良いのだろうか?

 王宮で見たあの憑魔が喰魔なのか確かめる為にも一度ペンドラゴに戻らなければならない。アルトリウスの目的が分からない以上は喰魔を地脈点から引き剥がさなければならない。

 

「お前がとっとと元の世界に帰らねえとなんも出来ねえんだよ。下手すりゃこの世界の人類滅亡迅雷なの分かってんのか?」

 

「バカね、そんな事ぐらい分かってるわ。私がそんなアホな事をすると思っているの?」

 

「真剣な話をしている途中で悪いが、業魔が集まってきよったぞ」

 

 普通に会話をしていたから、忘れていたがこの辺りには普通に業魔がいる。

 ついさっきゴンベエが放った一撃で退いていたのだが、それから特になにもしてこなかったせいなのか海洋生物型の業魔が海や砂浜からジッと此方を睨んできていた。

 

「ああもう!人が大事な話をしてるって時に邪魔すんじゃないわよ!」

 

 業魔の視線に苛立ちマスク・ド・美人は白色のなにかを取り出した。

 

『デンジャラスゾンビ!!』

 

 白色のなにかのスイッチを押すとなにかから人間の声が聞こえ、マスク・ド・美人の背後になにかの映像が浮かび上がり更にはマスク・ド・美人を中心にモザイクが出現して広がっていき、マクリル浜に来て最初に見た業魔ではないオレンジ色の頭をしたモンスターが出現する……これは、何処かで見たような……いったい何処だったろうか?

 

「言った側から、使ってんじゃねえよ!!」

 

「別にいいでしょう。この方が一掃出来るんだから!」

 

「よくねえよ、人類滅亡させんじゃねえ」

 

 話が見えてこないな。アレの何処が人を滅亡させる物なんだ?

 言い争うゴンベエとマスク・ド・美人。最終的にはチヒロさんが間に入ることで納まり、仏がやってくるまでここで待つこととなり憑魔とは絶対に戦うなと釘を指された。

 

「ゴンベエ、さっきの技なんだが」

 

「まだ言うのか?」

 

 睨んでいた憑魔はゴンベエが一瞬で倒し、待つだけの私達は暇だ。

 何時もの様に黄金の狼が現れてくれればと思ったがそう都合よくは現れず、ついさっきゴンベエが放った技を教えてほしいと頼む。

 

「ただ待っているだけなら時間を有効に活用したい」

 

 ゴンベエが槍の技を放った跡を見る。

 一直線に砂浜は抉れており、海まで届いたのか、その先にある海は大きく荒れていた。あの神速の突きをものにすればきっと私は今よりも強くなれる。

 

「なら、言ってやる。そいつは世界で一番時間の無駄な使い方だ」

 

「……そこまで言わなくてもいいじゃないか!」

 

 どうしてそんな事を言うんだ!私だって、毎日毎日頑張っているのになんでそんな酷いことが言えるんだ!!

 

「ちょっと、五月蝿いわよ。くだらないことでなにを揉めてるのよ」

 

「マスク・ド・美人、これはくだらないことじゃない!」

 

「……ごめん。マスク・ド・美人は止めて。やっぱハズい。本名飽田ヒナコだから、飽田様と呼んで」

 

「自滅してんじゃねえか……」

 

 毎日毎日、槍を振るっている。

 骸骨騎士から教わった技を実戦でも使える様に傲る事なく頑張っている。それでも足りないから、こうやって頑張ってるのに……。

 

「まぁ、話の内容はなんとなく分かるわ。取り合えずブラッディースクライドは教わらなくてもいい技よ。と言うか、アレって足りないのよね」

 

「足りない?」

 

「ある意味、未完成の技ってことよ」

 

 アレで未完成だと!?

 マスク・ド・美人にそう言われると、もう一度ブラッディースクライドの跡を見る。抉れた砂浜はあの技の恐ろしさを物語っている。

 

「途中で威力が消えたりしたわけじゃないし、アレが未完成ってどういう事だ?」

 

 話を聞こえたのか加わるロクロウ。

 ブラッディースクライドがどうして未完成か分からない。マルトラン師匠の槍術よりも恐ろしいあの一撃、足りない物が分からない。

 

「あの技は海と地しか斬ることが出来ないのよ」

 

 そう返されると頭にほんの少し前の事が頭に過る。

 海鳴閃という技を使って海を割っていた。あの技と魔神剣は似ているが魔神剣よりも遥かに優れた技だ。それと原理は似ているが異なるブラッディースクライド。

 

「海と地面以外にもなにかを斬れるってことなのか?」

 

「あ~、多分、あんたには一生出来ない技よ……邪悪な人間には使えないから」

 

「む、それは確かに俺には出来ない技だな」

 

 憑魔には使えない技?……意味がよく分からない。

 ブラッディースクライドにはなにかが足りない未完成の技だということしか分からなかった。

 

「ていうかさ、なにをそんなに強くなりたいわけ?

戦闘能力に999振っている化物染みた強さを持ってるそいつと比較したらダメよ。あんた、自覚していないだけでそれなりにやるわ」

 

「流石にゴンベエレベルは……それなりじゃダメなんだ。せめて、皆と肩を並べて戦えるぐらいには強くなりたいんだ」

 

 これから先、戦いはより激しくなる。

 それだけじゃない。アルトリウスとカノヌシを倒せば終わるという話でなくなっている。なら、最低でも皆と肩を並べる程の強さにならなければ、今のままで強いと言われても今の自分よりも遥かに強い猛者達を見ていて、それが敵なんだ。

 

「お前、結構無駄な考えをしているな」

 

 強くなりたい意思を見せると寛いでいたチヒロさんはどうでもよさげにそういう。

 

「私の何処が無駄だと言うのですか?」

 

「才能が無い」

 

「ちょ、黛さん」

 

「黙ってろ……力を貸すのは勝手だが甘やかして良い道理は何処にも存在しない。このままだと刺されるぞ、お前」

 

 ずっと黙って見ていただけのチヒロさんは重たい腰を上げて私と向かい合う。

 

「なんで無駄無駄言ってるか分からないバカに少しだけ理解させてやる」

 

「才能が無いなんて理解しています。だからこそ、人よりも努力をしてい」

 

「お前、なにか勘違いをしていないか?努力はして当然な物だ」

 

 チヒロさんのその言葉は私の胸に深く突き刺さった。

 

「努力なんて皆、当たり前の様にしている。違いがあるとするならば、その努力の効率の良さか悪さだ。

その上で努力は才能を凌駕するや才能が無くても諦めなければなんて甘えた考えを持っているのなら、才能がある奴が才能が無い奴並に高密度な努力をしたら終わりだって理論に気付いているのか?」

 

 私の考えを真っ向から潰しに掛かるチヒロさんになにも言い返せない。

 ……心の何処かで分かっていたかもしれない。必死になって毎日頑張っていて、少しずつ結果が出てきた。それでもまだ足りないと。毎日毎日頑張っても、届かない壁の様な物に阻まれているのを。

 ロクロウ達の強くなる速度と私が強くなる速度の大きな差があるのを……。

 

「……ゴンベエ、私は諦めた方がいいのかな?」

 

 結局のところ、何処まで行っても何処の場所でも才能の世界。

 私には才能が無いのならば諦めた方が良いのかもしれない……現に私は霊応力の才が欠けていたから、スレイに負担をっ!!

 

「いや、それとこれとは別の話だぞ」

 

「……え?」

 

「才能があるなしはあるが、それはそれ、これはこれだ。

そんな事を言い出したら黛さんなんて影の薄さ以外は才能の欠片も無い凡人どころか下手な劣等生だぞ……普通のやり方じゃ、ダメなんだよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。意味がよく分からない」

 

 言っていることがおかしい。なにか所々真逆の事を言っていて理解が追い付かない。

 才能が無いから諦めるのと才能が無いから無駄でしなくていいは一緒じゃないのか?

 

「お前に分かりやすく言ってやる。

1の修行をして10の経験を得る奴が才能がある奴だとすれば、お前は4から6ぐらいの経験しか手に入れる事が出来ない」

 

「それなら1じゃなくて2の修行をして」

 

「さっきから同じ事を何度も言わせるな、それが無駄なんだ。

2の修行をして追いついたとして、才能がある奴が2の修行をすれば一瞬にして詰めた差が開く。簡単な数の計算も出来ないのか?」

 

「……益々意味が分からない」

 

 チヒロさんの言っていることは理解できている。

 それで諦めろと言うのならばまだ道理が通っているが、それで諦めるのは話が別なのが分からない。

 努力をしても無駄だなんだとさっき強く否定していたのに……。

 

「要するに、する努力が違うのよ。

人間にだって色々とあるでしょ?頭が良かったり、足が早かったり、手先が器用だったり。他の人には負けないオンリーワンな武器がなんなのか、他の人が1の修行で4しか経験を得られなくても自分は10の経験を得られる努力をしろって言うわけよ」

 

「成る程……確かに、それだとさっきまでは時間の無駄だな」

 

 マスク・ド・美人が要約してくれ、ロクロウは納得をする。

 私にしか出来ない、私だからこその強み……海鳴閃を教えてほしいと頼んだが、アレはゴンベエも使う事の出来る技だ。

 だったら私が覚えたとしても少し強くなれるものの、本当にそれだけだ。それならば他の事に時間を使えばいい。誰でもない私だからこそ強くなれる方法に。

 

「アメッカ、この場所に来てお前は色々な物事を見た。

オレ達のところじゃスレイしか出来ていない事をポンポンと出来て当たり前でインフレが起きていて、相手は神みたいな存在だ。そのせいで自覚は無いだろうが、既にスレイと一緒に居た時よりも遥かに強くなっている。けど、周りがそれよりも強い。もう最初に必要な土台は、基礎はとっくに出来ているんだ。後は自分の、自分だからこその型を、守破離の時なんだ」

 

 そうか……。

 今まではマルトラン師匠に、最近は骸骨騎士とゴンベエから色々と教わっていた。でも、もうその段階は終わりの時が来ていた。

 誰かが歩いていた後のある先が分かる道を歩んでいてはその人の真似、その人の下位互換になるだけ。誰も通っていない自分だけの道を通らなければならない。その道を通る為にすることが無駄じゃない努力なのだろう。

 

「答えは、ずっとあったか……」

 

 目を閉じ、自分だけの道を考えて直ぐに答えが出た。

 私の血を混ぜた私の為だけに作られた私専用の槍。この槍に秘められた力は凄まじく使いこなせれば……今まで色々と技を覚えたが為にこんな簡単な事すら見失っていたとは。

 

「うわ、なにそれ?」

 

 槍が放つ禍々しいオーラに引いてしまうマスク・ド・美人。

 私はもう馴れてしまったが、この槍から感じるオーラは凄まじく使いこなせればきっと道は切り開ける……

 

「この槍を、どうすれば使いこなせるのだろうか……」

 

 結局はそこが問題である。

 この槍を使いこなす為に毎日怠る事なく鍛練をしているものの兆しが見えない。一度だけ使えただけで、それだけだ。

 あの時を再現すればと思っても上手く出来ず、ピンと来ない。

 

「その槍、使ったら呪われるの?」

 

「呪われると言うより、気分が高揚していて自分が自分で無くなると言った感じで」

 

「成る程ね……まぁ、乗り掛かった船みたいだしズバリ、言うわ。強い魂が必要なのよ!」

 

「強い魂?」

 

「そう、闇にも負けない強い魂。それを持っていれば、その槍は使える筈よ」

 

 時折私は穢れを放ってしまう。それは諦めたり絶望したり非情な現実に負けそうになっているから。私と同じ素材を使って出来た剣をベルベットは使いこなしている。ベルベットは折れずに戦っている。一度、完膚なきまでにアルトリウスに叩きのめされたのに、それでも折れずに突き進んでいる。

 この強い心が、強い魂が差を作っている……どうすれば強い魂を手に入れる事が出来るんだ?

 心を鍛えると言っても、どうすれば良いのだろうか?それだけは分からない。

 

「健全なる魂は健全なる精神と健全なる身体に宿るわ」

 

 健全なる魂は……そうか!!

 

「筋肉を鍛えれば良いのか!」

 

 なにをすれば良いのか分かった。

 盲点だった……私に足りないのは筋肉だったのか。

 

「ゴンベエ、効率の良い筋肉の鍛え方は無いだろうか?」

 

「待って。うん、待ってくれ。なんでいきなり筋肉になったんだ?」

 

 早速、筋トレに取り掛かろうと効率の良い筋トレは無いかとゴンベエに訪ねる。

 何故そんなおかしな者を見るような目を私に向けるんだ?

 

「健全なる魂は健全なる精神と健全なる身体に宿る。ならば、強靭な魂は強靭な精神と強靭な肉体に宿る。

強靭な精神がどういった事かは分からないが、強靭な肉体はなにか分かる。その為に必要なものはそう、筋肉だ」

 

「成る程、確かに強い奴は筋肉があるな。

技1つ取っても筋肉あるかないかで大分変わるし、槍を使って戦うなら筋肉は重要だ」

 

 私の意見に頷いてくれるロクロウ。

 エレノアが言うには、ロクロウの兄であるシグレは天響術を一切使わずに剣だけで特等対魔士らしく號嵐を振っただけで突風が吹き荒れた。それはつまり鍛え上げた筋肉を使ったからだ。

 ライフィセットの様に天響術を主とした戦いでなく槍術を主とした戦いをするとなれば、シグレと同じように……筋肉が必要になる。

 

「ねぇ、ちょっと大丈夫なわけ?なんかおかしいんだけど、なんで筋肉達磨になるわけ?」

 

「体力と物理防御力が高いからだろ……ゲーム的に」

 

「アメッカ、違う。筋肉あるなし関係ねえ。そして黛さんはあんまそういうの言わないで、あんまそういう事を考えていないから」

 

「だが、ヘルダルフもムキムキでゴンベエも物凄い怪力なのだろう?」

 

 そしてスレイも神衣では大剣や大弓、大きな拳を振るっていた。大きな武器はそれだけで重く使いこなすには筋肉が必要ではないのか?

 

「違うわよ、筋肉なんて無くてもどうとでもなるわ。世の中には筋肉ムキムキでもそんなに力が無かったりする奴とか普通にいるし」

 

「おっと、心はガラスだぞ」

 

諏訪部(ピーー)ボイスで遊んでるんじゃないわよ……あ、でも防御力に全振りで体力自慢の筋肉で騎士で茅野」

 

「話、ズレてる……そういう危ないのは他所でやれ」

 

 段々と話がおかしくなってきたのをチヒロさんは修正する。

 なんだかさっきからピーー音ばかり聞こえているが、いったいなんだと言うんだ。いや、それよりも、今はどうすれば強い魂を得られるかだ。

 

「どうすれば強い魂を」

 

「簡単よ。こうすればいいのよ」

 

 マスク・ド・美人はそういいデンジャラスゾンビと音を出した物と形は一緒だがまた別の物を取り出し、白いアンデットの姿になった時につけていた紫色のよく分からない道具の挿し込み口に差し込んだ。

 

『ガシャット!』

 

「培養」

 

「っ、アメッカ!」

 

「──え」

 

 紫色のソレを籠手の様に装備をすると私に向かって振りかぶるマスク・ド・美人。

 さっきまで出していた声とは違う焦った声を出したゴンベエは私を突き飛ばした。

 

「て、っめぇ……」

 

「あんたなら確実に守る。この攻撃から自分を盾にしてでも。

これは攻撃とは言い難いもので、魔法を使っても防げない。いえ、魔法とは対極にある物だからこそ絶対に効かない」

 

「ゴン、ベエ?」

 

 攻撃を受けたゴンベエは今までに見せた事の無い苦痛の表情を浮かびあげる。

 マスク・ド・美人の狙いは最初からゴンベエだった様で、驚く素振りすら見せていない。

 

「後で、一回、殺、す……」

 

 ゴンベエが倒れた。

 

『インフェクション!レッツゲーム!バッドゲーム!デッドゲーム!ワッチャネーム!?ザ バグスター!』




スキット ナナシノゴンベエ(✕)

ゴンベエ「よし、アメッカ達は……来てないし聞いてねえな」

ヒナコ「なんなのよ、いったい」

ゴンベエ「いや、その……ニノミヤって言うのを止めてくんねえか?」

ヒナコ「はぁ?……ああ、そういうことね。マサタカって呼べば良いのね。この世界って名字じゃなくて名前呼びが当たり前よね」

ゴンベエ「そうじゃねえよ。ニノミヤでもマサタカでもなく、ゴンベエって呼べ」

ヒナコ「ゴンベエって、あんた何処からどう見てもワールドトリガーの二宮匡貴でしょ?」

ゴンベエ「いやまぁ、そうだけど…」

ヒナコ「もしかしてアレなの?転生する前の自分の本当の名前と被ってるわけ?」

ゴンベエ「いや、違う」

ヒナコ「だったら、なんでゴンベエなわけ?私達転生者の容姿は私達の魂が決めるわ。私が虞美人なのも、知的で理性溢れる人間だからよ」

ゴンベエ「それは絶対に違う」

ヒナコ「なんでそこは即答なのよ!!」

ゴンベエ「そういうノリだ……ともかく、ナナシノ・ゴンベエで通ってるんだよオレは」

ヒナコ「名無しの権兵衛って名前が無い奴をバカにする時に使ってるする言葉じゃない」

ゴンベエ「実際は違う。まぁ、とにかくはじめて出会った奴に名無しの権兵衛って言ったら、それが名前だと勘違いをされたんだよ」

ヒナコ「はぁ……待って、それおかしいわよ?
私達が転生した際にここはどういう感じの世界とか転生特典について書かれた紙が置かれていて、その際に自分の新しい名前とかも教えてくれる筈よ」

ゴンベエ「そうなのか?オレはなんにも書いてなかったんだが……運営サイドのミスか?」

ヒナコ「ありえるわね……そもそもでこの異世界転生のシステムってトライ&エラーの連続だし。養成所が出来たのだってある程度は育ってる中高生ぐらいの子供を転生特典を適当に渡して転生させたら大変なことに……いや、それよりもあんたもしかして魂が不安定かなにかじゃ」

ゴンベエ「もうそういう細かいのは良いだろう。オレはナナシノ・ゴンベエで通ってるんだよ。昔の苛められる原因だったキラッキラなクソネームから解放されて真っ白になったんだよ!」

ヒナコ「真っ白って、文字通り名無しの真っ白じゃない!!」

ゴンベエ「いいだろ別に。この世界、オレ以外の転生者居ねえんだし今のところは名前で迷惑を掛けてないんだから」

ヒナコ「それはそうだけれど……大丈夫なわけ?」

ゴンベエ「なにがだよ?」

ヒナコ「ナナシノ・ゴンベエって言う名前で通っているけど、名無しの権兵衛ってバレた時よ。
本当の名前を捨てて転生している私達が言うのもなんだけれど、名前って結構大事なものよ……名無しの権兵衛と名前が無い奴と知られたら、ショックを受けるわよ」

ゴンベエ「問題ねえよ……ナナシノ・ゴンベエがオレの名前なんだからよ」

ヒナコ「そういう良い感じの終わりにしても、絶対に大変な事になるわ!断言出来るわ!」

ゴンベエ「ならねえ……アリーシャなら優しく受け入れてくれる。オレはアリーシャの心を信じる……さっさと戻るぞ。長居してるとなにを言われるか分かりやしねえ」

ヒナコ「……絶対に刺されるわね」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その2(PART3)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。



「おい、大丈夫か!?」

 

「これ、が大丈夫に見える、か……」

 

 攻撃をくらい倒れたゴンベエを見て、ロクロウも驚いている。

 自分達の戦いでないとここぞと言う戦いは戦ってはいないものの、圧倒的な強さを持っている事を知っている。そんな強さを持っているゴンベエが倒れたのは緊急事態だ。

 

「なにかあったの!?」

 

「ベルベット、ゴンベエが」

 

「ぐ……」

 

 ロクロウの叫び声を聞こえ、この辺りに浮いている、ねこスピという物を集めていたベルベット達が駆けつけた。

 状況を上手く説明する事が出来ず、一先ずはゴンベエが大変な事になっていると苦しむゴンベエを見せる。

 

「ライフィセット、直ぐに治療して!」

 

「うん!」

 

「無駄よ」

 

 苦しむゴンベエを見て、直ぐに治療をライフィセットに頼むベルベット。

 ゴンベエの側に駆け寄り回復系の天響術をかけようとするライフィセットを見て、バッサリとマスク・ド・美人は否定をする。

 

「これって……」

 

「どうした?まさか、手遅れな程に重症なのか!?」

 

 回復系の天響術でも出来ない事はある。

 傷を治したとしても血液が一定量体に無ければ肉体の傷を素早く治しても死に至る。ライフィセット達の術が優れていても血液は作り出せない。

 

「ゴンベエ、怪我をしてないよ」

 

「……なら、いったいどうして」

 

「毒を打ち込まれたかもしれん。パナシーアボトルを飲ませてみてはどうじゃ?」

 

 倒れているゴンベエを改めて見ると、苦しみ汗を流しているだけで傷らしい傷は無い。

 攻撃した道具を見ても殺傷能力がある物ではない。ノコギリの刃の様な物はついているが、それで攻撃はされていない。

 マギルゥが別の可能性を示したので私はパナシーアボトルを取り出し、ゴンベエに飲ませてみるものの容態は変わらない。

 

「どんな状態異常も飲めば一瞬にして消し去るパナシーアボトルでもダメだなんて……」

 

「ちが、う。パナシーアじゃ、ダメな、だ、け……ぐ!」

 

 これでもダメとなると、後はどんな万病でも治すと言われるエリクシールしか無い。

 けど、それはこの時代でも製法は知られておらず例え有ったとしても、今この場にはない。

 

「テメエ、いったいなんの真似だ?」

 

「なんの真似もなにも、そいつが強くなる方法を知りたがってたからよ」

 

 アイゼンの問い掛けにマスク・ド・美人が私を見て答えると視線が私に集中する。

 違う!

 

「私はどうすれば強靭な魂を得られるか聞いただけだ!ゴンベエをこんな目にしてくれなんて言ってない!」

 

「だから、強くなるにはこうしなきゃいけないのよ」

 

「何故だ!?ゴンベエは無関係じゃないか!」

 

 私をゴンベエが守ると確信していたから、マスク・ド・美人は私を攻撃してきた。

 攻撃をくらってどうにかしろというわけでなく最初からゴンベエを狙った攻撃。私が強くなる為には強い魂を、強い心が必要なのに何故ゴンベエをこんな目に遭わせなければならない!?

 

「無関係?関係大有りよ……強くなるには強い猛者になる為の絶対の条件って知ってるかしら?」

 

「強くなる為の条件ですか……健全な心と慢心せず怠る事の無く積み重ねる努力ではないのですか?」

 

「違う。てか、その辺りのくだりはついさっきやったわ」

 

 さっきまでの私と同じ答えを出すエレノア。

 マスク・ド・美人に直ぐに否定される。

 

「才能かのぅ?どれだけ努力をしてもどれだけ強い信念があろうとも世の中にはどうにもならん壁がある。その壁をどうにかする為には才能が必要であろう?」

 

「いい線行ってるけど、それも少し違うわね。

例えどれだけ優れた才能を持っていたとしても、それを生かす環境が無ければ宝の持ち腐れよ……こいつは強さを求めた。一騎当千の猛者となり得る程の強さを。その強さを得る為には強靭な魂が必要なのよ」

 

「強靭な魂を得る為に何故この様なことを」

 

 何故この様なことをしようとしているのか一向に理解できない。

 最終的なゴールは分かったものの、それまでの過程が分からずエレノアは聞いた。

 

「決まってるじゃない。こいつを地獄に叩き落とす為よ」

 

 私を、地獄に叩き落とす……だと……。

 

「稀に変なのが居るけれど、基本的に強靭な魂を最初から持っている奴は存在しないわ。

体を鍛えて強靭な肉体を得るのと同じで魂も鍛えないと強靭にならない。その為には地獄を歩まないといけないのよ。けど、ニノミヤに甘えているせいで地獄に突き落として歩まされられないのよ」

 

「ゴン、ベエ、つって……」

 

「こいつが死ねば、はじめて地獄を歩くことが出来る。

地獄を巡ることにより、強靭な魂を得て一騎当千の猛者となる力を得るのよ」

 

「つまり……ゴンベエをこんな目に遭わせたのは」

 

「アメッカ、違うでしょ!!

悪いのはあの女であんたにはなんの罪も無い。こいつを殺してまで力を得たら……それこそアルトリウスと同じよ!あんたの欲しい強さや力はそうじゃないんでしょ!!」

 

 自責の念に刈られると励ます言葉をくれるベルベット。

 そうだ……ゴンベエを殺してまで得た力だなんて欲しくはない。

 

「はぁ、呆れた……まだ分かっていないの?」

 

「なにがだ?」

 

「そこのガキ以外がどうやって強くなったかよ」

 

「僕、以外が?」

 

 ライフィセットを指差し、私達に哀れむ視線を向けるマスク・ド・美人。

 どうやってベルベット達が強くなったのが、分かるのか?

 

「望まない戦い、叶わない理想、不条理、理不尽、そして死。地獄にはそんなものが極々当たり前の様に溢れている。

人にとってなにが苦しい辛いかは別だけれど、あんた達以外は地獄と呼ぶに相応しい道を歩いて強靭な魂を得て猛者と呼んでもいい強さを得たわ……私とこいつは文字通り地獄だけれど」

 

 マスク・ド・美人がベルベット達の強さについて語ると、私とライフィセットの視線はベルベット達に変わる。

 ベルベット達はマスク・ド・美人が言っていた事を違うと強く否定することはせず、私達の顔を見ようとはしない。

 

「……否定は、出来ん」

 

「アイゼン……」

 

「今のオレになるまでの道は楽とは言えない過酷な道だ。

死神の呪いなんて物を持って生まれたが故に様々な苦難あり、それが地獄かと言われればそうかもしれん」

 

「まぁ、そうだな。

俺の中であの時、あんな事があったから強くなれたと言う物はある。そいつが地獄かどうかと言われれば、地獄なんだろう」

 

「力を求めるとは逆に考えれば力を求めざるをえない理由があるから。武勲で名を上げた猛者が居るのは戦争という地獄があったから……皮肉じゃの」

 

 地獄を歩んだからこそ猛者と呼ぶに相応しい強さを得た。

 その事をロクロウもマギルゥも一切否定しない。それだけの事が過去にあったから。

 

「悲惨な過去が、地獄が私達の魂を強くしてくれた事は否定できません……ですが、だからと言って他人にまで同じ思いをさせるのは話が別です!悲劇は、繰り返してはなりません。例え彼の様な外道でも、生きる権利はあります!」

 

「生きる権利があるなら死ぬ義務もあるって知ってる?……まぁいいわ。時間は大分稼げたし」

 

「大変だよ、ゴンベエの体が!」

 

 エレノアの意見を真っ向から否定するマスク・ド・美人。

 私達がマスク・ド・美人と話している間にも徐々に徐々にゴンベエの容態が悪化していた。

 顔色が悪くなる、何処か皮膚の色が変わると言った毒系の状態異常で見られる変化でなく、まるで水かの様に薄く透明になっていた。

 

「あんた、こいつになにをしたのよ!?」

 

「聞くばっかじゃなくて、自分で考えたらどう?」

 

 毒や麻痺を回復させるパナシーアボトルを飲んでもどうにもならず、見たことの無い症状を出すゴンベエ。

 ベルベットはマスク・ド・美人に迫るが、マスク・ド・美人は答えるつもりは無い。

 考えろと言われても、こんな症状は見たことはない。いったい、これはなんなんだ……。

 

「異世界の、病気か?」

 

 必死になってゴンベエがなにに苦しんでいるのか考えてみるものの、私は浮かばず、ゴンベエをジッと見ていたアイゼンが答えた。コレが病気……

 

「ゴンベエはお前を見た途端に尋常で無い程の焦りを見せ、監視まではじめた。

それは異世界にしか存在しない病気を持っているから……パナシーアボトルは毒や麻痺、火傷には効果がある。だが、病気に対しては一切の効果は無い……違うか?」

 

「正解よ……私が来た時に人の事を病気持ちだなんだ言ってたから、それぐらい分かって当然よね」

 

 マスク・ド・美人を見て直ぐに触れるなと病気を持っていると言っていた。

 どんな攻撃をも防ぐ事の出来る魔法を使えるゴンベエがその魔法を使わなかったのは、目立つ外傷どころか傷が無いのに苦しむのは、攻撃をくらったのではなく病気になったから。

 

「恐らくはこの病気はどんな病気をも治すエリクシールがあったとしても、治すことは出来ない」

 

「これは飲み薬とかそんなの使っても無駄なのよ。

少なくともこの世界だとどんなに頑張ったとしてもこの病気は治せないわ!」

 

 そんな……じゃあ、このままゴンベエは……。

 

「いや、手ならまだある」

 

「っ、どんな手だ!?」

 

 私に出来ることなら、なんでもする!

 

「年老いたり不摂生な生活をして体の機能が上手く働かずになる病気と病気の原因を摂取してしまう病気の2パターンある。オレ達と同じ物を食っていてまだ若いこいつは不摂生な生活で病気になることはない」

 

 前にゴンベエから聞いたことを語るアイゼン。

 

「病気の原因を摂取……確かゴンベエは攻撃をくらって、病気になった」

 

 あの紫色のよく分からない道具で病気の原因を入れられた。

 

「だったら、話は簡単だ。こいつは特効薬を持っている!

病気を武器にしているのなら自分が感染しない様にしなければならない。その為には、病気を治せる特効薬が必要不可欠だ!!」

 

「そういうことね……薬をさっさと寄越しなさい。さもないと、痛い目見るわよ?」

 

 どうすればいいのか分かると真っ先に動いたベルベット。

 剣をマスク・ド・美人の喉元に突き立てて、今すぐに薬を出せと脅す。

 

「残念ね……この状態でまだ希望を持とうとするだなんて。天からの救いの糸は、蜘蛛の糸なのよ」

 

「なっ!?」

 

 ベルベットの剣を自らの喉に刺した!?

 

「もう一発!」

 

 余りにも予想外すぎる事をするマスク・ド・美人。

 驚いた隙をついてベルベットの右手を取り、自身の左胸に……心臓に向かって剣を刺した。

 

「残念だけど病気を治す方法はあっても特効薬の様な物は無いわ……まぁ、どのみちこれであんた達の希望は断たれたわ!!」

 

『ゲームオーバー!』

 

 光の粒子となって消えていくマスク・ド・美人……後にはなにも残らない……。

 

「なんてことを、なんてことをしたんだ!!」

 

「ち、違う、私は」

 

「ベルベットが剣を突き立てなかったら、死ぬことは無かった!!」

 

「あいつが、勝手に」

 

「ベルベットの、せいにすんじゃ、ねえ……最初から、こうする腹だ……」

 

「ゴンベエ!」

 

 今にでも消えそうなぐらいに姿が薄くなっているゴンベエ。

 無理をして身体を起き上がらせる。

 

「オレを、舐めるなよ……ふーーー」

 

 心配する私に無事だと言いたいのか深呼吸をはじめた。

 すると、少しだけだが薄くなっていた体が元に戻る……だが、完全には元には戻らない。時折、ゴンベエの体に電流の様な物が流れている。

 

「ぐ……はぁはぁ……っ!」

 

 必死になって立ち上がるも、力が上手く入らずに地面に倒れるゴンベエ。

 また体が透明になっていく。

 

「ちょっと、待ってろ……もう、ちょっとなんだ」

 

「もういい喋るな!!無理に喋ったら症状が悪化する!」

 

 段々と私の手を握る力が弱まる。ここまで弱くなっていくゴンベエは見たことはない。

 

「ちょっとぐらい無茶しねえと、この病気は治せないんだよ。バグスターウィルスと分離しねえと」

 

 目蓋が段々と閉じようとしているゴンベエ……あ、あぁ……このままだとゴンベエが死ぬ。私はそう感じた。

 

「死ぬな!死ぬんじゃない!!」

 

「…ル…せぇ……」

 

 私の声の大きさに一喝する事すら出来ないゴンベエ。

 声もまともに出ない……着実にゴンベエは死に向かっている。このままだと死ぬ……嫌だ。ゴンベエには死んで欲しくはない。死ぬならば、共に歳を食って老人となってからだ。

 死ぬなんていわせない。生きろ、生きてくれ……死なないで……そう強く願うが奇跡なんて起こるわけもない。

 

「死ぬな!!死なないで!!死なないでよ!!ゴンベエが死んで、私が強くなってもなにも嬉しくない!!」

 

 私が欲しかった強さは力は、ゴンベエを犠牲にして手に入れたものなんかじゃない!

 

「私、ゴンベエを守れるぐらいに強くなりたいの!」

 

 それなのにゴンベエが死んだら元も子もないよ!!

 

「そこまで……弱か、ねえ……」

 

 自分は強い人間だからと必要無いと笑うゴンベエ……違うそうじゃない。

 

「強いから弱い人を守りたいとかじゃない……私は、私は隣を歩きたいんだよ!」

 

 ゴンベエはずっと私の前を歩いている。

 私が歩んでいる生き方の道と異なる道を歩いていて、私には見えない道が幾つも見えている。本当なら更に先に進めるのに、わざわざ後ろを振り向いて私の手を握り私の知らない道の前まで案内をしてくれる。

 嬉しいけど、それだけじゃ嫌なんだ。何時かゴンベエの隣を歩きたいんだ!互いに背中を預けられる様になりたいんだ。

 

「った、く……無茶を言いやがって」

 

 地面が透けて見える程に透明になっていくゴンベエ。

 死ぬ……ゴンベエが死ぬ……いやだ。死なないで、死なないでよ!!

 

「後もう少しか?」

 

 チヒロ、さん?

 

「途中から完全にオレの事を忘れていただろう。消えたりするのはオレの専売特許だが、忘れられては困る」

 

 死ぬなと必死になってゴンベエの手を握っていると間に入ってきたチヒロさん。

 

「そういえば、お主もおったの」

 

 ゴンベエの事やマスク・ド・美人の印象が強すぎて、すっかり忘れられていたチヒロさん。

 マギルゥもそういえば居たなと思い出したかの様な顔をしている。

 

「お前達やこの世界の住人に殺されるなら迷いなく見捨てたが、流石に他所の世界の奴に死なせるわけにはいかない……色々と五月蝿いからな」

 

「治せるのですか!?」

 

「あくまで、治すきっかけを与えるだけだ。どうにかするのはお前達次第だ……オレは戦闘能力皆無だからな」

 

 なにかを手にしたチヒロさん。

 仰向けになっているゴンベエの腰に触れるとゴンベエが更に苦しみ出す。

 

「いったいなにを」

 

「さっき、アイゼンが言っただろ?

病気に二種類あって、こいつは病気の原因を摂取したからこうなったって。なら、簡単だ。病気の原因を殺せばいい」

 

「っ、キツい……けど、今ここでオレが限界を越えねえと、話にならねえよな!!」

 

「なにか出てきたぞ!!」

 

 体が段々と薄くなっていく症状から一点、モザイクの様な物がゴンベエから飛び出して叫ぶロクロウ。

 

「はぁ、はぁ……なんとか、体の外に追い出せた……」

 

「さっきより顔色がよくなってる……じゃあ、アレがゴンベエを蝕んでいた病気の原因なんだ」

 

 体から追い出した事により段々と濃くなるゴンベエ。

 それでも完全に戻らず、ゴンベエの体から抜け出たモザイクの塊をライフィセットは見る。

 

「まだ終わってないぞ」

 

「アレが病気の原因ならば追い出せば病気は終わりではないのですか?」

 

 これでと希望を持ったが、まだ終わりではなかった。

 段々と小さくなっていくモザイクを見ながらチヒロさんは語る。

 

「あくまで分離させただけだ。ウイルスを殺さねえと問題は解決しない……後は分かるな?」

 

「そういうことなら、私達に出来る!!」

 

 病気の原因を倒せばゴンベエは治る。

 私は槍を手に取り、色や形が変わっていくモザイクの塊に向かって攻撃をする。

 

「海竜旋!」

 

【MISS】

 

 踊る様に、自身と槍を回転させ竜巻状の水流を起こして斬る。これは……槍の力が使えている。

 ロウライネの時と同じだ……いや、今はこんな事を考えてる暇は無い。

 

「櫓独楽!!」

 

【MISS】

 

 槍を支点にして回りながら蹴りを入れる。

 一刻も早く倒してゴンベエを救う為にも手を休めるわけにはいかない。

 

「熱震集気法!!」

 

【MISS】

 

「……マジかよ。あんのアホ、オレになに入れやがった!?」

 

「待ってて、今すぐに倒すから!」

 

「やめておけ」

 

 極限まで集中して手を緩めず攻撃をしていると体調が戻ったのか大きな声を出すゴンベエ。

 回復の兆しが見えてきたと更に攻撃を続けようとするとチヒロさんが止めてきた。

 

「さっきからアメッカの攻撃をまともに受けているのに傷が1つもついてないな」

 

 ロクロウがそう言うと改めて戦っている相手を見る。

 槍の刃先で何度も何度も斬りつけた筈なのに、目立つ外傷が無い。攻撃を受けた痕が残っていない。ちゃんと攻撃をした筈なのに……私の攻撃が弱かったの?

 

「退いてなさい。岩斬滅砕陣!!」

 

【MISS】

 

 ダメージを受けていない事に戸惑っているとベルベットが攻撃に加わる。

 跳躍して相手を剣で貫き更に地面に突き刺して衝撃波を巻き起こし、衝撃波と地面の破片を起こす。強力な技……だけど。

 

「これも全く効いていない……まともに直撃すれば大ダメージの筈です!」

 

 全く効いていなかった。

 

「先程から、攻撃をする度になにやら出ておるがそれが関係しておるのか?」

 

「攻撃に失敗してるって教えてるんだよ」

 

「攻撃に失敗って、私は確かに斬ったわよ!」

 

「私達の攻撃はちゃんと成功しているよ!」

 

 ベルベットの攻撃は見事なもので、失敗とは思えない。私の方も成功した感触はあった。

 それなのに攻撃が成功していないとはどういう意味なの!?

 

「そいつは特定の方法でしか倒せない敵だ」

 

「それって、仏さんが言っていた!」

 

「そうだ……これは……」

 

「敵の姿が一気に変わっていくぞ!!」

 

 ここに来る前に聞かされた事を思い出すライフィセット。

 チヒロさんがなにかを言おうとしていると姿が一気に変わっていく事にアイゼンは気付き私達に知らせてくれる。

 モザイクの塊はアイゼン程の大きさになっていき、段々と人の形に変わっていき最終的には……筋骨粒々の体格の良い髪の青い厳つい顔を持った男となった。

 

「ぶるぅぁあああああ!!」

 

「……え、アレマジでなに?ラヴリカとかバガモンとか、暴力で倒さず勝つ奴が出てくるんじゃないの?なんでこんなビクトリームみたいに叫ぶ若本ボイスのおっさんが出てくるんだ?」

 

 出てきた筋骨粒々の男に戸惑うゴンベエ。

 奴を倒しさえすれば、ゴンベエを助ける事が出来る……私達の攻撃は通じない、いったいどうすれば。

 そう考えていると金属で出来た円柱の様な物を男は私達に向ける。

 

「ひぃふぅみぃ……どうやら頭数は揃えているらしいな。ならば貴様等に選ばせてやる!先攻か!後攻か!」

 

「そうだな……後攻で頼む」

 

「真夏の夢に破れ、散っていくがいい!!」

 

 よく分からず説明も無いまま勝手に進めるチヒロさん。

 なにかの勝負が決まった様で筋骨粒々の男が大きく叫ぶと眩い光を放ち、私達を包み込む。

 

「ここは……闘技場?」

 

 眩い光に包まれたと思えば、何時の間にか見知らぬ場所に移動していた。

 ざっと見た感じではなにかの闘技場を思わせるスタジアムの形をしているが見たことの無い物もある。

 

「マジか……よりによってここかよ」

 

 何時の間にか服装が変わっているゴンベエはこの場所を知っているのか驚いている。

 よくよく見れば私の服装も変わってる……私達全員が同じ服装をしている。

 

「今やっとあいつがオレになにを打ち込んだかハッキリと分かった」

 

「ここが何処だか知っているのか?」

 

 右を見ても左を見ても先程いた砂浜と異なるよく分からない場所。

 アイゼンは目元に右手を置いて気分を落としているゴンベエにこの場所について聞いた。

 

「ここは擬似的にとある場所を再現した特殊な空間だ」

 

「なら、ここの元となる場所をお前は知っているのか」

 

「ああ……ここは甲子園。摂津の国にある野球の聖地と呼ばれる場所だ……くっそ、やべえな」

 

 この場所が何処かを伝えると、ゴンベエは倒れた。

 

 

See you Next game




読者の諸君!


なぜ アリーシャとベルベットの攻撃が効かないのか!


なぜ ラヴリカやバガモンの様なバグスターウイルスでなく若本ボイスの筋骨粒々の男(バルバドス・ゲーティア)が出てきたのか!


なぜ 摂津の国にある阪神甲子園球場に移動したのか!



その答えは、ただ1つ!!






その2は野球回だからだぁぁあああああ!!








色々と考えてたらなんか野球回になった。


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その2(FINAL)

と言うことでこのぐだぐだイベント(その2)完結。


「大丈夫!?」

 

「止めておけ、体から追い出しただけでまだ治っていないんだ。

抗体を持っていなければ動くことすらままならないのに、立ち上がってベラベラと喋ってたツケだ」

 

 倒れたゴンベエに駆け寄るライフィセットを制止するチヒロさん。

 病気の原因を追い出しただけで、倒していない……なにかおかしい気がするけど、とにかく病気の原因を倒さないといけない。

 

「都合良くベンチに3DSが置いてやがった。コレでオーダーを決めろって事か」

 

「あの、よろしいですか!!」

 

 近くのベンチにゴンベエを連れていくと手帳の様な道具を持って帰って来たチヒロさん。

 手帳の様な道具を触りなにかを考えているとエレノアが手を上げ、質問をする。

 

「なんだ?今更になって、こいつは何だかんだで敵だし死ねば良いと思っているから力は貸しませんは無しだぞ。オレだってコイツを救う義理はそこまで無いのに力を貸しているんだ」

 

「その様な事は思っていません。一寸の虫にも五分の魂と言いますし、なによりもこの様なやり方で強くなって欲しくはありません」

 

「じゃあ、なんだ?」

 

「……私達は今からゴンベエの病気を治す為に病気の原因を倒すのですよね。明らかにおかしな事になっているのですが」

 

「何処がだ?」

 

「全てがです!薬を煎じて飲むのでなく、直接病気の原因を倒すのに何故この様な闘技場の場所に移動する必要があるのですか!?」

 

 至極真っ当な意見をぶつけるエレノア。

 チヒロさんやゴンベエはなにをすれば良いのか理解しているけれど、私達はなにをすれば良いのか知らない。

 勿論、ゴンベエを治す為にもやれることは精一杯やるつもりだけどここに来てなにをするのか分からない。

 

「決まってるだろ……野球をする為だ」

 

 や、きゅう?

 

「あいつは野球をして勝利する事で倒すことが出来るファミスタのバグスターウイルス。

多分、本来の見た目と若干異なっているのはこの世界の住人であるあいつが感染したからだ」

 

 ……。

 

「……野球って、なんなの?」

 

 私達の思いを代表してベルベットが聞いた。

 チヒロさんは知っているみたいだけど、野球ってなに?私、聞いたことも見たことも無いけど……。

 

「そうだった……そのレベルの世界だった……」

 

「おぉい、早くポジションのオーダーとスタメンを決めろ!」

 

「ちょっと待ってろ!こっち、野球というものを知らないレベルの集団の集まりなんだ!」

 

 ゴンベエを苦しめる病気の原因、普通に待ってくれてる……その、野球というので戦ってくれるからなの?

 

「で、なんだその野球ってのは?」

 

「スゴく分かりやすく言えば、9人でやるスポーツだ」

 

「スポーツ……え、スポーツなのですか!?こう、馬に乗って戦う戦車とかそう言うのでなく?」

 

「そうだ……オレとしてはバスケの方が楽なんだがな」

 

「おかしい、おかしいです!なんでスポーツで病気の原因を倒せるのですか!?」

 

「健康的な汗をかいて体の新陳代謝を良くして病気の原因を治すんじゃないのか?」

 

 ロクロウ、上手い!

 

「いや、そういう感じじゃなく、野球に勝てば自動的に治るんだよ」

 

「ますます意味が分かりません!!」

 

「エレノア、郷に入っては郷に従えと言う言葉がある。

自分の舵を奪われる事は気に食わんが、相手は異世界の病気だ……野球とやらで勝てばゴンベエの病気が治る。ならば、野球をするしかない!!」

 

 アイゼンの言うとおりだよ!!今更、嫌だなんて絶対に言わせないよ!!

 

「っ……分かりました。それで治ると言うのならば精一杯やらせていただきます!」

 

「……あれ、でも僕達8人だよ?ゴンベエを含めたら9人だけど、まともに動けないし……」

 

「なーに、大丈夫じゃ。こういう時のビエンフーじゃ」

 

「はい!!ここは、ボクがゴンベエの代わりをするでフよ!!」

 

 まともに動けないゴンベエの代わりをビエンフーがする事により、なんとか9人になる私達。

 チヒロさんから野球の簡単なルールを教えてもらう。野球は小さな硬いボールを使った攻守に分かれてするスポーツで、ここに来る前に聞いてきたのは先攻か後攻か。私達は守備からはじまるようにチヒロさんが決めた。

 

「ピッチャーはオレがやる。キャッチャーはアイゼン、お前がやれ」

 

「……オレとしてはピッチャーをやりたいが」

 

「ただ力任せに早いボールを投げるだけで勝てるほど野球は甘くはない。それを許されるのは室伏だけだ。

ずぶの素人のお前等にピッチャーを任して大暴投で試合にすらならないのだけは洒落にならない。お前等よりはまだオレの方が投げれる……ピッチャーとキャッチャーがちゃんとしていれば、最悪他のポジションはどうでもいい」

 

「まぁ、ワシ等ずぶの素人じゃからの!」

 

 そんな感じでチヒロさんが仕切り、ポジションを決めていく。

 他のポジションがどうでもいいと言うだけあり、他のポジションはすんなりと決まっていき、打順も決まった。

 

 1 ファースト  エレノア

 2 レフト    アメッカ

 3 ピッチャー  チヒロ

 4 サード    ロクロウ

 5 キャッチャー アイゼン

 6 ライト    ベルベット

 7 セカンド   マギルゥ

 8 センター   ライフィセット

 9 ショート   ビエンフー

 

「プレイボール!!」

 

『かっ飛ばせ!ストライク!ヒットエンドラン&ホームラン!かっ飛ばせ!ファミスタ!決めろ、完全勝利!』

 

 審判と思わしき人の宣言と共に音楽が流れ、試合が始まる。

 私は自分のセットポジションに立って何時でもボールが飛んできても動ける様に構える。

 

『1番、センター!とらつきい!』

 

「……着ぐるみ?」

 

 相手のチームの攻撃からはじまる野球。

 1番最初に攻撃する打者が出てきたのだが、何処からどう見ても虎の着ぐるみだった。

 今気付いたが、対戦相手の選手……1番最初に出てきた筋骨粒々の男以外は全て着ぐるみだ。

 

「何処からどう見てもトラッキー……いや、昔のファミスタは権利関係とかで実名を出せなかったな」

 

 なにかに納得をしながら野球で使うボールを投げるチヒロさん。

 バットを構えるとらつきいはボールに向かってバットを振るわずに、そのまま見送った。

 

「ストライク!!」

 

「あれで、大丈夫なのか……」

 

 チヒロさんが投げたボールはお世辞にも素早いとは言えない。

 あれぐらいの速度ならば普段から素早い憑魔も相手にしているベルベット達なら簡単に撃つことが出来る……相手は恐らく野球のプロフェッショナル。最初になにもしなかったのは様子見で、次からは確実に打ってくる。

 心配を余所にチヒロさんはボールを投げた。やっぱり、いや、さっきよりも遅い球だ!

 

「打たれた!」

 

 予想通り打たれてしまったチヒロさんのボール。

 打たれたボールはゆっくりとゆっくりとベルベットのいるライト側に向かって高く飛んでいき、ベルベットの左手に納まった。

 

「アウトォ!!」

 

「ほっ……よかった」

 

「全く、はじまって早々に打たれてるんじゃないわよ」

 

「お~い、ボールを返してくれ」

 

 打たれた事に動揺せず、ボールの返球を要求するチヒロさん。

 ベルベットはチヒロさんに向かってボールを投げるのだが、あの左腕で投げた球の速度は物凄い事になっておりチヒロさんの真横を通り過ぎる。いや、チヒロさんは避けた。代わりに後ろにいたアイゼンがキャッチした。

 

「お前に返されたボールなんだ。しっかりとキャッチをしろ」

 

「うるせえ、お前等みたいなビックリ集団じゃなくてオレは普通の人間なんだよ」

 

 一人目をアウトにし、二番目の打者がやってくる。

 

「2番、ファースト、スライリイ!」

 

 ……あれはなんの生き物だろう?

 二番目の打者がよく分からない生物の着ぐるみで、少しだけ困惑する。

 

「さっきは打たせたから、次は三振を狙うか」

 

 さっきと同じく遅いボールを投げるチヒロさん。

 チヒロさんのボールの速度はもう知っていると一球目からバットを振りにかかったその時だった。チヒロさんの投げたボールは曲がり、スライリイは空振りをした。

 

「伊達に歳は食っていないんだ。体を鍛えても直ぐに限界を迎えるオレには素早いボールは無理だが、変化球ならなんとかなる」

 

「ストライィイイク!!」

 

 遅い曲がるボールを投げたチヒロさん。

 これならばいけると別の方向に曲がるボールを投げ、三振を取ったのだが

 

「変化球なんぞ、使ってんじゃねえええええ!!」

 

 バルバトスが金属バットを手にチヒロさんの元に駆け寄ってきた。

 

「チヒロさん!」

 

「大丈夫だ……次の打順はお前だぞ?」

 

 絡まれるチヒロさんの元に向かおうとすると制止するチヒロさん。

 バルバトスに怯えることなく、ほくそ笑むと血管を浮かび上がらせたバルバトスは右の打席に入りバットをチヒロさんに向ける。アレは、ホームラン予告。チヒロさんの変化球を完全に破るつもりだ!

 

「変化球も盗塁も小手先の技も不要だ!!男は黙ってホームランあるのみ!!」

 

「敵ながら言うじゃねえか……チヒロ、やるぞ!」

 

「やらねえよ」

 

 勝負だ!とど真ん中に構えるアイゼンを無視し、バルバトスのバットが絶対に届かない左端にボールを投げる。

 そこは絶対にストライクを取れるゾーンじゃない……まさか、この人!

 

「ボール!」

 

「おい、ここは正々堂々とストレートだろ!」

 

 最初からバルバトスと勝負をするつもりがない!?

 ストレートを投げて勝負する感じの雰囲気を出していたのだが、チヒロさんはガン無視。フォアボールを狙いにいき、それを見ていたロクロウに野次を飛ばされる。

 

「うるせえぞ。走力もパワーもミートも完ストしている選手に打たせて取るとか変化球を投げて上手く打たせないとか出来ねえんだよ。あれ、長嶋茂雄よりも強いんだ……オレが勝てるわけないだろ?」

 

「それは威張って言うことなのですか?」

 

「フォアボール!!」

 

 ゴンベエも時折堂々と変なことをしているが、チヒロさんも堂々と勝負から逃げた。

 バルバトスは今にでも私達を殺しそうなぐらいの睨みをきかせつつ、1塁に向かっていきその後、4番の打者であるツバロクロウから三振をもぎ取り最初の回は危なげなく乗り切った。

 

「黛さん、すいません」

 

 私達の攻撃となり先ずはグローブを置きにベンチに戻ると、寝たきりのゴンベエが謝った。

 

「あんた、完全な部外者なのに……くそ、オレ、こういう感じのでも役立つのに」

 

「お前が死ぬと色々と五月蝿いんだ……まぁ、どうせゲーム病になるんだったら太鼓の達人のゲーム病になって欲しかったがな」

 

 自分が動けないことを悔しがるゴンベエ。

 動けないことを恥じていて悔しがっているわけでなく、何処か残念そうな感じで悔しがっている。表情は一切動いていないが、嫌味の1つを飛ばしつつもチヒロさんはなんだか楽しんでいる感じがする……。

 ゴンベエとチヒロさんは出身は違えども同じ学校の様なところに通っていて、話が通じる相手だ。ゴンベエが時折言っているSNS等のよく分からない物についても知っている。

 

「いいな……」

 

 ゴンベエと対等に話し合っている、ゴンベエの言っていることを理解できている。

 

 私とゴンベエの関係はよく分からない感じだ。主従の関係があるわけでもなく、どちらが上か下かと言ったこともない。

 でも、対等じゃないのは確か。常にゴンベエの方が前にいて隣を歩いていない……私とゴンベエは友達ではない。じゃあ、なんなのかと言われれば恋人でも夫婦でもない。よく分からない感じで……。

 

「羨ましい」

 

 ああいう風に話し合える感じではない……羨ましいな。

 

「アメッカ」

 

「エレノア……ああ、すまない。まずは点を取らなければな」

 

 今は試合に集中しないと、負けたらゴンベエが死んじゃう。

 

「次は貴女の番ですよ?」

 

「え……ああ、そうか……もうなのか!?」

 

 何時の間にか先頭打者のエレノアの番が終わっていた。

 

「……すみません、負けました」

 

「あ、いや、別に攻めている訳では」

 

「いえ、1番打者にとして先陣を切ろうとしてこの不始末……申し訳ありません」

 

「エレノア……私が点を取ってくる!!」

 

 エレノアの分まで得点を取る!私は口調や気を引き締め直す。

 ヘルメットを被り金属バットを手に右打席に入り、相手のピッチャーを見る。

 今までの着ぐるみと違ってやたらと胸筋が発達している鳥をモチーフにした着ぐるみで、ハリタカと言う名前。思わず油断をしてしまう可愛い見た目をしているが、私は騙されない!

 

「さぁ、かかってこい!」

 

 バットを構え、いざ勝負。

 ハリタカは投げるモーションに入り、私は自分なりの打ちやすいフォームでボールを待ち構えるとハリタカはボールを投げた。

 

「っ!」

 

 速い!

 チヒロさんのスローなボールを見ていた分、素早さがより感じられる。感覚だけで言えばチヒロさんのボールの数倍の速度で飛んできた。

 

「なんて速いボールだ……」

 

 エレノアが直ぐに帰ってきたのも分かる。

 鳩胸な胸筋が上半身を物凄く鍛えていて、それだけでも物凄い速さでボールを投げれるのだが無駄な動きをせずに効率の良いフォームで投げていて、更に速度が増している。

 道具を使わずに、ただただ己の体で投げるだけで、ここまでの速度を出せるのか……だが、絶対に負けない!

 

「ストライーク!バッターアウト!」

 

「っく……」

 

 ダメだった。

 

「すまない、チヒロさん」

 

「謝る必要は無い……平均170とかプロでも居ねえよ」

 

 謝る私を気にするなと言うチヒロさん。

 膠着状態で試合が続けば、私達にかかる精神的疲労は大きい。なんとしてでも一点リードして精神的余裕を得なければならない。

 

「ストライク、バッターアウト!スリーアウト、チェーーンジ!!」

 

「う~む、余り期待しておらんかったがやっぱりダメか」

 

「いや、これで良い……これがあの人のやり方だ」

 

 空振り三振で終わったチヒロさんに期待は最初からしていなかったマギルゥ。

 既になにか仕掛けたのかあの人らしいとゴンベエは笑う。

 

「心配するな、次の打順は俺とアイゼンとベルベットの3人だ。ランゲツ流の打法を見せてやろう」

 

「そんなものまであるのか!?」

 

「……すまん、ノリで言った」

 

 そうか……だが、ロクロウ達ならば心強い。

 とにかく、一点さえ取れれば精神的な余裕を持ち試合に勝つことが出来る……そう思っていた。

 野球をはじめてやる私達。元々体を鍛えていたので、直ぐに動くことは出来るが野球の正しい動きをすることは出来ない。チヒロさんは変化球や打ちづらい球を敢えて打たせる事により、確実にアウトにしているのだが悲劇は起きた。

 

 

「ライトォ!!」

 

 ツーアウトを取り、もう一度ワンアウトを取ればこの守備は終わる。

 7番のハリタカにボールを打たれ、飛んでいった先にいる選手に……ベルベットに向かってアイゼンは叫ぶ。高く飛んでいるボールはゆっくりとゆっくりと落ちてくるのだが、忘れていた……アイゼンの死神の呪いを。

 

「っ、ワンバウンド!?」

 

 突如として吹いた風により、ほんの少しだけボールは動いて掴み損ねるベルベット。

 

「ベルベット、マギルゥだ!!」

 

「分かってるわ!!」

 

 予想外の出来事だが、ベルベットの豪速球ならどうにでもなる!

 幸いとは言えないがボールは直ぐ近くにあり、ベルベットは左手でボールを握りマギルゥに向かって投げようとするのだが、その前にボールが握り潰されてしまい、ボールの破片がバラバラに飛んでいった。

 

「おい、こういう時はどうなるんだ!?」

 

「知らん!と言うよりは、握り潰すか普通!!」

 

 直ぐにロクロウはどうすれば良いのかを聞くのだが、チヒロさんも知らない。

 ライフィセットが走ってボールの破片をかき集めるのだが、時既に遅し。ハリタカはランニングホームランを決めていた。

 

「これはどういう裁定なんだ?」

 

 チヒロさんも分からない事で、主審に聞くアイゼン。

 主審はライフィセットが拾い集めたボールの破片の中でも1番大きい破片を手に取った。

 

「この様な場合は最も大きな破片をボールと見なします……それと1000ガルドだ」

 

「お金を取るの!?」

 

「無論、ボールもタダでは無いからな!」

 

 まさかの買い取り式なのか!?

 

「ベルベット、頼むから手加減をしてくれ」

 

「仕方ないでしょ。今まで全力以上は出そうとしたけど、手加減なんて全くやった事が無いのよ」

 

「だが、このままだと野球がまともに出来ず弁償をし続ける事になる!!」

 

「あ、お金が支払えないならその時点で野球は終了で、その時の点差で勝敗を決めます」

 

 審判もこう言っている。

 ついさっきまで船を出す前の買い物をしていて今の私達には余りお金は無い。そんな状況で1000ガルドを取られるのは痛い。

 

「くそ……」

 

 苛立つベルベットは審判に1000ガルドを払うと、何処からともなく出てくる野球ボール。

 チヒロさんに渡すと何事も無かったかの様に試合は再開されて、ドラコアラに打たれるがクラツチをアウトにしてなんとかそれ以上点を取られることはなく自分達の攻撃に入るもののロクロウ達は打つことは出来たものの、点は取れなかった。

 

「今までと違う……」

 

 野球をするのがはじめてだからとかではない。普段通りの調子ならば、もう少し上手に出来た。だが、その普段通りが私達には出来なかった。

 ゴンベエの命が掛かっているからと言うのは勿論の事で、点を取られてリードされていると言うのもあるが1番はこの空気だ。

 闘技場の様な形をしている甲子園。何時の間にか観客達が大勢おり、応援しているのは私達でなく相手のチーム。

 ここが作られた空間で観客達は人間でなくそういう風に見える病気の原因で偽者と言われても突き刺さる視線は本物で、応援歌の様な曲は嫌でも耳に入り私達を全力で揺さぶる。

 

 自分が常時動いておらず何時ボールが打たれるか分からない緊張感、既に一点リードされていて最低でも2点を取らなければならないプレッシャー、自分を保とうとするが耳に入る曲で自分のペースを乱される。

 

 緊張もプレッシャーも自分のペースをかき乱される事も、今までの人生に何度もあった。

 あった筈なのに今の自分の状態は今までのとは別格、感じたことの無い感じだ。

 

「3番ピッチャー、チヒロさん」

 

「ワンアウトは確実か……」

 

 そうこうしている内に点を取れないまま迎える九回裏。

 打順はここまでボールを打ててないチヒロさんからでロクロウは既に諦めており、ワンアウトを取られたのを前提に考え始める。

 

「黛さん、そろそろ真面目にやってくださいよ」

 

「守備は真面目にやっているだろう……野球だからな、一回しか使えないんだ」

 

 ベンチで寝ながら応援をするゴンベエはチヒロさんに本気を出せと言う。

 チヒロさんは相変わらずの無表情のままゴンベエに言い返すに右打席に立って……何事もなくボールを打った。

 打った際に手に走る衝撃に耐えながらもチヒロさんは一塁に向かって走っていき、この試合で最初のヒットを取った。

 

「チヒロさん、最初から打てたのか!?」

 

 なんの迷いなく打ったチヒロさん。

 今までと同じ打ち方だが、動きのキレが明らかに違い、迷いもなく打った。あの人、最初から打つことが出来たのに、どうして今の今まで打たなかった!?

 

「伊達に歳は食ってねえよ、あの人は……野球だから、多分、一度しか出来ない事だからちゃんと見ておけ……いや、無理か」

 

「?」

 

 なにが無理なのだろうか?

 ともかくチヒロさんが塁に出れたことはよかったと次の打者のロクロウに期待をする。ともかく、一点を……いや、ダメだ。ベルベットが何回かボールを握り潰してボールを買い取った為にお金がもう無い。次の回で一度でも握り潰せば、そこで試合終了。引き分けに終わり、引き分けは負け扱いとして処理されゴンベエは死ぬ。

 

「ストラァイイイック!!」

 

「っちぃ!」

 

 私に打順が絶対に来ることは無いとロクロウに打ってくれと強く祈るのだが、一球目は空振り。

 試合が終盤に進むにつれ、ボールの速度に目が馴れて振るタイミングを合わせる事が出来るようになったものの、中々に打てない。

 

「ナイス、黛さん」

 

「ん……あやつ、何時の間にか塁を進んでおる?」

 

 ゴンベエが何故かチヒロさんを褒めたので、疑問に思ったマギルゥは一塁を見るとチヒロさんはいなかった。

 何時の間にか二塁に立っており、盗塁していた……本当に何時の間に、盗塁をしていたんだ?

 

「今度は黛さんをよく見てみろ、面白いぞ」

 

「面白い?」

 

 どう言うことだと首をかしげるライフィセット。

 チヒロさんを見れば分かることだと言われたのでチヒロさんを見るのだが、特に変わった事はしていない。

 これから3塁に盗塁をしたとしても、最後にホームベースに帰るにはロクロウが打たなければならない。そう思った私は一瞬だけ、そう、ほんの一瞬だけ目を反らしてロクロウの方に視線を向けると……チヒロさんは消えていた。

 

「ストラァイイイック!」

 

「サードォ!!」

 

「ぶるぅあああああ!!」

 

 2球目も空振りのロクロウ。

 審判がストライクと宣言するのだが、直ぐにキャッチャーのツバロクロウがサードにいるバルバトスに向かってボールを投げた。

 

「セーーーッフ!!」

 

「っち……」

 

「残念だったな。野球のルールと技の性質上、一回しか使えないが、その一回は破れない」

 

 アウトにする事は出来ず、苛立つバルバトス。

 しかし、直ぐにその苛立ちも納まりロクロウを見る。

 

「小手先と言えども見事な技だが、ここで終いだ」

 

「ああ、分かっている……だから、期待するしかない」

 

「ストラァイイイック!バッターアウト!」

 

「すまん!」

 

「気にするな……ここでオレが決めてやる!」

 

 三塁にまで進んだが、ホームベースを踏むにはボールを打たなければならない。

 ロクロウは三球全てを空振りのワンアウトを取ってしまい、次の打順はアイゼン。

 

「うぉらぁ!!」

 

 勇ましい声と共に響く金属音。

 アイゼンは高速のボールをバットの芯で捕らえ、かっ飛ばす。

 

「これで」

 

「いや、まだだよ!アイゼンには死神の呪いがある!」

 

 ホームランは確実だと思える飛びかたをするボール。

 これで逆転勝利だと喜ぶも束の間、ライフィセットはここからが本番だと言う。

 今までの打席で、アイゼンは何度も良い球を打った。点を取るのに繋がる球も打ったが、アイゼンの死神の呪いがとことん邪魔をして決定打にならず点を取れなかった。

 

「ああ、突如として謎の逆風が!?」

 

 アイゼンのホームランを拒むかの様に逆風が吹き荒れ、押し戻されるボール。最早、謎とは言えないぞエレノア。

 逆風によりスタンドを越えることは出来ず、ゆっくりと落ちていくのだがアイゼンの死神の呪いによる逆風は相手にも予想外で、下には誰もおらず、ボールは取られる事なく弾んだ。

 

「先ずは、1点目だ」

 

 ボールが落ちると同時に走り出したチヒロさんは戻ってきた。

 待望の得点を取ることが出来て、これで1対1のイーブン……だが、引き分け以下は負けの私達はもう一点取らなければならない。

 

「6番、ライト、ベルベット!」

 

 アイゼンは二塁打で終わり、迎えるはベルベット。

 ここでもう一度得点を取ることが出来なければ、マギルゥに回りマギルゥは打てないと公言している。

 

「とっととこんなくだらない事を終わらせるわ!」

 

 気のせいか目に炎が宿っているベルベット。

 ホームラン宣言をし、バットを構えるのだがその前にタイムが入った。

 

「選手の交代をお知らせします。ピッチャーハリタカ選手に代わりまして、バルバトス選手!ハリタカ選手はバルバトス選手が守備をしていたサード、以上に変わります」

 

「ちょっと待て!」

 

 突如としてピッチャーがハリタカからバルバトスへと切り替わった。

 余りにも突然の事でチヒロさんは審判に向かって走っていった。

 

「お前が出来るポジションは設定上、内野手だけだろう。なにピッチャーをしようとしてるんだ!?」

 

「ふん、それを言い出せば一部のマスコット達も外野手にはなれん!ハリーホークもといハリタカは投手か外野手しかなれん……オレは二刀流だぁああああ!!」

 

「おいこらファミスタバグスターウイルス、ルールを守れ」

 

「野球のルールは守っている。ただ、選手のプログラムを書き換えただけに過ぎん!」

 

「おい、そっちの方が最悪だろう」

 

 抗議の様な事をしているが、無理だったのか帰ってくるチヒロさん。

 ルール上は特になにも問題は無い……だが、今このタイミングでのピッチャーの交代は痛い。

 

「投球練習なぞ不要!!貴様等には俺のストレートを喰らわせてやる!!」

 

「喰らわせてやる?……だったら、私は喰い尽くす!!」

 

 投球練習をせず、そのまま試合は再開される。

 バルバトスはボールを握り、投球のフォームに移りボールを投げた。

 

「ッストラァイイイイク!!」

 

「おいおい……ハリタカより速いぞ」

 

 バルバトスの豪速球に苦笑いを浮かべるロクロウ。

 

「時速240キロって、児童漫画のインフレ以前にファミスタで出せない速度だろう」

 

 ボールの速度を測る装置で速度を測っていたチヒロさんは眉を寄せる。

 ハリタカの球に馴れるだけでも一苦労で、やっと感覚を掴みはじめたというのに、それ等を全てリセットされた。

 時間を掛ければバルバトスのボールの速度に馴れるが、そんな時間は何処にも残されていない。

 

「ぶるぅあああああ!!」

 

「ッストラァイイイイク!!」

 

「っ……」

 

 変化球もなにも使わず、ただただ素早い真っ直ぐな球を投げるバルバトス。

 ベルベットはバットを振るのだが空振り。バットの位置はあっている……問題はタイミング。余りの速さに、バットを振るタイミングが合わない。

 

「チヒロさん、なにかアドバイスは無いですか?」

 

「そんなもんは無い、あれはもう反応して打つんじゃなくてタイミングを覚えて打つ速度だ」

 

 なにか良いアドバイスは無いかとチヒロさんに聞くが、試合を見ずにベンチに置いてあった手帳でなにかをしている。

 アドバイスと思わしきものは聞くことは出来たが、何処をどうすれば良いと言うサポートでなく体で、感覚で掴むしかないものでどうすることも出来ない。

 

「これで、とどめだ!」

 

 振りかぶるバルバトス。

 

「こんな、しょうもないことで……躓いている暇は無いのよ!!」

 

 ボールを投げるよりも先にバットを振りかぶるベルベット。

 そのタイミングは完璧……だった。

 

「アウトォ!!」

 

「っ!!」

 

 ベルベットはボールを打つことは出来た。

 出来たが、ボールを飛ばすことは出来ず、ボールを打った時の衝撃が予想以上だったのか、苦痛の表情を浮かび上げる。

 

「貴様の手が両手ならばもう少し面白い勝負が出来たが、残念だったな」

 

 ベルベットの左手は憑魔の手で右手は人間の手だ。

 豪速球を投げるのには左手は活躍するが、バッティングでは手のサイズが異なる為にバットが持ちづらく、普通の状態で持っていた……もし、両手が憑魔の手ならば打てていたかもしれない。

 

「こうなったら!!」

 

「やめとけ、そいつは暴力じゃなくて野球でしか倒せない」

 

「あんた、なんで……」

 

 ゴンベエ?

 

 こうなればとバルバトスを直接倒しに行こうとバットを手にするが、ゴンベエが止めた。

 

「なにをしているんだ!早く、ベンチに戻って」

 

「問題ねえよ。黛さんが点を取ってくれたからな、少しだけだが楽になっている」

 

 そうは言っているが、体中に電流が走っていてまだ半透明じゃないか!

 

「7番、セカンド、マギルゥ──に代わりまして、ゴンベエ」

 

 心配する私を他所に次の打順のアナウンスが入る……次が、ゴンベエ……。

 

「こいつはスタメンじゃなくて、ベンチ登録していたからな……そこの魔女じゃ無理だろ」

 

「魔女にフィジカルを求めるもんではないからの」

 

 驚く私に説明をしてくれるチヒロさん。

 ついさっきまで手帳型の道具を操作していたのは、ゴンベエとマギルゥを入れ換える為だと分かった。マギルゥはゴンベエと入れ替わる事に異議は唱えず、見守る。

 

「じゃ、借りるぞ」

 

「あんた、そんな体で」

 

「問題ねえよ……まぁ、見とけ」

 

 ベルベットが被っていたヘルメットを被り、握っていたバットを貰うゴンベエ。

 バルバトスと向かい合うとバルバトスは待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「貴様の命が掛かっているこの試合、貴様が出ずに代理の者で終わるのはつまらなかった!!

待っていたぞ!!貴様が俺の球を打ち勝利するのか!俺が貴様の命を打ち取り完全体になるのか!この一打席で決まる!」

 

「御託はいい。そういう口論はマスコミどもの仕事で、オレ達選手がするべき事は昔から決まってるだろ」

 

 熱く語るバルバトスに対してクールなゴンベエ。

 言葉は交える必要は何処にもない……今からするのはただの一騎打ち。打たれるか、打ち損じるかのどちらかであり、勝てばどちらかが死ぬ真剣勝負。

 バルバトスは全球最速のストレートのど真ん中で行くと予告し、今まで以上の気迫で振りかぶりボールを投げた。

 

「全く、あのアホは……体を動かす系でオレを倒そうってのが甘いんだよ。

戦闘能力に超特化していて遊戯王とかポケモンバトルはまぁまぁだが、野球やバスケみたいな体を動かすスポーツでも最強なんだよ」

 

「バカ、な……」

 

 バルバトスに対してゴンベエは何時も通りだった。

 なにか特別な事をせずに鬼気迫る気迫も覇気も見せずにバットを振って、場外までボールをかっ飛ばした。

 

『GAME CLEAR!!』

 

 ホームランが決まると同時に、上空に文字が出現し私達を眩い光りで包んだ。

 

「ここは……ゴンベエは?」

 

 光りが消えると元いた砂浜に戻った私達。直ぐにゴンベエを探すと、私の隣に立っていてホッとする。

 

 電流は走っておらず、体はしっかりと見えている。苦しい表情も一切浮かべていない……何時も通りのゴンベエだ。

 

 やっとこれで全てが終わったんだ……ゴンベエは死なない。死ぬならば、私と一緒に老衰で死ぬ以外ではゴンベエは死なない。そう思っているのだが、ゴンベエは背中の剣とは別の4人に分身出来る剣を取り出した。

 

「おいこらぁ、てめえはさっさと出てこいや!!」

 

 明らかに怒っているゴンベエ。

 額に青筋を浮かべていて、誰かに対して怒っているのだが……誰に対して怒っているんだ?

 

「ちょっと、なんで普通に野球をやってんのよ!?

あんた抗体もなにも無いのに、なんであんなに動けるのよ!!化物、化物なの!?」

 

 ゴンベエの声に反応して出てきたのは紫色の土管で……中からゴンベエを苦しめたマスク・ド・美人が出てきた。

 

「なんで……」

 

 あの時、ベルベットの剣に自ら貫かれたのどうして生きている!?

 

「るせえよ、取りあえず一発な」

 

「ちょ、私は悪くはないわよ!!あいつが強くなりたいから、ホンの少しだけ後押しをしてあげただけで、私は、私は」

 

「おいこら、それは余所様のだ」

 

 剣に禍々しい闇を纏い一歩ずつマスク・ド・美人に迫るゴンベエ。

 身の危険を感じたのか、自分は悪くないと本気で思っているのか自分に非はないと主張をするが、チヒロさんが謎のツッコミをいれる。

 

「安心しろ……闇纏・次元斬り!!」

 

「っが!?」

 

「な、なにをしているのですか!?」

 

 マスク・ド・美人がいる空間ごと斬るゴンベエ。

 いきなり殺したことにエレノアは激怒をするのだが、何故か殺しても問題ない気がする……そうだ。思えば、ベルベットの剣に自分から貫かれた時からおかしかった。

 

『GAMEOVER!』

 

「消えた!?」

 

「ちょっと!人の貴重な命を無駄な事に使わないでよ!」

 

「るせえぞ、てめえはかなりあるけどもこっちは一個しかねえんだよ」

 

「大丈夫よ、バグスターウィルスにしてあげるから」

 

「マジでやめろ」

 

 ベルベットの時と同じ様に光の粒子になって消えたマスク・ド・美人。

 消えたと思えばゴンベエが呼び出した時と同じ紫色の土管がまた出現し、マスク・ド・美人が中から出てきた。

 

「お前、不老不死かなにかか?」

 

 明らかに殺された筈なのに、何事もなく生き返ったマスク・ド・美人。

 自分自身で命を無駄な事にと言う様子からアイゼンは不老不死かと推測する。

 

「ちょっと、違うわ。不老ではあるけれど、不死じゃ無い。現にこいつに一回殺されたし、説明するとややこしいから簡単に言うと私の命は99個あるのよ」

 

「99個だと!?」

 

 マスク・ド・美人の衝撃的発言に驚くものの、これでやっと納得がいった。

 ベルベットにわざと刺されたのに、ゴンベエの攻撃をくらったのにこうして元気に立っているのも無事だったからじゃない。無事じゃなかったからだ。持っていた命を1つ消費したからだ。

 

「そう……私には99個の命がある。

溶岩に落ちようが刺されようが、1つの命が無くなるだけで本当の意味での死は迎えない……あんた達に二回殺された私の残りライフは……83よ」

 

「おい、残り14個の命どこ行った?」

 

「うるさいわね、こっちだって色々とあるのよ!!」

 

 残り14個の命についてゴンベエが尋ねると何故か逆ギレするマスク・ド・美人。その姿を見て、なんだか可哀想なものを見る目でゴンベエは見るようになった。

 

「私が死ねば希望は潰えるって思ったのだけれど、まさか自力でバグスターウイルスを体外に出すだなんて相変わらず化物染みてるわね」

 

「自力ね……それで、まだやるのか?」

 

 今度は警戒心剥き出しのゴンベエ。

 油断は捨てており、少しでも変な真似をしたならば斬るつもりで剣に闇を纏わせている。

 さっきは不意を突かれたが、もう油断はしない。私は槍を取り出して構える。

 

「そうね……今度はコイツを感染させて」

 

「それ以上やるなら、こっちもそれなりの対応をするぞ?」

 

 ゴンベエに病気を感染させた時とは別の物を取り出したマスク・ド・美人。

 今まで黙っていたチヒロさんはマスク・ド・美人を止めるべく間に入り込んでなにかを取り出す……ここからだとなにか見えない。

 

「え……」

 

「やるか?」

 

「あんた、最初からっ……もういいわ」

 

 チヒロさんが出した物に驚いたのか、諦めるマスク・ド・美人。

 ゴンベエに病気を感染させた時に使った道具よりも一回り以上小さい物を2つ取り出してゴンベエに向かって投げた。

 

「ゲームクリアの証のガシャットロフィーよ」

 

「やっぱりファミスタか……おい、オレは太鼓の達人をクリアしてねえぞ?」

 

「あんたに次に感染させようとした分よ……」

 

「そうか」

 

 野球で勝利した証とおまけをポケットにしまうゴンベエ。

 マスク・ド・美人もゴンベエも戦うつもりはなく、どうすれば良いのだろうか?と考えていると何かの音が鳴り響き

 

「なんでパトカー?」

 

 上が白、下が黒の乗り物がやってきた。

 馬車の様に車輪がついているが、馬で引いていない。それはそう、まるで大地の汽笛の様でゴンベエは名前を知っている様で首を傾げる。

 

「どうやら迎えが来たようね」

 

「いや、迎えってそういう意味の迎え?」

 

 話についてこれず、納得するマスク・ド・美人。

 パトカーと呼ばれる乗り物からスーツ姿の男性が出てくると私達の方に向かって歩いてきた。

 

「あれ、お前、仏」

 

「いえ、タチバナです」

 

「どっからどう見てもブツブツの頭を取った仏だろう」

 

「いいえ、私はめしばな刑事タチバナです」

 

 刑事?

 ロクロウがまじまじと見て聞くのだが否定される。

 

「いや、すみませんね本当に」

 

「全くよ……危うくコイツ、死にかけたわよ」

 

「お詫びと言ってはなんですけどこれをどうぞ。皆さんで食べてみてください」

 

「これ、なに?」

 

「うまい棒の詰め合わせです……おい、お前等、行くぞ」

 

「はいはい」

 

「じゃあ、またな」

 

 巨大な筒のお菓子をライフィセットが受け取るとパトカーに戻るタチバナ。

 チヒロさんとマスク・ド・美人も一緒に乗り込み走り出すと何処からともなく雷が落ちてきて、パトカーに当たり消え去った……。

 

「……後、何回かあるんだな……はぁ」

 

 チヒロさんが最後に残した一言にゴンベエは大きなため息を吐いた。




ファミスタガシャットロフィー


 ファミスタバグスターウイルスをクリアした物に送られるトロフィー。


 太鼓の達人ガシャットロフィー

 太鼓の達人のバグスターウイルスを攻略した際に貰えるのだがマスク・ド・美人から貰っただけなのでクリアしていないゲーム。
 感染した場合は和田どんもしくは和田かつがバグスターウイルスとして生まれ、太鼓の達人で勝負する事になり一回挑戦することに200ガルド2人プレイも可能でその場合は400ガルドを挑戦料として取られて敗北した場合はバグスターウイルスに感染する。

 戦う場合の難易度は鬼で、多分だけどこっちの方に感染していたら全滅していた恐れがあり極々稀に仮面ライダー響鬼が出てくる。

 ゲーム的な話をすれば太鼓の達人で遊べる様になり歴代のテイルズオブのBGMや主題歌が入っている。


 なりきりダンジョン3でなりきりしのコスチュームとして登場したんだし、コラボ来てもおかしくはない(狂乱)


 ゴンベエの秘奥義


 サモン・リバイバル(withゲンム)


 ゴンベエ版サモンフレンズ。仮面ライダーゲンムのライダークレストに入ると発生。
 スポーツアクションゲーマーが車輪を投擲し相手にダメージを与え、ゾンビゲーマーを溢れさせ相手に引っ付き大爆発、プロトアクションゲーマーレベル0がコンティニュー土管から出現し、ガシャコンブレイカーで殴打して相手の防御力を下げて、最後にゴッドマキシマムゲーマーで隕石を落とす(メテオスォーム)。



 次回、【スキット大全集(その1笑)】台本形式になるので、ご理解お願いします。


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スキット大全集(その1(笑))

後書きを見るか見ないかは貴方次第。



スキット 理想を抱いて溺死するな

 

ライフィセット「……」

 

アリーシャ「どうしたんだ、そんなに深く考え込んで」

 

ライフィセット「アメッカ」

 

アリーシャ「悩みがあるなら相談に乗る。私で良ければ力を貸そう」

 

ライフィセット「誰も……否定はしなかったなって」

 

アリーシャ「否定しなかった?」

 

ライフィセット「マスク・ド・美人がゴンベエを殺そうとした理由を」

 

アリーシャ「っ!!」

 

ライフィセット「ベルベットも僕もアイゼンも殺させない様に必死になったけど、マスク・ド・美人が言っていた事は否定しなかった。僕とアメッカ以外は皆、地獄を歩んだから強くなったって」

 

アリーシャ「それは……」

 

アイゼン「事実だ」

 

アリーシャ「アイゼン……否定はしないのか?」

 

アイゼン「それをすればオレはオレでなくなる……今のオレを作り上げたのは良くも悪くも死神の呪いだ」

 

ライフィセット「死神の呪いをどうにかする為に色々な所に行って、最後にはこの船に辿り着いたんだよね」

 

アイゼン「そうだ……もし、オレに死神の呪いが無ければ今頃はこの船には乗っていない。今の自分にはなっていない」

 

エレノア「なんの話をしているのですか?」

 

アリーシャ「マスク・ド・美人が言っていた強靭な魂を得る方法についてだ……エレノアはどう思う?」

 

エレノア「……悔しいですが、否定は出来ません。私の覚悟が出来たのは、母の死があったから……それを否定してしまえば、今の自分にはなりません」

 

アリーシャ「……あの時、ゴンベエが死んでしまったら私は槍を使えるようになっていたのだろうか?」

 

ライフィセット「アメッカ!?」

 

アイゼン「……それはお前が本当に求める力なのか?」

 

アリーシャ「……どうだろう?最近、それすらあやふやになってきている。

自分の力の無さを痛感して苦しむ日々を過ごしていた筈なのに、やっとの思いで力が手に入ると思えば何故かポッかりと穴が開いている時がある。私は確かに力を求めていたのに、苦しむ人達を見過ごせないと思っているのに……」

 

エレノア「力を得たからこそ、見えてしまう物があるんじゃありませんか……私の様に……力は得ることは目的でなくどう振るうかが大事なのではないかと思います……今の私には言えることではないですが

 

アイゼン「……」

 

アリーシャ「あの時、ゴンベエが死んでしまったら、私は力を手に入れられた」

 

エレノア「アメッカ、貴女」

 

アリーシャ「だが、それだけでゴンベエの命以外にも、大事なナニかを失うかもしれない。そんな方法で」

 

ゴンベエ「そこを見ないようにはするなよ」

 

アリーシャ「ゴンベエ、何時から……」

 

ゴンベエ「ライフィセットが悩んでいる辺りからだ、都合の良い現実ばかり見てるんじゃねえよ。力を得るにはそれ相応の対価や犠牲は必要なんだよ……そもそもで力を求める時点で犠牲は発生している」

 

アリーシャ「っ!」

 

ゴンベエ「その方法が認められないならばそれはそれで構わない。だが、愚っさんの言っている事にも一理はある。とにもかくにも、それ以外で方法を探すしかない……」

 

アリーシャ「私に見つけられるだろうか?」

 

ゴンベエ「知らん!」

 

ライフィセット「知らないの!?」

 

ゴンベエ「こればかりは運とかも関係してるからな……まぁ、頑張れ」

 

アリーシャ「ああ……少し自信が持てた。ありがとう、ゴンベエ」

 

ゴンベエ「そりゃどうも……」

 

アイゼン「上手いこと誤魔化しやがって。お前の方こそ綺麗事を並べただけだろう」

 

ゴンベエ「ライフィセットとエレノアが居る状態で言うんじゃねえよ」

 

ライフィセット「誤魔化した?」

 

エレノア「今の何処が誤魔化したのですか?」

 

アイゼン「……力が無いだなんだと言いつつも今のアメッカは中途半端に力を持ってしまっている。

そのせいで力が無い事に嘆き消え去るわけでもなければ、その力で調子に乗ってしまうわけでもない……今は中途半端に力があるからこその苦悩の様なものにぶち当たっている。

ある程度の力量を持った人間が強すぎる信念で思い描く理想と自分の中途半端な力量が現実と噛み合わずに悩み、地獄を見る……そうすれば何処までも歪んでしまう。中途半端でなく真正面から戦える力を持っていたとしても歪んでしまう……純粋な人間ほど、歪み方は恐ろしい」

 

ゴンベエ「徹底的に絶望させて二度と立ち上がれないなら良いんだけど、そうはいかないからな」

 

エレノア「……貴方はもう、気付いているのではありませんか?アメッカの足りない物を」

 

ゴンベエ「何となくだけどな……怒りとか憎しみとか、そういうのも世の中は大事だからなぁ……アメッカもそうだがライフィセット、お前もある意味一番大事な時期なんだから下手な事は出来ない」

 

ライフィセット「僕も?」

 

ゴンベエ「そうだ……オレ達は今、一歩でも間違えれば大きく歪んでしまうギリギリのスレスレを歩いてるから……自分の心を歪ませるな……こんな事になるなんて思わなかったと理想を抱いて溺死するな……理想と現実は大きくかけ離れている……」

 

アリーシャ「……」

 

アイゼン「……」

 

エレノア「……」

 

ライフィセット「3人とも黙った……理想と現実は違う、か」

 

 

 

スキット うっかりアリーシャ

 

 

 

アイゼン「いくぞ!」

 

ロクロウ「来い!!」

 

アイゼン「ふん!!」

 

ロクロウ「って、おい!何処投げてるんだ!?」

 

ベルベット「ちょっと、ボールが飛んできたじゃない。危ないでしょう」

 

アイゼン「っく、オレにはピッチャーは無理なのか……」

 

ライフィセット「ピッチャーって、野球の練習をしてたの?」

 

ロクロウ「応!チヒロの奴がまたって言ってたからな。後、何回かはこういう事があってもおかしくはないから今のうちに野球の練習をしておこうとな」

 

ゴンベエ「いや、ねーよ。また野球をするとか絶対に無いからな」

 

ライフィセット「でも、楽しかったよね野球……また、やってみたいな」

 

ゴンベエ「ライフィセット、楽しそうに言うのは止めてくれよ。オレ、マジで死にかけたんだから」

 

マギルゥ「にしても奇妙な病気じゃったの。リカバーやアンチドートの様な解毒の術も効かずパナシーアボトルでも治らない。薬が無ければ病気の原因を叩けばよいが斬って倒すのでなく、野球をして勝利しなければならんとは」

 

エレノア「私、何度かツッコミましたよね……アメッカ?」

 

アリーシャ「……ん、ああ、なんの話だ?」

 

エレノア「いえ、ゴンベエが掛かった病気が三大奇病の様に奇妙な病気だったと」

 

アリーシャ「三大奇病?」

 

マギルゥ「なんじゃ知らんのか?十二歳になるまでに死んでしまう十二歳病、人が化物になる業魔病、そして人が水晶になる黒水晶病……まぁ、三大奇病と言うが業魔病が最も有名で十二歳病は極々稀に、黒水晶病は本当に実在するかどうかすら怪しい物じゃがの」

 

アリーシャ「黒水晶病はちゃんと実在する。原因は見たものを黒水晶に変える魔物で恐らくは特殊な力を持った憑魔でわた……」

 

ゴンベエ「アメッカ、おまっ!?」

 

エレノア「それもまた業魔の仕業……世界に蔓延る穢れが産み出した病気なのですね」

 

アリーシャ「あ、ああ……」

 

ゴンベエ「お前、今、なにを言いそうになった?」

 

アリーシャ「その黒水晶病を私の先祖に倒した勇者が居ると、鎧の黒水晶がその倒した魔物の破片らしい」

 

ゴンベエ「……勇者?」

 

アリーシャ「危うく未来から来た事が知られるところだった」

 

ゴンベエ「……いやいや、流石にそれは無いだろう」

 

 

スキット それは神と最低最悪の魔王

 

 

アリーシャ「思い出した!!」

 

ベルベット「どうしたのよ、急に」

 

アリーシャ「マスク・ド・美人のあの姿、それに使っていた道具だ!」

 

エレノア「アレがなにか知っているのですか?」

 

アリーシャ「ああ。アレはダンクロト神が作り出した道具だ!!」

 

エレノア「ダンクロト神……異世界の神でしょうか?」

 

アリーシャ「それは……どうだろう」

 

ベルベット「どうって、分かったんじゃないの?」

 

アリーシャ「あの道具を私は絵で見た。ゴンベエの紙芝居の1つでダンクロト神という登場人物が使っている道具の絵にそっくりだったんだ」

 

ベルベット「紙芝居?」

 

ゴンベエ「呼んだか?」

 

アリーシャ「ゴンベエ、マスク・ド・美人が持っていた道具はダンクロト神が使っていた物じゃないのか?」

 

ゴンベエ「ん~まぁ、色々とあるがそうでもありそうでもないと言うところが正しいな。アレは人じゃなくて物だから……けどまぁ、本当にアレに関しては忘れておいた方がいい。この世界には絶対にあってはならない物だから」

 

エレノア「確かに、あの様な治療法でしか治らない病気ならば」

 

ゴンベエ「そうじゃない」

 

エレノア「そうじゃない?」

 

アリーシャ「……死んだ人間を生き返らせる事が出来るからか?」

 

エレノア ベルベット「っ!?」

 

アリーシャ「医者達が匙を投げた不治の病に犯された母を救う為に天才ダンクロトは神になる道具を作り出し、神の力で生き返らせた。紙芝居の内容通りならば、あの道具を使えば死んでしまった人を」

 

ゴンベエ「薬となる物は量や使用方法を変えれば毒になる、毒となる物は量と使用方法を変えれば薬になる。正しく使えないのならば使わない方がいい……と言うよりはだ、薬を毒にして殺さないと生き返らせられない」

 

エレノア「……そうですか」

 

ゴンベエ「大前提に、オレが掛かった病気に対して無敵の耐性をつけないと話にならん……そう、話にならないんだよな……」

 

ベルベット「まだなにかあるの?」

 

ゴンベエ「いや、ちょっとだけ気掛かりがな」

 

ベルベット「そう……」

 

ゴンベエ「オレにはバグスターウイルスの抗体が無い。オレの体内にはファミスタのバグスターウイルスが入っていて、ゲーム病はまずバグスターウイルスと人間を分離させないとダメでその為にはガシャットを使ってレベル1に変身しないとダメな筈だがオレはその過程をすっ飛ばした……確かあの時、黛さんがオレに触れて……あの感触に愚っちゃんが驚いていたのは、まさかあの人……いや、助かったしあの人はアホな事はしないからそれでいいか」

 

 

スキット モアナと遊ぼう その1

 

 

ライフィセット「ここが操舵手で、ここが」

 

モアナ「う~ん」

 

アリーシャ「奇妙な出来事だな……」

 

ゴンベエ「なにがだ?」

 

アリーシャ「憑魔となった少女と天族の少年が仲良くしているのがだ、元の時代で絶対にありえないことだ」

 

ゴンベエ「安心しろ、オレもヘルダルフと仲良くするなんて絶対にありえないと思っている……しっかし……大丈夫なのか?」

 

ベンウィック「聖隷に業魔に対魔士に魔女、もうここまで変なの乗ってたらなにが乗っても大丈夫だよ」

 

ゴンベエ「一応勇者もカウントして欲しいんだがな。オレが言っているのはそういう心配じゃないよ。お前等人相が悪かったりするが子供にまで手を出す程の外道じゃないのは理解している」

 

ベンウィック「褒めてんのか貶してるのかどっちなんだよ?」

 

アリーシャ「じゃあ、なにが心配なんだ?」

 

ゴンベエ「モアナはベルベットやロクロウと違って体の全部が変化している。街を歩けば狙われるのは確実……つまり、ずっと船の上に居ないといけない」

 

アリーシャ「あ……」

 

ゴンベエ「オレ達は定期的に外に出ていて、お前達は船乗りのプロ。船での長期に渡る生活に馴れているだろうがモアナは馴れていない……長期に渡る閉鎖空間で発狂したりしなければいいんだがな」

 

ベンウィック「確かに、流石にずっと船の上にいるのはな……」

 

アリーシャ「ゴンベエ、変身できる魔法の粉があったんじゃ」

 

ゴンベエ「それにばっか頼ってられない。遊ぶのでなく戦うんだから……」

 

エレノア「話は聞かせていただきました!」

 

ベンウィック「うぉっ、どっから出てきた!?」

 

エレノア「2人が転んだりしないか見守っていたのです」

 

ゴンベエ「オカンかお前は……で、わざわざ声をかけてきたと言うことはなんかあるのか?」

 

エレノア「ええ。狭い場所に閉じ籠っているのならば狭い場所で遊べる方法を探せば良いのです」

 

ベンウィック「それは分かるけど、ボール遊びとかは出来ないぞ。暴投すれば副長に当たるし、ベルベットから狭い場所でするなって言われてるし」

 

ゴンベエ「既に船での主導権を握ってるのか、あいつ」

 

エレノア「動かずに遊ぶ方法は幾らでもありますし、遊ぶ道具は売っています」

 

アリーシャ「お手玉とか?」

 

ゴンベエ「愚っちゃんから貰った太鼓の達人はダメだぞ。1回遊ぶ度に200ガルド取られるから」

 

エレノア「とにかくモアナを退屈させない様に一緒に遊びましょう!」

 

 

スキット 漢のロマン

 

ロクロウ「ひー、ふぅ……以上!」

 

アイゼン「たったこれだけか……っち」

 

マギルゥ「結構、貯めたのにのぅ」

 

ベルベット「な、なによ!私のせいって言うの!?」

 

エレノア「別に貴女を攻めている訳ではありませんよ」

 

ライフィセット「そうだよ。ベルベットはわざとボールを握り潰したりしないよ」

 

アリーシャ「だが、旅の資金がたった数百ガルドなのは一大事である事には変わりない」

 

ゴンベエ「まさかベルベットが握り潰したボールでこんなに金が無くなるとはな」

 

ベルベット「っ、元はと言えばあんたのせいでしょうが!」

 

アリーシャ「やめてくれ、ベルベット。ゴンベエは私を助けようとして病気になったんだ!悪いのは不意打ちをくらいそうになった私なんだ!」

 

ライフィセット「アメッカもゴンベエも悪くないよ、悪いのはマスク・ド・美人だよ」

 

アイゼン「誰が悪いや自分のせいと考えるのはやめろ。減った金は増えない」

 

アリーシャ「私達が旅に出た時、もう少しお金を持っていけば……これぐらいあっという間に」

 

ロクロウ「あっという間にって結構な額だぞ?」

 

アリーシャ「これから先、ゴンベエ関連で使うお金と比べれば安い……■■(ピー)ガルドぐらいまでなら自由に使える」

 

エレノア「■■(ピー)ガルドですか!?一生遊んで暮らせますよ!?」

 

マギルゥ「そういう立ち位置の人間なんじゃろう……減ってしまった以上は増やすしかあるまい」

 

ライフィセット「なにかあてでもあるの?」

 

マギルゥ「もちのろんじゃ!!今から向かうはローグレス!そこには大勢の人が集まる場所、ならば笑わせるまでよ!」

 

ゴンベエ「笑わせるって、お前まさか!」

 

マギルゥ「そう、マギルゥ奇術団の開幕じゃ!!事前に公演の予告はしておるからの!ガッポガッポと稼ぐぞ!」

 

ゴンベエ「はい、オレ!BGM担当します!アメッカは前説とか進行役します!」

 

アリーシャ「え、あ、私で出来る事ならばするが」

 

マギルゥ「うむ、頼んだぞ」

 

ベルベット「ちょっと待ちなさい。まだやるって言った訳じゃないわよ。てか、自分だけ楽しようとするな!」

 

ゴンベエ「じゃあ、オレの代わりに楽器を弾くか?ラッパにハープにギターにオカリナ、ピアノ、バイオリン、ドラム、なんでも弾けないとダメだぞ?」

 

ベルベット「っ、それは……」

 

ゴンベエ「とにかくオレはBGM担当だ」

 

ベルベット「っく……」

 

ライフィセット「もう奇術団の公演をする前提なんだね」

 

ベルベット「私はしないわよ!第一、奇術なんて出来ないし」

 

ゴンベエ「明らかにおかしな構造の剣に、変化する左腕、物凄い量の髪の毛なのに普通の三つ編みになるのを奇術と言わずになんと言うんだ」

 

ベルベット「狼になったり出来るあんたには言われたくないわ!」

 

ビエンフー「まーまー、落ち着くでフよ。マジックは一朝一夕で出来るほど甘くは無いでフよ。無理にやらせて失敗した場合のリスクが大きいでフから、やらなくていいでフよ」

 

ゴンベエ「じゃあ、ベルベットはなにをするんだよ?」

 

ビエンフー「客の誘導でフよ」

 

ゴンベエ「んだよ、勿体無い事に使うなよ。ベルベット、綺麗なんだからステージの上に立った方が絵になるし花にもなるぞ」

 

ベルベット「あんたはまた……はぁ、もうそれでいいわよ」

 

ビエンフー「じゃあ、バニーガールに着替えて貰うでフよ」

 

ベルベット「は?」

 

ロクロウ「おお、バニーガールか!」

 

アイゼン「成る程、確かにバニーガールは奇術団には必要だな」

 

ライフィセット「べ、ベルベットのバニーガール!?」

 

マギルゥ「初々しいのぅ、坊よ。しかし、ベルベットにバニーガールとはある意味1番のベストマッチじゃ!!」

 

ベルベット「ふざけんじゃないわよ!!なんで私があんな恥ずかしい格好をしないといけないのよ」

 

エレノア「あの、今と大して変わらない気がしますよ?」

 

アリーシャ「むしろ布の面積的に今の方がバニーガールよりも少ない気も」

 

ベルベット「全然違うわよ!!」

 

マギルゥ「なら、仕方あるまい。ハトマネを極めて貰うか」

 

ベルベット「なんでそうなるのよ!」

 

ビエンフー「衣装は既に用意しているでフ!!さぁ、試着を!!ハァハァ」

 

アイゼン「上着無しのバニーガールか……分かっているな」

 

ゴンベエ「いやいやいや、最近はもっとドギツイのがあるぞ。ベルベット、ハトマネかバニーガールどっちか選べ。お金が無くなったのはお前の責任じゃないけどお前が原因なんだ」

 

ベルベット「なら、他に芸を」

 

ゴンベエ「そうなると客の誘導をライフィセットにやって貰うか……逆バニーガールで」

 

ロクロウ「逆バニーガール?」

 

ゴンベエ「こんなんです」

 

ライフィセット「え、ええええ!?僕、こんな格好をするの!?」

 

ゴンベエ「そうだ。これを着て客引きをするんだ」

 

エレノア「な、なんですかこの格好は!!こんな格好をして客引きなんて、いかがわしい店の客引きじゃないですか!」

 

ビエンフー「バニーガールは元々エッチい物でフよ!あ、でもどうせならベルベットがこれを着たら」

 

ゴンベエ「馬鹿野郎!ベルベットが着ると完全なCERO:Zになる!!ライフィセットが着ることでCERO:Bになるんだ!!」

 

ベルベット「私が着るのもライフィセットが着るのも、どっちも却下よ!!」

 

マギルゥ「文句を言ってる場合か!ここは一肌、いや、1枚脱がんが!!」

 

ベンウィック「あ、副長達、こんなところにいた!!」

 

アイゼン「ベンウィック、今、大事な話をしているんだ。火急の用でないなら後にしてくれ」

 

ベンウィック「副長達が倒した甲種指定の業魔達の情報を纏めたのを渡しに来ただけっすよ。血翅蝶、賞金をかけてたんでこれでたんまりと報酬が貰えますよ……あれ?」

 

ベルベット「……これで終わりで良いわよね?」

 

マギルゥ「なにを言っておるか、金は天下の回りものでこれから聖寮と戦う上では」

 

ベルベット「これで終わりで良いわよね?」

 

マギルゥ「あ……はい……解散じゃ……」

 

ゴンベエ「真っ先に逃げた意味は無くなったじゃねえか……どうしたアメッカ?」

 

アリーシャ「いや、その、ゴンベエはバニーガールが好きなのか?」

 

ゴンベエ「アメッカ、覚えておいた方がいい……バニーガールは漢のロマンだ……」

アリーシャ「そ、そうなのか……その、私が着たら似合うだろうか?」

 

ゴンベエ「……いや、お前には似合わないだろう。お前に似合うのは……童貞を殺すセーター?」

 

アリーシャ「ど……殺すセーター、そんな物があるのか!?それを着れば、ゴンベエは……」

 

ゴンベエ「死ぬな。色々な意味で」

 

アリーシャ「そ、そんな。私がそのセーターを着れば、ゴンベエは死ぬのか!?」

 

ゴンベエ「アメッカのエロさが大変な事になる……多分」

 

 

スキット 異世界2

 

 

アイゼン「あのホトケが言っていた事の重要さが分かってきたな」

 

ロクロウ「ホトケが言っていたこと?」

 

アイゼン「異世界からの漂流者や漂流物だ。今回はなんとかなったが、マスク・ド・美人が持っていたあの道具、あれらは明らかにこの世界の技術じゃ作ることは出来ない」

 

ロクロウ「まぁ、確かに空中に映像を作り出す道具なんて見たことも聞いたことも無いな」

 

ゴンベエ「やろうと思えば作れるぞ……まぁ、ガシャットとかゲーマドライバーとかは無理だけど」

 

ロクロウ「後、何回かはこんな事があるんだよな。てことは、またなにかスゴいのと遭遇するかもしれないな」

 

ゴンベエ「お前、なんで嬉しそうなんだよ……今回の一件で分かっただろ。ああいうヤバイのも居るって」

 

ロクロウ「もしかしたら切り甲斐のある奴が居るかもしれないし、異世界の剣術とか剣とか見れるかもな」

 

ゴンベエ「言っとくが持ち帰ったり出来ねえからな。仏はその辺は厳しいからな」

 

アイゼン「だが、とてつもないお宝があるかもしれん……予備知識として今のうちに聞いておきたい。なにがある?」

 

ゴンベエ「なにがある?って言われても、滅茶苦茶あるぞ?」

 

ロクロウ「じゃあ、刀剣系で」

 

ゴンベエ「人間を守りたいって強い気持ちがあれば一振りで100の妖怪を薙ぎ倒す犬の牙で出来た妖刀、1000の誓約を守る事により使用できる絶対の勝利と栄光を手にする事の出来る聖剣、太陽の光が凝縮された絶対零度の凍気でないと砕く事が出来ない天秤座の剣、持つだけで剣の達人になれる機械の剣、硝子細工の様に脆く完全な軌跡を描いて使わなければ簡単に壊れてしまう刀、他にも色々とあるぞ」

 

ロクロウ「おお、どれもこれも面白そうだな」

 

アイゼン「他には、刀剣以外で変わった物はあるか?」

 

ゴンベエ「人間の魂に宿る魔物を操る魔術の札の元となる99人の人間を生け贄に作られた王家を守護する魔法の道具、大きさを変える事の出来る懐中電灯や過去に遡る事の出来る乗り物等の明らかに当時でも現代でもオーバーテクノロジーな発明品の作り方が記された大百科って、そういうのは比較的に安全なんだよ。むしろヤバいのが来ないことを祈らないと」

 

アイゼン「お前が掛かった病気の様な物か」

 

ゴンベエ「いや、それよりもヤバいのが1個だけ存在している」

 

ロクロウ「野球で勝利しないと治せないヘンテコな病気よりもヤバいのか?」

 

ゴンベエ「ああ……発明王の力を扱う事が出来る魔術師のカード。それだけは絶対にこの世界にあってはならない物だ」

 

ロクロウ「発明王って、なにかスゴい物でも作る事が出来る様になるのか?」

 

ゴンベエ「……そんな生易しい物じゃない……ホント、アレはこの世界と相性が余りにも悪すぎる……」

 

アイゼン「どうやら相当ヤバい物らしいな……いったいどんな物か、1度見てみたい物だ」

 

ゴンベエ「多分、ムッキムキの喋るライオンが見れるぞ」

 

 

スキット ゴンベエの才能

 

 

ライフィセット「ねぇ、ゴンベエ」

 

ゴンベエ「なんだ?」

 

ライフィセット「ゴンベエとマスク・ド・美人って同じところで修行したんだよね?どんな修行したの?」

 

ゴンベエ「……うぷっ……うっ!!」

 

ライフィセット「え!?」

 

ゴンベエ「……っ!…………!!」

 

ベンウィック「ぬぅおあ!?お前、海でゲロを吐くなよ」

 

ゴンベエ「おげぇええ!!」

 

アリーシャ「ゴンベエ!?どうしたんだ!?まさか食あたりか?それとも船酔いか!?」

 

ゴンベエ「……うっ……はースッキリした。おいこら、ライフィセット。可愛い顔してデリカシーの無い事を言うんじゃねえぞ、思い出してゲロっちまったじゃねえか」

 

ライフィセット「ええ、僕のせいなの!?」

 

ゴンベエ「座学関係ならまだしも実技関係はホント、ダメなんだよ」

 

アリーシャ「ライフィセット、ゴンベエになにをしたんだ?」

 

ライフィセット「な、なにもしてないよ。ただ、マスク・ド・美人とゴンベエは同じところで修行してたからどんな事をしてたかなって……」

 

ベルベット「吐いたって聞いたけど、どういう状況なの?」

 

ゴンベエ「ライフィセットが人のどちらかと言えば触れてはいけない部分を、修業時代について触れた。座学ならともかく、実技の方は本当にもう思い出すだけでも気持ち悪くなってしまうのに」

 

エレノア「貴方程の人が思い出すだけで吐いてしまうとは、余程厳しい修行でしたのですね」

 

ゴンベエ「はい、そこ。色々と大きな間違いを犯している」

 

エレノア「大きな間違い、ですか?」

 

ゴンベエ「いいか、いきなりオレみたいなのがポンっと生まれる訳じゃない、幾つかの過程を得てこうなったんだ。修行をする少し前までは本当に何処にでもいる夢も希望も持っていない極々普通の一般人だ……」

 

アイゼン「つまり今のお前になったのがそこでの修行というわけか」

 

ゴンベエ「そういうことだ。元々強い奴が更に強くなる為にじゃなくて弱い奴が強くなる為の修行……彼処は選んだとはいえ強くなる事を強要される色々な意味で地獄な場所だ」

 

ベルベット「……それでも、そこで鍛えれば強くなれるんでしょ?それこそ何時でもアルトリウスを倒せるなんて言えるぐらいに強く」

 

ゴンベエ「いや、無理だぞ」

 

ベルベット「無理って、あんたはそこで今の強さを得たんでしょ?」

 

ゴンベエ「確かにそうだが、それはオレだったからでベルベットが同じ事をやったとしても同じ事にはならない。そもそもで彼処で手に入る強さは千差万別だ」

 

ロクロウ「才能の差ってやつか」

 

ゴンベエ「いや、才能の種類だ」

 

ライフィセット「才能の種類?」

 

ゴンベエ「知識を蓄え知恵を鍛えて戦闘の訓練も一応はするが、それはあくまでも基礎的な部分。全員が受けるカリキュラムで、そこからはそいつの才能を開花させる事になる。剣の才能を持った奴が料理や裁縫を極めるよりも剣を極めた方がいいだろ。基礎的な事以外はその人の持つ才能を開花させて鍛えるのとその人がやりたい事をやらせてる」

 

ロクロウ「確かに、才能があるのに生かさないのは勿体無いよな」

 

エレノア「聖寮が対魔士達を鍛えるのと似た感じですね」

 

ゴンベエ「そんな生易しい物じゃねえよ。一人一人に合った修行をさせられる。例え剣の才能を持った奴が2人居たとして、そいつ等2人が全く同じ流派を教えて同じ様に成長するわけじゃない。それぞれがそれぞれに完璧に120%の力を発揮出来る様に修行させられる……しかも中には変な例外がいる」

 

アリーシャ「例外?」

 

ゴンベエ「剣の修行ならばコレをやらなければならない。料理の修行ならばコレをやればいい。お前達の中で○○の修行ならば勉強ならば先ずはこうすればいいっていう固定概念があるだろ?」

 

ロクロウ「まぁ、そうだな。剣の修行だったらランゲツ流でなくとも素振りは絶対だ」

 

ベルベット「料理の特訓だったら、先ずはレシピ通りに作るところからよ」

 

ゴンベエ「その固定概念が、当たり前が通じない人が極々稀に居るんだよ。普通に今まで通りに鍛えていたらダメな才能を持った人が……例えばベルベットのその左腕。過去にその左腕を用いて戦った流派はあるか?」

 

ベルベット「あるわけないでしょ……そういうことね」

 

ゴンベエ「そういうことだ。剣や料理にはこうすればいいという型があるが、その型に当て填まらない、その人だからその人しか出来ないもしかするとその人が新たな流派の開祖になるかもしれない才能もある」

 

アリーシャ「それは凄いな……そんな才能を持った人が居るのか」

 

ゴンベエ「黛さんがそれだぞ」

 

ライフィセット「そうなの!?」

 

ゴンベエ「あの人な、色々とやらされてたみたいだが影が薄い以外は全くと言って才能が無い」

 

アリーシャ「確かに気配が無く現れたが……アレも才能の一種なのか?」

 

ゴンベエ「影が薄いのは天性の才能だよ。そしてそれ以外は本当にその辺を歩いている人と大して変わらない。どれだけ努力してもな」

 

アイゼン「才能が無い事が才能……わけが分からんな」

 

ゴンベエ「内陸続きの土地で生まれた奴が泳ぎの才能を持っているかもしれないし、農家の家庭に生まれた奴が絵の才能を持っているかもしれない。生まれた土地や環境が原因で自分が持っている誰にも負けない才能を自覚出来ないなんて事もある。そこを気付かせるところからスタートなんだよ」

 

エレノア「ということは、貴方もなにかしらの才能が開花させているのですか」

 

ゴンベエ「基本的に出来ない事は無いけれども1番になることは出来ない器用貧乏な才能を開花させている」

 

アリーシャ「それは才能なのか?……ゴンベエが強くなれた理由はそこでの修行のお陰か……私に眠る私が自覚していない才能もあるのだろうか……」

 

ゴンベエ「……遊戯王やポケモンみたいに自分が戦う様で戦わない物でなければイナズマイレブンや食戟のソーマみたいに暴力以外での戦いじゃない、鬼滅の刃の様に相手を倒すでなく相手を絶対に殺す、理不尽なまでの暴力……オレにあった才能はロクでもない戦いの才能だ……」

 

 

スキット 秘密基地は事故物件

 

ゴンベエ「モアナの事や今後の事を考慮すれば、拠点が必要になるな。アイゼン、秘密基地とか拠点とか無いのか?」

 

アイゼン「秘密基地は男のロマン……だが、持っていない」

 

ゴンベエ「無いのか……それはまずいな。聖寮との戦いがどれだけ長引くか分からない以上は拠点は必要だぞ」

 

エレノア「ゴンベエ達の国は?この船は異大陸に行けるのではないのですか?」

 

ゴンベエ「色々な意味で無理だし、アイフリード海賊団の異名はこっちにまで伝わってるから無理だ」

 

アイゼン「そうか。なら、作るしかないな」

 

エレノア「作るって、何処かの山奥にでも作るのですか!?」

 

アイゼン「それもありだが、資材の運搬の所で足が付いて聖寮にバレるかもしれない」

 

ゴンベエ「住居を建てる所からスタートかよ……」

 

エレノア「では、何処かの洞穴に拠点を?」

 

アイゼン「いや、山奥と言うのはまずい。そんな所に炭焼きでもない人が住み着いている時点で怪しまれる。ここはいっそのこと名探偵の探偵事務所がある街にする」

 

エレノア「木を隠すならば森の中なわけですね」

 

アイゼン「要塞や洞窟にある秘密基地も捨てがたいが、何処にでもある住居に悪人達が集うタイプの秘密基地だ」

 

ゴンベエ「分からなくもないけれども、その手のタイプの秘密基地って結構難しいぞ?」

 

アイゼン「確かにこれから何人か増えるのを考えれば大きめの住居を借りなければならないが、探せばある筈だ」

 

ゴンベエ「いや、お前それ絶対に事故物件だからな」

 

アイゼン「なに?」

 

ゴンベエ「名探偵が名探偵と呼ばれるのは殺人事件を解決しまくったからだ。と言うことは名探偵が住む街は事件発生率が普通の街と比べて異常な迄に高く何処もかしこも殺人事件が起きた事故物件だらけだぞ」

 

エレノア「でしたら、無事故物件に住みましょう」

 

ゴンベエ「バッカ、無事故物件は事故物件の数倍以上の家賃を取られる。しかも事故物件と違ってボロ家だぞ」

 

アイゼン「幽霊が出てこようが、ぶっ倒せばいいだけだ」

 

ゴンベエ「後、そういうタイプは街の中に溶け込むのが前提だから街の人達と交流しておくこととか」

 

エレノア「ご近所付き合いは大事ですからね。アリバイにもなりますし」

 

ゴンベエ「そうそう。それになんの仕事をしているの?と聞かれた時に答えれる様にしておかないと……」

 

アイゼン「探りを入れられると困るからな。不透明な仕事をしていると説明した方がいいな」

 

ゴンベエ「じゃあ、治験の仕事か?」

 

エレノア「治験?」

 

ゴンベエ「新しい薬が人体にどう影響を及ぼすか、早い話がお金を貰える人体実験だ。長い間、家を開けていたのは象をも眠らせる薬で寝ていたでいけるな」

 

アイゼン「なんだそれは?」

 

ゴンベエ「見た目は子供頭脳は大人の名探偵の必須アイテムだ。麻酔の濃度が上がっているから、多分耐性が無いと3週間ぐらい眠る」

 

エレノア「そんな危険な物を探偵が使うのですか?」

 

ゴンベエ「他にもある物を組み立てるだけの仕事とかある物を運ぶだけの仕事とかある人物に変装して街中を一日中ぐるぐるする仕事とか」

 

アイゼン「犯罪の匂いしかせんぞ!?」

 

ゴンベエ「当たり前だろうが、犯罪都市に住むんだから。探偵こそが正義、黒い人影こそが悪だ」

 

エレノア「暴論にも程がありますよ!?」

 

ゴンベエ「春になれば毎年爆発が起き、夏になれば水死体が浮かび、秋になれば旅行先で人が死に、冬になったと思えば年は永遠に明けない。全く同じ鞄だったからと間違えて持ってきてしまえば中身は麻薬の可能性がある」

 

エレノア「そ、そんな街に住んでられません!!そんな街はさっさと出ていきます!そんな街に住んでいて殺されるぐらいならば、山奥に秘密基地を作った方がマシです!!」

 

ゴンベエ「お前、見事なまでの死亡フラグを建てやがって……名探偵からキック力を増強する靴で直接攻撃をくらうぞ。ボールとか一切使わずキック力増強直接キーック!と攻撃を受けるぞ……まぁ、どちらにせよモアナ達を匿う拠点だから街中には無理だ」

 

アイゼン「それもそうだな」

 

 

スキット 世界一美味しい食べ物は?

 

ライフィセット「ゴンベエ達って、どんな修行をしたの?」

 

ゴンベエ「お前、ついさっき言ったよな?」

 

ライフィセット「そ、そうじゃなくてその、座学とか……学校とかそんな風なのかな」

 

ゴンベエ「座学か……一般教養と知恵を鍛えさせられただけだよ」

 

ライフィセット「その知恵ってなんなの?」

 

ゴンベエ「文字通り考える力だよ……そうだな。例えば世界一美味い物はなんだ?」

 

ライフィセット「う~ん……あ、マーボーカレー!!」

 

ゴンベエ「アホ。落第点。0点」

 

ライフィセット「ええ!?」

 

ベルベット「なにを驚いてるのよ?」

 

ゴンベエ「予想通りと言うべきか、なにも考えずに答えたと言うべきか」

 

ライフィセット「世界一美味しい物はなにかって聞かれたから答えたんだけど、0点だって」

 

ベルベット「なんて答えたの?」

 

ライフィセット「マーボーカレー……1番美味しいよ」

 

ベルベット「確かにアレは美味しかったけど、他にも美味しい物はいっぱいあるわよ」

 

ライフィセット「例えば?」

 

ベルベット「キッシュとか……」

 

ゴンベエ「あのなぁ、そういうことを聞いてねえんだよ」

 

ライフィセット「でも、世界一美味しい物を答えないといけないんでしょ?」

 

ゴンベエ「そうだ。だからこそ、ライフィセットとベルベットがいきなりの間違いなんだよ」

 

マギルゥ「なんの話をしておるんじゃ?」

 

ライフィセット「ゴンベエが世界一美味しい物はなにか?って問題を出したんだけど、0点だって」

 

マギルゥ「世界一美味しい物か……ゴンベエ、お主中々にめんどくさい問題を出しおるのぅ」

 

ゴンベエ「オレはライフィセットにどういう勉強をしたか聞かれたから答えただけだ」

 

ベルベット「めんどくさいって、どういうわけ?」

 

マギルゥ「これは答えが無い問題じゃよ」

 

ライフィセット「答えが無い?」

 

マギルゥ「そもそもでこの問題、なにを基準に世界一と決める?」

 

ライフィセット「世界中の人に1番美味しいと思う物を聞くかな?」

 

ゴンベエ「極端な話、そうすれば正しい答えが出るがそれが実際に出来るか?」

 

ライフィセット「無理、だと思う」

 

ゴンベエ「そう。無理だ……だから、別の方法で世界一を出す。基準となるものを決めて世界一を見つけると言うのを考えるんだ。世界一の称号を持つ料理人が作った料理が世界一なのか、生産量が世界一な食材を使った物なのか……とにかく、ただ美味しいからとか言う好みの問題で答える問題じゃない。なんで?と疑問を持つ相手を納得させる答えを答える問題だ」

 

ライフィセット「そういう問題なんだ……ゴンベエも同じ問題をやったんだよね?どんな答えを出したの?」

 

ゴンベエ「数人1班でやったけど、その時はフライドポテトになった」

 

ベルベット「……美味しいか不味いかで言えば美味しいけど世界一ではないでしょ。それ」




スキット 一方その頃の……?






















イクス?「……眠い……まさかミリーナさんが食事にまた睡眠薬を入れたんじゃ……いや、何時もと同じ味だった。薬を混ぜれば味が変わる。いや、でも茸系の可能性がある……ぐぅ……は!危うく寝かけた……逃げるなら今しかない。よいしょっと」

ミリーナ「イクス」

イクス?「ミリーナさん!?なんでここに」

ミリーナ「もう、イクスったら何度言えば分かるの?さんなんていらないのよ」

イクス?「俺、何回も話しましたよね。イクスじゃないって」

ミリーナ「何処からどう見ても貴方はイクスよ。そういう設定はノートの中だけにしておかないと変人に見られるわ」

イクス?「イクス君もイクス君で大概だった!!て言うか、そういうノートは見たらダメでしょう!!」

ミリーナ「ダメよ……エッチな本だったり落書きだったりしたら燃やさないといけないから。でも、よかった。イクスはエッチな本を持ってなくて……でも、私の写真が無駄になったかな。あ、イクス、使う?」

イクス?「ナニに使えと!?」

ミリーナ「そうよね。イクスには私が居るから必要は無いわよね」

イクス?「っく、イクス君。俺の中に居るんだったらさっさと出てきてくれ。こんな美女が迫ってきてるんだぞ、喜べよ」

ミリーナ「もうイクスったら、出来ちゃった結婚したい程に美女だなんて」

イクス?「言ってませんよ、そんな事……って、ああ!!」

ミリーナ「どうしたの?」

イクス?「今だ!!」

ミリーナ「あ、待って!……はぁ。イクスったら首輪に発信機を仕掛けてるから何処に逃げても無駄なのに……今度は何処に逃げようとしたのかしら?ふふっ、先回りしてたらイクス、きっと驚くわね!」

イクス?「……イクス君、頼むから出てきてださいよ。俺には色々と荷が重いんです。俺はイクス君じゃない、イクス君は君なんだ。君が人生を謳歌しないとダメなのに……」


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要するに似非人類補完計画擬き

「あ~やっと辿り着いた」

 

 予想外の出来事で危うく死にかけたと思ったら一瞬にして貧乏になるってどうよ?

 ベルベットがボールを握り潰したせいで金が一気に減ったと思えば太鼓の達人ガシャットで太鼓の達人で遊べる様になったと思えば太鼓の達人プレイする度に200ガルド取られるとは思わなかった。

 

「バカ野郎、こっちが先だ!三日も漂流して死ぬところだったんだぞ!!」

 

「日頃の行いが悪いからだろうが!!」

 

「活気溢れているな」

 

「溢れすぎていないか?」

 

 誰かが病気になると言ったアクシデントは無く、ゼクソン港に辿り着いた。

 口と人相とガラが悪い船乗り達が色々と言い争っており、モアナ達の出来事が思わず嘘の様に思える。

 

「んだと、てめえ!!」

 

 中々に見せないと思うレベルのキレ方を見せるベンウィック。

 何事かと思い見ると誰かと交渉をしていた……確か、この港の組合かなにかの奴だったか?

 

「どうした?」

 

「副長、船止め(ボラード)料を上乗せしてきたんだ」

 

「ほぅ、いい度胸だな」

 

「そりゃあ貴方方の船止め(ボラード)を受ける者ですから……」

 

「だけど、急な値上げは幾らなんでも横暴だ!」

 

「それを言うならば、こちらも一緒ですよ。今まで貰っていたのは海賊団の船止め(ボラード)料。今、海賊団以外の者達が乗っているのならその分を上乗せするのは当然、特に特級手配の者達を匿うのならば尚更です」

 

 ベルベットに視線を向ける組合の男。

 確かに前までは騒ぎをそこまで起こしていないが、今はもう聖寮に目をつけられて色々とやらかしてしまっている。匿う側のリスクを考えれば値上げは当然な事だな。

 

「……確かにそうだな。ベンウィック、言い値で払ってやれ」

 

「へーい!副長も船長もやっかいな奴に甘いんだから……ったく」

 

 文句を言いながらもベンウィックはお金を支払っていった……。

 

「迷惑をかけたみたいね」

 

「想定の内だ……とはいえ、このままいけば更に値上げされる事は違いない。早いところ地に足を着けなければ」

 

 今回はよかったが、次から倍プッシュとか普通にありえる。

 現在絶賛貧乏状態のオレ達は金の方は大丈夫なのかと危機感を感じつつも、前回とは異なり堂々とローグレスに入る。

 

「……やっぱり、王都は大きいや」

 

「そうか?」

 

 感覚的に言えばレディレイクの方が大きい……

 

「これで王都なんだよな」

 

「……」

 

 現代でも充分に作れる街。1000年たっても全く進歩してない。それどころか退化している気もする。

 道中にマジルゥ一座というモノホンの劇団と遭遇して一悶着あり、漫才をすることになったがその辺に関しては置いておこう。血翅蝶の窓口でもある酒場に行くのだが、エレノアがいるとややこしいと残って貰う事になりエレノアの監視にアリーシャとライフィセットが残った。

 

「わざわざ来てくれてありがとう。久しぶりね、ピーチパイを食べる?」

 

「美味い話には裏がある。タダより恐ろしい物は無い……諸事情で金が減った」

 

「あら、そうなの?」

 

 本当にヤバい組織のトップなのかと疑うぐらい静かな婆さん。

 先ずはと賞金が掛かっていた憑魔を討伐した証や情報を纏めた物を渡すとガルドが入った大きな袋が出てくる……コレで減った分は補えたな。

 

「それで、用件は?」

 

 わざわざ酒場に来たのは呼ばれたからだ。

 ベルベットはお金を受け取るとオレ達を呼び出した用件を聞く……どちらかと言えば味方側。

 くだらない理由で呼び出す事はまずないだろうが、ロクでもない理由で呼び出すことはあるだろう。

 

「ふっ……もう少し心に遊びを持っておきなさい。張り詰めた弓の弦は折れやすいわよ」

 

「用件」

 

 何時も通りピリピリしてるな、ベルベット。

 

「この人を王都から連れ出して欲しいのよ」

 

 直ぐ近くのカウンターに座っているフードを被った男性を紹介してくれる婆さん。

 やはりというか、ロクでもない依頼だった。

 

「キナ臭い依頼ね」

 

「というか、その依頼は無理なんじゃ無いか?

そいつが何者なのかは予想は簡単だが、それよりもオレ達はこれからあっちこっちと旅をしなければならなくて地に足がついてない。ここに連れてってならまだしも、王都から連れ出すだけじゃ無理があるぞ。ねぇ、副長」

 

「お前が副長と言うな、気持ち悪い」

 

 んだよ、No.2の顔を立ててやってるんだぞ。

 

「だが、オレ達を運び屋として利用するならせめて目的地を言って貰わんと何処にも連れていけない」

 

「そうね……なら、監獄島タイタニアに連れていってくれないかしら?」

 

「おお、あそこか」

 

 名前だけでとんでもない場所だと分かるところを指定してきた婆さん。

 

「なにか知ってるのか?」

 

 ロクロウは思い出したかの様な顔をしている。

 

「俺とベルベットとマギルゥが捕まってた場所だ」

 

「そうじゃ。ワシが無実の罪で投獄されてのぅ」

 

「あ~はいはい、大体分かった……って、大丈夫なのか?」

 

 ロクロウやベルベットを閉じ込める監獄なんてロクでもない場所で、そこを統括している人間がいる筈だ。

 万が一を想定してそこには滅茶苦茶強い奴等が沢山居たりするんじゃないのか?

 

「聖寮本部とタイタニアが長いこと連絡が取れてないみたいなのよ」

 

「監獄島は聖寮が管理している施設。それが連絡もつかない程の状況になったというのか」

 

 アイゼン、そこの3人が脱獄する時に絶対になにかやらかしただけだ。

 とはいえ島が丸々監獄で住居としては持ってこいの場所であるのには変わりない。

 

「監獄島……灯台下暗し、使えるわね」

 

「アジトにか。あそこは喰魔が食べれる穢れも多そうだ」

 

「しかも、逃げ出した囚人が好き好んで戻るとはお行儀の良い聖寮は考えんじゃろうしな」

 

「少なくとも、行ってみる価値はあるわ」

 

「でもまぁ、プランBも……婆さん、念のためにこいつを逃がしても大丈夫な場所をピックアップはしてくれよ。それ自体が罠な可能性もある……聖寮はもうなにをしてもおかしくはない組織なんだ」

 

 聖寮が使っていた場所ならば地の利は聖寮にある。

 バレた場合の逃げ道を念のために用意しておかなければならない。絶海の孤島ならば尚更だ。

 

「それと、聖寮が業魔を匿っている情報はない?」

 

「……離宮にいた業魔なら、別の場所に移ったそうよ」

 

「……で?」

 

 明らかに居場所を知っている婆さん。

 ベルベットは情報を寄越せと睨むのだが相手が悪い。

 

「今は言えないけれど、近い内に会えるわ……」

 

「……分かったわ。そいつを連れ出す報酬は業魔の情報よ」

 

 あれだけデカい憑魔をそんなあっさりと何処かに連れ出す事が出来るのだろうか?

 いや、あのクワブトやモアナみたいに変化することが出来る……ん?……。

 

「ベルベット」

 

「なによ?」

 

「お前、そこの監獄に居たんだよな?」

 

「そうだけど」

 

「……お前じゃないのか?」

 

 ベルベットは自分の事を喰魔と言っており、ベルベットが倒した憑魔は元に戻る。

 監獄島には喰魔が食べるのにちょうどいい穢れがあり、更には聖寮が管理している施設で暫くは連絡を取っていない。

 それはつまりベルベットが──

 

「いけば分かる事よ」

 

「……まぁ、それもそうか」

 

 どっちにせよ、監獄島に一度は足を踏み入れないとならない。オレの予想通りならば監獄島は今後の活動の拠点になる。そうでないなら……面倒な事になるだろうな。

 

「アイゼン副長、メルキオルとやりあった件は聞いたわ。情報を掴めなくてごめんなさいね」

 

「いい、もう済んだことだ。お陰でハッキリと敵が見えてきた。

オレ達アイフリード海賊団が聖寮の計画を潰して大きな被害を与えていけば、アイフリードを人質にし罠に嵌める。狙うなら、そこしかない」

 

 幸か不幸か、巡りめぐってそれぞれの運命の糸は聖寮にくっついている。

 その糸は脆く簡単に千切る事が出来る物だからか、その細い運命の糸は束ねようとしている。

 

「話は終わったのか?」

 

「終わったし、次の目的地が決まった」

 

「闇の組織の親分から託されたお宝を悪党から奪われぬ様に監獄島に隠しに行くぞよ」

 

「何故監獄島に!?一体、どういう方なのですか!?」

 

「エレノア、聞くばかりじゃなくてたまには自分で考えろよ。そんなんだからモヤモヤになってるんだろ」

 

 状況がイマイチ理解出来ていないので、理解する努力をしていないと苦言をする。

 自分の心に大きな靄が出来ているエレノアは図星だと言わんばかりに黙ってしまった。

 

「ゴンベエは誰か分かるのか?」

 

「興味無いから考えていない……大方の予想はつくがな」

 

「ゴンベエが予想できる人物?」

 

 この時代に知り合いはいない。その為に特定の誰かという線は無いと考え始めるアリーシャ。

 

「そういえば、監獄島がダメだったら、お上の手が届かない場所に連れていけとも言っておったのぅ」

 

 考えるアリーシャに便乗をしてヒントを与えるマギルゥ。

 それはもう殆ど答えになっている。連れていく事を頼まれた男は一向にフードを外そうとはせずにいる。オレ達が特に気にしていないだけだがフードを外せば、素顔が見られれば誰かと分かる人物で尚且つお上に見られれば、手の届く範囲にいれば危険が及ぶ存在と言えば……。

 

「私と、似たような者、か?」

 

 答えは後で教えてくれる。

 ゼクソン港をマーキングしているのでフロルの風でパッとワープをするのだが時刻は既に夜。

 夜間に出発するのは危険行為で行くのは日が登ってからとなり、たまたまマギルゥ奇術団の事を知っている行商人がおり、舞台は既に整っているぜとマギルゥと結託してベルベットが相方となり漫才をするのだがものの見事に滑った。

 

「だから、高いって!!足元見過ぎだろ!!」

 

「ベンウィック、まだ頑張ってたのか……」

 

 滑ったものの懐は潤った。

 夜が明けるまで船で休むことになるのだが、ベンウィックが船止め料で揉めていた……アイゼンが言い値で払うとかいう事を言ったから値上げをしたな。

 

「これ以下をお望みならば何処かの慈善家を探していただいた方がよろしいかと」

 

「またなにか揉めてる。アイゼン、間に入ってきなさいよ。このままだと業魔を狩った報酬すら取られそうな勢いよ」

 

「もう少し交渉が上手くなってほしいんだがな」

 

 やれやれと間に入りに行こうとするアイゼン。

 元を正せば言い値で払うとか言ってしまったのが原因なんだぞ。

 

「私達が原因で船止め(ボラード)料が上乗せされるなら、その分だけでも私達が払った方がいいんじゃないか」

 

「口にするのは簡単だけど、金を得る方法はあるのか?」

 

「ワシとコンビを組めば、ギャラは折半するぞ?」

 

 おい、悪魔の契約をするんじゃない!!

 

「よし、次は私が、きゃっ!?」

 

「ぬぅお!?」

 

「急に剣が!!」

 

 アリーシャが危うく悪魔の契約をしそうになる時だった。

 使わないように閉まっていたアリーシャの槍は急に光を放つ。それと同時にオレのマスターソードとトライフォース、ベルベットの剣が強い光を放った。

 なんの理由も無しに急にこんな事にはならない。オレは急いで剣を抜いて何処かに敵が潜んでいるか気配を探るが、特にオレ達に敵意を向けたりしている奴等は何処にもいない。

 

「ベンウィック、おい、ベンウィック!!」

 

「副、長……あ、れ、オレは……補給の交渉をしてて、そんで」

 

「おいおい、ボケるのにはまだ若すぎるだろ」

 

 さっきまで値下げ交渉を必死になってやっていたベンウィック。

 例えるなら、そう。寝起きの様に意識がボンヤリとしており、ついさっきやっていた事すら若干だが覚えていない。

 

「おっさん、大丈夫か?」

 

「……物資は適価で……いえ、ご自由にお持ちください……」

 

「おいおい……これは……」

 

 目蓋が若干降りてきて、目の焦点が合っていないおっさん。

 さっきまでベンウィックに見せていた金へのがめつさは何処へ行ったのかと思わせる程の変貌している。

 

「人間は、営利行為等でではなく、私心なく公益に奉仕する事での自己実現を達成すべきであり」

 

 それだけじゃない。

 聖人かの様にめんどくさい事を言い出しており、その姿は例えるならば機械仕掛けに動いている。人間らしくない人間……。

 

「ほ、本当にいいのかよ」

 

 あまりの変貌っぷりに引いてしまうベンウィック。

 おっさんは暫くすると目が覚めたかの様に目がクワっと開き自分はなにを言っているんだと戸惑う。

 

「坊よ、今の力を感じたかえ?」

 

「うん。もう消えたけど、北の方から感じた。波みたいに一気に押し寄せてきたよ」

 

「ここから北の方って、裏金で作られた神殿があるところじゃねえか」

 

「聖主の御座です!!……聖主の、カノヌシの力、なのでしょうか?」

 

「ああ……これは聖隷の持つ力の支配圏──領域だ」

 

「……ウーノ様やロハン様と同じもの……」

 

 確か、アリーシャは加護領域を感じた時に胸の中がスゥっとしたらしい。

 微弱ながら感じていた穢れが無くなってスッキリとした、そんな感覚。オレはそんなのを感じていないが穢れは着実に減っていったから、そう感じたのだろう。いや、そんな事は今はどうでもいい。

 

「急に剣や槍が光ったのは?」

 

「それはオレには分からない。ゴンベエ、なにか知ってるか?」

 

「武器の素材自体が特殊な力を持っていて髪の毛や血を混ぜて作っているから害になるとバリアーみたいなのを貼ったと思う……前に似たような事があったし」

 

 スレイの従士になる時にトライフォースやマスターソードが拒んだ事があった。

 今考えれば、あれはスレイの力の加護下になるもので物凄い力を持っているトライフォースやマスターソードが下になるのはダメだと拒んだのかもしれない。

 

「カノヌシとアルトリウスがなにかをやったってことか」

 

「そう考えるのが妥当だが……アメッカ、ウーノとロハンが同じ事をした時はどうだった?」

 

「どうと言われても、胸の中がスウッとして少しだけ爽やかな気分になったぐらいだ。こんな事にはなっていない」

 

「とにかく、ここに居るのは危険だ。急いでここを離れるぞ」

 

 まだ夜だが出向するしかない。

 急いで船に乗ろうとするのだが、最後尾にいるフード付きの男がボソリと口を動かした。

 

「沈静化……か」

 

「……そういうことか」

 

「っ!?」

 

「重要なキーワードは心に閉まっておけ……と言いたいが、これでやっと読めたから礼は言っておく。ありがとう」

 

 天族が見えるならば、天族と協力して加護領域を広めていけばいい。

 聖主と呼ばれる存在はこの時代よりも遥か昔から存在していて、それ等を信仰する文化はこの時代にも一応は存在している。それなのにアルトリウス達聖寮は天族を無理矢理使役して地の主の様な事をせずにいる。

 浄化の力が無いからには下手に穢れがどうのこうの言えば世界が混乱するだろうが、それでも時間を掛けていけば天族を信仰する文化に変えていくことは出来る筈だ。

 それでもせずに己の私利私欲を満たす為でもなくなにかをしようとしている。そのなにかが今やっと分かった。

 

「アルトリウスの野郎、人類補完計画でもするつもりか……」

 

 戦争を裏で手引きしていたヘルダルフよりも、いや、多分だがこれからこの世界で出会うであろうどの悪人よりも最悪な事をしようとしてやがる!!

 【個】を完全に統一し【全】という1つの【個】にして、無理矢理1つの方向に進ませる人類補完計画みたいなもんをしようとしてやがる!

 

「ゴンベエ、早く船に乗らないと」

 

「分かってる……夜明け前は1番暗いと言うが本当みたいだな」

 

 いったいこんな混沌とした何時終わりを迎えるか分からない世界がどうして永遠と繰り返してしまうだけの世界になっちまったんだ。




スキット 出演NG。

マギルゥ「全く、人が折角盛り上げたというのに」

ゴンベエ「お前、滑るとかネタを忘れるとかアドリブを入れられてテンパるならまだしも、恥ずかしくて声小さいってそりゃねえだろ」

ベルベット「仕方ないじゃない!あんな風に人前に出てトークするなんて、今まで無かったし」

マギルゥ「乙女か!」

ベルベット「乙女よ!」

ゴンベエ「それは別のところで聞きたかったな……人が折角、BGMで盛り上げたってのに行商人のおっさん引いてたぞ」

マギルゥ「新しい笑いと言ったが目が笑っておらんかったの」

ベルベット「だったら、あんたがやってみなさいよ」

ゴンベエ「BGM担当のオレの代わりにバニーガールで場を盛り上げるならいいぞ」

マギルゥ「うむ。ベルベットが適当に踊っているだけで充分じゃぞ」

ベルベット「あんた等ねぇ……」

マギルゥ「して、ゴンベエよ!どの様にやるんじゃ?トークだけで盛り上げてばかりではつまらんぞ」

ゴンベエ「オレの故郷の摂津の国(兵庫県)の隣が何処か知ってるか?お笑い溢れる浪速の国だぞ。
マギルゥ、お前が72言ってんだこの壁だと言うのは見れば分かるが、お前も女。流石に脱がすとCEROがBからZに切り替わる。ここはオレがやる」

ベルベット「ちょ、なに脱いでるのよ!」

マギルゥ「それよりもなんじゃこの棒は?」

ゴンベエ「ほら、ドリルしてこんかい!!浪速の国の十八番である乳首ドリルすな!」

マギルゥ「……お主と組んでたら、ワシまでヨゴレになりそうじゃからお主とは組まん!!」

ゴンベエ「芸人なんて基本的にヨゴレなんだからあらゆる手を使って笑わせないとダメだ。紅白の裏で言っていたってのに……仕方ない、アイゼン達と借金取りのコントをやるか」

マギルゥ「コラコラコラ!!座長であるワシを除け者にして公演なぞ認めんぞ!!」

ベルベット「アイゼンとあんたが組んだら本当にそう見えるから、止めときなさい」

ゴンベエ「んだよ、ギター使ったコントで面白いぞ……小遣い稼ぎにもなるし」

マギルゥ「マギルゥ奇術団の名を借りて勝手に闇営業するでない!お主は出演自体NGじゃ!!」


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憧れや尊敬は理解から遠い感情

「この方角を弱めの風で頼む」

 

 真夜中の出航。

 それは予定外の出航であり目的地が定まってはいるものの、危険な場所で細心の注意を取らなければならず、アイゼンはゴンベエの風を操る力を思う存分に利用して船を動かす。

 予定外の出航だが甲種の憑魔が現れる気配は特になく、誰かが体調不良を訴える事も天候が荒れるといったこともない。このまま行けば普通に着くとベンウィックは言っていた。

 

「船も無事に出航したし、そろそろ素顔ぐらい見せても良いんじゃないか?」

 

 パスカヴィルから頼まれて目的地の監獄島まで連れていく事になったフードを被った人。

 分かることは香油をつけているのと男性だということだけで、お上の人に狙われない場所に連れていって欲しいと頼まれていた事からどういうタイプの人間なのかが分かる。

 

「そうだね。失礼した」

 

「やはり、パーシバル殿下!!」

 

 ロクロウに言われて素顔を晒すフードの男性。

 エレノアは素顔を見て驚く。ゴンベエに言われた様に予想していたらしく、その予想が当たっていた。

 細かな事は知らないが、確か演説の際にアルトリウスを紹介していた人物。殿下、と言うことは王族か。

 

「パーシバル・イル・ミッド・アスガード……ミッドガンド王国の第一王子とはな」

 

「……次の国王なわけね」

 

「お召し物から王族の方々のみが使うことが許された香木の匂いがしましたが……なぜ、この様なことを」

 

「話さなければ連れていって貰えないかな?」

 

「いや、話さなくて良い……ただ、ここは普通の船じゃない事は分かっているだろうな?」

 

「な、なにをしているのですか!?」

 

「見て分からないのか?」

 

 パーシバル殿下の首筋に背中の剣とは別の剣を背後から添えるゴンベエ。

 下手に動けば首と体が分かれる殺そうと思えば何時でも殺せる体制ではあるが、殺気の様な物が一切感じない。

 

「……私を利用したいのならば利用したまえ」

 

「オレはそういうのを求めているんじゃない。

オレ達は導師アルトリウスやシグレ、メルキオルといったお前の国に居ないと困るであろう人物をぶっ殺す為に色々と準備をしている。アルトリウス達の姿を見て噂を聞いた……この船はお前達の国を絶望に送る地獄行きの船だぞ」

 

 ローグレスでのアルトリウス達の人気は凄まじかった。

 導師の称号が与えられたあの日、スレイの時とは比べ物になら無いほどに人が押し寄せていた。ローグレスの人々も口を開けばアルトリウス様がとアルトリウスを称えていた。混乱の世を平穏へと導く者達と私達は戦っている。

 

「なら、地獄に連れていってくれ」

 

「な!?」

 

「そうか……詫びは言わんぞ。なにせ悪人なんでな」

 

 この船に乗る覚悟はパーシバル殿下は出来ていた。

 なんの迷いも間もなく答える姿にエレノアは驚愕をしているが、血翅蝶を利用した時点で覚悟は既に出来ている。

 

「ついでにもう1つ聞いておく……国はアルトリウスというのがどういう人物なのか理解していて導師の称号を与えたのか?」

 

「……君は聖寮が出来る前のミッドガンド王国を知っているのか?」

 

「知らん!!」

 

「ならば、薬と言う名の毒を食らうば皿まで食らうと言っておこう」

 

「屁、以下な陛下か」

 

「……聖寮が出来るまでのミッドガンド王国?」

 

 過去の出来事は分からないが……

 

「……殆どの人は聖隷が見えなかった、聖隷は見えない癖に業魔は見えていた。聖隷の力を借りなきゃ、それこそこっちも業魔にならなければまともに戦う事すら出来ないぐらいに力の差があった……お陰で山奥の小さな村に届く筈の薬が届かなかったりした」

 

 そんなに、酷かった……いや、現代のハイランドもローランスも同じか。

 そんな状況で救世主が現れたとなれば誰だって喜ぶ。私もスレイという導師の誕生を喜んだ人の1人だ。

 

「ということだベルベット。向こうは地獄に連れていってくれと言っている」

 

「どうだっていいわ。こっちもこっちで利用させてもらう……最悪、人質にでもなってもらうわ」

 

「その男に人質の価値は無い!!」

 

「その……地獄行きの船だと言うのは分かっているが、そこまで堂々と言われるのはそれはそれで困るのだが」

 

「諦めなさい」

 

「一度でいいから、そいつに人質の価値はねえ!ってやってみたかったんだよな……アメッカじゃ出来なくなったし」

 

 相変わらずのゴンベエに流石のパーシバル殿下もドン引きをしていた。

 ゴンベエのこういうところは多分、どう頑張っても変わらないと思うので諦めるのがオススメだと一言忠告をしておいた。

 

「ここが監獄島……」

 

「島全部が監獄なんだ、秘密基地みたい!!」

 

「ライフィセット、秘密基地じゃない。暫くはここがマイホームに変わるんだ……」

 

「いや、秘密基地だ。断じてマイホームじゃない!!そこは譲れん」

 

 私達の感傷を邪魔するゴンベエとアイゼン。

 

「秘密基地って言うけど、監獄だろう。牢屋以外ねえぞ」

 

「そこはオレ達の腕の見せ所だ」

 

「……オレ、最近、本気で忘れ去ろうとしてるけども本気で国外逃亡の準備をしておかねえとな」

 

 そんなことはしなくていい。ゴンベエの技術を独占しようとする者達から私が守る。

 

「しかし、見張りの1人もおらんのう」

 

「やけに静かだな」

 

 聖寮が管理しているという割には船の一隻も見当たらない。

 聖寮と連絡が取れていないらしいが、ここまで静かなのは不気味さを感じる。

 

「なにかあったのは確かみたいだが……モアナ達が居るから、ここより最適な場所は無いか」

 

「中の様子を確かめるわよ」

 

 今回はモアナ、ダイル、クロガネ、パーシバル王子も一緒に同行する。

 監獄だけあり中は全体的に暗く灯りが少ない。いや、それよりも人が少なすぎる。

 

「う、っ、ぐ……」

 

「対魔士!?」

 

 中を探索し広間の様な場所に出ると、そこには何時もの対魔士がいた。

 血塗れになっており、エレノアが駆け寄るのだが倒れてしまう。

 

「しっかりしてください!!」

 

「うっ……首の無い騎士……うま……」

 

「逝ったか……ハウンド」

 

「っ、貴方!!」

 

「違う、上だ!!」

 

 何時もの様に四角の正方形の立方体を作り出すゴンベエ。

 とどめをさすのなと思ったエレノアだが、その前に上から憑魔が襲い掛かってくる……のだが、その前にゴンベエが追尾する光る弾で撃ち抜き倒す。

 

「聖寮は囚人達の制圧に失敗したみたいね」

 

「おかしいな。無茶苦茶強い奴は居なかったが、それでも結構な数の対魔士達が居た筈だ。

俺みたいに業魔になっちまった奴も何人かチラホラと見たが、特段強い奴が居たわけでもないぞ」

 

「……蟲毒が行われたかもしれない」

 

「うげ……」

 

 どうしてこんな事になっているのか分からない中、1つの予想をするアイゼン。

 それを聞いたゴンベエは物凄く嫌そうな顔をしている。

 

「コドク?」

 

「業魔同士を喰い合わせることで、より強力な業魔を生み出す外法だ」

 

「なるほど……」

 

 大体の流れが読めた。

 

「囚人同士が喰い争って対魔士達が敵わない憑魔が出来たのか」

 

「暴動が起こったからですね」

 

「誰かさんのせいで、のう」

 

「……そういう風に言うのはやめるんだ。

結果的にはこんな事になってしまったが、今はまずその首無し騎士の憑魔を倒そう……そうでなければなにも始まらない」

 

 せめて、死んだ対魔士達や喰い争って死んでしまった囚人達の為にも。

 

「決まりね……その首無し騎士の業魔を倒すまで、広間を拠点にするわ。王子とモアナはクロガネ、ダイル、あんた等に任せるわ」

 

「おいおい、明らかに戦力差が激しいだろう」

 

「なら、オレが残ろうか?」

 

「あんたは私と一緒よ」

 

「そうか」

 

 明らかに戦力差が激しいが、気にしている場合ではない。一刻も早く憑魔を一掃しなければこの島を使うことは出来ない。首無しの騎士の憑魔は出てこないものの、普通の憑魔はわんさかと出てくる。

 

「ここにはどういった人達が捕まっていたんだ?」

 

「主に業魔病に……ダイルやクロガネの様に業魔となってもまだ理性ある方が多く捕まっていました」

 

「憑魔を捕らえていたのか……確かに、ここならば逃げ出す事は不可能だが……」

 

 要塞と呼ぶに相応しいが、牢屋の数が思っていたよりも少ない。

 王都の牢屋や監獄と比べれば物凄いが、憑魔を捕まえていたと言われるとどうにもピンと来ない……そう、何故かピンと来ない。

 

「憑魔を捕らえて、ずっとここに閉じ込めるだけなのか?」

 

 聖寮は憑魔と戦う為の組織だ。

 この要塞の中にいる理性の無い憑魔だけを倒し、ダイルやクロガネの様な理性ある憑魔を投獄すると言われてもあまりピンと来ない。まるで、ここ自体がなにかの実験をしている施設の様に見えてしまう。

 

「ここには喰魔が居るのか?」

 

 憑魔が群れれば発する穢れも強まる。

 要塞にいるのが憑魔だとするならば穢れは満ちており、穢れを喰らってカノヌシに送り込む喰魔にとって絶好の餌場だ。

 

「首無しの騎士!」

 

「アステロイド」

 

「……お主、本当に容赦が無さすぎんかの?」

 

「別にいいだろう」

 

 あれこれ考えている内に、首無しの騎士に遭遇するのだがゴンベエが瞬殺してしまう。

 その姿にマギルゥはドン引きするが、日頃はベルベット達が戦わなければ意味が無いと手を出さないのでこういう時はとゴンベエは容赦しない。

 

「……あ!」

 

「どうしたライフィセット?」

 

「カノヌシの力を感じた……」

 

「多分、この下よ」

 

 カノヌシの力を感じたが、まだ正確な場所がライフィセットには分からないのに此処だと真下の監房の入り口を開けるベルベット。

 

「監獄島で1番厳重な特別監房よ……ライフィセット、力を感じる?」

 

「うん……ここが地脈点だと思う」

 

「地脈点に作られた監房、ここに閉じ込められていたのが」

 

「餓えた喰魔が繋がれていた……」

 

 そうか……ここはただの監獄ではなかった。

 

「そいつは毎日放り込まれてくる業魔を喰らって腹を満たし、血まみれの唇を拭った」

 

 おかしいと感じていた違和感は間違いではなかった。

 

「島に何百といる悪人や業魔の発する穢れをカノヌシに送っている事も知らず、3年の時を過ごしたある日、女聖隷が現れた」

 

 ここは餌場。

 

「女聖隷は喰魔を閉じ込める結界を解いて喰魔を出した……喰魔は出してくれた聖隷すらも喰った──そして」

 

 喰魔であるベルベットが穢れを喰らう為の餌場だ。

 

「あたしは手に入れた、弟の仇を伐つ為の力を!!」

 

 感情的になり左腕を憑魔化させるベルベット。

 その目には怒りや憎しみが宿っており、私にはどうすることが出来ない。

 

「こんな場所が、後4つもあるのか……」

 

 穢れに満ちた地脈点。

 ひとたびそこにいる喰魔を引き剥がせば喰らう筈だった穢れは行き場を失い溢れ出て人々を飲み込んで憑魔化させてしまう。

 

「アルトリウス様が、そんな事をするはずが」

 

「もう、認めないか?」

 

 この残酷な光景を見てそれでもまだ、なにかがあると思っている。思おう必死になっている。

 でももう、誰が見ても酷い惨状だ。アルトリウスの行いをいい加減に認めなければならない。

 

「そんな……そんなってどれのことよ?

病弱になった義弟(おとうと)を犠牲にしたこと?喰魔になった義妹(いもうと)を監禁し続けたこと?

全部……全部あんたが讃える導師様がやったことだ!!カノヌシの力を手に入れる為に……」

 

「きっと……なにか、お考えが」

 

「お前さ、お考えが、お考えがって言っているけどお前自身が理解してなくてどうすんだよ?」

 

 エレノアの胸ぐらを掴み怒るベルベット。

 耐えきれなくなったエレノアはベルベットと目線を合わせる事は出来なくなるのだが、ゴンベエは一切逃がさない。

 

「憧れは理解から最も遠い感情だ。アルトリウスを慕い尊敬していて、その人のようになりたいと思っているんだろ。

だがな、人と人は完璧にも完全にも分かりあえない。十中八九ぐらいしか分かりあえない生き物で、お前が見ているのはそいつの外側だけ……表面上に見える部分だけだ。アメッカは真っ先に気付いたぞ」

 

「エレノア、私はあの日、泣いた。アルトリウスの演説を聞いて泣いたんだ……形が無いと」

 

 確かにアルトリウスが言っていることは大きく立派だった。言葉だけで強い人間なのだと思わせる程だった。だが、言葉だけだった。

 

「私はあの時、アルトリウスがなにを言っているのかが理解出来なかった。

世界を救いたいという思いは本物かもしれないが、その世界の形が見えずにいた……エレノアには見えていたのか?」

 

「……」

 

「世界の痛みを受け止める?ふざけるな!!あの子の痛みは誰が受け止めるんだ!あの子の絶望は誰が癒すんだ!!

世界の為なら……ラフィは殺されて当然だって言うのか?なにも見えていないなら、なにも理解していないならなにも語るな!!」

 

 怒りのままに叫ぶベルベット。

 なにも言えないままエレノアは終わってしまい意気消沈となる。

 

「女の涙は恐ろしい……スッキリしたか?」

 

 空気が重い中でもゴンベエは自分を保っていた。

 気が狂う程に怒っているベルベットに優しく声をかけており、ベルベットも吐くものを吐いて少しだけスッキリとしたのか乱れていた呼吸は元に戻り、冷静になる。

 

「とにかく、コレで喰魔を探す手間が1つ減ったわね」

 

「その代わりにややこしい手間が1つ増えたぞ」

 

「どういう意味よ?」

 

「お前、脱獄してからどれぐらい経ってる?」

 

「正確な日にちは分からないけど、そこそこよ」

 

「聖寮、手抜きし過ぎだろう」

 

 最終的にカノヌシを使ってなにかをしようとしているアルトリウス。

 先ずはカノヌシを完全にしなければならないが、そのカノヌシを完全にするには喰魔が穢れを送り込まなければならない。だが、目の前にいるベルベットは脱獄してからそこそこに日が経っている。つまり、カノヌシはずっと弱体化していることになる。

 

「……今はまだ分からないわ。取りあえず、地脈点に離れておけば穢れを送り込まずに済むわ」

 

 まだまだカノヌシに関する謎は多い。

 ベルベットが今までここにいないのに捕らえに来ないのは何故?という疑問は残されたまま、島を拠点にする事に成功した……かに思われた。

 

「モアナ!?」

 

 ゴンベエとベルベットに責められ意気消沈していたエレノアは急にモアナの名を叫ぶ。

 

「どうしたんだ急に?」

 

 ただ名前を呼ぶのでなく焦った様に叫んで、首無しの騎士の憑魔はもう倒された。

 それ以上に危険な存在は此処にはもう居ない筈で、心配する必要は何処にもない。

 

「……嫌な感じがします。モアナ達になにかあったのかもしれません」

 

「2人に怒られて幻聴が聞こえる様になったのではないのかのぅ?」

 

「蟲毒で出来た首無しの騎士はもういないよ?」

 

「……お願いです!急いで広間に戻りましょう!!」

 

「……ゴンベエ」

 

「はいはい」

 

 広間にマーキングをしていたのか、ベルベットに言われて何時もの様にワープをする私達。

 

「モアナ!!」

 

「そっちじゃない、こっちだ!」

 

 広間にワープをするとエレノアは直ぐにモアナの方を振り向いた。

 モアナはエレノアが来てくれた事に喜び笑顔になるのだが、ゴンベエは直ぐにモアナとは反対の方向をエレノアに向かせる。

 

「これは……首無しの騎士と、馬?」

 

 逆方向には馬に乗った首無しの騎士がいた。

 

「……あぁ、なるほど!!

首無しの騎士の業魔ではなく、首の無い騎士と馬じゃったのか!!」

 

「なるほど……」

 

 どうりで最後の言葉を残そうとしていた対魔士の言葉が途切れていた筈だ。

 マギルゥが妙な納得をした馬に乗った首の無い騎士の穢れはゴンベエが瞬殺した首無しの騎士よりも強い穢れを放っていた。

 

「ハウンド+ハウンド」

 

「待ってください!」

 

「なんだ?」

 

 倒しても問題の無い敵なので、迷いも無く攻撃しようとするゴンベエを止めるエレノア。

 その目はさっきまでの弱々しい目でなく、強い力がこもった目だった。

 

「約束したんです……必ず、守ると。ここは私にやらせてください」

 

「人が初の強化追尾弾(ホーネット)を撃とうとしているのに……仕方がない」

 

 エレノアの為に、一歩引き下がり光の弾を消したゴンベエ。

 約束を守る為に戦おうとしているエレノアの邪魔をする無粋な真似はしないとロクロウ達も剣を抜いてはいるが、攻撃はしない。

 

「参ります!!」

 

 約束を守ろうとするエレノアは強い。

 

「響け!集え!全てを滅する刃と化せ!!ロスト・フォン・ドライブ!!」

 

 槍で連続攻撃をした後に槍の刃先に光を集中させ、強烈な突きで首の無い騎士と馬の憑魔両方を貫いた。




スキット 真面目に不真面目

エレノア「いったい、どの様な理由でパーシバル殿下はこの船に」

ベルベット「別にどうだっていいわよ」

アリーシャ「王族には王族の苦労が存在している……私があまり言えた義理ではないが」

ゴンベエ「で、んかが此処にいるってことがへ、いかに知られたらややこしくなるなぁ、ぐらいの認識で良いだろう」

エレノア「あの、何故呼ぶ時に一旦区切るのですか?」

ゴンベエ「王様の事を屁以下と呼びたいから」

エレノア「上手い!って、違います!!あまり、粗相の無い様にしなくては」

ベルベット「嫌よ」

ゴンベエ「お前、そんな事を言い出したらオレはアメッカをはじめとしたそこそこの権力を持った奴等に対して粗相しまくりだぞ。もう喋り方1つで斬首されるレベルの粗相をしまくってるぞ」

アリーシャ「私は気にはしないが、もう少しゴンベエは態度を改めた方が良いんじゃないのか?」

ゴンベエ「分かった……いえ、分かりました」

エレノア「そうそう、その様な感じです」

ゴンベエ「しかし、エレノア嬢。今から向かいしは監獄でございます。城の生活と比べれば幾ばくかは劣ってしまうもの。誠に申し訳無いのですがパーシバル殿下には王族の生活でなく人としての生活をすると申し上げなければなりません。パーシバル殿下はなにかが出来るのでしょうか?」

エレノア「あの、私にまでそういった事をしなくてもいいのですよ?」

ゴンベエ「王族だけ特別視扱いをして敬う素振りを見せれば媚びた様に見えるものです。
こういった場合ですと皆に対しても分け隔てなく接しなければなりません……時にベルベット様」

ベルベット「なんで私は様なわけ?」

ゴンベエ「私は貴女様の下僕と仰っているではありませんか」

ベルベット「まぁ、そうだけど……てか、私!?」

ゴンベエ「監獄を拠点とした暁には少々監獄を工事したいのですが、よろしいでしょうか?」

ベルベット「好きにしなさい……」

ゴンベエ「ありがとうございます。因みにですが、その工事ですが拠点での生活を快適にする工事なのですが……アメッカ様、ベルベット様、エレノア嬢、なにかお望みとあらば拠点を快適に過ごしやすく工事致しますが?」

アリーシャ「待って、ゴンベエ。その、私には様をつけなくても」

ゴンベエ「それは出来ません。私からすれば貴女様はお上の人。更に言えば生殺与奪の権利を貴女様は握っておられるのです。貴女の鶴の一声で私の人生を終わらせることが何時でも可能なのです」

アリーシャ「そんな……私とゴンベエはそんな首輪と鎖で繋がった関係では」

ゴンベエ「所詮、私も飼い犬というわけでございます……貴女様が何故私と一緒にいるかお忘れではありませんか?」

アリーシャ「うっ……」

ゴンベエ「それで皆様、なにかお望みの様な物は無いでしょうか?」

ベルベット「あるわよ」

ゴンベエ「なんでしょうか?」

ベルベット「今すぐにその紳士みたいな喋り方を止めなさい……気持ち悪いわ」

ゴンベエ「しかし、これは貴女様」

ベルベット「いいから普通に喋りなさい!!」

ゴンベエ「……んだよ、ちゃんと真面目にやったじゃねえか」

ベルベット「あんたが私に対してそんな他人行儀の態度なんて気持ち悪いのよ!」

エレノア「なんというか、普段が普段だけに物凄くむず痒くなってきました」

ゴンベエ「おいおい、今でこそ矯正をされてある程度はマシになったが昔はもっとゴリッゴリの関西弁で下品だったぞ」

アリーシャ「無しだ……」

ゴンベエ「なんだ?」

アリーシャ「ゴンベエはどちらかと言えば下品だ。無しだ、あんな似非紳士みたいなのは無しだ」

ゴンベエ「肩が凝るからああいうのは基本的にはしねえよ」

アリーシャ「基本的じゃない!!絶対にだ!!」

ベルベット「そうね……命令よ。次、あんな真似をしたらぶっとばすわ!!」

エレノア「……普通は逆ではないのですか?」

アリーシャ「違う……このままでいい。このままでいいんだ……」

ベルベット「こいつが私に対して他人行儀なの、気持ち悪いのよ」


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ちっぽけで壮大な世界

「まさか首無し鎧の業魔が2体もいるなんてな」

 

「首無し鎧?」

 

「お前のことじゃない」

 

 エレノアのロスト・フォン・ドライブにより倒された首無しの馬に乗った騎士。

 これで一先ずは落ち着く事が出来る

 

「きゃあああっ!!」

 

「モアナッ!?」

 

 と思いきや叫ぶモアナ。

 何事かとエレノアが振り向くと、今度は頭だけが浮いていた。

 

「おいおい、どうなってんだ!?」

 

 多分だけど、あの頭は首無し騎士の頭。

 だが、頭だけ浮いているってどういう事なんだ?

 

「エレノアが倒した業魔はファントムやアンデッド系の業魔だ。

あの手の業魔はロクロウの様に人から業魔になるのでなく強い穢れを発した人の死体や魂からなる」

 

「てことは、頭と体が分かれてから憑魔になったのか」

 

 アイゼンから説明を受けて納得をする。

 あれが死体からなった業魔なら、邪悪な穢れで出来ているのならばそれを断ち切る技を使うのが1番だ。パーシバルを脅した際に使ったナイフを取り出すのだが

 

「っつ!!」

 

 まだ手が完治しておらず、激痛が走る。

 こんなもん、さっきまでキレていたベルベットの痛みと比べれば屁でも無いのに!

 

「やばい!」

 

 空裂斬を撃つ前に、モアナが大ケガをしてしまう。

 エレノアが助けに走っているが、頭の方がモアナの直ぐ近くに居るのでこのままでは怪我をさせられる。

 

──ヒャアアア

 

 あいつは……

 

「離宮にいた業魔!?」

 

 頭がモアナに襲い掛かろうとした瞬間だった。

 何処からともなく離宮にいた業魔が現れて頭に攻撃をしてくれた。

 

「いや、穢れを吸っておる。そやつは喰魔じゃ」

 

 まるで生気を吸い取るかの様に穢れを喰らう喰魔。

 結果的には助かったが、いったい何処から……王宮に居たのを連れてきたのが正しいか。

 

「いや、その鷹は私の唯一の友、グリフォンだ」

 

 どうして此処にと皆が驚いている中、歩み寄ってきたパーシバル。

 此処に来た際に腕に乗っていた鷹が何時の間にか居なくなっていた。

 

「……タバサが『近いうちに会える』と言っていたけれど、こういう意味ね」

 

「殿下、何故貴方が喰魔を?」

 

「だから、言った通りさ。グリフォンは私の親友だと」

 

 いや、そういう事を聞いているんじゃねえよ。

 どうしてそうなったとか……いや、もういいか。

 

「子供の頃からの唯一の親友なんだ……例え喰魔になったとしてもだ」

 

「喰魔と知って逃がしたのか?それがなにを意味するか分かっているのか?」

 

 なんの説明も無しにハッキリとパーシバルは喰魔と言った。

 アルトリウスのやろうとしている事を理解しているミッドガンド王家。グリフォンを王宮から引き剥がせば、その近く……例えばローグレスに行き場の無くなった穢れが溢れ出る。

 

「なにも。私はただグリフォンを逃がしたいだけなんだ」

 

「流石は未来の国王、第一王子。わがまま放題だの~」

 

「わがまま、か……ふふ、そんな事なんて1度だって許された事は無いよ」

 

 マギルゥの挑発を笑って返すパーシバル。

 

「王は人を統べる者であって人では無い、か?」

 

「……君はなんでもお見通しなんだね」

 

「一応、一通りの事は叩き込まれてるんでな」

 

 暴力特化の戦闘タイプだから、基礎的な部分でしかないが教えられている。

 

「どういう意味?」

 

 オレとパーシバルの間だけで理解しており、意味の分からない顔をして首を傾げるライフィセット。

 それはあまり知らない方がいいこと。王は人の心が分からないなんて教えてはいけないものだ。

 

「王子は人ではなく、公器。国や民を優先しなければならない存在で、なるのではなく作られる物なんだよ。例えばそう。法律の勉強をしている時に背中がむず痒いとどうする?」

 

「背中をかくよ、普通に」

 

「私がそうすると傅育係に皮膚が割ける程に鞭を打たれたものさ」

 

 分かってたけど、ロクでもねえ国だな。

 

「国の為の勉学より痒いという個人の感情を優先してしまったという理由でね」

 

「アホくさ」

 

「ああ、そうだ……だが、それが王になる為に必要な事なんだ」

 

「違うな」

 

 あまりにもアホらしい。

 感情に身を任せずに常に公正で公平にしなければならず、例えそれが自分の最も愛している人物だとしても悪ならは正しく裁かなければならない。帝王学の基礎的な部分は絶対の正しさだが、そんなもんは間違っている。

 

「それで王になった奴が、今こうしてアホな事に協力してるなら帝王学なんて間違いなんだよ。

自分という物を持っていてなにが悪い?自分という人が嫌いならばお前から去れ、お前から消えればいい……混沌と混乱から抜け出せないのは自分というものを持っていないからだ」

 

「だが、混沌と混乱を巻き起こすのもまた自分ではないのか?」

 

「確かにそうだ……だが、それのなにが悪い?

最初からなにも無いのならば、そこで人は終わってしまう。なにかがあるから人は変われる……自分というものを持っていない人間に王様になられたら逆に迷惑なんだよ」

 

「だが」

 

「なんの為にガキの頃から教育する?」

 

 転生者の先輩にある人がいる。その人の死因はアルコール中毒で、オレ達を鍛えた地獄の鬼達曰く今までの転生者の中でもトップレベルの天才だった。

 父親も母親も立派な職についていて、絵に描いた様な金持ちで絵に描いた様な金持ちの苦労をし、徹底的な英才教育をされた……だが、無駄に終わった。

 

「親は子供の物差しになるだけで、子供は自分の思い描く理想の自分を作る為の道具じゃない」

 

 時代の流れと両親の思い描く理想像が大きくかけ離れていった。

 大手の外食チェーン店が増えて、ただ美味い物を作ればいい時代が過ぎ去った様にその両親が思い描く理想の自分と現実は噛み合わなかった。

 

「私にとってはこいつが空を飛ぶ姿を見て自由を想像するのが唯一の慰めだった……だが、カノヌシとこいつは適合してしまった」

 

「……聖寮が喰魔を作っている事はミッドガンド王国は知っているのね?」

 

「もちろんだ。王国は導師アルトリウスの理と意志を全面的に支持している」

 

「じゃあ、喰魔の事、モアナ……人間を喰魔にして閉じ込めている事もか?」

 

「知っている」

 

「何故だ!?何故、こんな事をしている聖寮に力を貸そうとしているんだ!?

貴方がこの船に乗ったのは、自分の親友がカノヌシに適合してしまい閉じ込められた姿を見たからじゃないのか?親友が閉じ込められて辛いという気持ちが分かるならば」

 

「ミッドガンド王国を建て直す道はそれしかなかった」

 

 自分がされて嫌だというならば、しなければいい。

 アリーシャはそう言うが、その選択をしなければならないとパーシバルは言う。

 

「個を見捨てて全を選ぶ……アルトリウスを支持しているだけはあるわ」

 

「私はこいつが閉じ込められていたのが、空を奪われるのが嫌だった……どうしても。

私は警備の対魔士を欺き、結界を解除させた。その時、対魔士はグリフォンに命を……もう、戻ることは出来ない」

 

 誰かを1人生け贄に捧げれば世界が救われる。世界が平穏になる。

 全く、理由の無い悪意(穢れ)といい誰かを犠牲にして生きるといい、トロッコ問題みたいな事をして……。

 

「対魔士1人での問題ではないの。喰魔を引き剥がせば、王国に穢れが増大するじゃろ」

 

「全部分かっていた……それでも私は、友としてグリフォンを見捨てることは出来なかった」

 

「世界より一羽の鷹か……鳥は何故空を飛ぶと思う?」

 

「それはアルトリウス様の!」

 

 また随分と哲学的な問題を投げ掛けるベルベット。

 エレノアは同じ事を聞いたことがあるのか驚いている……鳥が空を飛ぶ理由ね……

 

「解剖学の本には骨が軽くて翼を動かす筋肉に凄い力があるからって」

 

「ライフィセット、違う。それ飛ぶ原理で飛ぶ理由じゃない」

 

「飛ぶ理由?」

 

「私は……飛べない鳥は鳥ではないからだと思う」

 

「おいこら、ダチョウとペンギンだって鳥類に分類されるぞ……まぁ、あんたがやった事は多分物凄く重い事だろうけど……自分がそうしたいと心から思った事ならば、自分が自分に対して文句を言わないのならそれで良いんじゃないのか?」

 

 色々と小難しい話をしているが、あんたは助け出したいと思った。

 その結果がどうなるかを知っていても、それでも助け出したいと思って血翅蝶を頼ってオレ達の元までやって来ているんだ。そこにあるのはもう、善悪とかじゃなくて自分がやってやるんだと言う強い意志だけだ。

 

「だが、私は」

 

「世界ってなんだ?」

 

「それはミッドガンド王国で」

 

「違う。あんたの世界はなんだ?」

 

 元の鷹の姿に戻っているグリフォン。

 パーシバルの右腕に停まっており、オレ達の方をジッと見ている。パーシバルがジッと見ると、グリフォンもパーシバルの事を見ている。

 

「世界ってのは人によって違うんだよ。

ライフィセットの世界、オレの世界、アメッカの世界、ベルベットの世界、ロクロウの世界、エレノアの世界、マギルゥの世界、アイゼンの世界、皆が皆、同じ世界を生きているように見えて違う世界を生きているんだ。

今、こうしてなんの因果か全員の世界が重なっているだけで何時それぞれの世界が別々の場所に動き出すかは分からない。お前が見てきた世界はお前の世界であって、オレ達と同じ世界じゃない。お前の世界は何処にある?」

 

 人間の世界なんてものは大きいくせしてちっぽけだ。

 もしかすると、1つの山を越えた先の世界を知らないままの可能性だってあるぐらいだ。

 

「少し前まで、オレの世界は割とちっぽけだったぞ。

家を改造してレディレイクでコーラを売って、アリーシャが色々と騒いだり絡んできて、家に帰って寝るだけの生活だ」

 

「ゴンベエ、私の事をそんな風に思っていたのか?」

 

「スレイが来るまではそんな感じだっただろうが」

 

 もう本当にオレが来ると確実に絡んできた。

 レディレイクに足を運べば、確実に出会っていた。一時期、こいつニートかなにかじゃないのか?と思わず疑うぐらいに連日会っていたぞ。

 

「1日、面倒だと行かなかったらスゴく心配をして来た日もあったな」

 

「毎日来ていたのに、急に来なくなったら誰でも心配をする」

 

「だからって、医者を連れてくるのはやめてくれよ」

 

 とにかく、スレイが来るまではずっとそんな生活を送っていて、スレイが来てからはてんてこ舞い。

 スレイが聖剣を抜いて導師になるわ、アリーシャ左遷されるわ、脱税がバレるわ、ヘルダルフをシバき倒すわ、大地の汽笛を走らせた結果、国にアリーシャを献上するからと狙われるわ……本当に少しの間だけで色々と世界は広まった。

 そういえばスレイは暗殺者達と一緒に行ったとか言っていたが、無事だろうか……まぁ、あの時代じゃライラ達は基本的には見えないから、なんかしてくる前に対処出来るだろう。

 

「色々とあって、アイゼン達に大砲で撃たれて……ベルベットの下僕をやっている。思い返せば、色々な出来事があったな。オレの世界は色々と変わっているが、お前の世界はどうなんだ?」

 

「私の世界は……私とグリフォンしかいない、狭い世界だ」

 

「だったらこれから世界を広げれる様に頑張れよ……世界は醜くも美しいものが多いぞ」

 

「……名前を聞いていなかったな」

 

「名無しの権兵衛だよ」

 

「ゴンベエか……ありがとう」

 

 こんな初歩的な事に気付かないとは、帝王学というか洗脳教育とは恐ろしい。

 当たり前の事を言っただけなのに、さっきまでの暗かった表情は嘘のように清々しくなっているパーシバル。

 いい感じの終わりを迎えようとはしているが全然いい感じではない。国までグルとは……やってることヘルダルフと大して変わらねえな。

 

「事情は分かったわ。この島の中では好きにしていいわ……ただし、逃げようとしたら殺す」

 

 そう言うと何処かに行くベルベット。

 何時もの様に余計な事を言えば確実に殺されそうなのでオレはなにも言わず、その背中を見守る……苛立ってるな。

 

「あんな感じだが、拷問とかそういうのはしない。

と言うよりは素人に拷問はやらせられないから、王宮から牢獄に変わったと思えばいい……まさか、人質を取る側になるとはな」

 

 アリーシャとオレはスレイを動かす為の人質だったのに、王族を人質にする側の立場になる日が来るとはな。

 

「承知した。グリフォン共々よろしく頼む」

 

「話はついたな。じゃ、アジト作りと行くか」

 

 パーシバルが加わり、拠点を手に入れる事は出来た。

 

「このままモアナ達を残して次の喰魔を探すか?」

 

 あては何処にも無いが、しなければならない。

 大所帯になってきたので拠点が必要となり拠点を手に入れる事が出来た。なら、次を探すのが1番だ。

 

「いや、今は地に足をつけるのを優先する。

此処最近はてんてこ舞いだったからな、息抜きをする為にもここを利用しない手は無い……アイツがそうだ」

 

 なにも言わずに1人で何処かに行ったベルベット。

 方向的には船を止めている場所で夜風に当たりに行ったのだろうが、精神状態はあまりよろしくは無い。

 

「アイゼン」

 

「なんだ?」

 

「ベルベットが喰魔で此処がカノヌシに穢れを送り込む場所らしいが、ベルベットは脱走してからそれなりに時間が経過している」

 

「その話か……メルキオルのジジイがジークフリートの術式を読み取ったのもある。聖寮はまだなにか企んでやがる……お前はもう分かっているんじゃないのか?聖寮の企みを」

 

「なんとなくだ。前にも言ったがなんとなくは語りたくはない……と言っても不安を煽るだろう。

ベルベット達に言うんじゃねえぞ。割とロクでもないものだ。喰魔で穢れを喰って延命という名の誤魔化しなんて生易しいものじゃない」

 

 そしてそれを覚悟でミッドガンド王家はアルトリウスを支持している。

 国が滅びるのが嫌だからなんて立派な建前はあるが、こんなんで滅びる世界ならば滅びればいいものを。

 

「人類補完計画擬きだよ」

 

「人類補完計画擬き?」

 

「オレの国、日出国の有名なお話に出てくる計画だ。

出来損ないの群体となり行き詰まった人類を完全な生物として人工的に進化させる計画だ……アルトリウス達の狙いは、世界中の人間から穢れを発しない様に矯正する(いじくる)ことだ。それもかなり強引な手段で」

 

「まさか……なら、あの時のベンウィックは」

 

 察しのいいアイゼンは直ぐにアルトリウスの手段を理解した。

 ベンウィックに起きたことがカノヌシの力ならば、世界中に届けることが出来るのならば確かに穢れの無い世界が生み出す事が出来る。

 

「世界中の人間がエレノアやアメッカみたいな善人なのもロクロウみたいなイカれた悪人なのもダメなんだよ……太極図を知らないよな」

 

「太極図?」

 

「こんなのだ」

 

 アイゼンに太極図を見せると見たことが無いのかまじまじと見る。

 この世界は地水火風の四大元素で、水火木金土の五行は見ない。珍しいんだろうな。

 

「この絵は……なにか、深い意味がある」

 

「色々とあるよ。因みにだが、うちの国は地水火風じゃなくて水火木金土の考えだ」

 

「……さっき、お前はアメッカの事をアリーシャと言っていたが」

 

「聞かなかったことにしてくれよ」

 

「……ならば、オレが正体を暴いてやる」

 

 きっと、お前なら出来る筈だ……。

 

「と、オレもそろそろ行かないとな」

 

「そっちは船じゃないぞ」

 

「バカ、この監獄を改造するんだから先ずは見取り図を書きに行くんだよ……」

 

 まさか、また牢獄で生活をすることになるとは思いもしなかった。

 此処最近、色々なところに行っては戦ったりでリラックスをしていなかったのかアイフリード海賊団の面々は酒を飲んでバカ騒ぎを始めようとしていた。




スキット もっとと言うことは

ゴンベエ「……なんだよ?」

アリーシャ「いや、少しな」

ゴンベエ「少しって言いながら、広間で宴会をせずにいるのか?」

アリーシャ「そんな事を言えば、ゴンベエもただひたすらにこの監獄の見取り図を書いているじゃないか」

ゴンベエ「それを言い出したら、お前はそんなオレを見ているだけだぞ……」

アリーシャ「……ゴンベエも、言えるんだと思ってな」

ゴンベエ「は?」

アリーシャ「いや、その……ゴンベエは何時もグータラしているイメージがあって物事をタンタンと簡潔に簡単にしようとしている」

ゴンベエ「そりゃまぁ、難しい事を頭の良い奴等が集まって難しい顔で話し合っても意味は無いからな……本当に理解をしないといけないのは頭の悪い大勢の馬鹿達なんだから。オレは難しい事を考えたくないんだよ」

アリーシャ「でも、パーシバル殿下には言っていた。世界とはなにかと……私の世界は私の世界であって、皆の世界ではない……今こうしてお互いの世界が重なっているだけだと」

ゴンベエ「やめてくんねえか?なんか恥ずかしくなってくるし、当たり前の事を言っているだけだし」

アリーシャ「ゴンベエは言わないだけで、色々と分かっている……改めてゴンベエの事が理解出来た」

ゴンベエ「そうか」

アリーシャ「普段からもう少し真面目にしておけば、もっとカッコよく見えるのに」

ゴンベエ「めんどくさいから絶対にしない……それに、んな真面目にやってたら今頃は此処にはいない」

アリーシャ「そう言われれば……ゴンベエは程よく真面目がちょうどいいのかもしれない」

ゴンベエ「お前にオレがどういう風に見えてるかスゴく気になるが……もういい。なんか色々とありすぎて疲れた」

アリーシャ「なら、膝を貸そう」

ゴンベエ「いやいや、そういうのはいいから」

アリーシャ「そうか……そうなのか……此処は石の床で」

ゴンベエ「囚人が使ってたベッドがあるから少しだけ休む」

アリーシャ「そんなに私の膝が嫌なのか!?ベルベットと大して変わらないぞ!!」

ゴンベエ「なんでそうなるんだ!?」

アリーシャ「いや、その……とにかく私の膝を使ってくれ」

ゴンベエ「……なんで使わないといけないんだよ?」

アリーシャ「私がそうしたいと思ったからだ」

ゴンベエ「お前に膝枕にされるぐらいなら、抱き枕にした方が何万倍もいい」

アリーシャ「……その、抱き枕はちょっと……」

ゴンベエ「なら、オレは寝てくる……お前も休んどけよ」

アリーシャ「……冷たいのも変わらずか」


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言わなくてもいいこともある

想像してください。藤原先輩せこっ!と言われてる時の藤原先輩と同じ顔をしているエレノアを……今回は大体そんな感じです


「アメッカ、エレノアを見てないかしら?」

 

 監獄島を拠点として制圧して早数時間。

 アイフリード海賊団は今までの疲れを癒すかの如く私物やお酒を持ち込み広間で宴会を広げていた。お祭りは悪くはないのだが、どうにも気分に乗らない私は1人考え事をしているとベルベットが訪ねてきた。

 

「エレノアは見てはいない……なにか用事があるのか?」

 

「別に……モアナに探してきてって頼まれただけよ」

 

「そうか……私も探そう」

 

「別にいいわよ。急ぎの用事でもないし」

 

「いや、私が探したいんだ」

 

 監獄島についてから一悶着あった。

 ベルベットは怒り、パーシバル殿下はゴンベエに自分の世界の狭さを教えられていた。

 

「エレノアの事が心配なんだ」

 

 パーシバル殿下はゴンベエのお陰か、鷹のグリフォンを連れ出した事に対する迷い等が吹っ切れた。

 感情的になっていたベルベットは冷静になりモアナの頼みを聞いてこうしてはいるものの、迷いに迷いまくっている。

 きっかけはそう、モアナを見てから。モアナから始まり、パーシバル殿下のグリフォンやベルベットの事を知って、それでもと言えばゴンベエに責められた。

 

「好きにしなさい」

 

 ベルベットの許可も貰えたので、エレノアを探す。

 既にアイゼン達にエレノアの居場所は何処かと聞いており、全員エレノアを見てはいない。そうなると外に居るのかと思ったが、こんなところで逃げるほどエレノアは弱くはない。

 ゴンベエが書いたこの監獄の見取り図を見ると屋上に繋がる通路があり、そこだと確信をした私達は屋上に向かうとエレノアが項垂れていた。

 

「こんなところにいたのね。モアナが心配していたわよ」

 

「……わざわざ捜しに来てくれたんですか?」

 

「女の涙には弱いのよ」

 

「……そうですね。喰魔だけど、モアナは小さな女の子です」

 

 モアナの事を出すと微笑みを見せるエレノア。

 元気になったと思ったのだが、直ぐにエレノアは真剣な顔をする。

 

「貴女達と旅をしてはじめて知ったことです」

 

「私達、か……私とゴンベエもベルベットと出会わなければ同じだった」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ」

 

 私達が出会った憑魔は皆、理性を失い狂っていた。

 唯一自我を保っていたヘルダルフはどうしようもない程の悪だ……ベルベットとロクロウとは大違いだ。

 

「恐ろしい業魔も喰魔も、道具だと思っていた聖隷も人と同じ想いを抱えて生きている」

 

「……」

 

 エレノアが驚いている事に深く共感をする。

 この時代には天族を信仰する文化が殆ど無い……だが、そのお陰で天族の方々も人となんら変わらないと分かった。

 

「私は、なにも知らなかった。教えられていた事をただ信じていただけ。業魔病の真実も聖寮がなにをしているかも、なに1つ……」

 

「知らない方が幸せな事だってあるわよ」

 

 

「それは対魔士にとって卑怯な道です!なにも知らず、だから責任もとれない!そんな生き方、私は……もう少し、ここで頭を冷やします。モアナには大丈夫だと伝えてください」

 

「……ほどほどにね。海風は冷えるわよ」

 

「……ありがとう」

 

「違う。あんたが風邪を引いたらモアナとライフィセットが心配するからよ」

 

 絶対に嘘だ。

 ゴンベエが何時もベルベットに殴られるのを覚悟の上で言っている気持ちがよく分かる。

 本当はベルベットは「考えなさい。けど、ここは寒いんだから風邪を引かないようにね」と言っている様にしか見えなかった。

 

「アメッカ、戻るわよ」

 

「私はまだここにいる」

 

「……そう」

 

 ベルベットは離れようとしたが、私はまだここを離れるつもりは無い。

 私が此処に残る意志を見せると1人去っていった。

 

「自分の信じていたものが、知ろうとしなかった事が、辛く厳しかった」

 

「アメッカ?」

 

「私はゴンベエに理想像を砕かれてしまった……今となっては形すら無かった理想像だが」

 

「アメッカの理想像を、ですか?」

 

「穢れの無い美しい故郷を見たいと言う夢があった。だが、それがなんなのかすらまともに理解していなかった。

災禍の渦の中で一筋の希望を見つけて明るい未来がやって来ると思っていたが、それは永劫の明かりでは無いことを知った」

 

 永遠に変わらず続くものなんて何処にも無い。

 かといって水を与えている限りは変わらずに回り続ける歯車である導師のシステムを、このままにしておく事は出来ない。

 

「探すしかない……自分だけの答えを」

 

 ゴンベエは言っていた、自分がそうしたいと心から思った事ならば自分が自分に対して文句を言わないのならそれでいいと。その結果が、私は悪を殴る。悪事の証拠が無いならば作り上げる。裁けぬ悪を裁くのでなく裁ける様にする。この答えになんの文句も無い。

 

「もし、もし答えが無ければ、どうするつもりなのですか?」

 

「……無いならば、作ればいいじゃないか。そう、無いならば作ればいいんだ」

 

 遥か昔からそうだ。

 そこにそれが無いのならば、新しく1から作ればいい。

 

「作ることが出来なければ?」

 

「どういう理由で作れない?」

 

「それは……材料が足りなかったり?」

 

「だったら、何処かから持ってくればいいだけだ。

自分の中に、エレノアの世界に新しい答えになるものが無ければ別の世界と触れ合えばいい……そうして今に繋がっている」

 

 なんの因果か、私達の世界は今こうして交わっている。

 自分の世界とは違う世界に一度道を踏み外してみれば、世界がガラリと一気に変わる……とはいえ、問題は山積みだ。

 私達は過去に起きた出来事を知りに来ただけで、過去を改変して自分に都合のいい未来を作り上げると言った事はしにきてはいない。そんな事はするつもりは無い……。

 

「はぁ……」

 

「なにか悩みがあるのですか?」

 

「私達の問題はまだまだ山積みなんだ」

 

 現代に帰れば戦争を再開させない為にも、戦争推進派やバルトロの様に私利私欲を満たしている者達をどうにかしなければならない。

 その為には和平を結ばなければならないがローランスの方にも戦争推進派はいる為に上手くはいかない。両国の戦争推進派で戦争を手引きしている者達の中にはヘルダルフもいる。

 嫌でも戦わなければならず、そうなると現状まともに戦えない私は邪魔だ。ヘルダルフ達はその事を知っており、迷いなく狙ってくる。だから、ゴンベエの側に居て戦える様にならなければならない。

 ヘルダルフを倒した後にもまだまだやらければならない事はある。きっとローランスにも私の様に戦争を反対している平和を強く望む者がいる。その者達と暴力以外で戦争推進派の者達を裁かなければならない。

 それからスレイのことも。戦争や政治にスレイを利用することは許さない。スレイが好きな遺跡探索を出来るようにしなければならない……。

 

「あの、顔色が段々と悪くなっていませんか?」

 

「問題が、あまりにも山積みな事を思い出した……」

 

 ゴンベエの事も忘れてはいけない。

 過去ばかり振り返っていたせいで、未来を見るのを忘れていた。改めて私がやらなければならない事が分かると胃の痛みに悩まされる。

 

「私でよければ相談に乗りますが」

 

「いや、これは私がどうにかしなければならない問題だ……エレノアはまず、自分の答えを探すことに集中してくれ」

 

 最後のゴールはまだわからない。

 けど、私には、私がやらなければならないと思うことは沢山あるんだ。ゴンベエと一緒に異大陸に逃亡をするなんて事は絶対に出来ない。無論、この時代に残ることもだ。

 

「答え……そうですね。自分の答えを探さねばいけません。戻りましょう」

 

「もういいのか?」

 

「海風は冷たくて、風邪を引いたらモアナ達が心配しますよ」

 

 エレノアと一緒に監獄内に戻っていく。

 監獄内の宴会は終わっておりゴンベエを除く面々が広間に集まっていた。

 

「ゴンベエは何処にいますか?」

 

「あいつなら木材を片手になにかをはじめてたぞ。

水力発電所がどうのこうので滅茶苦茶強力な磁石を船から出して、クロガネが引っ付いてたな」

 

「下水路に居る筈だよ……でも」

 

「来ない、か……」

 

 皆が宴会で騒いでいる中、ゴンベエはこの監獄の見取り図を書いていた。

 下水路に居るのと木材を手にしていたということはゴンベエの家にあった水車を作ろうとしている……此処を改造するつもりだが、大地の汽笛を見られて物凄い技術力の持ち主だと知られたのにそんな事をして大丈夫だろうか……ゴンベエの事だから、過去の出来事だからセーフとか言いそうだ。

 

「仕方がありません……皆さんにお話があります」

 

 真剣な顔をするエレノア。

 ゴンベエを抜きにして、話をはじめる。

 

「今までに隠してはいましたが、アルトリウス様に特命を受けたスパイでした。『聖隷ライフィセットを保護し聖寮本部に回収せよ』味方の命を奪う事すら許された最重要の特命です」

 

「……どうして、それを話すつもりになったの?」

 

「最初は貴方を騙して連れていくつもりでした。ですが、もう聖寮に従うつもりはありません」

 

「アルトリウスを裏切るわけ?」

 

 ベルベットの問いに首を横に振る。

 

「いいえ。アルトリウス様が目指す世界も、その志も、人の世を慮っての事だと信じています。

でも、その方法を信じられない自分がいます……ですので、喰魔の保護に協力します。私が答えを見つけるために。私は本当の事を知りたいのです。自分に恥じない生き方をする為にも」

 

「お前の流儀は分かった。だが、本当の事を知って今までが間違っていたのならばどうするつもりだ?聖寮は聖隷を道具と認識してやがる」

 

 決意を改め私達の前で表明をするエレノアにアイゼンは今までの間違いをぶつける。

 

「……まずは、謝ります。誠心誠意、頭を下げて。

意志を抑制して物の様に扱ってきた事を、一人一人に頭を下げて謝りたいと思います。アメッカ、その為に協力をしていただけませんか?」

 

「私の力でよければ、幾らでも力を貸そう」

 

 ごめんなさいと謝るならば、どれだけでも笛を吹こう。

 

「はっはっは、完全な感情論だな」

 

「ようこそ。悪党の世界へ」

 

「一緒にしないでください!!感情で納得出来ない事こそ理に反する事です!!私が納得する事が出来ないことは認めませんよ!」

 

「ほんと、面倒なやつ……」

 

「面倒でもいないと困るでしょう!!」

 

「……うん。エレノアは僕の器だからね」

 

「面倒ではない。エレノア、答えを探そう。例え困難な道のりだとしても1歩ずつ歩いていこう」

 

「……はい!」

 

 迷いに迷った末に答えを見つけようと決めたエレノア。

 ライフィセットの為だけの関係から本当の意味での仲間になることが出来た。

 今までとなにかが大きな変化があるかと言われれば、特にない小さな一歩を踏み出す事が出来た。

 

「あ~臭かった」

 

「下水路なんかに水車を作るのはやめとけつったんだ。ありゃ、糞も流れてくるんだぞ」

 

「悪かった。その件に関しては本当に悪かった」

 

 下水路に行っていたゴンベエがダイルと共に戻ってきた。

 2人とも物凄くげんなりとしており、ゴンベエは申し訳なさそうにダイルに謝っていた。

 

「ちょうどいいところに来てくれましたね」

 

「なんだ全員揃い踏みで?もう次の喰魔探しをすんのか?」

 

「違います……貴方にも聞いていただきたいのです……私は実はアルトリウス様の命を受けて、スパイをしていました」

 

「なんだそんな事か」

 

 あ、これは……。

 

「そんな事って、私はライフィセットを聖寮の本部に連れていく命令を受けていたのですよ!?それだけじゃなく、貴方をどんな手を使っても殺せと命令を」

 

「エレノア、待て。ゴンベエ」

 

 ゴンベエにさっきあったスパイの告白をしようとするエレノアを止めようとすると、マギルゥが邪魔をしてきた。

 

「エレノアは本当の事を知りたいんらしいからのぅ」

 

 マギルゥ!?

 私の口を封じてきたマギルゥはニヤニヤと笑いながら、エレノアとゴンベエを見ていた。

 

「いや、知ってるぞ?」

 

「……え!?」

 

 ゴンベエの衝撃的発言を受け、驚くエレノア。

 

「さて、俺は寝る前の素振りでもしてくるか」

 

「オレは自分の部屋でも作りにいくか」

 

 私達の方を振り向くとアイゼンとロクロウはそそくさと逃げていく。

 

「ぼ、僕は知らなかったよ!エレノアがスパイだったことは」

 

「坊よ、それはフォローにはならんぞよ」

 

 自分は違うとライフィセットは強く否定するが、それは今するべき事ではない。

 エレノアはマギルゥを強く睨んだ後に、ベルベットに視線を向ける。

 

「何時からですか!?何時から気付いていたんですか?」

 

「最初からよ。アルトリウスから命令を受けている所から全部見てたわ」

 

「全部って、あの時はゴンベエは寝ていた筈ですよ」

 

「アメッカが全部喋ったわ」

 

「ベルベット!?」

 

 確かに、あの後にゴンベエの事を狙っているから注意をしてくれとは言った。

 マギルゥ達にも言って、ライフィセットに言えばスパイと気付いている事に気付かれるかもしれないとあえて教えずにいた。

 

「てか、お前オレ達が疑問に思っている事を一緒になって考えてたりした時は普通だけど、自分から探りを入れてみようとライフィセットになんか聞いたりした時、あからさまに態度を変えててライフィセットも疑ってたぞ」

 

「そうなの、ですか……」

 

「えっと……なにかあるかなって」

 

「……っ……」

 

 プルプルと震えて顔を真っ赤にし、今にでも泣き出しそうな顔をしているエレノア。

 唯一の救いだったライフィセットにすら見捨てられてしまった。確かに、なにか気まずそうな人を騙している事に罪悪感を抱いている顔をしていたな。

 

「エレノア、ぶっちゃけた話、失敗した時は蜥蜴の尻尾切りだと器のお前ごとライフィセットを殺すとかアルトリウスの事だから企んでいる。自分で戦ってもまともに勝てないのを理解していないのか、お前にオレを殺せとか無茶を言ってきた……だが、だが、正直にそれを言おうとした事は変われたんだ」

 

「……」

 

「答えは様々な世界に広がっている。自分が行くことの無い、自分の無い世界に案外置いてるかもしれない。自分が自分に対して納得のいく答えを出してみろ」

 

「……ですか……」

 

「ん?」

 

「言いたいことは、それだけですか!!!」

 

「って、なに攻撃してくるんだよ!!」

 

 顔を真っ赤にし、涙を流しながら怒りゴンベエに向かって色々と攻撃する為に槍を振るうエレノア。

 エレノアに対していいことを言っているつもりだろうが、全然いいことを言っていない。

 それどころかさっきまでその辺を私と話し合っていたところで、エレノアは納得のいく答えを出したいという答えを出している。

 

「知らなくてもいい事実は無いかもしれませんが、言ってはいけない事はあります!!それとやはり分かりました!!ゴンベエ、貴方と言う人がどれだけの屑かということを!!」

 

「オレが屑なのは事実として、逆ギレをするな!!」

 

「うるさい!!」

 

「エ、エレノア、落ち着いて」

 

「止めときなさい……こっちにまで被害を被るわ」

 

 ゴンベエは全ての攻撃を難なく避けており、ライフィセットは心配をするが今此処で間に入れば自分達も巻き込まれるとベルベットは制止をする。

 

「大体な、スパイとかやる上で大事なのは日常に溶け込むことだぞ。お前は生真面目過ぎて溶け込めてなかったぞ」

 

「生真面目でなにが悪いのですか!!」

 

「っち、逃げるが勝ちだ!!」

 

 エレノアの説得を無理だと分かったゴンベエは尋常ではない程の早さで逃げていった。

 

「はぁはぁ……っく、何時もはベルベットの攻撃を受けている癖に……」

 

「いや、あんた本気で殺そうとしてるでしょ」

 

 ゴンベエを完全に見失ったエレノアは自分のスパイ行為が最初からバレバレだった事を1から思い出し、恥ずかしさに涙を流した。




スキット 兵器は平気じゃない

ゴンベエ「お前等、真っ先に逃げやがって……」

ロクロウ「いやぁ、お前が絡んで変な事になるとロクな事にならないからな」

アイゼン「案の定、エレノアに殺されそうになったか」

ゴンベエ「あの程度の動きで殺されるほど、オレは弱くはねえよ。ベルベットと違って殴られるのを覚悟してないから絶対に殴られない」

アイゼン「それがお前の流儀か?」

ゴンベエ「あいつには殴られるぐらいがちょうどいいんだよ……溜まってるもんとか吐き出させるのにも」

ロクロウ「まぁ、エレノアがクソマジメならベルベットはひねくれ者だからな」

ベルベット「誰がひねくれ者ですって?」

ゴンベエ「もう少しは素直になれってことだよ。パスカヴィルの婆さんから言われてただろ」

ベルベット「私は自分の気持ちには素直よ……それよりも、ライフィセットがあんたに用があるのよ」

ゴンベエ「オレに?」

ライフィセット「うん。電球を貸してくれないかな?本を読みたいんだけど、ベルベットが今は薄暗いからダメだって」

ベルベット「暗いところで本を呼んでたら、目を悪くするでしょ」

ゴンベエ「お前達に人間の原理が通じるのか……」

ライフィセット「蝋燭は火を使って危ないし、本に火がついたら大変だから、電球なら光だけだから」

ゴンベエ「光だけって、電球はガラスの中にある竹を蒸し焼きにした物を熱して明かりを灯してる物だ。作る過程で水銀を使って空気を抜いて中の竹が燃えない様にしてんだが、ライフィセットなら変な風には使わねえから、貸すのは構わねえぞ」

アイゼン「なら、オレにも1つ貸せ。この薄暗さも悪くはないが、ずっととなれば陰気臭くなる」

ロクロウ「確かに、ここは空気は入るが日の光が入ってこないのはな。俺にも1つくれ」

ゴンベエ「待て、電球には限りがあんだからそんな風にはっと、その前にお前達にコレを渡すのを忘れてた」

ライフィセット「地図……この監獄内の地図だ。聖寮が使ってたのよりも、見易いよ」

アイゼン「監獄島に見取り図か……同じのが何枚かあるようだが」

ゴンベエ「ここを拠点にするとして、何処になにを置くかはまだ決まっていないだろ?ただでさえ、デカい監獄で何処が誰の部屋とか書いておいた方が分かりやすいし……おーい、アメッカ達も書いてくれ」

アイゼン「今後の行動を円滑に進める為にも秘密基地を整備、改良をしておく必要がある」

エレノア「なんの話をしていると思えば……建物は業魔でも破壊することは難しい程に頑丈ですよ?」

ゴンベエ「でもあれだぞ。トイレの数がビックリするぐらい少なくて、風呂が1つしかなかったぞ」

マギルゥ「それは大変じゃ!!風呂が1つとすれば、なにかの拍子で風呂上がりにワシの裸体が皆に見られてしまう可能性がある。もしお主達に見られた日には記憶を消す為にワシの光翼天翔くんを振るわなければならん!」

アイゼン「お前の裸を見た程度でどうともならん」

ロクロウ「そっちが真剣(マジ)ならこっちも本気で斬らないとな」

ゴンベエ「大体そういう時って、風呂入ってるとか言ってなかったり言い忘れてるパターンがあるから何事もなく殴り返すぞ」

ライフィセット「は、入る前に誰かが入っているかちゃんと確認するよ」

マギルゥ「お主達の言葉が痛い。坊だけが救いじゃ」

エレノア「ライフィセットなら間違えて入ってきても怒りはしませんよ」

ライフィセット「ぜ、絶対にそんな事はしないよ!?」

マギルゥ「ぐふぅ!?」

アリーシャ「マギルゥ……ダメだ」

アイゼン「放っておけ。それよりも、居住スペースに目が行きがちだが此処は要塞であり秘密基地でもあるんだ。そういった改良も大事だが、もっと他の所にも目を向けておかなければならん」

ロクロウ「そうだなぁ。やっぱこういう秘密基地感があるところだから、普通の豪邸みたいな物ばかりあってもな。なぁ、ライフィセット」

ライフィセット「うん……」

ロクロウ「どうした浮かない顔だな」

ライフィセット「此処には無理矢理閉じ込められた人達が大勢いたのに僕達がこんな風に使っていいのかなって」

ベルベット「此処が嫌な場所なら最初から来ないわよ。私達の事なんか気にしなくていいわ」

ロクロウ「そうそう。むしろこうして俺達の物にしてやったぞ!って気持ちもあるしな」

マギルゥ「ワシは差し入れのマロングラッセを看守に食べられた恨みがあるがの」

アイゼン「他人がなにを思おうがお前はお前を貫け」

ライフィセット「……うん!」

アイゼン「とは言うものの、喜んでばかりはダメだ」

ゴンベエ「なにを作るか考えるところ悪いけどよ、1つだけ約束してくんねえか?」

アイゼン「約束だと?」

ゴンベエ「船の一室を借りる為に技術を提供している。ここを改造する上で技術は提供をするが、人を怪我させたり殺したりするのを目的に道具を絶対に作ることはしないし、オレには頼むな」

ロクロウ「おいおい、それじゃあ対撃砲を作るなって事か?秘密基地の対撃砲はロマンだろ」

ゴンベエ「分からないわけじゃないが、それでもだ。オレはオレ自身がどんだけヤバいかを自覚してるし、1回アメッカのところでやらかしたし。国じゃなくて社会を傾かせる事だって簡単に出来る……この約束を守れないなら、今すぐにでも此処を出てアルトリウス達を殺しにいく」

アリーシャ「ゴンベエ!?」

アイゼン「……分かった。兵器の類いは作らせない様にする。だが、思う存分、働け」

ゴンベエ「ああ、思う存分お前を驚かせてやるよ」



スキット 自爆スイッチは存在不可欠


ライフィセット「僕、消火装置が必要だと思う!ヘラヴィーサを見て、火事は怖いと思ったから!」

ベルベット「水の聖隷術を使えるあんた達がいれば、そんなの必要ないでしょ」

ライフィセット「あ……うん……」

ゴンベエ「あ、1つだけ大事な事を言うのを忘れてたが、基本的に外付けの改造しか出来ねえぞ」

アイゼン「なんだと!?」

ゴンベエ「睨むんじゃねえよ、建物と素材の都合上なんだよ。仕掛けのある建物は仕掛けがあるの前提で作り、ガッシリと隙間を無くしている所じゃ後から弄くったら大変な事になる」

アリーシャ「確かに、言われてみればそういった仕掛けは先に作っている物だ。ローグレスの王宮へと繋がる地下道もレディレイクの隠し通路も」

ゴンベエ「この監獄を1から作り直すならともかく、改造となれば中に仕掛けを施すのは難しい。紐やレバーを引いた瞬間に階段が坂道になるとか、指を鳴らした瞬間に床が開いて、秘密のお宝がせり上がって出現するとかは出来ない」

エレノア「その機能、必要なのですか?」

ゴンベエ「必要だ」

エレノア「……ダメです。全然分かりません」

アイゼン「しかし、そうなると秘密の部屋や抜け道といった事も難しいな」

ゴンベエ「時間を掛ければ可能だが、如何せん考えて作らないと建物その物が崩壊をしてしまう。元々あった部屋を隠して秘密の部屋にするなら簡単に出来るんだがな……」

ライフィセット「じゃあ、風呂場とかの居住スペースを優先しよう」

アイゼン「なら、風呂だ。比率的にも増築する風呂は男湯で、風呂場に流れるお湯の出口をライオン像の口にしろ」

ゴンベエ「いや、その前に最も優先しないといけない機能が1つだけある」

アイゼン「いざというときの地下道か……通路への隠し扉とダミーの扉、通路も作らなければならん」

ベルベット「2つも港があるんだから充分でしょ」

アイゼン「馬鹿を言え、元を正せばここは聖寮の物だ。何処になにがあるかぐらいは熟知している。なによりも攻めてくる奴が港を見過ごす筈が無いだろう」

ベルベット「周りは海なのよ?その地下道は何処に抜けるの?」

アイゼン「近くの島だ」

マギルゥ「近くに島などないぞ」

アイゼン「地下道の為だ、オレが島を作る」

ゴンベエ「島を作るんだったら、最初からこの拠点いらねえだろ」

ベルベット「船で攻めて来るのが分かってるなら、撃ち落とす大砲でも作った方が……」

アリーシャ「ベルベット、ゴンベエはそういうのを作らないとさっき言った筈だ」

ベルベット「……悪かったわ」

ゴンベエ「なに、気にすんな。お前の考えてることは間違っちゃねえ。島が無い以上は地下道は無理だし、島があるなら最初からそこを拠点にすればいい。オレが言っている優先すべきなのは地下道じゃない」

アリーシャ「そうなると、ゴンベエの家にあった様にあらゆる物の動力となる水車を作ることか?」

ゴンベエ「水車作りは既に始まっていて、現在ベンウィックをパシらせて材料を買いに行かせている。水車があって出来る物、そう自爆スイッチをどういうタイプにするのかを悩んでいる」

アリーシャ「さっきまで人を傷つける物を作りたくないと言っていなかったか!?」

ゴンベエ「バッカ、お前。自爆スイッチは別だ。万が一に備えて此処を乗っ取られたりすると色々と困る物を作ったりするんだぞ。相手に盗まれるぐらいならば、潔く自爆させる」

アリーシャ「困る物をと言うが、まさか大地の汽笛を」

ゴンベエ「作らねえよ」

エレノア「盗まれて困るぐらいならば、最初から作らなければいいじゃないですか」

アイゼン「ここは秘密基地だぞ。そういった物の1つや2つ、絶対に必要だ。誰かにお宝を盗まれるぐらいならば自分で破壊する。自爆スイッチ、悪くはない」

ロクロウ「そうだな。追い詰められていよいよとなった時に全員を一気に片付けるのにもいいしな」

ベルベット「持ち出せばいいじゃない」

ゴンベエ「そういう問題じゃないんだよ」

アイゼン「自爆をして『お前はあの時、死んだんじゃ!』と驚愕させたり、全てを終わらせたりするロマンが何故分からんのだ」

ロクロウ「大丈夫だ。お前の気持ちはよく分かる……だがな、彼奴等には理解させるのは無理だ」

ゴンベエ「自爆スイッチは、男のロマンだってのに」

ベルベット「自爆スイッチなんて、世界で1番いらないスイッチでしょう」


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監獄の休息

感想が作者にやる気を起こさせる(感想待ってます)

今回は……書きたかったんだ、イチャイチャするのを。

もっともっと、イチャイチャさせたいけどそうするには四聖主を叩き起こさないと出来ない。
もっと言えば、ハイランドに帰らないと……サブイベントの最後をクリアしないと、戦争(意味深)が勃発しない。


 監獄島を拠点として制圧した次の日、直ぐに喰魔を探しに行きたいけれど一息つく様にと少しだけ休むことになった。

 早いところ喰魔を探し出したいけど、連れていった喰魔を保護することもしないといけない……ライフィセットやモアナもあっちこっち、行ったり来たりで疲れていて昨日はぐっすりと眠っていたわね。

 

「ちょっと待ってろ。此処にも穴を開けるから」

 

 足場を固める為に、少しの間拠点を中心に生活が始まると直ぐにゴンベエ……アイツが珍しく自主的に動いている。

 船の一室を借りる際にしていた契約かなにかは知らないけど、技術を提供するとアイゼン達の部屋に電球を付けに行ってて、私の部屋にもつけようとしている。

 

「別に、なにかを読むわけでもないし必要は無いわよ」

 

 ライフィセットやアイゼンは本や地図を見たりするから、明かりが必要だけど私にはいらない。

 喰魔になってから3年間、監禁されて業魔を喰らっている間にここの明るさに目が馴れている。私は本を読むわけでもないし、そこまで必要じゃないわ。松明や蝋燭、ランタンだってあるし。

 

「お前だけ無いのは仲間外れになって嫌な気持ちになるんだよ、オレは」

 

「……そう。それで、どう使えばいいわけ?」

 

 くれるって言うなら、とことん使ってやるわ。

 コイツが天井に開けた穴を見るのだけど、そこには電球が入っていなかった。

 

「……レモン?」

 

 何故かレモンを渡してくる。

 なにをどうしろって言うの?と思っていると、何処かから取り出した果物ナイフで真っ二つにして、電球から延びている金属の紐が括りつけられた銅板をレモンの果肉に突き刺した。

 電球と銅板と紐を1つの輪になるように繋げると電球に灯りがついた。

 

「まだ水車が出来ていないし、色々と足りないから暫くはこっちの方で我慢してくれ」

 

「なんでレモンで灯りがつくの?」

 

「ライフィセットも同じ事を言ってたな……細かい事は気にするな」

 

 いや、細かくは無いわよ。水車が出来るまでってどれだけ時間が掛かるのかしら?

 それまでレモンやグレープフルーツで対応していたら食べ物が勿体無いわ。レモンの果肉は味付けに使うし、皮は台所の汚れを落とすのに使えるし。

 

「じゃあ、なんかあったら言ってくれ」

 

 そう言うと、アイツは去っていった……。

 

「暇ね」

 

 船で一息をつく時はあったけれど、数日間休む暇など何処にも無かった。いざ1人になってみると暇な事に気付く。

 今は一息をついて休みながら足場を固める時で、これも喰魔を探して保護する為の大事な事だけれど……今まではアルトリウスを殺すことだけを考えていたから……。

 

「……ライフィセット達はなにをしているのかしら?」

 

 マギルゥ……はどうだっていいわね。

 ロクロウは何時もみたいに素振りをしているだろうけど、ライフィセットはなにをしているのかが気になって来たわ。

 アイツが書いていた地図を見て、ライフィセットの部屋に向かおうとすると広間の方にアイゼンとライフィセットが嬉しそうな顔で談笑をしていた。

 

「あんた達、なにをしてるの?」

 

「地図を書いてたんだよ」

 

「異海探索も順調に進んでいっている。お前達のお陰でな」

 

 此処を脱獄した時に使った船で、外の世界を探索しているアイフリード海賊団。

 ライフィセット達は外の世界の地図を書いていたのね。

 

「此処から先にどんな物が見つかるのかな」

 

 まだ書いていない先の海に期待を膨らませるライフィセット。

 

「恐怖の島が見つかるかもしれないな」

 

「なにそれ?」

 

「古い伝説に登場する謎の島で、船の様に異海を移動すると言われている」

 

「伝説……」

 

「伝説も良いけれど、危険が多いんだから程ほどにしておきなさいよ」

 

 異大陸がある場所に行くには異海を通らないといけない。

 異海は普通の海より、それこそこの海よりも流れが強力で危険が多いわ。

 

「いいんだよ。それを調べにいくのがアイフリード海賊団なんだから」

 

「……アイゼン、あんた」

 

「ふっ、大分お前も分かるようになってきたな」

 

 そうじゃないでしょうが。

 明らかにライフィセットがあんた達に毒されてるわ。

 

「そういえば、ゴンベエとアメッカの国って何処だろ?」

 

「彼奴等の国?」

 

 確か、あの二人はそれぞれ住んでる国が別々だったわね。

 アイツがアメッカの国に移り住んで色々とやらかしたみたいだけれど……。

 

「その辺も聞くんじゃなくて探して見つけ出すんだ……」

 

「気になるのはいいけど、この前みたいなのはごめんよ」

 

 異世界の住人が迷い混んだとかやたらと顔の大きい頭が変な奴が言っていた。

 アイツが本当に死にかけるなんてありえない事が起きたりして、なんでか野球で決着をつけたりするなんて二度としたくないわ。

 

「異世界の住人との会合もいいが、オレも異世界には行ってみたい」

 

「異世界って、どんな場所なんだろ……」

 

「ちょうどそこにいるから、聞いたらいいんじゃないの?」

 

 何個にも積み重なった木箱を楽々持ち上げて港と監獄を往復してる何故かお面をつけているゴンベエ。

 聞くのも1つの手だとアイゼンはさっき言っていた事とは真逆の事をライフィセットに言って、アイツに異世界について訪ねる。

 

「ねぇ、ゴンベエ。異世界ってどんなところ?」

 

「また随分とアバウトな質問だな。異世界は星の数程にあるから一言では言えないぞ。黛さんと愚っちゃんは同胞だけど住んでいる世界が異なってたりするんだぞ」

 

 そういえば前にそんな事を言ってたわね。ややこしいわね。

 

「なら、どんな世界に行ってみたい?」

 

「異世界になんぞポンポン行きたかねえよ」

 

「なら、どんな世界に行きたくない?」

 

 質問を変えてあの手この手で聞こうとするアイゼンとライフィセット

 流石に観念したのか、行きたくない世界を考えるとアイツは渋る顔をする。前に死にかけただけあって、やっぱり行きたくない世界はあるみたいね。

 

「呪泉郷にはあまり足を踏み入れたくないな」

 

「呪泉郷?」

 

「呪いの泉がそこかしこにある場所だよ……ライフィセット達をそこに突き落としたいと言う悪意に飲み込まれそうなんだよな」

 

「っ、あんた!」

 

「待て待て待て。流石にしないから。そもそもであそこは秘境だから早々には行けないから」

 

 ライフィセットを突き落とすなんて馬鹿な真似は絶対にさせないわ。

 

「なんで僕を突き落としたくなるの?」

 

「彼処はな様々な効果を持った呪いの泉なんだよ。その中には女溺泉(ニャンニーチュアン)という溺れれば女の子になる泉があってな……いける!!」

 

「なんでゴンベエは僕をそう女の子にしたいの!?」

 

「だって、面白いだろ。女装じゃなくてマジの女の子になるんだぞ……」

 

「面白そうね……」

 

 溺れると女の子になるって事は他にも色々なものになる泉があるのよね?

 ライフィセットやアイゼン達がそこに溺れて性別が入れ替わると、どうなるのかしら?

 

「もうっ!もし呪泉郷に行ったとしても、絶対に泉には触れないからね!アイゼン、溺れたらダメだよ!」

 

「オレにそういう事を言えば、確実に溺れるのは目に見えているぞ……だがまぁ、オレの妹は世界一可愛い。ならば、兄であるオレが女になれば妹そっくりに綺麗に……はっ!お前達、妹にそっくりだからって妹にもオレにも欲情すんじゃねえぞ!!」

 

 なんでそうなるのよ。

 にしても、呪われた泉が沢山ある場所って、そこ此処みたいな地脈点かなにかかしら?

 ライフィセット達が真剣に地図を書いていたりしているのが分かったので程ほどにしておきなさいよと忠告をし、他はなにをしているのか見るためにこの場を去る。

 

「全く、人様をここぞとばかりに労働力として使いやがって。オレはお前のパシリじゃねえってのに」

 

「そう言いながらも手伝ってくれているダイルは優しいな」

 

 今度はアメッカとダイルを見つけた。

 なにかを頼まれたのかダイルはゴンベエに対して文句を言っているけど、なにをしているのかしら?

 

「あんた達はなにをしてるの?」

 

「おぅ、ベルベットか。ちょうどいいところに来た」

 

「手が空いているなら、一緒に作らないか?」

 

「作るってなにを?」

 

 この二人が料理、なんて事は無いわよね。

 アメッカは料理は得意じゃないし、ダイルがしているところは見たことはないし……第一、ここは厨房じゃないし。

 

「これだよ、これ」

 

 ……なにこれ?

 ダイルは銀色の紙みたいなのに包まれた石を見せて来た。

 

「知らねえよ。ゴンベエの奴、こっちが暇だったらやっといてくれって押し付けやがって」

 

「こういう風に作るんだ」

 

 アメッカは手の上に銀色の紙を乗せて、その上に石を乗せて銀色の紙で包みその上に炭を置いて外れない様に固定する。

 変わった見た目をしているけれど、作るのは割と簡単そうね。

 

「これを1600個作れって言われてんだよ」

 

「1600個ってあいつ、なにに使うつもりなの?」

 

「知らねえよ。教えてくれっつっても教えようとしやがらねえんだよ」

 

「ゴンベエの事だから、なにか凄い物を作るつもりだ」

 

「そうは言うけどよ、なんか物凄い物を作るって言われてもピンと来ねえぞ」

 

 アイツは便利な道具は色々と持っている。アイゼンやエレノアと方向性は違うけれど知識を多く持っている。

 けど、今からなにかを作るって言われてもあまりピンと来ない……。

 

「アメッカ、あんたの国でなにかやらかしたみたいだけれどなにをやらかしたの?」

 

 アイゼンに兵器を作らせない約束をさせた時に少しだけやらかしたって言ってた。

 

「おいおい、野暮な事は聞くんじゃねえよ。見たら分かるだろう」

 

「?」

 

「いいところのお嬢さんとよく分からない目付きの悪い男だ……駆け落ちだろ?何処からどう見てもアメッカ、ゴンベエに惚れてるだろう」

 

「ち、違う!確かに私とゴンベエは一緒に居なければならないが、私はそういった疚しい気持ちをゴンベエに向けてはいない!大体、ゴンベエはどちらかといえばベルベットの事が」

 

「なんで私がそこに出てくるのよ!」

 

 ニヤニヤと笑うダイルに煽られて慌てるアメッカ。

 あんたとゴンベエの事なのに、無関係な私がそこに出てくるのよ。

 

「だって、ゴンベエはベルベットの事ばかり褒めてるし、そういう感情を向けない様にしてるし……ベルベットは綺麗じゃないか!!」

 

「っ……あんただって綺麗でしょ」

 

 私みたいにぼろ切れの布を着ているんじゃなくて、下ろし立ての新品の様な服を着ている。

 あまり気にはならないけれど一つ一つの動作が丁寧で上品なところがあって、あのバカが関係していないと純粋なのよ。

 私みたいなのよりも、何処かのいいところのお嬢様の方がアイツに……似合うのかしら?

 

「大体、私はアイツみたいなのはタイプじゃないのよ。普段は大雑把な癖に変なところで細かくて、面倒な性格なのよ」

 

「では、どういうタイプが好みなんだ?」

 

「正直に吐いちまいな」

 

 どういうのがタイプって……どういうのがタイプかしら?

 家事を代わりにやってくれる……いや、別に家事は自分でやっていた方が落ち着くわ。お金持ち?……お金は無駄に浪費しなければそれでいいわね……無いわね。

 

「そういうのは無いわ。あえて言うなら好きになった人がタイプよ」

 

「……それはつまり誰でも問題ないということじゃないか!」

 

「なんでそうなるのよ!私はそういう感情をアイツには向けていない!アメッカもそういう感情を向けていない!アイツも向けていない!!」

 

 そう。ただただ利害が一致しているだけで一緒に居たいから一緒に居るわけじゃない。

 アルトリウスを殺せばアイフリード海賊団達と協力をする必要もなくなって、解散をする。アイツだってそれを理解しているわ……そう。

 

「お前等、喧しいけどちゃんと働いてんのか?」

 

「あんたのせいで停滞してるわよ!」

 

 声が反響していたのか、アイツまでやって来た。

 仕事を放置して色々と言い争ってるけれど、全部コイツのせいなのよ。

 

「……」

 

「な、なによ?」

 

「……」

 

「言いたいことがあるなら、ハッキリと言いなさい!」

 

「……」

 

「……うっ……悪かったわよ」

 

 ずっと無言で見つめ続けられた私は根をあげた。

 何時もなら変なことを言ったり適当にあしらうのに、珍しくなにも言わずにただただじっと見てきた。

 確かに八つ当たり気味だったわ……。

 

「オレは殴られる覚悟で色々と言っているが、理不尽にはそれなりに対抗はするからな。つか、手が止まってんぞ」

 

「お前の話で盛り上がってたんだよ。実際のところ、どうなんだ?アメッカと駆け落ちでもしたのか?」

 

「あのなぁ……オレが駆け落ちなんてくだらない真似をするわけねえだろ!!」

 

「くだらないって……そこまで言わなくても」

 

「駆け落ちは逃げなんだよ!いいか、アメッカと駆け落ちをするってことはアメッカに手を出すということだ……なんの覚悟も無しに手を出すと思うか?新天地で1からリセットなんてさせねえよ。そういう面倒なのは色々と処理するんだよ!恋愛で立ち塞がる障害が怖くてアメッカに手が出せると思うなよ!!」

 

「お、おぅ……」

 

 要するにアメッカとそういう関係だったらややこしい事情を何がなんでも自力で解決してやるのね……。

 逆ギレ気味で言っているけれど、言っていることは割と真剣だわ。

 

「なら、なんでアメッカを連れてくる必要があるわけ?足手まといでしょ?」

 

「っ!」

 

 エレノアと同じ槍使いだけれど戦うことは出来ないアメッカ。

 ハッキリといえばコイツの弱点になっているところがある。戦える様に色々とやってみてるけど、なんの成果もない……私は戦えるわよ。

 

「そういうのは無しだろ」

 

「事実じゃない……」

 

「アメッカに生殺与奪の権利を握られてるんだぞオレ。油断すると国に狙われるんだぞ」

 

「あんたの権利を握っているのは私よ」

 

 なんにも言わないけれど、下僕なのを忘れてないかしら?

 最近はなにも起こっていないけど、人の胸を揉んだりキスをしたり色々としてきた事を忘れたとは言わせないわよ。

 

「お前な……オレがどれだけヤバい状況でヤバいことをやらかしたのかを知ってて言ってるのか?」

 

「逆に聞くけれど、なにをやらかしたの?」

 

 アメッカの国でなにかをやらかしたみたいだけれど、まともに語ろうとはしてくれない。

 アメッカに聞いても答えようとはせず、とにかく色々と大変だったとしか言おうとしない。ちょうど暇だし、教えなさいよ。

 

「……聞きたい?」

 

「聞いてあげるわ」

 

「……はぁ」

 

 なんかムカつくわね。

 勘弁をしたのか、深い溜め息を吐いて腰を下ろす。

 

「オレは社会を傾ける事が出来んだよ」

 

 アイゼンに人を殺したり怪我をさせたりする物を作らせない約束をした時、そんな事を言っていた。

 けど、そう言われてもどうにもピンと来ない。絵よりもハッキリと人の顔や風景を紙に残す写し絵の箱や電球は便利だけれど、そこまでの物じゃない。

 

「社会を傾ける事が出来るって、随分と変わった言い方をするな。普通は国を変えるだろう」

 

「国を変える事も出来るが、国を変えるよりも社会を変える方が合ってるんだよ……特に物作りは」

 

「……確かに、もしゴンベエの言っていた事が本当ならばこれからの世の中は大きく変わっていく」

 

 やらかした時の当事者のアメッカは少しだけ浮かない顔をする。

 旅をしている目的は違うけれども、今こうして2人が一緒に居るのはそれが原因で政治的な理由が絡んでいるから……国を助ける為にミッドガンド王家はアルトリウスを頼った。ほんの少しの人間を犠牲にして、多くの人を救う道を、個よりも全を選んだ。

 

「世の中が変わるつっても、聖寮が出て来て一気に変わったんだ。早々に変わることはないだろう」

 

「それはどうかな?」

 

 これって……電球?

 これ以上に変化は無いだろうと言うダイルの前にコイツは電球を置いた。

 

「コレって、確か電球?だったか?」

 

「コレ1つで社会を変えることだって、出来る」

 

「おいおい、幾らなんでもそれは無理だろう」

 

「出来る……コレだけで社会は傾く」

 

 こんな小さなガラスの球で社会を傾ける事は出来ない。

 そう笑うダイルにアイツはハッキリと出来ると言いきる。根拠もなにもなくハッタリを噛ましているわけじゃない。本当に出来ると分かっているから言い切った。

 

「具体的には、どうやるのよ?」

 

 さっきから出来るとか言っているだけで、具体性の無い事ばかりを言っている。

 あんたの事だからわざとなんだけれど、それを言わないと私達は納得もなにもしないわよ。

 

「オレがどうこうするんじゃない、向こうから傾いてくれるんだよ……電球は明かりを灯す道具で基本的な使い方は周りを明るくする事だ。他にも使い方が色々とあるが、普通の人ならば夜に家の明かりを灯すのに使うな」

 

「確かに明るくはなるわね」

 

 日の光をまともに入らないこの監獄は薄暗い。

 ライフィセットやエレノアは暇な時なんか読書をしているけど、こんなに暗いところで本を読んでいたら目を悪くするわ。万が一本に火が付いたら大変だし、危ないから蝋燭やランタンは危険だし、電球が安全だわ。

 

「オレの作った電球は竹を使っていて1000時間は灯る」

 

「おいおい、冗談だろ?」

 

「冗談じゃねえよ。言っとくが素材の都合上で桁が違うんだけで、もっとしっかりした物だったら1年間ぶっ通しで明かりを灯す事が出来るんだ……コレがどういう意味か分かるか?」

 

 段々と冷たくなっていく空気。

 その空気を作っているのはコイツで、気付けばダイルもアメッカも、私もコイツの次の言葉を待っていた。

 

「この監獄は壁に沢山の松明を置いて明かりを灯している。今まで立ち寄った所は燭台に蝋燭をぶっさした物なんかを明かりに使っている。コイツらは24時間、丸1日ぶっ通しで明かりを灯す事は出来ない。蝋燭ならば溶けて使えなくなるし、松明は燃え尽きる。だが、電球は違う。オレの作った劣化品でも1000時間は使える。この電球は消耗品だ。さて、消費者様はどちらを選ぶ?」

 

 そんなのは決まっている。

 燭台に指してただただ灯すだけで蝋燭は数時間で切れる。松明も数時間だけしか灯らない。油を使ったランタンならかなりの時間が灯せるけど、油を入れ換えないといけない。

 でも、電球は1ヶ月間ずっと……いえ、日が沈んで夜の起きてる時間、6時間ぐらいだとして200日は使い続ける事が出来る……。

 

「この電球は世界でオレだけしか作れないわけじゃない。クロガネの様に名工と呼ぶに相応しい職人にしか作れないわけでない。物を作って売って生計を立てることが出来るレベルの職人なら簡単に作る事が出来る。材料だって、特別な鉱石を使用しているわけでもない……コレが世に放たれてみろ……」

 

 もしコイツの言うとおりに電球が世の中に当たり前の様に出回ったらどうなるのか?

 蝋燭やランタンよりも明るく火事になる可能性は無いに等しく、換えるのは数ヵ月に一回だけでいい。そんな便利な物があるなら、誰だって購入する。

 

「蝋燭やランタンなんかに使う油の価値が一気にどころか一瞬で暴落する。10年で電球が広まり30年で電球が当たり前になり100年後にはほぼ蝋燭を使わない時代になる」

 

 コイツが言っている事は否定できなかった。

 日常の中にある当たり前をコイツはひっくり返すことが出来る。意識をしていなかっただけで、それだけの価値が電球にはあった。

 

「そんな日が来たら蝋燭を作ってる業者は死ぬぞ!?世界中にどんだけいると思ってんだ!」

 

「……どんだけいんだろうな?」

 

 私達の日常で蝋燭や松明は欠かせない物。

 それを作っている職人となると相当な数がいる筈だから……失業者を一瞬にして増やす。国なんて生易しい文字通り社会を傾ける事が出来る。

 

「あんた、とんでもないのを掴んでいたのね」

 

「物凄いものを握っているのは分かっていたが、ここまでとは思っていなかった……よかった……」

 

 自覚が薄かったのか、コイツの手綱を握っていたのがどういう事なのか改めて理解してホッとするアメッカ。

 コイツの持っている知識や技術力は私の左手と違って自分だから出来たものじゃない。自分じゃなくても出来て自分以外の誰かに継承することが簡単に出来て、今までの当たり前を崩壊させる。

 

「言っとくが、電球なんて序ノ口だ。結局のところ明るくするだけの道具でそこまでの危険性は無い。極端な話をすればランタンとかで代用が出来る。お前に作らせてる物は代用が出来ない、オレとしても作るのはあまりよろしくない物だと躊躇っている所がある物だ」

 

「いったいオレになにを作らせようっていうんだ」

 

「そこは自分で考えろ」

 

「分からねえから聞いてんだよ!!」

 

「ほーれ、知りたければとっとと働け。後でアメッカのアンモニアも」

 

「ゴンベエ!!」

 

「るせえ!いざという時の自爆機能を作るのにいるんだよ!!爆弾で爆破させても全然威力出ねえんだから、もう作るしかねえんだよ!!」

 

 例によってアメッカから取れる謎の素材で言い争う二人。

 なにを作ってるかは教えてはくれなかったけれど、コイツが狙われていてアメッカがハニートラップをかけていると言う事になっている意味が分かった。

 ダイルがこうなればやるしかないとやる気を出しており、アメッカに言い争う暇があるなら手伝えと謎の道具を作る手伝いをさせられる。

 

「なにを作るかは知らないけど、作るんならましな物を作りなさいよ」

 

「マシじゃなくてヤベー物を作ってんだよ」

 

 まぁ、少しだけ期待はしてあげるわ。

 アメッカ達がなにをしているのか分かり、この場を後にする。

 

「さぁ、モアナ。これで好きな物を作るんだ!」

 

「なぁに、これ?」

 

 また別の場所にはモアナとビエンフー、そして何故かアイツが居た……?

 

「あんた、さっきアメッカ達と一緒にいたんじゃ」

 

 さっきまでアメッカ達と一緒になにかを作っていた。

 私と同じ道を歩かないとモアナの所には辿り着く事が出来ないのに、何故か先回りをしている。

 そういえば、アメッカの所にやって来た時、私が来た側とは真逆の方向から来ていなかったかしら?

 

「お前、オレが4人に分身出来る事を忘れたのか?」

 

「……あんまり覚えてないわ」

 

 ただただアルトリウスに挑んで、返り討ちにあっただけの苦い経験。

 その時の事はあまり思い出したくはない……今度こそ、絶対に仕留める。

 

「モアナと遊ぶオレと作業をするオレが2人とゴロゴロとするオレの4人がこの監獄内に居るんだよ」

 

 一人余計なのがいるわよ。

 

「エレノアはどうしたのよ?」

 

 モアナと遊ぶのはいいけれど、エレノアは見当たらない。

 モアナにベッタリとくっついているなら、此処にいてもおかしくはないのに

 

「エレノア様は……色々とあったでフ……」

 

「……オレは悪くないからな」

 

「大丈夫かな……」

 

「大丈夫だと思うぞ」

 

 ……コイツら、またなにかをやらかしたわね。

 まぁ、エレノアならなにかを言わなくても勝手に立ち直るだろうし、問題は無さそうね。

 

「それで、なにをしてるの?」

 

「そういうお前こそ、なにをしてんだ?オレ達を探しに来たわけじゃねえみたいだし……暇なのか?」

 

「っ……ええ、そうよ。暇なのよ」

 

 コイツ、堂々と言ったわね。

 さっきのとその前のは言わなかったのに、ハッキリと言いきったわね。

 

「だったら、モアナ達と遊ぼうよ!」

 

「仕方ないわね……それでなにをして遊ぶの?」

 

「外に出られないし、エレノアがなにかと五月蝿いからこんなのを作った」

 

 木の板を取り出し、白い豆腐みたいなのをその上に置いた……なにこれ?

 モアナと私とビエンフー、それに自分の分と四等分にして、それぞれに木の板の上に置いた。

 使えって事だろうけど、なに?と試しに触ってみると柔らかかった。今まで色々と触ってきたけれど、はじめての感触で握れば簡単に潰れそうな物だった。

 

「粘土だよ、粘土」

 

「粘土って、もうちょっと硬くて泥っぽいじゃない」

 

「紙から作った紙粘土だ」

 

「紙粘土……要らなくなった本でも使ったの?」

 

「紙なんてその辺の雑草から作る事が出来る」

 

 ……ついさっき、コイツの恐ろしさを教えられてたところだったわね。

 余計な事を考えていると頭が痛くなってくる。特にコイツだと色々とおかしくなるから、コイツはこういう物だと思わないと。

 

「これで好きな物を作るんだ」

 

「好きな物って……フォーク」

 

「そういう感じの食器に使う粘土じゃない」

 

「こういう風にするでフよ!!」

 

 既に手を動かして粘土の形を変えていたビエンフー。

 頭だけのぬいぐるみで、多分だけれどマギルゥを作っていた。顔がユルくなっているせいで分かりづらいけど、マギルゥね……熊の木彫りみたいな置物でもいい━━

 

「ビィエエエエン!!」

 

「ちょ、あんたなにをしてるのよ!」

 

 頭だけのマギルゥを全力で木の板に叩きつけるビエンフー。

 もうちょっと手を加えればマギルゥになるのに、力の限り木の板に叩きつけたら原型が残らないじゃない!

 

「マギルゥ姐さんめ……よくもいちご煮を苺を煮た物だと騙してくれたでフね」

 

「モアナ、見るんじゃない」

 

「あんた、なんて事をしてるのよ」

 

 ハァハァと息を荒くしながら何度も何度もバシバシと叩きつけるビエンフー。

 目が完全に据わっていて、モアナになんかは見せられないわよ……見ていないわね。

 

「なにを作っているの?」

 

 なにかを作るのを決めたのか、一生懸命黙々と作っているモアナ。

 丸い形をしているけれど……。

 

「エレノア……さっき酷い事を言っちゃったし、好きな物を作って良いってゴンベエが言ってたから」

 

「そう……」

 

「ベルベットはなにを作るの?」

 

「私?……なにを作ればいいんだろ?」

 

 料理ならばある材料を見て、色々と考えれるんだけどコレは全くといって違う。

 なにか好きな物を作れって言われても、パッと思い浮かぶ物は無い……。

 

「マギルゥに乳があったら、それはもうマギルゥじゃないだろう」

 

「確かにマギルゥ姐さんは絶壁だからこそでフがコレはお人形なんです。少しぐらいは夢を見るものでフ」

 

 バカ二人はマギルゥを作っていた。

 さっきみたいに顔だけのマギルゥじゃなくて全身のマギルゥを紙粘土で再現しており、そこにある筈の無い物(胸)が足されていた。さっき渡したばかりの粘土を何時の間に……てか、なにを作ってるのよ。後でマギルゥに殺されるわよ。

 

「ベルベット、なにも作らないのか?」

 

「……なにを作ればいいわけ?」

 

 いざなにか好きかって言われれば、あんまりピンと来ないわ。

 こういうことを余りしてこなかったし、こういうのをやるなら私よりもライフィセットやアイゼンの方が……それにあの子も向いている。

 

「だったら、僕を」

 

「却下」

 

 ビエンフーなんて作るつもりは無いわ……ダメだわ。グリモワールを思い出す。

 あいつ、適当にあしらってただけなのに何時の間にかアメノチに間違われていて人形まで作られていた……結局、どうなったのかしらあの人形。

 

「犬か猫かシンプルなのでも作ればいい」

 

「なら、犬にさせてもらうわ」

 

 猫は3日で恩を忘れるらしいけど、犬はずっと忘れない。

 作る物を決めた私は粘土に触れて頭の中で犬を思い浮かべながら粘土を捏ねていく。

 

「ベルベット、それ狼だよ?」

 

「いや、オレじゃね?」

 

「似たような物でしょ」

 

「おいおい」

 

 作ってたら、狼に変身したコイツになってた。

 犬と狼は見た目が似ているし、コイツは私に忠誠を誓っているし、いい感じに出来上がってる。

 

「そういえば、あんたは喰魔じゃないのよね?」

 

 狼の業魔を何度か見たけれど、コイツとは全く異なる姿をしていた。

 穢れを纏いながら狼の姿になるコイツは今は人間で、人と狼の姿を使い分けることが出来ている。喰魔の要素を多く持っているみたいだけれど、本人は喰魔だと言ってこない。

 コイツの性格を考えれば自分が喰魔だったらハッキリと言う。

 

「何度か説明をしているが、オレの使っている力は勇者の力だ。黄昏、大地、風、大空、他にも色々とある由緒正しい勇者の力をオレは持ってるんだよ。狼になるのは黄昏の勇者の力だ」

 

「あんたみたいなのが勇者って……」

 

 滅茶苦茶強いのには納得はいくけれど、勇者を理解することは出来ないわ。

 

「勇者なら、魔王を倒すのが仕事じゃないの?私の下僕なんかやってていいわけ?」

 

「オレは世界を救うよりもアメッカを救うのに忙しい。それにあいつ、弱くて変なところで抜けてるからな……」

 

「……私の下僕よね?」

 

 なんでアメッカを出すのよ。

 確かに何時穢れて業魔になるか分からなかったり、一度業魔になりかけた事はあったし……あんな弱い奴、何時死んでもおかしくはない。足手まといよ……早いところ切り捨てた方が身の為じゃないの?

 

「オレが巻き込んだからには、自分の力でどうにか出来る様にする。転生者(オレ)みたいな存在は、どうにかするならばどうにかする。どうにかしないならどうにかしない。一線を敷いたのならばその一線を守るみたいなのをしておけってハッキリと叩き込まれたからな……全てが終わる頃にはアメッカは自立出来る……筈だ」

 

 最後の最後で曖昧ね。

 

「それに、お前の力にもなりたいと思ってるところはある。

此処まで来たんだし、アルトリウスに一発ぐらいお見舞いをしてやりたい……オレとアメッカは聖寮に因縁も繋がりも無いけど、それぐらいなら許してくれよ」

 

「……好きにしなさいよ」

 

 あんたがなにを思っていようが、私はアルトリウスを殺す。

 その為の力になるんだったら思う存分使ってやるわ。

 

「こんな感じね……コレって焼くの?」

 

 色々と話をしている間に完成した狼。

 はじめてにしては結構上手く出来た物だと自分で自分を感心しながら、コレをどうするのかを聞く。粘土なら、焼くのよね?

 

「コレは紙粘土だから、暖かい場所で渇かして水分を飛ばせば勝手に硬くなる。そしたら今度は色をつける。因みにそれらの行程を終えて完成したのがこのベルベット人形だ」

 

「業牙爆響弾!!」

 

「ぬぅおあ!?」

 

 こいつ、やっぱり油断も隙も無いわ!!

 何事も無かったかの様に、さも当たり前の顔で私のフィギュアを勝手に作っていた。

 

「あんた、なに勝手に人のフィギュアを作っているわけ?」

 

 事と次第によっちゃ、手……はまだ完治していないから両腕を折るわよ?

 私は剣の力を引き出して、パワーアップをする。アルトリウスの前に、あんたを焼いてやろうかしら?

 

「だって、紙粘土なんて作ったらフィギュアを作りたくなるのが当然だろう!!」

 

「だからなんで私なのよ!!ダイルとかにしておきなさいよ!!」

 

「それただの服を着た蜥蜴だろう。どうせだったらお前の方が良いじゃねえか」

 

「なんで私だったらいいのよ!」

 

「普通に美人だからに決まってるだろうが!」

 

「っ!!」

 

 コイツはまたこんな変なことを……。

 

「コレは燃やすわ!!」

 

「あぁ……折角の傑作が」

 

 落ちていた人形を左腕で握り潰して焼いて消し炭にする。

 こんな私に似ている様に見えて、全然似てない物なんか必要はないわ。

 

「二度と作るんじゃないわよ……それとアメッカの分も」

 

「え、許可は」

 

「いいから、寄越しなさい……さもなくば焼くわよ?」

 

 なんならあんたごと焼いてもいいのよ?

 左腕に何時でも焼ける様にと穢れを纏った炎を出して脅すと、観念したのかアメッカのフィギュアも出したので思う存分に燃やし尽くす。それこそ消し炭すら残らない程に。

 

「思い出と言うお宝にしようとしたのに」

 

「私の事が綺麗だ美人だと思っているなら、それでいいじゃない」

 

 大体、なんでこんな物を作ろうとしたのよ。

 なんでこんな似てないフィギュアを作ったのよ!!作るならもっとマシなのを作りなさい!!

 

「ったく、油断も隙もあったもんじゃないわ」

 

「あれ、マギルゥ姐さんのは焼かないんでフか?」

 

「どうせあんたが後でマギルゥにシバかれるのは分かりきってるわ」

 

 あんたにお仕置きをするのはマギルゥの役割よ。

 ゴンベエのフィギュアを焼き尽くし終えたので元の姿に戻ると右手にだけ違和感を感じる。紙で出来ているとは言え粘土を触ったから汚れた。

 

「私のはちゃんと残しておきなさいよ」

 

「何処に行くんだよ?」

 

「手を洗いにいくのよ……あんた達も後で洗いなさいよ」

 

「へーへー」

 

 返事をしてるぐらいなら、さっさと洗いにきなさいよ。

 モアナ達から離れて手洗い場に行くのだけれど、よく確認して分かった。爪にまで紙粘土が入っていることに。

 

「……早いけれど、風呂に入るしかないわね」

 

 アイツに関わると、どうもおかしくなるわ。

 疲れた体を癒す為にもお風呂に入って気持ち良くなった方がいい……熱さも寒さもあまり感じないけれど。それでも、入っていると気分が落ち着く。

 

「あ……」

 

「あんた、此処にも!?」

 

「オレはぐうたらのゴンベエだ」

 

 お風呂に入るとアイツが髪の毛を洗っていた……

 

「ま、前を隠しなさいよ!!」

 

 私が入ってきたのに動じない。それどころか気にせずに頭を入念に洗っている。

 なに堂々としているのよ!!少しぐらいは反応をしなさいよ!!

 

「なにを言い出すかと思えば、風呂をタオルつけたままで入るのはマナー違反なのを知らないのか?」

 

「そういう事を言ってるんじゃない!!」

 

 私が入ってきてるのに、焦った素振りすら見せない。

 何時もの私なら手が出るけど、どうにも調子が悪いのか直ぐに手は出ずにいる。コイツ、私を見ようとはしていないわね……。

 

「悪いがオレは今入ったばかりなんだから、出るつもりはないぞ」

 

 湯船に浸かり、一足先にリラックスし惚けた顔になる。

 

「入るんだったら、入れば?」

 

「あんた、なにを……いえ、入らせて貰うわよ!!」

 

 もうちょっとマシなリアクションが無いことに苛立ちながら、私は逃げない。

 元々お風呂に入るつもりで風呂場に来て、もう一度服を着てコイツが出てくるのを待つのはなんか嫌な気分になる。

 私は素早く頭と体を洗い、コイツの隣に入った。

 

「お前、大丈夫か?」

 

「なにがよ?」

 

「なんかこう、ヤケクソ感が強いぞ」

 

「……ずっとあんたの分身の相手をしていたせいよ」

 

「そうか……暇だったのか?」

 

「なんでそうなるのよ?」

 

「他の奴等は仕事をしてたりモアナと遊んでたりする。ベルベットになにか特別な事を頼む理由はない」

 

「……ええ、そうよ」

 

 言い逃れは出来ないし、否定する理由も何処にもない。

 なにもやることがなかったから、ブラブラとしていると色々なところであんたと遭遇しておかしくなった。現に今もそう。自分と大して歳の変わらない男性と一緒にお風呂に入るなんて思ってもみなかった。

 

「熱くするんじゃねえよ」

 

 左腕を喰魔化させて熱を出してお風呂の湯を沸騰させるけど、コイツは凍らせて温度を下げる。

 コイツを相手に無理矢理追い出すのは無駄だと分かった私はリラックスをする事に専念し、肩の力をゆっくりとゆっくりと抜いていく。

 

「……ずっと」

 

「んだ?」

 

「此処に閉じ込められた日からずっと、復讐ばかりを考えていたわ」

 

「そうか……殺るなら最後まで殺れよ。途中で投げ出したりアクシデントが起きたらオレはそれなりの事はする」

 

「逃げないわ……だから、分からなかったのよ。息の抜き方なんて忘れてた」

 

 ずっとずっとアルトリウスを殺すことだけを考えていた私に突然やってきた休息日。

 ロクロウ達は相変わらずだけど、自分達なりに過ごしてたりしたけど、私はどうも上手くいかなかった。周りがなにを思うが自分がどうなろうが構いやしない。アルトリウスを殺す事だけを考えていたから忘れていた。

 

「パスカヴィルの婆さんが言っていただろう。心に遊びを持っていろって……こういうことだよ」

 

「そういうあんたは……これがちょうどいいのね」

 

 コイツが私みたいに怒り狂っていたら、どうなっていたのか分からない。

 その気になればシグレやアルトリウスを簡単に殺すことが出来る。その気になれば、今の社会を力以外で傾ける事が出来る。ふざけてたりやる気が無くめんどくさがっているだけで、出来ないわけじゃない。その気になりさえすればなんでも出来る。コイツはライフィセットやエレノア、アメッカとは違う。アイゼンの様に既に色々な答えを出している……けど、アイゼンとも違う。本当に自分勝手に生きている。

 

「オレは自分が楽をしたいし、私利私欲を満たす為だけに頑張ったりめんどくせえ事はしねえ」

 

「そう……」

 

 コイツと一緒に居ると、本当に調子が狂う。

 私の事を全く怖がる素振りもなく、何事もなく普通に接してきている。綺麗だ美人だ変なことを言ってきて、人の気持ちを勝手に語ったりもしている。

 

「あの、なんで近付くんだ?」

 

「あんたのせいよ」

 

 コイツの肩に寄りかかる。

 今日1日、まだ終わってないけれど、コイツと一緒に居るせいで切り詰めていた空気が抜けていく。肩の力が妙に入りづらくて、調子が狂う……。

 

「あんたのせいでおかしくなってるんだから、少しぐらいは壁になりなさい」

 

 あんたが出る頃には私もお風呂から出るわ。

 

「ちょ、本当勃っちゃったりしてるから、あんま近付かないでくれ」

 

 コイツと一緒にいれば調子が狂う……けど、悪くはないわ。




 ゴンベエの称号


 自重を忘れようとした男。


 説明

 この世界にいる魔王とかドラゴンとか導師とかを簡単に殺す事が出来る武力、異世界の文明のレベルを引き上げる優れた量産可能な発明品を色々と作る事が出来る知力、2つを持ち合わせてるヤベー奴が秘密基地ってなんかロマンあるよね?と旅の生活ならまだしも拠点を得たならば快適で楽な生活をしたいと言う欲望が混ぜ合わさり、此処が過去なのを良いことに自重を忘れようとしている奴の称号。
 尚、知力は転生特典頼りまくりだが武力は素の力であり、なにかあった時にはダイナマイトで全てをぶち壊す予定なので過去に影響は及ばさない……数名を除いては。

 アリーシャの称号


 ヤバい手綱を握っていた姫


 説明


 本人的には頼りになる大切な人を騙して政治的な利用はしたくない巻き込みたくないという純粋な思いを持っており、そこに下心は無い。彼女が握っているのは彼の生殺与奪の権利ではない。国の栄光と繁栄を約束するものでもない。
 シンフォニアの様に一部の場所だけ凄い技術はあれども一般に普及していないが多々あるテイルズの世界、彼女が握っている手綱を無理矢理引けば、エターニアのインフェリアやエクシリアのエレンピオスの様に文明としての技術が大きく発展する。諸事情で文明のレベルが低いゼスティリアの世界では特に大きく発展できる。
 彼女が握っているのは文明の光である。


スキット モアナと遊ぼう2

ビエンフー「残り3つ……」

ゴンベエ「頼むから当たってくれよ」

モアナ「いくよ……えいっ!!」

ゴンベエ「……ああ~ダメだ。もうダメだ。まただよ」

モアナ「またエレノアなの?」

ビエンフー「もうこれで7枚目でフよ。観賞用保存用布教用は揃っているのに、これ以上はいらないでフ」

ゴンベエ「ハズレが、ポンポンと入りやがって」

エレノア「あの、さっきからなにを言っているのですか?私の事をハズレだなんだと」

モアナ「あ、本物のエレノアが来た!!」

エレノア「本物?……ゴンベエ、ビエンフー。モアナにいったいなにをしたのです!!」

ゴンベエ「やらかした前提?」

ビエンフー「エレノア様、ボク達はモアナと一緒に遊んでただけでフよ!」

エレノア「貴方達の事ですからなにかいけない遊びを」

モアナ「違うよ。一緒にカードを開けてるんだけど、さっきからエレノアばっか当たるの!」

エレノア「カード?」

ビエンフー「ビエ?知らないんでフか?聖寮の対魔士達をモチーフにしたカードゲームでフよ」

エレノア「そういえばそんな物があった様な……」

ゴンベエ「なんか遊ぶ物は無いかとベンウィックに訪ねたら買ってきてくれたんだ……パックで。普通はデッキを購入してくんのに」

エレノア「ベンウィックが……モアナは女の子ですし、もう少し女の子らしい物の方がよかったんじゃ」

ゴンベエ「ぬいぐるみとか作るならオレが作った方が上手い。それにカードゲームと思ってバカにすんじゃねえぞ。戦略性とか知識が必要になるから頭がよくなるって修業内容の一環でやった」

エレノア「貴方がいったいなんの修業をしているのか果てしなく気になりますが……」

ゴンベエ「思い出すな。デッキに入ってないカードを使ってくる奴と戦ったりしたな」

エレノア「普通に反則です」

ゴンベエ「ばっか、お前。公式が認知してない謎のカードを使ってくる奴もいるんだぞ」

エレノア「オリジナルカードって、地元ルールですか?」

ゴンベエ「……まぁ、うん」

ビエンフー「とにかく、ボクとゴンベエとモアナはパックを開封していたんでフよ!」

エレノア「それでどうして私の悪口に繋がるんですか?」

ビエンフー「それがさっきから当たるカードがエレノア様ばっかりで」

モアナ「さっき当てたので7枚目で……そろそろ他のを当てたいんだけど全然来ないの」

エレノア「そうだったのですか……コレが私をモデルにしたカード……」

ゴンベエ「欲しいならやるぞ。どうせ使わねえし」

エレノア「使わないのですか?」

ゴンベエ「性能が中途半端な微妙なカードを使うわけねえだろうが」

エレノア「微妙!?……そんなわけありません!!自慢ではありませんが私は聖寮の中でもかなりのエリートなのですよ!」

モアナ「エレノアは微妙だよ?」

ビエンフー「残念ながら、エレノア様はそこまで強くはないでフよ」

ゴンベエ「既にシグレと征嵐のコンボで戦う為に必要なカードが揃ってて、後はシグレだけあればデッキが完成するんだ……レア枠のカードなのに1枚も当たらねえ。あの姉弟のカードは1枚ずつ当たって、お前のカードだけやたらと当たるんだよ。性能微妙な癖に」

エレノア「微妙、微妙って言わないでください!せめてエレノアのカードはと言ってください……カードゲームなんですから、他のカードと組み合わせれば強いデッキになる筈です!」

ゴンベエ「カードゲームのカードパワーインフレを舐めるな、小娘。お前のカードで出来ることなんてたかが知れてる」

モアナ「エレノアのカードで出来ることって少ないよ」

エレノア「それでも使ってくれた方が、ありがたいです」

ゴンベエ「でも、お前のカードで勝とうとするんだったらお前の能力を発揮して体力回復してから49分間トイレに引きこもって判定勝ちを狙う便所コンボを使うしか」

エレノア「もう少し華麗な勝ち方は無いのですか?」

ビエンフー「でしたら、最初からエレノア様の最強コンボの手札を隠し持っていると言うのはどうでフか?先にコンボを決める先手必勝でフよ」

エレノア「それは普通に反則です!」

ゴンベエ「分かった、分かった。デッキを交換してシャッフルする時に相手のデッキからカードを抜き取り勝利をするジャッジキルで」

エレノア「それは普通に窃盗罪です!……はぁ、貴方達に頼ろうとした私がバカでした。こうなったら、このカードゲームを作っている運営に乗り込んで、私のカードを強くしてもらいます!」

ゴンベエ「お前、それwiki書き換えよりも酷い反則だろ」

エレノア「反則ではありません。リメイクです!!まずは手始めに戦闘力3000、防御力2500にしましょう!」

ゴンベエ「お前ごときがその数値を使えると思うな!」


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宝の価値は人によって変わる

本当ならばベルベットがやらかしてライフィセットを怒らせて笑顔を曇らせようと思ったけれども、その前にこっちを処理をしておく。推しの笑顔を曇らせて必死になっている姿に興奮をしなくもないヤヴァイ作者の今年最後の投稿。



 監獄島で休息の日々は続いており、その間もゴンベエはなにかを作っている。

 私もマンガン電池?という物を作らされたがなにを作っているかは相変わらず教えて貰えなかった。

 

「今度はなにを作るんだ?」

 

「爆弾」

 

 休み過ぎて腕が鈍らない様にと外で修業をしていると、またなにかを持ってやってきたゴンベエ。

 なんの迷いもなく答えるが、この旅が非日常過ぎて普通の爆弾程度では最早驚くことはしなかった。

 

「爆弾……持っていなかったか?」

 

 ロウライネをぶっ壊すだなんだと爆弾を取り出していたゴンベエ。

 一度も使っているところを見たことが無いし、まだまだ沢山持っているんじゃないのか?

 

「オレの持っている爆弾にここを崩壊させるだけの火力は無いから、新しい爆弾を作るんだよ」

 

「その割には爆弾を作る材料を持っていない様に見えるのだが」

 

 ゴンベエが持っているのは、瓶、瓶、瓶。

 中には液体が入っていて爆弾の原材料となる火薬を作るのに火石や木炭といった物が何処にもない。

 此処は普通の罪人を閉じ込める牢屋でなく、憑魔化した人達を閉じ込める監獄でありえないほど、それこそベルベットが暴れても壊れない程の頑丈さを持っている。

 万が一を想定して自爆スイッチを作るつもりだが、そんな物で作る事が出来るのか?

 

「コレも作ると火薬の需要が……無くならないが、減るには減るな」

 

 そういうと液体を混ぜ合わせるゴンベエ。

 ゆっくりと慎重に混ぜていき最後に自分で作った石鹸を細かくした物を混ぜ合わせると黄色い液体が完成した。黄色い液体……海水から塩を作るようにコレを粉末にするのだろうか?

 聞きたいことはあったが、極限まで集中しているゴンベエの邪魔をすることは出来ず、見守っていると今度は紙を取り出して折っていく。これは……イカか?

 

「殿下の鷹が飛んでない方向に飛ばさないと、五月蝿いからなっと!」

 

 紙イカに黄色い液体を染み込ませて投げるゴンベエ。

 形がいいのか、紙イカは監獄の外壁と接していない崖に飛んでいき、液体が染み込んでいる部分がぶつかると爆発した……!?

 

「爆発した!?」

 

 確かに聞こえた爆発音。

 飛んでいった筈の紙イカは何処にもなく、焼失している。これはいったい、いや、ゴンベエの言うとおり爆弾なのだろうが、火薬を一切使っていない。それでも爆発をした……崖を破壊した。

 

「液体の爆弾、ほんの少しだけ紙に染み込ませた物でこの威力なんて」

 

「だから、言ってるだろ。兵器は作りたくないって」

 

 電球のことといい、これは世の中がひっくり返る。

 

「どうした、なにか爆発をした音が聞こえたぞ!!」

 

「自爆機能で使う爆弾の原料となるニトログリセリンを作ってんだよ……威力は上々だな」

 

 音を聞き付けて監獄の方からやってきたアイゼン。

 

「ストップ!!それ以上は近づくな?」

 

「なに?」

 

「物が物だけに死神の呪いが発動をして、ドカンは本当に笑えない」

 

 火をつけたわけでもなく爆発をした黄色い液体。

 アイゼンが持つ不幸を呼び寄せる死神の呪いがもし発動をして原液が一気に爆発すれば確かにまずい。

 

「なにをしたんだ?」

 

「爆弾の元になる原液を作ってたんだよ」

 

「液体の爆弾だと?」

 

 ゴンベエ、距離を取っていないか?

 アイゼンの死神の呪いを恐れて距離をとったゴンベエ。イカを折って、液体を染み込ませるとアイゼンに渡した。

 

「それを彼処に向かって投げてみろ、面白いぐらいに爆発をする」

 

「……いや、やめておこう。オレがこういった物を投げると別の方向に飛んでいくのが多い。アメッカ、代わりにお前がやれ」

 

「わ、私がか?」

 

 アイゼンに紙イカを渡された。

 さっきの爆発を見ていた私の手は震えており、投げられるか心配になってきた。

 

「ちょっとの刺激を与えれば、ドカンといくから気楽にいけ」

 

「そう言われると逆に投げづらくなる!!」

 

「なら、諦めて投げろ」

 

 ゴンベエが投げれば……いや、やるしかない。

 ゴンベエの権利を握っている私がここで逃げていては今までの旅路の意味が無い。

 

「……はっ、あ!?」

 

 投げるタイミングを間違えた。

 

「ぬぅおあ!」

 

「こういう展開もあったか!!」

 

 地面に叩きつけられたイカは爆発を起こす。

 幸いにもゴンベエが不思議な結界で私たちを纏めて防御してくれて無傷だが、爆発の衝撃は液体を入れていた瓶にまで及び大きな爆発が起きて煙が巻き上がる。

 

「アメッカ、ちゃんと投げろよ」

 

「ゴ、ゴンベエが余計な事を言うから上手く手が動かなかったんだ!」

 

「いや、オレの死神の呪いのせいだ……なんて威力だ」

 

 特に舗装もなにもされていない地面に穴が空いた。

 ゴンベエの作った極々少量の黄色い液体の威力にゴクリと息を飲みながらアイゼンは恐ろしさを感じる。

 

「副長、探索船が帰ってきましたよ!」

 

「そうか。いくぞ、お前等」

 

「おう」

 

「……馴れと言うのは恐ろしいな」

 

 結構な爆発や爆音が響いたのに、反応をしたのはアイゼンただ1人。

 爆発の跡を見てもベンウィックは特に驚いた様子を見せずに異海探索の船が戻ってきたのをアイゼンに伝えている。

 アイフリード海賊団はアイゼンの死神の呪いで鍛えられているから、コレぐらいは馴れているが、コレで駆けつけないとなるのも考えものだ。

 

「副長、大量っすよ!」

 

 港へ向かうと嬉々とした表情でパンパンに詰まった袋を見せる海賊団員。

 異海探索はなにも持ち帰れない事もある為に、今回は大当たりだと喜んでいる……あれにいったいなにが入っているのだろう?

 私達の時代では異大陸には行けない。この時代と同じく海の流れが激しく、バンエルティア号の様な船も無い。浮かれていてはいけないのだが、現代では絶対に見れない物が見れるのは嬉しい。

 きっとスレイが知れば羨む事ばかりをしているだろう……本当は絶対にやってはならない事だが。

 

「ええっと、ノルミンニンジンにヘッドギア(ナーヴギア)、ノルミンニンジンに星形のシール(ケロンスター)……ノルミンニンジンにハンカチ(ぬのハンカチ)……ノルミン人参にノルミン、人参……ノルミン人参ばっかじゃねえか!!」

 

「おい待て、なんか色々とまずいもんが混じってるだろ」

 

 異海探索の結果、やたらと出てくるノルミンニンジンに怒るベンウィック。

 コレも立派な物だが、流石にこうもノルミンニンジンばかりだと、いやだが、コレはノルミンの御神体として使えるんじゃないか?

 

「夕飯はニンジン料理ね……なにを作ろうかしら」

 

「ニンジンの生搾りなんてどうだろうか?」

 

 このニンジンの使い道に悩むベルベット。アレならば私でも作れる。

 

「お前、そんな事を言うのはいいが、この前みたいにニンジンをそのまま握り潰すのは勘弁してくれよ」

 

「うっ……」

 

 前にニンジンの生搾りを作ったときの事をゴンベエに言われ落ち込む。

 搾ると言われれば牛の乳搾りを考えてしまう。そうなればニンジンをそのまま握り潰せばいいと思ってしまってやってしまった。……ベルベット達みたいに料理上手になりたい。

 

「って、ああ!!」

 

「どうした!?」

 

「見てくださいよ、副長!!」

 

 コレは、宝箱!

 異海探索の船に台座が乗った宝箱があった。

 

「たまにこういうことがあるから海賊稼業はやめられないんだ!」

 

「コレを何処で見つけた?」

 

「海の方がチラッと光ったんで潜ったら見つかったっす。最初は宝箱だけを取ろうとしたんすけど、台座がビクともしなくて」

 

「台座ごとか……」

 

「なにが入っているんだろうね」

 

 宝箱を見てワクワクしているライフィセット。

 かなりの物で、如何にもな形をしている……いったい、なにが入っているのだろうか?

 

「ふん!っく……ダメだ。ビクともせん」

 

 宝箱の蓋を引っ張るアイゼン。宝箱は全くといって動かない。

 海賊団の面々がアイゼンに協力をして引っ張ってみるが、それでも開かない。

 

「鍵穴らしい鍵は見つからん……」

 

「真っ二つに斬ってやろうか?」

 

「だ、ダメだよ!!宝箱は壊さずにちゃんと開かないと!」

 

 ビクともしない宝箱にお手上げのアイフリード海賊団。

 ロクロウが斬って開けようかと武器を構えるのだが、ライフィセットが立ち塞がる。

 

「だが、力ずくも開かないとなると切り開くしか無いんじゃ」

 

「バカをいえ。宝箱は宝だけでなく宝箱自体に価値がある。壊してしまえば、お宝じゃなくなる」

 

 そういうもの、なのだろうか?

 

「男ってそういうの好きよね……」

 

 アイゼンの言っている事に理解が出来ない私とベルベット。

 よく分からないが、スレイならそう言ったことを言いそうな気がすると思っているとマギルゥとエレノアがやって来た。

 

「なにをやっておるんじゃ?」

 

「マギルゥ、この箱になにか術が掛かっていないか調べてくれ」

 

「来て早々にいきなりじゃの……どれどれ、ふむ……なにか特殊な術の様な物は掛かってはおらんぞ」

 

 アイゼン達の力でも開かない。

 そうなると特殊な術が施されていると考えたが、マギルゥはそれを否定する。

 

「あんたならどうにか出来るんじゃない?」

 

「オレがやるってのは推理物の小説を犯人は誰か最後のページで確認してから読むのと同じなんだがな」

 

「どういう意味よ」

 

「宝箱を開けれるなら、やってくれ」

 

 ずっと黙っていたゴンベエにバトンを渡すアイゼン。

 渡されたゴンベエはなにか紐のような物を取り出して耳につけて片端の先端部分を宝箱につけてコンコンと軽く叩く。

 

「……ん?」

 

「なにか分かったのか?」

 

「これ、宝箱じゃないぞ?」

 

「なに?」

 

 音で確かめたのか、驚くことを言うゴンベエ。

 如何にもな形をしているコレが宝箱じゃないとなると、いったいなんだ?

 

「あの来て早々に言うのもなんですが、コレはダミーじゃないでしょうか?如何にもな宝箱を見せれば貴方達の様な人が食いつくと予想して、本当の宝は別にあったと」

 

「その線が濃厚だな。これ音からして中に空洞が無い」

 

「骨折り損か……っち」

 

 エレノアの意見が否定できず、ハズレを掴まされた事に苛立つアイゼン

 如何にもな宝箱に宝が入っていないとなると、別の何処かに本物の宝が入った箱がある……ん?

 

「この箱がダミーで本物が……もしかして!!」

 

「ライフィセット、アレかも知れない」

 

「そうだよね!」

 

 同じ考えに辿り着いた私とライフィセット。

 この宝箱がダミーで、宝を入れた物が何処かにあるとするならば近くに、そして木を隠すならば森の中と言う言葉がある。

 

「こういう時はこの台座が怪しいパターンだ……ビンゴ」

 

 ゴンベエも同じ事を考えていた。

 宝箱と同じ様に何度も何度もコンコンと叩いて音で中を確認すると当たりだったのかニヤリと笑う。

 

「中に空洞がある……だけど、コレはどうやって開けんだ?」

 

「……そうか!ねぇ、この台座に乗ってみてよ!」

 

「こうか……なにも反応しねえぞ」

 

「重さが足りないんだよ」

 

「ちょっと待ってろ」

 

「業魔化!?」

 

「いや、違う。山の妖精だ!!」

 

 台座の仕掛けを解こうとするが足りない重さ。

 ゴンベエは仮面を取り出し山の妖精に変身するのだが、はじめて見るエレノアは驚いて槍を取り出すので止める。

 

「お主、本当になんでもありじゃの」

 

「…………」

 

 山の妖精の姿では喋れないのかジェスチャーでなんでもは無理と言うゴンベエ。

 ゴンベエに出来ないこと……なんだろう?

 

「あ、開いた!」

 

 ゴンベエが変身した事により、重さが増加されて台座の仕掛けが開く。

 中から金銀財宝がズラリ、とは出てこず一冊の本が出てきた……コレは……古代語で書かれている。

 

「サイズ的に金銀財宝がズラリとはいかねえか……プラチナがあれば少々欲しかったんだがな」

 

「コレって古代語……」

 

「パターンで言えば、コレはアレだよな」

 

「ああ、アレだな」

 

 アレ?

 

「航海日誌的なので宝のありかが記されてる……文章が結構長いから、ハズレ!って書いてる可能性は無い!」

 

「宝の地図!」

 

「ライフィセット、台座を開いたのはお前だ。この宝はお前の物だ……解読は任せたぞ!」

 

「うん!!」

 

 色々と他力本願な気もするが、古代語を読めるのはライフィセットだけだ。

 宝の地図を手に入れて嬉々としたライフィセットは早速解読をはじめにグリモワールの元に向かって走っていった。

 

「さてと、成果が殆どニンジンだったし、オレは戻るか」

 

「また爆弾を作るのか?」

 

「いや、それよりもヤベー物を作る……ホント、バレたらヤバイのを」

 

 いったいゴンベエはなにを作ろうとしているんだ?

 戦利品の確認を終えると全員が解散をして、それぞれがそれぞれの事をして夜を迎える。

 

「若気の至りか」

 

 夕飯はベルベット特製のシチュー。

 戦利品であるノルミンニンジンをこれでもかと使っており、程よい甘さが食欲を沸き立てる。

 ロクロウが食事前に若気の至りについて話していたことを話してくれ、マギルゥがポエムを書いていたという意外な事が判明した。

 

「お主達は若気の至りはあるのか?」

 

「……一時のテンションに身を任せた結果が今だぞ?」

 

 ゴンベエ、それは笑えない。

 此処を拠点にしてからなにかを作っていて、ゴンベエの持つ技術力の恐ろしさを理解し出した為に誰も笑えない。

 

「そして今もどうせ自爆させるんだから、やっちゃえとバカをやってるんだ」

 

「あんた、本当になにを作ってるのよ?」

 

「いや、それはちょっと……ライフィセット、来ないな」

 

 本当になにを作ろうとしているんだ?

 話題をそらすかの様にゴンベエはこの場にいないライフィセットを話題に出す。

 

「あの子、まだ解読をしてるみたいね……あんたが電球を渡したから、夜更かしもしていたし」

 

「悪かったな……電球があれば24時間働けるようになるんだ」

 

 それはブラック過ぎないか?

 とはいえ、今は食事時。私達は既にいただいているが、ライフィセットも食べなければ……天族は別に食べなくても良いらしいが、それでもだ。

 

「私が呼んでこよう」

 

「別にいいわよ。私が呼んでくるわ」

 

「あ、でしたら私が」

 

「別にあんたが行かなくてもいいわよ」

 

 私が呼びに行こうとすると止めるベルベット。

 代わりに向かおうとするが、今度はエレノアが行くと言い出すがエレノアも止める。

 

「私が行きますよ。あの子は私の聖隷です」

 

「……私のって、あんたの物じゃないわよ?」

 

「貴女の物でもありません」

 

 ……あれ?

 何時の間にか一触即発な空気を醸し出すベルベットとエレノア。

 

「おぅ、怖い。弟を巡る姉の戦いじゃの」

 

「はぁ?違うわよ!!」

 

「違います!!私は単純にライフィセットを心配しているだけで、そういった感情は向けていません!!」

 

「ぜってー嘘だろ。後でライフィセットにお姉ちゃんと他人行儀で呼ばせてみ、げぶごぉ!?」

 

「あんた、飯抜きね!」

 

「明日は私の食事当番ですが、貴方の分は作りません!!」

 

「実験、してやるぞ……」

 

 ゴンベエ、どうしてそんなに導火線に火をつけたがるんだ?

 例によってぶん殴られるゴンベエ。今回はエレノアの蹴りもくらっており、やられるのを覚悟していたので呆れる。

 

「皆、大変だよ!」

 

「おっと、噂をすればなんとやらだな」

 

 慌ててやってくるライフィセット。

 話をしていたらやって来たとロクロウは笑うが、ライフィセットは慌てている。

 

「なにが大変なのですか?」

 

「台座に入っていた古文書の内容が分かったんだよ!!やっぱりコレは宝の地図だったんだ!!」

 

「内容がか。なにが書いていた?」

 

「うん、えっとね」

 

「その前に少し落ち着きなさい。興奮していて息が荒いわよ」

 

 興奮の熱を冷まそうとするベルベット。

 ライフィセットにゆっくりと深呼吸をさせて呼吸を整えさせた……マギルゥが言っている事に賛同をするわけではないが、姉だな。

 

「どれ早速成果を披露してもらおうかの」

 

「うん……『栄華を極めし大竜、大海に落ちた星の元、翼を休めん。小竜を操せし大竜の顎は開かれん。欲望に溺れた末に3つの翼を倒りしものに全てを譲らん。翼の1つは青き瞳と共に、1つは赤き瞳と共に、1つは緑の瞳と共に』……」

 

「……色々と意味深な内容だな」

 

 そのままの意味を言っているので、細かい事はまだ分からない。

 

「だが、宝の地図であることには違いない……大海に落ちた星、か。確かこの島の近くに星の形をした島があったはずだ」

 

「星の形?それはまた随分と変わった形をした島ですね」

 

 古文書の内容に心当たりがあったか、この辺りにある島を出すアイゼン。

 随分と風変わりな島だが……大海に落ちた星を星の形をした島に変換すればそれで合っているの……か?

 

「そこに宝があるのか?」

 

「それは調べてみないと分からんことだ」

 

「僕、その島に行ってみたい!!」

 

「宝探しか、たまにはそういう余興も悪くはない!」

 

 手に入れた物が宝の地図だと判明してワクワクするロクロウ。

 この地図の内容だけでは宝の地図しか分からず、宝の内容が分からないが……なにが眠っているのだろうか?

 

「ちょっと、あんた達、なに勝手に決めてるのよ」

 

「なにって、宝探しに決まってんだろ」

 

「そんな暇があると思ってるの?」

 

 そうだった。

 この監獄島での生活に馴れてしまったせいか、本来の目的を忘れかけていた私達。

 喰魔を探すのが本来の目的で宝を探している暇は何処にもない……ダメなのだろうか?

 

「ダメ、かな……」

 

「ダメとは言わないけど……あんまり長くなるのは」

 

「宝探しを甘くみるな」

 

「喰魔探しよりは安全性があるだろう」

 

「……それもそうか」

 

 アイゼン、そこは納得をしてはいけない。

 星の形をした島が此処からかなり近くにあるらしく、宝探しに時間は特に掛からない。時間が掛からないならとベルベットから許可を貰い明日にはアイゼンの言う星の形をした島に向かうことになった。

 

「あ、オレはパスだ」

 

 と思えばゴンベエはパスをした。

 

「あんたも来なさいよ」

 

「いや、オレも行けるなら行きたいけども、明日ぐらいに完成しそうなんだよ」

 

「だったら、分身を」

 

「分身を使って明日なんだよ」

 

「……アメッカはどうするつもり?」

 

 意地でもゴンベエを連れていきたいのか私を出したベルベット。

 私を出して連れていこうとするのはショックだが

 

「普通の憑魔なら相手に出来ないわけじゃない」

 

 今回の目的はお宝探しで、喰魔探しではない。

 街の外に出ればそこかしこに憑魔がいるが別に私は戦えないというわけではない。自覚をしていないだけでエレノアやライフィセット達が物凄く強いだけで、私だって普通の憑魔を相手にすることぐらいならば出来る。

 

「ゴンベエが作っている物はきっと役に立つ。だから」

 

「……はぁ、分かったわよ」

 

 無理強いしないで欲しいと頼むと折れてくれたベルベット。

 ついてきてくれない事は心細いが、何時までもゴンベエに頼っていては私も成長する事は出来ない。

 

「そう落ち込むな」

 

「落ち込んでなんかないわよ。あんたが来た方が確実にお宝が見つかるでしょ。貴重な時間を割いて向かったのはいいけど、なにもありませんでしたが1番最悪なのよ」

 

「それもそうか……内容的になにか試練的なのが待ち構えているだろうし、アメッカ。コレを貸そう」

 

 ベルベットの言っている事に納得をすると腕輪を貸してくれるゴンベエ。

 この腕輪は……なんだろう?ゴンベエが貸すという事はなにか不思議な力を持った道具なのだろうが。

 

「エバラのごまだれで使えるから……壊すんじゃねえぞ」

 

 不慮の事故とはいえ何回か壊した為にか釘を指しながら使い方を教えてくれる。

 エバラのごまだれ……そうか!この腕輪はあの時の事が出来るのか!コレがあれば宝探しが捗る。

 

「エバラのごまだれ……なにが出来るの?」

 

「それはその時がくれば分かる。余程の事がなければ、その腕輪で謎解きは捗る」

 

「何故使用するのにエバラのごまだれと言わなければ」

 

「細かいことをいちいち気にするな」

 

 細かいことなのだろうか?

 とにかく、ゴンベエから貸してもらった腕輪を装備する。まことのメガネとメガネを壊した事があるので、絶対に壊さない。肌身離さず持っておこう。

 

「……他には無いわけ?」

 

「あるかないかと言われればあるぞ」

 

「なら、私に貸しなさい」

 

「此処にいる奴等とラヴィオの腕輪で宝がある所に行けないとなると、オレが出向かないと無理だろう」

 

「……」

 

「まぁ、それでもなにか貸して欲しいと言うんだったら、コレを貸してやるよ」

 

 青色の石を紐に括りつけた物を渡すゴンベエ。

 紐がなにかすごい特別な紐、といったわけではなく青い石からなにかが飛び出るといったこともない。ベルベットは力強く握ったり振ったりしてみるがなにも起きない。

 

「これ、なんなの?」

 

「お守りだ……余所見してるとお前は無茶をするからな。力がある分、余計に質が悪い」

 

「お守りなんて」

 

「いいから持っとけ。それを持っておいて損はねえんだから」

 

 ゴンベエは嫌がるベルベットに青い石を無理矢理持たせた。

 

「期待してるぞ。金銀財宝があれば今後の活動資金になる」




スキット カラダニピース(意味深)

ベンウィック「ほら、注文してた品だよ」

ゴンベエ「ひーふーみー……あ~もうちょっと追加で」

ベンウィック「追加って、またかよ!」

ゴンベエ「仕方ねえだろ。コレから先、なにがいるか分からねえんだから素材がどれだけいるか分からねえんだから」

ベンウィック「せめて作る物を決めろよ!」

アイゼン「なにを騒いでいる?」

ベンウィック「副長、こいつまだ材料を買ってこいって言ってくるんすよ!しかも砂とか石とか変な物ばっか要求してくるんすよ!」

ゴンベエ「バッカ。お前、砂じゃなくて珪砂だ。ガラス細工を作るのに必要な絶対の素材だし、他にも色々と必要なの多いんだよ。拠点があるんだからなにかあった時にパッと発明品を作れる様にしておかねえと」

ベンウィック「せめて作る物を決めろよ。てか、なにを作ってんだよ」

ゴンベエ「……ヤバい物だ」

ベンウィック「なにがどうヤバいってんだ」

アイゼン「そう怒るな。なにを作ろうとしているかは分からないが、なにかを作ろうとしているのは確かだ」

ベンウィック「ったく、パーシバル殿下といい副長は変なところで甘いんだから」

ゴンベエ「まぁまぁ、副長もそう言っているし許してやれよ」

ベンウィック「お前の事を言ってるんだよ……ったく。お前が色々と注文をするから金もゴッソリと減ってるんだから、ちょっとは金になるもんでも作れよ」

ゴンベエ「金になるもん作れつったって売る宛でもあるのか?」

アイゼン「手に入れた財宝をガルドに替える為に利用はしているからツテはいくらでもある」

ベンウィック「一応商船で停めてるから、顔は広い方だよ。船止め料は上乗せされまくりだし、最近は赤字続きだけどな」

ゴンベエ「悪にも悪なりの工夫があるんだな。ちょっと待ってろ。売れそうな物を今から作るから」

ベンウィック「作るかって、そんな簡単に出来る物なのか?」

ゴンベエ「馬鹿を言うな、何時の時代も衣食住の3つに関わる物は大体需要があって売れるんだ。特に食は人類が滅亡しない限りは需要はある」

アイゼン「確かにそうだが、食はお前よりもエレノアやベルベットの方が美味く作れるだろう。売るからには並大抵な物は許さんぞ」

ゴンベエ「ベルベット達じゃ作れない物を作るんだよ。小麦粉から抽出したデンプンに硫酸を少々入れてっと」

ベンウィック「硫酸って、お前なにを入れてんだよ!」

ゴンベエ「毒重石を入れてゆっくりと混ぜて中性に変換したら、ヨーグルトとレモンの果汁を混ぜて、はい、完成」

ベンウィック「完成って、毒の石と硫酸が入ってるんだろ、こんなの飲んだら」

ゴンベエ「死なない様に色々と調整してんだろうが」

ベルベット「あんた達、なに騒いでるのよ?」

ゴンベエ「ベンウィックが金になるかって人の作ったジュースにケチをつけてる」

ベンウィック「毒だ硫酸だ危ない物を入れてるだろうが」

ゴンベエ「そんな事を言い出したら、鰻も毒があるだろう……よし、中々にそれっぽい」

ベルベット「ちょっと貸しなさい…ん…別になんともない甘いジュースよ。レモネードと牛乳を合わせたみたいで変わってるけど、ライフィセットなら好みそうな味ね」

ゴンベエ「コレに炭酸水を混ぜたら中々にいける」

ベンウィック「炭酸水って、んなの買ってきたっけ?」

ゴンベエ「酒から発生する二酸化炭素から作ったんだよ。それよりもお前達の分も作ったから飲めよ」

アイゼン「いただこう」

ベンウィック「副長……ああ、もう!飲むよ!飲めばいいんだろう!……んぐ……普通に美味いな……」

アイゼン「悪くはないが、如何せん子供向けな味だな」

ゴンベエ「カ■■ス擬きだからな……レディレイクでコーラを売ってた時といいやってる事、なろうだな、ほんと。それで売り物になるか?」

ベンウィック「まぁ、材料さえ秘密にすれば問題は無いと思うけど……コレ、売って大丈夫なのか」

ゴンベエ「法律上問題無い……」

ベルベット「食べ物を規制する法律なんてこの国にあったかしら?」

アイゼン「要は内容さえ知らなければ誰でも美味しく飲める飲み物だ。製造方法を企業秘密にすればいい」

ゴンベエ「相変わらず闇が深い事をしてる……売れるんだったら、ヨーグルトを大量生産しないとな」

ベルベット「ヨーグルトを大量生産って、そんな事が出来るの?」

ゴンベエ「大丈夫だ。スプーンに一杯掬ったヨーグルトを新しくヨーグルトにしたい牛乳に入れて容器ごと40℃前後のお湯に2、3日付けとけば完成する」

ベルベット「40℃前後のお湯?」

ゴンベエ「あ、やべ……」

アイゼン「お前、まさか」

ベンウィック「うげぇ!?マジか!?」

ゴンベエ「容器はお湯に触れてるけども、中に入ってるヨーグルトには一滴も触れてねえ!」

ベルベット「あんた、お風呂でなんて物を作ってるのよ!?なんて物を飲ませてくれたのよ」

ゴンベエ「使える物は使わねえと勿体無いだろう。第一、ベルベットやアメッカが入った風呂で作った事により需要が一瞬にして上がる」

ベルベット「死ね!!」

ゴンベエ「ごふっ……」

ベンウィック「……副長、これ、売りに出しますか?」

アイゼン「やめておけ。企業秘密にしても、材料がバレた時点でなにをされるかたまったもんじゃない。商船として築き上げてきた信頼が一瞬にして落ちる」

ゴンベエ「馬鹿野郎、ベルベットとアメッカとエレノアとライフィセットとマギルゥが入った風呂で出来たヨーグルトを使った■ルピ■擬きだぞ……バカ売れする」

ベルベット「あんたはいっぺん、地獄に落ちろ!!」

ゴンベエ「間接を外せるオレに関節技をかけてもおっぱい当たってるだけで痛くないぞ」ゴキゴキゴキ




今年中にアルトリウスを殺るのは無理だった……作者を許してくれ。


早いところ現代に戻ってスレイをぶん殴ったり「弟を助けるのに理由なんているの?」とか言わせたり「つまり、私はゴンベエの事を」と笑顔を曇らせたり「あんた達以外を皆殺しにして世界を滅ぼすから」とか「今私が叫べばゴンベエは」とかさせたい。

そしてザレイズ(笑)をやりたい。バグったミリーナ様とか色々とやりたい……頑張らなければ。


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鏡は本物で絵は偽物

感想が作者のやる気を奮い立てる(感想がほちい)


「お待ちどうさま!」

 

 宝のありかが記された書物を手に入れた次の日、バンエルティア号で私達は星の形をした島に向かった。

 上空から見れば星の形をしているのだろうが、船に乗っているので見えない。ざっくりとした島の形が書かれた地図には星の形をしている。

 

「お宝があそこにあればいいのだが」

 

「この辺の海域にお宝が眠っていると言う噂は前々からあった」

 

 折角、お宝を求めて来たのだからなにも無かったと言うオチは避けたい。

 心配する私に信憑性はあるとアイゼンは教えてくれる。

 

「よし、それじゃあ艀船に乗り換えて島に行くか」

 

「どんなお宝が眠ってるんだろっとと」

 

 何時もの面々が艀船に乗るのだが、思ったよりも揺れるのかバランスを崩しそうになるライフィセット。

 直ぐにベルベットが近付いて、ライフィセットを支える。

 

「バランスを崩しやすいから、気を付けなさい」

 

「う、うん」

 

 気のせいか柔らかく優しくなっているベルベット。

 ライフィセットに甘いというか、なんというか全体的にツンツンしていたのが納まっている。

 

「人のことジロジロ見て、なによ?」

 

「いや、ライフィセットが転ばない様に支えてくれ」

 

 視線に気付いたのかめんどくさそうな顔で私を見るベルベット。

 理由はよく分からないが、何時もより柔らかくなっていることはいいことだと深くは考えずに見守る事にする。

 

「じゃあ、オレ達は監獄島に戻ってます。副長達がここにいる間、向こうの守りは任せてください!」

 

「まぁ、聖寮がわんさかやってきてもあやつが残っとるから問題無いじゃろ」

 

「いやいや、オレ達も結構やるからな!お前等が相手にしてるのがそれよりやベーだけだから!」

 

 遠回しにベンウィック達だけでは聖寮は無理というマギルゥ。

 もし監獄島に聖寮が襲撃してきたら、数で圧倒されてしまう……そう考えれば、ゴンベエが残ってくれてるのはありがたいのかもしれない。

 

「それに、アイツが電波の調整がどうとかで船になんか乗せるって言ってたし」

 

「いったいなにを作っているのでしょうか……凄まじく気になりますね」

 

「本当ならオレ達も宝探しをしたいんですけど……それじゃあお宝に期待してますね!」

 

 ベンウィック達は監獄島に戻っていき、私達を乗せている艀船は星の形をした島に上陸をした。

 

「……雰囲気はあるな」

 

 スレイと出会った遺跡とは異なるが、この島は独特の雰囲気を醸し出している。

 

「先ずは宝箱が隠してありそうな場所を探す」

 

「宝箱を隠してそうな場所……」

 

「……宝箱はその辺に幾らでもあるんじゃないのか?」

 

 こう、普段からベルベット達がポンポンと開けているのを見るぞ。

 

「アレはねこスピよ。宝とは無関係なもの」

 

「ねこスピ?」

 

「まぁ、酒の勢いで色々とあったんだ」

 

 言葉を濁すロクロウ。

 アレはいったいなんなのか気になったが、それは今は関係無いと頭の隅に置いておいて宝が眠っている場所を思い浮かべる。

 

「洞窟の入口や土が盛り上がった塚があればそこが宝の手懸かりだ」

 

「じゃあ、先ずは島を探検だね」

 

 なにをするにしても、先ずは歩かなければ。

 ライフィセットの言うとおり、島を探検することになるのだが思ったよりも草が生い茂っている。

 

「草がボーボーじゃの」

 

「こうやって掻き分けながら進まないといけませんね」

 

「……よし、此処は刈り取りながら進もう!」

 

 太もも辺りがチクチクとして地味に痛い。

 奥に進むのに手間が掛かっていて、あまり遅くやっているとベルベットに怒られる。

 

「刈り取りながらって、この量だよ?」

 

「燃やすにしても真ん中辺りだから、ワシ達に被害が出るぞ?どうするつもりじゃ」

 

「ちょうどいい技がある」

 

 私は槍を取り出し、自分を中心に円を描くように草を刈り取る。流石は色々と凄い素材を使って出来た槍だ。軽く振るだけで草は刈り取れていく。片手を伸ばした状態で槍を持っても草に触れない程に刈り取ると一旦手を止め、腰を沈めて意識を集中させる。

 

「おい、まさか」

 

「でやぁあああ!!」

 

 なにをするか気付いたアイゼンを他所に私は回転する。

 槍が抜けない様に強く握ったまま竜巻の様にグルリグルリと回転し、草を1本も残さない勢いで切り取っていく。心なしか何時もよりも槍が扱えている気がする。このままいけば刈り取れ━━うっ!!

 

「気持ち、悪い」

 

 吐きそうだ……。

 

「そりゃそうだろ」

 

「あんなに回転してたら気持ち悪くなって当然でフよ」

 

 気持ち悪くなった私に呆れるロクロウとビエンフー。

 前に植物型の憑魔の群れをゴンベエが一掃していた時に使っていた技だが、予想以上に頭が痛い。

 

「見よう見まねでゴンベエの技を試したのが、ダメだったか」

 

「あんたね、アイツと同じ事をそう簡単に出来るわけ無いでしょ」

 

「っく……」

 

 ふらつく足元、揺れる視界、体は思ったように動かない。

 だが、草は刈り取れて道を作ることは出来た。これで更に奥に進めると頭痛を乗り越えようとする

 

「あ……ちょうどいい」

 

 のだが無理だった。

 足を滑らせてベルベットの谷間に頭を入れてしまった……柔らかい。

 

「そこは真似しなくていいから」

 

「はっ、す、すまない!」

 

 ベルベットに軽く小突かれ私は起き上がる。

 ゴンベエが来ていたらやりそうな事を私がしてしまうとは……いや、逆によかったのかもしれない。ゴンベエが来ていたらベルベットの胸に顔を入れる事は無かったから。最終的にベルベットに殴られるのはなんとなく分かるが、見たくない。ベルベットになにかをしているゴンベエを見ると胸が痛い。と言うよりはなぜゴンベエはベルベットの胸に向かうんだ?確かにベルベットの胸は魅力的だ。綺麗な女性で胸元が開いている格好をしている。

 自分の胸に手を当てて、自分の胸の大きさを確認する……ベルベットとは言わないが私も脱いだら結構あると言われる位にはある……。

 

「さっさといくわよ」

 

 ベルベットと私の胸の違いに真剣に考えているとベルベット達は先に行こうとしていた。

 かなり大事な事だが最優先すべきはお宝を見つけ出す事だと気持ちを切り替えて私が文字通り切り開いた道を歩いていると遺跡の様な場所に出た。

 

「明らかな人工物……かなり古い物だな」

 

 柱に触れながら、何時の時代の物なのかを考える。

 触れた瞬間に砂粒の様な物が指についたことからかなりの年月がたっていて尚且つ誰も触れていない……この時代で別の大陸となると本当にかなりの年月が経った遺跡だ。

 

「ふむ……ふーん、成る程。どうやら地面深くに続いてる様じゃの」

 

「そこが入口か?」

 

「そうみたいでフね」

 

 はぐれない程度にそれぞれでこの如何にもな遺跡を探索していると入口を見つけるマギルゥとビエンフー。

 他を調べている面々を呼んで入口が見つかったことを言うとアイゼンが入口に触れる。

 

「ふん!……簡単には開かないか」

 

「じゃあコレを使おう」

 

 閉まっている入口に触れて開けようとするが開かない。

 力押しでビクともしなかったのでゴンベエから貸してもらった腕輪を使って中に入ろうと提案をするが嫌そうな顔をする。

 

「それを使うのは最終手段だ」

 

「何故だ?」

 

「……お前は推理小説をネタバレした状態で読みたいか?」

 

「それは嫌だが……」

 

 推理小説は誰が犯人かミステリーを自分で解決しつつ読むもので、いきなりのネタバレは嫌だ。

 

「ゴンベエの道具を頼るという事はそれと同じだ」

 

「他人の力を借りてお宝を勝ち取るより自分の力で勝ち取りたいもんな」

 

 アイゼンの意見に納得するロクロウ。

 ゴンベエから借りた腕輪を使うのは最終手段で何処かに他の入口はないかとまだ探索をしていない場所を探したりしてみるが最初に見つけた閉じている入口しか無かった。

 

「栄華を極めし大竜、大海に落ちた星の元、翼を休めん。小竜を操せし大竜の顎は開かれん。欲望に溺れた末に3つの翼を倒りしものに全てを譲らん。翼の1つは青き瞳と共に、1つは赤き瞳と共に、1つは緑の瞳と共に」

 

「コレが本当に宝のありかを示してるとするなら」

 

「大竜の顎とやらが入口をさしているのだろうが……竜なんて何処にもないぞ?」

 

 古文書に書かれていた事を口にするライフィセット。

 口にした内容を考察して入口を考えるロクロウとエレノアだが、内容がそのままの為に分からない。

 

「こういう遺跡には、何かしらの仕掛けがある筈だ」

 

 レディレイクの地下にも遺跡があって、仕掛けがあったとスレイは言っていた。

 種類は違えども遥か昔に作られた物でアイゼンの怪力でも開かないとなれば力で開けるのでなく、なにか正しい手順で開けなければならない。大竜の顎が入口なら小竜を操せしがの部分が鍵だと仕掛けがないかと探す。

 

「大変です!向こうからワイバーンの群れが!」

 

 仕掛けを探していると慌てた声を出すエレノア。

 

「なんでこんな所にワイバーンの群れが居るんでフか!?」

 

「そういえば言っていなかったな。此処は強い魔物の群れが居ることでも有名だ」

 

「それを先に言いなさい!!」

 

「ワイバーンは竜の一種じゃ。小竜とはあやつ等の事では?」

 

「いや、ワイバーンは飛竜で小竜じゃない」

 

 竜の一種だが、小竜とは言わない。ドラゴンパピーを小竜というのが一番しっくり来る。

 

「そうなると小さいドラゴンかの」

 

「ドラゴンをあやすんですか!?」

 

「無理だよ!!」

 

「いや、ものは試しだ。やってみる価値はある!」

 

 此方に向かってくるワイバーンの群れに向かったロクロウ。

 

「とーとととととと」

 

「戦うわよ。アメッカ、アイツが居ないから自力でどうにかしなさいよ!」

 

 ロクロウの行動を見て剣を出すベルベット。

 案の定と言うべきか、ワイバーンはロクロウに対して怒り、私達にも怒りを向けてくる。

 

「ゴンベエが居なくても、ワイバーンの群れぐらいならいける……多分」

 

「ぬぅお!?やっぱ無理があったか!」

 

 きっとこの槍ならいける筈、十中八九で勝てる……そう願いたい。

 ベルベットが戦う姿勢だと分かると私達は武器を取り出してワイバーンに向かって攻撃を仕掛ける。

 

「ウィンドランス!」

 

「風迅剣!!」

 

 風の槍をワイバーンに飛ばす術をアイゼンが撃ち、すかさず風を纏った突きを決めるロクロウ。

 

「ほぉれ、爆発しろ!エクスプロード!!」

 

「蔓落!」

 

 光を一点に凝縮し爆発を起こすマギルゥ。

 槍を使って高く跳んだエレノアは爆発で吹き飛んだワイバーンの上を取り、踵落としで叩き落とす。

 

「炎牙昇竜脚!」

 

「セイントバブル!」

 

 炎を纏った足で蹴りあげるベルベット。

 練り上げられた先には大きな泡があり触れると爆発を起こしてワイバーンを水が飲み込む。

 

「百花繚乱!!」

 

 他の皆が戦っていると私も負けじと槍を振るう。

 槍の周りから無数の桜の花びらが出現して舞い、ワイバーンを切り裂いていく……のだが、途中で消え去る。幸いにも最初の攻撃で倒せたが、この槍を使いこなせていないので技が完璧に決まらない。完璧に決まれば無数の敵を倒せる筈なのに……どうしてなんだ?

 

「ひぇ~この数を相手にするのわ堪える!」

 

「言っている暇があるなら1体でも、と言いたいところですが」

 

「多すぎるよ!」

 

 1体だけを相手にするならば、直ぐに終わったが相手にしているのは群れ。どれだけいるか分からず、楽にとは言えないが普通に倒せる敵を倒し続けるのには限界があった。

 この中で一番体力の無いマギルゥが息を荒くしている。アイゼンが言っていることが確かならワイバーンの群れ以外にも魔物の群れが他にもいて何時襲いかかってくるか分からない。

 

「一旦逃げましょう!」

 

「それは賛成じゃが、いったい何処に逃げ場がある?此処を離れても、他の魔物の群れに襲われるだけじゃぞ」

 

「だったら、私に掴まってくれ!」

 

「なにかあるの!?」

 

「説明は後だ、早く!」

 

 此処を離れても一緒なら、此処を離れずにワイバーンの群れから逃れるしかない。

 私の言葉を信じ私の肩に手を置いたり槍を握ったりしてくれるベルベット達。私は遺跡の壁に触れて叫ぶ

 

「エバラのゴマだれ!」

 

「ビエーーーン、ボクを忘れないでくださいでフー!!」

 

 しまった!?

 時間が無かったが為に最後の確認をしなかった事が仇となり、ビエンフーが乗り遅れてしまった。

 

「あそこにちょうどいい感じの穴があるよ!そこに入って!」

 

「わ、分かりましたでフ!!」

 

 ビエンフーなら入れそうな窪みをライフィセットは見つけ、そこに誘導する。

 ビエンフーは必死になって飛び込むとカチリと音が聞こえてゴゴゴゴとなにかが開いていく。

 

「この音、まさか」

 

「ビエンフー、絶対に動いてはいけませんよ!」

 

 音の正体を考えるアイゼンだが、それよりもとビエンフーに忠告するエレノア。

 ワイバーンの群れは私達を完全に見失ったのか、何処だ何処だとキョロキョロと辺りを見回して探す素振りを見せるが私達に攻撃する事はしなかった。

 

「なんとか去ってくれたね」

 

「ビエンフー、もう大丈夫じゃぞ」

 

「ふぅ、危うくワイバーンのエサに……ビエエエエ、絵!?」

 

 いい感じの窪みから抜け出たビエンフーは驚き叫ぶ。

 何度も何度も下から上まで確認するように見て何度も何度も叫ぶ。

 

「絵、絵、えええええ絵!?」

 

「僕たち、どうなってるの?」

 

 今の自分がどうなっているかよく分かっていないライフィセット。

 あの時は牢屋から抜け出すだけで、じっくりと感じている暇は無かったが、今改めて感じると違和感が少ない。

 

「え~と、なんて言いましょうか」

 

「勿体ぶらずに言え」

 

「……え、絵でフ」

 

「……絵?どういう意味ですか?」

 

「ですから、その皆さんが絵になってるでフ」

 

「意味が分からん」

 

「ビエンフー、お主、鏡かなにか持っておらんのか?」

 

 自分達の状態を一言で現すのだが、イマイチ掴めないエレノアとロクロウ。

 マギルゥに指示されたので帽子の中から手鏡を取り出して私達に向けるとそこには綺麗に描かれた私達が写っていた……ゴンベエの時と違う?ゴンベエはもっとこう口が3になっていて二頭身だったが、私達は普通に上手い絵描きが描いた姿だった。

 

「僕達、絵になっちゃってるの!?」

 

「成る程、これがゴンベエから託された腕輪の力か。アイツの事だ、なにが飛び出てくるか分からんと覚悟はしていたが……まさか絵になる日が来ようとは」

 

「ちょっとこれ元に戻るんでしょうね!!」

 

「だ、大丈夫だ!」

 

 前に使っていた時にもちゃんと戻れた。

 ベルベットに急かされて、元の立体的な姿に戻る。体におかしな事が起きていないか念のために確認をするが特におかしな事にはなっていない。

 

「まさか絵になる時が来るとはな。ゴンベエからカメラを借りてくりゃよかったな」

 

「あんた、自分の絵を保存しておきたいとか恥ずかしくないの?」

 

「なにを言っている、自画像は大事だろう」

 

「僕もちょっと欲しいかな……カメラに聖隷は写らないけど、絵ならいけるかも」

 

 私もちょっと自画像は恥ずかしい。

 だが……皆で写った写真は欲しいかな。

 

「あの~皆さん、絵になった事で盛り上がってるところ申し訳ないでフが、入口が開いてますよ」

 

「そう。なら、さっさと行くわよ」

 

 何時の間にか開いていたのか。

 

「バッド!?あの、ボクが開いた功績とかそういうのは」

 

「なーにを言っとるんじゃ。偶然じゃ、偶然。最悪、壊したりゴンベエから貰った腕輪で攻略したんじゃから」

 

「まだお宝もなにも見つけてませんし、此処で喜んでいてはいけません」

 

「ビエーーーン!!ボクの苦労は無かったんでフか!!」

 

 苦労らしい苦労はあったのだろうか?

 私達は偶然に開いた入口から神殿の内部へと足を踏み入れた……。

 

「ゴンベエから、電球を借りてくればよかった」

 

 あの明るさを知ってしまえば松明やランタンだと暗く感じてしまう。




アリーシャの術技

百花繚乱

説明

槍の素材に使われた森のメダルの力を引き出した技。
槍の刃を中心に無数の花びらが刃となり舞い散り敵を切り裂く。多対一の相手の数がとにかく多い時に使う木属性の奥義。
アリーシャが槍を完璧に使いこなせないので花びらが途中で消えるものの、この時点で並大抵の憑魔or業魔は一掃出来る。使いこなせば花びらを遠隔操作可能で無数の敵を一度に倒せる。


ゴンベエの術技

大回転斬り(真空円斬)

説明

剣や槍等の刃物を片手で持ち、手を伸ばした状態で渦を描くかの様に回転しながら切り裂く奥義。
周りにいる敵を一掃するだけでなく草木をもあっという間に切り裂く反面、回転しているので普通に酔ってしまう。
風を刃に纏わせる事により竜巻を発生させて相手に強烈な風の刃の渦を飛ばす事も出来るが、更に気持ち悪くなる。
それぐらいしないとヤベー相手が中々に居ないので草木を刈り取る以外には滅多に使わない。言うまでもなくふらついてベルベットのおっぱいに向かっていく。



木属性に関しては次の話のスキットで説明をします。



因みにアリーシャ達がラヴィオの腕輪で絵になったら公式のイラストになるけど、ゴンベエが絵になったらワールドトリガーのカバー裏の二頭身二宮になる。


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罠と宝は紙一重

新作書き始めました。
異世界転生させる側の話で、ちょくちょく出てくる転生者養成所関係の話で、色々と危険な発言してます。


「手から炎を出して明かりを灯せないか?」

 

「そんな器用な真似、出来るわけないでしょう」

 

「いやぁ、物は試しだ。やってみろよ」

 

 目が馴れてきたとは言え、神殿内部は暗い。

 明かりを灯す道具を持ってくるのを忘れた私達はベルベットに炎を出せないかと聞いてみるが無理だという。

 しかし、やってみたことがないだけで出来るかもしれない。ベルベットは渋々、左腕を憑魔化させて黒色の炎を出す。

 

「待て、その炎は危険だ」

 

 周りが明るくなり、周りがよく見えるようになるのだがアイゼンが消せと言う。

 それもその筈。溢れんばかりの穢れが炎から噴出されていて天族であるライフィセットやアイゼンには毒でしかなかった。ベルベットもこれは危険だと察したのか、直ぐに炎を消して今度は私の方を見る。

 

「あんたこそ明かりを出せないわけ?」

 

「槍から一瞬しか出すことは出来ない」

 

 私は才能が無い為にエレノアやマギルゥの様に術が使えない。

 ゴンベエがあれこれしたお陰で剣から炎とかは出せるが、ベルベットと比べれば弱い。力に飲み込まれたとはいえ、ほんの一瞬だけこの槍の真の力を体験したから分かる。この槍の真の力を引き出せば誰にも負ける気がしない……そんな事を考えるから、力に飲み込まれる、か。

 

「おっと、3つに分かれてるな」

 

 奥へと進むと3つの入口に辿り着く。

 このどれかに宝がある場所に通じる場所に行くなら3つの内、1つが当たりで残り2つはハズレ。

 

「どうする?幸い、この数だから分かれてやるか?」

 

「いや、それは止めておいた方がいい。なにがあるか分からない以上、離れての行動が1番危険だ」

 

 入口を探索した時と同じように分かれて動くことを提案するロクロウ。

 私はそれはしない方がいいと言う。遺跡の仕掛けはなにがあるか分からない。特殊な術、天響術の様なものを行使しなければ謎が解けないとなると組分けで失敗する可能性がある。此処は多少、時間が掛かるかも知れないが全員で総当たり形式で調べた方が早い。

 

「やっぱり、アイツを連れてきた方がよかったわね」

 

 私の意見にベルベットも賛成してくれるが、ゴンベエの事を頭に浮かべる。

 最大で4人に分身出来るゴンベエならば、1つずつ同時に調べることが可能だ。組分けで失敗する可能性も低くなる……。

 

「入口の所に赤、青、緑の宝石が埋め込まれいますがなにか意味があるのでしょうか?」

 

 神殿の入口と同じくなにか仕掛けがあるかもしれないと慎重になるエレノア。

 入口についている宝石に気付く……赤色はルビー、青色はサファイア、緑色は翡翠だ。入口に宝石が埋め込まれているとなると、余程の宝が何処かに眠っているのだろう。

 

「確か古文書には3つの翼を倒りし者に全てを譲らんと書いてあったな」

 

「あ、うん。その前に欲望に溺れた末にって書いてあったけど」

 

「欲望がなにを示してるかは分からぬが、3つの翼とやらはこの3つの部屋の先にあるのじゃろう」

 

「つまり試練をクリアして3つの翼を手に入れればいいというわけですね?」

 

 簡単に考えればそうなるが、それならばもっと別の文になっている。

 ライフィセットの解釈が間違いとは考えづらい……欲望に溺れた末にはどういう意味だ?

 

「とにかく、総当たり式で入るしかないな」

 

「なら、青にしましょう」

 

「青色?赤色にしないのか?」

 

「……なんで赤色って決めるのよ」

 

「ベルベットは赤と黒のイメージが強いから」

 

 得意な攻撃は炎で赤、今着ている服も赤、ゴンベエから貰った剣の力を引き出せば全体的に紅くなる。

 ベルベットのイメージカラーと言えば燃えるような赤か、綺麗な髪の黒色のどちらかしかない。

 

「別にイメージカラーなんて狙ってないわよ」

 

「イメージカラーは大事だぞ。ピンクや黄緑だと海賊らしさが薄れる」

 

「そりゃあんた達の話でしょ。イメージカラーなんて私には関係無いわ」

 

「僕はベルベットの黒い髪、好きだよ?」

 

「……勝手にそう思いたければそう思ってなさい。とにかく、青よ」

 

「その根拠は?」

 

「敷いて言うなら、女の勘よ」

 

 強い。

 アイゼンはベルベットが青色を選ぶ理由を聞いたが、物凄く強い答えが帰って来た。どうやっても否定どころか意見すら出来ないので、そのまま全員で青色の入口を選び奥へと進んでいく。

 

「おぉ!!」

 

「これは……」

 

 奥へと進んでいくとこれでもかと言わんばかりに大量の宝石があった。

 青色の道だけに青い宝石しかなく、他の色の宝石は無い。

 

「やったでフ!これだけあればボク達、億万長者になれるでフよ!」

 

 貧乏生活から抜け出せると両手を上げて喜ぶビエンフー。

 確かにこれだけの量をガルドに変えれば相当な額になるが……違和感を感じる。

 

「この青い宝石がお宝か……ありきたりすぎて、つまらんな」

 

「お主、なにが出ると予想しておったんじゃ?」

 

「そりゃ伝説の剣とか」

 

「ゴンベエは持っているぞ?」

 

「魔法みたいな事が出来る道具とか」

 

「それも持ってるわね」

 

 宝がありきたりすぎてつまらないと感じるのはいいが、そういう道具的なのはゴンベエが持っている。

 冷静になって考えれば時を越える事の出来るオカリナというとてつもない宝を持っているな。

 

「しかし、コレがお宝か……」

 

 確かに価値があるものだ。

 アイフリード海賊団の伝を使えば現金に換えることも出来るだろうが、なんと言うか大雑把すぎている。

 

「結論を先に急ぐでない……欲望に溺れた末と言うのはこの宝石と関係していると睨んでおる」

 

「もしかして、此処にある宝石を全部持っていくのですか!?」

 

「そうすればなにかが起こるかもしれんのー」

 

 マギルゥの案に渋い顔をベルベットだけがするが反対する理由は特にはないので全員で手分けして宝石を集める。

 地図である古文書が宝箱に入っていたのもあるが、この時、普通に宝を持ち帰る袋の様な物を忘れているのに気付き、全員でライフィセットの袋に入れることに。

 

「袋、もうこんなにいっぱいだね」

 

「こんなに詰めてもまだ、宝石が残っている……」

 

 一度、袋か籠かなにかを持って出直した方が良いんじゃないか?

 そう考えていると

 

 

━━ガコ

 

 

 不吉な音がなった。

 明らかになにかが作動した音だった。

 

「嫌な予感がする」

 

「壁が迫ってきたぞ!!」

 

「ちょっとビエンフー!なにをしたのよ!!」

 

「ビエエエエ!ボクのせいでふか!?」

 

 ビエンフーが宝石を取ったタイミングで音が鳴ったから、ビエンフーのせいとは言えなくもない。

 

「ボクはマギルゥ姐さんに言われた通りに」

 

「お主、ワシに責任を押し付けるでない!!」

 

「言っている場合じゃありませんよ!!早くこの部屋から出ないと押し潰されます!!」

 

 もしこれが水が流れ出てくるならまだよかったが、壁が迫ってくるならば腕輪の力を使っても無駄だ。

 壁が削れれば絵になっている私達に何らかのダメージがある可能性がある。

 

「ふぅ……なにかがあるとは思っていたが、こういうなにかは期待していなかったぞ」

 

「ビエエ、残った宝石が粉微塵になったでフよ……」

 

「壁の仕掛けも含めて欲望に溺れた末なのだろうか?」

 

「……あんた達、楽しそうね」

 

 部屋から抜け出しホッと一息つく私達。

 文句を少しだけ溢すだけで全然諦めておらず、むしろこの状況を楽しんでいる事にベルベットは少しだけ呆れる。

 

「ベルベットは楽しくないのか?」

 

 私は楽しいぞ。不謹慎だが、自分の現状を忘れるぐらいには。

 

「……つまらなくはないけど、楽しくもないわ」

 

「そうか……もし、嫌だと思うならば先に戻っても構わない」

 

 危うく死にかける罠があり狂暴な魔物がそこかしこにいる。

 聖寮関係の事でもなければ喰魔関係の事でもない。私やアイゼン達は楽しんでいるところがあるのならば、戻っても別に問題は無い。

 

「嫌なんて思ってないわ。ただ単に危険な事をなんでやってるか疑問に思っただけよ」

 

「そりゃあロマンがあるからだ」

 

「そこが危険だと分かっていても、足を踏み入れる。それがロマンだ」

 

「……はぁ」

 

 ロクロウとアイゼンの言葉に頭が痛くなったのか手で押さえるベルベット……本当に大丈夫だろうか?

 

「ライフィセット、手に持っているそれはなんですか?」

 

 来た道を戻っているとライフィセットがなにかを持っていた。これは小さな石像か?

 

「あ、うん。部屋から出てくる時に見つけて、気になったから持ってきたんだ」

 

「気になるから?」

 

 見たところ、何かの道具でなく石の置物だが。

 

「うん。見ようによっては翼に見えるでしょ?翼をたおりし者って書いてあったから」

 

「確かに言われてみればそう見えなくもないですね」

 

「もしそうなら、お手柄じゃぞ坊よ」

 

「あんな切羽詰まった状況でよく気付きました。お手柄です、ライフィセット」

 

「えへへ……」

 

 マギルゥとエレノアに褒められて嬉しそうにするライフィセット。

 お手柄だと私も褒めたいところなのだが、褒められない……隣で物凄く不機嫌な顔になっているベルベットが居るから。

 

「あんた達、ライフィセットをあんまり褒めないで」

 

「そうは言うが、ライフィセットはお手柄じゃないか」

 

 ブスッとしたベルベット。

 気のせいか若干穢れが出てる。褒めるなと言うが、ライフィセットが気付かなかったらお宝が見つからなくなった可能性だったあるし、少しぐらい褒めても良いじゃないか。

 

は?今回は無事だったからいいけど、ちょっとでも遅れてたら今頃潰されてたかもしれないのよ」

 

 私の一言で更に機嫌が悪くなるベルベット。

 ゴンベエならこんな時でも色々と言えるのだろうが、今回は不在の為に此処にはおらず気まずい空気が流れる。

 

「ごめんなさい……」

 

「……」

 

 ライフィセットが謝るとベルベットは先を歩いていく。

 気まずい。なにかを言えば明るくなるのかもしれないが、私にはそのなにかが分からない。

 

「分かれ道の所に戻ってきたでフね」

 

「女の勘的にはどっちだ?」

 

「どっちでもいい……じゃあ、赤で」

 

 何だかんだと言いながらも付き添ってくれるベルベット。

 今度は赤色の道を選び進んでいくが青色の道を選んだときと大して変わらず、1番奥に辿り着くとそこには赤色の宝石がこれでもかと置かれていた。

 

「むぅ……1番奥まで来たが、またこのパターンか」

 

 同じことが繰り返し起きたのでしょんぼりとするロクロウ。

 

「逆に考えてみないか?」

 

「逆?」

 

「この宝石は充分なお宝だが、古文書の内容からみてコレがお宝じゃない。本当のお宝が何処かに眠っていると」

 

 青色の宝石の時に感じた違和感が今だとハッキリと分かる。

 入口に仕掛けがあったのに、それ以外なにも無いのにお宝と呼ぶに相応しい宝石があった。意味深な古文書の内容と一致しない。まるで、本当のお宝があってそれを隠すかの様にしている。

 

「ロクロウが言っていた様なお宝が眠っているかもしれない」

 

 宝石は時代によって値段は変わるが、基本的には高価な物だ。

 石像や絵画、本等の価値があるが分かりにくい物と違って、知識があまりなくてもハッキリとお宝だと分かる。だが、此処を含めてもあからさまに宝石が置かれている。それはまるでこれで終わりだと言いたいように。

 

「成る程、そう考えるとモチベーションが上がるな」

 

「本当のお宝を見つけるとして、また宝石をかき集めるのですか?」

 

「いや、それはフェイクだ」

 

 私達の目指しているゴールは、この宝石じゃない。

 古文書に書かれている本当のお宝で、そのお宝の鍵を握るのはライフィセットがさっき拾った石像だ。

 

「成る程、この中のどれかにライフィセットが拾ったのと同じ物があるというわけか」

 

 私の言っている事に納得してくれるアイゼン。

 この部屋はさっきと違って宝石だけでなく石像も多数あり、何処かにさっきと同じのがある筈だ。

 宝石を手当たり次第に集めていては効率が悪いのもあり石像に目を向ける。

 

「ワシはこの竜の石像が怪しいと睨んでおる」

 

「確か、入口も竜だったな」

 

 如何にもな竜の石像の前に立つマギルゥ。

 入口が竜だったことをアイゼンは思い出す。確かにこの如何にもな竜の石像はなにかがありそうだ。

 

「ビエンフー、この竜の石像を台座から外してみぃ」

 

「ボクがでフか!?間違っても、ボクのせいにしないと約束してほしいでフ!!」

 

「なら、私も手伝おう」

 

 ビエンフーにどれだけの力があるかは知らないが、この石像は重い。

 私はビエンフーを手伝い竜の石像を台座から外してみると物音が聞こえる……聞こえる……。

 

━━ゴゴゴゴゴ

 

「ちょっと」

 

 天井から物凄くなにか聞こえる。

 

「なにか降りてくるの~」

 

 ミシミシとも言っている。

 

「ぬぅおおお!?水が、入ってきた!!」

 

 嫌な音は続き、最終的には天井が砕けた。

 上から激流と呼べるほどの水が大量に流れ混んでくる。

 

「こ、これボクのせいじゃないでフよね?」

 

「どうじゃろうなー」

 

「言っている場合じゃない。早く、避難しないと!」

 

 どれだけ水が降ってくるのか分からない。

 既に足は浸かる程、浸水してしまっているがまだ足は動く。こんなもの、レディレイクとマーリンドを繋ぐ橋が壊れた激流よりも……あれ?

 

「辛く、ない?」

 

「ちっ、まさか水系が来るとは予想外だ。ペンギョンフロートを持ってきてないからこのままだと沈む!」

 

 アイゼンとロクロウが部屋から抜け出そうとするが流れてくる水に苦戦する。

 マーリンドとレディレイクを繋ぐ橋が壊れた際の激流と比べればまだ生温いのだが、それでも体が何故か軽い。

 

「まずい!水の重みで床が抜けた!」

 

 体の軽さに違和感を感じていると水の重みで床が抜ける。

 床が抜けた事により水深が若干変わるのかと思ったが、変わるどころかむしろ増えていっている。

 

「あ!」

 

 このままいけば危ういと感じ、この場から去ろうとするのだがライフィセットがなにかに気付く。

 

「どうしたのですか?」

 

「あ、えっと」

 

「ボサッとしてないで、早く逃げなさい!!」

 

「でも……うん!!」

 

「ライフィセット!?」

 

 一旦立ち止まったライフィセット。

 なにかを取りに既に自分の体以上に水深が深くなっている奥に進んでいく。

 

「まずいぞ、壁にヒビが入っている!」

 

「このままだとライフィセットが!!」

 

「っぷ、はっ!!」

 

 壁にヒビが入り危険な状況は更に増していく。

 水に飛び込んだライフィセットは水流に体の自由を奪われる。

 

「ライフィセット!!」

 

 水流に体の自由を奪われるライフィセットに迷いなく助けに行くベルベット。

 水に向かって飛び込み、ライフィセットを救出しに行こうとするのだが

 

「っ!!」

 

 苦しむ顔をする。

 

「力が、上手く……」

 

「ミイラ取りがミイラになりおったぞ!!」

 

「こうなったら!!」

 

 力が上手く入らないのか、ライフィセットの元まで届かないベルベット。

 こうなればと今度は私が水に飛び込むのだが、やはりというべきか体が羽の様に軽い。これと似たような事が過去に1度だけある。ゴンベエが封印して石になったヘルダルフを海に沈めた時と同じだ。

 激流をものともせずに私はライフィセットとベルベットに向かい、2人を助け出す。

 

「ふぅ、危なかった……」

 

「けほっ、こほっ……」

 

「ライフィセット、どうしてこんな事をしたの!危険だって分かってたでしょ!!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「謝罪じゃなくて、理由を、ごほっ、ごほっ!!」

 

「お前もずぶ濡れで溺れかけてるんだ。あんまり責めてやるな」

 

 ライフィセットを叱るベルベットだが肺に水が行きそうになったのだが、噎せる。

 

「お前、泳げないのに飛び込んだのか?」

 

「泳げるわよ……泳げる筈よ……って、そうじゃなくて謝るんじゃなくて理由を言いなさい!」

 

「え、えっと」

 

「待ってください!そんな風に剣幕に言っては言い出せるものも言い出せません……なにがあったですか?」

 

「これを取ろうと思って」

 

 戻ったライフィセットは置物を見せる。

 さっきの赤い部屋で拾った置物とそっくりの置物だった。

 

「成る程な、そういう事情なら仕方あるまい」

 

「仕方ないじゃないわよ。あんた達がそんなんだから何時までたってもライフィセットがちゃんとしないのよ!」

 

「そうは言うが、助けに行ったお前も溺れていただろう」

 

「それは……」

 

 ロクロウに言い返され、なにも言えなくなるベルベット。

 自分がカナヅチだと分かっていたら少しの迷いもなく水に飛び込めない筈なのに、私が水の中で体が軽くなった事が関係しているのだろうか?

 

『そりゃ多分、オレのせいだ』

 

「!」

 

 疑問に思っているとゴンベエの声が聞こえた。

 頭に直接語りかけて来ているのかと思ったが耳に声が響いている。

 

『ベルベットだけじゃなくてアメッカもなにか異変があった筈だ』

 

「これか!」

 

 ベルベットの方から声がし、これだと袋を取り出すベルベット。

 この島に来る前にゴンベエから貰ったお守りが光を放っていた。

 

『驚いたか?このお守りはオレと通信が出来る道具なんだよ』

 

「このお守りが通信聖隷術が行える道具だったのですか!?」

 

『……うん、まぁ、そうだな』

 

「それでわざわざなにを連絡しに来たの?」

 

 ゴンベエから貰ったお守りの中身を取り出すベルベット。

 わざわざそっちから連絡をして来たということは、なにかがあったということか?

 

『オレの方はなにも無い、強いて言うなら』

 

「用が無いなら連絡しないで」

 

『待て待て、そっちの状況はこっちからなんとなく聞こえてたから一個だけ説明をさせろ。ベルベット、上手く泳げなかっただろ』

 

「……何処から聞いてたのよ?」

 

 あのお守りを渡した頃じゃないだろうか?

 ともかく、上手く泳げなかった事を指摘されると反応するベルベット。

 

「私は逆に泳ぎが楽になったのだが」

 

「いったいなにをしたの?」

 

『凄く簡単に言えば槍と剣のせいだな』

 

 槍と剣、と言うとゴンベエがくれた貴重な素材で出来た特殊な武器。

 神衣の様なものが出来る武器で、私達の髪や血を混ぜているので物凄くしっくりと来る。

 

「剣がどうして泳げなくなる原因なのよ?」

 

『お前の剣は炎のメダルと闇のメダルを合わせた物で出来ていて、お前の髪の毛を混ぜ合わせた事でお前の力になってる……邪悪な力とか炎とかは操れるけど、その反面、水に弱くなるんだよ』

 

「火の聖隷が水に弱いのと同じか」

 

『そうそう。五行思想的にも火は水に弱い。炎のメダルの力を引き出せてる代わりに水に弱くなってる……今まで水関連の出来事が薄かったから気にしなかったが今のお前は水属性が弱点だ』

 

「そう……」

 

「なら、私は?」

 

『金のウロコっていう泳ぎ関連のアイテムを槍に混ぜた。前に似たような事があったのと同じ感じになっている』

 

「そうか……」

 

 自分に起きている事に納得がいった。

 

『それとベンウィック達がなんか急いでそっちに向かってってるから』

 

「ベンウィック達が?おい、それはどういう……っち」

 

 最後に意味深な事を残し光っていたお守りは光を放たなくなる。

 ゴンベエの一方的な通話の道具の様でこちらから通話をすることは出来ず、アイゼンはどういう意味か聞こうとするが聞けずに舌打ちをする。

 

「ベンウィック達がこっちに来ているのなら話が早いわ。遊びはもうおしまいよ」

 

「おしまいって、そんな」

 

 まだ緑色の部屋が残っているのに、もう少しお宝が見つけ出せそうなのに引き上げるだなんて。

 

「命の危険を侵してまでやる必要はないわ。割に合わない。この先になにがあるか分からないんだし」

 

「おぅ……」

 

 ベルベットの気迫に押されてなにも言えないロクロウとアイゼン。

 

「バンエルティア号がこっちに向かってきてるんだし、さっさと出るわよ」

 

 来た道を更に戻ろうとするベルベット。

 エレノア達はベルベットについていこうとするのだが、ライフィセットが立ち止まる。

 

「待って、ベルベット」

 

 ライフィセットの声にベルベットは足を止める。

 

「ベルベットに心配をかけた事は反省してる。でも、最後まで宝探しをやりとげたい!」

 

「ライフィセット……」

 

「自分の解読した内容が合っているか見届けたいって気持ちもあるし、それに一旦始めたことだから最後までやり遂げたいんだ」

 

「……」

 

「だからお願い。最後まで続けさせて」

 

「俺もライフィセットに賛成だな」

 

「同じく」

 

「ライフィセットが此処まで言っていることですし」

 

「ここまで来たからには最後まで見届けなければ、逆に気になってしまう」

 

「あんた達……」

 

 帰ろうと思っているのはベルベットだけで、エレノア達はライフィセットの意見に賛同していた。

 ここまで来たからには帰るわけにはいかない。

 

「確かに、危険な目にはあったがこうして全員何事無かっただろ?こうして俺達全員が力を合わせればって、マギルゥは何処だ?」

 

「ビエンフーも居ませんね……まさか、先に逃げたのでは」

 

「アイツ等ならありえるな」

 

 何処に行ったんだ?

 私が水に飛び込んだ時は既にアイゼン達の方に居たのは見ていたが……。

 

「ベルベット、それで、どうかな……」

 

「はぁ……分かったわよ。そこまで言うなら、続けていい」

 

「本当!?ありがとう!」

 

「よかったですね!」

 

 冒険はまだ終わらない。

 ベルベットの許可が降りてライフィセットは大きく喜ぶ。

 

「ここまで頼まれて、それでもダメって言うなら私の頭が固いみたいじゃない。そこまで言ったのなら、中途半端にしちゃダメよ」

 

「うん!」

 

「後、決してさっきみたいな無茶はしないこと。それは約束して」

 

「分かった!」

 

『お姉ちゃん、心配なんだからね!を忘れ━━』

 

「ふん!!」

 

 例によって口が滑るゴンベエ。

 今回はこの場に居ないので、お守りが入った袋を壁に投げつける……。

 

「あいつ、後で一発ぶん殴る」

 

 ベルベットのその一言に対して誰も意見を言うことは出来なかった。

 それはあまりにも恐ろしかった。燃え盛る炎の様な黒いオーラを纏い大きく重く苦しく、怖かった。本当に怖かった。

 いい加減に素直になった方がいいのにと、この中の面々が思ったものの誰一人、言うことは出来なかった。




スキット 五行思想

アリーシャ「せい!やぁ!はっ!」

ゴンベエ「おーおー、頑張ってんな」

アリーシャ「ああ、今はまだ未熟だが現代に戻る頃にはスレイ達と共に戦える程にはなりたい」

ゴンベエ「既に天族見えるし充分なんだけどな……」

アリーシャ「なにか言ったか?」

ゴンベエ「そういう風に槍の腕を鍛えるのは良いけど、他のも忘れるなよ」

アリーシャ「他と言うと勉学もか……この時代と現代の文字も価値観も大きく異なり学ぶ事は沢山あるな」

ゴンベエ「そっちじゃない。それに関してはしても無駄だろ」

アリーシャ「そうだろうか?過去を振り返り先人達が残した思いを知って未来に生かさなければ」

ゴンベエ「過去の記録が正確に残っていたらな。少なくともオレ達がやってるのは反則技で過去を振り返るとは言えん。何よりもオレ達悪人側だ」

アリーシャ「うっ……確かにそうだ……こんなに罪にまみれて現代にも戻っていいのだろうか?」

ゴンベエ「そもそもで時を越える自体、禁忌だって、そういう話をしてるんじゃねえよ。槍の力を使いこなせるようになれって言いたいんだ」

アリーシャ「……それは、分かっている」

ゴンベエ「ベルベットやロクロウみたいに刃に纏ってじゃなくて、マギルゥやライフィセットみたいに術を使える様になれって言ってるんだぞ?」

アリーシャ「マギルゥ達の様に?」

ゴンベエ「そうだ。アイゼンみたいに近距離と遠距離、両方出来るようにならないと」

アリーシャ「ゴンベエが普段から出しているデラックスボンバーやアステロイドの様な事が私に出来るのか?」

ゴンベエ「光のメダルを突っ込んでないから光属性は使えない可能性が高い。諦めて他の属性を覚えろ」

アリーシャ「他の属性……闇、か」

ゴンベエ「間違ってはいないが嬉しくなさそうな顔だな」

アリーシャ「闇と聞くとどうしても良いイメージがつかないから……決してゴンベエが悪人だと言うわけじゃない。ゴンベエがそういう人間でないのはちゃんと知っている。ダメ人間なのも」

ゴンベエ「最後が余計だったなー」

アイゼン「なにを話しているんだ?」

ゴンベエ「アイゼンみたいに近距離も遠距離も出来るようになれと教えているところ」

アイゼン「ほう、オレの様にか……難しいぞ」

ゴンベエ「何故にドヤ顔なんだ」

アリーシャ「そんなにか?」

アイゼン「単純に性格的な意味で向き不向きから、能力的な意味で出来る出来ないに分かれる。オレ達聖隷ならばその属性の術は得意だが、その聖隷の弱点の属性は不得意といったものもある」

アリーシャ「確かに、エレノアは天響術を使えるがあまり使おうとしない。マギルゥは術を多く使うが近距離での戦闘は得意ではない」

ゴンベエ「それぞれの得意不得意を見つけろ……まぁ、お前の場合は力を増強させる為にぶちこんだメダルとかだからそこを基点に鍛えればいい」

アリーシャ「そうなると、火、水、闇、魂、木……魂はまだ分かるが木属性?」

アイゼン「聞いたことのない属性だが、前に五行がどうとか言っていたな」

ゴンベエ「五行思想な。四大元素と異なる考えだ」

アリーシャ「四大元素?」

ゴンベエ「この世界の物質は火、水、空気、土のどれかで出来ていると言う考え。空気は風と考えればいい」

アイゼン「聖隷の地水火風と似た考えか」

ゴンベエ「そう思ってくれればいい……が、五行思想は本当にめんどくさい。まずこれな」

アリーシャ「五芒星?」

ゴンベエ「五行思想は自然現象、政治体制、占い、医療など様々な分野の背景となる性質、周期、相互作用などを説明する5つの概念であり属性だと思えばいい。属性は全部で5つある」

アリーシャ「だから、五芒星なのか。なら、地水火風に加えて木の属性か」

ゴンベエ「違う」

アイゼン「なに?じゃあ、いったいなんだと言うんだ?」

ゴンベエ「先ず五芒星の1番上が木属性、花や葉が幹の上を覆っている立木が元となっていて、樹木の成長や発育する様子を表す春の象徴。色は青色、方角は東、星は木星、曜日は木曜日、五音は角、五声は呼、五臓ば肝、五情は怒、五腑は胆、五指は薬指、五味は酸、五味が走るところは筋、五主は」

アリーシャ「ま、待ってくれ。なにか色々と余計な情報が入っていないか」

ゴンベエ「その属性が司る色や体、方角、守護する聖獣とかだからなに一つ余計じゃない」

アリーシャ「1度に一気に言われても、流石に覚えきれない。出来れば、もう少し簡単にしてほしい」

ゴンベエ「しゃーねえな。じゃあ、次は土」

アイゼン「地属性ではないんだな」

ゴンベエ「地とすると色々とややこしいからな。植物の芽が地中から発芽する様子が元となっていて、万物を育成保護する性質を示してて季節の変わり目も示している。木属性は土属性に強い」

アイゼン「おい、それはおかしいだろう。植物は土が無ければ全く育たない筈だ」

ゴンベエ「木は根を地中に張って土を締め付け、養分を吸い取って土地を痩せさせる。要は土の力を奪い取るんだ」

アイゼン「なに!?木め、地の力を奪っているのか……っち」

ゴンベエ「露骨な舌打ちはやめろ。で、左上にあるのが水属性。泉から涌き出て流れる水が元となっていて、これを命の泉と考え、胎内と霊性を兼ね備える性質で冬を示す。で、土属性は水属性に一応強い」

アイゼン「なんだその一応は、地属性は水に強いのは当然だろう。オレ達の住んでいる監獄島も岩で出来ていて雨を防いでいる」

ゴンベエ「そうだが、物には限度がある。水の力が土の力を上回れば水の力がダメになるどころか、土も水もどっちもダメになる」

アリーシャ「つまり互いに互いの良さを消し合ってしまうということか……思ったよりも、複雑だな。木属性は水に強くて、火に弱いのか?」

ゴンベエ「いや、木属性は金属性に弱い」

アリーシャ「金属製?」

ゴンベエ「金、属性だ。火属性が右上にあって、これに関してはなんとなくで分かるだろ?左下には金属性があって、その金属性が木属性の弱点……凄く分かりやすく言えば木は刃物で切れるだろ?」

アリーシャ「確かに斧で木は切り倒せて、斧の素材である鉄は金属で炎の熱で溶かす事は出来るが……」

ゴンベエ「だから、めんどくさいつってんだろ。一応、炎が弱点って考えも間違いじゃない。ただ木を燃やせば灰になって土に変えるから、土の力を受けてパワーアップも出来て弱点とも言い難い」

アイゼン「最終的に五芒星の頂点が1つの円になるように繋がっている……これがお前の国の考えか」

ゴンベエ「もっと細かく話せばややこしくなるが、一先ずはそうだと言っておこう。とにかく、今は素材に突っ込んだ5つのメダルの力を引き出せるように術の1つでも覚えればいい」

アリーシャ「5つのメダルの力か……闇纏・無明斬り!……出ない……私と闇属性は相性が悪いのだろうか?」

ゴンベエ「なんで真似をしようとすんだよ、オリジナリティを出せ、オリジナリティを」

アリーシャ「……ゴンベエと一緒の方が覚えやすいじゃないか」

ゴンベエ「そんな顔を赤らめて言ってもときめかない!次ぃ!!」

アイゼン「やれやれ……エレノアの様に使わない、ではなく術の才能が薄いか。甘ったるい空気を作るのは上手いくせに」





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歴史の解明は恥の証明

ドラマcd、ラストです。


 ベルベットが軽くゴンベエにキレる何時もの光景が起こったが、今回はゴンベエが不在だ。

 ゴンベエと通信出来る石をベルベットはぶん投げたので回収をする。

 

「全く、貴重な石を雑に扱うな」

 

 石をここぞとばかりにぶん投げたベルベットに説教をするアイゼン。

 やはりと言うか、このゴンベエと通信が出来る石はお宝に分類される物なのか。

 

「アイツが人の事を勝手に語るのが悪いわ」

 

 悪びれもしないどころか更に不機嫌さが増すベルベット。

 アイゼンは思わず引いているとマギルゥとビエンフーがこっちに向かって歩いてきた。

 

「おぉ、お主達、そこにおったか」

 

「探したでフよ~」

 

「マギルゥ、ビエンフー、お前達何処に居たんだ?」

 

「なに、水に流されてついさっきまでそこにおったんじゃ」

 

「そうでフよ~」

 

「お前等、嘘だろ」

 

 水の流れは激しかったもののこの辺りまでは浸水をしていない。

 ロクロウはその事に気付いているので疑いの眼差しをマギルゥとビエンフーに向けてみるが、2人は目線を合わせない。

 

「いや、これが本当なんじゃよ」

 

「そ、そうでフよ。別に、なにもなかった。無かったんでフよ」

 

「……お前等、まさか3つ目の緑色の部屋に先回りしてお宝を横取りしたんじゃないだろうな?」

 

 此処に来ての抜け駆けを考えギロリとアイゼンは2人を睨む。

 マギルゥには効果は無かったがビエンフーには効果はあったようで露骨にビエンフーは反応する。

 

「そ、そんな事はしませんでフよ。むしろお宝を……そう、流された宝石を回収しようとしてでフね」

 

「どっちでもいいわ。宝をネコババしたかどうかは最後の部屋に行けば分かるから、さっさと行くわよ」

 

 なにかを言いかけるが嘘で誤魔化すビエンフー。

 尋問をするよりも実際のところを確かめた方が早いとベルベットは来た道を先に戻っていく。

 私達もベルベットを追いかけて、緑色の道を進んでいくと、赤色と青色の時と同じくその色と同じ宝石がそこかしこに散りばめられていた。

 

「やはりこの部屋にも宝石が散りばめられていますね……」

 

「だが、これはダミーだ」

 

 三度目となるともう目移りはしない。

 目の前にある緑色の宝石は価値があるお宝だが、それはフェイク。本当のお宝を隠す為に置かれている。

 

「そうなるとやはり石の置物を……それだと欲望に溺れた末がどういう意味でしょう?」

 

 法則性がなんとなくで見えてきたが、ハッキリとは見えていない。

 石の置物を集めればいいのは皆も分かっているが、仮にコレを集めたとして宝は……。

 

『なんか長考してるっぽいから、ヒントでも要るか?』

 

 今まで黙っていた分、バリバリ喋ってくるゴンベエ。

 何処まで聞いていたのかは不明だが、既に答えは出している。やはりと言うか、ついてきたら一瞬で終わっていたか。

 

「……頼む」

 

 物凄い屈辱の表情を浮かべるアイゼン。

 やはりと言うか答えを他人に解かれるのは嫌なのか。

 

『ヒントは宝は何処にあるのかと今までなにがあったかだな』

 

「宝?……」

 

「此処にある宝はダミーだけど、さっきの赤色と青色の部屋にもダミーがあったから……何処かに隠し部屋がある!」

 

『じゃあ、それは何処にある?』

 

「それは……そうか!!」

 

 欲望に溺れた末の意味はそういうことだったのか!

 ゴンベエのヒントを貰って、古文書に書かれていた内容の意味が分かった。

 

「ちょっと、私達にも分かるように説明をしてよ」

 

「石の置物が置いてあった2つの部屋には罠が仕掛けられていた。機械仕掛けの罠で、石の置物を動かせば作動する仕組みとなっていた。ということは仕掛けを仕組むスペースが何処かにある。つまり、この遺跡には見えないだけで機械仕掛けの部分は空白の部分があり、本物のお宝が隠し部屋の様な場所にある」

 

「それはなんとなく分かるけど、それと石の置物がどう関係あるんだ?」

 

「私達が歩いていた道には隠し部屋の鍵になる場所は無かった」

 

 石の置物を置いたら仕掛けが開くといった仕掛けは何処にもなかった。

 特殊な仕掛けがあったのは、この遺跡の入口と今までの罠だけ。そして欲望に溺れた末にとの記述があった。

 

「罠の作動が隠し部屋がある部屋を開くための鍵だ!」

 

 ゴンベエが言っていた。

 指を鳴らして床が開いてウィーンと椅子がせりあがって来る仕掛けを作るには事前に建物に仕掛けを入れておかないと出来ないと、後付けは出来ないと。それと同じで隠し部屋が事前に作られていて仕掛けを全て解くことで解放される可能性がある。

 

『まぁ、後は頑張れよ』

 

 当たっているのか何処か間違っていると訂正をせず、ゴンベエは通信を切る。

 

「おい、コレを見ろ!」

 

「3つ目の翼だ!」

 

 ゴンベエが通信を切ると翼の置物を見つけたアイゼン。

 直ぐには手に取らず、全員がその場に集まるのを待つ。

 

「ゴンベエの考えが正しいならコレを取れば仕掛けが作動する……」

 

「最初は壁が迫ってきて、次に水が流れて来たんだよね」

 

「鬼が出るか、蛇が出るか……いざ!!」

 

 掛け声と共に石の置物を取るロクロウ。

 さっきまでと違って罠が作動するというのが分かっており、なにが来ても直ぐに対応が出来る。

 

 

━━━パカ

 

 

「え?」

 

「お!?」

 

「な!?」

 

「ちょっ!」

 

「っち!」

 

「わ!?」

 

「ビエ!?」

 

「いや~このパターンは予想しておらんかった」

 

 床が開いた。

 槍が降るか凶悪な憑魔が出てくるのか覚悟をしていたが、まさかの仕掛けに私、ロクロウ、エレノア、ベルベット、アイゼン、ライフィセット、ビエンフー、マギルゥの順に驚く。

 

「「「「「「「「ぬぅぁあああああああああ!?」」」」」」」」

 

 この状況で私達はなにもすることが出来ない。

 仮にゴンベエがいれば葉っぱを使ってゆっくりと落ちることが出来たが、それだけしか出来ない。

 

「おい、皆、無事か!」

 

「その声はロクロウ……何処だ?」

 

「その声はアメッカか!!」

 

 落ちると同時に皆がバラバラになってしまった。

 真っ先に声を上げたのはロクロウで、その言葉に反応するとアイゼンが声を出すが姿は見えない。

 

「ベルベット、何処!?」

 

「ライフィセット、あんた何処に居るの!?」

 

「無事だよ!周りには誰もいないけど」

 

「どうやらバラバラになってしまったようじゃの」

 

 落ちた先には更に遺跡の様なものがあった。

 やっぱり隠し部屋の様な場所がこの遺跡にはあったが、代わりに全員がバラバラになってしまった。

 

「俺の近くにアイゼンがいる!」

 

「ボクとマギルゥ姐さんは一緒でフ!」

 

「となると……ライフィセットだけが1人ですか」

 

 私とベルベットとエレノア、アイゼンとロクロウ、ビエンフーとマギルゥ、ライフィセット1人の4組に分かれてしまった。幸いにも声は聞こえるので安否の確認は出来る。全員が全員、声からして無事な事だけは分かりホッとする。

 

「どうやら迷路になっておるようじゃ。互いに声を掛け合って合流を目指すのが良いじゃろう」

 

「そうするしかなさそうだな」

 

「ライフィセット、1人で大丈夫?」

 

「1人じゃないよ」

 

『おいこら、お前に渡したんだからお前がちゃんと持っとけよ』

 

 ゴンベエの声が聞こえたので、懐に手を入れてみるがお守りが無くなっていた。

 どうやら落ちた時に落としてしまい、ライフィセットの元に行ってしまった。しかしゴンベエが声だけとはいえ、居てくれるのは心強い。

 先ずは合流をしようと私達は歩き出すのだが、マギルゥの言っていた通り此処は迷路になっている。

 

「此処が地下でなければ道を切り開いたが……」

 

「やめなさい。崩れてお陀仏なんてごめんよ」

 

 声は本当に直ぐ近くから聞こえるが思った以上に複雑な迷路。

 此処が地上ならば活伸棍・神楽で道を切り開けるのだが、生憎の地下で破壊できない。

 

「全く、こんな事になるなら途中で中止するべきだったかしら?」

 

「すみません……」

 

「すまない」

 

「あんた達が謝ってどうするのよ?」

 

 私達が謝ることに戸惑うベルベット。

 途中で切り上げずに続ける意思を見せたのはライフィセットだけでなく私達で、元々反対していたベルベットを巻き込んだも同然だ。謝るのは当然だ。

 

「アイゼン、どっち行く?」

 

「オレの勘がこっちだという」

 

「よっし━━ぬぅおおおあ!?」

 

「なにやってんのよあんた達!」

 

 大きな声を出して、迷路を辿っているロクロウとアイゼン。

 金属音が聞こえて叫んでいるということは罠のような物が作動したのだろう。

 

「アイゼンが罠に引っ掛かった!」

 

「これぐらいどうということはない……よし、次はこっちだ!!」

 

「ぬぅうおあああ!!」

 

「あんた達、遊んでるんじゃないでしょうね!!」

 

「遊んでるわけないだろう!アイゼンの選ぶ先に悉く罠がぁ」

 

「だったら、ロクロウが先導して進みなさい……全く世話が焼ける。ライフィセット、そっちは?」

 

「うん、今のところは無事だよ」

 

「マギルゥは?」

 

「あ、ああ、うん。ワシの事は気にせずに先に行っておいてくれ」

 

「そ、そうでフ~、ボク達の事はお構い無くでフーー」

 

 やはりなにかあるな。

 マギルゥとビエンフーの露骨な態度に呆れながらも、私達は足を動かすのだが中々に合流することが出来ない。

 

「そう言えば、貴女とゴンベエはどうしてベルベット達と一緒に居るのですか?」

 

「急だな」

 

「あ、いえ、詳しく聞く機会が無かったので。なにか聖寮と因縁があるわけでもないですし、何故ベルベット達と一緒にいるのかと今更ながら疑問に思いまして」

 

 確かに、船に乗せて貰う時に色々と説明をしたがその時にはエレノアは居なかった。

 色々と知るためだとアイゼン達には言ってはいるが、エレノアに対してはあまり言っていない。

 

「そうだな……振り返っている、と言うのが1番合う言葉だな」

 

 過去という単語をつけずに出せる答えを出す。

 

「私の国は色々とあって危機的状況なんだ」

 

「それはまた、大変な事じゃないですか!」

 

「ああ……だが、どうにかする事も出来なくはないんだ」

 

「だったら、こんな所で油を売らずにどうにかしなさいよ」

 

「それじゃあダメなんだ!!」

 

 確かに現代は、ローランスの内情は詳しくは分からない。だが、混乱の世なのは政に疎い私でも分かる。

 それをどうにかするには災禍の顕主であるヘルダルフを鎮めて地の主を増やして天族の信仰を取り戻せばいい……だが、それだとダメなんだ。

 

「今までも何度も何度も未曾有の危機に瀕していて、その度に同じ方法でどうにかしてきたんだ」

 

 詳しい事情は知らないが浄化のシステムはかなり昔からある。

 地の主も導師のシステムも昔からあるのに、それなのに悲惨な現実しか産み出していない。

 

「過去と同じ方法でどうにかして、暫くすればまた衰退する。これ以上、同じ事を繰り返さない為にも先ずは起源を知らなければならないんだ。その為に私は此処に居る……私達が部外者なのは分かっている。だが、信じてほしい。私達は敵ではない」

 

 どうしてあの時、ゴンベエの家の側で時間を越えたのに全く別の場所に飛ばされたのかは分からない。

 だが、別の場所に飛ばされた事は今となっては良かったと言える。ベルベット達と出会わなければ、真実になに一つ辿り着けなかった。偽りの幸せに騙されて残酷な現実を見ることは出来なかった。

 

「別に、あんたの事を信じてない訳じゃないわよ……アイツは別だけど」

 

「アイツ、と言うとゴンベエですか?」

 

「そうよ……アイツと居ると調子が狂うのよ」

 

 それは単純にゴンベエの行いが悪いからじゃないだろうか?

 思い出せば定期的に殴られたりしているゴンベエが頭に浮かんでくる。殴られても何がなんでも言うつもりの謎の覚悟が見える。

 

「まぁ、確かに変人で空気を読まないところはありますね」

 

「それはまぁ、諦めるしかないわ。アレはアレで悪くないけど……アイツ、若干変なのよね」

 

「若干ですか?」

 

「敵じゃないのも分かるし、極悪非道で冷徹でも無いけど……アイツ、なんかフラフラなのよね」

 

 ゴンベエがフラフラ?

 体調的な意味合いでなく、なにを示しているかは分からないがなにかを言いたそうなベルベット。上手く言葉に表せていない。ゴンベエがフラフラ?確かに、住所不定と言われてもおかしくはない。

 

「それは風来坊の様な人という意味ですか?」

 

「違うわ……なんというか無気力?な感じかしら?アメッカ、アイツと付き合いが長いんでしょ」

 

「長いと言われても1年程の仲だ。それよりも前はよく知らない」

 

 学校の様なところにいて、幸せになれるように強くさせられたとは語っていたが詳しい内容は思い出せば嘔吐するから語ろうとしない。そこに行く前の事になれば更に……。

 

「昔の事はよく知らないが、少なくともゴンベエはゴンベエだと私は思う」

 

「アイツはアイツ……」

 

 私の言葉に妙な違和感を感じているベルベット。

 

「なんだかモヤモヤしていますね……!」

 

「魔物!」

 

「中に居たのか!!」

 

 モヤモヤの原因が分からないまま歩いていると魔物が出てきた。

 今まで1度も出てこなかったから完全に居ないとばかり思っていたが、いたのか。

 

「信用や信頼は言葉ではなく行動、しかもその積み重ねによってようやく培われるもの!ゴンベエは基本的に中途半端だからじゃありませんか!」

 

「……かもしれないわね!」

 

「そういえば聞いていませんでしたが、ベルベットは私の事をどう思っているのですか?」

 

「あんたの実力はとっくに信用しているわ!この程度の魔物がどれだけ襲って来ようが、どうってことないわ。違うかしら?」

 

「!……ええ、そうですね」

 

「私も忘れないでくれ!!」

 

 まだまだ未熟だが、戦えないわけじゃない。

 ゾロゾロと出てくる憑魔を相手に槍を振って一体ずつ確実に倒していき、迷路を突き進んでいくと石像と対峙しているライフィセットがいた。

 

「ライフィセット!」

 

「大丈夫ですか!!」

 

「いったいどういう状況だ!?」

 

「ベルベット、エレノア、アメッカ!」

 

 よく分からない事になっているライフィセット。

 アイゼン達とはまだ合流をしていなさそうだが、いったいどういう状況だ?

 

「分からない。でも、もしかしたら宝を守る番人かも」

 

「あんた1人で相手をしてたの?」

 

「ごめんなさい……」

 

「あんたが謝る事じゃないわ」

 

「私達が来たからにはもう安心です。アメッカ」

 

「ああ、これが最後の試練だ!」

 

 本物のお宝がこの石像を倒せばある筈だ。

 私とエレノアが石像に向かって槍を向けると別方向から走る音が聞こえる。

 

「俺達も加勢するぞ!」

 

「皆、無事か!」

 

「ロクロウ、アイゼン!」

 

 いい時に来てくれた!

 これからという時に駆けつけてくれた2人は石像に向かって構える。

 

『ぬぅ、こんなに早く全員が揃うとは見込み違いじゃ!』

 

「ん?」

 

 今、この石像、マギルゥの様に喋っていなかったか?

 

「幸い体は暖まった!!瞬撃必倒!!この距離なら外しはせん!!零の型・破空!!」

 

 マギルゥの様な口調をしていた石像に秘奥義を叩き込むロクロウ……考えても仕方ない!

 

「次はオレだ!覚悟はいいな!躱せるもんなら躱してみな!!ウェストレム・メイヘム!!」

 

 ロクロウに続きアイゼンも秘奥義を叩き込む。

 しかし石像は少しだけ怯んだ様子で特にダメージを受けた素振りを見せていない。

 

「僕だって!霊子解放!!仇なす者に、秩序をもたらせ!バインドオーダー!!」

 

『ぎゃああああ!!』

 

「私も参ります!!奥義!!スパイラル・ヘイル!」

 

『にょえええええ!!』

 

「見切った!!槍流秘術!断鋼斬響雷!!」

 

『ご、ごふぅ!?お主達、ちっとは手加減を』

 

『ベルベット、足元がぐらついたっぽいぞ』

 

『ゴンベエ、貴様ぁああああ!』

 

「任せなさい!容赦しない!消えない傷を!刻んで果てろ!リーサル・ペイン!」

 

『ぐぅううぁあああ!やーらーれーたー!!』

 

 全員の秘奥義が炸裂して倒された石像。

 体が粉々に砕け散っていく。

 

「見た目ほど、強くは無かったな。これなら俺達が来なくても良かったな」

 

『お前等、集団リンチって言葉を知ってるか?』

 

 思ったよりも手応えがなく、面白味に欠けるロクロウ。

 お守り越しでゴンベエは本気で呆れた声を出している。

 

「マギルゥとビエンフーはまだ迷路に居るのでしょうか?」

 

 石像を倒したことにより一息つくことが出来てホッとするのも束の間、この場に居ない2人を心配するエレノア。

 

「罠に掛かっているかもしれないな」

 

「なら、早く私達で」

 

「ビエンフーは掛かっているかもしれないけど、マギルゥなら無事よ」

 

「?」

 

「何処かで見てるんでしょ、出てきなさい」

 

 ベルベットがそう言うと出てくるマギルゥ。

 無事だったのかと思ったが、それならどうして姿を現さなかったのかと考え、さっきの喋っていた石像の破片に目が向く。最後の最後にゴンベエの名前が出てきたが……まさか。

 

「さっきの石像、あんたよね?」

 

「あの石像は元々此処にあったものじゃよ。お主達を狙うようにほんのちょいっと操作したんじゃよ」

 

「操作したって、どうしてそんな事を?」

 

「悪ふざけにしては度が過ぎてるわね」

 

 ジャキンと籠手から剣を出してマギルゥに向けるベルベット。

 

「そういえばゴンベエが裏切ったと言っていましたね」

 

『あ、事の詳細はマギルゥから聞いてくれれば納得してくれると思います』

 

「お前、どんだけワシを売れば気が済むんじゃ!!」

 

「いいから、さっさと白状しなさい!後、あんた1発追加よ」

 

『待て、オレはチラリと聞いただけで無関係だ!!』

 

「怪しいこと自体が罪よ!!」

 

『そんな……』

 

 ゴンベエに追加の一発の判決がくだされると皆の視線がマギルゥに向く。

 悪ふざけをする性格ではあるものの、誰かを危機に晒すほどマギルゥは冷徹な人間じゃない。

 

「これにはふかーい事情があるのじゃ」

 

「どういう事情ですか?」

 

「エレノア、ベルベット、そう怒らずに」

 

 マギルゥの頸動脈付近に刃を向けたら話すものも話せなくなる。

 

「実はワシ等がこんな事をしたのはとある人物に頼まれ」

 

『あ、グリモワールです』

 

「これぇい!!いきなりのネタバレをするんでない!!」

 

『るせーな、こっちは色々と忙しいから省略してやったんだよ……あ、オレの通信、これで最後だから』

 

 グリモワールさんがマギルゥ達に邪魔をするように頼んだ?

 確かにマギルゥにとって頭が上がらない存在で、頼むことは出来る人物だが……。

 

「まさか黒幕がグリモワールだったとは」

 

「最初から私達を妨害していたのですか!?」

 

「いやいや、それは違う。途中からじゃ。ほれ、ワシとビエンフーが不在の時にのぅ」

 

「その話が本当なら、どっかにグリモワールが居るんじゃないのか?」

 

 ロクロウがそう言うと周りを見渡す私達。

 

「全く、少しぐらいボカそうとはしないのかしら」

 

「グリモ先生!!」

 

 ロクロウの予想通り、直ぐ近くにグリモワールさんは居た。

 テクテクと歩いて姿を現すグリモワールさん。ライフィセットはどうして此処にと驚く。

 

「あんた何時、こっちに来たの?」

 

「海賊団の子にお願いしてね……本当だったら、彼にお願いしたかったんだけど後もう少しでなにかが完成するから無理って断られたの」

 

「あやつめ、大まかな事情を知っておるのに堂々とワシを裏切りおって……」

 

「グリモ先生、どうして僕達の邪魔を?」

 

 改めて私達の邪魔をして来た理由を訪ねるライフィセット。

 

「懐かしいわね。この土地にもう一度来るなんて」

 

「ライフィセットの質問に答えなさい」

 

 質問には答えずに遺跡を見るグリモワールさん。

 発言から考えてこの場所のついてなにか知っている。

 

「この遺跡はね、かつてこの地で栄華を極めた古の王朝が築いた物なのよ。彼等は自分達の正当な後継者にある物を残そうと考えてこんな大掛かりな遺跡を作ったの」

 

「それって……」

 

「私は坊やが手に入れた古文書をたまたま手に入れて、自分で解読して自分の物を置いたのよ。ここならそう簡単に見つからないと思ってね」

 

 グリモワールさんから語られていく真実。

 なら、今まで見てきた宝石は本当にお宝だった?と言うことなのだろうか?

 

「それでその後に古文書を誰にも見つからない様に海に隠したの。宝箱に偽装して、もし誰かに見つかったとしてもそっちに目が行くように細工をしてね。ついでに古文書の内容も万が一に備えて書き換えたの……まぁ、坊やは見抜いたみたいだけど」

 

「そんなに知られたくなければ、古文書を燃やすなり消すなりすればいいじゃない」

 

「バカね。先人達の想いが籠った貴重な文章を抹消するなんて事はどうしても出来なかったのよ」

 

「そこまでして、いったいなにを隠したかったのですか?」

 

 此処まで大掛かりな仕掛けがある遺跡、しかもそこかしこに憑魔がいる。

 入れた当時はどうかは分からないが、今の時代でそこかしこに憑魔がいるこんな島にわざわざ隠すとは。

 

「おぉ、それはワシも聞きたかった!」

 

 マギルゥもその辺りの事は聞かされていなかったのか興味津々だ。

 上に大量の宝石があったとなると、それ以上の宝……ロクロウが言っていた不思議な力が宿った武器なのだろうか?

 ジークフリートの事もあるから、一概に無視は出来ない。

 

「それは」

 

「ただいまでフ~!」

 

 なにかについて語ろうとすると現れるビエンフー。

 

「お主、今まで何処に居たんじゃ?ワシが石像を操っておる間に居なくなりおって」

 

「いやぁ、実はこの奥がどうなっているか気になったんでフよ。調べてみると、なんと奥にお宝があったんでフよ!」

 

「なに!?でかしたぞ、ビエンフー!」

 

「あ、後お宝の直ぐ側に古文書があったでフよ」

 

 そう言うと古文書を見せるビエンフー。

 お宝の直ぐ近くにあったということは見つけた人にこのお宝はと、見つけた人に対してどういうお宝なのか説明をする物なのだろうか?

 

「ちょっと待ちなさ」

 

「あ、コレならボクでも読めるでフ!」

 

 本を開き、内容を見る。

 ライフィセットが普段解読している古代アヴァロスト語で書かれていないのかビエンフーでも読める文字の様で音読を始める。

 

「今日も錆びついた魂が軋みを上げる。掻き抱いた両腕から溢れ落ちるわ、剥がれ落ちた教示の欠片。今すぐこの手に剣を取り、蒙昧たる世界を浄化せん。全てを灰塵と化した暁に、我が魂は安息を得るだろう……なんでフかこれ?」

 

「宝のありかを示しているようには見えんぞ」

 

「これは……ポエムだな」

 

「何故でしょう、背中がむず痒くなってきました」

 

「エレノア、私もだ」

 

 なんというかその、これがなにかを示している訳ではないと分かると背中がむず痒い。

 予言的なことではないとアイゼンが真っ向から言った瞬間に背筋に寒気が走ってきた。

 

「まさか、あんたが宝と一緒に置いたのってコレ?」

 

「はぁ……」

 

 否定はしないということは肯定ともとれる。

 つまり私達は宝と同時にグリモワールさんのポエムを綴った古文書を探していたと?

 

「これ、ポエムなんでフか?ガッフッフ、だとしたらかなり恥ずかしいでフね!!書いた本人が此処にいれば、きっと悶絶死するでフよ!!」

 

 ポエムの内容を見て、大笑いするビエンフー。

 その光景になんとも言えない表情の私達、一方グリモワールさんは冷たく恐ろしい目をビエンフーに向けている。

 

「マギルゥ、ちょっとあの子を借りていい?……いいわよね?

 

「あー、あはは……好きにして結構じゃ……こうなっては血を見なければ収まらんじゃろ

 

 マギルゥからの許可が出るとガッシリとビエンフーを掴むグリモワールさん。

 

「あんた、ちょっと(ツラ)貸しなさい」

 

「んん?グリモ姉さん、どうしたんでフ?━━痛い痛い!ボクはなにもしてないで━━━ビエエエエエエン!!SO、バァアアアアアアアッット!!」

 

 

 

 

 

 

その後、ビエンフーを見たものは誰もいなかった

 

 

 

 

 

 

 

 ビエンフーがグリモワールさんに折檻されている間、私達は宝があった場所に向かうとそこには王冠があった。

 それを見て私は成る程と納得をした。王冠は宝石よりも遥かに大事な物、王様になる人がつけるものだ。この遺跡を作った王朝の人の物ならばかなりのお宝だ。

 此処まで来れたのはライフィセットが古文書を必死になって解読して最後まで諦めずにいたからだと、王冠の所有権等はライフィセットの物となり、ライフィセットは何時かコレを被る人が居るからとその王冠を置いていくことに。

 王冠は置いていくことにしたが、上にあった宝石は貰うことになり結果的には大量の宝石を私達は手にする事が出来た。

 

「コレで後はアイツを2発シバくだけね」

 

「その、出来れば手心を加えて欲しいのだが」

 

「ダメよ。グリモワールがビエンフーに徹底した様に、私も一発やらないと気が済まないわ」

 

 いや、2発と言っているじゃないか。

 バンエルティア号は着実に監獄島に向かっていき、ゴンベエがコレからベルベットにシバかれるのかとなんとも言えない気持ちになっていると監獄島の港が見えた。

 

「ん、あれ、ゴンベエか?」

 

 望遠鏡で監獄島がある方向を見るベンウィック。

 ゴンベエを見つけたのだが、何故か首を傾げている。

 

「どうした?」

 

「あ、いや、副長。なんかゴンベエ、港で倒れてるっぽいです」

 

「なんだと!?」

 

 ベンウィックから放たれる衝撃の一言に私は驚く。

 確かに切ると言ってから1度も連絡は入れてくれないが、それでも通信を切るまでは普通に会話をしていた。それなのにゴンベエが倒れているなんて信じられない。

 私はベンウィックから望遠鏡を取って、監獄島に向けて覗いてみるとゴンベエと思わしき人物が港で横になっているのを見た。

 

「そんな……急いでくれ、ベンウィック!!」

 

「急げって、もう目と鼻の先だ。無理にスピード出すと乗り上げたりするからこれ以上は無理だ」

 

「っく!」

 

 今の速度で我慢するしかないのか。

 いったいゴンベエの身になにが起きたのかハラハラし、早くついてくれと段々と遅くなっていく船に苛立ちを感じる。

 

「ゴンベエ!!」

 

あー……

 

 港につくと船から飛び降りてゴンベエの元に駆け寄る。

 うつ伏せに倒れているゴンベエは仰向けになるのだが、表情と顔色が余り優れていない。

 

「どうしたんだゴンベエ!いったいなにがあったんだ!」

 

……もーやだ、もうやってられっか

 

 声がガラガラになっていて何処となく鬱状態なゴンベエ。

 

「おぅ、お前等帰ってきたのか」

 

「ダイル、いったいなにがあったんだ!?」

 

 船がちゃんと停まると監獄から出てくるダイル。

 ずっと此処に居たからゴンベエの身に起きた事がなにか分かると訪ねると優しい目を向ける。

 

「もう、寝させてやんな」

 

「え、寝させて?」

 

「この野郎、とんでもねえ物を作る為にまともに寝てねえんだよ。今まで上手い具合に誤魔化してたみたいだけど、完成と同時に限界が来たみたいだ」

 

「ただの寝不足なのか……」

 

 ゴンベエの状態が分かり一安心をする……いや、出来ない。

 今の今までなにかを必死になって作っていたのは知っているが、なにを作ってるのか一言も教えてくれていない。これで変な物を作っていたら、一言言わなければ。

 

「それで、コイツは結局なにを作っていたんだ?」

 

「それなんだがよ、バンエルティア号に乗せなきゃ意味がねえつって使ってるところ見てねえんだよ。一応、完成した時にどんな物か聞いたがイマイチ、ピンと来ねえんだよ」

 

「なんだ言ってみろ?」

 

「確か、声を遠くに飛ばす電話つってたな……なにが凄いか、イマイチ分からねえや」




今回はスキット無しです。



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オリハルコンとミスリル

早くベルベットの顔を曇らせたい(変態)
後、ミスリルとオリハルコンならオリハルコンの方が絶対に強い……つまりそういうことである。


「復活!」

 

 軽く一寝入りをして目を覚ますと体が楽になった。

 エジソンよろしく24時間働けますかと必死になってみたが、流石に体が限界を迎えてしまった。やっぱり4人の分身で人海戦術をしなければならない所を誤魔化したのは無茶だった様だ。

 

『やっほー、エレノア、聞こえる?』

 

 目覚めると監獄内部の自分の部屋だった。

 あれからどれだけの時間がたったのだろうかと時計を確認しようにも作っていないので分からない。

 ベルベット達はなにをしているんだと考えていると監獄内にモアナの声が響き渡る。

 

「あんの、アホ、人が弄くるなと言っていたのに弄くりやがったな」

 

 監獄内部にモアナの声が響き渡る原因に心当たりがあるのでゆっくりと立ち上がって自分の部屋を出る。

 声が聞こえた方向、と言うか作った物を置いてある場所は1つしかないと監獄の屋上に向かうとエレノア達がいた。

 

「まだバンエルティア号に乗せてアンテナを設置してない未完成品なんだから、勝手に触るんじゃねえよ」

 

 マンガン電池と水路を利用した水力発電で作った電気を蓄えたバッテリー。

 素人が触ると色々と大変な事になる。電気を利用した物だから普通に感電死とかもありえる……というかだ。

 

「お前、触ったな」

 

 エレノアの頭が物凄い事になっている。

 大方、バッテリーに触れて感電してしまってそのせいで整えた髪の毛が爆発してしまって雲丹みたいになっている。

 

「あのコレ、なんとかなりませんか?さっきから戻そうとしても元に戻らないんですよ」

 

 髪の毛をわちゃわちゃと動かして整えるエレノア。

 髪を抑えている手を外すと雲丹の様にビンと延びてしまう。

 

「コイル巻いて、デパーミングの原理で磁気を外してみるか?」

 

 雲丹の様な髪型を見て、思わず笑ってしまう。

 こいつ、感電してしまって髪の毛に磁力が帯電してるな(笑)

 

「それで結局、コイツはなんだ?」

 

「ある程度、弄ってるなら分かるだろ」

 

 改めて作った物について聞いてくるアイゼン。

 800個のマンガン電池、硫酸につけた銅板の板と危険なバッテリー。後、メガホン……そう言えば、この世界って何故かマイクが存在してるんだよな。風船のゴムとかも当たり前の如くあるし、変なところで現代レベルの文明なんだよな。

 食文化の発展=文明の発展な癖に電気のでの字も使わない文明だけど。

 

「エレノア達に声を届ける道具なんだよね!」

 

 自信満々に答えるモアナ。

 お前は事前に説明しただろうと言いたいが、今回は見逃してやろう。

 

「そうだ。コレはオレ達とモアナ達と会話が出来るようになる禁断の道具だ」

 

「禁断って、あんた似たようなの持ってるじゃない」

 

 オレが渡したお守りを返してくれるベルベット。

 こいつ、一回電球がどれだけ大変なのか説明をしたのに電話のヤバさを理解していないな。コレがあれば、このレベルの文明の文化を1つや2つ軽くひっくり返せるぞ。

 

「コレはオレにしか使えない道具だ、価値は薄い。対して電話の価値は洒落にならない程、高い」

 

「似たような事を通信聖隷術で出来ますが」

 

「それは特定の人間にしか使えないだろ?」

 

 聖隷術ということは天響術だ。

 現代に置いて、そういう術を使えるのは天族だけ。スレイは多分、やろうと思えば出来るけれどエレノアと同じでその性格上あんまり使おうとはしないだろうな。

 

「特定の人間にしか使えない難しい物よりも誰にでも使える簡単な物の方がいいんだよ。特定の人間にしか出来ないのは悪いとは言わない。だが、システムの中枢に組み込まれてしまうのはいけない。特定の人間だけってのは替えが聞かない。人という生き物はいつかは死ぬんだ」

 

 焼きたてジャぱんでも言っていた。シンプルで加工しやすい物でないとダメだと。

 ミスター味っ子Ⅱで言っていた。1人のミスター味っ子よりも100人の学生アルバイトがいいと。

 

「1人の導師よりも100人の凡人が世界をどうこう出来ないと、本当の意味でなにも変わらない」

 

「……真っ向から考えを否定するのだな」

 

 オレの言葉にアリーシャはスレイを思い浮かべる。

 導師のシステムの欠陥が導いた時代、導いてしまった人間……そう考えれば、ある意味スレイも被害者なのかもしれない。

 

「まぁ、とにかくだ。モアナとかにも、使い方を教えておく。なにかあった時には連絡を取れるようにする……くれぐれもこの事を口外しないでくれよ。場合によってはシバき倒すだけじゃ済まねえからな」

 

 次元斬りで殺さなくちゃいけねえ。

 ハンダゴテで溶接する細々とした部分は見せてはいないが、少なくともこういう物を量産できるとなれば……手紙を配達する業界が縮小されることは間違いないな。

 携帯電話とかインターネットの普及率が一気に上がったせいで、年賀状とか手紙を書かない家庭とか普通に増えてる……そう考えるとプリントアウトの機械って、頑張ってるよな。企業では売れてるけど個人で持ってる奴、あんま見ねえけど。

 

「コレについてはあんたが管理するなら、それで終わりよ」

 

「なんも言わねえのか?」

 

「便利な物、そう思えばいいんでしょ?」

 

 大分、ベルベットも分かってくれるようになったか。

 電話についてはこれ以上は触れてもなにも出てこない……実際のところは色々と出てくるんだが、それに関してはバンエルティア号を少しだけ弄くらないと出来ない。その辺に関してはベンウィック達と相談しないといけないし、何よりももう一個の電話をバンエルティア号に乗せなければならない。

 

「喰魔探しを再開するとして……婆さんの所に行くのか?」

 

 喰魔とは基本的に偶然に出会う事が出来た。

 地脈点はそこかしこにあるらしいし、めぼしい情報は誰も持っていない。ベルベットが自分自身が喰魔だと言う情報しか今のところは無い。

 

「それなんだけど……皆、来てほしいんだ」

 

 羅針盤を取り出すライフィセット。

 婆さんの所に行って情報を貰うのが1番妥当な案だが、それ以外になにかあるようでついていくとそこはベルベットがかつて閉じ込められていた場所だった。

 

「此処にいる奴はもう見つかったって、違うか」

 

「此処にある地脈点、他の地脈点よりも大きいんだ」

 

 グルグルと磁気が狂ったかの様に回転する、羅針盤の針。

 ライフィセットの足元が若干だが神々しく光っておりそこからエネルギーを感じる。結構なエネルギーだが、他のエネルギーとの違いが分かるのか。

 

「どうやらお前の地脈を感じる力が長けている様だな。ある程度、近付けば地脈点が分かると」

 

「ううん、来たときから感じていたんだ……此処と似たような力が、他にも感じる事が出来るよ」

 

「地脈を通じて他の地脈点を探知できるのか?」

 

 それは普通は出来ないと驚くアイゼン。

 そういえば天族には属性があるが、ライフィセットの属性を聞いたことなかったな。何属性なんだろうか?

 

「多分、何処までやれるか分からないけど」

 

「それでも重要な手掛かりになるわ。やってみて」

 

「……うん!」

 

 ベルベットに期待された事が嬉しいのか、張り切るライフィセット。

 目を閉じて意識を集中させると足元に波紋の様な光が発生し、ライフィセットを包み込む。

 

「コレで見つからなければ、また王都か……ゴンベエ、マーキングは?」

 

「フロルの風とは別の方法で港にならワープできるが、ぶっちゃけた話、その手は使いたくない」

 

 フロルの風だからパンパン使っているが疾風の唄を使うとなると確実にゲロる。なので、ライフィセットには頑張って欲しい。

 電話を作った筈なのに、圧倒的なまでに情報に乏しいオレ達。とにかく、なんでも良いから情報が欲しいとライフィセットに期待を寄せていると閉じた目を開く。

 

「地脈点、此処以外にも何十個もあるけどその中で此処ぐらいに大きいのが幾つかあったよ」

 

「大きさまで分かるのか」

 

「この島の地脈点が大きいから違いがよく分かるよ。南東と東の方に似た大きさのがある」

 

「恐らくはワァーグ樹林の虫とパラミデスじゃのう」

 

 地図を取り出して、×印をつけるマギルゥ。

 御丁寧にペンドラゴがあった場所と監獄島がある場所にも×印をつけている。

 

「だとすると、残りの大きな地脈点のどれかに喰魔がいるのね。細かな情報は現地で手に入れるしか無さそうね……」

 

「だが、コレは大きな一歩だ。当てもなく歩くのとは訳が違う」

 

「そうね。取りあえず総当たりでやってみるしかないわ」

 

 なに99回ミスっても、1回成功すれば全てがチャラになる。

 アリーシャの言葉を聞いて最後は地道にコツコツと行くことに決まる。

 

「お手柄ですよ、ライフィセット!」

 

「そんなことないよ」

 

「いやいや、俺には斬ることしか出来ないから地脈点を探知するなんて無理だ」

 

「いやはや、大したもんじゃぞ。やはり坊はただ者ではないのぅ」

 

「あんた達、ライフィセットをあんまり甘やかさないの!まだ喰魔は見つかってないんだから」

 

「でた、姉の嫉妬……あ、やべ」

 

 エレノア、ロクロウ、マギルゥが褒めると照れるライフィセット。

 ベルベットはムっとした表情となったので何時もの様に横槍を入れるのだが、今回は入れてはいけない感じだった。

 

「あんたは!いい加減に!本当に!黙れ!無駄口を!叩くなら!口を!縫うわよ!!」

 

 それはもう見事だった。

 オレはベルベットに胸ぐらを掴まれ、若干浮いた状態にさせられて往復ビンタをくらう。

 パシンパシンと監獄の奥底だからか程好く音は響く。鞭を振るったかの様なその音は聞いているライフィセットの顔が若干青くなる程だった。

 

「だ、大丈夫か?」

 

らひ、大丈夫だ(なに、だいじょうぶだ)ミルクを飲めば治る」

 

「一瞬にして腫れが引いた!?」

 

「貴方、いったいどういう身体の構造をしているのですか!」

 

 トマトの様に真っ赤になった顔を見てアリーシャが心配をするので牛乳を飲んで傷を癒すと驚くライフィセットとエレノア。どういう構造かと聞かれても、お前達となんら変わらない人体構造だ。ミルクを飲んで治るのはおかしいと引くんじゃない。

 

「ライフィセットが感じた方向に向かって出発……と言いたいが、今何時だ?」

 

「もう夜よ」

 

 寝ていたから、時間の感覚がズレている。

 監獄の内部は暗いし、これは体内時計がおかしくなりそうだ。

 

「なら、出発は明日だ。宝探しの疲れもある、今日は全員休むぞ」

 

 アイゼンの案に誰も反対意見を出さず、出発は明日に決まる。

 やることも向かうべき場所も大体決まったので、ベルベットが閉じ込められていた場所を出て自分の部屋に戻って、バンエルティア号にする改造の道具でも取ってこようとするとモアナが広間にいた。

 

「お手……お手はこうだよ!」

 

「なにをしているのですか?」

 

「あ、エレノア!狼にお手を教えてるんだけど全然お手をしてくれないの」

 

「狼……あ」

 

 モアナの直ぐ前に金色の毛を持つ狼がいた。

 そういえば、此処最近はご無沙汰だったと思い出す。

 

「次は誰だったかしら?」

 

「オレだ……ちょうどいい時に来たな」

 

「へいへい」

 

 久しぶりの狼に変化。

 やはりと言うか、四足歩行の生き物に姿を変えるのは馴れない。

 

「ゴンベエ、狼だったの!?」

 

 はじめて見るので驚くモアナ。

 目をキラキラと輝かせて、嬉しそうな顔をしているのだがオレにとってそれは怖いと言うか断りにくい顔である。

 とりあえず、例によって金色の狼が吠えるのでそれを復唱し吠えて共鳴をすると眩い光に包まれて、何時も通り真っ白でなにもない空間に連れてこられる。

 

「モアナは……来ていないのですね」

 

「流石に連れて来るわけにはいけねえだろう」

 

 非戦闘員を此処に呼ぶわけにはいかない。

 今ごろは急に居なくなった事をビックリしているだろうな。

 

「汝」

 

「くだらない御託は不要だ……オレが必要と思えば使う」

 

「私に技を授けて欲しい」

 

 骸骨の騎士が出て来て、何時ものくだりをしようとすると先に答えるアイゼン。

 アリーシャもやる気は充分の様で既に槍を取り出しており、直ぐに答えた。

 

「……ふむ」

 

「ん?」

 

 何時もならば直ぐに技を教える骸骨。

 今回は珍しくなにかを考えており、目玉が無いので分かりにくいが視線はアイゼンに向けられている。

 

「その身に宿る呪われし加護が故に拳だがそこの名無しを除けばこの中で最も万能に近い。汝、なにを求める?」

 

「アイゼン、お主なんの技が欲しいか問われておるぞ」

 

 死神の呪いのせいで武器が使い物にならなくなる為に最終的に素手で戦うスタイルに落ち着いたアイゼン。

 拳を用いての近距離戦闘は勿論の事、天響術も使えて攻撃だけでなく補助も可能なオールラウンド……武器を用いない技ならばなんでも出来る、いや、教えれると言ったところか。

 

「オレに教えるなら、出来るだけ強い技を教えろ」

 

 なにが欲しいとなるとやはり強さしかないか。

 アイゼンは強い技を求めると骸骨の騎士は剣を地面に突き刺した。

 

「天地魔闘の構え、ウードン、怒雷蜂(どらいぱち)、グレートマックスなオレ、飛龍昇天破、石破天驚拳……汝が求める技はなんだ?」

 

「どれもロクな技じゃねえな」

 

 後、やろうと思えば全部出来る技だな。

 骸骨の騎士から聞いた技の名前からどんな技なのかを考えるアイゼン。

 

「天地魔闘の構えかグレートマックスなオレ……悩みどころだな」

 

「よりによってその2択かよ……」

 

 他にも色々とある中で、選ばれた2つの技。

 アリーシャ以外は1回だけ、1つしか教えてもらえないので慎重になって絞る。オレ的には石破天驚拳が向いていると思うが、アイゼンは既に天地魔闘の構えかグレートマックスなオレのどっちかに絞っている。

 

「天地魔闘の構えって、構えなのに技なのか?」

 

「構え自体は至ってシンプルだ……ただまぁ、破るのは難しい」

 

 技なのに構えな事に疑問を持つロクロウ。

 天地魔闘の構えは空手の天地上下の構えから攻撃と防御と魔法を流れる様にして相手を徹底的に潰す大魔王の技。

 弱点は天地魔闘の構えの技を発動した後にあるほんの少しの膠着状態だ。

 

「それは物凄い攻撃が出来る前提のカウンター技だから、性格的に向いてねえぞ」

 

 天地魔闘の構えというかカウンター技の弱点として、相手がカウンター技を使ってるとバレれば対処される。

 シンプルに相手が攻めて来ないとカウンター出来ねえ。相手が攻めなければならない状況に出来るほどの戦闘力が無ければ使えない。

 

「なら、決まりだな。グレートマックスなオレを教えろ」

 

 オレの意見を聞き入れ、天地魔闘の構えを諦めるアイゼン。

 骸骨の騎士はアイゼンに地(山)属性の最強の蹴り技とも言うべきグレートマックスなオレを伝授し、アリーシャにも技を授けると次に技を授けるのはライフィセットだと予告すると消え去り監獄に戻った。

 

「モアナが居ねえな」

 

 さっきと同じ場所にいたがモアナが居ないことに気付く。

 いったい何処に行ったのだろうかと考えていると、金属音が監獄に鳴り響く。割とすぐ近くから聞こえたので向かってみると、そこにはモアナがおり、ダイルとクロガネと一緒にいた。

 

「また折れたか……未熟!」

 

 クロガネの手元に折れた太刀が数本。

 號嵐を越える刀を作っていた様だが失敗に終わったようだ。

 

「刀が弱いんじゃなくて、あんたがバカみたいに硬いだけだろう?」

 

「いや、俺を斬るぐらいの事が出来なければ話にならん。もっと硬い素材で硬い刀を打たなければ……」

 

「硬い刀ね……」

 

 クロガネの作った刀を拾う。

 名刀と呼ぶに相応しい刀で職人の魂が籠っている物だと分かる逸品なのだが、名刀ではダメだ。クロガネは神の刀を越える一品を作らなければならない。

 

「おぅ、帰って来たか」

 

「ああ、新必殺技を引っ提げてな……どうやらそっちは順調じゃなさそうだな」

 

「毎回、この爺さんをぶった斬る側の身にもなってほしいもんだ」

 

 叩き折れた剣を見て深く溜め息をつくダイル。

 クロガネを斬る側の心理つっても、クロガネなら斬られても喜ぶだけだ。

 

「大体、硬い素材ってなにがあんだ?煌鋼でも充分に硬い素材なんだぞ」

 

 コンコンと折れた太刀で地面を叩くダイル。

 使っている素材も充分に良い素材なのだが、それではダメなら後はなにがある?超合金でも作るのか?

 

金剛鉄(オリハルコン)……色々と試したが、金剛鉄(オリハルコン)はまだ試した事は無い」

 

「金剛鉄、伝説の金属じゃないか!」

 

 またとてつもない物を話題に出してきたな。

 その名を聞いたアリーシャは大きく驚く……オリハルコンと言えばこの世で最も硬いとか言われたりする金属。現実の世界には存在しているかどうかあやふはであり、オレのこの転生特典でもどういう金属なのかはっきりと教えてくれない。

 

「いや、伝説じゃない。太古の遺跡で極々稀に発見される稀少金属(レアメタル)の中でも特にレアな物だ……過去に何度か欠片を見たことはあるが刀を打てる大きさとなると聞いたこともない」

 

 アイゼンがそういうと視線はオレの方に向く。

 オレだったら持っているかもという期待の視線を向けているが、そんな物は持っていねえ。

 

「ダイヤモンドを人工的に作ることは出来ても金剛鉄の作り方は知らんし持ってねえよ」

 

「そうなると……アメッカとベルベットの武器作る時に使った材料はどうだ?」

 

「それは嫌だと何回言えば分かる?」

 

「これ以上の素材がねえから言ってんだよ!!」

 

 炎のメダルと闇のメダルは完全に無くなったがそれ以外はそこそこ残っている。

 ダイルはそれをと言うが、アレで武器を作ったら完全に神秘的な力で號嵐に打ち勝ってしまうので作りたくはない。第一、残ってる材料的にも刀を使う役のロクロウが憑魔なので下手したら弱体化する可能性もある。

 

「200年程前に金剛鉄の塊をある遺跡で発掘されたと聞いたことがある。船が嵐に巻き込まれて沈んだらしいがな」

 

「地の底から海の底か……ん、いや、待てよ?」

 

 海に沈んだならば仕方がないとするロクロウだがふとあることを思い出す。

 それは言うまでもなくオレであり、聞いている面子もオレの方に視線が向く。

 

「お前、確か魚人になれたよな?」

 

「お前な、海がどんだけ広いと思ってんだ?」

 

 自力で泳いで取ってこいと言い出す前に無理だろうという視線を向ける。

 確かにゾーラリンクになれば海底の奥深くまで潜っていくことは出来る。だが、問題はそれが何処にあるかという事だ。この監獄の水路を利用した電波を飛ばす装置は既に作っているから応用すれば金属探知機を作れなくはないが、オリハルコンがピンポイントに引っ掛かるとは限らない。

 

「欠片の金剛鉄を溶接して塊にした方がまだ現実的だ……それに」

 

「それに?」

 

「金剛鉄を使っても號嵐に勝つのが無理だったら現存する金属ではどうしようもねえぞ」

 

 実際の硬度とか金属としてどれだけ優れているかは知らないが、金剛鉄と言えばこの世で最も硬いと言われている金属だ。刀にするだけの塊を見つけてクロガネの技術で刀にして、號嵐とやり合って折れた場合はそれ以上の金属は無い。そうなれば本当にヤバい、次が無いも同然の状態だ。

 

「職人にこんな事を言うのが失礼なのは分かるが、物作りは失敗も大事だ。失敗する前提での気持ちでいかねえと」

 

「お前、真面目な事を言えるんだな」

 

「ダイルの癖に失礼だな」

 

 オレは真面目にやろうと思えば出来るが、あんまりやりたくないんだよ。

 スゴく真面目な感じとか苦手だし頭が痛くなるし、思考が固まってめんどくさい。

 

「オレの癖にってなんだよ」

 

「ダイルの癖に怒ってるー」

 

「おいおい、モアナ、そりゃ使い方がおかしいだろう!!」

 

「モアナの癖におかしいかな~」

 

 モアナのほっこりとした姿にベルベットを除いて笑う一同。

 これから喰魔を探しに行くという空気ではないが……まぁ、こういう緩い感じの方がオレは好きなのである。

 明日の朝一に喰魔を探しに出発する事で決まり、今日は休むのだが残念ながらオレに休んでいる暇はない。色々とバンエルティア号にくっつけたりしなければならない。丸々一年、グータラしていたつけが今ごろになって回ってきたんだろうな。




スキット 獣はいても除け者いない、ただし漬物てめーはダメだ。

モアナ「ゴンベエ、お手!」

ゴンベエ「あ!?」

ダイル「モアナ、ゴンベエは人間……人間だよな?」

ゴンベエ「人間だよ」

モアナ「でも、エレノアはゴンベエは狼男だって言ってたし、ゴンベエが狼に変身するのを見たよ!」

ダイル「そういや、お前、魚人にもなれるらしいよな……どうなってんだ?」

ゴンベエ「勇者の力の一部だと思えば良い……モアナ、オレはどちらかと言えば狼男じゃなくて勇者だ」

モアナ「え~ゴンベエは狼だよ!」

ダイル「海賊に協力している勇者が何処にいやがる」

ゴンベエ「割といるんだけどな……」

モアナ「ゴンベエ、狼の姿に変身してよ!」

ゴンベエ「一応聞くけど、なにをさせるつもりだ?」

モアナ「さっきの狼さんみたいに芸を仕込む!」

ゴンベエ「却下!!オレはそんな事はしたくねえ!」

モアナ「……ゴンベエはモアナの事が嫌いなんだ」

ダイル「おいおい、泣かすんじゃねえぞ」

ゴンベエ「お前、その手に乗ると思うなよ。アリーシャにスレイと共に行ってくれとの頼みをめんどくさいから断った」

モアナ「モアナの事が嫌いだから……ヒッグ、グス」

ダイル「おい、マジで泣いてるぞ」

ゴンベエ「落ち着け、オレ。泣いているからどうしたんだ?あのアバズレの様に本当はしたいけども必死になって我慢している苦難の表情は本当にエモいですね~と言えるぐらいにはならなければ」

ダイル「そんな女居るのか!?」

ゴンベエ「結構アレな性格の女だぞ。『私は正論をぶつけてぶん殴って笑顔を曇らせるのは大好きですけど、理不尽な暴力は大嫌いです!』と平然で言い切ってだな」

エレノア「貴方達、モアナになにをしてるのです!!」

ダイル「っげ、エレノア!」

モアナ「エレノア…ヒッグ……」

エレノア「もう大丈夫ですよ……さて、弁明はありますか?」

ダイル「いやいや、オレは悪くねえからな。ちょっとぐらいはつってんのに、こいつがケチるから」

ゴンベエ「それを言い出したら、モアナに適当な事を言ったエレノアが悪い!」

エレノア「な!なんで私が悪いことになるのですか!」

ゴンベエ「オレは狼男じゃねえ!あの姿は黄昏の勇者が呪われた時の姿だ!」

エレノア「勇者って、貴方が勇者とは思えません!」

ゴンベエ「このトライフォースが目に入らねえか!」

エレノア「なんですかその3つの三角は……金は趣味が悪いですよ?」

ゴンベエ「お前、コレ某宇宙海賊が探していた宇宙最大のお宝と同じ事が出来る代物だぞ」

エレノア「別に命が減るものでないなら、少しぐらいモアナの遊び相手になってもいいじゃありませんか」

ゴンベエ「お前な、ここ結構臭いんだぞ」

ダイル「なんだそりゃ……まぁ、潔く諦めてこっちに来いよ」

ゴンベエ「この野郎、人としての尊厳ぐらいは守れ」

ダイル「バッカ、お前。子供と遊ぶときはな、少しぐらい大人になるもんだろう」

ゴンベエ「……ああ、もう分かった。狼になってやるよ!」

モアナ「やった!」

ゴンベエ「ただし、お手とかボールを取りに行くとか一切しない!」

モアナ「え~」

ゴンベエ「代わりに背中に乗せて走ってやるよ……アメッカも一回しかやった事ないから、貴重だぞ」

モアナ「乗っていいの、わーい!」

エレノア「よかったですね、モアナ」

ゴンベエ「微笑むなバカ……ただモアナ、1つだけ1つだけ約束してくれ。オレは狼じゃない」

モアナ「え~ゴンベエは狼でしょ?」

ゴンベエ「狼に変身することが出来るお兄さん、ここ重要だ……分かったな?」

モアナ「うん!狼男のお兄さんだよね!」

ゴンベエ「っぐ……いや、まだ狼男だからセーフか……因みにエレノアは?」

モアナ「エレノアはお姉ちゃん!」

エレノア「あら、ありがとう」

モアナ「で、アイフリード海賊団の皆はお兄ちゃん!」

ダイル「モアナ……言ってくれるじゃねえか」

モアナ「あ、でもダイルはトカゲだからペットかな?」

ダイル「な!?」

ゴンベエ「しゃあ!自分だけ安全圏内に居ると思ったら大間違いだぞ!」

ダイル「るせぇ!!お前もオレと同じ枠に落ちろ!」

ゴンベエ「バカ言ってんじゃねえ。オレは狼男だ……ペットじゃねえ!!」


スキット ジ■リライドWithゴンベエ

ウルフゴンベエ「ワン!」

モアナ「次はあっちに行ってよ!」

ウルフゴンベエ「ワォーーン!」

ライフィセット「モアナと……狼になったゴンベエ?」

アリーシャ「色々とあって、モアナの遊び相手になってるみたいだ」

ライフィセット「そうなんだ……」

アリーシャ「乗ってみたいのか?」

ライフィセット「え?」

アリーシャ「ゴンベエに乗っているモアナを羨ましそうに見ていたぞ」

ライフィセット「えっと……ちょっと乗ってみたいかな。アメッカは乗ったことあるの?」

アリーシャ「あるにはあるが……危機的状況だったから乗り心地を堪能している暇なんて無かった。だが、馬より乗り心地はよかった」

ライフィセット「そうなんだ……頼んだら乗せてくれるかな?」

ウルフゴンベエ「クゥーーン……」

モアナ「ゴンベエが嫌だって」

ライフィセット「ええ!?ダメなの!」

ウルフゴンベエ「ワン!」

モアナ「ゴンベエはモアナのだから乗っちゃダメだよ!」

アリーシャ「そんな意地悪をせずに、少しぐらいライフィセットに乗せてはくれないか?」

ロクロウ「待ちな!」

アイゼン「話は聞かせてもらった……オレ達も乗せろ!」

ウルフゴンベエ「バウ!?」

ライフィセット「2人もゴンベエに乗りたいの?」

ロクロウ「やっぱ男なら狼に乗ってみたいって気持ちがあるんだ」

アリーシャ「狼に乗ってみたい?馬じゃダメなのか?」

アイゼン「確かに馬も悪くはない。悪くはないが、狼とどちらかと言えば断然狼だ」

ロクロウ「そうそう。こう、皮製の服を着てナイフを片手に狼に乗って颯爽と山や森を駆け抜けるのに男は憧れるものだ」

ライフィセット「ちょっと、分かるかも……」

ウルフゴンベエ「クゥーーン……」

アイゼン「そういうわけだ。ゴンベエ、お前の背に」

ゴンベエ(B)「却下!」

ライフィセット「!」

アリーシャ「ゴンベエ、分身をしていたのか?」

ゴンベエ(B)「バンエルティア号を弄るのとモアナと遊ぶのに数が居るから分身してんだよ。それよりも人の事を好き勝手言ってくれやがって。なにもう、既に乗る前提で言ってんだ」

ロクロウ「狼に乗って駆け抜けてみたいだろう」

ゴンベエ(B)「気持ちが分からないわけではない。けど、そういうのは狼に言うのであってオレに言うことじゃない」

ライフィセット「ダメ、かな」

ゴンベエ(B)「ダメ以前に、絵面を考えてみろ。大体ORZ(こんな感じ)の状態の上に乗っているんだぞ」

アイゼン「おい、やめろ」

ゴンベエ(B)「それにお前達を乗せれるかどうかも怪しい」

アリーシャ「モアナや私がいけるなら、ライフィセットは乗せれるんじゃないのか」

ゴンベエ(B)「乗せれない事は無いけど、ついさっきモアナがエレノアも一緒にって行ってエレノアを乗せた瞬間に限界が来た……」

ロクロウ「それはエレノアが悪いだろ、エレノアは尻が重そうだし」

ゴンベエ(B)「ロクロウとアイゼンは乗せることは無理だ。お前等、無駄にガタイが良いし……諦めろ」

アイゼン「……ッチ」

ライフィセット「乗れるなら、乗ってみたいな……」

ウルフゴンベエ「……ワフ」

モアナ「ゴンベエが乗っても良いって言ってるよ!」

ライフィセット「よし……わ、モコモコだ!」

アリーシャ「なら、私も一緒に」

ウルフゴンベエ「ワォオオオン!」

アイゼン「っく……狼に乗って駆け抜けていきやがった」

ロクロウ「羨ましいよな、アイツ等」

ゴンベエ(B)「むさ臭い男を乗せるよりはましか」


 アイゼンの術技

 グレートマックスなオレ(愚礼砥魔屈巣名俺)

 説明

 灼熱の熱風と激震する雷鳴で全てを貫く蹴り。
 弱い犬はよく吠えるが、最高に強くなったオレは吠えて吠えて吠えまくる。地属性判定がついており、その名に相応しい圧倒的な威力を誇る。エクシリア2の様に技名をカスタムすることが出来て使い続けることにより改→真→爆→超に進化する。

 アリーシャの術技

 武神旋光破

 説明

 飛び上がって全力で叩きつけて切り払うとある極秘ミッションを受けて足軽に扮装した二等兵の技。
 ベルベットが邪王炎殺黒龍波を覚えたときに授けられた。

 爆炎槍

 説明

 爆炎を利用し急接近をして相手を斬りつけ、足から炎を噴出して元の位置に戻る火属性の技。
 アリーシャは爆炎槍と言っているがブレイズランスと呼ぶのが正式名称だったりするマギルゥの時に教えられた技。

 牙王霊閃槍

 説明

 霊力を纏った槍での無数の神速の突き。突きは何処までも延びていき、狙った獲物は絶対に逃さない奥義
 アイゼンが技を授かった時に覚えた技。



 エレノアの髪型

 雲丹

 説明

 誤ってバッテリーに触れて感電してしまった結果、頭が爆発して雲丹のようになった。
 必死になって髪の毛を整えようとしても電気の影響で雲丹の様にピンと延びてしまう。


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海の神秘

皆、続きをそんなに期待していたとは作者驚きです。
早くベルベットの笑顔を曇らせたい(水着はDLCのあれです)


 喰魔探しの旅を再開し、ライフィセットの指針の元に船は行く。

 明確な目的地が分からないので、ハズレの可能性も考慮しなければならない。

 

「辺り一面が海……ハズレの可能性が高えな」

 

 望遠鏡でなにか見えないかと探っているが見えるのは海だけ。

 アイフリード海賊団が現在進行形で作っている世界地図を見ても、この辺りには海しか無い。

 エレノアに聞いても聖寮が管理だなんだとしている場所はない。

 

「ついたよ!此処、此処が地脈点だよ!」

 

「見渡す限り、大海原じゃな。この地の底が地脈点かえ?」

 

「世界の大半は海だ。地脈点は元々陸よりも海が多い」

 

「いくら聖寮でも海底に喰魔を捉えておくのは難しいです」

 

「難しいのであって、出来ないわけではないのだろう。聖寮は天族の意思を無理矢理抑制しているならば水の中に潜る術を開発したりあってもおかしくはないんじゃないか?」

 

 アリーシャの意見に聖寮ならばありえると思う一同。

 そういえば、レディレイクになんか埋まってるらしいがスレイ達は無事に回収することが出来たのか?ライラもよく分かってないとなると、相当昔の遺物だと思うが。

 

「ハズレの可能性が高そうね……」

 

「ごめん……」

 

「謝らなくていいわ。あんたのせいじゃ無いんだから」

 

「いや、待て。虫の喰魔が居たんだから魚の喰魔が居てもおかしくはないんじゃないか?」

 

「一理あるな……ゴンベエ」

 

「ちょっとタンマ」

 

 海の中となるとまともに身動きが取れない。

 水中に潜る術を持っているのが現状オレだけなので全員の視線がオレに向くのだが、オレは自分の部屋に戻って音叉と三角フラスコ、後バッテリーとか色々と入った箱を持ってくる。

 

「まだ出発したばかりで流石に異変は起きていないと思いますよ」

 

「異常事態が起きたら電話を掛けろと居残り組には言ってあるからオレ達発信はほぼねえよ……携帯電話には利用価値が色々とあるんだよ」

 

 正確に言えば携帯電話で使う電波に物凄い価値があるだがな。

 持ってきた装置の電源を起動すると三角フラスコの底に綺麗な光の線が一本入った。

 

「これ、電球……じゃないの?」

 

「電球はお前達に貸したのしか持ってきていない……コレはレーダーだ」

 

「レーダー?」

 

 なにそれと言わんばかりに首を傾げるライフィセット。

 物は試しだと音叉をライフィセットに渡し、鳴らしてみると三角フラスコの底にある光の線が微弱だが波を打つ。

 

「……海の中になにかいるな」

 

「そりゃ魚ぐらい居るでしょう」

 

「海だからと言って常に何処にでも居るわけじゃねえ」

 

 オレの言葉になにやってんだと呆れるベルベットだが、これは意外大事なんだ。

 海に魚は居るとは言うが年中同じところに居るわけではないし、少しでも海域がズレれば全く居ない場所にも出る。そうじゃなきゃ季節の魚なんて概念が無い。

 

「あくまでもこれは居るかどうかの確認だ。この辺りになにも居ないなら完全なハズレで即座に撤収だが、極々僅かな反応がある。即席で本格的な魚群探知機じゃねえから細かな位置は分からねえが、少なくとも喰魔が居る可能性は高い」

 

 聖寮の何時もの結界は見当たらないのが少しだけ気にかかるが、それでも海にはなにかが居る。

 

「あんたが泳いで確かめた方が早いんじゃないの?」

 

「オレの視界だけになっから遅い」

 

 確実性を求めるならば、オレが泳いで確認をするのが良い。

 ゾーラの服を着るかゾーラの姿に変身して泳げば海の中を自在に移動できるが、その時に頼れるのは視界だけだ。

 視力は比較的にいい方だが視覚だけしか頼れないので見えないところとか盲点とかにあったら気付かない可能性がある。その分、レーダーだと確実性は少し薄くなるが一気に探すことが出来る。

 

「海の中になにかが居るってのが分かったから一旦此処に船を停めてもらおう」

 

「ベンウィック、帆を畳め!」

 

 ここにはなにもないから此処にはなにかあると分かり、一歩進む。

 この海域から出ないようにとベンウィック達が帆を畳んでいるとライフィセットが興味津々な顔で音叉を鳴らして反応する三角フラスコを見ていた。

 

「面白そうな顔だな」

 

「うん……ゴンベエの作る物ってどれもコレも変わってるけど、スゴいよ」

 

 オレの作ってくれた物を褒めるライフィセット。

 褒められて嬉しい気分になる反面これはコレでまずいものなんだと自覚しているのであまり喜びを見せられない。

 本格的とは言えないレーダーだが、これを漁業の奴等に売ったとしたらそれこそ魚が取れる場所に移動して取りまくる……まぁ、現代の日本でも同じだから問題はなさそうな気もするが。

 

「だったら、もうちょっと見せてやるよ」

 

 ベンウィック達が船を止めるまで時間が掛かる。

 配線の方をちょこっと弄くりグルグルと電線を巻いた簡単なコイルに繋げてちょうど暇をしていたベルベットの所に持っていく。

 

「あ、音叉を鳴らしてないのに動いた!」

 

「なによ、急に」

 

「ライフィセットに色々と見せてるんだよ」

 

 音叉を鳴らしていないのに波打つレーダー。

 コイルをベルベットから離してみると波が弱くなっていき、もう一度ベルベットに近付けると強く波を打つ。

 

「ベルベットに反応しているのかな」

 

「それはさっきまでのレーダーと違って、金属に反応するレーダーだ」

 

 ベルベットではなくベルベットの籠手に近付けてみると、より強い波を打つ。

 電波さえあれば簡単とはいえ金属を探知する道具が作れる……アリーシャは素で忘れてそうだが、レディレイクに情報を送り続けなければならない。適当な物を送りつけてたりするし、そろそろちゃんとした物を送らなければ刺客を送られそう、いや、送られてたっぽいな。

 

「因みにだが、股関(ここ)に当てても意味は━━ぐっはぁ!?」

 

「あんたはなにを教えてるのよ!!」

 

「こ、恒例行事です……やらんと、アカンねん……」

 

 股間にレーダーを近付けるとベルベットから拳骨をくらった。

 金玉に反応するしないのネタは男ならば一回はやらなくちゃいけない……下ネタとか言わなそうな奴等が割と多いし、こういうのをオレが引き受けとかなければ誰がやる?ベンウィックか?ダイルか?

 オレの言うことに付き合ってられるかとベルベットはこの場から離れていき、ライフィセットはオレを心配してくれるのだが、レーダーの方に目が向く。

 

「まだ反応してるみたいだけど」

 

「そりゃあ金属に反応する物だからな、船の金属にも反応する」

 

 微弱ながらも波を打っている事に気付くライフィセット。

 バンエルティア号は木造船だが乗っている奴等とか資材に金属製の物がある筈だから反応してもおかしくはねえ。コォーンと音叉を鳴らすと強く波を打つが金銀財宝はあまり金属探知機に反応しない物なのであまり気にしないでおく。

 今回の目的はこの前の様なお宝を探すのではなく喰魔を探すことなので魚群探知はともかくとして、金属探知は必要無い。

 

「おーし、お前等船を停め終えたぞ」

 

「なにか見つけるまで、上がってくるんじゃないわよ」

 

「おい、難易度高すぎだろう」

 

 船の帆が畳まれてベンウィックから船が止まった報告を受けるとさっきの事を怒っているのかベルベットの容赦の無い鞭が飛んで来る。もしかしたら喰魔がここに居るかもしれない。そんなレベルの可能性なので、なにもない可能性もある。

 ハズレを引く可能性もあるのに結構な無茶を言う……つーか

 

「オレの負担がデカすぎる」

 

 よくよく考えればオレの負担がバカみたいに大きい。

 海の中に居るかもしれない喰魔を探すとなれば、モアナやベルベットの様な人間をベースとしてねえ可能性が高い。そうなると話し合い云々が通じず、いつぞやのクワブトの様に戦闘をしなければならず水中なのでオレしかいない。

 

「1人で全工程をやらすの勘弁してくれよ」

 

「仕方無いでしょ。あんたのせいで私、泳げなくなってるんだから」

 

「泳げたら付き合ってくれるのか?」

 

「……まぁ、泳げるようになったらね」

 

「そうか……じゃあ、泳ぐぞ」

 

 言質は取った。

 炎のメダルの力がモロに出ているベルベット。泳げなくなった原因が分かっているのならば話は早い。

 

「これがあれば水の中を泳ぐことが出来る」

 

 アングラーの水カキと銀のウロコをベルベットに渡す。

 泳げるようになる道具があったことに驚くのかポカンとするベルベット。

 

「これも、貴重な道具かなにかじゃないの?」

 

「いや、それの上位互換を使ってるし別の道具があるからそこまで価値は無い」

 

 銀のウロコを貴重な道具と見るが、金のウロコという上位互換やゾーラの服があるので価値は薄い。

 とはいえ、水に対する耐性が弱まっているベルベットにとっては持っておかないと泳ぐことが出来ない。ゾーラに変身する事の出来るオレには不要だ。

 

「さっきから付き合うだなんだ不穏な会話をして、いったいなにをしているんだ?」

 

「オレ一人で泳いで探すのは効率悪いからベルベットに頼んでんだよ」

 

 少しだけムスっとしているアリーシャ。

 付き合ってと言っているがそういう意味ではないとちゃんと説明をするのだが、不機嫌そうな顔は続いている。

 

「だったら、ベルベットじゃなくて私に頼まないか」

 

「……お前は後で誘うつもりだったぞ」

 

「っ……何故ベルベットに先に声をかけたんだ。私なら直ぐに海に飛び降りたぞ」

 

 笑顔でとんでもない事を言ってくれるアリーシャ。

 泳ぐのが上手くなってたり水に対する耐性が強まっただけで根本的な肺活量云々は変わっていない。いや、特訓で増えてるけど、そこまでだから海に飛び降りるのは心臓に悪い。

 

「いや、たまたま近くに居たからだ」

 

「あんた、ロクロウでもよかったの?」

 

「ぶっちゃけ、誰でもいいぞ」

 

 オレ一人でやるのは効率が悪い。

 シンプルに数が欲しいので泳ぐ云々を言っているのであって、変な下心はそこにはない。アイゼンでもロクロウでもマギルゥでも、なんだったらビエンフーでもよかったのである。

 その辺りの事を言うと物凄く冷たい目を向けるベルベットとアリーシャ。残念ながらオレは変な下心を向けていないので、オレは悪くねえ。

 

「とにかくだ、オレ一人だと効率が悪すぎる。右側が行けても左側を捜索できなかったりするわけだ」

 

 話を本来の道筋に戻し、海を泳いでの捜索の効率の悪さを言う。

 

「なに、オレ達もなにもしないというわけではない」

 

「なにをするのですか?」

 

「当然、これだ!」

 

「ええっ!?」

 

 アイゼンは自信満々に取り出した……釣竿を。

 

「なんだ、その反応は」

 

「ここに来ての釣竿だと誰だってそうなんに決まってんだろ」

 

 海の中に直接潜って云々の話をしている中で釣竿を出すな馬鹿野郎。

 いきなりの提案にライフィセットとエレノアも驚いているじゃねえか。

 

「ただの釣竿じゃない、フジバヤシの釣竿だ。長さは九尺三寸一本竿、素材は伊賀栗竹、生き物の如く粘る四分六の胴調子に腕と一体化する様な握りの巻き具合、そして蝋色漆の仕上げ……文句の付け所の無い逸品だ」

 

「それについての文句はねえがそれを語っているお前に文句がある」

 

 ドヤ顔なのが逆になんかムカつく。

 ただ単に釣竿の自慢がしたかったから言っている感じがある。

 

「そういうことでなく、何故喰魔を相手に釣りなんですか?」

 

「逆だ。喰魔だからこそ釣りなんだ」

 

「はい?」

 

 言っている事がよく分からないので目を細めて呆れるエレノア……うん。

 

「オレに引っ掛かると痛いからやんなら後にしてくれよ」

 

「そうは言うけどよ、俺達はお前みたいに水の中を自由に行き来出来ないぞ?」

 

「馬鹿を言ってるんじゃねえ……泳ぐための道具を作っていないと思うのか?」

 

 さっきから色々と言っているが、こっちだってなにか無いわけじゃねえ。

 ゼルダの伝説ゆかりの泳ぐ道具以外にもちゃんと泳ぐための道具は持ってきている。魚群探知機をなおしに部屋に戻り、酸素ボンベを持ってくる。

 

「この中に空気が入っていて海の中でも呼吸が出来る」

 

「お前、何時の間にそんな物を」

 

「そりゃあ監獄を拠点にした日からに決まってんだろ」

 

 拠点を確保した時点で大分自重は捨てている。

 携帯電話を作るのと平行して役に立ちそうな物は色々と作っている。

 

「これがあれば水の中でも……僕、泳いでみたい!」

 

「泳げるつっても20分位だから無茶だけはすんなよ」

 

 目を輝かせて挙手するライフィセット。1つ目はライフィセットに決まりで残すは2つ。

 誰か挙手をするかと思ったのだがロクロウ達は挙手をしない。

 

「んだよ、お前等やらねえのか?」

 

 ロクロウ辺りはやりたいと言ってくると思ったが、珍しく言ってこねえ。

 

「いや、泳ぎたいには泳ぎたいんだが今回は喰魔が目当てだろ?戦うことを考えれば、武器を海水に漬けるわけにはいかん」

 

「ワシはパスする。間違えて鮫の餌になるのはごめんじゃ」

 

「私は泳いでとるよりも釣ってとる方が得意ですので」

 

「……オレは息継ぎがヘタとかそういうのじゃない。シンプルに水に沈む」

 

 ロクロウ、マギルゥ、エレノア、アイゼンはそれぞれの理由で断る。

 酸素ボンベ、作る過程で空気入れが爆発したりしたんだが……まぁ、使わないなら使わないで現代に戻った時にレディレイクの湖に沈んでいる物がなんなのか確認しに行けるからいいんだけどよ。

 

「ゴンベエ、私はこれ(酸素ボンベ)よりもあれを」

 

「アメッカはこっちだったな」

 

 前にヘルダルフを海に沈めた時、ゾーラの服(トワイライトプリンセスver)を着て貰ったので渡す。

 

「一応、オレも着替えておくか」

 

 海中に喰魔が居たら、戦うことになるのはオレ達だ。

 ゾーラリンクの状態でも十二分に戦えるが人以外をベースとしている喰魔ならば分が悪かったりする。オレ、手加減があんまり得意じゃないからな。殺してはいけないとなるとやりづれえ。

 ゾーラの服に着替えるべく船内に戻るとライフィセットがやってきて何事かと聞けば、ベンウィックが海に潜るんだったら着替えとけと水着を持ってきてくれたので着替えることに。

 

「なによ……言いたいことがあるなら言いなさいよ」

 

「……見るんだったら、もうちょっといいシチュエーションで見たかった」

 

「……そんな暇はないわ」

 

 ベルベットも水着に着替えていた。

 ただの水着ではない。ビキニ?否、バンドゥビキニというベルベットのセクシーな魅力を引き出す水着でありパンツもなんか薄い。

 

「私も水着に着替えればよかった……」

 

「いや、そっちを着てくれ」

 

 ゾーラの服を着ているアリーシャは水着を着てこなかった事を悔やむが、今はそういう空気じゃない。

 ベルベットの水着は非常に似合っている。なんか髪型までお洒落に決めており、海辺で遊んでいたらナンパされる……いや、近付くなオーラを若干出しているから近付きにくいか。

 ベルベットとライフィセットに酸素ボンベとゴーグルを渡して、使い方を説明する。20分ぐらいしか潜れないのとオレ達と違って自在に泳ぐことは出来ない。水中なので会話もまともに出来ないので手話も覚えて貰う。

 

「……ここから飛び降りるのか」

 

「ん?そりゃまぁ、それしか方法は無いからな」

 

「今更ながら海を真っ二つにした方が早い気もするな」

 

 バンエルティア号から飛び降りして海に潜らなければならないとなると、色々とめんどくさい。

 それなりの高さがあるので飛び込んだときの衝撃はそこそこだからと今更ながら海波斬を使えば良かったんじゃないかと思い始める。

 

「お前な、前に海を割って大変な事になっただろ。あの時は港だったけど此処で海を真っ二つにしてみろ。なにがあるか分かんねえぞ!」

 

 海は割るもんじゃねえと怒るベンウィック。

 それが一番早い方法かもしれねえが、ここまで来たら泳ぐしかない。

 

「よし、いくぞ!」

 

 臆することなく海に飛び込むアリーシャ。バッシャンと大きな水飛沫を上げる。

 

「っと、オレも行くか!」

 

「よし、僕も!」

 

 オレ達に続いて海に飛び込むライフィセット。

 一応空気を入れているとはいえ鉄の塊を背負っているので心配だったが、普通に顔を浮かび上げてプカプカと体を水の中から浮かす。

 

「ベルベット、凄く気持ちいいよ!早く来て!」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

「大丈夫だ!私達がいる!」

 

 完全装備のベルベット。

 水に巻き込まれて溺れたのはつい最近のことであり、少しだけ飛び込む事を躊躇している様子である。とはいえ、行こうという気持ちはある……あるんだがな。

 

「よし!」

 

 最後に飛び込んだベルベットを見てガッツポーズを取るアリーシャ。

 うん。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫よ」

 

 ちゃんと全員が泳げているか船の上から確認をしてくるエレノア。

 銀のウロコとアングラーの水カキのお陰で水に対する抵抗が無くなったベルベットは喜ぶのだが、うん。

 

「ベ、ベルベット!?」

 

 顔を真っ赤にして両手で隠すライフィセット。

 

「なに、っ!?」

 

「なぁっ!?」

 

 なにに驚いているのかと聞こうとすると原因に気付くベルベットとアリーシャ。

 言うまでもないがベルベットの着ている水着は遊ぶ為のバンドゥビキニの水着であり、スキューバダイビングとかで使われる全身タイツみたいなのじゃない。

 酸素ボンベを背負って泳ぐスキューバダイビングで全身タイツを着るのは体温が下がるのを防いだりするのだが、体温の概念が薄そうなベルベットやライフィセットにはあんまり関係の無い話である。

 ただ遊ぶために作られた水着であり本格的な泳ぎの為に作られた競泳水着でないのは確かである……まぁ、なにが言いたいかといえばだ。

 

「ベルベットの水着を手に入れた!」

 

 ポロリはあった。

 

「ベルベット、前を隠して!!」

 

「なんで何時もこうなるんだ!!見るんじゃない!!触るんじゃない!」

 

「あんた、早くそれを返しなさい!!」




スキット 言葉もポロリ

ベルベット「全く、あんたが関わるとロクな事にならないわね」

ゴンベエ「そうは言うけどよ、そんな水着を着てきたお前が悪いからな」

ベルベット「仕方ないでしょ。あれしか胸のサイズが合わなかったんだから」

ゴンベエ「どんだけバリボー!?……てか、その割にはバッチリ髪型を決めてきただろう。海に潜ればセットが崩れるっつーのに」

ベルベット「ああしてないと違和感を感じておかしいのよ」

ライフィセット「プハァ」

ベルベット「ライフィセット……どう?」

ライフィセット「凄いよ、ベルベット!本当に水の中で息をすることが出来るよ!」

ベルベット「そうじゃなくて喰魔か結界かなにか見なかった?」

ライフィセット「あ……えっと」

アリーシャ「海の中には結界の様な物は見えなかった……が、泳ぎ始めたばかりだ。行っていない底の方にあるかもしれない」

ゴンベエ「だとよ……ライフィセット、もうちょっと探索を。万が一が怖いからアメッカと離れるなよ」

ライフィセット「うん!頑張って探してみるよ!」

ゴンベエ「アメッカ、頼んだぞ。深いところにいって水圧の関係で死にかけるのは洒落にならない」

アリーシャ「ああ、任せてくれ……ゴンベエは?」

ゴンベエ「ベルベットの付き添いだ」

アリーシャ「そうか……」

ゴンベエ「なんだ?」

アリーシャ「私も、その……水着を着てきた方がよかっただろうか?」

ゴンベエ「いや、その服を着てくれた方がいい……大体、お前、水着があるのか?」

ライフィセット「水着なら船に全員分あったよ」

ゴンベエ「あるのかよ!?……まぁ、あったとしてもそれを着てくれる方がありがてえよ。溺れる心配がなくなるんだから……頼むから破くんじゃねえぞ。それ二着しか無くて、泳ぎに特化してるのそれでオレも使うんだから」

アリーシャ「そうか……ゴンベエと同じ服を……」

ゴンベエ「ニヤけんなよ」

ライフィセット「もう一度、潜ってくるね!アメッカ、行こう」

アリーシャ「ああ」

ゴンベエ「……そういえば、調子はどうだ?体から力が抜けるとかそういうのはないか?」

ベルベット「別に、悪くはないわよ」

ゴンベエ「なら、よかった。オレ達も泳ぐぞ……」

ベルベット「なによ、この手」

ゴンベエ「いくら体が楽になったって酸素ボンベ背負ってのダイビングははじめてだろう。通常の何倍も水の中にいるし、海を潜るのもはじめてだろう。手を握ってやるよ」

ベルベット「そこまで子供じゃないわよ!」

ゴンベエ「子供とか大人とか関係ねえよ、ゾーラに変身すると手が滑って剣すらまともに握れなくなんだよ。その前に泳ぎになれてくれねえと、また大変な事になる」

ベルベット「大変な事ってなによ?」

ゴンベエ「人工呼吸と心肺蘇生をしないといけない」

ベルベット「っ……あんた、また」

ゴンベエ「嫌なら手を握ってくれ。それともそんなにオレの事が嫌いか?」

ベルベット「……じゃないわよ」

ゴンベエ「だったら、手を握ってくれよ」

ベルベット「……」

ゴンベエ「あ、そうだ。一個だけ言い忘れてた。水着、似合って、痛い!!っちょ、握力と暴力!!」

ベルベット「五月蝿いわね、さっさと潜るわよ!」

ゴンベエ「ったく、折角人が褒めたってのに……お前はもうちょっと自分が美人でバリボーな自覚を、だから握力を強めるな!」

ベルベット「あんたが余計な事を言うからよ!!」

ゴンベエ「余計な事じゃなくて事実だろう。なんか道中、エレノアばっかナンパされてるけどもエレノアかお前かと聞かれればベルベット、喰魔の左腕はやめろぉ!!」

ベルベット「五月蝿い……余計な事を言わないでよ」

ゴンベエ「余計じゃねえよ。こういう時は水着は似合ってると言うもんだ。例えそれが社交辞令としても」

ベルベット「死ね」

ゴンベエ「馬鹿、お前の場合は事実だろ!」

ベルベット「……沈め!!」


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重なる影、重ならない気持ち

皆、続きを気にしてる様だからあとがきで我慢をしよう。

ベルベットの笑顔は一回曇らせることで更に輝く!




 開始早々にポロリはあったが、海の中を泳ぐことはちゃんと出来た。アングラーの水カキや銀のウロコのお陰でベルベットはちゃんと泳ぐことが出来ている。

 魚群探知機で生体反応が微弱ながらあっただけあって海の中には驚くほどに生き物は居ない。そういう感じの水の流れなのかと思ったが、特にそういった感じではない。

 

「!」

 

 海の中を探索しても中々に特にこれといった物は見つからない。

 そう思っているとライフィセットがなにかを見つけたようで左手の指を3本、右手の指を2本伸ばして見つ(32)けたと手話で報告をする。あっちだと指で示すとそこには箱が置いてあった。

 明らかな人工物である箱、こんな所に沈んでいるとはとグリモワールの一件を思い出す。

 

 とりあえずはと箱に向かっていくオレとライフィセット。

 思ったよりも箱は軽くてライフィセットでも持てるほどの物だったのでライフィセットに託して辺りを軽く詮索すると面白い物を発見する。

 

「ぷはぁ!!」

 

「おお、ライフィセット、そっちはどうだ!」

 

「宝箱を見つけたよ!」

 

「なに!よくやったぞ!」

 

「いや、違うでしょ」

 

 海面に顔を出して自慢げに見せるライフィセット。

 今はそういう場合じゃないので宝箱に目が眩んでいる場合じゃねえぞ。

 

「そろそろ中に詰め込んだ空気が無くなる。面白い物も見つけたし、一旦出るぞ!」

 

「あ、うん!」

 

 海の中に潜った成果は思ったよりも上々だった。

 まだ潜っているアリーシャとベルベットを連れ戻し、ベンウィックにロープを投げ込んでもらい船の上に戻る。

 

「いや~ライフィセットが宝箱を持ち帰ってくれてよかったよ。副長達、全員ボウズでさ」

 

「海の中にビックリするぐらい魚が居なかった。この辺り、そもそもで居ねえ海域だ」

 

 釣りの戦果について笑いながら報告するベンウィック。

 運が悪いことにボウズになるのは海が悪いからで、人が悪いからではない……多分だが。

 

「ライフィセット、お前が開けるんだ」

 

「うん」

 

 エバラエバラエバラ

 

「あ……」

 

「ごまだれ~って、んだよ、空か」

 

 効果音をつけたのに出てきた物はなにも無かった。

 箱の中身は文字通りすっからかんで箱自体に価値はあるかと思ったが、箱は何処にでもある箱だった。

 

「そんな……」

 

「そう落ち込むな。宝探しをしていればこんな時だってある」

 

「いや、宝探しじゃねえよ」

 

 落ち込むライフィセットを励ますアイゼンだが、今は宝探しじゃねえ。

 それはこの前やったばっかで、今は喰魔探し……と言いたいところだが、オレの方もそれなりの成果があった。

 

「アイゼン、こんなのが」

 

「これは、木材の切れ端か」

 

「それがごまんとあったぜ」

 

 ライフィセットが宝箱を見つけた場所付近で大量に木材の切れ端があった。

 この広い海、木材の切れ端ぐらい探せば見つかるかもしれないがそれは1つぐらいでベルベットの右腕ぐらいの木材が複数となると話は別である。

 

「これは明らかに船の破片だな……どうやらこの海域に沈没船があるみたいだ」

 

 木材の破片がかなりある。

 海流が凄まじいわけではないこの海域でこんなにあるのは沈没船の破片と考えるのが妥当だ。

 ベルベット達と一緒に潜っているので空気や水圧の関係上深く潜りすぎるとヤバいエリアがあった。その辺りにも木材があったのが見えたから、そこにあるだろうな。

 

「なにかあったの?」

 

「ああ!どうやらこの海の真下に沈没船があるようだ!」

 

「……喰魔探しはどうしたのよ」

 

 意気揚々に語るアイゼンに冷たい視線を向けるベルベット。

 沈没船が確かにあったとは言えないが、十中八九眠っていると考えていいだろう。酸素ボンベの空気も底をつきかけているので今度はアリーシャとだけ潜って取ってこようとなるのだが、アリーシャの体が思ったよりも冷えていたので止める。

 遊泳の海じゃなくてど真ん中の海だからか思ったよりも冷え込む。

 

「さてと、オレも釣りに参戦させて貰おうか」

 

「ほう、中々の釣竿だな」

 

「ああ、勇者が魔王の目を引いて隙を作る際に使われた由緒正しい釣竿だ」

 

 トワイライトプリンセスのガノンドロフは釣竿を使えば楽勝である。

 オレも釣りに参戦して深い海があった方向に釣糸を垂らしているとベルベットが釣糸に苦戦をしていた。

 

「こうだったかしら?」

 

「そうじゃねえよ」

 

 針につけている餌の付け方が甘い。

 ベルベットが珍しく苦戦しているようなのでオレの持っている釣竿を持たせて代わりに餌をつける。

 

「釣りをしたこと無いのか?」

 

「別に、ただ久しぶりなだけだったから忘れてただけよ。昔は弟と一緒に釣りにいってたわ。そういうあんたこそ、釣りはどうなのよ?」

 

「オレの家は川辺にある水車小屋だから釣りは何時でもし放題。アメッカの住んでいる王都は湖の上に建設されてっから、行き放題だ」

 

 川で釣った魚は泥臭いから泥抜きに数日掛かってしまう。

 レディレイクにいる魚もあんまりだし、アリーシャとか一部の奴等が釣りをするな罰当たりがと言ってきたりしたから、釣りはそんなにしていない。ただこういうのは知識よりも体で覚える事だから何回かやっとけば嫌でも覚える。

 

「えっと、これをどうすればいいんだろ?」

 

 ベルベット同様に釣糸に苦戦をするライフィセット。

 

「それは」

 

「ああ、それでしたらここをこうして、こうすればいいんですよ!」

 

 ベルベットが教えようとする前にエレノアが教えた。

 さっきまで釣り針に苦戦をしていたベルベットと比較してもテキパキと釣り針に餌をつけており、ライフィセットは驚く。

 

「エレノアって、釣りが得意なんだね!」

 

「ええ。子供の頃に同じ村のテネブおじさんが教えてくれたんです。トリエットドジョウを100匹も釣ったことだってあります」

 

「100匹も、すごい!」

 

「……」

 

「ベルベット、ボーッとしていないで釣竿をちゃんと握れ」

 

「うるさい」

 

 あ、すんません。じゃねえよ。

 ライフィセットがエレノアと仲良くしている姿に明らかに嫉妬しているベルベット。

 

「あの二人、器とかそんなのじゃなくて仲の良い姉弟みたいだな」

 

「……ああ言うのがあるべき姿なのかもしれないな」

 

 2人の姿を見て、うんうんと頷くロクロウとアリーシャ。

 確かにあの二人は対等……人間性な意味ではエレノアの方が姉になるが絶対的なまでの主従みたいな上下関係は無い。ああいう感じの関係を人と天族全員が取ることが出きれば本当の意味で平和な世の中になるかもしれないのだが、今それを言っていい感じの空気じゃない。

 主にロクロウの言葉が原因でベルベットは二人に対して向ける視線が代わり、オレが声をかけづらい感じになってしまう。

 

「エレノアは面倒見がいいからのう。このままでは坊が取られてしまうかもしれんのぅ」

 

「お前、わざとだろ」

 

「はて、なんのことじゃ?」

 

 こんな時にそんな事を言うのは火に油を注ぎ込む事でしかない。

 ニヤニヤと笑うマギルゥを他所にベルベットは一旦目を閉じてからライフィセットとエレノアに近付く。

 

「……ライフィセット」

 

「仕掛けはですね、此処をこうやって結んでですね」

 

「難しそうだな……」

 

「ちょっと……」

 

 針の仕掛けの作り方をエレノアから教わっているライフィセット。

 2人とも集中しているのかベルベットの事には一切気付いていない。何時もならばこの辺りで一悶着あったりするのだが、完全に気付かれておらずベルベットは何処か悲しげな表情を浮かべる。

 何時もとは違う感じの展開に気まずい。

 

「ラフィ!!」

 

 その気まずい空気は壊された。

 

「え……僕?」

 

 気まずい空気は壊されて更に気まずい空気となった。

 つい先程までライフィセットと呼んでいたベルベットは明らかに違う人物を思い浮かべながら、此処にはいない別の人物の名前を出した。

 

「……あっ…っ……その…………気を付けなさいよ。海に落ちないように」

 

「……そんなに子供じゃないよ」

 

 さっきまでの楽しそうな表情とは打って代わり不機嫌なライフィセット。

 何時もの様に子供扱いをされたから不機嫌となって怒っているんじゃない。

 

「ラフィは落ちたのよ、昔」

 

「ラフィって、ベルベットの弟の事?」

 

「そ、そうよ……さっきのはうっかりと間違っただけ!」

 

「うっかり……用はそれだけ?」

 

「……ええ」

 

「……じゃあ、僕はエレノアと釣るから!」

 

 火に更に油どころかニトログリセリンを突っ込んで大爆発を起こすベルベット。

 ライフィセットは明らかに怒っている。当然と言えば当然の行為をしてしまったのだが。

 

「やれやれ、キモノは重ねる事は出来てもイキモノは重ねられんぞ」

 

「誰が……」

 

 ベルベットのやってしまった行為を咎めるマギルゥ。

 何時もならばもう少し反論しているのだが何処か弱々しかった。言葉を出そうにもなにを出せばいいのか分からないのかなにも言えない。

 壊れてしまったなんとも言えない空気、マギルゥとロクロウはそそくさと離れていってしまう。

 

「……今のはお前が悪い、ライフィセットはライフィセットだ」

 

 姉力及び女子力がとてつもなく高いベルベット。

 そもそもで喰魔になった原因は弟が殺されたことでちょうどライフィセットぐらいの年頃でライフィセットと似ている。つか、同性同名である。

 ベルベットにとって目の前にいるオレ達が知っているライフィセットを弟の様に見ている……だけど、その反面、自分の弟と重ねている。

 容姿が似ているのか性格が似ているのか同じ年頃なのか、理由は様々だろうがベルベットは重ねてしまっている。

 

「……じゃあ、どうしろって言うのよ!」

 

「どうするもなにも、先ずは謝った方がいい」

 

 残ってくれたアリーシャはどうしろと言うベルベットの言葉に対して謝ればいいと言う……うん。

 

「確かにそうだよな」

 

 ベルベットが悪いことをしてしまったのは事実だ。ごめんなさいと謝らねえと。

 

「ごめんなさいと自分の悪いことを言って謝ってみよう。例えそれで許して貰えなくても謝ったことで一歩前に進める」

 

「いや、それは違えよ。それだとただの自己満足だ」

 

 許して貰うために謝るのであって己の自己満足の為に謝るんじゃねえ。自己満足の為に謝ってもそいつから許しを貰わなければ逆に苦しむ。謝ったとしても、自分が悪いことをしてしまったと気付いた頃にはもう遅い。

 オレとしては自分が悪いことをしてしまったと自覚してくれて悪いことをしたと謝っても許してやらなければ自分は悪いことをしてしまったと言う罪悪感に苦しんでくれるから絶対に許さねえけど。本当に罪悪感で苦しめ。

 

「許しを貰ってこその謝りだ。許しも無しの謝りなんてただの自己満足だ……自分の中でケジメをつけたい訳じゃねえだろ?」

 

 今回は10:0の割合でベルベットが悪い。

 ライフィセットと弟を元々重ねている感じがあったのだが、今回はライフィセットをライフィセットでなく弟として見てしまった。それはどう考えてもベルベットが悪い。

 

「ライフィセットはなにを思って、って、お前等の竿が引いてんぞ」

 

「あ!」

 

「本当だ!ゴンベエ、すまない」

 

「謝んな……オレはボウズか」

 

 二人の竿は引いているのに、オレは一切引いていない。

 さっきのベルベットのポロリで丸々運を使い切ったなと釣竿を戻してライフィセットとエレノアの元に向かう。

 

「お二人さん、釣れてっか?」

 

「ああ、いえ全然です」

 

「さっき海に投げたばかりだからまだだよ」

 

 さっきまでの怒りが嘘みたいに普通のライフィセットと気まずそうな顔をするエレノア……あ、これはヤバい。

 八つ当たり気味で怒りっぱなしのベルベットと違って怒りの感情をある程度はコントロールをすることが出来ている。

 

「あの、よろしいですか?」

 

「……ライフィセットのことだろう

 

「はい……なにもない様にしていますが、その……」

 

「逆にそっちの方が怖えよ」

 

 怒るというのは案外疲れて苦労するものだ。

 日夜怒っていては感情の整理が出来なくなるし、興奮しているだけで周りに八つ当たりしてしまう。出会った頃はベルベットは常に怒っていたが今では怒りの感情をある程度は制御できて怒る時に怒ったりする事が出来るようになった……ライフィセットも怒る時に怒れてそれ以外はオフを一応は出来ている。そういう相手は大体怖えよ。

 

「ライフィセット……ベルベット」

 

「別に怒ってなんかないよ……ベルベットは弟のラフィが心配で僕の事は心配じゃないよ」

 

「そんなことはありませ━━」

 

「じゃあ、どうして間違えたの?僕とラフィが似ているから?だったらなんで今まで間違わなかったの?どうして今になって間違えたの?」

 

「それは……」

 

「ベルベットが分かってるのは、見てるのは僕じゃなくて、ラフィなんだよ!」

 

 思ったよりも根が深いライフィセット。

 これはオレの問題じゃなく言いたいことをハッキリと言わせたので。溜まっている物を発散させておかなければ、何時爆発するか分からない。

 

「どうだった?」

 

「見てるのは僕じゃないってよ」

 

「そうか……」

 

 ベルベット達の元に戻り、ライフィセットが言ったことの要点だけを教える。

 オレがサラッと言っているだけでも怒りが伝わってくるのか、アリーシャの表情は暗くなる。

 

「聞いてるのか?」

 

「……聞いてるわよ」

 

 そもそもの原因であるベルベットはオレ達に顔を向けない。

 一応は耳を傾けてくれているが、声からは暗さが伝わってきてしまうぐらいに元気が無い。自分でもやらかしてしまったと言う罪悪感が段々と出てきてしまっている。

 

「お前そんな、拗ねてる場合か?」

 

「……」

 

 拗ねてないわよ!と言い返して来るかと思いきやなにも言おうとしないベルベット。

 こちらに顔を向けようとしないので表情が分からないが俯いているのは分かる。オレの言っている事が胸にグサリと刺さっているのだろう。

 

「本当に手遅れになる前に、元に戻らねえと」

 

「うるさい!!誰がそんな事をしてって言ったのよ!」

 

 関係を元に戻れなくなる前になんとかしねえとまずい。

 そう思って言うがベルベットはそんなのは要らないと言うのだが、なんとかしねえと本当にまずい。

 

「誰でもねえよ。ただ単にオレがそうしたいと思っているから、言っているだけだ」

 

 オレと言う人間は誰かの為に頑張れるタイプの人間じゃない。

 ヘルダルフをボコったのも84%は納税の免除の為だし……アリーシャに力を貸してるのも、結果的には自分が楽をしたい為だったりもする。今、こうやってベルベットと向かい合ってるの自分がそうしたいと思っているだけだ。

 

「なら、余計な事はしないで!!私は別にどうだって、どうだっていいのよ!!」

 

「余計にややこしい事になってんじゃねえか」

 

「黙れ!」

 

「ベルベット、それはダメだ!」

 

 感情のコントロールが上手く出来ないベルベット。

 素直になることは出来ず、オレの言葉の反対を行こうと振りきってしまい、余計にややこしくなる。

 その事を指摘すると攻撃をしてくる……金属探知機を股間に持っていった時と違い拳骨ではない。炎のメダルと闇のメダルを加工して出来た剣を出す。

 

「それはくらわねえぞ」

 

「っ!!」

 

 何時もならばぶん殴られているが、それはわざとだ。避けようと思えば何時でも避けれる。けど、それだと意味が無い。

 ベルベットの剣を親指、人差し指、中指の3本の指でつまんで防ぐ。

 

「幾らなんでも剣での攻撃はやりすぎだ」

 

「安心しろ……これぐらいなら何万回来ても完全に防ぐことが出来る」

 

 ふざけたことをして殴られるのは構わないが、こういうことでの攻撃は絶対にくらわねえよ。

 オレへの攻撃が無駄だと分かったベルベットは籠手に剣を戻して、オレとアリーシャを強く睨む。

 

「ベルベット、先ずは謝ってみよう……いや、違うか」

 

 謝ることを提案するが首を横に振ったアリーシャ。

 今は謝ることよりも大事な事が見える。いや、見えてしまう。

 

「気持ちを整理しよう。落ち着いて、一歩引いて見方を変えて考えないか」

 

 ぐいぐい行くのでなく立ち止まり、冷静になるために身を引くこと。

 それが今、大事な事だがベルベットはあまり聞く耳を持たない。と言うよりはあまり聞こうとしない。

 

「どうだっていいでしょ!!これ以上、勝手な事をしないで!」

 

「なら……どうしてそんなに辛そうなんだ?」

 

 余計な事をするなとはベルベットは言う。

 確かにオレとアリーシャはベルベットからすれば余計な事をしているのかもしれない。それでもするのは自分の為とベルベットの為である。ライフィセットとの間に溝が出来た結果、心の中に大きな靄がベルベットに出来てしまった。

 その靄の晴らし方はベルベットには分からない。何時もの様にどうでもいいと傍観的になってもなにもあるわけでなく人に八つ当たりをしたり怒ったりしても意味はない。

 どうにかすることは出来ず、どうでもいいわけではない。ライフィセットに対してベルベットはどうでもいい等と言う感情を抱いていないのだから。

 

「そんなに辛い顔をしている人を見過ごしたくない」

 

 だから、苦しんでいる。

 無愛想とはまた違う暗い表情に無意識の内に切り替わっているベルベットをアリーシャは見過ごせるわけがない。

 アリーシャの真っ直ぐな言葉を受けて頭を押さえるベルベット……あ~……うん。

 

「アメッカ、此処だと釣れないし別の場所に移動するぞ」

 

「ゴンベエ!?」

 

 さっきからボウズのオレ。

 海に潜った方が早いかもしれないが、皆が釣りをしている中、オレだけ泳ぐのもなんなので別の場所に移動する。

 

「こんな時に釣りの方を集中だなんて」

 

「その割にはしっかりとついてきてるじゃねえか」

 

「そ、それは……どうすれば、いいのかな?」

 

 謝ることが大事だが、それが上手く出来ず自己満足の謝罪はしてはいけない。

 アリーシャ自身がベルベットに対してなにかしてやれる事は無いのを薄々分かっている。だから、移動するオレについてきた。

 

「知らん」

 

「……え!?」

 

 なにかいい案を貰おうとしているが、そんなものはない。

 

「ベルベットに対してオレ達はなんにも出来ねえなら、触れねえ。ただそれだけだ」

 

 グイグイと距離を詰めて行くやり方もある。

 そのやり方が間違いとは言わない。だが、そのやり方だけが正しいとは言えないと言える。

 今はただただ停滞しているだけで前にも後ろにも進まない。なにか変わるきっかけの様なものが必要だ。だから、あえてなにもせずにそのままにしておくのも大事だ。

 

「なによ彼奴等まで……ラフィ……」

 

 オレとアリーシャが去ったことにより、更に落ち込むベルベット。

 弟の名前を呟き俯く声は弱々しくなっており気のせいか、放っている穢れがかなり強くなっている。いや、気のせいでなく本当に強くなっている。ライフィセットの事もあるのでこの状況はまずい。

 けど今はベルベットになにかをすることは出来ない、なにかをすれば余計な事で終わってしまう。




 イクスくん(笑)加入イベント 

 今日も今日とて逃亡生活を続けるイクスくん。そんなイクスを追い詰める包囲網。あの手この手で必死に逃げていると偶然テレビを発見する。
 ティルナノーグが他の世界を具現化しているとはいえこれは明らかに異質な物だと感じたイクスくんはテレビの電源を起動すると眩い光に包み込まれ気付けばテレビの世界に閉じ込められてしまった!
 どうやらミリーナを含め何名か閉じ込められた人達が居るようで、渋々元の世界に戻るために協力することに。


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ごめんねとありがとう

楽曲コード間違えてた……早めに気付いて良かった
感想が増えてほしい


「お~い、釣れてるか?」

 

 ベルベットから離れ、アイゼンとロクロウの元に向かって順調かを訪ねる。

 

「いやぁ、それがさっぱりだ」

 

「こっちもだ」

 

 どうやらロクロウもアイゼンも不調の様だ。

 元々、海の中には魚が全然居ないから不調なのは当然と言えば当然なんだろうが……。

 

「お前達の方はどうだ?」

 

「私達の方も不調だ」

 

 さっき引っ掛かったのは、アリーシャとベルベットの竿が互いに互いを引いていたから。

 このままだと丸一日無駄に終わる可能性が浮上してきたので沈没船があるところまで潜っていくプランを考えとかねえとな。

 

「お前はさっきからコロコロと居場所を変えて……釣りは己との戦いだ。待つことが出来ない人間に、魚は釣れんぞ」

 

「いや、魚つってんぞ」

 

 そもそもの目的を忘れかけているアイゼン。

 魚型の喰魔が居るかもしれないと釣り大会が始まっただけで本来の目的は喰魔を探すこと……とはいえ、周りはもう完全に釣り気分だ。今日一日はこの釣りで終わってしまうのが分かる。

 

「とはいえ、釣れずにボーッとしているのは面白味に欠ける。なにかいい方法は無いのか?」

 

「釣りは自分との戦いだ……と言いたいが、場所を変えるしかない」

 

「場所を変えるにしてもここは船の上だ」

 

「あ、じゃあ船になろうか?」

 

 此処が地脈点なので船を動かすことは出来ない。釣りの成果を上げるためはもう少し大きく移動しなければならない。

 だったら、オレが船になってバンエルティア号が見える範囲での海を移動すればいい。

 

「お前、船になれるのか?」

 

「ああ……変身!」

 

 今まで1度も使ったことは、したことは無いけど赤獅子の王に変化する事が出来る。

 疑うアイゼンの前で堂々と変身すると驚くのだが、直ぐに残念そうな顔をする。

 

「船は船でも小船か」

 

「んだよ、贅沢言うな」

 

 帆を張れば物凄い速度で動くし、大砲も装備できる。

 鉤爪ロープと組み合わせることでクレーンのアームを出すことが出来て海底にあるお宝をサルベージすることだって出来る。見た目が小振りなヨットっぽいが、かなりの……ああでも、これとは別に船はあるんだよな。

 

「そういえば前に風が不要な世界を渡る船があると言っていたが」

 

「作ってほしけりゃ先ずは鉱山手に入れてこい……後、あれがいる」

 

 船を見て、前に言っていた事を思い出すアリーシャ。

 作り方は頭の中にあるが肝心の素材がない。外洋の船ならばかなりの規模になる。鉱山が必要だ。

 

「……素材があればその船を作れるのか?」

 

「まぁ、素材があったらな」

 

 船の事なのか話に食いつくアイゼン。

 バンエルティア号の様に木材メインの帆船ならば人間が間引いて育てた樹があればいいが、オレの知識にある船はそうはいかない。

 

「素材はなんだ?」

 

「沢山の鉱石、とだけ言っておいてやる」

 

「鉱石……」

 

 どれだけの規模になるか作る過程での失敗も考慮すれば最低でも鉱山が必要になる。

 携帯電話を作り上げた今、金属探知機があるので鉱山を見つける事が出来るが問題は鉱石じゃなくてアレだ。未来でアイゼンでない誰かが集めたあの鉱石の中には含まれていない、アレが無いとなにも出来ない。

 

「エレノア、引いてる!!」

 

「焦らないで!釣りは力じゃなくてタイミングです!」

 

「う、うん!!」

 

 船の話は此処までとするかの様にライフィセットの竿が引いた。

 どうすればいいのかと慌てるがエレノアが的確にフォローをし、やっと待ち望んだ物だとアイゼン達も近寄る。

 

「来るぞ、準備はいいな!」

 

 本来の目的は喰魔。

 もしかするとライフィセットは喰魔を引っ掻けたかもしれないので、油断は出来ない。アイゼンの掛け声で全員がそれぞれ戦闘態勢に入る。

 

「応!空中で刺身にしてやるぜ!」

 

「ロクロウ、それは人を斬った小太刀だ!使うならば刺身包丁を使うんだ!」

 

「おっと、そうだったな!」

 

 待ってましたと二刀小太刀を構えるロクロウ。

 アリーシャはそれで斬るんじゃないと二本の刺身包丁をロクロウに渡す。いや、ちげえだろ。

 

「喰魔だったら殺しちゃだめよ!」

 

「……は!大変だベルベット!」

 

「なによ?」

 

「喰魔が魚だったら、どうやって持って帰って保管すればいいんだ?」

 

「そういや、なんも用意してねえな」

 

 思い出したかの様に気付くアリーシャ。

 モアナやクワブトの様に陸を生きる生物なら連れ帰るだけで済んだが、今回は海を生きる魚。普通に連れて帰るには生け簀かなにかを用意しなければならない。海にいるから海水魚で淡水と相性悪いだろうし、本格的な設備とか作らないで大丈夫なのか?

 

「今です!」

 

「えい!!」

 

 オレ達の心配を他所にライフィセットとエレノアは一本の釣竿を引き上げる。

 よっしゃこいとアイゼン達はノリノリでライフィセットとエレノアが釣り上げた物を見るのだが、目を丸くする。

 

「魚でも喰魔でも無かったわね」

 

 なんかの角みたいな物を釣り上げた……なんだこれ?

 

「腹の足しにはならんな」

 

「……」

 

 食い物でもなければ喰魔でもない。

 珍しいお宝というわけでもないので落ち込むライフィセット。

 

「でも、ライフィセットに似合いそうですよ」

 

「名案じゃの。坊だけの個性が出るかもしれんぞ」

 

「僕だけの個性……」

 

 弟と同一視された事で不機嫌になっていただけあってか、自分だけと言う言葉に魅了されるライフィセット。

 早速、マギルゥ達の意見を取り入れて悪魔っぽい黒い角を頭につける……今更だが、帽子とかメガネとかじゃなくて角をつけるのか。

 

「やっぱり似合う!いい感じですよ!!」

 

「そ、そうかな……」

 

「ライフィセット、騙されるな!多分それ可愛いで似合うって言ってる!」

 

「ええっ!?」

 

 角を装備したライフィセットを見て笑うエレノア。

 褒められて嬉しくなっているが騙されてはいけない。確かに似合っているが、それは可愛いというカテゴリーで似合っているのであって、カッコいい要素は0だ。

 

「そ、そんな事はありませんよ」

 

 おいこら、目線を合わせろ。

 

「もう、エレノアったら!!僕は可愛いよりもカッコよくなりたいんだ!!」

 

「じゃが、グッと個性が強まったぞ!」

 

「え、本当?」

 

 チョロい感じのライフィセットが心配になる。

 マギルゥの言葉に誑かされているが、この個性はなんとも言えない個性……

 

「ウサミミがあるけど、つけてみるか?」

 

 やはり角よりもウサミミの方が似合うぞ。

 

「ゴンベエ、何故そんな物を持っているんだ?」

 

「勇者の使用した物だからだ……つけてみるか?」

 

「え……い、いや、止めておく!」

 

 ウサミミは恥ずかしいのか断るアリーシャ。

 この程度で恥ずかしがっていたら、ベルベットの格好なんてもっと恥ずかしいぞ。

 

「喰魔釣りを続けるわよ」

 

 そんな恥ずかしい格好をしているベルベットは不機嫌になっていた。

 ライフィセットをエレノアに取られたから?いや、違う。行き場の無い感情が苛立ちに変わってしまい不機嫌になっている。

 

「……」

 

 さっきまで喜んでいたり怒っていたりしたライフィセットは無言になる。

 ベルベットが全くといって興味を示していないからか必死さが伝わってきており、釣竿を手にする。

 

「ライフィセット、根をそんなに詰めなくても」

 

「喰魔を釣らなきゃ……そしたらベルベットは僕の事を認めて」

 

 心配しているエレノアが視界に入っていないのか、集中しているライフィセット。

 集中する理由はベルベットに自分の事を認めさせたいから。ラフィじゃないライフィセットという1人の天族として。

 

「もっと真剣に向き合えば話は済むんだがな」

 

 互いに向き合って本音の気持ちをぶつけ合えば割と簡単に問題は解決できる。

 喰魔を釣り上げたところでなんにも変わらない。多分、もっともっと溝が深まるだけかもしれない。

 

「……2人は大好きだから、苦しんでいる……大好きなのに、矛盾している」

 

 アリーシャは今の2人を見て、悲しそうな顔をする。

 ライフィセットはベルベットのことを心の底から嫌っているわけではない。

 感情的になってムキになっているだけで、実際のところはベルベットの事が大好きだ。大好きだからこそ、怒っている。

 ベルベットが自分の事を見ていない、自分を通して弟の幻影を見ていることを。自分の事を見て欲しいと思っている。認めてほしいと思っている。自分を見てくれない認めてくれないベルベットに怒っている。

 ベルベットの方も間違えた事と重ねて続けている事に罪悪感を抱いており、どうすればいいのかを悩んでいる。ムスっとして不機嫌になっているが表情は所々暗い。

 

「ゴンベエ、どうにかなりませんか?」

 

「なんでオレに聞くんだ?」

 

 必要なのはきっかけで、それはオレ達がどうこう出来るものじゃねえ。

 だから、見守りの姿勢になっているのにエレノアはオレに頼ってくる。

 

「貴方ならなんとか出来そうな気がして」

 

「オレをなんだと思ってるんだ?」

 

 対人関係の修復まで出来るわけがねえだろう。

 オレなら出来ると変な期待を抱いているところ悪いが、無理な物は無理だ。そう考えているとなにかを閃いたと手をポンっと叩きなにかを閃くアリーシャ。

 

「音楽を聞かせるのはどうだろう」

 

「なんでそうなんだよ」

 

「2人とも今はギスギスしている。そんな状態だと私達がなにを言っても効果はない。なら、音楽を聞かせて気持ちを落ち着かせるのがいい」

 

 二人の精神状態は不安定で言葉を聞いて貰えないので気持ちを落ち着かせる為に音楽を聞かせる。

 確かに音楽を聞けば気分が落ち着いたりするし、悪い手ではない……オレにしか出来なさそうなのが色々と不満だが。

 

「ちょうどいい。なにか一曲、弾け」

 

「そうだな。ボーッとしてるも暇だし、なんか一曲ぐらい弾いてくれよ」

 

 アイゼンもロクロウもアリーシャの意見に賛成だ。

 

「ほれ、なにか弾いてみい」

 

「マギルゥも……お前等、覚えておけよ」

 

 四面楚歌というか、もう既に弾かなければならない状況になった。

 オレが嫌がっているのが分かっているのかニヤつくマギルゥが若干だが腹立つ。

 

「ベルベットとライフィセットに合う曲を頼む」

 

「はいはい」

 

 オレがボッスン並の手先の器用さがなければ、こんな事は出来ない。

 オカリナを使うとなにがあるか分からないのでなんの力も無いギターを取り出す。

 アリーシャの要望はベルベットとライフィセットの気持ちを落ち着かせれる曲。そんな曲はあるかと考えていると、いい曲があったので弾く。

 

「いつも世界のどんな場所でも 大切な人がそばにいて おはようっ!て言える幸せを ほら みんなで祝おう!」

 

「!」

 

 頭に浮かんだ曲を弾く。

 ただ曲を弾くだけでは意味がないと歌もつける。どちらかといえば暗い諏訪部ボイスで歌う曲ではないのだが、これ以上にいい曲は浮かばない。

 

「あっ!私の方に来ました!」

 

 歌を歌い始めるとエレノアの竿が引いた。

 

「ぬぅうううワシの方もなんか来おったぁああ!!」

 

 続くかの様にマギルゥの釣竿が引いている。

 互いに釣り合っているかと思えば、違うようで一気に引っ張り釣り上げるエレノアとマギルゥ。

 

「……メガネと髭か」

 

 エレノアが引いたものはグルグルと渦の書かれた瓶底メガネ。

 マギルゥが引いたのは髭、黒色の髭……

 

「ろくなものが釣れないわね」

 

 変な物ばかりで肝心な喰魔が引けない。

 お宝の1つでも釣れればいいのだが、なにも釣れない。ベルベットは順調に行かないのか苛立つ。

 

「……ろくなものじゃないよ」

 

「え……」

 

 ベルベットにムキになるライフィセット。

 端から見れば噛みついている姿が可愛いが、言い返してくるとはベルベットは思っておらず戸惑う。

 ライフィセットはエレノアが釣ったメガネとマギルゥが釣った付け髭を装備する。

 

「おい、何処にツッコミを入れればいい?」

 

 牛というより悪魔と言える角。

 牛乳の瓶の底の様なグルグルと渦が書かれているメガネ。

 ベージュ色のフワッとした感じの付け髭。

 

 全てを装備してなんとも言えない感じの姿になっている。

 

「おほ~まさに個性の塊!若さじゃの!」

 

「お前、結構突っ走るタイプなんだな!」

 

「何処がだ」

 

 割と無茶をしているライフィセットを面白がるマギルゥとロクロウ。

 自分を見て面白がっている事に気付いているからか深く俯きなにかを考える。

 

「おかしいわよ。コイツら、楽しんでるし早く取りなさい」

 

「っ、やめてよ!ベルベットになにが分かるの!」

 

「!」

 

「……やっとか」

 

 ツンケンしていた2人がやっと向かい合った。

 ベルベットはライフィセットの装備が似合わないと外そうとするのだが、ライフィセットは強く拒む。

 

「わ、わかるわよ。そんな変な格好」

 

「わかるのは僕じゃなくてラフィの事でしょ!」

 

「……!!」

 

 ハッキリと向かい合って、向き合って気持ちを伝えた。

 自分じゃなくて自分以外を見ている事に怒るライフィセット。

 

「ごめんなさいは言わないのか?」

 

「……」

 

 謝るならば、今しかない。

 アリーシャは此処だとベルベットに謝るチャンスだというが、ベルベットはなにも言えない。なにを言えばいいのかが、分かっていない。ごめんなさいと言えばいいだけではないと分かっているから。

 

「お前はどうしてほしい?」

 

「僕は……」

 

 最終的にどういう鞘に戻りたいのか。

 このままベルベットと仲が悪くなって終わりたいというのなら、それも1つの考えだ。だけど違う。

 ベルベットに自分を見て欲しいと思っているからこその怒りだ。改めて自分がどうしたいかと言われて考えるのだが言葉が出ない。

 

「サヨナラの夕暮れ ケンカの後、元気ない足音 そんな日は思い切り 好きな物食べて寝よう!ごめんな!って思っても その言葉が中々言えなくて いつだって意地張って 思ってもいない事言っちゃって だけど僕たちは本当の関係 お互いの性格分かってる だから明日になったらいつも通りに デッカい声でこう言うのさぁああああ!」

 

「……」

 

 少しぐらいは背を押してやる。

 出鼻を挫かれてしまった歌の続きを歌うと俯いていたライフィセットの表情が変わる。

 

「ベルベットの釣竿が引いているぞ!」

 

「おい!またか!」

 

 こっちが初の歌で励まして背中を押してやろうとしているのに、なんでそうなる。

 ロクロウはベルベットの釣竿が引いていることを知らせるとベルベットは急いで釣竿を手にする。

 

「これは、デカい!」

 

 さっきまでのよく分からない道具と違い、思ったよりも引きが強くベルベットの力でも一苦労だ。

 

「ったく、オレが珍しくカッコよくやろうとしたら……」

 

「!━━あんた」

 

「逃げずに向き合え……やるぞ!」

 

「……ええ!」

 

 一二の三!!

 オレとベルベットは釣竿を引っ張り、大物を……ライフィセットよりも大きな大きな壺を釣り上げた。

 

「壺か……骨董品は相場が変わりまくるから、あんま好きじゃねえんだよな」

 

 多分、価値がある壺だが、ただの骨董品だ。

 利用価値らしい利用価値は無いと思っているとライフィセットがなにかに気付く。

 

「壺になにかが入ってるよ」

 

 中身が見えたのか、近付こうとするライフィセット。

 すると壺の中からタコとヤドカリを足したかの様な憑魔が出てくる。

 

「うああっ!!」

 

「おいおい、これより怖いのを色々と見てるだろ」

 

 憑魔の登場に驚くライフィセット。

 はじめての事だろうが、これよりも恐ろしかったり怖かったりした事は何回かあったので腰を抜かすんじゃねえ。

 

「よっしゃ!タコ焼きにして食ってやる!」

 

「あんなのを食えば腹を壊すだろう!」

 

 さっき魚を釣れなかった腹いせなのか捌く気満々なロクロウ。

 たこ焼きって言うが、あのサイズのタコを細かくするのは面倒だし何よりも美味しくなさそうだ。そもそもで食えるのか?

 

「ハウンド」

 

 複数体居るので喰魔ではない。

 遠慮なく倒していい相手だと分かり、船の事を考えて通常弾(アステロイド)を使うのを止めて追尾弾(ハウンド)で確実に仕留める。

 

「ふぅ……ビックリした」

 

「壺がやたらと重かったの、彼奴等のせいだったか」

 

「怪しいものに迂闊に近付いちゃダメよ」

 

「……ラフィだったら近付かなかった?」

 

「っ、そんな事を言ってないでしょ!!」

 

 ベルベットに対してまだムキになっているライフィセット。

 自分を見てほしいからだが、流石にそれを言うとなれば少しだけ頑固としか言いようがない。とはいえ、ベルベットがライフィセットに対して姉面をして言っているのもまた事実。

 歌でなにか進展をさせようとしたのが間違いだったのか……ん?

 

「おい、まだなにか入ってるぞ」

 

 カツンカツンと揺れる壺にまさかと言った顔をして一歩引くロクロウ。

 今度は5体ほどゾンビが出てくるのだが、ついさっきタコみたいなのが出て来たんだ。もういい。

 

「ハウンド」

 

 明らかに壺の大きさと入っている憑魔の大きさが合っていない。

 それを言い出せばベルベットの剣の長さとかアリーシャが何処から槍を取り出しているとか、オレの持っている道具が普段は何処に閉まっているのとか色々とおかしいことが浮き出るので特に気にせずに2回目のハウンドで倒す。

 

「それでライフィセットはどうしてほしいんだ?」

 

 二度目なので特に気にせず、話はさっきの事に戻る。

 最終的にベルベットにどうしてほしいのか、それが分からなければどうにもならない。

 

「僕は……ベルベットにちゃんと見てほしい」

 

「ちゃんとって、私は見ているわよ」

 

「見ていないから言ってるんだよ!!ベルベットは」

 

「見ているわよ!!」

 

「……いい加減にしないか!!」

 

 ちゃんと見ている見ていないで言い争うベルベットとライフィセットの間にアリーシャが割って入った。

 ずっと見守っている姿勢に入っていたが、二人の意地とか頑固さがここまでくれば我慢の限界が来るのは当然かもしれねえ。

 

「さっきから見ていれば……どっちもどっちじゃないか!」

 

「どっちもって、僕はベルベットの事を」

 

「だったらベルベットにハッキリと言うんだ!どうして言えない?」

 

「……」

 

「ベルベットも、ごめんなさいをなんで言おうとしない!最初の始まりは誰が見てもベルベットが悪いじゃないか」

 

「……分かってるわよ!」

 

「分かっていない!!どちらもお互いの事を本当に思っているのならば、真剣に向き合うんだ!!」

 

「……アメッカの1人勝ちだな、こりゃあ」

 

 我慢の限界で不満を爆発させるアリーシャ。

 顔を合わせようとしなかったライフィセットとベルベットを無理矢理向かい合わせる。

 

「言いたいことがあるなら、ハッキリと本音で語り合うんだ!!そうでないと……本当に手遅れな事になる」

 

 最後に若干顔に曇りが見えたものの、アリーシャに対してなにも言えない2人。

 どちらもツンケンしていてからちゃんと面と向かい合うのははじめてで、いざ顔を合わせてもなにを言えば良いのかが分からず目線を合わせようとしない。

 

「ちょっと失礼っと」

 

「っ!」

 

「いいから目を閉じろ」

 

 今回の一件の発端はベルベットだ。

 先ずはベルベットからどうにかしねえとなにも始まらない。

 

「余計な情報は削ぎ落とせ……ゆっくり深呼吸だ」

 

 ベルベットの目元に手を置いて、視界を防ぐ。

 本音を本気でぶつけたライフィセットに対してベルベットはなにかを言おうとしない。というか、なにを言えば良いのかが分かっていない。ライフィセットの本音が分かったので、頭の中を整理させる。

 

「ライフィセットはライフィセット、ラフィはラフィ……似ているかもしれないが、異なっている」

 

「……」

 

 オレの言っている事になにも言わず、無言になるベルベット。

 否定もなにもしないが口が僅かながら動いているので言葉はちゃんと聞いており、真剣に考えている。

 

「ライフィセットは自分はライフィセットでラフィじゃないと言っている。けど、お前は無意識にラフィとライフィセットを重ねてしまった……それは悪いことだ。ライフィセットにもラフィにも」

 

 ベルベットにとってどれだけ弟が大切なのかは、その姿を見れば分かる。

 弟の代わりになる存在なんて何処にもいない。それは分かっているけれど、それでも重ねてしまう。それはしてはいけない事だ。

 

「……もういいわ」

 

 口を閉じて少しだけ考えるベルベット。

 冷静になったみたいでライフィセットと向き合おうとしている……が、やっぱりまだ少しだけ思うところがあるのか少しだけ顔を反らす。

 

「その……悪━━」

 

「避けろ、ベルベット!」

 

「今、良いところなんだ!邪魔をするな!!」

 

 ベルベットが謝ろうとすると、なんか憑魔が襲ってきた。

 いきなりなんだと思ったらアメッカが槍の力を引き出してあっさりと倒すと元の姿に、壺の姿に戻る。

 ベルベットが釣り上げた壺、憑魔だったのか。だから明らかに壺の大きさと合わない憑魔が多く入ってたわけだ。

 

「……悪かったわね」

 

「……」

 

 ここでごめんなさいと言えないのがベルベットらしいと言えばらしい。

 ベルベットなりに謝っているのはライフィセットは分かっているけど、どう言えばいいのかが分かっていない。今更ながら、謝って済む問題でない事が浮上してきている。

 

「……あんたはあんただって事を分かってなかったわ……フィー」

 

「フィーって……僕のこと?」

 

「あんたの愛称よ……意味なんて特には無いけど、あんたはあんただから」

 

「ベルベット……」

 

 ラフィでなくフィーという誰でもない自分だけの愛称がついて嬉しそうな顔をするライフィセット。

 許すとはハッキリと言ってはいないが、そんな事はもうどうだっていい。そういう感じの雰囲気を醸し出しており、自分を自分として見てくれる事をライフィセットは喜んでいる。

 

「フィーか、中々個性的な愛称じゃな」

 

「……うん」

 

「一件落着……と言いたいが、本件は落着じゃねえな」

 

 ベルベットとライフィセットのにらみ合いはいい感じに納まった。

 けど、この釣り大会で得られた成果は0に等しい。そろそろ帰った方がいい感じの時間帯でこの地脈点はハズレだった様だ。

 

「いや、いい成果はあった」

 

「?」

 

 元の姿に戻った壺の中身を取り出すアイゼン。

 見たことの無い鉱石が中に入っており、オレの知識でも該当する物が無かった。けど、アイゼンは満足げな顔をしている。

 

金剛鉄(オリハルコン)の塊だ。クロガネの言っていた輸送船が沈んだ場所は此処だったみたいだ」

 

 どうやらなにも無かったでは終わらなかった。

 不幸を呼び寄せる死神の呪いを持っている癖にピンポイントで金剛鉄を引き上げるとは……あ、でもアイゼンはボウズだったな。

 喰魔は見つからなかったものの、代わりに色々と大事な物を得ることが出来て釣り大会は幕を閉じた。




 スキット 大事な名前

エレノア「私達もライフィセットの事をフィーと呼んだ方が良いでしょうか?」

ライフィセット「え……僕のことはライフィセットでいいよ」

アリーシャ「ベルベットの愛称が嫌いなのか?」

ライフィセット「ううん、むしろ好きだよ……だからかな」

アリーシャ「だからか」

ライフィセット「うん……ベルベットにとってライフィセットはラフィでもあったけど今日からフィーでもあるから。でも、エレノア達にとってライフィセットって僕だけだから」

ゴンベエ「意外と独占欲が強いな……まぁ、その分自分らしさが出ているけど」

エレノア「分かりました。今まで通り、ライフィセットと呼ばせていただきます」

ライフィセット「うん、よろしくねエレノア。ゴンベエもアメッカもお願い」

アリーシャ「ああ…………ちゃんとした名前を皆に言ってはどうだろう?」

ゴンベエ「今更だな。偽名を使っていることに対して罪悪感が沸いてきたのか?」

アリーシャ「そうじゃない……ただ、改めて名前の大切さを感じたんだ。エレノア達の事は信頼も信用も出来る頼れる仲間だ。それなのに私は何時までも偽名を使っている」

ゴンベエ「偽名つっても、スレイが付けた真名とか言うやつだろ?なんか割と大事そうな感じだし問題ないんじゃ」

アリーシャ「確かにこの名は気に入っているが、それとこれとは話が別だ……頭では理解していても心では納得出来ない」

ゴンベエ「なら、いっそのこと名乗るか?」

アリーシャ「それは……してはいけない。名前を名乗ってしまえば未来に大きな影響を及ぼす可能性がある。私達がこうして此処にいるのは本当ならばあってはならない事というのは分かっている」

ゴンベエ「んだよ、めんどくせえな」

アリーシャ「……そうは言うが、ゴンベエ。自分だけ本名を名乗っているじゃないか」

ゴンベエ「オレの方は問題ねえよ……いや、違うな。なぁ、アリーシャ」

アリーシャ「?」

ゴンベエ「……いや、やっぱいいわ」

アリーシャ「どうしたんだゴンベエ、なにかあるならば教えてくれ。悩みなら、相談に乗る」

ゴンベエ「悩みごとじゃねえよ。なんか現代よりもこの時代の方が生きやすいからいっそのこと残らないかって相談だ」

アリーシャ「なっ!?ハイランドやローランスを見過ごせと言うのか!?ヘルダルフの魔の手が何処にあるのかも分からないんだ!スレイだけに重荷を背負わせるわけにはいかない!!」

ゴンベエ「やる気満々か……やっぱ言えるわけねえよな。ナナシノ・ゴンベエじゃなくて名無しの権兵衛だって。もうなんか完全に周知されて、今更マサタカと名乗れねえよな」

 スキット 悩むなら飲んでしまえ

アリーシャ「……ふっ!……ダメか。壺の憑魔相手にカッとなっていたからか槍の力を引き出して倒せた。いったい、なにが原因で使えるようになったんだ?」

??「ん、なんじゃここは?」

アリーシャ「!?」

??「おっと、驚かせてすまんすまん。ワシも何故か急にこんな所におってビックリしているんじゃよ」

アリーシャ「急に?……は、もしかして?」

ベンウィック「あああ!!オレのとっておきが!」

アイゼン「なっ、オレの年代物が!!」

ロクロウ「おい、こっちの方も空だぞ!!」

アリーシャ「あの、なにをしたのですか?」

??「それは次回のお楽しみじゃよ」

ライフィセット「ゴンベエ、何処にいるの?」

ベルベット「あんた、急に消えるんじゃないわよ!」

アリーシャ「次回【サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その3】」

??「なにやら悩みごとがあるようじゃが、こういう時こそ酒を飲むんじゃよ」

アリーシャ「いえ、そんなお酒の力に頼るなんて事は……」

??「だからこその酒じゃよ」


なんやかんやで100話行ったよ。このペースで行けば200話行くかな


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その3(前編)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。



「オリハルコン……なにに使うか」

 

 あの後、海に1人で潜ってみると壺から溢れ出たであろうオリハルコンの塊を見つけた。

 稀少な金属なので売れば金になるのだが、どういう風に使えるのかと考えてみる。ぶっちゃけオリハルコンってまっぷたつに出来るんだよな。

 

「今日は本当に最高だな。コイツをつまみに飲む心水は一段と格別だろうな」

 

 手に入らないと思っていたオリハルコンを手に入れれた事に大喜びのロクロウ。

 これを加工して刀にすれば最上級の刀となりシグレと渡り合える……かもしれない。ぶっちゃけ武器の性能もあるが、シグレとの実力差とかもある。

 アイツ、戦いを楽しむタイプで最初から全力とかしない。多分、真の力的なのを隠し持ってんだろうな。

 

「喜ぶのはいいですが、オリハルコンはこの世で最も固い金属です。クロガネが加工出来ないかもしれませんよ?」

 

「なに、アメッカの槍やベルベットの剣を作ったんだ。なら、オリハルコンの1つや2つ、刀にすることが出来るだろう」

 

 多分、クロガネの腕だったらいける。

 エレノアの心配も心配だけで終わる……そうじゃないと、このオリハルコンが完璧に無駄になる。此処まできて加工出来なかったは笑えない。

 

「新しい武器、か……」

 

 物思いに槍を見つめるアリーシャ。

 ついさっき、オリハルコンが入っていた壺の憑魔を槍の力を引き出して倒すことが出来た。意識して出したのではなく、カッとなって無意識に出した。

 一刻も早く槍の真の力を使いこなせる様になりたいアリーシャはロクロウのオリハルコンを手に入れて喜ぶ姿を見て、停滞をしている自分を悔やむ。

 オリハルコン以上の素材で出来ている神秘的な力を持った槍、その槍の力を引き出せば強くなれるが、その力を引き出すことが出来ていない。

 

「あんまり焦るなよ」

 

「……そんな事を言ってもっ……」

 

 アリーシャに必要なのは修練云々じゃない。

 ベルベットがライフィセットに謝るのに必要だったのと同じく、きっかけが必要だ。それはオレがどうこう言うんじゃなく運的な物が必要だ。

 なにかタメになる事とかありがたい言葉とかを送れればいいんだが、生憎そういうのはあんまり言いたくはない。価値観や論理観はオレとアリーシャじゃ大分違う。あんまり言葉で攻めるとアリーシャも限界を向かえる。

 

「手段と目的を違えるなよ……お前は強くなりたいけど、強くなりたいから強くなりたいんじゃねえだろ」

 

 強さを求めることはいいのだが、アリーシャにはちゃんとしたゴールがある。

 そのゴールは強さを求めた先にあるものでなく、強さもその内の1つに入っているだけで他にも必要なのはある……。

 

「いや、すまん。今のは忘れてく━━ぬぅおあ!?」

 

 余計な事を言ってしまった。

 謝罪の言葉を送るのだが、その前に地震が起きる。

 

「全員、何処かに掴まれ!」

 

 船の上でのトラブルはお手の物か、迅速に対応するアイフリード海賊団

 アイゼンの指示の元、船の何処かに掴まろうと移動するオレ達。この地震、凄く嫌な━━ぬぅお!?

 

「ちょっと、あんた何処に手を入れてるのよ!?」

 

「殴るなら後にしろ!こっちもバラン━━」

 

「消えた!?」

 

 

 あ、これ例のティルナノーグとかいうのだ。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

「ゴンベエが消えた!?」

 

 

 突如として巻き起こる地震。

 この程度の災害は馴れているとアイフリード海賊団の面々は迅速に対応をしているとゴンベエが足を滑らせてベルベットの谷間に手を入れてしまい、何時もの対応のせいで怒ったベルベットが殴ろうとするとゴンベエはシュンと消え去った。

 

「何処に消えた!隠れてないで出てこい!!」

 

「おぉ、どうした?」

 

「ゴンベエが消えたんだ」

 

 消えたゴンベエを額に青筋を浮かべ探すベルベット。

 状況がイマイチ飲み込めていないロクロウに説明をすると一緒になって探してくれるのだが、船の上には何処にも居なかった。

 

「透明になっている、というわけではなさそうですね」

 

「ゴンベエなら出来そうだが、流石にそれはない」

 

 自分が悪いことをしたと思っているならば、ゴンベエはわざと攻撃を食らう。

 ついさっきベルベットの胸に手を挟んだ時殴るならば後にと言っていた……なんで毎回、ベルベットなのだろうか?いや、確かにラッキースケベを起こすのには最適な格好だ。だが、どうして私にはそういうのが来ないんだ?仮に揉まれたとしても、ベルベットの様に殴ったりはしない。頭を撫でるぐらいだ。

 

「この現象……ベンウィック、船内を探せ!」

 

「船の中、ですか?いくら地震でゴタゴタしてたからってゴンベエを見逃す筈が」

 

「いいから探せ!もしかするとチヒロがいるかもしれん!」

 

「チヒロって、チヒロさんの事?」

 

「そうだ」

 

「ティルナノーグのとかいう世界のこと?」

 

 またかと少しだけ呆れるベルベット。

 此処とは違う世界がこの世界に干渉しているせいで他の世界の住人が流れてきたりするとホトケが言っていた。

 ゴンベエが消えたのはその逆のパターンで、ゴンベエが別の世界に行っており、もしチヒロさんが居れば全てが納得がいく。

 

「また、あんな事をしなければならないのですか……」

 

 前回、起きた事を思い出してエレノアは渋い顔をする。

 私が強くなる方法を聞いた末にゴンベエが死ねば強くなれると言われて野球で決着をつける事になった。戦っているには戦っていたがなんとも言えない戦いで、良い思い出かといえばそうではない。

 

「ああーっ!!」

 

 チヒロさんが居るかもしれないと船内を探索して貰っているとベンウィックの叫び声が聞こえる。

 なにか予想外の事が起きたのだと声のした方に向かって走るとそこにはベンウィックと白髪のリーゼントを携えたタンクトップと短パンの軽装が特徴的なファンキーなお爺さんがいた。

 全員の顔を覚えているわけではないが、アイフリード海賊団にこの人はいない。

 

「おい、なにがあったんだ!」

 

「副長……やられた」

 

 震える声でアイゼンに報告をするベンウィック。

 悲しさよりも悔しさが声から伝わっており、直ぐに私達は戦闘態勢に入るのだが足元のそこかしこに酒瓶が転がってるのに気付く。

 

「いや~すまんすまん。いい匂いだったんで、つい飲んじまった」

 

「……飲んだ?」

 

「この爺さん、船に積んでいた心水、全部飲みやがった」

 

「な、なにぃ!?」

 

 ベンウィックのその一言でやっと状況が理解することが出来た。

 そこかしこに転がっているのはアイゼン達が宴会をしている時に飲んでいるお酒の瓶で、全てが空。リーゼントのお爺さんはよく見れば頬を赤くしていてお酒の匂いがする。

 

「ジジイ……テメエ、人が隠し持ってた40年物を飲んだのか!!」

 

 自分のとっておきのお酒を飲まれ、額に青筋を浮かべお爺さんに怒るアイゼン。

 

「やめなさい!相手は年寄りですよ!」

 

 そんなアイゼンをエレノアは止めようとするが止まらない

 

「それを言うなら、オレの方が年を食っている!」

 

「ワシ、これでもデーモン閣下程の年齢じゃよ」

 

「デーモン閣下?お爺さん、歳幾つなの?」

 

「10万72歳じゃ」

 

 10万!?

 確かアイゼンの実年齢が1000歳程だったから、このお爺さんはアイゼンの100倍は生きているのか?

 年齢がアイゼンよりも上だと判明すると、手を上げようとしていたアイゼンも少しは止まる。

 よかった。このままだと手を上げそうになっていた。

 

「あんた、異世界の住人なの?」

 

 少しだけ冷静になるとベルベットはお爺さんにストレートに聞く。

 お爺さんは首を傾げた後、髭を撫でて難しそうな顔をする。

 

「まぁ、異世界と言われればそうでもあり平行世界かと聞かれれば若干異なるが……平たく言えばそうなるの」

 

「……クソ、こいつもダメか!」

 

「あのこの様な事を言うのもなんですが、お酒、飲みすぎですよ」

 

 空になった酒瓶を振るロクロウ。

 もしかしたらまだお酒が残っているかもしれないと期待をしている様だが、全ての酒が飲み尽くされている。

 これだけのお酒を一瞬にして飲み干したとなれば、身体に不健康でしかない。

 

「酒はワシの命の源、どれだけ飲んでも問題ない」

 

「他人の命の源を飲んで言うか」

 

「……?」

 

「どうしたのフィー?」

 

 なにかに気付いたのか耳をアイゼンとお爺さんに傾けるライフィセット。

 

「えっと……声が」

 

「おぉ、言われてみれば似ておるのぅ!」

 

 お爺さんとアイゼンの声が似ている事に気付くライフィセット。

 確かに言われてみれば、声の若々しさの差異はあるが元の声質がアイゼンと似ている。

 マギルゥはその事に関心をしているが、関心をしている場合ではない。

 

「お爺さんは変な事をしませんよね?」

 

「ワシはアルハラもセクハラもせんよ!?」

 

 前回、起きた出来事が出来事だけについつい警戒心を出してしまう。

 見た目が中々に独創的だが、こうして話をしてみるとお酒が大好きなお爺さんで悪い雰囲気は一切しない……いや、油断はしてはいけない。マスク・ド・美人も普通そうな感じだったが、いざとなった時に極悪非道だった。

 

「そういえば、あのホトケとかいうのが出ておらんが」

 

「副長、大変です!なんか空に変なぶつぶつが!」

 

 お爺さんと会ったが、まだホトケには会っていない。

 その事をマギルゥが気にすると船員が大慌てで船の上からやってきたので、私達も船の上に向かうと空の雲がおかしな動きをしている。

 

「アメッカ、メガネかなにかを」

 

「ああ、そうだった」

 

 何故か分からないが私はホトケを見ることが出来ない。

 マスクかなにかを通してなければ見ることが出来ないので、私はチヒロさんから貰ったマスクを取り出そうと懐に手を入れるのだがマスクが見つからない。何処にしまった?

 

『はい、どうも。お疲れさまです。アイフリード海賊団御一行様でよろしいでしょうか?』

 

「ん?前に見たのと違う?」

 

 最初と前回と同じ人が出てくると思ったら違っていた。

 ホトケと同じぶつぶつ頭で薄い板の様な物を持っているがスーツ姿でしっかりそうな見た目をしていた。

 

「今回のホトケは出来そうな感じですね」

 

『えーすいませんね。ちょっと4号の方が有給休暇を消費してバカンスに行ってまして』

 

「おい、こっちは大事な心水がジジイに飲まれてるのにあのぶつぶつ頭は遊んでるのか?」

 

『まぁ、そうなりますね』

 

「ふざけんな!!こっちは美味い酒が飲めなくなってるのに、責任者をホトケを出しやがれ!!」

 

『すみません、うちはそういう感じの事はしていませんのでそう言われても困ります』

 

 そんなマニュアル対応みたいな事を言わないでほしい。

 美味い酒が飲めなくなったことにアイゼンとロクロウはキレるが、暖簾に腕押しの状態。

 

「ゴンベエは何処にいるのですか?」

 

 対応していない事を聞くよりも、他の事を聞いておいた方がいい。

 前にも居なくなってしまったゴンベエ。その時は夢の国と呼ばれる国に居たらしく、今回も何処かの世界に飛ばされている。もし危険な世界ならば……。

 ゴンベエが危険な目に遭っているんじゃないかと思うと、胸が痛くなる。

 

『彼は今ですね……USJにいますね』

 

「……USJ?」

 

 異世界だから聞いたことがないのは当然として、ピンと来ない。そこは大丈夫なところなのだろうか?

 

『彼のことなら基本的に心配しないでください。アレでも結構しぶとい方なので。ちょっと此方も別の仕事がありまして暫くすればそっちの方に送り返しますので安心してください』

 

 出来そうなホトケはそういうと消えていった。

 ゴンベエは一応は無事そうなので私は胸をホッと撫で下ろすのだがアイゼンはまだ怒っている。

 

「おい!!せめてオレ達の心水を弁償しやがれ!……っち!!」

 

 完全に姿を消したので声が届いていない。

 その事を理解したアイゼンは舌打ちをしてお爺さんを強く睨む。

 

「……ふむ……」

 

 お爺さんはアイゼンの鋭い視線を気にせず海の彼方を眺める。

 先程までは美味い酒を飲めたことににやけていたのだが、笑みは浮かべていない。

 

「どうやら面白いことになっておるの」

 

「なにが面白いだ!」

 

「なに、あっちの方向に一直線に進んでくれれば分かるぞ」

 

 監獄島がある方角と異なる方角を指差すお爺さん。

 この辺りになにかあっただろうか?アイフリード海賊団が書いている地図ではこの辺りには島らしい島は何処にも無い。しかし、なにかありそうな感じだ。

 地図の上で物事を見ているのはいいが、そればかりではダメだ。私はゴンベエが使っている望遠鏡でお爺さんが指した方向を確認するとボンヤリとだが島が見える。

 

「アイゼン、島だ!島が見える!!」

 

「なに、貸せ!!」

 

 こんな所に島があったとは驚いた!

 アイゼンにその事を報告すると奪うかの様に望遠鏡を取り、島がある方向を覗き込むとベンウィックに地図を持ってこさせる。

 

「おかしい」

 

「おかしい?」

 

「……!この辺りに島なんて無いよ!」

 

 改めて地図を見直して違和感に気付くライフィセット。

 私も地図に目を通すのだが、この辺りの海には島らしい島は書かれていない。アイゼン達が見つけたことが無い島と考えるのが妥当なのかもしれないが、アイゼンのこの驚く姿から見て、そうではない。あの島は無かった……筈だった。

 

「どうやらなにかの拍子であの島も一緒になって来てしまったみたいじゃ」

 

 この世界に無い筈の島がある。

 それはこのお爺さんや前回マスク・ド・美人が持ち込んだ病原菌と同じで異世界の物だ。

 

「爺さん、あの島がなにか知ってるのか?」

 

「あれはワシの島じゃよ」

 

「お爺さん、島を持ってるの!?」

 

「まぁの……ここで会ったのもワシが酒を飲み干したのも、これも1つに繋がる奇妙な縁なのかもしれんのぅ」

 

 面白いと笑みを浮かべるお爺さん。

 異世界の島か……異世界の住人であったマスク・ド・美人がかなり変わった道具を持っていたとなれば異世界の島はもっと変わっている筈だ。

 

「待ちなさい!私達は今、帰ろうとしている所なのよ。寄り道なんてしてる場合じゃないわ!」

 

 島に向かって進路を変更する雰囲気を醸し出していると待ったをかけるベルベット。

 監獄島に帰ろうとしている最中に起きた事なので流石に認めるわけにはいかない。しかし男性陣の目は輝いている。

 

「止めるな、ベルベット!今、これを逃せば二度とあの島には立ち寄れない」

 

 あの島もこの世界にはあってはいけない物だ。

 きっとお爺さんが元居た世界に帰る時に一緒になって元居た世界に戻される。

 

「それに飲み干された心水の代わりを補充が出来るならしたい。監獄に戻ってもあるのは普通のばっかだ」

 

「あんた達……」

 

「ダメ、かな?」

 

 冒険心に駆られるアイゼン達に頭を抱えるベルベット。

 ライフィセットがちょっと残念そうな顔で訪ねてくるとベルベットは断りづらく、なにも言えなくなる。

 

「あ、坊やはダメじゃよ」

 

「え!?」

 

 代わりにお爺さんが断った。

 坊やはダメ……ライフィセットだからダメなのか?

 

「今から向かうところはのお酒ばかりというか基本的に酒しか無い場所での……坊やはお酒飲めんじゃろ?」

 

「飲めないけど……でも」

 

「お酒は二十歳になってからじゃよ」

 

 あの島はお酒を嗜む者のみ足を踏み入れることが出来る。

 お爺さんはライフィセットが入ることは出来ないと言うが、納得が出来ないライフィセット。

 

「お酒さえ飲まなければ問題ない筈です。この子が飲まないようにしっかりと見ていますので、どうか島への立ち入りをお願いします」

 

「ぞうは言うが、お嬢ちゃんもお酒を飲めんじゃろ?」

 

「それは……」

 

「だったら、私がライフィセットの事を見よう」

 

 エレノアもお酒を飲むことは出来ない。

 マギルゥが定かではないがこの中でお酒を飲むことが出来るのは私だ。アイゼン達ほどお酒に執着しているわけではないので間違ってライフィセットがお酒を飲まないように注意しておくことが出来る。

 子供扱いをされていることにライフィセットは些か不満な顔をするが、これ以外に方法は無い。

 

「やれやれ、困ったの……」

 

 お爺さんは首を縦には振ってくれない。

 代わりにロープで取っ手をくくりつけたバケツを島がある方向に向かって投げた。

 

「本当なら島についた時に驚かせたかったんじゃがの」

 

 細い腕からは想像出来ない信じられない怪力でロープを引っ張る。

 ロープにくくりつけられたバケツは空中を舞いバンエルティア号に戻ってきて、中には海水が入っている。

 

「ほれ、ワシの奢りじゃ。思う存分、飲んでくれ」

 

「飲めつっても、これ海水だろ」

 

 お猪口でバケツの中に入っている海水を掬い上げるお爺さん。

 ロクロウ達に笑顔でお猪口を差し出すが、海の水は川の水と違いどれだけ清んでいでも塩水でしょっぱい。

 味噌汁の様な程よい塩分とは程遠い物でむしろ飲めば飲むほど喉が渇くものでとても飲めるものじゃない。

 

「いや、待て。この匂い……」

 

 差し出されたお猪口にロクロウが困っているとお猪口からする匂いに気付くアイゼン。

 他の海水となにかが違うのかと私も近付いてみるとそこからは海の香りが一切しない。塩水でなく海水独特の匂いが一切せず、代わりにするのは気品に満ちた葡萄酒の香りだった。

 

「……!」

 

 匂いに気付いたアイゼンは恐る恐るお猪口に入っている海水を口にする。

 本当ならどうしようもない程に塩辛くて飲めたものじゃない海水。アイゼンは眉1つ動かさずにサラリと飲み込んだ。

 

「ジジイ、もう一杯だ」

 

「一杯と言わず、いっぱいでも構わんよ」

 

 ふっふっふとなにか企んだ笑みを浮かべながらアイゼンにバケツを託す。

 もう一度お猪口に海水を入れると今度は迷いなくグイッと一気に飲み、無言で3杯目を飲もうとする。

 

「海水ですよ!?そんなに飲んだら体を壊しますよ!」

 

 流石にこれ以上はまずい。

 エレノアはそう感じたのか、お猪口を動かす手を止めるのだがアイゼンは止まらず3杯目を飲む。

 

「こんなに美味い物を飲んで死ぬなら、それもまた1つの生き様だ」

 

「美味い物?……泡が出てる!」

 

「この匂い、お酒!?」

 

 海水は塩水じゃなかった。

 天然で出ているところは見たことは無いが、バケツに入っている海水から気泡が出ている。ゴンベエが作る人工的な炭酸水とはまた違う天然物の炭酸水となるがそれもまた違う。

 嗅覚を研ぎ澄ますとほんのりだが甘く爽やかな匂いがしており、その匂いの正体にベルベットは気付く。

 

「本当はの、この船が島に近付いてから教えようと思ったんじゃが……あの島にある物が全て酒だと言う意味が分かってくれたかの?」

 

 お爺さんは島に向かってバケツを投げた。

 その中には海水が入っていたが海水じゃなかった。発砲した葡萄酒、口当たりがとても爽やかで現代でも中々にお目にかかれないものだ。船の真下にある海水を確認してみると、しょっぱい。当然と言えば当然だが、今はその当然が当然と思えない。

 

「さぁ、美味い酒を飲みに行こうじゃないか」

 

 バンエルティア号は進路を急遽変更しワイングラスの形をした不思議な島を目指した。




スキット 祭りの前日

ベルベット「━━きろ……起きなさい!」

ゴンベエ「んだよ、今日は休んでもいい日だろう。朝飯、作っちゃったのか?」

ベルベット「なにを言ってるのよ!」

アリーシャ「待った。ベルベット、まだゴンベエは理解できていない……毎年呼ばれてるベルベットと違って」

ベルベット「アリーシャ……根に持ってるわけ?」

アリーシャ「そんなわけないじゃないか……ただどうして私は声が掛からないのだと思ってるだけだ」

ベルベット「根に持ってるじゃない」

ゴンベエ「お前等、なんの話をしてるんだ?」

ベルベット「なにって祭りの話よ」

ゴンベエ「祭り……オレ達むしろ天続の時代を終わらせようとしたのに、祭りなんてしていいのか?」

ベルベット「なに言ってるのよ。エドナと私が毎年呼ばれてる祭りよ」

アリーシャ「ベルベット……そんなさも当たり前の如く言ってもゴンベエは知らないんだ。毎年呼ばれてるベルベットと違って」

ベルベット「しつこいわね、あんた」

ゴンベエ「いきなり祭りとか言われても、意味が分かんねえよ」

アリーシャ「そういえばゴンベエ(諏訪部さん)は1度も出たことがなかったような……」

ゴンベエ「アリーシャとベルベットが呼ばれてんなら行ってこいよ。オレは声が掛かってないからパス」

ベルベット「そうもいかないのよ」

ゴンベエ「なんでだよ?」

アリーシャ「それはコレを見てくれ」

ゴンベエ「え、なんでビデオがあるんだ?」

アリーシャ「細かいことは気にしてはいけない!それを言い出せば色々とおかしくなる!!」

ゴンベエ「……なんか今日、お前等おかしいぞ。お、はじまった」

エドナ(ミスターE)『はじめまして。私はフェスのヒロイン、皆の嫁と言われているミスターEよ』

ゴンベエ「いや、何処からどうみてもエドナだろう。グラサンかけてるだけだろう」

エドナ(ミスターE)『エドナじゃないわ。ミスターEよ』

ゴンベエ「会話が通じただと……」

エドナ(ミスターE)『残念ながらこれは録画映像よ。会話が通じるなんて事はない。貴方の事だから一回はツッコミを入れると思ってるわ』

ゴンベエ「……」

エドナ(ミスターE)『ねぇ、今どんな気持ちかしら?会話が通じてると思った?いいえ、貴方がなにを言っているかさっぱりだわ』

ゴンベエ「あいつ、ミスターは男がつけるもので女はミスじゃないのかって会ったら煽っておこう」

エドナ(ミスターE)『早速だけれど、貴方達にはあることを依頼するわ。それはそう、あの祭りについてよ。知っての通り色々とあったけども今年も祭りは開催されるわ。そして出演者の中にアリーシャ、ベルベット、貴女達もいるわ!』

ベルベット「当然でしょ」

アリーシャ「久しぶりの出演だが、ハイランドの民に恥じる事のない様に心掛けよう」

エドナ(ミスターE)『皆、楽しみに待っているフェスティバル。誰か一人でも欠けてしまえば成功に納まらないわ』

アリーシャ「うっ……橋作り、DLC……」

ゴンベエ「おい、なんか変な電波を受信してるぞ」

エドナ(ミスターE)『本当ならグリーン席を使って駅弁を食べながら気長に横浜アリーナに向かうのだけれど、1人だけ別行動を取ろうとしてる人がいるのよ』

ゴンベエ「ちょっと待て!!なんかおかしな事を言ってないか!?」

ベルベット「うるさいわよ。動画を最後までみなさい」

エドナ(ミスターE)『それは死神。ただ一人、新幹線に乗ろうとしないのよ……誰かを挽いて止まることはあっても新幹線の脱線なんて早々に無いのに……シウマイ弁当美味しいのに』

ゴンベエ「死神って事はアイゼンも出るのか?」

エドナ(ミスターE)『1人でも欠ければ祭りは出来ないわ。特にお兄ちゃんの遅刻はダオスの遅刻になって悪役が居なくなってオチがつけられなくなるわ。ファンの人達も私との絡みも気にしているし、フェスを成功させる為にもなんがなんでもお兄ちゃんを連れてきて』

ゴンベエ「……心配だってハッキリと言ってやれよ。めんどくせえ」

アイゼン「っ……エドナ……っ……」

ゴンベエ「ぬぅお!?お前、いたのか!?」

アイゼン「金貨の、中に入って身を清めて……っ……」

ゴンベエ「スレイをぶん殴りに行った時と同じぐらいに泣いてるな」

アリーシャ「エドナ様はアイゼン様を助けたいのだが、自分が行けばどうなるか分かっている……だから私達に依頼したんだ」

アイゼン「様はやめろ……エドナ……」

ゴンベエ「人んちでボロボロと泣くなよ。で、横浜に行くつったってどうやって行くんだよ?まだ石油は見つかってねえだろ」

ユーリ「それなら任せな」

ゴンベエ「誰だお前!?」

ユーリ「オレはユーリ、ギルド、凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)の一員で今回のフェスに呼ばれてる」

ベルベット「エドナが私達以外に頼んだのよ。祭りの常連でアイゼンの死神の呪いを乗り越えられるのはユーリぐらいしか居ないから」

ユーリ「おいおい、消去法かよ……ま、引き受けたからには任せてくれよ。アイゼンを乗せる船なら持ってきてるぜ」

ゴンベエ「船で行くのか……」

ミラ・マクスウェル「心配はするな。死神の呪いがどれほどのものでも私達ならば乗り越えていく事が出来る」

ゴンベエ「ちょっと待て!あんた、別世界の住人だろう」

ルドガー「はは、それを言えばオレは2年後だけど……」

ユーリ「なにが起きるか分からねえからな、準備しておくに越したことはない」

レイア「私は死神の呪いを取材させてほしいから!」

セネル「オレも何回かは祭りに参加させて貰ってる。船の操縦は任せてくれ!」

ヒスイ「おう!!妹の為に別の道を通って横浜に行くってなら、例え祭りに呼ばれてないとしても幾らでも力を貸すぜ!」

ルドガー「オレは出演予定もちゃんとあるけど、どうも列車となると嫌な思い出が……」

アリーシャ「ルドガー、エルは?」

ルドガー「エルは列車組だ。彼処のメンツなら任せることが出来る」

ユーリ「ま、フレン達が居るから問題ないよな」

ゴンベエ「……いってらっしゃい?」

アリーシャ「なにを言っているんだ、ゴンベエ。ゴンベエも一緒に横浜に向かうんだぞ」

ゴンベエ「はぁ!?なんでだよ!?」

セネル「なんでもなにも、説明を聞いてなかったのか?」

ヒスイ「横浜に行くんだよ!」

ゴンベエ「こんだけのメンツが揃ってんだから、オレが参加する必要はねえだろう!」

ベルベット「文句言ってないで、行くわよ」

アリーシャ「もう出港の準備は済ませている。さぁ、祭りへ行こう!!」

ゴンベエ「だから、祭りってなんだよ!!」

アイゼン「祭りは祭りだ」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その3(後編)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。



「そういえば、この島の名前はなんと言うのですか?」

 

 ワイングラスの形をした奇妙な島に辿り着き、上陸の準備をしながらお爺さんに訪ねる。

 この島はお爺さんの持っている島で、お爺さんと一緒に異世界から来た島でとても不思議な島……後、お酒臭い。

 

「酒宴島とでも言っておこうかの」

 

「中々に良い名前だ」

 

「あ、重い荷物は私が」

 

「いやいや、コレぐらいは羽根の様に軽い」

 

 アイゼン達の心水が入っていた容器を纏めた箱を軽々と背負うお爺さん。

 見た目に似合わず物凄い怪力なのか楽そうな表情をしているのだが、直ぐに箱を降ろす。

 

「こりゃ、未成年は足を運んではいかんと言っておるじゃろ」

 

「どうしてもダメなの?僕もこの島を探索してみたいよ」

 

 箱の中にライフィセットが縮こまって入っていた。

 この島にあるものはどうしてもお酒の成分が混じっているので、ライフィセットは立ち入れない。

 当初は少しぐらいはと思っていたエレノア達も、まさか海水が酒になっているとは思ってもおらずお爺さんに頭を下げて頼んでこない。

 私としてもライフィセットを入れてほしいと言う思いはある。そうなると問題なのはお酒だ。ライフィセットはまだ子供でとてもお酒の飲める年齢ではない。

 

「ダメじゃよ」

 

「諦めろ、ライフィセット。こればかりは運も関わる」

 

「でも、お爺さんが帰っちゃうと島も無くなるんだよね……」

 

 今を逃せば次は絶対にない。

 偶然に島が流れ着いたことを知っているライフィセットは今を逃したくはない。けど、逃すしかない。

 

「なにこの島の酒が上手く発酵して生まれる王酢という酢があっての、寿司や酢を使った料理には最高なんじゃよ」

 

「そんなものまであるのか……爺さん、早く行こうぜ!」

 

「まぁ、そう慌てなさんな。物事には、いや、酒を飲むには順序があるじゃろ」

 

 早く島を巡りたいのかウズウズとしているロクロウ。

 ロクロウだけじゃない。アイゼン達もウズウズとしており、無くなったお酒を補充が出来るだけでなく未知なるものを見たいという好奇心に刈られている。

 

「すまない。私だけ行ってしまって」

 

 この島にはベルベット達は足を踏み入れられない。

 そんな中で私だけ足を踏み入れる事に少しだけ罪悪感が沸いてくる。

 

「別に気にしてなんかいないわ……それよりもむしろ心配よ」

 

「心配?」

 

「皆さん、完全に飲むつもりですよ」

 

「酔っぱらいの相手は大変じゃよ」

 

 ベルベット達がそういうのでふとアイフリード海賊団を見る。

 葡萄酒の海水を酌んで贅沢にバケツごと飲んでいて頬を真っ赤にしている者がおり、お爺さんに小突かれてている。

 

「酒を飲む前に準備がある。酒は飲んでも飲まれてはいかんぞ」

 

「準備って、なんだ?二日酔いに効く蜆の味噌汁でも作るのか?」

 

「なについてくれば分かる……ほれ、ワシも今回我慢しておるから行くぞ」

 

 目の前にあるお酒を飲むのをやめて、島の中に向かって歩いていく。

 全体的にお酒の匂いがしていて何処になにがあるかが分からないが、一先ずは歩く。

 

「美味い酒があると、美味いつまみも欲しくなるよな」

 

 口の寂しさを感じ始めるロクロウ。

 そこかしこからお酒の匂いが感じるせいでお酒の副菜であるつまみが欲しくなる。

 

「ああっ、副長!アレを見てください!」

 

「っ、な!?ポテトチップスの木だと!?」

 

 お酒の匂いを我慢しながら歩いているとポテトチップスの木を見つける……なにを言っているか分からないが、木の幹の皮がポテトチップスになっている木がある。

 私の記憶が正しければポテトチップスは芋だ。芋は地面の中になるもので、木の幹の皮になるなんてことは絶対にありえない。

 

「アイゼン、大変だ!」

 

「今度はどうした!?」

 

「酔っ払った牛がこっちに向かって走ってきている」

 

「なにぃ!?」

 

「ブモォオオオ!?ブィッ……っぷ」

 

 ポテトチップスの木に驚いていると今度は酔っ払った牛が走ってきた。

 完全に酔っぱらってるのか顔を真っ赤にしており、さながら闘牛の様に全力で突っ込んでくる。

 

「この島は酒宴をするのに最高な島、あの牛も最高のつまみじゃよ」

 

「つまり狩れって事だな!!分かりやすくていいぜ!!」

 

「確か麦の発砲した心水の粕を飲ませれば牛が美味くなると聞いたことがある。肉と心水は極上の組み合わせだ」

 

 狩るしかないか。

 ロクロウとアイゼンは構えるので、私もやってやろうと槍を取り出して構える。

 スレイが私の為に山羊を狩ってくれた時の事を思い出すな。確か頸動脈をスパッと切って血を抜かなければ、肉が不味くなってしまう。

 

「!」

 

「「!?」」

 

 狙うならば頸動脈。

 アイゼン達が若干酔っているので私がしっかりしなければと思っていると寒気が走る。いや、寒気じゃない。

 例えるならばそう、魔神剣だ。剣圧を飛ばして相手を切り刻む技と同じような物でその斬撃が私達を透き通っていく。

 

「な!?」

 

 その感覚は嘘でもなんでもなかった。

 攻撃をされていると感じた私は直ぐに気を引き締めていくのだが、既に遅い。

 酔っぱらってこっちに向かって来ている牛が例えるならば標本の虫の様に、人間の白骨遺体の様に肉だけ完全に削ぎ落とされた。

 

「ブモオオ!!」

 

「まだ動いているのか!?」

 

「違う……これは、まさか!」

 

 模型や標本のように綺麗に骨だけになった。それなのにまだ酔っぱらってるかの様に突撃をして来ている。

 不死身なのかと驚いているとアイゼンは骨だけになった牛に向かって蹴りを入れると牛は悶え苦しむ声をあげてピタリと動かなくなった。

 

「この牛、死んでいた事に気付いていなかった……ランゲツ流の包丁術を極めれば、魚を生きたまま捌けてそのまま生かせるが……直接触れもせずに斬撃を飛ばして捌くだと?」

 

「いったいどれだけの技量なんだ……」

 

 飛んできた方向を見る。

 偶然に巻き起こった鎌鼬のような物でなく、明らかにこの牛を狙った斬撃。しかも死ぬことすら気付いていない。

 ロクロウは似たことが極めれば出来るというが、恐らくこれはそれよりも遥かに高度な技術だ。

 

「あっちに誰かが」

 

 斬撃が、包丁が飛んできた方向を見る。

 木々や岩等の障害物で誰かがいるのが分からないが、誰かがいるのは確かだ。

 いったい誰だ?こんなスゴいことが出来るのが。死んだことすら気付かないまま牛肉を一瞬で捌くのは。

 

「今のは聖ちゃんじゃの」

 

「聖、ちゃん?」

 

「ワシの相棒じゃよ……まぁ、君達には会わないと思う。それよりもついたぞ」

 

「おぉ!!これは果実の蒸留心水の池!!」

 

 そうこうしている内にお爺さんの目的地に辿り着いた。

 琥珀色の一瞬濁っている水かと思うが、そうでなく透き通っている高級な蒸留酒、ブランデーの泉に。

 海からお酒が溢れ出てるので、まさかと思ったがお酒が流れる川が存在しているとは……。

 

「っしゃあ!!さっき捌かれた牛とポテトチップスをつまみに宴だ!!」

 

「待った」

 

「んだよ!まだ待てって言うのか!?」

 

 目の前にあるブランデーを目の前にして待ちきれないベンウィック。

 お爺さんはアレじゃよと黄土色のとぐろ状の……あ、あれは!

 

「ウン━━」

 

「ウコンじゃよ。ウンコの形をしておるが立派なウコンじゃよ。ウコンウンコじゃよ」

 

「ウンコ?ウコン?どっちだ!」

 

「どっちゃでもいいじゃろう……ほれ、コレを飲まんとこの島の酒に依存しすぎて一生酔いしてしまう」

 

 酒は飲んでも飲まれるな。

 この島にあるお酒の強さを一番知っているのかお爺さんは鮫肌の降ろし金を取り出してウコンをすりおろす。

 これはウコン……見た目が完全にとぐろ状のアレにしか見えないがウコン……!

 

「ウコンだ!」

 

「そう堂々と言うもんじゃない!!レディがはしたないぞ!!」

 

「あ、すみません……アイゼン、これはウコンだ。堂々と飲んでも問題は無い!」

 

 ウコンの味がしたウコンをアイゼン達に渡す。

 すりおろすと更に酷い見た目になるが味は何処にでもある普通のウコンで、健康にいい。気のせいか、味の確認で飲んだほんの少しのお酒の酔いが体から消えていく。

 私が飲んだのでアイゼンも恐る恐る口にするとアイゼン達の体の中から酔いが消えていく。

 

「さて、今日はワシの奢りじゃ。この島にはチップスツリーや酒乱牛以外にも酒のつまみとなる物がある……思う存分、楽しむがいい」

 

 そこからは凄まじかった。

 お爺さんにずっと我慢させられていたアイフリード海賊団の面々は枷が外れた獣の如く走り出す。

 流れる度に混ざる七色のカクテルの川。

 あまりの透明さで透き通っていて底が見える清酒の池。

 黄金色に輝くビールの滝。

 ドラゴンの様な生き物の背中から発せられるエメラルド色のワイン。

 銀紙の様な繊維を持ったキャベツ。

 羽根がポテトチップののりしお味の紋白蝶。

 聖ちゃんと呼ばれる人が一瞬の内に捌いた牛肉。

 チーズと白菜が1つになった様な味わいを持つ野菜。

 

 どれもこれも凄まじく美味かった。

 今まで食べていたものがなんだったのか?腐っていたのか?そう思うほどに。

 

「おーい、飲んどるかの」

 

「あ、はい!とても美味しくいただいております!」

 

 どれもこれも見たことも聞いたこともない食材、流石は異世界。

 味付けもしていないのに既に充分に塩味がきいた海老を噛り、味を堪能する。

 

「ふむ……どうやら満足してくれないようじゃの」

 

「満足、ですか?どれもこれも絶品で美味しいですよ」

 

 どれもこれも絶品で今までに食べたことの無い物ばかりだ。

 此処が異世界と言われれば本当にそう思えるほどに美味な物ばかりで、私も心から楽しんでる……筈。

 

「その割にはあまり嬉しそうじゃなさそうじゃろう」

 

「それは……」

 

「ワシの代わりに行ってしまった子が心配かの?」

 

「……ゴンベエなら無事です」

 

 お爺さんの代わりに異世界に行ったゴンベエが心配かどうかと聞かれれば心配だが、一番最初にゴンベエは異世界に行って何事もなく帰って来た。

 前回危うくゴンベエが死にかけたが、そう悲観する程のものじゃない。ゴンベエの強さを信頼できない間柄じゃない。ゴンベエならばなんとか上手く生きている。

 

「ほれ、コレは格別じゃよ」

 

 巨大な酒瓶に入っているお酒を私の杯にお酌する。

 お酒はピンクとは若干異なる赤紫色で、とても透き通っており私の杯の底を写し出すだけでなく私の顔も移す。

 酔っ払ってはいないが頬を赤くしている。それなのにあまり笑っていない。アイゼンやロクロウ達はこれでもかという程に飲んで笑っていてイキイキしてるというのに。

 

「ワシの酒は美味い……いや、酒は美味くなる様に出来ているものじゃ」

 

 浮かない顔の私を心配して腰を降ろすお爺さん。

 大きな酒瓶とはまた違うロクロウが愛用しているのと同じぐらいの酒瓶を取り出して自分の杯に入れる。

 

「1月は正月、2月は豆まき、3月は雛祭り、4月は花見、5月は子供の日、6月は田植え、7月は七夕、8月はお盆、9月は台風、10月は運動会、11月はどさくさ、12月は忘年会。春は桜、夏は星、秋は満月、冬は雪。時には湯の中に入り青空を眺めながら飲む酒はある……それでも美味くないとなれば人の心に淀みがある」

 

「……」

 

 お酒が飲める飲む理由をこれでもかと上げられる。

 今の私は……どういう気持ちでお酒を飲んでいるのだろうか?いや、違う。お酒に写し出されている私はなんなのだろう?ここのお酒は現代でもこの時代でも見ないレベルのお酒で、数も種類も段違いだ。

 お爺さんに言われて心の中にある靄と向き合ってみる。

 

「……強く、なりたい」

 

「ほぅ、強くなりたいか」

 

 周りが進んで強くなっている中、自分だけが停滞している。

 現代のことは当然としてこの時代の事も見てはいられない。でも、今は口だけだ。なにかを成し遂げる為の力が私にはない……いや、ある。何度も何度もゴンベエが与えてくれたチャンスが。

 私は何度も与えられたチャンスを不意にしている。機会は幾らでもあるのに。

 

「ふっふっふ、そうか強くなりたいのか……強くなってなにをしたい?」

 

「……平和を築き上げたい」

 

 この世界と異世界が同じように出来ているとは思えない。

 穢れの事を説明していても理解できない可能性がある。上手い言葉を探してお爺さんに答える。

 穢れの無いハイランドについて色々と考えてみた……今のハイランドは穢れに満ちていて民の心が荒んでいる。それを私はどうにかしたい。どうにかして戦争なんて無い平和な世の中にしたい。

 

「それは強くなるのに使う理由かね?」

 

「……力無き正義は無力です」

 

「では、力こそが正義か?」

 

「……違います」

 

 改めて力について考えさせられる。

 力こそが正義となれば弱いものは全て悪となり、この世は暴虐な人間で溢れ帰っている。

 かといって力が無いのも、またダメだ。……だが、絶対ではない。なら、なにが正しいのだろう?平和を思う心?……いは、違う。やり方はどうあれ聖寮は平和を築き上げようとしている。

 私の様な人間が過去に誰一人居なかったわけではない。スレイの様な純粋な人間が過去に誰一人も居なかったわけではない……じゃあ、なにが平和を築き上げるのに必要なんだ?

 

「悩んどるのう」

 

 力も必要だが力だけではヘルダルフのようになる。悪に染まらない善の心だけでは聖寮の様なやり方を認めてしまう。

 力でも正しい心でもなければなにが必要か分からない。

 

「それだけが絶対に必要なものですか?」

 

 力がなければ力を持った者に負ける。正しき心が無ければ、平穏を作ることをしない。

 片方だけがあっても意味はない。コレが絶対に必要だというものがない答えなのかもしれない。

 

「必要なもの……物とは言いがたいがの」

 

「物じゃない?」

 

「答えは(これ)じゃよ」

 

「……手?」

 

 皺があるヨボヨボの手。

 これが一番大事なものだというがイマイチピンと来ない。なにかを成し遂げようとする折れない心や信念でなく手。

 五体満足な体だと言う意味、いや、体は物でお爺さんは物ではないという。

 

「平和を築き上げるのには手を繋ぐことが大事なんじゃ」

 

「手を繋ぐこと……」

 

 手を繋ぐ、それは色々な意味がある。

 大事な人と繋がっている証、何処かの国と有効になること。挨拶の1つでもある……確かに平和には必要不可欠だ。

 

「平和という物は1人で築き上げるものではない。ワシやワシの兄貴は馬鹿みたいな強さを持っているが、そんな物は平和を築き上げるの上では精々、めんどくさい奴等をシバくのにしか使えん。むしろ平和とは真逆の物じゃ」

 

「力が平和とは真逆」

 

「むしろそんな物は不要……と言っても、必要になってしまうのが残酷な世の中じゃ。この前なんぞ秋山の馬鹿が扉間くんと協力してバッドエンド━━いや、これは関係の無い話じゃったの」

 

 自分達の世界の厄介事を語るのをやめる。確かに力があり暴力的な存在は不要だ。そんな物があるから悪巧みをする人間がごまんと増えている……だからといって此方がなにも持たないとなれば向こうの好き勝手にされるだけだ。

 

「平和を築き上げたいのならば手を繋ぐ……1人ではただのくだらんざれ言じゃよ」

 

 人は1人では生きていけない。

 1人で先走っていても無駄で同じ思いや信念を持った人達と手を繋ぎ、手を結ぶ。そうして広がっていく輪が平和を築き上げるの一番大事な物だ。

 

「君はまず、自分の幸せを掴んでみればいい」

 

「……周りの人が苦しんでいるのに自分だけが幸せになることは出来ません」

 

 それが出来ないから私はこの道を選んだんだ。

 

「なら、逆に聞こう。君は自分が幸せになれないのに、どうして周りを平和という幸福に導ける?」

 

「それは……」

 

「皆が幸せになるならば自分が犠牲になってもいいと言う考えは素晴らしい。じゃが、それだけで実際の所はダメじゃ。それはただの自己満足で周りのものを多く悲しませる。自分が幸せになり、その幸せをお裾分けする……ちょうどワシ達の手は2つある。1つは自分の幸せを掴む為に、もう1つはその幸せを誰かにお裾分けする為に使うんじゃよ」

 

「幸せのお裾分け……私の幸せか」

 

 穢れ無きハイランドを見ることが私の夢だ。

 だが、夢と幸せはまた違う。穢れ無きハイランドを見るには争いを納めなければならない。争いが無くなったハイランドがあることが私個人の幸福と聞かれればそれは違う。そうあって欲しいと願うがそれで私個人の幸せとはまた違う。

 

 改めて自分という一個人について考えてみる。

 

 この時代の人達と仲良くなることは出来ているが、何時かは現代に戻る。

 悲しい話だが現代人の私にとって既に過去の人間で、現代にいる者だけで関係者を頭に思い浮かべ……思い浮かばない!?

 末席とはいえ王族だが、王族の者と同じ血を分けた者と仲が良いのかと聞かれればそうでない。

 かといって一般の街の人と仲がいいと聞かれればそうでなく、私の事を慕ってくれる給仕はいるがあくまでも慕ってくれる給仕で親しき友でない。

 いは、待て。私がひとりぼっちの人間じゃ……いや、そんな筈が……。

 

ゴンベエ

 

 一番親しくて自分の幸せとはなにか考えて、真っ先に浮かんだのはゴンベエの後ろ姿だった。

 

「お、浮かんだかの?」

 

「っ、違います!いや、違うとかそうじゃなくて私の周りにいるのが、よく考えればゴンベエだけでその!」

 

「いや、そこまで露骨に否定せんくても……そうやってると破滅フラグの格好の餌食じゃよ」

 

「破滅フラグ……私が?」

 

 なにかよからぬ事でも起きるというのだろうか?

 ゴンベエの事が中途半端に頭に残っている私はお爺さんに注いでもらったお酒を一気飲みし、ゴンベエの事を頭から消そうとする。

 

「美味しい……」

 

「酒は美味い………酒はどんな時、どんな場所でも美味い。それでも美味くないとなれば人の心が変わってしまったから。生まれ変わっても世界が変わっても何時までたっても美味い酒を飲みたいもんじゃ」

 

 このお酒はこんなに美味しかったのだろうか。

 また一歩、心が強くなったような気がして飲んだお酒は極上の一杯だった。

 

 

 

4日後

 

 

「あんた達、何時まで飲んでるのよ!!早く監獄島に戻るわよ!!」

 

 

 4日後、角が見えるんじゃないかと思えるほどに怒ったベルベットが迎えに来るまで全員がへべれけに飲んで酔っぱらっていた。




 スキット 酒は飲んでも飲まれるな

ゴンベエ「ただいまー」

ベルベット「あんた……今まで何処に行ってたの?」

ゴンベエ「USJに約半日ほどいた」

ライフィセット「半日?4日間じゃないの?」

ゴンベエ「オレが飛ばされた世界とこっちの世界じゃ時間の流れが違うっぽいんだよ。つか、どうした?アメッカ達、正座をしてるけど」

エレノア「それが、4日間ずっと宴会をしていたのです」

ゴンベエ「はぁ……なんかイマイチ、ピンと来ねえな」

マギルゥ「そこかしこが酒だらけの島が紛れ込んでての」

ゴンベエ「……待て。もしかして白髪のリーゼント爺がこの世界に来たのか?」

ベルベット「そうよ。リーゼントの爺さんが船のお酒を根刮ぎ飲んだからってワイングラスみたいな島に行ったと思ったらこの様よ」

ロクロウ「お、ぉお……頭が、頭がぁ」

アイゼン「くそ……今頃ウコンの力が消えてきて━━っ!!」

エレノア「二日酔い、いえ、四日酔いの後遺症が今更出てきていますね……」

ベルベット「自業自得よ、ほっときなさい。だいたい、なんで四日間もお酒をずっと飲んでるのよ」

アリーシャ「美味しかったんだ……っつ……文字通り酒が涌き出る泉があって」

ライフィセット「そうなんだ……」

ゴンベエ「危うく一生酔い組じゃない奴等はどうしてたんだ?」

エレノア「タカトオさんという料理人が船にやって来て、この島にある食材を使った料理を振る舞ってくれました……料理の腕もそうですが、素材がこの上なく極上で卵一個に対して卵黄が十個ある十黄卵という不思議な卵を使った親子丼が絶品で」

ゴンベエ「お前等、オレが居ねえ間にスゲエ美味しい思いをしてんじゃねえか!!ズルいぞ!!」

アリーシャ「っゴンベエ!!大声を出さないでくれ、頭に、っあああ!!」

ゴンベエ「悪い悪い……ちょっと蜆の味噌汁でも作ってくる」

ベルベット「作らなくていいわよ。タカトオがどうせ酔っぱらうから事前に作ってたわ」

ゴンベエ「そうか……お前等だけ美味しい思いをしてるのなんか凄えムカつくな」

ロクロウ「そういうと思って、爺さんがお前に最高の心水を……あ、悪ぃ。飲んじまってた!」

ゴンベエ「ファック!!テメエ、それドッハムの湧き酒じゃねえか!!」

アイゼン「っが……大声を出すな!!」

ゴンベエ「るせぇ!一杯飲むのに人生数回分の金が要るとかいう馬鹿げた値段がするんだぞ!!」

マギルゥ「また随分と馬鹿げた値段じゃのう……まぁ、悪くはなかったぞ」

ゴンベエ「テメエ……」

ライフィセット「そういえば、お爺さんの名前を聞くの忘れちゃったね」

ベルベット「どうでもいいわ。さっさと監獄島に戻るわよ!!」

ゴンベエ「ベルベット、なんでそんなに不機嫌なんだ?」

マギルゥ「なにを言っとるんじゃ。お主がおらんからどれだけの極上の料理でも味が一切せんのじゃぞ。ワシ等が舌鼓しておる中、一人だけ味気の無い食事をしておったんじゃ」

ゴンベエ「そうか……そんなベルベットにお土産の百味ビーンズをやろう」

ベルベット「……なにこれ?」

ゴンベエ「USJの名物のお菓子……要するにグミだ」

ベルベット「グミね……ま、それでいいわ。一口、ちょうだい」

ゴンベエ「はいはい。あー……あ!」

ベルベット「っ、なに、この、味」

ゴンベエ「ごめん、これ鼻くそ味だった」

ベルベット「あんた、なんて物を食べさせるのよ!!」


 ゴンベエの秘奥義


 サモン・リバイバル(withマスター次狼)


 ゴンベエ版サモン・フレンズ。リーゼントとフォークとナイフが交差されたクレストに入ると発生。
 閻魔の三弟子であるマスター次狼を呼び出しグランドノッキングで相手の動きを封じ、当たると問答無用で即死させるギネスパンチを叩き込み、次狼の相棒である高遠聖野が味方の体力を全回復&状態異常を解除する料理を振る舞う。
 ゲーム的な話をすれば発動すればヘルダルフだろうが即死させる問答無用の一撃必殺の技を叩き込み戦闘終了後に特殊な料理を獲得出来る。


 ドッハムの湧き酒……が入っていた容器

 説明

 閻魔の三弟子と呼ばれる転生者の始まりと呼ぶべき存在の1人であるマスター次狼があの手この手で作り上げた極上の酒……が入っていた容器。
 残念ながら死神や海賊や夜叉のアホどもが名無しの権兵衛にと残されたお土産分を飲み干してしまった様で、数敵しか残っていない。
 もし入っていたとするのならば1杯数億ガルドするとんでもない値のはる物で、これだけで一生遊んで暮らせる。


 ドロップする料理


 ガルタサウルス(原種)のロースト

 体力100%回復+攻撃力100%増加

 解毒草の回復サラダ

 体力100%回復+状態異常全回復+次の戦闘で状態異常を一切受けない

 シャボンフルーツのぜんざい

 敵のドロップ率を10倍UP

 フグ鯨の竜田揚げ

 BGが5回復しSGが全快する

 カリスドラゴンの鱗酒

 最大ヒット数%入手できるガルドUP

 BBコーン メルクの星屑添え

 集中力90%増加+被疲労効果90%軽減

 コンソメマグマ煮込み

 全属性の被ダメージ90%軽減


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喰魔を探して……

早く現代(その2)編をやりたいがその前にやらなければならないことが多すぎる。



「お前等、大分遅かったな」

 

「コイツ等のせいよ」

 

 予想外のアクシデントがあり帰るのに数日遅れたもののなんとか監獄島に戻ってきた。

 アクシデントを一番楽しめなかったベルベットが不満げな顔をしている。なんか本当にすみません。

 

「それで喰魔探しとやらはどうだったんだ?」

 

「それが見事なまでにハズレてな……」

 

「だが、代わりにスゴい当たりを引き当てたぞ」

 

「おぉ!!これは!」

 

 クロガネに釣り上げたオリハルコンを渡すロクロウ。

 つい先日まで話していたオリハルコンを欠片程度でなく塊を持って帰って来たことに大喜びをする。

 

「クロガネ、ちょっと大きな声は止めてくれ……頭がぁ」

 

「すまんすまん。とはいえ、金剛鉄がこんなに早く手に入るとは……早速、刀を作ろう」

 

「頼んだぞ……これでダメならこれ以上の素材は俺の知る限りは無い」

 

 オレ達が持って帰ったオリハルコンはこの世で最も硬い素材だ。

 それで號嵐とやり合う事が出来なければ、もう使える素材が無い。號嵐と同じ素材を見つけるか作った職人にもう一本作れと頼み込むしかない。コレが破れるとこれ以上の武器は早々に無いことをロクロウも自覚している。

 

「任せろ……とはいえ相手は金剛鉄。刀にするだけでも相当難儀だ……心を無にして打たねば」

 

 そもそもオリハルコンって何度で加工しやすくなるんだ?

 クロガネがやる気を出しまくっているので水を指すわけにはいかない。

 オレはこの場を離れて、ライフィセット達の所に足を向かう。

 

「さ、喰魔探しを再開するわよ」

 

「うん……次に近そうな地脈点はミッドガンド領の真ん中辺りだと思う」

 

「グリフォン、じゃないのか?」

 

 地図を取り出し、次なる地脈点を探す。

 ライフィセットが示した次なる地脈点はグリフォンが居た場所かとアリーシャは聞くがライフィセットは首を横に振る。

 大きい地脈点が王都とはまた別のところにあるようだ。

 

「そういえばパーシバル殿下が此処にいてグリフォンも連れ出されたが、情勢はどうなっているんだ?」

 

 地脈点は別にあると分かると今度は別の事を話題に出す。

 確か此処に王族が居るというのは冷静に考えれば一大事件で国が総出で動き出す……国が正常に動いているならばの話だが。個人と全体を選ぶことを迫られれば個人を切り捨てる考えの国が個人を選んだ王族を探そうとは思えない。

 

「それも気になるわね……血翅蝶からの情報も欲しいし一旦、足を運んでみる価値はあるわね。ゴンベエ、マーキングしてるんでしょ?」

 

「まぁ、パッと行けるには行けるけど船ごととなると目立ちすぎるから普通に行った方がいいぞ」

 

 疾風の唄で港になら一瞬で行けるが竜巻に乗せられた船で悪目立ちする。

 緊急事態で切羽詰まっていなければ、普通に行けるのならば普通に行った方がいい。

 

「なら、さっさと出港の準備を……?」

 

「手紙が落ちてんな」

 

 ベンウィックに次の目的地を言いに行こうとすると足元に手紙が落ちていた。

 踏んでいたベルベットは落ちていた手紙を拾い上げて確認するが、誰のかが書いていない。可愛らしい便箋となっているが……誰だ?

 何故か何処にもいるかめにんを経由すれば手紙での文通は可能だが、そんなことを誰がすんだ?ベンウィック達、海賊とかの悪の組合が手紙でやり取りしてる……にしては便箋が綺麗すぎるな。

 

「……読めん」

 

「あんた、人の手紙を読むなんてどうなの?」

 

「じゃあ、お前が代わりに持ち主に返してくれよ」

 

 何処の誰が出したか分からない。

 中身を確認するがオレはこの国の文字を読めないのを忘れていたので読めず、ベルベットが避難するのでベルベットに丸投げをする。オレにはどうにも出来ない。

 

「なんて書いてあるの?」

 

「フィー、あんたまで……」

 

「誰かのか分からなければ、渡すに渡せない」

 

「……分かったわよ」

 

 ライフィセットとアリーシャも内容が気になるのか、手紙に目を向ける。

 これがいったい誰の書いた手紙なのか知るためにもベルベットは落ちていた手紙を音読する。

 

「『拝啓、寒さ厳しいこの頃。如何お過ごしでしょうか?霊山の雪深さを思い出して貴女の身を案じてます。私の方は相変わらずですが先日、珍しい品を手に入れたので貴女に贈りたいと』……」

 

「どした?」

 

 音読するのを途中でやめたベルベット。

 

「差出人の名前さえ確認したらいいのに、なんで読んでるのよ」

 

 ぐうの音も出ない正論を言うんじゃない。

 とはいえ、最もな事であり音読をすることを止めて端の方に書いてある名前に目を向ける。

 

「ウフェミュー=ウエクスブ……」

 

「誰それ?」

 

 ピンと来ない名前だった。

 あんまり関わらないアイフリード海賊団の誰かかと頭が過るが、ガサツな集団である彼奴等がこんな綺麗な手紙を書く筈が無い。というかそもそもで出す相手が居るのかという問題だ。

 目を閉じてベンウィックが誰かと文通をしているんじゃないかと考えてみるのだが、背筋に寒気が過る。この文章の様に喋るベンウィックはハッキリと言って気持ち悪い。

 

「霊山……これはアイゼンの手紙じゃないのか?」

 

「なんでそう思うの?」

 

「えっと……前に妹がいると言っていて、メルキオルがアイゼンを動揺させる為に一瞬だけ見せたじゃないか。宛先があるのはアイゼンじゃないかと」

 

「……そういえば監獄内に居ないわね」

 

 エレノアは地脈点について独自で纏めている最中だ。

 ロクロウはクロガネにオリハルコンを渡して色々と注文をしている。

 マギルゥはなんか奇術をやっている。

 アリーシャとベルベットとライフィセットはオレと一緒にいるが、アイゼンだけはこの監獄内部にいない。

 

「で、実際の所は?」

 

 宛先がありそうなのはアイゼンぐらいなので、多分アイゼンだろうという空気が流れているがアリーシャは別の理由で見抜いたんだろう。

 

「霊山と言われて、レイフォルクの事じゃないかと思って」

 

 確かアイゼンはエドナと同じレイフォルクで生まれたとか言ってたような気がする。

 アイゼンの可能性が浮上したので、とりあえずはと船着き場にいるアイゼンを訪ねるのだがなにやらかめにんと商談をしている。

 

「今回も返事は……」

 

「無いっす!でも、元気にしてたっすよ!」

 

「アイゼン、あんた手紙をおと━━」

 

 ベルベットがアイゼンに尋ねたその時だった。

 さっきまで話をしていた穏やかなアイゼンの目付きは変貌し、ベルベットから手紙を奪い去った。

 

「読んだのか?」

 

「あんたのだったの!?」

 

 あくまでも予想であり、いざ目の当たりして現実を受け止められないのか驚くベルベット。

 

「もう一度、聞く。読んだのか?」

 

「えっと……少━━」

 

「読んではいねえよ」

 

 バカ、修羅張るな。

 危うく読んでると言いかけたアリーシャの口を塞いで黙らせて嘘をはく。もし読んでしまったと言ってしまえば殴りあいは免れない。

 アリーシャの口を塞いだので逆に見てしまったと言っているものじゃないかと思ったがそれ以上はアイゼンは追求してこず、かめにんに宅配を頼む。

 

「エ━━……手紙の返事が来てるのか?」

 

 危うくエドナと言いかけるがなんとか誤魔化し手紙について気になったのかアリーシャは訪ねる。

 ついさっきアイゼンはかめにんとやり取りをしていたが、かめにんは手紙の返事は無いと言っている。アイゼンは今回もと言っていたがこの手紙は昨日今日に始まったことじゃない。

 

「……お前には関係の無いことだ」

 

「何故」

 

「用が済んだならさっさと出発をするわよ!行き先はミッドガンド領」

 

「準備は出来ている」

 

 気付けばロクロウ達も船着き場に来ていたので、そのまま一斉に船に乗り込む。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 流石はアイフリード海賊団。特にこれといった異常事態は起きることなくミッドガンド領に辿り着いた。

 

「さてと、先ずは婆さんの所に━━ん?」

 

 テンプレになるが婆さんのところに行こうとするのだが、一人の男性が此方に近付いてくる。

 船止め料をぼってくる奴でなく左腕に赤いバンダナを巻いた少しおっさんの男性……。

 

「ボスからあんた達に伝言を預かってきた」

 

「……早いな」

 

 声をかけてきた男性にアイゼンは少しだけ呆れる。

 赤いバンダナを巻いた男性は血翅蝶の一員。出発したばっかだというのに此方の足取りを完璧に掴んでいる。

 出来る限りのボロを出さないようにアイゼン達アイフリード海賊団も色々とやっているのにそれを掻い潜って監獄島からこっちに向かってきたオレ達よりも情報を早く掴んでいる……呆れるとしかいえない。

 

「ローグレスの東にあるアルディナ草原に狂暴な業魔が出たらしい」

 

「ローグレス東の街道は閉鎖されておった筈じゃよ」

 

「えっと……ああ、なんか制限されてるな」

 

「一時的にだ。今はもう解放されている。ローグレス東の街道を抜けた先にストーンベリィという街がある。詳しいことはそこにいる仲間に聞いてくれ」

 

「本当に伝言だけなんだな」

 

 もっとこう具体的な名前が出てきたりすると思ったが、割とあっさりとしている。

 縦の繋がりでなく横の繋がりが無駄に広い組織なんだと去っていくおっさんの背中はなんとも言えない。

 来て早々に目的地が変わるとは思いもしなかったが、結果的にはよかったことだ。ストーンベリィの街を目指して一回も通っていないローグレス東の街道を歩きながら出てくる業魔をデラボンとかで倒しつつ経験値を稼いでいく。

 

「真名は他人に教えるには相当な覚悟がいるものだ」

 

「……え!?」

 

 と思ったら地雷みたいなのが爆発した。

 ライフィセットの真名についてベルベットが深く問いただそうとするのだが、アイゼンが聞くものじゃないと止めに入る。

 

「……ゴンベエ」

 

 それを聞いていたアリーシャはオレを強く睨み付ける。

 なにせ偽名として名乗っているマオクス=アメッカはスレイがつけてくれた真名だ。

 

「真名を同性に名乗るのは信頼の証、異性に名乗るのは」

 

「愛の告白に近いのぅ」

 

「……ゴンベエ」

 

 やべえよ。アリーシャの瞳から光が無くなっているよ。

 今更ながらに偽名を名乗ったことに後悔をしつつも怒っているアリーシャをどうやって宥めようか考える。

 オレだけ普通にナナシノ・ゴンベエで通ってるけど実際の所は名無しの権兵衛だし……。

 

「聖隷にとってだから、セーフ」

 

「セーフじゃない!!どうしてくれるんだ!」

 

 何となくで使っていたが蓋を開けてみればかなり大事な名前で怒りが納まらない。

 余計なことを言ってしまったようでアリーシャの怒りのボルテージが更に高まってしまった……仕方ない。

 

「この旅が終わったら、一個だけ秘密を教えよう」

 

「秘密……私になにか後ろめたい隠し事をしているのか!?」

 

 オレが色々と隠している事は理解しているが、後ろめたい事はダメだと更に怒る。

 

「本当ならば墓場にまで持っていこうと思っていた事だが、名前でこんな事になるとは思っていなかった」

 

 何時かは言わなくちゃいけないとは思っていた。

 だけど、元々の本名が所謂キラキラネームだったせいかどちらかと言えばシワシワネームなこの名前を嫌うことは無い。愛着が沸いてるレベルじゃないが、それはそれでアリだと気に入っている。

 とはいえ、実際のところが名無しの権兵衛だと言うのもまた事実。

 

「だから、旅が終われば正直に言ってやるよ……あ」

 

「どうした?」

 

「……この旅の終わりって何処だ?」

 

「……何処だろう?」

 

 今更ながらに考えさせられる旅の終わり。

 あくまでも過去を振り返っているだけで現代に戻ればやらなければならないことが山積みだ。少なくとも既に並の憑魔ならば簡単に退ける力を持ったアリーシャはスレイの力になろうとする。と言うよりはならないといけない。

 仮にスレイがヘルダルフ云々を終わらせたとしても過去にいたであろう導師と同じ事をしているだけで負の連鎖から抜け出せない。それをどうにかしてからがゴール…か。

 

「っ!」

 

「この感覚は!!」

 

 見えないゴールに苦戦しているとおぞましい寒気が背筋を走る。

 この寒気は過去に一度だけ感じた事がある……そう、アイゼンから。

 

「なに?」

 

 気配を感じていないのかベルベットは吹き荒れる突風で異変に気付く。

 何かの鳴き声が聞こえると後ろを振り向くとそこにはライフィセット達がいて、ライフィセット達は空を見上げていた。

 

「あれは!!」

 

「ドラゴン……」

 

 目に見えるレベルの黒々しい穢れ放ちながら空を優雅に舞うドラゴン。

 ドラゴン化したアイゼンの如何にもなドラゴンの姿とは異なっており西洋の竜と言うよりも東洋の龍に近い蛇や鰻の様な細長い見た目をしていた。

 

「アレじゃな。アルディナ草原の業魔とやらは」

 

 オレ達の最終的なゴールに向かっていくドラゴン。

 

「自由に飛んでいたが、喰魔なのか?」

 

 今までが結界に閉じ込められていたので喰魔か疑うロクロウ。

 ライフィセットは羅針盤を取り出して地脈点の力を感じる。

 

「あっち!!あのドラゴンが飛んでいった岩山の方に地脈点を感じるよ!!」

 

「あっちか……」

 

 ライフィセットの指針でより正確な位置を割って、地脈点に向かう。

 

「……喰魔もいませんし結界も無いですね」

 

「また、ハズレなのかな」

 

 地脈点の草原には花が咲いており、普通に草原だった。

 

「決めつけるのは早いわ。ドラゴン(あいつ)が結界を喰い破ったか聖寮が制御しきれてない可能性がある」

 

「いや、それは無いだろう」

 

「……なんでそう言えるのよ」

 

 オレが否定するとムスッとするベルベット。

 そんなにオレに否定されるのが嫌なのか……いや、まぁいいか。

 

「ここ、よく見ろよ」

 

「……草原でしょ」

 

「花が咲いてるな。あのドラゴンが居て、こんなに綺麗になってるか?」

 

「それは」

 

 誰かがいた痕跡らしい痕跡がこの草原にはない。

 暴れたであろう痕跡も無くて何処かが禿げ山になっているなんてのもない。ドラゴンが制御できないならば暴れてしまって何処かがおかしく崩壊してたりするもんだが、そんなのは何処にもない。

 

「そもそもで、アレが喰魔だとしてどうやって連れ帰るんだ?」

 

 あのサイズで聖寮が制御下に置けないものをどうやって監獄島に持ち帰るんだ。

 

「あの姿が喰魔なら、ある程度痛めつければ元々の姿に戻る筈よ」

 

「ドラゴンがなにをベースになってるのか知ってるのか?」

 

「知らないわ。けど、どうせ蜥蜴かなんかでしょ?」

 

「……ベルベット」

 

「あのドラゴンに関しては情報が不足している。ストーンベリィに向かって情報を集めてから決めるのも遅くない」

 

 あ、コイツはぐらかしやがった。

 アリーシャが元となっているのは天族だと教えようとするとアイゼンが間に入った。

 

「やれやれ、一番の問題はドラゴンが敵かもしれないじゃろ」

 

「いや、そこは問題じゃないだろう」

 

「そうそう。襲いかかってくるなら斬ればいい」

 

 ドラゴンが危険なのは分かっているがオレからすれば有象無象の敵に過ぎない。

 ロクロウにとっても斬れる物なので斬りさえすればいい。マギルゥの心配はむしろ一番遠い。

 

「ドラゴン程度で手こずってたらアルトリウスを殺れないわ」

 

「お主達が逞しすぎて逆に恐ろしいわ!!」

 

 マギルゥのツッコミが終わったので進路を本来の目的地に向けるオレ達。

 

「何故、言わないんだ。その、天族がドラゴンの正体だと」

 

 さっきの事が気になってかアリーシャはアイゼンにどうして話に割って入ったかを聞いてみた。

 

「……世界の真実や仕組みを知るにしても段階がいる。お前達だってそうだった筈だ。いきなり段階を飛ばして教えすぎると頭が混乱をする」

 

「全員、その辺りは大丈夫そうな気がするが」

 

 一癖も二癖も強いベルベット達。

 今まで色々とあってそれを乗り越えてきたので、心の強さは既に充分と考えるアリーシャ。

 

「ドラゴン化だけは他とは違う。あれは聖隷自身に原因があるものじゃない。強い穢れに当てられて行くところまで行った末にあるものだ。もしその事を今の段階でライフィセットとエレノアが知れば、心の揺れ幅が大きく変化する」

 

「……だが、もしあのドラゴンが喰魔だとすれば」

 

「その時はその時だ」

 

 最後の方、ざっくりだな。

 言っていいことと悪いことと言い過ぎてはいけないこともあるのでアリーシャはそれ以上はなにも言わない。

 とはいえ、あのドラゴンが喰魔だった場合はエレノアには今以上により強い心で居てもらわなきゃ困る。そうじゃないとライフィセットがさっきみたいなドラゴンになってしまう。

 ドラゴンだけは現代で一応は完成されている浄化の力をもってしても元に戻すことは出来ないとライラは言っていた。

 ドラゴンパピーならギリギリいけるらしいが、浄化の力が無いこの時代じゃドラゴンパピーの時点でアウトだ。

 

「……オレのはどうなんだ……」

 

 ライラ達が使っている浄化の力で無理ならオレの使っている力ならどうなのか疑問を持つ。

 マスターソードを使ったりすれば穢れに満ちた奴を元の姿に戻したりすることは出来ている。スレイ達の様に全力でやっていないのでもしかすると全力を出せば元に戻せるかもしれない……いや、全力を出したらダメか。

 オレが仮にドラゴンを元に戻せたとして、それはあくまでもオレだったから出来ることだ。アリーシャ達にその技術を伝えてドラゴンを元に戻すシステムを作れない。オレだから出来たとかは嫌なんだよな。

 

 ドラゴンについて改めて深く考えながらもストーンベリィに辿り着いた。

 開拓の村だけあってか野心とか向上心溢れる人達が多くいた。向上心や野心が欠片も無いオレから見れば少しだけ羨ましいと思った。

 

「よぅ、久しぶりだな」

 

 血翅蝶の一員を探して宿屋に立ち寄ると、そこにはザビーダがいた。




スキット 愛想はそれぞれ

ベルベット「あの男、私達が来ることを分かっていたみたいね……血翅蝶の情報収集能力をものにできないかしら?私達もあれぐらい早ければ喰魔探しも捗るはず」

ゴンベエ「それは無茶と言う物だ」

ベルベット「分かってるわよ。ああ言うのは質よりも量、大勢の人間で集めてるものでしょ」

ゴンベエ「いや、そういう話じゃない」

ベルベット「そういう話じゃない?」

ゴンベエ「いや、ほらシンプルにベルベットって愛想悪いだろ?」

ベルベット「……は?」

ゴンベエ「いや、は?じゃねえよ。情報を集める上では喜怒哀楽を使いこなさねえと、あ、マギルゥ、ちょうどよかった。笑ってみろ」

マギルゥ「なんじゃいきなり?」

ゴンベエ「ベルベットの愛想の無さを分かってもらおうと思って」

マギルゥ「成る程。確かにベルベットの愛想は無いのぅ。マギルゥ奇術団の一員としては、愛想は大事じゃというのに」

ベルベット「誰が奇術団よ!」

マギルゥ「マギーン!プイ!プイ!……ほれ、お主も!」

ベルベット「そんな恥ずかしい事出来るわけないでしょ!」

ゴンベエ「そうは言うけど愛想笑いとかが出来ねえと情報収集とか一切出来ないからな。無愛想なままだと相手側に印象が悪いぞ」

マギルゥ「ほれ、このドリンクをこの紙に書かれてるようにゴンベエに渡してみい」

ベルベット「……何時もお疲れさまとこれからお願いしますを込めてって、出来るかぁ!!」

ゴンベエ「……お前な、そういう時は別のやり方があるだろう」

ベルベット「別のやり方ってなによ」

ゴンベエ「『お疲れ様、はいこれ私の奢りよ』って素っ気なく渡すんだよ」

ベルベット「愛想がどうとか言ってるのにそんなのでいいわけ?」

ゴンベエ「マギルゥの様にバカになれって言ってんじゃねえよ。もうちょっと魅力的になれって言ってるんだよ。折角の美人が勿体無いだろう」

ベルベット「……飲むんなら、飲みなさいよ。一応はあんたのだから」

ゴンベエ「ありがとう」

ベルベット「別に、私がなにかしたわけじゃないわ」

マギルゥ「あれ、ワシもしかしてバカにされて終わりかえ?」


 ゴンベエの精霊装は光、闇、雷、水、鋼の5つの属性のてんこ盛りです。


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生きるってこと

アリーシャとのイチャイチャを書きたいが現代にまで取っておかなければ。


「ザビーダ……」

 

 血翅蝶の一員を探して立ち寄った宿屋にザビーダ様はいた。

 

「ザビーダがここにいるということは、アイフリードに関する手懸かりがストーンベリィに」

 

「残念!これでも俺はモテモテでねぇ。忙しいんだよ」

 

 船長であるアイフリードを探しているザビーダ様。

 この場に居るということはと考えるが、違うと本人がキッパリと否定をした。

 

「……」

 

 敵ではないが味方でもない、やることが一緒というなんとも言えない関係の私達とザビーダ様。

 アイゼンとのにらみ合いが続く中、ライフィセットがザビーダ様がいるテーブル席にお酒が置かれており、杯が2つあることに気付いた。

 

「誰かを待っているの?」

 

「いいや……あいつとの願掛けさ」

 

 何処か悲しく哀愁漂う目でザビーダ様はお酒を見つめる。

 片方のコップに入っているお酒ともう片方に入っているお酒が均等ではない。片方はザビーダ様が飲んだとして、もう片方は誰も口にしていない。

 誰かがここにいるのかとチラリと確認をしてみるが宿の店員を除けば誰もここにはいない。

 

「……いくぞ、ここには血翅蝶はいないみたいだ」

 

「いいのかよ、俺を放置していて」

 

 ザビーダ様に背を向けるアイゼン。

 何かしらの手懸かりやきっかけになることを自分で理解してるのか、今ここで見過ごしていいのかと聞く。

 恐らくだが、見過ごさなかったら見過ごさなかったで戦って有耶無耶にして逃げると思う。

 

「誰にも、邪魔をされたくない時間がある」

 

 ただお酒を飲んで楽しんでいるだけでない事が分かるのか去ろうとするアイゼン。

 

「なら、お前さんもどうだい、いっぱいやるか」

 

「生憎、この前極上過ぎる酒を鱈腹飲んだ」

 

「オレに取り置きされた分も含めてな……お前達だけ、ホント美味しい思いをしやがって」

 

「なんだなんだ?1人だけ飲めなかったのか?なら、奢ってやるぜ」

 

「いや……それよりも聞かないのか?」

 

 飲んでいたお酒とは異なる酒でゴンベエを迎え入れようとするザビーダ様。ゴンベエは飲むつもりはなく手で制止するのだが、なにかを尋ねた。

 ザビーダ様は浮かべていた笑いをやめ、口を閉じて真剣な眼差しでゴンベエを見つめる。

 

「もううんともすんとも言わねえ……お前、なにをしやがった」

 

 ペンデュラムを取り出すザビーダ様。

 確か、そう。ゴンベエがザビーダ様をあえて怒らせて本音を聞き出した際に御詫びとしてゴンベエはバイオリンで一曲弾いた。するとペンデュラムは僅かだが青白い光を纏ってパワーアップを果たした。

 あの時のペンデュラムと違い何処にでもある綺麗な鉱石で出来たペンデュラム。神秘的な力の様な物を感じない。

 

「人間ってのは一度甘い汁を吸えば、もう一度吸いたくなる生き物だ……天族であるお前はどうだ?」

 

「……テメエ、いったい何者なんだ?」

 

「名無しの権兵衛だ、それ以上でもそれ以下でもねえ……と、オレ達もオレ達で忙しいから、またその内にな」

 

 何時も通りにしているゴンベエを強く睨んでも無駄だと感じたのかザビーダ様は諦めてペンデュラムを手元に戻す。

 これ以上は会話をすることはなく、1人の時間を邪魔するつもりはないと私達も宿を出るのだがライフィセットは深々と考え事をする。

 

「願掛けってなんの事だろう?」

 

「ザビーダが飲んでいたのは【いばらの森】だ」

 

「おぉ!!大切な人と酌み交わせば永遠に添い遂げられるというロマン無双な一品じゃの!」

 

「だが、滅多に手に入るもんじゃない。俺も一度は呑んでみたいと思っているが……」

 

「ザビーダにとって特別な時間だったんだね……」

 

「だが、1人で飲んでいたぞ?」

 

 ザビーダ様が特別な時間を味わっていたかもしれない。

 だが、マギルゥの言っていることが確かならば1人で飲むものでなく誰かと飲むはずの物だ。

 

「バッカ、お前。こんなご時世だぞ」

 

「あ……」

 

 目の前に天族が普通にいるせいか感覚が若干麻痺している。

 この時代では天族の意思が抑制され対魔士達に使役されている。イズチの天族の方々はどうかは不明だが、ザビーダ様の様な天族は滅多にいない。

 

「聖寮に捕まってるのか……」

 

 ザビーダ様も元々は聖寮に捕まっていた。

 それをアイフリードが偶然に助けたらしく、それならばその知り合いも捕まっていてもおかしくはない。

 出来れば解放をしたい……。

 

「ベルベットさんですね」

 

「あんたね、例の業魔を見たのは」

 

 お酒のもう片方のグラスの正体について色々と考えるとオカッパの女性が声をかけてきた。

 左腕の手首に赤いバンダナを巻いており、私達が探していた血翅蝶の一員でベルベットは驚くことなく話を続ける。

 

「来る途中、空を飛ぶ蛇みたいなドラゴンを見たけど、あんたが見たのも?」

 

「はい。同じ業魔です。アルディナ草原の岩山の上に巣を作っています」

 

「アルディナ草原の岩山の上?私達が来る途中に見たけど、なにも居なかったわよ」

 

「雨の日だけ、そこに立ち寄るのです」

 

 血翅蝶の人にそう言われると空を見上げる私達。

 雲1つ無い綺麗な青空で、雨なんて降りそうにない気配を醸し出している。

 

「雨が降らねば先に進めぬが、そう都合よく雨は」

 

「エバラのごまだれ!」

 

「……なにやっとるんじゃお主」

 

「いや、やっておかないと思ってな」

 

 都合よく雨は降らない。

 都合良く降らないとマギルゥは空を眺めながら語るのだが、ゴンベエが隣でオカリナを取りながらなにかをした時に言う何時もの言葉を言っていた。

 

「雨が無いなら作るしかねえだろ」

 

 オカリナを吹くゴンベエ。

 この曲は知っている。嘗てハイランドとローランスの戦争を止めるべく豪雨を起こす為に吹いた曲だ。

 今回も雨を起こす為に吹くと何処からともなく素早い速度で雨雲が此方に向かってきて太陽を覆い被さりポツポツと雨が降ってくる。

 

「あんた、そんな事も出来たのね」

 

「その気になれば昼と夜を逆転だって出来んぞ……さ、行くか」

 

 ドラゴンに会うための条件は整った。

 前にヘルダルフがゴンベエの雨を無理矢理かき消した時の様な事が起きるかと心配もあったもののそんな事はなく、ストーンベリィを出る。

 

「ニャッホ~、いいところで出会ったニャ!!」

 

「今、急いでるのよ。後にして」

 

 ストーンベリィを出て早々にねこにんに出会った。

 私達に出会えて喜んでくれているが出て早々に出会ってのでベルベットは冷たくあしらおうとする。

 

「急いでるなら渡りに船、あんた達に石板にゃ!」

 

「なんで石板?」

 

 言っていることがよく分からず首を傾げるライフィセット。

 石板と言えばこの時代には古代語……いや、この時代の文字で書かれている石板を現代では割と見掛けるが、この時代では見掛けないな。1000年の間に作られた物だろうか。

 

「あっ、これはレアボード!」

 

 石板について考えているとビエンフーはねこにんの足元にある石板に気付く。

 かなり古い時代の文字が書かれているみたいだが、いったいこれは……。

 

「そう!遺跡でみつけたのニャ!この石板は大昔にノルミン族が作った地脈を滑る乗り物ニャンだけどボクには使えないからあげるニャ!」

 

「ノルミン族が作った物か……不安だな」

 

「バカにするなでフー!!ノルミン族だってやる時はやるんでフよ!たまにしか無いでフけど!」

 

「だったら、使わせろ」

 

 文句よりも行動で結果を示せ。

 ゴンベエはレアボードに足を乗せるのだがうんともすんとも言わない。

 

「使うにはノルミン族の名前を言わないと使えないニャ」

 

「成る程、ビエンフー……おい、うんともすんとも言わねえぞ。古すぎて故障してるんじゃねえのか?」

 

「あんた、もうちょっと言葉を選んで欲しいニャ!それは故障してるんじゃなくて名前が間違ってるだけニャ!」

 

「ということはビエンフーは偽名か……」

 

 ふぅ、やれやれと大きなため息を吐くゴンベエ。

 

「違いまフ!ボク達の名前はそういうのじゃなくてノルミン・○○って名前が一人一人にあって、それを告げないと起動出来ないんでフよ!」

 

「……え、じゃあビエンフーとグリモワールは?」

 

「まぁ、芸名みたいなモノじゃよ」

 

 ビエンフーの言葉を聞いて、アタックさんを思い出す。

 あれはそういう感じの名前じゃなくてノルミン・○○の1つだったのか。

 

「よし……ノルミン・シルクハット……っつ、違うか」

 

「なにをしている貸せ!ノルミン・ドスケベ!」

 

「いやいや、ノルミン・ムッツリだ!」

 

 正確な名前を聞かずに適当にビエンフーの名前を言うゴンベエ達。

 当然と言うべきか、反応はしておらずその名前の扱いにビエンフーは怒りを露にする。

 

「ボクの名前はそんなんじゃないでフよ!」

 

「じゃあ、さっさと言いなさい」

 

「う……ノルミン・ブレイブ」

 

 自分の名前が嫌なのか、嫌そうにして呟くと光を放つレアボード。

 

「ビエンフー、あなた……ブレイブという名前だったのですね」

 

「エレノア、失礼だぞ……確かにそうは見えないが」

 

「ビエーーン!だから言いたくなかったんでフよ!」

 

 ブレイブ、勇気という意味を持つ名前でビエンフーと似合っていないのか思わず笑うエレノア。

 勇気……そういえば現代でフェニックスが勇気を探せと言っていたが、これと関連しているのだろうか?

 

「ところでこれ、1枚だけれど8枚あるのよね」

 

 レアボードに乗ってみるベルベット。

 大きさからして頑張っても3人しか乗れない。そうなると一人一個必要になるが。

 

「そんなもん、一個しか無いニャ!」

 

「……結局使い物にならないわね。無駄足だったわ」

 

「酷いニャ!?」

 

 1つしかないので、最終的にはビエンフーと常に一緒にいるマギルゥの手に渡った。

 出来れば私も乗ってみたかっただが一人だけ楽をするわけにはいかない。ゴンベエの降らせた雨が何時止むかは定かではないので出来るだけ早くアルディナ草原の岩山に向かうとそこにはドラゴンがいた。

 

「あの黒い靄……ライフィセット、辛いならばエレノアの中に居た方がいい」

 

「ううん、まだいけるよ」

 

 岩影からドラゴンの姿を確認するが黒い靄を……穢れをここぞとばかりに溢れ出している。

 私達はまだしもライフィセットやアイゼンにとって毒でしかない。ライフィセットの身を案じるが、平気そうな顔をするライフィセット。

 

「結界らしい結界も無ければ、変身もしねえな」

 

「またハズレみたいね」

 

「……ごめん」

 

「あんたが落ち込む必要はないわ。頼ってるのはアンタじゃなくて私の方なんだから」

 

「要するにアンタだけが頼りなんだから、一回や二回の失敗で落ち込まないでよねだ……っぐ!!」

 

「おお、珍しく耐えおったの」

 

 何時もの様に余計な一言を言ってベルベットに殴られるゴンベエ。

 珍しく殴り飛ばされずにいる。

 

「一人ならまだしも他の奴等が居るとアホなことはしたくはない」

 

「普段からするんじゃないわよ」

 

 それは無理という物だろう。

 ドラゴンの様子をコッソリと見るのだが、特に暴れるといった事はしていない。溢れる穢れから憑魔を産み出すといったこともない。領域に入った時は背筋がゾクリとしたが馴れてしまえば特に怖いことはない。

 

「決まりね、あのドラゴンは喰魔じゃないわ。次、行くわよ。次」

 

 最初は様子見だったベルベットもドラゴンが驚異的ななにかをしたわけでもなく、ただそこにいるだけなので見切りをつけた。喰魔でなければ例え危険な存在であっても興味は無さげなその姿は相変わらずで、どうにかしようにも流石にドラゴンはどうすることも出来ず困っていると、アイゼンは立ち上がった。

 

「お、やる気か?」

 

 ドラゴンに対する目つきが変わった事に気付き嬉しそうにするロクロウ

 

「は?なにを言ってるのよ!」

 

「あんなのに手を出したらただじゃすみませんよ!!」

 

「お主達、そんなに騒いだらドラゴンに声が聞こえるじゃろう!!!」

 

 そういうマギルゥも声が大きい。

 ひっそりと眺めるのを止めたアイゼンを見て声を出すベルベットに声をあげるエレノアに声をあげるマギルゥ。

 連鎖的に大きな声を上げていくせいでドラゴンが私達に視線を向け、背筋が凍る。

 

『グルル』

 

「あ、すみません!」

 

 ドラゴンの鳴き声が聞こえ、身の毛もよだつ。

 物凄くとは言わない。だが、この時代に来てある程度は強くなっているという自覚はあるが、いざドラゴンを前にして体に力が入らない。怖いと言う感情より驚異的な相手だという危機感が強く出る。

 

「ふん!もうやるしかないぞ」

 

「ゴンベエ、真面目に戦いなさい!あれは殺しても問題ないわ!」

 

「もうちょっと言葉を選べよ!」

 

 喰魔でないので連れ帰らなくてもいい。

 憑魔の中でも特別な存在であるドラゴンと戦うしかないとなると何時もの様になんやかんやと適当にしているゴンベエが真面目に戦ってもらわないと下手をすれば死ぬ。

 ゴンベエに真面目にやって貰いたいのはわかるが、ベルベット、もう少し言葉を選んで欲しい。

 

「まぁ、真面目にやらないとダメっぽいからそれなりに真面目にやらせて貰おう」

 

 その発言が既に真面目ではない。

 真面目と言う割には背中の剣は抜こうとしない。代わりに何時も中距離攻撃として使っている立方体の光る弾を作る。

 

「ハウンド」

 

 何時も言っている弾の名前とは違う。どんな弾かは私は知っている。確か追尾機能を持った弾だ。

 今回の相手はドラゴン、ゴンベエは色々と出来るが空を自在に飛び回ることが出来ず飛び回られるだけでゴンベエは苦戦をする。

 追尾機能を持った光る弾はドラゴンに目掛けて飛んでいくのだが、途中でUターン。ギュンと綺麗に曲がっていき、一番背後にいる私の横を通り過ぎる。

 

「ぬお!!」

 

「ザビーダ!?」

 

 ゴンベエの撃った弾はドラゴンにでなくザビーダ様に向かって命中をした。

 先程まで宿屋でお酒を飲んでいたのにこの場に現れた事に驚くライフィセット。

 

「いったいなんのようだ?」

 

「なに、お前等がコイツに会いに行ったと聞いてな……まさか無理矢理雨を降らせるとは思わなかったぜ」

 

「これでも勇者なんでな……で、なにかようか?」

 

 重要な事なので二回聞くゴンベエ。

 ザビーダ様が宿からここに向かってきた理由は1つしかない。

 

「決まってんだろ。お前等を叩きのめしに来たんだよ……コイツは殺させやしねえ」

 

 私達にドラゴンを殺させない。

 私達で殺せるかどうか怪しいがゴンベエが居る以上、ドラゴンを殺すことが出来る。

 

「だが、ザビーダ……何かあるのか?ドラゴンを殺さない以外でどうにかする方法を」

 

「ドラゴンと呼ぶんじゃねえ!!」

 

 私がドラゴンと呼んだことに怒りを露にするザビーダ様。

 ドラゴンはなにもないところからポンっと生まれてくるものじゃない。天族が憑魔化して行くところまで行った末に成る姿であり、通常の憑魔と幾つか違う点がある。例えば私のように肉眼で天族が見れない物でもその姿をハッキリと見える。

 

「すまない……なんと呼べばいいんだ?」

 

「……」

 

 私が謝ったことを驚くザビーダ様は口を閉じてなにかを考えている。

 

「知ってんのか……ドラゴンがなんなのか?」

 

「シリアスになってんとこ悪いが、そういう感じの空気を醸し出してる場合じゃねえぞ」

 

 シリアスな空気を醸し出しているが、そんな暇は無い。

 ドラゴンは私達に向かって大きく吠えて巨大な炎の息吹を吐いてくる。

 

「っち、ドラゴン相手じゃ使わざるえないわね」

 

 舌打ちをしながら炎を思わせるかのような姿に変わるベルベット。

 左腕を喰魔の姿に変えて巨大な火球を喰らい尽くして攻撃を防いだ。

 

「んだよ、そりゃあ!!」

 

「明確に分かるパワーアップだ。で、どうすんだ?」

 

 ベルベットのこの姿を見るのははじめてなのか驚くザビーダ様。ゴンベエが簡単に説明をするとこの後について聞く。

 このドラゴンを、ザビーダ様はどう対処するか。殺させないという意思はつい先程分かったが、殺さないだけではダメだ。

 居るだけで常軌を逸した穢れを撒き散らしており天族にとって穢れは毒でしかなく、このまま放置すれば穢れに当てられて憑魔化する者達が後をたたない。

 

「一曲、弾いてくれ。あの力があれば、あいつを救えるはずだ!」

 

 輝きを失ったペンデュラムをゴンベエに差し出し、輝きを手に入れる為にザビーダ様は曲を求める。

 曲を弾けばゴンベエが背中に背負っている剣よりは弱いが同じ光を宿す。あの光は退魔の力とゴンベエが呼んでいる力を持っている

 

「ほらよ」

 

 ゴンベエは背負っている剣をザビーダ様に投げる。

 喰魔のベルベットや憑魔になっているロクロウには触ることすら出来ないが、ザビーダ様は違う。

 

「!」

 

 ザビーダ様が剣を抜くとペンデュラムに込められた光よりも更に強い光が刀身から放たれる。

 その光の力強さを感じてこれならばイケると笑みを浮かべる……。

 

「コイツがあれば、アイツを救える!」

 

「ゴンベエ……あの剣は」

 

「ああ、あの時と同じ剣だ」

 

 ゴンベエが渡した剣はずっと使っている剣だ。

 私と出会ったあの日から、今日までずっと背負っていた剣でゴンベエがヘルダルフに対しても使ったことがある剣で

 

「マスターソードじゃ、ドラゴンは救えねえよ」

 

 ドラゴン化したアイゼンにも使ったものだ。

 その時の事を唯一見ていた私は知っている。アイゼンは攻撃をくらったが元に戻ることは出来なかった。

 ザビーダ様が手にした剣はドラゴンが放つ穢れを撃ち祓うことが出来たが、ドラゴンを元に戻すことは出来なかった。

 

「まだだ!!まだ足りねえだけだ!!」

 

 

 

 ゴンベエから借りたマスターソードを使うザビーダ様。

 

 普段から剣を使っていないせいか拙い剣術でドラゴンに向かって攻撃をする。強い光を纏った攻撃はドラゴンの身から溢れる穢れを祓えてはいるが、ドラゴンは本来の姿に戻らない。

 ゴンベエの力さえあればどうにか出来ると信じていたザビーダ様は現実を受け入れきれない。

 

 

「そうだ。コイツが剣なら鉱石で出来てる、俺の器にすれば」

 

「あ、バカ!やめろ!!」

 

 今よりも力を上げる方法を取ろうとするザビーダ様。

 静観していたゴンベエは急に慌てて止めようとする。 

 

「っつぁ!?」 

 

 ザビーダ様が剣を器にしようとすれば、剣が拒んだ。

 ベルベットやロクロウが触れようとした時と同じように強い光を放って触れるなと言わんばかりにザビーダ様を拒んだ。 

 

『グルァアアア!』 

 

「……逃げたか」

 

 ザビーダ様から何度も攻撃を受けていた為か空を飛んでこの場から去っていくドラゴン。

 喰魔でない以上は戦う理由は無いとベルベット達は追いかける事をせず、ゴンベエはザビーダ様に近付く

 

 

「眠ってるとはいえ、この剣は既に器として使われてっからな……」 

 

「……クソ……ちくしょぉおおおお!!」

 

 ゴンベエの力があれば助けれると信じていた。

 結果はどうすることも出来ずに、非情な現実を突きつけられたザビーダ様は叫んだ。

 

「ゴンベエ、ドラゴンは元に戻せないのか?」

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

「分からねえ」

 

 アリーシャの質問に対してオレはそう答える。

 

「分からない?」

 

「やったことねえんだから、分からねえよ」

 

 ドラゴンを元に戻すことが出来るかという質問に対しての答えは出来る出来ないの2択だがオレの答えは違う。

 やった事が無いから分からないだ。現代でドラゴン化したアイゼンと対峙したが、その時は逃げたりすることを重視して助けることを一切意識していなかった。

 全力を出せばどうにかなるかもしれねえけどそれはオレしか出来ないとかになるし、歴史を変えてはいけねえから出せねえ。

 例え救えてもこの時代では救っちゃいけねえ。

 

「オレは今まで助けようと思って助けたことはねえ」

 

 レディレイクにウーノを連れてきたのも、マーリンドでめんどくさそうなドラゴンパピーを倒したのも自分の為だ。

 アリーシャみたいに国を救いたいとかそういう気持ちも無いし、スレイみたいな導師としての使命感的なのも一切無い。なにがなんでも助けてみせるという気持ちは無いぞ。無償の正義なんて世の中のシステムをおかしくするものだ。

 

「っち、逃げやがったか」

 

 ドラゴンが完全に去ったことに舌打ちをするアイゼン。

 

「お前、殺る気満々だな」

 

 ドラゴンの存在は百害あって一利無し。

 居るだけでヤバい存在なのは分かっている。天族にとって毒そのものだが、アイゼンの殺意はやたらと高い。

 

「テメエ、ハナから殺る気だったのか……テメエも全部知ってるんだよな?」

 

「……あのドラゴンはお前の」

 

「ドラゴンじゃねえ!」

 

「……」

 

「で、次はどうするんだ?」

 

 シリアスな空気を醸し出してるアイゼンとザビーダ。

 マスターソードを使ってドラゴンの纏っている穢れを祓えたが、ドラゴンそのものを元には戻せていない。

 

「っ……」

 

 オレの力を借りれば元に戻せると思っていただけあり、次のことは考えていなかったザビーダ。

 ドラゴンの姿から元に戻さなければならないという事は分かっているようでオレと目線を合わせない。

 

「……テオドラだ」

 

「?」

 

「……それがアイツの名前だ……ありがとよ」

 

 ドラゴンが、いや、テオドラが居なくなったのでこの場を去ろうとするザビーダ。

 あの中でただ一人、名前を聞いてくれたからか味方になろうとしていたからか去り際にアリーシャに向かって名前を教えた。

 

「ゴンベエ」

 

「んだ?」

 

「……ザビーダは今、生きていると思うか?」

 

 去っていったザビーダに対してアイゼンは哲学的な問題をぶつけてきた。

 生物としてはザビーダは生きているのだろうが、そういうことを聞いてんじゃねえだろう。

 

「逆に聞こう。生きるってなんだ?」

 

 その質問に対してオレはすんなりと答えるわけにはいかない。

 オレは……いや、転生者(オレ)はそれを軽々しく言える立場じゃない。よくある創作物みたいに理由も分からず転生しているわけでもトラックに轢かれてるわけでもない。

 オレはまぁ、比較的に軽い方だったが転生者になってる奴等はかなり重たいめんどくせえ人生を送ってたりしやがる。

 

「自分の流儀を通して生きれてるかどうかだ」

 

「……足掻くのも、1つの生き方だ。諦めずに何度も何度も必死になって挑戦をする。端から見ればそれは醜い姿に見えるが、そういう奴等が何度も何度も足掻いてもがいて苦しんで、それでも必死になって前に進んで行く」

 

 今のザビーダの姿が自分らしく生きていない、醜い姿に見えるかもしれない。

 アイツは人じゃないけど人の生き様ってのはそういうところにもある。諦めずに何度でも挑戦する心を否定することは許されない。まぁ、だからと言って諦めることを知らないことは良いことじゃねえが。

 諦めずに何度でももがき苦しみながらも挑戦する心と諦めて別の方法を見つける心の両方を持ってる奴なんて転生者(オレ)みたいに教えられてないと早々に居ねえからな。

 

「なら、アイツは前に進めると思うか?」

 

「進めないなら背中を誰かが押せば良い。肩を叩いて、そこに道はあると教えれば良い。ただ、腕を引っ張って1つの道に引き摺り出して無理矢理歩かせることだけはするな……今はまだやるだけやらせてやれよ。例えそれが醜いと思っていてもだ」

 

 ザビーダがやろうとしていることは否定してはいけない。

 時には生き方を曲げてまでも、自分の全てを犠牲にしても守りたい助けたいと思う事だってあるんだ。生き方や流儀を大事にしているかもしれねえが、それを曲げてでもアイツは必死になっている……。

 

「まぁ、見捨ててるオレが言っちゃいけねえことだがな」

 

 ザビーダみたいに必死になって足掻こうとしていない。もしかしたら救える命をオレはこの時代で最初から見捨ててる。アリーシャも救う方法を最初から知っているが見捨ててる。

 だから、殺す流儀だ殺さない流儀だ貫いている奴等をどうこう言っていい感じ立場じゃない。例え言ったとしても、きっかけを与える程度で居なきゃなんねえ。

 

「結局、ここもハズレだったわね」

 

 ドラゴン化についての説明をアイゼンから受けると、ここもハズレだったことが改めて分かった。

 得るものこそあったものの2回連続のハズレにライフィセットは落ち込む。

 

「ごめん、僕のせいで」

 

「別にあんたのせいじゃないわ。結果的にオリハルコンが手に入って、あのドラゴンについて知ることが出来たんだし得るものはあったわ」

 

「……」

 

「だから、次こそは当てなさい」

 

「……うん!」

 

 2つ目の地脈点にも喰魔はいなかった。

 オリハルコンの様に目に見える成果も無かったが、それでもここに来たことは無駄ではなかった。




 スキット 振り向けば奴がいる。

アリーシャ「血翅蝶の情報網は凄まじいな」

エレノア「そうですね。私達が監獄島からミッドガンド領に向かうと告げてもいないのに先回りをして……いったいどうなっているのでしょう」

アイゼン「シルフもどきを伝書鳩の様に使っている筈だ……だが、それでもこれだけの情報網は質よりも量、大勢の人間が情報を行き来させて手に入れている」

ロクロウ「そうなってくるとアレが出てくるな」

ライフィセット「あれ?」

ロクロウ「オレ達の中に血翅蝶に情報を流しているスパイが居るかもしれん!」

エレノア「なっ!?」

アリーシャ「待て、幾らなんでも話が飛躍しすぎている!!」

ロクロウ「けどよ、俺達が秘密にしている色々な情報を持ってるんだぜ」

アイゼン「確かに、オレ達が誰かに喋ったわけではない情報を持っているな……」

エレノア「言っておきますが、私はそんな事をしてませんよ」

アイゼン「安心しろ、エレノアは絶対に無い。話してすらいないのだからな」

エレノア「……素直に喜べませんね」

ロクロウ「じゃあ、アメッカか?」

アリーシャ「じゃあとはなんだ。私が情報を売ると思っているのか!?」

ロクロウ「いや、こう言うのは意外な人物が犯人だってのがパターンだ」

エレノア「そういうのはフィクションでの話で、現実は違います!」

アリーシャ「やめよう。こんな話をすれば、私達の関係に大きな溝が出来る」

ロクロウ「冗談だ……もしスパイが居れば問答無用で斬って自白させればいいんだからな」

アリーシャ「それもそれで、問題アリだ!」

アイゼン「ロクロウはともかく、血翅蝶の情報網は本物だ。何処に血翅蝶が紛れ込んでいるかが分からない……だが、それでも流出するのがおかしな情報も幾つかがある。何処に目が耳があるか分からないから用心するに越したことはない」

アリーシャ「だが、実際の出所は何処なのだろう?」

アイゼン「それは……わからん」

ビエンフー「……ビエ……」

スキット エゴサーチ

かめにん「毎度ありーっす!」

ゴンベエ「まさかオリハルコンの粒がこんな所で役立つとは……」

ライフィセット「ゴンベエ、なにをしてたの」

ゴンベエ「ん……なんでもねえぞ」

ライフィセット「なんでもないって、さっきかめにんからなにかを受け取ってたよね?」

ゴンベエ「見ていたのか……まぁ、気にするな」

ライフィセット「そういわれると、逆に気になるよ」

エレノア「なにを騒いでるのですか?」

ライフィセット「ゴンベエがかめにんからなにかを受け取ってたんだ」

ゴンベエ「あんま見ない方がいいものだ」

エレノア「見ない方がいいもの……まさか、エッチな本じゃありませんよね!」

ゴンベエ「バカか!普段からベルベットのありがたい姿を見ているんだぞ!写真がなくて絵が限界なこの国のエロ本で燃焼出来るか!!」

アリーシャ「なにか不謹慎な会話が聞こえたが……ゴンベエ、ベルベットのなにを見てるんだ!!」

ゴンベエ「ベルベットの全てだと思うぞ」

ベルベット「あんたねぇ……まぁ、いいわ。それでなにを受け取ってのよ?エロ本だったら燃やすわよ。あんたを」

ゴンベエ「情報だよ、情報」

ライフィセット「情報?……喰魔、じゃないよね」

ゴンベエ「オレ達の情報だよ、所謂エゴサーチだ」

エレノア「何故今更その様な事を?」

ゴンベエ「お前達、立ち寄る村でオレ達の事が噂されてるのを知ってると思うがどんな噂だ?」

ライフィセット「……目が3つあって、角が生えていて身長は3メートルを越えてて……」

アリーシャ「誰かが該当しているわけじゃないな」

ベルベット「別に噂話なんてどうだっていいわ」

エレノア「むしろ正確でない分、私達が動きやすいです」

ゴンベエ「それはあくまでも一般人の噂話でちゃんとしたところにはどういう感じで噂話が出回ってるか謎だろ……相手側からオレ達がどういう感じのイメージをされてるのか気になったんだ」

アリーシャ「そういえば、実際に情報を持っている所がどう見ているかは知らない……この国にはカメラが無いが、正確な容姿を書き取られて手配書を出されれば一貫のおしまいだ」

アイゼン「話は聞かせてもらった!なにやら、面白そうな話をしているようだな」

ライフィセット「アイゼン、聞いてたの?」

アイゼン「ああ……世間でなく情報をしっかり持っている所がどう思っているのか、それはオレ達も気になる事だ。特にお前等を乗せてからアイフリード海賊団が軟派になったと一部の海賊達から言われるようにもなっている」

エレノア「海賊に硬派も軟派もあるのですか?」

アイゼン「当たり前だ!海賊の中の海賊!聞けば泣く子も黙るがアイフリード海賊団だぞ。そのイメージが今どうなっているのか、一般人の噂はまだしもちゃんとしたところがどう思っているかは今後に関わる!」

ライフィセット「僕達、周りにどう思われてるんだろう……なんて書いてあるの?」

ゴンベエ「……あ、オレ、この国の字が読めなかった」

アリーシャ「いい加減に読めるように勉強しないのか?」

ロクロウ「だったら、俺が読んでやるよ!!」

マギルゥ「さーて、鬼が出るか蛇が出るか」

ロクロウ「先ずは、ベルベット……おっぱい!痴女!適当に選んであの格好は狙ってる!」

ベルベット「はぁ!?」

ロクロウ「エレノア、裏切り者、尻、三角フラスコ体型!!」

エレノア「ロクロウ、それをちょっと貸しなさい!!そんなふざけたことが書いている訳が……嘘、そんな!?」

ライフィセット「ほ、ホントに書いてたの!?」

マギルゥ「どうやらガセを掴まされたらしいの……因みにじゃが、ワシはどうなっておる?」

ロクロウ「ええっと……なんだこれ?」

アリーシャ「今度はなにが書いてあるんだ……」

ロクロウ「えっと……wんんwワキガで臭そうな奇抜な格好のBBAはありえませぬぞw……なんだこれ?」

マギルゥ「誰がワキガじゃ!!ちゃんと毎日洗っておってフローラルな香りがするわい!!」

ロクロウ「アメッカは太ももと絶対領域……なんかよく分からねえな」

ゴンベエ「待て待て待て、オレの買った情報そんななのか!?」

ロクロウ「ライフィセットは……両性類、履いてないけど付いてる」

ライフィセット「……どういう意味?」

マギルゥ「それはの」

エレノア「知らなくていいことです!!」

ゴンベエ「理解しているお前は結構むっつりだな」

ロクロウ「俺は奇抜な格好、ランゲツ流の使い手、珍しい人の姿を極力維持している業魔……ぐらいだな」

アイゼン「オレの情報はどうなっている?」

ロクロウ「アイゼンは……結構多いな。死神、アイフリード海賊団の副長、船長代理、地の聖隷」

ベルベット「なんであんた達の情報はしっかりとあるのに、私達はこんな変なのよ!」

ゴンベエ「ベルベットは格好を改めれば改善できるだろう」

アリーシャ「既に資源と資金が潤ってるのにいったい何時までその格好を……色々と目に毒だ」

ベルベット「仕方ないじゃない。監獄島に服屋があるわけでもないし、別に欲しいかと言われてもそこまでのものだし……あんたの情報は?」

ロクロウ「ゴンベエの情報は……無い!」

ベルベット「どういうこと……まさか、あんた自分だけ買ってないんじゃ」

ゴンベエ「いや、一応は買った……が、どうやら向こうもオレとアメッカの事だけは分かってないようだな」

マギルゥ「如何に聖寮や血翅蝶がが大きくても異大陸にまでは手が届いておらんというわけか……」

アリーシャ「……探しても見つかる筈がない」

ゴンベエ「にしても、結構ハズレな情報を売り付けやがって……知りたきゃ自分達の口で聞けってか」


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お前はママになれないんだよ

「ノースガンド領!ヘラヴィーサの北の方に大きな地脈点があるよ!!」

 

 2つ目の地脈点も成果はあれどハズレに終わり、次こそはと意気込むライフィセット。

 監獄島に戻って早々に羅針盤を手にして次の地脈点を針で示す。

 

「ノースガンド領と言うと、今まで足を運んでいない北の大地か」

 

 地図を取り出してライフィセットが示した場所を確認する。

 今まで足を運んだ場所とは異なる北の地。現代でも足を運んだ記憶は無い。

 

「いや、俺達は既に行ったことがあるぜ」

 

「そうなのか?」

 

「あんた達と会う前に、そこに行って探索船を修理したのよ」

 

「結果的には船は治ったけど、街はぶっ壊れたがな」

 

 ロクロウ、笑いながらする話じゃない。

 ヘラヴィーサで起きた私達と出会う前までの事を聞き、少しだけ暗い空気が流れる。

 

「ベンウィック、ヘラヴィーサの状況はどうなっている?」

 

「前にオレ達の船止めをしていた商会はガタガタだよ」

 

「まぁ、ダイルと色々と悪事を働いてたからな」

 

「そのお陰か聖寮の管理も緩くなってるみたいだ。救援物資を運ぶ不定の船があるみたいだから輸送船のフリをすれば入り込める。物資を横流しすれば船止め(ボラード)も見つかるはずだし」

 

「救援物資か……自作自演ね」

 

 起こした張本人達が救援するのにベルベットは呆れる。

 

「だからこそ、つけ込む隙がある」

 

「そうね。その策が一番ね」

 

 呆れながらもベルベットはこの案に乗った。

 話が決まったのでベンウィックは直ぐ様バンエルティア号に向かっていった。

 

「ノースガンド領は北国だ。充分に備えておけよ」

 

「私に言うよりも、ベンウィック達に言っておいた方がいいんじゃないか?」

 

 軽装の私に注意勧告してくれるのは嬉しいが私よりもベンウィックの方が半袖だ、あれだけの軽装となると雪国で確実に風邪を引いてしまう。アイゼンは私の一言にそれもそうかと雪国用の衣装を取りにバンエルティア号に向かっていく。

 

「それにしても船での旅が思ったよりも多いよな」

 

 それぞれが準備を始める中、ゴンベエが船旅の多さを上げる。

 現代で船に乗った記憶はヘルダルフを深海に沈める時だけで、それ以外に乗った記憶は無い。

 

「色んな所に地脈点があるんだから、文句あるならなにか便利な物でも、それこそ空でも飛べる船でも作りなさいよ」

 

「材料寄越せ」

 

「……多分、そういう事じゃない」

 

「どういうことよ?」

 

「……気にしないでくれ」

 

 船での旅が多いのは当然と言うベルベットだが、ゴンベエが言いたいのは多分そういうのじゃない。

 チラリと次の目的地にチェックを入れられた地図に目を通してコッソリと現代の地図を取り出して見比べるのだが、明らかに違う。具体的に言えば大地が繋がっている。

 1000年もあれば地殻変動の1つや2つ巻き起こってもおかしくはないが、少しだけ違和感の様なものを感じる。

 

 なんだ?この違和感は……地殻変動は地学の学者ならば一度は出す定説だが1000年でここまで変わるものだろうか?仮に変わったとしたら、現代でそれなりに資料が残っているのに、現代では天族に関することはおろか歴史が大きく途切れている。200年程前に起きた死の時代(デスエイジ)と言われる災厄の時代もあったが……。

 

「物資は積み込んだ。何時でもヘラヴィーサに行けるぜ」

 

「早いわね」

 

「働き者じゃなきゃ船乗りはやってられないよ」

 

 あっという間に準備は終わった。

 ベルベットは少しだけ驚くが、ベンウィックはこれぐらい当然だと威張る。

 

「さてと、寒冷地用の衣装に」

 

「エレノアぁ……」

 

 モアナ?

 これから向かう北の地は雪国なので寒冷地用の衣装に着ようとすると涙を流しながらエレノアに向かってくる。

 

「どうしたの!?」

 

 突如として泣き始めるモアナに驚くエレノア。何処か怪我をしていないか確認するが怪我らしい怪我はしていない。なにがあったと心配をしていると気まずそうな顔でパーシバル殿下とダイルは近寄る。

 

「それが……」

 

「母ちゃんの夢を見たんだよ」

 

「お母さん、モアナのこと『怖い』って、『こわいモアナいらない』って言った!!」

 

「お母さんはそんなことは言いませんよ」

 

「なんで、エレノアには分かるの?」

 

「それは……」

 

 モアナの問い掛けにエレノアは答える事が出来なかった。

 泣き止もうとしていたモアナは答えないエレノアを見て、更に涙を流す。

 

「分かるんだから、分かるんです!」

 

 エレノア、それは無茶苦茶だ。

 

「なんかウソだぁ、うう、ううわぁああああん!!」

 

 エレノアが適当にやったのが原因かモアナの涙は更に増える。

 

「な、泣かないでモアナ」

 

「私は……」

 

「それ以上はやめておけよ」

 

 ライフィセットが宥めに行き、それでも泣き止まないモアナ。

 その光景になにも言えなかった事を悔やむエレノアだがゴンベエは止める。

 

「お前はモアナの姉にはなれるかもしれないけど、モアナの母親にはなれない……違うか?」

 

「……分かっていますよ、それぐらい!でも」

 

「だったら、これ以上は余計な事をするなよ」

 

 エレノアは立派な女性だ。

 折れない心の強さを持っていて強かだが、その強さは母親としての強さではない。

 ライフィセットやモアナの姉となることは出来ているが、母親になることは出来ない。姉の代わりは出来ても母親の代わりにはなれない。

 これ以上なにかをすればモアナだけでなくエレノアも傷ついてしまう。ゴンベエはそれに気付いた。

 

「まったく、これだから子どもは」

 

 エレノアを止めてもモアナの涙は止まらない。

 今度はベルベットがモアナの側に駆け寄り、馴れた手付きでモアナを抱き締める。

 

「子どもじゃない!!ベルベットなんて大嫌い!!」

 

「はいはい、そうね」

 

「……しゃあねえ」

 

 馴れた手付きであやそうとしているがモアナは泣き続けている。

 子ども扱いするベルベットに嫌悪感を向けている姿を見てゴンベエは折れたのか面を取り出して装着をするとレディレイクとマーリンドを繋ぐ橋のところで出会った山の妖精に変身した。

 魚の妖精と違ってなる理由が無いからかこの姿と木の妖精の姿には滅多にならないが、いったいなにをするつもりだ?

 

「あ」

 

 5つのコンガを取り出し、モアナの前に座るゴンベエ。なにをするのか分かった、ゴンベエは演奏をするんだ。

 私の読み通りゴンベエは橋のところで私を眠らせた曲をモアナに対して弾き始めるとモアナはゆっくりと眠り始める。

 

「お、かあさん……」

 

「眠らせたのですか?」

 

「ただ眠らせたんじゃない、安らかに眠らせたんだ……聞く者を安らかに眠らせる、それがこのララバイだ」

 

 眠っているモアナの表情を見てエレノアは少しだけ安心する。

 怯えて悲しんでいた表情とは真逆の嬉しそうな顔をしており、きっと心地良い夢を見ているのだろうと微笑む……が、直ぐに笑みは消える。

 

「モアナの事を、どうすればいいのだろう」

 

 ゴンベエが安らぎを与えたが、焼け石に水だ。

 ベルベットの復讐の為にここに連れてきて、そのままだ。お母さんに会いたいと何時言い出すか分からない。そうなった時、私達はどうやってモアナと向き合えば良いのかが分からない。

 優しい嘘を何時まで言い続ければいいのか?本当の事を何時かは言わなければならないが、言うに言えない。

 

「そういう時は疲れるまで泣かせるのよ」

 

「随分と簡単に言ってくれるな」

 

「ラフィはそうだったわ……小さい頃はね」

 

「お前、この前それで揉めたのに重ねてどうすんだよ」

 

「無理矢理眠らせたあんたには言われたくはないわ……さ、眠っている間に出発をするわよ」

 

 モアナをダイルに託し、バンエルティア号に乗り込むベルベット。

 

「殿下、ダイル、モアナの事をお願いしますよ」

 

「頑張ってみる。だが、裏表の無い子供の相手は政治よりも難しい」

 

「王子とトカゲじゃ母親の代わりにはなれないしなぁ……」

 

 先に進まないといけない私達はモアナをパーシバル殿下とダイルに託す。

 2人にも今のモアナは荷が重い。今は安らかに眠っているが、目を覚ました時、全てが夢だったと分かれば絶望をするかもしれない。ゴンベエの子守唄は効果はあったが、その反面目覚めた時の代償が恐ろしい。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 ヘラヴィーサに移動し、一先ずは情報を集めるのだが出てくる情報はあまり良いものでは無かった。

 ベルベット達が過去に色々とやったのを皮切りにヘラヴィーサはどんどん衰退の道を辿っている様で憑魔化していく人達も後を立たない。

 

「加護領域のシステムは既にあるのに、何故カノヌシを頼ろうとするんだ……」

 

 天族は祈りを受けることで更なる力を得ることをアイゼンはライフィセットに教えていた。

 そうなると既に天族の加護領域のシステムはちゃんとある。なら、それを利用して、天族が見える今ならば信仰をすることが出来るのにカノヌシを使ってなにかをしようとしている。

 

「こうなったのも全部、災禍のせいだ!!」

 

「災禍……災禍の顕主のことか?」

 

「ああ、そうだ!」

 

 街が貧しく苦しむ原因を産み出した存在に怒る人々。災禍というキーワードを聞いてしまい、思わずヘルダルフを思い浮かべる。

 

「エレノア、私達は悪か?それとも正義のどちらだと思う?」

 

「目の前で苦しんでいる人を生み出したのは事実です」

 

 ベルベット達の残した爪痕は大きい。

 情報を集める度にベルベット達がやったことが原因でヘラヴィーサが貧困に苦しみ良くない状況に陥っている。

 ベルベット達が悪かと言われれば、今までベルベット達を見てきて聖寮が隠しているものを見ていたせいで悪とは言い難い。

 

「正義と悪に分けるからアホみてえに悩むんだよ」

 

「なら、どうすればいいのですか?」

 

「善と悪じゃなくて、意思と意思のぶつかり合いだ……ベルベット達の意思とアルトリウス達の意思が違っていて、ぶつかり合ってる。そこに正義も悪も無い」

 

「ですが、正義と悪が無ければこの世の秩序や理が……!」

 

「それを決めてるのは人間だけだ」

 

 あくまでも起きていることは強い意思のぶつかり合いで、それをどう見るかは第三者が決めることだ。

 当事者ではあるもののこの中で部外者であるから私は悩んでいる。きっと単純な答えで終わるのに、様々な感情が邪魔をして複雑にしてしまっている。

 この感情が時折邪魔に感じる……だが、これも含めて私達は生きている……筈だ。

 

「業魔化して対魔士に殺された娘のディアナにその事で聖寮を恨む母親、メディサ」

 

「なんだかモアナの時と似てるね」

 

 色々とあまり聞きたくはない悲報ばかり情報が集まる中、聖寮の収容所である北のフォルディス遺跡が話題に上がる。

 そこにメディサという女性が捕まっているみたいで、モアナの時と似たような話になっている。

 

「メディサにかけられた適合者って言葉、どういう意味かしら?」

 

「『御稜威に通じる人あらば不磨の喰魔は生えかわる』オレ達の古文書の解析が正しければカノヌシの力に適合したということだな」

 

「つまり地脈点である北の遺跡に適合者のメディサを送り喰魔にした……」

 

「モアナの時と同じ、ですね……」

 

 ベルベットの疑問の要点を纏めるアイゼンとロクロウ。

 エレノアはやっていることがモアナの時と同じだと苦々しい顔をしている……。

 

「結局、なにが適合なんだ?」

 

 アイゼン達が要点を纏めてくれたが、適合者の意味が分からない。思えば喰魔となっている面々がイマイチよく分からない。モアナやベルベットが喰魔に、適合者になるのはまだ分かる。だが、あのグロッサアギトもといクワブトが喰魔の理由が分からない。

 

「どうだっていいわよ。最終的に全部、集めるんだから」

 

 私の疑問はベルベットは気にしない。

 でも、これを気にしていた方がいい。グリモワールさんが解読をしてくれているが、古文なので上手く解釈しなければならない。今のところ分かっていることがあまりにも少ない。

 

「法則性はさばらん(つかまらない)が、聖寮に恨みを持つメディサが喰魔にされたのならばワシ等には好都合じゃの」

 

「確かにな……少し話が上手すぎる気もするがな」

 

「どのみち行ってみないと表か裏か分からないわ」

 

「いやいや、裏目確定じゃろ」

 

「裏だろうが表だろうが出てくれるだけで私達の勝ちだ」

 

 危険だと分かっていてもそこに足を運ばなければならない。

 馴れない雪国の寒さに耐えながらも更に北に向かっていくとフォルディス遺跡に辿り着く。

 

「お、警備がいないぞ。ここは表か裏か」

 

「表よ!!ここは一気に踏み込む!」

 

「はい、ストップ!」

 

 洞窟内にあるフォルディス遺跡。

 入口まで来るのだが、誰もおらずハズレかとなるがベルベットは一気に突っ切ろうとするのだがゴンベエが止める。

 ベルベットは不満そうな顔をするが一応は止まってくれて、ゴンベエがゆっくりと入口を開けると案の定何時もの格好をさせられている天族達や憑魔がそこかしこにいた。

 現代で憑魔は見えるようになってから割と見てはいるが、改めてみるとこの光景はおかしい。天敵と直ぐ近くにいるのは現代では絶対に見ることは出来ない。

 

「かなりの聖隷を配備しているわね」

 

「喰魔を守るため……だよね」

 

「操っている対魔士達が居る筈です……」

 

 ここにいるのは憑魔と意思を抑制されている天族だけ。

 ある意味、これは私達に都合がいい。

 

「直接、曲を聞かせれば直ぐに崩れる」

 

 意思を抑制された天族でどれだけ警備を固めていても意思を解放すれば瓦解できる。

 ゴンベエから何時もの様にオカリナを借りようとするのだが、ゴンベエはオカリナを貸してくれない。

 

「ゴンベエ?」

 

「そろそろ、そっちを使える様になれよ」

 

 私の槍を指差すゴンベエ。

 ただ単に槍として作ったのでなく、笛としても使える様に作られている。ただ、私が槍を手にして1番最初に力に飲み込まれる様になってから一向に吹こうとはしていない。

 段々と決戦が近付いているのを感じていて、このままではダメだ。普通の対魔士を相手にでなく導師と戦わなければいけない。

 

「……もし」

 

「いいからやれ」

 

 もし、また同じく力に飲み込まれそうになろうとしたら助けてくれるか?

 そう聞こうとするがゴンベエはそんな事は知ったことじゃないと言わんばかりにゴンベエは吹くことを強要する。

 

「……」

 

 オカリナとは別だが知識としてはちゃんとある。

 練習らしい練習はしていないが、何時かはこうなる日が来るのは分かっていたのでなんとか吹くことは出来ている……。

 

「ぅ……ぁ……」

 

「大丈夫!?」

 

「意識をしっかりと持ってください!!」

 

 私の笛の音を聞いて頭を抑える天族達。

 効果はしっかりとあるが何時もより効果が薄い気がする。あのオカリナでないから力が……いや、違う。

 

「……震えるな……」

 

 自分の手が震えている。

 今もまだ力に飲み込まれる事に恐怖を抱いている自分が居るのだとゆっくりと震えを抑える。コレはゴンベエの力じゃない。何時もはゴンベエの力だからと安心感を得ることが出来たが、今は違う。

 与えられたとはいえ自分の力となった物を扱って自力でどうにかしなければならない。

 

「ここは……私は!」

 

「目を覚まされたのですね……よかった」

 

 笛を吹いても力に飲み込まれる事は無く、なんとか意思を縛られている天族の解放に成功をした。

 

「お前達は……業魔!!」

 

「ま、待ってください!私達は貴方と戦いに来たわけではありません!」

 

「なに?」

 

「……今からこの場所は穢れが溢れ出るわ。ドラゴンになりたくないんだったらさっさと逃げなさい」

 

「お前達はいったい……」

 

「……災禍、そう覚えておきなさい」

 

「災禍、か……」

 

 あまり耳に良くない言葉が響く。

 意思を抑制されていた影響もあるのか、それとも喰魔が喰らう穢れの影響があるのか足を引き摺りながら歩いていく。

 

「どうも天族使いが荒い奴らが多いみたいだな……っと、全員戦闘準備に入っとけよ」

 

「まだ業魔が残っていますね」

 

「いんや、それよりもだ」

 

「待て!!」

 

「普通の対魔士達が残っている」

 

 笛の音が奥まで響いたのか、意思を解放された対魔士を器としていた天族達は逃げている。

 

「ここは私に任せてくれ」

 

 天族の方々が対魔士達から逃げている様子からみて、既に器の契約は解除されている。

 そうなればエレノアの様に業魔と戦える力はない。要するに普通の人と同じに戻っている……それならば私でも倒すことが出来る。

 

「地雷閃!」

 

 私達を敵と見て、武器を取り出す対魔士達。

 ベルベットの様に命を奪うつもりはない。戦う術を奪いさえすればいい。

 ゴンベエが見せた海を割る素早い技とは異なる筋力を頼った技を用いて、対魔士達の武器のみを破壊する。

 

「逃げるならば、早く逃げるんだ……直に穢れに溢れる」

 

「っひ、ひぃ!!」

 

 武器も天族もいなくなり、力を失った。

 今まで力を持っていたのが当たり前だったことのあり、急に力を失った事に怯え、私達の前から逃げていった。

 

「こんな所に大量の対魔士達、なにかが居るのだけは確かね」

 

 逃げていった対魔士達を見て、ベルベットは冷静に分析をする。

 取りあえずはこれでまた無駄な戦いを避ける事は出来て意識を抑制されている天族達を解放された。根本的な部分の解決は出来ておらず焼け石に水だったがなんとか出来ている。

 天族達が居なくなり、対魔士達も完全に逃げ去っていった。

 残すは憑魔だけとなっており今の私達には容易い相手であり、仕掛けも施されていたが今まで巡った遺跡と似たような仕掛けでベルベットは解除しながら奥へと進んでいく。

 

「お、三度目の正直だな」

 

 1番奥へと進むと、そこには1人の女性がいた。




ブラクロとレイズがコラボか……序盤の方にDLCでゴンベエの衣装にヤミ団長の衣装があるってやってたけど、まさかレイズのコラボとは……じゃ、久しぶりのDLC


 DLC 純白の花嫁 漆黒の花嫁


 説明 2人の花嫁の衣装のセットDLC。選ばれた方が無料で配布され選ばれなかった方が有料になる。



 純白の花嫁側の衣装


 童貞を殺すセーター


 説明

 背中のところがガラリと空いているセーター。
 おっぱいや女子力は漆黒の彼女には負けているかもしれないが、それでもあの人を思う気持ちだけは変わらない。
 本当は遥か遠い存在だけれど少しでも近寄れれば良いと、彼が似合うと言った背中丸出しの格好は恥ずかしいけど頑張って二人きりの時は大胆となる。


 純白の花嫁衣裳

 説明

 穢れなき純白の花嫁衣裳
 こうなることは何時決まっているのだろう?あの日、あの時、出会いこそは最悪だが気付けば貴方が隣にいた。
 本来の道筋を辿れば私は真の仲間にも出会えずただただひとりぼっちだったが、この道筋は違う。貴方と共に歩み続ける道筋だ……。

 なので、私を選んでください。
 もし選ばなかったら私はきっと狂ってしまう。狂ってしまって貴方を指名手配してしまう……孕まされたと嘘をつきそうだ。え、漆黒の花嫁が私を殺して貴方だけを残して世界を滅ぼす?
 大丈夫、貴方ならなんとか出来る。だって貴方は勇者だから……選ばなかったら殺す。逃げたら指名手配する。なにがなんでも選んでほしい。



 誰のDLCかは言わない


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災禍の顕主

「ベルベット」

 

 アリーシャが目の前にいる女性に会おうとするのだが、結界がそれを拒んだ。

 結界を斬る術を持っていないアリーシャは結界を喰らうことで破壊しているベルベットに頼む。ベルベットは言われんまでもないと左腕を喰魔に変えて結界を喰らい潰す。

 

「……あんたがメディサね」

 

「……ええ、そうよ。貴女は?」

 

「あんたと同じく、聖寮をアルトリウスを憎む者よ」

 

 突如として現れたオレ達に警戒心を向けるメディサ。

 ベルベットは助けに来たなんて言うわけがないが、もう少し言葉を選んで欲しいと少しだけ思う。

 

「安心してください!私達は貴女を助けに来たのです!」

 

 ベルベットがツンツンしているのでフォローに入るエレノア。

 これで取りあえずの対話が……出来そうにないな。

 

「助かりませんよ」

 

「え!?」

 

「諦めないでください!私は」

 

「違う、そうじゃない」

 

 助からないから諦めてるんじゃない。諦めてるから助からないんじゃない。

 

「助からないのは貴女達です」

 

「!」

 

「……そういうパターンもあるか」

 

 立ち上がり目をクワッとさせるメディサ。

 オレ達に向けていた警戒心を敵意に変えて、穢れを溢れさせる。

 

「導師アルトリウス様の理想を!聖寮の理を穢す者は私が殺し」

 

「デラックスボンバー!」

 

 長い!そして大体分かったのでもういい。

 周りから大量の蛇の憑魔が出現したのでメディサの力かなにかだと思うので、久しぶりのデラックス・ボンバーをぶつける。メディサが敵意を向けていた事が予想外で更にはオレの不意打ちが予想外すぎて固まる一同。

 

「ゴンベエ、もっと色々とやりとりがある筈だろう!?何故、いきなり色々とすっ飛ばして攻撃をするんだ!」

 

「敵だと分かって会話をしてる方がおかしいからな」

 

 アリーシャが空気を読めと言ってくるが、最早空気を読むとかそういう戦いの次元じゃねえぞ。

 そりゃ相手が吐き出せる情報を持ってんならある程度は喋らせてからだけど、なんかもう大体予想出来るからさ。

 

「蛇、消えちゃったね」

 

「完全に意識を失っているな」

 

「手加減はちゃんとしたぞ」

 

 白目を向いて気絶しているメディサ。

 周りを取り囲んでいた蛇達も何時の間にか消え去っていき、メディサもこんな状態だ。

 

「……事情を聞きましょう」

 

「なんかもう大体分かるだろう?」

 

「いいえ、分かりません!!」

 

 メディサは喰魔関連の事情を知っている、その上で喰魔になった。

 そんな感じでオレ達と敵対をしていて、多分だけどそれでもまだ知らされていない事があるとかそんな感じだろう。

 聖寮の対魔士の中でも実際のところ、全てを知っている奴は何人ぐらいいるんだ?殿下はなんか色々と知ってるっぽかったが。

 

「ライフィセット、メディサを治してください」

 

「う、うん」

 

 とか言いつつしっかりと拘束術をかけてんじゃねえか。

 気絶しているメディサを鎖で縛りつつ、ライフィセットに治療をしてもらうエレノア。

 オレの察しが良すぎるのか、他の面々も事情が気になるので、そのまま連れていこうとはせずに回復するのを待つ。

 

「……!」

 

「目が覚めましたか?」

 

「っ、放せ!!私をどうするつもり!!」

 

「落ち着け、ここからは話し合いの時間だ」

 

 暴れようとするメディサだが、事前の拘束術のお陰で動けない。

 ここからは血みどろの殴りあいより酷いかもしれない話し合いの時間だ。正直、苦手なんだよな。

 

「貴方は……っ、そうか。貴方が災禍の顕主の下僕ね!!」

 

「……え、待った。オレ、どういうイメージ?」

 

 自分からベルベットの手下を名乗るのはちょくちょくあるけど、ダイレクトにそう名乗った記憶はない。

 

「アルトリウス様に唯一傷をつけた男よ!」

 

 ご丁寧に答えてくれるメディサ。

 そういえばデラックスボンバーで一応のダメージは与えていたな、あんま効いているイメージは無いけども。

 

「メディサ、貴女は聖寮に無理矢理に喰魔にされたのではなかったのですか!?」

 

「違うわ。私は自らの意思で喰魔になったのよ!」

 

「でも、貴女の娘さんは業魔になって対魔士に……それで聖寮を恨んでいる筈じゃ」

 

「ええ、恨んでるわ……人間の穢れが業魔を生んでしまう、この世界を!!」

 

 なにを言い出すかと思えば、やっぱりというか事情は知っているか。

 穢れというワードが出たことで驚き開いた口が塞がらないエレノア。メディサは語り続ける。

 

「対魔士様が教えてくれたわ。ディアナが業魔になったのは穢れを発したせいだと……私は穢れを喰らう喰魔になって二度とディアナの様な子を出さないのと決めたのよ!!」

 

 ……穢れに当てられたでなく、穢れを発したのか。

 

「どんな醜い姿になろうが、構わない。カノヌシ様を復活させて、この悲惨な世界を変えるのよ!!」

 

「どうやってだ?」

 

「だから、カノヌシ様の力を使って」

 

「使ったら私達は具体的に、どうなるんだ?」

 

 アリーシャはなんで?の疑問をメディサに対してぶつけてみる。

 なんとなくでの予想はついているが、実際のところカノヌシが目覚めるとどうなるのか、アルトリウス達がロクでもない事をしでかしてるぐらいしか分かっていない。

 ベルベット達は分かろうとするつもりは無いし、聖寮の対魔士達は口を開けばアルトリウス様と妄信的なまでに崇拝をしていて信じきっている。人ってのは裏切る生き物なのにな。

 

「それは……」

 

「知らない、としか言えないか?」

 

「っ、黙れ!!確かに私はなにも聞かされていないわ!けど、貴女達災禍の顕主のとは違うのよ!!」

 

「さっきから言っているそれ、なんなのよ?」

 

「災厄の時代をもたらす魔王の名前よ……」

 

「違う!!」

 

 現代でボコボコにしたヘルダルフの異名が出てくるとは思ってもいなかったが、当然と言えば当然か。

 日頃の行いの悪さを思い出しているが、アリーシャは違うと首を横に振っている。

 

「確かに結果的にベルベットが災厄を呼び寄せているのは事実だ……だが、ベルベットもまた被害者だ!」

 

「被害者ですって?欲望のままに世を乱し、混乱と災厄を世に撒き散らしている省みない穢れの塊が?」

 

「アメッカ、余計な事は言わないで……魔王、災禍の顕主、喰魔。本当に人を好き勝手に呼んでくれるわね」

 

 本当に分かっていたことだが、話し合いとなった途端にドロドロしている。

 

「でも、あたしが魔王だって言うのならばあんたは魔王に利用されるだけよ」

 

「させない……私は絶対に!!」

 

 このままだと連れていかれると感じたメディサは立ち上がる。

 エレノアに拘束されてまともに身動きを取れない筈なのにそれでも諦めないのは子供の為に……。

 

「子供の喰魔が居てもか?」

 

「……なんですって?」

 

 このままいけばエレノアが仕掛けた拘束術をメディサは無理矢理にでも解いてしまう。

 そうなるともう一回デラックス・ボンバーを撃って気絶させないといけない。このままメディサを無理矢理に連れていってもなにをするか分からない。クワブトや鷹の様に人間じゃないなら無理矢理に連れていけば良いだけだが、そうとはいかない。

 なにか動かす材料は無いかと考えた末にモアナの事が頭に浮かんだ。

 

「……聖寮に無理矢理に喰魔にされた少女がいます。娘を助けようとした母親はお腹を空かせているモアナに自らの肉体を差し出して……」

 

「メディサ、貴女は母として立ち上がっている。例え親の心子知らずだとしても……だが、子の心も親知らずだ」

 

「モアナはずっと泣いているんだ。お母さんに会いたいって」

 

 モアナの事を出して語るエレノア、アリーシャ、ライフィセット。

 険しい表情で穢れを溢れさせていたメディサの顔色は変わる。オレ達に向けていた敵意を完全に忘れ去って別の方向を向いている。

 

「だから、お母さんが死んだらディアナも悲しむよ」

 

「……違う」

 

「まだ……!」

 

「私は、貴女の為に……」

 

 それでもまだ否定するのかと、立ち上がるのかと思えば段々とメディサは弱々しくなっていく。

 震え涙を流しており、過去を強く深く後悔し始める。

 

「あなたは自分自身が邪魔物になったと思って、穢れて業魔に」

 

「……そうか」

 

 メディサの娘のディアナの話を聞いて、少しだけ違和感を感じていた。

 穢れに当てられて憑魔へとなり果てたのでなく自らが穢れを発して憑魔化したと言っている。子供と言うのは良くも悪くも純粋な存在だ。なにかを切っ掛けに……街で集めた情報が確かならば再婚相手と新しい父親家族云々で揉めて結果的には憑魔となったんだろう。

 

「私のせいで、ディアナ……ごめんね……ごめんなさい……」

 

「メディサ!」

 

 気絶したメディサに駆け寄ろうとするライフィセット。

 体の方のダメージは最初にライフィセットがかけた回復系の術でもう治っている。けど、今気絶したのは体の方じゃなくて心の方のダメージを受けての気絶だ。

 

「それは時間と切っ掛けを与えないと治らない傷だ……」

 

「ふぅむ……メディサの後悔を聖寮は利用したようじゃの。自分達の意のままに操れるようにの」

 

「そんなの……残酷すぎます」

 

「じゃが、理には適っておる」

 

 確かに聖寮がメディサを操るのに娘を引き合いに出していくのは理にはなっている。

 

「……そうですね。理に反している方は」

 

「違う……理その物が間違っているんだ」

 

「アメッカ?」

 

 理に反している自分を認めようとするエレノアに待ったをかけたアリーシャ。

 この光景を見て、まだ理が大事だと言うのならばそれは9を選んで1を切り捨てる何処ぞの正義の味方と一緒の考えだ。

 

「この理が、悲劇の連鎖を生み出しているんだ!もっと、もっと良い理が!」

 

「アメッカ、それ以上は言うんじゃねえ!」

 

 この時代のシステムは負の連鎖を続けている。

 現代での浄化と導師のシステムよりも遥かに劣っていて、悲しいことが続くだけで誰も報われない。最後に迎えるのは悲しい結末だけだ。

 この時代の何処かにあるかもしれない浄化の力さえ見つければ、今とは考え方が違う理さえあれば救えると強く思うのは良いが、それを教えることだけはしちゃいけねえ。

 

「オレ達がどうしてベルベット達の旅に同行をしているのか、忘れんな」

 

 例えそれが悲劇的な結末だろうと、もっと良い明日に向かって行くためには受け入れなければならない。

 先人達の成功と失敗を踏み台にして一歩ずつアリーシャは歩んで行かなければ、きっとスレイが世界を救っただけで終わってしまう。

 

「オレ達が見届けた後にするのは星の開拓者になることだ……」

 

「星の開拓者……」

 

 人類の歴史を一歩踏み出す人にアリーシャはならなくちゃいけねえ。

 今まで通りの事をやっているだけじゃスレイの代で負の連鎖が終わって、災厄にまみれるだけだ。

 

「あんた達の理がどんなのかは知らないけど、結局のところは穢れる人間が悪いのよ」

 

「……」

 

 負の連鎖が悪循環している事を目の当たりにしてしまい、揺らいでいるアリーシャにベルベットは言葉を投げ掛ける。

 

「私は目をそらしたくはありません。自分の選んだ道の先にあるものからは。それが理に反する私の、せめてもの義務です」

 

 エレノアはアリーシャとはまた違った意見を投げる。

 誰が正しいのか?なにが正しいのか?そこにあるのは正義でも理でもなく、ただの人の強い意思だ。

 

「本当に面倒ね。あんたもアメッカもこの女も……ゴチャゴチャ考えないで、悪事は全部私とコイツのせいにしとけば良いのよ」

 

「……待て、そこでオレも含まれるんだ?」

 

 すべての痛みを自分が変わりに受け止めようとするツンデレな優しさを見せるベルベット。

 そこにサラリとオレの名前を入れているのはおかしいんじゃないんですかね?

 

「なに言ってるのよあんたは私の奴隷でしょ」

 

 なんか段々とランクが下がっていってしまっている気がする。

 

「ベルベット……」

 

 おかしい。

 オレの下僕とか奴隷とかに関しては誰もツッコミを入れず、ベルベットの優しさを感じるエレノア。

 もう完全にベルベットの下僕とかそういういうかんじに見られてるんだな……いや、うん。

 

「別に気を遣ったわけじゃない」

 

「勘違いしないでよね!」

 

「あたしは気にしないって事よ。道の先になにがあろうとも」

 

「あんたがどんな道を歩んでどう変わっても、あんたはあんたなんだからしっかりしなさい」

 

「……おい」

 

「今回は蹴りか」

 

 妙なところでツンデレを発揮するベルベット。

 何時ものように本音を語ってあげると攻撃が飛んでくる。今回は綺麗な飛び膝蹴り。肘とか膝での攻撃は的確に相手を殺す一撃であんまり受けたくないが、ここで避けるのと後々大事な場面で避けるのでは大きく異なるので攻撃は受けておく。

 

「貴方は一向に成長しませんね……」

 

「なにを言い出すかと思えば、オレは基本的にこんな感じだぞ」

 

 蹴られるオレを見て呆れた目で見てくるエレノア。

 オレがちっとも成長していないと思っているかもしれないが、そうじゃない。むしろお前等がオレのステージに追い付いてきたものだ。既にオレは遥か彼方の高みにいるんだ。

 

「なにかありがたい言葉を送ってほしそうな顔をしてるから、一個だけやろう」

 

「あの、別に欲しいなんて言ってませんけど」

 

 正義とか悪とか難しい事を考えるからいけない。

 確かに秩序とか善悪が無ければこの世は混沌としているが、それよりも大事なのは道でもある。

 エレノアは必要無さそうな顔をしているがたまにはこういう真面目な事を言っておきたい……普段、今まで以上に真剣にしときゃもっとマシな扱いをされるだろうが。

 

「きっとこれからも絶望は押し寄せてくる。その度に道が分からなくなって踏み外しかける」

 

 今見ているのはスレイ達と旅をしていたら見れない人間の悪の部分。それらは自らが進んで学ぼうと知ろうとするものはいるかもしれないが、わざわざ教えようとする奴はいない。教えて良いものでも……あるか。

 

「行く手を阻む迷いも痛みも絶望も、夢と勇気と友情で(ロード)を切り開いて突き進め」

 

 自分が信じた道を誰かと共に一歩ずつ歩んでいく。

 人と言う強くて弱い矛盾した生き物で、自分達だけが自然の摂理から抜け出していると思っているが抜け出すことは出来ていない。だから、誰かと一緒に歩む。オレみたいな例外も居るには居るが、この事を忘れてしまったらおしまいだ。

 

「人間という生き物がどういう物なのかを知って、その上で自分の道を……あー」

 

「どうかしたのですか?」

 

「いや、ちょっと……」

 

 あの時、アリーシャが槍の使い方を聞いた時に骸骨が言っていた事が今になってよく分かる。

 人間というのは弱くもあり強くもある矛盾した生き物だ。矛盾こそしているが、その矛盾は正反対で2つじゃないんだ。

 

「増援が来る前に、さっさと戻るわよ。マーキング、してるんでしょ?」

 

 ちょっとだけタメになることを言い終えると、気絶したメディサを俵担ぎするベルベット。

 アリーシャより筋力は無いので若干ながらふらつきがある。ここでオレが代わりに持とうかと聞けば、メディサの姿からしてセクハラだなんだと言われるのでフロルの風でさっさとヘラヴィーサにあるバンエルティア号の船着き場に戻る。

 

「うお!?」

 

「うるさいぞ」

 

「そりゃ誰だって驚くっつーの……それで成果の方は?」

 

「あるにはありました……直ぐに船を出すことは出来ますか?」

 

「おう、何時でもいけるぞ」

 

 オレ達の帰還に驚くベンウィックだが、これぐらいは慣れっこなので直ぐに何時も通りにする。

 コイツら、オレ達が遺跡にメディサの所に行っている裏でちょっとアレな取引をしてるんだよな。

 ヤバい奴等で思い出したが、スレイは無事なんだろうか?途中でやめたとはいえアリーシャを殺しにきたバカどもと一緒に何処かに行ってんだろうが、一応はハイランドに色々と村を回ってても、赤聖水を売っていたインチキ導師以外は見掛けなかった。

 

「っ……ここは!」

 

「目が覚めましたか」

 

 監獄島に順調に向かっていき、寒い区域を抜けた辺りで意識を失っていたメディサは目を覚ます。

 さっきまでと異なる場所で困惑しているメディサにエレノアは近づく。

 

「貴女は……そう」

 

「ここはバンエルティア号の中です。申し訳ありませんが縛らせていただきます」

 

「一応、監視としてオレも居る」

 

 エレノアがなにかの情けで拘束術を解く可能性がある。

 バンエルティア号を傷付けず秒で蹴散らせるのはオレぐらいのもので、裏切りは無いが騙しはありそうだ。

 

「……貴女に頼みたい事があります」

 

「ふざけないで!誰が災禍の顕主の一行に力を貸すも」

 

「エレノア、ちょっと来てくれ!!」

 

 オレが居る前で堂々と頼み込むエレノア。

 別に秘密裏とかそんなのでなく、この後起きる事を先に頼んでいるだろうと見ているとアイフリード海賊団の船員が慌てた様子でこちらにやってきた。

 火急の用だが、オレでなくエレノアをわざわざ指名してきた。

 

「なにがあったのですか?」

 

「殿下から電話があった」

 

「殿下からですか……」

 

「で、んかめ。ヤベえ状況なら真っ先にオレに掛けてこいよ」

 

 船に積んである電話に連絡があった事を報告するが、基本的になにかあった時の為だ。

 ベンウィック達はシルフ擬きとか言う伝書鳩みたいなのを利用しているが、それでも間に合わない時の為に電話を用意した。本音を言えば血翅蝶との連絡のやり取りに使いたいが、まだ手紙と伝書鳩でのやりとりをしている奴等に電話を貸すとなにしでかすか分からねえ。

 分解してぶっ壊されたらそれこそおしまいだ。

 

「パーシバル殿下、ただいま代わりました」

 

 電話を置いてある所に向かい、受話器を手に取るエレノア。

 わざわざ自分を指名してきたということに少しだけ疑問を持っている。

 

『急な連絡ですまない』

 

「出来ればオレを呼ぶ理由で掛けてほしかったんだがな」

 

『ゴンベエもそこにいるのか……こちらの方は今のところコレと言った異常はない。私的な理由で掛けてしまって申し訳ない』

 

「エレノアをわざわざ指名してきたんだ。大方の予想はつく」

 

『モアナ、エレノアと連絡がついたぞ』

 

 受話器越しからダイルの声が聞こえると若干のノイズが少しだけ走る。

 船に設置しているアンテナの調子が悪いか、電気が無くなりかけているのか。帆船じゃなく機帆船だったら発電システムとか作れるんだがな。

 

「なんなの、コレは」

 

「遠くの人と会話をする事が出来る道具だ……今の社会をぶっ壊す道具だから、喋るんじゃねえぞ」

 

 電話を見るのがはじめてなので困惑をするメディサ。

 一応の釘を指して、一先ずはと様子見をする。

 

『エレノアぁ……』

 

「モアナ、どうしたの!?」

 

 電話越しで聞こえるのは泣いているモアナの声。

 エレノアはモアナの声で大きく慌てており、モアナの方もモアナの方で泣いているだけで事情を説明する事が出来ていない。

 

「子供が泣いている?……いったい、どういうことなの?」

 

「知りたければ下手に暴れずに今から向かう所に行けば分かる……と言いたいんだがな。ダイルかで、んか、どっちか居るだろう。状況を説明しろ」

 

 大方の予想は付くのだが、オレの予想よりも当人達の口から聞いた方がいい。

 困惑するメディサを隣に置いて通話を続ける。

 

『お前が眠らせた後にまた母ちゃんの夢を見たんだよ』

 

「それで?」

 

 その程度の事ならお前等が処理できる、と言うかしないといけないことだ。

 そこからわざわざ電話を入れてきたってことはもう一個、何かあったんだろう?

 

『今度の夢は母ちゃんと仲良く出来た夢なんだけど……問題は途中で起きちまって夢だって分かってしまってよ。もう一回、眠れば夢の続きを見れるって必死になって寝ようとしたんだが、その』

 

「1度もその夢を見ることが出来ていないか……」

 

『エレノアが居ないのを見て、今度はエレノアまで居なくなってしまったとショックを受けてしまって。ちゃんと戻ってくると言っても信じては貰えなくて……私達がモアナを任されたというのに、すまない』

 

 電話の価値が分かっているのでこういうことに使う事を申し訳なさそうなで、んか。

 事情を聞く限りではエレノアの声を聞いて安心をしたかったのだろうが、肝心のモアナは泣いたままだ。

 

「……モアナ、聞こえますか?」

 

『エレノア……何処に行っちゃったの?エレノアもお母さんみたいに何処かに行っちゃうの?消えちゃうの?』

 

「っ……」

 

 言葉は選べよ、エレノア。

 モアナの言っている消えるは夢の話で本当の意味での消えるじゃない。そこはまだ気付いていない。

 

「私は貴女の前から急に消えたり居なくなったりはしません……嘘じゃありませんよ」

 

『じゃあ、何時になったら帰ってくるの?』

 

「そうですね……モアナがいい子にして船着き場で私達の帰りを待ってくれたらあっという間に帰ります」

 

「……ん?」

 

『ホント?』

 

「ええ、本当です」

 

『……じゃあ、モアナ、いい子にして待ってる。エレノアも約束、破らないでね』

 

「ええ……」

 

 優しい嘘を吐いたかと思えば、直ぐにバレそうな嘘をつく。

 しかし泣き止んだのでこれで電話による通話は終わりだと受話器の電源を落とす。

 

「ゴンベエ」

 

 今頃は監獄から出て船着き場に向かおうとしているモアナ。

 エレノアは直ぐに着くなんて言ってくれたが、船は寒い区域を抜けた辺りで帰るのにもう少し時間が掛かる。今頃はモアナは監獄から船着き場に向かっているので、このままだとエレノアが言ったことは嘘になる。

 そしてその嘘を本当に変える方法はたった1つだけある。

 

「船を監獄島にワープしてください。貴方なら出来ますよね?」

 

 オレが船をワープさせることだ。

 

「船を操縦しているのはベンウィック達だ。ベルベット達とベンウィック達にワープするって頭を下げてこい」

 

 元を正せばオレがモアナを無理矢理眠らせたから変な夢を見させてしまった。泣いているのはオレにも責任があるから嫌とは言わない。エレノアの嘘であっという間に辿り着かないといけなくなったのならばエレノアが筋を通せ。このまま普通に行けば監獄島に辿り着くことは出来るのだから。

 

「分かりました」

 

 エレノアは急ぎ足で船内を飛び出してベンウィック達の元に向かう。

 その足取りには迷いはなく、頭を下げることは屈辱的と思っていない。純粋にモアナを心配している。

 

「後でベンウィック達から文句を言われて、ベルベットからなんか一発やられそうな気がするな……」

 

 これも身から出た錆。もっといい方法があったかもしれないのに、それをしなかったオレが悪い。

 エレノアは直ぐにベンウィックとベルベット達からの許可を取ってきたので、オレは船上に出て風のタクトを↓→←↑の4拍子で指揮すると疾風の唄が発動した。




DLC 純白の花嫁 漆黒の花嫁

 

 説明 2人の花嫁の衣装のセットDLC。選ばれた方が無料で配布され選ばれなかった方が有料になる。

 

 漆黒の花嫁側の衣装 

 

 バニーガール(黒いウサミミWithジャケット無し)

 

 説明

 

 黒色のこれぞ定番中の定番、王道中の王道のバニーガール。

 長くて苦しい旅の果てに彼に対しての気持ちが少しだけ分かった……だが、既に彼の隣には純白の彼女がいる。自分の事を思ってくれてるのは分かるのだが、どうしても彼は純白の彼女を見てしまう。

 だったら、此方を振り向かせてやろうじゃないと以前ポロっと聞いていたバニーガールを着て彼を誘惑する。そんな彼女に対して彼はあんまり目線を合わせない。悪乗りやボケで変な事を言うが、その姿だと本当に洒落にならない。

 そういった感情を出さないようにしている彼を簡単に誘惑する。彼女のベット(意味深)は中々で、二人きりの時に迫って優位性を取ってやる……ただ電気は暗くしておいて。その、覚悟は出来ているから。あんた、好きでしょ?私の胸……私自体が好きなの……そう。

 

 

 漆黒の花嫁衣裳

 

 説明

 

 穢れに満ちた黒色のドレス。黒は縁起が悪いのだが災禍の彼女にはちょうどいい。

 知ろうとしなかった壮大なまでの残酷な真実を知り、死を選ぶ彼女。生きる者は手を掴み、名無しの勇者は次元を越えてカノヌシに一撃を見舞う。それでも死を選ぼうとする彼女に対して彼はただ怒る。彼女を選ばなかったのならばオレは彼女を選んでやる。

 何気ない言葉かもしれないが、彼は彼女の事を化物としては見ていない。ただの1人の生きる者として見ている。そして彼女は自覚をする。自分が人であり続けれる理由を。このバカが居てくれたから……。


 だから、私を選びなさい。

 もし選ばなかったら私は怒り狂う。純白の花嫁から笑顔を奪い、世界に再び災厄をもたらす。あんたがその気になれば私を殺せるのは知っている。だったらあんた以外の全てを皆殺しする。私だけを見なさい。

 大体、こんな事になったのはあんたが原因なんだから責任を取りなさいよ……国の首都で大きな豪邸で暮らすとか欲しい物がなんでも買えるとか、そんなの欲しくない。あんたにまで裏切られたら私は世界を滅ぼす。天族も人間も何もかもを滅ぼす。

 

 純白の花嫁が選ばなかったら指名手配にする?子供が出来たって言う?……別にいいでしょ。

 世界と身内に対して喧嘩を売ったことがあるんだから今さらよ。あんたは私を幸せにしないといけないでしょ……その、あんたと一緒に居れるだけで充分に幸せだから……お願い。お願いだから私の前から消え去ろうとしないで。私を見ていて、私の手を握っていて……っ……にげないで……1人にしないで。


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お母さんだから お母さんでも

「「「「「「「ぎゃああああああああ!!!」」」」」」」

 

 エレノアが頭を下げて周り船をワープする許可を得た。

 人をワープさせるならばフロルの風とか風のオカリナを使えばいいが、船をワープさせるのは訳が違う。

 

「おーし、辿り着いたぞ」

 

 疾風の唄。

 ゼルダの伝説風のタクトに出てくるタクトの唄の1つであり、具体的な効果はワープである。

 このワープが無ければ風のタクトは攻略できない。やたらと上手い人ならばこのワープを使わないと手に入らない炎と氷の弓矢が無いと入れない島に行かずに次のダンジョンに行くが、それはこれとは関係無いので置いておこう。

 

「ついたぞ……お、ダイル達が居るぞ」

 

「ま、待ってください……あ、頭が痛い」

 

 だろうな。

 監獄島に戻るために使った疾風の唄、ワープする唄だがフロルの風の様に光の帯の様な物を渦巻いてワープするんじゃない。竜巻に飲み込まれて船ごと回転して目的地へと連れていくワープとも言い難い。

 とはいえ、一瞬であっという間に辿り着くのも事実。

 

「よぅ、ちゃんと約束通りに戻ってきたぞ」

 

 オレ以外は全滅っぽいので一足先にオレは船を降りる。

 エレノアの言った通りいい子にして待っていたモアナは目を輝かせており、喜んでいる。

 

「スゴい!スゴい!エレノア達、本当にあっという間に帰って来た!」

 

「ああ……とはいえ、はじめての人間には衝撃が強すぎたな」

 

「お前、ワープ出来るって話には聞いてたけどこんなやり方をするか普通」

 

「普通じゃない事をしたんだよ。多少の無茶はしなくちゃならない……とはいえ、全滅っぽい感じだがな」

 

 未だに船と船着き場への橋が掛からない。

 嵐を制覇するぐらいは余裕っぽいアイフリード海賊団だが、流石に竜巻になって移動するのははじめてだったか。

 

「ダイル、で、んか。モアナの方は?」

 

「エレノアが直ぐに帰るって言ってお前等がマジで現れたから問題はねえ……」

 

「しかし、それは暫くのその場しのぎに過ぎない。もっと根本的なモアナと向き合える人物が必要だ。我々ではモアナの相手をすることは出来てもモアナの気持ちと向き合う事は出来ない」

 

 エレノアが早く出てこないかとウキウキ気分のモアナ。

 一先ずは落ち着いているが、それはあくまでもその場しのぎ……ダイルと殿下には荷が重すぎるか。

 

「た、ただいまです……」

 

「シャキッとしろシャキッと」

 

「誰のせいだと思っているのですか……」

 

「お前が頼んだからだろう」

 

 何事もなければ監獄島に到着する事は出来ていたんだ。

 それをなるはやでお願いしますと頼んだのはお前なんだから睨まれても困る。

 回転酔いがまだ抜けていないのか若干辛そうな顔をして船を降りてくるエレノアに対して活を入れる……けどまぁ、エレノアもエレノアでモアナと再会出来たので嬉しそうにしている。

 

「あの子がモアナだよ」

 

 遅れながら降りてくるベルベット達。

 拘束されたメディサを引き連れて降りてきており、目の前にいるモアナをライフィセットが紹介するとメディサはショックを受ける。

 

「ディアナと同じぐらい……聖寮はこんな小さな子を無理矢理喰魔に!?」

 

「……」

 

 衝撃を受けるメディサ……オレとしては気になるところが幾つかある。

 メディサはディアナの為に喰魔となったが街で集めた情報では適合した云々とよく分からない単語が出てきた。喰魔になる為の条件かなにかがある。その条件さえ満たせばカブトムシかクワガタかよく分からない見た目をしているカナブンやグリフォンと言った穢れを自ら生むのかと疑問する様な人じゃない生き物もなれる。

 まぁ、何はともあれ自分だけが犠牲になれば世界が救われるなんて都合の良いことは無い。不幸を減らせば幸福は増えない。幸福って至るもので与えられるものじゃない。

 

「エレノア、お帰り!」

 

「ただいま、モアナ」

 

 笑うエレノアとモアナ。

 ほのぼのとした雰囲気を醸し出しており喰魔と対魔士の関係性だと見守っているのだが、モアナはメディサの事に気付く。浮かべていた笑顔を消し去り、ここから離れようとする。

 メディサの見た目が怖いから?それとも……いや、ここは考えるよりも結果を見るだけだ。

 

「あっ!」

 

 転けるモアナ。

 

「う……うわぁああああん!!」

 

 溜まっていた物を吐き出すかの様に涙を流すモアナ。

 このままなにもしなければ此処を出る前と同じやり方でモアナを眠らせる……けど、それはその場しのぎにしかならない。

 

「エレノア!」

 

「問題ねえよ。暴れれば全部オレが終わらせる」

 

 メディサの拘束を解除するエレノア。

 まだ此方に向けて敵意を向けているメディサを解放するのは危険だとベルベットは声をあげるが、暴れればオレが解決する。暴力(そういうこと)ならオレの専門分野だ。

 

「なんのつもり?」

 

「……お願いです、メディサ。あの子と話をしてあげてくれませんか?」

 

「話を……」

 

「あの子は、モアナは喰魔です。ですけど、お母さんを恋しがる普通の女の子なんです……私じゃあの子の悲しみを埋められない。でも、貴女なら……」

 

 どれだけモアナと向き合うことが出来てもエレノアは姉だ。

 モアナの開いてしまった部分を埋めることが出来るのはお母さんだけ、か……。

 エレノアの言葉を聞き、歩み寄るメディサ。その目はさっきまでベルベット達に向けていた敵意は無く逆に怯えている。

 

「大丈夫……私はメディサって言うの」

 

 モアナの手を握るメディサの手は震えている……重ねているな。

 

「怖い……わよね?」

 

「……ちょっと。でも、ベルベットやダイルよりも怖くないよ」

 

「お前、怖い認定されてるな」

 

「黙ってなさい」

 

 はいはい。

 

「それより……おばちゃんはモアナの事、怖くないの?」

 

「怖い?」

 

「夢を見たの……モアナのお母さんがモアナの事を怖いって言って、いらないって……今度はお母さんが出て来てごめんねって謝ってね、モアナの事を抱き締めてくれてね……でも、お母さんは何処にもいなくて、居なくなっちゃって」

 

「っ!」

 

 涙を流すモアナをメディサは強く抱き締める。

 そしてメディサも泣きはじめる。モアナの苦しみを共感する事が出来るから。

 

「怖いものですか……お母さんが、子供を要らないなんて思うわけないわ」

 

「……なんで……分かるの?」

 

「私もお母さんだからよ」

 

 あの時、エレノアが答えられなかったモアナの疑問を簡単にメディサは簡単に答える。

 その答えはメディサだから答えれる答えで、誰も真似できない答えで言葉に強さが宿っている。

 

「お母さんは、自分が死んでも……世界がどうなっても……子供を愛してるのよ」

 

 言葉に強さと力は宿っているが震えているメディサ。

 

「あなたを……誰よりも1番……」

 

「それはあんまり良くない事……だが、良くなくてもしたいことはあるか」

 

 涙を流してモアナを抱き締めているメディサ。

 抱き締められているモアナはメディサの暖かさを感じるのだが、メディサは明らかにモアナを自分の娘と重ねている。それは良いこととは言えないが今は思いっきり泣かせる。メディサもモアナもだ。

 

「ゴンベエ、一曲弾いてくれないか?」

 

「あのな、オレはそういうBGM担当じゃねえんだよ」

 

 泣いている2人に合った曲を要求してくるアリーシャ。

 こんな状態でなにかを弾けと言われても、そう易々と出てくるもんじゃない。帰ってきたヨッパライを弾くかもしれない。この二人に合うのは涙の音だけだろう……しかし

 

「家族にお母さんか……」

 

「なに浮かない顔をしてるのよ?」

 

「……聞くなよ」

 

「そう言われると気になっちゃうよ……ゴンベエにも家族は居るんだよね」

 

「居るには居るが二度と会えない」

 

「あ……ごめん」

 

「気にするな……そういうんじゃない」

 

 転生者になる上で、二度と親に会えない。

 その転生先で親となる人物は居たりするが、本当の意味で自分を生んだ親とは会えない。それを覚悟の上で転生者をやっている。思うことは無いこともないが、それはそれ。これはこれと割り切ることは出来ている。

 メディサとモアナの姿を見て、普通ならば感動的と思える光景だろう。

 モアナの心の穴を埋めることが出来て、メディサも結果的には埋めることが出来た。万々歳だ……だが、どうにもオレにはピンと来ない。

 

「現実は物語よりも糞だと思ってな」

 

 親は子供の事を愛している。例えどんな姿になろうが、世界を敵に回そうがだ。

 メディサの言っていることは本当だろう。本当にそう思っているからこそ、なんとも言えない気持ちになっている。

 

「オレはああ言うのを否定出来るんだよ」

 

 アリーシャと出会う前、転生する前までオレは地獄にいた。

 環境的な意味ではなく文字通り、正真正銘の地獄であり、そこで異世界転生するかと聞かれて、どんな世界に転生しても問題が無い様に鍛えられている。その間に見せられる、人間の悪性というものを。

 

「そうじゃない人間も世の中にはいて、そいつ等の被害者を見ている……」

 

 そもそもでオレ達転生者は成人するまでに何かしらの理由で死んだ日本人だ。

 オレはコンビニで休憩している所をボケた爺がアクセル踏み間違えでの轢かれて死んだ。そこそこに酷い理由で死んだが、世の中にはもっと酷い奴や変な奴がいる。

 生きることに希望を見出だせず将来に不安を抱えて自殺した奴、加害者は軽いノリだったろうが過度な苛めで殺害された奴。

 テレビをつければ大事件と世間で取り上げる様なニュースの被害者が居て、親に虐待されて殺された奴も居た。そいつは本気で親を憎んでいたな。

 

「まぁ、加害者の方も見ているがな」

 

 なにせ悪い人間が落ちる地獄で色々と修行をしていたんだ。良くも悪くも人間を見てきた。

 因みにだが神様のミスで殺してしまった的なのを閻魔大王は西遊記に出てくる孫悟空に対してやってしまったことがあるらしい。

 

「お前等、ちょっといいか?」

 

「どうしたの?」

 

 オレのせいで変な空気を流れているとベンウィックが声をかけてくる。

 

「グリモワールが古文書の解読を終えたから来てくれってよ」

 

「分かったわ。行くわよ」

 

「大丈夫かな?」

 

「大丈夫よ」

 

 モアナとメディサを心配するライフィセットだが、ベルベットは心配する必要は無いと言う。

 互いに溜まっていた物を発散する事が出来ている。オレ達じゃ出来なかったことをしており、これでいい。

 モアナ達をダイルと殿下に任せて船着き場を後にして監獄塔に足を踏み入れ、グリモワールの元へと向かう。

 

「来たわね」

 

「グリモ先生、解読が終わったの?」

 

「ええ。かぞえ歌には2番があったわ。読み下しておいたから、読んでみなさい」

 

 そんな二度手間な。

 グリモワールはライフィセットに古文書とメモ用紙を渡す。

 

「ええっと……八つの穢れ溢るる時に 嘆きの果てに彼之主は無間の民のいきどまり いつぞの姿に還らしめん 四つの聖主の怒れる剣が 御食し(みおし)の業を切り裂いて 二つにわかれ眠れる大地 緋色の月夜は魔を照らす 忌み名の聖主心はひとつ 忌み名の聖主体はひとつ」

 

「また曖昧でさばらん内容じゃのう。意味の内容の方の解読は済んでおるのかえ?」

 

「ええ……恐らくだけど2番目の歌の意味はカノヌシの性質を現している筈よ」

 

 と言うことはこれにカノヌシの弱点もある……かもしれないのか。

 

「八つの穢れ溢るる時に 嘆きの果てに彼之主は無間の民のいきどまり……世界に穢れが満ちた時にカノヌシがその力で『民のいきとまり』をもたらす……と読めるな」

 

「人間を滅ぼすと言うのですか!?」

 

「おいおい、聖寮はそんな目的でカノヌシを復活させようとしているのか?」

 

「違う!アルトリウスはそんな男じゃない!!」

 

 アイゼンの考察に驚くエレノアとロクロウを真っ向から否定するベルベット。

 

「あいつは……理想は『個より全』『理と意思による秩序の回復』よ!だから世界の為にラフィを犠牲にしたの!」

 

「お主の知っているアルトリウスは、じゃろ?如何に導師と言えども人であることには変わりはない。お主が知らぬだけで、変わってしまってる……強い穢れに当てられての」

 

「だったら……だったらラフィはなんの為に!」

 

 アルトリウスの事をよく知っているが、あくまでもそれは一側面かもしれない。

 アルトリウスも世界に絶望して変わっているかもしれないと不適な笑みをマギルゥが浮かびあげるとベルベットは引かずに噛みつく。

 

「やめないか!こんな所で私達が争っていても意味はない」

 

 そんなベルベットをアリーシャは宥める。

 最早、これが恒例になっているのでベルベットはそれ以上はなにも言わず頭を抱える仕草を取る。

 

「古文書の続きはなんと書かれているのですか?」

 

 そんなベルベットの姿を見て冷静さを取り戻したエレノアは続きを聞く。

 2番目の歌がカノヌシの性質を表していて最終的な目標が人類保管計画みたいなものだとしても色々と腑に落ちない点が多い。民のいきどまりと言うのが意味が分からない……人が停滞して悩み苦しむ事は痛いほど知っている。

 なにかを目的に生きている訳じゃないのでオレもある意味、いきどまった人間の一人かもしれないが……なんだろう。

 

「それがこの古文書、完本じゃなかったのよ。まだ続きがある筈だけど、ここで止まってて……だから、解読はここまでよ」

 

「ちっ」

 

「そう苛立つな……アルトリウスを殺せば大体が片付く」

 

「ゴンベエ、もう少し言葉を選んでくれ」

 

 答えが分からないことに苛立ち舌打ちをするベルベット。

 アリーシャは言葉を考えてくれと呆れるがこれでも充分考えた方なんだ。

 

「この本が完本じゃないってことは原本かなにかはあるんだろ?」

 

「あるだろうな。聖寮がカノヌシの性質について完全に把握していなければこんな大それた計画はしない」

 

 この本が無理ならばと考察するロクロウとアイゼン。

 この本の原本が何処かにある、か……。

 

「王宮からパクってきた物だから血翅蝶に依頼をして王宮から続きがないか探ってきてもらうか?」

 

「どうかな……王宮にあったのがこれだし、原本が無いかもしれないよ」

 

「なら、カノヌシの遺跡を探すと言うのはどうだ?古文書があるのだから巨大な存在ならば遺跡の1つや2つ、何処かにあるかもしれない」

 

「却下……そんな事をしている暇があるんだったらさっさと喰魔を集めてカノヌシを殺した方が早いわ」

 

 多分だけど、アリーシャが言っているやり方が1番なんだろうな。

 旅の主導権を握っているのはベルベットで喰魔探しも大事なのは重々承知しているのでオレはなにも言わない。

 

「ライフィセット、次は何処?」

 

 カノヌシの事はこれ以上はどうしようもない。

 気持ちを切り替えたベルベットはライフィセットに訪ねるとライフィセットは羅針盤を取り出して、地脈点を探し始める。

 

「あった!……場所はイーストガンド領……のちょっと東側」

 

「……そこって……了解、イーストガンド領ね」

 

 ライフィセットが場所を教えると一瞬だけ考える素振りを見せる。

 今までならさっさと行くわよで済ませるのだが、心当たりでもあるのか?

 

「なら、先ずはタリエシンの港に……の前に休息だな」

 

 次の目的地を教えてくれるアイゼンだが、今日はこれで終わりだ。

 疾風の唄に酔ってしまった面々もいるし、モアナとメディサの事もあるし安らかな1日となればいいんだがな。




スキット 大人向け紙芝居

ゴンベエ「はい、紙芝居屋だよ~子供は無料だよ~」

ベルベット「なにやってんのよ、あんた」

ゴンベエ「娯楽に飢えている監獄に居る面々に作っていた紙芝居が完成したんだよ」

ベルベット「あんたが?紙芝居?」

ゴンベエ「そう全力で疑問に思われると傷つくぞ」

ベルベット「傭兵かホストやってるって言われた方が納得がいくわ」

ゴンベエ「そういうバイオレンスなのはオレの好みじゃないんでな……はい、紙芝居屋だよ~」

エレノア「なにをしているのですか?」

ゴンベエ「暇潰しの紙芝居屋だよ」

エレノア「紙芝居屋?あなたがですか?」

ゴンベエ「それさっきやった……こういう時に限ってライフィセットとモアナは居ないな」

エレノア「ライフィセットは自分の部屋で本を読んでいますよ。モアナはメディサと一緒です」

ゴンベエ「なんだよ、折角面白い話を考えてきたのに……子供が居ないのは締まらないな」

エレノア「いったい、なにをするつもりだったんですか……ちょうどいい機会です。私達に見せてください」

ベルベット「そうね……ライフィセットに変なもの、見せるんじゃないわよ」

ゴンベエ「変なものってなんだ変なものって。【下ネタと言う概念が存在しない退屈な世界】でも見せろと」

エレノア「下ネ──貴方いったい、なにを描いているのですか!?」

アリーシャ「騒がしいな、どうかしたのか?」

ベルベット「こいつの紙芝居が如何わしいものかどうか調べてたのよ」

アリーシャ「紙芝居……懐かしいな。レディレイクでは定期的にやっていたな」

エレノア「そうなのですか」

ゴンベエ「オレの貴重な収入源だからな……監獄での初回だから30ガルドにしてやる」

エレノア「お金を取るのですか!?」

ゴンベエ「子供は無料だ。というか、子供のために作ってるんだ」

アリーシャ「こう見えてゴンベエの紙芝居はレディレイクでは好評なんだ。伝説の武具を集める剣士のお話は特に面白くて私は大好きだ」

ベルベット「ふ~ん。如何わしい物じゃなさそうね」

ゴンベエ「お前の普段の格好の方が如何わし──ぐふぉ!」

ベルベット「殴るわよ」

ゴンベエ「既に殴ってるだろ」

アリーシャ「その……私のこの太ももの絶対領域?とやらは如何わしくはないのか?」

ゴンベエ「お前、それ何処で聞いた?」

アリーシャ「ビエンフーが私の太ももの事を絶対領域で目に毒だと……」

エレノア「……後でビエンフーの所に行ってきます」

ゴンベエ「アメッカ、ベルベットの方が露出度もエロさヴぉ!?」

ベルベット「だから、あんたは、何処を見て言ってるの!!」

ゴンベエ「耐えれるけども痛いから勘弁してくれ……じゃ、紙芝居をはじめるぞ。後で30ガルド寄越せよ……パパパパーン、パパパパーン、パパパパン、パパパパン」

エレノア「BGMを言うのですね」

アリーシャ「基本的に1人でやっているからな」

ゴンベエ「【ただいまより、白川家赤沢家新郎新婦の入場です。皆様、拍手でお出迎えください】そう今日は私こと赤沢夕夏の結婚式。人生に一度の晴れ舞台である結婚式。お相手は私の通う色彩学園に転校してきた白川くん。結婚式を挙げる今日まで色々な困難が待ち受けていたけれどなんとかこの日を迎える事が出来た」

ベルベット「……これってラブコメ?」

ゴンベエ「【新郎新婦、誓いのキスを今ここに】神父の前で愛を誓い、愛しき夫に口付けを……する筈だった。そこで私の意識は転落、謎の痛みと共に目を覚ます……【え、もしかして今までの全部夢だったの?】私こと赤沢夕夏は長い長い夢を見ていたようだった」

エレノア「まさか!」

ゴンベエ「【今日の日付は……嘘】私は驚愕した。何故なら今日は白川くんと出会った運命の日だったから。これはもしかしたらと思った私は急いで学校に向かう準備をして家を飛び出した」

アリーシャ「あのパターン!」

ゴンベエ「【この角を曲がったところで私は白川くんと】私は見た夢の通りに走り出して曲がり角に差し掛かると深呼吸を整える。【やっぱり……白川くんがいる】夢で見た時と全てが一緒。私が見ていた夢はなに正夢となる……そう思っていた」

エレノア アリーシャ ベルベット「っ……」

ゴンベエ「【【【【【白川くん……え!?】】】】】【え!?】夢を見たのは私1人じゃなかった。この物語は夢の中で意中の相手とハッピーエンドを迎える正夢を5人同時に見たが為に生まれる第6の未来的な恋愛戦争」

エレノア「ストップ!!」

ゴンベエ「んだよ、まだナレーションの途中だろう。序盤中の序盤だ……あ、もしかして見る気が失せたのか?」

エレノア「違います。むしろ続きが気になる、じゃなくてなんて物を作ってるんですか!」

ゴンベエ「個性派ヒロイン5人が1人の男性を夢で見た知識を頼りにあの手この手で口説いたり壮絶な恋愛バトルを繰り広げる紙芝居だ!」

ベルベット「堂々と言うんじゃないわよ!明らかに子供が見るものじゃないでしょ!」

ゴンベエ「馬鹿野郎、最近の子供をナメんじゃねえよ。これでも物足りないって言うんだぞ」

ベルベット「それはあんたの国の子供でしょう。アメッカ、あんたからもなにか言ってやりなさい」

アリーシャ「……続きは?」

エレノア「え?」

アリーシャ「ゴンベエがちょっと過激なのを描くのは今に始まったことじゃない。それよりも続きが……ベルベット達も気になるんじゃないのか?」

ベルベット「それは……まぁ、気にはならないって言えば嘘になるけど」

ゴンベエ「エレノア……面白いだろ?」

エレノア「まぁ、確かに面白いですし気にはなりますが……」

ゴンベエ「ライフィセット達が見る前に最後まで見とかなきゃダメだろ……」

エレノア「……そう、ですね。ライフィセットやモアナ達が見て良い作品か吟味しなければなりません」

ゴンベエ「で、本音は?」

エレノア「いったいどんなヒロインが待ち構えているって、なにを言わせるのですか!!」

ゴンベエ「んだよ、続き見せねえぞ」

エレノア「あ、すみません……出来れば続きをお願いします」


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偽りの村

やっと更新が出来た。

前にアンケートのところで出たワールドトリガーの小説書き始めました。


 なにもない真っ白な空間。その中にある窓……此処は私の夢の中だ。

 

「すっぱい……」

 

「味を感じるのですか?」

 

 手に持っていたリンゴを噛ると酸味を感じ、声に出す。

 すると1人の女性が……私が喰らった聖隷のシアリーズが声を掛けてくる。

 

「夢の中だけよ……」

 

「彼が作った場合もじゃないのですか」

 

 あのバカがどういう原理かは知らないけど、私のために作った料理だけは味がする。

 最近だとあのバカが作った料理を食べる代わりに、あのバカの分を作ったりするのが日課になってる。

 

「アレは例外よ……自分で食べた物の味は夢の中でしか分からないわ」

 

 喰魔になってからは食べなくてもいい様になった。

 私の見た目が限りなく人を維持しているせいか周りは食事に誘ってくる。けど、本当は食べなくてもいい……そう分かっているけど、元々が人間だから食べる癖がついている。食欲なんて、これっぽっちも無いのに。

 

「貴女はここが夢の世界だと?」

 

「分かるわよ……あたしがあんたを喰らったのだから」

 

「そうですよ。忘れないでください」

 

 っ!

 

「忘れられるわけないでしょう!!──の血の味を!!」

 

 忘れるなんて絶対に出来ない。

 シアリーズを──を殺した時に覚えた血の味は絶対に……。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「……忘れられるわけないじゃない」

 

 夢は終わり、現実に引き戻される。

 私達はライフィセットが示すイーストガンド領の東にある地脈点に向かっていた。

 

「相変わらず、夢見が悪いみたいだな」

 

「……人の寝顔を見てるんじゃないわよ」

 

 起きて早々に、あのバカがやってくる。

 船上で寝ていた私の事を見ていたみたいで、相変わらずなその姿に少しだけ苛立つ。

 

「そうは言っても、今、そこそこピンチなんだよ」

 

「ピンチ?」

 

 船の上では騒ぎは起きている様子じゃなさそうだけど……。

 

「濃霧が発生した」

 

 周りをゆっくりと見てみると深い霧に包まれていた。

 辛うじて前が見えているぐらいだけど、この深い霧……またアイゼンの死神の呪いでも発現したのかしら?

 

「幸い、これぐらいなら乗り切れるとは言っているが問題はこの霧だ……ベンウィック達が言うには、この海域は霧が発生しないらしい」

 

「アイゼンの死神の呪いでしょ」

 

 ありえないこととかが海で起きるなんて今さらよ。

 なにかがあるかもしれないから意識はしておけと釘を刺すとあいつは私から離れていき、今度はエレノアとマギルゥがやってきたので、エレノアにはライフィセットはライフィセットであんたの物じゃないことを言い、マギルゥと私が折れるかどうかの賭けをした。

 

「霧もすっかり晴れましたね。迷わなくてよかったです」

 

「当然だ、オレ達をなんだと思っている?」

 

「違法で無法で、腕のいい海賊だと」

 

「……分かっていればいい」

 

 エレノアの答えに納得したアイゼンは微笑む。その横でベンウィックは頭を抱える。

 

「う~ん、この辺りの海域は霧が出ない筈なんだけどな」

 

「アイゼンの死神の呪いでも発動したんだろ……誰1人くたばってないし結果オーライでいいじゃねえか」

 

 ベンウィックの悩みをアイツはあまり気にしない。

 誰かが病に犯される事もなかったから、それでいいのに気にしすぎるのも良くないものね。

 

「しかし、今までの港町とは雰囲気が違うな」

 

「うん!お城みたいだね!」

 

 バンエルティア号を降りてタリエシンの港町を歩く私達。

 今まで立ち寄った港町とは雰囲気が異なる事をアメッカは感じ、ライフィセットははしゃぐ……。

 

「ここは貿易で悪どく儲けた一族の拠点でね、攻められた時に備えてこうなってるんだって……」

 

「成る程、城と言うよりは要塞に近いな……ん?」

 

「けど、栄えたのは昔の話。今はただの田舎町よ……それでもあたし達には憧れの都会だったけど」

 

「詳しいのですね」

 

「一応地元だから。この先のアバルって村が私の故郷」

 

「じゃあ、喰魔がいるのは」

 

「多分、私の村よ」

 

 だからかしら。

 喰魔に関して回収さえ出来ればそれでいいと何時もは思っているけれど、不思議と喋る気になる。

 

「いいのですか?」

 

「どうせ知り合いはいないわ……皆、私が喰い殺したんだから」

 

 あの日、私は全員を殺した。その時の事は今でも思い出せる。

 

「と、取りあえず情報を集めよう。喰魔が居るならば聖寮が管理をしている可能性がある」

 

 重くなった空気をアメッカは軽くしようと必死になる。

 別にそんな事をしなくても情報は集める……村が滅びているんだから、集まる情報なんてロクなもんじゃない。

 

「しまった!今日はニコが来る日だった!特製のキッシュを買い損なった……」

 

「えっ!?」

 

 その筈だった。

 

「でも、ニコもここに店を出せばいいのに何故わざわざアバルから通っているのかしら?」

 

「村を離れたくないんだとさ。行方不明になった友達を待ってるとかで」

 

「冗談は言わないで!!アバルは滅んだ筈よ!!

 

 中年の男性と女性の会話を聞いて私は声を荒げる。

 ニコは……私の友達は死んだ。私がこの手で喰らっていて、アバルはあの日全員が業魔になって滅んだのよ!!

 

「はぁ?縁起でもない事を言うなよ。確かにアバルは3年前に業魔に襲撃されたが滅んでいない。怪我人も多かったけどアルトリウス様の力のお陰で命拾いをしたのよ」

 

「う、うそ!?」

 

「嘘ってなぁ……現に毎週ニコって子がアバルから行商に来てるぞ」

 

「ウチの亭主も昨日アバルの雑貨に薬を納めたのよ。代わりにウリボアの肉を仕入れてきて」

 

「うそだ……みんな、あたしがこの手で」

 

 

 殺したんだ。

 

 

 あの日の事は今でも覚えている。

 あの日、喰魔になった私は皆を喰らった……それなのに、なんで、なんで。

 

「ット──ベルベット!!」

 

「アメッ……カ」

 

 ニコの事を聞かされて否定しようとしている私は汗を流していた。

 暑さも寒さも感じないなにも感じない筈の私が汗を……なんで?なんでなの?

 

「ほらよ」

 

 アイツが鏡を取り出して私の顔を私に見せる。

 何時もの無愛想な顔は写っておらず、怒りじゃない感情を強く表に出している表情で酷く醜かった。

 

「っ……」

 

「えっと……そうだ!」

 

 なにか閃いた顔をすると私に抱きついてきたアメッカ。

 何時もならば暑苦しいと振り払うけど、今はそんな気分にはなれない。

 

「……私では力不足で力にはなれない。けど、受け皿になることぐらいは出来る筈だ」

 

「……」

 

 普段は料理も下手でまともに戦うことすら出来ないアメッカ。

 本当は私よりも歳上なんだと抱き締められていると感じ、興奮して高ぶっていた気持ちが段々と落ち着いていく。

 

「ありがとう……」

 

「礼なんていらない……ベルベットはどう思っているかは知らないが私にとってベルベットは仲間だ。辛いことや苦しい事があるならば助け合う……まだ私の方が未熟で申し訳ないが」

 

 自分の行いを気にしないアメッカのお陰で気持ちが落ち着いた。

 アイツが持っている鏡に写る自分の顔はさっきより大分増しになっており、立ち止まることはせずにアバルに向かって再出発をする。

 

「そういえばベルベットはなんで監獄島にいれられていたんだ?今から向かうところがベルベットの故郷だったら、そこに閉じ込めるのが普通じゃないのか?」

 

 アバルまでの道はそれなりにある。

 その間にロクロウが疑問に思ったことを口にすると若干だが私に視線が集中する。

 

「知らないわよ。喰魔になって意識を失って、気が付いたら監獄島に閉じ込められていたわ」

 

 そう、私はなにも知らない。知らなかった……。

 

「大方、エサが無かったからじゃろう。ベルベットは村人を全員喰い殺したと言っておったからのう」

 

「っ……やはりその話が事実」

 

「だったら、今から向かう村の跡地に喰魔は居るのか?その、エサとなる憑魔達はもういないんじゃないのか?」

 

 私がどうしてアバルの跡地に閉じ込められなかったかの議論は続く。

 マギルゥの考えから村の跡地の現状を推測して苦々しい顔で今回は喰魔がいない可能性が浮上してきたことをアメッカはほのめかす。

 

「いや、そもそもでベルベットが最初の喰魔だとするかもしれん」

 

「まさか古文書の内容を確かめるために!」

 

「それだったらベルベットで成功した後で他にも幾つか監獄島みたいなのを作る筈だ……まだなにか根本的な情報が足りないから考察するのはここまでだな」

 

「そういうお前はなにか分かってるんじゃないのか?」

 

「分かってはいるが、たかが知れてる……言えば事態を混乱させるだけだ。今でさえ頭がこんがらがった状態なのに、やってられるか……ただまぁ、義弟や義妹を躊躇いなく生け贄にしたり喰魔化させたりと色々とやってるんだ。ロクでなしな理由に決まってる」

 

「……なんでそこまでの事が出来るんだろう」

 

 アイツが話を終わらせるとライフィセットは考え込む。どうしてアルトリウスはこんな事をしているのか。

 

「そうまでして救いたい世界があるのか、そうまでしないと救えない世界か……」

 

「え……」

 

 マギルゥが言っている言葉でライフィセットは更に考え込む。

 例え後者だとしても私は変わらない。ラフィを殺したと言う事実は絶対に変わることが無い。

 地脈点に関する考察は終わり、今度はどんな遺跡が待ち受けているのか気になったりするライフィセット達。アバルの村の事をよく知っているからか会話に混ざる気はなく適当に話を聞き流し、先に進んでいく。

 

「きゃあああ!!」

 

「悲鳴!?」

 

「すぐ近くからだ!」

 

 アバルの村の跡地に向けて更に進んでいくと悲鳴が聞こえる。

 エレノア達は悲鳴が聞こえた場所に向かって走っていくとそこには巨大な虫の業魔がいた。

 

「おい、あそこに誰か倒れてるぞ!!」

 

「……あ、あれは……」

 

 巨大な虫の業魔の直ぐ側に倒れている私と同じ年頃の女性……ニコだ。

 私の親友で、ついさっき生きていると話題に出ていたニコで間違いはない……なんで、なんで。

 

「ベルベット!!」

 

「しまっ!!」

 

「問題ねえよ」

 

 倒れているニコに戸惑い、戦うことに集中する事が出来ずにいるとライフィセットは大声で叫ぶ。

 何時の間にか巨大な虫の業魔は私の目の前に来ており、私を喰らおうと掴んでくるのだが咄嗟にアイツが私を抱き抱えて回避する。

 

「ベルベット……」

 

「分かってるわよ……分かってるわ!!」

 

 コレは幻だ。私は質の悪い夢を見ている。

 こんな夢ごときに惑わされはしない。こんなところで使う相手ではないのは分かっているけど、このまやかしから抜け出すには力が必要だ。

 身体を炎が包み込むと何時もの服装とは異なる炎をイメージしたかの様な姿に変わっており、体の底から力が溢れ出る。

 

「この姿でやるのははじめてだけど、容赦はしないわ!!」

 

「ちょ、それを今するのはまずいだろう!!喰魔との戦いもあるんだぞ

 

「じゃあ、どうしろって言うのよ!!」

 

 左手に黒い炎を出現させると止められる。コレを撃てば私の体力の殆どは無くなるけど、コレを撃つぐらいの気持ちでないとこの先には進めない。

 

「それを剣に纏え」

 

「剣に?」

 

 骸骨から授かった邪王炎殺黒龍波は喰魔化した左腕から龍の形をした炎を放つ技。

 応用する方法はまだあるのだと試しに剣に纏わせてみると剣自体が禍々しい炎の様なオーラを纏う。

 

「これならいける……邪王炎殺剣!!」

 

 邪悪な炎の様なオーラを纏った剣はバッサリと虫の業魔を倒す。

 分かっていたことだけど、この力は強い……アルトリウスに届きうる力。

 

「……!」

 

「無理するなよ」

 

「まだ、大丈夫よ」

 

 最初に撃とうとした技とは異なるけど、それでも疲労感を感じる。

 この技が諸刃の剣なのは分かっているけど、本来撃とうとした技よりはマシ。まだ体を動かす事が出来る。

 

「なんで……うそ……」

 

 きっと見間違いだと心の何処かで思いたかった。

 横たわっている私と同じ年頃の女は何処からどう見ても私の友達のニコだった。

 

「うう……ベル、ベット!?」

 

 目を覚ましたニコは私を見て驚いた。

 

「どういうこと!?なんでアンタが生きて──」

 

「こっちの台詞だよ!!今まで何処にいたわけ!?」

 

 剣を突きつけようとすると怯える事なくニコは叫ぶ。

 

「突然いなくなって、村の皆は業魔に食べられたって言っていたけど……あたしはそんな筈がないって……ベルベットは強いんだから……やっぱり、やっぱり生きてた」

 

 涙を流し、一歩また一歩と私に歩み寄るニコ。

 そんなニコを私は拒むことは出来ず、ニコに抱き締められる。

 

「うう……うわ~ん!!」

 

「……」

 

「……全く、酷い夢だな」

 

 さっきまでの態度から一変してなにもしない私を見て、アイツは呆れる。

 夢……確かにそうなのかもしれない。私は質の悪い悪夢を見ている……っ……。

 

「……ごめん、お連れの前でみっともないとこ見せちゃって」

 

 泣き止んだニコは私から離れて、少しだけ恥ずかしそうにする。

 

「早く皆にも知らせないと!ベルベットが帰ってきたって!!」

 

 ニコはアバルに向かって走っていった……。

 

「ニコが、生きている……」

 

 なんで?

 あの日、全員死んだ筈なのに、殺した筈なのに……。

 

「気を許すな、嫌な予感がする」

 

「そうじゃぞ、死神が一緒じゃしな」

 

 ありえない。明らかに裏があるはず。

 アイツを除いて全員が気を引き締め直す中、私は考える。

 

「こんな筈、無いのに。私があの日……」

 

 殺した筈なのに何故か生きているニコ。

 ニコだけじゃない、聞いていた話が本当だったらアバルの村の皆が生きている。全員殺した筈なのに……。

 

「ベルベット、大丈夫?」

 

「……ええ」

 

 ライフィセットは私を心配してくれるけど、歩みを止めるわけにはいかない。

 

「こんなことがある筈が無いなんて分かっているんだから」

 

 これは嘘だ、偽りだ。質の悪い夢だ。

 あの時、殺した血の感覚は紛れもない本物で……そう、きっとニコ達に誰かが化けている。今まで喰魔を警備する聖寮が居たのだから怪しまれない様に演じているのよ。直ぐにボロが出てくるわ。

 

「ゴンベエ……!……ベルベット」

 

「なに?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 何かを言おうとしたアメッカだけど、途中で言うのをやめる。

 チラリと狼の姿になったアイツを見ているけれど、なにが言いたいのかしら?

 

「……今は見るべきか」

 

 アイゼンもなにか言いたそうな顔をしているけれど、何も言ってこない。

 言いたいことがあるならハッキリと言えばいいけど、今はそんな事を言う気分になれず一先ずはアバルの村を目指すと、そこは廃虚……ではなく小さなのどかな村があり、村の住民が一箇所に集まっていた。

 

「ベルベット、本当に無事で」

 

「ああ、よかった……」

 

 村のおじさんやおばさんがそこにはいた

 ニコやおじさん達だけじゃない。村に住んでいる見覚えのある人達がそこには立っており、私の事を見て喜んでいる……。

 

「そんな……あたしは、あの日村は滅んだって」

 

 滅んだはずなのに何故か皆が生きている。

 

「ああ、全滅するところだった」

 

「危ういところをアーサー……アルトリウス様が救ってくれたのよ」

 

「違う!あの男がやったのよ!あいつがライフィセットを生贄に」

 

 村の住人が死んだのは……あの男が全員、業魔にして……ライフィセットを生贄にしてカノヌシを。

 

「……ライフィセットの事は残念だったな」

 

 残念そうにするおじさん。

 そう、どれだけ偽ろうともライフィセットが死んだ事実は変わりはしない。私は騙され──

 

「だが、希望は捨てないでくれ」

 

「そうよ、まだ生きているわ!」

 

「──生きて、る……」

 

 なにを言っているの?

 私はあの時、ライフィセットが……ラフィが死んだのをちゃんと見ている。血の味を覚えている。

 

「あんたの家にいるわ。安心して、皆で面倒を見ているから」

 

「……」

 

「皆、少し落ち着こう。あんな事があったのだからベルベットが動揺するのも無理はない……先ずはライフィセットに挨拶していきなさい」

 

 おばさんは私にライフィセットの挨拶を勧めると、その場にいた全員を解散させる。

 私達はと言うとそこに取り残される……。

 

「……ゴンベエがいない?」

 

 何時の間にかアイツが居なくなっている事にアメッカは気付く。

 何処に行ったのか気にはなるけれど、今はそんな事を気にしている場合じゃない。アイツはその気になればアルトリウスと渡り合う程の強さは持っているのだから、倒されることだけはない。

 

「……オレ達の目的は喰魔を探すことだ。ここがなんであれ、喰魔が居る可能性は高い……」

 

 アイゼンはそう言うと私から離れていく。

 

「ラフィが……生きている……」

 

 そんな事があるわけない。

 でも、ニコ達はここにいる……確かめる必要があるわ。




 ベルベットの術技


 邪王炎殺剣
 
 説明

 邪王炎殺黒龍波の邪悪なる炎を纏いし剣による一閃。
 邪王炎殺黒龍波よりも威力は劣るものの、穢れを持った炎を纏った剣で並大抵の生物はその穢れに当てられるだけで混乱し意識を失う。


 キャラの設定のまとめみたいなのを書きたいが物凄いネタバレになるのでかけない。ちくしょう。


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質の悪い夢

「ふん」

 

「なにをやっているんだ!?」

 

 動揺するベルベットから少しだけ距離を置くとアイゼンがロクロウを殴った。

 なんの迷いもなくお腹を殴っており、あまりにも突然の出来事に全員が驚く。

 

「……っち、目覚めないか」

 

「お前、そういうのは自分でやれよ……」

 

 アイゼンは今見ている景色が幻かと思い、ロクロウを殴った。

 普通は自分を殴って目覚めさせるのに何故かロクロウを殴っており、その恨み言をロクロウは呟く。

 

「そんな事をするよりも、ゴンベエ……」

 

「そういや、アイツ、何処行った?」

 

 ゴンベエに聞けば、全てが解決する。そう、解決する。

 私はその事を言うのを途中でやめるとロクロウはいなくなっているゴンベエは何処かと辺りを見回す。

 

「ゴンベエの事は私に任せて、誰かベルベットの側に居てくれないか?」

 

 今のベルベットは非常に不安定な状態だ。誰かが側に居てやらなければ、何時暴走するか分からない。

 本当ならば私が側に居てやりたいが、ゴンベエの事が非常に気になる。

 

「ベルベットの事は僕に任せて」

 

「ライフィセット、頼んだぞ」

 

 ベルベットの事をライフィセットに任せると私はこの場から離れてゴンベエを探す。

 先程まで狼になっていたゴンベエ、探すのは難しいかもしれないと思っていると美しいバイオリンの音色が聞こえる。

 このバイオリン、間違いない。

 

「ゴンベエ!」

 

 村の外れに足を運ぶとそこにはゴンベエがいた。

 手にはバイオリンがあり、先程の音色はゴンベエが弾いていたものだと直ぐに理解する。

 

「るせえよ、今バイオリンの練習をしてるんだから騒ぐな」

 

「バイオリンの練習?」

 

 何故今こんな時にするんだろう。

 私達は質の悪い夢を見せられているのにゴンベエは呑気にバイオリンを弾いており、もしかすると目の前にいるゴンベエは偽者じゃないかと疑ってしまう。

 

「お前、なに変な事を考えてるんだ……ここにいるオレは正真正銘の本物だ」

 

「あ……す、すまない」

 

「で、なんか用か?」

 

 バイオリンを一旦弾くのを止めて、ゴンベエは私がここに来た理由を尋ねる。

 

「今起きていることは」

 

「んだよ、そんな事を聞きに来たのか?質の悪い夢だ」

 

 ゴンベエに会いに来た理由を言うとあっさりと答えてくれる。

 質の悪い夢、やっぱり私達が見ているものは幻かなにかでゴンベエはその事を見抜いている……それなのになにもしない。

 ロクロウやアイゼン達が警戒をしている中で、ゴンベエは一言も言わずに村の外れにやってきている……それはつまり……。

 

「ゴンベエ」

 

「オレはここでバイオリンの練習をしてるから、ベルベット達に言ってこい」

 

「……わかった」

 

 ゴンベエは此処から動くつもりはない。

 誰が襲ってきてもゴンベエなら撃退をする事が出来るのを知っているので私は村に戻り、ベルベットの家にに向かうとベルベットは泣き腫らした顔で家から出てきた。

 

「アメッカ、ちょうど良かったわ。今から買い物に行くところだったの」

 

「……ベル、ベット?」

 

 何時も怒っていてばかりのイメージがあるベルベットだが、表情が柔らかかった。

 ついさっきまでこんな幻に騙されるかと言っていた姿とはひ一転している……今までこんな表情のベルベットを見たことはない。

 私がゴンベエに会いに行っている間に何があったのかと直ぐ近くに居るエレノアに視線を向けるとなんとも言えない顔をしていた。

 

「ベルベットの家に、弟のライフィセットが居ました……その」

 

「……ゴンベエに会ってきた」

 

 ベルベットの憎悪は弟を殺されたものからだ。その弟が生きていたとなればベルベットは怒る理由はなくなる。

 気まずそうな顔をしているエレノアに私はゴンベエと会ってきた事を伝えるとなんとも言えない気まずい空気が生まれる。私がゴンベエに会ってきたということがどういう意味なのかをエレノアは直ぐに理解した。

 

「ゴンベエ、何処にいたの?」

 

「村の外れでバイオリンを弾いていた」

 

「そっか……後ででいいんだけど、呼んできてくれない?ラフィ、眠ったままで……ゴンベエが曲を弾いたら目覚めるかも」

 

 何時もならば極力名前を呼ばない様にしているベルベット。

 弟のラフィの為に一曲をと頼み込んでいる姿はとても優しい女性で……。

 

「ベルベット」

 

「なに?あ、買い物をするから荷物持つのを手伝って……ホントならゴンベエに頼みたいんだけど、忙しいみたいだし」

 

「……」

 

 これは言った方がいいのだろうか?

 ライフィセットとエレノアはベルベットをチラリと見ていてなにか言いたそうな顔をしているが、しているだけで何も言おうとしていない。マギルゥはまるで全てを理解しているかの様にニヤニヤしている。

 

「……ああ、その代わり美味しい料理を頼む」

 

 色々と考えてみた結果、私は言わないことを選んだ。

 ゴンベエがそうしたのならば私も同じ道を選んで待つしかない。

 

「おじさん、卵と牛乳、ほうれん草にトマト、後それとチーズのいいところ」

 

「ほうれん草……」

 

 ベルベットの買い物に付き合うと苦々しい顔をするエレノア。

 商人のおじさんから買っているほうれん草に視線を向いており、嫌いな物だと主張をしている……エレノアはほうれん草が苦手なのか、意外だな。

 

「好き嫌いしていると大きくなれないわよ」

 

「個人的にはもう充分です!」

 

「仕方ない。今回入れないであげる。貸し一個よ」

 

「ベルベット、対魔士様と友達とはやるじゃないか」

 

「と、友達じゃないわよ!」

 

「はっはっは、仲がいいな」

 

「……これが本来のベルベットか」

 

 何時だったかゴンベエはベルベットの事を常に怒り続けていると言っていた。

 今のベルベットからは怒りの様なものは感じれず、何処にでもいる町娘の様な雰囲気を纏っている……ここがベルベットの生まれ育った村で、ベルベットの弟は生きている。

 今見ているベルベットこそ何時も私達が見ているベルベットとは違う本来のベルベットで……アルトリウスはこの幸せな日々を壊し、今の世の中を築き上げた。

 

「そうそう、ウリボアの肉はある?」

 

「おっと、それは売り切れだ」

 

「じゃあ、何時も通り鎮めの森で狩るわ」

 

「それが近頃鎮めの森でウリボアが見つからないんだ。狩るんだったらモルガナの森の方がいい」

 

「そう。じゃあ、行ってみるわ」

 

 商人のおじさんから食材を買うベルベット。

 

「狩りか、私でも出来るか?」

 

 料理は下手で手伝える事はなにもない。しかし狩りならば出来るかもしれない。

 イズチに迷い込んだ際にはスレイにやってもらったが、あの時と違い今の私は強くなっており、相手は憑魔ではない。

 

「簡単よ……あ、でも狩りすぎない様に注意しないと」

 

「……そうか」

 

 馴れない。

 素っ気なくツンツンしているイメージが強すぎて今、目の前にいるベルベットに違和感を感じる。本当だったらこっちの方が素なのに、今まで見てきたものとのギャップというかなんというか……これが本当のベルベットなのを受け入れるのは難しい。

 

「さ、狩るわよ」

 

 何時もが殺伐としていた戦いばかりだが今回は違う。

 食べる為に狩る戦いであり、不思議と肩は軽く相手が何時もの危険な憑までなくウリボアなので簡単に倒せる。

 普段の相手があまりにもアレなだけで私は決して弱くはないのをこういう時に理解できるのはなんとも皮肉なものだ。

 

「これだけあれば充分かな」

 

 私だけでなくエレノアとライフィセットも手伝いあっという間に大量のウリボアの肉が手に入った。

 大量だとベルベットは喜ぶのだがライフィセットは浮かない顔をしている。

 

「どうかした?」

 

「うん、ちょっとかわいそうだなって」

 

「わかります。このウリボア達も家族だったかもしれない……残酷ですね、人間も」

 

「……そうね、そんな感じ忘れてた」

 

「……そうか」

 

 ウリボアにライフィセットとエレノアは同情をする。

 私はその辺の感覚は薄い。スレイがヤギを狩った時も感謝をすれども同情等の感情は出てこない。

 その気になれば私達すら使い捨ての駒の様に扱うベルベットだが、今は本来の素に戻っている為か弱気な姿を見せる。

 

「けど、仕方がないことよ。生きるためには食べなければならないんだから」

 

「……仕方ないことじゃな」

 

 そう、これは仕方がないことだ。

 私達が日頃、口にしている肉は生き物の肉であり菜食主義でない限りは命を奪っている……いや、人によっては植物も生き物と捉えているので菜食主義も命を奪っていることになる……なんとも納得が出来ない。

 

『だったら、いただきますに感謝を込めろ』

 

「ゴンベエ……!何時の間に!?」

 

 なんとも微妙な空気が流れていると私の懐が光る。

 何事かと懐を確認すると宝探しの時にゴンベエがベルベットに渡したお守りが入っていた……いったい何時の間に仕込んだんだ?

 

「いただきますに感謝ってどういうこと?」

 

『疑問を持っているライフィセットにこの歌を送ろう』

 

 ガチャガチャとお守りの向こう側から音が聞こえる。

 物凄く上手く心癒す曲をゴンベエは弾けるのに滅多な事では弾こうとしないが、今回は弾いてくれるのか。

 

『何のために食うか 分かるかい?生きるため 命のためさ。味わってやらなくちゃ いけないんだ 食材に 感謝を込めて イタダキマスはそう、最高のありがとう……はい、終了』

 

 何かが足りない気がする。恐らくというか歌詞に続きがあるのだろうがゴンベエはそれ以上は歌わない。

 

「食材に感謝か……」

 

 とはいえ、伝えたい思いはなんとなく分かった。

 食材に感謝を込めて味わう、そんな大切さを教えてくれる歌で先程まで場に流れていた微妙な空気は消え去っていた。

 食べることは生きることで、感謝を忘れてはいけない……うん。

 

「ちゃんといただきますって言わないとね」

 

 ベルベットはゴンベエの歌に感化をされた。

 少しだけ気分が軽くなったベルベットは上機嫌に村に戻っていく。

 

「買い物をして狩りをして、友達と笑って……ベルベットはこんな風に暮らしていたんだね」

 

 そんなベルベットの後ろ姿を見て、物思いに耽るライフィセット。

 これが本来のベルベットの姿。

 

「はい、私も昔を思い出します」

 

「え、でもエレノアの村は業魔に……あ、ごめん」

 

「いえ、いいんです。家族と過ごした幸せは今でもいい幸せです……それに村が滅んだ後でも楽しい思い出もいっぱいあるんです」

 

 そんなベルベットの姿を見て、自分の昔を思い出すエレノア。

 こういう時になにかを思い出さない私は俗世とは掛け離れているのを実感する。

 

「お腹いっぱいご飯を食べたり、新しい友達が出来たり……」

 

「恋をしたり」

 

「そう、新しい恋をって、なにを言わせてるのですビエンフー!?」

 

「照れなくてもいいんでフよ。普通の女の子の幸せ第一位は【初恋の思い出】なんでフから〜」

 

「うぐっ……」

 

 ベタな事を言うビエンフーの言葉が胸に突き刺さり、痛む。

 いや、今の私は女性だとかそういうのを関係無しにしていて恋とか愛とかの色恋沙汰は無し……無しで初恋とかそういうのもない。

 

「初恋の人……ベルベットにも」

 

「ベルベットも一人の女性だ、恋もするものだ」

 

 恋するベルベットを想像してションボリとするライフィセット。

 災禍の顕主だ喰魔だなんだと言われているがベルベットも一人の女性であり恋を……。

 

「そういう言い方はやめてくださいビエンフー!ハッキリと言って、おじさん臭いですよ!」

 

「ガーーン!ボクはまだ150歳なのにオジサン扱いされたでフよ!?」

 

「……ビエンフー、150だったのか!?」

 

 意外な事が判明した。

 ノルミン天族で私達より歳上なのは分かっていたが、まさかそんなに歳上だったとは思いもしなかった。

 ビエンフーの実年齢に驚いた私を見てエレノアとライフィセットは笑い、私もそれに釣られるかの様に笑う……こうしていると何もかもを忘れて、ただのアリーシャとなっている気分でとても楽しい。私達には大事な使命があるのを忘れそうになってしまう。

 

「弟のこと、聞いた。よかったな」

 

 日が暮れてきた頃、村に戻りベルベットの家に向かうと家の前にロクロウとアイゼンがいた。

 この二人は今の今まで喰魔が何処に居るのかを探してくれており、ここに来たという事はなんらかの成果があったというわけだ。

 

「……村を調べていたのね」

 

「ああ、岬の祠を調べようとしたら止められた。聖寮が立入禁止にしているらしい」

 

「祠か」

 

 今までも神殿だ森の中だ監獄と喰魔がいた。

 祠といえばそれっぽい場所で喰魔が居る可能性が物凄く高い。

 

「喰魔がいるならそこだろうが……お前はどうする?」

 

 ベルベットにアイゼンは問いかける。

 今、ベルベットは立ち止まっている。弟のライフィセットや友達のニコが生きており、今まで歩んできていた復讐の道を立ち止まっている……これが質の悪い夢なのに。

 

「オレは喰魔を引き離す……例えそれが罠だろうが。この平穏はその内、無くなるものだ」

 

「決行をする時は私も……」

 

 私はこの戦いから降りるつもりはない。

 最後まで見届けるのが私の役目で見届けた後はヘルダルフとローランス帝国をどうにかしないといけない。ゴンベエにそこで頼ることになり、何れはスレイとも再会する。そうなれば私が頑張れなければ。

 

「お前がここで止まってもオレ達は戦いをやめない」

 

「とめたければ、力ずくよね」

 

 この夢が覚めてほしくないベルベット……夢だという事は自覚している。

 

「あ」

 

「待て、ベルベット!」

 

 左腕を喰魔へと変化させるベルベット。

 友達のニコが近付いている事に気づいてはいない。

 

「ひっ!」

 

「!?」

 

 ニコの悲鳴を聞いて振り向くベルベット。

 見られてはいけないものを見られてしまったというショックを受けている。

 

「一日だけ待つ……覚悟が決まったら岬に来い」

 

 これは質の悪い夢で何時かは目覚めてしまうものだ。

 その事をアイゼンは分かっており、ベルベットが夢から覚めて戻ってくることを期待してロクロウと共に去っていく。

 

「そ、その手は……」

 

 アイゼン達がこの場から去ると、ベルベットの腕を凝視するニコ。

 

「見ての通り、業魔よ……3年前にこの村を襲ったのは私の」

 

 左腕をこれでもかと見せつけて威嚇するベルベット……目が弱っている。

 

「……ベルベットはベルベットだよ!業魔なんて関係ない!……怖いけど、怖くない!」

 

 怯えながらもベルベットに歩み寄り、左腕に触れるニコ。

 

「あたし、誰にも言わないから……だから前みたいに一緒に暮らそ、ね……」

 

「……」

 

 普通の人が見れば、ベルベットを化物と見る。

 けれど、ニコはベルベットを受け入れようとする……化物じゃない。友達として彼女を見ており、変わってしまったベルベットの左腕を絶対に秘密にしている。

 

「……ゴンベエ、何もかも分かっているんだな」

 

 私はゴンベエがこっそりと託したお守りに語りかける。この場に一向に現れようとしないゴンベエはなにもかもお見通しだ。

 これは質の悪い夢で、ベルベットが望んでいるものをなにもかも用意されている。どれだけ痛めつけようが折れないベルベットだが、今回は痛めつけに来ない。甘い汁を吸わせて立ち止まらせ、迷わせている。

 

「……ごめん、また変なところを見せちゃって……私、誰にも言わないからね」

 

 ニコはそう伝えるとベルベットの手を離して去っていった……。

 

「どうするつもりだ、ベルベット?」

 

 このまま喰魔を探してアルトリウスへの復讐を果たすのか、このまま此処で立ち止まっているのか。

 決めるのはベルベットで、私がなにかを言う権利はあるのだろうか?こういう時こそゴンベエがズバッと解決してくれればありがたいのだが、ゴンベエはあえて姿を現そうとしない……ベルベットが自力でどうにかするのを待っているのだろう。




スキット 1つだけ同じなもの

ベルベット「アメッカ、血抜きしないと臭くなるから仕留めたら血を抜いてね」

アリーシャ「ああ……血抜きに使えそうなのは、王家のナイフか……」

ライフィセット「……」

エレノア「どうかしましたか、ライフィセット?」

ライフィセット「これが、本来のベルベットなんだなって……」

エレノア「そうですね、私も驚きです。ベルベットがこんな表情が出来るだなんて」

アリーシャ「何時だったかゴンベエはベルベットはずっと怒っていると言っていた……今が怒っていない素なんだ」

ベルベット「3人でなにを話してるのよ?ほら、早く狩りましょう」

アリーシャ「ああ」

エレノア「普段が普段だけに馴れませんね……」

ライフィセット「でも、これが本来のベルベットなんだ」

ベルベット「大きなウリボアがいたわ!」

アリーシャ「よし任せろ!」

ベルベット「でぇやぁああああ!」

アリーシャ「魔神剣!」

ライフィセット「……ベルベット、戦う時は普段と一緒なんだね」

エレノア「戦う時は素だったんですね」



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夢はやがて覚めて消えるのが道理

キャラ設定をちょこっと書いてはみたけど、ネタバレになりまくってるからアリーシャのサブイベ全てを終わらせないと……現代編まで続くんだよな。最終的にはあんなことになるし。


「ごちそうさまでした」

 

 1日待つといい、アイゼンとロクロウはベルベットの家を去った。

 私達はと言えば、この質の悪い夢から抜け出す事をせずにそのまま夕食を頂く……ゴンベエはこの場にはいない。

 

「結構なお味でした」

 

「うむぅ、味見をしたライフィセットに花マルじゃなぁ」

 

 ゴンベエがあんな事を言っていたのでちゃんとごちそうさまという。

 なんとなく当たり前でやっていたことだが、今日はじめて意味があるものだと自覚をする。

 

「ゴンベエの分も残しておかないと」

 

 大皿に乗っているキッシュやプティングを小皿に移す。

 ロクロウやアイゼンは食事を取らなくても問題はないのだが、ゴンベエはそうはいかない。なんだかんだで半日ぐらい食事を取っていない。

 

「ベルベット、蚊帳は無いか?」

 

 ゴンベエの分を取り分け終えたので、虫が寄り付かない様に蚊帳がないかを聞く。しかし私の言葉はベルベットには届いておらず、ベルベットは弟のラフィを見ていた。

 ベルベットの作ったプティングを弟のライフィセットが食べてくれて、眠っているとはいえ生きている事にベルベットは心の底から喜んでいる。

 

「明日はシチューを作ってあげるね」

 

「ベルベット」

 

「あ、ごめん……なんだっけ?」

 

「蚊帳は何処に置いている?」

 

「蚊帳はそこにあるわ」

 

 意識が弟のライフィセットでなく私に向いたので蚊帳の場所を聞く。

 これでゴンベエの分は確保出来たのでベルベットの事を確認する……ベルベットはどうするつもりなのだろうか?ベルベットがどう動くか見守っているとライフィセットが弟の部屋にある本棚に入っている一冊の本に気付く。

 

「これって!」

 

「どうかしたのか?」

 

「カノヌシの古文書、しかも最後まで書いてあるよ!」

 

「!」

 

 王宮で見つけた物は完璧じゃない。

 その為にカノヌシの解析が中途半端になっていたが、まさかこんなところで……いや、ここだからあるのだろうか?

 

「ねぇ、フィー。ちょっとでいいからあんたの羅針盤を貸してくれないかしら?」

 

 カノヌシに関する古文書が見つかった。

 これは私達に取って大きな進歩の筈なのにベルベットは目向きもせず、ライフィセットから羅針盤を貸してくれと頼み込む。

 

「お願い」

 

「う、うん」

 

 ベルベットの頼みを断ることが出来ないライフィセットは羅針盤を取り出す。

 羅針盤を受け取ったベルベットは弟のライフィセットの枕元に羅針盤を置いて慈愛に満ちた微笑みを向ける。

 

「この子、あんたと一緒で凄く羅針盤が欲しかったのよ。あんたと同じ様に海の向こうを超えて冒険をしたいって……」

 

「そう、なんだ……」

 

「目が覚めたら、あんたといい友達になるかも」

 

「……目覚めたらか」

 

 それはどっちのことを言っているのだろう。

 ベルベットは本来の姿を見せているのだが、こうして見ていると偽りの姿とも言える。

 

「……ベルベット」

 

「なに?」

 

「これは質の悪い夢だ……夢は何時かは目覚めるものだ」

 

 これ以上は見てはいられない。ベルベットに私はハッキリと夢だと伝えるのだがベルベットは無言になる。

 本人も心の何処かでこれは質の悪い夢だとは思っているのだが、夢と決別をすることは出来ない。なにかきっかけとなる事が必要で……私には思い浮かばない。

 

「ゴンベエに会いに行こう……」

 

 ゴンベエがいれば、あっという間に解決をする。頼り過ぎるのはよくないことだが、ここはゴンベエに会いに行くしか方法はない。

 ベルベットの腕を掴んで家から出ようと引っ張るのだが、ベルベットは行きたくはないのか私の手を振り払う。

 

「やめてよ!私はゴンベエには会わないわ!」

 

「ダメだ!ゴンベエに会って全てを見るんだ!」

 

 例えそれが辛い結末だろうと見届けないといけない。ベルベットを引っ張ってでも連れて行くのが私の役割だ。

 無理矢理にでも連れて行くしかないともう一度手を掴もうとするとベルベットは反抗し、暴れるとゴンベエの分だと取っておいた皿がひっくり返ってベルベットに降りかかる。

 

「もう、何をしているのですか!」

 

 この光景を見ていたエレノアは私達を叱る。

 叱られて当然の事をしてしまった私達はシュンとしてしまう。

 

「アイゼンが1日だけ待つと言っています……時間はまだ残されています。ゆっくりと考えましょう」

 

「……だが」

 

 こうしている間も聖寮が何かを企んでいる可能性がある。

 今見ている酷い夢だと言うのが分かっているのに……どうすれば目が覚める……。

 

「……プティング、少しだけ甘すぎたわね」

 

 顔についたプティングをパクリと口にするベルベット……え?

 

「!!?」

 

「ベルベット、味がわかるの!?」

 

 ベルベットは味覚が無い。

 どういう原理かは分からないがゴンベエが作った物やゴンベエが物を食べさせた時だけ味がする……だが、それ以外では味はしない。

 現に今回作ったキッシュやプティングはベルベットでなくライフィセットが味見をしていたのに……味がした。

 

「……マギルゥ、夢を操る術ってある?」

 

 味がした事で何時もの表情へと戻ったベルベット。

 テーブルをバンっと叩いて傍観していたマギルゥに問いかける……この夢を見せている人には心当たりがある。

 

「夢……」

 

「あるぞ、ある特殊な聖隷を用いた特殊な術が……霧とともに相手の後悔を取り込み相手を幸福な夢に閉じ込めるという」

 

「後悔を取り込んで……幸せな……」

 

 私達が見せられている質の悪い夢の正体。

 甘い汁を吸わせる最低最悪な夢で、改めて夢だとベルベットは理解し震えて怒りを顕にしている。

 

「岬に行くわよ」

 

「今からですか!?」

 

 これが夢だと分かったベルベットは直ぐに本来の目的を果たしに行こうとする。

 あまりにも早すぎる行動にエレノアは驚くのだがベルベットは気にせずに家から出ていこうとする。

 

「お姉……ちゃん……」

 

 ベルベットが家から出ていこうとするとタイミングを合わせるかの様に弟のライフィセットが目を覚ます。

 今にでも死にそうな弱々しい声で……何処かで聞いたことがある声だが、いったい何処で聞いたのかは思い出せない。

 

──パリン

 

「虫メガネが飛んできた……あ、これって!」

 

 何処で聞いたかを思い出すのをやめるとまことのメガネが飛んできた。

 ゴンベエはこっそりと私に託したお守りで私達の会話を聞き取っている……ベルベットの覚悟が決まったと分かったから、ゴンベエが投げてきたのかライフィセットがまことのメガネだと分かると、直ぐに拾ってまことのメガネを通してこの家を見る。

 

「!、ベルベット」

 

「……これはフィーの物よ」

 

「待っ、て……おねえ……」

 

 今にでも死にそうな声で震えながらベルベットに手を伸ばす弟のライフィセット。

 ベルベットはライフィセットの羅針盤を手に取って家から出ていこうとする。

 

「ラフィ……ごめんね……」

 

 ライフィセットはベルベットにまことのメガネを渡そうとするが受け取らない。

 代わりに弟のライフィセットに申し訳無さそうに謝ると家を出たので私達も追い掛けてみると、外ではロクロウとアイゼンが村の人達に囲まれていた。

 

「ライフィセット、まことのメガネを貸してくれ」

 

「あ、うん」

 

 これが質の悪い夢なのは分かってはいるが、真実は見ていない。

 ライフィセットからまことのメガネを借りて、真実を見ると私は絶句する。ベルベットの言っていたことは本当だった。

 

「あ、ベルベット!お連れさんを止めてよ。祠にどうしても行くって言っているのよ」

 

「聖寮に立ち入りを禁止にされてるんだから、入れると私達が怒られる」

 

 ニコを含めた村の人達は歩もうとする私達を止めに来る。

 そこに行かせたくはないという思いが籠もっているのだが今のベルベットに、その思いは届くことはない。

 

「……ニコ、私は最低なやつだよ……自分の失ったものが全部取り戻せるんじゃないかって、忘れられるんじゃないかと思ったの」

 

「……」

 

「自分の為にラフィを言い訳につかって……けど、忘れられるわけない!あの子は、ラフィはわけもわからず殺されたんだから!」

 

 左腕を喰魔の姿に変えるベルベット。

 その目には迷いはなく、戦う意思を見せており村の人達は一歩ずつ引いていく。

 

「どけ……さもないと喰い殺す!!」

 

「どうして……ベルベット」

 

 友達のニコは鳥のような憑魔へと姿を変えていく。

 ニコだけじゃない。他の村の人達も憑魔へと姿を変えていき、気付けば四方八方囲まれていた。

 

「よくも、よくも私の夢を利用してくれたわね……殺るわよ!」

 

「……ああ」

 

 夢から覚めるのがどういったことなのかを少しだけ誤解していた。

 村の人達だった憑魔との戦いは心苦しい物になる……そう思っていたが、ベルベットは気にしない。

 

「真月!」

 

 衝撃波を巻き起こしながら蹴り上げて真円を描くベルベット。

 容赦が無く倒さなければならない相手だと分かると全員が構えるのだがベルベットが火の神衣を思わせるかの様な姿になった。

 

「業焔紅滅爪!」

 

 一回目は上から大きく振り下ろし、大地を抉る。

 抉った大地は燃え盛っており、今度は振り上げて憑魔を高く飛ばすと業火を握ったベルベットは炎を殴りつける。

 神衣モドキの力を使いこなしており、村人だった憑魔を一気に焼き尽くしていった。

 

「容赦ねえな」

 

「する必要なんて無いわ……森に行くわよ!」

 

 ベルベットの合図と共に森に向かって走る私達。

 ベルベット先導なので確実に迷い込むことはないのだろうが、それよりも何があったかの説明をロクロウとアイゼンは求める。

 

「なんだったんだ結局」

 

「聖寮がベルベットに夢を見せてたんだよ……ベルベットが見たかった夢を」

 

 走りながらロクロウの疑問に答えるライフィセット。

 色々とあったが要点を纏めるとベルベットが見たかった夢をあえて見せて足止めをした……なんの為にかはまだ不明だが。

 

「悪趣味な術だ……ゴンベエはどうした?」

 

「ゴンベエは後に回しても大丈夫だ……これを託されている」

 

「!……そうか」

 

「全く、これがあれば直ぐに解決したというのに……夢と現実に区別を付けられなくなっていてはこれから先、乗り越えられぬ、そんな所かのう」

 

 まことのメガネをアイゼンに託すとアイゼンも真実を見る。

 この最悪な夢から抜け出るにはまことのメガネがあれば一瞬にして終わったのに、今回ゴンベエは何もしなかった。この質の悪い夢からベルベットが自力で抜け出せるということを心の何処かで信じていたからだろうか。それとも夢の甘さに取り込まれない為なのか。

 どちらにせよゴンベエが居れば直ぐに解決したことだが、そうせずに自力で乗り越えた結果、ベルベットの強い復讐心は更に高まった。

 

「いました、喰魔です!」

 

 ベルベットの先導の元、岬へと向かうと巨大な2頭を持つ犬型の喰魔がいた。

 

「グルウォオオオオウ」

 

 ベルベットの事を見ると突如吠えて威嚇する。

 するとベルベットもなにかに気付いてか2頭を持つ犬型の喰魔に近付き、聖寮が施したであろう結界をぶち破る。

 

「悪いけど、ついてきてもらうわよ」

 

「ベルベット、まだその喰魔は」

 

 意識を保っている。

 今回の喰魔はモアナ達の様に元が人間ではない。ライフィセットのクワブトの様になにか別の生物がベースとなっており話し合いが通じる相手でなくある程度は戦わないといけない。だがベルベットは戦う素振りを見せない。

 

「……いいのよ。私はこの子達のご主人の仇なんだから」

 

 左腕を喰魔化して右側の頭を掴むベルベット。

 喰魔になっている生物の心当たりがあるのか、ジッと見つめている。

 

「けど、今はだめ。あたしが仇を取ったあとに好きなだけ食べていいから……だから、力を貸して!」

 

「元に戻った!」

 

 2つの頭を持つ犬は2匹の小さな犬に戻る……ロクロウの様に片方の目の部分が喰魔か。

 

「どうやら術も解けたようじゃの」

 

 喰魔の犬が元の姿に戻ったと同時に辺りを包んでいた濃い霧が晴れていく。

 霧が晴れていくと今までしていた人の気配が完全に消え去っていき、今まで見ていた夢から覚めて元の現実へと戻っていく。

 

「やっと、終わったか」

 

「ゴンベエ!」

 

 完全に霧が消え去ると同時にゴンベエがやって来る。

 先程まで偽の世界を見せられていたのでつい、まことのメガネ越しでゴンベエを見るとハッキリとゴンベエは立っていた。

 

「ったく、コスい手に引っかかってるんじゃねえよ」

 

「……悪かったわね」

 

 今回の一件をゴンベエは最初から気付いていたので見事に引っかかってしまったベルベットに呆れる。

 

「ゴンベエ、まことのメガネがあったのにどうして使わなかったの?」

 

 ライフィセットは今更な疑問をぶつける。

 このまことのメガネさえあれば何時でも夢を見破ることが出来た。それなのに一度もしようとせずに私達と一旦距離を置いた。これがあれば、ゴンベエが最初から夢だと言えばこんなに時間を掛けずに済んだ。

 

「阿呆が、それだと意味は無いだろう」

 

「意味……?」

 

「今回は今までとは違うだろ……明らかに敵側がベルベットをメインに狙いに来ている」

 

 今までは喰魔が居る場所を聖寮が警備をしているだけで、それ以外は特にはなかった。所謂守りの体制で、そこに私達がやって来て喰魔を連れ出して行くだけだったが今回は違う。喰魔を連れて行こうとする私達を迎え撃つかの様に、この旅の要と言うべきベルベットを狙いに来た。謂わば攻められているのと同じ状況だ。

 

「今までベルベットや俺達に色々と酷い物を見せたりしてきたと思ったら、今度は甘い汁を吸わせにきた……オレが居れば直ぐに終わった事だがこれくらいの事は自力で乗り越えてもらわねえと困る」

 

「困るって、そんな」

 

「んな事を言うんだったら、どうして1度もオレを探しに来なかった?アメッカ以外、誰一人としてオレを探しに来なかった。オレを見つけて、まことのメガネを貸してくださいと言えば済む話だろう」

 

 他人事の様に言っているゴンベエ。エレノアは他人事の様に扱っていることに色々と言おうとするが先にゴンベエが封じる。

 誰か一人でもゴンベエを訪ねてまことのメガネを貸してくれと言えば全てが簡単に終わる話で、私達の中で誰一人それをしなかった。

 アイゼンは最初からこの出来事に警戒心を強めていて、ロクロウはベルベットに良かったなと言いつつも本来の目的を一切見失っていなかった、エレノアは本来のベルベットに驚きつつも自分で決断をせず、マギルゥは事の真相に気付いていたがなにも言わず、ベルベットは夢の甘さに囚われていて、そんなベルベットをライフィセットは見ていた。

 唯一会いに行った私はゴンベエがベルベットがまことのメガネを貸してくれと言ってくるのを待っていると気付き、敢えてベルベットを見届ける事にした……最後の最後に見届けるだけでは駄目だとゴンベエの元に連れて行こうとしたが。

 

「人と言う生き物は甘い汁を吸って味を覚えてしまえばその味を求めてしまう……単純すぎる手なのにものの見事に引っかかって……まぁ、なんだかんだで自力で脱出したみたいだし、喰魔の回収には成功してるし結果オーライだな」

 

「……悪かったわね」

 

「なにがだ?お前はこうして自力で抜け出たんだからなにも問題はないだろう」

 

「あんたの夕飯の取り置きが飛び散ったのをたまたま口にしてなんとか現実に戻ったのよ」

 

「あ~なんかそんな感じだったな……ん、待てよ?もしかしてオレって夕飯なしか?」

 

「うむ!アメッカとベルベットが見事にひっくり返したぞ!」

 

「嘘だろ、おい」

 

 結果的に夕飯を食べれなくなったことにショックを受けるゴンベエ。

 ぐ〜とお腹が鳴っている音が聞こえてきてさっきまで夕飯を頂いていた身なので気まずくなってしまう。

 

「一食ぐらい飯を抜きにしても人は早々に死なない」

 

「元から食わなくてもいい奴には言われたくはねえ」

 

「それよりもお前……ずっとバイオリンを弾いていたのか?」

 

 夢の話は終わり、今度はゴンベエの話をする。

 私達がアレコレしている間にゴンベエは動かずにバイオリンの練習をしていた。

 

「一曲ぐらい弾かなきゃいけない空気だろう」

 

「そんな物はいらないわ」

 

「そういうな……お前、今結構メンタルがボロボロだろう」

 

 ついさっきまで自分が望む夢を見ていたベルベット。

 見ていたものが全て夢だったと受け入れてはいるが、さっきあったことに遺恨の様なものが残ってはいないと言えば嘘になる。

 

「1分半だけの演奏だ、時間は取らせない」

 

「……早くしなさいよ」

 

 なんだかんだ言いながらもベルベットは聞く耳を持ってくれた。

 聞いてくれると分かるとゴンベエは真面目な顔をしてバイオリンを演奏する。今までとは違う短めの単調な曲とは違う時間にして約1分半に及ぶ曲を演奏する。ベルベットは目を閉じ、ゴンベエの演奏を聞き取る。

 

「素敵な曲だ……」

 

 わざわざ練習していただけあってその曲はとても美しい。

 詩人ではないが音楽に心が動かされるのはこういうことかと魅了される……いったい、なんという曲だろうか?

 

「……終わったわね。早く、船に戻るわよ」

 

「もう少し音楽に浸ってはどうだ?」

 

「そんな事をしている暇はないわ」

 

「いや、これでいいんだよ……ベルベットは元に戻った」

 

 私達が曲に魅了されている中で感想を一切言わないベルベット。次に行こうという冷たさを見せるのだがゴンベエはこれでいいと満足した顔をしている。何時も通りのベルベットがいいのか……。

 

「さてと、とっとと喰魔を連れて──」

 

「古文書が無い!?」

 

 目的は果たした。

 早くベンウィック達のところに戻ろうとするとライフィセットは大きな声を上げる。

 

「なに言ってんだ、さっきまでいたのは夢の世界でそこで手に入れた古文書は夢の世界の物、現実に戻れば無くなるのは当然だろうが」

 

「いえ……待ちなさい。確かあの本は……私の家に行くわよ!」

 

 またまた走り出すベルベット。

 

「どういうことだ、説明をしてくれ」

 

 一先ずは追いかけながら、事情を聞く。

 

「あのカノヌシが書かれた古文書、私の記憶が間違いじゃなければ家にあった物よ!」

 

「家に……だが」

 

「今までのが全部夢だったら私が村の奴等を殺した後、聖寮がオルトロスを閉じ込めただけならある筈よ!」

 

「あの本、カノヌシの事が最後まで書かれていた」

 

「なら急ぐぞ……この質の悪い夢を見させた奴が……メルキオルのジジイに回収される前に!」

 

 喰魔の回収を終えて一息つく暇もなく、私達はベルベットの家に向かっては全力疾走をする。




スキット ネタバレ厳禁

ゴンベエ「よっこいしょっと」

エレノア「なんですかその紙の束は?」

ゴンベエ「今まで描いてきた紙芝居だよ」

ベルベット「箱一杯に、あんたこんなに描いてたって……暇なの?」

ゴンベエ「オレはこれで生計を立ててるんだよ!」

エレノア「貴方が……紙芝居屋……」

ゴンベエ「おい、なんでそこで苦い顔をしてる」

ベルベット「あんたがそういう風に生活しているとは思えないのよ……アメッカ、ちょうどよかった。こいつ本当に紙芝居で生計を立ててたの?」

アリーシャ「随分といきなりだな。ゴンベエは紙芝居屋と雑貨品を売って生計を立てていると前に言ったじゃないか」

ベルベット「想像しにくいのよ……にしてもこんなにあったのね」

ゴンベエ「約1年もの間、紙芝居屋をしていたからな」

エレノア「何故今になって持ってきたのですか?」

ゴンベエ「……お前等が前回書いた紙芝居をモアナ達には見せられないってボツにしたからだ……ダメだダメだと言いながらも最後まで見やがって」

エレノア「あれはもう子供向けの話ではありません」

ゴンベエ「物語を通じて子供を成長させる情操教育を知らないのか?」

ベルベット「明らかに子供向けじゃないでしょう……で、それをモアナ達に見せるつもり?」

ゴンベエ「今から新しいのを作るんだったら既存の話をしようと思って……」

エレノア「この数を審査するとなると、かなりの時間が掛かりますね」

ベルベット「そんな暇はないわ……どういう話かざっくり教えなさい」

ゴンベエ「お前等に一回通さないといけないのは確定なんだな」

ベルベット「なにか言った?」

ゴンベエ「いえ、なんでも……出来ればお手柔らかに」

ベルベット「考えておくわ」

ゴンベエ「それ考えておくだけじゃないですかやだぁ!」

ベルベット「喧しい……で、これはなんの話?」

アリーシャ「それは世界で一つしか無い物を集める盗賊団とそれを守る防衛隊の戦いを描いた物語で、後半に出てくる主人公の兄の力と記憶を受け継いだゴーレムが出て来て、実はそのゴーレムは主人公の兄の記憶を受け継いだのではなく兄を殺して人格と力を奪ったという展開がなんともダークだがそこがまた面白い物語で、オススメだ」

ベルベット「……これは?」

アリーシャ「これは52枚の魔法のカードを一人の少女が集める物語で、実は父親が魔法のカードを作った人の生まれ変わりだったり、ライバルになった男の子の霊能力者が少女に恋をする冒険活劇でどんな願いでも叶える店の作品と記憶喪失になったお姫様を救う為に色々な世界を巡る作品と世界観が繋がっていて実はそっちの方を見ないと語られない様々な事がある。憂鬱な展開はないからオススメだ」

エレノア「ええっと、じゃあこっちは?」

アリーシャ「こっちは古の秘宝を手に入れた主人公が悪行を重ねている人にデスゲームを仕掛けるもので、実は古の秘宝に古代の王の魂が宿っていて最終回には本来の人格と古代の王が戦って、死んでいる人間は生きてはいけないとゲームの中で宣告されるんだがここに至るまでの展開が熱くてオススメだ」

ゴンベエ「おい……ネタバレしてんじゃねえよ!」

アリーシャ「え、あ……すまない」

エレノア「どれもこれも面白そうな話ですが、そうもネタバレをされると見る気が失せますよ……あ、これは」

アリーシャ「それは御伽噺の住人が暴走して」

ベルベット「それ以上言うんじゃないの!」

エレノア「ネタバレは最もやってはいけない事ですよ!」

ゴンベエ「お前等、なんだかんだで全部見る気なんだな……」


ゴンベエが弾いたのは仮面ライダーキバの紅音也のテーマです。(音也のエチュードではありません)


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美しくも醜い花

いやぁ、オリンピックでスレイのテーマが流れるとは思いもしなかった


「寂れている……」

 

 ベルベットに続く様に後を追い掛けてアバルの村に戻ると寂れていた。

 数年間、人の手が加わっていないのがよく分かる。蜘蛛の巣とか普通に家にあるからな

 

「無い……あの本だけ無いわ」

 

 ベルベットの家に足を運び、本棚を漁る。

 オレはこの国の文字が読めないので傍観しているのだが、どうやらカノヌシの事が書かれた本だけは抜かれているようだ。

 

「あのオルトロスをここに配置した際に回収したんじゃねえの?」

 

「でも、それだったら夢の世界にあるのはおかしいよ」

 

 いや、夢だからなんでもありだろう。

 ライフィセットは真剣に本棚以外を探してはみるものの一向に見つからず、全員が協力して家中を全部探すのだが出てこなかった。

 やっぱりあのオルトロスを配置した時に回収していた可能性が高いな……。

 

「無い……」

 

「当然か……奴が見落とす筈は無いわ」

 

 元から無くて当然な物だがカノヌシに繋がる大事な物。

 無かった時のショックは大きくライフィセットはしょんぼりとしている。気にするなとは言いたいが、カノヌシの事がハッキリと分かる大事な代物だったので簡単に言ってはいけない……どうしたものか。

 カノヌシって一応は神仏の類でこの世界で重要な役割をしているからぶっ殺すことが出来ないんだよな。どれだけ強いかは知らねえけど、転生特典とか無しでもアルトリウスを相手に片手間で倒せるぐらいには強いから大丈夫とは思うけど。

 

 色々と探してはみるものの弟のラフィが書いた地図や読んでいた本、ベルベットの網掛けのセーター等が見つかって色々とベルベットが感傷に浸りはしたものの目当ての物は一向に見つからない。

 

「ごめん……僕が見失っていなかったら」

 

「お前が手にしていたのは夢の世界の物だから仕方ない」

 

 そう、これは仕方がないことだ。

 ライフィセットになんで見てはいなかったんだと攻めることは出来ない。何もせずに傍観者に徹していたのならば尚更だ。

 

「……お墓?」

 

 オレの言葉で気を取り直すライフィセット。

 ベルベットの家を出ると直ぐ側にお墓があることに気付く……誰のお墓かはなんとなく予測が出来る。

 

「このお墓はね、私の姉さんと姉さんのお腹にいた生まれる筈だった甥っ子のお墓なのよ。業魔に殺されたわ」

 

「業魔に?アルトリウスは側には居なかったのか?」

 

 アルトリウスとベルベットの関係は義兄妹。ベルベットの姉と婚姻関係に当たる。

 姉が妊娠していてピンチならば普通は夫であるアルトリウスが側に居るはずだが……

 

「その時は偶然に居なかったのよ」

 

「偶然にね……」

 

 妊娠をしていたのならば身動きはまともに取れない。人里離れた特徴の無いのどかな村で、アルトリウスが側に居るのならば憑魔ぐらいはどうにか出来るはず……いや、これ以上は考えるのはやめておこう。

 

「折角だから墓参りをしておこうぜ」

 

 もうこの人の知るベルベットは何処にもいない。だが、それでも挨拶ぐらいはしておかないとバチが当たる。

 この国の正しい墓参りは知らないが、地獄で墓参りはどうするか教わったのでそのやり方でさせてもらう……本当だったら、オレは墓参りをする側じゃなくてされる側なんだよな。

 

「そう、ね」

 

 何時もならばそんな事をしている場合じゃないとベルベットは言うけれど、今回は乗り気だ。

 と言うよりはどうすればいいのか戸惑っている感じで……これまた時間が必要な雰囲気を醸し出している。

 

「僕、お墓に添える花を摘んでくる」

 

「あ、じゃあ菊の花にしてくれ」

 

 チューリップとかそういうのじゃなくて墓参りには菊の花が定番だ。

 ライフィセットが花を摘んでくるのならばオレはありがたいお経を──っ!

 

「食すために」

 

「デラックスボンバー!」

 

「ぬぅ!」

 

 なに、避けただと!

 何処からともなく現れたクソジジイもといメルキオルに向かって開幕ぶっぱのデラボンを撃ったのだが、真横に避けられる。

 放てば確実に決まるというのに遂に避けられるとは……相手もそれだけ学習をしてくるというわけか。

 

「貴様は相変わらずだな」

 

「お前とオレ達は敵で、お前にだけなにか特別な理由は無いだろ?」

 

 話を聞こうとしないオレに呆れるメルキオル。

 こいつだけは違う。シグレはロクロウが、アルトリウスはベルベットが殺る予定だが、こいつにはなんの縛りもない。傍観者に徹してはいるがムカつく存在には変わりはないので一発お見舞いしてやろうと思ったのに……っち。

 

「テメエ、今何を言おうとした?」

 

「食すために摘むのならばまだしもなんの関係も無い花を添える為だけに摘むとはな、生贄にすらならない無駄で残酷な行為だ」

 

「……また随分とくだらない話をしたもんだな」

 

 オレ達の行為を見て呆れてはいるがオレからすればこのジジイの言っている事の方が呆れてものも言えない。

 

「確かに無関係な花を摘むのは残酷だ。それを行う人間は阿呆だが、花とて残酷で愚かな存在だ」

 

「ほぅ、何故そう言える?」

 

「決まっているだろう。花だって土から栄養を奪っている存在だからだ」

 

 綺麗で美しいかもしれない花だがそのあり方は醜いものだ。

 土にある栄養や水分を奪って成長していき花を咲かせる。美しいものの裏では醜いことが繰り広げられている。

 

「なにかを得るにはなにかを失い、弱き者が虐げられ強き者が愉悦に走り、この世には正すことの出来ない理不尽に溢れている」

 

 世の中本当に理不尽だらけだ。

 オレなんてブレーキとアクセルを間違えたジジイに殺されたんだから、本当にクソみたいだ。

 

「その理不尽を正すべく我々が居るのだ」

 

「その為に少数の人間に犠牲になってもらうだろ……それじゃあ今までとやっていることは変わりはねえ」

 

 ただ犠牲の数が少ないだけで、犠牲者が出ている。

 世界を救うだなんだと言っている組織が無理だとしても犠牲を出さないでもらいたいもんだ……まぁ、無理だろうけど。

 

「相変わらずじゃのう……」

 

「くだらないせっぱさもそんは置いといて、今更なんの用事だ?今回の一連の騒動の犯人さんよ」

 

 禅問答はするつもりはない。

 今回ベルベットに達の悪い夢を見せたのはこのクソジジイで、ベルベットに夢が見破られたのならばもう用事は済んでいる。

 

「なに、よくあの術をお前の助力無しで抜け出したとな……喰魔でなければ我が後継者にしたいところだ」

 

「冗談は顔だけにしなさい……わざわざ褒めに来たの?」

 

「そうだ。この本を回収しに来たついでにな」

 

「!」

 

 本をこれでもかと見せつけるメルキオルのクソジジイ。

 それこそがオレ達が探していたカノヌシに関する本で……どうやら先回りして回収をされていた。

 

「返してもらうわよ」

 

「これはアルトリウスの師で我が友である先代筆頭対魔士が記した。身を捨てて世を憂いた高潔な魂が残した希望だ。穢れた業魔が触れていいものではない」

 

「ふざけるな!ベルベットがこうなったのも全てアルトリウスが弟のラフィを殺して村を滅ぼしたからだろう!」

 

「アメッカ……」

 

 メルキオルのクソジジイの物言いにキレるアリーシャ。それもそうだ。

 ついさっきまでベルベットの本来の姿を見ていて、それを世界と引き換えにアルトリウスが奪った。ベルベットが穢れた原因は大本を辿ればアルトリウスが原因でベルベット自身は本当は心優しい女性だ。

 

「なにも知らぬ部外者の小娘が」

 

「確かに私はなにも知らないしベルベットの痛みを本当に理解できない小娘かもしれない……だが、それでも見てみぬ振りは出来ない!」

 

「アメッカ、お前がどうこう出来る相手じゃ」

 

「いや、出来る!」

 

 この場で一番弱いアリーシャだが今はカッとなっている。

 アリーシャの為に作られた槍は普段はうんともすんとも言わないが、こういう時には必ずと言って力を貸し与えている。

 現に今も紫色に怪しく光る槍はアリーシャを包んでおりアリーシャに力を与えている。メルキオルに届きうる一撃だろう。

 

千峰塵(ちほうじん)

 

 秋沙雨という技と似たような技で高速で何度も何度も突こうとするアリーシャ。

 突く度に炎、水、風、闇と色々な属性を纏っており、あれならばメルキオルにダメージを与える。

 

「っな!?」

 

「どっから出てきた!」

 

 そう思っていた矢先、何処からともなく現れた化物もとい憑魔。

 メルキオルを庇う様に現れて槍の棒の部分を掴んでアリーシャの攻撃を防いだ。

 

「……お前、まさか」

 

「ほう、珍しく従ったな」

 

「一筋縄じゃいかないか……ここで殺してやろうか?」

 

 伊達に歳は食ってはいない。万が一に備えている。

 いい加減、このクソジジイには飽き飽きしている。傍観者を気取っているのもいいが、一発ぐらいはお見舞いしてやりたい気持ちがある。

 

「そう焦らずとも間もなく我々の秩序が完成する」

 

「ふざけるな。人の意思を無くしてなんの秩序だ、意思があってその思いが混ざり一つの方向に固まるのが秩序でお前等のは圧政だ」

 

 こいつらがやろうとしていることはなんとなく知っている。

 人が人らしく生きていくことのできない世界になんの秩序がある。それじゃあロボットとなにも変わらない。

 

「貴様、何処まで知っている!」

 

 オレの言葉に反応するクソジジイ。

 やっぱりオレの予想通りの事を企んでいる。ホントロクでもないジジイだ。

 

「大体は知っている……お前達の負けで終わるってこともな」

 

「ゴンベエ、それは……」

 

「お前は黙っとけ」

 

 メタい話をすればこいつらは負けて歴史の闇に葬られる存在だ。だったらここでカマを掛けてやるのも1つの手だ。

 

「対魔士達から意思を抑制されている聖隷を解放するといい穢れを撃ち祓うといい、貴様はここで放置はしておけん」

 

 そう言うと姿を消すメルキオルのクソジジイ。

 一緒に連れていた憑魔までもが姿を消しているからお得意の幻術かなにかだろう。

 

「ゴンベエ」

 

「必要ねえ」

 

 幻術で姿を消しているので真実のみを見通すまことのメガネを渡そうとするライフィセット。

 そんな物はオレには必要はない……んな物が無くても、この程度の相手だったら余裕でどうにかなる。

 

「魔神剣」

 

 金剛の剣を取り出し、片手で持ってアリーシャがやっていた技を真似してなにも無いところに衝撃波を飛ばし

 

「交牙!」

 

 その衝撃波を出す剣を相手を直接切る。

 なにも無いところに向かって斬り込んだオレの剣はなにか斬ったという感覚を得ており、なにもないところから大量の血液が流れ落ちる。

 

「貴様、何故……その虫眼鏡を通していないというのに」

 

「ぐぉおおおう」

 

「お前はやらねえよ」

 

 腕を斬られた事で姿を表したメルキオルのクソジジイ。

 オレの背後にはメルキオルのクソジジイが用意した憑魔が殴りかかってきたが、こいつには用事がねえからヒラリと回避する。

 

「テメエ等、常に自分達が上位にいる存在だと思っているがそれこそ大間違いだ……オレはその気になればテメエ等なんぞ殺せるんだよ」

 

 クワッと目を見開いて傷口を治すメルキオル。

 完全に自分達が優位に立っていると思っているので一応の忠告はしておく。ヘルダルフといいこのジジイと言い、どうして自分達が有利だと思っている。言っとくがオレは転生者の中でも上位に位置する実力を持っているんだ。現地の人間なんぞ片手間で倒せる。

 

「見届ける者として見届けているがムカついているだけじゃねえんだ、よぉ!」

 

 あくまでオレはこの時代の人間じゃない。ある程度の理不尽は受け入れているがそれでもなにも思わないわけじゃない。

 コイツを今ここで殺すことは可能だが、それは何時でも可能で今やるべきはそれじゃない。

 

「コイツはいただいて……あ!」

 

「貴様!なんということを」

 

「るせえ、オレだって予想外だ!」

 

 余計な一撃を加えてしまったのが仇となった。

 メルキオルのジジイから噴出している血液が本にベッタリとついてしまいページが赤く染まっている。

 

「血で濡れていようが、手に入れた物が勝ちだ」

 

 この本を奪われるわけにはいかない。

 直ぐにメルキオルとメルキオルが従えている憑魔と距離を取るとメルキオルのクソジジイはオレを睨みつけるがなにもしてこない。文字通り手痛い目にあっておりこれ以上なにかをすればオレに殺されると思いまたまた透明化する……いや、違う。転移だ。

 

「我等が希望、草花の如く美しい秩序の完成を見ておくがいい」

 

「笑わせるな!花は美しいがそれと同時に醜いものだ……お前達がやろうとしているのはそれ以下だ」

 

 人が人らしく生きれない抑制する世界なんぞ自己満足(エゴ)でしかない。

 痛みもあって喜びもあってこその人間……ただ野に咲く花のようになっていては家畜以下に墜ちる。

 

「ったく……」

 

「落ち着きなさいよ」

 

「あ〜……すまん。色々とムカつく事を言いまくってたし、お前に酷い事をしたから、ついな」

 

 メルキオルのクソジジイが去って少しだけ頭が冷えた。

 氷のような冷静さを持っていなければならないのについカッとしてしまった。老害を見るとついついカッとなってしまうのはオレの悪い癖だ……オレを殺したのがブレーキとアクセルを踏み間違えた老害だからだろう。

 

「別に、私の事は気にしなくていいわよ……あんたは私の命令通りに動けばいいわ」

 

「そうは言うがな……オレだって怒りたい気持ちはあるんだ。お前やお前の弟が犠牲になって世界は比較的増しな方向に向かっていっている。少ない犠牲で多くの人を救うのは救世主の役目かもしれんけど……こんなのを見せられてなにも思わないほどオレは冷徹じゃない」

 

 基本的には周りの事とかどうでもいいとは思ってはいるが、なにも思わないわけじゃない。

 こんな事をしないと救えない理不尽な世界は嫌いだと思うし、心の中で悲しんだり泣いているベルベットを見捨てられない。

 

「……これは私の戦いよ。あんたがそんなことを思わなくていいわ」

 

「部外者なのは分かっているっと……悪いな……ライフィセット、読めるか?」

 

 メルキオルのクソジジイが完全に去ったのでとりあえずは謝る。

 本のページが血の色に染まっており、中身も血が染み付いてはいるが読めなくはない。

 

「……大事なページが血に染まってる」

 

「アイゼン、なんかこう、血を抜く天族の術的なの無いか?」

 

「そんなのはない……お前の方こそそういう技術は無いのか」

 

「無理だな」

 

 しかしやべえな。折角手に入れた本が血で染まってしまっている。

 

「……無いものはしょうがないわ。喰魔を回収した以上はここに要は無いわ。行くわよ」

 

「あ、はい……すみません」

 

「……ん?これはなんだ?」

 

 申し訳無い気持ちになっていると村のベンチになにか置かれている事にアリーシャは気付く。

 なにかと目を向けると本で、カノヌシの事が描かれており、その事に気付いたライフィセットはアリーシャから本を取る。

 

「これ、カノヌシの本だよ!」

 

「あ、これってもう一冊あったのか?」

 

 ペラペラと本のページを捲るライフィセット。

 オレの持っている血に染まった本と同じことが書かれており、王都の離宮でパクってきた古文書の事を考えるともう一冊あってもおかしくはない。

 

「違う……」

 

「違うって、これはどう見てもカノヌシの古文書のようだが」

 

「これ、ラフィが書き写した写本よ……あの子、これを売って私に櫛を……」

 

 こんなところで弟が力を貸してくれるとは運命みたいなものを感じるな。

 ライフィセットは続きのページを捲ると最後まで書かれている事を確認して本を閉じる。

 

「よかった……希望はまだ潰えてない」

 

 オレのせいでカノヌシの本が台無しになったらヤバかった。

 カノヌシの古文書を手に入れて喰魔を保護する事に成功したので結果的には今回は得るものが大きかった。とはいえここにこれ以上いればただでさえ精神的に疲れているベルベットの心が癒やされないのでこの場を後にして港に向かう。

 

「……」

 

「どうしたアイゼン……難しそうな顔をして、あの憑魔に心当たりがあるのか?」

 

 来た道を戻る道中、アイゼンは気難しい顔をする。メルキオルに従っていた憑魔を見てなにかを感じていたが知り合いか誰かだろうか?

 

「……何故メルキオルのジジイがここにいた?」

 

「何故って、メルキオルはカノヌシの事が書かれていた古文書を回収しに来たと本人が言っていたじゃないか」

 

 メルキオルがここにいたことを疑問に思うアイゼン。

 メルキオル自身がこの場に居た理由を語ってくれたとアリーシャは言うがそうじゃない。

 

「明らかにメルキオルのジジイはベルベットを待ち構えていた……オレ達が此処に来るのを知っていたからこそあの夢を見せることは出来た……エレノア、お前は」

 

「待ってください。私を疑っているのですか?」

 

「メルキオルのジジイと連絡を取れるのはお前ぐらいだ」

 

 チラリとオレを見るんじゃねえ。しかしアイゼンの疑問は最もだ。

 ベルベット達が何時かは此処にやって来るのは分かっているが、常時あんな術を使えるとは思えない。ベルベット達がやってくると分かったから質の悪い夢を見せて迎え撃つ事が出来る……オレ達の行動は聖寮に筒抜けで、それは非常にまずい。

 残す喰魔も僅かとなっており、聖寮が迎え撃つ事ができて数では劣るオレ達が……あ、でもオレが居るからその辺りの心配は無いのか。

 

「待って、エレノアはそんな事はしないよ!」

 

「そうです……大体、どうやってメルキオル様と連絡を取っているのですか?通信術を私は使えませんので、私達が現地に到着するよりも前に手紙を送って此処に来てくださいと言わなければなりませんよ」

 

 疑われるエレノアは真っ当な正論をぶつける。

 メルキオルや聖寮に情報を流すには手紙ぐらいしかなく、メルキオル達が手紙を使って情報のやり取りをするならばオレ達が地脈点を見つけそこに向かって出発するまでの間に手紙を送って、オレ達が現地に辿り着く前に先回りをしなければならない。

 この時代の他の船はどうなっているかは知らないが、少なくともアイフリード海賊団よりも早く辿り着ける奴等は早々にいない……地脈点を見つけてから約一日ぐらいの間があったが、その間に手紙を届けたとは思えない。

 

「それこそ一瞬で遠くに声を届ける道具が……ゴンベエ!」

 

「待て待て……聖寮があれ等を作れているのならとっくの昔にオレ達は詰んでるだろうし実用化されているだろう」

 

 携帯を作ることが出来ない文明が未発達な国だからこそ、オレにこんな転生特典を与えられている。

 電話の技術があるならば今頃オレ達の人相が世界中にバラ撒かれているはずだ……てか、なんで聖寮は人相書きをしてバラ撒かないんだ?アルトリウスとシグレはベルベットとロクロウの顔をハッキリと知っているのに……まさか、泳がされているのか?

 

「待ってくれ、ゴンベエは無実だ……確かに税金は未納で脱税をしていたが」

 

「おいそれ今言うことか」

 

 明らかに狙って言ってるんじゃねえよ。保険とか適用しなさそうだし、首都に住んでいないからセーフだと払っていなかったからな。

 

「皆、誰かを疑うのはやめようよ……ここまで一緒に旅をしてきた仲間達でしょ!」

 

「……」

 

 おい、そこで黙りするんじゃない……だけど、アイゼンが疑うのは無理もない。明らかに情報が流れているのは確かだ。

 

「裏切り者が誰かよりも裏切り者がいても問題が無いようにしようよ」

 

「……そうだな。すまん、疑ってしまって」

 

「いえ……状況的に考えて疑うのは当然の事です」

 

 なんか凄くギクシャクしながらも、オレ達は来た道を戻っていく。




スキット 変態喪女(紳士淑女)の嗜み

???「さぁさぁ、やって参りましたサブイベント!なんだかシリアスな空気が続いていますね、アリーシャさん!」

アリーシャ「え、あの、私はアメッカでアリーシャという人間では」

???「え?貴女はアリーシャ……おっと、それは本来の時間軸でしたね」

アリーシャ「?」

???「皆さん、なんだか暗そうな表情をしていますが大丈夫ですか?」

アリーシャ「夢とはいえあんな物を見せられて心の傷を的確に抉られたとなれば暗くなってしまう」

???「そうですね……心の傷と言うのは体の傷と違って癒やしにくいですからね」

アリーシャ「それは分かっている……だが、あの暗い表情のベルベットは見ていられない」

???「ならばパーッとしましょう!」

アリーシャ「パーッと?」

???「肩に重いものがついているんですから少しぐらいは羽根を伸ばさないと……あ、でもおっぱいは取り外しが出来ませんね」

アリーシャ「なにを言っているんだ!?」

???「おっぱいの話に決まっているじゃないですか。なんですかあの谷間は!名刺かチ□コ挟むのに使うんですか!」

アリーシャ「ちん……っ……」

???「まぁ、顔を真っ赤にして恥ずかしがって……貴女のおっぱいは飾りなんですか!」

アリーシャ「揉まないでくれ!……それよりもパーッとか……ベルベットは騒がしいのが好きじゃなさそうだし、どうすれば」

???「騒ぐのがパーっとすることじゃありませんよ。ゆっくりとリラクゼーションするのもパーっとすることの1つです」

アリーシャ「ゆっくりと……ゴンベエに演奏は、してもらったばかりだし……」

???「買い物とか髪を切ったりとか服を変えたりとか気分転換は色々とありますよ」

アリーシャ「そういう手もあるのか……」

???「ということで次回はデート導入回です」

アリーシャ「……!?」

???「次回、姫騎士アリーシャと導かれし愚者達その4前編……さぁ、貴女の真のヒロイン力が今試されます!」

アリーシャ「私の、ヒロイン力が……」

???「あ、それは次の次でした」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その4(前編)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。


 色々とギクシャクしながらもなんだかんで戻ってきたタリエシンの港。

 なんだか来た時と雰囲気が違っている……気のせいだろうか。

 

「いやぁ、今日も良い天気だ……って、3ヶ月も同じことを言い続けてるよ」

 

「え!?数日前から深い霧が発生していると」

 

「いやいや、霧なんてこの数年一度も発生してないよ。それよりも良い天気過ぎてこっちが干からびそうになっちゃうよ」

 

「……おいおいこれってまさか」

 

「そのまさかでしょうね」

 

 ベルベットが夢から脱出した際に深い霧の様なものが発生していた。

 思い返せば此処に来た時も深い霧が発生していた……最初はアイゼンの何時もの死神の呪いが発動をしたと思っていたが、どうやらそこからハメられていた様だ……全く用心深いにも程がある。

 

「ちょっと街を調べてみないか?」

 

 最初に此処に来ていた時に見せられたのが幻ならば真実がどうなっているのか気になる。

 遊んでいる暇は無いのかもしれないが、真実と照らし合わせることも大切でベルベットはあっさりと許可を出したので辺りについて聞いて回るとやはりと言うべきかアルトリウスを称えると同時にアバルが滅んでしまったことを悲しんだり残念がっている人達が大勢居た。

 

「……」

 

 それを聞いたベルベットは段々暗い表情になっていく。的確に心の傷を抉っていっている。

 気難しい顔をしている様に見えて笑顔が曇っていくベルベット……なんとかして元気付けたいものだがどんな言葉を送ればいいのか分かりやしねえ。オレって戦闘しか得意な事がねえから……いや、まじで。

 

「こうなったらマギルゥと一緒に漫才で──ぬぅお!」

 

 マギルゥを使って笑わせようと企むのだが、それを拒むかの様に地震が巻き起こる。

 あまりにも予想外の地震だったが、なんとかコケない様に耐えるのだが、ベルベットがコケそうになるので受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

「別に……これぐらいなんとも無いわ……それよりもこの地震」

 

「地震……あ!」

 

 まさかコレってティル・ナ・ノーグとかいうやつなのか?

 今回は愚っさんの時みたいにオレが飛ばされていないから何処かに黛さんも居るんだろうか?

 

「あ、仏が出てきた」

 

「何処だ?何処に仏が」

 

 相変わらず仏を見ることが出来ないアリーシャ。

 メガネかなにかを通して見ることが出来ないのでなにか無いかと探してみるが使えそうなものはない。

 

「ならコレを被れば見えるはずじゃぞ」

 

「いやこれ、ナーヴギアじゃねえか」

 

 何時かの日に手に入れたナーヴギアをアリーシャに装備するマギルゥ。

 こんな危険な物を被せてどうすんだ?既にデスゲームみたいなことになってんけども。

 

「み、見えた!……ん?」

 

「俺達に気付いてないみたいだな……なにやってんだ?」

 

 空中に浮かび出る仏。オレ達の方向を向いてはいるものの、オレ達の事には一切気付いていない。

 なにかをやっている事はロクロウも分かるのだがなにをやっているか詳細は分からず、取り敢えずは見てみること。

 

『しゃあ!オラァ!スリーセブンだ!』

 

 ガッツポーズを取って喜んでいる仏。

 手にはニンテンドー64のコントローラーが握られており、確実に遊んでいる。

 

『コイン50枚ゲットで1位だ……取り敢えずアイテム袋購入しとこ……嘘!なんで3つともキーマンなの!?』

 

「おいこら、仏。マリパ3で遊んでんじゃねえよ!」

 

 アイテム袋からのトリプルキーマンで分かった。

 この野郎、マリオパーティ3で遊んでやがる。多分だが見えないところで別の仏達と遊んでるだろう。アイテム袋を購入して全部キーマンとか呪われてるだろう。

 オレがキレ気味に叫んだことにより、オレ達の存在に気付いて何度も何度もこちらの方を見てくる。しかし前回もこんなグダグダな感じだったのか馴れている仏は慌てる事はしない。

 

『ちょっと待っとけ。今、毎ターンセーブに変えたから、このターン終わったらって、おい嘘だろ!?なんで64倍が当たるんだよ!』

 

「どの仏だか知んねえけど、ヘイホーのカジノをやってんじゃねえよ!こっちの方を見やがれ!」

 

『るせえ!こっちはコインスターを逃したんだよ!なんだよコイン999枚って』

 

「だから遊ぶなつってんだろ!」

 

 こっちを見ろよ、こっちを。

 

「ゴンベエ、先程からなにを言っているのですか?あの仏はなにを」

 

「すごろくで遊んでるんだよ……」

 

 さっきからオレとやっている会話がイマイチ掴めていないエレノア達。

 ざっくりと言えば仏達はマリオパーティ3で遊んでいるがマリオパーティ3と言っても通用しないので適当に説明をしておく。

 

「遊んでるって、今回もなんかあるんでしょ!」

 

『もう、なに?ベルベットちゃん、なにキレてるのよ』

 

「色々とあるんだよ……で、何処だ?」

 

『ああはいはい分かりましたよ……ちょっと待ってろよ。仏が見えないところでチャンスタイムとかすんじゃねえぞ』

 

 マリパ3はいいからさっさと教えやがれ。

 今回の転生者が居場所を尋ねるとタブレットを取り出した……今回誰が来るんだ。

 

『ええっと……あ、まゆゆんは直ぐ側の海で溺れている』

 

「おい!」

 

『大丈夫だって、あいつ泳げるしお前のところの海賊が見つけてるし……で、今回の迷い人は直ぐ近くに居るから』

 

「正確な場所を教えろよ」

 

 すぐ近くって何処だよ。ざっくりとしすぎているだろう。

 仏に細かな詳細を聞きたかったが余程マリオパーティ3の続きをしたいのか仏は姿を消した……あの野郎、最下位で負けやがれ……てかコイン999枚の相手にどうやって逆転すんだ?

 

「仏さん、相変わらずだったね……」

 

「お前、よくあんなのと付き合えるな」

 

「言わんといてくれ」

 

 グダグダな進行に呆れて同情をするライフィセットとアイゼン。

 

「とにかくチヒロの奴は船着き場の方におるようじゃし会いに行くか?」

 

「あ〜まぁ、それが一番だな」

 

 マギルゥの提案を採用し、船着き場に向かおうとするオレ達……だった。

 

「!」

 

「業魔……いや、違う!」

 

 巨大なトランプに手足が生えたディズニーのアリスに出てきそうなトランプの兵士の様な者が現れる。

 スペード、ハート、クローバー、ダイヤのA達でオレ達を囲んでいる……。

 

「試してるのか?いい度胸だ」

 

 憑魔とは明らかに違う手足の生えた謎のトランプ兵。ついさっきメルキオルが去っていったので聖寮からの刺客でない……明らかにオレを狙っている。何処かに隠れている転生者が……理由は不明だ、遊びか試しているか分からないが戦うに限る。

 薄紅色の光の球の様な物を出現させ、トランプ兵に向かって飛ばすと薄紅色の光る球は爆発を起こし、紙で出来ているトランプ兵を燃やし尽くす。

 

「何処のどいつだか知らねえが、オレとやろうってなら本気でやってやるよ」

 

 こいつは面白いことになってきた。この時代では見届ける者がオレの立ち位置だが、今回は違う。本気で潰しにかかっていい。

 オレは金剛の剣を取り出して燃えカスとなっているトランプの兵を斬り裂いてとどめを刺すと周りを見回し警戒心を強めて殺気を高める……いいねえ。ヘルダルフ以降、本気で戦っていないから久々にまともなバトルが出来る。

 

「気をつけろ、敵が何処からやってくるか分からん」

 

 オレの行動を見て、警戒心を高めるアイゼン達。

 何処から来るかわからないと警戒心を強めていると空中から球体型のツギハギだらけの爆弾が出現する。

 

「明鏡止水!」

 

 あれ爆弾ならば火薬で動いている。

 金剛の剣に水を纏わせて爆弾を斬ると中身の火薬が湿気って爆発を起こすことはない。

 

「全員、動くんじゃねえ……相手のレベルがちげえ」

 

 今回の相手は聖寮じゃない、転生者だ。転生者にも色々とあって戦闘タイプの転生者となると血みどろな争いが繰り広げられる未来が待ち構えており、アイゼン達は必然的に足手まといとなる。出来ればオレ一人でどうにか出来るクラスの相手であることは祈るが……。

 

「ギブです、ギブアップです」

 

「……は?」

 

 殺気を高めながら警戒心を強めていると一人の女性が出てきた。

 白旗を出して降参の意思を示しており、先程までオレ達を攻撃してきた転生者はこいつのことだろう。

 

「いやすみません。物凄く強そうだったのでついつい試してみました?」

 

「このアマ……オレがそういうの嫌いなの分かってんのか?」

 

「ええ、勿論知ってます……」

 

「知ってる?」

 

「お姉さん、仏さんが言っていた迷い人なの?」

 

「はい……蛇喰深雪と申します」

 

 ライフィセットの質問に答える女性もとい深雪。

 顔が司波深雪で体が蛇喰夢子というなんともハイスペックな容姿をしている女性で……あ!

 

「お前、あれか。推しの笑顔を正論で曇らせたいと言ってたやつか!」

 

 愚っさんが間違えていたやつか

 

「はい、そうです……お久しぶり、と言えばいいですかニノミヤさん」

 

「……ニノミヤ?」

 

「タイム……My name is not Masataka Ninomiya, but Nanashi no Gombe」

 

「……え!?」

 

 人のことをニノミヤと言ったので英語を用いて訂正をする。

 確かにオレの名前は二宮匡隆が正しいのだろうが、ナナシノ・ゴンベエで通っている。ニノミヤと呼ばれては困る。

 

「Nhưng khuôn mặt của bạn là Masataka Ninomiya, phải không?」

 

「……」

 

 こいつ、人が英語で対話したらベトナム語で返してきやがった。

 オレの容姿が二宮匡隆なのでニノミヤと名乗るのが普通だと深雪が思うのは当然の事だが、こっちにも色々と事情がある……本来の名前が使えないのと二宮匡隆と名乗るのを素で忘れていただけだけど。

 

「Non chiamarmi Ninomiya perché comunque mi chiamo Gombee」

 

「……分かりました、ゴンベエさん」

 

 色々と最低な女ではあるが一応は話の通じる相手である。

 オレの頼みを聞いてくれたのだが何故か汚い笑みを浮かびあげており、油断はできない。

 なにせこの女、冴えない系主人公をからかったり挑発したりする系のヒロインが匙加減を間違えて主人公にブギ切れられて修復不可能な関係になったり、主人公がもっと素直な別のヒロインと付き合い始めて精神的に追い込まれてボロボロになっていくのが見たいとハッキリと言う残念な女だ。

 

「……あんた、別の言葉を喋れたの!?」

 

「喋ろうと思えば喋れる……ズルしてるけど」

 

 英語の成績、そんなに良くないんだよ。転生特典がなければ中の上ぐらいの学力だ。

 外国語を喋ったことにベルベットは驚くのだが、これぐらいならば出来る転生者は多い。

 

「おやおや、こんな美女を連れて彼女かなにかですか?」

 

 ベルベットを見て汚い笑みを浮かびあげる深雪。

 

「かの……いや、違うぞ。ベルベットは一緒に旅をしている仲間だ」

 

「なんでお前が答えるんだ」

 

 露骨なまでの反応を見せるアリーシャ。普通、そこはオレが反応するところだろう。

 

「そうよ。こいつの彼女だなんて……無いわね」

 

「そんな間を開けて言わなくても」

 

「うるさいわね、こいつちょっとでも隙を見せると駄目って私の勘が言ってるのよ」

 

 その通りでございます、ベルベット様。

 深雪が危険な存在だと本能的に察しており、オレとはそういう関係ではないとキッパリと否定をする……若干だけ傷つくぞ。

 

「そうですか……お似合いだと思いますのに、残念です」

 

「何処がよ……こいつはあくまでも私の下僕で、男として見てないわ」

 

「ええ、カッコいいじゃありませんか!」

 

 おい、煽るんじゃない。

 汚い笑みを浮かべてニヤついている深雪は明らかにロクでもない事を企んでいる……いったい何を企んでいるんだ?

 ヤバいな。こいつ相手だと本当にロクでもない未来が待ち構えている。

 

「じゃあ、逆に聞きますけどどういうタイプが好みなんですか?」

 

「別にどういうタイプかなんて無いわ……強いて言うならば好きになった人がタイプよ」

 

「つまり私にもワンチャンスあるというわけですね!」

 

「なんでよ!あんた何処からどう見ても女でしょ!」

 

「愛に性別も年齢も関係ありませんよ」

 

「ちょっと、こいつ大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だ。レズではない……変態だけど」

 

 超のつく程の色々と手遅れなド変態であることには変わりはない。

 こいつともう一人色々とやべえ奴はいるが悪人でないことは確かだと言える……どうしようのないぐらいに変態だけど。

 

「失礼ですね、私が変態というのならばこの人だって立派な変態じゃありませんか!」

 

「誰が変態よ!」

 

「そんな下乳丸出しの痴女みたいな格好の人を変態と言わないで誰を変態というのですか!周りを見てください、貴方以外はまともな格好をしているじゃありませんか!」

 

 ぐうの音も出ないまともな正論をぶつけるんじゃない。

 ベルベットの格好を指摘すると全員が目線を合わせようとしない……。

 

「大丈夫だ。ベルベットの格好は皆の心の保養になってる」

 

「あんたは、何処を見ていってる!」

 

「へちま!?」

 

 っく、相変わらずいい拳をしてやがる……全然ダメージになってないけども。

 

「見てくださいよ、この淫乱な下乳を。これで世の男を誑かしているんですよ……あ、温かいですね」

 

「お前はなにベルベットの谷間に手を突っ込んでるんだ!羨ましいぞ!」

 

「死ね!」

 

 あ、っちょ、刃物はアカンよ。

 ベルベットに攻撃をされるがオレ達は綺麗に全ての攻撃を避ける……いや本当に危ないって。

 

「待て、ベルベット。ミユキの言っていることには一理ある!」

 

「何処がよ!」

 

「その格好がだ……その、胸をボロンと出した格好は目に毒だ……」

 

 攻撃を避け続けるとアリーシャから救いの手が入る。

 深雪が言っていることは一応は間違いでない。乳と太ももを兼ね備えたそのドスケベな格好は本当に目の毒であり、ご褒美でもある。

 

「あの、私もアメッカと同じ意見です……下なんて殆ど履いてないも同然じゃないですか!」

 

「……別にいいでしょう。これが動きやすいんだから」

 

 あ、開き直った。

 

「駄目ですよ!うら若き乙女がそんな格好をしていてわ……もう少しオシャレに気を使わないと」

 

「そうだ。容姿には物凄く恵まれているんだから、ちょっとぐらいはオシャレしてもバチは当たらないぞ」

 

「あんた、本当にどの口が言うのよ」

 

「ゴンベエさんは上の口でしか喋っていないじゃありませんか!」

 

「口は上にしかないでしょう!」

 

「なにを仰るのですか!男性には2つ、女性には4つの口があるのです!」

 

 お前、本当になにを言い出すんだ。

 あまりにも突然の事に意味を理解したベルベット達は顔を真っ赤にしており、深雪はウフフと微笑んでいるのが恐ろしい。

 

「もう1つの口って、何処にあるんだろう」

 

「お前にはまだ早い!」

 

 ライフィセットはもう1つの口について疑問を思うがまだ早い。

 相変わらず下ネタが多い……。

 

「ちょうどいいです、コレを機に服装を変えてみてはどうでしょうか?」

 

 話題は何時の間にかベルベットの服装に変わる。

 本当に今更だが、ベルベットの新しい衣装を買いに行く……まぁ、ベルベットは絶世の美女だからなにを着ても似合うだろうな。

 

「……分かったわよ」

 

 何時もならばそんな暇はないだどうだ色々と言うが、今回はベルベットの服装をああだこうだ言っているので言わない。

 自分の服装を改めて見てみるとなんとも言えないスケベな格好をしており、じっくりと考える。

 

「そういえば、何時だったか服を買いに行く約束をしていたわね。コイツが元の世界に帰るまで、次に進めそうにないし、服を買いに行くわよ」

 

「あ〜なんかそんな事を言ってたな」

 

 ビエンフーが最終的にシバかれるオチで終わったからあんまり覚えてない。

 

「!」

 

「まぁ、デートをするのですか!お熱いですねぇ」

 

「デートじゃないわ。こいつには荷物持ちで連れて行くだけよ……まぁ、ジュースぐらいは奢ってあげるわ」

 

「え、違うのですか?」

 

 この女、本当にわざとらしいぞ。

 分かっていることを敢えて堂々と言っている……いやでもまぁ、デートになっちゃいけないんだよな……。

 

「こいつは体の良いパシリで私が主、そこは変わりはないわ」

 

「……ゴンベエさん、残念ですね。ベルベットさんは物凄い美女で最高の女性なのに……縁なしですね」

 

 おいこら、ほくそ笑むな……ベルベットと縁がある様に見えて、何時かは元の時代に戻らないといけない。

 ベルベットはこの時代を生きている人間で未来では名前すら残っていない歴史の闇に葬り去られた感じで未来に連れて行くとややこしいことになる……てかそもそもでオレとアリーシャってどういう感じで時間逆行してるんだろう?

 

「ゴンベエさん、これから良い感じの展開があっても騙されてはダメですよ。こういう人は無自覚でとんでもない事をしでかしますから」

 

「んなこと言われなくても分かってるつーの」

 

 ベルベットがデレたらそれはもう凄いのは知っている。というかツンの時点で大分エモかったりする。

 しかしその手の感情がオレに向けられたとしても、断らないといけない……分かっていることだが、こうして改めて言われたりすると真剣に考えてしまう。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 ベルベットに手を握られたオレは市場に向かって連れて行かれる。

 

「あ、ついでに夕飯の材料とかアイテムの補充とかお願いしますね!」

 

 エレノアがそういうとベルベットは分かったと左腕を上げて相槌を打つ。




アリーシャの術技

 千峰塵(ちほうじん)

 説明

 炎、水、闇、氷と様々な属性の力を纏った高速の突き。秋差雨と似ている。


 ゴンベエの術技

 魔神剣 交牙

 説明

 魔神剣の剣圧を飛ばすと同時に魔神剣の剣の太刀を相手に叩き込む連撃の必殺技。
 朝食べて剣を振って昼食べて剣を振るって夜食べて剣を振るう生活を数年してやっと使える魔神剣をゴンベエはアリーシャが使っていたのを見ただけで習得しており、これよりももうワンランク上の陸海空全てを斬る技を使える。

 明鏡止水

 説明

 刀身に水を纏わせてチェーンソーの様に超高速で動かしてウォーターカッターの原理で切り裂く水属性の技。
 深雪の真紅の手品(レッドマジック)真拳奥義【爆薬の魔術】の火薬を湿らせる為に使うべく刀身に纏わせるだけにした。


 蛇喰深雪は作者の書いているワールドトリガーに出てくる蛇喰深雪と同一人物で、ワールドトリガーの世界に転生する結構前の話です。



 アリーシャよ、ヒロイン力は勝負するまでもなかったな(ゲス笑み)

 感想お待ちしております


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その4(中編)

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。


『こちらβ、ベルベットとゴンベエを補足したぞ。どうぞ』

 

「こちらα、私達も補足しました。相手は化物みたいなものなので一切の油断をしないでくださいどうぞ」

 

「いや、どうぞじゃないだろう!?」

 

 ゴンベエとベルベットが買い物に出かけた。

 気分転換を兼ねた買い物で沈んだ気持ちが晴れてスッキリすればいいと思い送り出したのだが、送り出した数十秒後ミユキが追跡を開始した。

 ご丁寧にゴンベエが作った電話を小型化した物をマギルゥに託し、私とミユキ、マギルゥとビエンフーでゴンベエをもコッソリと追跡している。

 

「なんでデートを追跡するんだ……ミユキがどんな世界の住人かは知らないが、ここはそんなに危険じゃないぞ」

 

「いやですね、あの戦闘能力に能力値を全て振り切っている化物が側に居るんですよ……その辺りは一切の心配はしてません」

 

 ゴンベエとは私が出会う前の知り合いで私以上に詳しいミユキ。

 私と出会う前はなにやら幸せになるために強くなる訓練をしていたようだが、その頃からゴンベエは戦いの強さで頭角を表していたようで一切の疑いを持っていない。

 

「そうじゃなくて何故こんなストーキングの様な真似をしているんだ」

 

「アメッカさん……ストーキングの様な真似じゃなくてストーキングです!誤魔化さないでください!」

 

「堂々と言うんじゃない!」

 

 マスク・ド・美人といいなんでこうもゴンベエの知り合いは変人なのだろうか。

 ツッコミを入れて大声を叫ぶとミユキは顔を掴んでニッコリと微笑み口パクをする。

 

 

 ダ・マ・レ

 

 

 笑顔でミユキはそう言ってきたので思わず背筋がゾクリとする。

 今までに見たことも会ったこともない異次元の住人……いや、確かにミユキは異世界からの住人だが、マギルゥ達とはまた違った異質な存在だ。後、変態としか思えない。

 

「どうしてストーキングなんかするんだ」

 

「はぁ……アメッカさん、人のことを言う前に自分の事を見直してくださいよ」

 

「うっ……」

 

 今回のこのストーキング、アイゼンとロクロウとライフィセット男性陣は一切ついてきていない。エレノアも来ていない。

 バンエルティア号に戻って、今頃は同じくこの世界にやって来たチヒロさんと色々と話をしている……私はと言えばミユキについついついてきてしまった。

 

「いや、その……私はだな」

 

「恥ずかしがらず、正直に認めなさい……気になったんですよね。このデートを」

 

「!」

 

 デート……そう、デートだ。

 ベルベットはゴンベエを都合のいい荷物持ちとして連れてはいったものの、何処からどう見てもデートにしか見えない。

 港町で若いカップルがいい感じの服を買いに行くのは誰がどう見てもデートにしか見えず、今も望遠鏡越しで見える一緒に歩いている二人はカップルにしか見えない。

 

「正直になりなさい。気になるのですよね?」

 

「そ、それは……」

 

「黙りですか。困りますよ、生半可な気持ちでデートをストーキングしては。仏様にバチが与えられますよ」

 

 率先してストーキングをしているのになにを言っているのだろうか。

 だがしかし、気にはならないと言えばそれは嘘であり気になったからこうして私はミユキのストーキングに協力をしている。マギルゥ達の別動部隊を認可してしまっている。

 

「……すみません。ゴンベエとベルベットが気になりました」

 

「はぁ……まぁ、及第点としますか」

 

 何をそんなに呆れているんだ?

 何故かミユキはため息を吐いて私に呆れており、その理由を問いただしても教えてはくれない。

 

「しかし……ストーキングをするだけか」

 

 こうやってゴンベエとベルベットをコッソリとストーキングする。

 それはつまり基本的にはゴンベエの事を見ているだけで私達からなにかアクションを起こす様な事はしない。そもそもで買い物をしている2はそれだけのことでありゴンベエが余計な事をしないかと心配をして見守っている母親的な立ち位置なんだ……そうだ。

 

『こちらβ、言われた通りに準備はしましたでフよ』

 

「こちらα。了解しました、隙を見て刺客を放ってください。以上」

 

「刺客、だと!?」

 

 マギルゥとの通信を色々とやっていると思えばなにかとんでもない事になっている。

 刺客……この状況での刺客とはいったいどういう刺客なんだ……。

 

「ご安心ください、理不尽な暴力を振るうつもりはありません。そもそもであの人と殴り合いをしても絶対に勝つことはできませんし」

 

 ミユキは暴力を振るわないと言ってはいるが、嫌な予感しかしない。

 何故かミユキが持っている望遠鏡でベルベット達の様子を確認するが、姿だけしか見えず具体的になにを言っているのか分からない。

 

「これを耳にしてください」

 

 耳につける細い線の様な道具を取り出すミユキ。

 なにかあるのだろうと耳につけると砂嵐の様な音が鳴り響くのだが、直ぐに音は安定してくる。

 

『あ〜腹減った』

 

『あんたお腹空いているの?』

 

『エレノア達はお前の作った夕飯を頂いたけど、オレは丸々一食食ってねえんだよ』

 

『そういえば、あんた食べてなかったわね』

 

「これは……」

 

 私達が耳にしている道具は音を拾いやすくする道具のようでベルベットとゴンベエの声がする。

 だが、ゴンベエもベルベットも通信をする道具を受け取った素振りはない。

 

「ベルベットさんのおっぱいを揉んだ際にコッソリと盗聴器を仕掛けました」

 

「……何故、そんな物を持ち歩いているんだ?」

 

 盗聴というなにやら聞こえの悪い装置。そんな物を何時の間にというか気づかれずに仕込んだのはすごいが、そんな物を日常茶飯事で持ち歩いているとなるとミユキの人間性を思わず疑ってしまう。

 

変態喪女(紳士淑女)の嗜みです……この世界は文明が進んでいないので疑うのは無理は無いですね」

 

「そ、そうなのか!?」

 

「ええ……いついかなる時も準備を怠らないものですよ。っと、私の話はどうでもいいんです」

 

 望遠鏡でゴンベエ達を眺めるミユキ。

 ゴンベエはお腹を触っており、空腹なのをアピールしている。

 

『ついでだからなにか食おうぜ』

 

『食おうって私、味がしないのを知ってるでしょ』

 

『オレが食べさせれば味がするだろう……そこそこ腹減ってるんだよ』

 

『ったく、仕方ないわね』

 

「もう完全にデートですね……刺客放て!」

 

 刺客、刺客と言っているがなんなんだろう。

 ベルベットとゴンベエを相手に奇襲を仕掛けたとしても絶対に勝つイメージしかない……どういう手を使うつもりだ?

 

『やぁ、そこのお姉さん。オレとお茶しない?』

 

「な……ナンパだと!?」

 

 ミユキの指示で放たれた刺客。

 それはベルベットをナンパするちょっとチャラそうな男性で、ベルベットを見事なまでのナンパをしている。

 

『なんなのよ、あんた達』

 

 急にナンパをしてくる男の登場で不機嫌になるベルベット。

 

『そう怒らないで……ああ、でも怒った顔もいいねぇ』

 

『っ……』

 

 嫌悪感を丸出しにしているベルベット。

 ナンパされるといえばエレノアの役割で、今までこういう事をされたことはないので馴れていない。不機嫌になっている。

 

『……おいこら、オレが見えねえのか?』

 

 不機嫌になっているベルベットの前に出るゴンベエ。

 ベルベットの盾とナンパをしてくる男達を退けようとする……。

 

『ええ、そんな男なんて放っておいてお茶でもしようよ』

 

『っ……触らないで!』

 

『おい……なにベルベットに触ってんだよ』

 

 ベルベットに触れて強引なナンパをするチャラい男。

 触れてきたのにさらなる不快感を感じたベルベットは強く拒むのだがチャラい男は諦めようとはしない。流石に強引過ぎる手を使っているのでゴンベエは間に入り、男を強く睨んで軽く威圧する。

 

『っひ!?』

 

 ここからでも分かるゴンベエの圧。

 心身共に鍛えられた人ですら威圧されると言うのに、訓練も何もしていない人がぶつけられたとなると怯えるのは無理もない。ゴンベエの威圧に負けたチャラそうな男は直ぐに退散をしていく。

 

「よし……」

 

「なにがよしなんだ!」

 

「まぁ、見てくださいよ」

 

 ガッツポーズを取っているミユキ。

 ここから何かをするのかと見守っていると、海を見渡す事が出来るオシャレなカフェから店員が出てきてゴンベエ達にお礼を言う。

 

『あの連中を追い払ってくれてありがとうございます!』

 

『別にお礼を言われる程の事じゃねえよ』

 

『そんなご謙遜を……あ、よろしければうちの店でお茶をしていってください。彼女さんも、当店の奢りです』

 

「……ミユキ、何処まで買収済みなんだ?」

 

 まるで小説の様にトントンと話が進んでいく。

 先程のチャラい人達はミユキの指示でマギルゥが用意した人で恐らくはこの店員も店の奢りも全て仕掛けられている。私には先の展開は読めないがミユキは既に何手先も想定しており、この状況を物凄く楽しんでいる。

 

「禁則事項ですのでお教えいただけません……ほらほら、そうこうしている内に色々と展開が動きますよ」

 

『当店自慢のシナモン多めのアップルパイとロイヤルミルクティーです』

 

 何時の間にやら店の座席に着席するゴンベエとベルベット。

 店のオススメの品である二品が並べられると、ゴンベエはフォークで一口パクリと食べると満足げな笑みを浮かび上げる。

 

『それ、美味しいの?』

 

『美味いよっと、お前も食べろよ』

 

『別に私は食べなくていいのよ……知ってるでしょ』

 

『知ってるよ。けど、お前も食べてくれないと食っている気がしねえんだよ。美味しい物の味を忘れて畜生になるんじゃねえよ』

 

『……』

 

「え、待ってください。なんでさも当たり前の如くあーんをしているのですか!?」

 

 一口サイズにベルベットのアップルパイを切って、ベルベットの口に運ぶ。

 私達にとっては既に見馴れた光景だがミユキが見るのは初めてであり、突然の出来事に驚いてしまう。

 

「ああしないとベルベットは味を感じないんだ」

 

「ええ、なんですかその都合のいい話は……まぁ、面白そうだから続きを見ますか」

 

 面白いって、そんな笑い話じゃない……ベルベットが味を感じるためにはああするしかないが、やはりアレは異常だろう。

 本当にどういう原理でベルベットは味を感じているのだろう?私達がやっても誰一人、味がしていないというのに……。

 

『服とエレノアに頼まれた買い物、どっちを先にする?』

 

『服を先にするわ……またナンパをされたらめんどくさいもの』

 

「ところでアレですよね。服を買いに行くだけならデートに見えますが、夕飯の材料を買いに行くとなったらそれはもう同棲とか夫婦手前の関係ですよね」

 

「っ!?」

 

 明らかに、何処からどう見てもデートをしている姿にしか見えないが、ミユキの一言で見える世界が変わった。

 確かに一緒にご飯を食べたり買い物をしたりまでなら彼氏彼女の関係だが夕飯の材料を買って帰るとなればワンランク上の関係に見える。

 

『あんた、なにか食べたい物はある?』

 

『いきなりだな』

 

『ついでよ、ついで。エレノアに夕飯の材料を買ってきてって頼まれたけど、なにを買ってきてって言われなかったから。あんただけ食べてないんでしょ。好きなの作ってあげるわ』

 

「もうバカップルを通り越して熟年のカップルの会話ですね」

 

「やっぱり……」

 

 もう何処からどう見てもデートだ。

 

「ゴンベエ……ダメだ、ダメだぞ」

 

 確かにベルベットは女性として素晴らしい。顔も良くて髪も綺麗で胸も大きく家事も万能だ。何時もムスッとしてはいるものの、本当はとても優しい。好きにならない要素が逆に無いんじゃないかと思える程ベルベットは魅力的だ。

 今もなんだかいい感じの雰囲気を醸し出してはいるが、それはいけないことだ。私とゴンベエは色々と知る為に過去に来ているだけで、何時かは未来に戻らないといけない。ゴンベエの時を超える力がどういう原理なのかは知らないが、ベルベットを連れて帰る事は出来ない。いや、そもそもでベルベットがついてくる筈がない……だがっ。

 

「……うっ……うぅ……」

 

 ゴンベエは私が1人で戦えるようになることを強く願っている。

 今は頼り切りだが、何時かは戦えるようになりたいと私自身強く願っており、そうなったら最後ゴンベエは私の前から去ろうとしている素振りを時折見せている。

 元を正せばゴンベエはレディレイクを出て少ししたところに住んでいる一般人になろうとしている人で、無理に色々と巻き込むわけにはいかない……けど……ゴンベエと離れたくない。

 

「……止めないと……そうだ。ゴンベエは年中同じ格好なんだから服のセンスなんてないし私が」

 

「コラコラ、お姫様にファッションセンスなんて持ってないでしょう……アメッカさん、これでいいのですよ」

 

 ゴンベエを止めるべく、姿を現そうとするとミユキに止められる。

 なにやら深みのある笑みを浮かべていて私に任せてくださいとサムズアップをする。

 

「ところでアメッカさん、その物騒な槍はなんですか?物凄く禍々しいですよ」

 

「この槍か……あ……」

 

 何時の間にか握っていた私の槍。

 ゴンベエが貴重な素材を用いて作ってくれた槍だが、普段はうんともすんとも言わない。カッとなってしまった時に限って私の力になってくれるじゃじゃ馬な槍で、今回は何故か言うことを聞いていて力を漲らせている。

 

「なんでこういう時に限って使えるんだ……」

 

「その槍、使いこなせていないんですか?」

 

「ああ……普段はうんともすんとも言わないのに、どうして……」

 

「成程……ああ、そういうことですか」

 

 私の槍に触れてなにかに気付く。

 この槍を使いこなす為に色々と努力をしてはいるものの、ベルベットの様に十二分に力を扱えていない。一度だけベルベットはどういう風に使っているか聞いてみたが、なんとなくで使っていると言っており、参考にならなかった。

 

「なにか分かったのか?」

 

「……聞きますか?」

 

「この槍を使いこなしたいんだ」

 

 マスク・ド・美人は強靭な魂を持っていれば使えると言っていた。

 ベルベットと私の大きな違いといえば強靭な魂を持っているか持っていないかぐらいで、私は強靭な魂を持ち合わせていない。どうにかして強靭な魂を得るには地獄を歩まなければならないと言っていたが、その為にはゴンベエは殺されかけた。

 

「そうですね……この槍は全てを求めているのです」

 

「全て……どういうことだ?」

 

 私はこの槍を使いこなせる様に全身全霊で挑んでいる。

 危険な力かもしれないがそれを使いこなして正しく力を使おうと思っており、欲望に身を任せないようにしている。

 

「貴女は善人です……秩序・善に分類されている人間ですが、それだと足りないんです!」

 

「足りない、私に足りないものはなんなんだ?」

 

「憎悪、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、色欲、傲慢、苦痛と言った感情です」

 

「なっ……」

 

 私に足りないものを聞いて絶句する。

 私に足りない感情は負の感情で、それは穢れを生み出す原因になるものだ。そんなものが私に足りない……確かにそういった感情は私には無いもの……だが。

 

「驚いていますね……」

 

「そういった感情は強い穢れを生むもので、持ってはいけない」

 

 その手の感情は持ってはいけない良くない感情だ。

 今まで強い穢れを放っていた人達は強い憎悪を抱き、誰かに嫉妬し、憤怒し、怠惰になり、色欲に狂い、あらゆる物に強欲で、自分達こそが絶対だと傲慢な感情を持っていた。

 

「逆ですよ……それもまた人間が持つことが出来る感情の1つなんです。怒りも憎しみも、痛みも全てを含めた上で人間です。貴女はその内の良いところしか見ようとしていない……それはいけないことです。人間とは美しい側面を持つ反面、醜い側面も持っているのです。この槍は貴女にそれを受け入れてほしいんですよ」

 

「だ、だがそういった感情は」

 

 強い穢れを生んでしまう。

 そう言おうとするとミユキの人差し指が私の唇の上に置かれて、喋らないようにさせられる。

 

「貴女だって人間で、怒ったり憎んだりすることは悪いことじゃないです……その感情を制御できない事こそいけないことです。ゴンベエさんだってベルベットさんだって貴女の周りにいる人達はなんだかんだで感情を制御することが出来ているんです」

 

「感情の制御……」

 

「もし貴女がその槍を使いこなせた時があるならば負の感情を受け入れて制御出来ていた時とか……カッとなって怒り、1つの感情に身を任せつつも頭が冷静になっている時とかです」

 

「……そうか……」

 

 カッとなった時に力を槍が貸したのはそういう理由があったからか。

 今まで力を槍が貸してくれた理由に納得がいき、私は槍を見つめる……怒りに身を任せた結果、使えたのにはそういう理由があったからか。槍を使いこなすのに必要な事をゴンベエはなんとなく察していた素振りを見せていたが、こういうことだったのか。

 普通は憎しみや怒りといった負の感情を制御しろなんて言わない……だからこそ教えなかったのか。

 

「怒りに身を任せていてその感情を制御している状態……」

 

「心の闇は乗り越えるのでも負けないのでもなく受け入れることが大切で、貴女の中の醜さや愚かさを受け入れた時に貴女は更に強くなることができます……それはとても難しい事ですが、貴女なら出来るはずです」

 

 ベルベットは常時そんな感じの状態だ。心の闇とも言える部分を受け入れて、それでも前に進んでいる。

 そういった心の力が私には足りない……多分だが、これは修行云々でどうにかなるものではない……この槍を使いこなすにはなにかしらのきっかけが必要か。

 

「っと、槍については終わりです。ゴンベエさんが動き始めました」

 

「あ、本当だ!?」

 

 槍の事はいったん置いておいて、ゴンベエ達が動き始めた。さっきの会話からしてゴンベエ達は服を買いに行く……。

 

『こちらα、刺客の準備はどうなっていますか?』

 

『こちらβ……今交渉──ビ、ビエーン!──』

 

「あ、通信が……ま、まさか!」

 

 突如として途切れた通信。

 ミユキは望遠鏡を取り出してゴンベエが居る方角を見るので私も確認をするとゴンベエが弓矢を持っていた。

 

「そんな!ここから距離をそれなりに取っているのにその上で狙ったのですか!?」

 

 どうやらゴンベエはマギルゥ達の気配に気付いた。

 遠くからコッソリと眺めていて気配なんて一切出していなかったのに……流石というかなんというか。

 

「ミ、ミユキ。これ以上は」

 

「いえ、駄目です。ストーキングは続行いたします」

 

「だが、ゴンベエは気付いているんじゃ」

 

「かもしれません……ですがマギルゥさんとビエンフーが犠牲になったお陰で多少の警戒心を緩めてくれています!今はチャンスなんです!」

 

「チャンスってそんな」

 

「元よりマギルゥさんは使い捨てるつもりです……さぁ、アリじゃなかった。アメッカさん、追いかけますわよ!」

 

 ミユキはコンベエ達を追跡していった……ここまで来たのならば追いかけるしかない。

 

「さぁ、破滅フラグを歩んでくださいねベルベットさん」




今回はスキット無しです。感想の方、どしどしお待ちしております。

そしてこのまま行けばベルベットは負けヒロインに……アリーシャも負けヒロインっぽいけど。


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その4(後編)

もっともっとイチャイチャを書きたかった。

そして深雪はストーキング以外の悪いことは特にしていない。

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。


「あの阿呆が……」

 

 ベルベットと一緒に買い物をしていると不穏な気配を感じる。コッソリと気配を消しているがオレからすればバレバレであり明らかにオレ達をストーキングしているので弓矢で一発お仕置きをしておいた。

 例えデートじゃないと本人達が否定していたとしても今回美味しい思いをしているので、邪魔されるとシンプルに腹が立つ。

 

「どうかしたの?」

 

「いや……そういえば黛さん、来ていたんだよな……」

 

 アイフリード海賊団達が回収しているっぽいが、1つ挨拶をしておかないといけない。

 あの人は本当に転生者としては大先輩でありFGOの世界に転生して生き残った色々な意味で尊敬できる人だ(キャストリアに刺されたけど)。

 

「あんた、こんな時にでも他の事を気にするの?」

 

「あ、悪い……」

 

「全く、余計な事を考えてんじゃないわよ……どうせ暫らくすれば元の世界に帰るんでしょうが」

 

 他の人のことを考えて見ていなかったので苛立っているベルベット。

 黛さんも深雪もこの世界に転生している人間じゃないのであれやこれや考えても仕方がない。今を楽しんだ者が勝ちだ。

 

「それでどういう服を買うんだ?」

 

 マギルゥ達は完全に退き服屋にやって来た。今まで色々とやって来たお陰で懐はそれはもう温かいので予算の都合上購入するのが出来無いと言った事は無い。ベルベットの事だろうからなにか気に入った服でもあるんだろう。

 

「……」

 

「予算的になんでもいけるぞ」

 

 無言で並べられている服を見る。

 男ならこういう時にバッサリと選ぶが、ベルベットは女性だ。服を一つ選ぶのに時間が掛かるだろうがここは男として荷物持ちとして笑顔で待っておかなければ。

 

「……どれにすれば良いのかしら?」

 

「……え!?」

 

 服をどうするか悩んでいると思っていたら、服を選んですらいなかった。

 

「お前、買い物に行くつってたのになんでなにも決めてないんだよ!?」

 

 なにかこう買いたい物があるとか見てみたいものがあると思っていた。

 それなのにベルベットは全くのノープランで沢山並べられている服を見て、どうすればいいのか悩んでいる。

 

「し、仕方がないでしょう。こんなところで買い物をするなんてはじめてだし、元々買う予定なんて無かったんだから」

 

「いや、買いに行こうって前々から言ってただろう」

 

 何時かの約束を果たすために今日ここで買い物に来ている。

 なにかのプランが最初からあると思っていたのに、まさか無いとは思ってもみなかった……いやまぁ、殆ど無いみたいなものだけども。

 

「なにかあるかな……」

 

 オレ、基本的に着ることが出来ればそれでいいんだよ。

 見た目がワールドトリガーの二宮匡貴だが服装はゼルダの伝説でお馴染みのリンクの格好をしている。

 

「……まぁ、品揃えは豊富そうだし……ベルベットだしな」

 

「なによ、私だしって」

 

「いやほら、基本的になにを着ても似合うだろう」

 

 ベルベットの容姿は黒髪ロングの大人の女の雰囲気を纏った女性だ。

 服装が色々とアレなだけで顔もスタイルも最上級の絶世の美女……ただまぁ、周りの顔面偏差値も高すぎる。エレノアが割とナンパをされたりしているがベルベットも美人であることには変わりはない。

 余程のドブスファッションを取らない限りはいいし、磨かない今の時点でも充分に光っている。

 

「……だったら、あんたが選びなさい」

 

「オレがか……そういうのは向いていないんだがな」

 

 オレって本当に戦闘だけ向いていて、それ以外はなんとも言えない微妙だ。

 ベルベットの服を選べと言われて婦人服を見つめるが、なにかいいのは浮かばない……。

 

「あ、コレなんてどうだ?」

 

「適当に選ばないでよ」

 

「いやいや、似合うって……すみません、試着していいですか?」

 

「あ、どうぞ」

 

 選んだ服を渡し、試着室にベルベットを押し込む。

 ベルベットはオレに渡された服にブツブツと文句を言いつつも、試着する。

 

「あんたこれ、趣旨がおかしいんじゃないの?」

 

 元が軽すぎる服装なのであっという間に着替えが終わるベルベット。

 海賊風の衣装を身に纏っており、何時もとは違う雰囲気だがとっても似合っている。アイゼンが見れば文句無しの海賊っぽい格好だ。

 

「ビックリするぐらい似合ってますよ、姉御」

 

「誰が姉御よ……却下よ、却下。海賊風のコスプレは似合わないわ」

 

 そういうと試着室のカーテンを閉めて元の衣装に戻るベルベット。

 ベンウィック辺りなら物凄く喜びそうな衣装だったのに……残念だ。

 

「他よ、他……」

 

「え〜っと……どうすっかな」

 

 なにを選ぶか悩む。今、ベルベットは着せ替え人形の様に操ることが出来る。この機会を除けば、次に何時有るかわからない。もしかすると二度と無いかもしれない。

 

「お客様、よろしいでしょうか?」

 

 悩んでいると店員が声をかけてきた。

 

「彼女の服装にお悩みであれば私達がコーディネート致します」

 

「してくれるのか?」

 

「ええ。あ、でも貴方から服をお渡しくださいね」

 

「何故?」

 

 別にオレじゃなくて店員さんから服を渡しても構わないだろう。

 

「なんでもです……さ、お客様こちらをどうぞ。異大陸のジャポン地方から仕入れたと言われる貴重な服です」

 

「……ええ」

 

 流されるままに服を受け取る。

 一応はどんなのなのか確認をするが、これで本当に良いのかと疑問に思いつつも試着室越しにベルベットに渡す。

 

「ロクロウが着ている服に似ているわね」

 

「ロクロウの先祖が住んでた地域の服装だって……」

 

 和服に着替えたベルベット。

 王道的な着物姿を想像していたのだが、なんだか芸者みたいな格好をしている。

 

「お前、今度は上乳を晒してるのっごふ!」

 

「あんたは胸しか見ていないの!」

 

「いやー……ツインテールは似合わない」

 

「なっ!?」

 

 芸者っぽい着物姿になったベルベットだが、ツインテールが似合わない。

 なんと言えばいいのだろうか。髪の毛が元から長いせいでちょうどいい感じのツインテールになっていない。腰辺りまでツインテールが行っちゃっているのは微妙で……エレノアぐらいの髪の長さだったら許されるんだけどな。

 

「だったら、どういう髪型がいいの!」

 

「……なんだかんだで普段のが一番と言いたいけどもやってくれるならポニーテールが見たい!」

 

「大声で叫ぶんじゃないわよ……これでいいの!」

 

 お前も叫んでいるだろうが。

 ああだこうだ言いながらもベルベットは髪型を変えてくれる……うぉお。ポニーテール、物凄くエロい。

 ベルベットの妖艶さを生かしつつも爽やかさが溢れ出ている……人間髪型を変えるだけでこんなにも変わるものなのか……

 

「……お前、髪の毛の長さどうなってんだ?」

 

 ポニーテールにした途端にあのモソっとした質量の髪型が減っている。

 

「そこは秘密よ……髪型、変えるならば髪を切ろうかしら?」

 

「今より短くって、エレノアかアメッカぐらいの長さにするのか?」

 

「……いっそのことショートに」

 

「………………今のほうがいいだろう」

 

 目を閉じてベルベットのショートやボブカットの姿を想像する。

 似合っているか似合っていないかと思えば、似合ってはいるのだが……やっぱ普段のベルベットとポニーテールのベルベットのエロさが天元突破しているので敵わない。

 

「あんた私の髪、好きなの?」

 

「ベルベットの色気がよく伝わって好きだ」

 

「……そう」

 

「お客様、こちらの服をどうぞ」

 

「ベルベット、次はコレを着てみよう」

 

「仕方ないわね」

 

「お似合いカップルですね」

 

「カップルじゃないわよ」

 

「そうそう違うって」

 

 オレはただの荷物持ちだ。

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「離せ!離してくれ!」

 

「おやめなさい、ヤケになってどうするのですか!」

 

 マギルゥ達が生贄にされた後もゴンベエとベルベットのデートは続く。

 メインイベントである服屋に買い物に行くとミユキの息が掛かった服屋の店員がベルベット達に服を勧めた……その結果、ベルベットが自身の髪型を気にしだしてゴンベエの意見を取り入れようとしている。その様子は何処からどう見てもカップルにしか見えない。

 

「ゴンベエは……ゴンベエは私の事を全然褒めてくれないんだ。丸坊主になってカツラ買えば髪型を自由自在に変え放題じゃない!」

 

 バリカンを持つ私の手を抑えるミユキ。

 このデートを見ていてよく分かる。私はゴンベエに対してアプローチの様なものが少ないからで、髪型に関して色々と言われるには丸坊主になればいいんだ!

 

「それは違いますよ。そんな事をしてもドン引きされるか、スキャンダルを取られたアイドルかと思われるだけですよ!」

 

「だったらどうすればいいの!?私……ベルベットに勝つ要素が無いんだよ!」

 

 ベルベットは胸は大きくて背はそれなりに高くてなにより料理上手で強い。

 対する私はと言えば胸と背はそれなりにあるのだが、料理は上手ではないし今もこうして足手まといの状態だ。

 

「貴女、ゴンベエさんが好きならハッキリと言えばいいじゃないですか!あの人はあんな感じですけどフリーなんでしょう!」

 

「……そ、それは……」

 

 私のバリカンを取り上げてバッサリというミユキ。

 確かにゴンベエは現在フリーだ……今は物凄く彼氏彼女の関係に見えているが誰かと付き合っていると言うわけではない。

 

「全く、いざという時にチキってどうするのですか!このままだと負けヒロインになってしま……あ、すみません」

 

「どうして謝るんだ?」

 

「いえ、本当にすみません」

 

 負けヒロインと言う不穏な言葉辺りで息詰まっているミユキ。

 本当に申し訳無さそうな顔をしており目線を合わせようとしない。

 

「公式から堂々とハブされているのに……なんかすみません」

 

「いや、そんなに謝られても……」

 

「ですがご安心ください……今現在、ベルベットさんは破滅フラグへと追い込んでいます」

 

「破滅フラグ……さっきも言っていたがそれはなんなんだ?」

 

 ミユキはこのデートをストーキングをはじめた時からなにやらよからない事を企んでいた。

 破滅フラグと名前からしてロクでもない事を企んでいるが此処までなにか悪いことをしている素振りを見せてはいない。今までゴンベエ達にした仕掛けと言えばベルベットのナンパとベルベットの服装をオススメしてべた褒めする店員とデートを盛り上げる様な事しかしていない。

 

「先ず大前提として……ベルベットさん、ゴンベエさんに惚れていますよ」

 

「っ……や、やっぱりそうなのか?」

 

「当たり前じゃありませんか。そうじゃないと堂々とデートなんて申し込みませんよ……」

 

「デーっ……ベルベットはその……デーッとは認めていないじゃないか」

 

 そう。あれはゴンベエを荷物持ちとして連れて行って買い物をしているだけだ。

 ベルベット自身、一切デートとは認めずカップルと言われても違うと断言している。そうだからあれはデートではなく体のいい買い物の荷物持ちなんだ。

 

「いいえ、違います。アレはデートでベルベットさんはゴンベエさんに惚れています……でなければ他の人を適当に誘いますし、一緒に買い物をしようなんて言いません」

 

「だ、だが、ベルベットは強く否定していてゴンベエも違うってさっき言っていたじゃないか」

 

「ええ……ですがコレはすべてベルベットさんが自分の気持ちに正直になっていないのが招いた悲劇なのです」

 

「どういうことだ?」

 

「どういうこともこういうこともあの人は自分の気持ちというのをイマイチ理解できていないんです。でも心の底ではゴンベエさんの事を愛していて……是非とも破滅の道を歩んでいただきたい」

 

「だからその破滅の道ってなんなんだ!?」

 

 さっきからミユキの言っていることが全然分からない。なにかを企んでいるのは確かでその全容を明かそうとはしない。

 

「ふぅ……正直、コレについては教えるつもりは無かったのですがアメッカさんがこのままだと不遇ヒロインまっしぐらなのでお教えいたしましょう」

 

 色々と引っかかる物言いだな。

 

「近い将来……後一つ、貴女達が試練を乗り越えた先にとんでもない未来が待ち構えています。ベルベットさんはその未来に立ち向かう事が出来ないのですが、ゴンベエさん達がなんやかんやし……ベルベットさんがデレます!」

 

「ベルベットがデレる……」

 

 今の時点でも充分にデレている様に見えるのだが、これ以上がまだあるというのか!?

 

「そしたら今の状態は最高だと思いますがそうは問屋は卸しません!既に公式からハブられて負けヒロインみたいなアメッカさんが一向に報われない!なにより面白くありません!」

 

「面白くないってそんな……」

 

「地獄の視聴者もこんな展開は望んでいない……そう!ベルベットさんは過去の行いを理由に負けてもらいます!」

 

「負ける……具体的にはどうやって?」

 

 ベルベットが負ける姿なんてあまり想像が出来ない。というかこの場合の負けはなにを意味している?

 

「近い将来、ベルベットさんはデレます。そうすればこんな感じの展開が起こります。そう今のような展開が!」

 

「それは簡単に想像できるが……」

 

「私の仕掛け無しにベルベットさんとゴンベエさんをカップルと見ている人達にベルベットさんは満更でもない顔をしますが、ここでゴンベエさんが否定をするのです!『オレはベルベットがナンパをされない対策の為にいる』とか『オレはただの荷物持ちだ』とか『オレ達はカップルじゃない』とか……ベルベットさんがデレた時に同じことを言えば、もう最っ高ですよ」

 

「!」

 

 ミユキから語られる作戦の全貌。

 それはゴンベエとベルベットを敢えて煽てて彼氏彼女の関係性に見えていると盛り上げ、それを本人達の口から否定させるゲス過ぎる作戦。

 独り身のゴンベエにちょっとでも脈アリと見せるところがミソで、そうすることで実は全然脈無しだと思い知らせるなんとも壮大、そしてゲスな作戦だ。

 

「ミユキ……なんて事を企んでいるんだ」

 

 というか何時思いついたんだ!?

 ゴンベエの事は前々から知っているようだがベルベットとは今日初めて出会ったのに、なんでそんな事がわかるんだ!

 

「ツンデレなんてこんなご時世流行らないんですよ!アメッカさん、私はですね……ツンデレのツンの容量を間違えたり素直になれない結果、ボロボロとなって後から出てきたポッとでのヒロインに全てを奪われる展開とかに興奮を覚えるのです!」

 

 顔を赤らめながらウネウネと動くミユキ。

 明らかに興奮していて鼻息も荒くなって興奮をしていてヨダレを垂らすが終わらない。

 

「私は後数時間で赤坂哲夫()に連れられて元の世界に戻ってしまいますが私の施した仕掛けが作動してショックを受けるベルベットさんを思い浮かべるだけで……堪りませんわ!!」

 

 子宮が疼いているのか股間部に手を添える。

 これはどうすればいいんだ?ミユキは刺客を放ってはいるものの、なにか悪いことをしている訳じゃない。むしろベルベット達の買い物を盛り上げていていい感じのムードになっている。

 

「だ、ダメだ、こんなことをしていては」

 

 ミユキは悪いことを一切してはいない。しかしなんと言えばいいか、論理的に駄目な気がする。

 

「何を言っているんですか……私は理不尽な暴力も圧政もなにもしていない秩序・善ないい人間なんですよ。現に私、ストーキング以外は何も悪いことをせずあの二人がお似合いのカップルっぽく見えているので盛り上げてるだけですよ」

 

 確かに……私達がやっている悪いことと言えばストーキングだけだが……。

 

「大体ですね、こんな事をしてほしくないと言うならば貴女がゴンベエさんを口説き落としておかないのが悪いんですよ」

 

「……」

 

「おや?『そこでなにを言っているんだ』と顔を真っ赤にしないのですか?」

 

「……正直な話、よく分からないんだ。ゴンベエに対してどう思っているのかを」

 

 恋も知らない小娘なのは自覚しているが、それでも分からない感情が私はゴンベエに抱いている。

 

 私という人間は力を持っていなくて恵まれている様に見えて実は全然恵まれていない立ち位置で、どれだけ望んでも欲しい力を手に入れることは出来なかった。欲しい力を持っているスレイを羨んだ。力を手に入れても足手まといにしかならなかった。

 

 ゴンベエはそんな私に力を貸してくれる。どうすればいいのか考える時間とヒントを与えてくれている。過去の時代に連れてきてくれて今まで見たこともない見ることすら出来なかった様々な視点からの景色を見せてくれた。そのお陰で心身共に現代にいた頃よりも遥かに成長したと言える。

 

 ゴンベエには感謝しても感謝しきれない……だが、それは感謝という気持ちはあり一種の尊敬の念を抱いているが、その感情が恋とは言い難い。

 

 それと同時にゴンベエとずっと一緒にいたくて私の事を見ていて欲しいという強い思いはあるが……この思いと尊敬や感謝の念が混濁していて今もこうしてベルベットを羨ましいと思っている反面、どうして自分じゃないかと思っている。

 

「ゴンベエと一緒に居たいとは思っているが……その……け、結婚したいかどうかはまた別の話で……確かにゴンベエの事は嫌いではないし私の周りにはそういう男気の様な物はほぼ無いに等しいしゴンベエとならば幸せな家庭を築き上げることは出来るかもしれないがゴンベエにも選ぶ権利はある。私達は今、世界を相手に戦っているからそんな事をしている場合じゃない……でも落ち着いたら一度考えてみたいとは思っている。私には女子力が無いだなんだとゴンベエは言っているが私だってやれば出来るんだ。今までピーラーすら使っておらず野菜の皮を槍で向こうとしていたが、今はエレノア達がやっているのを真似してちゃんと……ああでもベルベット達と一緒にされるのはちょっと。まだまだ短く未熟なのは分かっている。それでもベルベットが料理を作った時みたいに『美味しい』と言ってほし──」

 

「ああもう、焦れったいですね!そんなに言うならば告白をしなさいよ!」

 

「……それは……ほら、そういう状況じゃない」

 

「貴女ただでさえ負けヒロインフラグが立っているのに、そこでチキってどうするのですか!世の中にはライバルも居ないのに最終回発情期(ファイナルファンタジー)で負けが確定している人だっているのですよ……こうなったらやることは1つですよ」

 

「なにをするんだ……」

 

「言葉にするんですよ……ゴンベエ、大好きと」

 

「……」

 

 今まで絶対に口にしようとはしていなかった言葉を堂々と言ってくれるミユキ。

 それを言ってしまえば最後、もう二度と立ち止まる事は出来なくなり今のままで充分かなと思う関係性を壊す事を怯えている……。

 

「それを言わない限り、貴女には明日がありません……大丈夫です、直接本人に言うわけではないのですからなにも恥ずかしがる要素はありません」

 

「……だ、だが……」

 

「なにを躊躇っていますか!言葉は夢を現実にする魔法の力です、言霊の力はとんでもないんですよ!」

 

「……私はゴンベエの事が……す、す……やっぱりダメだ!」

 

「なにをチキってるのですか!貴女を阻む壁は何処にも存在していません!地獄の視聴者の皆様はその展開を望んでいるのです」

 

 地獄の視聴者とはなんだ!?

 

「もっとドロドロにいえ、いっそのことヤンデレになってくださいよ!貴女は素質があります!ゴンベエは私のものだと言って瞳から光を無くして抱擁するので──ゴッフゥ!?」

 

「み、ミユキぃ!?」

 

 興奮しまくり息を荒らげて体をクネクネと撚るミユキ。

 誰にも彼女は止めることは出来ないと思っていると、背後からミユキは頭を殴られる。

 

「お前、なにやってんだ……」

 

「あ、貴方は!?」

 

「チヒロさん!?」

 

 ミユキの後頭部を握っていたのはこの世界に来ていたらしいチヒロさんだった。

 ベンウィック達アイフリード海賊団が海に溺れているチヒロさんを回収しているのは仏から話を聞いていたが、どうして此処に。

 

「何時もなら嫌でも顔を合わせるってのに会わないと思えば……なにやってんだ」

 

「デートを追跡してい、──ちょ、顔面を掴まないでください!?」

 

「るせぇ……テメエ、デートの追跡をするに見せて港の人間を買収してアホな事をしてただろう。マギルゥがポロッと溢したぞ」

 

「マギルゥさん、裏切ったんです──あちょ、やめてください!?」

 

「恋愛をもて遊ぶ奴はいっぺんくたばりやがれ」

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 馬鹿騒ぎしていたミユキはチヒロさんにより制裁をくだされた。

 これにより私とミユキはゴンベエとベルベットの買い物の追跡を続けることは出来なくなり、そこで終わった。

 

「色々と買ってきたけど、これが1番動きやすいからコレでいいわ」

 

 ベルベットはゴンベエと一緒に色々と服を買ってきたが、普段から着ている服が一番しっくりときている為に結局服装は変わらなかった。

 じゃああの買い物はなんだったんだと夕飯のビフカツを食べながら思うのだが、ゴンベエの大好きな料理が出ているのを見てリフレッシュをする事が出来たので、それで良しとする。

 

 




 ゴンベエの秘奥義


 サモン・リバイバル


 ゴンベエ版サモンフレンズ。赤と青の薔薇が描かれたクレストに入ると発生。
 顔が司波深雪、体が蛇喰夢子といったハイスペックな容姿を持つ転生者、蛇喰深雪を呼び出す。
 真紅の手品真拳【糸の魔術】で相手の身動きを封じ、【爆薬の魔術】で爆弾を出現させ相手を爆破、【ハトの魔術】で鳩を出現させて無数の光弾で相手を撃ち【聖剣の大魔術】で巨大な剣で相手を貫き生き残っていれば【布の魔術】で青藍の手品真拳【幻想青魔界】に閉じ込めて精神を崩壊させる。

 ゲーム的な話をすれば大ダメージを与えた後に相手のステータスを半分以下にデバフする。


 赤と青の薔薇

 説明

 赤坂哲夫()が蛇喰深雪を回収しに来た際に別れ際にゴンベエに託した二色の薔薇。
 赤色の薔薇はテイルズオブベルセリアorゼスティリアの世界に存在はしているが、青色の薔薇は存在していない何気に希少な物である。


 ベルベットの着た服はDLCの着物と海賊風の衣装です。


 感想物凄くからお待ちしております(感想が作者のやる気になっています)


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解けかけた復讐の熱

何時かやってみたいテイルズオブザレイズ編でのオリジナルのイベント、激闘KCグランプリと総力戦 決戦KCグランプリ決闘三本勝負をちょこっとだけ書いてみたら遅くなった。
感想お待ちしております


 予想外の足止めをくらったものの、なんだかんだで監獄島へと戻っていくオレ達。

 行きが色々とあった為に少しだけ心配をするものの、帰りはなんの異変もなく帰れそうだ。

 

「ゴンベエ、人の嘘を見抜く装置を作れるか?」

 

 万が一があると怖いからと船に乗せている機材を点検していると真剣な顔でアイゼンはオレに嘘発見器が作れないかどうかを訪ねに来た。

 

「まだエレノアを疑ってるのか?」

 

 ベルベットに見せた幻はベルベットが来ると分かっていたから仕掛けられたものだ。

 アイゼンはその辺について気付いており、聖寮と繋がっている可能性があると疑いを持ったがエレノアは違うと時間的なアリバイを証明した。オレ個人としてもエレノアが通報したとは思えず疑い続けるとただでさえ色々とギスギスしているのに更にややこしくなる。

 

「いや、エレノアは白だ……だが、誰かが黒である事は確定だ。例えばお前とかな」

 

 おいおい

 

「オレが敵のスパイするなんて向いてねえよ……力付くでベルベットを抑え込むし、お前等の行動を制限しまく……」

 

「どうした?」

 

「……そうなんだよな」

 

 ベルベットが大事な喰魔であるから殺さないのはなんとなくで分かる。しかし、ベルベット以外は邪魔な存在で殺しておいて損は無い。それでも殺しに来ないのは謎だ。何時でも殺せるから殺さないようにしているにしても喰魔を探すのを邪魔しに来なかったりするのは謎だ。

 オレだったらアイゼンやベルベット達の顔写真をばら撒いて指名手配犯にしてマトモに行動できなくする……喰魔を集めさせても聖寮は痛くも痒くもない……それだったら今までの旅路がパーだ。

 

「聖寮の最終的なゴールはもう決まっている。問題はどうやってそれに至るかで……相手の方が何枚も格上なのは認めるしかない」

 

「なら、嘘発見器は」

 

「作れないわけじゃないけど心拍数とか血圧の乱れとかで嘘かどうか見抜く道具でこれは嘘ですとピンポイントで見抜く感じの道具は無理だ……第一作るのに結構な時間が掛かるし素材が足んねえんだよ」

 

「素材か」

 

「とにかく鉄鉱石とか色々と鉱石が必要なんだよ」

 

 それこそ現代でお前が残したほどの……まぁ、鉄とかはもっともっと必要だけどそれでもだ。

 

「そんな物を作ったとしても物凄く時間がかかるから喰魔を集めた方が早い」

 

「そうか……いざという時は頼んだぞ」

 

「あ〜まぁ、それなりにはやってやるよ」

 

 アルトリウスの事はムカつくから当事者じゃないとしても一発ぐらいはぶん殴りたい。

 シグレの號嵐を叩き折ってやってもいいが、それはロクロウの仕事でメルキオルのジジイは生理的に受け付けることが出来ないので本当にボコボコにする。

 機材の点検も終わったので外の風に当たろうと船の甲板に出るとベルベットがいた。

 

「浮かない顔だな」

 

 買い物をして少しはスッキリとした筈のベルベットだが浮かない。

 ベルベットの抱える闇は深いもので気分転換のリフレッシュをした程度では元には戻らないのは分かったが……あんまそういう表情は見たくはない。

 

「……また喰らった」

 

 オレの声に少しだけ反応したもののベルベットは自分の世界に浸る。

 自分の左腕を見て弱々しく呟く姿はあまり見てはいられないがオレもアリーシャの様に色々と見届けないといけない立場の人間。この状況から目を逸らすわけにはいかない。

 

「……いや……」

 

「喰らう事に罪悪感を抱くのか?今更だな」

 

 途中からアリーシャが天族の意識を叩き起こして元に戻してはいるものの、ここに至るまでに多くの命を喰らった。

 過去を思い出したせいで自分の手の汚れ具合がよく分かったようだが、本当に今更な事だ。

 

「復讐はやるかやらないかで途中で止めるって選択肢は無しだぜ」

 

「……分かってるわよ、それぐらい!」

 

 だったら、声を荒げるんじゃない。

 そう言いたいが、ここで刺激しても殴られるだけで意味は無いと黙っているとライフィセットがカノヌシの事が書かれた写本を持ってやって来る。

 

「この本、ベルベットの弟が書いたんだよね……凄いね、古代語が読めるなんて」

 

「……っ……」

 

「おい……ちげえだろう」

 

 弟の事を褒めるライフィセットを見て、なにかに驚くと弱々しくなるベルベット。

 ベルベットの目にはライフィセットは写っていない。弟のライフィセットが写っている……直接は見ていないから知らないが、ライフィセットと弟のライフィセットは似ているらしいな。

 一回、海釣りの時にやらかしたので今度はやらかすんじゃないと軽くデコピンを入れるとベルベットは額に手を触れるのだが、直ぐに木製の櫛を取り出した。

 

「ちょっと変わった子だったの……体が弱くて本ばかりを読んで。でも、怖い夢を見たら私のベッドに潜り込む可愛いところがあったのよ」

 

 冷静さを取り戻したベルベットは弟のことについて語ってくれる。その表情は何時もの怒った顔とは違う優しげな表情(かお)だった。

 だが、それでも重ねてしまっている……これはもう言葉でどうこうするのは無理で見守るしかない。

 

「甘えん坊でも……よかった……生きててくれたら、それで良かった……」

 

「ベルベット!」

 

「……限界が来たか」

 

 目が段々と虚ろになっていくベルベット。必死になって目を開けようとしているが力が抜けていく。

 

「だから仇を……」

 

「ベルベット!?」

 

「何度でも喰らって……殺さなきゃ……」

 

「ベルベット……ゴンベエ!」

 

「騒ぐな」

 

 遂に限界を迎えたベルベットはその場で意識を落とす。ライフィセットは直ぐにオレに頼るがなにもしないわけじゃない。

 喰魔になっていて人間を止めているが基本的な人体構造は人間と何も変わらない。右手の手首に触れて脈拍を測り、口元に手を翳して呼吸をしているか確認を取る……命には別状は無いな。

 

「色々と疲れていたんだろう……あのクソジジイが悪趣味なものを見せたから尚更だ」

 

 ベルベットは完全な復讐鬼になっていない。時折ライフィセットに見せる姉的な部分がその証拠だ。

 人間であったことを忘れていない、いい事だがそれが今回は災いをして今までに溜め込んでたものを吐き出せずに中途半端になっていた。

 

「大丈夫なの?」

 

「色々とあるが、ただの過労だ……今までまともに休めてないし、ある意味丁度いい機会だ」

 

 ずっと怒り続けるのは辛いことで、今回で色々と緊張の糸が途切れた。休んでいるように見えて休めてないベルベットにはちょうどいい機会だ。

 オレはベルベットをお姫様抱っこで抱えるとライフィセットはなにをするか分かったので先に道を歩いて先導をしてもらいベットのある部屋に向かいベルベットを布団で休ませる。

 

「ベルベット、大丈夫かな……」

 

「熱があるとか肺が炎症を起こしているとかの異変は無いから寝たらどうにかなる……だが、なにもしないという訳にはいかない」

 

 そのまま放置をしてもいいが、オレだってベルベットの事は心配なんだ。

 寝ているベルベットに出来る事と言えば1つだけだとオカリナを取り出すとライフィセットはジッとオレの事を見つめる。

 

「ゴンベエ、僕に楽器の弾き方を」

 

「嫌だ」

 

「まだ最後まで言ってないよ!?」

 

「出来ない事は出来ないんだよ」

 

 ライフィセットがなんでオレに楽器を習いたいかは理由は聞くまでもない。

 体の傷は治せても心の傷を治すことは出来ないからオレに楽器を習ってベルベットに聴かせてやりたいんだろうが、そういうのは出来ない。

 

「アメッカには貸したり教えたりしてるのに、なんで」

 

「お前、今までなにを見てたんだ……オレの弾いてる曲はただの曲じゃねえ」

 

 オレの弾いている曲は殆どがゼルダの伝説に出てくるなにかしらの力を持った曲だ。

 ただ弾いたり吹いたりするだけでなんらかの力を及ぼすもので、中には昼夜を逆転させたりするものだってある。

 

「アメッカには追々必要となることだから教えてるんだよ……お前には必要は無いものだし、なによりオレが居るだろう」

 

「それは……そうだけど」

 

 何時かはオレの力に頼らず一人立ちした時にアリーシャはオカリナの曲が必要になるが既に戦えて一人立ちしているライフィセットには不要なものでベルベットの為にオレは弾くことが出来る。

 不満がありげな顔をするライフィセットだが、曲をポンポンと教えるわけにはいかない……後の世でなんか余計な事になっても困るし。

 

「毎回魂のレクイエムや闇のノクターンだと芸が無いからな……子守唄にするか」

 

 今回は吹く曲を変えてゼルダの子守唄を吹くとベルベットは安らかに眠り、呼吸は安定をしている。

 命に別状は無いのは分かっているが、こうして休めているのを見るとホッとする……ベルベットは根を詰め過ぎというかなんというか……いや、文句を言うぐらいならば支えてやればいいか。

 

「お〜い、もうすぐ着くぞ」

 

 子守唄を吹き終えて暫くするとベンウィックが到着の知らせに来る。

 ベルベットと言えば起きる素振りは一切見せていない……。

 

「オレが残るからお前等は休んだりしておけよ」

 

「そうしたいんだけど、副長がなんか呼んでたぜ」

 

「アイゼンが?」

 

 わざわざオレを呼び出すとはなんの用事だ。

 ベルベットは暫くは目覚めそうにないのでライフィセットと共にこの場を離れてアイゼン達の元に行くと金色の狼が座っていた。

 

「来たか……ベルベットの様子はどうだ?」

 

「完全に心労が祟って眠ってる……喰魔だったのが幸いだな」

 

 飯を食わなくていいから点滴とか用意して体の栄養を維持する行為を一切しなくていい。

 医学の知識は持っていて、形状自体は凄く簡単だから鼻からぶっ刺して胃に通すチューブを作れるが流石にやるのは気が引ける。

 

「ゴンベエ、狼になって……今回は僕の番なんだ」

 

 ベルベットのあんな姿を見た為かライフィセットはやる気を出す。

 気持ちが空回りしないか少しだけ心配しつつも狼の姿になり遠吠えを吠えると何時もの様に真っ白でなにもない空間にいた。

 

「汝、力を求めるか?」

 

「求めるよ」

 

 何時もの様に問いかける骸骨の騎士。ライフィセットは一旦目を閉じて呼吸を整えてから答えると骸骨の騎士はライフィセットが使っている紙葉を取り出す。今更ながらこの骸骨の騎士はなんでも出来るんだな……流石に紙葉を使った戦いは今のオレは出来ない。

 

「汝に技を授けよう」

 

 そう言うと紙葉は爆発を起こす。

 あまり突然の出来事にライフィセットはビクッと怯むが、直ぐに骸骨の騎士がなにをすればいいのか教えているのが分かり自分の紙葉を空中に浮かせて1枚だけ爆発させる。

 

「次はこうだ」

 

 沢山の紙葉を手足の如く動かす骸骨の騎士。

 今度は何をするのかと見守っていると紙葉が1枚だけ爆発を起こしたかと思えばそれに続くかの様に連鎖的に紙葉が爆発を起こす。

 1つでは人をぶっ殺すのにちょうどいい感じの爆発でそれが何度も何度も発生することにより強力な爆発を巻き起こし大ダメージを与える……いや、これアレだろう。

 

「卑遁・互乗起爆札の術」

 

 卑劣様が使っていた卑劣な忍術じゃねえか。

 確かに起爆札みたいなのをライフィセットは大量に使っていて、使えなくはなさそうだが……そんな術を使っているのは転生者でも見たことはねえ。

 術の仕組み自体は割と簡単だ紙葉を一度に同時に爆破をさせるわけではなく、一個一個連鎖的に爆発を起こす術なので思いの外難しいのか手こずるライフィセット。最終的には覚えることが出来るが、こんな卑劣な技を使う機会はあるんだか……卑劣だけど強力なんだよな。

 

「汝、力を求めるか」

 

「はい……よろしくお願いします!」

 

 ライフィセットに技を授け終えると今度はアリーシャと向き合う。

 既に何度もやっているので馴れているアリーシャは槍を取り出して構えるのだが、骸骨の騎士は槍を取り出そうとしない。

 

「此度の技は槍を用いない」

 

「……え!?」

 

 今まで教わってきた通り、槍の技を教えてもらえると思っていたが今回は違う。

 槍を用いない……一応、ナイフとかをそれなりに使う事が出来るらしいが槍と比べればお粗末だったりする。オレみたいになんでも出来る奴は早々にいないし……何をやらせるつもりだ?

 

「私は槍以外は」

 

「汝の力は上昇している……今ならば可能だ」

 

 ブォンと光の球を出現させる……成る程、そっち系か。

 今回は槍を用いない代わりに教える技は今までとは異なる毛色のものだが、今のアリーシャならば槍術以外を……マギルゥが使っている様な術の類を使いこなすことは出来る。多分、スレイの助力無しで天族を見れるぐらいには成長をしている。

 

「どうやれば……」

 

「体の内からエネルギーを捻り出せ」

 

 槍術ならば得意だが、この手の術は一切した事のないアリーシャ。

 オレに助力を求めるがオレはなんとなくの感覚だけでやっている。必殺技とかもノリと勢いだけでやっている……出来ないと言うイメージを取り払い、出来て当たり前のイメージを持ち、必殺技の様な特別感を出さず呼吸の様にして当たり前に使っている。

 

「エレノア、なにかコツの様なものは無いか?」

 

「そうですね……私も感覚で使っているところがありますが」

 

「呪文でも唱えて自己暗示すりゃいいんじゃねえの?」

 

 戦闘スタイルが一番近いエレノアに助言を求めるが、エレノアも基本的に槍で戦っている。マギルゥに聞くのが一番かもしれねえがマギルゥもマギルゥで天才肌みたいなところがあってあまり信用にならない。

 こういう時にある定番な事と言えばベタだが呪文を詠唱して自己暗示をしたりして霊力か魔力的なのを放出すること。

 

「呪文、呪文……アステロイド!」

 

「まぁ……お前がそれでいいならいいんだけどよ」

 

 純粋なエネルギーの塊を弾にしてぶつけるだけの技だが弾速と射程と威力を決めねえといけねえから意外と難しいんだ。

 アリーシャにとって分かりやすいイメージだったか、ポッと小さな光る球が出現する……一応は成功したが、どうすんだ?このままアステロイドにしようにも元が小さいから威力にそこまで期待は出来ねえ。

 

「……回転させよ」

 

「待て待て待て待て、それ無理だろう……難易度高すぎだろ」

 

 アリーシャが光る球を出したのを確認すると骸骨の騎士も光る球を出して乱回転させる。それを見てこの骸骨の騎士がアリーシャになにを教えるのか分かった。この骸骨、アリーシャに螺旋丸を覚えさせようとしている。

 螺旋丸の原理は至ってシンプルだ。高密度なエネルギーを乱回転させて球状に圧縮する技で質量を持っていて手足の様に動かせるエネルギーならチャクラじゃなくても……例えばHUNTER×HUNTERの念やFateの魔力でも使用可能だ。

 アリーシャが使っているのが魔力か霊力か闘気のどれかはしんねえが質量を持っているエネルギーならば螺旋丸は使用自体は可能だが問題は螺旋丸の難易度だ。原理自体は至ってシンプル故に極限まで極めないといけない螺旋丸は難しい。

 このなにもない空間でそこそこ時間を掛けても元の時間はそんなに動いていない精神と時の部屋的な感じになっているが、片手の螺旋丸は本当に難易度が高い。

 

「くっ……ふっ……」

 

 今やっと体外にエネルギーを出すことが出来るようになったアリーシャ。

 ヒロアカで言えばワン・フォー・オール貰いたての緑谷と同じ状態で自分の手足の様に使いこなすのは難しい。

 

「最終的にはこういう感じの術になるが……今はまだ無理だろう」

 

 手本として結果を螺旋丸を久しぶりに作り出してみる。

 転生する前は訓練でよくやらされたが、今のアリーシャには不可能なのがよく分かる……あれ、てか

 

「何時使うんだ……螺旋丸」

 

 アリーシャは基本的に槍を使って戦う。槍が届かない間合いに詰められても、ナイフ術とか出来るらしいし螺旋丸を使う時が来ない。覚えておいて損は無いかもしれないが得もそんなに無い。

 槍術以外の術を覚えるならばライフィセットの術の様に直接相手に触れずに相手をボコる術を覚えるのが1番だ。

 

「変更だ、アメッカでも使える遠距離系の技を教えろ」

 

「ゴンベエ、さっきから色々と言って……そんな事を言うならばゴンベエが教えてくれないか」

 

「それだとここにいる意味はねえだろう」

 

 勢いとノリで技を使ってて大体の事は出来るから、なに教えればいいのか分かんねえし。

 流石に螺旋丸は無理だとアリーシャも薄々気付いてはいるからかそれ以上は何も言ってこない。とりあえずは骸骨の騎士に螺旋丸は無理な事を伝えると光る球は消してくれる。

 

「……ならば、この技だ」

 

 螺旋丸を諦めてくれた骸骨の騎士。

 槍術に戻るかと思えば今度は両手を合わせると両手を前方に突き出し、物凄く見た事のあるポーズを取る

 

「かぁ〜めぇ〜はぁ〜めぇ〜……はぁあああああ!!」

 

「……最早なんでもありだな」

 

 オレが呼び出しておいてなんだがこの骸骨の騎士、なんでもありすぎる。

 遠距離攻撃でエネルギーを直にぶっ飛ばすだけのシンプルイズベストな必殺技、そうかめはめ波……アリーシャに合っているといえば合っている必殺技だ。ただ版権的に言えばドラゴンボールってバンナムなところがあるから……大丈夫なのだろうか。

 

「かめはめ波!」

 

 なんだろうな、滅茶苦茶美人のお姫様が必死になってかめはめ波をするってすごい絵面だな。

 やり方を見せたので実際に真似てみるアリーシャだがクリリンが試し撃ちで最初に撃った時と同じぐらいの威力で実戦で使えそうにない……あ〜

 

「力の溜め方が悪い」

 

 アリーシャのパワーアップ自体は成功していて、技そのものが使えないといった事は無い。

 槍の真の力はまだ使えないが、今回は槍を用いていないから関係無い……凡人が初挑戦でかめはめ波に成功するほど世の中上手くはいかないか。

 

「なんでこの技はかめはめ波と言うんだろ?」

 

「それは気にすんな」

 

 技名に疑問を持つライフィセットだが気にしなくていいこと……ああ、でも、かめはめ波だから上手く出来ねえのかもしんねえな。

 

「ちょっと真似してみろ」

 

 オレ達転生者ならばかめはめ波と言えばどういう技でイメージが持ちやすい。しかしアリーシャ達にはなんでそんな名前とか色々と疑問を持ったりして力の集束に集中出来てねえ。オレがやってしまえば元も子もないが、何時までもグダグダやっていても進みはしない。

 NARUTOの忍術の印でいう未と同じ構えをとって意識を集中する

 

「行雲流水泰心之儀平静止水」

 

「行雲流水、泰心之儀、平静止水 ……」

 

 かめはめ波の詠唱で出来ないのならば別の詠唱をすればいい。

 アリーシャも後に続く様に詠唱をするとかめはめ波の時よりは力の収束が出来ている様で、目も変わっている……。

 

「百歩神拳!」

 

「……百歩神拳!」

 

 今ならば撃てんだろうとかめはめ波を……百歩神拳を放つ。

 オレよりは威力が弱いものの、そこそこの威力でエネルギー波を放つアリーシャ……一先ずは成功した……。

 

「やった!撃て…た、あ、あれ?」

 

 撃てた事を喜ぶアリーシャだが足元がふらつく。

 やっぱりと言うか見た目に反して消耗しており、肩を掴んで倒れない様にする。

 

「百歩神拳って、かめはめ波じゃないのか?」

 

「百歩神拳ってのはその名の通り百歩先に居る相手をぶっ飛ばす必殺技で……人によってはかめはめ波だ」

 

 使っている技名が違うことに疑問を持つロクロウだが、気功術で気をぶっ放す技的な意味では一緒だ。

 とにかくアリーシャは遠くにいる相手をぶっ飛ばす事が出来る技を覚えた……マギルゥみたいな術を覚えればいいが、それはまた何時かと言うこと。

 

「次は汝だ」

 

「ほぅ……二刀流の剣術を期待しているぜ」

 

「そうなると私は最後ですね」

 

 次に技を授かるのはロクロウに決まった。最後の最後にエレノアとなる……二人にはいったいどんな技を教えるのやら。

 二人の技の伝授が終わると真っ白な空間から船の上に戻ると数分しか経過はしておらず、監獄島にちょうど着いたところだった。

 目覚めのソナタとかの一部の楽曲を弾けばベルベットを叩き起こすことが出来たが、今回は心労でぶっ倒れたので起こさない方向で行くことにした。




ライフィセットの術技


 卑遁・互乗起爆札


 説明


 1枚の紙葉を爆発させた後に続く様に連鎖的に紙葉で爆発を起こす。
 一度に同時に爆発させるのでなく爆破した紙葉の直ぐ近くに新しい紙葉を出現させて爆発するために数十秒間断続的に爆破が起こり続けるので一発の爆破を耐えることが出来ても防ぐことが出来ない転生者でも使う人がほぼ居ない外道で卑劣な術。

 ゴンベエは遠い遠い未来でそんな外道で卑劣な術を効率がいいからと平然とした顔で使う転生者と出会う。
 



 螺旋丸

 説明

 世界的に有名なNINJAの十八番とも言うべき必殺技。
 本来はチャクラと呼ばれるエネルギーを用いるのだが技自体は乱回転する高密度なエネルギーを球状に圧縮して相手に殴り付けるかの様にぶつけるだけなのでFateの魔力やHUNTER×HUNTERの念でも代用が可能な術だがシンプルな技故に難しく霊力等を扱う訓練をしていないアリーシャは数十分で覚えれる技ではないので断念させられる。


 かめはめ波


 説明


 ご存知世界的に有名な必殺技の1つ。
 亀仙流の気功術の一つであり、インフレの代表格みたいなドラゴンボールでも最後まで使用されていた必殺技。
 かめはめ波と言う言葉では上手く霊力を溜めることが出来ない為にアリーシャは断念する。

 アリーシャの術技

 百歩神拳

 説明

 その名の通り百歩先の相手をふっ飛ばす必殺技。
 純粋な霊力とか気とのエネルギーを一直線にぶっ放す必殺技で見る人が見ればかめはめ波とも言う。
 アリーシャはゴンベエが教えた適当な呪文で自己暗示をし、自身の力を集束させて放つ為に上手く加減が出来ずに霊力とか気的なエネルギーを殆ど使ってしまうので使用後は息切れを起こしたりフラついたりするがベルベットのおっぱいには向かわない。


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自分らしく

「っ……」

 

「起きたか」

 

「……あたしは」

 

「何処まで覚えている?」

 

 何時起きるかヒヤヒヤしていたが目覚めたベルベット。

 頭を抱え、何があったかを思い出そうとしているので何処まで覚えているか聞いてみると少しだけ落ち込む。

 

「……悪かったわね」

 

 なにがだ?

 ぶっ倒れてしまった事を詫びているのならば見当違いというか謝る必要性は無い……ここまで追い込んだあのクソジジイが悪い。

 

「お〜い、ベルベットが起き──」

 

「ベルベット!」

 

 はええな、おい。

 オレが言い終わる前にライフィセットは部屋に入ってきて起きたベルベットを見る。

 

「……どれくらいたったの?」

 

「少しぐらいはデレてもいいだろうが」

 

 心配かけたわねの一言があってもいいのに言わない。

 1時間や2時間ちょっと寝ていたという感覚は無いから、マシといえばマシなのだろうか。

 

「3日間、寝てたよ」

 

「3日間も無駄にしたの」

 

「無駄じゃねえだろう」

 

「無駄よ……あんた、私を起こそうと思えば起こせたでしょう、なんで起こさなかったのよ」

 

「オレをなんだと思ってんだ……」

 

 確かに目覚めのソナタを使えば起こせっけど、それをやればまたぶっ倒れるオチが見えている。

 オレが起こさなかったので睨みつけてくるがそんな事をいちいち気にしていたらキリが無いと無視しているとベルベットの方は諦めて、ベッドから出ようとするのだがライフィセットが止める。

 

「ダメだよ、休まないとまた倒れちゃう」

 

「……状況は?」

 

「えっと、グリモ先生が古文書の解読をしてて、犬達はモアナと仲良くしてるよ」

 

「お陰様でモアナから狼になってのおねだりは無くなった」

 

 あれ精神的にキツいからやりたくねえんだよ。

 

「あの本、本当に細かい事まで書いてたから翻訳に時間が掛かるって」

 

「そう……」

 

 カノヌシか……喰魔を地脈点から引き剥がすことでカノヌシの弱体化が出来るならば、そこそこ弱体化はしている筈……でも、あれ神様的な存在だからぶっ殺したら絶対になんかあるんだよな。世界が崩壊するとかそっち系のロクでもない事が起きないことを祈るが……。

 

「──あ」

 

 ベルベットに状況の報告を終えるとお腹が鳴るライフィセット。

 恥ずかしそうに鳴るなとお腹を叩く素振りを見せるとまさかとベルベットは驚く。

 

「あんた、もしかして……食べてないの!?」

 

「……ベルベットが食べてないなら」

 

「……あんた」

 

「オレを睨まないでくれよ」

 

 ベルベットがぶっ倒れてからライフィセットは一度も飲まず食わずにいる。

 オレやアリーシャは食った方がいいとは言ったがライフィセットは断固として食事を取ろうとしなかった。

 

「なにやってるのよ!私は食べなくてもいいけど、あんたは食べなくちゃ」

 

「その心配は無い。聖隷は元々食事を摂らなくてもいい存在じゃ……食事をするのは娯楽の一種みたいなものじゃよ」

 

 食べなければ死ぬと焦るベルベットだがマギルゥが食わなくてもいいことを説明する。

 どうやら他の奴等もベルベットが目を覚ました報せを聞いてやって来たみたいだな。

 

「すまない、ベルベット……何度かは勧めたんだが」

 

 食事を摂らなくても問題無い種族だが、今の今まで食事を採っていたので急に摂らなくなったら流石に心配する。

 アリーシャはライフィセットが食べないのならば私も食べないと言い出したりしたが、アリーシャは摂らないと本当にまずいのでそれはやめさせた。ライフィセットが食べなければ他の人達も食べない的なのは脅しみたいなものであまりよくはない。

 

「趣味で食べないのは勝手だけど、あんたまで付き合わなくていいのよ」

 

「まぁ、それを言えばゴンベエも似たような事をしているが」

 

「なっ!?あんたは人間でしょう!」

 

「いやいや、飯はちゃんと食っておる。お主が何時頃に目覚めるか分からんからと殆ど寝ておらんのじゃよ」

 

「幻覚とか見たりしない程度には寝ているから問題無い」

 

 24時間ずっと起きれる夜更しのお面をつけておけば、眠らずに済む。

 道具があるから問題無いと言うと強くオレを睨むのだがそんな睨みは怖くは無い。

 

「あんた達は揃いも揃って……」

 

「船の中で爆睡すれば遅れは取り戻せるし、お前が料理を作ってくれれば全て解決する」

 

「後よ、後……アイゼン達は中に居るのよね。何時までも待たせるわけにはいかないわ」

 

 そういうと部屋から出ていくベルベット。

 もう少しゆっくりとしていけばいいなんて言えばぶん殴られそうなので言わず、追い掛けようとするのだがライフィセットが思いの外、ションボリしていた。

 

「ベルベットが心配するだけだから、もう断食なんてやめよう」

 

「僕……苦しんでいるベルベットの気持ちが分かりたかったんだ」

 

「坊よ、下手な同情は相手をイラつかせるだけじゃ」

 

 ベルベットの痛みや苦しみの理解者になろうとする姿勢はいいけど少しだけやり方を間違えたな……いや、違うか。

 痛みや苦しみの理解者になんてのは本当は成れないものだ。痛みや苦しみを知っているのは当事者だけで文字通り同じ目に遭わなければ理解は出来ない……例え同じ目に遭ったとしても多少は理解出来るぐらいだし。

 

「でも、1人で苦しむのは辛いでしょ?」

 

「苦しいか……確かに今のベルベットは苦しい気持ちでいっぱいだ……」

 

「だからと言って共感者になろうとするのはくだらん同情じゃ」

 

「じゃあ、どうすればいいんだろう?」

 

 ベルベットとの接し方に悩むライフィセット

 

「んー……人間ってのは、喜んだり楽しんだりするだけの生き物じゃなくて悲しんだり痛みに苦しんだりする色々な側面を持つ生き物だ。共感者や理解者になろうと思ってもなれないんだから自分らしさを出して接するのがなんだかんだで1番じゃねえのか?」

 

 うん、珍しくいい事を言ったな。

 

「自分らしさ……」

 

「少なくとも僕はベルベットの痛みを理解したいからご飯を食べないなんて言うよりも、素直にベルベットの事が心配なんだよって言った方がいいし、思想が異なるものの思いが他人を大きく変えることが出来る……やべ、恥ずかしい」

 

 自分でなに言ってんだ、オレは。

 こういうキャラじゃねえし、ライフィセットになにかを教えるほど立派な人間じゃない。

 

「……ありがとう、ゴンベエ」

 

「ちょ、止めろ……ホント、恥ずかしいから」

 

「なにを言っているんだ、無理に歩み寄るよりも自分らしくあれと言うのはいいことで」

 

 ホント、ヤメロォ!自分で言ってて結構恥ずかしいんだぞ。

 アリーシャはオレが良いことを言ったとか言っているが、この手の事なんぞ地獄で滅茶苦茶言われてたんだ。人間とか世界救うのナメんじゃねえぞとか言われまくってたし……ヤッベ、マジで恥ずかしい。

 

「僕、後でベルベットに謝るよ……それでベルベットの事を心配してるって伝える」

 

「ついでにオレも心配してたと伝えてくれっと、何時までもここでグダグダやってると遅いって言われるな」

 

 雷を落とされるのはゴメンだ。

 ベルベットは既に監獄に向かっているのでオレ達も急いで向かう。

 

「自分らしさか……欠片を失っている者の自分らしさとはなんじゃろうな」

 

 そんな難しいことを言われてもオレは知らねえ。意味深な事を言いながらマギルゥは部屋を出た。

 

「フィー、次の地脈点を探知して」

 

 例によって地脈点を探すべく監獄内にやってきた。

 ベルベットの言葉を聞いたライフィセットは目を閉じて羅針盤を手にし、グルグルと羅針盤の針を動かしながら探知する。

 

「あった!……遠い遠いところで、北東のずっと先にある」

 

「北東の先……恐らくエンドガンド領ですね」

 

「エンドガンド領は小さな島の集まりだがリオネル島という比較的に大きな島がある」

 

 地図を取り出し、この辺りと北東を指すエレノアとアイゼン。

 ここに来ての行ったことのない土地、聞いた限りでは辺境の地っぽいが……。

 

「多分、そこだと思う」

 

「エンドガンドと言えば、幽霊船が出るところじゃのう」

 

「幽霊船……」

 

「うむ、後悔を抱えた罪人を捕らえて永遠の航海へと連れ去るという」

 

 あ、後悔と航海を掛けた。

 

「罪人を連れ去る」

 

「このメンツに喧嘩を売るのか……」

 

 殆ど人外的な存在の集まりで、人であっても曲者揃い。

 怖いのは聖寮の特等対魔士ぐらいで、そんなものが出てきたとしても秒でぶっ倒す未来しか見えねえよ。

 

「エンドガンド領の海は世界を巡る海流が何本も合流する海域で難破した船が最終的に辿り着く場所だ」

 

「なるほどな、それが幽霊船の正体か」

 

「か〜なんじゃ、夢の無い奴等じゃのう!」

 

 アイゼンからの補足を聞いて、幽霊船の正体に納得するロクロウ。

 

「幽霊船が夢なのか?」

 

「まぁ、ハプニングに遭遇したいとかなら夢やロマンがある」

 

 アリーシャは幽霊船がロマンなのか疑問を持つので遭遇するのにロマンがあることだけを言っておく。

 とはいえ、こういう時にこんな話をしていると確実と言ってロクでもない事が起こるのがオレ達の旅であり……多分、聖寮がスタンバってるだろうな。前回はメルキオルのジジイがだったから今度はシグレが来るか、残っててベルベット達とまともに戦えるのなんてアイツぐらいだろう。

 流石のクロガネもオリハルコンには苦戦をしていてまだ武器が出来ていないらしいが……間に合わなそうか。

 

「幽霊だろうが対魔士だろうが引導を渡してやるわ」

 

 一時はどうなるかと思ったが何時もの調子を取り戻してるっぽいベルベットの言葉は頼りになるな。

 向かうべき場所は決まった。ベンウィック達は何時でも船を出せる準備をしているので直ぐに出発を出来るのだが、アイゼンが少しだけ時間をくれと言う。なにやるかは教えてはくれないが真面目な顔をしていたのでなにか大事な事なのだろう。

 

「え〜そんなのいいでしょう」

 

「ダメよ、ちゃんとしなきゃ」

 

 アイゼンが来るまでは船には乗るなと言われている。

 僅かばかり暇が出来たと思ったらメディサから逃げているモアナがいた。

 

「もー!あんまり五月蝿く言うとメディサを嫌いになるから!」

 

「嫌いで結構よ。だから、言うことを聞きなさい」

 

「もー!なんでメディサはモアナの事が好きなのにそんな事を言うの!」

 

 微笑ましい光景……変態な同期の奴が見たらエモいとかどうとか言いそうだ。

 しかしなにで揉めてんだ……あ、オレ達に気付いた。

 

「エレノアー、メディサがお風呂から出たらしっかり髪をかわかしなさいってうるさいんだよ」

 

「え、そんなことで揉めていたんですか!?」

 

「そんな事じゃないわ。喰魔だからって風邪をひかないとは限らないでしょう」

 

「風邪なんてひかないよ!モアナ、おかあさんのにっがいクスリ飲むの嫌だもん!」

 

「ワガママ言うと無理矢理ゴシゴシしますよ!」

 

 モアナのオカンが板についてきたな……しかし髪の毛か。

 

「ドライヤーとかヘアアイロンがあったら楽なんだけどな」

 

 タオルで擦って手動で乾かすしかないこの世界。

 作ろうと思えば作ることは可能だが、そこまで髪の毛に拘っていないし作る理由が無い……でも、作ったら売れそうだよな。

 

「そ、そんなにムキにならなくても……モアナの髪ももう乾いているみたいですし」

 

「うん!もうかわいちゃったー」

 

「あ〜あ……」

 

 エレノアが余計な事を言ったからモアナは行ってしまった。

 

「……甘やかしてしまいました……」

 

「まったくね。もし風邪をひいたらどうするつもりなのよ、喰魔だから簡単に治らないかもしれないのよ」

 

 メディサに軽く怒られるエレノア。

 モアナの事となると甘くなるのは仕方がないが、その事に関して負い目を感じていることをメディサは知っている。と言うよりはライフィセットがモアナに関するあれこれを話しており、その事を秘密にする事をメディサは約束する。

 ベルベットはわがままな子供相手に物好きだと呆れるが、そんなわがままな相手に付き合うのが母親の役目だという。

 

「待たせたな、出発するぞ」

 

 モアナの一件のあれこれが終わるとアイゼンがやってきた。

 既に準備は終えているので直ぐに船に乗り込み、リオネル島に向かって目指す。

 

「全員、居るな」

 

「その確認は出発前にやるもんだ……なんかやったか?」

 

 全員が船に乗っている事を改まって確認をするアイゼン。誰かが乗っていないという事はなく、つい先程まで顔を合わせていたメンツがいるぞと顔を見せる。わざわざこんな事を聞いてくるのはついさっきなにかをやってきたということだが……。

 

「血翅蝶を使ってオレ達が別の聖寮の施設を襲撃するという情報を流した」

 

「お前……そういうのは言わねえ方がいいだろう」

 

 聞いておいてなんだけどよ。

 何処にスパイが紛れ込んでいるか分からねえ状態だから偽の情報をバラ撒くにしても偽の情報をバラまいたとオレ達に言ったのならばそれが嘘だって情報を送るかもしれねえだろ。

 

「だからこそだ……これで情報が漏れていたのならば、ハッキリと黒だと分かる」

 

「効果はやらない程度よりはマシ……そう考えた方がよさそうね」

 

 誰が黒なのかをあぶり出す方法はまだ分からないがな。

 アイゼンから偽の情報を流した事が伝えられると船内のメンバーは不穏な空気を醸し出す。スパイが居るだなんだとギスギスした空気を出すのは気持ち悪いが、実際のところ誰かがスパイをしていなきゃ知り得ない情報をバラまいていた。

 この中にスパイが居ると言われれば余計な情報を漏らしてはいけない。自分は違うと身の潔白を証明しなければならない。気付けば誰かが誰かを監視する感じの程良い空気が生まれている……これが狙いだったのか。

 

「幽霊船は出なかったわね」

 

 エンドガンド領の海域に入りリオネル島に順調向かう。

 マギルゥが来る時に言っていた幽霊船は出てこない……やっぱこのメンツに挑むのは無理があっか。

 

「副長、前方に漂流中の船を発見!」

 

「幽霊船かの!」

 

 望遠鏡を覗いて遠くを眺めて驚くベンウィック。

 マギルゥが目を輝かせているので、やっぱそう上手くはいかねえか……。

 

「聖寮の船です!救難信号旗を上げてます!」

 

「……わかった。接触しろ」

 

「ちょっと、助けるつもりなの!?」

 

「救難信号旗に敵も味方も無い。これは船乗りの鉄則だ」

 

「罠の可能性だってあるわ」

 

 スパイが正確な情報を漏らしたかどうかは不明だが、あの船はリオネル島に向かう敵の船だ。

 ただでさえ色々とギスギスしている時に敵の船に乗り込んで救援をしようなんて考えられないといった顔をベルベットはするが、アイゼンはそれを承知の上で近づくといった。

 

「海賊だって救難信号旗で騙し討ちしないよ。助けた後は、身ぐるみ剥ぐけど」

 

 ベンウィックもそれは無いと言う。最後のがなければしまってたのにな

 

「万一罠ならば皆殺しにする……それだけだ」

 

「ちっ、面倒ね……」

 

「いいんじゃねえの、そっちの方がシンプルで分かりやすいし……」

 

 この辺に聖寮の船があったってことは例によって地脈点に居る喰魔の警備をしている対魔士とかの線が高い。

 聖寮の船が近くにあったって事だけで一瞬にして色々な情報や可能性が浮上したとなれば、騙されたつもりで救援するのも悪くねえ。

 

「地脈点に向かえば嫌でも聖寮の対魔士に会う……先にぶっ倒したって考えとけ」

 

 嫌そうな顔をしているベルベットに一先ずの納得がいく言葉を送る。

 あれが地脈点に今から向かっている増援的な船かそれとも前々からある船かは分からないが、先に厄介事が回ってきた……この船以外に地脈点で誰かがスタンバってる可能性がたけえけど




 スキット 過去と未来の照らし合わせ


アリーシャ「ここがこうなっていてこれがああなっていた」

ゴンベエ「なにやってんだ?」

アリーシャ「ああ、現代の情報と過去の情報を照らし合わせていたんだ」

ゴンベエ「過去と現代の情報か……面白い発見でもあったか?」

アリーシャ「ああ、開拓の村のストーンベリィがどうして未来ではラストンベルと呼ばれるのか分かったり、北の国との国境に海門要塞だったりとにかく新しい発見があった」

ゴンベエ「確か、ベルベットの村に行く途中が現代で言うレディレイクがあった場所だったよな。そこはなんかあったのか?」

アリーシャ「それは……その」

ゴンベエ「なんだ?」

アリーシャ「湖の上に街を作ってレディ達にライクされたいと言っている人がいて」

ゴンベエ「え……まさかレディレイクって女性にモテたいって意味なのか?」

アリーシャ「……」

ゴンベエ「王都が女性にモテたい……女性にモテたい街で導師……ッふ」

アリーシャ「ゴンベエ、笑わないでくれ!名前の起源はそうかもしれないというだけで、もしかしたら別の可能性もある!」

ゴンベエ「わあった、わあったよ……にしても現代と照らし合わせても色々と謎な事が多いな」

アリーシャ「ダークかめにんにエドナ様が託したレコードの3人目、ザビーダ様の変化、繰り返されるループのはじまり……まだまだ謎が多い」

ゴンベエ「あの亀ともう一回顔を合わせなきゃなんねえのか……一回、死にかけたのは嫌な思い出だ」

アリーシャ「だ、大丈夫だ。戦うことは分かっている!」

ゴンベエ「いや、大丈夫じゃねえよ……にしても謎か……あの時の声は何だったんだな」

アリーシャ「あの時の声?」

ゴンベエ「ヘルダルフをシバき倒した時に誰かがオレに謝ってたんだよ……」

アリーシャ「そう、なのか?」

ゴンベエ「今にでも枯れそうな声だったのに、なにかに対して謝ってた……なんだってんだ全く」

アリーシャ「そう言えば、レディレイクの底になにかが埋まっている様だがあれもこの時代と関係しているのだろうか……」

ゴンベエ・アリーシャ「……はぁ」



 スキットが短いのでちょっとした設定


 ゴンベエは基本的に転生すると諏訪部キャラの容姿になるのだがゴンベエ以外にも宮野真守キャラ、水樹奈々キャラ、中村悠一キャラ、坂本真綾キャラになる転生者がいる。


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未完成の……

「乗り込むわよ!」

 

 バンエルティア号を救難信号旗を出している船に近付けた。

 罠かもしれないと警戒心をベルベットは緩めることはせず、号令を出して先頭を走り聖寮の船に乗り込んだ。

 

「これは……全員が倒れている!?」

 

 万が一があってはならないと私も警戒心を緩めることはしない。

 足手まといにはならない様に警戒して船に足を踏み入れると何時もの格好をしている聖寮の対魔士達がそこかしこに倒れていた。

 

「目立った外傷は無さそうだな」

 

 倒れている対魔士達の周りを見るゴンベエ。

 誰かと争った痕跡は残っていない……この状況と似たような事を前に見た……確か

 

「これは、壊賊病……」

 

 そう、壊賊病だ。原因は不明の病気で海の上で掛かる不思議な病気。

 エレノアも同じことを考えていたようで私よりも先に声に出す。

 

「ベンウィック、船にあるサレトーマは足りるか?」

 

「はい、この人数なら足りると思います」

 

 聖寮とは敵同士だが、今は休戦をする時。ベルベットは不満そうな顔をするがアイゼンとベンウィックの行動に文句は言わない。

 

「それにしても聖寮が壊賊病に掛かるとは」

 

 市場や港に色々と制限を掛けたり出来る程に権力を持っている聖寮。

 壊賊病に掛かる原因は不明だが可能性はあるのでサレトーマの花を常備していそうな感じだが、乗せていないのは意外とも言うべきか……なにか違和感を感じる。

 

「私が……無謀を承知で船員を脅したからです」

 

「!」

 

 今にでも死にそうな声を出して出てきたのは、そう……テレサ。

 エレノアと同じく何時もの格好をしていない対魔士でかなりのものだが……目の焦点があっていない。私の記憶が正しければゴンベエに顔を掴まれて頭を激しく揺らされていた……その後遺症なのか。

 

「成るほど、聖寮の正式な船じゃないのか……道理で乗組員が少ない筈だ」

 

 船の違和感に納得をするロクロウ。

 

「無謀は承知ですが、まさか壊賊病に掛かるなんて……ですが、貴方達とここで会えたのですから」

 

「そんな体で勝てるとでも思ってるの?」

 

 私達を探していた様な口振りのテレサ。

 助けると言っても敵同士の関係には変わりはなく、挑んでくるのならば何時でも殺してやるとベルベットはやる気を見せる……私達とテレサは敵で、今テレサは壊賊病に掛かっていて瀕死の状態だ。そんな状態だと私ですら勝ててしまう……ハッキリと言って無謀だ。

 

「いいえ、違います……勝つのは貴女達です。私を利用して……」

 

「その口振りからすると、アイツが居るのか」

 

 意外な事を言い出したテレサに特に驚きはせずに考えるゴンベエ。

 ゴンベエの言っているアイツとはモアナの居た神殿にいたオスカーの事……テレサは自分を人質に使えと提案をしてきている……何故だ?

 

「あいつ程度ならどうにでもなるわ」

 

 ベルベットには神衣の様な力がある。

 使う必要が無いからと殆ど使っておらず、それを使えば物凄くパワーアップをすることが出来る。聖寮相手には使ってもいない同然で、現時点でもオスカーに勝てているベルベットにとって、オスカーは簡単に倒せる存在であまり反応しない。

 

「オスカーが……メルキオル様が開発した決戦術式を身に付けたとしてもですか?」

 

「なんですって?」

 

「聖隷の力を限界を超えて引き出す術、通常の聖隷術とは比較にならない威力を秘めています」

 

「今より更に強くなるだと?」

 

 既に充分な力を手にしている筈のオスカーが更にパワーアップを果たす……まさか。

 

「何故そんな事を教えるの?」

 

 オスカーがパワーアップを果たして勝てると見込んでいるからこそ自分を人質に取れと言うテレサ。

 ベルベット達はハッキリとした敵ならばオスカーが倒せばテレサからすれば得な事で聖寮全体から見てもいいはず……船を無理矢理出したと言っていたが、いったいなんでこんな事をしているか疑問がつきない。

 

「その術はまだ未完成で、術者に大きな負担が掛かります……私はオスカーを助けたいのです!」

 

 術者に負担……違うのか?いや、だが此処は過去の時代……ありえなくはない。

 

「私を人質にすればオスカーは手を出せない。貴女達はその間に喰魔を連れていってください」

 

「聖寮を裏切るって言うの?」

 

 オスカーがリオネル島で私達を迎え撃つ準備をしていて、その事を敵であるにも関わらずにテレサは喋っている。

 一人の個の感情よりも全体の理を優先する組織である聖寮にとってそれはハッキリとした裏切り行為である。

 

「あの子に代えられるものなんて、この世には無いわ」

 

「!」

 

 裏切り行為だと認めて否定はしないテレサ。

 その言葉を聞いたベルベットは一瞬だけハッとした状態になる……それは……いや、やめよう。

 

「信用できないのも当然……薬はいりません……私の命も預けますから……オスカーを、助けて」

 

「テレサ様!」

 

 必死になって堪えていたが限界がやって来て膝をつき、徐々に倒れ込むテレサ。

 完全に意識を失うとライフィセットは側に駆け寄るが既に気を失ってしまっている。

 

「……それなりに役に立ちそうな話ね。船に乗せて薬を飲ませて」

 

「……お前、なにやってんだよ……」

 

 テレサの意見を聞き入れようとしているベルベットを見て、ゴンベエは呆れていた。

 

「自分がなにやろうとしてんのか分かってんのか?」

 

「ここにこの船があるならオスカーが待ち受けている可能性があるわ。人質に使えるんだったら」

 

「そうじゃねえよ」

 

 この状況からしてオスカーが待っている事に関しては嘘は無い。

 どんな事をするかは知らないが使用者に危険を及ぼす程の術を使用してくる以上は使えるものは使ってやる姿勢のベルベットだが、ゴンベエが言いたいことはその事じゃない。

 

「お前がやってる事は血も涙もない復讐だ。人である姿を見せるのは悪くはねえけど、これじゃあ中途半端になるぞ」

 

「っ!……」

 

 敵である聖寮の対魔士に情けを無意識の内にかけてしまっているベルベット。

 イマイチ非情になりきれないその姿にゴンベエは呆れている。

 

「復讐は一度やると憎しみの連鎖がはじまるもので、やった側もやられた側も憎み憎まれの関係性で今からやるのはその過程の踏み台を踏むことだ」

 

「ゴンベエ、言い過ぎだ」

 

「言い過ぎじゃねえよ……復讐譚ってのはそういうもんだろうが」

 

 あまりにも酷いことを言っている。

 流石に間に入らなければならないと思ったが、ゴンベエは冷たい目で語る……これはベルベットの復讐の物語だと。

 

「……アルトリウスを殺す目的は変わりはしないわ」

 

「……なら、いいんだがよ」

 

 ベルベットの心は大きく揺れ動いてはいるが、本来の目的は見失ってはいない。

 壊賊病に掛かった対魔士達を全員を船に乗せると万が一がある可能性があるのでテレサだけをバンエルティア号に乗せて他の対魔士達はサレトーマの絞り汁を飲ませ、ベンウィック達が一部の資材を奪い取り、別れた。

 

「にしても、ここに来ての新しい聖隷術か」

 

 リオネル島についたころ、ゴンベエとベルベットの間にあったギスギスした空気は少しだけ緩和されるとロクロウがオスカーの新しい術について考える。ここに来ての新しい術……私達に対抗して作り上げたと考えるには少しだけおかしい。

 

「極端な話をすればシグレとメルキオルのクソジジイがいれば戦力は足りてるから……なんかきっかけがあったんだろう」

 

「きっかけか……そういえば以前にザビーダの持つジークフリートの術式をメルキオルのジジイが読み取っておったの」

 

 ゴンベエがきっかけというとマギルゥはザビーダ様を思い出す。

 確かあの時はジークフリートの術式を読み取っていた。その新しい術を完成させる為にあんな事をしたと考えれば納得は行くが、ゴンベエの言う通り戦力としてはシグレとメルキオルがいればそれで済む。オスカーがパワーアップするのは驚異的だが、元から強いシグレやメルキオルを強くした方がいい……謎だらけだ。

 

「どんな術を使ってこようが関係無いわ。アメッカ、聖隷の意思を開放しなさい」

 

「……分かった」

 

 オスカーの新しい術が気にはならないが聖隷術つまりは天響術の一種であることには変わりはない。

 ならば使役している天族の方の意識を開放し繋がりを断ち切ればいい。どれだけ危険な術式かは知らないが、天族の力を借りる事が出来なければその術を使うことが出来ない……そう。最初からオスカーをどうにかする方法はある……。

 

「にしても弟の為によくやるよな」

 

「オスカーはアスカード王家を祖に持つドラゴニア家の次男、聖寮との結びを強める思惑から入れられたそうです」

 

「家の都合か、よくある話だ」

 

 弟の身を心配して例え組織全体で不利益になる裏切りだとしても止めに入るテレサに疑問を持つロクロウ。

 エレノアはオスカーとテレサの関係性について語る。

 

「テレサも彼の後を追うかの様に聖寮に入りずっと陰日向にオスカーを助けてきました」

 

「つまりあやつも貴族か。大人しくお嬢様をしてればいいじゃろうにー」

 

「……それだけ心配だったんだろう」

 

 マギルゥの言葉が若干胸に刺さって痛い。だが、弟が大事だと思っているから立場を捨てたのはなんとなくで理解が出来る。本当に大事ならば自分の事は惜しまない。私が槍を手にしたのもそういった理由があるからだ。

 テレサの事に少しだけ納得しているとエレノアは気まずそうな顔をする。

 

「それが……その……テレサの母は正式な妻ではなく……その身分が」

 

「お前、気まずいなら言うなよ……触れない優しさもあるだろう」

 

「貴方にだけは同情はされたくはありません」

 

 エレノアが言いづらそうなのを見てゴンベエが眉を寄せているとテレサがバンエルティア号から出てくる。

 

「よくある話です」

 

「よくある話ねぇ……よくあったらダメか」

 

 貴族や王族の様な身分が高い人ならばそういった話はよくあること。

 そう考えれば私の母も似たような話は探せばあるのかも……いや、今は関係ないか。

 

「正妻に疎まれた母は死に、私は召使いとしてドラゴニア家に仕えました。暗く冷たい家……でもあの子が、オスカーだけは私の事を姉上だと言ってくれた。家族として慕ってくれた」

 

「どうやら体調は戻ったようね」

 

「薬のことは感謝しています」

 

 一先ずの礼を言うテレサ。体調は完全に戻っている……目の焦点はあってはいないが。

 体調が元に戻ったテレサはビシッと島の山側を指差す。

 

「この先のベイルド沼野を進むと古代王国の遺跡があります。そこが地脈点でオスカーもそこにいます」

 

「あの、一号は?」

 

 地脈店の場所を教えてもらうとライフィセットは振り向きテレサに質問をする。

 一号、と言うのは恐らくだがテレサが使役している天族。先程から一向に姿を見せていないので疑問に思う。

 

「あれはアルトリウス様に取り上げられました、今の私に対魔士の力は無い。つまり私を生かすも殺すもそちらの自由。オスカーを気の済むまで好きにして結構」

 

「望み通りにしてあげるわよ……全部ね」

 

 例え天族が居なくともベルベットは油断はしない。

 非情な目でテレサに答えると古代王国の遺跡に向かって歩き出そうとするのだが、少しだけ問題が発生した。

 

「きゃ!?」

 

 テレサが石に躓いて盛大なまでに転んだ。

 これだけならば単純なドジと思うのだが、立ち上がった後に周りを見回して凝視している。

 

「テレサ、貴女……目が見えていないのですか!?」

 

「……ええ。そこの男に頭を揺らされた時に目が見えなくなりました」

 

 ゴンベエの事を睨むテレサ。頭を揺らされたと言うのは祭壇でのことで確か目や口から色々と液体を出していた。

 イズルトで見かけた時は目に包帯を巻き付けていたが……目が見えないのか。

 

「完全に目が見えていないと言うわけではありません。朧気ですが姿は見えます」

 

「そうは言うがその辺の石っころに転んでんじゃねえか、この先歩けんのか」

 

「誰のせいだと思っている……」

 

「バカ言ってんじゃねえよ……本物のヘッドシェイカーをくらってたら今頃死んでたぞ、お前」

 

 ゴンベエが原因で目が見えなくなったので恨み言を唱えるテレサ。しかし、ゴンベエは悪びれず命があっただけマシだと思えと言う。

 

「目がまともに見えねえとなると、担いでいくしか」

 

「貴方の様な穢らわしい人間に担がれるぐらいなら自分で歩きます」

 

 そうは言うが、普通の人でも分かるような石に躓いてしまうテレサ。

 無理矢理に担いで連れていく事は出来るが、ゴンベエは自分がやったからかそうはしない。

 

「テレサ様、こっちです」

 

 どうすべきかと見ているとライフィセットがテレサの手を取った。目が見えないテレサが転ばない様に慎重に握っており、ゆっくりと歩く。

 それを見たベルベットは不満そうな顔になるが、目が見えないからこうしているのは分かっているので深くはなにも言わない。

 

「早くしなさい、チンタラ歩いている暇は無いわ」

 

「二号、もう少し早く歩いても問題はありません」

 

「は、はい……えっと」

 

「どうかしましたか?」

 

 手を引っ張るのをやめてなにかを言いたそうな顔をするライフィセット。

 

「その……ぼ、僕は二号じゃありません!ライフィセットです!」

 

「ライフィセット……?」

 

「ベルベットが付けてくれた大切な名前なんです」

 

 顔を合わしてからライフィセットはずっと二号と呼ばれていた。

 その事にライフィセットは不満を抱いていた。ライフィセットは二号ではなく、ライフィセットと言う名前があるのだと勇気を出して主張している。

 

「大切……そんな事を思うのですか?」

 

「嬉しければ笑う。悲しければ泣く。天ぞ……聖隷も人間と同じだ」

 

 天族が人間と同じ様にしているのは驚くことでしかないのかエレノアの時と似たような反応をしている。

 それだけ天族を道具かなにかと思っている……悲しいことだ。

 

「……分かりました。これからはライフィセットと呼びます」

 

「ありがとう、テレサ様!」

 

「ありがとう、ねぇ……」

 

「ゴンベエ、水を指すような言葉はやめるんだ」

 

 なにか言いたそうな顔をしているゴンベエ。

 言えばロクな事が起きないのは目に見えて分かるので先に抑止しておく。

 

「天族と人間の本来あるべき形って、なんだろうな」

 

「それは……」

 

 この時代の住人達は天族を道具の一種かなにかだと勘違いをしている。皆、人間と同じく強い意志を持っている。意思を抑制している天族の器となることで憑魔達と戦える様になり国は豊かになっている。一概に間違いとは言いきれない。天族は信仰の対象であり、崇め讃える存在だが……災厄の時代が現れては導師が現れるを何度も何度も繰り返している。

 この時代でなにがはじまりか見届けるのが私達の役目だが、それが終われば天族と人間のあるべき形を……向き合い方を考えなければならない。ただ天族が見えるようになればいいと言うわけではない……難しいことだ。

 

「今は見るだ考えるだの時間だ……難しいことは戻ってから考えるしかない」

 

「……私に答えが出せると思うか?」

 

 ずっと悩んでて、ゴンベエがキッカケを与えてくれないと自分から答えを出すことは出来ていない。

 知恵者でもなんでもない私に皆が納得するような立派な答えを出せるかどうか自信はない。

 

「答えなんて出さなくていいんだよ」

 

「え……」

 

「答えを出そうと思わなくても自分が思った道を進んでいけばそれが勝手に答えになるんだ」

 

「私が、私が間違ったら?」

 

 私だって清く正しくありたいとは思っている。だが、なにが正しくてなにが悪いのかがよく分からなくなってきた。

 もし私が気付かない内に間違った道を歩んだらどうなるか……怖い……。

 

「逆に聞くけど、なんで間違えねえって言える?……誰だって間違えるんだ。大事なのは間違いを認めることが出来る事だろうが……お前はそれが出来る人間だろ」

 

「……ありがとう」

 

「やめろ、恥ずかしい」

 

 ゴンベエにとっては何気無い言葉なのかもしれないが、それでも私は救われたと感じる。

 

「……オレが力を貸せるのは過去(ここ)まで……後はアリーシャが頑張るしかない」




スキット 浮気は悪い文明

ゴンベエ「しっかし、テレサが余計に撒き散らした種とはな」

エレノア「た……貴方、なに言ってるんですか!?」

アリーシャ「ゴンベエ、その……そういった話は貴族とかの上流階級では稀にある話で」

ゴンベエ「稀にあるって言うけどよ、やってることはただの浮気だろ?……この国って一夫多妻制度採用されてるっけ?」

ベルベット「そんなわけないでしょ」

ゴンベエ「貴族だから金持ってそうだから養えるかもしらねえけど、普通に駄目だろ。貴族とかそういう立場関係無しだろ……ホントさ、貴族だからって浮気していいルールは無いからな」

エレノア「そう言われればそうですが……」

ゴンベエ「想像してみろよ……既に婚姻関係にあるのに浮気してんだぞ」

ベルベット「貴族なんだから許嫁だなんだの望まない結婚だったんじゃないの?」

ゴンベエ「でもそれだと遠回しに貴女に魅力を感じてないって言ってるみたいなもんだろう」

エレノア「それだけ結婚相手が最悪だった……いや、でも……」

ゴンベエ「真実の愛とか望まぬ結婚とか色々と理由があるかもしんねえけど……目を閉じて、冷静に考えてみようぜ。同じことをされたらどうする?」

ベルベット「……殺すしかないわ」

ゴンベエ「だろぅ」

アリーシャ「殺すなんて、物騒な真似はよすんだ!」

エレノア「でも、同じ事をされたらムカつきます……アメッカはムカつきませんか?」

アリーシャ「……うっ……私に、私に魅力が感じないのか……」

ゴンベエ「涙目になってるじゃねえか……浮気は悪い文明だし、そういう事をするなら国も一夫多妻制度を作ったりしたらいいのに」

ベルベット「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!そんな面倒な制度なんて絶対に認めない……あんたまさか!」

アリーシャ「ゴ、ゴンベエ、ハーレムはダメだ!恋愛は自由かもしれないがそれは自由すぎる!」

エレノア「恋愛は一対一で行うもので、ハーレムなんて不潔です!」

ゴンベエ「オレはモテるだけでありがたいからしねえし、うちの国は一夫一妻のちゃんとした国だからその手の価値観はねえよ……昔、国が勧めて経営が傾く大奥(ハーレム)作ってみたいだが」

エレノア「国ぐるみで推奨してたのですか!?」

ゴンベエ「ハーレムなんてロクなもんじゃねえよ……過去にハーレム作って遺産相続関係で犬神家の一族並に泥沼化させた転生者(やつ)いたし」

ベルベット「そいつ最低の屑ね」

アリーシャ「やはり浮気は悪い……ゴンベエ、絶対にしたらダメだ!」

ゴンベエ「浮気もなにも相手がいねえから浮気にならねえだろ」

ベルベット「思わせぶりな態度をしているのに無視する時点でアウトよ」

ゴンベエ「え〜……エレノアはどう思う?」

エレノア「そうですね……二人だけで仲良く談笑しているとかは、ちょっと妬いてしまいます」

ベルベット「なに言ってるの、それは浮気よ」

エレノア「浮気、でしょうか?」

ベルベット「いい、男なんてちょっとでも愛想を振りまいたらコロッと落ちるのよ……二人で仲良く談笑なんて浮気のきっかけになるんだから徹底しておかないと。遊び感覚で走る奴だっているわ」

ゴンベエ「否定できねえ……でも、お前束縛が強すぎる気が」

アリーシャ「だが、浮気されるよりは……そうだ!ゴンベエ、貞操帯をつければいい!そうすれば身の潔白を証明し続けることが出来る!」

エレノア「そ、そこまでしますか……」

ベルベット「するわ」

ゴンベエ「お前等……重い……」


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番外編 テイルズ学園

悪ノリでテイルズ学園とかやったのでこんなのしか書けない。
そしてテイルズ学園の校歌はノルミンダンスである。詳しくは自分で調べてね。載せていいかわかんないから。


──ピピピピ

 

「ん……朝か」

 

 目覚まし時計のアラームの音に反応し、彼女は目を覚ます。

 何時も通りの朝がやって来たと体を伸ばし、ゆっくりと意識を起こす……彼女の名前はアリーシャ・ディフダ。

 政治家の家系であるディフダ家の隠し子みたいなものであり色々と重い設定があるのだが、今は関係の無い事なので割愛しておこう。

 

「お嬢様、おはようございます」

 

「おはよう……」

 

「顔を洗い、歯を磨きください」

 

「ん……」

 

 金持ち街の大きなお屋敷である彼女の家には当然の様にメイドがいる。

 アリーシャに朝の挨拶をするとメイドはカーテンを開けて朝の日差しを入れると寝惚けていたアリーシャは段々と意識を目覚めさせていく。

 

「今日はいい天気だ」

 

 昨日は若干の曇りだった為に嬉しそうにするアリーシャ。

 見事なまでの快晴の空の日はなにか良い事があるかもしれないと思いつつも身嗜みを整えに手洗い場に向かった。

 

「……あ、レイアからメッセージが来ている」

 

 顔も洗い歯を磨き終えるとスマホを見るアリーシャ。仲の良いクラスメートであるレイアからメッセージが届いている。

 

【聞いて聞いて、大スクープ!】

 

「大スクープ?」

 

 保健委員兼新聞部を兼任しているレイア。

 学校の面白い情報を得たようだが、ガセネタを掴まされる事が多いが今度はなんだろうと思っていると続きのメッセージが届く。

 

【転校生がやって来るんだって】

 

「転校生が……」

 

 転校生、それは他所の学校からやって来る生徒のこと。どうやってその情報を得たかはともかく、その情報が本当だったら面白いことは事実。

 どんな人がどの学年にやって来るのだろうと想像を膨らましながら制服に着替えて朝食をいただき、学校に行く準備をする。

 

「お嬢様、車の用意が出来ました」

 

「……はぁ……ああ、直ぐに行く」

 

 アリーシャの通うテイルズ学園はお嬢様お坊っちゃんが通う金持ち学校……ではない。

 やたらと上流階級の人が多い学校ではあるがそこまで格式の高くない学校であり一般人も通っていて、アリーシャは車で通学をしている。

 アリーシャはこの登校が嫌だった。学校の登下校には危険が付き物だったりするし、快適かもしれないが窮屈だ。人とは違うお嬢様で複雑な家庭だと理解しているが、レイア達の様に歩いて登校したいと思っている。しかしそれは叶わない夢……。

 

「転校生、誰だろう」

 

 転校生を思い浮かべるアリーシャ。

 テイルズ学園は初等部から高等部まであるエスカレーター式の学校、下の学年の生徒かもしれないが……出来たら同学年がいいなと少しだけ思う。

 

「ぬぅおおおおお!!」

 

「……え!?」

 

 車の窓の外を眺めていると見たことにない男性が全力疾走していた。

 通学路という事もあり法定速度はかなり制限されていて運転手も安全運転を心掛けているので車基準では遅いかもしれないが、それでもかなりの速度が出ている。そんな車と並走している彼を見てアリーシャは驚く。

 

「初日から遅刻はまずい」

 

 必死になって走る彼。

 車が信号に引っかかって止まると、彼は別の方向に曲がっていった。

 

「なんだったんだ……」

 

 車と並走出来る人間なんてはじめてみた。

 あれはいったいなんだったのだろうと窓の外を眺めてみるが既に男は居なくなってしまっている。見間違いかなにかかと思ったが、運転手も若干驚いているので見間違いではない。

 なんなのかと深く考えてみるもののよくわからない。とりあえずはレイアに話す話題が出来たぐらいの感覚で納まる。

 

「今日は……なににしようかしら?」

 

 場所は移り変わり、別の通学路。

 ベルセリア荘に住むベルベット・クラウは今日の夕飯について考えていた。自分一人ならば適当に済ませるが甥っ子のライフィセットが一緒に居るので適当に済ませるわけにはいかない。こういう時はスーパーに行って食材の値段と相談するのが1番だと考える。

 

「やっべーよ、やべえよ」

 

 曲がり角に差し掛かるとスマホを弄っている男がいた。

 歩きスマホで前を見ていないからこっちから避けないといけないと思っていると男はスマホを見るのを止めて自分を見てくる。

 

「なぁ」

 

「……なに?ナンパならお断りよ。私、急いでるんだから」

 

「ちげえよ……テイルズ学園ってどっちだ?」

 

 声をかけられたので警戒心を強めるベルベット。

 稀に質の悪いナンパをされるので先に言っておいたが男の要件はベルベットのナンパではない。

 

「テイルズ学園ならあっちだけど……」

 

「ああ、あっちか。道、間違えてたみたいだ……」

 

 はぁ、と大きくため息を吐いた男。

 

「うちの学校……なんの用事?」

 

 アリーシャと違いベルベットはシャツだけで着崩しているが私服でなく制服のテイルズ学園。

 男の着ている服はテイルズ学園の制服とは違う白色のブレザーで明らかに他校の生徒。

 

「用事って……まぁ、そりゃあ後で分かる。この道をグッと真っ直ぐ行けばいいのか?」

 

「違うわ、途中で曲がる……ついてきなさい」

 

 男が何者かは分からないが、質の悪いナンパでない事は確かだ。

 どうせ通学路なのでこのまま迷子になられても困るとベルベットは道案内をし、テイルズ学園に案内する。

 

「サンキュー、助かった」

 

「別に礼を言われる事なんてしてないわ。ついでよ、ついで」

 

「そこの君って、ベルベット!他校の生徒と連れ合ってなにをしているんだ!」

 

 特び会話らしい会話はなく、辿り着くテイルズ学園。

 男はベルベットにお礼を言うがベルベットにとってはついでのこと。お礼を言われるほどじゃないと軽く流していると生徒会のフレンがやって来た。

 

「こいつが来たがってたから連れてきただけよ」

 

「来たがってたって……君、何処の学校の生徒だ?」

 

「三途リバー仏学園だよ。聞いてねえって見たとこお前も生徒だから話は届いてねえか」

 

 やっぱりと言うべきか他所の学校の生徒だった。

 聞いたことのない学校の名前でベルベットはイマイチピンと来ていない。

 

「職員室、どっちだ?あ、高等部のな」

 

「高等部の職員室はこっちだが、君はいったい……」

 

「ついたら分かる……道案内してくれてサンキュー。これお礼だ」

 

 おにぎりせんべいと書かれた小袋のお菓子をベルベットに渡すと男はフレンに連れられて職員室に向かっていく。

 

「……転校生かしら?」

 

「転校生ですか?そんな話は聞いてませんよ」

 

「エレノア……」

 

 彼が何者なのかを考えて口にすると新聞部のエレノアがやって来た。

 学園の情報を知り尽くしている情報屋のマギルゥ程とは言わないがある程度の情報を知っており、豊富な雑学も持っている。そんな彼女でも転校生については知らない。

 

「なんじゃお主達、知らんのかえ?」

 

「マギルゥ、知っているのですか?」

 

 何者だろうかと考え込んでいると学園一の情報屋であるマギルゥが現れる。

 なにかを知っている素振りを見せる彼女にエレノアは問いかける。

 

「知っておるぞー」

 

「彼、何者なんですか?」

 

「おおっと、タダで情報を売るほどワシは安くはない!」

 

「……学食のマーボカレーまん1つでどうですか?」

 

「随分と熱心ね」

 

 マギルゥ相手に交渉とは無茶だとは思うが、それでも彼女は新聞部の一人である。

 転校生の様な存在が何者なのかを気にならないのがおかしい。

 

「そうじゃのう……ベルベットがハトマネをしてくれるならいいぞえ」

 

「はぁ!なんで私がそんなことをやらなくちゃいけないのよ!」

 

 やるならばせめてエレノアにさせること。

 いきなり変な矛先が向いたのでベルベットは軽くキレるが、エレノアに宥められてなんとか落ち着くものの若干悪い空気を生む。

 

「どうせ転校生かなにかでしょ。後で分かるんだから、聞かなくてもいいわ」

 

「そう言われればそうなんですが……」

 

 何者なのかは謎だが時期に正体は分かる。マギルゥ相手にこれ以上は付き合ってられるかと自分のクラスに向かって歩いていく。

 

「はぁ……社長に罰ゲームで汁を飲まされたと思ったら、なんで学園物の世界にいるんだろ」

 

 廊下をトボトボと歩いていると物凄く落ち込んだ顔で歩く生徒……イクス・ネーヴェ。

 このイクスくんはちょっと特殊な事情があるイクス(笑)もしくはイクス(仮)なのだが説明すると長いので割愛しておこう。

 

「イークス!」

 

 そんなイクスくんの妻であるミリーナは笑顔でイクスに抱きつく。

 

「ぎゃあああああ!出た!?」

 

 世界が変わっても彼女からは逃げられない。

 イクスの平穏は一瞬にして崩れ去り叫び声をあげる。

 

「もう、どうしたのよイクス。そんな怖いものを見るような目で私を見て……」

 

「いや、怖いんですよミリーナさん!」

 

「イクスが怖い……いったい誰にイジメられてるの!ジェイド教頭?ジェイド教頭?ジェイド教頭?」

 

「なんでジェイドさん1択なんですか?」

 

「だって、ジェイド教頭、生徒の生き血を啜って若作りしてるって噂があるから」

 

「……ありえそうで怖い」

 

 奴ならばありえる。否定する材料が少ないのがなんとも言えない。

 ジェイドの恐怖に怯えているならばミリーナは躊躇いなくジェイドを殺りにいく。少なくともイクス(笑)の知っているミリーナとはそういう女だ。

 

「別にイジメられてるとかそんなんじゃありませんよ」

 

 ただこの空気に馴染むことが出来ていない。

 つい先程まで罰ゲームと言う名の死刑宣告を受けていたので、いきなりの転換に馴染めていない。

 

「ホント?」

 

「本当です……こういう空気の方が、まだ耐えれる……」

 

「あ、イクス!はい、今日のお弁当のおかずはからあげだからね」

 

「なんでミリーナさんが弁当を……これなに弁当だ?愛妻弁当?」

 

「もうイクスったら、戸籍上はまだ妻じゃないわ!事実婚よ!あ、でも紹介の時は彼女の方がいいかな」

 

「クソ、時空がねじ曲がってもミリーナさんがブレない」

 

 とかなんとかやっているがやっていることは愛妻弁当を受け取っているリア充イクス。

 本気で拒むとなにしてくるのかわからないので受け取るしかない……しかし、その光景は旗から見ればリア充にしか見えない。

 

「朝っぱらからなにやってるのかしら」

 

 彼氏彼女の関係である彼等には日常茶飯事な光景だが見ているこっちが甘ったるくなってしまう。

 

「彼氏か……ロクなのいないわね」

 

 あんなリア充に憧れることは無いが、ベルベットも花も恥らう乙女な年頃。

 彼氏が居たらと言う妄想をしてはみるものの、よくよく考えれば周りにはロクな男子がいない。

 部活動を熱心に取り組んでいるが成績が悪くて留年しているロクロウ、借金生活を送りアルバイトに勤しみ過ぎてるルドガー、初等部の生徒に抜群の人気を誇るが何処か緩いユーリに逆に規則正しく生真面目なフレン。全員顔とかは悪くは無いのだが、如何せん中身が残念だったりするのが多い。

 

「いや〜朝飯だけじゃ足んなかったからな」

 

「もう、リッドったら」

 

 それはさて置き、この学校はリア充がかなり多い気がする。

 先程のイクス&ミリーナは勿論のこと、園芸部の早弁のリッドとお節介のファラとかいい感じの空気を醸し出している。いや、彼等だけじゃない。

 

「クレスさん、最近暑くなっていますので水分補給だけでなく塩分補給も忘れないでください」

 

「うん……この飴、美味しいね。何処のかな?」

 

「実はそれ、手作りなんです」

 

「そうか……なんだか何時もより元気が出てきたよ」

 

 剣道部のクレスと保健委員長のミントとか

 

「お〜い、ロイド」

 

「コレット、廊下を走ったら」

 

「きゃあ」

 

「おっと……大丈夫か?」

 

「うん」

 

 工芸部のロイドとコレットとかとにかくリア充が多い。

 油断をしていると甘ったるい空気に飲み込まれてしまいそうで油断がならない。

 

「ベルベット、おはよう」

 

 リア充達を見てなんだか虚しい気持ちになったものの辿り着いた自分のクラス。

 教室のドアを開けると黒板消しで黒板を綺麗にしているクラスメート、ミラ=マクスウェルがいた。

 

「おはよう」

 

 挨拶をしてきたのでベルベットは軽く返して席につこうとする。

 

「なにをしている?今日は全校集会の日だぞ」

 

 何時もの様に授業が来るまでボーッとしていようとする予定だったが、そうはいかなかった。

 今日は全校集会がある日。よく見れば教室にいる生徒の数も少ないとベルベットは荷物だけ置いて全校集会が行われる会館に向かう。

 

「うちのクラスはお前達が最後か」

 

 点呼を取っている担任のアイゼン。ベルベットとミラが来たので全員が遅刻する事なく揃ったと満足げな表情をし、上に報告してる。

 

「ミラ、ベルベット、おはよう」

 

「おはよう、ジュード。今日も元気そうだな」

 

「うん……あ、そうだ知ってる?転校生が来るって、レイアが言ってたんだ」

 

「転校生……ベルベット、知っているか?」

 

「……それらしいのは見たわ」

 

 レイアの情報だから若干の不安があるものの、その情報を確かとする裏付けがあった。

 今朝会った相手は転校生かなにかとベルベットは思っており、多分あいつの事だろうと考えていると全校集会が間もなく始まるとアイゼンに言われたので列を作り理事長の挨拶からはじまり校歌を歌う。

 

 ノルミンダンスが歌われる。

 

「なんですか、この校歌……」

 

 もっと山とか海とか定番のワードが出てくるかと思ったら、出てこなかった。

 イクス(仮)は力が抜けていくが、テイルズ学園に通う生徒にとってこれは普通の事なので誰も疑問には思わない。

 

「え〜では、ジェイド教頭より交換留学生の説明を」

 

「おはようございます、高等部教頭のジェイドです」

 

 校歌を歌い終わると各部活動並びに委員会からの報告があった。

 何処の部活がいい成績を納めただなんだの定番から最近暖かくなってきたので熱中症に気を付けてね等のよくある報告が終わると高等部の教頭であるジェイドが壇上に立ち軽く挨拶をする。

 

「かの三途リバー仏学園と我がテイルズ学園は一部事業を提携する事となり試験的として三途リバー仏学園から交換学生がやって来ました」

 

「あいつ……」

 

「彼は……」

 

 ジェイド教頭の真横にいるテイルズ学園の制服じゃない生徒に気付くベルベットとアリーシャ。

 そう、彼こそが朝に自分の乗っている車より素早く走っていた男子、道に迷っていて通学路だったのでついでに送り届けた男子

 

「え〜ども。はじめまして……二宮匡隆です」

 

 二宮匡隆であった……え、ナナシノ・ゴンベエじゃないかって?

 いやいや、彼はナナシノ・ゴンベエだよ。読者ならばご存知かもしれないけど、二宮匡隆こそ彼の本来の名前だったりする。この世界線では彼は本来名乗るべき名前を名乗っている。ただそれだけである。

 

「……ちょっ、教頭、なんか気まずい」

 

 一応の挨拶はしたが、それだけ?という感じの視線が向けられ、恥ずかしがる二宮。

 

「ならばもう少しちゃんとしましょう」

 

「ちゃんとってなんだよ……一発ギャグでもしろって言うのか?」

 

「いえ、ここでスベられては後の学校生活に響きます。貴方がするべきことは輝かしい経歴をアピールするぐらい」

 

「ざけんな、んな自慢しても嬉しかねえ」

 

「貴方の感情の問題ではないんですがね……と、言うわけで暫くの間、我が校で預かることとなりました」

 

 交換学生と言えばもっと違う感じのイメージがあったのか二宮の態度にざわめく生徒達。

 もっと良い感じの挨拶が出来たのにしなかった事にジェイド教頭は心底呆れてこれ以上は問題を起こす前にと素早く話を纏めて終わらせる。

 

「なんなの、あいつ……」

 

 交換学生と言えばもう少し、それこそジュードの様な優等生が来るはず。

 それなのになんだか態度が悪くて口も悪い、全校集会なのをお構いなしだ。

 

「彼が何者か……少なくとも転校生ではなさそうだ」

 

「レイアの情報、若干だけど間違ってたね」

 

 転校生ではなく交換学生。レイアの情報は微妙に間違っていた。割とよくあることなので特に気にはしないジュード、今回は残念だったねとなるぐらいだ。

 二宮の挨拶で軽くざわついたもののその後は何事もなく集会は進行して終了。高等部から徐々に徐々に解散していき、各々が各々のクラスに戻っていく。

 

「アイゼン、ニノミヤは何処のクラスに配属になる?」

 

 教室に戻る傍ら、担任であるアイゼンに二宮について尋ねる。

 あんな感じの挨拶をしたがミラにとっては然程気にする事ではない事で逆に何処のクラスに所属するのかが気になった。

 

「ふっ、聞いて驚くな……うちのクラスだ」

 

 ミラの質問にドヤ顔で返すアイゼン。

 それを聞いたミラは面白いといった顔をするがその横でジュードは心配そうな顔をする。あんな感じの挨拶をしてしまったのだから二宮に対するイメージは少しだけ悪くなってしまっている。

 

「うちのクラスか……」

 

 隣でアイゼン達の話を聞いているベルベットはそうかと軽く納得をする。

 

「なにはともあれ新しい仲間が増えることは嬉しいことだ」

 

「……そう」

 

 最初の出会いは意外だったが、それ以外に然程興味を抱かないベルベット。

 教室に戻るとアイゼンが全員を着席させて暫くの間、クラスメートになる二宮を紹介する。

 

「先程ジェイドから説明があった交換学生の二宮だ……コイツは、スゴイぞ」

 

「なんで先生がドヤ顔なんすか」

 

「そう謙遜するな、三途リバー仏学園での活躍は聞いている。それと先生でなくアイゼンと呼べ。我がテイルズ学園はタメ口を推奨している」

 

「未来に行ってるな、この学校」

 

 タメ口を推奨する学校なんて聞いたことがない、上下関係を緩くするところが増えてはいるが教師すら呼び捨てとは中々だ。

 とはいえそれはそれで気楽なのも事実だと思っているとピンク色の魔女もといアーチェが手を上げる。

 

「アイゼン、質問タイムとかないの?」

 

「ふっ、そう言うと思って今日のHRはニノミヤの質問タイムに」

 

「やめろ、マジでやめろ……オレはそういうの面倒だから、しねえ。アイゼン、オレの席は何処だ?」

 

 転校生がやって来たとなれば質問しまくるしかねえとウキウキ気分のアーチェだが二宮は乗らない。

 興味はないと何処かの誰かさんの様にツンケンしていて取り付く島もない状態で、割と本気で嫌がっている。嫌がっている生徒に無理を言うものではないと質問タイムは強制的に中止となり二宮はベルベットの隣の席へと案内される。

 

「お前は……ありがとう」

 

 隣の席に座っているベルベットに気付くニノミヤ

 深くは声をかけず今朝の出来事に対してのお礼だけは言っておく

 

「なに?なんなの?なんのお礼なの?」

 

「別に、大した事じゃないわ」

 

 迷子になっていたから道案内をしただけで、そこまでお礼を言われることはしていない。

 ニヤニヤと笑うアーチェを軽く流すと授業が早速はじまった。

 

「……すぅ……」

 

「!……」

 

 頬杖をつきながら目を閉じているニノミヤ。

 開始して間もなく眠りに入ったのかとベルベットは軽く驚くが驚くだけで起きなさいといったことは言わない。寝るのも真面目に受けるのもそいつの勝手でありどうなろうか知ったこっちゃない。

 

「ニノミヤ、この問題は分かるか?」

 

 無視して授業に集中していると二宮は当てられる。言わんこっちゃないとベルベットは黒板を見る。

 ちょっとだけ真面目に考えれば答えられなくもない問題。当てられた二宮はパチリと目を開けて無言になる。

 やっぱり聞いていない。ベルベットは寝ていた二宮にコッソリと答えを教えようとする。

 

「16cm3……」

 

 しかしその前に二宮は答えた。

 

「正解だ」

 

 途中式をすっ飛ばしてあっさりと答えた二宮。ベルベットは教えなくても良かったかと思えば二宮はまた目を閉じる。

 余程眠たいのかと思ったら真面目にノートを取り続けており、変わった奴だと思っていると今度はベルベットが当てられる。

 

「えっと……」

 

【CFBE】

 

「……辺CFとBE」

 

「正解だ」

 

 答えに戸惑っていると今度は逆に二宮から助け舟が出た。答えが書いてあるノートをコッソリと見せてくれてその通りに答えると正解だった。

 

「……ありがとう」

 

 一先ずは助かったのでお礼を言うベルベット。

 ニノミヤはそのお礼に対してはなにも言わずにコクリと頷くだけだが言葉は伝わった。

 その後の別の科目も授業でも二宮は寝てるのか起きてるのかよくわからない感じで、担当の教師に当てられるとあっさりと答える。地頭は良いようだが英語だけは苦手なのか熱心に聞いて必至になって考えていた。

 

「変なやつ」

 

 気付けば昼休み、半日だけ二宮を見たベルベットの口から出たのは変人だった。

 アーチェの様に明るく自分を出しているわけではなく、ボーッとしているところがあったりする一言で現すのが難しい。アイゼンやジェイドがスゴイと言っていたがどの辺りがスゴイのかがイマイチ分からない。

 

「これは……こっちの棚の分だな」

 

 場所は少し変わり、図書室。

 初等部から高等部まであるテイルズ学園の図書室は絵本から専門的な本まで数広く置かれている。図書委員であるアリーシャは昼休みの空いている時間を利用して本棚の整理をしていた。

 

「新刊か……」

 

 面白げな本は大体読み漁っているアリーシャ。

 新しい本が入荷されている事に気付き手に取ってパラリと開く。どんな内容なのかチラリと確認をしてみると外から風が吹いてくる。

 

「たまには外で本を読むのもいいかもしれない」

 

 ポカポカと暖かくなってくる今日この頃。

 図書室内に引きこもって本を読むのも悪くはないのだが、外に陽気な日差しを浴びながら本を読むのも悪くはない……そう考えていたその時だった。

 

「くっそ、しつけえな」

 

「!?」

 

 二宮が勢いよく図書室のドアを開いた。

 自分一人だけで静かだった図書室に突如として大きな音がしてビックリするアリーシャ。何事かと振り向くと二宮がいたので驚く。

 

「君は確か……」

 

「っち、人がいやがったか。悪ぃんだけど、オレが来なかったって言っといてくれ」

 

「……?」

 

 なんの事だと首を傾げるアリーシャ。

 二宮はマズイと焦り出したかと思えば本棚の上に立って天井にヤモリの如く張り付いた。

 

「こっちだ!」

 

「レイア、どうしたんだ?」

 

 二宮が張り付いた頃にやって来たのは新聞部のレイア。

 アリーシャの友達であり、何処か興奮していてアリーシャはなにがあったのかと尋ねる。

 

「アリーシャ、交換学生のニノミヤ見なかった?こっちに逃げてきた筈なんだけど」

 

「えっと……」

 

 天井にチラっと目を向けるアリーシャ。

 二宮は強く睨みつけて言うんじゃねえよと軽く威圧をしてきた。少しだけ怖い。

 

「見てはいない」

 

「おっかしいな……」

 

「レイア、強引な取材はやめた方がいい」

 

 レイアに追っかけられているのを見てアリーシャはなんとなく察した。

 レイアは気さくで明るいのだがイケイケドンドンなところがあり、勢いに身を任せたりする。新聞部としてスクープが欲しいのだろうが、些か強引な取材をしようとしてしまった。

 

「強引じゃないよ。取材したいって言ったら向こうが逃げたの」

 

「逃げた?」

 

 もう一度天井をチラ見するアリーシャ。事実だと言わんばかりに二宮は頷く。

 

「折角スゴイ人だから新聞の一面に乗せる事が出来ると思ったのに……」

 

「スゴい……ジェイド教頭もなにか言っていたが、そんなにスゴいのか?」

 

 何処となくやる気が無さそうでとても凄そうには見えないニノミヤ。

 レイアはちょっと待ってとメモ帳を取り出す。

 

「アリーシャ、三途リバー仏学園ってどんなところか知ってる?」

 

「いや……」

 

「ちょっと調べてみたんだけど自由な校風で実力主義なところがある超エリートな学校で部活動とかも盛んで一昨年がバスケ部がインターハイと総体とウィンターカップの三冠と天皇杯を優勝して、去年はサッカーの夏と冬を制覇して現役高校生の日本代表を排出したんだ」

 

「それは随分とスゴイな……」

 

「それだけじゃなくて学生起業した社長とかも色々といてとにかくスゴイ学校でね、ニノミヤは滅茶苦茶凄かったの!」

 

「そんなにか?」

 

「うん!一昨年のバスケで日本一になったチームのレギュラーでMVP選手に選ばれてるし、去年のサッカーだと得点王にもなってる……それだけじゃなくてSASUKEにも出場して完全制覇したんだよ!」

 

 ほらこれ、その時の動画と携帯を見せてくるレイア。サッカーの事は詳しくは知らないが5ー0と大差をつけており圧倒している。

 彼だけが強いのでなく彼のチームのキャプテン、吹雪士朗も良い感じの動きをしていて全国大会の決勝とは思えないぐらいだ。

 

「スゴイな、彼は」

 

「でしょ!なんとしてでもニノミヤの事を記事にしたいんだ」

 

「そうか……だが、ここには彼はいない。探すなら他の場所を、部活棟辺りにいるかもしれない」

 

「うん!そっちの方に行ってみるよ!スクープを入手したら新聞、見てね!」

 

 すまない、レイア。

 騙してしまった事に僅かばかりの罪悪感を抱きながらもレイアを図書室から追い出すと天井にしがみついている二宮を見る。

 

「もう大丈夫だ」

 

「ふぅ……助かった。他の奴等は撒けたけどアイツだけしつこくてな」

 

「レイアは体力自慢の新聞部だから……だが、悪くしないでくれ」

 

 スクープは自分の足で掴み取るもの。昔ながらのゴリッゴリの体育会系の少女であり、時折勢いに任せたりするところがあるが悪い人ではない。

 その辺りについてアリーシャはフォローを入れるが二宮は特に気にしていない。興味を持っていないと言ったところか。

 

「それにしても君はスゴイな」

 

 ニノミヤの輝かしい経歴に目を輝かせる。

 テイルズ学園にも運動神経抜群の生徒は多々いるが、ニノミヤの様に色々と受賞している生徒は中々にいない。

 違う競技でインターハイを総ナメにしているとると多分居ないのだが、1年で異なる競技をしているかどうかをアリーシャは疑問には思わない。

 

「そんな褒められるもんじゃねえよ……どいつもこいつも雑魚ばかりで張り合いが無かっただけだ」

 

 褒められる事なんて全くしていない。

 アリーシャに対して適当に二宮はあしらい、机の上に積まれている本を一冊手に取って読み始める。

 

「本を読むのか?」

 

「んだよ、そんなに意外か?」

 

「えっと……外で体を動かしてそうな感じだから」

 

「はぁ……オレはんな高尚な存在じゃねえよ」

 

 レイアの話を聞く限りはスポーツマンっぽい二宮。

 休み時間も練習とかに費やしたりしているイメージを抱いてしまったが直ぐに違うという。

 

「オレは赤司や天王寺の旦那みたいな感じじゃねえ……ブッキーみたいなタイプでもねえ」

 

「……?」

 

「……お前には関係無い話か。まぁ、なにはともあれ助かった。なんか手伝うことがあれば手を貸すぜ」

 

 アリーシャが居なければ今頃はレイアと鬼ごっこを繰り広げていた……まぁ、彼ならば絶対に捕まることはないのだが。

 とにかく受けた恩は返すと何処か義理堅い一面を持つ。

 

「なら、この本をこっちの棚に持ってきてくれないか?」

 

「はいよ」

 

 分厚い本の数々をあっさりと持ち上げる二宮。

 自分も自衛の為だとそこそこ体は鍛えているがスポーツをやっていて本格的に体を鍛えている人は違うなと思いつつも二宮と同じ量を持ち上げようとする。

 

「あ、おい、やめとけ」

 

「これぐらいならば、軽い──きゃっ!?」

 

 自分が持つのとアリーシャが持つのでは訳が違う。

 自分は大丈夫だとアリーシャは二宮と同じ量を持ち上げるのだが、何冊も積み重ねている本、ただ重たいだけでなくばちゃんとバランスを取ってなければ倒れてしまう。

 

「っと……だからやめとけつっただろう」

 

 アリーシャが落としそうになる本を全てキャッチする二宮……極々自然とアリーシャと顔が近付いてしまう。

 

「っ……す、すまない!」

 

 いきなり二宮の顔が近づいたことに顔を真っ赤にするアリーシャ。

 直ぐに二宮との距離を置くのだが心臓はバクバクといっているのが分かる。

 

「無理も無茶もすんじゃねえぞ……見たところ一人だし、重たい物は任せ──」

 

「ああ!やっぱり図書室にいた!」

 

 ゆっくりとしていろ。

 そういう前にレイアが戻ってきてしまった。アリーシャに上手く誘導されたと思ったが、上手くはいかなかった。

 

「っち、余計なのが来やがった」

 

「もう逃げないで!貴方の事を取材したいだけなの!」

 

「それが嫌だっつってんだろうが!何回言わせたら気が済む!」

 

「なんで?」

 

「……それはまぁ、アレだ……とにかく色々とあるから取材NGだ」

 

「意味が分かんない!」

 

 とにかく取材は受けるつもりはないと拒否する二宮。

 何時でも逃げれる準備をするのだがレイアは入口のところに立っている。

 

「絶対に逃さないよ」

 

 入口に立っていれば逃げることは出来ない。

 レイアはジリジリと二宮を追い詰めた……かの様に見えた。

 

「秘技、図書委員ミサイル」

 

「え、ちょ──きゃあ!?」

 

 ここで終わるほど、二宮という男は甘くはない。

 アリーシャの手を掴んでレイアに向けてぶん投げてレイアを無理矢理倒す。

 

「窓からの逃亡でもよかったが、お前は物理的にどうにかしておかねえとしつこいからな……じゃあな、図書委員」

 

「むぎゃあ!?」

 

 レイアの顔を踏みつけて逃亡する二宮。

 踏みつけられたレイアはグルリグルリと目を回しており、アリーシャが程よい重しとなっていた。

 

「……」

 

 何処か破天荒な人間だったものの、悪い人とは思えないニノミヤ。

 たった十分そこらの出来事だったが印象的でアリーシャの頭から離れない

 

「……名前、名乗り忘れた……」

 

 ただ1つ、自己紹介をするのを忘れてしまったことにアリーシャは少しだけ後悔をした。




 テイルズ学園(笑)設定

 テイルズ学園

 テイルズオブのキャラクター達が通っている学校。
 初等部から高等部まであり年齢を気にしてはいけない生徒も何名かいる……年齢は絶対に気にはしてはいけない。ベルベットとか19とかアリーシャ、アニメだと21とか言っちゃいけない。リア充と上流階級が多い。

 三途リバー仏学園

 完全実力主義の超エリート学校。
 毎年多くの自主退学の生徒を出す反面、学業から部活動等の様々な分野で好成績を納めており卒業できた生徒の多くは大成している。


 二宮匡隆

 三途リバー仏学園からやって来た交換学生。
 バスケのMVPを取ったりサッカーの得点王になったり、SASUKE完全制覇したり、100mを9秒台で走ったりと体を動かすことに関しては天賦の才能を持っている。しかしテイルズ学園にやって来てからはあまりスポーツをやらない。
 慢心する事なく真面目に取り組んでも殆どの人間がついてくることが出来ないだけでなく、相手がラフプレーで潰しに来たり試合中にやる気を無くしたりする事が多々あり、マスメディアが求めている言葉を滅多に言わないし態度が悪いので一部方面から嫌われている。
 成績は提出物の悪さと英語の低さで中の上ぐらいで真面目にやれば上の下で授業さえ聞いとけば英語以外のテストはどうにでもなる。体育は学年1位とのこと。関西出身で時折方言が出る。


 アリーシャ・ディフダ


 政治家の家、ディフダ家の人間だが正式な妻ではなく浮気で出来た子供で母親は早くに死んでいる。
 浮気で出来た子供とはいえ一応の子供なのでちゃんと面倒は見ているが、父親は全くといって会いに来ない。大きなお屋敷と幼い頃から一緒な使用人達と共に暮らしており、馴れてはいるが寂しい思いが心にはある。
 テイルズ学園では図書委員の副委員長を努めており、成績優秀である。フラッとやって来る二宮の相手をする。ラッキースケベは中々起きないが色々とトラブルに巻込まれたりする。女子力は相変わらずない。ベルベットとは別クラス
 図書委員は負け犬属性とか言っちゃいけない


 ベルベット・クラウ


 弟と姉の死のダブルコンボをくらって精神に異常をきたして味覚障害になっている家庭科部の部長。
 容姿端麗で女子力が高く、モテなくはないのだがツンが圧倒的に強く一部生徒からは怯えられており、ベルセリア荘と言われる荘に住んでいて、ライフィセット達(ベルセリア組)と暮らしている。
 初日に遅刻しかけた二宮と出会い、隣の席になるというラブコメ的な展開になり、ブラっとやって来た二宮にキッシュやプティングをあげたりしている。成績は中の下。ラッキースケベは多分起きる。


 イクス・ネーヴェ

 テイルズオブザレイズの主人公であるイクス(笑)
 罰ゲーム用にと作られた試作のドリンクを飲まされた結果、気付けばテイルズ学園にいた。トラブルには割と馴れてはいるもののミリーナに対しては若干怯えている。世界が変わってもミリーナを本気で拒んだりすれば自殺しようとするので出来ないが元の世界では普通に彼女が居たので色々と悩んでいる。成績は上の上。

 ジェイド・カーティス

 高等部の教頭。生徒の生き血を啜って若作りをしていると言われている。
 なお、ジアビスの世界は1週間が14日ぐらいあり我々の世界での計算をすればビックリするぐらいに歳を食っている。

 ミラ=マクスウェル

 ベルベットのクラスメートでツンケンしているベルベットに物怖じせずに声をかける事が出来る。成績は普通

 ジュード・マティス

 ベルベットのクラスメートで弱腰に見えて意外としっかりしている。成績優秀でレイアの幼馴染だがレイアとのフラグは無さそう。

 レイア・ロランド

 アリーシャの友人で新聞部と保健委員を兼任している元気っ子。気合と体力でスクープをものにしようとするが踏み入れてはいけない領域に踏み入れたりする危ないところもある。掴んでくるネタが若干間違ってたりガセネタだったりする。

 アイゼン

 ベルベット、ジュード、ミラ達の担任。担当は地歴公民等の社会全般。
 昔流行った間違った知識を多く持っており、本をよく読んでいるメンツからそれ違いますと結構な割合で指摘される。


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番外編 異世界プルルン転生記

こっちもこっちで人気があったので投稿。3つ目の総力戦 決戦KCグランプリはやめた。
これは他の世界に転生した転生者の話で本編と全く関係ないです


 GE3の場合

 

 

 ここは何処の世界かと言われればGE3の世界

 

「……!」

 

 男性用の部屋の三段ベッドで眠る男。

 名前はトーヤ・ペニーウォート、所謂転生者であり眠りについていたのだが異変に気付き目を覚ます。

 

「……えへへ……」

 

 自分のベッドの上に自分以外の誰か……人型アラガミことフィムが眠っていた。

 なにかの夢を見ているのか笑っている。

 

「……取られていない……」

 

 自分の顔についている仮面に触れるトーヤ。

 彼はまだクリセンマムの面々と出会う前、牢獄に居た頃に顔に大きな怪我をおってしまい、それを隠すために仮面をつけている。寝る時や食事の時でさえつけている物で取られていないと分かり少しだけ安心する。

 

「……起きろ」

 

「ん……」

 

「起きろと言っている」

 

 いい夢を見ているかもしれないがそれはそれ、これはこれ。

 寝ているフィムを起こすとフィムは目元を擦り意識をゆっくりと起こしていく。

 

「何故俺のベッドにいる……」

 

「う〜ん……ジークが入れてくれたの!」

 

「……こんのバカが!」

 

「ぐふぉ!?」

 

 部屋に入れた覚えのないフィム。

 何故居るんだと聞けば下の段で眠っている同郷ことジーク・ペニーウォートが部屋に招き入れた事を教えてもらうと早速、シバきにいく。

 

「な、なんだ!」

 

「なんだじゃない……なんで勝手にフィムを入れた?」

 

「あ〜……いや、ほらフィムがおとさんと一緒に寝たいって言ってたから」

 

「遺言はそれだけか?」

 

 叩き起こされたジークは訳を話すのだがトーヤは不機嫌そうに顔面を掴む。

 何時でもトマトの如く潰せるんだぞと強く睨んで威圧させて軽く怯えさせるのだがその前にフィムが手を置く。

 

「おとさん、フィムと一緒なの、嫌なの?」

 

 今にでも泣きそうな顔をして目をウルウルとさせるフィム。

 返事次第では泣く様子だがトーヤは気にしない。

 

「ああ、嫌だ」

 

 ハッキリと言わなければならない事はハッキリと言う。

 トーヤはフィムと一緒にいるのを嫌だと言うとフィムは震えだす。

 

「う……う、うわぁああああああん!」

 

「ん……ど、どうしたんだフィム!?」

 

 トーヤの無慈悲な言葉に耐えれないフィムは泣く。

 その声を聞いて一番下のベッドで眠っていたユウゴ・ペニーウォートは目を覚まして状況が飲み込めないながらもフィムの事を心配する。

 

「おと、さんが、フィムと一緒なの、嫌だって」

 

「っ、トーヤ!」

 

「なんだ……そもそもここで女の子が寝るのがおかしい。ここは男部屋だ」

 

「んなの関係無いだろう!フィムがお前と一緒に寝たいつってるんだからさ」

 

「なら、オレは寝たくない」

 

 ユウゴとジークは別にそれぐらいと言うのだが、フィムは女の子だから女子部屋で寝かせるべきだともっともらしい事を言う。

 それでもと食い下がりそうな雰囲気なのでこの際だからとハッキリと冷たく突き放しておく。

 

「それにオレはフィムの父親じゃない」

 

 成り行き上、フィムが勝手にそう名乗っているだけで本人に父親の自覚は無い。

 その事がよりフィムを悲しませて泣き止む気配はなく、泣き声は艦内に響き何事かと女性陣が部屋のドアを叩いてきた。

 騒ぎが騒ぎを呼ぶと内心ウンザリしながらもドアを開く。

 

「フィムの泣いている声が聞こえるんだが……フィム!」

 

「ルル……おとさんが、おとさんが」

 

「トーヤ、またなにかしたの!?」

 

「待て……それ以上は近付くな」

 

 泣いているフィムを見て、直ぐ様駆け寄るルル。

 事情を聞いて原因はトーヤにあると分かればクレアが詰め寄ろうとしたのでトーヤは距離を置こうとする。

 

「……フィムがオレのベッドに潜り込んでいた。フィムは女の子なんだから女子部屋で寝かせるべきだ」

 

「それは……そうだけど……」

 

 尤もらしい事を言われて言い返せないクレア。

 

「フィムが一緒に寝たいと言ってるんだから寝てやってもいいんじゃ」

 

「オレが寝返りを打てなくなるから却下だ……今日はもう夜も遅いし、そのままフィムを引き取ってくれ」

 

「おとさんと一緒が……いいもん……」

 

 強く冷たく引き剥がされてもそれでもフィムはトーヤと一緒にいたかった。

 トーヤは口数が少ないところがあるがそれでも本当は優しい人だと知っているのだから。

 

「早く連れていけ……オレは寝る」

 

 そう言うと三段ベッドの一番上で眠るトーヤ。

 クレア達が色々と言おうとするが何を言っても無駄そうだから諦めろとユウゴに言われると渋々フィムそ女子部屋へと連れ帰る。

 

「いい加減、認知してやれよ」

 

 一連の光景を見てため息を吐いたジーク。

 こういった光景は今まで何度も何度の繰り広げられており、トーヤは一度として父親である事を認めようとはせずにいる。

 

「ふざけるな。オレはまだ童貞だ」

 

「いや、そういう意味じゃなくて……」

 

「そう思うのならお前が代わりに父親になれば済む話だ」

 

 フィムとトーヤは血は繋がっていない、と言うか別種族だ。

 親子関係がありならばジークでも問題はないとするが、そういう問題ではない。

 

「……オレが立派な父親になれるわけがないだろう」

 

 フィムにお父さんと呼ばれることが嫌なトーヤ。

 このGE3の世界に転生して間もなく色々と酷い地獄の様な環境下で生活をしており、ロクな育ちはしていない。

 

「……いい加減に自分を許してやれよ」

 

 それだけじゃない。

 自分よりも遥かに幼いゴッドイーター達を同じ戦場で何人も死なせており、自分だけはのうのうと生きている。

 そんな自分を嫌っており、フィムのように純粋に好意を向けてくれる子供に対して真正面から受け止めることが出来ていないなんとも不器用なところがある。それをユウゴもジークも知っており強く言えない。

 

「だったら、お前等二人オレ並に強くなってみろよ」

 

「「……」」

 

 精神が摩耗しております、犠牲も多く出してしまっていて自己嫌悪な毎日。

 自分を嫌わない前向きになれと言うのならば灰域種すら単独で1分ぐらいで倒せる化け物染みた強さを持っている自分に追いついてくれなければ話にならない。そうでないと仲間を失わないとは言えないし思えない。

 

「……いや、悪い。無理を言ってしまって……オレは戦うだけしか脳が無い駒だから思う存分に利用してくれ……」

 

「……そんなこと、言わないでくれよ」

 

 ギスギスした空気になってしまうがトーヤはそれ以上はなにも言わず、布団を被って眠る。

 圧倒的な強さを持っていてアラガミ討伐にはここぞとばかりに頼ることの出来る彼の背中はあまりにも遠い。その事を何年も見てきているジークとユウゴは悔しさを感じながらも今は休むべきかと眠りにつく。

 

 

 

 

 アイドルマスターの場合

 

 

 

「いやだからさ、肉屋ってついているとワンランク上になるように見えてお惣菜ってジャンルになるから実は下がってるんだよ」

 

 ある世界線の東京、コンクリートジャングルを歩く男は二人。

 一人は五月女アルト。転生する度に中村悠一キャラになる転生者である。

 

「その理論で行くならばケーキ屋のプリンはどうなるんだ?」

 

 彼の相棒とも言うべき存在である転生する度に杉田智和キャラになる男、後藤英智。割とクールである。

 彼等は転生者業界のチップとデールと言われる程の名コンビであり生まれも育ちも違うのだが、とても気が合うコンビ。

 

「あ〜ケーキ屋はケーキ屋だからまた別っしょ。プリン専門店だったら違うけど」

 

「プリン専門店はあまり見ないんだが……っと、そろそろか」

 

 特に実入りのない会話を繰り広げる五月女と後藤。

 自分達が勤務しているアイドル事務所のビルにやって来たのでこれ以上の不毛な会話はやめるかとやめて真面目な顔をし、事務所内に足を運ぶ。

 

「おはざぃまーす」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます、五月女プロデューサーさん、後藤プロデューサーさん」

 

「はづきさん、今日も早いですね」

 

 事務所に足を踏み入れると先に出勤してきていた七草はづきに挨拶。

 結構早くに来たつもりだったが先に来ている事を後藤は感心をする。

 

「お二人が頑張ってるのにゆっくりなんてしていられませんよ」

 

「今めっちゃいい感じですもんね」

 

 彼等が居る世界はアイドルマスター……シャニマスかモバマスかミリマスかデレマスか無印なのか、何なのかは謎な闇鍋的な時空。

 社長がティンと来たと二人はスカウトをされた身であり、やったことのないプロデューサー業を必死になってこなしており、最近地方の番組とかに担当しているアイドルが出演をするようになってきた。良い感じの軌道に乗れてる状態でありここでどれだけ頑張れるか正念場だ。

 

「楓さんはボイスレッスン、文香さんは基礎体力作り、神崎様はレコーディング……うんうん、忙しいのはいいことだ」

 

 今日のスケジュールを確認してウンウンと頷く後藤。

 アイドルマスターで男なんて言えば完全な裏方でキラキラと輝く機会は一生無い。今まで自分が戦ったりする事が多かったのでこれははじめての経験だが悪くはないと満足げ……。

 アイドルマスターの世界と言うのは割と普通の世界である。

 女性の顔面偏差値がやたらと高かったりするだけで、それ以外は現実となんら変わり映えのない転生する側からすればあまり面白味に欠ける世界ではある。かく言う中村杉田コンビも今回はバトル物でもなんでもない世界に一時期不貞腐れた事もあったが今はなんとでもなっているので気にしない。

 

「後藤プロデューサー殿、おはようございます!」

 

 アイドルが来る前にやることを済ませてく3人。

 少しだけ時間に余裕が出来てきた頃に後藤が担当しているアイドル、大和亜季がやってきて敬礼をした。

 

「ああ、おはよう」

 

「頼まれていた書類、書き上げて参りました!」

 

 後藤が軽く挨拶をすると封筒を渡す亜季。

 契約関連の色々とややこしい書類がその中に入っており後藤は書き間違いがないかの確認を取る。

 

「亜季……アイドル、楽しいか?」

 

「毎日がとても新鮮であります」

 

「そうか……」

 

 プロデューサーはアイドルのメンタルチェックも怠らない。

 命あるものどうこう出来るほど世の中上手くは行かないので見落としは出来ないと慎重になるが満面の笑みを浮かびあげてる美女を見れば安心をする。

 

「やっほープロデューサー」

 

 亜季の書類の確認が終わった頃にやって来た八宮めぐる。デレマスの子とシャニマスの子が共存している謎時空なので特に気にはしていけない。

 彼女も亜季と同様に契約関連の書類を持ってきたのだが彼女はまだ未成年であり保護者のサインが必要であり、とにかくまぁややこしい書類。

 

「だからプロデューサーはいいけど名前を呼べってば。うち、オレと後藤の二人体制でしょうが」

 

「え〜私にとってのプロデューサーはプロデューサーだけだよ」

 

 二人いるので色々とややこしいと軽く注意する五月女だが、めぐるにとってスカウトしてくれた五月女こそプロデューサーである。

 普通に嬉しいことを言ってくれるのであんまり強くは言えず嬉しそうな顔で「しょうがねえな」と言い書類を受け取る。

 

「最近どう?疲れてない」

 

 後藤と同じことを聞く五月女。

 

「う〜ん、不満はないけど……思いっきりパーッと遊びたいって時があるかな」

 

「思いっきりってレジャーとか?」

 

「ううん……こう、海的なのがいいかな」

 

「おっし、任せな。うちの事務所の手の空いたメンツ集めてビーチでヴァカンスだ」

 

「わーい!」

 

 プロデューサーはサービス精神を忘れてはいけない。

 その内、海に行けることが出来るとわかっためぐるはぴょんぴょんと飛んでいおっぱいを揺らす。

 

「自分も行けるでありますか!」

 

「バーカ、同じ事務所の仲間なんだからプロデューサーが違うから連れてかないとか無いっての」

 

「おい、お前それうちの事務所一斉に休むことになるんじゃないのか?」

 

 ノリと勢いだけで行っているので静止する後藤。

 後で大変な目に合うのは五月女だけだが、そんなのは頻繁に起きているのかあまり気にしない。

 

「新しい水着……ご、後藤プロデューサーはどんなのがいいですか?」

 

「黒かアメリカの星条旗柄のビキニ」

 

「おいおい、セクハラだよそれ」

 

 どっちがセクハラなのかは分かりはしないが、煽る中村もとい五月女。

 するとめぐるがジッと五月女の事を見つめてくる。

 

「ん、どうした?書類の不備は無かったぞ」

 

「……プロデューサーってさ……おっぱい好きなの?」

 

「ファアッ!?」

 

 ジッと見つめてきためぐるから出てきたのは衝撃的な発言だった。

 突然のことに五月女は椅子から転げ落ちるのだがめぐるは気にせずに喋る。

 

「私達の担当って基本的にスカウトしたプロデューサーじゃん」

 

「あ、ああそうだな。オレがお前をスカウトしたから担当になってるってところある」

 

「この前、どんな感じでスカウトされたのか盛り上がった時に……後藤プロデューサーとプロデューサーじゃアイドルの毛色が違うって言うかなんて言うか偏ってるって話になって」

 

「あ、それは自分もこの前聞きましたであります!後藤プロデューサーは色々な層をスカウトしてますが、五月女プロデューサーはグラビアに出れる素質のある子をスカウトしてると」

 

「ちょっと試しに調べてみたら、私に恋鐘に咲耶にはづきさんに美波さんに愛梨に愛依に拓海に……皆、デカいよね?」

 

 担当している主なアイドルの画像を取り出すめぐる。

 どいつもこいつも立派な物をお持ちであり、グラビアアイドルとして売ってもなにも問題は無い。かく言う自分も立派な物を持っていると軽く揉んでみせる。

 

「べ、別にプロデューサーがおっぱい星人だって分かったから嫌いになるとかそういうことは……でもそうだったらいいかな……」

 

 アイドル事務所だけあって顔面偏差値はとにかく高い。

 プロデューサーをプロデューサーとして見ているだけじゃないめぐるにとって五月女がおっぱい星人だったら、自分の持っている武器(おっぱい)を持って攻め入る事が出来る。

 別におっぱいが大好きでも大丈夫と受け入れる姿勢を見せるめぐるに覚悟を決めようと目を閉じて深呼吸をする五月女。

 

「めぐる……」

 

「私、90あるから」

 

「……オレはヒンニュー教だ!」

 

「……え?」

 

 エッチな部分があってもいいと受け入れる覚悟を決めたのだが帰ってきた答えは酷いものだった。

 

「いいか、めぐる。オレはツルペタストンスレンダーな貧乳が大好きなヒンニュー教なんだ!お前の様な大きな胸にはあまり興味を抱かない!」

 

「……」

 

「あ、でも勘違いすんじゃねえよ。お前は滅茶苦茶可愛いのには変わりはない!ただオレの趣味じゃないってことは」

 

「プロデューサーの、バカぁああああああああ!」

 

「ぐっふぅ!」

 

 涙目になりながら五月女をぶん殴って去っていくめぐる。

 彼女の事を後藤が一瞬だけ追いかけようとするのだが直ぐに足を止めた。

 

「結構マジで殴ったな……ちょっと別の部屋で休ませてきますね」

 

「あ、はい……」

 

「後藤プロデューサー殿、なにか必要になるものはありますでしょうか!」

 

「出来ればめぐるのフォローを頼む……男じゃ無理だ」

 

 女のことが分かるのは女かオネエのどっちかだ。亜季はめぐるのフォローすべく事務所を飛び出して追いかけてく。

 担当しているアイドルじゃないので余計な口出しは出来ないので上手くやってくれと祈りつつ後藤は五月女を連れて別室に連れていきソファーに座らせる。

 

「このアホが……もう少しで大惨事になるところだったぞ」

 

「いやいや、悪いって。ホント、オレも悪いことをしたってな、な」

 

「……性癖で固めるなバカ野郎」

 

 さっきのめぐるの拳のダメージが全く無い様子の五月女。それもその筈、大して効いていないのだから。

 後藤が五月女を別室に連れてきたのはめぐるの一件で一言二言文句を言いったかったからだ。

 

「いやでも、ナイスなおっぱいじゃん」

 

 五月女は先程ヒンニュー教と言ったがそれは紛れもなく嘘である。

 大きいおっぱいが大好きなおっぱい星人であり、スカウトしているアイドルのおっぱいが大きいのも一度大きいかチェックを入れている。

 

「貧乳が好きで欲情しない為に巨乳を選んでるってバラしてどうする。たくみんとかに殴られてもしらんぞ」

 

「大丈夫、オレ、打たれ強いから」

 

「そういう問題じゃない」

 

「んなこと言うならお前はどうなんだよ!なに堂々と星条旗ビキニとか言ってんだよ。亜季マジでつけてきそうだぞ」

 

「その時は似合うと適当に流せばいい」

 

 このアイドルマスターという世界、プロデューサーになった場合社長とか専務的なのがアイドル自力でスカウトして来いよと言う展開が多々ある。そうなった時にスカウトするプロデューサーの性癖が結構な割合でバレる。おっぱい星人とかロン毛好きとかスカウトしているアイドルの傾向をデータ化すればバレる。五月女の場合、おっぱい大きなアイドルばっかスカウトしてたからあっさりとめめぐるにバレる。

 アイドルマスターの世界は主にPとなってアイドルをトップアイドルにする感じの世界である。そこである問題が生じる。

 

 

 プロデューサーはアイドルに手を出してはいけない

 

 

 極々当たり前のことだが二次創作とかではプロデューサーと距離近すぎね?と思うぐらい仲の良いものがある。

 あれは本当にあってはならないことだ。なにせアイドルと言うのは自分の綺麗な容姿とかを売り物にしており、彼氏とかそういう感じのお相手は絶対に居てはならないのだからある程度の距離感を保たなければならない。

 仮に五月女がめぐるにおっぱい星人だと正直に答えた場合、アプローチがエロくなってくるのでヒンニュー教と答えておかなければプロデューサーとアイドルの距離を保てなくなる。

 

「あーあ、これがラブライブだったらな」

 

 愚痴を溢す五月女。これがラブライブだったらなんの問題も無いのだ。

 スクールアイドルは事務所からお金を貰ったり雇用契約を取ったりしていない学校の綺麗所を集めてやっているだけだ。原作的な話をすれば1年間我慢しておけばよく、原作が終わった後にキャラに手を出したとしても殆ど問題が生じない。ネットとファンに叩かれるだけで済む。アイドルとプロデューサーの関係なんてなくアイドルみたいなものに手を出せる。最高である。

 

「無いもの強請りをするよりも今あるものでどうにか満足しろ」

 

「満足か……今度の海、楽しみにするか」

 

「その為には仕事を調整しないとな」

 

 なんだかんだで上手くやってる杉田中村転生者コンビ。今度の海を楽しみに仕事を頑張るのだが、この時は知らなかった。

「貧乳が好きなんて病気だよ!」と五月女がスカウトしてきたおっぱいアイドル達があの手この手でアプローチしてきてチ■コ1つ勃ててはいけない状況になると……まぁ、大きくなるもんは仕方ないけど、絶対にアイドルに手を出してはいけない。損害賠償とか怖いからね。

 

 

 遊戯王ARC−Vの場合

 

 

 舞網市のとある場所にある遊勝塾。

 そこではエンタメデュエルを教えており、日夜精進する若きデュエリスト達がいた。

 

「ドロー!ドロー!ドロー!」

 

 彼女の名前は柊柚子

 遊勝塾の看板娘であり塾生の筆頭的な存在であり、ドローの基礎練習をしている。

 ドローの基礎練習ってなんだよと思うがどんなカードゲームでもドローは大事なものであり、立ってデュエルをするのならば尚更である。間違えて2枚目のカードごと纏めてドローとか現実でもあるし割と大事だったりする。

 

「今日も精が出ているな」

 

「セレナ……もうすぐジュニアユースが近いもの、頑張らなくっちゃ」

 

 柚子に顔がそっくりな女子、セレナ。

 遊勝塾に住み込みで働いているデュエリストで融合召喚に関する事を塾生達に教えている。ちょっと脳筋なところがありポンコツ臭が漂うところもあるのだがデュエルの腕は柚子と同等である。下手なプロデュエリストより強い。

 

「頑張るのもいいけど無理は禁物よ」

 

 またまた現れるのは柚子にそっくりの女子、黒咲瑠璃。

 ハートランドという遠いところから出稼ぎにやってきているデュエリストでセレナと同じく遊勝塾に住み込みで働いている。

 専門はエクシーズ召喚であり柚子シリーズとも言うべき四人の中で最も優しく穏やかな性格をしていて分かりやすく、人気がある。しかし兄がビックリするぐらいシスコンであり鬱陶しい。

 

「大丈夫、なんかイケそうな気がするの」

 

「そう……」

 

「あ、3人ともちょうどよかった。授業のカリキュラムを組んでたんだけど、見てくれない?」

 

 またまた柚子にそっくりな女子、リン。

 シティと呼ばれる格差が激しい街の出身であり瑠璃と同じく出稼ぎにやってきている。彼女もセレナ達と同じく遊勝塾に住み込みで働いている。

 担当しているのはシンクロ召喚であり、授業のカリキュラムを柚子達に見せる。

 

「う〜ん……シンクロ召喚、偏っていないかしら?」

 

「なに!?リン、貴様ここぞとばかりにシンクロを……」

 

「なに言ってるの、シンクロは簡単に出来て様々なカードを組み合わせるデュエルの醍醐味が味わえるのよ」

 

「それならエクシーズも……シンクロはレベルの足し算をしないといけないけど、エクシーズは同じレベルのモンスターを並べるだけでいいし、エクストラデッキに枠が余ったら入れとけばいい汎用性の高いカードが」

 

「シンクロもエクシーズもモンスターを並べなければならないが融合は手札からも可能だ。カイザーコロシアムとのコンボで相手の展開を一気に防げる」

 

 やっぱり自分が使っている召喚方法が1番だ。そう言わんばかりに言い争うリン、瑠璃、セレナ。

 どれが1番の召喚方法なんて無い。皆面白い、やりやすいの楽しい召喚なのだが如何せん自分が使ってるというのが強い。

 

「どうやら体に叩き込まなければ分からないようだな」

 

「そうね……シンクロが1番だって教えてあげる」

 

「エクシーズの羽ばたきを見せてあげるわ」

 

「ちょ、待って待って!待ちなさいってば!」

 

 言葉で通じなければ戦うしかあるまい。

 3人はデュエルディスクを取り出して戦おうとするのだがその前に柚子が止める。

 

「もう……どの召喚が1番なんて無いのよ。デュエルは楽しいもの……違うかしら?」

 

「愚問だな……だが、そうだな」

 

「そうよね」

 

「そうね」

 

 セレナ、瑠璃、リンはデュエルディスクを下げる。デュエルというものが楽しいもので争いの道具ではない。

 こんなところで争っている場合じゃないと再度カリキュラムを見直す。

 

「ペンデュラム召喚はもう少し増やした方がいいかも」

 

「ペンデュラムなんておまけみたいなものだ」

 

「そもそもで誰がペンデュラムを教えるの?」

 

 授業のカリキュラムの中にペンデュラム召喚があまり触れられてない事に気付く柚子。

 エクシーズは瑠璃、シンクロはリン、融合はセレナと3人のエキスパートが居るので他の塾よりも深く伝える事が出来ている。しかしペンデュラム召喚だけは誰かがエキスパートと言うわけではなく教えれていない。

 

「そもそもでうちにペンデュラム使いって居たかしら?」

 

 誰かがペンデュラム召喚を覚えたいというのならば教えるが、遊勝塾の生徒の中にペンデュラム召喚の使い手はいない。

 ジュニアクラスのタツヤや融合、アユはエクシーズ、フトシはシンクロを使うデュエリストで、身近にいるペンデュラム召喚の使い手と言えばLDSの沢渡ぐらい……

 

「……誰か、いたような」

 

 その筈だ。権現坂道場の権現坂も一時期ペンデュラムを使っていたが、使わなくても大して変わらないので入れなくなった。

 その筈なのにペンデュラム召喚のイメージが圧倒的に強い。何故かは分からない……そう、何故かペンデュラム召喚がとても大事な気がする。

 

「誰もいない……筈……それよりもレンタルデッキで実戦形式で召喚方法を覚えるのでいいわね」

 

「ええ、それでいいわ」

 

 ペンデュラム召喚に謎の思いを感じつつもカリキュラム調整に入るリン。デュエルを覚えるにはめんどくさい理論よりも実際にやってみた方がいい。遊勝塾側が用意した既に作られたデッキをレンタルしてデュエルする擬似的な大会を行う授業を取っている。

 

「しかし何時見ても遊勝塾のレンタルデッキは完成度が高いな」

 

 何故か無駄にある遊勝塾の講義用のデッキ。

 柚子達は下手なプロデュエリストよりも強いデュエリストであり、デッキも中々のものだが講義用のデッキは更に違う。

 やたらうららとか増殖するGとかの手札誘発系のカードが入っている気もするのだが、それを差し引いても完成されたデッキの数々。

 

「こんなデッキ、何処で用意したのかしら?」

 

「むっ、柚子が用意したのではないのか?」

 

「違うわ……気付いたらあったから使ってるんだけど……お父さん、じゃなさそうだし」

 

 塾の講師も一応は務めている柚子だが、なんでこんな物があるか分からない。

 遊勝塾の物だと言うのはハッキリと分かるのだが、いったい何時誰が作ったものかは分からない。大手のデュエル塾ほど資金が潤沢でないので使える物は使わないといけない。なんでこんな物があるかは柚子達が分からない事は多々ある。どうして最新式のリアルソリッドビジョンシステムがうちみたいな貧乏塾にあるのかは謎ではあるがあるに越したことはない。

 

「あ、もうこんな時間」

 

 なんでこんな物があるんだろうと気にするが、それ以上は踏み込まずカリキュラムについて話し合う柚子達。

 夕食時の時間になっていることに気付く。デュエルは時間を忘れさせるというが、食事を抜いていては1人前のデュエリストにはなれない。

 

「夕飯、なににしましょう」

 

「オムライス!オムライスがいい!」

 

「駄目よ。昨日は炒飯だったんだから」

 

「むぅ……ならパスタが食べたい」

 

「よし、じゃあミートソースにするわ。柚子も食べてきなさい」

 

 夕飯をなににするかリンが決めると全員で買い物に出掛ける。

 因みにだが柚子と瑠璃とリンは普通に料理をすることが出来るがセレナは全くといって出来ない。風呂掃除が限界レベルの女子力だが4人の中で最もおっぱいがデカかったりする。

 

「柚子、トマトを持ってきた」

 

「トマト……違うわよ。生じゃなくてホール缶じゃないと」

 

 買い物は楽しいものだ。

 血は繋がっていないが本当の姉妹の様に仲のいい柚子達。トマトを見てなにかを思い出すかの様に頭痛が走るのだが、思い出せない。

 とりあえず普通のトマトを返してきなさいとセレナに元あったところにトマトを返す。

 

「トマト、トマト……なにかしら?」

 

 トマトを見ているとなにかを思い出せそうな自分がいる。

 なんだか分からないがとてもあたたかいものでそれと同時に悲しい事があった気がする。

 

「柚子、大丈夫!?」

 

「……え?」

 

「泣いているわよ!」

 

 それがなんなのかは分からない。温かい気持ちがあるのだがそれ以上に悲しい気持ちが自分を包み込む。

 この思いがなんなのか分からないが瑠璃やリンに指摘されるまで泣いていることにすら気付かない。

 

「どうした!誰かにエンタメデュエル(笑)とバカにされたのか!?」

 

「違う、違うの……分からない、分からない」

 

 毎日が忙しくも楽しい筈なのに、どうしてか悲しい気持ちが止まらない。

 トマトを見ているとなにかを思い出せそうで思い出せない。いったいなんなのこの気持ち。

 必死になって宥めようとする瑠璃達だがなにを言えばいいのかわからない。それどころか何故か自分達も悲しい気持ちになってきた。

 

「……遊矢……」

 

 苦しくて辛い柚子の口から出た言葉は誰かの名前だった。

 誰の名前なのかは分からないが、その名前を出すだけで少しだけ、ほんの少しだけ気持ちが楽になる……。

 

 だが、そのトマト男はもうこの世には存在していない。

 

 

 

 

 

 早乙女姉妹は漫画のためならばの場合

 

 

 

「ん……」

 

 

 東京のとあるマンションの一角、早乙女モブユキになった転生者は目を覚ます。

 ここは早乙女姉妹は漫画のためならばの世界。どういう世界かと言えばバクマンに近い感じの世界であり、元居た世界と大して変わらない。

 カードゲームで命のやり取りしないし、悪魔とか妖怪とか出てこないし超次元なサッカーをするわけでもない極々普通の世界であり、アイマスの世界と同じです退屈な人にとっては退屈な世界である。

 

「もう朝か……」

 

 壁に掛かっている時計で時刻を確認するモブユキ。何時の間にやら朝になっていたと意識が少しだけボーっとしている。

 

「あ、モブユキおはよう」

 

 ボーッとしながらもゆっくりと意識を起こしていると隣で裸(上半身も下半身も)で寝ている巨乳美女、早乙女ノアン。

 モブユキの義理の姉であり妻である存在であり、モブユキが起きてからゆっくりと目を覚ました。

 

「ノアン姉おは──ああ!?」

 

「今なんて言ったかな、モブユキ」

 

 朝の挨拶をするのだがここでモブユキは間違いを起こす。

 姉と呼んでしまった。ノアンと呼び捨てしないといけないところでしなかった為に額に青筋を浮かべてモブユキの金玉をガッチリと掴む。

 

「ご、ごめんノアン」

 

「う〜ん……許さない」

 

「あっ!」

 

 グニュグニュと金玉を握る。

 一気に握りつぶすのでなく焦らす形で時折痛みがあるが程よく気持ちいい、そんな絶妙なテクニックで金玉を握られればそれはもうアレが大きくなるのは自然の理。なによりも今は朝、大きくなるのは生理現象で仕方無い事である。

 

「も〜っ、モブユキったらさっきあんなに出したのに……シよっか」

 

「……あの、その前にピルを」

 

「後で飲むよ」

 

 大きくなったらもうヤることをヤるしかねえ、ノアンは布団に潜り込んでモブユキの股間に向かっていく。

 早乙女姉妹は漫画のためならと言う世界は一言で言えばジャンプの連載を持っている漫画家が色々なTo LOVEるに巻き込まれるちょっとどころか一時期ネットに上げれないぐらいのエッチな展開の大きい漫画である。

 To LOVEるとかゆらぎ荘の幽奈さんとかのなんかHなTo LOVEるに巻き込まれるとりあえず困ったらエロに走る世界と同じ感じであり、アイドル級の美女とラッキースケベが起きる。アイドルマスターの時と違いアイドルとか女優とかの芸能人的な地位は特に無いのでセ■クスもといHしても問題無いかと言われれば問題無い。

 

 

「っ…っ……うっ……」

 

「ん……ん……ゴクッ」

 

 

 このモブユキ、超絶エッチなお姉ちゃんことノアンの誘惑には勝てなかったよ。

 

 

 まぁしかし無理もないのである。

 何処からどう見ても絶世の美女で女子力も高くエッチにも積極的な義理の姉であり、脱いでと頼めばあっさりと脱いでくれる痴女的なところもある。そんな義理の姉と一緒にいてなにも起きない方がおかしい。

 転生者になるべく色々と修行とかしまくったけども、勝てないものは勝てない。男は皆、スケベの塊なんだよ。

 

「モブユキ、次はおっぱいをちゅっちゅちまちょうね」

 

 義理の姉の痴女おっぱいには勝てなかったよ。

 

 甘々な義理の姉とマジのエッチな事をしており、リア充どころの騒ぎじゃねえとエッチな日々を送っている。これ以上書いてたらマジでR18書かないといけないのでこれ以上は書かないがこの後、搾乳してもムラムラしたままで普通にヤることをヤッて、一緒にお風呂に入ってまたムラムラで半日ぐらいはエッチに勤しんでいた。

 因みにだがモブユキはジャンプの漫画家になっている。スタンドの事を知ってテンションを爆上げした岸辺露伴並の執筆速度の持ち主でアシスタントとか無くても進行出来ており、ラブロボとはまた違う漫画で連載を持っており今度担当が瀧波 パインに変わる。




 GE3の世界

 ペニーウォートの人間になれば原作が開始するまでは地獄の様な日々を送る。

 主人公に転生しており名前はトーヤ・ペニーウォート。アラガミ討伐の任務をやりはじめた頃に顔に怪我をおってしまいヒロアカの荼毘と同じ顔になり怪我を隠すのと怯えられない為に仮面をつけて素顔を隠している。

 自分よりも若いどころか幼いゴッドイーター達が同じ任務で多く死なせており、最悪な環境で育ったことと転生者として鍛えていたから群を抜いて強いこともあり、戦って解決出来るのならば一人で解決した方が良いと思っており、仕事中にミスを全くといってしないのとこの上なく強い為に周りから不満は持たれているが文句は言うに言えない状況が続いている。文句があるなら俺ぐらい強くなってくれ、そうすれば頼るスタンス。

 フィムにお父さんと呼ばれるのは嫌で、フィムの様に純粋な子供にお父さんと呼ばれるほど自分は立派な人間じゃないからと全力で否定。例え泣いたとしてもお父さんじゃないと否定する。

 基本的には一人で居ることを好んでおり、女性陣と関われば最後何故かラッキースケベが起きてしまうので物理的な距離感を適度に保っている。根は普通にいい人であり、優しいのだが心が物凄く荒んでいる。

 この後、仮面をフィムに取られるイベントが発生し、クレアとルルが痛々しいトーヤの顔を見てしまい思わず怯えてしまい、「だから言っただろう」と深く怒らないトーヤを見て物凄く罪悪感にかられるイベントがあり、好感度が爆上げする。


 アイドルマスターの世界

 シャニマスかデレマスかなにマスかイマイチ分からない謎時空の世界線のアイドルマスター。
 基本的には元いた世界と大して変わらない、テレビ番組とか芸能人とか芸能界とかが一部変わってるだけの極々普通の世界である。
 人によっては退屈な世界であり、この世界には転生する度に中村悠一キャラになる男と杉田智和キャラになる男の転生者界の名コンビである二人が転生しており、日夜アイドル達を輝かせるべく頑張っている。キラメけアイドル達。

 言うまでもない事なのだがアイドルとエッチな展開にはなってはいけない。二次創作みたいなのもあまりよろしくなく、ある程度の節度と距離感を保たなければならない。
 ラブライブと違って事務所と契約して1つの商売としてアイドルをやっているのでパパラッチをくらった時点でアイドル生命が終わる可能性もある。アイドル達は可愛くて慕ってくれて好意的になってくれても決して心の隙は見せてはいけない。あくまでもいい人止まりじゃないと駄目だが、結構な割合で異性として見てくるので上手く回避するしかない。アイドル達が家にやって来るかもしれないので対策として杉田中村コンビは同棲をしている。ホモなのかと一時期疑われた事もあるが彼等は女の人が好きである。

 事務所に既にアイドルが所属しているのと、プロデューサー自身がアイドルをスカウトしてこないといけない2つのパターンがあり、彼等は後者であり、アイドルの素質がある子をスカウトしてきているのだが、スカウトしてくるアイドルで性癖がバレやすい。ラブライブならそんな心配は無いがそれはそれ、これはこれである。

 中村Pはおっぱい星人でなくヒンニュー教徒だと嘘をついたのだが、それが逆に「おっぱいは大きい方がいいよ!」とおっぱい大きなアイドル達に誘惑される。プロデューサーなのぜ絶対に手を出してはいけない。杉田Pはエッチな風俗でムラムラを発散している


 遊戯王ARC−Vの世界


 世界一のカードゲームこと遊戯王の第5作目の世界。アニメの内容は結構酷いものの、世界観とか設定とかはちゃんとしている世界。
 主人公である榊遊矢か赤帽子の男ことコナミくんのどっちかに転生するパターンが多く、この世界線では榊遊矢が転生者だった。
 カードゲーム系の世界の転生は転生特典として原作で深く関わるカード以外(DMなら青眼の白龍、三幻神、トゥーン、GXならそれに加えてネオス)を全て手に入れる。

 OCG次元の住人が転生をしているのだがライフ4000でアクションデュエルという困ったらアクションカードに頼るデュエルに馴染むことが上手く出来ずにいたが頑張っている柚子を見てなんとか鬱にならないようになっている。

 エンジョイ勢だが普通に強く、1つのデッキに固執せずに様々なデッキを扱うのである意味エンタメデュエルをしている。瑠璃とリンをユーリの魔の手から守ったりしておりなんだかフラグ的な物が建ったりしており、セレナにも好かれていた。

 原作開始したのでとりあえずペンデュラム召喚を披露。
 その後は実は使えてましたと融合やエクシーズ、シンクロを巧みに扱うだけでなく、デッキをコロコロと変えまくって一度の敗北もしない。てか、基本的にワンキルで終わる。

 デュエリストでなくリアリストなところがあり、ライフ4000の時空でも躊躇いなくチェーンバーンをしたりして勝利する時もある。
 それどころか食うか食われるかの戦争だからって強欲な壺と天使の施しガン積みした禁止カード満載のデッキをなんの惜しげもなく使う。命が掛かってるんだからプライドなんて必要じゃねえんだよのスタンス。

 貴様それでもデュエリストかと、俺が性根を叩き直してやる!的な展開になったとしても普通のデッキでボコボコにされる。

 最終的には柚子シリーズとズァークシリーズが一人も欠ける事なく進み、赤馬零王をラストバトルジョウゲンとかいう夢も希望も存在しないデッキでデュエルを終わらせてカード化。
 とりあえずの次元戦争を終わらせたのはよかったもののアカデミアが残した爪痕はとにかく大きく、融合次元出身だからという理由で差別が起きたりする。ある程度は自業自得で仕方が無いとはいえギスギスした空気を生む。

 遺恨をどうにかする方法として最初から全て無かった事にする方法を発見。
 ユート、ユーリ、ユーゴを取り組みズァーク化して理性が残っている内に柚子にデュエルを挑む。柚子が負ければズァーク完全復活で誰にも阻止が出来ない、柚子が勝てばズァークを遊矢達ごと消滅させる事が出来るというデットオアアライブなデュエルで相手にエクゾディアを揃えさせるプレゼントエクゾディアという頭おかしなデッキで柚子に無理矢理エクゾディアを揃えさせてデュエルに敗北。

 遊矢達が消滅する事により4つの次元は消滅して1つの次元に統一される。
 柚子シリーズも遊勝塾の塾生兼講師的な立ち位置になっているのだが遊矢が残していったカリキュラムやレンタル用のデッキを見て、頭では思い出せないが悲しい気持ちになってしまう。

 最終的には遊矢の事を完全に思い出して遊矢を殺してしまった罪悪感に囚われ、どうにかして遊矢を復活させる事は出来ないかと遊矢と親しかった人物との接触を図る。尚、柚子シリーズの次に遊矢の事を思い出したのは沢渡である。



 早乙女姉妹は漫画のためなら


 ジャンプとかサンデーに載っている一部の漫画だけが違い、後は現実となんも変わんない普通の世界。
 転生すればエッチに積極的な義理の姉と妹がセットでついてくる。困ったらとりあえずエロに走る少年漫画の世界。

 エッチな少年漫画の世界とかラブコメの世界とかではチ■コが勃たなかったりすることが大事なのだが、主人公に転生した子は義理の姉のおっぱいには勝てなかった。我慢できずに普通にエッチしている。ゴムはつけずに避妊薬を飲んでいる。エッチ最高。

 主人公に転生した彼はスタンドの事を知ってテンション爆上げな岸辺露伴並の執筆速度であり、原作主人公が描いていた漫画とは異なる漫画を描いていて基本的に5〜7位を行き来している、売れてるのか売れてないのかイマイチ分からないものの取り敢えず天下の週刊少年ジャンプに漫画家として連載しているので成功している。

 後日担当が瀧波パインに変更。
 今よりも人気を出すならば女の子のエッチなシーンも大事ですよと推してきたりしていて、困ったらエロな絵を描くのは嫌なので色々と口論になったりする。

 最終的にはエッチな展開はこんな感じでするんですよと実戦的な打ち合わせ(セ■クス)をしまくる。言うまでもなく浮気なのだが、とりあえずエッチな展開になってしまう世界でエッチをしてしまうのは仕方がないことで笑えることにセ■クス(実戦的な打ち合わせ)した時の回は2位とか3位とかのランキングになってる……妹は負けヒロインである。



 総力戦 決戦KCグランプリは物凄いネタバレになってしまう


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番外編 総力戦 決戦KCグランプリ 次元を超えし神

新年あけましておめでとうございます。
そしてお詫びいたします。すまない、本当にすまない。
ワールドトリガーの方を書くのが楽しくて続きを書く意欲が沸かないんだ。許せ、許してくれ。ボツにしたコレを投稿するほどやる気が出ないんだ。後、作者デュエル初心者に毛が生えた程度で合ってるかどうか怪しいから許してください。なんでもしません。


テイルズオブザレイズの方をちょこっとだけです。


「「デュエル!」」

 

 デュエルの火蓋は切った。

 質量を持ったソリッドビジョンのカードを5枚引いて、右耳に装備しているインカムから初期手札5枚のデータを確認する……悪くはない、悪くはないが物凄く良いわけでもない手札だ。これで海馬社長に勝てるかどうか不安だ。

 

「先攻はオレからだ!オレはフィールド魔法、ユニオン格納庫を発動!発動時の効果処理としてデッキより光属性・機械族をモンスター手札に加える。オレはA─アサルト・コアをデッキより手札に加え、次元召喚!」

 

 周りを何処かの倉庫内と思わせる場所に変えて黄色のサソリの様な形状のモンスターを呼び出す社長。

 やはりというか最初に戦った時とデッキが異なる。

 

「はぁああああ!」

 

 モンスターを呼び出すと同時に気力を込める社長。

 なんの覇気も持たない機械の筈のA─アサルト・コアは黄色の神秘的なオーラを纏い俺を威圧する。

 

 A─アサルト・コア

 

 光属性 機械族 レベル4

 

 攻撃力0→1900

 

「っ……」

 

 まずい。

 ガチ勢ではないとはいえ、ある程度は遊戯王を俺は知っている。ここからどういったコンボが起きるのか手に取る様に分かり、俺の手札にはそれを妨害するウサギや牽制になるG等を手札に持ってこれていない。

 

「ふぅん、A─アサルト・コアを見ただけで全てを察するのはいいが、どうやら察しただけの様だな」

 

「っく……」

 

「貴様には出来ないモンスターのステータス最大上昇を見せつけて驚かせてやろうと思ったが気が変わった。ユニオン格納庫の第2の効果発動!自分フィールドに光属性・機械族のユニオンモンスターが召喚された事によりデッキから召喚したモンスターとカード名の異なる光属性・機械族のユニオンモンスターを装備する!オレはA─アサルト・コアにユニオン・ドライバーを装備し、ユニオン・ドライバーの効果を発動!」

 

 容赦無く攻めに進む海馬社長。

 ここをどうにかする術は持っていない……手札自体はそんなに悪くはないのだが、このままだと非常にまずい。

 

「装備されているユニオン・ドライバーは自身を除外する事でレベル4以下の装備可能なユニオンモンスターを装備する!いでよ、B─バスター・ドレイク!」

 

 合体をしていたユニオン・ドライバーと分離をするA─アサルト・コア。

 ユニオン・ドライバーは光の粒子となって消えていき2つの巨大な電子的な砲撃を背負った緑色の恐竜を思わせるかの様な見た目のロボットが出現し、A─アサルト・コアとドッキング。男のロマンだ

 

「更にB─バスター・ドレイクの効果を発動!ドッキング、解除!」

 

 B─バスター・ドレイク自身の効果を発動し、魔法・罠ゾーンからフィールドに出現する。

 これで召喚条件は揃ってしまった。

 

「ゆくぞ!果てしない未来への(ロード)を照らす未来回廊!召喚条件は機械族モンスター2体!オレはA─アサルト・コアとB─バスター・ドレイクを素材にリンク召喚!現われろ、連なる列車ユニオン・キャリアー」

 

 流れる様にエクストラデッキからモンスターを呼び出す社長……ベルベット達が一度だけ偶然に出会ったと言っていたのとリンク召喚を平然と使いこなしている。やっぱり目の前にいるのは海馬瀬人じゃない海馬瀬人に似た誰か……いや、それを言うならばイクスくんに似た誰かになってしまった俺も一緒か。

 ユニオン・キャリアーは左のエクストラモンスターゾーンに召喚され、社長に気力を込められて攻撃力を最大限まで上げられる。

 

「B─バスター・ドレイクの効果!このカードがフィールドから墓地に送られた時、デッキからユニオンモンスターを1枚手札に加える。オレは2体目のA─アサルト・コアを手札に加えてユニオン・キャリアーの効果を発動!自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。元々の種族または元々の属性が対象のモンスターと同じモンスター1体を手札・デッキから選び、攻撃力1000アップの装備カード扱いとして対象のモンスターに装備する!オレはデッキよりC─クラッシュ・ワイバーンを装備する!」

 

 新たに登場する青紫っぽい機械のワイバーン。社長は気力を込めることはしない……直ぐにフィールドからに居なくなるのだからいちいち気力を注入している暇はない。

 

「エクストラデッキのABC─ドラゴン・バスターの効果を発動!フィールド・墓地にあるA─アサルト・コア、B─バスター・ドレイク、C─クラッシュ・ワイバーンを除外することにより自身を特殊召喚する!オレはフィールドのC─クラッシュ・ワイバーン、墓地のA─アサルト・コア、B─バスター・ドレイクを除外!合体せよ、ABC─ドラゴン・バスター!」

 

 ABC─ドラゴン・バスター

 

 光属性 機械族 レベル8

 

 攻撃力3000

 

 遂に現れるは2頭を持つ動く砲台ABC─ドラゴン・バスター。

 通常の融合召喚とは異なる召喚でロボットアニメさながらの合体での登場により見学している観客(殆ど一般人)は大いに興奮を見せるのだが、俺は興奮するなんて出来ない。何時もならばテンションを上げることが出来るが、その何時もはここ1年以上は来ていない……そもそもでイクスくんになってから楽しんでいない。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 モンスターを召喚しては墓地に送りを繰り返したりしたものの社長は手札を2枚残してのターンエンド。

 今回のデッキのテーマはABCかAtoZかサイバーかは不明だがなんとなくで読めてきた……だが、問題はここからだ。

 

「俺のターン、ドロー……」

 

 さて、どうする……ABC─ドラゴン・バスターは1ターンに一度、手札1枚をコストにフィールドのカードを除外する効果を持つ。

 社長の残り手札は2枚で俺の手札には手札破壊系のカードは一切無い……社長は何処かでその効果を使ってくるだろうから、油断はならない。

 

「永続魔法、星霜のペンデュラム・グラフを発動。このカードがフィールドある限りは魔法使い族のモンスターは相手は魔法カードの効果対象に出来ない」

 

「ふぅん、星霜のペンデュラム・グラフの第一の効果はおまけに過ぎん」

 

「ああ、そうだ。俺は青のペンデュラム・スケールに黒牙の魔術師をセット!」

 

 光の青い柱が出現し、少しガタイのいいムキムキなマッチョな魔術師が投影される。

 

「チェーンは無しか!俺は慧眼の魔術師を赤のペンデュラムゾーンにセットし慧眼の魔術師の効果を発動!もう片方のペンデュラムゾーンにEMか魔術師モンスターがセットされている場合、自身を破壊し自身以外の魔術師モンスターを手札に加える。俺は賤竜の魔術師を手札に加えて星霜のペンデュラム・グラフのもう一つの効果を発動。表側のペンデュラムモンスターがペンデュラムゾーンから離れたのでデッキより魔術師モンスターを1枚手札に加える。オレが手札に加えるのは調弦の魔術師!」

 

 よぉし、ここまでは妨害はされていない。

 ペンデュラムのテーマは手札消費がとにかく早く、何処かで崩されてしまったらそこでおしまいだ。

 

「オレは慧眼の魔術師と調弦の魔術師をペンデュラム召喚し、効果を発動!ペンデュラム召喚成功時デッキより調弦の魔術師以外の魔術師ペンデュラムモンスターを特殊召喚する。現れろ白翼の魔術師!」

 

 流れる様にポンポンとモンスターを召喚していく。

 海馬社長の先攻の時と同じだと周りは大きく盛り上がるのだが、同じではない。

 

「はぁああああ!」

 

 今回、俺達がやっているデュエルはただのデュエルじゃない。

 気力を込めることでモンスターのステータスを決める次元領域デュエルで、今まで召喚したモンスターに気力を込めていない。今はまだ下準備的な状態でそこまで気にしなくてはいいのだが相手にはABC─ドラゴン・バスターがある以上は一度何処かで妨害されることを視野に入れたプレイングをしなければならない

 

 慧眼の魔術師

 

 攻撃力0→830

 

「っ!?」

 

「少しは期待をしたいたが所詮その程度の凡骨と言ったところか」

 

「待って、おかしいわ!イクスのモンスターの攻撃力がどうしてこんな中途半端なのよ!」

 

 全神経を集中させて気力を込めた結果は元の攻撃力の半分よりちょっとだけ上の微妙な数値。

 試合を見物している異世界の皆と一緒にいるミリーナさんはこの上がり方はおかしいと講義を入れる。

 

「騒ぐな、小娘……この次元領域決闘(デュエル)はモンスターに気力を込めてステータスを上げる。コイツが中途半端なステータスなのはコイツ自身が中途半端な人間だからだ」

 

「イクスが中途半端な人間なんてそんな事は無いわ!イクスは口では色々と言っているけど、本当は優しい私の夫よ!」

 

「いえ、違います」

 

「イクス!?」

 

「違いますよ、ミリーナさん。夫じゃないです」

 

 なんでこの人はいい感じの雰囲気を綺麗にぶち壊すのだろうか。

 

「イカサマや不正行為を疑うのは自由だが、戦う前に互いの魂を千年秤に乗せた。イカサマをしたと言うならば秤が動くシステムになっている」

 

 俺と海馬社長の間にある千年秤。白い羽根が両天秤に乗せられており、微動だにしない……千年アイテムは嘘をつかない。

 元々俺はイクスくんじゃなくてつい最近まで逃亡をしていた身で高純度な魂なんて持ち合わせていない……気力なんて最初から無いに等しい……けど。

 

「覇王眷竜スターヴ・ヴェノム、ヴァレルロード・(サベージ)・ドラゴンといったところか」

 

「!」

 

 この状況をひっくり返せるカードを考えていると読まれる。

 どうしてと思ったが、相手は超一流の決闘者(デュエリスト)。ここからどう逆転をするかぐらいは手に取る様に分かって当然だ。

 

「分かっているなら続きをやらせてもらう!調弦の魔術師と白翼の魔術師をオーバーレイ!エクシーズ召喚!現われろランク4、星刻の魔術師……ふぅううう」

 

 星刻の魔術師

 

 闇属性 魔法使い族 ランク4

 

 攻撃力0→1440

 

 

 また微妙な数値……ABC─ドラゴン・バスターには程遠い……だが、邪魔は入ってきていない。

 

「星刻の魔術師の効果を発動。エクシーズ素材を1枚取り除く事によりデッキ、墓地、エクストラデッキの表側表示のペンデュラムモンスターの中から闇属性・魔法使い族のペンデュラムモンスターを1枚手札に加える。俺はEMドクロバッド・ジョーカーを手札に加えて次元召喚!」

 

 継ぎ接ぎの帽子を被ったピエロの様な格好をしている男性、EMドクロバッド・ジョーカー。

 EMを環境に入れることの出来た大きな要因の1つだが今は気力を込めることはしない。

 

「俺はEMドクロバッド・ジョーカーの効果を発動!」

 

「ならばその瞬間にチェーンを組ませてもらおう」

 

「なに!?」

 

 今このタイミングでなにかをするだと!?

 EMドクロバッド・ジョーカーの効果は通常召喚成功時にEMか魔術師かオッドアイズを手札にサーチできる超強力な効果を持っている。ここでそれを阻止すれば後々続くコンボを制圧する事が出来るだろうが、俺ならばもうちょっと待つ……プレミなのか?

 

「オレは速攻魔法、交差する魂を発動」

 

「……なんだあのカードは……」

 

 見たこともないカードを発動する海馬社長。

 直ぐにインカムを操作して発動しているカードをズームでよく見れる様にするのだが直ぐにそのカードの絵に気づく。

 

「オベリスクの巨神兵が写っている」

 

 カードのテキストはまだ読んでいない。

 だが、写っているのがオベリスクの巨神兵となればロクな効果じゃないのは確かだ。

 

「このカードは自分・相手メインフェイズに発動出来る!幻獣神族のモンスターを一体アドバンス召喚する!その際に相手のフィールドのモンスターを素材にする!」

 

「連撃の帝王と帝王の烈旋を合わせたカード!?」

 

 しかも速攻魔法……いや、待て。これを今このタイミングで使ったということは

 

「オレはお前のフィールドにある星刻の魔術師、EMドクロバッド・ジョーカー、慧眼の魔術師をリリース!」

 

 俺のフィールドを全て空にしやがる!?

 星刻の魔術師、EMドクロバッド・ジョーカー、慧眼の魔術師は大渦に包まれて飲み込まれていき茜色の不穏な雲が出現してゴロゴロと怪しげな音が鳴り響く。

 

「破壊神オベリスク!我が絶対の神となりて我が領域に降臨せよ!天地を揺るがす全能たる力によって俺に勝利をもたらすのだ! オベリスクの巨神兵!!」

 

「……あ、あぁ……」

 

 闘技場よりも遥かに巨大で圧倒的な存在感を放つ巨人……否、巨神。

 今まで召喚されたモンスターとは明らかに格が違い俺達を見下ろす。

 

 THE GOD OF OBELISK(オベリスクの巨神兵)

 

 神属性 幻獣神族 レベル10

 

 攻撃力4000

 

「っ!」

 

「奏者よ神の怒りを演奏しろ!」

 

 圧倒的、絶対的な巨神。

 ここに来るまでに強いモンスターと戦ってきたが、違う。

 今まで戦ってきていたモンスターとは明らかに違い放っている威圧感は俺の心を脅かし、演奏団が神の怒りを弾き始めて音楽と共に観客達を圧倒する。

 

「あんなのゴンベエと戦った時には出さなかったぞ!?」

 

「奴とのデュエルではまた別のデッキを使った。三幻神を見せつけてやりたかったが、彼処で呼び出せば貴様達の世界に大きな影響を及ぼすからな……」

 

 過去に海馬社長がデュエルをしていた姿を目の当たりにしたアリーシャさんは驚く。

 どうやらその時に対戦したゴンベエを相手に神を呼び出さずにいたようだ……そもそもで神のカードってコスパ悪いんだよな。3体をリリースした割に物凄いそこまで凄くない能力を……ん?

 

「英語表記?」

 

 今まで日本語表記のモンスターばかりだったのに、オベリスクの巨神兵だけは英語表記。

 英語版のオベリスクの巨神兵を使っているのかと少しだけ気になったので、決闘盤(デュエルディスク)を操作してオベリスクの巨神兵のカードを確認する。

 

「……っな!?原作効果だと!?」

 

 オベリスクの巨神兵のカードを確認すると何時ものオベリスクのカードじゃなかった。

 原作のなんか屈んでいるっぽい感じの絵が描かれており、テキストが英語で書かれているのだが決闘盤(デュエルディスク)の翻訳機能を使いオベリスクの効果を確認すると原作通りの効果だった。

 

 オベリスクの効果はモンスターを2体リリースすることで相手のフィールドのモンスターを全て破壊する代わりに攻撃が出来なくなる

 

 このオベリスクの巨神兵は召喚を無効化されず、フィールドに居る限りはカードの効果を受けず、モンスターを2体リリースすることで相手のモンスター全てを破壊してオベリスクの攻撃力分のダメージを与えるフリーチェーンのインチキ効果満載のカードだ。

 なんだかんだで二十年ぐらいやっている遊戯王の初期のカードだが、こんなに強いとかインチキ効果もいい加減にしろよ。

 よくよく見ればこのオベリスク、通常じゃなくて真祖オベリスクの姿だ。

 

「…………EMドクロバット・ジョーカーの効果で2体目のドクロバット・ジョーカーをサーチしてターンエンドだ」

 

 ペンデュラム召喚権と通常召喚権は使ってしまった。

 ここからメタルフォーゼ・エレクトラムに続く毎度お馴染みのコンボが待っていたのだが、社長が全てを無にした……社長のフィールドにはABC─ドラゴン・バスターとオベリスクの巨神兵、手札には2枚目のA─アサルト・コアが握られている……詰んだか。

 

「エンドフェイズ時にABC─ドラゴン・バスターの効果を発動!自身をリリースすることで除外されている光属性・機械族のユニオンモンスターを3種類1体ずつ特殊召喚する!分離せよ、A─アサルト・コア、B─バスター・ドレイク、C─クラッシュ・ワイバーン!」

 

 再び分離するABC─ドラゴン・バスター。

 

 A─アサルト・コア

 

 光属性 機械族 レベル4

 

 攻撃力1900

 

 B─バスター・ドレイク

 

 光属性 機械族 レベル4

 

 攻撃力 1500

 

 C─クラッシュ・ワイバーン

 

 光属性 機械族 レベル4

 

 攻撃力1200

 

「……っ……」

 

 くそ……。

 

「オレのターン、ドロー……ゆくぞ!A─アサルト・コア、B─バスター・ドレイク、ユニオン・キャリアーをリリース!」

 

「嘘だろ……」

 

「貴様に真の力を見せてやろう!冥王オシリスよ我が絶対の力となりて我が領域に降臨せよ!冥府を揺るがせる全知たる力でオレに勝利をもたらすのだ!現れるがいいオシリスの天空竜!」

 

 

 SAINT DORAGON(オシリスの) THE GOD OF OSIRS(天空竜)

 

 神属性 幻獣神族 レベル10

 

 攻撃力0→2000

 

 

 オベリスクの巨神兵に続き、現れたのは二口を持つ赤き竜。

 突如となく雷雲が現れ、雷が落ちると同時に出現してオベリスクに負けず劣らずな圧倒的な圧を持っている……。

 

「更にオレは魔法(マジック)カード、同胞の絆を発動!ライフを2000支払う事により自分フィールドのレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じ種族・属性・レベルでカード名が異なるモンスター2体をデッキから特殊召喚する!C─クラッシュ・ワイバーンを対象に現われろ3枚目のA─アサルト・コア、2枚目のB─バスター・ドレイク!」

 

 海馬瀬戸

 

 LP8000→6000

 

 ……ん?

 

「なんで同胞の絆を使ったんです?交差する魂の効果で海馬社長のターンが終了するまでカードの効果は1度しか使えないならAかBのどっちかを使えば手札が増えて勝てるのに」

 

 B─バスター・ドレイクかA─アサルト・コアのどっちかの効果でデッキからか墓地からカードを1枚手札に加える。

 それだけでオシリスの天空竜の攻撃力は3000になってフィールドのモンスターの総攻撃力は8000を超える。フィールドが既にガラ空きの俺は攻撃をされればそれで終わる。同胞の絆の効果は強いが、その分バトルフェイズが行えなくなる大きなデメリットがある……使わない方がいいのに……ここに来てのまさかのプレイミスか……絶対に無い。

 

「これでいい。この戦法こそオレの求める勝利がある」

 

 プレイミスかと指摘しようと思ったが、否定する海馬社長。

 

「ふ、ふざけないでください!BかAで手札を補充してオシリスの天空竜とオベリスクの巨神兵と残ったモンスターの攻撃力を合わせれば8000は超えて俺を倒すことが出来るのに、どうしてしない!」 

 

「この程度の事で騒ぐな」

 

「この程度のこと事!?自分の勝利をなんだと思ってるんです!」

 

 この最終決戦のデュエル3本勝負は海馬社長が一度でも負ければその時点でこの世界から去っていく。そういう約束で一試合も溢すことが出来ない。一度でも負けてはいけない状況なのに勝てる状況で敢えて勝ち道放棄した。ふざけているにも程がある。

 

「そう興奮するな……時には目先の結果を捨てることでさらなる高みを目指す事は出来る。慌てて目先の欲に眩んでしまえば己の望む勝利は掴めん」

 

「どういう意味だ!」

 

「演奏隊、音楽を止めろ!」

 

 社長の号令と共に演奏を止める音楽隊。

 今まで流れていた神の怒りが鳴り止んだと思えば、闘技場にこの戦いを見物に来ている色々な世界の人達はざわめく。

 

「青い化物の次は赤いドラゴンかよ!」

 

「イクスのフィールドにはなにもない!このままだとイクスが負けちゃうよ!」

 

 ユーリさんはオベリスクとオシリスに威圧され、ソフィは状況を見て慌てる。

 

「いや、イクスだってなにもしてないわけじゃない!フィールドにカードがまだ残ってる」

 

「っ……」

 

 こんな状況でもルークさんは俺に期待をする。

 

「気付いたか……貴様は今、ティル・ナ・ノーグの希望になりつつある」

 

 ティル・ナ・ノーグの支配を目論む海馬社長への挑戦権を賭けたKCグランプリ。

 元を正せば一番最初に俺が持ち掛けた決闘(デュエル)で負けて殺される筈だった俺の代わりにミリーナさんの魂が抜き取られて終わりのところを海馬社長の気紛れにより開催したこの大会は熾烈を極めた。

 俺は特別枠として予選は参加しなくていいとなったが、予選では強い心と魂を持った人間を選別するとオレイカルコスの結界に全員が閉じ込められた。オレイカルコスの結界は心の闇に負けなければどうにかなるものだがそれをどうにか出来ない人達が何名かいた。

 ティル・ナ・ノーグに具現化されて妹を生き返らせてやると言われていたチェスターさんはこの予選で落ちてしまい、心の闇に打ち勝てない人間など屑以下だとこの大会の過酷さを思い知らされた。

 

「ここに至るまでになにがあったかを忘れたわけではないだろう」

 

 九九が言えなくて脱落するロイドさん、謎掛けを答えれなかったカイルさんとスタンさん……立派な人だけどアホが落ちまくった謎解きの試練。それた終われば数々のモンスターと戦わされる戦の試練が待ち構えており、ミントさんやエリーゼさんはそこで脱落した。

 戦って戦って最後まで残ったのは何故か俺だけで最後に社長秘書の磯野さんと龍札で勝負をし、五行思想に俺を含めた殆どの人が知らず、カードを間違えた事により俺は敗北をしてしまい、魂を抜かれた。

 

「多くの者が今や貴様に期待を寄せている……この魔術の札での戦いが可能なのはお前という理由もあるが、お前ならばやってくれるという期待があるからだ」

 

「それと手を抜くことのなにが関係あるんだ!」

 

「大有りだ……ここにいる者は語るべき者達が居れば英雄と呼ばれる猛者達だ。猛者達を力付くで蹴散らすのは容易いが生憎、オレは理不尽な暴力は嫌いでな……貴様を完膚無きまでに叩きのめし、それを果たす。その為にわざわざ扱いづらい神を使っている」

 

「扱いづらいってそんな」

 

 原作の耐性を持ち合わせているんだったらもうちょっと価値は上がるはず。

 

「事実だ……でなければ、エルドリッチやシャドールと言った安定性もあり尚且誰が使っても勝てる様なカテゴリーで挑んでいる……しかし貴様には驚きを隠せん。もう少しマシなデッキを構築すると思っていたのだが」

 

「俺がなにを使おうが勝手です!」

 

「そうか……ターンエンドをしている、お前のターンだ」

 

 それに魔術師は強い。大会でチラホラ見るし、優勝するときは優勝している……けど……くそ。

 社長が舐めた真似をしている理由は分かり、悔しがる俺。どうにかしようにもどうにかする術は持っていない。

 

「俺はカードをセットしてターンエンド」

 

 無敵の耐性を持っているオベリスクだけならば頑張ればどうにかする事が出来たのだが問題はオシリスの天空竜だ。原作効果のせいか守備表示で召喚をしたら守備力を2000減らす効果を持っていて守備表示でモンスターを召喚してオシリスの天空竜を倒すコンボまで繋ぐことが出来ない。

 いや、それだけじゃない。俺はどう頑張ってもモンスターを本来のステータスにまで持っていけないので、攻撃力が2000以上のモンスターをサーチしてオシリスの召雷弾を上手く掻い潜ったり耐えたりすることは出来ない……詰んでしまっている。

 

「モンスターをセット……ターンエンド」

 

 俺に出来る事はこれしかない……。

 

「ふぅん、最後の悪あがきと言ったところか……オレのターン、ドロー!」

 

 俺の負けは当の昔に確定をしていたが社長はそれでも手は抜かない。

 最後の神を呼び出す準備をしており、決着がついた試合でも闘志はなくならない

 

「オレはA─アサルト・コア、B─バスター・ドレイク、C─クラッシュ・ワイバーンをリリース!」

 

「っ、来る!」

 

 遂に来る……。

 海馬社長の次の手が分かり、3体のモンスターがリリースされたのを見て身構えると神聖なる光の様なオーラを身に纏い古代神官文字(ヒイラティックテキスト)を読み上げる。

 

「エム イシュア ネウ アンフ セフチェ ヘヌア ウンヌ エフ ヘヌア ウレル ラー エル ネヘフ エン ネフ ジュトゥ イウ アーク イル フェスィ セトゥ ネプ ケティ」

 

「な、なんだ……空からなにかが降りてくる!」

 

 今まで淀んだ空気を醸し出していた感じていたスレイさん。

 重たい空気を全て浄化せんと言わんばかりに一筋の光がフィールドに差し込む。

 

「あれは……太陽……」

 

 降臨するわ一筋の球体。その圧倒的な輝きからベルベットさんは太陽と勘違いをする。

 眩い光は俺達を平等に照らしていくのだが、機械的な動きをし球体の状態から姿を鷹を彷彿とさせる竜の姿に変えていく。

 

「降臨せよ、3体目の神!ラーの翼神竜!」

 

 雄叫びを今まで具現化してきた世界を含めて轟かせる太陽神ラー。

 

「……あ……ぅ……」

 

 分かっていた……海馬社長がオシリスの天空竜を召喚したその時から海馬社長のデッキにラーの翼神竜がある事は薄々分かっていた。

 この次元領域決闘は圧倒的なまでに俺が不利で負けるのを覚悟していた……だけどその覚悟は吹っ飛んでしまった。

 

「あれは……いったいなんだと言うのだ!」

 

 レベルが、違う。

 今までミリーナさんから逃亡し具現化された人に襲われたり色々とあったがなんとか上手く切り抜けたがこれは違う。ミラさんもそれに気付いている。

 

「ふぅん、貴様達の世界はどうなっているかは知らんがこの魔術の札で出てくるモンスターの属性は地水火風の四大属性に加え光と闇の6つの属性だ。だがオベリスクの巨神兵、オシリスの天空竜、ラーの翼神竜はモンスターではない、(くぁみ)だ!魔術の札による7番目の属性、神属性を持つ絶対的な存在だ!」

 

「神……おかしい、おかしいわ!」

 

 圧倒的な力を持っている理由は神だからとなんともパワーワードな理由で周りを納得させる海馬社長。

 神の如き圧倒的な圧を前に誰もがなにも言えないと思っている中でたった1人、ミリーナさんだけが異議を唱える。

 

「そんなものをティル・ナ・ノーグに召喚したら世界がおかしくなるからエンコード化されて出来なくなったりなんらかの制約がついたりする筈よ」

 

「オレをそこらの有象無象の凡骨と一緒にするな!エンコード化されて書き換えられたと言うのならばもう一度書き換え直して本来の力を取り戻せばいいだけの話だ!ここにいる海馬瀬戸はリ・コントラクト・ユニバースを用いてエンコード化される前の正真正銘の力を有している」

 

「……嘘だろ……」

 

 今まで具現化されたりした人達は一部の力が使えなくなったり仕様が変更されている。

 殆どの人達が弱体化しているそんな中でエンコード化を自力でどうにかした人がいるなんて……。

 

「さぁ、デュエルを続けるぞ!ラーの翼神竜の攻撃力、守備力は生贄にした3体のモンスターの合計値となる!」

 

 THE SUN OF GOD DORAGON(ラーの翼神竜)

 

 神属性 幻獣神族 レベル10

 

 攻撃力 4600

 

「B─バスター・ドレイクの効果を発動!デッキよりX─ヘッド・キャノンをサーチしリバースカードオープン!貪欲な壺!墓地にあるモンスターカードを5枚デッキに戻してシャッフル!その後、2枚デッキからドローする!1枚目のA─アサルト・コア、B─バスター・ドレイク、C─クラッシュ・ワイバーン、ユニオン・キャリアー、ABC─ドラゴン・バスターをデッキに戻して2枚ドロー!」

 

 ABC─ドラゴン・バスターが戻った……そうか……そういうことか。

 

「エクストラデッキに戻ったABC─ドラゴン・バスターの効果を発動!墓地にある2枚目のA─アサルト・コア、B─バスター・ドレイク、C─クラッシュ・ワイバーンを除外し再び舞い戻れ、ABC─ドラゴン・バスター!」

 

「……俺を完膚無きまでに殺す、か」

 

 ワザとプレイミスをしていたのは俺を見せしめに殺すため。

 圧倒的なラーの翼神竜の輝きに観客席にいる皆はまともに喋ることは出来ない……海馬社長はこの状況を作りたいが為にワザと1ターンを無駄に使った……今ならば分かる。海馬社長はこの状況を作りたかったと。

 

「ABC─ドラゴン・バスターの効果を発動!手札を1枚捨てる事により相手フィールドのカードを1枚除外する。オレは手札のX─ヘッド・キャノンを墓地に捨ててお前のセットモンスターを除外する!ABC─バスター!」

 

 社長の技名と共に放たれる電子的な砲撃。

 俺のセットしているモンスターに命中をすると渦が発生して異次元の彼方に送られて除外される。

 

「……」

 

 ABC─ドラゴン・バスター

 

 光属性 機械族 レベル8

 

 攻撃力3000

 

 

 THE GOD OF OBELISK(オベリスクの巨神兵)

 

 神属性 幻獣神族 レベル10

 

 攻撃力4000

 

 SAINT DORAGON(オシリスの) THE GOD OF OSIRS(天空竜)

 

 神属性 幻獣神族 レベル10

 

 攻撃力3000

 

 THE SUN OF GOD DORAGON(ラーの翼神竜)

 

 神属性 幻獣神族 レベル10

 

 攻撃力 4600

 

「来るなら……来い!」

 

「威勢だけは一人前の様だな……オシリスの天空竜の攻撃!超電導波サンダーフォース!」

 

 下の口を開き電撃を溜め込むオシリス。

 俺は微動だに動かずオシリスを見つめて攻撃が来ると身構える。

 

「ぐっ……あ、ああああああ!」

 

 イクス

 

 LP8000→5000

 

 痛い痛い痛い。

 ここに来るまでに主にミリーナさんから逃げるために色々と戦っていたりしたのに、その時に受けたダメージとは比較にならない程の激痛が走る。

 

「貴様がくらっているのは神の雷だ。並大抵の人間である貴様には耐えれることは……ほぅ、虫の息とはいえ耐え切ったか」

 

「次……来てくださいよ……」

 

「最弱のオシリスの天空竜の攻撃を耐えるとは……だが、次でおしまいだ。オベリスクの巨神兵の攻撃!ゴッド・ハンド・クラッシャー!」

 

 右腕の拳を握り、力を集束するオベリスク。

 俺の頭上から拳を叩き込み、闘技場のフィールドに巨大な亀裂を入れ……る……。

 

「ぁ……っ……」

 

 イクス

 

 LP5000→1000

 

 だめ……だ……。

 

 一撃目の挑戦権電導波サンダーフォースの時点で気絶しそうな痛みだったがオベリスクがオシリスよりも攻撃力が高い分、更に痛い。

 ただ痛いんじゃない。頭に直接来る感じの痛さで、脳を……いや、魂を攻撃されている感覚で精神が摩耗していく。

 

「……」

 

「イクス……イクス!?」

 

 体が焼け焦げ血を流している俺は完全に意識を失った。

 目を開けたまま意識を失っていることにミリーナさんは気付いて観客席から立ち上がり、闘技場の内部に向かって走ってこようとするが途中結界に阻まれてしまう。

 

「この勝負は一対一の真剣勝負だ!他の者の参戦は認めん……ましては貴様には前科がある。闘技場内には指一本触れさせん」

 

「もう止めて!イクスの負けはもう決まったのよ!これ以上、イクスを痛ぶらないで!」

 

「まだ勝負はついていない!この戦いはどちらかのライフが0になるまで終わらん!」

 

「だったらそのドラゴンで攻撃しないで!機械のドラゴンで同じはずよ」

 

「断る!この為にオレはわざと1ターンを消費した……ラーの翼神竜の攻撃!」

 

「いや……やだ……」

 

「ゴッド・ブレイズ・キャノン!」

 

「やめてぇええええええ!!」

 

 膝を地面につき、既に意識を失っている俺にとどめの一撃をさす。

 ラーの翼神竜は口にエネルギーを溜め込み、神聖なる力を纏った炎のブレスを吐く。俺は避けることも受けることも出来ず、ただただ攻撃をくらうだけで意識はとうの昔に飛んでいってしまっている。

 

 イクス

 

 LP1000→0

 

「……」

 

「魔術の札による決闘(デュエル)三本勝負、一本目、次元領域決闘(デュエル)!勝者、海馬瀬戸!」

 

「医療救護班、直ちにコイツの治療をしろ!」

 

「っ、退いて!私の術で治療を」

 

「やめておけ、貴様等の回復術は傷を回復するのに特化していて生命の維持には向いていない。今の奴は神の炎で魂を攻撃され消耗している。酸素を供給し時間の経過による回復を待つしかない」

 

「そんな……」

 

 倒れた俺に対して何もすることはないと言い放つ海馬社長。

 直ぐに医療救護班がヘリに乗って現れ、俺を海馬コーポレーションに連れて行く為にヘリへと引っ張る。

 

「次なる決闘は決闘疾走(ライディングデュエル)、指を咥えてみている学者共にはそれ相応に働いてもらおう」

 

 ティル・ナ・ノーグの命運を賭けた海馬社長との決闘三本勝負、一本目の次元領域決闘は圧倒的な強さを見せつけ俺を完膚無きまでに叩きのめされ幕を引いた。海馬社長が去っていくその姿に誰もなにも言えなかった。




許してくれ。不甲斐ない拙僧を許してくれ。


あらすじ的に言えばイクスくん(仮)を元気づけようとしたミリーナがワイズマンにイベントを起こして貰おうとするのだけど、間違って海馬瀬戸というゴンベエ達の同期の中で最も強い転生者である海馬瀬戸が作り上げた海馬コーポレーションとブルーアイズランドを呼び出してしまう。
大事な仕事中に召喚されたのでワイズマンを海馬はシバき倒して一部の力を封じ込めるという規格外な行動をし、ゼスティリアの時間軸でベルベット達と出会っていたのでブルーアイズランドに招待をした。
召喚された海馬はティル・ナ・ノーグで商売をはじめようとし飲食関係の部門に手を出す。とあるお宝を用いて高品質な山海の珍味を低価格で販売してティル・ナ・ノーグの経済を混乱させようとしてこのままだと大変な事になると感じたイクスくん(仮)が命を賭けて遊戯王での勝負を挑み、見事に惨敗。魂を抜かれるところでミリーナがイクスくん(仮)を突き飛ばし、代わりに犠牲になる。
その後、不服そうな具現化された人達を見て海馬は自身への挑戦権を賭けたKCグランプリを開幕した……という感じ

スキット ナマルト

ゴンベエ「斜め七十七度の並びで泣く泣くいななくナナハン七台難なく並べて長眺め」

ライフィセット「ながいっぱい……なにをやってるの?」

ゴンベエ「発声練習……たま〜にやっておかねえと出てくんだよ」

ライフィセット「出てくるって」

ゴンベエ「素が出てくんだよ、素が」

ライフィセット「素ってゴンベエ、猫を被ってたの!?」

ゴンベエ「ちゃうわ!そんなもん被っとるわけないやろうが!そういうのは無理しとるアメッカでオレは基本的に素や」

ライフィセット「アメッカ、猫被ってたんだ」

ゴンベエ「どっちかつーと正義の味方とかええ人になろうっちゅう感じでぶりっ子やないけどな」

ライフィセット「……ゴンベエ、そんな喋り方だっけ?」

ゴンベエ「これが素やねん……ホンマはこれはアカンって色々と言われてるんやけど、こっちの方が楽や」

ライフィセット「なんで?変わった喋り方だけど何処もおかしくないよ」

ゴンベエ「そら喋り方自体はな……この方言とか訛りが出てること自体が色々とアウトになんねん」

ライフィセット「そ……ミユキさんが来た時は別の言葉を喋ってたよね」

ゴンベエ「まぁな……裏技を使って喋っとるから教えるのは無理やで」

ライフィセット「そっか……なにを言ってるか分からないから秘密の暗号みたいでカッコよかったよ」

ゴンベエ「……内容はアレなんだけど」

ライフィセット「秘密の会話とかやってみたいな」

ゴンベエ「古代語は出来ねえし、この国の文字も出来ねえから筆談出来ねえし……あ、でもあれなら出来るかも!」

ライフィセット「ホント!」

ゴンベエ「やってみるか……ナマルト!」ピロリロリ

ライフィセット「……ゴンベエ、なまぬうとぅってぃぬー?……!?」

ゴンベエ「勢いに任せてやったけど成功したな」

ライフィセット「ぬーくぬゆみ方!」

ゴンベエ「多分だが、沖縄の方言だと思う。暗号っぽい感じがするな」

ライフィセット「あ、やしがどぅーぬぬー言ちょーんがわかいん」

ゴンベエ「自分でなにを言ってるか分からねえと困るだろう」

アイゼン「お前等、なにをやってる!?」

ゴンベエ「秘密の言葉での会話……アイゼンもやってみるか?」

アイゼン「ほぅ……面白そうだな、やってみろ」

ゴンベエ「ナマルト!」ピロリロリ

アイゼン「こぃでわーも秘密の暗号ばを」

ゴンベエ「似合わねえな、方言が」

アイゼン「でったらだお世話だ」

ベルベット「あんた等、なにやってんのよ……」

ライフィセット「ふぃみちぬあんごうっしぬかいさぁやさ(秘密の暗号での会話だよ)

ベルベット「ちょっと、なに言ってるか分からないわ」

ゴンベエ「そんなお前にもナマルト!」ピロリロリ

ベルベット「なんでうちにも使うんばい!……うちも変わっとー!」

ゴンベエ「……博多弁か……上京してきた地方娘感があっていいな……思い出すな……地獄での特訓を」

ライフィセット「でも……むるぬー言ちょーんが分からんさぁ」


 ちょっとした転生者雑学

 地球の日本が舞台の物語が東京等の関東近辺が多い。
 その為に転生者は方言や訛りを矯正されたりするが他の地方で生まれてなんだかんだで東京に行くとかもあるので各種方言に対応してたりする。それ以外にもその地方の味噌や出汁の取り方、使われているソース等の細かなところにも対応しているがなんだかんだで故郷の味が皆好きである。なので料理を作らされば何処出身かバレる。


 ゴンベエの術技

 ナマルト

 説明

 喋り方を方言にすることが出来る変なホクロの金髪が使っていた魔法。
 一時のテンションと勢いに任せた結果、なんか使えた魔法であり本編で出てくることはない(多分


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スペシャルスキット 中の人 外の人 その1

はい、そんなわけで例によって本編が書けずにいる愚か者な作者です。
今回はね、チラリと書いていたスペシャルスキットのその1……続くかどうかは気分次第です。
出てきているテイルズオブキャラ以外は基本的には転生者で、作者が昔書いてたけど非公開にしたラブライブとか全然更新してないポケモンとかのキャラとか最近始めた掲示板形式の話に出てたり出ていなかったりします。


例によって今年も開催されるテイフェス。

出演者であるアイゼンは同じく出演する妹のエドナを死神の呪いに巻き込みたくがないために、同じルートで会場には向かわず別ルートから横浜へ向かおうと考え、妹の為にと覚悟と心意気と兄力を認めたセネル、ヒスイはアイゼンと共に船で向かうことに。

三人だけの船旅では危険だとエドナに遠回しに手伝ってほしいと頼まれたアリーシャとベルベットとユーリ。

無風帯や渦潮対策にと4属性の精霊を使いこなすミラ・マクスウェル、列車にトラウマがあるので船がいいと言うルドガーを連れていこうとすると死神の呪いについて取材したいとレイアもついてくることになり、ついでにと出演予定のないゴンベエまでも引っ張られていった。

 

セネル「……全員、無事か?」

 

ユーリ「出港して直ぐじゃなくてある程度時間が経ってから嵐に巻き込まれるとはな」

 

ミラ・マクスウェル「それだけでなく目的地への地図やコンパスが壊れるアクシデントが……これが死神の呪いか」

 

ベルベット「こんなのはまだまだ序の口よ」

 

レイア「嵐を乗り越えただけでも充分な冒険譚になるのにこれ以上があるのかな……」

 

ルドガーL「列車はトラウマだから乗るのを拒んだらまさかこんな事になるなんて」

もしくは

ルドガーR「今のオレ達に怖いものなんてなにもないさ」

 

ヒスイ「えっと誰だったっけ?お前が方解石とか言う石を持ってきてくれなかったら太陽の位置が分からなくて遭難しかけた。助かったぜ」

 

ゴンベエ「……まぁ、うん」

 

アリーシャ「どうしたんだゴンベエ。船に乗った時から気分が優れない様だが……酔ったのか?」

 

ユーリ「あんだけの嵐に飲み込まれたら誰だって酔うわな。こういう時に限って回復系が出来るのが居ねえから……ちょっと待ってろ。酔い止めがないか探してくる」

 

アイゼン「酔い止めならコイツが作ることが出来る……今回はオレでなくセネルの船だが、まさかお前が酔うとは……これもまた死神の呪いか」

 

ゴンベエ「ちげえよ。もうどっからツッコミを入れればいいのか悩んでたんだよ」

 

ベルベット「ツッコミって……なにかおかしい点があった?」

 

レイア「ああ、もしかしてルドガーLとルドガーRの事?ルドガーはね、どっちを喋るか皆に選んでもらうんだよ」

 

ルドガーL「その通り。これは何時もの事だ」

もしくは

ルドガーR「喋ろうと思えば喋れるんだけど、こういうお約束がね」

 

ユーリ「はじめての奴は驚いて仕方ねえよな。最近だとベラベラと喋れる様になったけど今回はこっちの方になってるみたいだな」

 

アリーシャ「どちらにせよちゃんと会話は成立するから問題はない」

 

ゴンベエ「ちげえよ!いや、確かにコイツの台詞なんかおかしいなとか思ってるけどそこじゃねえんだ」

 

ミラ・マクスウェル「そこではない?ふむ……私の目から見てルドガーの喋り方以外におかしな点はないが」

 

ヒスイ「そうだよな……あ、もしかして俺達の事か?なんだかんだで自己紹介がまだだったな、俺はヒスイ・ハーツ」

 

レイア「ちゃんと挨拶してなかったね。私はレイア・ロランド。新聞記者をしてて、今回はアイゼンの死神の呪いがどれだけの物か密着取材に来てるんだ」

 

ユーリ「オレはユーリ・ローウェル。殿堂入りのローウェルPとでも言っておくか」

 

ルドガー「ルドガー・ウィル・クルスニクだ」

 

セネル「セネル・クーリッジ、マリントルーパーをやっていてこの船の船長だ」

 

ミラ・マクスウェル「私は……以前にジュードと共に出会っているから自己紹介は不要か」

 

アリーシャ「私達は説明はいらないな」

 

ゴンベエ「ああ、お前等はネタバレになるから自己紹介するな……とりあえずさ、先ず色々と言いたいことがあるが一気に零すのもあれだから1つに絞るわ……なんで横浜に向かってるんだよ、オレ達!!」

 

アイゼン「お前、今の今までなにを聞いていた。オレやベルベット達は今年も祭りに呼ばれた。エドナも一緒に呼ばれたが、オレの死神の呪いが作用して彼奴に不幸が舞い降りる。そうならない為にエドナ達は列車で、オレ達は船で横浜を目指した」

 

ゴンベエ「分かる。お前の言い分は分かる。だけど祭りってなんだ。なんで別世界の住人と一緒になってる。急に横浜に行くとか言い出したからヨコハマとか言う名前被りかと思ったらマジの神奈川県の横浜市に行くってどう言うことだ、世界観がどうなっている!?」

 

ベルベット「なにを言うかと思ったら、お祭りなんて基本的に世界観ガン無視でしょう」

 

ユーリ「そうそう。難しい事を考えるな。祭りってのは馬鹿騒ぎ出来る場所で考えるより感じろ、場で酔うんだ」

 

ミラ・マクスウェル「その通りだ……はじめてのフェスは緊張するものだ。私も嘗てはそうだった」

 

ルドガーL「オレも今でこそ立派にやってるけどはじめては失敗だらけだった」

もしくは

ルドガーR「細かい事を気にするよりも、どうやって楽しむかを考えよう」

 

セネル「時空を超越するのは何時もの事だ。最悪エターナルソードとか古代の文明のお陰でどうにかなってるで片が付く」

 

レイア「そうそう……あ、そういえばゴンベエは出演予定無いんだよね」

 

ベルベット「私とアイゼンの付き添いで連れてきたのよ。なにかあったら一瞬で事件を解決出来て便利よ」

 

ヒスイ「ベルベットとアイゼンからお墨付きを貰えるとは中々じゃねえか」

 

ゴンベエ「おかしい……なにかが根本的におかしい。いったい何処で間違えたんだ……そもそも横浜に行くって、地球に行くと同じだろう。自分達の世界を地球と呼ばない世界とか普通にあんのに」

 

アイゼン「船を停めたぞ……これで海路による旅は完全に終わった」

 

アリーシャ「色々とあったがなんとか乗り切る事が出来た……」

 

セネル「死神の呪い、予想以上に恐ろしいものだった。運行上仕方無いとはいえ殆どの船員が寝れていないのは……眠いな」

 

ユーリ「でも、今からはそれとおさらばだ。陸につけば全員タップリと睡眠を取ることが出来る」

 

ルドガーL「たっぷりと寝て英気を養わないと」

もしくは

ルドガーR「これで少しはゆっくりとする事が出来る」

 

ミラ・マクスウェル「だが、その前に……」グ~

 

ヒスイ「腹減ったよな……ホッとした分、何時もより腹ペコだ」

 

ベルベット「ちょっと待ってなさい。適当になんか作るわ」

 

アイゼン「待て、ベルベット……お前達、今回の事には感謝をしている。無事に横浜に辿り着く事が出来た……祝いとして横浜の中華街で豪華なランチを頂くぞ。無論、オレの奢りだ」

 

ユーリ「ヒュー、太っ腹」

 

レイア「フェスの前に景気付けだね……麻婆カレーマンはあるのかな?」

 

ゴンベエ「それは無いと思う……ここまで来た以上はお前等に従うよ、めんどくせえけど」

 

アリーシャ「しかし、いいのだろうか……エドナ様達と一緒に食事をいただかなくて、私達だけ先にいただいて」

 

アイゼン「エドナはエドナでグリーン車を利用して快適な旅を送っている……あのクソ導師と一緒なのが些か不安だが」

 

ベルベット「あいつは単純に物を知らないだけのアホよ……ザビーダも一緒なんだから問題無いでしょ」

 

アイゼン「余計に信用がならん!!」

 

ユーリ「落ち着けって……念には念とフレンも居てくれるんだ。向こうの警護は万全だ」

 

ヒスイ「むしろこっちが心配なんじゃねえのか……ここまで来たら食中毒的なオチが来そうで怖い」

 

ルドガー「やっぱりオレが料理を作ろうか?」

 

セネル「いや、帰りの事も考えれば船の備蓄に触れるのはやめておいたほうがいい。折角の横浜だ、美味い物を食わないと」

 

アイゼン「オレの選んだ店は確かな店だ……なんと食○ログで評価が4,1だった」

 

ゴンベエ「食○ログとか世界観ガン無視なメタな事を言うんじゃねえ」

 

ミラ・マクスウェル「とにかく空腹のまま睡眠も体に毒だ。今は英気を養うことを優先しよう……ジュルリ」

 

レイア「もう食いしん坊なんだから……」

 

ベルベット「それで、その店は何処にあるの?」

 

アイゼン「ちゃんと地図は書いてき……駄目だ。嵐の雨風に晒されて読めん」

 

ヒスイ「おい、大丈夫なのか!?」

 

アイゼン「安心しろ。店の位置はなんとなく覚えているし外観はハッキリと覚えている。中華街を入って直ぐにある店だ」

 

ミラ・マクスウェル「では、中華街を目指して出発だ!!」

 

ゴンベエを除いて全員が移動

 

ゴンベエ「アイゼン、日本円持ってんのか?……非日常には馴れたけどもここまでぶっ飛んでると呆れて声も出ねえな……にしてもここ横浜のどの辺りってんん?……ここって……おいおい、嘘だろ」

 

場面切り替わり中華街

 

ミラ・マクスウェル「どこからも美味そうな中華の匂いが漂ってくる」

 

セネル「出店で余計な物を食うんじゃねえぞ」

 

アリーシャ「アイゼンのイチオシの店……どんな店なのだろうか」

 

アイゼン「北京ダックや点心がなんとも絶品の店だ」

 

ルドガーL「点心といえば小籠包だな」

もしくは

ルドガーR「本格的な水餃子が楽しめるな」

 

ユーリ「で、既に中華街に足を踏み入れて5分ぐらい経過してるんだけどまだか?」

 

レイア「入って直ぐのところはもう通り過ぎちゃったよ?」

 

アイゼン「…………無い」

 

ベルベット「は?……まさか店が潰れたって言うんじゃないでしょうね」

 

アイゼン「そんなわけあるか。事前に予約の連絡を入れている……レイア、GHSを」

 

レイア「あ、うん」

 

森川智之「……あ、すみません。アイゼンで予約しているものですけど……あ、はい。ちょっと遅れそうでして……あ、すみません」

 

ヒスイ「電話出来たって事は店自体は潰れてねえって事だよな?アイゼンの迷子か」

 

アリーシャ「いや、アイゼンは方向音痴ではない……いったいなにが」

 

ゴンベエ「お~い、お前等」

 

ベルベット「あんた、何処に行ってたのよ」

 

ゴンベエ「ちょっと調べ事を……とりあえず結論だけを言えばアイゼンの死神の呪いが発動してた」

 

ユーリ「ん?今のところ、アイゼンが予約してた店が無いことぐらいだが……」

 

ヒスイ「空腹を我慢しろってならもうちょっとぐらい屁でもねえべ」

 

アリーシャ「ゴンベエ、勿体ぶらずに言ってくれ……なにがあったんだ?」

 

森川智之「おかゆの店ですか……無いですけど……え?」

 

ゴンベエ「ここ、横浜中華街じゃなくて神戸の中華街、南京町だ。船を降りた時からなんかどっかで見たことがあるな~って思ったらオレ達、横浜の港町に来たんじゃなくて神戸の港町にやって来た。ア○パ○マ○ミュージアム、神戸にはあるけど横浜には無いからもしかしてだと思ったけど、ここ神戸だ」

 

ベルベット ミラ・マクスウェル ユーリ ヒスイ アリーシャ セネル レイア アイゼン ルドガー

「な、なんだってー!!」

 

ゴンベエ「陸に上がればアイゼンの死神の呪いが更に発動すると思ったがまさか神戸の港に辿り着くとはな」

 

ルドガー「呑気に言ってる場合じゃない。早く横浜に向かわないと!!」

 

ゴンベエ「落ち着け、ルドガー。神戸から横浜へは新幹線で3時間ぐらいあればパッと行ける。折角、神戸にやってきたんだから美味しい物でも食ってからにしようぜ」

 

ベルベット「あんた大分お気楽ね」

 

ゴンベエ「ふっ、ここまで来ればもうヤケクソ気味になってるんだよ……それにオレ、摂津の国の人間だから地元だし

 

ユーリ「まぁ、直ぐに横浜に迎えるなら飯食う時間ぐらい許されるな」

 

ミラ・マクスウェル「そうと決まればあの焼き小籠包と言うお店を……ところで誰が財布を持っている?」

 

ヒスイ「オレは持ってねえぞ」

 

レイア「私も」

 

ゴンベエ「オレはベルベットにお小遣い制にされてるし日本円は持ってねえ」

 

セネル「金の管理はアイゼンがやっているんじゃないのか?」

 

アイゼン「……財布が無い」

 

レイア「ええ!?」

 

アイゼン「どうやら何処かで落としてしまったようだ」

 

ベルベット「あんたこんな時に死神の呪いが発動するの!?どうするのよ、このままだと新幹線で横浜に迎えないわよ」

 

ゴンベエ「レイアが携帯持ってるから、それで誰かに電話してお金と一緒に来てくれればいいだろう」

 

レイア「あ、そっか。お願いして来てもらえばいいんだ」

 

ミラ・マクスウェル「つまり、私達はご飯を?」

 

ルドガー「お預け状態になる」

 

ユーリ「ったく、目の前に美味そうな飯があるってのにお預けか。これじゃあ生殺しと一緒だぜ」

 

アイゼン「……財布を探してくる」

 

画面の外にアイゼンが移動

 

ヒスイ「あ、おい!……財布落とした事、結構気にしてるのか」

 

セネル「自分のオススメの店を紹介どころか空腹状態にさせちまったから責任感を感じてるんだろう」

 

レイア「連絡がついたよ。向こうも祭りの準備に忙しいから少し時間が掛かるって」

 

ミラ・マクスウェル「っぐ……それまで私達が保つだろうか」グ~

 

ベルベット「そんなにお腹が空いてるなら一旦船に戻ってなにか」

 

次狼「ぃっく……横浜の中華街もええが神戸の南京町の食べ歩きもいいのう……酒が進む」

 

アリーシャ「……ああ!!」

 

次狼「ん?……おぉ!アリーシャちゃんじゃないか」

 

ユーリ「知り合いか?」

 

アリーシャ「前に極上の酒をご馳走してくれた人だ……何故神戸に?」

 

次狼「美味い料理あるところに美味い酒ありじゃよ。前とは違う顔触れじゃがなにしとるんじゃ?」

 

ヒスイ「それが横浜に向かう筈が手違いで神戸に来ちまってよ、飯食おうにも財布を落としちまって途方にくれてたんだよ」

 

次狼「それはまた随分と大変じゃったろうに。ここで会ったのもなにかの縁じゃ、飯でも奢ろうか?」

 

ベルベット「奢るって、また前みたいにお酒まみれじゃないでしょうね?」

 

次狼「飲めん子が居る中では無闇矢鱈と飲まんよ」

 

ゴンベエ「ここはお言葉に甘えようぜ」

 

一同が移動する

場面切り替わり一方のアイゼン

 

アイゼン「っち、ここじゃないとすると何処で財布を落とした……」

 

紫原「ん~ミドちん、オレ、今から神戸プリン買いに行くから落ちてた財布警察に届けてくんない?」

 

緑間「何故俺に言うのだよ。拾ったのはお前だからさっさと警察に届けに行くのだよ」

 

紫原「警察に取り調べだなんだされるのめんどくさいから代わりに行ってよ~」

 

アイゼン「っ、おい!!お前等、その落ちていた財布を見せろ!!」

 

緑間「いきなりなん……なのだよ……」

 

黄瀬「紫原っち、緑間っち、バナナジュース買ってきたっスよ」

 

アイゼン「おい、お前等中身はどうした!?5万程入れていたぞ!」

 

黄瀬「……えぇ!?……え、なんで神戸にいるんスか、コスプレ?」

 

緑間「財布の中身に関しては知らないのだよ。拾った時点で中身は0だった」

 

紫原「つーか、身分証明書すら入ってなかったし、これあんたの財布なの?」

 

アイゼン「ああ。テイルズオブベルセリア記念のオレモデルの財布だ……」

 

黄瀬「どうかしたんスか?人の顔をジッと見て」

 

アイゼン「……お前誰かに似ていると言われなかったのか?具体的に言えば導師の癖に暗殺者を改心させるどころか無理だった場合、暗殺してもいいと了承するクソみたいな男に」

 

緑間「具体的にも程があるのだよ!」

 

アイゼン「お前も風の天族で盲目な癖にツンデレの様な博識なお節介に似ていると言われた事はないか!?」

 

紫原「ミドちんはツンデレなのが一緒なぐらいだよ」

 

緑間「誰がツンデレなのだよ!」

 

黄瀬「またまたぁ。今回、奇跡の世代で遊ぼうって言ったらなんだかんだ言いつつ付き合ってくれたじゃないスか」

 

緑間「勘違いをするな。妹に神戸の美味い土産を食べさせたい為の視察に来ているだけだ」

 

アイゼン「そこの1番デカいのは……マリントルーパーに似ているな」

 

黛「さっきから何処を見て、いや、なにを聞いて想像している」

 

アイゼン「お前は、チヒロ!?」

 

紫原「あ~黛さん、いたんだ」

 

黛「ずっと居たさ。お前達の影になって見えてなかっただけだ……どうやら大変な事になっている様だな」

 

アイゼン「落とした財布の中身を抜かれてな……こいつ等では無さそうだな」

 

黛「安心しろ、こいつ等はアホな事をやっても犯罪に手を染める程に落ちぶれちゃいない」

 

黄瀬「そんな人を外道みたいに言わないで欲しいっすよ!確かにμ’sの売上金を全額いただくとかのボッタクリはやったけど、アレは双方合意の上での契約っス」

 

緑間「そのせいで色々と大変な事になったが俺達の知らぬ存ぜぬ事だ……第一、子供だけでなく大人も頑張らなければ廃校を阻止する事は出来ん」

 

紫原「ミドちん、辛口だね~」

 

緑間「事実を言ったまでなのだよ。やるからには全力でなければならん」

 

アイゼン「お前達でないとすればいったい誰が……」

 

黄瀬「ここで会ったのもなにかの縁だし、相談なら乗るっスよ……とりあえず警察に行って被害届かなにか出したら」

 

アイゼン「ふざけるな。アイフリード海賊団の副長ともあろう男が警察の厄介になってたまるか。もう少し常識を考えてものを言え」

 

黄瀬「ちょっ、なんでオレには辛口なんスか!?」

 

アイゼン「お前を見ていると何故だかあのクソ導師を思い出す」

 

リーガル「アイゼン、ここに居たか」

 

アイゼン「お前は……誰だ?」

 

紫原「誰、このおっさん?」

 

緑間「見知らぬおっさんなのだよ」

 

黄瀬「新手の詐欺かなにかすか?」

 

リーガル「……私はリーガル、リーガル・ブライアン。レザレノカンパニーの会長を務めている。ロイドの仲間と言えば分かるだろうか?」

 

黛「世界観ガン無視してるから分かる奴にしか分からないぞ」

 

アイゼン「アイツの仲間か……そうか。レイアが電話で寄越したのか」

 

リーガル「まさか横浜でなく神戸に迷い込むとは、災難だったな」

 

アイゼン「いきなりで悪いが、金を貸してくれないか?」

 

リーガル「随分と急な話だな……ちょっと待っていろ」

 

緑間「あっさりと金を貸すのか……」

 

アイゼン「オレならば確実に返せると言う信用があるからな」

 

リーガル「こちらリーガル……A級のアイゼンと遭遇した。直ちに増援を頼む」

 

アイゼン「なに!?」

 

リーガル「悪いが、貴様には此処で眠ってもらう……我々のフェスティバルの為に!!」

 

黄瀬「ちょっ、なんか怪しい空気になってるっスよ」

 

紫原「仲間割れ?」

 

リーガル「仲間?……我々を仲間外れにしている輩など、仲間でもなんでもない!!ゆくぞ!」

 

アイゼン「っ、お前等逃げろ!!」

 

黛「逃げるぞ!お前等」

 

クラース「おっと、そうはさせない」

 

マギルゥ「お主達も道連れじゃあ!!」

 

アイゼン「マギルゥ、それにクラース、なんの真似だ!!」

 

クラース「君達は我々のフェスティバルの催し物なんだ……神戸に迷い込むのは予想外だったが、逆に狙い時だ」

 

紫原「ちょっ、マジでなんなのさ」

 

リーガル「我々ネオテイルズオブフェスティバルに捧げる生贄となるがいい!!」

 

アイゼン「ぐぅぁああ!!」

 

マギルゥ「お主を倒しさえすればテイフェスの醍醐味を一気に奪える。手は抜かんぞ~」

 

緑間「アイゼン……っく、ダメか」

 

黄瀬「あんたら一応は仲間でしょう。競い合うならまだしもこんな一方的な暴力振るってなにが目的なんスか!」

 

リーガル「我々の目的は唯一つ……祭を終わらせ新たなる祭を開催する事。その為にはアイゼンに犠牲になってもらう」

 

紫原「なに言ってるか意味分かんない」

 

マギルゥ「意味など後で分かるわい!!」

 

アイゼン「オレを置いていけ!!この事をベルベット達に……」

 

黛「お前等、行くぞ!!バトル物の世界の住人に関わってたら命が幾つあっても足りん」

 

緑間「っく、覚えておくのだよ」

 

黄瀬「この借りは利子つけて返すっス」

 

紫原「後で捻り潰すよ」

 

去っていく黛、緑間、黄瀬、紫原




黄瀬   スレイ  木村良平
緑間   デゼル  小野大輔
黛    ミクリオ 逢坂良太
紫原   セネル  鈴村健一
次狼   アイゼン 森川智之
???  ???  伊瀬茉莉也
??   ???  堀内賢雄
??   ザビーダ 津田健次郎
??   レイア  早見沙織
??   フレン  宮野真守
赤司   ???  神谷浩史
ゴンベエ ???  諏訪部順一
??   ???  下野紘
??   ???  杉田智和
??   ???  置鮎龍太郎


EX級
ゼロス
S級
ユーリ ルドガー リオン ロイド ルーク
A級
リタ ベルベット アイゼン エドナ ミラ・マクスウェル ミラ
B級
ザビーダ レイブン ライフィセット スレイ ミクリオ アスベル

なにかは言わない
中の人つながリーヨ


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神依

っしゃあ、オラァ!!書けたぞ


「作戦の確認よ」

 

 ライフィセットが聖隷2号でなくライフィセットだと言うと軽く一悶着あった。

 具体的に言えば木に引っかかっているクワガタを取ろうとしたのだが、身長的な問題があって取ることが叶わずにいるとテレサが取った。

 ライフィセットは自慢気に取った事をアイゼン達に報告をすると、アイゼンはカブトムシ、ロクロウはクワガタと捕まえた虫がどっちかなのかを軽く言い争い、最終的にライフィセットがカナブン扱いすると言えば丸く納まった。

 その光景を見ていたテレサはエレノアに言わせているのかと問い掛けるがライフィセットの器となっているだけであり、天族に意思がある事を驚いていた。

 俺からすれば殆どが人間と同じ構造で出来ている生物が人間の様に怒ったり泣いたり笑ったりしない方がおかしい……聖寮の洗脳教育や刷り込みがそれだけしっかりしているという事だろう。

 

「私達はあんたを人質として利用して武装を解除させるわ」

 

 段々と目的地に近付いてきたのでベルベットは作戦を改めて確認をする。そうすることで今まで緩んでいた空気がしゃっきりとする。

 こういうことをサラッと成し遂げるベルベットはリーダーシップ的なのに優れている。戦闘力に能力極振りしているオレと大違いだ。

 

「アメッカが抑制されている聖隷の意思を解放して、契約を強制解除。そのままオスカーを拘束して港へ撤退。喰魔を船に乗せて出港準備が整った時点で開放はしてあげるわ」

 

「1つだけ約束をしてください……オスカーに手を出さない事を」

 

「無理ね。オスカーがあんたを助ける為に手を出してきたのなら容赦無く切り捨てるわ」

 

 姉として弟が大事なのは分かるが、それはそれ、これはこれだ。

 向こうが襲いかかるのならばベルベットに慈悲はない……しかしここでライフィセットとエレノアが出てくる

 

「ベルベット」

 

「私からも頼みます。どうか、テレサの願いを」

 

「オスカーを助けたいのならテレサ、あんたが必死になって説得をしなさい」

 

 ライフィセットに甘いところがあるベルベットでも今回ばかりは強く突っぱねる。

 それだけ今回の戦いが大事な戦いであること

 

「……ええ、必ず守ります。命に変えても」

 

 なにがなんでも守ってみせる。敵対する俺達に自身を人質にしろなんて言うまでで覚悟ががん決まりである。

 そう……大事な大事な弟を守るためならばどんな事をする、そんな覚悟を持った目をしている

 

「アメッカ、油断をするんじゃねえぞ」

 

「ああ、分かっている……ここからが本番だ」

 

 本当に分かってんだろうか。いや、多分分かったと思ってはいるけどもまだ完全に理解していないパターンだ。

 ベルベットもあんな事を言っている割には若干揺らいでいるところもあるし……力を貸すのはあんまよくない事だが、状況が状況だけだしやるしかねえか。

 色々な思惑が交差する中でゆっくりとゆっくりと目的地へと向かえばそこにはオスカーと思わしき人物が剣を突き立てながら喰魔と思わしき人物の直ぐ側にいた。

 

「それは禁止よ」

 

 隙だらけなオスカーに向かっていっそのことデラックスボンバーで殺してテレサも殺してやろうかと手を翳すがベルベットは止めにくる

 自分の復讐が優先的な筈なのに変なところでベルベットは甘い……まぁ、それだけ本当のベルベットは優しさと思いやりがある。

 

「来たか、喰魔ベルベット」

 

 ベルベットが手を出すなと言ってきた以上は下手に手出しはしない。

 ある程度距離を詰めると流石にオスカーもオレ達の存在に気付いた様なので振り向くと驚いた顔をする。

 

「姉上!?」

 

「ッハ、その程度かよ」

 

 誰かがやって来たのかは分かるくせに誰がやってきたかは分からない中途半端な気配探知だ。

 テレサの存在に直ぐに気付いたオスカーだったが、なにかをする前にとベルベットは手甲から剣を抜いてテレサの首筋に突きつける。

 

「見ての通りよ、武装を解除して今すぐにでも聖隷を出しなさい……さもないとこいつを殺すわよ」

 

 ベルベットの目には迷いは無い。余計な迷いはないか。

 

「卑怯な」

 

「おいおい、なにを言い出すかと思えばコイツは生きるか死ぬかの世界だぜ……やられた方が悪い」

 

 テレサを人質にしているベルベットを強く睨みつける。

 そんなものでベルベットは揺るがないし、それを卑怯とは言ってはいけない……卑劣とは言うけれども。

 

「オスカー、お願いします見逃してください。私は聖寮が語る理の本当の意味を見極めたいのです」

 

「人質を取ることが君の理だというのか、エレノア!!」

 

「っ……」

 

「論破されてんじゃねえよ、阿呆が」

 

 交渉の場に勝手に出てきたエレノアはオスカーに論破される。

 もう既に悪の道にひた走っている状態で、正義だ悪だ考えるのは難しい。つか、めんどくせえ。

 ここはベルベットかアイゼン辺りに全ての罪を擦り付けてでも見るって覚悟を決めとかなきゃいけねえ……

 

「姉上……」

 

「申し訳ありません、私が足手まといに」

 

「おっと、それ以上は動くんじゃねえ……コイツの顔が吹っ飛ぶぞ」

 

 ベルベットの言うとおりに動くほど、オスカーという人間は諦めていないし、テレサという人間は弱くはない。

 ベルベットを強く睨みつつも隙を伺っているので脅しとしてピラミッド状に6分割したハウンドを作り出す。何時でもお前とテレサを殺せるというブラフを見せる。

 

「そんな、話が」

 

「アメッカ、オカリナを」

 

 オスカーには手を出さない約束をしているらしいが、それはあくまでもベルベットと交わした約束だ。

 目の前にいる喰魔を回収さえ出来れば問題無い……殺したところで一切問題無い相手であり、ベルベットが止めろと言っているから手を出さないでいるが、向こうがやるつもりならば何時でもやるつもりだ。

 とりあえずこいつ等対魔士の力の源である天族との繋がりを断ち切る。何時でもお前とテレサを殺せるアピールをしつつ、アメッカに時のオカリナを貸す。

 

「ゴンベエ……」

 

「アメッカ、勘違いをしてもらったら困る。オレは秩序を持った悪人だ……時にはこういう手段も平気で用いる」

 

 オレの行いにアリーシャは引いている。ここまでしなくてもいいんじゃないかと思っているが、ここまでしなければならない。

 何時でも殺せるアピールをしつつオスカーの中に入っている天族を出して、アリーシャはオカリナを吹く。何時も通りの目覚めのソナタでこれさえ吹けば後でオスカーがどれだけ逆らってもベルベットには絶対に勝つことが出来ない。

 

「……天族が元に戻らないだと?」

 

 今までコレで天族の意思を解放してきた。

 解放さえすれば人間に従う必要はないと向こうから何処かに行ってくれるのに、意識が元に戻らなかった。

 予想外の出来事に思わず声を出してしまうと、オスカーは隙が出来たと思ったのかベルベットに向かって剣を投げつけるがベルベットは警戒心を一切解いていないのであっさりと弾いてしまうのだが、その隙にテレサがオスカーの元へと向かう。

 

「っち……」

 

 一瞬で殺すことが出来たのに思考が止まってしまった。

 オスカーの背後にテレサが回った……ダメだな。ベルベットが甘いだなんだ言ってるのに、自分が上手く仕留める事が出来ない……お笑い草だ。

 

「姉上」

 

 最愛の姉がこちらに来たのでオスカーは思わず笑みを浮かべる。

 しかし危機的状況には一切変わりなく直ぐにオレ達を睨みつける

 

「ベルベット、こうなった以上は仕方ねえ……ここからは生か死かだ」

 

 どうしてオスカーの天族に目覚めのソナタが効かなかったかは不明だ。

 オスカーに最初から忠誠しているわけでもない、天族を道具かなにかだと思い込んでいる聖寮が意思を解放させているわけがない。気になる点は多いが、ここでオスカー達を殺しさえすれば全てがチャラになる。

 

「姉上、下が──っ!?」

 

「申し訳ありません」

 

「なんだ、仲間割れか!?」

 

 テレサを後方に下げようとするオスカー。

 この状況からすれば正しい判断なのだが、ここで予想外の出来事が起きた。オスカーをテレサが攻撃をした。首の裏を杖でゴンッと叩いた。

 殺す威力じゃない気絶させる威力でもない程良い威力でオスカーを殴打し、ロクロウは声を上げるのだがそんなわけがねえだろう。

 

「テメエ、端からこの状況を狙ってやがったな」

 

 オスカーの元に行き、オスカーならば自分を助け出すと読んでいる。

 こっちが手を出さない様に無理矢理約束させて……ホントに汚えアバズレだ

 

「ベルベット、こうなった以上は約束なんざ守る必要はねえだろう」

 

 最初から殺すつもりで殺っておけばよかったのに、変な事をしてしまって無駄に時間を食ってしまった。

 オレはハウンドを出現させてオスカーとテレサに狙いを定めるのだがベルベットが静止する。

 

「喰魔に当たったら元も子もないわ……あんた、どうするつもりなのよ?この状況でただの人間が勝てると思ってるの?」

 

 オレならば確実にハウンドは当てれるのだが……まぁ、いいか。

 ベルベットは裏切ったテレサを強く睨む。こうなってしまった以上は殺るしかない。テレサもそれはわかっている筈だ。弟のオスカーを思ってるのならば人質のままでよかった筈だ。

 

「そう……私はただの人間です。力も無ければ才能もありません」

 

 テレサはベルベットの問い掛けに答えつつ、チラリと視線を移動させる。

 その視線の先にいるのはオスカー……が護衛していた喰魔だ……そういえばコイツを連れて帰らないといけないんだよな。

 

「ですが、あの方が教えてくれました……私がカノヌシと適合していると」

 

「あの方だと?」

 

 ここに来て不信な事をテレサは語る。

 オレ達の戦っている敵は聖寮でトップはアルトリウス、裏でアホな事をしているのがメルキオル、好き勝手やってるのがシグレの筈だ。そのバックにカノヌシの存在がいる……その筈だ。ここに来て更なる存在が居ることについてほのめかす。

 

「こうすれば全てを守れる!!」

 

「なに!?」

 

「喰魔に自分を食わせた!?」

 

 背後から首筋をガブリと喰魔が噛み付いた。

 普通ならば血が大量に流れ出るのだが血の代わりに穢れがコレでもかと出てきてテレサと目当ての喰魔は包まれていく。

 

「喰魔になった!?」

 

「いいや、違う……喰魔と融合したんじゃ」

 

 容姿が大きく変貌するテレサ。その姿は人の姿から外れており、ライフィセットは驚くがマギルゥが違うと丁寧に説明をしてくれる。

 テレサは最初からコレが狙いだったのか……喰魔との融合を出来ると言った何者なんだ

 

「……全員殺します。オスカーのた」

 

「デラックス・ボンバー!!」

 

「っ!?」

 

「おっ、避けたか」

 

「ゴンベエ!?」

 

「アメッカ、なにを驚いてるんだ……ベルベットが折角、穏便に済ませようとしたのにそれを無下にした。もう話し合いの段階は終わっちまったんだぞ」

 

 例によってデラックス・ボンバーを決めに行くと避けられた。

 突如として撃った為にアリーシャは驚くのだが、もう話し合いとかそんなのは関係無い。食うか喰われるかだ。

 

「言いたいことは分かるが、いきなりすぎる」

 

「あのな、敵だと分かった以上はシバき倒すぶっ殺すに限るんだよ」

 

 いちいち無駄な話をするのはめんどくせえんだよ。

 やれ家族だやれ世界が醜いだ、そういうくだらねえ理屈を並べて自分の意見をさも当たり前の如く正論にして暴力を振るう。そんなのはとっととぶっ倒すに限る。せっぱそもさんは面倒なんだよ。

 

「人が喋っていると言うのに、いきなり攻撃してきて」

 

「あんた、攻撃するのは良いけれど殺すんじゃないわよ。アイツは今、喰魔になっているんだから」

 

「了解」

 

 殺したらダメなのは非常に面倒くさい。ハウンドで体を貫いてぶっ殺した方が楽なんだ。

 ベルベットから直接やれとは言われなかったが戦う事に関してはなにも文句言ってこない……そう、コレは誰かが文句を言う戦いじゃない。ロクロウにもアイゼンにもベルベットにも気を遣わなくていい戦い。楽な戦いだ。

 

「思い知──」

 

 テレサの持っていた杖が何時の間にか三叉の鉾に変わっていた。これも喰魔化の影響だろう。

 感情的になりオレ達に明確な殺意を向けてくるのだがあまりにも遅い。喰魔化してパワーアップを果たした様だが、オレからすれば五十歩百歩だ。一瞬にしてテレサとの間合いを詰めて腹に一撃を叩き込む。

 

「がぁっ!?」

 

「連れて帰らないといけない以上はもう少し手荒にさせてもらう」

 

 今、腹に入れた一撃だけでも充分な威力があるが、オレは手を緩めない。

 家族を思う感情の力で動く女は恐ろしいまでの生命力を持っているのをベルベットでよく知っている……何処ぞのズガタカオヤコロ系転生者とは言わねえが可能性と呼べるものは残さず摘み取る。

 

「1本」

 

──ゴキリ

 

 三叉の鉾を握っている腕を掴んで一本、骨を折る。オレの感覚が間違いなければ確実に骨が折れているが追撃の手は緩めない。

 本当ならば大声で叫びたくなる様な痛みなのだろうが、なんとしてもオレ達を殺したいので痛むのを我慢するのだがオレには一瞬があればいい。

 もう片方の腕をすかさず掴んでゴキリと鈍い音を立たせて、両方の腕を折るのだが、まだだ。まだやめない。

 

「次は足だ」

 

 腕の次は足を蹴る。

 足の骨が粉砕骨折する様に威力を加減した蹴りを叩き込む。蹴った感触的に粉砕に成功する事は出来ているが、まだだ。

 片足しか残っていないテレサはバランスを崩して倒れるので丁度いいと軽くジャンプして膝を最後の足に向かって落とす。

 

「ぁ──っ」

 

「はい、いっちょあがり」

 

 両手の腕の骨は折った、両足の骨は砕いた。

 激痛に耐え抜いて意識を残しているのは流石だと思うと同時に両手両足を潰して正解だと思った。片手でも片足でもこの女は立ち上がる……肋の骨もやっておく、いや、やり過ぎるとショック死しかねないな。

 

「お前さ……ナメんのも大概にしろよ」

 

 とりあえずボコボコにしたのでテレサを見下ろす。

 色々と言いたいことがあるが真っ先に出たのはこの言葉だった。

 

「オレは空気を読める男だから空気を読んでるけど、その気になりゃカノヌシだろうがアルトリウスだろうがシグレだろうがメルキオルのクソジジイだろうが片手間でぶっ殺す事が出来るんだよ」

 

 ヘルダルフといいこいつといい、あまりにもオレという存在をナメている。

 何処かで一発ガツンとやってやりたい気持ちはある……ある意味、こいつぁいい機会かもしれねえ。

 

「テメエがどんな思いをしてここに来てるか知ったことじゃねえ……思いも信念も関係ねえ、勝たなければそれだけだ。そしてテメエは負け犬だ」

 

「化け、物が」

 

「よく言われるよ」

 

 倒れながらも殺してやると強く睨むテレサ。両手両足を叩いて正解だとつくづく思う。

 オレが化け物染みてるなんてよく知っている。開花した才能が理不尽なもので周りが必死になって会得した技術を数分で覚えれるんだからな。

 

「姉上から手を退けろ!!」

 

「と、お前が残ってたか」

 

 剣を飛ばしてくるオスカー。

 ひょいっと避けて距離を開けると追撃はしてこず、テレサの元へと駆け寄る。

 

「お前がやったことだし、オレも口出ししなかった事だから後になってああだこうだ言うのは卑怯かもしれないけど……非情にはなれよ」

 

「……分かっているわよ」

 

 分かってないからオレが言っているんだろうが、どアホ。

 オレが先にテレサをボコボコにしたのを見てベルベットは改めて覚悟を決める。

 

「ごめん、なさい……オスカー。貴方を助けようとしたのに……」

 

 弱々しい声で涙を流しながらオスカーに謝る。

 ホントにこういうことになるんだったら最初からベルベットの言うとおりにしておけばいい……本当に愚かだ。

 

「もういいのです姉上……ドラゴニア家は、父上も母上も私を跡継ぎである兄しか見ていませんでした。貴方だけはずっと僕を見てくれた。案じて励まして微笑んでくれた」

 

「オス、カー」

 

「貴方が見守ってくれる……それだけでいい。それならば僕は世界を滅ぼす魔王にだって勝てる!」

 

「ハッ、啖呵を切るのは勝手だが状況を見て言えよ。この数で勝てると思ってるのか?」

 

 殺そうと思えば何時でも殺せる相手だ。ここからなにをやっても絶対に負けることはない。

 覚悟を決めたオスカーは自分の中にいる天族を出した……天族を含めても数の利はこちらにある。加えてベルベットには神衣の様な炎のパワーアップ形態がある。どうあがいても絶望である。

 

「見せてやる……我が奥義を……神衣の力を!!」

 

「神衣だと!?」

 

「ぬ、ぅおおおおおおお!!」

 

 オスカーの発言にアリーシャは驚くと、オスカーの天族がオスカーの中に戻り眩く光り出す。光が収まるとそこには緑色の剣の様な翼が生えていたオスカーがいた。

 

「おいおい……ここで神衣かよ」

 

 ベルベット達を脅かす力なんて限られているものだ。

 頭の中でどんな術が飛び出すのか考えており、神衣は天族の名前を呼んで天族と共に戦わないといけない技術だから省いていたが……これならばベルベット達の脅威にはなりうる。

 

「お前達をここで……倒す!!」




スキット めんどくさい

ライフィセット「ベルベット」

ベルベット「なに?」

ライフィセット「えっと……ごめんなさい」

ベルベット「なにに謝ってるのよ」

ライフィセット「ベルベットの気持ちが分かりたいからご飯を食べなかったこと……変に同情してベルベットを怒らせたこと……皆が心配してたのに、無理したんだ」

ベルベット「そう……」

ライフィセット「同情とかするよりも自分の気持ちをハッキリと伝えればいいってゴンベエが言ってたんだ……僕、ベルベットの事を心配してるんだ……その、無茶をしないでね」

ベルベット「してないわよ!」

ライフィセット「してるよ!無理しないで、僕だったら幾らでも力になるからね」

ベルベット「……そう……期待してるわ」

ゴンベエ「……あんな堂々と伝えて大丈夫かと心配をしたが、満更でもなさそうだな」

ロクロウ「お前、なにコソコソ見てるんだ?」

ゴンベエ「ライフィセットの成長と謝罪を見守っているんだ」

ライフィセット「僕だけじゃなくてゴンベエにも頼ってね……ゴンベエも心配してるから」

ロクロウ「はっはぁ、さてはお前自分で言うのが恥ずかしいんだな」

ゴンベエ「るせえよ」

ロクロウ「そう恥ずかしがるな……お前はもうちょっと言った方がいいんじゃないのか?」

ゴンベエ「アホ、オレはそういう臭い事を言うキャラじゃねえんだよ」

ロクロウ「キャラとかそういうの関係無いだろう。そんな事を言い出したら俺なんて向いてないにも程がある」

ゴンベエ「大アリだ。オレはどちらかと言えば秩序を持った悪人だ。正義の味方みてえに困ってる人を見過ごせないタイプじゃねえし、ヒーローみたいに誰かを救い笑顔になるわけじゃねえ……今回言ったのはたまたまだ」

ロクロウ「たまたまの割にはしっかりした事を言ってるだろう」

ゴンベエ「そりゃ言わないだけで言えねえんじゃねえんだよ。こういう事は下手すりゃ人の人生観を大きく変える……現にオレの発言でアメッカは色々と変わっちまってる。今回はライフィセットは悩んで迷っていたから言ったけど、お前みたいに色々と出来上がってる人間に言っても意味はねえし、答えってのは自力で見つけるもので教えられるものじゃねえ……今回はきっかけを与えたからよかったけどな」

ロクロウ「意外と考えてるんだな」

ゴンベエ「ちげえよ……そういう事を考えるのがマジでめんどくせえんだよ」

ロクロウ「めんどくさいか……もうちょっと真面目にやろうぜ」

ゴンベエ「誰かにタメになることを言ったり、教えたり助けたりするのはめんどうなんだよ……ホントにな……」


HIRETUクローバーとかキセキのトリガーとか魔法科高校の遊戯王とか他にも色々とやりたいことはあるけどなんとか書ききったぞ


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復讐と憎しみの連鎖

スキットのネタが全然浮かばねえ……


「そんな……」

 

 オスカーが新たに会得した術は神依だった。

 この時代に来てから今まで誰一人として使用していない術で、この時代の人と天族との関係性では無理だろうと考えていたが違った。

 スレイと違い姿が大きく変わったわけではないが今の私ならば分かる。オスカーは一瞬にして何段階もパワーアップを果たした。

 

「聖隷と一体化しただと!?」

 

 今までにない術にアイゼンは驚く。私も驚くしかない。巨大な拳も大きな弓も剣もないが、紛れもなく神依だ。

 

「どうして天族と心を通わせていないのに、名を読んでいないのに神依を使えるんだ!!」

 

 だからこそわからない事があまりにも多い。

 神依を発動するには天族の方の真名を呼ばなければならず、オスカーはそんな事を一切していない。神依は導師の秘術で天族と一心同体になるものだとライラ様から教わった。元々の力が弱い私では出来ないスレイにしか出来ない秘術をオスカーが使うとは

 

「アメッカ!!」

 

「……っ!!」

 

「色々と思うことはあるのは分かるが今は戦いに集中しろ」

 

 オスカーの神依に気が動転しているとゴンベエが私を現実に戻す。

 なんの因果か災禍の顕主と共に旅をするだけでなく神依を使う相手と戦うとは思ってもみなかった。ゴンベエに言われた私は宙に浮いているオスカーを見つめる。

 

「アメッカ、ゴンベエ、あれがなにか知ってるの!?」

 

 最初に反応を見せてしまったのでライフィセットは聞いてくる。

 

「アレは神依と言って天族と導師が1つになる秘術だ……通常では計り知れない程のパワーアップを果たす」

 

 神依の事をなんでも知っているわけじゃない。

 とりあえずは簡単に説明をするとアイゼンが怒りを表す。

 

「聖隷から意思だけでなく形を奪う技だと……」

 

「いや、本来はあんな使い方じゃない……筈だ……」

 

 過去の時代の出来事故に断言することは出来ない。

 神依はこの時代で生まれてこの時代ではこういった風に扱われていたかもしれない。色々と改良されたりして今の様になったのかもしれない。

 

「貴様、何故この神依を知っている!!」

 

「見たことがあるからに決まってる……と言いたいがソレははじめて見るな」

 

 とっておきである神依に対する反応が予想外だったのかオスカーは戸惑う。

 ゴンベエはあっさりと返事をするのだが、しっかりとオスカーを観察している……見たことのない……確かにそうだ。

 

「神依を見たことがあるだと!?バカを言うな、コレは聖寮が新たに開発した術だ」

 

「テメエのその翼は見るのははじめてだけど、巨大な拳骨と無駄にデカい弓と巨大な剣なら見たことがあんだよ」

 

 オスカーから聞き出せる情報を聞き出しつつ、ゴンベエは冷静に考える。

 私も冷静になって考える。確か巨大な剣を持ったのが火属性の神依、弓矢を使うのが水属性の神依、巨大な岩の拳で戦うのが地の神依だ。それに対してオスカーの神依は刃の翼が生えていて空を飛んでいるだけで特に変わったことはない……

 

「アレは恐らくは風の神依だ!」

 

 風の神依は唯一私が見たことが無い形態だ。

 

「ってことは、さっきの聖隷は風の聖隷だったわけか……ベルベット、アレをやれ!」

 

「分かってるわよ!!」

 

 向こうがパワーアップを果たしたのならば、こちらもパワーアップをするしかない。

 ロクロウに則されたベルベットは籠手から剣を出すと業炎を身に纏い、神依に似た姿へと形態を変化する。

 

「神依は日々の積み重ねとかの努力とは異なる明確なハッキリとしたパワーアップだ。しかも使ってる奴の基本スペックはスレイよりも上で1個だけ厄介な事がある」

 

「この上で更に厄介な事があるのですか!?」

 

「風属性の神依を見るのははじめてだけどよ、あの姿からして十中八九空飛べる!」

 

「ふっ、その通りだ!」

 

 ゴンベエの言葉に頷きながらオスカーは高く飛翔した。

 まずい……日頃の鍛錬を怠ったつもりはなく脚力に自信はあるが、それは陸での話。ゴンベエはその気になれば水の上を走ったりすることも出来るらしいが私には出来ない。

 

「っちぃ、飛ばれたら斬ることが出来ない」

 

 近距離戦闘が主体のロクロウは舌打ちをする。

 自慢のランゲツ流も刃が届かない。ジャンプをして間合いを詰めても恐らくは吹き飛ばされるだけだ。こうなるとエレノアもベルベットも戦えない。術を主体にして戦っているマギルゥとライフィセットが頼りだ。

 

「慌てるんじゃねえ!見たところオスカーもあの形態での戦闘ははじめてだ。使っている属性が風属性の神依と分かった以上は火属性の神依みたいな姿になれるベルベットを主体に戦うんだ。ライフィセットとマギルゥはファイヤボール的な火属性でぶっ放せるタイプの技でサポート、ロクロウとエレノアはベルベットのサポートでベルベットが攻撃できるように、アイゼンには悪いが補助に回れ」

 

 こんな中でもゴンベエは的確な指示を出す。

 当然の様に私は戦闘が出来る人数にはカウントされていない。悔しいが今の私では神依を使う対魔士を相手にする事は出来ない。

 

「吹き荒れろ、烈風!!」

 

「アメッカ、槍借りるぞ」

 

 風の刃を雨の如く降らせるオスカー。

 ゴンベエは私から槍を借りて刀身に炎を纏わせて全て切り払う。

 

「どうやらホントに風属性の様ね……」

 

 ベルベットは空を飛んでいるオスカーを見る。

 助走をつければ届くかもしれない位置に飛んでおり、どうやってそこに行くのかを考えている。

 

「エレノア、ベルベット、ロクロウの順に来い」

 

 ボールをトスする時と似たような構えをゴンベエは取る。

 自らが踏み台になることで跳躍力を増すつもりでゴンベエの言われた通り、エレノア、ベルベット、ロクロウの順番に飛んだ。

 高い、この高さならば空を飛んでいるオスカーとの間合いを一気に詰める事が出来る。

 

「ライフィセット、マギルゥ、アイゼン、準備はいいか!空中にいるベルベット達は上手く身動きは取れないから気をつけろ」

 

「分かっとるわい!」

 

 術を出すモーションを取るマギルゥ。

 ファイヤボールの様な術をオスカーに向かって飛ばすのだが、コレは牽制だ。当てるつもりのない攻撃で、空を自由自在に飛び回る事が出来ない様にしている。

 

「ナメるな!!剣を穿け!」

 

「来たぞ!」

 

「はい!」

 

 背中の翼に似た刃を無数に出現させてベルベット達に向かって飛ばす。

 ゴンベエが先に飛ばしたエレノアがベルベット達に向かう刃を槍で振り払う。それと同時にエレノアの動きが止まる。刃にぶつかった事で空を跳ぶ勢いが無くなった。

 

「そして爆ぜよ!」

 

「まずい!アイツ、突撃するつもりだ」

 

「いや、大丈夫だ!」

 

 オスカーはベルベット達に向かって突撃しようとしている。

 既に上昇する勢いがなくなって来ているベルベット達とぶつかりあえば確実にベルベット達が負けてしまう。アイゼンは危険を察したが、ゴンベエは問題は無いと動じない。

 

「いけぇ、ベルベット!!」

 

 ベルベットの背後に居るロクロウがベルベットの踏み台になった。

 新たに跳んだベルベットはオスカーに向かって跳んでいく

 

「シルフィードブレイズ!!」

 

「紅蓮爆炎剣!!」

 

 真紅の炎を纏ったベルベットと風に包まれたオスカーはぶつかり合う。

 属性の相性ではベルベットの方が有利だが空中ではオスカーの方が圧倒的に有利だ

 

「っく……」

 

「っち……」

 

 両者のぶつかり合いの結果、引き分けた。ベルベットの新形態よりも神依の方が上だったのだろうか。

 

「オスカー、もうやめて!!」

 

「エレノア、諦めろ……食うか喰われるかだぞ」

 

「でも、あの術は未完成で体に負担がかかるのですよ!」

 

 力比べは引き分けに終わったが、オスカーの疲労具合はベルベットの比ではない。

 神依はするだけでも疲れるものでスレイが使った時よりも遥かに疲れている。未完成の術で身体に尋常でない程に負担がかかる代物だとテレサは言っていた……ここから更に改良が加えられるのか。

 

「まともに動けなくなるぐらいにボコボコにしなきゃあの手のタイプは嫌でも動く……ベルベットがそうだろう」

 

 ゴンベエは両手から光る立方体の弾を2つ作る。

 何時もの様に放つのかと思えばその2つの弾をくっつけて合成し、1つの弾に作り上げる

 

「ハウンド+ハウンド……強化追尾弾(ホーネット)

 

 何時もとは違う呼び名の弾をゴンベエは撃つ。

 

「っ、追尾弾か!!」

 

 オスカーは避けようと移動するのだが弾もそれに合わせて動く。

 追尾機能を持った光る弾はオスカーを追い掛けるのでオスカーは避けようと空を飛ぶのだが、追い掛けていく。

 

「5、4、3」

 

 カウントをはじめるゴンベエ。

 視線の先にはオスカーが写っており、撃った弾が当たるタイミングを見つけようとしているのか

 

「っ、消えた!?」

 

 オスカーに向かって追尾していた弾は急に消えた。

 流石にずっと出続けるものでもないのだが、オスカーは消えた事に少しだけ驚く。

 

「コレで詰みだ」

 

 ゴンベエがそう言うと私は気付く。オスカーの逃げた先にベルベットが待ち構えていたのを。

 最初から撃った弾を当てるつもりはなく、ベルベットの元へと向かわせることこそが狙いだったのを

 

「しまっ──」

 

「邪王炎殺剣!!」

 

 オスカーもベルベットに気付いたが、1手遅かった。

 穢れを放つ黒い炎を纏った剣でベルベットは攻撃をし、オスカーを斬り飛ばす。

 

「致命傷にはなってはないけど、コレでおしまいよ」

 

 強い……神依のオスカーはハッキリとパワーアップをしたが同じくパワーアップをしたベルベットの方が上だった。

 ゴンベエのサポートがあったからという事もあるのだろうが、それでもベルベットの勝ちは勝ちである。

 

「テレサは連れて行くわ」

 

「っ……姉、上は……渡さない!!」

 

「もうやめて!オスカー、これ以上動いたら貴方が死んじゃう!!」

 

「これ以上はもうやめるんだ。ベルベットは命までは取らない」

 

 オスカーは立ち上がろうとする。オスカーから感じ取れる心の力の強さを深く感じつつも諦める事を言う

 エレノアも止めに入るがエレノアも私も分かっている。オスカーはなにを言っても立ち上がる。誰の言葉を聞かない。

 

「姉上を……傷つけた……お前は……許さん!!」

 

「っは、元から許しなんて得てねえんだ─っ」

 

「がぁあああああっ!?」

 

 立ち上がったオスカーは眩く光を放つ。

 ここから更にパワーアップを果たしたのかと一瞬だけ考えるが違う。オスカーの力は暴走をしている。意思を抑制した天族と無理矢理神依をしたツケが、未完成の神依の限界がここに来て暴走をはじめている。

 

「いかん、聖隷の暴走か!」

 

「まずいぞ!!このままだとドラゴン化する可能性がある!」

 

「ゴンベエ!!」

 

「天族の意思を開放する事が出来ない以上はもうどうすることも出来ねえよ」

 

「ベルベット、喰らって止めい!!」

 

「待って、この人は」

 

 このままでは本当にオスカーは死にかねない。

 ゴンベエに頼ってみるもののゴンベエもどうすることも出来ずに、マギルゥがベルベットに喰らう事を指示する。

 

「ぬぅおおおお!!」

 

 力が暴走しつつもオスカーはゴンベエに向かって突撃をする。

 ゴンベエは背中の剣を触れるのだが、その前にベルベットが出てきて攻撃を防いだ。

 

「あ、やばい」

 

 ゴンベエは異変に気付く。いや、それは異変と呼べるものではない。

 ベルベットは襲いかかるオスカーに対して刃を向けるのだが、オスカーはそれを寸でのところで躱すのだが先程受けた攻撃でのダメージで動きが鈍くなっており、ベルベットはその隙を逃すわけもなくクルリと宙返りをしつつオスカーの背後を取りつつ喰魔化した左腕で切り裂き、血が飛び散った

 

「!!!」

 

 攻撃をくらったオスカーは神依が解除された。パタリと倒れてしまっている……

 

「……」

 

 ベルベットは血に濡れた自分の手をジッと見つめて固まっている……オスカーは動かない……これは……

 

「……殺した、な……」

 

「ち、違う」

 

 ゴンベエに両手両足がやられて倒れていたテレサは涙を流しながらベルベットを睨む。

 睨まれたベルベットは何時もならば気にしないが弱々しくなっており、震えている。

 

「……いい子だったのよ?誕生日にイアリングをくれて」

 

「……はぁ、めんどくさ」

 

「本当は婚約者に渡す物なのに私にくれて……一番大切な人に渡す物だと教えたら、それは姉上だって渡してくれて…………オスカーを……オスカーを、殺したな!!」

 

「大事な弟が殺されたか……」

 

 ゴンベエはボソリと呟く。

 なによりも誰よりも大事で裏切り者になろうが構わないと言った、それほど大事な弟を殺された……ベルベットと同じ憎しみを抱いている。

 ゴンベエのその呟きはベルベットの意識を暴走させるのに充分すぎるトリガーだった。

 

「うわぁああああああああ!!」

 

 ベルベットは我を失いながらテレサに向かって突撃する。

 

「ダメ!!」

 

「殺すな!!」

 

 ライフィセットとアイゼンは止めに入ろうとするも言葉は届かない。

 ベルベットはテレサに向かって突撃し、体を浮かす事が出来るようになったテレサもベルベットに向かって突撃をする。

 結果は言うまでもない。ゴンベエに手足を折られ砕かれたテレサはまともにベルベットを攻撃する事が出来ず、ベルベットに左腕に切り裂かれてオスカーの元へと飛ばされる。そしてテレサは喰魔の姿から元の人間の姿へと戻った。

 

「酷い、怪我……直ぐに、手当てを……」

 

 テレサはオスカーに向かって手を伸ばそうとする……

 

「泣かないで……貴方は強い、子よ……」

 

 オスカーとテレサの手は重なり合った。そこでテレサは力が尽きて……死んだ。

 

「テレサ……オスカー……」

 

「こんな事って……こんな事が……」

 

 まかり通っていいのか……誰も報われない絶望でしかない。

 テレサもオスカーも死に、ベルベットはアルトリウスと同じ事をしてしまう……浄化の力も無ければ飢餓も続く絶望の時代だが……コレは……

 

「うっ……」

 

 なにも出来ない自分に絶望し、耐えられなかった私は嘔吐した。この時代に来て色々と覚悟を決めていた筈なのに一瞬にして全てが砕かれた。

 

「……喰魔の回収は失敗じゃの」

 

「先にやったのはそっちよ……」

 

 ベルベットは櫛を取り出した。その手は震えている

 

「だから、あたしは……ラフィの為に…………弟の為に」

 

「っと、限界が来たか」

 

 限界を迎えたベルベットは意識を落として、地面に倒れた。

 テレサとオスカーを同じ目に、いや、それ以上に酷い目に合わせてしまった罪悪感に囚われてしまった。

 

「アメッカ……ここで投げ出すことは許さん」

 

 絶望な悲劇を見せつけられてなにもかも投げ出して逃げたいと思う気持ちを潰す。

 

「ベルベットは……気絶をしているだけか」

 

 ゴンベエはベルベットの首筋に触れる。

 ベルベットは何時かの船の様に限界を迎えて気絶をしただけだが……ホッとしない。ベルベットは目覚めると変わっていそうで怖い。

 

「阿呆が、最初から喰魔を引き渡しておけばこんな事にならなかったのに」

 

「っ、貴方はこんな時にまでそんな事を言うのですか!!」

 

 ゴンベエはオスカーとテレサの遺体に近寄る。

 何時もと違う冷たい目ではなく哀れんだ目をしているのだが、不用意な発言にエレノアは怒る。

 

「事実を言ったまでだ。テレサが余計な事をしなければ最初からこうはならなかった」

 

「テレサが悪いと?弟を思う姉の気持ちを踏み躙るのですか!!」

 

「んな事は言っちゃいねえ……ただ大人しくしていればそれで良かったのに、余計な事をしたんだ。過ぎたるは及ばざるが如しだ」

 

「何故、何故貴方はそんな事を言えるのですか!!」

 

「決まってるだろ……くだらねえ世の中の仕組みや人間の醜さを嫌という程に知ってるからだよ」

 

 表情こそ変えてはいるものの、ゴンベエはエレノアほど激しく感情を動かしていない。

 あまりにも非情に見える姿だが、それこそがゴンベエである……だが……。

 

「全く、世界が変わろうが人間の醜さと社会のゴミな部分は変わらねえよ」

 

「なにをするつもりですか!」

 

 ゴンベエはオスカーとテレサの遺体の前で正座をした。

 これ以上死体蹴りの様な事は許さないエレノアはゴンベエに槍を向けるのだが、ゴンベエは気にせずに合掌をする。

 

「……観自在菩薩 行深般若波羅蜜多 照見五輪皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識 亦復如是 舎利子 是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中 無色 無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界 乃至 無意識界 無無明 亦無無明尽 乃至 無老死 亦無老死尽」

 

「な、なにを言っているのですか!?」

 

「オレはこの国の人間じゃねえ……だからこの国の弔い方は知らねえ……遺体は火葬で終わらせる」

 

「や、焼くのですか!?」

 

「悪いがオレに出来るのはコレぐらいだ……以無所得故 菩提薩埵」

 

 ゴンベエはゴンベエなりのやり方でオスカーとテレサを弔おうとしている。

 聞いた事の無い言葉を沢山並べて合掌をしているので私もその隣で正座をして合掌をする。どうか2人が生まれ変わり次の人生では幸せになれる様に




スキット モアナと遊ぼう3

ベンウィック「お〜い、頼まれた物を買ってきたぞ〜」

ゴンベエ「あんがと、コレ代金な」

ベンウィック「にしてもお前、結構熱心だよな」

ゴンベエ「なに言ってるんだ。ベルベットやエレノアと比べたらオレなんかまだまだだよ……」

モアナ「あ、ゴンベエ!!」

ゴンベエ「おう、ちょうどいいタイミングで来たな。新しいおもちゃが入ったぞ」

エレノア「新しいおもちゃですか。あまり買い与えてはモアナがワガママになってしまいますからやりすぎも程々にですよ」

ゴンベエ「んな事を言ってるお前は前回なにしたか忘れたとは言わせねえぞ」

エレノア「あ、アレは仕方がない事です!ああでもしなければ私の強さをモアナに教えられないんです」

ゴンベエ「だからって製造業者に乗り込む事は無いだろうが。コンマイでもそんな事をしねえわ」

エレノア「それで今度はなにを購入したのですか?最近、流行っている世界中を巡って土地や資産を購入して遊ぶ双六ですか?」

ゴンベエ「ちげえよ、コレだ」

エレノア「紙……ですか?」

ゴンベエ「折り紙だよ」

エレノア「折り紙……なんですかそれは?」

ゴンベエ「え、マジで言ってるのか?」

エレノア「上質な紙自体が量産できない希少な物ですから……そういえば貴方、紙芝居で使っている紙は何処で手に入れてるのですか?」

ゴンベエ「その辺の雑草で作った」

エレノア「作れるのですか!?」

モアナ「ねえねえ、お絵描きなら筆がないとできないよ?」

ゴンベエ「コレは折り紙する為の紙だ……この紙をこうやって折って……はい、飛行機の完成」

モアナ「ひこうき……イカじゃないの?」

ゴンベエ「あ〜この国には蒸気機関が無いレベルだったな、悪い……ふっと」

エレノア「綺麗に飛びましたね」

モアナ「モアナ、お絵描きがしたいよ!!」

ゴンベエ「まぁ、待て……ここをこうしこうして…こうすれば……ドラゴンが出来る」

エレノア「ええっ!?ちょ、ちょっと待ってください。今、どうやってドラゴンを作ったのですか!?」

ゴンベエ「2回目は金取るぞ」

モアナ「すごいすごいすごい!!ゴンベエ、他にも見せて!」

ゴンベエ「ここをこうやって折ってこうして……鎧武者」

モアナ「わぁ、クロガネだ!」

ゴンベエ「更にここをこうしてこうやってこうすれば、エレノアだ!」

エレノア「やめてください!著作権の侵害ですよ」

ゴンベエ「いいだろう別に……本気を出せば大体の物は作れる」

エレノア「貴方が手先が器用なのは知っていますが、コレは……ハッキリと言って気持ち悪いです」

ゴンベエ「おし、言ったな。後でエレノア一人一個分ぐらいにまで量産しておく」

スキット オレに勝てるのは

アリーシャ「ふっ、せい、はっ!!」

ロクロウ「221、222、223」

ゴンベエ「頑張ってるな」

アリーシャ「ああ……共に戦う事はまだ出来ないが何時かはこの槍を使いこなしてみせる。その為には訓練を積まねば」

ロクロウ「アメッカの槍捌きは中々の物だ……ゴンベエ、どうだ?お前もやってくか」

ゴンベエ「かったるいからパス」

アリーシャ「そういえば……ゴンベエがまともに修行や訓練をしているところを見たことは無いが、何時修行してるんだ?」

ゴンベエ「お前と出会う前だ」

アリーシャ「それは知っている。そうでなく、私と出会ってからだ。ほぼ毎日会っていたから気付かなかったが、修行しているところを見たことない」

ロクロウ「言われてみれば、監獄を改造するだなんだと色々とやってるところを見たことはあるけど修行してるところは見たことねえな」

ゴンベエ「んなのしてねえからな……嫌という程やってきたし、別に今の実力でもどうにでもなる」

アリーシャ「そうやって慢心をしていると酷い目に遭うぞ」

ゴンベエ「ばっか、コイツは慢心じゃねえ、自信だ……それにな、修行してる方がキツい事が多いんだよ」

ロクロウ「そりゃあ修行ってのは汗水たらすからキツいだろう」

ゴンベエ「バカ、そういうのじゃねえんだよ……ホントにめんどくせえことになる」

アリーシャ「なにかあったのか?辛いことがあったのならば、私に話してくれ。力になる」

ゴンベエ「無理だな……コレばっかりは共感する奴の方が圧倒的に少ない。お前はどうあがいても共感しない絶望する側だよ」

アリーシャ「なっ、そんな事を言わなくてもいいじゃないか。それに相談をするだけで気が紛れるかもしれない」

ゴンベエ「はぁ……別に大した事じゃねえよ。あんまいい感じの思い出じゃねえ、ただそれだけだ」

ロクロウ「トラウマってやつか?」

ゴンベエ「そこまでのもんじゃねえ……ただ単に才能が開花して、誰もオレに追い付けなくなった、ただそれだけの事だ」

アリーシャ「追いつけない……」

ゴンベエ「別に珍しくもなんともない話だ。オレには戦う才能があった。だけど周りにはそこまで才能が無かった。だから言われた、お前とは違うって」

ロクロウ「そんなに、か……」

ゴンベエ「特訓もなにもやってないのに見ただけで魔神剣を出来るレベルだぞ……会得難易度が高い螺旋丸は30分ぐらいで覚えたし、極限無想も半日で会得した。回復系とか補助系はあんまだったけど、戦闘に関する事はアッサリと覚えれる。ロクでもねえ才能だ。周りとの疎外感は辛いもんだ」

アリーシャ「そんな事があったのか……すまない」

ゴンベエ「別にいい。世界は広いし、オレより強い奴や同格が居ることは知っている。それでもコレぐらいの事は言える……オレに勝てるのはオレだけだ」


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醜き骨肉の争い

 殺した……

 

 真っ白な空間、私の腹の中。

 なにも無かった世界には草原に咲いている花と倒れているオスカーとテレサがいる……

 

「死んだ……」

 

 アイツを殺そうとする勢いだったオスカー。

 暴走をしていて誰も止めることは出来ない状態だった……そんなオスカーを私は殺した……オスカーは私が殺してしまった。

 

「私が殺した……」

 

 あの日からずっとアルトリウスを憎んでいた。ラフィを殺したあいつを殺してやりたいとずっと憎んでいた。

 その為には利用できる奴等は利用した。なんの見返りもなく協力しているアイツだって利用して利用して…………

 

「あたしはアルトリウスと同じ事をした」

 

 テレサは本当にオスカーの事を大事に思っていた。弟の為ならば裏切り者の汚名だって被るし、私達を騙して殺そうとする。

 オスカーもそうだ。テレサの為ならばどれだけ不利だと分かっていても私達に立ち向かう……全ては姉の為に、弟の為に、立ち上がった。

 そんな姉弟を殺した……大事な物を全て奪った、命すらも奪った……

 

テレサ(あいつ)の前で弟を」

 

 殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した

 

「同じじゃないよ」

 

 私の中のラフィは否定をした

 

「同じよ!!けど、仕方なかった!」

 

 私はアルトリウスと同じ事をしてしまった。でも仕方なかった。あの時はああするしかなかった。

 

「仇を討つにはああするしかなかった!あんたの為よ!!あんたの為にあたしは─っ!!」

 

 私の中のラフィを掴むとピクリとも動かなくなった。

 私の左腕は知らない内に喰魔化しており、手を離した途端にラフィはパタリと倒れた。

 

「ああ……あ……もう、こんなの」

 

 嫌だ……どうしてこうなるの。私はラフィを、ラフィの為に戦ってたのに

 

「どこにも逃げ道はないのよ」

 

 セリカ姉さんは逃さない

 

「お前も、俺もな」

 

 アルトリウスも逃さない……そうだ……殺さなきゃいけない。

 私はラフィの敵を討つために、なにがなんでも……殺さなきゃ……

 

「ベルベット!」

 

「ラ、フィ……」

 

 目を覚ますとそこにはラフィが……いいえ、違うわね。ライフィセットが心配そうな顔で私の顔を覗き込む。

 オスカーとテレサを殺した罪悪感から限界を迎えた私は気絶をしてしまった……

 

「彼奴等は?」

 

 ライフィセットだけがこの場に居る。ロクロウもエレノアもアイゼンもマギルゥもアメッカもアイツもこの場には居ない。

 何処に行ったのかを聞くとライフィセットは私とは違う別の方向を向いた……あっちに彼奴等が居るのね

 

「だ、大丈夫なの!?」

 

「……心配される程、弱くはないわ」

 

 立ち上がった私をライフィセットは心配をするけれど、怪我らしい怪我はしていない。私は歩くことが出来る。

 何処に居るのかライフィセットに道案内をさせるとパチパチと炎が燃え盛っており、炎の前に彼奴等はいた

 

「なにしてるの?」

 

「火葬だ……オレの国は棺桶になんか遺体は入れない。死んだ人間は焼いてしまう」

 

「……」

 

 アイツは合掌をして目を閉じている。

 何時もの様に淡々としているけれど、アイツなりに弔っているつもりだ……私は……

 

「お前、もう大丈夫なのか?」

 

「ただ一気に喰べすぎただけよ」

 

 目覚めた私をロクロウは心配をする。

 けどもう私は大丈夫だ……そう、ただ一気に喰べすぎた。あまりにも一気に喰べすぎたから消化不良を起こして調子を崩した

 

「……あの二人は本当に仲の良かった姉弟でした。幼い頃から支え合って」

 

 エレノアは涙を流す

 

「やられたことをやり返しただけよ!!」

 

「それで誰かが救われるのですか!」

 

「ええ……ラフィの魂が救われるわ」

 

「……」

 

「……」

 

 エレノアはなにも言い返さない、フィーはなにかを言いたそうな悲しげな顔をしている。

 なにか言いたそうな顔をしているだけでなにも言わない。言わないならそれ以上の話は無駄よ。

 

「エレノア……お前はなにか勘違いしてんじゃねえのか?」

 

「勘違い?」

 

「コレは明確に見える悪を倒す勧善懲悪の英雄(ヒーロー)の物語じゃない。醜く血みどろな骨肉の争いで、憎しみの連鎖が起きている」

 

「ですが」

 

「今までだって命を奪わなかったわけじゃない。そいつ等にだって大事な家族がいたかもしれない。大事な友人がいたかもしれない。己の信じた道や信念があったかもしれない。それでも殺した、酷い目に合わせた」

 

「っ……」

 

「お前は知り合いだったから深く感情移入して涙を流して、酷い女だよな」

 

「ゴンベエ!!言っていい事と悪いことが」

 

「事実だ」

 

 アイツは何時も通りだった。

 私の復讐に対して強く責めるどころか、今まで見捨てた人達が居ることをエレノアに教える。アメッカは激怒するが気にしてはいない。

 

「復讐と憎しみ、憎悪が渦巻く残酷な世界に足を踏み入れている。人が1人死んだところでああだこうだと叫んでたらキリが無い」

 

「っ!!」

 

 エレノアはキレた。涙を流すのをやめてアイツに平手打ちを決めようとするが軽々しく避けた。

 アイツは普段バカな事を言って私に殴られてるけど、それはわざとだ。避けられるのにわざと殴られている。けれど、今のアイツの目には殴られない。それどころかエレノアにデコピンを入れる。

 

「言っとくがベルベットだって先にくだらねえ情けは見せたんだぞ。テレサの生首を晒してオスカーをキレさせてからぶっ殺す事が出来た……チャンスを不意にしたのはあの2人だ」

 

「……ええ、そうよ……彼奴等が言うとおりに大人しくしておかないのが悪いわ」

 

 向こうが自分を人質にしろって言ったのに、平然と裏切ったわ。そうでなければ人質だけで済ませていた。

 アイツの言葉に賛同する様に頷くとエレノアはなにも言えなくなる

 

「終わった事をこれ以上掘り返したとしてももう遅いぞ。それよりも喰魔の回収じゃ。喰魔化したテレサを殺してしまった以上は喰魔の回収は失敗で、何処かで新しい喰魔が生まれておるじゃろう」

 

「……ゴンベエ、港に戻してくれ」

 

「ちょっと待て」

 

 マギルゥが今後について語り、アイゼンがアイツに戻るように頼むがアイツは手を止める。

 喰魔を失った以上はこの場にはもう用事は無いが、アイツは足元にある灰を掻き集めて小さな壺の中に入れた。

 

「これはもう正義とか悪とかの戦いじゃない、人間の意思と意思のぶつかり合いだ。オスカーもテレサもその戦いに負けた……悔やみもしない慈しみもしない。だが、供養だけはしてやる」

 

 ブスリとオスカーの剣とテレサの杖を地面に突き立てた。灰が入った壺をアイツは杖と剣の前に置くと私達の方へと振り向いた。

 

「じゃ、いくぞ」

 

 そこには何時もとなにも変わらないアイツがいた。

 エレノアが悲しげな顔で剣と杖を見ていたがそれ以上はなにもせずに、私達は港へとワープをした。

 

「ああっ、副長、ちょうど良かった!!」

 

 ワープをするとそこにはベンウィックがいた。

 シルフモドキが近くで飛び交っていて、私達を見つけると一目散に飛んできた。

 

「なにかあったのか?」

 

「数十人の対魔士を乗せた船がゼクソン港に向かって出港!目的は災禍の顕主の討伐だって!」

 

「っ!」

 

「ふしゅ〜隠れ家がば〜れ〜た〜」

 

 大慌ての理由をベンウィックが伝えるとマギルゥは露骨に落ち込む。

 コイツのこんな姿は何時もの事だけれど、内容が内容だけにふざけている場合じゃない。私達の拠点がバレてしまった。

 私達がタイタニアを拠点にしているのを知っているのは極々一部で、外部で知っている連中もアイフリード海賊団達と手を組んでいる連中だ。私はエレノアを強く睨みつける

 

「違う!密告なんかしていません」

 

「だったら、手伝ってもらうわ。喰魔達を救出しなきゃ」

 

「させません、モアナにあんなことは二度と」

 

 エレノアがやると言ったのならやるはずだ。

 私は早速船に乗り込もうとするがアイゼンが止める。

 

「待て、その情報は血翅蝶からか?」

 

「いえ、何時も利用している商会からの情報です」

 

「……作戦の内容については聖寮の中でも機密情報の筈だ。それが一般的な組織に漏れているだと」

 

「……罠ってこと?」

 

「退く理由にはならないわ」

 

 アイゼンは警戒心を強め、ライフィセットは首を傾げる。

 例えそれが罠だと分かっていても退く理由は何処にもない

 

「……オレ達がここに居るのを知っているから情報を流した感じだな」

 

「私達の情報は筒抜け、ということか」

 

 明らかに私達を誘い込む為の罠だとアイツは考えてアメッカは納得をする。

 今は考えるべきじゃないけれど、この中の誰かが裏切り者である事には変わりはなさそうね。

 

「俺達と真正面からやり合おうってのか?」

 

「……神依!」

 

 並大抵の対魔士では今の私達の相手じゃない。その事を疑問に思ったロクロウだけどライフィセットは直ぐに答えを出す。

 神依……アイツが作った剣を用いてのパワーアップが無ければ確実に負けていたかもしれない新しい脅威。

 

「今度の対魔士達は神依を使ってくるかもしれん」

 

「アレは危険じゃぞ。業魔手でも引き剥がせんわ、アメッカのオカリナでも意思を解放する事は出来ん。完全に儂達の天敵じゃ」

 

「なら殺すだけよ」

 

「だな、絶対に勝てないという相手ではなさそうだ」

 

 今まではアメッカの好きな様にやらせてきたけど、それが出来ないなら殺すまでだ。殺す覚悟はとっくの昔に出来ている。

 

「オスカーの神依か……アレは未完成だったようだが、アメッカ。お前が知っている神依とどう違う?」

 

 アイゼンは神依についてアメッカに尋ねる。

 

「先ず大前提として意思を抑制した天族と共にするのではない。ライフィセットとエレノアの様に心を通わせた天族と人間がやる奥義の様なものだ」

 

「意思を解放のぅ……見たところあの術は聖隷の方にも大きな負担が掛かり、限界を迎えればドラゴン化する為に器ごと崩壊する」

 

「そんな術式なのか!?」

 

「どうやらアメッカが知っている完成された神依と未完成の神依では大きく違いがある様でフね。因みにですが、どんな感じだったのでフか?」

 

「まず名前を」

 

「無駄話をこれ以上するならばさっさと船に乗るわよ」

 

 ビエンフーが神依の詳細について聞くけど、早くタイタニアに戻らないといけない。

 アメッカの知っている神依と私達の見た神依の違いは船の上でも語る事が出来る。

 

「監獄に戻るんだったら疾風の唄を使うけど」

 

 船の上に乗り、直ぐに海に出るとアイツはタクトを取り出す。

 

「それはダメよ」

 

 タクトの力を使えば一瞬でタイタニアに戻ることが出来る。

 けど、それと同時に船に乗っている面々が使えなくなる。前回、竜巻に乗ってタイタニアに戻ったら体が言う事を聞かなかった。

 

「タクトを使うのは最終手段だ。それを使えば竜巻に乗って船が移動する。聖寮が先に辿り着いていたのならば、聖寮にオレ達がやってきたことを知らせる事になる……それよりも電話での連絡はどうだ?」

 

「向こうもてんやわんやしてるのか一切応じねえ……確実に相手側の方が先に辿り着いているな」

 

「そんな……もっと船を早くする方法はないのですか!?」

 

「無茶を言うな、バンエルティア号は帆船だ。風や海流を頼りに動く物で、風の唄で風を操ってなるべく早くしてるがこれ以上は船の構造上無理だ。蒸気機関もエンジンもなにも積んでねえんだから」

 

 モアナの事が心配なエレノアは一刻も早くと言うが今出している速度が最高速度。

 こればかりはどうすることも出来ない事……

 

「監獄についたら即座に戦闘に入る事を頭に入れとけ。神依を使う以上はベンウィック達が戦えば無駄死にするだけだ……戦える戦力はここにいる7名って、マギルゥはどうした?」

 

「そういや、いねえな」

 

 真剣な顔でこの後について考えるけれど、マギルゥがこの場に居ないことに気付く。

 ついさっきまでは直ぐ側に居た筈なのに急に居なくなった事に対して不信に思ったので私達は探すと、ビエンフーと一緒に居た。

 

「やれやれ驚きじゃの……流石はお師さんか」

 

 マギルゥはビエンフーに向かって手をかざすとビエンフーを中心に術式の様な物が浮かび上がり崩壊する。

 

「まさかお主が最初に逃げた時からあのジジイの策だったとはの。ワシをタイタニアに捕えたのも全てはベルベットに出会わせる計算……見事すぎるわ」

 

「ゆ、許してほしいでフー!メルキオル様の術式には逆らう事が出来なかったんでフー!!」

 

「……どーでもいいわい」

 

「……あんた達」

 

 ずっと見ていた私とライフィセットにマギルゥとビエンフーは気付く。

 

「マズイとこを見つかってしもうた〜儂が聖寮の密偵だという事がバレてしまったぁ〜」

 

 体を揺らしながらマギルゥは棒読みで叫ぶ……こいつ……

 

「聞いてたわよ、全部」

 

 そう言うとマギルゥは目の色を変えた。あからさまな嘘で人を騙せるとでも思ってるのかしら

 

「なんじゃつまらん……煮るなり焼くなり好きにせい」

 

「元々信用なんてしてないわ。密告が無くてもいずれはこうなるはずだったわ。どうせ反省もなにもしてないんだからせめて戦力として戦いなさい」

 

「……随分と甘く残酷な事を言うのぅ」

 

「あんた達にいちいち構っていたらキリがないわ。それともお望みなら全部が終わった後に喰らってやるわよ」

 

 今はマギルゥに構っている場合じゃない、ただそれだけよ。

 

「……のぅ、ベルベット。悪いとはどんな気分なんじゃ?どれほど辛い?どれほど苦しい?」

 

「どんな感情か……そうね……」

 

「身を焦がすほどの憎悪は生きている実感を、意味を与えてくれるのか?」

 

 先程までのおちゃらけたマギルゥとは一変し、真剣な顔で聞いてくる。憎悪が生きている実感を意味を与えてくれる……

 

「答えを知りたいのならば力を貸しなさい。アルトリウスを殺す瞬間に見せてあげるわ」

 

 私が今こうして生きている意味は復讐の為だ。マギルゥが答えを知りたいのならば、最後まで私を見届けさせる。

 後もう少しでアルトリウスの首に刃が届く……その瞬間を見せてやるわ。

 

「タイタニアに着く……ああっ!!聖寮の船が表の港についている!」

 

「だったら裏につけなさい」

 

「そんなボロボロの姿でまだ尚歯向かおうというのか……ムカつくやつじゃぜ」

 

 マギルゥとの対話はここで終わる。

 私達が目視出来る程にタイタニアへの距離が近づいている……

 

「アメッカ」

 

「なんだ?」

 

「……私はアルトリウスを殺すわ」

 

「……ああ、知っている」

 

「だから先に言っておくわ。立ち塞がるのならば、邪魔だと思うのならばなんの迷いもなく殺す」

 

 相手が神依を使ってくる以上はアメッカのオカリナの演奏による聖隷の意思の解放は無理。

 今までは黙っていたけれど、ここから先は私の復讐黙っていたけれど邪魔立てはさせない。

 

「まともに戦えないんだから船に残っていなさい」

 

「……それは出来ない」

 

「なにを言ってるのよ!アイツもさっき、戦える頭数に数えていなかったわ!怪我したくなければ後ろに下がって船の残っていなさい」

 

「怪我が怖いなんてそれこそ今更だ……それに」

 

「それに?」

 

「ここで逃げたのならば、ここに来た意味は無くなってしまう……」

 

 アメッカは知る為に私達の戦いに同行している。

 

「私達の戦いは勧善懲悪の物語じゃないわ」

 

 さっきアイツが言っていた。この戦いはそんなキレイなものじゃない。

 ただ弟の為にアルトリウスを憎しみ、殺したいと思うだけでアメッカの思い描いている騎士道や夢物語とは大きく違う。醜い争いで、見せ物じゃない。

 

「それでも……いや、それだからこそだ。私が見なければならない、知らなければならない世界はそこにある」

 

「そう……言っておくけど、助けたりはしないから」

 

 アメッカはアメッカなりに覚悟を決めているみたい。それならば後は好きにすればいい。

 最後の最後になって私の事を止めようとするならばそこで切り捨てればいい。その覚悟はとっくの昔に出来ている

 

「あんたは来なさい」

 

「言われなくても行くっつーの」

 

 コイツが船に残ることは許さない

 

「あんたは私の下僕……だから命令よ、アルトリウス以外の邪魔な対魔士達を殺しなさい」

 

「なっ!?」

 

「随分とまた物騒な命令だな」

 

 これから先、戦う対魔士達は神依を使ってくる。オスカー程の脅威は早々に無いけれど手を焼く可能性が高い。

 アルトリウスは強い。ただ無闇矢鱈に突撃した一度目の時にそれは痛いほど知っている……それでも挑む。その為には途中で邪魔をしてくる対魔士達に無駄な力を使ってはいられない。

 

「殺すって、ゴンベエ」

 

「一応はオレはベルベットの手下でもあるからな……ベルベットの腕でも目覚めのソナタでも無理っぽいし、普通に戦っても暫くすれば向こうは自壊して死んじまう……もう気絶させて云々のレベルじゃねえ。殺るしかねえだろう」

 

「……躊躇わないのだな」

 

「オレは勧善懲悪な英雄(ヒーロー)じゃねえ。勇者の力を持っているがそれだけだ……殺す時は殺す」

 

 アメッカは殺すのはとアイツに視線を向けるけれど、アイツは非情になっている。

 今まではアメッカを優先していたけれど、今回は私の事を優先的にしてもらう。数十人の対魔士達の相手になってもらう

 

「納得がいかなくても構わないが理解だけはしておけ。オレはお前みたいな人間じゃねえ……本質的には悪人だ」

 

「……」

 

「必要とあれば手は汚す……そんな残酷な姿が現実が見たくないと目を逸らすならば最初から船に残ってろ。未完成とはいえ神依が出てきた以上は槍を自在に操る事が出来ないお前はハッキリと言って邪魔だ。オレの弱点にしかならない」

 

「……私はついていく」

 

「なら、見届けろ。そして悔やめ。どうすることも出来ない自分を。どうにかする方法を試行錯誤して模索するのが今のお前に与えられた試練だ」

 

 アメッカに厳しい言葉を投げ掛けつつも、考えさせる。アメッカにだけは甘い。

 なにも出来ない自分に悔しそうな顔をするけれど、それは弱いアメッカが悪い……強くないとなにも出来ない。




スキット 次の世界は……

深雪「しかし貴方も随分とまた厄介な世界に転生したものですね」

ゴンベエ「……テレビも無けりゃ冷蔵庫も洗濯機もねえ。食とか衛生面が僅かだが現代レベルに発展してる以外は西洋の中世並のレベルの文明の世界なんてやってられねえよ」

深雪「そこを気にするのですか」

ゴンベエ「当たり前だろう。ゲームもなけりゃラジオもなんにもねえ……普通の現代っ子ならば発狂してるぜ」

深雪「まぁ、確かにそうですね。吉幾三の歌もビックリなぐらいの世界……事前に訓練をしていなければ発狂ものです」

ゴンベエ「お陰様で転生して直ぐに水力発電所を作る羽目になった……胸糞悪い事も多いし、ホントに仏の野郎、ロクでもない世界に飛ばしやがって。もうちょっとなんかあっただろう」

深雪「転生先はどう頑張っても選ぶことは出来ないです。コレばかりは運としか言えません、ハズレの世界でも頑張らなくては」

「ハズレってのはこんな生易しい世界じゃねえ」

ゴンベエ「ぬぅお!?黛さん、居たのか」

「割と最初の方から居た……この世界があまり優しくない世界なのは事実だが、まだそれでも救いはある……FGOの世界と比べれば生易しい、いや、冷水だ」

ゴンベエ「あんたが言うとホントにそうだから否定出来ねえ」

深雪「ソシャゲの世界はコミュニケーション能力が大事ですからね」

「そういう次元じゃねえよ。コミュニケーションを取ろうとしたら私の酒が飲めないのかって酒瓶でシバかれたんだぞ」

ゴンベエ「アレはホントに傑作だったわ……最終的にセ○クスしないと出られない部屋に閉じ込められて全員に逆レされたり女マーリンに君の子だよって妊娠したお腹を見せられて迫られたり」

「言うな……」

深雪「因みにですが黛さんは今、どの世界に転生しているんですか?」

「多分、真だと思う恋姫の世界」

深雪「思うとはまた随分と曖昧ですね……いえ、それよりもまた女性関係の世界ですか。女難の相でも持ってるのですか?」

ゴンベエ「そいつぁ、言えてる。あんた女性関係の噂が絶えねえ人だからな」

「あのな、別にオレは結婚がどうとか思ってねえんだよ。独身貴族、童貞のままでいい。楽しくおかしく面白く人生を過ごせればそれでいいんだ」

深雪「その結果、毎回貧乏くじを引いてるじゃありませんか。転生者をやめたいとは思ったことはないのです?」

「はっ、あんなクソみたいな現実二度とごめんだ。今の方がハッキリと自分らしく生きれてるって断言できる」

ゴンベエ「ま、それに関しては少しだけ同意だな……なんか前にも似たような会話をしたな」

深雪「昔のことはあまり語らないでおきましょうよ。それよりも未来を見ましょう……次、どんな世界が良いでしょうか?」

「次か……お前等に次なんてあるのか?」

ゴンベエ「やめてくれ、その事は……次がある事を期待して、オレは他にも転生者が居る地球を、現代の地球を希望する」

「そういうことを言っていると十中八九、ロクでもない世界に飛ばされる……オレは赤司が居る世界は勘弁してほしい。彼奴の相手は一苦労だ」

ゴンベエ「の割には楽しそうだな」

「気の所為だ」

スキット 愛とか恋とか彼女とか

ゴンベエ「ふぅ、今回はなにもおかしな事が起きずに終わったな」

ライフィセット「でも、野球をやらされたり不思議な島がやってきたり……またなにかしたかったな」

ゴンベエ「オレは死にかけるのは二度とゴメンだ。こっちの世界に来てる黛さんだって普通に迷惑で困ってるんだぞ……」

アイゼン「チヒロの奴は見た目は貧弱だが中々に話のわかる人間だった。異世界に関して色々と面白い話を聞くことが出来た」

ゴンベエ「オレ等が買い物に行っている間にそんな事をしてたのか」

ロクロウ「おう、刀を使わない自分が刀になる虚刀流の剣士とか面白い話が聞けたぜ」

ゴンベエ「そうか……コレが後何回か続くんだよな」

ライフィセット「また誰かが来る……そういえばゴンベエの知り合いって女性が多いよね」

アイゼン「言われてみればそうだな。マスク・ド・美人も深雪も女性でお前の事を知っていたな」

ロクロウ「今回のベルベットとの買い物といい、お前は中々にプレイボーイなんだな」

ゴンベエ「あくまでも彼奴等は知り合いなだけだ!男の知り合いの方が多い……筈だ」

ライフィセット「最後の方、揺らいだ?」

ゴンベエ「いや、ホントだからな。修行時代の知り合い女性よりも男性の方が多かったから。途中で才能が開花して殆どの奴がついて来れなくなったり化け物とかおかしいとか言われて敬遠されたりもしたけど、普通に男性の友人居るから」

ロクロウ「でもお前が会った異世界から来た奴等、チヒロを除けば女でお前の事を知ってたよな」

ベルベット「あんた、女癖が悪いの?」

ゴンベエ「人聞きの悪いことを言ってるんじゃねえ。こちとら彼女いない歴=年齢だ」

アリーシャ「ゴンベエ、彼女が居なかったのか……そうか……」

ゴンベエ「嬉しそうにすんじゃねえよ……そもそもでお前等も浮いた話ねえだろう。エレノアがナンパされているのはちょくちょく見るけど、お前等にその手の話は無いだろう」

ロクロウ「俺は恋愛をしたりする暇があるなら剣の修行に打ち込むな」

アイゼン「趣味が合わん奴と一緒に居ることは出来ない」

ゴンベエ「彼女を作らない居ない典型的な理由だな、おい」

ベルベット「そういうあんたは作ろうとは思わないわけ?」

ゴンベエ「オレは……自分の生活をするのに忙しいからな。金ねえし、休みの日はぐーたらしてるし、ハッキリと言って地雷物件だぞ」

アリーシャ「お金ぐらい別に用意出来るが」

ベルベット「別に豪邸に住みたいわけでも億万長者でなくてもいいし、問題ないわよ」

ゴンベエ「いやいや、そういう油断をしてると酷い目に遭うから」

ライフィセット「ゴンベエって普段はズボラだったりするのに、こういうところが奥手だよね」

アイゼン「逆に考えるんだ……それだけ女という生き物は恐ろしいんだ」

エレノア「ライフィセットになにを教えようとしているのですか!!」


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襲いかかる敵の波

「ふぅ〜……」

 

 監獄島が目で見えるところにまで近付いてきた。

 島に辿り着けば即座に戦闘は開始されるものだと思わなければならない……ベルベットからもマジで殺れとの命令があった。

 オレとアリーシャはこの時代の人間じゃないし、ベルベット達は己の信念で戦ったりしているから空気を読んで真面目に戦うことはしなかった。

 

「緊張しているのか?」

 

「まさか……そんな重圧(プレッシャー)は一切無い」

 

 これから大きな戦いがはじまるのでアリーシャは心配をするが、そんな重圧なんて無い。

 戦いは何処まで行っても戦いであることには変わりはない。オレは何時も通りにしている……

 

「結局、お前はまだ戦えないままだな」

 

「……すまない……」

 

 アリーシャは日々のたゆまぬ努力と新しい槍によるドーピングでパワーアップを果たしている。

 だが、まだ戦うことが出来ない。ベルベットの様に新しい力を使いこなす事が出来ていない。最後のナニかが足りない。こればかりは本当にどうすることも出来ない。

 

「……ゴンベエはこの戦いをどう思っているんだ?」

 

「戦いは何処まで行っても戦いだ……醜い骨肉の争いである事には変わりはねえ」

 

「負の連鎖は続いてしまっている。いったい、どうすればいいんだ」

 

「それは誰かに答えを聞くもんじゃねえよ」

 

 憎しみを抱くのも耐え抜くのも人次第だ。

 だから考える……考えることはホントに大事だ……マジでめんどくせえけど

 

「アレはオルとロス!」

 

「グリモア姐さんもおるぞ!」

 

 アリーシャとの会話が終わった頃に、もうすぐ港に到着というところでベルベットとマギルゥは気付く。

 聖寮の対魔士2人に追い詰められている。オルとロスはともかくグリモワールがまともに戦えるわけないのでベルベットにアイコンタクトを取るとベルベットは頷いて船の上から跳んでいく。

 

「あんた達の狙いは私でしょう!!」

 

「大丈夫か、グリモワール」

 

 船着き場に跳んだオレとベルベット。対魔士達は武器をオレ達に向ける。

 

「来たか、災禍の顕主!そしてその右腕!」

 

「またそれ?大層な名前ね」

 

 つか、オレは何時の間にか右腕扱いになってるんだな。

 

「名付けたのは貴様が傷つけた人々だ、己が罪の重さを知るが……いや、その身に刻んでやる!!」

 

「我等が意思の翼を見よ!!」

 

 オレ達を見ても全く動じる事はしない。

 自分達が正義の味方になっている事に酔いしれてる……いやまぁ、オレ達は現状悪人だから間違いはないが……意思の翼ね。

 

「っと、ベルベット下がってろ。アレは相性が悪い」

 

 オスカーの時の様に眩く光り出す2人の対魔士。1人は青色の弓を、もう1人は若干黄色い手の形にも見えなくもない岩を腕の付近にある。

 コレは見たことがある。水の天族のミクリオとの神依と地の天族のエドナとの神依、水属性と地属性の神依だ。

 相手がオスカークラスでないし地属性の神依ならベルベットが相手に出来るだろうが、弓矢を用いての中遠距離の戦闘スタイルの水属性の神依は相性が最悪だ。

 

「任せたわ」

 

 ベルベットはオレに任せてくれた。オレは自分の指を動かす。

 アリーシャの槍とベルベットの剣を作る為に酷使した手は完治した……手からなにかを放つとかの攻撃じゃない、手で武器を持った攻撃をする事が出来る。直ぐ後ろには非戦闘員のグリモワールがいるので派手な技は出来ない。

 

「貴様の首は貰った!」

 

「お前になんぞくれてやらねえよ」

 

 地属性の神依をしている対魔士はオレに殴りかかる。

 向こうが殴ってくるのならばコチラも殴り返さなければならないとハイラルの盾を手に持つ

 

「王家の盾!!」

 

 盾を手にして岩の拳を殴り付けると岩の拳は粉々に砕け散る。

 岩の拳が砕け散っただけで神依を使っている対魔士にはダメージは無い……なら、更に強い技を使うだけだ。体に力を入れて気を集中して巨大な魔神を背中から出す

 

「王者の盾!!」

 

 背中の魔神を動かし、魔神の持つ巨大な盾で地属性の神依の対魔士をぶっ飛ばす。

 

「隙を見せたな!」

 

「見せてねえよ」

 

 大振りの攻撃をしたものの、そんなものは見せていない。

 オレ達から少しだけ距離を取った水属性の神依の対魔士は弓を引くと水の矢が飛んできた……スレイが使っていたから、知っている。この矢は敵に向かって追尾する面倒な機能を持っている

 

「ネールの愛」

 

 まぁ、だからといってそれがどうしたというわけではない。

 エネルギーを用いての攻撃ならば回転しながらのネールの愛を使えば簡単にカウンターを決めれる。飛んできた水の矢に合わせてネールの愛でカウンターを決めると矢は飛んできた方向とは真逆の、撃った対魔士に向かって飛んでいき貫かれる

 

「ウォーミングアップにすらならねえな」

 

「ぐ……ううう……」

 

「殺す……殺さなきゃ!!」

 

 神依を解除していないとはいえ虫の息の2人の対魔士。

 ベルベットは狂気に駆られるかの様に左腕を喰魔化させて襲いかかろうとする。

 

「がぁあああああ!!」

 

「……自滅したか」

 

 オレやアリーシャの知っている神依とは大きく異なる。

 未完成の神依を制御する事が出来ない対魔士は形を保つことが出来ずに光の粒子となって消え去ってしまった。

 

「メルキオル、なんて術を対魔士達に仕込んでいるのよ」

 

「グリモワール、無事だったか……なんて聞いている場合じゃねえよな」

 

 とりあえず目の前の問題は解決する事が出来た。

 グリモワールの身を心配するが、聞いている場合じゃない。船着き場の端っこまで追い詰められている……こりゃ思ったよりもヤバい状況だな。

 

「私達は無事よ……それよりもあの子の方が」

 

「ちょっと色々とあって揺れてるんだよ」

 

 ベルベットの異変にグリモワールは気付く。

 オスカーとテレサを自分と同じ目に合わせた為に酷く情緒が不安定になってしまっている。

 

「っち、出遅れたか」

 

「遅いぞ、お前等……」

 

 船着き場に辿り着いたバンエルティア号。船からアイゼン達が降りてきた。

 

「見ていました……やはり神依を使ってきましたか」

 

「ワシ達の読み通り、自壊しおったのう」

 

「……聖寮はそれを承知の上で神依を使わせている……」

 

 エレノアは悲しげな顔をする。

 

「まぁ、調べてるんだろうな……正しい神依を」

 

 身を滅ぼす危険な術を使っている……危険だと分かっていても討伐したいから使っていると言うよりは対魔士達を材料に正しい神依を探している。ベルベット達の首を本気で取りたいのならば下手な二流対魔士達を連れて来るよりもメルキオルのクソジジイやシグレが直接乗り込んできた方がいい……そういえばテレサはまだ誰かが居るみたいな事を言っていたが、いったい誰だ。

 

「グリモワール、他はどうしたの?」

 

 不安定だったベルベットは少しだけ安定したのかグリモワールに尋ねる。

 

「分からないわ。いきなり攻め込まれて皆散り散りになっちゃって……電話で連絡する事も出来なかったわ、ごめんなさい」

 

「それを言うならこっちも遅れた。気に病むな。古文書の解読の方はどうなっている?」

 

 アイゼンはカノヌシの古文書の解読の経過について尋ねる。

 

「殆ど終わりかけだけど……最後の方が苦戦してるわ」

 

「あんた達はバンエルティア号に乗りなさい。残りの喰魔達は私達が探すわ」

 

「できるかのう。ゴンベエが居るとはいえ、神依が相手じゃ」

 

「問題ないわ……私にはコレがある」

 

 ベルベットがそう言うと剣を突き立てて炎を纏う。

 オレが与えた炎のメダルと闇のメダルで作った剣で変化できる神依の様な形態に切り替わる。ライラとスレイの神依に劣るどころか下手すりゃ勝ってるパワーアップだ。

 

「っ!?」

 

「ベルベット、なにしてるんだ!?」

 

 剣に炎を纏っているベルベットだったが、左腕の包帯に引火したアリーシャは驚く。

 日常的にこの形態を使いこなしているわけではないのだが、それでも今の今まではアリーシャと違い苦労する事は無く使いこなす事が出来ていたのだが……

 

「ベルベット、そいつは使うな」

 

「なにを言ってるのよ、コレが無いと神依とはまともにやりあえ、っ!!」

 

「使いこなせてないのに大口を叩くんじゃねえ」

 

 ベルベットはメダルで出来た剣の力を使いこなせていない。というか使いこなせなくなっている。

 アリーシャと違って色々と精神が出来上がっている状態だったベルベットだがここに来て精神が大きく揺らいでしまっている。揺るぎない信念的なのを持っていないとあの手の力は使いこなす事が出来ない。

 

「そんなわけが」

 

「体、燃えてるってなんか落としたぞ」

 

 燃え盛るオーラを纏っているのが正しいのに、文字通りベルベットは燃えている。

 自分は大丈夫だと言おうとするベルベットはなにかを落とす……木製の櫛だな。

 

「っ、触らないで!!」

 

 落ちた櫛をライフィセットが拾おうとすると奪うかの様にベルベットは櫛を取った。

 

「……1人で無理をしないで!僕が、みんながいるんだよ!」

 

 なにもかもを背負って1人で事を成し遂げようとするベルベットは見てて痛々しい。

 ライフィセットもそう感じたのかベルベットを見つめる

 

「僕がベルベットを守る」

 

 ひゅー、熱いね……オレじゃ口が裂けても言えないセリフだ。

 

「守る……昔、ラフィも同じ事を言っていたわ」

 

 ライフィセットの真剣な目を見てベルベットは悲しそうな顔をする。

 

「現実はそんなに甘くはない……あの子は死んだ」

 

「ベルベット、ライフィセットは」

 

「いくら誓ったって意味はない!ラフィはあっさりと死んだ……殺された!!」

 

 アリーシャは言葉を投げ掛けようとするがベルベットには届かない。

 

「あんなに私の事を思ってくれたのに……たった1人の弟なのに……胸を貫かれて痛かった筈なのに……」

 

「ベルベット……」

 

「……あんたは自分の心配だけをしていればいいわ」

 

 感傷を終えたベルベットがライフィセットに向けた言葉は冷たかった

 

「これは命令よ」

 

「命……令……」

 

「カノヌシを抑える為には、アルトリウスを殺すためにはあんたが必要なのよ」

 

 ベルベットはそう言うと監獄の入口へと入っていった。

 ライフィセットは俯いている……自分の思いがベルベットには届かなかった事が辛いんだろう……。

 

「ま、思いを伝えるだけじゃダメだ。行動に移さないと……守るなんて発言をしたんだから、それ相応の結果を見せてやれ。今のベルベットは酷くて惨い結果という現実しか見てないんだ……現実には現実で返せ」

 

「!……うん!」

 

 オレなりのフォローは一応は入れておく。

 ああいう感じに頭がガッチガチに固まっている時は言葉よりも行動で示した方がいい。落ち込んでいたライフィセットは気を引き締めて追いかける。とりあえずはグリモワール達が船に乗ったので監獄内を駆け巡る。

 

「い」

 

 予想通りと言うべきか、監獄内には神依を使う対魔士達で溢れている。

 

「た」

 

 持っている武器からして属性は地属性と水属性だ。

 炎属性の神依と風属性の神依はベルベットと相性が悪いから選出されなかった感じだな。

 

「こりゃ確実に捨て駒だな」

 

「捨て駒……神依を完成させる為にですか」

 

「何時もの何処にでも居そうな対魔士が神依を使ってるだけだ。パワーアップこそ果たしているが元が元だけにお前等でもどうこう出来る」

 

「お主、見かけた対魔士をまともに喋らせずに首の骨をボキリと折っておるから説得力に欠けるぞ」

 

「雑魚にいちいち技とか使ってられねえ……」

 

 そう、雑魚だ。

 最初のオスカーの神依は若干の脅威だったが、それだけで後は雑魚だ。神依を使っている対魔士達の基本的なスペックはオスカー以下で神依のパワーも現代で完成されたスレイの方が上だ。

 

「っち、聖隷から意思だけじゃなく形まで奪う術を使いやがって」

 

「まぁ、そう言うな……後々大事な事になるから」

 

 神依が気に食わないアイゼンだが、この神依が無ければ現代までで人間の歴史は滅んでしまう。

 そう考えるとザビーダのジークフリートがメルキオルに読み取られたのは良かった事……いや、この手の問題は考えない方が良いな。そもそもでオレの時間跳躍ってどういう感じなのか理解してないし。

 

「モアナ!!」

 

 手当たり次第、監獄内を走っては未完成の神依を使う対魔士を倒すを繰り返しているとやっとモアナを見つけた。

 モアナだけじゃない。ダイルとクロガネとメディサもいる。無事な姿を見てエレノアは駆け寄る。

 

「うわぁあああん!!怖かった!!」

 

「……もう、大丈夫ですよ」

 

 エレノアに泣きながら抱きつくモアナ

 

「メディサが助けてくれたんだ」

 

「ありがとうございます」

 

「……子供が巻き込まれるのを見たくなかっただけです」

 

 プイッとエレノアと視線を合わせないメディサ。ツンデレだな……っと、そんな場合じゃないな。

 

「クロガネ、モアナ達を守って裏の港に向かって。そこに船があるわ」

 

 後はで、んかとグリフォンか。

 

「承知した……ロクロウ、コレを持っていってくれ」

 

「おぉ!」

 

 クロガネが取り出した太刀を見てロクロウは目を輝かせる……おいおい、マジかよ。

 

「號嵐に打ち勝つ、ただその一心のみを注ぎ込み作り上げたオリハルコンの征嵐だ。これ以上の太刀はない、最高で最硬の太刀だ」

 

「オリハルコンの征嵐……ありがたく使わせてもらうぜ」

 

 ここに来てのロクロウの武器のパワーアップは嬉しい誤算だ。

 ただ油断をする事は出来ない。シグレが強いとかそういうのじゃなくて、まだなんか相手の手のひらの上で踊っているなんとも言えない感覚がある。オレの中の野性的な勘がそう言ってる。

 襲ってくる対魔士達は基本的には雑魚……本質的には災禍の顕主であるベルベットの討伐よりも神依のデータ採取がメイン……だったら、わざわざ監獄に仕掛けてくる必要は無い。もっと場を選ぶことが出来た。そもそもで今までだって襲撃する機会はあった筈だ。

 

「くそ、こんがらがってきた」

 

 目の前に居る敵はただの雑魚だが、真の敵は神仏の類だ。ヘルダルフの時と違ってただただぶっ飛ばせばいいわけじゃない。

 ぶっ飛ばすのは簡単だが問題はそういうことをすると世界の均衡だ調和だ面倒なものが乱れる。

 

「捕まっていなかったわね、王子」

 

 敵をぶっ倒しつつあれこれ考えているとで、んかの元に辿り着いた。

 

「君達、無事だったのか!?」

 

「あの程度の有象無象の雑魚ならどうにでもなる……」

 

「並大抵の対魔士達じゃない、アルトリウスが来ているんだ」

 

「なんですって!?」

 

「……」

 

 ベルベットの討伐にアルトリウスがやってきている……今更だから確実になんか裏があるな。

 

「ベルベット、特攻をかますんじゃねえ。今お前の感情で動いたら全滅する」

 

 アルトリウスが来ている事を知ると感情を高ぶらせるベルベット。

 一度痛い目に遭っているのでアイゼンは止めておく……クライマックス感はねえな。

 

「古文書の解読もあともう少しで出来るらしいし、今じゃないよ」

 

「……分かってるわよ」

 

 口ではそう言うが不服そうにしている。

 とはいえ、火の神依的なのになることが出来ないベルベットが今のまま挑んでもアルトリウスに殺されるだけだ。冗談抜きでカノヌシの対策をしておかなければならない。

 で、んかとグリフォンを見つける事が出来たので後は来た道を戻り、裏口から港に出るだけだ。道中の神依対魔士は殺しても問題は無い相手なので容赦無く殺す。

 

「ったく、歯応えが無い雑魚ばかり寄越しやがって」

 

 首を掴んでボキリと骨を折るだけで死んでしまう。戦いというか最早作業に近い……別に命のやり取りをする相手と燃える死闘を繰り広げたいとは思わないが、こうも作業的だとな。

 

「副長、マズいっす!!バンエルティア号が裏の港に着けてる事がバレて聖寮の船がこっちに向かってきてます!!」

 

 裏の港の出口へと向かうとベンウィックがいた。大慌てで状況を説明してくれる。

 

「直ぐに出航だ!」

 

 ここで争っていても仕方があるまい。

 まだ倒してはいけない相手なのでさっさと船に戻ろうとするが、ベルベットは足を止める。

 

「お前、今の状態でアルトリウスに挑んでもまた返り討ちに合うだけだぞ」

 

 アルトリウスの事が心残りなのだろうが、戦う時と場合を見極めなければこの戦いは勝てない。

 ベルベットは俯いてなにか考え込むのだが考える時間を敵は与えてくれない。

 

「逃がさんぞ、災禍の顕主!!」

 

 裏の港に船があることがバレているので逆説して居場所を割り出した対魔士達3名が襲いかかる。

 

「こりゃ、誰かが足止めしなきゃヤベえか」

 

 別に倒すことが苦じゃない相手だが邪魔な存在であることには変わりはない。

 ベンウィック達が船に乗って出航さえすれば追い付くことは出来ないからその為の時間を稼がないといけない。

 

「ベンウィック、私に構わずさっさと出航しなさい」

 

「バカを言うな!!それだとベルベットはどうするんだ」

 

「コイツ等を誰かが足止めをしておかないとバンエルティア号が狙われるわ」

 

「出航しろ!最悪、ゴンベエがなんとかする」

 

「ったく、オレはドラえもんじゃねえっつうの」

 

 とはいえ船を出航させても問題は無い。

 大翼の唄を吹いて何処か適当な街にワープをすればそれでいいだけだ。

 

「りょ、了解……皆、死ぬなよ」

 

「アメッカ、あんたも行きなさい。ここから先は邪魔でしかないわ」

 

「……同じだ……」

 

「同じ?」

 

「ゴンベエがスレイを逃がす時と同じだ……嫌だ……私はもう、仲間を見捨てたくはない!!」

 

 ヘルダルフとの一件が心に深く残っているアリーシャは引かない。

 ぶっちゃければ引いてほしいがアリーシャは嫌だといえば本当に嫌がるから無理だろう……まぁ、アリーシャの分だけオレがフォローすればいいだけか。アイゼンの命令に従いベンウィックはで、んかと共に監獄の外へと向かう。

 

「ったく、後悔してもしんねえぞ」

 

 最終的に残ったアリーシャだが、相手が神依なので戦力としてカウントする事は出来ない。

 水属性の神依2人に地属性の神依が1人……ったく、こっちのパーティーに弓矢とかを使えるのオレだけなんだぞ。

 

「力技で行くか」

 

 ボウガンを取り出し、矢に炎を纏う

 

決別の一撃(コルポ・ダッティオ)

 

 巨大な炎の塊を纏った矢を放つ。

 水属性の神依の対魔士2人は水の矢を放つのだがその程度の弱々しい水では炎の弾を鎮圧する事が出来るわけもない。水の矢を炎の矢が貫き、水の神依の対魔士2人に命中をすると爆発を巻き起こす。

 

「殺す!」

 

 残すところは1人の地の神依の対魔士にベルベットは左腕を喰魔化させて襲う。

 対魔士は岩の拳で防ぐが、ベルベットは追撃の手を緩めることなく最終的には切り裂いて殺す。

 

「これからどうするの?」

 

 対魔士達は倒すことが出来たが、全滅には至っていない。

 この国と異大陸の最高技術を注ぎ込んで出来たバンエルティア号が聖寮の船に追い付かれる事は先ずないだろうが、誰かがここで殿を務めないといけない。

 

「表の港に行くわよ」

 

「表の港、聖寮の拠点に行くのか!?」

 

 この場のリーダーであるベルベットはとんでもない事を口走りアリーシャは驚く。

 

「お前の特攻には付き合わん」

 

「今の状態でアルトリウスに挑んだところで死ぬだけだ。前回の事を忘れたのか?」

 

「そうだよ!もうすぐ古文書も解読出来るし、今は逃げないと」

 

「別に付き合ってくれなんて言ってないわ」

 

 オレ達はベルベットに止める様に言うがベルベットは殺意に満ちている。

 こういうタイプは言葉で説得するのが難しい……後で滅茶苦茶嫌われるのを覚悟してぶん殴って気絶させるか。

 

「私を利用してくれ」

 

「殿下、船に乗ったのでは!?」

 

 ベルベットを気絶させるかを考えているとで、んかが戻ってきた。

 

「安心してくれ、グリフォンは逃したよ……私を人質にしてくれ。そうすれば時間を稼ぐ事が出来る」

 

「……感謝はしないわよ」

 

「結構だ」

 

「しかし時間を稼ぐのはいいとして、どうやってこの場から脱出をするんじゃ?」

 

「それなら問題はない、ゴンベエのオカリナの曲の中にはワープをする事が出来るものもある」

 

 この時代でそれをやった事はないが、まぁなんとかなるだろう。

 

「表の港へと向かうわよ!」

 

「……」

 

 最悪、ベルベットを気絶させるか……後でボコボコにされるんだろうなぁ。




スキット 偏差値

モアナ「ゴンベエ、遊ぼう!!」

ゴンベエ「今手が離せないから分身を生み出す。ちょっと待ってろ」

メディサ「待ちなさい」

ゴンベエ「んだよ?」

メディサ「貴方に用は無いわ……モアナ、貴女が元気良く遊んでいるいいことだけれど遊んでばかりじゃダメよ。たまには勉強をしなさい」

モアナ「え〜モアナ、勉強は大っ嫌い!!」

メディサ「好き嫌いするんじゃありません!勉強を幼い内にしておかないと後で後悔するわよ」

ゴンベエ「そうだな……40過ぎた辺りから新しい物事を覚えるのに一苦労する」

メディサ「そういう問題じゃない!勉強をしておかないと色々と後で大変な目に遭うわ」

モアナ「モアナ、勉強してなくても全然平気だもん!!」

メディサ「まったく……ライフィセットを少しは見習いなさい」

ベルベット「フィーはフィーで本の虫になってるから心配よ」

ライフィセット「え……大丈夫だよ」

エレノア「全然大丈夫ではありません。ゴンベエの電球で部屋を明るい状態に維持出来るからと言ってずっと本を読んでいい理由にはなりません」

ライフィセット「うっ……ごめんなさい」

ゴンベエ「なんかすまん……しかし、勉強ね……」

ベルベット「この機会にあんたも一度勉強をしなおしたら?この国の文字が一切読めないんでしょう」

ゴンベエ「無理無理オレ、英語もとい外国語の成績中学3年間オール2で通ってた男だ……他所の国の文字は覚えられん!例え覚えれてもところてん形式で頭の中からスパンと出ていく!!英語の時もそうだったから確実にそうなる!」

メディサ「威張って言うことじゃない……待って、貴方学校に通ってたの?」

ゴンベエ「うちの国では9年間は学校で教育を受ける義務があるんだよ……よくよく考えればオレ、このまま行けば中卒で人生終わるな」

エレノア「貴方の国は教育がしっかりとなされているのですね」

ゴンベエ「んな大層なもんじゃねえよ……」

ライフィセット「学校に通うってどんな感じなんだろ?」

ゴンベエ「めんどい」

ベルベット「めんどうって、あんた青春らしい青春はしてないわけ?」

ゴンベエ「しているわけねえだろうが。こちとら無駄な青春を謳歌しようとしてるところでポックリ……って、話が脱線しかけとる。モアナの勉強だ……お前等、学校通った事があるのか?」

エレノア「ありません!」

メディサ「無いわ」

ベルベット「文字の読み書きとか簡単な計算とかは村のお婆さんに教わったわ」

ゴンベエ「そんな感じな社会でよく本とか文字とか出来てるな……アメッカは?」

アリーシャ「私はその……家庭教師に色々と……」

ゴンベエ「ボンボンだな、お前……いや、ボンボンだったな」

メディサ「モアナもたまには勉強をさせないといけないわ。ライフィセット、貴方も一緒にやってくれないかしら?競って教えあう相手がいれば勉強も捗る筈よ」

ライフィセット「それはいいけど……なんの勉強をするの?」

メディサ「そうね……ゴンベエ、貴方教えれるかしら?」

ゴンベエ「オレ、この国の文字も書けなきゃ歴史も知らねえし文系はほぼ全滅に等しいぞ」

エレノア「文系の問題は本などを読ませて学ばせましょう。計算の問題ならば出来る筈です」

ゴンベエ「え〜じゃあ……関数y=$x^{2}$(−2≦x≦1)yの変域について求める問題」

メディサ「……え?」

ゴンベエ「……x=−2の時はy$(−2)^{2}$=4。x=1の時はy=$1^{2}$=1。x=0の時はy=$0^{2}$=0すなわち答えは0≦x≦4」

エレノア「え……ええっと……もう少し、もう少し簡単な問題をお願いします」

ゴンベエ「んだよ、大分楽な方だぞ……$\frac{1}{4}$x−3=4x−8……x−16=16x−32。−15x=−20。x=$\frac{4}{3}$」

ベルベット「……」

ゴンベエ「……3−2×(−5)……」

アリーシャ「えっと……3+10=13、か?」

ゴンベエ「……ベンウィック、パシらせて何処かの教科書買ってきてもらった方がいいな……お〜い、ベンウィック」

メディサ「……なにを言ってるのか分からなかったわ……」

アリーシャ「ゴンベエはああ見えて物凄く頭がいいから……」

エレノア「ええまぁ、分かってはいますよ。普段から見たことのない物を作っていましたし……まさかこれほどまで差があるとは」

ベルベット「……逆よ」

ライフィセット「逆?」

ベルベット「アイツはアメッカと出会う前に色々と修行をしてたのよ。勉強もその内の1つ……だったら私達も今から勉強をすれば追い付けるはずよ」

メディサ「そうね……このまま知識のマウントを取られ続けるのはムカつくわ」

エレノア「そうですね。決してゴンベエよりアホだというのが悔しいわけではありませんが……このままなのもムシャクシャします」

アリーシャ「皆、ゴンベエをなんだと思ってるんだ」

モアナ「モアナの勉強、誰が見てくれるの?」

ベルベット「他人の勉強を見るよりも先ずは自分が出来ないと……ホントにこのままなのはムカつくわ」

ゴンベエ「……別に転生特典とかそういうの一切関係なくこれぐらいなら素で出来るんだけどな……まともに学校に通っていない奴等には算数は出来ても数学は難しかったか……まぁ、社会に出てもほぼ使わねえんだけど」

スキット 珍回答

ベルベット「マイナスの掛け算はマイナスにマイナスを掛ける場合はプラスになる……この前出たのは……」

ロクロウ「本とにらめっこして勉強とは珍しいな」

ライフィセット「この前、ゴンベエの方が物凄く頭がいいって思い知らされたからベルベットやる気になってるんだ」

アイゼン「ゴンベエに対抗しているのか……ゴンベエは未知の技術を知っていて当然の顔でやっている、かなりの難敵だ」

ロクロウ「そうだな。アイツ、変な物ばかり作ったりしてるし……何処で習ったのか。まぁ、勉強にやる気を見せてる事はいい姿勢だ」

アイゼン「そうだな……問題は追いつけるかどうかだが……難しいな」

ロクロウ「挑む壁はデカければデカい程良い。当たって砕けろだ」

ライフィセット「砕けちゃったら駄目だよ!」

ベルベット「そこ、五月蝿い!勉強に集中できないでしょ!……」

ロクロウ「おお、すまんすまん」

ゴンベエ「数学は出来たとしても他の理数系、電子工学とか元素記号とか全滅っぽいんだけどな」

アイゼン「聞いていたのか」

ゴンベエ「いや、見てた……らしくない事をしていて大丈夫かと若干心配になってな……最低限の読み書きと計算が出来ればそれでいいのに」

ライフィセット「もう、ゴンベエが知識でマウントを取るからああなったんだよ!」

ゴンベエ「言い出したのはエレノア達だ……アイゼンとロクロウは勉強しないのか?」

アイゼン「オレは聖隷だ。人間の様に一気に詰め込んでの勉強はせずにゆっくりと好みの知識を蓄えている」

ロクロウ「俺は基本的には斬る事しか考えられんから勉強なんて無駄だ!仮に学生だったとしても勉強よりも部活動に力を入れまくる!」

ゴンベエ「威張って言うことかよ……しかしああやって勉強してる姿を見ると昔を思い出す。テスト前とか一夜漬けで仕込んだもんだ」

ライフィセット「どんな感じのテストが出たの?」

ゴンベエ「普通のテストだよ……有機物をなるべく書きなさいって問題で解答欄に出来る限り有機物って書いたりしたアホが居たな」

ロクロウ「有機物?」

ゴンベエ「他にも【先生が来る】を敬語にしろって問題で先生が降臨するとかあったし」

ライフィセット「くすっ、なにそれ面白い」

ゴンベエ「他にも平たいパンの様でカレーに合う食べ物はなんですかの問題にはいそうですとか」

アイゼン「ナンとなんを掛け合せてるのか。上手いオチだな」

ゴンベエ「リンゴが8個あってAは2つ、Bは3つ食べました。さて貴方は何個食べれるかの問題で私は1個が限界ですってのもある」

ロクロウ「まぁ、確かに1個ありゃ充分だよな……」

ゴンベエ「テストの珍回答は上手くオチがついたりスベったりコケたりしててほくそ笑むのに丁度いい」

ベルベット「人が勉強している側でオチとかスベるとか言うな!!」

ゴンベエ「悪い悪い……そんなに勉強したいなら付き合うぞ?」

ベルベット「あんたに勝ちたいのに、教わってどうするのよ!!」

ゴンベエ「勉強に大事なのは勝ち負けじゃない……テストの点数と提出物だ」

ベルベット「同じじゃない」

ゴンベエ「第一、お前数年間まともに勉強なんてしてねえのに一気に新しい知識を蓄えられるのか?」

アイゼン「年齢なんてものは関係無い。新しい事に挑戦しよう、学ぼうという意欲が大事なものだ」

ゴンベエ「でも、歳食った後に勉強をすると老眼で苦労するぞ」

ベルベット「私はまだ10代よ!!……ああもう、最初から公式を覚え直しじゃない!」

ゴンベエ「なんかすまん」


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ムカつく

話を書き溜めるべきか出来たら投稿すべきか悩む


「ベルベット……」

 

 表の港に向かってで、んかを人質にして時間を稼ぐ。それで話は纏まったのだがライフィセットは悲しそうな顔をしている。

 殺意の狂気に狂わされているベルベットは変貌している。その姿は見るに堪えないものでライフィセットは悲しんでいる……なにかをオレから言う事は出来ない。ライフィセットに言うべきことは既に言っているし、なによりもめんどくせえ。

 

「見えたぞ!」

 

「誰も居ねえな」

 

 対魔士達を蹴散らしつつ、監獄の表へと辿り着いた。そこには沢山の対魔士達が……と思いきや誰もいなかった。

 ベンウィックが掴んだ情報では数十人ぐらいの対魔士達を引き連れて来て、もう両手両足の指で数え切れない程に殺したから……全滅をしたのか。

 

「何処を見ている?」

 

「っ!!」

 

 表に誰も居ないので全滅させた事を考えていると聞き覚えのある声が……アルトリウスの声がした。

 走っていたベルベット達は足を止めて声が聞こえた方向を見る。オレはあんまりやりたくはないけども気配探知をすると強い気配を感じる。1つだけじゃない、複数の強い力を感じる。

 

「アルトリウス様だけじゃない!」

 

 アルトリウスの顔が見えたと思えばその隣にはシグレが立っていた。

 オレがその気になれば殺せないわけじゃないがそれをやるとロクロウに恨まれるのでやらない。程良くシバき倒さないといけない相手だが……駄目だな。違和感しか感じない。

 

「よぉ、久しぶりだな!」

 

「シグレぇええええ!!」

 

 階段から飛び降りてやってきたシグレ目掛けてロクロウはクロガネが新たに打った征嵐で挑みに掛かる。

 確実に我を失っている。言葉が通じない状態で邪魔をすれば確実に邪魔をした奴を殺しにかかる……それを踏まえた上でシグレを連れてきたのか?

 

「アルトリウスッ!!」

 

「待って、ダメだよ!!」

 

 アルトリウスが視界に入ったベルベットは殺気を滾らせる。

 ロクロウの様に我を失いかけてはいるものの、理性は保っているのでライフィセットはベルベットを止めにかかる。

 

「そうだ。私を人質にして時間を稼ぐのが今すべきことだ」

 

「殿下はお下がりください……その者の狙いは私の首だ」

 

「っ、その通りよ!!」

 

 ライフィセットの腕を振り払い、ベルベットはアルトリウスに向かう。ライフィセットは手を伸ばすがベルベットには届かない

 

「コレは明らかに罠だ!」

 

 追いかけようとするライフィセットをアイゼンは止める。

 

「だったら尚更止めないと!!」

 

「そうはいかん!お前まで行ってしまって全滅だけはあってはならない事だ。特にお前はオレの切り札でもある」

 

「っ……僕は、僕はモノなんかじゃない!!」

 

「ッ!!」

 

 ライフィセットはアイゼンのお腹を殴った。

 今のはどう見てもアイゼンが悪い……ライフィセットはライフィセットで誰の為でもない、自分が思った道を歩もうとしている。

 

「邪魔をするならアイゼンだろうと……倒す」

 

「大分自分らしくなってきたじゃねえか……ライフィセット、今の状態でお前等がアルトリウスを倒すのは不可能だ。後で滅茶苦茶怒られるのを覚悟してどっかでベルベットを気絶させるぞ」

 

「……うん!!」

 

 やらずに後悔するよりもやって後悔した方が幾ばくかはましだ。

 ライフィセットに力を貸すことを決めるのだが肝心のベルベットはと言うと左腕を喰魔化させて地の神依の対魔士を喰らっていた。

 

「神依ごときじゃ私の相手にならないわ!!」

 

 ベルベットは無理矢理止めるしかなさそうだ。それでも問題は山積みだ。

 

「コイツは……面白え!その太刀、オリハルコンで出来てやがるのか!スゲえじゃねえか、はじめてみた!」

 

「ああ、最硬の太刀だ!」

 

「素材はそうかもしれねえ……だがよぉ!」

 

「ったく、ホントに厄介だな」

 

 シグレが號嵐を振っただけで突風が吹き荒れる。

 ロクロウにとってシグレと決着をつけるのには今が絶好のチャンスなんだろう。横入りしたら……ベルベット以上にボコられる

 

「ゴンベエ、アレは!」

 

「今度はなんだぁ……あぁ!?」

 

 問題が山積みしているのに更なる事態が巻き起こる。

 アリーシャが指を指した方向を見るとそこだけがクッキリと人の形をして光を放っている……ヤバい、ヤバいぞ。

 

「時間だ、下がれシグレ」

 

「おいおい、やっと体が温まってきたところなんだよ。水を差すな」

 

「巻き込まれればお前でもただではすまんぞ」

 

「……」

 

 ここに来てのシグレを下がらせるアルトリウス。

 オレ達の知っている情報が確かならばシグレは聖寮が抱えている最高戦力だ。そんなシグレに危険だ巻き込まれるだ言うのはヤバい。

 分かっていたことだが聖寮の方が何枚も上手で……ここに来てくるってことは……

 

「ベルベットの相手はカノヌシがする」

 

「やっぱそうくるか」

 

 何故今になってかは不明だがベルベットを殺しに最大戦力を注ぎ込む。

 そうなると人の形をしている光はカノヌシ……今すぐにオカリナを吹いて全員を強制的に脱出させるか?

 

「っち、しゃあねえな」

 

 カノヌシが出てくるとならば引かなければならないのかシグレは渋々引いた。

 カノヌシの名前を出された一同は固まり、光を放っている人の形をしたカノヌシと思わしき存在に視線が集まると眩く発光をした。

 

「っな!?」

 

 眩い光が消え去るとベルベットは驚愕をした。

 ベルベットだけじゃない、アイゼンもエレノアもアリーシャもオレも驚いている。

 

「久しぶりだね、お姉ちゃん」

 

「ラフィ……」

 

「……どういうことだ」

 

 ライフィセットとよく似た少年がカノヌシの正体だった。

 目の前にいるライフィセットとよく似た少年はベルベットの事をお姉ちゃんと呼んだ。ベルベットの弟のライフィセットは……ラフィは死んだ。アルトリウスに殺されて死んだ。この情報だけは確かな筈だ

 

「ゴンベエ、まことのメガネだ!」

 

 カノヌシの登場に驚いている中でアリーシャは叫ぶ。

 この場にいないメルキオルが幻術を仕掛けたかカノヌシがベルベットの弟のラフィの姿に化けている可能性はないこともない。オレはすぐさままことのメガネを取り出して確認をするがそこに写っているのは肉眼で捉えているカノヌシと同じだった。

 

「っ……」

 

「本当にベルベットの弟……」

 

「こう来たか……」

 

 オレがカノヌシはベルベットの弟のラフィと言わなかったのでエレノアやマギルゥ達は戸惑う。

 

「そう、ぼくはライフィセット・クラウ。そして鎮めの聖主カノヌシ」

 

「嘘……なんでカノヌシが……」

 

 目の前で起こりうる現実をベルベットは受け入れられない。いきなりこんなものを受け入れるのは無茶だというものだ。

 こうなりゃ後で怒られるの覚悟をしてやるしかない

 

「デラックス・ボンバー!」

 

 思考停止寸前のベルベットの後ろからデラボンを撃つ。

 ヘルダルフに撃った時の威力なのでそこそこの威力を秘めている

 

「っ!」

 

「なにをしている。相手はカノヌシだぞ」

 

 オレのデラボンで停止していた思考は再び動き出す。

 アイゼンが既に戦闘態勢に入っており、風の槍を飛ばすのだがカノヌシの前に障壁の様な物が展開されて防がれる……ヤバいな、曲がりなりにも神仏の類だ。ヘルダルフと比べるのが烏滸がましいぐらいには強い……まぁ、倒せないわけじゃないんだけども殺すと厄介な事になる。

 

「やるなら覚悟を決めろ!相手は敵なんだ」

 

「っ……分かってる!こんなのメルキオルの時と同じ」

 

 同じじゃねえ。まことのメガネ越しでカノヌシを見ているので分かる

 

「どういう、事なんだ」

 

「アリーシャ、驚くなとは言わないが思考は停止するんじゃねえ」

 

 今までの状況を一瞬にしてひっくり返す事が巻き起こっている。

 動揺するななんて言えない。オレですら動揺しているのだから……ただ思考停止はしてはいけない。次の手を考えろ、まだ生きているんだ

 

「ゴンベエ、オカリナを使って逃げるしか」

 

「そうしたいのは山々だが……オレが立ち止まると厄介な事になるぞ」

 

「それはどういう──っ!!」

 

 カノヌシは紙で出来た剣の様な物を振り回す。

 衝撃波の様なものが発生してオレと距離があるで、んか以外を吹き飛ばす

 

「本当に聖主の力なのか!?」

 

 圧倒的なパワーにアイゼンは翻弄される。

 

「ですが何故……喰魔を引き剥がして弱体化させている筈です!」

 

「ああ、そいつはちょっとちげえぞ」

 

 弱体化していない事を疑問に思うエレノア。シグレが答えてくれる。

 

「そもそもでカノヌシは穢れを大量に必要としてるんじゃねえ。穢れの種類が大事なんだよ」

 

「穢れの種類だと?」

 

「穢れにも種類がある。カノヌシの覚醒には8つの穢れが……なにが必要だったけ?」

 

「貪婪、傲慢、愛欲、執着、逃避、利己、6つの穢れはお前達が喰魔を引き剥がす前にカノヌシに送り込む事が出来た。残すところは2つ……ベルベットから奪うことが出来る」

 

「……なるほど」

 

 アルトリウスの説明で腑に落ちない点がやっと納得をすることが出来た。

 モアナやメディサはともかくクワブトとかが喰魔になっている理由がイマイチ分からなかった。今アルトリウスが言った何れかに該当しているから適合したから喰魔になった……そうなると今までが全て無駄だった、無駄だと分かっているからビエンフーという裏切り者がいて奇襲とかの襲撃をしてこなかったわけだ。

 

「地脈を通じて吸い取るまでもないね……直接食べちゃおう」

 

 カノヌシはベルベットに手を伸ばす。

 

「させるかよ!!」

 

 ベルベットに手を伸ばそうとするカノヌシの間にロクロウは入り込む。

 オリハルコンの太刀を構えるとカノヌシも剣を構えて打ち合うのだが、ロクロウが押されている

 

「邪魔しないでよ」

 

「っ、オリハルコンの征嵐を折った!?」

 

 この世のなによりも硬いと言われており、クロガネが一心になって作り上げたオリハルコンの太刀を軽々しく叩き折った。

 弱体化する事が出来ていないカノヌシはそれほどまでに力を秘めているのかとアリーシャが驚く。

 

「うぅううっ!!」

 

「……痛い」

 

 ベルベットはカノヌシを貫いた。

 カノヌシから血は流れておらず、刺された場所は発光している。

 

「コレは幻だ……全部、全部幻なんだ」

 

「ベルベット」

 

「言うな……オレ達はなにも言えないんだ」

 

 ベルベットに現実だと伝えるべきかといった顔をするアリーシャ。

 今のベルベットになんて言葉を投げかければいい。目の前にいるカノヌシは正真正銘ベルベットの弟のライフィセット・クラウと言えばいいのか……そんなんじゃない。今日まで憎悪で身を焦がしていたベルベットにかける言葉はそんなんじゃない……くそ、ホントにオレは戦闘特化の転生者だ。こういう時にクソの役にもたたん。

 

「痛いよ、お姉ちゃん」

 

「五月蝿い、黙れ!」

 

「お姉ちゃんは僕を殺すの?」

 

「っ、消えろ!!消えろ!消えろ!」

 

 ベルベットはカノヌシに攻撃をし続ける……酷い……醜い……ああ……なんだろうな……う〜ん……酷く冷静だ。

 危機的状況にも関わらずオレの頭は妙にスッキリとしている。ゾーン状態になっているわけでもなんでもないのに……疎外感……いや、違う。

 

「僕はずっと苦しかった……体が弱いせいで迷惑ばかりかけて……やっぱりお姉ちゃんは……僕が消えた方が良かった?」

 

「ああ……ああ……」

 

 ベルベットはカノヌシの……ラフィの言葉に泣き崩れた。

 今まで溜め込んでいた物を全て投げ捨てるかのように泣きじゃくり、ラフィに抱きしめた。

 

「そんなわけ……そんなわけ、ないじゃない。生きてほしかった。側にてほしかった。なのに、あんな事になって仇を討たなきゃって……あんたの為にわたしは……殺して……」

 

「アリーシャ」

 

「ベルベット……」

 

「ベルベットは無理に強がっているだけで本当はあんな感じの人間だ。強い人間じゃない……今、なにが正しいのか間違いなのか善悪のラインが大きく揺らいでいる。だから言っておく、正しいから道を歩むのは止めとけ。自分の思う道を選んどけ」

 

 正しい道を歩もうとするのはいいけど、正しいからその道を歩もうとするのは間違いだ。

 親の言うとおりに正しい道を歩んでしまって面白みのない人生を歩まされて最終的にはアル中が死因の転生者をオレは知っている……姉弟とかを見ているとアイツを思い出すな。

 

「よかった」

 

「ごめん、ごめんねラフィ……痛かったわよね……フィー、この子の傷を治して!!」

 

「で、でもそいつは」

 

「そいつじゃない!!私の弟、ライフィセットだよ!!」

 

「……」

 

 姉弟の感動の再会……なんて甘いものはどこにもない。

 

「お姉ちゃん、ぼくはね、仇討ちなんて最初から望んでないんだよ」

 

「えっ……」

 

「だって、そういうエゴこそが穢れを……業魔を生む原因なんだよ」

 

 ラフィはベルベットを喰らいにここにやってきた。

 

「だからぼくはアーサー義兄さんを手伝って鎮めるんだ……この痛みを……お姉ちゃんみたいな醜い穢れをね」

 

「醜い……穢れ……」

 

 ラフィに否定をされる。

 今に至るまでにやってきた行い全てを、存在そのものを……

 

「覚醒したカノヌシは全ての業を鎮めて人を穢れを生まない存在に作り変える」

 

 アルトリウスはカノヌシの力について語る

 

「業が無くなるだと?んなことになっちまったら俺は俺じゃなくなる」

 

「それをやるって事だ……聖隷から意思を奪った様に今度は人間から意思を奪う」

 

「そんな……人の意思を消す事が貴方の目的だったのですか!!」

 

「そうだ。痛みもなにもない穏やかな世界を作り上げる……対魔士であったお前ですら裏切った。こうするしかない」

 

「勝手に纏めんじゃねえ、オレもベルベットも他の奴等も!一つの瞬間を必死になって生きてんだ!皆バラバラで当たり前だ!皆、バラバラだからこそいいんだ!」

 

 業が無い世界なんて世界でもなんでもねえ。人間の歴史は人間の武器は多様性なんだ。

 

「業魔のいない優しい世界を作る……それがぼくの夢なんだ。安心して傷だって直ぐに治る……お姉ちゃんを喰べさえすれば」

 

 ラフィがそういうと足元に術式の様な物が展開される。まずい

 

「全員、フックショットを使え!!」

 

 喰らいに来ている。これはまずい。

 オレは咄嗟にフックショットを出して壁に向かって撃って術式の外に移動をした。

 

「っ、からだ、が……」

 

 黒い闇の穴の様なものにベルベット達は飲み込まれる。

 アリーシャやアイゼンはフックショットを取り出して抜け出そうとするが、穴に嵌った時点で抜け出すことは出来ない

 

「アリーシャ!」

 

「来るな、ゴンベエ!!」

 

 鉤爪のロープを取り出して全員を助け出そうとするがアリーシャがやめる様に言う。

 この術式は一度でもハマってしまえば逃れる事が出来ない……考えろ、オレに出来ることはなんだ……いや、違う。そもそもでオレはどう思ってるんだ?アルトリウスに1発ぶち込みたいという気持ちしかない……

 

「待ってよ……私は、ずっとあんたの為に……なのに、こんなのって……」

 

「だからこそ、ちゃんと償わないとね。ずっと無意味に無関係な人を傷つけてきたんだからね」

 

「ラフィ……」

 

「っ、ベルベット!!」

 

 ラフィに喰われる寸前にライフィセットが球体状の結界を貼って飲み込まれる皆を守った

 

「邪魔が入った様だな」

 

「問題無いよ。地脈に飲み込んだんだから何時でも喰べれる」

 

 ベルベット達は完全に消え去った。だが、アルトリウスやラフィの言葉からしてベルベット達は死んでいない。

 ライフィセットの最後の抵抗で生き延びている……ただ問題はベルベットだ。あの状態ではまともに戦うことすら出来ない

 

「それよりも虫が一匹、残ってる。駆除しないと」

 

「ふぅ……おい、クソ導師……ライフィセット・クラウは最初から生きてたのか?」

 

「……生きていた、と言うのは少し違うな。生まれ変わったのだ」

 

「……あ〜……う〜……」

 

 なんだろうな、言葉が出てこない。

 今まで色々とあったけれど……これはむごい。醜い……でも、オレは知っている。人間って生き物はこういう一面も持っている。

 ベルベットが大勢の人を苦しめて傷つけた事実は変わりはない。それを見ていてまともに止めようとしなかったオレ達も同罪だ。

 罪の重さを理解している……でも……見てきた。ベルベットは本当は弟思いの立派なお姉ちゃんで、復讐なんて向いていない何処にでもいる女の子だ。アリーシャみたいなタイプではない……そんなベルベットを騙し続けた

 

「ムカつくな」

 

 ベルベットは泣いていた。ホントは殺しなんてしたくなかったのに弟の為だと自分に言い聞かせて苦しんでいた。そんな姿は見ていてムカつく……心の底から泣いているベルベットは見たくない。

 

「ぼくは追い掛けるからそいつを始末しておいて」

 

 ラフィは地脈に潜った

 

「感謝はしねえけど礼は言っておくわ……お前等のお陰で戦う理由が出来た」

 

 オレは転生者になるべく地獄の転生者養成所で鍛えて転生者になることが出来た。

 だが、オレはなんとなくで生きている。その身を流れに任せてのほほんと生きて結婚できりゃそれで幸せだと思う。けど今は違う。やりたいことが出来た。





ゴンベエの術技

強化追尾弾(ホーネット)

説明

ハウンド+ハウンドで生み出される合成弾。
追尾機能が通常よりも優れており、ギリギリのところまで引き寄せての回避も不可能。回避させた先にゴンベエやベルベットが待ち構えている隙の無い二段構えの技


王者の盾


説明

王家の盾がパワーアップした技。背中から巨大な魔神を呼び起こし、魔神の持つ盾で殴打する


決別の一撃


説明

巨大な炎を纏ったボウガンの一撃。相手に命中すると巨大な爆発を巻き起こす


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鳥にはあっても人間にはない

「ムカつくわ……マジで……」

 

 イラッとしているが不思議と頭の中はスッキリしていた。

 ゾーン状態とは似ているが異なる状態……ハイパームテキタイムだ。

 

「ハッハッハ、待ってたぜこの時をよぉ!!」

 

「なんだまだ居たのか」

 

「って、おい忘れてるんじゃねえよ!」

 

 ラフィが完全に去っていったのでこの後どうしようかと考えているとシグレが跳んできた。

 途中から会話に入ってこなくなったので存在を完全に忘れ去っていた……まぁ、忘れても問題は無い相手だがな。

 

「ロクロウの奴とオリハルコンの征嵐に決着をつける事が出来なかったのは残念だったが、それ以上の相手が目の前にいる。楽しみにしてんだよ」

 

「そうか」

 

「抜けよ、背中の剣を……そいつぁ號嵐にも負けず劣らずの剣なんだろう!!」

 

 クイクイっと挑発をしてくるシグレ

 

「そんな安っぽい挑発に乗るわけねえだろうが。お前を倒すのはオレじゃなくてロクロウだ、ぶっ倒した事を知られるとシグレを倒したオレを倒すとか言いかねん」

 

「確かにそりゃいいそうだ、なぁ!!」

 

 號嵐を横に振る。遅いし色々と見える。

 この程度ならばマスターソードを抜かなくてもどうにでもなると親指と人差指と中指の3本の指で摘んで受け止める。

 

「このままで、んかを連れて帰れ……お前には興味はない」

 

「ナメるのも大概にしろや!!」

 

「ナメてない……興味を抱いていないだけだ」

 

 盛大なまでの家族ドッキリにシグレは一切関与しておらず、ロクロウが倒すと言っている。

 カノヌシが水を差さなければいい感じの戦いにはなっていただろうし、シグレに関しては最初からロクロウに譲るつもりだ。だから最初からシグレに対してなんの感情も抱いていない……だから頭がスッキリとしている。

 

「っち、こうなったら……ムルジム、枷を外せ」

 

 頭に血が上りつつも、シグレは自分の天族こと猫のムルジムを出してなにかを指示する。

 すると先程までとは比べ物にならない程の力をシグレから感じ取る……

 

「なんだ力を抑え込んでいたのか」

 

 ドラゴンボールよろしく今まで力を抑え込んでシグレは戦っていたのか。

 

「おう。はじめは指一本動かす事も滅茶苦茶大変だったがよ、人間やれば出来るもんだ」

 

「そうか」

 

「こっちも本領を発揮してやったんだ、背中の剣を抜きやがれ」

 

「はぁ……先に言っとくけどな、このマスターソードはお前には大して効果は発揮しねえんだよ」

 

「なに!?」

 

 オレの背中にあるマスターソードは邪悪なる物を討伐するのに使う聖剣だ。

 ロクロウやベルベットの様に邪悪な存在に対しては効果は発揮するが、そうでない存在に対してはそこまでの効果は発揮しない。

 

「ああ、大丈夫だ。オレからすれば今のお前はそこそこやれる奴がちっとマシになっただけだから……コレで相手をしてやるよ」

 

 ラフィに叩き折られたクロガネが打ったオリハルコンの太刀を拾う。

 流石は名工が作った太刀だけあって魂の様なものを感じる……クロガネ、悪いな。シグレと戦うのはロクロウで、そのロクロウがカノヌシからベルベットを守る為に折られてしまった。その上でオレが使おうとしている……申し訳ない。

 

「あくまでも手を抜くつもりか……だったら出させてやるよ!テメエの本気をな!!」

 

 シグレは號嵐を振り上げる

 

「避ける必要はねえ!何処に居ても同じだ!」

 

「あ、で、んか1個だけ言い忘れてたわ。オレとアメッカは異邦人だ、仮に今回の出来事を秘密裏に記録してるならオレ達の事は書かないでくれ」

 

「嵐月流・荒鷲!!」

 

 物凄い勢いで號嵐を振り下ろす。

 巨大な斬撃が目にも止まらぬ速さで飛んできていくが、オレは動じる事なく折れた征嵐を振る。

 

「爆流破」

 

 巨大な斬撃を飛んでくる號嵐の斬撃に合わせて振る。

 すると飛んできた號嵐の斬撃は逆流し、オレの斬撃と合わさりシグレに向かって飛んでいきシグレを吹き飛ばす。

 

「特等対魔士のシグレをたった一撃で……」

 

「で、んか、殺しちゃいねえよ……ボロボロになってるけどな」

 

 吹き飛ばしたシグレは壁に激突するも立ち上がった。

 頭から血を流しており、面白い玩具を手に入れた子供の様に嬉々揚々としている。

 

「おいおいなんだ今の技は!剣圧を逆流させてカウンターを叩き込むだと!んなもんランゲツ流の技にも存在しねえぞ」

 

「だろうな」

 

 犬夜叉に出てきた技を真似て使っているだけだ。

 自分の斬撃をくらうのは流石に予想外だったがそれでもまだシグレは動くことが出来ている。

 

「もっとだ!もっと見せてくれよ」

 

「オレは見せ物じゃねえ」

 

 號嵐を振る速度が僅かだが上がっている。

 戦いの中で進化したというよりは勝てるかどうかわからない強敵を相手にしてアドレナリンが放出しているんだろう。オレも自分の才能が若干開花しかけてた頃にあった事……今となっては大分昔の気がする。転生してまだ1年ちょっとしか経過してないってのにな。

 

「っちぃ、全然手応えがねえ……震天!」

 

 シグレの剣は段々と力と素早さを増していく。

 それでもオレには届かない。強烈な突きを放ってくるが軽く避ける。

 

「お前が強えのは分かってるが……なんだこいつは……水、か」

 

 攻撃は防がれるか避けられるのどちらかでシグレは攻撃に違和感を感じる。

 人と戦っている感覚が無い。水や風などの形のない存在に対して攻撃している様な感覚だ。

 

「シグレ、人間が怒ったり誰かの為に戦ったり楽しんだりする時の力は強いと思うか?」

 

「んだよ突然……俺はそういう面倒なせっぱさもそんは好きじゃねえんだがな」

 

「安心しろ、オレも力で解決出来るならそっちを好んでやる……どう思っている?」

 

「そりゃ強えだろう!!あんだけちんまいロクロウですら業1つ此処までのし上がって来たんだからな!!」

 

「だろうな……オレは今ちょっとおかしいんだ。ベルベット達の事を見て一周回って頭がスッキリとしている。怒っているのは確かなんだがベルベットやロクロウがお前に対して向ける負の感情とも違う……今のオレは無敵どころか考える前に体が勝手に反応する」

 

 極限無想とは似ているが異なる形態だ。転生してからまともに修行してないから鈍っていたがこの感覚は本当に久しぶりだ。

 更に言えばここから更にパワーアップする事が出来る。ゾーンと呼ばれる領域に足を踏み入れる事が出来れば……この世界で敵無しだろう。

 

「お前はまだ俺の知らねえ遥か高みにいるようだな。なら、俺も連れてってくれや。その高さまでよ!!」

 

「悪いがコレばかりは自力で至るもんだ……牙突・四式」

 

 シグレとの戦いはここで終わらせる。

 瞬撃特化の牙突・四式でシグレの腹を攻撃する。

 

「シグレ!」

 

「安心しろ、殺すつもりはねえ……治癒系の術が使える奴等を呼んでこい。そうすれば直ぐに治る」

 

 ムルジムは倒れるシグレの元に駆け寄る。瞬撃特化で軽くぶっ刺すだけで殺す感じでやっていない。

 すぐ外には聖寮の船がある。なら、ライフィセットの様に治癒系の術を使える奴の1人や2人居るだろう。

 

「殺さないの?」

 

「この戦いはオレの戦いじゃない……ロクロウの戦いだ」

 

 ムルジムはシグレにとどめを刺さないことを気にするが刺すつもりはない。

 いいから早く治療できる奴を呼んでこいと言うと表の港に向かって走っていった。

 

「さてと、次はお前だ」

 

 シグレとの戦いを傍観していたアルトリウスに征嵐を向ける。

 上で見ていたアルトリウスは階段を降りてオレを見つめる。

 

「お前はいったい何者だ?」

 

「名無しの権兵衛だ」

 

 聞かれたからには答えるしかない。

 そういうことを聞いているんじゃないと言う視線をオレに向けてくるが今のオレは名無しの権兵衛、二宮匡隆じゃない。

 

「何故お前はそこまでして戦う。お前もアメッカも部外者の筈で見届ける事こそが使命の筈だ」

 

「決まってんだろ……ムカつくからだ」

 

「愚かな怒り、か……」

 

 オレが今戦う理由はただ1つ、アルトリウス達がムカつくからだ。

 ベルベットに生きてほしいとかこんなの間違っているとかいう感情はないわけではないが、それよりもシンプルにムカつく。

 怒りに身を委ねている事に対して呆れている。

 

「ムカつくからテメエをぶっ飛ばす。それのなにが悪い」

 

「怒りや憎しみは人の業だ……無くさなければならない」

 

「違うだろ……それを言うならば生きている事こそ業なんだよ。人は生まれながらにして業を背負い、そして堕ち続ける。人が努力するのは這い上がる為じゃない。堕ちない様にする為だ」

 

 そして今のオレは堕ちてもいいと思っている。

 例えそれが間違った事だとしても構わない。オレの心がイラッとしている。ムカついている。このどうしようもない気持ちをアルトリウスにぶつけたいと思う。

 

「鳥は何故飛ぶのか考えた事はあるか?」

 

「おっさん、さっきから質問してばっかだな……鳥が空を飛ぶ理由……生きる為だよ」

 

「なんの為に生きる」

 

「知らねえよ、そんなもん……生きる事に意味を求めたって仕方がない事だ。なにかの為に生きるのもいいかもしれないが、それはしたい事を見つけたからであってしなければならないと言う義務じゃねえ。オレがそのいい一例だよ」

 

 転生者になるべく地獄で地獄の訓練を受けて幸せになれと言われた。

 幸せにはなりたいと思っているが別になにかを成し遂げたいとかそういう感情は皆無に等しい。

 

「鳥は、強き翼を持つ者は飛ばなければならない」

 

「っは、ノブレス・オブリージュの高潔な精神か?……大前提としてお前は1個間違いをしている」

 

「間違いだと?」

 

「オレもお前も人間だ……翼なんてもんは無い」

 

 人間には空を自由自在に飛ぶことが出来る翼は何処にもないんだ。

 

「だからこそ人は望む、例えそれが業だとしても禁忌だとしても道を踏み外す事だとしても手を伸ばす。高いところへ、壁の向こう、扉の先を……人間は業が深く欲深く愚かな生き物だが、それこそが人間の本質だ。だからこそ見える景色がある、見えなくなる世界もある……飛びたいと思えば、人間は空を飛ぶ翼の代わりを作り上げる事が出来る。越えたいと思えば壁は越えれる。開けたいと思えば新しい世界の扉は開けれる」

 

「……どうあがいても、お前はここで倒さなければならない存在の様だ」

 

「オレにありがたいお言葉でもかけて改心させるつもりだったのか?生憎だな、菩薩から説法は嫌になる程に聞かされた」

 

 オレを言葉で動かすのは早々に出来ない。アリーシャは例外、あいつは……色々とアホだからな。

 アルトリウスは剣を抜きオレを睨む。オレは体から闇を発生させて折れたオリハルコンの太刀の刀身にする。

 

「闇纏・無明斬り」

 

 真っ黒な闇を纏った斬撃を飛ばす。アリーシャに手本で何度か見せたりはしたが実際に人に向かって撃つのは久々だ。

 闇の斬撃はアルトリウスに向かって飛んでいきアルトリウスは避けようとするが異変に気付くが反応に遅れてしまい頬を切り裂く。

 

「斬撃自体に引力があるのか」

 

「アメッカの撃ったのとは比較するなよ……あいつは火事場の馬鹿力や一時のテンションでなんとか撃てる様になってるだけだがオレのは違う」

 

 無明斬りの性質に驚くので一応は補足しておく。

 オレに攻められれば負けるとやっと気付いたのかアルトリウスはオレに向かって剣を振りながら剣の刀身に刃を纏う。

 

「闇纏・黒刃……からの旋空新月」

 

 折れている太刀の長さはアルトリウスの剣よりも短い。

 闇で出来た刀身でアルトリウスの剣を受け止めるとアルトリウスはオレと一旦距離を取ろうとするので闇の刀身を更に引き伸ばしてアルトリウスを切り裂く。

 

「っぐ……まだだ!!」

 

 上半身数カ所に切り傷を作り血を流すアルトリウス。

 右腕が使えない状態とはいえ流石は導師というべきかかなりの実力者……まぁ、オレと戦うにゃ力の差がありすぎる。

 

「一太刀とは言わん!!死を刻むがいい!」

 

「死ぬのは暫くは勘弁願うわ」

 

 王の財宝かとツッコミたいぐらいに上から剣が降り注ぐ。

 上手くオレに剣を当てるか当てないかの調整がされており、下手に避ければ剣が当たり、避けなくとも剣は当たる。なら、適当に弾いて防ぐだけだと弾いていると、アルトリウスは素早くこちらに向かって斬りかかる。

 

「漸毅狼影陣!!」

 

「隙の無い二段構えだな」

 

 上から攻撃して更には横からも攻撃する。一発やニ発だけじゃなく何発もだ。

 アルトリウスはオレに剣を振るうがコレも避けつつ時には受け太刀をする。

 

「生身で腕が使えない状態で神依のスレイを上回ってるか……まぁ、だからといってオレが負ける理由も要素もねえんだけどな」

 

 コイツはムカつくから本気でぶっ飛ばす。殺してやりたいが、それをやるのは誰でもないベルベットだ。

 あの状態からの立ち直りは難しそうだが……まぁ、それでもなんとかなるだろう……でもあの状態でどうやって立ち直るんだろうか。

 

「ベルベット達が若干心配になってきたから終わらせるわ……終焉の一閃!!」

 

 闇、水、炎、風、光、雷、氷、様々な属性を纏った斬撃をアルトリウスに向けて飛ばす。

 殺しちゃいけねえから威力は弱めに、でも大ダメージになる様に……かなりの難易度を要求する手加減だが、今のオレならば余裕だ。

 アルトリウスは剣で防ごうとするが剣はあっさりと斬られ、終焉の一閃はアルトリウスを切り裂き、アルトリウスは倒れた。

 

「アルトリウスすらも……」

 

「すらじゃねえよ、如きだ」

 

 地に伏せるアルトリウスに殿下は驚きを隠せない。ヘルダルフより強かったが、それだけでオレに敵う強さを持っていたわけじゃない。

 放置しておけば致命傷になるかもしれねえがムルジムが治癒系の術を使える対魔士を呼びに行っているから問題無いだろう。

 

「ベルベット達は地脈に居る……となるとここじゃダメか」

 

 アルトリウスをボコる事に成功したので、ベルベット達の事を考える。

 とりあえずこの場に居てもなにもする事は出来ないので場所を移動しようとするのだが足元から術式が展開される。

 

「この瞬間(とき)を待って──」

 

「邪魔だ」

 

「!?」

 

 どうやらアルトリウスはオレを捕縛か封印するつもりだった様だ。

 ベルベットが殺すからオレは殺さない、どんなに痛めつけてもそれだけで殺そうとしないのを逆手に取ってボコボコにして油断をしているところで封印か拘束をする、そういう狙いだったんだろう。だが、そんなもんは関係ねえ。オレはオレを縛ろうとする術式を歩きながら破壊をする。流石のアルトリウスも歩きながら何事もない様に破壊していく姿に驚くしかなかった。

 

「テメエもシグレも強い。この作戦も間違っちゃいねえ……ただ1つの間違いがあるとするなら相手がオレだった事だ」

 

 これがスレイなら、ベルベットなら、ロクロウなら、アイゼンなら捕縛や封印は出来ていただろう。ただオレには効果は0だ。

 お前の力は強いかもしれないがそれだけ……誰もオレには届かない。くらいつこうとするだけ無駄だ。

 

「で、んか。ベルベット達は居なくなっちまったし、バンエルティア号は出航しちまった。シグレ達を治療する対魔士達と一緒に国に帰れ」

 

「君はどうするつもりなんだ?」

 

「ベルベット達を追い掛ける……船が無くても最悪海の上を走って帰還する。それに電話があるからアイフリード海賊団を呼び出す事が出来る」

 

 だからなにも問題は無い。

 アルトリウスとシグレをボコボコにする事が出来たので多少はスッキリしたものの、頭の中はまだ変わらない。ムカついているが意識はスッキリとしている。

 

「ここならいけるな」

 

 かつてベルベットが収容されていた場所に向かった。

 ラフィは地脈にベルベット達を引き込んだと言っていた。ならば地脈に通じる場所に行けばベルベット達の詳細が分かる。

 

「…………」

 

 目を閉じて、頭の中を空っぽにして無想状態になる。

 ベルベット達は地脈の中にいる異物、ならば地脈の中の力を感じ取ればいい……見つけた。

 

「……泣いているな」

 

 誰かとは言わないが泣いているのが分かる。こういうのが分かるから気配探知はしたくないが今はありがたい。

 クロガネが作った征嵐で上段の構えを取る。

 

「久々にやる……ゾーン、強制開放!!」

 

 ムカついているが頭がスッキリしている中でのゾーン状態に入る。

 余計な物は削ぎ落とされていきます今欲しい情報が……ベルベット達が何処に居るのかがハッキリと分かる……この状態ならば出来るな。

 

「この剣はカノヌシへと届く……闇纏・次元斬り──彼岸!!」

 

 闇を纏った征嵐を一振り。

 斬撃が飛んだと思えば消え去ってしまうが、ここじゃない地脈の中へと次元を斬り裂きながら進む……カノヌシの元に。

 

「うっし……と、オレも乗り込まねえと話にならねえな。虚空を切り裂け、零次元斬!!」

 

 カノヌシの元に次元斬り・彼岸が届いた。

 きっと美味しいところを持っていくことが出来たのだろうとオレは空間を切り裂いて地脈への道標を作り上げ突入する。





ゴンベエの術技

爆流破

説明

飛んでくる斬撃や剣圧に対してカウンター的に斬撃で飲み込み逆流させるカウンターの奥義

牙突・四式

説明

半身の構えで最速で放つ瞬撃特化の牙突。ゴンベエの威力だと並大抵の刀では耐える事が出来ない

終焉の一閃

説明

あらゆる属性を纏った1つの斬撃を飛ばす。
殺さない程度に手加減をして放ったが普通に撃てば鋼をも余裕で真っ二つに切り裂く事が出来る

闇纏・次元斬り 彼岸

説明

その剣は次元をも越えて斬り裂く、その刃は彼の主すらも届きうる。全力の次元斬り


零次元斬

説明

次元を斬り裂き虚空の彼方へと相手を送り込む技。ゴンベエは応用して地脈の中へと繋げた


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残酷なはじまりの日

「メッカ──アメッカ!!」

 

「エレ、ノア……っ!!」

 

 目を覚ますとエレノアの顔があった。どうやら気絶したようで直ぐに体を起こして今の自分の状態を確認する。

 なにも異常は無い……何時も通りの状態だがここは何時もの場所ではない。

 

「ここは……」

 

「恐らくですが地脈の中だと、以前に飲み込まれた際に場所が酷似しています」

 

「地脈の中……そうか……そうだったな……」

 

 ゆっくりとなにが起きたのかを思い出していく。

 アルトリウス達と対峙して決戦の時と思いきやカノヌシが登場した。そのカノヌシはなんとベルベットの弟のライフィセットだった。カノヌシが必要なのは大量の穢れでなく特定の質の穢れで弱体化する事は出来ず最終的には飲み込まれた

 

「ゴンベエは……」

 

 飲み込まれたのは私達でゴンベエは飲み込まれる前に逃げる事に成功した。

 あの時はどうあがいてもカノヌシに取り込まれると察したのでゴンベエからの救援を拒んだ。

 

「ゴンベエは……無事を祈りましょう」

 

「ああ……ゴンベエは負けない」

 

 飲み込まれなかったということは監獄にまだいる。監獄にはアルトリウスとシグレが居る。

 カノヌシの完全なる覚醒による鎮静化が最終的な目標のアルトリウス達にとってゴンベエは邪魔でしかない存在……殺しに掛かってくるかもしれないが私は知っている。ゴンベエは本当に強いことを。

 

「私達が此処に居るという事は他の皆は」

 

「それなんですが……」

 

 言うべきかどうかと悩むエレノア。なにかアクシデントでも起きたのかと辺りを見回してみるとライフィセットとベルベットがいた。

 どうやら2人は無事だった様なので一先ずはホッとして2人の元に歩み寄る。

 

「殺す……殺す……あんなに殺したのに……だってあの子が、あの子の為に」

 

「ベルベット……」

 

 虚ろな目をしてブツブツと呟くベルベットとそんな姿を悲しげな顔で見つめるライフィセット。

 無理もない。今まで死んでいた弟のライフィセットの為に必死になっていたのにその全てが否定されてしまった。

 

「なのに……あたし……無意味に……醜い……殺さなきゃ……死ね、死ね」

 

 今のベルベットにどんな言葉をかければいいのかが分からない。

 本当は弟が生きていて良かったなんて今までのベルベットを見ていた1人の人間として言えない。全てを否定された人間にどの様に接すればいいのか分からない

 

「ベルベット、アメッカが目覚めました」

 

「……行くわよ。ここが前と同じ場所なら何処かに出口がある」

 

「……行ってどうするつもりだ?」

 

「決まっている、アルトリウスを殺すのよ!」

 

「そんなボロボロの姿でか」

 

 オスカーとテレサを殺してしまってから使えていた筈の力が使えなくなっている。なんだったら私の方が使いこなせる。

 

「ベルベット、カノヌシはベルベットのおと──」

 

「そんなわけあるはずがないでしょう!!幻覚よ!!」

 

「だが、ゴンベエはあのとき」

 

「なら偽者よ。私を動揺させる為に何処かからそっくりさん、それこそあんたみたいなのを見つけて連れてきたんでしょう!!」

 

「っ……」

 

 ゴンベエはあの時、まことのメガネを使ってカノヌシを見ていた。

 真実を見通すまことのメガネでカノヌシを見て幻覚ならば幻覚といえばそれで終わる。それなのにしなかった。あの時あの場に居たカノヌシは紛れもなくベルベットの弟のライフィセット。

 

「仮に本物だったらどうしたって言うのよ?あの子が私を裏切ったって事でしょう……そんな奴を殺せないと思っているの?何故?どうして……あんたは見てきたでしょう。あたしが今までどれだけ殺してきたかを!!」

 

「ごめん、なさい」

 

 ライフィセットに顔を近付けるベルベットの気迫は凄まじいものだった。

 ライフィセットは悪いわけでもないのに思わず謝ってしまう程でこのままではまずいと感じたエレノアが間に入って仲裁に入ろうとするのだが、私達の目の前に大きな泡の様な物が地面から浮かび上がる

 

『起きて、ラフィ。朝だよ』

 

『もーラフィって呼ぶのはやめてよ子供っぽい……』

 

『いきなり文句とは、ちょうしいいかな』

 

 泡から流れ込む。今のベルベットと大して変わらない姿のベルベットとつい先程見たカノヌシの姿だった。

 弟の事を心配していて今日は元気そうで嬉しそうにしている何処にでも居そうな女の子……昔のベルベット……

 

「うぁああああ!!」

 

 ベルベットは過去の幻を見せてくれる泡を喰魔化した左腕で切り裂いた。

 

「ほら……ほら、殺せたわ!!当たり前でしょう。もう慣れたんだから!!」

 

 息を荒くし酷い顔をしているベルベット。

 

「さぁ、ここから出るわよ。あんたの力があれば抜ける事が出来るわ」

 

「けど」

 

「早く!!」

 

「……アイゼン達を探さないと」

 

「あいつらよりも今は出口よ!!早くしなさい!!」

 

「っ!!」

 

 ベルベットは右腕でライフィセットの頭を掴んだ。

 ライフィセットは抵抗しようとするのだが力が上手く入らない。

 

「いい加減にしなさい!!」

 

 何時も以上に身勝手なベルベットに我慢の限界が来たエレノアはベルベットにビンタをした。

 

「いい加減にするのは彼奴等だ!!だってそうでしょう!?……殺してやる……絶対に……」

 

「ベルベット……」

 

「落ち着いて……落ち着いてください」

 

 肩をガッシリとエレノアは掴む。

 暴れるかと思ったベルベットは左腕を喰魔化する事はせずに静かに怒りは納まる……

 

「……アイゼン達を見つけたらさっさと出るわよ」

 

 ベルベットはそう言うと先に進む。櫛を落としていった事に気付かない。

 さっきライフィセットが拾おうとした櫛はとても大事な物の筈なのにそれが目に入っていない。

 

「ライフィセット、今のベルベットは危険な状態です。気持ちの整理もありますし一旦私の中に入ってください」

 

「……ううん、しない……僕が居なくなったらベルベットが裏切ったって思うから」

 

「ですが」

 

「今の僕にはなにも出来ない……悔しいよ」

 

 ライフィセットは己の無力さを嘆く。

 今のベルベットになにもすることが出来ない。どんな言葉を掛ければいいのかが分からない。

 

「ゴンベエ……」

 

 ゴンベエから借りているお守りを取り出す。

 こんな時、ゴンベエならどんな言葉をベルベットに投げかけるのか……ダメだな。自分が弱いのは痛いほど知っているからかついついゴンベエを頼ってしまう。一人立しなければならないというのに。

 

「大丈夫です。例えなにかする事が出来なくても側に居てくれるだけで救われる事もあります。母を失った私がそうだった」

 

「エレノア……」

 

「今はベルベットの様子を見ながらアイゼン達を探しましょう」

 

「そうだな……こういう時だからこそ冷静にならなければならない」

 

 心に熱意は持っていても頭は冷静にならなければならない。

 熱くなりすぎて周りが目に見えなくなれば死んでしまう。今、私達が居るのはそんな場所だ

 

「あのカノヌシはベルベットの弟だったのでしょうか?」

 

「あの時、ゴンベエはまことのメガネを使ってカノヌシを見ていた」

 

「それは知っています。ですが、アレは幻を見破ったり見えない物を見える様にするものです。それこそベルベットの言う様にそっくりな誰かを連れてきたという可能性もあります」

 

「だとしたら何故今になって現れたんだ?いや、違う。偽者だったらベルベットに意味はない」

 

「……多分、カノヌシはベルベットの弟だと思う……メルキオルの幻術に耐えたベルベットがあんなにも動揺するんだ……」

 

「私達は……なにも知らないな、本当に」

 

 ベルベットは今日まで復讐の憎悪に身を焦がしていた。その姿は知っている。でも、それだけだ。

 カノヌシの弱体化を狙って各地に散らばる地脈点に居る喰魔を引き剥がしたが穢れの量でなく質が問題だった。そしてカノヌシはベルベットの弟のライフィセット……あまりにも分からない事が多すぎる。

 

「そうですね……私達はなにも知らない。世界の仕組みも、どうして死んだ筈のベルベットの弟が生きているかも……あまりにも知らなすぎます」

 

「……知ることが今の僕達には必要なんだ。でも……どうやって……」

 

「それは……」

 

 グリモワールさんの古文書の解読を終わらせてもカノヌシがベルベットの弟のライフィセットに繋がるとは言い難い。それこそ過去を知らなければならない。だが、過去を知ろうにもどうすることも出来ない。ゴンベエが言うには音や幻を保存する道具は存在しているがそれはこの時代、この大陸に存在しない物だ……ゴンベエなら……今の私の様に直接過去に行って全てを見ることが出来る。

 

「っ、また!」

 

 アイゼン達の心配よりもカノヌシがなんなのか何故なのかと考えながら歩いていると再び大きな泡が出た。泡が光を放つと私達に幻を見せてくる

 

「ここは……」

 

 何処かで見たことがある場所だった。

 何処だったかは思い出す事は出来ないまま幻はまるで私達が見ているかの様に写り変わり……アルトリウスが写った

 

「アルト、リウスっ……」

 

 アルトリウスが目に映ると殺意を滾らせるがこれが幻なのを分かっているので暴れる事はしない。

 

「あれはっ!!」

 

『もし!しっかりしてください。今、人を呼んで』

 

 木に腰を掛けているアルトリウスの元に1人の女性が駆け寄った。

 何処となくベルベットに似ている女性でベルベットは驚いている。

 

『……いいのです……もう……疲れた……』

 

 俯いているアルトリウスは顔を上げた。その顔は酷く疲れた顔をしており何処か絶望していた。

 

『旅を、してこられたのですか?』

 

『十年……師に後を託されたのになにも成せなかった』

 

『十年も……』

 

 まただ、また私達が知らない情報が出てきた。アルトリウスが十年もの間なにかをしようとしていた事を今になって知った。

 

『……なんて弱い翼だ……だから……もう……いいんだ……』

 

 自分に対してアルトリウスは酷く絶望をしている。諦めようとしている。

 

『……そうですね。そんなに働いたならゆっくりと休まないと。丁度ウリボアの肉が手に入ったんです。夕飯は鍋なんですけどご一緒にいかがですか?』

 

『は……いや、私は……』

 

 あまりにも突然の事にアルトリウスは戸惑う。お腹が鳴ったの女性の方は微笑みながらリンゴを取り出した。

 

『今はリンゴしかありませんが、どうぞ』

 

 アルトリウスにリンゴを差し出すのだがアルトリウスはリンゴを受け取ろうとしない。

 

『お腹がいっぱいになればきっと立ち上がる元気がでますわ』

 

『恥知らずな……生きる資格も無いのに』

 

『資格がいるんですか?ただ生きることに』

 

『それは……』

 

 あのアルトリウスが戸惑っている。今までにないものを私達は見ている。

 

『自然な事ですよ。お腹が空くことも、辛くて泣くことも……だって、私達は生きているんだから』

 

『……生きている……』

 

 女性の言葉でアルトリウスの目に生気が宿る。

 

『お名前は?私はセリカ・クラウと申します』

 

「クラウ……クラウ!?」

 

 ベルベットと同じ名字……まさか……。

 アルトリウスは差し伸べられた手を掴んで立ち上がった。

 

『私は対魔士アルトリ──……いや、アーサー、アーサーです』

 

 これは……ベルベットの姉とアルトリウスの──

 

「アルトリウスッ!!」

 

 ベルベットは怒り散らす。再び幻を見せてくる光る泡を左腕で破壊した。

 

「なんなんだ今のは」

 

「ロクロウ!……アイゼンも」

 

「無事だったんだね!」

 

 後ろから声がしたので振り向くとそこにはロクロウとアイゼンがいた。

 場所と状況だけに危険な目に遭っていないかと心配をしていたが無事だったようで一先ずはホッとする。

 

「貴方達も見たのですか?」

 

「応。アルトリウスがアーサーと呼ばれていた」

 

「……これは恐らくだが大地の記憶だな。地脈には写し絵の様に地上で起こった出来事を記録されると聞いたことがある」

 

 そういえばライラ様が似たような事を言っていた様な……

 

「つまりこれは過去の出来事の幻というわけか」

 

「……幻じゃないわ。あれはあたしの姉さん、セリカ姉さんよ」

 

「ならばアレは……」

 

 アルトリウスとベルベットの姉との最初の出会い。

 あのアルトリウスは絶望していたが今のアルトリウスと比べ物にならない程に穏やかで温かい存在だ。

 

「セリカ姉さんも騙されていたのよ……ね。そうか。だからあたしを監獄から出してくれたんだ……」

 

 ブツブツと虚ろな瞳でベルベットは呟きながら歩いていく。その歩みを誰も止めることは出来ない

 

「とにかく無事な様でなによりです」

 

「後はマギルゥだけだが……何処に居るのだろう?」

 

「マギルゥならなんだかんだで生きて、その内ひょっこりと顔を出すだろう」

 

「それよりも問題はベルベットだ」

 

 2人の安否の確認が出来てエレノア達はホッとするが、肩の力はまだ抜けない。

 虚ろな瞳で歩いていくベルベットに付かず離れずの距離をアイゼンは取り、私達と今後について話し合う。

 

「ああなってしまうのは予想外だ……あいつはもうまともに戦えん」

 

「今は戦うべき時じゃない」

 

「それは分かっている。だが、此処は地脈。カノヌシの領域の中と言っても過言ではない……ライフィセット、前の時のように出られるか?」

 

「ううん、出られない」

 

「恐らくだがオレ達が見た大地の記憶はカノヌシがわざと見せている可能性がある。敵の狙いは……」

 

「ベルベットだね……」

 

「正確にはベルベットの内にある2つの穢れだ」

 

「2つ……2つ?」

 

 ここで私が引っかかる。ベルベットの内になにかしら特殊な質の穢れはあってもおかしくはない。

 アルトリウスに対して激しい憎悪を燃やしているのだから。だが、それがカノヌシの求める穢れの質として……もう1つはいったいなんだ?

 

「ベルベットに対してなにかをしようとしているのか」

 

 穢れの質が分からないが今のベルベットから分かるのは激しい憎悪だけだ。それ以外の感情は今のところは見られない。

 そう考えると……まだなにかがある。私達が知らない、知ろうとしなかったナニかが大地の記憶の中に存在している。それを見せつけようとしているのだろうか。

 

「ベルベットになにがあっても僕が守る……」

 

「守る……」

 

 これから迫りくる脅威に対して警戒をしつつ地脈の中を歩き、マギルゥを探す。

 ベルベットとは付かず離れずの距離を保ちつつ歩く。誰も今のベルベットに言葉をかけられない。

 

「また、か……」

 

 地面から泡が飛び出す、3度目となる大地の記憶。

 私達が歩いている中で出てきたという事は狙ってやってきたもの……ベルベットは直ぐに破壊しようとはせずに過去の幻を私達と一緒に見る。

 

『ただいま、セリカ。家の周りの柵を補強してきたよ』

 

 再び登場したアルトリウス。

 さっき見た弱りきった姿が嘘の様に元気になっておりベルベットの姉であるセリカさんに報告をしていた。

 

『ありがとう、アーサー。最近、野盗の被害が酷いって村長さん達が心配していたけどこれで安心ね』

 

『いや、もし野盗が業魔化していたらこの程度では……』

 

『え?』

 

『なに心配いらないよ。大工仕事には自信があるんだ。ベルベット達は?』

 

『多分、また岬よ。危ないって何回言っても聞かないんだから』

 

『ライフィセットがせがんだんだろう。なにベルベットはしっかりとした子だ』

 

 仲睦まじい夫婦の会話をしているアルトリウスとセリカさん。本当に羨ましいと思える程に仲睦まじい。

 

『……そうね。この子もあの子みたいに強く育ってくれたらいいけど』

 

『え……』

 

 少しだけ顔を赤らめながらお腹を擦るセリカさん……まさか……。

 

『喜んでくれる?』

 

 セリカさんはアルトリウスの子供を妊娠している!?

 

『決まっているだろう。ああ、世界にこんな幸せがあるだなんて!!』

 

 アルトリウスはセリカさんの妊娠を知るとセリカさんに抱き着いた。

 心の底から幸福を噛み締めている……これがアルトリウスの過去……ならば、何故、どうして……

 

『しかしまいったな。こんな事ならばもっと高価な物を用意すべきだった……』

 

 色々と謎が深まっていく中でも夫婦の時間は続く。

 アルトリウスはペンダントの様な物を取り出してセリカさんに見せるとセリカさんは喜んだ

 

『貴方が作ってくれたのね!!』

 

『君のために、心を込めて』

 

『一生大切にするわ。今日の幸せの記念に』

 

『誓うよ。命に賭けても君達を守ることを』

 

 手と手を取り合い笑い合うアルトリウスとセリカさん。ベルベットは温かい大地の記憶を引き裂いた。

 

「アルトリウス様の過去……」

 

「くくくっ、あははははっ!!笑えるわね。あんな言葉を信じちゃって……全部嘘なのに、笑顔も誓いも、なにもかもも」

 

 ベルベットは過去の幻を嘲笑う。

 あの笑顔があの誓いが嘘……アルトリウスがやろうとしている事と過去のアルトリウスが掛け離れている。だが、あの一面だけならばアルトリウスは本当にセリカさんの妊娠を喜んでいた。

 

「アバルの村の幻影に監獄島討伐の情報漏洩、そして弟の姿をしたカノヌシ……全てはベルベットの中にあるもう1つの穢れを手に入れる為か」

 

 今までの事を振り返るアイゼン。

 なにもかもが聖寮の手のひらの上だった……

 

「……オレ達もそれ相応に腹を括る必要がある様だ」

 

 此処から先、更に残酷な出来事が待ち構えている。

 改めて私達は気を引き締め直して地脈の中を歩いていくと4度目となる大地の記憶が現れる

 

「緋の夜!?ここはベルベットの村の」

 

 更に時計の針は進み、緋の夜と呼ばれる天族達が見る事が出来るようになった日が見れる。

 アイゼン達の話を聞く限りではこの日までは霊力の低い人間は憑魔を見ることは出来ない現代と同じ状態だった。この日から憑魔を見ることが出来るようになった……

 

「あれはセリカさん!?」

 

 崖っぷちに追い詰められているセリカさん。目の前にいるのは何時も相手にしている狼の姿をしている複数の憑魔達だった。

 さっきアルトリウスが言っていたことが当たってしまったのか……

 

『くそぅ、業魔化した野盗がこんなに』

 

 剣を片手に現れるアルトリウス。

 

『セリカっ!今助ける!』

 

『無理よ!ベルベット達と逃げてっ!』

 

『バカを言うな!』

 

 剣を振るいアルトリウスは憑魔を退けつつセリカさんの元へと向かおうとする。

 憑魔はアルトリウスを阻むがアルトリウスは切り捨ててセリカさんの元へと辿り着いた

 

『俺は生きたいんだ!君と俺たちの子と一緒に!』

 

 命を賭けてでも守る。

 そんな強い意思をアルトリウスから感じ取ることが過去の幻からでもわかる

 

「っ、危ない!!」

 

 アルトリウスがセリカさんの方を見ている瞬間に憑魔は襲ってきた。完全に倒すことが出来ずにアルトリウスに襲いかかり持っていた剣を弾き飛ばす。

 

『しま……っ』

 

 アルトリウスは持っていた武器を弾き飛ばされた。

 狼人間の憑魔はアルトリウスを襲いかかるのだが、その瞬間セリカさんがアルトリウスを突き飛ばして攻撃を回避させるのだが代わりにセリカさんが攻撃を受けて崖から転落をする。

 

『アーサーっ!!』

 

『セリカァァッ!!』

 

 互いに手を伸ばすが手は届かない……セリカさんは崖から転落をして死んでしまった。

 

『うぅ……ァああああああッ!!』

 

 セリカさんを助ける事が出来なかった事をアルトリウスは悔やむ。

 そしてアルトリウスは剣を手に取り怒りに身を任せて暴れる。残っている憑魔を一人残さず皆殺しにした。

 皆殺しにしたアルトリウスはもう一度崖の方に向かうとそこにはセリカさんへのプレゼントとして渡したペンダントがあった。

 

『……なぜっ、俺は……何故俺はっ、たった2人の家族すら守れないっ!!』

 

 大事な物を失い悲しむアルトリウス……コレは……

 

『よくわかっていよう、アルトリウス。人が弱く罪深いからだ』

 

「この声は!」

 

「メルキオルのジジイか!!」

 

 聞き覚えのある声がした。悲しみに打ちひしがれるアルトリウスの背後からメルキオルが現れる。

 

『この村がお前達一家を業魔化した野盗共に差し出したのだ』

 

「なっ!?」

 

『自分達を見逃す代償としてな』

 

『うそだ……そんな……』

 

 セリカさんは殺された……憑魔にだけでなく村の人達に……コレが、コレが……真実

 

『よくある事だ。人間が背負った業の理は変えられん。だが……』

 

 残酷な過去はまだまだ続く。セリカさんが落ちた穴から天にも昇る勢いの光が飛び出す。

 

『理を整える手段は見つかった』

 

『領域……なんだこの力は。まさか、こんな所に探し求めていた聖主(カノヌシ)が!!』

 

 目当ての物が見つかり驚くアルトリウス。

 眩い光に視線を奪われているとアルトリウスの側に2人の人が……ライフィセットと見知らぬ女性が現れる。

 

『こ、この聖隷は……』

 

『転生したか。姿は同じでも別の存在だ……どうやらカノヌシの復活は不完全の様だ。その原因を明らかにし聖主を導かなければならない。この聖隷どもは貰っていくぞ』

 

『っ、待て!!』

 

 2人の側に歩み寄ろうとするメルキオルだがアルトリウスが止めに入る。

 

『……約束を守れなくてごめんよ。償いはする。今から俺は俺を捨てる!!』

 

 決意を新たにするアルトリウス……私達が見てきたアルトリウスの目に変わった……そんな……こんな事が……

 

『名も無き聖隷よ、契約を交わしてもらうぞ……私は世界の痛みをとめなければならないのだ』

 

『できるのか?我が友の理想を投げ捨てた貴様に』

 

『亡き師と妻子の魂にかけて、今度こそ成し遂げる』

 

 コレがはじまり……私達が見届けなければならないはじまり……なんて残酷なんだ。

 

 

 

 

『我が名はアルトリウス・コールブランド。先代筆頭対魔士クローディン・アスガードの力を引き継ぐ者だ』

 

 

 

 アルトリウスは契約を交わす。天族へと生まれ変わったセリカさんと。

 

『……よかろう。今宵の悲劇、救世の宿縁に変えてみせよ』

 

 アルトリウスの過去を……知らなかった真実を知ってしまった私は言葉を失った。




今回はスキット無しです


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災禍の勇者

「アレがアルトリウスの過去……はじまり……」

 

 見てはいけないものを見てしまった。見なければならないものを見た。どちらとも取れる光景を私達は見てしまった。

 世界に絶望し、それでも生きる希望を見出して愛する人と共に生き抜く事を決めたのにそれをする事が出来なかった。

 

「あの聖隷、ライフィセットじゃなかったのか?」

 

「僕、だよね……」

 

 アルトリウスに衝撃を受けつつも、ロクロウはあの時あの場に居た天族について気付く。

 1人は会ったことが無い方だがもう1人は紛れもなくライフィセットだった。私の記憶に間違いが無ければ天族は地脈の中から生まれたりするとアイゼンから聞いた。

 

「聖隷に転生したって言ってたが、どういう意味だ?」

 

「死んだ人間の魂がなんらかのきっかけで聖隷に生まれ変わる事を転生という」

 

「では、あの女性がベルベットの姉でライフィセットは……」

 

「アルトリウスの子が生まれ変わった姿……そう捉えるのが妥当だろう」

 

 新しい情報が入ってくる。……ライフィセットがアルトリウスの子供……。

 

「知ってたわ……あたしはシアリーズの正体に、セリカ姉さんだって事に気付いていた。その上で喰らった……姉だろうが、弟だろうが、世界だろうが目的の為ならなんだって喰らうわ」

 

 アルトリウスの過去を知ったベルベットは眉一つまともに動かしていない。それだけ覚悟は決めている様で……どうすればいいのかが分からない。アルトリウスは愛する人と共に生き抜く事を深く誓った。だが、守り切ることは出来ずそれどころか村の人達に売られてしまった。私なら……人間に絶望して復讐に走るかもしれない。エレノアの様に清廉潔白な人間が存在していても悪意を持った人間が裏切る。

 

「……世界を蝕む悪意か」

 

 どれだけ清廉潔白な人間が居たとしても、それに群がる人達が悪意を持って利用する。

 現代でのスレイがそうだった。導師となり世界に安定を齎す筈がバルトロの魔の手によって戦争に加担しなければならなかった。

 

「コレが、人間の限界なのだろうか……」

 

 人間のドス黒い醜さを見てしまった……人間の限界を感じてしまう。

 それはエレノア達も同じようでアルトリウスが世界中の人間から意思を奪って鎮静化をさせようとするのも無理は無い……だからこそ、悩む。私はいったいどうすべきなのかを。

 

「……正しい道じゃなく自分の思う道」

 

 カノヌシに飲み込まれる前にゴンベエが私に残した言葉を思い出す。

 きっとゴンベエはこうなる事を予測して私に言葉を託した。私に勇気と力を与える言葉なのだろうが、私の胸の内には靄が残っている。世界を蝕む理不尽な悪意、残酷な現実……地獄でしかない。もしかするとスレイも同じ目に遭うかもしれない。私も同じ目に遭わされるかもしれない、ゴンベエが同じ目に遭わされるかもしれない。

 

「こんな時こそゴンベエが居てくれたら……」

 

 ベルベットやエレノア達になにかしらの言葉をかけてくれるがゴンベエはここにはいない。

 頼ってばかりではいけないのは頭で分かっているのについつい頼ってしまう。こんな時だからこそ自分の強さが大事だ。でも……。

 

「見て、あそこ!!」

 

 マギルゥが見つかる事がなく歩き続けていると空間の裂け目の様な物を見つけてライフィセットが指をさす。

 

「コレは空間の裂け目……コレを上手く利用すれば地上に出られるかもしれん」

 

「だが、マギルゥは」

 

「これだけ探しても居ないって事は喰われたか前みたいに別のところに出ている可能性が高い」

 

 マギルゥがまだ見つかっていないのに出口を見つけてしまった。

 アイゼンはマギルゥは地脈の中には居ないと仮定するとベルベットと一緒に次元の裂け目の様な物に近付こうとすると地面から泡が飛び出す。

 コレで4度目……1度目はベルベットの記憶、2度目はアルトリウスとセリカさんの出会い、3度目はアルトリウスに起きた悲劇……ならば、4度目はなんだ?

 

『アーサー義兄さん、二人きりで話したい事があるんだ』

 

 4度目となる大地の記憶はベルベットの弟のライフィセットとアルトリウスだった。

 

『緋の夜に強い霊応力を持った穢れなき魂を2つ生贄に捧げる事』

 

『俺の本を読んだんだな』

 

 アルトリウスの問いにコクリと頷く弟のライフィセット。

 

『古代語が全部わかったわけじゃないけど、義兄さんが書いた注釈にはカノヌシが復活すれば業魔の居ない世界を作れるって』

 

『七年前、強い霊応力を持った魂が……生まれる前の私の息子が生贄になった。今、カノヌシは半分だけ復活している』

 

『だから、皆の霊応力が強まって業魔が見えるようになったんだね』

 

『それが、開門の日の正体だ』

 

 本来、普通の人では見ることが出来ない憑魔を見ることが出来るようになったのは……カノヌシの力……。

 

『じゃあ、もう1人生贄を捧げれば……』

 

『カノヌシは完全に復活する。その力で多くの対魔士が揃うだろう』

 

「……まさか……」

 

 この会話から嫌な事が頭に過る。

 

『もうすぐ、また緋の夜が来る……アーサー義兄さん……』

 

『ライフィセット』

 

『ぼくなら生贄になれる?』

 

「!!」

 

 今までの……全てが……。

 

『お前はなぜ鳥が空を飛ぶのだと思う?』

 

『鳥は飛ばなきゃならないんだ。だって、空を飛べる翼を持っているんだから……僕にだって弱いけど翼はある。だから、今飛ばなきゃダメなんだ!次の次の緋の夜は3年後、その時までぼくは……生きれない』

 

『ライフィセット、お前は』

 

『十二歳病……それがぼくの病気だから』

 

 否定される。

 弟のライフィセットが病気について語るとアルトリウスは目を背けようとする。

 

『やはり、知っていたんだな』

 

『病気は怖くない……でも、ぼくは守られただけで死ぬなんて……絶対に嫌だ』

 

 弟のライフィセットはアルトリウスと向き合う。

 ベルベットの弟のライフィセットは……アルトリウスに殺されたんじゃない……。

 

『お前の意志こそ翼……強い翼だ』

 

 自らで生贄になったんだ。

 

「ふざけるな……」

 

『このことはお姉ちゃんには黙っててね』

 

『ああ、約束だ』

 

『ぼくが作るよ……お姉ちゃんが幸せになれる世界を……』

 

「あぁああああっ!!」

 

 今、全てを知った。ベルベットの復讐は、今までのなにもかもが否定された。

 ベルベットは左腕を喰魔化させて泡を破壊して怒り散らす。

 

「なにが……なにが意志だ!!なにが翼だ!……よくも、二人してよくも騙したな!あたしを裏切ったな!!」

 

「……」

 

 目を向けられない。ベルベットの怒りにどう応えればいいのかが分からない。

 怒り狂うベルベットの前に大地の記憶の泡が一度に4つも飛び出す

 

『ゴメンもすまんも無し。家族なんだから当然、でしょ?』

 

『うん。お姉ちゃん直伝のキッシュを作って待ってるから』

 

「黙れ……」

 

『あんたなら義兄さんを越える対魔士になれるかも』

 

「黙れ黙れ黙れ、黙れぇ!!」

 

 温かい記憶は思い出は、全ては偽りだった。

 ベルベットのなにもかもを大地の記憶は……カノヌシはトドメを刺しにかかる。

 

『あの子の落とされた祠ほどじゃない』

 

『なのにあたしは……なんにも出来なかった……あの子よりも、全然痛くないのに……ごめん、ごめんね』

 

「黙れぇええええ!!こんな嘘を!全部、全部彼奴等の嘘だぁあああ!!」

 

 荒れ狂うベルベットは地面から飛び出す大地の記憶を破壊していく。

 大地の記憶はカノヌシが見せているもので……全てが真実。

 

「死ねぇ!死ねぇ、死ねぇええええええ!!」

 

 暴れ狂うベルベットにどうすることも出来ずに見守っていると憑魔が泡を破壊する。

 

「邪魔をするな化け物が!!」

 

「っ、ベルベット駄目だそれは!!」

 

 神依に似た姿へと怒りに身を任せながら変身するベルベット。

 プスプスと黒い煙を出しており、ベルベットは自らの炎で身を焦がしている。ベルベットに止める様に言うのだが、ベルベットは止まらない。今までにない程の禍々しい闇と強い穢れを纏った黒い炎を作り出すと炎は龍の頭に変わる。

 

「邪王炎殺黒龍波!!」

 

 今までにない程の威力を発揮する邪王炎殺黒龍波。

 炎の黒龍はベルベットの前に立ち塞がった憑魔を穢れで喰らい尽くす……!

 

「なっ!?」

 

 黒龍が穢れを喰らい尽くすとそこにはベルベットがいた。

 

「うわぁあああっ……あ、あたしが……死んで……」

 

 自分の死体を見て動揺するベルベット。

 ここにいるのは正真正銘のベルベットで倒れているベルベットは服装が違う。明らかな偽者だが今のベルベットには効果覿面で火の神依の様な姿から元の姿へと変わってしまう。

 

「落ち着いて、ベルベット。こんなのカノヌシの幻だよ!」

 

「こんなのとは酷いな」

 

 ライフィセットがベルベットを落ち着かせようとするがベルベットは揺らぎ続ける。

 声がした……ベルベットの弟のライフィセット、いや、カノヌシの声が。

 

「それはお姉ちゃんの正体だよ」

 

「カノヌシ!!……ゴンベエはどうした!」

 

「ああ、彼なら今頃アーサー義兄さんに殺られてる頃だよ」

 

 カノヌシが姿を現した。

 いきなりの登場で地上にいたゴンベエはどうなったのかを聞くと殺されてはいなかった。アルトリウスをその気になれば倒せるゴンベエなら無事な筈だ……今はそれよりもベルベットだ。

 

「憎んで、恨んで、喰らって、殺して……他人も、世界も、理も踏み躙って生きる」

 

「違う、ベルベットは」

 

「違わないよ。お姉ちゃんが1番よく分かっているんじゃないかな?」

 

「だって、あたしは……あたしは勝手な思い込みで、勘違いで」

 

「ベルベット、気を確かにするんだ」

 

 手が震えて目の焦点が合わないベルベット。

 カノヌシに今までの罪を攻められて絶望していく……コレがカノヌシの狙い……っ……

 

「関係の無い人達を傷付けたよね?」

 

「数え切れないほど……いっぱい、喰い殺した……人も街も滅茶苦茶にした……」

 

「その上セリカお姉ちゃんの転生したシアリーズも喰い殺しちゃった……でもね、それでもぼくはお姉ちゃんの事が大好きだったんだよ。だから、お姉ちゃんの為に生贄になる事を選んだ」

 

「待て、それはおかしい!矛盾している!」

 

 そもそもで全てのはじまりはカノヌシが、ベルベットの弟のライフィセットが自ら生贄になった事だ。

 治す事が出来ない奇病である十二歳病でそのままで終わるつもりはないとベルベットにすら打ち明けずに生贄になった……それさえなければ……

 

「うるさいなぁ。君みたいな無関係なただ見ているだけの人間は黙っててよ。ぼくはお姉ちゃんと話をしているんだから」

 

「っ……」

 

「復活の邪魔をされたらそれこそぼくは無駄死にだよ……ホントはね、怖かったんだ。死ぬのは」

 

「ごめん……ごめんなさい……」

 

 カノヌシの言葉を聞いてベルベットの震えは止まった。代わりに涙をボロボロと流す。

 

「認めるんだね。お姉ちゃんが今までしてきたことを全部」

 

「うん……誰の為にもならなかった。あたしは皆を無意味に傷つけた……醜い化け物です」

 

 ベルベットは自らの事を化け物と認めた……今までは災禍の顕主だなんだと言われても平気な顔をしたけど今回は違う。生きることを諦めている、死のうとしている……

 

「なら、ちゃんと罪を償わないといけないよね」

 

 カノヌシは宙に浮いた……ベルベットを取り込むつもりだ……。

 

「ベルベットが醜い生き物……」

 

 カノヌシはそう言ったが私はそう思えない。

 私は見ることだけしか出来なかったが代わりにずっと見守ることが出来ていたから知っている。

 勘違いだとしてもベルベットは心の底から怒っていた憎んでいた。苦しんでいた。本当は家族の事が大好きな何処にでもいる家庭的なお姉ちゃんなのにラフィの為にと必死になって戦ってきた。その為には多くの人達を村を傷付けた……この事実は、この罪は消えることはない……でも……

 

「最後の穢れを、お姉ちゃんの中の憎悪と絶望を食べればぼくは完全に覚醒をする」

 

 巨大な術式を展開するカノヌシ。

 ベルベットは引き寄せられ、私達は吹き飛ばされようとする……私は…………人間は強い生き物、人間は弱い生き物だ、人間は気高い生き物だ、人間は下卑た生き物だ、人間は勇気ある生き物だ、人間は臆病な生き物だ、人間は情けある生き物だ、人間は非情な生き物だ……今になってあの骸骨の騎士が教えようとしてくれた事が分かった様な気がする。人間は業と美しさ、矛盾した2つの感情を持っている生き物だ。マオクス=アメッカは……アリーシャ・ディフダは……私はそんな世界はお断りだ。

 

「お姉ちゃんには痛みの無い世界で幸せになってほしかったけど、化け物になっちゃたんから仕方ないね」

 

「ベルベット!!」

 

 吸い寄せられるベルベットに向かってライフィセットは手を伸ばし、掴んだ。

 

「放して……あたしは裁かれないといけないのよ」

 

「嫌だ!!」

 

「このままじゃ、無意味なあんたまで殺されちゃう……お願い、死なせて!」

 

「絶対に、絶対に離すもんか!!」

 

 カノヌシの吸引力は凄まじく僅かばかりだがライフィセットは引っ張られる…………

 

「ライラ様、ミクリオ様、エドナ様……スレイ、本当に申し訳ない」

 

 人がどうして穢れを生んでしまうのか、人の業や性をこの旅で私は見てしまった。

 普通ならば処罰すべき悪党と断じるところだが、見てしまった……痛みも、悲しみも、喜びも、なにもかもを。私はゴンベエに作って貰った槍を取り出し、今までずっと使わない様にしていた真の力を発揮しようとする。

 あの時、最初の1回目の時は強い力を手に入れて溺れかけていたが今は違う。人の強さは人によって違う……苦しみも痛みも、なにもかも。この槍が私に対して言いたかったのは人間の清らかさだけでなく背負ってしまっている業を受け止める器になれと言っている。

 

「一人目の生贄の転生体……君もぼくの一部だ。食べてあげるよ」

 

 ベルベットを取り込もうとするカノヌシの力は更に強まる。

 ベルベットの腕を掴んでいたライフィセットは体を宙に浮かび上がるので私が今度はライフィセットを掴む

 

「アメッカ……その姿は!!」

 

「ライフィセット……私は生きてほしい、ベルベットに。例えベルベットが自分の事を化け物だと認めていても、死にたいと思っていても生きてほしい食べようと……だが、今の私にはベルベットの生きる為の言葉は届かない」

 

 だから、頼んだぞライフィセット。

 

「お願い……もう離して」

 

「……うるさぁい!!だまれぇえっ!!」

 

「!!?」

 

「分かるわけがないよ。ベルベットはすぐ怒って怖くて、僕を喰べようとする……けど、こんなに温かい。優しくて温かい……でも、それでも僕はベルベットの事が分からない。けど、僕は……ベルベットは僕に名前をくれた。羅針盤を持たせてくれた。僕が生きてるんだって教えてくれた!」

 

 どれだけ世界が間違っていても構わない。

 

「皆が、世界が間違っているってなら僕は世界と戦う。ベルベットが絶望したってしるもんか!!僕は、ベルベットの居ない世界だなんて」

 

 絶対に嫌だ。そう言おうとするライフィセットの前にベルベットの喰魔化した左腕が立ち塞がる。

 

「ダメ、腕が勝手に……」

 

「腕一本ぐらい、くれてやる。でももう片方は残しておいてね……僕はカノヌシをぶっ飛ばす為に必要なんだ」

 

 喰魔化した左腕でライフィセットの右腕を掴んでいるベルベット。

 早くしなければライフィセットは喰らわれる可能性があるがそんな事を気にしている場合じゃない。

 

「あたし……大好きだったの。ラフィもセリカ姉さんもアーサー義兄さんも、みんな……だからあの時を奪われた事があたしを選んでくれなかった事が……悔しい!!」

 

「ベルベット……戻った……」

 

 ずっと揺らいでいたベルベットの瞳が元に戻った。

 精気を失っていたベルベットが、自ら死のうとしていたベルベットが居なくなって何時ものベルベットに戻った。

 

「絶望がきえ──っ!!」

 

「アレは……闇!!」

 

 何時ものベルベットに戻ったと思えば禍々しい闇がカノヌシの腕を切り落とした。

 私はライフィセットの腕を掴むのに必死で無明斬りを撃つ暇なんて何処にも無かった。そうなると考えられる事は唯一つ

 

「ゴンベエ!!」

 

「よう、遅くなったみたいで悪かったな」

 

 あの斬撃はゴンベエが撃ったものだ。

 名前を呼べば案の定ヒョッコリとした顔でロクロウの折られた征嵐を片手に現れた。

 

「よくも邪魔をしてくれたな!!」

 

「ふ〜………………ん〜」

 

 首をゴキゴキと鳴らしながらなにかを考える仕草を取るゴンベエ。

 

「……やっぱりムカつくわ……ベルベットは騙されていた。いや、違うな……個と全を選ぶ際に個であったベルベットは選ばれず見たことのないどうでもいい連中をどうにかすべく切り捨てたってわけだな……よし、アリーシャ、オレは決めたぞ。アルトリウス達がベルベットという個を切り捨てて世界の理という全を選んだのなら、オレはベルベットという個を選んで理という全を破壊する……お前はどうする?」

 

「……相変わらずだな」

 

 こんな危機的状況にも変わらずに何時も通りの姿勢を見せる。

 本当ならもっと怒ったり悲しんだり衝撃を受けたりするものなのにゴンベエは然程気にせずなんの迷いもなくベルベットを選んだ……。

 

「ベルベットは……怖いし酷い言葉を平気で私達に投げかける……でも、それでもそんなベルベットと一緒に過ごした短い時間の中でも言える……コレが間違いでも怒りでもなんでも構わない……私はベルベットに生きてほしい、私も世界よりもベルベットを選ぶ!!」

 

「だそうだ……大方クソみたいな現実を見せてベルベットを絶望にでも叩き落とすつもりだったんだろうが……そんな事はさせねえ。例え世界を敵に回したとしても3人はベルベットに生きてほしい、そう強く願っているんだ」

 

 コレが怒りに身を任せる事だとしてももう構わない。穢れてベルベットと同じく憑魔になろうが構わない。

 以前は闇に意識が取り込まれそうになったが今は違う。私の中の業が、怒りが力を完璧に制御する事が出来ている

 

「闇夜に蠢く、悪を斬る!夜天槍月華!」

 

 ずっとずっと考えていたこの技をカノヌシにお見舞いをする。

 片腕を切り裂かれたカノヌシは大きな隙を生んでしまい私の攻撃がヒットする。ベルベットの方を見るとベルベットは生きる気力を取り戻していたのだが、ベルベットの前に光る球が出現している。光る球は眩く光り出すとベルベットの姉のセリカさんが転生した姿であるシアリーズがそこにはいた。

 

「私の心にもあるのです。あなたと同じ、決して消したくても消えない炎が」

 

「でも、私は自分の為にしか戦えない」

 

「充分です。それが生きるということですから」

 

「ベルベット……誰かの為に戦う時は人は滅茶苦茶強くなれる。けど、自分の為に逃げずに向き合って戦う時はもっともっと強くなる。例えそれが業だとしても罪だとしても戦うんだ」

 

「貴方は……強いのですね」

 

「強くならなきゃいけない地獄にいただけだ」

 

「最後に貴方の名前を聞かせていただけませんか?」

 

 薄く半透明になっていくシアリーズ。

 残された時間はあと僅かな様でゴンベエは今までまともに抜こうとしなかった背中の剣を抜いた

 

「災禍……オレは災禍の勇者、名無しの権兵衛だ!!覚えておけ」

 

「勇者……貴方ならベルベット任せれます。後は頼みましたよ」

 

 そう言うとシアリーズは光の粒子となってベルベットの喰魔化した左腕の中へと消え去っていった

 

「ったく、アメッカ1人でも厄介だってのに押し付けやがってよ……まぁ、いい……ベルベット」

 

「なに?」

 

「お前にはお前の言い分があるだろうし、コレからはラフィの為じゃなくて自分の為に戦おうってつもりなんだろう……このままカノヌシをぶっ飛ばすのは容易だがそれだと色々と厄介な事になる……一旦変われ」

 

「……分かったわ」

 

「ありがとう」

 

「ただし、やるからには全力でやりなさい。何時もみたいに適当にやったら許さないわよ」

 

「安心しろ、アルトリウス達をボコるのがいい感じのウォーミングアップになった……今のオレは強靭、無敵、最強だ」

 

 ベルベットとゴンベエはハイタッチをして立っている場を入れ替えた。

 

「なんなんだよ……君達はここにいちゃいけない部外者だ。それなのに、邪魔をするなぁあああ!!」

 

 背中の剣を手に取り戦う意志を見せるゴンベエを見てカノヌシは怒りを顕にする。

 流石は聖主と呼ばれているだけの存在であり完全復活を遂げていなくても私達の力を遥かに上回っている……だがそれでもゴンベエは表情一つ変えない。

 

「いい加減に飽き飽きしてきたよ……君達に──」

 

ポーズ(ピタロック)




ゴンベエの称号

災禍の勇者

説明

勇者の力を手にしていた彼が長い長い旅の先に得た1つの答え。
彼は基本的には誰かの為に戦う事はしない。今回もただ単にカノヌシがムカつくから、ベルベットを悲しませたから戦う。
自分勝手で我儘な彼が出した答えだが彼はその行いに後悔はしない。彼女を捨てたのならば自分が彼女を拾う、ただそれだけ実にワガママだ。



ゲーム的な話をするならばここからアリーシャは覚醒して戦闘キャラとして使うことが出来るようになります。


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今はじまりの世界からリ・スタート

今更ながら一時のテンションで適当に書いた二次小説こんなに続きこんなに読んでくれる人がいるとは……駄文ですいません


「オレとアメッカは部外者でお前は当事者かもしれねえ……だからといって好き勝手にやってるのを見過ごせるわけじゃねえ」

 

 なんだかんだ言っても過去の出来事だ。現代には無関係かもしれないがそれでも見過ごせるわけではない。

 本当ならばやってはならない事なのだろうがそれでもやりたいと思った事だ……自分の気持ちに嘘を付くわけにはいかない。

 

「って、聞こえていないか」

 

 ピタリと動きを止めたカノヌシ。

 瞬きも視線も動かさずに止まっているのでオレは堂々とカノヌシの前に立つ。

 

「クリティカルクルセイド」

 

 右足に力を込めてクルリと一回転をして回し蹴りをカノヌシに叩き込む。

 ベルベットの要望は全力だが、残念な事にカノヌシを殺してしまえばこの世界に多大な影響を及ぼしてしまう。それだけは出来ない……それにカノヌシを叩きのめすのはベルベットの役目だ。

 

「リスタート」

 

「しぃっ、がぁあ!?」

 

 死ねと言おうとしていたカノヌシは吹き飛ばされる。

 オレ達にとってはなにが起きているのかハッキリと分かっているがカノヌシにとってはいきなりの事で衝撃が走る。

 

「ダメージが遅い……コレは……」

 

「ぼくに、ぼくになにをした!!」

 

「わざわざ説明するとでも思ってるのか?」

 

 アイゼンはオレがなにをしたのか考えている中で自分の身に起きた事を理解できていないカノヌシ。

 自分には○○の能力があると教えるのは一応のメリットはあるにはあるがオレのポーズは教えても対してメリットは無い。

 今までのベルベットを全て否定した怒りとゾーン状態と野生が上手く噛み合って最高の状態なんだからな。

 

「お前を──」

 

ポーズ(ビタロック)

 

 紙束を集めて剣を作り上げようとするカノヌシ。

 本気でオレを潰しに掛かってくる様だが攻撃を受けるつもりなんてどこにもない。マスターソードに水を纏わせてチェーンソーの様に動かして両手で振り下ろす

 

「法典断獄斬」

 

 剣を持っているもう片方の腕を斬る。

 はじめての技だが思った様にスムーズにいってくれた。

 

「リスタート」

 

「くっっっっ!!」

 

 カノヌシの斬られた腕が落ちていく。いきなり走る激痛に苦しむのだが、まだオレを倒そうとするつもりの様なので手は抜かない。

 両腕を斬り落とされたカノヌシは近距離での戦闘は不利だと判断したのかオレと距離を開けて眩い光の塊を集める。

 

「邪魔を、するなぁああああ!!」

 

「っ、ゴンベエ!!」

 

「問題ねえよ」

 

 カノヌシの力が尋常でないとライフィセットは感じ取った。オレを助けようとするがそんな事はしなくていい。

 眩い光の塊はオレを殺すが為に放たれたのでオレは何時も使っているハイラルの盾……ではなく、ミラーシールドを構える。

 

「どれだけ強い光だろうと、鏡は跳ね返す」

 

 ミラーシールドに光が触れると光は反射してカノヌシに向かってとんでいく。

 マスターソードから闇を出して光を飲み込んでもよかったが、自分の力で自滅させた方が苦しんでくれる。

 

「ぐぅ……あ……」

 

 流石のカノヌシも自分の力をそのままぶつけられた事はなかったのでボロボロになっている。

 

ポーズ(ビタロック)

 

 まぁ、だからといって手を抜いたり攻撃をやめる理由にはならない。

 息を荒くしているカノヌシに対して3度目のポーズを決めると剣を鞘に収めて今度は足に向かって居合い抜く。

 

「死煉・達磨貶死」

 

 本当ならば四肢を斬り落とす技だが、現在カノヌシは腕がない状態で足しか斬り落とせない。

 バッサリと両足を斬ったのでリスタートする

 

「なにを……なにをしたんだ!!」

 

 流石に3度目となると痛みに馴れてきたのかオレに向かって叫ぶカノヌシ。

 答える義務は無いが答えればそれはそれで絶望をしてくれる。どうするべきか悩むな

 

「時間を、止めたのか?」

 

「アイゼン、答えに辿り着いても言うなよ」

 

「時間を、止めた……」

 

 オレのポーズはなんなのかと考えていたアイゼンは答えをバラす。

 言わないままでカノヌシを絶望の底に叩き落とすつもりだったが、まぁいい。カノヌシはそんなバカな事があるかと言いたげな顔をしている。流石のカノヌシも時間を止めることは出来ない、そんなところか。

 

「オレの使っている力は勇者の力だ。嘗て時の勇者は7年の時と3日の時を行き来していた……その気になれば昼と夜を逆転できるオレが時間の1つや2つ、操れないとでも思ってるのか?」

 

 転生特典に頼りまくりなこの能力だが、今のカノヌシを追い詰めるにはちょうどいい。

 時間の支配という今までに出会った事の無い敵に恐怖でも抱いたのだろうか。地面から泡の様な物が複数飛び出てくる。飛び出てきた泡は映像を流す……アルトリウスとベルベットの姉との出会い、誓った幸せ、叩き落された絶望、非情な現実

 

「なんだお前もその程度の人間だったのか」

 

 アルトリウスは夢を見て、理想を描いて打ち砕かれた。人間の愚かさに、醜さに絶望をした。

 オレからすればアホとしか言いようがない。なにせこちとら文字通りの地獄にいたんだ。人間の醜さや愚かさなんて嫌になるほど知っている。デビルマンよろしく人間に絶望してめんどくさがって諦めた奴……底が見えたか。

 

ポーズ(ビタロック)

 

 5度目となるポーズ、ベルベット達がカノヌシに向ける視線が変わった。今まではなにがなにやら分からなかったが時間が止まっていると知ったので本当かどうかの確認をしようとしている。目線も瞬きもなにもしないカノヌシは本当に時間が止まっているのだと確信した。

 

「さて……次は目玉だな」

 

 ポーズの恐ろしさを感じているベルベット達は特になにも言ってこない。オレに任せてくれた以上は任せるだけで横から口出しを一切しない。

 四肢を斬り落としたので今度は両方の目玉を一閃。

 

「リスタート」

 

「ぁ……っ……」

 

「立てよカノヌシ様……テメエみたいなタイプは肉体をボコボコにしても魂の核的なところを破壊しなきゃ死なねえ。一度に四肢と目玉を破壊すりゃ魂の核的なところにまで攻撃が届くからな……良かったな。お前が神様的な存在で。じゃなきゃもっとエグい目に合わせてやったのに」

 

 ガッシリと髪を掴んで頭を下ろして膝蹴りを叩き込む。

 これ以上にないぐらいにボロボロにしたカノヌシ……これ以上は無駄だな

 

「もういいわ……満足したでしょう……殺るわ」

 

 覚悟を決めたベルベットは左腕を喰魔化させた。

 

「だからそれはダメだ、コイツは曲がりなりにも聖主と呼ばれる存在だ。このまま殺すとマジでこの世界が滅びる可能性がある」

 

「だから見逃せっていうの?」

 

「グリモワールが古文書を解読している……そこに賭ける」

 

 現代ではカノヌシの存在は皆無に等しい。だからなにかあるはずだ、カノヌシを殺す方法が。

 覚悟を決めたベルベットには本当に申し訳無いが神霊的な存在を無闇矢鱈と殺すとややこしくなる……過去にこのすばの世界に転生してアクアとエリスを民衆を操って処刑して、天上の神々と戦って皆殺しにした転生する度に櫻井孝宏キャラになるカスが色々と世界を混沌とさせて大変な事になってたからな。あの男、マジでカス野郎だからな

 

「……無かったらもう一回ボコボコにしなさいよ」

 

「ああ、お安い御用だ……で、この後どうする?」

 

「出口ならあそこにあるわ」

 

「マギルゥは……上に居るっぽいな」

 

 気配探知でこの場にいないマギルゥを探してみるが地脈の中にはいない。となれば地脈の裂け目の様なものから出ていくしかない。

 この地脈の裂け目……偶然に開いているとは思えない。まるで此処から出られるから出てこいと言っているみたいだ。

 

「零次元斬!!」

 

 此処からなら簡単に抜ける事が出来る。入ってきた時と同じく零次元斬で空間を切り裂いて無理矢理繋ぎ合わせる。

 全員の顔を見るとコクリと頷きベルベットが先頭となり開いた空間に突撃していく

 

「さてと……テメエも連れてってやるよ」

 

 全員が行ったのを確認したので倒れているカノヌシを引きずりながらオレも追い掛ける。

 地の主であるカノヌシをボコボコにして引き摺り回しているので途中邪魔が入る等という事はなく、無事に外に出ることが出来たのだがボロボロになっているマギルゥと、ボロボロにしているメルキオルがいた。

 

「あら、どうやらいいタイミングだったみたいね」

 

「遅いわ!おかげでいらんことまで口走ってしまったではないか」

 

「マギルゥ……そんなにボロボロになってまで道を繋いでくれたのか」

 

 ボロボロになっているマギルゥを心配するアリーシャ。

 どうやらあの地脈の裂け目を繋げていたのはマギルゥとビエンフーだった様だな……感謝しねえとな

 

「貴様、何故ここに!?」

 

「よう、クソジジイ。胸クソ悪いだろう。お前の思い通りにはならなくて残念だったな……だがコレが現実なんだよ」

 

 オレを見てありえないと言った顔をするクソジジイ。メルキオルのクソジジイの予定だとオレは封印をされていたんだろう。だが、なにもかも見誤っている。

 

「オレをあの程度の術式で封印できると思ったのか……オレを封印したきゃ屍鬼封尽でも覚えてきやがれ」

 

 ボロボロにしたカノヌシをぶん投げる。

 息の根を止める寸前のカノヌシはコヒューコヒューと言っており、さらなる衝撃をメルキオルに与える。

 

「馬鹿な……カノヌシと会ったのならば、お前の全てを否定された筈だ!!何故絶望しない!」

 

「……世界が背負った業も、無くならない悲しみも、アーサー義兄さんの絶望も、ラフィの決意もなにもかも知ったわ。でも、だからこそ許せない。あの2人……アルトリウスとカノヌシを」

 

「……それは」

 

「ええ、矛盾しているエゴだと理解しているわ。けど、あの温かい日々は私が……私達家族が生きていた証なのよ。だから、どんな苦しくても辛くても私はこの復讐を成し遂げるわ」

 

「名無しの権兵衛、以下略達はその復讐を見届けることを誓おう……」

 

 正義とか悪とかもう関係ない、自己満足のエゴかもしれない。だが、そこにあるのは意志と意志のぶつかり合いだ。

 

「ふざけるな!潔く諦めて死ね!絶望こそがお前の宿命なのだ」

 

「人の家族を奪って体を化け物にして今度は心まで操ろうって言うの?……アイツをぶっ飛ばしなさい」

 

「ん〜いいのか?あいつ、ある意味諸悪の根源みたいなもんだぞ」

 

「あたしが出る幕じゃないのよ」

 

 まぁ、それもそうか。

 ボコボコにしろと言われたので取り敢えずは剣に闇を纏う……

 

「無明斬りばかりじゃ芸が無いな」

 

 禍々しい黒い闇は龍の顔へと変わる。

 マスターソードに闇を纏わせて一閃、闇を纏った斬撃を飛ばす。

 

「その技は」

 

「ふんっ!!」

 

 割とよく使う技なので対策済みだろうが今回はただの無明斬りじゃない。

 メルキオルは攻撃を避けようとするのでオレは避けた方向に剣を振りかざすと飛んでいた斬撃が曲がった

 

「黒龍一重の斬」

 

「覚えておきなさい。災禍の顕主は死んでも諦めが悪いことを」

 

「己が業を恥じず、よくも」

 

「あーはっはっはっは」

 

 右腕が斬られて負傷しているメルキオルはベルベットを強く睨みつける。

 そんな光景を見てマギルゥは大笑いをする……色々と面白おかしいんだろうな。

 

「ワシも混ぜい。賭けに負けた八つ当たりじゃ」

 

「いけるの、そんな姿で」

 

「誰に向かって言っておる!自分で言うのも楽しいが地獄の沙汰もノリ次第!正義の対魔士を蹴散らす悪逆無道の魔法使い……マギルゥ・メーヴィンとはワシの事じゃ!」

 

「そう……アルトリウスに伝えなさい。あんた達は私の大切な物を奪った……絶対に許すわけにはいかないわ」

 

 ベルベットは揺るがない。例えエゴだとしても復讐を成し遂げる。

 

「……歴史にはお前の様な悪が度々と登場する」

 

「悪……もう、なにが悪か善か分からないと言うのに善悪を決めるというのか」

 

 そういえば何時の間にやらアリーシャは神依もどきを使えるようになっているな……限界を越える事が出来たか。

 

「欲望のままに世を乱し混乱と災厄を撒き散らす穢れの塊、始末に負えぬ人の業を体現した魔王がな」

 

「それが災禍の顕主ね」

 

「欲望のままに生きてなにが悪い……言い方を変えればテメエ等の理想だって欲望に塗れてるんだよ。綺麗な言葉ばかりで取り繕ってんじゃねえぞ」

 

 人の業は切っても切れない縁ならば、このクソジジイにも業がある。ただそれらしい正論とそこそこの力を振りかざして善に見せている……ただそれだけだ。

 

「今回はよく喋るな。ついでにアイフリードの居場所も教えてもらおうか」

 

 ベルベットとメルキオルの睨み合いの中にアイゼンが割って入ってきた。

 

「後悔するぞ」

 

「テメエ、マジで本当にどうしようもねえカスだな……ホントにめんどくせえ奴だ」

 

 他の皆が色々と重いものを背負ってるっていうのに……頭の硬いクソジジイはこれだから嫌だ。

 

「いでよ!!」

 

 黒い靄の様な物を作り出すメルキオル。すると空中に波紋が広がり何時かのメルキオルが用意した憑魔が現れた。

 

「ゴンベエ、アイツはオレが」

 

 ぶっ倒すから手を出すな。

 アイゼンがそう言おうとしたのだがその前に発砲音が鳴り響き、オレ達が出てきた穴にメルキオルとメルキオルが用意した憑魔を吹き飛ばす。

 

「よう、油断大敵だぜ」

 

「油断なんてしてねえよ……っち、逃げられたか」

 

 発砲音の正体はザビーダのジークフリートだった。

 久しぶりの再会に喜びたいところだが何時の間にやらカノヌシが居なくなっている。殺していないから器に戻って全力で治癒に当たっているんだろう。

 

「邪魔をしやがって」

 

「あ、そこは助けていただいてありがとうございますだろうが」

 

 睨み合うアイゼンとザビーダ……ここで開戦になったらボコるしかないか。

 

「助けてくれてありがとう」

 

 暴力で解決しようかと考えていたらライフィセットがお礼を言う。すると2人の睨み合いが終わる。

 一応は万が一があると怖いのでマスターソードで出てきた地脈の裂け目を斬り裂いて破壊しておく。

 

「ここはいったい何処なのでしょうか?」

 

「カースランドって島にある聖寮の施設だ。メルキオルが管理してるって聞いたから忍び込んできたんだが……まさかお前達と出会うとはな」

 

 エレノアの疑問に答えるザビーダ。

 まさかと言いたいのはこっちの方なんだがな。

 

「施設……?」

 

「ここはメルキオルが作った閉ざされた空間、地脈の中みたいなもんだ。俺が無理矢理作った出口がある、ついてきな」

 

 施設っぽい見た目をしていないので疑問に思うアリーシャ。メルキオルの術、もはやなんでもありだな。

 

「一旦外に出ましょう……そうじゃないとなにも始まらないわ」

 

「そうだな……ダイル達が無事かどうかも気になる」

 

 なにをするにもこの場から出ないといけない。

 無理矢理次元に穴を開けて出てもいいがそれだと色々と厄介な事になる可能性があるのでザビーダが開けた穴から出ていくことに。

 

「あ……」

 

 歩き出すライフィセットだがなにかに気付き立ち止まる。

 

「アレは……」

 

 ライフィセットと同じ格好をしているライフィセットと同じぐらいの年頃の天族。

 メルキオルのクソジジイに集中していたが、そういえばそいつも居たなと思い出しているとライフィセットは近付いていく。

 

「知り合いか?」

 

「うん……一号って言うんだ」

 

「一号ね……」

 

 明らかに人をモノ扱いしている呼び名だ。あまりいい呼び名じゃないな。

 

「ゴンベエ、意志を」

 

「ああ、分かった……って、言いたいけどアメッカ、お前がやってくれ。今のお前ならオレのオカリナを使わなくても天族の意志を解き放つ事が出来る筈だ」

 

 一号の目は虚ろだった。何時もの様に意志を縛られている。

 こればっかりはどうすることも出来ないことなので何時もの様にオカリナを吹いてほしいとライフィセットは頼むのでアリーシャに丸投げする。

 

「もう、大丈夫だな……」

 

 笛を吹くアリーシャの手は震えがない。アリーシャは大きく成長した証拠がハッキリとわかる。

 槍を完璧に使いこなす事が出来るようになったのならば……最後の段階に入れる。それさえすればオレが居なくなっても問題がなくなる。

 

「……元に戻らない?」

 

 目覚めのソナタを吹き終えたが一号の意識は戻らない。

 その事にアリーシャは首を傾げる。

 

「いや、恐らくだが最初から意志を縛られ続けた状態だったんだろう」

 

 ボーッとした状態の一号にザビーダは近付いてポンと手を置いた。

 

「よう、一緒に行こうぜ。独りでこんな所にいたらドラゴンに喰われちまう。怖いだろう」

 

「うん、怖い」

 

「よっし、じゃあ行こうぜ!!」

 

「なにを考えている」

 

 さっきまでの態度とは大きく一転しているザビーダにアイゼンは疑いの視線を向ける。

 

「放っておけねえんだよ。器ぐらい俺がどうにかする」

 

「……勝手にしろ」

 

 一緒に一号を連れて行く事に対してアイゼンはやや不服そうにしているものの、連れて行く事にした。




ゴンベエの術技

ポーズ(ビタロック)

説明

対象の時間を止める究極の技、相手の時間を止めるだけで世界の時間は停止しない。
時を止められた相手は攻撃をすればダメージを蓄積していき、時が再び動き出すと同時に蓄積していたダメージが全て解き放たれる
時の概念に干渉出来る力を用いなければ対処する事は出来ない

法典断獄斬

説明

強烈な水の渦を纏わせた刀身を海を割るかの様に振り下ろす一撃。
ダイヤモンドだろうがオリハルコンだろうが問答無用で真っ二つにする圧倒的な威力を誇る

クリティカルクルセイド

説明

時を止めた相手に決める回し蹴り。並大抵の敵ならば即死する。

黒龍一重の斬

飛ばした闇纏・無明斬りの軌道を一度だけ変更する技。
変更する際には変更する方向へと剣を振らなければならない。

死煉(しれん)達磨貶死(だるまおとし)

説明

高速の居合斬りで四肢を斬り落とし相手を達磨状態にする必殺技


スキット 決してできないわけじゃない

ベルベット「そういえばあんた、どうやって地脈まで斬撃を飛ばしたの?」

ゴンベエ「敵を次元ごと斬り裂く技を応用して別次元にある地脈に向かって飛ばした」

ベルベット「相変わらずわけわからない事が出来るわね……それにしてもどうやってピンポイントでカノヌシに」

ゴンベエ「んなもん地脈の中にいるカノヌシを探知したからに決まってるだろう」

ベルベット「……あんた、地脈の中に誰が居るのとか分かってたの?」

ゴンベエ「本気を出せば余裕で探知できる」

ベルベット「だったら最初から本気を出しておきなさいよ。フィーが地脈点を探知するの、結構苦戦していたんだから」

ゴンベエ「そりゃ無理な話だな」

ベルベット「めんどくさがらないの」

ゴンベエ「そうじゃねえよ。そもそもでオレのやってる探知ってめんどくせえんだよ」

ベルベット「どういう意味?」

ゴンベエ「多分だけどライフィセットは地脈のエネルギーとかを探知してる。けど、オレの探知は氣の探知だ」

ベルベット「氣って、確か人の目線とか呼吸とか感情とかから出てくる生体エネルギー、だったかしら?」

ゴンベエ「まぁ、大体そんな感じだ。で、オレは氣で探知をする事が出来るんだが問題はそこなんだよ」

ベルベット「なにが問題なのよ」

ゴンベエ「オレの探知は人の感情とかも読み取る事が出来る。悪人からは悪意とかを感じるし、善人からは善意を、高貴な身分の人間からは気品を感じ取ったりする事が出来る。あの時はベルベットが悲しんでるのが手に取る様に分かった」

ベルベット「……そう」

ゴンベエ「オレの場合はそこからが問題で探知の加減が上手くいかなくてな、人の頭の中まで読み取ることが出来るんだよ」

ベルベット「っ!?」

ゴンベエ「あの時は地脈の中に居たから断片的に悲しんでいるベルベットが分かったけど、もっと近い空間に居たらなにで悲しんでいるかも分かる」

ベルベット「なら、今なにを考えてるのかも……」

ゴンベエ「流石にそんなに年がら年中探知能力を発揮してねえよ……オレはな補助系の術とか回復の術は出来ないには出来ないんだが、決して使えないわけじゃない。出来すぎたり加減が出来なかったり色々と厄介な問題があるんだよ。悪いがライフィセットみたいに頼りにはしないでくれよ」

ベルベット「……だったら私がなにを考えてるか当ててみなさい」

ゴンベエ「……夕飯をカレーにするか肉じゃがにするか野菜コロッケにするか悩んでる」

ベルベット「ホントに頭の中まで分かるのね……気持ち悪いわね」

ゴンベエ「言っとくが感じ取るオレの方が尋常でない程に不快に感じるからな」


スキット 時間の波を捕まえて

アリーシャ「時を越える事が出来るのは知っていたが、時を止める事が出来るとは」

ゴンベエ「やろうと思えば時間を遅くすることも加速する事も出来るぞ」

ロクロウ「マジで無敵だな……お前が敵でない事を喜ぶべきか、それとも敵だった方が斬りがいがあったか」

ゴンベエ「おいおい」

ベルベット「そんなの出来るなら最初から……って言っても無駄ね」

ゴンベエ「最初から最後までクライマックスにしてたら最初にアルトリウスと対峙した時に終わってたぞ」

ベルベット「そうね……あんたが敵じゃなくてよかったわ」

ライフィセット「もしゴンベエが敵だったら僕達、時間を止められて殺されてたんだよね……」

エレノア「そうですね……どうすれば勝てるのか分かりません。時を止められればどの様な力も振るうことすら出来ない」

ゴンベエ「いや、どうすることも出来なくもないぞ」

ロクロウ「時間停止を打ち破る方法があるのか!?」

ゴンベエ「ポーズを打ち破る方法は3つ、1つは自分も時間を制御する」

ベルベット「それって自分も時間を操るって事でしょ。無理よ」

ゴンベエ「なら、あらゆる攻撃に対して無敵の耐性を獲る。時間停止も攻撃の一種で無敵の耐性を獲れば防げる」

ライフィセット「……どうやって?」

ゴンベエ「そういうアイテムがある。10秒だけ無敵になれる道具が」

エレノア「10秒だけ……それだけで貴方を倒すのは無理です」

ゴンベエ「最後は時の概念を歪める宇宙の力を使う」

アリーシャ「宇宙……?」

ゴンベエ「銀河の瞳を持つドラゴンとか正しき闇の力を持つ宇宙の戦士とか」

ロクロウ「そんなのがいるのか」

ゴンベエ「まぁ、一応はな……時間停止とかタイムパラドックスとかの干渉を受けない特異点と呼ばれる存在も時間系の能力は効かない」

ライフィセット「打ち破る方法があっても、それ自体が無理だからどうにもならないね」

アイゼン「……アメッカはゴンベエが時を越える事が出来るのを知っている?……」


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白銀の炎

いい加減にポケモンの方を更新しないといけないと思ってるけども中々に手がつけられない愚かな作者です


「一号ってのはな……」

 

 ザビーダは一号を見る。意識は取り戻してはいるものの元々自我が無かったのかボーっとしている。

 

「天族をモノ扱いしている証拠だ……なにか新しい呼び名を考えよう」

 

「じゃあ、ハジメなんてどうだ?」

 

 一号呼びはやめようと提案するアリーシャ。

 真っ先に浮かんだのはロクロウで名前は……多分、1から来てるんだろうな。

 

「なんでハジメなんだ」

 

「そりゃ一号だからな」

 

「だったらイチロウでいいだろう」

 

「イチロウはシグレの幼名だから却下だ」

 

「んだよ、それ」

 

 ハジメの名前はザビーダにより却下される……悪くはないんだがな

 

「イッちゃんとかナンちゃんとかどうでしょうか?」

 

「イッちゃんは分かるけど、ナンちゃん?」

 

「ナンバー1のナンです」

 

「エレノア、一から離れないか?」

 

 エレノアも一号の一に引っ張られている。

 アリーシャは引っ張られている事に少しだけ呆れてしまっている。

 

「一から離れる……オカパなんてどう?」

 

「ええ〜」

 

 ベルベットも名前を出すがライフィセットは不服そうにする。

 多分、オカッパだからオカパなんだろうな……人のことを言える義理じゃないけど、ネーミングセンス無いな。

 エレノアは可愛い名前だとオカップにしようとするのだがライフィセットは可愛い名前じゃ男の子は喜ぶ事が出来ないと却下する。

 

「ゴンベエ、なにかいい名前ないかな?」

 

「あ〜……ホライゾン・モールド」

 

「お主……普通にありそうな名前を出してきおったか」

 

「略してホモだ」

 

「おい!!」

 

 ライフィセットに意見を求められたので名前を出す。

 今までが今までだけにいい感じの名前が出たと男連中はいい顔をするのだが省略した途端に嫌そうな顔をする。

 

「名前は悪くねえけど、そりゃねえだろうが」

 

「バカ野郎、名前を付けて省略したらホモになるのは当然だろうが!!」

 

「どんな常識だよ!」

 

 ザビーダはありえないと否定するが名前を付けるときにホモになるのはもう決まっているもんだ。

 

「もっとこう、意味のある名前にしようぜ」

 

「ホモだって立派な意味があるだろうが」

 

「ふざけんな、そんな名前を付けたら可愛そうだろう!!」

 

 そんなん言ったらオレの本名なんてキラキラネームだぞ。

 ザビーダはホモは許さないと言うのでアベさんでも出そうかと悩む。

 

「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝る処に住む処、やぶらこうじぶらこうじ、パイポパイポパイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」

 

「……なにそれ?」

 

「寿限りなしで死ぬことのない寿限無、天人が三千年に一度下界に下るたびに衣で巌を撫で、巌を刷り切るのに要する時間が一劫からくる五劫のすりきれ膨大で獲り尽くせない海の幸海砂利水魚、縁起のいい水の行く末、雲の行く末、風の行く末、衣食住は欠かせず食う寝る所に住む所、生命力強靭な藪柑子やぶらこうじのぶらこうじ、昔、唐土にあったパイポという国のシューリンガン王とグイーリンダイ后のあいだに生まれ超長生きした双生児姉妹の名ポンポコピーとポンポコナ。長久と長命を合わせて長久命、長く助ける長助から成る名前」

 

「長いし覚えきれないよ!もっと真面目に考えて!!」

 

「…………………………いざ、名前を付けろって言われてもな」

 

 必死になって考えてみるものの、どうしてもホモになってしまう。淫夢要素は無い。

 なにかいい名前はないかと全員が頭を抱える

 

「シルバはどうだ?コイツの髪の色と首に付けているタグは銀色だ」

 

「シルバ……うん!それいいよ!!」

 

「うっし、決まりだな」

 

 ずっと黙っていたアイゼンが出した名前をライフィセットは認めた。

 反対する理由は何処にもないので一号は名前がシルバに決まった。

 

「礼を言うぜ」

 

「お前に言われる筋合いはない」

 

「誰がお前に言うか。シルバの代わりに言ってるんだよ」

 

 バチバチと睨み合うアイゼンとザビーダ……こいつら本当は仲がいいだろう。

 

「にしても名前、か……」

 

 嬉しそうに決まった名前を教えに行くザビーダ。

 今更ナナシノ・ゴンベエじゃなくて名前の無い人間である名無しの権兵衛だと言えない……ゴンベエ呼びが定着してしまってる。名前が無いって言ったら名付けて……いや、考えるのはやめておこう。後が恐ろしい。

 

「アレは……ドラゴン!?」

 

 ザビーダが作った穴に向かっている道中、結界に閉じ込められているドラゴンに遭遇した。

 

「何故ドラゴンが……」

 

 結界に閉じ込められているドラゴン。この結界は……恐らくは聖寮の優秀な対魔士が貼ったものなのだろう。

 聖寮の施設だからなにかとんでもない物が出てきてもおかしくはないがドラゴンを閉じ込めているとは……ホントに糞だな。

 

「恐らくこのドラゴンはカノヌシに穢れを喰わせる為のドラゴンだ」

 

「穢れを食べさせる?」

 

 意味がわからないとアリーシャは首を傾げる

 

「カノヌシは穢れを喰って人間を鎮静化する。鎮静化に成功すれば人間から業が、穢れが生まれなくなる。そうなればカノヌシは喰らう穢れが無くなってしまい眠りにつく……そうならない為のドラゴンだ」

 

「なるほど……だが、どうやってドラゴンを閉じ込めた?」

 

「……考えられる事はただ1つ、聖隷を先に閉じ込めてからドラゴンにした」

 

 アイゼンの考察を聞くと一同は沈黙する。

 天族から意志を奪っただけでなく、無理矢理ドラゴン化させた。穢れの塊を躊躇いなく天族目掛けてぶつけるメルキオルのクソジジイがいるんだから驚く事じゃないが胸クソ悪い事には変わりはない

 

「ドラゴンだけは……」

 

 新しく力を手にしたアリーシャも苦い顔をする。

 オレのマスターソードでもドラゴンだけはどうすることもできない、それがこの前証明された……ただまぁ……オレが本気を出したらどうなんだろうな。

 

「この結界を破壊すりゃカノヌシを弱体化する事が出来るんじゃねえのか?」

 

「ドラゴンを相手にしている暇はないわ……グリモワールに賭ける、あんたがそう言ったんでしょ」

 

 穢れを送り込めなくすればカノヌシを弱体化する事が出来る。

 オリハルコンの折れた征嵐を結界に向けるがベルベットにやめる様に言われたのでやめて次に進む。

 

「……僕、ベルベットのお姉さんの……子どもだったんだね」

 

「よくよく見ればベルベットと似てるところがあるな……しかし、転生か」

 

「実感が沸かないよ……」

 

「そうか?……生き物は皆、死ねば新しい命に生まれ変わるもんだぞ」

 

 次に進みながらベルベットとライフィセットの関係性について話題に出る。

 ライフィセットはベルベットの姉の子供の生まれ変わり……驚くには驚くが、それだけだ。

 

「そうなの?」

 

「オレの国では死んだら別の命に生まれ変わるっていう考えの宗教が昔からある。かくいうオレも前世の記憶が……いや、オレは違うか」

 

「違う?」

 

「気にするな」

 

 転生者は生まれ変わったとはまた違った存在だ。この世の理を無理矢理捻じ曲げた存在でキリスト教徒とかには無理、仏教的な宗教じゃないとNGな存在だった筈だ。

 そういえば世界にはオレ達が嘗ていた地球とは違う平行世界の地球から死んでもいないのに無理矢理転生させられた転生者も存在しているらしい。そういう奴等は大抵は被害者だけど極々稀にテンプレな転生者がいるからそれを狩る転生者ハンターとかいるんだよな。

 

「あんたがセリカ姉さんの子供でもあんたはあんた、私は私よ」

 

「……でも、この理論でいけばライフィセットってベルベットの弟的な存在じゃなく甥っ子でベルベットはライフィセットのお──ぐふぅ!!」

 

「それ以上言ったらぶっ飛ばすわよ!!」

 

 既に殴ってるのに……。

 余計な事を口走ったが後悔はしていない。オレはベルベットに腹パンをされるが続けて言う

 

「ベルベットはライフィセットにとって叔母さんにあたる……ベルベット叔母さん……」

 

「あんたは、ホントに……この口が、余計な、事を、言うの!!」

 

 両手を使って口をこれでもかと引っ張るベルベット。痛いが耐えられない痛みでもないのでとりあえず攻撃は受けておく。

 色々と重い空気が変わるいい話だったのか皆はクスリとオレがぶっ飛ばされるのを見て笑う。いい感じに空気が変わってよかった。

 

「追手は……来ないな」

 

 中々にザビーダが作った出口に辿り着かない。

 大地を器にしているらしいカノヌシは何処からでも出てくる事が出来る。何時襲われるかザビーダは神経を研ぎ澄ませている。

 

「シグレとカノヌシとアルトリウスはボコボコにしてる……彼奴等の最大戦力はもう無い。向こうもボロボロだ」

 

「いや、一体だけ残ってる……メルキオルのジジイが出したあの業魔だ」

 

 不安要素はもう何処にもないとするが、最後の心残りがあるザビーダ。

 メルキオル達にとって憑魔は殺すか利用するかのどちらかしかないので利用する為に生かしている……余程の存在か。

 

「あの業魔はやりやがる……それもかなりな。アレについてなんか知らねえか?」

 

「メルキオルのとっておきとしか分からない」

 

 あの憑魔について知っていることは皆無に等しいアリーシャ

 オレ達も知らない……ただアイゼンだけが無言でなにかを考えている素振りを見せる。心当たりがあるが確信は得られていない、もしくは言うべきか言わないべきか悩んでいるのどちらかか。

 

「うっし、出られたぜ」

 

「ここは……知らない島ね」

 

 アイゼンが言わないならば聞かないでおく。オレ達は地上に出ることに成功するが全く知らない島だった。

 ベルベットはオレに視線を向ける。多分、ワープしろって言う視線だろう。

 

「船にはマーキングしていない。監獄島に戻ることは出来るが……あそこにはアルトリウス達がいる。今、オレ以外が戦っても無意味だ」

 

「俺の船がある。そいつで一旦何処かの港街に移動する」

 

 フロルの風は便利だが、万能ではない。

 ザビーダが乗ってきた船に乗って帰還する事で話は纏まり追手が来るとややこしくなるのでさっさと急ごうとオレ達は走っていると別方向から穢れの塊が飛んできた

 

「っ、メルキオルか!!」

 

「アメッカ、ダメだ!そいつじゃ」

 

 槍の力を使えるようになったアリーシャは穢れの塊を斬ろうとする。

 ダメだ。アリーシャは壁を乗り越えて槍を使えるようになったがアリーシャの槍はまだ不完全、最後の段階を残している。

 案の定アリーシャの槍は飛ばした穢れをすり抜けてしまい、直ぐ側にいたシルバにぶつかってしまう。

 

「ふむ……お前が業魔になると思ったがお前は業を飲み込んだか」

 

「テメエ、アメッカを憑魔化させようとしたのか?」

 

 地脈の裂け目から出てくるメルキオルのクソジジイ。

 アリーシャが憑魔化しない事に納得した姿を見せており、腹立たしい。

 

「ああ……やぁ……」

 

「いけない、この子がドラゴンに!!」

 

「放っておけ。そいつは元々ドラゴンにする為にテレサから取り上げたものだ」

 

「テメエ、聖隷をなんだと思ってやがる!!世界を救う為だからってなにやってもいい理由にはならねえんだろうが」

 

 メルキオルの発言にキレるザビーダ。

 ジークフリートをこめかみに向けようとするが意識がシルバに向いている…………

 

「お前等、内緒にしてくれよ。空裂斬!」

 

 この戦いはもうベルベット達だけの戦いじゃない。オレも参戦するつもりだ。

 本当はこんな事をしてはいけないのを頭では分かっているが心では納得出来ていない事なので折れたオリハルコンの征嵐をシルバに向かって振るとシルバから溢れ出る穢れが消え去った。

 

「穢れを、断ち切っただと!?」

 

「生憎とオレは災禍であっても勇者であることには変わりはなくてな、邪悪なものを打ち祓うのは得意なんだよ」

 

 穢れを完全に断ち切ったオレにメルキオルのクソジジイは驚く。

 この時代にはまだ浄化の力が無いから穢れを断ち切る技は存在しない。邪悪なものを断ち切る空裂斬は穢れにとって究極の天敵だ。

 

「アイゼン、ザビーダ、エレノア、ライフィセット、マギルゥ、アメッカ、気をつけろ。あのクソジジイ、穢れをぶつけて無理矢理憑魔化させる荒業に出てきやがったぞ。一発でも受ければヤバいと考えとけ。特に天族3人。オレに頼るなよ、空裂斬は悪人であるオレにとって苦手な技なんだよ」

 

 穢れを断ち切る技があり一気に形勢逆転……ではない。

 秩序を持った悪人であるオレにとって空裂斬は苦手な剣術に部類される。使えなくもないが得意ではない。

 

「なら、私達が主体で戦うわ」

 

「おう!斬る事なら任せろ」

 

 一発でも受ければアウトに近い戦い。前に出たのは既に穢れているロクロウとベルベット。

 メルキオルの視線は……ライフィセットに向いている。悲しんでいたベルベットを再起させ立ち上がらせたのはライフィセットだったから、そのライフィセットを殺そうという魂胆だろう。となるとエレノアも危ない

 

「いやベルベットとロクロウは受けだ、エレノアとライフィセットを重点的に狙ってくる筈だ」

 

「お主、こういう時はホントに頼りになるのう」

 

「生憎コレしか取り柄がないもんでな」

 

 メルキオル討伐の為の陣形を作り上げる。

 

「悪いな、ゴンベエ……こっちは散々ムカついてんだよ」

 

「あ~……危なそうだったら止めに入るぞ」

 

 ジークフリートをこめかみに向けて数発発砲する。

 するとザビーダのパワーが上がった……神依の元となる術式が刻まれた武器だけあって凄まじいな。

 

「ザビーダは勝手に動いているけど基本的には近距離戦闘は無しで、ベルベットとロクロウと穢れの壁になってどうにかするから術系の技で攻めるぞ」

 

「術…………」

 

「アメッカ、自分を信じろ。お前はもう壁を越える事が出来た」

 

 術主体の質量による攻めの作戦を提示するとアリーシャは難しい顔をする。

 ついさっき槍を使えるようになっただけで完全に使いこなす事は出来ていない状態……そんな状態で術を使えるのかと考えるが自分を信じるんだ。

 

「分かった、ゴンベエ。やれることをやってみせる!」

 

 アリーシャは槍を地面に突き刺した

 

「ホライゾン・インフェルノ!!」

 

 地響きを巻き起こし、地脈からエネルギーを溢れ出させてメルキオルにぶつける

 

「ぐぅ!」

 

「まだまだ!テンペスト・インフェルノ!!」

 

 バランスを崩したところで属性を風に切り替える。

 竜巻を巻き起こしメルキオル宙に浮かせる

 

「ハイドロ・インフェルノ!!」

 

 宙に浮いたメルキオルにホライゾン・インフェルノの地響きで割れた大地から大量の水が溢れ出して渦となりメルキオルを飲み込む

 

「ボルケーノ・インフェルノ!!」

 

 水圧でボコボコにされたメルキオルに最後の一撃と言わんばかりに噴火する獄炎を浴びせにかかる……が、途中で消える

 

「あ、あれ?」

 

「無茶しすぎたか」

 

 地水火風の大技を練習もなにもなしで撃ったら一気にパワーを消費してしまう。

 一瞬にして疲れ果てた顔になったアリーシャの側に駆け寄るとアリーシャは足元がふらついたので抱き抱える。

 

「後は任せな!!」

 

 アリーシャが限界を迎えたがこちらにはまだ戦力が多くいる。

 ジークフリートによりパワーアップしたザビーダはペンデュラムを撓る鞭の如くメルキオルのクソジジイに向かって飛ばすのだが、メルキオルのクソジジイの手前の空間に波紋が広がる。

 

「ウゴァアアアア!!」

 

「出てきやがったか!」

 

 メルキオルの隠し玉である憑魔が現れた。

 憑魔は強い穢れを発しており、パワーアップしているザビーダすらも一瞬だが怯ませ、その隙を突かれて腹を殴られる……これはまずい。

 

「空裂斬!」

 

 ベルベット、ロクロウ、角の憑魔と強い穢れを持った奴が一同に会したのと穢れを喰う場所のせいかそこかしこに穢れが溢れている。空裂斬で穢れを断ち切るものの処理が追い付かない。

 

「無駄だ、もう穢れは満たされた。清浄な器があろうともこの場ならば穢れに飲み込まれる」

 

「ナメんじゃねえぞ、空裂斬しか穢れを打ち祓う技がないとでも思ってるのか」

 

 オレの技と力のレパートリーはこんなもんじゃない。

 

「坊よ、一旦エレノアの中に避難せい!このままではドラゴンに身を落とす」

 

 背中のマスターソードを抜こうとするとマギルゥがエレノアの中に戻る様に即す。

 今の状況から考えてそれが1番なのだろうがライフィセットは首を横に振る。

 

「こんなところで引けない……アイツを、カノヌシをぶん殴るまでは……こんなところで負けられないんだぁあああ!!」

 

「なに!?」

 

 穢れに襲われるライフィセットは眩い光を放った。

 白銀の炎が出現して辺り一帯の穢れを一瞬にして浄化し、消し去った。あまりの突然の出来事にメルキオルのクソジジイは驚く……この力は……いや、今は考えている場合じゃないな。

 

「全員、船に乗るぞ」

 

 ここでグダグダやってたらカノヌシが完全に回復して世界中の人間を鎮静化させられる。

 既にザビーダの乗ってきた船は目視出来るところにまであり、向こうの戦力は傷ついたメルキオルのクソジジイと角の生えた憑魔だけだ。

 殺したいのは山々だが、この場に長居をしすぎると穢れにやられる可能性もある。

 

「メテオラ」

 

 威力を小さくしたメテオラを地面にぶつける。

 メテオラは爆発して煙を巻き上げたのでその隙にオレ達はザビーダの乗ってきた船に乗り込み出航した。

 

「いくぞ、全速前進だ!!」

 

「追手は……来ないな」

 

 ザビーダが風を操り、帆に当てるとビュンビュンと船は進んでいく。

 メルキオルのクソジジイが管理している聖寮の施設なので聖寮の船かなにかあるかと思ったが追手は来なかった。

 

「ライフィセット……もう大丈夫ですよ」

 

 白銀の炎を放ったライフィセットは疲れ果てたのかエレノアの中に入って眠っている。

 アリーシャも一気に力を消費した疲労感で限界を迎えたのかゆっくりと眠っている。

 

「……こういう事を言うのはアホかもしんねえけど、気を緩めるんじゃねえぞ」

 

「分かってるわ」

 

 カノヌシはこの大地を器にしているっぽいので、恐らくは何処からでも現れる事が出来る。

 オレが殺さない程度に徹底的にボコボコにしたから暫くは表に出ることは出来ないが、あくまでもそれは時間稼ぎだ。カノヌシをどうにかする方法を見つけないといけない……きっとある筈だ。

 

「……ありがとう」

 

「ん?」

 

 気は緩めない状況だと集中をしているとシルバがお礼を言ってきた。

 

「礼はいらねえよ」

 

「……でも、あのままじゃドラゴンになってた。自分が自分じゃなくなるのは怖い」

 

「そうか……じゃあ、貸し1つだ。恩義を感じてるなら何時か返してくれ」

 

「……うん」

 

 オスカーとテレサを殺してベルベットの精神状態が大きく揺らいだところからはじまり、監獄島の襲撃にカノヌシの登場、アルトリウスの真実にドラゴン養殖場のカースランドと色々と大きな出来事があったがオレ達はなんだかんだと乗り越える事が出来た。気を緩めてはいけないが、一息ぐらいホッとしてもバチは当たらないだろう




ゴンベエの術技

空裂斬

説明

物理的な力技で斬るわけでも形のないものを打ち消すわけでもない、邪悪を断ち切る空の剣術
邪悪の塊である穢れを断ち切る事が出来て邪悪な存在に対してはかなりの威力を発揮するのだがゴンベエ自身は秩序を持った悪人なのであまり得意としない。

アリーシャの術技

ホライゾン・インフェルノ

説明

大地に槍を突き刺し、地響きを巻き起こし地脈のパワーをぶつける地属性の術

テンペスト・インフェルノ

説明

大地に槍を突き刺し、乱回転する竜巻を巻き起こして相手を吹き飛ばしつつ多方向から風圧をぶつける風属性の術

ハイドロ・インフェルノ

説明

大地に槍を突き刺し、水を溢れ出させ巨大な大渦で相手を飲み込む水属性の術

ボルケーノ・インフェルノ

説明

大地に槍を突き刺し、火山の噴火の如く地面から炎を噴出させる火属性の術


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それが私の進む道

「ここは……」

 

「目が覚めたみたいね」

 

 カースランドから逃亡する事に成功し、カドニクス港が目視出来るぐらいに近付いていた頃アメッカは目を覚ました。

 

「私は……」

 

「アイツが言うには一度に力を使い過ぎて起こした疲労、休めば治るそうよ」

 

 自分の身に起きた事を教える。

 アメッカは色々と吹っ切れた様で槍を使えるようになったけれど、まだそこから……スタートラインにやっと立てて今走り出した状態みたいなもの。私みたいに何年も力を使い続けていたのとはわけが違う。

 

「船に居る、ということは逃げることに成功したのか」

 

「ええ……危ない場面もあったけれど、なんとかなったわ」

 

 一難去ってまた一難、あの姉弟を殺してから今に至るまでに色々な事があったわ。

 死を覚悟した時もあったし……今思い返せばよく私達、死ななかったわね。アイツがカノヌシ達をボコボコにした事を含めても生き残れた事は奇跡だわ。

 

「そうか……気絶してしまってすまない。まだこの力に全然馴れていなくて」

 

「あんたが足手まといなのは今にはじまったことじゃないでしょう」

 

「うっ……」

 

「失敗した事を気にしてるなら、その分だけ頑張りなさい……まだ戦いは終わっていないわ」

 

 カノヌシ達をアイツが徹底的に叩きのめした。けど、それだけ。

 私の目的はカノヌシとアルトリウスを殺すことで……その為にはカノヌシをどうにかする方法を見つけ出さないといけない。

 

「これからどうする?」

 

「バンエルティア号と合流を果たす」

 

 今後の事について尋ねるとアイゼンが顔を出す。

 監獄島で別れたバンエルティア号と、アイフリード海賊団と合流する。そこにはグリモワールが居る筈だから、そこに賭ける。

 

「じゃが、その前に少し休ませい……もうクタクタじゃ」

 

「そうですね。ライフィセットの事もありますし、脅威であるシグレ様達特等やカノヌシはゴンベエが退けました。ここは一度休みましょう」

 

「ベンウィック達が今何処に居るのかもわからないしな」

 

 マギルゥ、エレノア、ロクロウも休む事を優先する。

 ライフィセットはさっきの戦いで疲れ切っていてエレノアの中で休んでいる……どちらにせよ一旦休まないと無理みたいね。

 次の方針が決まったのでカドニクス港に辿り着き船着き場に船を停めた。

 

「……世間は私達の話題で持ちきりね」

 

 宿屋に向かって足を運ぶ私達。

 歩きながらでも聞こえてくる災禍の顕主を聖寮が討伐しに行った事や行方不明だったパーシバル殿下が帰ってきた等の噂が。人の噂なんて今更気にするつもりはないけれど、世間にはそう見えてる……まぁ、どうだっていいわね。

 

「で、シルバはどうするんだ?」

 

 宿屋に辿り着きチェックインを済ませると話題はシルバに切り替わる。

 ザビーダが連れてきたシルバはまだ自我が薄いのかボーッとしているところがある。

 

「ゴンベエ、お前、コイツの器になってくれねえか?」

 

「はぁ……」

 

 いい案を思いついたとザビーダは頼み込む。

 アイツは呆れた顔をしており、お面を取り出して顔に付けると……業魔化した。

 

「っ、嘘だろ!?」

 

「嘘じゃねえ……オレは秩序を持った悪人だ。清浄な器とは程遠いし既に別の物を器にしてる」

 

 だからシルバの器になることは無理だと断り、つけていたお面を取り外すと元の人間に戻った。

 相変わらず訳のわからない構造をしているわね。

 

「だったらアメッカは?」

 

「私は別に構わない……だが、私達はこれから導師を相手に戦う。シルバは今まで意志を奪われていて聖寮に使役されていた、無関係な存在で無理に戦わせたり巻き込んだりするわけにはいかない」

 

 アメッカなら器になれなくもないけれど、これ以上は巻き込むわけにはいかないと辞退する。

 そうなると人じゃなくて物を器にするしかないけれど穢れていない清浄な器を私達は持っていない。アイツの背負ってる剣とかどうかと聞いたけど既に別の存在が器にしていて定員オーバーで入ることは出来ないみたい。

 

「ザビーダの旅に付き合わせると穢れにやられて何時死ぬか分からねえし……何処か安全な場所に行ってもらうしかねえけど……んな場所あっかな」

 

「……あ!」

 

 アイツが頭を悩ませているとアメッカはなにかを思い出して紙を取り出した。

 コレは……地図ね。私達が普段使っている地図とは大分異なるからアメッカ達が住んでる異大陸の地図

 

「ジイジ、じゃなかった。ゼンライ殿の元に向かうというのはどうだろう?」

 

「ゼンライって、あのゼンライか!」

 

「……誰それ?」

 

 名前を出してその手があったかと納得をしているザビーダ。

 いきなり出された名前を聞かされてもピンと来ないわよ。

 

「ゼンライとはボク達よりも遥かに高位の聖隷でそれこそ10000年以上の時を生きているとされる御方でフよ」

 

「雷神ゼンライと地元ではかなり有名な存在じゃ……聖隷達の意志を抑制されておる今は何処かに避難をしていると聞く」

 

「意志を縛られていない聖隷ですか……聖寮の網から掻い潜るとなれば何処かの秘境と呼ばれる場所に居る可能性が」

 

「イズチの場所は知っている」

 

 羽ペンを取り出して、私達が使っている地図と自分が持っていた地図を照らし合わせる。

 この辺りだったと私達が使っている地図にマークを刻み込むとなにかに気付いたのかアイツの顔を見る

 

「ゴンベエ……その、これは……」

 

「イズチの事を言わない約束をしたのはずっと先の話だ。この時は交わされていない約束だからセーフ」

 

「……?」

 

 なんの会話をしているのかしら。

 アメッカはプルナハ湖から少し離れたところにマークを刻んだ。

 

「割と近いところにあったんだな……スレイが直ぐに追い掛ける事が出来た筈だ」

 

「すまない……」

 

「謝るな。とにかく一度休んでからシルバをイズチに連れて行かねえと」

 

 今はまず休む事を優先する。

 各々が休息を取る。私も思った以上に疲れていたのかあっさりと眠りにつく。

 不思議ね……今までは苦しい眠りだったけれど今日はぐっすりと眠って意識を落ち着かせる事が出来る……。

 

「……お姉ちゃんって呼んだらいいの?」

 

 眠りに落ちた私は自分の腹の中にいた。

 何度もここに来たことがあるからもう馴れたもので、細長いテーブルの前にある椅子に座り、向かい側の席に座るシアリーズに問いかける。シアリーズは首を横に振った。

 

「私は聖隷シアリーズよ。セリカの記憶を受け継いだだけ」

 

「同じ人じゃないの?」

 

「いいえ、違うわ……そもそもでなにを持って同じ人なのかしら?」

 

「それは……」

 

 シアリーズはセリカ姉さんの転生体だとしても同じ人間じゃなく聖隷……

 

「姿や記憶が同じだとしても」

 

「心が変わってしまえば違うわね……」

 

 シアリーズはセリカ姉さんであってそうでない存在。

 

「もし私がセリカだとしても貴女に姉と呼ばれる資格は無いわ」

 

「そんなことは」

 

「いいえ、あります……私は全てを知っている。その上で弟であるライフィセットと妹であるベルベットを世界の為に生贄にしたのだから」

 

「でも、私は貴女を食べちゃったわ」

 

 どっちもお互い様な関係の筈よ。責めるなんてできない

 

「アレは私が望んだこと、あの時ああしなくても何れは身を捧げるつもりだったわ……私の力を貴女に与える為に」

 

「どうして?」

 

 ずっと気になっていた。

 この人がセリカ姉さんであってそうでない人物なら私に身を捧げる理由は何処にもない。

 

「降臨の日の直後に私の中にあるセリカの記憶が蘇りました」

 

「!」

 

 シアリーズの見た目がセリカ姉さんに変わった。

 

「わかってしまったの。自分がなにをしてしまったのか……優しかったあのアーサーを変えてしまったのは、冷酷なアルトリウスに変えてしまったのは私だって事に」

 

「どうして記憶が戻ったの?」

 

「……わからないわ。極稀に聖隷が人間だった頃に戻る事はあるらしいけれど……これはきっと貴方達を苦しめた罰よ。だって、アーサーを愛おしく思うほどアルトリウスが憎くなるもの」

 

 そういうとセリカ姉さんはシアリーズへと戻った。

 

「あの人を憎んでしまう私は、セリカじゃないのよ。シアリーズではあの人をアーサーに戻すことは出来ない、かといってアルトリウスを倒せない……でも貴女なら!喰魔の力を身に着け彼から得た新たなる力を完全に使いこなせる様になった貴女ならば導師アルトリウスを……」

 

「分かったわ、必ず……」

 

 アルトリウスを殺す。

 

「ごめんね、ベルベット。自分の憎しみの決着を貴女に押し付けちゃって……最後のお別れに謝りたかったの」

 

 シアリーズのセリカ姉さんの言葉に私は首を横に振った

 

「シアリーズ、貴女に会えて良かった。私はラフィのお姉ちゃんでセリカ姉さんの妹でアーサー義兄さんの妹で……幸せだったよ」

 

 あの日々はもう返ってこない。けれど、あの日々は何よりも幸せだった。

 私の言葉に満足をしたセリカ姉さんは半透明になる…………あれ?

 

「消えない?」

 

 セリカ姉さんは消えなかった。

 話の流れからしてシアリーズは私の腹の中で完全に消化される流れなのに消えなかった。

 

「ここで完全に消え去る流れよね。なんで消えないの?」

 

「おかしい……私の力はもう全てベルベットの中に」

 

「コレって、アイツの!?」

 

 テーブルの真ん中に燃える炎の様なメダルが出現した。

 コレは私とアメッカが武器を作る時に使ったメダルで……確か、炎のメダルだったかしら。

 

「このメダルが私に命を与えてる……っ」

 

「シアリーズ!!」

 

 メダルから炎が燃え盛り、シアリーズを襲う。

 私は左腕を喰魔化させて炎を喰らおうとするが炎を喰らう事が出来ない……いったい、どういうこと……

 

「この炎は……」

 

 自分を包む炎に身を焦がさないシアリーズ。

 この炎はシアリーズを焼こうとはしていない。それどころかシアリーズの物になっている。

 

「っ……」

 

「大丈夫!?」

 

「……ええ、はい…………」

 

 頭を抑えて苦しむ素振りを見せるシアリーズ。炎は完全に消え去ってシアリーズの物となったけど……いったいなんなのよ。アイツが持ってた物だから変な物であるのは変わりはないけれどまだなにか言っていないことがある可能性が高い

 

「……どうやらまた生まれ変わったみたいです」

 

「……どういうこと?」

 

「私にもよく分かりませんが、貴女の剣に宿る賢者に生まれ変わった様です。頭の中に勇者の力となれと声が流れてきます」

 

「……?」

 

「セリカであった火の聖隷であるシアリーズから剣の聖隷であるシアリーズに生まれ変わった、ということです」

 

「生まれ変わったってなにも変わってないわよ」

 

「……私にもなにがなにやら分かりません。これは……一度、彼に聞かなければなりません」

 

 セリカ姉さんは、シアリーズは消えることは無かった。

 喜ぶべきか悲しむべきかよく分からないまま私は腹の中から出ると目を覚ました。

 

「起きなさい……起きろ!!」

 

 目を覚ました私は真っ先にアイツを叩き起こしに行った。

 グースカとアメッカと一緒のベッドで眠っており、アメッカを起こさない様に慎重に叩き起す。

 

「んだよ、ベンウィック達から連絡でもあったのか?」

 

「違うわ……ちょっと聞きたいことがあるのよ」

 

「空裂斬のやり方は教える事は出来ねえぞ。アレはお前向きの技じゃない」

 

「そうじゃないわよ……賢者ってどういうこと?」

 

「は?」

 

 私はコイツに私の腹の中で起きた事を話した。

 シアリーズとセリカ姉さんとの最後の対話を済ませて別れを告げる筈だったのにコイツが持っていた道具のせいで残ってしまった。その事について話すと驚いた顔をした。

 

「あのメダルは賢者に覚醒した奴が勇者に渡すメダルだ……どうやらなにを間違えたのか、それとも正しいのかお前の中にいるシアリーズは剣となった炎のメダルの賢者……いや、確か炎のメダルは炎の精霊と協力して作られたものだから……多分、剣となったメダルに宿る精霊に生まれ変わったんだと思う」

 

「生まれ変わる?」

 

「武器にする為に使ったメダルはそれに呼応した存在が勇者に託す為のメダルだ……剣にはベルベットの血を混ぜ込んで作ってある。シアリーズがベルベットの姉の生まれ変わりならばそれに呼応したんじゃねえの?」

 

「……あんた、よくわかってないのね」

 

「いきなり叩き起こされて聞かれても困る……オレの力は勇者の力で、シアリーズはベルベットのパワーアップにぶち込んだ炎のメダルの力で賢者に覚醒してベルベットに力を与える存在に生まれ変わった……そんな感じだろう」

 

「随分とざっくりね」

 

 大きくあくびをあげて眠たそうにする。

 コイツ自身も私に与えた力がなんなのか理解していなさそう……難しく考えるよりもそういうものだと認識をした方がいいみたいね。

 

「ったく、人が気持ち良く寝ている時に叩き起こしやがって」

 

「人が折角の別れの時を台無しにした奴にだけは言われたくないわ」

 

 かなり大事な場面をぶち壊された。

 コイツがそういう理不尽な存在なのは分かっているけど、いくらなんでもそれはないわ。

 

「消えなかったからいいんじゃねえの?」

 

「よくないわよ……彼処は完全に消え去って別れる流れだったわ。それなのに……」

 

「……なんか悪い」

 

 なんとも言えない微妙な空気が宿屋の一室に流れる。

 悪いと思っているならシアリーズを消せ……なんて言えるわけもなく、気まずい空気は続くので私達は気分を変える為に宿屋の外に出た。

 

「そういえばあんた達色々と見たいものが、知りたい事があって此処までやってきたのよね。なにか成果はあったのかしら?」

 

「ん〜ボチボチだな」

 

 私達と一緒に旅をしている本来の目的を覚えているのかを聞いてみる。

 コイツラがなにを知りたいかは知らないけれど、ここに至るまでに本当に色々な事があった……その結果、1つの答えが出た。

 

「此処に来た時にはまさか世間を騒がせている海賊と災禍の顕主の仲間になるなんて思いもしなかった……前までは導師に裏でコッソリと力を貸してたりしたのに、ホントに世の中なにが起きるか分からねえ」

 

「そういえばあんた達の国にも導師は居るんだったよね……どんな感じなの?」

 

「反吐が出るような阿呆だ。会うことはない」

 

「そう……」

 

 会話が思ったよりも続かない。

 何時もよりリラックス出来ているけど、いざどう会話すればいいのかが分からない……。

 

「あんたは私の復讐をどう思ってるの?」

 

「辛くて重くて切ないものだ……だが、実に人間らしい」

 

「こんなに穢れに満ちているのに?」

 

 抑え込んでいた穢れを溢れ出す。

 己の為に戦い復讐を果たすと決意した時から私の中にあった穢れが更に膨れ上がった。並大抵の人間ならばこの穢れに当てられて業魔化してしまう。

 

「んなの関係ねえよ、お前は弟思い家族思いの立派なお姉ちゃん……お前みたいなイイ女はそんなにいねえよ……ああ、でも」

 

「なによ?不満があるなら言いなさい」

 

「アイツとかコイツとか呼ぶんじゃなくてゴンベエって呼んでくれよ。一応、オレの名前なんだからよ」

 

「……何度かは呼んでるでしょ」

 

 確かに私がコイツの事をコイツやアイツ、あんたと呼んでいる。けど、何度かは名前で呼んだ事はあるはずよ。

 

「ちゃんと呼んでくれよ、ナナシノ・ゴンベエって……名前が大事なものなのを知ってるんだろう」

 

「……ゴンベエ……」

 

「ちゃんと聞こえる声量で言ってくれよ」

 

「わ、分かってるわよ!!」

 

 いざ面と向かって名前を呼ぼうとするとなんだかむず痒くなる。

 今までにない感じでコイツの……ゴンベエの顔をまともに見ることが出来ない。

 

「……ゴンベイ」

 

「ゴンベイじゃないゴンベエだ」

 

「……ゴンベエでいいんでしょう、ゴンベエで!!」

 

「そんな流れる様に言うんじゃない!ちゃんと言えよ!」

 

「……ゴン、ベエ……」

 

「……まぁ、今日はそれで許してやるか」

 

 なんなのよ、もう。

 ゴンベエの顔をまともに見るどころか名前を恥ずかしがって呼ぶことすら出来ない……。

 

「この旅ももうすぐ終わりに向かっている……この旅が終わったらオレとアメッカは帰らないといけない。最後になったその時には名前ぐらいちゃんと呼んでくれよ」

 

「っ……」

 

 この戦いはもうすぐ終わりを迎えようとしている。

 私がアルトリウスを喰い殺すか、アルトリウスが私達を殺して世界中を鎮静化させるかのどちらか1つ……ゴンベエは私が勝つことを一切疑っていない。私なら勝てると信じている……でも、それはカノヌシも殺すことでカノヌシを殺せばカノヌシの一部であるライフィセットや穢れ放つ喰魔達は……。

 

「さて、夜が明ける迄にはもう少し時間がある……もう一眠りしてくるわ……ライフィセット、後は頼んだぞ」

 

「え」

 

「気配で丸わかりだバカ野郎」

 

 ゴンベエが宿屋に戻ろうとすると近くにコッソリと隠れていたライフィセットに声を掛けて去っていった。

 

「フィー……」

 

「ベルベット……」

 

「ダメよ、近付いたら」

 

 今の私は穢れに溢れている。聖隷にとって毒でしかない穢れ、フィーには悪いけれど近付く事すら危険なレベルよ。

 

「怖くないよ……ベルベットはベルベットなんだから」

 

 私が一歩間を開けるとフィーは一歩近付いてきた。

 

「そこで出歯亀してんじゃねえぞ、お前等も」




この後、ライフィセットは原作通りの会話をベルベットとします。
そして早く魔法少年マジカル☆ライフィセットを書きたい

スキット アリーシャが使えるようになりました。

アリーシャ「マオクス=アメッカ!!……よし」

マギルゥ「どうやら槍の力を引き出す事が出来る様になった様じゃの」

アリーシャ「ああ、やっと戦うことが出来るようになった……長かった。何度か使ってみようとしたが上手く行かなかったが今はもう使いこなす事が出来るようになった」

ロクロウ「そいつぁ良かった……しかし、急に使えるようになったな。ベルベット達の真実を見たからか?」

アリーシャ「ああ……アルトリウスの真実もライフィセットの決意もなにもかもを見た。そしてそれでも自分の復讐の道を歩もうとしているベルベットの姿も……あの時、骸骨の騎士が言いたかったのは人間の強さや優しさだけでなく弱さも醜さも見なければ知らなければならない。それを踏まえた上で前に進む力が、怒り等の負の感情も時には前に進む原動力で私には無かった……」

マギルゥ「相反する感情や穢れは異なる性質に見えて実は表裏一体となんとも簡単でマヌケな話じゃったの」

アリーシャ「本当にゴンベエやベルベットには感謝をしなければならない……人の強さや弱さは色々とあった。この旅で多くの事が分かった」

ロクロウ「感謝をするのはいいが受けた恩や義理は返さないといけない……今まで見ているだけだった分、戦ってくれよ」

アリーシャ「ああ!」


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そして全てを斬る

「よし、全快だ」

 

「あ~眠い」

 

「ゴンベエ、まだ寝たりないのか?」

 

 一夜明けたのだがベルベットに夜中起こされて訳のわからない事を問い質されたので若干眠い。

 炎のメダルが今頃になって影響をベルベットに及ぼしたのかベルベットの中にいるシアリーズを炎の賢者もしくは炎の精霊に生まれ変わらせた。ベルベットの剣に使った素材が素材だけになにが起きても別におかしくはないが、まさかの展開にベルベットは困惑していた。オレも困惑している。

 

「アリーシャ、体調がおかしくなったとかはねえよな?」

 

「……別におかしくはないが……?」

 

 ベルベットの剣に使った素材は闇のメダルと炎のメダルとベルベットの血だ。

 対してアリーシャは使えそうな素材を根刮ぎ入れた……武器の質としてはアリーシャの槍の方が上だ。現代に帰って色々と天族と関わっていく内に天族が賢者に覚醒的な展開もありえなくはない。

 

「アイゼン、テメエなんで教えなかった!!」

 

 アリーシャの体調に変化は無し。

 異常が無いのならばそれに越したことはないと宿屋の外に出るとザビーダがアイゼンの胸倉を掴んでいた。

 なにがあったのかベルベットとエレノアに視線を向けるのだが二人も今来たところで状況がよく分かっていなかった。

 

「あの時はカースランドから逃げるので手一杯だった」

 

「っち……俺はいくぜ、あいつを止める」

 

 ザビーダはアイゼンの胸倉を放して港に向かって走り去っていった……

 

「状況説明をしろ」

 

 来たばかりでわけがわからない。

 ベルベット達も状況がイマイチ察していない。ロクロウとアイゼンだけが知っている感じだ。

 

「ついさっきシルフモドキでベンウィック達から連絡があった」

 

「彼奴等無事だったのか」

 

「今はな……」

 

「どういう意味だ?」

 

「ベンウィック達はエンドガンド領にアイフリードが居るという情報を掴んで向かったらしい」

 

「おいおいおい、この状況でそれは完全に罠だろう」

 

 今の今まで色々と手を尽くした、それこそ血翅蝶の情報網を駆使してまで調べ上げた。

 それでも今の今まで姿形が捉えることが出来なくて、今になって出てきたのならばそれはもう罠でしかない。例え罠だとしてもそこに1%の可能性があるならばベンウィック達は挑むだろうが……罠でしかない。

 

「いや、そうと言えない」

 

「まぁ……今まで必死になって探しても見つからないなら聖寮が何処かに監禁してる線はあるが」

 

「そうじゃない……あの角の業魔がアイフリードだ」

 

「マジなのかえ!?」

 

 ここに来て衝撃の事実を語るアイゼン。

 あの角野郎はアイフリードだった……ということは例によってあのメルキオルのクソジジイがあの手この手を駆使して業魔にして精神をぶっ壊した……そんな感じだろうな。

 

「おそらく……だ。リオネル島で合流しようと書かれている」

 

「明らかに罠……罠なのかしら?」

 

「アイフリードがいるというのは事実じゃがアイフリードが敵という真実が隠されておる……なんとも言えんとこじゃの」

 

 どっちにせよベンウィック達だけで向かったのならば死ぬだけだ。

 

「追いかけるわよ。今、アイフリード海賊団に全滅されちゃ戦えなくなるわ」

 

「そうと決まれば船にって……私達が乗ってきた船、ザビーダが乗っていってしまって船が無い!?」

 

 やることが決まったので動き出そうとするといきなり足が無くなったことにアリーシャは声を上げる。

 これが現代だったら家の直ぐそこにある滝壺の裏に隠している蒸気船でも出すことが出来たんだがな。

 

「ゴンベエ、お前確か船に変化することが出来ただろう」

 

「出来なくはないが一人乗りだ……1人で行っても意味はない」

 

「なら奪うわよ」

 

「奪うってそんな」

 

「今更よ……災禍にしてはセコいけど」

 

「お前、意外と気に入ってないか?」

 

「ま、悪くはないわ」

 

 意外とベルベットは茶目っ気があるな。色々とやってきたが遂に船を強盗するとは思いもしなかった。

 港に出て盗める船を探す。船を盗むと言ってもなんでもいいわけじゃない。大きな商船を盗んでしまえばアイフリード海賊団の今後が色々と大変になる。何処かに手頃な船はないのかと探す。

 

「コレなんてどうでしょうか?」

 

「船体も問題ないし、私達だけでも操縦出来そうな船だな」

 

「なによりも人が乗っていません!」

 

「お前等ノリノリだな」

 

「意外と火遊びが好きなんじゃろう」

 

「ち、違いますよ!幾ら緊急事態とはいえ周りの人に迷惑を掛けてはいけない、ただそれだけです!」

 

「え~ホントでござるかぁ~」

 

 割とノリノリのエレノアを煽っておく。

 海のプロであるアイゼンが査定しても問題はない船だと分かったので早速乗り込み出航の準備をする。

 

「一応、置いておこう」

 

 なんだかんだ言って船を強奪する事なので僅かばかり罪悪感があるアリーシャは財布からお金を抜いて船着き場に置いた。

 

「出航だ、ゴンベエ。西に向かって突風を頼んだぞ!」

 

「ああ、任された」

 

 風のタクトを取り出し西に向かって突風を巻き起こす。オレ達を乗せた船はリオネル島に向かっていく。

 ここに来て死神の呪いが発動するといった事は特になくなんの問題もなくリオネル島に向かっていくのだがアイゼンは浮かない顔をしている。

 

「アイフリードと戦うのは気まずいか?」

 

「……気まずくないといえば嘘になる。アイフリードとは腐れ縁の関係だ」

 

「死神の呪いをどうにかしたいと色々とやってからこの船に居着いたんだったな」

 

「ああ……その時はアイフリードはオレを目付きの悪い影の薄い男だと勘違いをしていた」

 

「こんな大男が影薄いってそりゃねえだろう」

 

 影が薄いっていうのは黛さんみたいな人の事を言うんだ。

 

「……実を言えば、最初に出会った時から奴がアイフリードだと勘付いていた」

 

「……確信が持てなかったから言えなかったのか?」

 

「アイフリードは海賊だが業魔に身を貶す畜生じゃない。心の何処かで否定してしまった」

 

「……まぁ、人間だって見たくないものを見ようとしない部分はある。問題はそこからだ……お前は向き合えるか?」

 

 アイフリードが闇落ちした事実に。コレから戦わなければいけない事実に。

 

「オレは現実から目は背けん……アイフリードとはケリをつける」

 

「ケリ、ねぇ……」

 

「オレはオレの流儀を通す……例えそれがアイフリードでもだ」

 

 覚悟は決まったアイゼン。

 目視出来るほどリオネル島には近付いております、バンエルティア号が先に停泊していた。ザビーダの船は見えない。

 

「っち、大分出遅れた」

 

「全員、無事かぁ!!」

 

 船着き場に飛び降りて、リオネル島に足を運ぶ。

 そこにはアイフリード海賊団の面々が沢山倒れており、アイゼンは無事かどうか様子を見に駆け寄る。

 

「氣からして死んではいない……治療すればどうにか出来るレベルの怪我だな」

 

 あまりしたくないが気配探知をして全員の氣を感じ取る。

 ダメージを受けて弱っていってるが、治せない傷じゃない。致命傷に至っていない

 

「エレノアァアアアア」

 

「大丈夫ですか、モアナ!!」

 

「おっぎな、おっぎな角の業魔が」

 

 大粒の涙を流しながら怯えるモアナと腕を抱えているメディサ、それにグリモワールが姿を現した。

 

「いったいなにがあったの?」

 

「角の生えた業魔が襲ってきて……私達じゃとても太刀打ち出来なくて」

 

「ザビーダがやってきて島の奥へと連れて行ったわ」

 

 ベルベットの問いかけに答えるメディサとグリモワール。

 ザビーダが来なければアイフリード海賊団とメディサ達喰魔が全滅していた可能性がある……先に行ってくれた事に感謝すべきか。

 

「シルバ、治癒系の術は出来るか?」

 

「……うん」

 

「穢れがキツいかもしんねえが、治癒系の術を頼む……オレも一応やっておく。通名賢氣、骨禎枸根、黄考建中……通名賢氣、骨禎枸根、黄考建中……」

 

 一応と連れてきたシルバは回復系の術が使えるらしいので倒れている海賊団達に治癒系の術を使う。

 オレもヘタクソな内養功をベンウィックに施し生体エネルギーを整えて治癒する。

 

「あんた、そんな事も出来たのね」

 

「怪我を治癒するぐらいならな……上手い奴なら切れた腕を繋げる事が出来る」

 

 ハッキリと言えばヘタクソな内養功だ。加減をミスれば閃華裂光拳に変わってしまう。

 とりあえず安定ラインに達したのでアップルグミを取り出し、ベンウィックに食べさせる。

 

「ったく、弱いのに無茶しやがって」

 

「船長が、アイフリードがやっと見つかったんだ……会いに行かないなんてありえないだろう」

 

「……その結果がボコボコにされてるじゃねえか」

 

「くそっ……悪い、後は頼んだ……連れて帰ってきてくれ」

 

「……ああ、約束してやる」

 

 ベンウィックは意識を失った。

 死んではいない。受けてたダメージが大きかったから気絶しただけでオレが施した内養功のおかげで回復に向かっている。

 

「ほぅれ、纏めて治すぞ。ハートレスサークル!」

 

「コレで全員だな」

 

 アリーシャが他の船員達を一箇所に集めてマギルゥが治癒している。

 どうやら全員の治癒は終わったみたいで、動ける奴はバンエルティア号に動けない奴を乗せて休んでおけとアイゼンは命じる。

 

「本当にあの業魔はアイフリードなのかな?」

 

「今更な事をどうした」

 

「もし本当にアイフリードならベンウィック達を襲ったりしないんじゃないかなって……」

 

「確かに……アイゼン達の話から聞ける人物像からしてアイフリードはかなり強い意志を持った人です。クロガネやロクロウの様に自我を持っていてもおかしくはありません」

 

「自我を保つと言っても業魔は業魔だ、人間だった時とは掛け離れている……もしかすると業魔化した影響で精神が変わったかもしれん」

 

「心代わりをして聖寮に服従を誓ったってこと?」

 

「その線は薄いが無いわけでもない……」

 

「お前等、机上の空論を並べるのはここまでにしておこうぜ」

 

 ライフィセット、エレノア、ロクロウ、ベルベットは色々と考え込んでいるが真実は何時も1つだ。

 業魔化しているアイフリードに会えば全てが分かる。

 

「ま、大方メルキオルのジジイが幻術でも見せて業魔に貶して精神をぶち壊したんじゃろうな。パッと見た感じ、アレはもう業魔というよりも獣に近い」

 

「ホントにロクな事をしないな、あのクソジジイ」

 

 もしかしたら全ての元凶、あのクソジジイかもしれない。

 暴走するアイフリードと対峙してる際に不意打ちをしてくるかもしれないから警戒は緩められない。アイフリードは暴走をしている……戦いは回避することは出来ない。アイゼン達は戦う覚悟を決める…………。

 

「ザビーダ!」

 

 リオネル島の奥へと入るとザビーダと角の憑魔が戦っているところをロクロウが発見する。

 ロクロウが声を上げたのでザビーダはオレ達の存在に気付いてチラリと視線をコチラに向けるが、その隙を突かれてアイフリードと思わしき憑魔に殴られる。アイフリードと思わしき憑魔は敵で戦うしかないとベルベット達は戦闘態勢に入ろうとする

 

「止めろ!こいつは、この拳はアイフリードだ!!」

 

「何故やり返さない」

 

 攻撃が出来るチャンスがあるのにザビーダはアイフリードを攻撃しない。アイゼンはその事についてザビーダに聞いた。

 

「こいつには……俺を俺に戻してもらった借りがあるからよ……今度は俺が元に戻してやる番さ」

 

「……業魔は一度なってしまえば人間には戻らない」

 

 ザビーダはやる気に満ちているが、どうすることも出来ない。

 アイゼンは戦う覚悟を決めている中でベルベットはチラリとライフィセットを、アリーシャはオレを見つめる。

 

「だからって、今更流儀を変えれるかよ!!なぁ、アイフリード!」

 

 ジークフリートを取り出し、こめかみに向けるザビーダ。

 ここでパワーアップしたとしてもアイフリードを倒す力を獲るだけで戻す力は手に入らない。

 

「ガアアッ!!」

 

「ザビーダ!」

 

 ジークフリートによるパワーアップを果たそうとするザビーダだったが、その前にアイフリードが掌底で弾き飛ばす。

 アイフリード……業魔化しているとはいえ、シグレ並の強さになってるんじゃねえか、これは

 

「ヌゥウウウ!!」

 

 紫の炎を纏った拳でザビーダ……ではなくライフィセットに襲いかかるアイフリード。

 ライフィセットの元に拳が届く前にアイゼンはガッシリとアイフリードの拳を掴んだ。

 

「……お前が子供にまで手を上げるか。ベンウィック達は共に命を張った仲間だ。ザビーダは馬鹿だが仁義を通した……奴等の流儀を踏み躙るなら、テメエでも許さねえぞアイフリード!!」

 

 アイゼンはアイフリードに渾身の一発を叩き込みぶっ飛ばす。

 ぶっ飛ばされたアイフリードの倒された先にはジークフリートがあり、アイフリードはそれを手にして自分に向かって発砲するとアイフリードから溢れる穢れの量と質が上がった。

 

「お前にはデカい借りがある……今返させてもらうぜ、アイフリード」

 

「……」

 

 パワーアップしたアイフリードはとてつもなく強い。元が元だけにとんでもない。

 

「殺す覚悟、か……大丈夫か、ザビーダ」

 

 ベルベット達が総出で戦っているのでオレに余裕が出来る。

 オレは倒れているザビーダの状態を確認しに行く。

 

「させ、ねえ……っ!」

 

「お前、もうボロボロじゃねえか」

 

 オレ達が来るまでに色々とドンパチやってたのかボロボロのザビーダ。立ち上がる気力は残していても体力は残っていない。

 

「アイツへの借りは、俺が……俺が返さなきゃならねえんだ……」

 

「………………はぁ」

 

「笑いたきゃ笑え……コレが俺の流儀だ」

 

 必死になって足掻いているザビーダ……コレが未来では殺すことが救いと言い出す奴になるとは頓には信じ難い。

 オレは背中のマスターソードを抜いて青白く光らせる。

 

「借りがあるから返すのならばオレもベンウィック達アイフリード海賊団とお前に受けた借りを返さないといけないな」

 

「ああ、貸した覚えはねえぞ?」

 

「あるんだよ、それが」

 

 ザビーダには導師が現れては災厄の時代を終わらせて暫くすれば災厄の時代になるという無限ループが続いている事を教えてもらった。

 アイフリード海賊団の面々にはオレ達が正攻法の手段じゃ知ることが出来ない世界の真実や闇を教えてくれた。この旅はもう少ししたら終わってしまう……その前に、受けた恩を返さないといけない。

 

「本当はな、やっちゃいけない事なんだがよ……お前がそこまでやってるし、このままメルキオルのクソジジイの思い通りに事を運ばせるのもムカついてムカついてしょうがねえ」

 

 メルキオルのクソジジイの狙いはアイフリード海賊団の全滅とライフィセットを殺すことだろうがそうはさせない。

 この喧嘩、見ているだけはもうおしまいにしたのだとマスターソードを逆手持ちに変えて青白い光を強くして凝縮させる

 

「オーバーロード」

 

 マスターソードの光を更に強めつつ凝縮する。

 大きな力を更に大きくするのでなく一箇所に留める。圧縮螺旋丸やダイヤモンドハンドの様に力を留める……

 

「お前、なにをする気だ!?」

 

「オレは勇者だ……勇者らしく邪悪を退ける。ただそれだけだ」

 

「……まさか、お前……」

 

 オレがなにをするのか想像するザビーダ。オレは返事をしない。

 空裂斬、海鳴閃、ブラッディスクライドが出来るならばこの技は使うことが出来る。

 

「勇者の剣は大地を斬り、海を割り、空を断つ……とカッコつけてるのはいいけども、ベルベット達が程良く邪魔なんだよな」

 

 撃つ準備は出来ているが、ベルベット達が程良く邪魔をしている。

 ベルベットやロクロウは邪悪な存在なのでこの技は効果抜群で、当たってしまったら殺してしまう可能性もある。

 

「しまらねえな……鞘走りぐらい作ってやるよ!!瞬迅、旋風、業嵐……巻き起これ!ホライゾンストーム」

 

 最後の力を振り絞るザビーダは天響術をアイゼン達がいる場所の中心で巻き起こす。

 アイゼン達はアイフリードとの戦いに集中していたが為にザビーダの予想外の攻撃に反応する事が出来ずに突風に吹き飛ばされる。

 

「ザビーダ、テメエ!!」

 

「道は作った……後は、頼んだ、ぞ……」

 

 天響術が最後の力だったのかザビーダは意識を失った。

 

「勇者の剣は大地を斬り、海を割り、空を断つ……そして今、全てを斬る!!」

 

 見よ、コレこそが勇者の剣!

 

「アバンストラッシュ(アロー)!!」

 

 闘気と退魔の力を込めた斬撃を飛ばす……と同時に走り出す。

 もう一度マスターソードを逆手に持ち凝縮した光を出す。

 

「アバンストラッシュ(ブレイク)!」

 

 攻撃を飛ばすタイプのアバンストラッシュAと直接斬りにかかるアバンストラッシュBの合せ技

 

「アバンストラッシュ・(クロス)・オーバーロード!!」

 

 アバンストラッシュAがアイフリードに当たると同時にオレはアバンストラッシュBでアイフリードを☓の字になるように斬り裂く。

 

「ゴンベエ、テメエ!コレはオレがつける決着だ!横槍するんじゃねえ!!」

 

「悪いな、アイゼン……オレはもう選んだんだ。この戦いを見届けるだけじゃないって……殺さないって覚悟を決めた奴に借りた恩を返すってな」

 

 邪魔をされた事に対して怒るアイゼン。

 悪いがもう既にやったんだよ。

 

「ゴンベエ、背中の剣で斬ったのか!?」

 

 手に持っている剣を見てアリーシャは驚く。

 この時代に来てからまともに抜こうとしなかったマスターソードをここで抜いているんだから驚くしかない。アリーシャは視線をオレでなく倒れているアイフリードに向けた。憑魔化しているアイフリードもアバンストラッシュ・X・オーバーロードは効いたようでピクリとも動かず……元の人間の姿に戻った。

 

「業魔が、人間に戻った!?」

 

 今までにベルベットが穢れを喰って戻った光景は何度かは見たが、今回は違う。

 エレノアは驚きオレに視線を向ける。エレノアだけじゃない、ベルベット達も向けている。

 

「オレの剣は、このマスターソードは邪悪を退ける退魔の剣……アイフリードの中にある穢れをアイフリードごと叩き切った」

 

「ゴンベエ……これは」

 

「ああ、分かっている……やっちゃいけねえ事だって」

 

 本来ならここでアイゼンがアイフリードを殺したのだろうが、オレがアイフリードの穢れを斬った。

 歴史を大きく変えてしまう事をしてしまった……だが、後悔は一切無い。

 

「……よう」

 

「……久しぶりだな」

 

 元の人間の姿に戻ったアイフリードはアイゼンの顔を見る。

 

「長い長い悪夢を見ていた気分だ……目が覚めても死神が居るとはとことんついてねえな」

 

「ぬかせ……」

 

「色々と話してえ事もあるけど、時間はねえ……お前達、カノヌシをぶっ飛ばしたいんだよな。なら、聖主を叩き起こせ……地水火風、4人の聖主を叩き起こせばカノヌシを地脈から追い出すことが……」

 

「アイフリード!!」

 

「やっぱ(クロス)はまずかったか……」

 

 意識を失うアイフリード。アイゼンが抱きかかえる。

 腹にはXと大きな傷が残っており、ライフィセットは直ぐに治療をはじめるのでオレも手を翳して内養功でアイフリードの氣を整える。

 

「……礼は言わんぞ」

 

「オレには言わなくていい……だが、ザビーダとアイフリード海賊団の面々には言っておけ。彼奴等から受けた恩を、借りた10を11にしてオレは返した。ただそれだけだ」

 

 本当ならばやってはいけない事だが、他の奴等から受けた借りは返さなければならない。

 とりあえずアイフリード海賊団から受けた今までの恩はコレで返すことが出来た、次になにをしなければならないのかが分かった。

 そしてオレは歴史を変えてしまった。本来なら、テイルズオブベルセリアならばアイゼンがアイフリードを殺していたのだろうがオレが元に戻して生かした……だが後悔はない。こういうことをやってこその転生者じゃないのかとオレは思う。




ゴンベエの術技

オーバーロード

説明

圧倒的な退魔の力を放出するのでなく一点に凝縮させる事で退魔の力と切れ味を増す奥義。使い続けるとマスターソードにヒビが入る

アバンストラッシュ(アロー)

説明

大地を斬り、海を割り、空を断つ勇者の剣を1つにした闘気剣を相手に向かって飛ばす勇者の奥義

アバンストラッシュ(ブレイク)

説明

大地を斬り、海を割り、空を断つ勇者の剣を1つにした闘気剣で直接斬りかかる勇者の奥義


アバンストラッシュ(クロス)

説明

アバンストラッシュAを撃つと同時にアバンストラッシュBで斬り裂く勇者の奥義


アバンストラッシュ・(クロス)・オーバーロード

説明

マスターソードのオーバーロード状態を維持した状態で放つアバンストラッシュX


ゴンベエの称号


歴史を変えてしまったもの


説明

本来の物語ならばここで死ぬはずだった男を今まで受けた恩を返すべく助けた結果、歴史を大きく変えてしまった。
彼はそのことについて後悔はない。転生者ならば原作ブレイクの1つや2つ、してもなんら問題はないのだから

アリーシャとゴンベエの合体秘奥義とか考えてるけど中々に使う機会がない。

この小説書いてるとタドルクエストとタドルファンタジーとタドルレガシーが浮かぶ。
タドルクエストは勇者の力を得た主人公が魔王を倒すゲーム(第一部)
タドルファンタジーは主人公の魔王が勇者を倒し世界を征服するゲーム(第二部)
タドルレガシーは勇者と魔王の力を得た主人公が、古の神々と戦い姫を救うゲーム(第三部)


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叩き起こすには……

「……っ!!」

 

「目覚めたか!」

 

「アメッカか……アイツは、アイフリードはどうした!」

 

「あそこにいる」

 

 意識を失っていたザビーダ様が目を覚ました。

 私の顔を見ると朧気だった意識は直ぐに覚醒をしてアイフリードの居場所を訪ねたので、ゴンベエ達が居るところを手で教えると一目散に走っていった

 

「アイフリード!!」

 

「うるせえぞ、内養功はヘタクソな部類に入るんだから騒ぐんじゃねえ!失敗して閃華裂光拳になる!」

 

 アイフリードの元に駆け付けたザビーダ様だが、ゴンベエに邪魔だと蹴飛ばされる。

 ゴンベエはライフィセットと一緒にアイフリードの治療をしている。ゴンベエがつけた傷が思いの外、治りが遅いらしい。

 

「やっぱ調子に乗ってアバンストラッシュ・X・オーバーロードなんて技使うんじゃなかったな……手加減してもこのレベルか」

 

「アレで手加減していたのですか!?」

 

「当たり前だ。アバンストラッシュってのは本来魔王をぶっ殺す為に作られた必殺技で……フルパワーでやってたらアイフリード真っ二つになってた」

 

 あの時ですら尋常でないほどの力を感じたというのに、アレでもまだ手加減していたのか。

 ゴンベエの底知れない力に驚いているとライフィセットとゴンベエがアイフリードを治癒する術を止めた。アイフリードのお腹には大きなX印の傷がついているが出血は完全に治まった。

 

「とりあえず一命は取り留めたよ」

 

「そうか……」

 

 アイゼンはアイフリードと決着をつけるつもりだった。それをゴンベエが邪魔をした。

 結果的には元に戻ることが出来て生還する事が出来たのだがなんとも言えない微妙な空気が流れている。この空気を壊す事を言うべきなのか悩んでいるとずっと口を閉じていたエレノアは口を開いた。

 

「偶然、じゃないのですよね」

 

 アイフリードが元に戻ったのは奇跡、偶然と呼ばれるものじゃない。

 この時代に来てからは滅多な事では手に取る事すらしない背中の剣の力のおかげだ。この時代にはまだ浄化の力やそのシステムは存在していない……それを分かっていたからゴンベエは今まで使わなかった。

 

「貴方が業魔を元に戻すことが出来るならばメディサを、モアナを……ベルベットを元に」

 

「やだよ、めんどくせえ」

 

 使わなかった力を今ここで見せつけたのでエレノアは縋るがゴンベエはめんどくさそうにする。

 

「おい、折角そんなスゲえ力があるんだ。使わなきゃ勿体ねえだろうが」

 

「めんどくせえからパスだパス……アイフリードを元に戻す事で今までと後少しだけ受けるアイフリード海賊団の面々の恩とお前から受けた恩を返しただけだ」

 

「別に使わなくていいわよ……喰魔になった私が私なのよ。今更元の人間に戻りたいとは思わないわ」

 

「だな。例え戻ったとしても人間だった頃にはもう戻れない……俺が元に戻っても直ぐに業魔に戻っちまう」

 

 ベルベットとロクロウはゴンベエの浄化の力を拒んだ。今の自分はこういうものなのだからと業を背負っているのだから

 

「貴方達はそれで構わないかもしれません。ですが、モアナは」

 

「オレはやらねえ……どうしてもって言うならライフィセットに頼み込め」

 

「……僕に?」

 

「メルキオルのクソジジイがカースランドを穢れに溢れさせた時、お前は白銀の炎を出した。何故お前なのかは知らないがオレの推測が正しければアレは……ライフィセットでも元に戻すことが出来るはずだ」

 

「……ライフィセットが元に戻せる……」

 

 この時代には浄化の力は存在していない。浄化の力はマオテラスが齎したもので……いや、まさか……だが、それだと辻褄が合う。

 ライフィセットについて新たなる事が分かり出しているとザビーダはアイフリードに触れるがアイフリードはピクリとも反応しない。かろうじて呼吸をしてお腹を動かしているだけで、深い眠りについている。

 

「オレのアバンストラッシュ・X・オーバーロードで受けた傷が治るのに時間がかかる。仮に治ったとしても元に戻るまでのリハビリに時間がかかる……今すぐにでも目覚めてオレ達と一緒に聖寮と戦うのはどうあがいても不可能だ……特に精神が」

 

「メルキオルのジジイが見境なく暴れさせる程に精神をボロボロにしおったからのう……心の傷に特効薬は存在せん。もしかすれば一生立ち上がれんかもしれんの」

 

「……立ち上がるさ、アイフリードなら」

 

 ザビーダ様はアイフリードの心の強さを知っている。

 例え今は眠っていても何時かは必ず目覚めて、自分が知っているアイフリードとして戻ってくるのを信じている。

 

「大のおっさんを運ぶのは一苦労だ。バンエルティア号が停まってるところにまで連れてくのを手伝え」

 

「ああ……だが、その前に1つだけケジメはつける。オラァ!!」

 

「ぐっ!!」

 

 アイフリードに肩を貸すゴンベエのお腹にザビーダ様は拳を叩き込んだ。

 

「テメエがどうしてそんな大層な力を持っているかは知らねえし使わねえ流儀なのかもしんねえが、ロウライネで救えた筈の奴等を見捨てた事実には変わりはねえ……アイフリードの事もある。今回はコレでチャラにしてやる。貸せ」

 

 ゴンベエからアイフリードを奪うザビーダ様。

 右肩をザビーダ様が、左肩をアイゼンが貸してアイフリードを連れて行く。

 

「ったく、アイツのせいで神依が生まれたってのに……文句を言いたいのはこっちもだ」

 

「ゴンベエ」

 

「ああ……言いたいことがあるなら非難したいなら好きなだけしろよ」

 

 今の今までゴンベエは浄化の力を振るわなかった。

 今になって振るったので今まで見捨ててきた命について責められても仕方がないとするが私は別に責めるつもりはない。

 それを言えば私もゴンベエがどうにか出来ることをずっと知っていたのに誰一人打ち明ける事なく今の今までいた。同罪だ。

 

「……コレで、よかったんだ」

 

 後世にまで歴史に名を残すアイフリード海賊団の船長であるアイフリードを救った。

 これはきっと歴史を揺るがする事態であり、私達は歴史を変えてしまった。過去の出来事だからと見捨てる事は出来ない反面、過去の出来事だからと納得しなければならない部分もあるので……この行いに正しいのかどうかは誰にも分からない。けど、誰かの命と心を助けることが出来た。それでいいんだ。

 

「ライフィセット、白銀の炎は出すことが出来ますか?」

 

 アイフリードを助けた事は頭の隅に置いておき、話はライフィセットに変わる。

 ベルベットとロクロウは元に戻るつもりはないが、どうしてもモアナを元に戻したいエレノアはライフィセットに白銀の炎を出せるかどうかを尋ね、ライフィセットは普通の炎を出してションボリしている。

 

「僕に、そんな力があるのかな……」

 

「ゴンベエが押し付けたのなら、きっと出来るはずです」

 

「……お前、仮にライフィセットが今からバンエルティア号に向かう時点で白銀の炎を使いこなせる様になってもモアナ達に使うんじゃねえぞ」

 

「何故ですか!?」

 

「モアナ達が元に戻ったら何処かの誰かが何らかのキッカケで喰魔化するだろう」

 

「っ……そうでした……」

 

 モアナ達を元に戻したくても、戻してしまえば誰かが喰魔化してしまう。

 ロクロウやダイルの様なカノヌシとなんら関わり合いがない憑魔ならば元に戻しても問題はないが……モアナを戻せば見知らぬ誰かを犠牲にしてしまう。エレノアは辛そうな顔をする。

 

「問題は無いわ。アイフリードの言うとおりなら他の聖主とやらを叩き起こしてカノヌシを地脈から追い出せば喰魔は不要になる筈よ」

 

「……ゴンベエ」

 

「んだよ?」

 

「それが分かっていたからモアナ達を元に戻すのを……」

 

「めんどくせえだけだ」

 

 相変わらずゴンベエは何枚も上手にいる存在だと思い知らされる。

 ゴンベエはなんだかんだで全てを理解している……まだまだ私は頭の方でも未熟だな。

 

「副長……船長!!」

 

 道中襲ってくる憑魔は私達が倒しつつ、船着き場に戻るとベンウィックが出迎えてくれた。

 

「そっちの方はどうだ?」

 

「誰一人、死人が出てないっす」

 

「そうか……こっちも死人0だ」

 

「業魔が人間に元に、戻ったんですか?」

 

「戻ったんじゃない、戻したんだ……アイツがな」

 

 ゴンベエの顔を見るアイゼン。ゴンベエはめんどくさそうな顔をしている。

 

「ゴンベエ……あんがとう」

 

「お前に礼を言われる筋合いはねえ……今までとコレからバンエルティア号に乗車する代金を身体で支払っただけだ」

 

「そこは素直に礼を受け取ってくれよ」

 

「アホ、オレに善意的なのは存在しねえ。秩序を持った悪人なんだぞ……」

 

 ゴンベエはベンウィック達の感謝の言葉は受け取らない。素直じゃないのかそれともめんどくさいのか、それは私にも分からない。

 私達が、アイフリードが無事に帰ってきたので海賊団の団員達はアイフリードに群がるのだがゴンベエが木刀を使って退ける。

 

「はい、感動の再会タイムは終了だ。このままだとアイフリードは死んじまうから」

 

「え、出血は抑えたし傷ならもうゴンベエが付けた傷以外は治したよ」

 

「アホ……今のアイフリードは何時目覚めるか分からない状態だ。憑魔なら飲まず食わずでいいかもしんねえけど、人間に戻ったのならば体から水分は無くなる」

 

「そっか……」

 

 常に一緒にいる仲間が人間でないのでその辺りの事をライフィセットは忘れていた。

 眠りについているアイフリードを一旦寝かせるとゴンベエはゴムで出来た管をアイフリードの鼻に突っ込んだ。

 

「お前、なにやってんだ!?」

 

「鼻を経由して胃袋に直接食事を注ぎ込む準備だ……ホントに何時目覚めるか分からねえからな……衰弱の具合からして点滴もぶち込んどくか」

 

「点滴?」

 

「人間の体液に近い成分が入ってる液体を体に打ち込むんだ……回復系の術じゃどうにも出来ない系の事だ。ちょっと船に置いてるので即席の点滴を作ってくるわ」

 

 ゴンベエはそう言うとバンエルティア号の中に入った。

 

「よく分からねえが、アイツの言うとおりにして大丈夫なのか?」

 

「この中で医術を知っているのはゴンベエだけだ……彼奴は異大陸を越えた更に先の大陸の出身で、この国よりも遥かに優れた文明の住人だ。怪しさや胡散臭さはあるが信頼と信用は出来る。アイフリードは今日、明日で直ぐに治るものじゃない。オレ達は次に行く」

 

「次か……シルバ」

 

「……なに?」

 

「お前は俺と一緒に今からイズチに行くぞ……ゼンライの爺さんなら受け入れてくれる」

 

「……でも」

 

「清浄な器が無くて穢れに満ちている場所じゃ聖隷は生きれねえ……なに、ゴンベエに借りがあるならば何時か返せばいい。俺達は聖隷だ、人間よりも何百倍も長く生きる……借りたもんを返す時はちゃんとやってくるさ」

 

 ザビーダ様はシルバを連れて自分の乗ってきた船に戻った。

 シルバと一緒にこの後、イズチに向かうのだろうが私が現代でイズチに辿り着いた際には姿はなかったので……きっと何処かにいるのだろう。

 しかしそう考えれば今まで意志を開放して助けてきた天族に現代で顔を合わせていない……ローランスの方に居るのだろうか?それだと私の運は最悪だろう……今更か。

 

「四聖主の復活ね……確かにそれがかなえばカノヌシをどうにかする事が出来るわね」

 

 ベンウィック達がアイフリードを担架に乗せて運んでいったので私達は次の行動に移る。

 グリモワールさんにアイフリードが言っていた四聖主の力で地脈から追い出す方法をベルベットが話すとグリモワールは頷く。

 

「カノヌシを叩き出せば、カノヌシが抑えている聖隷の意志を解放する事が出来るかもしれません」

 

「そうなるときっと対魔士に従わない聖隷も出てくるね」

 

「対魔士達の戦力を大きく削げるわ」

 

「いやもうオーバーキルだろう。アルトリウスとカノヌシとシグレとメルキオルのクソジジイ、ボコボコにしてるんだぞ」

 

「まぁ、やるからには徹底的にのぅ。そもそもでカノヌシの力を抑えるというのは高まった霊応力も下げて今まで見えていた聖隷や業魔が見えなくなる……エレノア、お主、坊が見えなくなる可能性があるぞ」

 

「可能性が1つでもあるならば後悔はしたくありません」

 

 アイフリードが残した唯一の手掛かりは無下には出来ない。

 エレノアは覚悟を決めたのだが、此処で色々と疑問が出てくる。

 

「叩き起こすと言っても四聖主とやらは何処に居るんだ?」

 

 肝心の聖主の居場所が分からないとロクロウは言う。

 

「祀られている神殿が眠っている地脈点の筈よ」

 

「てことはモアナと出会った場所と最初に地脈に飲み込まれた時に出た場所と……後2つか……」

 

「血翅蝶を使えば聖主の信仰があった土地や神殿を見つける事が出来る……監獄島はもう見つかってしまっている以上は新しい拠点も必要となってくる。一旦、ローグレスに行くか」

 

「それはいいが、問題はどうやって叩き起こすかだ。今まで目覚めのソナタを何回も吹いていて一向に目覚める気配はない……どうすんだ?」

 

 ロクロウとアイゼンが次の目的地を決める。

 後はどうするか……此処に来てから私が何度もオカリナを吹いて天族の意志を解放したが、聖主と呼ばれる存在は目覚めなかった。なにか特別な方法で目覚めさせなければならないのだろうか。

 

「多分、目覚めさせる方法はカノヌシの時と一緒よ」

 

「此処に来ての生贄かよ……その辺のゴキブリとか牛とか亀とかじゃ駄目なのか?」

 

「ダメよ。殺すのが本質じゃない。穢れのない人間の魂を捧げないと」

 

「……」

 

 穢れのない魂の人間……そんなのどうすればいいんだ。

 

「しかもカノヌシと同じ方法なら緋の夜に捧げないと」

 

「ふぅむ……ベルベット、お主はもしかすると穢れなき魂を持っておるかもしれんぞ」

 

「……オスカーとテレサ!」

 

 ここに来て喰らった2人の姉弟が出てくる。

 ベルベットは喰らったものを吐き出す事が出来る喰魔で、穢れなき魂を取り込んだのならば試してみる価値はある……だが

 

「穢れなき魂を持っているのはベルベットだけだ。聖主がいる地脈は4箇所で緋の夜に注ぎ込まないとなると」

 

「それならフォーソードの力を使ってベルベットを4人に分ければ」

 

「そうなるとオスカーとテレサの魂だけじゃ足りなくなるわよ」

 

 問題はまだまだ山積みだ。このままだと聖主を目覚めさせる事すら難しい。

 

「地脈点の中なら無理かもしれないけど、地脈浸点ならいけるかもしれないわよ」

 

「地脈侵点?」

 

「地脈は基本的には水平なんだけど、極稀に縦に流れてるところがあるのよ。力が地脈の底に潜っていくのを地脈浸点、逆に奥底から湧いてくるのを地脈湧点というのよ」

 

「ほうほう、それを利用して地脈の底にいる聖主に魂を叩き込むか……で、何処にあるんだ?」

 

「ミッドガンド領の北部に浸点が1個だけあるわ……ただ、そこには最近神殿が出来たらしいの」

 

「そこは……カノヌシを祀る神殿じゃないのですか?」

 

 ミッドガンド領の北部で神殿と言えば一番最初にアルトリウスに挑みに行ったところだ。

 ……そうか。地脈浸点だから神殿をあそこに建設したのか。

 

「あら、ごめんなさい……となると……」

 

「無いのか……」

 

「湧点じゃダメかな?地脈の底に繋がってるのは一緒だし、押し込めば」

 

「ここに来ての力技か……なんとも私達らしいな」

 

「だったらキララウス火山がいいわ。あそこは最大の地脈湧点の筈よ」

 

 新しい目的地が決まったので私達は地図を取り出してこれから向かう目的地に印をつける。

 

「ノースガンド領に向かうぞ。キララウス火山はヘラヴィーサの北にある」

 

「パスカヴィルの婆さんに顔を出しとかなくても大丈夫か?」

 

「血翅蝶は世界中に編みを張り巡らせている。騒ぎを起こせば直ぐにでも見つかるさ……ベンウィック!!」

 

「はい!何時でも出航出来ますよ!」

 

「なら直ぐに出るぞ!!」

 

 やることと目的地を決めた私達はリオネル島を後にした。




スキット まだ間に合う

ベルベット「そういえば……悪かったわね」

アリーシャ「……?」

ベルベット「聖主の事よ。あんた、最初にカノヌシに対抗する為には聖主がどうのこうの言ってたじゃない。それを無視して喰魔を集めたでしょ」

アリーシャ「ああ、その事か。今となっては気にすることじゃない」

ベルベット「あんたはそうかもしれないけど一応はケジメをつけておかないと気が済まないのよ」

アリーシャ「確かに意見を聞いてくれない時は辛かった。だが、そうしないと今に至れない……色々と思うことはあるが後悔はしていない」

ベルベット「そう……あんたは後悔していないのね」

アリーシャ「世界の残酷な真実も現実も、全て私が見届けなければならないものだ。それらを踏まえた上で前に進む、いや、進まなければならない……この旅が終わっても、いや、終わってからが私の戦いの本番だ」

ベルベット「この旅が終わったらあんた達は帰る」

アリーシャ「ああ……だが、最後までなにがあろうとも見届ける。ベルベットの味方として、仲間として……きっとそれが私の力になる……本当に此処に連れてきてくれたゴンベエには感謝をしきれない……」

ベルベット「……ゴンベエはその本番についてきてくれるの?」

アリーシャ「え?」

ベルベット「ゴンベエはもう大丈夫だって成長したあんたを見て納得してたわ。もう自分が側に居なくても大丈夫なところまで来てるって」

アリーシャ「……」

ベルベット「あんた達の国も色々と大変なんでしょう。ゴンベエはその戦いに参戦しなくて平気なわけ?」

アリーシャ「……ゴンベエはハッキリと嫌だと断っている。嫌がっている人間に無理強いはさせたくはない……でも、私が原因でまた誰かが利用されてしまうかもしれない」

ベルベット「あんた、国に帰らない方がいいんじゃない」

アリーシャ「それはしない……私とゴンベエは本当ならばここに居てはならない存在だ」

ベルベット「誰もあんたとゴンベエの事を邪魔なんて思ってないわよ。あんた達は私達と……共犯者よ」

アリーシャ「そこは仲間じゃないのか!?」

ベルベット「違うわ。災禍の顕主と手下でもあるわ」

アリーシャ「手下って……一応だが私は導師の従士を務めていた事もあるのだが」

ベルベット「よかったじゃない。世界を滅ぼす魔王と世界を救おうとする導師の両方の手下になれて」

アリーシャ「よくない!!」

ベルベット「なら……ちゃんと救いなさい、あんたの国を。あんたが守りたいものを……私はもう無理でもあんたは間に合う筈よ」

ちょっとした転生者雑学

転生特典は時としてその世界に違和感がない仕様に作り変えられる。
仮面ライダーのベルトが転生特典でワールドトリガーの世界が転生先の場合、仮面ライダーのベルトはトリガーの一種になる。
もし仮にFateの世界で仮面ライダーの力を手にしている場合、ドライブ、フォーゼ、一号、ゼロワン等の超常的な科学技術で変身しているタイプの仮面ライダーの場合は石ノ森章太郎の疑似サーヴァントとなっており、そうでない神秘的な力で変身している場合は現代にまで残ってる宝具、オーパーツ的な扱いになっている。
ゴンベエがゼルダの伝説に出てくる道具とか武器とか使って浄化出来たりしているのはゼルダの伝説に出てくる武器や道具が一部テイルズオブゼスティリア仕様に切り替わっていたりする為

この小説書いてるとタドルクエストとタドルファンタジーとタドルレガシーが浮かぶ。
タドルクエストは勇者の力を得た主人公が魔王を倒すゲーム(第一部)
タドルファンタジーは主人公の魔王が勇者を倒し世界を征服するゲーム(第二部)
タドルレガシーは勇者と魔王の力を得た主人公が、古の神々と戦い姫を救うゲーム(第三部)

アリーシャとゴンベエの合体秘奥義、どのタイミングで出そうか……もしかすると出せないかも。


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意思と穢れの無い世界

宙船とベルセリアはベストマッチだと思う


「はい」

 

 アイフリードは何時目覚めるのか分からない状態だ。死んではいないが誰かが常に見張らないといけない。

 団員達に栄養剤の注入方法をレクチャーしたので船の甲板に向かうとクロガネとロクロウが真剣に話し合っていたので丁度いいと折れた征嵐と折られた部分の征嵐を渡した。

 

「まさか金剛鉄(オリハルコン)の征嵐が折られるとは」

 

「相手が悪かったとしか言いようがねえよ」

 

 折れたオリハルコンの征嵐を手に取るクロガネ。

 とりあえずは返すことが出来たので、また新しく打ち直してもらう……とは行かなそうだな。

 

「いや、相手がシグレだった場合でも折られていた可能性が高い……金剛鉄はただ硬い、それだけだ」

 

「すまなかったな……無心になって打ったつもりが、まだ號嵐に届かなくて」

 

「気を落とすな。お前は紛れもない超一流の名工だ……號嵐に勝ちたいが為に業魔になったお前が迷って悩んだ末に出した一品を期待している……それとも諦めたか?」

 

「コレが諦めた男の顔に見えるか?」

 

「おいおい、顔ねえだろうが」

 

 既に顔が無くなっている憑魔の心情を読み取るなんて難しい。ただまぁ、やる気には満ちているだろう。

 

「そういえばお前さんの剣はまともに見た覚えはないが、どんなのだ?」

 

「お前等が逆立ちしても触れねえよ……ん」

 

 触れなくても見ることは出来る。

 退魔の力を震えばクロガネとロクロウを浄化してしまうので力を極限まで抑えて見せる。

 

「いい剣だ……コレなら號嵐にもかないそうだな」

 

「ああ……参考にまで教えてくれ。この剣はどうやって作られたんだ?」

 

「邪悪な魔王を倒して欲しいという女神の思いが込められてる」

 

「思いか……金剛鉄はただ硬いだけの代物。ならば硬くて強い思いが籠もった素材ならば、號嵐を越える征嵐を」

 

「思いが籠もった素材って鉱石は何処まで行っても鉱石だぞ」

 

 オリハルコンはこの世で最も硬い素材だ。

 オリハルコンがどれくらいの硬度かはしらねえが超合金よりも上の金属と見ている。そんなオリハルコンでも無理なら素材はないはず…………だよな。

 

「この折れた征嵐はどうすんだ?」

 

「俺にはもう無用な代物だ」

 

「オレもだ」

 

「だったら、普通の刀に打ち直してくれ……オリハルコンの武器なんて早々に手に入らない。それを加工する職人もお前しか知らん」

 

「ああ、任された」

 

 クロガネは頷いた……オリハルコンで出来た刀はロマンが溢れるな。日本刀だけど名前をアルテマウェポンにしようか。

 折れた征嵐をリサイクルすることが決まったのと自分の物になることになったので小さくガッツポーズを取る。

 

「……っ、なにかが来るよ!!」

 

 船が順調に、恐ろしいぐらいにスムーズにノースガンドに向けて向かっているとライフィセットがなにかに気付く。

 それに遅れてアリーシャの槍が、オレの手の甲にあるトライフォースが眩く輝いて光の膜の様なものをオレとアリーシャに貼る。

 

「これは」

 

「カノヌシの領域だ!!」

 

 前に似たような事があった事を思い出しているとアイゼンが分析し教えてくれた。

 

「おい、カノヌシは徹底的にシバき倒した。こんなに直ぐに領域展開出来るもんなのか?」

 

「それは分からん。だが、カノヌシの領域が展開しているのは事実だ」

 

「それはまずいんじゃないのか!?カノヌシは人間から意志を奪う力を持っていて私達は」

 

「いや、カノヌシは完全に覚醒していない。ベルベットの中の絶望を喰らうことが出来ていない……だが、それでも充分な力はあるようだ」

 

 一大事だというのにボーッと突っ立っているベンウィック達。

 先程まで見せていた活気は無くなっております、鎮まっている……世界中の人間をこんな風にするとかマジでクソみたいな事を企んでやがるな。

 

「あ……ぅ……」

 

「まだ完全に意識を奪われていない……ゴンベエ、なにか曲を弾け」

 

「いきなりだな!」

 

「魂に干渉しているならコチラも魂に干渉する、心を揺さぶるメロディをベンウィック達に聞かせるんだ」

 

 別に目覚めのソナタでもいいんじゃないかと思ったが、アイゼンからそう言われたのでギターを取り出す。

 魂を響かせるような曲……いきなり曲を弾けって芸能人に面白いことをやってと言われるぐらいの無茶振りだぞ。

 

「え~と、え~と……よし」

 

 あの曲にしよう。

 

「おらは死んじまっただ おらは死んじまっただ おらは死んじまっただ 天国に行っただ。長い階段を 雲の階段を おらは登っただ ふらふらとおらはよろよろと 登り続けただ やっと天国の 門についただ 天国よいとこ一度はおいで 酒はうまいし、ねえちゃんはきれ──」

 

「もうちょっとマシな曲にしなさい!」

 

「お前、こっち無茶振りだぞ」

 

 ベルベットから不服申立があったのでギターを止める。

 ベンウィック達の様子を見てみるとピクリとも反応していない。帰って来たヨッパライでは反応が悪いようだ……え~と、え~と……。

 

「I don't wanna know 下手な真実ならI don't wanna know 知らないくらいがいいのに Why... 気づけば I came too far 止まらない 感じる この予感は The new beginning 未知の領域 今を切り拓くんだ I gotta believe Turn it on 相当 EXCITE EXCITE 高鳴る EXCITE EXCITE 心が導くあの場所へ 駆け抜けていくだけ Hey I'm on the mission right now Hey I'm on the mission right now EXCITE EXCITE 答えは I. この手の中 II. 進むベき Life III. 生きていくだけ」

 

「っ……」

 

「一瞬だけ反応した……他だ、他の曲を……船乗りの曲はないのか」

 

 まだ目覚めないベンウィック達だが反応はあった。

 EXCITEはどちらかといえばベルベットに合う曲でベンウィック達に合わない。アイゼンは更なる曲を要求してきたのでなにかないかと頭の中を探り、ピッタシの曲が浮かんだ。

 

「その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ お前が消えて喜ぶ者に お前のオールを任せるな!!」

 

「っ!!」

 

 よし、ベンウィック達が反応した。

 

「その船は今どこに ふらふらと浮かんでいるのか その船は今どこで ボロボロで進んでいるのか 流されまいと逆らいながら 船は挑み 船は傷み すべての水夫が恐れをなして逃げ去っても その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ お前が消えて喜ぶ者に お前のオールを任せるな!!」

 

「副、長……っ」

 

「ゴンベエ、もっとだ!!もっと弾くんだ」

 

 意識を取り戻すベンウィック達。この歌は当たりだったか。

 

「その船は自らを宙船(そらふね)と 忘れているのか その船は舞い上がるその時を 忘れているのか 地平の果て 水平の果て そこが船の離陸地点 すべての港が灯りを消して黙り込んでも その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ お前が消えて喜ぶ者に お前のオールを任せるな!!」

 

「オレ達は……っ」

 

 ベンウィックの意識が戻った……が、戻っただけだ。

 カノヌシからの干渉を受けているのか頭痛がしているのか僅かながら苦しそうな顔をしている。歌い切るしかない。

 

「何の試験の時間なんだ 何を裁く(はかり)なんだ 何を狙って付き合うんだ 何が船を動かすんだ 何の試験の時間なんだ 何を裁く秤なんだ何を狙って付き合うんだ 何が船を動かすんだ その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ お前が消えて喜ぶ者に お前のオールを任せるな その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ お前が消えて喜ぶ者に お前のオールを任せるなぁ!!」

 

「ベンウィック、お前のオールは、お前の舵はお前が握るんだ!!」

 

「っ、はい!!」

 

 オレの歌でベンウィックの意識は覚醒した。

 ベンウィック達だけでなく他の船員達も目を覚ましており、オレはギターの演奏を止めるのだが、止めるとベンウィック達が若干だが虚ろな目をしている。くそ、手当り次第色々と曲を弾けってか。

 

「アイゼン、このままノースガンド領まで行くのか!」

 

「いや、予定変更だ。このままお前に曲を引かせ続けてたら限界を迎える。一度、休息を取るためにも何処かの港につける!!」

 

 曲を弾き続け、ベンウィック達の意識を保たたせている内に進路を変える。

 オレもフォーソードの力で分身を生み出して風のタクトを使い船が向かうべき進路へと風を吹かせ、曲を弾き続ける。歌も歌わないといけない。潮風にやられて喉がガラガラになろうが体の奥から声を出してなんとかゼクソン港に辿り着いた。

 

大丈夫か

 

「頭が……油断すると意識が持ってかれる」

 

「気をしっかりと持て。意識が集中できないなら歌かなにかを歌って気持ちを昂らせろ!!」

 

 なんとか港に辿り着いたオレ達だがカノヌシの領域から抜け出たわけではない。

 油断をすると意識を持ってかれそうなベンウィックはここに来るまでの間に歌った歌を口ずさむ。こういうときにレコードがあればいいんだが……あれ、そういえばアイゼンにレコードの作り方、何時教えるんだろう。

 

「コレは……」

 

 港は何時もならば活気付いているのに今日は恐ろしく静かだった。

 あえて静かにしているのかと住居地区方面にアリーシャは視線を向けるのだが、そこにはさっきまでのベンウィック達の様に虚ろとなった目でブツブツとなにかを呟いていた。

 

これが鎮静化……アルトリウス達が目指した穢れの無い世界か

 

 ガラガラにな声になりながらもアルトリウス達が目指している世界を目の当たりにする。

 何時もの様に言い争っている人間は何処にもいない。静かさだけが感じ取れる

 

「あ、船止め料のおじさんだ!」

 

「鎮静化を免れていたのですね」

 

 何時もベンウィック達に船止め料をボッてくるおっさんがこちらに向かってやってくる。

 こんな状況だから顔を知っている人と会えるのはホッとするのかエレノアとライフィセットは側に近付くのだが船止め料をボッてくるおっさんはエレノア達に視線を向けていない。

 

「私は利を貪った。他人を蹴落とし利用した。特急手配犯を見逃すどころか手を貸して事業の拡大を測ろうとしていた」

 

 ブツブツと呟く船止め料のおっさん。

 エレノア達を無視して、船着き場の端っこにまで向かう……おい、待て、まさか……

 

「やめてください!!」

 

「私は穢れを生み出してしまった。私は死ななければならない」

 

 海に身を投げようとする船止め料のおっさん。

 エレノアは駆け寄って身投げを止めるのだがおっさんの方が力が強いのかおっさんは身投げをしようとする。

 

「死ななければならない、死ななければ」

 

「っ、違う!!」

 

 おっさんの行為を、言葉をエレノアは否定しようとする。だが言葉は届かない。

 おっさんの身投げを阻止する事が出来ずこのままではエレノアも巻き込まれると鉤爪ロープを取り出そうとするとベルベットがおっさんをぶん殴った。

 

「死ぬのは勝手よ。でも、死ななければならないってのは気に食わない」

 

「己が穢れを自覚したら自殺する……一度でも付いてしまった汚れは落ちぬのならば、最初から無かった事にする。実に理に適った理じゃの」

 

「舵を奪うどころか生き死にまで押し付けやがって」

 

 カノヌシの鎮静化にキレるアイゼン。オレはチラリとアリーシャを見つめる。

 

これがお前の描く理想の1つの終着点だ

 

 穢れのない世界を見たいと心より願っているアリーシャ。

 アルトリウスが今から作り出そうとしている世界は人から業を奪い、それでも業を持つものは間引く。

 

「違う……こんなの、こんなの私は望んでいない」

 

「お前がそう思っていなくてもコレも1つの答えだ」

 

 人間が人間らしく生きていない。代わりに穢れは放たなくなる。

 意識を抑制する事で世界を救う……人の意志とかそういうのを踏み躙ってまで生まれるのが穢れのない世界……全く、この世界はロクでもない……いや、こうすることで痛みを世界から無くすつもりだったのか。

 

「なにが起こってるのか調べるわよ……嫌なら船に」

 

「いや、残るつもりはない」

 

「ええ……現実は辛いかもしれませんが目を背ける事は出来ません」

 

 此処から先は地獄……痛みというものを忘れ去ろうとしている1つの天国でもあり地獄でもある世界だ。

 アリーシャ達はその現実を見ようとする。ならばとベルベットは次の行き先を……カノヌシの領域がどれだけの範囲なのか力なのかを確認すべくローグレスに向かうのだが、その道中は酷いものだった。

 自分のやっていた行為を愚かだと認めて出家しようとする土産屋、酒と赤聖水に溺れていた罪を反省し全ての酒を断とうとする船員、マギルゥ達を奇術団だと思っていた商人、自分が老いてしまったから世の中にはもう不要だとする老人、ペットを無駄飯ぐらいだと捨てた親子と口にするだけでも気分が悪くなる者ばかりを見てきた。地獄を見てなければ多分吐いてただろう。

 

「王都も見事に鎮圧化されておるのう」

 

 道中色々な人に会いながらもなんとかローグレスに辿り着いた。

 そこもゼクソン港と同じく意志を奪われている機械化していった人達で溢れかえっていた。

 

「全部カノヌシの力か。大した神様だ」

 

まったく神なんてロクなもんじゃねえな

 

 ローグレスの人達も意志を抑制されたのを見て圧巻される。本当にロクでもないものだ。

 ローグレスの街の人達は規則正しく生きよう、街の名物の噴水は無駄なもの、自分の部屋にある飾りは無駄なものと言っている事は一応は間違ってはいないが、それでも人間が自分らしく生きているとは程遠い行動や言動をしている。それ以外にも酒場は無くなって当然、心水()や赤聖水はなくなればいい、食事は味を求めるのでなく栄養と腹を満たすだけでいいなど色々と無茶苦茶を言っている。

 例え穢れを放っても、業を背負っていても胸を張って生きていたほうが人間らしい……人間から人間らしさを奪った世界は醜いとかそんなんじゃなくなにもない世界だ。

 

「意識が残っている人達は居ないのかな」

 

ちょっと待ってろ……

 

 なんとも言えない世界に悲しそうな顔をするライフィセット。オレは気配探知能力を使う。

 オレの気配探知は人の感情を読み取ったりする事が出来るもので、加減がヘタクソで他人の頭の中まで読んでしまう。今は鎮静化されていて意識が奪われている連中ばかりだが……くそ。

 普通ならば色々な感情が入り乱れて気持ち悪い感覚に襲われるのだが、そんな感覚は一切入ってこない。それだけ意思が抑制されているのだろうが……!

 

あっちだ

 

 意思を残している人間を見つけた。

 オレが先導し走っていくのだが、途中オレ達をなにかの影が覆う。

 

「なんだ、アレは!」

 

 空を見上げて驚くアイゼン。

 天使みたいな天族が飛んでおり、オレ達が向かっている方向に飛んでいく

 

「ママぁ」

 

「っ、子供の声」

 

 静かすぎるが故に響く子供の鳴き声

 

「ママァ……マーマ~」

 

「っし!感情を出してはいけないわ」

 

「さもないと奴等が」

 

「アレはパーシバル王子とタバサ!」

 

 意思を抑制されていなかった人達の元に辿り着くとそこには殿下と婆さんと女の子がいた。

 数日ぶりの再会だと喜びたいのだがそんな暇は何処にもない。天使みたいな見た目をしているモンスターが殿下達の存在に気付いて襲いかかるのでアリーシャが飛び出す

 

「マオクス=アメッカ!!」

 

 自分の真名を叫び、神依の様な姿へと切り替えるアリーシャ

 天使みたいなのに攻撃をする、のではなく殿下達の居るところに槍を突き刺して結界の様な物を作り上げて結界から氷の槍を作り出し、上空にいる天使みたいな天族に当てる

 

氷帝舞踏陣(フリーズロンド)!!」

 

ったく、頼もしくなってくれたなおい

 

 相手は殺しても問題は無い存在なので無明乱れ切りで殺そうかと思ったが先にアリーシャがぶっ殺した。

 自分の使えなかった力が使えるようになってホントに頼もしくなった……と、喜んでる場合じゃない。

 

で、んか大丈夫か?

 

「ゴンベエ……生きていたのか!?」

 

「そういうのは後よ。タバサ、何があったのかを教えなさい」

 

「……殿下が逃してくれたのよ。聖寮が感情を残した人間を離宮に集めてるって」

 

「離宮に向かうわよ。なにが起きているのか確かめないと」

 

「攫われてしまった子供もいる。頼む……王族である私がこんな事を言える立場ではないが、助けてくれ」

 

「誰が助けるものですか……勝手に暴れるだけよ」

 

 なんだかんだでツンデレだなベルベット。

 タバサは女の子を連れて自力で逃げ切ってみせると言うので任せるとオレ達は離宮を目指す……最初、何処ぞの大司祭をぶっ殺そうとした時と同じ道を辿っていく。




スキット クソもやくにはたつ

グリモワール「あんた達、よく生きていたわね」

アリーシャ「危うく全滅仕掛けましたが色々とありまして……」

グリモワール「いい顔になってるわ、覚悟が決まった顔ね。彼は相変わらずだけど」

ゴンベエ「オレは早々に変わらねえよ……もうとっくに変わったって言った方がいいのか……そっちもなんだかんだで無事でなによりだ。特にあんたが死ぬと古文書の解読が出来なくなって詰む可能性がある」

グリモワール「私が居なくなってもあの子が古文書を解読するわ……けれど、古文書を解読したところでカノヌシに対抗出来たかどうか……」

アリーシャ「古文書にはカノヌシをどうにかする方法が書いてなかったのですか?」

グリモワール「カノヌシが喰らわないといけない穢れは量じゃなく質とか色々と読み解けたけど、どうにかする方法は無かったわ」

ゴンベエ「アイフリードが居てくれて良かったか……四聖主を叩き起こして地脈から追い出す以外に道はなさそうだな」

ロクロウ「そういや、気になってたんだが四聖主を叩き起こしてカノヌシを地脈から追い出したらカノヌシはどうなるんだ?」

エレノア「どう、とは?」

ロクロウ「そのまま本体であるベルベットの弟がヒョッコリと地面から飛び出てくるのか、それとも別のなにかが飛び出てくるのか」

グリモワール「聖主と言っても基本的な構造は聖隷と変わりはない筈よ。この場合だと……器を無くす、のが正しいのかしら?」

エレノア「器をなくす……折角地脈からカノヌシを追い出しても新しい器を見つけられれば厄介ですね」

グリモワール「その心配は無用よ。カノヌシは大地レベルの物しか器にしか出来ない。その辺の清らかな清流の水とか希少な鉱石で出来たコインとか器にする事は出来ないわ……この大地以外で器になりそうなものだと月ぐらいじゃないかしら?」

ゴンベエ「おいおい、月かよ。ロケットでも作れってか!?」

ライフィセット「ロケット?」

ゴンベエ「分かりやすく言えば月に行く事が出来る船だ。滅茶苦茶訓練しないと乗る事が出来ない代物で……月に行かれると、行くまでに10年ぐらい掛かる」

グリモワール「あら、10年あれば行くことが出来るのね」

ゴンベエ「軽いな、おい……宇宙飛行士の訓練みたいなの修行の一環で受けさせられたけど、精神擦り減らすぞアレは」

グリモワール「貴方達人間は先を急いでるけれど、聖隷にとって10年なんてあっという間のものよ……因みにだけどどうやって行くの?」

ゴンベエ「作用反作用の法則を使ってガスを噴射して船を飛ばすんだ」

グリモワール「そんなガスあったかしら?」

ゴンベエ「アメッカのウンコから作れる」

アリーシャ「ウン──ゴンベエ、なにを言っているんだ!?」

ゴンベエ「バイオ燃料って言ってな、ウンコとかが腐って出すガスが燃料になるんだ」

ライフィセット「石炭とかじゃダメなの?」

ゴンベエ「いや~無理無理、石炭は物理的に重いし燃料としての質が低い。だが安心しろ。アメッカ1人がコレから出す生涯全てのウンコを用いても足りない。エレノアやマギルゥ達にも協力してもらう。皆のウンコをもらう」

エレノア「絶対に嫌です!!なにが悲しくて自分の出した物を他人に渡さないといけないんですか!!貴方、それセクハラよりも酷いですよ!」

ゴンベエ「でも、真面目な話、月に行くならば10年ぐらいかけて準備しないといけねえし、バイオ燃料でロケット飛ばさねえと効率悪いぞ」

エレノア「……カノヌシを地脈から追い出したら即座に倒しに行きましょう!10年も掛けてられません」

グリモワール「私も流石にウンコを動力にした船はパスするわ」

スキット 一大プロジェクト

アイゼン「お前、月に行くことが出来る船を作ることが出来るらしいな」

ゴンベエ「作れなくもない……ただし最低でも十数年は掛かる。素材を集めて作ってだけじゃなく、乗組員も鍛え上げなきゃならねえからな」

アイゼン「ならば船はどうだ?異大陸の更に先に行くことの出来る船ならばどれくらいで出来る」

ゴンベエ「素材さえあれば直ぐに作れるには作れるんだが……ただなぁ……」

アイゼン「なにが問題だ?別にオレはウンコを動力にした船でも構わない」

ゴンベエ「いや、そうじゃなくてな……この国の造船技術を考慮しても、オレの知っている船を作るんだったら、1つの団体とか商会の組合が作るのは無理だ」

アイゼン「無理だと……何故出来ん?」

ゴンベエ「シンプルに素材と金と人が足りない。船に必要な素材である鉄鉱石が埋まっている鉱山が。船を組み立てる為の人が、乗組員が、物の流通の要である金が……バンエルティア号がこの大陸でもトップクラスの造船技術ならオレの知っている船を作るには、国がスポンサーになってもらわないと作り上げる事は不可能だ」

アイゼン「普段からベンウィック達をパシリに使っているが、それでもダメなのか」

ゴンベエ「ベンウィックをパシらせて作ったのは個人や複数人で作れる物でオレの生活を快適にするものだ。異大陸を越えるレベルの船を作るとなれば工業の世界に入る……それでもどんなのかみたいって言うなら設計図だけでも書いてやろうか?」

アイゼン「いや、生殺しは勘弁だ。設計図があってもお前が居なければ作ることは出来ないだろう?」

ゴンベエ「まぁ、エンジン関係はな……」

アイゼン「……異大陸に行くには国の一大プロジェクトレベルの船を作らないといけない。その為には希少な鉱石に人材に金……鉱山……鉱石か」


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自分が自分である為に

「穢れを無くした世界か……」

 

 ギデオン大司祭を暗殺しに通った地下道を通りながら私は呟く。アルトリウスが語った理がどのようなものなのかを目の当たりにした。

 人々から穢れは発する事が無くなった……ただ代わりに人間から人間らしさを全て奪い去った。穢れや業等はいけないものでそれをどうにかすればとつい最近までそう思っていたのだが、人は業と密接に繋がっている存在でどうにかする事自体が間違いだった。業や穢れとは向き合わなければならない、そんなものだった。

 だがアルトリウスは違う。多くの人々から業を穢れを消し去った。業や穢れを持っている者は死ぬべきだという価値観を押し付けた。結果的には穢れが無くなった世界にはなったが、美しくもなければ清らかでもない。歪な世界となっている。

 

「コレが私の終着点の1つ……」

 

 私も穢れの無くなった世界を見たいと思っている。

 ただこんな世界は望んでいない。確かに穢れを消し去ることは出来るが人間が人間らしく生きる事が出来ていない世界だ……だが、ゴンベエは私の目指す終着点の1つとして捉えている……理には適っているがそれでも間違っている。

 

感傷に浸るのは構わんが、次を見ろ。意思を持っている連中は集められている……絶対にロクでもない事が待ち受けている

 

 声がガラガラになっているゴンベエはめんどくさそうな顔をする。

 アルトリウス達の目的は意思を奪うことで現在カノヌシは不完全ながら領域を展開している。意思を奪えなかった人間は……ゴンベエの言うとおりロクでもない事になっているだろう。

 

「やぁああ!!助けて、助けてぇええ!!」

 

「アレは……」

 

「考えるよりも手を動かしなさい」

 

 離宮に辿り着くと天使の様な見た目をしている天族が子供に対して魔法陣の中に閉じ込めていた。

 魔法陣の様な物を展開しておりなんなのか見ているとベルベットは左腕を喰魔化させて天族を喰らう。考えている暇は何処にもない。既に戦いは始まっているのだから、戦わなければならない。

 もう見ているだけの人間でなくなった私は槍を取り出し、回転させる。

 

「渦流天樓嵐!」

 

 竜巻を巻き起こし、天使の天族にぶつける。

 

「この登場の仕方、まるでヒーローじゃのう」

 

「そんなものとは掛け離れているわ」

 

ヒーローってのは無償の正義を貫く血反吐が出るぐらいにキツいものであって、コレは暴徒だ

 

 今の私達はヒーローじゃない。むしろ悪役だ。

 だがそれでも誰かを助けることが出来た。私達は魔法陣を展開している天族を倒した。

 

「もう大丈夫ですよ」

 

 捕まっていた子供の側に駆け寄るエレノア。

 見たところ外傷は無いので良かったと私はホッとする。

 

「……ママは処刑されたわ。あたしの為に貴重な食料を奪ったから」

 

「っ!!」

 

「……あの魔法陣は直接意思を奪うものか」

 

 カノヌシの力がまだ不完全だ。領域の力が及ばなかった人達から直接意思を奪い取る、それがあの魔法陣の力。

 アイゼンは苛立った顔で舌打ちをしておりなにか出来る事はないのかと頭の中を駆け巡らせる。カノヌシの鎮静化が今までと同じならば……そうだ!

 

「この曲を弾けば」

 

 今まで抑制された天族の方達の意識を解放してきた笛を吹いた。

 虚ろとなっている子供の瞳に生気が宿ったので意思を解放することが出来た……そう思ったのもつかの間、子供の瞳は再び虚ろになる。

 

「理に反したのならば死ぬのは当然」

 

「アメッカの笛が効いていない?」

 

「いや、効果はあった。じゃが、カノヌシがもう一度上書きした……此処を乗り切るには先程のベンウィック達の様にある程度は強い自我を保っておかなければカノヌシの鎮静化は耐えられん」

 

「そんなっ……」

 

 テクテクとエレノアの横を子供は歩いていき、離宮を出ていく。

 それと同時にパーシバル殿下が現れた……普通に離宮にやってきたのだろう。

 

「コレがアルトリウス様の目的の最終地点ですか」

 

「……ああ、そうだ。これこそが導師アルトリウスの望む理想世界だ……」

 

「知っていたのか、こんな間違った世界に変わり果てる事を!」

 

 エレノアの問いかけに答えるパーシバル殿下。

 誰がどう見ても歪だと答える世界に変わる事を知っていた上で……

 

「我々は知っていた……穢れと業魔化の仕組みがある以上はこうするしかない。全てを知り考慮した上で我々はアルトリウスを受け入れて導師と崇めた」

 

「何故そんな事を!」

 

「……そうするしかなかった。最初の開門の日以降、人々は業魔化を視認する事が出来た。業魔化を業魔病と誤魔化したがそれだけで業魔となる人間が多く増えてこのままだとこの国は滅びを迎えるだけだった」

 

毒を食らわば皿までか

 

 国を助けるための大義名分でアルトリウスを受け入れた。国の重役達は全てを承知した。

 浄化の力すらないこの時代ではそうせざる負えない状況だった……国を救うためならばどんな事でもやるつもり……もし道を間違えれば、この時代の住人だったらそう選択したのかもしれない

 

「悲しみもないけど、笑顔も無い。憎しみも争いもないけれど愛も無い世界……」

 

 私達は一旦離宮を出る。

 子供がテクテクと歩いて行く姿をエレノアは止める事が出来ずに心を痛める。

 

痛みも迷いも悩みも絶望も喜びや楽しみに密接に繋がっている。行く手を阻む痛みと迷いと絶望は夢と勇気と友情で(ロード)を切り開かないといけない……まぁ、それが出来るほどに強い人間はそうそうにいない

 

「世界中がこんな事になってるのか?」

 

「いや、聖主の御座から近いローグレスで意思を奪われていない人間が僅かながらだが居る。ゴンベエが徹底的に叩きのめしたのを考慮してもカノヌシの領域はまだ不完全だ」

 

「カノヌシの領域が完全じゃないけど、広まっていくのを感じるよ」

 

「広まっていく、ということはまだ完全に世界中に領域を展開しきれていないということか」

 

 ベルベットの中の絶望を喰う事が出来なかったか、それともゴンベエが死ぬ寸前まで追い詰めたのかは分からないが完全な鎮静化にはなっていない。しかしそれも時間の問題で何時かは世界中の人間がこのローグレスの街の住人の様に意思を奪われてしまう。

 

「……」

 

 今まで頭では理解していたが、いざ実際目の当たりにしてパーシバル殿下は言葉を失う。

 国を救うためとはいえ、人が人として生きることが出来ない生きる事に意味が無くなるこんな世界、耐える事が出来ない。例えそれが穢れが無くなった世の中だとしても……私は穢れを選んでしまう。これも業なのだろう

 

「王子、グリフォンは無事だよ」

 

「っ……そうか……良かった」

 

 言葉を失うパーシバル殿下に朗報を知らせる。

 喰魔であるグリフォンは無事に生き延びている。その報せだけでもパーシバル殿下の心は涙を流す。

 

「ゴンベエ、君は嘗て私に世界について教えてくれたな……私の世界は今まで自分というものを持っていなかった……だが、こんな時だからこそ自分というものが、心の大切さがなんなのか理解が出来た。私の世界は汚く穢れに満ちているかもしれない……だが、それでも自分は自分なんだとはじめて気付くことが出来た……自分の世界と理想世界は掛け離れている」

 

こんな世界を理想郷(ユートピア)だと言うのならばそいつは狂ってるかめんどくさがり屋のどっちかだ

 

「身勝手なのは承知だ……だが頼む!導師を……アルトリウスを、人の鎮静化を止めてくれ」

 

 パーシバル殿下は頭を下げた。

 この理想とする世界を破壊してくれと頼み込む。

 

「あたしは心を凍らせた人は生きているとは言えないわ」

 

「うん。昔の僕がそうだった」

 

「私は誰かに頼まれたから行くんじゃない、私は自分の意思でアルトリウスを殺すわ……自分が自分である為に」

 

「変わったな、君は」

 

 今まではずっと弟の為だとベルベットは言っていたが、これからは違う。己の意思で戦う。

 

「以前の貴女は憎しみに囚われた剣だった……けれど今は違う。自分の意志で剣を振るうのね」

 

 子供と一緒に逃げた筈のタバサも現れ、ベルベットの変化に気付く。

 

「相変わらず鞘は無いけれどね」

 

ならオレが鞘にでもなってやろうか?

 

「あら、私の剣は熱いわよ」

 

こっちは地獄の業火を目の当たりにしてんだぞ。お前の炎なんて生温い

 

 クスリと笑うゴンベエとベルベット……ゴンベエはいったいどんな地獄を目の当たりにしたのだろうか。

 

「心配いらないよ。ベルベットに危険が迫ったら僕が守るから」

 

重いぞ、その言葉は……生半可な覚悟で言ってるんじゃねえだろうな?

 

「うん。絶対に守り抜いてみせるよ」

 

「素敵ね。鞘になってくれる殿方と貴方の事を守ってくれる殿方、二人に囲まれて」

 

「ええ……二人共イイ男よ」

 

 なんだかはじめてベルベットがゴンベエを褒めた気がする。

 

「アイゼン副長、アイフリード船長は……」

 

「何処ぞの災禍の勇者様が海賊と喧嘩屋に借りた恩を返す為に助けた……この鎮静化は聖寮が人間の積み上げてきたもの全てを踏み躙ったものだ。この手でぶち壊さなきゃ気が済まねえ」

 

 覚悟を見せるアイゼンを見てタバサは頷き、私達を見る。

 己の意志で己を貫く為に戦う、そんな面々がここにはいる。自分が自分らしく生きる為にもアルトリウスと戦わなければならない。

 

「あたしも身勝手ながら祈らせてもらうわ……この世界の片隅に生きる醜い人間の一人として」

 

「醜いか……」

 

 アルトリウス達からすれば今の私達は醜く愚かな存在だろう。

 だが、どうしてだろう。自分が自分らしく生きようとしているだけなので不思議と悪い気分ではない。

 

「よっしゃあ!気合いも乗ってきた事だし、このまま聖主の御座にでも乗り込むか!!」

 

「阿呆!斬り込む前に色々と準備がいるんじゃろうが!!」

 

 暴走するロクロウをマギルゥが止めた。今の状態で聖主の御座に乗り込むのは自殺行為でしかない。勢いとノリに任せるのはダメだ。

 

「進路は途中でズレたけど、元に戻すわ。予定通り四聖主を叩き起こしてカノヌシを地脈から叩き出すわよ」

 

「アルトリウスは現在ゴンベエから受けた傷の治療に当たっている……カノヌシもかなりボロボロにされていて時間はそれなりに残されている。やり残していた事があるのならば今のうちにしておいた方がいい」

 

そうだな……アメッカ、一発で、んかをぶん殴っとくか

 

「え?」

 

「そうね……世界をこんな胸クソ悪く変わるのを知っていたのに今更止めてほしいなんて無責任にも程があるし、アルトリウス達は私達が殺るとして誰かが1発ぐらい国の重役をぶん殴っておかないとケジメがつかないわ」

 

「……そう言われればそうだな」

 

 パーシバル殿下が言っている事はあまりにも身勝手過ぎる。今回の一件を、真実を知れば多くの人が暴徒となるだろう。

 王族を裁ける人間はそれこそ神の如き存在で、その神の如き存在が私達の敵ならば誰かが裁かなければならない……のだろうか。流石に殺すことで裁くのは駄目だが、今回の一件は許せる行為ではない。ベルベットの言うようにケジメは必要だ。

 

「いや、待て。話がおかしい、私はそういう意味で言ったのでは」

 

今まで色々と罪を積み上げてきたんだ、受け入れろ。なにオレ達は他所の国の住人だ……バレなきゃ問題ない

 

「いきます!スゥー……フン!フン!フン!」

 

「さ、3発ですか」

 

 こういうのはちゃんとして置かなければならない。

 一発目は私達の意思、2発目は聖寮の人達の意思、3発目は無関係な一般市民の意思だ。

 

「お……ぉぅ……」

 

 私から受けた拳が痛かったのか膝をつく殿下。コレが罪の重さだ。

 

その痛みは他人に向ける怒りの痛みだ……オレ達はこの国の人間じゃねえからコレ以上はやらねえけど、悪いことをすんじゃねえぞ……次の国王はお前なんだから……この痛みを覚えておけよ、屁以下。世界ってのは繋がってるんだ

 

「あ、ああ……きっと変えてみせる」

 

後、今回の事に関しては記録を付けるんじゃねえぞ。ベルベット達が暴れたとか誰かが記録を残しておかなきゃダメでどうしてもって言うならば……オレとアメッカに関する事は絶対に記載するな。歴史の闇に葬り去れ

 

 もしかすると殿下と会うことは最後になるかもしれないので釘を刺しておく。

 こういうところで色々と言っているから歴史上には私とゴンベエが残っていない、載っていない。アフターケアはしっかりとしている。

 パーシバル殿下に3発拳を叩き込んだのでスッキリした私達はゴンベエの魔法でゼクソン港に向かうと金色の狼がいた。

 

「おぉ、久し振りだな。最近、出てこないから居なくなっちまったかと思ったぞ」

 

 最近全く姿を現していなかった狼。確か次はロクロウの番だった……どんな技をロクロウは授かるのだろうか。

 ゴンベエは狼の姿に変身すると金色の狼と共鳴する様に遠吠えを上げると何時もの様に真っ白な空間に移動していた

 

「……ありがとうございます」

 

 何時も通り骸骨の騎士が現れたので一先ずは頭を下げてお礼を言う。

 

「あの時に言っていた事ならば今ならわかります」

 

 かつて私は自身の槍を使いこなす方法を骸骨の騎士に聞いた。その結果よく分からない答えが帰ってきた。

 

「醜い生き物でもあり美しい生き物でもあり馬鹿な生き物であり賢い生き物である……全部が間違いであり全部が正解だった」

 

 あの時伝えたかった事が分かった。人が背負いし業というものを今ならば理解できる。理解できるからこそこの槍を使いこなせる様になれた。

 あの頃よりも成長する事が出来たと私は自分の真名を叫び神依の様な形態に成り代わる。この力は今ならば使いこなせる……

 

「ふっ!!」

 

 槍の先端部分に力を集束し、力の塊の様な球体を作り出す。

 私も真似をし球体を作り出すのだが中々に維持をするのが難しい……だが、出来ない訳ではない

 

「魔導裂波斬!!」

 

 骸骨の騎士がそういうと力の塊である球体から飛ぶ斬撃に似た力が飛び出していく。

 私も真似をしてみようとするのだが思うように斬撃の様なものを飛ばすことが出来ず、力の制御が上手く行かず槍の先端ではなく槍に力の塊を纏わせてバチバチと光らせてしまい、エネルギーを波状攻撃で飛ばしてしまう。

 

それだと魔導裂波斬じゃなくて黒魔導爆裂破(ブラック・バーニング)だな

 

 ゴンベエは私が使っている技について知っていたみたいです、どうやら別の技を使ってしまったらしい。

 魔導裂波斬をもう一度挑戦してみるが上手く行かず、黒魔導爆裂破(ブラック・バーニング)を覚えてしまった。

 

向いてる技と向いてない技があるからコレばっかりは仕方ない

 

 何度か挑戦してみるが魔導裂波斬は使えなかった。人間得意不得意があるから仕方がないとゴンベエは言う。骸骨の騎士も覚えられないならば仕方がないと黒魔導爆裂破を教える方向で進み、最終的には黒魔導爆裂破を会得した。中距離遠距離系の攻撃を持っていない私に丁度いい技だった。

 

「さて、俺にはなにを教えてくれるんだ?」

 

 私が終われば次はロクロウの番だ。

 かなり楽しみに待っていたロクロウの前に柄しか無い剣を骸骨の騎士は取り出した。

 

「斬岩念朧剣!!」

 

「……コレは、闘気の剣!」

 

 骸骨の騎士は闘気で出来た刃を作り出した。

 骸骨の騎士は闘気で出来た剣で何処からともなく出現した岩を真っ二つに両断した。

 

「刀身が闘気で出来た刀か……悪くはない、会得してみたいと思う。だが俺にはクロガネから號嵐に打ち勝つ征嵐を貰う約束をしている。違う技をくれ」

 

 技自体に不服は無いのだが、ロクロウにはロクロウの約束があるので断った。

 

「猛世十戒剣!!」

 

「一刀流は悪くはないがなんか違う」

 

「艶美魔夜不眠鬼斬り」

 

「三刀流は面白いが刀を口に咥えるのはちょっとな」

 

 色々と強力な技を骸骨の騎士が見せるのだがロクロウは満足をしない。

 ロクロウの意見を突っぱねない骸骨の騎士はとにかく色々な技を見せていく。

 

「流水の動き」

 

「うぉ!」

 

 分身したかの様に残像を残しながらロクロウの周りをグルグルと回る骸骨の騎士。

 これはただ早いだけの動きじゃない。0と100の素早さの緩急を上手く扱い、残像を残している。

 

「回天剣舞・六連」

 

 ロクロウを流水の動きで翻弄しながら間合いを詰める。

 体を回転させながら二本の剣を逆手に持ち、ロクロウの服の上の寸でのところを切り裂いた。

 

「この技……いいな」

 

 技を受けたロクロウは笑みを浮かべた。技を気に入った。

 骸骨の騎士は技の原理を説明するとロクロウは早速真似をして残像を作る歩法を会得し、回天剣舞・六連を会得した。

 

「次はお前だ」

 

「最後は私ですか……心して掛からないと」

 

「そういえば……コレに浄化の力を宿す事は出来ないのですか?」

 

 最後に技を会得するのはエレノアだと予告した。

 ここでふとこの槍にゴンベエの剣の様に浄化の力を付与する事は出来ないのかを尋ねてみる。メルキオルの放った穢れの塊を斬り裂く事が出来なかった。ゴンベエは穢れを背中の剣で斬り裂く事が出来た。私にも浄化の力があれば斬れるはずだ

 

「祈り歌を込めよ。さすれば槍に退魔の力が宿る」

 

アメッカ、大分前に言ったけどその槍は未完成なんだ……最後の一工程を後で教えてやる

 

「そうか」

 

 今までならば今すぐにと言っていたが、今の私は気持ちを焦らない。ゴンベエが言う最後の工程を教えてくれる時を待つだけだ。

 技を授け終え、次に技を授けるのはエレノアだと予告し、私達に伝えたかった事は伝え終えたので骸骨の騎士は消えて元の空間に戻るとヘラヴィーサを目指してバンエルティア号を出航した。




アリーシャの術技

氷帝舞踏陣(フリーズロンド)

説明

地面に剣を刺し冷気を噴出させる技

渦流天樓嵐

説明

演舞の如く槍をグルグルと回し、竜巻を巻き起こして相手を飲み込む奥義


黒魔導爆裂破(ブラック・バーニング)

説明

収縮した闇の力をバチバチと弾かせながら相手にぶつける

ロクロウの術技

流水の動き

説明

緩急自在に動き回る歩法、その動きは残像をも写す。攻撃の際に極々僅かな隙が生まれる。

回天剣舞・六連

説明

二刀の小太刀を持ち流水の動きを維持した状態で回転しながら連続で斬りかかる奥義
右手が先か左手が先かを選ぶことが出来て相手に攻撃の起点を悟らせない様にする。

スキット リセットボタン

アリーシャ「穢れの無い世界は意思の無い、意思が統一された世界か」

エレノア「確かに人は穢れを生み出さなくなりましたが……こんなのは間違っています」

ゴンベエ「……」

グリモワール「貴方こんな時にも冷静ね」

ゴンベエ「別にアルトリウスの行っている鎮静化に対して思わないことも無いわけじゃない……ただ些か腑に落ちない点が幾つか存在していて、それがどうしても頭から離れない……気にしたって目の前に起きているコレが事実で現実なんだがな」

エレノア「腑に落ちない点……?」

アリーシャ「アルトリウス達の鎮静化におかしなところでもあったのか?」

ゴンベエ「あ~…………いや、アルトリウス達が意思を奪って鎮静化したこと自体は腑に落ちない事じゃない」

グリモワール「あんた、なにかに気付いているなら言いなさいよ。後になって気付いてましたは遅いんだから」

ゴンベエ「カノヌシの鎮静化って……コレで何度目になるんだ?」

アリーシャ「何度目?……確か一度だけカノヌシの領域の力が及ぼして船止め料(ボラード)の人が意思を奪われたが」

エレノア「いえ、もっと他に……意思を奪われた聖隷が居ることを考慮すれば一度や二度だけではない筈です」

ゴンベエ「そういう意味で言ってるんじゃねえ……オレ達はベルベットの弟が写したカノヌシについて書かれている古文書を解読している……カノヌシについて書かれている古文書が存在しているという事は逆に考えれば過去に誰かがカノヌシの力を使ったりしたということだ」

エレノア「アルトリウス様以外にこの様な地獄を作り上げたというのですか!?」

グリモワール「でも言っている事はまかり通ってるわね。カノヌシの事を知らないなら古文書なんてもの残らないもの」

ゴンベエ「そう考えると色々な事が疑問に出てくる。この大陸には滅ぼされかけているとはいえ四聖主を祀る文化が残っている」

アリーシャ「……地の主!」

ゴンベエ「そう、四聖主が神様的な存在だとしても天族であることには変わりはない筈だ。恐らくは四聖主は地の主の様な役割を持った存在だ……ならばカノヌシはなんなのか、そこが疑問だ……あくまでオレの推測だがカノヌシはリセットの役割を担っているかもしれない」

エレノア「リセット?」

ゴンベエ「穢れをどうこうする為には地の主、つまり四聖主を崇め讃えて信仰しておけばある程度は大丈夫な筈だ。だが人間って生き物は罰当たりな存在か目に見えない存在は信じない質でな……四聖主の信仰を放棄したら四聖主は今みたいに地の底に眠る、地の主の役割を放棄する」

アリーシャ「確か……どれだけ強い信仰の心があっても肝心の天族が祀られていなければ加護もなにも働かない。そうなると世界中に穢れを持った人間が……この時はまだ浄化の力がない。穢れの連鎖を止めるためには、まさか!」

グリモワール「カノヌシの力で人間や聖隷の意思を抑制して穢れを断つ、ね……無間の民のいきどまりをそう考えればありえそうな話だわ」

ゴンベエ「そうなると他にも不可解な点も納得はいくにはいく。例えばこの国の歴史が断片的な事だ。些細な事でも国の役所とかは記録を残したりするものだが、意思を抑制されたのならばそんな事をする必要は無い、無駄と考えたりする。この国の過去の歴史が断片的なのはなにかとんでもない出来事が巻き起こってしまったから意図的に隠されたのではなく誰も記録していないから……そういう考えも出来る」

アリーシャ「意思を奪われている時の事は誰も記憶していない……だから断片的にしか残っていない」

ゴンベエ「とはいえあくまでもコレは仮説だ。カノヌシの鎮静化が過去に何度か巻き起こったのは確かなんだろうがその度に国が滅びて歴史が1からリセットされるとなると……カノヌシや四聖主達がとんでもない程の年齢の可能性が高くて滅んだ古代の文明はオレ達の想像する遥か昔よりも昔か実は近代だった説が浮上して、寿命がクソ長い天族達も自分が自覚している年齢よりも実は上だったって可能性も出てくる」

エレノア「……カノヌシや四聖主の事を知っている聖隷ならば真実を知ってるかもしれません」

ゴンベエ「そんな天族が居るなら今頃表舞台に立ってるか殺されてるか……あるいは人間のクソみたいな部分に絶望してるだろう。四聖主が既に眠っちまってるんだから」

グリモワール「真実は闇の中ね……」

ゴンベエ「あくまでも仮説、仮定だ……喉になにか引っかかった感覚はある」


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新たなる拠点

あーあーあー……あー……」

 

「戻ったっぽいわね」

 

 ヘラヴィーサが見えるぐらいに近付いてきた頃にゴンベエの喉が治ってきた。

 歌を歌いまくって喉がガラガラになって一時はどうなるかと思ったけれど、喉を酷使しすぎただけで休ませればどうにでもなるみたい。

 

「なんとかな……喉を酷使するのはもう懲り懲りだ」

 

「歌を知ってるの、あんたぐらいでしょう」

 

 カノヌシの領域の影響をモロに受けるアイフリード海賊団の面々。意識を奪われない様にするには気持ちを昂らせるのが1番で、歌を歌うのが1番。だけど歌なんて私は知らない……出来ても精々子守唄ぐらいかしら。

 喉が元に戻ったけどベンウィック達は意識を奪われていない。歌を歌う必要は何処にもないのでゴンベエは適当にだらけているとヘラヴィーサに辿り着いた。

 

「……よかった、カノヌシの鎮静化の影響は受けていない」

 

 ヘラヴィーサに上陸すると街の様子をフィーは確かめる。

 ローグレスやゼクソン港で見た人間の尊厳を踏み躙った気持ち悪い地獄絵図の様なものはここではまだ巻き起こっていない。

 

「いや、まだなだけだ」

 

 フィーがホッとするのもつかの間ゴンベエは眉を寄せながら街の人達を見る。

 

「さて、荷を下ろすぞ!」

 

「……」

 

「おい、聞いてんのか!!」

 

「っ……ああ、すまない。頭の中が引っ張られる感覚がしてな」

 

「おいおい大丈夫か?最近、そんな事を言ってる奴等が増えてきてるぞ……災禍の顕主のせいで情勢は滅茶苦茶で忙しいのは分かるけどよ」

 

 何処にでもいる船乗りの二人、その内の1人が意識を奪われかけていた。

 ゴンベエは険しい顔をしながら港町に視線を向ける。ゴンベエの気配探知は人間の感情を読み取るもので、意識が抑制された人間を読み取っている……。

 

「私達はともかくベンウィック達はどうするの?」

 

 キララウス火山に私達は向かわなければならない。けれど、誰かがバンエルティア号に残らないといけない。

 何時も通りベンウィック達が船に残ってくれるけど、ベンウィック達はカノヌシの領域を防ぐ術を持っていない。

 

「モアナとメディサも残ってもらう。彼奴等もお前と同じ喰魔でカノヌシの一部……彼奴等の領域ならば鎮静化を免れるかもしれん」

 

「随分と曖昧ね……でも、それに縋るしかないようね」

 

 カノヌシの領域は精神を振り絞れば逃れられるけど、それしかない。

 

「で、そのなんちゃら火山とやらは何処にある……つーか、こんな寒い地域に火山なんてあるのか?」

 

「キララウス火山はノースガンド領の奥にある……こんな寒い地域に嘘の様に暑い火山があるんじゃよ」

 

「火山の麓にメイルシオという街がある。海路では行けないが陸路ではいけるから先ずはそこを目指す」

 

 アイゼンが次の行き先を示すと私達は歩き出す。

 今まで色々とあったから物資の補給とかも出来なかったからついでにと街の情報集めもしておくけど、ここも同じだった。

 いい学校に通わせて漁業を発展させようとしているのが間違いだと思い込まされている中年親父、酒に酔い過ぎだと意識を奪われかけている。テナガガニの養殖をしていてその事について生態系を乱しているんじゃないかと思っている一児の父親、船を盗まれた事を見逃した信者など、鎮静化の影響を強く受けてはいないものの酷い有様だった。

 

「しかし、寒いな……気のせいか前に来た時よりも寒い気がする」

 

 ついでにと寒冷地用の厚着の衣装を着るアメッカ。

 喰魔になった私には温度の違いなんて感じることは出来ないけれど、寒冷化の噂を耳にしたからホントにそうなっているんじゃないかしら。

 

「地球温暖化的な事になっていないのに寒冷化ね……四聖主が眠っているのが原因かもしれないな」

 

「どういう意味?」

 

「カノヌシだけじゃなく四聖主も大地を器にしているのならば大地に何らかの影響を及ぼしている可能性がある」

 

「なるほど……地の主が居なくなったから土地が弱くなったのか」

 

「地の主?」

 

 アメッカはゴンベエの言っている事に一人納得をしている。この二人しか知らないことなので私達の頭には?が浮かぶ。

 よくわからないけどこの寒冷化が地の底に眠っている四聖主の影響ならば叩き起こせば元に戻るんじゃないのかしら。

 

「ベルベットも寒冷地用の格好をしとけよ」

 

「別に、私は寒くはないわよ」

 

 ゴンベエは寒冷地用の服を私に渡してくるけれど、私は寒さを全く感じない。

 服の代金も馬鹿にはならないので断ろうとすると私の手を握ってきた。

 

「こんなに冷たくなってるのにいらないわけねえだろう。左腕は包帯でグルグル巻きにしてるかもしれねえけど右腕が霜焼けになったら大変だろう」

 

「なら、手を握ったままの状態を維持しようかしら?」

 

「ベルベット、服を着るんだ。常夏の地方ならばともかく極寒の地でその格好は悪目立ちしすぎる」

 

「冗談よ、冗談……なにを慌ててるのよ」

 

 ゴンベエの手をずっと握ったままだとまともに戦うことは出来ない。ここからメイルシオまで確実に業魔が居るのだから、やってられない。

 アメッカに着てくれと頼まれたので私は寒冷地用の服を着てヘラヴィーサを後にし、メイルシオを目指す。

 道中は険しい山脈で、エレノア達は寒いのか何度も何度もクシャミをしている。ゴンベエは馴れているのかクシャミを全くしない。それどころか寒冷地用の服を着ていない。

 

「あんた、寒くないの?」

 

「寒いけど……まぁ、こうやって火を出せば暖まるから」

 

 ボォっと小さな種火の様な火をゴンベエは出す。

 エレノアとアメッカもその手があったかといった顔をして火を出すのだけれど、加減が間違っているのか炎を出してしまう。

 

「常に一定量の弱火を出し続けるのは難しいぞ」

 

「そうなの?」

 

 試しに私も火を出してみる。神依に似た形態になれるから火はもう自由自在に扱えるので苦ではない……!

 

「前方から業魔」

 

 出てきたわね、業魔。

 私は出した火を炎に変えてぶつけることで撃退をする……聖寮を相手にしてきたから今更な雑魚ね。

 

「おいおい、火力を変えたらダメだろう」

 

 他の業魔を蹴り飛ばしているゴンベエは自分の周りに小さな火を灯していた。自分の戦いに集中しながらも火を絶やさず増やさない……難しいわね。

 ゴンベエのやっている技術を真似しようとしても一朝一夕で出来るわけもなく、ノースガンド領の寒さと自分の出した炎の暑さに悩みつつもメイルシオの入口と思わしき門に辿り着いた。

 

「ここも一応は業魔対策をしているか……おい」

 

「く、くく、クソっ……ちょっとサボったぐらいなのに3日も寝ずの門番なんてそりゃねえよ」

 

 メイルシオに入るにはここからじゃないとダメで、アイゼンは寒さに震える門番に声をかけるけどこっちに反応をしない

 

「ねぇ」

 

「ここがメイルシオだよ!!入りたきゃとっとと入りやがれ……くそ、彼奴等覚えてやがれよ」

 

 入場許可の様なものは無いみたいで、あっさりと入ることが出来た。

 聖寮とか色々とややこしい手続きもめんどくさい検問もない……順調すぎるわね。

 

「街に入ることが出来たから第一関門はクリアとして……この後はどうすりゃいいんだ?」

 

 街をぶらりぶらりと歩きながらゴンベエはこの後について尋ねる。

 

「緋の夜の日になるまで待って、その日にキララウス火山の地脈湧点に穢れなき魂を叩き込む……穢れなき魂はオスカーとテレサのがあるわ……けど」

 

 船に乗っている時に確認をしたけれど、オスカーとテレサの魂は私の腹の中にある……ただ

 

「私の腹の中にはオスカーとテレサの魂しかないわ」

 

 他にも色々と喰らってきたけれど、私の中にはオスカーとテレサの魂しか無い。多分、他の魂は消化してしまった。

 それだけオスカーとテレサの魂の質が強いのかもしれないけれど……問題が幾つか浮上してくる。

 

「俺達が叩き起こすのは四人の聖主、対してベルベットが持っているのはオスカーとテレサの2人だけ……四聖主の内の二人しか起こせないかもしれんな」

 

「それは……大丈夫なのか?」

 

「全然大丈夫じゃなかろう。地水火風、それぞれが1つの属性を司り大地を器としている。仮に2つしか叩き起こせなければ……世界がおかしくなるじゃろう」

 

 カノヌシの事や今後の事を考えれば四聖主全員を叩き起こさないといけない。

 特に今回の緋の夜を逃してしまえば次、何時緋の夜がやってくるのかが分からない。聖主と呼ばれる存在を叩き起こせば世界に何らかの影響を及ぼすのは確かなことよ。

 

「……何処かから2つ、穢れの無い魂を持ってこないといけない……」

 

 四聖主を確実に叩き起こすには4人の穢れなき魂が必要になる。アメッカは足りない2つの魂について険しい顔をする。

 

「……私の魂を捧げてください。世界がこうなっているのも元を正せば聖寮なのですから、責任を──」

 

「それでも1人足りないだろう」

 

「なら、私も」

 

「アホか、なんの為にここに来てるんだ。エレノアもアメッカも無しだ、無し」

 

 エレノアとアメッカは自らを犠牲にしようとするがゴンベエは却下する。けど、穢れの無い魂を用意しないといけない事実には変わりはないわ。

 

「シグレの魂を捧げればいい……アイツも曲がりなりにも対魔士なんてもんをやってるんだ。穢れの無い魂だろう」

 

「ならばメルキオルのジジイもじゃな。カッチコッチに頭も心も固まっておるが、穢れてはおらん」

 

「特等二人を相手にする気ですか!?」

 

「それでいいんじゃねえのか?……どちらにせよ聖寮にとって今のオレ達は邪魔な存在で遅かれ早かれあの二人がオレ達を殺しにやってくる。ならばそれを利用しない手はない」

 

「ああ……何れは決着をつけなきゃならないと思ってたんだ。丁度いい」

 

 足りない残り二人分の魂はシグレとメルキオルに決定した。

 いずれは戦わなければならない相手で、その辺の人間の穢れなき魂よりも遥かに上質なもののはず。

 

「そうと決まればメルキオルのクソジジイとシグレに果たし状を……ロクロウ、書いてくれ」

 

「おう!……けど、どうやって届けるんだ?鎮静化の影響で血翅蝶はまともに機能してないし、シグレの奴は根無し草らしいぞ」

 

「1回シバき倒したからその傷の治療にあたってる筈だ……ただ問題はメルキオルのクソジジイなんだよな」

 

「なにか問題でもあるの?」

 

「問題もなにも、あのクソジジイは果たし合いに応じずに緋の夜が過ぎるまで逃亡されたらそれこそ詰みだ」

 

「確かに……シグレならあっさりと乗ってくれるがメルキオルはな」

 

 あの陰湿な爺さんならもしかしたら逃げる可能性も否めなくはない。次の緋の夜が過ぎればその次が何時やってくるか分からない。

 なんとしても今回の緋の夜で4つの穢れの無い魂を用意しなければならないわね。

 

「その時は私の魂を使ってください」

 

「……いいの?」

 

「はい。後悔はしたくはありません、世界を……人間が人間らしく生きれる様にする為にも」

 

 万が一メルキオルが果たし合いに応じなければエレノアの魂を使うことが決まった。出来れば果たし合いに応じてほしいけど、あの陰湿なメルキオルならば逃げる可能性が0とは言い切れないわ。

 緋の夜までにやらなければならない事を決めたので街から色々と噂話を聞いてみると、噂話は災禍の顕主……私について色々とあった。聖寮が討伐したなんて噂まであった。静かで優しく極寒にも負けることのない強い街の人達……聖寮と戦う上では邪魔だから何処かに行ってくれないかしら。

 

「業魔だ、業魔が出たぞぉ!!」

 

「む、バレたか!」

 

「いや、違うだろう」

 

 とりあえずは温泉がある宿屋に向かおうとすると入口で男達が騒ぐ。

 ロクロウは自分が業魔な事がバレてしまったんじゃないかと何時でも戦える準備に入る。ロクロウが業魔だなんて気付くのは難しい。殆ど人間の姿を維持しているんだもの。

 

「クソっ、業魔が中に入ってきやがった!!」

 

「バカ野郎、門番はどうしたんだ!」

 

「その門番が急に業魔になったんだよ!!」

 

「恨み言を滅茶苦茶言ってたからなぁ」

 

 大慌てで避難をしていくメイルシオの人々。門番が業魔になったせいで本来の防衛が出来ずに大パニックに陥る。

 ゴンベエはついさっきまでの門番の言動を思い出しており業魔になるのは仕方がないと言った声を出す……コレは、使えるわね。

 

「うわぁあああん!!」

 

「早く、逃げるんだ!!」

 

 緑色の樹木か亀なのかよく分からない業魔に成り果てた門番はメイルシオの中に入ってきて街の人達に向かって突撃する。

 アメッカは槍を取り出して突撃を防ぎ、逃げ遅れた子供を助ける……

 

「アメッカ、そのままにしておきなさい!」

 

 やるならば今しかない。

 私は火の神依の様な姿になり、黒炎を剣に纏って業魔化した門番を斬り倒した。

 

「あ、ありがとうございます。なんとお礼を申しあげていいのやら」

 

 私が業魔を倒すとわらわらとメルキオルの住人達が私達のところに集う。

 間一髪のところで救われたので感謝の念を込めた視線を私達に向けてくるから……ちょうどいいわ。

 

「なら、聖寮の特等対魔士達に伝えなさい」

 

「へ?」

 

「次の緋の夜、私はキララウスに生贄を捧げてカノヌシの力を削ぐ!!止められるものなら止めてみせろ」

 

 私は左腕を喰魔化させて倒れている門番だった業魔を喰らう。

 急に変化した腕を見てさっきまでの感謝の念を込めた視線は一転、恐怖に怯えたものへと成り代わる。

 

「あ~はいはい、そういうことか」

 

 ゴンベエは私のしたい事に気付いたのか狼の姿へと変貌する。

 

「腕で業魔を喰らった……こいつは、まさか……」

 

 ええ、そのまさかよ。

 

「我が名は災禍、災禍の顕主ベルベットだ!」

 

「アォオオオオオオオン!!」

 

 私が自分の名を語るとゴンベエは遠吠えを上げた。

 メイルシオの住民は子供は泣き叫び、大人達は私に怯えていき死にたくないと叫びながらメイルシオから出ていこうとする

 

「さぁ、早くこの場から去れぃ。このメイルシオの街はもう我等のものじゃあ!邪魔だてするとあらば災禍の顕主であるベルベットが骨の髄までしゃぶり尽くすぞう」

 

 逃げ惑うメイルシオの人々をマギルゥ達は更に煽る。

 ゴンベエの遠吠えと合わさってか一目散にメイルシオの街から出ていく。

 

「……あまりいいやり方ではないが、結果的にはコレで良かった、か……だがこれでまたベルベットの悪評も」

 

「別に気にしてなんかいないわよ」

 

 今となってはこの災禍の顕主も悪くない称号よ。

 街の人達を完全に追い出すことに成功したけどやり方が少し荒っぽかったからアメッカは少しだけ気にしている。ゴンベエは全く気にしてないどころか私に便乗をしてきたってのに……もう少し私に罪を擦り付けるぐらいの気持ちを持ちなさいよ。悪いことは災禍の顕主のせいにしておけばそれでいいのだから。

 

「いや~すっきりさっぱりしたのぅ」

 

 念には念を入れて何処かに村人が隠れていないかを確認したけど誰もいない。

 これで後続の憂いはなくなったと思っているとマギルゥはスッキリした顔をしたので小突いておいた

 

「なにをするんじゃ!」

 

「誰が骨の髄までしゃぶり尽くすよ。あたしはそんなに行儀が悪くはないわ」

 

 姉さんから色々と仕込まれてむしろ綺麗な方なのよ。

 

「なんじゃ骨に近い身の部分が美味いというのに」

 

「おいおい……ん?」

 

「南に沢山の人達が逃げてったって、なにがあったんだよ!」

 

 マギルゥに呆れていると人の気配にゴンベエは気付く。

 気配の正体はベンウィックみたいで、ベンウィックは逃げ去っていくメイルシオの人達を見て驚いている。

 

「ベンウィック、何故ここに!」

 

 船に残って色々としている筈のベンウィックがここにいる事にアイゼンは驚く。

 

「ベンウィックだけじゃないみたいだぞ」

 

「エレノアぁあああ!!」

 

「モアナ!?」

 

 ベンウィックの後ろから出てくるモアナ、それにメディサにクロガネ。

 船で待機しておけとアイゼンに命じられた筈なのにここまでやってきた。油断するとカノヌシに鎮静化されるってのに、こんな所にまで連れ出して一体どういうつもりなのかしら。

 

「オレは副長に荷物が届いたから届けに来たんだけど、モアナがどうしても行くって……エレノアが死んだ夢を見ちまってな」

 

「危うくまさゆ──ぐぅ」

 

「あんたは黙ってなさい」

 

 余計な事を言いそうになるゴンベエの腹に肘を叩き込む。

 相変わらずというか、ベンウィック達はモアナには甘いわね。ワガママばっかり聞いてたらダメよ。

 

「ベルベットが災禍の顕主として一暴れしてメイルシオを拠点として手に入れた……最後の決戦の時までここをオレ達、アイフリード海賊団の新たなる拠点としておく……ベンウィック、ヘラヴィーサに戻ったのならばアイフリードを此処に連れてこい。船よりもメイルシオで寝かせていた方が安全だ」

 

「ええっ、ヘラヴィーサからこっからまでかなりの距離があるんすよ!?」

 

「こういう時の災禍の勇者様だ」

 

「へーへー、ひとっ走り行ってくる……と言いたいが、肝心のその緋の夜まで大丈夫なのか?シグレはロクロウにくれてやるがメルキオルのクソジジイはぶっ飛ばしたいんだが」

 

「それならまだ大丈夫よ……まだ緋の夜になるまでには少し時間があるわ」

 

 ゴンベエの心配は無用だとグリモワールが答える。

 ついさっきメイルシオの住人を追い出したから、そこから聖主の御座辺りにいるメルキオル達の耳に情報が伝わってこっちに来るまでには少しだけ時間が掛かるわね。

 

「ならばその時が来るまで各自、自由にしておくぞ……街の外には出るなよ。ゴンベエ、頼んだぞ」

 

「んじゃあ、ひとっ走り行ってくる」

 

 アイゼンに任されたゴンベエは何故かウサミミを頭につけてメイルシオの街を出ていきアイフリードを迎えに行った……久しぶりに自由な時間が出来たわね。




スキット 最後の仕上げ

ゴンベエ「コレがいいな……」

「なにが良いんだ?」

ゴンベエ「っ……なんだ黛さんか、驚かせないでくれよ」

「オレは普通に声をかけただけだ……コレは……」

ゴンベエ「時間をかなり有したがアリーシャは壁を超える事が出来た。残酷な世界に負けない心の強さを手に入れて槍を握っている……ここまで連れてきたオレはその思いに答えなければならない」

「まぁ、こんなクソみたいな時代に連れてきたのならばそれ相応の責任を取らなきゃならねえな」

ゴンベエ「最後の一歩をオレは後押しするつもりだ……そうすれば本当の意味でアリーシャを助けた事になる。その為にもバイオリンとハープを作らないといけない。流石に自前のをあげるわけにはいかないからな」

「それを終えれば晴れて勇者様はお姫様の側に居なくなっても問題無いか……お前はその後どうするつもりなんだ?」

ゴンベエ「さぁ?何時も通り適当に生きていくつもりだけど」

「他人の心配をするよりも自分の心配をしとけよ……いや、そんなんだからお前は魂が不安定な存在なんだな」

???「じ、次回、サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その5……ゔぁっくしゅん!……さ、寒い」

ゴンベエ「魔法少年マジカル☆ライフィセットのはじまりだフォウ!」

???「この場合だとカードキャプターライフィセットなんだけどね」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その5(PART1)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。


 メイルシオを新たなる拠点とし、何時もとは逆にベンウィックにパシらされてアイフリードをフロルの風を使い連れてきた。

 ベルベット達に気を使わなくていいのでウサミミをつけての全力疾走なのであっという間にヘラヴィーサに戻り、連れてきた。

 

「ほら」

 

「……2本?」

 

 メイルシオを拠点にしたのでクロガネもゆっくりと刀を作ることが出来る様になり折れた征嵐を日本刀に作り直してくれと頼んでいた。

 流石に2度目となると手早いものであっという間に刀を完成させたのだが何故か2本、普通の刀と脇差しかと思ったが長さは一緒だ。

 

「征嵐は大きな太刀だ。普通の刀にするのならば二本になっちまう」

 

「オレ、二刀流じゃねえんだけどな」

 

 やろうと思えば出来るけども、やらなくてもナチュラルに強い。

 とりあえずはとオリハルコンの刀を抜いて刀身を確認するのだが直ぐに違和感に気付く。

 

「1本、逆刃刀じゃねえか」

 

 1本は見事なまでに完成された刀だった。だが、もう1本は刃と峰が逆に出来ている刀、るろうに剣心に出てくるか逆刃刀だ。

 オレが注文したのは普通のオリハルコンの刀なのになんでわざわざそんなめんどうな事をしたんだとクロガネを見る。

 

「號嵐に敵いはしなかったが金剛鉄の刀も充分な武器になる……お前さんは人を無闇矢鱈と殺そうとしない。アメッカの為か自分の手を汚したくないかどっちかは分からんがな」

 

「殺さなきゃいけないなら殺すさ……ただ色々とめんどくさいだけだ」

 

 しかし逆刃刀か……るろうに剣心で有名だけどフィクションの存在とか言われてるらしいな。

 オレの持っている武器は相手を仕留める為の物が大半な為に人を殺さない刀である逆刃刀はありがたいっちゃありがたい。

 

「今更ながらオレが横取りしても良かったのか?」

 

 オリハルコンを越える素材は現状無い。アリーシャの槍とベルベットの剣に使ったメダルならば上回る可能性があるがそれぐらいだ。

 シグレの持っている號嵐は太刀として半端じゃない程の強さを持っており、それこそオリハルコンを素材にした方がいいんじゃないかと心配をする。

 

「なに、次の征嵐にする素材の目星はついている……俺の刀鍛冶としての腕は金剛鉄(オリハルコン)を刀に加工出来るまでの領域にまで至ってる。それだけでも充分だ……次はこの刀よりも更に強い刀を打つ」

 

「そうか……決戦の時は近いが、お前ならば間に合う。健闘を祈っておく」

 

「おいおい、業魔に祈るのか」

 

「災禍の顕主の手下なもんでな」

 

 悪魔だろうと頼れるならば崇拝はしてやる。

 

「折角だから名前でも付けるか……真魔剛竜剣」

 

「悪くはないが刀だ、剣じゃない」

 

「斬刀・鈍」

 

「誰の刀が鈍だ。もう少しまともなネーミングセンスはないのか」

 

 そんな事を言われたって、しょうがないじゃないか。

 クロガネから受け取ったオリハルコンの刀と逆刃刀をオレが使っている一室に保管して、外の空気を浴びに出るとアリーシャが修行をしていた。

 

「マオクス=アメッカ!」

 

 自身の真名を叫んで神依の様な姿に切り替わるアリーシャ。

 

「結局それに落ち着いたか」

 

「ゴンベエ」

 

 ベルベットは自分の名前を叫んで火の神依の様な姿になっていない。意識的にオン・オフを切り替える事が出来る。対してアリーシャは自分の名前を叫ぶ……恐らくはスレイの神依を見ていて、パワーアップをするのにはこうすればいいというイメージがあるからだろう。

 別に名前を叫ばないといけない事が悪いことではないので気にすることはない……ただ真名ってアイゼンいわく物凄く大事な物であり……偽名として使っているんだよな……いや、ホントに……なんか申し訳ない。

 

「その槍もちょっとは使えるようになったみたいだな」

 

「ああ。時間はかなり掛かったが今では使いこなせている……長かった」

 

 クロガネと出会った時に作ってもらってそこからクワブト、モアナ、監獄島、オリハルコン、ドラゴン、メディサ、オルトロス、オスカーとテレサ、監獄島襲撃、アルトリウスと世界の真実……ホントに長かったな。

 色々とあったからこそ乗り越えた強さは本物でこの時代に来る前と今ではアリーシャは桁違いの強さになっている……多分、あのオバハンより強くなってるだろうな……言うとめんどくさくなるから言わないでおく。

 

「さて、今のお前が何処まで出来ているのか……」

 

 背中からマスターソードを抜くとアリーシャの顔が変わる。

 残念ながらアリーシャと戦うつもりはない。

 

「火炎剣烈火」

 

 炎をマスターソードの刀身に纏わせる。

 コレがお前に出来るかとアリーシャを試してみるとアリーシャも槍に炎を纏わせる。

 

「水勢剣流水」

 

 水を纏わせる

 

「雷鳴剣黄雷」

 

 雷を纏わせる

 

「土豪剣激土」

 

 地の力を纏わせる

 

「風双剣翠風」

 

 風を纏わせる

 

「暗黒剣月闇」

 

 穢れの無い純粋な闇を纏わせる

 

「光剛剣最光」

 

 眩い光を纏わせる

 色々な属性を武器に纏わせる事は今のアリーシャには容易い事であり、軽々とオレのやっている事を真似する。

 

「ならば、こいつはどうだ」

 

 一通りの属性が出来ているならばコレはどうだ。

 マスターソードに退魔の力である青白い光を発光させる。

 

「ふん……っ、ダメか……」

 

 アリーシャも真似をしたが青白い光を放つことは出来ずに普通の光を放った。

 それはつまりアリーシャの槍には凄まじいパワーが宿っているには宿っているがそれだけで邪悪を退ける力が一切宿っていない。アリーシャもその事を知っているのであまり落胆はしない。

 

「落ち込むな……アリーシャ、お前は槍の力を使うことが出来ている……この槍を本当の意味で完成させるにはもう一工程ある。それをすれば退魔の力を宿すことが出来る」

 

「そんな方法が……確か、祈り歌を捧げるだったか」

 

「そうだ……なに、そんなに難しい事じゃない。それさえ覚えればお前もスレイと同じで浄化の力を得ることが出来る。そうすれば……平和な世の中を築く事が出来る」

 

 穢れの無い世界を作れるとは言わない。人の背負う業は切っても切れないものだとアリーシャは学んだから。

 でも、平和を築き上げる事が出来るようになる……人間的な意味では一人なスレイの助けになることが出来る。

 

「コレを完璧にマスターすれば……オレはもう不要だ」

 

「っ……」

 

「オレは理不尽なまでの暴力を振るう事しか出来ない戦闘特化の人間だ……それでも誰か一人を助けることが出来た」

 

 我ながらよく出来たほうだと思う。

 

「ゴンベエ、その……私は……」

 

「なに現代に戻るまでに覚えればいいんだ。シグレはロクロウに、メルキオルのクソジジイはオレがボコボコにするから気にするな……」

 

 クロガネがなにを素材にするかは知らないがオレの刀よりも強い刀を作ると言っている。ならば作ってくれるだろう。

 シグレやメルキオルのクソジジイとは決着をつけないといけない。その時が間もなくやってくる……そこはオレが戦う。オレの戦いはこの時代で終わりで現代に戻れば……ハイランドを近代化でもさせるか。

 

「じゃ、先ずは手本を見せてやる」

 

 アリーシャが浮かない顔をしているがあまり気にしないでおく。

 バイオリンとハープを取り出して、どっちにするか……バイオリンはザビーダの時に使ったがハープの方が簡単そうだから──

 

「ぬぅお!?」

 

「じ、地震!?」

 

 ハープの方にしよう。そう言おうとした矢先に急に地震が巻き起こる。

 こんな豪雪地での地震は洒落にならない。それこそ雪崩でも起きたら一巻の終わりだとアリーシャを抱きしめてネールの愛を発動する。屋外で住居からもそれなりに距離があるからなにかが飛んでくるということは無さそうだが……地震が原因で起きる二次災害で死ぬとか日本じゃ割とよくある話なのでバカには出来ない。現に震災で死んだ事がある転生者がいる

 

「全員、無事か!」

 

 十数秒の揺れが収まるとアイゼンが拠点にしている民家から飛び出してきた。

 揺れもかなり強烈なものだったが……大丈夫、アイゼン以外の気配はちゃんとしている。突如の地震に大慌てしているが、それだけで誰かが怪我をしているとかそんなの……ん?……コレは……

 

「あんた達、大丈夫?」

 

「あ、ああ……ゴンベエが守ってくれている」

 

 ベルベットも住居から飛び出し、オレ達の身を心配する。

 ちょっと気になる事が出来たので考え事をしているオレの代わりにアリーシャが答える。するとベルベットが少しだけ不機嫌そうな顔をする。

 

「あんた等、何時まで抱きついてるわけ?」

 

「いや、私が抱きついてるんじゃない。ゴンベエが私の事を抱きしめてくれていて……ゴンベエ、地震の脅威はもう去った。このバリアを解除しても……」

 

「ちょっと黙ってろ……クソっ……」

 

 薄い……知っていたけど、滅茶苦茶薄いぞ。

 

「これもカノヌシの鎮静化の影響なのかしら」

 

「ううん、地震が起きた時にカノヌシの領域の力は感じなかったよ」

 

 この地震もカノヌシの力の一種なのかと考えるベルベットだがライフィセットは首を横に振る。

 

「いや、カノヌシじゃない……ティル・ナ・ノーグだ」

 

 今までに何回か起きた地震と同じだ。仏が自分達のミスをティル・ナ・ノーグのせいにしているめんどくさい案件だろう。

 とりあえずは抱きしめているアリーシャを離してネールの愛を解除すると目を閉じる。気配探知能力を強めると物凄く薄っすらとした気配を感じるのでその場所へと歩いていくと黛さんが上半身を雪の中に沈めていた。

 

「黛さん、大丈夫か!!」

 

 傍から見れば面白い事になっているが中々に大変な事になっている。

 オレは黛さんを大根を引き抜くかの様に引っこ抜くと黛さんは震えていた。

 

「寒い……北海道より寒いぞ」

 

「諸事情で寒冷化してて寒くなってるんすよ」

 

 長袖を着てはいるが厚着とは言えない格好の黛さん。とりあえずは暖める為にも小さな炎を出して暖を取る。

 最近、メッキリと姿を現さないし地震も起きていないので久しぶりに会う。黛さんを暖めているとベルベット達がやってくる。

 

「お前はチヒロ!」

 

「あんたが居るって事はまたロクな事が起きないわね」

 

「人を疫病神扱いすんじゃねえ」

 

 黛さんに驚くアイゼンとベルベット。黛さんは疫病神というよりは貧乏くじを引く運命にある。愉悦な人なんだ。

 

「ってことはまたホトケとやらが出てくるな」

 

 黛さんが登場したのならばと空を見上げるロクロウ。何時もならば仏がこの辺りで空に出てくるのだが出てこない。

 アレでもまぁ、転生者のシステム運営とか転生者がなにをしてるのか見て爆笑したり色々と忙しい身ではあるからな。

 

「……?」

 

「どうしたライフィセット?」

 

「……なにか、感じない?」

 

「いや……」

 

 ライフィセットはなにかを感じ取っているようだがオレはなにも感じない。

 そもそもでオレの探知能力とライフィセットの探知能力は異なる。地脈の力を感じ取るのはライフィセットの方が遥かに上だ。

 

「キャアアアアアア!!」

 

「モアナの叫び声!」

 

 ライフィセットがなにを感じ取ったのか考えているとモアナの悲鳴が聞こえる。

 またなんか厄介な事が巻き起こったのかとモアナの悲鳴がしたところに駆け付けるとモアナとメディサの前にエレノアがいて、エレノアの前には木のモンスターがいた……ん?

 

「憑魔じゃない」

 

 寒冷化が激しくなっているので植物なんてマトモに生えない。

 木の憑魔なだけでも充分に珍しい筈なのに木の憑魔みたいなのからは穢れを発していない。じゃあなんだと考えたいのだがエレノアが手こずっている。

 

「モアナ、メディサ、逃げてください!!」

 

「うぅ、ええええ」

 

「モアナ、しっかりしなさい!!」

 

 モアナとメディサを逃がそうとするエレノアだが逃げ道が無い。

 複数居る木の化け物はエレノア1人で対処しきれず、このままだとモアナとメディサを逃がすことが出来ない。あれこれ考えていても仕方がないのでとっととぶった斬ろうと背中のマスターソードを抜こうとすると突風が吹き荒れる

 

「誰かいやがる!」

 

 急に吹き荒れる冷気は人為的なものだとアイゼンは気付く。

 それと同時にオレ達の背後から氷漬けにされているサッカーボールが飛んできて、木の化け物にぶつかりカチンコチンに氷漬けにした

 

「アレは……エターナルブリザード」

 

「あんた達、大丈夫!」

 

「ごわがったよぉおおおお!!」

 

 カチンコチンに氷漬けにされた木の化け物は動かない。

 ベルベットがモアナに駆け寄るとモアナは大粒の涙を流してベルベットに抱きついた。

 

「急に地震が起きたと思えば……これもまたカノヌシの鎮静化の影響なのかしら?」

 

「いや、別件だ……それよりもだ」

 

 メディサはカノヌシの案件なのかと気にするが違う。多分、なにかめんどうな事が起きている。

 オレは飛んできたサッカーボールを拾い、サッカーボールが飛んできた方向をオレは見つめる。

 

「誰か居るな」

 

 アイゼンもボールが飛んできた方向を見る。

 今までの事とかを考慮すれば黛さん以外に飛ばされてきた転生者、なんだろうな……今までやってきたのが割とロクでなしが多いので今回もまた濃いのがやってきてるんだろうな。

 

「うっ……」

 

 容姿が10年後の吹雪士郎を少し若くした感じの男が姿を現す。

 

「あの人がモアナ達を……」

 

「っ……っ……」

 

「お兄ちゃんがモアナとメディサを助けてくれたの……ありがとう!」

 

「…………」

 

 モアナにお礼を言われても無反応な吹雪士郎(仮)……なにか言えよ。

 

「おい、こいつ凍えてんぞ」

 

「え……あ!よくよく見れば半袖です!」

 

 黛さんに言われて吹雪が半袖である事に気付くエレノア。よく見ればさっきから物凄く身震いをしている。ヤバいな感覚麻痺してる。

 多分、夏の時期にこの極寒の地に飛ばされてしまった……マジでドンマイとしか言いようがないな。

 黛さんも吹雪(仮)も冬服を着ていないので凍えてしまっており、このままだと風邪をひいてしまう恐れがあるのでとりあえずは宿の中に戻る。

 

「ココアでよかったかしら」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 メディサが入れてくれたココアを飲む吹雪(仮)

 凍えてしまった体が暖まったのかなんとか喋れるようになるまでは戻った。

 

「……貴方は迷い人で間違いないですか?」

 

「うん……ああ、自己紹介がまだだったね。僕は吹雪、吹雪士朗。ホセア学院高等部2年生。まぁ、所謂学生だよ」

 

「ほう、ファントムか」

 

 黛さん、余計な事を言わないでくれ。吹雪が何処の世界に転生しているのか黛さんは気付くがエレノア達の頭には?しかない。

 ココアをフーフーしながら暖まっていくととりあえず気になる事を聞いてみる。

 

「あの木の化け物はお前と一緒にやってきたのか?」

 

 木をベースとした憑魔に見えた化け物だが穢れを一切放っていなかった。

 オレの見立てだとアレは憑魔と異なるものでライフィセットが地脈に異変を感じ取った。吹雪がやってきたのと同時に吹雪の居た世界から地脈に化け物がやってきた……。吹雪はその事について首を横に振る。

 

「僕もいきなり別世界に飛ばされたんだよ……彼女とサッカーをやる約束をしていたのに」

 

「お前……それ超次元サッカーじゃねえだろうな」

 

「HAHAHA、そこまで物騒じゃない……なんかこんなやり取り昔にもしたような」

 

 奇遇だな、オレも似たような感覚がある。なんか懐かしい……コイツ、もしかして……

 

「ライフィセット、地脈になにか感じるのか?」

 

「うん……上手く説明出来ないんだけど、異物が混ざっている感じがするんだ」

 

 オレが別の事を考えているとアリーシャはライフィセットに尋ねる。オレには感じ取れない地脈の違和感を……多分だが異世界の物が紛れ込んでいるんだろう。こういうときこそとっとと仏出てきやがれよ。

 チラリと窓の外を覗いて見るが空に仏は現れていない……こっちは色々と準備万端だってのに、なんで勿体ぶるんだ。

 

「多分だけど、その異物がさっきの木の化け物の一部だったんだと思うよ……地脈の中に異物が混入して、地脈の力を吸い取ってるかなにかで暴走していると言ったところかな」

 

「分かるの?」

 

「こんなの初歩的な事考えれば誰にでもわかる事で……ニノも答えに行き着く事が出来るよ」

 

「……ニノ?」

 

 誰それと首を傾げるライフィセット……これ毎回やらないといけないのか。

 

「My name is Nanashino Gombee, not Masataka Ninomiya」

 

「え……You are Masataka Ninomiya no matter how you look at it」

 

「There are various things, and Nanashino Gombee is the name instead of Masataka Ninomiya.」

 

「……なんでそうなったの?」

 

「色々とあるんだオレも……そういうお前も色々とあったんじゃないか?」

 

「まぁ……It may be said that I am destined to become a Mamoru Miyano character and have no name.」

 

「……え、お前もなの!?」

 

「もしかして君もなのかい!?」

 

 目の前にいる吹雪士朗は転生する度に宮野真守キャラになる男だった。

 杉田キャラと中村キャラと水樹奈々キャラと平野綾キャラと坂本真綾キャラになる人達は知っているが宮野真守キャラになる奴ははじめて見る……まさか……

 

「お前、ツンデレでデレた姿は可愛いけども日常的にダメな奴がメインヒロインはちょっと。僕的には良妻で人気投票でも勝ってるサブヒロインと主人公は結ばれるべきだ!ってカップリンク押しをする……」

 

「そういう君もその女に人質の価値は無いって言って全力で蹴り飛ばした……」

 

 オレは吹雪と無言で握手を交わす。

 地獄の転生者養成所で一緒に死ぬ気になって修行をした親友だった……まさかオレと同じで転生する度に容姿が変わる魂が不安定な存在だったとは。

 

「久しぶりというべきか、吹雪」

 

「ブッキーって呼んでよ、ゴンちゃん」

 

「お前等、感動の再会を果たしてるのはいいがなんにも進展してないからな」

 

 いい感じの空気をぶち壊さないでくれ、黛さん。

 しかし言っている事もまた事実であり……状況の説明を、大凡の事情を知っている仏が出てこないと話が進まない。

 

「ところで気になってた事を聞いていいかい?」

 

「……She's in this place because I brought her」

 

「確かにそこも気になるんだけど、そこの少年」

 

「え、僕?」

 

 ゼスティリアの原作を知っていてアリーシャがこの場に居る事に疑問を持ったのかと思ったが違うようだ。

 ブッキーはライフィセットの方を見て真剣な顔をする。

 

「君にはおち○ちんがつい──げふぉごぉ!?」

 

「あんたはフィーになにを聞いているのよ!!」

 

「僕は男の子だよ!!」

 

 ライフィセットは男の娘もしくは両性類と言っていい容姿をしている。

 ブッキーが気になる気持ちはわからないわけではない……

 

「ブッキー、ライフィセットにはおちん○んついて──っ!」

 

「あんたもあんたで答えるんじゃない……ていうかなんなのよ!あんたの知り合い、変態しか居ないわけ!」

 

 余計な事を言ったのでオレもベルベットにボディブローを叩き込まれる。中々に良い拳だ

 

「ホトケ、さっさとこのバカと地脈の異物を連れて帰りなさい!!……出てこい!」

 

「中々に現れんのう」

 

 何時もならばすんなりと出てくるのに仏は出てこない……忙しいんだろうな。

 

「あんたもさっさと起きなさい……起きろ……」

 

 仏が出てこないので苛立つベルベットは八つ当たり気味でブッキーを起こそうとするが返事が無い。

 

「……お、お前まさか…………オレと同じ要領で殴ったのか!?」

 

「それのなにが問題なのよ」

 

「いやいやいや、ダメだって。オレ、内養功とか持ち前の頑丈さでなんとか乗り切ってるけど、お前の拳骨普通に凶器だぞ!」

 

 コレはマズイとブッキーを確認してみると案の定血を流して白目を向いていた。

 

「ブッキー!死ぬな!こんなところで死んだら一生物の恥だぞ!」

 

 あ、でもお前自殺したんだっけか。って、言ってる場合じゃない。

 

「ベルベット、なんてことをしてくれるんだ!ブッキーはな、基本的には色々とそつなくこなせるけどもどれか突出した才能が無い事を気にしてる一般人なんだぞ!災禍の顕主の一撃をお見舞いしたらそりゃあもう大変なんだぞ」

 

「わ、私が悪いって言うの!?悪いのはコイツじゃない。コイツがフィーに馬鹿みたいな事を言ったから悪いのよ……そうよ、私は悪くないわ!!」

 

「おお、ここに来てのテイルズオブ名物のオレは悪くねえか」

 

 ベルベットが自分の罪を認めず黛さんがなにかに納得している傍ら、白目を向いて意識を失っているブッキーを急いで治療にあたった。




スキット 異文化は難しい

ダイル「そういや、お前異大陸の住人なんだよな」

ゴンベエ「なんだ改まって、異大陸の行き方とか政治事情については教えられんぞ」

ダイル「いや、そいつは何時か自分で行くって決めてるからよ……やっぱ異大陸ってこの国とは違うのか?」

ゴンベエ「まぁ…………大分違うな…………大分な。お陰で色々と苦労したよ、金を稼ぐ以外は生活基盤を整えるのに忙しかった」

アリーシャ「そういえばゴンベエの家には見たことのない物が沢山あったな」

ベルベット「アメッカ、ゴンベエの家に行ったことあるの?」

アリーシャ「何度かは……と言っても別の事を考えていたし、あまり思い出らしい思い出はないが」

ゴンベエ「掘っ立て小屋みたいな水車小屋に暮らしてる……まぁ、一人暮らしをするのには充分過ぎる家だ」

アリーシャ「川の上流で色々と危険な事もある……生活の事も考えればレディレイクに暮らした方が」

ゴンベエ「やだよ、オレは人付き合いと近所付き合いは上手くやれない……変な他所者が現れたら人は簡単に受け入れない」

アリーシャ「そんな事は」

ベルベット「無いとは言い切れないわよ……今思い返せば、村の人達はアルトリウスを受け入れていない部分があったわ」

ゴンベエ「そういうことだ。オレの存在は導師様御一行からも邪魔扱いされてる……まぁ、他所者なんてそんなもんだ」

ダイル「んなのが分かってるのに他所からやってきたのか」

ゴンベエ「色々とあるんだよオレも……けど、この国とオレの国の文化の違いには割と困ったりはしてるんだぞ」

アリーシャ「時折、それ知らないのかとか話題が合わない時はあるが……なにに困っているんだ?」

ゴンベエ「家に上がる時に靴を脱がない事とか」

ベルベット「……普通、脱がないでしょう?」

アリーシャ「いや、ゴンベエの家に行った時には靴を脱がされた」

ゴンベエ「他にも一家に一台たこ焼きプレートが無かったりとか」

ベルベット「あんなの祭りで商売している連中かたこ焼き好きしか持ってないでしょう」

ゴンベエ「憲兵とかが気難しそうな顔をして歩いてたからお前を捕まえに来たんだぞとか言うジョークが通じなかったり」

ダイル「それはお前が悪いんじゃねえのか?」

ゴンベエ「トイレが長かったらウンコしてたんって聞いたり」

ベルベット「あんたにはデリカシーってものがないの!!」

ゴンベエ「なに言ってんだ……聞いてなくても普通は申告するもんだろう?」

ベルベット「あんたの地元、マジでどうなってるのよ……」



 尚、このブッキーが後に運命/世界の引き金に出てくる越前龍我ことコシマエになります。
 感想お待ちしております。感想が作者のやる気を起こさせますんで


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その5(PART2)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。


「し、死ぬかと思った……黄泉比良坂が見えたよ」

 

 ベルベットの拳骨でぶっ飛ばされたブッキーはライフィセットの治癒術とオレの内養功により一命を取り留めた。

 

「ボケ1つ挟むのに命を懸けないといけないとは……流石はギャグが少ないシリアスな世界だ」

 

「……ブッキーもシリアスが多いんじゃ?」

 

 ブッキーの通っているホセア学院ってオレの記憶が正しければ無彩限のファントム・ワールドの世界にある学校で、ブッキーは無彩限のファントム・ワールドの世界に転生している。

 

「いや、うちはアレだよ。リンボーダンスとかやってるから……ふぅ、痛みが取れてきた」

 

 ベルベットに殴られたところを冷気を放出して冷やすブッキー。

 とりあえず痛みが納まったようなのでホッとする。こんなギャグみたいな理由で死ぬのはホントに情けない……まぁ、オレの記憶が間違いなければブッキーって将来に希望が見出だせなくて精神的に病んで鬱になって自殺したんだよな。今じゃ陽気なイケメンだから……想像がつかないな。

 

「異世界の人間だから普通じゃないが……冷気を放出する事が出来るのか」

 

「うん。僕の彼女は五行思想の気を扱うことが出来るけど、僕は主に冷気を……氷系の技と相性がバッチリで、他にも少し魔法が使えるよ」

 

 この場にいるのは普通じゃない人間な為にブッキーの力に興味を示す。

 ブッキーが無彩限のファントム・ワールドの世界の住人ならば氷系の技を自由に扱う事が出来るのも……まぁ、別におかしくはないか。そもそもでモアナ達を助ける時にエターナルブリザード使ってたし……違和感0だ。

 

「お主、魔法を使えるのか……ワシも色々と出来るぞ」

 

「あんたのは奇術でしょ」

 

 マギルゥもブッキーに興味を示し鳩を飛び立たせる。マギルゥにベルベットはツッコミを入れた。

 

「魔女のオバさん、僕の魔法はそれはもうスゴいよ……普通の魔法とは比べ物にならない威力を持っている」

 

「誰がオバさんじゃい!!そこまで言うのならば、見せてみい」

 

「はい、ダイベイン」

 

「ぬ、うぉおおおおおお!!」

 

「どうしたマギルゥ!?」

 

 ブッキーを挑発した結果、ブッキーの魔法を当てられてお腹を抑えて苦しむマギルゥ

 アイゼンが駆け寄るとマギルゥのお腹がゴロゴロと稲妻の様に鳴り響きマギルゥは急いでトイレに駆け込んでいった。

 

「この魔法、相手に便意を催す魔法でね。ただの便意じゃなく便秘気味のウンコはしたいんだけど、中々に出ない。必死になって振り絞っても出ない、でも腹の調子が悪くてウンコが出そう、そんな状態の便意を催す魔法……その名もダイベイン」

 

「カッコ良く言ってますけど最低な魔法ですね!!」

 

「いや、中々に強烈な魔法だ。トイレに行かない聖隷はともかく人間には効果的……例え導師や特等対魔士と言えどもウンコはする……その魔法、オレでも会得できるか?」

 

「便意を催してるメルキオルとシグレなんて喰らいたくないからやめなさい!!」

 

 変なホクロの金髪が使っていた魔法にドン引きをするエレノア。逆にアイゼンは関心を示す。

 確かに戦っているときとかなにかをしている時に尿意や便意が起きるとコンディションは急激に乱れる……ありかなしかで言えばありよりのありだ。

 

「名前を聞く限りはその二人は男の人だね……なら別の魔法を覚えていたほうがいい。男性特効の魔法がある」

 

 仏が出てこない事をいいことに話は変な方向へと進んでいく。

 ブッキーがアイゼンにメレブ魔法を教えようとしている……強烈なのは幾つかあるが基本的にはクソでしかない魔法だ。

 

「男性特効……メルキオルのジジイもシグレもアルトリウスもカノヌシも男だ、きっと有効打になる」

 

「よし、試しに俺達に掛けてみてくれ!!」

 

「お前等、ダイベインを見たのになんでそうもノリノリなんだ」

 

 ノリノリのアイゼンとロクロウに黛さんはついていけない。オレも若干ついていけない。

 ブッキーは呪文を唱えずに手を振りかざすとピロリロと何処からともなく音が鳴り響いた。ロクロウとアイゼンに魔法をぶつけたのだが2人はなにか変わった様子は無い。

 

「人間にしか効かないんじゃないの?」

 

「ちょっと待て……」

 

 人でない2人には効果は0と推測するベルベット。

 失敗してたらしてたでブッキーは教えてくれるんじゃないかと思っているとロクロウとアイゼンがオレ達に背中を見せて何かをする。

 

「フッ、どうやら僕の魔法が効いてる様だね」

 

「っ、やっぱお前の仕業か!!」

 

「この魔法はブラズーレと対の位置にある魔法だよ……男性には強い効果を発揮する」

 

 違和感の原因はブッキーにあると騒ぐアイゼン。

 

「え、なにか変わったの?」

 

 特になにか変わった様子は無いとライフィセットは首を傾げる。

 ブッキーはそんな君にもこの魔法をかけてあげるとライフィセットに目掛けて魔法をかけるとライフィセットは股間を抑えた。

 

「この魔法はチ○ポジをズラす事で相手を弱体化する魔法なんだ……そこの男2人とショタボーイはチ○ポジをズラされた事により違和感を感じて集中が乱れてしまったんだ」

 

「はぁ!?なによ、その変な魔法は」

 

「僕はこの魔法を……ティポ、そう名付けた」

 

「リーゼ・マクシアだと怒られる名前をつけてんじゃねえよ」

 

 黛さんはなに言ってんだろう。

 チ○ポジがズラされたライフィセットはチ○ポジの軌道を修正するのだがブッキーが連続でティポを掛けてライフィセットのチ○ポジをズラしまくる。ライフィセットはモジモジとする。

 

「ふ、どうかな。おち○ち○がズラされる気持ちは……おち○ち○、ムズムズするかな」

 

「む、ムズムズするよぉ!!僕にティポをかけるの、やめてよフブキ」

 

「ライフィセットに攻撃をするのはやめなさい!!」

 

「おち○ち○ムズムズするよって言ってくれたらやめる」

 

「このっ、ド変態が!!」

 

 エレノアとベルベットはブッキーを攻撃する。

 一度痛い目に遭っているブッキーは攻撃をくらってたまるかとベルベット達の攻撃を回避する。

 

「ゴンベエ、友達が居ると言い切れない私が言うのもなんだがもう少し友人選びはした方が」

 

「いやぁ……他も他で濃いからな」

 

 深雪も愚っさんもちょっとしか会ってないから分からないけどもキャラが濃い。

 アリーシャに友人選びの大切さを問われるが他も他で濃い……なんだったらブッキーの方が個性が弱い気もする。

 

「ブラズーレ!ブラズーレ!ブラズーレ!」

 

「っ!!」

 

「こ、これは」

 

 ブッキーのブラズーレをまともに受けるベルベットとエレノアは胸を抑える。

 

「ふ、コレこそがティポと対になる女性特効の魔法、ブラが少しだけズレた感覚になるブラズーレ……ボインちゃんである君には効果は覿面だ」

 

「確かに、その格好のベルベットには強烈な魔法だな」

 

「ゴンベエ、貴方どっちの味方なんですか!!」

 

 オレは基本的にはオレの味方であり特定の誰かの味方じゃない。

 しかしこのままだとベルベットにぶん殴られそうなので止めに入ろうと思うのだがブッキーは手を止めない。

 

「ティポ!ティポ!ティンポジ!」

 

「っ!!」

 

 ティポをベルベットに掛けるとベルベットは止まって顔を真っ赤にする。

 ティポはチ○ポジをズラす魔法で……ベルベットは這えてない。この場合だとどうなるんだ?

 

「ふっ、このティポは男性に滅茶苦茶効果があるだけじゃない、女性に使うとち○ち○がついた感覚になる……そう、擬似的にふたな──」

 

「それ以上は言うな」

 

 ティポを男性に掛けた場合に発生する事案を語ろうとするブッキーに膝蹴りを入れる。

 隙を見せたとベルベットとエレノアはブッキーを容赦無くタコ殴りにするが自業自得なので助けはしない……強烈な魔法だが、覚えたくはないな。ベルベット達がある程度タコ殴りにするとスッキリとしたのか殴るのを止めて、ダイベインで便意を催していたマギルゥも帰ってきた。

 

「ん……仏が出てくるぞ」

 

「ここ、室内なんですが」

 

 天井が眩く光を放ち雲の様な物が現れる、仏が出てくる前触れだ。

 何時もは空に出てくるのに、何故今回に限っては天井なのかエレノアは些か疑問を持つのだが、そんな事を気にしていたらキリが無い。

 

「あ、仏を見る道具が……」

 

「コレを被れば見れるはずだ」

 

 例によってなにも見えないアリーシャにロビンマスクの仮面を黛さんは渡した。

 この人、恋姫の世界に転生してるってのになんでこんなのを持ってんだろ……聞くと恐ろしい答えが返ってきそうだから怖くて聞けないんだよな。

 

『いや〜ごめんごめんごめん、ちょっと手間取っちゃって』

 

「おいこら、お前が中々に出てこなくて色々とカオスだったんだぞ!」

 

『メンゴメンゴ……いや、ホントね。仏も結構忙しい身なんだよ!』

 

「バスローブ着て出てきても説得力皆無だ!風呂入ってただろう!!」

 

 やっと登場した仏4号は何時もの格好ではなくバスローブに身を包んでいた

 この野郎、中々に登場してこないと思ってたら風呂に入ってたのか……メイルシオ、温泉が名物らしいけどまだ1回も入れてないのに、嫌味か。

 

「ホトケ、とっととこの変態を連れて帰りなさい!!」

 

『え、なに、なんでそんなに怒ってるの』

 

「お主が出てくるまでに色々とあったんじゃよ」

 

『そうなの?仏、風呂入ってたから見てなかった……後で見とくわ』

 

 後でって……いや、まぁ、いいんだけど。このままいけばベルベットの逆鱗が煽り立てられて手が付けられなくなる可能性が出てくるのでとっととブッキーをホセア学院に帰してくれないかなと思っていると仏はドライヤーを取り出す。

 

『ゴンベエ、お前達のかつや──(ブォー)ている。今回も迷い(ブォー)を見つけた様だが今回は迷い人だけでない。今回は更に──(ブォーン)──(ブォーン)、何故ならば──(ブォーン)

 

「そのブォーンって鳴るやつをやめなさい、なに言ってるか聞こえないわよ!」

 

『いや、風呂上がりだから髪乾かさないと』

 

「あんたの頭のブツブツ髪の毛なの!?」

 

 仏の頭のブツブツは螺髪と言って神通力的なので捻じ曲げてる髪の毛なんだよな。

 とりあえずドライヤーが原因でなに言っているか聞こえないのでドライヤーが終わるのまで待つ……なに待ちの時間なんだろうな。

 

『ごめんね、時間掛かっちゃって。こう見えて仏、滅茶苦茶ロン毛なの』

 

「お前の髪の長さは知らん……それよりもなにかあるんだろう」

 

 何時もならば迎えの誰かがやってくるまで預かってくれと頼み込むが言ってこない。

 なにかあるとアイゼンは読むと仏はシリアスな顔をするがバスローブの格好のままだ。

 

『……ライフィセットよ、そなたは地脈の力を感じ取るのに長けている。なにか感じるか?』

 

「えっと……地脈の中に変なのが紛れ込んでる感じがする」

 

『うむ。それはこの世界の物でも吹雪がいた世界の物でも黛がいた世界の物でも無い異物で、地脈の力を吸い取って暴走をしている……恐らくだが、その力の一端をお前達は目にしているだろう』

 

「……先程の変な木の業魔でない怪物はその異物が原因で生まれた魔物なんですね……」

 

『そうだ。それは仏達の調査の結果、魔法の力が宿ったタロットカードだと判明をした。え〜っと、お前達今どのあたりだっけか』

 

「おい、なに取り出してんだよ……」

 

 珍しくシリアスな空気を醸し出してるというのに【ファミ通 テイルズオブベルセリア】と書かれた表紙の本を取り出す。

 この世界がアニメだかゲームだかどっちかの世界なのは知ってるけど、取り出すなよ。テンション下がるぞ。

 

『あ、この辺りか……あの〜アレだ。その異物は割と直ぐ近くに眠っているけど、地脈の力を吸い取っている……コレがどういう意味か分かるか』

 

「そういうのいいからさっさと答えを教えろよ」

 

『まゆゆん、お前さ、もうちょっとムードを盛り上げようぜ。折角いい感じの空気になってるってのにさ、こう……やり取りがあるじゃん』

 

「オレは巻き込まれてるだけだからさっさと家に帰りたいんだよ」

 

 なんか毎回毎回飛ばされてくる黛さんが不憫に思えてきたな。

 しかし……地脈の中に魔法の力が宿ったタロットカードが眠っていて、地脈の力を吸い取って暴走しているのはなにが問題なんだ?いや、確かに暴走しているのは問題だが……。

 

『お前達は今から地脈湧点を経由して四聖主を叩き起こすだろ。でも、その地脈の近くに暴走してるタロットカードがあるからこのままだと魂を四聖主の元まで叩き込めない。それどころか眠っている四聖主の力を吸い取り殺そうとしてんだよ』

 

「それを早く言いなさい!!」

 

 カノヌシの力に対抗するには四聖主の力がどうしても必要になる。

 次の緋の夜が間もなくやってくるのでその日に魂を捧げないといけないが異物が混入していて魂が届かない、か。マジで一大事だな。

 

「ゴンベエ、あんた次元を越えて斬撃を飛ばす事が出来たでしょう。その魔法の力が宿ったタロットカードを破壊しなさい」

 

 冗談抜きで大変な事になっているので即座にオレの力をベルベットは頼る……でもな……

 

『あ、それ駄目なやつだから。あの、アレだ。魔法の力が宿ったタロットカードは地脈の深くに根付いちゃってるから力技で無理矢理破壊したりすると他にも影響を及ぼして、下手したら四聖主死んじまう可能性があるから』

 

「なっ……ならばどうすればいいんですか!?」

 

 力技で解決はしてはいけない。そうなるとオレ達ではお手上げ状態になる。

 アリーシャは仏にどうすればいいのかを尋ねた……マジでどうすればいいんだろう。

 

『その魔法の力が宿ったタロットカードは専用の鍵を使えば封印する事が出来る。そしてそれを今から仏がライフィセットに託す』

 

「僕……?」

 

『色々と考えた……考えた結果、ライフィセットに託すのが1番だと判断した』

 

「まぁ、そうね……地脈の力をハッキリと感じ取れるのはフィーだけだし」

 

 チラリとオレを見るな、ベルベット。オレの探知能力は感情を読み取る系の技術の応用みたいなもので地脈とかを感じ取る力はライフィセットの方が長けている。

 

『じゃ、いくぞ。仏ビーーム』

 

「わっ!?」

 

 仏の白毫からビームが飛んできてライフィセットを包み込む。

 いきなり仏がビームを出したのでライフィセットは驚くが直ぐに敵性のあるものじゃないと感じ取ったのかあっさりと受け入れた結果……カードキャプターさくらの最初のOPであるcatch you catch meでさくらが着ている魔法少女の格好に切り替わった。

 

「っぶ……そ、そういうことか」

 

 仏が言っていた魔法の力が宿ったタロットカード……それはつまりクロウカードの事だ。

 本当になんでそんなのが紛れ込んだのかは知らないが、紛れ込んじまったのは仕方ないことでライフィセットがカードキャプターに選ばれたという事だ。

 

「ちょ、ちょっとホトケ!元の格好に戻してよ!!」

 

 顔を真っ赤にしてスカートを抑えるライフィセット。

 

『無理無理無理、いいかライフィセット。それは魔法の力が宿ったタロットカードを封印する為に必要なコスチュームなんだ。それ着とかないとな……』

 

「必要なのはこの鍵で、この格好は関係無いでしょ!!」

 

『いや〜モチベーション的な意味で関係あるよ』

 

「そんなの上がるどころか下がっちゃうよ!!」

 

 さくらがしている格好に本気で嫌がるライフィセット。

 

「ライフィセット、諦めろ。カードキャプターになる奴はな、ゴスロリチックな衣装を身に纏わないといけねえんだよ……早く帰らせてくれ。寒いの苦手なんだ」

 

「いいじゃありませんか。お似合いですよ、ライフィセット」

 

「似合ってるわよ、フィー」

 

 ライフィセットの格好を見てキャッキャと騒ぐはエレノアとベルベット。

 ついさっきおち○ち○相対性理論で議論をしていただけあってライフィセットの格好には違和感は無い。

 

「僕は、男の子なんだよ!」

 

「君みたいな子はね……(おとこ)(むすめ)と書いて男の娘(おとこのこ)なんだよ」

 

「フブキ、面白がってるよね!!」

 

「いやぁ……似合い過ぎだからね」

 

 クスクスと笑うブッキー。ここまでフィットするとなれば誰だって笑いたくもなるものだ。

 ロクロウ達も似合っていると太鼓判を押してくるのだがライフィセットは気に食わないのか魔法少女の服を脱ぎ捨てようとする。

 

『言っとくけど、お前がそれ脱ぎ捨てたらベルベット達の誰かが着ることになるからな』

 

「えっ……」

 

 ピタリとライフィセットは服を脱ぐのを止める……いやいやいや。

 

「ライフィセットは許されてもベルベット達に魔法少女の格好は荷が重すぎるだろう!!」

 

「そうだ!全員もう色々と歳が逝っちゃってるよ!!」

 

 ベルベットもエレノアもマギルゥも魔法少女を名乗る年頃をとうの昔に過ぎてしまっている。

 どの格好をするのかは分からないがカードキャプターさくらのさくらの格好をするには荷が重すぎる。オレとブッキーは抗議する。

 

『魔法少女の格好が無理ならプリキュアにするから』

 

「そっちの方が無茶だ!彼女達はどう見てもプリティでもキュアでもない!!見ていてキツい!心がいたたまれない気持ちになってしまう、やめるんだ!!」

 

「実年齢とかを考慮してもキュアババアにしかならねえ!!老けいるババキュアSilverSoulは酷い」

 

「衝撃のファーストブリットォ!!」

 

「「ぐふぅ!?」」

 

 色々と口が滑ってベルベットの逆鱗の上でタップダンスをしてしまったのか重い正拳突きをくらう。痛い。

 

「あんた達がなにを言ってるか分からないけど、バカにしてる事だけは分かるわ」

 

「仏、エレノアがキュアメロディになるのは分かるが他はなにになるんだ。ババア扱いされているキュアアクアか!」

 

 黛さん、なに真剣な顔で聞いてるんだ

 

「ラ、ライフィセット、真剣に考えて選ぶんだ。このまま君がその格好を拒めばベルベットの姉御が君みたいなゴスロリチックな格好に変えられてしまう……絵面的に酷いんじゃないかな」

 

「うっ……」

 

 大好きなベルベットを取るかそれとも自分の身の安全を取るか、2つに1つしかない。

 オレ的にはベルベットの格好を見てみたいとは思うのだが、今からカードキャプターしなくちゃいけない事を考えると見ていていたたまれない気持ちになる。流石に二十歳前の女子がコスプレしてるのは見てみたいんだがな……。

 

「まぁ……あんたがどうしてもって言うなら、着るわよ」

 

「……き、着るよ……僕、この格好のままでいくよ」

 

「よく言った、ライフィセット」

 

 お前は何時の間にか物凄く大きな男に成長していたんだな。

 危うくベルベット達がキュアババアになりそうになったのだが、ライフィセットが(おとこ)を見せてくれたのでカードキャプターライフィセットのまま続行となり、ライフィセットの地脈を探知する能力を頼りにオレ達はメイルシオを出る。




吹雪士朗の術技

ティポ

説明

チン○ジをズラす魔法で男性によく効くのだが、女性にも使用可能。女性に使用した場合生えてる感覚に襲われる

ブラズーレ

説明

ブラがズレた感覚となる魔法。ボインであるベルベットには効果覿面でまな板なマギルゥにはそんなに効果は無い。男にも効く

ダイベイン

説明

ただの便意じゃなく便秘気味のウンコはしたいんだけど中々に出ない。必死になって振り絞っても出ない、でも腹の調子が悪くてウンコが出そう、そんな状態の便意を催す魔法


ベルベットの術技

衝撃のファーストブリット

説明

ゴンベエと吹雪がベルベットの逆鱗の上でタップダンスをした結果、生み出されたツッコミ(殺意)



ヤバいな、このままだと前中後編で終わらないかもしれない。
ライフィセットの格好はカードキャプターさくらの最初のOPに出てくるあの格好とイメージしてくださいね


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その5(PART3)

前中後編じゃ終わらねえ……

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。


「ふ〜しかし寒いね」

 

 クロウカードを封印すべくメイルシオを出たオレ達。ブッキーは寒冷地用の厚着を着るのだが真っ白な息を出しながら寒さを訴える。

 

「別にあんたが居なくても問題は無いわ。フィーが封印すればそれで解決するんだし、今からでも残っていいわよ」

 

「ううん、こうして僕が別の世界に飛ばされたのもなにかの縁だし手伝わせてよ」

 

 文句があるならば帰れというオーラを出しているベルベットを軽く流すブッキー。

 まぁ、確かにこうして転生者の16期生が一緒になるのもなにかの縁……縁は意外とバカには出来ない。

 

「ま、船頭を多くしても山に登る事態にならなければいいがの」

 

 ブッキーがくるならばそれはそれで仕方ないとするマギルゥ。

 ベルベット、ライフィセット、アイゼン、ロクロウ、マギルゥ、エレノア、アリーシャ、オレ、ブッキー、黛さんと圧倒的なまでの戦力過多……誰かメイルシオに残っていたらいいんじゃないかと言うのは無しである。

 

「相手は異世界の魔法だ、異世界の住人が居てくれるだけ心強い……フブキ、お前魔法の力が宿ったタロットカードについて心当たりがあるか?」

 

「あるよ……ただ……この世界では無い概念の属性の魔法かもしれない」

 

「この世界の属性っつーと、聖隷の地水火風に光だな」

 

 先ずは敵の正体を探ることとしてブッキーになにが居るのかをアイゼンは聞く。

 ライフィセットの格好と封印の鍵の形からして地脈の中にあるのは間違いなくクロウカードだろう。そしてあの時、モアナ達を襲撃したのは木の化け物だった。ロクロウが言うこちらの世界の概念もとい属性とは異なる。

 

ウッド()のカードだと思うよ」

 

「樹……四大元素でなく五行思想とかいうやつに分類される属性か」

 

「え、この世界に五行思想の概念があるの?」

 

「ゴンベエからチラリとは聞いている」

 

 あくまでもこの世界は四大元素の考えであり、五行思想の考えは存在していない。

 前にアリーシャにチラリと森属性がなんなのか尋ねられたので木属性について教えた際にアイゼンもその場に居たのでザックリとは説明をしている。

 

「木属性となると……地属性の天族のアイゼンが相性悪いな」

 

「そう、なんですか?」

 

「地属性の霊的な存在とかに木属性がぶつかると力を吸い取るんだよ。分かりやすく言えば植物は土から栄養を吸い取って成長するでしょ」

 

「ああ、確かに言われてみればそうですね」

 

 ブッキーの分かりやすい説明にエレノアは頷く。

 にしても、木属性のカードか……水とか風とか炎とかだったら楽に対処する事が出来たんだが……これもまたアイゼンの死神の呪いの一種なんだろうな。

 

「相手が植物なら話が早いわ。燃やせばいいのよ」

 

 火の神依の様な形態に姿を切り替えるベルベット

 

「それはダメだ」

 

 割と冗談抜きで危ないので先に止めておく。

 

「植物なら燃やすのが手っ取り早いでしょう」

 

「そうなると今度は火生土、火で燃やし尽くした物が生み出す灰によって土の力がパワーアップする。更にはこの辺りの雪がとけて水生木、木が雪溶け水を吸ってしまう……植物を燃やすのは悪くないんだが、場所がなぁ」

 

 ベルベットが仮に木を燃やしたとしてその木の灰が土と混ざり合う。

 木を燃やすと同時にこの辺りの雪が溶けて水に変わりそれを土が吸い取り、更には木が吸い取る。メイルシオが豪雪地帯でなければベルベットの力で襲いかかってくる樹を燃やせばそれである程度は解決するのだが……雪がな。これもまたアイゼンの死神の呪いの一種なんだろう。

 

「ややこしいわね……燃やせないとなるとどうすればいいのよ」

 

「木属性と相性が良いのは金属性、つまり刃物だよ」

 

 五行思想の概念の入口で手こずるベルベット。まだこんなの序ノ口だが、勉強をしている時間は無いのでブッキーは答えを教える。

 木生火の考え通りにやれば他も巻き沿いがくらうのでここは至ってシンプル……襲いかかってくる樹を刃物でぶった斬る。

 

「おぉ、そりゃわかりやすくていいな」

 

 色々と言ったけどもぶった斬っておきさえすれば万事問題ないと分かると笑顔を浮かべるロクロウ。

 斬ることしか考えられないけど、こういうときには便利である。

 

「封印の役目を担っておる坊はともかくワシは刃物なんぞ持っておらんぞ……チヒロも持っておらんのではないのか?」

 

「つーか、帰っていいか?」

 

「黛さんが居てくれないと話進まないっすよ」

 

「あのな……オレはお前みたいな戦闘タイプの人間じゃねえんだぞ。無理矢理連れてきやがって、怪我したらどうすんだ」

 

 突然変異型の転生者であり、戦闘力は皆無に等しい黛さん。

 さっさと恋姫の世界に戻りたいのかメイルシオに戻りたいのか若干だが苛立っている

 

「んな事を言ってもあんたホントは戦えるの知ってるからな」

 

「え、そうなの?僕の記憶に間違いが無ければ黛さんって突然変異タイプで戦闘力皆無に等しい人だよね」

 

 黛さんは実は戦うことが出来る。

 マクリル浜で愚っさんに殺されかけた時、愚っさんは黛さんに対してビビっていた。ゴッドマキシマムマイティXなんて万能チートを持っている愚っさんがビビるとなれば……黛さんはとんでもない力を持っている。

 

「オレは戦うつもりはない……それでもなんか言うなら、コレでも使え」

 

「コレは……ドラゴン?」

 

 めんどくさそうにしている黛さんはドラゴンの頭に似た形をした鍔の剣を取り出す……コレは……

 

「リュウソウケンだね」

 

 ブッキーは黛さんから剣を受け取り、ジッと剣を見つめる。

 黛さんが取り出した剣は騎士竜戦隊リュウソウジャーのリュウソウジャー5人の基本装備の剣であるリュウソウケンだった。

 

「リュウソウ……ドラゴンの力が宿る剣なのか!?」

 

「ドラゴンじゃねえ、ダイナソーの力が宿る剣だ」

 

 名前からドラゴンをアリーシャは連想をするがこれは騎士竜の剣、ドラゴンの剣じゃない。

 そういえばスーパー戦隊はドラゴンをモチーフにした戦隊を出したりはするけどドラゴンだけのスーパー戦隊は無いんだよな。

 アリーシャ達が首を傾げているので使い方を教えようと黛さんを見つめると黛さんはモサチェンジャーを取り出した。

 

「お前はこっちの方だろう」

 

 オレ、本音を言えば猛る烈火のエレメントの天空勇者がいいんだけどな。

 ゴールドリュウソウルを黛さんから受け取るとモサチェンジャーにセットする。

 

『ケ・ボーン!』

 

 モサチェンジャーから音声が鳴り響くと黄金色の騎士の様なものがオレの周りに現れる。

 

『ノッサモッサ!モッサッサ!ノッサモッサ!モッサッサ』

 

「リュウソウチェンジ!!」

 

『リュウ!SO!COOL!』

 

「へ、変身した!」

 

「栄光の騎士、リュウソウゴールド」

 

 決まった……珍しくカッコよく決まった。

 オレは黛さんが取り出したモサチェンジャーの力でリュウソウゴールドにリュウソウチェンジした。

 

「おぉ……いいな、それ!!」

 

 リュウソウゴールドを見てテンションを上げるロクロウ。

 残念な事にモサチェンジャーは1個しかないので使うことが出来ない。代わりにとリュウソウケンを受け取り、リュウソウチェンジャーを手にアライズするとブラックリュウソウルをリュウソウケンにセットする。

 

『わっせい!わっせい!そう!そう!そう!わっせい!わっせい!それ!それ!それ!それ!』

 

「リュウソウチェンジ!!」

 

『リュウ!SO!COOL!』

 

「ふぅ……いいな、これは!!」

 

 リュウソウブラックへとリュウソウチェンジをしたロクロウはテンションを上げる。

 

「男ってどうしてああいうのが好きなのかしら」

 

「さぁ……ロマンとかじゃないのですか?」

 

 リュウソウジャーに変身する事に全然テンションを上げていないベルベットとエレノアは一線を引いている。

 リュウソウジャー……強いんだぞ。ブラックホール的なの操ったりすることが出来るんだ……最強の戦隊はゴーカイジャーだけど。

 

「よしっ、私も……アイゼンはしないのか?」

 

「……黄色はないのか?」

 

 ピンクリュウソウルを手にリュウソウチェンジをしようとするアリーシャだがアイゼンの手が止まっている事に気付く。

 アイゼンはどうやら色に不満があるようだ。残っているのは赤と緑と青で、ピンクはアリーシャが使おうとしている。アイゼンの色的には黒だが黒はロクロウが使ってしまっているので黄色が無いのか黛さんに尋ねるが黛さんは首を横に振る。

 

「騎士竜戦隊リュウソウジャーは赤、青、ピンク、緑、黒のイエローのいない戦隊で追加戦士がゴールドなんだ」

 

「っち……ならばオレはリュウソウチェンジしない。そもそもでオレに騎士竜なんてものは合わん。オレに恐竜が合うというならばそれはそうだな、ブラキオザウルスだ」

 

 なんかアイゼン、変な電波を拾っていないか。

 アイゼンがリュウソウチェンジャーとリュウソウケンを黛さんに返すとアリーシャがリュウソウピンクにリュウソウチェンジした……アリーシャはピンク色だな、うん。

 

「僕、あっちの方が良かった……」

 

「ほら、イジケないの。あんたのその格好、様になってるわよ」

 

「かわいいって意味ででしょ!僕はカッコいいのになりたいの!!」

 

 リュウソウジャーにリュウソウチェンジしているオレ達の姿を見て羨むライフィセット。

 残念ながらライフィセットは今回はカードキャプターライフィセットになる運命(さだめ)であり、スーパー戦隊へのゴーカイチェンジもアバターチェンジも出来ない。ベルベットは似合う格好だとウキウキしているがライフィセットにとっては屈辱でしかないだろう。でも似合ってるぞ、ライフィセット。

 

「さて、そろそろ厄介な地点に入ってくるんじゃないかな」

 

 リュウソウジャーに変身してみたものの、ソウルが上手く使えないと判明したので元の姿に戻ると危険地帯に入る。

 今まではなにも出てこなかったが、ここからは違う。ポケモンのオーロットの様な見た目の木の魔物がウジャウジャと居る……それら全てを燃やさず斬らなければならない。

 

「ベルベット、喰らうなよ」

 

 アレも一応はクロウカードの力の一部だ。喰らってしまえばなんかとんでもない事になる可能性がある。

 やることは金属性の物で斬ることで燃やしたりしてはいけないとクロガネに作ってもらったオリハルコンの刀を取り出して闇を纏う。

 

「ここは僕に任せて」

 

「フブキ、貴方あんな変な魔法を使っていましたが戦えるのですか?」

 

「ゴンちゃんほどじゃないけどね」

 

 そういうとブッキーの周りに冷気が漂う。

 ブッキーもなんだかんだいって転生者であり、地獄の転生者養成所の訓練を終えたんだ……黛さんみたいな突然変異タイプの転生者でない限りは弱くはない。ブッキーは足元を凍らせていき、スケートの様に滑って木の化け物の前にいく。

 

「真アイスグランド!!」

 

 さっきまでのは完全にふざけていたと思わせるかの様に木の魔物をカチンコチンに凍らせた。

 

「この辺りは寒冷化が激しくなっていて植物が生えにくい、仮に生えても寒さに強い植物だが……それを一瞬で凍らせるとは」

 

「さぁ、僕が動きを封じるから皆、思いっきり叩き斬ってよ!」

 

 ふざけていた時とは一転し、ブッキーは頼もしさを見せる。

 木の魔物はブッキーを睨んできて、腕である木の枝を振るってくるがブッキーはイナバウアーをして避ける。無駄に綺麗に動いているな。

 

「真スノーエンジェル」

 

 木の魔物の中心部に向かい、スノーエンジェルを使ってカチンコチンに氷漬けにする。

 流石の植物も氷漬けにされてしまえばどうすることも出来ない。オレ達はブッキーが凍らせた木の魔物を砕いて破壊していく……いやぁ、便利だ。

 

「ブッキー、相手の動きを封じるだけじゃなく自分も攻撃していいんだぞ」

 

「うん……じゃ、ちょっと本気になろうかな」

 

 ブッキーはベルトのバックルに触れるとベルトのバックルからサッカーボールが出てくる……コナンの映画でお馴染みのボール射出ベルトじゃねえか……超次元サッカーを武器にしているブッキーには最高のアイテムだな。

 

「吹き荒れろ……エタァーナル、ブリッザァアアアアドッ!!」

 

 吹雪士郎の代名詞とも言うべき必殺技であるエターナルブリザードをブッキーは撃った。

 氷漬けにされて冷気を纏ったサッカーボールは木の魔物を凍らせると同時に貫いて破壊していき、猛吹雪を巻き起こす。

 

「あいつ……あんなに強いの……」

 

 ベルベットはふざけていた姿からは見えないブッキーの強さに言葉が出ない。

 オレの目に間違いが無ければ全力を出したベルベットでもブッキーには敵わない。アリーシャも同じだ……それだけブッキーは強い。まぁ、オレの方が遥かに上なんだけども。

 

「コールスロー!」

 

 冷気を纏った拳で氷漬けにしつつ殴り飛ばす

 

「必殺クマゴロシ・斬!」

 

 熊をも殺す勢いの二度蹴りを加えたシュートを飛ばす

 

「必殺クマゴロシ・縛!」

 

「ひょえ〜、ワシ達完全に不要じゃのう」

 

 圧倒的な力で木の魔物を圧倒していくブッキー。

 一方のオレ達はというとブッキーが氷漬けにした木の魔物のおこぼれを貰っている状態であり、マギルゥの言うとおり不要なのかもしれない……ただな……

 

「クソっ、全然減らない」

 

 ブッキーはかなりの数を凍らし、蹴散らしていっている。それなのに木の魔物は全然減らない。

 仏の話が本当ならばクロウカードは地脈の力を吸い取っていて、この近くに地脈の力が地の底から溢れている地脈湧点がある……無尽蔵に木の魔物が溢れ出ている。

 

「ブッキー、このままずっと戦っていたら音を上げるのはオレ達の方だ」

 

「じゃあ、誰かがずっとぶっ通しで戦っている間にクロウカードの封印にいくのかい」

 

「それもありだが、それを誰がするかだ……お前もうキツいだろう」

 

 バンバンとブッキーは必殺技を撃っている。そうしないといけないぐらいに木の魔物はいる。

 顔色は変わっておらず汗はそこまでかいてはいないのだが、それでもブッキーが疲れている事は感じ取れる。ブッキーは外気功が使えないから……そのうち、ガス欠を起こしてしまう。

 

「大丈夫だよ、まだ戦えるっ……」

 

「ライフィセット、魔法の力が宿ったタロットカードはまだか?」

 

「……まだだよ。まだ、もう少し奥にある……行くには、ここを切り抜けないと」

 

 空元気を見せるブッキー。早いところ決着をつけたいところだが、まだまだある。

 些か不安が残ってしまうがここはオレが残って道を作るべきか……

 

「アルティメットサンダーを使えば切り抜けられるんじゃないのか?」

 

 どうやってこの場を切り抜けようかと考えていると黛さんが提案をしてきた。

 

「アルティメットサンダー……確かにそれならば切り抜けるけど無理だ。僕とゴンちゃんならいけるけど、後3人足りない」

 

「私達ではダメなのか!?」

 

 アルティメットサンダーを撃つには5人必要だ。

 アリーシャ達は……いけるか。最後のサンダーの部分をオレがどうにかすれば……全員の力を合わせればはず。

 

「マギルゥはエレノア、エレノアはアメッカに、アメッカはロクロウ、ロクロウはアイゼン、アイゼンはベルベット、ベルベットはブッキーにボールを蹴り飛ばせ!」

 

「皆、ジグザグになるんだ」

 

 フォーソードでの分身も考えたが、ベルベット達に賭ける事にした。

 オレがベルベット達にパスの順番を教えるとブッキーがジグザグになる様に指示を出し、それぞれが分かれてブッキーはマギルゥに普通のサッカーボールをパスする。

 

「ほぉれ、受け取れぃ!」

 

「いきます!」

 

「頼んだぞ!」

 

「オラァ!」

 

「ふん!!」

 

「吹っ飛べ!!」

 

 マギルゥ、エレノア、アリーシャ、ロクロウ、アイゼン、ベルベットの順にボールにパスをする。

 ボールを蹴る度にボールはバチバチとエネルギーを溜め込んでいきバチバチと火花を散らしていく。

 

「これならイケる……ゴンちゃん、頼んだよ!!」

 

「あぁ……必殺タクティクス、アルティメットサンダー!!」

 

 ブッキーからのパスを受け取り、木の魔物の群れ目掛けてボールを蹴る。

 バチバチと火花を散らしエネルギーを纏ったサッカーボールは通常の何倍もの重さであり油断をすると逆に吹き飛ばされる可能性がある……だが、ここでやらなきゃ戦闘タイプの転生者じゃねえ。オレは足に力を集中してボールを蹴り飛ばした。

 飛んでいったボールは木の魔物の群れの中心に飛んでいき、バチバチと電撃と衝撃波を放出して木の魔物達を一掃した。

 

「しゃあ!」

 

 アルティメットサンダーが成功した事で熱くなってきたのかブッキーはガッツポーズを取る。

 

「まだ油断をするんじゃねえ、本体は残ってるんだ」

 

 カードを封印するまではこの戦いは終わらない。

 暫くすれば木の魔物達が増殖をしてしまうのでこの場から先に進むとオレ達は更に奥へと突き進んでいった。




吹雪士朗の術技

エターナルブリザード

説明

両足でボールを挟むように囲って回転、ボールに冷気を注入、ボールが凍らせてバウンドして浮かんだボールに回転して蹴りを叩き込むシュート

アイスグランド

説明

フィールドを凍らせてアイススケートの様に滑ってジャンプ、地を踏んで氷を出して敵を凍らせてイナバウアーを決め込む

スノーエンジェル

説明

雪風を纏いながらが回転ジャンプをし、地を踏んで巨大な氷を出して敵を凍らせる。

コールスロー

説明

冷気を纏った氷の拳で相手をぶん殴ると同時に凍傷を起こさせる拳

必殺クマゴロシ・斬

説明

熊を殺す程の蹴りを交差させて入れたシュート。


必殺クマゴロシ・縛

説明

熊を蹴り殺す威力の蹴りの力を応用し絞殺する防御技


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その5(FINAL)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。


「この辺りは大丈夫そうだね」

 

 チヒロさんとライフィセットを除く8人での必殺技により進路を作り、駆け抜けていった。

 木の魔物の様な生物が居ないところに辿り着いたのでフブキはホォっと一息ついて休んでいる。

 

「大丈夫か?」

 

 魔法の力で生み出されたであろう木の魔物をコレでもかとカチンコチンに氷漬けにしたフブキ。

 メイルシオでのふざけた姿とは一転して頼もしい味方だと感じさせるのだが、かなり飛ばしていた様にも見える。汗はかいていないが、呼吸が若干乱れている……実質一人で戦っていたものだから無理もないといえばそうなのだが。

 

「いやぁ、コレはキツい……けどまぁ、こんなの地獄の訓練に比べれば屁でもない」

 

「フブキはゴンベエと一緒に修行してたんだよね……どんな訓練をしてたの?」

 

「……うっ……オロロロエオ」

 

「は、吐いた!?」

 

 ライフィセットがフブキに質問をするとフブキは嘔吐した。

 

「お前、前にも似たような事があっただろう」

 

「ら、ライフィセット。可愛い顔をして平気な顔で人の心の傷を抉りに来たね……思い出したくない……色々とあった」

 

 感慨深く過去を思い出すフブキ。

 ゴンベエは強いけどいきなり強かったわけではない。色々と修行をして強くなった……フブキもまた同じであり、元々弱かった人間がこの領域に至るまでに本当に色々とあったらしい。

 

「まぁ……色々とあったな、色々と」

 

 ゴンベエも昔を思い出す。吐いてこそいないが足が生まれたての子鹿の様に震えている。

 普通の人間が今のゴンベエみたいになるには……いったいどの様な修行を積めばいいのだろうか。私には皆目見当もつかない。

 

「まぁ、僕達に関しては色々と辛いことがあったと思えばいいよ。君達の方こそどうなの……ロクでもない事を企んでるんじゃないの?」

 

「うむ!穢れなき魂を持った人間を生贄に捧げて神様の様な存在を叩き起こそうとしておるぞ!」

 

「それはまたロクでもない事だね」

 

「……まぁ、そう言われればそうなんだが」

 

「そのロクでもない事をする為には魔法の力が宿ったタロットカードを封印しないといけないのよ……緋の夜はまだだけど、余計な邪魔が入って起こせないだけはあってはならないわ」

 

 世界の平穏の為に生贄を捧げるとかそういうのじゃない。

 ベルベットが自分が自分であるために復讐を最後まで成し遂げる為に四聖主を叩き起こす……ロクでもないと言われればその通りなのかもしれない……この経験をなんとしても現代で生かさなければならない。一息つけたので私達は先を歩く。

 

「急遽こんな事になったけど、クロウカード(魔法の力が宿ったタロットカード)を回収したらさっきの続きをするぞ」

 

 さっきの続き、それは私の槍には宿っていない浄化の力を宿す私の槍を本当の意味で完成に至らせる最後の工程だ。

 それをすれば晴れて私はスレイと同じく浄化の力を手に入れて穢れを放つ憑魔を殺すのでなく浄化で元に戻すことが出来るようになる。四聖主を目覚めさせれば後はアルトリウスへの復讐を果たすだけとなり、それが終わればこの時代の旅も終わる。

 最初の災禍の顕主と最初の導師の骨肉の争いを見届けるのが私の使命であり、それが終わればゴンベエと共に元の時代に帰る……現代に帰れば、どうなるのだろう。

 名目上はゴンベエの知る国の文明を上げるための発明品を作る為に私と一緒にハイランドを歩いている。ハイランドとローランスは一度戦争を仕掛けてゴンベエがスレイに色々と押し付けた結果、現在は冷戦状態だ。何時戦争が起きてもおかしくない状況で、戦争の裏には災禍の顕主であるヘルダルフが糸を引いている。

 人間が背負う業を見てしまった以上は穢れを放つなとは今更言えない。だが、それでも平穏な世の中にはしなければならず、肝心の導師であるスレイには味方がいない。天族の方々だけが味方と言ってもいい。天族を見れる人間が、浄化の力を振るえる人間が側に一人でも居ればそれだけでも心強い筈だ。

 

「……ああ」

 

 その心強い仲間にゴンベエはならない、いや、なれない。

 導師になれる機会は何度もあったがめんどくさいと言って断り続けた……時折気紛れに私に力を貸してはくれているが、グレイブガント盆地でヘルダルフと対峙した際にライラ様からハッキリと邪魔者だと言われた。世界を救うつもりが無いのならば力を貸さなくてもいい、中途半端にするならばスレイの成長の妨げになる。

 

「浮かない顔だね」

 

「……そう、だろうか?」

 

「何処からどう見ても落ち込んでる顔だよ」

 

 顔には出してはいけないと思っていても、私は嘘が下手なのか顔に出てしまった。

 

「その……まぁ、もうすぐこの戦いが、ベルベット達との旅が終わるんだ。そうすれば私とゴンベエは自分達の国に帰るのだが、自分達の国も隣の国と何時戦争になるか分からない状況で平穏な世の中にしたいのだが……そのゴンベエが邪魔者扱いされていて。仕方ないといえば仕方ないのだが」

 

 私はなにを言っているのだろうか。

 過去の人間であるベルベット達には話すことが出来ないからと異世界の住人であるフブキに思わず愚痴を溢してしまう。

 

「ゴンちゃんと一緒に旅をしたいの?」

 

「いや……それは……いや、違うか……一緒に旅を続けたい」

 

 自分の気持ちに少しだけ正直になる。

 無論、頭では分かっている。平穏な世の中を築くには導師になる道を選んだスレイをサポートしなければならないし、邪魔と扱われたゴンベエが無闇矢鱈と力を貸さないように制御をしておかなければならない。

 私が浄化の力を物にしたらゴンベエはもう自分が側に居なくても問題無いと自分の道を突き進んでしまう……ゴンベエにはゴンベエの生活もあって無理に巻き込むのは流石に心苦しい。だが、一緒に来てほしいとも思っている。正しい答えがなんなのかが分からない。

 

「別にいいんじゃないかな。来てほしいなら来てくれって頼めばいいと思うよ」

 

「そんな簡単な問題じゃない」

 

「いや、簡単な問題だよ……僕も彼も暇人なんだからね」

 

「暇人……え?」

 

 悩みを打ち明けた結果、フブキから返ってきた答えは意外なものだった。ゴンベエが暇人?

 

「ゴンちゃんの強さは知ってるよね」

 

「ああ。ゴンベエは強い」

 

 災禍の顕主や最初の導師すらも圧倒的な力で叩きのめす強さと、世界の残酷な真実を知ったとしても前を歩こうとする心強さを持っている。

 

「だったらこう疑問を持ったことはないのかな……アレだけ強いのに、なんでナニもしないのかを」

 

「それは……」

 

 考えた事はなかったわけじゃない。

 ゴンベエは自分のことを勇者と言っている。正確には勇者の力を使っているだけと言っている……圧倒的な強さと心強さを持っているが、ゴンベエはそれだけで自分からなにかを成し遂げようとする姿は見たことがない。基本的には己の私利私欲を満たす為に力を使っている。

 

「僕もそうなんだけど、彼はね……生きることに意味とか意義とか見出す事が出来ていないんだよ」

 

「ゴンベエが?」

 

「そう。自分がなにかをするんだとか熱中するものが無かったりする……現代社会じゃよくいる夢も希望も無いけど絶望はしていない、マイノリティにならない様に皆がしている事をする、そんな若者的な闇を彼も僕も抱えている……思い返してみなよ。彼が自分のこと以外になにか興味を示したりやる気を出したりしてたかな?」

 

 フブキにそう言われたので過去を振り返ってみるが……ゴンベエは基本的には自分の私利私欲で動いている。

 ヘルダルフの時もそう、税金の免除の為で今もアルトリウスと戦うのはムカつくからと言う理由でだ……ただ、そうなると私の頼みをよく聞いてくれるのが分からない。

 

「彼は暇人で、騒ぎを起こして誘ってくれる子には甘いんだよ……まぁ、可愛い子限定だったりするけども。だからもし、彼を巻き込んでいる事に対して罪悪感を抱いているなら気にしなくてもいい。どうせ暇人なんだから、生活基盤を整えるとか生活費を稼ぐとかしかしてないでしょう。君みたいに巻き込んでくれる人間は実は助かってるんだよ」

 

「そう……なのか……」

 

「そうそう。彼は暇なんだから君はどんどんと巻き込めばいい、暴力という戦いにおいては右に出る者がいない天才だ……きっと君の力になってくれるよ。僕が彼女の力になった時みたいにね」

 

 ゴンベエの意外な一面を教えてくれるフブキ……ゴンベエが暇人で、ゴンベエは巻き込んでいる事に本当は感謝をしている。

 そう言われるとそうなのだろうかと考えてゴンベエを見るのだが、ゴンベエは私達の会話を聞いていない……暇人なのか……

 

「君が困ってるなら助けてって言えばいいんだ。彼はどちらかといえば悪人よりの人間だけど、優しいから助けてくれる……かつて何度も何度も心が折れそうな僕を助けてくれたみたいに」

 

 色々と悩んでいる私にフブキは色々と教えてくれたので私は少しだけ吹っ切れる。だが、今は魔法の力が宿ったタロットカードを回収する事に集中をしなければならない。ホトケの話が本当ならばこのままだと地脈湧点を経由して四聖主を目覚めさせる事が出来ない

 

「おいおい……ロクロウの倍ぐらいはあるんじゃねえか」

 

 ライフィセットの地脈を感じ取る力を頼りに先を進むとロクロウの倍ぐらいの大きさの木の魔物がウジャウジャといた。

 その背後には私達が拠点としている宿以上の大きさではないかと思える木の魔物が堂々と立っていた。

 

「あの1番大きな木から違和感を感じるよ」

 

「つまりはアレがクロウカードなんだね……ライフィセット、鍵を本来の姿に戻すんだ」

 

「うん」

 

 魔法の力が宿ったタロットカードの居場所を見つけたライフィセット。

 後は封印をするだけだとホトケから受け取った鍵に手を翳す。

 

「闇の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前に示せ。契約のもとライフィセットが命じる。封印解除(レリーフ)!!」

 

「……ゴンベエ」

 

「なんだ?」

 

「ライフィセットが持っている鍵、ゴンベエの紙芝居に出てこなかったのか?」

 

 ライフィセットが鍵を杖の形に変化させた。ゴンベエが描いていた魔法のカードを集める女の子の物語に出てくる杖にそっくりだ。

 

「そうだ……アレはクロウカード、説明をしたいところだがやるぞ」

 

 刀を抜いて闇を纏うゴンベエ。

 ロクロウの倍ぐらいの大きさを持つ木の魔物達が私達の存在に気付き、襲いかかってくる。どうやら戦わなければならないようだな。私も槍を取り出し、襲いかかってくる木の魔物を切り裂いていく。

 

「クロウカードを封印しない限りは木の魔物は永遠と湧いて出てくる、ライフィセット、君はなにがなんでも封印をする事だけ集中するんだ」

 

「うん……でも、このままじゃ」

 

 フブキはライフィセットのすべき事を伝えるが、ライフィセットの杖が木の魔物までに……魔法の力が宿ったタロットカードまで届かない。

 私達が攻撃をして吹き飛ばしたりしていくのだが地の底からウヨウヨと木の魔物が出てきてキリが無い。

 

「分かっている……ゴンちゃん、オーバーライドだ」

 

「ブッキー、オレに合わせれるのか!?」

 

「オーバーライド?」

 

「必殺技と必殺技を掛け合せて新しく生み出す必殺技だ……ただオレとブッキーの間には大きな力の差がある」

 

「ゴンベエが力を調整すればいいのではないのですか?」

 

「それだと威力が弱まるんだよ」

 

 ゴンベエがフブキに合わすのでなく、フブキがゴンベエに合わせなければならない。

 聞く限りはかなり高度な技術を要する技の様だが……大丈夫なのか。

 

「大丈夫だ、僕を信じてくれ」

 

「ったく……失敗したら承知しねえぞ」

 

 刀を鞘に納めるゴンベエはフブキの隣に立つ。

 フブキは自分の靴に触れるとカチカチと音が鳴り発光した。

 

「おいおい、キック力増強シューズかよ」

 

「コレぐらいしないと君のパワーには追いつけないんだ……」

 

 フブキはボールを足に挟んでジャンプをしながら宙返りをすると足に挟んでいたボールを蹴り飛ばし、ゴンベエは飛ばした先に飛んでおり蹴り飛ばされたボールに踵落としを決めるとボールは空中で制止して冷気を漂わせる。

 

「いくよ、エターナルブリザードと」

 

「エターナルブリザードのオーバーライド!!」

 

 二手に分かれると冷気を纏いながら体を回転させてボールへと近付く。

 

「「ホワイトダブルインパクト(エターナルブリザードCC)」」

 

 2人が力を合わせて、強烈な冷気を纏ったボールを蹴り飛ばす。

 フブキとゴンベエの息の合わさったツインシュートは見事なもので、辺り一帯の木の魔物を氷漬けにされていき1番大きな木の魔物に目掛けてとんでいき、命中した。

 

「ブッキー、今なんつった?」

 

「エターナルブリザード(クリスタル)(クラッシャー)だよ……ホワイトダブルインパクトはダサいからね」

 

「まぁ、ファイヤトルネードDDならエターナルブリザードCCの方がいいかもな……ライフィセット、道は切り開いた!いけ!」

 

「うん!汝のあるべき姿に戻れ、クロウ」

 

「───あゝAA!!!」

 

「うわぁ!?」

 

「フィー!!」

 

 ゴンベエ達が切り開いた道を駆け抜けていき、ライフィセットが杖を振りかざそうとした。その瞬間に巨大な木の魔物は暴れだしてライフィセットを吹き飛ばすのだがベルベットが受け止める。

 

「エターナルブリザードCCでもダメなの!?」

 

「練習無しのぶっつけ本番だから思ったよりも威力が出てねえんだろう……ホワイトダブルインパクトがダメならトリプルブリザードといきたいが3人目が居ないから出来ない……アレをやるぞ」

 

「アレって……でも、アレは君の体に負担が掛かるよ!!」

 

「んなの気にしてる場合じゃねえだろうが……痛いのは馴れている」

 

 倒れない木の魔物に対してまだなにかの技があるようだがフブキはあまりいい顔をしない。

 状況が状況だけに使うしかなく、フブキはベルトのバックルからボールを出してゴンベエにパスをすると走っていく。

 

「いくぞぉ!うぅるぅぁああああ!!」

 

 ゴンベエが叫ぶとゴンベエの周りに氷の柱が出現し、ゴンベエは氷に包まれるが直ぐに脱出すると冷気を纏ったボールを蹴り飛ばす。

 

「この一撃、ゴンちゃん、君の思いは無駄にしない」

 

 足に力を纏わせてグルリグルリとバク転をするフブキ。

 回転の遠心力を加えた蹴りをボールに叩き込むと*マークの氷が出現し、ボールは貫いた。

 

「「氷結のグングニル!!」」

 

 槍の様な形状の力を纏ったボールは1番大きな木の魔物に向かってとんでいく。

 これならば確実に木の魔物を貫くことが出来る。そう期待を抱いたが、木の魔物は学習をしてきたのか巨大な根っこを出現させて敢えて貫かせてゴンベエとフブキの必殺技である氷結のグングニルの威力を弱らせていく。

 

「クソっ、アレじゃあダメだ」

 

 根っこの壁に阻まれて氷結のグングニルの威力は弱まった。

 巨大な木の魔物に激突した時には貫く事は出来ず、木の魔物を後退させるだけの威力だった。

 

「……これでも駄目か」

 

「アイツがこの騒動の原因なら、破壊すれば」

 

「地脈に根付いているから力技はダメだっつってんだろ」

 

 左腕を喰魔化させてベルベットは1番大きな木の魔物に突撃しようとするがゴンベエは制止する……だが

 

「クロガネの征嵐が完成していたらあんなの一刀両断出来たんだがな」

 

 決定打にかける。ロクロウもそれを感じているのかクロガネの征嵐があればと思っている。後一手、後一手が足りない。

 ゴンベエになにかないかと視線を向けるがゴンベエは先程自分を氷漬けにした寒さが襲ってきてクシャミをしている。

 

「っ……もう限界だね……こうなったら、アメッカ!!」

 

 強烈なシュートを何発も撃ったフブキも遂に限界を迎えた。

 痛むのか足を抑えており、苦しい表情を見せるのだがまだ諦めておらず私の名前を呼ぶと背中から黒い靄の様なものを出現させる

 

「豪雪のサイア 零式!受け取れぇえええ!!」

 

 巨大な槍を持った女性型の魔神を背中に作り出したフブキは魔神で木の魔物を襲いかからず私に攻撃を……いや、違う、これは

 

「力が、湧いてくる」

 

 フブキの力を託された。髪型が少しだけ変わっており体の底から力が湧いてくる。

 ノースガンドの寒さなんて気にしない程に力が湧いており、私はフブキやゴンベエを見習って背中に巨大な魔神を作り出す

 

「キングス・ランス!!」

 

 三叉の鉾を持つ魔神を動かし、巨大な木の魔物を貫いた

 

「今だ、ライフィセット!!」

 

「やるならば今じゃ!!」

 

 封印をする隙を作り出した。

 巨大な木の魔物は再生をしようとするが私が出している魔神の槍を突き刺して再生を防ぐ

 

「今度こそっ……汝のあるべき姿に戻れ、クロウカード!!」

 

 2回目の失敗は許されない。ライフィセットは杖を振りかざし、木の魔物に当てると木の魔物に波紋が広がり巨大な木の魔物は収縮していき1枚のタロットカードに戻った。

 ライフィセットが木の魔物をタロットカードに戻すと増殖していった木の魔物はピタリと動きを止め、光の玉となってライフィセットが手にしたタロットカードへと戻っていった。

 

「……うん、地脈から感じる違和感は無くなったよ」

 

「そうですか……一時はどうなるかと思いましたがなんとか封印が出来てよかった」

 

 完全に脅威が去ったのでエレノアはホッとする。

 

「こんなカード1枚であんな騒ぎを起こしたのか」

 

 アイゼンはライフィセットが手にしたタロットカードをマジマジと見る。

 タロットカードには樹をイメージした女性が描かれており、さっきまで激闘を繰り広げていたのが嘘の様に見える。しかしこれも事実だ

 

「あ……」

 

「強制ミキシマックスはここまでだよ」

 

 やっと戦いが終わったとホッとすると私の中にあるフブキの力が出ていき、フブキの中に戻った。

 一時的なパワーアップはこれでおしまい……だが、今のでなにかを掴めた。キングス・ランスをもう一度使えと言われれば使えるだろう。

 地脈の中に眠ってしまっている異物である魔法の力が宿ったタロットカードを回収し終えたので私達はメイルシオに戻った。

 

「僕、何時までこの格好なんだろう」

 

 目当てのタロットカードは回収を終えたがライフィセットはそのままの格好で、フブキは残っている。

 何時もならばホトケに似た誰かが迎えに来るのだが、姿を現さない。

 

「もう大丈夫だよ」

 

「ありがとう……一発ぐらいならいけるか」

 

 ホトケが出てこない事に少し不安を抱いているとライフィセットの治癒術を受けたフブキは足首を動かす。

 氷結のグングニルとエターナルブリザードCCがかなり足に負担を掛けていたようでライフィセットの治癒術でも完治はしていなさそうだ。

 

「さてと……暫くすれば仏も勝手に出てくるだろうし……ゴンちゃん、僕と勝負をしてよ」

 

「いきなりだな」

 

「確かめたいんだよ。あれから僕がどれだけ強くなったのかを、君の強さを」

 

「PKの1本勝負だ……それ以外は受けん」

 

 フブキはゴンベエに挑戦状を叩きつけた。

 ゴンベエはそれを受けるとここでは危険だからと人気も民家も無い場所へと移動をする。

 

「さてと……ミキシトランス、川神舞!」

 

「アレはさっき私にやった」

 

 自分の力を他人に譲渡する技術を発揮するフブキ。

 オレンジ色のポニーテールに髪型は変化し、風格が漂う。

 

「はぁああああ!豪雪のサイア 零式!アームド!!」

 

「魔神を纏ったじゃと!?」

 

 そのままの状態でも充分な強さを持つ魔神をフブキは鎧の様に身に纏う。

 

「いくぞ……吹き荒れろ……エターナルフォースブリザード(インフィニティ)!!」

 

「この冷気、絶対零度か!!」

 

 エターナルブリザードよりも遥かに冷たい、絶対零度の冷気を纏ったボールをフブキはゴンベエに向かって蹴り飛ばす。

 アレは受けるだけでも危険な力を持っている。避けなければならないが……ゴンベエは勝負を受けた以上は逃げることは出来ない。手に氣を集中させて盾の形に形状を変化させる

 

「王家の盾っ!!」

 

 渾身の王家の盾でフブキのエターナルフォースブリザードを受ける。

 絶対零度の冷気はピキピキと王家の盾を凍らせていくのだが、ゴンベエは一歩も引くことはしない。

 

「いっけぇええええ!!」

 

「止まり、やがれ!!」

 

 ぶつかり合うゴンベエとフブキ……勝負に勝ったのはゴンベエだった。

 若干だ氷漬けにされてしまっているがゴンベエはフブキの蹴ったボールを掴んでおり、フブキのエターナルフォースブリザードをキャッチした。

 

「ふぅ……久々に焦った」

 

「君を焦らせるぐらいには成長したって喜べばいいのかな……はぁ……悔しいな。アレから滅茶苦茶努力したんだよ、僕」

 

「強くなったからいいじゃねえか」

 

「君の強さに憧れてるんだ……僕も君みたいに強くなりたい……でも、コレが限界みたいなものかな」

 

「お前にはお前の強さがある……お前は強えよ」

 

 フブキと語り合うゴンベエは何処か楽しそうだった。

 フブキがこの世界に居られるのも残り僅かである為に私達は余計な口を挟まずゴンベエ達を見守る

 

「ゴンちゃん……いや、ニノ」

 

「なんだ?」

 

「……あの時はごめん」

 

「……気にしてないって言ったら嘘になるが、謝られる事じゃねえよ……オレがおかしかったのは今になって嫌でも分かるんだから」

 

「そっか……」

 

 ゴンベエとなにかがあったのかフブキはゴンベエに頭を下げた。

 なにをしたのか気にはなるが横槍を入れるわけにはいかず、ゴンベエもその事については特に恨んでもいない。

 

「お、迎えが来たっぽいぞ」

 

「ホントだ」

 

 私達が居る方向を見るゴンベエとフブキ。

 ホトケが来たのかと私達も振り向けばそこにはゴンベエが乗っていたマスターバイクによく似た形の乗り物に乗ってホトケによく似たスキンヘッズの男がやってきた。

 

「今回も……ホトケじゃないのか」

 

「ゴンちゃんこうして君と再会出来たのもなにかの縁だ、このサッカーボールをあげるよ」

 

 毎回ホトケにそっくりな人が迷い人を連れて帰る。今回もホトケにそっくりな人がやってきた。

 フブキはゴンベエにボールを託すと雪の上を走る乗り物に乗っているホトケにそっくりな人に向かって歩き出す。チヒロさんもだ。

 

「ほらよ、クロウカード回収したぞ」

 

「いやぁ、ごめんごめん。ホントにごめんね、厄介事を押し付けちゃってさ」

 

「面白いものが見れたからそれでチャラにしてやる……帰るか」

 

「そうですね」

 

 魔法の力が宿ったタロットカードとそれを封印する闇の力を秘めし鍵をスキンヘッズのホトケにそっくりな人に渡すとチヒロさんとフブキは雪の上を走る乗り物に乗っていき、走り去ると瞬く間に消えていった…………。

 

「僕を元の格好に戻すのは!?」

 

 ライフィセットをそのままの格好にしてだ。

 色々とあったものの、今回もなんとかなって良かった……それにしても、ゴンベエが暇人か……意外と言えば意外かもしれないがそうと言われればそうかもしれない……この旅の続きについてきてほしい。




ライフィセットの衣装

カードキャプター

説明

多くの大きなお友達をロリコンの道へと突き落とした小学生の魔法少女のアニメの最初のOPで着ていた格好。
ライフィセットは男の子だが男の娘でもある為に一切の違和感無く着こなせれている。


友情のサッカーボール

説明

戦闘においては最強とも言えるゴンベエと一本勝負をした際のサッカーボール。
かつてフブキは戦闘の才能に開花したゴンベエに「君が強すぎるんだよ、おかしい事を自覚してくれ」と言ってしまった事を深く反省しており、その件に関して謝罪をした事により更に友情が深まった。


ゴンベエの術技

サモン・リバイバル(with吹雪)


説明

ゴンベエ版サモンフレンズ。*マークのクレストに入ると発生。
転生する度に宮野真守キャラになる男である吹雪士朗を呼び出し、スノーエンジェルで氷漬けにし、豪雪のサイアによるアイシクルロードで相手を貫き、トドメと化身アームドをして究極進化したエターナルフォースブリザードで全てを氷漬けにする

ゲーム的な話をすれば即死技である。

ホワイトダブルインパクト(エターナルブリザード(クリスタル)(クラッシャー)

説明

2人で撃つエターナルブリザード。
ゴンベエの方が吹雪よりも遥かに強い為に本来ならばゴンベエが手加減をして撃つのだが、吹雪の履いているキック力増強シューズの力で脚力を上げた事によりゴンベエの本気になんとかくらいつく事が出来た。
ホワイトダブルインパクトと言う名前が好きではない吹雪は勝手にエターナルブリザードCCと呼んでいる。

氷結のグングニル

自分を中心に氷の柱を複数出現させ、自らも氷漬けにして直ぐに脱出すると冷気を纏ったボールを蹴り飛ばし吹雪が足に力を纏わせてグルリと何回もバク転を繰り返し、遠心力を加えら蹴りを加えると*マークの氷が出現してボールに螺旋回転するエネルギーが纏わされとてつもない威力を持った一撃となるが使用者の身体に大きく負担が掛かる必殺技

アリーシャの術技

キングス・ランス

説明

槍を携えた巨大な魔神を呼び起こし相手を貫く巨大な敵にも対応できる必殺技

吹雪士朗の術技

エターナルフォースブリザード

説明

絶対零度の冷気を纏ったエターナルブリザード。
吹雪はこの技を究極進化させており、この技とキック力増強シューズと化身アームドとミキシトランスを組み合わせた一撃が最も強い吹雪の必殺技。



スキット 鎮静化の影響

ベルベット「そういえばあんた達、大丈夫なの?」

吹雪「え〜と……なにが?」

ライフィセット「この世界は今、カノヌシっていう神様みたいな存在が人間から意思を奪おうとしてるんだ……普通の人は油断をすると意識を奪われるんだけど……」

ベルベット「大丈夫みたいね」

「なんか頭の中に変なのが語り掛けてくる感覚があってうっとおしい」

吹雪「僕はそんな感覚が無いよ」

ライフィセット「2人とも強い心を持ってるんだね」

吹雪「……僕は君が思っているほど強い人間じゃないよ。人の意思を奪おうとするのはマインドコントロールの一種だと思うから多分……化身かな」

ライフィセット「化身?」

「オレはまぁ……この程度の事ならば日常茶飯事だからな。こうすれば正しいとか押し付けてくるのはウザくて仕方がねえ」

ベルベット「カノヌシの鎮静化をウザいの一言で片付けるって、あんたどんな日常を送ってるのよ」

「カードをカツアゲされたり、強い英霊達の中間管理職をしたり、天の御使いと思われて影の薄さが異質だと思われて試し斬りをされたり……」

吹雪「黛さんは貧乏くじを引く星の元に生まれてるんだ、トラウマを抉るのは可哀想だよ」

ライフィセット「チヒロさんも色々とあるんだね……フブキは?」

吹雪「僕はそんなに語るほどの人間じゃないよ。黛さんみたいな突然変異でもなければゴンちゃんみたいな戦闘特化のタイプじゃない。凡人と呼ぶに相応しい人間だよ」

ベルベット「あんだけ暴れておいて、凡人なんて言うわけ?」

吹雪「そうだよ。僕は所謂凡人に分類されている……ホントに情けないぐらいにね。だから強く嫉妬しているよ、黛さんの様にオンリーワンの才能を持っている転生者()を、ゴンちゃんの様に誰にも負けない圧倒的な強さを持っている転生者()を。彼女が僕には僕の良さがあるなんて言ってくれるけどどうしても妬む」

ライフィセット「それがフブキの業……分かっていても諦めきれない、認められないもの」

吹雪「世の中には努力とか思いとかが届かない領域がある……僕の望んでいるものはその世界にある」

「一旦肩の力を抜けよ……無理に苦しんでも意味はない。つまらない事ばかり求めていてもそれは苦しいだけだ……自分が気持ちよく心地良く生きれないと、なんの為に生きているのか(転生しているのか)分からなくなる」

ベルベット「あんたはあんたで我が強いのね……ゴンベエがあんたを慕う理由がなんとなく分かる気がするわ」

スキット 背徳感

吹雪「う〜ん、大丈夫かな」

ライフィセット「なんの心配をしてるの?」

吹雪「僕、ここに来る前に彼女とサッカーをする約束をしていたんだ。急にこの世界に飛ばされたから……怒られないかな」

ライフィセット「……フブキ、彼女居るんだっけ……意外だ」

吹雪「言っとくけど僕はどちらかと言えばモテる方だからね。去年、バレンタインで結構チョコ貰ったりしたし」

ライフィセット「バレンタイン?」

吹雪「異性に親愛か性愛のチョコを渡すイベントみたいな物だよ……1個でも食べたら浮気認定するって言ってくるから1個も食べずにいたけど」

ロクロウ「愛が……重いな……」

吹雪「そもそもで去年のバレンタインデーの時点で恋人の関係だったのにチョコを渡してくる方が正気の沙汰じゃないよ」

アイゼン「それは渡してきた女の方が悪いな」

ライフィセット「フブキの彼女ってどんな人」

吹雪「写真あるよ」スマホ見せる

アイゼン「おぉ、滅茶苦茶美人だな」

ロクロウ「愛の重さも納得がいくな……どうやって知り合ったんだ?」

吹雪「野暮だな貴方も……誘われたんだよ」

ライフィセット「誘われたって……クラブ活動に?」

吹雪「僕の居る世界はアホな大人達が色々とやらかした結果、ファントムっていう妖怪とか幽霊とかがいてね。それらに対抗出来る能力を若い世代の人間が持っていて彼女は生活費とかを稼ぐためにファントム退治をしてるんだけど、ファントム退治ばっかしてて金の亡者に近い状態になってて誰もついていけなくて相棒的な存在が居なくてね……たまたま僕が強いのを知ったから一緒に退治しないかって誘われてそこから仲良くなったんだ」

ロクロウ「なんかゴンベエとアメッカの関係に似ているな」

吹雪「僕も彼も似たような人間だからね……僕的には暇潰し感覚で付き合ってたんだけど、向こうは僕に好意的になっててね……見事に一服盛られたよ」

ライフィセット「一服?」

ロクロウ「ふん!!」

吹雪「ぐふぅ!?」

アイゼン「ここには幼い純真で純粋な少年であるライフィセットがいる……言葉は選べ」

ライフィセット「もう、子供扱いしないでよ!一服……毒でも盛られたのかな」

吹雪「痺れ薬をちょっと……いや、可愛いんだよ。絶世の美女って言っても過言でもないし、バリボーなんだよ。でも僕は下心とかなんもなしで一緒にやってたんだよ。せめてもうちょっとデートとかの段階を踏みたかった」

アイゼン「ゴンベエと似たような事を言っているな」

吹雪「まぁ、最終的には結婚するの前提で恋人の関係になったんだけどね……色々と強請られてこの前なんかシスターの格好でね、シスターとやってる背徳感と彼女が魅惑的なバリボーなのも合わさって滅茶苦茶出た──」

ベルベット「ヘヴンズクロウ!!」

吹雪「なぁう!?」

ベルベット「あんた、フィーになんて話をしてるのよ!ていうか、シスターの格好でそんな事するな!」

ロクロウ「いや、シスターといけない関係になっている背徳感は凄まじい、それと同時に快楽も色々と……ふ」

ベルベット「納得してるんじゃないわよ!!」

アリーシャ「シスターの格好……いや、ダメだ。そういう誘惑は天罰がくだる」

アイゼン「いや、だからこそする価値があるんだ!」

エレノア「威張りながら猥談をしないでください!!」

ライフィセット「……なにが出たんだろう」


尚、黛と吹雪を迎えに来たのは仁に出てた佐藤二朗です。


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テイルズオブ名物 雪国ラブイベント

勢いと一時のテンションに身を任せて書いております。感想をお待ちしております、感想乞食です。
テイルズオブって言えば豪雪地帯でなんかイベントを巻き起こすよね。


「そういえば、なにを届けてたの?」

 

 異世界からの住人がやってきて一騒動が起きたけれど、なんとか丸く収まった。

 緋の夜までには時間があるので私達は自由に時間を過ごしており、フィーがアイゼンにベンウィックから届けられた物について聞いた。

 

「ああ、妹からの手紙だよ。返事がやってきた」

 

「そっか、よかったねアイゼン」

 

 たった一人の家族とのかけがえのないやり取り。

 アイゼンの手には返事の手紙が握られておりアイゼンは嬉しいのか微笑む。

 

「以前に手紙を送った際にアメッカとゴンベエ以外の事を書いた……会ってみたいそうだ」

 

「アメッカとゴンベエを……確かにあの2人は自分達の事を記録とか残さないようにしてって言ってたけど」

 

「あの二人は恐らく……」

 

 言葉をつまらせるアイゼン。ついさっきまで起きた出来事を考えれば多分……いえ、関係ないわね。

 彼奴等が何処の誰かは知らないけれどこの世界に足を踏み入れて、私の復讐に力を貸して最後まで見届けようとしている。例え違う住人でも仲間であり共犯者である事には変わりはない

 

「私達に会いたいだなんて物好きな妹ね」

 

 今の私達は世間を混乱に追い遣る災禍の顕主の一味。

 強い穢れを放っていて聖隷にとっては毒の様な存在で今だって聖寮とバチバチ争っていてハッキリと悪だって言えるのに

 

「物好きさ。あいつを傷つける死神と一緒にいたいなんて言うぐらいだからな」

 

「僕、会ってみたいな」

 

「……1つだけ言っておく」

 

「【妹に手を出したら殺す】でしょう。副長、妹さんの話をすると毎回言ってるんだよ」

 

 余程が妹が大事なのかただのシスコンなのか……どっちもね。

 

「何時か一緒に会いに行こうね」

 

「いい度胸だ」

 

「うん……自分の舵は自分で握っているからね」

 

 フィーは何時の間にか大きくなっている……まぁ、私からすればまだまだだけど。

 アイゼンは満足そうに妹からの返事の手紙を読んでいるから変に声を掛けたりせずにこの場を後にするとロクロウが民家の前でお酒を飲んでいた。

 

「この音は?」

 

 民家から金槌をカンカンと叩く音が響く。フィーは音の正体についてロクロウに聞いた。

 

「クロガネが刀を打ってるんだ……折れた金剛鉄(オリハルコン)の征嵐を超える刀を。ゴンベエに打った逆刃刀と刀を超えると意気込んでてな」

 

「また刀を打ってるんだね……でも、金剛鉄(オリハルコン)で出来た征嵐がダメだったから……なにを素材にしてるの?」

 

「クロガネ自身だ」

 

「え!?」

 

「大丈夫なの、それ」

 

 クロガネが自身を刀の素材にしている事については少し驚いたけど、自分の頭を小太刀にしたのを知っているから。

 けど、その時に作られた小太刀はあっさりとシグレの持つ號嵐に叩き折られた。頭で出来た小太刀が叩き折られたのなら残る足とかで刀を作ってもまた叩き折られるんじゃないかしら。

 

「大丈夫だ……金剛鉄(オリハルコン)は硬さは申し分無かったが、それだけだ。號嵐を征する信念が込められていない……號嵐に打ち勝ちたいと思う信念が籠もった素材はクロガネしかいない」

 

「なら、號嵐と征嵐の戦いは」

 

「ああ……これから生まれる新たな1本で俺がシグレに引導を渡す……酷いものだろう。連れを刀にして実の兄貴を斬ろうとしてるんだからな」

 

「人の事を言える義理じゃないわ」

 

 私は実の姉を喰らい、実の弟と義兄を殺す為に生きている。下手したらロクロウより酷いんじゃないかしら。

 

「お前は人間だよ……痛い苦しみも、誰かを思いやる心もちゃんと持っている。お前だけじゃないクロガネもだ……號嵐に対する憎しみだけじゃなく憧れもある。業を背負った業魔が無心になるなんて最初から不可能だ……だから全てをぶつける。これから作られる征嵐は今までの物とは比べ物にならない征嵐になるだろう……後は俺がシグレを斬るだけだ」

 

「やり遂げなさいよ」

 

「ああ、必ず斬る」

 

 あんたは私に借りた恩を返さないといけないかもしれないけど、自分の目的を果たさないといけない。

 四聖主を目覚めさせるにはなにがなんでもシグレの魂が必要でその為にはクロガネの征嵐が打ち勝たないといけない……きっとロクロウならなんとかするわね。

 

「もぉ〜いいかい!」

 

「もぉ〜いいよぉ!」

 

「よしっ……!?」

 

「ノリノリね」

 

 心水を飲んでクロガネの答えを待つロクロウを後にするとエレノアを見かけた。

 エレノアはモアナとかくれんぼをして遊んでおり、エレノアが鬼をしていた。意外とノリノリね。

 

「い、いえ、モアナがどうしてもと」

 

「エレノア様、モアナの後をつけたでフよ!あっちに隠れているでフ!!」

 

「……」

 

「子供相手に手段を選ばないんだ」

 

「ち、違いますよ!ズルはダメですよ、ビエンフー!!」

 

 テクテクと歩いてモアナの居場所をビエンフーは伝えに来る。

 あまりにも卑怯すぎるのでフィーも引くとエレノアはビエンフーを叱りつける。ビエンフーは驚いた顔をする

 

「ええ、マギルゥ姐さんとやってた時は何時もやらされてたんでフよ!」

 

「あの人は反面教師です!」

 

「エレノアー!なんで探しに来ないの」

 

「モアナ見つけました!ダイルも!」

 

「ええっ!!」

 

 自分の事を探しに来なかったのでプンプンと怒るモアナ。一緒に遊んでいるダイルも出てきてしまった。エレノアは見つけたと二人を指差す

 昔、ラフィと遊んだ時にも似たような事があったわね。

 

「ズルいでフー」

 

「ズルではありません。ビエンフーのズルを利用した知的な作戦です」

 

「……結果的にビエンフーのズルを利用してるからズルじゃないの?」

 

「うっ……」

 

 図星みたいね。若干ズルをしている感覚があったのかフィーの言葉はエレノアに深く突き刺さった。まったく、悪いことをするのには馴れていないんだから。

 

「あーあ、見つかっちゃった」

 

「ふふっ、どうですかモアナ。私も中々にやるでしょう……だから、心配しなくても大丈夫です」

 

「うん……モアナ、エレノアを信じてるよ。ビエンフーがメーワクかけないか心配なだけで」

 

「ボクのせいでフかー!?」

 

「ビエンフーの事は任せてください……私達はきっと帰ってきます」

 

「わかった、約束だよ」

 

 モアナとエレノアは小指を繋げて指切りげんまんを交わす。

 

「モアナ、安心したなら帰ろうぜ。寒すぎて冬眠しちまう」

 

「ダメ!次はダイルがオニなんだから、ダイルはワニだからオニだよ!」

 

「ワニじゃねえ、トカゲだよ」

 

「トカゲだから眠くなったんじゃないかな」

 

 爬虫類は冬になったら栄養を溜めて冬眠をする……もしかしたらダイルは冬眠したいんじゃないかしら。

 フィーのその一言で皆が笑う。

 

「ワニもトカゲも似たようなものよ」

 

「違う!トカゲは尻尾が再生するけど、ワニは再生しねえだろうが」

 

「……人と業魔、聖隷がどうやって生きていくのか、なにをすべきなのか……きっとある筈です」

 

 人間が背負いし業は切っても切れない、聖隷と人間も切っても切れない関係。

 これからどうやって残酷な世界と向き合うか……エレノアは折れずに前を見続けている。

 

「エレノアならきっと見つけることが出来るよ」

 

「何年、何十年、次の世代、そのまた次の世代……それこそ千年掛けても探して見つけ出してみます」

 

「気の長い話ね」

 

 けど、エレノアなら見つける事が出来るわ。

 エレノアはモアナの元に向かうと再びかくれんぼがはじまる……ここにいたらまたなんか言われそうだし、場所を移動するとアメッカがハープを手にしていた

 

「……っ……違う」

 

「なにしてるの?」

 

 今までオカリナを何度も吹いているのは見てきたけれど、ハープを弾いているのははじめて見る。

 ゴンベエは何回か別の楽器を弾いているのを見たことがあるけれど、なにをしているのかしら?

 

「私の槍を完成に向けて弾いているんだ」

 

「そういえば……まだ未完成だったね」

 

 最後の一工程をアメッカの槍は残している。

 クロガネとゴンベエが共同で作った槍は今の時点でも充分な力を持ってる。それこそ私の剣に使った素材も含まれている……アレでまだ未完成ならなにが足りないのかしら。

 チラリとアメッカの槍を見ると地面に突き刺さっており、突き刺さっている槍を中心に三角形が三つ鱗のように連なって大きな三角形を跡が刻まれている。アメッカの槍には微弱だが青白い光が宿っている。この光はゴンベエの背負っている背中の剣と似た光を放っていた。

 

「穢れを打ち払う光を込めているのね」

 

「ゴンベエが言うには祈り唄らしい……2つの祈り唄を槍に捧げれば完成する。1つはハープで地神の唄らしいが、ハープなんて弾くのははじめてで」

 

「楽器なんて早々に触ることは無いわよ……ちょっと貸しなさい」

 

 アメッカからハープを借りると鳴らしてみる。

 ポロンポロンと音は鳴るけれども思った以上にリズムが取れない……難しいわね。アイツは平気な顔で楽器を弾いているけど、こんなに難しいとは思わなかったわ。

 

「アルトリウスに復讐を果たしたら、あんた達は帰るのよね……大丈夫なの?」

 

「……見なければならない現実も受け入れなければならない業も知った。そこからだ、私達の戦いは」

 

「私達、ね」

 

 ゴンベエも巻き込むつもりなのね……まぁ、アイツならなんだかんだでアメッカに甘いからついてきそう。

 

「これから問題は山積みだ、ローランスとハイランドの裏に潜んでいる災禍の顕主の手先を探したり、逆に戦争に反対をしている味方を見つけたり、スレイに再会したり……でも、やらなくちゃいけない、いや、私はやりたいんだ」

 

「頑張ってね、アメッカ」

 

「ああ……ライフィセットはどうするつもりなんだ?」

 

「僕……どうだろう……」

 

「……」

 

 この戦いはもうすぐ終わりを迎える。私達はなんとしてでも勝ってみせる。

 戦いが終わればカノヌシの一部であるフィーは……仮に生きていたとしてもフィーには今、目的が無い。自分の意思でカノヌシと戦う事を決めているけれどフィーには次はない……フィーを生かすには……。

 

「……終わってから考えるよ。僕は聖隷だから時間はたっぷりあるから」

 

「時間か……私とゴンベエに残された時間は後僅かだ……最後まで頑張らなければ」

 

 アメッカはハープの練習を続ける。アメッカならきっとハープを完璧にマスターする、穢れを打ち払う力を手に入れる。

 そうすれば……モアナやメディサの様な人が生まれなくなる。ダイルを元の人間に戻すことが出来るようになる……私は無理ね。この復讐の業はもう一生取り付いていて例え元に戻ったとしても直ぐに喰魔化するわ。

 

「……なんか変わってるわね」

 

 マギルゥにも声を掛けようかと思ったけれど、何処にも見当たらなかった。

 少し前の木の化け物との馬鹿騒ぎで思ったよりも疲れていたみたいで少しだけ仮眠を取ると自分の腹の中に意識は向かったけど、そこには何時もの長方形のテーブルじゃなくて丸い小さなテーブルと紅茶のセットがあった。

 

「ええ、消えるに消えれなくなってしまったから模様替えをしたのよ」

 

「一応、私のお腹の中なんだけど」

 

「私の器の中でもあります」

 

 シアリーズが私の中を勝手に模様替えをしていた。特になにか変な感じもしないし、気持ちの悪い装飾をしているわけじゃないからそれでいいけど。シアリーズは紅茶を私に入れてくれたので私は椅子に座って紅茶を頂く。普通だったら味がしないけれど、私の腹の中の為かしっかりと味を感じ取れる。

 

「貴女はなにか言う事はないの?」

 

 それぞれが決戦に向けて意気込み、準備をしている。

 シアリーズもなにか思っている事はないのか尋ねてみると首を横に振った。

 

「私はもう貴女に託すべきものを託したわ……だから器にしている剣から出てこない様にしている。でも……彼にはお礼を言いたいわ」

 

「彼って……ゴンベエ?」

 

「ええ……彼は貴女とずっと接してきた。災禍の顕主としてでなく一人の女性として……あの子が生きる希望を作ったけれど彼だけは最初から最後まで貴女の味方でいてくれた……お礼を言いたい」

 

「だったら、出れば……なんて無理よね」

 

 シアリーズは剣の中から出てくるつもりはない。

 自分がすべき事をすべて成し遂げた……私に力を貸してくれるけどそれだけでそれ以上は深く踏み込んで来ない。

 

「貴女はいいのかしら?」

 

「……なにが?」

 

「この戦いが終われば彼は元いた場所に元いた世界に帰ってしまう……最後に思いを伝えるべきだと」

 

「は、はぁ!?な、なにを言ってるのよ!!」

 

 話が急に変な方向へと切り替わる。

 ゴンベエに思いを伝えるべきって、確かにあいつのおかげでパワーアップする事が出来たし、アルトリウスの真実を知ってもなんの迷いもなく私に味方するって言ったりしてくれたけど、別にアイツの事なんてこれっぽっちも思ってないわ。

 

「貴女、彼が鞘になろうかと聞いた時に満更でもないって思っていたわよ」

 

「なにを言ってるのよ!大体ね、ここまで穢れた業魔を女として好きになるなんて」

 

「業魔を理由に女を捨てないで!!」

 

 なんでこのタイミングでセリカ姉さんになるのよ!

 

「貴女と出会って間もない頃に貴女が絶世の美女だって彼は何度も言っていたわ。彼は貴女を女性として見てるわ」

 

「そんな目で見ないようにしているって言ってたわよ」

 

「そんなに否定して……貴女がツンデレに成り代わったのは知っているけど、少しは自分の気持ちに素直になったらいいわ」

 

「男なんてもう懲り懲りよ」

 

 義理の兄にも実の弟も信じて騙されてしまった。今更恋なんてしたいなんて言えない。

 それにあいつにはアメッカがいるわ。アメッカは口にはしていないけれどゴンベエの事を思っている。横取りなんてするつもりは無い。

 

「他に誰か好きな人がいるの?ダイル?ロクロウ?アイゼン?ベンウィック?」

 

「違うわよ。てか、身内で固めないで!」

 

 別に誰かを好きになっていないわ。

 セリカ姉さんの姿になったシアリーズはジッと私の事を見つめてくる。

 

「貴女はセリカが死んでからライフィセットの事にばっか目が向いていて女を磨く事を出来なかった……少しぐらい、自分の幸せを見つめてね」

 

 シアリーズはそう言うとセリカ姉さんの姿から元の姿に戻る。

 ここで私の意識は途切れて目を覚ます……疲れを取る筈の仮眠なのに、逆にドッと疲れたわね。

 

「……」

 

「これでいいか」

 

 外の風に当たろうと外に出るとゴンベエは雪だるまを作っていた。

 1つや2つじゃない、私達をモチーフにした雪だるまを作っており今は私の分の雪だるまを作っていた……

 

「1発ぶん殴らせなさい」

 

「急に唐突だな!?……なにかあったのか!?まさかメルキオルのクソジジイが不意打ちでも」

 

「いいからぶん殴らせなさい!」

 

 私はゴンベエに一発ビンタを叩き込む。

 結構本気で叩き込んだのだけれどゴンベエは何事もなくケロッとした顔で立ち上がり、私が満足をしているのが分かったのかなにも言ってこない

 

「……ゴン、ベエ……」

 

「なんだ?」

 

「あんた、なんで私の味方でいるの?災禍の顕主はアメッカやあんたの敵でしょ」

 

「そりゃヘルダルフの事だ。あの野郎はどうしようもないクズだがお前は違う……お前は家族思いの立派なお姉ちゃんだ……大好きな時間を奪った、世界の為になんて大義名分があってもよ……どうしてもムカつくだろ」

 

 悲しい過去とか壮大な意思とか、そんなものをゴンベエは持ち合わせていない。

 ただ私を悲しめたアルトリウスに対してムカついているからゴンベエは私の味方になってくれる……コイツは私が何者でも普通に接してくれる。左腕を喰魔に変えても一切怯える様子はない、それどころか逆に触れてくる。

 

「一人の女性が世界に立ち向かってるんだ、頑張れって応援させてくれよ」

 

「……それアメッカにも同じことが言えない?」

 

「かもな……でもお前はお前でアメッカはアメッカだ。オレはお前の復讐を見届けるし味方で居るつもりだしアメッカは自分の足で歩ける様にはする……裏切ることはしない。もし裏切ったら残りの人生の半分をくれてやる」

 

「そこは全部でしょう」

 

 クスリと私とゴンベエは笑い合う

 こんな時に思ってはいけない感情かもしれないけれど楽しい、面白いと思っている……そっか……そうね……。

 

「ねぇ、ゴンベエ」

 

「なんだ?」

 

「好きよ」

 

「そうか………………え?なんて」

 

「だから、好きって言ってるじゃない」

 

 ゴンベエと一緒にいると調子が狂っていたけど不快な思いはしなかった。

 今なら分かる女性として素敵だって言われたから嬉しかった……女性らしくしようとは思っていないのに、女を捨てたと思ってたのに。揉まれた時とか顔に挟まれた時とかぶん殴ってもいいって言われた時、女として見てもらえなかった事が若干苛立ってた。

 恋なんて色々とあるから偏にコレが恋なんて言うのは難しいかもしれない……けど、言葉にしたら凄く肩の力が軽くなった。今までにないぐらいに気持ちいい心地になった。

 

「私、あんたの事が好きなのよ」

 

「あぅ……おぉ……いぇ……」

 

「気持ち悪い喘ぎ声を出さないでよ……いきなりで迷惑なのは分かってるわ」

 

「いや、迷惑じゃねえ。迷惑じゃねえけど……なんだ……うん……あまりにもいきなり過ぎて気持ちの整理が追いつかない」

 

 どう答えればいいのか悩むゴンベエ。

 私だって気持ちの整理は追いつかない……ゴンベエが好きだって事が分かっただけで、そこからなにかが急激に変わるわけじゃない。何時も通り私はカノヌシとアルトリウスに対して復讐の憎悪を抱いて、ゴンベエは横から色々とバカな事を言ってくる。ただそれだけ。

 

「気持ちを受け入れろなんて言うつもりはないわ。ただ知ってほしかっただけ……あんたにはアメッカが居るから」

 

「オレはアメッカをそんな目で見てねえしそんな関係じゃねえよ……ただ、その、なんだ……オレみたいなのを好きになってくれてありがとう」

 

「みたいなのは止めなさい……あんたはいい男よ」

 

 近くの階段に座るゴンベエの横に座り、肩に寄りかかる。

 過去に女性でトラブルでも起きたのかは知らないけど、変なところで自己評価が低かったりする……けど、立派な男よ。

 

「もし、もしあんたがあの時に側に居てくれたなら……なんて妄想ね」

 

 過去をやり直したい気持ちはなくはないけど、それでも私達は前に進まないといけない。過去をやり直す事が出来てもそれはしてはいけないこと。ゴンベエともっと早く出会えればなんて考えるけれど考えるだけで、そこから先は考えない。ただの妄想よ。

 

「ゴンベエ……」

 

 ギュッとゴンベエの左手を握る。

 喰魔になってから熱を感じにくくなったけど、熱の感覚は覚えている。コレはきっと暖かいもの。

 

「……」

 

「……その……今までありがとう」

 

 私はそう言うとゴンベエにキスをした。




ベルベットの称号

恋する乙女

説明

実の弟や義理の兄に騙されて男なんてもう懲り懲りと思っていたが肩の力を抜いた結果、彼の事を愛している事に気付いた乙女。
彼の事が大好きだと気付いたからと言って劇的になにか変わるわけではない。しかしそれでもちょっとぐらいは乙女な一面を見せて彼には甘えてみる。


盛大なまでの告白よりもこういう感じに流して言うのが好きな作者は捻くれ者です。もうちょっと盛り上げようと思えば出来るんだけどここまでにした。


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決戦前

アリーシャもヒロインなんだけど、作者の技量が悪くてさ……うん……。


「じゃあね」

 

「……………………え……………………え………………ええ!」

 

 ベルベット達をイメージした雪だるまを作っていたらベルベットに告白をされた。

 フラグ的なのを何時の間にか建てていたのかそれとも吊り橋効果なのかは不明だがベルベットから発せられる感情からはオレへの純粋な好意を感じ取れる。それだけでなくキスをされてしまい、あまりの気分に意識が昇天してしまいベルベットは顔を真っ赤にした去ってしまった。

 

「……どうしよう……嬉しい」

 

 ベルベットは絶世の美人でありボインであり、黒髪ロン毛の女子力の高い女性だ。

 アリーシャと比較するのがあまりにも可哀想なぐらいに逞しい女性であり、そんな女性から好意を伝えられて……悪い気分どころか嬉しい気分しかない。作りかけだったベルベットの雪だるまを本気を出して思わずベルベットの雪像を作り上げる……後でぶち壊されるだろうが気にしない。

 

「これは、どうすればどうすればいいんだ」

 

 オレは種の繁栄を捨てた人間(童帝)で恋愛のれの字も知らないクソガキである。

 こんなに嬉しい事は過去を振り返ってもそんなになく、ベルベットの気持ちに応えればいいのかと浮かんでしまうがベルベットは気持ちを伝えただけでそれ以外はなにかを変えようとはしなかった。この戦いが終わればオレとアリーシャは元いた時間に帰ってしまう、それを知っているからかそこから先には足を踏み入れようとしてこない……これでいいのだろうか……。

 

「ふぅ……あ、アリーシャ。ちょうどよかった、一発オレをぶん殴ってくれ」

 

「急に唐突だな!?」

 

「ちょっとこのままだと気が緩んで大変な事になってしまう、ベルベットの告白があまりにも嬉しすぎてな」

 

「え…………え!?ベルベットに、こ、告白をされたの!?」

 

「ああ……今でもゆ──げふごぉ!?」

 

 まだ話している途中だというのにアリーシャは拳を鳩尾に叩き込んできた

 

「忘れろ……忘れて!忘れろ、忘れろ……忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ!!」

 

「ちょ、おまっ、連打はアカンって」

 

 鳩尾を殴られて怯むオレにアリーシャは何度も何度も殴打してくる。

 壊れたラジオの様にブツブツと呟き、もう意識をしっかりと取り戻したと言えばアリーシャはオレに抱き着いてきた。

 

「ゴンベエ、よく聞いて……私達は本当はこの場には居てはならない。確かにベルベットは魅力的な女性で気分が高揚するのは分からなくもないけど私達は間もなく帰らないといけない。ゴンベエはそれを承知の上だからパーシバル殿下に私と自分の事を記録するなって言ってるじゃない!!」

 

「お前、口調口調」

 

「別にどうだっていい!!それよりもベルベットになにか変な事はされなかったのか!」

 

「……甘酸っぱかったです」

 

「……変態!変態!ゴンベエのスケベ!色欲魔!!」

 

「いやいやいや、向こうからやってきたからな」

 

 顔を真っ赤にしながらオレに雪玉を投げてくるアリーシャ。

 オレからなにかアクションを起こしているわけじゃない。ベルベットがオレに思いを伝えただけで、オレは悪くはないんだ。確かにアリーシャの言う事も一理がある……

 

「こうすれば落ち着くか?」

 

「え──っ!!」

 

 オレに目掛けて頭ぐらい大きな雪玉を投げてくるアリーシャ。

 別に痛くはないんだけど、このまま受け続ければ寒くて敵わない……頭がハイになっているのは確かだと思う。オレはアリーシャにキスをするとアリーシャはトロンとした顔になっていた。

 

「アリーシャ、オレは目的は見失ってねえ。ベルベットの気持ちには応えられない事ぐらい分かってる……ベルベットもその事を分かってて言ってきたんだ」

 

 オレは例えこの先なにがあっても元の時代に帰る。

 そりゃあこの時代の方が現代よりも暮らしやすいのは確かで、快適な事には変わりはない……けどそれでもやってはいけない事をやっているという自覚はあるんだ。この先に待ち受けているのがなんであれオレは絶対にアリーシャと一緒に現代に帰る。

 

「本当だよね?ベルベットの事が好きになったとかそんな理由でこの時代に残ると言って私を捨てないよね?」

 

「ああ……お前がちゃんと一人立出来るまでは見守るつもりだ、それは約束する」

 

 オレはお前に力を貸したり与えたりしている。

 自分の力を無闇矢鱈に振りかざすのもいけない事だし与え続けるのもいけない事で、やるからにはキッチリと最後までしないといけない。

 

「……なら、もう一回して」

 

「調子に乗ってんじゃねえ」

 

 オレはアリーシャにチョップを叩き込んで、雪像を見つめる。

 アリーシャが暴れたせいで雪像は粉々に砕け散ってしまった……日はもうすぐ沈むから作り直すのは難しいだろう……!

 

「どうしたの?」

 

「行くぞ」

 

 ここは災禍の顕主が乗っ取ったのでまともな人はいない。

 精々意思が奪われていない血翅蝶の一員かアイフリード海賊団の団員が居るぐらいで……オレの気配探知能力に引っかかるコイツは……

 

「よぉ、やっとお出ましだな」

 

「メルキオル!!」

 

 ベルベットが災禍の顕主として名乗り、メイルシオの人達を追い出してからそんなに時間は経ってはいない。

 緋の夜とやらはまもなくやってくる……その日に生贄として四聖主に捧げる穢れの無い魂を持ったクソジジイことメルキオルがそこにいた。どうやらオレは気付くのに遅れた様でマギルゥとなにかを話していたようだ

 

「お前か」

 

「……お前がアホで居てくれて良かったと言うべきか」

 

 なんの為にここにやってきたのかは分からない。飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのことだ。

 緋の夜が過ぎるまで何処か遠くに引きこもっていれば聖寮の勝利だったのにと思いながらもクロガネに打ってもらった刀を抜いた。シグレはロクロウにくれてやる。カノヌシはライフィセットに、アルトリウスはベルベットにくれてやるが、メルキオルのクソジジイはオレがやる。

 

「そうイキリ立つな。メルキオルのジジイはワシ達の果たし状を受けてくれる様じゃ」

 

「んだよ、今が殺すチャンスだろうが」

 

 刀に闇を纏わせているとマギルゥは刀の峰に触れて降ろさせる。

 緋の夜に魂を捧げないといけなくて今日は緋の夜じゃないがベルベットに魂を喰らわせておけばそれで魂を保存する事が出来る……近くで出歯亀しているアイゼンとロクロウは居るけど、ベルベットはこの場にはいないが。

 

「ふん!!」

 

「空裂斬」

 

 穢れの塊をオレに向けて撃ってくる。

 マスターソードを用いなくても微弱な穢れ程度は空裂斬で切り裂くことが出来る……ついさっきまで穢れの塊のベルベットの側に居たんだ。今更この程度の穢れの塊でやられるほどオレは弱くはねえ、無論アリーシャもだ。オレが穢れの塊を切り裂くとメルキオルのクソジジイは眉を寄せる。感情を読み取る力でメルキオルを見てみるとメルキオルは疑問を抱いている。

 

「貴様等は四聖主の復活を企んでいるが……それがなにを意味するのか分かっているのか?」

 

「……カノヌシを退けるだけじゃないのか?いや、祀るべき天族が復活をして、世界はいい方向に向かうはずだ」

 

 あくまでもオレ達の目的はカノヌシの領域に対抗する為だ。四聖主が目を覚ませば、それこそアリーシャの言うように祀るべき天族が復活して加護領域の様なものが生まれる……天族が見えていた事も考慮すれば、世界はいい方向に向かう筈だが……現代ではあの有様だ。

 

「カノヌシが増幅していた霊応力は元に戻り、意思を抑制されていた聖隷は解き放たれる……人が業魔に対抗する手段を失う」

 

「……コレは一人言だがマギルゥの様に素で天族を見る事が出来る人間が従士を作れば霊応力が低い人間でも天族を見ることが出来るようになる」

 

「お前、それで色々とあっただろう」

 

 マギルゥの言っている事に対してアリーシャは従士契約に関して出す。

 スレイがあんな事になったから今こうしてこの時代に来ているわけでアレは正直な話、あまりいいものではない。仮に世界中の人間が天族を見える様になれば確実にメルキオルのクソジジイみたいな人間が出てくる……それだけ人間の業は深いのだから。

 

「それだけではない。地水火風の聖主を叩き起こせば、数百年はこの地上は大混乱を起こす」

 

「異常な地殻変動に気候や海面の大変化に、火山の爆発……お祭り騒ぎじゃな」

 

「地殻変動、ね……」

 

 これから地殻変動が起きるならば……色々と腑に落ちない点は納得出来なくもない。

 

「キララウス火山1つとっても噴火によって炎石を失われれば火薬の製造が不可能になる」

 

「は、なに言ってんだ?アメッカの尿と水酸化ナトリウムとプラチナさえあれば硝酸は作る事が出来る、後は木炭と硫黄とブドウ糖を混ぜれば黒色火薬が作れるだろう。なんだったら硝酸と石鹸と硫酸とアメッカの尿でもっとスゴイの作れるからな!」

 

「ゴンベエ、そこにホントに私のは必要なのか!?」

 

「ふ……めっちゃ大事だ」

 

 なんだったらアメッカから取れる尿から採取したアンモニアがなければ作れないと言っても過言ではない。

 メルキオルのクソジジイは言い負かされたので黙る。

 

「アルトリウスはカノヌシやベルベットにどうして鳥は空を飛ぶのか聞いていた……ならば、オレはこう答えよう。翼が欲しいと空を飛びたいと望んだからだ。強い意志を憧れを持てば、死ぬ気になれば人間、空を飛ぶ乗り物を作れる。これから世界が混沌となっても人に強い意志があるのならば乗り越える事が……出来ればよかったんだけどなぁ」

 

「どうしてそうもダメな方向にいくんだ」

 

「だってお前……ハイランドがあんなんだぞ」

 

 現代の酷さは導師が現れては災厄を退けるループが続いている事で証明されている。

 スレイがヘルダルフを浄化する事に成功したとしてもそれまで……ホントにどうすればいいのか悩む。

 

「ふ、頑張れ人間じゃよ」

 

「人をなんだと思っている」

 

「なんだかんだで人間という種は滅びずになんだかんだと生きておる、人間は環境の変化に良くも悪くも強い生き物じゃよ」

 

 まぁ、そうだよな。

 清廉潔白の騎士のお姫様がこんな風になっちまうし、なんとかなる……って、言い切れなくもない。

 

「穢れを生む悪の源泉、故に情を鎮めて理による秩序をもたらす。人が己が背負いし業を悔い改めて穢れのない新世界が来る日まで……じゃろう」

 

「そう、だからこそのカノヌシの覚醒だ」

 

「やっぱ何回かはあったんだな」

 

 カノヌシが人間から意思を奪うのは今回がはじめてじゃない。

 あの本が存在している以上は何度かは起きている……カノヌシの存在は、いる意味は恐らくはリセットの為だろう。

 

「我等はその為の捨て石、汚れ役、救世主たる導師の影といったところか」

 

 影ね……影ってのは薄いもので輝く事をしないから影なんだ。裏でコソコソしているが、それじゃあ影とは呼び難い。

 

「……戻ってくる気は無いのか?お前がふたたびメーヴィンを名乗った意図は……」

 

「お師さんの理想は退屈すぎるわい」

 

「だが、清浄な世界だ」

 

「造花の箱庭、見てくれだけが美しいだけで本質は停滞しているだけじゃよ」

 

「それこそが正しい理と秩序だ」

 

 偉そうに色々と難しい言葉を並べて大義名分を作っているメルキオルのクソジジイ。

 一発ぐらいぶん殴ってやろうかと思ったが今まで平然としていたマギルゥが唇を噛みしめる

 

「そんな歪んだ理、お断りじゃ!!花が枯れねば幸せか?狼が草を食えば満足か?……気色悪いわ!そんな世界を理想とするお前等聖寮も、そんな世界に囲まれて幸せに生きている人間も!毒虫とて喰いたいものも自由に喰う。名もなき花とて咲きたい場所に咲く。他人にとってどーでもいい願いでも決して譲れぬ生きている証があるんじゃ」

 

「ならば踏み潰すまでだ」

 

「お、やるか?」

 

 マギルゥの決意も固いとマギルゥのスカウトをメルキオルは諦める

 何処か悲しそうな顔をしているがそんな事は知ったことじゃないのでオレは再び刀に闇を纏わせる

 

「面白い事をしてるじゃねえか」

 

「俺達も混ぜてくれよ」

 

「出歯亀二人、出てくんじゃねえよ」

 

 ずっと見ていたアイゼンとロクロウも今になって出てくる。

 

「お前等待てぃ、こやつは災禍の顕主の供物じゃ……緋の夜までは手を出すな」

 

「……言っとくがお前の過去になんかあって因縁があるかもしれねえけど、コイツはオレに殺らせてもらうぞ」

 

「どーでもいいわ、そんなこと……メルキオル・メーヴィン、火山で待っておれ。お主は災禍の勇者に斬られるその最後の姿、不肖な弟子であるワシが見届けてやる」

 

「いいだろう。纏めた方が踏み潰す手間もかからん」

 

 メルキオルのクソジジイはそう言うとメイルシオを去っていく。

 デラックス・ボンバーの1つでも撃ってやろうかと思ったが、果たし状は受けてくれるので撃つのをやめる……さて……

 

「緋の夜までには時間がある。シグレの事だからきっとオレ達の果たし状は受けてくれる……ならばオレ達がやることはただ1つだろう」

 

「お、修行か?付き合うぞ」

 

「ああ……こういう事をやるのはホントは苦手だけどな……お前等全員纏めてオレに掛かってこいよ。ぶっ飛ばしてやるから」

 

 メルキオルのクソジジイもシグレの奴もなんだかんだ言って強い。

 オレには遠く及ばないもののロクロウ達では苦戦することは確か……特にシグレは枷を付けた状態でロクロウをボコボコにした。アレからロクロウも強くなっているとはいえ、上には上がいる

 

「ほぅ、いいのか?実戦形式となれば俺は手加減が出来なくお前を斬り殺すかもしれんぞ」

 

「バーロー、オレがそんな不覚を取るとでも思ってるのか、来やがれファッキュー!!」

 

 中指を突き立ててオレはロクロウを挑発する。

 その喧嘩、買ったと言わんばかりにロクロウは小太刀を取り出して襲いかかってくるのでオリハルコンの逆刃刀で受け止める。

 

「ああっ、はじまってしまった……」

 

「いい機会だ。お前と本気の喧嘩をしてみたいと思っていた……お前がどうなろうと手加減はせんぞ!!」

 

 アリーシャがハラハラしている横でアイゼンもこの勝負に加わる。

 ロクロウと連携を取ってくるかと思えば天響術の準備をしている。ロクロウとの連携はしてこないか。

 

「グランドクェイク!!」

 

 地震を巻き起こし衝撃波をオレにぶつける。

 ロクロウが近くに居る事はお構いなしの様だが甘い、オレはオリハルコンを入れている鞘を地面に突き刺し衝撃波を巻き起こす

 

地波(アースウェイブ)

 

 衝撃波に対して衝撃波をぶつけて相殺をする。

 

「瞬撃筆頭!相伝の秘技、刮目せよ!嵐月流・白鷺!!」

 

 素早く動きながら連続斬りを繰り出し、最後は十字に斬り抜けようとする。この程度の速度ならば余裕で避ける事が出来る。

 ロクロウは秘奥義を撃ってきた……マジでやっている奴に対してはマジで応えなければならない。中断の構えを取る。

 

「嵐月流、凄まじい剣術だ……だが、剣の斬る行為は基本的には変わらない……っふ!!」

 

 真上から斬り込む唐竹、斜め上から斬る袈裟斬り、胴を斬る右薙ぎ、右斬り上げ、逆風、左斬り上げ、左薙ぎ、逆袈裟斬りと8つの方向から斬り込み、トドメと刺突を叩き込む

 

「九頭龍閃!十八頭龍閃!二十七頭龍閃!!」

 

 最高速度を維持したまま九頭龍閃を3回叩き込む。

 剣術の基礎を一度にぶつける超速の剣撃はロクロウの速度を遥かに上回っており、全てロクロウに命中する。

 

「オレの本気に耐えるとは流石はメイドインクロガネ」

 

 通常の刀ならばオレの攻撃に耐える事が出来ずに砕け散るがオリハルコンで出来てる為に傷一ついかない

 

「隙を見せたな!今じゃあ!!」

 

 二十七頭龍閃を決めると極僅かだが膠着状態を見せた。

 マギルゥもこの戦いに乗り気であり、式紙にフゥと息を掛けてオレの元へと飛ばす

 

「ふうっと吹けば、飛び出すぞ!わんさか飛び出すぞ!じゃんじゃん行くぞ!」

 

 ふぅっと息を吹きかけて飛ばされた式紙は巨大化してオレを吹き飛ばす。

 1枚だけじゃない、オレが飛ばされて地面に落ちる瞬間に新しい式紙が巨大化してオレを飛ばすが技の全貌は見えたと巨大化する式紙を踏み台にして高く跳び、オリハルコンの逆刃刀を鞘に納めて右手に炎を左手に冷気を纏わせて手を重ねることで眩い光を放つ光の矢を作り出す

 

「グッド・ホールディング!!」

 

極大消滅呪文(メドローア)

 

 一斉に飛んできて花火の様に爆発しようとする式紙に向かって、最強の魔法をぶつける。

 触れるだけでアウトなメドローアに触れた式紙は弾けて消え去ってしまいオレは地面に足をつける。

 

「ブレイジングファイヤーボム!」

 

 地面に足をつけると直ぐに爆弾を取り出し、紫色の炎を纏わせてハジケさせる。

 

「ちょ、お主爆弾はまず──」

 

「ボンバーシュート!!」

 

 横薙ぎに紫色の炎が燃え盛る爆弾をマギルゥ目掛けて投げる。マギルゥにぶつかると爆弾は大きな爆発を巻き起こしマギルゥをぶっ倒した。

 

「まだオレが残っている!覚悟はいいか」

 

「できてるよ」

 

 アイゼンは穢れを纏う。

 天族にとって毒でしかない穢れを纏ったアイゼンの目が鋭くなり、翼の様なものが生える。

 

「明日はいらねえ!今、お前を倒す為の次の一手!」

 

「明日を掴む力を持っていないのならば、オレに勝つことは出来ない。赫灼熱拳(プロミネンスバーン)!!」

 

 穢れを纏い体の一部がドラゴンになりかけていたアイゼン目掛けて浄化の力を持った炎をぶつけてぶん殴る。

 アイゼンが纏っていた穢れは浄化されて無くなり、アイゼンは元の姿に戻りぶっ飛ばされた。

 

「アリーシャ、お前も掛かってこいよ」

 

 アイゼンとマギルゥとロクロウは倒すことが出来た。

 残すところはアリーシャだけで人差し指をクイクイと動かして挑発をするとアリーシャは槍を取り出すのだが、無言を貫いている。

 

「どうしたそっちから掛かってこないのか?」

 

「いや……訓練なのは分かっているが、こうも圧倒的過ぎるとな」

 

 オレの圧倒的な強さにアリーシャは萎縮してしまっている。

 

「言っとくが緋の夜の日になるまでオレはお前等とマジで勝負をし続けるからな」

 

 シグレやアルトリウスがベルベット達にとって脅威的な存在であることには変わりはない。

 一気に手っ取り早くレベルを上げるには強い奴と実戦的な戦闘訓練を行う事で、オレにはそれが出来る。ベルベット達のパワーアップに協力する事が出来る。

 

「そうか……ならば、サタンズランス!!」

 

 天高く跳んだアリーシャは槍の力を解き放つ。

 膨大なまでの輝く闇を纏った槍をアリーシャは無数の闇の槍を出現させて、例えるならばトリコのキャノンフォークの様に1つの巨大な闇の槍に束ねてオレに向かって投げてきた

 

「KAMAKURA DIMENSION」

 

 王家の盾を構えて投げると無数に分裂する。

 分裂した王家の盾はドーム状の形になっていき飛んでくるアリーシャのサタンズランスが隙間から入ると盾に触れて、槍は反射して逆の方向に飛んでいき、更に盾にぶつかって反射をするを繰り返すと勢いは無くなっていき、最終的にはアリーシャの槍は地面に突き刺さった。

 

「三花驗頂、天花乱墜」

 

 槍を失ったアリーシャは印を結び、霊力的なのを練り込む。

 

「百歩神拳!!」

 

「お、威力が上がってる」

 

 百歩神拳を放つアリーシャ。

 自分の力を使いこなせる様になっているので前よりも威力が上がっており、並大抵の憑魔に効くどころのレベルじゃない。前よりも力が扱える様になっていると感激しつつも両手の指を合わせて三角形を作り出す

 

「化勁」

 

 アリーシャの百歩神拳を真正面から喰らう。

 

「なにを……私の百歩神拳の霊力をどうしたんだ?」

 

「相手の力の波長と自分の力の波長を合わせる事で吸収して自分の力に変えた、結構難しい技で……そこより先の技をオレは使える。デラックス・ボンバー!!」

 

「あーっ!!」

 

 槍も失い百歩神拳を撃って息切れのアリーシャに優しめのデラックス・ボンバーを撃つ。アリーシャもオレに倒される。

 

「ちょっと本気を出したらコレか……」

 

 アイゼン達は強い……でも、オレの方が遥かに強い。

 ちょっとだけ本気を出したらベルベット達以外を叩きのめす事が出来てしまった

 

「オレに勝てるのは、磯野勝利か墨村守美狐か天王寺の旦那ぐらい……」

 

 熱いバトルは最初から期待していないので文句も不満もない。

 とりあえずこのまま気絶したアイゼン達を放置すると大変な事になるのでフォーソードで分身し、メイルシオへと運んだ。




ゴンベエの術技

地波(アースウェイブ)

説明

一つの方向へと進んでいく衝撃波を地面から発生させる技


九頭龍閃

説明

剣術の基本である真上から斬り込む唐竹、斜め上から斬る袈裟斬り、胴を斬る右薙ぎ、右斬り上げ、逆風、左斬り上げ、左薙ぎ、逆袈裟斬りと8つの方向から斬り込み、トドメと刺突を超高速で叩き込む。ゴンベエはこれを3回連続で行い二十七頭龍閃を叩き込む

極大消滅呪文(メドローア)

説明

灼熱の獄炎と極寒の冷気をちょうど同じ力で組み合わせる事であらゆるものを消滅させる0エネルギー
ちょっとしたこぼれ話で吹雪もメラチンとチョヒャドを組み合わせる事で使用可能であり、ベルベットとラブラブ石破天驚拳で出させるネタがあったがボツになった。

ブレイジングファイヤーボム

説明

紫色のハジケる炎を纏った爆弾をぶん投げる技、威力は尋常でない程に高い

赫灼熱拳(プロミネンスバーン)

説明

浄化の炎を纏った拳で振りかかり、浄化の炎を飛ばして相手を浄化してそのまま浄化の炎を纏った拳で殴り飛ばす奥義

KAMAKURA DIMENSION

説明

王家の盾を大量に出現させ、ドーム状に配置。飛んでくる攻撃をドームの中に閉じ込めて乱反射させて威力を弱らせる防御技

化勁

相手の力と波長を同じにすることにより相手の放ったエネルギーを吸収して自分のものに変える技、かなりの高難易度の技であるがゴンベエは数時間で会得した。

外気功

自然のエネルギーとか地脈のエネルギーとかを自分のエネルギーに変換する秘伝の奥義。
達人と呼ばれる世界に足を踏み入れる事が出来る人間が何十年も掛けてやっと会得する技だがゴンベエは3日で会得した。

アリーシャの術技

サタンズランス

説明

真の力を開放したアリーシャの槍に大量のデモンズランスを纏わせて巨大な一本の槍にして相手に目掛けてぶん投げる技
ボツネタとしてアリーシャとゴンベエの協力秘奥義にサタンズランス・インフィニティがある。


スキット 100%を許された世界

ゴンベエ「ふぅ……」

ロクロウ「お、雰囲気が変わったな」

ゴンベエ「ゾーンを終えたからな」

ライフィセット「ゾーン?」

マギルゥ「確か100%の力を発揮している状態のことじゃな」

ライフィセット「それって全力を出してるって事じゃないの?」

マギルゥ「似てはおるが少々異なるの。人間、100%の力を入れたと思っても様々な理由が要因して80%程しか力を出すことができん。ゾーンとはそれを超えた極限の集中状態のことじゃ」

ロクロウ「ほう……確かに言われてみれば本気や全力で戦ってると思っていても、まだ力が残っている、まだ上があると思う時があるな……無意識の内に80%しか出していなかったのか」

ゴンベエ「欲しい時に100%の力を捻り出す事は早々に出来ないからな」

ライフィセット「でも、ゴンベエは100%の力を自由に引き出せてるよね……なにかコツみたいなのがあるの?」

ゴンベエ「目を閉じて……集中するか心の中を空っぽにするかの状態を維持して80%、本気の状態を維持してみろ」

ロクロウ「……おぉ……今がちょうどベストだが更に上がある気がしてきた」

ライフィセット「うん、もっと力が出せそうな気がする」

ゴンベエ「次に扉を探すかイメージしろ……その扉を越える事が出来れば100%の状態に、ゾーンに入れる」

マギルゥ「ふむ……開かんの」

ロクロウ「開いたとしてもこれじゃない感がある。俺のイメージが間違っているのか、それともゴンベエの教え方が悪いのか」

ライフィセット「……開かない。意識を集中させて開けようとイメージしても全然だよ」

ゴンベエ「そりゃあな……今は強敵と戦っているわけじゃないし、テンションやモチベーションがねえと開けるものも開けられねえ」

ロクロウ「じゃあ、シグレやアルトリウスと戦えばゾーンに入れるんだな!」

ゴンベエ「ゾーンに入るぞっていう雑念と一度でも入ればあの時をって雑念が入ってしまうから……説明しない方がよかったかもな」

ライフィセット「ええっ……僕達、ゾーンに入れなくなっちゃったの!?」

ゴンベエ「そもそもでゾーンなんて集中しまくりの極限の状態を維持してそれでも尚、力を引き出そうと限界を越えようとしたら勝手に入ったりするもんだ」

マギルゥ「しかしお主は自分の意思で入ることができる……お主が異常なのか」

ゴンベエ「ああ、そうだ。欲しい時に100%の力を自由に引き出せる人間は修行時代の仲間の中でオレしか出来なかった。トリガーを引けば発動出来る奴が居るには居たがオレみたいにレバーを上げ下げする感覚で入れる奴は……天王寺の旦那と赤司ぐらい……」

ロクロウ「まだまだ上には上がいるのか……俺もその高さに行きたいものだ」

ゴンベエ「ゾーンは力を強化する状態じゃない。自分の持つ本当の力を発揮している状態だ、上とか下とかじゃねえ……ただ」

ライフィセット「ただ?」

ゴンベエ「ゾーンの扉を越えた先に、奥深くには幾つかの扉が存在している。門番がいる扉もあればオレでも開ける事の出来ない、いや、オレだから開ける事の出来ない扉もあって、どれか1つでも開ける事が出来れば更に上に行くことが出来るかもしれない」

マギルゥ「お主でも知らんさらなる領域か、雲の上過ぎてワシにはさっぱりじゃの」

ゴンベエ「ま、オレがおかしいだけだからな」

ロクロウ「ゾーン、入ってみたいものだ」

スキット できないこともある

ゴンベエ「通名賢氣、骨禎枸根、黄考建中。通名賢氣、骨禎枸根、黄考建中」

アイゼン「自分の傷も治癒できるのか」

アリーシャ「この技は……集気法に近い技だな」

ゴンベエ「生体エネルギーである氣を整えてコントロールして治癒力を高めたりする技だ……オレがベルベットに殴られても数秒後にはケロッとして起き上がるのもこの内養功のおかげだ」

アリーシャ「わざわざそんな一苦労をするならば最初から余計な事を口走らなければいいじゃないか」

ゴンベエ「例え駄目だと分かっていても言わなくちゃならねえ時がある。言葉は心を喰う時もあれば生かす時もある、男は自分のモノサシを杖にして痛い目に遭いながらでも前に進むんだ」

エレノア「カッコいい事を言おうとしていますが、それはただの自業自得です!……しかし、剣に弓に魔法に槍に斧に、なんでも出来て多彩ですね」

ゴンベエ「いや、そうでもねえぞ。治癒術ならライフィセットやマギルゥの方が上だし、魔法とかの術系の技ならオレより上な人を知ってるし」

アリーシャ「そう言われればそうかもしれないが……全てをこなせるのはゴンベエだけじゃないか?」

ゴンベエ「オレにだって出来ない技術は何個かはある」

アイゼン「お前でも使いこなせない技……ベルベットの左腕の様な特異な力以外でなにがあるんだ?」

ゴンベエ「相手の未来を予測するのと相手の未来を視る事だ」

エレノア「それは未来予知じゃないのですか?」

ゴンベエ「いいや、違う。未来予測は事前に手に入れたデータを元にそこからどんな形で成長するのかを当てる技術、相手の未来を見るのは相手の僅かな呼吸や筋肉の動きから未来を先読みする技術だ……未来予測を出来る人と未来を視る事が出来る奴をオレは知っている」

アイゼン「聞けば簡単な様に聞こえるがどちらも実際にするには難しい技術だな」

ゴンベエ「まぁ、オンリーワンな武器とも言えるからな。他にも強奪とかも出来ない」

アリーシャ「強奪?」

ゴンベエ「相手の技を模倣(コピー)しつつ自分のオリジナルのリズムを加えた技を相手に見せつける技術で、見せつけられた相手はついさっき自分が使った技と同じ技を使ったと精神的なショックを受けて自分の技のリズムが乱されて使う事が出来なくなる」

エレノア「そんな技もあるのですか!」

ゴンベエ「まぁ、オレの場合はその技術を持ってる奴でも模倣できないぐらいに強いからなにも問題ねえ」

エレノア「ええ……」

ゴンベエ「でも、本来はその人にしか出来ないオンリーワンの技術を擬似的に再現する完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)なんて技もある……まぁ、あるだけで実際に使える奴は見たことねえんだけどな」


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決戦の時

「ったく、お前等揃いも揃って……まぁいいか。オレがおかしいだけだからな」

 

 メルキオルが私達の果たし状を受けると言ってから珍しくゴンベエはやる気を出した。

 修行をつけてくれるというので戦ったのだが……まぁ、その……ゴンベエは強すぎたとしか言えない。特等対魔士や導師を相手にする以上は今よりも更に強くならなければならず、既にその領域を越えているゴンベエが修行の相手なのは実に有意義な事だがゴンベエが強すぎてまともにダメージを与える事が出来ない。それどころか勝つイメージが湧かない。

 

「通名賢氣、骨禎枸根、黄考建中。通名賢氣、骨禎枸根、黄考建中」

 

 ダメージが残っている私達に治癒功を施すゴンベエ。

 ライフィセットやマギルゥよりは劣るものの、ダメージが素早く抜けていき私達は動けるようになる。

 

「……月が、赤いな」

 

 今日は満月の日だった。

 生まれてから今まで何度も綺麗な満月を私は見てきたが今日の満月は違っている。緋の夜と言われるだけあって空ごと真紅に染まっている。

 一見綺麗かもしくは不気味と思わせる空は今から起きる大きな戦いを暗示しているのかもしれない。

 

「こういう時こそ戦いがある……AreyouReady……って、聞くまでもないか」

 

 ゴンベエから受けたダメージを回復した私達は立ち上がる。戦う覚悟はとっくに出来ている。

 痛みも取れてきたのでキララウス火山に向けて出発をしようとしたがロクロウがこの場に居ない事に気付く。

 

「すまん、待たせたな」

 

「いや、ちょうどだ……その様子、成功と見ていいな」

 

「ああ……クロガネはキッチリと仕事を果たしてくれた」

 

 背中の太刀にチラリと視線を動かすロクロウ。

 クロガネが文字通り自身の全てを注ぎ込んで征嵐を作り上げた……一度、頭を小太刀にして折られてしまったがあの頃よりもクロガネの腕は上がっており、更には信念を込められている。

 

「シグレと號嵐は俺とクロガネがやる……コレがアイツと最後の勝負になる」

 

「そう……勝ちなさいよ」

 

「ああ」

 

「メルキオルのクソジジイはオレが殺らせてもらう……あのクソジジイの事だ、未完成か完成版かは知らねえけど神依を使ってくるだろうし何らかの対策はしてくる……それら全てを打ち破って絶望の底へと叩き落としてやる」

 

「ま、あんたなら絶対に負けることは無いわよね……でも、油断するんじゃないわよ」

 

「バーカ、あの程度の雑魚を慢心してでも倒せるんだよオレは」

 

 特等対魔士と戦うと意気込むロクロウとゴンベエ。

 この二人ならば、ロクロウならばきっと勝つことが出来るだろう。

 

「エレノア、絶対に帰ってきてね!!」

 

「ええ……生きて帰ってきます」

 

 エレノアが遠いところに行ってしまう事をモアナは感じ取っている。

 ホントは遠くに行ってほしくないのをグッと堪え、エレノアを見送ろうとしている。エレノアはそんなモアナに微笑みを向ける。

 

「マギルゥ、しっちゃかめっちゃかに場を掻き乱しなさい」

 

「うむ!言われるまでもなく乱してみせよう」

 

「アイゼン、あんたには悪いけどメルキオルはゴンベエが殺して私が喰らうわ」

 

「構わん……ゴンベエには大きな借りがある」

 

「アメッカ……最後まで見届けなさい。例え結果がどうなろうとあんたはそれを見るのよ」

 

「ああ、最後まで見届けさせてもらう」

 

 ベルベットは私達一人ずつに声をかけて最後の確認をする。例えこの先、地獄を作り上げるとしても見届ける、それこそが私の役目だ。

 

「ベンウィック達は頃合いを見てバンエルティア号に向かいなさい」

 

「アイアイサー!」

 

「ライフィセット……」

 

「うん……行こう」

 

「特等対魔士達を殺して世界を混乱の炎に包み込むわよ!!」

 

 私達はキララウス火山に向かって歩き出す。特等対魔士との戦いに決着をつける為に。

 メイルシオの極寒の地にホントにこんな灼熱地帯があるのかと思えるかの様な暑さの地帯に入った。

 

「メルキオルは果たし状を受け入れたがシグレの奴は来ているのか?」

 

「あいつならば来るさ。堂々と正面からな」

 

 唯一の不安要素をアイゼンは口にする。

 メルキオルはやってくるがシグレが来るとは一言も言っていない。万が一億が一がアイゼンの死神の呪いで起こりうるので心配をするがロクロウは信じている……あの性格ならばきっとシグレはやってくる筈だ。

 

「暑いから着替えとかないとな」

 

 何時もの緑色の衣装から赤色の衣装に着替える。青色は海の中に泳ぐもので、赤色は……こういった暑い地域で着るものだろうか。赤色の服に着替えるとゴンベエは汗をかかなくなった。

 

「おぉ、ホントに正面に居おった!!」

 

 キララウス火山を進んでいくとそこにはシグレが胡座をかいて座っていた。

 アイゼンの心配は杞憂に終わっており、シグレは私達を待っていたようで心水が入った酒瓶を持ち上げる。

 

「よう、待ち侘びたぞ!」

 

「ああ……俺もこの日が待ち遠しかった」

 

 何時戦闘になるのか緊迫した空気が生まれる、それだけシグレが脅威的な存在だ。

 戦うのかと身構えるベルベット達が居る中でロクロウはシグレの前に座った。

 

「……おおっ!」

 

 背中の太刀をロクロウはシグレに差し出す。

 シグレは太刀を抜くと刃は黒く、今までに見た、それこそゴンベエが頼んで打ち直したオリハルコンの刀と逆刃刀よりも凄まじいもので力と強さを感じ取ったシグレは声を上げる。

 

「大した奴だな。自分を刀にしやがるとはな」

 

「……ああ、その刀はクロガネの数百年全てが注ぎ込まれている。號嵐に対する憧れを、憎悪を……この一本に」

 

「クロガネ征嵐か、面白え」

 

「いや、違う。コレはまだただのクロガネだ、號嵐を征する刀だから征嵐だ……コレをクロガネ征嵐にする方法は1つ、號嵐に打ち勝つ」

 

 ロクロウはシグレが持ってきた心水を一杯飲む。シグレはクロガネ征嵐を鞘に戻し、ロクロウへと返した。

 ロクロウはクロガネ征嵐を背にし、私達のところへと戻ってくる。

 

「気をつけなさいよ、神依を使ってくるかもしれないわ」

 

「シグレの戦い方からして恐らくは火の神依を使ってくるだろう」

 

 この戦いはロクロウの戦いだ。手を出せばロクロウがキレて逆に襲いかかってくる。

 ならばとベルベットと私は助言を送る。シグレに合う神依は大剣を振るう火の神依しかない。ここは灼熱の火山地帯なのできっと火の神依の力が増すだろう。

 

「おいおいおい、なにを言い出すと思えば神依だと……確かにありゃ強えがよ、聖隷(他人)の力を借りてパワーアップしたってなんの面白味もねえだろうが!|

 

「だろうな、お前ならそう言うと思っていた……ゴンベエから聞いたぞ、お前真の力を隠してるそうじゃないか」

 

「ああ……ムルジム、枷を外せ」

 

「ええ」

 

 猫型の天族であるムルジムが頷くとシグレから溢れんばかりの霊力が湧き出る。

 今までの私なら発するシグレの力から感じる威圧感に怯んでいたが、違う。ゴンベエが修行をしてくれたおかげで怯える事はない

 

「この力、一人の人間がなんの術も使わずにここまでいけるだと……」

 

 話には聞いていただけで実際に目にするのははじめての為にアイゼンは言葉を失う。

 シグレは天族のムルジムから一切の力を受け取っていない。それどころか逆に枷をつけていて今まで戦っていた……遥かなる高みにいる。

 

「人間頑張れば出来ねえ事はねえんだ……って、言いたいけどよ。世の中、上には上がいるもんだ」

 

「生憎とオレの取り柄はそれしかねえんだよ」

 

「奇遇だな、俺も剣を振るしか取り柄がねえんだ……そこで待ってろ」

 

「ほう、もう俺に勝った気でいるのか」

 

 ゴンベエに対して挑発的なシグレ。ロクロウを倒せば次はお前だと抜き身の號嵐をゴンベエに向ける。

 

「お前だけが枷をつけてきたと思うなよ。お前が本気を出していないと知って俺も自分に枷をつけた」

 

 ロクロウは体から紐にくくりつけたれた複数の鉄の板を降ろす。地面に落ちる鉄の板はメシィと鈍い音をたてる。

 倒す前提で言っている事にカチンと来たのかロクロウは小太刀を取り出して二刀流の構えを取った。

 

「おいおい、背中の征嵐は使わねえのか」

 

「使うさ……俺の剣とクロガネの征嵐、両方を合わせてお前に打ち勝つ!!」

 

 ロクロウはシグレに向かって走り出す。

 

「ネールの愛」

 

 ゴンベエは私達に攻撃が飛んでこない様に私達にバリアを貼る。

 手を出してはいけない一戦でどちらも圧倒的な強さを持っている。この勝負、どうなるか本当に分からない。シグレとロクロウは撃ち合う。ロクロウの小太刀は號嵐と打ちあっても砕けていない。前よりも成長している。

 

「ここまでは前と同じだ、アレからどれだけ強くなった?」

 

「こんな事を出来る様になったぞ」

 

「アレは骸骨の騎士に教わった技!!」

 

 ロクロウが残像を残しながらシグレの周りをグルグルと回転をする。

 骸骨の騎士に教わった技を今ここで使った。ランゲツ流とは異なる流派でシグレも戸惑いを見せるのだが、直ぐに攻撃に転じる。しかしロクロウはそれを容易く回避してみせる。

 

「こりゃあ……水を斬ってるみてえだな」

 

「流水の動きだ……他人から教わった技なのはちと残念だが、捉えられるかな」

 

「あ、ヤバい」

 

 ややロクロウの方が有利に戦いは進んでいると思えばゴンベエは声を出す。

 

「ロクロウ、そのまま」

 

「捉えた!」

 

「ああ、俺がな!!」

 

 ゴンベエが言葉を言おうとする前にロクロウは動いた。

 体を回転させながら斬り込む回転剣舞・六連の体制に入ろうとするのだが、一太刀目をシグレが防いでロクロウの動きを封じる。

 

「その動き、水みたいで捉える事は今の俺には出来ねえ。だが、水ってのは自然の流れに身を任せて動いているもので自分から動いちゃ隙だらけだぜ」

 

「どういう意味?」

 

「あの動きは捉えるのが難しい動きなんだけど、攻めに転じる際に僅かな隙が生まれて動きを捉える事が出来るんだ……とはいえ極々僅かなんだが」

 

 完全に見切られて仕組みも理解したシグレ。

 なにが起きているのかよくわからないライフィセットはゴンベエに解説を頼み、あの動きの弱点を教える。ゴンベエの言うことが確かだとしてもシグレがロクロウのランゲツ流とは異なる歩法を見るのははじめての筈だ。初見でロクロウの動きを見抜いたというのか!?

 

「どうした、もうおしまいか」

 

 回転剣舞・六連が破られると一旦ロクロウはシグレと距離を取った。

 まだまだやる気に満ちているロクロウをシグレは挑発するがロクロウは攻めに来ない。

 

「来ねえなら、こっちからいかせてもらう!」

 

 そう言うとシグレは號嵐を振り上げて構える。

 

「いかん、ロクロウ!」

 

 あの構えから放たれる技を知っている。

 マギルゥはどうにかする様に言おうとするのだがロクロウは笑みを浮かびあげている。

 

「避ける必要はねえ!何処にいたって同じだ!」

 

「ああ、だから迎え撃つ」

 

 小太刀をしまい、ロクロウは背中のクロガネ征嵐に手を触れる

 

「嵐月流・荒鷲!」

 

「九の型・絶刑!」

 

 シグレの振り下ろされる號嵐に対してロクロウはクロガネ征嵐を振り上げた。

 凄まじい剣のぶつかりに衝撃波が発生してロクロウとシグレの足場が凹む

 

「折れてない」

 

 正真正銘全力のシグレが放った號嵐の一撃をロクロウはクロガネ征嵐で受け止めた。

 並大抵の武器ならばその時点で折れて砕け散るがクロガネが全てを注ぎ込んで作り上げたクロガネ征嵐は傷一つついていなかった。クロガネの征嵐が遂に號嵐を捉えた。

 

「っ、やるじゃねえか」

 

「ああ、これこそがクロガネの全てだ……だがまだ俺の全てはお前に叩き込めていない」

 

「なら、休んでる場合じゃねえな」

 

 お互いの剣圧に吹き飛ばされるロクロウとシグレ。

 今見せたのはクロガネの全て、これから見せるのはロクロウの全てだが……今以上があるのか

 

「シグレ」

 

「ムルジム、余計な邪魔をすんじゃねえぞ……今が最高にいい時なんだよ」

 

 クロガネ征嵐と號嵐のぶつかり合いで僅かながらシグレはダメージを受けた。

 そんなダメージなんてお構いなしだとシグレは立ち上がる。

 

「ロクロウ、この人はまだ力を」

 

「ああ、分かっている。こいつはシグレ・ランゲツだ」

 

 まだ底を見せていないと言おうとするライフィセット。

 シグレの強さを直に感じ取っているロクロウはその事に気付いている。まだ更に上がある……どうやってシグレに勝つつもりなんだ。

 

「二刀でいいのか?」

 

 背中のクロガネ征嵐を使わずに小太刀を構えるロクロウ……きっとなにか勝算がある。私達はそれを信じて見届けるだけだ。

 

「確かめてみろ、命を賭けてな」

 

「上等だ!!」

 

 そう言うとシグレは私達の目の前から消え去り、一瞬の内にロクロウの背後を取った。ロクロウは直ぐに背後を取られた事に気付き、斬りかかるシグレの一閃を避けるがシグレは追撃の手を緩めず號嵐を手に襲いかかり、ロクロウはそれに応えるかの様に小太刀二刀流でシグレに挑む。

 シグレと激闘を繰り広げるロクロウだが……ダメだ。まだなにかが足りない。シグレという強者を倒すには、まだ一手が足りない、そう感じる。凄まじい剣のぶつかり合いに呼吸をするのが忘れそうだ。

 小太刀二刀流と太刀の一刀流、時にはロクロウは足で攻撃をしようとしてくるのだがシグレはそれを避けて攻撃する。ロクロウはその攻撃を小太刀で受け流す

 

「もうすぐだな」

 

 ゴンベエはそう呟いた。激しい激闘を繰り広げる2人の戦いの均衡はそう長くも続かない。後もう少しでこの均衡が崩れる。ゴンベエの言っていた事は的中し、シグレが一旦ロクロウと間を置くとシグレはロクロウに向かって飛びかかり號嵐を振り下ろそうとする。

 あの一撃は強烈だ。ロクロウはそう感じ取ったのか小太刀をX印に交差させて號嵐の一撃を防いだ

 

「噴!!」

 

「雄ぉおお!!」

 

 力と力をぶつけ合うシグレとロクロウ。 腕を大きく振るうとロクロウの小太刀とシグレの號嵐は宙を舞った。 シグレには號嵐しかない。ロクロウには小太刀以外にももう1つの刃が、クロガネ征嵐がある。

 

「斬っっっ!!」

 

 ロクロウは背中のクロガネ征嵐を抜いてシグレを切り裂いた。

 胴体を抉るかの様に切り裂かれたシグレは満足げな笑みを浮かべ、地面を背に倒れた。

 

「三刀……コレがお前の剣か」

 

 嵐月流の表である太刀と裏である小太刀二刀流、2つを合わせて3つの剣としてロクロウはシグレに挑んで制した。

 




今回はスキット無しで短めです。


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めんどくさい 

タイトル考えるのもめんどくさい。スキット考えるのもめんどくさい。でも楽しい


「ああ、くそ……3本か、そいつぁ予想外だ」

 

 小太刀二刀流と太刀の一刀流を駆使してロクロウは遂にシグレに打ち勝った。

 斬られたシグレは満足気な笑みを浮かべているがゆっくりと死に向かっていっている。

 

「遂に征嵐は征嵐になったか……クロガネへの花向けだ。號嵐を持ってけ……後なムルジムは見逃してくれや」

 

 ブスリと地面に突き刺さる號嵐にシグレは目を向ける。

 ロクロウは地面に突き刺さった號嵐を手に取り、落とした自分の二刀の小太刀共々、鞘へとしまった。

 

「シグレ」

 

「アルトリウスやゴンベエにってかなり頑張ったってのによ……悪いな、ムルジム」

 

 自分の死を悟ったシグレは光を放つ。

 猫の姿をしているがムルジムもまた天族である事には変わりは無い。器であるシグレが死ねば連鎖的にムルジムも死んでしまう。それを防ぐにはシグレが死ぬ前に器の契約を解除する……ムルジムはシグレとの繋がりを絶った。

 

「貴方らしい最後よ」

 

「そうか」

 

「シグレ……あの上意討ちは」

 

「どの道おん出たさ。飼い犬暮らしにウンザリしていたんだからよ……小難しい事を考えんじゃねえよ、バカ野郎が」

 

 過去に思いを拭けて少しだけ悲しげな顔をするロクロウにシグレは笑う。

 

「斬れたら嬉しい、斬れなきゃ悔しい、斬られれば死ぬ……ただそんだけだ。だからこそ剣の世界は面白え」

 

「ゴンベエ、頼みがある……その剣をシグレに見せてやってくれないか」

 

 間もなくシグレは死んでしまう。最後だとロクロウはゴンベエに頭を下げる。

 ゴンベエは無言でシグレに近付くと背中の剣を抜いてシグレに見せるとシグレは満面の笑みを浮かべあげる

 

「ははっ……俺の、目には狂いは無かったな……そいつはスゲえ剣だ……號嵐と本気で撃ち合いたかった」

 

「そうだな……聖寮は勘違いしている奴等が多かったりしてクソ野郎の溜まり場に近い……でも、お前は違う……お前は、お前の魂は今から四聖主を目覚めさせる為に使う。輪廻の輪に入って生まれ変わる事はない……」

 

「もっと、別の形で会えたらってか……嫌だね。俺はあん時お前にボコボコにされて嬉しかったんだぜ、まだまだ高いところがあるってしれてよ」

 

「……オレはお前を供養しない。だが、ありがたくお前の魂は使わせてもらう」

 

「使いな、俺はもう満足だ……ああ、1つだけ気を付けとけよ。メルキオルの野郎はお前を殺すのにあの手この手を使ってくる」

 

「安心しろ、あんな雑魚がなにしてこようがオレは負けない……なにせ、オレは強いからな」

 

「……アルトリウスもお前、ぐらいに、あた、まが柔らか、かったら、な……」

 

 シグレは満足気な顔で目を閉じた。

 ムルジムを見れば俯いており、シグレは死んでしまった

 

「ベルベット」

 

 ロクロウはベルベットに声をかける。ゴンベエが私達に貼っているバリアを解除するとベルベットは左腕を喰魔化させてシグレを喰らった。

 シグレの最後の頼みを聞いてムルジムには手を出さない。ムルジムはシグレの最後を見届けて満足したのか私達が通った道と同じ道を通ってキララウス火山を降りていった。

 

「……っぐ……シグレ様……」

 

「エレノア……」

 

 シグレの最後を見届けたエレノアは涙を流す。

 シグレは最後は満足気な顔をして死んだのだが私達よりもシグレの事をよく知っているエレノアは悲しむ。兄弟同士で殺し合った結果が死だった。

 

「泣くな、とは言わん……だがな、否定はするな。シグレも俺も剣士なんだ、剣の道を生き、最後には斬られて死んだ。実に剣士らしい道を生きていた」

 

「……気持ちは少しだけ分からなくもないです、でも」

 

「なら泣いとけよ……それはお前の心の弱さなのかもしれない。でも、お前はそれを背負って生きていくんだろう」

 

 涙の数だけ人は強くなれる。エレノアはシグレの死を悲しみ、大粒の涙を流す。

 エレノアにかける言葉はない。ロクロウの言うとおり、心の弱さをエレノアは背負ってそれでも前に進んでいくのだから。シグレの遺体が完全に喰らわれて無くなると私達は次に進む。今度はメルキオル、ゴンベエの番だ。

 

「コレでロクロウの目的も果たしたな」

 

「……いや、果たしたとは言えん」

 

 シグレを斬って、號嵐に打ち勝ちクロガネ征嵐を本物の征嵐にする。その目的をロクロウは果たした……が不満そうな顔をしている。

 あの戦いは見る者が見れば名勝負と言える戦いで、誰にも邪魔させない究極の一戦と言える……なにが不満なのだろうか。

 

「俺は俺の持てる全てをぶつけた……だがそれでも届かなかった。クロガネという刀とお前との僅かな時間の修行が無ければ、シグレの一刀流と號嵐に打ち勝つ事が出来なかった。俺だけの力でシグレに本当の意味で勝つことが出来なかった。あいつは最後まで最強の剣士だ」

 

「ここに来ての不満かよ……肝心のシグレは殺してしまった。魂もこれから四聖主に捧げて生まれ変わるとかも無い、どうやって越えるんだ?」

 

「決まってる。シグレをぶっ飛ばしたお前を斬るんだ」

 

「また随分とぶっ飛んだ目標だな……シグレですらまともに相手にならなかったのに、オレとクロガネの助力があってシグレを斬ることが出来たお前がオレを斬れるか?」

 

「なに、オレは業魔だ。かつてクロガネが號嵐に打ち勝つ為に数百年研鑽してきた、だったら俺もお前を斬る為に数百年腕を磨くだけだ……ま、その前にベルベットの恩を返さないといけない。俺は最後までこの戦いでベルベットの味方だ……號嵐と征嵐、2つの太刀を使った二刀流を極めてやる」

 

「その前にお前を倒す剣士が現れるかもしれねえけどな」

 

「そん時はそん時だ……その前に一杯、夜桜あんみつでやるか」

 

「酒と甘いものはデブの元だぞ」

 

 現代では嵐月流の名前を一切聞かない。

 元々異大陸の住人の剣術なのを考慮しても……きっとロクロウは1000年の間に誰かに……いや、考えるのはよそう。シグレが剣士として立派な最後を迎えた様にロクロウも剣士として立派な最後を迎えた筈だ。

 號嵐は後で取りに来るとシグレの墓標代わりに地面に突き刺してキララウス火山を突き進む。

 

「暑い、暑い、あっっつうううい!!」

 

「暑い暑い言わないでください!余計に暑くなります」

 

「場所が場所だけに仕方ない」

 

 キララウス火山を進むと暑さがより増してくる。

 目の前には火口がある場所を歩いているのだから仕方がない事だがマギルゥは不満を零す。

 

「アメッカ、お主なんでそんなに平然とした顔をしておる!!」

 

「え……確かに暑いには暑いが、騒ぐほどのものでもない……?」

 

「いえ、あの、滅茶苦茶暑いですよ。マギルゥの様に口にしてませんがかなりキツいです」

 

 私がおかしいのだろうか。暑いと感じているが不快感は無い。どうなっているのだろう。

 

「お前の槍を作る段階で炎のメダルとかぶち込んだからな……大方、熱に対する耐性でもついたんだろう」

 

「なんじゃとぉ!お主、ズルをしておるのか」

 

「しているというよりは勝手にこうなっているんだ」

 

 一応は暑いとは感じている。ただ不快になるだけのものじゃない。

 マギルゥは憎らしそうな視線を私に向けて槍を奪ってこようとするのだがこの槍は私の一部なので渡すわけにはいかない。

 

「ここ、吹き上がってくる地脈の力を感じる。ここがきっと地脈湧点だよ」

 

「そう、ここに魂を打ち込めばいいのね」

 

「……あれ、メルキオルのクソジジイがいねえな」

 

 マギルゥ達と言い争っていると大きな場所に出る。

 ライフィセットがこの場から力を感じ取った様だが……メルキオルが何処にもいない。

 

「まさか、逃げたのか!?」

 

 堂々と待ち構えて心水を一杯飲んでいたシグレに対してまさかのメルキオルは逃亡。

 今日の緋の夜さえ過ぎれば私達はカノヌシに対抗する手段は無くなり、今までのメルキオルの行動からしても逃亡はありえる。

 

「シグレまで喰らったか、災禍の顕主!!」

 

 何処かに潜んでいる可能性があると辺りを見回してみると激昂するメルキオルの声が響いた。

 これは……上から響いているな。

 

「だが、対魔士でも四聖主の覚醒の生贄になる魂はオスカー、テレサ、シグレ、後はこの儂ぐらいであろう」

 

「ったく、山頂にいるのかよ……ここが地脈湧点なんだからここに待ち受けとけよ」

 

「今のお前が喰らっている魂は3つ、それでは不完全に3つの聖主しか目覚めさせる事が出来ない。カノヌシの力を封じることは愚か地水火風のバランスが乱れてこの火山は爆発を巻き起こす。四聖主を同時に覚醒させたくば儂の魂を喰らいにくるがいい」

 

「……誘っているのか?」

 

「どう思う、マギルゥ?」

 

 メルキオルはこの場にはいない。山頂にいるのが分かったが明らかに誘っている。

 コレまでに何度も何度も辛酸を舐めさせられたので私達は警戒心を強め、ベルベットはマギルゥに意見を求める。

 

「そうじゃの、メルキオルの得意なのは氷……ここは灼熱の火口で、氷もあっという間に溶ける。幻術の仕込みの事も考えれば罠じゃろう」

 

「……凄く、今更な事だがマギルゥはメルキオルと知り合いなのか?」

 

 これが明らかに罠だとしても私達は乗り込まないといけない。

 シグレを譲った代わりだとゴンベエはやる気を出しているのだがふと気になったのでマギルゥに尋ねてみる。

 

「まったくもって今更じゃな……昔のワシの名はマギラニカ・メーヴィン、メルキオルの養女で破門された愛弟子じゃよ」

 

「マギラニカって、その名は欠番の特等対魔士!!」

 

「おぉ、名前を残しておったか。十年も前に破門されたというのに」

 

「マギルゥ、そんなスゴい人だったのか……」

 

「別にスゴくもなんともない。アルトリウスとベルベットの関係性に似ておるよ、恩も怨も……じゃから気にせずにあのジジイの鼻っ柱を叩き折れ、ゴンベエ」

 

「ん〜そうだなぁ……ぶっ殺すのは簡単なんだけどな……」

 

 アルトリウスとベルベットの関係に似ているのならそれはかなり重要じゃないだろうか。

 マギルゥは相変わらずどうでも良さげにしており、ゴンベエに八つ裂きにしてくれと言うが肝心のゴンベエはなにか悩んでいる。なにを悩んでいるのかは私には分からない。

 

「しかし、メルキオルの本気か」

 

 ゴンベエを殺す為に色々と準備をしているとシグレは言っていた。

 聞くところによれば監獄島でゴンベエを封印するつもりだったのだがゴンベエの圧倒的な強さの前に封印の術式は意味を持たず、ゴンベエは息を吐くのと同じぐらいの感覚で封印を打ち破った。未完成の神依を発動している対魔士の首をパキリと簡単に折ることが出来るゴンベエに対して仮に現代の様に完成した神依を発動したとしてもメルキオルがゴンベエに勝つイメージは無い。

 メイルシオを拠点とし、緋の夜になるまでの数日だけゴンベエに修行をつけてもらったからゴンベエの強さは身に沁みている……私を人質にするつもりだろうか。

 

「まぁ、あのジジイならばあっと驚く事をするじゃろう。なにせ今の聖寮が使っている術の殆どがあのジジイが開発したものじゃ……ワシの術やエレノアの術、それにアイゼンや坊の聖隷術はぶつけても対処されるだけがオチじゃろうな」

 

「威張るだけの事はあるか……だからといって負けていい理由にはならない」

 

「なぁに、今回殺るのは災禍の勇者様……底を全くといって見せておらん化け物じゃよ」

 

「いいのか、マギルゥ……色々と因縁が」

 

「構わん。ゴンベエの奴に任せる……あやつなら、きっとメルキオルのジジイをあっと言わせるじゃろう」

 

 色々と因縁があるのにも関わらずマギルゥはゴンベエに譲った。

 マギルゥは色々と思うことがあるのだろうが、それでもゴンベエに任せる……ならば見届けるだけだ。きっとゴンベエならばなんとかする。

 マギルゥが暑い事に対して不満を誑したりしながらもキララウス火山を登っていくと、豪雪地帯に辿り着き山頂に向かえばそこにはメルキオルがいた。

 

「デラックス……いや、やめとくか」

 

 会って早々に不意打ちを決めようとするゴンベエだが手を止めた。

 メルキオルに対して警戒をしているから、ではなくなにかの考えがあってやめた。

 

「クソジジイ、最後の言葉ぐらいは聞いてやるよ」

 

「……四聖主は本来地水火風の自然を調和させ、世界の秩序を維持する存在だ」

 

 四聖主についてメルキオルは語る。

 四聖主のアメノチを祀る文明が聖寮の手によって滅びかけていたがあった。四聖主は地の主をよりパワーアップさせた存在だ。

 

「お前達はそんな四聖主が眠りについた理由を考えた事はあるか?」

 

「四聖主は地の主の様な存在だ。人々が信仰すべき存在で、この時代の人達も天族の存在について疑心暗鬼になっていて信仰をしない。そうすれば天族は私達人間に加護を与えずに見捨てられる」

 

「ほぅ……知っていたのか、祈りの力を、加護を」

 

 私の考えは間違っていなかった。四聖主は地の主をより大きくさせた存在であった。

 

「四聖主の力は祈りの力、だが人々は穢れを放ち聖主に対する感謝の祈りを捧げなくなった!その為に四聖主は眠りについた」

 

「はぁ……ここの時点で既にループに入ってるのか……5番目の聖主様であるカノヌシはなにやってんだよ。普通の人間に聖隷を視覚させる事が出来る力を持ってるだろう。なんでこんな人の尊厳を踏み躙る様な真似をしやがる」

 

「第5の聖主であるカノヌシは穢れごと人の心を喰らい、無に還す役割を担っている」

 

「……その言い方だとやはりカノヌシの鎮静化は何度かはあったのか」

 

 あの本があるということは逆説的にカノヌシの鎮静化は何度かあった。ゴンベエの読みは大きく的中している。

 

「そう……お前達はおかしいと感じた事は無いだろうか?この国の歴史について」

 

 この国の歴史……私からすればこの時代は私の先祖が生きている時代であり、本来ならば全く関与出来ない。

 歴史……そういえば1000年以上も前の出来事は文献に記録されていない。今回みたいな事が起きれば歴史の闇に葬り去られるが、そうだとしても歴史が飛んでいて時代が異なれば文字も大きく異なっている。

 

「穢れの拡大とカノヌシによる精神の浄化は太古の時代より続いていた……人間の文明は一度滅び新たに作られてきた」

 

「まったく、どうしてこうもオレの勘は当たるんだ」

 

 世界の歴史が途切れているのは偶然ではなかった。ゴンベエの予感が的中した。

 カノヌシの鎮静化と人間の文明のリセット……ならば、過去に栄えていた文明が滅びたのもすべてカノヌシの鎮静化による力。

 

「カノヌシの鎮静化と人間の文明の発展は繰り返されている。このままでは人間は一歩も前に進むことは出来ない……だからこそ聖寮はカノヌシの力を制御し、世界を新しく生まれ変わらせる。穢れのない世界を」

 

「おい、それ結局は天族頼りじゃねえか。人間が人間の文明を開花させなくちゃ進歩しねえ、神秘的な力を一切無しで雷を巻き起こす装置とか石油で色々と作ってこその進歩だろう」

 

 メルキオルの思想にゴンベエは異議を唱える。確かに今までと、いや、現代とはなんら変わりは無い。

 人が天族に頼らなくてもいい様な技術を開発していない。カノヌシという天族を頼りきった状態である。

 

「貴様は今までなにを見てきた人が背負いし業の深さはどれほどのものか知っている筈だ」

 

「脳無しが、そんなもんじゃ原始的な文明から一歩も進まん……新しい道を作れるのは何時だって業を背負いし異端なんだぞ。ま、お前はここで死ぬからそれで終わりだが……神依を使ってくるんだろう。さっさとしろよ」

 

 中指を突き立てて挑発するゴンベエ。そんなゴンベエをメルキオルは強く睨みつける。

 

「本来、神依はカノヌシを制御する術だ、その術を構築する為にザビーダの持つジークフリートの術式が必要だった……貴様等はここで儂が殺す」

 

 そういうとメルキオルの前に兜をつけた何時もの格好をしている4人の天族がいた。

 赤、青、緑、黄色の服を着ている天族……!

 

「光あれば犠牲という影もある。世界の為の贄になるのならばこの身は喜んで捧げよう」

 

「まさか、やるのかアレを!!」

 

「なによその、アレって」

 

「地水火風の天族を全て使った神依だ!」

 

 ヘルダルフに撃ち破れたスレイに対してゴンベエが送った助言、地水火風の天族4人と同時の神依。

 地水火風、4人の天族の器となり自身の中に納める事が出来るのならば理論上は出来る……だが

 

「完成された普通の神依ですら肉体に負荷が掛かるというのに未完成の状態で4つ同時の神依なんて、死ぬぞ!」

 

 メルキオルは文字通り本気でゴンベエを殺しに掛かろうとしている。

 4人の天族はメルキオルの中に入るとメルキオルは眩い光を放っている。

 

「……そこか!!」

 

「なにを……!?」

 

 4属性の神依を発動しようとしているメルキオルではなく背後に向けて無明斬りをゴンベエは放つ。

 何処に撃っていると思えば、無明斬りは空中でなにかに激突をしてメルキオルが姿を現す。

 

「貴様、何故……」

 

「お前は臆病な人間でもあるからな……グダグダとオレ達に話をしている隙になにかやってくる。案の定、オレ達が話していたお前は偽者でお前は姿を幻覚で隠していた……オレは学習する人間で、アメッカ達と違って人を疑う事の大切さも知ってるんだよ……ま、流石にその形態は予想外だがな」

 

 赤、青、黄色、緑と各属性の神依の特徴が出た姿へと切り替わっている。

 力が安定していないが紛れもなく四属性同時の神依を発動しており、流石のゴンベエも驚いている

 

「この姿は長くは持たん……だが、その前に貴様を」

 

 メルキオルは神依の状態を維持したまま穢れを集める。

 

「空裂斬……ロクロウ、さっきは譲ってやったんだ……オレの思うようにやらせろよ」

 

「ああ、お前の本気を見せてもらう」

 

 ゴンベエは背中の剣を抜いて穢れの塊に向かって斬撃を飛ばし、浄化した。

 

「何故だ……何故貴様は」

 

「こんな力を持ってるかって聞かれれば……災禍とはいえ勇者なもんでな」

 

 ゴンベエの浄化の力を目にし表情を変えた。

 この時代ではまだ存在しない穢れを打ち払う事が出来る浄化の力は持っている方がおかしい力で、ゴンベエは力の出処について答える。

 

「どうした……穢れをぶつけてみろよ。それともこの程度で終わりなのか?」

 

「抜かせぇ!」

 

 穢れの塊をゴンベエにぶつける。

 ゴンベエは剣を使って穢れを打ち祓う事はせずにそのまま穢れを受け入れると同時にお面を取り出して装備すると穢れはより強く凝縮していくと顔に模様が浮かび上がった鬼神……ではなく、角の生えた人型の狼の様な姿に変貌していた。ゴンベエが憑魔化した

 

狼鬼(ロウキ)、と言ったところか……ふん」

 

 憑魔化したゴンベエだが何時も通りのゴンベエで理性は保っていた。だが、何処かつまらなさそうにしており浄化の光を放つと元の姿に戻った。

 その姿がメルキオルは我慢が出来なかったのか激昂する。

 

「貴様は何故それほどまでの力を持っているのになにもしない!貴様には業魔を打ち払うどころか元の人間に戻す事さえ可能だ!何故だ!世界が背負いし業を、穢れを打ち祓わん!勇者を名乗ると言うのに世界を救おうとしない!世界の真実を、理を知っていて何故嘆かん!!」

 

 ゴンベエの力に対してメルキオルは不満をぶちまける。

 確かにそうだ。あれだけの力があればゴンベエは世界だって救う事が出来る。あくまでもここは過去の時代だ……そう一線を敷いていて浄化の力を使おうとしないが、現代でも力を振るう事は無かった。コッソリと私をサポートするだけに終わっていた。それこそ導師になれる機会も何度もあったのにゴンベエはなにもしなかった。

 

「なんだ、そんな事か」

 

「そんな事だと?ならば、答えてみろ!!貴様は何故なにもしない!」

 

 メルキオルは問う、ゴンベエになにもしない理由を。

 

「……めんどくさい」

 

 ゴンベエから返ってきた答えはあまりにもシンプルだった




スキット 配役

モアナ「ズールい!ライフィセット、ズールーい!」

ライフィセット「ええ……僕も好きでやってたんじゃないんだよ!!」

モアナ「だったらモアナにやらしてよ!モアナの方が似合うもん!!」

エレノア「なにを言い合っているのですか?」

マギルゥ「ライフィセットの魔法少女の格好の事をモアナが知っての、自分が着たかったと駄々をこねておるんじゃよ」

エレノア「あぁ……」

モアナ「モアナの方が上手に魔法少女が出来るもん!ピリカピリララ!」

ライフィセット「そういう感じの魔法じゃなかったよ……フブキのゴミみたいな魔法だった」

ゴンベエ「モアナ、ライフィセットは魔法少女ではあるがカードキャプターと呼ばれる種類に分類されているんだ」

ライフィセット「そんな細かに分類されてるの!?」

ゴンベエ「そうだ。魔法少女の魔法って色々とあるんだよ」

モアナ「ゴンベエ、モアナも魔法少女になりたい!!」

ライフィセット「モアナもって、僕は男の子だからね!!」

ゴンベエ「ブッキーが言っていた男の娘だろうが……モアナが魔法少女ね……既に変身してる状態じゃねえの?」

モアナ「違うもん!モアナは本当は滅茶苦茶可愛いんだよ!」

ゴンベエ「今の時点で充分に可愛いだろう……配役的に言えばモアナとライフィセットが魔法少女として他はどういう感じのポジションになるんだ?」

マギルゥ「なんだかんだでノルんじゃな」

ゴンベエ「こういう語り合いは大事なんだよ。子供の夢は大切にしねえと」

マギルゥ「ふむ、ならばワシは魔法少女達の大元である大魔女じゃのう!」

エレノア「でしたら私は」

マギルゥ「エレノアは坊とモアナの先輩に当たる魔法少女じゃ」

エレノア「ええっ!!」

ゴンベエ「おい、おいなに言ってる。ブッキーと色々と言ったのを忘れたのか、女は16で熟女、18でババアになる世界なんだぞ!!エレノアはキュアメロディになる素質はあるがあるだけで既に老け入るババキュアSilverSoulなんだぞ」

マギルゥ「他に先輩役はおらんじゃろう。ベルベットは悪の女幹部、ロクロウは武人肌の悪の幹部、アイゼンは目的の為に悪の組織にいる一員なポジションじゃ」

エレノア「悪の組織役、多くありませんか!?」

ライフィセット「基本的に僕達悪人だからね……アメッカは?」

ゴンベエ「アメッカは……ライフィセットとモアナが通う学校の担任だな。元魔法少女の新米教師ってところか」

エレノア「私はどちらかと言えばそっちの方がいいのですが」

ゴンベエ「アメッカにキュアババアは荷が重すぎる。ババキュアはホンマにアカンって。キュアメロディの素質があるエレノアが代わりを務めないと……まぁ、そんな感じだな」

マギルゥ「お主、サラリと自分の事を外しておらんか?」

ゴンベエ「いやいや、オレはほら……いい感じの役割が無いからさ。百万歩譲って、頼りになるお兄さん、正体は不明だが手を貸してくれる謎のマスクマンがお似合いだ」

エレノア「自分だけズルくありませんか!貴方は…………ダメですね。ロクな役が浮かびません。普段が普段だけに、まともな役が……」

モアナ「だったら皆で魔法少女になろうよ!」

ゴンベエ「ベルベットとマギルゥとアメッカとエレノアは大きなお友達に許されるけど、メディサとかは完全に魔法熟女」

メディサ「ふん!」

ゴンベエ「だよなぁ……」

メディサ「そんな、効いてないの!?」

ベルベット「ゴンベエをぶん殴るのにはコツがいるわ……変な妄想してるんじゃないわよ。気持ち悪い」

ゴンベエ「いや、流石に見てていたたまれない気持ちになるのは妄想しねえよ」

アリーシャ「次回【それはそれはめんどくさい】……ゴンベエのめんどくさいは本当は──」

ゴンベエ「それ以上はネタバレだぞ」


ゴンベエが憑魔化した姿はガオレンジャーの狼鬼をイメージしてください


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それはそれはめんどくさい

いや、ホントにね……偉そうな事を言うんじゃねえって感じでね……うん。
ゴンベエのめんどくさいはこんな感じです。


「ふざけるな!!あろうことかめんどくさいだと!」

 

「ああ、そうだ。オレが何もしないのはめんどくさい……ただそれだけだ」

 

 メルキオルのクソジジイの問いかけに答えるとメルキオルのクソジジイはキレた。

 見た目からしてかなりのクソジジイなのだからもうちょっと血圧を抑えておかないとプツンと逝くぞと煽ってやりたいところだが今回は真面目にいく。まことのメガネを取り出し、目の前にいるメルキオルのクソジジイが本物のメルキオルのクソジジイなのかを確認する。

 

「質問に答えたからこっちも質問させてもらう。お前は本当に世界を嘆き憂い、慈しんで救済しようとしているのか?」

 

「なにを今更な事を、お前達にとって愚策に見えるかもしれん。だが、コレこそが新たなる一歩のはじまり、はじまりは何時だって疎外される」

 

「そうか……」

 

 分かっていた事だったが一応の確認はしておいた。

 メルキオルのクソジジイは本気で世界をどうにかしたいと思っていて、その為には命を賭けて四属性同時の神依化してオレ達を殺そうとしている。自分を犠牲にしようとしている。間違った方向に向かっているけども。

 

「人を助けるのって些細な事で出来るかもしれない、でもそれはあくまでもきっかけであってホントの意味で人を助ける事が出来ない」

 

「なにが言いたい」

 

「例えばそうだな……見聞を広める為に世界中を旅してるとしよう。豪雨に遭遇して歩いていた道が土砂崩れを起こして足を滑らせた。命に別状はなかったが地図に詳しく載っていない場所に来てしまって困っていると一人の人が偶然に現れてその人が住む地図に載っていない辺境だがのどかな村に案内してもらったとする。雨もふっていて雨が止むまでこの辺りを歩くのは危険だと村の人達は言い、道を教えてくれた人の家に雨が止むまで泊まる事になりその好意に甘えるとした。のどかで平穏な村だが、実は困った事があった。村を出て直ぐの森に凶暴な魔物が住み着いてしまって作物が食い荒らされてしまっている……さて、貴方はどうする?」

 

 うん、即興で考えたが我ながらいい問題が出来た。

 この問題をメルキオルだけでなくロクロウやライフィセット達にも問う。

 

「見聞を広げる為の旅で一宿一飯の恩もある。俺ならば恩返しの意を含めてその凶暴な魔物を斬るな」

 

「待て、ロクロウ……ひっかけ問題かもしれん」

 

 ロクロウは実にロクロウらしい答えをあっさりと出した。急にこんな問題を出してきたのだからなにか裏があるのだろうとアイゼンは疑い、今の答えは無しだとする。

 

「お前の思う答えを出せばいい」

 

「オレの思う答え……助けられた借りは返さなければならない……だが……」

 

 オレならばなにか裏がある筈だとアイゼンは疑う。

 やっぱあれか。日頃の行いが悪いからふざけているけども実は裏があるとか思われてるのか。

 

「エレノア、ライフィセット、お前ならばどうする?」

 

「えっと……僕もロクロウと同じかな」

 

「私も同じです。ただ恩があるからという理由は関係無しで、困っている村を放って置く事は出来ません」

 

「私もだ」

 

 ライフィセットもエレノアもアリーシャもロクロウと同じ答えに至る。

 ただ違う点があるとすればそれは恩義があるからでなく、純粋な困っている人を見過ごす事は出来ない善良な心で動いているところだ。

 

「その高潔な精神は鬱陶しいぐらいに見事だ……ロクロウは、エレノアは、ライフィセットは、アイゼンは、アメッカは、村の近くの森に住み着いてしまった凶暴な魔物を退治しました。村は平穏が訪れました、しかし残念、次の収穫の時に同じ種族の魔物が住み着いてしまって村は飢餓に襲われて滅びました」

 

「なっ……そんなの理不尽だ!!」

 

「やはりひっかけ問題だったか」

 

 アリーシャ達が出した答えをひっくり返した。助けた筈の村は滅びてしまった。

 アリーシャは文句を言うがこの世がどれだけ理不尽に満ち足りているのかこの時代に来てから嫌という程に目にした筈だろう。

 

「ならば、もう一度同じ質問をしよう。お前はどうする?」

 

「それは……」

 

 自分が力を行使すれば簡単に問題は解決する。しかしそれでは村の為にはならない。

 改めて質問し直すとアリーシャ達はどう答えればいいのかと悩む。そう、悩む事こそ大事なんだよ。

 

「例えばロクロウならば魔物を倒す、という選択肢以外にも嵐月流の剣術を教えて村の人達を鍛えるという選択肢もある」

 

「なるほど……確かにそういう手もあるな」

 

「ライフィセットの様に術に長けている者が居るならば、退治した後に野生の魔物が住み着かない様に焼き払う手もある」

 

「ええっ……」

 

「アメッカの様に知性があるのならば、村の近くに後で増築が出来る罠を作り方から教えるという手もある」

 

「それは、そうだが」

 

「マギルゥの様に捻くれているのならば作物に毒を仕込むという手もある」

 

「お主、ワシをなんじゃと思っておる!」

 

 マギルゥならばホントにやりそうだって信頼しているんだ。

 1つの村の1つの問題に対して複数の答えが出た。直接殺すだけにする、殺し方を教える、殺した後に住めない環境を作る、毒を仕込む、殺す為の道具の作り方を教える。

 

「……答えは1つだけじゃないか」

 

「ああ、そうだ。この世の中が抱えている問題は数学みたいにコレだという答えが無い。方程式に合わせて解けるものじゃない。たった1つの村を救う方法は幾つもある……じゃあ、その中でなにが正しいかって話になる……なにが正しいと思う?」

 

 正しいものを求める事は決して悪いことじゃない。それが絶対だと思いこむのが厄介な事だけだ。

 アイゼンに今あげた例でなにが正しいのかを問うとアイゼンは答えに悩むのでベルベットに視線を向ける。

 

「その人にとって一番大事なやり方じゃないの?」

 

「それが模範的な解答だろう……ただな、そこで1つだけ厄介な事がある。その人の事を本当に思ってなにかをやろうとするのはいい、だが……そこに自分の流儀を無理に通せばそれこそただの自分勝手(エゴ)だ。その人を助けようと自分の流儀で助けるのはその場凌ぎの正義だ、身勝手な感情だ。人を助けるって決めたのならば自分の流儀を通すんじゃなくてその人が本当の意味で助けられた状態に、自分の力で歩けるようにしなければならねえ……オレがアリーシャに力を貸している様に、考えさせてる様に、血となり肉とならなければならない」

 

「だが、それは途方もないことで………………!」

 

 アイゼン、気付いたか、その言葉に。

 

「メルキオルのクソジジイ、確かにオレには世界をどうこうして変える力はある。だが、オレがオレのやり方に一存していいのならば好ましくはないがオレは武力による圧制をさせてもらう。スレイ達の事なんてガン無視、ローランスとハイランドの事情なんぞ知ったことじゃない、オレの圧倒的な力で抑えつける、問答無用でヘルダルフを殺す。それが一番手っ取り早くて楽な道だ。アリーシャの思いも気にせずに平和な世の中を力で作り上げる」

 

 別にそういうやり方が出来ないわけじゃない。好きじゃないし暴力では暴力以外は産まないのを知っているのでしないだけだ。

 

「だが、オレはそんな事をしない。力を求めてどうにかしたいと思っているアリーシャにきっかけやヒントを与える……序盤の方は失敗に終わったが、まぁ、そのおかげでこうしてここにいるんだがな」

 

 スレイと一緒に色々なところを旅すると思っていたんだが、まさかまさかの離脱。

 ほんの少しだけ力を貸して後は色々と頭を悩ませて答えを出してもらおうと思ったが無理だった。

 

「人を助ける時にこの道を歩けばいいと教えるのはいいが、この道を歩けと強制させるのはいけねえ事だとオレは教わった……だからアリーシャを助けるって決めた時にアリーシャが悩ませて色々な道がある事だけを教えた。その道が絶対に正しいから歩けとは言っていない……そうやって悩んで藻掻いて苦しんでも歩き続けた結果、今の強いアリーシャが生まれる」

 

「ゴンベエ……そんな事をずっと考えて思っていたのか」

 

「メルキオルのクソジジイ、お前はオレに世界を救えるだなんだ思っているだろう……アリーシャと同じことを後、最低でも10000000回やらなくちゃいけねえなんて死んでもごめんだ」

 

「だから、──か」

 

 アイゼンはオレの言いたいことに納得する。

 無理に自分の流儀を貫かず、その人が本当の意味で助ける事が出来てこその人助けだ。オレは地獄でそう教わった。吹雪も深雪もヒナコも黛さんも、それにアイツも地獄の転生者養成所で嫌になるほど人の醜さを知った。世界の理不尽さも自身の死で思い知っている。それと同時に人助けの難しさも、諦める事の大切さも人を疑う事の大切さも教わった。

 だからだろう。小説や漫画に出てくるような熱血漢の主人公的な性格の奴がいないのはどいつもこいつも一癖も二癖もある転生者になるのは。それでも笑顔を絶やさない正義の味方(ヒーロー)になろうとする奴は、八木俊憲や天王寺の旦那には敬意を評するよ。

 

「人助けがどれだけ難しい事を嫌というほど知っている……宗教は違うが、弟子に裏切られた神の子だって存在している、立派な教えや信念を持っていても裏切る時は人は裏切る残酷な生き物だ。それを知っている。だからオレは何度も断った、そんなのと向き合って歩むのはめんどくさいから……でも、お前は違うだろう。世界の残酷な現実を真実を理を知っていてそれでも救済しようと思ってるんだろう……だったら自分勝手(エゴ)を押し付けるなよ。どうしたらその人の為になるか考えろよ、諦めるなよ、笑顔になれよ、苦しい顔を浮かび上げるなよ、それがお前達が選んだ道だろう……その道を分かっていて選んだ癖に道を踏み外そうなら、ハッキリと言えよ」

 

 

 

 

めんどくさい

 

 

 

 

 

「オレからすればお前だって同じ穴の狢だ……カノヌシじゃなく四聖主を叩き起こして霊力の低い人間に天族を見える様になる術を開発したりやれることはあった。世の中にはエレノアの様に高潔な心を持った人間だっている。それと同じぐらい話し合いも通じない改心しないどうしようのないクズも存在する、それでもお前はそんな人間と向き合わないといけないだろう。人が背負っている業は重くて深いかもしれない。アホのスレイと違ってお前はそれをよく知っている、それでもお前はどうにかしたいと思っている、それでお前は動いているんだ……自分勝手(エゴ)に逃げてんじゃねえよ」

 

「黙れ……貴様に、貴様になにが分かる!」

 

 オレはその道を選ばない。めんどくさい、硬っ苦しい、息が出来ない、そこまでする義理がない、興味を抱かない。

 

「人々は対魔士達を胡散臭い奇術師と扱った、聖隷の存在を信用する事すらしなかった。何度も何度も向き合った、我が友アスガード・クローディンもアルトリ──」

 

「るっせえんだよ!!色々とゴチャゴチャ理屈を並べて偉そうに語ってんじゃねよ!!悲しい過去があっても過去は過去で乗り越えないといけない。今は今しかない、未来は掴み取らないといけねえ。どれだけ辛かろうが人は嫌でも前に進まされるんだよ!!難しい言葉を並べて偉くなったと思い込んでんじゃねえ、悟りを開いて賢者になったと思いこんでんじゃねえよ!!お前も口にしないだけで、それがめんどうだと適当なそれっぽい理由を纏めて諦めたんだろうが!他人を思いやる気持ちを慈しむ気持ちを向けなくなったんだろう!」

 

 過去にメルキオルは必死になっていたのだろう。それこそカノヌシの力を使わずに四聖主の力を頼ろうとしたのだろう。それでも無理だったのだろう。大地の記憶で見たアルトリウスの様に自分の無力さを嘆いたのかもしれない……だが、それでも前に進まなければならない。その道を選んだんだ……スレイもメルキオルのクソジジイもアルトリウスも。例えどれだけ世界が残酷だとしても。オレはそんな過酷な道を歩みたくないしめんどくさいから選ばないけども。

 

「お前やアルトリウスに対して史上最低の言葉を送ってやるよ」

 

 過去に吹雪を傷つけた言葉だった。アリーシャに対して言うのも極力避けている……でも言ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

「諦めるな 頑張れ もっと努力しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 頑張れって言葉はエールになるなんて言うけれど、時として人を最も傷つける言葉になる。

 アルトリウスは頑張ったんだろう。メルキオルのクソジジイは頑張ったんだろう。だがそれでもオレは言ってやる。まだ出来る筈だ、諦めるな。頑張れよ、努力しろよ。

 少なくともオレ達は知っているんだ。地の主という穢れから身を護るシステムを、従士契約という霊応力が低い人間でも天族が見れる様になる技術が存在しているのを。お前やアルトリウス達は努力を怠っているんだよ。

 

「自分でやるって決めたくせに適当な理由を纏めてめんどくさいのを回避しようとしてんじゃねえ……だからオレはハッキリと言ってやるよ、人を助けるのはめんどくさい。めんどくさいけどアリーシャに力を貸して助けるって決めたんだよ」

 

「ゴンベエ……」

 

「お前は狂っている……儂がこの手で殺す!!」

 

「狂っている、ね……オレが誰に物事を教わったと思ってるんだ」

 

 仏だぞ、この世の真理を解き明かして悟って目覚めた奴等だぞ。

 神とはまた違った考えを持っていて、アホみたいなところはあるけどそれでも偉大な存在なんだよ。

 

「絶対零度の檻にて絶命せよ!アブソリュート・プリズン!」

 

「喝!!」

 

 メルキオルはオレを殺すべくオレを氷漬けにする。

 オレはそんなもんは効かないと一喝して氷を粉々に破壊した。

 

「吹雪のエターナルフォースブリザードの方がまだ冷たい」

 

「化け、物が」

 

「失礼な、勇者だ……もうつまらない禅問答は終わりにする」

 

 メルキオルのクソジジイも底が見えてしまった。四属性の神依も無駄話が原因で無駄に終わる。オレはフォーソードとマスターソードの二本を取り出して二刀流になる

 

「ゾーン強制開放!我が剣は終わりを告げる、我が剣は戦いの始まりを迎える……開闢双覇斬!」

 

 二本の剣を交差させてメルキオルのクソジジイを斬り殺す。

 今回は殺してもいいので一切の手は抜かない。100%、ゾーン状態でメルキオルに致命傷を与えた。

 

「ふぅ……スッキリした」

 

 老害をボコボコにするのは気持ちいいZOY。

 四属性の神依が解けたのでメルキオルのクソジジイはもう死に向かっている……もし悔やむ事があるのならばメルキオルの神依の犠牲になった天族達、ホントにすまん。

 

「あの頑固ジジイをめんどくさがり屋と言うのか、お主は」

 

「真剣に問題に向き合って話し合ったりする事は大事でそれらを怠ればめんどくさがり屋だ。諦めるための適当な理由や理屈を並べてもな」

 

「向き合うか……ゴンベエは私の問題と向き合ってくれているのか」

 

「お前だけ特別だ……色々と義理はあるしな」

 

「そうか……私だけか……」

 

 一回、従士契約云々の際にスレイに色々と教えてほしいだなんだ言われたがめんどくさい。アリーシャに対してはまぁ、色々とあるので真剣に向き合うのが筋だろう。アリーシャは自分だけ特別扱いされているのが嬉しいのか笑みを浮かびあげている。

 

「これで4つの魂は揃ったわ」

 

 メルキオルの遺体を喰魔化した左手で喰らう。

 空を見上げれば綺麗な真紅の満月であり、実に生贄をしてなにかを呼び出す空気が出来ている。

 

「ここまで来たが……ここで本当に大丈夫なのか?」

 

 一度に四聖主を同時に叩き起こさなければならない。失敗だけは許されないので少しだけ不安を抱く。

 ここは地脈の力が地下の底から湧き出る場所だ……最後の最後で失敗してしまうっていうのもありえなくない。なんだったらメルキオルが魂を叩き込めない様にしている可能性だってある。

 

「その時はその時よ……行くわよ!」

 

「行くって、おい!」

 

「ベルベットに続こう!」

 

 左手を喰魔化したままのベルベットは火山に向かって飛び込む。

 上から勢いをつけて地脈湧点に叩き込むつもりでアリーシャはそれに便乗するかの様に飛び込みベルベットの背中に手をつける。

 

「ったく、仕方ねえな」

 

 アリーシャが飛ぶと他の皆もベルベットに力を貸す為に飛び込む。

 ここまで来た以上は成功させるしかないとオレも後を追ってベルベットの背に触れて力を貸すとベルベットの左腕に怪しく光る魂の球が出現して地面に叩き込まれる。

 

「四聖主は災禍の顕主が叩き起こす!!」

 

 ベルベットがそう叫ぶと光る魂の球が地面に打ち込まれて消えた。

 どうなったと口にする前に膨大なまでの力の流れを感じ取り四方に散らばる。恐らくは各々が祀られる神殿に四聖主達が目覚めたのだろう。

 

「感じる……カノヌシの領域と四聖主が戦ってるのを」

 

「成功したか……これで意思を抑制された聖隷達も解放される」

 

「そうなれば聖寮は戦う術を失い、情勢はガッタガタになるがのう」

 

「……どうにか出来ないでしょうか?」

 

「……取り敢えず、メイルシオに戻ってから色々と考えようぜ」

 

 四聖主を同時に叩き起こし、カノヌシの領域を封じた。それにより今まで築き上げてきた社会は崩壊する。色々と今後について考えなければならない事が沢山あるが今はなにがどうなっているのかを考えるよりも一息つきたい。オレ達はキララウス火山を降りてメイルシオへと帰る。




ゴンベエの術技

開闢双覇斬

説明

ゴンベエの第二秘奥義
ゾーンを開放して全力全開の状態でオーバーロード状態のマスターソードとフォーソードの二刀流で*マークを斬り刻む



スキット どっちの意味


エレノア「ふぅ……申し訳ありませんでした!!」

ゴンベエ「突然改まってなんだよ?」

エレノア「貴方が力はあって色々と良識がある癖にめんどくさがってなにもしないクソニートのプー太郎だと今まで思っていました」

ゴンベエ「お前、腹の底ではボロクソに言うんだな」

エレノア「でも、違ったのですね……貴方は本当は誰よりも深く色々と考えていた。めんどくさいという言葉の意味を理解せずに軽蔑してしまいました……本当に、申し訳ありませんでした」

ゴンベエ「んだよ、そんな事か……別に謝られることじゃねえよ。オレはめんどくさいと思っているのは事実なんだから」

エレノア「確かにそうかもしれない……私も心の何処かで適当な理由を付けてめんどくさいのを誤魔化している」

ゴンベエ「お~い、話聞いてるか」

エレノア「貴方に色々と教えた方は本当に立派な人なのですね」

ゴンベエ「そりゃまぁ仏だからな……人がどうして苦しむのか、世界はどうして無常なのか、そんな深い事を色々と考えていた末にこの世の理の外に居る存在だからな……普段は茶目っ気なおっさんだけど」

エレノア「一度お会いしてみたいですね」

ゴンベエ「いや、会ってるぞ」

エレノア「え?」

ゴンベエ「何回か見てるだろう。あのペヤングフェイスもとい頭がブツブツなの」

エレノア「あの変なのが貴方に色々と教えていたのですか!?」

ゴンベエ「他にも色々な奴が居たりしたけど、人助けとかについて色々と教えてくれたのはあの仏だからな……曲がりなりにも仏だからな……」

エレノア「ただの変な格好をした中年にしか見えないんですが」

ゴンベエ「まぁ、色々とあるんだ。色々と……細かな事は気にするな。めんどくさくなる」

エレノア「それはどっちの意味でのめんどくさいなんです!?」


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これからどうする

「寒い、寒い、さーむーい!!」

 

「んな格好してるからだろうが」

 

 キララウス火山の火口にワンチャンダイブし、四聖主を叩き起こす事に成功した。

 クソ熱いところから一気に極寒の地に舞い戻ってきたのでマギルゥは寒さに凍えて震える。寒いのは……ベルベットとロクロウ以外同じなんだ。

 

「確かに寒いですが……前と違いませんか?」

 

 急な環境の変化なのでエレノアも凍えるのだが、エレノアは違和感を感じている。

 

「前と違うってなにがだ?」

 

「前はこう、体の芯まで凍てつく様な寒さを感じましたが今は寒いには寒いですが……こう、胸の中がスゥっとした感覚があります」

 

「それは……恐らくは天族の加護領域の中に入ったからだろう」

 

 オレはそんな感覚を感じていないが、エレノアは感じ取ったようだ。

 アリーシャが加護領域に関してざっくりと説明をする……オレには前と同じ感じの寒さだが、変化した……オレ達が気付いていないだけで色々と変化が巻き起こってるんだろうな。

 

「副長!」

 

「ベンウィック、船に戻れと言ったはずだろう!!」

 

 メイルシオの街に帰ってくるとベンウィックが慌ただしく出迎えてくれた。

 バンエルティア号に戻れという指示を無視してこの場に残っている事をアイゼンは叱るのだがベンウィックは怯まずに声を出す

 

「船長が目覚めたんだよ!」

 

「なに、それは本当か!」

 

「ホントだよ!火山から光る柱みたいなのが出現したと思ったら、船長が目覚めたんだ」

 

「ふむ……アイフリードはカノヌシの力で霊応力が高められる前から聖隷を見ることが出来る。四聖主を叩き起こしてカノヌシの領域を抑え込んだのをきっかけに目覚めたのじゃろうか」

 

 ずっと眠ったままのアイフリードが目を覚ました。マギルゥは原理を考察するのだがここで机上の空論を並べていてもなにも進展しない。

 ベンウィックにアイフリードが居る宿に案内をしてもらうとそこには様々な料理が乗ったテーブルで飯をガツガツと食っているアイフリードがそこにいた。

 

「おぉ、帰ってきたか」

 

「おいこら、寝起きなのになに飯をガツガツと食ってやがる」

 

「腹が減ったら飯を食う、人間の極々当たり前の行いだろうが」

 

「そうじゃねえよ……普通は胃袋が受け付けねえだろう」

 

「メルキオルの奴に色々な手痛い拷問を受けてきて絶食、断水は当たり前……いやぁ、シャバの飯は美味いな。おかわり」

 

「おじさん、まだ食べるの!?」

 

 ガツガツと飯を喰らうアイフリード。料理を運んでいたモアナはアイフリードの食いっぷりに声を上げる。

 今まで食えなかった分をここに来て一気に取り返してるってか。食い溜めなんて出来ないんだよ。案の定というかアイフリードは飯をガツガツ食っていると顔色が悪くなりワインを飲んで腹に流し込む。なんかルパン三世カリオストロの城でこんな感じのシーンを見たことがあるぞ。

 

「さて……改めて礼を言うべきか、あんたの海賊団のおかげで世界と喧嘩をする事が出来た」

 

「礼はいらねえよ」

 

「握手の1つぐらいはしてくれよ」

 

 アイフリード海賊団に関しては本当に感謝しなくちゃいけない。

 ベルベット達とここまで戦い抜くことが出来たのはアイフリード海賊団が裏で色々とサポートをしてくれたからここまで来れたのもある。

 アイフリードと握手を交わすのだがアイフリードのオレの手を握る力は弱かった……

 

「おっさん、無理はするなよ……」

 

「おいおい、抜け目ねえな」

 

「……どういうことだ?」

 

「メルキオルのクソジジイの精神的肉体的拷問に加えての一週間以上の昏睡、オレが死なない様に点滴を入れたりしていたが……アイフリードは恐ろしく弱っている。今こうして馬鹿騒ぎしながら飯をガツガツと食うなんて事がおかしい」

 

 胃袋は臓器の中で収縮する事が出来る。

 まともに飯を食っていない状態が長続きしていて、まともに体を動かしていない状態が長く続いている。寝起きならばもう少し大人しくしているもんだが、流石は船長と言ったところか。

 

「医者じゃないが医術を知っているから、ハッキリと言わせてもらうぞ……時間を掛けてゆっくりと養生しろ。元の状態に戻るリハビリをちゃんとしろ……聖寮との戦いには加わる事は出来ない」

 

「分かってるよ……メルキオルの奴は誰がぶっ倒したんだ?」

 

「オレだ……あのジジイはただのめんどくさがり屋だった」

 

「あのジジイがか!?お前、なに言ったんだよ」

 

「そうだな……」

 

 今日はもうメイルシオで休むつもりなのでキララウス火山で起きた出来事を語る。

 シグレとロクロウの一騎討ちに、地水火風のてんこ盛りの神依、オレの言葉にぶちギレたメルキオルのクソジジイと起きた出来事を語るとアイフリードは面白いと笑う。こっちは割と命懸けだったので笑い事じゃないんだけどな。特に最後のキララウス火山の火口にダイブしたのを。

 

「さて……面白い話はここまでとしよう」

 

 メルキオルのクソジジイを殺した話は、特等対魔士達との戦いはこれで終わりだ。

 ここからは大事な話、今後について語り合わなければならない。

 

「四聖主を同時に叩き起こす事には成功した……が、問題が山積みだ。ライフィセット、今どんな風に力を感じている?」

 

「……四聖主の力とカノヌシの力がぶつかり合ってる……カノヌシの方が少し上だけど拮抗してるよ」

 

「ん?カノヌシも聖主の一人で、俺達が叩き起こしたのは四人の聖主、単純な数の計算としても四聖主の方が力を持っているんじゃないのか?」

 

「いや……祈りの力が一切届いていない」

 

 単純に考えれば、カノヌシ1人と4人の聖主、数が多い4人の聖主の方が力を持っている様に見える。

 だが実際は違う。カノヌシと四聖主の力は拮抗しておりその一番の原因をアリーシャは口にする。そう、祈りの力が無い。信仰しない人間だが信仰の力はこの世界では意外と馬鹿に出来ないものだ。

 

「メルキオルのクソジジイは言っていた。四聖主に対して祈りを捧げなくなったから眠りについたと……オレ達は色々と巡ってそこで四聖主を祀るであろう神殿にも立ち寄ったが、聖寮が信仰の文明を滅ぼそうとしていた」

 

「地水火風のバランスを保つ四聖主はこの戦いに必要不可欠ですが、その後にも必要不可欠です……どうにかして信仰する文化を復興しないと」

 

「それが今の所1番だろうな……カノヌシを弱体化させて四聖主の力を強力にするには、滅びた文化や風習を復興しないといけない」

 

「それ、後に出来ないの?カノヌシとアルトリウスを討ち倒した後で殿下辺りに事情を説明すればどうにかなるでしょう」

 

 カノヌシの領域を長期に渡って封じ込める事は難しいならば、後に回す。

 今後の政治については殿下にでも頼めばそれで丸く収まる。ここにいる面々は上流階級の人間じゃないから関わることは基本的には無い。

 

「それが出来れば良いんだがな……このままだとアルトリウス達を殺したのはいいけども人類は衰退して滅びましたが有り得そうなんだよ」

 

 本来ならばカノヌシの鎮静化による文明のリセットをしなければならない程に追い込まれている。そこに四聖主の力をぶつけて相殺している。

 リセットされる筈の文明はそのままで、四聖主の目覚めによって天族達は人間との繋がりを断っている……このまま適当にやっていれば確実に人間は滅びてしまう。

 

「メルキオルのクソジジイとシグレが死んで、聖寮に残っているのは有象無象の雑魚。更には天族達は力を貸してくれない……コレは流石にまずい」

 

「じゃあどうしろっていうのよ。信仰する様にしてくれって一人一人に話し合って行くつもりなの?そんなめんどうな事はごめんよ」

 

「流石にそこまでしろとは言わねえよ……ただ積み上げてきたものを崩壊させた。そのせいで社会にどんな影響を及ぼしたのかの確認をしておかないといけない」

 

「そうじゃの……ワシ達は今の所なんの異常も無いが、情勢がどうなっておるのか気にはならなくもない。恐らくはアルトリウスはカノヌシの完成された神依を使うじゃろう。一度、世界を見て回らんとのう」

 

 今すぐにでもアルトリウス達を殺したいのは分かるが、それではホントに世界は終わってしまう。

 後回しに出来なくもないが後回しにすればややこしくなる事で、力がある内に、先に解決したほうがいい。ベルベットはやや不服そうだったが、四聖主を叩き起こした後の社会がどうなったのか確認したいという気持ちもあったので渋々受け入れる。

 

「ローグレスに向かおう……タバサやパーシバル殿下に起きている事を伝えなければならない。ローグレスならば聖主の御座も近くて血翅蝶の情報網もあってアルトリウス達の動向を探れるかもしれない」

 

「それが妥当なところだな」

 

 アリーシャの出した意見にアイゼンは賛同する。

 あの後、どうなったのか……あの婆さんならば生き残ることが出来ているだろうが築き上げてきたものが崩壊して血翅蝶も色々とガタガタになっている。解決できる問題があるならば今のうちにやっておく……めんどくさいけど。

 

「アイフリードのリハビリもあるし、先住民には悪いがメイルシオを暫くは拠点に……あ!」

 

「どうしたの?」

 

「……監獄島に電話とか色々と置きっぱなしだった」

 

 メイルシオを拠点にしようとしてふと監獄島に色々と置きっぱなしだった事を思い出す。

 あの後、聖寮が関与してきてもしかしたら電話を持っていったのかもしれないが……アレは水力発電の電力で動いている物だし、聖寮じゃ使いこなすことが出来ない。そもそもで携帯は複数個あってはじめて意味があるから一個だけじゃ限界があるが。

 

「僕も本とか置きっぱなしだった気が……」

 

「業魔の巣である監獄島に聖隷との繋がりが断たれて力を失った聖寮が足を運ぶことは無いだろう……世界中を回るんだ、そのついでに回収するぞ」

 

「おう、頼むわ」

 

 電話はなんとしても持って帰らないといけない。名目上はハイランドを旅して色々と見ているので、成果の1つでも上げて置かなければハイランドの上層部の馬鹿どもがなにをしでかすのか分からない。でも、電話があったらあったで色々とややこしくなるんだよな。

 今日はもう完全に休む方向なのでこれで良しとする……うん、ホントに喋り疲れた。ガラにもなくキャラでもない説教臭い事を言ってしまった……なんだかんだ言ったけど、結局オレ自身はめんどくさいを理由に逃げたクズ野郎なのに。

 

「あ、おニャーさん達!」

 

 外の風に当たろうと宿を出るとそこにはねこにんがいた。

 

「どうした?」

 

「おニャーさん達にお礼を言いに来たニャ。ねこスピを回収してくれたおかげで皆が無事に戻ることが出来たニャ!」

 

「あ~……なんか集めてたな」

 

 喰魔探しの時とかに人魂的なのをベルベット達は集めていた。

 ねこにん曰く酒の勢いでやらかして魂が抜け出たとかどうとかで、気が向いたらでいいので回収してくれと頼まれていたらしい。

 

「本当に助かったニャ!」

 

「別に、お礼を言われることじゃないわ。ついでよ、ついで」

 

「つきましては皆さんをねこにんの里へとご招待させていただきニャす!!」

 

「なんだと!?」

 

「なな、なんとぉ!それはまことかの!!」

 

「お前等、オーバー過ぎやしないか?」

 

 ねこにん達が今までのお礼を兼ねてねこにんの里に招待をしてくれる。アイゼンとマギルゥは異常に驚く。

 そういえばねこにんの里は過去のオレ達が行ったことがあるっぽくて、アリーシャは鎧を、オレはオカリナの曲が紹介状代わりになってたが、まさかこんな形で回収されるとは思わなかった。

 

「ねこにんの里は知る人ぞ知るねこにんの隠れ家だ……地図にも載っていない場所でどうやって行くのかすらも皆目見当がつかない」

 

「ねこにんの里と言えば一見さんお断りの高級リゾート地としても知られておる。行った者は皆、ホワホワになる」

 

「……アレが?」

 

 過去にいや、未来でねこにんの里に行ったことがあるのでアイゼン達ほど新鮮味を感じない。

 日本の高級ホテルがどんな感じなのか知ってるし、アレで高級リゾート地なのはちょっとな。名古屋めしよりも関西の方が飯は美味い、神戸の中華料理屋さんのカレーとオムライスは結構美味しい。

 

「ホワホワになるって、なにがあるのよ」

 

「面白そうじゃありませんか。ねこにん達が大勢暮らしている場所なんてどんな所か気になります」

 

「僕も、探索してみたいな」

 

「今まで借りた恩を返して貰うんだ、その好意には甘えなくちゃ失礼だ」

 

 あんまり乗り気じゃないベルベット。

 エレノア、ライフィセット、ロクロウは行きたい姿勢を見せる

 

「お前だけ残ってもいいぞ、どうせこの状態じゃ船をまともに出向する事が出来なくて聖主の御座に行けないし」

 

「別に残るなんて言ってないわよ……ただ」

 

 乗り気じゃないのならば来なければいいのではないだろうか……ああ、そうか。

 

「仲間はずれなのが寂しいのか」

 

 今まで行動を共にしてきてオレ達はなんだかんだと仲間意識の様なものは一応はある。

 ここまで来ての仲間はずれで皆がワイワイと楽しくやっている姿を見ればそれはもう嫉妬してしまうだろう。

 

「違うわよ!ただ」

 

「はいはい、何時ものな」

 

 最近、少しだけ素直になってきたけどもベルベットは基本的にはツンが強かったりする。まぁ、そこもベルベットのいいところだが。

 ベルベットも嫌そうな顔をしつつもついてくる事になりオレ達はねこにんの里へとワープする……前行った時は然程気にする事は無かったが、これどういう原理で行ってるんだろうな。

 

「ここがねこにんの里……不思議な場所だね」

 

 ねこにんの里にあっという間に辿り着いた。

 ディズニーで言えばプーさん的な世界観の場所でありのどかと言うしかない。ライフィセットもそれを感じ取っている……が……うん……。

 

「二度目だからな」

 

「……そういうのはあまり言わない方がいい」

 

 ライフィセット達はここがねこにんの里なんだとワクワクしている。

 未知の世界に足を踏み入れる楽しさを感じているのだろうがオレとアリーシャは二度目の来訪になるのでテンションは上がらない。

 

「…………大丈夫、だよな?」

 

 ねこにんの里をとりあえずは探索しているのだが後頭部が疼く。

 傷跡なんて一切残らない後遺症もなく完治しているのだが、ゼンライの爺さんと対話している時に不意を突かれたのは今でも苦い思い出だ。あの時のダークかめにんはオレ達を知っていたから……多分、この時代でなんらかの形で出会うのだろう。

 

「さてと……ニャバクラに行くか」

 

「ゴンベエ、行くんじゃない!!」

 

 それぞれがそれぞれの楽しみ方をしている。二度目なのでオレは楽しむことが出来ない……ていうか冷静に考えればねこにんの里、1000年間進化も衰退も辿っていないって何気に凄いよな。とりあえずはニャバクラに行こうとするとアリーシャが立ち塞がる。

 

「いいじゃねえか!前も言ったけど、オレは彼女も無ければ親を捨てたも同然の身なんだよ!!一夜の淡い夢物語を見てもいいだろうが!」

 

「あんなヱッチなお店に行くなんて人として、勇者としてどうにかしている!!」

 

「勇者だからこそだ!いいか、一夜の淡い夢は一夜の淡い夢で終わらなければならない。たった1日だ、たった1回の夢を見るために(おとこ)は勃ち上がるんだ……危険な道だからこそ勇者は冒険するんだ」

 

 オレだって性欲の1つや2つ、ちゃんとあるんだ。

 人間の剣士とエルフの弓使いと盗賊のハーフリングと一緒に逝こうぜパラダイスしてえんだよ。なんだったら異世界に飛ばされる際にそっち系の世界に飛ばされないかと淡い期待をしてたりするんだよ。

 

「ニャバクラは2000歳から入る事が出来るニャ!」

 

「人間は2000年も生きれない。仮に生きることが出来たとしてもそれは不老不死か、魂を維持したまま新しい肉体に生まれ変わるかのどっちかだ」

 

 尚、転生者はどちらかといえば後者に当たる。

 

「あんた達、さっきから叫んでなにを言い争ってるのよ」

 

「ゴンベエが風俗に行こうとしてるのを必死になって止めているんだ」

 

「はぁ!?あんた、なにしに行こうとしてるのよ!」

 

「失礼な。ニャバクラはキャバクラみたいなものだ。ピンサロでもおっパブでもソープでもイメクラでもないんだ。ちょっと愚痴を聞いてくれるだけなんだ」

 

「それ浮気をしている奴の言い訳でしょう」

 

「浮気もなにもオレはフリーなんだよ!!」

 

 アリーシャとベルベットはオレをゴミを見るような目で見てくる。

 なにがなんでも行かせないつもりなのかベルベット達は武器を構える……オレにボコボコにされたってのに、挑もうと言うのか。

 

「言っとくがな、オレより質の悪い奴は世の中にはいるんだぞ。自分の好みの容姿をしている子を、性癖にどストライクの子をスカウトしてアイドルプロデュースしててアイドルに好意を向けられてるにも関わらずにソープ行こうとしたりしてる奴とか」

 

「ゴンベエ、自分より下の存在を出して自分はマシだと思わせるつもりか」

 

 っち、ダメか。なにがなんでもニャバクラに行きたいのにな……

 

「ていうか、2000歳超えてる奴なんて居るの?アイゼンですら1000歳なのよ」

 

「ゼンライ様がよくお通いになってるニャ」

 

「ジジイ殿……」

 

「あのジジイ、1000年前から常連だったのか……」

 

 筋金入りのスケベじゃねえか。ゼンライの爺さんに対する評価が爆発的に落ちていくのだが、是非もない。

 平穏なねこにんの里でドンパチやり合ったら追い出されそうな気もするのでベルベット達と戦うのをやめて渋々ニャバクラを諦める。

 

「一通り見て回ったのならさっさと出るわよ」

 

「待て待て、名物の味噌煮込みうどんとかエビフリャーとか酒のツマミになりそうな物が」

 

「そうだよ。ねこにんのレスリングとか僕、見たい」

 

「まだまだ時間があるのですからゆっくりとしましょうよ。ねこにん達は私達の事を饗して──」

 

「くしゅん」

 

 まだ残りたいエレノア達だったが、ベルベットはクシャミをした。

 ここはメイルシオと違って豪雪地帯で吹雪が吹き荒れているわけでもない、それどころか心地良い場所……まさか

 

「お前、ネコアレルギー?」

 

「ええ、そうよ……重度の物じゃないけど、クシュン……クシャミが止まらなくな」

 

「それを先に言えよ!!なんでそんな重要な事を黙ってたんだ」

 

「別に─クシュン─そこまでの事じゃ」

 

「アレルギーを軽く見るんじゃねえ。世の中にはアレルギーは甘えとか言ってアレルギー反応を起こす物を食わせる老害だっているし、それが原因で死んだ奴がいるんだぞ……無理すんじゃねえよ」

 

 アレルギーは本当に洒落にならない。

 知識チートな転生特典を貰っているけどもアレルギーに対して効果的な特効薬はなくもないけど、確実に治るタイプの薬はない。精々花粉症を抑える程度のものだ。

 

「はぁ……オレとベルベットは先に帰っておくからお前等、好きにやってくれ」

 

「あんたまで、クシュン……帰らなくても」

 

「お前、目が真っ赤になってるだろう」

 

 ていうか、ねこにんでネコアレルギーが発症するってどんな状況だよ。

 ねこにん達には悪いがネコアレルギーをベルベットが起こしている事を伝えるとショックを受ける……だが、仕方がない事だ。とりあえず帰る事を伝えるとライフィセット達も一緒になって帰ろうとするのでお前等はお前等で楽しんでおけと言っておく。

 

「オカリナ使って帰るか」

 

 急遽ねこにんの里に来たのでフロルの風のマーキングは解除したままだ。

 他のマーキングはしてあるのでオレは大翼の歌を吹いてメイルシオへとベルベットと共に帰った。

 

「着ている服を着替えて、風呂入って洗ってこい。流石に有り合わせの物でアトピーとか抗生物質は作れない」

 

「……なんか、悪いわね。面白そうな場所だったのに」

 

「いいんだよ、お前が体調不良を起こしてぶっ倒れるよりはマシだ……ニャバクラは行きたかったけど」

 

「まだ言うの……そこまで言うなら酌ぐらいしてあげてもいいわよ」

 

「……絶世の美女の物凄い知り合いに酌をしてもらうのは気まずい」

 

 ベルベットとはな、不純な関係じゃないんだ。だから、ベルベットにそういうことをしてもらうと気まずくなるんだ。ベルベットの酌とか確実にボッタクリに遭いそうだし……うん。ベルベットの誘いを断るとベルベットは不機嫌そうな顔をする。ベルベットなりのデレなのは分かっているんだが、オレ達は決してそういう関係じゃないんだ……だから一線は敷いておかないと。

 

「……あ、大翼の歌か」

 

 ねこにん達への身分証明書代わりになった曲がここで判明した。




え〜とりあえずね言わせてもらうけどね……ここから色々とサブイベントあるやん……一部、省かしてもらう。
一応は起きた事になってるけどもその細かな描写はせずにそのまま素通りさせてもらう。エレノア達のサブイベントはざっくり進行させてもらいます。○○が起きたとか言うぐらいで終わります


アリーシャのアタッチメント

ロビンマスクのマスク

説明

仮面(ペルソナ)の貴公子がつけている仮面。仮面を取れば一族を追放されるなど重い罰が待ち構えている。


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異世界からの漂流者

「聖寮の奴等、ふざけんじゃねえぞ!!今まで堅苦しい規律を守ってやったってのに」

 

「対魔士達が業魔から身を護ってくれるから今までに我慢してたのに」

 

「そうだ。特等対魔士のメルキオルとシグレは災禍の顕主に殺された。マギラニカは行方知らず、オスカーやテレサといった有望株も殺されて……この国はもうおしまいなのか」

 

 ベルベットがネコアレルギーだと知った次の日のこと。

 メイルシオを出てアリーシャの提案した通りローグレスに向かうことを決めてゼクソン港に辿り着くと前とは違い、賑わいに溢れていた。

 アルトリウス達がやろうとしていた鎮静化がどれだけ残酷な事なのかが嫌でも分かる……例え悪態ついてても、胡座をかいてても、実に人間らしく生きているとオレは思う。

 

「いらっしゃい、待っていたわよ」

 

 ゼクソン港で鎮静化と今の状況がどうなっていたのか確認するとローグレスに向かった

 ローグレスの方も案の定、対魔士達に対する不満を愚痴っていたりする者が多かったり、こんなご時世だから明るく生きようと前向きになっていたりする人達が多数いた。本当に鎮静化なんて起きたのだろうかと思えるぐらいの豹変……鎮静化すれば人々は意思を奪われてしまう。それこそ歴史に誰も名前を残さないぐらいで……意識が無かった状態の事を覚えていないんだろうな。

 

「シグレとメルキオルを倒したそうじゃない」

 

「相変わらず早いな」

 

 シグレとメルキオルの2人を殺した情報を婆さんは知っていた。

 アルトリウス達を殺す過程でメルキオル達が立ち塞がるのは分かっていることでベルベットが宣戦布告したからある程度は情報が入ってくるが……それでも情報を手に入れるのが早すぎる。

 

「今こうして酒場を開いてられるのは、あの二人を倒したからでしょう」

 

「ま、ある意味間違ってはおらんのう」

 

 何事も無かったかの様に酒場を再開する事が出来るのはメルキオル達を生贄に捧げたから。

 少し考えれば分かることであり、血翅蝶の情報網を使えばこんなのあっという間に辿り着くわ。

 

「今日は奢らせて、貴方達にお礼をしたいわ。ピーチパイにマーボカレー、極上の心水もあるわよ」

 

「タダより高い物は存在しない、なんか裏があるだろう」

 

「コレは純粋な私のお礼よ」

 

「コレは、ね……」

 

 つまりはなにか裏があるということだ。他人の好意には時として甘えないものだ。

 ウッカリと口が滑った婆さんだが、別に口を滑らせても問題は無いのか何事も無かったかの様にジュースをオレ達に配る

 

「アルトリウスとカノヌシは聖主の御座に居るわ……鎮めの儀式とやらを行っているらしいけど……今はどうなっているのかが分からない」

 

「流石の血翅蝶でも聖主の御座は無理みたいね」

 

「いえ、違うわ。聖主の御座に結界の様な物が貼られていて入る事が出来ないのよ」

 

「結界?……もしかしてまたA級の聖隷を4人連れてこないとダメな結界なの?そうだったら……ザビーダに協力してもらわないと」

 

 1回目と同じタイプの結界が貼られているのかと考察するライフィセット。

 あの時と同じ結界を貼っている……いや、なんの為にだ?あの結界はA級の天族4人が居なければ突破できないもので、こっちには天族は3人しかいない。天族が対魔士達から離れていって何処かに行った今は探すのが難しい。それどころか協力を要請しても無理……でも、ザビーダならば確実に協力をしてもらえるし、最悪オレが結界をぶった斬って突破する事が出来る。

 

「……もしかしてアルトリウスは万全の状態で私達を迎え討つつもりじゃないだろうか?ゴンベエがカノヌシを死ぬ寸前までに叩きのめしたし、アルトリウスにも大怪我を」

 

「けどよ、シグレも同じぐらいにボコボコにされてる筈だぜ。そのシグレが何事もなく俺達の前に現れてくれたんだ、傷の完治はちょっと違うんじゃねえのか?」

 

「なら……そうか、神依だ!!」

 

 アリーシャはアルトリウス達が貼った結界について色々と考察する。

 カノヌシは特にボコボコにしたがシグレとアルトリウスが受けた傷は大して変わらない、完治云々を考慮してもカノヌシはともかくアルトリウスの傷は治っている。

 

「神依がどうした?」

 

「思い出して、メルキオルが神依を使ってきたのを」

 

「……ありゃ驚いたな」

 

 地水火風の同時てんこ盛り神依。未完成だったとはいえやってきたのは驚いた。

 未完成の状態でてんこ盛りが出来るのならば完成された現代での神依を用いれば使用者には負荷が掛かるものの出来るという事が分かっただけでもありがたいことだ。

 

「ゴンベエとアメッカは完成された神依を知ってるんだよね、メルキオルの使っていた神依はどうだった?」

 

「どうと言われても私の知っている神依とは大きくかけ離れていた。私の知る神依は名前を呼ぶものだが……」

 

「あの四属性の神依も未完成……メルキオルはクソジジイではあるものの優秀な人間だ。そんなジジイですら未完成の術……まさか」

 

「うん。カノヌシの神依がまだ未完成なんだと思う」

 

 メルキオルのクソジジイが未完成の神依を使っていたからその線はありえるな。

 

「神依はカノヌシを制御する為の術だとメルキオルは言っていた……聖主の御座に貼られている結界はカノヌシの神依が完成すれば」

 

「自動的に解除されるってわけね……いいじゃない、乗ってやるわ」

 

 聖主の御座に貼られていた結界について1つの答えを出すアイゼン。

 全力でオレ達を迎え撃つつもりならばベルベットもそれに答えるつもりで今は聖主の御座に行かない様にする。

 

「タバサ、パーシバル殿下に繋ぐ事はできないか?……このままだと世界が本当に滅んでしまうかもしれない」

 

「随分と急ね」

 

 マーボカレーやピーチパイ等をいただいているとアリーシャは深刻そうな顔で殿下に話を繋げれるか婆さんに聞く。

 ライフィセット曰くカノヌシの方が若干上な状態で領域の力が拮抗している。その状態をより良くするもしくは維持する為には四聖主に対して祈りの力を送り届けなければならない。今後の事も考えればそれはとても大事な事で一人一人に聖主に信仰を捧げろなんて言っている暇は無いしめんどくさい。

 

「結論だけを言えばパーシバル殿下と会うのは暫くは不可能よ。ああ見えて行方不明に扱いになってて、国の要である聖寮は一気に弱体化、聖寮が上から抑えつけてたものが弾けて国の問題は山積みでそれを解決しないといけない……手紙を送ることぐらいなら簡単だけど」

 

 殿下に対して中身を見られない匿名の手紙を送ることが出来るって相変わらず血翅蝶凄まじいな。

 直接会うのは無理、アルトリウスを殺せばオレ達の旅はそこで終わりオレとアリーシャは現代に帰ってしまう……もうすぐこの旅は終わりを迎えようとしている。

 

「それで構わない」

 

「なら、代価を頂かないと。パーシバル殿下に匿名の手紙を送るのは高いわよ」

 

「お金ならば……いや、違うか。また誰かを殺せとでも言うつもりか?私は殺さず罪を暴く道を選んだ……暗殺は出来ない」

 

「分かってるわ、貴方の流儀に則った依頼がある……最近ね、ペンギョンを密猟してる団体が現れたのよ。そいつ等をどうにかしてほしいのよ」

 

 こんなご時世だから無闇矢鱈の乱獲は生態系に異変を与える。

 殺せという依頼じゃない、捕まえたら血翅蝶と繋がりがある憲兵にでも引っ張り出せばそれでOKとなんとも楽な依頼である。

 

「それだけじゃねえだろう」

 

 あまりにも楽な依頼だ。それだけで殿下に対して匿名の手紙を届けるのは安すぎる気がする。

 

「実を言うとね、貴方達に色々と依頼したいのよ。聖寮の対魔士達は力を失って、現状業魔とまともにやり合える一団は貴方達しかいない……悔しいけど、私達では業魔に打ち勝つことすら出来ないわ」

 

 藁にもすがる思いか。ここで気安く請け負っておけば弱味につけこまれたのかもしれないな。

 この国も色々と大変なんだと感じつつもとりあえずはペンギョンの密猟をしている連中をボコボコにすればいいと依頼を受けた。他にもなにやら物騒な依頼があったが、それは後回しにし、依頼料の先払いだとして今後やっておくべき事を纏めた手紙を婆さんに託した。

 アリーシャからの手紙、効力はあるかどうかは……現代があのザマだからな……多分、焼け石に水かなんかだろう。他にも色々と依頼があったのでそれを受諾するとローグレスを出ていき、ゼクソン港に辿り着くとそこにはムルジムがいた。

 

「あら、数日ぶりね」

 

「そっちこそ、生き延びたみたいだな」

 

「おかげさまでね……號嵐はちゃんと使ってるの?」

 

「いや、號嵐はまだ使わん。この戦いが終わってから使おうと思っている。それまでの間は小太刀二刀流とクロガネ征嵐で戦うつもりだ」

 

「そう」

 

 ホントに敵の関係だったかと疑うぐらいにサラリと会話をするロクロウとムルジム。

 號嵐は大事にメイルシオで保管されている事を伝えると少しだけ何処か寂しそうにしている。それだけシグレの事を思っていた……聖寮は天族を物扱いしていた。だがシグレはそういう風にはしていなかった。ある意味天族と人間の対等な関係を築き上げてたのはこの二人かもしれない。

 

「そういえばカノヌシが居たらしい祠に地脈の裂け目みたいなのが出来たらしいわ。もし時間があるんだったら見に行った方がいいわよ、カノヌシ関係だからアルトリウスの事を知れるかもしれない」

 

「そうか……ムルジム、これから社会と世界は大きく変わる。シグレみたいなのもいればオレ達みたいなクズもいる、けど人間を見捨てる事は止めてくれよ」

 

「どうしたの急に……私はシグレが居たことを、貴方達が居たことを絶対に忘れないわ」

 

 ムルジムは見た目こそ猫だが天族で先の時代まで生きる。導師の道をめんどくさがって選ばなかったオレが出来ることといえばこれぐらいだ。

 ムルジムはこれからは気ままに生きていく。猫らしい……いやまぁ、天族だが。しかしこの時は知らなかった、ムルジムとは意外な形で再会をする……なんて事を言ってたら、ホントに現代で再会するかもしれない。

 

「とりあえずは血翅蝶の人達でも探すか」

 

 ムルジムから情報は貰ったがそれはそれ、これはこれである。先に頼まれている依頼であるペンギョンの密猟者を退治しにイズルドへとやって来た。この辺りでペンギョンが取れるので乱獲している密猟者の居場所を血翅蝶からもらう。ボコボコにするだけでいいのは実にシンプルだ……いや、ホントに暴力で物事を解決してもいいって素晴らしいな。

 

「あ……すみません」

 

 血翅蝶の面々はホントに何処にでもいる。

 船から降りたら赤いバンダナを腕に巻いた1人の男性が声をかけてくる。血翅蝶の一員だな。

 

「事情はパスカヴィルから聞いている、敵は何処だ?」

 

 オレ達を代表してアイゼンが敵の居所を聞く。このパターン……敵は憑魔化してるとかいうオチもありえるな。

 

「その、ホントにすみません。入れ違いになってしまいました」

 

「どういうことだ?」

 

「ペンギョンの密猟者達はもう捕まりました」

 

「え……じゃあ……私達、無駄足だったのか!?」

 

「すみません、こっちもあまりにも急な出来事だったので……宿を取っていますので今日はそこで休んでください」

 

 これはアイゼンの死神の呪いかなにかだろうか。

 結果だけを見ればペンギョンの密猟者達を捕らえる事が出来たのでそれで良しとするのだが、どうも違和感を感じる。

 

「ワシ達以外で誰がペンギョンの密猟者を退治したんか……その辺の対魔士、ではなさそうじゃの」

 

 血翅蝶と情報が入れ違いがあってので詫びの宿で休むのだがマギルゥも腑に落ちない。

 その辺の対魔士達がぶっ飛ばす事が出来るのならばオレ達にわざわざ依頼してこない。

 

「聞いた、あのペンギョンの噂」

 

「ええ……なんでも密猟者達を退治したんですってね」

 

「ペンギョンが密猟者を退治した?」

 

 色々と頭を悩ませていると他に泊まっている客から意外な話を聞いた。

 なんでもこのイズルドにはこの世の終わりを告げるペンギョンが居るとか居ないとかで、そのペンギョンは「ボクハリーゼマクシアノイガクセイデス」と呪いの言葉を発していたとか……リーゼ・マクシア、なんかどっかで聞いたことがあるような無いような……何処だっけな。

 夜になるとそのペンギョンは現れるそうだ。

 

「どうする?」

 

 一応はペンギョンの密猟者達を捕らえる事が出来た。目的は果たしている。

 ペンギョンの密猟者達を捕らえたという喋るペンギョンについては気にならなくもないが、厄介事が待っているのだけは確かな事だろう。

 

「勿論、探すよ!喋るペンギョン、見てみたい!」

 

「……はぁ、ちょっと夜風に当たってくるわ」

 

「要約すると私も一緒に探してあげるわよだ」

 

「はいはい、そうですよ」

 

「ベルベットがゴンベエを殴らない!?」

 

 なにに驚いてるんだ、アリーシャは。

 ライフィセット達も喋るペンギョンがなんなのか気になるので、宿を出てイズルドを歩いていると1体のペンギョンと遭遇する。

 

「こんばんは、気持ちのいい夜ですね」

 

「そんな、食べ物が喋るだなんて」

 

 気さくに挨拶してくるペンギョンにエレノアは驚くしかない。

 

「貴方達もペンギョンを食べるんですか?」

 

「……なんなの、あんたは」

 

「答えてくれませんか、これは大事な事なんです」

 

「あたしはなんだって喰らうわ、必要ならね」

 

 またツンケンしちゃって、変な誤解が生まれるぞ

 

「そうですか……貴方達も前の人達と一緒……なら、やめてもらわなきゃ」

 

「ほっほ〜う、ペンギョンの分際でワシ達とおっぱじめようというのか」

 

 明らかに悪い空気を醸し出しており、マギルゥは挑発する。

 するとペンギョンは高らかに声を上げると……人間の姿に切り替わった

 

「な、なんと!ペンギョンが人間に化けおった!」

 

「いや……これは多分……」

 

 元は人間でなんらかの事情でペンギョンになっていたんだろう。

 そういう前に人間の男の姿になった青年はオレ達目掛けて殴りかかってくる……ったく、しゃあねえな。

 

変化弾(バイパー)・火花」

 

 話し合いよりも殴り合いを一回挟まないといけない空気で全員が戦闘態勢に入っている。

 相手の青年、中々にやりそうな佇まいなので悪いけど本気で行かせてもらうと5×5×5×2に分割した250発の軌道が変化する弾を撃ち360度、全方向から青年に弾をぶつけると青年は膝をついてペンギョンに戻った。

 

「っく、またペンギョンに戻ってちゃった……でも」

 

「待ってくれ、なにか勘違いをしている。私達はその、ペンギョンの密猟者ではない。むしろそれを退治しに来た業者の様なものだ」

 

「え……」

 

 微妙に話が噛み合っていない事に気付いたアリーシャは対話の姿勢を見せる。

 案の定と言うべきか男はオレ達の事をペンギョンの密猟者かなんかだと思っていてキョトンとしている。

 

「でもその人がなんでも喰らうって」

 

「ああ、すまんすまん。こいつはなんでも喰らうんだ」

 

「私もペンギョンを食べますがちゃんと市場に出回った物しか口にしません!」

 

 あくまでも正規品だけで密輸品は口にはしない。

 話が微妙に噛み合っていなかったのを対話する事により認識を一致させる。

 

「すみません、まだペンギョンの密猟者が居ると思っていまして」

 

「ペンギョンの密猟者は貴方が倒してそれでもういない」

 

「そうか……よかった、ペンギョン達に恩が返せた」

 

「……結局、あんた何者なわけ?」

 

 認識の違いやズレを修整し終えて一息つくとベルベットはペンギョンについて尋ねる。

 

「僕はジュード、ジュード・マティス。リーゼ・マクシアの医学生です」

 

「ほう、医者の卵か」

 

「え、分かるんですか!?」

 

「リーゼ・マクシアの名前もどっかで聞いた覚えはある……何処かは忘れたけど」

 

 ホントに何処で聞いたのか覚えてない。つい最近、聞いたはずなんだが……うん、思い出せないから諦めるか。

 

「僕はこことは違う世界の住人なんです」

 

「違う世界の住人……ゴンベエ、なにか知っているんじゃないのか?」

 

「もしかして貴方も別の世界から」

 

「あ〜……H78,A84,B78、C109、D85、S100。X=H78、A130、B111、C130、D85、S100……ではYのHABCDSは?」

 

「……あの、それはなんの問題ですか?僕、どちらかといえば勉強は出来る方だと思いますが……さっぱりです」

 

「いや、普通は答えられないものだから……そうか……お前、完全に異世界の住人なんだな」

 

 ジュードはオレが言った数字についてちんぷんかんぷんだった。

 もしこれが地獄の転生者養成所で訓練している転生者ならば答えが分かっていた。そうでない転生者的な存在でも分かる奴は分かる答えだが、ジュードは答える事は出来ていない。

 

「仲間と一緒に旅をしていたんですが急にこの世界に飛ばされて

 

「ホトケ、出てきてください!ホトケ!……出てきませんね」

 

「エレノア、違う。これ仏関係の事じゃない」

 

 仏がやらかして別世界の転生者を漂流させてしまってる一件じゃない。

 ジュードはマジでなんかが原因でリーゼ・マクシアとかいう異世界から飛ばされた異世界転移者だ……多分。転生者ハンターとか出てこないよな。相手にするの嫌なんだけど。

 

「ホトケ関係の時は余震がある……どうやらジュードはそれとは別件でこの世界に飛ばされたようだな」

 

「僕もなにがなにやら……1人寂しい思いをしている時、ペンギョン達が僕を励ましてくれたんです」

 

 そこから語られるのはジュードの身の上話。

 ペンギョン達に優しくしてくれたお礼にペンギョン達にどうにかしたいと思っていて密猟者を退治したらしい。

 

「あんたお人好し過ぎない?勝手が違う世界に飛ばされて、その上で人助けだなんて」

 

「よく言われます」

 

「結局あんたがこっちの世界に来てしまった理由は分からずじまいだし、どうするのよ?」

 

「仲間を探しているんです。僕がこの世界に来た際にはぐれちゃって……皆さん、僕以外の喋るペンギョンを見ませんでしたか?」

 

「……見てないわね。そもそもで喋るペンギョンについて聞いたのは今朝なのよ」

 

「そう、ですか……」

 

「大事な仲間なんだろ……もし見かけたら声をかけてやるし、居場所も教えてやる」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「気にするな、お前は時空の漂流者、漂流者を助けるのは船乗りの流儀だ……それでそいつの特徴は?」

 

 チラリとオレを見るな、アイゼン。オレは転生者で異世界の住人だけどもこの世界に根差している人間だよ。

 ジュードから仲間の情報を、ミラ=マクスウェルについて色々と聞くとオレ達は別れた……厄介事がまた1つ増えたが、何時もの事か。




スキット 物の価値

ライフィセット「……ゴンベエってホントは色々と深く考えてるんだね」

ゴンベエ「お前もか、お前もかライフィセット……そりゃ日頃の行いが悪いのは認めてやるけどよ……まぁ、でもアレだぞ。めんどくさいとか色々と思うようになったのは頭の方を鍛えられてからだからな。いきなりこんな怠惰な人間が生まれたわけじゃねえ。そこだけは勘違いするな。昔はもっとフレッシュだったんだ」

ライフィセット「頭を鍛えた……前にゴンベエが言ってた世界一美味しい食べ物はなにかって問題……アレから色々と考えてみたけど、やっぱり僕はタバサのマーボカレーかベルベットが作るキッシュが一番かな」

ゴンベエ「お前なぁ、世界中の人間がベルベットのキッシュと婆さんのマーボカレーを食う機会が無いだろう。そんなのもし出したらアホかと言われるだけだ。食料供給率のデータとか宗教上食べられないとかベジタリアンの事も考えて言えよ」

ライフィセット「夢が全然無いね……でも、そういう風に考える、考える力を鍛えるのがこの問題の意味なんだよね。他にはなにをしたの?」

ゴンベエ「ん〜100円(税抜き)で100円以上の価値を作れとか」

ライフィセット「100円?」

ゴンベエ「うちの国の通貨はガルドじゃなくて円だ……1000円で1000円以上の物を作れとかもある」

ライフィセット「……どうやってやるの?」

ゴンベエ「それを考えるのがお前の役目だ。オレに答えを聞いてそっかと納得するよりも自分で試行錯誤繰り返して答えを出さないといけない……とまぁ、普通の人ならば言うだろうがオレはクズなので幾つか答えを教えてやる」

ライフィセット「うん!」

ゴンベエ「1つは色紙を用意して……アイフリード辺りにサインをもらう。あいつなんだかんだで海賊達のカリスマ的存在だからな、サイン1つでバカ高い値打ちになる。もう一つは紙を買って、それを折った物を売る。後は安物のトランプを買って手品をする」

ライフィセット「えぇ……なんかズルい気がする」

ゴンベエ「ここで大事なのは発想の転換だ……オレ達からすればたかがな物かもしれないが、それに対して価値を見出す奴等はちゃんといる。人によってはくだらない物かもしれないが、別の人だととても重要だったりするかもしれない。ならば、どうやって価値を決める?」

ライフィセット「……!そっか……お金って物の価値を決めるのにも大事な役割を示してるんだね」

ゴンベエ「そうだ。お金という概念は馬鹿には出来ない。全員の物の基準を決めるモノサシにもなってくれる、金のありがたみと存在意義をよく知れる……とまぁ、こんな感じの頭を使う勉強をさせられたわけだ」

ライフィセット「僕もそんな授業、学校とかで習ってみたいな」

ゴンベエ「無理無理、学校ってのは決まった定説を教える場所でこういう感じの頭を鍛える授業なんて滅多にしない。下手にすればPTAだ教育委員会だ鬱陶しいのが出てきたりする……1人の個性よりも団体を選ぶ場所だ」

ライフィセット「なんか偏見が混じってない?」

ゴンベエ「事実だ」


スキット 仏はほっとけい

アイゼン「異世界からの漂流者か……どうにかしてやりたいものだ」

ゴンベエ「そうは言うけどよ、あいつ完全に異世界から来てるっぽいよ」

アイゼン「お前も同じじゃないのか」

ゴンベエ「オレは若干違うんだよ。ジュードは完全に異世界から来ている……ああ言うのは関わらない方が身のためだ。リーゼ・マクシアなんて世界、聞いたことない。下手に厄介事に首を突っ込むとロクな事にならない」

アイゼン「そんなのは今更だ……にしてもお前でも知らない世界があるのか」

ゴンベエ「世界ってのはそれこそ星の数ほど存在している……ゴーカイトピアとか忍界とかサウンドワールドとか色々とな」

アイゼン「ホトケならジュードを元の世界に返すことが出来るか?」

ゴンベエ「出来るか出来ないかで言えば出来るがやってはくれない。仏はあくまで仏教の人間で、仏教徒やそれに準ずる人間にならば手を差し伸べてくれるがそうでない人間には力を貸さない……宗教が違えば神も違うんだ。異世界の住人が仏教徒なら話は別だが」

アイゼン「そうか……っち……」

ゴンベエ「それにアイツ、色々と込み入ってる……アイツがいた世界も世界で色々とあるんだ。オレ達はまずオレ達の問題を片付けてからだ。他人の心配をするのは勝手だけどよ」


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フェニックスは何度でも蘇る

フェニックス戦ってさ、難易度上げると終わらせるのに無駄に時間がかかる


 ジュードと出会い、ペンギョンの密猟者退治の依頼は一応は終わった。

 バスカヴィルの婆さんは情報伝達のミスで間違った依頼を出してしまったことを詫びており、約束通り殿下に対して手紙を届けてくれる。しかしオレ達的にはちゃんと依頼を終えていない。それはちょっと筋が通らないと託された他の依頼を熟した。

 道中、嘗てロクロウやシグレが仕えていたギャスパーリーグだかキャスパーリークだかフォウくんだなんだか知らないがそんな感じの名前の人や憑魔化してしまったロクロウの母親を斬ったり、マジルゥと呼ばれる踊り子を助けたりと色々とあった

 

「トータス、トータス、アイゼンさんお手紙のお届け物っす!」

 

 他にも色々とあった。

 ライフィセットが出会った少年が読んでいた本にエリクシールとかいう例の胡散臭い万能薬の作り方が書いてあり、色々なところに出向いて材料を集めて最後にライフィセットの友達を思う心の底からの涙のおかげでオメガエリクシールと呼ばれる秘薬を完成させた。

 オレの記憶が正しければエリクシールという薬はマオテラスが作ったとされる物で……ライフィセットは白銀の炎を使っていた……恐らくは……いや、最後になれば答えがわかるか。

 

「っち……」

 

「請求書かなにかか?」

 

 幸せを呼ぶノルミン人形を集めているとかめにんがやってきてアイゼンに手紙を渡す。

 レイフォルクに居るらしいエドナに手紙を寄越しているのと思いきや舌打ちをしており、エドナからの手紙ではなさそうだ。となると今までなにか貯めていたツケかなにかの請求書かと思ったが違うようでアイゼンはオレに手紙を見せてくる。

 残念な事にオレはこの国の文字を読むことは出来ないのでアリーシャに読んでもらうべく手紙を渡す

 

「……えっ……コレって……」

 

「なんて書いてあるの?」

 

 手紙の内容を見て一瞬だけ固まるアリーシャ。

 なんかロクでもない事でも書いてあったのかベルベットはアリーシャに手紙を読み上げる様に言う。

 

「【一筆啓上、我の堪忍袋の緒は切れた。怒りの鉄槌を今下さん!監獄島に来るがよい】」

 

「……果たし状?」

 

「この感じ……」

 

 前に何処かで聞いたことがあるような内容だ……あ、アレか。

 アイゼンが受け取った手紙の内容に見覚えがある。多分だけど送り主は前にアリーシャに手紙を送ってきた奴だろ。

 

「【逃げても責めはせぬ。うぬが薄情かつ臆病な愚兄と判断するのみ】」

 

「おぉ、果たし状だな!面白そうだな、いこうぜ!!」

 

 手紙を読み終えるとテンションを上げるロクロウ。

 喧嘩を売られているのはあくまでもアイゼンでありコレはロクロウの喧嘩じゃない。

 

「単なる嫌がらせでしょう。放っておきなさいよ」

 

「ですが、アイゼンに直接手紙を送りつけています……アイゼンが来なければ、延々と手紙を送ってくるかもしれません」

 

「何処かでちゃんと対処しておかないと……アイゼンの妹にまで危害が及ぶんじゃないかな?」

 

 無視の姿勢を見せろというベルベット。

 ライフィセットとエレノアは今後の事を考えれば対応したほうがいいとの意見を出す。

 

「それだけは絶対にさせん……ベルベット、お前には悪いがカノヌシがいた祠に向かう前にタイタニアに行かせてもらう」

 

「別にいいわよ、時間はまだ残っているんだから」

 

 妹になにかあったら大変だとなんだかんだでシスコンであるアイゼン。

 

「コイツはオレに売られた喧嘩だ、お前等は手を出すんじゃねえぞ」

 

「なにやら大事になってきたのう」

 

「まぁ、いいんじゃねえの?どっちにせよ電話とか色々と回収しておかないといけないし、監獄島には一度行かなきゃ」

 

 ただそのタイミングがアイゼンに果たし状を出した男と一緒だったというわけだ。

 ノルミン人形をかめにんに押し付けるとオレ達はバンエルティア号に向かって監獄島、タイタニアへと向かう。

 

「ゴンベエ、手紙の差出人は」

 

「ま、同一人物だろうな」

 

 過去に似たような感じの手紙を受け取っているアリーシャ。前に受け取った手紙と見比べても筆跡は似ており、明らかに同一人物だ

 ここは過去の時代で長生きな天族はこの時代も生きている。現にザビーダはいたし、エドナもいる。ゼンライの爺さんだっている。後、個人的な勘だが現代にムルジムとかいそうだ。色々と後回しにしていた監獄島にオレ達は再び舞い戻った。

 

「……パクられてはなかったな」

 

 通信聖隷術とかいう電話的な術があるがオレが作り上げた電話はかなりの価値がある道具だ。

 いちいち手紙や会談のやり取りをしなくてもいい実に便利なものだ。現に電話の普及で手紙の文化が滅びたと言っても過言ではない。

 

「そういえばゴンベエ、この電話は最終的にどうするつもりだ?メイルシオに置いておくのか?」

 

「……ハイランドに献上するよ」

 

「いいのか!?その、コレを作るのにかなりの時間を掛けたのに」

 

「いいんだよ。手柄の一個でも立てておかないとハイランドの上の奴等も黙っちゃいない」

 

 たかが2個とはいえ電話の便利さは嫌でも分かる。

 

「だが、そうするとゴンベエの価値は益々高くなってしまってハイランドの上層部がなにかを……」

 

「そん時はそん時だ。最悪ローランス帝国とやらに逃げるか北の国にでも逃亡する」

 

「だ、ダメだ!それだけは絶対にダメだ……私が、私がなんとかしてみせる」

 

 そうは言うけどもアリーシャに出来ることってなんかあるのだろうか。

 ハイランドの上層部、特にバルトロ大臣とやらにはアリーシャは目の敵にされて嫌われている。どうにもならない……いや、ホントにお姫様は大変なこと。オレはもう現代で力を貸す必要は無いからゆっくりと遊んでおく。

 

「ゴンベエと一緒になれる方法……」

 

「そういうのは後にしろ」

 

「何処だ!!オレはお前の言うとおり、監獄島に来てやったぞ!!」

 

 それぞれが自分の部屋に置いてあった物を回収し終えた。

 後はアイゼンに果たし状を出した奴を見つけるだけだと大広間と呼べる部分に出るが、そこには不自然な箱以外はなにもなかった。

 

「ほぅ、どうやら我の果たし状を受けたようだな!」

 

「そこか!」

 

 不自然に置かれている箱に向かって蹴りをかますアイゼン。

 箱はあっさりと壊れて中からノルミンが飛び出してクルリクルリと空中で回転する。

 

「とう!」

 

「アレは、ノルミン聖隷!?」

 

「盟約の時、そして断罪の時は来たり!」

 

「あんた、何者なのよ」

 

「ふっ、いいだろう。冥途の土産に教えてやる」

 

「ビエーーン!フェニックス!!ノルミン聖隷最強の男が関わっていたんでフかぁ!?」

 

「おぉ、自称ノルミン聖隷最強の男ではないか。通りで暑苦しい手紙だったわけだ」

 

 ベルベットの問いに答えようとする前にビエンフーが露骨に嫌そうな顔をした。マギルゥもお前だったのかと僅かばかり嫌そうな顔をしている。

 

「自称に非ず!我はノルミン聖隷最強の漢、フェニックスなり」

 

「……あのノルミン、確か傘に」

 

「ああ、ついていた」

 

 何処かで見覚えのある見た目をしている。まぁノルミン達って色以外に見分けがつきにくいと言えばそこまでなんだが

 

「手紙を寄越したのはてめえか。いったいなんの真似だ」

 

「全ては天の導きなり。過日、我は兄への想いが綴られた手紙を拾った。差出人を探し出し、密かにそこを訪ねてみるとそこには1人の可憐な少女がいた」

 

 まぁ、見た目は可憐な少女だな。見た目は。

 

「兄からの贈り物と出せなかった手紙の山に囲まれてな」

 

「出せなかった手紙……?」

 

 一応はエドナと手紙のやり取りをしてるんじゃなかったっけ……いや、そういう感じのじゃないのか。

 

「一文字、一文字に込められた兄への想い。便箋に落ちた涙の数に我も涙を流した」

 

「てめえ、拾った手紙を勝手に読んだ挙げ句人の部屋に侵入しやがったのか!!」

 

「我が道徳に反した非は認める。だが、我の正義が汝の非情を許さない。使い古しの手袋を握り締め、広い海にいる兄の身を案じる少女の瞳にかけて」

 

「わけが分からん、テメエはいったいなにがしたいんだ!」

 

「その言葉、そっくりそのまま貴様に返してやる!上っ面の言葉を重ねた手紙とおまけのガラクタでなにが伝わるというのだ」

 

 アイゼンは死神の呪いを気にしてホントは心配だけど、側にいたいけれどエドナの元を離れている。フェニックスはそれが気に入らない。

 

「妹を心配する汝も、海賊と共に生きる汝もどちらも本物であろう。ならば何故それを正直に伝えん!汝の流儀なのだろう。それともなにか。お前の愛する妹は兄の流儀1つ許すことの出来ない器の小さい過小な女なのか!!」

 

「てめえに説教される筋合いはねえ」

 

「ならば我に力を示してみせよ。我が勝った暁には即座に妹に会ってもらう。我が汝に敗れた時は煮るなり焼くなり好きにするがいい」

 

 掛かってこいと構えるフェニックス。

 ノルミンのせいか動くたびにキュポキュポ可愛らしい音をたてているのでなんとも盛り上がらない。

 

「お前等、手を出すんじゃねえぞ」

 

 これはあくまでもアイゼンに対して売った喧嘩だ。

 アイゼンと繋がりはあるけれどもアイゼンの問題であり、アイゼンは邪魔をするなという。

 

「だ、大丈夫なのか」

 

「大丈夫だろう。フェニックスの目的はアイゼンをボコボコにしてエドナの前に連れてく事、命を奪えばそれこそ本末転倒だ」

 

 アイゼンとフェニックスが戦うのを見守るのだがアリーシャはハラハラする。

 こういうのは殴り合いの青春の1ページ的なのだ。オレも昔は道を間違おうとしていた奴を体を張って止めたこともある……あん時はマジで死ぬかと思った。アイツ、マジの天才だからな。道間違うのだけはいけない。

 

「覚悟はいいな!」

 

 アイゼンはフェニックスをぶん殴る。

 今まで対魔士や憑魔を相手にしているだけあってその拳は物凄く強い……のだがフェニックスは耐えきっている。戦闘力皆無に等しいノルミンがアイゼンの一撃に耐えてるとか冗談抜きで強い……だが、勝負はあったな

 

「寝てんじゃねえ、気付けの一発くれてやる!アブレイド・ベノム」

 

 大地から溢れる力を一点に集中させた最大級の拳を叩き込む。あの一撃は中々の一撃で並大抵の奴には耐えられない。

 

「ここで果てるわけには、いかん!!今こそ羽ばたきの時!」

 

「なんだと!?」

 

 アイゼンの一撃は見事に決まっていた。

 フェニックスも並大抵の奴じゃないのは分かってきたのだが、それでもアイゼンの一撃で倒せる筈だった。それでも立ち上がり、炎を纏う。その姿はまるで不死鳥の様でフェニックスは蘇っていく。

 

「マギルゥ」

 

「なんじゃ?」

 

「ノルミンって確かにノルミンって名前の後にその個体名があるんだろ。もしかしてフェニックスはノルミン・フェニックスで不死鳥の様に蘇る力があるのか?」

 

「うむ、あやつはあんな見た目じゃが風のノルミン聖隷で例え倒したとしても不死鳥の如く蘇る、それがノルミン・フェニックスじゃ」

 

「不死身、そんなのを相手に勝てるのか!?」

 

「まぁ、ここはアイゼンを信じよう」

 

 フェニックスはやはりチート、キュウレンジャーしかり聖闘士星矢しかり、フェニックスはとてつもない力を秘めている。

 不死身の敵を殺すには不可逆の呪いの攻撃を当てるとか弱点の属性で攻撃するとか色々とあるけれども……見た感じフェニックスの不死鳥の力はフェニックスの意志の力で起こしてるもので限界がある。ならばその限界をアイゼンが越えればいい。

 

「春はあけぼの!」

 

「っち、並大抵の技じゃダメか」

 

 フェニックスの乱打を受けながらもアイゼンは考える。どうやってフェニックスに勝つのかを。フェニックスが不死鳥の力を発動する事が出来ない程の強烈な一撃を叩き込めばフェニックスは倒せる……オレならば闇纏・無限斬り 煉獄 で永遠のダメージを与え続けてぶっ飛ばす……だが、アイゼンには

 

「コイツは危険だが使うならここしかねえ!今ここに再誕する!」

 

「汝の本気ならばこちらは全力で答えよう!」

 

 アイゼンは灼熱の熱風と激震する雷鳴を纏う。フェニックスは鳥の形をした炎を全身で纏う

 

「グレートマックスなオレ!!」

 

「強欲天翼!」

 

 火の鳥となったフェニックスと灼熱の熱風と激震する雷鳴を纏った一撃必殺のアイゼンの蹴りはぶつかり合う。

 

「ったく、オレ達が周りで見てるの考えとけよ」

 

 監獄の破片やらなんやら飛んでくる。アイゼンのグレートマックスなオレとフェニックスの強欲天翼はぶつかり合う。

 

「っぐ……」

 

「なんの……っ!!」

 

 2つの攻撃がぶつかりあった結果、互いに膝をついてしまった。

 どちらの力も拮抗している……マジで強いな、ノルミン・フェニックス。

 

「2人とも膝をついてしまった……この場合は引き分け?」

 

 ぶっ倒すの定義が決まっていないのでアリーシャは首を傾げる。

 

「バカを言うな」

 

「笑止!漢同士の戦いに引き分けはない!勝つか負けるか、勝者か敗者のみだ!!」

 

 まだ戦うと立ち上がるアイゼンとフェニックス。

 

「これだから男ってのは」

 

「同じ目を向けるな……オレならば確実に仕留める」

 

 殴り合うフェニックスとアイゼンを見て呆れるベルベット。

 オレも同類な視線を向けてくるがオレならばこんな情けない結果には終わらせない。確実に勝つ、オレの取り柄は戦う事だけなんだからな。

 

「これで、しまいだ!!」

 

「ふぐぅ!?」

 

 立ち上がっては殴り合い、時には膝をついたりして30分ぐらいは戦っているんじゃないだろうか。

 ボロボロになるアイゼンに対してフェニックスは完全回復する。長期戦はアイゼンの方が不利だがアイゼンはそれでも折れる事なく信念を貫き通し、フェニックスを倒した。

 

「長すぎだろうが」

 

 30分ぐらい戦っていたアイゼンとフェニックス。

 決着はついたのでライフィセットがアイゼンに駆け寄り治癒の術を施す。それと同時にフェニックスは立ち上がった。

 

「お前の持つ力は不死鳥、オレの死神の呪いと真逆の性質を持つ加護の力」

 

「真逆……もしかして不死鳥(フェニックス)の力があればアイゼンの死神の呪いはアイゼンの妹にいかないんじゃ」

 

「断る」

 

「な、何故だ!我がいれば、我の加護さえあれば汝ら兄妹は手を取り合い幸せになれるというのだぞ」

 

「自分の舵は自分で取る、それがオレの流儀だ……そのせいで妹に寂しい思いをさせている事も身勝手な流儀だというのも分かっている。だが、オレはこういう生き方しかできない」

 

 フェニックスの力で会えたとしても、それは自分の流儀に反するものだ。頭ではそれがおかしいと思っていても心ではそれが正しい……実に人間臭い。そういうところ好きだぞ。

 

「オレはお前に命令はしない。自分の舵を奪う真似はしたくはない……だが」

 

「だが?」

 

「出来るのならばお前の力で妹を守ってほしい。穢れや業魔から……何時かあいつを襲うドラゴンから」

 

「ドラゴン!?汝、まさか……」

 

 フェニックスの言葉にアイゼンは目を背ける……アイゼンはこのまま行けば自分がどうなるのか分かっている、か。

 

「……友よ、その願いしかと受け止めた。ならば、汝の友として頼もう……どうか一筆、一筆だけでいい。妹の為に手紙を書いてはくれまいか。汝の本当の思いを書き記してほしい。その為ならば我は幾らでも待とう」

 

「手紙ならある……!?」

 

「そりゃあんだけドンパチやればな」

 

 手紙と思われる物を取り出そうとするアイゼンだが黒焦げの消し炭だった。

 あんだけドンパチやり合うのとアイゼンの死神の呪いが合わさればそれはもう手紙は消し炭になってしまうだろう。

 

「少し待ってろ、1から書く」

 

「……アイゼンはどうしても妹と会うつもりは無いのですね……会える道があるというのに、自分の流儀に反するからと」

 

「それがアイゼンという男だ」

 

「ええ……分かっています。でも、顔を会わせる事すら出来ないのは……せめて通信聖隷術が私に使うことが出来れば、アイゼンに教えることが出来れば……会わなくても会話する事が出来たのに」

 

 アイゼンの流儀は認めるけど少々納得がいかないエレノア。

 

「そうだね……アイゼンの妹さん、アイゼンの声を聞くことが出来ればそれだけでも嬉し……ゴンベエ!」

 

「なんだ?」

 

「電話って、今の僕達には必要が無いよね……妹さんに譲ってくれないかな?」

 

「却下だ、却下。これ1個作るだけでも結構大変なんだぞ、暇なアイフリード海賊団総出で作ったんだ」

 

「でも、ゴンベエならもっとスゴイのを作ろうと思えば作れるんでしょ……お願い、電話をアイゼンとアイゼンの妹に譲って」

 

「ダメだって、この電話はハイランドに献上する……でなきゃ、オレとアメッカの首が危うい」

 

 ハイランドを回るついでに便利な発明品を作ったと言っておかないとマジで向こうがなにをしてくるか分からん。

 現代で問題は色々と山積みでそれを放置してる……アリーシャが自由に動く為にもオレは凄いものを作れるよってアピールしとかねえと。

 

「大体、電話には電気が必要なんだ。アイゼンの妹は山に暮らしていて水車による発電が出来なきゃバッテリーが電池切れを起こす……あ……」

 

「なによその『あ』は?」

 

「……別に電話とか天響術を使わなくても声を残す方法ならばあるぞ」

 

 そうか……そうだったのか……ここだったのか。

 

「あるんですか、そんな方法が!」

 

「有るには有るんだけど……アイゼン、どうする?」

 

 今やっと答えに辿り着いた。ここだったのかと納得をしつつもアイゼンに尋ねる。

 このまま文字だけでいいのかそれとも言葉を送るのか、それを決めるのはアイゼンだ。

 

「……送れるならば、送りたい」

 

「そうか……じゃあ、道具取ってくる」

 

 アイゼンは言葉も送ることを決めた。ならばオレは教えるだけだ。

 オレはバンエルティア号に戻るとアイゼンが使っている部屋に入り、アイゼンが大切にしている上物の酒を取り出してアイゼンの目の前で割ってやった

 

「てめえ、人の大事な逸品を」

 

「黙れ……この酒瓶の底が声を残す道具になるんだ」

 

「……そもそも声ってどうやって残すの?声って目に見えなくて形に残らない物だよ?」

 

「目に見えないが声ってのは形にはなってるんだ……声ってのは空気を振動させて出てるもので、その振動を記録しておけばいいんだ」

 

「……どうやって?」

 

「まぁ、見てろ」

 

 こんな日が何時か来ると思っていて蓄音機は作っている。

 電気を使わない手回し式のアナログな奴だが電気が通っていないレイフォルクで使うには充分すぎる程の物で、物は試しにと別のガラスの瓶底に針を突き刺して、オカリナで曲を演奏し音を録音し、そのまま再生すると全員が驚いた顔をする。

 

「闇を照らし、消え去るはずの音を記録し、現実をありのままに映し出す……そんな装置をオレは作り出す事が出来る」

 

「改めて凄まじいな、お前の技術力は」

 

「ああ、なにせ人類の叡智の結晶が詰まってるからな」

 

 そんなこんなでアイゼンにエドナに対して向ける言葉を録音する。

 オレ達が妹に向けての言葉を聞いているのをアイゼンは些か不満そうだったが、オレが録音担当にならないとちゃんと録音が出来ない。

 

「フェニックス、頼んだぞ」

 

「わかった。このフェニックス、汝の妹にしっかりと汝の声を届けてみせよう」

 

 こうしてフェニックスはエドナの元に手紙とレコードと手回し式の蓄音機を届けにかめにんに送られていった。




スキット 爆発って最高

アリーシャ「これでまた1つ、いや、2つの謎が解けたな」

ゴンベエ「フェニックスがアリーシャやオレの事を子孫だと勘違いしたのもここで出会ったから。アイゼンがレコードの作り方を知っていたのはエドナに声を送り届ける様にしたから……なんだかんだで繋がってるんだな」

アリーシャ「後はダークかめにんとザビーダ様ぐらいか」

ゴンベエ「残るところはそれぐらいだな……なんでアイゼンがレコードを残したかは謎のままだがな」

グリモワール「なんの話をしているの?」

ゴンベエ「あんたがもっと長く生きたら意味が分かる話だよ……にしても表に全然出てこようとしなかったな」

グリモワール「仕方ないわ……フェニックスがいたもの」

アリーシャ「苦手、なのですか?」

グリモワール「好き嫌いで判断できる関係性じゃないわ……私達が砂糖水なら向こうは塩水かしら」

ゴンベエ「天王寺の旦那と赤司の関係性みたいなものか……もう二度と、監獄島に来ることは無いだろうな」

アリーシャ「ここには憑魔も多く存在している。聖寮も迂闊には近付けない……喰魔であるベルベットも穢れを送る事をしなくてもいい」

ゴンベエ「よしっ、じゃあ自爆!スイッチ・オン!」ドガァアアアアン

アリーシャ「……え?」

グリモワール「あら……見事に崩れ落ちていったわね」

ゴンベエ「いやぁ、良かった良かった。自爆機能を使わないままこのまま終わるんじゃないかと思っていたが、使えてよかった」

アイゼン「おい、今監獄島が爆発したぞ!」

ゴンベエ「おう!自爆スイッチを押して遠隔操作で大爆発を巻き起こした」

ロクロウ「やっぱお前の仕業だったか……爆破するなら一言ぐらい言ってくれよ。酒のツマミにしたかった」

アリーシャ「ツマミに出来るものなのか?」

アイゼン「ああ……あの壊れ具合、散り様、中々に見ものだった……」

ゴンベエ「アメッカ、芸術は爆発なんだ……良いものが見れたな」

アリーシャ「いいものなのだろうか……ところであそこにはまだかめにんが居たんじゃないか」

ゴンベエ「……あ」


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もしもし亀よ、猫さんよ

気付けば150話……意外と続くもんだね。


 フェニックスとアイゼンの喧嘩が終わり、数日経過した。その間にも色々とあった。

 アイゼンの言葉が込められたレコードをエドナは気に入った。やはり文字だけでは伝わらない思いというものもあるのだろう。アイゼンもこれからなにかある時はレコードで送ろうかどうか悩んでいる。長期的に保存するには硝子製のレコードがいいとオススメはしておいた。多分だけどこのオススメが無いと別の物でレコードを作る。筒型の漆を塗った木製のレコードは悪くはないが劣化する可能性がある。

 

「この辺りだな」

 

 アレから更に色々とあった。

 アルトリウスという人間がどういう人物なのか、カノヌシが居た祠にあった地脈の裂け目を経由して入った地脈の中で分かった。シアリーズがソーサラーリング・ブリュンヒルトという術式を体内に組み込んでいた。ザビーダの持つジークフリートはそれの対になる存在だと映し出された大地の記憶のメルキオルのクソジジイが言っていた。

 この世界、アーサー王伝説の名前がやたらと出てくると思ったら、今度はニーベルングの指環か。凄くアレな話だが、ジークフリートならばブリュンヒルトじゃなくてクリームヒルトで、ブリュンヒルトだったらシグルドじゃないのか……まぁ、その辺りは色々と大雑把なんだろう。

 

「ホントにこんな所に居るのですか?ペンギョンは温かい地域に住んでるのですよ」

 

 後はモアナが病気になったりもした。

 エレノアが特効薬を取ってくると言い出し、その結果かつてエレノアの故郷を滅ぼした憑魔に遭遇。エレノアはモアナに嘘を付き続けている事に対して色々と思っていて穢れを発しかけたりしたが、モアナのお母さんも嘘をついたり色々とやってたとしり持ち直し、憑魔を撃退。

 木の化け物みたいな見た目になって暴れているモアナにこの薬は苦くは無いと嘘をついて薬を飲ませたりと色々とあり、現在雪原にいるオレ達

 

「目撃情報があるからそれに頼るしかねえよ」

 

 ベルベットの姉の墓参りの際に珍しい見た目をしているペンギョンにぶっ飛ばされた対魔士が居ると噂を聞いた。

 力を失っていない一等対魔士がボコボコにされたのでそれはペンギョンの見た目をした憑魔なんじゃないかと思ったが、地水火風の術でボコボコにされたらしい。もしかするとそれは例のジュードが言っていたリーゼ・マクシアとかいう世界から来た人なのかもしれない。

 

「アレじゃないのか?」

 

「赤い目で金色……ホントにキンギョンです!」

 

「しかもピョンとしたチャームポイントもある!」

 

 時空の漂流者をどうにかしたいと思っているしジュードの事も色々とあるのでその噂を確かめにやってきた。

 案の定と言うべきかキンギョンはいて、ジュードが言っていた身体的特徴と一致している。

 

「注意しなさい。情報が正しければ四大精霊とやらを使うはずよ」

 

「水はウンディーネ、風はシルフ、土はノーム、火はサラマンダーと言ったところだな」

 

 安易に近付こうとするライフィセットとエレノアをベルベットは止める。

 敵対する意志はコチラには一切無いのだが万が一という事もありうる。ただジュードの口振りからして話し合いが通じそうな相手である事は確かであろう。万が一戦闘になった場合は……面倒だろうな。精霊を行使する術使ってくるんだから。

 

「じゅるる」

 

「おい、今じゅるるって言ったぞ!」

 

「まさか……私達を食べるつもりなのか!?」

 

「確かにペンギョンは肉食ですが、まさか人食いキンギョン!」

 

 キンギョンから不吉な声が聞こえる。

 このままではオレ達が食われてしまう可能性があるとオレ達は武器を取り出すと背後からペンギョンが走ってきた。

 

「待ってください!」

 

「お前は、ジュード!」

 

「確かにミラは食いしん坊だけど、無意味に人を襲ったりはしないよ!」

 

「じゅるる」

 

「お前、餌に見られてるぞ」

 

 ペンギョンと化したジュードはキンギョンを庇うのだが、肝心のキンギョンは涎を垂らしている。

 ジュードは後ろを振り向いてジッとキンギョンを見つめるのだが違和感を感じている。なにかに気付きかけるのだが、その前にジュードは倒れた。

 

「う、噂を聞き付けてここまで飲まず食わずでやってきたから」

 

「お前さ、人がいいのも大概にしとけよ。他人の心配が出来る人間は自分の事をしっかりと出来る人間なんだ、お節介と世話好きは違うんだからな」

 

「すみません……」

 

 ここに来るまでにかなりの無茶をして限界を迎えたジュード。

 アップルグミでも与えたら腹は膨れて多少は動けるようになるだろうと倒れているジュードに近づこうとすると尖った石が飛んでくるので全て薙ぎ払う。

 

「そこまでだ!!」

 

「……誰、あんた?」

 

 ベルベットに負けず劣らずの美人でボインな女性が現れた。

 オレ達を目の敵にしている形であり剣をオレ達に向けてきている。

 

「また性懲りもなくペンギョンを虐めて、食べるためならまだしも不吉だからと言う曖昧な理由で命を奪うのは見過ごせない」

 

 女はそういうと1番前にいたオレに剣を振るってきた。

 悪くない太刀筋だが、悪くないだけでオレに届き得る刃では無いので剣を摘んで攻撃を受け止める。

 

「あんた、何者」

 

「私の名はミラ=マクスウェル……今はペンギョン達の守護者と言っておこう!……ふっ……っぐ!」

 

 カッコつけて剣を振ろうとするミラだがオレが剣を摘んでいて一ミリも動かない。

 このまま剣を叩き折ってやろうかと考えているとミラの背後に赤、青、黄色、緑の魔法陣が出現した。これはまずいとオレはミラの剣を放してフォーソードの力を使い4人に分身しマスターソードを抜く

 

「火炎剣烈火」

 

「水勢剣流水」

 

「土豪剣激土」

 

「風双剣翠風」

 

「なに!?」

 

 オレの読みは的中した、ミラの背後に出現したのは4つの属性の術だ。

 火は水に、水は地に、地は風に、風は火にぶつける事で被害を広げることなく納めた。

 

「ジュードが言っていた精霊の主とやらは満更嘘ではなさそうね」

 

「待て待て、抜くな。お前はどうしてそう血の気が多いんだ」

 

「ジュードを知っているのか!?」

 

 やるならばとベルベットは火の神依的な姿に切り替えようとする。話し合いが通じる相手で争う理由なんて何処にもないんだから、暴力で物事を解決すんな。ベルベットがジュードの名前を出すとミラは驚いた声を上げる。

 

「彼は今どこにいるんだ」

 

「何処って、そこよ」

 

 空腹でぶっ倒れているペンギョンのジュードに視線を向ける。

 ペンギョンのジュードは立ち上がろうとするのだが空腹がキツいのか足元がおぼつかない。空腹状態はキツいだろうとオレはアップルグミ等の食べる事が出来て尚且回復する事が出来るアイテムを食べさせると体力が戻ったのかミラと目を向け合う。

 

「ジュード、よかった無事だったのだな」

 

「ミラ……僕が分かるの?」

 

「当たり前だろう。多少は小さくはなったが君は君だ」

 

「多少で解決されるとそれはそれでショックなんだけど」

 

「無事に再会をした……でいいのだろうか?」

 

「問題は山積みだけど今はそれでいいじゃねえの」

 

 微笑むミラとジュード(ペンギョン)、この状況をアリーシャは言葉に表すがなんとも微妙だ。

 

「レイアやエリーゼは心配するだろうし、アルヴィンにはしつこくからかわれそうだ」

 

「元に戻る方法はあると思うよ。前にこの人達と戦った時には戻ることが出来たから」

 

「戦った……やはりペンギョンを虐める不届き者だったのか!!」

 

「違うよ。この人達はペンギョンの密猟者を退治している業者だよ」

 

「……その言い方はちょっと違う気もするけど」

 

「ライフィセット、余計な事は言うな」

 

 世界を滅ぼそうとしている災禍の顕主御一行様だといえば確実にモメる。

 

「どうやら勘違いをしていた様だ。すまない」

 

「なに気にするな、人から恨まれる事には馴れている。それよりもお前達、これからどうするつもりなんだ?ジュードから聞いた話からお前達はこことは違う世界からやって来た様だが、帰る当てでもあるのか?」

 

「別の世界に来ることが出来たのだ、帰る道もきっとある」

 

「……力になれそうな奴は居るが、力を貸してはくれん……漂流者ならば助けるのが船乗りの流儀なんだがな」

 

 チラリと視線をオレに向けてくるアイゼン。仏が出てこないって事は仏関係の事じゃない。彼奴等は基本的には転生者が転生先で送っている転生者ライフをYou Tube感覚で見て楽しんでいるだけなんだよ。本当ならば死ぬか悟りを開かないと会うことが出来ない存在で、向こうから干渉してくるのは稀なんだよ。ミラ達はきっと帰る方法はあると信じてオレ達と別れる……仏関係じゃないし異世界に下手に干渉すればロクな事が起きない。世界間を移動できるのって基本的には転生者ハンターだけだからな。彼奴等は彼奴等で色々と苦労してるけど。無理矢理転生させられた転生者ってホントに憐れというかかわいそうというか……ま、オレには関係無い事か。

 

「ジュードの奴に食わせた分のグミを補給しねえと」

 

 回復系の術を使える奴はいるが、回復アイテムは常に常備しておかないといけない。

 未だに聖主の御座に結界が貼られていて、何時アルトリウスとの決戦の時がやってくるかわからない。

 

「いらっしゃいニャせ」

 

「……かめにんじゃないの?」

 

「……」

 

 メイルシオに戻り、何時もかめにんが居る場所に向かうとそこにはねこにんがいた。何時もならばかめにんが居るのにどうしてねこにんがとライフィセットは首を傾げる。

 ……監獄島を爆破解体した際にかめにんの存在を完全に忘れていた。アイゼンが言うにはフェニックスがいるから不死鳥の加護が働いて死ぬことだけは無い、更に言えばエドナに手紙を届ける事に成功しているから生きている……うん、死んではいない。

 

「気になるニャらねこにんの里に行ってみるといいニャ。かめにんはそこでおミャーさん達を待ちかねてるニャ」

 

「ヤベえ……ヤベえ……」

 

「ゴンベエ、潔く謝るんだ」

 

 確実にかめにん、ぶちキレてる。アリーシャも流石にコレはオレが一方的に悪いので謝罪をする様に言う。

 かめにんに謝罪の言葉を送らないといけないし、アイツが居ないと今後のアイテムの補給が出来なくなるとベルベットには申し訳無いがねこにんの里に向かうとそこには現代で遭遇したダークかめにんがいた。

 

「もしも〜し♪ト〜タス!か〜めに〜ん♪ト〜タス」

 

「なによ、この歌」

 

「トータス!トータス!かめにん一族に伝わる呪いの歌っすよ!!亀のダークな呪いを込めた歌で……ホントに憎らしい小僧がやって来たっすね!」

 

「ゴンベエ!!」

 

「……いや、ホントに……誠に申し訳ありませんでした」

 

 とりあえずは土下座をする。まさかかめにんがダークかめにん化するとは思いもしなかった。

 

「なにに対して詫びている……詫てももう、遅いっすよ!お前等のせいで、お前等のせいで!!」

 

「お前、等?」

 

 オレが監獄島をかめにんがいるのに爆破解体して怪我をしたから闇堕ちしたんじゃないのか?

 

「お前、どうしてそうなったんだ」

 

「あんた等のおかげっすよ……だからあんたらも煮染める!!」

 

 何時の間にやらダークかめにんが仮面をつけている。

 

「ベルベットもロクロウもアイゼンもマギルゥもエレノアもアメッカもライフィセットも、皆、皆、煮染めてやるっす!!」

 

「なんでよ。私達がなにをしたって言うの」

 

「そうですよ。私達と貴方はいい商売関係じゃないですか!」

 

「あんた等が無理矢理適正価格に値引くせいでこっちは首が回らなくなったんすよ!!そして借金のカタにスッポン屋に売り飛ばされた」

 

 お前等、食える種族だったっけ?

 ダークかめにんが闇堕ちした理由はオレだけでなくベルベット達がかめにんが売ろうとしている価格を殆ど脅しで商品を購入したから。

 

「因みにだが幾らぐらいの借金なんだ?」

 

「元金利息合わせて300万ガルドっす!」

 

「300万」

 

「300万」

 

「300万」

 

「300万」

 

「300万」

 

「300万」

 

「300万」

 

「合わせて2100万か」

 

 ベルベット、ライフィセット、ロクロウ、アイゼン、マギルゥ、エレノア、アリーシャは順番に驚く。そしてコレはフリなんだとオレがボケるとベルベット達はズッコケる。

 

「合わせるんじゃないわよ!」

 

「お前等のせいで2100万ガルドも借金を背負わされたっすよ!!」

 

「いや、300万でしょ!……ホントに僕達のせいで300万も?確かに色々と購入したけど、そんなにいってないような」

 

「ここに領収書があるっすよ!!」

 

「え……領収書?」

 

「あ、違ったっす。請求書っす」

 

 お前、こんなところで言い間違えるなよ、なんとも言えない空気が流れてるぞ。これが新喜劇ならば一回やり直しが要求されるぞ。

 

「取り戻したいっすよ……ホワイトだったピュアな心を。今じゃしっかりと醤油味が染み込んでしまってオイラは、いや、俺はもうダークかめにんっす!!取り戻したくても、お前達のせいで取り戻すことは出来ないっすよ!!」

 

 現代と同じく秋刀魚を構えるダークかめにん。

 このメンツを相手にして勝てると思ったのか、意外とシブとかったがデラックス・ボンバーが命中して膝をつかせる事に成功した。

 

「かめにん……商売の世界は厳しいんだ。DQNな客に会ったお前が悪い」

 

「テメエがそれをいうか!テメエが監獄を爆破さえしなければ……テメエの血は何色だぁ!!」

 

 オレが監獄島を爆破してその際の被害でダークかめにん化したのならばオレが悪いがそれとは別件でダークかめにん化している。

 かめにんは立ち上がり、オレ達に攻撃してくるのだがそんなものは効かない。アリーシャもオレも2度目の戦いなので動きに馴れている。

 

「ぎょええ!?」

 

「取ったっす!!さぁ、お前等!この女が大事ならばさっさと耳揃えて300万ガルドを寄越せぇ!」

 

「強盗にまで身を落としたか」

 

 人間落ちるところまで落ちることが出来るのは知っているがいざ目の当たりにするとなんとも言えない気持ちになる。

 ダークかめにんはマギルゥは人質に取り、今までの利子を寄越しやがれと脅してくる。

 

「ば、馬鹿者!何故よりによってワシを人質にするんじゃ!お主、今までワシ達のなにを見ておった!この後どうなるかもう分かるじゃろう!……殺される!ベルベット達に殺されるぅううう!!」

 

「その女に、人質の価値は無い!!」

 

 それはもう見事だった。人質にされているマギルゥの事なんてお構いなしにベルベットはマギルゥごとダークかめにんに飛び蹴りをくらわせた。

 かめにんは見事に蹴り飛ばされて、膝をつきオレ達から金を回収することが出来ない事を悟る。ベルベットも早くこの馬鹿騒ぎを終わらせたいのか左腕を喰魔化する。

 

「ベルベット、止めておけ。あんなの喰ったら体に悪い」

 

「そうですよ!醤油漬けの物なんて一気に食べたら不健康です」

 

「食べるわけないでしょうが。私はイーストガンド育ちだから濃い味には馴れてるけど」

 

「オレは関西の人間だからな、薄味の方が好きだ」

 

 ベルベットはあくまでも脅しのつもりで左腕を喰魔化させただけだった。

 

「貴様等に、貴様等になにが分かるっすか!」

 

「知るかぁ!お前の気持ちを知ったところでこっちは1円も恵んでやらねえ!!」

 

「クソぅ、この疫病神どもが……」

 

 災禍の顕主の御一行様に遭遇したのが運の尽きだ、諦めろ。

 

「借金が、借金が返せなくなったらもう……お鍋の具になるしかないじゃないっすか〜あああん〜あああああ」

 

 大粒の涙を流して泣くダークかめにん。

 これはホントにどうすればいいんだろうか。一応は商売の世界の話だが、かめにんを破産に追い込んだのはオレ達である事には変わりはない……でもなぁ……

 

「ダークかめにんさん、どうかヤケにならないでほしいのニャ」

 

 どうすべきか悩んでいると事態をずっと見守っていたねこにん達が声をかけてきた。

 

「諦めなければきっと希望という名の明日がやってくるのニャから」

 

「同情されるだけ(から)く、いや、辛くなるっす」

 

「そんな時にはねこにんの里名物ニャバクラニャ!」

 

「ニャバクラ?」

 

「アタシ達と飲んで騒いで、汚れちまった心を選択できる極楽無双のお店ニャ」

 

 それ、1番選んじゃいけない悪夢の誘惑かなにかじゃないだろうか。

 ねこにん達はダークかめにんをニャバクラに誘う。

 

「できるんすか……ダークに染まった俺が洗濯だなんて」

 

「できるかできないかじゃニャい、やるかやらないかニャ!ニャバクラはそんなやる気に満ちた2000歳以上の大人の社交場ニャ!」

 

「じゃあ、ダメっす。俺はまだ999歳の若者っすから」

 

 充分、ジジイじゃねえか。

 

「そこは亀だけど、鯖を読めばいいニャ!細かい事は気にしない、歌って飲んで騒いでいく。それがニャバクラを楽しむコツ、ゼンライ様なんてもうボトルもフルーツもタワーもジャンジャンいってるニャ!」

 

 あのジジイ、どんだけ常連なんだよ。

 かめにんはねこにんの甘い甘い誘惑を聞いて生きていく気力を出したのか、ねこにん達と一緒にニャバクラに向かった……

 

「あいつ、コレから1000年間通いつめるんだよな」

 

「言わないでくれ……」

 

 如何わしい店に1000年も通い詰めるとかいったい何処にそんな金があるんだろう。

 この時は金の出処について気になってはいたが、かめにんがダークかめにん化したのが主にオレ達が原因なのでそれ以上は深くは考えなかった。そう、この時は深くは考えなかった……まさか金の出処が意外なところだったとは思いもしなかった。




今回はスキット無しです。
後はザビーダと姫騎士アリーシャと導かれし愚者達と天への階段をやれば終わりだ


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死ぬ時は死ぬ

「なんだと!!」

 

 かめにんがダークかめにん化して、ニャバクラに去ったのでメイルシオに戻った。

 メイルシオに戻るとアイフリード海賊団の一人が大慌てでアイゼンになにかを報告しに来て、アイゼンは声を上げる。

 

「どうした。ダークかめにんがなんかやってきたのか」

 

「いや、違う……見つかったんだ、幻の島が」

 

「幻の島?」

 

 アリーシャはなんだそれはと少しだけ首を傾げる。

 

「その島は動く島で恐怖の島と言われていてな、その島に行った者は皆、生気を吸い取られる」

 

「おいおい、物騒な島だな……まさか」

 

「ああ、オレは行く!この機会を逃せば二度と行けなくなる可能性だってある」

 

「だが、そこに行けば生気を吸い取られるのだろう……もしかしたら死ぬのでは」

 

「死神の航海に死は常に隣り合わせだ……安心しろ、無理に付いてこいとは言わん。オレ一人でも」

 

「バカか、そっちの方が危険だ。その島がどんな島なのかは知らねえが危険地帯ならばオレの力が必要だろう」

 

 アイゼンはなにがなんでも行くつもりで、未知の世界に足を踏み入れたい気持ちを無下にする訳にはいかない。

 危険も承知の上での行動で無理に止めるよりもついていく方がいいと判断した。ベルベット達にも事情を説明すると、危険な場所なら行かなきゃいいのにと言われたが付いてきてくれる。ライフィセットは地図に載っていない場所に行ける事をワクワクしていた。

 

「こ、ここは!」

 

 許可が降りたので早速その島に向かい、上陸するとベルベットは島を見て声を上げる。

 島の入り口に社っぽいものがあり、そこには金のノルミンの銅像が祀られている。

 

「わ〜珍しいな〜、またお客はんや〜」

 

「遠いところノルミン島へようこそ〜ぶぶ漬けでも食べはる?」

 

 島の奥から出てきた2人のノルミン。

 オレ達を歓迎してくれているみたいだが、ぶぶ漬けって帰れって意味を込めて出す物であり歓迎の意を込めて出すものじゃない。まぁ、今時ぶぶ漬け出して帰れアピールは無いけれども。

 

「ノルミン島、だと!?」

 

「そうでフ!ここはノルミン達の生まれ故郷、ノルミン島でフよ」

 

「帰省なんて1500年ぶりかしら」

 

 恐怖の島の正体を知って驚くアイゼンだが、特に気にすることなくビエンフーとグリモワールは島に足を踏み入れる

 

「お前等、全部知ってたな」

 

 もっとこう大きなリアクションかなにかがあると思うが全然驚きもしない2人。

 最初から恐怖の島の正体がノルミン島だって事を知っていたな。

 

「ごめんなさいね……教えるのは簡単なんだけど『未知の島に溢れる浪漫を追い求めるのが海賊だ』とか色々と言ってるから、ネタばらししちゃいけないと思ってて……こういうのって秘密なのが大事でしょ」

 

「申し訳無いでフ!」

 

 言えば全てを台無しにしてしまう事を2人は知っていたので黙っていた。

 そう言われればなにも言えなくなってしまうので怒ることは出来ない……流石というかなんと言うかグリモワールは空気の読める女だ。

 

「副長、これヤバいっすよ」

 

「ほわほわだ〜」

 

 バンエルティア号前にいたアイフリード海賊団の面々がノルミン達に囲まれてホワホワしている。

 

「島に立ち入る者の生気を奪うって、アレの事なの!?……この島、地図に載せていいのかな?」

 

「知らん」

 

 ライフィセットは島の真実を知って少しだけショックを受ける。

 しかしそれはさておいて、ミッドガンド王国付近の異海の詮索は終わり世界地図が完成する。ライフィセットは地図が作れた事を喜ぶがあくまでもミッドガンド王国付近の異大陸を記した地図であり、異大陸を越えたその先の大陸の地図じゃないとアイゼンは貪欲さを見せる。

 とりあえず滅多な事では辿り着ける場所でなく、ノルミン達が歓迎をしてくれるという事なので甘んじでその好意を受け入れて島を探索しているとノルミン・ヒーローと呼ばれるノルミンが嘗てアルトリウスとその師匠と旅をしていた事が判明する。アルトリウスも最初からカノヌシの鎮静化をしようなんて馬鹿な考えには至っておらず、妻であるセリカが犠牲になったのが原因でああなったわけだ……世界に絶望しているわけか。

 

「ゴンベエ、聞いてくれ」

 

 観光名所的なのもないのでノルミン島の探索は割とあっさりと終わった。面白い話を聞くことが出来たのでよかったのだが、海賊団の面々がノルミンが齎すほわほわにやられてしまい船を出発させる事が出来ない。ならば今のうちにやれる事はやっておこうとアリーシャはハープの練習の成果をオレに見せてくる。元々勤勉な性格のアリーシャは暇な時間を見つけてはハープの練習をしていたので腕は確かに上がっている。

 

「あら〜ええ曲やなぁ。なんや力が湧いてくる感じがするわ」

 

「お前は……」

 

「うちはアタック、ノルミン・アタックや……アメッカはん、ええなぁ。絶対領域もあるし」

 

「お前等意外と欲に塗れとるな」

 

 アリーシャがハープを弾いているとそこかしこからノルミンが集まってきた。

 アリーシャの太ももに魅力を感じている……今思えばライラも太ももが出ていたな……スレイ達、なにやってるんだろうな。現代に戻る際には過去に来た時間の数秒後の未来に向かうから大して時間が経過してないが……無事にパワーアップ出来てるのだろうか。

 ノルミン達を見ているとなんだかスレイの事を思い出してしまう……あいつ、絶対に軽い気持ちで導師になったからこれから色々と大変だろうな。なにせ導師の伝承が色々と残っているハイランドで異端に見られて支援を受けられねえから……まぁ、布教とかも宗教では大事な仕事の一種だから諦めるな、頑張れとしか言えない。パワーアップして天族が見えるようになった人の業や醜さ、それでも前を見て歩く力強さを知ったアリーシャがお前の元に駆け付けてサポートしてくれるからなんとかなるやろ。

 

「あ〜あ、ザビーダ兄ちゃん早く遊びに来ないかな」

 

 ノルミン島を後にし、タリシエンにやってきた。特に目的もなくブラリと歩いていると一人の子供がザビーダの名前を出していた。

 そういえばザビーダはあの後どうなったのか。シルバを連れてイズチに行くことが出来たのか、運が良いのか悪いのかゼンライの爺さんとねこにんの里で鉢合わせしていない。ゼンライの爺さんに会えればシルバの事を聞くことが出来るが、現代でオレ達をあまり知らないと言う事はシルバは意思を解放された天族の一人とでも説明しているんだろう……肝心のシルバは現代じゃイズチに居なかったから、何処に居るのやら。

 

「対魔士のエレノアと申します。皆様はザビーダの事をご存知なのですか?」

 

 子供達だけでなく大人もザビーダの事を口にしていた。

 一緒に旅をしている訳ではないが色々と深い仲であり、子供達と大人達にザビーダの事を代表してエレノアが聞いた。こういうときは対魔士様様だ。

 

「ああ、対魔士様も知ってるんですね……ザビーダは私達を家族にしてくれた」

 

 話を聞いてみるとザビーダはデオドラに夫婦が子供達の元に連れ去られて料理を作らされたのがきっかけらしい。

 子供達は孤児でデオドラとザビーダと一緒に暮らしていたけど肝心の2人が料理が全く出来ないから夫婦を連れ去ったとか。子供達には親はいない。大人達には子供はいない。どっちもいない関係性で、気付けば家族の出来上がりだった様でザビーダはちょっとガサツなところがあるがホントはいいヤツでもし見かけたのならば力になってやってくれと、デオドラを探しているザビーダの事を頼まれる。

 

「デオドラは……もう……」

 

 ザビーダが今どこでなにをしているのかは詳しくは知らない。だが、考えることは出来る。

 メルキオルのクソジジイをぶっ飛ばすのはオレがやり、世界のこんな状態を見れば四聖主を叩き起こすのに成功したのが分かる。ならばアイツはなにをしているのか、考えるのは容易い事だった。アリーシャは知っている、ザビーダの恋人と思わしき天族が今どうなっているのかを。

 

「まぁ、当然と言えば当然の結果じゃのう。純真無垢な赤子ならいざ知らず心に傷をおった子供達と暮せば穢れる……」

 

「それを承知の上でデオドラさんは子供達に救いの手を伸ばした、そんな方だからザビーダは救いたいのですね」

 

「そうは言うが、ドラゴンになった聖隷を元に戻す方法なんてあるのか?」

 

 ロクロウがそういうとエレノア達の視線はオレに向けられる。

 

「言っとくがオレは力は貸さねえ……アイフリードのは特例中の特例だ」

 

 オレならばドラゴンを元に戻すことが出来るかもしれないとアイフリードの一件があるのでエレノア達は期待を寄せる。だが、アイフリードの一件はザビーダに現代で売られた恩を返す為にやった事で、コレで貸し借りは0。新たにザビーダに貸しを作る意味でやればいいかもしれないが……

 

「……ゴンベエでも無理だ」

 

 アリーシャは知っている。出会って間もない頃にオレと一緒に磁石を作るためにレイフォルクに行った時にドラゴン化したアイゼンと遭遇しているのを。その時にマスターソードを抜いてドラゴンになったアイゼンを攻撃したものの元のアイゼンに戻らなかったのを……まぁ、あの時は逃げるの優先していたし、浄化なんて一切考えていなかったからやれる事はまだあったかもしれないけど。

 

「ゴンベエの力を持ってしも不可能ならば……殺す」

 

「……あのドラゴンを殺すことについては反対しません。ですが、貴方のやり方は間違っています……ドラゴンになってしまった恋人を目の前で殺されるのを良しとする人はいません。アイゼン、貴方とザビーダはよく似ています。貴方達は話し合えば」

 

「口先だけで納得が行くのならばとっくの昔にあいつが殺しているさ」

 

 なにがなんでも殺さないのが今のザビーダの流儀だ。

 どうにかしたいとエレノア達は思っているが殺すしか今のところ道は無い。

 

「僕が白銀の炎を使いこなせれば……」

 

 ライフィセットはどうにか浄化の炎を使いこなせるようになればと考えるがオレとアリーシャは知っている。現代の完成された浄化のシステムを持ってしてもドラゴンを元に戻す方法は無い……これはあくまでも個人的な勘だが、多分ドラゴンを浄化するのと憑魔を浄化するのとはやり方が違う気がする……なにか一手が足りない。それがなにかは知らないが。

 

「アイゼンさんですね」

 

 デオドラとザビーダに対して色々とあれこれ考えている間に船着き場に到着した。

 船着き場にはアイフリード海賊団じゃない人が、血翅蝶の一員がおりベルベットでなくアイゼンに声をかけてきた。

 

「ボスから伝言を預かっている。ワンジンという骨董品を収集していた男が亡くなって、コレクションが売りに出された」

 

「壺と絵か……興味はあるが今はいい」

 

「いや、それだけじゃない。ワンジンと言うのはドラゴンに関する書物も色々と集めていたらしい。アイゼンさん、貴方の目当ての物も見つかるかもしれない」

 

「ドラゴンに関する本……何処で売られている!!」

 

「カドニクス港だ……もう既にオークションは開演しているが、今からならば間に合うかもしれない」

 

「お前等、カドニクス港に行くぞ!!」

 

 血翅蝶の言伝を聞いて次の行き先が決まった。

 風のタクトを取り出し、風向きを操ってタリシエンを後にし全速力でカドニクス港に向かった。

 

「っち、オークションはもう終わったか」

 

 全速力でカドニクス港に向かったがオークションは既に終わっていた。

 こういう時の運はアイゼンには無い……ただし、悪運はある

 

「ドおう!アイゼンの旦那じゃねえか、ド久しぶりだな、ドあははははは」

 

「ドネル!そうか、コレクションを競りに出していたのはお前だったのか」

 

「知り合いなのか?」

 

「ああ、フジバヤシの釣り竿はコイツから購入した……ドネルが売っているという事は確かな物だったのか……っち」

 

 完全にオークションは終わったようだが、売っている人に会うことは出来た。日頃の運は悪いが、こういうところの運は強い。

 アイゼンが信頼する事が出来る奴が売っていたって事は良いものがあるのだが肝心のオークションは終わってしまっている……顧客との信用問題を覚悟の上で何処の誰かに売ったのかを聞いてみるか?

 

「アイゼンの旦那、ド落ち込むのはド早いぜ。このドネル、こう見えて色々と隠し持ってるんだ」

 

 そういうとドネルは一冊の本を取り出す。

 アイゼンはその本を受け取ってパラパラと読み流しをすると少しだけなにかを考えた後にライフィセットに本を託した。

 

「そいつはド古代アヴァロスト語の本だ……この何年か、聖寮が古代アヴァロスト語の本を集めるどころかド規制してやがる、そんでもってこういうのを欲しがるのはド悪党のアイゼンの旦那みたいな奴だろう」

 

「恩に着る……いくらだ?」

 

「金はとらねえよ。ド聖寮とドドンパチやってるのはあんた達なんだろ、これはそのお礼さ」

 

 世の中こういうことがあるからホントに分からねえな。

 古代アヴァロスト語の本なのでオレやアイゼン達では読むことが不可能な物でライフィセットとグリモワールに解読をさせる。

 

「ドラゴンに関する本……なにか良い結果に繋がればいいのだが」

 

「……アリーシャ、結果は」

 

「っ……分かっている、分かっている。だが、一分でも1%でも」

 

 オレとアリーシャは未来から来ているから未来の知識がある。ドラゴン化をどうする事も出来ないのを知っている。どうにかする方法があるというのならば今頃現代にどうにかする術が伝わっている……こういう時は未来から来たってのは実に残酷な事だ。いらん知識が混じってしまう。

 

「で、どうなの?」

 

 マギルゥがこんな事もあろうかとグリモワールを連れてきていたので解読をこの場でする。

 ライフィセットとグリモワールが色々と談義を繰り返しており、一向になにが書かれているのか教えてくれないのでベルベットはしびれを切らしたのかグリモワールに答えを聞く。

 

「えっと……結論だけ言うとこの本はドラゴンに関する事が書かれていた、研究成果を纏められた本だよ」

 

「そうか……いきなり飛ばして聞くのは野暮な事かもしれんがドラゴンを元に戻せる方法はあったのか?」

 

 オレの問いかけにライフィセットとグリモワールは首を横に振った……やっぱりか。

 

「ドラゴンに対して色々とやってみたみたいだけれど、元に戻すことが出来た成功の一例は1ページも無かったわ」

 

「そう、ですか……」

 

 分かっていた事だがアリーシャはショックを受けている。フォローは……しなくていいか。

 

「ただ『白き大角いただくドラゴンの心くり抜き血と共に喰らわば消えん聖隷の加護』って書いてあって」

 

「それは……要約するとドラゴンの心臓があれば天族の加護を消すことが出来る、という意味なのか?」

 

「さぁ、この本にはそこまで載ってないし実際に試してみないと分からないわ」

 

 持ち直したアリーシャはライフィセットが気にしている分を原文から要約する……天族の持つ加護を無くす事が出来るか。

 死神の呪いを持っているアイゼンには朗報……とは言わないな。アイゼンは死神の呪いと向き合う事を決めていてどうにかするつもりは無いのだから。

 

「あんたは試すのか?」

 

「ザビーダ、なんでここに!?」

 

「親切な婆さんが青空市場について教えてくれたんだよ」

 

 本の内容に驚いているとザビーダが現れた。ライフィセットがどうしてここにと尋ねると血翅蝶の力を借りてここに辿り着いた事を教える。こんな上手い話、他にも伝えないわけがないよな。

 

「俺みたいないい男を女が放って置くわけねえだろう。お嬢ちゃん達も俺に惚れるんじゃねえぞ」

 

「生憎ね、私は好きな人が居るから惚れるなんてありえないわ」

 

「……え、マジで……おたく、好きな人いるの?」

 

「ええ、かなり口説かれたわ」

 

「ベルベット、それはザビーダの冗談話だ。変な方向に持っていくんじゃない!!」

 

「分かってるわよ……そんなに大声出さなくていいじゃない」

 

「よくない!」

 

 ザビーダの冗談で危うく大パニックを起こすところだったがアリーシャが話を本筋に戻す。うん、このままだと修羅場が待ち構えてるからよくやった。

 

「ったく、冗談くらい言わせろよ……もっとも冗談話で済みそうにねえ事もあるみたいだがな」

 

 ザビーダはアイゼンを強く睨んだ。

 

「だとしたらお前はどうする?」

 

「殺らせはしねえ」

 

「オレを殺すことになったとしてもか?」

 

「……テメエ、なんでそこまで殺しに拘るんだ。テメエは自分が死神である事を否定するのをやめて受け入れたんじゃねえのか?」

 

「質問に質問で返すんじゃねえ」

 

「先に質問をしたのは俺だぜ」

 

 一触即発、何時殴り合いになってもおかしくはない空気を醸し出している。

 

「……殺すことで、救われるヤツもいる……」

 

「アイゼン、お前の言うことも一理あるけどよ……足掻いて藻掻いて叫んで必死なってる姿だって1つの生き方だろう。お前達天族は飯を食わなくてもいいし便利な術も使える数千年と馬鹿みたいに長く生きて人間とは異なる、だけど怒ったり泣いたり笑ったり喜んだりする心は人間と同じ筈だ。お前のそれは下手したら他人の舵を無理矢理切り替えるのと同じだぞ」

 

 アイゼンが殺そうとする理由はなんとなく見えてきた。殺すことで誰が救われるのかは分かる。ただ自分勝手だ。

 無駄だと先人が結果を示していても諦めずに挑戦し続ける姿勢が大事で、もしかしたら見つかるかもしれない。

 

「自分の舵を取り戻す為の事だ……手を伸ばせば救える可能性を持っているのに救おうとしないお前にだけは言われる筋合いは無い」

 

「そう言われればそうだがな……じゃあ、お前等に面白い話をしてやる。題して【2人の死神】」

 

「それは……」

 

 ネタバレ厳禁だぞ、アリーシャ。

 

「今年今年あるところに死神と呼ばれる医者がいました。何故その医者が死神と言われていたのかというとその医者が継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみの様な肌をしていたからです。死神と呼ばれる医者は不気味な見た目をしていますが医者としての腕は世界一と言っても過言ではない程の腕を持っている名医でした。しかし彼のやり方はあまりにも異端の為に国のお抱えの医者でなければ医者としての資格を持っていません」

 

「……それの何処が面白い話なんだよ」

 

「しかしそれでも腕は世界一、海の見える断崖に暮らす医者に治療してくれと頼みに来る難病の患者は沢山居ました……しかし、死神は助けるならば治療するならば1千万、酷い時は1億、10億と膨大なまでの治療費を請求してきます」

 

「最低じゃねえか、その医者は」

 

「ただ彼は気まぐれか治療した人が経営する居酒屋で一年間無料や、ラーメンを奢って貰ったお礼と称して治療することもある。そんな腕は世界一だが色々と問題を抱えた医者に今日も今日とて治療の依頼がやってきた。子供の依頼人で自分の母親を治して欲しいと頼み込むので例によって法外なまでの治療費を死神は請求すると一生かけても支払ってみせると子供は言ったのでとりあえずはその母親がどんな状態なのか確認しに行くと、そこには彼とはまた別に死神と呼ばれる人を殺すことを生業とする医者がいました」

 

「おい、おかしいだろう。医者ってのは病気や怪我を治してくれる人の事だ、殺してどうするんだよ!!」

 

「殺す方の医者は血液検査にも尿検査にも引っかからない特殊な毒を用意していました。それを飲ませる前に阻止することが出来ました。継ぎ接ぎの死神は曲がりなりにも医者です、医者としての誇りを持っており殺そうとする医者の存在を認めず病気になっている母親を検査した結果、自分ならば確実に治すことが出来るのだと判明しました……しかし、母親は拒みました」

 

「なんでだよ!自分の病気を治すことが出来るんだろう!なら、治せばいいだろう!そうすれば」

 

「継ぎ接ぎの死神の治療費は膨大な物です。母親の子供がコツコツと酒にも女にも溺れずに真面目に働いて中年になる頃にやっと返済できるほど。自分の為にそこまでしなくていい。自分の夢を掴みなさい、自分のやりたいことをしなさいと母親は子供の幸せを願いました。自分が死ねば保険金が入り、子供が大人になるまで安心して暮らせると喜びました」

 

「んだよ……んだよ、そりゃあ!!自分が死んだら子供が救われる……そんな、そんなふざけた話があるわけねえだろうが!」

 

「ああ、安心しろ。これはフィクション、作られた話だ。継ぎ接ぎの死神は母親はこの世で何よりも大事な存在だと思っています。

 

この世で最も美しいと思う女性は母親と思っているほどで、子供の母親が手術を拒む理由を聞いて、何かを重ねたのでしょう。医療費はタダにすると、タダにしました…そして、もう一人の死神からその母親を奪い、見事なまでに治療に成功。母親は元気に歩く事が出来るようになりました……そして家族でピクニックに行った際に崖崩れに巻き込まれて死にました、殺す医者はやはりあの者は死ぬ運命だったのだと言ったのに対し、救おうとした医者はそれでは医者は何のために居るんだと泣き叫びました……おしまい」

 

「んだよ……んだよそれは!医者も母親も子供も報われねえだろう!!」

 

「生き物ってのは死ぬ時は死ぬもんだ……人間って生き物は業が深い。無理に生きさせようとする。熱力学第二法則に真っ向から戦いを挑む人間の背負う重い業だな」

 

 ザビーダはこの話の結末に納得がいかない。オレもこの話は酷いと思っているが、手塚先生はコレを書きたいと思ったから書いたんだ。

 

「だから諦めろ、殺されるのを見てろっていうのか!ざけんじゃねえ……殺すことが救いなんて絶対に認めねえ!!」

 

 ザビーダはそういうとこの場から去っていった……ま、認められるわけないだろうな。

 今のザビーダに対して言うべき話ではなかったのかもしれないが、そういう考え方だってある。ザビーダは去っていき、肝心のデオドラが何処にいるのか所在は不明……だが、近い内にデオドラに会うだろう。

 

「ゴンベエ……結局、この話の意味は……」

 

「……お金ってのはな、価値観の異なる人達の物の価値を決めるのに大事な道具なんだ。本当にその人の事が大事ならば助けたいと思うなら1千万だろうが1億だろうが安い」

 

 自分のプライドや流儀だって手放せる筈だ……なんて言ったら自分勝手(エゴ)の押し付けなんだろうな。




今回もスキット無しです……ので

転生者について。
 
元は閻魔大王が飢餓等による死が減った筈なのに自殺したり虐待されたりする若者の多い現代社会に絶望してどうにかしたいと作られたシステム。
子供がなんらかの理由で生物的に一回死んでしまった後に地獄で異世界(二次元)に転生できるけどするかどうかを訪ねた後に実弾入りの拳銃を発砲させる等の度胸試しをさせられる。
最初は転生特典を与えてそのまま転生させるだけのシステムだったが転生者が未熟な子供だったりしたので色々と問題があったので遊戯王、ラブライブ、ブラッククローバー、FAIRY TAIL、GOD EATER等どの様な世界に転生しても問題は無い様に鍛えつつ、その人が持つ才能を伸ばす訓練を行うようになった 
訓練は地獄そのものであり一度でも逃げ出せば転生者になる権利は剥奪される。人間の業や真理、残酷な社会を教えられたりするので無償の正義の味方などの漫画に出てくる絵に描いたような善人は殆どおらず色々としっかりとし現実を見ている人間が多い。
転生者の容姿はその魂が決めるもので大抵はアニメのキャラの容姿となり、名前が一文字違いなのだが極々稀に魂が不安定で転生する度に容姿が変わる転生者も存在する。
最初は閻魔大王の救済システムだったが、転生者がやることが面白く娯楽に餓えていた地獄にとっての最高の娯楽となっており転生先で偉業を成し遂げたり面白いことをした転生者にはもう一度転生する権利を与えて更にそこでもう一度面白いことをすれば無限に転生する権利を与えられる。
転生者は本来の自分の名前を剥奪され、誰が口にしてもその名を聞き取る事は出来ない。
極々稀にだが地獄の転生者とは別の世界線から理由もなく急に転生させられた転生者の存在が確認されており、危険な存在であれば転生者ハンターと呼ばれる転生者が狩るのだが大抵は無理矢理転生させられた被害者だったので狩られる事は少ない。
転生先でなにしようが勝手だが宗教だけは変えてはいけない。変えるとその国の宗教のあの世に行ってしまうから


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本日未熟者

テイルズオブザレイズ編はね……ミリーナが想像妊娠したりするとかイクスくんがLDSのリーダーやったり、転生者がティル・ナ・ノーグで蹂躙しまくる話になるんだよな……ゴンベエ、出せないし。アリーシャとベルベットがゴンベエを殺す話とかあるし。


「白角のドラゴンなら北の方で見かけました」

 

 アイゼンはドラゴン、いや、テオドラについての情報を血翅蝶の一員から集める。

 血翅蝶の情報網は本当にどうなっているのかと思うほど見事なものでテオドラが何処に居るのかを教えてくれた。早速船を出港してノースガンド領に向かう。

 

「アイゼン……殺すのか?」

 

「ああ……戻す手段が存在しない以上はそれしかない」

 

 アイゼンはテオドラを殺そうと動いている。

 ドラゴンになった天族を元に戻す方法は何処にも存在しない、天族との交流が盛んだった時代でドラゴン化に関する研究をした結果が無駄だった。この時代の優れた技術でも現代の浄化のシステムでも不可能だ。

 

「せめて足掻く事ぐらい許してやったらどうだよ……お前等は何千年も生きる種族なんだろう」

 

「だからこそだ……殺さなきゃ一生救えない。一生囚われたままだ」

 

 ゴンベエはアイゼンがテオドラを殺すことに対してあまり文句を言わない。

 アイゼンはテオドラを殺すことでテオドラを苦しみから解放するのが目的じゃない、恐らくはザビーダ様を救おうとしている。何故殺すことで救えるかは今の私には分からない、だがゴンベエは意味を理解している……それでもザビーダ様に満足が行くまでやらせればいいと苦言する。

 

「話し合いは出来ないのですか?テオドラさんはもう……」

 

「エレノア、アイゼンが助けるのはそいつじゃない、ザビーダだ」

 

「ザビーダを?」

 

 テオドラはもう助からないのからば介錯の意味を込めて殺すしかないとエレノアは覚悟を決める。

 ザビーダ様はそれを阻止しに来るが元に戻す方法は存在していない。ならば話し合いの余地はあるかもしれないがゴンベエが助けるのはテオドラじゃない事を伝える。

 

「なんでザビーダを救うことになるの?」

 

「……さっき話した2人の死神について考えてみろ。答えがわかる」

 

 テオドラを殺せばザビーダ様は苦しむが救われる。何故なのかは私にも分からない、ライフィセットにも分からない。

 ゴンベエは一瞬だけ説明をしようと考えるが、答えは既に教えていると2人の死神に込められた内容を考えさせる。あの話に、ザビーダ様を救うのと殺すのが繋がる要素がある……色々と考えたい、だが……だが……殺すしか道はないのだろうか……。ゴンベエは今回は力を貸すつもりはない。仮に借りることが出来てもゴンベエですら元に戻せない。

 

「いた!」

 

 ノースガンド領に辿り着き、ヘラヴィーサを超えてガイブルク氷地に足を運ぶとそこのはテオドラがいた。

 傷ついているのか休んでいるのかは分からないが地面に寝そべっており、アイゼンは強く睨むと私達より前に出る。テオドラを殺すつもりだろう。私はどうすればいいのか悩んでいるとテオドラの前に小さな竜巻が発生し、ザビーダ様が現れる。

 

「やらさねえって言っただろう。力ずくで止める!」

 

「止めてどうする?」

 

「テメエが伸びている間にあいつを救う方法を探す」

 

「言っておくがゴンベエでもアヴァロスト人達でも不可能と言っている事だぞ……それでもお前がしたいのならば好きにすればいい。だが、オレは殺すのをやめるつもりはない」

 

「なんでなんだ!理由もなく誰かを殺したがる外道じゃねえだろう!!アイフリードの親友はよ……あの話を聞いて、もう苦しみから解放してやりたいと思ったのか!?ふざけるな。殺されて救われる奴なんていねえ!死んで救われる奴なんていねえ!生きてナンボじゃねえか、この世界はよ!!なにがあろうが生きることを諦めねえ、それが俺の流儀だ!!」

 

「ならば、殺すのがオレの流儀だ……ゴンベエ、メルキオルのジジイはくれてやった。アイフリードもやった……手を出すんじゃねえぞ」

 

「お前達の喧嘩に加わったところでなにも変わらねえ……めんどくせえよ」

 

 それはどっちの意味でのめんどくさいなんだ。

 ゴンベエに手を出すなと釘を刺したアイゼンはザビーダ様に向かって殴りかかる……ザビーダ様とアイゼンの喧嘩が始まった。

 何時もの様にジークフリートを使ってパワーアップを果たすのかと思ったがそれはせずにザビーダ様はアイゼンをペンデュラムで攻撃しつつ、距離を近付けて拳を叩き込む。

 

「なにか……力を貸すことが出来れば」

 

 何度目になるだろうか、自分が無力な事を感じ取るのは。

 どうにかしたいという思いがあるが、今の私は憑魔を殺すことは出来ても助けることは出来ない。ゴンベエに穢れを退ける曲の弾き方を教わっていて浄化の力を完全に持ってはいない。

 

「どうした、ジークフリートは使わないのか!」

 

「舐めんじゃねえぞ」

 

「……おい、一旦中止だ!」

 

 殴り合う2人の間にゴンベエが割って入った。

 急に入ってきて何事かと思うと2人の後ろにいたドラゴン化してしまったテオドラが動き出した。巨大な火球を吐いて2人を焼こうとするのだが、ゴンベエが火球を真っ二つに切り裂いて攻撃を防いだ。

 

「流石にこいつは」

 

「まずい、のぅ!」

 

 2人の喧嘩を見守っていたロクロウとマギルゥはテオドラに向かって攻撃をしようとする。

 

「させるかよ!!」

 

 ザビーダ様は2人の攻撃がテオドラに当たる前にジークフリートの弾を打ち込んだ。

 何処か弱っていたドラゴンは生気に満ち溢れ、咆哮を上げると火球を連発してくる。

 

「ったく、パワーアップさせやがって」

 

 火球を全てゴンベエが切り裂いた。

 満足したのかどうかは不明だがテオドラは飛び去ってしまい、吹雪吹き荒れる豪雪地帯な事もあって直ぐに姿を見失ってしまった。完全に姿を見失ってしまったので戦いは終わり、ライフィセットは傷ついたザビーダ様に治癒の天響術を施す

 

「大丈夫?」

 

「ああ、死神から受けた傷なんて屁でもねえよ。それよりもお前の方こそ大丈夫か?清浄な器があるとはいえ、あの穢れはまずい……無事でなによりだよ。もしお前に怪我を負わせたら、アイツに向ける顔がねえ」

 

「テオドラさん……」

 

「子供ってのは親や家族を亡くして絶望しちまっても手を握ると握り返してくれるんだ……不安と恐怖で冷たくなった手が暖かくなる。心の破片が命を燃やして熱を出す。それが生きたいって意思なんだ。だから見捨てないってアイツが教えてくれた」

 

「だからザビーダは……」

 

 なにがなんでも生かしたいと、助けたいと思っている。ザビーダ様の思い……どうにかしたい。でも、私にはどうすることもできない。力がほしい。

 

「いつまでドラゴンの尻拭いをするつもりだ!」

 

「ドラゴンじゃねえ、テオドラだ」

 

「ドラゴン化した聖隷は元には戻らん!」

 

「だから殺していいってか?んな理屈がまかり通るとでも思ってるのか!テメエは口では偉そうな事を言ってるがホントは死神の呪いを解きたいと思っているだけじゃねえか!!」

 

「オレの呪いはオレと共にある。呪われてるのは別の奴だ」

 

「そいつの為にテオドラに犠牲になれっていうのか!!」

 

「ああ、そうだ」

 

 アイゼンが頷くとザビーダ様はアイゼンに殴りかかろうとするがゴンベエが拳を止めた。

 

「ゴンベエ!間に割って入ってくるんじゃねえ!!見ているだけの奴が横槍を入れるな!!」

 

「ああ、オレは見ているだけの屑だ……でも、目の前に居るのはそうじゃねえだろう。ザビーダは今、足掻いているんだ。足掻く事は悪いことなのか?結果が分かっているのだから潔く諦めろと言うのか?それじゃあ机上の空論を並べてる頭の固い学者となんら変わりは無いはずだ」

 

「お前は……お前ならアイフリードを元に戻した時みたいによ、テオドラを元に戻すことが出来るんじゃねえのか!なぁ、頼むよ。アイツを戻してくれるって言うならお前が死ぬまでの間、なんでも言うことを聞いてやる。お前を器にする」

 

「悪いな……オレは今は力を貸せない、アイフリードの時が特例中の特例なんだ……だが、それでもお前の力になってくれる奴は居る」

 

 ゴンベエは私とライフィセットに顔を向ける。あくまでも自分は力を貸さない、その姿勢だけは変えない。

 

「僕は……ザビーダに力を貸したい」

 

「私も……このまま殺されるのを見過ごす訳にはいかない……だが……」

 

 戦う力は持っていても助ける力は持っていない。ライフィセットの様に浄化の力を使うことが出来ればいいのだが私には無い。

 ジークフリートの様な便利な物を作る知識もない……本当に無い事だらけだ。

 

「なら、強くならないといけねえな」

 

「あ……金色の狼!!」

 

 何時の間にやら私達の背後に金色の狼はいた。

 ライフィセットが声を上げるとゴンベエは狼の姿になって金色の狼と共鳴し合うかの様に遠吠えをすると何時もの様に真っ白な空間にいた。

 

「なんだここは!?」

 

「修行する場所だ……細かいことは気にすんじゃねえ」

 

 はじめてくるザビーダ様は叫んだ。ここが何処なのかは私達も分からない。ただ修行をする場所で、どれだけ時間を掛けても元の場所に戻れば数分しか経過していない、そんな便利な場所だ。ザビーダ様はゴンベエを強く睨んでいるがここで暴れていても元の場所に戻る事は出来ないので様子を見ることに。

 

「汝、力を求めるか?」

 

「ああ……」

 

「はい、お願いします」

 

 何時もの様に骸骨の騎士が現れたので頷く。

 今回はエレノアの番で、エレノアと私は槍を取り出す……いったいなにを教えてくれるのだろうか。

 

「斬れ」

 

 大きな鉄鉱石が何処からともなく出現した。2つ出現をしたという事は、私達に同じ技を授けるつもりだ。

 斬れと言われたので私とエレノアは鉄鉱石に向かって槍を振るうのだが弾かれる。

 

「力技で斬るな、その技で大事なのはタイミング……最小限の力で最大級の威力を出すようにしろ」

 

 私達のやり方が間違っているのかゴンベエはアドバイスをくれた。

 私とエレノアは呼吸を整えて肩の力を抜いて、脱力からの一点集中で鉄鉱石を斬り裂いた。

 

「次はコレを斬れ」

 

「それは斬るもんじゃねえだろう」

 

「いや、斬れる……現にゴンベエは斬り裂いた」

 

 炎の球を出現させる骸骨の騎士。ザビーダ様は無理だというがアイゼンはつい先程ゴンベエが炎を斬り裂いた事を口にする。

 ゴンベエだから出来たんじゃない、なにか特別な技を使った……鉄鉱石を砕くのには力が必要ならば、これは素早さで斬ればいい。エレノアも同じ答えに至ったのかあっさりと斬り裂く事が出来た。

 

「地雷閃、海鳴閃は前から使える技量はあった……問題は最後だな」

 

「……悪を討て」

 

 2つの闇の塊を骸骨の騎士は作り出す。

 私とエレノアを槍を振るうのだが闇を打ち祓う事は出来ない……これは……

 

「その闇の1つには穢れがある……どっちが穢れを持った闇なのかを見抜いて切り裂け」

 

「穢れを探知しろと?いったいどうやって」

 

「なに難しい事じゃない。穢れは人間の心から生み出される物だ……ならば人間の心を読み取る、所謂、氣を読み取ればいい」

 

 かなりの無茶をエレノアに要求をするゴンベエ。

 これは私にも課せられた試練であり、どうやって穢れを持っているのかを見抜くか……ゴンベエの言う様に氣と言う物を探知すればいいが……

 

「っ!」

 

「おい、大丈夫なのか?確か、氣って奴は人の感情も含まれてる」

 

「まぁ、辛いだろうな」

 

 目を閉じて、視覚以外の五感を研ぎ澄ませる。

 氣と言うのはなんとなくで探知出来るもので今の私達ならばそれが出来る……ただそれと同時に異常なまでの不快感が私達を襲う。穢れは人のエゴや負の感情から生まれるもので、その感情が頭の中に一気に流れ込んでくる。ゴンベエが滅多に気配探知をしないのも頷ける。

 

「お前達の信念を込めた闘氣を込めて穿け」

 

「……参ります!」

 

「見切った!!」

 

 ゴンベエのアドバイスが上手く聞いた。なにをすればいいのか分かる。

 闘氣を込めた槍で穢れを纏った闇を貫くと形もなにもない筈の闇は散っていった。

 

「……ふん!!」

 

 骸骨の騎士は複数の闇を放つ。

 その闇の一部は穢れを纏っており、優先しないといけない闇に向けて闘氣を纏った槍で貫く。

 

「穢れを、穢れを断ちやがった!?なんなんだ、この技は!」

 

「勇者の武器は大地を割り、海を裂いて、空を斬る……虚空閃、確かに授けた」

 

「虚空閃……穢れに対抗する事が出来る技……」

 

「この技があればモアナやメディサ達を元に戻すことが出来るのですか!!」

 

「……次はお前だ」

 

 エレノアの問いかけに骸骨の騎士は答えずザビーダ様を指差す。

 

「俺に技を……ならドラゴンを元に戻す技を教えてくれよ!こんなスゲえ技が使えるならあるだろう!」

 

「では、また次の機会に」

 

「おい、消えるんじゃねえ!!」

 

 骸骨の騎士が消え去ると元の場所に、雪原に戻った。

 ザビーダ様は技を授けてもらえなかった事に対して不満を抱いているが……私達には成果があった。これが、私の予想が正しいのならばと私は穢れを探知する力を使い、憑魔を見つけると虚空閃を撃つ。

 

「元に戻った……」

 

 虚空閃は穢れを断ち切る技で、憑魔は元に戻った。

 

「……その力がありゃ、テオドラを」

 

「オレは力を貸さないが、アメッカはお前に力を貸してくれる……ただし、1回だけだ。足掻くのもいいが、1回だけ、それだけならオレはコレを貸してやる」

 

 背中の剣をゴンベエは私に託す。剣を鞘から抜いてみると青白い光を放っており、私の槍にはまだ不完全だが宿っている浄化の力と一緒だった。

 これだけの力があればもしかしたらドラゴンを元に戻すことが出来るかもしれない。

 

「……礼は言わねえぞ」

 

「礼もなにもオレはお前になにもしてねえだろう……ライフィセット、お前はどうする?」

 

「僕も、やれる事はやってみたい。この力をぶつけてみる」

 

「決まりだな……ベルベット達には申し訳無いが、ここからは別行動を」

 

「ここまできたら最後まで付き合うわよ」

 

「……そうか……アイゼン、足掻く事だって大事な事なんだ。1回だけでいい、チャンスをくれ」

 

 ゴンベエはアイゼンに頭を下げた。ザビーダ様にテオドラを助けるチャンスを手に入れる為に。

 

「できなかったらどうする?」

 

「殺すのを手伝ってやる」

 

「っ、おい!お前は結局どっちの味方なんだよ!」

 

「オレは自分の為にしか動けねえ人間だよ……さてと……ふむ……仕方ないか」

 

 ゴンベエは目を閉じて、なにかを感じる。

 テオドラが何処に居るのかが分からないのでこのままでは八方塞がりだ……まさかとは思うがゴンベエは何処かに飛んでいったテオドラの気配を追っているのだろうか。ゴンベエは時間を越える時に使ったオカリナとは別のオカリナを吹くと私達は竜巻に包まれて気付けばアルディナ草原にいた。

 

「お前、なんでもありなんだな」

 

「そこまで万能じゃねえよ……流石はドラゴン、領地をひとっ飛びだな」

 

 ザビーダ様がゴンベエの力に感心していると、テオドラがやってきた。

 ゴンベエはアイゼンにチラリと視線を向けて手を出すなと言うとアイゼンは一先ずは下がってくれる。

 

「いくぞ、お前等!!」

 

 ペンデュラムを紙葉を槍を剣を構える。

 私の本来の武器は槍だが、今はこの剣の力に頼るしかない。この剣に込められた力と新しく覚えた技の相性はいい。目を閉じ、ドラゴンから発する穢れを感じ取る。さっき感じた穢れ以上の不快感を感じる……だが、だからといって逃げるわけにはいかない。

 

「空裂斬!!」

 

「虚空閃!」

 

 剣と槍では些か違うがやることは同じだ。

 ゴンベエが使っていた技を私が、エレノアは虚空閃を使うとドラゴンは弾き飛ばされて辺りに溢れていた穢れは散っていく。

 

「っ……戻らない」

 

「まだだ!まだやれることはあるだろう、ライフィセット、今ここで限界を越えろ!!」

 

 ドラゴンに対して攻撃しても戻らなかった。この力を持ってしてもドラゴンを元に戻すことは出来ない。

 エレノアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かび上げるがゴンベエが叫ぶ。まだ出来ることは、ライフィセットの浄化の炎の力が残っている。ライフィセットは浄化の炎を出そうとするが上手く出ない。そんなライフィセットにゴンベエは檄を飛ばす。

 

「僕はテオドラさんをザビーダを、助けるんだぁ!!」

 

 ライフィセットは身体の底から力を込めて白銀の炎を出した。

 白銀の炎は辺り一帯の穢れを焼き祓うがまだ安心は出来ない。浄化の炎を持ってしてもドラゴンを元に戻せないのを私は知っている。ライフィセットの出した白銀の炎をゴンベエから借りた剣に纏わせる。

 

「烈火空裂斬!」

 

 白銀の炎を纏った空裂斬をテオドラに向けて撃ち込む。

 テオドラの放っている穢れを焼き切り、暴れていたテオドラはピタリと動きを止めた……これは……。

 

「もう……」

 

「テオドラ、テオドラ!俺だ!ザビーダだ!!」

 

 今までと違い声を発するテオドラ。

 ザビーダ様は希望を見つけたと笑みを浮かび上げて自分の名を叫ぶ。

 

「……もういい……もう……殺し、て……」

 

 心の底からの叫びの返事はあまりにも酷いものだった




アリーシャとエレノアの術技

虚空閃

説明

アバン流槍殺法【空】の技、折れぬ信念を込めた闘氣を纏った一閃で邪悪な穢れを断ち切る技
最も難しい【空】の技を会得したのでアリーシャとエレノアは理論上はアバンストラッシュを使用可能になる。

アリーシャの術技

烈火空裂斬

説明

白銀の浄化の炎を纏った空裂斬。邪悪な穢れを浄化して断ち切る力を持つ

スキット 平等な関係 ※ネタバレもあるので透明にしてます

ゴンベエ「あぁ……やだやだ……あぁ……今からローランスに亡命していいか?」

ザビーダ「やめとけ、多分同じ事になるだけだ。それよりも前向きに行こうぜ、折角貰えたんだから楽しまなきゃ損だ」

ゴンベエ「あのな、オレは一般人でいいんだよ。人並みの幸せを掴めればそれで良くて現状が幸せで満足してるんだよ」

エドナ「一般人?貴方、鏡を見たことないの?貴方の何処が一般人っていうのよ、脱税者には相応しい身分よ」

ゴンベエ「くそぅ、このままだとなろうに出てくるやれやれとか言いながら助けるタイプの人間になってしまう」

アリーシャ「ゴンベエ、そんなに嫌なのか?」

ゴンベエ「オレはな、暴力で物事を解決するのは得意だけどそれ以外は平均か下の上レベルの人間なんだよ!土地の資産運用とか出来ねえんだよ」

 ベルベット「そんな大勢をやれって言ってるんじゃない6,7つぐらいの統治でしょう」

ゴンベエ「オレは天王寺の旦那や赤司みたいなセンスはねえんだよ……──って1番低いし権力を盾に色々と言ってきそうだ」

アイゼン「お前ならなんとかなるだろう……安心しろ、知恵ぐらい貸してやる。だが、今までみたいな暮らしはダメだ」

ザビーダ「少しはそれっぽくしとかねえとな……メイドさんでも雇うか?」

ベルベット「メイド……言っておくけど雇用するかどうかは能力を見て私が決めるわよ。容姿とかで選ばせないわ」

アリーシャ「ベルベットの眼鏡にかなう人が居るのだろうか?」

アイゼン「ベルベット基準になるとかなり採用試験は厳しいものになるな……集まらなかったらどうする?」

ベルベット「その時は……私がメイドにでもなろうかしら?」

ゴンベエ「いや……やめてくれよ」

ベルベット「なによ、私のメイド姿が気に食わないわけ?」

ゴンベエ「いや、見たいか見たくないかと言えば見たいけどさ、オレとベルベットは対等でフェアな関係性だ。メイドってのは従者の一種で、ベルベットは従者じゃない……メイドに家事を教える為にお手本として少しの間メイドになるのはいいけども、ずっとメイドをやろうとするのはやめてほしい。ベルベットは従者じゃないんだ……その一線だけは譲れない」

ベルベット「……じゃあ、せめてあんたの分の食事だけは作らせて」

ゴンベエ「おいおい、お前も食わないと。お前と一緒に食べればもっと美味くなる」

エドナ「お兄ちゃん、助けて!胃が甘ったるくなってきたわ!」

アイゼン「何時もの事だ……馴れるしかない」


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死神と約束

スペシャルスキットの続きとかも書きたいんだけどなぁ……短めです。


「な、なに言ってるんだよ!!」

 

 アリーシャの烈火空裂斬は見事な物だった。

 ぶっつけ本番で魔法剣みたいなのをやるとは諦めずに足掻いた甲斐があった。ずっと暴走した状態だったテオドラがオレ達に向かって話しかけてくれた。もういいともう殺してくれとザビーダに向かって頼み込んだ。

 意識が戻った事を喜び、叫んでいたザビーダは戸惑うしかない。必死になって生かそうとしているテオドラ自らが殺してくれと言っているのだから。

 

「テオドラ、聞いてくれよ!コイツ等、業魔になった人間を元に戻す力を持っているんだ。お前も意識を──」

 

「口を動かすな、体を動かしやがれ!」

 

 テオドラに嬉しそうに報告しているザビーダだが肝心のテオドラはまたまた意識を奪われたのかザビーダに向かって火の球を吐いた。

 流石にザビーダが死んでしまうのはマズイと鞭を取り出して、ザビーダをぐるぐる巻きにして火の球から助け出す。

 

「もう一度だ、もう一度今のをぶつけてくれ。テオドラがあんな事を言うわけがねえ、ドラゴン化して気が狂っちまって」

 

「いい加減にしろ!!」

 

 鞭から脱け出して、もう一度烈火空裂斬をしようと提案するザビーダ。

 与えたチャンスは一度だけで傍観していたアイゼンはザビーダをぶん殴った。

 

「お前等、無事……じゃないよな」

 

「ライフィセット、苦しければ私の中に戻ってください」

 

「だい、じょうぶ……せめて最後まで見届けさせて」

 

 烈火空裂斬なんて無茶な真似をしたからか、元々使いこなせていない白銀の炎を無理矢理引き出した為にライフィセットが限界が来ている。

 エレノアは器である自分の中に戻るように勧めるがライフィセットは最後まで見届けたい……例えそれが最悪な結果だとしても。

 

「ゴンベエ」

 

「マスターソードは返してもらうぞ」

 

 アリーシャはやれるだけのことはやった。だが、それでも助けることは出来なかった。

 意識を一瞬だけとはいえ元に戻すことが出来ただけで、それ以上は……多分やり方が違うかなにかが一手、足りないかのどっちかだ。最初で最後のチャンスを掴めなかったがこればかりは仕方がないことでアリーシャからマスターソードを返してもらう。

 

「子供を襲い、助けようとする奴すら殺そうとする……あの白角のドラゴンは誰だ?」

 

「……テオドラだ」

 

「なにがあろうとも生きる事を諦めないのがお前の流儀だ……足掻いて藻掻くのも1つの生き様なのかもしれない。だが、今のお前は生きていると言えるのか?」

 

 ザビーダはなにがなんでもテオドラを助けようと必死になっている。その姿を1つの生き様と捉えるかそれとも醜い姿と捉えるか、少なくともアイゼンには今のザビーダが生きているというよりはテオドラという枷に縛られて動くことが出来ていないように見える。

 

「今のお前はオレから見れば生きているようには見えない……テオドラもその事を理解している、だから言ったんだ」

 

「なんだと……」

 

 自分という存在に縛られないでほしい……2人の死神に出てくる母親も似たような事を思っていた。テオドラも似たような思いをしている。

 アイゼンはザビーダからジークフリートを奪い取り自分のこめかみに向けて発泡するとアイゼンの力が増した。

 

「ゴンベエ、もう見守る必要はない……思う存分にやれ」

 

「ま、少しぐらいはマジメにやるか」

 

 アイゼンは殺る気満々だが相手はドラゴン、ジークフリートのパワーアップを持ってしても殺せないかもしれない。

 暴力で物事を解決しないといけないのは心が痛むがザビーダとテオドラ、両方を助けるには……誰かが汚れ役を引き受けないといけない。アイゼンはテオドラがザビーダにとってどれだけ重要な存在なのか知った上で殺す、汚れるつもりだ。

 

「黒龍二重の斬」

 

 どういう原理で空を飛んでいるかは不明だが、翼はあるので翼を剥いでおく。

 2回軌道が変化する無明斬りこと黒龍二重の斬でテオドラの穢れで出来た翼を斬り落とした。

 

「下がっていろ」

 

 地面に落ちるテオドラ。

 ベルベット達が加担しようと武器を取り出すのだがアイゼンが武器を納める様に言う。

 

「よせ、テオドラを殺したらテメエを一生許さねえ!」

 

「だろうな」

 

 ザビーダが許さないことぐらい、アイゼンは百も承知だ。

 それでもアイゼンは殺すと拳を構えて、テオドラに強烈な一撃をお見舞いした。

 

「あああああっ!アイゼン、テメエ……」

 

 会心の一撃と言っていい程の一撃がテオドラに叩き込まれた。その一撃はテオドラを殺すには充分な一撃でザビーダはアイゼンを強く睨みつけながら近付くのだが、最後の悪足掻きなのかテオドラは強い穢れを周囲に発する。

 

「ぐ、ぁああああ!!」

 

「アイゼン!」

 

「来るんじゃ、ねえ!」

 

「ったく、締りが悪いな」

 

 穢れに飲み込まれるアイゼンとザビーダ。ライフィセットは白銀の炎を出そうとするのだがガス欠な事には依然として変わりはない。

 ここはオレが動くしかないとアイゼンとザビーダの間ぐらいに入って地面を強く叩く

 

「ディンの炎」

 

 ライフィセットとはまた異なるドーム状の浄化の炎を広げる。

 浄化の炎はアイゼンとザビーダを焼いて2人に纏わりついていた穢れを取り祓った。近くにいたテオドラにも命中し、テオドラは光の粒子となって消え去っていった……これ、オレがトドメを刺したとか言われねえよな?

 

「何故死神の呪いを解こうとしなかった?」

 

「オレにあいつの心臓を食わせたかったのか?」

 

「質問に質問で返すんじゃねえ」

 

「……死神はオレにかかった呪いだ。そしてドラゴン化は全ての聖隷にかかった呪いだ」

 

「さっきの穢れ……アレはお前の穢れか」

 

「ああ、オレの呪いの進行はもう既にはじまっている」

 

 アイゼンは自覚している、このまま行けばドラゴンになることを。

 

「海賊達と離れればちっとはマシになるだろう」

 

「オレはアイフリード海賊団副長アイゼンだ。呪いに舵を奪われるくらいならばドラゴンの道を選ぶ」

 

 それでもアイゼンは流儀を曲げない。それがアイゼンだから……でも、それで悲しむ人は1人いる。

 

「ただ、大切に想う者がドラゴンになった自分に囚われるのは……怖い」

 

「大事なものに気付けなくなったテオドラを、俺を救ってくれたんだな……殺すことで……なによりも人を傷付ける事を嫌い、誰よりも人を愛していた優しい女だった」

 

「……そうか」

 

「殺すことが救いになるヤツがいる……認めたくねえよ……でも、それでしか助からない……あんたにも自分の命を捧げて救いたい守りたい奴が居るんだな」

 

「……妹だ」

 

「エドナ、様……」

 

 オレとアリーシャは知っている。アイゼンがどうなるのかを、アイゼンの妹であるエドナがどんな道を選ぶのかを。

 エドナは……多分、アイゼンの思いを知らないだろうな。手紙で色々とやり取りはしているけど、ホントは側に居てほしいと望んでいるのだから。

 

「いい女か?」

 

「早咲きの花の様に賢いしっかり者でな。よくオレをからかいやがる……ホントは泣き虫で根はしっかりとした子だ」

 

「そうか……仲良くしたいもんだ。俺の嫁候補にしたいもんだ」

 

「テメエ!!」

 

「心配するな、全部あんたを殺した後だ……殺すことが救いになるかもしれねえ。そう割り切ったってよ、俺はテメエを許すことが出来ねえ。テオドラの敵討ちだ。ドラゴン化したテメエを……殺す」

 

「情けないな、おい」

 

「なに?」

 

「そこはよ、ドラゴン化したアイゼンを元に戻すって言ってやれよ。解けない筈の呪いを解除して、嘲笑ってやれよ。お前は流儀だなんだと自分勝手な事を抜かして助ける道を諦めさせようとした、助けれた筈の命を救わずに見捨てたクソ野郎だって……まぁ、オレが1番言っちゃいけないことか」

 

 あくまでも見るだけに徹していたオレが本当にどの口からどの目線から言ってるんだよ状態だ。

 それでもまぁ言っておかないといけない。最低な言葉だけどそれでも言わないと……諦めるなと。

 

「ゴンベエ……ありがとよ」

 

「なにがだ?」

 

「殺すことも救いかもしれねえ、最初からコレしか道がねえってお前は知っていた。それでもお前は俺に足掻くことを許してくれた、アメッカに力を貸してくれた……」

 

「別に恩義を感じるものじゃねえし、お前はきっとこういう。なんであの時にこの力を貸してくれなかったって……それでもオレに恩義を感じているなら、オレにも足掻く時間と権利をくれよ」

 

「ゴンベエ、それは……」

 

「殺すことが救いになる?馬鹿を言っちゃいけねえ、殺してしまえばそこで終わる。負の連鎖を食い止める為に見えて、より鎖を強固にしてしまう。ならば誰かが救いの手を差し伸べて笑うしかねえ……手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔するなんて事を何処かのヒーローが言っていたからな」

 

 オレはめんどくさがっていてなにもしないクソ野郎だ……ホントにどうしようもないぐらいに、秩序を持った悪人だ。

 

「アイゼン、あんたがあんたでなくなったとき、俺はあんたを嘲笑いに来てやるよ」

 

「……いいのか?」

 

「ああ、フィルク=ザデヤ【約束のザビーダ】の名にかけてな」

 

「ウフェユムー=ウエクスブ……それがオレの真名だ」

 

「覚えておく」

 

 アイゼンはザビーダにジークフリートを返した。真名を交換し合った2人には奇妙な絆が生まれている。

 

「足掻くのも藻掻くのも生きること、でも殺すのも1つの答え……生きるって難しくて哀しい事なんだね」

 

「悟りを開く為に深く考えるのならそこで悩めと言う。でもお前はお前の考えがある筈だ……その道を歩めばいい。それが生きるって事だからな」

 

 ドラゴン化も殺さない道ももしかしたら何処かにあるのかもしれない。

 生きることの意味について改めてオレやライフィセット、アリーシャは考えさせられた。この喧嘩があったからこそザビーダは殺すことが救いになると思っている……まぁ、諦めたとも取れるがな。気分はどちらかといえば最悪だってのにこんな時に綺麗に虹が掛かっている。

 

「じゃあな」

 

「何処に行くの?」

 

「風が教えてくれる……ああ、そうだ。シルバの事を伝え忘れてた……あいつは何時かお前等に恩を返したいから早くアルトリウスをぶっ飛ばしてくれってよ」

 

 アルトリウスをぶっ飛ばしたら、オレとアリーシャは元いた時間に帰るからそれは無理っぽそうな話だな。

 ザビーダは少しだけ悲しそうな背中を向けてオレ達の元を去っていく……恐らくだがこの時代ではもう出会う事は無いだろう。

 

「少し休んでから帰るぞ」

 

 風のオカリナを吹けばメイルシオへとひとっ飛び出来るが色々とありすぎて疲れてしまった。

 ここから1番近い街であるストーンベリィに向かい、一休みをするのだが血翅蝶の一員がオレ達のところにやってくる。

 

「アイゼンさん、異大陸から奇妙な宝箱が打ち上がったみたいです」

 

「奇妙な宝箱だと?」

 

「鍵がついているわけでもないのに開かなくて、力を失っていない一等対魔士達が数人力づくでこじ開けようとしたらしいのですが開かないそうで」

 

「……その宝箱は何処にある?」

 

「マーナン海礁です」

 

「ゴンベエ、ひとっ飛び頼めるか」

 

「行けるけど、開けられませんでしたのオチだけは勘弁してくれよ」

 

 人使いが荒い死神だこと。

 オレ達は風のオカリナの力を使い、マーナン海礁へと向かうとあっさりと噂の宝箱を見つけた。

 

「ふん!!……ダメだ、ビクともしない」

 

 アリーシャが宝箱を開けようとするもビクともしない。

 どちらかといえば力のある方のアリーシャがビクともしないとなるとこの宝箱はなにかしらの術かなにかが施されている。

 

「イフタム・ヤー・シムシム……違うか」

 

「その宝箱は言葉を聞かせると開く仕組みになっている……前に開けた時と同じで、異大陸の言葉で【富】を現す言葉……バンエルティア」

 

「開いた!……中には、本が入ってる」

 

「なんじゃ。異大陸の宝箱と言うに、もっとぶっ飛んだ物でも入っておると思ったぞ」

 

 ぶっ飛んだものって、仮面ライダーの変身ベルトでも入ってるのか。

 ライフィセットは宝箱の中に入っていた本のページをペラペラと開いて内容を読んでいると驚く。

 

「これ、ジークフリートの研究成果だ!」

 

 読めなくもない古くて汚い字だが、本にはジークフリートについて書かれていた。

 

「アヴァロスト時代の遺物と思われるジークフリートは内蔵された術式によって霊力の操作を可能とする。一般的には撃ち抜いた対象の霊力を増幅させる装置として認知されているが、これは正規の機能を起動・補助する為の能力に過ぎない」

 

「おいおい、パワーアップするだけでも充分な力だってのにそれはおまけって……他になにがあるんだ?」

 

「えっと……そもそもでジークフリートは対ドラゴン用の兵器だと推測されてるみたい」

 

「……まぁ、うん」

 

 ジークフリートって名前だから、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)であってもなんらおかしくはないな。

 

「その本来の機能は意志の弾丸を撃ち込み特殊な効果を発動することである。霊体結晶の弾丸は込められた込められた意志によって異なる複数の効果を発揮する。力の結び付きを断つ弾丸や一時的に穢れの影響を断つ弾丸等が確認されている」

 

「……そうか。ライフィセット、今度ザビーダに会ったらこの事を教えてやれ」

 

「いいのですか?穢れを断つ弾丸なんてそれこそ貴方に必要な物で」

 

「オレには必要はない……なによりもジークフリートはもうザビーダの物なんだ」

 

「そっか……うん、ザビーダに会ったらこの事を伝えるよ」

 

「伝えるのは良いけど、肝心のその弾が何処にあるのかわかってるの?ジークフリートって異大陸の物なんでしょう」

 

「アイツならば見つけるさ、何十年何百年かけてでも」

 

「……まぁ、見つかったら見つかったで酷い使い方をするがな」

 

 ザビーダは恐らく力を断つ弾や穢れを断つ弾を手に入れる。

 そしてアイゼンの様に殺すことで救う道を選ぶ。きっとザビーダは今日から現代に至るまでに酷い地獄を見てしまった、だから救える力があったとしても汚れ役となって殺す道を選んだ……生きることが流儀の奴を殺すことが救いと言わせるとはどんな地獄を歩んだのか、気にはなるがそれを知るのは現代に帰ってから。ともあれこれで現代で起きた過去のオレ達がやった事の殆どが回収出来た……まだ謎が残ってるけど、それもその内解けるだろう。




スキット やるかやらないか

アリーシャ「ここであの時の話を……何時かはライラ様にこの話を話して、ライラ様は私達にお伝えするのか」

ライフィセット「なんの話をしてるの?」

アリーシャ「ゴンベエがしてくれた話を前に聞いたことがあったんだ。あの時は意味がよく分からなかったが、今ならば話の意味が深く分かる」

ライフィセット「そっか……でも、僕あんな終わりは嫌だな。医者も子供も母親も誰一人報われないなんて酷い、もう一人の殺す医者だって」

アリーシャ「酷いか……あるべき形や摂理を無理矢理曲げてしまっているのが人間の背負いし業かもしれない……だが、何時かは私達も似たような状況に迫られるかもしれない」

ライフィセット「似たような状況?」

アリーシャ「例えばベルベットの心臓が病に侵されてしまった。治す薬は存在しないが、自分の心臓を移植すれば治ると言われて……どうするか」

ライフィセット「……僕は……3つ目の答えを探す!」

アリーシャ「3つ目の答え?」

ライフィセット「自分もベルベットも助かる、そんな答えが世界の何処かに僕が知らないだけである筈だよ!だから僕はその答えを探す」

ゴンベエ「何処ぞの科学者が言っていた答えと似たような答えを出したか……その道が1番険しい道で、残酷な現実だらけだぞ。いいのか?」

ライフィセット「うん……僕は逃げたくないし、諦めたくもない。もしその時が来たのなら絶対に見つける」

ゴンベエ「結局のところ、やるかやらないかか……オレには選べない道だな」


スキット 先導者と笑顔。

アリーシャ「……ザビーダ様は生かす流儀を持っている。その思いは間違いではない……でも、現代では殺すことで救われる奴も居るという考えに至った……アイゼンと色々とあったが、それでも……良くも悪くも変わってしまうものなのか」

?????「なんや暗い顔しとるな」

アリーシャ「な……なんて格好をしているんだ!?」

?????「これは俺の仕事衣装や」

アリーシャ「殆ど裸じゃないか!」

?????「もう男の裸を見た程度で赤くなったらアカンで……それよりもえらい暗い顔をしとるな。暗い顔をしとったら運気まで悪くなる、もっと楽しそうにしとかんと」

アリーシャ「楽しそうに……今日ここに至るまでに色々とあった。私は成長する事が出来た筈だが、代わりに大事ななにかを失った気がする」

?????「なら取り戻せばエエやん」

アリーシャ「口で言うのは簡単だが、私が失ったものは」

?????「だからこそや、これから険しい道を歩むんやろ。だったらソレは持っとかんとアカン。前を走って先導者になったりする人間が険しい顔をしとったら自分が歩んでいる道が苦しいもんやと思われる……笑顔は大事やねんで」

アリーシャ「笑顔……マオクス=アメッカ(笑顔のアリーシャ)

「次回、サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達その6」

ゴンベエ「またとんでもねえ人が飛ばされてきたな……」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その6(前編)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから


「……はぁ……」

 

 ザビーダとテオドラと色々とあったその日の夜のこと。

 拠点であるメイルシオに戻り、もうすぐ寝ようとした頃にアリーシャは大きなため息を吐いた。

 

「浮かない顔だな」

 

「……アレだけやっても救うことが出来なかった」

 

 テオドラを戻そうとアリーシャはライフィセットと必死になっていた。

 邪悪な穢れを断ち切る【空】の技である虚空閃を会得し、更には火事場のクソ力の容量でライフィセットは白銀の炎を出した。穢れを焼き祓う浄化の炎と穢れを断ち切る【空】の技である空裂斬を掛け合せた烈火空裂斬なんて技をやった。

 その結果は失敗に終わった。テオドラの意識を取り戻す事だけは出来たが肝心のテオドラを元に戻すことは出来なかった。足掻いて藻掻いてやれるだけのことをやったが成功でなく失敗に終わった。落ち込むなとは言えない。

 

「ザビーダ様はこれから殺す事を救いという考えを受け入れようとする。そういった考えもあるというのは今回の一件で分かった……だが、受け入れたくはない。殺すことが救いだとは思いたくはない。その為には殺すこと以外での救いの道を貫いて結果を示す事が大事なのに、なにも出来なかった」

 

「このまま行けば現代にオレ達は帰る。現代ではザビーダは殺しを救いと考えていて更にはアイゼンはドラゴン化している……ザビーダはアイゼンを殺そうとしていて、エドナはアイゼンを救う方法を探すのを条件にスレイに協力している。しかし現代の完成された浄化のシステムでもドラゴンを元に戻す事は不可能だと言われている」

 

 故にザビーダはアイゼンを殺す。アリーシャはそれを間違いだと言いたいがしかしそれをどうすることも出来なかった。マスターソードを用いて浄化の炎を纏った空裂斬でテオドラを斬っても元に戻すことが出来なかった。

 

「どうすることも、出来ないのだろうか?」

 

「暗い顔すんじゃねえよ、もっと前向きにならねえと」

 

「……今の私には無理だ……この槍にゴンベエの剣と同じ力を込めても結果は同じ」

 

「そうだな……」

 

 アリーシャの言うとおり、アリーシャの槍に地神の唄と風神の唄の曲を込めて退魔の力を得たとしても結果は同じだろう。

 四方八方塞がりな状態だ……アイゼンを殺したら、アリーシャが悲しむ。エドナも悲しむ。でも、エドナの心を縛る鎖から解き放つ事が出来る……諦める事も時には大事だが……さて、どうしたものか。今回は過去だからと一線を敷いていたが……ホントにどうするか。

 今のアリーシャに笑顔になれよと言うのは酷すぎる言葉だが、アリーシャは笑顔が似合っている。けど、笑うことを無理矢理強要するのは間違っている。ホントにこういうのは苦手だな、オレは。

 

「頑張れ諦めるなもっと努力しろなんて酷い言葉は送りたくないし……でも、頑張るしかねえ……ん?」

 

「どうした?」

 

「いや……なんか感じた」

 

 なにかは分からない。でも、今なにかを感じた。別世界からの干渉的なのを感じた。

 なんだろう……よく分からないが、なんだろうな……う〜ん、謎だ。

 

「きゃあ!」

 

「大丈夫か!」

 

 四聖主を叩き起こした為に起きた地殻変動かなにかかと直ぐにネールの愛を発動してアリーシャを抱き締めた。

 

「ゴンベエ」

 

「大丈夫、そこまで揺れは酷くはない」

 

 花瓶が倒れるとかそう言うのは無い、しかし心臓には悪いし万が一がある。

 地震ってのは何時起きるのか分からないし、どれくらいの規模なのかも分からない……。

 

「お前等、何時まで抱き締めあってるんだ」

 

「チ、チヒロさん!?」

 

 地震が収まったがまだなにかあるかもしれないと警戒をしているとベッドの上に何時の間にやら黛さんがいた。

 黛さんは相変わらずの無愛想な顔でどうでもよさげな声を上げており、アリーシャは顔を真っ赤にしてオレから離れていった。

 

「チヒロさんがここにいるって事は」

 

「また仏関係か」

 

「全員、無事か!!」

 

 地震が収まったのでオレ達の安否を確かめにアイゼンが部屋に入ってきた。

 取りあえずはオレとアリーシャは無事で何処か怪我をしたとかは無いことを伝える

 

「お前はチヒロ……ということはまたティル・ナ・ノーグとかいう世界から干渉を受けたのか」

 

 今回で6度目となるので状況を飲み込むのは早いアイゼン。黛さんは大きく欠伸をして眠そうな顔をしている。

 

「眠いから寝ていいか……見た感じ、こっちも夜なんだろう。寝ようって時に飛ばされたんだ」

 

「仏、出てこい仏!」

 

 時刻は既に夜で眠いのは分からなくもないが黛さんがここに居てはならない人である事に変わりはない。

 とりあえず仏を呼び出すのだが仏は一向に出てくる気配はない。今回はジュード達と違い仏関係の事なので出てきてくれないと困る。

 

「【本日の営業は終了しました】……役所の窓口か!!」

 

 モクモクと雲が現れると【本日の営業は終了しました】のプレートだけが出てきた。

 そりゃあ仏達にも色々と都合があるのは分かるのだが、仏のミスなんだから時間外労働しろよ。

 

「仏の奴、今日は意地でも出てこねえみたいだな」

 

「なら休ませてくれ、オレは疲れてるんだ」

 

 黛さんはそういうとオレ達が使うベッドの上を占拠した。

 目を閉じて本気で眠ろうとしており、無理に叩き起こせば怒られる。

 

「仏も出てこないし、黛さんもこう言ってるし……寝るか」

 

 オレ達も眠いのには変わりはない。

 黛さんにベッドを占領されているので床に眠ることになるのだが、それぐらいは気にしない。

 

「……チヒロの奴がこの世界に流れ着いたのならば、例によって他の誰かもこの世界に流れ着いたんじゃないのか?」

 

「あ〜…………大丈夫だろう」

 

 異世界に飛ばされたとはいえ転生者だ。

 黛さんみたいな突然変異種の転生者でない限りはどんな世界でも生き抜くことが出来る様に鍛え上げられている。余程の事が無い限りは大丈夫な筈だ……頼むから櫻井さんがこの世界に来ていない事を祈ろう。あのグランドクソ野郎がこの世界に来ていたら、ホントにロクな事にならない。あの野郎どうしようもないクズだからな。

 他にも異世界からやってきてるんじゃないかとアイゼンは心配するものの、姿が何処にも見当たらないし仏が導いてくれないのでどうしようのない事だととりあえずは今日は寝る。

 

「仏の奴、出てこねえな」

 

 特になにか起きるわけもなく朝がやってきた。

 黛さんは何事もなくベルベットの作った朝食をいただいている。この人、ホントにブレないから凄い。因みにベルベット達は黛さんに驚いてはいるが6回目なので馴れたものだと驚きはしたがそれだけである。人間、馴れて怖いよな

 

「仏が出てこないと元の世界に戻る事が出来ないから、早いところ出てきてほしいんだが……オレも意外と暇じゃないんだ」

 

「でもその前に黛さん以外に流れ着いた人に会わないと……お!」

 

 噂をすればなんとやら。

 仏が出てくる前触れである雲が天井に出現し、例によって佐藤二朗似の仏が出てくるのだが難しい顔をしていた。

 

「仏は、何処に……」

 

「アメッカ、いい加減に見えるようになれよ。黛さん、なんか持ってない?」

 

「コレならあるぞ」

 

 アリーシャは相変わらず仏が見えないので黛さんになにか持っていないかと聞けばコードギアスのゼロの仮面を取り出した。

 だからなんでこんな物を持っているのかゆっくりじっくり話し合いたいが、無かったら仏が見ることは出来ないので気にしている場合じゃない。

 

『え〜ゴンベエさん、黛さん…え…あ、はい、うん。次の迷い人はですね、ねこにんの里に飛ばされているので迎えに行ってください』

 

「今回は事務的ですね」

 

 何時もならばくだらないやり取りをオレ達と繰り広げる仏4号。

 何処か弱々しい感じでエレノアは若干心配をしていると仏の前にスーツを着た鬼達がカメラやマイクを持って仏を囲んでいる。

 

『仏4号、今回の転移騒動ですが全ては貴方が地獄の釜の蓋を開け忘れたとの事ですが』

 

『部下に命じたと言っていますが、本当は忘れていたんじゃありませんか!』

 

 おい、記者会見を受けてるぞ。

 今回の一連の騒動について仏は責られており、やっぱり仏が原因で今回の騒動が起きていたか。

 

『え〜その件に関してはですね。私もあの時は激務だった為にですね言ったかどうかと言えば』

 

『部下の獄卒達は貴方がやるからと言う証言はハッキリと聞いているそうですが!』

 

『そうですね。もしかしたら言ったかもしれません』

 

「あいつ、とことん逃げるつもりね。最低の屑だわ」

 

 取材陣に囲まれている仏は言い逃れをしようとしている。

 その姿はホントに仏なのか疑わしいぐらいでありベルベットはゴミを見るような目で仏を軽蔑していた。

 

『たった今、入った情報ですがこの時間軸のベルセリアが別世界のティル・ナ・ノーグに具現化されたというのは本当ですか!』

 

『養成所を経由していない異界の住人が紛れ込んでいるとの噂ですが、真偽の程は』

 

『その件に関しましては……え〜ただいま調査中でありまして、別の仏に任せています。近い内にシッダールタ様が向かうかもしれません』

 

「仏、オレは帰れるんだろうな。何時もみたいに迎えを寄越せよ」

 

『はい、今回はコチラも忙しいのでハンターを寄越します。お二方、ねこにんの里に出向いて迷い人を回収してください』

 

「……っち」

 

 さっさと元いた世界に帰りたいのか黛さんは舌打ちをした。

 何時もながら申し訳無い。あんた完全に部外者だってのに巻き込まれてしまってて……ホントに申し訳無い。取材陣に囲まれている仏は迷い人の居場所を教えると仏は消え去っていった。

 

「ねこにんの里に行くぞ」

 

「行くって、ねこにんの里はねこにんが特殊な術で連れてってくれる秘境で普通の手段じゃ行けないよ!」

 

「まぁ、ワシ等は顔パスじゃから自由に行き来が出来るがのぅ」

 

 ねこにんの里に行くことが決まったので足を運ぼうとする黛さんだが、ねこにんの里は一見さんお断りだ。

 オレ達が居ればねこにんの里に行くことが出来るのでついていく事になり、宿屋を出るとそこにはねこにんがいた。

 

「ねこにん、ちょうどよかった」

 

「それはこっちの台詞ニャ!おニャーさん、楽器を弾くことが出来るのニャろ!楽譜とかを書けるニャ?」

 

「まぁ、書けるか書けないかで言えば書けるけども……どうしたんだ?」

 

「ヨコヅナが楽譜を書ける人を大至急探しているのニャ!!」

 

「よこ、づな?」

 

 なんだそれはとライフィセットは首を傾げている。

 

「確か相撲取りの頂点の称号、だった筈だ」

 

 ロクロウは横綱について覚えている事を話す。一応はその認識で間違いはないのでオレも黛さんもなにもいわない。

 ねこにんの里に横綱がやってきた……横綱、横綱かぁ……誰が来たんだろうか。

 

「このままだとねこにんの里が滅びてしまうニャ!」

 

「それと楽譜が書ける奴とどういう関係があるんだよ?」

 

 話の接点が分からないぞ。

 

「とにかくみニャをねこにんの里へと案内するニャ!!」

 

 オレ達が行くとは言っていないが無理矢理にねこにんはねこにんの里へと転移させる術をぶつける。

 元々向かうつもりだったのでその術を受けるとねこにんの里にやってきた……ダークかめにんに鉢合わせするとかねえよな?アイツ、いい思い出が無いから出会いたくないんだが。

 

「こっちにゃ!」

 

 ねこにんもついてきた様でオレ達をねこにんの里の奥へと連れて行く。

 今のところはなにも異変は見当たらないがなにか異変は起きているのだろうと気配探知をしてみると尋常でない神聖な力を感じる。

 

「連れてきたニャ!!」

 

「おぉっ、やっとか!」

 

「っげ……」

 

 大銀杏の髷を結っている身長190cmぐらいの大柄どころか太っている体型の男……容姿が火ノ丸相撲に出てくる天王寺獅童そっくりな男がそこにはいた。オレ達がやってきた知らせをねこにんから聞いて喜ぶのだが、黛さんは嫌そうな顔をしている。

 

「なんて格好をしているのですか!?」

 

 天王寺の旦那の姿を見て真っ先に声を上げたのはエレノアだった。天王寺の旦那は服を着ておらず、まわしをつけただけのお相撲さんの姿であり純粋なエレノアには見るのが恥ずかしいのだろう。アリーシャも見ないように目元を手で隠している。

 

「なにって力士の仕事衣装や……ま、普通の人にはデブが裸に近い格好になってるって思っとるだけやろうが……神聖な格好やねんで」

 

「何処がよ、殆ど裸じゃない」

 

「いや、違う。よく見てみろ、コイツの体は太っている様に見えて筋肉の塊になっている。相当鍛え上げている証拠だ」

 

 天王寺の旦那の体をよく見るロクロウ。一見、脂肪だらけの緩んだ体に見えるが実は物凄く筋肉質な肉体に仕上げられている……やべえな、よりによってこの人が飛ばされるとかホントにやべえよ。

 

「ヨコヅナ、相撲取りの頂点の称号を持っているというのはまんざら嘘ではなさそうだな」

 

「俺はまだ横綱やないで。横綱の昇進が確定した大関や」

 

 コイツは強いと感じるアイゼンに対して天王寺の旦那は謙遜する。

 この人、サラリと言っているが日本人で横綱になるのって大偉業なんだけどな。

 

「自己紹介まだやったな。俺は天王寺、天王寺麟童。見ての通り力士をやっとる。四股名は童子切で、位は大関や」

 

「おつかれさんでございます。自分はナナシノ・ゴンベエと申します」

 

「ゴンベエが頭を下げた!?」

 

 自己紹介してくる天王寺の旦那に対して頭を下げて挨拶をするとライフィセットは驚く。目上で敬意を表する事が出来る相手、無礼を働くわけにはいかない。オレだってやろうと思えばこういう感じの態度を取ることは出来るんだよ。

 

「そこまで固くなって畏まらんくてもええで、砕けた感じで頼むわ」

 

「じゃあ、そうさせてもらう……黛さん、逃げないでくれ」

 

「おぉっ!黛さん、めっさ久しぶりやん!!」

 

「……っち」

 

 影が薄い黛さんの存在に天王寺の旦那は気付いた。

 黛さんと顔見知りであり、百年以上の久しぶりの挨拶を交わすのだが黛さんは嫌そうな顔をしている。

 

「酷い、そんな舌打ちせんといてや」

 

「お前と赤司が絡むと毎回ロクな事にならねえんだよ……赤司の野郎は来てないだろうな」

 

「あのアホ来てへんで」

 

「……アカシって?」

 

「天王寺の旦那の永遠のライバル。西の天王寺、東の赤司って言われるぐらいに仲が悪くてな……」

 

 オレが別の世界に飛ばされた際に赤司に出会ってるって言えば激怒するから黙っておこう。

 ベルベットの疑問に答え、天王寺の旦那は黛さんに懐かしむのを終えると真面目な顔をする。

 

「天王寺の旦那、ねこにんの里が滅ぶって聞いたけど……あんた程の人が解決する事が出来ないなんてなにがあったんすか?」

 

 異世界からの迷い人が天王寺の旦那なのは分かった。だが、それだとねこにんの里が滅ぶのと話が繋がらない。

 揉め事が起きたならば男らしく話を聞いて事態を解決する(おとこ)である天王寺の旦那が匙を投げる事をオレ達で解決する事が出来るのか?

 

「あっち行って来い」

 

 状況の説明を求めるのだが天王寺の旦那は答えてくれない。

 あっちに行けば分かると言うのでなにがあるのか確認しに行くと普通の住居ぐらいの大きさの魔物がいた。

 

「コイツをぶっ倒せばいいのね」

 

「いや、それなら問題は直ぐに解決出来る筈だ」

 

 天王寺の旦那は強い人で、暴力で解決出来るのならばオレ達に救援を要請しなくてもいい。

 ベルベットが戦う姿勢に入るので、止める様に言うと魔物が一回り大きくなった。

 

「黛さん、キングキシリュウオーを呼び出すことって出来ますか?」

 

「出来るか出来ないかで言えば出来なくもないが、コレはぶっ倒す倒さないの相手じゃねえ」

 

 あの大きさはもうロボットの1つでも出動させて戦わないといけないレベルだ。

 オレ達だけで倒すにしても普通に一苦労であり、前に黛さんがリュウソウケンとかを出してくれたので、キングキシリュウオーを呼び出せるか確認を取ると黛さんは険しい顔をする。

 

「そいつはサウンドワールドの住人だ」

 

「知っておるのか、チヒロ!」

 

「少しな……音楽に満ち溢れたサウンドワールドという世界が存在している。コイツはその世界の住人だ」

 

「なんだ魔物じゃないのか」

 

 黛さんの説明を聞くと何処か落胆するロクロウ。斬りたかったのか。

 

「別の世界の住人、そう捉えればいいのですか?」

 

「その認識で間違いはないんだが……」

 

「なにか問題でもあるのですか?」

 

 エレノアに言うべきかと頭を悩ませる黛さん。問題らしい問題といえば……あ、思い出した。炎神戦隊ゴーオンジャーに出てきたやつだ。

 

「周囲の雑音を拾うとどういう理屈かは知らないが巨大化する」

 

「え、じゃあ今大きくなったのって」

 

「ねこにんの里に流れる雑音を聞いてデカくなったんだろうな」

 

 ゴーオンジャーに出てきたサウンドワールドの住人を見上げるライフィセット達。

 今はまだそれほどではない大きさだが何れはこのねこにんの里を踏み潰すぐらいの大きさにまで巨大化してしまう。なるほど、コレはねこにんの里が滅ぶかもしれない大ピンチだ。

 

「なにかないのですか!巨大化を食い止める方法は!」

 

「あるで」

 

 このままではねこにんの里が滅んでしまう。それだけはあってはならないとアリーシャはどうにかする方法を黛さんに尋ねると天王寺の旦那が後ろからやって来る。

 

「サウンドワールドは音楽に満ち溢れた世界で、綺麗な歌や音楽を聞かせれば小さく出来るんや。俺、歌うことは出来るけど楽譜のオタマジャクシは苦手で……楽譜書ける奴を探しとってん」

 

「そうですか……ゴンベエ!」

 

「ああ、書けばいいんだろ……けど、それで安全とは言い切れねえぞ」

 

 オレに楽譜を書いてくれとアリーシャは言うが、オレが楽譜を書いたりしてそれを誰かが演奏したとしてもそれで巨大化を食い止める事が出来るとは限らない。

 

「綺麗な歌声を聞かせないと小さくは出来ない……おっと、こんな所にアイドルマスターシンデレラガールズの衣装がある」

 

「なんであるんやろうなー」

 

 わざとらしくアイドルマスターの衣装があるのを露骨にアピールする黛さんと天王寺の旦那。

 渋谷凛と双葉杏と諸星きらりのアイドル衣装だ……なんであるんだ?いや、ホントになんであるんだ?

 

「……嫌よ」

 

 アイドルマスターシンデレラガールズの衣装が何故あるのかはさておき、ベルベットは嫌そうな顔をする。

 

「それを着てねこにん達の前で歌えって言うんでしょう!絶対に嫌よ!」

 

「嫌ってそんな……このままやとねこにんの里が滅びる言うねんで!」

 

「それ3着なんでしょ。だったらマギルゥとアメッカとエレノアが着ればいいわ」

 

「大丈夫ニャ!他にも衣装は取り添えてるニャ!!」

 

 流石はねこにん、手際がいい。

 アリーシャにはこの衣装が似合うと72の壁こと如月千早が使っていたアイマスの衣装を持ってきた。

 

「な、なんだこの衣装は!スカートの中が殆ど見えてるじゃないか!」

 

 如月千早の衣装を受け取るとアリーシャは顔を真っ赤にする。チラリズムという男のロマンをアリーシャは理解してくれないか。

 とりあえずベルベットがしぶりん、マギルゥが杏、エレノアがきらり、アリーシャが千早だな。

 

「アイドルってのは自分の容姿を売り物にしとるんや……皆、絶世の美女やから似合うで」

 

「なんで私達が歌うことに、あんたが歌いなさいよ」

 

「そら俺も歌うけど、俺一人じゃ限界があるから他の人にも歌ってもらわんと」

 

「だったらロクロウ達に歌ってもらうのはどうだ?」

 

 アイマスの衣装を着るのはアリーシャも嫌なのか妥協案を出してくる。

 チラリとロクロウや黛さんに視線を送り助けてというのだが、気付いていない。

 

「俺は別に構わんが……チヒロ、ライフィセット、お前はどうする?」

 

「このメンツでマジラブ1000%歌うとか絶対に罰ゲームだ」

 

「アイゼンとチヒロさんを加えるだけでメンバーの平均年齢がエグい事になるよ」

 

 ライフィセット、お前も言うようになったな。

 

「こうなったら力ずくや。俺と勝負して勝ったら潔く俺の言うことを聞いてもらおうか」

 

 ほぼ全員が嫌がっていて話が中々に前に進まない。こうしている間にもサウンドワールドの住人は少しずつ巨大化していく。

 痺れを切らした天王寺の旦那は力技で物事を解決するに至った……やっぱオレの上位互換なだけはあるな。

 

「負けたら潔く諦めて俺等だけでどないかする、勝ったら歌ってもらうで」

 

「いいわよ、やってやろうじゃない」

 

「ベルベット……天王寺の旦那、オレより強いから気を付けろよ」

 

「……え?」

 

 そんなこんなでベルベット達は天王寺の旦那と戦うことになった。




スキット 大体アリーシャのおかげです(偏見)

天王寺「まさか異世界に来てライブをする羽目になるとは思わんかったわ」

ゴンベエ「そら予想できひんでしょう。あんなんが紛れ込んでるなんて誰が分かるんすか?」

「おい、素が出てんぞ」

ゴンベエ「別に、ここ日本やないんやから関西弁で喋っても方言の一種か変わった喋り方やと思われるだけや」

「そういうこと言ってると次の世界に転生した時に苦労するぞ。標準語は喋れる時は喋っておけ」

天王寺「まぁまぁ、黛さん。ここは無礼講と行きましょう。黛さんは大ベテランで方言を自由自在に扱える様になっとるかもしれへんけど、新米にはキツい」

ゴンベエ「あざぃまぁす!!」

天王寺「せやけど、美男美女が揃っててライブをやるのは……おもろいけど、なんか物足りんな」

「そうは言うが、このメンツでなにが出来る?歌は歌わないといけないから……ミュージカルとかか?宝塚レベルは無理だが面白いのが出来そうだ」

ゴンベエ「美男美女が揃っているからテニミュとかじゃなくて悪役令嬢的なのでどうすか?」

天王寺「なにを言うてんねん!ここは真の仲間追放物一択やろう!」

ゴンベエ「アレは面白いには面白いっすけど、他の方がいいんじゃ」

「バカ野郎、この世界だからこそ真の仲間追放物一択だ!」

ゴンベエ「……意味が分からん」

「お前は知らないだろうがな……アリーシャが居ないと真の仲間とか追放系のラノベが生まれる事は無かったかもしれないんだ」

天王寺「せや。あの子がおらんかったら、追放系が生まれなかったと言っても過言ではないんや。悪役令嬢物も面白いけど、この世界やったら追放系一択や!」

ゴンベエ「アリーシャってラノベのジャンルの立役者だったのか……」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その6(中編)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから


「タ、タイム!ちょっと作戦会議を取らせて」

 

「ええ〜……しゃあないな。時間無いからちゃっちゃと決めてや」

 

 天王寺の旦那とベルベット達が戦うことが決まったのだが、ベルベットは手をT字にしてタイムを取った。

 今から戦うというのにテンションが下がる事をやるんじゃねえよと思ってるとベルベットがオレの首根っこを掴んで天王寺の旦那から距離を取った。

 

「どういうことよ」

 

「……なにが?」

 

「あの丸出し男がアンタより強いって話!アンタより強い奴なんて居るわけ!?」

 

 ベルベットがグイッと顔を近付けて迫ってくる。

 オレが尋常でない程に強い事を知っているのでその現実を受け入れる事が出来ないのだろう。

 

「天王寺の旦那はな……う〜ん……なんて言えばいいんだろうな」

 

 そもそもで強さってのは人によって異なる。暴力という強さもあれば知略という強さもある。強いと決めるモノサシは人によって違う。

 ただ少なくともあの人はオレよりも強いとハッキリと言うことが出来る。あの人は童子切の二つ名に相応しい国宝級の強さを持っている。

 

「あの人は……殴り合いだったら現時点ではオレが負ける」

 

「現時点?」

 

「オレには積み上げて来たものが無いからな」

 

 天王寺の旦那はバトル物の世界とかではバチバチとバトルを繰り広げている。

 そうでない世界の場合は学生相撲で優勝して幕下の付出しの資格を得て相撲取りになって超スピード出世で関取になるとんでもない人だ。戦いに明け暮れていて取組時間が十秒程度の短く濃密な時を戦って戦って戦い抜いて横綱の地位にまで勝ち上がっている。それも1回や2回だけじゃない。

 

「スペックだけ言えばオレと天王寺の旦那は同じだが、慢心をする事はせず雑魚だろうがなんだろうが情報を集めたり相手がどういう風に成長するか未来予測をする。そうして作られる勝利で裏付けされた自信も持っているだけでなく人を引っ張る天性のリーダーシップのセンスを持ち合わせていて、マスコミへの受け答えはいい。性格だって悪くはない……ピープルズチャンプ、世間が待ち望んだヒーローの様な存在になりうる事が出来る素質を持ち合わせている」

 

 故に殴り合いでの戦いをしたら天王寺の旦那に勝つことが出来ない。

 今のオレには積み上げて来たものが無い。後、何回か転生しないと天王寺の旦那と同じ領域に立つことは出来ない。仮に出来たとしても天王寺の旦那と同じことはオレには無理だ。

 

「オレが千の敵を倒す事が出来る一騎当千の戦士ならば、あの人は千の敵を倒すだけでなく千の味方を鼓舞し万の力に変える事が出来る一騎当千の猛者だ……凄く分かりやすく言えばオレの上位互換だ」

 

「ゴンベエの上位互換……」

 

 アリーシャはチラリと天王寺の旦那を見る。

 天王寺の旦那は暇なのかねこにんに岩を持ってこさせると岩にてっぽうを撃ち込み、岩を凹ませた……どんだけ馬鹿力なんだ。天王寺の旦那がオレよりも強いという事は嘘でもなさそうだとベルベット達は認める。

 

「で、なにで勝負するん?」

 

「……そうね」

 

 天王寺の旦那と真正面から殴り合っても勝つことは難しい。

 あの人、転生特典とか無しでアレだけ出来て……転生特典、なにを貰ってんだ?

 

「殴り合いで勝負やったらこっちは剣武魔神になるで」

 

 オーガ封珠鏡もとい妖怪ウォッチオーガを腕に填める天王寺の旦那……ヤベえぞ、殴り合いで戦ったら確実に負ける。

 妖聖剣で切り合ったら確実に負けるから……ベルベット達はどうするつもりなんだろう。

 

「なにか勝負出来る物はないの?」

 

「コレとかどうニャ?」

 

 殴り合いは危険だと感じたベルベットはねこにんになにかないかを尋ねる。ねこにんは羽子板を出した。

 なんでこんなもんがあるのかを気にしていたらキリがない。ねこにんの里には何故か映写機もあるんだからな。

 

「どうやって戦うのよ?」

 

「この羽根を落としたら負けのシンプルな勝負だニャ!!」

 

「……これなら勝てそうね……」

 

 羽子板と羽根を受け取るベルベット。天王寺の旦那は勝負を了承し、羽子板を受け取る。

 

「こう見えても紳士やからな、レディファーストや。サーブ権は全部くれたる。5本先取の一本勝負、タイブレーク無しや」

 

 一戦目、ベルベットは天王寺の旦那と対峙する。

 結果は火を見るより明らか、嫌な予感しかしないのだがこのままライブを開催しないとねこにんの里が滅びかねないのでここは天王寺の旦那に勝ってもらうしかない。

 

「一撃で沈めてやるわ!カタストロフィ・スマッシュ!!」

 

 羽根を高く投げて、ダンクスマッシュの如く羽子板に叩きつけるベルベット。

 羽子板のラリーで戦うのに物理的に沈めようとしている。そういえばテニプリのゲームで、テニヌプレイヤーを育成するゲームがあったけど、あれ最終的にスタミナ0にしてボールをいかに叩きつけるかの別ゲーになってたな。

 

「ベルベット、流石にそれはやりすぎじゃないか!?」

 

 スマッシュの威力が明らかに殺しに来てる。

 アリーシャは声を上げるのだが、これは真剣勝負。どれだけ本気を出しても問題はない。天王寺の旦那は本気には本気で答える漢だ。

 

「見事やな、男と女やったらホルモンとかの都合上筋肉の発達が女の方が低い。この威力、早さ、重さ。普通の女やったら絶対に出すことが出来ひん……綺麗な花には棘があると言うのはホンマやな」

 

 天王寺の旦那はベルベットの一撃を褒める……ダメだ。

 

「だが、コレが全力やったらおしまいや。俺の壱式波動球と同じ程度やからな!!」

 

「うっ!!」

 

 ベルベットの渾身のカタストロフィ・スマッシュを天王寺の旦那は撃ち返した。

 息を吐くように、何事もなかったかの様に……今ので箔が付いてしまったな。

 

「先ずは俺のリターンエースからや……残り4回サーブ、撃ってこいや」

 

「残り4回、か」

 

 アイゼンは天王寺の旦那が残り4回で勝つ気でいるつもりなことに気付く。

 羽根が腹に返ってきたベルベットはお腹の痛みに耐えながらも立ち上がり羽根を手に取り、サーブの構えを取る

 

「カタストロフィ・スマッシュ」

 

「弐式波動球!!」

 

 ダメージを受けても立ち上がるベルベットに対して天王寺の旦那は手を緩めない。

 ベルベットも心を曲げずに真正面から立ち向かっていくが、天王寺の旦那は何事もなく撃ち返した。ベルベットは今度はお腹にくらわない様に羽子板で撃ち返そうとするのだが、羽子板はあっさりと弾かれて苦しい表情を浮かびあげる……

 

「お前、今ので手首が」

 

「大丈夫よ、右が駄目なら左でやればいいだけ」

 

 今ので手首が逝ってしまったのだがベルベットは諦めない。

 ベルベットは左手で羽子板を持ち、ねこにんに回収された羽根を受け取りサーブをする。ダメだ、さっきの右手でやった時と比べて威力が落ちている。

 

「参式波動球!!」

 

「災禍の顕主をナメるんじゃ、ないわよ!!」

 

 火の神依の様な姿となり、左腕を喰魔化させるベルベット。

 天王寺の旦那の参式波動球を喰魔化した左腕の上に乗っている羽子板にぶつけて撃ち返した。

 

「やるやないか……なら、これならどうや。(ろく)式波動球!!」

 

「ば、倍になったじゃと!?」

 

 3の次は4かと思えば倍の6が出てきた。

 陸式波動球をベルベットは撃ち返そうとするのだが、喰魔化した左腕すらも弾き飛ばす。

 

「まだ、よ……」

 

「折れへん心、見事やな。並大抵の事じゃ出来ひん、相当な地獄を歩んできて強靭な魂を得たんやろうな……せやから先に言っとくわ……俺の波動球は裏表合わせて216式まで存在しとる」

 

 立ち上がるベルベットに天王寺の旦那は絶望を与える。

 

「216……今、さっき撃ったのがレベル6ならばテンノウジさんはレベル216を撃つことが出来るのか!?」

 

「まぁ、うん……」

 

「そんな、レベルが違いすぎるっ!!」

 

 天王寺の旦那との圧倒的なまでの力の差を感じ取ったアリーシャ。

 しかしもう遅い、勝負は既に始まっていてどちらかが勝利しないと終わらない。天王寺の旦那は手を抜くことはしない。いきなりレベルを上げて拾式波動球を撃てばベルベットは返すことが出来ず遠くに弾き飛ばされた。

 

「どうする……まだやるか?」

 

「当たり、前じゃない……」

 

 飛ばされたベルベットの元に駆け寄るとベルベットは血を流しており蓄積されたダメージに苦しんでいる。だがそれでも立ち上がる。

 どんな事があっても折れないベルベットは強い人間だ……相手が本当に悪すぎて、どうあがいても勝てないけれど。

 

「ここから逆転させてもらうわ!!」

 

「悪いけど、逆転は許さへんで……百八式波動球!!」

 

 ちょっ、それはアカン!!

 天王寺の旦那はベルベットに逆転の一手を与えないとフルパワーの波動球を撃ってくるのでベルベットの前に立ちベルベットの羽子板を奪い取り、羽子板で受けるのだが羽子板がミシミシと悲鳴を上げて最終的には真っ二つに折れてしまいオレの腕に命中し、鈍い音をたてた。

 

「つぁあ!!」

 

「おい、大丈夫……じゃねえな。折れてやがる」

 

 痛い、滅茶苦茶痛い。こんな痛いのは何時ぶりだろうか。

 鈍い音をたてた腕は変な方向に曲がっており黛さんが側に駆け寄り、触診するが見事にポッキリと逝っている。

 

「どいて、僕が治すよ!」

 

「横入りすんなや……この勝負、俺の勝ちや」

 

「旦那の勝ちだ……っつう」

 

 見事なまでにポッキリと折れているのが幸いかライフィセットの治癒がスムーズに行く。

 ライフィセットはオレの折れた腕を治すと血に塗れているベルベットの治療に当たる。

 

「さて……なにで勝負する?このまま羽子板での勝負でもええで」

 

 コンコンと羽根をついて笑みを浮かび上げる天王寺の旦那。

 羽子板で勝負をしても絶対に勝つことは出来ない。エレノア達はどの様な勝負をするのか考える

 

「……一回勝負のあっち向いてホイはどうですか?」

 

「ええで、最初はグーでいくで。ジャンケンポンスタートは無しや……黛さん、頼んだで」

 

「ったく、仕方ねえな」

 

 あ、ヤバい。エレノアも負ける。

 この人達に手加減とか花を持たせるとかそういう概念は存在していない。

 

「「最初はグー!ジャンケン、ポン!!」」

 

 エレノアはグー、天王寺の旦那はパーを出した。

 

「エレノアが負けちゃった!」

 

「いや、ここは負けでいい。1回限りのあっち向いてホイならばあっち向いてホイを成功する確率は12分の1を引き当てないといけない」

 

 エレノアが負けてしまった事に慌てるライフィセットだがアイゼンが横で解説をする。

 確かにアイゼンの言うとおり12分の1を引き当てないといけないので一回限りのあっち向いてホイならばジャンケンで勝った方が有利だ……ただし、それはあの人が、黛さんが側に居ない場合だ。

 

「あっち向いて」

 

 天王寺の旦那は赤司の天帝の眼(エンペラーアイ)ほどではないが何千と戦って積み上げた常軌を逸脱した観察眼と経験則を持っている。

 それだけで天王寺の旦那があっち向いてホイに勝つ確率は6割だが、そこに黛さんの力が加われば話は別、10割、絶対勝利になる。黛さんはエレノアの事をジッと見つめてエレノアの視界に入る様にし……エレノアの視線を誘導していく。

 

「ホ」

 

「いかん、エレノア!チヒロを見るでない!」

 

 黛さんによる視線誘導(ミスディレクション)にマギルゥは気付いてエレノアに視線から逃れる様に言うがもう遅い。

 エレノアは天王寺の旦那の指に視線を集中してしまっており、天王寺の旦那の指に動きを合わせようとしてしまっている。

 

「イ!」

 

 黛さんの視線誘導(ミスディレクション)からエレノアは抜け出すことは出来なかった。

 エレノアは天王寺の旦那の人差し指の動きについていってしまい、あっち向いてホイに負けてしまった

 

「っ……参りました」

 

「ハッハッハ、どんなもんや」

 

「なーにがどんなもんやじゃ!チヒロにイカサマの手伝いをさせておったじゃろう!」

 

「ええ!ズルをしていたのですか!?」

 

「……なんの話だ?オレがイカサマをしたというのならばその物的証拠を持ってこい」

 

「ぐぬぬ……」

 

 あくまでも黛さんは視線を誘導しただけで直接エレノアになにかをしたわけじゃない。物的証拠の様なものは一切存在しない。マギルゥもその事を分かっているので悔しそうな表情をしている。

 

「で、次は誰が相手になるんや?」

 

「ワシはパスじゃ。別に歌って踊って馬鹿騒ぎするのは嫌いではないからのぅ……残りはアメッカだけ」

 

「わ、私か……えっと……」

 

 天王寺の旦那となにで戦うのかを考えていなかったのか戸惑うアリーシャ。

 羽子板でも勝てずあっち向いてホイでも勝つことが出来なかった……殴り合いでは絶対に勝つことが出来ない。女子力でも勝つことが出来ないし……なにが残ってるんだ?

 

「こういうのもあるニャ!」

 

「ほぉ……黛さん、パス!」

 

「オレかよ」

 

 ねこにんがバスケットボールとバスケットゴールを持ってきた。ホントになんでこんなものがねこにんの里にあるのか分からないが、これはチャンスだと天王寺の旦那は黛さんにバスケットボールを渡す。黛さんはめんどくさそうな声を出しながらボールを回す。

 

「選手交代だ、オレとの1on1だ」

 

「チヒロさんとの勝負……それならいけるかもしれない」

 

「黛さん、大分ナメられとるやないか……やったれ」

 

 アリーシャは黛さんとの1on1を受ける。

 黛さんのオフェンスからはじまる一本勝負、黛さんはねこにんからボールを受け取った。

 

「気をつけてください!チヒロの事だからなにかある筈です」

 

 エレノアは黛さんを警戒する。

 

「残念やけど阻止することは出来ひん……早いとか上手いとかそういう次元の話やないんや」

 

 天王寺の旦那がそういうと一同の視線は黛さんに集まる。

 黛さんは僅かながら笑みを浮かび上げており片手でボールを触れると消え去った。

 

「え!?」

 

「そのドライブは消えるんや……ホンマ、どういう原理でやっとるんやか」

 

「まだよ!ボールをゴールにシュートさえさせなければアメッカの勝ちよ!」

 

「っ、そうだ!!」

 

 ベルベットの言葉を受けてアリーシャは意識を戻す。

 左掌でボールを支え、右掌で上に押し出す独特のフォームに黛さんは入っておりアリーシャは黛さんの前に立ち塞がり、シュートを防ぐ為にジャンプをするのだが黛さんのシュートに触れる事すら出来なかった。

 

消える(バニシング)ドライブからの幻影(ファントム)シュート……生で見るのははじめてだが凄まじいな」

 

 どういう原理でやっているか一切見抜くことが出来なかった……流石は幻影の黛といったところだな。

 

「さて、コレで俺の全戦全勝で終わりやな」

 

 黛さんの勝利も自分の勝利にカウントする天王寺の旦那。それでいいのかと言いたいが、勝ちは勝ちでありいいことなんだろう。

 負けてしまったアリーシャは膝をついてアイドル衣装を取り出す

 

「こ、コレを着ないといけないのか……」

 

「アメッカ、落ち込むな。お前なら滅茶苦茶似合う」

 

「……でも、私は派手なのよりももう少し地味なのが」

 

「アイドルが地味な格好をしてどうするんだ、元々綺麗な女性なんだからもっと自信を持てよ」

 

「綺麗……ゴンベエから見て私は綺麗な女性なのか?」

 

「ああ、絶世の綺麗系の美女だ。スタイルも性格もいい非の打ち所がない女性だ」

 

「……けど、私には女子力が無いよ」

 

「女子力が無いなら一緒に学ぼう。目指せベルベットだ」

 

「……うん……」

 

「あいつ、素で言っとるんか?」

 

「まぁ、若い男と女が一緒になれば、なぁ……」

 

 天王寺の旦那、黛さん、うっさい。オレも自分でとんでもない事を言っている自覚はあるんだよ。

 

「でも、やっぱり恥ずかしいな」

 

「だったらオレとデュエットでもするか?」

 

「いいの?」

 

「どうせオレも歌わなきゃいけねえんだ。一緒に歌おう」

 

「うん、ゴンベエとならいいかも」

 

「なぁ、アレでカップルじゃないんだよな?」

 

「何時もの事じゃ、気にしてたらキリが無いわ」

 

 だから黛さん、変な勘繰りを入れるのはやめろ。アリーシャとはそういう感じじゃない、仮にそうであったとしてもそれは吊り橋効果みたいなもので夢が覚めれば冷めて終わる。いやホントに地雷物件だからな。

 

「さて、これで全員を全滅させた……ライブの開催や」

 

「待て!」

 

 ベルベット達を叩きのめしたので次の段階に行こうとする天王寺の旦那だがアイゼンは待ったをかける。

 

「この期に及んでお前も歌を歌うのは嫌とか言い出すんやないやろな?」

 

「ねこにんの里が滅ぶのを黙って見過ごすわけにはいかん……だが、その前にお前と一度勝負したい」

 

「そうだな、歌はともかく俺もお前と戦ってみたい」

 

「羽子板か?あっち向いてホイか?俺となにで勝負するんや?」

 

「決まっている……相撲だ。目の前に相撲取りの頂点であるヨコヅナが居るのだから、相撲を取らなくてどうする?」

 

 アイゼンは天王寺の旦那に相撲で勝負を挑む。しかし天王寺の旦那は困った顔をしている。

 

「いやいや、そらアカン。アカンで」

 

「なんでだ?相撲はお前の1番得意な事だろう」

 

「あのな……俺、曲がりなりにも東大関で横綱の昇進が決まっとるねんで。相撲をやっとる子ならともかく素人に手を上げたら文春砲が飛んできて横綱辞めろってめっちゃ叩かれる!!プロが素人をボコるなんてあってはならん事や!!」

 

 ロクロウ達は相撲取りじゃない。

 スポーツマン、特に格闘技系を齧っている人は素人に無闇矢鱈と手を上げてはいけない。当然と言えば当然の事で、力士の張り手なんて凶器の一種だろう。流石は旦那、プロ意識は高いな。

 

「安心しろ、確かにお前の言うとおりオレ達はプロの相撲取りじゃない……だが、戦いに関してはプロと言っても過言ではない」

 

「そうだ。怪我をしたとしてもそれらは全て自己責任だ」

 

「せやけど土俵が」

 

「土俵ならあっちにあるニャ」

 

 あるんかい。

 ねこにん達に案内されるとそこには相撲をする為に必要な土俵があった。土俵だけでなく廻しもあった。

 

「ふぅ……しゃあないな。一本だけやで」

 

「おぅ!男は何時でも一本勝負だ……ところでこれどうやって巻くんだ?褌なら分かるんだが」

 

「ちょっとこっち来い……小さい僕はやらんくてええか?」

 

「僕?……えっと、恥ずかしいかな」

 

「そっか」

 

 ライフィセットは参戦しない。裸にまわし一丁は恥ずかしい。

 天王寺の旦那は少しだけ悲しそうにするが無理には強要をせずにアイゼンとロクロウに廻しの付け方を教える。こんなアホな事をしている間もサウンドワールドの住人は大きくなっているが、気にしないでおく。

 

「しゃあ!やるか」

 

 数分後、まわしをつけて戻ってきたアイゼンとロクロウ。

 アレだよな。ロクロウはともかくアイゼンは洋顔だから廻し一丁はなんか違和感がある。ロクロウも違和感は感じにくいな。

 ロクロウとアイゼンはジャンケンをしてどっちが先に天王寺の旦那と勝負をするのかを決め、先にロクロウが天王寺の旦那と相撲を取ることに。

 

「一応は大相撲の形式でやらせてもらうで」

 

 塩を撒く天王寺の旦那は呼吸を整える。

 異世界とはいえ相撲は相撲、まだ正式になっていないとはいえ横綱に昇進が決まった力士が素人に負ける事はあってはならない……っ!

 

「ヤベえな、アレは」

 

「ゴンベエのと同じ……いや、それ以上」

 

 アリーシャも感じ取ったか。

 天王寺の旦那は全力(ゾーン)状態に足を踏み入れており、オレ達は感じ取る。

 さっきまで軽くて緩い感じだった天王寺の旦那から感じられるのは人の領域じゃない、神の領域だ。横綱とは神の依代で、相撲を取っている天王寺の旦那は相撲の時だけは人の領域を越えている……地獄の養成所の鬼達はオレと天王寺の旦那は同じスペックで、経験を積み上げればあの領域に行くことが出来るって言ってたが、行けるのか?行ける自信ねえぞ。

 

「異世界の人間と相撲取れるとか……最高やわ」

 

 口では素人に手を上げてはいけないだなんだと言っているが天王寺の旦那は相撲を取りたかったのか。

 

「はっけよい!!」

 

 天王寺の旦那とロクロウは動き出すって、おい

 

「真正面から受けるんじゃねえよ!!」

 

 天王寺の旦那はプロの相撲取り、対してロクロウは鍛えているだけの人間だ。

 相撲の世界では大きくて重いは絶対の武器であり、ロクロウが自分より重くて大きい天王寺の旦那に真正面からぶつかるとどうなるか、普通に力負けをする。案の定、ロクロウは天王寺の旦那のブチかましにやられて後退してしまっている。

 

「もろたで」

 

 負ければ日本の国技である大相撲の名前に傷がつく。そんな危機的状況にも関わらず天王寺の旦那は笑っていた。

 今この状況を楽しんでいる。横綱として頂点を走るのは辛い道じゃないんだと笑みを絶やさない……キャバクラ好きで有名だけど、マジでイケメンなんだ。天王寺の旦那はフラついたロクロウの腕を掴んで変形小手投げの体制に入る……天王寺の旦那の十八番、六ツ胴斬を叩き込んだ。

 

「どうや、コレが力士の頂点に立っとる男の相撲や」

 

 取組が終われば天王寺の旦那は元の気のいい頼れる旦那に戻る。

 ロクロウに対して笑みを向けるのだがロクロウは悔しそうな顔をする。

 

「クソっ、もう1本……って、言いたいところだが……斬りてえ」

 

「ちょっと、穢れが湧き出てるわよ!!」

 

 負けた事でロクロウは天王寺の旦那を倒したいという強い欲求に囚われる。その結果、穢れが溢れ出てしまう。こんな時に穢れを出すなよとマスターソードを抜いて浄化をしようと思っていると天王寺の旦那は足を上げる。

 

「どっこいしょ!!」

 

「穢れが消えた!?」

 

 天王寺の旦那は四股を踏んだ。

 四股を踏むと波紋の様なものが広がっていき、ロクロウが発していた穢れが浄化された。

 

「テンノウジさん、なにをしたのですか?」

 

「なにって四股を踏んだだけやで」

 

「でも、穢れを祓ったよね……なんで?」

 

 ロクロウから発せられた穢れを浄化した天王寺の旦那に問うアリーシャとライフィセット。

 

「力士が四股を踏むとな、その土地にある邪悪な力を押し込んだり浄化する事が出来るんや。俺は正式にまだなってないけど横綱や。ロクロウが放った穢れを浄化するなんてわけないで」

 

「お前、大分無茶苦茶言ってんの分かってんのか?」

 

 力士が四股を踏むのは足腰の鍛錬だけでなく、邪悪を退ける事が出来るのは転生者養成所で習った。

 ただ普通はそんな事が出来ない。天王寺の旦那はかなり滅茶苦茶な事をやってるし言ってて黛さんは呆れている。

 

「四股を踏めば穢れを祓う……」

 

「ライフィセット、真似すんな。天王寺の旦那が異常なだけだ」

 

「なに言うてんねん。アキも出来るんやで」

 

 誰だよ、アキって。

 天王寺の旦那を参考にするのはやめておけとライフィセットに釘を刺しておいた。天王寺の旦那だから出来るんだ、お前は浄化の炎をコントロール出来る様になれ。

 

「アイゼン、天王寺の旦那はお前よりも大きくて重い。土俵際に寄って勢いをつけて真正面からぶつかっても確実に負ける……それだけは言っておく」

 

「お前より強いというのは本当の様だ……金星を頂く!」

 

「俺が素人にくれてやると思っとるんか?」

 

 天王寺の旦那は再び全力(ゾーン)になる。

 アイゼンは天王寺の旦那の殺気を真正面から受けるアイゼンは一瞬だけ威圧されるが直ぐに立て直す

 

「はっけよい!」

 

 天王寺の旦那とアイゼンはぶつかり合う。

 オレのアドバイスを聞いても変化するなんてアイゼンには出来ない。もうちょっと水のように揺らいでブチかます事が出来れば天王寺の旦那を怯ます事が出来たがコレばかりは相撲の鍛錬を積んでいないと出来ない。素人にタイミングを合わせろと言うのが無茶だ。

 

「っぐ!」

 

「甘いわ」

 

 まわしを取りに行かず突き押しで天王寺の旦那に攻めに掛かるが天王寺の旦那は軽くいなす。

 天王寺の旦那は一番最初に転生したのは史上最強の弟子ケンイチの世界、並大抵の格闘技術の突きは効かない。天王寺の旦那は突き押しをいなしながらアイゼンとの間合いを詰め寄り、アイゼンのまわしを掴んだ

 

「っ!」

 

「あ……」

 

 天王寺の旦那はアイゼンを揺さぶりに行ったのだが、ここでアイゼンのまわしが取れた。

 普通ならばギッチギチに固められているまわしだがアイゼンの死神の呪いが作用してまわしが緩くなってしまったのだろう

 

「不浄負けニャ!」

 

「っく……死神の呪いがこんなところで」

 

「いや、はよ前隠さんか!女性陣おるんやで」

 

 アイゼンは自分のアレを丸出ししてしまい天王寺の旦那に敗れた。




スキット 他所の事情

天王寺「しかし、異世界に飛ばされた思ったらまさか放置されるとは思わんかったわ」

ゴンベエ「いや〜すんません。就寝しようって時に巻き起きたんで……天王寺の旦那はどういう状況だったんすか?」

天王寺「横綱との優勝を決める千秋楽の前に精神統一してた」

ゴンベエ「本当に申し訳ありませんでした!!」

天王寺「お前が謝ったってしゃあないわ。いや、横綱の昇進は決まってんねん……けど、カッコよく決めたかった……」

「あのクソ仏の事だ、なんらかのフォローは入れてくれる筈だ」

天王寺「俺が横綱を相手に白星を取らなアカンねんって……仏さんがなんかしてもそれは俺の実績やない」

ゴンベエ「そういうところ拘るんすね……そういや、ほぼ毎回黛さん、飛ばされてくるけど大丈夫なの?」

天王寺「てか黛さん今何処の世界におるん?」

「恋姫の世界……まぁ、オレは軍隊を鍛え上げたりどうこうしているわけじゃないから急に居なくなっても問題はない。神仏の存在の信仰が確かな世界だからなにかあっても寛容に受け入れてくれるが……ただな」

ゴンベエ「なにか問題でもあったん?」

「櫻井の奴が来やがった……」

天王寺「あのグランドクソ野郎が来はったんですか!?」

ゴンベエ「マジかよ……あのグランドクソ野郎が来たのか」

「ああ……幸いにも余計な事はして行かなかったが内心ヒヤヒヤした……」

天王寺「転生先が良かったとしか言うしかない……あのおっさん、デート・ア・ライブとかこのすばとかで色々とやらかしたからなぁ」

ゴンベエ「でもまぁ、リボーンの世界で沢田綱吉をマフィアにさせない様に四苦八苦、時には沢田家光と殴り合ったり色々とやって一概に悪人とは言い難いんだよな……どうしようのないクズ野郎だけど」

「そう考えるとオレ達は幸運かもしれない。新米で比較的マシな人格をしてる奴と鉢合わせしているからな」

天王寺「せやな、色々とやらかしてるっぽいけど」

「騒がせてこその転生者だ……櫻井の奴はやりすぎだが」

ゴンベエ「アレはもう色々と手遅れな存在だ……地獄側はお気に入りやけど」


スキット アニキはアカン

天王寺「で、歌うんやったら……やらないか……それやったら」

アリーシャ「テンノウジさん、ねこにん達を先導しているな」

ライフィセット「そうだね。どうやったら盛り上がるか真剣に向き合ってる。楽しんでもいる」

「出しゃばりなだけ……ま、頼れる奴かどうかと聞かれれば頼りになるな。天性のリーダーシップを持っていて、頭も回り、受け答えも完璧だ。なにより強い」

アリーシャ「確かに何処となく箔というか品格が漂っている……皆の頼れる兄貴分か」

ゴンベエ「旦那は赤司と違って威圧感みたいなのは殆どねえ……赤司の奴は堂々と手下と言うが、あの人は仲間って言う」

ライフィセット「凄い人なんだね……僕も皆の頼れる兄貴分みたいになりたいな」

「難しいぞ……あいつのカリスマは努力とかで手に入るものじゃねえ。経験を積んだりしても同じ領域に到れるかどうか」

ゴンベエ「無理やろな……普通の人があの領域にいくのは……オレも養成所で無理ってハッキリ言われたから」

ライフィセット「でも、カッコイイよ。あんな風に僕もなりたい、皆の頼れる兄貴分みたいな存在に」

アリーシャ「私達も何時かあんなカリスマに」

天王寺「お前等、人の事をさっきからアニキ、アニキって……やめろや」

ライフィセット「恥ずかしいの?」

天王寺「ちゃうわ!アニキ言うんは相撲業界隠語で滅茶苦茶調子こいてるまぬけの事を言うんや!アニキ言うのやめい!」

ゴンベエ「そういや、天王寺の旦那は兄貴じゃなくて旦那と呼ばんとアカンかったな」

天王寺「せや、お前等も兄貴分とか思ってもアニキ言うんはやめてくれ。俺の事は童子切か旦那で頼むわ」

アリーシャ「ドウジキリ?」

「鬼や土蜘蛛なんかの化け物を殺しに殺しまくった日本の国宝の刀で最強の刀で……まぁ、天王寺に相応しい異名だ」

アリーシャ「異名……ベルベットは災禍の顕主、ゴンベエは災禍の勇者。師匠は蒼き戦乙女、テンノウジさんは童子切、チヒロさんは幻影……私もカッコいい異名を何時かは持ちたいものだ」

天王寺「……真のヒロイン

「おい、やめろ。マジで冗談抜きでやめろ。それはホントに洒落にならん」


銀魂、ヅラに高杉、ユーリにジェイドにジュディス……いいよな。
決戦KCグランプリとか書いちゃったけど、ホントにレイズ編カオスになってる


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その6(後編)

この話書いたの、や ら な い か 言いたいが為なんて口が裂けても言え(ないのと淫夢要素は)ないです


「やっぱりこれは短すぎではないのか!?」

 

 ベルベットもエレノアもアイゼンもロクロウも私も、誰一人としてテンノウジさんに勝つことが出来なかった。

 約束通りアイドルと呼ばれる存在のコスチュームに身を纏うのだがスカートが短くて色々と露出している部分が多くて恥ずかしい。そもそもで私にスカートは似合わない。

 

「似合ってるよ、アメッカ」

 

 スカートの裾を抑えて恥ずかしがっているとライフィセットが側に寄ってくる。

 アイドルの衣装は私達女性陣の分しかなく、ライフィセットは何時も通りの格好をしている。

 

「そ、そうか……色々と露出し過ぎかと思うのだが」

 

「……アメッカはさ、前に僕が魔法少女の格好をさせられた時、止めてくれなかったよね」

 

「……根に持っているのか?」

 

「まさか……気にしてなんかいないよ」

 

 コレは気にしている。前回のフブキと色々とあったのをライフィセットは気にしている。私としてはとても似合っている姿だったが、ライフィセットにとっては屈辱的な格好だった……今ならば分かる。ライフィセットはこんな事を思っていたのだと。絶対に怒っている。

 

「はいこれ、歌詞だよ」

 

 サウンドワールドの住人、正式名称はロムビアコとチヒロさんは言っていた。

 今こうしている間も段々と大きくなっていき、今ではレディレイクの城よりも高く大きくなっており、何時動き出して暴れるかヒヤヒヤしている。チヒロさんやゴンベエが言うには綺麗な音楽を聞かせる事が出来れば小さくする事が出来るらしいのだが……にわかに信じがたい。ゴンベエもチヒロさんも悪ノリをする時はあるが、くだらない嘘はつかないので信じるしかない。

 

「えっと……巻き戻しは出来ないこと」

 

 歌わなければならないのだが私達はなにか歌を知っているわけではない。

 ゴンベエやチヒロさんは色々と知っているので、その中から選ばれた歌を歌うことに。私はライフィセットから渡された歌詞カードを手に、歌詞を覚える。歌詞を口ずさむが……中々にいい歌詞だ。

 

「ヤバい、ヤバいニャ!!流石にあの大きさはヤバいニャ!!」

 

 私達が歌詞を覚えようとしている間にもロムビアコは巨大化する。

 かなりの大きさになっており、私達を確実に踏み潰すぐらいの大きさの足になっている。

 

「待たせたな!トップバッターはオレが貰う!!」

 

「アイゼン、もう覚えたのか!」

 

「ああ、中々にいい歌詞で頭に直ぐに入った!……ミュージック、スタート!!」

 

 慌てるねこにん達の元にアイゼンがやって出る。

 ギターやドラム等を演奏してくれるねこにんに合図を送ると演奏がはじまる。

 

「吹き荒れる風 立ち止まる者

 さまよえる心達よ

 縛られた正義 鳴り止まぬsorrow

 次の一歩踏み出せない

 

 視界曇らせた涙を葬り去って

 闇を抜け出した希望はより一層その輝きを増して

 

 鮮やかなIt's a brand new day 駆け抜けろGo ahead the way

 またとない命燃やして戸惑いはTake it all away どこまでもJust believe your way

 世界という名のフィールドに一心に放つ光で 焼き付けてみせるよ 想いを

 

 溢れてるようで なんか足りないや

 騒々しい夜に漂えば何となく不安で かき乱すtomorrow見極めなくちゃ生けない

 

 時に目に見えるものより 見えないものの方が 大切だったりして

 

 明日は一体どっちだい わかってるようで勘違い 答えを見つけられずに

 奮い立つ心がある 揺るぎない想いがある

 それさえ確かならいい優しく照らす月が微笑む

 

 鮮やかなIt's a brand new day 駆け抜けろGo ahead the way

 またとない命燃やして戸惑いはTake it all away どこまでもJust believe your way

 世界という名のフィールドに一心に放つ光で 焼き付けてみせるよ 想いを」

 

「あ、小さくなってく!!」

 

 アイゼンが綺麗に歌い切るとロムビアコは何処か嬉しそうにしており、二回りほど小さくなった。

 ホントに美しい音楽を聞いたら小さくなった……異世界というのは本当に不思議に溢れている。

 

「いやぁ、森川さんボイスでBURNとかエエなぁ……」

 

「2つの声重なる時、誰よりも強くなれる……」

 

 本当に小さくなるのが分かるとなれば私達の責任は重大になってくる。

 綺麗な歌を聞かせれば元に戻すことが出来る……なんとしてでも歌いきらねば!

 

「肩に力入れすぎやで、曲がりなりにもアイドルの衣装を着とるんやからもっと笑顔にならんと」

 

「テンノウジさん」

 

「そんな気難しい顔をしとったらええことあらへんで」

 

「ですが、今は一大事です。ヘラヘラと笑っていてはそれは失礼ではないのですか?」

 

 ねこにんの里が滅ぶか滅ばないかの瀬戸際なところにいる。

 それをどうにかしようとしている私達が変に笑っていたらそれは真面目にやっているとは思われずねこにん達に対しても悪印象を及ぼす。

 

「ゴンベエは辛い時には泣いてもいい、逃げてもいい、無理に笑えとは言いませんでした」

 

「なるほどな……確かにニノ、じゃなかった、ゴンベエの言うことにも一理はあるわな。辛い時は泣いて発散しなアカンし嫌やったら逃げるのも手や」

 

「それに……色々とあって、笑うに笑えないです」

 

 つい昨日にザビーダ様とテオドラの一件があった。

 これからザビーダ様は殺すことを救いと考えを改めてしまう。そうせざる負えない程のなにかが待ち受けている。人は良くも悪くも心を、在り方を大きく変えてしまう……そう考えると笑顔になるなんて不可能だ。

 

「私は旅を経て強くなる事が出来ました……けど、強くなる代わりに大事な物を失った」

 

 人はそうやって成長していく生き物なのかもしれないが……

 

「これから私は前に進む、その代わりに……笑顔を失う」

 

「はぁ……なにを言い出すかと思えば、前に進む代わりに笑顔を失うやと?笑わせんなや」

 

 テンノウジさんは私の発言に呆れていた。

 力を得るたびに前に進むたびに強くなるために笑顔を失った……それはおかしいことなのだろうか。

 

「強くなれば偉くなればそれに伴う力を持っている事を自覚する義務とか責任とか色々とある。それ等が原因で気難しい顔になってしまう……だからこその笑顔やねん。アメッカ、お前はコレからどういう道を歩みたいんや?イケメンで女子力のある旦那さん貰って幸せに暮らす平穏な道か?」

 

「いえ……平和な世の中を築き上げる道です」

 

「せやったら笑顔を失うわけにはいかんやろう……君は先導者かそれに近しい存在になるつもりやろう」

 

「……そう、ですね」

 

 今のところ、この旅が終わればスレイの力になろうと思っている。

 その為にはゴンベエを動かしたり、ハイランド内部にいるヘルダルフと繋がっている人物を探し出したりと色々としなければならない事がある。特に現状では天族が見える人間はスレイ1人で、スレイが倒れればその時点で世界は終わってしまう。

 

「先導者や開拓者はあんま難しい顔や屁理屈並べたらアカン……笑顔やないと。真剣な時には真剣な顔を、本気には本気で返さなきゃと思っとるけどもあんま難しくするとその道が辛いと思わせてしまう。折角道を作っても導いても、その道が険しくて辛いものやと思われれば誰も歩んでくれへん。後に続く人がおらんかったら、歩いてくれへんかったら開拓する意味も先導する意味も一切無い……」

 

「先導者……マオクス=アメッカ(笑顔のアリーシャ)

 

 私が歩もうとしている道は、導師スレイの力となること。スレイは導師で、先導者の道を歩んだ。

 スレイは導師として天族の信仰の文化を復活させたり布教したりしなければならず、天族の信仰どころか存在を信じない人達は沢山いる。それをどうにかするのがスレイの役目で、それをフォローしたいと私は思っている。ならば……笑顔は大事か。

 

「天王寺の旦那……口で言うのは簡単かもしれねえけど、ソレが出来るのはあんたか八木俊憲ぐらいだろう」

 

「せやけど言っとる事には間違いないやろうが。苦しい時でも笑えとは言わん、けど苦しい顔よりも楽しい顔の方がエエって、楽しまんと……一人よがりになってまう」

 

「楽しもうぜって人を傷つける酷い言葉の1つだからな。特に未経験の仕事を必死になって覚えようとしているところで『肩の力を抜こうぜ』とか『仕事を楽しもう』とか言ってくるのは殺意を抱く。必死になってるのを馬鹿にしてる感がある」

 

「それ完璧にお前の私情挟んどるやろ」

 

「……っふ」

 

 ゴンベエとテンノウジさんのやり取りで思わず笑ってしまう。明らかにゴンベエの私情が混ざっているがやけに説得力がある。

 

「なんや、笑おう思ったら笑えるやないか」

 

「ああ……私は笑えるんだ」

 

 笑わなきゃいけないんじゃなく純粋に笑顔を浮かびあげるのはいつ振りだろうか。

 ゴンベエがテンノウジさんの事を旦那と呼んでいるのが分かる。この人はスゴい人だ。

 

「ニノ、プトティラ歌うぞ」

 

「いや、オレ、革命への前奏曲(ブレリュード)を歌うんすけど」

 

「歌は幾らでも歌って損は無い!」

 

 テンノウジさんはゴンベエを引っ張っていく

 

「強くなればなるほど 何のために力 使うべきか ジャッジが 重要になるさ(君自身の)

 振りかざして 恐怖で すべて手に入れたら…間違うな! 祈る人の 中身は ただのエゴイスト そうだろう?

 その瞬間 飲み込まれる ダークサイドの危険な欲望

 

 POWER to TEARER 心の強さ

 たった今 試されるとき

 破壊者を守護者に変える その願いでコントロール

 POWER to TEARER さぁ手なずけろ

 太古から続く力をその身体に纏うのなら 喰うか喰われるかのミッション Wow... POWER to TEARER

 

 いつも通り おんなじ方法じゃいつかは 考えろ

 追い込まれて 戸惑い その後どうする? 逃げるな!

 

 イチカバチか 最後の手段 試す時だろう 危険を冒し

 

 POWER to TEARER 挑むのならば

 微かでも 光はあるさ

 制御不能な現実も チャンスはある見逃すな

 POWER to TEARER ねじ伏せてみろ

 暴れ出す未知の力を

 自分のものに出来たとき 次のステージに行ける

 Wow…POWER to TEARER

 

 胸の中にある 願いや夢を 固く強く 守るんだ

 これから君が進む 未来 見失うな

 

 POWER to TEARER 心の強さ

 たった今 試されるとき

 破壊者を守護者に変える その願いでコントロール

 POWER to TEARER ねじ伏せてみろ

 暴れ出す未知の力を

 自分のものに出来たとき 次のステージに行ける

 Wow…POWER to TEARER

 Wow…POWER to TEARER」

 

 ゴンベエとテンノウジさんはデュエットで歌う。とても深い意味のある歌で私の心に響く……自分をものに出来れば次のステージに……

 

「ゴンベエ、变化する事が出来る魔法の粉は持ってるか?」

 

「持ってますけど……なにに使うんですか?」

 

「こう使うんだ……モシャス!!」

 

「……ゔぇ」

 

 ゴンベエから变化する事が出来る魔法の粉を借りたチヒロさんはゴンベエを变化させる。

 赤い髪のオッドアイが特徴的な170cmぐらいの男性に姿が変わり、テンノウジさんは嫌悪感を剥き出しにする。

 

「黛さん、なんでよりによって赤司の姿にするんや!」

 

え、オレ、今、赤司……神谷さんボイスになっている……」

 

「次はオレとのデュエットだ」

 

 チヒロさんはゴンベエを連れていく

 

「「 ALWAYS WIN

  どんなに足掻いても無感情に奪い取るさ

  このチームは揺るぎはしない

 

  誰かのためにだけなんて面白くはないだろう しっかり見せつけやるオレのスタイル

 

  見出したポテンシャルにふさわしい舞台だろう 違いは歴然だね 覚悟はいいかい

 

  光と影を創り出そう 幻を超える幻になれ

  この役割が楽しめるうちはコートの上、潜んでいるさ

 

  ALWAYS WIN

  絶対の前で無表情に勝ち取る この試合(ゲーム)を支配しよう

  Pride and Pride 無意味な情熱で可能性を叫ぶなら 思い知るがいいさ 全部摘み取ろう

 

  理解は求めていない 壊しても仕方ないさ それでいも挑むなら己の意思だね

 

  手に入れた戦い方 気配無き存在感 眩しさの境界から 牙を剥こうか

 

  光と影が交錯する 幻の枠は1つしかない あの影さえも光にできたら その決意を称えてやろ

 

  ALWAYS WIN

  どんなに足掻いても無感情に奪い取るさ このチームは揺るぎはしない

  Pride and Pride 勝ちたいと願う ありふれた思いも ここでは許されない 全部塗り潰せ

 

  息をするくらいに これは自然な渇望だろう 誰の目にも疑いがないような必然だ

 

  ALWAYS WIN

  絶対の前で無表情に勝ち続ける この試合(ゲーム)を支配しよう

  Pride and Pride 無意味な情熱で可能性を叫ぶなら 思い知るがいいさ 全部 摘み取ろう」」

 

 ゴンベエとチヒロさんは歌いきった。

 中々に独特の歌だったがロムビアコは満足したのか更に小さくなっていく。

 

「……私達の歌は無くてもどうにかなったんじゃないの?」

 

「べ、ベルベット!」

 

 自分が歌う歌の歌詞を覚えたのかやって来るベルベット。

 ライフィセットはベルベットの格好を見て少しだけ顔を真っ赤にしている……やっぱり、恥ずかしいよね……

 

全く、天王寺といい黛さんといい予定に無い歌を歌わせて、勘弁してくれよ」

 

 ゴンベエは元の姿に戻ると写し絵の箱を取り出してベルベットの写真を取る。

 ベルベットは左腕を喰魔化させてゴンベエの写し絵の箱を破壊しようとするがゴンベエは巧みに避ける。

 

「撮るんじゃない!……目に焼き付けるだけにしなさいよ……」

 

「デレとるな……めっさデレとるな……」

 

「デレてなんかないわよ!変な事を言わないでちょうだい」

 

 ニヤニヤしているテンノウジさんにも攻撃をするがすべていなされる。

 

「ここに戻ってきたって事は歌詞を覚えたんだろう……さ、歌うんだ」

 

「ええ……さっさと終わらせるわ」

 

 ベルベットはそういうと音を反響させる道具であるマイクを手に取った。

 

「頑張れベルベット。お前の中の佐藤利奈を出すんだ」

 

「そうだベルベット。お前の中の佐藤利奈はすごいんだ……録画開始」

 

「誰よ、その佐藤利奈って!!」

 

 ベルベットはゴンベエとチヒロさんにツッコミながらもベルベットは歌う

 

「SAY☆いっぱい輝く 輝く星になれ

 運命のドア開けよう 今未来だけ見上げて

 

 そっと鏡を覗いたの(覗いたの)ちょっとおまじない自分にエール

 

 だってリハーサルぎこちない私 鼓動だけがドキュンドキュン ファンファーレみたいに

 

 慣れないこのピンヒール 10cmの背伸びを 誰か魔法で変えてください ガラスの靴に

 

 SAY☆いっぱい輝く 輝くSUPERST@Rに

 

 小さな一歩だけど キミがいるから

 

 (せい)いっぱい 輝く輝く星になれるよ

 

 運命のドア開けよう 今未来だけ見上げて

 

 ちょっと気後れ フリーズしちゃう

 だって仲間はみんな眩しいきっと誰もが認められたいの

 

 私どうかな?イケてる?祈るようなキモチ

 カボチャの馬車はないけどキミがここにいるなら

 ねえ行けるよね?夢の向こうの新しい世界

 SAY☆いっぱい羽ばたく 一人に一コずつ

 抱えたこの(きらめ)き信じているから

 

 (せい)いっぱい羽ばたく 遥かな憧れにホラ リアルが近づいてる Let's goあのヒカリ目指して

 

 私思い込んでいた 微笑みはかわすけれど 泣くときには一人きりだって

 だけど今は知ってるよ 涙流すときも キミと一緒 キズナ 私の背中押している魔法

 

 SAY☆いっぱい輝く 輝くSUPERST@Rに

 小さな一歩だけど キミがいるから

 (せい)いっぱい輝く 輝く星になれるよ

 運命のドア開けよう 今未来だけ見上げて

 

 Yeah 羽ばたく一人に一コずつ 抱えたこの(きらめ)き 信じているから

 (せい)いっぱい羽ばたく 遥かな憧れにホラ リアルが近づいてる Let's goあのヒカリ目指して……」

 

 ベルベットは歌い切った。ロムビアコは更に小さくなっていく。

 

「ほれ、ワシ達も混ぜい!」

 

「歌だけでなくダンスも覚えてきました!」

 

 マギルゥとエレノアとも合流を果たす。

 ベルベットも加えて手には★型のタンバリンを手に持っている。

 

「あまたの星たちの中で キラリ光るシルエット

 その姿ひとめ見た夜に 焼きついてしまったわ

 まるで無重力の中で フワリ浮かぶシチュエーション

 

 不覚にも恋に落ちたのよ この空もウワの空

 1人だけじゃ切ない気持ちも

 2人でなら 分けあえる

 3人なら 背中を押されて

 友情→愛情 あなたに直行

 

 3、2、1、0! ダッシュするから あなたの その隣 キープして

 ほらいつの日か 辿りつくのよまだ遠い あなた★(アナタボシ)

 

 1、2の3でワープするから 私の この想い かなえてね

 今すぐそこに 辿りつくのよ 何千億光年の まだ遥か 彼方★(カナタボシ)

 

 アタマの中開いてみりゃ 四六時中カレのこと

 その姿ひとめ見ただけで バレバレよ『しまった!』わ

 

 まるで興味が無いフリして 通り過ぎるストリート

 

 フシゼンな歩き方をする この恋は叶うのか?

 

 1人すこし深呼吸をして

 2人きりで『話さない?』

 3人だけのヒミツ会議して

 友情→愛情 あなたに行動

 

 万がイチでも 奪取するから

 あなたの その隣 エンリョして

 ほらいつの日か 辿りつくのを

 祈ってた 流れ★(ナガレボシ)

 

 イチかバチかの ジャンプするから

 私の この想い 受け止めて

 もうすぐそこに 辿りつくのよ

 ウン千憶光年の 距離を越え あなた★(アナタボシ)

 

 ベルベット達は歌って踊って、綺麗に舞った。

 ロムビアコも満足しており更に小さくなっていく。

 

「ゴンベエ、歌おう!」

 

 この勢いは途絶えさせてはいけない。ベルベットからマイクを受け取り、ゴンベエと共に歌う。

 

「「未来にいる オレが見れば 今の自分は多分 考えなし ただ無邪気 愚かに見えるかも…

 

  Right now 手にしてるもの それはかけがえないもの だけど人はいつだって 振り返るまで気付かない

 

  それぞれに結ばれた 今 感じなきゃ絆 そこにあるもの全部が奇跡かもしれない

 

  こぼれ落ちる砂のように この手から 消える前に

  動き出そうぜ Double-Action『オレが』『私が』2人で戦う時

 

  巻き戻しは出来ないこと 知ってるなら きっと 先送りも 出来ないと気付かなきゃいけない

 

  Right now 想い伝えて どこにある?『いつか』なんて だけど人は疑いも しないから後悔する

 

  運命が呼んでいる

  離れないと信じる

  未来 急ぐより先に『今』を守り続け

 

  ふたつの声 重なるとき 最高に強くなれる

  ずっとずっと Double-Action 『気持ち』『2人』誰にも止められない

 

  いつでもマイナスからスタート

  それをプラスに変える

  そんな出会いがきっと

  誰の胸にもあるはず…さ

 

  こぼれ落ちる砂のように この手から 消える前に

  動き出そうぜ Double-Action『オレが』『私が』2人で

  ふたつの声 重なるとき 最高に強くなれる

  ずっとずっと Double-Action『気持ち』『2人』誰にも止められない」」

 

 歌う、とにかく歌った。

 私達の後に続くようにライフィセットがロクロウがエレノアがマギルゥがそれぞれ1人で歌い、その度にロムビアコが嬉しそうにしており段々と小さくなっていき最終的には一般的な民家程の大きさになった。

 

「後、一手だ。後、一手でオレ達と同じ大きさになる」

 

 後どれだけ歌えばいいのかをチヒロさんは教えてくれる

 

「よっしゃあ!最後は俺がやったるわ!ゴンベエ、变化の粉を貸せ!」

 

「え、なにに使うんすか?」

 

「まぁ、見とけや」

 

 ゴンベエから变化する事が出来る魔法の粉を受け取るテンノウジさん。

 チヒロさんになにか伝えてねこにん達に合図を送ると音楽が演奏され、テンノウジさんは魔法の粉を自分に浴びせる

 

「           _  -───-   _

            ,  '´           `ヽ

          /                 \

        /                    ヽ

      / __, ィ_,-ァ__,, ,,、  , 、,,__ -ァ-=彡ヘ  ヽ

       ' 「      ´ {ハi′          }  l

      |  |                    |  |

       |  !                        |  |

      | │                   〈   !

      | |/ノ二__‐──ァ   ヽニニ二二二ヾ } ,'⌒ヽ

     /⌒!|  =彳o。ト ̄ヽ     '´ !o_シ`ヾ | i/ ヽ !    や ら な い か ?

     ! ハ!|  ー─ '  i  !    `'   '' "   ||ヽ l |

    | | /ヽ!        |            |ヽ i !

    ヽ {  |           !           |ノ  /

     ヽ  |        _   ,、            ! , ′

      \ !         '-゙ ‐ ゙        レ'

        `!                    /

        ヽ     ゙  ̄   ̄ `     / |

            |\      ー ─‐       , ′ !

           |  \             /   |

      _ -‐┤ ゙、 \           /  ! l  |`ーr─-  _

 _ -‐ '"   / |  ゙、   ヽ ____  '´   '│  !  |     ゙''‐- 、,_」

 

 

「ええっ……」

 

 エレノアが歌ったバラライカという歌をテンノウジさんは歌う

 

「ゆらり ゆらり 揺れている (おとこ)心ピーンチ☆

 かなり かなり ヤバイのさ 助けてダーリン くらくらりん (やらないか)

 何もかもが 新しい 世界に来ちゃったZE☆ たくさんの ドキドキ☆ 乗り越え 踏み越え イクぞ☆ (やらないか)

 

 やらないか やらららいか やら やらかいかい この想いは 止められない♪

 もっと☆(おとこ)チック♂パワー☆きらりんりん ちょっと危険な KA・N・JI (やらないか)

 

 やらないか やらららいか やら やらかいかい もう ドキドキ 止められない♪

 もっと ドラマチック 恋 ハレルヤ 2人だけで やらないか(アーッ)

 

 よかったのか?ホイホイついてきて...

 

 すごく すごく 大きいです (おとこ)心チャーンス☆

 ハート『とか』 飛び出そう お願いダーリン ハラハラりん (やらないか)

 

 お前だけを 見つめてる 俺には知らんぷり 気付いて欲しいんだ ☆ときめき☆ ☆くそみそ☆ ☆好・き・さ☆ (やらないか)

 

 やらないか やらららいか やら やらかいかい そのヒ・ミ・ツを教えろよ☆

 もっと☆(おとこ)チック♂モノ♂ ぶーらりんりん やっぱ笑顔が ス・テ・キ (やらないか)

 やらないか やらららいか やら やらかいかい よそ見してちゃ ダメダメよ☆

 もっと ロマンチック 恋 シャーラランラ♪ 奏でたいぜ やらないか♂

 

 Oh

 

 Ah

 

 Oh Yeah

 

 (おとこ)の子はいつだって 夢見る『漢女♂(おとめ)』なの☆

 ピュア☆ピュアな心で 恋して 愛して S、O…SO、アーーッ♂

 

 やらないか やらららいか やら やらかいかい この想いは 止められない♪

 もっと☆(おとこ)チック♂パワー☆きらりんりん ちょっと危険な カ・ン・ジ (やらないか)

 やらないか やらららいか やら やらかいかい もう ドキドキ 止められなアーッい♪

 もっと ド♂エロチック 恋 ハレルヤ 2人だけで やらないか♂

 

 お前、俺のケツの中でションベンしろよ

 

 それじゃとことん悦ばせてやるからな

 

 やらないか

 

 腹ん中がパンパンだぜぇ☆

 

 俺はノンケだって構わないで喰っちまう人間なんだぜ?

 

 や ら な い か ?」

 

 テンノウジさんは歌い切った。

 途中で何故かゴンベエとチヒロさんが加わって謎のダンスを踊っており、2人は何処となく満足な顔をしている……が

 

「大きくなっちゃったよ!!」

 

「なんやて!?」

 

 今まで小さくなっていったロムビアコはテンノウジさんの不快な歌を聞いて巨大化していく。

 

「あんな変な歌を聞かせれば、大きくなるのは当然です!」

 

「なにゆうとるんや。ニコ生で皆が踊った由緒正しい歌やぞ」

 

「クソみたいな歌に変わりはないわよ……1からやり直しなわけ?」

 

 大きくなったロムビアコを見てベルベットはため息を吐いた。今までの努力が水の泡になってしまったから仕方がない。

 エレノアはテンノウジさんを叱るのだがテンノウジさんは後悔も反省もしていない。しかし、1回のミスでこんなになってしまう。雑音を聞けば巨大化してしまうロムビアコにずっと歌を聞かせ続けるのは不可能に近い。

 もう一度やり直さなければならない事に全員が少しだけ気分が沈んだ空気が流れていると灰色のオーロラの様なものが現れる。

 

「お、やっと来たか」

 

 オーロラの様な物が揺れ動くとそこには1人の男性がいた。

 テンノウジさんは知っているのか笑みを浮かび上げた。

 

「おいおい、マジかよ……あんなのが来るとか……言ってたな、仏」

 

「ゴンベエ、知り合いなの?」

 

 立っている男性についてゴンベエは知っているのか驚いている。

 いきなり現れた人なのでライフィセットは誰なのかゴンベエに聞いた。

 

「あの人は」

 

「俺の名は京極誠……通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておかなくていい……とは言い難いな」

 

 ゴンベエが紹介しようとする前に男はピンク色のカードを取り出し、名乗る。

 

「あんた、何者なの?」

 

「何者かと聞かれれば俺は俺だ……仏からなにも聞いていないのか?」

 

「…………確か、迎えにハンターを寄越すとかどうとか言ってたような」

 

 色々な鬼から詰め寄られている印象が強かったが、ホトケが迎えを寄越すと言っていたことをロクロウは思い出す。

 何時もならばホトケにそっくりな人が迎えに来るのだが今回は違う……この人がホトケの言っていた迎えか。

 

「俺はコイツ等を迎えに来ただけだ……と言いたいんだがな」

 

「えっと……すみません。途中までは順調に小さく出来たのですが、最後の最後でミスをしてしまいまして」

 

「その事についてはどうだっていい、今は……そうだな……いや、話さないでおこう」

 

「なんじゃ勿体ぶりおって」

 

「ここにいる本物(オリジナル)のお前達に話をしたとしても意味は無い。ティル・ナ・ノーグには別にお前達がいる……天王寺、黛さん、帰るぞ」

 

「チヒロはさん付けなのか……」

 

 チヒロさんとの力関係がアイゼンはよく分からない。

 マコトは灰色のオーロラの様な物を出してロムビアコを飲み込むとロムビアコは消え去っていく。

 

「やっと帰れるか」

 

「ほんの少しだけの時間やったけど、楽しかったで……お土産言うのもなんやけどレプリカの妖聖剣キーホルダーやるわ」

 

 テンノウジさんは5つの剣の形をしたキーホルダーを最後にゴンベエに託すとマコトに連れられて灰色のオーロラの中にチヒロさんと一緒に入っていった……元の世界に帰ったのだろう。

 

「……笑顔が自然に出てくる様に頑張ろう」

 

 テンノウジさんの言葉で少しだけ私は前向きになれた。




エレノアはバラライカ
ベルベットはSTAR
アイゼンはBURN
ライフィセットはWake UP YOUr Heart
ロクロウは勇気があれば
マギルゥは完璧ぐ〜のね
ゴンベエは革命への前奏曲と熱の欠片
天王寺は日出ズル場所とFIRE GROUND


ゴンベエの術技


サモン・リバイバル(with天王寺)

説明

ゴンベエ版サモンフレンズ。日本刀のクレストに入ると発生。
転生者業界の中でもトップクラスの最強の漢である天王寺麟童を召喚し、無数のてっぽうをくらわせた後、妖怪ウォッチオーガの力を使い、フドウ雷鳴剣で不動明王になり雷鳴鉄槌割、スザク蒼天斬でスザクとなり蒼天十字衝、ゲンブ法典斧でゲンブになり法典断獄斬、アシュラ豪炎丸でアシュラになり豪炎覇王刃、ビャッコ大霊槍でビャッコとなり霊槍牙王閃をくらわせる。

妖聖剣キーホルダー(レプリカ)

説明

幻獣の力が宿った聖剣のキーホルダー(レプリカ)
不動明王の力が宿るフドウ雷鳴剣、朱雀の力が宿るスザク蒼天斬、玄武の力が宿るゲンブ法典斧、阿修羅の力が宿るアシュラ豪炎丸、白虎の力が宿るビャッコ大霊槍の5本


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天への階梯(前)

「よ〜し、煮えてきたぞ」

 

「フィー、よそってあげるわ」

 

「あ、うん」

 

 サウンドワールドの住人ことロムビアコを元の世界に返すことが出来た。

 何時もならば佐藤二朗似の誰かがやってくるのだが、仏があんな感じだったので迎えを寄越す事が出来ずに代わりに転生者ハンターがやってきた。あのままだともう一回歌い直さないといけなかったので中々にナイスなタイミングでやってきたと思う。

 

「……美味い」

 

「悔しいですが、この味……私には無理です」

 

「流石はヨコヅナと言ったところか。ちゃんこ鍋はお手の物だな」

 

 天王寺の旦那がライブを終えた後に打ち上げとしてちゃんこ鍋と唐揚げを用意していた。

 塩の鶏ガラベースのちゃんこ鍋は実に絶品でエレノアは悔しがっており、ロクロウは納得している。あの人、スピード出世で関取になったりするけど部屋頭として皆を上に上げるだなんだでちゃんことか料理を作ったりしてて料理上手なんだよな。

 

「この唐揚げも中々の物じゃぞ」

 

 ちゃんこ鍋だけでなく唐揚げも美味い……皆がライブに向けて色々とやっている中でちゃんこ鍋と唐揚げの下拵えをしておいたってどんだけ完璧超人なんだろうか。

 

「ベルベット、どうだ?」

 

「……美味しいわね……セリカ姉さんよりも上じゃないかしら」

 

 オレが作ったものじゃないのでオレが食べさせるとベルベットも悔しそうにする。女子力の塊であるベルベットが負けを感じるとは流石は天王寺の旦那というべきか。

 

「……」

 

「どうしたアイゼン、箸が全然進んでないぞ。口に合わなかったのか?」

 

「いや、このちゃんこ鍋は絶品だ……ただ少し心残りがあってな」

 

「心残り……その……ポロリは死神の呪いのせいでアイゼンが」

 

「それじゃない」

 

 ちゃんこ鍋に箸があまり進んでいないアイゼン。

 天王寺の旦那とちゃんと相撲が取れなかった事を気にしてると思ったアリーシャはフォローに回るがその事について気にしているのでなかった。まぁ、仮に死神の呪いが発動してなくても最初のブチかましの時点でアイゼンと旦那の間には大きな重さの差があったし、旦那の事だから修羅戦黒の相でも出してボコボコにしてただろう。

 

「最後にテンノウジとチヒロを連れて行った男に対してだ、あいつは意図的に異世界の移動を可能としていた。あいつならばリーゼ・マクシアと呼ばれる世界に移動する事が出来るかもしれん」

 

「あ〜……」

 

 ジュードとミラの事が少しだけ心残りになっている。

 あの人ならば別世界であるリーゼ・マクシアとやらに連れて行く事が出来るだろう。

 

「そういやアイツ、ハンターって呼ばれてたけどなんか狩人なのか?」

 

「あの人は外道を狩るのを仕事としている」

 

「悪人退治ですか?」

 

「いや、そういう意味の外道じゃない……第三者によって意図的に理の法則から外された奴が世の中には存在している。そいつ等を狩る奴がいる……世界界賊にキーブレードマスターと色々と」

 

「意味がよくわからないのだが」

 

「まぁ、滅茶苦茶分かりやすく言えばある日全く別の人間になっていた人を審判する役割を持っている」

 

 これ以上言えば色々とややこしくなるのでこれ以上は言えない。

 転生者ハンターはオレ達日本の地獄産の転生者以外の転生者を狩ったりするのを仕事としている。異世界の信仰もなにもしていない筈なのにある日突然、憑依もしくは転生していた別世界の人間が極々稀にいる……確かアニメのポケモンの世界で何故かサトシくんになってた人が居るってのは聞いたことがある。本人はなんでなったか気にせずに真面目にポケモンマスターを目指してて、スイクンとかラティアスとかゲットしてたな。

 

「……意味が分からない」

 

「分からなくていいことだ」

 

 少なくともこの世界に転生している転生者はオレだけだと地獄の転生者運営サイドは言っている。

 現代でも転生者と思わしき人物はいなかったし、例え居たとしても天王寺の旦那か墨村守美狐か磯野勝利(かつとし)以外には殴り合いで負ける事は無い。

 

「大変、大変ニャァアアアアア!」

 

「どうしたんだそんなに大慌てで」

 

 ちゃんこ鍋を食べ尽くし、締めにラーメンを頂こうとしているとねこにんが大慌てでやってきた。

 ロムビアコという災厄は去ったというのに、一難去ってまた一難か。ダークかめにんがニャバクラの代金を踏み倒したとかゼンライの爺さんが酔った勢いで雷を落としたとかそういうくだらない話だったら無視しよう。

 

「終末の使者がノルミン島に現れたニャ!」

 

「終末の使者……なんかどっかで聞いたような」

 

「イズルドで聞いたのではないか。終末を告げるペンギョンが居るという噂を」

 

 大慌てで報告してきてくれるねこにん。

 何処かで聞いたけど思い出せないでいるとアリーシャが聞いた場所を教えてくれる。そういえばジュードの一件の時に聞いたな。

 

「おしまいニャ……この世界はもうおしまいニャ……終末の使者が世界を終わらせに来るニャ」

 

「……ベルベット、確かめに行こうよ」

 

「そうね……ホントに世界を終わらされたらアルトリウスも殺せないし、たまったもんじゃないわ」

 

 とりあえずこれで次になにをするのかが決まった。

 ノルミン島に現れたという終末の使者とやらに会いに行くこととなり、天王寺の旦那が作ったちゃんこ鍋の残り汁をラーメンにして〆るとオレ達はメイルシオに戻る。ノルミン島にはマーキングとかしていないのでベンウィック達には申し訳無いが、船を出してもらう。

 オレ達はなんともないがアイフリード海賊団の面々はノルミンに骨抜きにされてしまうからな。

 

「……ホントに終末の使者は来ているのだろうか?」

 

「あら、一週間ぶりやなぁ!」

 

「また来はったんやね。いらっしゃい」

 

 道中、なにかトラブルに巻き込まれる事もなかった。割とあっさりとノルミン島に辿り着くとノルミン達は出迎えてくれる。

 危険な存在である終末の使者とやらが本当に居るのか思わずアリーシャは疑ってしまう程に平穏だった。もっとこう、殺伐としたのをイメージしていたのだがノルミン島は相変わらず平常運転だった。

 

「ここに終末の使者とやらが来てる筈よ。何処にいるのか教えなさい」

 

「終末の使者?……あ〜もしかしたらあの2人かもしれへんな〜」

 

「居るのか……何処にいる?」

 

「あっちやで」

 

 割とあっさりと教えてくれるノルミン達。

 本当に終末の使者が来ているのか疑問を抱きつつもこのノルミン島で一番高い場所に向かうとそこにはペンギョンとミラがいた。

 

「あんた達が終末の使者なの?」

 

 どうしてここにいるかは問わない。ここにいるという事はそういうことなのだろう。

 ベルベットが尋ねるとミラとジュードは首を横に振った。

 

「私達は終末の使者ではない、終末の使者から裁きの戦いを託された」

 

「つまり下請けの下請け業者か」

 

「その認識はどうかと……今から皆さんには僕達と戦ってもら──」

 

「デラックス・ボンバー」

 

「ぎゃあああああ!!」

 

「よーし、先ずは一人目だ。次はお前だ、ミラ」

 

「ジュードがまだ話をしているというのに、なんと無礼な」

 

「いやだって……暴力で物事を解決してよくて尚且オレが手を出してもいい案件なんだ」

 

 やはり暴力、暴力は全てを解決する事が出来る。

 つい少し前まで歌って踊って騒いで物事を解決しないといけなかった反面、こういう力技で解決していい案件は楽でいい。

 戦わなきゃいけないのはなんとなく分かったのでベルベット達は構えるのだが、今回はオレに任せてほしい。ミラは話し合いは通じないと感じ構えるのだがオレはオリハルコンで出来た逆刃刀を手にして神速の居合抜きをする。

 

「これでいいのか?」

 

 とりあえずミラとジュードをぶっ倒す事に成功した。

 地面に這いつくばる2人を見下ろして、2人にこれで良かったのか確認を取った。2人はオレからくらった攻撃のダメージが酷いのか息が乱れており、返事をすることができない。

 

「貴方の勝利です」

 

「んだ、てめえ」

 

 2人からの返事を待っていると光の球が目の前に出現した。

 いきなり、予兆もなにもなく出現してきた存在にマスターソードを抜いて構えるのだがベルベットが攻撃するなと手で抑えてくる。

 

「あんたが終末の使者なわけ?」

 

「如何にも、我は終末の使者なり。そこの男は我が選んだ者との裁きの戦いに見事勝利をした。望みを叶えよう」

 

「え〜……じゃあ、2人を元の世界に返してやってくれよ。つか……ふん!」

 

「っがあ!?」

 

「終末の使者をぶん殴った!?」

 

「冷静に考えればお前が諸悪の根源じゃねえか」

 

 ジュードとミラがリーゼ・マクシアとかいう世界からこの世界にやってきた原因は仏でなくこの終末の使者にある。

 この二人はなにかやらなきゃいけない事があるってのに巻き込んでしまって、終末の使者だかなんだか知らねえけども神様仏様的な存在だったらなにをしても許される理由にはならねえ。2人を連れてきた事に対して詫びることもなければ元の世界に返してやると言わないので2人に変わって一発ぶん殴っておいた。

 

「ば、バカな。我に触れるどころかぶん殴っただと!?」

 

「コイツは色々な意味で規格外なのよ。相手にするだけ無駄よ、それよりも2人を元の世界に返してやりなさい」

 

「……よいのか?我の力を使えばお前の過去を、因果すらも書き換えて時間を巻き戻す事も出来るのだぞ」

 

「いや、オレも同じことが出来るから……」

 

「なんと……」

 

 この世の理を書き換えようと思えばオレは書き換える事が出来るし、過去に遡る事も出来る。

 ただジュードとミラを元の世界に返すことは出来ない。仏関係のことじゃないので仏は導いてくれないし、転生者ハンターはもう現れる事はない。

 

「過去をやり直したいと思わないわ。私の業も罪も、私のものなのよ。逃げるつもりはない」

 

「だそうだ……終末の使者、お前がなにを企んでいるかはしらないしお前は凄まじい存在なのは確かだろう。だが、だからといって偉そうにしていると…………殺すぞ」

 

「っ!わ、わかった。このような事は金輪際しない。汝らを試そうとした無礼を許してくれ」

 

「おい、あいつ神様的な存在を脅してるぞ」

 

「ゴンベエらしいといえばらしいではないか」

 

 オレの純然たる殺意とその気になれば終末の使者だろうが殺せる事を伝えると終末の使者は怯えた。

 自分が壮大な存在であり上から見下ろすことが出来ると調子に乗ってる奴は神様だろうがシバき倒す、いや、神様だからシバき倒す。神様ってのは割とロクでなしの存在の集まりなのだから。オレの暴挙にロクロウとマギルゥはヒソヒソと話をしているが割と丸聞こえだ。

 終末の使者は光を放つとペンギョンの姿だったジュードを元に戻した。

 

「ふむ……私達はベルベット達の意思を聞き出すつもりだったのだが」

 

「真剣になってるところ悪いが、あんたらは被害者なんだ。怒っていい立場だ……」

 

 神様だろうが世界の秩序を守っていようがそれを理由に好き勝手していい理由にはならない……まぁ、この世の理の外に出てしまっている転生者が言えたことではないが。終末の使者はオレとこれ以上一緒にいれば本当に殺されかねないと恐怖と危機感を抱いたのかミラとジュードを元の世界に返すと消えていってしまった……根性無しが。ミラとジュードはオレ達にお礼を言ってきたがお礼を言われることはしていない。

 

「ねこにん達に終末の使者は居なくなったって教えないとね」

 

 問題を解決する事が出来たのでノルミン島を後にする。

 ライフィセットはこの出来事をねこにん達に報告することを口にする……力技で解決した事を言われるのは少しだけ恥ずかしいが、まぁ、仕方ない事だ。メイルシオに戻るとねこにんが居た。

 

「大変ニャ!」

 

「もう大丈夫ですよ。終末の使者は帰りました」

 

 オレ達を見つけると大慌てで側に寄ってくるねこにん。

 エレノアは終末の使者の一件を報告するのだがねこにんは落ち着かない。

 

「キララウス火山が大変な事になってるニャ!」

 

「キララウス火山が?……なにも違和感は感じないよ?」

 

 また新しい厄介事が巻き起きたようだが、発生源であるキララウス火山からライフィセットはなにも異変を感じ取れない。

 なにかおかしなことがあったら……ライフィセットが気付くだろうし……。

 

「まさか、ベルベットが四聖主を目覚めさせたのが原因で……」

 

「そうニャ!あんた達が悪いニャからあんた達が解決してくるニャ!!」

 

 アリーシャは嫌な事を考えて顔色を青くする。

 メルキオルのクソジジイが四聖主を目覚めさせると色々な事が起きるのを言っていたが、それが今になって巻き起きたとなると……オレ達で解決できる案件なのか?地震とかの災害に関しては人間一人で解決できる問題じゃねえぞ。

 

「とにかくこのニャスタオルをあげるからとっとと解決してくるニャ!」

 

「んだよ、1枚だけって……8枚用意しろや」

 

「残り7枚は他のねこにんに貰うニャ!とにかく異変を解決してくるニャ!!」

 

 ニャスタオルを1枚だけ渡されてもな……。

 とりあえず火山に異変が起きている事だけは確かなので、キララウス火山に向かう。もし火山が噴火とかしたらメイルシオにいるオレ達は冗談抜きで死んでしまう。解決できる案件ならば解決しておかなければならないと赤色の衣装に着替えて火山を歩く。

 

「暑い、熱い、あーつーいー!!」

 

「前も似たような事を言ってたぞ」

 

「仕方なかろう!四聖主を叩き起こしたせいか、前よりも熱いんじゃから」

 

 煮え滾るマグマが熱いのでマギルゥは騒ぐ。シグレ達を殺りに来た時にも同じ事を言っていたのだがマギルゥの体感的に前よりも暑いらしい。

 しかしそんなことを言っても暑いのをしのげるわけじゃない。マギルゥの愚痴を気にしていたらキリがないので火山の奥へと進んでいくと地脈の中に通じる次元の裂け目の様なものを見つける。

 

「あれは地脈の中に入れる裂け目……前に来た時は無かったものだな」

 

 アリーシャは地脈の裂け目の様なものに近づこうとするのでオレは止める。

 

「アメッカ、不用意に近付くな」

 

「だが、コレが騒動の原因である事には変わりない。ここまで来た以上は調べなければ」

 

 アリーシャの言っている事に間違いはない。物見遊山でここに来たわけではない、ただ

 

「ここは地脈点じゃなくて地脈湧点だ。何処に繋がっているか……」

 

 前にカノヌシが居たとされる祠にある地脈の裂け目に入ったら最終的に監獄島に出た。

 普通の地脈点でそれなのだから地脈が縦に繋がっている地脈湧点、ベンウィック達を呼び寄せる事が出来ないところとか海中とかに出る可能性がある。

 

「それを調べるのが僕達の仕事だよ」

 

「だな。ここまで来た以上は引くなんて事は出来ない」

 

 オレが慎重になっている横でライフィセットとロクロウは地脈の裂け目に近づこうとする。

 2人の言葉で目覚めたエレノア達も近づこうとするのでこれはもう言葉でどうこう出来るわけないなとオリハルコンで出来た日本刀に闇を纏わせる。

 

「零次元斬」

 

 地脈の裂け目を空間ごと叩き切って、大きな穴を開き飛び込む。

 目が開けられない程に眩く光を放っており目を開けれる様になった頃には何時もの様に地脈の中にいた。地脈湧点の中だから入り組んだ地形になっているかもしれねえと思っていたが何時も通りか。

 

「……!」

 

「なにか引き寄せられまフ!」

 

「ああ」

 

 とりあえず何処かに出口がある筈だとオレ達は歩き出すのだが、ライフィセット達は天族はなにかを感じ取った。オレやエレノア、アメッカは特になにも感じ取る事は無いが……天族だから感じ取る事が出来ているのか?確実になにかがある事だけは確かなので警戒心は強めておく、地脈の中には憑魔もウジャウジャいる。シグレ達と比べれば雑魚なので割とあっさりと倒していくと出口と思わしき地脈の裂け目を見つけたので零次元斬で道を作り、外に出ると……また火山だった。

 

「あれ、火山に戻っちゃった?」

 

「いや、違う」

 

「……なんかここ違うな」

 

 色々と歩いたのに火山に逆戻りしたと驚くライフィセットだがアイゼンとオレは感じ取る。

 先程までいたキララウス火山に似ているが違う場所だと……ただここが何処なのか具体的には分からない。

 

「そうニャ!ここは天への階梯ニャ!」

 

 ここが何処か分からないでいると目の前に現れたねこにんが教えてくれる。

 

「天への階梯?……それはどういうところなんだ?」

 

 名前を教えてくれてもアリーシャは何処か分からない。アリーシャだけでなくオレ達もよく分からない。

 

「世界の機密が隠された空間ニャ!」

 

「世界の機密って……まだなんか隠されてるのか?」

 

 穢れと憑魔化のシステムにドラゴン化に四聖主に世界の鎮静化と文明のリセットとこの時代に来てから色々と見てきた。その上でまだなんか隠されてるのかよ……。

 

「なにが隠されてるかはアチシ達も知らないけど、聖隷を引き寄せる力を持ってるみたいで他のねこにん達が奥に吸い込まれていったニャ」

 

「ねこにんはやっぱり聖隷だったんだ」

 

「ねこにんはねこにんニャ。奥へ行ったのは単なる好奇心ニャ」

 

「ならば自業自得じゃろう」

 

「それはそうだけど封印されていたこの場所を開いたのはおニャーさん達にも責任があるにゃ」

 

「そう言われればそうなのですが……ここが封印されていたということはなにか危険な力があるのでしょうか?」

 

「それは……奥に進めば分かることだろう。その為に私達はここまで足を運んだんだ」

 

 今更引き返すことは今のアリーシャには出来ない事だ。

 ねこにんもオレ達が原因で封印が解き放たれたから責任を取って調べてこいと言っているので前に進もうとするとオレ達の前に光る球が出現する。

 

「よしなさい」

 

「っ、誰!」

 

 突如として現れた光る球にベルベットは警戒心を剥き出しにする。

 

「世界の仕組みを識る者、とでも言っておきますか。進んでも無駄です、この奥には絶望しかないのだから、せめて自分の世界で生をまっとうしなさい。進めばそれすら出来なくなってしまうのだから」

 

「また随分と偉そうなのが出てきたな……どうする?」

 

「世界の仕組みなんて知ったことじゃないけど、無駄と言われるのは気にくわないわ……行くわよ」

 

 ベルベットはやる気を出してくれた。何者かは知らないが、ベルベットを煽ってくれた事に関しては感謝しないとな。

 オレ達は天への階梯を突き進んでいく。




スキット 重ねている

グリモワール「前から気になってたのだけれど、なんで貴方はあの子に力を貸すのかしら?」

ゴンベエ「ベルベットならばアルトリウスがただただムカつく野郎だからだ。それ以上はなにもない」

グリモワール「ベルベットの事を聞いているんじゃないわ。アメッカの事よ……貴方は自分の事は自分でどうにか出来る人間だけど導く先導者に最初からなるつもりはないのでしょう……なら、どうしてあの子に力を貸しているの?中途半端に加担するのは一番よくない事よ」

ゴンベエ「……色々とあるからな。恩義があるとも言えるし、頑張っているから応援したいとも言える……後は間違ってほしくないって思いもある」

グリモワール「あの子が道を踏み外すと思ってるのね」

ゴンベエ「ああ、あいつは間違った道を歩んでしまう。強さを得たのと力を得たのをごちゃまぜにして一時期勘違いしていたし、正義が存在していると思っていた。この世は諸行無常、あるのは意思と意思のぶつかり合いだ」

グリモワール「この世に悪があるとすればそれは人の心、といったところかしら?」

ゴンベエ「いやいや、悪と正義を分ける唯一無二な身勝手な生き物、それが人間だ……今は信念を貫いて前に進もうとしているけど、また何時間違いを侵すのかヒヤヒヤもんだ」

グリモワール「アドバイザーになっているのね」

ゴンベエ「そんな高尚なもんじゃねえ……違う人と重ねたり色々と失礼な事をしているんだ」

グリモワール「前にも似たような事をしたの?」

ゴンベエ「アメッカと出会う前までは修行していた。人並み以上の幸せを掴み取る事が出来る様になる為に。数人一班で修行していて、オレは班の中で最年長で、1番才能がある奴が最年少の男だった……そいつの心には悲しみと憎しみしか宿っていなかった。どうする事も出来ない自分の弱さを悲しみ痛みしか与えないと世界を憎んでいた……だから誰よりも必死だった」

グリモワール「その子は……道を間違えたのかしら?」

ゴンベエ「どうだろうな。そいつは弱さを受け入れるんじゃなく、乗り越えるものだと1つの結論に至った。それが間違った道かどうかは分からないが、強くなる代わりに大事なモノを失おうとしていた。誰もが怯えて畏怖するライオンになろうとした。大事なモノを失ってまで強さを得てはなにも意味は為さない。だから体張って、目覚めさせた……たった1つの小さな幸せすら見えなくなるのは心が痛む。冗談抜きで死にかけたけど」

グリモワール「……その子も幸せ者ね。貴方がアドバイスを送ってくれるもの」

ゴンベエ「いや、そいつを目覚めさせる事は出来てもどうにかする事は出来なかったんだ。どうにかする為のピースはもう無くなってしまったから……へそ曲がりで捻くれ者で、憎悪と悲しみの念は未だに燃やしている。世界に対して復讐でもしようと思っている。でも、暴れまわる勘違いしたライオンじゃなくて野獣の獰猛さと賢者の知恵を持つドラゴンになろうとしている……道を踏み間違える事はもうしない……アリーシャも、強くなったと強くなろうとライオンを目指してはいけない。愉快なカバにならないと、大事なものを失う。特に笑顔を」

グリモワール「……貴方、あの子の事が好きなの?」

ゴンベエ「恋愛対象として見ないようにしている……アリーシャは今、必死になって頑張ってるんだ。異性としてみたり色々とやるのは失礼だろう」

グリモワール「あんたにノルミン・ハッピーアドヴァイスとしてアドバイスを送るわ。女の幸せについて考えてやりなさい」

ゴンベエ「勘弁してくれよ……表面や面白さだけで男は選んだらダメ、将来なんの約にも立たない魅力だって水樹奈々(姉御)が言っていた。あの人、主人公相手にバツイチに何度もなってるから本当に深い言葉だ」

グリモワール「変なところでチキンになるわね。もっと堂々としなさい。あんたはいい男よ」

ゴンベエ「だってオレ……戦闘以外の能力とか育ちとか基本的には一般人なんだよ。天王寺の旦那みたいな男前じゃねえんだ……恋愛は厳しい」


アリーシャのアタッチメント

ゼロの仮面

説明

世界中の憎しみを引き受ける為に撃たれる覚悟を持った男達の一世一代の大芝居をする為の仮面


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天への階梯(後)

「おぉ、今度は神殿に出たぞえ!」

 

 世界の機密が隠されているという天への階梯と呼ばれるダンジョンを突き進むと神殿の様な場所に出た。

 如何にもなにかがありそうな場所……こりゃあ世界の機密が隠されているのも満更嘘ではなさそうだ。

 

「どういう構造をしているのよ」

 

 火山地帯から一気に神秘的な神殿に場所が変わったのでベルベットは少しだけ困惑する。

 ここは……理論とか原理とかを気にせずにそういうものだと納得をしないといけない、そんな場所なんだろうな。

 

「あ、ねこにんが居た!」

 

 神殿に足を踏み入れるとライフィセットがねこにんの存在に気付く。

 

「し、しまった。ボクが観測されたという事は迷子という状態が確定してしまったニャ!」

 

「迷子なのか。あっちの方に進んでいけばこの天への階梯を出られる」

 

「あ、ご丁寧にどうもどうも……お礼と言ってはニャんだけどコレをあげるニャ」

 

「またバスタオルか」

 

「違う!ニャスタオルニャ!そこんところ間違わないでほしいニャ」

 

 アリーシャが帰り道を教えるとねこにんはバスタオルもといニャスタオルを渡してきた。

 こんな物を貰ってなんになるんだと言いたいが上質なタオルなので貰っておいて損は無い。

 

「あなた以外のねこにんはどうしているのですか?」

 

「他の皆はより奥に進んでいったニャ!まぁ、無事だと思うけど見つけたら声をかけてほしいニャ」

 

 他にもねこにんが居るはずなのでその事をエレノアが聞けば、厄介な答えが帰ってくる。

 ここに来るまでにそれなりの数のそれなりの憑魔が居た。この奥にはめんどうな世界の真実や機密とやらが隠されている……それを守る門番みたいなのも居るかもしれない。

 

「それと穢れで次元が不安定になってるから気をつけるニャ」

 

「あ〜……凄く大きく燃えてるな」

 

 ねこにんが指さした方向には大きく燃えている黒い炎があった。

 この炎はベルベットの放つ邪王炎殺黒龍波の炎に非常に類似しており、大きな穢れを放っている。

 

「ここは私に任せてくれ……虚空閃!」

 

 穢れをどうにかすれば先に進むことが出来る。

 アリーシャは槍を取り出し、虚空閃で穢れを断ち切ったのだが……炎は消えずに再び炎は穢れに満ちる。

 

「そんな」

 

「そんな、じゃねえよ。虚空閃は邪悪を断ち切る技だけど、炎とか水を切り裂いたりする技じゃねえんだ……火を消すのと同時に穢れを断ち切る、療法をしないといけない。ちょっと借りるぞ」

 

 アリーシャは地、海、空の槍術を覚えたがまだ合わせる事が出来ていない

 手本を見せてやろうとアリーシャから槍を借りると槍に光の闘気を集中させて一掃、穢れの炎の穢れを断ち切ると同時に炎を貫いた。

 

「アバンストラッシュ……地雷閃、海鳴閃、虚空閃の3つを同時に行い放つ1つの終着点だ」

 

 穢れは斬られ、穢れの元となっている炎も斬り裂かれた。周囲に漂っていた穢れは無くなっていくのを感じ取ったので、恐らくだがコレで先に進むことが出来る。アリーシャに槍を返すとアリーシャはアバンストラッシュを真似してみるが成功しない。全てを同時に貫かないといけない、1つでも欠けたり足りなかったりすれば失敗に終わる高度な技だからな。

 穢れが祓えたので次元が安定してきたのか奥に進むとワープする事が出来る不思議な門があり、奥へと進んでいくと……四足歩行の地を這うドラゴンがいた。

 

「っ、ドラゴンまで居るの!?」

 

 なにか出てくることは覚悟していたが、ドラゴンの登場にベルベットは声を上げる。

 ドラゴンはベルベットの言葉に反応し大きな遠吠えを上げるとこちらに向かって走り出してくる……これはアレか。コイツを倒せって事か。

 ドラゴンは猛スピードでオレ達に向かって走ってくるのでベルベット達は分断して攻撃を回避しようとするがオレは盾を取り出して激突を受けきった。

 

「テオドラよりは弱いな」

 

 東洋の龍でも西洋の竜でもない地を這うドラゴン。

 攻撃を受けきったので今度はこちらの番だと光るキューブを2つ出現させて、混じり合わせる。

 

「アステロイド+アステロイド……ギムレット」

 

 久しぶりの合成弾を撃つ。ドラゴンの強靭な鱗をギムレットは容易く貫いてドラゴンに風穴を開ける。

 

爆炎槍(ブレイズランス)!」

 

 アリーシャは爆炎を纏い、加速しながら槍を振り下ろす。

 決定打になったのかドラゴンは断末魔を上げて穢れを放つのだが段々と弱くなっていき、最終的には消え去っていった。

 

「全く、油断ならないわね」

 

「ドラゴンまで居るとなると……ここはいったいなんなのだろうか。神殿なのは分かるが……」

 

 ドラゴンを倒したので一旦集まる一同。落ち着いてこの場所を探索できないとベルベットは愚痴りアリーシャはこの神殿を観察する。

 ここがいったいどういう場所なのか、神殿であるからにはなんらかの意味があるが……四聖主とカノヌシを祀る神殿は別に存在している。ならばなにを祀るのか……謎だな。

 

「またあの光が出てきおったぞ!」

 

 色々と悩ましていると光る球が再び出現をした。

 

「ドラゴン達は門を目指してこの神殿に足を運んでいるのです」

 

「門ってなによ?」

 

「天界に至る為の扉……」

 

「だからその天界ってなによ……消えるな!!」

 

 光る球はここが何処かのか全てを知っている。だが、なにも語ろうとはせずに勝手に消え去っていく。

 

「天界ね……」

 

「なにか知ってるの?」

 

「仏教的な話をすれば天国の事だが、違うだろう……情報があまりにも足りないから突き進むしかねえ」

 

 天国からの使者、天使的な存在だったら天の国に来るんじゃねえの一言ぐらいあるだろう。

 ベルベットは分かってる事があるんだろうという視線を向けてくるが下手なことを言って間違えた考えを持たせるわけにはいかない。

 先に進んでいくと何時かの地の聖主の神殿と思わしき場所に出て、そこに溢れていた穢れをオレが浄化して先を進むとまた神殿に戻った。そしてまたまたドラゴンがいた。

 ここはカースランドみたいにドラゴンの養殖をしているわけじゃない。カノヌシを眠らせない様にする為の場所ではない……あの光る球が言っていた様に引き寄せられてる。ライフィセットやアイゼンが無意識の内に引き寄せられているように。

 

「無駄だと忠告をしているのに、また来てしまったのですね」

 

 神殿にまたドラゴンがいたので倒すと、三度光る球が姿を現してきた。

 

「あのね、そんな意味深な事を言われたら誰だって来るわよ」

 

「意味深なこと?私は無駄と忠告をしているだけですよ」

 

 ダメだな、この光る球はまともに話し合いが通じない。自分が言っていることが正しく伝わっていない事を自覚していない。

 ベルベットが少しだけ不機嫌そうにしている。話し合いがズレてしまうのはホントにめんどうだ。

 

「ならば教えてください!天界というのはなんなのですか!」

 

 光る球が言いたいことだけ言って消える前にエレノアは尋ねる。

 

「天界とは天族の棲む場所、貴方達の棲む穢れた地上世界が出来る前から存在していた真なる世界です」

 

「天族……オレ達、聖隷の事か!!」

 

「おや、今では聖隷が主流なのに知っているのですか」

 

「アメッカとゴンベエの住んでいる地域ではそう言っておる……して、その天界と門とやらがどう関係しておる?」

 

「この階梯の最深部にはある条件を満たす事で開くことが出来る天界への門があります。でも、その門を開けられた者は誰もいない……数万年の間、誰一人として」

 

「あ、ちょっ、待ちなさい!!」

 

 一人で勝手に落ち込んだと思えば消え去っていく光る球。

 とりあえずこの天への階梯は天族が住んでいるという天界という別世界へ行くことが出来る門があるということで……ん?

 

「おかしくないか?」

 

「確かアイゼンとエド──アイゼンの妹は地脈の中から生まれたんじゃないのか?」

 

 危うくエドナ様と言いかけるアリーシャだが適当に誤魔化した。

 そう、前にチラリと聞いたけれども天族は地脈の中からポンッと出てきたりして、アイゼンとエドナは同じ地脈から生まれたとアイゼンの口から語られている。天界が天族の住んでいる場所ならば……ダメだな、謎が深まっている。

 

「オレにも分からん……ただオレとエドナは同じ地脈から生まれ出たのは確かだ」

 

「あいつが嘘を言っている……いや、そういう感じじゃなさそうだよな」

 

 アイゼンは嘘を言っているわけではない。という事はまだなにかが隠されている。

 ロクロウも色々と考えてみるが答えには辿り着かない……ということは……

 

「奥に進むしかないわね」

 

 答えはたった1つ、足で探すしかない。

 天族が住んでいる世界はこの世界じゃない……天界への門は何万年も開いていない……これはマジで途轍もない秘密が隠されているな。それこそ天族について記された天遺見聞録とやらに載っていないのが。この時代じゃないと聞くことが出来ない情報を得ることが出来る。

 天への階梯を突き進んでいくと今まで旅をしてきた地脈点に出てはそこに溢れ出ている穢れを浄化して次元の歪みを正し、元の天への階梯に戻る。

 

「ニャア〜、人間行くところまで行けるもんニャ」

 

「……あんた達は心配する必要は無さそうね」

 

 更に奥へと突き進んでいくとねこにんがいた。

 ねこにん達が奥へと入っていったと聞いているオレ達だったが、ねこにんはピンピンしている。火口付近でねこにんに色々と言われていたので少しだけ気にしていたベルベットだが、心配する必要はもう何処にもない。天界とか天族についてベルベットは色々と気にしているのでその事について問い詰める為に突き進もうとする

 

「あ、そうそう伝言を預かったニャ!世界の仕組みを識る者さんから」

 

「っ、それを先に言いなさい!なんて言ってたのよ!」

 

「カノヌシの復活は今回がはじめてではありません。カノヌシは数千年に一度目覚めては鎮静化を繰り返していた」

 

「……カノヌシの存在を、鎮静化を知っておるのか」

 

 カノヌシの名前はアルトリウス達が色々とやったおかげで知名度が上がってはいる。

 しかしその実態を、真実を知っているのは極々僅かな一握りの存在だけで博識で1000年以上生きているアイゼンでさえ存在を知らなかった……となれば途轍もない奴だな。

 

「それこそが聖隷と人間が救われない理由、とのことですニャ!」

 

「人間と聖隷が報われない?……あいつ、救世主かなんかか?」

 

 意味深な言葉を残している事にロクロウは首を傾げる。

 

「聞いてみたら自分は天族ですと答えたニャ」

 

「……何者なんだろう。ゴンベエとアメッカの地域では聖隷の事を天族って言ってて、あの光る球は聖隷を天族と呼んでるのを驚いていた。天族=聖隷なのは間違いない筈だけど」

 

「……ここまで来たんだから、問い質すまでよ」

 

 天界とか天族とかホントに気になる事だらけだ。先に進むと今度はカースランドに出て、そこも穢れが溢れていたのでディンの炎で焼き払う。

 そして舞い戻る天への階梯へ……着実に前へと進んでいっているが、雑魚が多い。アリーシャの戦闘へのいい経験値になるからそれでいいのだが、そんなこんなでそこにもいたドラゴンを討伐すると光る球が出現する。

 

「天族様、カノヌシの情報ありがとうございます」

 

 ちょっと不機嫌そうにしているベルベットは光る球を睨んで嫌味を飛ばす。

 

「伝言は伝わったようですね」

 

 ベルベットの嫌味は光る球には通じていない。

 

「分かったでしょう。カノヌシの鎮静化は避けられぬ運命、抵抗しても無駄なのです」

 

「何故無駄だと言い切れるのよ。カノヌシも天族の一種って言いたいの?」

 

「そうですね……聖主も聖隷もかつては天界に住まう住人だった。天族と呼ばれる存在だった」

 

「待て、オレは天界なんて場所は知らん。天族が聖隷ならば地脈の中から生まれるか人間が生まれ変わるかのどちらかで生まれる筈だ」

 

 アイゼンは光る球の話の矛盾点を指摘する。

 

「そう……それは後から生まれた天族はその様に生まれます。ですが、それよりも遥か前に居る聖隷は、天族は天界からやってきたのです」

 

「例えば誰が天界からやってきたんだ?」

 

「そうですね……我が友、ゼンライは天界から舞い降りた天族です」

 

 ほうほう……あのジジイ、ホントに色々な事を隠してやがったな。

 スレイの事とか割とどうでもいい。カノヌシとかこの世界に隠されていた真実とかを聞きたかった。

 

「そして主神として彼等を導いた存在が聖主と呼ばれる存在です」

 

「そうか……聖隷とは聖主に隷属する者、そういう意味だったのか」

 

 天族の事をこの時代では聖隷と言っている。何故現代では天族呼びになったのかはまだ分からないものの、聖隷の意味がわかった。

 アイゼンがその事を口にすると少しだけ嫌そうな顔をしている。誰かに縛られるのは嫌なのだろう。

 

「聖隷でなく天族呼びが正しいのですね……」

 

「貴方達が知らないのも無理はありません。私達が天界から舞い降りたのは数万年も前の出来事なのです。今の聖隷は、地脈から生まれていった聖隷達は過去にかけた誓約についてなにも知らないのですから」

 

「待って!過去の誓約ってなんなの!!」

 

 ライフィセットは光る球に問い詰めるが光る球は消え去った。

 あの野郎、ここまで来たのならば1から10まで全部喋りやがれよ

 

「知りたければ前に進むしかない、か」

 

「ショックか?」

 

「いや、天族について識る事が出来る。ショックを受けて立ち止まっている場合じゃない」

 

「そうか」

 

 前向きなのはいいことだ。アリーシャは立ち止まる事をせずに前に突き進んでいくと今度は聖主の御座に出る。

 聖主の御座にはアルトリウスが結界を貼ってあったんじゃないかと疑問を持つが次元が捻曲がっているらしいのでここは聖主の御座であってそうでない場所だ。道中に強力な憑魔が居たのだが今のオレ達にとっては雑魚も同然であっという間に突破。

 

「あれが天界の門か」

 

 天への階梯に戻ると如何にもな神秘的なオーラを纏っている扉をオレ達は見かけるのだが

 

「誰だ、てめえ?」

 

 真っ白で半透明な翼の生えた豚が居た。

 ここに来ての新しい敵なのかもしれないと刀を抜くのだが豚からは敵意を感じない。オレ達がここにいる事について驚いている。

 

「驚いたわ。天界への扉へ辿り着くなんて」

 

「この声は……世界の仕組みを識る者!?」

 

 オレ達に驚き声を出す豚。声を聞いてエレノアは驚く。

 

「おい、豚。ここまで来たんだ、この際だから色々と教えろ。ただの豚じゃねえんだろう」

 

「ゴンベエ、相手は天族なんだ……その態度は」

 

「いいんだよ。喋れねえ豚はただの豚なんだ」

 

 いいから知っている事を教えやがれ。

 ライフィセット達も色々と聞きたい事があるのか豚を睨む。

 

「私の名はズイフウ……元天族、今は聖隷です」

 

「その姿、かけられた呪いってブウサギになることか?」

 

「いや、違う。コイツはムルジムと同じで元々こういう見た目の聖隷だ」

 

 豚の見た目は元からだとアイゼンはロクロウに説明する。この調子だと犬型の天族もいそうだな。

 

「人間と聖隷に掛けられた呪いとやらは業魔化とドラゴン化じゃろう」

 

「その通り……地上に舞い降りた聖隷は心ある人間と手を取り合って世界を変えようとしていました。でも、その協力は呪いにより崩壊しました。些細な事をきっかけに業魔とドラゴンが溢れ出た。殆どの聖隷は人間との共存の希望を捨て人間から離れて暮らすようになったのです」

 

「そうか……イズチはその為に……」

 

 アリーシャはイズチがなんなのかを理解した……諦めた奴の集まる場所、か。

 

「ドラゴンとはいえ元は聖隷。天界に帰りたいと引き寄せられたか」

 

「なるほど、ねこにんが言っていた聖隷を引き寄せるとはこのことだったのですね」

 

「……要するに、あんたも諦めた聖隷の一人なのね」

 

 ロクロウとエレノアはここにドラゴンが居た理由に納得をする。

 ベルベットは冷たい目でズイフウを見る。色々と適当な理由を纏めて、ズイフウは諦めた……。

 

「仕方ない事です。ただでさえ少数派だった強い霊応力を持った人間は大きく激減、人々は聖隷の存在を忘れ去ろうとしています」

 

「それをどうにかするのが人間との共存の道だろうが。なに諦めてるんだ」

 

「貴方になにが分かるのですか!何万年も滅んでは復興する、同じことを繰り返して来たのですよ!!」

 

 出たよ、自分が滅茶苦茶頑張ってますアピール。成果も何もないのならば頑張った事は褒められん。

 

「カノヌシが鎮静化をしなければ人も聖隷も滅びたでしょう」

 

「なら滅びればよかったんじゃないか?」

 

「なっ!?貴方、自分でなにを言っているのか分かっているのですか!!」

 

「ああ、分かっている。大方カノヌシは世界を滅ぼさない為のブレーキ役かなにかだろう……お前等も酷い生き物だよな。本来あるべき姿を無理矢理捻じ曲げてるんだから。お前等、穢れを発さない存在だけど発する存在だったら確実に穢れてるぞ」

 

 あるべき姿を形を無理矢理捻じ曲げて自分のエゴを押し付ける。それこそが人間が背負う一番の業だ。

 世界を助けたいだなんだと身勝手な事を思っては勝手に絶望して勝手に諦めている。諦めるなよ、頑張れよ、もっと努力しろよ。

 

「聖主との契約者が希望ですが……」

 

「契約者?」

 

 ここに来ての新しいワードにベルベットは首を傾げる。

 

「聖主と契約を交わせる程の強い霊応力を持ち折れない真っ直ぐな信念を、意志を持った人間のことです……現在の契約者であるアルトリウスはカノヌシの力で人と聖隷の心を操作しようとしている。もっとも永遠に悲劇を繰り返すより悲劇を感じなくなる方がマシなのかもしれません」

 

「……ふざけないで」

 

「ふざけてなんか居ません!何万年も人間を信じていたのに、このザマです」

 

「おいおいおい、オレから言わせて貰えばお前の方がふざけてるぞ……何故疑う事をしない?」

 

 人を信頼し信用する高潔な精神は見事なものだ。だが、世界は残酷だ。人や世界は裏切る生き物だ。

 だからこそ持っていないといけない、人を疑う心を、万が一を想定した保険を……それすら出来ない奴が救済だなんだと甘えた事を抜かしてるんじゃねえぞ。

 

「勘違いをしないでよ。別にあたし達は世界をどうこうしに来たわけじゃない。あんたが無駄無駄言ってるから文句の一言を言いに来ただけ。無駄だろうが不可能だろうが理不尽だろうが生まれた以上は生きるしかないの。現に今もこの瞬間、生き抜いているわ。人も業魔も勇者も聖隷も魔女も死神も騎士も対魔士も、皆が生きているわ」

 

「ですが、カノヌシの鎮静化は間もなく」

 

「あたしが止めるわ」

 

「貴女は……貴女達は世界の仕組みを知っても尚……」

 

 前に進むしかないので進み続ける……人間が背負う豪であり力でもある。

 

「そんな胸糞悪い仕組みも天界の天族とやらもどーでもいいわ。世界はどうだろうとあたしはあたしよ。なにを願うかは自分で決めるわ」

 

 ベルベットはそういうと来た道を戻り帰っていった。

 言いたい事を言えてスッキリしているので何処か上機嫌になっている……

 

「なんて人達」

 

「そうだね。ロクロウもアイゼンもゴンベエもベルベットも身勝手だよ……でも、そんな皆が生きている世界は嫌いじゃないよ」

 

「あの人達と関わり続ければ貴方は何時かドラゴンに」

 

「なるかもしれない……でも、後悔をしないように一生懸命に生きたいんだ。皆みたいに」

 

 ライフィセットも伝えたい思いを伝えるとベルベットを追いかける。

 

「まだあの様な人が聖隷が居たのですね……」

 

「豚、勘違いするなよ。ベルベット達みたいなのは極々一握りしかいない存在なんだ、世界中の人間がそうなるのは不可能だ」

 

 ベルベット達の強さに感服するが、ベルベット達は特例中の特例なんだ。全員が強くなれるとは限らない。

 最後に言葉を残しオレもベルベット達を追い掛けていく。オレ達は世界の真実を、仕組みを、天族がどうして天族と呼ぶのか、天界について知った。だからといってなにかが変わるわけではない、己の道を真っ直ぐ歩む。ここにいる面々は強い信念を持っているんだ。




今回はスキット無しです。投票よろしく


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最後のいい湯だな

ワールドトリガーを無視して書いてしまった……今回は短めです。



 

「しっかし世界ってのは案外雑に出来てるんだな」

 

 豚もといズイフウと分かれて天への階梯を降っていく。世界の真実を知ったのだがだからそれがどうしたとベルベット達は然程気にしていない。かくゆうオレもそこまで気にしていない。世界ってのは意外と雑に出来ている事に納得がいく

 

「現代に戻ればイズチに足を運んでジジイ殿にどうしたいか訪ねてみようと思う……もし、ジジイ殿が諦めていたら……」

 

「そん時はそん時だ、もう一回天への階梯を登って豚を引き摺り下ろす……神秘的な存在だから祀られて当然と思ってるなら舐め腐ってる」

 

 結果を残してこそなんぼの世の中だ。

 アリーシャはゼンライの爺さんに再会する事を決める……スレイが導師をやる事を文句言わないし、一応は天族の代表になってくれるっぽいが……何処かでケジメの様なものはつけておかないといけないな。まぁ、その辺りはアリーシャに頑張れとしか言いようがない。

 

「いや〜助かったニャ!お陰様で全員無事に戻ってくる事が出来たニャ!!」

 

「ドラゴンとか普通に居たのに、なんだかんだで生き残ったなお前等」

 

「アチシ達もこう見えて結構ニャるんだよ」

 

 オレ達と一緒に天への階梯を降っていくねこにん達。

 オレが倒してもなにも問題無い場所なので出会うドラゴンとかを秒殺したとはいえどちらかといえば穢れに満ち溢れている場所で危険な場所に変わりはない。それでも誰一人欠ける事なく無事に帰還する事が出来た。

 

「まぁ、あんた達が野垂れ死のうが知ったことじゃないけど……ここはどうするつもりなの?天界の門なんて重要な場所でしょ」

 

「多分、暫くしたらズイフウ殿が結界的なのを貼ると思うニャ……ここは本来見つけられない場所ニャ!」

 

「そう」

 

「ああ、そうニャ!その前にここまで連れてきてもらったお礼をさせてもらうニャ」

 

「別にいいわよ、お礼なんて」

 

 ここに来たのは偶然でここまでやってきたのは必然の為にベルベットは断ろうとする。

 ねこにんのお礼と言えばねこにんの里に案内されたが……それ以上のお礼なんてあるものだろうか?

 

「全員分のニャスタオルニャ」

 

「……なんだろう。無性にコレだけを着たくなる」

 

「脱ぐのはやめとけ……バスタオルがお礼とかセコくねえか?」

 

「ニャスタオルだけじゃないニャ!実はこの天への階梯には温泉が湧き出ているニャ!8名様、ご案内ニャ!」

 

 風呂か……暑いところにいたり寒いところにいたり時空がネジ曲がってたりしている天への階梯。一度に色々なところに行ったので程よく歩き疲れている……そんなところに温泉があるとはまたなんとも都合がいいことだ……まぁ、そういう世界に居るんだから仕方ないか。

 温泉に招待してくれるのでオレ達はねこにんに案内をされて温泉にやってくる。風呂の道具は向こうが用意してくれるらしいが、シャンプーとかリンスとか自作したのじゃないとなんか違和感を感じるんだよな。

 

「ふぅ……ちょっと温いから温度上げていいか?」

 

 体を石鹸で洗い、温泉に浸かる。感覚的に言えば41℃か。

 俺にはちょっと生温いので炎を出して自力で温度を上げる……これが意外と難しいが、不可能ではない

 

「あつっ!ちょっとゴンベエ、熱くしすぎです!」

 

「ん〜……繋がってるのか。悪い悪い」

 

 壁の向こう側に女性陣がいる。温泉が繋がっているのか温度を上げた事にエレノアは文句を言ってくるので炎を消して源泉かけ流しの状態にする。いいお湯だが生温い。温めると壁の向こう側にいるエレノアが文句を言う……さてどうしたものか。

 

「っふ、この程度で音を上げるのはまだまだだなエレノア!温泉は熱いのに限る!」

 

「熱すぎると火傷をしてしまいます!アイゼン、貴方のそれはただの我慢大会です」

 

 アイゼンは温泉の温度が変わっても問題無かったがエレノアは嫌だという……我儘なやつめ。

 

「そう喧嘩するな……折角の温泉なんだ。もっと羽根を伸ばしていこうぜ」

 

「僕達、羽根はないけどね」

 

 ダラーンと温泉に浸かるロクロウとライフィセット。

 そうだ。折角の温泉なのにダラーンと羽を伸ばさないのは勿体無い事だ……若干微温いが気持ちのいい温泉には変わりはない。

 

「はぁ……メイルシオの温泉も中々のものでしたが、天への階梯の温泉もたまりません」

 

「……ん?」

 

「そうね。天への階梯に来るまで色々と駆け足状態だったからちょうどいいわ」

 

 なんかおかしな事になっているな。

 温泉でリラックスしている筈のロクロウがエレノアの口調に、ライフィセットがベルベットの口調に切り替わる。コレはもしかしてと試しに気配探知をしてみるとロクロウの気配がエレノアに、エレノアの気配がロクロウに感じる。

 

「……おぉ!何故じゃか分からんが急に目線が高くなったぞ!!」

 

「私は低くって、なんなのよコレは!?」

 

 今度はアイゼンがマギルゥの喋り方になる。

 ライフィセットになっているベルベットは今になって自分がライフィセットの体に憑依してしまっている事に気付く。見事なノリツッコミだな。

 

「あ~この温泉はあまりの気持ち良さに稀に魂が抜け出てこんがらがる事があるニャ」

 

「え〜と、向こう側にいるねこにんで間違いないのか?」

 

 ビエンフーが語尾にビエンやデフを付けずにいる。

 ベルベット達と一緒に女風呂の方に入っていった女性のねこにんがビエンフーの体に憑依したんだろう。

 

「そういうのを早く言いなさいよ!!」

 

「落ち着け、ベルベット。こういう時に冷静さを欠いてしまえば……なんか失敗する」

 

「めんどくさくなって適当な事をぬかしてるんじゃないわよ!!」

 

「いやだって実際他人事だし……見ろよ、マギルゥなんてエンジョイしてるぞ」

 

 念願かなってかは知らないが大きな肉体を手に入れたマギルゥはシャドーボクシングを行っている。

 中身がアイゼンじゃないから動きが素人くさい。そして腰にタオルを巻くな。風呂の中ではタオルは禁止だ馬鹿野郎。

 

「ふぅ、困ったな……これもまた死神の呪いか?」

 

「バカを言え、こんなチンケな呪いがあってたまるか」

 

「……どうしよう、浮き袋を付けてるみたいだよ」

 

 中身が入れ替わったのはベルベット達だけでなくロクロウ達もだが誰一人盛り上がらない。

 普通はこういうイベントがあればスケベ根性を剥き出しになるものだが基本的に性欲枯れてるか初心な奴しか居ないので冷静になっている。

 

「そうか?俺は尻が重いぞ」

 

「オレはかなり身軽だ」

 

「ロクロウ、アイゼン、なにを言っているんだ!?」

 

「ちょっとロクロウ、貴方私の体で変な事をしないでください!」

 

「変もなにも立ち上がっただけだぞ」

 

「み、見えちゃうよ!」

 

「エレノア、じゃなかった。ロクロウ、湯船の中に浸かるんだ!」

 

 向こうでは立っているエレノア(ロクロウ)を見ない様に両手で顔を隠しているベルベット(ライフィセット)が想像出来る。

 面白い状況になっている中で魂が抜け出ていないアリーシャはエレノアの体をロクロウ達に見せない様にエレノア(ロクロウ)を湯船の中に浸からせる。

 

「アメッカ、大変だな」

 

「あんたちょっとは焦りなさいよ」

 

「そうは言うけども、オレにどないせい言うんや?肉体から魂引っこ抜いて入れ替える技術は持ち合わせとらんよ」

 

 温泉が気持ちいいので思わず口調が崩れてしまう。

 ライフィセット(ベルベット)はオレを強く睨んで来るがライフィセットの見た目なので全然怖くない。ベルベットの見た目でも怖くはないだろうな……ライフィセット、顔真っ赤だろうな。

 

「まさかとは思うがずっとコレが続くのではないだろうの?」

 

「大丈夫ニャ。温泉から出れば魂は元通りになるニャ!」

 

「なら決まりね!さっさと出るわよ!」

 

「え〜もうちょっと入らせてくれよ。こっちは五臓六腑に染み渡ってるんだぞ」

 

 湯船から立ち上がらせるライフィセット(ベルベット)

 まだ温泉に入って間もないのでもうちょっと浸かりたいのだがライフィセット(ベルベット)は強くオレを睨んでくる。

 

「ところでさっきからねこにんが俺達の事を凝視してくるんだが」

 

「そいつはねこにんでなくビエンフーじゃよ」

 

「アイゼン、一発ぶっ飛ばしてこっちに連れてきなさい」

 

「了解だ……ふん!」

 

「ビェエエエエエン!!ボクも被害者でフよ!?」

 

「この状況を思う存分に楽しんでますよね?」

 

 スケベ大魔王はビエンフーに相応しい称号の様だな。

 マギルゥ(アイゼン)にぶん殴られたねこにん(ビエンフー)は壁を超えて男湯の方にまで飛ばされてきた。ねこにんの体を傷つけるわけにはいかないが1人美味しい思いをしているのでとりあえずデコピンだけは入れておいた。

 疲れを取るはずが逆に余計なトラブルを巻き起こしてしまい一行は心労するものの一応は温泉で疲れが取れた……と思う。温泉から出ると元の肉体に戻ったのかエレノア達はホッとしている

 

「皆さん、特にビエンフー。ここで起きた事は忘れてください」

 

「はいはい、忘れる忘れる…………降りるぞ」

 

 尚、エレノア達が元の肉体に戻った後にビエンフーはもう一度ベルベット達にシバかれた……自業自得である。

 唯一幽体離脱しなかったアリーシャは手を出さなかったが止めることはしなかった……1人だけ無事だった為になんとも言えない感じになっている。

 

「で、この後どうする?」

 

 天への階梯も踏破してここらじゃ行ったことがない場所はないんじゃないかと言えるぐらいに色々と足を運んだ。

 もうイベント的な事は大分やり尽くしている……この後どうするのかをベルベットに尋ねると1人の男性がやってくる。腕に赤いバンダナを巻いているという事は血翅蝶の一員だろう。

 

「聖主の御座に貼られている結界が解除されました」

 

「……そう」

 

「そうか」

 

 遂に、遂にこの時がやってきたか。聖主の御座に貼られている結界が解除されたという事はアルトリウスはカノヌシの神依を完成させた事になる。今まで緩んでいた表情からベルベットは冷たい目に切り替える。待ち侘びていた日が遂にやってきたのだとオレ達の顔を見る。

 

「……いくわよ」

 

「ゼクソン港にワープする事は出来る。パッと行くか?」

 

「コレで最後になるからベンウィック達に別れの挨拶をしておきたいわ……船で行く」

 

「そうか」

 

 これから最終決戦に挑むので余計なものは削ぎ落としていくかと思ったがそうでもないようだ。

 アルトリウスをぶっ殺しに行くのでコレでこの旅は終わる……謎は残ったままだが最後になれば答えが分かる。モアナ達はメイルシオに残ってもらう。ダイルが守ると言っているがメディサやモアナの方がぶっちゃけ強いとか言っちゃいけない。

 

「待たせたわね」

 

 既にヘラヴィーサでベンウィック達は準備している。オレのワープでパッと行かない……コレがバンエルティア号に乗る最後の機会だ。

 

「おう、待ってたぜ。アルトリウス達は準備万端だがこっちも準備万端だ!っと、いけね」

 

「リンゴ?」

 

 ベンウィックはりんごを取り出す。

 食後のデザートかなにかかと思っているとベンウィックはりんごをベルベットに投げ渡した。

 

「そいつはな、フォーチュンアップルって言って……まぁ、お守りみたいなものだ。幸運を呼ぶっていう言い伝えがあるんだ」

 

「おいおい、俺達は悪党だぜ。必要なのは幸運じゃなくて悪運じゃないのか?」

 

悪運(死神)ならとうの昔に間に負うとるぞ」

 

「いや、そういう意味じゃないんだが……」

 

「ま、ありがたくいただくわ。リンゴは大好きなのよ」

 

「食べるなよ、大事なお守りなんだから」

 

「言われなくても食べ──っ……」

 

 ……?

 ベルベットはベンウィックから貰ったフォーチュンアップルを見て固まる……なにかに気付いたのだろうか?……そういえばここまで来たのはいいけれどカノヌシをアルトリウスごとぶっ殺したらどうなるんだろう。世界に影響を及ぼす神霊的な存在は無闇矢鱈と殺すとロクな事にならないんだが……まぁ、なんとかなるか。

 

「どうかしたの?」

 

「味見してみる?幸運のリンゴ」

 

「ダメだよ!お守りなんだから」

 

「そうね……生きる意味をくれる大事なお守りよね」

 

「……?」

 

 優しく微笑みかけるベルベットにライフィセットは僅かばかり違和感を感じた。

 なにかを決意したんだろう……既にアルトリウス達を殺す覚悟を決めているのになにを覚悟したのだろうか。まさか世界を滅ぼす魔王を演じてエレノア辺りに斬り殺されて世界を平穏にするゼロレクイエム的な事を企んでいるんじゃねえだろうな。ここに来てのゼロレクイエムは幾らなんでも無しだろう。

 

「それで最後の目的地は?」

 

 色々と嫌な事が頭に浮かんできたがベンウィック達はベルベットの変化に気付いていない。気付いているのはライフィセットぐらいか。

 ベンウィックは手を後ろに持ってきてベルベットからの指示を待つ。

 

「聖主の御座よ」

 

「ゼクソン港に向かうぞ!」

 

「アイマム・アイサー!」

 

 すごくどうでもいいことだがベンウィックの返事が英語っぽい言語ってどうなんだ。

 英語が通じない癖に横文字が平気で出てくる……拳銃作れないのに大砲があったり微生物の存在を認識出来たり、転生してから1年ちょっと経過するがこの世界はホントに摩訶不思議でおかしい。




スキット 幽体離脱しないのは

エレノア「ふぅ……温泉で疲れを取るはずが逆に疲れてしまいました」

ロクロウ「そうか?俺としてはゆっくり出来た……もうちょっと長く風呂に入りたかったな」

エレノア「あの温泉ではダメです!……私の体をもうちょっと労ってくれてもいいじゃないですか」

アリーシャ「あの温泉に入るときは男性と女性で時間を別にして入らなければ」

ゴンベエ「それやると高確率で女湯覗く馬鹿が出てくるだろうけど」

ビエンフー「ノルミン聖隷の中でも紳士なボクが覗きなんてしませんよ……堂々と入ります」

エレノア「こら!貴方、男でしょうが」

ビエンフー「そこはホラ、かわいいアヒルのおもちゃと同じ扱いで」

マギルゥ「よーし、ならば湯の中に沈めるぞ!」

ビエンフー「ビエエエエン!マギルゥ姐さん聞いていたんでフか!」

マギルゥ「最初から最後までのう……さーて何分息を止めれる事やら」

エレノア「いやあの、温泉に一緒に入れない様にしてくださいよ」

ゴンベエ「大変だな、お前も」

エレノア「貴方はまた他人事の様に……!、そういえば貴方とアメッカはなんともありませんでしたが……」

アリーシャ「私も温泉を楽しんでいたがなにもなかったな……そのせいでロクロウ達に見られていて恥ずかしい思いをしたが」

ゴンベエ「なんだ?オレに体を乗っ取ってほしかったのか?」

アリーシャ「……こう、仲間はずれな気がして。いや、分かっている。間違った事を言っているのは……だが、こういうのは全員同時に発生するものと本で見た。天丼というやつだ」

ゴンベエ「若干どころか結構ちげえよ」

エレノア「しかしどうしてアメッカとゴンベエは魂が抜けなかったのですか?」

ロクロウ「……ゴンベエは温泉の温度に満足行ってなくて極楽に至ってなかったからか?」

ゴンベエ「極楽には物理的に一度行ったことあるからなぁ……」

エレノア「でも、それだとアメッカの魂が抜け出ていない説明になりませんよ?」

ゴンベエ「多分だけどアメッカの槍を作る際にフチ込んだ魂のメダルの影響で魂に干渉したりするタイプの現象に対して耐性を得たんだと思うぞ。カノヌシの鎮静化の影響を受けないのもそれが大きいし」

マギルゥ「ならお主は?」

ゴンベエ「オレはやろうと思えば無機物に憑依する事が出来るから自分の意思で魂を出さない様にしていたんだと思う」

ビエンフー「なんかズルい気がしまフよ。2人だけ楽しんで」

アリーシャ「楽しんではいないのだが……」

マギルゥ「しかしお主達だけなにも無いというのは些か不公平じゃろう」

ゴンベエ「どんな理屈だ……アメッカの意識をぶっ飛ばして、意識が飛んでいる間に憑依しろと……最低でも4回は胸を揉むぞ」

アリーシャ「な、なにを言っているんだゴンベエ!?」

ゴンベエ「1回目は確認、2回目は感触を味わい、3回目は何処まで潰せるのかを見て、4回目は性欲を満たす為に揉む……おっぱいにはロマンが詰まっているんだ」

ベルベット「私の場合は?」

ゴンベエ「乳首をつま──あーっ!!」

ベルベット「くたばれ!」

エレノア「……ゴンベエがアメッカと肉体が入れ替わらなくてよかったですね」

アリーシャ「……ああ……そうだな」

ベルベット「あんた若干残念そうにしてない?」

アリーシャ「気の所為だ」



ヤベえ、スペシャルスキットの続きが書く意欲ねえ。KCグランプリのネタばっか出てくる


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鳥は翼を持つから 鳥は意志を持つから

スペシャルスキットのネタは浮かばないが続きは出来たぞい


 

 ゼクソン港に向かうバンエルティア号。

 ゴンベエのタクトのお陰もあってか順調にゼクソン港に向かっている

 

「呼び出して悪かったわね」

 

「いえ……ゼクソン港に着くまでは手が空いているので」

 

 時刻は既に夜を迎えている。最終決戦には何時もの8人で挑むことになっているから皆、バンエルティア号で英気を養っている。

 そんな中で私はエレノアを呼び出した。

 

「ライフィセットは?」

 

「見張りをすると言っていましたがゴンベエが休ませました。カノヌシを殴るには今は休まないといけないと言ってくれて」

 

「そう……あの子は弱音を全然吐かないからゴンベエが居てくれてちょうど良かったわ」

 

 なんだかんだで最初から最後まであいつに頼りっぱなし……本人的には然程気にする事じゃないだろうけど。

 フィーがちゃんと休んでいる事を知って少しだけホッとしているとエレノアは私に問い掛ける

 

「何故私だけを呼び出したのですか?」

 

「……少しね、分かった気がするの。弟の、ラフィの見たかった世界が見ていた世界が。気持ちいい風よね」

 

「ええ……世界は広くて大きくて狭くて小さくて壮大な事が貴方達と旅をして知れました」

 

「火を吹く山に、氷の大地、南国の地……どれも怖いけど綺麗な世界だったわ」

 

 ここに至るまでの事を目を閉じて思い出す。いいことばかりじゃなかったけれど私はラフィが歩みたかった道を歩んだ。

 この旅に思うことはあれども後悔はしていない……私はアルトリウスとラフィを殺す。私が私である為に

 

「エレノア、あんたに頼みたい事があるのよ」

 

 出来たらゴンベエにも頼みたかった事だけれど、ゴンベエはこの旅が終わったらアメッカと一緒に元いた場所に帰ってしまう。

 フィーを連れて行ってと言いたいけれどアメッカの方もなにかと問題が山積みみたいで厄介事に巻き込ませるわけにはいかないわ。

 

「頼みたいこと、ですか?」

 

「喰魔とカノヌシの力は本質的に同じ……だからイケる筈……」

 

「貴女、なにをするつもりですか!?」

 

「……アルトリウスとカノヌシを殺したい気持ちは本物よ。けどそれと同時に別の気持ちも出来ちゃったのよ」

 

 私の考えが間違ってなかったらイケる筈……そうなれば私は死ぬけれど、後悔はしないわ。でも……1つだけ心残りがある。

 

「まさか……」

 

「ちょっとした心残りよ。万が一の時の保険って言えばいいのかしら……フィーの事は任せたわよ」

 

 エレノアは私が何かをしようとしている事に気付く。

 コレはあくまでも万が一の保険……フィーは強い子で私が居なくなったとしても立派に生き抜く事は出来る筈よ。

 

「……分かりました!ライフィセットは責任を持って私が守り抜きます。その心残りにつけ込みたいところはありますが、生憎な事に私は貴女に死ぬまで従わないといけません」

 

「……そういえばそんな約束だったわね」

 

 ゴンベエがボコボコにしたからすっかり忘れていたわ。エレノアは私の最後の頼みを、心残りをどうにかしてくれる……エレノアなら信頼出来る。

 

「大分賑わってるな」

 

 夜が明けてゼクソン港に辿り着いた。鎮静化の影響は完全に無くなったかの様な賑わいを見せている

 

「業魔の被害に引き換えにのぅ」

 

 港を歩いていると耳にするのは災禍の顕主の噂や業魔の被害にあった等の良くない噂話ばかり。

 人が人らしく生きている結果が秩序の崩壊なんてなんとも皮肉めいている。けど、これでいい。自分らしさを奪われてる人間は生きているなんて言えないんだから。

 聖主の御座に寄る前に最後のアイテム補充を済ませているとマギルゥ奇術団だと勘違いしている商人のおじさんに出会ったりしたけど、今と関係の無い話だから飛ばす。

 

「結界は無くなっているみたいだな」

 

 二度目となる聖主の御座にやってきた。血翅蝶の話では結界を貼られていたらしいけれどそんなものは何処にも無いのをアイゼンは口にする。

 アルトリウス達の方も準備万端の証拠よ

 

「前に来た時とは色々と変わったな……」

 

 アメッカはボソリと呟く。

 最初にここに訪れた時はエレノアは敵でアメッカは戦うことは出来なくて……私は殺意の念を燃やし続けていた。ラフィの敵討ちだとずっと思っていた。けど今は違う、ラフィの為じゃない自分の為に戦う。

 

「……アルトリウス達の気配を感じないが」

 

 聖主の御座の奥に突き進む。

 2回目なので神殿の仕組みは分かっているのでポンポンと仕掛けを解いているとゴンベエは眉を寄せた。奥に突き進んでいるのに護衛的な対魔士は1人もいない。聖隷もいない。

 私達を相手に勝つことが出来ないと判断したのか……それともアルトリウスが見限ったか見限られたか、どちらかは分からないけれど余計な邪魔が入らないのはいいことよ

 

「カノヌシは……あそこに居るのか……あそこか……」

 

 余計な邪魔が入らずに聖主の御座の奥に突き進むと上空になにかあることをロクロウは気付く

 私達も見上げてみると空中になにかがあった……ゴンベエが望遠鏡を取り出したので貸してもらうと地脈の中に近い感じの場所が空中にあった。

 

「あの野郎、この期に及んで天空の城ラピュタ気取りですかこの野郎。バルスって言ったら滅びるかな」

 

「なに言ってるのよ、あんた?」

 

「しかし参りましたね。あの高さではグリフォンに乗っても届きません」

 

「ワシの式神は一人乗りじゃからのう」

 

「いや、向こうが道を用意してくれている」

 

 どうやってあそこまで行こうか悩んでいるとアイゼンは聖主の御座の光っている部分に視線を向けた。

 アルトリウス達が此処に来いとご丁寧に転移する術式を用意してくれているみたいでその光に触れると聖主の御座からカノヌシがいる所に飛ばされる……望遠鏡で見た通り、地脈の中に近いわね。

 

「…………カノヌシとアルトリウス以外に誰かいるな。天族っぽい」

 

「この期に及んでカノヌシに力を貸す天族が居るのか!?」

 

 ワープするとゴンベエが目を閉じて気配を探知する。

 アルトリウスとカノヌシ以外に誰かがいる感覚はなんとなく私も感じる……ただ対魔士はいない。多分だけど聖隷で、アメッカはこの状況で味方になる聖隷が居ることにアメッカは驚いた……ブウサギは完全に諦めていたっぽいけど、まだ味方が居るのね

 

「恐らくはそいつはカノヌシと直接契約した陪神だ」

 

「陪神?」

 

「凄くわかりやすく言えばカノヌシの力を使うことが出来る主従契約みたいなのをした天族だ……因みに人間verも存在している」

 

 よく分からない用語をアイゼンが口にした。ゴンベエが分かりやすい説明をする。

 カノヌシの力を……私やフィーとはまた違った力を持っているって考えればいいのね。

 

「しかし大地を器にしている筈のカノヌシが空中要塞を構えているとは」

 

「まぁ、なんとかと神様は高いところが好きと言うからの」

 

「なんとか……っは!鳥か」

 

「いや、違うわい!」

 

 道中に聖隷と思わしき連中が出てくる。

 カノヌシの力を与えられているだけあってか今まで対峙してきた聖隷よりも遥かに強かったけれど、私達の復讐とは全く関係無いのでゴンベエが秒殺する。話し合いの通じない相手だから一切の慈悲はない。けど相変わらず背中の剣は抜かない……木刀で相手を斬殺するってかなりの無茶よね。

 

「……鳥……」

 

 ロクロウが口にした事で私は思い出す。何時だったかどうして鳥が空を飛ぶのかを問われたことがある。

 鳥は飛ばなきゃならないから飛ぶ使命を持っているから飛ぶんだとラフィは答えを出していた。アルトリウスも同じ答えを出していたかもしれない……けれど、アイツは、ゴンベエは違う答えを出していた。この問題は算数みたいに正しい答えなんてきっとない……でも正しいと信じる事は出来る。

 

「この先にいるな」

 

 ダンジョンの奥へと突き進むと長い長い階段に辿り着いた。

 ここがこの旅の終着点と言わんばかりに眩い光を放っている。

 

「やっと恩返しが出来そうだな」

 

「あんたそれが言いたいだけでしょう」

 

「おっと、遂に気付かれてしまったか」

 

 私に借りた恩を返す為にここまで来たって言うけど、もうそういう話じゃないわ。

 

「なにを言うと思えば……ここにいる連中は誰かの為に動いているんじゃない、自分の為に動いているだろう」

 

「否定はしません」

 

「自分の舵は自分で取る」

 

「そうだね……それが僕達の流儀だもんね」

 

 誰かの為じゃない、自分のエゴを貫く為にここに集まっている。ゴンベエの言葉でフィーは覚悟を決める。私達も覚悟を決める。

 アルトリウスが待つ階段を登っていくとそこにはアルトリウスとカノヌシが待ち構えていた。

 

「あ、言い忘れたがアメッカ……手を出すなよ」

 

「なっ!?ここまで来てなにもするなと言うのか!」

 

「ああ、此処だからこそなにもするなと言うんだ」

 

 ここまで来てのゴンベエとアメッカは何もしないというスタンスを取る。

 最後まで見届ける為に力を貸してくれている2人は最後だからこそなにもしない。最後の選択は私達に託される。

 

「待たせたの、導師殿。災禍の顕主御一行の到着じゃ〜〜」

 

「最強の剣士、斬るのが楽しみだ!」

 

アイフリード海賊団(オレ達)に喧嘩を売ったんだ、ケジメをつけさせてもらう!」

 

「アルトリウス様、私は自分の意志に従ってあなたを止めます!」

 

 マギルゥがロクロウがアイゼンがエレノアが武器を取る。アメッカもなにか言おうとするがゴンベエに遮られる。

 

「……導師(わたし)の剣には人々の理想と希望が宿っている」

 

「だが、現実は宿っていない。理想と希望だけでは現実に打ちのめされるだけだぞ」

 

「理から外れた意志で砕けるものか」

 

 コンっとアルトリウスは剣で地面を突くと突風が吹き荒れる。

 シグレの時と似ている。シグレが抑えていた力を開放した時と同じようにアルトリウスも抑えている力を開放すると私達を威圧してくる。

 

「あなたの剣は強い……けど、ただの剣に変わりはない。僕達となんら変わらないよ!!」

 

「試してみるか……自分の体で」

 

 アルトリウスは剣を鞘から抜いた。

 

「君達にやられてから胸がズキズキするんだ……なんでだろうね」

 

「わからないなら僕がゴンベエに変わって殴ってあげるよ」

 

 カノヌシもやる気を見せる。フィーは札を取り出す。

 

「きっと君を食べればスッキリするよ」

 

「……アーサー義兄さん!昔、私に聞いたわよね!鳥はどうして空を飛ぶのかを!……今になって分かったわ!鳥は飛びたいから飛ぶのよ!他人の為じゃない、誰かに命令されたからじゃない。鳥はただ、自分が飛びたいから空を飛ぶんだ!!」

 

「……そんなものか、お前の答えは」

 

「ええ、そうよ。この長い復讐の道で見つけた答え、コレがあたしなのよ!!」

 

 私は誰のためでもない自分が飛びたいから飛ぶ鳥の様にここに自分の意志でここまで来た。

 

「お前という奴は相変わらずだな」

 

「だったら殺せばいいじゃない……導師として」

 

「元よりそのつもりだ!導師として災禍の顕主ベルベット・クラウ、そしてそれに力を貸すアイフリード海賊団を殲滅する!」

 

「やれるものならやってみなさいよ!」

 

「愚か者めが!それこそが人間の背負いし罪であり業である事が何故分からぬ!」

 

「それこそが意志の力だからよ!」

 

 例えコレが罪だとしても業だとしても私は背負って生き抜くは。

 私は体から炎を出して神依に似たような形態になり変わるとアルトリウスに向かって斬りかかる。

 

「よっこいしょっと……アメッカ、座れよ」

 

「だ、だが」

 

「座れと言っているんだ」

 

 アルトリウスが剣で私の攻撃を防ぐと同時に戦いがはじまる。

 私は剣でアルトリウスの首を狙いに行くけれどアルトリウスはそれを容易く回避する。

 

「邪王炎殺黒龍波!!」

 

 最後だから出し惜しみはしない。黒い龍の形をした炎を撃つとアルトリウスは炎を両断する。

 この程度で殺れるならこんなに苦労はしないので直ぐに飛び蹴りをくらわせに行くがアルトリウスはそれを回避する。けど回避される事は読んでいたから着地の勢いを殺さずにそのまま飛び膝蹴りを叩き込む

 

「っぐ!」

 

「俺達も忘れるんじゃねえ!!」

 

 アルトリウスにダメージを与える事が出来るとロクロウがアルトリウスを斬りに掛かるがアルトリウスは回避をする。

 分かっている。この人をこの程度では殺すことが出来ないのを。

 

「君には痛い目に遭わされたからね……思う存分に」

 

ピタロック(ポーズ)……狙うのはオレじゃなくてベルベットにしろ」

 

 カノヌシはゴンベエを狙いにいった。

 剣を振りかざそうとするカノヌシの時間を止めるとゴンベエはアメッカを連れて安全な場所に避難をし、その隙にフィーが沢山の札を出現させた

 

「卑遁・互乗起爆札!!」

 

 札が新しい札を呼び出すと爆発を起こし新しく呼び出された札が更に新しい札を呼び出すと爆発を起こす。

 召喚と爆発の連鎖を繰り返す骸骨騎士に教わった術をここで使う。爆炎と爆発の衝撃がカノヌシを一度に襲う。

 

「っがあ!?」

 

「どうしたの!その程度で僕たちを食べるつもりだったの!」

 

 フィーはカノヌシを挑発する。この程度ではまだまだ倒れないのを分かっているからフィーは油断をしていない。

 その間にも私はロクロウと息を合わせてアルトリウスに攻撃をするけれどアルトリウスは片腕だけで捌き切る。

 

「どうした!私達を殺すんじゃなかったの!!」

 

 分かっている。アルトリウスはまだ全力を出していないのを、この日の為にとっておきを用意してきたのを。

 アルトリウスの全部を喰らうつもりだから私はアルトリウスを挑発するとアルトリウスの眉に若干だが皺が寄るとアルトリウスは私の剣に自分の剣をぶつけてきた

 

「っ!」

 

「あ、まずい!」

 

 剣をぶつけた衝撃が右腕に走る。

 何時だったかゴンベエがシグレに使った技と似ている技を使って私の右腕を麻痺する……こんなのテンノウジと羽子板で勝負した時の痛みと比べればなんとでもない。左腕で右腕を叩いて麻痺している手を無理矢理動かそうとするが思うように動かない

 

「ベルベット!」

 

 フィーは腕のダメージに気付き治癒の術をかけてくる。

 腕の痺れは直ぐに取れたけれど、この状態を持ってしてもアルトリウスとやっと渡り合える状況…

 

「君達が、君さえ居なければこのムカムカをどうにかする事が出来るんだぁああああ!!」

 

「っ、させない!!」

 

 カノヌシはフィーに襲いかかる。

 私はフィーの前に立ち塞がり剣を構える。

 

「邪魔だよ、お姉ちゃん!そいつを殺せないよ」

 

「殺させはしないわ!!」

 

 剣を振りかぶるとカノヌシも剣を振りかぶる。

 剣を交じ合わせ、金属音を鳴り響かせる。元がラフィだけあって剣の腕はそこそこ。シグレの方が遥かに上なのが分かる……けど、油断できない。一撃一撃に重みを感じる。

 

「そこだぁ!!」

 

「……っ!!」

 

 カノヌシは突きを打ってくる。

 回避する事は出来たけれど私は無意識にラフィに貰った櫛を取り出すと櫛は貫かれて、カノヌシは私の背後に、カノヌシに突破される。

 

「あ……れ……お姉ちゃん?」

 

 カノヌシはラフィの櫛を壊すと動揺する。

 

「……それはラフィがくれた物よ、聖主カノヌシ!!」

 

 私が相手にしているのは弟でも弟の生まれ変わりじゃない。聖主カノヌシだ。

 

「そっか……そうだよね。あなたは災禍の顕主でぼくは聖主」

 

 櫛を見て動揺しているカノヌシの目は虚ろになっていく。

 この程度で弱くなって殺せる……なんて都合のいい展開は巻き起こらない。

 

「……ああ……お腹が空いたよアルトリウス。お腹が空っぽで胸が空っぽで、体が空っぽで……お腹が空いたよ!苦しいよ!!」

 

「……どうやらお前から絶望を喰らう事は出来ないようだな」

 

「私はもう絶望なんかしないわ……カノヌシの完全復活はこれでもう出来ない」

 

「それはどうだろうか……鳥は強き翼を持つから故に飛ばなければならない。人は深き業を持つから鎮めねばならない。穢れも悲劇も争いも怒りも涙も愛さえも。今すべてを鎮めよう、我が羽ばたきの為に、世界の静寂の為に」

 

「っ、穢れ!?」

 

 カノヌシの元にアルトリウスが駆け寄るとアルトリウスは体中から穢れを発した。

 今の今までアルトリウスからなにも感じなかったのに……今までこの穢れを意志1つで抑えていたわけ!?

 

「カノヌシよ、私の絶望を喰らうがいい」

 

 アルトリウスはカノヌシに穢れを喰らわせる。するとカノヌシは光の球に体を変える。

 

「ネブ=ヒイ=エジャブ!!」

 

「コレってアメッカの時と同じ!」

 

 名前を呼ぶことでアルトリウスはカノヌシを引き寄せる。

 この状態と似ているのをフィーは知っており、アメッカに視線を向けるけど直ぐにアルトリウスに視線を向ける。

 

「カノヌシの神依!」

 

「遂に大玉が出てきやがったな!」

 

 アルトリウスの姿は大きく変わる。光る翼の様なものが生えて巨大な大剣を手にしている。

 ここに来るまでに見てきた神依と威圧感からして大きく違う……アメッカはこの完成形を知っていた。名前を呼ぶのが神依の完成形みたいね。

 

「今、全て鎮めよう。完成された我が神依の力で」




最終決戦なのでスキットは無いです(ネタが尽きたともいう)
後もうちょっとでベルセリア編が終わるです……ゼスティリア編、マジでどうするか


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大逆転の卓袱台返し

なんか上位にランクインしてるよ!?


 

「こいつこれほどの絶望を抱えていたのか!!」

 

「いや、ずっと抑え込んだんだろう!」

 

「一歩間違えれば自分が業魔化してしまうというのに、よく耐えておったのう!」

 

「コレがアルトリウス様の意志の力……」

 

 アルトリウスの完成された神依にアイゼンがロクロウがマギルゥがエレノアが圧倒される。

 それだけアルトリウスの神依から感じる力が強い。

 

「ゴンベエ」

 

「座って見ていろ」

 

 アメッカは力を貸すべきだと立ち上がろうとするがゴンベエに抑えつけられる。

 それだけアルトリウスの力が巨大なものだと感じているがゴンベエは眉一つ動かさない。

 

「アルトリウスの意志は絶望に塗れていた。コレがコイツの本性よ!」

 

 そんなゴンベエの姿を見てアルトリウスの強さに圧倒されていた自分がバカみたいに思える。

 アルトリウスの本性をやっと暴き出す事が出来た。

 

「皆、絶望になんか負けちゃダメだよ!!」

 

 フィーがエレノア達を鼓舞する。アルトリウスから感じる威圧感は凄まじい。怯むのは無理は無いけれどそれでも立ち上がる。

 言葉で鼓舞する事に成功したのかロクロウはアルトリウスに攻めに行く。アルトリウスは大剣で受け止めると一気に振りかぶると眩い光が放たれる。火でも水でも風でも地でもない、属性が無いか全部の属性に弱点を突く事が出来る光属性……

 

「闇は……光を飲み込む!闇纏・無明斬り!!」

 

 アルトリウスに普通に挑んだとしてもカノヌシの神依の方がパワーは上。

 考える事をやめずになにかないかと眩い光を纏うアルトリウスに対抗する手立てを考えていると結界を纏っているゴンベエが目に入った。ゴンベエなら拳1つで解決するけど私にはそこまでの力は持っていない。ゴンベエが極稀に剣を使った時に使っている技を試しに使ってみると闇を纏った斬撃が飛んでいく。

 

「っ!」

 

「効いた!」

 

 闇を打ち払おうとするけれど無明斬りを防ぐ事が出来なかった。

 アルトリウスの頬を掠めるとアルトリウスはタラリと頬から血を垂れ流す。

 

「炎じゃなくて闇を纏えば……っ!」

 

「あ、バカ!」

 

 私の剣には炎のメダル以外にも闇のメダルと呼ばれる物が使われている。

 闇を刀身に纏わせると身体がどんよりと重みを感じる……コレは闇の重さ?

 

「闇自体が独特の引力を持ち合わせてるからそういうの結構高度なテクニックがいるんだよ!」

 

「っ!」

 

 やっぱりぶっつけ本番の勢いに身を任せた技はまずいわね。

 ゴンベエが私が感じた違和感について説明をしてくれるけれどそれを聞く為に一手費やしてしまい、反応に遅れる。アルトリウスは大剣を振りかぶる

 

「秘剣・覇道絶封!己が罪深さ……二度刻め!」

 

「っ!!」

 

 私達はアルトリウスに斬り飛ばされる。

 飛ばされると更にアルトリウスは追いかけてきて私達を切り刻む

 

「大丈夫か?」

 

「大、丈夫よ……」

 

 まともに大技をくらって体の至るところから血を流す。

 フィーやマギルゥ達が治癒の術を掛けてくれるけれども一瞬で全てが治るわけじゃない。飛ばされた直ぐ近くに座っているゴンベエは私の事を心配する。私はゆっくりと立ち上がる……体は物凄く痛いけれど、何故か痛みを感じない、ハイになっているわね。

 

「我が剣を受けてもまだ立ち上がるか」

 

「当たり前じゃない……私はあんたを殺す為にここまで来たのよ!!」

 

「ここまで強くなけりゃ斬り甲斐がねえだろう」

 

「死神に喧嘩を売ったんだ、落とし前はつけさせてもらう」

 

「どーでもいい世界を更にどーでもよくはさせたくはないのぅ」

 

「あなたを止める……私は自分の信念を貫きます」

 

「負ける、もんか」

 

 ロクロウが、アイゼンが、マギルゥが、エレノアが、フィーが傷まみれになりながらも立ち上がる。

 それを見ているゴンベエは何処かから取り出した水筒の水を飲む。

 

「ベルベット、まだ剣を使いこなしていない。炎と闇の両方を使いこなせなばアルトリウスに勝つことが出来るぞ」

 

「炎と闇……」

 

 今の時点でも全力で戦っているってのに、まだ上があるのね。

 ゴンベエはくだらない事を多々言うけどこういう時に言うことは本当の事……炎と闇、炎はシアリーズを喰らった影響か、数年の独房での生活の影響か意識しなくても簡単に使える。けど、闇の力は意識しないと使えない。まだ使う事が出来ていない力を今ここで使いこなす……炎はあらゆるものを焼き尽くす、闇はあらゆるものを飲み込む。あらゆるものを飲み込み焼き尽くす炎を

 

「容赦はしない!!塵も残さないわ!浄破滅焼闇!!」

 

 あらゆるものを飲み込む炎を作り出し、剣に纏わせる。

 神々しい輝きを放つ神依状態のアルトリウスに振りかぶるとアルトリウスは大剣で受け止めると闇の炎がアルトリウスの大剣を伝いアルトリウスを焼き尽くす

 

「やれば出来るじゃねえか」

 

「ええ、自分でも驚きだわ」

 

 まだ私の中に力が眠っているとは思いもしなかったわ。

 闇の炎を扱う事が出来る様になると刀身に闇の炎を纏わせるだけでなく全身に纏わせる。

 

「舐めるな!!」

 

「舐めちゃいないわ!」

 

 アルトリウスは闇の炎を気合で吹き飛ばす。

 この程度の事でアルトリウスがやられるなんて思っていない。だから私は迷いなく前に進む

 

「あたしはあんたを!!この憎しみを、喰らう!!」

 

 腕を振り下ろし、剣で攻撃しにいく。

 アルトリウスは大剣で攻撃を受け止めて弾くと私の籠手が衝撃に耐える事が出来ずに砕け散り、剣だけがゴンベエの元へと飛んでいく

 

「諦めろ!!私は世界の痛みを」

 

「私が諦める事を諦めな!!」

 

 取った。

 喰魔化した左腕でアルトリウスの大剣を持っている手を封じ込めてそのままアルトリウスを押していく。力は互角……でも、何時均衡が崩されるのか分からない。神依のアルトリウスの力が何時増すのか分からない

 

「ふぎぅううう!!」

 

 右手と左手、両方の手を使ってアルトリウスの動きを抑える。

 ここから私の出来る攻撃はアルトリウスに文字通り喰らいつく事で私はアルトリウスの首元を喰らいつく。

 

「んぉおおおお!!」

 

「うわぁああ!?」

 

 私の噛みつきにアルトリウスが耐えているとカノヌシがアルトリウスの中から飛び出した。

 そうするとアルトリウスの神依は強制的に解除されて元の状態に戻ると私はすかさず蹴り上げてアルトリウスの剣を空中に飛ばし、私はジャンプしてアルトリウスの剣を掴んだ

 

「絶対に諦めるな!!」

 

 落下の勢いをつけてアルトリウスの腹をアルトリウスの剣で貫いた。

 

「ぐふっ……」

 

 アルトリウスは血を吐いて背中を地面に向けた。

 終わった……長い長い私の復讐は今ここで終わりに辿り着いた

 

「まるで英雄の様だな」

 

「あの日、義兄さんが教えてくれた事でしょう」

 

 絶対に諦めるなはアルトリウス……アーサー義兄さんの教えの1つよ。

 

「開門の日、か……」

 

 私に教えていた事をアーサー義兄さんはちゃんと覚えていた………

 

「ベルベット……あの日からアーサーは嘘なんだ……俺はずっと思っていたんだ。あの日、死んだのがセリカ達でなくお前達だったら良かったのにって」

 

「……その時はセリカ姉さんが私になっていたかもしれない。けど……あの時犠牲になったのが私とラフィだったら、義兄さんは世界を救う英雄になったの?」

 

「ああ……きっと救ってみせる。痛みも涙も悲しみも、すべてを受け止めて前に進もうとした……」

 

「詭弁だな。タラレバの話は……くだらねえよ」

 

 ずっと見ていたゴンベエはアメッカと共に結界を解除してアーサー義兄さんの元に駆け寄る。

 何時も通りどうでも良さげな目をしているけれど、アーサー義兄さんになにか聞きたい事があるのか目の前で座った。

 

「もうすぐお前は死ぬ……だから最後に本音を聞きたい。導師アルトリウスでなくアーサーとしてお前に聞く」

 

 ポゥとゴンベエはアーサー義兄さんに手をかざす。

 既に腹を貫通していて大量の血を流している。ゴンベエは傷の治癒は出来るけど、こうなればもうフィーやマギルゥでも治すことは出来ない。延命措置に近いものね。

 

「お前はベルベットの姉を愛していたのか?」

 

「……彼女は、セリカは私にとっての希望であると同時に絶望の象徴だ……開門の日、あの日が来るまでの日々は何者にも代える事は出来ない私の宝だ。あの時が帰って来てほしいと何度願った事か……だが、過去は変える事は出来ない。変えることが出来るのは未来(明日)だけだ」

 

「オレにその言葉は効く…………お前は本当に世界を救おうと思っていたのか?」

 

「……アーサーだった頃もアルトリウスになった時も私は本当に世界を救おうと世界を歩いた。火を吹く山に極寒の地、南国に見果てぬ夢を見た。夢は所詮、夢のままだったというわけか」

 

「皮肉になってねえな、おい……お前は頑張ったんだろうがオレからすればアホとしか言いようがない。夢を見るのは勝手だが夢とはやがて冷めて消えるのがこの世の理だ」

 

「ああ……出来ればその事を直ぐに気付けていればよかった」

 

「お前の夢は大きすぎた。正義のヒーローは重いものだ。人でありながら概念になる事が出来るなんて転生者(オレ)達の中でも天王寺の旦那か八木のおっさんしか出来ない。お前という器では世界を受け入れる事が出来ない、こうして受け入れる事が出来なかった零れ落ちた雫がお前の喉元をかき切る事になった」

 

「……お前はメルキオルが妬むほどの力を、世界を救う力を持っている。世界の残酷さを、どうにもならない理不尽をお前は知っている。お前ならどうしていたんだ?」

 

「オレは世界を救うなんて大層な事は出来ないちっぽけな人間だ……だから手を繋ぐ」

 

「手を……」

 

「ベルベットの手を繋いでベルベットはロクロウの手を、ロクロウはエレノアの手を掴んで、エレノアはライフィセットの手を……そうやって皆で1つの輪になる事が世の中意外と大事で難しい事だ……お前は手を繋ぐ事が出来たか?」

 

「俺は……手放してしまった。掴み損なってしまったな……セリカ……名も亡き我が子よ……すまない、許せ。許してくれ。アーサーの弱さを、あの日、俺がもっとお前の様に強かったら」

 

 アーサー義兄さんはポロポロと涙を流す

 自分がもっともっと強かったら何一つ悲劇が起こる事は無かったと自分の弱さを悔しむ

 

「そんな事は無いわ、アーサー」

 

「!」

 

「ねえ、さん……」

 

 私の中に眠っている筈のシアリーズが、セリカ姉さんが出てきた。

 シアリーズの姿じゃなくセリカ姉さんとしての姿で、アーサー義兄さんは驚きの顔を見せる。

 

「あぁ、夢を見ているようだ……最後にまた君に会う事が出来るなんて」

 

「アーサー、貴方はとっても頑張ったわ。誰よりも優しく誰よりも強く誰よりも賢かったわ……だから、もうおやすみなさい」

 

「正義の味方になるって事は人を止めなきゃいけない事でもある、世界を救うならば尚更だ。重すぎる理想を捨てきれないなら、その重さで死んでしまえ……理想を抱いて溺死しろ」

 

「おやすみ、セリカ」

 

「ええ、おやすみなさい。アーサー」

 

 最後にアーサー義兄さんはセリカ姉さんの腕に抱かれて眠りについた。

 全ての責務から開放されアーサー義兄さんはアルトリウスからアーサー義兄さんに戻った……最後の最後に、この人の1番の願いは叶った。

 

「コレでよかったのだろうか?」

 

 アーサー義兄さんへの復讐を果たした。私の長い長い旅はここで終わったけれど、アメッカは俯く。

 

「アルトリウスの世界を救おうという思いやセリカさんを愛していた思いは本物だった……もっと上手く歯車が噛み合えば、世界がもっと優しく出来ていれば」

 

「それは言っちゃいけない事よ」

 

 セリカ姉さんが生きて、私も生きて、ラフィの十二歳病も治って世界中をラフィと一緒に歩いて、そこでロクロウ達と出会って、生まれてきたフィーに冒険譚を語る。それはただの夢で妄想でしかない。世界は残酷なのよ。

 アーサー義兄さんが完全に息を引き取るとセリカ姉さんはシアリーズの姿に戻り、アーサー義兄さんの遺体を焼く……火葬する。

 

「お腹すいた……お腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたぁあああああ!!」

 

「ああ!?アルトリウスがくたばったてのになんで生きてやがる!?」

 

 アーサー義兄さんが完全に死んでもカノヌシは死んでいなかった。流石の事にゴンベエも驚いている

 

「恐らくはアルトリウスから引き剥がした際に器の契約等を無理矢理潰したんだ……退け、暴走して手が付けられなくなる前にオレが始末する」

 

「待って!」

 

 体から眩い光をカノヌシは……ラフィは放っている。アイゼンが暴走をする前にと聖隷術を使おうとするけれど、させない。

 突風が吹き荒れる中で一歩、また一歩とラフィの側に近付いていく。

 

「ぼくは我慢したんだ。痛いのも怖いのも」

 

「ええ、知ってるわ」

 

 ホントは怖くてホントは痛くて、ホントは誰よりも辛かったわよね。

 私はラフィの元に近寄り目一杯抱きしめた。

 

「なにやってんだ!そいつ何時暴走してここら一体をボカンとやるのかわからない状態なんだぞ!」

 

「……いいのよ、これで」

 

「苦い薬だって飲んだし……食べたい物だって我慢した!!なのに、なのになんで邪魔をするんだよ!!お姉ちゃんなんて、お姉ちゃんなんて大嫌いだ!!」

 

「そう……でもね、私はあんたの事が大好きなのよ、ラフィ」

 

 私は左腕を喰魔化し、ラフィを喰らう

 

「頑張ったね、痛かったわよね。側にいれなくて、理解することが出来なくてごめんね。ダメなお姉ちゃんでごめんなさい」

 

「うぅ、ぁああああ!お姉、ちゃん」

 

 ごめんね、ホントにごめんね。今までずっとずっと辛い思いをさせてしまって。

 私は強くラフィを抱きしめる。涙を流す……私、頑張ってきたけどダメなお姉ちゃんだったかもしれないわ。

 

「ベルベット、なにを」

 

「そうか!ベルベットは己を喰らわせ、カノヌシを喰らう無限の状態を作り上げとるんじゃ!!」

 

「どういう意味だ!?」

 

「互いを喰らい合う状態を無限に作り上げればカノヌシを生きたまま封じ込める事が出来る」

 

「封じ込めるって、それじゃあベルベットは」

 

「ええ、私も眠りにつくわ」

 

 ずっとずっと考えていた事なのよ。

 私やフィーはカノヌシの一部でカノヌシを殺してしまえば一緒になって死んでしまう。私は別にいいのよ。死ぬことには後悔はない、私はこの復讐の為に多くの人を傷付けた、自業自得よ。

 

「私は自業自得で死ぬけど、フィー、あんたは違うわ」

 

「だったら僕も、僕だってカノヌシの一部なんだ。ベルベットじゃなく僕が」

 

「ええ、死になさい」

 

「!」

 

「いっぱい食べて、いっぱい遊んで、いっぱい笑って、いっぱい泣いて……沢山の世界を見て、満足したら死になさい」

 

「ベルベットだって……ベルベットだって」

 

「私はもういいのよ……この旅で思い残す事はないわ」

 

 二人の弟が出来て、一緒に笑い会える友達が出来て、最後の最後に誰かの為じゃない自分の為に戦うことが出来て、好きになった人が出来て。

 怖くないって言えば嘘になるけど、後悔はしていない。私はこの道を、ラフィと一緒に生きたまま永遠の眠りにつく。

 

「ごめんね、最後まで身勝手で醜い人間で……けど、あんたは私を救ってくれた。私に手を差し伸べてくれた」

 

「ベルベット……僕は」

 

「だからね、生きてほしいのよ。人間は身勝手で世界はどうしようもない程に残酷だけれど、それでも美しいものはあったのを知ってるでしょ?義兄さんが見たものを感じたものを貴方も見てほしいの……それでね、もし、もし私みたいな弱い人間が居たら優しく手を伸ばしてほしいの」

 

 私があんたにやった様に、セリカ姉さんがアーサー義兄さんに差し出したリンゴの様に。

 私はベンウィックから貰ったフォーチュンアップルを一口齧りフィーに向かって投げる……味は、しないわね。

 

「………あ~………う~……………………嫌だね!!」

 

「なによ、急に」

 

「オレはずっとお前を見てきた。骨肉の争いを繰り広げた末に全員が死んでハッピーエンド?笑わせるな悲しませるな!!最後の最後で自業自得とか言ってるんじゃねえよ!!お前に生きてほしいって思ってる奴は居るんだぞ!!」

 

 ずっと見ていたゴンベエは不服そうにしている。

 私が眠りにつくのを、誰も報われる事のないこの復讐の果てに納得をする事が出来ていない。

 

「認めねえよ、こんな結末!姉思いの弟が姉の為に死んで弟思いの姉が弟の為に死んで、義理の兄は殺されて……こんなんじゃ笑顔になれねえよ。最後はメアリー・スーで笑えるのがちょうどいいんだよ!!」

 

「止せ、ゴンベエ……ベルベットは覚悟を決めたんだ。見届けよう」

 

「アリーシャ、嫌だね!!こんな胸の中にモヤモヤの残った終わりなんて転生者(オレ)は認めねえ!もっと笑顔にならねえと」

 

「……あんたとの旅は楽しかったわ。私はもう満足したわ」

 

 意識がゆっくりとゆっくりと遠退いていく。

 もうなにも心残りは無い……ラフィ、待たせたわね。お姉ちゃんは貴方とずっとずっと一緒に…………

 

「こんなオチは認めてたまるか…………ああ、そうか。そういう事か」

 

「ゴンベエ?」

 

「世界の理を捻じ曲げる物騒な物だと思ったが、世界の理その物が捻じ曲がっていたんだな。なんで忘れてたんだ」

 

「なにを、する気なの……僕はベルベットを許すよ。僕はベルベットが大好きだから」

 

「オレは許さないな……こんな胸糞悪い終わり方は……だから今ここで使う」

 

 ゴンベエがそういうとゴンベエの手の甲が光り出す。

 三角形の黄金のナニかが光っておりゴンベエは黄金のなにかに唱える。

 

「トライフォース、世界の理を変える力を持っているのなら今ここで使う。我が手に宿る秩序と理を変える勇気、知恵、力よ……姉思いの弟と弟思いの姉に幸福を与えろ……2人に自由に羽ばたく翼を与えるんだ」

 

「なにを……──っ!?」

 

 突如としてゴンベエの背負っていた剣が飛んできて、私とラフィの胸を貫き私は意識を失った。




はい、ということでこの展開はこの小説書き始めた時から決めてた展開です。ちゃぶ台をひっくり返す感じの展開ですが最初からずっと決めていたことなので悪しからず。メアリー・スーかもしれないけど二次小説ってそんなもんですし。


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生きる者 マオテラス

 オレは願った。アルトリウスは死に、ベルベットとカノヌシもまた死のうとしている。誰一人報われない終わりにオレは不満を抱いた。

 本人的にはもう充分に満足しているのだがオレは満足していない。それこそオレのエゴだろう……でも、思ってしまった。ベルベットになにかに縛られる事なく自由に幸せを掴んでほしい。カノヌシが、ライフィセットが決断を追い込まれない様にしてほしい。

 

「え!?」

 

 この状況をどうにかする方法はたった1つ、世界の理を弄る事が出来るトライフォースの力を借りることだ。

 トライフォースに2人に幸せになってほしいと願いを込めた……その結果背中のマスターソードが勝手に動き出してベルベットとカノヌシ、両方が貫かれた。ご丁寧に心臓を貫いている

 

「な、なにをしているんだ!?これでは本当に死んでしまっているぞ!」

 

「待て、待ってくれ。頭の、状況の整理が追いつかない!」

 

 ベルベット達に幸せになってほしいと願った筈なのにベルベット達がマスターソードで心臓を貫かれた。

 流石の事にオレも意識が宙を浮くのだが直ぐ隣りにいたアリーシャがオレの肩を掴んでグワングワンと揺らしてくるので意識が現実に戻る。

 オレもどうなっているのかイマイチ理解出来ていない。手の甲にはトライフォースが宿っているが相変わらずうんともすんとも言わない。こうトライフォースの超常的な神秘の力でベルベット達を……ヤベえ。願っておいてなんだけどベルベット達が具体的にどんな感じになるのかを一切イメージしていない。

 

「ど、どうなるんだ?」

 

 カノヌシが死ねばベルベット達も連鎖的に死ぬ。

 だからベルベットは自分を喰わせてカノヌシに喰らわれるウロボロスの無限ループを選んだのだが……

 

「真っ白になっていくぞ!!」

 

 心臓を貫かれたベルベットは血を一滴も流していない。体の何処かが赤くなるどころか段々と真っ白になっていく事にロクロウは気付いて声を上げる……この状態、何処かで見たことがあるような無いような

 

「きゃあ!?」

 

「な、なんじゃあ!?」

 

 ベルベットに巻き起こる異変に動揺していると地震が起きてエレノアは尻餅をつき、マギルゥは驚く。

 この場所が崩壊するのかと慌てていると赤、青、緑、黄色の4本の光る柱が4方に出現する。この最後のダンジョンになにか仕掛けがあるのか!?

 

「なんだコレは……聖主を封じ込めているぞ」

 

「シグレの声?あの野郎、化けて出やがったのか!?」

 

「落ち着け……恐らくコイツ等は四聖主だ」

 

「四聖主……何故、ここに?」

 

 最終決戦を終えたのか今頃になって四聖主が出てきた事をアリーシャは疑問に思う。

 聖主の声と教えてくれたアイゼンの視線はベルベットとカノヌシの方を向いた。

 

「カノヌシを殺したからお前達に大きな影響を及ぼしたのか?」

 

「その通り……しかし、少しだけ違う」

 

「曖昧に答えるな。ベルベットとカノヌシはどうなっている?」

 

 アイゼンは光る赤色の柱を睨みつける。

 ベルベットとカノヌシになんか起きているのは確かだがそれが分からない。

 

「我等にもどうなっているかは分からない。カノヌシの力を我等とは根底から異なる力で抑えつけられ、作り変えられている」

 

「いや、分かっておるではないか!」

 

「それしか分からない。災禍の顕主が生きているのかも、カノヌシが死んでしまったのかさえも分からぬ」

 

 よく分からない根底が異なる力というのはトライフォースの事だろう。

 カノヌシを作り変えているというのは些か気になる事だがそれがどういうことを意味しているのかは四聖主にも分からない。

 

「じゃあ、この地震はなんだ?カノヌシがカノヌシじゃなくなったからこのダンジョンが崩壊してしまう前触れか?」

 

 分からない事を尋ねてもコイツラは知らぬ存ぜぬで通す奴等なので分かりそうな事から聞いてみる。

 ここがピシピシと切れ目が入ったり嫌な音が鳴ったり地震が起きたりと厄介な事になっている。入ってきたところがあるから多分そこが出口なんだろうが、間に合うのか?

 

「此処がカノヌシの力で出来た場所ならばカノヌシの消滅と同時に消え去る」

 

「待ってください。カノヌシの消滅と同時に消えるならばカノヌシの一部であるライフィセットも」

 

「無論死ぬ……しかしどういうわけか我等と異なる力が働いていて死なぬ」

 

「そう、ですか」

 

「案ずるな人の子よ。ここが消えれば同時にここに来る際に乗った術式の元に自動的に戻る様になっている」

 

「また随分と都合がいいことだが、今はそれがラッキーだと喜ぶか」

 

 とにかくここが今にでも崩壊しそうな事には変わりはない。

 脱出は自動的にやってくれるのならば変に焦って何処かに行こうとしなくていい……とまぁ、普通ならばそう考えるのだろうが、そうそう上手くいかないのが世の中だ。

 

「で、お前等なんで出てきたんだ?」

 

「カノヌシが我等と根底から異なる力により作り変えられている。よって、カノヌシの存在が消えてなくなり我等四聖主とカノヌシの均衡は崩れた」

 

「あ~……やっぱそういう感じの展開か!くそ、常に警戒してたのに最後の最後でヘマをやらかした」

 

 曲がりなりにも神様的な存在だ、殺したりすれば世界に何らかの影響を及ぼしてしまう。だから今まで殺すことを躊躇っていた。

 具体的にどうなっているかは分からないがカノヌシはカノヌシでなくなり地水火風の4つの聖主の力が高まる。

 

「ん?結局どうなるんだ?カノヌシは俺達人間が手遅れなくらいに行き止まった時にリセットをする抑止力的な存在だろ?」

 

「抑止力が、歯止めが効かなくなり我々4人の力がぶつかり合う。我等4人の力はぶつかり合い数万年を掛けてこの世界を新しくする」

 

「数万年!?待ってくれ、それでは今生きている人達はどうなってしまうんだ?」

 

「地殻変動や飢餓の余波に巻き込まれて死滅する可能性が高い」

 

「そんな、どうにもならないのですか!?」

 

 このままだと世界を文字通り滅ぼしてしまう。

 どうにかしようにもオレはどうすることもできない。なんでも出来る権利をたった今、使ってしまった。トライフォースを使えば秩序を取り戻す事が出来るが……今、ベルベット達がどうなっているのか、作り変えられているとは言っているものの具体的にどうなるのかが分かっていない。

 エレノアはどうにかすることが出来ないのかを四聖主達に尋ねる

 

「方法は1つだ……誰かがカノヌシの代わりとなればいい。力と強い意志を持った聖隷が」

 

「おまっ、それはねえだろう」

 

 メルキオルのクソジジイの声で語りかける。聖主の名前は分からないがメルキオルのクソジジイの声なのでイラッと来る。

 この中でカノヌシの代わりになる事が出来る聖隷は……天族はたった1人だけ。オレ達はライフィセットに視線を向ける。

 

「なるよ。僕が代わりに」

 

「貴様はカノヌシの一部だ。力に不足はない」

 

「だが、問題は意志だ」

 

「汝はこの世界になにを望み、なにをもたらす?」

 

 四聖主達はライフィセットに語りかける。ライフィセットはリンゴを一噛りすると掲げて高らかに宣言をする。

 

「僕はこの世界にもたらしたい!心を溢れさせてしまった人達がやり直す事が出来る明日を作りたい!何処までも飛ぼうとする人達が翼を休められる時を、強くて弱い人間が……怖くて優しい人間達が何時か空の彼方に辿り着く事が出来るように!!」

 

「また随分と抽象的……」

 

 だが、悪くはない。ライフィセットがベルベット達との長い長い旅の果てに辿り着いた1つの答えとしては充分すぎる。

 四聖主達もライフィセットの意見を気に入ったのか柱の光を一本に集束する。

 

「「「「もたらしてみるがいい!!新たな聖主よ!!」」」」

 

 ライフィセットから眩い光が放たれると光は形を炎に変えるとオレ達の元に飛んでくる。

 この炎はただの炎じゃない。浄化の炎……試しにとロクロウを見てみるがロクロウは憑魔のままだった。浄化の炎が効いていないというわけじゃなさそうだ。ライフィセットから放たれる浄化の炎はオレ達だけでなく世界中に飛んでいき、世界各地から感じ取る事が出来ていた穢れが全体的に減った。

 

「浄化の炎を、齎した……っ!?」

 

 このことについてアリーシャは心当たりがあるのか放心状態になっているがそんな事は知ったことじゃないと更に眩い光をオレ達を飲み込む。

 この光はなんだと思っているとダンジョンから抜け出して聖主の御座の転移術式があったところに戻ってくる。

 

「地上に戻った……光のドラゴン!?」

 

 地上に戻ることが出来たと自覚したエレノアは大きな影に気付く。

 オレ達と一緒に振り向けばそこにはドラゴンがいた。テオドラの時と違って穢れの様なものは一切放っていない……コレは……

 

「ライフィセット、お前なのか?」

 

 見た目も雰囲気も一瞬にして大きく変わってしまったが氣で分かる。この白い光のドラゴンはライフィセットだ。

 

「やれやれベルベット譲りの無茶をしおったの、ライフィセット」

 

「ホントに……ホントにライフィセットなのですか?何故、その様な姿に」

 

「ライフィセットは聖主となった……覚悟を決めた姿なんだろう」

 

「まさか、誓約でドラゴンになったのですか!?」

 

 アイゼンの言葉からエレノアは自らの意志でライフィセットがドラゴンになった事に驚く。

 ドラゴンになったライフィセットはコクリと頷いた。

 

「うん……怖い?」

 

「……いいえ、男振りが上がりましたね!」

 

「キレた時のベルベットの方が怖えよ!」

 

 ライフィセットはちょっと心配した声を出す。

 巨大なドラゴンの厳つい見た目をしているが何時も通りの可愛らしい声を出されるとギャップの様な物を感じる。見た目と声があってない。

 

「相変わらずだね、ゴンベエは」

 

「オレは変わる事を拒むからな……なにを貰ったんだ?」

 

 誓約を結んでドラゴン化したライフィセットだが、ドラゴン化する程の誓約を結んだのならばそれ相応の力を得たはず。

 なにか変わった事があるのかと思っているとライフィセットは手のひらから白銀の炎を出した。

 

「それがお前の聖主としてのカか」

 

「穢れを焼き払う力か……」

 

「うん。モアナやダイル達に向けて飛ばしたよ」

 

「世界中の穢れを焼き払ったのですか?」

 

「いや、俺は業魔のまんまだ」

 

 世界の至るところに浄化の炎を齎したライフィセットだったが、間近にいたロクロウは元に戻せていなかった。

 

「僕のこの力は溢れる穢れを焼き祓って業魔から元の人間に戻すだけの物なんだ。斬りたいってロクロウの業を、心を変える力じゃないんだ」

 

「やり直す事が出来るようになる力なんですね」

 

 なんともライフィセットらしいとエレノアが微笑むが……アリーシャは横で俯いている。

 

「すまんな、俺の業は深すぎたみたいだ」

 

「いいんだよ。ロクロウから業を取ったらそれはもうロクロウじゃない……今のロクロウがロクロウなんだよ」

 

「優しいな、お前は」

 

「しかし、問題は山積みじゃぞ。カノヌシは居なくなった為に聖隷を見える人間は激減、希望である導師様は災禍の顕主に討たれ聖寮には殆どなにも残っておらん。今まで国に抑えつけられていた反動で欲に溢れかえっておる。人の世は混乱と混沌に包まれておる。先は混沌で困難じゃのー」

 

「そうだね……でも、大丈夫だよ。未来を思う願いは、祈りは続いていく」

 

「それは……」

 

 アリーシャはライフィセットの言っている事を否定する事が出来る。いい感じの終わりを迎えようとしているので色々と言いたそうな顔はしているけれども言葉を飲み込む。マギルゥの言うとおり……コレから困難と混沌が待ち構えてる。平和な世の中を作り上げるのは難しいだろうな。でも、それを承知の上でアリーシャはどうにかしたいと思っている。

 

「聖隷に意思が戻った今、お前の理想に力を貸す者達も出てくるだろう」

 

「私も人々に伝えます……聖主ライフィセットの加護があることを」

 

「ライフィセット教……いや、違うか」

 

 コレから広がり、ライラに繋がるのか。

 アリーシャは他の人達には聞こえない声量で呟くがオレは地獄耳なので聞こえている。現代においてライフィセット教なんてものは存在していない。

 

「えっと、その名前はこの姿には似合わないと思うな」

 

「……ベルベットがくれた名前ですものね」

 

「まぁ、その見た目でライフィセットって名前だと違和感を感じるな」

 

 もっとこうアーゼウスとかオシリスとかのカッコいい名前がいい。

 

「じゃあ、なんて呼べばいいんだ?」

 

 ライフィセット呼びを断るライフィセット。当然フィー呼びはダメ……あれもまたベルベットがライフィセットに付けた名前だ。

 その辺りの事もロクロウは分かっているのでライフィセットにどう呼べばいいのかを尋ねる。

 

「エレノアが付けてくれた真名で呼んで」

 

「おいおい、いいのか……それって結構大事なものじゃなかったか?」

 

「うん……でも、コレからはライフィセットじゃないって意味も込めてこの名前で生きていくんだ。生きる者、ライフィセットを古代語にした僕の真名……」

 

 ライフィセットは翼を仰ぐと浄化の力が世界中に……いや、この星一帯に広まっていく

 

「マオテラス」

 

「っ……やはり、そうだったか……」

 

「くくく……ハハハハハ……アーッハッハッハッハッハ!!」

 

「な、なにがおかしいの!僕の名前、そんなにおかしかった!?」

 

「いや、違う、違うんだライフィセット……いや、マオテラス様」

 

 浄化の炎を出した時からアリーシャはもしかしてと気にかけていた。

 オレも薄々そうじゃないかと勘づいていたがその予感は的中した……ライフィセットこそが現代の五大神で浄化の炎を齎したとされるマオテラス……オレ達は見事に浄化のシステムの始まりに至る事が出来た。世界の仕組みを知ることが出来た

 

「ちょ、ちょっとやめてよアメッカ。マオテラスはいいけど様呼びなんてむず痒い」

 

「なーにを言っておるか。コレからお主は聖主マオテラスとして祀られるんじゃぞ。マオテラス様呼びじゃ」

 

「そうですね。コレからはライフィセットは、いえ、マオテラス様を祀らないとなりません」

 

「も〜!エレノアまで、僕は別に呼び捨てで構わないよ!」

 

「こういうのは形が大事だ。マオテラス様、お前の意志に賛同する聖隷達と共に頑張れよ」

 

 様呼びにムズムズするマオテラス。エレノアやアイゼンも便乗してニヤニヤしている。

 コレから大勢の人々に崇め称えられるんだ。オレ達で恥ずかしがってたらキリが無い……!

 

「……そうか……」

 

 やっと分かった。ヘルダルフを徹底的にシバき倒して一時的な封印を施した際に誰かの声を聞いた。

 なにかに対して謝っているその声をあの時は然程気にしていなかったものの今ならば分かる

 

「お前だったんだな、マオテラス」

 

 あの時に声をかけてきたのはマオテラスだった。

 現代ではヘルダルフに捕らえられている捕らわれの身……ヘルダルフに捕まってしまっているのか。となれば何時か撃ったインディグネイションもマオテラスの技だった。マオテラスからパクったものだって言っていたからな。

 

「コレで全てが繋がった、のか……」

 

「いや、まだだ……まだ1つだけ残っている」

 

 過去に来て全ての始まりを知ることが出来た。

 ダークかめにん、フェニックス、ザビーダ、ノルミン・アタック、そしてマオテラスの浄化の力と色々と知ることが出来たがまだ1つだけ残っている

 

「あのレコードを誰が作ったのか、それがまだ謎だ」



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第二部 完

 

「っと、いい感じの終わりを迎えてるところ悪いが」

 

「ベルベットの事だね」

 

 ライフィセットがマオテラスだと判明し、現代で起きた出来事と過去が繋がっていると言うのが判明した。

 謎は解けたのはいいが、まだ最後の謎であるレコードの主が分からない。分からない事だらけだ。とりあえず1番気になることをライフィセット、いや、マオテラスに尋ねる。

 

「あ、なにか飛んで来ます!」

 

 ベルベットはこの場にはいないので先程までいたダンジョンに居るんじゃないかとエレノアは空を見上げる。

 空から光の矢の様なものが飛んでくる。敵か味方か分からないのでオレ達は臨戦態勢に入るが直ぐに解除する。

 

「コレはベルベット、だな」

 

「ああ……マスターソードがなによりの証拠だ」

 

 飛んできたのは真っ白に染まったベルベットとカノヌシだった。

 

「ゴンベエ、コレはヘルダルフの時と同じじゃないのか?」

 

「ヘルダルフの時か……」

 

 真っ白に染まっているベルベットとカノヌシ。四聖主が言うにはカノヌシを作り変えているとかどうとか言っていた。

 トライフォースとマスターソードがベルベットとカノヌシに対してなにかしらのアクションが起きているのは確かだが問題はそれがなにかだ。

 

「オレはあの時、願った……ベルベットとカノヌシの2人が自由に羽ばたく事が出来る翼をくれと」

 

 その結果がマスターソードでベルベット達の心臓を貫いた。

 アリーシャはヘルダルフの時と似ているというがそれならばベルベットを封印した事になる。ベルベットは生きたままウロボロスの状態を維持して自らとカノヌシを封印するつもりでオレはその結末を認めようとしなかった。トライフォースに願った結果がベルベットが封印されたとなれば本末転倒の事態だ。

 

「ベルベットがヘルダルフの時の様に封印されてるならあの時の様に封印を解除する事が出来るんじゃないのか?」

 

 あの時と似ているのならば封印を解除する事が出来るのではとアリーシャは言う。

 コレがあの時と似たような状況ならば……出来る筈だろうがそれだとトライフォースに願った意味が無い……どうする?

 

「このままベルベットの胸に剣が突き刺さった状態では後味が悪いですし、貴方が抜かないのならば私が──きゃあ!?」

 

 オレがマスターソードを抜くべきか抜かないべきか悩んでいるとエレノアが代わりに抜こうとする。

 エレノアがマスターソードの束に手を触れるとマスターソードから青白い光が放出されてエレノアを拒んだ。今までロクロウやベルベットが触ろうとしたら似たような事になっていたがそれと同じでマスターソードがエレノアの事を拒んでいる

 

「コレはゴンベエなら抜くことが出来るってパターンか?」

 

「どうだろうな……」

 

 よくある選ばれし者だけに抜くことが出来るタイプの聖剣だろうが、コレは抜いていいのだろうか?

 試しにアリーシャが抜きに行こうとするがエレノアの時と同様に拒まれてしまい、アイゼンやマギルゥ、ロクロウが挑戦をしてみるもののマスターソードに拒まれる。

 

「ダメだ……ゴンベエにしか抜けないのだろう」

 

「……ああ、もうやるしかないな」

 

 このままベルベット達を放置して現代に帰るわけにはいかない。

 マスターソードを握るとエレノア達の時とは異なり、拒まれる事はなかった。

 

「ふん!!」

 

 力を込め、ゆっくりとゆっくりと剣を引き抜く。

 コレならば抜くことが出来ると感じると同時に剣を抜いても問題無いのかヒヤヒヤしていると剣に弾かれた。

 

「ゴンベエでもダメなのか?」

 

「いや、少しだけ剣を抜くことが出来た……!」

 

 オレでも剣を抜くことが出来ないのかとアリーシャは困る。感触的に剣を抜くことが出来ていた……だが、途中で剣が抜けなくなってしまった。

 なにか途中で抜けなくなる原因があったのかと思えば地響きが巻き起こりベルベットが抱き締めていたカノヌシが光り出し、真っ白になっていたカノヌシに色が付いた

 

「あれ……ぼくは……」

 

「カノヌシが復活したじゃと!?」

 

 心臓をブスリと貫かれていた筈のカノヌシだったが何事も無かったかの様に目覚める。

 ベルベットが抱き締めていた事に気付き表情が僅かに変わるが直ぐにベルベットの腕から抜け出す。神的な存在であるカノヌシ、その力は圧倒的なもので金剛鉄(オリハルコン)で出来た剣を簡単に叩き折る力を持っておりエレノア達は武器を取り出して警戒をする。

 カノヌシもオレ達の存在に気付くと紙を丸めて細く伸ばした剣もどきを作り出そうとするのだがなにかに驚いていた。

 

「……力が、力が出ないよ」

 

 手を必死に伸ばすような動作をするとエネルギー弾が……飛んでこない。

 今までのカノヌシだったら波状攻撃をする事が出来る筈なのに出来なかった……思い出せ、思い出せ。四聖主が言っていた……カノヌシをどういう力かは分からないが作り変えているとか言っていたな。

 

「……これって!!」

 

「どうしたマオテラス!」

 

「……カノヌシが人間になってる!」

 

「……どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だよ。カノヌシが人間になってるよ!!」

 

 マオテラスはカノヌシの身に起きた異変を感じ取った。

 言っていることがイマイチ分からないのでカノヌシの事を探知してみると天族の気配も神秘的な気配も邪悪な気配も感じ取れない。割と何処にでもいる極々普通の人間の気配をしていた。

 

「人間が死ねば極稀に聖隷に生まれ変わることがある……コレはその逆なのか?」

 

 マオテラスが元人間だった為にアイゼンは一種の仮説を立てる。

 四聖主はカノヌシを作り変えているとか色々と言っていたが、カノヌシを普通の人間に作り変えたのか……カノヌシそのものを変えたのか?

 よく分からない状態になっているのでカノヌシに手を翳そうとするとカノヌシは強く手を弾いてくる。

 

「やめてよ!ぼくは世界を鎮めないと」

 

「アルトリウスはベルベットに殺されて、お前は人間になったんだぞ?今更鎮静化が出来ると思ってるのか」

 

 オレの手を強く拒むカノヌシに現実を見てもらう。

 どんなに足掻こうがカノヌシは人間に生まれ変わり鎮めの力を全て失っている。カノヌシが死ねば連鎖的にマオテラスやベルベットが死ぬ筈なのに2人は死ぬ気配はない……マオテラスもカノヌシもベルベットもそれぞれが独立した命に作り変えられたんだろう。

 

「……んでだよ……なんでぼくの邪魔ばっかりするんだよ!ぼくは、ぼくは覚悟を決めていたんだよ!死ぬ覚悟も世界の痛みを受け止める覚悟も!」

 

「オレも覚悟を決めたんだよ。ビターエンドに終わる虚しい終わりをハッピーエンドに変えるって……まさかこんな事になるとは思いもしなかった」

 

 具体的にどうやってベルベット達が幸せになるのかオレ自身イメージ出来ていなかった。カノヌシの存在そのものを作り変えて独立した人間に生まれ変わらせるのは予想外だ……だが、これは逆に考えれば、結果的には良かったのかもしれない。

 

「ふざけるな!ぼくの邪魔ばっかりして、お前なんて、お前なんて──大っ嫌いだ!!」

 

「……そうか……でも、ベルベットはお前の事を愛していた事は忘れるなよ」

 

「っ!!」

 

 どんなに変わっても、新たな命(カノヌシ)になってもベルベットはライフィセットをライフィセットだと思った。

 だから最後の最後で決断する事が出来た。弟と一緒にウロボロスの蛇状態になって永遠の眠りにつく覚悟を決めた……まぁ、オレがそれを邪魔してしまったのだが。

 

「……お姉ちゃん……」

 

 カノヌシは真っ白になっているベルベットに近寄る。

 マスターソードに触れてみるもののマスターソードはカノヌシを拒んで手が弾かれる……。

 

「オレは願った。2人が幸せになれる道を、幸福になれる様にと……その結果が1人の人間に生まれ変わらせる…………」

 

「新たな命でこの世界を生きろ、という意味なのだろうか?」

 

 オレとアリーシャは首を傾げる。2人幸せになってくれとオレは願った、その結果がカノヌシを新しく人間に生まれ変わらせた。

 これからは姉のためでも世界の為でも誰かの為でもない、自分の為に生きろという事を言っている。

 

「カノヌシ……いや、ライフィセット。お前は人間から天族になり天族から人間に生まれ変わった……コレからは義務じゃない、自分の意志で好きな時に好きなように大空に羽ばたけばいい……ベルベットがマオテラスに願ったように、思う存分に世界を見てくればいい」

 

 体は弱いけれど、とても頭が良くて優しい人間……それがベルベットの弟のライフィセットだと聞いている。

 外の世界は理不尽で厳しいところはあるけれどもその分楽しい事も多くある……もう、ベルベットとか使命とか義務とかを気にしなくていい。

 

「……急にそんな事を言われても困るよ。ぼくは覚悟を決めてたのに」

 

「その件に関しては謝らないぞ……オレは幸せになってほしいって願った。その願いの中にお前も幸福になってくれと願ったんだ」

 

「身勝手な願いだね」

 

「ああ、そうだな」

 

 オレの願いは身勝手な事でエゴに塗れている。自己満足で自分勝手な思いを通した。ライフィセットは許してはくれないだろう。オレは許しを請う気は一切無い……ベルベットにもだ。きっとベルベットが目覚めればぶっ飛ばされるだろう。

 

「お前は新しい命を手に入れた。十二歳病だかなんだか知らないが病気の事を気にする必要は無い、ベルベットや世界の為に命を掛ける必要は無い……だから思いのままに生きろ……お前の名前は生きる者なんだろ?」

 

 もうなにも気にする必要はない。

 ライフィセットにそういうとライフィセットは自分の手をジッと見つめる……

 

「考える時間は沢山あるが決断は早くした方がいい……オレとアメッカにはもう残された時間は無いんだ」

 

 オレは風のオカリナを吹いた。メイルシオにワープをする。

 

「ん……何処だここ?」

 

 メイルシオにワープした筈なのに豪雪地帯にいなかった。綺麗な草原にいた。

 住居に見覚えがあるが……これもまたマオテラスが浄化の炎を齎したから世界に影響を及ぼしたのか?

 

「お、おぉ!!戻ってきたって事は勝ったのか!」

 

「誰だ、お前?」

 

 ここがホントにメイルシオなのか疑っていると見知らぬおっさんがオレに声をかけてきた。

 声は聞き覚えがあるけれども、マジで誰なんだお前?

 

「オレだよ、ダイルだよ!よく分かんねえけど、白銀の炎がオレを元の人間に戻してくれたんだ!!」

 

「おぉ、そうなのか……お前、そんな見た目をしていたんだな」

 

「男前だろぅ?」

 

「なんか生意気だぞ、ダイルの癖に」

 

「オレの癖にってなんだオレの癖にって……オレだけじゃなくモアナ達も元に戻ったんだ。お〜い!」

 

「わっ!!」

 

「ぬぅお!?んだよ、後ろにいたのか!」

 

 ダイルの言っている通りモアナも元の人間に戻っていた……個人的には喰魔の姿の方が可愛いと思う。

 モアナに続いてメディサも出てくる。メディサは前と姿が大して変わってはいない……

 

「終わったのね」

 

「ああ……なんともまぁ、微妙な終わりを迎えた」

 

 ここに戻ってきたという事は全てを終わらしたとメディサは察する。

 己の身に起きた異変について尋ねてこないのはちょっと気になるが後でどうなっているのか嫌でも理解するだろう。

 

「貴方はこれからどうするつもりなの?」

 

「どうもしない、元いた場所に元の鞘に収まるだけだ」

 

 過去を知り未来に活かす、その為にここに来たんだ……現代に戻れば色々と厄介事が山積みだが、そこはなんとか出来るだろう。

 オレはメイルシオで使っている自分の部屋に向かうと荷物一式を袋に包む……ホントに色々と色々とあったな、この時代では

 

「モアナ、お別れだぞ」

 

 荷物を纏めているとダイルとメディサがモアナを連れてやってくる。

 オレと顔を合わせる事がこれで最後だとモアナにダイルは教える。

 

「ゴンベエ、何処かに行っちゃうの!?」

 

「何処かに行くんじゃない、元いた家に帰るだけだ。モアナ、出会いがある分別れも多くある。オレ達と出会えた偶然はきっと必然だと思う……ダイル、メディサ、色々とあったがお前達と過ごした日々は悪くなかった……じゃあな」

 

 もう二度と会うことが出来ない、会ってはならない。

 涙は出ない……この時間で旅をはじめた時からその覚悟だけは決めていた。何時かは別れないといけないと分かっていたんだ。

 

「うわぁ!?」

 

 フロルの風を使って荷物と共に聖主の御座に戻るとライフィセットがマスターソードに弾き飛ばされていた。

 なにをやっているんだと白い目で見ているとオレが戻ってきた事に一同は気付いた

 

「ゴンベエ、ちょうど良かった。ベルベットに刺さった剣を抜いてくれ」

 

「また随分と急だな、よっこいしょっと」

 

 アリーシャに頼まれたので持っていた荷物を置いて、ベルベットに突き刺さったマスターソードに手を触れる……が、弾かれた。

 もう一度とマスターソードに挑戦するがさっきよりも強い力でオレを拒んでいる……

 

「ダメだな、こりゃあ」

 

 なにを狙ってかは知らないけれど、マスターソードは引っこ抜くことが出来ない。考えられるとすればライフィセット関連だろう。

 

「ゴンベエでも抜くことが出来ないのか」

 

「多分、まだこの剣を抜く時じゃない……この剣は抜く時が来れば抜ける様になれる」

 

「それって何時?」

 

「分からん」

 

 何時かは引っこ抜くことが出来るようになるだろうが今引っこ抜くことは出来ない。

 

「何時かは引っこ抜くことが出来るから気長に待つしかねえ……ライフィセット、今後はどうするつもりなんだ?お前を縛り付ける物はもう何処にもないぞ」

 

 自分の思うように好きに生きればいい。

 平穏を作り上げる為に少数の犠牲を出した罪を償うのもいいし、行ったことのない別の世界に行ってみるのもいい。今後の身の振り方を自由に決めていいんだ。

 

「それなんだけど……アイゼン、ぼくをアイフリード海賊団に入れてくれないかな?カノヌシが死んだことで霊応力が元に戻ってアイゼンを見ることがアイフリード以外、出来なくなる。ぼくは素の状態でもアイゼンを見ることが出来るから……ダメかな?」

 

「……オレ達アイフリード海賊団に入りたいのならば入ればいい。ただし死神と一緒に乗船するんだ、覚悟はしておけ」

 

「死ぬことは怖くない……って言ったら嘘になるか」

 

「怖いという感情は誰にだってあるものだ。恐怖を感じない事こそあってはならない」

 

 ライフィセットはアイゼンに引き取ってもらう事になった。

 アイフリードが見たらどう思うだろう……爆笑しそうだな。

 

「ベルベットはどうするんだ?流石にアレを船に乗せるわけにはいかんだろ」

 

 ライフィセットの今後の身の振り方が決まると今度はベルベットだ。

 マスターソードが突き刺さっていて触れる者を弾いてしまう。ヘルダルフの時みたいに地面ごと抉って移動させればいいだろうが……オレ達は連れていけない。

 

「僕が守るよ。ベルベットに突き刺さった剣は今は抜けないけど何時かは抜くことが出来る様になる……その時が来るまで僕が守る!ベルベットが僕を守ってくれた様に僕もベルベットを守るよ」

 

「……その言葉は重いぞ」

 

 誰かを守るなんて言葉は軽々しく口にしてはいけない。重いものだ……ああ、そうか。

 あの時マオテラスが謝っていた理由が今になって分かった。守りきれなかったんだな。

 

「……何時になるか分からない、でもその時は絶対にやってくる。オレはそのマスターソードを抜きに来る。だからその時まではベルベットを守ってくれよ……マオテラス」

 

「うん……僕も何時か大好きなベルベットに再会してこう言うんだ。良いことも悪いことも、沢山いっぱい見てベルベットよりもこんなに大きくなったって」

 

 胸を張って立派になった自分を見てもらう。マオテラスに新しい目標が出来た。

 ベルベットのこともライフィセットの事もマオテラスの事もコレにて一件落着だ。

 

「アリーシャ、帰るぞ」

 

「もう帰るのか!?」

 

「見たいものは見れた……ここから始まり終わりを迎える……もう充分なまでに色々と見ることが出来た」

 

 もっとこう、お別れ会的なのが必要と思っているのかアリーシャは戸惑う。

 最後の別れの挨拶はここで済ませる……此処に居る連中こそが苦難を共にした真の仲間だ。

 

「……なんと言えばいいのだろうか。別れの日が何時かはやって来るというのは分かっていたが、いざ別れの時がやってくると……ダメだな、言葉が出てこない」

 

 別れの挨拶をアリーシャはしようとするが言葉が出てこない。

 オレもなにか言おうとするが言葉が出てこない……だが、涙は出てくる……この時代に情を持ってはいけないのは分かっていた事だが、それでも、それでも楽しかった。苦しいことや辛いこと、ムカつく事は多々あったが、苦難をこのメンバーで共にする事が出来てホントに良かった。

 

「おいおい、泣くなよ」

 

「湿っぽい最後は誰1人喜ばんわ……ま、お前さん達と旅を出来て悪くはなかったのぅ」

 

 アリーシャもオレも涙を流しているとロクロウとマギルゥは涙を指摘する。

 湿っぽい別れをしたらそれこそベルベットに怒られる。ベルベットは湿っぽい別れをしなかったんだから。

 

「アイゼン、お前には世話になりっぱなしだったな」

 

「礼は要らん……アイフリードを元に戻すので充分だ」

 

「そうか……」

 

「だが、1つだけ聞きたい事がある……お前達は異世界からやってきたと思っていた。だが、アメッカはお前が時を越える事が出来るのを知っていた……お前は」

 

「アイゼン……答えを知りたかったら待てばいい。お前達天族は無駄に長生きする種族なんだ……何時かその時がやってくる……」

 

 だから今答えを言うわけにはいかない。察しのいいアイゼンの事だから答えにはもう辿り着いているだろうがそれはまだ口にするのは早い。

 オレは時のオカリナを取り出す。

 

「ホントにコレで最後だ……エレノア、マギルゥ、ロクロウ、アイゼン、マオテラス、そしてベルベット。私は未来に、前に進んでいく。大人になっていく……だが、忘れない。この旅で得たものを、経験を……また会おう」

 

「千年後にな」

 

 オレは時のオカリナで時の歌を吹いて、過去の時代から現代に時間転移した。




スキット 出番なかった

???「……っち……」

天王寺「なに舌打ちしとるんや?」

吹雪「拗ねてるんですよ……自分だけベルセリアの時間軸に出てこれないのを」

ヒナコ「そんな事で拗ねるなんてガキ……だったわね。別にいいじゃない、あんただけゼスティリアの時間軸でも」

深雪「そうですよ。ベルセリアの時間軸よりもゼスティリアの時間軸の方が色々と面白い事になってるんですよ!むしろ私がゼスティリアの時間軸で登場したいぐらいです!!」

「お前が出ると絶対にややこしい事になるから出てくんじゃねえよ」

???「ゼスティリア時間軸に居る者達はゴミクズしかいない。オレはベルセリア時間軸で正義の味方として子供のヒーローに……いや、無理か」

二浪「お前さん、子供が大好きなんじゃの……ゼスティリアでは出てこんからなぁ」

「居るのは性格が悪い合法ロリぐらいなもんだからな」

吹雪「君はザレイズ編で見せ場を貰ってるでしょう。既に番外編で登場しているんだから【?】は取った方がいいよ」

???「それはまだダメだ!オレの出番がやって来るまで名前は【?】にした状態のままでなけれな」

天王寺「形からしっかりと入るタイプなんやな」

深雪「まぁ、自らヒーローを、強い自分を演じようとしていますからね……弱い自分を嫌悪していて」

ヒナコ「そこには触れるな!……人間、触れちゃいけない部分もあるのよ」

???「……■■……」

「お前等的確に人の心を抉ってんじゃねえよ」

二浪「触れない優しさというものもあるんじゃ……飲んで全てを忘れよう」

???「オレはまだ……未成年だ……」

天王寺「次回、姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL」

ゴンベエ「いや、嘘こくんじゃねえよ……お前の出番はもっと後だ!」

スキット 聖剣の行方

ロクロウ「消えちまったな……」

エレノア「ええ、まるで最初から居なかったかの様に……ゴンベエは元の世界に帰ったのでしょうか?」

マギルゥ「いや、あやつらは最後の最後にアイゼンにまた会おうと言っておった。異世界の住人では無さそうじゃ」

アイゼン「……オレの判断が正しければ恐らくゴンベエとアメッカは別世界でなく、別の時間から……」

マオテラス「ゴンベエは何時かまたやって来る……それまでの間は僕がベルベットを守るよ」

ライフィセット「大丈夫なの?君はコレから聖主として色々と働かないといけないんだよ……お姉ちゃんを守る余裕は無いんじゃ」

マオテラス「それは……」

マギルゥ「まぁ、新しい聖主様とやらが災厄の象徴である災禍の顕主を匿うわけにはいかんのもまた事実……何処かに移動させねばならん」

エレノア「聖主の御座に置いたままなのは流石にまずいですよね……そうです!確か聖隷達が集って暮らすイズチなる場所がありましたよね?事情を説明して置いてもらうのはどうですか?」

アイゼン「いや、それは無理だ。聖隷にとってベルベットは毒でしかない、確実に誰かが反発する……今回の一連の出来事は歴史の闇に葬り去られる。オレ達当事者以外は導師アルトリウスと災禍の顕主ベルベットは相討ちになったで終わらせないといけない」

ライフィセット「でも、お姉ちゃんを何処か安全な場所に封印しておかないと……何処ならいけるんだろう?」

ロクロウ「ノルミン島はどうだ?あそこなら誰も文句を言わんだろう」

アイゼン「ノルミン島は何処にあるのかが分からない恐怖の島だ。バンエルティア号とオレ達アイフリード海賊団の力が無いと辿り着けない」

マギルゥ「ならいっそのこと海にでも沈めるかえ?ゴンベエとアメッカは水の中を自由に行き来出来るぞ」

エレノア「確かに海ならば誰も邪魔はしてこないでしょうが、広すぎて何処に封印しているか分からなくなりますよ?」

マオテラス「丁度いい封印場所……タイタニアをゴンベエが爆破しなかったらそこに出来たんだけどね」

アイゼン「……いや、案外有りかもしれない。2人は水の中を自在に泳ぐことが出来る」

ライフィセット「そうなんだ……でも、海に沈めたら流石に何処にあるのか分からないでしょ?多分、これから聖主の力が乱れたりして地殻変動が起きて海の中じゃ」

アイゼン「海に沈めればな……なにも水の中は海だけじゃない。人の手が届かないところはある」

ロクロウ「……なるほど、あそこか」

マギルゥ「確かにあそこならば人の手は届かんじゃろうの」

エレノア「広さとしても申し分無いですね!」

ライフィセット「皆、何処の事を言ってるの?」

マオテラス「ベルベットの封印場所があったんだよ……──が」


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1000年前と1分後

 

「……ここは……」

 

 ゴンベエが時のオカリナを過去に来た時とは真逆の音色を奏でると視界が真っ白になった。

 眩い光に包まれたのかと思えばそこはつい先程までいた聖主の御座……ではなかった。レディレイクとマーリンドを繋ぐ橋がある川の上流……ゴンベエの家の前に立っていた。

 

「とりあえず、家に上がれよ」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

 ホントに1時間程前まで導師アルトリウスと聖主カノヌシと災禍の顕主であるベルベットが命懸けの戦いを繰り広げていたのが嘘の様だ。

 ゴンベエの家に久しぶりにやって来る……2ヶ月以上も家を開けていたらホコリまみれになっているのではと思ったのだが、私達が出発して直ぐの時間に戻っただけなので、実際のところアレから1分も経過していない。

 

「ほら、安物だけど飲めよ」

 

「ああ」

 

 ゴンベエは緑茶を用意してくれたので湯呑を持ってゆっくりと緑茶を飲む。

 色々と言いたいこととかもないこともないのだが先ずは一旦落ち着かなければならない。つい先程まで手出ししてはいけないと激闘を観戦していた熱が冷めていない。大事な事がある時ほど焦らずに慎重になっておかなければならない。

 

「長い……とても長い夢を見ていた気分だ」

 

 今こうしてゴンベエの家に久しぶりに戻ってきたのだが、1分も経過していない。

 1000年前の時代に時を遡って居たのが嘘の様に思える……まるで、まるで私は夢を見ている。地脈の中で記憶が流れ出たのを見ている気分だ。

 

「夢じゃない、現実だろ」

 

「……そうだ」

 

 夢を見ていたと感じさせられるが私とゴンベエは夢なんて一切見ていない。

 本当に1000年前にライフィセットが、マオテラスが生まれた時代に行った。クロガネに作って貰った槍と盾がなによりの証拠だ。

 色々と言いたいことがあるが一気に爆発させるわけにはいかないので緑茶を飲んで間を開けて気を保つ。

 

「ライフィセットがマオテラスで浄化の炎は世界を救う為にあるものじゃなくて自由に羽ばたく奴等がやり直す事が出来るチャンスか……歴史って都合の良いように作り変えられてるもんだな」

 

「だから過去に遡った、そうじゃないのか?」

 

 浄化の炎のはじまりを知ることが出来て、ベルベット達と旅をする事が出来てホントに良かったと思っている。

 過去では散々な目に遭ったと言えばそれまでだが今となっては良い思い出になっている。ホントにゴンベエには感謝しても感謝しきれない。

 感情を変に高ぶらせるとおかしな方向に話が進みそうなのでゆっくりと温かい緑茶を飲む……安物らしいがゴンベエがちゃんと丁寧に煎れた為に普通に美味しい。

 

「アリーシャ、ちょっと膝を貸してくれ」

 

 ゴンベエは私の膝に寝転ぶ。腕で目元を隠して大きく息を吸って吐いてと深呼吸をした後に大きなため息を吐いた。なにか困った事でもあるのだろうか?

 

「変に過去を変えちゃいけないのに色々とやらかしたな……」

 

「それは……いや、それは違うのではないのか?過去を変えたのでなく既に変わっていた過去をなぞっただけの筈だ」

 

 私達はタイムスリップをしたがそれ以前にザビーダ様達は私達の事を知っていた。

 タイムスリップ物には幾つかパターンがある。過去を変えればその未来が変わる、過去を変えたのはいいが未来はそのままで別の並行世界が出来る、過去を変えても過程は別だが結果が同じになる……そして最後に既に過去を変えた状態の世界線に切り替わっているのを。本で読んだ事がある。

 恐らくだがゴンベエの時間移動は過去を変えた状態の世界線から過去に移動したもので、本来あるべき歴史の形は消え去ってゴンベエと私が過去を変えた世界線に私達は居る。

 

「時間逆行モノはどういう現象が巻き起こるのかが一切分からない、文字通り蓋を開けてみねえと分からんやつか……ああ、めんどくせぇ」

 

 ゴンベエはダルいと愚痴を零すのだがこの姿にはもう見馴れたものだ。

 ゴンベエの額に手を添えるとゴンベエの額を撫でる……私達は災厄と秩序の時代でよく頑張った。最後のはじまりと最初の終わりを見届ける事が出来た。

 

「でも、ゴンベエはそのめんどくさい道を選んだんでしょ?だったら最後までやり遂げないと」

 

「わぁってるよ、そんくらい……ハイランドにはアイフリード海賊団総出でパシらせて作り上げた電話を献上するか」

 

「アレはそんなに凄い物なのか?」

 

 ゴンベエはハイランドに取り込まれようとしている。主な原因はゴンベエの持つ技術力があまりにも壮大な為だから。

 過去の時代で拠点であるタイタニアやメイルシオなどとバンエルティア号をシルフモドキを使わずに連絡を取ることが出来るのはスゴいことなのは分かるが……

 

「馬鹿言うんじゃねえ、報連相の間を一瞬の内に短縮する事が出来るんだぞ。手紙でのやり取りだと配達先によっては数日掛かるが電話を使えば一瞬で分かる。アイゼンが船止め料(ボラード)のおっさん連中にインサイダー取引の様に外部には非公開の情報をコッソリと送り届ける事が出来る。コレは通話をする事しか出来ないが、その気になれば文字を電波に乗せて届ける事が出来る……コレがどういう意味か分かるか?」

 

「……手紙を配達する業者が潰れる」

 

「……その辺りが妥当だな……オレの国では基本的に会社とかが新年の挨拶とか履歴書とかを手紙で送るぐらいだ。とにかくややこしい報連相を一気に時短する事が出来る様になる。手紙によるやり取りが不要になる」

 

 手紙によるやり取りが不要になるか……想像が出来ないがゴンベエの国ではそれが既に当たり前になっている。

 電球の時もそうだがゴンベエの持つ技術力は凄まじい物だ……私がしっかりと手綱を握っておかなければ、バルトロ大臣の一派に利用されるわけにはいかない……もしそうなったらゴンベエは……っ!

 

「おい、握るな。ミシミシ言ってるぞ」

 

「すまない……少しだけ嫌な事を考えてしまっていて」

 

 無意識の内にゴンベエの頭を掴んで握りしめていた。

 ……逃げる機会は何度もあった。それこそ過去に遡り逃げることも出来たがゴンベエはそうしなかった。ゴンベエはきっと残ってくれる。

 

「でさ、どうする?」

 

「どう、とは?」

 

「オレはこれからベルベットを探す……多分、この時代ならマスターソードを抜くことが出来る。何処に居るのかは分からないが何処かに潜んでいる……あの様子だとザビーダも知らない。聖主の御座に封印されてる可能性は低い」

 

 お前はどうする?

 

 ゴンベエはそう尋ねた……私はどうだろう。ここはもう過去の時代ではない、歴史がああだこうだ言う事が無くなっている。

 1000年前のマオクス=アメッカでなくこの時代を生きるアリーシャ・ディフダとしてどうすべきか……

 

「スレイの力にならなければ」

 

 一応とはいえ現代では神依や浄化のシステムは完成されている。

 しかし世界というのは理不尽で残酷なものでアルトリウスの様に高潔な精神を持った人間でも歪に歪ませる。スレイにはそんな目には遭ってほしくない。現状ハイランドは、バルトロ大臣の一派は導師スレイを偽物やインチキ扱いをしている。国からの支援を受けずに導師の活動をするのは難しい……導師の騒ぎに便乗して偽の導師が現れるぐらいだ。

 

「なら、決まりだな。オレはベルベットを起こす、アリーシャはスレイの力になる……」

 

「ゴンベエも、力を貸してくれないのか?」

 

「あの時ライラがなんて言ったのか忘れたのか?」

 

「それは……」

 

 ライラ様にハッキリとゴンベエは邪魔者扱いにされている。

 ゴンベエ自身世界を救うなんて気持ちはない……多分、自分の周り以外どうだっていいと思っている。本人曰く秩序を持った悪人だ。

 

「私をここまで導いてくれた様にスレイも導師としての道を導いてはくれないか?」

 

「めんどくさい」

 

「……それはどっちの意味でのめんどくさいだ?」

 

「両方の意味でだ」

 

 ゴンベエのめんどうくさいには深い意味があるが深い意味で言ってるのかそれとも普通にめんどくさがっているのかよく分からない。

 

「アリーシャ……スレイはな、自覚してるかどうかは知らない。だが、導師という世間が待ち望んでいた正義の味方、ヒーローの様な存在にならないといけない……ローランスがどうなっているのかは知らないが今のハイランドには柱が無い。平和の象徴の様な存在が……だからめんどくさいんだ」

 

「……」

 

 ゴンベエの言うことには一理ある。スレイは平和の象徴の様な存在にならなければならず、ゴンベエが成長の妨げをするわけにはいかない。

 きっとその道は困難でスレイは1人……どうにかして肉眼で天族の方々を見ることが出来る人を見つけて従士になってもらうしかない。スレイ1人では平和の象徴になるのは、ヒーローになるには荷が重すぎる。

 

「オレはその道が最初からめんどくさいって言ってずっと拒んできた。他の誰かがやりだしたからオレもやろうなんて言うつもりは無い……やろうと思えばスレイを導く事は出来るがやらない。めんどくさいから」

 

 聞く人が聞けば盛大なまでにキレる一言をゴンベエは言う。ゴンベエのめんどくさいという言葉の重さを知っているので私は怒らない。ただ……少しだけ寂しいという思いはある。ゴンベエはコレから世界の何処かで眠っているであろうベルベットを探す旅に出る。

 

「アリーシャ、理解はしているんだろうな?今、この大陸は災厄に塗れている。どうにかする方法は存在しているが、それも一時凌ぎの様な物だ……世界を救う横で新しいプランを立ち上げないといけない。人間が天族に頼らなくてもいい独自の文明も築き上げないといけない」

 

「そういうのはゴンベエがやることじゃないのか?」

 

「いや、オレはアレだよ。己の生活を快適にする為に私利私欲に走っているから……工業レベルの発明品を作ってないし、なによりアレが無いと話にならない」

 

「アレ?」

 

「何時かは見つけ出したいが無理っぽいからな……忘れろ」

 

 ゴンベエはそう言うと私の膝の上に置いていた頭を上げる。アレとはいったいなんの事だろう……いや、今はそこを気にしている場合じゃないか。

 

「オレはベルベットを探すから手当り次第に色々なところに行く。アリーシャはスレイの力になる方法を探す……ここからはそれぞれの道を歩むんだ」

 

「……それぞれの道」

 

「もしホントに無理だと思ったのならばオレを頼れ。ヘルダルフをシバき倒す……出来ればそうならない事を祈るが」

 

 いざとなったらゴンベエは動いてくれる。

 

「……私に出来るだろうか……」

 

「出来ると思え……レディレイクに行くぞ」

 

 私に出来るかどうか少しだけ不安になる。

 今までゴンベエが居てくれたからこそ私は前に進むことが出来ていた……コレからはゴンベエの力無しで頑張らないといけない。

 不安を胸に抱きながらも私達はゴンベエの家を後にし、川辺を降っていきマーリンドとレディレイクを繋ぐ橋まで差し掛かったので途中で曲がり、何ヶ月か振りのレディレイクに辿り着いた。

 

「女子にモテたい街に辿り着いたな……」

 

「それは言わないでくれ」

 

 過去にブルナハ湖と呼ばれていた頃にレディ達に好かれたい、ライクされたいからレディレイクと名付けられた。

 あまり知りたくなかった事実でゴンベエはほくそ笑む……こういうところは性格が悪いな、ゴンベエは。

 

「王宮に電話を届ければオレはベルベットを探しに行く。その前になにかやっておく事は……」

 

「ウーノ様に挨拶だけしておこう」

 

 コレが今生の別れになるわけではないが、もしかしたらかなりの時間を要するかもしれない。

 レディレイクで知り合いといえば私ぐらいなものだが、レディレイクに加護を与える天族の方に一言挨拶をしておかなければ。

 

「おーっす、久しぶりだな」

 

「ゴンベエか……最後に会ってからそんなに時間は経過していない筈だが」

 

「ウーノ様、私達も色々とあったのです……おかげで強くなることが出来ました」

 

「そうか、たゆまぬ努力が実を結んだか…………待て、アリーシャ。私の事が見えるのか?」

 

「え……あぁ!?」

 

 まことのメガネの欠片を素材にしたメガネをかけていないのに天族であるウーノ様を認識する事が出来ている!?

 過去では当たり前の様に天族の方々が見えていたので違和感が無かったが、現代では普通の人が天族を見ることが出来ていない……そうか……

 

「私、ちゃんと強くなってるんだね」

 

 1000年前では最後になるまでずっと足手まといだったけど、あの旅は決して無駄じゃなかった。

 スレイの力が無くても天族を見ることが出来る……つまり従士契約をしてもスレイに掛かる負担が軽減される。

 

「なにがあったんだ?」

 

「話せば長くなるし歴史の闇に葬り去る様になっているから話さないが、一言で言えばアリーシャはパワーアップをする事が出来た」

 

「パワーアップ……霊応力を高める事が出来たか。コレでお前を含めて3人の人間が天族を認識する事が出来るようになったか……着実と災厄の時代から、深き闇の時代の夜が明けてくる」

 

「ウーノ……夜明け前が最も暗いんだ。苦難や雌伏の期間は、終わりかけの時期が最も苦しい。それを乗り越えれば、事態が好転するだろうけど……そこに至るまでは地獄の様な道を歩まないといけない。まぁ、アリーシャには心配なさそうだが」

 

 地獄の様な残酷な世界を目の当たりにしてきた私の心はちっとやそっとでは崩れる事は無い。

 ゴンベエはゴンベエなりに私が成長していっている事を分かってくれている。

 

「そうか……お前は力を」

 

「貸すわけねえだろう、バカ野郎。湖の乙女が邪魔だって言ってきているんだ……下手に介入して力技で解決するわけにはいかねえ」

 

「ウーノ様、よろしいのです。ゴンベエはコレから人を探して旅に出ます……此処で私とお別れです」

 

 分かっている事だ……何時かはこうなると知っている。

 フブキはゴンベエが暇人だからドンドンと巻き込めばいいと言っていたがここからは国を揺るがす騒動が巻き起こる……。

 

「それで今度はなにを探しているんだ?」

 

「選ばれし勇者のみが抜くことが出来る聖剣だよ」

 

「聖剣……そういえば何時も持っている剣は何処に行った?」

 

「それがどっかに行って分からないから居場所を探してるんだ」

 

 ライフィセットとエレノアとマギルゥはとっくの昔に死んでいる。

 ロクロウは噂1つ聞かないから斬り殺された可能性が大きい。アイゼン様はドラゴンになってしまっているから意思疎通ができない。マオテラス様はヘルダルフの支配下にある……何処に眠っているのか皆目見当もつかない。

 

「ならばレディレイクの奥深くに潜んでいる加護領域の働かない謎の場所に行ってみるのはどうだ?選ばれし勇者のみが抜ける聖剣が存在してるかもしれん」

 

「なるほど……確かそんなのがあったな」

 

「尤も、湖の奥底に沈んでいるから水の天族を連れていき空気の膜の様な物を纏わせる天響術を使わなければならないが」

 

「いや、その必要は無い」

 

 ゴンベエは何時も着ている緑色の服とは別の青色の服を取り出す。

 

「ゴンベエ、私も」

 

「ほらよ」

 

 ゴンベエは今からレディレイクの湖の底に向かう。もしかしたらと私も着いていきたいと言えばもう一着の青色の服を渡してくれる。

 ゴンベエから青色の服を貰うと一旦部屋を出て人が来ない聖堂の空き部屋で服を着替える。久しぶりに着るがサイズの違和感はあまり感じない。

 

「最終確認だ。レディレイクの湖の底に僅かだがお前の加護領域が働かない謎の結界の様な物があるんだよな?」

 

「ああ……ライラが言うには害意のある物ではなさそうなのだが、どうも気になって仕方がない」

 

「……手掛かりは何処にも無いんだ。ここに賭けて失敗したらマジで一切の当て無しの旅に出ないといけねえ」

 

 私達は聖堂を出て移動する。ちょうどレディレイクの湖を一望出来るスポットに移動するとゴンベエは最後の確認を取る。

 もしここにベルベットが眠っていればそれで良かったで済むのだが、もしそうでないとするのならば……いったい何処にベルベットが眠っているのか分からない。

 

「よし、行くぞ」

 

「ああ、行こう」

 

 ゴンベエに先導されて私はレディレイクの湖に飛び込んだ。

 湖の底は思っていたよりかは深くはなくあっさりと湖の底に着くのだが問題はここからだ。ウーノ様は加護領域が働かない場所があると言っていたが具体的にどの辺りか教えてもらっていない。レディレイクの湖の底はとてつもなく広大で探すには一苦労する……そう思っているとゴンベエの右手の甲が光を放ち、一筋の道を示す。ベルベットがそこに眠っていると導いてくれるのだろうか。

 

 私達は光の軌跡を辿り、歩いていくとそこにはゴンベエの剣が石像に突き刺さっていた。

 石像の形は私達のよく知るベルベットで、つい数時間前まで見ていたベルベット……あの時からなにも変わっていない。

 ゴンベエが剣を抜きに来るまでの間、千年もの間ずっとここで眠っていたのか……聖主の御座等はあの時代では色々と厄介な場所になっていて水の中を自由に行き来出来るゴンベエならきっと辿り着く事が出来るとマオテラス様が信じてくれていたのか。

 

「っ!」

 

「!」

 

 ベルベットの剣を抜いて封印を解除しようとするのだがその前に謎の結界が私を拒んだ。

 先へ進んでいるゴンベエは特になにかに拒まれたりはしていない……ゴンベエの剣はゴンベエでなければ抜くことが出来ない。ウーノ様の加護領域を拒む謎の結界はゴンベエしか通ることが出来ない。

 遠くから見守る事が出来るので私は一旦ここで足を止める。先に行ってくれとジェスチャーをするとゴンベエは先に進みベルベットに突き刺さっている自分の剣を握る

 

「ごゔぉあ!?」

 

「!?」

 

 剣を握った途端にゴンベエは吹き出した。

 体がプルプルと震えており、何事かと側によって確かめたいが結界が邪魔をしてゴンベエの元に向かう事が出来ない。

 ゴンベエは一旦剣を引っこ抜くのを止め、水上に浮上する。

 

「どうしたんだゴンベエ、なにがあった?」

 

「マスターソードがオレの生命力を奪ってきた」

 

「なっ!?大丈夫なのか?」

 

「完全に油断していた……けど、もう大丈夫だ。次はベルベットを起こす」

 

 ゴンベエはそう言うともう一度湖の底に向かった。当然私も追いかける。

 結界に阻まれているが見ることは可能でベルベットの心臓に突き刺さっていた剣をゴンベエは握るとまた吹き出してやや辛そうな表情に変わるのだがそれでもゴンベエは耐えてゆっくりとゆっくりと剣を抜いていった

 

「ごまだれー!!」

 

 ゴンベエがアイテムを入手した時に言う謎のセリフを言うとベルベットに突き刺さっていた剣は抜かれた。

 すると地震が巻き起こり穢れと神秘的な光の両方が溢れ出ており、石化していたベルベットは元の肉体に戻っていく。この頃には結界は無くなっており、私もベルベットに近付く事が出来るようになったので2人でベルベットを抱えて浮上していく。

 

「アリーシャ様、大丈夫ですか!!」

 

 浮上していくと小舟に乗った騎士が現れる。特になにも告げずに湖に飛び込んだ為に誰かが私達の事を通報したのだろう。

 

「ちょうどよかった。私とゴンベエはなんともない。それよりもベルベットを」

 

 封印が解除されて元の生身の肉体に戻ったベルベットは意識を失っている。

 ライフィセットの時はあっさりと目覚めたがベルベットは目覚めない。幸い呼吸をしているので生きている事だけは分かる。ベルベットを小舟に乗せ、私達はレディレイクへと戻っていく。




スキット無しです。感想評価お待ちしております


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過去からのメッセージ

感想評価お待ちしております


 

 世界はとても広い。火を吹く山や極寒の大地と生まれた村では一生無縁なものがこの大陸には存在している。

 ラフィは色々と見てみたいと私に古い文献に載っていた地図を見せてくれる。ラフィは頭は良いけど戦うことは得意じゃない。だから一緒に旅立つ。

 

 

 旅立つ決心をしたらセリカ姉さんやアーサー義兄さん……それに■■■は危険な道だけど世界を見てきていいと賛成してくれた。

 旅の心得をアーサー義兄さんは教えてくれて、セリカ姉さんは旅の仕度をしてくれて、■■■は目を輝かせていた。セリカ姉さんやアーサー義兄さんに僕も旅がしたいと言ったが危険だからダメだと言われた。だから私とラフィがその分世界を見て回って思い出話を聞かせる。

 

 

 海に出て船に乗って別の地方をラフィと共に目指していると嵐に巻き込まれる。

 ラフィは嵐に飲み込まれて揺れる船から吹き飛ばされそうになるけど、私が船の柱を掴んでラフィを掴む。なにがなんでもこの手は離さない。腕の力には自信があるわ……何故かしら?

 

 

 嵐の航海を乗り越えると別の領地の港町に辿り着いた。

 故郷の村では見かける事はないタコなんかの珍しい生き物が沢山いて他の領地にやってきたんだとテンションを上げる。ラフィも見たことがない物を見ることが出来て興奮して先を急ぐけど転んでしまう。まったく世話が焼けるわ。

 

 

 洞窟を探検しているとラフィは宝箱を見つけて高らかと声を上げる。

 自分の持っていた地図が宝の地図だったんだと喜んでいると私の真横に蜘蛛が現れて私は思わず悲鳴を上げた……私、虫程度に怯えたかしら?

 

 

 洞窟を抜けて次の街に向かっていると熊の見た目をした業魔に遭遇する。

 私は対魔士じゃない、ただの一般人。ウリボアならともかく業魔相手じゃ歯が立たない。せめてラフィだけでも逃さないといけないと思っていると奇抜な格好をした魔女とシルクハットで素顔を隠した聖隷が現れて業魔を撃退してくれた。

 

 

 業魔の脅威が去り港町に向かうとドッと疲れが襲ってくる。はじめての旅だから仕方がない事でも一休みしようと木箱の上に座りラフィと一緒にリンゴを齧る。リンゴは甘酸っぱくて美味しかった……私、味を感じることが出来たっけ?

 

 

 目的の場所に行く為に再び船に乗る。なんだか厳つい見た目の海賊っぽい人達がいる。

 商船って聞いてるけど、それは嘘でホントのところは世間を賑わすアイフリード海賊団の船……でもラフィは気付かないし私も何故か分からなかった。目付きの悪い大柄の男が「船に乗せる代わりに羅針盤をちゃんと持っていろ」と言ってきた。ラフィは興味津々に羅針盤を持っている。

 

 

 海を乗り越え山を乗り越え見たことのないものを沢山見てラフィは疲れたのかいっぱい眠る。

 夢の中でも冒険をしているのか寝言で笑っている……この子は好きに生きているんだわ。

 

 

 王都にやってきた私達は酒場でマーボカレーをいただく。

 とっても美味しくてラフィは気に入ったのか一気に食べようとして喉を詰まらせかける。お酒を飲んでいた兄弟の剣士達が水を差しだしてくれた……2人は兄弟で長男と六男だけどライバルに当たる関係でどっちが凄い剣士なのか日夜競い合っていた。

 

 

 道を間違えて何処かの神殿の様なところに辿り着いた。

 そこには生真面目な対魔士や姉弟の対魔士が居て、私達が迷子になっているのを知って親切に道を教えてくれる。

 

 

 またまた道を間違えてしまった。

 ラフィはあっちを、私はこっちを指を指して進路を決めるのだけど、どっちの道が正しいのか分からなくて少しだけ喧嘩をしてしまう。でも、直ぐに仲直りする事が出来た。

 

 

 南国の地に辿り着くとそこには聖主様のぬいぐるみがあった。

 前にシルクハットを被っていた聖隷に似ていると人形をジッと見つめているとラフィは本物が居ると騒ぐ。振り向けばホントに聖主様が居たけど、よく聞いてみれば聖主じゃなくてノルミン聖隷と呼ばれる存在らしい。聖隷にも色々な存在が居ることが分かった……ラフィは世界にはまだいっぱい不思議な事が起きていると目を輝かせていた。

 

 

 森を歩いているとラフィは目を輝かせていた。

 クワガタのハサミとカブトの角を持つ虫を捕まえて高らかと掲げていた。クワガタなのかカブトなのか分からない、新種のクワブトだよと嬉しそうにしている……次に立ち寄った村にあった図鑑で確認するとカナブンな事が分かった。ラフィは凄く落ち込んだ。

 

 

 北の領地に向かうととても寒かった。

 今まで感じたことのない寒さを感じていると門が見えた。次の街に辿り着いたんだと私とラフィは走って門にまで向かっていく。

 

 

 北の更に北の地でしか見れないオーロラを見た。

 虹とはまた違った波打つ神秘的な光がなんとも言えず、今まで危険な場所を歩いたりしてきたけど無駄じゃなかったと私の心に残り、旅は遂に終わりを迎えた。

 

 

 故郷であるアバルに帰ると■■■は私とラフィを笑顔で出迎えてくれた。セリカ姉さんもアーサー義兄さんも「おかえり」と笑顔で出迎えてくれた。私とラフィは旅をして出会った人達の事を話す。■■■はワクワクしながら私達の冒険譚を聞いてくれる。自分も何時かは世界を巡ってみたいとセリカ姉さん達に言ったら大きくなったらねと返された。

 

 

 ラフィと■■■と一緒にウリボアを狩る。

 誰が1番大きな獲物を狩ることが出来るのか競うんだって笑っている。

 

 

 アバルの村に異大陸のお姫様と従者がやってきた。

 お忍びで見聞を広げる為に色々なところを渡り歩いているみたいで、ラフィと■■■は異大陸や異世界の事を知っている従者に質問攻めをしていたけど「めんどくせえ」と相手にしようとしなかったのでちょっとキレる。うちの子達に話をちゃんと聞かせなさい。

 

 

 ウリボア狩りに出掛けているとウリボアの親が業魔病にかかってしまった。

 アーサー義兄さんはこの場にはいない。なんとしてでもラフィと■■■を守らないといけないと戦おうとするとお姫様が助太刀に入ってくれた。お姫様が戦えるの?と思ったけど私と同じぐらいには強かった。けど、それじゃあダメ。そこそこ強いだけじゃ業魔に勝つことは出来ずに苦戦をしている。ラフィ達は無事に逃げる事が出来たかと思っていると逃げた筈の2人は戻ってきた。お姫様の従者を連れて。

 お姫様の従者は業魔病にかかったウリボアの親を拳1つで、一撃で倒すとウリボアの親は業魔の姿から元のウリボアに戻った。お姫様の従者は実は勇者だった。何処が勇者なんだろうと思わず凝視していると視線に気付かれたので恥ずかしくなって思わずビンタを入れてしまった。

 

 

 友人のニコに久しぶりに再会して思い出話をした。

 この前、村の近くに業魔が出たと聞いたのでウリボアを狩っている私をニコは心配してくれたけれど、勇者様がワンパンで沈めた事を教えてあげた。助けてもらったお礼をまだしていないと思いだしたのでお菓子かなにかを作ろうとしたけどニコが「ベルベットのキッシュが1番だよ」と言ってくれた。

 そういえばニコにキッシュの作り方を教える約束をしていた事を思い出す。ついでだからニコにセリカ姉さん直伝のキッシュの作り方を教える。コレを港町で売れば儲かるかもとキッシュを片手にニコは喜んでいた。

 

 

 キッシュを従者に渡すと従者は喜んでくれた。

 お姫様は料理が苦手で基本的に自分で作っているらしく、人が作った物を食べるのは宿に泊まった時ぐらいだけど宿屋のご飯とはまた違う温かい手料理を食べるのは久々だったみたい。これぐらいで騒ぐなんて大袈裟だと言えばこういう温かい手料理はもう二度と食べられない、従者は故郷と親を捨てて今の自分になったと話をしてくれた。

 

 

 キッシュをくれたお礼に鍛えてくれることになった。

 助けてくれたお礼のキッシュなのに更にお礼なんてお礼のループが続くんじゃないかと一瞬だけ疑問に思ったけど直ぐに戦い方を教えてくれる。勇者を自称するだけあって剣も槍も弓も魔法も何でもかんでも出来る。ヘタクソだけど怪我をした人を治癒する事が出来る。従者はお姫様と私を同時に鍛えてくれる。まさか4人に分身する事が出来るとは思いもしなかったわ。

 

 

 私が闇の炎を自由自在に操る事が出来る様になればもう自分は居なくても大丈夫だと従者は微笑み、お姫様と一緒に村から出ていこうとする。

 お姫様と従者には世の中を平和にしないといけない使命がある……けど、私はこの時既に従者に恋をしていた。従者はお姫様にかかりきりで私の事なんか眼中にないだろうけど思いを伝えると顔を真っ赤にして「何時か迎えに来るから待ってろ」と言ってくれた。

 

 

 

 

「──ルベット……」

 

 

 

 ラフィと一緒に海を眺める。

 世界ってのはとっても怖いけどワクワクが止まらないもの…………………ああ………………これは……………

 

「なんて都合のいい夢なのかしら?…………!?」

 

 ラフィが生きていたら、セリカ姉さんが生きていたら、アーサー義兄さんがアルトリウスにならなければ、開門の日が来なければこんな未来が待ち構えていたのかもしれない。誰も傷つかない平和な世界を、都合のいい妄想を知らない間にしてしまった様で目を開くとそこは知らない天井だった。

 

「……何処、ここ……」

 

 私、ラフィと一緒に眠りについた筈……っ……。

 

「思い出しましたか?」

 

「シアリーズ?」

 

 壊れた筈の籠手は何時の間にやら元に戻っていた

 少しずつ、少しずつだけれど意識が現実に戻ってきて最後になにが起きたのかを思い出す。ラフィと一緒に永遠の眠りにつこうとしたけれど、アイツが、ゴンベエはそれを認めないとなにかをしていた。

 籠手にある剣からシアリーズが突然現れた……いったいなにがどうなっているの?

 

「確か、私はゴンベエの剣で心臓を貫かれて……」

 

「そこで封印されたのです。我々聖隷とは異なる力を用いて、貴方を……」

 

「っ!そうよ、あの後どうなったの!?」

 

 あの後、私は意識を失ったからどうなったか分からない。

 無駄に大きなベッドから降りようとすると部屋の入口と思わしきドアがノックされる。誰かがやってきたと私は強く警戒心を剥き出しにし、何時でも戦闘に入れる様に準備をする。

 

「失礼します……!」

 

「あんた、誰なの?」

 

 服装からしてメイドなのは分かるけども、ホントにここが何処であんたが誰なのか分からない。

 

「アリーシャ様、目を、目を覚ましました!!」

 

「アリーシャ……確かそれって」

 

 時折ゴンベエがアメッカの事を別の名前で呼んでいる時がある。

 メイドに声を掛けようとするけどそれよりも先にメイドが部屋を飛び出して何処かに向かって走っていく。

 

「ベルベット……目が覚めたのか」

 

「アメッカ……ここは何処なの?ロクロウ達はどうしたの?ラフィは、フィーは何処なの!?」

 

「それは」

 

「答えて!私になにが起きたの!そもそもあんたアメッカって名前じゃないの!」

 

 なにが起きているのか分からない。アメッカの側に寄って両肩を掴んで事情を尋ねるけどアメッカは言葉を出さない。

 

「実は」

 

「オレから話す」

 

「ゴンベエ……あんた、私になにをしたの!!」

 

 観念してようやく説明をしようとしてくれるとゴンベエが姿を現す。

 ゴンベエの手にはガラスの円盤があり、近くにあった机の上に置くとゴンベエは部屋の窓を開けた。

 

「ここはベルベットが生きていた時代よりも遥か未来、1000年後の時代だ」

 

「…………は?」

 

「ここは1000年後のブルナハ湖の上に作られたハイランドの首都であるレディレイクで、アメッカは偽名で本名はアリーシャ・ディフダ。末席だがこの国の王族だ」

 

「なに、言ってるのよ…………ねえ…………冗談だって言いなさいよ!!」

 

 何時もみたいに気だるそうにして適当な事を言ってるみたいに。

 

「謝るつもりは無い……オレはお前に生きて欲しいって願った。その結果がお前を封印する事になったんだ」

 

「っ、誰がそんな事をしてって言った!!私は覚悟を決めたのよ!ラフィの為にフィーの為に一生喰らい続けるって」

 

「……」

 

「ベルベット、その」

 

「あんたは黙ってなさい!今、私はコイツと話をしているのよ!!」

 

 答えて、答えなさい、答えろ!!私は左腕を喰魔化させてゴンベエを握りしめる。

 その気になれば簡単に抵抗する事が出来るはずのゴンベエは全くといって抵抗して来ずに無言でいる。

 

「殴りたければ殴れ……後悔はしていないんだ」

 

「っ!」

 

 私はゴンベエを右手の拳でぶん殴った。

 人の決意を覚悟を無駄にした。邪魔した……私は生きててほしいと願ったのに、それなのに……!

 

「ラフィはあの後どうなったのよ!暴走して世界を壊した、んじゃないわよね」

 

 ここが本当に1000年後の時代ならラフィはどうなっているの?そもそもで今、世界はどうなっているの?

 わけが分からない事だらけでアメッカに尋ねてみるとアメッカはゴンベエが机の上に置いた円盤を私に渡す……よく見れば硝子の円盤に溝の様な物が入っている。コレは、そう……。

 

「レコード?」

 

 アイゼンがアイゼンの妹に文字でなく声を届ける為に作った声を記録する道具。

 アイゼンの酒瓶で作ったけれど……。

 

「とにかく聞いてくれ……コレはベルベットの為に残された物の筈だ」

 

「……」

 

 アリーシャはゴンベエの持つレコードを再生させる装置に硝子の円盤を設置し、レコードを回す。

 

『あーあー、ただいまテスト中…テスト中…オホン。ゴンベエ、アメッカ…コレを聞いていると言う事はオレの考えが当たったようだ』

 

「アイゼンの声……」

 

『もし、コレを再生させたのがナナシノ・ゴンベエ、マオクス=アメッカじゃないなら切ってくれ。心を響かせ踊らせる歌も素晴らしい曲もこの中には入っていない、御宝に関するありかなんてのも勿論の事、コレの作り方に関してもだ』

 

「……」

 

『……切らなかった、と言うことはゴンベエとアメッカだな。お前達が聞いていると言うことは、そこにお前もいると思っている。先ず最初に言っておくが、オレはお前達になにかを言うつもりはない。と言うよりは、オレはまだまだ生きる。アイツとの約束の日が来るまでは例えなんであろうとも死ぬわけにはいかねえ…代わりと言ってはなんだが、お宝を用意してある。お前なら充分にっと、このサイズだとどれだけ録音出来るか分からんからな。宝については見れば分かる』

 

「宝?」

 

「それに関しては後で教える……今は続きを聞いてくれ」

 

 まだイマイチ状況が掴む事が出来ていない。ゴンベエはとにかく聞くように言ってくる。

 

『オレからのメッセージは以上だ。これ以上の無駄話は必要はない、会ってすれば良いだけだ……代わるぞ』

 

『うん、ありがとう…お姉ちゃん、元気?ぼくはね、そこにいる勇者を自称する化け物のせいで人間に戻ったんだ。ぼくは本気で世界を鎮めるつもりだったのに……ホントに迷惑だよ』

 

 レコードの音の質が悪いから少し聞き取りづらいけど私には分かる。この声はラフィの声だわ。

 サラリと人間に戻ったと言っているのでホントかどうかアメッカ達を見るとアメッカ達は否定する事はしなかった。

 

『ぼくは今、アイフリード海賊団の一員になってるんだ。広い海を旅して行ったことのない地図にも載ってない場所に自由に行くことが出来て、今、ぼくは幸せだよ……』

 

「ラフィ……」

 

『でも、それでもやっぱりお姉ちゃんの事が気になる。1000年後にアイツがお姉ちゃんを起こしに来てても……どうせお前の事だからお姉ちゃんの側に居るんでしょ?コレを聞いてるなら、ぼくが……ぼくがこうなったのもお姉ちゃんがそこにいるのも全部お前のせいだ。ぼくはお前を許すつもりはない、お姉ちゃんもきっと許すつもりはないと思う。お姉ちゃん、別に許さなくていいよ、今そこに居るのはそいつが原因なんだから』

 

「オレ、滅茶苦茶嫌われちまったな……」

 

『お姉ちゃん、コレを聞いてる頃にはぼくはとっくの昔に亡くなっている……だからもうぼくの事は気にしないで。お姉ちゃんは鳥は飛びたいから空を飛ぶって言ったよね……ぼくの事はもう気にせずに自分の為に生きてよ』

 

「……」

 

『それとお前はぼく達の眠りを邪魔した責任を取れよ……ぼくが色々なところで色々な物を集めたんだ、それを使ってお姉ちゃんを幸せにしろ』

 

「そうか……アレはライフィセットが集めた物だったのか……」

 

 ラフィが集めた物に心当たりがあるゴンベエ。

 それがなんなのか気にはなるけれども、今は聞かずにレコードに耳を傾ける。

 

『ベルベット……お前の弟は非常に優秀で立派な弟だ。アイフリード海賊団の一員として立派にやってくれている。だからゴンベエの力を使ってこの時代に来るなんて馬鹿な真似はするな。恐らくはお前も喰魔から1人の人間に生まれ変わっている。新しい命で新しい時代を謳歌しろ……』

 

『幸せにしてもらってね、お姉ちゃん』

 

 ラフィが私の幸せを願うとレコードはそこで終わった。

 ゴンベエはレコードを再生させる装置から硝子の円盤を取り外し、私に硝子の円盤を渡してくる。

 

「一発、ビンタさせなさい」

 

 シアリーズがそういうとゴンベエをビンタした。ゴンベエは攻撃を受け入れておりなにも言い返してこない。

 シアリーズは一回で終わらせた。一回で満足したのか私の剣の中に戻っていった。

 

「私も一発ぶん殴らせなさい」

 

「一発どころか何発でも構わない。お前の気が済むまで思う存分に殴ればいい」

 

「一発でいいわ…………うぉおおおおおお!!」

 

「ちょ、左腕はまずい!」

 

 あんたならなんだかんだでケロッと起き上がるでしょう。

 左腕を喰魔化させ拳を握りゴンベエを殴り飛ばすと開けていた窓の外に吹っ飛んでいった。

 

「べ、ベルベット。いくらなんでもアレじゃ死ぬ」

 

「大丈夫よ、この程度で死ぬわけがない」

 

 何時も殴っている時と同じ要領で殴ったから死にはしないわ。

 アメッカが心配をしている様だけど案の定ゴンベエはケロッとした顔で何事も無かったかの様に部屋に戻ってきた。

 

「……もういいのか?」

 

「もういいわよ。あんたをこれ以上ぶん殴ったとして気が晴れるわけじゃない……」

 

 ラフィはもうこの世には存在していない、死んでしまっている。

 その現実を上手く受け入れる事が出来ずに涙を流す……今度こそホントのホントにラフィは死んでしまった。この世にはもう存在しない。アルトリウスの時は憎かったけれど今は悲しい……

 

「お、おい」

 

「うるざい。ぢゃんど責任をとりなざいよ」

 

 私の流した涙をゴンベエに拭かせる。ゴンベエを抱きしめる……。




スキットのネタがあれなので無いです


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修羅場と責任と結婚とやっぱり修羅場

 

「もう、もういいわ」

 

 ベルベットはオレを抱き締めてくれたので抱き締め返す。特に声を上げる事はせずに無言で思う存分ベルベットは涙を流していった。

 こうなったのも全てオレのせいではあるが反省も後悔もしていない。ベルベットに生きてほしい、幸せになってほしいと願った気持ちは嘘偽りねえ。

 

「受け入れる事が出来たか?」

 

 ベルベットは左腕を喰魔化させてジッと喰魔化した手を見つめてる。

 此処が1000年先の未来で自分らしく自由に生きてくれとライフィセットに託された。アイゼンがエドナに託した大きな宝箱の中身はライフィセットが生前にアイフリード海賊団と一緒に各地を冒険した際に手に入れた稀少な鉱石類だったというわけか。

 レコードも何時の日にかベルベットの心臓に突き刺さったマスターソードをオレが抜きに来ると信じて残したメッセージ……硝子細工は上手く行けば1000年以上は変化しない。

 

「……ラフィは、あの子は人間になって思う存分生きたのね」

 

「それはオレ達の口から答えることは出来ない」

 

 ベルベットが封印されてライフィセットがマオテラスとして浄化の炎を世界中にもたらしてから1時間ぐらいで聖主の御座からこの現代に帰ってきた。ライフィセットがあの後どうなったのかは誰も……いや、1人だけ知っている奴は居るか。

 

「でも、思う存分に好きなように生きたと思っている……でなきゃ、こんな物を残したりはしていない。困難や苦難はあったけど、それでも最後に笑って終わりを迎えられる様に生き抜いた筈だ」

 

 憶測だけで語るのは失礼かもしれないがオレの口からはこれしか言えない。

 ジッと硝子のレコードを見ているのでもう一度再生するか?と尋ねてみると首を横に振った。

 

「此処が何処だか分からないけど、ラフィはもうこの世には存在しない……けど、ラフィは幸せになった……」

 

「ベルベット、時間は沢山あるんだ。ゆっくりと落ち着いて考えよう」

 

 ブツブツとベルベットは呟く。オレに対して憎悪の念を燃やした炎の1つでもぶつけてくるのかと思ったが、この現実を受け入れるのに必死だ。

 覚悟を決めてたのに生かされたのならばどうするか。今後の身の振り方がよく分かっていない。

 

「私、人間に戻った……のかしら?」

 

 素朴な疑問を持つベルベット

 ライフィセットは人間に戻っていたがベルベットの左腕は相変わらずのままで意識すれば喰魔の左腕に変化している。穢れを一切発していない……アルトリウスの様に穢れを自分の中に押し込んでいる、というわけではない。

 とりあえずマスターソードを取り出してベルベットに触れてみる。今まではベルベットは憑魔で喰魔だった為にマスターソードとの相性は最悪でマスターソード自体がベルベットを拒んでいたが……普通に手のひらの上に置くことが出来た。

 

「……ベルベットはベルベットでまた違う存在に作り変えられたのか?」

 

「それどういう意味?」

 

「そういう感じの事が出来る生物に生まれ変わったって事だ。ぶっちゃけオレもよくわからない」

 

 人間なのか憑魔なのかよく分からない。ベルベットはベルベットである事には変わりはないからそれでいいけども。

 人間か憑魔かよく分からない曖昧な存在になっているのは分かった……ベルベットはベルベットだからそれでよし。

 

「……お腹が空いたわ……あんたを喰えば、私と常に一緒、文字通り死ぬまで永遠に」

 

「恐ろしい事を言うんじゃねえ!」

 

「冗談よ、冗談。あんたが私をこんな所まで連れてきて、こんな体にしたんだから……責任を取って貰うわよ」

 

「ああ、そうだな。ベルベットがちゃんとこの時代で生きれる様に全力で支援しよう」

 

「……気付きなさいよ、バカ」

 

 グッと喰魔化した巨大な左腕でオレの体を握り締めるベルベット。

 何時もと同じ要領でオレを喰らおうとする素振りを見せる……若干目から光を失っているので本気で言っている様に聞こえる。

 

「ベルベット、空腹を感じるのか?」

 

「え……ああ……そうね。お腹が空いてるって感覚があるわね」

 

「そうか、直ぐに食事の用意を手配する。なにか食べたい物はあるか?氷菓子以外なら大抵の物は作れるはずだ」

 

 空腹感を感じている事にアリーシャは僅かばかり違和感を感じる。コレもまたマスターソードやトライフォースがベルベットを喰魔から違う存在に作り変えた影響だろう。アリーシャはお腹が空いているベルベットのリクエストを尋ねる。

 

「そうね……キッシュがいいわ。ベーコンとほうれん草のキッシュ」

 

「キッシュだな、分かった」

 

 アリーシャはメイドにベルベットがリクエストしたキッシュを作ってもらう。

 

「……あっさりと終わったな……」

 

「なにがよ?」

 

「お前がこの時代の何処かに封印されているからその旅に出ようと思っていたんだが、まさかずっとレディレイクの湖の底に眠っているとは思わなかった」

 

 何処にいるのか分からないアテもない旅をするつもりだったがこうもあっさりと終わると少しだけ拍子抜けだ。

 とはいえ無駄な時間を掛ける事なくベルベットを目覚めさせる事が出来て良かったのもまた事実。変に難しく考えずベルベットが見つかってめでたしめでたしで終わらせよう

 

「生地から作らないといけないから1時間ほどかかるそうだ」

 

「……ちょっと外を散歩してきていいかしら?」

 

「それは……私達も同行していいのなら」

 

「それぐらいなら別に構わないわ……ここが何処だか分からないもの」

 

 料理が出来るまでそれなりに時間がかかるらしいので外に出ることに。

 土地勘が無いのでオレとアリーシャは付き添っていく。

 

「アメッカ、こんな豪邸に住んでるのね」

 

 アリーシャの屋敷を出るとアリーシャの屋敷を見てベルベットが呟く。

 ベルベットの実家もそれなりの大きさだったがアリーシャの住んでいる屋敷の方がバカデカい……末席とはいえ王族が見窄らしい家に住んでいるわけがないよな。

 

「あんたは何処に暮らしてるの?」

 

「オレはレディレイクに住んでねえよ。レディレイクを出てちょっと歩いたところにある川の上流にある水車小屋で暮らしてる」

 

「ゴンベエの家はスゴいぞ。見たことのない物に溢れていた」

 

「1年じっくり掛けて色々と作ってきたからな」

 

 過去の時代で真空管を作ったりして今思えばホントに生活基盤を整えるのに毎日必死で頑張ってたな。

 冷蔵庫に洗濯機に電球……風呂はまだ釜で沸かすタイプの物になっているが何時かはオール電化に変えてみたいものだ。

 

「そう……後でじっくりと見せてもらうわ」

 

「……え……家に、来るの?」

 

「当たり前でしょう。今日から一緒に暮らすんだから」

 

「……え……え………えぇ!?」

 

 サラリとベルベットの口から語られる事にオレは驚きを隠せない。

 一緒に暮らすなんて一言も言っていないのにベルベットは話を大きくしている。

 

「言った筈よ、責任を取ってもらうって。あんたに幸せにしてもらうまで私はあんたの事を許すつもりなんてないから」

 

「待て、ベルベット。話が飛躍しすぎている」

 

「何処がよ。ラフィだって責任を取れって言ってたじゃない」

 

 横で話を聞いていたアリーシャも慌てながら話に入ってくる。

 確かにレコードには責任を取れとは言っているけれども、責任ってそういう意味での責任なのか!?

 

「第一帰る場所が無いでしょ」

 

「私の屋敷で働かないか?ベルベットの女子力の高さはあの旅で充分に理解した、ベルベットならば下手な給仕よりも立派にやれる。無論住み込みで給金も充分に弾む」

 

「仕事を紹介してくれるのね、ありがとう……でも、住み込みならいいわ。ゴンベエの家から通える仕事を探すから」

 

 断固としてベルベットは譲るつもりはない。アリーシャはチラチラとオレの方に視線を向けている。

 なにか言ってくれと訴えかけている……ええっと……くそ、どうすればいいんだ

 

「メイルシオであんたに伝えた言葉、忘れてるならもう一度言うわ。私はあんたの事が好きなのよ」

 

 どうすればいいのか頭を回転させているとベルベットから不意打ちをくらう。

 

「いやでも……同棲する事に」

 

「違うわ、同棲じゃないわ…………結婚よ」

 

「なぁ!?」

 

 さらなる爆弾がアリーシャとオレを襲う。ベルベットは恥ずかしがる素振りを一切見せずに堂々と言い切った。

 結婚って結婚って

 

「やめろ!オレは収入が不安定で近所とも打ち解けていない社会不適合者だぞ!」

 

「あんたの性格が捻じ曲がってる事ぐらいとっくの昔に知ってるわ……あんたを正しく矯正すればいいだけの話よ」

 

 私ならそれが出来ると堂々とデカい胸を張るベルベット。

 あまりにも突然の出来事に思考が追い付かない。このままなにも考えないでおきたいがそれが一番の悪手でなにか言いくるめる方法はないのか考えるが浮かばない。

 

「こんな体になったのも、この時代に来たのも、なにもかも全部あんたのせいよ。だから責任を取って私を幸せにしなさい」

 

「……責任を取れというお前の気持ちは分かった。でも結婚ってのは幾らなんでも話が飛躍しすぎている……その、なんだ。オレは恋愛なんて今までしてこなかったもので結婚に関しても興味を抱いていなかったわけでな……」

 

「私を幸せにする事が出来ないって言うの?」

 

「………………正直、自信が無い」

 

 ベルベットにとっての最善の道をオレは踏み躙ったんだ。ベルベットを幸せにする事が出来る自身は無い。それこそもっといい男が探せばいる。

 

「安心しなさい、あんたが私を幸せにする自信が無くても私があんたと一緒になって幸せになる自信はあるわ」

 

 釣りバカ日誌で聞いたことのあるセリフをベルベットは恥ずかしげもなくサラリと語る。

 恥ずかしい……聞いているオレが恥ずかしい。ベルベットは全く恥ずかしがっていない。

 

「誰でもないあんただから言ってるのよ……それとも私の事が嫌いなの?あの時は別れがあるからなにも聞かなかったけど今回は聞かせてもらうわよ」

 

「……正直に言えば、嬉しいには嬉しい……けど、まだオレもベルベットもダメな部分を知らない。互いのアラが見えずにそのまま結婚してしまうのはいけないしもう少し段階を踏んだりしないと」

 

「嫌よ」

 

「アルトリウスとセリカさんみたいな一例がこの時代じゃ起きる可能性が」

 

「あんたは化け物染みた強さで私は災禍の顕主よ。人間か喰魔かよく分からない状態だけど、力は衰えてないわ」

 

 アルトリウスレベルの奴が相手にならない限りは基本的に死なないってか。

 あの手この手で言い逃れをしようとするけれどもベルベットは段々と詰め寄ってくる。このままだとホントにベルベットと結婚してしまう。いや、悪い気分じゃない……ただこう、急ぎ過ぎな気がするんだ。

 

「ダメだ……ダメ、ダメだ!そんないきなりの結婚なんて変なところでアラが見えて直ぐに離婚するに決まっている」

 

「それはあんたの主観でしょう。私はゴンベエがどんな人間か理解しているつもりよ?」

 

「…………っ………私だって…………」

 

「なに?」

 

「私だってゴンベエが好きなの!!ずっと側に居てくれて、ずっと手を差し伸べてくれて、ずっと一緒に悩んでくれて……ベルベットがゴンベエに責任感で結婚するのは嫌!私はゴンベエの事がずっと、ずっと……大好きなの!!」

 

 今まで胸の内に秘めていたであろう思いをここに来てアリーシャは出す。

 オレの左腕を取って抱き締めて自分の物だとアピールをするのだがそんな事は気にしていないと言わんばかりにベルベットはオレの右腕を掴んで引っ張る。

 

「アメッカ、それは吊り橋効果ってやつよ。あんたが危機的な状況にたまたま居たから、よっ!」

 

「違う!ゴンベエは私に対して冷たい時もある!吊り橋効果じゃない、1年以上一緒に居るから吊り橋効果とこの気持ちが重なっていない、よ!」

 

「痛い!痛い!痛いって!!」

 

 オレの腕を引っ張るベルベットとアリーシャ。

 まだライフィセットがマオテラスだと分かって1日も経ってないのにこんな修羅場になるなんて誰が予想出来たのだろうか。オレが痛がる素振りを見せるがベルベットもアリーシャも腕を離すつもりは一切無い。ホントにオレの事が大事だと好きだと思っているならば痛がるオレの腕を離すだろうが此処での譲歩は恋愛的に負けになる。

 

「お前等、マジで、一旦、やめんか!」

 

「「きゃあ!?」」

 

 割と冗談抜きで腕が痛い。このまま修羅場を混沌とさせるわけにはいかない。人が少ない路地裏で修羅場ってるだけまだマシだ。

 

「ゴンベエ、正直に答えて!ベルベットと私のどっちが好きなのかを!」

 

「……いや、どっちもその手の感情を抱かない様にしているからいきなり言われても困る」

 

 アリーシャにはアリーシャで、ベルベットにはベルベットでやらなくちゃいけない事がある。だから水を差すわけにはいかないと今までそういう感情を殺し続けていた。いざどっちでしょうと迫られても返事に困る。二人共魅力的な女性である事には変わりない……ただ、どっちを選んでも地獄を見るしかなさそうだ。

 

「……どっちかを選べと迫られても困る……多分、好きになるとしたらどっちも好きになると思うから」

 

 アリーシャは勤勉で頑張り屋で真面目だ。ベルベットは家庭的で優しくて女子力も高い。

 どちらも魅力的な女性であり押し殺していた感情を解き放てば2人を異性として認識してしまう。

 

「……あんたにとって私は魅力的?」

 

「ああ……ベルベットもアリーシャも魅力的な女性だ」

 

「……そうか……どちらが一番か決めることが出来ないの」

 

「今決めろって話ならオレは無理だと答える……多分時間をかけても、どっちも1番にしたいと思ってしまう」

 

 ベルベットとアリーシャは顔を見合わせる。

 コクリと2人が頷くとオレに拳を入れてくるのでオレはその拳を受け入れる。

 

「あんたにはなにがなんでも責任を取ってもらわないと……あんたが私をここまで連れて来たんだから義務があるわ」

 

「はい、それは仰るとおりです」

 

 ベルベットに自由に生きてほしいと身勝手な願いを叶えてしまった。

 この時代で自由に生きてほしいけどもベルベットはオレに好意を寄せていて、この時代に連れてきた責任を果たさないといけない。

 

「だから、結婚しなさい」

 

「……ホントに、ホントにそれしか道がないのか?」

 

「逆に聞くけどあんたどういう感じで責任を取るつもりだったの?」

 

「……就職先の斡旋?」

 

「それ、責任から逃れてるわよ」

 

 ベルベットは女子力が天元突破している。宿屋に泊まった際に宿屋の掃除に文句を言っていたぐらいだ。

 家事炊事系の仕事先を斡旋する事ぐらい……でも、ベルベットの言うとおりだ。オレはベルベットをこの時代にまで連れてきた責任から逃れようとしている……でもなぁ、結婚ってのはなんか話が飛躍しすぎている気がする。

 

「ウダウダ細かい事で悩んでるんじゃないわよ!あんたは私と結婚して夫婦になる、それで終わりの筈よ」

 

「…………アリーシャは?」

 

 オレに対して今まで秘めていた思いをアリーシャは解き放った。

 この結婚に対してアリーシャは祝福してくれるのだろうか?聞くのだけでも怖いのだが、此処で聞いておかなければ後で一生後悔する事になるだろう。

 

「ゴンベエとベルベットのペアの結婚はめでたい事だ……だが、私は、それでも……」

 

「祝福してくれない、か…………ベルベット。オレの家でオレと一緒に暮らすのは別に構わない。覚悟を決めていたお前をこの時代に連れてきたのはオレのワガママだ。お前をどうにかしないといけない義務は果たす……けど、結婚にはまだ早いと思う」

 

 クソみたいなゴミみたいな事を言っている自覚はある、伊藤誠並のクズになっているだろう。それでも言わないといけない

 

「オレは今の自分に成る代わりに今までの自分を捨てた。だから親に挨拶とかそういう小難しい事は出来ない……オレが出来ることは暴力で物事を解決する事だけだ。これから迎える平和な世の中じゃオレみたいなのは不要になるかもしれない。邪魔者扱いされるかもしれない……アリーシャ」

 

「……」

 

「お前が胸の内に秘めていた思いはよく分かった……オレはベルベットと同棲をする。それでもその思いが本当に続くなら……その時は……その時は……ああ、ダメだ。ここから先は言うことは出来ない」

 

 肝心なところでヘタレになってしまう。

 

「そこから先は私も言えない…………ゴンベエ」

 

「なんだ?」

 

「大好き」

 

「そうか……なんだか湿っぽい話になっちまったな……」

 

 こんな話になるなんて誰が予想する事が出来たのだろうか。まぁ、全ては自分で蒔いた種、自業自得と言われればそれまでなんだがな。

 気分を変えるのとキッシュが出来るまでの時間を潰す為にも3人でレディレイクを歩く。右にベルベットで左手を握り、左にアリーシャで右手を握る。端から見れば二股のクソ野郎だ……いや、ほんとに。




スキット 1000年もあれば

ベルベット「……確かにここはプルナハ湖みたいね」

ゴンベエ「分かるのか?」

ベルベット「こんだけバカデカい湖があるところなんてプルナハ湖ぐらいよ……にしても湖の上に街を作るなんて、台風が直撃したら大変な事になるんじゃないかしら?」

アリーシャ「その辺りは大丈夫だ、レディレイクの奥底には様々な仕掛けがあって排水の機能も搭載されている。豪雨が続いても嵐が来ても問題無い」

ゴンベエ「この街、意外としっかりとしてるみたいで……アリーシャも知らない場所もあるらしい」

ベルベット「らしいって、また随分と曖昧ね」

ゴンベエ「オレはこの街に隠されたダンジョンに足を踏み入れてないからな……」

アリーシャ「あそこには弱いが憑魔が沢山いるらしい。一般人が足を踏み入れる事はしてはいけない、導師の為にある場所だ」

ベルベット「導師…………ここってホントに私が生きていた時代から1000年たった未来なの?」

ゴンベエ「プルナハ湖に立ち寄った際にこんな大きな街は無かっただろうが。今納得したばかりだろ」

ベルベット「それは分かっているわ……けどもっとこう、未来感溢れる物に満ち溢れてないと」

アリーシャ「未来感が溢れているもの……確かに、1000年前の時代と比べても大して文明が進歩していないな」

ベルベット「1000年たったのなら空を飛ぶ乗り物とか海の底に潜れる乗り物とか、文字を一瞬の内に届ける道具とか氷とかを使わずに物を冷やす倉庫とか温度を自由に扱える火を使わない釜とか……昔本で読んだ近未来的な未来になっているんじゃないの?」

ゴンベエ「まぁ、1000年あればそれぐらいは余裕……と言いたいところだけどこんな世界じゃな……」

アリーシャ「……人が新しい物を作るよりも天族を信仰しようという文化が成り立ってしまっている。人間独自の技術は1000年前から、いや、それよりも遥か昔と比べても退化していってしまっている……その天族の信仰の文化でさえ今失われつつあるんだ」

ベルベット「緋の夜が来る前の災厄の時代に似ているのね……」

ゴンベエ「今現在導師という世間が待ち望んだ存在は出てきた……が、順調とは言えない。この国の一部重役はインチキ扱いをして痛い目に遭ったから戦争の道具として利用しようとしたり……とにかく平和な世の中とは程遠いんだ」

ベルベット「……大丈夫なの?」

ゴンベエ「さぁな……どうにかする事が出来る導師の道は険しい道でめんどくさいから選ばなかったオレが横からああだこうだ言うのは筋が違う。そういうのはアリーシャの仕事だ」

アリーシャ「ああ……なんとしてでもゴンベエ達と平和に暮らせる世の中を作り上げなければ」


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お客様じゃない

リア充は爆発しろという感じの展開にしたい


 

「……私が作った方が美味しいわね」

 

「おいおい、そういうこと言うなよ」

 

 とりあえずぶらりとレディレイクを散歩してアリーシャの屋敷に戻ってきた。

 アリーシャの屋敷に仕えているメイドに注文していたキッシュが丁度いいタイミングで完成された。空腹を感じているベルベットは早速いただくのだが味の感想がかなり厳しい。

 

「ゴンベエが何もしなくても味を感じるのか?」

 

「ええ……昔に戻ってるわ」

 

 モグモグとキッシュをいただくベルベット。

 何時もならオレがベルベットに食べさせているが今回はそういった事をやっていない。1000年の間にベルベットを喰魔か人間かよく分からない生物に作り変えるだけでなく味覚を元に戻している。コレは喜ぶべきことだ。今までベルベットはオレが作ったか食べさせるのどちらかをしないと味を感じない。でもこれからは味を感じることが出来る……味覚0の状態で美味い飯を作ることが出来たから味覚がある状態で料理を作らせたらどれぐらい美味いんだろうか。

 

「……舌が肥えてしまったな」

 

 ベルベットは自分が作った方が美味しいと主張していたがそれは当たっている。

 アリーシャもベルベット特製のキッシュを口にした事があるのでどうしてもメイドの作ったキッシュと比較してしまう。

 

「現代人は味覚が良すぎて美味い物しか食べられない、栄養はあるが不味い物を食べられない舌が肥えてるからってなんかの本で読んだな」

 

 なんの本だったか。キャンプかサバイバルに関する本だった気がする。

 アリーシャの屋敷のメイドのキッシュは決して不味くは無いので普通に頂くのだが今一つ物足りない。ベルベットのキッシュがそれだけ美味しいというわけだ。

 

「なら、大丈夫ね。今日からずっと私の手料理を食べるんだから」

 

「んぐぅ!?」

 

「……お前、そういう爆弾をぶっ込んでくるのマジでやめろよ」

 

 あの後話し合いの末にベルベットはオレの家に住む事に決まった。

 正直そんなに広い家ではないのでアリーシャの屋敷に住まわせて貰ったほうがオレとしてはなにかと都合がいいのだがベルベットの「責任から逃れるの?」の一言になにも言えなかった。自分で蒔いた種なので自分で芽を摘まないといけない……いや、こういう言い方は失礼か。

 

「ホントに、ホントに家じゃなくて大丈夫なのか?ゴンベエの家はそんなに広くはない。家ならば部屋は余っているぞ」

 

「豪邸での暮らしには興味は無いわ」

 

「……まぁ、最悪こっちが引っ越しをすればいいからな」

 

 オレの家は水車小屋みたいなものでベルベットの家やアリーシャの家と比べても狭い。

 アリーシャは自分の屋敷に住む事を勧めるのだがベルベットは無関心というか興味無しだ。あの家が狭く感じる様になったのならば引っ越しをすればいい。ただそれだけの話だ。

 

「今日はもう休みたい……色々とありすぎて気が滅入る」

 

 アルトリウスとベルベットとの一戦にライフィセットがマオテラスとして聖主になったり、たった1日で色々な事が起きた。

 まだまだやらなくちゃいけない事は山積みなのだが、それを解決する為にも何処かで一段落しなければならない。だからもう今日は休む。休める時に休んでおかないと……オレとアリーシャ基準の時間では本当に色々な事があった。

 キッシュを頂いてごちそうさまをするとメイドが後片付けをしてくれるのでオレとベルベットはアリーシャの屋敷を出ていく。

 

「家にあるの保存食だけだから、夕飯の材料は買って帰らねえと」

 

「そう……折角だし好きな物を作るわ」

 

「じゃあビフカツ」

 

 アリーシャは付いてこない、アリーシャもアリーシャで色々とあったので精神的に疲れている。

 とにかく休まないといけないのだがベルベットはどうなんだろうか。ビフカツに使う分の牛肉と付け合せに必要な野菜を購入してレディレイクを出ていく。

 

「変な目で見られたわね……」

 

「お前の服装、じゃないな。オレの日頃の行いが悪いんだろうな」

 

 ベルベットという絶世の美女と一緒に夕飯の材料の買い物をするなんてちょっと前の自分ではありえなかった。

 普段から仲が良いのはアリーシャというのもあったし……ベルベットを連れているのは色々とおかしいんだろうな。アリーシャと一緒に買い物をするならまだしも何処の誰かわからないけどやたらと綺麗な美人を連れてるのならば奇異の目で見られるのは仕方がない事だ。

 

「3つあるわね」

 

 レディレイクを出て川辺を歩いていると水車小屋に辿り着く。

 

「居住区にしてるのはこっちだ」

 

 元々オレが転生した際に住んでいた水車小屋が居住に使っている。

 残り2つは水力発電機とサルファ剤とかの薬品とかを保存している倉庫でベルベットとは縁もゆかりも無い物だ。居住している水車小屋に案内をするとベルベットは人差し指で埃は無いのか確認をする。

 

「一応は綺麗にしているみたいね」

 

「過去の時代に飛ぶ前に一旦清掃したから……大掃除はしなくても問題はない」

 

「あんたの事だからもっと汚いイメージがあったんだけど」

 

「汚くしようにも物がそんなに無いから汚く出来ねえんだよ」

 

 ゲームとか漫画とかあったらもうちょっと汚くなってるけどもこの世界にはその手の物は無い。

 ベルベットは念入りに部屋が汚くないのかチェックを入れるがベルベットのチェックを入れているところは一切汚くない、掃除したばかりで綺麗になっている。ザビーダと出会って一度戻ってきた際の掃除がここに来て役立ってきたな。

 

「そんな無理にアラを探さなくてもいいだろう……とりあえず牛肉と野菜を冷蔵庫に入れるぞ」

 

「冷蔵庫?」

 

 なにそれと言わんばかりにベルベットは首を傾げる。

 そういえばあの時代では作っていなかったなと冷蔵庫を開けると冷気が流れ出る。

 

「なにこれ?」

 

「冷蔵庫、食材を冷やしたり凍らせたり家電製品だ……原理については説明しねえぞ」

 

 説明するのめんどくせえんだ。長期に渡り保存が効く食材以外は全て消費したので冷蔵庫はすっからかんに近い。

 牛肉と野菜を入れてキンキンに冷えたお茶を取り出してベルベットとオレの分を入れる。

 

「冷たい……氷とか作れるの?」

 

「ん〜……まぁ、作れるぞ」

 

 そういえばこの世界では豪雪地帯の北の地はともかく普通の地域じゃ氷は稀少な物だったな。

 コーラを売ったりするのもいいが氷を売るっていうのもありだな。ベルベットと暮らすからこれからは色々と金が必要……あ

 

「ベルベットの布団を買ってくるの忘れてた」

 

 ベルベットと一緒に暮らす、つまりはベルベットはここで寝泊まりをする。

 布団を用意しておかないといけない……もう一回レディレイクに戻って布団を購入しねえと

 

「別にいいわよ。一緒の布団で寝れば問題無いわ」

 

「お前、ホントにサラッと言ってくれるな」

 

 アリーシャならば顔を真っ赤に……しないな。あいつ、宿屋の代金節約だなんだ言って結構一緒に寝ている。

 しかし、ベルベットと一緒の布団か……前世でそんなに徳を積んでないのにコレはいったいどういうご褒美なんだろうか。

 

「それで何処になにがあるの?」

 

「調理器具とかはここにあって」

 

 ベルベットが部屋の何処になにがあるのかを聞いてくる。

 調理器具とかは釜の直ぐ近くにあったりして薪や炭も直ぐ近くにある。他にも調味料や米が何処にあるのかを教える……

 

「なんだか新婚みたいだな」

 

「……」

 

 ベルベットは不機嫌そうな顔をする。

 なんだかやみたいはベルベットにとって禁句の様で、本来ならばちゃんと結婚をしている。オレとアリーシャが色々と言ってしまったのでそうならなかった……ホントに悪い事を言ってしまったな。

 

「あ、夕飯の為に米を研いどかないといけないからやっとくわ」

 

 なんとかして気を取り直したい。我が家の主食はパンでなく米で、米を炊く前の準備をしようとする。

 

「だったら私が」

 

「ベルベットは座って休んでてくれよ。これぐらいはオレでも出来るんだから」

 

 むしろオレだから出来るんだ。

 貯蓄している清潔な水が入った水瓶から柄杓で掬い上げて米を洗う。出来れば水道を通したいところだが出来ないのが中々に辛い。

 

「付け合せは後で適当にするとして……スープはコーンスープにするか」

 

「だったら私が」

 

「いや、大丈夫大丈夫。米を水に浸してる間にチャチャっとやるから」

 

 ベルベットに苦労は掛けさせない。

 牛乳とかも冷蔵庫にあるしパパっとコーンポタージュを作り上げるべくとうもろこしを剥いて実を解していく。こういう感じに家で料理するのは久々だが、今まで旅で料理を作ってきただけあって料理の腕は多少は上達しているな。

 

「っと、火を入れてる間に洗濯物も回しておかねえと」

 

「洗濯物を回す?」

 

 1分1秒を無駄にするわけにはいかない。

 手洗いでの服の洗濯なんて現代人にとって地獄でしかないので、転生してライフィセットが残した鉱石類で作り上げた洗濯機に洗っていない服を放り込んで洗剤と漂白剤を入れて洗濯機を回す

 

「……」

 

「なにもかも見たことがないだろう。でも、コレがオレにとっての普通なんだ」

 

 冷蔵庫も洗濯機もベルベットにとっては初見な物でベルベットは驚いている。

 この1年、生活基盤を整えるのに必死になって色々な物を作り上げた。全てはオレが快適な生活を送るために……結果的にはベルベットが楽な生活を送ることが出来る様になっているので結果オーライというやつだな。

 

「…………」

 

「どうした、ベルベット?」

 

 見たことがない物だらけで困惑をしているのかもしれないベルベット。

 無言になっておりジッとオレを見つめている……言いたいことがあるのならばハッキリと言ってくれた方がいいんだがな。なにか言いたそうなベルベットだがなにも言ってこない。なにも言ってこなければオレもどうする事も出来ない……やろうと思えば人の表層意識的なのを読み取る事が出来るけども、それをやると不快感しか感じないのでやらない。

 

「……私、お客様じゃない……」

 

「……?」

 

 ボソリと呟くベルベット。生憎な事に難聴系主人公ではないのでハッキリと聞こえる。

 ベルベットがお客様じゃないのは当たり前の事なのでなにを言っているんだろうと思っているとベルベットの籠手から光る玉が出現したと思えばシアリーズが表に出てきてジッとオレを見つめてくる。

 

「正座」

 

「え?」

 

「いいから正座しなさい」

 

「いやなんで急に、熱っ!?」

 

「いいから正座をしろと私は言っているのよ……早くしなさい。私の機嫌はそんなに良くないわよ」

 

 炎を燃やして脅してくるシアリーズ。

 言うことを聞かなければならないと言われた通り正座をするとシアリーズは腕を組んでオレを見下ろす……なにか、まずい事でもしてしまったのだろうか。

 

「貴方の態度、幾らなんでも酷すぎるわ」

 

「え……何処か問題があったのか?オレとしてはなにも問題を起こしてないんだけども」

 

 オレの何処が悪いというのだろうか。ベルベットに無茶な注文を入れたりせずにいるし、ベルベットにはゆっくりと休んで貰っている。

 何処か悪いところがあったのだろうかと振り返ってみるが特に思い当たる事は無い。なにも気付かないオレにシアリーズは本気で呆れたのか大きなため息を吐いた。

 

「ベルベットはお客様じゃない、今日から貴方と一緒に暮らすのよ……それなのに貴方はなんなの?さっきからベルベットの仕事を奪って」

 

「いや、仕事を奪ってなんか」

 

「いいえ、奪っています。ベルベットは家事炊事はセリカ仕込みで完璧に熟す事が出来て何処に嫁に出しても恥ずかしくない程に立派にやれているわ。それなのに貴方はベルベットになにもさせずに仕事を奪って……ベルベットはお客様じゃないのよ」

 

「あの……別にベルベットをお客様扱いしているつもりはないのですが……」

 

「だったら夕飯の仕込みや服の洗濯をベルベットにやらせなさい。見たことない道具についての説明も1からちゃんと貴方が教えるのよ」

 

「……ベルベット、それでいいのか?」

 

「私はこの家にお客様として暮らすんじゃないわ。家事炊事もちゃんとやるつもりで……お客様みたいな扱いはしないで」

 

「そうか……悪かったな」

 

 オレ的にはベルベットに楽をさせてると思っていたが、それはベルベットをお客様扱いしているも同然だった。

 アリーシャの時はそれで良かったのかもしれないがベルベットの場合は違う。ベルベットはベルベットで好んで家事をしてくれる。ここはベルベットの好きな様にさせておかないといけない。

 

「別に、そこまで気にしてる事じゃないから。あんたが私に楽をさせたいって気持ちは分かったから……でも、家事とかは私がやりたいわ。料理とかちゃんと作って私の好みの舌に作り変えたいの」

 

 意外と独占欲が強いベルベット。アリーシャがこの場に居たのならばどうなっていたのだろう、修羅場になっていたのだろうか。

 ベルベットの意志を尊重しておかなければならないので夕飯作りはベルベットにさせる。その横で洗濯機等の一部の家電についての説明をする。洗濯機以外にも掃除機とかを作ってるからベルベットにはそれらの使い方を学んで貰わないといけない。

 

「ホントになんでもありね……あんたの国にはこういうのが当たり前の様にあるの?」

 

「こんなのまだ序ノ口だよ。電子レンジとかまだ作ってないんだからな」

 

「なにそれ?」

 

「火を使わずに物を温める事が出来る釜だと思えばいい……暫くは不要な物だから作るつもりは無いけど」

 

 我が家には色々と便利な物があるとベルベットは関心を寄せる。

 1年という長いか短いかよくわからない時間をじっくりと使って生活基盤を整えた……

 

「コレも全部ライフィセットのおかげだ」

 

「ラフィの……」

 

「ああ、アイツが稀少な鉱石を沢山集めてくれたおかげで色々な物が作ることが出来たんだ」

 

 本来ならば素材を集めるところからはじめないといけない。

 けど、ライフィセットがアイフリード海賊団と冒険をして手に入れた鉱石が手に入ったからその過程をすっ飛ばす事が出来た。便利な物を作り上げる事が出来たんだ……ライフィセットはベルベットの為に使えと言っていたのは予想外だったけども。

 夕飯をベルベットと一緒に作り上げてお風呂に入った後に寝間着に着替えて一緒の布団に入る。一人用の布団だけどサイズは大きめだからギリギリ一緒に眠る事が出来る。

 

「ねぇ、あんたは今幸せ?」

 

 一緒に布団の中に入って目を閉じているとベルベットは聞いてくる。

 

「そういうお前はどうなんだ?」

 

「どうかしら……あんた達にとって1000年経ってるかもしれないけど私にとって1日も経ってないからなんとも言えない……でも、悪い気分ではないわ」

 

「そうか……オレは喜んでいいのか正直悩んでる。ベルベットの決意を、覚悟を無駄にした。眠りにつくと決意していたのにオレの身勝手なエゴで生きてほしいと願ってしまってこの時代にまで連れてきてしまった……責任は取らないといけない」

 

「それ、やめてよ」

 

「え?」

 

「責任とか義務とかで私と一緒になろうとしないで。自分の意思で私と一緒になりたいって思ってよ……」

 

「そうか……そうだよな」

 

 ベルベットがこうなったのは全てオレが原因で責任を取らないといけないが、それとは別の感情を持たないといけない。

 責任とか義務とか自分がやらなければいけないとかそういうノブレス・オブリージュ的な精神とはまた別の感情を持たないといけない。

 

「こんな美人と一緒になれて、オレはホントに幸せ者だな」

 

 オレはベルベットの左手を握る。相変わらず包帯に巻かれた左手だけどベルベットの手はとても暖かくゆっくりとスヤスヤと眠りについた。

 

「私もあんたみたいないい男と一緒になれて幸せよ……聞こえてないか」

 

 ホントは聞こえているけど、聞こえてるぞといえばベルベットが恥ずかしがるのが目に見えたので敢えて空気を読んでオレはなにも言わなかった。



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災厄で最悪の時代

 

「……っ……」

 

 目を覚ますと知らない天井だった……なんて言う展開はもう無い。

 何時もの見馴れた我が家の天井であり長い長い時を超えた旅をやっと終えた事を実感する。

 

「色々とありすぎたな」

 

 今まで色々な事があった為に気分が落ち着かない。

 長い旅で、旅をする事が当たり前になっている感じがしている。それはいけない事だ、オレは今日からはハイランド在住の日本人として生活をしていかなければならない。とりあえず、氷を売ったりしてみようか。レディレイクはそんなに暑いところじゃないけども氷菓子の需要はある筈だ。

 

「……おはよう……って言っても聞こえてないか」

 

 顔を横に振り向けばそこには絶世の美女ことベルベットが眠っていた。

 スヤスヤと寝息を立てて静かに眠っておりオレの言葉は聞こえていない……1000年間眠りについていたとはいえちゃんとしたなにも考えなくていい睡眠はホントに久し振りだろうから余計な邪魔はしない。ベルベットがベルベットの意思で目覚めるのを待つ。

 こうしてベルベットの顔をじっくりと見るのはなんだかんだで久し振りだ。オカリナを吹いて安らかに寝ている時に顔をジッと見つめてたぐらいで……やっぱりベルベットは美人だな。

 

「っと、こんな事をしてる場合じゃないな」

 

 起きたんだから二度寝なんかはせずにちゃんと起きる。

 ベルベットを起こさない様にゆっくりと布団を出て外の空気を吸い、川辺の水を桶で掬い顔を洗う。

 大雑把なやり方での顔を洗うが水道がマトモに無い我が家ではコレが一番楽である。水瓶に入れている水を使えばいいが、アレは飲料水も兼ねているので顔を洗うのには使えない……とはいえ歯を磨いたり嗽をしたりするのには使うけれども。

 

「朝ごはんの準備でもするか」

 

 ベルベットはまだ眠っている。起こすのは申し訳無いので朝食の準備をしようとするとベルベットの籠手から光る玉が飛び出してきたと思えばシアリーズだった。シアリーズは腕を組んでオレを見下ろす。

 

「あの……なにか、問題がありましたでしょうか?」

 

「……それを聞いてくるということはなにか悪い事に心当たりがあるんじゃないかしら?」

 

「……朝食を用意する事がそんなにいけない事ですか?」

 

「それを決めるのはベルベットだけれど……キッチンはベルベットにとっての聖域に近いものだから無理に荒らしたり勝手に朝ごはんを作ったりしたら不機嫌になるわ」

 

「お義姉さん、断言出来るんですね」

 

「私は聖隷シアリーズ……決してセリカ・クラウじゃないわ……でも、もしセリカが生きていたのならば邪魔しないであげてと言っていたわ」

 

 もう怖いよ、このお義姉さん。シアリーズは言いたいことだけ言うとベルベットの籠手の中に戻っていった。

 ここで朝食を作ればベルベットは不機嫌そうになる……別にそこまでお腹が空いているわけじゃないし、ここはゆったりしよう。

 

「どうやって金を稼ぐか」

 

 ベルベットと一緒に同棲する様になったので今までの様に適当に生きていく事は出来ない。

 紙芝居とコーラや雑貨品を売るだけでは心許ない。もっと売れる物を……洗剤で煮込んだ雑草で作った紙を売るか?この世界、紙の需要はあるにはある……売る物を決めておかないと後々厄介な事になるな……一個人で物を売るのにも限界があるしな。

 

「……!」

 

「おはよう、ベルベット」

 

「そっか……うん……おはよう、ゴンベエ」

 

 目を覚ましたベルベットは少しだけ焦る。自分の身に起きた状況に若干ボケてしまっている。オレと同棲を始めたのだと意識を現実に戻す。

 朝の挨拶をするとベルベットは顔を洗って歯を磨き意識をハッキリとさせる。

 

「少し待ってて、朝ごはんを作るわ」

 

「おう、幾らでも待つわ」

 

 頼んだりしていないのだがベルベットは直ぐに朝ご飯の用意をする。

 馴れた手付きで米を研ぎ、米を水に浸している間に鰹節で出汁を取り味噌汁の準備をする……

 

「フンフフフフーン♪」

 

 鼻歌を歌いながら味噌を溶かすベルベット。

 朝ご飯を勝手に作っていたのならば不機嫌になっていただろうな。シアリーズお義姉さんに止めてもらったのは感謝しなければならない。

 

「出来たわ」

 

「おぅ……」

 

「冷蔵庫はホントに便利ね。色々な物を冷蔵する事が出来るんだから」

 

 ワカメの味噌汁に焼き鮭、卵焼きにほうれん草のおひたし。

 日本人なら誰もが一度は口にしているザ朝食の様な朝食をベルベットは作ってくれた。とりあえず体を起こす意味合いを込めて味噌汁を啜る……暖かくて美味しい。今まではめんどくさいから朝ごはんを抜いてた時もあったけども今日からはそんな事は起きなくなる、ベルベットが作ってくれるから。

 

「レディレイクに行ってくるけど、どうする?」

 

「行く」

 

 市場調査をしにレディレイクに行くのだがベルベットは付いてくる。

 自転車にリアカーをくっつけたチャリアカーを使わずに歩いてレディレイクに向かう。

 

「おめでとう!」

 

「え、なにが?」

 

「結婚したって噂を聞いたんだ」

 

 レディレイクに向かうと何時もの検問をしている近衛兵に出会う。

 1年ほどの付き合いの関係だがオレを見ると祝福をしてくるのでなんの事かと尋ねてみるととんでもない事になっていた。

 

「アリーシャ姫を毒牙に掛けていると思えばお前、こんな美人な嫁さんを捕まえて……いったいどんな手を使ったんだよ?」

 

「待て待て待て、話が色々と飛躍しすぎている……オレはまだ結婚をしていない」

 

「まだ?」

 

「いや、なんて言えばいいんだ……とにかく結婚はしていないんだ」

 

 どう説明をすればいいんだろうか。とにかく結婚はしていない。

 近衛兵はベルベットの事を見つめる。エロい格好をしているから邪な視線を向けるのかと思ったがベルベットが睨み返すと圧を感じたのか一歩引いてしまう。

 

「美人だけど怖いな、お前の嫁さん」

 

「だから違うって」

 

「じゃあなんだよ?」

 

「それは……まぁ、アレだ。同棲しているだけでそこには一切不純なものは無い」

 

「お前、つまんないウソをつくね」

 

 嘘じゃねえよ、ベルベットとは結婚はしていないんだ。

 近衛兵は爆ぜろリア充と言いつつもオレとベルベットを検問のチェックをし、レディレイクに足を踏み入れる。

 

「ゴンベエ!」

 

 とりあえずどうしようかと悩んでいるとアリーシャが現れた。

 近衛兵がアリーシャにオレがやってきた事を伝達していたみたいで走ってきたアリーシャは息が乱れている。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃない。電話をハイランドに献上する事を忘れているぞ」

 

「あ……お前だけで上手く説明出来ないのか?」

 

「どういう物かは分かるがどういう原理かはサッパリだ。陛下に電話を献上しなければ」

 

「え〜……へ、いかに会わないといけないのか……」

 

 1年ぐらいこの国に在住しているけれどこの国のへ、いかの顔を一切知らない。

 アリーシャは末席とはいえ王族だから顔は知っているのだろうが……会うのめんどくせえな。

 

「電話をハイランドに献上しないとまたなにか言ってくるかもしれない」

 

「わぁったよ……ベルベット、仕事が出来た……残るか?」

 

「付いていくわ。あんたの事だからなにか騒動が起きると思うし」

 

「そんな人を問題児みたいに言って……」

 

「似たような物でしょ」

 

 そんなこんなで昨日やり忘れた電話をハイランド王家に献上しに城に向かう。

 貴族街とかアリーシャの家以外足を運ばないけど、王族が住んでいる城は……穢れに満ちているな。伏魔殿とかいう奴にはなっていないが、上流階級のドロッとしたのはホントに嫌になる。

 

「あ〜あ〜……こちらナナシノ・ゴンベエ。聞こえていますか」

 

『こちらアリーシャ・ディフダ。声はハッキリと聞こえている、そちらはどうだ?』

 

「問題なく聞こえてる……そこに屁以下は居るんだろう?コレがどういう原理で声を飛ばしているかの説明は必要か?それともコレを使った秘密の暗号を送る方法を教えた方がいいか?」

 

 城に案内をされると陛下に謁見……はせずに陛下の居る場所から少し離れた離宮で電話を起動させる。

 遠く離れた人と会話をする事が出来る装置だと証明するには実演するのが手っ取り早い。声が何処からともなく発せられていると電話の向こう側に居るハイランドの重役達が驚きザワついているのが微かだが聞こえる。

 

『暗号だと?』

 

「なに簡単なモールス信号だ。起動音であるジリジリと鳴る音を応用した技術だ……まぁ、電話しか無いから今は役に立たないだろうな」

 

 電話が1セットしかない現状、モールス信号は大して役に立たない

 そもそもでモールス信号を送る装置を電話とはまた別に作った方が何かと便利……とはいえ、モールス信号をやる側も覚える側もどっちも大変な事には変わりはない。オレも転生特典が無ければこんな面倒なの覚えなかった。

 

『ナナシノ・ゴンベエ……お前は異国の民だと聞く。お前の国には大地を馬無しで走る乗り物やこの様に遠くの人間に声を届ける装置があるのか?』

 

「オレの持っている物と同じ物かどうかと聞かれれば答えはノーだ。コレよりも高品質で低価格で低燃費な物には溢れている……この国は1000年前からなにも変わっていない、良くも悪くも変化が起きていない……導師を称えるのもいいが、少しは進歩する事ぐらいはしておかねえと」

 

『レディレイクの前を走った大地の汽笛とやらは量産可能なのか?』

 

「出たな、大地の汽笛……似たような物は沢山作れる……ただそこに走るならばもう1個人でどうこう出来るものじゃない。会社を起こしてマンパワーを用意しないといけない」

 

 一個だけ欲しいのならば蒸気機関はあっという間に作れる。首振り式のWエンジンを搭載した蒸気機関の車を用意すればいい。

 ヘアゴムをしていた町民を見たことがあるから何処かにゴムの木が生息している。そこからゴムの原液をゲットする事が出来る筈だ

 

『マンパワーか……人手が居ればどうにかなるのか?』

 

「人手が居てもどうにもならねえ物もある。あんたがハイランドを豊かに平穏にしたいとオレを利用するならそれはもう工業の世界に入る。王族がどうのこうのの話じゃねえ……特に石油がねえと話にならねえ」

 

 何処にあるかは知らないが石油がないとなんにもならねえ。

 石炭じゃ蒸気機関で……モノ作りという点でも石油が無かったら電気自動車を作る事が出来ない。多分、何処かの点で石油が無くて詰む。

 

「というわけでハイランドに電話を献上する。ああ、電気も必要だから磁石もくれてやる……大地の汽笛の量産に関しては半ば諦めておけ」

 

 顔も知らないへ、いかに一応の忠告はしておく。

 蒸気機関は便利な物だが量産をしてしまうと環境が大きく乱れる。19世紀の産業革命が起きたロンドンの様に空気が汚くなったりして人が住みにくい世の中になってしまう。故に蒸気機関はすっ飛ばして石油とか電気とかを使った発明品を作る。

 

『そうか……この電話、ありがたく頂こう』

 

「間違っても個人で量産に挑戦しようとして壊れましたはヤメとけよ。それ1つ作るのにも相当なマンパワーがいるんだから」

 

 この時代では超が付くほど有名なアイフリード海賊団の暇な奴等総出でマンガン電池作ったりしたんだ。

 バラバラに分解されて元に戻す事が出来なくなってしまったと言われてもオレは一切責任を取らねえ。遠くの人と対話をする事が出来る便利な道具だと思えば良い……それ以上を求めてしまうのが人間の業だがな。

 とりあえずハイランドのへ、いかに電話を献上する事は出来た。余計なトラブルの1つでも発生するかと思ったのだがへ、いかはあっさりとオレの言葉を聞き入れる……なんか裏がありそうで怪しいな。

 

「随分とあっさりと終わったわね」

 

「まぁ、電話に何処までの価値を見出すのかは人次第だからな」

 

 裏がありそうで怪しいもののハイランドに作った電話を献上する事が出来た。

 遠くの人と会話をする事が出来る便利な道具なものの今のところは1セットしかない。王宮に1つ置いて、もう一個は……常に色々なところに持ち運ぶのが妥当だろうな。電話を複数個作ればそれに合わせて電波の波長とか色々と弄らないといけないが……今は関係無い話だな。

 電話を献上したので城を出てベルベットと駄弁ってるとアリーシャが戻ってきた。アリーシャは浮かない顔をしている。

 

「どうしたんだ?電話を献上する事がそんなに問題か?」

 

「……電話は遠くの人と会話をする事が出来る便利な道具だ。1つは王宮に置くらしいがもう一つは戦地等に設置すると言っていた。戦争の開始の合図等を電話を使ってやると……今はまだローランスと小競り合い程度だが、また何時大きな争いになるか分からない」

 

「物騒な世の中だな……それをどうにかしたいのがお前なんだろう。その為には……ローランスに居るそれなりに権力を持っていて戦争を反対している奴を味方に付ける」

 

 そんな人間が居るかどうかは不明だが、居ることを祈るしかない。

 

「さ、小難しい話はここまでにしよう。ベルベット、何かやりたいこととか欲しい物はあるか?作れる物ならなんでも作るぞ」

 

 アリーシャの事はアリーシャが解決しなければならないので置いておく。

 ここまで来たのならば最後までアリーシャに付き合わなければならない気もするが、それはオレが一人身だった場合だ。今はベルベットがいる。アリーシャの事に気を掛けていてはベルベットは不機嫌になる。

 

「そうね……フィーに会いたいわ」

 

「あ〜……」

 

「マギルゥとエレノアはもう既に死んでるでしょうけど、アイゼンとフィーは聖隷だからこの時代でも生きてる筈よ。私にとっては1日だけどフィーは1000年も生きてて……色々と積もる話もあるし、あの後あの子がちゃんと生きたか気になるわ」

 

「あ〜…………アリーシャ、パス」

 

「ベルベット、よく聞いてくれ。あの後、聖主が居なくなって世界のパワーバランスが乱れて地殻変動的なのが起きようとしていたんだ。世界のバランスを保つには新しい誰かが聖主の代わりにならなければならずライフィセットは……いや、マオテラスはカノヌシに代わる新たな聖主となった」

 

「マオテラス?フィー、改名したの?」

 

「改名というか実名と言うべきか……」

 

 マオテラスに会いたがっているベルベットにアリーシャはベルベットが封印されて直ぐに起きた出来事について教える。

 

「新しい聖主になっても生きてる事には変わりはないでしょう?四聖主の神殿と同じみたいに何処かで祀られてるんでしょ?」

 

「いや……そうとはいかねえんだ」

 

「どういう事?」

 

「ヘルダルフ……この時代の災禍の顕主にマオテラスは捕らえられている」

 

「捕らえられてる?自分の意志でついて行ってるとかじゃなくて?」

 

「ヘルダルフはお前とは段違いだ」

 

 多分、どうにもならないクソ野郎である事には変わりない。

 そんな災禍の顕主に身を委ねているとなればマオテラスは憑魔化している可能性が高い。

 

「ベルベット、この時代ではマオテラス……ライフィセットが用いていた白銀の炎で憑魔化した人間を元に戻す事や天族を信仰する事で穢れから身を守るシステムが完成されているんだ。今の導師、スレイは災禍の顕主を鎮めて各地に天族への信仰を取り戻そうとしているんだ」

 

 この時代ではどういう感じになっているのかをアリーシャは説明をする。

 ベルベットは直ぐに話を飲み込んでくれるのだが不満そうな顔をしている。

 

「……この大陸は昔から聖主を信仰する文化はあったわ。1000年前はカノヌシの力のおかげで普通の人でも聖隷を認知する事が出来ていたわ。なのになんでこんな時代になってるのよ!導師はアルトリウスの次がそのスレイって奴じゃないんでしょ!!」

 

「それは……」

 

「浄化の炎とやらで業魔化した人間達を元に戻せるんでしょう。聖隷を信仰さえしていれば穢れから身を守る事が出来るんでしょ!じゃあなんでこんな事に」

 

「……私にも分からない。天族の信仰の文化も浄化のシステムも何百年も前からあるのに一向に世界は良い方向に向かわない。それどころか今は災厄の時代と呼ばれるまでに至っている」

 

 どうして現代がここまで悲惨になっているのか。

 浄化の炎のシステムを解明する事が出来たが現代にまで災厄を残している原因はなんだろうか?やっぱり肉眼で天族を見ることが出来る人間が大幅に減った事だろうな。1000年前には感じていた四聖主の加護領域も感じないから恐らくはまた眠っているな。

 

「と、とにかく今先ずは民に平穏を齎さなければならない。国同士が争いを起こすにしても殺し合い等の戦争でなく競い合うのが1番で」

 

「そういう御高説は聞き飽きたわ。とにかくそのヘルダルフってのをぶっ殺せばフィーを助ける事が出来るのね」

 

「いや、どうだろうな。ヘルダルフとマオテラスが具体的にどうなっているのかはオレは知らない。嘗てのエレノアとライフィセットの様な関係性ならばヘルダルフを殺すと連鎖的にマオテラスが死んでしまう可能性がある」

 

 ヘルダルフを封印した際に聞いた声はヘルダルフを経由して聞こえたマオテラスの声だ。

 そう考えるとあの時にヘルダルフを殺す選択をしなくて良かったと思う。ヘルダルフを殺してしまえば連鎖的にマオテラスも殺してしまう。

 

「なら、私がヘルダルフから引き剥がす……私なら出来る筈よ」

 

 左腕を喰魔化させるベルベット。

 完成された神依のアルトリウスからカノヌシを引き剥がす事が出来たのならばヘルダルフからマオテラスを引き剥がす事が出来る……ただな

 

「それで全てが解決するわけじゃない。マオテラスはこの大陸を器にしていて、この大陸そのものが穢れてる……ヘルダルフから引き剥がしても憑魔になったままの可能性が高い」

 

「なら問題ないでしょ。あんた、業魔化した人間を元に戻せるんだから同じ要領でフィーを元に戻せるでしょ」

 

「器が穢れたままだと鼬ごっこだ」

 

「だったら今の導師に……そのスレイって奴は信用できるの?あんた、反吐が出るって言ってたけど」

 

「ゴンベエ、そんな事を……スレイは導師としてはまだ未熟かもしれないが一歩ずつ成長していっている。アルトリウスとは違う……誰かを犠牲にしなければならない理はもう無いんだ」

 

 喰魔を用意して穢れを食べさせるという人柱的な役割をしなくてもいいとアリーシャは言うが……導師という平和の象徴の人柱が必要な現実には変わりはないんだよな。スレイを人柱扱いしていいかどうかは別としても。

 

「とにかくフィーを助け出すわ……アメッカ、力を貸しなさい」

 

「そうしたいのは山々だが問題は山積みで、いい加減にローランス帝国に足を運ばなければ」

 

「人手が足りないわけね……なら、絶対に信用出来る相手を、アイゼンに会いに行くわよ」

 

 助けると言っても色々とやらなければならない事が満載だ。

 一歩ずつ一歩ずつ問題を処理していかなければならず、人手が欲しいとなれば確実に味方になってくれて自分達の事情を知っている奴、つまりはアイゼンを仲間にしたい……

 

「とりあえずレイフォルクに行くぞ」

 

 色々と言っておきたい事はあるけれども、言葉にするよりも実際に生で見た方がいい。

 あの後、エドナが去ってしまってアイゼンがなにをしているのか分からないし、とりあえずはレイフォルクに向かう事にした。




スキット 呼び方
 
ゴンベエ「マオテラスはヘルダルフの手の内か……」 

ベルベット「あんた、そのヘルダルフってのを一回ボコボコにしたんでしょ?なんでその時にフィーを助け出さないのよ」 

アリーシャ「ベルベット達と出会う前の事だからそれは無理なんじゃ……」 

ベルベット「フィー……今頃苦しんでて」 

ゴンベエ「おいおい、ライフィセットを10歳の少年に留めるな。あれからなんだかんだで1000年も経過してるんだぞ」

ベルベット「痛い思いも楽しいことも色々な事をフィーは……」 

アリーシャ「マオテラスは立派にやっている。天遺見聞録にもマオテラスの事は書かれている」

ベルベット「そんな本まであるの……1000年もあれば多少の進歩はしてるみたいね。アメッカ、その本を貸しなさい」

ゴンベエ「読めるのか?」

ベルベット「読めるわ……大分聖隷の事崇め讃えろって盛られてるわね」

アリーシャ「実際は天界から降りてきた存在と聖主から生まれた存在で色々とある……が、この本の著者も流石に天への階梯には辿り着いていないか」

ベルベット「世界の真実を知ってるのは私やアメッカ、それにフィー達だけ……」

ゴンベエ「どうでもいいけどお前、呼び方を変えてやれよ。ライフィセットはマオテラスに、アメッカはアリーシャが正しい呼び方だぞ」

ベルベット「フィーは私にとってもう一人の弟で、フィーである事には変わりないわ。どれだけ変わろうとも……アメッカは……今から呼び直すの難しいわね」 

アリーシャ「いきなりですまないな……ゆっくりとアリーシャ呼びで頼む。知らなかったとはいえ大事な真名を使っていたんだ」 

ベルベット「真名って、それって大事なものじゃなかったっけ?」 

アリーシャ「ああ……だが、ベルベット達なら預ける事が出来るものだ……ゴンベエがゴンベエのままな事には些か不満はあるが、後悔はしていない」 

ゴンベエ「だってオレ、名無しの権兵衛だからな」 

ベルベット「どういう理屈よ……アリーシャ、また長い旅になりそうだけどいいかしら?」 

アリーシャ「この旅は平和への一歩になる。喜んで力を貸そう」


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1000年の負の遺産

 

 アイゼンを仲間にすると提案をしてきたベルベット。アイゼンが現在どうなっているのかをベルベットは知らない。

 

「久しぶりにやってきたが、相変わらずの環境だな」

 

 体感的には何ヶ月か下手したら1年ぶりのレイフォルク。

 まともに草木が生えておらず人が住める環境ではない……ただここから僅かだが地脈の力を感じる。エドナとアイゼンの生まれ故郷だけあってか一応は神秘的な山に部類されている。

 

「ここにアイゼンが……」

 

「居る筈だ……」

 

「筈って随分と曖昧ね」

 

「……見れば全てが分かる」

 

 アイゼンはレイフォルクに居る筈だとアリーシャは言う。

 居ると断言できないが十中八九居る。しかしそこにいるアイゼンはオレ達の知っているアイゼンとは大きく異なっている。あの時の様にレイフォルクの山頂を目指して歩いていく。

 

「あの時は未熟だったが、今ならば多少はどうにかなる筈だ」

 

「どうにかなる、ね……」

 

 アイゼンと会う覚悟を決めるアリーシャ。さっさと出てこいと思っていると強い穢れの領域内に侵入をした。

 

「っ、なにこれ」

 

「アイゼンの領域だ」

 

 今のアイゼンの領域の中に入るのははじめてのベルベットは戸惑う。

 前に来たときよりは多少はレベルアップしているので前よりかはアイゼンが放つ強い穢れの領域に対して対抗出来る……いや、そもそもで直ぐ隣に災禍の顕主であるベルベットが居るのだから既に強い穢れの領域の内部に居るな。ベルベット、穢れを放ってないけども。

 

「二人共、準備はしておけ……来た!」

 

「グルゥオオオオオオオウ!!」

 

「アレは、ドラゴン!?」

 

 穢れの領域内に居るのならば何時現れてもおかしくはない。

 戦闘態勢に入ろうとしている最中、空からドラゴンが舞い降りてきて強い穢れの様な物を放つ。オレもアリーシャも長い旅のおかげでちょっとやそっとの穢れにやられない耐性の様な物を身に着けたのでたじろぐ事はしない。

 

「アレがアイゼンだ」

 

「!」

 

「ゴンベエ、ベルベットに説明をしている場合じゃない!来るぞ!マオクス=アメッカ!!」

 

 ベルベットに凄く分かりやすく説明をしているのだがアイゼンは待ってくれない。

 咆哮を轟かせるとオレ達に向かって突撃してくるのでミラーシールドを構えて攻撃を受け流す。

 

「虚空閃!」

 

「ガァアアアア!!」

 

「っ……ダメなのか」

 

 強い穢れを発するアイゼン目掛けてアリーシャは虚空閃を撃った。

 アイゼンは弾き飛ばされるが直ぐに体制を立て直して空を舞う……アリーシャの槍には退魔の力が既に宿っており、その状態での虚空閃は穢れを断ち切る事の出来る技になっている。今のアリーシャはライラやマオテラスの力を経由しなくても憑魔化した人間や植物を元に戻す事が出来る……ただ一つの例外を除いては。

 

「フィーの炎を纏った技でも無理だったのに、それでどうにか出来るわけないでしょ」

 

 浄化の炎を纏った空裂斬をベルベットは見ている。

 それを用いてもドラゴンを元に戻す事は出来なかったので虚空閃だけでどうにかする事が出来るわけがないと否定する。

 

「グルゥァアアアア!」

 

「来るぞ!」

 

 アリーシャの虚空閃でどうにもする事が出来ずに居るとアイゼンは空を飛び、炎を咆哮してくる。

 この程度の炎ならば海波斬で切り裂く事が出来るのだが問題はそこじゃない。アイゼンは穢れを断ち切る虚空閃を用いても元に戻す事は出来ない……ライラも浄化の炎でドラゴンを元に戻す事は出来ないと言っていたな。

 

「アイゼンがあんな調子だし、どうするベルベット?」

 

「どうするもなにも……殺すしかないんじゃないの?」

 

「っ、ベルベット!それはダメだ!!」

 

「アイゼンはこうなると分かっていた筈よ。何れは自分も同じ目に遭うって」

 

「分かっている……でもっ!」

 

 アイゼンをどうすることも出来ないのであの時に言っていた様に殺すことを即座に決断するベルベット。

 アイゼンがテオドラを殺して何時かは自分もドラゴン化するのを分かっていたので殺される事にアイゼンは悔いは残らないだろうがそれでもアリーシャは殺したくないと主張をする。

 

「どっちの味方になればええんやろ」

 

 アイゼンは何れはこうなることが分かっていた。だからザビーダに殺されたとしても文句は言わない。ザビーダじゃなくベルベットが殺しても文句は言わないだろう。ただ……アイゼンにとって最も大切な人が何よりも傷ついてしまう。アリーシャはそれを分かっているので殺す事をしたくはないと言っている……介錯を手伝うべきか、それとも新しい道があるかもしれないと可能性を探すべきか。

 

「っと、また来るぞ!」

 

 アイゼンをどう始末するのか悩んでいるとアイゼンは空を舞う。

 もう一度強烈なブレスを浴びさせられればひとたまりもないとは言わないが怪我をする。過去ではライフィセットやマギルゥが治癒の術を施してくれたが今ヒーラーは居ないので怪我をしたら回復アイテムで誤魔化すしかない。オメガエリクシールとかいうチートじみた回復薬を製造方法の過程から知っているとはいえ、回復アイテムを無駄に浪費してはいけない。

 

「磁界乱そう ジルクラッカー!!」

 

 とりあえずこの場を切り抜けなければならない思考を加速させているとアイゼンが飛んでいる空間に重力波的なのが発生をする。

 この術は知っている。重力を操って相手を押し潰す技でライフィセットが使っていた技だ……だが、ここにはライフィセットはマオテラスはいない。

 

「よぅ、ピンチそう…………はぁ!?」

 

「ザビーダ、あんただったのね」

 

 颯爽と現れたザビーダはオレ達を見て驚く。正確に言えばオレ達でなくベルベットを見て驚いている。

 

「ど、どういう事だ!?俺は過去にタイムスリップでもしちまったのか!?」

 

「違うわよ、タイムスリップしてたのはアメッカ、じゃなくてアリーシャとゴンベエで……説明すると色々とややこしいわね」

 

「一旦下山するぞ」

 

 1000年前の出来事を知っている天族と再会を果たして喜ぶのもつかの間、アイゼンが何時大きく暴れ出すのか分からない。

 とりあえず詳しい説明をしようとレイフォルクを下山する事になるのだが、いちいち山を登っては下ってを繰り返すのは不便なのでフロルの風を用いてマーキングをしておく。

 

「で、どういう事だ?アリーシャちゃんがアメッカの持ってた槍を持ってるのはまだ分かるけどなんでベルベットがここにいるんだ?」

 

「ザビーダ様……ゴンベエ、言ってもいいか?」

 

「ザビーダなら問題無いだろう」

 

 アイゼンの穢れの領域の外に出たので一息つくとザビーダは説明を求める。

 アリーシャの槍とベルベット両方を見ており、アリーシャは説明をすべきかとオレに許可を求めてくる。

 

「ザビーダ様、よく聞いてください。貴方が過去に出会ったマオクス=アメッカは私で、ナナシノ・ゴンベエはそこにいるゴンベエなのです」

 

「どういうことだ?」

 

「私とゴンベエは貴方に出会った後に1000年前の時代に時を越えたのです」

 

「おいおい、冗談キツいぜ。遠くの人と話したりする天響術はあるけど時空を越える天響術なんて聞いたことねえ……って言いたいんだけどな」

 

 ジロリとザビーダはベルベットに視線を向ける。

 アリーシャの言っている話はにわかには信じ難いのだがベルベットがここに居るというだけで話の信憑性は増していく。

 

「ライフィセットが……いや、マオテラスが降臨して直ぐにお前達は故郷に帰ったって聞いたが、ありゃ嘘だったのか」

 

「いや、嘘じゃない。オレ達はライフィセットがマオテラスになって直ぐに家に帰った……お前はどう話を聞いているんだ?」

 

「その前に1つだけ聞きてえ。俺の使っているジークフリートは元々誰の物か、天族は1000年前になんて呼ばれていたのか言ってみろ」

 

「アイフリードの物だろう」

 

「聖主に隷属するという意味合いで聖隷と呼ばれていました」

 

「っ…………どうやらマジのようだな」

 

 まだ信じ難いと言いたげなザビーダ。

 オレ達が時間を移動した事を信じてくれとは言わないが、しかし実際に時間を越える事は出来ており、オレ達が過去で色々とやった証拠としてベルベットが生き残っている。

 

「アイゼンからアルトリウスと相討ちになって終わったと聞いてたがありゃ嘘だったのか?」

 

「アルトリウスへの復讐は果たしたわ。けど、その後にコイツが色々と横槍を入れてきたのよ」

 

 ギロリとオレを睨むベルベット。

 オレがやった事に関してはオレは後悔はしていない。ベルベットの意志を無視してしまっている事に関しては申し訳ないとは思っている。

 

「あの後に色々とあってプルナハ湖の中でずっと眠っていたのよ……そういうあんたこそなにがあったのよ?」

 

「俺も俺で色々とあったんだよ」

 

「どうして喧嘩屋から憑魔狩りのザビーダになったのですか?」

 

 色々とあったで片付けようとするザビーダだが、アリーシャは敢えて触れる。

 

「憑魔狩り?あんた、今、業魔を狩ってるの?」

 

「……ああ……」

 

「それって殺してるって事でしょ?生かしてなんぼじゃないの?」

 

「……」

 

 1000年前のザビーダは生かしてなんぼ生きてなんぼだと言っていた。

 アイゼンが殺す事で救う事が出来るという死によって心の呪縛から開放する理論を認めようとはしなかった。

 

「この時代では浄化のシステムが完成されています。何故貴方は憑魔狩りをしているのですか?助ける事が出来る命を救わず、殺すとは何事なんですか!」

 

「……確かによ、マオ坊の陪審になりゃ浄化の力を得る事が出来る。憑魔化した人間を救う事が出来る……けど、それでも救う事が出来ねえ奴もいる。アイゼンの様に……お前等は1000年前の時と今の時代しか知らねえんだよな」

 

 ザビーダはスッと地図を幾つも取り出した。

 なにか書いているのかと思ったが極々普通の地図で、なにかオレ達が持っている地図と異なる部分があるのか確認をしてみるけれど、特に変わった点は無い。極々普通の地図だ。

 

「ちょっと待って……コレがこの大陸の地図なの?」

 

「そうだが……なにかおかしなところでもあるのか?」

 

「おかしいもなにも、大陸がくっついているじゃない!!」

 

 1000年前の地図をベルベットは取り出し、この時代の地図と見比べる。

 この時代では大陸で続いているが過去の時代では海を挟んでいる……

 

「1000年の間に地震だ火山の噴火なんだ巻き起こって……折角作った街や村が崩壊したなんてザラで、憑魔化した奴の中にはマオテラスの浄化の力を使っても元に戻す事が出来ねえ手に負えねえ憑魔が出てくる。確かに浄化の力が生まれた頃には俺も喜んだ。アイゼンは殺すことが救いだって言ってたけどよ、やっぱそれは間違いだって証明する事が出来た……けど、1000年の間にあまりにも色々な事が起こりすぎた。お前が思ってるよりもあまりにも色々な事が起きすぎたんだ」

 

「……絶望したのか?どうしようのない理不尽で残酷な現実に」

 

 1000年の間にザビーダを喧嘩屋から憑魔狩りに変えてしまう絶望があった。

 地図が大きく書き変わる程の地殻変動が巻き起こってそれに大多数の人間が巻き込まれて、穢れてしまったのを見たんだろう。

 

「当時の導師も必死になってよくやったよ……けどな、それでも救えない奴が居るんだ。そんな奴等をどうにかするのは……殺すしかねえんだ」

 

「ザビーダ様、それは」

 

「ああ、分かってるよ。ホントなら救う事が出来る筈の命を俺は見捨てて殺しちまってる……俺は諦めちまったんだ」

 

 殺す事を救いと捉えている事をザビーダは間違いだと認識している。それでも殺すことで救われる命だって存在していると本気で思っている。

 1000年という時間がザビーダの価値観や考え方を変えてしまう。ザビーダは自分は助けるというのを諦めた事を素直に認めた。

 

「エドナちゃんが導師の仲間に加わってレイフォルクから離れたからアイゼンがどうなったのか気になって来たけど、丁度いい。お前等が居るなら確実にアイゼンを仕留める事が出来る……力を貸してくれや」

 

「……嫌です、私はアイゼンを殺したくはありません」

 

「おいおい、今までの話を聞いてたのか?アイゼンは殺される事には躊躇いはねえ。何時か殺すと俺は宣言したんだぜ?」

 

「ゴンベエは嘲笑ってやれと言っていました……」

 

「アリーシャちゃん、感情論は止めようぜ。あれから1000年も経ってんだ!浄化のシステムも神依も完成された!それでもドラゴンを元に戻す事だけは出来なかったんだ……エドナちゃんは導師を信頼して一緒になってるみてえだが無理なんだよ……」

 

 エドナがアイゼンに心が囚われてしまっている。それはアイゼンが最も恐れていたことで、恐らくはスレイはアイゼンを元に戻す方法を見つけることが……。とにかくザビーダは無理だと諦めてしまっている。

 

「導師の力では不可能かもしれません。ですが、勇者の力ならばどうでしょうか?」

 

「勇者、だと?」

 

「ザビーダ様、今暴走しているアイゼン様は一度だけ意識が元に戻った事があります。ゴンベエの持つカノヌシやマオテラスとは異なる退魔の力ならばアイゼン様を元に戻す事が出来るかもしれません」

 

「おいおい、結局オレ頼りかよ」

 

 アリーシャは最終的にはオレに匙を投げた。

 

「ゴンベエならきっとどうにか出来る筈だ」

 

「そうは言うけどな…………マスターソードを使っても無駄だったんだよな」

 

 未完成とはいえ浄化の炎を纏ったマスターソードでの空裂斬でテオドラの意識を一時的に戻す事が限界だった。

 トライフォースを用いればワンチャン行けるかもしれないが、そうなればベルベットの様に人間かどうか分からない生物に生まれ変わる可能性がある。それではアイゼンを助けたと言えない、アイゼンを元の天族に戻してこそ意味がある。

 

「そもそもアイゼンはなんでドラゴンになったわけ?穢れを持った人間と長く一緒にいてもあの時からその浄化の力とやらで穢れをどうにかする事が出来るんでしょ」

 

 ふと疑問に思ったことをベルベットは尋ねる。浄化の力があるならばアイゼンに纏わりついた穢れを祓う事が出来る筈だ。

 それなのにアイゼンはドラゴン化してしまっている。穢れに満ちた人間と常に一緒にいたわけではなさそうだし……なんでそうなったんだ?

 

「今から200年程前……当時はデスエイジなんて呼ばれる程に飢饉で災厄に満ちていた時代でよ、裏で世界を穢れに満たしている災禍の顕主がいたんだ。アイゼンはそいつを喰い殺すのと引き換えにドラゴンになったんだ」

 

「誓約をかけたのか?」

 

「ああ……それだけ当時の災禍の顕主様がヤバかったんだよ……そっからだ。アイゼンがレイフォルクに舞い戻ったのは……エドナちゃんは何時かはこうなることが分かっていた。けど、その重たい現実を受け止めるのに時間がかかっちまった」

 

 アイゼンがどうしてドラゴンになったのかをザビーダの口から語られる。

 アイゼンは全てを承知した上でドラゴンになった……ならば殺される覚悟は出来ているのだろう。

 

「分かった。アイゼンを殺すのを協力しよう」

 

「っ、ゴンベエ!!」

 

「ただ最後に足掻く権利だけくれよ……オレはまだ底を見せていないんだ」

 

 アイゼンが殺される覚悟はあるのならば殺すしかない。

 1000年かけてもドラゴンを元に戻す方法は見つからなかった。過去の文献でもドラゴンを元に戻す事は出来なかったと載っていた。エドナには悪いがアイゼンは殺す。ザビーダとの約束の為に……でも、でも、それでも足掻く権利は欲しい。

 

「アイゼンを元に戻す……そんでもってアイゼンを嘲笑ってやるんだ。お前は殺すことが救えるだなんだ偉そうなことをほざいたけどホントは救える筈の命を救う事が出来たのにお前は無理矢理諦めさせたんだって」

 

「ゴンベエ、じゃあ」

 

「助ける……なにせオレは勇者だからな。邪悪なドラゴンをぶっ殺すなんてガラじゃない、助けてハッピーエンドを迎えさせた方がいい」

 

「あんたが私を幸せにする道を選んだ様に、今度はアイゼンを助けるのね」

 

「ああ……」

 

 アイゼンを殺せば悲しむ人が1人居る。アイゼンを助けて元に戻すことが出来たなら喜ぶ人が1人居る。だったらどっちを選ぶかは決まっている。これでも不幸なビターエンドやバッドエンドはどっちかといえば嫌いで、わがまま1つで災禍の顕主を花嫁に変えたんだ……だったら助け出してみせる。



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トライ&エラー 挑戦と失敗と成功

 最後の足掻く権利をザビーダ様から頂いた。このチャンスを逃せばアイゼン様を殺さなければならない。

 そうするとエドナ様が悲しむのでなんとしてでもドラゴン化したアイゼン様を元に戻す………その為にはゴンベエの力が必要だ。

 

「助けるって言うけど、どうやって助けるのよ?フィーの浄化の炎とあんたが会得した穢れを断ち切る技を掛け合せてほんの少しの間だけ意識を元に戻すことが出来たんでしょう」

 

 助ける覚悟を決める横でベルベットは苦言をする。

 嘗てテオドラ様に向かってまだ不完全だったとはいえマオテラスの浄化の炎を纏った穢れを断ち切る空裂斬を撃ち込んでも元には戻らなかった。現代の完成された神依や浄化のシステムを用いても元に戻すことは出来ていない。

 

「……とりあえずもう1回、アイゼンのところに行くぞ」

 

「危険よ……って、言っても聞かないわよね」

 

 具体的にどうするのか案が浮かばない。ゴンベエなら出来るんじゃないかと期待を寄せているがゴンベエもやり方が分かっていない。

 一先ずはドラゴン化したアイゼンの元に向かうとゴンベエは背中の剣を抜いて刀身に炎を纏わせた

 

「出てこーい、アイゼン」

 

 気楽に言うゴンベエ。レイフォルクを進んでいくと穢れの領域に入った事を感じ取る。

 コレは知っているアイゼン様が放つ穢れの領域で、より強い穢れが感じる方向を見るとドラゴン化したアイゼン様がそこにはいた。

 

「ゴォオオオオオオオ!!」

 

 高らかと雄叫びを上げるアイゼン様。

 穢れが強まり飲み込まれそうになるのだがグッと堪えて乗り切るとゴンベエは持っていた剣を振るった

 

「烈火空裂斬」

 

 マオテラスの浄化の炎を用いていない、マオテラスの浄化の炎とはまた別の炎を纏わせた空裂斬を撃った。

 浄化の炎の出どころは違うものの浄化の炎である事には変わりはない。アイゼン様が吹き飛ばされるとピタリとアイゼン様の動きが止まった

 

「アメ、ッカ……ゴンベ、エ……ベルベット……ザビーダ……」

 

「意識が戻ったのか!?」

 

 テオドラ様の時と同じくドラゴン状態のままでも意識が僅かだが戻った。

 意識が戻った事にザビーダ様は驚きを見せる……だが私は喜ばない。此処まではあの時と同じ、嘗てレイフォルクに足を運んでドラゴン化したアイゼン様と対峙した際にも同じ様な状況になっていた。

 

「もう、いい……ころ、せ……」

 

「うるせえ、トカゲモドキは黙っとけ」

 

 アイゼン様は既に私達に殺される覚悟は出来ていた。だが、ゴンベエは殺すつもりは毛頭に無い。

 一時的に意識を取り戻したのもつかの間アイゼン様の意識は乗っ取られて私達に向かって火球のブレスを撃ってこようとするので私達は逃げる様にレイフォルクから降りていった。

 

「結局、ダメじゃねえか」

 

「ん〜まぁ、こうなるとは思ってたからな」

 

 使ったのが私とはいえ烈火空裂斬でドラゴンを元に戻すことが出来なかったのを知っているのでゴンベエは落胆しない。

 ザビーダ様はゴンベエが真面目にやったとしても元に戻す事は出来なかったと酷く落胆してしまう。

 

「アイツは殺してくれって言ってやがった。エドナちゃんの前で殺すのは酷だ、俺がキッチリと」

 

「まだオレの足掻く時間は終わってねえだろう」

 

「そうは言うけどよ、あんのか?アイゼンを元に戻す手段がよ」

 

「そこなんだよな……」

 

 アイゼン様を元に戻す気では居るものの、肝心の手段が浮かばない。最も有効打であろう烈火空裂斬がつい先程無理だと証明した。

 

「あんた、楽器でなんとかする事が出来ないの?」

 

 八方塞がりな状態でベルベットは尋ねた。

 ゴンベエの持つオカリナとオカリナの曲は特殊な物で昼と夜を入れ替える、雨を降らせる、天候を晴れに変える、更には時間を移動するといった最早なんでもありな物だ。ならばドラゴンを元に戻す手段はないのかとベルベットは疑問を抱く

 

「……時のオカリナを使って出来ることは時間を越える、時間を遅くする、時間を早くする、天候を晴れにする、大雨を降らせる、子守唄で眠らせる、眠っている意識を叩き起す、魂の入っていない抜け殻を作り出す」

 

「お前、マジでなんでもありなんだな」

 

「後は……あ、穢れた魂とか邪悪な魂を救う歌がある!」

 

「穢れた魂を救う歌だと?」

 

「正確に言えば邪悪な力や浮かばれない魂を癒やす歌で……使った事は今まで一度も無い」

 

 ここに来てまだゴンベエが使ったことがないものがある事が判明する。

 ゴンベエはオカリナを取り出すとその曲を演奏してくれる……のだが、特に変わった事は起きない。普通に綺麗な音色の曲だ……特に異変もなにも起きていない私達では効果は無いのかもしれない。

 

「とにかく、使ってみる……コレばかりはトライ&エラーの繰り返しだ」

 

 ゴンベエの移動する魔法を使って三度レイフォルクの山頂付近に足を運ぶ。

 アイゼン様の放つ強い穢れの領域を感じたので割と直ぐ近くに居るものだと真名を叫び神依の様な姿に切り替える

 

「出やがったぞ!」

 

「ベルベット、アリーシャ、悪いがオカリナを吹くのに集中したい……頼んだぞ」

 

「ったく、仕方がないわね」

 

 ベルベットも火の神依の様な姿に成り代わり、オカリナを演奏するゴンベエの護衛を務める。

 アイゼン様は相変わらずの暴走気味の様なものだがゴンベエは特に気にする事なくオカリナを吹くとアイゼン様の動きがピタリと止まった。

 

「ぐ、ぅ……」

 

「効果があった!!」

 

 ドラゴンの声でなくアイゼン様の声が響く。

 姿形はドラゴンのままだが効果はあった様で苦しむ素振りを見せてくる。

 

「なん、だ……こ……グァアアアアア!!」

 

「またこのパターンかよ!!」

 

 一瞬だけ意識をアイゼン様は取り戻すが直ぐにドラゴンの意識に飲み込まれてしまった。

 一瞬だけ元に戻すことは出来るがそこから先が出来ないとザビーダ様は酷く落胆をするのだがゴンベエは諦めていない。完全に元に戻すことが出来はしなかった、だが少しだけだがアイゼン様を元に戻すことが出来た……なんとかなる気がする。

 

「1人で駄目なら、2人で」

 

「2人で駄目ならば3人で」

 

「3人で駄目ならば4人で行こう」

 

 ゴンベエは4人に分身した。1人のゴンベエは木の妖精に、1人のゴンベエは山の妖精に、1人のゴンベエは魚の妖精に変身した。

 木の妖精に変身したゴンベエは大きなラッパを、山の妖精に変身したゴンベエは大きなコンガを、魚の妖精に変身したゴンベエはギターを取り出し穢れた魂を癒やす曲を演奏する

 

「っ……なにを、してやがる」

 

 4人に分身したおかげか曲の力が更に強まった。

 アイゼン様は今までで1番ハッキリと意識を取り戻していく……ただしドラゴンの姿である事には変わりはない。

 

「お前を元に戻す為にこうしてるんだよ!」

 

「もういい……オレは覚悟を決めた。何時かこんな日がやってくるのは分かっていた事なんだ……もう、殺してくれ」

 

 今までと異なり流暢に喋るアイゼン様。

 1000年前のテオドラを殺した際の約束を今ここで果たせというがゴンベエは嫌だと断る。

 

「別にオレはお前を助ける為にこんな事をしてるんじゃねえよ。オレはお前を嘲笑う為に頑張ってるんだよ」

 

「もういい、充分だ……っく……ぐ、ルゥァアアアアア!!」

 

 三度戻った意識を失い暴走するアイゼン様。

 ゴンベエはどうにかしようと魂を癒やす曲を演奏するのだがアイゼン様は意識を一時的に取り戻すだけに終わっている……コレが限界なのか……

 

「アリーシャ、諦めるんじゃないわよ!!」

 

「……そうだ、まだ終わっていないんだ」

 

 限界を感じ始めて心が折れそうになる中でベルベットは左腕を喰魔化させてアイゼンを攻撃する。

 ベルベットの瞳には強い意志が宿っている。それはアイゼン様を殺す意志か救う意志かは私には分からないが、それでも前に足を進めようとしている。諦めずに何度も繰り返して前に突き進む、それこそが人間の持つ1番の力だ。

 

「ここから更に一手必要だ!オレは曲の演奏に集中しないといけない、後は任せても問題ないよな」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

 ここからはゴンベエの力を借りる事が出来ない……だが、これでいい。

 ゴンベエがオカリナを演奏してくれているおかげでアイゼン様の動きがおかしくなっている。私達を殺さない様にしている理性と暴走して暴れまわる本能が戦いを繰り広げている。

 

「虚空閃!!」

 

 ここで普通に攻撃したとしてもアイゼン様に怪我をさせるだけだ。

 今の私に出来る事は穢れを断ち切るこの虚空閃しか無いと槍を輝かせて貫くとアイゼン様の体からとんでもない量の穢れが溢れ出た

 

「退きなさい!」

 

 あの穢れは猛毒でしかない。

 私を押し退けたベルベットは喰魔化した左腕を振り被りアイゼン様の体から溢れ出ていく穢れを喰らう……!

 

「お、おい、ありゃあ」

 

「アイゼン!!」

 

 穢れを断ち切り溢れた穢れを喰らうと一瞬だった、ほんの一瞬だったがドラゴンの姿から本来のアイゼン様の姿に戻った。

 

「少しずつ、少しずつだが近付いていっている!!」

 

 今までにない程に手応えを感じた。

 虚空閃で穢れを断ち切り、溢れ出た穢れをベルベットが喰らえばアイゼン様を元に戻すことが出来るのかもしれない。

 溢れ出る穢れのせいで邪悪を感じ取る力がやや乱れてしまうがなんとかして意識を集中させて穢れの核となる部分を見抜く。

 

「虚空閃!」

 

 アイゼン様が放っている穢れを断ち切る。

 大量の穢れをアイゼン様は吐き出していくのでベルベットが左腕を喰魔化させて穢れを喰らう……また一瞬だったがドラゴンの姿から元の姿に戻っている。

 

「コレだ!穢れを断ち切って穢れを喰らえばいいんだ!!」

 

 アイゼン様を元に戻す手段が段々と明確になってきた。

 ゴンベエがオカリナを演奏しアイゼン様の邪悪な力を癒やし、私が穢れを断ち切り、ベルベットが穢れを喰らう。恐らくはこの穢れを喰らう部分とゴンベエの奏でている曲の部分が重要だろう。

 

「いや、ダメだ……これ以上がもう無い。アリーシャの虚空閃で穢れを断ち切ってベルベットが喰らってもそれでもまだ足りない」

 

「俺のコイツじゃダメなのか!!」

 

 ジークフリートを取り出したザビーダ様。

 確かジークフリートには穢れを断ち切る弾が存在している。アイゼンにそれを撃ち込めばあるいは……

 

「いや、それじゃダメだ。もっと強い力が……アリーシャの虚空閃までは正しい。問題は断ち切った後に出てくる穢れだ!アレを一掃する事が出来ねえとアイゼンを元に戻す事は出来ねえ!!」

 

「私が喰らうのじゃ駄目なの!?」

 

「ベルベットは喰らっているけど、それでもまだまだ穢れは溢れ出ている。穢れを一気に焼き払うぐらいの気持ちじゃないと」

 

「クソっ……ライラと陪審契約でもしてからここにくりゃあよかったか」

 

「……そうだ。まだ終わってないわ!」

 

 アイゼン様から溢れ出す穢れをどうにかする方法が見つからずにいる。

 ベルベットはなにか思い出した様で剣に闇を纏わせると闇は禍々しい炎に切り替わる……アレは確か、そうだ。アルトリウスを倒す際にゴンベエがまだ使いこなせていないと言って出させた穢れをも飲み込む邪悪な闇の炎。

 

「浄破滅焼闇!!」

 

 大きく腕を振り下ろし巨大な闇の炎をアイゼン様を飲み込んだ。

 コレならばイケるかもしれない。コレならばアイゼン様を助ける事が出来る

 

「う……」

 

「アイゼン!!」

 

 闇の炎はアイゼン様を包み込むとアイゼン様は元の姿に戻る。

 私達の力で元に戻す事が出来た……そう思った瞬間だった。アイゼンの体から穢れが大量に溢れていき、アイゼンはドラゴンの姿に変貌していく。

 

「コレでもまだダメなの!?」

 

 ベルベットのとっておきの一撃をお見舞いしてもまだアイゼン様は元には戻らなかった。

 渾身の一撃をくらわせてもまだアイゼン様は元には戻らない……ゴンベエの、いや、私達の力を持ってしてもダメなのか……

 

「あの野郎……死にに行ってるな」

 

「どういう意味だよ?」

 

「アイゼンの奴、元に戻ろうとする意思を持ってねえ」

 

 諦めかけている中でオカリナを吹いていたゴンベエはオカリナを吹く事を止めた。

 ドラゴンになってしまって今にでも暴れそうなアイゼン様を強く睨んでおり状況を冷静に判断する。

 

「生きたいって言う強い思いがアイゼンにはない。何時かは自分も殺される運命だって思っててアイゼンは殺されるのを待ってるんだ。生きようっていう気力が残ってない……だから元に戻らねえんだ」

 

「あんのバカ、この期に及んでまだ死のうって腹なのか!!」

 

「お前はアイゼンを殺したいんじゃなかったか?」

 

「ああ、殺してえよ。俺が仮に人間だとしたら穢れを発するぐらいには殺意に満ちてるぜ……けどな、それと同じぐらいにはアイツを助けてやりてえって気持ちがあるんだよ!!」

 

「……そうか……なら、助けるしか道は無いな」

 

 なんとしてでもアイゼン様を助けると決意を改めてするゴンベエはオカリナを吹く。

 この工程は間違っていない……だが、まだなにかが足りない。力かなにかは分からないが一手二手足りないのを感じる。

 

「アイゼンを助ける前にアイゼンが生きようって思える様にしねえと……」

 

「アイゼンが生きようとする理由?アイツは自分の舵は自分でしっかりと握る奴よ。心境が大きく変化させる事なんて出来るの!?」

 

「……エドナちゃんだ」

 

「エドナ様?」

 

「今のアイツに俺達以外に言葉を、耳を傾ける奴が居ればエドナちゃんしかいねえ」

 

「ですが、エドナ様は現在スレイと一緒にいて、具体的に何処に居るのか分かりません!」

 

 ザビーダ様の言うことが正しければエドナ様の言葉にはアイゼン様は耳を傾ける。

 しかし肝心のエドナ様はレイフォルクには居らず、ローランス帝国の何処かに居るスレイと一緒に居る。今すぐにここに連れてくるのは不可能だ。

 

「いいや、その情報だけでも値千金だ……使った事はねえけど、こういう使い方も出来る筈だ」

 

 ゴンベエはそういうと癒やしの歌とは異なる曲をオカリナで演奏する。

 演奏を終えるとゴンベエの体が光り出すとゴンベエに似た分身の様なものが生まれた。

 

「ザビーダ、エドナの顔や形はしっかりと覚えてるだろうな?」

 

「当たり前だ。いい女の事は俺は早々に忘れやしねえよ」

 

「じゃあ、コレを使ってエドナをイメージしてモシャスと叫べ!」

 

「アレは変化の粉!?」

 

 ゴンベエが時折別人に変身する時に使っている粉をザビーダ様に渡す。

 粉についての説明をゴンベエはしていないが、ザビーダ様はゴンベエの言葉を信じてエドナ様をイメージし、変化の粉を使いゴンベエの抜け殻に向かって投げた

 

「モシャス!」

 

 变化する魔法の粉をゴンベエの抜け殻に投げるとゴンベエに似たゴンベエの抜け殻は姿を変えてエドナ様になった。

 

「エド、ナ……」

 

「反応した!?」

 

 エドナ様になったゴンベエの抜け殻を見てアイゼン様は反応をした。

 プルプルと体が震えている……やるならば今しかない。

 

「アイゼン様!エドナ様はこのレイフォルクから離れました!!全ては貴方を助ける方法を探すために……それなのに貴方が諦めてしまってどうするのですか!!」

 

「オレはもう……」

 

「ゴチャゴチャ言ってるんじゃないわよ!たった1人のあんたにとって大事な人があんたを助ける為に頑張ってるのよ!あんたが死のうとしてどうするの!」

 

 生きる希望を活路を、アイゼン様に与える。

 エドナ様はアイゼン様を元に戻す方法を見つけるのを条件にスレイ達に協力している。その事を伝えればアイゼン様には生きる気力が蘇ってくれる筈だ。

 

「エドナが……エドナ……っぐ、ゥオオオオオオ!!」

 

「っ、また暴走した!!」

 

 エドナ様の事で頭がいっぱいになったアイゼン様は暴走をした。

 後少しだ、ゴンベエが魂を癒やし、私が穢れを断ち切り、ベルベットが溢れる穢れを喰らう。この工程でドラゴン化してしまった天族を元に戻す事が出来る筈なんだ。

 

「ああ、ダミーがやられた!!」

 

 腕を大きく振るって攻撃してくるアイゼン様。

 ゴンベエは咄嗟の事だったが難なく避けるのだがゴンベエが作り出した抜け殻のエドナ様は無惨にも切り刻まれてしまった。

 

「後一手だ、後一手あればアイゼンを元に戻す事が出来る筈だ!」

 

「さっきからそればっかだけど、もう出来る事はやり尽くしたんじゃないの!?」

 

 ゴンベエは後少しでアイゼン様を元の姿に戻す事が出来ると語りベルベットは呆れる。

 さっきから似たような事を何度も繰り返して言っている。やれる事はもう……

 

「アリーシャちゃんをパワーアップさせればいいんだよ」

 

「私を、パワーアップ?」

 

 これ以上はもうやれる事は無いと思っているとザビーダ様は1つ提案をしてくる。

 

「私はもうやれるだけの事はやっています。これ以上のパワーアップは無理です」

 

 長い旅の末に槍の力を最大限にまで引き出す事が出来る様になった。

 アイゼンを殺さない様に慎重になっているものの今の私は持てる力すべてを出し尽くしている。

 

「なに言ってんだ、まだ一個だけとっておきのが残ってるじゃねえか」

 

「とっておき?…………まさか!」

 

「ああ、そのまさかだ。俺がアリーシャちゃんを器にして天族と人間の……嘗てのエレノアとマオ坊みてえになるんだ」

 

「ですが、私は純粋な器ではありません!一度、穢れに飲み込まれそうになりました!」

 

 今でも覚えている。キデオン大司祭を暗殺しようとした際に私の中から止めどなく穢れが溢れ出たのを。

 私はあれから色々な物を見てきて純粋な器と呼ぶには相応しくはない。汚れてしまっている。

 

「アリーシャちゃん、自分を卑下するんじゃねえ……お前が本当にマオクス=アメッカなら出来ねえ事はねえ筈だ!!」

 

「エレノアだって自分を責めて穢れを発した事がある……だが、それでも乗り越える事が出来たんだ。だったら、アリーシャ、お前も乗り越える事が出来る筈だ……今ここで、限界を超えろ!!」

 

「限界を、越える…………ザビーダ様!」

 

「俺の名前は知っているよな……だったらやろうじゃねえか!」

 

 今ここで私達は限界を越えなければならない。ザビーダ様は手を伸ばしてきたので私も手を伸ばして掴む。

 やるしかない……成功すればアイゼン様を元に戻す事が出来る。文字通り正真正銘コレが最後のチャンスだ。

 

「「『フィルクー=ザデヤ(約束のザビーダ)!!』」」

 

「コレは神依……アルトリウスの時と同じ」

 

「あれから何年経ったと思ってるんだ!神依は既に完成されたんだよ!」

 

 私の風属性の神依に驚くベルベット。私自身驚いている。導師の秘技である神依を私が使う日が来ようとは思いもしなかった。

 

「スゴい、体中から力が溢れ出てくる……」

 

「俺も驚いてる。まさかアリーシャちゃんがこんなに霊応力を秘めてるとは……いや、違うな。コレは鍛え上げたに近いな」

 

 神依を発動していると物凄いまでに力が溢れ出る。

 聖寮がわざわざ探し求めていたものなだけはある……コレならばイケるかもしれない。いや、コレじゃないといけない。私は空を飛んで自分の槍を取り出して構える

 

「アリーシャ、それが最後のチャンスだ!不意にするんじゃねえぞ!」

 

 これ以上はもう打つ手がない。頭打ちな状態だとゴンベエは言うと私は目を閉じる。

 神依のおかげで天族と一体になり穢れに対して敏感になっている。肌で感じ取ること出来る……穢れの核を

 

「烈風虚空閃!!」

 

 突風を纏わせた虚空閃をアイゼン様目掛けて撃った。




アリーシャの術技


烈風虚空閃


説明


風の刃を纏った虚空閃。風属性の技で穢れを撃ち抜く


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生かし嘲笑い幸福を呼ぶ

 オレがオカリナを、楽器を演奏するのに集中しているのでアリーシャにもベルベットにも力を貸すことは出来ない。

 かつてのエレノアとマオテラスの様な関係性になりこの時代で完成された神依を用いて撃った風属性の虚空閃はアイゼンから溢れ出す穢れを断ち切ると更にアイゼンから穢れが溢れ出る。コレはあくまでもオレの推測だがドラゴンは浄化出来ないんじゃなく、浄化のやり方が間違っているんだと思う。浄化の力は一方的に押し付けるものじゃない。ドラゴン化は憑魔化とはまた違う感じだ。溢れ出る穢れを浄化するんじゃなく穢れを喰らい尽くす、すっからかんになるまで吸い取るのが正しいんだと思う。

 

「コレが最後のチャンスだ!」

 

 アイゼンから溢れ出す穢れを喰らい尽くす。

 それが出来るのはベルベットだけでベルベットは左腕を喰魔に変化させるとアイゼンから溢れ出した穢れを喰らいにいく……どうする。

 ベルベットもベルベットで出せる力を出している……4人に分身しているから人間のオレが残り3人のオレを放置してアイゼンの穢れを喰らうか?

 

「ちょっと待ってなさい……私の腕が変わってないなら喰らった穢れを撃ち出す事も出来るわ」

 

「邪王炎殺黒龍波でも撃つのか!?」

 

「それを更には進化させる……邪帝煉獄滅龍陣よ!!」

 

 黒いあらゆる物を喰らい尽くす、光すらも飲み込んでしまう闇の炎をベルベットは生み出す。

 闇の炎は龍の頭に変化すると螺旋状の渦を描いて一種の結界もしくは領域の様な物を展開するとアイゼンから溢れ出す穢れを全て飲み込み焼き尽くす。ドラゴンの姿をしていたアイゼンは徐々に徐々に形状を変えていき光る球に姿を変えていく。

 

「……オレはあの時の約束を果たさなければならない」

 

 光る球はアイゼンの声を発した。

 アイゼンはあの時の約束を、ザビーダと交わしたザビーダに殺される事を望む……はぁ

 

「お前、ええ加減にせえや」

 

 死のうとしているアイゼン。あんな事があったのだから後悔はしていないだろうがそれでもだ。

 

「たった1人のお前の家族がお前を助ける方法を探そうとしてんねんぞ。なのにお前が諦めてどうすんねん」

 

 思わず素の口調が出てしまうがそれを気にせずにアイゼンを睨む。

 エドナは今こうしてオレ達が戦っている中でもドラゴン化をどうにかしようとしている。それなのにアイゼン自身が生きる事を諦めてしまってどうする。自分の旅路の果ては、旅の終わりは自分で決めると舵を取るのを諦めてどうするんや

 

「エドナ……」

 

「エドナちゃんはお前をどうにかしてやりたいと思ってる……あん時の約束を気にしてるんだったらよ、お前が生き抜いてくれよ」

 

「あんたにとって大事な人が待って居るんでしょ?」

 

 あの時の約束をアイゼンは気にしているがザビーダは気にするなと言う。

 

「お前が生き抜いてくれたら俺はお前を嘲笑う事が出来るんだ……あん時は諦めるしかなかったかもしんねえけど、今は違う……生きろ、アイゼン!!最後にコイツをくれてやる!」

 

 ザビーダはアリーシャの体を使ってジークフリートを取り出すと光る球を撃ち抜いた。

 光る球は波紋を広げると徐々に徐々に形を変えていき……アイゼン本来の姿になった

 

「エバラエバラエバラエバラエバラエバラエバラ…………ごまだれ〜!!」

 

「なにやってんだあいつ?」

 

「謎とか解いたりアイテムを見つけたりするとああするのです」

 

 元に戻ったアイゼンの足元にドラゴンの顔の面があったので手に取り叫ぶ。

 穢れの塊がドラゴンの面を作り出した……そしてアイゼンを元に戻すことが成功した。

 

「元に……元に戻った、です、の……」

 

「アリーシャ!」

 

 神依が解除されるとアリーシャは足がふらつき、ゆっくりと倒れる。

 緊張の糸が途切れたのかと思うとアリーシャの体温が普段より高く額に手を当てると熱かった。アリーシャは熱を出していた。

 

「俺の器になっちまったせいだ」

 

「エレノアの時と同じなわけね……ふぅ……」

 

 エレノアの時もスレイの時も人間が天族を器にした際に高熱を出してぶっ倒れた。

 似たような現象を今まで何度も見ているのでベルベットはホッとしているとドッと汗を掻いた。

 

「悪いんだけど、何処かで休ませて……私も無理っぽい」

 

「あ、おい!」

 

 フラフラとオレ目掛けてベルベットは倒れる。

 ベルベットも邪王炎殺黒龍波よりも上の力を使って相当な無茶をしてしまった様で限界を越えてオーバーヒートを起こした。

 倒れるベルベットとアリーシャを抱えてアイゼンとザビーダを見つめる。何処かに休まる場所があるはずだ。

 

「ついてこい、こっちにオレとエドナが住んでいた家がある」

 

「ああ、助かるわ……流石にこの状態の2人をレディレイクに連れて帰るのは……色々と厄介な事になる」

 

 こっちだとアイゼンはレイフォルクの奥へと突き進むと一軒の小屋があった。

 アイゼンとエドナが嘗て住んでいた家であり何処か風格の様なモノが漂っており中に入ると何時かだったかアイゼンがエドナに向けて送った骨董品の壺が置いてあった。価値の分かる人にしか分からない逸品でそうでなければゴミ扱いなのだが……エドナは兄からの贈り物だからとちゃんと受け取ったみたいだな。

 

「……」

 

「……」

 

 ベルベットとアリーシャを布団に叩き込むとアイゼンとザビーダは見つめ合っていた。

 ガンを飛ばしてるとかそんなんじゃなく、ただただ無言で見つめあっておりなにか言わないのかとオレも無言になっている。

 なにか言えよと言いたいのだが敢えてなにも言わない

 

「……やってやったぞ」

 

 どちらが均衡を崩すのかと思っていると先に口を開いたのはザビーダだった。

 ザビーダは自慢げな顔になり、ポケットからコインを取り出してアイゼンに投げた。

 

「お前はあん時、殺すことで救われる奴が居るって言ってたな。そんな奴は何処にも居ねえんだよ。こうやって生きてもう一度憎たらしい顔を見てこそ、バカみたいに笑い合ってこそ救われるんだよ……俺もお前も」

 

「……オレは自分で自分の舵を握っていた。あの時の約束を果たす覚悟は決めていたのに邪魔しやがって」

 

「文句なら俺じゃなくてそこにいる奴に言ってくれよ。俺は元々は殺すつもりでいたんだ……あん時と同じ様に足掻く権利を与えてやった。その結果がこうなっちまったんだ。文句を言うんじゃねえ」

 

「……ゴンベエ、アメッカ、礼は言わんぞ。人の舵を勝手に切り替えた事は恨んでおく」

 

「おいおい、助けてもらってありがとうございますもないのか……まぁ、そっちの方がお前らしくていいけどよ」

 

 元々死ぬつもりでいたアイゼンをアリーシャとオレの最後の足掻く権利を行使して元に戻した。

 覚悟ガンギマリのアイゼンを元に戻せたからそれは良しとする……あんまり深く物事を考えるとメルキオルのクソジジイみたいに含蓄垂れるクソッタレになる。余計な事は考えない様にしておこう。

 

「ああ、1つだけ言っておく。マオクス=アメッカは偽名だ。アリーシャの本名はアリーシャ・ディフダで、マオクス=アメッカは今の導師が名付けた真名だ」

 

「……待て……真名をオレ達に偽名として使っていたのか!?」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「お前、真名がどれだけ大事な物なのかを知っているだろう!マオテラスがマオテラスだと言うのを躊躇っているのを見ていなかったのか!」

 

 予想していた事だがアリーシャに真名を騙らせた事をアイゼンは怒る。

 それだけ真名というものが大事なものであり、アリーシャはそこかしこにどころか下手したら歴史に真名を残してしまっている。

 

「その件に関してはホントに申し訳ないとは思っている。本名を名乗るわけにもいかないし偽名として使うには丁度いいと使ってた」

 

「お前、ホントに分かってるんだろうな?アメッカ……いや、アリーシャに対して責任を取らないといけないぞ」

 

「ちゃんと責任を取ってアリーシャの旅に付き添うよ」

 

 アリーシャは平穏で平和な世の中を、穢れの無い世界を作りたいと思っている。

 その為にはローランス帝国に行って戦争を反対している人を味方になってもらって和平を結んでもらったりしなければならない。乗りかかった船だ。ベルベットとの生活もあるが、アリーシャの事も気にかけておかないといけない。

 

「それで責任を取ったと言えるのか?」

 

「いやいやいや……あの、アレだから。色々とあってベルベットと同棲する事になったから」

 

「ベルベットを幸せにする横でアリーシャちゃんも幸せにするか……お前それ二股じゃねえか」

 

「待って!話が飛躍しすぎている!!ベルベットとは同棲しているだけでアリーシャともそういう関係じゃない」

 

 責任を取らないといけないけれども、それはそういう意味での責任を取るというわけではない。

 

「お前、この期に及んで逃げるつもりなのか?」

 

「アリーシャちゃんもベルベットも地獄の果てまで追い掛けてきそうだぜ」

 

「地獄の果てって、あそこまで来るか?」

 

 一度足を運んだ事はあるけれども2人ならば逃げた場合地獄の果てまでホントに追い掛けてきそうで怖い。

 あの二人ならばありえると血の気が引いているとアイゼンはコップに酒を注いで口にする。

 

「ドラゴンになってからは薄らぼんやりとしか意識はなかった……アレから何年経った?」

 

「200年だ……今もまた災厄の時代だ」

 

「今もまた(・・)か……まだでないだけまだマシと言うわけか」

 

「どうだろうな……アレからホントに色々とあってな。今の導師もライラちゃんと上手くやれてるにはやれてるけど……結局は同じ事の繰り返しだ」

 

 天族を信仰する事を忘れ、天族に見放されて、加護領域が無くなる。

 そこから良くない災厄が巻き起こる。人々の心は淀んで穢れを生み出す。霊応力が高い人間が浄化の力を持った天族を器にして導師となって世界を救う。

 この1000年の間にそれが何度も何度も繰り返してきた……そして今回もそうなろうとしている。豚が言っていたが天族が見える人間は激減しているとかで……スレイが死んだら見える奴は居なくなって大変な事になるだろうな。

 

「今の時代の災禍の顕主に会った……なんか偉そうにしててな。一回封印して海の底に沈めてやったがあの後どうなったのかは知らん」

 

「仕留めなかったのか?」

 

「ライラに邪魔者扱いされたから止めた……今となってはそれで良かったと思っている。どうやってるかは知らないが、ヘルダルフの手中にマオテラスがある。ヘルダルフを殺せば連鎖的に死ぬ可能性があった」

 

 スレイがなんやかんや上手くやってくれるだろうが、あの時に殺さなくて良かったと言える。

 マオテラスは自分の身よりも眠りについているベルベットを守れなかった事を謝ったりしていた。

 

「マオ坊は長い間、浄化活動や布教に頑張ってたけど限界が来ちまった。憑魔化してる可能性がある」

 

「殺すつもりか?言っておくがそんな事をすれば初代災禍の顕主様がブチギレて今度は甥っ子の為に復讐鬼に変わるぞ」

 

「わぁってるよ、それぐらい……殺さねえで救う方法があるんだったらそれに越したことはねえ……それを今日、お前達が証明してくれた。救えねえ筈の命を救う事が出来た。お前には感謝しても感謝しきれねえ」

 

「礼はアリーシャに言えよ。オレは別にアイゼンを殺しても構わなかったんだからよ」

 

 殺しを救いなんて言うつもりは無いがアイゼンはアイゼンで覚悟を決めていてドラゴンになったんだ。

 介錯を手伝うのも1つの手だったがアリーシャが嫌がってたから介錯を手伝う事をやめたんだ。

 

「そうだな、アリーシャちゃんには感謝してもしきれねえ……穢れの無い世の中を作り上げたいんだってな。だったらザビーダお兄さんが一肌脱いでやるか」

 

「義理と人情で動くつもりか?」

 

「悪いか?……アリーシャちゃんは覚悟を決めるだけじゃなく結果も残したんだ。この大陸には1000年前のマオクス=アメッカにお礼を言いたいと言っている天族は結構居る。アリーシャちゃんは子孫って設定を盛れば力を貸してくれる」

 

 救って良かった天族達、といったところか。

 今までやってたことがなんだかんだで繋がっている……改めてこの時代が未来であり現代でもあるというのがよく分かる。

 

「アイゼンはどうするつもりだ?」

 

「自分の舵は自分で取る……だが、お前達に助けてもらったのもまた事実だ。今の世の中がどうなっているのかは知らんがアリーシャの言う平和で穢れの無い世の中を作るのには協力してやる」

 

「そう言ってくれるだけありがたい……って言っても、元々はアイゼンの協力を得る為に此処までやってきたんだ。嫌だと言ってもアイゼンを連れて行くつもりだ」

 

 まさかザビーダがちゃんとした仲間になるとは思いもしなかった。

 ドラゴン化したアイゼンを元に戻す事になるとは思いもしなかったし…………大丈夫なんだろうか。一応はこの世界、テイルズオブゼスティリアとかいうゲームの世界で、もしかしたらスレイがアイゼンを救ったりする運命だったのにオレが勝手に救って良かった……のだろうか。

 ブラッククローバーとか一部の転生先では自分だけじゃなく主人公達をある程度は鍛え上げとかないと原作で詰むみたいな世界も一応は存在している……マズいな。原作知識無いから今自分がやってる事が正しいのかどうかが分からない。虚淵作品じゃないからバッドエンドには行かないだろうが……困ったもんだ。

 

「そういや、お前を元に戻した時になんか拾ってたけどなんだありゃあ?」

 

「ああ、ドラゴンの面ね……ちょっと外に出るぞ」

 

 此処でやれば確実に面倒な事になる。

 一度アイゼンの家を出てからドラゴンの顔をした面を見つめる……癒やしの歌で出てきた面という事はそういう事なのだろう

 

「グッ、ムワァアアアアアアアアア!!」

 

「お、おい!」

 

「穢れを放ち始めたぞ!!」

 

 ドラゴンの顔をした面を顔に付けるとオレの体から膨大なまでの穢れが溢れる。

 それだけでなくオレの体が穢れに包まれるとオレの体は段々と変化していき……つい先程まで死闘を繰り広げていたアイゼンに似た姿のドラゴンに変貌していた。

 

「嘘だろ、今度はお前がドラゴンになっちまったのか!」

 

「いや、待て……暴走していないぞ」

 

「聞こえるか、お前等」

 

「普通に喋りやがった!どうなってんだ!!」

 

 オレ自身、今、自分がどうなっているのか滅茶苦茶気になる。

 手を見てみると蜥蜴の様に鱗に包まれており、紛れもなくオレは巨大なドラゴンに変身していた。

 

「癒やしの歌の影響だな。あの歌で救われない魂を癒やしたらお面になる……本来ならばアイゼンがお面になる代わりにドラゴンのお面が出来たと言ったところか」

 

「んだよ、それ……意味分かんねえぞ」

 

 安心しろ、オレもイマイチ理解出来ていない。

 とりあえずお面を外す時と同じ要領で手を顔に触れさせて引っ張るとドラゴンから元の人間に戻った。もう一度お面を付けてみると穢れに溢れて再びドラゴンに変身した……どうやらドラゴンに自由に変身する事が出来る様になったみたいだな。無駄にデカいから使い所がイマイチ分からないがとりあえずは便利な能力を手に入れた。

 

「……!」

 

「目が覚めたか」

 

「アイゼン様……そうか……私達はやったのか」

 

 ドラゴンになる事が出来るようになったと喜びアイゼンの家の中に入るとアリーシャがタイミング良く目を覚ました。

 アイゼンを見てあの後どうなったのかを思い出す。不可能だと思われたドラゴンを元の天族に戻す事が出来たのだと喜びを見せる。

 

「お前達に助けてもらった恩はある。ロクロウの様にとは言わんが義理は果たす」

 

「俺もアリーシャちゃんに着くぜ」

 

「二人共力を貸してくれるってよ」

 

「!……ありがとうございます!」

 

 なにはともあれハッピーエンドに向かおうとしている。

 アリーシャは頭を下げてアイゼンとザビーダにお礼を言うのだが2人の方がお礼を言いたいだろう……さてと

 

「この後、どうするんだ?」

 

 ベルベットはまだ眠っているが今後について決めなければならない。

 このままレディレイクに帰るのかそれとも……

 

「ローランス帝国に行こうと思う」

 

「ローランスって隣の国だろ?パスポートとかVISAとか大丈夫なのか?」

 

「パスポート?ヴィザ?」

 

「悪い。軽い冗談だ、流してくれ」

 

 この世界にパスポートとか就労ビザとかあるわけない。

 あった方がなにかと世の中便利に成るのだがそれはそれとして置いておく。

 

「ローランスにも戦争を食い止めようとしている人がいる。その人を主体にしローランス側で戦争推進派を納めてもらう」

 

「ローランスはって、ハイランドはどうすんだよ?」

 

「それは……恐らくだが問題は無い」

 

「何故そう言い切れる?」

 

「この戦争は裏で災禍の顕主であるヘルダルフが操っている。ハイランドにはゴンベエが居て、ヘルダルフは一度痛い目に遭っている。ゴンベエへの復讐を果たすかゴンベエに関わらないかのどちらかで、あの戦争での一件で両国鉾を鞘に納めようとしている」

 

 オレ、何時の間にやら災禍の顕主を抑える抑止力的な存在になってるな。

 まぁ、またヘルダルフが裏で糸を引いて戦争を巻き起こして表舞台に姿を現すのならば徹底的にシバき倒す。マオテラスを引き剥がしたらぶっ殺すのも1つの手だ。

 

「ローランスの首都であるペンドラゴへ向かう。既にハイランドから使者を送ると書状を送っている」

 

「お前、そんな事をしてたのか」

 

「私だってゴンベエに頼りきりじゃないんだ、裏で色々と頑張っている…………ペンドラゴに向かうのと同時にスレイも探す。平和な世の中を作る為には心の拠り所を、導師の存在が必要不可欠だ」

 

「そこなんだよな……湖の乙女に邪魔者扱いをされてるんだよな……さて、どうしたものか」

 

「その辺りについても一度真面目に話し合いたい…」

 

 話し合いで解決する事が出来る案件かどうかはまた別として……アリーシャの顔を立てて、ベルベットの顔を立てて、今度はスレイの顔も立てないといけないとかめんどくせえな、ホントに。

 

「グレイブガント盆地を経由してローランス帝国に向かうぞ」

 

「だが、あそこには軍の駐屯地が」

 

「んなもんどうにでもなるんだよ…………1000年、あれから1000年経過して地図は大きく書き換わっているが一度でも歩いた事のある場所なら走らせる事が出来る」

 

「……まさか」

 

「ああ、そのまさかだ……大地の汽笛でローランスを目指すぞ」

 

 大地の汽笛で一気に駆け抜ける。今まで使うことがなかったアイテムを今ここで使わせてもらう。

 ハイランド側はあんまり文句を言わねえだろう。なにせ大地の汽笛という蒸気機関すらまともに無いこの世界だ。ローランス帝国側からは黒船並に未知の存在になっているだろう……ハイランドの戦争反対派は大地の汽笛を走らせる事で国が豊かで優れた技術力を持っている事を見せつけてほしいという富国強兵の思想をもっている。ならばそれを生かすに越したことはない。




スキット 時を越える大罪

ザビーダ「そういや、お前に渡しそびれたもんがあったわ」

ゴンベエ「なんだ?」

ザビーダ「コレだよ。オラァ!!」

ゴンベエ「っ!」

アリーシャ「な、なにをなさってるのですか!?」

ザビーダ「この野郎、結局ドラゴンになっちまった天族を元に戻せるじゃねえか!!今みたいに救えるならあの時にどうして救おうとしなかったんだ」

ゴンベエ「オレはあくまでも過去は過去として見届ける為に居たんだ。下手に歴史に介入出来ねえ」

ザビーダ「ざけんじゃねえぞ、口ではそう言ってるがアイフリードやベルベットを助けてるじゃねえか!全部、お前の匙加減1つで決めやがって、ふざけるのも大概にしろ」

ベルベット「ゴンベエを許す事が出来ないのは私も同じ気持ちよ……恨み言は沢山あるわ」

アイゼン「オレが元に戻ったのはオレだったからという可能性もある、まだ完全にドラゴンになった天族を元に戻すシステムは完成していない……ゴンベエ1人を責めるのは酷だ」

ザビーダ「……お前は時間を越える事が出来るんだろ……だったらテオドラがドラゴン化する前に浄化は」

ゴンベエ「出来るか出来ないかで言えば出来なくもない……だが、ドラゴンになる前のテオドラの前にオレやアリーシャが現れていない。コレがどういう意味か分からないお前じゃないだろう」

ザビーダ「……ああ、クソ。嬉しいんだかムカつくんだかよく分からねえ。なんだよこの胸のモヤモヤは」

アリーシャ「必死になって、それこそ時を越えるという禁忌を犯せば誰かを救う事が出来る……だが、それは本来やってはいけない事。人を助ける事が出来るとしても……どうすればいいのだろう」

ゴンベエ「時を越えて自分達にとって都合のいい歴史に改竄出来る力があったとしてもそれを行使するかしないかは、その力を持っている人次第だ。ザビーダは過去を変えたいと言う思いとあの時があったから今の自分は存在しているの2つの思いが重なっている……コレばかりはオレ達が横から口出しをしてああだこうだ言ってもどうにもならねえ。自分でどうにかして割り切らねえと」

ベルベット「過去を変える……」

アイゼン「お前もやり直しをしたいのか?」

ベルベット「……都合のいい夢はもう見飽きたわ。例えそれが理想的なものだとしても残酷で理不尽で非情な現実に私は舞い戻るわ」

アイゼン「相変わらずお前は強いな」

ベルベット「そんなに強くはないわ、泣きたい時だって泣くわよ。涙は……もう充分に流して受けとめてもらったから」


スキット 呼び方その2


ザビーダ「どんな気持ちだ。死神の旦那」

アイゼン「……元に戻してくれた事に関しては礼は言わんぞ。オレはお前に殺される覚悟は出来ていたんだ」

アリーシャ「アイゼン様、私達は私達の都合で貴方を元に戻しました。礼を言われる様な事はしていません」

アイゼン「……」

ゴンベエ「まぁ、なにはともあれお前を元に戻す事に成功した事を喜んでくれるお前の大事な奴は居るんだ……元に戻れて良かったと思っとけよ」

ベルベット「1番大事な人を1番悲しませるんじゃなくて、1番喜ばせる事になったって思いなさい」

アリーシャ「きっとエドナ様はアイゼン様を見て大喜びしますよ……アイゼン様、貴方が生きている、元に戻ったと言うだけでもエドナ様は幸せになります」

アイゼン「……」

ザビーダ「会いたくねえのは分かるけどよ、一回はどっかで腹くくらねえと……エドナちゃんはお前の為に誓約までかけてたんだぜ」

ゴンベエ「え、マジで?そんな素振りは見なかったけど」

ザビーダ「冷静に考えてみな。エドナちゃんは清浄な器があるわけでもねえのに、10年以上も穢れずにいたんだ……エドナちゃんは毎日歳の数だけピーナッツを食うって誓約を掛けてたんだよ」

ベルベット「ピーナッツを毎日って……そのエドナってアイゼンの妹は聖隷でここは1000年後の未来だから毎日相当な量を食べてきたのね」

ゴンベエ「よく飽きずにピーナッツを1000粒以上食べれたな。オレなら3日目で飽きて限界が来るわ」

アリーシャ「それだけエドナ様はアイゼン様の側に居たかった証拠だ」

アイゼン「……アメッカ、いや、アリーシャ」

アリーシャ「はい、なんでしょうか?」

アイゼン「やめろ」

アリーシャ「え?」

アイゼン「この時代では天族を信仰する文化が出来ていてお前が天族に敬意を示しているのは分かった。だが、その敬意をオレに向けるんじゃねえ」

ゴンベエ「あ〜そこ、気にするのか」

アイゼン「オレは幸福でなく不幸を呼び込む死神だ。祀られる様な存在じゃない」

アリーシャ「ですが」

アイゼン「頼むからやめてくれ……アメッカ」

ベルベット「恐怖の象徴になったりはしたけど祀られたりするのには馴れてないのね」

アリーシャ「あの時はマオクス=アメッカでしたが今はこの時代の本来の時間軸を生きるアリーシャ・ディフダです」

アイゼン「アメッカ呼びが嫌ならば1000年前と同じ様にしろ……」

ゴンベエ「ザビーダは気にしないのか?」

ザビーダ「時を越える前にお前等に出会ったからな……正直なんとも言えねえ。天族を信仰する文明になった反面、顔見知りに様をつけられて……ま、美女から様付けなんて嬉しい限りだがよ」

ベルベット「あんたね……」

ゴンベエ「アリーシャ、アイゼンもこう言ってるし前みたいに接してやれよ」

アリーシャ「だが……」

ゴンベエ「……アリーシャ様、アイゼン様もこう仰ってるのですよ。我儘を言ってはなりません」

アリーシャ「っ……分かった。アイゼン、これでいいか?」

アイゼン「ああ、それで頼む……ゴンベエも普通にしろよ」

ゴンベエ「分かってるよ……エドナが見たら驚くだろうな」

アイゼン「おい、誰に断って人の妹を呼び捨てしてるんだ。様をつけろ、バカ野郎が」

ベルベット「あんた散々会わない様にしている割にはシスコンね」

ゴンベエ「お前はブラコンだろう」

ベルベット「今はあんたにゾッコンよ」

ゴンベエ「お前マジでそういう不意打ちは勘弁してくれよ」


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スペシャルスキット 中の人 外の人 その2

はい、ということで息抜きさせてください。


 

ヒスイ「は〜食った食った!」

 

レイア「本格的な中華かと思ったら意外と大衆的な中華で食べやすかったね!」

 

次狼「ふふ、喜んでくれて何よりじゃ」

 

ゴンベエ「どうせだったら酒の楽園に連れてってほしかったけどな」

 

次狼「それは……ワシと世界が被って二十歳になった時の夢としておこうじゃないか、ゴンベエくん」

 

ゴンベエ「いったい何回回ればあんたと被る事が出来るのやら……」

 

次狼「ふっふっふ、未来は明るい方がいいじゃろう」

 

ベルベット「あんた達、なんの話をしてるの?」

 

ゴンベエ「気にするな……」

 

ユーリ「美味い飯が食えたのはいいがアレからアイゼンが一向に帰ってこないな」

 

アリーシャ「死神の呪いで落としてしまった財布で一悶着起きているのだろうか……」

 

セネル「なら、アイゼンを探しに」

 

紫原「あ〜居た〜」

 

ゴンベエ「……えぇ……」

 

緑間「お前達、アイゼンという男の連れか?」

 

ミラ「そうだが……なにかあったのか?」

 

黄瀬「大変なんてもんじゃないんすよ。もう何処からツッコミを入れればいいのか……お姉さん達にも色々と言いたいことはあるッスけど」

 

ベルベット「……あんた、誰かに似てるとか言われたことない?具体的には暗殺者を従士にした導師に」

 

黄瀬「それさっきも言われたけども俺は赤の他人っすよ!」

 

黛「声が似ているからそう感じるだけだ。コイツは導師とは無関係の人間だ」

 

ベルベット「あんたは!」

 

黛「よぉ、久しぶりだな。そっちの時間の流れがどうなってるかは知らねえけどよ」

 

ゴンベエ「まゆゆん、久々に会ったな」

 

黛「誰がまゆゆんだ!……っと、くだらねえ禅問答をしに来たんじゃねえ。アイゼンが大変なんだよ」

 

ルドガー「アイゼンが?……もしかして事件に巻き込まれたのか!」

 

紫原「なんか手錠を付けたおっさんと魔女のオバさんと体に入れ墨を入れてる本を持ったおっさんに襲われてたよ」

 

アリーシャ「魔女のおばさん……まさかマギルゥなのか!?」

 

緑間「そのまさかだ……だが、目的が分からない。あの男を襲った理由が」

 

ベルベット「マギルゥが加わってるって事は……ロクでもない理由な気もするけど。それで何処で襲われてたの」

 

黄瀬「ここからちょっと歩いたところにあるバナナジュース専門店の近くで……ああ、でももう遅いかも」

 

ユーリ「落ち着けよ……アイゼンを襲ったのはなにか理由がある筈だ、命までは取られていない。とりあえず手分けしてアイゼンを探すぞ」

 

次狼「冷静じゃのう」

 

ユーリ「慌てて変な行動をするよりはマシだろう」

 

緑間「っむ、マスター次狼まで居るのか!?」

 

セネル「この爺さん、そんなにスゴいのか?」

 

ゴンベエ「オレが逆立ちしても勝てねえ相手だ……ユーリの意見を採用して手分けして探すか」

 

ベルベット「私とアリーシャとゴンベエ」

 

セネル「オレとヒスイ」

 

ユーリ「オレとルドガー」

 

ミラ「私とレイアの計4組だな」

 

黛「……お前等、手分けして探すのは構わないがどうやって連絡を取り合うつもりだ?」

 

セネル「それは……」

 

レイア「連絡を取り合う手段が私のGHSしかないよ」

 

緑間「ふぅ……全く世話が焼けるのだよ。俺達が1人1組についてラインで連絡を取り合う」

 

ヒスイ「おいおい、いいのか?」

 

緑間「いいもなにも、お前達が神戸に居る限りは平穏は訪れない……さっさと横浜に行くのだよ」

 

ヒスイ「んだとコラ!こっちだって好き好んで神戸の港に辿り着いたんじゃねえぞ!!」

 

紫原「ミドちんのツンにいちいち反応しないでよ、五月蝿いなぁ」

 

黄瀬「ああもう、何やってるんスか!こういう時は手と手を取り合って協力しないと」

 

黛「やめとけ。そういう友情ごっこはこいつらにはあんまり似合わない……オレはそこのロン毛の男のところに行こう」

 

紫原「じゃあ、俺はそこのお姉さん達のところで」

 

緑間「俺はシスコン2人か」

 

セネル ヒスイ 「誰がシスコンだ!!」

 

黄瀬「じゃ、俺は青峰っちのところで」

 

ゴンベエ「誰が青峰っちだ。諏訪部ボイス以外類似点はねえだろう!!」

 

黄瀬「今はそうかもしれないっスけど、何時かはそうなるんスよ!」

 

ゴンベエ「お前等、まさか」

 

ベルベット「さっさと行くわよ。アイゼンを襲った奴等を見つけ出さないと」

 

黄瀬「了解っす」

 

次狼を残して一同解散

 

次狼「ふむ……世界の均衡や調和が乱れだしておる……さて、ワシが動くことにならなければいいがのぅ」

 

場面変更 百貨店

 

ユーリ「しっかし、なんだ。神戸ってのははじめて来るけど横浜にも負けずとも劣らない広さだな」

 

黛「まぁ、伊達に政令指定都市になっていないからな……オレからすればそれなりに距離がある気もするが」

 

ルドガー「まぁ、此処も大都会である事には変わりはないよ……それにしても居心地が悪いな」

 

ユーリ「しょうがねえだろう。何処にアイゼンが居るのか分からねえんだから婦人服売り場とか化粧品売り場とか俺達に無関係な場所でも居るかもしれねえんだ。腹ぁ括れよ」

 

ルドガー「2000万の借金よりマシ。2000万の借金よりマシ」

 

黛「自分に言い聞かせてるな……この階には居ないみたいだ。下の食品売り場に行くか」

 

ユーリ「美味そうな物ばかりだな……けど高えな」

 

黛「百貨店のデパ地下だぞ。惣菜屋の惣菜と比べるんじゃねえ……比較する事が烏滸がましいぐらいには美味いぞ……ついでだから買い物でもしていくか」

 

ユーリ「おいおい、そんな暇は……って、話を聞いちゃいねえな」

 

ルドガー「マイペースだな、チヒロは」

 

ユーリ「悪い奴じゃなさそうだがな……アイゼンはこの階にも居なさそうだな」

 

???「ローストビーフ!ローストビーフを買いましょう!」

 

???「テンションを上げ過ぎだよ、深雪……あ、すいませ──えっ!?」

 

ユーリ「フレン?いや、声はフレンだけど見た目が違う」

 

???「なんでこんなところにテイルズオブが……え、コスプレ?コスプレなの?」

 

???「なにを仰っているって、黛さんじゃありませんか!!」

 

黛「どうやらオレ達以外にもこの祭りに巻き込まれてしまった奴等が居るようだな……無理に時空を捻じ曲げたせいでこうなったのか」

 

ルドガー「知り合いか?」

 

コシマエ「はじめまして。僕は黛さんの後輩の越前龍我、コシマエと呼んでください」

 

深雪「蛇喰深雪と申します、気軽に深雪とお呼びください……何故ここに?」

 

ユーリ「それがよ、横浜に行くはずが間違って神戸に来ちまってな」

 

ルドガー「それだけじゃなくてアイゼンまで居なくなってしまったんだ。2人とも見ていないか?目付きの悪い黄色の髪の男性を」

 

コシマエ「僕達も今神戸に辿り着いたばかりだからね……ゴンちゃんもこの様子だと何処かに居るだろうけど……う〜ん」

 

深雪「申し訳ありません。お力になる事が出来ず……」

 

黛「……此処で出会ったのもなにかの縁だ。探すのを手伝え」

 

コシマエ「ええ、分かりました……とはいえ、この百貨店には」

 

ジェイド「皆さん、探しましたよ」

 

深雪「おや、噂をすればなんとやらですね」

 

ジェイド「お初にお目にかかります。私はジェイド・カーティス……ユーリ、ルドガー。祭りがあるというのになに油を売っているのですか。殿堂入りしたからといって調子に乗っては足元をすくわれますよ……こんな風に瞬雷迅」

 

ユーリ「っ!お前、なんの真似だ!!」

 

ジェイド「ユーリ、貴方はテイルズオブを愛していますか?私は愛しています、テイルズオブを……テイルズオブは我々の存在意義である筈で私はテイルズオブに尽くしました……ですが、この扱いには納得いきません!」

 

ルドガー「3人とも引いてくれ!!ジェイドの奴、おかしくなっている!」

 

ジェイド「おかしい?いいえ、私は正気です。おかしいのは運営の方です。私とゼロスは名コンビだったにも関わらずにバンナムはゼロスを選び私を切り捨てた。確かに些か危ない発言をしていた自覚はありますが全ては場を盛り上げる為に、ビバ!テイルズオブ!ビバ!テイルズオブフェスティバル!ゼロスだけでなく私もメインパーソナリティーを務めるのが筋です」

 

黛「おい、なんか危なっかしい発言をしてるぞ!」

 

ジェイド「貴方達上位陣は既に充分なまでに見せ場を貰っています……L・メテオスウォーム!!」

 

コシマエ「って、室内で隕石を落とさないでよ」

 

深雪「言っている場合ですか!!向こうは本気で私達を潰しにかかっています!」

 

ユーリ「お前等、下がってろ!ジェイドのメテオスウォームはまずい!」

 

ルドガー「っく、コレはオレ達だけで防ぐ事が出来るのか」

 

コシマエ「1人で無理に背負わないでください……僕達だって戦えるんですから」

 

深雪「守られているだけなんて時代遅れですよ」

 

黛「おーっ、お前等頑張れよ」

 

コシマエ「黛さん見てないで力を貸してください!魔王の力を」

 

黛「いやオレ、今それを持ってないから無理だ。一般人に軍人の大佐と戦えなんて無茶を言うんじゃねえ」

 

深雪「黛さん、今持ってないのですか……まずいですね」

 

ジェイド「旋律の戒めよ ネクロマンサーの名の下に具現せよ ミスティック・ケージ!」

 

ユーリ「っ、やべえ」

 

コシマエ「問題無い、悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)

 

ジェイド「なに!?」

 

深雪「流石は不死身の竜殺し、ですわね」

 

ジェイド「私の本気が全く通じていない……なにか仕掛けがあるのですね」

 

コシマエ「さて、貴方が謎を解く前に僕のバルムンクが貴方を叩き斬る方が先かもね」

 

ジェイド「雷雲よ 我が刃となりて敵を貫け サンダーブレード!!」

 

コシマエ「そんな攻撃、痛くも痒くもない」

 

黛「いや、違う!あの陰険大佐の狙いは電線だ!!」

 

ルドガー「電気が切れた!?」

 

ジェイド「まさかこんな強敵が居ると予想外です。一時撤退をさせてもらいます」

 

深雪「逃しませんわ!」

 

ユーリ「いや、一旦逃がせ……こりゃ一個人でどうのこうのの話じゃねえ。裏で大きな陰謀が待ち構えてやがる……一旦泳がせておけ」

 

コシマエ「良かったんですか?あの人は貴方達の命を狙いに来てますよ」

 

ユーリ「命を狙われるのには慣れてる……それよりも周りの被害は?」

 

黛「あの陰険腹黒メガネ、容赦なくぶっ放したが人的被害は0だ」

 

ルドガー「よかった……ジェイドは祭りに呼ばれない事を怒っていたな」

 

ユーリ「ゼロスと同じポジションじゃないことに不満を抱いてたな……悪いが一軍の座は譲らねえぜ」

 

場所変更 三宮のセンター街

 

ゴンベエ「しかし、アイゼンが何故に狙われたんだ?」

 

ベルベット「曲がりなりにもアイゼンはアイフリード海賊団の副長よ。人から恨みを買う機会は幾らでもあったわ」

 

アリーシャ「だが、マギルゥが裏切った理由が分からない」

 

黄瀬「なんかフェスティバルがどうのこうの言ってたっすよ」

 

ゴンベエ「フェスティバル?……もしかしてお前達の言っている祭りに関係してるんじゃないのか?」

 

ベルベット「マギルゥは今回の祭りにも一切関わっていないわ」

 

アリーシャ「…………」

 

ベルベット「アイツの事だからしぶとく生きているとは思うけど……そう言えばゴンベエ、あんた氣で気配探知する事が出来たわよね」

 

ゴンベエ「此処は神戸の中心地だ。人が多くてアイゼンをピンポイントに見つけるのは不可能だ」

 

黄瀬「ああ、やっぱ無理なんすね」

 

ゴンベエ「オレもそこまで万能じゃねえんだよ……にしても、なんでこんな事に……アイゼンが居そうな場所」

 

アリーシャ「マニアックなお宝が置いてある市場とかだろうか」

 

ゴンベエ「この辺りでマニアックなお宝が置いてある場所と言えば……カードショップか!!」

 

ベルベット「なんでよりによってカードショップなのよ!もうちょっと他があるでしょう」

 

黄瀬「模型店とかスか?」

 

ベルベット「そんなゴミみたいな……アイゼンなら居そうね」

 

ゴンベエ「とりあえずは行ってみるか」

 

ゴンベエ達カードショップに移動する

 

ゴンベエ「勢いで来たのはいいけど、アイゼンが居そうな場所だけどアイツ拉致られてる可能性が高いから居ないんじゃねえのか?」

 

ベルベット「今更それを言うの?手掛かりが無いんだから人海戦術で心当たりがある場所を虱潰しに探すしか無いでしょう」

 

黄瀬「まぁ、最終的にそうなるっスよね……なにか手掛かりでも残してくれたら」

 

???「このカードとこのカード、それとコレとコレ……ケースに入っているカードと、このスリーブだ!支払いはクレジットカードで一括でだ!」

 

ベルベット「この声は、ザビーダ?」

 

ゴンベエ「いや、違う。この声は…………社長だ」

 

海馬「コレで新しいデッキとコレクションがまた増えた」

 

黄瀬「ああ、社長!!」

 

海馬「っむ、貴様等は……どういう事だ。何故貴様等が日本にいる?アークの学園都市を経由して日本に上陸したのか?」

 

ゴンベエ「その件に関してはオレも散々ツッコミを入れたけども祭りがあるからって言ってなんも説明がつかないんだよ」

 

アリーシャ「祭りは祭りだ……しかし、どうしてここにいるんだ?」

 

海馬「カードショップにアニメイトとここはゲームやアニメ好きには堪らない場所だ。アミューズメント産業の社長がオフの日に来てもなんらおかしくはない」

 

ベルベット「あんたオフなの?」

 

海馬「ふぅん、社長自らが長期休暇を取らなければ社員に休む時間を与える事は出来ん……とロイドの奴が口煩く言ってきてな」

 

黄瀬「ロイドさん、分かってらっしゃるっすね」

 

海馬「それで貴様等はなにをしている?言っておくがこの店のレアカードやレアスリーブはオレの手中にある。譲る事は出来んぞ」

 

ベルベット「そんな紙切れには興味は無いわ」

 

海馬「そんなだと!!サイン入りのカードで低賃金で扱き使われている安月給の底辺サラリーマンの月給と同じだというのに……物の価値が分からない愚か者めが」

 

アリーシャ「そ、そんなに高いカードがあるのか?」

 

海馬「魔術の札であるカードは場合によってはサラリーマンの年収を越える……カードゲームと侮るな、小娘が」

 

ゴンベエ「お前が威張るんじゃねえよ、クソガキが……ここにはアイゼンが居なさそうだな」

 

海馬「奴の姿は見ていない……なにか事件でもあった様だな」

 

ゴンベエ「そうなんだよ。アイゼンが襲われた……フェスティバルがどうのこうの言ってたらしい」

 

海馬「フェスティバル……ランキングがどうのこうの言っていなかったか?」

 

黄瀬「ああ、なんかA級がどうのこうの言ってたっすよ!」

 

海馬「……ふぅん、そういうことか」

 

ベルベット「なんか分かったの?」

 

海馬「奴等の狙いはお前達祭りの出演者だ……そして裏切り者が1人居る……そうだろう、アリーシャ」

 

アリーシャ「な、なにを言っているんだ!?私は今年祭りに呼ばれていて神戸に流れ着いたのも偶然だ」

 

ゴンベエ「社長、アリーシャを疑ってるのか?」

 

海馬「貴様には分かるまいが毎年開催される祭りは限られた人間しか呼ばれない、座席数が決まっている…………となると犯人はあいつか」

 

ベルベット「アリーシャ、冗談よね…………ねぇってば!!」

 

アリーシャ「ふぅ……バレては仕方ない。まさかこんなところで社長に出会って看破されるとは思わなかった」

 

黄瀬「アリーシャちゃん、なんでこんな事をしたんすか!!」

 

アリーシャ「アリーシャ?違うな。私はアリーシャ・ディフダとサーヴァントユニバースより訪れた謎のヒロインXと融合したその名も真のヒロインAだ!!」

 

ゴンベエ「おい、なんかとんでもない所からとんでもない存在が紛れ込んでるぞ!!アリーシャ、なんでそんな真似を」

 

真のヒロインA「なんで?そんなのは決まっているじゃない……私以外のヒロインを皆殺しにして祭りを私のヒロイン劇で終わらせる為に!原作でも本編でも私のヒロイン力が、クソ作者の技量の無さで私が全然ヒロインになっていない。これはテイルズオブゼスティリアの二次小説にあるまじき事態だ!!」

 

ベルベット「あんたそんなにヒロインの座が欲しいの!?」

 

真のヒロインA「そんなに?……ベルベットに、ベルベットになにが分かるの!操作性にも優れて容姿にも胸にも恵まれて主人公らしさとギャップ萌えを兼ね備えている、逆に持っていないものが無いんじゃないかと言えるベルベットに私の苦しみが分かるの?あまりにも酷いからとアニメ会社が内容を書き換えたんだよ!!」

 

黄瀬「全てはBBPとFJSMが悪い……って、そんな事を言ってる場合じゃないっすよ!!」

 

海馬「落ち着け、見たところオレ達より後輩の様だな……ならばアイツの強さを知らないわけではない」

 

ゴンベエ「アリーシャ……本気か?」

 

真のヒロインA「私は本気だよ……テイルズオブフェスティバルは毎年開催されて多くの人達が楽しみに待ってくれてる……けどっ!けど、まともに呼ばれるのはいっつも同じ!ユーリにベルベットにルドガー、スレイにミクリオ様、アイゼンとエドナ様は日にち別で……皆、皆、思ってるんだよ!テイルズオブフェスティバルとは名ばかりの人気格差社会!今こそ自由を、皆が笑顔になれるフェスティバルを私は開催を宣言する!!」

 

ゴンベエ「……そうか」

 

真のヒロインA「出演予定が無いゴンベエにこんな事をするのは心苦しいけど……見切った!!星光の剣よロゼとかミクリオ様とか腐女子とか消し去るべし!!みんなにはナイショだよ!無銘勝利剣(エックス・カリバーーーッ!!)

 

海馬「魔法(マジック)カード、発動(オープン)!防御輪!貴様の攻撃を防御させてもらう!」

 

真のヒロインA「聖剣の一撃を1枚のカードで防いだ!?」

 

海馬「魔術の札の力を知らぬわけではない。アークの学園都市で具現化されていた貴様等に格の違いを見せつけたが、ここにいるのはオリジナルか……ならば見せつけてやるか、神の力を」

 

黄瀬「ストップ!ストォオオオップ!!流石にこんなところで巨神兵を召喚するのはマズいっスよ!!」

 

真のヒロインA「っく、まさか無銘勝利剣を防がれるなんて……一旦引かせてもらう!!」

 

ベルベット「ちょっ、待ちなさい!!」

 

ゴンベエ「追い掛けるな、コレでいい……アリーシャを裏で誑かした奴が居る。そいつをシバき倒さねえと気が済まねえ」

 

海馬「一度泳がせておくか……グランドクソ野郎が」

 

真のヒロインA「伝令!私達のフェスティバルをコレより開始する!ランキング上位陣が4組に分かれている。ゴンベエとベルベットは取り逃がした!だが、他にユーリ達も居る。ランキング上位陣を殲滅する……私以外のヒロイン、主人公を全員潰す!!」

 

???「いやぁ、面白い事になったね……人気格差は広がる一方だからね」

 

真のヒロインA「貴方は梅林さん!」

 

???「おっと、僕の事はまだまだだよ」



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テイルズオブザレ…?

許せ、まゆゆんの貧乏くじを書いているのが楽しくて一応は浮かんでいるレイズ編を書くことになった作者を許せ……。
チヒロさんが主人公のまゆゆんの貧乏くじは面白いです(多分)


 

 ある朝、目が覚めると別人になっていた。ライトノベルや二次創作でよくある展開だ。

 知っている筈の天井が何時の間にか見知らぬ天井になっていた……そう、なっていたんだ。

 

「今日で30日目、1ヶ月か……」

 

 俺の名は白崎敬太、何処にでもいる工業課の高校生だ。

 ビーダマンを時速50kmで飛ばす動画を見て機械工学に憧れ、子供向け玩具を大人の本気と金の力で改造するのに面白いぐらいにハマッた。ミニ四駆とか魔改造するの楽しい。ドローンヘリとかも弄るのは楽しい本当に何処にでも居る工業高校の学生だったんだ。乙4の資格取ってガソリンスタンドのバイト代を上げようと思っていたのに……

 

「今日も俺に違和感は無し……はぁ……」

 

 それなのに何故か全く見知らぬ人間になっていた。いや、それだけじゃない。全く知らない世界にいた。

 この世界は地球とは呼ばずティル・ナ・ノーグと呼ばれる世界、テレビも無ければラジオも何もない世界……の割には食文化や言語、衛生管理等の一部が現代っぽい。何処のナーロッパだと言いたくなる様な世界だ。

 

「行ってきま〜す」

 

「おぅ、行って来い」

 

 そんな世界で俺は憑依したであろう男の祖父と共に暮らしている。

 ご丁寧かどうかは知らないが男が記憶していた事を俺も記憶している。記憶を共有していると言ったところだろうか。両親の顔が朧気になっていたりするし、そもそもで記憶と一部噛み合わないところがあったりする。きっと俺とこの男が融合してしまった事で記憶が曖昧になっているんだろう。

 

「さて、今日も頑張るか」

 

 記憶が曖昧だが普段のこの男が何をしているのかは記憶している。

 この男は漁師をやっている。俺の体が記憶しているのか一連の動作はスムーズだ……今日も今日とて漁師として漁に出る。働かざる者食うべからず、別にその事については問題無い……いや、問題は大有りだが、長い物には巻かれろと言うし一応は受け止めている。

 

「あ、お〜い!!」

 

 しかし何事も受け入れると思ったら大間違いである。

 漁師としての生活は悪くはないと思っている自分も居るがスマホが無い不便な生活はちょっと困る。なんとかして元の自分に戻る事は出来ないと休みの日には異世界に関して調べたりするが俺の様な前例は一切無い。そもそもで異世界に関して……いや、いいか。

 

「待っていたわよ」

 

 異世界云々はさておき、問題は色々と山積みだ。

 具体的に言えば目の前にいる金髪巨乳の絶世の美女、ミリーナさんだ。俺が憑依してしまっている男の記憶では昔からの付き合いがある幼馴染みたいな関係性である。幼馴染は負けフラグと言うのだがこのミリーナさんは才色兼備と言っても過言ではない、努力して才能を開花させてたりするし、非の打ち所がない……いや、若干だが残念なところもあるか。

 

「はい、今日のお弁当」

 

 そんなミリーナさんからお弁当を受け取る。

 別に作ってくれと頼んでいない。お昼とか別に抜いても問題無い生活を過去に送っていたのだが、今もそれが身に染み込んでおり昼を食べない、朝を食べないといった事が多く、気付けばミリーナさんは弁当を作ってくる様になった。

 

「今日はね色々なおかずが入ったおにぎりお弁当なの!唐揚げ、ほうれん草の胡麻和え、里芋の煮っころがし、卵焼き、色々と入れてるの」

 

「……ありがとう、ミリーナ」

 

「ふふ、因みに1個だけシークレットが入っててそれにはか……ううん、やっぱり秘密にしておくわ!」

 

 シークレット……おにぎりの具材にシークレットってなにを入れたのだろうか。色々と気になるのだが受け取ると早速船に乗り込む。

 

「今日も熱々だな」

 

「いやぁ……ははは」

 

 船が出港する。ミリーナからのお弁当を受け取った姿を同僚は見ていたのでニヤニヤと笑う。

 俺は乾いた笑みでしか返す事は出来ない……俺は鈍感じゃないと言うか鈍感じゃなくても嫌でも分かる。ミリーナさんが惚れている事を。でなければこんな風に弁当を作ってこないだろう。だからこそ心が痛む。

 

「……ごめんなさい」

 

 俺は白崎敬太と言う人間だ。住んでいたところも親の顔も自分の名前も学生生活もハッキリ覚えている。

 前世の記憶は無いけど転生者である事を自覚している系の転生者じゃない。俺はこの男じゃなく白崎敬太だと自覚している。だから心が痛い。ミリーナさんが愛情を込めて作ったお弁当は俺の為に作られた物じゃない。男の為に作られた物だ。

 

「おーし、網を回収するぞ、手伝え」

 

「はい!」

 

 お弁当だけじゃない、漁師としての腕も生活も俺の物じゃない。

 俺は工業高校に通う何処にでもいる工業系の男子だった筈なのに……罪悪感が半端じゃない。

 

「……美味しい」

 

 魚をある程度取り終えたので昼食タイムに入る。

 ミリーナさんが愛情を込めた事でより一層に美味しくなっている……ああ、クソ。美味しいはずなのに罪悪感が原因で喉に上手く通らない。唐揚げのおにぎりや卵焼きのおにぎりは美味しいはずなのに罪悪感が襲って胃が痛い。

 

「いや〜今日も大量だったな」

 

「そうですね」

 

 漁の成果はまぁまぁいい感じだ。漁師なんて合わないと思っていたが意外と相性が良い。

 しかし面倒な事にこの世界には電気による文明は無い。変わりにキラル結晶とか鏡士とかいうのが存在している。鏡士として実験を失敗したせいで男は両親を失っている……筈だ。なんかよく分からないけども記憶が色々と曖昧なんだよな。

 

「おかえりなさい!」

 

「ミリーナ、ただいま。お弁当、美味しかったよ……でも、シークレットがなんなのか分からなかったんだけど」

 

「じゃあ、また今度入れてみるから当ててみてね」

 

 ミリーナさんにお弁当が入っていたバスケットを返す。

 

「……なぁ、ミリーナ」

 

「なにかしら?」

 

「俺に変わった事とかところとかおかしなところとか無いか?」

 

「う〜ん……最近身長が伸びてきたのと心配性が少しだけマイルドになった以外特に変わった事は無いわ……もしかして、私が気付いていないだけでなにか変化が」

 

「いや、ちょっとな……」

 

 ミリーナさんは俺の変化に気付いていない。元の男と俺は大分人物像が異なっているのだが、上手い具合に誤魔化す事が出来ている。

 ミリーナさんなら気付きそうな筈なのに俺の演技力そんなに高いのだろうか……いや、違うな。きっとミリーナさんも薄々気付いているかもしれない。現になにか変化が無いのかと眉を寄せて俺の顔をジッと見つめてくる。美女に真正面から見られると恥ずかしい。

 

「辛い事があったら相談して……1人で抱え込もうとするのは貴方の悪い癖よ」

 

 この男は何でもかんでも一人で抱え込んでいる、どちらかといえばネガティブな性格をしている。

 それは悪い事だとプンプンと怒っているミリーナさんは可愛らしい姿をしており、愛くるしいのだがそれは俺に向けられている感情では無い……胃が痛い。

 

「分からないなら分からないで大丈夫だ」

 

 ミリーナさんは俺が別人だという事に気付かない。

 それは喜ぶべき事か悲しむべき事なのかは分からない。だが、どちらにせよミリーナさんを騙しているも同然の事で罪悪感しかない。ミリーナさんにおかしな素振りを見せるわけにはいかないと弁当が入っていたバスケットを返して魚の出荷を手伝いに行く。

 この世界にはカメラとかはある癖に発泡スチロールとかは無いので木箱に魔術的なので作り上げた海水を凍らせて作った氷を入れる……養殖物じゃなくて天然物の魚、良い値がついてくれたら生産者として嬉しい事この上ない。

 

「さぁ、張った張った!生きのいいカツオだよ!」

 

「300ガルド!」

 

「うちは350ガルドだ!」

 

「だったらこっちは400ガルドだ!」

 

 競りに魚を出すと魚市場は賑わう。

 何処の業者が買ってくれるのか、ワクワクする。ガソリンスタンドのアルバイトとはまた大きく異なる物で自分の獲った魚が競りで競われ、高い値で売れると嬉しい。社会人としての自覚みたいなものが出来たのだろうか……

 

「ほれ、今日の給料だ」

 

「ありがとうございます」

 

「お礼なんてするな。同じ船に乗ってる仲間だろう」

 

 競りが全て終わり、船の船長から今日の取り分を頂く。

 ここ最近、いい感じに魚を取ることが出来ているので懐は暖かい……

 

「ゲーム、無いんだよな」

 

 ガソリンスタンドのアルバイトの初任給で家族全員牛角の1番高い食べ放題のコースを奢った事を思い出す。

 初任給の次の給料からはテレビゲームを買ったりプラモデルを買ったりと色々とオタクライフを過ごしていた。しかしこの世界にはそんな物は無い。お給料は食費と税金等の必要経費だけで貯まる一方だ。

 

「……俺にもっと電子工学の知識があれば」

 

 電気系の、プログラミングに関する知識とか色々とあるのだが流石に1からコンピューターを作る知識は無い。かと言ってこの世界にある鏡士とかの技術を発展させる程の知識を有していない。電気を作る装置の作り方を知っているがそこまでだ。

 どうせ転生させてくれるのならばチートの1つや2つ、寄越せと言いたい……でも仮にチートを手に入れたとしても石油探しと半導体製造装置を作ったりしないといけないから大変なんだよな。

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

 今日も今日とて変わらない日々を過ごす。

 この世界には普通に魔物とか居るのだが、生活圏内には現れない……が、無性に心配になってしまうので剣の素振りは欠かさない。1日100回の素振りと腕立て伏せとスクワットと腹筋を100回だけやっておく。漁師としての筋肉もつくので二重の意味でなにかとお得だ。

 

「はぁ……何やってんだろうな、俺は」

 

 日課の筋トレをし夕飯を終えて風呂に入って汗を流す。

 こんな感じの日々を30日、1か月間過ごしている。

 

「母さん、父さん、美紀、ヨシヒコ、みっちゃん、もっさん、何やってんだろ」

 

 両親の事を思い出す。妹の事を思い出す。友達の事を思い出す。過去を振り返ってみれば楽しかった時が多い。

 なんでこの男になったのか、なんで俺なのか……俺がいったい何をしたっていうんだ。確かに小中の修学旅行で靴下の中にお金を隠して持ってきていい限度額を超す金額を持っていったり、地酒を買って自宅に郵送したりと色々とやったけどもそこまで悪人じゃない。裁きを受ける悪人はもっと他にも居る筈だと俺は思うんだ。

 

「…………クソっ…………」

 

 停滞しているが何気無い日常を俺は過ごしている。

 きっとこれは第三者から見れば幸せなのだが俺はそれ以上に罪悪感が蝕む。俺は白崎敬太なんだ。決してこの男じゃない。ミリーナさんを幸せにして仲良く暮らすのは俺じゃない、俺じゃないんだ……。

 

「なぁ、(お前)。聞こえてるんだろう……だったらさ、俺と変わってくれよ」

 

 俺と記憶が混合して俺の、白崎敬太の人格が表に出てきているだけかもしれない。

 本来の人格が出てきてくれないかと座禅を組んで自分自身に問い掛けてみるもののうんともすんとも言わない……もしかすると俺が憑依した事でこの体の本来の持ち主の人格が消え去ったのかもしれない……クソっ……クソッ!!。

 

「違う、違うんだ……俺は、俺は白崎敬太なんだ」

 

 イライラしている自分の気持ちを落ち着かせる。自分はこの男じゃないと言い切るのだが心が痛み気付けばポロポロと涙を流している。

 なにをやってるんだ俺は。どうしてこんなに悲しい気持ちにならないといけないんだ。俺がいったい何をしたって言うんだよ……はぁ、憂鬱だ。

 

「……俺にミリーナさんに会う資格は何処にも無いよな」

 

 ミリーナさんはとても綺麗な女性で才色兼備だ。

 この男はリア充の道を歩もうとしている……それを横から突然と現れた俺が奪っていい筈がない。そもそもで俺は浮気なんかをしたくない。そして俺には勇気がない。男ではなく白崎敬太という日本人だと言う自覚はあるが俺はそれをミリーナさんに告げる勇気が無い。もしそう言ってしまえばミリーナさんは悲しむだろうか、激昂するだろうか、ショックを受けて涙を流すのは確実だろうな。

 

「……俺は居ちゃいけない存在なんだ……」

 

 死にたいと過去に何度か思った事があるがコレは今までの比じゃない。この世から消え去りたいと言う気持ちで胸がいっぱいになる。だが、死ねば俺の事を俺だと気付いていないミリーナさんは悲しむ……俺には決断力なんかも無い。ホントに何にもない、ないことだらけだ。

 どうすればいい?死ぬ度胸は無い。薬を飲んで死にたいと思うけど、その薬すらこの世界には無い。精神科に行きたいがそんな物はこの世界に存在しない、存在したとしても頭がおかしい人間だと思われる……。

 

「……悪い……すまない」

 

 謝ったってどうにもならない。だが、体や頭は勝手に動いてしまっている。

 机と向かい合い、ペンを片手に色々と書く……日本語とこの世界の文字は違うので間違えて日本語を書かない様に注意を払いつつミリーナさんや祖父に向けて手紙を書いた。

 

「……コレでいいんだ」

 

 俺には言う勇気はない。向かい合う勇気はない。どうしようもないクズと批判されても仕方がない奴だ。

 書きたい事を書き終えると俺は窓から家を出る。少しのお金と剣と釣り竿を持っていく……

 

「……ごめんなさい」

 

 俺は謝りながら家を出て行った。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

「え、朝起きたら居なくなっていたの!?」

 

 白崎敬太は逃げ出した。その事が発覚してから、逃げ出してから半日が経過した。

 何時もよりも早くに家を出たのかと思えばそうではなく、何時もの様に港に来ない事を心配をしたミリーナはイクスの家を尋ねるとイクスの祖父が朝から居ない事を教えてくれる。

 

「ミリーナちゃんが来たら一緒に読んでほしいと書き置きが置いてあったんだが」

 

 ミリーナが家に尋ねに来る事を想定していた白崎敬太は手紙を残していた。

 いったいなにがあったのだろうかと思いつつミリーナはイクスの祖父から手紙を受け取り、便箋を開いて中身を確認する。

 

「【ごめんなさい。先ずは一言そう言わせてください。貴女の前で正直に語る勇気がない自分を許してくれなんて言わない。一生罵倒してくれても構わない】……」

 

「ま、まさか自殺を」

 

「【コレを読んでいるという事はそこにミリーナさんとお祖父さんが居るのでしょう。驚かずに聞いてください、自分は貴方達の知っている男ではありません。白崎敬太と言う地球の日本にある日本人です。自分でコレを書いていてなにを書いているんだと思っていますが本当にそうなんです。遡ること30日前、気が付けばこの男になってしまいました。自分は白崎敬太だと自覚しています、何処に住んでいるのかどんな生活を送っていたのかハッキリと覚えています】」

 

 淡々と敬太の残した手紙を読み上げるミリーナ。ワナワナと手が震えている

 

「【ミリーナさん、自分は貴女が大好きだった男じゃありません。30日ほど頑張ってみましたが日を増せば増す程に貴女から感じる愛情が重たいモノだと自覚しています。貴女が大好きだった男はもしかしたらこの世から居なくなっているかもしれません。貴女が大好きだった男の代わりは自分には務まりません。許してくださいなんて甘えた事は言いません。自分の事を憎んで殺しに来るのならば受け入れます……たった30日だけでしたが貴女と過ごした日常はとても楽しかったです。ですが、自分には楽しむ権利はありません……コレで何度目かになるか分かりませんがごめんなさい、すみません……お祖父さん、許してくださいなんて言いません。貴方達の前で正直に告白する事が出来なかったヘタレな自分を一生憎んでくれて構いません】」

 

「……急になにか変わったと思ったら、まさかそんな事が……」

 

 祖父は手紙の内容を上手く受け入れる事が出来ていない。

 ワナワナと祖父の腕は震えており、ミリーナを恐る恐る見るのだがミリーナの瞳から光は失われていた。

 

「もう、イクスったらこんな設定まで作り上げちゃって……かくれんぼをしたいのね」

 

 ビリビリと敬太が残した手紙を破るミリーナ。

 笑顔を保っているがその笑顔からは狂気を感じると祖父は引いてしまう。

 

「ミリーナちゃん、イクスは」

 

「大丈夫、私がちゃんとイクスを連れて帰って来ます!」

 

「いや、あの手紙にはイクスはイクスじゃなくなってるって書いていたんだが」

 

「それはイクスの作った新しい設定よ!私、昔見たの。イクスが考えたカッコイイ格好や設定が纏められたノートを。きっとイクスはその妄想と現実の区別がつかなくなって出ていったのね!!」

 

 イクスったら可愛いと微笑むミリーナ。

 イクスに対してこんなに思いを寄せていたのかとミリーナの愛の重さを祖父は感じるのだがブレーキ役が何処にも居ないので話は続きやめられない止まれない。

 

「……イクス、大丈夫よ。例え貴方が貴方じゃなくなっても私は私で貴方は貴方なのよ」

 

 ミリーナに瞳から光は失われるが逆に笑みを浮かび上がる。ウフフと笑っているその姿からは恐怖しか感じない。

 

「イクス、お前ずっとそんな事を隠してたのか」

 

 祖父はイクスの隠し事に気付けなかった事を悔やむ。

 何気無い平穏な日常すらもイクスになった白崎敬太にとっては苦痛でしかない。幸せを感じると罪悪感に苦しめられてしまう。それは胸が痛みとても切ない思いになってしまう。

 

「イクス……ふふふ、イクスの体内には私の髪の毛があるんだから私達は常に一心同体なのよ……」

 

 この後、逃亡した白崎敬太もといイクスはミリーナが女の勘だけで居場所を当てられるのをまだ知らない。

 そしてそこから先を知らない。ティル・ナ・ノーグの命運をかけたKCグランプリやヒロイン十二宮等の様々なイベント(狂気)がある事を。




テイルズオブザレイズ編は色々と馬鹿にやりたいんだ。複数の転生者は出す予定です。ミリーナは当然の如くバグヤンデレで想像妊娠する予定です


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いざ参らん ローランス帝国

っしゃあオラ!本編出したぞ……オリジナルの小説のネタばかり浮かび上がる。感想評価投票お願いします


 

「っで、その大地の汽笛ってのはなんなのよ?」

 

 アリーシャとベルベットの体調が元に戻り、アイゼンがエドナと共に住んでいた小屋から出た。

 大地の汽笛を用いてハイランドの隣国であるローランス帝国に使者として親善大使的な立ち位置で向かうらしい。細かい事はアリーシャが上手くやってくれるのでオレは余計な事を考えなくてもいい。

 

「ちょっと待ってろ……何処だったか」

 

 ベルベットは一刻も早くマオテラスに会いたい。しかし物事には順序というものがある。

 それを無視してアルトリウスを殺しに行って失敗に終わった経験があるので駄々をこねる事は基本的にはしない、アリーシャの顔を立ててくれる。ローランスとハイランドの両国で和平を結ぶ為に……流石にねえとは信じたいが自らが汚れ役になって、それこそ災禍の顕主として再び暴れまわりローランスとハイランドの両国に戦争なんてしている場合じゃないと認識させるコードギアスのルルーシュ並の大芝居をうつのはゴメンである。

 

「あったあった」

 

「また笛なのね」

 

「ああ、また笛だ」

 

 アイゼン達は協力をしてくれる。ザビーダは元からマオテラス狙いだったらしいが天族の協力を得る事が出来ることは嬉しい事だ。

 懐の中を弄り、目当ての物こと大地の汽笛を呼び出すのに必要な笛、パンフルートを取り出して大地の汽笛を呼び出す。シュポシュポと蒸気を巻き上げて車輪を動かし、レイフォルクの険しい道を登ってくる。

 

「……なに、アレ?」

 

「ん〜……一言で言えば馬無しで走る事が出来る馬車だ」

 

 大地の汽笛を見て固まるベルベット。

 過去の時代でもあんなのは見なかったので、驚くしかないだろう。

 

「おぅおぅ、あの噂はホントだったんだな」

 

「噂って?」

 

「レディレイクと海辺の街の間にバカデカい煙を出す馬のない馬車が走ってるって噂だよ」

 

 ザビーダも驚いているが何処かから流れ出た大地の汽笛の噂があったのかスムーズに飲み込む。

 コレが噂の乗り物かと臆する事なく大地の汽笛の中に乗り込んだ。

 

「……コレがお前がアリーシャを寄越すから国に従属しろと狙われるわけか」

 

 オレとアリーシャの関係性はハニトラしているのとされている側の立ち位置だ。

 アイゼンはこんな物を一個人で持っているのならばと1人納得をしつつも大地の汽笛をジッと見つめる。

 

「コレってそんなにスゴい物なの?馬よりは早そうだけど……」

 

「電話の時と同じだ。電話は報連相を一気に短縮する事が出来るが大地の汽笛、というよりは列車は物流を円滑にスムーズに運ぶ事が出来る。大地の汽笛そのものの量産は不可能だが列車の量産ならば簡単に出来る……分かりやすく言えば数時間でお前の故郷からローグレスに辿り着く事が出来る。そうなると都会でしか手に入らない、田舎でしか手に入らないなんかを減らす事が出来る」

 

「……コレがアバルにあれば業魔を無視して薬を届ける事が……」

 

 大地の汽笛の凄さをイマイチ理解出来ていないベルベットなので簡単に解説すると浮かない顔をする。

 アバルの村は片田舎の村で一部の物資が業魔が原因で届かないなんて事もあったらしい……どちらかといえばシティボーイなオレには縁遠い話の世界だ。

 

「で、なにかデメリットかなにかあるのか?」

 

「勿論ある。コレは蒸気機関、つまり湯気の力を利用して動いている。火を炊かないといけないもので蒸気も汚い空気を、排気ガスを出す。排気ガスは危険な物で空気を汚染したりしてだな……まぁ、環境が悪化する」

 

「……大丈夫なのか?この大地の汽笛1つならまだしも、複数の量産に着手したら」

 

「ハイランドは空気が汚染された国になるな」

 

 アイゼンは眉を寄せて難しい顔をする。こんな便利な物になんのデメリットも無いのはおかしいと考える……相変わらず洞察力には優れている。

 便利な物に見えるが危険な物だと分かるとアリーシャは慌てるが大地の汽笛1個分の排気ガス云々ならば国の環境が悪化する事は無いだろう。

 

「安心しろ、蒸気機関を用いない乗り物の作り方はちゃんと(ここ)にある」

 

「……船はあるのか?」

 

「当然あるぞ……ただし、優先順位的に船は後回しにされる。北の国とローランスとで色々と出来ているからわざわざ異大陸と交流する必要は……まぁ、無いとは言えないけども……作るとなるとオレ1人でどうにかなるものじゃない、工業の世界に入る」

 

 異大陸に行く船を欲しがるアイゼン、やっぱり海の男なんだな。

 しかし残念な事に異大陸に行く船を作るならばオレ個人の問題ではない、それこそ国を挙げての一大プロジェクトにしないといけない。鉱山を見つけたり、バイオプラントを用意したりと色々とやらなきゃいけない事が多い。

 

「さて、無駄話なんかをしておきたいがそれは今じゃなくてもいい……出発する……ところで首都は何処に?」

 

「ああ。ローランス帝国の首都であるペンドラゴはここにある」

 

 色々と話をしたい、気になる事を聞きたいのだろうがそんなのは後回しだ。

 アリーシャは現代の地図を取り出すとローランス帝国の首都を指差す……って

 

「ローグレスがあったところじゃねえか」

 

 1000年前の地図を取り出して照らし合わせる。

 ローグレスがあったところがローランス帝国の首都……運命というか意図的な物を感じるな。この世界、ゲームの世界だからな……まぁ、見知ったルートで見知った場所に向かうから少しだけでも気は楽になるだろうな。アリーシャ達が大地の汽笛に乗ったのを確認すると目的地に向かって出発をする。

 

「ねぇ、アイゼン」

 

「なんだ?」

 

「ラフィは……あの子は幸せに生きる事が出来たの?」

 

「死神と一緒の船に乗っていたんだ、波乱万丈な人生は送ったとしか言えない……だが、最後は笑って終わりを迎える事が出来た」

 

「そう……」

 

「ゴンベエの力を使って過去に戻るつもりはないのか?」

 

「確かに、元気になったあの子ともう一度やり直す事が出来るのならばやり直したい……けど、それは出来ない事。私が世界を荒らし回った罰だと思ってこの時代を謳歌するわ」

 

 道中ベルベットはライフィセットについてアイゼンに尋ねる。

 アイゼンは最後を見届けたらしく、最後は笑顔であった事を伝えるとベルベットは満足する……過去に戻るつもりは一切無いだろう。オレも時のオカリナで時の歌を吹くことはもう無いかもしれない……過去を振り返る時間はもう終わったんだ。

 

「いや〜早いな、この大地の汽笛ってやつはよ!」

 

 あっという間にグレイブガンド盆地を通り越した。

 ザビーダは車窓から顔を出し、大地の汽笛の風を感じて笑う……清々しいみたいで何よりである。軍の駐屯地みたいなところも簡単に無視して突破することが出来ている……1度、開戦した際に起きたヘルダルフとの戦いの際に一般兵を封印したのがいい具合に戦争推進派の抑止力になったんだろうな。

 

「……ん、雨か?」

 

「お、そろそろだぜ」

 

 前に人が居ないか警戒しつつ大地の汽笛を走らせる。

 大地の汽笛は順調にペンドラゴに向けて走っていくのだが雨が降ってくると同時に強い穢れを感じる……ヘルダルフ程とは言わないが厄介な存在がローランス帝国にも潜んでいる……ハイランドに潜んでいるヘルダルフの間者もローランスに潜んでいるのも纏めてボコボコに……いや、ダメか。オレが力技で解決したら意味は無い、ヘルダルフを殺しに行くのと同義だ。

 

「どうしてペンドラゴが近いと分かったのですか?」

 

 雨雲の中に入った際にザビーダはペンドラゴが間もなくだと教えてくれるが何故にわかったのかアリーシャは疑問を持つ。

 

「ペンドラゴを中心に穢れの領域が展開されててな……お陰様で毎日が雨になっている」

 

「それは……大丈夫なのですか?」

 

 雨が止まないというので実害が無い様に思えるアリーシャだがザビーダは首を横に振る。

 

「全然大丈夫じゃねえ。農作物はまともに育たずカビが生える、川は氾濫する、他にも色々と被害が被ってるぜ」

 

「天候1つ操るだけでそんなにも被害が……」

 

「今はなんとか蓄えを使っての自給自足とハイランドとの貿易で上手い具合になんとかなってるみてえだが……何れは国自体が保たない」

 

「厄介な相手ね」

 

 少なくとも今までの相手の様にただ暴れまわるのでなく考える事が出来る、知性があるタイプの相手だ。

 策略とかそういうの考えるのは実にめんどくさい。暴力で解決出来る案件ならば暴力に頼るのに一択で済むのにな……まぁ、それはそれでアリーシャ達に気を使わないといけないからめんどくさいけど。

 

「ペンドラゴが見えてきた……レイフォルクを出発してからこんな短時間で辿り着くのか」

 

 色々と考えている内にローグレスもといペンドラゴが見えてくる。

 1000年前に何度も何度も立ち寄った街だが外装は少しだけ変わっている……ん?なんか騎士団っぽい人達が出てきて武器を構えているぞ?

 

「ゴンベエ、そろそろ止めないと……ハイランドから使者を送ると一筆してあるが具体的に何時とかそういうのは」

 

「あ〜……あの騎士団達は?」

 

「恐らくだがお前の、いや、大地の汽笛がペンドラゴに向けて突撃してくると思っているのだろう。ゴンベエ、そろそろ速度を落とせ。このままだとオレ達が」

 

「はいはい、分かってるって…………そうか……」

 

 大地の汽笛でペンドラゴに向かって正解だったな。

 ペンドラゴの入口周辺には騎士団っぽい人達が並んで盾の様な物を構えている。そんな事をしなくても入口付近で大地の汽笛は停める……が、コレは好都合だな。大地の汽笛はポッポーと煙を上げるがここまでだ。ペンドラゴの入口付近で止める。

 

「さてと……ベルベット、此処からは割と大事な話だ」

 

「なによ、改まって」

 

「過去の時代ではお前の顔を立てる様に立ち回ったがこの時代ではアリーシャの顔を立てなければならない。オレ達は対魔士でも導師でもなんでもない一般人だ」

 

「一般人……一般人ね……何処が一般人なわけ?」

 

 怪しい道具と理不尽なまでの力を持った勇者を自称する男と世界を災厄と混沌に満たした初代災禍の顕主である女、それを一般人というのは無茶だと言いたいのだろうが……う〜ん、まぁ、コレばかりは仕方がない事だ。

 ベルベットは自分達が普通じゃない人間だという事は自覚している。それはいいことだがオレ達は昔みたいに色々と出来るわけじゃない……ホントに何もない状態だ。

 

「怪しげな鉄の馬に乗る者よ!このペンドラゴになにをしに参った!!」

 

 ベルベットにアリーシャの顔を立ててくれと頼んでいると1人の男が大地の汽笛に近付いてくる。

 今までの騎士団員とは風貌が違う、というか兜をつけてない……そこそこ出来る実力者っぽい……が、話し合いが通じない相手ではなさそうだ。

 

「私達は敵ではない!ハイランドよりこのローランス帝国に使者として参った者だ!」

 

「っちょ、アリーシャちゃん声が大きいって!」

 

「いいんだよ、これで」

 

 テクテクと歩いてくる男の前にアリーシャは立った。

 コレがその証明だとアリーシャは書状を取り出し、受け取ると驚いた顔をするが直ぐに冷静になったのか頭を下げる。

 

「コレはわざわざ御足労であった」

 

「…………いえいえいえ、そんな御足労だなんてとんでもない。我々には大地の汽笛がありますのでレディレイクからこのペンドラゴまで数時間掛ければ簡単に向かう事が出来ます」

 

 アリーシャがハイランドからの使者だと分かれば頭を下げる男。

 ここまで来るのに色々とあったのだろうと予測するのだがそれを逆手に取って太鼓を持ち上げる。

 

「む、そなたは?」

 

「ああ、失礼いたしました。私はナナシノ・ゴンベエ、アリーシャ様の護衛及び雑務の補助等をしております。ああ、あちらにおらっしゃるのはベルベット・クラウ、私と同じくアリーシャ様の護衛をしており身の回りの世話等もしております」

 

「そうか……ところでアレはいったい」

 

「一言で言えば馬も無しに走る事が出来る馬車で御座います。色々と小難しい原理で走っておりますので気にはなさらず……この無駄に鬱陶しい雨の中では何ですし何処か別の場所で話し合いをしたいのですが?」

 

「あ、ああ。直ぐに手配をする……自己紹介がまだだったな。自分はローランス帝国白皇騎士団団長セルゲイ・ストレルカである」

 

「アリーシャ・ディフダと申します……此処ではなんですのでまた後ほどに」

 

 互いに自己紹介を終える、一歩前進だがこの雨が実に鬱陶しい。

 厄介事にコレから巻き込まれると考えると地味に胃が痛く……ならないな。最終手段として暴力という手段が残っているから心の何処かでなんとかなると思っている自分がいる……脳筋思考だな、オレは。

 セルゲイはアリーシャとオレとベルベットを手厚く歓迎してくれる。雨の中で外で対話をしていてもアレなのでこの街で1番の宿屋を取ってもらう……いやぁ、ハイランドから助成金が出ているからケチる事をせずに済んで良かった。

 

「私達が従者ね……」

 

「しゃあねえだろ。そういう設定にしておかねえとオレ達は怪しまれる」

 

 宿に入り一息つくとなにか言いたそうな顔をするベルベット。

 名目上はアリーシャを頂点としその下にオレやベルベットがいるという設定を通しておかないといけない。なにせこちらには導師なんて便利な職業(ジョブ)についている人間は1人も居ないのだから。

 

「此処はお前が暴れ回った時代じゃない、今から平和を築き上げる時代だ……災禍の顕主なんかじゃないんだ」

 

「……分かったわよ」

 

 やや不満そうにしているがベルベットは一先ずは納得してくれる。

 セルゲイと色々と対談してみたいところがあるのだが……う〜ん、どうしたものか。セルゲイは見たところ忠義心は有れども争いは好まないタイプの人間だろう。アリーシャが戦争の鉾を納める様に協力してくれと頼めばすんなりと首を縦に振ってくれる……だが、厄介事はまだまだあるな。

 

「大変だなぁ、お前等も」

 

「呑気に言いやがって……こういう時、見えないの便利だな」

 

 アリーシャの従者設定等を笑うザビーダ。

 オレやベルベットが誰かの下に傅くのは滑稽だろう……でもこういう事をしておかないと後々痛い目に遇うんだよな。

 

「2つの国の啀み合いは人間同士の問題だ。カノヌシによる霊応力増加で一般人に天族が見えていた時代ならまだしも今の時代はオレやザビーダは力になりづらい」

 

「それでも居てくれるだけでとても心強い」

 

「……そうか」

 

 純粋な敬意を向けられるのには馴れていないアイゼン。

 なんとも言えない微妙な顔をしていると部屋の入口のドアがコンコンとノックされる。アリーシャはどうぞと言えば先程の暑苦しい男もといセルゲイが入ってきた。

 

「時間を掛けて申し訳ない」

 

「いえ、そちらにも何かしらの都合があるのでしょう……アリーシャ様、後はご自由に」

 

 話し合いの場を設ける事に成功した。

 このセルゲイという男、信頼していいのか悪いのかはまだハッキリとは分かっていないが……話し合いの通じない相手ではない。アリーシャはセルゲイの前に立った。

 

「……この様な事を他国の者に聞くのは気が引けるのだが単刀直入に言おう。我々ハイランドはローランスと戦争はしたくはない、和平を結びたいと思っている」

 

「……それは脅しですかな?ハイランドには導師がいる。先のいざこざで導師の逆鱗に触れてグレイブガンド盆地にいた者の命を止めたと聞いている」

 

「アレは両国痛み分け……いえ、違います。アレは裏で糸を引いている災禍の顕主を叩きのめすのに必要だった事です」

 

「災禍の、顕主?」

 

「導師が鎮めなければならない宿敵、と言ったら分かりやすいと思います。裏で戦争を手引きしている者が居てそれをゴンベエ、いや、導師達が制裁をくだしたのです」

 

 やっぱりというかヘルダルフの一件が尾を引いているらしい。

 ローランス帝国的には導師の事をどう思っているのだろうか?ハイランドの様にインチキ扱いするかそれとも逆に戦争に利用する事が出来ると思っているのか……

 

「導師達が?……とてもそうは思えない。自分が会った導師を名乗る青年はとても真っ直ぐな男だった」

 

「導師スレイの事をご存知なのですか?」

 

「ああ。ラストンベルで偶然にも鉢合わせをして……とても怒っているとは思えない」

 

「失礼、その導師スレイとはこの様な顔でしたか?」

 

 此処で間に割って入る。

 ローランスとハイランドの最初の開戦以降、導師の噂はうんともすんとも聞かない。ザビーダがローランス帝国側にスレイが居るというのを風の噂で聞いた程度だ。導師の偽者が現れていたので一応の為に確認をしておこうとスレイの人相書きをすると、おお!とセルゲイは声を上げる。

 

「導師の事をご存知なのか」

 

「諸事情により20000ガルドほどお金を貸しているので……どうやら無事に貴方の様な人と遭遇する事が出来た様ですね」

 

 スレイの方も一応は旅が順調だった様でホッとする。彼奴は恐らくは主人公的な立ち位置の人間だろう。主人公補正でなんとかなるだろうとは思っていたが実際に無事だった事を知ることが出来てアリーシャはホッとしている。

 

「我々はローランスとハイランドとの小競り合い及び戦争の締結を目指しております。その為にはハイランドだけでなくローランスの力も必要となっております。どうかお力を貸してはいただけないでしょうか?」

 

 ペコリと頭を下げるアリーシャ。和平云々の交渉を持ち込む人間が早々に頭を下げていいものじゃないのだが此処はアリーシャの顔を立てないといけない。

 

「頭を上げてくれ……近年の異常気象や飢饉等でローランス帝国もなにかと大変で……戦争をしたくはないという気持ちは充分に理解した。自分も無益な争いなどは繰り広げる事はよしとしない」

 

「では、和平を」

 

「そうしたいのは山々だが問題が山積みなのだ。枢機卿を始めとし教皇の行方不明等色々とあってな……なにより、この長雨でペンドラゴ自体が危機に危ぶまれてる」

 

「……雨が邪魔ならばどうにか致しましょうか?」

 

 戦争を反対に持ち込むには厄介な存在をどうにかしないといけない。

 隣の国も大変だと思っているとアリーシャがチラリとオレを見ている……まーた、オレに頼み込むのか。いやまぁ、いいんだけどさ。

 

「雨をどうにかする?」

 

「……ゴンベエ」

 

「了解致しました、アリーシャ様」

 

 なにを言っているんだと頭に?を上げるセルゲイ。

 結局のところはオレ頼りなのは相変わらずだが頼られたからには力を発揮するしかないと時のオカリナを取り出して太陽の歌を吹いた。するとどうだろうか、雨雲ばかりでどんよりとした空気だったペンドラゴに一筋の光が差した。

 

「おぉ、おぉ!!ペンドラゴが、長雨続きだったというのに太陽の日差しが入った……貴公はいったい」

 

「名無しの権兵衛だ……っち、無理か」

 

「また雨が降ってきたわね……コレも業魔のせいかしら」

 

 オレが何者かと聞いてくるので何時も通りの答えを出す。オレはオレなんだ。

 天候を晴れに変えてみたものの、この街の何処かに住まう憑魔が無理矢理雨を降らせている……神秘的な存在ってこういう事もあるから嫌なんだよな。

 

「それでセルゲイ殿、我々としては和平を結びたいのです。その為には災禍の時代を終わらさなければなりませんが……導師スレイは何処に?」

 

「実は教皇様が1年程前から行方不明になっていて……導師の妻が、ゴドジンという村に教皇様の手掛かりがあると見つけたのです」

 

「…………え、ごめん。今なんて言った?」

 

「導師の妻がゴドジンという村に教皇の手掛かりがあると……我々騎士団が調査をしたいのは山々だが大っぴらに動くと枢機卿が今度は何かをするのか分からない、もしかしたらの可能性……どうされました?」

 

「…………あいつ、何時の間に結婚したんだ……」

 

 こんな世の中が混沌しているというのに嫁さんを捕まえるとは……もしかしてスレイみたいになんの補助も無しに素で天族を見れる奴が現れたのだろうか?いやまぁ、それならばそれでいいことだが……アリーシャがなにかと不便な気もする。

 

「田舎から来た若い青年で世間の事には疎い……案外、コロッと落ちちまったかもしれねえな」

 

 ザビーダはスレイの結婚云々を冷静に分析する。

 同じものを見て感じる事が出来る人ならば、か……まぁ、スレイも所帯の1つでも持てば色々と意識が変わるだろうからその辺りについてやぶ蛇を突くのはいけない事だ。

 

「導師スレイとの再会を果たすのを優先的にしないといけないな……セルゲイ殿、情報をありがとうございます」

 

「導師を追い掛けに行くのか?」

 

「ええ、良くも悪くも今の社会に必要なのは導師の様な存在です。なんとかして合流を果たして力添えをと思います」

 

 オレとの対談はここで終わる。今日のところはコレぐらいにして明日からゴドジンに向かって出発をする。

 セルゲイと話し合う事は終わったので失礼すると宿屋の一室から出ていく。

 

「……どうも上手くすんなりとはいかないみてえだな」

 

 一連の会話を聞いていたザビーダはやれやれといった顔をする。

 和平を結びたくても国の重要機関の偉いさんが行方不明に加えて枢機卿は怪しげな力を持っている……厄介事はまだまだ続くな。平和への道、遠すぎる。メルキオルのクソジジイが鎮静化に逃げたくなる気持ちが分からなくもない気がしてきた。




再来年までにはヘルダルフ殺して……オリジナルの小説を書いてみたい。需要あるかどうか分からないけども

スキット 時代の停滞

ゴンベエ「しかし……アレだな」

アイゼン「なんだ急に?」

ゴンベエ「ここがベルベット達が生きていた時代から1000年後の世界なのは分かるが1000年前と対して変わらないな」

アイゼン「むっ……地図の上ではかなり変わったのだが」

ベルベット「地形が変わっただけでなにか新しい物を、それこそ大地の汽笛みたいな便利な乗り物の1つも作れていないでしょう……こう、昔読んだ本で空を飛ぶ乗り物とか見たけど、そういうのは出来なかったの?」

ザビーダ「いんや、全然だ。神依に負担を掛けさせない術式にするとか地の主を置くとか天族関連の技術は進歩したがジークフリート(こいつ)みたいなのを新しく作る奴は1人も現れなかった」

アリーシャ「1000年前の様に天族が人間に力を貸していないから」

アイゼン「この世界は今、詰んでいる世界だ。新しい技術を編み出さなければならない……それこそ天族の力を借りずに神秘的な事が出来る様にしなければならない」

ベルベット「聖隷の力無しで聖隷の力を再現……口で言うのは簡単だけど、難しいわね」

ゴンベエ「仮に出来たとしても色々と問題は山積みだぞ。神秘的な事を神秘的な力一切無しでやってしまえばそれこそ信仰の文化は大きく廃れる。神秘的な力を持って使ってこその信仰だ」

アリーシャ「もしかしてこの大陸の文明が1歩も進歩していないのはそのせいかもしれないな……」

ゴンベエ「皮肉だな……だがそれが現実というものだ。宗教は人類を纏めるのには便利かもしれねえけど進歩するのには邪魔な存在なんだよな」

ザビーダ「マジで皮肉にもならねえよ、それは」

スキット 距離感

アリーシャ「そうだ、ゴンベエ」

ゴンベエ「なんだ──ぅぶぅ!?」

ザビーダ「ちょ、ちょっ、アリーシャちゃんなにやってんだ!?なんで鳩尾を殴るんだよ」

アリーシャ「ゴンベエ、私は前に言った筈だよね。あの似非紳士の様な喋り方はするんじゃないって……」

ゴンベエ「いや、だってお前の顔を立てておかないと。一応はお前はハイランドの代表の様なものだろう、オレとベルベットは従者って設定で通しておかないと色々と損をする。分かるだろう、それぐらい」

アリーシャ「分かるよ!ゴンベエの言いたいことも一理ある、でも、だって……ゴンベエが他人行儀なのは嫌なの!」

ゴンベエ「オレだってあんな風にするのは気疲れする。でも、お前の顔を立てるには」

アリーシャ「っ、やめてよ!そんな風にされても私、全然嬉しくない。何時ももたいに敬語とか無しにしてよ」

ゴンベエ「コレばっかりはな……」

アリーシャ「……グスッ」

ゴンベエ「泣いたってダメだからな!」

ザビーダ「アイゼン、ブラックコーヒー的なのはねえか?」

アイゼン「何時もの事だ、馴れろとしか言いようがない」

ザビーダ「毎回こんなやり取りしてるのか……マジか……」

ベルベット「……ホントに気持ち悪いから似非紳士みたいな喋り方はするんじゃないわよ」

ゴンベエ「んだよ、こっちは真面目にやってんだぞ……ったく」

ベルベット「……そんなに私達と距離を置いていたいの?」

ゴンベエ「最低限のモラルとかマナーとかのギリギリのラインは守るタイプなんでな」

ベルベット「ほんっとに気持ち悪いからやめてよ。あんたと私達の仲でしょうが!」

ゴンベエ「親しき仲にも礼儀ありだ。止めてほしいならさっさと平和条約的なのを結ぶぞ」

アリーシャ「……嫌だ……ゴンベエとはフェアな関係が……距離を置かれている……」


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雨のちレインボー

もう色々とやっちゃったぜ……マジで想定している通りに話が進まねえ……早くスレイと色々と絡ませたいんだけどね。
皆、そんなに番外編よりもこの小説を更新しやがれと思ってるのか……まぁ、仕方ないですか。


 

「懐かしいな」

 

「なにがだ?」

 

「此処で神父に懺悔した事もあったと思ってな」

 

 ゴドジンに向かう事が決まったのだが直ぐにゴドジンに向かう事はしなかった。

 オレ的には一刻も早くスレイ達と再会を果たしたいのだがザビーダとアイゼンは連れて行くところがあると向かったのは聖堂だった。ベルベットやオレ達にとってはほんの少し前だがアイゼンにとってはかなり過去の出来事なので懐かしむ。

 

「ベルベットやロクロウが懺悔してドン引きされてたな」

 

「ああ……神父が逆に病んでしまってエレノアが口を聞いてくれた事もあったな」

 

 オレ達にとってはほんの少し前までの出来事だが、アイゼンは1000年ぶりの事で色々と思うところがある。

 そういえばそんな事もあったなと軽いノリで言えばアイゼンは笑みを浮かべる。色々と苦しくて辛い事もあったがあの頃はとても楽しい輝かしい思い出なのだろう。

 

「それで、わざわざ聖堂になんの用事なの?」

 

 思い出に浸るアイゼンに対してベルベットは特に無い、ベルベットにとってはほんの少し前までの出来事であるから当然だ。

 この時代的にアイゼンやザビーダが誰かと知り合いで有力な情報をくれる的なのはまず無い。じゃあなんの為にやってきたのだろうか?

 

「この教会にはよ……マオテラスが祀られてる」

 

「っ!!」

 

「ほぅ……アイツも随分と偉くなったな」

 

 聖堂に祀られている五大神の1人で浄化の力を齎したライフィセット、いや、マオテラス。

 ここがマオテラスの神殿なのかと思っているのだが特になにか不思議な力を感じたりはしない。極々普通の一般人でも立ち寄る事が出来る聖堂だ。

 

「あの後、アリーシャがパーシバルに手紙を送ったおかげで四聖主の信仰の文化が復活した……だが、マオテラスを信仰する文化が新しく出来たせいで……」

 

「揉めたんだな」

 

 四聖主の信仰の文化をもう一度とアリーシャはアリーシャなりにフォローをした。

 しかし厄介な事にマオテラス教が生まれてしまった。天族を信仰する文化を復活させる事は出来たのだがそれだけで上手くは行かなかったとアイゼンはいい顔をしない。宗教に政治が関わるとホントにロクな事にならないな。

 

「本当なら此処にマオ坊が居るんだがな……」

 

「ヘルダルフの魔の手に晒されている、か……なんとしてでも助け出さなければ」

 

 目的を見据えるアリーシャ。ここに来たのは決意を新たにさせる為だろうか?

 まぁ、具体的な目標を持っている事は良いことだ。一応は礼拝に来ているので十字を切ってそれらしい素振りを見せる……オレの信仰はマオテラス教じゃないけども。

 

「フィー、待っててね。必ず会いに行くから」

 

「お〜し、帰るか」

 

 決意を新たにする事が出来てベルベットとアリーシャがいい顔をしている。

 今日はもう遅いので宿で一泊してからゴドジンを目指す方向でいいだろうと思っているとどんよりとした空気が流れる

 

「っ!!」

 

「コレはアイゼンの時と同じの!!」

 

 異変にはアリーシャもベルベットも直ぐに気付く。

 どんよりとした空気、それは穢れの領域の中……ヘルダルフの時より規模は小さいがハッキリと穢れの領域だと分かる……が、そこまでだ。

 

「コレぐらいならばどうにかする事が出来るだろう」

 

 危険な領域である事には変わりないが、コレぐらいならば1000年前にザラだ。

 何があるのか分からないとアイゼン達は身構える……このメンツに喧嘩を売ってくるとか正気だろうか?

 

「……コレは石像?」

 

「にしちゃリアル過ぎねえか?」

 

 戦わなければならない、ヘルダルフとか潜んでたらどうしようかと考えていると石像を見つける。

 こんな石像あったっけ?とベルベットは首を傾げ、ザビーダは石像の作り込み具合がリアル過ぎる事に疑問を持つ……

 

「この石像、人間なのか?」

 

「あら、おわかりですか?」

 

「っ、誰だ!!」

 

 嫌な予感がすると思っているとシスターっぽい格好をした女性が現れる。

 女性は何処からどう見ても人間だが……穢れを放っている。ロクロウみたいに限りなく人間の状態を維持した憑魔だろうか。

 

「私はローランスていこ──」

 

「デラックス・ボンバー!」

 

「くきゃあああああ!!」

 

「……おい!!」

 

「敵と分かった以上は慈悲など不要だ」

 

 シスターっぽい格好をしている女性が名乗りを上げようとしたので開幕のデラボンを撃つ。

 あまりにもいきなりの事で色々と段階をすっ飛ばしているのでザビーダはツッコミを入れるがアイゼンは横で呆れている

 

「そうだった。ゴンベエはこういう奴だった……1000年ぶりだから忘れていた」

 

「アリーシャの顔もベルベットの顔も立てないといけないわけじゃないからな、明らかに悪意を持って接してくるのならばそれに応えさせてもらう」

 

 この女は明らかに狙ってオレ達の前に現れる。

 実にめんどくさい事を引き連れてきてきてるんだろう……む

 

「浄化出来てねえな」

 

 何時もの憑魔を元に戻すぐらいのデラボンを撃ったのだが穢れの領域が消えない。

 ザビーダがマオテラスの浄化の力を用いてもどうすることも出来ない事があったと言っていたがマジな様だな……人間の悪意はとことんヤバいからな……

 

「どうするの?燃やす?」

 

「ローランス帝国と名乗ってたし、身なりからそこそこの偉いさんだろう。殺したら揉める」

 

「揉める揉めない以前に殺そうとするんじゃない!!」

 

 殺すことに躊躇いが無いオレとベルベットをアリーシャは叱る。

 この時代では過去と違って殺すことによる事件の解決は良くないこと……いや、そもそもで殺しとか暴力で物事を解決する事自体がいけないことだ。オレのデラボンで女は気絶してしまっているのでどうしたものかと考えているとアイゼンとザビーダは険しい顔をしている。

 

「参ったな」

 

「穢れがキツいならアリーシャの中に籠っとけ」

 

「いや、そうじゃねえ。穢れがキツいなら最悪ジークフリートに頼る……この女、厄介な女だ」

 

「ああ。自我を保ったまま憑魔化してやがる」

 

 参ったなと言いつつもロープを取り出して縛り上げるアイゼンとザビーダ。

 口ではああだこうだ言っててもなんだかんだで仲良いよなお前等。ともかく自我を保ったまま憑魔化しているのが何故にヤバいのかを尋ねてみる。

 

「大抵の憑魔は穢れに飲み込まれて自我を失う。だが、中には強く折れない心を持った上で憑魔化してしまった人間もいる……そういう人間ほど浄化が追い付かない、届かない。マオテラスの浄化の力を用いても元には戻らない……やり直す気持ちが無いのだから」

 

「成る程……確かにそりゃ厄介だ」

 

 アイゼンから解説されるとオレとアリーシャは納得する。

 マオテラスの浄化の力が間に合わない程の穢れを溢れさせているこの女は危険だ……だが、この女が裏で要らんことをしているのは変わりはない。殺せばそれで解決する案件だがそういうわけにはいかない。

 

「ん?なにしてるんだ?」

 

「あくまでもオレの予想だが、コイツはメデューサだ」

 

「メデューサ?」

 

「見たものを石に変える憑魔だ……此処にある石像は石像じゃない、石にされた人間だ」

 

 アイゼンが女の目元を隠す。メデューサ、憑魔の一種なのか。

 アリーシャはアイゼンの予想は当たっている事を信じているので目元を隠す事をするのは止めに入らない……

 

「この人に、なにがあったんだろう?」

 

 アイゼンやザビーダの見解では自我を保った憑魔は浄化するのが難しい。折れない心を持っていた人が折れてしまったのだから。

 アリーシャは倒れている女の事を心配する。ベルベットの一例があるので頭ごなしに否定から入らない。

 

「ベルベット、めんどうだと思うが付き合ってくれ」

 

「……まぁ、何かしらの理由があるんだったら……」

 

 対話をしようとする心をアリーシャは持っている。それはめんどうな事だとアリーシャは自覚しているが真剣に向かい合おうとしている。

 今日はもう休むだけなので残っている時間をこの女と向かい合う事をしようとしている……めんどうだがちゃんとしっかりしている。

 

「ゴンベエ、叩き起こしなさい」

 

「はいはい……起きろ!気付ショック!」

 

 オレのデラックス・ボンバーをまともに受けて気絶している女。

 とりあえずはと気付ショックをくらわせるとゴホッと咳を吐いた……意識は目覚めただろう。

 

「ここは……!」

 

「起きたみたいね」

 

 女は意識を目覚めさせる。

 ベルベットが声を掛けると女は暴れようとしているが、アイゼン達が拘束する天響術を施しているのか身動きがまともに取れない。

 

「貴女は何者なのですか?」

 

「ローランス帝国教会リュネット・フォートン枢機卿……貴方達はハイランドからの使者ですね」

 

「ああ、そうだ……それでわざわざ穢れの領域を展開しながら入ってきたんだ。なにか訳ありの様だな」

 

 アリーシャが対話の精神を取っているので余計な事はしない。アイゼン達も一先ずはと黙ってくれている。

 

「……あの不思議な乗り物はハイランドに有ったという情報はありません。貴方が個人で所有している乗り物、そう考えるのが妥当です」

 

「……お前はヘルダルフと繋がってるのか?」

 

 やけにオレ達に詳しいフォートン枢機卿。

 何故にオレ達に対して詳しいのか考えてるとヘルダルフが真っ先に出てくる。戦争を推進する派閥の人間だったら場合によっては……どうしようか。殺すのはNGだからな。話し合いで解決するの苦手なんだよ、口八丁はオレよりも黛さんの方が向いているんだよ。

 

「……災禍の顕主との繋がりですか?確かに幾ばくか情報は与えられましたが……」

 

「で、オレ達になにか用事があった様だがなにしに来たんだ?」

 

「その前に聞きたい。私の雨を晴れに変えたのは何処の誰ですか?」

 

「……なにが目的だ?」

 

「私に力を貸してはいただけないでしょうか?」

 

「悪事に加担しろと言うのか?」

 

「悪事だなんてとんでもない!全てはローランス帝国の為に、若い皇帝や自らの意思で居なくなってマシドラと違い私は」

 

「ああ、もういい……っていうのはダメなんだよな」

 

 首の1つでも刎ねておけばそれで解決する案件だが、実にめんどくさい。

 ローランス帝国の為に、若い皇帝や居なくなった教皇の代わりにと強すぎる責任感から穢れを生んでしまっている。

 

「……具体的にはゴンベエの力をどうするつもりだ?」

 

「あの大地の汽笛は使える代物なので、それを利用してローランスを豊かにします」

 

「例え話の1つでも作ってくれ、具体性が無いと話に困る」

 

 アリーシャの表情が僅かばかりだが変わる。オレを利用してと言うところに引っかかったのだろう。

 具体性に欠けているので具体的にオレをどういう感じに利用するのかをアリーシャはフォートン枢機卿に尋ねる。

 

「再びハイランドとローランスの間で戦争を巻き起こし今度は勝つ……そうすればローランスに真の平和が訪れます。その為には貴方達や導師の力をっ!」

 

「……何故だ?なにが貴女をそこまで突き動かす?国の為なのは分かる、だがそれでも越えてはならない一線の様な物がある、それが分からない様な人間ではないのではないですか?」

 

「……貴女に、貴女みたいな何も知らない小娘になにが分かる!」

 

「ああ、なにも分からない!」

 

「なっ!?」

 

 キレるフォートン枢機卿。アリーシャはなにも分からない、知らないと言った事を否定はしない。むしろ受け入れている。

 1000年前の災厄の時代を旅した事は決して無駄じゃなかった。アリーシャは自らの意思で歩み寄ろうとしている。

 

「だから教えてくれ、貴女はどうしてそうなった。そこまで頑張る事が出来るんだ?なにが貴女を突き動かす?……もし、もし、私達が力になることが出来るのならば力を貸そう」

 

「……頭の硬い導師一行とは違うのですね」

 

「あくまでもオレ等はハイランドからの使者だ、宗教の人間じゃない。それが悪事だとしても場合によっては受け入れるかもしれない」

 

 まぁ、かもしれないというだけであって受け入れるかどうかは話は別だ。というかこの女はスレイ達と1度遭遇しているのか。

 導師達とは違うという認識を取ってくれて会話を、対話をしてくれる。浄化の力や暴力等で無理矢理解決するのとはわけが違うと横から茶々を入れるのを一旦止めてアリーシャとの会話を見守る。

 

「貴女が憑魔にまで身を落とした理由は責任感から来るものだとして、貴方は平穏な世の中を築き上げたいと言うのは本当の筈です。私も貴方と一緒です、平和を願う気持ちは」

 

「お前と一緒に扱うな!!私は、私はローランスの為に……そうだ、ローランスの為に導師の力を得て行方不明のマシドラを無能な騎士団諸共含めて裁きを処罰を与えなければ……与えなければならないんだぁ!!」

 

「ヤメておけ、オレの拘束は早々に解けない」

 

 ベルベットが左腕を変化させる様に全身を変化させるフォートン枢機卿。

 髪の毛が蛇になり如何にもメデューサの様な見た目に変化して縛っている縄を破ろうとするのだがアイゼンが施した拘束術から抜け出す事が出来ない。しかし穢れの領域が増していく。

 

「守護法陣!アイゼン、ザビーダ様、この中に」

 

 穢れは天族にとって毒でしかない。アリーシャは自分の槍を地面に突き刺すと円形の結界が展開される。

 この中ならば毒でしかない穢れを防ぐことが出来るとアリーシャはアイゼンとザビーダを入れる。穢れが地味に苦しかったのか、アリーシャの領域の中に入ると2人は少しだけホッとしている。

 

「……虚空閃!」

 

「っがぁああああ!!」

 

「って、手を出すのか!?」

 

 穢れが溢れ出てどんよりとした空気が流れ出る。

 アリーシャは槍を手にすると虚空閃をフォートン枢機卿に向けて撃つとフォートン枢機卿は吹き飛ばされる……が、人間に戻ることはない。溢れ出している穢れを邪気を断ち切ってもまだ底から止めどなく溢れ出ている。暴力で解決するのでなく話し合い、対話より穢れを納めて貰わないと元の人間に戻す……意外と冷静に見えて血の気が多いんだよなアリーシャ。

 

「勘違いをしないでくれ。穢れに意識を飲み込まれて自我を失いそうになったから撃っただけで、浄化の力を用いて無理に元に戻す為じゃない」

 

「分かってるよ……で、お前は平和な世の中を築き上げたい、その思いは穢れを生み出そうが本物なんだな?」

 

「……ああ、そうだ。だから私は」

 

「平和の為に、1を救う為に9を切り捨てる存在になってどないすんねん。それは正義じゃない、最早ただのエゴだ。あんたは知らず知らずの内にエゴに走ってしまっている」

 

「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!黙れぇ!!貴様に、あの悪夢のなにが分かる!夢遊病の苦しみが分かるのか!!」

 

「無理!分からん!知らん!!」

 

「だったら部外者が」

 

「部外者でも知りたいことは知りたいんだよ!いいか、人を助けるのは凄く難しいんだ。戦争を推進する暇があるならば腹減ってる貧しいガキに美味いおむすびの1つでも、魚の取り方の1つでも教えるのがいいんだよ!!このバカが!」

 

「ぐふぉぉ!!」

 

「ちょっ、あんたが手を出してどうするのよ」

 

「あ……まぁ、いいじゃねえか」

 

 一時のテンションとノリに身を任せて枢機卿を殴り飛ばしてしまった。

 枢機卿から黒い靄が、穢れが大量に溢れている。流石にコレを放置すれば連鎖的に別のなにかが憑魔になってしまう可能性が高いと背中のマスターソードを抜いて振り払う……するとどうだろうか、メデューサの姿をしていたフォートン枢機卿は元の姿に戻った……穢れの領域も納まった……。

 

「力技で解決してしまったのか……」

 

 アリーシャが対話の心を持ってフォートン枢機卿と向き合っていた。枢機卿の心は揺れ動いて穢れを多く放出したがマスターソードの力技でフォートン枢機卿を元に戻してしまった……意識を奪っている内に穢れを祓うのは1つの手だな。

 

「……世界は本当に広いな。やり方はともかく、国を救いたいという思いは本物だ……本物だったんだ」

 

 最終的に力技で解決したことに苦い顔をするアリーシャ。

 これで良かったんだとは認める事はせずにまたまたオレの力に頼ってしまった事を悔やんでいる。オレの力に依存しているのは今更だろう。

 

「おい、起きろ」

 

「……アレ……私は……」

 

 このまま野放しにしておくのはまずい。とりあえずは起こそうと目覚めてもらうのだが、意識が朧気なのか右を見て左を見て此処はいったい何処だと確認をする。どうやら憑魔化していた時の記憶が曖昧になっている。ウーノも憑魔化、アイゼンもドラゴン化した際の時はあんまり覚えていなかったりするわけで……覚えていないんだろうな。

 

「目が覚めましたか?」

 

「っ……貴方達は、そう!私は」

 

「ゆっくりと深呼吸してください。悪夢を見ていた気分になっているのでしょう、水がありますが飲みますか?」

 

 現実を受け入れ出すフォートン枢機卿。

 アリーシャは気持ちの整理をさせる為に水筒を取り出すとフォートン枢機卿はグイッと水筒の水を飲み込む。一気飲みをしているんじゃないかと思えるぐらいにガブ飲みをしているが、さっきまでボコられてたからな……

 

「体が動かない」

 

「アイゼン」

 

「……大丈夫なのか?」

 

 拘束術を解除しても大丈夫かアイゼンは心配をするがもう大丈夫だろう。

 アイゼンが拘束術を解除するとフォートン枢機卿は動くことが出来るようになりオレ達と一緒に教会の聖堂から外に出る。外は相変わらずの雨だった。

 

「……はぁ……」

 

「なにため息付いてるのよ」

 

「こういうのガラじゃないんだけどな」

 

 時のオカリナを取り出して再び太陽の歌を吹いた。雨雲は去っていき太陽が登り天候は晴れと変わる。

 

「……綺麗ですね」

 

「ああ、なんて綺麗なんだ」

 

 晴天と言うに相応しい綺麗な晴れになった。美しい空を見てアリーシャとフォートン枢機卿は心を奪われる。

 

「……私が頑張らなくては」

 

「オバちゃん、そう根を詰めすぎるなよ」

 

「オバっ……いえ、確かにそうですが……」

 

「……ホントこういうの向いてないけど一曲……雨のちレインボー」

 

 拭いきれない 闇の記憶

 どこにいたって 消えやしない

 

 みんなが待ってた イベントを雨で 流してきた

 償いきれない 罪の数悔やんでた

 

 俺の空が 晴れて虹色

 やってやるさ 生まれ変わって

 雨のちレインボー

 

「……いい歌だ」

 

 怪しいと疑われているフォートン枢機卿を救う事に成功した……コレは良かった事なのかは誰にも分からない。もしかするとスレイが救う役割を担っていたかもしれないが……うん、結果オーライと前向きになっておこう。




アリーシャの術技

守護法陣

説明

穢れと断絶した清らかな結界を作り出す法力的な術。勢いに任せてやったら成功した。


ゴンベエの術技

気付けショック

説明

意識を叩き起す張り手、目覚める可能性のあるものならば仮死状態の人間すら叩き起す




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バンエルティア商会

 

「おぉ、なんという事だ。雨が止まなかったペンドラゴに再び日差しが入るとは……」

 

「貴方は、セルゲイ!?」

 

 雨から晴れに天候が切り替わると綺麗な虹が掛かった。

 ああいう美しいものは大切にしておかなければならないと思っているとオレ達の前にセルゲイが現れる。セルゲイが現れた事をフォートン枢機卿は驚いた顔をしている。

 

「……枢機卿、この様なところで何をしているのですか?」

 

 枢機卿が色々と裏でやっていて怪しいとなにかと話題になっている。

 堂々と表立ってこの場にいる事を怪しむセルゲイだがフォートンは空を見上げた。空には綺麗な虹が掛かっている、とても美しい光景だ。

 

「あの空を見上げていた……雨の無いペンドラゴは実に美しいな」

 

「……そうか」

 

「何故教皇が、いや、マシドラが逃げたのか……処罰を」

 

「……アリーシャ、行くわよ」

 

「だ、だが」

 

「これ以上此処に居てもなにも意味は無いわ」

 

 向かい合うフォートンとセルゲイ。

 なにかをするわけでもない、介入する意思が無いのであれば此処に居る必要は無いと宿屋に向かおうとする。

 

「マオテラスの浄化の力は助ける為にあるものじゃない、やり直す為にあるものだ……元に戻ったというのならばやり直す機会があるんだろう」

 

 アイゼンもこの場から離れる事に賛成の意思を示す。

 浄化の力を用いて元に戻したのだが根本的な部分をどうにかする事が出来ていない……が、が……憑魔から元の人間に戻って頭が1つスッキリしたのならば改心する、改め直す可能性が大きい。

 これ以上は無理に介入するのは良くない事だとザビーダもベルベットも判断したのでアリーシャも渋々動いてくれる。言葉による改心が出来なかった事は悔やむべき事だが世の中には話し合いも通じず改心もしないどうしようのないクズが普通にいる。なんだったら転生者の死因が親が虐待して育児放棄したから死んだとかいう一例も普通にある。そしてロクロウみたいにそれが悪だと業だと分かってても道を歩む人間だって居ることを過去で学んだので無理は言わない。

 

「これからフォートン枢機卿はどうなるのだろうか……」

 

「罪を認めて改心……なんてのは都合が良すぎるだろうが、コレは人間社会の問題だからなぁ」

 

 宿屋に戻りフォートン枢機卿について気にするアリーシャ。

 ザビーダは此処から改心をしない可能性が大きいと考える。教皇のマシドラに処罰を与えなければならないと思っている……まぁ、仕事をほっぽり出して何処かに消えた教皇に非があるにはある。

 

「どうにかしたいのなら先ずは教皇を探しとかないと」

 

 そもそもでフォートン枢機卿がああなったのは強すぎる責任感からのもので教皇が居なくなったのが原因だ。

 問題を解決するには改心させたりする為には教皇をどうにかしておかなければならない。その教皇はゴドジンに居て、ゴドジンにはスレイ達がいる。難しい事を考えるのは後にしておいた方がいいとその日はペンドラゴの名物のドラゴ鍋を頂き、1日を過ごした。

 

「コレはローランスの通行許可証だ。コレがあればローランスの何処の街にも行く事が出来る」

 

 翌日、セルゲイから通行許可証が渡される。

 色々とすんなりとしているなと思いつつも通行許可証を受け取るとセルゲイはジッと見ている。

 

「なにか顔についているでしょうか?」

 

「いえ……その、フォートン枢機卿が人が変わったかの様にこちらに情報提供をしてきまして……枢機卿について調べていた我が弟ボリス達が帰還してきて色々とありまして……貴公らはいったい……」

 

 どうやら少しずつだがフォートンは変わろうとしていっている。良いことが聞けた。

 急に変わった枢機卿、裏でオレ達がなにかをしたんじゃないかと疑いの眼差しを向けるのでオレはまことのメガネを取り出した。

 

「コレで世界をご覧ください」

 

「コレは……!?」

 

「む、それは……と言うことはオレ達が見え、聞こえているのだな」

 

「みたいだな」

 

 まことのメガネ越しでオレ達を見ると驚くセルゲイ。

 アイゼンとザビーダが居ることに驚いている。いったい何者なのだと考えるのだが直ぐに答えに至る。

 

「ま、まさか、天族の方々」

 

「……天族のご加護をあらんことに……返していただきますね」

 

 アイゼンとザビーダが天族だと分かればワナワナと震えるセルゲイ。

 十字を切ってまことのメガネを取り返すと大地の汽笛に乗っていく。

 

「らしくないことしてるんじゃないわよ」

 

「たまにはこういう感じも悪くはねえだろう」

 

 大地の汽笛を発進させてゴドジンの村に向かう。

 ベルベットは最後の行為をカッコつけの行為だと呆れているがこういうことの積み重ねが宗教では大事だ。特に信仰の文化を復活させる為にはこういう超常現象を何度か大衆の目に見せつけておかなければならない……そう考えると何時ぞやの偽の導師がやっていた事は宗教の信仰を得る為の布教活動の1つと捉えてもいい……まぁ、インチキ導師でヤバい薬を売ってたのには変わりはないんだけども。

 

「スレイと再会する事が出来ればいいのだが……」

 

「……そのスレイという導師はどんな奴なんだ?」

 

 今度こそスレイとの再会を果たしたいアリーシャだったがアイゼンはスレイについて聞いてくる。

 ちゃんとした意味で対面しているのはザビーダだけでベルベットもアイゼンもスレイがどんな人物かを知らない。過去の時代でも深くは語っていない、反吐が出るぐらいの絵に描いた様な善人とだけ言ってある。

 

「スレイはとても優しい人だ。私達が人質に取られた時には躊躇いなくハイランドに従属してくれて……あの時の件も謝罪しなければならないな」

 

 自分自身が枷となって余計な政治のゴタゴタに巻き込んでしまった事をアリーシャは申し訳無さそうにする…………。

 

「……スレイは覚悟は出来ていたのか……」

 

「覚悟?」

 

「オレの故郷は宗教は自由に決めてもいいと許されていて色々と緩い。だがその代わりと言ってはなんだが宗教と政治が密接に繋がっていない。この大陸、今の災厄の混沌とした世の中に導師と言うヒーローが、心の拠り所が必要なのは分かる。だがオレ達は見てきた、宗教と政治が密接に繋がって作られた聖寮と言う組織を。流石にこの時代に聖寮を作るのは不可能だが、この国はローランスもハイランドも天族を信仰する文化と政治が根深く密接に繋がっている。導師を政治の道具に使うのは良くない事だが、導師が政治に加担しなければならない程に世の中は混沌としている……導師のシステムは言い方を変えれば人柱だ。混乱の世を統べるとは言わないが平穏に導く為には政治に口出しを……う〜ん……なんて言えばいいんだろうな」

 

 言葉が上手く出ない。八木のおっさんとか天王寺の旦那みたいなヒーローが今の社会には必要だ。スレイはそれになる道を選んだ……筈だ。少なくとも導師になるという事はそういうことだ。やり方はともかくアルトリウスもその辺りの覚悟は出来ていた筈だ。だがスレイは……どうなんだろう。

 

「ゴンベエ、お前の言いたい事はなんとなく分かる……導師の坊主は人間と人間の世の中を知らない感が強すぎる」

 

「それは仕方ない事ではないのでしょうか?スレイは天族達の集落、イズチで暮らしていました。人の世に疎いのは当然の事です」

 

「アリーシャ、それは甘えだ。そのスレイという奴が導師になると決意をしたのならば人間の(さが)を知らない存じないはいけないことだ……アイフリード海賊団と災禍の顕主一行と旅をして色々と見てきたお前ならば嫌でも分かる筈だ。人間の性や業を」

 

「それは……そうだが」

 

 アイゼンに言い負かされているアリーシャ……マジでスレイは大丈夫なのだろうか?

 オレとしては邪魔扱いされているからあまり深く関わるわけにはいかないのだろうが……でも、今の世の中に導師が必要なのもまた事実……ああ、クソ。ヘルダルフ及び加担者をしばき倒せばそれでいいなんて脳筋思考なオレにはこういうのホントに向いていないな。

 

「とりあえずそのスレイに会ってから考えればいいでしょう。間違った道を歩もうとしていたりするなら最悪ぶん殴ればいいし、導師っていう心の拠り所が必要ならスレイに任せるんじゃなくてゴンベエ、あんたとアリーシャが主導でなればいいじゃない」

 

「いやオレマスコミ受け悪いから……そういうの天王寺の旦那の方が向いているから」

 

「テンノウジ?……アリーシャはどうなの?」

 

「私は政治にああだこうだ口出ししても夢見がちな小娘と一喝されるだけで終わってしまう」

 

 世の中、特に政治関係は基本的には汚い大人だらけなんだよな。

 ベルベットはスレイがどんな人物なのかはオレ達の口から聞くよりも実際に見てから決めると言う……まぁ、スレイは反吐が出る程お人好しの阿呆だが悪人じゃない。オレみたいな秩序を持った悪人じゃないんだ……ベルベットは認めるだろうか?

 

「まぁ、生半可な覚悟でエドナを連れているならぶち殺せばいいだけだ……」

 

「お前、私情混じってない?」

 

「……エドナと神依までしてやがる野郎は許せん!オレは生半可な男は認めん!!」

 

 シスコンが……ん?

 

「道が塞がってる」

 

 大地の汽笛を走らせていくと道が塞がっていた。

 バイロブグリフ崖道と呼ばれるところで立ち往生してしまう……ま〜ためんどうな事になっているな。

 

「これもまた災厄の混沌とした世の中が原因で……」

 

「ついでだからぶっ壊すか……爆砕点穴!!」

 

 崖道が落石で塞がれているので土木工事用の技こと爆砕点穴を使って道を作り出す。

 なんか落石をどうにかしようとしている人達が居るみたいだが、そんなのを気にしている場合じゃないと爆砕点穴で破壊していく。

 

「猛虎高飛車!!」

 

「よし、私も!百歩神拳!!」

 

「ったく……ヘヴンズクロウ!」

 

 なんだかんだで手伝ってくれるアリーシャとベルベット。

 あっという間に道を塞いでいた落石は粉砕されていき道が開く。

 

「あ、あの、貴方達は!?」

 

「ただの通りすがりだ。アリーシャ、ベルベット、さっさと行くぞ」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

 岩を破壊してくれたことに感謝したそうな人達がいるがオレ達の通り道で邪魔だったから開いたものだ。

 感謝するのは勝手だと大地の汽笛に再び乗り込み、ゴドジンを目指す

 

「ところでよ」

 

「なんだ?」

 

「このままゴドジンに辿り着いて大丈夫なのか?枢機卿は元に戻りはしたが何時また憑魔化するか分かったもんじゃねえ。裏で今の災禍の顕主が動いているなら何らかの手を使って憑魔化させてくるかもしれねえ……隠密に行動した方がいいんじゃねえのか?」

 

「そうしたいのは山々なのですが……大地の汽笛を見せびらかさなければならないのです」

 

 色々と悪目立ちしている事に対してザビーダは色々と言ってくる。

 確かに隠密に行動した方が良いのかもしれないが、大地の汽笛を見せびらかさないといけない。ハイランドはローランスに無い技術を持っていて豊かな国だと見せつけなければならない。隠密に行動しなければならないのはアリーシャも理解しているのだが、今後の事などを考えるとなぁ……うん。

 

「アレがゴドジンじゃない?」

 

 ポッポーと大地の汽笛を走らせて崖道を通っていくと小さな村の様なものがベルベットの視界に入った。

 もうすぐゴドジンに辿り着くので大地の汽笛の速度を落としていく。

 

「な、なんだ?」

 

「また余所者がやってきたのか?」

 

 速度を落としていきピタリと大地の汽笛を止めると村の子供達と思わしき子供がアレはなんだとざわめきながら出てくる。

 

「アリーシャ、教皇探しに来たと言えば警戒される。取り敢えずオレが誤魔化すから色々と口裏合わせてくれ」

 

「ああ……だが、ここまでしておいて目立たないというのは無茶があるんじゃないのか?」

 

「物は言いようだ。ベルベットも合わせてくれよ」

 

「変な設定にするんじゃないわよ……あんた等はこういう時には便利ね」

 

「だろぅ。見えないからあんな事やこんな事は聞き放題だぜ」

 

 上半身裸の良い歳した大人が普通に居るのはシュールな絵面である。

 アイゼンとザビーダは見えていないので巻き込まないでおく……天族は見えないのが普通だ。1000年前のはじまりの時代の方が異常だったと認識を改めているとなんだコレと子供達が大地の汽笛を見つめて触れようとしてくる。

 

「こらこら、大地の汽笛に触るんじゃない」

 

「お兄さん達、誰なの?」

 

「おぅ、よくぞ聞いてくれた。オレ達はバンエルティア商会……って言っても発足したばかりで無名にも程があるがな」

 

「バンエルティア?」

 

「古代の言葉で富を意味するわ……あんたらはこの村の子供たちよね?」

 

 息を吐くように嘘をつく。ベルベットもそれに便乗して一先ずは情報を収集しようとする。

 

「そうだよ!」

 

「じゃなくて、そうですよだよ。目上の人にはちゃんと喋らないと、学校で習ったでしょ」

 

「学校?ここって学校があるの?」

 

「うん!そうだよ!」

 

「こんな辺境の地に学校だと?」

 

 村の子供たちから情報を聞き出していると意外な事が聞けた。

 この世界、というよりこの大陸では学校は大きな街にしかなく小さな村とかは暇をしている大人が文字の読み書きや計算の仕方を教えてくれている。ベルベットは村のお婆さんから勉強を教わっててアリーシャは家庭教師、オレは……オレ、最終学歴中卒なんだよな……地球が舞台の世界じゃないと学歴がな……でもまぁ、それ言い出したらブッキーとか深雪とか最終学歴小卒だからな。

 辺境の地に学校があることをアイゼンは怪しむ。学校があるってことはある程度は豊かな環境じゃないと出来ない筈だ……う〜ん、なんかオレの知らぬところで色々とあるみたいだな。

 

「村長さんが将来の為だって作ってくれたんだ」

 

「そう、そうなの……学校か……」

 

「どしたん?」

 

「ラフィがもしも元気だったら都会の学校に通うことが出来てたなって」

 

「……彼奴は学校では得られない経験や知識、知恵を得た」

 

 ライフィセットの事を思い出して感傷に浸るベルベット。

 過去の事だがやっぱり完璧には割り切る事が出来ていない……思うところは色々とあって当然といえば当然でしかない。

 

「お兄さん達、商会って事は商人だよね?なにを売ってるの?」

 

「う〜ん、ジャンルで言えば三次産業だな」

 

「三次産業……ってなに?」

 

「三次産業と言うのは第三の産業、飲食店とか金融とか教育とかに関するサービス系の産業の事だ。因みに一次産業は農業、林業、漁業の3つ、第二次産業は製造業、建設業なんかで農業で育てた作物や家畜なんかを自社の工場で加工して販売まで全てすることを六次産業と言う」

 

 へ〜と子供達に知識を見せびらかす。

 ザビーダは意外そうな顔をしている……んだよ、オレがただの脳筋ゴリラかなにかかと思ってたのか?オレ、外国語以外の勉強はどちらかといえば出来る、真面目に授業さえ聞いていれば赤点は先ず無いと言えるぐらいには頭はいいんだ……まぁ、深雪とかブッキーとかの方が頭いい、1番賢かったのはアイツだったな。

 

「さて、小難しい話は此処までにして誰か大人を呼んではくれないか?色々とPR、交渉をしたいんだ」

 

「おやおや、でしたら私の出番ですかな?」

 

 お、丁度いいタイミングだったな。

 メガネを掛けた初老の男性が大人を数人連れてきた。

 

「もしや、貴方は村長さんかなにかですか?」

 

「ああ、私がゴドジンの村の村長だ……この村になにか御用ですかな?この村は見ての通り平凡な村だ」

 

「いえいえ、普通の村だから価値があるのですよ」

 

「普通の村だから価値がある?それはいったいどういうことだ?」

 

「我々の出す商品はズバリ、足です!この大地の汽笛程とは言えませんが別の村から村に行き来する際の乗り物を作ろうと思いまして……あぁ、自己紹介が遅れました。私はナナシノ・ゴンベエ。バンエルティア商会の長……と言っても会員は私とそこにいるベルベットしか居ないのですが」

 

「え、ゴンベエ、私は」

 

「この方は私達のスポンサー、出資者でしてね。遠くの田舎の村から都会まで列車という乗り物が有れば簡単に行き来する事が出来るのを知りまして……こういった僻地からペンドラゴの様な大きな街まで物流や人がスムーズになれば国の経済が潤うと思いますので」

 

「……なんで……」

 

 息を吐くかの様にペラペラと嘘を語る。こういうのは即興で思い付くのでノリと勢いに身を任せた方が良い。

 アリーシャが自分だけ仲間はずれにされている事を気にしているがお前から時折出てくるお嬢様オーラをどうにかする方法が無いんだから仕方がない事だ。

 

「ふむ、この大地の汽笛とやらで物資や人を運搬すると?」

 

「正確には大地の汽笛と似たような乗り物で、馬車の様に馬を必要としない乗り物です。此処だけの話、私異大陸の人間でしてね……異大陸のあんな技術やこんな技術を用いて色々と商売をですね……ただまぁ、物が物だけに出資者だけでなく私達の考えた計画に賛同してくれる方を増やしているんですよ……なにせ我々の技術は産業革命と言っても過言ではないのですから」

 

「お前、ホントにベラベラと出るな」

 

 列車に関して興味を示す村長さん。アイゼンは呆れている。

 大地の汽笛に似た乗り物を走らせるがその為にはその街や村のリーダーに許可を得ないといけない。地方領主的な権力とか立ち位置ならば内政に力を入れるが、爵位なんて貰ってもめんどうなものだからな。

 

「あ、ところでなんですが私達人を探しておりまして」

 

「人、ですかな……」

 

 列車に関して興味を示していた村長さん。人を探していると言えば表情が変わった。

 

「この爺さん、メガネつけてやがるな」

 

 ザビーダは村長がメガネを付けている事に違和感を抱く。

 工業用のクリスタルレンズは貝殻とかあれば簡単に作ることが出来るのでオレからすればなに言ってるんだろうと思うがこの世界の眼鏡は高級品である……まさかとは思うがこの爺さんが教皇……ありえそうだな……。

 

「こんな感じの人なんだけども見覚えは無いですか?」

 

「おぉっ!!これは」

 

「……ご存じなのですね」

 

 スレイの人相描きを見せると村長さんは反応する。いや、村長さんだけじゃない、村の人達が反応する。

 この感じの反応はスレイ達が此処を訪れたというわけ……ん?村長さんが大人達に目配りをして子供達を何処かに行かせてくれと指示を出しているな。

 

「……導師スレイは今頃試練を挑んでいる」

 

「試練……そうか!ライラ様が言っていたパワーアップをしに行っているのだな!」

 

 重苦しい口を開いた村長さん。

 スレイが試練という事はライラの言っていたパワーアップを果たそうとしているのだと納得している。

 

「なるほど、この村にあったのか」

 

「なにか知ってるの?」

 

「マオ坊の配下の天族が試練を与えてパワーアップさせてくれる神殿がこの大陸のどっかにある。地の試練と風の試練の場所は心当たりがあるんだがよ……こんな僻地にあるとはな」

 

「ふ〜ん……」

 

「あの、先程から何処と話を……ま、まさか!」

 

「ええ、そのまさかよ」

 

 天族と対話する事が出来ているベルベットを見て慌てふためく村長さん。

 こういう時はコレしかないなとまことのメガネの破片を用いて作り上げた眼鏡を取り出して渡すと村長さんはメガネを取り換えた

 

「て、天族の方々!?」

 

「お、その眼鏡でも見えるのか。よぅ、爺さん。はじめましてだな」

 

「……ジジイ、この村にこの男が来たのか?」

 

「は、はい!導師はこの村に参りました……あの、貴方達は」

 

「バンエルティア商会の者だ……そうか……」

 

 導師がこの村に来たことを確認するとアイゼンはポケットからコインを取り出し……姿を消した。

 ザビーダはやれやれとアイゼンが立っていた足元に落ちてあるコインを拾った……アイゼンの持ってたコインはアイゼンが器としているコインだ。魔王と女神が裏表で彫られているコインだった

 

「逃げてんじゃねえよ、死神の旦那」

 

「……」

 

「まためんどうな……」

 

 アイゼンはコインの中に引きこもってしまった。

 

「貴方は導師の仲間かなにかなのですか?」

 

「ん〜……どうだろうな。平穏な世の中にしたいっていう気持ちは一緒だが……オレはとりあえずアイツに貸した20000ガルドを取り立てに来たんだ」

 

 忘れちゃいけない、アイツに20000程貸しているのを。

 過去の時代を行き来して別れてから何日経過しているのか分からないけども20000ガルドは返してもらわないと困る。

 

「借金をなさっているのですか!?」

 

「そうだ……とにかくスレイが帰ってくるのを待たせて」

 

「ああ、ゴンベエ!アリーシャ!!」

 

 貰おうと思ったが噂をすれば影がさす。

 何日ぶりだ?過去の時代で冒険をして色々とあったから数カ月ぶりの再会だろう。導師スレイと……確か、セキレイの羽だかなんだかの商会ギルドのロゼとエドナ、ライラ、ミクリオ、そして1000年前にザビーダが着ていた衣装と似た衣装を着ている男がいた。

 

「スレイ!」

 

「よぉ、久しぶりじゃねえか……いや、ホントに何時ぶりだ?」

 

 見知った顔を見つける事が出来たのでアリーシャはホッとする。

 久しぶり……オレとアリーシャの体感時間だと何日ぶりの再会なんだ?……1か月以上は会ってないからな。

 

「ゴンベエさん、ご無事でしたのね」

 

「あんなクソ雑魚ライオンに遅れを取る程じゃねえよ……お前等の方は順調そう、じゃなさそうだな」

 

「うん、色々と問題が山積みで……あ、でもパワーアップをする事が出来たんだ!」

 

「そうか、それはなによりだ」

 

 具体的にどの辺りがパワーアップしたのかは知らないが、パワーアップしたと言うのならばパワーアップしたのだろう。

 久しぶりの再会で互いに無事に元気に過ごしている事に対してホッとする。あの後お互い色々と大変だったんだろうな。

 

「よぅ、無事にパワーアップを果たせたみたいじゃねえか」

 

「っ、ザビーダ!?」

 

「あ〜待て待て、そう身構えるな。お前等とは喧嘩しに来たんじゃねえんだからよ」

 

 ザビーダが声を掛けるとスレイ達は身構える。

 この様子だと憑魔を狩っているところで遭遇したっぽい様だがザビーダは敵対する意思は無いと両手を上げる。

 

「ゴンベエ、何故ザビーダと一緒に旅をしているんだ!そいつは」

 

「憑魔狩りのザビーダだろ。知ってるよ、コイツが殺しを救いだと思っているのも……そしてそれが間違いだって言うことも」

 

「……」

 

 ミクリオはどうしてザビーダと一緒に居るのかを聞いてくる。ザビーダがどういう人間もとい天族なのかは重々承知している。今から良い行いをするから今までの罪がチャラになるわけでもないのも知っている。それを知った上でザビーダと一緒に居るのでミクリオは開いた口が塞がらない。

 

「ミクリオ様、ザビーダ様も色々とあったのです……殺しを救いだと思わなければならない程の出来事が」

 

「言っとくが今までの行いを反省するつもりは無いからな」

 

「っ……あの時、狩った事は忘れないぞ!」

 

「ああそうだな。文句なら受け付けてやる……っと、無駄話をしに来たんじゃねえ」

 

 警戒心を剥き出しにしているミクリオ。

 ザビーダは憑魔云々が関わりなければ話が合う頼りになる天族……だと思いたい。コレばかりは信じるしかねえな。

 

「あんたが導師ね」

 

「えっと……誰?」

 

「ああ、紹介しよう。ベルベット・クラウ……マオテラスの叔母──ぎゃあふ!?」

 

 それは見事だった。

 スレイがベルベットの存在に気付き聞いてきたので答えるとベルベットは見事なまでのコークスクリューをオレに叩き込んでオレを殴り飛ばした。




ゴンベエの術技

爆砕点穴

説明

万物に存在する「爆砕のツボ」を押し、爆破するように砕いてしまう。

猛虎高飛車

説明

勝ち気や強い思いの気を放出して相手をぶっ飛ばす百歩神拳の応用技。

スキット どの面下げて

アイゼン「エドナは今、何をしているんだ?」

ゴンベエ「お前を元に戻す方法を探しに導師達と一緒に旅に出た」

アイゼン「そう、か…………」

ベルベット「あんたをどうにかしようとしてる。あんたに心を奪われてる……ゴンベエがどうにかしたけど浄化のシステムとかが完成されたこの現代でもドラゴンは」

ザビーダ「ああ、無理だ。過去に何人か挑戦した奴等も居るが結果は散々だった」

アリーシャ「今回成功したのは奇跡と言っても過言ではないか……」

ゴンベエ「まぁ、オレ達も大分無茶をしたからな……他のドラゴンを元に戻せていないし問題は山積みだ」

アリーシャ「だが、こうしてアイゼンを救い出す事に成功した!難易度はあまりにも高いが決して出来ないという訳では無い。前向きに行こう」

ベルベット「まぁ、そうね。ここでウジウジしたりしてもなにも始まらないわ」

ザビーダ「そうだな……エドナちゃん、アイゼンを見たら驚くだろうな」

アイゼン「……オレに、エドナに会う資格はあるのだろうか……」

ゴンベエ「そこで逃げるんじゃねえ。コレから生きてく上で1回は嫌でも顔を合わせる事になるんだ。元気に復活したって言っただけでも救われる奴だって居るんだ……あんまり意地を貼りすぎるな」

アリーシャ「そうだ、エドナ様はアイゼンを元に戻す方法は無いのかと必死になっている。元に戻った事を教えれば、きっと」

アイゼン「っ……」

ザビーダ「あ、コラ!コインの中に逃げるんじゃねえぞ!」

ゴンベエ「強情なシスコンめ」

アリーシャ「エドナ様はどう反応するだろうか……」


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風と骨と暗殺者

「ゴンベエ!?」

 

「ゴンベエさん!?」

 

 ベルベットの事に気付いたスレイに対してベルベットの事を紹介したゴンベエはベルベットに殴り飛ばされた。

 最早見慣れてしまった光景でゴンベエの言い方に問題がある。確かに言っている事に関しては間違いではない……間違いではないが正しい事でもない。

 

「あんたは!どうして!そう!余計な事を!言うのよ!」

 

 殴り飛ばしたゴンベエの元にベルベットが向かうとゴンベエの胸ぐらを掴んで持ち上げるベルベット。

 角が見えるんじゃないかと思える程に怒っており何時だったか忘れたがキレながらゴンベエに往復ビンタを叩き込んでいる。

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

「ミクリオ様、大丈夫です。毎度の事で……ゴンベエの自業自得です」

 

 ビシビシと往復ビンタを受けるゴンベエを心配するミクリオ様。

 ゴンベエは殴られるのを覚悟してベルベットの事をマオテラスの叔母だと言った。言えばどうなるのか分かっていて、おちゃらけたフリをして言っている。ゴンベエは殴られる事に対して後悔していない……反省もしていないが。

 

「なにも間違っちゃいねえ、ぐふっ!」

 

「間違ってるわよ!奥さんとか嫁とか妻とか小指(コレ)とかワイフとかオレの女とか色々とあった筈よ!!」

 

 全部同じじゃないだろうか?

 

「結婚、してない……同棲だけだから」

 

「あんたこの期に及んでまだ逃げるつもり?地獄の果てまで憑いてくるわよ!!」

 

「まぁまぁ、ベルベット。今はその辺りに関して怒っている場合じゃない……ゴンベエとベルベットは同棲中であって夫婦じゃないんだ」

 

 そう、ゴンベエは責任を取らないといけないのは事実だがそれはそれ、これはこれである。

 怒っているベルベットを宥めるのだが逆に逆鱗に触れてしまったのかムスッとした顔をしている……余計な事を言ってしまったのだろうか……。

 

「ベルベット……ベルベット……」

 

「どうなされました?」

 

 ベルベットの名前を聞いて呟くエドナ様。

 アイゼンと手紙を送り合う仲だったのでもしかするとアイゼンからベルベットに関して色々と聞いているかもしれない……が、私の口からそれを聞くことは出来ない。時間を越えていた事に関しては言ってはいけない、そもそもで時間を越える事自体がやってはいけないと過去の時代で何度もゴンベエが言っていた。

 

「あれ、アリーシャ。エドナ達が見えるの?」

 

「……ああ……その……詳しい事は言えないのだが私も色々とあってパワーアップを果たす事が出来たんだ」

 

 眼鏡無しでエドナ様の事を認識する事が出来ている事にここでスレイは気付く。

 流石に過去の時代で剣を打ち破りたい一心で憑魔になる程の男から色々とあったと言うわけにはいかない。残念だがコレばかりは言うことは出来ないと言葉を噛み砕いて説明する。それとパワーアップを証明したと手から軽く光を出してみる。

 

「パワーアップ、ですか?いったいどの様な手段でパワーアップしたのですか?」

 

「ライラ様、申し訳ありません。コレばかりは言うことが出来ないものでして……どうかご理解のほどをお願いします」

 

「……そうですか」

 

 私がどうやってパワーアップをしたのか気になるといった顔のライラ様。非常に申し訳無いが言うことは出来ない。

 

「おぉ、こんなにも天族の方達が……ぅ!?」

 

「村長さん、大丈夫か!?」

 

 ゴンベエが渡した眼鏡でライラ様達を認識する事が出来た。

 天族がこんなにも居るものなのかと思っていると村長さんは胸を抑えて膝をついたのでベルベットに胸ぐらを掴まれていたゴンベエがベルベットから離れて村長さんに向かう。

 

「だ、大丈夫だ……何時もの発作の様なものだ」

 

「おいおい、そんな顔色で言われてもな……あ、エリクシールあるけども飲むか?」

 

「え、エリクシール!?……いや、結構だ」

 

「そう遠慮するな。導師の名を語ってエリクシールの偽物を売っているインチキ商人と違って100%マオテラス製のエリクシールだ」

 

 胸を抑えて苦しむ村長にゴンベエはエリクシールを差し出す。

 エリクシールと聞いて驚く村長さんだが……驚くのも無理はないか。マオテラス製のエリクシールは古代の遺跡でほんの僅かしか見つからない代物で製造方法すら不明な一品だ。

 

「こ、これは!!」

 

「な、本物だろう」

 

「いや、違う。このエリクシールはただのエリクシールではない……エリクシールをも遥かに上回るオメガエリクシール!!何故この様な物を」

 

「……出処よりも自分の持病を無くす事を優先しろよ。胸が苦しいんだろ」

 

 飲めよとオメガエリクシールを差し出すゴンベエ。

 流石にライフィセット、いや、マオテラスと一緒に作ったとは言えずに適当にはぐらかす。村長さんは自分が飲んでも良い物なのかと困惑しているのだがゴンベエはオメガエリクシールが入った容器を複数見せる。予備があるのならばと飲むことを躊躇っていた村長さんはグイッとオメガエリクシールを飲んだ

 

「……胸が……痛みが、歪みが、淀みが消え去った……」

 

「どうやら抗体は無いみたいだな……良かった」

 

 オメガエリクシールが村長さんの病気に効いてホッとするゴンベエ。

 

「こんなにもオメガエリクシールを……ゴンベエさん、いったいどうやって手に入れたのですか?ただでさえ通常のエリクシールが古代の遺跡に極々稀に見つかる物でオメガエリクシールなんて更に希少な物!」

 

「……無いならば作ればいい、ただそれだけだ」

 

「ゴンベエさん、まさか!?」

 

「さて、ね……村長さん、完璧に治ったどうかは分からないから少しだけ休んどいた方がいい」

 

「あ、ああ……この眼鏡は返すよ……本当になんとお礼を言えば」

 

「だったら列車を作る際に賛成の意見で投票してくれ。それがなんだかんだで巡り巡ってオレ達が得をするからな」

 

 ゴンベエに眼鏡を返した村長さんは去っていった。

 なんの病気かは分からないがオメガエリクシールならばどんな病気にでも効果がある。治ることが無い十二歳病すらも治せる事が出来たのだからきっとなんとかなるだろう。

 

「ゴンベエはなにをしにこのゴドジンまでやってきたんだ?」

 

「ああ、ハイランドとローランスで和平を結びたいんだがローランスも色々とゴタツいてて、とりあえず1つの形に纏めて解決するには導師が必要だからスレイを探しに来た」

 

「そうか……」

 

「ミクリオ様、ライラ様、エドナ様、スレイ……あの時は本当に申し訳ありませんでした」

 

 ミクリオ様が此処にやってきた理由を聞いてきたのでゴンベエが答えると私は一先ずはと頭を下げた。

 導師の誕生により停滞していた世界が動くと思っていたが悪い方向に転がってしまった。私とゴンベエが人質になってしまい、スレイがハイランドに従属した導師となってしまった。導師に、天族を信仰する文化に国境は無い。ローランスもハイランドも導師の存在が必要不可欠だ。

 

「謝らないでよ、アリーシャ……あの時は俺も考えが甘かったって今になって身に沁みてる。災禍の顕主があんなにも恐ろしかったのを、世間が導師誕生をいい意味で捉えてないって……なんにも考えてなかったよ。ゴンベエに厄介な事も押し付けちゃったしさ」

 

「貴女が謝ったところでなにも変わりはしないわ。そんな事をするぐらいなら早く平和を築き上げなさい」

 

「っ……はい、仰る通りです」

 

 エドナ様の言葉がグサリと刺さるがその通りだ。

 

「ところで結婚したってセルゲイから聞いたんだけど?」

 

「あ〜それは」

 

「セルゲイさん、純粋ですからね……」

 

 スレイに奥方が居るという話を耳にしたことに話題が切り替わる。

 頬をポリポリと描くと1人の女に……

 

「確か、王宮にも出入りしていた……セキレイの羽だったか?」

 

「あ〜どうもどうも!導師の奥方(笑)のロゼだよ!」

 

(笑)(かっこわらい)?」

 

「え〜と、検問を抜ける為に一芝居うってそこで……スレイとはなにも無いよ!」

 

「なにも無いと言うのなら何故一緒に旅をしているんだ……まさか、スレイの導師としての名声を」

 

「いやいやいや、無いから。それは無いから……その……まぁ、こういう事を言うのは申し訳ないんだけど、姫様の後釜的なね」

 

「後釜?……スレイ、まさか」

 

「うん。ロゼには従士になってもらったよ」

 

「……大丈夫なのか?その、目が」

 

「最初はボヤケてたけど今はもう大丈夫だよ」

 

「ロゼさん自体が元々霊力が高いためにスレイさんの負担になってないのです」

 

「そう、か……」

 

 スレイに新しい従士が出来た……コレは喜ぶべき事なのだろうが前任者が私なだけあってなんとも複雑な気分だ。

 確かにスレイの事をインチキだ危険な存在だと怪しんだりする人が居る中でこうして天族の方達と語り合う事が出来るのは幸運に恵まれている……良いことだがなんとも言えない複雑な気持ちだ。

 

「と言う事はそちらの方は?」

 

「……デゼル、風の天族だ」

 

 もう一人の見慣れない人物について聞いてみると天族の方だった。

 これはいけないと頭を下げて自己紹介をする。

 

「地のエドナ、水のミクリオ、火のライラ、風のデゼル……てんこ盛りには挑戦したのか?」

 

「いや、まだやってないよ」

 

「普通の神依の時点で相当な体力を使う。4属性纏めて同時の神依となれば今の僕達じゃ不可能だ」

 

「……という事はメルキオルのクソジジイが異常だったのか……」

 

 ゴンベエがチラリと語ったてんこ盛りについてはまだ出来ていない。

 過去の時代で未完成とはいえ神依で4属性のてんこ盛りをしたメルキオルが異常なだけで普通の人には難しいというわけか。だが、ザビーダ様が言っていた様にこの大陸の何処かに導師をパワーアップさせる神殿がある。そこで力を得れば完全な4属性のてんこ盛りの神依が使える様になるのかもしれない。

 

「ねぇ、導師」

 

「えっと、導師じゃなくてスレイって呼んでくれないかな?」

 

「なら質問に答えて。仮に1人の人間を犠牲にすれば大勢の人間を救う事が出来るならあんたはそれをする?1人の人間の命を奪う事が出来るの?」

 

 ベルベットはスレイに質問を投げかける。

 導師として個を選ぶのか全を選ぶのか、どちらを選ぶのかを見極めようとしている。

 

「えっと……誰も犠牲にしない方法を探す、かな」

 

「それは答えになってないわ。全を切り捨てて個を選ぶのか個を切り捨てて全を選ぶのかハッキリとさせなさい」

 

「……じゃあ、俺は個を選ぶよ。全部の個をね」

 

「そう……」

 

「ベルベット、今は時代が違うんだ。個を切り捨てる理不尽な世の中から大分切り替わっている」

 

 スレイが本当に信用する事が出来るかどうか試しているベルベット。

 スレイから帰ってきた答えになんとも言えない……確かに個を全て選べば全になり個も全も選んだことになる。だが、それは不可能なこと。1000年前のはじまりの理不尽で残酷な世界や理を見てきたベルベットは些か納得しないが今はそういう時代じゃない筈だと頭の切り替えをするように言う。今はそれこそアイゼンやエレノア、この時代のザビーダ様の様に殺すことによって救われる者も居るという考えは間違っている筈だ。

 

「お人好しね、あんたは……反吐が出るぐらいには」

 

「ベルベット、スレイは」

 

「分かってるわよ……けど、そう簡単に割り切ることは出来ないわ」

 

 アルトリウスとスレイは違う。この時代の理もシステムも大きく違う。

 その事について指摘しようとするがベルベットも頭では理解をしてくれている……だが、やはり頭にこびりついているのか中々に離れない。

 

「ベルベット、時間は沢山あるんだ。一気に納得や理解をしなくていい、少しずつ、少しずつでいいんだよ」

 

「そういう貴方はどういう風の吹き回しよ?」

 

 アルトリウス関連の事を知っているザビーダ様は少しずつ変わればいいとアドバイスを送る。

 今まで会ってきたザビーダ様と様子が違う事をエドナ様は指摘する。

 

「別に、ただこいつらが筋を通しただけだ。だから俺は筋を通したこいつら、いや、アリーシャちゃんに力を貸すって決めたんだよ」

 

「筋を通した?」

 

「……はぁ……強情なやつめ」

 

 今が姿を表に現す絶好のチャンスだとザビーダ様は場を用意するのだがアイゼンはコインの中から出てこようとしない。

 エドナ様に五体満足で生きている事を言うだけでそれだけでいいのにアイゼンは変な意地を張ってしまっていて姿を表に現さない。この強情さにザビーダ様は思わずため息を吐いた。

 

「エドナちゃん、受け取りな」

 

「……コレって……」

 

 姿を表に現さないアイゼンが器にしているコインをエドナ様に投げた。

 エドナ様はアイゼンが器としているコインをどうして投げてきたのか疑問を抱いているがジッとコインを見つめていてなにも言わない。

 

「え〜っと、何処だったけ」

 

 コインについてなにか言うべきかと思っているとゴンベエは懐を探っていた。何をしているのだろう?

 

「あった、コレだコレ」

 

 懐を弄っていたゴンベエは……写し絵の箱だったか。人や風景を写し絵の如く記録するゴンベエ曰くカメラと言うジャンルの道具を取り出した。

 

「はい、チーズ」

 

 パシャリとスレイとロゼを撮ったゴンベエ。

 写し絵の箱は写し絵の如く記録する道具だが……この先の旅を考えてスレイやロゼの人相描きを省く為に使ったのだろうか?

 

「え、なに?今のパシャリってなんなの?」

 

「コレは写し絵の箱と言ってな、写し絵の如く人物や風景を記録する事が出来る物なんだ……コレから導師のパチもんとか便乗する奴が現れたりするだろうし人相描きをするよりもこうして本人を写真にした方がなにかと便利だと思ってな」

 

「へ〜そんな便利な物もあるんだね」

 

「ああ、そうだ……ロゼだったか……」

 

「なに?」

 

「小さく前にならえ!……無拍子!!」

 

 ……………え?

 ゴンベエがロゼとスレイの写真を撮ったと思えばゴンベエはロゼに向かって小さく前に習えをした後に見事なまでの正拳突きをお腹に叩き込んだ。

 

「おい、何しやがる!?」

 

「なにしやがるだと?……それはこっちのセリフだ。他の奴等を騙す事は出来てもオレを誤魔化す事は出来ねえんだよ!!」

 

「え?え?……ゴンベエ、いったいどういう事だ!?」

 

 突如としてロゼのお腹を殴り飛ばしたゴンベエ。

 少し前までベルベットに往復ビンタをくらっていたのが嘘の様に眉にシワを寄せて腕をバキバキと言わせておりロゼを殴り飛ばしたデゼル様は当然の如く怒っている。

 

「どうしたもこうしたもあるか……こいつ、アリーシャを暗殺しに来た奴だ!」

 

「……なんだと?」

 

 私を殺しに来た人……確かに私には敵が多い。味方は少ない……。

 

「他の奴等を騙せてもオレは騙されねえぞ!気配で一発で丸わかりだ!……スレイ、ライラ、今すぐに従士契約云々を解除しろ!!コイツは並大抵じゃないプロの殺し屋だ!!」

 

「まさか……風の骨なのか?」

 

 確かスレイと最後に別れた際に風の骨と思わしき暗殺者が現れた。

 アレがロゼであの後付いていったのならばスレイの従士等の話も納得がいく……ただ天族が見えていたからではない。

 

「なにが目的だ?導師の力の恩恵を得たいのか?それとも殺しに大義名分を得たいのか?……邪な気持ちでスレイに近付いて、なにがしたい!」

 

 背中の剣を抜いてロゼに向ける。

 その気になればゴンベエは何時でもロゼの首を切り落とす事が出来ると脅している。

 

「待った!待った待った!待ってよ、ゴンベエ」

 

 不用意な発言をするならば何時でも首を刎ねる事は出来るとゴンベエがロゼに圧を掛けているとスレイが間に入ってきた。

 

「スレイ、騙されるな!コイツは暗殺者なんだぞ!」

 

「……知ってるよ!でも、ロゼは悪い暗殺者じゃないんだよ!」

 

「そうです!現にロゼさんは純粋で穢れ1つ放っておりません」

 

「……お前、なに言ってるんだ?」

 

 間に入ってきたスレイはロゼが暗殺者だった事を既に知っていた。

 あの状況からどうやってスレイがロゼが風の骨だと知ったのかはやや疑問だが……いや、それよりもだ。

 

「スレイ、ロゼが暗殺者だと……風の骨の人間だと知った上で従士にしたのか!?」

 

 ロゼが風の骨の一員である事に驚きを隠せない。それどころかスレイも周知の上で従士にしている……っ。

 

「確かにロゼは暗殺者だけど、誰も彼も殺すそんな悪い暗殺者じゃないんだ。殺さないといけないって判断し」

 

 それは一瞬の出来事だった。

 ロゼについて詳しい説明をしようとするスレイだったのだがエドナ様が持っていたコインから光の玉が出現してスレイの元まで向かった

 

「ざけんじゃねえぞ、クソ導師が!!」

 

 光る玉は人の形に……アイゼンの姿になるとアイゼンはスレイを殴り飛ばした。

 

「……お兄、ちゃん……」

 

「……エドナ……」

 

「ふぅ……とりあえず1つだけ言っておく。安楽死とかそういう感じの死ならともかく負の連鎖を止める為の暗殺はダメな事だ、少なくともスレイ、お前が手にした導師と言う立ち位置では殺しを救いだと判断する事自体が間違いな筈だ……お前は導師、導く人間の筈だ。殺し屋を改心させたりするならばまだしも殺し屋の殺しを容認する様な奴は……導師以前に人間として失格だ」

 

 エドナ様とアイゼンは向かい合い言葉を失う。ゴンベエは色々と言いたい事があるが1つに纏めた。

 スレイ達との再会はあまりにも最悪な形ではじまった。




スキット 万能薬と進化する病

ゴンベエ「そういや、あの偽の導師は結局どうなったんだ?」

ザビーダ「上手い具合に逃げやがったよ。偽のエリクシールも持ってな」

ベルベット「偽の導師?偽のエリクシール?」

アリーシャ「ベルベット達と会う少し前に立ち寄った村で偽の導師が赤聖水(ネクター)をエリクシールと偽って売りつけていたんだ」

アイゼン「赤聖水……売っている業者は理解しているのか?赤聖水は少量ならまだしも多量ならば毒でしかないことを」

ベルベット「なんで本物のエリクシールを売らないのよ?古代の秘薬で材料が希少でもフィーが製造法を確立させたでしょ」

ザビーダ「それは……なんでだろうな」

アイゼン「最後の材料を入手するのが困難だから廃れていったかもしれん」

ゴンベエ「案外一番最悪なパターンかもしれねえぞ」

アリーシャ「……万能薬の利権を争って醜い争いを繰り広げた、か?」

ゴンベエ「それもあるけどよ……エリクシールの効果が無い病気が出てきたっていう可能性がよ」

ベルベット「十二歳病すらも治せる薬なのよ?そんな病気があるならとっくに有名になってるでしょ」

ゴンベエ「いやいや、そう話は上手くはねえんだよ。病気の原因であるウイルスは人間以上の速度で進化していっててな、一昔前の薬じゃ効かなくなるパターンもある」

ザビーダ「どういう意味だ?」

ゴンベエ「病気Aがあるとしよう。その病気に対してエリクシールを用いて治したら、体が病気Aがなりにくい体質になる。病気Aがなりにくい体質になっても病気ってのは直ぐにパワーアップをしてなりにくい体質の奴にも感染する病気A+になるが此処で問題なのは病気A+は病気Aに効いた薬が効きにくくなったりする。エリクシールは万能薬かもしれないが使い続けることでエリクシールに対して人間の肉体は耐性を得てしまって、最終的にはエリクシールでも治らない病気A+α的なのが誕生する……もしかしたらマオテラスはそれを危惧してエリクシールの開発を止めたのかもな」

アリーシャ「そうか、だからゴンベエは前に危惧を……」

ゴンベエ「人類の歴史は病気とともに有りだ。病気と人類は切っても切れない縁だ……全く、天の神様はなにを思って人間を生み出したのやら」


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秩序を持った悪人と無垢な阿呆

時折思う。作者に絵心の1つでもあったら色々と書けたと……まぁ、書けたら書けたで漫画家目指してるんだけどね。


 

「……なんで……なんで……」

 

「言っただろ。アリーシャちゃんが殺すんじゃなくて助けるって道の筋を通したって」

 

 スレイが色々とヤバい発言をしていると我慢が出来なくなったのだろう。器としているコインの中に引きこもっていたアイゼンは姿を現してスレイを殴り飛ばした。アイゼンのコインを凝視していたエドナはコインの中からアイゼンが出てきて驚いている。

 ザビーダはアリーシャが筋を通した事を伝えるとアイゼンはエドナの顔を見るのだがエドナはポロポロと涙を流していた。

 

「エドナ!?」

 

 涙を流しているエドナに慌てふためくアイゼン。

 やっぱりというか色々と溜まってるものがあったんだろうなと思いつつもアイゼンの側に寄る。というか背中を押す。

 

「ほら、妹の涙を受け止めるのがお兄ちゃんの役割だろう」

 

「……まぁ、なんだ……オレとしてはザビーダに殺されるつもりだったんだがな……アリーシャがそれを認めようとしなくてだな」

 

 アイゼンは今の今まで自分のワガママでエドナに会おうとしなかった。

 ライフィセットが残した鉱石を託した際には会ったらしいが基本的には会おうとしない。ドラゴン化も覚悟の上だった。だからだろう、どうやってエドナと向き合えば良いのかが分からない。何故に元に戻っているのかを言い訳の様にエドナに語る。

 

「アイゼン……エドナの兄はドラゴンだった筈だ!!」

 

「お前、んな事を気にしている場合か、あ?」

 

 アイゼンと初のご対面であるミクリオ。

 ドラゴンになっていたアイゼンを見ていたのかどうしてドラゴンから元の天族に戻っているのかを気にしているがそんなのを気にしている場合じゃない。とりあえずはとマスターソードに闇を纏わせて額に青筋を立てる。

 

「スレイ……って、気絶してるのか」

 

 1から何があったのかを聞かなければならない。

 全てを知っているであろうスレイに聞こうとするのだがスレイはアイゼンに殴り飛ばされて意識を失っている。

 

「起きんかい!!」

 

 まぁ、だからといって甘やかすわけにはいかない。

 昨日に引き続き気付けショックを叩き込むと意識を失っていたスレイがガハッと息を意識を巻き起こす。全く、なにやってるんだか。

 

「とりあえず正座な。エドナはアイゼンの膝の上に座れ」

 

「おい、なに勝手な事を」

 

「いいからやれ……今オレは結構不機嫌なんだよ。今ここで物理的にボコボコにされたいんだったらそれで構わない……命が大事ならば正座する事を勧めるぞ」

 

 とりあえずは正座だ。言いたいことはあるがそれはスレイも一緒の筈だが……色々と悪いのはスレイ達だ。

 アイゼンを地面に座らせるとチョコンとエドナはアイゼンの膝の上に座りライラとミクリオとスレイは正座でオレの前に座る。

 

「……なにやってんだ、お前?」

 

 スレイは覚悟はともかく導師と言う世間が待ち望んでいたヒーローになった。

 導師をインチキ扱いしたり政治の道具に利用したりする阿呆が居るがそれは気にせずに導師として穢れを浄化して地の主を祀る事をしなければならない。

 

「スレイ、お前はなんだ?言ってみろ」

 

「えっと……導師、だよ」

 

「そうだ。導師だ……なにしてんの?お前?」

 

 スレイは自分自身が導師である事には自覚をしている。

 それなのに、それなのにマジでなにやってんだ?ナメてんの?世界救うのってスゲえ難しいのにマジでなにやってんの?

 

「待ってくれ、ゴンベエ。その問い詰め方だと萎縮してしまう」

 

「いいんだよ、コレで」

 

「だが先ずは事情を聞かねば……スレイ、いったいなにがあってロゼが従士になったんだ?」

 

 対話の精神でスレイに接しようとするアリーシャ。

 そう、そこだ。スレイはオレが時間を稼いでおくからパワーアップを果たして来いと別れた……あの後どうなったのかは不明だがザビーダ曰くローランスで噂を聞いたのだと言っていた。

 

「グレイブガンド盆地のハイランドとローランスの両国の包囲網の網を抜ける秘密の抜け道を教えてくれたのが風の骨でね……彼処って戦争が巻き起こってた場所でしょ、そのせいで強い憑魔が現れて風の骨の人達が襲われてたから助けたんだ。そこでロゼの素顔を見て」

 

「で?」

 

「これからどうしようってなって一先ずはライラの言っていたパワーアップをしようって話し合いをしているとロゼが俺を不気味がってて……ロゼ、霊応力が人より高くてライラ達の声が聞こえてたみたいで、ロゼがそれを怖がってたからロゼに天族が見えるようにしたんだ」

 

「で?」

 

「それで……従士になってもらった」

 

「……いや、なんでやねん!!おかしいやろが!」

 

 天族が見えなくもない少女に天族が居るんだよと教えるのは導師としてなにも間違ってはいない。

 だが問題はそいつが殺し屋であること……暗殺者を従士にしようって言う発想が色々とおかしいやろうが。

 

「ええか、どんな大義名分や理想を抱えてても殺しは殺しや!」

 

「うん。でもロゼはそれを覚悟してて殺してる。殺すことで救われる人もいるって……だから従士に」

 

「なんでそうなるんや!!」

 

「がぁっ!?」

 

 もう何処からツッコミを入れればいいのかが分からない。

 とりあえずスレイに一発大きな拳骨を入れて殴り飛ばす……本気で殴ってないので気絶する事は無く、普通にスレイは起き上がる。

 

「スレイ、確かに殺すことで救われる者も居る……だが、スレイが立っている導師と言う立場はそれを認めてはならないものの筈だ!少なくともマオテラスが降臨する前の世界とマオテラスが降臨してからの世界では理も秩序も大きく変わっているんだ」

 

 スレイの言っている事をアリーシャは真っ向から否定する。

 マオテラスが降臨する前の1000年前の時代ならば憑魔と化した人間を殺すことは負の連鎖を断ち切る為に有りとしていたが今は時代が違う。浄化の力と言うやり直しの機会を与える新たな理が出来ている。殺しは救いではない。

 

「でも、ロゼは穢れてない」

 

「穢れ云々じゃねえよ。人として人殺しは基本的にはNGだつってんだよ。人殺しは最後の最後までとっておく手段なんだよ……ミクリオ、なんでお前は反対しなかったんだ!プロの暗殺者なんだぞ!」

 

「それは……同じものを感じる事が出来る人が居ればそれは仲間じゃ」

 

「アホかぁ!!仲間ってのはそんな馴れ合う関係性じゃないんだよ!趣味が合うとか話が合うとか色々とあるけど共感性を得る事が出来ても……ああ、もうなんでだよ!なんで導師が暗殺者を従士にしてんだよ!!」

 

 何処をどう言えばいいんだよ。

 殺すことを救いと思っている奴を改心させたりするならばまだしもその殺しに関してなにも言おうとしない。穢れていないから問題無いとかいう問題じゃない、人殺しは基本的には悪であり、例え殺すことで大勢の人間が救われるとしても殺しは悪だ。それを自覚しているからオレは秩序を持った悪人だと自負している。つーか人殺しをして穢れを放たないのもそれはそれで問題ありだ!間違った価値観や論理感を持ってしまっているんだから。

 

「おいおい、いくらなんでもそりゃねえだろう。お前さん、導師だろう」

 

「っ、ザビーダさんがそれを言うのですか!?」

 

「ああ、言うね。殺しを救いだと思っている俺をアリーシャちゃんとゴンベエは間違ってるって証明してくれたんだぜ?それなのに導師が殺すことを認めて、諦めちまってどうすんだって話だ」

 

 ザビーダは色々とあって殺すことを救いだと思った、いや、諦めたと言うべきか。

 憑魔狩りをしている事に関して間違っている事を証明したからな……。

 

「おい、逃げようとするんじゃねえ」

 

「っち」

 

 スレイに対して説教をしていると風の天族ことデゼルはロゼを抱えていた。

 このデゼルという奴はいったいなんなんだ?いや、それよりもだ

 

「この場から逃げてみろよ。写し絵の箱で撮影したロゼの顔写真をバラ撒いてロゼ及びセキレイの羽を表社会で歩く事が出来ない様にしてやるぞ」

 

 この場から逃げようとするならばこちらもそれ相応の対応をさせてもらう。

 この大陸にはカメラの1つも存在していない。そのおかげでアイフリード海賊団や災禍の顕主一行は上手く……いや、今にして思えばメルキオルのクソジジイが裏で色々と操ってたからな……今はそれはいいか。

 

「ならその写し絵の箱を壊すま─」

 

「邪王炎殺黒龍波!!」

 

「っがぁああああ!?」

 

 箱を破壊しようとペンデュラムを取り出したデゼルだったがここでずっと黙っていたベルベットが邪王炎殺黒龍波を放った。龍の顔になる程に穢れた炎をぶつけられて苦しむ。

 

「おい、ベルベット、流石にそれじゃ死ぬ!」

 

「……いいじゃない、死んだって」

 

 殺しに来たんじゃなくて説教をしている。

 殺すわけにはいかないなと言っているがベルベットは怖い顔をしている。

 

「今は、殺すことを救いじゃない時代よね……なのになによ!なんで殺しを認めている導師がいるのよ!あんたは個を全部選ぶって言ってたけど、全を救う為に個を犠牲にしているじゃない!!」

 

「っ!!」

 

「コレは穢れの領域!!」

 

 ベルベットは激怒する。

 さっきまでスレイが信頼する為のテストを、質問をした。その結果が個を全て選べば全になるという綺麗事だったが一先ずは納得をしてくれた……が、ロゼの件に関しては弁護する事は出来ない。今まで我慢していて抑えていた物をベルベットが吐き出すとどんよりとした空気が流れる。

 

「あんたみたいなのが……あんたみたいなのが、あの子を救うって言うの?今は殺さなくてもいい時代じゃないの?浄化の力とやらで業魔になった人間を元に戻すことが出来るんじゃないの?」

 

「……それは……」

 

 ライラはなにか言おうとするがなにも言えない。それだけスレイがやっていた事は愚かな行為だからだ。

 どんよりとした穢れの領域の空気が流れているがベルベットはまだ手を出していない。

 

「ライラ、お前はこの道のプロの筈だろう。スレイがロゼを従士にする時にそれはいけない事とか改心させたりしようとか言わなかったのか?」

 

「それは……」

 

「確かに天族が見える事は良いことだ。そいつを仲間にして一緒に旅をするのも……だが何事にも例外はある。殺し屋なんだぞ?」

 

「……申し訳」

 

「謝罪の言葉が欲しいんじゃねえよ!スレイはイズチとかいう天族の社出身だ!ミクリオもだ!外の世界もなにも知らないガキなんだよ!!エドナもレイフォルク在住でその辺りは疎い!!お前は天族云々以前に1人の大人として物差しにならないといけねえだろう!どうすんだ、スレイは穢れていなければ無闇矢鱈じゃなければ正しいと思っていれば殺しはしていいと思っている!間違った価値観を与えてしまってるだろう!!」

 

 この中で1番誰が大人なのかは分からないがライラは大人の女性の筈だ。

 スレイはイズチと言う人間社会とは断絶した社会で暮らしている。物の価値観はズレている。現にアリーシャが命を狙われていると教えに来た時に自分も殺されそうになった際に認識が甘かったと認めている。お前は天然なところはあるけどもそういうところはしっかりしてると思ったがオレの認識が大きく間違っていたみたいだな。

 

「っぐ、うっ……」

 

「っち、生きてたのね……退きなさい、そいつ殺すから」

 

「ダメだ!殺すんじゃない!!」

 

 邪王炎殺黒龍波を浴びたデゼルだったがなんとか穢れと炎を祓う事が出来た。

 ベルベットは聞こえるレベルの舌打ちをした後に剣を籠手から出して殺しにいこうとするのだがアリーシャに止められる。オレ達が殺してしまえばそれこそ本末転倒、今は殺しがNGな時代なんだ。オレだって殺っていいなら殺るけども、我慢してるからお前も我慢してくれ。

 

「とりあえず、お前はいい加減に目覚めろ!」

 

 倒れているロゼに気付けショックを打ち込む。

 無拍子を叩き込んだけども殺してはいない。本気で殺しにいこうとするならばお腹を貫くのかミンチになるのかのどちらかだ。

 

「ゲホッ、ゴホッ……ウッ……なにこれ、枢機卿のより重い」

 

 気付けショックで目を覚ましたロゼは咳込む。

 ベルベットが放っている穢れの領域を感じ取るのだがそれは今は気にしている場合じゃない。闇を纏ったマスターソードを首元に近付けて余計なことを言えば何時でも斬る事が出来ると念を押す。

 

「ロゼ……ふぅ……」

 

 アリーシャはどうしようか悩んでいる。

 ロゼが暗殺者だと知ってどうすべきか……殺して最初から存在を亡きものにするのが一番手っ取り早いのだろうがそれはいけない事だ。暴力でなく対話の心を持とうとしている。

 

「ロゼ、君は風の骨の人間なんだな」

 

「そうだよ、って言ったらどうするつもり?」

 

 二本の小太刀を構えるロゼ。

 ロゼがスレイの従士をしているならばそれなりに強いのだろうが、相手があまりにも悪すぎる。こっちは災禍の顕主に死神とホントに色々とコテコテな一員で……ヘルダルフ討伐とか明らかなオーバーキルだと思う。まぁ、彼奴は悪人だから同情はしないけども。

 

「……その力を別の方向で生かさないか?」

 

「どういう意味?」

 

「世の中には、それこそ殺さなければならない程のどうしようのないクズな人間は存在している。だがそれでも殺すことは間違っている。殺すことはせずに悪事の証拠を掴む……裁けぬ悪を誰かに代わって裁くのでなく裁ける様にする。悪事の証拠が無いのならば作り上げる、掴み取る……ゴドジンの村に教皇が居ると言う情報を掴んだのは風の骨の力なのだろう?ならばその力を人殺しに使うのでなくもっと別なものに使えるはずだ」

 

「お前……いやまぁ、お前がそういう姿勢ならいいんだけどよ……」

 

 説教の1つでもするのかと思えばアリーシャはロゼに人殺しを止める様に言うだけでなく新しい仕事を提案する。

 アリーシャは危うく殺されそうになった身なのに……殺しに来た殺し屋を仲間にして改心させようとするがロゼはプルプルと震えている。

 

「私達が……私達が、好きでこんな事をしてると思ってるの!!」

 

 アリーシャの接し方はどうやら間違っていたらしい。

 ロゼは小太刀をアリーシャに向かって振るおうとするのだがアリーシャは槍を取り出して攻撃を簡単に防いだ……。

 

「デゼル、やるよ!!」

 

「ち、仕方ねえ」

 

 アリーシャに対して攻めようとしている。

 ザビーダ達は見守っている。あくまでもコレは人間の問題だからな、下手に天族が介入するわけにはいかない。

 

「「『ルヴィーユ=ユクム(濁りなき瞳デゼル)』」」

 

「神依……ならばこちらもマオクス=アメッカ!!(笑顔のアリーシャ)

 

「え……なにアレ?」

 

「言っただろう。アリーシャはパワーアップを果たす事が出来たと……」

 

「んだよ、そっちの形態になるのか。向こうが神依使ってくるならこっちも神依使ってやったのに」

 

 ロゼが風属性の神依を発動するとアリーシャは闇を纏った。

 エドナはあの姿は初見なので戸惑っている。ザビーダは頼まれたら神依で戦うと愚痴を零す。

 

「なに!?その姿!」

 

「始まりを見届けた私の1つの終着点とも言うべき形態だ!これがどうしたんだロゼ!」

 

「っ……」

 

「神依が有れば人の小娘1人でも倒すのは容易いと思っていたのか?私も随分とナメられたものだ……あの旅で私は成長したんだ!」

 

 風の神依は空を飛ぶことが出来るがアリーシャには空の壁は無いと足元を爆破させて槍に炎を纏った。

 

爆炎槍(ブレイズランス)!」

 

「うっ!!」

 

「バカな……力の差が出てないのか!」

 

 神依となったロゼだがアリーシャは容易く攻撃を当てる。

 風属性の神依は火属性と相性が悪いのか今の一撃が効いたのかはしらないが空中で神依が解除されて地面に落ちていくので鞭を取り出して空中でキャッチ。そのまま引き寄せる。

 

「っ、ロゼから離れろ!!」

 

「五月蝿えぞ……ったくよぉ……」

 

 ロゼの中から出てくるデゼル。

 ザビーダと同じくペンデュラムを武器にしているのでペンデュラムを伸ばして攻撃してくるのだがこの程度ならば簡単に避ける事が出来る。

 

「……お前が導師以前の問題があるとは思いもしなかった……」

 

 スレイは世間知らずで常識に人間の世の中には疎いが善人である事には変わりはなかったがここまでとは思いもしなかった。

 ホントにここまで人を失望させる事ってあるんだな……いや、淡い期待を抱いたオレ達が悪いんだろうな。

 

「どうするんだ?」

 

「オレは別にハイランドに従属してるわけじゃねえ。裁く権利を持っているのはアリーシャだ」

 

「……ロゼ、罪を認めてくれ」

 

「認めてるよ!そんなのとっくの昔に……それでも私は私なんだよ!」

 

 グルグル巻きにされているロゼは鞭から抜け出す。

 此処でオレ達を倒さなければ未来は無いのだと察しているのか小太刀二刀流で攻めにかかる

 

「阿頼耶に果てよ!嵐月流・翡翠!!」

 

「それがどうした?」

 

「おぃおぃ……1番まずいのを選んじまったな」

 

 オレに対してロクロウと似た太刀筋というか嵐月流の技を使ってきた。だがだからといってオレが負けることは無い。

 クロガネに作ってもらったオリハルコンの逆刃刀を取り出して柄を握り抜刀した。ザビーダは御愁傷様だと手を合わせた。

 

「天翔龍閃」

 

 敵対する意思があるならば敵ならば慈悲など不要だ。

 天翔龍閃でオリハルコンの逆刃刀で殴打しているのだから大ダメージになっているのだろうが殺さないだけまだマシである。

 

「それで、どうするつもりだ?導師様よ」

 

 ロゼを殺してしまえばそれで終わりだが肝心のスレイについて終わっていない。

 アリーシャ的には殺しは絶対にダメなのでアリーシャの顔を立てる意味合いを込めて殺すことはせずにスレイの意思を確認する

 

「俺、間違ってたの?」

 

「少なくとも殺し屋を改心させずに仲間にしたことに関しては悪いことだ」

 

「……なら、どうすればよかったの?」

 

「それはオレの口からは言うことは出来ない事だ。オレは道があることを教えることは出来てもその道を歩めばいいと導く事は出来ない、いや、歩けと言ってはいけない」

 

 あくまでもそこに道があると教えるだけでその道を歩けと強制させるつもりは無い。

 スレイにはスレイの道がある……ただまぁ、一度道を踏み外した奴がそう簡単に元の道に戻るのは難しい。

 

「人間の世界って色々と変だよね」

 

「ああ、矛盾やエゴの塊だ……スレイ、お前はとりあえず1度、世界を巡ってこい。導師云々以前にお前は人間というものを知らな過ぎている」

 

「……」

 

 申し訳無さそうな顔をしてるんじゃねえよ。

 そんな顔をするぐらいならば最初から殺し屋を仲間にするんじゃねえよ、ダボが。

 

「……あのさ、ついでにこんな事を頼むのはどうかと思うんだけどさ」

 

「そう思うなら言うなよ」

 

「エドナの事を任せたいんだ……エドナは俺がアイゼンを元に戻すのを条件に一緒に旅をしてもらってて、アイゼンが元に戻った以上はさ……兄妹なんだからやっぱり一緒に居ないと」

 

「……そういうことが分かるのにどうして……まぁいい。とりあえずさっさと消えてくれ。これ以上此処に居ればベルベットが手遅れなレベルにキレてお前を殺すかもしれない。お前はそれだけの事をやらかした、流石に弁護する事は出来ないんだ……さっさと消えろ!!」

 

 オレはそう言うとこの村に唯一ある宿屋に向かった。

 写し絵の箱にロゼとスレイの顔を記録してあるから逃げて導師や暗殺業をするというのならばそれ相応の対応をさせてもらう。




スキット 教師ガチャ

アイゼン「この様な僻地に学校があるとはな」

ゴンベエ「やっぱ学校があるってここでは珍しいものなんだな」

ザビーダ「その言い方からして学校に通ってたのか?」

ゴンベエ「ウチの国は9年間学校に通わないといけない義務教育があるからな」

ベルベット「義務教育……楽しい学校生活を」

ゴンベエ「送っているわけねえだろうが。人の名前をバカにしやがって……親ガチャ子ガチャなんて嫌な言葉もあるけど担任教師ガチャなんてのもあるぞ」

アリーシャ「担任教師ガチャ?」

ゴンベエ「その教師が当たりかハズレか……オレは2回ほどハズレを引いた。5年生の時に新任教師を当てられ、6年生の頃には喧嘩をしている関係の奴に対して仲良くしようねとか言ってきたり……ホントにロクでもねえ」

ベルベット「そうなの?」

ゴンベエ「冷静に考えてみろよ。10になるかならないかの子供達約30名を1人で面倒を見ないといけねえんだぞ……不協和音の1つや2つ、合わない人間とかイジメの1つや2つ巻き起きてもなんにもおかしくはない……あまりにも無能過ぎる担任教師だったから学校を脱走して家に帰った事もあったな」

アイゼン「お前、意外とヤンチャしているんだな」

ゴンベエ「安心しろ、煙草とか酒とかには一切手を出していない。ただ貴方の授業は受けたくないと授業をボイコットして家で進研ゼミやってたぐらいだ……ほんっとロクでもねえよ」

アリーシャ「学校は勉強をする為の場所なのだが……」

ゴンベエ「言い方を変えれば洗脳教育の一種だからな学校って」

ベルベット「偏見混じってない?」

ゴンベエ「私情の1つや2つ混ざるぐらいに学校で色々とあったんだ。察してくれ…」


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村か国か

皆そんなにロゼとスレイをぶっ飛ばしてほしかったのか……。


 

「……導師達はゴドジンの村から出ていったみたいだ」

 

 宿屋に向かい宿の代金を支払い一室を借りて一息つく。

 ザビーダがスレイ達がこのゴドジンの村から出ていった事を教えてくれるのだが空気がどんよりとしている。ベルベットが穢れの領域を展開していると言うのもあるのだろうが、さっきの出来事が特に酷いからなぁ……。

 

「ベルベット、大丈夫か?」

 

「なにがよ?」

 

「穢れの領域が展開されてるんだ。今まで我慢していた部分があったのにな……無理させて悪かったな」

 

 この時代は過去とは大きく異なっている。殺すことを救いだと認めるわけにはいかない時代だ。

 確かに殺すことで救われたり負の連鎖を断ち切る事が出来るかもしれない……が、導師スレイはそれを認めてはいけない立ち位置の人間だ。お人好しに見えてまさか彼処までアホだとは思いもしなかった。暗殺者を改心させるならいざしらず暗殺者のままで殺しを救いと認識しかけているのは色々とまずい。一歩間違えれば大きく穢れてしまう。

 

「別に、はなっから期待なんてしていないわ。救世主だなんだの持て囃されても所詮はそんなものよ。だから謝らなくていいわ」

 

 ベルベットは口ではそう言っているが少しだけスレイに期待を寄せていた。

 個を全部選んでなんて綺麗事を言っていたがもしかすると出来るかもと淡い期待を寄せて結果的には痛い目に遇っている……返す言葉もない。少しだけ気持ちが落ち着いてきたのか展開していた穢れの領域が段々と弱まっていき最終的には穢れがベルベットの中に収まる……どういう原理なんだ?……まぁ、いいか。

 

「……」

 

「エドナ、離れろ」

 

「嫌よ」

 

 ベルベットが気持ちの整理がついたので他の事に意識を向ける。

 スレイに託されたエドナはアイゼンの背中に抱き着いている。アイゼンは困った顔をしてエドナに離れる様に言うのだがエドナはそれを嫌がる。アイゼン的には無理にでも引き剥がしたいのだが背中に抱き着いているので引き剥がすに剥がせない。

 

「アリーシャ、エドナを引き剥がしてくれ」

 

「えっと、エドナ様?」

 

「兄妹の団欒を邪魔するんじゃないわよ」

 

「……アイゼン、すまない。そう言われると私は返す言葉を失う。此処は大人しく受け入れるしか道は無い」

 

 思いっきりアイゼンに甘えているエドナ。

 アリーシャにSOSを送るのだが言い負かされたアリーシャは引いた……いやぁ、兄妹仲良く睦まじくてなによりだ。

 

「諦めなさい。今まで家族をほったらかしにしたツケよ」

 

「……エドナ、よく聞け。今は災厄の時代でそこかしこ穢れている。オレはアリーシャに力を貸すと決めている……お前はレイフォルクに戻ってだな」

 

「嫌」

 

「だが、死神の呪いが……」

 

「そういや、全く発動しねえな」

 

 アイゼンがエドナの側に居られない1番の理由は不幸を呼び寄せる死神の呪いだ。

 この辺りで1つぐらい不幸な事が巻き起こっておおかしくない。と言うよりは此処に来るまでに一度でも死神の呪いが発動したっけ……まさかと思うがドラゴンから元に戻すと天族の加護が消えるとかいうオチじゃねえだろうな。

 

「いいじゃない、ベッタリと甘えさせて……あんた達はこうして顔を合わせる事が出来るんだから」

 

「ベルベット……重い……」

 

「じゃああんたが軽くしなさいよ」

 

 ベルベットの言葉の重さが半端じゃない。

 アイゼンはとりあえずはとエドナを引き剥がす事に成功すると今度はベルベットの事をジッと見つめる。

 

「ねぇ、貴女……もしかしてベルベット・クラウ?」

 

「あんたがアイゼンの妹でアイゼンから聞かされてるならその認識で間違いないわ」

 

「なんで生きているの?アルトリウスと、最初の導師と相討ちになったって聞いたわよ」

 

「それは偽の情報よ。アルトリウスはちゃんと殺して……永遠の眠りにつこうと思ったら災禍の勇者が横槍を入れてきたのよ」

 

「災禍の勇者って、最初の災禍の顕主の右腕だった男……どういうことなの?」

 

「ご想像にお任せするわ」

 

 ジッとオレに視線を向けてくるベルベットとエドナ。

 流石に時間を遡って1000年前でドンパチやってたとは言えない。過去に戻ることは原則NGで過去を遡る事が出来ると知られれば都合のいい歴史を作り出す阿呆が確実に出てくる。そこはもう気にしない方向で行きたい。

 

「今は災禍の勇者に責任を取って貰ってる真っ最中で……弟を助ける為にここまで来たのよ」

 

「弟ってマオテラス?」

 

「ええ、そうよ」

 

「ホントは甥っ子だけどな」

 

「あら、それを言えばあんた、嫁の甥っ子になるわよ?」

 

 おっと、今回はグーパンが飛んでこないか。流石に1日に何度もマオテラスの叔母とか甥っ子とかネタにすればベルベットも馴れてしまう。

 確かにその理論で行けばマオテラスは嫁の甥っ子になる……いや、マジでそうだな。マオテラスの叔母とか甥っ子とかネタにしてるけどもその線があるのを忘れていた。

 

「ところでスレイが居なくなったから器が無くなったけども大丈夫なのか?」

 

 グダグダとやりつつも意識は現実に戻す。

 スレイという穢れを生まない器の中に今までは居たからなんとかなっていたのだが、今はスレイが居なくなって器とか契約云々を解除してしまっている。つい先程までベルベットがキレて穢れの領域を展開していたので割と危ない状態じゃないだろうか?

 

「大丈夫じゃないわ……その……ごめん、なさい」

 

「……えっと、なにについて謝罪をなさっているのですか?」

 

 どうやら大丈夫そうではないが時間はまだ残されている。

 エドナはジッとアリーシャを見つめたかと思えば謝ってきた。アリーシャに対して謝罪をしているのだがなにに対して謝っているのか心当たりが無いアリーシャは困惑している。

 

「……ロゼを仲間にした際に早いとこアリーシャの事を忘れればいいと思っていたわ。まさか貴女がお兄ちゃんを元に戻すなんて思ってもみなかった」

 

「……私は特になにもしていません。全てゴンベエの助力があったからこそです」

 

「いやいや、アリーシャのおかげだよ。別にオレはアイゼンを殺すことに関しては別にそれも手段の1つだって認識してた。アリーシャが最後まで嫌だと粘ったからアイゼンを元に戻すことが出来たんだ」

 

 オレは別に殺しを救いだと判断する事を間違っているとは言わない、手段の1つだと認識している。

 足掻くのもまた1つの手段だと与えたチャンスを不意にする事なく生かす事が出来たのはアリーシャのおかげ。この事実だけはどう頑張ってもひっくり返す事は出来ない。

 

「……なにか望みはないの?」

 

「望みですか?私は別に見返りを求めて助けたわけではありません」

 

「呆れた。お礼ぐらい素直に受け取りなさい」

 

「ですが、私はそんな風に捉えられても困ります……」

 

「……ほんっとお人好しよね、貴女!!」

 

 根が善人のアリーシャに思わずエドナは呆れてしまう。

 

「お礼がしたいならば見守ってやればいいんじゃねえの?」

 

「見守る?」

 

「そうだよ。アリーシャちゃんの行く末を見守るんだよ……色々と波乱万丈な人生を送るから、ヒヤヒヤもんだぜ」

 

「……そうね……」

 

「だったら琴を弾く役をしたらどうだ?」

 

 アリーシャに対して何らかのお礼をしたがるエドナ。

 ザビーダはアリーシャを見守る事を提案するのだがそれでも納得は行かなそうなのでオレは琴を取り出した。

 

「琴を弾く?……待って、貴方楽器を弾けるの?」

 

「ゴンベエの見た目で楽器を演奏する事が出来るか疑うのも無理は無い。だが、ゴンベエの演奏は中々のもので、中には不思議な力を宿した曲もある」

 

 オレが楽器を取り出したのだがエドナはオレに楽器が似合わないと疑いの眼差しを向けてくるのでアイゼンが補足する。

 エドナは地の天族だ。だったらこの曲しかないと地神の唄を弾くと背中のマスターソードとアリーシャの槍とベルベットの剣が反応をする。

 

「……悪くないわね」

 

「祈り唄だからな。アリーシャ単体で演奏するよりも天族が演奏した方がなんかご利益の1つでも付くだろう」

 

「……まぁ、それぐらいね。貸しなさい……どうやって弾くの?」

 

「この琴はですね」

 

 オレから琴を借りるとエドナは演奏のやり方をアリーシャから教わる。

 仲睦まじい光景で何よりだと思っているのだが、一周頭が回ってるのか冷静さを保っている。スレイが役立たないとは思いもしなかった。スレイを祀り上げて天族の信仰の文化を復興させて各地に天族を配置させる、一先ずの平穏を齎すには導師の存在が必要不可欠だ。

 

「お、いいね。だったら俺もなんか一曲響かせてくれよ」

 

「なら風神の唄があります。それはバイオリンを使ってですね」

 

 楽器に興味を持ったザビーダ。地神の唄だけでなく風神の唄も弾くとなればご利益がありそうだ。

 バイオリンなら持ってるぞとザビーダに貸してみるが素人がそう簡単にバイオリンを覚える事は難しい……まぁ、天族だから長い時間を生き抜く事が出来るのでその内覚える事が出来るだろう。

 

「導師無しで世界を明るい方向に導かないといけないのか……はぁ……」

 

 それはさておき憂鬱な気分になる。導師スレイを祀り上げておこうと思ったのだが頼ることが出来ないとは思いもしなかった。

 これから先、導師の存在が必要不可欠なのに頼ることが出来ない……さてどうしたものか。この国にも一応は天族の信仰の文化はあるんだよな。

 

「とりあえず教皇を探さないと」

 

「あら、教皇なら会ったじゃない」

 

 導師の事はさておいてゴドジンに来た本来の目的を思い出す。

 教皇であるマシドラを探しに来たのだがどうやら村長さんが教皇の様だ……オレが持ってるエリクシールがオメガエリクシールだと気付いていたし、当然と言えば当然か。

 

「村長が教皇……何故この様な村に?」

 

「教皇として頑張ったのに家庭を大事にしない非情な人間扱いされて嫌気が指して出ていったみたいよ……」

 

「あ〜……大変なんだろうな」

 

 マシドラ教皇は教皇として頑張った結果家庭を捨ててしまった。

 本人としては家庭も仕事も大事にしているつもりだったのだろうが……う〜ん……野原ひろしや荒岩一味みたいに家庭と仕事を両立するのって尋常じゃない程に難しいんだよな。地獄でキリトくんや上条当麻よりも野原ひろしや荒岩一味を目指して頑張れって鬱陶しくなる程に聞かされたからな。

 

「後、偽のエリクシールを売ってるのも教皇よ」

 

「はぁ!?マジでか?」

 

「ええ、マジよ。村の外れにある洞窟に教皇のサインが記された偽のエリクシールが沢山入った箱があるわ……この村って辺鄙なところで名産らしい名産も無いでしょ。穢れで作物も上手く育たないし学校を建てるお金や村を維持するお金は全て偽のエリクシールの売上金から出てるのよ」

 

 詳しい事情を教えてくれるエドナ。スレイ達と一緒に居たから見たのか。

 

「……結局歴史は繰り返されるだけじゃない」

 

 依存性のある赤聖水をエリクシールとして売る。

 1000年前のはじまりの時代でもキデオン大司祭を暗殺しに行った時にも同じ理由だった。ベルベットは結局世界は同じ事を繰り返している事に呆れている……いや、諦めているのだろう。あんなのを見せられたのならば尚更だ。

 

「どうするのよ?血翅蝶みたいな組織がこの時代に存在するなら何時かはあの教皇を殺しにいくわよ……似た理由で殺しにいった私達が言えた義理じゃないけど」

 

「そうなんだよな……大地の汽笛を走らせて此処にやってきたから直ぐにバレる。教皇を探している教会の人や騎士団の人達は此処に教皇が居るのだと知れば力づくで村長さんを連れ戻す……村長さんは戻るつもりは無い……」

 

 放置すれば風の骨みたいな組織が動く可能性が高い。

 教皇が殺されましたは洒落にならない……キデオン大司祭の時と違って割り切っているのか村長さんから穢れの1つも放たない。病気っぽかったっけど、オメガエリクシールで治っている筈だ。

 

「どうにかして偽のエリクシールを、赤聖水の販売をやめさせなければ……一般市民にまで偽のエリクシールが購入出来る様になってしまえばそれこそ風の骨の様な組織が動いて教皇の抹殺を目論んでしまう」

 

「なら本物のエリクシールを売れば良いじゃない。貴方達、作り方を知ってるんでしょ?本物のエリクシールが売られるなら偽のエリクシールは不要になるわよ」

 

「いやぁ……最後の素材で詰むし教皇が本物だと認めた偽のエリクシールと本物だけど教皇のサインが無い品薄のエリクシールだと偽のエリクシールの方が需要がある」

 

 エドナの言っている様に本物のエリクシールを売りさばく事が出来ればそれが1番なんだろう。

 だが、オメガエリクシールは最後に天族の祈りが、涙が必要だ。今の人間社会を見て涙を流してくれる天族が居るのだろうか?

 

「少し待てば本物のエリクシールが手に入るっていうのに人間って強情ね」

 

「そうですね……とにかく、偽のエリクシールの販売をやめさせなければならない。風の骨が情報を掴んだのならば直に偽のエリクシールの出処も判明する……だが、偽のエリクシールを売ることをやめれば売上金が出ない。そうなればこのゴドジンの村の生計に関わってしまう」

 

「……村という個を救う為に国という全を捨てるのか、国が混乱しない為に全を選び、村という個を捨てるのか……」

 

 またまた1つの選択に迫られてしまう。そのことにベルベットは感傷に浸る。

 偽のエリクシールが出回れば世の中がおかしくなる。偽のエリクシールを売るのを止めればゴドジンの村の生計に関わる。全を選ぶか個を選ぶのか……。

 

「とりあえず地の主になってくれそうな天族を探さそうぜ。加護の1つでも与えればなにか変わるかもしんねえ」

 

 八方塞がりでどうしようもないこの状況。ザビーダは空気を入れ替えるという意味合いを込めて地の主探しを提案する。

 此処でグダグダとやっていたとしても意味は無いので地の主になってくれそうな天族を探すことにする。ザビーダ曰く近くに大きな穢れの塊を感じているので宿を出てそこに向かえば大きな憑魔が居た。

 

「魔神剣・槍牙!」

 

 が、この程度の憑魔ならば過去の時代に当たり前の如くウヨウヨといた。

 アリーシャは退魔の力が宿った槍を取り出し、新しく会得した技を使い撃退すると憑魔は元の姿に、天族に戻った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「うぅ……貴女は?」

 

「オレ達はバンエルティア商会の者だ」

 

「その設定で通すのね」

 

 意識を取り戻した女性の天族。何者かと聞かれるのでとりあえず適当に言えばベルベットは呆れる。一応はこの設定の方がなにかと便利だ。

 

「導師じゃないの?」

 

「導師じゃないな……少なくともそこまで高尚な存在じゃねえ」

 

 あくまでもオレはエゴや矛盾の塊みたいなものだ。

 導師じゃないけど助けてもらった事実には変わりはないのだとお礼を言ってくるので地の主になってくれと頼み込むとあっさりと承諾してくれてゴドジンの村に戻る。

 

「穢れが多いわね」

 

「ちょっと待ってろ……焼くわ」

 

 穢れが多いことを気にする女性の天族。

 仕方がないディンの炎を展開すると穢れのみが焼き払われ、ゴドジンの村にあった淀んだ空気は消え去ってしまう。

 

「……貴方、ホントに何者なの?」

 

「名無しの権兵衛もしくは災禍の勇者だ」

 

 ベルベット達はこの光景を見馴れているので驚かないがエドナにとっては謎だらけなので聞いてくるので答える。

 オレが何者かと聞かれれば名無しの権兵衛でそれ以上でもそれ以下でもない、極々普通の一般人、ではないな。災禍の勇者なんて異名も持ってしまっている……蒼き戦乙女よりはマシである。

 

「この学校を器にしようと思うわ」

 

「そうか……じゃあ、村長さんに挨拶しないとな」

 

「私がどうかしたのかね?」

 

 女性の天族は学校の壁に触れる。

 この地の主になってくれるのならば挨拶の1つでもと思っていると村長さんが姿を現した。

 

「大丈夫なのですか?」

 

「あぁ。オメガエリクシールの効能があったのだろう。おかげさまで赤聖水の毒が抜けた」

 

「……隠さないんだな」

 

 村長さんは自身が教皇である事を隠さない。それどころか赤聖水の中毒性にやられていた事を自白する。

 

「此処に、このゴドジンの村に来た目的は導師達と同じなのだろう」

 

「そうですが……」

 

「例えなにを言われようとも私は戻らん。このゴドジンの村で残りの人生を終えるつもりだ」

 

「……そうか」

 

 穢れの1つでも出るかと思ったが村長さんから穢れは出てこない。それだけ覚悟を決めているというものだ。無理に連れて行くわけにもいかない。

 

「だが、赤聖水を売るのはいけねえ事だ。今はまだ大丈夫かもしれないが何れは一般にも流通して中毒患者が出て世の中を悪くする可能性がある。そうなれば風の骨の様な暗殺者があんたを殺しに来るぞ」

 

「……この村を救う為ならば命を捧げる……この村は私になにも言おうとしてこない。私に与えてくれたのだ」

 

「……この村が豊かになれば赤聖水の販売をやめてくれますか?」

 

「なに?」

 

 覚悟ガンギマリの村長さん。

 なにを言っても動こうとはしないと思っているとアリーシャは別の案を提案する。

 

「この村の為に汚れるならばこの村が豊かになれば汚れる必要は無いはずです……この村を豊かにします」

 

「馬鹿な、こんな辺鄙な土地では作物もまともに育たないのだぞ」

 

「……ゴンベエ」

 

「ま〜た、オレ頼りかよ。まぁ、いいんだけどよ」

 

 この辺りの土地は枯れていると言いたい村長さん。

 とりあえずは眼鏡を取り出して渡すと女性の天族を認識した。

 

「貴女は?」

 

「そうね。この地に祀られる天族と言っておこうかしら」

 

「!……コレは失礼しました」

 

「いえ、いいのよ。それよりも貴方、大分無茶をしているみたいね。一歩間違えれば憑魔化してしまうギリギリのラインを歩いている……」

 

 純粋に心配をする女性の天族。村長さんは全て覚悟の上なので申し訳ない顔はしない……覚悟は決まっている人は良くも悪くも強いな。

 この人が今度からこの辺りの土地の地の主になった事を教えると十字を切った……キリスト教でもないのに十字を切ったりするってこの世界は相変わらず曖昧でおかしいな。

 

「この土地を豊かにする事が出来るのならば赤聖水の販売を止めよう」

 

「はぁ……ホントに向いてない事をやらせやがって」

 

「よし、早速この辺りの土地、を」

 

「アリーシャ!?」

 

 いざ行かんと歩こうとするとアリーシャはバランスを崩す。

 咄嗟の事だったが直ぐ近くにベルベットが居たのでベルベットはアリーシャを掴むとアリーシャの異変に気付く。

 

「スゴい熱……なんで今まで黙ってたのよ!」

 

「ちが、う……おそらくこれ、は……」

 

「私がアリーシャを器にしたからよ」

 

「……今日はもう休むぞ」

 

 エドナがアリーシャを器としたからアリーシャは高熱を出した。

 導師との最悪な再会から今に至るまで色々とあった。アリーシャの体調が元に戻るまでここは一旦休みだな。




スキット 1つの側面


エドナ「ねぇ、お兄ちゃん」

アイゼン「なんだ?」

エドナ「ゴンベエって災禍の勇者なの?」

アイゼン「ああ。彼奴は歴史に残る最初の災禍の顕主の右腕的存在だ」

エドナ「その割には穢れの1つも放ってないけど」

アイゼン「ゴンベエの奴は色々とそれはそれ、これはこれと割り切ってるところがあるからな」

エドナ「そうなの?」

アイゼン「ゴンベエ曰く自身は秩序を持った悪人だそうだ」

エドナ「秩序を持った悪人ね……そうは見えないのだけど、演技の1つでもしてるのかしら」

アイゼン「それは彼奴の持つ一つの側面に過ぎない。ゴンベエは殺すことに対して躊躇いというものはない。現にザビーダがオレを殺すことに対して躊躇いは無かった。オレがあいつを殺した時やメルキオルを殺した時もだ。彼奴は世界を滅ぼす可能性を秘めている赤子が居るならばなんの躊躇いもなく殺すことが出来るほど非情な側面を持っている」

エドナ「そんなに残酷なのにスレイ達に色々と言ってて……おかしな人間ね、ゴンベエは」

アイゼン「人間という生き物は色々な側面()を持っている。基本的にはゴンベエは素らしいが何処まで素で何処までが別の顔なのかオレにも分からない……ただ、それこそが人間の本質だとオレは思っている」

エドナ「人間の本質?」

アイゼン「美しいものしか受け入れようとしないのは人間の悪い癖だ。だが、ゴンベエは良くも悪くもすべてを受け入れている。人間が背負っている業がなんなのかも十二分に理解している……元々は何処にでもいる一般人だったらしいが、彼奴に物事を教えたのは相当出来た奴なんだろう」

エドナ「変な人間なのね」

アイゼン「否定はしない……だが、ちゃんと物事は理解している。なにか問題があるとすればやる気が無いことだ。世界を嘆き憂いている男をめんどくさがり屋だと言いやがったとんでもない男だ。それこそちゃんと真面目にやればあのクソ導師みたいな事にはならない……現にアリーシャを正しいかはどうとして導く事は出来ている」

エドナ「……変なの」

アイゼン「ああ、筋の通った変人だあいつは」


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意外な一品

なんかランクインしてる。
感想お待ちしております


 

 とりあえずはとゴドジンの村に唯一ある宿屋で一泊した。

 結局ゴンベエ頼りなのはあのクソ導師と頼ることと大して変わらないんじゃないかと疑問を抱いたけれどもこの土地を豊かにしないと赤聖水の流通を止めることが出来ない。誰が救ったなんかを気にしている場合じゃない。

 

「うぅ……」

 

「熱、下がらないわね」

 

 それはそうとアリーシャの熱が一向に下がらない。

 エレノアがフィーの器になった時は数時間でケロッと復活していたけど、アリーシャの熱はすんなりとは下がってくれない。

 

「まぁ、コレばかりはしゃあねえよ。天族の器になる人間の運命(さだめ)だ」

 

 こんな状況には慣れっこなのかザビーダはアリーシャを責めたりはしない。

 アイゼンもエドナも当然の事だと頷くので私の口からはなんとも言えない。

 

「村を豊かにするって約束をしてきたのはお前なんだけどな」

 

「すまない、ゴンベエ」

 

 ただゴンベエだけは少しだけ困っている。

 村長である教皇に村を豊かにすれば赤聖水の販売を取り止めるとの約束をしたのだが肝心のアリーシャが動くことが出来ないと困っている。

 

「別にいいんじゃないの?この辺りの土地を豊かにするって言うけど、アリーシャが農業系の一次産業とやらが出来るわけないし」

 

「結局オレ頼りか……まぁ、良いんだけどよ。村を豊かにするって言ってもこの辺が辺鄙な土地である事には変わりはない。名産品の1つでも有れば良いがそれすらない……約束しといてなんだが難易度高いな」

 

「だったら此処で机上の空論を並べてないでさっさと調査してきなさい。アリーシャのめんどうは私が見ておくから」

 

「申し訳、ありません。エドナ、様」

 

「別に、お礼を言われる事じゃないわ」

 

 エドナがアリーシャの容態を見てくれるみたい。

 部屋で引きこもってああだこうだと話し合いをしていてもなにも始まらないのは事実。私達はエドナとアリーシャを残して宿を出た。

 

「で、どうするの?」

 

「ん〜……とりあえず農耕してる土地を調べてみるしかないな」

 

「調べるって、肥料でも作るの?」

 

 確か肥料って馬糞とかの糞尿で出来ているのよね。

 昔はドン引きしたけど今となっては大事な物、美味しい野菜を作る上では必要な物。

 

「いや、肥料を作るのには時間がかかる。植物性も動物性もどっちも手間が掛かる。天族の加護領域が発動したからコレから作物は育つだろうが……ええとどこだったけな」

 

「じゃあ農耕の土地を調べなくてもいいんじゃねえの?」

 

「そうはいかねえ、この土地を豊かにするってアリーシャが約束してアリーシャはオレを頼ってきたんだ。無下にするわけにはいかん」

 

 懐の中を弄るゴンベエ。

 ザビーダは農耕の土地を調べなくてもいいんじゃないのかと言うのだがゴンベエは調べると言っている……そんなにもアリーシャが大事なのね……そこには私が居るべきじゃないかしら?

 

「あったあった」

 

「なんだそれは?」

 

「リトマス試験紙もどき」

 

「リトマス……もどきという事は本物じゃないのか?」

 

「本物じゃないけど本物と同じぐらいには仕事をするよ」

 

 懐を弄っていたゴンベエは小さな紙を取り出した。

 ただの紙じゃないとアイゼンが聞いてくるので答えるのだけれどよく意味が分かっていない。ザビーダもちんぷんかんぷん、私も当然分からない。使ってくれと私達にゴンベエは配るのだけれど紙をなにに使えと言うのかしら?

 

「この紙を地面に突き刺してだな……ビンゴだな」

 

「紙の色が変わった?」

 

 地面に紙を突き刺すと刺さった部分が赤色に変わった。

 ゴンベエはやっぱりかといった顔をしておりメモを取っている。

 

「作物が育たない理由は酸性、アルカリ性、Ph値、保水力、保肥力と色々とあるが此処は土地が酸性の土になってるから育ってねえんだ」

 

「成る程、コレはその土を調べる為の道具だというわけか」

 

「まぁ、ざっくりと言えばそういうことだ……こんだけ真っ赤な土地という事は……あ〜やっぱりあるか」

 

 雑草を引っこ抜いているゴンベエ。

 ただ除草をしているわけじゃない。コレは……なんの草かしら?

 

「コレはヨモギだな。薬草なんかに使われる草で、確かロクロウの故郷では餅や団子の材料にして食うらしい」

 

「他にもスギナ、オオバコ、ハコベ……食えない事はない野草だな。コレがサバイバルの土地なら良いんだけど街中に生えてたらな」

 

 雑草の事を知っているアイゼンとザビーダ。伊達に長く生きていないわね。

 雑草を引っこ抜いては紙を地面に突き刺す。やっぱりというか赤色になってしまう。

 

「で、作物が上手く育たない理由が分かったの?」

 

「ああ。この辺りの土が酸性の土が原因だ。酸性の土だと野菜や小麦なんかが育ちにくい」

 

「そう、なの?」

 

「ああ、細かな話をすればPhとか色々とあるから言わないけどもとにかく酸性の土をアルカリ性で中和すれば作物が上手く育つ筈だ」

 

「口では簡単に言えるが、実際のところどうするんだ?」

 

「焼いた灰とか貝殻の粉を巻く……そうすれば酸性の土地は中和される……ただなぁ……」

 

「なにか問題でもあるのか?」

 

「成果を上げるのに結構時間が掛かる」

 

 ゴンベエは困ったと頭を抱える。

 コレから土地を豊かにすると言っても1日2日で土地を豊かにする事は出来ない。そんな便利な事はいくらゴンベエでも簡単に出来ない。

 お米や小麦を作っている土地にも足を運び土は大丈夫か、ただ単純に種を撒いていないのか確認をし、どうすればゴドジンの村が豊かになるのかを考えていく。

 

「う〜ん……今からゴドジンの村を豊かにする事は出来ても1日2日でどうこうする事が出来ないんだよな」

 

 改善する部分は沢山あったけども成果を出すのにはそれなりに時間が掛かる。

 直ぐにでも成果を出さないといけないからちょっと待ってては通じない。村の収入源、その場しのぎでいいからなにか考えないといけない。でなきゃ赤聖水の販売を止める事は出来ない。

 

「アリーシャ、大丈夫か?」

 

 色々と調べて改善点のみ見つかり現状を打破する方法を見つける事は出来なかった。

 成果が乏しくない事は残念だけれど仕方がないと一旦宿に戻るとアリーシャは熱が落ち着いてきたのかベッドから上半身を起きあがる。

 

「まだ少しだけ熱が……だが、順調に治る方向に向かっているのを感じる」

 

「そうか……エドナ、アリーシャの事を見てくれて助かった」

 

「別に、これぐらいならなんでもないわ……それより甘い物が欲しいわ。アリーシャの熱のせいか暑いし、冷たくて甘い物が食べたい」

 

 エドナはお腹すいたと言ってくる……聖隷って、食事は不要な種族な筈よね。

 甘い物が欲しいとエドナから要望があったのでゴンベエは氷を作り出し、筒状の容器と牛乳とかを取り出す。アイスクリームを作るつもりね。

 

「それでなにかわかったのか?」

 

「改善したり変えたりする事は出来る……ただ、1日、2日で成果を上げれるかと聞かれればNOだ。今すぐにでも何らかの成果を叩き出さないと村長さんは赤聖水を売るのをやめねえ」

 

「そう、か……」

 

 聖隷の加護領域とやらが土地を豊かにするらしいけれど、それはこれからで今すぐじゃない。

 今直ぐにでも成果の1つを上げないといけないけど、そう簡単に成果を上げることは出来ない……八方塞がりね。

 

「よし、出来たぞ」

 

 どうしたらいいのか分からずじまいで悩んでいるとゴンベエはアイスクリームを完成させた。

 スプーンを取り出して筒の容器の側面にこびりついているミルクのアイスクリームをアリーシャとエドナ、っていうか全員に配る。

 

「お、中々にイケるじゃねえか」

 

「アイスクリームなんて配合間違えなければ良いだけで後は凍らせておけばいいだけの物だろう」

 

 アイスクリームをいただくザビーダ。

 私も今日は色々とあったなとアイスクリームを食べる……ミルク感が強いけれど甘くて美味しい。まぁ、私が作った方がもっと美味しいわ。ゴンベエは料理が出来るのであって料理上手じゃない。なんとかしてゴンベエの舌を私好みに作り変えないといけないわね。

 アイスクリームを食べ終えるとゴンベエはアイスクリームが入っていた容器等を洗いに行こうとドアを開けばそこには村の住人達がいた。

 

「あんた達、この村に来たのは村長さんが目的だろ!」

 

「村長さんは絶対に連れて行かない!!」

 

 私達が教皇を連れて帰ろうとしている事を知って抗議に来た村の人達。

 それだけ村長が慕われているというわけで、厄介な事に穢れの1つも放っていない。村の人達は純粋に村長を心配している。

 

「他所者は出ていけ!!」

 

「そうだ!この村には導師も教皇も不要なんだ!」

 

「あ〜……めんどくせえな」

 

 拳の1つでも振るって事件の解決をすれば手っ取り早いけどゴンベエはそれをしない。ゴンベエがしないならば私も暴れるわけにはいかない。

 どうやってこの場を切り抜けるか考えていると大きな声が響いた。

 

「やめないか!!」

 

「村長、ですけど」

 

「この者達は悪人ではない……これではどちらが悪なのか分かりはしない」

 

 教皇、じゃなかった。村長が現れて村の住人達を追い返す。

 村の住人達は余計なことをと私達を睨んでくるけどこの程度の殺気ならば痛くも痒くもないわ。

 

「すまない……皆は私の為に動いてくれて、悪意は無いんだ」

 

「悪意が無ければ大丈夫だと思ってんのか?」

 

「それは……申し訳ない事をしてしまった。なんと詫びればいいのか」

 

「そう頭を下げられてもそれはそれで困るんだけどな」

 

 穢れの1つも放つかと思ったけれど、穢れは放たない。

 村長は心の底から申し訳無いと謝罪している。謝りたいという気持ち自体は伝わってくる……めんどうね。

 

「それでこの村を調べていた様だがなにか分かったのか?」

 

「この村の土は酸性で作物を育てる事に向いていない。石灰を使えば酸性の土を中和する事が出来る、小麦やほうれん草なんかの作物が育つようになる」

 

「そんな事がわかったのか!?……その石灰とやらは何処で手に入る?」

 

「貝殻を粉末にした物が石灰だ。後、米を作るときに普通に種を撒いていたがそれよりもだな」

 

 そこからはゴンベエがよく分からないワードを出しているので上手く理解できない。

 この村の農業に関する改善点を指摘する。村長は大事な事だからとメモを取っている……コイツ、どれだけ知識が豊富なのかしら?この大陸の文字をまともに読むことすら出来ないのに、どんな教育を受けていたのかしら?

 

「的な感じにすれば農作物は上手く育つ筈だ」

 

「成る程……1度試してみよう」

 

 ゴンベエが農業の何処をどう改善すればいいのかを教えると試す方針で進む……けど、気まずい空気が流れている。

 

「村長さん。オレの言った農業のやり方で成果を上げる事が出来たとしても1か月以上は掛かるし確実に成功するという保証は無い……だからなにかこの村の特産品、名物を作り上げないといけないわけだが……なんかないの?」

 

「赤精鉱ならばあるのだが」

 

「毒を売れと?それが出来ないからこうして頭を抱えてるんだろうが」

 

 どうしようと八方塞がりなゴンベエ。今すぐにでも名産品の1つでも作り上げないと赤聖水を売ることをやめない。

 この辺りでしか取れない物は赤精鉱で、それは依存性が強い危ない薬にしかならない。1000年前の時代でそれにやられた人達の末路を見ているから素直に受け入れる事は出来ないわ。

 

「とりあえずコレを洗ってくるか」

 

「それは、氷か?何故その様な高級品がここに……」

 

「……え?」

 

 現状を打破する事が出来ないと思っているとゴンベエは固まった。

 

「氷って高級品なのか?」

 

「なに言ってるのよ?高級品に決まってるじゃない」

 

 氷は性質上寒い土地でしか作ることが出来ない。

 寒い土地だと格安でもこういう辺鄙なところでは高級品、アイスクリームみたいな氷菓子なんかは普通のご飯よりも遥かに値段が高い。氷一個で私が1日頑張って狩ったウリボアの肉ぐらいの値段な時だって普通にあるわ。

 

「……こんなんが高級品で金になるんだったら幾らでも作ることが出来るぞ?」

 

「……は?」

 

「だから氷を作り出す装置ぐらい簡単に作れるって言ってるんだよ」

 

「なにを馬鹿な事を。氷は寒い雪国の地域でしか取れない物で人工的に作り上げるなど不可能に等しい」

 

「……いや、ゴンベエなら可能だ」

 

「そういえば……家に冷気を発してる箱が、冷蔵庫があったわね」

 

 ゴンベエは氷を神秘的な力を用いて作り出す事が出来る。それと同じで神秘的な力を使わずに氷を作る装置を作り出す事が出来る。

 あの冷蔵庫とか言うのに入っていた食材は全部冷やされていた。どういう理屈かは知らないけど氷も作り出す事が出来ていた。

 

「天族のみが使えるという天響術ならまだしも氷を作り出す装置など、眉唾ものだ」

 

「ん〜じゃあ、こういう感じの道具ならどうだ?」

 

 ゴンベエはそういうと杖を取り出した。

 ただの杖じゃなく冷気を発している杖で溶けかけていた氷水に向かって放つとカチンコチンに凍りついた。

 

「な、なんと……紛れもなく氷だ!」

 

「……村長さん、赤聖水は危険な代物だ。それを売るのはやめてほしい。それを売って飲んでしまった人間の末路を見てしまっている。止めてくれるって言うならばこのアイスロッドを農耕の成果が出るまで、巨大な冷凍庫を作るまでの間貸してやってもいいぞ」

 

 コンコンと村長は氷を突く。

 ゴンベエは目を細めて手に持っている棒もといアイスロッドを村長に手渡す。

 

「氷ならば水だけで良い、原材料はタダに近い……純利益率は高いはずだ」

 

「……本当に、本当にこの村を救ってくれるのだな?その冷凍庫という装置があれば氷の量産を可能なのか?」

 

「ああ。ただまぁ、冷凍庫もあくまでも延命措置みたいなものだ。農耕の方で成果を叩き出さないとそれこそ自転車産業になっちまう」

 

 あくまでも本命は農業の方にあると主張する。

 氷は寒い時期には需要がない、暑い時にこそ必要な物で、何時寒冷化するか分かったものじゃない。そうなれば氷の価値は大暴落……そうなる前に農業の方で成果を出さないといけない。確かに時間稼ぎの延命措置ね。

 

「村長さん……冷凍庫を作るのは一筋縄じゃいかない。それこそ村の人達が協力してくれないと作れない一品だ。これ以上は赤聖水を売らないならば、冷凍庫を村の人達総出で作り上げるのならば冷凍庫の作り方を教えてやる」

 

「少し、少しだけ時間をくれないか?」

 

「無理だな。赤聖水は既に市場に流通している。導師スレイがゴドジンの村に向かったという情報も漏れている。あんたのところに教会の人間は何時来てもおかしくないんだ」

 

「……分かった。その冷凍庫とやらの作り方を教えてくれないか?」

 

「1人で作るのは時間が掛かる。村の人達から許可を得てこい。村を救う為に村の人達が総出で頑張るんだ」

 

「……失礼する」

 

 村長はそういうと宿を出ていった。

 

「あんたがそのアイスロッドとか言うのを渡せばそれで済んだことじゃないの?」

 

 氷を作り出す装置はスゴいけれど、極端な話氷を作り出すならゴンベエが持っていたアイスロッドで充分なはずよ。

 

「アイスロッドは予備があるけど本来は攻撃に使う武器なんだ。なにかの手違いで武器として使われたのならばそれは渡したオレの責任になる……にしても氷って高級品なんだな。氷なんて家で作るもので精々コンビニとかで売ってるの買うぐらいのイメージしかねえんだが……」

 

「相変わらずあんたの住んでた地域は謎だらけね……けど、今回はそれで救われたわ」

 

「……まぁ、それで救われる奴が居たのならばそれでいいんだけどよ」

 

 些か納得がいかない感じのゴンベエ。

 こんなことで村を救うことが出来るとは思ってもみなかった……けど、助ける事が出来るのは事実……にしても氷を天然物じゃなくて人造的に作ることが出来るなんて相変わらず規格外なところがあるわね。

 

「さて、設計図を書いておかないとな」




テイルズオブ世界において氷は高級品です(多分)

スキット 愛しきあなたに

エドナ「ねぇ、貴方ベルベットとどういう関係なの?」

ゴンベエ「手下と主人の関係性」

ベルベット「今はもうそういう関係性じゃないわ。お互いフェアな関係性よ」

アリーシャ「フェアな関係性なのだろうか?ゴンベエに責任を追求している時点でフェアではない気もするが……」

ベルベット「じゃあ、また過去に遡って私の眠りを邪魔しないでよ」

ゴンベエ「お前、そういうのは卑怯だろうが……」

ベルベット「最初にズルをした人間には言われたくないわ」

エドナ「結局、ゴンベエとベルベットは夫婦なの?」

ベルベット「ええ、そうよ」

ゴンベエ「ちっがう!同棲しているだけだから、まだ結婚してないから」

ベルベット「まだ言い逃れをするつもりなの?……そんなに私と一緒になるのが嫌なわけ?」

ゴンベエ「いや、嫌かどうかと聞かれれば……嬉しいには嬉しいけどさ……」

アリーシャ「ベルベット、無理にゴンベエに迫るのは止すんだ……同棲中にアラが見えて破局する可能性だってあるんだから」

エドナ「アリーシャ、フォローになってないわよ……ヘタレ童貞クソ雑魚ね」

ゴンベエ「んだと!お前だって1人の人を愛する感情が無いドライモンスターだろうが」

エドナ「誰がドライよ。私にだって誰かを好きになる感情の1つや2つあるに決まってるじゃない。貴方はそれを持ってもなにもしていないじゃない」

ゴンベエ「じゃあ、どうしろと言うんだ?ベルベットにキスの1つでもしろと?」

エドナ「安易にキスに頼るなんてお子ちゃまね。もっと別のがあるでしょう」

ゴンベエ「……ヘイ!マイハニー!」

ベルベット「それは却下!」

アリーシャ「ゴンベエ、気持ちの悪い声を出すんじゃない……その、名前を普通に呼んでくれるだけでいいんだ。何気無い事だが私にとってはそれで幸福なんだ」

ゴンベエ「愛しき我が愛よ!今日もその可憐なる顔を見せてはくれまいか?」

アリーシャ「そ、そそそ、そんな事を言ってもダメだからな!」

エドナ「効果抜群じゃない……でもキモいわね」

ベルベット「ええ、気持ち悪いわ」

ゴンベエ「お前等、オレも体張ってるんだからお前等もなんかしろよ」

アリーシャ「ええっと……だ、ダーリン!浮気はダメだっちゃ!!」

ベルベット「……あ、I LOVEダーリン……」

エドナ「……甘ったるいわ!!甘いのは好きだけどこんなのは不要よ!」

アイゼン「馴れるしかない」


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とりあえず1つの形に纏める

ゴンベエ達転生者に質問コーナーとかやりたい……感想お待ちしております


 

 赤精鉱を原料とした偽のエリクシールの販売を阻止すべく出した答えがまさかの冷凍庫だった。

 氷って高級品なんだなと改めてこの世界の謎を感じている。いやまぁ、昔は氷が高級品だったと聞いたことはあるけども。

 

「コレで最後か」

 

「ああ、赤精鉱と赤聖水は此処にあるので全部だ」

 

 村長さんはアイスロッドで満足してくれたのか赤聖水をエリクシールと偽って売るのを止める。

 口約束だと万が一があるので念には念を入れて現時点で取れる量の赤精鉱と赤聖水を一箇所に集めてもらった。

 

「あの時よりは少ないわね」

 

「いや、既に市場に回っている。コレの数倍はあると思わねえと」

 

 何時かの倉庫の破壊に行った時の事をベルベットは思い出す。

 あの時と比べれば赤聖水は少ない……が、既に赤聖水はエリクシールとして市場に出回っている。既に赤聖水の毒にやられて憑魔化した人間が居るかもしれない。そうなれば浄化の力で元に戻しても薬の依存性の問題で暴れ回る可能性が高い。危ない薬はホントに良くない。

 

「この赤聖水と赤精鉱は破壊させてもらう。何かの理由で売らなきゃならなくなったとか洒落にならないからな、念には念を入れさせてもらう」

 

 出る杭は打たれる、念には念を入れておく。

 右手に炎を、左手に冷気を放出して両手を合わせると弾けて光の矢に替わる。

 

「極大消滅呪文・メドローア」

 

 オリハルコンすらも簡単に消滅させる事が出来る大魔導士の一撃を赤聖水と赤精鉱が入っている箱に向かって放つ。

 触れるだけで問答無用に破壊する最強の呪文で確実に殺す文字通りの必殺技でこんな事に使っていいのだろうかと思うが、こういうとこでしか使い道は無い。メドローアを赤精鉱等が入った箱にぶつけると粉微塵と言えない文字通り跡形もなく消し去った。

 

「ふぅ……悪の根は根本的な部分から断っておかないと」

 

 久しぶりに撃ったけどもやっぱり半端じゃない威力だな、メドローアは。完全に消し去った事を確認した。

 

「君はいったい何者なんだ?」

 

「災禍の勇者もしくは名無しの権兵衛だ」

 

 村長さんの目の前でメドローアを撃ったので驚いている。

 オレが何者なのかを問うので何時もの様に適当に答えておく。

 

「本当になんとお礼を言えばいいのやら」

 

「いや、あんたが元の鞘に戻ってくれればそれが1番手っ取り早いんだよ」

 

「すまない、それはできない事だ。私はもう教皇として戻るつもりは無い」

 

 でしょうね。ここまで来て教皇に戻りますと言われてもそれはそれで困ったものだ。

 ゴドジンの村に居るであろう教皇は見つける事が出来たが連れ帰る事は出来なかった……どの面下げてセルゲイやフォートン枢機卿に会えばいいんだろうな。連れ戻すと約束をしたわけじゃないけどもどうしたものか。

 

「罪滅びしとは言わないが、コレを」

 

「コレは、書状ですか?」

 

 教皇のサインが入った便箋をアリーシャに渡した。

 

「無責任な人間だと言われようが構わない。だが、責任は果たさなければならない……セルゲイやフォートンに託してくれ」

 

「……分かりました。この書状、なんとしてでも届けます」

 

 此処に来て良かったと言うべきか結果を上げる事が出来なかったと嘆くべきか。

 アリーシャは村長から書状を受け取った。コレで一先ずは問題を解決する事が出来た……そう喜んだらいいのだろうか?まぁ、その辺はオレの管轄じゃないアリーシャが頑張らないといけない部分なので深くは気にしない。

 

「……ん?」

 

 大地の汽笛に乗り込みいざゴドジンの村を出発だとペンドラゴを目指そうとするのだがその前に視線が向けられている事に気付く。

 大地の汽笛が珍しいからとかじゃない。オレに対して視線を向けている。振り向けばそこには村の人達が沢山いる……が、違う。村の人達の視線じゃない。

 

「どうしたの?」

 

「いや……ちょっとな」

 

 なにかに気付いているオレに気付くエドナ。

 向けてきている視線が気になるがオレ達に対して直接害意を為すものじゃない。仮に攻撃してきたとしてもこのメンツに挑みに来るのはアホだ。

 

「貴方、こんな便利な物を持っていたのね」

 

 大地の汽笛を走らせる。目的地はペンドラゴだ。エドナは大地の汽笛に乗るのははじめてなので大地の汽笛の窓から覗き込む。

 

「便利だけどデメリットもある……って、アイゼンにも似たような話をしたか」

 

 大地の汽笛はなんの問題も無く走っていく。道中、道を防いでいた落石は前日にアリーシャ達と共に破壊しているので邪魔が入らない。

 このまま順調に行けばペンドラゴにあっという間に着くだろう。

 

「……どうしたものか」

 

「なにに悩んでんだよ?」

 

「スレイが使い物にならないのは流石に想定外だった」

 

 スレイを祀り上げて天族の信仰文化等を復興して上手い具合に1つの形に納めたかったんだがな。

 

「あんた、そんなに導師が必要なの?」

 

「必要っていうか1つの形に纏めるのに必要なんだよ。何はともあれ1つの形に纏めて終わらせる……そりゃあ欲を言えばもっと綺麗な形で纏めたかったけどもとりあえず1つの形に纏めて終わらせてそこから色々と改善したりすればいい。そう思ってたんだけどな」

 

 とりあえず1つの形に纏めて終わらせるんだとフェイスブックだかTwitterの創始者が言っていた筈だ。

 とにかく1つの形に纏めて終わらせればそこから色々と改善点を見つけ出して変える事が出来る。その為には平和の象徴が必要なんだよな。

 

「もうあんな導師になんか頼らなくてもいいじゃない。今回もそうだし、今までだってなんだかんだで上手くやってるんだから……あんな導師はこっちから願い下げよ」

 

 スレイの評価が元から低く、更にはあんな事があったので地の底を貫いている。

 ベルベットはスレイになんか頼らなくていいというがそうなるとコレから先、導師じゃないと言い続けないといけない。

 

「導師に頼らず災禍の顕主が世界を平穏に導く、か……なんともおかしな話だな」

 

 今まで導師が災厄の時代を救うのを見ていたアイゼンはボソリと呟いた。

 導師無しで世界を救うという前代未聞の事態……あぁ、考えるだけで頭が痛い。

 

「ペンドラゴが見えてきたわよ」

 

 色々と考えてみるものの導師不在は痛い。どうしたものかと思っているとペンドラゴに辿り着いた。

 2回目だがペンドラゴの住人にとって大地の汽笛は未知の乗り物に近く、人が集っている……前回よりも多いな。

 

「皆の者、引け!ハイランドからの使者が参った!!」

 

「ホラホラ、全員退いた退いた」

 

 大地の汽笛を物見山で見物しているペンドラゴの住民達をセルゲイが引かせる。

 コレはチャンスだとセルゲイに便乗して大地の汽笛から降りて物見山の一団を引かせる。

 

「よくぞ舞い戻った……」

 

「詳しい話をしたいから何処か場所をお貸しください」

 

「ああ。騎士団の駐屯地で聞こう」

 

 あくまでもアリーシャの従者である。その設定は貫き通さないといけない。オレには権力は無いのだから。

 大地の汽笛を停泊させて騎士団が使っている駐屯地に向かう。そこには何時もの騎士達とフォートン枢機卿がいた。

 

「……仲直りでもしたの?」

 

「ん、ああ……ちょっと力技で解決したんだよ」

 

 フォートン枢機卿がどちらかといえば敵側の住人である事をエドナは知っていて意外そうな顔をしている。

 穢れの領域的なのを展開しているわけではないのでエドナは苦しい表情を浮かべない……力技とはいえ解決して正解だったのかもしれないな。

 

「セルゲイ殿、こちらを」

 

「コレは……教皇のサイン!?」

 

「中身をご確認ください」

 

 教皇のサインが記された書状をアリーシャは渡す。

 セルゲイは驚いた顔をしており中身の確認はまだだったので読んでくれとアリーシャが言うとセルゲイは便箋の中身を開いた。

 

「【先ず一筆、この度は申し訳ない事をした。ペンドラゴは騒動になっているだろう。しかし私は後悔はしていない、今の生活を手放すつもりはない。だがそれでは国の運営に携わっている……誠に申し訳無い事をした】」

 

「申し訳無いって、なにが申し訳無いのかしら?」

 

 便箋の中身の手紙を読み上げるセルゲイ。

 一応は申し訳ないと思っているのか……まぁ、言うて他所の国の事情なんて知ったことじゃねえからな。エドナはなにに対して謝罪をしているのか些か疑問を抱く。

 

「【誠に勝手ながら教皇を辞任させていただく。コレから市場に出回る教皇の印が付いた物は全て偽物と思ってくれ。後釜は好きにしてくれ】……アリーシャ殿、教皇とお会いしたのですか?」

 

「ええ……私達にはどうすることも出来ませんでした。マシドラ教皇はもう元の鞘に戻るつもりは一切無い、覚悟を決めていました」

 

 手紙の内容は教皇の辞表だった。教皇として最後のケジメをつける為に色々と書いてある。

 もし導師達が現れたのならばこう語ってくれと導師の秘力についても残しており導師と名乗る人物がもし来たのならば力になってやれと言伝を残している。

 

「なんということだ教皇が行方知らずのまま辞任する等、前代未聞の事態……どうにかして連れ戻す事は出来ないのですか?」

 

 流石の辞表に驚くフォートン枢機卿。

 

「それは無理です。誰が教皇代理を務めるつもりなのですか?」

 

 フォートン枢機卿も教皇を連れ戻す事が出来ないかと尋ねるがオレ達は首を横に振る。

 元に戻すことは出来ない。仮に無理矢理連れてきたとしても脱走するのが目に見えている。無理な事だとバッサリと割り切ると次に誰が教皇の代理を務めるのかと尋ねると視線はフォートン枢機卿に向けられる……まぁ、次点の人が目の前に居るのならば仕方がない。

 

「……いいでしょう。私が新しく教皇となりましょう」

 

「オバちゃん、まさかハイランドと戦争を仕掛けようなんて言うつもりはねえだろうな?」

 

 また戦争が巻き起こるって言うのならばまたオレが動かなければならない。

 ヘルダルフが裏で糸を引いているのは知っている。油断すればまた憑魔化する可能性もなくはない。

 

「その様な事はしません。現皇帝のライトと共にこのローランス帝国をハイランドに負けない程に豊かにしてみせます」

 

 この国の皇帝、ライトって言うんだな。

 ローランスもハイランドも情勢は知ったことじゃない、なんだったらハイランドの皇帝の本名もオレは知らない……どうでもいいことだからな。

 

「大丈夫なのだろうか。レオン第一王子やコナン第二王子は謎の死を遂げている……現皇帝ライトはまだ幼い」

 

 セルゲイはこのままで大丈夫なのかと心配をする。

 若い皇帝……パーシバルといいアリーシャといい王族は本当にめんどうな物を抱えてしまっているな。まぁ、オレの知ったことじゃねえけど

 

「ところでゴドジンの村に向かったのならば導師一行とお会いしなかったのですか?」

 

「導師は……見聞を広めるって私達に後を託したわ」

 

 流石に殺し屋を従士にしていたとは言えない。

 ベルベット的にはストレートに言っても良かったのかもしれないがせめてもの情けと言ったところだろうか。

 

「見聞を広める為ですと?」

 

「ええ。反吐が出るぐらいにお人好しで危うくとんでもない奴等に利用されかけてたわ……全く、どうしようもないアホよ」

 

 ゴドジンの村に向かった事を知っているので気にするセルゲイ。

 ベルベットは冷たい目でスレイの事を語る……あんな事があったのでなにも言うことは出来ない。無知だからって何してもいい理由にはならない。

 

「現皇帝ライトにハイランドとしては和平を結びたいと、その旨を伝えよう」

 

 色々とあったものの平和の道を一歩進みだした……そう考えればいいんだろうな。

 フォートン枢機卿が居なくなった教皇の正式な代理を務める事になりセルゲイと一緒に若き皇帝を支える……が、上手くは行かないだろうな。ローランスの中にいるヘルダルフと通じる者とか色々と見つけ出さないといけない。でなければセルゲイ達の身が危うい。

 

「いい感じの終わりを迎えるのはいいけどよ、肝心の地の主が居ねえんじゃ穢れから守れねえぞ」

 

 色々と厄介な事を待ち構えているなと思っているとザビーダは意識を現実に引き戻してくる。

 このペンドラゴに祀るべき天族は何処にもいない。エドナ達を祀り上げるわけにはいかないし、どうしたものか……ん?

 

「強い穢れを感じるな」

 

 領域は展開されていないがそれなりに強い穢れを感じる。憑魔……何処に天族達が居るのか分からないし、手当り次第やってみるのが吉か。

 

「このペンドラゴで奇妙な噂が立っていたりしませんか?」

 

「奇妙な噂ですかな?」

 

「一応は気になったので……無いのでしたらそれに越した事は無いのですが……」

 

「いえ、確か夜になると獣の様なうなり声が何処からともなく響いていると騎士達や街の住人達が噂をしておりました」

 

「……アリーシャ様、本日はこのペンドラゴで休み明日にハイランドに帰りましょう」

 

「え、ゴンベエ、今からで……ああ、そうか。分かった」

 

 そのうねり声の正体を確かめるしかない。

 とりあえず今日はペンドラゴで一泊する事を決めると礼か詫びかは知らないがペンドラゴで1番の宿屋の1番高い部屋を用意してくれた。

 

「さて、探すか」

 

「噂の正体を確かめに行くのね」

 

 宿屋で美味しい食事を食べ時刻は夜になった。吠える様なうめき声が聞こえて化け物が人を襲う、うめき声の季節がどうのこうのと言っていた。

 ウーノ達の一例があるのでもしかしたらの可能性に賭ける。

 

「別にお前等来なくてもいいぞ。オレ1人で解決出来そうな案件だし」

 

「行くわよ。あんた1人で任せてやったらなにが起きるか分からないし……どちらにせよこの地の主とやらになる聖隷を探さないとペンドラゴが本当の意味でどうにかなるわけじゃないんでしょう」

 

 また人をそんな問題児みたいに言って。

 ベルベット達も着いてきてくれる事になったのでとりあえず宿を出る……夜のローグレスを何度も歩いたがペンドラゴとなった今と大して雰囲気が変わりはないな。1000年前と同じ町並み……う〜ん、進歩しない人類ってどうよ。

 

「あ、あれは!」

 

 強い穢れが感じる場所に向かえばそこには巨大な人型の虎顔の憑魔がいた。

 グルルと吠えており、何時でも戦闘出来ると言いたげな雰囲気を醸し出している。穢れの領域が展開されていないが強い憑魔である事には変わりはない。

 

「ゴンベエ、此処は私が……百花桜乱!!」

 

 何時もの様にデラボンで解決するかと考えているとアリーシャは槍を取り出して桜吹雪を舞わせる。

 オレが教えたわけでもないのに木属性の力を上手く使うことが出来ているなと感心しつつ桜吹雪は虎の憑魔を包み込む

 

「ガアァアアアアア!!」

 

「まだ届いていない」

 

「アリーシャ、さっさと宿に戻りたいからアレやるわよ」

 

「アレ、と言うとアレの事ですか!?」

 

「ええ……今なら出来るでしょ?」

 

「アイゼン、いいの?」

 

「まぁ、野郎じゃないしアリーシャなら信頼は出来る」

 

 アレをやろうとしている事を気にするベルベットはアイゼンに確認を取る。

 男とのアレは認めないがアリーシャならばと眉にシワを寄せて妥協に近い感じの渋々認めるといった感じで認められる。

 

「「『ハクディム=ユーバ!!』」」

 

 許可が降りたのでアリーシャはアレを……地属性の神依を使う。

 オレンジっぽい色に髪の色が変わったと思えば巨大な拳も出現する。

 

「アリーシャ、パッと開かずグッと握ってダン!ギューン!ドカーンだ」

 

「わかった!パッと開かずグッと握って」

 

「って、その格好でそれはまずいわよ!」

 

 足を大きく上げるアリーシャ。

 この技は足を大きく上げて腰の支えが大事な技でパンツ的な物は見えないがアリーシャの背後から巨大な拳骨が飛び出て畝りを上げながら虎の憑魔を殴り飛ばした。

 

「正義の鉄拳、一発で成功するか」

 

「正義の鉄拳……中々に悪くない技だ」

 

 正義の鉄拳の撃ち方を教えると一発で成功した。

 殴り飛ばされた憑魔からは黒い靄が、穢れが大量に溢れ出ており完全に浄化しきれていない。まだまだ力が足りていないんだなとアステロイドを出して虎の憑魔を撃ち抜いた。

 

「はじめてだから……まぁまぁね」

 

「まぁまぁ、ですか?」

 

「ええ、まぁまぁよ。一発で殴り倒すことが出来なかったもの」

 

 意外と脳筋思考なところあるよなエドナは。

 それはさておきアステロイドで虎の憑魔を撃ち抜くとみるみる内に虎の憑魔から穢れが消え去っていき……猫になった。

 

「あんたは!!」

 

「うぅ……どうやら憑魔化してたみたいって貴女達は!!」

 

「ムルジムか……何時ぶりだ?」

 

 猫が元になっている憑魔じゃない。猫の見た目をしている天族こと元シグレの聖隷であるムルジムが噂の憑魔の正体だった。

 ベルベットは元に戻ったムルジムを見て驚く。ムルジムは憑魔化していたのかと頭がボンヤリしていたのだがベルベットを見て意識を覚醒し、アイゼンが何時ぶりの再会か懐かしむ。

 

「久しぶりね……あんたからしたら途方も無い時間よね」

 

「どういうこと?貴方はアルトリウスと相討ちになって終わったんじゃなかったの?」

 

「災禍の勇者が横槍を入れてきたのよ」

 

 ギロリとオレを睨むベルベット。オレはあの行いに関しては後悔はしていない、反省もしない。

 

「えっと……ムルジム様、元に戻ってなによりです」

 

「貴女は……アメッカの子孫?にしては似すぎているわね……」

 

 何時も通りの接し方で天族に接するアリーシャ。

 ムルジムはジッとつぶらな瞳で見つめてくる。アリーシャはチラリとオレを見てくるのでオレは両手の人差し指で☓を作る。そう簡単にポンポンと過去に遡って歴史に介入しただ何だの話をしていいわけない。

 

「そうそう、オレも驚いたんだよ。アリーシャちゃん、アメッカとあまりにも瓜二つでよ」

 

 言うことが出来なければ誤魔化すしかない。

 ザビーダはアリーシャがアメッカという人物の子孫という設定を盛る。バンエルティア商会に過去の自分自身の子孫ととにかく色々と設定を盛っているな。

 

「アリーシャは恐らくだがアメッカの子孫だ」

 

「だったらどうして彼女が、ベルベットがいるの?」

 

「今の今まで封印されていたのよ……それにしても随分と時代が変わったものね」

 

 オレ達の事を怪しむムルジム。ベルベットは適当にはぐらかすとこの時代について語る。

 

「アレから色々とあったのよ……聖隷は天族と呼ばれる様になりマオテラスは浄化の力を齎してやり直す事が出来るようになったわ」

 

「ええ、ザビーダ達から色々と聞いているわ。フィーが色々と頑張ってる……それなのにどうしてこんな時代になっているのかしら?」

 

「それは……どうしてなのかしらね」

 

 人が天族への感謝の念を忘れたからだけじゃない、地殻変動を始めとする様々な天災が巻き起こり文明がリセットされかけている。

 元々カノヌシが文明をリセットしていたりしてたし、割とマジでどうしてこんな時代になっているのか謎でしかない。

 

「ムルジム様、憑魔から戻ってこの様な事を頼むのも急なのですが」

 

「地の主ね、だったら碑文が刻まれている石を器にしてみるわ」

 

「よろしいのでしょうか?」

 

「ええ。元々そのつもりで此処に来たのでしょう?」

 

「ま、そう言われるとそうなんだけどよ」

 

「ただ問題はあるわ。この街は大都会で穢れが多い……加護が本格的に発揮するにはそれなりに時間が掛かるわ」

 

「そこは仕方ねえことだ」

 

 上流階級のドロッとした部分はそう安々と解決することは出来ない。

 ムルジムは導師の秘力が記された碑文が刻まれた石碑を器としに向かった……コレでやることはもう終わりだとオレ達も宿屋に戻っていく。




スキット 嵐月流の行方

ゴンベエ「そういやロゼの奴、ロクロウと同じ嵐月流の技を使ってきたな……まさかロゼはロクロウの子孫?」

アイゼン「いや、ランゲツ家は1000年前のシグレの代で血筋は途絶えている」

ゴンベエ「エレノアとの間に出来た隠し子的な存在の子孫じゃないんだな」

アイゼン「ロクロウと昔再会した時に酒で盛り上がってな……お前がメルキオルのジジイをめんどくさがり屋と言ったのが話題に出たんだ。ロクロウもその時の事はハッキリと覚えていて、何時か現れるであろうお前を倒す為の武者修行の旅の途中、偶然に立ち寄った小さな村でな……お前が言っていた事を思い出したんだ」

ゴンベエ「オレが言ってたこと?」

アイゼン「憑魔に作物を荒らされててロクロウにとっては武者修行を兼ねて斬り倒すのは簡単だがそれだと村の為にはならない。だから、ランゲツ流の剣を教えたらしい」

ゴンベエ「あ〜そういやそんな事も言ったな……ってことはランゲツ流は残っているんだな」

アイゼン「ああ、とはいえランゲツ流に欠かせない肝心の號嵐と征嵐が無ければ真の力を発揮する事が出来ない」

ゴンベエ「だろうな……そういやその2本は何処に行ったんだ?現代では噂の1つも聞かないんだが」

アイゼン「2つの太刀はロクロウが持っていた。そのロクロウは武者修行の果てに殺された……恐らくだがこの大陸でなく異大陸の何処かに眠っているのだろう」

ゴンベエ「また厄介な事になってるな……まぁ、あの2本を使いこなせる人間は早々に居ないだろうから問題は無さそうだけど」

アイゼン「そもそもでちゃんと残っているかの保証すら無い……もし、あの頃と変わらぬまま保存されているのならば神の刀と呼ぶに相応しい一品だろうな」

スキット 立会人

アリーシャ「そういえばなんですが、ザビーダ様が立会人になれば色々と聞くことが出来るとノルミン天族の方から聞いていたのですが」

ザビーダ「んん、ああ、それな……あの戦いはよ、人が人として生きているって証明する戦いみたいなもんである反面人が絶望して限界に辿り着いた、そんな感じの戦いだ。歴史の闇に葬り去らなきゃならねえことだ」

アリーシャ「だから立会人が必要だと?」

ザビーダ「ああ、歴史の闇を暴く奴等は何時かは現れる。もう一つの天遺見聞録を見つけても尚世界の歴史を、真実を知りたいって奴が居るのならなそれに答える……俺が歴史を包み隠さずに話す予定だったんだがな……」

アリーシャ「なにか問題でも?」

ザビーダ「いや、アリーシャちゃんが悪いんじゃねえよ。まさか過去に遡って歴史に介入しただなんてにわかには信じがたい事をするとは思ってもみなかった。アイゼンの野郎、アリーシャちゃんとゴンベエが未来から来たのを気付いていてこんな役割を押し付けやがって」

アイゼン「いや、それは違う。万が一を想定してゴンベエ達に伝える役割を担わせたんだ」

アリーシャ「万が一?」

ザビーダ「おいおい、まだなんかあるって言うのか?」

アイゼン「それが起きていないのならばそれに越した事は無い……1000年前のはじまりの時は都合良く作られた歴史のままでいい。無理に踏み込めば骨肉の醜い争いを見ることになってしまう……教えなくていいのならばそれに越した事は無いんだ」

アリーシャ「万が一……アイゼンはなにを危惧しているのだろうか?」



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テンプレートななろうロード

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「今、どんな感じだ?」

 

 ペンドラゴの噂の正体はムルジムだった。

 ムルジムはこのペンドラゴに加護を与える天族になってくれたらしいが具体的にどの辺りが変化するのかオレにはよく分からないのでアリーシャに聞いてみる。

 

「胸の中がスゥッとしている。加護領域が上手い具合に働いている……ムルジム様の力が働いている。が……」

 

「が?」

 

「街に穢れが残っている。ムルジム様の加護が発揮してもなお打ち払えない穢れがある」

 

 それは恐らくだが上流階級の人間のドロッとした感じのものだろう。

 それは浄化云々よりも情勢を良くしないと話にならない。その為には平和を築き上げなければならない。ハイランドとしては和平を結びたいと言う意思を示した……が、ローランスにもハイランドにもヘルダルフの配下が居る。そいつ等を見つけ出して浄化するか始末するかのどちらかを成さなければ恐らくは戦争の波は……あ〜……。

 

「ゴンベエ?」

 

「大丈夫、なにも問題無い」

 

 色々とややこしい事を考えているとアリーシャはそれを見抜いた。

 オレの考えている事にならなければそれでいい。明確に見える第三の敵を登場させて戦争なんてさせている場合じゃないなと思わせる究極の裏技を使うのは実にめんどくさい。効果は覿面なんだけどな。

 

「ホントになんと申せばいいのやら」

 

 場所と時間は移り、朝食を頂き昼になる少し前。

 ペンドラゴの入口前に停めている大地の汽笛の前にセルゲイとフォートンが立っておりセルゲイは今回の事に関して礼を言ってくる。

 

「人々は天族と共に暮らしている。天族も人となんら大して変わらない事を忘れてはいけない」

 

「ええ……天族の加護は天族への祈りを忘れてしまえば無くなってしまう」

 

「でも、感謝し続けるだけでいいわけじゃない。自分から変わらないとただの歴史の繰り返しよ」

 

 今回の一連の騒動及び一件は1000年前の出来事と類似している。

 ベルベットはフォートンに自分から変化する事をオススメするとフォートンは無言になる。

 

「私は、変わる事が出来るかしら?」

 

 一度は憑魔に身を落とした。エドナから聞いた話だとスレイにローランスに付いてローランスの為に戦わないかとスカウトをしたらしい。

 本来の予定だとスレイはフォートンに挑んで浄化しようとしたんだろうが……そう安々と浄化できるだろうか?そもそもで浄化の力って元に戻すんじゃなくてやり直しの為にあるものだ。

 

「元に戻ったんだから、やり直す機会はいくらでもあるわ。変わろうと思って変わるんじゃない、自分の新しい道を……1人で全部背負い込んでたら嫌な気持ちになるわ。辛かったり苦しかったりするなら本音をぶちまく事が出来る相手に思う存分にぶちまければいいのよ。私はそれが出来たから少しだけだけど変わる事は出来たわ」

 

 新たなる一歩を踏み出す事が出来るようになったのでベルベットはアドバイスを送る。

 しかし……ベルベットは本音をぶちまける事が出来る奴が居たのだからどうにか出来たのだがフォートンはどうにかできるのだろうか?少なくとも本音で愚痴を零す事が出来るような相手はいなさそうだが……まぁ、そこまでオレは面倒を見る事は出来ないので気にしても意味はない。

 

「皆様、別れの挨拶はお済みになりましたでしょうか?間もなくレディレイクに向けて大地の汽笛を発進させて頂きます」

 

 この堅苦しいキャラをするのは疲れる。ベルベット達はキモいだなんだの言ってくるが一応はアリーシャの顔を立てておかないといけない。

 アリーシャはセルゲイとフォートンと握手を交わすと大地の汽笛に乗り込んだ。エドナ達天族全員が乗っているのを確認したのでポッポーと大地の汽笛を走らせてハイランドに戻っていく。

 

「……スレイ……」

 

「忘れなさい、あんな導師以前の馬鹿は」

 

 本当ならば此処にスレイ達が座っている筈だったのだがスレイ達はいない。

 何時までも引きずってるんじゃないだとベルベットはアリーシャに叱咤する。下手な期待をかけ過ぎて痛い目に遇っている……いや、ホントにな。というかスレイ、色々と見聞を広める為の旅に出てるらしいけども大丈夫なんだろうか。今は世の中の情勢がどういう感じに変わるのか分かったもんじゃない、そんな時代だ。ロゼという暗殺者を従士にしてしまって間違った価値観を持ってしまっているかもしれない。

 

「それよりも前を向きなさい、平和な世の中を作り上げたいんでしょ。だったら後ろを見ずに前を見つめなさい」

 

「ベルベット……そうだな。少なくともローランスの現皇帝にはハイランドは戦争する意思は無いと表明する事が出来た。コレは大きな一歩だ」

 

 ベルベットが上手い具合にアリーシャをフォローしている。

 同性の方が色々と意見をしやすいし、頭の螺子が色々とおかしくなってるオレじゃ上手くフォローをする事が出来ない。

 

「お、見えてきたぞ」

 

 スレイに関しては残念だったなと思いつつもレディレイクが見えてきた事をベルベット達に報告する。

 一度でも足を運んだ事のある場所じゃないと行くことが出来ないとはいえ大地の汽笛は本当に便利な道具だな。あっという間に大地の汽笛はレディレイクに辿り着いた。

 

「ふ〜……なんかドッと疲れたな」

 

 大地の汽笛から降りるとそこには人集りが出来ていた。

 オレは大地の汽笛から降りるとなんか無性に疲れた……らしくない事をし過ぎていたからだろうな。

 

「あ、アリーシャ様!」

 

「今、帰った。私達がいない数日間でなにか異変の様な事は起きなかったか?」

 

 何時ものモブというか同じ格好をしている騎士がやってくる。アリーシャを見て驚いているが、これはどういう感じの驚きなんだろうな。

 色々とさておいてアリーシャは騎士にこの数日の間に異変が起きていなかったかどうか聞くが特に異変らしい異変は起きていなかった……ゴドジンの村を出る際に不思議な視線を感じたし肝心のヘルダルフが何処に居るのかも分からない。ベルベットの左腕が健在なのでカノヌシとアルトリウスを引き剥がした時みたいにマオテラスとの繋がりを断てば後は問答無用、浄化するなり始末するなりすればいい。

 

「さて……家に帰るとするか」

 

「そうね。アリーシャをレディレイクに帰したし一度は家に帰るとしましょう」

 

「……え?」

 

「え?じゃねえよ、え?じゃ。アリーシャはローランスと和平を結びに行って上手く行った。だったら後は流れに身を任せるしかない」

 

 何はともあれ上手い具合に良い感じの方向に話は流れていっている。戦争を推進する派閥がここからどうやって動くのか分からないが戦争を推進する派閥が息を潜めるだろう。アリーシャにしないといけない責務を果たしたと言える。

 

「その……家に来ないか?」

 

「いやいやいや、流石にこれ以上はお前に厄介になるわけにはいかない。ハイランドとローランスが今後どうなるかは分からないけども今は一旦地に足を付けておかないと……今後の生計の事も考えないと」

 

 氷が高級品と分かった以上は氷を売って生計を立てるのも1つの道だ。

 今日はもう解散な雰囲気を醸し出しているとエドナが傘の先端部分でオレを突いてくる。

 

「気付きなさいよ、ニブチン」

 

「いや、アリーシャは誤爆しているから鈍いとかそういうのじゃない」

 

 アリーシャはオレと一緒に居たいらしいがオレの方も込み入った事情がある。

 主に生計をどうやって立てるのか、ベルベットと一緒に暮らしている以上は今までみたいないい加減な生活をしていたらいけない。

 

「そ、そうだ。ハイランドとローランスにいるヘルダルフと繋がる内通者の様な存在を探してくれとウーノ様に頼んでいる。それも確認しておかなければ」

 

「……ん〜……まぁ、そうだな」

 

 一応はウーノになんらかの成果があったかどうか聞いておかなければならない。

 冷静に考えれば家に夕飯の材料とかが無いことに思い出したのでめんどうだけどレディレイクに立ち寄ることにした。

 

「アリーシャちゃんがなんだか不憫に思えてきたな」

 

「恋愛は下手な殺し合いや復讐譚よりも恐ろしいものだ」

 

 はい、そこ。普通に聞こえる声量でヒソヒソ話をしてるんじゃない。

 アリーシャが腕を引っ張ってくるので子供じゃないんだと引っ張ってくる腕を引き剥がして一緒に隣を歩いていく。

 

「アリーシャ姫!それにゴンベエも」

 

「おぅ、おっさん。元気にやってるか?」

 

「はい。お陰様でなによりです」

 

 聖堂に向かうと賑わっていた。導師フィーバーだった頃よりは少しは納まっているが純粋に天族に信仰する人達が増えている。

 ブルーノ司祭は導師フィーバーだったのを上手く利用して天族の信仰を復活させている……真面目にやってる人が圧倒的に少ないせいかブルーノ司祭が眩く輝いている様に見える。

 

「最近はローランスの方でローランスの教皇公認のエリクシールを売られている等色々とありまして……幸い一般に流通する前にそのエリクシールが実は偽物や販売している導師の名を偽って騙っていた事も判明しまして……導師の名を騙るなどあまりにも」

 

「その導師騒動に便乗して聖隷の信仰を得ているあんた達も同類でしょう」

 

「それは、そうなんですが……」

 

「ベルベット、そういう事は分かっていても言わないでくれ。ブルーノ司祭は頑張っているんだ」

 

「……まぁ、今までのと比べれば大分マシみたいね」

 

 今までの宗教の人間があまりにもロクな人間じゃなかっただけにベルベットは納得仕掛けている。

 アリーシャももうちょっと上手い具合にフォローをしてくれればそれでいいのに……流石にそこまで気を回す事は出来ないか。

 

「貴方がこの地の天族ね」

 

 オレやアリーシャ、ベルベットがウーノに話し掛けると色々とめんどうな事になるのでエドナが代表してウーノに話し掛ける。

 そういえばウーノと初対面だったなエドナ達は。ウーノはチラリとオレ達に視線を向けてくるのでコクリと頷いておく。

 

「ヘルダルフと繋がりがある人間をピックアップする事ができたかしら?」

 

「すまない。中々に尻尾を掴み取る事が出来ない」

 

「貴方、何やってるのよ。信仰する人達が増えているんだったらある程度は自由に出来る筈でしょう。この街の大きな穢れを調べないと……根本を断たないと歴史が繰り返されるだけよ」

 

「なにも成果が無かったわけではない。穢れは発していないがローランスとの繋がりを持っている間者の様な存在は見つけた」

 

「それは本当ですか!?」

 

「うぉ、ど、どうしたのですか?」

 

「ああ、気にすんな」

 

 ブルーノ司祭はなにも見えないのでアリーシャがなにに対して驚いているのか分からない。不便だな。

 まぁ、それはさておきここに来ての間者を見つけ出す事に成功したのはいい報告なのだろう。何処にスパイが紛れ込んでいるのか分かったものじゃないこの現状、1人でも間者が居るのが分かれば嬉しい事……が、ウーノは浮かない顔をしている。

 

「ゴンベエ、透明になる事が出来るマントがあったな。アレを使ってローランスとの取引を現行犯で抑えれば流石に言い逃れも出来はしない」

 

「……アリーシャ、その間者は必要な間者なのかもしれない」

 

 透明になることが出来るマントをオレから借りて早速逮捕に向かおうとするのだがアイゼンが待ったをかけた。

 

「必要?ローランスに情報を垂れ流しているんだぞ!?」

 

「だからこそだ。ローランスはハイランドの事を、ハイランドはローランスの事を噂程度でしか情報を得ることは出来ていない。確かな情報を何処かで互いに得なければならない。そうでなければ下手に戦争を仕掛けたり強硬手段を取ってくる」

 

「だ、だが」

 

「……とりあえずそいつが大丈夫な奴かどうか見極めてから決めたらいいじゃない。危ない奴だったら牢獄にでもぶち込めばいいだけでしょ」

 

 兄妹揃って中々にヴァイオレンスなことを言うアイゼンとエドナ。

 確かにアイゼンの言うことにも一理ある。何時戦争が巻き起こってもおかしくない状況で不確かな情報でなく確かな情報は時に嘗ての胡椒よりも値段が張るもの。互いにどういう状況か国同士の状態を理解しておかなければ戦争という1番やってはいけない選択をしてしまう。

 一先ずはどんな人物なのか、なにが狙いかなにが目当てなのかを後で調べておく事にしておく。

 

「お〜い、大変だぁ!!」

 

「次から次へと騒動が尽きないわね」

 

「オレを睨むな、オレを」

 

 慌てた様子でやってくるのは何処でもいる近衛兵。

 なにに対して慌てているんだとベルベットの視線を気にしつつもなに騒いでるんだと尋ねてみようとするのだがそれよりも先にオレの事に気付いた。

 

「ああ、よかった。お前を探してたんだ」

 

「オレを探してた?……なんか用事でもあるのか?」

 

「ああ、書状って違う。お前が乗ってきたあの煙を上げている乗り物に近所の乞食のガキ達が乗り込んでガサ入れしてたんだよ。現行犯で取り抑える事に成功したけど……とりあえず来てくれよ。なにか盗まれたとかそんなのがあったら困るしさ」

 

 やっぱり大地の汽笛は悪目立ちをしていたな。

 何時かはそういうアホな事をする奴等が出てくるだろうなと思っていたのだがレディレイクのクソガキ連中か。近衛兵はとにかく来てくれと言うのでレディレイクの入口に向かうとそこにはロープに縛られた数名の子供たちが……あ

 

「テメエ、オレの財布をスろうとしたクソガキじゃねえか」

 

 はじめてレディレイクに来た時にオレの財布を盗もうとしたクソガキがいた。

 徒党を組んでいたのかこのクソガキ……常習犯なのは前々から分かっていたけどもいざ目の当たりにすれば酷いな、おい。

 

「クソッ、離しやがれ!!」

 

「こんなデカい物に金目の物1つも置いてなかった」

 

「……はぁ……とりあえずお前等の保護者は何処に居る?人様の物を勝手に触るなと教育を受けなかったのか?」

 

 前回は見逃したが今回は見逃す事は出来ない。

 とりあえず保護者を呼び出して色々と言っておかないといけない……のだが、誰もオレと目線を合わせようとしない……まさか

 

「お前等、孤児なのか?」

 

「だったらどうしたって言うんだ!俺達には親も頼れる人もいねえ、でも俺達は頑張って生きてるんだ!バカにするんじゃねえ!」

 

「……戦災孤児ってやつか」

 

 ザビーダはやれやれと言った顔をする。

 物盗りをして生計を立てているのか……チラリとアリーシャに視線を向けるとどうすればいいのか悩んでいた。孤児達をどうにかするには孤児院的なのがあればいいのだろうが、生憎な事にハイランドの財政事情的にそんなのを建てている暇はない。

 元を正せば戦争したり穢れで疫病を流行らせたり色々とやっていた大人が悪いのだが死んでしまっていて、この国には孤児院的な施設とかが無い。

 

「大地の汽笛を確認してきた。中は荒らされたがなにか盗まれた形跡は無かった」

 

 どうしたものかと考えているとアイゼンが大地の汽笛の中を確認してもらった。

 中の物が盗まれていない……そもそもで金になりそうな物を置いているわけじゃないのでその辺りは問題無い。

 

「ったくよ、真面目に働こうって思わないのかお前等は」

 

「働こうにも何処も雇ってくれない。知恵もなにもないガキなんてお断りだって追い払われる……折角見つけたこの物盗りの仕事をこなせばちゃんとした仕事をくれるって言ったのに……」

 

 なんか不穏な事を言っている。

 大地の汽笛の構造を調べるか現物を盗んで来いとか何処かの貴族か地方領主かに言われたのだろうか?

 

「どうするの?」

 

「こいつらは常習犯だ。説法なんてしても無意味だろう」

 

 縛られている子供たちの処遇について聞いてくる。

 ブタ箱にダンクシュートを叩き込んでもいいのだがそれだと反省せずに悪い大人に成長してしまう。こんな世界だ、孤児院はまともに存在していない。生きる為ならば泥水だって啜る勢いだろう……言葉による改心は難しい。だが、なんの力も持っていないオレに出来る事は少ない。

 

「ゴンベエ」

 

「お前の力で解決するのは金で解決するのとなんら変わりない……向こう側を叩き直さないといけない」

 

 子供達にも子供達の事情があったんだと同情するアリーシャ。

 ここでアリーシャが許してやってくれと言えば許すことは出来る。だがそれだけだ。こいつらの今後の生活が保証されるわけでなく、仮にどうにかすると言っても金の力で解決するのと同義だ。

 

「とりあえず一旦牢獄に閉じ込めてくれよ。具体的にどうするのかは後で決める」

 

 はいそうですかで許すわけにはいかない。

 ロープに縛られた子供達は衛兵に連行されていく……が、あいつ等が常習犯で子供だからと見過ごされて直ぐに解放されるだろう。ホントにめんどくせえ世の中だ。

 

「ああ、そうそう。お前宛に書状を預かってきた」

 

「……オレ宛?」

 

 大地の汽笛を子供が荒らしていた事を報告にやって来た衛兵が書状を渡してきた。

 オレ宛の手紙なんてロクなものじゃない……と言うよりはこの国の文字を読むことは出来ない。とりあえず書状を預かるのだが読むことが出来ないのでアリーシャにパスするとアリーシャは目を見開いて驚いた。

 

「お、王のサインが記されている」

 

「王って言えばあのへ、いかのサインか」

 

 具体的な顔は見たことないので知らないのだが王のサインが記されているものだ。

 アリーシャは恐る恐るぐるぐる巻にされている書状を縛っている紐を解いて王からの書状の内容を確認する。

 

「……え!?」

 

「なにが書いてあったのよ?」

 

 書状を開き内容を確認したアリーシャは口元に手を当てる。

 ベルベットがなにに対して驚いているのか聞いているのだがアリーシャはプルプルと体が震えており、書状の内容を教えてくれない。

 

「どうせ電話を量産しろとか金払うから便利な道具を発明しろとかだろう。オレの持ってる技術は使い方次第で大量虐殺の道具になる。好き好んで頼まれて作るかよ。小切手があろうとも1ガルドも要らねえ」

 

 便利な物はあればそれに越した事はないのだがあんまり作り続けるとロクな事にならない。

 電話からどれだけの価値を見出しているかは知らないけれども、物作りには金と人と時間の3つが必要で何れか1つでも欠けてしまったのならばなんにも作ることが出来ない。

 

「居たぞぉ!!」

 

「ん?なんだ?」

 

「あんた、今度は何をやらかしたのよ?」

 

 近衛兵っぽい人達が現れる。

 オレを囲んでいる……最後にこの国の連中に囲まれたのは税金未納がバレてしまった時だったな。前回みたいな事になるのは困るので何時でも逃げる事が出来る様に風のオカリナを片手に持っている。

 

「ナナシノ・ゴンベエ、王宮に来てもらいたい」

 

「やだよ、めんどくせえ。土壌を良くする堆肥の作り方を教えたりしてるだろう。兵器的なの求めても一切教えねえぞ」

 

 王宮に来てほしいと頼み込んでくるのだがロクな未来が待ち構えていないのが目に見えている。

 力づくで動かそうとするならばこちらにも考えがあると先に威圧感を放っておく。無理にでも連行するというのならばそれ相応の対応をさせてもらう。

 

『来ないならばそれでよい』

 

「この声は、へ、いか」

 

「なに、あの道具?」

 

「通信天響術を再現した装置だ」

 

 来るつもりは一切無いと意思を示すと1人の電話一式を背負った近衛兵がやって来る。

 電話を初めて見るエドナは首を傾げているのでアイゼンが説明をするとエドナは驚いた顔をしている。通信術を擬似的に再現する装置はこの世界じゃ異常な物だよな。

 

「今度はオレになんの用だ?言っとくが人殺しの兵器を作れとか言うのならばそれ相応の対応をさせてもらうぞ」

 

『お前が送ってきた堆肥の作り方等を見た……本当かどうか試す機会は早々に無い。書状を託した筈だ』

 

「オレはこの大陸の文字を読むことが出来ねえからなんて書いてあるのかは知らねえよ」

 

「ゴ、ゴンベエ……その」

 

『私から直接任命する。ナナシノ・ゴンベエ、そなたをハイランドの国民と認めよう』

 

「あ〜……まぁ、異国の人間だからな」

 

 別に異国の住人だと思われてもそれはそれで良かった。

 改めてハイランドの住民と国民だと認めてくれたのはいいが確実になにか裏があるのだと思っているとへ、いかは続ける。

 

『ついてはナナシノ・ゴンベエ、そなたに男爵の爵位を与える』

 

「……は?」

 

『男爵の地位と共に領土も与える。そこで今まで送ってきた堆肥や農耕等による結果を見せてほしい』

 

「……え?え?……どういうこと?アリーシャ?」

 

「……ゴンベエをハイランドの民と認めて男爵の爵位を与えるとの通達が紙に書かれている」

 

 書状の内容を教えてくれるアリーシャ。

 

「ちょ、ちょっと貸しなさい。そんな事がホントに……書かれてる」

 

 アリーシャから書状を奪い取り内容を読むベルベット。

 

「……オレ、今日から貴族なの?」

 

「みたいだな」

 

「みたいだぞ」

 

「みたいね」

 

 ザビーダ、アイゼン、エドナの順に頷いた……爵位をもらうとか……う〜ん、テンプレートななろうな道を歩んできてるよ、オレ。




Q&A

ゴンベエ「はい、Q&Aのコーナー!活動報告で質問を寄せているのでどしどし応募してます。全て答えれるかどうか怪しいです。作者、基本的になにも考えてないので。メインパーソナリティはオレで今回のアシスタントは黛さん」


「どうも……これスキット風にやる必要あるのか?」

ゴンベエ「後書きは基本的にはおまけコーナーでギャグ時空なので気にしちゃいけねえ……」


「ったく、厄介な事に巻き込みやがって……で、なにからだ?」

Q 地獄での転生前の講習で一番キツくてエグかったモノが知りたいです。
  それこそ転生者達が何であそこまでドライ、というより現実主義な程になったのか、とか。

「あ〜……色々とあるな。色々と」

ゴンベエ「ブタがいた教室みたいに家畜を1から育てて捌いて自分で食うとか24時間耐久鬼ごっことかSASUKEとか500mバンジージャンプとか人を実際に殺すとか色々とやったけど……1番エグいのと言えば……」

「人間の悪性を教える授業があったな。幽遊白書の黒の書的なので、人がこの50年にやってきた悪い行いを見せられるんだ。クズな人間がどれだけクズなのか見せつけられて見ている側は不快な気分にしかならない。上には上が居るならぬ下には下がいると何事にも例外があると教えられる。ホントに手遅れなクズは世の中にいる」

ゴンベエ「普通の二次小説みたいな転生者にならない理由や現実主義な理由があるとするならば転生者になる訓練を終えて無事に転生を果たした転生者が転生先でこんなのしてるっていうのを見せられる。現実と異世界転生が組み合わせるとロクな事にならねえ」

「オレの時も似たような感じだったな。少なくとも転生者になる為の訓練をしていない子供に転生特典を与えたら色々としくじった……一例を上げればそうだな。ラブライブの世界で音ノ木坂の廃校を阻止すべくマネージャーの真似事をしているのはいいがパパラッチにμ’sの誰かとデートしているのを撮られてμ’sの人気が激減して廃校にしてしまったとかがある」

ゴンベエ「原作中にスクールアイドルの誰ともカップルになってはならないっていう絶対のルールがあるんだよな、ラブライブは」

「意外と気付きにくいだけで欠点とか色々とあるんだよな……まぁ、そもそもで音ノ木坂の廃校って学校側も頑張らねえといけねえことだけど」

ゴンベエ「かわいそうだ、助けてあげようの精神自体は否定はしねえ。けど、人が人を助けるのは尊い事であり最も難しい事だと洗脳教育に近いレベルで教えられている。その辺りを自覚していないからスレイ達に反吐が出ている……人助けはその人が自分が居なくてもどうにかする事が出来るようになってはじめて終わると仏から言われてる」

Q 地獄での転生前の講習で一番キツくてエグかったモノが知りたいです。
  それこそ転生者達が何であそこまでドライ、というより現実主義な程になったのか、とか。

A 人間の悪性とか転生者が過去にやらかした事とか色々と見せられるから。


ゴンベエ「え〜じゃあ、次だな」


Q ベテラン転生者の方への質問なのですが、転生先で転生者ではない前の世界の奥さんに出会ったりしたことや、前の世界の奥さんと同じ声優さんのキャラと付き合うことになって「…久しぶり♥️」などを言われた人などはいるのでしょうか?

(例 ゴンベエがベテラン転生者になった後で、ゼスティリア世界じゃない世界でアリーシャやベルベットに出会うことはあったのか)

ゴンベエ「無いな」

「無いな」

ゴンベエ「そもそもで転生者は地獄の転生者運営サイドが色々とやっているがある日突然知らない人間になっていた的なのは一切無い。生物的に一度死んであの世に向かって閻魔大王が作り上げた救済措置みたいなシステムで輪廻の法則からはみ出してる」

「生物的に死んで閻魔大王の元に向かわないクリスチャンとか色々とあるが、とにかく異世界の住人を更に別の異世界の住人に転生させる様な真似はしない。転生者は子供が生物的に死んでしまってなるものであってそういった事は一切無い。故に二度目の転生をした後に前世の彼女との未練がどうたらこうたらというのも無い。それはそれ、コレはこれと割り切っている」


Q ベテラン転生者の方への質問なのですが、転生先で転生者ではない前の世界の奥さんに出会ったりしたことや、前の世界の奥さんと同じ声優さんのキャラと付き合うことになって「…久しぶり♥️」などを言われた人などはいるのでしょうか?

(例 ゴンベエがベテラン転生者になった後で、ゼスティリア世界じゃない世界でアリーシャやベルベットに出会うことはあったのか)

A 無いです。


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バカとクソガキは使いよう

 

「いやいやいやいやいやいやいや…………いやいやいやいやいやいやいや……」

 

 書状を託されたアリーシャも書状の内容を読んだベルベットも固まっている。

 オレも色々と状況整理が追い付かない。アイゼン達は他人事……実際自分達とは関係の無い事なので興味を抱いていない。

 

「なにかの冗談だろ?もしくは究極の嫌がらせ」

 

「ゴンベエ、この書状には陛下のサインが書かれている。冗談でも無ければ嫌がらせでもない。本当にゴンベエをハイランド民と認めて男爵の爵位を与えると書かれている」

 

 コレがその証拠だとアリーシャは書状を見せてくるのだがオレはこの国の文字を読むことが出来ないのでなにが書いてあるか分からない。代わりと言ってはなんだがアイゼンとエドナとザビーダの天族3人が書状を見る。

 

「マジみたいだぞ」

 

「良かったじゃない。住所不定職業不安定から一気にグレードアップしたわよ」

 

 ザビーダは書いてある事をマジだと教えてくれる。

 エドナはこの状況を楽しんでいるのか笑っている。完全に他人事だと思っている……相変わらず性格悪いな、おい。

 

「いやいやいや、オレが男爵とか柄じゃない。というかそもそもで向いてねえだろう」

 

 リーダーシップとか事務処理能力とか考える力はオレは低い。オレの得意なのは暴力で物事を解決する事だ。

 男爵の爵位を貰っても確実にもて余す。そもそもで男爵ってなにするの?男爵芋でも育てるの?

 

『コレは既に決定した事項だ。断る事は出来ない』

 

「ざけんな!こっちは水商売をしてるんだぞ。国の為に仕官も何もしてねえのにいきなり男爵の爵位を与えるとか言われても困るわ!」

 

 男爵の爵位なんて貰ったとしても使い道に困る。

 ベルベットという非の打ち所がない絶世の美女が嫁になっている時点でもう人生勝ち組みたいな物でこれ以上の厄介な事には巻き込まれたくない。

 

『どうしても爵位が要らぬというならば今まで滞納していた分の税金を、ベルベットという女性の分も含めて支払って貰おう。3000000ガルドだ』

 

「陛下、税は年々上昇しているとはいえそれはあまりにも法外な値段です!1年分なら十数万ガルドで済む筈です!」

 

「バカね、ゴンベエを男爵にしてツバをつけておきたいのよ。法外な値段を吹っかけて無理矢理にでも男爵にするつもりよ」

 

 相変わらず法外な値段を要求すると思ったらアリーシャは異議を唱える。しかし狙いは金じゃない。オレをどうにかして男爵にしたいから法外な値段を要求して断ることが出来ない状況にする事が狙いだとエドナは言う……この野郎、足元を見やがって。今から王宮に乗り込んで顔面の一発でもぶん殴ってやろうか……いや、後がめんどくさいからやらないけども。

 

「ゴンベエ、コレはチャンスだと思うんだ」

 

「なにがだよ?オレは既にそこそこ幸せなんだぞ?過ぎたる欲は身を滅ぼすんだ。男爵になったら貴族の義務だノブレス・オブリージュの精神だの厄介なのが纏わりついてくるんだぞ」

 

 ピンチはチャンスって言うかもしれねえけどもコレは少なくともチャンスじゃない。

 アイゼン的には成り上がるいい機会なのかもしれねえが、オレにとってはこの上なくめんどうで厄介な事だ。

 

「ハイランドとローランス、両国に平穏を齎すには導師の存在が必要不可欠だ。だが、肝心の導師が使い物にならない阿呆だった。見聞を広めているが年長者が間違った道を教えてしまっていた……成長は期待出来ない」

 

「それは……まぁ、わからないわけでもないけど」

 

 間違った価値観や倫理観をスレイは既に持ってしまっているかもしれない。

 結局あの後ロゼと従士契約云々を解除したのか、その辺りについては一切知らない……あのままロゼと一緒に旅をしてたら闇堕ちしそうだな。

 

「こうなった以上はオレ達で平穏な世の中を作らないといけない……アリーシャは王族だが末端で、特に力を持っているわけじゃない。ここらで誰かが力を得て拠点を手にした方がいい。この国にホントに平穏を齎したいのならば内側から誰かが変えなければならない」

 

「アリーシャちゃんに責任を果たすって意味合いならこの話受けた方がいいぜ……それに断ってローランスに逃げようだなんて考えたらこいつら確実に襲ってくる」

 

 四方八方塞がりか。アイゼンの言うこともザビーダの言うことも間違っちゃいない。

 ここでローランスに逃亡するなんて言えば無実の罪を適当にでっち上げるかもしれないし、目の前にいる兵士達が襲ってくる。簡単に倒す事が出来る相手だが、そこから先は地獄……ベルベットはただでさえ苦しい人生を送っているのにこれ以上苦しい人生を歩ませたくない。

 

「ふぅ……気持ちの整理に時間をくれ。幾らなんでも急過ぎる」

 

 オレ1人ならば逃げる道があったのだが、オレはもう1人じゃない。

 好き勝手に出来なくなっている。色々とぶちまけたい事はあるのだが一先ずはと言葉を飲み込んだ。

 

『いいだろう。レディレイクで1番の宿に泊まるといい』

 

「宿泊費用屁以下持ちな」

 

 一先ずはこの場を切り抜ける事が出来た。オレを取り囲んでいた衛兵達は伝えるべき事は伝えてするべき仕事は果たしたのだと去っていく。

 

「あ〜クソっ……何処で人生をミスした」

 

 男爵の爵位なんて貰ったとしても宝の持ち腐れである。断りたいけども断るに断れない状況だ。

 どうしてこんな事になったのかと振り返る……そもそもで大地の汽笛をレディレイクの前まで走らせなければ……いや、普通に税金を納めておけばよかったのか?それともアリーシャと関わり合いを持ったのが間違いだったのか?……電話なんて献上するんじゃなかったよ。

 

「ヘルダルフだ。もう何もかもヘルダルフが悪い」

 

 ヘルダルフが裏で戦争を手引してるからこうなった。

 アイツがベルベット並に重たい過去があるならば同情するけども絶対に無いよな。仮にあってもベルベットという一例があるし、それはそれ、これはこれと割り切ってぶっ殺す。アイツ、今も絶対裏でいらんことをしてるよ。オレにボコボコにされても刺客を放ってきてる……ゴドジンの村を出ていく際に感じた視線、ヘルダルフの配下だろうな。

 

「……アリーシャの力にならないといけないのは確かだし、誰かが権力を持っておかないといけないのも確かだ……けど、オレに男爵が務まるかどうか」

 

 色々と愚痴を零しながらもレディレイクの出入り口からレディレイクで1番の宿に向かった。

 ソファーやベッドが思った以上にフカフカしている。何時もならばテンションを上げる出来事なのだが男爵の爵位が頭にこびりついており、中々に離れない。

 

「……あんたなら出来ると思うわよ?」

 

 もう嫌だとベッドに背を向けているとベルベットが声をかける。

 今までずっと黙っていたベルベット。なにか思うところはあるんじゃないかと思っていたのだが意外にもオレなら出来ると勧めてくれる。

 

「ベルベット、オレはこの国の文字すら読むことが出来ないんだぞ……覚える気もサラサラにないけども」

 

 どうせだったら転生させる際にこの世界の文字の読み書きについて教えてほしかったよ。

 地獄の転生者運営サイドは色々と手探りでやってるところがあるから文句を言っても仕方がない。

 

「リーダーシップとか事務処理能力とかそういう能力は割と普通……いや、ワープロすらまともにないこの世界だと下の下に近いかもしれねえ」

 

「だったらあたしがフォローするわ」

 

「フォローって、お前も似たようなものだろうが」

 

「あんたよりはマシよ」

 

 いやいやいや、多分オレの方が内政に向いているぞ。

 こうなった以上は引き受けるしか道は無さそうだが……マジで嫌だ。

 

「ベルベット、オレが男爵になったら色々と厄介な事になる。縁を切るなら今のうちだぞ」

 

「あんたが騒動を起こすのなんて今にはじまった事じゃないでしょ……あんたの嫁として、あんたの顔を立てるわよ」

 

 おぉ、なんと出来た奥さんだこと……いや、待て。何時の間にかベルベットを嫁認定しているオレがいるぞ。外堀埋められてるぞ。

 ベルベットもサポートをしてくれると言ってくれる……これ以上は駄々を捏ねるのと一緒だろうな。

 

「定職に付かないといけないのは分かっていたけどもまさか貴族とはな……」

 

 貴族なんて一般市民のオレとは縁遠い話だと思っていた。そもそもで興味すら抱いていなかった……こうなった以上はやるしかないか……嫌だけども。

 

「覚悟は決まったみたいだな」

 

「盗み聞きか?悪い趣味だな」

 

 腹を括る事が出来ると部屋にザビーダが入ってきた。

 今までの会話を盗み聞きしていたとなると随分と悪趣味だと思う。割とこっちは真剣に悩んでるんだぞ。風来坊は背負うものがなくて気楽だな。

 

「んな事しなくても顔見りゃ分かるっての。それよかどうすんだ?」

 

「男爵の爵位は貰うよ……でも、めんどうな式典は逃亡する」

 

「相変わらずのめんどくさがり屋だな……オレが聞いてるのはそっちじゃねえよ。大地の汽笛に盗みに入った奴等だよ」

 

「ああ、あいつらか」

 

 男爵のインパクトが強すぎて忘れてた。

 

「あいつらだって好き好んで物盗りをしてるわけじゃねえ、こんな世の中だからああなっちまったんだ。ガキが満足に、腹いっぱいに飯を食うことすら出来ねえのが今の世の中だ……どうにかしてやりてえ」

 

「どうにかねぇ……オレは物事を教えるタイプの人間じゃないし、あそこまで行った人間に説法は効果は0に近いぞ」

 

 物盗りで生計を立てているレベルなんだから相当手癖が悪い。

 教会でありがたい説法でも聞かせてもらっても意味は無い……悪いことをしている人間のなにがタチが悪いかって言えば悪いことをしているという自覚が一切無いんだよな。本人的には凄く軽い気持ちでやってたり子供だから許されるだとか色々と甘えた考えを持ってるかもしれない。

 

「今のお前は無理でもこれからのお前ならどうにか出来る筈だ……男爵になるんだろ?」

 

「お前、ホントに他人事だと思って無責任な……そうだな……」

 

「1から育てるなんて無理よ。孤児院かなにかを作らないと」

 

 既にある程度成長してしまっているクソガキの集団で、1からああだこうだと色々と言えねえ。

 ベルベットは孤児院的なのを作ることを提案するが元となる金が……そもそもで男爵の爵位と共に貰える領土がどれだけのものなのかすら分かっていねえ。

 

「……ちょっと神父に相談でもしてみるか」

 

 オレだけじゃ埒が明かない。ここで机上の空論を並べたり色々と愚痴を零してもなんの進展も無い。

 宿屋を出て聖堂に向かうとそこにはアリーシャとアイゼンとエドナがいた。ブルーノ司祭となにか話し合いをしている。

 

「なにしてんだこんなところで?」

 

「ちょっと珍しい物を見つけたのよ」

 

「珍しい物?」

 

 なんの事だとベルベットは頭に?を浮かべる。

 この大聖堂に珍しい物なんてあったのだろうかと思っているとエドナは……なんか神秘的な輝きを放っている光る球を持つ。

 

「……なに、これ?」

 

 エドナが出した物を見て、おおコレは!とはならない。

 流石に見たことがない物なのでオレも何だこれはと取り敢えずツンツンと触ってみる。

 

「コレは瞳石と言って大昔の記憶を保存して幻の様に見ることが出来る道具だ」

 

「ビデオカメラ的なのか……確かに珍しい物だけども……」

 

 アイゼンからなんなのか聞かされたがイマイチ、ピンと来ない。

 ビデオカメラという代用品があったりするのでコレになにに騒いでいるのかと疑問を抱く

 

「ヘルダルフとマオテラスに繋がる大地の記憶かもしれないのよ」

 

「っ!!」

 

「……何故そう言い切れる?」

 

 ヘルダルフとマオテラスの名前を出すと顔が変わるベルベット。

 この石がどうしてヘルダルフとマオテラスに繋がるのか……ヘルダルフとマオテラスに関して色々と記録されているのか?

 

「ゴンベエ、ベルベット。とにかく1度見てみよう、この大地の記憶を」

 

 色々と疑問は尽きないもののアリーシャはこの石に記録されている大地の記憶を見るように言う。

 ああだこうだと考えても仕方が無い事なので見てみるかとアリーシャが石を握ると大地の記憶が映し出される……コレは、導師だな。憑魔を相手に戦っている。1人2人じゃない、何十人も浄化の力を用いて憑魔と戦っている。

 

「……導師はアルトリウス以降も実在していて業魔と戦ってるのに、どうしてこんな時代を迎えたのかしら?」

 

 この時代ほどとは言わないが浄化の力が振るわれて更には地の主のシステムが完成されている時代だった。

 そんな時代が訪れていたにも関わらず世界は災厄に満ちている。マオテラスが必死に頑張っているというのに残酷な未来しか待ち受けていない。

 

「天族の信仰を人々が忘れたから……」

 

 ベルベットの疑問にどうにかして答えようとするアリーシャ。宗教と政治が絡むと世の中ホントにロクな事にならねえ。

 

「見えない人に見えるようにする技術を開発したり色々とやれる事は沢山あったのに……憑魔を浄化して信仰を貰っておけばどうにかなるなんて考えは甘えに近いぞ」

 

「見えれば信仰してくれるなんて保証は無いわよ。1000年前みたいに天族を道具かなにかだと勘違いしたり、ロゼみたいに穢れを放たない悪人が天族を悪用する可能性だってあるわ」

 

「……ほんッとロクでもねえなこの世界は」

 

 エドナの言うことも一理ある。メルキオルのクソジジイとかある意味いい一例だ。

 アルトリウスもやり方はともかく世界を救おうという意志は本物だったし……マジでどうすればいいのやら。

 ただ言えることはマオテラスがヘルダルフに捕まっている以上は過去についてはどうでもいいことだ

 

「ところでゴンベエ、なにか用事があって此処に来たんじゃないのか?」

 

「ああ、そうだ……ガサ入れしてたクソガキ連中をどうしようかってな……ぶっちゃけ首を刎ねるならそれはそれで構わないが……なぁ……」

 

「彼等の事ですか。噂は耳にまで届いています」

 

 殺せばそこで終わりなのだがそれをすればザビーダが色々と五月蝿い。

 どうしようかと相談に来たことを伝えると既にブルーノ司祭の耳に届いている。

 

「物盗りをしてるクソガキ集団だ……多分あんた達が説法をしても無意味だ」

 

「我々の言葉は彼等に届かない、か……申し訳無い。自分達では力になる事は出来ない……未来ある子供を間違った道筋から正す事すら出来ないのか……はぁ……」

 

「落ち込むな。説法で改心するぐらいなら泥棒なんて真似は最初からしねえ」

 

 相談に来たと言えば相談に来たがぶっちゃけそこまで期待はしていない。

 

「……ゴンベエ」

 

「なんだ?」

 

「お前は男爵になるのか?」

 

「なるというか無理矢理ならされるというか……腹は括ったよ」

 

「…………お前があいつらを引き取らないか?」

 

 アイゼンから出た提案はオレがあの孤児達を引き取るという提案だった。

 

「おいおい、既にある程度まで成長してしまっているクソガキだぞ。説法も聞かないってのに面倒を見ろって言うのか?」

 

「お前が男爵になれば与えられた領地を豊かに発展しなければならない。その為には色々と人手が必要になる筈だ……説法が無駄ならば、仕事を与えればある程度は制御が、言うことを聞くはずだ」

 

「……う〜ん……」

 

 まぁ、確かにアイゼンの言う通りマンパワーが人手が必要にはなるだろう。

 取り敢えず領地を貰えるならば電話の1つでも作っておきたい。素材はライフィセットが残してくれた物があるが肝心の人手が居ない。前はアイフリード海賊団の面々をパシらせて作っていたが……子供を扱うのって色々と難しいんだよな。なにしでかすか分かったもんじゃないし。

 

「仕方がねえ……一応は交渉だけはしてみる。無理だと判断したのならば諦めさせてもらう」

 

 周りからモノ作りの人手になってくれれば、働き口を紹介すればいいんだという空気が流れる。

 嫌だと言っても意味は無さそうだし、交渉の場だけは設けてみると聖堂を後にして向かったのは留置所、牢屋である。

 

「まさかまたここに来る羽目になるとは……」

 

 スレイを動かす為の人質になった時に捕らえられた牢屋に舞い戻ってきた。

 色々と苦い思い出なので思い出したくないとアリーシャは苦い顔をするがオレだって来たくなかったんだ。

 

「よぅ、クソガキども」

 

「っ、お前は!!」

 

 牢屋に閉じ込められているガキどもを見つめる。

 オレが声をかけるとどうしてここにと驚いた顔をしているのでオレはマスターソード……ではなく木刀を取り出して禍々しい闇を纏わせる。

 

「お前等の処遇が決まったぞ……処刑だ」

 

「っ!」

 

「い、嫌だ!死にたくない!」

 

「悪いのは俺たちを捨てた大人達なんだぞ!!」

 

「死にたくないんだったら今すぐに選べ。オレに忠誠を誓ってオレの指示通りに真面目に働くか、それともこのまま一生闇が深いところに居るのか……永遠と日陰者になりたいのならば今ここでオレが介錯してやる」

 

「なんだよそれ、お前の命令を聞かなきゃ殺すって言ってるのと同じじゃん!」

 

「別にオレが殺さなくてもハイランドの上層部はお前達を厄介者だから見世物として処刑される可能性が高いぞ?……オレはお前達に働き口を紹介しているんだ。物盗りなんてしなくてもいい男爵直々の仕事を請け負うだけでいい……こっちは大分妥協してやってるんだぞ?」

 

 お前等を使わずに真面目に働く好青年を雇うという手段も普通にあるんだ。

 ザビーダが見捨てることが出来ないから温情を掛けている。コレでも大分優しめにしてあるんだぞ。

 

「……あんた、男爵なのか?」

 

「不本意ながら爵位と領地を頂いた。返上して逃亡してえけども、もう一人身じゃないからな……嫌ならお前達の人生はここで終わりだ」

 

 断るなら別に断ってもいい。なに、こんな世の中だ。使えそうな孤児は沢山いる。

 別にこいつらになにか思い入れがあるわけでもないので冷たい目で見つめてみるとビクリと反応をする……脅しすぎたか?コイツ等は色々と崖っぷちの状況に立たされているからこれぐらいがいい薬だとオレは思う。

 

「ホントに、ホントに仕事をくれるのか?」

 

「具体的には何をやるかはまだ決まっていないが何処かで必ず人手が、マンパワーが必要になる。そうなった時に雑用として働かせる……安心しろ、ちゃんと3食飯は食わせてやるし寒さを凌ぐことが出来る場所も用意してやるよ」

 

 こういうところでくだらない嘘をついても意味は無い。

 

「……分かったよ。あんたのところで働くよ」

 

「そうか……他の奴等もそれでいいか?」

 

 オレの財布を盗もうとしたクソガキは首を縦に振ったが他が嫌だと言うかもしれない。

 念の為の確認を取ってみると他の孤児達もオレの元で働く事に賛成してくれており、誰一人異議を唱える事は無かった。

 

「じゃ、時が来たら迎えに来るからそこで大人しくしてろよ」

 

「……え!?ここから出してくれるんじゃないのか!?」

 

「誰がそんな事を言った。オレ達もオレ達で色々と忙しいんだ。ゴタゴタを解決したら迎えに来るからそれまで反省しておけ」

 

 直ぐにこの牢屋から出してもらえると思っていたのか、そう簡単に牢屋から出してもらえると思ったら大間違いだぞ。

 一先ずは交渉が済んだので牢屋がある留置所から去る

 

「ゴンベエ、どうしてあんな嘘を言ったんだ?処刑だなんて」

 

「嘘じゃねえよ……あのガキどもがあのままだったら邪魔にしかならねえ。何れは誰かがあのガキ共を殺しに行ってたよ」

 

「な!?」

 

「案外オレ達が知らないだけで悪い大人に思う存分に利用された孤児が用済みだと殺されてるかもしれねえぞ……ホントに残酷な世の中だよな」




Q&A

ゴンベエ「はい、Q&Aのコーナー!活動報告で質問を寄せているのでどしどし応募してください。全て答えれるかどうか怪しいです。作者、基本的になにも考えてないので。メインパーソナリティはオレで今回のアシスタントはぐっさん」

ヒナコ「ぐっさん言うな。ヒナコよ、ヒナコ……で、何すればいいの?」

ゴンベエ「質問コーナーだからそれに答えてくれればそれでいいぞ」

ヒナコ「質問ねぇ……ま、いいじゃない。で、先ずはなにからなの?」


 Q 不人気な原作ってどんなもんですやろか。転生者目線で一つよろしく。


ゴンベエ「あ〜…………」

ヒナコ「答えるのがスゴいややこしい質問が出てきたじゃない!どうすんのよ、これ答えるの難しいわよ!」

ゴンベエ「ま、しいて言うのならばGOD EATERとかFGOみたいに色々と世界が詰んでる世界だな……この質問、答えるの難しいんだよな」

ヒナコ「GOD EATERとか北斗の拳みたいな荒廃した世界でも推しキャラが居る世界なら当たりだったりするんじゃないの?」

ゴンベエ「コレは転生者によって変わるな。転生者にも色々なタイプがいてオレみたいに戦闘特化の転生者も居れば逆に開発技術力に特化した転生者も居るし、ホントに転生者によって当たりハズレが変わる。オレだとバクマンみたいなバトル要素が薄い世界とか苦手だな」

ヒナコ「女性の転生者は……そうね。ラブライブとかアイドルマスターとかの男がハーレムを作れるタイプの世界はハズレで下手すりゃアイドルにならないかって誘われたりするわ」

ゴンベエ「ぐっさん、アイドルにはならないの?」

ヒナコ「私はメディア向きの人間じゃないっての……とにかく不人気な原作は……ソシャゲみたいにコミュニケーション能力特化とかじゃないとやってけない世界とか?」

ゴンベエ「マジで転生者によってその辺りは異なるからな……因みにオレはワールドトリガーの世界に転生したい」

ヒナコ「三雲修をゼンカイガオーンにする話は既に出してるでしょうが!」


 Q 不人気な原作ってどんなもんですやろか。転生者目線で一つよろしく。

 A 転生者によって異なるけどもFGOみたいにコミュニケーション能力に特化して万人受けしておかないとダメなソシャゲ世界は割と不人気。地球じゃない世界も不人気、特にFGOはハズレである(推しが居るならば話は別である)

ヒナコ「これで一応は答えにはなってるわね……次行くわよ、次」


 Q テイルズ世界なら勇者リンク装備
   ワールドトリガーならクラスカードと転生者は特典などのアドバンテージがありますが、もしそのアドバンテージがほとんど無くなったらどのような対応をしたりしますか?

(アニポケ世界は、無印の時点でフェアリーが認知、そうでなくてもモデルが日本のカントー・ジョウト・ホウエン・シンオウのポケモンや技はジムリーダーは当然知っていたり
場合によっては、ジムリーダーは専門タイプ限定ならパルデア地方までの知識があったりして

ワールドトリガーでは、クラスカードが無かったら普通にアステロイドなどボーダーのトリガーを使うのやら)

ゴンベエ「ああ、はいはい。転生特典が無かった場合の話な……コレもまた転生者によって異なると答えよう。オレみたいな戦闘能力特化な転生者は転生特典無しでもどうにか出来る。転生特典抜きでも神依アルトリウスを片手間でボコれるぐらいには強いからな、オレは」

ヒナコ「まぁ、そうね。その世界独特の技術があるって言うならば自力でトリガー的なのを開発したりする天才な転生者も普通に居るから……そもそもで転生特典にも当たりハズレがあるみたいだし」

ゴンベエ「ワールドトリガーなら普通にボーダーに入隊するんじゃねえの?」

ヒナコ「いや、あんたブレイブになるわよね?」

ゴンベエ「未来の話は今はするな……」

Q  テイルズ世界なら勇者リンク装備
   ワールドトリガーならクラスカードと転生者は特典などのアドバンテージがありますが、もしそのアドバンテージがほとんど無くなったらどのような対応をしたりしますか?

(アニポケ世界は、無印の時点でフェアリーが認知、そうでなくてもモデルが日本のカントー・ジョウト・ホウエン・シンオウのポケモンや技はジムリーダーは当然知っていたり
場合によっては、ジムリーダーは専門タイプ限定ならパルデア地方までの知識があったりして

ワールドトリガーでは、クラスカードが無かったら普通にアステロイドなどボーダーのトリガーを使うのやら)

 A ナチュラルに強い転生者は無くなっても特に問題はない。トリガーとか魔導具的なのがある世界ならば開発技術力特化の転生者が独学で色々と作り上げて転生特典の代わりにする。普通の転生者は普通にボーダーに入ったりして活躍したりするかもしれない。

 Q BLEACHで死神は斬魄刀、クインシーは陛下の血肉、完現術は霊王のパーツを媒介に魂の力を使用している説がありますので(織姫の能力名が日本語なのは一護の死神パワーの影響が強いとかの説も)
BLEACHの他にもLight作品などの、魂・思想なんかで武装や能力が決まる特典を与えられたら転生者は、それぞれ自身の能力にどのような評価をしたりするのやら(ペルソナ4みたく受け入れることは出来そうですが、それでも同族嫌悪などの嫌悪感を抱くパターンがあったりして)

ゴンベエ「え〜……そもそもで転生者の容姿は転生者の魂とか思想とかで決まるものだ。自分が○○の容姿なのかと割と直ぐに受け入れる事は出来る」

ヒナコ「ただし中にはゴンベエ(こいつ)みたいな例外はあるわ。ゴンベエ(こいつ)みたいに魂が不安定な転生者は転生する度にコロコロと容姿が変わったりするわ……だから自分の魂や思想で能力が決まるタイプでも割とあっさりと受け入れる事が出来るわよ」

 Q BLEACHで死神は斬魄刀、クインシーは陛下の血肉、完現術は霊王のパーツを媒介に魂の力を使用している説がありますので(織姫の能力名が日本語なのは一護の死神パワーの影響が強いとかの説も)
BLEACHの他にもLight作品などの、魂・思想なんかで武装や能力が決まる特典を与えられたら転生者は、それぞれ自身の能力にどのような評価をしたりするのやら(ペルソナ4みたく受け入れることは出来そうですが、それでも同族嫌悪などの嫌悪感を抱くパターンがあったりして)

 A 転生者の容姿が魂や思想によって決まるものであり、魂や思想で能力が決まる場合割とあっさりと受け入れる事は出来ます。

ゴンベエ「まぁ……容姿がコロコロと変わるのは色々と大変みたいだな。今のところ質問はコレぐらいだな……メガネ(兄)とかメガネがガオーンとかの質問も受け付けているから気兼ねなく聞いてくれよ」


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必要悪な間者

 男爵の爵位を貰う覚悟は出来た。レディレイクで1番高級な宿屋に宿泊をして一夜を過ごす。

 

「屁以下、男爵の爵位と領土はありがたくないけれども貰う……けど、残念な事にオレには教養が足りない。物事を雑に捉えてしまうし、事なかれ主義なところもあるし天邪鬼だ。与えられた領土で内政をしろと言っても(まつりごと)は出来ねえ」

 

 翌日のこと、屁以下に会うのは嫌なので電話越しで対話する。男爵の爵位と領土は貰うが、内政が出来るかどうかと言えばNOである。

 地獄の転生者養成所では一般教養とか雑学は習うけれども内政のやり方を教わったりはしていない。そもそもで男爵の爵位を得るなんて予想外にも程がある。

 

『その件ならば問題はない。アリーシャを代官として派遣する』

 

「はぁ!?あんた正気なの、アリーシャもゴンベエと大して変わらないじゃない!!」

 

「お前も何気に酷い事を言うよな」

 

 純粋なアリーシャに内政を任せるのは怖いか怖くないかで言えば怖い。もしかしてアリーシャが邪魔だから僻地に飛ばすつもりなのか?男爵の爵位を与えてツバを付けるけれども厄介な存在であることには変わりはないからアリーシャ共々僻地に飛ばして表舞台に出さない様にするつもりなのか?

 

『夢を見るのはいい事だ。だがいい加減に現実というものを見なければならない……アリーシャには政で色々と学んでもらいたい』

 

「結局厄介事を押し付けてんじゃねえか!」

 

 アリーシャを内政で政治について勉強させる為にアリーシャを僻地に飛ばすつもりだ。

 厄介払いするどころか、さらなる厄介な事を押し付けられている……いいの?ホンマにアリーシャ、大丈夫なの?

 

『式典はどうする?』

 

「爵位なんてただでさえ要らないのにご近所付き合い的な事なんてめんどくさいんだよ。爵位の式典なんてしたら逃亡するからな」

 

『そうか』

 

 こう、社交界的なのも出ないからな。人付き合い、得意かと聞かれればそうでもないし。

 無理な事を押し付けられると本当に逃げるのを屁以下は分かっているので爵位を与える式典は無しになった。

 

「男爵になるのはいいけども、少しだけ待ってくれ。やっておかないといけない事が幾つかある」

 

『ほぅ、やらなければならない事とは?』

 

「大地の汽笛をガサ入れしてたクソガキの公正とか……とにかくやらなきゃならねえことが多すぎる」

 

 厄介な事が多いよ、マジで。

 大地の汽笛をガサ入れしていたクソガキの話は屁以下の耳に届いているのでそれ以上は深くは聞いてこない。流石にハイランドの機密情報を漏らしている奴がレディレイクに居るとは言えない。取り敢えずは屁以下との対話を終えたので電話を持っていた屁以下直属の騎士達は宿屋を去っていった。

 

「全く、どうしてこんなに問題が起きるのかしら?」

 

「オレが聞きてえぐらいだよ……アリーシャのところに向かうぞ」

 

 中々に厄介な事が起きているが1個ずつ解決していくしか道は無い。

 宿屋をチェックアウトしてアリーシャの屋敷に向かうとザビーダが居た。

 

「よう、待ってたぜ」

 

「待たせたな……なにか進展はあったか?」

 

「アイゼンの奴がつけている」

 

「あんた達はそういうのにはホントに便利ね」

 

 ハイランドの機密情報をローランスに漏らしている奴がレディレイクに居る。

 ハイランドとローランス、どちらも情報は噂程度でしか聞くことが出来ないもので何処かで誰かが確かな情報を流す事で戦争を勃発させない為の均衡と調和を取らなければならない……が、万が一という事もある。

 もしかしたら私欲に走ってハイランドの機密情報をローランスに漏らしている可能性も無いわけじゃない。その事を確かめるべく姿を見えないアイゼンがウーノが見つけた間者と思わしき人物を付けている。

 

「アイゼンなら間者が憑魔化しても切り抜ける事が出来るだろう……ただ白だった場合、どうするかだ。アリーシャちゃんは情報を垂れ流している事自体に不服を持っている。何処かで誰かが確かな情報を交流させておかなきゃ戦争が開幕する可能性もあるんだがな」

 

「その辺りの汚い部分を見たくない、認めたくないんでしょ……それでアリーシャは何処に居るの?」

 

 ザビーダは困ったもんだとアリーシャの扱いに困る。秩序を持った善人だが妙なところで頭が固かったりするからな。

 ベルベットはアリーシャの頑固さを然程気にする事はせずにアリーシャが何処に居るのかを尋ねる。

 

「アリーシャちゃんなら自分の部屋に居るぞ。なんかまた新しい書状が届いててスッゲエ慌ててたわ」

 

「…………ついさっき届いたのね」

 

「みたいだな」

 

 アリーシャがオレの領土で内政の事務仕事等を務めてくれる代官の仕事をつい先程、勅命を受けたっぽいな。

 取り敢えず何処から処理をしたらいいのか……

 

「アリーシャ様、私も付いていきます!!」

 

「いや、大丈夫だ。ここに残っていてくれ」

 

「ベルベットが居るからメイドは要らないんじゃないの?」

 

 何から処理していこうかと考えているとアリーシャとエドナが出てきた。アリーシャの屋敷のメイドさんを引き連れてだ。

 なにやら揉めているなと傍観しているとアリーシャ達はオレに気付くのだが、アリーシャの屋敷のメイドさんがオレに嫌悪感を剥き出しにしてくる。またなにかやらかしたのだろうか?元々怪しい人間で好意的じゃなかったのは分かってるけども……。

 

「この男が男爵……いったいどうやってアリーシャ様に取り入ったのですか!!」

 

「貴方、凄く嫌われてるけどなにしたのよ?」

 

「しいて言うのならば脱税」

 

「っ……アリーシャ様、騙されてはいけません!男爵の爵位と代官を理由にアリーシャ様を思う存分に扱き使うつもりです!」

 

「スゲえ嫌われてるな……いや、これは忠誠心が重いのが正しいのか?」

 

 ガルルと犬の如く嫌悪感を剥き出しにする。脱税なんてしていて司法取引的なので税金を納めなくてもいいと決定したからな。

 アリーシャの事を本当に思っているからかオレに対して色々と嫌悪感を剥き出しにしてくる。

 

「別に構わない、ゴンベエには色々と借りたものや返しきれない恩があるんだ。代官としてゴンベエの力になる事が出来るのならば私は喜んで代官としてゴンベエの領地に派遣されよう」

 

「ですが」

 

「私はゴンベエの事を信頼と信用、両方している。私の事を心配してくれる事はとてもありがたいが私も何時までも自分の世界に、内側に閉じ籠もっているばかりではいられない。なにも知らない姫様だから、その一言で片付けられるのはもう終わりにする」

 

 アリーシャは新しい1歩を踏み出すことを決意した。

 少し見ない間にこんなに成長してしまっているとはとメイドさんは驚愕しているが、実際のところ1ヶ月以上も会っていなくて初代災禍の顕主と導師の戦いを見ていたので当然と言えば当然な成長をしている。

 

「……ん、どうやら(やっこ)さん動いたみたいだぞ」

 

 アリーシャの成長はさておいて風が吹いた。風になにか乗せられていたのかザビーダは風からの報せを受ける。

 アイゼンがなにかしらの術でザビーダに伝わる様にしているんだろう。便利だな天響術は。情報を流しているであろう間者が動き出したことが分かったのでオレ達は気を引き締める。レディレイクにある地下道で密会は執り行われているらしい。

 

「来たか……今、ちょうどいいところだ」

 

 初めて入るレディレイクの地下道だがザビーダがこっちだと道案内をしてくれたお陰であっさりとアイゼンの元に辿り着いた。

 アイゼンは見えない存在なのだが曲がり角を背にしてあそこにいる二人組がハイランドとローランスの情報を交換している間者だと教えてくれる。

 

「声が聞きたい……ゴンベエ、透明になるマントを」

 

「オレも一緒じゃないと使えないからな」

 

 なにやら密談をしているのだが声が聞こえない。

 ザビーダが空気の振動から音を拾うことが出来ないのかと思ったが流石にそこまで天族は万能じゃない。透明になるマントを取り出してアリーシャと共に被り透明になったかどうかチェックした後に密談をしている2人の元に向かう。

 

「現在導師はローランス帝国に居るみたいだ。セキレイの羽を引き連れている」

 

「ローランス帝国から流れているエリクシールについてはどうなんだ?」

 

「教皇のサインは紛れなく本物のサインだ……ただ教皇はペンドラゴに居ない。ゴドジンという村からエリクシールが出荷されている事から恐らくはゴドジンの村にマシドラ教皇がいるだろう」

 

 割と機密な情報を語り合っているな。

 

「レディレイクの前に停まっているバカでかい煙を出している馬車みたいなのはなんなんだ?」

 

「アレは大地の汽笛と言う乗り物だそうで……姫様のお気に入りが持っている物で……構造はすまんが分からない」

 

「おいおい、アレの情報は何処も欲しがってるんだぞ?どういう原理で動いてるかは知らねえが、アレさえあれば馬車は不要になる。物資の運搬なんかの手間が掛かる物を一気に省略出来るんだぞ」

 

「何処かの貴族は構造を知りたくて物乞いの孤児を放ったみたいだが、衛兵にバレちまって捕まってる」

 

「っ」

 

「!」

 

 色々と情報の交換をしていると今度は話題はオレに移り変わった。

 大地の汽笛に対して色々と価値を見出しているのだろうが肝心の大地の汽笛に関してなにも掴む事は出来ていない。現状運転を出来るのはオレだけで、何処の馬鹿貴族が放ったのかは知らないが孤児は……あのクソガキ連中か。裏がなにかあるとは思っていたが予想よりも大きな存在が動いているという事か。

 

「姫様のお気に入りのあの男についてなにか分かったのか?」

 

「さっぱりだ。この大陸とは違う異大陸な人間なのは確かだろうが、知っての通り異大陸に行く技術(すべ)は失われている。どうやってこの大陸にやってきたか、船の1つでもあるのかと思ったが全くと言って見つからない。それどころかあんなバカでかい乗り物を隠し持ってるだなんて……」

 

 やはり悪目立ちはし過ぎていたか、オレは何時の間にか時の人になってしまっている。

 ある程度は覚悟はしてはいたが、いざこういう裏の実態を見せられたら……反応に困るな。

 

「ゴ─っ!?」

 

喋るな

 

 オレに関して話しているのでアリーシャは声を出そうとするので口元を手で抑える。

 オレの情報は早々に入手する事は出来ない。過去の時代で血翅蝶が色々と躍起になっても全くと言って情報を掴み取る事が出来なかったんだ。普段は雑貨品を売っている何処にでもいる好青年だからな。

 

「ん……今、なにか音がしなかったか?」

 

「確かに……まさか、何処かに人が」

 

 あ、まずいかも。

 オレ達は隠れ潜んでいるけども、ベルベットは隠れていない。このままだと見つかる……

 

「ぬぅぉう!?」

 

「な、なんだ!?」

 

 ヤバいと思っていると突風が吹き荒れる。

 ザビーダが起こした突風で地下道で起こるのは偶然とかで片付ける事は出来ない……が、突風が起きた事で誰かが潜んでいる可能性を減らす事は出来た。間者達は誰かが潜んでいる可能性はあると警戒はしつつも情報の交換をし合う。

 

「大地の汽笛と呼ばれる乗り物はペンドラゴでも見かけた」

 

「姫様がハイランドの和平の使者としてローランスに向かっている……ゴドジンの村でも目撃情報がある」

 

「そうか」

 

「ハイランドは和平を結ぶつもりなのか?」

 

「戦争推進派が評議会の実態を握っている。国王も評議会に対して強い発言は出来ない……まだ我々が稼ぐ事が出来る」

 

「今後ともよろしく頼むよ」

 

 そう言うとハイランドの情報を漏洩している間者はローランスの使者から金が入った袋を受け取る。

 ローランスの使者はベルベットが潜んでいる方向とは別の方向に向かっており、ハイランドの情報を漏洩していた間者はベルベットが潜んでいる方向に向かった

 

「動くな」

 

「!?」

 

 曲がり角で差し掛かる、そんな状況でベルベットは籠手から剣を出して間者の喉元に突き付ける。

 

「お、お前はゴンベエの……」

 

「ええ、嫁よ。話は聞こえなかったけどもあんたが何者なのかは知ってるわ」

 

「っ、さっきの物音はお前が起こしたものなのか!」

 

「さて、どうかしらね?」

 

 喉元に剣を突きつけて動いたら何時でも殺すことが出来ると脅しているベルベット。

 ローランス側の間者を追ってもいいが、これ以上は今の段階ではなにも出てくることが無さそうなのでマントを取って正体を現す。

 

「アリーシャ姫、それにお前は!!」

 

「よぅ、人様の個人情報をベラベラとよくも語ってくれたな。探偵の真似事か?」

 

 ベルベットだけでなくオレとアリーシャが居る事が判明すると顔色を変える。

 

「お前がローランスに情報を漏らしているのはさっきので見させてもらった……何故だ?」

 

「国を売って、その金で生き延びるつもりか!!」

 

「…………小娘が、なにを言っているんだ」

 

「なに!?」

 

「ハイランドもローランスも表向きには国交は断絶している。導師が最初の開幕戦で暴れ回った結果、冷戦状態が続いてはいるが何時また大きな戦争が巻き起こってもおかしくはないんだ。表向きのルートだけでなく裏のルートまで潰そうと言うのか!!」

 

「おっさん、逆ギレかよ……」

 

「でも言ってる事に間違いはないんじゃないの?この国と隣の国は睨み合ってて何処からか情報を得ないといけないのは事実だし」

 

 一応は言っている事に関しては筋が通っている。情報を何処かで合わせる事をしておかなければならないのはエドナの言っている通り事実っちゃ事実だ。

 

「おっさんの言い分にも一理はあるにはある……ベルベット、剣を納めろ」

 

「……分かったわ」

 

 ベルベットがその気になれば何時でも間者を殺す事が出来る。その射程範囲内にベルベットはいる。

 間者は剣を納めた事でホッとするのだが、まだ終わらない。さっきまでの会話は全て聞かせてもらったのだから。

 

「オレの情報を欲しいみたいだな」

 

「あ、ああ……異大陸の人間でどうやってこの大陸に来たかすらも分からない」

 

「なに海の上を走ってきただけだ…………それよりも、大地の汽笛にガサ入れしていたクソガキを送り込んできた貴族が何処の誰かなのか知ってるのか?」

 

「そ、それは……」

 

「知ってるならばその内報復させてもらう……なに、殺しはしねえよ」

 

 ただちょっとだけ嫌がらせをするだけだ。

 一先ずはハイランドの情報を流している間者の様な存在を捕らえる事が出来た……が、アリーシャは浮かない顔をしている。

 

「憲兵に突き出しても意味は……無さそうだよな」

 

 結局、直ぐにハイランドの情報を流している間者は何故に情報を流しているのか聞き出せば開放した。

 アイゼンの読み通りハイランドの情報を流している間者はハイランドの情報をローランス渡す代わりにローランスの情報を受け取る国交の貿易の様な役目を担っていた。アリーシャが現場で現行犯で逮捕だと表に出ていたら裏のルートが1つ潰されていたかもしれない。透明になれるマント、マジでグッジョブ。

 

「お、瞳石があるぜ」

 

 レディレイクでやらなければならない事もやった。

 めんどうだけども与えられた領地に向かおうかと考えているとザビーダが大地の記憶が記録されているという瞳石を見つける。聖堂に奉納、というか寄付された物とは異なる物だ。またなにか飛び出してくるかもと思いながらも大地の記憶を見る。

 今度はそう、憑魔と戦っている女性が居た……女性だけじゃない、ライラも居た。ライラと共に色々なところを巡っている。

 

「あの野郎、なんか隠してやがるな」

 

 導師と密接に繋がった関係性であるライラ。オレ達になにか言えない秘密の1つや2つ腹に抱えている。

 

「なんだ知らねえのか?ライラの奴は今の奴とマオ坊関係の事を言わないかわりに浄化の力を得てるんだぜ」

 

「そうなの?……って、今の奴が誰なのかあんた知ってるの?」

 

「いい女の事は忘れないからな!……とはいえだ、ライラが誓約を掛けている以上は俺の口からベラベラと語るのは筋違いってもんだ。大地の記憶を経由してアイツが何者なのかを知ればいい。コレがあるって事はまだ他にも何処かに瞳石があるって事だ」

 

「最悪地脈の中に突入して記憶を見ればいいだろう」

 

「お前、それは反則だろう」

 

 裏技だろうが反則だろうが使えるものは使わせてもらう。

 まだまだライラ達は謎だらけなもののいざという時は地脈の中に潜って大地の記憶を見ればいいだけだ。

 

「で、どの辺りがあんたの領地なわけ?」

 

 アリーシャの屋敷に戻るとハイランドの地図を広げる。男爵の爵位と共に領地を頂いたが具体的にどれだけの物かは分からない。

 

「ここからここまでで8個ある村の統率をしろと書いてある」

 

 アリーシャはコンパスを使って円を描く。領地を与えられると言っても所詮は男爵の領地、そこまで大きな領地は貰えない。

 8個も村がある……状況からして地の主的なのは居ないんだろうな……地の主探しからやらないといけねえのか。

 

「……あ」

 

「どうした?」

 

「8個ある村の内の1つが前にゴンベエとザビーダ様と一緒に向かった導師の名前を騙って偽のエリクシールを売っている者達が居た村だ」

 

「お、そういやこの辺りだったな」

 

 ここだっけかとザビーダは村の1つを指差す。あの辺り……1度行った事がある場所なので大地の汽笛を走らせて向かう事が出来る。

 馬車とかかったるい乗り物に乗らなくてもいいのはいいな……でも、大地の汽笛は良くも悪くも目立ちするんだよな。大地の汽笛があって国が豊かになっていると見せつければ戦争している場合じゃないとローランスが停戦を申し建てる……なんて事があればいいけどもヘルダルフの患者を見つけ出さないといけねえんだよなぁ……。

 

「牢屋に向かうぞ、あのクソガキ共を回収してから新しい領地に向かうぞ」

 

「あ、ああ……はぁ……」

 

 汚い現実という物を見せつけられたアリーシャは酷く落ち込んでいる。

 情報を垂れ流している間者はローランス、ハイランド両国にとって必要不可欠な存在……アリーシャは学ばないといけない社会の汚い部分はまだまだ多いな。




Q&A

ゴンベエ「はい、Q&Aのコーナー!活動報告で質問を寄せているのでどしどし応募してください。全て答えれるかどうか怪しいです。作者、基本的になにも考えてないので。メインパーソナリティはオレで今回のアシスタントは深雪だ」

深雪「はじめまして蛇喰深雪です……若輩者ですが、答えられる範囲ならば答えたいと思います」

ゴンベエ「普通に進行するんだな」

深雪「まぁ、私が余計な茶々を入れると思っているのですか?失礼ですね」

ゴンベエ「お前が関わると厄介な事が毎回巻き起こるだろうが」

深雪「私は悪くはありません!!……では早速、最初の質問からいきましょう」


Q最近思ったのがゴンベエや転生者達がもし、西尾維新系列、いわゆる、物語シリーズや
 戯言使いのような戦闘力や思考能力だけでは解決できない七面倒臭い世界へ送られた場合
 原作キャラに協力を仰ぎますか?あるいは原作キャラに金で依頼などを行い、問題を
 K!I!S!(金!依頼!終了!)って感じで全てを無視して結果のみを重視しますか?
 あるいは、もっと別の選択などをしますか?気になるので回答をお願いしやす。

 世界ごとに転生した際、その技術などを学べると思うのですが、魂にはどれだけ記憶されてますか?1~100の記憶の強度でお答えください。(全てを学んで覚えて作れるようになった後、ガンダムを実機で作ろうとして全くできないを1、完璧に作れるで100)

ゴンベエ「おい、質問2つあるぞ?」

深雪「1つずつ丁寧に答えましょう。先ず前者の方ですが……そもそもで原作に関わらず一般人のフリをして生き抜くという道もあります。原作が厄介な世界だと金で解決したりする事もありますが、そもそもでめんどくさいから危ないから関わらないという手もあります。転生者だから原作に関わらなければならないとかいう義務は基本的には存在しません。問題にそもそもで関わらない様にする人も居ます」

ゴンベエ「金で依頼して終了させるのも1つの手で……結果だけを求めて厄介事を解決するならばそうする転生者も居るには居る」

深雪「後者の方はそうですね……コレも転生者によって大きく異なります。ガンダムやLBX等のロボット系の場合開発技術力に特化した転生者ならば95〜99ぐらいですが私の様な一般人やゴンベエさんの様な戦闘特化等は良くて40ぐらいです」

ゴンベエ「コレが仮に戦闘技術系だったらオレは95〜99だな」

深雪「脳筋ゴリラですねぇ」

Q最近思ったのがゴンベエや転生者達がもし、西尾維新系列、いわゆる、物語シリーズや
 戯言使いのような戦闘力や思考能力だけでは解決できない七面倒臭い世界へ送られた場合
 原作キャラに協力を仰ぎますか?あるいは原作キャラに金で依頼などを行い、問題を
 K!I!S!(金!依頼!終了!)って感じで全てを無視して結果のみを重視しますか?
 あるいは、もっと別の選択などをしますか?気になるので回答をお願いしやす。

 A そもそもで原作に関わらなかったり危険そうな奴を先に消したりするし、金!依頼!終了!で終わらせたり結果のみを重視する。

 世界ごとに転生した際、その技術などを学べると思うのですが、魂にはどれだけ記憶されてますか?1~100の記憶の強度でお答えください。(全てを学んで覚えて作れるようになった後、ガンダムを実機で作ろうとして全くできないを1、完璧に作れるで100

 A 転生者によって異なる。
   戦闘系の技術ならばゴンベエは90台だけどもガンダムとかLBXを作る開発技術力だと良くて40ぐらいで逆に開発技術力特化の転生者だとガンダムやLBX等のロボット系の技術は90後半ぐらい。100%再現するのは不可能である。


 Q 型月の秩序混沌・善悪 女神転生シリーズのLightDark・LAWChaosみたいな感じで転生体達を分類したらどうなりますかね
   可能ならば、転生者達と相性が良いメガテン悪魔や型月サーヴァントの例も出したりして(テイルズのゴンベエは武神の悪魔と相性が良かったりして) 

ゴンベエ「ああ、はいはい。属性の話ね……しつこく言うけども、こういうのは転生者によって大きく異なるからな」

深雪「そうですね。貴方の様に秩序を持った悪人も居れば私の様に秩序を持った善人も居ます」

ゴンベエ「黛さんは中立の善属性で、ブッキーは秩序の中庸属性、ぐっさん中立の悪属性、マスター二狼は中立の善属性……お前が秩序を持った善人なのには些か疑問はあるが」

深雪「なにをおっしゃいますか!私は理不尽な暴力は嫌いな善良なる一般市民です。冴えない系主人公をからかったり挑発したりする系のヒロインが匙加減を間違えて主人公に切れられて修復不可能な関係になったり、主人公がもっと素直な別のヒロインと付き合い始めて精神的に追い込まれてボロボロになっていくのが見たいだけなんです。ぐうの音も出ない正論をぶつけて笑顔を曇らせたいだけなんです。雨取千佳ちゃんにあんな事やこんな事を言って笑顔を曇らせたいだけなんです!」

ゴンベエ「ロクでなしだな……因みにサーヴァントだが一応は誰とでも仲良く出来るようには訓練を積んである。ギルガメッシュとかオジマンディアスみたいな我の強すぎる俺様王様系は別だけども。相性のいいサーヴァントとかは基本的には無い」

Q  型月の秩序混沌・善悪 女神転生シリーズのLightDark・LAWChaosみたいな感じで転生体達を分類したらどうなりますかね
   可能ならば、転生者達と相性が良いメガテン悪魔や型月サーヴァントの例も出したりして(テイルズのゴンベエは武神の悪魔と相性が良かったりして) 

A 転生者によって異なるがゴンベエは秩序・悪・星もしくは地、深雪は秩序・善・人。
  大抵のサーヴァントと仲良くする事が出来る様には一応は訓練を積んでいるので問題はない。


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新たな屋敷

コシマエ「はい、Q&Aのコーナー!活動報告で質問を寄せているのでどしどし応募してください。全て答えれるかどうか怪しいです。作者、基本的になにも考えてないので。メインパーソナリティは僕こと転生する度に宮野真守キャラになる男こと運命/世界の引き金に出てくるコシマエで今回のアシスタントは」

有里彩「どうも。転生する度に坂本真綾キャラになる女こと有里彩(アリサ)です。メガネがガオーンに出ています……ニノミヤじゃなかった、ゴンベエさんは?」

コシマエ「今回は居ないよ。毎回ゴンちゃんだと芸も無いし後書きばっかだとつまらないから今回は前書きで答えてく感じ……なんだけどもね……」

有里彩「なにか問題でもあるのですか?」

コシマエ「ワールドトリガーの方に関する質問も来てたりするわけで……無能な作者が色々と考えた結果、ワールドトリガーの方で答えると決めたんだ……更新何時になるか分からないけど

有里彩「そもそもで作者はなにも考えず勢いとノリに身を任せて書いてますから細かな事は考えてないです、ドン引きです」

コシマエ「作者はバカだからね……じゃあ、早速質問いっちゃうよ」

 Q 転生者の授業内容の一部と転生者に成れる合格ラインはどんなのですか?

コシマエ「はいはい、授業内容だね……思い出すだけでも気持ち悪くなるよ」

有里彩「先ずは一般教養、地獄の転生者運営サイドが用意した高卒認定試験的なのに合格出来るレベルまで勉強させられます。大人になる前に死んでしまった人ばかりなので小学生とかも当たり前にいましてこの一般教養で苦戦したりする人が大勢居ます。高校生だったゴンベエさんは英語の部分で足を引っ張ったりしてました」

コシマエ「次に才能を伸ばす訓練……コレは転生者によって異なる。ゴンちゃんみたいなバトル物の世界が大得意な人ならば戦闘系の技術を鍛えられたりする。開発技術チートな転生者ならば電子工学とか、スポーツ系の世界が大得意ならスポーツの技術やルールを……転生者の持つ才能を伸ばす訓練をする……けど僕みたいな器用貧乏も中には居るわけで……基本的にはどの世界でも問題無く生きてけるよと言われた時は少しショックだったよ」

有里彩「それ以外にも私コレをやってみたい!と希望があるのならば才能の有無に関係あらず学ぶ事が出来たりします……が、才能が無い可能性もあるので理想と現実が噛み合わずに挫折したりする人も多いです」

コシマエ「他にはどんな世界に転生しても問題は無い様に鍛えられる……って言うけどもラブライブとかバクマンとかハイキューとか黒子のバスケの世界みたいに一部以外は元いた現実となんら変わらない世界もあるから主にバトル系の世界に転生しても問題はない様に鍛えられる……が、コレが結構キツい」

有里彩「ワールドトリガーの雨取さんやハイスクールDxDのアーシアさんの様にまともに戦う事が出来ない、人を傷つける事が出来ない、そもそもで殴り合いに向いていない人も居ます……が、そんなのは知ったことじゃないと人を撃つことが出来る様になるようにします。ゲロを吐こうが泣こうが喚こうが人を傷つける事が出来る様になるように鍛えます……この訓練が厳しくて脱落をする転生者候補生は割と多いです」

コシマエ「まぁ……冷静に考えれば一般人なら簡単に殺すことが出来る物凄い力を手に入れて躊躇いなく誰かを傷付ける事が出来るアニメや漫画の主人公達の方が異常だったりするとも言うけれども」

有里彩「それは言わないお約束ですよ……後は強靭なメンタルを手に入れる為に家畜を1から育てて最後は自分の手で殺して食べるブタがいた教室という映画の真似をしたり、高さ500mからバンジージャンプをしたり、一人暮らし出来るように家事を学んだり……あ、先輩転生者が転生先で何をやってるのとか見せつけられます」

コシマエ「転生する度に櫻井孝宏キャラになる男が新米転生者を誑かしてこのすば世界であんな事をするとはね……」

有里彩「いや、それを言うならばスマイルプリキュアの世界で秋山さんが麻薬食材を食べさせて……転生者になるとこうなるんだぞと色々な現実を見せられたりしますね。コレが割と面白くてですね、ラブライブの世界でμ’sに彼氏発覚か!?とパパラッチに撮られて炎上したのは色々とスゴかったですよ」

コシマエ「有里彩さん、第三者的な立ち位置で見ているから面白いけども、現場は洒落にならないぐらいに大荒れだからね……他にもトロッコ問題とかの政治的な問題とかも一応は学んで皆それぞれの答えを導き出してるよ」

有里彩「一通りのカリキュラムを終えて、問題が無いなと仏達が判断したら転生者になれます……が、なにが転生者になれる基準なのかはイマイチ分かりません。その辺りはふわふわしている謎だと思ってください」

コシマエ「その辺りはなにも考えてない……作者がなにも考えてないとも言うべきか」

有里彩「アホですからね、この作者は……では次の質問です」

Q 長い年月・色々な修行を乗り越えた設定にしてはテイルズのゴンベエには、圧倒的経験値による厚みを感じにくいのですが
【シルヴァリオ・ラグナロク】のベルグシュライン卿みたく規格外の戦闘センスを持っていてその才能を開花させるのを軸に、オマケで座学込で長くても修行期間数年の設定でなく長い年月で資格を得たものしか転生者に成れない設定による違いは何なのですか?

共感は出来なくても理解や納得は出来る事はあると思いますので
人間の悪意を学ぶ修行があるなら、衣食住がマトモに無いスラム街などの弱者を知る修行などがあったりして
(命は基本一つですし、
【シルヴァリオ・ヴェンデッタ】の正しいことは痛いことから
早寝早起き・掃除・仕事などを手を抜かず毎日を全力で行うなど
怠けなどの目の前の幸せを捨てて、正しいことだけを実行し続けるのは困難な人の心の弱さとか
怠けなどが有るのは、獲物を追い続けるより罠で捕える方が効率が良いなど、少ない労力でメリットを得ようとする生物の本能ですので
スラム街住民の理由に、理解は出来そうな気がしますが)
増税で民が不満に思っても、軍備などの縮小から治安維持に貢献してる人物への事情、他国との国際交流なども考えなければならないなど
【トロッコの問題】みたいな政治問題の重責とかも知ってたりするのやら

コシマエ「……アレだよ。訓練は積むけども訓練は訓練で実際の実戦経験とは異なるからね。あくまでも対処できたりするけども経験豊富かどうか聞かれればNOだからね」

有里彩「忘れがちかもしれませんがあの人、転生してから1年ちょっとしか経過していないですし生活の半分以上が生活基盤を整えるのに使っていますからね。社会勉強してるどころか社会不適合者だと自覚してたりしますし」

コシマエ「ゴンちゃん自身に経験豊富故に生まれる厚みの様な物は今の段階では無いよ。だったまだ転生してから1年ちょっとしか経過していない転生者なんだから。ゴンちゃんは人間的な意味合いではここから成長していくんだよ。トロッコ問題とかは一応は知ってるには知ってて色々と答えや持論は持ってるよ…………この質問、答えるの難しいね」

有里彩「難しい問題ですからね……そもそもで作者がシルヴァリオ・ラグナロクとか女神転生知らないとも言えますし」

コシマエ「っし!そういうこと言っちゃダメだから!」


 

「お〜し、全員乗ったな?」

 

 あの後牢屋に向かって孤児の子供達を牢屋から開放した。正確に言えば新たなる拠点となる領地で働かせるべく手錠で縛ったまま大地の汽笛に乗せられている。ゴンベエは全員が乗ったかどうかの最終確認を行う。全員誰一人欠ける事は無く大地の汽笛に乗っている。乗っているのを確認し終えると大地の汽笛を走らせる。

 

「どれくらいで到着するんだ?」

 

 大地の汽笛は凄い速度で走り出しているとゴンベエの財布をスろうとしたことがある子供がどれくらいで辿り着くのか聞いてくる。

 

「2時間もありゃ辿り着くよ」

 

「……僻地に飛ばされたわね」

 

 馬車の何倍も速くに動く大地の汽笛で1時間以上も掛かる場所がゴンベエに与えられた領地だ。

 普通ならばレディレイクから数日掛かる場所みたいだけど……流石は大地の汽笛と言った方がいいのかしら?辿り着くのに数日掛かる場所に2時間で辿り着くなんて相変わらずぶっ飛んでいる。

 

「僻地言うな」

 

「事実じゃない。8つの村、どれも似たりよったりの村で名産品らしい名産品も無いんでしょ?」

 

 エドナはゴンベエに与えられた領地が僻地だと言う。

 まぁ、そうね……レディレイクから数日掛かる場所で特産品らしい特産品も無ければ近くに大きな、それこそ国の主要都市があるわけでもない。アバル並の田舎……ある意味、良いかもしれないわね。レディレイクやローグレス、ペンドラゴみたいな大都会もいいけれど片田舎の街の方が安心して暮らす事が出来るわ。

 

「いいじゃない、僻地でも……余計なのが来ないんだから」

 

 ゴンベエの事務処理能力とかどれくらいなのかは私達は知らない。国の重要な何処かの都市を中心に領地を与えられて失敗しましたは本当に洒落にならないわ。元々アバルという田舎町に住んでいた事もあるわけだし大都会じゃない平穏な村ならば……住めば都だって言うし、大きな都市がある領地だったら余計な横槍が入ってくる可能性が高い……あくまでもコレは私の推察だけど、ゴンベエが何処までの物なのか確かめる為にこの領地を与えられた。最初は余計な横槍が入れられずにある程度は好き勝手する事が出来るんだから好都合よ。

 

「で、この後どうすんだ?」

 

 ゴンベエは大地の汽笛を走らせる事に集中する為に席を外す。

 このままただ時間を潰すのでなく今後の事に関してザビーダは話題を出す。

 

「ゴンベエに与えられた領地を今度から俺達の拠点にすればいい……が、実質左遷みたいなもんだ。ゴンベエが便利な物を作り上げて上に献上したりすればレディレイクに戻る理由を作ることは出来るだろうが、結局のところヘルダルフの間者が何処に居るのかが皆目見当もついてねえ」

 

「それは……」

 

 この国と隣の国のローランスにこの時代の災禍の顕主の間者が何処かに存在している。

 戦争を起こそうと裏で手引きしており、どうにかして捕まえないといけない。ローランス側は……枢機卿を元に戻したりしたし、暑苦しいけれども戦争の推進派じゃないセルゲイが居るから少しは戦争推進派を抑える事は出来ているけれども、肝心のこの国の間者を見つける事が出来ていない。ザビーダにその事を指摘されるとアリーシャはどうしたものかと困った顔をする。

 

「スレイに協力を」

 

「却下!あんなのに力を借りるぐらいなら、他の方法を探すわ」

 

 上手く動けない状況が続いているので導師に頼る事を提案する。暗殺者を従士にしていた導師なんて信用も信頼も出来ない。導師が必要な世の中なのは頭では分かっているけれども幾らなんでもあんなのに頼るのは無しよ、無し。

 彼奴に力を借りるぐらいならば別の方法を…………あ…………。

 

「アリーシャ、あんた業魔化した人間や動物を元に戻す事が出来るのよね?」

 

「虚空閃や祈り唄を込めた槍の力を用いれば憑魔化した人間を元に戻す事が出来て神依を使っても力の影響が残っているのか元に戻す事が出来るには出来るが……」

 

「……だったら話は簡単よ。アリーシャ、あんたが導師になりなさい」

 

「え!?」

 

「あんなのが導師やってるよりも何百倍もマシよ」

 

「マシって、確かに私は浄化の力も神依も天族の真実も全てを知ったが……まだ人間の社会の闇について理解する事が出来てない。ローランスにゴンベエやスレイの情報を流していた間者について受け入れる事が出来ていない。世の中にはああいった存在も必要不可欠なのかもしれないが納得が、受け入れることが出来ていない……政治が、人間の社会がよく分かっていないのに今の人間の社会をどうにかするなんて事は出来ない」

 

 私には導師になることは無理だとアリーシャは首を横に振る。

 聖隷と人間の繋がりだけでなく、人間の社会を良くしないといけない。千年前の、私達との旅で人間の業や闇は学んでも社会というものを完全に学びきれなかった。世の中を良くしないとあの子を救ってもまた業魔化する可能性も大きいし……ダメね、八方塞がりだわ。

 

「……導師の動向も気になるところだが、導師の秘力を与える神殿を巡るというのはどうだ?」

 

 八方塞がりな中アイゼンは別の事を提案する。

 

「……これ以上のパワーアップ、必要なの?」

 

 人間に戻ったけども一切力は衰えてない私、神依を使えるようになったアリーシャ、今の時代の災禍の顕主をボコボコに叩きのめしたゴンベエ。

 既にオーバーキルと言ってもいいぐらいには充分な戦力で、ヘルダルフとか言うのがどれくらいなのかは知らないけどもゴンベエが居る限りは先ず殴り合いなんかじゃ負けない。彼奴は戦闘能力だけは自信があるって言ってて、その気になればカノヌシと神依をしたアルトリウスを簡単に叩きのめす事が出来る……ホントかどうか疑わしいけども、戦闘能力だけはホントに底知れない。

 

「なにも導師としての力をパワーアップさせるだけじゃない、マオテラスがマオテラスなりに天族と人間がどう向かい合えばいいのか導師を人間として成長させる場所でもあるんだ……ライフィセットがマオテラスになりこの大地に降臨し、浄化の炎を齎してから約1000年が経過した。その間に起きたのは災厄の時代が来ては天族を見る事が出来る誰かが導師になり浄化の力を振るう。それを何度も何度も繰り返してきた……何処かで改革の様な物が必要なのかもしれない。その為には今を見つめ直す必要がある」

 

「……あの子が選んだ道が間違いだったって言うつもり?」

 

 確かに今も災厄の時代が続いているのは……なんでか分からないわ。

 聖隷が見えなくなったのが大きな原因なんだろうけども、それだけじゃない。あの時代でもこの時代でもアルトリウスやラフィみたいに聖隷を見る事が出来る人間は一応は居たんだから。

 

「カノヌシが人間に生まれ変わりこの世から消え去った以上、リセットは二度と出来ない。浄化の力を用いて地の主を配備してやっと今の時代だ……マオテラスの行い全てが間違いとは言わない。だが、そろそろ何処かで誰かが改革しなければならない。1000年前のマオテラスの降臨の時と同じだ。変革の時がやってきたんだ」

 

「変革の時……」

 

「天族と見えない人間がどう向かい合えばいいのか、そのヒントが導師の秘力を与える事が出来る神殿にある……かもしれない」

 

「かもしれない、ね……」

 

 最後の最後でアイゼンは曖昧になる。導師の秘力を与える神殿とやらで答えに辿り着くヒントが見つかる……かもしれない。

 このままただ流れに身を任せていたらヘルダルフとかいう災禍の顕主の間者がなにかしでかすかもしれない。大きな戦争になったら……

 

「いっそのこと戦争で勝てば楽なのに」

 

 大きな戦争が起きれば色々と厄介な事が起きる。

 この大地の汽笛に乗っている戦災孤児みたいなのが生まれるかもしれないし、税金が上がったりするかもしれない。穢れだ業魔だ災禍の顕主なんて余計なものが無いんだったらいっそのこと私達が戦争に協力して勝利に導いて隣の国を支配下に置けば楽……

 

「ベルベット、それは」

 

「分かってるわよ」

 

 戦争が起これば業魔や穢れの領域やらが広がる。そうなれば作物が育ちにくくなったりして飢饉に見舞われる。

 アリーシャは戦争をして勝利することで全てを解決するという荒業に関して物申そうとするのでその道を選んだらいけない事を分かっている事を伝える。

 

「周りを見るのはいいけど、今も見ておかないとダメじゃない?今から向かうとこ、天族の加護領域が働いていないんでしょ。ハイランドのへ、いかはゴンベエが内政で何処まで成果を叩き出すのか期待してるわ……期待に応えられないと嫌味が飛ぶわよ」

 

 色々と考えるのはいいけれども今の事も考えないといけないとエドナは言う。

 

「加護領域に関しては問題ねえよ」

 

「何故そう言い切れるのですか?エドナ様達が地の主を務める……ではなさそうですよね」

 

「アリーシャちゃんにお礼を言いたい天族はそれなりに居るんだよ……例えばシルバの奴とかな」

 

「シルバ?」

 

「昔ゴンベエが助けた天族だよ」

 

 シルバについて知らないエドナは誰それと首を傾げるのでザビーダは説明をする。

 シルバ……

 

「確かあの後、聖隷の集落に連れて行ったのよね?」

 

「ああ。ゼンライの爺さんに意思を解放された聖隷だって説明したらすんなりと受け入れてくれたぜ」

 

「あの……イズチに1度足を運びましたが、シルバは何処にも居ませんでしたよ?」

 

「あ〜…………イズチを出て行っちまったのか」

 

 どうするの、アテが無くなったわよ。ザビーダは少し困ったなという顔をしている。

 アリーシャに対してお礼を言いたい聖隷はまだまだ居る。ムルジムはペンドラゴの地の主になってるし……

 

「イズチに行く?」

 

 聖隷の集落があるならばその中の誰かから地の主になってもらうって言う手もある。

 

「彼処は秘境で一般人は踏み入れる事は出来ねえ……」

 

「一般人?」

 

 ザビーダが行くことが出来ない事を教えてくれるけれども、私達は一般人なのかしら?

 今度から貴族になるし、王族だし、災禍の顕主だし、普通の人とは明らかにかけ離れているわ。

 

「ジジイ殿……ゼンライ殿に会いたいのならば、ねこにんの里に行けば会える」

 

「そういえばあのジジイ、ニャバクラの常連だったな」

 

 最低のスケベ爺じゃない。

 アリーシャはゼンライとかいう聖隷に会う方法を教えるとアイゼンは納得する。

 

「秘力を与える場所を回るとして、場所は知ってるの?」

 

 1個はゴドジンの村にあるっぽいけども、導師がクリア出来るのならば大して期待はできないわ。

 

「秘力を与えてくれるところは全部で4つ、地水火風でゴドジンの村にあったのは火の試練神殿だ。地と風の試練神殿は心当たりがあるんだけど水の神殿は心当たりがねえ……地と風の神殿を回るか?」

 

「そうね……」

 

 幸い、というべきか不幸というべきか私達の周りに居るのは地の聖隷と風の聖隷。

 水の試練神殿に向かったとしても秘力とやらを授けて貰うことは出来なさそう……いえ、そもそもで秘力なんて必要はない、ただどんな試練なのか、人と聖隷がどうやって向き合うのか見る為に行った方がいい。

 

「貴方達、試練神殿を探すのはいいけれども先ずは新しい拠点の基盤を整えないといけないわよ」

 

「…………それもそうね」

 

 色々と考えてるけどもエドナは目の前にある問題を解決しなければならない事を言う。

 先ずは内政を……与えられた領地にある村は8つだからそんなに難しくない。アリーシャでもどうにかする事が出来そうな内容……の筈ね。色々と話し合いたい事はまだまだあるけれども与えられた領地をどうやって発展させるのか、地の主とか言うのが無くても問題無く領地内の農業なんかが上手く回ればいいけども……。

 

「おーっし、ここまでだ」

 

 色々と心配事は続くけれども、一先ずは与えられた領地の内の1つの村に辿り着いた。

 これ以上は大地の汽笛を走らせる事は出来ないとゴンベエは大地の汽笛を停める。村の入口付近で停めてるから村の人達が出てくる。

 

「なんだなんだ?」

 

「バカでかい馬車だなぁ」

 

 村の人達は大地の汽笛を見て興味津々になる。

 良くも悪くも目立つ物……コレから色々と世話になるからね……

 

「あれ、あんたは確か」

 

「よ!村長さんは何処に居るんだ?」

 

 前に立ち寄った事があるので村の人達と顔見知りのゴンベエ。村の人に村長は何処に居るのか聞いた。

 

「私になにか用なのか?」

 

「貴方がこの村の村長ですか……コレをどうぞ」

 

 村長と思わしき人物が出てくるとアリーシャは書状を出す。村長と思わしき人物は書状を受け取ると内容を確認し……冷や汗を流す。

 

「あんたのお陰で子供の病気が治ったよ……あの薬、どうやって手に入れたんだ?何時疫病が流行るか分かったもんじゃないし俺に売ってくれよ」

 

「ば、バカ!!なんて口を聞いているんだ!!」

 

「村長、なに驚いてんだよ」

 

「この人達、この辺り一体を統治する男爵様だ!!」

 

「なぁっ!?」

 

 コレを見ろ!とこの村の人達に書状を見せる。

 村の人達は書状の内容を見た途端に固まって冷や汗をダラダラと流して土下座をする。

 

「も、申し訳ありません!男爵様とその夫人達とは露知らず無礼な態度を取ってしまい」

 

「あ〜…………初見だから仕方がねえ事だから許すよ」

 

 上流階級の人間だと分かれば顔色を変えてくる。

 ゴンベエは自分が上流階級の人間になってしまったんだとめんどくさそうにするけれども、ここでナメられた真似を取れば男爵としての威厳が無くなるので上から目線で許すと言う。

 

「前の領主が別荘として使っていた屋敷がこの村の近くにあると聞いているのだが」

 

「は、はい!こちらです」

 

 村長の案内の元、私達は前の領主が別荘として使っていたという屋敷に向かう。

 今の今まで子爵とかが領地を統率していたみたいでこの辺りには男爵が住むに相応しい屋敷は1つしかないからそこを使えと通達が来ている……何処までも用意周到ね。

 

「その……今までこの辺りの土地は子爵の領地の隅っこでして」

 

「ああ、それは知っている」

 

「一応は別荘として使われていた屋敷があるのですが…………ここ最近色々とあった為に数ヶ月程手付かずで」

 

「…………アリーシャ、クソガキ共を呼んでこい。早速仕事だ」

 

 そう言うとゴンベエはアリーシャに鍵を投げる。

 数ヶ月の間も手付かずって事は汚れてるってわけね。

 

「アリーシャ、ついでに村の雑貨屋でいいから雑巾とかの掃除道具を買ってきてちょうだい」

 

 まさか来て早々に掃除をする羽目になるとは思わなかったわ。

 アリーシャにお金を渡すとアリーシャは来た道を戻っていき、私とゴンベエは子爵が別荘として使っていたという屋敷に辿り着いた。

 

「うっわ、蜘蛛の巣貼ってやがる」

 

「埃も酷いわね」

 

 ツーっと階段の手摺を人差し指で擦る。

 数ヶ月もまともに手がついていないだけあってか汚れている……思い出すわね。手抜きの宿屋を、コップの縁に水垢とかが残ってたりしてたし、埃とかも残ってたし、あの時以上に汚い……やりがいがあるわ。

 

「あ〜こんな事だったら掃除機の1つでも持ってくるんだった」

 

「……なに、それ?」

 

「ゴミとか埃とかを吸い取る機械だよ……ベルベット、取り敢えず一周させてくれ」

 

 またよく分からない物を持っているわね。

 何かを気にしているゴンベエは一先ずはとこの屋敷を一周する。厨房に寝室に書斎、貴族の屋敷がどんなものなのかは知らないけれども豪邸と呼ぶに相応しいぐらいには色々と物が揃っており……シンプルに汚かった。

 

「あんた達、手を抜くんじゃないわよ!」

 

「分かってるよ」

 

 一通り見終えた頃にはアリーシャが村の雑貨屋から掃除用具を購入して物盗りの孤児達を引き連れてやってきた。

 こんな汚いところは普通に嫌だと井戸水をバケツに汲んできたら孤児達に渡して掃除をはじめる。

 

「……」

 

「なにしてるの?」

 

 まだまだ子供だからか、上手く掃除が出来ていない部分があるので厳しく指導しているとゴンベエは眉を寄せていた。

 なにか難しい事を考えているみたいだけれどもなにを考えているのかさっぱりで、コンコンと屋敷の壁を叩いては何かを考えている。

 

「…………工事するよりも丸々一個新築建てた方が早いなって」

 

「なんの話?」

 

電球(コレ)とか冷蔵庫とかの道具は電気が必要になる。監獄島では少しの改築だけで良かったけども、コレから此処で暮らすんだったら発電所とか色々と作っておかねえと……前みたいな暮らしはコレからは出来なくなる」

 

 電球を取り出したゴンベエ……この時点で充分な豪邸だって言うのにまだ改造するって言うの?

 

「1回屋敷をぶっ壊してから電線とかを通すのか、それとも此処を放棄して新しい屋敷を作るのか……此処を孤児達の屋敷にするっていう手もある」

 

「……あんたの好きにすればいいんじゃないの?」

 

 これ以上どんな感じに家がパワーアップさせる事が出来るかどうか想像する事が出来ない。

 私の想像力が乏しいのかそれともゴンベエの技術力が異常なのか……多分、ゴンベエの技術力が異常なんでしょうね。大地の汽笛に近い物を量産する事が出来るって言ってるし。

 

「じゃあ、この屋敷と似た見た目の豪邸の設計図を書いてくるわ。電気工事とかのややこしいところはオレがやるとして……ベルベット、なんかコレが欲しいとかの要望はあるか?後で改築出来る様には作り上げるけども、先に作って欲しい物があるなら作るぞ」

 

「そうね……大きな冷蔵庫は」

 

「んなの厨房に最初から設置する」

 

「じゃあ、釜を」

 

「一応は作るけども、オーブンレンジも作るから……あんま使う機会ねえかもしんねえぞ」

 

「……大きなお風呂とか」

 

「狭い浴場は勘弁だ。シャワーとかの水道工事もしねえと……内政も良いけども身の回りのものを揃えるのに忙しいな」

 

 やることが多くて困るわとゴンベエはため息を吐く。嬉しいため息ね。

 ともかく、新しい屋敷を作る事を考えているのでやりたいならばやればいいと後押しすればゴンベエは設計図を書くと言い掃除を中断した……まさかだと思うけど、掃除をするのがめんどくさいから新しい屋敷を作ろうなんて言い出したんじゃないでしょうね?

 

「ふぅ……もう夜なのね」

 

 ゴンベエと別れた後も掃除を続けて、掃除を終えた頃には夜になっていた。掃除に夢中になってたから時間の感覚がおかしくなってたわ。

 

「おぅ、掃除は終わったか?」

 

「……何やってんの?」

 

「お前が掃除をするのに忙しそうだからな……飯の1つでも準備をと思ってな」

 

 夕飯を何にしようか考えながら厨房に向かえばザビーダとアイゼンが居た。

 

「カレー?」

 

「ああ。この人数だとハンバーグや野菜炒めをチマチマと作るより一度に全員で食べる事が出来る物が良いだろう」

 

 アイゼンは寸胴鍋を掻き混ぜる。カレーの香ばしい匂いが漂ってくる。

 夕飯を代わりに作ってくれた事はありがたいけれども一言ぐらいなにか言ってほしかったわね。

 

「そろそろ米が炊けるから待ってな」

 

「……あんた、料理が出来たのね」

 

 前に子供を食わせる事が出来ないから云々があったけど、ザビーダは器用に米を炊いている。

 

「あれから何百年経ったと思ってんだよ。今じゃ俺は料理上手なんだぜ」

 

「ふ〜ん」

 

 まぁ、夕飯の準備をしてくれるならありがたい事だから文句は言わないでおく。

 ひっくり返さない料理だからアイゼンの死神の呪いが発動する事もなくカレーは無事に完成して孤児達と一緒に食べた……味は悪くなかったけども、野菜の切り方が大雑把だったわね。




いきなりの登場ですみません。
コシマエは後の吹雪で作者の別作品である運命/世界の引き金の、有里彩はメガネがガオーンに登場する転生者です。


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修羅場なう

おらぁ!アリーシャの逆転ホームランを考えてきたぞぉ!!
感想お待ちしております


 

 目を覚ませば知らない天井だった……いや、昨日見知ったばかりの天井だったとも言うべきか。

 オレは……不本意ながらも男爵になってしまった。芋とかじゃなくて爵位を得てしまったんだ……普通に嫌だが、逃げればアリーシャから逃げた事になるから逃げないでおく。

 

「……」

 

「スー……」

 

 身体を起こそうとすると身体に重みが加わっている事に気付く。

 何事かと思えば一緒に寝ているベルベットだった。部屋が結構あるし布団も大量にあるから別々に寝ないかと言えば物凄く不機嫌になっていた。

 やはりベルベットの地雷原が何処にあるのかがまだ分からない。一緒に寝るとなれば今度はアリーシャも一緒に寝ると言い出すけれどもベルベットは「夫婦の時間を邪魔するんじゃないわよ」と言い出して修羅場が生まれる。

 

「…………うん、綺麗だ」

 

 改めてベルベットの顔立ちを確認する。

 可愛いか綺麗かで聞かれれば綺麗系の女性でスタイルは抜群で、女子力も物凄く高い…………果たしてオレはベルベットを口説き落としたと言えるのだろうか?

 

 こう……吊り橋効果的なのでベルベットを口説いたのかもしれない。

 ベルベットの窮地に駆け付けるヒーロー的なのをやってしまったのでそこで好感度を稼いでいて親密度はまだまだ足りない気がするんだ。こういう時は百戦錬磨な恋愛マスターに相談を持ちかけたいが、生憎な事にそんな知り合いは居ない。唯一頼れると言うか話し相手になりそうな深雪は人間のクズだし…………どっちゃでもいいのか?

 

「時計は……無いから作らないといけねえな……寝るか」

 

 時間を確認しようとするが時計もスマホも無い事に気付く。

 まだ若干眠りたりない気もするし再び布団に籠って二度寝をする。二度寝しとかねえと……調子出ねえよな。

 ベルベットも起きる気配が特に無いのでベルベットと一緒にゆったりと時間を過ごしていると部屋の入口のドアがバンっと開いた。

 

「ゴンベエ、ベルベット、朝だ!起きるんだ!!」

 

「……」

 

 ドアを開けたのはアリーシャだった。

 もうちょっと寝ていたい気分なので狸寝入りを決め込んでやろうかと思っていると布団がバッと捲られてカーテンが開かれる。

 

「二度寝はよくない事だぞ!早く顔を洗うんだ」

 

「ん…………なによ………………ここは…………」

 

 カーテンが開かれて日差しが入ってくればベルベットは目を覚ました。

 意識が寝惚けているみたいでここが何処だかイマイチ理解する事が出来ていない。アリーシャはオレの屋敷の寝室に居る事を言えばそうだったと寝ぼけていた意識を起こしてはオレに視線を向ける。

 

「ゴンベエ、起きなさい」

 

「100秒数えたら起きるから、100秒数えたら起きるからちょっと待ってくれ」

 

「なに言ってるのよ、さっさと起きなさい……起きろ!」

 

「ぬぅお!?」

 

 ベッドの上から転がされ、床に落とされた。

 オカンなら100秒待ってくれて意識を叩き落とすのを待ってくれるって言うのにベルベットは強情だな。けど、おかげさまでぼんやりとしていた意識はハッキリと覚醒して眠気はまだ残っているものの、目が覚めた。

 

「おはよう、ゴンベエ」

 

「ああ、おはようベルベット…………疲れは出てないか?」

 

「大丈夫よ……やっと落ち着いて腰を据える事が出来る様になったから……」

 

「そっか……アリーシャも早いな」

 

「折角新たに拠点を手に入れたのに怠惰に過ごしていては意味が無いだろう」

 

 いや、領地を貰ったのオレなんだけども。

 言っていることは極々普通の正論なので言い返す事はせず、取りあえずはと顔を洗いに行く。手作りの石鹸で顔を洗うが、やっぱりなにかが物足りない。ちゃんとした洗顔クリーム的なのを作りたいけれどもそうなると工業の世界に入るからな。

 

「ゴンベエ……ん……」

 

「……いやいやいや、それは違うから。そこまではまだ違うから」

 

 目を閉じてキス顔になるベルベット。

 キスをしてくれという要求なんだろうけれども、それは違うから。朝起きておはようのキスをする様な感じのイチャイチャする関係性は皆無に等しいから

 

「……っち」

 

「ベルベット、聞こえるレベルの舌打ちをするんじゃない。ゴンベエも困惑しているじゃないか!」

 

「……別にいいでしょ。夫婦の問題なんだから」

 

「ま、まだベルベットとゴンベエは夫婦じゃない。きっとアラが見えて破局するし……」

 

「今のところはこいつには不満は無いわね」

 

「誰か、助けてくれぇ!」

 

 バチバチにやり合うベルベットとアリーシャ。

 なんでこんな朝っぱらから修羅場を迎えなきゃいけねえんだとSOSの雄叫びを上げればエドナが現れる。

 

「朝っぱらからうるさいわよ。少しは静かにしなさい」

 

「いや、一応は家主なんだけども」

 

「関係無いわ…………ドロドロね」

 

「助けてくだせえ、エドナ様」

 

「そうね……簡単なアドバイスを送ってあげるわ」

 

「なんだ?」

 

「貴方は地位こそ最下位の男爵だけれど貴族である事には変わりは無いわ…………重婚は許されてるわよ」

 

「火に油を注ぎ込むんじゃねえ!鬼!悪魔!邪神!千川!」

 

「……無いわね」

 

「いや、その………………っ…………」

 

 エドナが火に油を注ぎ込んだ結果なんとも言えない空気が流れ込んでくる。

 どないせいっちゅうねんな空気から一転して冷めた空気に切り替わってはベルベットの熱は冷めてアリーシャは想像したのか顔を真っ赤にする。

 初心とか思う人は思うけれども修羅場だよ…………やっぱりアレか、ゲームはゲームとしてやるから楽しいけれども現実になれば物凄くクソだったりするって言うのはマジだな。

 

「お腹空いた!男爵様、ご飯まだ?」

 

「はいはい、ちょっと待ってなさい」

 

「いや、男爵オレだから」

 

 なんか色々と実権をベルベットに握られている気がする。

 孤児達がお腹を空かせて待っていたので、ベルベットは手慣れた様子でキッチンに向かって朝ごはんの用意をする。昨日の内に朝食の材料を買いに行って正解だったなと思いつつベルベットは孤児達の朝ごはんを作った。

 

「あんたは最後ね」

 

「ん、あぁ、別にいいぞ」

 

 孤児達の分を一気に作り上げたと思えば今度はザビーダ達の分を作る。

 オレの分は最後になる事を言ってくるが、朝飯を抜いたりする日も普通にあるのでそこまでお腹は空いていない。

 ベルベットはザビーダ達天族の分を作り終えた頃には孤児達はご飯を食べ終えたので食器を水に浸して最後にオレとアリーシャと自分の分を作った。

 

「こういう時間は大切にしておかないと……」

 

 パン屋のパンにベーコンエッグ、レタスにミニトマトにキュウリでリンゴが二切れ。

 オーソドックスな何処にでもある朝食であり、ベルベットはこのささやかな時間を過ごす事を大事にしている。思えばベルベットはこのささやかな時間を最も幸福な時間だと思っていた。それをアルトリウスが世界の為に生贄に捧げた……なんとも酷な話だ。

 

 1度失って2度と手に入らないものだと思っていたものが手に入った。

 ベルベットは今最高に幸せを噛み締めているんだろう…………いいんかなぁ、オレがベルベットの幸せに入り込んで。

 

「現実問題として最低でも2人はメイドを雇わなければならないな」

 

 モグモグと朝食を頂きながらアリーシャは言う。

 オレ達だけの暮らしならば個人で家事をパパっと済ませるだけで済むのだが、この屋敷には孤児達が住んでいる。孤児達の世話をする人が誰か居る……なにせオレ達は導師に代わって色々とやらなくちゃいけねえからな。

 

「あんたのところのメイドは……」

 

「ゴンベエを物凄く嫌っているし、屋敷を放置するわけにはいかない」

 

 メイドを雇わなければならないとなり、ベルベットはアリーシャの屋敷のメイドを引き抜けないか考えるがアリーシャは無理だと首を横に振った。コネ的なのが何処かにないのかをアリーシャは今度聞いてみると言っている……メイドとか執事とかって養成学校出とかないとダメとか聞いたことがある……ベルベットレベルの執事かメイドって結構ハードル高えぞ。

 

「さぁ、お前等仕事を与えるぞ」

 

「仕事?」

 

「ああ、引っ越しの仕事だ」

 

「引っ越しって、もう引っ越してるじゃん」

 

「いや、オレの住んでる家に色々と物を置いてるからそれの回収しに行かねえと……つ〜事で、ベルベット、エドナ、アリーシャ、出かけてくるわ」

 

 朝食を食べ終わりベルベットが食器を洗い終えたので、次にする事を教える。

 次にする事は引っ越し作業、水車小屋の家にある色々な物を回収しに行くこと……中にはラフィが残した稀少な鉱石とかオレが作った危ない薬品とかがあるから下手な持ち出しは厳禁だ。

 

 アリーシャ達に留守番を任せるとアイゼンとザビーダと孤児達と一緒に大地の汽笛に乗り込んで家に戻る。

 数日ぶりの家である…………家であるが、愛着心は既にこの家よりも新たな屋敷の方に向かっている。

 

「お前、こんなところに住んでたんだな」

 

「豪邸とかよりもこういう質素な感じの家の方が好きなんだよ」

 

 アイゼン達はなんだかんだではじめて家に来る。

 オレがどんな家に住んでいたのか気になるのは分かるが、水車小屋みたいなところに住んでいるんだよ。豪邸とかよりもこういう質素な感じの方が…………戦闘能力以外は一般人の感性は抜けない。変なところで狂っているな、オレは。

 

「お、冷気が出てるなこの箱は」

 

「それが冷蔵庫だ」

 

 色々と物を回収し大地の汽笛に乗せていく。

 ザビーダがコレはなんだと冷蔵庫を開けば冷気が出ている事に気付くのでそれが冷蔵庫だと説明をしておく……冷蔵庫が無い世界なんだよな。あっても大正辺りの氷を一番上に入れて冷やすタイプの冷蔵庫ぐらい…………金の匂いはしなくもない。

 

「アイゼン、金を稼ぐのになんかいい方法はねえか?」

 

「……お前は貴族だ、普通に暮らしていくならば領地の人間から巻き上げた税金でどうにかなる」

 

「いやいや……今は不景気なんだ。後、言い方よ」

 

 忘れちゃいけねえ、今は災厄の時代だと。

 村人達から税金でお金を取れるけれども、何時なにが起こってもおかしくはないのがこの世の中だ。

 普通に暮らしていくならばアイゼンの言うことが確かだろうが、普通に暮らすことは十中八九どころか絶対に無理だろうから……なにかしらの商売はしておかないといけねえ。

 

「……普通に氷を売るのでいいだろう。幸いにもお前に与えられた土地は暑くもなければ寒くもない平均的な土地だ。基本的には天然物しか取ることが出来ない氷を人工的に作り出す事が出来るならば水だけを単価にかなりの利益を上げる事が出来る」

 

「いや、なんだかんだで氷は売ろうかなって思ってる……けど、氷は溶けてしまうものだ。与えられた8つの村に行き届く事は出来ても領地外との貿易では使えない。流石に冷蔵庫を売れば氷を売っている業者が死滅して路頭に迷うし…………」

 

 オレの作っている物は場合によっては色々とひっくり返す事が出来る。

 電球が良い一例だ。現代の日本においては電球は当たり前で蝋燭やランタンなんかで明かりを灯すなんてのは余程のクソ田舎か台風とかでブレーカーが落ちたりした時ぐらいだ。

 

 流石に蝋燭業者を今潰すわけにはいかない。

 下手に文明を大きく進歩させれば権利の争いになる……フリーな人間だった頃ならば逃げとけばいいけれども今はもう男爵になると決意したので逃げる訳にはいかない。ノブレス・オブリージュの精神は大嫌いだけども、それはそれ、コレはコレだ。

 

「お〜い、コレってなんだ?」

 

「ああ、それシャンプーだ」

 

「シャンプーって米ぬかか?」

 

 どうやって生計を立てるか悩みながらも引っ越し作業は続く。

 危ない薬品系は大事に扱えと万が一を備えて厳重に運び入れていき、段々と安全な物や鉱石とかを運び入れる。孤児の1人がシャンプーが入った容器を持ってくる。

 

「いやいや、米ぬかって…………何時の時代の話をしてるんだ」

 

「……なに言ってんだ?シャンプーって言ったら米ぬかの事だろ?」

 

「……またこのパターンか……」

 

 シャンプーが無い時代は米の研ぎ汁とか米ぬかで髪を洗っていたりしていたと転生特典の知識が教えてくれる。

 オレの知識にはシャンプーの作り方がある……本音を言えばプラスチック容器にシャンプー入れてえんだけども肝心の石油が無ければ詰んでるんだよな。

 

「あったな、商売に使えそうな物が」

 

「あったけど危ない薬品を使っての調合だからな……まぁ、それ言い出したら大体が危ない薬品を使っての調合だけども」

 

 金儲けに使えそうな物があったとアイゼンは笑う。

 危ない薬品を使う系の物は……正直な話、あまり使いたくない。アイゼンの死神の呪いが発動するからとかじゃなくて、シンプルに危ないからだ。食文化とか衛生面が現代レベルにまで発展してる癖に科学技術とかの一部の技術がそんなに発展してねえ世界だから硫酸とかあんま使わせたくない。

 

「高級な洗髪剤として売ればいいだろう…………お前の作っている物だから、従来の物より高品質な筈だ」

 

「そうか…………あ〜…………やる事が多い」

 

「暇と忙しいならば忙しい事は幸せだ……何も無い暇は退屈だぞ」

 

 深いな、実年齢が1000歳超えているアイゼンの言うことは。

 言っている事は間違いじゃない。忙しい事はいいことだ……忙しすぎるのは良くない事だけど。オーバーワークで過労でぶっ倒れるとかそういうのは洒落にならない。

 

 まだまだやらなきゃいけねえ事を想像すれば頭が痛くなるが、先人達がやっていることを真似ているだけに過ぎない。

 オレらしいオリジナリティを出すとかいうアホな事は考えねえ。こういうのは何事も基本的なのに則っておかなきゃ後で痛い目を見るからな。

 

「……ただいま」

 

「おかえりなさい、結構時間が掛かったわね」

 

「そりゃ往復するだけで4時間だからな…………」

 

「どうしたの?」

 

「いや、おかえりって言ってくれるのが少しだけ嬉しくてな」

 

 このご時世、結婚する事が全ての幸せじゃない。

 結婚する以外にも様々な幸せな道は存在している。独身である事が恥ずかしいとか世間は色々と言っているけれども、大人になっても馬鹿やれる友達みたいな奴が居ればそれはそれで満足だ。

 

 オレは元々結婚願望とかは無かったけれども、いざおかえりって言ってくれる人が言ってくれれば少しだけ嬉しいと感じる。

 地獄の転生者養成所で人格が捻れ曲がるぐらいには色々と訓練を積んでいたから色々と倫理観が狂っているのは割と自覚しているけれども、こういう人並みの暖かさは悪くはない。

 

「そう……夕飯の用意は出来てるわよ」

 

「ベルベットと一緒に作ったんだ」

 

 おかえりって言ってくれる事が嬉しいと言えばベルベットも嬉しそうにしている。

 夕飯の用意は出来ていると言えばアリーシャも自分も手伝ったと言ってくるので帰ってきた皆で頂いて、掃除なり引っ越しなり色々とやってたから風呂に入る事になってベルベットとアリーシャとエドナにシャンプーとコンディショナーを試してもらった。

 

「なんかサラッサラするわね」

 

「お前どんだけボサボサなんだよ……」

 

「し、仕方がないでしょ。オシャレにお金を使うより、ラフィの薬を買うのにお金使ってたから…………変かしら?」

 

「いや、お前達の髪が綺麗になって良かったよ。似合ってるぞ」

 

「……ゴンベエ」

 

「なんだ?」

 

「ロングとショー「ロン毛派だ」……そうか」

 

 はじめてのコンディショナーで何時も以上に髪がサラッサラなアリーシャ。

 自分の髪に触れて色々と試してみるのだが、ベルベットと違って毛の量が足りないのだと気付いたのでオレにロングがショートかどっちが良いのかを聞いてくるので秒で答える。オレはロン毛派なんだよ。

 

 綺麗な長い髪のポニーテールの項とか好きだ……ただし、ツーサイドアップは認めねえよ。

 

「貴方、変なところでこだわりがあるわね」

 

「心を持つ生き物は誰しも譲れない性癖があるものだ。アイゼンなんか特にそれが顕著だろ」

 

「……そうだったわね」

 

 兄の事を出されればぐうの音も出ないエドナ。

 ともかく3人の髪がサラッサラになってくれたのはいいことで、住んでた小屋から荷物を移動させる作業が終わり翌日は持ってきた荷物の整理を行う。ライフィセットが残してくれた鉱石、全く使ってない物とかもあるからな。使わない物は倉庫にでも入れとかねえと。

 

「男爵様、なんか郵便が来てるよ」

 

「郵便?……屁以下からか?」

 

 色々と荷物の整理をしたりして一段落したら孤児の1人が郵便が届いている事を教えてくれる。

 スレイがなにかがあったのか、それとも屁以下のどっちかぐらいだろう。大事な郵便なので本人様の受け取りのサインが欲しいと言っているので受け取りのサインを書いた。

 

「手紙が……結構あるな、一纏めにしてくんねえかな」

 

 大事な郵便物の正体は主に手紙だった。

 なんの手紙だと思ったが、よく分からないので取りあえずはアリーシャ達を呼び寄せる。

 

「なんか大事な郵便が届いているっぽいけど、読めねえから読んでくれ」

 

「ゴンベエ……この国の文字を覚えるという選択肢は無いんだな」

 

「無いな。オレの外国語の成績は英単語の暗記だけで赤点回避する事が出来ていてテストが終わればところてん形式で頭からスコンと落ちてく仕組みになってんだ」

 

「威張って言うことじゃないわよ」

 

 エドナの冷たい視線をオレは気にしない。

 それよりも受け取りのサインを書いてもらわないといけないレベルの手紙がなんなのか、もしかしたら重要な手紙かもしれないと取りあえずは1つの便箋をアリーシャに開いてもらう。

 

「コレは………………挨拶の手紙だな」

 

「挨拶の手紙?」

 

「ゴンベエがこの土地の領主に就任したから周りの土地の領主達が仲良くしようやそちらに無い物はあるか等が書かれている」

 

「あ〜…………社交辞令しとかなきゃいけねえクソめんどくせえ奴か」

 

 手紙の差出人はこの辺り近辺の上流階級の人間からだった。

 近所付き合いとかあんまりしたくねえのに、貴族の中でも最も下位な男爵だから……伯爵とか子爵とかに下手に逆らうことが出来ねえ。長いものに巻かれるしかねえ……社畜になりたくねえ……。

 

「めんどくさいって思ってもちゃんとしないといけないわよ…………でなきゃ、セリカ姉さんとアーサー義兄さんみたいな事になるわ」

 

「お前が言うと洒落にならねえよ」

 

「洒落じゃないわ、マジで言ってるのよ……取りあえずは今後とも仲良くしましょうって書いとくとして、なにかしらの返礼品みたいなのを送ってたらいいかしら?」

 

「シャンプーとコンディショナーが余ってるから、それを送っとけばいいだろ……」

 

 なんかお中元かお歳暮感が溢れるが仕方がねえ。セリカお義姉さんという一例がある以上は近所付き合いを蔑ろにするわけにはいかねえ。

 貴族になると色々と厄介な事になるのは目に見えていたがこうもハッキリと目に見えれば色々と厄介だ……逃げとけばよかったと若干後悔しつつも手紙をエドナ達に開封させて確認しておく。

 

「……っふ」

 

「どうした?」

 

「なんでもないわ、お兄ちゃん……ゴンベエ、手紙以外にもなにか来てるんじゃないかしら?」

 

「なんか……アップルグミの原材料として使っているリンゴとか送られてきてたな」

 

 手紙の開封をしていると笑みを浮かび上げるエドナ。

 なんかロクでもない事を企んでると思うが、手紙以外にも色々と届いているかどうか聞いてくる。アップルグミの原材料のリンゴとか送られてきてる。仲良くしましょうの挨拶的な贈り物だろうからシャンプーとコンディショナーを返礼品的なので送っておかねえといけねえ。

 

「他にもあるでしょ?」

 

「え〜っと……なんだこれ?」

 

 ファイルみたいなのが4個ぐらいあった。リンゴとかの実益的な物が送られてきているかと思ったが、なんだろ?

 パカッと開くので開いてみれば……女性の肖像画が描かれていた……なんだコレ?いや、マジでなんだコレ?

 

「お、滅茶苦茶美人でボン・キュッ・ボンないい女じゃねえか」

 

「目の前にそれと同等かそれ以上の女が2人居るだろうが……まぁ、綺麗系の女性だろうけど」

 

「スリーサイズと得意料理が書かれてやがる……へぇ、得意料理は煮込みハンバーグで上から97……あ…………」

 

 ザビーダが横から覗き込んできて肖像画の女性を美人だと褒める。

 横にプロフィール的なのを書いている……スリーサイズと得意料理が書かれてるのだがニヤついていたザビーダは途中で黙った。

 

「どうした?なんかどうでもいいことでも書かれていたのか……まぁ、どうでもいい事だったら報告しなくていいけどよ……他のもなん──」

 

「待て、ストップ!待った、開けるな!」

 

「なに言ってるんだ。毒とか爆弾とかを送り込まれてるわけじゃねえんだろうが……挨拶的な感じの手紙だし一通り中身を確認しておかねえと」

 

 急に慌ただしくなるザビーダ。

 なにか問題でもあったのか?いや、見た感じ呪い的なのも込められてるわけじゃねえし、なんの問題も無い筈だ。残りの3つも確認をしておかねえと……貴族とかの自分よりも地位が上な上流階級の人間からの手紙だから蔑ろにするわけにゃいかねえよ。

 

「お兄ちゃん、コレ……」

 

「…………っ!?」

 

 まだ未開封な便箋を開いて、アイゼンに中身を確認してもらうエドナ。

 アイゼンはメガネを付けて中身を確認するのだが、驚愕の表情になり……オレを1度だけチラッと見た後にベルベットをチラッと見た。

 

「アイゼン、それは……」

 

「ああ、公爵からの手紙だ」

 

「公爵、王族除いたら貴族の中で一番上の位じゃねえか……ゴンベエ、男爵じゃねえか」

 

 なにか慌ただしくなっているザビーダとアイゼン。

 エドナは愉悦に浸っているのだろうがなにに対してなのかが分からない。公爵は爵位で上で男爵は最下位、下手に逆らうのはあんまり良くない事だ……なんでオレ、権力争いをやってんだろうな。普通はもっと違う事をしてるのに。

 

 手紙を持っていてオレやベルベットに視線を合わせようとしないアイゼンとザビーダ。

 エドナはそれを全く気にする事はなく、他の便箋を開封していき2枚だけアイゼンとザビーダに渡している。

 

「エドナ様、ザビーダ様、アイゼン、なにを焦っているんですか?まさか、商人の組合で圧力が掛けられたりセキレイの羽がオススメだと紹介されたのですか?こういうのはあまり言いたくはないですが殺すことを救いと捉えている暗殺者達のキャラバン隊はこの土地には出入りや商売を禁止にしようとゴンベエに提案するつもりです。確かに血翅蝶の様な組織は必要かもしれないです。血翅蝶も決して悪いことをしていない善良な組織とは言えないですが、やはり暗殺者は認められないです。この地の脅威になるのならば最初から入れない方がいいです」

 

「導師とか暗殺者とか普通にお断りよ……宗教と政治が絡み合うとロクな事にならないのはアルトリウスの一件で嫌になる程に理解したわ。聖隷を祀らないと良くない事が起こるにしても信仰する聖隷が居ないし、あのクソ導師がゴンベエに何かを教わりたいとか言ってもゴンベエはコレから段々と忙しくなってくるのよ。そもそもでゴンベエは何かを教えるタイプじゃないわ」

 

 うわぁ、スレイとロゼの評価が底辺だな。

 しかしまぁ、言っている事は割と間違いではない。流石にスレイになんか教えたりするのは無理だよ。アリーシャだけで手一杯だ……1度道を間違えた奴が元の道に戻るのは難しい。仮に戻れたとしても一番最初に歩んでいた道と異なる。結局のところなにが1番偉いかって言えば道を踏み外さずに真面目に真っ直ぐ歩いている奴だからな、1度でも道を踏み外した奴が元の道に戻ろうとしてきた事を偉いって言う奴はおかしいからな。真面目に真っ直ぐ歩いている奴を偉いって言わない事が失礼だからな。

 

「いや、そうじゃない……………………」

 

「アイゼン、ハッキリと言いやがれ。言い逃れする事は出来ねえ……無理ならエドナに聞くぞ」

 

「別に変な事じゃないわ、公爵達から見合い話が来てるのよ」

 

 あ

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 地雷、踏み抜いた。エドナの奴、なんの迷いもなく地雷を踏みつけやがったぞ!

 

「み、見合い話!?何故そのような事になっているのですか!?」

 

「どうもこうも冷静になって考えてみなさいよ、年頃のフリーで強くて未知の技術を持っている男が居るのよ。私は貴女ほどじゃない短い間柄だけど、それでもゴンベエの技術が凄まじいのはよく分かるわ。ゴンベエを取り込む事に成功すれば、災禍の時代を生き抜いたその先の時代で政治とか商売で主導権を握る事が出来るんじゃないの?少なくとも今の世の中をひっくり返す事が出来るでしょ?」

 

「確かに、ゴンベエの技術を取り込もうという考えはありますが……見合い話だなんて」

 

「政略結婚なんて上流階級の人間ならよくあ…………ゴンベエ、ちょっとどうにかして」

 

「いやいやいやいや、原因起こしたのお前だから」

 

 どんよりとした恐ろしい空気が流れている。何時もだったら怖くはないのだが、今日はマジで怖い。怖いってばよ。

 エドナは穢れが生み出すどんよりとした空気が気持ち悪いのでSOSを出してくるのだが、そうなるように仕向けたのは誰でもねえお前だろうが。

 

「…………断われ」

 

 何時もの口調とは異なり穢れを出しまくっているベルベット。

 見合いの肖像画が描かれた絵を持って燃やそうとするのだが、それを燃やされれば色々とまずい。今からやっと立ち上げるって時に上のめんどうな連中に目を付けられるのは色々と痛い。

 

「あのですね、ベルベットさん。相手は公爵令嬢とかのかなり目上な人間でしてね」

 

「断われ」

 

「断る事は出来るけれども断ったら断ったで後々痛い目に遭いまして」

 

「嫁がいるでしょ?嫁が居るって言えば大体解決するでしょ?」

 

「あら、貴族は重婚ありでしょ?」

 

「お前、何処の味方だ!!」

 

「私は私よ!」

 

 クソ、愉悦と同時に唯我独尊を走ってやがるよこの女。

 火に油を注ぎ込みまくるエドナは誰かの味方じゃないとハッキリと言い切った。

 

「ゴンベエ、私1000年前に言ったわよね?浮気したら殺すって」

 

「NO!NO!NO!私、まだなにもしてませーん!」

 

 邪王炎殺黒龍波を今にでも撃ち出すんじゃないのかと思えるぐらいにどす黒い瘴気を身に纏っているベルベット。

 ベルベットは浮気したら殺すと重たい事を言っていたが、このままだとオレの命が危うい。普通に殺される。オレは死ぬのならば寿命で死にたいんだよ……怖え……。

 

「大丈夫よ、ベルベット。これらの問題を全て解決する素晴らしい方法が存在しているわ」

 

「……あるのか?いや、あるんだったらそれでいいんだけども」

 

 公爵令嬢とかの見合い話を受けなければ、今後に関わる。

 しかしベルベットは嫉妬の炎を燃やす……ベルベットって昔の立派なお姉ちゃんを努めていた頃はともかく今の災禍の顕主のベルベット・クラウは心の壁が地味に厚い。如何に公爵令嬢とかが出来た人であろうとも…………無理って言うだろうな。

 

「この国では公爵は王族を除けば偉い人の頂点に近い人よ。権力に対抗するにはこっちも権力を、力を手にすればいいのよ」

 

「理屈は分からなくもないが、オレは男爵になったばかりで今からお前は使える人間かどうかを試されてるから一気にランクアップは出来ねえぞ」

 

「なに言ってるのよ、最初から頂点の存在が居るじゃない」

 

 エドナはそう言うとアリーシャの中に入った…………いや、待て。エドナ、更に修羅場になる事をしようとしてない?

 

「え……あ………確かにそうなりますが……………」

 

「ここまで来てはぐらかすつもり?誤魔化さないでハッキリと言いなさいよ」

 

「えっと……………………ゴンベエと末端とは言え王族である私が結婚すれば全てが丸く収まる」

 

 あ…………あ……………。

 

 エドナの提案はさらなる修羅場を生み出す提案だった。

 分かる、分かるぞ。エドナはアリーシャの中で思いっきり湯悦に浸っているのを。あの性格の悪い合法ロリならばこの上なく愉悦に浸っている。




スケヒロ「はい、Q&Aのコーナー!活動報告で質問を寄せているのでどしどし応募してください。全て答えれるかどうか怪しいです。作者、基本的になにも考えてないので。メインパーソナリティはオレ、スケヒロで」

チセ「どうも時空と作品を越えてやってきた右向けば転生者に出てくるマサラタウンのチセです……スケヒロ、スゴい修羅場ですね」

スケヒロ「何事も経験が大事だと言うけど胃に穴が開きそうだったよ……」

チセ「しかしまた随分と間が空きましたね。最後に更新したの3月末って……」

スケヒロ「ゴリラ作者はかなり偽名を使って色々と書いてるからな……テイルズオブを更新しなかったのはネタが出なかったよりも他のネタが出まくった結果、ワールドトリガーだよ……今もまた何処かで偽名を使って小説をっと……質問コーナーに関係無いのでこの話はここまでにしておく」

チセ「実名でやってる作品で更新してなかったから結構質問溜まってますね……じゃ、いきますか」

Q転生者の中で、転生者として覚醒時に呪術廻戦の両面宿儺のような外道と体内に一緒にいるような罰ゲームのような転生特典は存在しますか。

チセ「無いです。人格が歪ませるタイプの転生特典はあんまりないです」

Q転生者の中で、転生者として覚醒時に呪術廻戦の両面宿儺のような外道と体内に一緒にいるような罰ゲームのような転生特典は存在しますか。

A 無いです

スケヒロ「すげえバッサリといくんだな」

チセ「オラウータン作者が質問を作品内で答えるって言ってるんですからバッサリといかせてもらいます。体内と一緒にいる系の転生特典は斬魄刀とかじゃないですかね……はい、次」

Q転生者の中で、人間以外の存在(BLEACHにおける死神や対魔忍等に存在するオークなど)に転生することはありますか?また、その場合の寿命はどうなりますか?

スケヒロ「一応はある。原作終えて100年ぐらい経過したら次の世界に転生するか?って地獄の転生者運営サイドから聞かれるからそれで転生出来る。Fateのサーヴァントみたいに分身を作り出して、分身をその原作に置いて本体が新しい世界に転生するぞ」


Q 転生者の中で、人間以外の存在(BLEACHにおける死神や対魔忍等に存在するオークなど)に転生することはありますか?また、その場合の寿命はどうなりますか?

A Fateのサーヴァントみたいに分身を作り出して、分身をその原作に置いて本体が新しい世界に転生します。


Q ポケモン世界には、超能力者や波動使いがいたりしますが
  転生者が超能力者として産まれるパターンはあったりしますかね
   (波動使いなら、螺旋丸・波動バージョンとか特訓したりして)

チセ「ネタバレになるのでこっちで言いますが、シンオウ地方にいる転生者が超能力者で千里眼を用いて準伝説のポケモンが何処に居るのか等を占って卑劣様達から結構ボッタクってます」

スケヒロ「まだネタバレになるからそこから先は教えられないけど、一応は居るしなんだったらオレは3日で波動探知とかは会得したぞ」

チセ「ほんっと戦闘関係に関してはマジで化け物ですね!」

Q ポケモン世界には、超能力者や波動使いがいたりしますが
  転生者が超能力者として産まれるパターンはあったりしますかね
  (波動使いなら、螺旋丸・波動バージョンとか特訓したりして)

A シンオウ地方の転生者が超能力者で千里眼を用いて準伝説のポケモンが何処に居るのか等を占ってスケヒロ達からボッタクってます。


Q メガアブソル使いのアヤカみたく
  転生者たちは、もし容姿が一般トレーナーモデルになるなら
  どのシリーズのどんなトレーナーが良いですか?

チセ「普通にエリートトレーナーでいいです……いや、ホントに。私、羽鳥チセで良かったなって思いますよ」

スケヒロ「お前は基本的にマイペースだな……オレは……オレもエリートトレーナーとかでいいな。第三世代のな。第5世代のはなんかやだ」

チセ「BWのエリートトレーナーはなんか嫌です」

Q メガアブソル使いのアヤカみたく
  転生者たちは、もし容姿が一般トレーナーモデルになるなら
  どのシリーズのどんなトレーナーが良いですか?

A 基本的にはエリートトレーナー。しかしなんだかんだで転生者は自分の容姿を気に入ってたりします。

Q アニポケ世界の転生者たちは、原作知識を利用したりして
  現地人とコネクションを作ったりしていますかね
  (面倒事を代わりに解決してもらうために現地人を強化したりして
   ハートゴールドソウルシルバー・BW2みたく他地方のポケモンを手持ちに加えた強化ジムリーダーの例がありますので転生者の影響で四天王やチャンピオンがどうなることやらシロナさんは新無印の事もあって【まひるみキッス】などBDSPみたいなガチ戦法を使ったりして)シロナさんには【レジェンズアルセウス】などの知識を利用してダイゴさんには、パルデア地方みたいな

チセ「ネタバレになりますのでそれは答えられません」

Aネタバレになるので答えられません

Q 転生者は
 【レジェンズアルセウス】の早業・力業
 【ポケモンコロシアム】の【呼びかける】みたいな外伝要素はどうしていますかね
 (【ポケモンマスターズ】で【チャンピオン衣装】が登場しましたし)

スケヒロ「どうしてるって言われてもな……ダークポケモンとか居るわけじゃねえし、修羅場ってる世界じゃねえしなにか特別な事はしてねえよ」

A ダークポケモンとか居ないし、ポケモンバトルにはちゃんとしたルールがあるので特になにか特別な事はしてない。

Qゴンベエはテイルズ世界で苦労していますが
 ゴンベエが転生したのが【ライザのアトリエ】みたいなアトリエ世界ならどうなりますかね

【エスカ&ロジーのアトリエ】といった黄昏シリーズは、キチンと勉強すれば誰でも使えるの新型錬金術に、飛行船の大部分を作れる機械工学と技術力は高そうですが、水不足など世界観が厳しいですし

【ロロナのアトリエ】【ソフィーのアトリエ】は基本的に平和な世界観ですので、人気があったりして

【ソフィーのアトリエ】で四次元ポケットみたいな代物がありますので、冷蔵庫などは錬金術で作れたりして

ライザなどの錬金術の才能がある歴代主人公と仲良くなれたら、【武装錬金】のシルバースキンなど他作品の代物を再現させたモノを造らせたりして


スケヒロ「え〜オレは戦闘系、バトル系の世界が向いているタイプの転生者だ……今ある物から新しい物を作ったり新しい技術を作り上げたりする事に関しては殆ど才能が無い。転生特典にDr.STONEの石神千空並の知識を貰えるとかないとな……無理です」

チセ「どんな世界が人気とかは転生者によって異なります。色々と終末で詰んでる世界であるGOD EATERの世界も推しメンが居るのであれば頑張れます」

スケヒロ「でもまぁ、なにが人気かって聞かれればワールドトリガーとかアニメのポケットモンスターとかだな……」

Q ゴンベエはテイルズ世界で苦労していますが
ゴンベエが転生したのが【ライザのアトリエ】みたいなアトリエ世界ならどうなりますかね

【エスカ&ロジーのアトリエ】といった黄昏シリーズは、キチンと勉強すれば誰でも使えるの新型錬金術に、飛行船の大部分を作れる機械工学と技術力は高そうですが、水不足など世界観が厳しいですし

【ロロナのアトリエ】【ソフィーのアトリエ】は基本的に平和な世界観ですので、人気があったりして

【ソフィーのアトリエ】で四次元ポケットみたいな代物がありますので、冷蔵庫などは錬金術で作れたりして

ライザなどの錬金術の才能がある歴代主人公と仲良くなれたら、【武装錬金】のシルバースキンなど他作品の代物を再現させたモノを造らせたりして

A ゴンベエは戦闘特化の転生者なので新しい物を開発する感じは無理です。ゴンベエは無理です。


Q 【ウマ娘プリティーダービー】【ライザのアトリエ】など新作の事もあって
   新作限定で、転生者に人気がある作品はどんなのがありますかね

チセ「さっき言いましたけど、コレは転生者によって変わります。人によっては地獄、天国となります。後、転生先は基本的には選べないですよ」

スケヒロ「せやな…………鬼滅の刃とか一時期人気だったらしいけど冷静に考えてみればスマホ以前にエアコンが無い時代を生き抜かないといけねえって結構厳しかった……あ、ウマ娘は結構めんどくせえぞ。可愛い女の子ばっかが出てくるソシャゲの世界はな」

チセ「ソシャゲの世界で仮に推しメンが居るとしましょう。その推しメンと結ばれたいと願うのはいいことですが……手を出したらアウトですよ?」

スケヒロ「黛さんなんて、誰のおかげで人類史が救えてるのかな?って伊吹童子とかネロに脅されたりするんだぜ……まぁ、冷静になって考えてみてくれ。アイドルマスターの世界でアイドルの推しメンが居るとしよう。転生者は基本的にはプロデューサーだ……芸能人が一般人もしくは芸能人同士で結婚するとか熱愛とかで結構報道するのにプロデューサーと出来てるって……プロデューサーがアイドルに手を出して良いと思ってるか?」

チセ「普通にアウトです。ソシャゲの世界は皆、1度は行ってみたいと言うけれども行ったら行ったで結構地獄が待ち構えてますよ。何度も言いますけど、人気な世界は異なりますし……転生したいって希望を出しても無理って言われるパターン多いです。因みにですが人気があるからってコスプレさせたり脱がされたりする家元をNTRした転生者が居たりしましたよ」

スケヒロ「勇者だな、そいつ」

Q 【ウマ娘プリティーダービー】【ライザのアトリエ】など新作の事もあって
  新作限定で、転生者に人気がある作品はどんなのがありますかね

A 呪術廻戦とか鬼滅の刃とか一時期人気だったけども冷静に考えればクソな世界だったりするわけで、ソシャゲ系の世界は色々と修羅場ってるの。アイドルマスターはアイドルに手を出すのはNGなのでアイドルにムラムラしても手を出してはいけない。ウマ娘も種馬になってはいけない。極主夫道とかばらかもんみたいに大して元いた世界と変わらない系の世界は少しだけ不人気で、なんだかんだでワールドトリガーやポケットモンスターの世界は人気である。


Q フェアリーテイルなど色んな作品で転生者が面白そうと思う原作改変案にどんなのがあったりしますかね

チセ「原作改変ですか……言っておきますけど、転生者になったから悲劇のヒロインを助けようぜ!みたいな考えをする人は少ないですからね。基本的にはエゴですからね……まぁ、エゴで救われるのならばそれでいいんじゃないのかと言う意見で終わってますが」

スケヒロ「あの〜アレだぞ。作者のネタ倉庫にあるFAIRY TAILのボツネタとかが書かれてるからな……」

チセ「世界によっては主人公を活躍させてある程度は成長させておかなきゃ何処かで詰んでしまうタイプの世界も存在している……ブラッククローバーとかがそんな感じの世界ですね」

A 多分、ミラジェーンとカナとリサーナを嫁にする


スケヒロ「作者の性癖がポロッと溢れたな……真島先生同様におっぱい星人だな」

チセ「風評被害も甚だしいですよ!」


Q 転生者に成るための訓練期間の例の一部をだせますか?
  また、訓練期間の年月で精神年齢が上がったりしますか?

スケヒロ「転生者になる為の訓練を書こうかなとちょっと昔のゴンベエ達(地獄)ってアンケートに出したけども、皆本編読みてえって言うから…………」

チセ「精神年齢は少しは上がりますけど、野原ひろしや荒岩一味レベルのしっかりとした大人にはなれません。ああいうのは家庭を持ったり色々と豊かな人生経験を積んでも難しい聖人レベルですから…………男の転生者は最終的にはキリトとか司波達也とか上条当麻よりも野原ひろしや荒岩一味を目指せって言われてますよ」

スケヒロ「あの二人はガチの大人だからな……次元が違う」

A 右向けば転生者左向けば転生者の第一話で満足してください。
 精神年齢は少しだけは上がるけれども実際に社会に出て経験を積んでいないので野原ひろしや荒岩一味レベルの大人にはなれません。というか殆どの転生者が野原ひろしや荒岩一味レベルの大人になれません。あの二人は転生者が最後に至る領域です。

Q ゴンベエは老人が嫌いみたいですが、どのような老人が嫌いなのですか?

スケヒロ「中途半端とかウザい老害」

チセ「イマイチわからないのでもう少し具体性を示してください」

スケヒロ「例えばそうだな……生年月日って何時?って聞いて西暦じゃなくて昭和で答えるジジイ。聞くだけならまだいいけども、いざ書類関係で西暦で生年月日を書かないといけない時に西暦で教えてって聞けば自分で考えろって言いやがる老害……西暦と昭和の両方を言えないのはゴミ老害」

チセ「あ〜……あ〜……まぁ、確かにそれは嫌ですよね」

スケヒロ「後はそうだな……ハロウィンが日本で流行りだしてハロウィンをキリストの行事って言ってる奴とか……あれ、キリストじゃなくてケルトだからな。その辺について担任に指摘してみればハロウィンはキリスト教の行事だって言ってて……まぁ、ハロウィンがキリスト教なのかケルトの行事のどっちかって聞かれれば曖昧だけど、中途半端な知識を持ってる老害、水飲むなとかエアコンじゃなくて扇風機で大丈夫とか言って熱中症でぶっ倒れる老害とか甲子園で熱中症を出してるのに問題視せずにそれこそが甲子園とかスポーツの醍醐味とかいうクソみたいな老害」

チセ「……いや、分からなくもないですけど……分からなくもないですけど……生々しいですね」

スケヒロ「ガチで嫌いってこういうことだからな」

Q 【神座万象シリーズ】では、肉体が不老不死でも魂はそうでもなく
常人なら数百年も生きれば自滅衝動が強くなる設定があり

ゴンベエの地獄での転生者になるための修行期間を考えると精神年齢が地獄にいた期間に老成した感じがしない
実年齢と印象が違う感じがしますし
複数回転生の経験がある転生者や千年単位で人生経験がある転生者の例もあって
(複数回転生経験者は、地獄での修行期間を加えれば千年近い人生経験になったりして)


A 世界によっては1000年単位で生きてる転生者も居るので普通に居ますが野原ひろしクラスの大人にはなれないです。


Q転生者は基本的に【相州戦神館學園】の盧生みたく、数百や数千年では劣化しない
良く言えば超人、悪く言えば狂人の素質がある魂の持ち主がなれたりして
(【Dies irae】では、盧生レベルの強者は第二次世界大戦のドイツに4人以上
【黒白のアヴェスター】では一つの星に11人いて入れ替わりもあったことから
長い時代で考えれば狂人の素質持ちが複数人いても違和感無さそうですので、転生者も複数人いるとか)

【シルヴァリオ・トリニティ】のアッシュ君の例
精神力だけで覚醒するようなトンチキは万人には真似できない
(其処らの一般人が努力すれば全員オリンピック選手レベルにはならないみたく
【シルヴァリオ・ヴェンデッタ】のヴァルゼルド閣下という才能が無いスラム出身者が努力と精神力だけで常人が発狂死する激痛を耐えたり、死亡率九割以上の手術を複数回乗り越えたり、一騎当千の相手を複数回下したからといった万人に出来るかという理論みたいな)
出来ない奴は出来ない説から、虞美人みたいな転生者の強い魂説は素質がある人材にしか出来ない説とか
(色んな作品の主要人物や転生者達は出来る側の人材が多いからそう思ってしまったとか)
意志力が強いと言うのは、見方を変えれば絶対に自分の意見を変えない頑固者になりそうですので
他人の意見を聴いて尊重したりと柔軟な対応をする常人とは対極になりそう
(想いは想いで、人は強くなるために誰かを愛するわけでもなく
愛は強くなるための部品ではありませんし)

スケヒロ「あ〜…………転生者なる為には過酷な訓練を積みまくって大抵は頭のネジ1本2本ぶっ飛んでるぞ」

チセ「過酷でクソみたいな現実と転生先を見せられて皆、なにかしらの持論の様な物は持ってますからね」

A 転生者は色々と頭のネジが狂ってます。狂ってなきゃ転生者になんてなってられず、地獄の訓練を経て持論の様な物は持ち合わせてます。所謂悟りを開いてます。

Q サトシ君のカビゴンが毒状態になったことから
作者さんの作品では、サトシ君のカビゴンの特性は【免疫】以外だと推測出来ますが

チセがサトシ君にクラブを渡していましたが
原作のサトシ君のクラブは、メタ的には七匹以降のゲットした場合の説明ですが
話の流れでは、お情けや友情ゲットばかりでサトシ君のトレーナー能力についての話題で
サトシ君が意地とかでゲットする流れだったと思いますし
同じ種族のポケモンでもハルカとムサシのケムッソみたく個性がありますので
もし、原作サトシ君のクラブが理想個体とかの天才みたいな存在でしたら
チセが渡したクラブと差異がありそうですけど
(原作みたく公式戦初で三タテするような同じ展開にはならなそう)

スケヒロが過去に大暴れしていますのでバタフライエフェクトの余地が十分ありそうですので
転生者は自身の行動よるバタフライエフェクトについてどう思っていたりするのやら
(例えばシロナさん相手に圧勝したことで
シロナさんがダンデ相手に圧勝するような実力に成長したり
ギラティナを従えるようになったりしたら
他にも、スケヒロなどの影響で
ホウエンのセンリの一軍メンバーにBW2のムクホークなどを始めとした他地方ポケモンがいたりと
他地方ポケモンは初見みたいなジムリーダーなどが少なくなったりして)
スカーレットバイオレットの知識からコノヨザルも知ってるでしょうが
パルデア以外で知られていない理由で、専用技の修得が難しいとかあったら
トレーナーとしてまだ未熟なサトシ君なら、まだコノヨザルはいないと思っていたら
コノヨザルが登場する展開があったら面白いリアクションをしたりして

スケヒロ「……これ、質問なのか?てか、さっきと質問似てねえか?」

チセ「バタフライエフェクトが起きても問題無い世界なので特に気にしてないですよ。アレですよ、アニメのポケットモンスターは闇のデュエル的なのが基本的には存在していないので色々とやってますよ……チャンピオンより転生者の方が遥かに強いです。玩具販売促進アニメ系の世界は基本的には転生者無双出来ますからね……特に知識関係は」

A バタフライエフェクトが起きても問題無い世界で起きるバタフライエフェクトとかはその内本編で書きます。

Q 転生者はアニポケ世界で搦め手を使わない事に文句みたいな感想を持っているようですが
  もし、BDSPやランクマみたく害悪戦法が跋扈する環境でしたらどうなりますかね

スケヒロ「タイムアウト的なのはまずアニメのポケットモンスターの世界では無理だけど害悪とか積み系は……別にいいんじゃねえの?」

チセ「アウトだと判断したのならば運営側が遊戯王みたいに禁止にすればいいだけの話です」

A 修羅の世界だけどそれはそれでありです。

Q クラスカード持ちのワールドトリガー世界の転生者に質問ですが
ワールドトリガー世界の星座は独特なオリジナル星座だったと思いますが
その辺りの設定はどうなっていますか?
(星座が黄道十二門などに変更してあるのか
ワールドトリガーオリジナル星座のままで、北欧神話みたく星座関係なくギリシャ神話がそのまま存在しているのか)

A 黄道十二門はそのまんまです。ただ単に星座が違うだけになっています。

Q ワールドトリガーでジークフリードの力で小南を蹂躙しましたが
設定を考えますと
ネイバー事に企画が違うため初見殺しの要素が多く
まだベイルアウト機能が無いため命の危険があった
旧ボーダー時代のトリガー使いの戦場に迅のようなサイドエフェクトも膨大なトリオンも無しに小南は生き残っていますし
被弾の描写が殆ど無いことに加えて
転生者は人間出来ることなら漫画の技術を使えることから、逆に現地人も同様のことが出来ない理由にはならなそうなことから
【黒子のバスケ】の野生【トリコ】の直感みたく
小南も高い危機回避能力を持ってそうですので
(ヴィザ相手に直感が働いてましたので)

ランク戦みたくトリオン量制限・障害物アリの条件でしたらどうなりますかね
トリオン無限のタイマンだから大火力連打という回避も防御も不可のゴリ押しで勝ちましたが
ランク戦条件なら、鎧の維持だけでもトリオンを消費するなら
勝敗は転生者の勝ちだが粘られて時間がかかったりして
(ボーダーのトリガーだけでも
オールラウンダーといったポジションに
フルアームズといった複数同時使用
マンティスなどの射程が伸びる剣などの前例が有りますので)

ジークフリードの一定ランク以下の攻撃を防ぐ宝具ですがトリガーなどで当て嵌めるとどのような設定になりますか?
(弾速などにもトリオンを使うシューターと、スコーピオンみたく攻撃全振りの剣とトリガーによって攻撃力も変わりますし
攻撃力が低いトリガーなら要求されるトリオンも増えそう)

スケヒロ「え〜コシマエが調子に乗ってバルムンク振りまくってるだけだけど、彼奴は伊達に地獄の転生者養成所を卒業する事が出来ていたので剣術とかも一級の達人だ。セイバーやってるだけあって技術のステータス16だから、素で小南をぶっ倒せるぐらいには強いです」

チセ「因みにスケヒロが技術を表せば?」

スケヒロ「20は余裕でいくな。コシマエは達人で、オレは超人だから」

チセ「ほんっとスケヒロおかしいですよね!?」

スケヒロ「ジークフリードの宝具は…………通常よりも何倍も頑丈なトリオン体になるんじゃねえの?その辺りはブラックボックスだから妄想してくれ」

A コシマエがジークフリードの力で調子に乗ってるだけで純粋に戦っても余裕で勝てます。宝具は頑丈なトリオン体じゃないですかね?

Q 基本的にオレTUEEできる転生者ですが
【相州戦神館學園八命陣】の【柊聖十郎】
【シルヴァリオ・トリニティ】の【ヘリオス】
の存在を考えますと

転生者でも戦いたくない現地人がいそうですので
戦いたくない・苦手な現地人の例を述べて欲しいです

スケヒロ「主人公及び原作メインキャラ……特に感情とかに身を任せてパワーアップするタイプは戦いたくない」

チセ「倒せないんですか?」

スケヒロ「いや、倒すのは簡単だけども強い怨念とかが留まって呪ってくるからさ……もうチャッキー並に呪われるよ……さすおにとか兵藤一誠とか織斑とか上条当麻みたいなウザいというか自分達が正義の味方と言うか善人みたいなのも嫌いだよ……三雲修レベルならばまだいいんだけども」

チセ「ああ……確かにそれはウザいですね」

A 感情に身を任せてご都合主義でパワーアップする主人公や原作キャラ。特に自分達こそが善だと思い込んでるやつはシンプルに嫌です。

Q 転生者達をハンターハンターの念能力の系統別分類や
家庭教師ヒットマンリボーンの死ぬ気の炎の属性分類をするならどうなりますかね

チセは念なら変化系、死ぬ気の炎なら雲か霧になったりして

念能力は戦闘以外にも
具現化系なら容量無視の収納
強化系なら治癒力強化の回復
(過剰回復による攻撃の可能性もありそうですけど)
他にもビスケみたいなエステによる疲労回復といった例がありますので
可能ならどんな能力を作るかの簡単な設定とかも
(能力名は無くてもよく、どんな能力か的な)

チセ「そんな都合のいい設定はありません!」

スケヒロ「ん〜まぁ、オレは多分だけども回復系以外なら全部出来ると思うぞ。根本的に魂レベルで向いてねえからな……」

チセ「え〜……まぁ……私はポケットモンスターの世界に転生していてバトルはポケモンに任せてますけども、魔法とか使わせれば滅茶苦茶強いですよ。社長ぐらいには魔法は使いこなせます」

スケヒロ「社長はまだ本編に出てないからな……チセは霧だと思うぞ」

A スケヒロは回復関係じゃない限りは全部100です。チセは魔法とか呪術とか使わせれば滅茶苦茶強いです。チセはREBORNで例えれば霧です。能力とか都合のいい設定は存在しません


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ヘタレクソザコナメクジ童転生者

オリジナル書き始めたでござる


 

 ゴンベエに見合い話がやって来た。

 ゴンベエの持つ技術は凄まじい物だ。大地の汽笛や電話を量産する事が可能だと言っている。オリハルコンの様に稀少な鉱石が必要かと聞かれれば必要でなくクロガネの様に超一流の職人じゃないと制作に携わる事が不可能というわけでもない。ものづくりで生計を立てている物ならば容易に作る事が出来る代物だ。

 

『アリーシャ、ちょっと苦しいから……どうにかしてちょうだい』

 

「………………っ……………申し訳ありません。私の中に入らずに出てください………浄炎狐舞………」

 

 ゴンベエを取り込もうという考えはよく分かる。

 馬鹿をやっているように見えるがとても思慮深い一面を持っており、エドナ様の言う通りゴンベエを取り込む事に成功すればこの災厄の時代を終えた次の時代で商売や政治の実権を握ることが出来る。

 

 ベルベットが見合い相手の肖像画を燃やしている。

 ただ普通に燃やしているんじゃない。悍ましい程の穢れを纏った炎で燃やしている。ベルベットの嫉妬による炎で何時も使っている邪王炎殺黒龍波並に穢れを宿している。

 

 エドナ様は頭の中で穢れをどうにかしてほしいと頼み込んでいる。

 私はエドナ様を体から追い出して穢れを焼く浄化の炎を出して……無言で私に充てがわれた部屋に向かった。

 

「……………………なにをやってるんだ、私はぁああああああああああ!!!!」

 

 ベッドの上にボスンと顔を埋めると私は大声で叫んだ。

 なにをやっているんだ。なにを言っているんだ私は!エドナ様の言うとおり、確かに私は末端なものの王族であることには変わりはない。だから私と結婚すれば全てが丸く納まる…………なにを、なにをやっているんだ私は!!

 

 エドナ様の言っていることは間違いではないが、やろうとしていることは倫理的に大間違いだ。

 結婚とは愛し合う関係に発展しなければ発生しない事で……一気に色々と段階をすっ飛ばしている。お見合いからはじまる政略結婚というのは正直な話、好きではない。恋物語の様な大恋愛に憧れを抱いていないかと言えば嘘になるが……物語と現実は大きく異なる。

 

 母が一般市民、父が末端とは言え王族であるからそれを嫌という程に自覚している。

 身分を越えた大恋愛の末に結婚をしたと本などの物語でハッピーエンドを迎えるだろうが、ハッピーエンドのその先は書かれていない。

 ハッピーエンドのその先は……恐らくだが苦しいものだろう。ただの一般市民と上流階級の人間では色々と勝手が異なる……最低でもゴンベエの様に成り上がる事が出来るような人間でなくてはならない。

 

「穢れがまだ感じる…………ベルベットは物凄く怒っているのだろうな………」

 

 一応は浄化の炎で穢れを焼いたのだが、それに追いつかないレベルで穢れが溢れている。

 ベルベットは物凄く怒っている……当たり前と言えば当たり前だ。自分の気持ちに素直になって自分をこの時代に連れてきた責任を果たせとゴンベエに詰め寄っている。ゴンベエの事が大好きで、見知らぬ誰かに取られるのは腹が立たない方がおかしい。私が同じ立場でも許すことは出来ない事だろう。

 

「入るぜ、アリーシャちゃん」

 

「ザビーダ様、申し訳ありませんが今は私の中には」

 

「いやいや、そこまでいかねえよ」

 

 この胸の内をどうすればいいのかが分からないでいるとザビーダ様が部屋に入ってきた。

 ベルベットが放っている穢れがキツくて私の中に一旦避難をしようと考えているのならば申し訳ないのですが私の中に今は入らないでほしい。

 ザビーダ様に断りを入れようとすればザビーダ様はそうじゃないと言うので槍を手に持って簡易的な結界を展開し、穢れから身を守る。

 

「お、こんな事も出来るんだな」

 

「ええ、まぁ…………色々と特訓して来ましたから…………はぁ…………」

 

「…………誰が悪いか、悪者が欲しいって言うならゴンベエを悪役にしなよ」

 

「え!?」

 

「顔に出てるぜ……見合い話を断る理由で、政略結婚みたいな事をしていいのかって悩んでるんだろ?」

 

「……はい…………」

 

「アリーシャちゃん的にはゴンベエの事をどう思ってんの?」

 

「その、ゴンベエは私のこ」

 

「おっと、そういう惚気話を聞きたいんじゃねえよ…………異性として好きか嫌いか、この二択。どういう部分が好きとかを聞きたいんじゃねえ」

 

「…………………」

 

 2つある内の1つを選べばそれで構わない。

 ザビーダ様はゴンベエのどんなところがいいのかなどは大して興味を抱いていない。問題は私がゴンベエの事が好きか嫌いか…………っ…………。

 

「そのっ……えっと…………好き、です……………」

 

 今まで何度か勢いに身を任せた末に言ってしまった事は多々ある。

 こうして人前でハッキリと異性として大好きだと言うのは中々に無い…………

 

「一人言なので無視してくれて構いません…………私はゴンベエと出会って1年ぐらいの関係です。ゴンベエがこの大陸とは違う果てしなく遠いところからやって来た事を分かっています。どうしてこのグリンウッド大陸に来たのか、どうしてあの水車小屋で不便な生活をしていたのか深くは聞かない様にしています…………ただ…………とても楽しかったです」

 

 ゴンベエは頭の螺子が何本か吹っ飛んでいる。

 変なところで常識はあるのに、躊躇いが無かったりして……あまり威張ったり口にしないが持論の様な物を持ち合わせている。

 メルキオルの問いかけに対して「めんどくさい」と答えた。やる気が無いという意味合いで「めんどくさい」と言ったのかと思っていたが、ゴンベエは色々と深く考えた末に「めんどくさい」と答えている。エレノアはゴンベエの「めんどくさい」の意味を理解していなかった事をゴンベエに謝罪していた。

 

「私の知らない世界をゴンベエは知っていた。ゴンベエは損得勘定を一切考慮せずに私の知らない世界に連れて行ってくれた……ザビーダ様に会えたのもベルベットに会えたのも、マオテラスと災禍の顕主の始まりの時代に迎えたのも全てゴンベエのおかげです」

 

 何時だってゴンベエが居てくれたから私は前を歩く事が出来た。

 道を歩けとは言わず、道が存在しているという事だけを教えてくれた。私が嫌だと言えば、色々と納得するように説得したりしてくる。

 ゴンベエと私の価値観等の感覚は大きく異なる。ゴンベエに対して憧れは抱いていない。ゴンベエはゴンベエの感覚を、私は私の感覚を持っていて、今は偶然にも噛み合っている。ゴンベエならばそういうだろう。

 

「吊橋効果というヒロインが危機的な状況に陥っているのを助けてるから好意を抱くとはまた違う、純粋にゴンベエの事が好きで…………異性として愛してます…………」

 

「そっか……だったらよ、潔く告白しろよ。胸の内に思いを留めても、心の何処かで諦めきれてねえんだろ?」

 

「……ベルベットとゴンベエはお似合いの関係だと私は思っています。ゴンベエはやる気が無いだけで真面目にやれば物凄い人間で、平穏を臨んでます。ベルベットも平穏を臨んでいて、やる気が無いゴンベエの尻を叩いて二人三脚で……」

 

 ベルベットは非の打ち所が無い女性だ。

 ゴンベエの好みの容姿をしており、女子力が高い。災禍の顕主のベルベット・クラウとして活動していた頃は常に怒ろうと必死になっていたが、今はそんな事をしなくてもいいと肩の力を抜いていて……ゴンベエと一緒に居る事を喜んでいる。

 

「でも、諦められないなら……1回ぶつかれ。ザビーダお兄さんが唯一出来るアドバイスだ」

 

「……」

 

 ザビーダ様はそう言うと部屋から出て行った。

 ベルベットはあの時、永遠の眠りにつこうとしていた。それがゴンベエは嫌だと理を無理矢理捻じ曲げた。だからゴンベエはこの時代に連れてきた責任を果たさないといけない。至極真っ当な事だ。ベルベットの覚悟を決意をゴンベエは踏み躙ったのだから。

 

「でも…………でもっ……………嫌だ…………」

 

 ゴンベエと過ごした時が最も長いのはこの私だ。ゴンベエの性格を1番理解しているのも私だ。ゴンベエの事が1番大好きなのも私だ。

 こんな感情を持ったら確実に穢れるんじゃないかと思ったが……この気持ちを無理に偽っていたら一生後悔する。

 

「私はゴンベエが好きだ、大好きだ。ベルベットよりも好きだ。ゴンベエの能力なんてどうでもいい、ゴンベエの人柄が好きなんだ…………ゴンベエと結婚したい。ゴンベエと一緒になりたい。ゴンベエとHな事がしたい。ゴンベエに抱き着きたい。ゴンベエの匂いを嗅ぎたい。ゴンベエと一緒の布団で寝たい。ゴンベエと手を繋ぎたい……………ああ、なんだ………」

 

 こんなにも単純な事だったか。

 

 心の何処かで抑えていたものが見ようとしなかったものを認識した。自分の気持ちに偽りを無くした。

 貴族とか王族の義務とかモラルとかを一切気にしないようにした……その結果がゴンベエを狂おしいぐらいに愛しているという気持ちが分かった。

 

「愛おしい嫁がいて新婚ホヤホヤだから重婚なんて考える暇は無い!妻であるベルベット以外を愛するつもりはない!コレでいいでしょ!」

 

「……まぁ、そうだよな……」

 

 気持ちの整理がついたのでゴンベエ達の元に向かった。

 ベルベットの怒りは納まっておらず悍ましい穢れを纏っており、ベルベットは公爵達上流階級の人達から送られてきた手紙の返信を書く。

 ゴンベエもベルベットを裏切るわけにはいかないと返信の内容についてそれで構わないと頷いていた。

 

「……アリーシャ」

 

「エドナ様、ザビーダ様…………穢れで苦しむ可能性があるので、私を器にする術を解除してください」

 

「アリーシャ、貴女まさか!?」

 

「お願いします……多分、私はもう限界みたいです…………ゴンベエ…………」

 

 ベルベットの元にはザビーダ様とエドナ様が居たので私との契約を解除する様に要求する。

 構わない……これ以上は自分の気持ちに嘘をつく理由にはいかない。私はゴンベエに思いっきり抱きついた。

 

「子供もいい、性処理の道具でもいい……でも、私も貴方の女にしてください……私はもう我慢する事は出来ない……ナナシノ・ゴンベエが大好きなの」

 

「……………………あ〜………………………いやいやいや………………あのさ…………………」

 

「ゴンベエの国では一夫一妻の制度かもしれない。ゴンベエの国ではとうの昔に貴族の制度が廃止されている……デモクラシー?その制度が導入されていて……………ゴンベエにとって戸惑う事も分かっている……だが、無理なんだ」

 

 王家のナイフを取り出すと私は穢れを発した。

 色々と考えた。考えに考えた……どうしてこうなったかはどうでもいい。

 

「ゴンベエに捨てられて政略結婚で他の男に抱かれるぐらいならば命を落とす……ゴンベエ、私のはじめてを貰ってくれ。そうすれば私は中古品になる。女としての価値は大きく下がる……私がゴンベエの物になればゴンベエに言い寄る虫を寄せ付けない盾になれる…………受け入れるならキスをして。快楽の為に胸や尻を揉んでくれ…………無理ならば潔くこの世から身を引く。安心して、呪いとかは一切しないよ」

 

「おまっ、お前……脅しじゃねえか!?」

 

「そうだよ、私はゴンベエを脅してるよ……卑怯な真似って言われても構わない。今の私は穢れを発してる……間違ってるって言われても構わない……ゴンベエと一緒になれるなら、私ゴンベエを脅すよ」

 

 プスリと喉元にナイフを突き刺す。 

 痛みは感じるけれども、恐怖は抱いていない……ううん、違う。ゴンベエに今ここで拒まれる事には怯えている。

 

「…………キスしてくれないんだね………うん。ゴンベエとベルベットはお似合いのカップルだから……子供も優秀な子になる……ありがとう、ゴンベエ。ゴンベエとの1年ちょっとはとっても楽しかったよ」

 

「だぁあああああ!!やめろ、やめろぉおおおおお!!」

 

 ゴンベエは結局はキスをしてくれなかった。

 なら、死ぬかとナイフで喉を抉ろうとするのだけどゴンベエが私の腕を掴んで王家のナイフを奪った。

 

「…………キスして…………ううん、Hな事をしてもいいよ……」

 

 私を選んだって事は私の事をお嫁さんにしてくれるっていう証拠だよね。

 ゴンベエにキスを迫る……ここまで来たのならばゴンベエと色々としたい。ゴンベエに迫るのだが、ゴンベエは悩んでいた。

 

「ベルベット……王家のナイフでオレを思う存分にぶっ刺してくれ…………無理、もう無理だ!!オレには無理だ!ベルベットに幸せに生きてほしいって思いもあるし、アリーシャを殺したくない!!どっちかを選べって言われても無理だ!!」

 

 ゴンベエは私の右手を握る。ゴンベエはベルベットの左手を握る。

 今にでも泣きそうなゴンベエは無理無理と震えつつもしっかりと私達の手を握ってくれている。

 

「どっちかを選ぶのは無理だからどっちも選ぶ!……オレ、貴族なんだから重婚しても問題ねえんだ!!」

 

「遂に開き直ったわね…………ヘタレ男爵」

 

「るせぇぞ、諸悪の根源!違法ロリが!」

 

「私は悪くはないわよ、アリーシャと結婚すれば言い寄られる事が無くなるってアドバイスしただけでこうなったのは今の今までアリーシャの気持ちを蔑ろにしていた貴方が悪いわよ!貴方なんだかんだでアリーシャを色々と連れ回してるじゃない!アリーシャがこうなったのは貴方のせい!」

 

「っぐ……………という事でベルベット……刺すならば刺してくれ。覚悟は」

 

「赤ちゃん」

 

「え?」

 

「私にあんたの子供を産ませて……あんたとの繋がりが、今の時代を生きているって証がほしいのよ……」

 

「…………段階を色々とすっ飛ばしている。数年の間はベルベットとイチャイチャしたいっ……その、子供に嫉妬してしまいそう…………」

 

「…………じゃあ、キスして……毎日したい時にキスして。どっちが1番とかはどうでもいいからここで私と結婚したって認めて……じゃないとあんたを殺して世界を滅茶苦茶にした後に自殺するわ」

 

「お前もか……」

 

 ベルベットまでゴンベエを脅す。

 ここでゴンベエが逃げるというのならば私達は迷いなく命を絶つ。その辺りに関しては躊躇いというものがない。

 

「なんでお前そこまで奥手なんだよ?そりゃ上流階級の人間以外は一夫一妻が当たり前で、今の時代は上流階級の人間も一夫一妻がいいんじゃねえかってなってるけどよ」

 

「…………色々とさ、見たんだよ……」

 

 何時もならばズボラだったり変なところで躊躇いがないゴンベエだが恋愛関係に関してはかなり奥手、ヘタレと言われても仕方がない事だ。

 ザビーダ様はどうしてそんなに奥手なのか疑問に思った。

 

「昔の女か?」

 

「違う……オレは、大人になれてない人間だ……そこで嫌になる程に色々と見せられた。ベルベットやアリーシャの様に人間としてしっかりとした人は確かに居るが、それはほんの一握りな存在だ。アイゼンも分かってるだろ?」

 

「まぁ……希有な存在だが……」

 

「オレは見せられたんだ、クソみたいな現実を……経済は息詰まって会社は潰れて大人達は自分のことを優先して、頑張っても報われない社会を生き抜かないといけなくて、クソみたいな老害はただ単に無責任に頑張れとか言うだけなのを……オレはブッキー(友達)に無責任に頑張れって言葉を使った………ヘタレって言われても構わねえよ…………ホントの意味で1人前な人間じゃないし結婚関係では自信がねえんだ」

 

「…………お前にとっての1人前、ハードルが高すぎないか?」

 

 ゴンベエはゴンベエなりに思い悩んでいる。

 私やベルベットと結婚するに相応しい人間なのかどうかを。アイゼンはゴンベエの理想としている1人前な人間の理想像があまりにも高すぎるんじゃないのかと疑問を抱く。

 

「あんたが1人前だって言える条件はなんなのよ?」

 

「…………何なんだろうな……転生者(オレ達)はかなりの捻くれ者で……悟りの世代の人間になるように教育されてるからな」

 

「悟りの世代?」

 

「大きな目標や夢などのために行動するのではなく、現実的に必要最低限の生活を求める傾向がある世代の事だ……人間欲張ればなんだかんだで痛い目に遭うからな…………あ〜……………………う〜…………」

 

「ヘタレ!私とアリーシャがこんなにも一緒になりたいって言ってるのよ!!受け入れるのが男ってものでしょうが!!」

 

 思い悩んでいるゴンベエに言葉を投げかけるベルベット。

 ここまでしてもバッサリと選ぶ事が出来ないゴンベエに呆れておりベルベットはゴンベエに詰め寄り……キスをした。

 

「……言い方を変えるわ!!私とアリーシャはあんたの、ゴンベエのものじゃない。ゴンベエが私とアリーシャの所有物なのよ!!」

 

「……オレは」

 

「構わないよ!!ゴンベエがなんであれゴンベエを受け入れる!!」

 

「……そっか…………………分かった…………オレが幸せにするんじゃない。オレを幸せにしてくれよ」

 

「……じゃあ、キスして……政略結婚って事でもいいから……」

 

 私とベルベットの発言で遂にゴンベエは折れてくれた。

 私とも結婚してくれるという証を求めてゴンベエに近づけてば……ゴンベエは私にキスをしてくれた。

 

「舌を入れてくれないの?……あ、ザビーダ様達が居るからだね!」

 

「待ってくれ、お願いだから……結婚式は挙げられないし……処女を貰うのはせめてヘルダルフとマオテラスの問題を片付けてから…………」

 

 普通のキスだった事に不満を抱いたけども、冷静になって考えてみれば天族の方々が居る。

 ゴンベエには露出癖は無いのを知っているので寝室に向かわないといけないねと考えているとゴンベエは手で顔を抑えていた。

 

「取りあえずはヘルダルフをぶっ倒してから数年間はイチャイチャさせてくれ……こんな色々と不景気で世界を混沌に貶めている馬鹿が居る時代で子供なんて作っても大変な目に遭う。泰平の世を築き上げねえと……取りあえずはアリーシャとベルベットが居るからお見合いは断るよ……」

 

「ヘタレ」

 

「るせぇ、年増ロリ…………あ〜………………………色々な意味でハズレな世界だ…………」

 

 ゴンベエは私の事を受け入れてくれた。

 脅しで受け入れさせたと言われようが構わない。狂ってると言われようとも構わない……ゴンベエが私を受け入れてくれたおかげで私は穢れを発さなくなって槍を握れば纏わりついていた穢れが消え去った。




スキット 知らない世代

エドナ「ねぇ、ゴンベエ。兵器とかは作れるの?」

ゴンベエ「唐突だな……ザビーダのジークフリートとか神依みたいな神秘的な力を持っていない、人を殺す事に特化したタイプの兵器の作り方はちゃんと知ってるぞ……液体の爆弾とか作れるし、火薬の原材料である硝酸をプラチナやウンコから作れる……知りたいのか?」

エドナ「人殺しの道具の作り方なんて興味は無いわ……ただ……」

ゴンベエ「ただ?」

エドナ「それだけ力があるなら権力程度に怯えてどうするのよ?貴方が災禍の顕主を片手間に倒せるぐらいに強いだけじゃなくて沢山の人を殺すも活かすも出来る技術を持ってるのでしょ?その技術を一子相伝にしておけば将来が安房じゃない」

ゴンベエ「……あのな…………それは無理があるぞ?」

エドナ「なんでよ?」

ゴンベエ「先ず、1年や2年じゃない、数十年単位の平穏な世の中を築き上げる事に成功すると社会はどうなると思う?」

エドナ「……戦争が起きない?」

ゴンベエ「戦争が起きない間はなにをするかって聞けば……平穏な世の中を保つ為に色々とする。江戸時代の様に武器を作る職人よりも雑貨品を作る職人が増える……戦争をしない世の中になれば物流がスムーズになって様々な技術が生まれる。オレの持っている技術だって大元を辿れば外国との貿易が盛んになった結果発見されたり生まれたりした技術だ……多分見つけることが出来るようになる」

エドナ「じゃあ、尚更技術を独占したらいいじゃない。安定を選びなさいよ」

ゴンベエ「日本みたいに完全な島国なら技術の独占はありだが、やり過ぎれば反発が起きる…………平穏な世の中が当たり前になって兵器を持たないのが当たり前になることだってある」

エドナ「兵器を持たない=平和って違うわ。高潔な人間も堕ちる時はとことん堕ちる、そこから大きな争いになる……貴方はそれをハッキリと知ってるのでしょ?」

ゴンベエ「オレが生きている時とオレの力を知っている人間が居る間ならば暴力という物に身を任せても構わねえよ……けど、問題はその後だ。オレやベルベット、アリーシャは後70年もしたらポックリと逝く。何処までが全盛期なのか分からない……オレ達がくたばって、オレ達の事を知っていた世代がくたばって、オレ達の事を情報だけ知っている世代になったとしよう…………絶対に調子に乗る…………というかだ、暴力で解決したり武力を持ってますよアピールしてみろ、絶対に泥沼化するからな。お前達みたいに寿命が長くて飯とか食わない色々と超越した存在ならまだしも、人間は色々とダメなんだよ」

エドナ「じゃあ、公爵達からの見合い話は断るのね」

ゴンベエ「アリーシャには悪いがアリーシャを盾にする……暴力で物事を解決するのは最低な事だ。オレは知っている、暴力で物事を解決しない討論、話し合いで解決する世の中を。そういう世の中を築き上げねえと……くだらねえ戦争を繰り返す、その結果がマオテラスの悲劇だ……エドナ、先に言っておく」

エドナ「なによ改まって」

ゴンベエ「暴力で物事を解決するのは最低な事で世の中、なにが正しいのか分からない、絶対的に正しいものはないんだ……仮に核兵器レベルのヤバい兵器を所有してみろ、危険視されてさらなる力なんかに抑えつけられる。力を力で対抗すればより強い力が現れて負ける。個という力でどうにもならない団結の力だってある……頭で理解出来ても心で納得する事が出来ない事は何時かは反発する。なんだったら頭で理解出来なくて心で納得する事も出来ない理不尽だって世の中には沢山あるんだ」

エドナ「例えば」

ゴンベエ「やる気が無いなら帰れって言ったくせに本気で帰ろうとすれば先生が死ねって言えば死ぬのかって論点をズラすクズ教師とか……人間の心はゴム毬と同じなんだ。抑えつければ反発する……オレ達を生で知っている世代が居なくなれば確実になにか起きる……子孫の代に負の遺産を受け継がせたいか?幾らオレが秩序を持った悪人だとしても子孫の代に負の遺産を受け継がせたくねえ…………とにかく、暴力で物事を解決出来るって脅したら、暴力以外の力で物事を解決しようとしてくる。下手に暴力に走れば、皆で築き上げたルールに殺される……人の社会ってのはそういう風に出来てる」

エドナ「ルールが人を守るものじゃないの?」

ゴンベエ「ちげえよ、人がルールを守る事によって安定が生まれる、皆が我慢することで規律が生まれる……まぁ、世の中には皆で決めたルールを書き換えたり盾にしたりする馬鹿が居る。そういう奴は大抵地獄に落ちるしロクな最後は迎えねえ……アリーシャはそういう奴をちゃんとした場所で裁きたいって思ってる……っと、話がズレたな。とにかく兵器を所有すれば暴力以外の力で抑えつけられる、色々と白い目で見られる…………アレだぞ、暴力に頼るって言うのはホントのホントに最終手段で脅しの道具にもあんまり使ったらいけねえんだぞ?暴力ってのは人が生み出す力で分かりやすい物だけれども直ぐに衰えるもので無理に抑えつければ確実に反発する。暴力以外の力を持つのが世の中を色々と上手く生き抜く方法だ」

エドナ「……戦わずして勝つのが1番ってことね」

ゴンベエ「そういうことだ……」

エドナ「理不尽過ぎるじゃない」

ゴンベエ「ならルールを生み出す事が出来るぐらいに成り上がるしかねえ……と言ってもデモクラシーじゃない世襲制な国じゃ難しい事で……デモクラシーを導入しても上流階級の人間に敵わないクソみたいな社会だからなぁ……あ〜ホント世の中クソだ」








天王寺「はい、Q&Aのコーナー!活動報告で質問を寄せているのでどしどし応募してください。全て答えれるかどうか怪しいです。作者、基本的になにも考えてないので。メインパーソナリティは俺こと童子切安綱の天王寺と」

ゴンベエ「アシスタントのゴンベエで〜す……いやぁ、アシスタントとか珍しいな」

天王寺「たまにゃええやろう……ほんじゃま、質問いくで」

Q スパロボシリーズやルパン三世vs名探偵コナンのようなクロスオーバー作品の世界に転生することはありますか?

天王寺「あるで……ただ何処の国スタートとかはその時によって異なる」

ゴンベエ「コナンの世界線はなんだかんだでサザエさん方式だから、新一の同級生とか大学生スタートが割と多い。ルパン三世側からスタートは先ず無いな……スパロボも主に主人公の勢力に居るパターンが多いな」

A あります。


Q 転生システムから外れる条件として改宗が挙げられましたが、他にシステムから外れる条件はあるのでしょうか?

例えば死霊術の類いで魂を縛り上げて使役し命を弄んだとか
自分本意な理由で国を滅ぼす大虐殺を実行したとか
遺伝子を弄くり回したりキメラを造ったりして生命倫理?をゴミのように捨てたりとか

一応事前に人格矯正を含めた転生の為の教育期間はあるそうですけど、それだって別段必ずしも従ってそうすべしと言う訳では無さそうですし


天王寺「転生者の資格剥奪は……転生者以外に自分達が転生者でこの世界は漫画とかアニメでとか言うのはアカンかった筈や」

ゴンベエ「並行世界理論を極めすぎた結果、この世界が漫画だった並行世界が見えたとかアカシックレコードの一部が見えたとかで未来知識を誤魔化したりするが自分達が転生者って言うのは原則禁止だ……後は……別の世界に行くとかだな」

天王寺「ワールドトリガーの世界におんのにブラッククローバーの世界に行こうとするとか禁止や……ただ遊戯王GXから遊戯王DMとか5Dsの世界に行くのは、世界観が繋がってる世界の一部はギリギリセーフやった筈や……その辺は曖昧やな」

ゴンベエ「外道な事をしてってのは先ず聞かねえな……快楽の為に殺人をするヤベえ奴とか世に言う社会のゴミ的な人間は転生者になる為の訓練で確実に脱落する。世界征服とかを企むという馬鹿な事は基本的にはしねえ……だって後の事とかめんどうだから。絶対的な不老不死ならば、世界征服をしても世界を上手く回せるけれども、何時かは死ぬ命ならば世界征服は無理…………クソ長い人類の歴史で有名なのに世界征服が出来てねえのは寿命も関係してるって習ったわ」

天王寺「悪役言うても快楽の為にとかはおらんな……高遠のおっさんは悪の根がある人間を開花させる才能を持ったりしとるけども、その辺に関してはお咎めは無いし……テンプレな転生者なんておらん。堅実な人間しか転生者になれへんな」


A 何事にも例外があるけれども基本的にはそういうタイプの人種は訓練の段階で落ちます。
  転生者になる為には真面目じゃないと駄目で、自分が転生者である事を言っちゃいけなかったりワールドトリガーの世界からブラッククローバーの世界に行こうとするとか転生先が気に食わないから自殺するのが禁止だったりします。


Q 後、どんなに教えたってやる奴はやる(それが各々で悟りを開いた狂人なら尚更)のに実際にやった前例(虐殺や産業破壊、転生先のリセマラ)の話が見られないって事は狂人ですら躊躇うような大きなデメリットくらいはあるのでしょうか?それともそう言うヤバい方向(Diesの獣殿みたいなのやシルヴァリオのギルベルト&ダインスレイフのような光の亡者)で悟ったのは漏れ無く飽いていれば良い、餓えていれば良いのだとか遅咲きの花を見守るぐらいは偽善をやらせて貰うとかになるまで再教育か一度完全に人格を均して磨り潰すコース送りになってたりします?

天王寺「デメリット……逆に言うけども現代社会で何度も人生を送るのはデメリットやからな。俺、こうみえても10回以上横綱に昇格しとるけど結構苦しいところは苦しいで」

ゴンベエ「持論は持ってるけれども倫理観は基本的には現代日本人のままだ……自殺すれば次の世界に転生できるってわけじゃねえ。そういうことをしてると転生する権利を剥奪されて確実に地獄に落とされるらしい……ていうか転生者の中には生前に自殺した奴も普通に居るからな」

天王寺「虐殺はともかく産業破壊とかは現代日本以外の世界でやる奴はやっとる……繁忙期なのにティル・ナ・ノーグの学園都市に呼び出された社長がなんの躊躇いもなく経済による支配を企んでるで」

ゴンベエ「旦那、それネタバレ」

A 元々上には上がいるのを知っているので、上に怒られないぐらいには調子に乗る。
  転生先が気に食わないからリセマラしようとすれば転生者の資格剥奪はあります……虐殺はともかく産業破壊に関してはあんまり語ってないけども、一部の転生者はやっている。テイルズオブザレイズでとある転生者が経済による支配をやる予定。

ゴンベエ「いや……ゴリラ作者マジでなんも考えてねえな…………ん?」

天王寺「ちょっ、ダイレクトで質問来とるやん。困るで、ちゃんと質問コーナーあんのに送ってけえへんって」

ゴンベエ「え〜っと……」


Q 転生者にも色々とタイプがあるらしいですが、どういうタイプとどういう人が頂点に位置するんですか?

ゴンベエ「おぉ……今までは転生者の日常関係の質問を寄越さねえ奴等ばかりだと思っていたが、こういうのだよ。こういう感じの質問を待ってたんだよ」

天王寺「せやな。転生者という概念の設定ばかり語っててキャラを深堀りさせるタイプの質問あんま来てへんからなんや新鮮やな……けど、質問コーナーに送らなアカンからな!そこは今度から注意してな!」

ゴンベエ「え〜……転生者も色々とタイプがあるから細かに分ければかなりややこしい。バトル系、おっさんの趣味を美少女にやらせる日常系、普通の転生者、心理バトルエグいくらい強い転生者、どんな世界でも強い万能タイプと色々とある……オレと天王寺の旦那はバトル系特化の転生者で魔法とか体術とか一部を除けばなんでも出来る……あ〜……天王寺の旦那は回復系も出来るんでしたっけ?」

天王寺「ハッハッハ、コレでもなんでも出来る……俺だけを見ろ、この戦いは俺の物やって証明出来るからな……逆になんでお前回復系だけ出来ひんねん?」

ゴンベエ「オレも逆に聞きてえぐらいっすよ……料理のトップは閻魔の三弟子の相棒の味澤匠、高遠聖矢、秋山雀……」

天王寺「技術開発関係はぶっちぎりで浦原のおっさんやな……スポーツ系は色々と怪しいな……」


A 殴り合いのバトル系で1番強いのは磯野勝利(いそのかつとし)、2番目は墨村守美狐、3番目から10番目まではコロコロと変わりゴンベエは9番目、天王寺は6番目ぐらい

  殴り合い以外のバトル(遊戯王とかポケットモンスターとか)は1番は秋山亮、1番と比較しても似たりよったりな実力だけども2番は武東遊戯で同列だけども万能タイプな海馬瀬戸、3番目は高遠耀一、深雪がコレに分類されており12番目ぐらい

  技術開発関係は1番はぶっちぎりで浦原喜介、物凄い差が開いて2番目に阿雅佐博士、3番目に万能タイプな海馬瀬人

  料理関係はぶっちぎりの1位が3人居て閻魔の三弟子と呼ばれる3人の相棒の味澤匠、高遠聖矢、秋山雀

  日常系とかおっさんの趣味を美少女にやらせる系とか恋愛系とかスポーツ系の転生者には頂点は居ない。というかなにを持ってして頂点に位置するか曖昧である為に頂点の標が無い。日常系の世界に居たら色々とヤバい事をするという奴の代表と言えば高遠耀一と転生する度に櫻井孝宏キャラになる男、闇堕ち系ヒロインを作ったりヒロインを独身貴族にするクソ野郎である。


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ちょこっとテイルズオブザレイズ

 

 さて、読者の諸君。今回はちょこっとテイルズオブザレイズである。

 アリーシャとベルベットと結婚したゴンベエだが、その2人が1歩間違えればゴンベエしか止める事が出来なくなる要因を作ることになるがそこに至るまでのネタが中々に浮かばない。アリーシャとベルベットがベルセリアの最終戦までのLvまで高いどころかゴンベエがチート過ぎてその気になれば威嚇だけでヘルダルフを失神させる事が出来るというヤバいレベルなので、ネタが尽きたわけじゃないんだよ。やろうと思えばスキット大全集とか出来るんだけども、リクエスト的なのを送りやがる奴も出てきたんだよ。

 

 別にね、書こうと思えばイチャイチャは書けるんだよ。稀にエロいのを書きたいって思う時があるんだよ。

 

 例えばダ・ヴィンチちゃんに「平穏になったとは言え時折何故か微小な特異点が発生する。君はこれからその特異点で聖杯探索をする事が仕事になる……が、この仕事は一歩間違えれば大惨事になる命懸けの仕事だ。念には念を入れて後釜を用意しておく必要がある。なにここに居るのは人類の代表とも言うべき英霊達だ!君のような三流魔術師とすら名乗る事が出来ないレベルのカスみたいな魔術回路を持ってる人間と交配をしてもきっと優秀な種を残す!先ずはダ・ヴィンチちゃんで人体実験をしてあげるよ、男の子か女の子かは魔法か権能を使えないと選べないからそこだけは我慢してくれ」とか言わせて黛さん種馬になったり

 

 ニトクリスに「ほ、本来であればこの様な事はしませんがエジプトを含めた人類全ての危機、ファラオに相応しくない血筋ですが光栄に思いなさい!」と黛さん相手に言わせたり

 

 伊吹童子に「ねぇ、マスター、おねえさんスッゴい頑張ってるわよね!だからさぁ……ご褒美的なのをくれないかしら?マスターの作ってくれるおつまみも悪くないんだけど……へぇ……ねぇ、マスター………誰のおかげで人類史が救えてるのかしら?そう、そう……マスターが大好きな大きなおっぱいと大きな体を持ったおねえさんよね……ご褒美くれないとこの聖杯を藤丸くんの心臓に埋め込んで藤丸くんを殺さないと聖杯を摘出できない特異点、作っちゃおうかしら?」と主人公を遠回しに殺すと脅されて黛さんが魔力供給(意味深)したりとか

 

 メイヴに「英霊(私達)が聖杯を持って小さな特異点作って調子に乗ったら十中八九、人間(マスター)がやって来るわ!今までそれで事件を解決してきたけどなんでも主人公を味方につけた悪役は絶対に負けないらしいじゃない……だったら人間であるもう一人のマスターである貴方を味方につければいいのよ!大丈夫、私サーヴァントだから生でOK、じゃ早速支配させてもらうわよ」と黛さんが犯されて性的快楽で支配しようとしたとか

 

 ゼノビアに「ここに居る私は英霊の座にいる私のコピーで本体にはなんの映響も無い……記憶もなにも持ち帰らない……データの塊に過ぎない」

 ブーディカに「……そうよね、そうだよね……大丈夫、大丈夫……私はブーディカの記憶と人格を持った魔力の塊に過ぎない……」と英霊の座から呼ばれている自分は本物じゃないレプリカなのを理由に黛さんと浮気したりとか

 

 オリンポスで「この子に、この子に罪は無いわ!だからっ、だからせめてこの子だけでも!」と性的快楽を与えた後に処刑しようと考えていたデメテルが1発で黛さんの子供を妊娠して生き残る道を探したけども最終的にはゼウスと空想樹とかを色々と殺って子供を認知してもらえなかったから復讐者(アヴェンジャー)のクラスでカルデアに来て結婚を迫られたりとか

 

 プーリンに「あれ、おかしいな……どうしてこんなに涙が止まらないんだろう。君の子を妊娠しただけなのに、君に僕の母乳を飲んでもらっただけなのに、どうしてこんなに温かい気持ちになるのかな」と黛さんがプーリンに無かった人間の心を持たせたりとか。

 

 まぁ、とにかくエロいのも書けなくもないんだけどもそういうのを書くのって勇気いるじゃないか。

 テイルズオブザレイズ編もまぁ、そこそこ下ネタとか色々とやる予定だけども最低でも姫騎士アリーシャと導かれし愚者達を書き終えてからじゃないと書けない話が存在してるんだよ。でもね、ザレイズ編のネタが尽きないんだよ…………

 

 ということでちょこっとテイルズオブザレイズ編を書きたいと思う。

 一部のネタバレっていうかまだ完全に決まってないところもあるから書いているのと異なる場合があるので悪しからず。ネタバレ見たくないならばパスしてくれ。後書きにスキットは載せるから今回はそれで満足してくれ。

 

 

 

 

 

 

 んじゃ、ちょこっとテイルズオブザレイズ編である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから何度も何度も言ってますよね!俺はイクスじゃなくて白崎って言う日本人なんですよ!」

 

「日本なんて国は聞いたことは無いわ!イクス、中二病もいいけれども現実も見ないといけないわよ!」

 

 イクスになってしまった男こと白崎はイクスになってしまった罪悪感に耐える事が出来ずに逃げる。

 色々な人に迷惑を掛けているという自覚はあるのだが、それでもミリーナから逃げなければならない。

 

「ミリーナさん俺は中二病じゃないです!電子工学を学んでる工業高校の学生なんです!漁師じゃなくて電気会社に就職しようって頑張ってて……オタクな彼女もいました!!」

 

「………消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!消エロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ!!」

 

「俺は浮気はしたくないんです!オタクな趣味を持ってる美女なんて激レアなんですよ!」

 

「イクスは私の夫なのよ!!いい加減にそれを理解して!!」

 

「っく、逃げるしかない……この世界に魔法的なのが存在してるならば元の世界に戻る技術も存在している筈だ」

 

 イクス(仮)はミリーナから逃げまくる。

 しかし残念かな、ミリーナはイクスが逃亡しても何処に居るのか分かる様に手料理に自分の髪の毛を混ぜている。髪の毛は胃液で溶けないものでイクスの胃の中にはミリーナの髪の毛が混じっているのである。ミリーナは自分の一部が何処にあるのかを探知してイクスを探し出しているがそれでもイクスは逃げまくる。

 

 トムとジェリーなみに逃げるが、住んでた故郷が滅んじまった。

 流石のイクス(仮)もティル・ナ・ノーグを見捨てる事は出来ないので具現化に協力するが具現化するのにだけ協力している……鏡映点な英雄達とは全くとコミュニケーションを取らなかった。

 

「ホントにティル・ナ・ノーグってあったのね」

 

 グリンウッド大陸と共に具現化したエドナがティル・ナ・ノーグの存在を知っていた。

 

「ベルベット、ホントにティル・ナ・ノーグってあったみたいよ」

 

「あのブツブツが適当な事を言ってるわけじゃないのね……」

 

 エドナだけじゃない、ベルベット達ベルセリア組もティル・ナ・ノーグの存在を知っていた。

 ティル・ナ・ノーグ側から干渉する事は出来るが逆から干渉する事が出来たと言う一例を聞いたことは無い。しかしベルセリア組はティル・ナ・ノーグの存在を知り…………日本人であるナナシノ・ゴンベエの存在を知った。

 

「この人を探しています!どうか見かけたら連絡をください!この人を探しています!」

 

 きっと彼に会えば元の世界に帰ることが出来る。

 蜘蛛の糸に近い希望の糸を掴む覚悟でゴンベエが鏡映点の1人として具現化される事に期待を抱くのだが探しても探しても、どれだけ探してもゴンベエの映も形もあらず、ゴンベエが具現化されていないと仮説を立てた。

 

 ある程度は大陸を出現させたのでティル・ナ・ノーグはマシになるだろうと具現化した図書館も虱潰しで調べ尽くしたイクスだが元の世界に帰る方法は見つからず再び逃亡した。たまたま逃亡先でテレビを見つけた。何処の世界のテレビなのかと興味を抱いたイクスは休憩ついでにテレビを分解したら日本のブラウン管テレビだった。

 

「ここはダシュウの島や」

 

 追いかけてきたミリーナをリーダーとしたイクス捕獲部隊と共にテレビの世界に吸い込まれた。

 ダシュウの島と呼ばれる島に辿り着いたのだが近年ヨウツベと言う場所に若者が流れていっている事を困っていた。NHKが金を徴収しに来たが追い返した。ティル・ナ・ノーグに戻る為に色々な神様の協力を得ることになった。

 

「ち◯こマシーンは反則だろう!!」

 

 ダシュウの島近辺の神様であるニッテレンやエンタの神様は世界の果てまで行ってこいとは言わず24時間耐久鬼ごっこをクリアすれば力を貸すと言った。

 

「どうも、ゲームセンターCXの課長のアリーノです」

 

 次なる神、フジに協力を得るためにお台場合衆国にやってきた。

 ゲームセンターCXの課長のアリーノとゲーム勝負で勝てればゲームでフジを知っているギリギリス達が生息している場所を知ることが出来る

 

「このお台場合衆国もな、かつてはめちゃめちゃイケてる国やったんや」

 

 ギリギリスとギリギリなバトルの末にやべっち寿司でフジとの会合を果たす。

 フジがティル・ナ・ノーグに帰る為に協力する為にクイズヘキサゴン!と言いたかったがあまりにもアホが多すぎたので、色とり忍者と数取団とシンクロナイズドテイスティングで勝負をし見事に勝利を果たす

 

『トリセツ!』「取扱説明書!」

 

 次なる神のテレアーサーの元に向かう為に短縮鉄道の夜を過ごす。

 ジェイドを始めとするおっさん達が短縮鉄道を動かす為に言霊を繋ぎ合わせる。

 

「テレアーサーなど、とうの昔に果てた……かつてテレアーサーが従えていたこの領地は我が魔王、オーマジオウの領土となっている」

 

 テレアーサーの領地に向かえばテレアーサーは死んでいた。

 だが代わりに最低最悪であり最高最善な最強の魔王、オーマジオウが居た。

 

「お前達に力を貸す条件はただ1つ……甲子園の魔物を倒してこい。テレアーサーは最後の最後に仮面ライダーは甲子園の魔物に勝てない呪いを掛けた。仮面ライダーの王である私は甲子園の魔物だけは倒せない」

 

「あ〜放送局がね」

 

 オーマジオウの出した条件を飲んで、イクス捕獲部隊と手を組んで甲子園の魔物と野球勝負。

 接戦の末になんとか守り抜いて勝つことが出来たイクスは次なるチャンネルに向かう。次なる神はテレート

 

「テレートは死にました」

 

「ええっ!?」

 

 地震が起ころうが台風が起きようが基本的には知らんぷりな方針のテレートは何時の間にか死んでいた。

 テレートは死んでいたのでもうダメかと思っていたがなんでもテレートの力が宿った魔術の札が存在しているらしい、しかしまぁその魔術の札を扱うには知識が必要でテベスという神の領地にいるある人物に尋ねる。

 

「遊戯王はアキ子におまかせや!」

 

 アキ子という人物に魔術の札の使い方を習い、テレートの力を宿したカードを使えるようになった。

 テベスの力も借りることが出来てNHK以外の神々と協力してイクス達は無事にティル・ナ・ノーグに帰ってきた。

 

「……」

 

 テレビの世界に引き込まれた事で楽しかった時間を思い出す。1枚の遊戯王カードを見て白崎だった頃を思い出す。

 彼女や友達、家族、妹などの大切な人と死んだわけでもないのに別れてしまい涙を流している。気分が沈んでいる。ミリーナはどうにかしてイクスを元気づけたいと学園都市に居るワイズマンを尋ねてイクスを元気づける催し物をしたいという。

 

 ワイズマンはミリーナのその心意気の為に頑張ろうとし…………呼び出してはいけない男を呼び出した。

 

「このクソ忙しい繁忙期に本社とブルーアイズランドを呼び出すとは余程死にたいらしいな?」

 

 転生者16期生で最強と言われる転生者、海馬瀬戸。

 アミューズメント産業の若手の新鋭だが恐ろしい速度で成長していっている企業の社長であり、クソ忙しい時期に会社とブルーアイズランドを呼び出したことにキレてワイズマンや学園都市の住人の殆どの力を奪い取った。

 

「ふっ、何時ぞやは世話になったからな……ブルーアイズランドの無料パスだ、保護者の分もあるぞ」

 

 ライフィセットやエルにブルーアイズランドの無料年間パスを渡す社長。

 ご丁寧にアリーシャやベルベット、ルドガーの分もある……他は有料なのである。お友達料金は無いが社員割引はある。

 

「社長、ティル・ナ・ノーグの経済状況ならびに文化レベルを把握致しました。こちらが資料です」

 

「ふぅん……魔術等の神秘的な道具と衛生面と食事、倫理観以外は中世に近いか…………ならばウォシュレットの開発でもするか」

 

 直ぐに動く社長。

 呼び出された以上は異世界でも商売を始めるという商魂逞しい姿を見せつける

 

「そ、そんな事をしたらティル・ナ・ノーグの経済が狂うじゃないですか!」

 

「それがどうした?お前達消費者は安くて上質な物を好んでいる筈だ……悪いが飲食業に参入させてもらう」

 

「ダメです!!それだけは絶対に…………デュエルです、デュエルモンスターズで俺が勝ったら帰ってください!」

 

「ほぉ、魔術の札でオレと戦おうと言うのか」

 

 かなりヤバイ商売を始めようとする社長。

 それをやればティル・ナ・ノーグの経済が狂うと直ぐに割り出したイクスは社長を相手にデュエルに挑むが負けてしまう。

 

「イクス……大好きよ」

 

 勝てば社長は帰る、負ければイクスは命を捧げる。

 イクスは敗北した為に魂を奪われそうになるがミリーナが身代わりになった。周りはいくらなんでもやり過ぎだとミリーナの魂を取り返す為にそして社長に飲食産業に参加させない為に社長への挑戦権を獲得する大会、KCグランプリが開幕する。

 

「イクス……」

 

 最終的にはイクスが社長と戦うことになった。

 魔術の札の3本勝負、1つ目の次元領域決闘でイクスは3枚の神のカードにやられてしまい、昏睡状態になっていた。

 ミリーナは睡眠をまともにせずにイクスを見守る。

 

「あんなの……あんなのどうやって勝てって言うのよ!!!」

 

 神のカードを、三幻神を目の当たりにしたリタは叫んだ。

 リタはどうやってあんなのを倒せと言うのかわからなかった。リタだけじゃない、具現化されて現場に居合わせていた多くの鏡映点の面々も思っていた。社長が使った三幻神を見てコイツには勝つことが出来ないと悟らせた。

 

「…………コロス」

 

「待ちなさい!あんたは何を見ていたのよ!!」

 

「ゴンベエは言っていた…………絶対に喧嘩を売るなと…………海馬を殺すことは出来ても海馬から守る事は出来ないと……」

 

 これ以上イクスを傷つけない為に社長を殺そうとするが……ベルベットとアリーシャに止められる。

 かつて会合した際にゴンベエから絶対に喧嘩を売るなと言われていた事を思い出し、自分達では絶対に勝つことも倒すことも出来ない存在である事を思い知らされる。

 

 残る2つの決闘も社長が圧倒的なまでの力を見せ付けた。

 

「ふぅん、生憎とオレは無益な殺生は好まないタイプでな。貴様には海馬コーポレーション・ティル・ナ・ノーグ支社の平社員からスタートしてもらう。貴様は寿命で死ぬかオレが寿命以外で死ぬと同時に死ぬしか道が無い会社の奴隷だ」

 

 そしてイクスは海馬コーポレーションに就職させられる。

 平社員なので週休2日制度で働くことになりサービス残業は一切無い割といい感じどころか物凄く優良な会社だった。イクスは社長が転生者である事を知れば自身は極々稀にいる死んでもいないのに転生している自分達が暮らしていた日本とは異なる並行世界の日本から謎の存在に転生させられた存在である事を知り、もしかすると2度と元に戻ることが出来ないかもしれないと知るが1%でも可能性があるのならばそれに賭けたいと社長に申し出る。

 

 社長はワイズマンから奪った力などから異世界から転生者を呼び出す。

 

「あ〜僕とゴンちゃん達はティル・ナ・ノーグに呼び出す事は出来ないっぽいのかな?」

 

「あたちには社長から与えられた億万長者になれるスペシャルなミッションがあるのよ……1回呼び出しをすっぽかしたからちゃんとしないと」

 

「わーたーしーが来たぁ!……社長、何時ぞやは本当にすみませんでしたぁ!!」

 

 呼び出された転生者は力を合わせて……ティル・ナ・ノーグという世界の世界征服を目論むのであった。

 

「そういえば木馬はいないんで──げふごぉ!?」

 

「社長、申シ訳アリマセン!彼ハ無知ナ為ニ聞イタノデス……ドウカ1度ダケ許シテクダサーイ」

 

「ふぅ…………今回だけだ。次は無いと思え」

 

 触れてはいけない禁断の扉に、逆鱗に触れかけるイクス。

 

「ゴン、ベエ……」

 

「……オレはゴンベエじゃない、マサタカ・ニノミヤだ」

 

「なに言ってるのよ……随分と待たせて」

 

「違うと言ってるだろう」

 

 現れるゴンベエじゃないと語るゴンベエ。

 理論上は呼び出せなくもないが0に近しい彼と再会して喜ぶアリーシャとベルベットだが彼は冷たくあしらう。

 

「あの時僅かに採取出来てた細胞を使ってるのよ……だから浜辺で出会った時で時間は止まってるの」

 

 遂に現れた偽物のゴンベエの真実を知る。

 

「俺……分かってなかった……導師になるって事が、皆が待ち望んだヒーローになるって事がどういう意味なのかを分かってなかった……無能で馬鹿で史上最低な導師だよ」

 

「スレイ青年、それが分かれば1歩前進する事が出来ている……ここに居る君も私も本物じゃない。しかし心は本物の筈だ……だったら手を差し伸べよう。それが君の選んだ導師(ヒーロー)と言う道の筈だよ!」

 

 時には道を示す!時には非道に走る!十人十色な転生者達。

 

夏春斗(ゲパルト)さん、社長に勝てますか?」

 

「無理だね……飲食産業ってのは余程なディストピアな社会じゃない限りは成立する産業だよ。アレを使っている以上は質と言う点では最上級な物さ……ただアレは食材は出せても料理は出せない。パンを売れば生計を立てることは出来るけれどもアレを持ってる相手に真正面から飲食産業で立ち向かうなんて拳銃を持った人間相手に裸で殺してくださいって言ってるも同然だよ……あんたにゃ悪いけどもあたしはこの飲食産業、海馬の傘下にくだるよ……あいつ、高級店を出してない、アレがある以上はちょっと高めな高級店を出せるってのに勿体ないね」

 

「彼は元々は貧乏人で高級な料亭とか苦手だからね」

 

 全てはティル・ナ・ノーグの世界征服の為である。

 様々な転生者を呼び出すが殆どの転生者が社長に勝つことが出来ないと判断し、悪行を重ねていない社長に対して文句を言わずに傘下にくだる。

 

「海馬よ、コレは本来禁じ手の筈だ……ワシ達転生者は同じ世界に居るならばまだしも異なる世界に居る場合は干渉をしてはならぬ決まりがある」

 

「ならば何故黒の暴牛副団長代理を辞めてまでKC(うち)に就職をした?オレを抹殺に来たか?」

 

「…………お主ならば人類史で唯一成し遂げる事が出来ていない世界征服を出来るかもしれんとな…………この一件、地獄の転生者運営サイドはどう動くか…………あのイクスを生贄に捧げればそれで丸く納まるか?」

 

「白崎という日本人をイクスにしたのは並行世界の謎の存在Xだ。オレ達が大暴れするならばXも何かしらのアプローチを掛けてくるかもしれん……もし放置するのであればそれはそれで別に構わん……オリジナルのイクスを呼び出す為に穢土転生の術をするぞ」

 

「別にそれは構わん……だが、あのミリーナはオリジナルでも2番目でもなく白崎に好意を持っておるぞ?性格はともかく女性としては一流だがイクスは受け入れるつもりはないようだ」

 

「お前が同じ状況ならば受け入れるか?」

 

「…………無理じゃの」

 

 イクス、白崎はどうなるのか。

 

「イクス、デキちゃったみたい」

 

「ミリーナさん、何度目の想像妊娠ですか!俺は社長に不妊の魔術を掛けられてるので妊娠は絶対に無いです!ていうかなんですか?後最初のミリーナさん、自分の分身になに言わせてるんですか!?卑劣様が穢土転生の術で最初のイクスを呼び出して生き返らせたんだから幸せにやっといてくださいよ!」

 

「……彼女が、私が不憫に思えて……」




スキット 美味いのは当たり前だから

エドナ「貴方、アリーシャに会うまでは色々と勉強をしていたのよね?」

ゴンベエ「文武両道にな……武の方に関しては思い出させないでくれよ。普通の人が頭のネジを狂わせる事だから」

エドナ「じゃあ、なにを勉強してたの?数学?歴史?」

ゴンベエ「そういう一般教養も勉強したけども…………飲食店経営の勉強とかさせられたな」

エドナ「経済の勉強ってこと?」

ゴンベエ「ん〜まぁ、平たく言えばそうだけども物凄く頭を使うぞ?」

アリーシャ「なんの話をしているんだ?」

ゴンベエ「飲食店経営に関する勉強を昔修行の一環としてやってたって話だ」

アイゼン「随分と変わった勉強をしているな……いや、それを言えば世界一美味い食べ物はなんなのかも変わった勉強か」

ザビーダ「また変わった勉強をしてるねぇ……」

ベルベット「飲食店経営ね……で、どんな感じの勉強をしたの?」

ゴンベエ「あ、聞くんだな」

ベルベット「あんたが受けた授業なんでしょ?じゃあ、しっかりとした授業でしょ」

ゴンベエ「え〜っと、それぞれに間取りとか周辺地域がどんなんなのか決められた土地があるとしてそこでどんな飲食店を経営すればいいのかという授業をした……ただ単に経済学を学べばいいって理由じゃない、価値観も考えないといけない」

ザビーダ「価値観?」

ゴンベエ「大手の会社のチェーン店じゃなくて個人経営の飲食店だ。個人経営の飲食店は仲間な空気を作れば入りづらい、でも本に載らないレベルならば地元のお客様を大切にしないといけないとサービスやコミュニケーションを大事にする。しかし最近の若者はシンプルに美味い飯を自分のペースで食いたいだけでお友達を作りたいわけじゃないんだ。友達は友達で別にいるからいいんだ、ゆっくりと飯を食うのが目的で顔とか覚えられるの嫌なんだよ」

ザビーダ「そう、なのか?」

ゴンベエ「グイグイと来るタイプが苦手な子が増えてるんだよ……他にも出前や弁当販売をするとか、どういう感じの路線で経営をすればいいのか」

ベルベット「味が美味しいじゃダメなの?」

ゴンベエ「日本って国は飲食の最低基準が滅茶苦茶高い……余程なカスな店を引き当てなければある一定以上の味は保証出来る。どれだけコミュニケーション能力や雰囲気作りや値段を良くしても不味い飲食店は流行らない。大前提として料理の味が美味しいのは当然なんだ、問題はそれ以外をどうするかだ……例えば1500円以上頼んだらアイスクリームをサービスするとか、アイスクリームを置いてるけどもアイスクリームの種類を豊富にするとか……俺がやった時は工業地帯だったからおにぎりとかサンドイッチとかの持ち帰る事が出来るタイプの飲食店は行けるけれども高級志向とかちょっとお高めとか店内でゆっくりとゆったりと飯を食うって言う飲食店は流行りづらいと言われたよ」

アイゼン「なるほど……確かに工業地帯にはちょっと高めなワンランク上の店よりもサンドイッチやおにぎりなんかをテイクアウト出来る飲食店の方がありがたいな」

ゴンベエ「そういうこと……前にメルキオルのクソジジイが幻の世界でベルベットの友達がベルベットのキッシュを売ってるって言うけどよ、味は美味くても使い道によっては売れねえ商品になるんだ……俺の記憶に間違いが無ければ大手のグルメ雑誌で1位に載ってた店が実在しなくて偽のレビューだけで1位を取ったっていう一例も存在してる……本に載ってない載せてもらうつもりはないけど1流と呼べる飲食店はどうやって経営をする?」

アリーシャ「……難しい問題だな。本と言う1つの(しるべ)があればこの店は美味しいと言えるのだが……」

エドナ「……………この問題、正しい答えあるの?」

ゴンベエ「頭と心で理解と納得する事が出来る答えが正しい答えだ……まぁ、頑張って考えろ。商売や経済学を学ぶ授業は難しいぞ」


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悲しい過去が無くても強い信念が無くても

転生した世界によっては結婚したりもしているゴンベエですが、ゴンベエや他の転生者達の結婚生活の様子を知りたいです。



…………………質問じゃないけども見たいって人、多いのだろうか?
言っとくけども、作者は基本的にはリクエスト受け付けてねえんだよ?作者のクソみたいな技量を舐めるなよ


 アリーシャに脅されてから1週間が経過した。結局どうなったかって……アリーシャもベルベットもオレの嫁になったよ。

 どっちが正妻なのか争う正妻戦争の1つでも勃発すんじゃねえかと今でもヒヤヒヤと怯えているが意外にも2人は喧嘩はしない。共に死地を歩んでいたから、地獄を見てきたからか2人の心はとても強い。折れない強靭な心は実にいいことだ。

 

「ふぁ……」

 

 そんなこんなで朝、目覚める。

 手を動かそうとするが違和感を感じるので何事かと思っていると右腕をアリーシャが、左腕をベルベットが抱き締めていた。

 え、夫婦なんだから一緒の布団で寝るものだろ?幸いにもキングサイズ以上のサイズのベッドだからな。

 

「もうちょっと寝転んどくか」

 

 ベルベットもアリーシャも色々としてくれている。疲れが溜まっているんだから休む時には休んでもらわねえと困る。

 起き上がるのをやめて天井を見る。ベルベットが清潔にしているから天井にはシミ1つ無い…………しかし、これでいいのか?

 オレはテイルズオブゼスティリアもテイルズオブベルセリアの原作を知らねえ、ベルベットもアリーシャも重要なキャラな筈だ……まぁ、こんな事を言ってしまったら身も蓋もない話だけども、二次創作におけるオリ主って原作キャラをNTRする奴でもある。

 

 もしかしたらベルベットも本当は運命の相手と結ばれるかもしれなかった。

 もしかしたらアリーシャも本当は運命の相手と結ばれるかもしれなかった。

 オレがアリーシャやベルベットを好きだと言いまくり、口説いたならばまだしも……多分だけどもアリーシャもベルベットも吊橋効果でのフラグだろうなぁ……その手のフラグって下手すりゃ離婚案件やDV案件なんだよな。

 

 でもまぁ、ゼスティリアが分かりやすい世界で良かったとは思うところもある。

 ヘルダルフと言う戦争を裏で手引している災禍の顕主と言う明確に分かりやすい悪を倒せば基本的にはハッピーエンドを迎える世界だ。

 ONE PIECEやブラッククローバー、ナルトなんかは主人公を鍛え上げないと何処かで詰んでバッドエンドを迎えるがこの世界は別にオリ主が好き勝手に暴れても問題のねえ世界…………クソみてえな世界で1番のハズレと言われて納得する時があるけども。

 

「ん……起きてたの?」

 

「ボーっとしてた」

 

「そう……じゃあ、私もあんたと一緒にボーっとしてるわ」

 

 10分ぐらいしたらベルベットが目を覚ました。

 ベルベットはオレが既に目を覚ましていた事に気付いてなにしてたか聞いてくるのでボーっとしてた事を言えばベルベットもボーっと天井を見つめている。ゆっくりと寝転がってゆったりとボーっとしている。ただそれだけの事だが、スゴく落ち着く事が出来る。

 

 こうさ、剣と魔法のファンタジーに憧れる子ども心はあるにはあるよ。

 だが、なんだかんだでほげぇ~っとする時間が人間一番大事だとオレは思っている……………

 

「ベルベットは余計な事を考えなくていいのか?」

 

「ええ……あんたとこうしてるのが1番気持ちいいわ」

 

 家族のこと、復讐のこと、思えばベルベットは色々な思念に囚われていた。

 ライフィセットがマオテラスに、カノヌシが人間になり、今を生きる人間になって笑える最後を迎えたらしい。

 まだまだやらなくちゃならねえ問題は山積みだが、それでもこうした何気ない日常は楽しい。

 

「…………幸せってこういう時間の事よね」

 

「ああ、そうだな……日常の風景こそ、至上の幸せだな」

 

「……ゴンベエ、ベルベット、おはよう……」

 

 何気ない時間を過ごしていればアリーシャも目を覚ました。

 これで何気ない時間は終わりになってしまうが、この何気ない時間はほんの一時だからこそいいんだ。アリーシャとベルベットは何時もの服に着替えるのでオレは別の部屋で着替えた。

 

「各村の村長から通達があったと思うがこれからマイナンバーの制度を導入する。マイナンバーとはその人に振られた番号だと思ってくれればいい。何故この様な事をするかと聞かれれば戸籍という物をハッキリと記録するためだ……お前達自身が住んでる村に正確に何人が住んでて等の情報が欲しい。マイナンバーが登録されている人間はオレの領土の人間、そうでない人間は行商人……もしマイナンバーも無いのに村に住んだり長期滞在したりする奴等が居ればそれは案外、暗殺者なのかもしれない」

 

 一応は領主なので領主の仕事をする。

 この一週間アリーシャやベルベットにこの国の文字を翻訳して読んでもらったのだが、子爵だか伯爵だか知らねえが端っこの領地で名産品らしい名産品も売っていなかったので割と見捨てられている状況だった。

 

 曲がりなりにも領主の領地なのに見捨てるとかどうなってんだよと思いつつも立て直しをする。

 と言っても難しい制度は導入しない。税金は少し高くするが小学6年生レベルの知識を授ける人間を各村に派遣、医療費はオレに申請すればタダ、とまぁ、日本人の倫理観とこの世界を合わせた感じのちょうどいいぐらいの事をしている。

 

 現在もそう、戸籍をしっかりと作る。マイナンバー制度も導入する。

 各村の村長に通達したけれども、今度からはマイナンバーカードを村の5歳以上の人に配る制度を作ることにした。

 このマイナンバーカードは保険証やオレの領地の領民である事を示すもので、合成樹脂のプラスチックで出来ている物であり偽造は早々に出来ねえ。

 

「じゃ、写真を撮るから……ああ、変顔とかすんなよ。一瞬でパシャッで終わるから」

 

 顔写真付きのマイナンバーカードを作る技術は今のオレにはねえ。

 合成樹脂のプラスチックで出来ているカードを作るのが限界だが、それでも十二分な効果を抱いている。具体的に言えばマイナンバー見せろでそいつが黒か白かが分かる…………戸籍の制度は海外にもあると思うが、少なくともこの世界には無かった。

 

「写し絵みたいに顔がくっきりと残ってる…………天族の術なんかを一切用いていないのにこんな事が出来るだなんて不思議ね」

 

 この村の人達をと一度に全てを作らずに日を分けて顔写真を撮り、写真を現像するのだがエドナは驚いている。

 スレイ達の前で写し絵の箱を使ったが実際に写真として現像していない。実際に写真として現像した現物を見ることは初だ。

 

「……流石にやりすぎじゃないの?」

 

「やる以上は徹底的にしとかなきゃならねえだろ?」

 

 スレイとロゼの写真を10枚ぐらい刷る。

 スレイには悪いけれども、お前が無能な導師で最悪な人間を従者にしてた。それを知らなかったならばまだ許されていたが、それを知っていた上で、それを認めた上で、従者になってもらっていた。

 

 誰だって失敗の1つや2つ、するものだ。

 だが、スレイのは失敗成功じゃなくて単純にアホだった……アホを祀り上げていた方が楽なのは分かるけれども、そういう次元じゃなかった。だからこっちも徹底的にする。スレイとロゼの顔写真を村の掲示板に貼り付けてセキレイの羽お断りの看板も立てる。それだけでなくセキレイの羽の正体が風の骨であった情報をバラまく。無論、真偽の程は不明だ。何故暗殺者がキャラバン隊なんてものをやってるんだ?という疑問はある。勿論、オレも持っており、何やら重要そうな事を背負っている……だからどうした?な話だが。

 

 中二病患者な暗い過去を持っていて見ている人間に同情や共感を思わせる?笑わせるな。

 如何に暗かろうが道を踏み外す奴は大抵はクズだ……皆が決めたルールに関してそれは今の時代に合わないから違うんじゃないのかと最もらしい意見を述べるのならばまだ言葉を飲み込む事が出来るが、それでも殺し屋を続けているのはアウトだろう。

 

 オレは苦しい過去はあったがそれはそれ、これはこれと割り切ってるんだ。苦しい過去はあっても前を進まないといけないのが人間で、挫けるなとは言わない、だが立ち上がれとは言う。悲しい過去が無ければ、重い過去を背負っていなければ、強い信念が無ければ強くなれない?だったらオレはその真逆を言ってやろうじゃねえか……悲しい過去も重い過去も強い信念も無いがそれでも強えは1番スゲえぞ。

 

「はい、キャラメルね」

 

 マイナンバーを作るための写真を撮り終えた(今日の分は)ベルベットは顔写真の撮影に協力してくれた人達にキャラメルを渡す。

 こういう感じのアメとムチは割と大事、生かさず殺さず生殺しなのが領地開発のコツだとアイツは言っていた。今日の分の仕事を昼過ぎまでに終えた。1日でやる仕事を半日で終わらせたが、所詮は中世レベルの仕事……IT導入してたら確実に大変な事になってたな。

 

「おかえり、お兄ちゃん……どうだった?」

 

「全然だ」

 

「…………どうなってるんだ?」

 

 領地を経営する一方でアイゼンが独自に動いてくれている。

 なにをしているのかと聞かれれば天族探し……スッゲえめんどうな事にこの世界は宗教の信仰をしておかなければ滅んじまう世界だ。

 加護領域を展開してくれる天族探しをしてくれるのだが…………天族が全くと言って見つからねえ。その事に関してザビーダは首を傾げる。

 

「今は災厄の時代でもあるがそれと同時に導師の誕生が両国に響き渡ってやがる、だったら天族が加護領域の1つや2つやってやろうじゃねえかって動くのが今まであったってのに」

 

 既に導師誕生の噂はハイランドもローランスも知れ渡っている。

 それなのに全くと言って天族の姿を見ることがねえ。天族にとっては穢れは毒と同じ、人間が信仰をしなくなる云々を除いても加護領域を展開してくれるは互いにメリットな筈だ。アイゼンに誰でもいいので加護領域を展開する仕事をしてくれる天族探してきてくれと頼んだんだが、全くと言って見つからねえ。

 

「1000年の間に、死んだ…………」

 

「その線はなくもないが、だとしても全くと言って見つからねえのはおかしいだろう。ムルジムみてえに憑魔化した線もある」

 

 あまりにも見ないのでベルベットは1000年の間に皆死んでしまったじゃないか説を立てる。

 その線も無くはないのだが、アイゼンが言うにはノルミン天族とかは見つけ出す事が出来ているらしい。普通の天族が見当たらない。

 

「こういう時にグリモワールが居てくれたら、アドバイスの1つでもくれるのに……」

 

「まぁ、大丈夫じゃねえの?ビエンフーはどうか分からねえけどもあの人ならなんだかんだで生き残る」

 

 黛さんもなんだかんだでしぶとく生きてるみたいに、何処かを根城にして生きてる筈だ。

 グリモワールからの意見が欲しいというベルベットの意見に関しては賛同するが無いものは仕方がねえと受け入れる……が、問題はここからだ。

 

「冷蔵庫の量産、新築工事、下水道工事、電気工事……どれもこれも時間と金さえあれば解決する問題だ、冷蔵庫の量産はガッツイた方がいいが基本的にはこのまま行けば安定した領地経営が出来る」

 

 金と時間があればどうにでも出来る事は後回しでも問題ねえ。

 問題なのはヘルダルフだ……いや、ヘルダルフ自身はそれこそ威圧するだけで心を折る事が出来るけども、ヘルダルフは裏で戦争を手引してる。

 極端な話、オレがハイランドの人間として戦争に参加してローランスを倒せばそれはそれで終わりそうな話だけども、それこそがヘルダルフの思う壺、アリーシャ的にもNGだ。

 

「う〜ん………………後で雷を落とされるのを覚悟するか」

 

「ゴンベエ、今度はなにをするつもりなんだ?」

 

「ゼンライのジジイに会いに行く」

 

 色々と考えた、考えたのだが天族の存在は必要不可欠だ。

 嘗て最強の女性転生者の墨村守美狐はハイスクールD☓Dの世界で「人間同盟は人間が神から独立する為の組織であり、神様だから悪魔だから偉い、偉そうにしていい時代はとっくの昔に終わったのよ……この科学技術が発展した現代で宗教の自由が許されている日本で他国のよくわからないルールがある宗教は必要なのかしら?」という事を言ってて色々とやってたけども、この世界は宗教と世界平和が密接に繋がってる。宗教と政治が絡み合えばロクな事にならねえのは地球の歴史が証明している……神権政治なんて時代は現代社会ではとうの昔に滅びた筈なのに、この世界じゃ生きてる。

 

「ゼンライって、ニャバクラの常連のスケベジジイのこと?」

 

「ああ…………ゼンライのジジイには悪いけれどもまだまだ長生きしてもらわねえといけねえ……一応は天族の代表になってもらわなきゃ困るんだよ」

 

 ゆっくりと茶を飲む時間なんざ与えねえ。重たい腰を上げてゼンライのジジイが居るところに、天族の社であるイズチに向かう事を決意する。

 ゼンライのジジイの名を出せばベルベットはあのゼンライと意外そうにするというか軽蔑している。風俗の常連のジジイに頼らなきゃいけねえのはシンプルに嫌だよな。

 

「ゴンベエ、ジジイ殿に会ってどうするつもりなんだ?」

 

「あのジジイは天界から降りてきた天族でコミュニティが広いから色々と情報を聞き出す、例えばマオテラスの試練神殿の居場所とか力を持った天族は何処に居るのかとか天族のコミュニティを紹介してもらうとか……あのジジイには天族の代表として生きてもらわねえと困る」

 

 とにもかくにも平穏な世の中を築き上げるには天族の力が必要だ。

 ヘルダルフが何処に居るのか分からねえけども、ヘルダルフは白旗を上げてこねえ……オレやアリーシャが寿命で死ぬまで逃げ切ってから世界を裏で支配したりしようと企んだりしてもアイゼンとザビーダとエドナは天族だから普通に寿命勝ちは無い、出来ない戦法だ。

 つまりは今のこの災厄の時代を裏で操りまくれば、世界を穢れに満ちた災禍の時代に作り上げる事が出来る……ていうかヘルダルフってなにしたいんだ?世界征服?世界征服ほど難しいものはないぞ……まぁ、マオテラス引き剥がしたら殺すけども。

 

「ゼンライのジジイは結局のところどうしたいのか?天界から降りてきた事を後悔しているのか、絶望してるのか……後、スレイに関して色々と言わせてもらう」

 

 純粋なのは決して善でもなければ悪でもないんだよ。

 オレ以上に人生経験豊富な癖に……は、ダメだな。何百年も生きてるから精神性大人だろうは勝手な偏見だ。

 どれくらい時間がかかるかは分からないのでとりあえずはと2週間分の仕事を終わらせて孤児達に初給料だとお小遣いを渡す。

 

「んじゃ、出発するか」

 

 大地の汽笛を走らせてイズチを目指す。

 ねこにんの里のニャバクラに行けば確実に会えるという保証は何処にもないのだから、可能性が高い方に賭ける。領主が領地を勝手に出て行っても問題無いか?となるのだが、一応はあれこれ指示を出したり電話を用意している。なにかあった時は電話をかけろとだけは言っているので問題は無いだろう。

 

「この辺りの筈だが……」

 

 レディレイク付近にまで大地の汽笛を走らせて山を登る。

 アリーシャが先導をしてくれるのだがアリーシャもアリーシャで偶然にイズチを入ることが出来たらしく、具体的に何処にあるのか覚えていない。右を見ても左を見ても普通の山道

 

「ゼンライの爺さんは確か、人を寄せ付けねえ結界を貼ってるらしいぞ?」

 

「……私とゴンベエとアリーシャは無理ってところかしら?」

 

「いや、人を統べる者の血筋ならば侵入出来る様に細工しているらしい」

 

 そういえばと思い出したかの様にゼンライのジジイの結界の内容を語るザビーダ。

 人間である自分達にはイズチに足を運び入れる事は不可能と言っているみたいなものだとアイゼン達に託そうかと考えているがアイゼンは人を統べる者の血筋ならば入ることが出来る……要するに王族なら入れるというわけだ。

 

「結界があるか…………闇纏・次元斬り」

 

 結界があるならば結界がある空間ごと切り落としていけばいい。

 マスターソードを抜いて闇纏・次元斬りで空間ごと切断すればなにも無かったただの獣道から綺麗な草原が見えた。

 

「…………まるでメルキオルの幻術ね」

 

「いや、ゼンライの爺さんはメルキオル以上の術者だよ……つーか、それを力技で通るか普通?」

 

「仕方がねえだろ、通行許可証みたいなのを発行してねえんだから」

 

 メルキオルの幻術並みに凄まじいなと圧巻するベルベット。

 ザビーダはゼンライのジジイがメルキオル以上の腕前を持っており、それを力技で突破したオレに対して呆れている。

 

「ゴンベエはやらないだけで、力技は出来ないわけではないのです……前にも来たがとても澄んだ爽やかな場所だ」

 

「ゼンライの加護領域……考えてもみれば人間による信仰を一切得ていないのにここまでの加護領域を作り上げるとは、流石は雷神ゼンライだ」

 

 ゼンライの加護領域の中に入った。

 アリーシャは胸の内が更にスゥッとしたのか心地良さそうにしており、アイゼンは全くの人間の信仰を得ていないのにこの領域を作り上げたのかと再認識して驚いてる。ゆっくりと一歩ずつ足を踏み入れてイズチが何処にあるのか、ここまでくれば流石にアリーシャも覚えているみたいでこっちだぞと道案内をしてくれて、住居が並ぶところに辿り着いた。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「あ、いえ……前に来た時はまことのメガネの破片でしか天族の方々を見ることが出来ませんでした。ですが、今ではこんなにも多くの天族の方々を見ることが出来るようになるとはと……」

 

「私達を見れるようになっただけで喜ぶだなんて、変なの……っ」

 

「おっと……随分と手厚い歓迎だな」

 

 アリーシャがパワーアップしてることを喜んでいると突如として雷がオレ達に向かって落ちてきた。

 エドナは驚いて腰を抜かすがこの程度ならば反応する事が出来ると木製の盾を投げて雷を防いだ。

 

「スゥ~…………天族の皆様!我々はハイランド王国から参った人であります!皆様に危害を加えるつもりはありません!」

 

「話がホントなら、前にここに1回アリーシャが来たでしょ?こんな辺鄙な田舎なんだから、人間の顔ぐらい覚えてるでしょ!」

 

 オレ達が害意があるものだと思っての攻撃だ。

 アリーシャもエドナもそれを直ぐに察してくれたので敵対する意思は無いことを伝えれば天族の連中がアリーシャの事に気付いたのか不自然な雷は無くなった。

 

「よぉ、イズチの連中……何百年ぶりだ?」

 

「お前は、ザビーダ……何故憑魔狩りのお前がここに?ここは穢れ1つ存在しないイズチ、お前の出る幕は無い!」

 

 ザビーダを見て驚くがこの場にザビーダが出る幕は居ないとキッパリと言い切る。

 そういう反応はされて当然と言えば当然だろう。ザビーダ自身もそういう扱いされても文句は言えねえ事をしちまってるからなんも言わねえ。

 

「ここにゼンライって聖隷が居るでしょ?色々と聞きたい事があるから呼んでちょうだい」

 

「ゼンライ様を?」

 

「色々とお尋ねしたい事がありますので……是非とも面会をお許しください」

 

 ペコリと頭を下げるアリーシャ。オレは下げねえ。ベルベットも下げねえ。アイゼン達も当然下げない。

 思いは一応は通じてるみたいで、どうすればいいのかと困惑している天族達…………

 

「その…………今じゃないとダメか?」

 

「居ないのか?」

 

「いや、ゼンライ様は居る……居るにはいるのだ、ぬぅおお!?」

 

「っちょ、話し合いの場だぞ!?」

 

 ちゃんと話し合おうと決意してやってきてるのにまた雷が落ちてきた。

 この野郎、とっとと出て行けってことか?そんなにオレの事が邪魔なの……なんか天族達が慌ただしいな。

 

「……ゼンライ様はたった今、ニャバクラから帰られまして物凄く酔っ払っております」

 

「……ジジイ殿……」

 

「酒の勢いで雷をホントに落とすってろくでなしのジジイね」

 

「力を持った老人はホントに老害だな」

 

 アリーシャとベルベットとオレはゼンライのジジイに対して軽蔑の心を持ってしまった。

 明日には酔いは醒めているだろうから、とりあえずスレイが住居にしていた家に泊まってくれと言ってくれたので一旦足止めをくらった。




赤羽「フー……Q&Aのコーナー!活動報告で質問を寄せているのでどしどし応募してください。全て答えれるかどうか怪しいです。作者、基本的になにも考えてないので。メインパーソナリティは僕、赤羽と」

大輔「アシスタントの大輔だ……つーか、俺達出てきて良いのか?世界観は繋がってるけれども未来の住人だぞ?」

赤羽「気にしていたらキリが無いさ、チセなんかその一例だよ……さて、じゃあ今回はコレだよ」

Q ゴンベエがアステロイドを使用していますが
エネルギー源がトリオンならトリガーが必要だと思いますので、導師が術を使うのに必要なエネルギーと同じモノなら
他にもどんなモノが使えたりするのですか?
(転生者特権で莫大なエネルギー源があるなら、鉛弾などで無力化出来たりして
ボーダーのトリガーは予めセットしたメインとサブを組み合わせて使う仕様ですで
フルアームズなどの例外はあれど、トリオン体の強度はトリオン量に関係無いことからフルアタは控えめですが
ゴンベエの仕様が生身で頑丈とかならシールドは不要だったりして
技術が高いなら出水を凌駕する速度で合成出来るなら実質隙がなかったりして)
転生者になるのに戦闘センスが無関係なら
アリーシャ達が原作とは異なる技を修得している例から、マギルゥなどもバイパーなどの技を再現出来たりして

大輔「先ず、結論から言って諏訪部の奴はトリオンと呼ばれるエネルギーを使ってねえ。外気功っていう外のエネルギーを自らの生体エネルギーに変える達人と呼ばれる領域に足を踏み入れた人間が何十年も修行して会得することが出来る技を3日で会得しちまった化け物で、今まで使ってる神秘的なエネルギー必要じゃねえのか?な技は大体が外気功で補ってる」

赤羽「ただその質量を持った純粋なエネルギーを立方体にして出してぶつけるのがあの人が使っているアステロイド、純粋なエネルギーを一直線に向けて飛ばすのがデラックスボンバーの正体さ……闇纏系は邪気と重力を操って出来てる技な筈だよ」

大輔「言っとくが諏訪部の奴がぶっ壊れた性能をしてるから出来ることだ……俺や赤羽にゃ出来ねえことだ。んでもってアリーシャ達がバイパーとか出来なくもねえが、そんなのを使うよりも身体能力を術とかで高めてぶん殴った方が早えし効率がいい」

赤羽「フー………身も蓋もない話だね」

大輔「極端な話、相手を確実に殺したければ積尸気冥界波みてえな技を会得すりゃいいだけなんだよ。あの野郎はやらないだけで冥道残月破や積尸気冥界波みてえな技は使える筈だ」


A ゴンベエのデラボンやアステロイドの正体は外気功により外の力を自身の生体エネルギーに変換してから打ち出す技です。
  アリーシャやマギルゥもやろうと思えば自らの生体エネルギーでバイパーとかを打ち出す事が出来なくもない、螺旋丸もどきも出来なくないけども最低限使いこなすのにそこそこ訓練が必要であるので潔く普通に身体能力鍛え上げたり術でバフったりして普通に殴りかかった方が効率がいい感じです。

 念や魔力などの質量を持ったエネルギーが存在する世界ならば大抵は螺旋丸は使えます。
 螺旋丸は高密度な純粋なエネルギーの塊を乱回転させて圧縮するだけの構造であり、風属性の神依アリーシャならザビーダの補助アリで螺旋手裏剣出せますけども時間とか威力に対する消費エネルギーのコスパが悪いので1発撃てば体力無くなって神依保てなくなります。



Q 転生者は転生先の世界で無双出来るなら
【心の一方】が使えるなら剣などを振るわなくても無力化出来そうですので
転生者が共通して使える技能にどんなのがあったりするのですか?
(ゴンベエがデラックスボンバーというリンクとも二宮とも関係無い技を使用していますので
異能とは無縁の前世だったのに転生後に異能を使いこなしているが
転生先がアイマスなどの異能と無縁の世界なら不味い事になりそうですし
アニポケの世界でワートリなどの技を使っていませんので
使えるようにする訓練はするが、異能の有無は転生先の世界で決定したりして)

赤羽「フー……グイグイ来るね」

大輔「まず、世界観を壊しちゃいけねえって決まりがある。例えばよ、Fateシリーズがあるとするだろ?Fateシリーズは魔術やオカルト関係であり科学とは縁遠い世界だ。そんな中でそれこそやろうと思えば時間逆行すら出来る仮面ライダーのスゲえ科学技術が存在してると厄介だから、仮にFate世界で仮面ライダーの転生特典を出したいならば石ノ森章太郎の疑似サーヴァントって設定になる。諏訪部の奴がゴンベエだった頃に使ってる転生特典もその世界の仕様に、テイルズオブゼスティリアの世界に合わせて変更されてる……エンコードってやつだ」

赤羽「かぐや様は告らせたいの世界で死ぬ気の炎とかが出せるとか言う事は一切無い、異能の有無は転生先によって決まったりするよ。現に僕の影もそう、影真似の術の派生系の術だと認識されてるよ」

大輔「おっと、ネタバレはすんじゃねえ……なにが出来るかは転生者によって異なる。諏訪部の奴は回復系の術が苦手だ……この前来てたチセの奴は回復系の魔法とか仙術とかが得意、つーか術系に関してはオールマイティだが体術は苦手……その世界独自のエネルギー、念とか覇気とかチャクラとか巫力とかは基礎的な部分は直ぐに会得出来ても応用が難しいってところだな」

赤羽「現に君は普通の武装色の覇気は出来ても、銃弾に武装色の覇気を纏わせるのに一苦労だったからね」

大輔「そういうお前は分身を1体だけ生み出す分身の術が下手くそだろ?」

赤羽「けいおんみたいにバトル一切関係無い世界観だから使えなくなってるパターンがあるけどそうだね、バトル物の世界で質量を持ったエネルギーが存在するんだったら螺旋丸と百歩神拳は皆出来るよ、螺旋丸は戦闘系の修行で会得しなければならない必須科目だから」

A かぐや様は告らせたいとかけいおんみたいなバトル物じゃない世界なら使えなくなります。
  異能とは無縁なので地獄の転生者養成所で人を殺しても問題無い様に鍛え上げてます。
  例によって転生者によって異なりますが螺旋丸と百歩神拳と幻術や催眠を解除とかコレがチャクラや魔力、覇気と呼ばれるエネルギーなのかと認知したりするぐらいは全員出来ます。


Q 作者、色々と書いてるから時系列がイマイチよくわかりませんので教えてください

Qソシャゲの世界って最高ですか?A地獄だと思います

秋山の楽しい遊戯王生活

HIRETU クローバー、摩訶不思議妖精冒険譚は同時期

地獄の傀儡師による闇堕ち系ヒロイン笑顔を曇らせたい、バレると多分、両方から舌打ちされる感じの話(かぐや様は告らせたい)は同時期

転生者による割とマジで聖杯大戦に勝とうとする話

テイルズオブゼ……

ゴンベエは魔法科高校の劣等生でアンジェリーナ・クドウ・シールズ(ヤンデレ)に刺され藤林響子達の共有財産になり、天王寺はワールドトリガーで転生者達と無双

忍界とか言う割とハズレな世界に関して、一応は副船長やってます。は同時期

キングダムハーツもどきでゴンベエはアクアを病ませる

天帝vs童子切、漫画家にすゝめは同時期

メガネがガオーン

ラブライブ

運命/世界の引き金

大人が頼りにならなかったアンチ要素が多い主人公が正義な味方ヅラするクソみたいな作品

右向けば転生者、左向けば転生者

黒子のバヌケ

です。


Q 今の段階で設定だけでもいいので転生者が転生した世界を教えてください

今のところ公開できるのが

小林 FAIRY TAIL(摩訶不思議妖精冒険譚)、ワールドトリガー(メガネがガオーン)
ゴンベエ テイルズオブゼスティリア(当作品)、魔法科高校の劣等生、キングダムハーツもどき、ワールドトリガー(メガネがガオーン)、黒子のバスケ、ポケットモンスター、ラブライブ、かぐや様は告らせたい
千樹扉間 パワプロポケット10、ブラッククローバー、パワプロ系、ポケットモンスター、スマイルプリキュア、一日外出録ハンチョウ
海馬瀬戸 ぬらりひょんの孫 暗殺教室 
飽田ヒナコ 呪術廻戦
赤司征十朗 遊戯王ARC-V バトルスピリッツ烈火魂 ポケットモンスター ワールドトリガー(メガネがガオーン) ラブライブ
天王寺麟童 史上最強の弟子ケンイチ、Fate/Apocrypha、キングダムハーツもどき、ポケットモンスター ラブライブ(赤司達と同じ世界だけどサンシャインの時間) 黒子のバスケ
ブッキー 無彩限のファントム・ワールド ワールドトリガー(運命/世界の引き金)
蛇喰深雪 ワールドトリガー(運命/世界の引き金)
虹村修蔵 イナズマイレブン ワールドトリガー(運命/世界の引き金) ラブライブ ONE PIECE 
黛千裕 Fate/Grand Order 遊戯王GX ONE PIECE 
高遠耀一 暗殺教室 遊戯王DM プリキュア5 ワールドトリガー(メガネがガオーン)
転生する度に櫻井孝宏キャラになる男(クズ) この素晴らしき世界に祝福を! デート・ア・ライブ

今のところこんな感じです。


Q 転生者達の先輩後輩とか何期生とかが分かりません

閻魔大王が育てようと決意した3人の子供

転生者養成所が出来る前に転生特典渡して転生させてた

色々とミスとかがあったので転生者養成所が出来る

手探りで転生者を育てて1〜7期生はそこそこ大成した。

黛がFate/Grand Orderで色々と酷い目に遭って娯楽に植えていた地獄の転生者運営サイドが爆笑して黛を次の世界に転生させた

的な感じで、黛以上の先輩は閻魔大王が育てようと決意した3人の子供だけでそれが一龍、次郎、三虎の正体です

8期生

黛千裕

9期生

両津夏春斗 武市変平田 高遠耀一 アカレッド ディケイド 浦原喜介

10期生

武東遊戯 転生する度に櫻井孝宏キャラになる男(クズ) ロイド安堂 阿雅佐博士

11期生

加納秋平 墨村守美狐 オールマイト 松代研

12期生

千樹扉間 小林 足立ミミ ヒデナカタ 陵刀士 市原優子

13期生

赤司征十朗 天王寺麟童 高倉分多 仁王雅治

14期生

転生する度に杉田キャラになる男 転生する度に中村悠一キャラになる男 桃井皐月 錆伯兵

15期生

転生する度に坂本真綾キャラになる女  伊集院隼斗 咲蘭坊 本郷晃 伊達小見都

16期生

転生する度に諏訪部キャラになる男 転生する度に宮野真守キャラになる男 海馬瀬戸 飽田ヒナコ 蛇喰深雪

17期生

蛭魔妖壱 大年寺三郎太 新妻英治

18期生

赤羽隼斗 次元大輔

が、今のところは決まってます。







ちょこっとテイルズオブザレイズ

「卑劣様!!」

「だから誰が卑劣様だ……安心しろ、今の俺達は穢土転生の身!積尸気冥界波の様な魂に干渉する攻撃や幻想殺しの様に神秘異能を無効化する攻撃でない限りは絶対に死なん!俺は千樹扉間……お色気の術、影分身の術、穢土転生に関してのノウハウは頭に叩き込んでおる!無論、それに見合った戦術も……自分の体でやるのははじめてだがな!」

「他人の身体でやったのね」

「他人の身体でやったのかよ」

「他人の身体でやったんですね」

「他人の身体でやったんすか!?」

「ライフィセット、互乗起爆札は自爆技だ!穢土転生の身を駆使して使うのだ!」


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大体はヤンデレだったり距離感がおかしかったり脅されたりします

はーっはっはっは!本編以外を書きたいぜ!
作者が王道的なラブコメを書くと思ったか?甘いな!


 

 さて、諸君……また番外編である。またかよと思っているだろうが、また番外編である。

 作者はあんまりリクエストを書かないけどもネタの倉庫的なのが沢山あるんだよ。

 

 

 動物系最強の悪魔の実はこのネズネズの実 モデル 想像種 ミッキーマウスだ!!とか

 闇堕ち系プリキュア ダークアクアとか

 とある科学の反逆組織(レジスタンス)とか

 我等人間同盟也とか

 極々普通のカードバトラーは仲間内でカードゲームをするのを楽しいとか

 鬼殺隊難易度ルナティック!とか

 

 とにもかくにも色々とあるんだけどね……ネタが中々に消えないんだよ。

 そもそもでこのテイルズオブがこんなに続くだなんて思ってなかったんだよ。多分、番外編以外で真面目にやれば200話このまま行けばいくよ、余裕で。でもまぁ、問題はそこじゃねえんだってば。

 

 転生した世界によっては結婚したりもしているゴンベエですが、ゴンベエや他の転生者達の結婚生活の様子を知りたいです。

 

 とまぁ、リクエストみたいなのがあったわけだ…………ぶっちゃけネタ倉庫に出すかこっちに出すか悩んだけども最終的にはこっちに出す事にしたよ。大丈夫、テイルズオブゼスティリア終わった後のゴンベエが出てきてるからセーフ(言い訳)……………というわけで病んでるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テイルズオブゼスティリアの世界を活躍した功績を認められた転生する度に諏訪部キャラになる男は次なる世界に転生が決まり転生していた。

 次なる世界は魔法科高校の劣等生……ぶっちゃけた話、人間のクズが多い、というか自分達が力を持ってるからなにやってもいいんだよと思ってる選民意識の高い馬鹿が割と多いのである。

 

「ねぇ、音也……ふん!!」

 

「っちょ、それ血液!?」

 

 そんな世界に転生した。

 血筋や才能が物を言う世界である為に転生特典の1つでとある人物の卵子とエジプトのファラオのミイラから採取する事が出来たDNAなんやかんやでこねくり回した結果生まれたクローンに近い感じの人間である。

 闇のゲームという世界に対して誓約をかける禁断の呪いのゲームを司波達也に仕掛けて勝利をした。司波達也は消え去り司波深雪は魔法に必要な能力全てを封印された。

 

「おまっ……オレが今、結構血液失ってるの知ってるだろ?」

 

「音也……私の血液型と貴方の血液型は一緒よ。だからね…………私の血を輸血してよ

 

「輸血用の血液地面に叩き落さなくてもいいだろう!?」

 

「……だって、だって……音也との繋がりを生きた証が欲しいのよ!!魔法師じゃなくて1人の人間として接してくれる貴方を失いたくない!貴方を奪われたくない!私と貴方が永遠と繋がっている証拠が欲しいの!だったらもう、私の血液を貴方に輸血するしかないわ!」

 

「……………」

 

 なんでこんな事になったんだろうなぁ、とは思う。

 アンジェリーナ・クドウ・シールズが壊れそうになっているから1人の人間として接した結果が、何処かのブレーキが壊れてしまった。

 リーナはナイフを手にする。リーナは綺麗な笑みを浮かびあげる。

 

「私と音也の愛が生きてるって証拠を、混ざり合えばそれはきっと素敵だわ!」

 

「あ、はい」

 

 とりあえず1番めんどくせえさすおに兄妹をぶっ倒した。

 二度と再起出来ない様に仕向けた……さすおに兄妹はある意味疫病神なので早い内に始末しといて正解なのである。

 リーナは自分の血液を輸血してほしいと言ってくる。血液を失っている諏訪部もとい音也はリーナから血液を輸血して貰えばリーナは高揚する。音也との繋がりが出来たのだから。

 

「ねぇ、音也……音也は魔法師を化け物だと思ってるの?」

 

「さてな……化け物だと認識されても仕方がねえ事ばっかやってるからしょうがねえよ……あ、そうだ。魔法でパン生地の気泡を均一にするとか出来ねえの?」

 

「え……う〜ん……」

 

「遠赤外線とかを弄ったりして通常よりも美味い飯を作れるんじゃね?科学的に日本の飯を解析して絶妙な匙加減を魔法で再現する。10年以上かかるベテランの寿司の技術を魔法で再現するとか……そういう感じの使い方ってしねえの?」

 

「あ〜………………考えたことも無かったわね……………最新の炊飯器って釜でご飯を炊いてるのと大して変わらないらしいし」

 

「機械だから熱伝導率は均一に出来てるだろうが、パン生地みたいなのは弄りにくいだろ?漫画飯を再現するとか味の染み込み具合を弄くるとか色々と出来るはずだ……」

 

 そんなこんなで音也はリーナと一緒に魔法を用いた料理の研究に走る。

 魔法薬の一種だが、魔法を兵器以外に使っている。魔法で通常よりも高品質だったり高度な技術が必要な料理を簡単に再現して幸せに暮らしました。幸せに暮らしました……正妻がアンジェリーナ・クドウ・シールズであり嫁に藤林響子が居たりしたが。5人のヨッメが居たとか居ないとか。

 

 

 

 

 キングダムハーツもどきの世界の場合

 

 

「分かるか!!この暗き闇の世界に生き残る術さえ失ってしまった私の恐怖が!」

 

「……そっか……闇ってのは扱いこなす事が出来るんだったら大丈夫だけど、基本的には怖いものってイメージだからな」

 

「……え……」

 

「怖かったんだろ?苦しかったんだろ?辛かったんだろ?…………大人にならなくてもいい、折れてもいいんだ」

 

「ぅ……ぁ……ァアアアアアアアア!!」

 

 暇潰しだと闇の世界を放浪しているとキーブレードが折れた事で約10年にも及ぶ闇の世界での生存競争に疲れ果てていたアクアを諏訪部、いや、跡部は受け止めた。闇を乗り越えようとかじゃなくてアクアの苦しみを何事もなく受け止めた。大人だって苦しいと思うし辛いと思う。ただそれを口にするかしないか、ただそれだけなのである。

 

 アクアはとにかく泣いた。今まで苦しかった。辛かった。自分が折れてしまえばヴェントゥスやテラを助ける事が出来ない。

 そんな重圧に知らず知らずの内に心が削られていく。それでもたった1人で頑張り続けた結果、心が闇に飲み込まれてしまった。

 跡部はそれを否定しない。品行方正のようなものを求められるキーブレードマスターであると同時に1人の人間である事を跡部は知っているのだから。

 

「怖かった!」

 

「うん」

 

「辛かった!」

 

「うん」

 

「苦しかった!」

 

「うん」

 

「寝てしまえば全てが闇に飲み込まれてしまうんじゃないかって恐怖に駆られた。ミッキーと出会って頑張ろうと思ったけど、けど、私はもう!」

 

「そうかそうか…………………イェンシッドの爺さんは俺や天王寺の旦那、夏春斗の女将さんをあんまり好んでないからな……ここで会うことが出来たのは繋がりじゃない奇跡だな…………」

 

 アクアの心の闇を、苦しさを辛さを痛みを全て受け入れる。

 泣きたいのならばとにもかくにも泣くしか道は無いのだとめいいっぱいアクアを泣かせる。苦しさや辛さを乗り越えろ、受け入れろと他人にまで強くなることを強要する事は跡部はしない。

 

「す、すまない……情けない姿を見せてしまった」

 

「馬鹿を言うな、情けなくねえ……お前が一生懸命生き抜いたって証だ」

 

 そんなこんなでアクアを闇の世界から光の世界に連れ帰った。

 絶賛ゼムナスとバトルしようとしているソラ達をガン無視して光の世界に連れ帰る事が出来たのだが、帰路が無くなった。幸いにも心と鍵の繋がりを辿っていき世界を巡っていけば何れは元の世界に辿り着く事が出来るのだろうと信じて一緒に旅立った。

 そして基本的には原作通りにダークシーカー編は終わりを迎えるのだが……

 

「跡部……このキッシュ、他の女の味がする」

 

「え?」

 

 なんかアクアがついてきたのである。

 久しぶりにキッシュを作った跡部は天王寺と両津夏春斗に味見をしてもらう。一緒に居るアクアも味見をしたのだが黒いモヤのようなものを出す。ぶっちゃけると心の闇である。

 

「何故だ……何故このキッシュから他の女の味がするんだ!!」

 

「いや、それは」

 

「味を否定しなかった!!何故だ……まさかっ、まさかもう跡部は誰かを……ぅ!!……」

 

「大丈夫か!?」

 

「不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い…………他の女の味は不味い……」

 

「女って、一応はあたし居るんだけど」

 

 壊れたラジオの如く呟いて食べたキッシュを嘔吐して禍々しい闇を纏うアクア。

 他の女の味がするのだとベルベット仕込みのキッシュを全力で否定する姿に両津夏春斗は呆れている。

 

「まぁまぁ、落ち着けや……なんで他の女の味がするって分かったんや?」

 

「……分かるんです。このキッシュから他の女の味が……心の繋がりが存在していることが……」

 

「…………いや〜跡部、羨ましいな。こんな別嬪さんの嫁さん手に入れる事が出来るだなんて人生勝ち組やわ」

 

「えっ!?あの、いや、私は」

 

「強いし賢いし真面目だし、ドイツ系やスイス系のしっかりとした感じの血が流れてるね……この馬鹿2人はどっちかと言えばいい加減なラテン系に近い人間だからあんたみたいな器量の良い嫁さんが居てくれたらあたしゃ嬉しいと思ってるよ」

 

「わ、私が跡部の嫁!?……私が跡部の……」

 

 禍々しい闇を纏っていたアクアを天王寺と夏春斗が嫁と言えばアクアから闇が消え去る。

 モジモジと少しだけ恥ずかしそうな姿をしてチラチラと跡部に視線を向ける。跡部はギュッと手を握った。

 

「オレ様の美技に酔いな」

 

「……キュウ……」

 

 アクアは鼻血を倒してぶっ倒れた。

 

「旦那、女将さん!オレで遊ぶのはやめてくれよ!」

 

「なに言うてんねん……純粋な光を持った女の子を闇堕ち系のヒロインに変えてるって……お前、ホンマはなんか女難の相を持ってて呪われとんちゃうんか!?」

 

「いや、この場合は呪いをかける側の住人になってるんじゃないのかい?全く……女の子のピンチを助けるヒーローになったり苦しみや痛みを分かち合ったり手を取り合ったりする事になるんだから、少しは物を考えてから動くんだよ」

 

「あんな顔をされて否定するのは良くないだろう……約10年も恐怖と戦ってたんだし……まさか吊り橋効果でここまで行くとは」

 

「いや、絶対にお前やからそうなっとるんやで?お前、今まで何回か刺されたやろ?」

 

「刺されたけどもオレの不注意だって、オレは人の気持ちに敏感じゃないからさ」

 

「ま、とにかくこの子をここまで追い詰めたのはよくも悪くもあんたなんだから……責任は果たしなよ」

 

 アクアがヤンデレになり闇堕ちするのだが、闇堕ちする事に関しては天王寺も夏春斗も止めない。

 己の心のままに動いているのだから、否定することはしてはいけない。己の心にだけは嘘はついてはいけないのだから。

 でもまぁ、アクアという絶世の美女が嫁ならば妻ならば人生は薔薇色である。跡部の奴はアクアが目覚めるとデートを申し込んだ。

 

「女の勘ってスゲえ恐ろしいな」

 

「いや、お前もお前で悪いで。ベルベット印のキッシュを作るのアカンやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝だから早く起きて」

 

「ふぁ〜……まだ7時じゃん」

 

「まだじゃなくてもう7時だよ」

 

 これはゴンベエとは異なる転生者の話。

 堂本剛、亀梨和也、松本潤、山田涼介、道枝駿佑を合わせた感じの奇跡の顔立ちを持つ転生者はかぐや様は告らせたいの世界に転生していた。

 

「ほら、歯を磨いて顔を洗って」

 

「分かってるよ……眠い……」

 

 大きなあくびをあげながら、ゆっくりと布団から起き上がる。

 早坂愛に秀知院学園の制服を用意してもらっており、顔を洗って歯を磨いた頃には着替えを始める。

 

「はぁ……なんでこんなの好きになったんだろ?」

 

「別に見捨てるならさっさと見捨てればいいじゃねえか」

 

 この早坂愛、彼に恋をしていた。彼のことを異性として大好きだと自覚をしていた。

 主人であるかぐや様が告白をしたら負けだという持論の様な物を持ち合わせているのを見て逆に自分は攻めなければならないなと認識を改めた。

 

「ていうかよ、どうやって家に入ったんだよ?」

 

「…………大家さんから鍵を借りたけど?」

 

「いや、そのなにを言ってるの?みたいな顔で言うの止めてくれねえ?ここ、セキュリティはちゃんとしてるマンションなんだぞ」

 

 その結果、極々当たり前の如く彼の朝ごはんを作っている。

 彼の好みに合わせて鮭、味噌汁、卵焼き、お浸しと定番中な定番な朝ごはんを普通に作っているのである。

 別に朝ごはんをここで一緒で食べるし1人分ぐらい多く作ったとしても苦には感じない。だから彼がなにを言っているのかがよく分からなかった。

 

「貴方が選んだだけあってセキュリティの面は最強クラスだから突破するの難しいから……大家さんに話したら普通に鍵をくれたよ?」

 

「いやいや、だからそこがおかしいんだってば……なんで当たり前の如く家に来て朝ごはんを作ってるの?」

 

「……放置したらコーンフレークとかウィダーインとかで終わらせようとするでしょ?」

 

「いや、そうじゃなくて……あ〜もう、なんか宇宙人と話をしてるみたいだよ」

 

「?……変なの」

 

 早坂愛は自覚している。情けない姿をしている彼が大好きなのを。決してダメ人間が大好きだというわけではない。

 目の前に居る彼だからこそ大好きなんだと自覚をしており、彼に良い奥さんだよと一人暮らしの彼の元に極々普通に大家さんを騙して鍵を入手する。合鍵は作らない。彼の手から合鍵を貰わなければ、合鍵ならぬ愛の鍵を貰わなければならないと思っているのだから。

 

「あ、そうそう。コレを見に行くから」

 

「恋愛映画……俺、こういうのはあんまり好きじゃねえよ」

 

「かぐや様が見ても問題は無いかどうかのチェックをするの……白銀御行に見せても問題ないのか、男性からの意見も欲しいから」

 

「ふ〜ん……」

 

「勘違いしないでね、こんな物を見なくても私は貴方の事が好きだから」

 

 ドストレート、ドストレートである。

 この女は色々とブレーキが壊れてしまっている。大家さんを騙して鍵を借りて、更には勝手に朝ごはんを作っている。そして大好きなんだとハッキリと言い切っている。かぐや様と私は違うのだと変な方向に振り切ってしまっているのである。

 

「はいこれ、お弁当……お願いだから学校では他人のフリをしてね。特にかぐや様達にだけは絶対に……嘘ついたら刺すから」

 

「お前、こんな事をやっておいて今更かぐやさんにビビるのか?」

 

「ビビってなんかないよ……ただ、かぐや様と私は価値観が少しだけ異なってる。この光景を見せたくないだけ」

 

 それは世間で言うところのビビリじゃないのだろうか?早坂から手作りの弁当を受け取った以上は早坂の頼み事を聞かなければならない。

 拒む理由は特に無いのだけれどもなんだかなと思いつつ自転車で秀知院学園を目指す。早坂は原付で秀知院学園を目指した。

 

「おぉ、今日も早いな」

 

「俺だって早く来たいわけじゃねえよ……ふぁあ…………眠い」

 

「またゲームや動画の見過ぎで寝不足か?」

 

「眠いだけで業務には差支えはねえって……そもそもで人によって必要な睡眠時間は異なるらしい、俺は俺に必要な睡眠時間はちゃんと取ってるよ」

 

「だからといって授業中に寝るのは関心せんな」

 

「いいんだよ、授業なんて聞かなくても……学校側がテストで出す問題は学校側が教えている項目の中から出てくる。全くと言って教えていないところからは絶対に出すことはしねえ。だから教科書に書いてある事を覚えとけば赤点は確実に回避出来る……テストで満点を取りたければ応用問題をテストで赤点を回避したければ基礎だけをしっかりとしといた方がいいんだよ……」

 

「むぅ……そういう考えもあるのか」

 

「そうそう……白銀は頑張れるタイプだけどそうじゃないタイプも居るんだよ、俺なんか自分の興味がある分野にしか頭が回らないタイプだからな。もしアルバイトとか誰かに勉強を教えたりする機会があるならば無理に理詰めするんじゃなくて一定のラインを超えることを目安にした方がいいぞ」

 

 彼は秀知院学園高等部の生徒会長である白銀御行の補佐だ。

 白銀御行とは異なる方向性で天才だが、自分の興味を抱いている事にしかあまり頭を使うことが出来ないタイプの人間である。

 しかしまぁ、そこが良いのだと白銀御行は彼を部下でありながら1人の友達として接しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 これは最もハズレとも言えるFate/Grandorderに転生したまゆゆんの話。

 人理修復の旅をしている中でまゆゆん、いや、黛は普通に朝食を頂いていた。

 

「あ、マスター!」

 

「……おはようございます」

 

 とにかく自分を殺し続けなければならない。

 黛はあまり繋がりを作りたくないのだが人類史を救わなければならない運命である為に黛は愛想笑いだろうがなんだろうが生き残る為にやった。

 その結果かどうかは分からないが行く先々で不幸な目に遭っている。

 

「ねぇねぇ、マスターって童貞ってホントなの?」

 

「あのぉ、幾らなんでも食事時にする話じゃないですよ」

 

「あら、ごめんなさい……でも、その話がホントなら……お姉さんと楽しまない?」

 

 人理修復の旅を行っている段階で、伊吹童子を引き当てた。

 そもそもでFGOって本編以外は色々と謎な時空になっているのであり、この時にこのサーヴァントが居てくれたのならばと思う時は多々あるだろうがそれは言わないお約束である。とりあえずはと最低限のコミュニケーションを取っていた結果、伊吹童子が自身が童貞かどうかを確かめに来て誘ってきた。

 

「いえ、そういうのは恋人とするもので」

 

「お姉さんはマスターの事は大好きよ!性的にも人としてもね」

 

「はぁ……」

 

「……ねぇ、マスター……オケアノスで黒ひげがマスターさえ殺せば詰みでおじゃる!って右腕を切断されて十字架に貼り付けにされて銃弾を浴びせられた男の子を助けたのは何処の誰だったかしら?」

 

「それは……」

 

 伊吹童子である。

 伊吹童子や源頼光がいなければ危ない状況ばかりだった。イベントの特異点は関わりたくないと藤丸立香の尻を蹴って割と見捨てている。

 しかしまぁ、メインである7つの特異点は頑張っている……サーヴァントの能力に依存していると聞かれればその通りだろうが。

 

「お姉さん頑張ってるわよね……だからさぁ、ご褒美にマスターの童貞が欲しいかな〜」

 

 伊吹童子はそう言うと谷間から聖杯を取り出した。

 何故に聖杯を持っていると気にしていたらキリが無い。カルデアが管理している聖杯とは異なる聖杯を何処かから入手してきた、そんな感じである。

 

「ご褒美くれないとイライラしてコレを藤丸くんの心臓に埋め込んじゃいそう……殺して摘出しない限りは絶対に消えない特異点を作っちゃいそうだな〜」

 

「あ、あの」

 

「…………誰のお陰で人類史を救えてるのかしら?ちょっと生意気よね、マスターって存在は」

 

 流石は伊吹童子、躊躇いなく脅す。

 言っていることに関しては若干だが一理はあるが、それはさておき伊吹童子は聖杯を体内に隠した。普通のサーヴァントならば無理なのだろうが流石は伊吹童子なクオリティだろう。

 

「私とシコシコとパンパンと気持ちいい事をしてくれたなら、あげるわ」

 

 サーヴァントから魔力供給(意味深)を求められる。作者はエロいのを書く勇気は無いのでこの後は凄く搾り取られたとだけ言っておこう。

 




大体こんな感じである。
かぐや様は告らせたいその内書きたいなとは思っている。

Q 転生者の死因を教えて

A こんな感じ

ゴンベエ ブレーキとアクセルの踏み間違いで轢かれて圧殺(地元のニュースになった)

ブッキー 生きる事に対して希望を見出だせず自殺

ぐっさん 過度なイジメによる殺害(全国ネットのニュースになった)

深雪 虐めてくる奴に対して報復の結果死んだ
  (遺書に死んでも許さないから徹底的に破滅の道に叩き落としてくださいと書き残しており、今まで集めていた情報を日本中にバラまいて虐めてきたグループやなにも対応してくれなかった学校はその後破滅の道を歩んで再起の道すら許されなかった)
  (1か月ぐらい全国ネットのニュース番組で話題になった)

社長 実の両親に虐待及び育児放棄による兄弟まとめての餓死(2週間ほど全国ネットのニュース番組に取り上げられた)


死んだ順番は

ブッキー>社長>深雪>ゴンベエ>ぐっさん、ブッキーが一番最後に死んだ。


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発想力が足りないんだよ

 

「いや〜すまんすまん……ボトルをイッキしたからついつい飲んでしまったんじゃ」

 

 ゼンライのジジイの加護領域に入った翌日のこと。

 酔いも完全に覚めたのでゼンライのジジイに謁見する。天族だから敬うとかそういう事はしねえ。

 ニャバクラに通っていたゼンライジジイは酔っ払った勢いで雷を叩き落とした事に関して詫びる。雷を物理的に叩き落とすのは洒落にならない。

 

「まったく、飲むなって言わないけど飲まれるほど飲むんじゃないわよ」

 

「お酒は程良くが1番ですよ……」

 

「いや、面目無い……む?ワシの事が見えてるのか?」

 

「えっと……あの後、色々とありまして詳しい事情は言えないのですがパワーアップを果たしまして」

 

 ゼンライのジジイはアリーシャとベルベットが自分達が見えている事に関して気が付く。

 詳しい事情は言えないが、一応はパワーアップを果たしている。それだけはアリーシャは言っておく。

 

「前よりも人数が増えた……いや、待て。何故アイゼンがここにおるんじゃ?奴はドラゴンになっている」

 

「災禍の勇者様が元に戻してくれたんだよ……爺さん、もう天族(オレ)達はドラゴンの呪いに苦しまなくて済むぜ」

 

「なに!?」

 

「ザビーダ、まだアイゼンを元に戻すことに成功しただけでそれ以外に成功した一例は存在してない。アイゼンだけが特例な可能性もあるんだぞ?」

 

「けどよ、誓約をかけてドラゴン化したアイゼンを元に戻せたんだぜ?だったら生きたいって強く願っている天族達なら元に戻せるはずだ」

 

 ゼンライのジジイに天族のドラゴン化の問題を解決する事が出来たと嬉しそうに語るザビーダ。

 あんまり余計な事をベラベラと語るなとは言わないけども、アイゼンを元に戻せたのは偶然か必然か、どちらかがまだ分かっていない。無理にぬか喜びさせるのも良くねえ事だ。

 

「バカな……浄化の力を持ってしてもドラゴンになった天族は元に戻らんというのに……」

 

「でも、実際お兄ちゃんはこうして元に戻ってここに居るわ……ああだこうだ議論を交わすよりもこういう結果が大事なのよ。ゴンベエはちゃんとしっかりとお兄ちゃんを元に戻すっていう結果を示したわ」

 

 ドラゴンになった天族を元に戻したのをありえないとゼンライのジジイは思っている。

 まぁ、実際問題ありえねえ事だろう。この世界の力だけじゃ出来なかった事をオレは成し遂げたんだから。

 

「そうか……しかし、今更ワシになんの用事なんじゃ?……やはり、気になったかスレイの出児が」

 

「いや、それはスゲえどうでもいい事だから聞かないでおく。多分、聞いたとしてもそれがどうしたんだ?程度の認識で終わるから……もう、アレだぞ。悲しい過去とか宿命を背負っていてもオレは死ぬほどどうでもいいって思うからな」

 

 イズチに来た理由が分からないゼンライのジジイ。スレイ関係の事を聞きに来たのかと思ったがそれだけは無いとキッパリと断言する。

 あいつに悲しい過去とかがあってもどうでもいいんだよ。問題は今をどうやって乗り越えて未来に繋げるかどうかだぞ。

 

「まぁ、聖隷だけの集落に人間が一人だけ住んでるのは気にはならないと言えば嘘になるけど……もうそういうのは飽きたわ」

 

 悲しい過去とかを見まくっているのでベルベットもどうでもいい扱いする。

 実際問題、スレイの過去とかがどうでもいいと思っている。いや、ほんとにどうでもいいんだよ。

 

「聖隷……また随分と懐かしい呼び名じゃの……いや、待て。ザビーダ、災禍の勇者と言わなかったか!?」

 

「おう!そこに居るナナシノ・ゴンベエこそが災禍の勇者様だ……ついでに言えばそこに居るゴンベエの奥さんがベルベット・クラウだ」

 

「っ……どういうことじゃ……」

 

「悪いけど、昔語りをするつもりは無いわ。もう過去は過去の事だと思って清算して私達は手を取り合って一歩ずつ前に進んでるから」

 

「そういうのは色々と考察してくれよ」

 

 先程サラリと語ったザビーダにようやくゼンライのジジイは反応する。

 目の前に居るオレが災禍の勇者、隣にいるベルベットが災禍の顕主、流石にその辺については色々と知っている……いや、あの頃のイズチは人との繋がりを断ち切っていたのだから詳しい詳細は知らないだろう。

 

「私達が本日イズチに足を踏み入れたのは、他でもない。マオテラスの配下の天族が与える試練神殿の居場所を聞きに来たのです……火、地、風の神殿の場所は分かっているのですが水の場所だけはわからないのでジジイ殿からお聞きしようと」

 

「あんた天界から降りてきた聖隷で大体の事も知ってるんでしょ?」

 

「天界?」

 

「…………天界の事も知っておるのか…………」

 

 聞いたことが無いワードで首を傾げるエドナ。

 ゼンライのジジイは言った覚えのないワードすらベルベットの口から出てきた。ザビーダとエドナはなんの事だ?と首を傾げている。

 

「天族は地脈から生まれるとかは分かってるな?」

 

「ええ……お兄ちゃんと私は同じ地脈から生まれたわ」

 

「でも、目の前に居るゼンライのジジイは地脈から生まれたんじゃない。天界と呼ばれる世界からこの世界にやって来た……まぁ、一言で言えば異世界人だ」

 

「その言い方はちょっと違う気がするぞ」

 

 じゃあ、オレみたいなのを異世界人?……いや、オレは異世界人じゃなくて転生者か。

 アイゼンが冷静にツッコミを入れつつもエドナとザビーダにすごくざっくりと目の前にいるゼンライのジジイが天界という世界から舞い降りてきた天族だと理解してもらう。

 

「天への階梯でブウサギに色々と聞いたわ……まぁ、だからといって生きる道を変えれる程におりこうじゃないわ。私達は私達、それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

「マオテラスが今の災禍の顕主に捕まってる……別に今の災禍の顕主をヘルダルフを殺すのは簡単だ。けど、問題はその後だ……オレがカノヌシを消してしまった。また信仰を失ったから四馬鹿も眠ってる。マオテラスが頑張っても1000年が限界だ…………オレ達はコレからどうすりゃいいって話で先ずはマオテラスが人間と天族の向き合い方なんかをどう答えたのか……あんまこういう事を言いたくはねえけど、あいつはアイゼン達と違って皆に見えてるって世の中からスタートしてるから色々とズレてるんだよ」

 

 でもまぁ、そのズレがあるから幸いにも今生き残っているがな。

 とにもかくにも、マオテラスの試練神殿の居場所を聞き出して具体的にどんなんなのかを知らなくちゃならねえ。

 

「言いたいことは分かった。マオテラスの配下の天族が導師に秘力を与える神殿の在処も知っておる……じゃが、あそこはあくまでも導師の秘力与える場所じゃ……その」

 

「その導師が使い物にならねえからこうしてんだよ!察しろ!」

 

「……どういう意味じゃ?スレイは導師になったんじゃろ?各地で色々と噂になっているぞ」

 

「……言った方がいいのか?……」

 

「言わなければならない……コレばかりは心苦しいが、事実を伝えなければならない」

 

「じゃ、雷を落とされる役はオレがやるよ」

 

 スレイが頼りにならないという意味が理解できていないゼンライのジジイ。

 言った方がいいのかどうか、育ての親に真実を伝えることは酷かもしれないのだがアリーシャも言った方がいいと言うしオレが代表して説明をした。と言っても要点を掻い摘んだ。暗殺者として有名な団体の頭領を従者にした。殺すことにより負の連鎖を食い止めるという在り方を認めてしまった、暗殺は間違ってる!こうすればいいんだ!と暗殺者を改心させていなかった。

 

 何一つ嘘は言わなかった。その結果、お通夜の様な空気が流れる。

 どうしたものか、スレイに関しては散々ボコったし今から評価を元に戻すとかいけないし……オーバーキルにするか。

 

「……オレは正直な話、政治なんてクソどうでもいいと思っている……この国の人間がどうなろうがそういう生き方しか出来ないと思っている……今の時代は災厄の時代で皆の心が淀んでいる。そんな中でなにが必要なのか?金?女?飯?違う……心の拠り所、導師(ヒーロー)だ。災禍の顕主(ヘルダルフ)という戦争を裏で手引きしている余程のカスじゃなければ悪人だと言えるような奴も居る……スレイは多分、分かってないんだよ。今の時代がホントに求めているものを……オレは八木のおっさんや天王寺の旦那みたいに笑顔は出来ねえけどスレイが間違ってたのだけは確かだ」

 

「……すまなかった!!」

 

「あんたが謝るんじゃねえ……スレイは人間の世の中を、人間というものをよく知らないのに人間を助ける導く人間になった……スレイだけじゃない、どいつもこいつも愚かだよ」

 

 スレイが全面的に悪いことをゼンライのジジイは認めて頭を下げてきた。

 あんたに謝られてもなにも思わねえ……スレイが人間を知った末に自分がした事に関してどれだけ罪深い事だったのか、愚かだったのかを認識してもらわなきゃ困る。

 

「スレイは自らの意志で導師になると決めた。あんたの事だ、スレイが導師になっても問題無い、むしろ導師になってくれて嬉しいとか思ってるだろう……だが、コレが現実だ……」

 

「…………」

 

「元から救世主や導く存在なんてのはロクなものじゃないから私は期待はしてないわ……だから教えなさい、マオテラスの神殿を」

 

「その…………スレイを導く、というのは」

 

「ジジイ、オレはオレの道を知っている。アリーシャの道を知っている。ベルベットの道を知っている。歩き方も知っている……だが、教える事が出来ても歩けと強制させる事だけは出来ねえんだよ」

 

 間違った道を歩んだので更生してくれないか?

 ゼンライのジジイはそういうのだが、オレはスレイが歩まなければならない導師の道を知っているがそこを歩けとは言わない。言っちゃいけないんだ。

 

「スレイは導師の道を歩むと決意した。ライラという道先案内人もいた。ミクリオという腹を割って話せる友もいた……それでこの結果だ」

 

「っ……そうか、無理を言ってすまん」

 

「スレイが自分がなんなのかすら理解してないアホなのは流石にな……でだ、とりあえず教えろ」

 

 オレはそう言えばこの大陸の地図を広げた。

 かめにんから購入した地図なので正確な地図だ。ゼンライのジジイは滝壺の裏に水の試練神殿がある事を教えてくれた。

 

「あそこは導師を成長させる場所であって既に成長しきっているお主等には不要な場じゃが……」

 

「オレだって本音を言えば行きたくねえよ……ホント、めんどくせえんだ……けど、やらなくちゃならねえ……ヘルダルフがオレ達が寿命でくたばるまで全力で逃亡するって手を使うならばまだ色々とあったんだがな…………」

 

「……その……ジジイ殿、結局のところ我々人間と貴方達天族とはどう繋がればよろしいのですか?ベルベット・クラウが生まれるよりも遥か古来の時代から天族信仰の文化はあるのに、現代ではこのざまです」

 

 マオテラスが導師をパワーアップさせる場所であり既に色々とパワーアップしているオレ達には不要な場だとジジイは言う。

 アリーシャもその辺の事を理解しているのか結局のところ、人間と天族はどういう風に繋がっていけばいいのかがよく分かっていない。

 

「アイゼンは天族だけど悪名を轟かせたアイフリード海賊団の副長だった。ザビーダ様は浄化の力のシステム完成後の時代で憑魔殺しをしていた。私を殺しに来た暗殺者であるロゼは人を殺す事を生業としていましたが穢れを発していなかった。ロクロウやベルベットは憑魔でありながらも誰よりも人間らしかった……私にはもう、なにがなにやら分かりません」

 

「むぅ……」

 

「我々人間全てが天族を視認する事が出来ればいいと一時期考えていた事がありました。ですが、その結果が災禍の顕主ベルベット・クラウが降臨していたあの時代です…………ゴンベエも自分に与えられた領地を経営していますが、天族と人間がどう向き合えばいいのかが……」

 

「いや、アリーシャやベルベットが確実にそれはやめろって言うからやってないだけで方法は幾つかあるぞ?」

 

「え?」

 

「ほら、スレイが目を閉じたりしてライラ達が見えなかったアリーシャにライラ達を見える様にしただろ?あの技術を応用すれば世界中の天族が見えない人間に見える様に出来ると思うぞ?」

 

「……あんた、そういうのあるなら先に言いなさいよ!?」

 

「だから問題はベルベットとアリーシャが確実にやめろって言うからだ…………アリーシャ1人に天族を見えるようにしただけでスレイは目が見えなくなっていた。おそらく世界中の人間に天族を認知する事を出来るようにするのならばスレイは嗅覚、触覚、味覚、聴覚、視覚の五感を無くす。多分それでもまだまだ足りないだろうからスレイだけじゃない、肉眼で天族を見ることが出来る、気配を感じ取ることが出来るようになる奴等も犠牲になってもらう……要するに人柱だ」

 

「…………」

 

 ベルベットとアリーシャが絶対にするんじゃないと言うのが目に見えているから、考えただけで言わなかった。

 スレイをはじめとする大陸の優れた霊力の持ち主達がマオテラスと協力して見えない人達に見えるようにする。人柱のシステムなのでベルベットはいい顔をしない。そりゃそうだ、実の弟を生贄にして生まれた世の中で暴れまわってたんだからな。

 

「まぁ、確かにそういう方法もあるにはあるわね……」

 

 エドナは1人納得する。

 

「大体よ、天族が見えるようになったからって万事OKなわけじゃねえのも問題なんだよ……こんなくだらねえ場所を作ってる老害共を敬わなければならねえクソみてえな世の中だ」

 

「誰が老害じゃ!!ワシ達がおらなければ今頃はお前達人間は絶滅してたかもしれんのじゃぞ!?」

 

「いいじゃねえか、絶滅すれば」

 

「なっ!?」

 

「ジジイ、なんか勘違いしてねえか?人間ってのは身勝手な生き物でそれに類似している、いや、力を持っている分、天族は更に勝手な生き物だ」

 

 人間なんか絶滅してしまえばいい発言にありえないと言いたげなゼンライのジジイ。

 アリーシャ達も驚いているので何時もの様にめんどくせえとは言わずに今回は真面目に言う。

 

「人間だって生き物だ、動物だ……ただ他の知的生命体より知能に優れていて高度な文明を築き上げる事が出来ただけで自然の一部なんだよ。今、この世には絶滅の危惧がある生物が幾ら居ると思う?最低でも100種以上は存在している…………そいつ等を生かしたいって思うのは究極の自分勝手(エゴ)だ……だってそうだろ?進化をロクにせずに生存競争に負けた種族なんだぞ?そりゃ確かに、そいつが居なければ野菜が育たないお米が育たないって言うならばまだしも食用の価値も愛玩の価値もなにもねえ奴等を保護してなんの意味がある?ただの自己満足だ」

 

「じゃ、じゃが人間は」

 

「人間なんて人間という同じ種族なのに争っている。群れを作り国を作っている。アリだって国を作ってるし女王様も存在している……人間も自然の一部と言うのならば滅びの運命を受け入れろや」

 

「ゴンベエ……足掻くのも生き様じゃないのか?」

 

「ああ、確かに滅びようとする自らの種が生き残る為に足掻くのはセーフだ……だが、概念が全く異なる種族が生かしてやろう、増やしてやろうはただの自己満足だ」

 

 滅びの運命を受け入れる事に関して前に言った足掻くのも生き様じゃないのか?とアリーシャは疑問を投げかける。

 自らの種が滅びの運命を辿ると言うのならばその運命に逆らうのはいいが、それこそ全く異なる種が滅びの運命を助けるのは自然の摂理に万物の掟に逆らっているも同然だ。

 

「そいつが居なければ自分達も滅びの運命を辿るならばまだ分かるが…………こんなくだらねえ場所や鎮静化なんていうくだらねえシステムを使って人類史をリセットしてる馬鹿野郎共はオレは好きになれないな」

 

「……まぁ……そうね……」

 

 オレの言いたいことをベルベットは少しだけ納得をしてくれる。

 

「別の種族が共存なんて綺麗な言葉はあっても事実はねえんだよ……でなきゃ食物連鎖なんて言葉は生まれねえんだ。生き物は生きる為に誰かを殺す、コレは揺るぎない事実だ……まぁ、世の中にはヴィーガンとか菜食主義者(ベジタリアン)とかよく分からねえのが居るけども植物だって生きてる理論もあるんだ」

 

「……人間が居なければワシ達天族が……」

 

「生き残る為なら、どうしてこんな孤独を選んでいる?……今でこそ憑魔化のシステムをサラリと語っているが、嘗ては世の中を混乱させるからと人間が生む穢れに関しては言ってはならない時代すらあったんだろ?」

 

「穢れのシステムを言えば世界は大きく混乱し」

 

「つまりは人類を脅かす情報を独占し続けていた歴史が確かにあったんだよ」

 

「……は?」

 

「穢れのシステムはよく知っている。それを発生させてしまう人間の業はそれこそカノヌシが感情を上から抑えつけない限りは生まれる恐ろしいものなのもだ……世の中が混乱する?違う、お前等は権威と自己欲に走った馬鹿野郎だよ」

 

「け、権威じゃと!?ワシ等はそんなものは」

 

「ベルベット・クラウが生きていた頃には既に四聖主を祀るシステムが出来ていた。お前達天族は人類滅亡の為の引き金がなんなのか、それを防ぐ方法も知っていてその情報を独占していた……その情報を独占した者のみが得られる者とはなんだと思う?」

 

「それは……権威」

 

「そう、権威なんだよ!我々に祈りを捧げないならば人類は滅ぶ。我々の言う通りにしなければ人類を一旦リセットする、そんな感じに脅すことが出来た」

 

「ワシ達はそんな事は」

 

「ならば何故、こんな時代になっている?導師のシステムが完成されてから既に100年以上も経過しているんだ、それどころか1000年以上前から天族を信仰する文化は存在していたんだぞ」

 

 ベルベット・クラウが災禍の顕主でなく家族思いのお姉ちゃんとして生きていた頃には既に人類史はリセットされ続けている。

 いったい目の前にいるゼンライのジジイが何時ぐらいに降臨してきたかは定かではないが少なくとも10000年以上前には生きているだろう。

 

「人類滅亡を救う救世主になれるのに、見えないから居ないだなんだ言われている……だが、やり方はともかくお前達を見える様にする方法は幾らでもあったんだ。アルトリウスを見ればその一例がよく分かるだろ?あいつは世界のシステムを逆手に取って力を手に入れた、やり方はクソだったがある意味お前達より賢い生き方を選択していた、滅びかけていた国を建て直した…………だがそれでもどうしてこんなクソみたいな時代を歴史を繰り返しているか?それはお前等が中途半端でめんどくさがり屋だからだ」

 

「ゴンベエ、流石に」

 

「お前等が権威と加護を広げている間に人間は知恵と腰を振るってお前達天族には作ることが出来ない文明や技術を築き上げた。それが異大陸に行けるバンエルティア号やジークフリードだ。そういう文明や技術の開花によって神様的な存在であるお前等天族はより不要な存在になってきている。天族なんて存在しないとか言っている人達も存在している……そんな中でもアリーシャの様に見えなくても必死になって祈りを捧げてる奴も居るんだよ。だが、お前等はそういう奴等を探すのをめんどくさがった。諦めた。せめてそういう奴等でも見えなくても構わない傷ついてもいいから生き残らせようとしなかった」

 

 オレがおかしな事を言っていることに関しては自覚しているが言えることは言いたい時に言っておかないと後で後悔する。

 ゼンライのジジイはプルプルと震えている。雷の1つでも落としてくるのかと思ったが気にすることなく話を続ける。

 

「あんたは天界から降りてきた天族ならばハッキリと言ってやる……人間なんて基本的には救えないし、救ってほしいと救いを求めてないロクでなしの生き物なんだよ。オレはエレノアという高潔な精神を持った女性を見た。アルトリウス、いや、アーサーという1人の男になろうとしている高潔な精神を持った男を見た。そんな奴等も落ちる時はとことん落ちるものだ。考えたことはないか?自分達よりも優れた尊敬出来る人が先人達が沢山居るのに人間は絶妙なバランスでなんとか生き残っているのを。立派な信念を持っている先人達が大勢居るように見えて極少数派で頑張っても救えないのが人間なんだ……そしてその結果がこのイズチだ、探すのを諦めてめんどくさがって自分達が生き残る為に孤独を選んだ」

 

「ゴンベエ、ホントに」

 

「お前達天族は結局のところなにがしたいんだ?人間という種族を絶滅させたいのか?それとも栄えさせたいのか?養殖して何処か別世界の住人にでも奴隷として売りつけたいのか?人間と天族が手を取り合って生きてける未来を作りたいというのならば今すぐにでもあらゆる手を模索しろよ。スレイ達を人柱にして天族が見えない人達に天族が見える様にする技術の1つでも開発しろよ、どうせ暇なんだろ?ただ呑気に流れる時を過ごして煙草を吸う暇があるならば、誰かに期待を抱き希望を託している暇があるならばテメエが動け……過去に何度災厄の時代があった?災厄の時代が生まれる度に導師が生まれる、そんな悲劇を何度も何度も繰り返していた。今回もスレイという無能が、犠牲者が生まれてしまった。そして既にスレイは人殺しの救いを認めてしまった。◯◯出来てスゴい!は何時かは◯◯出来て当たり前な世の中に切り替わる。別にそれは悪いことではない、それだけ自分の周りの環境が豊かになり成長したという証なのだから。ただしそれに付いていこうとしない学ぼうとしない老害は心の底から死んでほしいと思っている。自分達が頑張って文明を進めたのならば自分達のやり方でなく新しい時代を受け入れておけと…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天族には発想力と学習能力が足りないんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変わらない時なんて何処にもねえんだよ。

 変わらない時を生き続けようとする奴等は何時かは老害に成り果てる。時代の波を見つけておかなければどんな世界でも生き残る事は出来ないんだ。

 

「あ……あ……ぁぁ……」

 

「ある意味、アイゼンが1番人間と共存出来てるぞ。人間が作った物を好むし人間の文化や文明も学んでいるんだから…………お前等がマジで世界平和を願っているならラブアンドピースを願っているなら既に一番最初にしなければならない事を成功してるだろう」

 

「一番最初にしねえといけねえこと?」

 

「分からねえのか?ザビーダ、不老不死だよ不老不死。どんな高潔な精神を持ちながら信念を伝えても何時かは腐る。なら、絶対に腐らねえ開祖が必要だ……本気で世界救いたいとか思うならば不老不死を目指せ。常に新しいデータをアップデート出来る心構えを持っておけ……少なくとも人間の十倍以上も生きる事が出来るならば、1000年という時間の中でやれることは沢山あった筈だ」

 

「「…………」」

 

「ゴンベエ……あなた、頭おかしいんじゃないかしら?」

 

 やれることに心当たりがあるのか、なにも言ってこねえザビーダとアイゼン。

 エドナはオレが狂っているとストレートに言ってくるのだがコレぐらいしなきゃ、コレぐらいの覚悟が無ければ人間なんて救えねえんだよ。

 

「……優しさってものがないわけ?」

 

「自分でも途中でなに言ってるんだろうなって感覚はあったが後悔はしていない」

 

 なんで自分よりも遥かに歳上で経験豊富な人間という種族よりも高位の存在に対して偉そうに言ってるんだろうな。

 でも、転生者の大半は神様の存在は信じても祈らないタイプの人間が多いからな。いや、ホントに偉そうに語れる程にオレは偉くないんだよ。めんどくさいの一言で解決してしまっちゃうダメ人間なんだよ。

 

「……ちょっと、トイレに行ってくる」

 

「天族ってトイレする種族だっけ?」

 

「ゴンベエ、追い撃ちをかけるな……ジジイ殿の唯一金髪だった部分が全て白髪になってしまったじゃないか。なんでジジイ殿の努力を全て否定するような事を言うんだ!?」

 

「それが人間の業であり本性だからだ、オレもめんどくさがり屋のマダオ(マジでダメな男)なんだよ……そんなマダオでも頑張ってどうにかしようとしてるんだから、お前等も頑張ろうぜ!な話だ……」

 

「………………狂っているわね、貴方は………………」

 

 だろうな。オレは狂っている。その辺は自覚しているさ。だが、変えられる程に人間は出来ていない。

 子供と言われようが結構、人によってはそれを信念やプライド、誇りと言う人も居るだろうな。エドナはドン引きしていた。

 

「さて、とりあえずこのまま水の試練神殿に行くか。ロクでもねえ場所だったらマオテラスには悪いけども木っ端微塵にする」

 

「ワシ、ゴンベエ、コワイ」

 

「ぜ、ゼンライ様ぁあああああ!!」




スキット 心に愛がなければ

アリーシャ「ゴンベエ」

ゴンベエ「なんだ?」

アリーシャ「ゴンベエはその…………分かっていたのか?」

ゴンベエ「なにがだ?」

アリーシャ「スレイが悲劇を繰り返そうとしている導師の1人なのを、導師が皆が待ち望んでいる存在なのを」

ゴンベエ「…………多分だけど、アリーシャから見ても狂ってるって言われる価値観だと思うぞ?オレ自身もそれは無理狂ってるって思ってるし」

アリーシャ「私から見てもか?」

ゴンベエ「天王寺の旦那の事は覚えてるよな?」

アリーシャ「ああ……とてもインパクトが強かった。ただ……ゴンベエとは異なりとても頼りになるリーダーシップがあった」

ゴンベエ「だろうな。オレは個人としては強いけども、率いるタイプじゃねえからな…………世間は皆、望んでる。誰か助けるヒーローを、無償の正義の味方を……天王寺の旦那はその点では満点に近い」

アリーシャ「どういう事だ?」

ゴンベエ「あの人は相撲取りの頂点である横綱だ……横綱に必要なのは強さだけじゃない、品行方正じゃなければならず笑顔を絶やしてはいけない。皆が思い描くような理想的な相撲取りじゃなければならない。笑顔を絶やさず相撲という世界の第一人者になり先導を走り続ける。口にすることは簡単だ。だが、それは果てしなく険しい道だ。たった1つのミスも許されない……横綱になるという事は人間をやめるという事だ。それと同じで導師になるということは普通の人間をやめるって事だ」

アリーシャ「だから、スレイにあんなに厳しかったりめんどくさそうにしていたのか……」

ゴンベエ「めんどくさそうにしていたのは元からだがとにかく皆のヒーローは1度のミスもしてはいけない。笑みを絶やしてはいけない。ファンサービスを忘れちゃいけない。ユーモアを忘れちゃいけない。例え1%しか可能性がなくても諦めちゃいけない……スレイは何処まで導師の存在が重要なのか分かっていない。少なくともこの1000年の間は導師は災厄の時代を救うヒーローなんだ……だったらノブレス・オブリージュの精神をはじめとする様々な心構えや行動をしなければならない。導師は導く人間なんだから」

アリーシャ「ゴンベエは……やろうと思えば導く事が出来る、私を導いたように」

ゴンベエ「違うぞ」

アリーシャ「否定しなくてもいい私がここまで強くなれたのは裏でゴンベエが支えてくれた。それだけは変わりようが無い事実だ」

ゴンベエ「一部は否定はしない、けどな……オレはアリーシャに道を教えただけなんだ。答えはアリーシャが出さないといけねえ、ただその答え以外の様々な道を教えただけでその道を歩いていけばいいとだけは言ってない。ただアリーシャが知らない世界をたまたま知っていてそれを教える事が出来ただけだ」

アリーシャ「私の知らない世界……ゴンベエに出会う前の私ならばザビーダ様の行いやアイゼンの流儀を否定するだけ、そういう考えもあるのだと飲み込む事は出来なかった……」

ゴンベエ「アリーシャは色々と可能性を秘めていたから出来た……ただ、スレイは導師になるって道を選んで歩んだ。導師の道は険しくて困難だ。ライラもそれを知っている。そのことについても念を押した。それでもスレイは選んだのならば、真っ直ぐ歩き続けないといけない。ロゼの考え方を飲み込むんじゃない、否定しなければならない。それこそライラ達天族が居るんだから裁けない悪事の証拠を掴み取るとか色々と出来る筈だ」

アリーシャ「……ヒーローは、難しいのだな……」

ゴンベエ「心に愛が無ければスーパーヒーローにはなれない……スレイはヒーローに必要な様々なものが欠けていた、ただそれだけの話だ」


スキット 宗教は自由です!

ゴンベエ「そういや人類が滅んだり栄えたりして色々と大変じゃなかったか?」

エドナ「別に、私はずっとレイフォルクに居たから関係無いわ」

アイゼン「オレは色々と大変だったな……アイフリードが復活した事でアイフリード海賊団は復活したがオレの死神の呪いのせいでまともな最後を迎えられたのがアイフリードとライフィセットだけで、そのアイフリードは他の連中がロクな目に遭わなかった」

ザビーダ「たった数年だったとはいえ俺達が見えてたのがリセットされたってのは痛かったな……やっぱり、皆と会話をする事が出来るってのは重要だぜ」

ゴンベエ「ん〜……スレイをはじめとする霊力高い人間を人柱にすれば全員見れるようには出来るとは思うんだがな」

ベルベット「…………結局のところ、あの時代は正しかったのかしら?」

アイゼン「もしアルトリウスにならなければ間違いなく滅びは迎えていてカノヌシの鎮静化で文明がリセットされていただろうな」

ゴンベエ「でも、人間と天族が力を合わせるには先ず大前提に天族に祈りを捧げろ!的な姿勢をやめなきゃ意味ねえぞ?天族を信仰する事が出来れば穢れから身を守る事が出来る云々を今の時代で言っていいのか悪いのか……神様的な存在と人間の共存なんて殆ど不可能に等しい。うちの国なんて宗教の自由が許されてるとち狂った国なんだぞ」

エドナ「宗教の自由が許されてるって……どんな宗教があるの?」

ゴンベエ「発酵食品食べたらダメとか太陽が出ている間は水以外口にしちゃダメとかコーヒーとかのカフェイン入ってるのダメとか」

ベルベット「……なんで?」

ゴンベエ「知らん……少なくともそういうのがダメな時代に生まれたんじゃねえの?」

ザビーダ「じゃあ、ゴンベエの国には特定の宗教とか神様とか居ねえのか?」

ゴンベエ「いやぁ、数百年鎖国で宗教断絶したり宗教の戒律とか教えを聞いても、そういう考えもあるんですね!の一言で終わるからな……ただ一応は八百万人ぐらいは神様がいる」

アイゼン「…………神、多すぎないか?その土地の神様、地の主みたいなのか?」

ゴンベエ「商売の神様、受験の神様、桃の神様、亀の神様、渦潮の神様、炎の神様、太陽の神様、トイレの神様…………まだまだあるぞ」

エドナ「そんなに馬鹿みたいに神様がいるのによく祈らないわね」

ベルベット「ていうか、桃の神様ってなによ?」

ゴンベエ「色々とあるんだよ、色々と……神様的には祈りを捧げてくれるだけでありがたい、ギブ・アンド・テイクな関係性だ」

ザビーダ「神様がそんな感じでいいのかよ!?もっとこう、見返り的なのを求めねえのが普通じゃねえのか!?」

ゴンベエ「……そんな存在が居るんだったら、最初から神様は中途半端な存在の人間を生み出してねえよ。うちの国の殆どの神様のご先祖と言ってもいい神様なんてくだらない私情で人を毎日1000人殺すって言ってマジで殺しやがったからな」

ベルベット「神様が殺戮してたの!?」

ゴンベエ「ああ……結局のところ皆がイメージしてるような凄まじい絶対的な存在なんてのはこの世の何処にも居ないんだよ。心を持った生物である上に理不尽な力を持ってるんだ……下手すりゃ神様の方が悪魔よりも悪魔なパターンが多い。だからオレは神様の存在は信じていても祈ることはしない。神様の流儀ややり方に異議がある。オレが生きている時代には合わないから…………だから基本的には無宗教なんだよな」

アイゼン「それでよく成立するな」

ゴンベエ「その辺はマジで謎だからな…………宗教に頼らなくてもいい世の中を作り上げる。人間が神から独立するのならば、そうしないといけねえ……でも、宗教が無ければ人類は滅んでしまうか……まったく、ロクでもねえ世界だ」



スキット 愛の形


シアリーズ「……………」

ベルベット「どうしたの?」

シアリーズ「いえ、少しだけ……彼の横暴さに怒ってて」

ベルベット「ゴンベエに不満があるなら言うけど……アリーシャとどっちが正妻なのか議論は無しよ?確実に殺し合いになるから」

シアリーズ「彼女もまた彼を愛しているのでそこは問題はないわ……ただ、この婚姻届というのが気に食わないわ!」

ベルベット「私達は結婚してるって証明書でしょ?戸籍を作る上で大事な物だからって散々説明を受けて納得がいってる。私の中で聞いてるわよね?」

シアリーズ「ええ、受けたわ!でも、こんな紙切れ1枚で貴女と結婚したって言うのは義姉()として見過ごせないわ!!」

ベルベット「……………やっぱり私達が夫婦として生きてるって証の為に赤ちゃんを強請ればいいかしら?」

シアリーズ「今の御時世が災厄の時代ですので、せめて災禍の顕主と呼ばれる者を倒すまでは我慢しなさい……そうね……なにか欲しいものは?」

ベルベット「別に……ゴンベエと過ごす普通の日常が楽しいから欲しい物なんて無いわよ……あ、でもやっぱり赤ちゃん欲しいわね」

シアリーズ「愛の結晶的な物でなく物理的な物よ……そう、例えば髪飾りとか」

ベルベット「ゴンベエは私の今の髪型かポニーテールが好きって言ってくれるから」

シアリーズ「ならば服を!」

ベルベット「この服は私達が戦っているっていう証だから着替えないわ」

シアリーズ「…………リンスやシャンプーを作ってるし…………やっぱり赤ちゃんしかないのかしら?」

ベルベット「男の子ならロクロウ、ランゲツ……女の子が生まれたらエレノア、それともマギルゥ…………」

エドナ「あんな事を言ってるわよ」

ゴンベエ「なにをプレゼントすればいいのかが分からねえ……ベルベットの物欲がイマイチ分からねえんだ……」

エドナ「いっそのこと結婚式でもあげたら?それが1番喜ぶわよ」

ゴンベエ「いや、地味婚出来ねえんだぞ。花嫁が2人居る結婚式で尚且つ義理の姉と貴族に睨まれるとかただの地獄でしかねえよ!」

エドナ「結婚式が人生の墓場ね」

ゴンベエ「指輪とかを考えてたんだけど、ベルベットは邪魔だから要らないって言うし……」

エドナ「……大人の階段を登る?手を出してないのよね?」

ゴンベエ「お前さ、そういう下世話な話はマジでよくない。キスはちゃんとしてる」

エドナ「キス程度で愛し合っているだなんておこちゃまね」

ゴンベエ「…………いいのか?ただ果てしなくベルベットとアリーシャとイチャイチャしているのを……それをやったらお前のストレスが溜まるぞ?」

エドナ「……ごめん、やっぱり無しで」





ちょこっとテイルズオブザレイズ その1


「やっと妻達の力になる事が出来る、ベルベット、アリーシャ、今まで夫としてなにも出来なかった分、大きな力になる」

「この最強の3人と力を合わせる、か……想像しただけで凄まじいよ」

「まったく、オレ達を呼び出すだけ呼び出しておいて自分達で勝手におっぱじめよってからに!」

「勝って勝って勝って勝って勝って勝って勝って勝ーつ!!勝つことこそがこの勝利マンの流儀だ!」



ちょこっとテイルズオブザレイズ その2


「まったく、くだらないな」

「チョット社長、今ガ最終決戦、ラストバトルデスヨ!」

「組長に海坊主にヒデナカタに千樹扉間、他にも様々な転生者が居る。決着がつくのも時間の問題だ」

「こういう場所なんだからちょこっと活躍するだけでヒーローだけど」

「オレの力を借りる?依存するの間違いだろう。この場に居る転生者の殆どがオレの部下かオレが呼び出した者だ……諏訪部の奴も宮野、お前もだ。悪いが戦後処理の仕事をさせてもらう」

「あら、帰るの?」

「オーゥ!守美狐サン!?今ノ今マデ何処ニ行ッテタンデスカ!?一度モ社長ノ呼ビカケニ応ジカケナイノ、社長モウトッテモ怒ッテマシタヨ!」

「ふぅん、守美狐と磯野勝利がいる以上は誰も勝つことは出来ない……オレの必要は」

「それはどうかな?」

「───────」

「アナタハ!?」

「暴走する貴方を殺すのは簡単よ、でも暴走する貴方をちゃんとマトモにするのは私には無理…………だから探してたの、貴方を制御する事が言うことを聞かせることが出来る人間を」

「フ、ハハハハハハ!!今の今まで姿を出さないと思っていたらそんな事をしていたのか!!いいだろう!そこのヒトデの様な髪型をした男、オレと共に戦っても構わないぞ!」

「いいぜ!だが、お前が俺についていくことが出来るかな?力は貸しても手は貸さないぜ!」

「ふぅん、忘れてもらっては困る!このオレという最強の存在を!3体の青眼の白龍(ブルーアイズ)を融合し、現れろ!青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)!!……さぁ、貴様の番だ!」

「いくぜ!魔法カード融合を発動!混沌の戦士よ、究極の竜と1つになり我が元に神をも超える力となり降臨せよ!!」


「「究極融合召喚!!現れろ、究極竜騎士(マスターオブドラゴンナイト)!!」」


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人として成長させる場所である

エロいのって書いていいのかな。エロの創作も浮かんでくるんだよ。
エドナと「私で童貞捨てたくせに」と言われるぐらいの関係性と言う名のエロは浮かんだりします。


 

「…………ここだな」

 

 ゴンベエがジジイ殿にかなり酷いことを言って、次に向かったのは滝だった。

 巨大な瀑布と言ってもいいレベルの滝であり、ジジイ殿が言っている事が本当ならばこの滝の裏に水の試練神殿が存在している。

 地図と現在地が合っているかどうかを照らし合わせてみるが間違いなく今、目の前にある滝の裏に水の試練神殿がある。

 

「……地下水脈の底にあるパターン?濡れなきゃいけない泳がなくちゃいけない系?」

 

「濡れるのは嫌よ」

 

「私もよ」

 

「エドナ様、ベルベット、もう少し緊張感を」

 

「つってもよ、オレ達はパワーアップをしに来たんじゃなくてどうすればいいのかと問いかけに来たんだぞ……極端な話、ヘルダルフを殺すのはオレが一瞬で出来る事だからな」

 

 滝の裏にあるということは滝を通らなければならない。

 水に弱くなっているベルベットや濡れる事を嫌がるエドナ様、コレから大事な事を話し合う場になろうと言う雰囲気を全くと言って醸し出していない。

 

「まぁ、そうだよな。意見交換ってのは大事な事だからな……」

 

 ザビーダ様はゴンベエの言ってることに納得する。

 あくまでもここに来た理由は私達と異なる考えがどういう考えなのか、ライフィセット、いや、マオテラスが試練神殿でどういう秘力を授けるのかは正直な話、あまりイメージが浮かばない。ただマオテラス達が人間とどうやって向き合うのか、そこが気になる点だ

 

「ロクな答えが帰ってこなければ、ぶっ壊す……これ以上は汚点を増やさない為にも負の連鎖を断ち切る。ただそれだけだ」

 

「壊して、いいのか?ここは導師をパワーアップさせる神殿だが」

 

「その結果が今じゃねえか。時代ってのは常に移り変わる、物事の考えも土地によって変わる……降臨出来るだけじゃなくて人間みたいに怒ったり泣いたり笑ったり喜んだりする喜怒哀楽を持った生き物だって言うならば伝統は守りつつも新しい発想を取り入れる姿勢じゃねえとダメだ、自分より地位が上な人が問答無用でダメって抑えつけるのは良くない事だ。頭と心で納得する事が出来なきゃ意味ねえだろ?もし、固執した考えを持ってて新しい発想を取り入れない、自分達の考えこそが絶対的に正しいと老害化しているならば…………討つ」

 

 ゴンベエはサラリとだがとてつもない事を平然と言う。

 ここになにが居るのか、なにが待ち受けているのかは分からない。だが、固執した考えを持ってしまってる老害になっているならばと言い切る。

 

「大体な、古代の神殿なんてややこしいのを残すんじゃねえよ。この国は宗教と政治が密接に繋がってるからまだマシだけど、壊すに壊せなくて扱いに困るんだぞ?日本なんて八百万柱も神様が居てそれに比例するかの如く神社が馬鹿みたいに存在してて神主掛け持ち多いんだぞ。過去に作られて現代まで残っている古代の城とか闘技場とかを観光名所にして銭儲けするなとは言わねえけども、シンプルに邪魔だぞ。遺跡にロマンが詰まってるとか言うけども、その時代を思いっきり生き抜いた奴等が目の前に居るんだからロマンもクソもねえよ」

 

「そういう身も蓋も無い事を言い出してどうするの。それ言い出したら、エドナ以外マオテラスの誕生に関係する重要人物よ」

 

 遺跡にロマンを感じなくもないのだが、ゴンベエは身も蓋も無い事を言い出してベルベットは呆れる。

 確かに、天族達はその時代を実際に生きていた……その時代の情勢を知っている。アイゼンは特にその辺りが…………ホントに身も蓋も無い話だ。

 

「…………こう、秘密の抜け穴とか導師の証的なのを翳せば滝が真っ二つに割れると言ったシステムではない、か……」

 

 色々とああだこうだ言っているが、とりあえず滝の裏にある水の試練神殿に足を運ばなければならない。

 流石にびしょ濡れになって入るのも色々と抵抗がある。パッと思いついた滝の裏に入る方法を口にするがそういう感じじゃない。

 

「天族の力を借りた導師が中に入る感じだから、術を使えばいいのよ」

 

「そうなのですか?」

 

「火の試練神殿もそんな感じだったわ」

 

 この中で唯一、火の試練神殿を知っているエドナ様。

 滝の裏に入る方法は導師としての力を振るって入ればいい……まず、この滝の裏に入るという発想自体が浮かび上がらない。神殿を作るのは構わないがあまりにも秘密の神殿すぎれば見つけることが難しくならないだろうか?いや、それ以前に導師をパワーアップさせる試練神殿の存在自体、知らなかった……ゴンベエの言っていたように、情報の独占をしている。いや、し過ぎている。

 

「ハイランドで誕生した導師がローランスに記録が残されているパワーアップする方法を知る……冷静になって考えてみればアホじゃねえの?な事だな……じゃあ、滝を凍らせるから下がってろ」

 

 ゴンベエはそう言うと弓矢を取り出した。

 ゴンベエがそういうのならばホントにそうするのだろうと私達はゴンベエから距離を置けばゴンベエは弓矢を構える。矢に冷気を纏わせており、空気中の水分が凍っているのか白い水蒸気が出ている。ゴンベエは矢を放てば……滝はカチンコチンに凍りついた。

 

「ふん!……このくらいだな」

 

 カチンコチンに凍りついた滝を殴ってアイゼンは入口を作った。

 言えることは確実にこの入り方は間違いだという事ぐらいだろう。しかし間違いでもなんでも私達は前を歩いていかなければならない。

 ゴンベエが凍らせアイゼンが作った入口を通過すると明らかに自然界の物じゃない人工物の入口を発見する。

 

「こんな神殿1000年前には無かったわよね?」

 

「アヴァロストの調律と呼ばれる半神話の時代に作られた天族と人間が協力して作り上げた物で、それ等を一部再利用していて……地殻変動等で海の底に眠っていた物なんかもある」

 

 ゆっくりと歩いて入口まで近付くが、この手の神殿を見るのは中々に無い。

 1000年前の冒険でも見なくて自分が眠りについた後に作られた物なのかと疑問を抱くベルベットだが、アイゼンが教えてくれる。

 アイゼンが言っているから一部は遭っている筈だが……そうなると元の大陸がどうなっているのかが気にはなる。

 

「ほぉ、導師がここに来るのは何時ぶりだ?」

 

「え〜っと…………誰だ?」

 

「神殿の試練を与える天族、マオテラスじゃなくて他の聖主に仕えてるわ」

 

 1000年前ではお馴染みだった天族の衣装をしている人がいた。いや、人と言うのはおかしいな。恐らくは天族の方だろう。

 いきなりの登場でありゴンベエは誰だと疑問を抱くのでエドナ様が教えてくれる……流石は2度目だ、物凄く手慣れている。

 

「そう、ここは水の試練神殿ルーフェイ。導師の来訪は久しぶ」

 

「違えよ、導師じゃねえよ」

 

「……なに?」

 

「私達は導師なんてロクでなしじゃないわ……ただ色々と意見を交換したり気になったりしたから来ただけの地方の男爵一行よ」

 

 私達を導師一行だと勘違いをしているのでゴンベエとベルベットは訂正する。

 ジッと私の事を見てきている。いったいなんなのだろうか?なにか粗相でもしてしまったのだろうか?

 

「女性二人から天族の力を感じるが?」

 

「……ねぇ、ホントにここ大丈夫なの?導師って聖隷の器になってる人間じゃないわよね?」

 

 私とベルベットから天族の力を感じるので導師じゃないのかと尋ねる。

 導師の称号とはそういうものではないと認識しているベルベットは思わず疑ってしまう。確かに、なにを持って導師とするか?浄化の力を持っているから?天族の器になってるから……分からないな。

 

「俺達がここに来たのはお前達が何を考えているのかを聞きに来ただけだ」

 

「…………どういう意味だ?」

 

「さっき導師がここに来たのは何時ぶりだって言った……過去に最低でも2,3回ぐらいは導師が来たんだろ」

 

「まぁ……過去に来訪してきたが、それがどうした?」

 

「それがどうした?じゃないわよ。あんた達がなにをしてるのか知らないけど、何度も何度も同じ歴史を繰り返してるんだからいい加減に別の方法を模索したりしろって言いたいのよ」

 

「むぅ……」

 

「つか、ここなにする場所なんだ?なんか神聖な儀式的なのを行っとぉ!…………物騒だな」

 

 ザビーダ様やベルベットに言われて困った素振りを見せる天族の方。

 ゴンベエがここが具体的になんなのかを聞いてみれば無数の剣が飛んできた……導師をパワーアップさせる試練の神殿なのに憑魔が居る?

 

「ここに居る業魔を倒せばパワーアップをする、もしくはパワーアップさせる感じなの?」

 

「いや、違う……憑魔を倒すのでなく何故憑魔化してしまったのかを知るのがこの神殿の試練だ」

 

「え〜……もうオチが読めるよ。オチが読める展開ほどつまんない事は存在しねえよ。どうせアレだろ?真っ直ぐで純粋だったけども人間に絶望したとか力を手に入れて正義の味方になったと天狗になったり、こうするしか道は無かっただなんだでなんだかんだで闇堕ちという名の憑魔化してしまった嘗ての導師の成れの果て的なのだろ?高潔で純粋な人間が堕ちる時はとことん落ちるのを見てきたばっかなんだから、もうそういうのいいよ。どいつもこいつも覚悟もなにも無いのに導師(ヒーロー)になろうって甘えた考えを持ってる馬鹿なんだよ」

 

「…………お前、なにしに来たんだ?」

 

「やっぱりそういうオチじゃねえかよ。導師の秘力って天族と人間をどうやって導けばいいのか向き合う場じゃねえのか?導師を人間と言う意味合いで成長させる場所なのか?それで1000年以上も文明リセットとか色々とやってたのか?」

 

 ゴンベエが殆どと言うか答えを言ってしまったみたいなのか天族の方は本音を呟いた。

 アルトリウスの様に堕ちる時はとことん堕ちる高潔な人間も世の中には居る……それを教える試練神殿ならば、絶対に今の私達には不要だ。

 私達、いや、私は過去の時代で人間が人間として生き抜く姿や業を見てきた。ならば今更、アルトリウスの様に堕ちる時はとことん堕ちる人間を見たところでこの人も同じく純粋が故に絶望をしてしまった等と考える程度で終わってしまうだろう。

 

「とりあえず、オレに攻撃してきたのと大して意味の無い場所だから武器を投げてきた憑魔消すぞ」

 

「ま、待て!」

 

「嫌だね」

 

 導師の秘力を授ける試練神殿の天族の方は慌てる。

 ゴンベエを襲ったのが悪い。理由は何であれ、人を殺したり傷付けたりする事は基本的にはよくない事だ。ゴンベエは天族の方を無視して一歩ずつ足を踏み入れていくのだが試練神殿というだけあってか仕掛けが施されている。目の紋様に姿が映れば元の場所に戻される

 

「デラックスボンバー」

 

 のでゴンベエは仕掛けを破壊した。

 前方から物凄い勢いで壁が迫っているので何時もの事をやった。仕掛けを力技で解くどころか壊している。

 

「ねぇ、こういうのってちゃんとした手順を守らないとダメじゃないの?」

 

「……ゴンベエはそういうのをしませんよ」

 

 力技どころか神殿の仕掛けを破壊していくゴンベエ。

 エドナ様がちゃんとした手順を守って試練の神殿の仕掛けを突破していくものじゃないのかと聞くが、ゴンベエは真っ直ぐに破壊しながら行く。

 そういうのを守っていくのが普通だが、ゴンベエはそういうところに関しては慈悲は無い。話し合いが通じないと分かれば相手がなんであれ殺す、それがゴンベエのやり方だ。

 

「武器、武器、武器ぃいいいいいい!!」

 

「クロガネの親戚かなにかか?」

 

「アレはアシュラだな。怒りによって凶暴化した人間がなる憑魔だ」

 

 遺跡の仕掛けを破壊しながら突破し、一番奥の祭壇の様な場所に辿り着いた。

 そこには6本の腕の巨大な憑魔がいて武器を求めて憑魔を倒しているので思わずクロガネの親戚かなにかかと聞いてしまい、アイゼンが答えてくれた。

 

「憑魔が憑魔を襲うの?」

 

「……え、普通じゃないのですか?」

 

「普通よね?」

 

「エドナ、こういう時にはボケを挟まない方がいいぞ」

 

「エドナちゃん、今はそういう感じじゃねえって」

 

「なにを今更な事を言ってるんだ?」

 

 アシュラは憑魔を襲っていた。首の無い憑魔だ。

 持っている武器に固執しており、武器を寄越せと言わんばかりに首の無い憑魔を斬り殺せば持っていた剣を奪った。

 

「人を斬りたいで業魔になった人間と、刀を越えたい一心で業魔になった人間と……今度はなんなの?」

 

「武器を、武器を寄越せぇえええ!導師のオレが使うんだぁああああ!!」

 

「ったく、完全に闇堕ちしてしまったパターンじゃねえか。アレか?導師になっちまった責任感から来る穢れか?責任を感じるぐらいならば最初から諦めとけって。諦めるのは諦めないのと同じぐらいに大切な事なんだ、ぞぉっ!と……はい、終了」

 

 最早、見慣れてしまった光景だ。

 ゴンベエは特にアシュラに対してなにかを思うわけではない、その辺の雑草を邪魔だから見栄えが悪いから引き抜くのと同じぐらいの感覚でアシュラをオリハルコンで出来た刀で斬った。幸いにも浄化の炎を纏っていたので殺すのでなく浄化された……が、元の人間に戻ると言った事は無かった。長い間思えば憑魔になっていたのか元の人間に戻らなかった。

 

「……お兄ちゃん、これ絶対に間違ってるわ。もっとこう、色々とあるじゃない」

 

「いや……ゴンベエが少しだけ真面目にやってる時はこんな感じだぞ?」

 

 殆どというか完全に、最初から最後まで力技で通した。

 やり方が間違い、正規の手段でするべきじゃないのかとエドナ様が気にするが、アイゼンからすれば見慣れてしまった光景だ。

 

「ったく、試練の神殿がなんの為にあるのか来てみればこんなオチかよ。精神的な意味合いでの成長を促す系?そういうのはとっくに終わってるんだよ。アリーシャも成長したしベルベットも割り切ってる。ザビーダにとって良い方向の道を教えたしアイゼンを元に戻したし……」

 

 試練神殿の実態を知ったゴンベエは呆れる。

 

「ゴンベエ、ゴンベエにとってはこれぐらいの事と認識しているかもしれないが普通の人はそうじゃない。真っ直ぐで純粋が故に穢れてしまった。そういう人も居るのだと教える場所だ」

 

 ゴンベエにとってはこれぐらいの事と思うのも仕方がないのかもしれない。

 だが、普通の人はそうは思わない。普通の人はゴンベエの様な考えを持っていない。いや、そもそもでゴンベエも元々はそんな風に考える人じゃなかった。心を鍛えたから今みたいに色々と割り切る事が出来ている。

 

「……まぁ……そう言われればそうか……オレがおかしいだけでスレイ達がその辺を認識してないだけか」

 

 ゴンベエの方がおかしいのだと言えばゴンベエは否定することなく頷いた。

 ……こういうのを見れば時折、私やベルベットがしっかりと手綱を握っておかなければならない、ゴンベエはちゃんとしている様に見えて一部が狂っている。いや、成長し過ぎているかもしれない。

 

「アシュラを秘力無しで倒したのか!?」

 

「あの程度の雑魚ならば何回戦っても結果は同じだ……多分、アリーシャでも余裕で浄化する事が出来る……しかしよ、導師を人間的な意味合いで成長させる場所みたいだが、人間的な意味合いでの成長をしたとしてどうしろって言うんだよ?ライラはあんまり政治と密接に関わるなとか言ってたけど、政治と深く関わらなきゃ平和な世の中を築き上げる事が出来ねえぞ?そもそもで導師って派閥的に言えばローランスなのか?ハイランドなのか?どっちなんだよ?」

 

 天族の方が居た場所に戻ってきた。

 アシュラを秘力無しで撃退した事に関して驚いているがゴンベエは特に気にすることはせずに問いかける。

 

「導師は導師で、それ以上でもそれ以下でもない」

 

「だからそれがダメや言うてるやろが。導師が権力を得た結果、めんどくせえ組織が生まれた。それを危惧してかパーシバルで、んかは導師に下手に権力を持たせるなとか言ってるだろう。実際問題、宗教が権力や暴力を持てばロクな事にならねえ。導師って結局のところどういう感じの立ち位置になっとけばいいんだよ?犯罪を犯しても揉み消せる国の重役クラスになっとかなきゃ、今の時代じゃ天族なんて存在しないとか天族に祈りを捧げてこの空腹を紛らわせる事が出来るのか、重たい税金を免除してくれるのかとか言ってくるだろう」

 

「…………」

 

「導師を人間的な意味合いで成長させるのは構わねえけども、もうちょっと世の中の情勢を見てくれよ。時代によって在り方が変わって人間ってのは基本的にはエゴでクズな生き物なんだから」

 

 ゴンベエは言いたいことをハッキリと言った。

 天族の方はどう答えればいいのかが分かっていない。少なくとも私達もどう答えればいいのかが分からない。

 それこそ1000年前の様に全ての人達に天族を認識出来る様にすればいい、というわけにもいかない。仮に穢れと憑魔化と浄化のシステムを公開した場合、どうなるのか……

 

「せめてオレが生きている間に比較的に平穏な世の中を築き上げるシステムの基礎を作りたかったんだがな……わかってた事だけど永続的な平和なんて早々に存在しねえか」

 

 ゴンベエは困ったことだと大きなため息を吐いた。

 どうにかして、平穏な世の中を築き上げる。私達が生きている間だけでもいい、そのシステムの基礎を築き上げる。永続的な平和なんて何処にも存在しない。だからと言って今までの様に世界中に地の主を置いて天族の信仰をし続けても無駄だろう。天変地異が起きて同じ事を繰り返すだろう。

 

「…………導師が今までの様に世界を救うのはいけないこと、そう言いたいのか?」

 

「いや、導師が世界を救うのは別に構わねえ。災禍の顕主という化け物を殺せるのは何時だって英雄だけだから……ただし、そんな英雄は民衆に殺される。英雄とは人間でありながら人間でない存在だ。英雄が化け物を倒した後にどうやって平和な社会を築き上げるのか、オレ達はそれをお前達天族に聞きに来ただけだ……ただ普通に天族に祈りを捧げて加護領域を広める。そこに更になにか1手費やさないといけねえ。ただ問題はその1手がオレにはあんまり浮かばねえ」

 

 スレイの様に何もしなくても天族を見ることが出来る人も稀には居る。

 霊応力と呼ばれる力が高くて強い人を何名か人柱にすれば天族を認識することが出来ない人達に天族を認識させることが出来る。そういう手もゴンベエは知っているのだが、私とベルベットが絶対に反対にする……犠牲無しで平和を目指している、ゴンベエからすれば甘えたこと、ふざけた事だろう。

 

「……残念だが、その問いの答えはここには存在しない……そういった事は導師が人として成長してから自力で答えに至るものだ」

 

「その答えが間違ってたら?」

 

「それは……」

 

「暴論と言われても構わない。でも、100人中100人が納得する答えを出し続けなきゃならない。英雄ってのは基本的にはそんな存在だ、勝ち続ける存在だ……英雄は一歩間違えれば化け物なんだ、ただ向かっている方向性が違うだけでヤバい存在である事実は変わりはねえ」

 

 ゴンベエは自分が言っている事の一部が暴論である事を認めている。

 だが……世間はそれを求めている。それほどまでに今の世の中が荒んでいる……ピンチを助けてくれるヒーローの存在が必要だ。

 

「…………人と天族はどう向き合えばいい?」

 

「それが分からねえから聞きに来たんだよ……この問題は答えが存在していない問題だ。自分の物差しで納得する事が出来る様な答えを導き出さなきゃいけねえ……犠牲は極力無しの方向性でだ」

 

 目の前に居る天族の方も人間と天族はどう向き合えばいいのかが分からなくなっている。

 数学の様に正しい答えが一切存在してない。自分の心で納得する事が出来るか出来ないのか、それだけの問題だがそれだけの問題が故に難しい。ただ純粋に上から押し付ければ確実に反発が起きてしまう……難題だ。

 

「お前達は導師ではないのだな?」

 

「誰がそんなめんどくせえ役職なんかしてるかよ……ただの辺境の地方領主(男爵)だ」

 

「……人と天族の向き合い方は分からない。今のままでいいのかどうかすらも……君達にコレを持っていってほしい」

 

 ゴンベエが導師でないと言い切れば、天族の方は禍々しい闇を纏った剣を取り出した。

 

「ミスリルと呼ばれる金属で出来た剣だ、きっと君達の役に立つだろう」

 

「いや、オレはマスターソードとフォーソードがあるから要らない」

 

「私もこの武器あるから要らないわ」

 

「私もこの槍があるので必要ではないです」

 

「……いや、あの」

 

「オリハルコンで出来た武器とも対等以上に渡り合える武器を持ってるから要らねえよ」

 

「ならば、そのミスリルの剣、私が頂こう」

 

 ………え?

 突如として鳴り響いた声……その声を知っている。この場にいる誰よりも私は知っている。だからこそ固まった。どうして?何故?そんな疑問が尽きなかったが黒い穢れの塊がミスリルの剣を奪っていった。

 

「……何故……何故ここに……何故ここに居るのですか、マルトラン師匠(先生)!?」

 

 穢れが一箇所に集約したかと思えば、そこには敬愛する我が師匠、マルトラン師匠(先生)が立っていた……穢れを放ちながらだ




スキット 愛が重いのは

ザビーダ「ベルベットって……重くねえか?」

アイゼン「実の弟が殺されたと思って復讐鬼になり最終的には己の為に世界を滅ぼす魔王の道を選んだ女だぞ……重くない方がおかしい」

ザビーダ「いや、確かにそう言われればそうだけどよ……ゴンベエ、辛くねえか?束縛が強すぎるとか赤ちゃん欲しいとか普通にぶっ飛んだ事を言ってるじゃねえか」

ゴンベエ「あ〜……別にいいぞ……ベルベットが手遅れなブスでなく絶世の美女だから許される」

ザビーダ「辛いとか思わねえの?」

ゴンベエ「愛の形なんて人それぞれだしよ……ベルベットがマジで手遅れなクズや外道じゃないからいいんだ……世の中にはどうしようもないクズが居る。オレはそれを見たからベルベットの束縛が強すぎるとか愛が重いとか思うことはあるけども、それが嫌だって言わねえよ。だって、あんな立派な女性に愛される事の方が難しいんだから」

ザビーダ「スケール大きいな……」

アイゼン「その割には一部渋ってるところが……まぁ、流石に子供を強請るのは早いと言うか重いと言うか」

ゴンベエ「数年間はベルベットとイチャイチャしたいから……後、親になるのって相当な覚悟とか色々と大事な物があるから」

エドナ「育児ノイローゼとかマリッジブルーとか言うのにならない為に?」

ゴンベエ「それもあるけど……環境を用意しておかなきゃダメなんだよ」

エドナ「環境?」

ゴンベエ「親になる上で、特にお父さん側がしてあげなくちゃいけねえ事がなんなのか分かるか?」

ザビーダ「……子供を愛する心を持つ?母親ってのは腹を痛めて命懸けで子供を産むから愛情が湧くものだ。だが、父親は腹を痛めて産んでねえ。その辺の覚悟の違いが」

ゴンベエ「そういう精神的なのも大事だが……………金が大事なんだよ」

エドナ「お金って……また随分と俗っぽいわね。もうちょっと精神的なものはないの?」

ゴンベエ「精神的なものよりも金の方が大事だ。生活的な環境で子供を産んでも問題無い環境を作り上げる、子供が習い事をやりたいのならばその金を出せるようにする。子供が夢ややりたい事を持っていないのならばとりあえずはいい企業に就職してほしいからいい学校に入って欲しい……その為に1番大事なのは、金だ。金が無けりゃなにも出来ねえ。勉強をする為の参考書1つ買うのにも金が要るんだ」

ザビーダ「言いたいことは分かるがよ……もっと他に色々とあるだろう」

ゴンベエ「コレだけは譲れねえな……金が無いから習い事が出来ない、貧乏だからいい学校に通うことが出来ない、とにもかくにも金が全てだ。人間の社会や文明は金によって成立している。今の人間の築き上げた文明や社会全てを否定する覚悟があるならばともかく、無いんだったら金は大事だ。どれだけ立派な信念や勤勉さがあっても『うちにそんなお金は無い!』の一言で終わる……お前達は世間とは離れている風来坊に近いからその辺は深くは理解出来ねえだろう……でも、それだけはあってはならねえ事だ。ベルベットとアリーシャにお金の面で苦労させたくねえんだ」

エドナ「……意外としっかりと考えてるのね」

アイゼン「子育てに必要なのは愛情ではなく金か…………ゴンベエらしいと言えばゴンベエらしいが……だが、間違いだと言い切れない」

ゴンベエ「子育てが課金ゲー厶?上等だ。無課金でガチ勢に勝てるゲームなんて存在しねえ。馬鹿みてえに課金してガチャを引きまくって最強装備を揃えてやるよ、それでも腹を痛めて命懸けで子供を産んでる母親には敵わねえがな」

ザビーダ「愛が重いのってホントはベルベットとアリーシャちゃんじゃなくてゴンベエの方じゃねえか?」

アイゼン エドナ「確かに」






???「読者諸君、よくぞここまで来た。例によってQ&Aのコーナーだ。転生者の設定じゃない転生者の素朴な疑問に答える1問1答だ。質問は待っている」


Q ゴンベエと仲良くなる女の子はなぜヤンデレになるの?
  ゴンベエには女の子をヤンデレにする呪いでもかけられているの?

???「ふぅん、奴の恋愛事情か……色々とメタな発言だが答えてやろう。結論だけ言えば奴が女をヤンデレにさせているのは奴でなく奴に好意を持っている女が地雷を抱えているだけだ。ヤンデレにならない時も存在しており作者がそれをあまり書かないだけだ」

 一例その1 アリーシャ・ディフダ

???「先ず現在絶賛重くなっているアリーシャだが奴にも悲しい過去や重たい環境、そして力を持っていない。アリーシャという女は信念は高潔だが力を持っておらず現実とのギャップに悩んでいる女だ。そんな中で奴は様々な道を教えて自力で答えに至る様にした。本来であれば救いの手が無い存在に対して対価を求める事なく道を教えた……アリーシャにとっては救いのヒーローに見える、憧れるだけでなく恋心を抱くのも当然であり、ベルベットというライバルが現れたのならば嫉妬して自分だけの物だと言うのも普通な事だ」

 一例その2 ベルベット・クラウ

???「災禍の顕主ついては語らなくてもいいだろう……奴は最初から最後まで災禍の顕主の味方であった。復讐鬼である災禍の顕主を否定する事をせずにずっと受け入れ続けてた。無論、時折色々と言ったりしたが真摯に向き合ってきた。対話の心を持っていた。上条の如くそげぶをしなかった。奴は秩序を持った悪人が故にあの様な事が出来る……元々災禍の顕主の愛は重くて、それを向ける対象が弟から夫に変わっただけに過ぎない」

 一例その3 アンジェリーナ・クドウ・シールズ

???「こういう事を言うのはアレだが、読者に共感したり感情を向けて貰う為に厨二病とも言える過去を背負っている悲劇のヒロインが多かったりする。アンジェリーナ・クドウ・シールズは兵器として扱われたりしている中で普通の人間として女性としてあの馬鹿は接している。ただそれだけの事がとても嬉しいのだろう。魔法師は普通の人として接してくれない化け物は化け物同士でしか生きることが出来ない基本的にはクズしか登場しない魔法科高校の劣等生の世界観ならば尚更だ」

 一例その4 アクア(キングダムハーツ)

???「コイツに関してはよくあるパターンだ、悲劇のヒロインを救済した。泣いてはいけない叫んではいけない。辛くて苦しい環境でも前に進まなければならないのだと折れずに前を進み続けていたが、折れかけてしまった女に対して辛かったことや苦しかったことを心の底からぶちまけさせた。ただそれだけに過ぎない。だが、人間本音を打ち明けられる家族以外の相手は早々に存在しない……故に依存する」


 結論


???「ただ単純に奴に好意を持っている女が元から重かっただけに過ぎない。なにせ創作物の世界のヒロインは重たい過去を背負わせておけばいいという安易な考えがあって重たいものを背負っているからな……身も蓋も無い話だがな」

Q じゃあ、逆に重たくない時ってあるの?

???「メガネがガオーンとかは普通にしてある」


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開き直るしか道は無い

リーガルハイのBGM聞きながらハイテンションで書いたからクソです。
今回はクソなので面倒だったら今回の話は見なくてもいいです。


最近さ、Aiイラストハマったんだよ。
作者は画力がゴミだからさ、それに頼るしかなかったんだよ。



糸目、カンフーウェア、三つ編み、額に中の文字、泥鰌髭

で絵を書いてもらっても中々に理想通りに行かねえよ。
Aiイラストの使い方を間違ってる自覚はあるが、それはそれで見てみたいと頑張ってるんだけどね。


無料で会員登録しとかなきゃダメなAiイラストでやってるからな……今回のはAiイラストです。

お前が憎んでいるのは憑魔でも天族でもない。
希望の対価に犠牲を要求する、この世界のルールそのものだ。そんなルール、ぶっ壊せ。ぶっ壊して、世界を変えろ。

という台詞を入れたかったけども入れる部分が分からなかった。

何度も言うけどリーガルハイのBGM聞きながらハイテンションで書いたからクソです。


 

「誰だ!?」

 

「アリーシャの師匠のオバハン」

 

 ミスリルというRPGでは定番とも言える素材で出来た剣を渡して来ようとした護法天族から奪った。

 何者かと思えばアリーシャの師匠であるオバハンであり、アリーシャとオレ以外は面識が無いので説明をしたが警戒心は一切解こうとしない。

 アイゼンが聞いてくるので答えた

 

「貴様、相変わらず目上の者に対して口の利き方がなっていないな」

 

「生まれだけで目上って何時の時代の話をしている?オレはもう既に男爵だ、テメエよりは上だ」

 

 オバハン呼ばわりされると眉毛がピクリと動いた。オレの口の利き方がなっていないと言ってくるが、テメエよりも既に上の地位にいる。

 権力を振りかざすのはアレだけども……睨み合いが続く中でエドナが呟く。

 

「貴女、私達が見えるの?」

 

 護法天族の会話を聞いていた為にミスリルの剣を奪えた事に気付く。

 このオバハンは天族を認識することが出来ている。今の今まで、それこそライラが堂々と寝転んでいた聖堂に対して一切のツッコミを入れなかったのは謎だ……そう思っているとオバハンから禍々しい穢れが溢れ出る。

 

師匠(先生)、その武器は危険です!今すぐに手放してください」

 

「……フッ……」

 

「お……支配下に置いたぞ」

 

 禍々しい穢れを纏っているミスリルの剣はオバハンを穢れで飲み込もうとする。

 しかし、オバハンは気力1つで押し退けるどころか禍々しい穢れを自分の支配下に置いた……が、穢れが消えていない…………

 

「天族を認識している、穢れを放っている……ロクロウ以上に人の形を保った憑魔か」

 

「その通りだ」

 

 天族を認識することが出来る方法の1つで、憑魔化がある。

 原理は忘れたが、目の前に居るオバハンは憑魔になっている、その仮説を立てて……それを認めた……

 

「大体分かった、1番最悪なパターンだな…………テメエが裏でハイランド戦争推進派を始めとするあれやこれやを手引きしてる奴か」

 

 今の一連のやり取りだけで大体分かった。分かってしまった。

 ハイランドの政の中枢に居るんじゃないかと思っていたヘルダルフの使者、それがオバハンだ。

 

「え…………」

 

 オレの発言にアリーシャは固まった

 

「ほぉ、たったコレだけで何故そう言い切れる?」

 

「むしろコレだけの判断材料があるのに何故そう言い切れない?」

 

「質問を質問で返すな」

 

「質問する前に1つでも仮説を立てろ……おっと、歳食いすぎて自分がなにを言ってるかも直ぐにボケる老化が進んでるか、認知症は大変だな」

 

「煽らないで……なんでヘルダルフの手先って言えるの?」

 

「……業魔病が流行ってるって聞いてなにが思い浮かぶ?」

 

「なにって、憑魔化でしょ?」

 

 ヘルダルフの手先だと分かった理由をエドナも分かっていない。

 スゴくザックリと分かりやすく言ってやろうと先ずは業魔病に関して問いかければ、当然の如く憑魔化の事だと返ってくる。

 

「あの頃は大半の人は原理や理屈は知らないけども、業魔病を知っていた。けど、今の人達は業魔病を、憑魔の単語を知っているか?」

 

「…………私達天族と一緒に行動してなかったら知らないこと……なんで知ってるの?」

 

「なんでもなにも……教えてもらったんだろ?憑魔の単語を知っている人間に。災禍の顕主に」

 

 今のオレ達にとっては業魔病や憑魔のワードは極々普通の事だ。

 だが、大抵の人はそのワードを知らない。自分が憑魔なのかという自覚すらまともに無い。1000年前の様に業魔病という病気が流行ってて感染して自分が業魔化したと言えるのならまだしも、この時代で自分が憑魔化したと自覚してるのは早々に無い。

 

「私が憑魔であることを自覚してるだけでそこまで分かるとは……相変わらず知恵は回る食えない男だ」

 

「あいにく、オレを食っていいのはアリーシャとベルベットだけなんだよ」

 

師匠(先生)、何故ですか!?ヘルダルフの様に子供でも分かるような明確な悪にどうして加担するのです!戦争を手引きしてるのですか!?」

 

「決まっているだろう……今の世界を滅ぼす為だ」

 

「…………オバハンはヘルダルフと密接に繋がってるんだな…………」

 

「ああ、私こそがハイランドで戦争推進派を手引きしている間者だ」

 

「ん〜……じゃあ、この際だから聞くけどもアイツは結局のところなにがやりたいんだ?自分を騙した奴に対する復讐か?それだったら完全に無関係な奴に当たるなよ、八つ当たりだ」

 

 ショックで目の色が変わるアリーシャ。

 今の世界を滅ぼすとオバハンは言い切ったのでこの際だからとヘルダルフの真の目的を聞く。

 アイツはロクロウ以上に自我を保っている。ベルベットに近い感じだろうが、目的が全くと言って見えない。それこそ人類絶滅を願っている明確に見える悪……の割にはそれこそが正しいと確信犯だ。

 

「……師匠(先生)……どうして憑魔に?いえ、憑魔になって感覚が狂っているのですね。今すぐに虚空閃で元に」

 

「……昔語りをするのはババ臭いが」

 

「既にババアだろうが!」

 

「…………ならば、言ってやろう。アリーシャ、お前とはじめて出会った頃には既に私は憑魔だった」

 

「…………」

 

 ありえないと言いたげな顔で精神が乱れているアリーシャ。

 こんな状態では虚空閃を撃つことは出来ないのでオレが強制的に浄化してやろうかと考える。

 

「嘗ての戦で私は憑魔になる道を選ばなければ死んでいたのだ……私はくだらない妬みで味方に襲われて憑魔となった……先に言っておこう、私を浄化すれば私は人として死ぬだろう」

 

「っ……」

 

 外道だな、この野郎が。アリーシャにとって尊敬している人であるオバハン、浄化すれば死んでしまうことを言えばアリーシャは震える。

 浄化さえすれば元に戻る、頭が1度スッキリとしてそこから話し合いが出来るなんかが一切通じない。ブラフの可能性も存在してるが……オレが殺したら意味は無いか。

 

「話を戻そう……災禍の顕主の目的は至って単純だ……世界中の人間を苦しませることで不幸にならない世界を作ること……全人類憑魔化だ」

 

「今度はそっちか……」

 

 アルトリウスは穢れのないの人間のみを作り上げる、ヘルダルフは穢れのある人間のみを作り上げる。

 方向性は違うだけで呆れる…………何時もみたいにデラボンで倒してもアリーシャは立ち直る事が出来ねえ…………

 

「あ〜めんどくせえ……」

 

 殴って倒す以外の手段を用いなければならねえ。

 オレは深雪みたいに善人じゃねえ、ブッキーみてえに普通の人じゃねえし、アイツみたいに我が道を行く人間でもねえ。

 ここであってはならないことはマルトランが逃げることだが、アリーシャを本気で折りにかかっている。

 

「ベルベット、アリーシャの手を握ってやれ」

 

「……」

 

「ゴン、ベエ……」

 

「さて、何故そんなしょうもねえ答えに至ったんだ?一応は秩序を持った悪人だから話は聞いてやるよ」

 

「穢れにあらがうのと穢れに身を任せる、果たしてどちらが人間的だ?」

 

「……はぁ〜……はぁ〜…………オバハン、曲がりなりにもオレよりも歳上なんだろ?いい歳してその程度の事しか言えねえの?」

 

 めんどくせえ……めっちゃめんどくせえ!オバハンの出してきた質問に対して嫌気が差す。

 もうさぁ、めんどくせえよ

 

「穢れに逆らう事が人間的だと?」

 

「ちっげえよ、どっちもだよ!どっちも人間的なんだよ。この手の問題は数学みたいに正しい答えは存在してねえんだよ。欲望や感情に身を任せるのも人間的、感情に身を任せない様に理性で律するのも人間的だ」

 

 なんでこうも2極端なんだよ?あまりにもアホな発言だ、この手の問題は数学みたいに正しいと言える答えはねえんだぞ?

 どちらも人間的に言えば、黙る……え、なに?もう論破した感じ、じゃないよな…………

 

「ゴンベエ」

 

「最後の悪役はオレがやる」

 

 ヘルダルフという明確に見える悪の使者ならばとアイゼンは殺すことを考える。

 最後の一手は、始末するならばオレがする……オレがやらなきゃいけねえことは……あ〜もうめんどくせえよ!

 

「全人類憑魔化して苦しんで不幸にする世界を作り上げるって時点で色々と破綻してるんだよ!」

 

「不幸を感じるのは幸福の味を知っているから、とでも言いたいのか?」

 

「……世の中、下には下が居るんだよ!」

 

「……は?」

 

「は?じゃねえよ、聞いてなかったのか?世の中、下には下が居るんだよ!」

 

「……上じゃないのか?」

 

「え、こういうのって上じゃないのか?」

 

 オバハンもザビーダもなにを言ってるのかがマジで分かっていない。

 世の中には上には上がいると言うけれども、それと同時に下には下が居るんだよ。エドナは眉を寄せている。

 

「誰もが苦しみ不幸が無い世界って言うけどよ…………皆、なんだかんだで苦しんでるんだぞ?ザビーダは殺しを救いと思わなきゃいけなかった。アイゼンは死神の呪いに苦しんだ。エドナはドラゴンになったアイゼンを見て苦しんだ。アリーシャは力の無い自分に苦しんだ。ベルベットも……苦しくない人間なんていねえんだよ!オレだって本音を言えば苦しいよ!義理のお姉さん的なのが婚姻届にサインしただけで結婚とかふざけてるの?って脅されたんだぞ!親にこんな絶世の美女の嫁さん貰えたって報告出来ねえの苦しいんだぞ!」

 

「ちょっと貴方の愚痴を零す場所じゃないわよ」

 

「でも、それでも人は乗り越える……自分ではない他の誰かを蹴落とす事によって自分が他よりもマシな存在、下には下が居ると感じて幸福になる。誰もが苦しむって言うけど、苦しむことで不幸にならないって結局のところなんなんだよ?我慢しないことか?感情のままに生きることか?違うだろ?感情的になっても苦しいものは苦しいんだよ!辛いものは辛いんだよ!」

 

「…………」

 

 いっそのこと開き直る様な姿を見せてやる。なんかこう、立派な事を言って論破したりするのはオレには向いてねえよ。

 

「誰もが苦しむ事で苦しみから開放するって考えだろうが、その苦しみは平等?不平等?そもそもでその全人類憑魔化はオバハンみたいに憑魔化して『あ、自分憑魔です』って自覚してるパターンか?大抵は自我を失ったり確信犯なパターンだぞ?獣みてえに暴れるだけじゃ不幸とか幸せとか一切分からねえよ」

 

「……それは……苦しみは不平等だ」

 

「不平等だったら苦しみにならねえよ!ホントの苦しみとは苦しいと感じない事なんだよ。幸福の味を知っていると分かるのが不幸を感じた時だと言うが苦しみを感じる時は不幸を感じる時なんてのは存在しねえ、幸福の味を知って不幸だと言うんじゃない自分がそもそもで不幸だと感じてない事が真の不幸で苦しみなんだよ!自分が不幸だと感じたのは自分が幸福を知っているのと同じだから!下には下が居ると自覚出来ればそれはもう苦しみとは無縁の存在になるんだよ……果たしてそれは不幸なのか?苦しいのか?どっちなんだ?」

 

「……ならば苦しみは平等に与える」

 

「それ意味分かって言ってんのか?絶対に意味が分かって言ってねえだろ!ものは試しだ、その物騒な力で平等な苦しみをこの石ころにやってみろ」

 

 オレは適当に神殿を破壊した。

 やってみろと言えば、オバハンはメルキオルのクソジジイみたいに穢れをぶつけて石を憑魔化させた……

 

「おい、コレの何処が平等な苦しみだ!全人類憑魔化計画破綻してんじゃねえか!」

 

 案の定な結果になった。やっぱりなんにも分かってねえよ……オバハンもなにが言いたいのかが分かってない。

 

「ゴンベエ、感情的になるのはいいがオレ達にも分かるように説明してくれ……お前が嘗て言っためんどくさいの時と同じ様に」

 

「……だってこいつ、オバハンと同じ見た目になってねえだろ?」

 

「……なにを当たり前の事を言っている?石が私になるわけないだろう」

 

「はぁ?なに言ってんだ?自分とは同じ見た目になってないなら不平等だろう?」

 

 このオバハン、マジで……いや、狂ってるのはオレの方なんだがな。

 

「巨乳で苦しむ、貧乳で苦しむ、イケメンで苦しむ、美女で苦しむ、ブサイクで苦しむ、背が高くて苦しむ、背が低くて苦しむ……この時点で不平等だろ?」

 

「……っ……」

 

「苦しみを平等に与えるって事は同じにしなきゃならねえんだよ。エドナが合法ロリの貧乳と煽って苦しめるのとベルベットが実年齢1000歳の巨乳ババアと煽って苦しめるのとじゃ方向性が違う!その時点で平等じゃねえよ」

 

「「おい」」

 

 後で殴られるだろうな……。

 

「まぁ、確かにイケメンで苦しむ、ブサイクで苦しむとか人によって苦しいことは大きく異なる……全員に平等に苦しんでもらうならば、全員が同じ見た目、同じ体重、同じ背丈で……って、全員を同じ思想にするのはアルトリウスの鎮静化と同じじゃねえか!全員同じじゃ意味ねえだろ!」

 

 オレの言っている事にも一理あるなと頷くザビーダだが、やってることはアルトリウスの鎮静化と大して変わらねえ。

 

「ホントに平等に苦しみを与えるならば、先ずは自分と同じ容姿、同じ考え、同じ心の憑魔を作れるようになってから言えや!」

 

「出来るわけないでしょ、そんなこっ…………ああ、確かに破綻してるわね」

 

 開き直りまくった。その結果、シリアスな空気は流れずにベルベットは呆れる。

 しかしここで分かる。平等に苦しみを与える事は出来ないという現実的な問題が。

 

「苦しみを感じない事こそが真の苦しみ!世界中の皆が全員同じ容姿、食ってるものも味わう苦痛も皆が同じ!そうすることではじめて平等になる!ブサイクで苦しんでる人は全員が同じ顔のブサイクになって本当ならば苦しい筈が全くと言って苦しまない!だって優劣の差が無くなるんだから!」

 

「それ根本的な部分が破綻してない?ていうか幸福になってない?」

 

「でしょうね!でも、真の苦しみっていうのは不幸や苦しいって事を感じなくなる事だからな!幸福と不幸は人によって感じ方が異なる!人間が男と女で分かれてる時点で優劣の差は嫌でも生まれるんだよ!」

 

 エドナにもっともらしいツッコミを入れられるがオレは気にはしない!

 

「物は色々と考えようだぞ。自分よりも不幸な人間を全て幸福にすれば自分は最も苦しんでる1番の不幸な人間になる!自分よりも幸せな人間を全員不幸に叩き落とせば自分が1番の幸せ者になる!そして大抵の人は他者を蹴落とし幸せになろうとする!それが自我と理性を併せ持つ心を持った生物のみが出来る唯一無二の特権だから!心を持った生物が背負う業だから!オレ達だって意識してるか無意識なのかは分からないが他者を蹴落とさなかった事は無かったとは」

 

「……まれ……」

 

「あん?」

 

「黙れと言っているんだ!!」

 

 オバハンはブチギレた。

 もっともらしい正論とかをぶつけてるわけでなく、確かに言われてみればそうかもと思えるような一種の仮説の様なものを意見を立てただけだ。

 ただそれだけなのにキレた……今の自分を、今までの自分を全て否定しかねない事を言っているかもしれない、頭で理解する事は出来ても心で納得する事が出来ねえんだろうな。

 

「オバハン……人生はプラマイ0だって話があるだろう?『人生はプラマイ0だ、幸福な人間もそれ相応の大変な苦労を積み重ねてるとか』『まあおよそそんな意味で』『だから皆平等って言いたいんだろうが人生はプラマイ0だって言う奴は決まってプラスなんだ、最終的には幸せだからそんな常套句を言えるんだよ』っと、コレじゃあヘルダルフが求める皆が苦しんで不幸になる世界も認めてる……う〜ん、あ、アレだな。人は平等ではない。努力せずに足の速い者、美しい者、親が貧しい者、病弱な身体を持つ者、生まれも育ちも才能も、人間は皆違ってる。人は争い、競い合い、そこに進歩が生まれる。平等を求める事こそが間違いであり、全員が同じく苦しめば幸福になるという理論は時には幸福も感じない、平等こそ悪だ」

 

「黙れぇええええええええ!!!!!」

 

「不平等という現実を受け入れろ!努力するのは当たり前だがそこで生まれる過程も時には結果以上に大事なものなんだ、競え争え比較しろ!そうすることで成長して発展する、そして犠牲は沢山出る。それが群れをなす社会だ……なんか初歩的な事すら分かってないっぽいから言ってやろう」

 

 

 

 既に怒ってるけども、コレを言えば確実に呆れる。

 開き直るのにも程があると言われるだろうが、言ってやろう

 

 

 

 

 

 

 

「よそはよそ!うちはうち!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………よくそこまで開き直る事が出来るわね……」

 

 あまりのクソっぷりにエドナは引いている。

 

「そらそうだ。人間のクソみたいな部分を沢山見てきた。それと同時に人間のいい部分も沢山見てきた。そしてその2つは切っても切れない、片方だけを選ぶのは無理なんだ!プラスもあればマイナスもある!じゃあ、どうすればいいのか?逃げる!開き直る!よそはよそ。うちはうちでいいんだよ!価値観はそれぞれ不平等だろ」

 

「クククッ……ハーッハッハッハ!!そこまで開き直るか普通!」

 

 清々しいまでに開き直っているオレにザビーダは大笑いする。地獄育ちの転生者はそういう事が出来るんだよ。

 

「嘆いてる暇があれば口じゃなくて体を動かせ、文句の1つがあるならば自分からいい方向に変えてやろうと考えろ、どうやって笑顔にするか考えろ……お前達の考えも1つの正論だと理解するが共感はしない、だってめんどくせえし分からねえし分かりたいとも思わねえから!」

 

「開き直る、か………………ああ、そうだな。お前みたいに開き直る事も大事だな」

 

 オレの言っている事に関してアイゼンも納得をする。

 開き直る事は時には大事なことなんだよ。

 

「だったら偽りの苦しみを!不幸を与えてやる!!」

 

「オバハン、ヘルダルフをボコボコにしたオレに勝てると思ってんのか?また認知症か?」

 

 過去にボコボコにした事を忘れたとは言わせねえぞ?

 禍々しい穢れを纏ったミスリルの剣を一閃すれば……オレ、ではなくアリーシャに向けて穢れを纏った真空波的なのを飛ばした。

 

「愛する妻を無くせば偽りであろうとも貴様は苦しみのドン底に、不幸になる……」

 

「おぉい、なんか本質見失ってね?……」

 

 ま、無駄だろうがな。

 アリーシャに向かって飛ばした穢れを纏った真空波だったが、アリーシャは自分の真名を告げることなく闇属性の神依的なのに切り替わり、左腕の盾で防いだ。

 

「はぁ…………ゴンベエ…………」

 

「呆れて笑い話にすらならないか?オレは基本的には愉快な道化なんだぞ?」

 

「いや……いい…………ベルベットが自分の為に戦った。ライフィセットが自分を犠牲にして世界を救おうとした、マオテラスは羽ばたく翼を与えた……ならば、私も私の道を行くだけだ……師匠(先生)が明確に見える悪に加担していた、世界中の人間が憑魔になれば苦しめば不幸から開放される、皆が不幸になれば幸せになる……だが、人間は多様性を持った生き物。人の数だけ道がある…………ありがとう、ゴンベエ」

 

「おっと、勘違いするなよ?オレはあくまでも道の存在を教えることは出来る、だがその道を歩けば自分の求める答えが存在しているなんて言ってねえのを」

 

 他人にまで自己犠牲なんかを強くなることは強要しちゃいけねえ。

 強くならなきゃいけない環境だと自覚させたりするのはいいことだが、弱いままでも構わねえ……そう言うのを守りたいと思うのが善人だ。

 

師匠(先生)……いきます!」

 

「地獄を知らない平和論者の小娘如きが頭に乗るな!」

 

「アリーシャ!」

 

「アリーシャちゃん!」

 

「問題ねえよ」

 

 オバハンに突っ込んでいったアリーシャをエドナとザビーダは心配する。

 憑魔になっているオバハンは強いだろう。伊達に蒼き戦乙女なんていう痛々しい渾名をつけられていないのだから。神依使った方がいいんじゃねえのかと思うのもわかる。

 けど……アリーシャだって積み上げてきた物がある。苦しかったことも楽しかったことも沢山ある。そしてそれを杖にして一歩ずつ一歩ずつ前を歩いてきた。

 

師匠(先生)、貴女からすればまだまだ私は小娘でしょう!だからどうしたんですか?夢を見ることは現実とぶつかり合うことは誰しもあることじゃないですか!」

 

「っ……」

 

「アリーシャちゃんが勝ってる?」

 

「いや、それどころか優勢だ!」

 

 アリーシャはオバハンと戦う。オバハンは強いけども、アリーシャがそれを軽く上回る。

 手を抜いているのかと見てみればアリーシャがただただ純粋に強いのだとアイゼンは気付いた。

 

「地雷閃!」

 

「なっ!?」

 

「ミスリルの剣があんなにも簡単に……」

 

「エドナ……アリーシャの槍とベルベットの剣は、オリハルコンの太刀でも敵わない神の太刀を越えようと人生を注ぎ込んだ職人が自分の腕で作り上げた物じゃないから使いたくねえって言ってたヤバい素材で出来てる。余裕でオリハルコンを砕くことが貫くことが出来る逸品なんだ……ミスリル如きが勝てるわけねえだろ?」

 

 地雷閃を一振りし、受けに回ったオバハンのミスリルの剣を叩き折った。

 エドナはミスリルの剣を簡単に叩き折った事に驚くのだが、オレ達は驚かない。それだけアリーシャの槍を心を鍛え上げていたんだから。

 ミスリルの剣が叩き折られて、ありえないと言いたげだが直ぐにアリーシャとの間に大きな実力差が生まれている事に気付きアリーシャは石突の部分を向けた。

 

破岩突(はがんづき)!」

 

「っ…………」

 

「今の感覚……肋骨が折れたでしょう……っ……」

 

「どうだ?平和論者の小娘の信念も悪くはねえだろ?」

 

 最後の最後で非情になりきる事が出来ていないアリーシャ。

 ここはさも知れず間に入り込んでアリーシャがどう足掻いてもオバハンを殺せない、浄化する事も出来ないと気付かせない。

 

「貴様が……貴様は……何故、何故この様な平和論者で頭の中が馬鹿な小娘に力を貸す?争う事や他者を蹴落とすことが本質だと分かっているはずなのに何故だ!!」

 

「ん〜…………あ〜……………逆に聞くけども、なんでダメなんだよ?」

 

「なに?」

 

「有能な怠け者は指揮官にせよ、有能な働き者は参謀に向いている、無能な怠け者は連絡将校か下級兵士が務まる、無能な働き者は殺すしかない……アリーシャは無能な働き者に該当するだろう」

 

 ゼークトの軍隊論だかなんだか忘れたけども、そんな感じだ。

 アリーシャが有能か無能かと聞かれれば無能だ、しかし働きものであり余計な事をしでかしてしまう。貴族が裏で賄賂を渡して他国との情報交換は大事な事なのにアリーシャはそういうのを理解することが出来ずに突進した。無能と言っても当然な事だろう。

 平和論者で頭の中がお花畑だと言われればその通りだろう。

 

「でも、思いだけは誰よりも純粋で真っ直ぐで本物で優秀だろ?」

 

「─────」

 

「そんな頑張ってる奴の力になりたいって…………ああ、そうか、そういうことか……」

 

 スレイ達にああだこうだ言っているのに大して力を貸さない。

 スレイをやろうと思えば道を教える事が出来るのにしていない、めんどくせえの一言で終わらせている。でも、アリーシャには沢山力を貸している。なんでかって聞かれる事は無かった。アイゼン達もなんだかんだでアリーシャには甘いと思っててそういうものだと認識していた。

 

「オレ、アリーシャの事が大好きなんだ。人として異性として」

 

「え…………えっ…………ええっ!?ゴ、ゴゴゴゴ、ゴンベエ!?」

 

「ハハハ!なんだよ!こんなシンプルな事になんで全く気付く事が出来なかったんだよ!相変わらずオレはダメ人間な未熟者だよ!オレがアリーシャに力を貸すのは頑張ってるアリーシャが大好きだから!側に居て支えてあげたいって思ってたからだ!」

 

 なんだよ、なんでこんな初歩的な事に気付かなかったのか!

 1年以上じっくりと時間をかけて今やっと悟る、気付く。オレはアリーシャの事が大好きなんだって事に。





スキット 奇跡の1枚

アイゼン「……」

ゴンベエ「どんな感じだ?」

アイゼン「……微妙だな……わざわざ氷菓子を食いにここまで来ない」

ゴンベエ「やっぱりか……」

エドナ「なにをしてるの?」

ゴンベエ「氷を売って利益を上げることが出来てるのかの計算、純粋な氷だから利益率が高い筈なんだが」

アイゼン「伊達に災厄の時代じゃない……何かと物入りで、ゴンベエがあれこれ買うから収益よりも支出が大きい……わざわざここまでアイスクリームをはじめとする氷菓子を食いに来る必要性はない」

エドナ「まぁ、普通の土地で食べるアイスよりも暑いところで食べるアイスの方が美味しいし……アイスの為にこんな辺鄙な所に来ないわよね」

ゴンベエ「辺鄙言うな……なんか商売考えねえとな……他と同じ事をしても利益が上がらねえからな……なんかねえか……」

エドナ「カメラを使った商売でもしたら?」

ゴンベエ「オレの持ってるカメラは一発パシャリで写真撮れるけども……あ〜……」

エドナ「ああだこうだ考えるよりも、とりあえず挑戦しなさい……あ、いいとこに来たわね」

ベルベット「どうしたのよ?」

エドナ「ベルベット、モデルになりなさい」

ベルベット「……は?」

アイゼン「成る程……ベルベットをモデルにするんだな」

エドナ「ええ……レッツゴー!」

ベルベット「ちょ、なによ急に!」



【挿絵表示】



【挿絵表示】



ゴンベエ「おぉ……なんかスゴく加工が入ってるけども、おぉ……左腕包帯外しても問題ねえの?」

ベルベット「まぁ、別に……私達が生き抜いた証だからつけてるだけよ。後、どういう原理かは知らないけど喰魔の手から元に戻せば巻き付いてるの……その、変かしら?ずっとあんな格好だったし、今更普通の格好とか」

ゴンベエ「いやいや、何時もの格好もいいけどこういうのも好きだよオレは……ベルベットはなんでも似合う」

エドナ「いっそのこと花嫁衣装を着させて……ベルベットならば行き遅れの心配は無いわ!」

ザビーダ「エドナちゃん、そういうこと言ったらダメだってば」



???「ふぅん、転生者達に1問1答の質問コーナー……今回はどの遊戯王とデッキが好きなのか?オレは当然、遊戯王DM!そして世界を制覇したブルーアイズだ!」

ゴンベエ「あ〜オレは……アニメ的な意味で好きなのは5Dsで、特にチーム太陽戦が好きだ。好きなデッキは全ての召喚が出来るEM魔術師オッドアイズデッキ、時代的な意味では遊戯王ARC−Vの頃……ZEXALやってた頃は基本的にはエクシーズ、5Dsやってた頃はシンクロを目立たたせたけどもARC−Vの頃はシンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、融合、儀式全てが取り上げられて強化されただろ?あの頃が好きだ……EMEmは地獄だが」

ヒナコ「私はサイバーエンドでアニメはVRAINS……グォレンダァが印象的で脳筋なのが好きよ」

吹雪「僕はインフェルニティで5Dsで満足街編が大好きかな……5Dsから遊戯王のイカれ具合が加速したところが大好き」

深雪「私はサイバースですね!アニメはGX、高橋先生の書いた遊戯王の後を繋ぐことに成功してて先の読めない展開がとても楽しかったです」







 ゴンベエってアリーシャ大好きなの?

 好きって思いとかが無ければ過去に連れて行かない。ゴンベエ、悪人だからね。


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自分以外が居なければ

Aiイラストでアリーシャ出来ないかと試してみるがアリーシャの髪の色の時点で詰んじまってるってばよ。
ベージュ?金髪?ブロンド?サイドテール?……厳しいってばよ。


 

「なんだ……あまりにもシンプルか……」

 

 アリーシャに力を貸す理由が今になってやっと分かった……アリーシャの事が大好きだと言う至ってシンプルな理由だった。

 笑い話にしかならねえなと思いつつもオレはマスターソードを取り出したと。

 

「殺すならば殺せ……私の役目はもう終わりだ。ハイランドに戦争の火種を投下した、時期に戦争に」

 

「そうはさせません……私は、私達が戦争を起こさせない……」

 

「ゴンベエが戦争を無理矢理締結させた事を導師の力と言っているが……時間の問題だ」

 

 時間の問題ねぇ…………。

 

「だったらお前等と言う悪を用意すればいいだけだろ?」

 

「なに?」

 

「人類が手を取り合う理由は主に意見が合うからだ。ならば、至極当然の理由…………ヘルダルフと言う裏で戦争を手引きしている悪の存在を証明してやればいいだけだ。そうすればハイランドもローランスも共通の敵を得れば戦争なんてしてる暇は無いのだと自覚する」

 

 人類が手を取り合うには共通の敵を認識させる事だ。

 幸いにもそれをする手立ては幾らでも存在している。ヘルダルフと言う明確に見える悪が実在しているのならば、余裕で奴を悪人に、世界共通の敵として認識させる事が出来るだろう。

 

「人間の深い業を見たと思いこんでるんだろうけども、人間の本性もなんも分かってねえな……」

 

「穢れを放つ心が人間の」

 

「だから、なんで黒と白しかねえんだよ?」

 

 黒か白のどちらかしか存在しないと主張しようとするオバハン。そりゃ確かに白と黒は色の存在度で言えば圧倒的に上だろう。

 でも、世の中は黒と白しか存在しねえんじゃねえ。

 

「赤とか緑とか青とか黄色とか沢山あるだろう?なんでその色を見ようとしない……そりゃ色の存在度でとかでは黒と白が重要だ。でも、赤とか緑とか青とか黄色とか紫とか色々な色が存在している。それが手と手を取り合うことで美しい虹色になる……黒と白と言っても100種類以上ある。ベルベットみたいな黒もあればヘルダルフの様な黒もある……まさかそんな初歩的な事すら考えていなかったのか?」

 

「──」

 

 開いた口が塞がらないオバハン。

 原価何十円のパスタも盛る皿や食べる人によって何十倍にも値段が膨れ上がる調和の話をしてもいいが、それだと話が少し違う。

 全くと言ってなんにも考えてない、ただ単に自分がその色が好きだからと押し付けているだけの力を持っただけの子供に過ぎない。まぁ、子供らしさを忘れることはいけねえ事だがよ。

 

「バカだバカだとは思っていたがここまでバカだったとはな」

 

「……勝手に絶望して、勝手に恨んで、勝手に無関係な人間を巻き込んで…………なにがしたいのですか?全人類憑魔化なんて馬鹿な真似を……」

 

 呆れて言葉も出すに出せない。

 アリーシャはなにがしたいのかを問い詰める。色の存在を認めようとしない、黒か白しか無いと思っているオバハンは答えなかった。

 赤があれば青もあり青もあれば紫が黄色が緑がオレンジがと沢山の色が存在している。初歩的な事でそれらが混ざり合えば醜い色になる時もあれば綺麗な色になる時もある。

 

「……師匠(先生)、貴女からすれば私なんて現実を知らない小娘でしょう。ゴンベエと一緒に始まりを見届けて、自分がどれほどに無力な存在なのか嫌でも思い知りました……でも、それでも頑張ります」

 

「………………私は、そんなお前が大嫌いだった」

 

「……貴女が諦めてしまったからですか?…………ならば言います、私は貴女とは違う」

 

 アリーシャはそう言うとオレの手を取った。

 

「私にはゴンベエが側に居てくれる。ベルベットと側に居る。エドナ様やザビーダ様が力を貸してくれる、アイゼンが教えてくれる……貴女の様に1人ぼっちじゃない、真の仲間が家族が居ます……苦しい事や辛い事は沢山ありました。ですが、一歩ずつ皆で前に進んで行きます」

 

「……くだらない、な…………っ…………」

 

「自分が見れなかった夢の続きを妬むなよ…………気絶したか」

 

 アリーシャは自分が弱い小娘である事を認めて、己の弱さを認めて受け入れた。

 誰かに支えてもらわなければ歩くことが出来ないダメな奴だがそれでも一歩、また一歩と歩んでいく事を決める。それを聞いたオバハンは穢れを強くして気絶した。心の何処かでアリーシャの事が羨ましいのだと妬んでたみてえだ。

 

「…………肉体が穢れに耐え切れずに浄化したら死んじまうと言う話は割とある……お前の師はハイランドとローランスに戦争という災厄を齎そうとした悪魔だ、ケジメをつけなきゃならん……」

 

 アイゼンは倒れたマルトランの元に歩み寄る。

 明確に見える悪の使者ならば、浄化したら死んでしまうと言うのならばもうそれしか道は無いのだと言い切り天響術を使おうとするが、アリーシャが槍をアイゼンに向ける。

 

「許す、と言う選択肢は最初から無しだ」

 

「分かっている……分かっているんだ……でもっ…………私に殺せない、死んでほしくない!」

 

 自分が大好きだった人を見殺しには出来ない。例え子供でも分かるような明確な悪人だとしても殺される姿を見られたくはないだろう。

 裏社会ならば殺すことがケジメだという意見に関しても間違いではない。でも、殺して救ったりするのは間違いだとアリーシャは思い込んでる。

 

「だったら裁ける様にするしかないか……」

 

「裁ける様にって、証拠が中々に見つからないのよ?証拠を探す前に裏で暴れられたらひとたまりもないわ」

 

 アリーシャのやりたいようにするだけだ。

 エドナは証拠探しが上手く行っていない事を指摘するが……要するに全てが終わってから、裁ける様にする。

 

「まぁ、証拠なんて最悪でっち上げればどうとでもなる…………ただな、アリーシャ。コイツ等は人類全てを憑魔化させるとかいうくだらねえ野望を抱いてるんだ。その為にお前みたいに自らの意志で武器を手に取ったんじゃない人達が沢山生まれて沢山傷ついた…………それ相応の報復はさせてもらう」

 

 何もせずに許すと言う選択肢は何処にも無い。それ相応の事はしなければならない。

 その事に関してアリーシャは首を振らなかった。オレの好きにしていいのだと言うアリーシャなりの相槌だろうと思っているとアリーシャが抱き着いてきた。

 

「私はもう疲れた。逃げたい……もう苛められるのはコリゴリ、いいことは……君と出会えたことだ。こんな地位なんていらなかった。こんな家に生まれたくなかった、下の苦しみなんて知らない小娘のワガママを受け入れてくれない?」

 

「そうか…………そうか…………疲れたなら立ち止まってもいい。苦しいって思ったなら思いっきり泣いてもいいんだ……とりあえずオレが出来るのはこういうことだからな」

 

 涙をポロポロと流しているアリーシャを抱き締める。

 辛いことや苦しいことは沢山あった。泣かないように我慢してる時が多かった。叫ばない時も多かった。でも、苦しいことは辛い事は沢山あった。オレがアリーシャに対して出来ることは精々こうやって抱きしめて頭を撫で続ける事ぐらいだろう。

 

「ゴンベエ……私はただのアリーシャになっても好きで居てくれるか?」

 

「オレにとっちゃ目の前に居るアリーシャがアリーシャだよ……」

 

「じゃあ、キスして」

 

「ああ」

 

 アリーシャが望んだのならばとオレはアリーシャにキスをした。

 それだけでアリーシャは救われた気分になる。幸福になる。アリーシャはオレの左腕を抱き締めており嬉しそうにしている。

 

「そういう事してると、アリーシャ余計に依存するわよ………て言うか、貴女は怒らないの」

 

「…………大好きな人に大嫌いだった、違うって否定された苦しみは完全じゃないけど少しだけ分かるのよ…………まぁ、後で私も思いっきり抱き締めてもらうけど……そうね」

 

「えっ!?」

 

 ベルベットが嫉妬しないのかとエドナは聞けばベルベットはアリーシャの背中を抱き締めた。

 前はオレが、後ろはベルベットが抱き締める姿でありアリーシャは一瞬だけ戸惑ったが直ぐに心地良さそうな顔をする……今日、寝る時はアリーシャを真ん中にして寝よう。じゃなきゃ、アリーシャの気持ちが落ち着かないだろう。

 

「…………黒でもなければ白でもない。赤や青、様々な色が交差して光り輝き煌めく虹色が生まれるか…………その様な考えには至らなかったな」

 

「……まだ居たの?」

 

「いや、最初から居たが」

 

 護法天族がオレの意見に賛同しているが、マジで影が薄かった為にエドナに驚かれる。

 割と最初から居たが、なにを言えばいいのかがわからないというか…………まぁ、いいか。

 

「ここには俺達の求めている答えやキッカケになるヒントが存在していなかったか……」

 

「そなた達は既に覚悟を決めており赦す心を持ち合わせている。他の試練神殿の詳しい内容は知らないが……求めている物は無い筈だ」

 

 試練神殿はあくまでも導師を人間的な意味合いで成長させる場所だと言いたげな護法天族。

 求めている物が無い……

 

「それならこの場所は要らなくね?」

 

「は?」

 

「だって人間の世の中はコロコロと変わっててコレだと言う絶対の答えは無いに等しいじゃねえか。闇堕ちした理由を探せが試練内容だとしても、そういう人間も居るものだなと認識するぐらいだろう……そもそもでそういうのって教えてもらわなくても大体分かるだろう」

 

 人間的な意味合いで成長させたいのならば、もっともっと効率がいい方法がある。

 しくじり先生俺みたいになるな!!みたいにミスした人間が色々な事を教える方法があるかもしれないが、それはそれこれはこれである。

 多分だけども、天族のシステムは何時の間にやら老害化に近いシステムに代わろうとしている……厄介だよ。オレは抱き締めているアリーシャを放して爆弾を取り出した

 

「おい、待て……その形状は」

 

「伝統や文化は時として壊すものだ」

 

「や、やめろぉおおお!!」

 

 爆発オチってサイコー!遺跡を木っ端微塵に粉砕というか大爆発を起こして二度と人が入ることが出来ないようにした。

 スレイとかロゼが万が一ここに来たとしてもここにはもうなにも残っていない。跡形も無いぐらいに木っ端微塵にしたのだから。

 

「さて……帰るか」

 

 ザビーダが自殺とかが出来ない様にする拘束系の術を覚えていたのでオバハンを動けなくする。

 腕の一本でも圧し折っておけば楽だがアリーシャの感覚的に既に肋の骨は折れているみたいだからな。

 

「結局のところ、1歩も進んでないわね」

 

「いや、今の災禍の顕主の手下を捕まえたから少しだけ前進している」

 

 大地の汽笛を走らせてあっという間に辿り着いた我が家。

 ベルベットが進展が無いことをボヤけばアイゼンは一歩ずつだが少しだけ前進している事を言う。前向きに捉えとかなきゃダメだよな。

 

「それで……あの女をどうするつもりだ?法的な裁きをするにも絶対的な物的証拠が無い……仮にあったとしても揉み消される立ち位置の人間な可能性が高い」

 

「ん〜……オレはこれでも表情に出さないだけで結構怒ってるし……あのオバハンは自分でなにを言ってるのかが全くと言って理解することが出来ていなかったっぽいし…………全力の嫌がらせをする」

 

 家に帰ればオバハンをどういう風にするのかをアイゼンに聞かれる。

 殺すのは無し。アリーシャがしたくないと言うし、アリーシャも浄化する事が出来ねえ。でも、それ相応の報復はさせてもらう。

 

「一応の為に確認しとくが……ベルベット、お前があの監獄に居た時は3年間まともに食事とかしてなかったんだよな?」

 

「ええ、まぁ……穢れを放ってる業魔を餌に喰魔の左腕で喰らってたけども基本的には飲まず食わずだったわよって……なにするつもりなの?」

 

「別に、盛大なまでの嫌がらせと言うかあのオバハンが言っている理想に近い世界を作り出すだけだ」

 

「……どういう意味?」

 

「いや、別に…………相手が狂った事を言っているのならば、それ以上の狂気を見せてやるだけの話だ」

 

 こんな事を考えているのだから秩序を持った悪人だなんだと言われるし、自覚出来る。

 翌日にオバハンは意識を取り戻しているがアイゼンが施した拘束系の術のせいで逃げる事なんかは全く出来ない。無論、自殺もだ。

 

「殺すならば殺せばいい……私が倒されたとしても、問題は無い」

 

 四天王の中で奴は最弱的な事を言い出すオバハン。

 いっそのこと頃してやれば物凄く気が楽だろうが、それだけはやってはいけねえ事だからととりあえず海に向かった。

 

「ふん、我が主を封印した時と同じく海の底に沈めるのか…………」

 

「いやいやいや、そんな甘いことをオレがするとでも思ってるのか?」

 

「なにをするつもりなんだよ?」

 

 ヘルダルフが海の底に沈められた事を知っているのか、同じ目に合わせるつもりなのかとザビーダは聞いてくる。

 殺して終わりだなんて甘いことをするわけがない。アリーシャが殺すなと言うので殺そうとはしない。口で説明するのは面倒だからと望遠鏡を取り出してザビーダにあっちを見ろと海側を指差す。

 

「おい、あの船……火事が起きてるぞ!?」

 

「なに!?ちょっと貸せ!」

 

 指さした方向には船があった。

 煙を出していることからザビーダは火事が起きていることに驚き、その事を知ったアイゼンはザビーダから望遠鏡を奪って覗き込む。

 小さな船があるのは確かだが、火事は起きていない。慌てているザビーダに対してアイゼンはスゴく冷静だった。

 

「まさか……アレは……」

 

「知ってんのか?」

 

「大地の汽笛の様に蒸気で走る船、なのか?」

 

「ああ、そうだ……そろそろこっちに来るな」

 

 大地の汽笛の様に蒸気で走る船……夢幻の砂時計に出てくるラインバック号とも言うべきか。

 その船にオレ達は乗り込む。アイゼンがワクワクしているのだが特に気にすることはしない。

 

「ゴンベエ、こんな物も持っていたんだな」

 

「使い道が基本的には無いし、10人ぐらいしか乗せる事が出来なくて重量制限とかも色々とあるから使い時がねえんだよ……異大陸に行くのに貸さないからな」

 

「いや、この船の力ならば確かに異大陸に行くことが出来るが小さすぎる。バンエルティア号サイズの船でなければ……しかし……こんな船も存在しているのか……大地の汽笛と動く原理は一緒なんだろうな?」

 

「蒸気で動いてる……じゃ、いくぞ」

 

 アイゼン達を乗せれば船を、ラインバック号を発進させる。アイゼンはジッと船を操縦しているオレを見つめている……運転はさせねえぞ。

 直ぐにグリンウッド大陸が見えないところまで離れる。ベルベットは羅針盤を手にしていて方向性を気にしている。

 

「う〜ん……お、あそこがいい感じだな」

 

 とりあえずはと色々と島を探していれば見つけることが出来た。

 あそこだったらどうにかなる。島に近付けば島に近づいていることをエドナは気付いて驚く。

 

「ちょっと待って、貴方正気なの?あんな所に向かうだなんて……」

 

「言っただろ?盛大なまでの最大の嫌がらせをするって……はい、着いたぞ。お前等、1度降りるぞ」

 

 オレ達は島に上陸する。

 10mあるかないかの石の島、いや、果たしてコレは島と呼んでいい場所なのか?ギネスブックに載っててもおかしくないレベルの小さな島。

 エドナは右を見る。辺り一面海だ。アイゼンは真正面を見る。辺り一面海だ。ザビーダは左を見る。辺り一面海だ。ホントに島と呼ぶのはいけないレベルの場所だ。

 

「なにを、なにをするつもりだ…………っ!?」

 

「オレは怒ってるから、それ相応の報復はする……地獄の九所封じその1大雪山落とし!」

 

 ここまで来てもなにするのかが分からないオバハン。

 オレは結構怒ってる。オレが殺せば本末転倒なのは分かっているがボコっとかなきゃ気が済まねえ。フィニッシュを決めない限りは相手を殺さない地獄の九所封じを行う。

 

「地獄の九所封じその二と三、スピン・ダブルアーム・ソルト!地獄の九所封じその四と五、ダブル・ニー・クラッシャー!」

 

「背中が……足が……腕が………結局のところ、お前が殺すのか……」

 

「オレが込めた怒りの部分だけ……じゃ、オバハン残して帰るぞ」

 

「…………は?」

 

 地獄の九所封じでボコったのはオレの怒りが込められているからだ。

 だが、それはそれでありこれ以上はなにもしないと地に伏せているオバハンを放置して船に乗れとアイゼン達に言えばアイゼン達は驚く。オバハンも流石の事なので思わずキョトンとしている。

 

「お前は誰もが苦しんで不幸にならない世界を望んでいるんだろう。だったら与えてやるよ、お前の周りに誰も居ないから誰もが苦しんでいる。そうお前だけが苦しむ孤独な社会に」

 

「待て……こんな場所で、人が」

 

「あんたはもう人じゃねえ、憑魔だ。飯は食わなくていい存在だ、暑さや寒さも殆ど感じねえ存在だ…………あえてオレはあの時は言わなかったけどよ、全人類が憑魔化したら飯とかはどうすんだ?お酒を嗜好品として嗜む憑魔だって世の中には存在しているんだぞ…………まさかだとは思うけれども、自分だけ美味しい美酒を飲んで愉悦に浸りたかったわけじゃねえだろうな?そんなんじゃ自分だけ幸福になって相手だけ不幸になるという思考だよな」

 

「そ、それは……」

 

 あえて昨日は聞かなかったけども、人類全てが憑魔化したとしてロクロウやあんたの様に人を維持してる憑魔はそんなにいねえ。

 ロクロウ以上に人間臭いと言えばダイルとクロガネぐらいで後の殆どは自我を失っている。自我を失っていない連中は嗜好品として酒を嗜んでる。趣味として飲んでるじゃなくて好んで飲んでいる。

 

「喜べ、オバハン。テメエの願いは叶う!だって周りに誰も居ないんだから自分だけが苦しんでるって思いをしなくていいんだ!世界で自分1人だけになれば不幸も幸せも存在しない!プラス1もマイナス1も感じない!比較する相手さえ居なければあんたは苦しむ事も他人から妬まれる事も無いんだ!世界中の人間があんたみたいに人間の姿を持ってて考える事が出来る憑魔にならないのならばあんたには孤独を与えてやる!そうすることであんたは不幸でありながら幸せになれる!」

 

「殺せ……殺せ……殺せぇえええええええ!!」

 

「い・や・だ・ね…………じゃ、帰るぞ……どうした?」

 

 オバハンはドス黒い穢れを放つのだが地獄の九所封じが効いているのか全くと言って動けない。

 自分の事をいっそのこと殺せと言ってくるのだが、誰がそんな事をするか。オバハンを放置してしまえばコレでもう終わりだとラインバック号に帰ろうとするがエドナは引いていた。

 

「普通、そこまでする……」

 

「オレは普通の人間だったけども、今じゃ災禍の勇者だ…………コレぐらいの事はしておかねえと、秩序を持った悪人じゃねえよ」

 

「…………外道ね………」

 

「殺さない道を教えてるのに何処が外道なんだ?」

 

「そういう意味で言ってるんじゃないわ…………………酷すぎて言葉が出ない」

 

「まだ優しい方だぞ……殺してしまえばそこで終わりなのだから、生かさず殺さず、生殺しを与えれば最高なんだ」

 

 自らが命を断つ事が出来ない様にアイゼンが拘束系の術をかけている。地獄の九所封じをくらったので体がまともに動かない。

 右を見ても左を見ても海だらけで、この大陸には現時点では異大陸に行く方法を知らないから船が来る事も早々に無い。

 

「希望を与えられ、それを奪われる。その時人間は最も美しい顔をする……ならば死と言う一種の絶望から救いを与えたかの様に見せつけて永遠の生という恐怖を与える……マルトラン、お前の足掻きは素晴らしかった!情報操作なんかも!だが!しかし!まるで全然!!!このオレ達を倒すには程遠いんだよねぇ!!!悔しいでしょうね〜」

 

「……………なんでゴンベエって穢れを放たないのかしら……」

 

 それはそれ、これはこれで割り切って生きているからだ。

 ともあれマルトランを殺さず生かさず、人が住めない環境の無人島に放置するという荒業を成し遂げた。




スキット 振り切れれば色ボケになる。

アリーシャ「その…………えっと……………」

ゴンベエ「どうした?」

アリーシャ「どの辺りから、私の事が好きになってくれたの?一目惚れというわけじゃないよね?」

ゴンベエ「乙女の口調になってるぞ?」

アリーシャ「だ、だってあんな事を言われたら気になるじゃない!ゴンベエ、私の事をなんとも思ってないって……ベルベットがお嫁さんになってたし……グスッ」

ゴンベエ「泣くなよ……アリーシャがどの辺りから好きか……ライラに対して色々と聞いたりして災厄の時代を切り抜ける事を模索し………あ〜ごめん、ホントにごめん」

アリーシャ「そんな頃から私の事が好きだったの?…………それを自覚せずに、ベルベットと結婚したんだ」

ゴンベエ「事実ですけど、そういう事を言うんじゃねえよ……………オレ、結構最低な理由でアリーシャに好意を抱いてるんだよ」

アリーシャ「どういう意味?私の顔が好きとか胸が好きとかなの……その、別にいいよ。ゴンベエだったら、そのおしりの方の処女を渡したいって思ってるし……こんな情勢じゃなかったら今すぐにでも」

ゴンベエ「お前もお前でネジ狂ってるなぁ……オレはやる気がねえダメ人間だ。大体の事を察して気付くダメな人間だ……アリーシャの求めてるものが如何にしてめんどくせえのか、たった1つの小さな幸せを見つける為に手に入れる為には死ぬ気で立ち向かわなきゃいけねえ……だからアリーシャに頑張れってオレみたいになるなって言いたいんだ……あ〜最低だよ、マジで」

アリーシャ「……構わないよ……それで私は救われた。私は甘い考えを持っている……武器を手に取り戦う事は辛い現実を見なければならない、傷を背負う覚悟がなければならない、それでも前に突き進まなければならない。愚痴を零すのならば墓場で死んだ後にすればいい……それを学ばせてくれた。それはきっと学ぼうと思って学べる事じゃない……ありがとう、ゴンベエ」

ゴンベエ「そうか…………じゃ、キスしていいか?」

アリーシャ「うん!ちょうだい!」

エドナ「……ゴンベエ、振り切れれば色ボケに走るのね…………」




スワベエ「Q&Aのコーナー!今回はゴンベエじゃなくて諏訪部として出してもらっている諏訪部だ」

みやのん「どうもどうも、みやのんだよ……じゃ、早速行こうか」

Q 転生者の方に質問です。

1.無限に転生できる権利を得た後、自動車講習のように定期的に地獄に呼び出されることはありますか?

2.転生者の痴態(恋愛面でのグタグタ・人生での失敗等)に関してですが、転生者本人が望めば他の転生者に伝わらないように出来ますか?

スワベエ「1つ目の答えに関しては今のところは無い……講習的なのは存在しねえな」

みやのん「2つ目の質問に関しては……出来ないよ。転生者になる上では暴露されても問題無いよね?的なのを聞かれててイエスじゃないと転生者になれないから……ただ」

スワベエ「転生者になる前の頃は一切語らねえ……悲しい過去とか厄介なものを背負っていてもそれはそれ、これはこれで割り切ってもらわなきゃ困るからな。転生者になる前の事だけは地獄の転生者運営サイドは一切語らない、教えちゃいけない決まりとかは無いけれども人様の家庭事情に首を突っ込むも同然の行いだから、聞かない」

みやのん「皆、苦しいけれども辛いけれどもそれでも一歩ずつ一歩ずつ前に進んでいく。僕だってそう。生きることに対して希望を見出だせずに自殺した人間だけどもそれでも前向きになって歩いているんだ……仮に転生者になる前の事を聞かれてても答えない転生者の方が多いかな」

A 1 今のところは特に無いです

  2 無理です。転生者になる上で暴露しても問題無いか的な事を聞かれてます。尚、転生者をやる前の事に関しては地獄の転生者運営サイドは一切教えない。当人の口から聞き出さない限りは死因は知らない。


Q ゴンベエ、吹雪、黛さんに質問。


  転生者生活をやっているなかで一番一緒にいて嬉しかった女性は?

みやのん「やめろ、マジでやめてください!そういう正妻戦争に繋がりそうな話はダメだ!!」

スワベエ「そういうのを答えさせるのって鬼なの?どのヨッメが1番だって言えば……裏切りだからな?」

「質問から逃げるな」

みやのん「ま、まゆゆん!?」

「誰が、まゆゆんだ、誰が……正直な話、オレはヲタライフを送れればそれで構わねえな……まぁ、それでも誰かを上げろって言えばゼロの使い魔のティファニアだな」

スワベエ「黛さん、そういうガチなのよくないと思う。ホントさ……皆、綺麗でいい女だよ」

「曖昧な言葉にして逃げるんじゃねえ、そんな事を言ってるから嫁がヤンデレになる」

みやのん「いや、スワベエの場合は地雷原に飛び込んでるだけだから……そうだね……皆、美女でいい人だったけども、それでも誰か1人を上げろって言うならば……寿みなみ……なんでかは言えないけども、色々とあった……ホントにね……」

スワベエ「マジなのを出すな馬鹿野郎」

「オレ達も言ったんだ……1人だけでいいから上げろ。ベルベットとアリーシャは先ず無いだろう?1番を決められなかった結果なんだから」

スワベエ「…………藤丸のの……ワールドトリガーに転生した際に色々とあった………作者がメガネがガオーンで構想は練ってるけども、まだ書いてないからアレだけども、色々とあった……」



 誰が1番なのかは決めたくないけどもそれでも上げろと言われれば

 黛 ゼロの使い魔の世界に転生した際に一緒になったティファニア

 スワベエ(ゴンベエ) ワールドトリガー(メガネがガオーン)で藤丸のの

 みやのん(吹雪) 推しの子の世界で寿みなみ

 である。

スワベエ「答える側が傷つく質問は良くないよ、マジで……質問待ってるぜ!」


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スキット大全集(その2(笑))

主に飯に関するスキットです


スキット 世界観が一緒だけどシステムは異なります

 

ベルベット「…………」

 

エドナ「どうしたの?目を閉じてなにか悩んでるみたいだけど」

 

ベルベット「なんか……おかしいのよ……」

 

ザビーダ「おかしい?…………悩みなら聞くぜ」

 

エドナ「ゴンベエの惚気話はやめてよ……なにがおかしいのよ?」

 

ベルベット「ちょっと家計簿を見たんだけど…………朝昼晩のご飯よりもお菓子代の方が馬鹿みたいに掛かってるのよ……冷静になって色々と振り返ってみたの。この時代に来てから、私、かなりお菓子を作ってるわ」

 

エドナ「そうね……美味しいわよ、ベルベットのお菓子。お金の事なら気にしちゃダメよ。ゴンベエが稼いでくるから。絶対に貴女とアリーシャに経済的な面で苦労を掛けたくないって言ってるし」

 

ザビーダ「エドナちゃんが惚気話してどうすんだ…………けどまぁ、お菓子を多く作ってるかどうか聞かれればその通りだな。飯よりもお菓子を多く作ってるし食ってるって自覚はある」

 

ベルベット「振り返ってみれば…………この時代に来てから色々とおかしいのよ。オレンジグミとか言うのを食べないと強い術技使えないし、歩いてたら勝手にお菓子を作ってるし……料理を作るよりもお菓子を作ってる時間の方が長い気がするわ」

 

エドナ「別にいいじゃない、節約してるわけじゃないしダイエットしているわけでもないのだから……」

 

ザビーダ「もしかしてアレか?幸せ太りってやつか?」

 

ベルベット「してないわよ!……ただ、この時代と私が災禍の顕主やってた頃の時代が大きく異なっているって……見た目とかが変わってないし、中身も大して変わってないのに、なにかが大幅に変わっている気がするのよ。戦い方も徹底的に相手の弱点を突かないと相手を仰け反らせる事が出来ない、神依前提のバトルな気がするわ」

 

アイゼン「なんだ、気付いていなかったのか?」

 

エドナ「お兄ちゃん、ベルベットの違和感に心当たりがあるの?」

 

アイゼン「ああ……世界観が違うんだ……先に生まれた結果、後に生まれたものと矛盾をしている。その結果、色々と違和感を感じる……オレもそうだ。単体で戦うのが当たり前なシステムの筈なのに人間+天族のシステムになっていて違和感を感じる」

 

ベルベット「システムが違う……言われてみれば、そうね……歩いていれば気付けばお菓子を作るのもシステムが違うから?」

 

アイゼン「ああ、そうとしか言えない……それでも理由を求めているのならば、聖隷、いや、天族にとって食事は絶対不可欠なものではない。娯楽の中の嗜好品の一種に過ぎない。娯楽としての食事ならば必然的に甘い物を求めるのが普通だろう……まぁ、オレは甘い物以外も好んで食うが」

 

エドナ「私はやっぱりなんだかんだで甘い物に落ち着くわね」

 

ザビーダ「俺は甘い物も酒もイケる口だな……」

 

ベルベット「……やっぱりおかしいわね、気付けばお菓子を作ってる自分が居るのわ……次、なにが食べたい?」

 

エドナ「パルミエがいいわ」

 

 

スキット ジャパニーズスナック

 

ゴンベエ「はい、お菓子完成」

 

エドナ「…………なにこれ?」

 

ゴンベエ「いい感じの小豆が手に入ったから作ったんだよ」

 

エドナ「いや、だからなにこれ?この紫色なのは?」

 

アイゼン「コレは羊羹だな、東の異大陸から伝わる小豆を甘く炊いて出来たあんこというペーストをゼリーで固めた伝統的なスイーツだ」

 

ゴンベエ「間違いじゃねえけども、微妙に違うぞ……甘い物を食べたいって言ってるから作ったけども……あんこはダメなのか?」

 

エドナ「ダメって言うか……食べた事が無いわ……美味しいの?」

 

ゴンベエ「あ〜…………まぁ、日本と言う国に来たらケーキとかよりもちょっと食べてってよとは言いたいお菓子だな……」

 

アリーシャ「エドナ様、見た目は華やかではないですが味はとても上品です」

 

ベルベット「結構クセになるわよ」

 

エドナ「…………」

 

ゴンベエ「嫌なら無理して食うなよ」

 

エドナ「別に、食べないなんて言ってないわよ…………ゴンベエ、異大陸の人間なのよね?」

 

ゴンベエ「この大陸と異なる大陸の人間という定義で表せばそうだが……どうしたんだ?」

 

エドナ「やっぱりお菓子とか全然違うの?」

 

ゴンベエ「……そもそもでエドナが普段から食べたいって主張してるのはお菓子じゃなくてスイーツじゃねえの?」

 

エドナ「お菓子はスイーツじゃない、なにを言い出してるのよ?」

 

ゴンベエ「違うぞ」

 

ザビーダ「口で説明するよりもお菓子の1つでも作ったらいいんじゃねえの?」

 

ゴンベエ「それもそうか……じゃ、ちょっと待ってろ。スイーツじゃないお菓子作ってくるから」

 

 数時間後

 

ゴンベエ「ん〜材料的にコレぐらいが限界か……」

 

アイゼン「ほぉ……中々の数だな……見たことが無いお菓子があるが果たしてオレの舌を唸らせる事が出来るかどうか……っ!?」

 

エドナ「かっら!?……水、水!?」

 

アリーシャ「エドナ様、こういう時は牛乳が1番です!」

 

ゴンベエ「あ〜ダメだな。本家に近付けてねえや」

 

エドナ「なによこれ!滅茶苦茶辛いじゃない!」

 

ザビーダ「いや、待ってくれ……ん……おぉ……染みる………辛いには辛いけども、それがクセになる美味さだ!」

 

アイゼン「このお菓子はなんだ?」

 

ゴンベエ「ハバネロくん」

 

エドナ「ハバネロって滅茶苦茶辛い唐辛子じゃない!?それを使ったお菓子って罰ゲームなの!?」

 

ゴンベエ「コレが癖になって美味いって言う奴は言うが……お前、辛いのダメなのか?」

 

エドナ「私は辛い物よりも甘い物が好きなのよ」

 

ザビーダ「まだまだ子供だな、エドナちゃんは……このクッキーは醤油の味がするな」

 

アイゼン「いや、コレはクッキーじゃない。確か煎餅だったか?……コレも結構イケるな」

 

ベルベット「揚げたジャガイモをオーブンで焼いてもう1度揚げただけの芋なのになんで美味しいの……」

 

ゴンベエ「……この大陸、食の文明が発展してるのか?中途半端ななのか?どっちなんだ……一応は甘い物を作ってるぞ」

 

エドナ「……なにこれ?」

 

ゴンベエ「雪見だいふく的なの……コレをホットミルクとあんこで割った物でお汁粉もどきをすればなぁ……」

 

エドナ「…………美味しいじゃない!」

 

ゴンベエ「そりゃあな……さっきアリーシャが見た目に関して言ってたから、ちゃんとしたキレイな見た目の和菓子も作ったぞ」

 

アイゼン「桜の花びらに、紫陽花、鯛の形をしている……芸術の領域だな」

 

エドナ「でも、中身が全部あんこなのよね?……ん…………なんで飽きないの?おかしいわね」

 

ゴンベエ「さぁ……たい焼きもどら焼きも原材料大して変わらないってのに全く異なるスイーツだからな……あ〜でもやっぱりクオリティ低いな」

 

ベルベット「あんたが認める基準がよく分からないんだけど……コレじゃダメなの?」

 

ゴンベエ「オレの中途半端な技量のお菓子だとこの大陸じゃ売れても日本じゃ絶対に売れねえよ……日本のお菓子、無駄にクオリティ高くてコスパがいいんだよ」

 

アリーシャ「コスパも……この鯛の形をした物は幾らぐらいなんだ?」

 

ゴンベエ「う〜ん……1ガルドが10円だったら15、14ガルドぐらいじゃねえの?」

 

ザビーダ「いやいやいや、流石にそれは無いだろう。薄利多売にしても利益でねえぞ?」

 

ゴンベエ「いや、出るぞ……1ガルドが10円だと換算するならば、余裕で3ガルド販売で利益出せるのもあるぞ?」

 

エドナ「…………チョコ系は……クッキーの上にチョコをかけてるだけね……」

 

ゴンベエ「アルフォート、トッポ、ポッキー、コアラのマーチもどき、きのこの山、たけのこの里、ブラックサンダー、他にも色々とあるけども極端な話をすればクッキー生地の上か中にチョコレートをコーティングしてるだけだが」

 

エドナ「……なんで、全部味と食感が違うの?どうなってるの?」

 

ゴンベエ「他にも色々とあるぞ。タピオカミルクティー作りたかったけども、タピオカが無かったからコーヒーゼリーをシェイクしてコーヒー牛乳に混ぜた物とかカレーせんとかぼんち揚げとかおにぎりせんべいとか、宇治金時とかSOYラテとか」

 

エドナ「……ゴンベエの国じゃ当たり前なの?」

 

ゴンベエ「極々普通の物だ、言っとくが素人が作ってるから味のクオリティは落ちてるぞ……日本じゃもどきと言われて売れないのは確かだ……」

 

アイゼン「職人の国か……独自の文明を築き上げていると言うのか…………」

 

ゴンベエ「海に囲まれた島国で、海外からあんまり脅威が迫ってこなかったからなぁ……」

 

エドナ「ゴンベエ、この大陸で作れそうなお菓子じゃなくて珍しいお菓子を今度から作りなさい」

 

ゴンベエ「オレとお前の価値観が異なるからなにが珍しいのか分からねえよ」

 

 

スキット 日本最強のお宝

 

ザビーダ「陸路を走る大地の汽笛、海を渡るラインバック号……ゴンベエが異大陸の住人でこの大陸の何十倍も文明が発展しているのは知っていたが、いざ見せられればここまでのものとはな」

 

ゴンベエ「言っておくが、ラインバック号も大地の汽笛も蒸気機関で色々とコスパ悪くてそれよりも上位互換に近い代物が日本じゃ当たり前だ」

 

アリーシャ「それってこの大陸で作れないのか?」

 

ゴンベエ「作れるか作れないのかの話になれば作れるけども、素材の段階で詰むんだよ」

 

ベルベット「ラフィが残した鉱石じゃダメなの?」

 

ゴンベエ「まぁ、ダメだな……シンプルに数が足りなかったり質が悪かったりする……工業の世界に入るからしゃあねえけども」

 

エドナ「どうにかならないの?……私、もうエアコン無しの生活が出来ないんだけど」

 

アイゼン「冷蔵庫でキンキンに冷やしたコーヒー牛乳を風呂上がりに飲めない生活にはなりたくない」

 

ベルベット「洗濯機で洗濯物を1度にまとめ洗い出来るのを知ったら……」

 

ゴンベエ「見事なまでにどっぷり漬かってやがるな……」

 

ザビーダ「……じゃあ、逆によ、なんかこっちに来て苦労してる事とかないのか?」

 

ゴンベエ「……無いと思ってんのか?……アホほどあるぞ……米が美味しくないとかさ……」

 

ベルベット「なによ……私の料理に文句があるの?」

 

ゴンベエ「ベルベットの腕じゃなくて米の品種が悪いんだよ。ジャポニカ米を食いたいのにカリフォルニア米っぽいのがこの大陸主流なんだよ」

 

アリーシャ「ジャポニカ……こう、細長い米とまんまるな米があるのは知っているが……」

 

アイゼン「細長い米は普通に炊いてもパサついていて汁気が多い料理に合うな……まんまるな米だが、違うのか?」

 

ゴンベエ「大分違う……もうな、ベルベットの料理の技術で誤魔化す事が出来てるけども不満はあるんだぞ」

 

エドナ「それ、ただ単に貴方の舌が肥えているからじゃないの?」

 

ゴンベエ「んなわけないと言いたいが……日本人って米とか飯に関してはこだわり強くて、日本にはトチ狂ったお宝があるからな」

 

ザビーダ「狂ったお宝って……ジークフリートよりもか?」

 

ゴンベエ「比べる事すら烏滸がましい最強のお宝だよ……イかれてる」

 

ベルベット「神依の元になった術式があるジークフリートよりイかれてるって……」

 

アイゼン「どんな願いでも叶える……いや、その手のお宝に関しては大抵は最悪な仕組みがあってどんな願いでも叶える事は出来ない……」

 

エドナ「なんなの、そのお宝って?」

 

ゴンベエ「米、酒、山海の食材が無限に出てくる米俵と鍋」

 

アリーシャ「……えっと………………イマイチ、ピンと来ないのだが?それの何処がイかれているんだ?」

 

エドナ「食材が無限に出てくるだけ、よね?」

 

アイゼン「……そんなのが、そんな夢みたいなお宝があるのか!?いや待て。この手の宝は裏があるパターンだ。なにか裏があるだろう!」

 

ゴンベエ「全部根こそぎ食ったらダメでほんの少量残しとかなきゃダメなだけ……後は宗教的な意味合いで食べられないとかの制限を無視してくるとかパン粉とか小麦粉とかは鰹節が出ないぐらいだ」

 

ベルベット「そ、そんなお宝が……」

 

アリーシャ「…………反応の差が…………」

 

ザビーダ「アリーシャちゃん、ゴンベエの話がマジなら……飢えに苦しむ事が無くなるんだぜ?」

 

アリーシャ「っ!?」

 

ザビーダ「俺達は人の盛栄と衰退を多く見てきた、衰退の一途を辿る大きな原因として飢えがある。餓死したという奴も多い……人間にとって絶対の恐怖である飢えの苦しみを開放させるって、ヤバいにも程があるじゃねえか!?」

 

ゴンベエ「でも、それが原因で人の営みである農耕が廃れていくからコレは人の手に余る物だって神様に返したんだ」

 

ベルベット「そりゃあまぁ……無限に食材が出るお宝があればわざわざ農耕する必要は無くなるわよね……」

 

ゴンベエ「ヤバすぎるお宝だからな、アレは……仮に悪用されたら、まともに太刀打ち出来ねえ……ま、手に入れる事が出来ねえし、見ることもねえから空想上の物だと思えばいい」

 

エドナ「それ世間じゃフラグって言うのよ」

 

 

 

スキット ソウルフードは裏切れない

 

アイゼン「ゴンベエが現れてから、あの馬鹿が導師になるまでどんな感じだったんだ?」

 

アリーシャ「どんな感じと言われても、自転車と言う乗り物に乗ってコーラや石鹸なんかの雑貨品などを売っていたが……それがどうしたんだ?」

 

アイゼン「少しだけ気になってな……あいつはこの大陸の人間じゃなくて色々と新鮮だろう。文化の違いを感じなかったのかとな」

 

エドナ「なにか面白いエピソードとかないの?」

 

ゴンベエ「そういう面白さを求めるのは……精々ジュースが発酵して酒に変わってたぐらいだ」

 

エドナ「充分に面白いエピソードじゃない……苦労してるところは苦労してるんでしょ?」

 

ゴンベエ「まぁ……飯関係は結構苦労したな……地元がパンの消費量多いけども、パンを主食に出来るかどうかと言われればNOだな」

 

アリーシャ「そういえば、ゴンベエは米や味噌なんかに執着していたな……出来が悪かったり好みじゃないと言えば美味しくない、不味いとハッキリと……」

 

アイゼン「米や酒、塩、味噌なんかはこだわり抜いた一品じゃなければならない……お前は米が主食だったな」

 

ゴンベエ「ああ、米と水の国で税金の代わりに米を献上してた国だからな。米だけは妥協出来ねえ……米の国と書いて、あ、違う国だ」

 

ザビーダ「やっぱり土地が違うと飯は変わるものか?」

 

ゴンベエ「大分変わる……つか、外国の飯が単純に美味しくなくて日本の飯の方が美味くて……1回油断して卵かけご飯作ったら死にかけた事もあったな」

 

ベルベット「火を通してないタマゴなんて食べたらダメでしょう!?」

 

ゴンベエ「この大陸の衛生管理の面が緩いだけで地元じゃ食えるんだって!今は地方領主になったから養鶏関係にも手を出せる!」

 

アイゼン「つまり半熟じゃない生の卵がいけるのか……」

 

ゴンベエ「そう!卵かけご飯、海苔の佃煮、ひじきの煮物、この3つがあれば余裕で3週間は過ごせる」

 

エドナ「貴方……一応は男爵でしょ。なんでそんな地味なのを好むのよ。もうちょっと派手なのを食べようとは思わないの?」

 

ゴンベエ「いや……ソウルフードだけは裏切る事が出来ねえんだよ……大体、飯に妥協する奴の気持ちがオレには分からねえよ……料理が出来ない奴が理解出来ねえ」

 

アリーシャ「うっ!?」

 

エドナ「私達天族は食べなくてもいい種族なのよ。食事は娯楽品の一種として食べてるわ」

 

アイゼン「エドナ……娯楽品の一種ならばむしろ妥協する方がおかしい。娯楽とは求める物だ、追求する物だ、例え理解者が共感者が少なくてもだ」

 

ベルベット「まぁ……極端な話、味を追求しなかったら素材をただ焼くだけお湯で茹でるだけ最悪な場合、生とかもありえるから食事は追求しないとダメよね……」

 

アリーシャ「やっぱりその…………ゴンベエは料理上手を求めている、のか?」

 

ゴンベエ「なにを言い出すかと思えば……料理は上手とか下手とかじゃなくて生きていく上で必要な事だから、出来て当然のものだろ?1人の人間がいい歳して卵焼き1つまともに焼けないのは恥だぞ」

 

アリーシャ「ぐ……ふぅ……そんな職人みたいな卵焼き作れない……」

 

ゴンベエ「いや、卵焼き用のフライパンを使えば長方形に簡単に焼けるだろ?」

 

アリーシャ「───」

 

エドナ「もうやめて!アリーシャのライフは0よ!」




ゲーム的な話をすればゴンベエがおやつ作りをすればうまい棒とか胡麻煎餅とかポテトチップスが出来る


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一富士二鷹三茄子四扇五煙草六座頭

転生する度に櫻井孝宏キャラになる男(クズ野郎)の曇れ!戦慄の帝国華撃団!ってネタは浮かんでる。


 

 ヘルダルフと繋がっているハイランドの間者がマルトランもとい老害なのが分かった。

 あのオバハンが、間者……戦争推進派の中に紛れ込んでいるのかと思ったのだがビエンフーの時と同様に内側に敵は居た。なんともまぁ、めんどくせえ事だ。だがまぁ、ものは考えようだ。犯人が分かり絶海の孤島に置いてきた。位置を覚えているのはオレだけだからヘルダルフが救い出す……いや、多分やらないだろうな。他人を蹴落とそうとするタイプだし。

 

「これぐらいだな」

 

「うわぁ……読めねえけど……」

 

 オバハンが黒なのが分かれば、オバハンの身辺調査をした。

 その結果、ローランスに情報を流し込んでいる痕跡を見つけたのだがローランス側の痕跡も残されているのか思った以上に物的証拠が集まった。

 アイゼンが詳細を纏めたリストを見せてくる。アイゼンの事だからキチッとその辺はちゃんとしている、ビッチリと沢山の文字が書かれている。オレは当然の如く読むことが出来ないが文字量からして相当な闇取引が行われたのが予測出来る。

 

「こりゃブラックリスト作らなきゃならねえな……」

 

 マルトランが特定の人物、ローランス帝国側のヘルダルフの間者に情報を流していた……だけじゃねえ。

 重役を消したり、物資を届けなくする為に橋を壊したりと色々とコスい手を使っているとアイゼンは言うのでブラックリストを考える。

 

「これら全てを師匠(先生)が……」

 

「……裏切られた気持ちは分かるけど、向き合いなさい。ここには私もゴンベエも居るんだから」

 

 オレは読めないけども、やっぱり悪事の証拠は酷かったみたいでアリーシャは顔を歪める。

 自身の尊敬する人が裏で数々の悪事を働き、世界なんて滅びればいいのだと願っていた。素直に受け止めろと言うに言えない感じの空気が出来ているがベルベットは向き合うことを言う。例え挫けそうになってもオレやベルベットが支えて歩けるようにしてくれる。

 

「それで……ここからが問題でしょ?戦争の火種を起こそうとする連中は見つけたわ。貴方なら殴って解決する事が出来るけど、もう既に戦争の火種は投下されているわ」

 

「そうだよな、実際のところ1回戦いが起きてる……裏で今の災禍の顕主が手引きしてだ。人間、キッカケがあれば変わる……そのキッカケを与えちまった。ここからもう一度別方向に変えなきゃならねえ」

 

 オバハンの裁き方に関してはアリーシャの最終手段に委ねる。

 ここからが問題、既に事は起きてしまっており未然に防ぐことは出来なかった。戦争推進派の思惑通り1度だけ戦争が起きている。エドナとザビーダはその辺に関してオレ達に言及してくる。どうすればいいのか、極端な話穢れ云々が無いんだったらオレが戦争に出て全員叩きのめすのが1番だがな。

 

「戦争を止めるにはか…………こっちの国が豊かで戦争するのが厳しくて貿易をした方が良いって思わせるのが1番平和的だ」

 

 いや、だからそれが1番難しいんだってば。

 アイゼンは自国の強化を測る、世に言う富国強兵政策を考えるのだがそれは1日2日で出来るわけじゃないし下手に軍事力を高め過ぎれば戦争推進派の思う壺……

 

「やっぱスレイの存在が地味に大きいな……」

 

「アレは無しよ」

 

 平和の象徴的存在が抑止力が必要だ。

 どっちの国の人間でもない第3者的な立ち位置の人間が必要不可欠であり、その為には天族の信仰等を復活させる導師の存在が必要だ。

 スレイの役割がここに来て地味に大きい、スレイが不況の中で布教の旅をしてくれるならばそれでありがたいが……

 

「スレイの噂って聞いたっけ?」

 

「いや、ローランスとハイランドが一発おっ始めようって時に戦争するなってブチギレて以降は……教会が赤聖水(ネクター)をエリクシールと偽って売っている事を教皇直々のサインで認めているから徐々に徐々に偽の導師詐欺も減ってきてる」

 

 導師の噂を全然聞かない。

 ザビーダに噂話はあるのかと聞けば、オレがスレイがやったことだと言い切った押し付けた案件以降は噂は0に近しいと言う。

 天族を信仰さえしておけば、ぶっちゃけた話導師の存在は不要だが……肝心の天族は全くと言って見当たらない。ムルジムぐらいしか見ていない。ザビーダもアイゼンも幾ら災禍の顕主が暗躍している災禍の時代でも異常なまでに少ないと言っている……なんか裏があるのは確かだろう。

 

「セキレイの羽はどうなってるんだ?」

 

「状況的証拠は多数存在している。しかし、物的証拠が何処にも無い……現行犯で捕まえなければならず、向こうも気付いている……悪の根は深い」

 

「そうか」

 

 スレイやアリーシャを襲撃した馬鹿もといロゼ達、風の骨。ああ言うのがこの世界には大事なのだが変革を遂げる為のこの時には不要な存在だ。

 うちの領地はセキレイの羽はお断りだと出禁にしており、アリーシャはセキレイの羽が居た時間と場所を風の骨が居た時間と場所を照らし合わせてセキレイの羽=風の骨だという状況的証拠を作っているが物的証拠が無い。それどころか裏社会のネットワークを通じてロゼ達は潜んでいる。

 過去に血翅蝶の力を使って色々と調べたり逆に調べられていたりしたから、悪の根の深さはアリーシャは熟知しておりどうすることも出来ない事を悔やんでいる。

 

「…………ただ純粋に領地経営してても無理か」

 

 アイゼン曰く初期費用が赤字だったが、これからちゃんと利益を上げることが出来るのならばオレに与えられた領地は黒字になる。

 赤と黒の絶妙なラインを行き来する黒字でなく、ちゃんと皆に利益が行き届くレベルの黒字になる。天族無しでもどうにかする事が出来ているのはいいことだ…………だが、あくまでもオレの領地のみが豊かになっているわけでハイランド全体が豊かになっているわけじゃない。

 普通に領地経営してても無理、なにかしらのアクションを加えなければならない。この世界は天族に依存している厄介な世界でトライフォースで世界ごと書き換えると絶対に目に見えない気付かないところで綻びが生まれる。

 

「こっちにもキッカケが必要だが、なにがいいのか…………」

 

 ただ殴って敵をぶっ倒すだけならばどれだけ気が楽だったんだ。

 停滞している事は自覚しているが重い、他の試練神殿に行ったとしてもパワーアップ出来るのはザビーダとエドナで2人を器にしているアリーシャだけ、戦力と言う点でも人間的な意味合いでもコレ以上のパワーアップは別にしなくてもいい…………まさかヘルダルフは寿命勝ちを狙いに来たのか……いや、オレ達が寿命とかで死ぬ頃には災禍の時代は終わりを告げることが出来る、停滞してても前に進むことが出来ているのだけは事実なんだ。オレが寿命とかで死ぬまでになんのアクションも起こして来なければ災禍の時代は確実に終わりを迎えて、暫くの間平穏な時代が訪れる。

 

「あ〜もう無理、ホントに無理…………もう休む」

 

 しておかなきゃならない内政の方はとっくの昔に終えているんだ。

 これ以上は完全にお手上げ状態、ベルベット達も特になにかいい感じの案が浮かぶわけでもない。完全に嫌な方向に向かっていってる。

 ベルベットが夕飯にオムライスを作ってくれたのでありがたくいただき、風呂に入ってベッドでオレを真ん中に右にベルベット、左にアリーシャが寝転ぶ…………エロいことはヘルダルフを倒してからだ。アリーシャの事が異性としても大好きだって気持ちを自覚しても特になにかが激的に変わるわけじゃねえ。

 

「明日も元気に過ごせればそれでいい……じゃ、ダメなんだよな」

 

 なんでオレは転生先で無双じゃなくて苦悩しているんだろう。

 もっと明るい未来が待ち受けている筈なのにやっぱり二次小説みたいなオレTueeeeは難しいか。ゆっくりとゆっくりと意識を落として眠りにつこうとするのだが眠りにつけなかった。何故か眠るなとオレの野生の勘が言っている。

 

「……」

 

 とりあえず意識を起こしておく。目だけは閉じているので気配探知を高める。

 アイゼンがザビーダと飲んでそのまま潰れている。エドナは自分用の部屋でゆっくりと眠っている。アリーシャとベルベットはオレの隣にいる。

 孤児の子供達は男女別だが別の部屋でちゃんと暖かく眠っている……何時もと同じだ。何時もと同じで頭を悩ませつつも最後は寝てスッキリになる。なにも間違いじゃねえが、なにも正しくねえ停滞の日々でも一歩ずつ前に向かっている。じゃあ、なんだこの胸騒ぎは?

 

「…………ネールの愛」

 

「がぁ!?」

 

 胸騒ぎに従って、今だという時にネールの愛を使う。

 するとどうだろう、スレイがアリーシャに会いに来た際の1番の目的であった暗殺されそうになっている事を伝える、つまりはアリーシャを暗殺しに来ようとした奴が、ハイエナの様なロクロウの様に人の形を維持している憑魔が現れてオレを殺そうとした。

 

「この野郎、最近大人しいと思ってたらオレを狙いに来やがったのか?あ?」

 

「っちぃ、理由わからねえ術を使いやがる。だったら」

 

あ!!

 

「うるさいわよ!って……だ、誰!?」

 

 起きたら人がいるが世の中は怖いという説を水曜日のダウンタウンで言っていたな。

 ベルベットを大声で無理矢理目覚めさせればハイエナの様な狐男の存在に気付いて意識を覚ます。それと同時にオレが警戒している事に気付くので敵なのだと気付いた。

 

「この野郎、自分達が仕事する機会が減ってるからオレを殺しに来たのか?それとも風の骨としての活動が出来にくくなっているから殺りに来たのか……いや、どっちでもいい、どうでもいいか」

 

 敵だと認識した以上は、倒す殺すただそれだけだ。

 話し合いの通じないならば相手がなにを思ってなにを背負っているなんてどうでもいい事だ。戦いは生きるか死ぬか勝つか負けるかで嘘が無い。

 ベルベットは左腕を喰魔に変えて容赦無く殺しに行くのだが、ハイエナ男は軽々と回避していく、いや、逃げようとする。

 

「逃がすか!!」

 

「さぁ」「どれが」「本物」「なんだろうな?」

 

「っ!?」

 

 逃げようとするハイエナ男を追いかける。というか部屋の窓から出ていこうとするので軽く追いかける。

 コレで終わりだと思っていれば、ハイエナ男は突如として4人に分裂した。コレは幻術だが生憎な事に手元にまことのメガネは無い、フォーソードも手元に無い。どれが本物なのか分からないので4分の1に賭けようと思っていると津波が巻き起こる。

 

「アイゼン、エドナ、ザビーダ、誰かは分からないがナイスタイミング!」

 

 バラバラに逃げられる前に津波で全てを飲み込んで本物を炙り出す。

 コレでハイエナ男の正体が分かると思っていれば穢れの塊が飛び出ていった………………?

 

「大丈夫か?」

 

「……お前は…………」

 

 穢れの塊が飛び出ていったのと同時にハイエナ男の気配が消えた。

 それと同時に見た目だけならばエドナと大差変わりない女が現れてオレが無事かどうかを聞いてくる。突如として現れただけあってか、警戒心を剥き出しにしていると屋敷からアリーシャとベルベットとエドナが追ってきた。

 

「大丈夫か、ゴンベエ!!」

 

「ああ、大丈夫には大丈夫だ…………」

 

「まさか風の骨があんたを殺しに来るなんて……いい度胸してるじゃない」

 

 オレの身を心配するアリーシャと何処に行ったのかと敵意を剥き出しにしているベルベット。

 何処だと辺りを見回すけどもベルベットには探知能力的なのは無い、オレも気配探知をしてみるのだが……どうも感覚が狂っている。

 この地に天族が居てくれれば憑魔が入ったと言ってくれるんだろうが、残念ながらこの地に居ないので無理。

 

「……どうやら噂は本当のようだったな」

 

「えっと…………誰?」

 

「いや、知らねえよ」

 

「じゃあ、アリーシャの知り合い?」

 

「いや、私もあんな人は」

 

「………………貴女、天族ね」

 

 まじで誰なのか分からない、どういう風に対応していいのかも分からない。

 どうしようかとベルベットとアリーシャと顔を突き合わせていればエドナが目の前に居る女が天族である事に気付いた。

 

「て、天族の方でいらっしゃいましたか……その、夜分故にこの様な格好で申し訳ありません」

 

「別に構わない……それよりも噂の真偽を確かめに来た。天族を従えている導師が居ると」

 

「あ〜もう、それでいいです…………」

 

 天族を従えている人間=導師な風潮になっている。

 時代が時代なのでもうそれでいいんだと素直に諦めておいて大きなあくびをする。割と眠いぞ、眠ったらダメだと思ったら逆に眠くなるタイプで脳みそイカれてるからなオレは……。

 

「詳しい話は明日にしない……襲ってきた奴は?」

 

「この手で始末した。既に人の形は保っていたが人ではない穢れの塊、浄化したとしてもただ消えるのみ」

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

 アリーシャは頭を下げてお礼を言う。殺すしか道は無かったんじゃないのかとか色々とあるのだが今はシンプルに眠たい。

 天族の名前を聞かないまま屋敷に招いてエドナには申し訳ないけどもエドナが使っている部屋を使ってもらい、一夜を過ごす。眠り足りないのでゆっくりと眠り、10時ぐらいに朝食を頂く。アイゼンとザビーダ以外はだ。

 

「あんたら飲むなとは言わないけど潰れるんじゃないわよ」

 

「いや……色々と溜まるもんがあんじゃねえか、だからこう」

 

「はぁ……お兄ちゃん、一週間お酒抜きね」

 

「なっ……3日にならないか?」

 

「それじゃ飲まない日が出来ただけでしょう」

 

 アイゼンとザビーダはどうも酒に潰れていた、全く情けない大人と言うかなんというか。

 ベルベットとエドナが冷ややかな目で見つめており、2人は一週間の禁酒令を後で出すとしてこの天族についてだ。

 

「我が名はサイモン」

 

「名無しの権兵衛だ」

 

「アリーシャです」

 

「ベルベット」

 

「ザビーダだ、よろしくな!」

 

「アイゼンだ」

 

「エドナよ」

 

 とりあえずは自己紹介をしておく。

 天族の名前が判明、名前はサイモン……

 

「えっと……」

 

「なんでこんな僻地にやってきたのよ?」

 

「だから僻地言うな」

 

 アリーシャはなにから聞こうか悩んでいると、ここに来た理由をエドナが聞く。

 田舎と言われればそのとおりだけども僻地と言うのは止めてくれ、田舎と都会の中間ぐらいの感覚だからさ。

 

「導師がここに居ると噂を聞いて真偽を確かめに来た」

 

「悪いけど、うちには導師なんてものは居ないわ……導師として活動している何処かの馬鹿は今、この大陸の何処かに居るんじゃないかしら?」

 

 導師と話題に出せばベルベットは嫌そうな雰囲気を出す。

 

「ここには天族を器にしている人間とよくわからないのが居るけど、導師は居ないわ」

 

 よくわからないのってオレの事だろうな。

 ベルベットは導師がここには居ないのだとキッパリと言い切ったがサイモンは表情を変えない。天族を器にしている人間=導師じゃないのか?等の意見を一切言ってこないし表情とかも特に変わらない。ミステリアスな空気を醸し出している。

 

「いきなりの事で申し訳ないが、私をここに置いてほしい……今はこんなご時世、災禍の顕主も当然の如く居て世界中の殆どが穢れに満ちている」

 

「……導師じゃねえから天族の信仰文化復帰とか地の主探しとかあんまりだぞ……」

 

「無論、タダではない。この地には加護領域が無い、私が地の主になってこの地に加護を」

 

「なに担当?」

 

「……なに、担当?」

 

「いや、サラリと言ってるけどもその辺を確認しとかなきゃ祀り方も色々とあるからさ」

 

 サイモンがあっさりとこの地の主になると言ってくるので先ずはと聞いてみる。

 その辺を無視したら色々とめんどくさいからな。

 

「アレだろ、天族によって加護内容って変わるんだろ?」

 

「ああ、合格祈願や豊作祈願等様々な加護が存在している。オレの場合だと災厄を呼び寄せる加護だな」

 

 天族によって内容が異なる。安産の加護を与えるのに豊作祈願を願われてもそれは困るのだと八百万の神様は言っていた。

 天族によってご利益の内容が異なると言うのならば、ご利益の内容を確認しておかなければならない。アイゼンに一応の確認を入れれば、天族によってご利益は変わるものだと当然の如く言ってくる。

 

「ゴンベエ、そういうのを堂々と聞くのか?その、失礼じゃないか?」

 

「いやだって、無病息災担当なのに豊作祈願願われても困るだろ?天族の数だけ加護が存在しているって言うならば、天族という存在じゃなく、その人を正しく祀らなきゃならねえだろう?」

 

「つまりはサイモンを天族として祀るんじゃなくてサイモンという1人の神として祀るって事か……」

 

 なに担当なのかを聞くことは失礼じゃないのかとアリーシャは考えているが、担当が異なるのにあれこれ言うのは筋違いだ。

 天族=祀るは違う、◯◯だから祀る、所謂推し活の一種だ。ザビーダは言いたいことは分かってくれるのだと納得をしてくれている。

 

「で、具体的にはなんの加護を与えれるの?」

 

「………………いい夢を見せることが出来る」

 

「…………え、それだけ?それだけなの?もっとこう縁結びとかじゃないの?」

 

 サイモンがなに担当なのかを聞いてみればそこそこ間があったが答えてくれた。

 いい夢を見せることが出来る、縁結びとか長寿祈願とかベタなのをイメージしていたのでご利益が絶妙なまでになんとも言えない微妙な物だとベルベットは問い詰めるがそれがサイモンのご利益、加護内容である。

 

「う〜ん…………………どういう反応すりゃいいんだろうな。アイゼンみたいに厄災を呼び寄せないタイプのプラス方面の加護であるのは確かだけど」

 

「いい夢を見るのはいいことなの?いや、悪夢よりはマシだけど」

 

「我が国ではいい夢を見れたり変わった夢を見たりすればそれは縁起が良い、神様からの加護と言う感じのがあり一富士二鷹三茄子四扇五煙草六座頭って言う新年に見れたら最高な夢がある………………う〜ん……コレはアレだな」

 

「アレって?」

 

「1人じゃダメな感じだ……いい夢を見せることが出来るだけで、肝心の加護を与える事が出来ないパターンが多い。無病息災とかの加護を持っている存在と組み合わせる事でそれに合わせた縁起が良い夢を見せる事が出来る……と思う」

 

「最後は曖昧じゃない」

 

 いや、だって八百万の神様基準での物事であってそれが天族で対応しているとは限らないだろう。

 ベルベットは呆れているが、少なくともこのままだとただ単純にいい夢を見ることが出来るだけで終わってしまう。いい夢を見て加護を貰えてがワンセットだ。

 

「地の主の話は今は無しの方向で……………………………………………………………うん、そうだな」

 

「なにがだ?」

 

「今から色々と面接するわ。そこからお前を判断するよ」

 

「……は?」

 

 こうして前代未聞の天族面接が始まる。




スキット ※男の娘とふた◯りと女装は異なるので微妙に喜びません

エドナ「貴方、信仰云々をしない割にはその辺はしっかりと考えているのね」

ゴンベエ「………………いや、だってお前等も人間とほぼほぼ変わらねえだろ?」

アイゼン「そう言われればそうだが、加護に合わせて祀る方法を変えるのか?」

ゴンベエ「変えるよ……うちの国の八百万の神も信仰のやり方を間違えたら加護与えないって怒るのも居るし、正しい祀り方をしてないって愚痴るのも居るし」

アリーシャ「例えば?」

ゴンベエ「1番シンプルなのは特定の食べ物を食べたらいけない系だな。牛は神様の使いだから神様の乗り物だから食ってはいけないという考えとかはある……普通に牛丼食うけど」

ベルベット「シンボルを食うなって事ね……まぁ、別に加護なんて欲しくないけど」

ザビーダ「言いたいことは分からなくもねえな……俺に奉納する酒が好みの酒じゃなかったら気分がな」

アリーシャ「気分の問題、なのですか!?」

エドナ「そりゃそうでしょう。私達の気分を損ねれば加護は与えない、気分がよかったら加護を与える……皆、色々と偉そうに言ってるけども、結局のところそんなものよ」

アイゼン「アリーシャ、オレ達も多少はズレているがその辺りは人間と大して変わらないんだ……ただ違いがあるとすれば力を持っているか持っていないか……力を持っていたとして、力を持っていない人間をどうして守る?守らなきゃいけない理由は、天族だからの義務はこの世に存在していない。信仰の力を得ることで天族も穢れから己の身を守っているだけに過ぎない」

ベルベット「強い奴が弱い奴を守るのは当然……なんて考えは一握りしかいないわよね」

ゴンベエ「でもまぁ、子宝関係の神様じゃなくてよかったよ。違った、天族じゃなくてよかった」

ベルベット「…………赤ちゃん欲しいって強請ってるのに一向に胸すら揉まない、キスだけの奴がなにかほざいてるわね」

アリーシャ「…………正式に夫婦であることを認めて互いに相思相愛ならば色々としたいと思ってるよ……おしりを揉んでもいいよ」

エドナ「未だに手を出そうとしないなんて、ホントにダメな男ね」

ゴンベエ「ちゃうわ!子宝関係の神様祀り方がエグいんだよ!男も女もどっちもエグいんだよ!後、ヘルダルフ倒したらヤることはヤるから!でも子供は数年待ってね!」

アイゼン「祀り方がエグい?」

ゴンベエ「いや〜その〜…………チ◯コの形をした巨大モニュメントを神輿で担ぐんだよ」

ベルベット「はぁ!?」

アリーシャ「な、ななな、何故!?」

ゴンベエ「いやだって、子宝に恵まれるって言うけども…………極端な話、セ◯クスやれって事だからな。加護を言い方変えれば勃起させる事が出来るって事らしいから」

ザビーダ「まぁ…………子宝って先ずは子作りだから間違いじゃねえよな」

アイゼン「男と女の2種類が存在している以上はそう言っていることだからな」

ベルベット「あんたら、納得してるんじゃないわよ!!」

ゴンベエ「いや〜でもね、実際そういってる事だからな子宝は……子を産む相手探しは縁結びとかだし……仮にエドナが子宝に恵まれる加護を与える場合、チ◯コかアワビを模したモニュメントとエドナを神輿で担ぐ?いや、いっそのことビリケンさんみたいに銅像を、大きなイチモツを携えたエドナの像を」

エドナ「グランドダッシャー!!」

ゴンベエ「甘い!ネールの愛!」

エドナ「ふざけんじゃないわよ!なんでそんな悍ましい物をつけられないといけないわけ!?」

ゴンベエ「お前のお兄ちゃんのをベースにするから、見慣れてるし悍ましくないだろ?」

エドナ「もう1000年以上見てないわよ!!」

ゴンベエ「大きなイチモツを携えたエドナ……ブッキーが見たら喜ぶだろうな」


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命とこころのバトン

 

「天族を面接って何様のつもりよ?」

 

「お客様だ」

 

 サイモンを面接すると言い、サイモンには別の部屋で待機してもらった。

 質問の内容を考えているとエドナが天族を面接することに関して聞いてくる。

 

「だってよ……天族だって人間と同じで心を持ってるんだ。その人の持つ信念とか考えとか思考を見抜かなきゃいけねえだろう」

 

 ザビーダやアイゼンの一例がある以上は天族1人1人考えが異なる。

 そりゃ大半は平穏な世の中になることを祈っているだろうが、それでも生きてきた時間が感じていたものは大きく異なる。

 エドナは如何なものかと考えているが、その人の持つ個性を見たりする等を言えば言い返せない。アイゼンと言う一例を認知しているから。

 

「だが、オレ達が求めている人材でない場合はどうするつもりなんだ?」

 

「その時はその時で加護領域の担当じゃない様にしてもらう……オレの認識が正しければサイモンの加護は吉兆を知らせる加護だと思うんだ」

 

 サイモンはいい夢を見せると教えてくれた。

 いい夢を見れたことは縁起が良い、大抵の国でこの夢を見たらいい夢だってあるし神様が夢でお告げしたっていう伝承も世界のそこかしこに残ってる。

 

「幸福そのものを訪れさせるのでなく幸福が訪れるかもよの兆しを知らせるねぇ…………分かってた事だが、天族の加護は難しいな」

 

「そういうあんたの加護はなんなのよ?」

 

「そりゃあ俺は縁結びだ!いい女といい男が出会える!ま、俺は風来坊で加護領域を広めたりしないから発揮される機会はねえけどな!」

 

 幸福そのものでなくそれが起きる兆しを知らせるというなんとも微妙な加護。

 アイゼンの不幸を招く加護もそうだが色々と加護の種類があるなとザビーダは改めて自分達天族が持っている加護に関して頭を悩ませ、ベルベットがザビーダの加護について聞けば呆れている。

 

「はい、では面接を始めたいと思います。この面接は質疑応答の後に貴女の人間性を見る為にも実技試験を行います。ああ、実技試験に関してはベルベット達にも参加してもらうので」

 

「え、聞いてないんだけど」

 

「大丈夫、大丈夫。寿司一人前用意するだけのスゲエ簡単なことだから」

 

「……あんた生魚苦手じゃなかったっけ?」

 

「食べられないから自分で食ってくれ。んじゃ、早速質問に参ります。貴女は何故ここにやってきましたか?」

 

 実技試験がありベルベット達も巻き込んでやると言えば聞いてないというベルベット。

 物凄く難しい難題に挑むんじゃなくシンプルな寿司一人前を握るだけの物凄く簡単な試験内容だ。寿司握るだけで色々と見えてくるものがあるからな。ベルベットが若干だが不満そうにしているものの、とりあえずはと質問をする。

 

「それはこの地に導師が居るのだと噂を聞いてやってきたから」

 

「なるほど。ですがここには導師と呼ばれる地位や役職の人間は居ません。導師と呼ばれる男はこの大陸の何処かで見聞を広めてますが……私達とどう向き合いますか?見捨てるなら見捨てるで構いませんよ」

 

「…………導師でなくても天族を見る事が出来る人間達は非常に稀少だ。だから、そこを主軸に加護領域を広めようと」

 

「何故今頃になって?」

 

「え?」

 

「1年以上前から災厄の時代と呼ばれている時代だった、天族は居なくなったり引きこもったりしていた。その中には人間が身勝手だという考えを持つ天族もいる。その件に関してオレはそれを身勝手と言うのは種族としての認識の差だと思っている」

 

「……どういう意味?」

 

「普段から天族なんて信仰するのはバカらしいと言いピンチになったら助けて困ったら助けてなんて都合がいい話だと言いますが、ピンチでも困ってもないのに助けてなんて言葉が出てくるでしょうか?ピンチだからこそ助けるんです。そういう存在がなんだかんだで必要不可欠、そう認識しておかなければならない。例えそこにリスペクトする心は無くても都合の良い時にだけ頼る存在だとしてそれは決して悪いことじゃない。1から10全てを自力で解決する事が出来る存在はいない。全知全能の神ですら間違いを犯すのだから、誰かに頼るという考えそのものが間違いだと認識してるのはあまりよくない……天族は火を起こせる、風を操れる、水を出せる、大地を割れる。人間という種族はそれが出来ない……でも、天族は人を欲している。人は天族を欲している。そういう依存に近い関係性だ。むしろ困ったら助けてと言える相手が居るだけマシなんだ……なにせ叫んでも泣いても助けてくれずに命を絶つ世の中ですから」

 

 オレは知っている。転生者になろうとする連中の大半が生きることに対して希望を見いだせない将来に夢や希望を持っていない人間で極少数だが虐待やいじめによって殺されたり首を吊るやつがいる。ブッキーなんかまさにそれだろう。

 困ったら助けてと言って助けに来てくれるヒーロー、そういう存在である事に対して嫌気が指すか指さないかで言えばオレは嫌気が指すだろうが、その存在そのものが悪ではないんだ。

 

「つまり困ったら助けてなんて都合の良い言葉を受け入れろと……バカバカしい」

 

「じゃあ、なんでここまで来たんだ?」

 

「……」

 

 天族と人間の関係性について言えばバカバカしいと一蹴するが、それならばなんでここに来たんだ?

 

「外界との関係を閉ざした場所がこの大陸にある、それは人間に嫌気が指した天族達が社を作っている場所だ。ホントにバカバカしいと思っているならば嫌気が指しているならば最初から諦めて引きこもってろ……でも、それが出来ねえ……お前はこういった。ここに導師がいると聞いたから来たと……困ったら天族という人間と困ったら導師という天族はなにが違えんだ?」

 

「それは……………」

 

「そりゃ平和の象徴や先導者は大事な存在だ、その手の存在が無しで世の中を動かすことは不可能に近えよ。でもやってることは一緒だ。お前も人間も同じ穴の狢だ」

 

 困ったら導師、そう考えてサイモンは来たんだろう。

 それは困ったら天族頼みの人間となにが違う?別にそれが悪いこととは言わねえけども、その手の存在に負荷を掛けずにより良い平和な国造りが大事だ。

 

「返事が無いから次の質問に行くぞ……導師が現れて災厄の時代を救った、この大陸の伝承等を紐どけばそんな記録が沢山ある。それなのに今は災厄の時代だ。1000年以上前から文明は進歩してねえ。その事に関してはどう認識してる?」

 

「人が天族の信仰を忘れて、天族はそれを見放したから」

 

「なるほど……じゃあ、天族側はなんかアピールしたか?」

 

「え?」

 

「天族は実在していて加護領域を広めている。そう言われても自分達に実際どういう影響を及ぼしているのか認識が出来てねえ。よく言うだろ?失ってからはじめて気付く物があるって。失わない限りは全く気づかない恩恵、当たり前になりすぎている事がある。天族が居なくなればその当たり前を失う。たった1回のミスやサボりを許さないという認識をしたが為に加護領域展開をしなくなった、その結果天族なんかに祈ってもなんの意味もねえよみたいな考えを持ったり心を改めて祈ってるのに加護を与えない。それをこの大陸の1000年の間に何度も何度も繰り返してきた……寛容に見る心は無いのか?人間は痛い目に遭わなきゃ反省しない馬鹿が多いしホントに良い人間は最初から悪いことをしない、でもそれは一握りでそんな存在すらも見捨てるのか?」

 

「……………」

 

「例えば勉強を教える際に文字の読み書きや計算、歴史だけでなく道徳の授業をする。その中に当たり前の様に天族の信仰を教えていてそれを習慣づける様に学ばせる。100人中100人は無理だが50人ぐらいならそれで信仰を得る事が出来る」

 

 信仰を得るための方法は幾らでもある。

 ……途中から面接官の口調出来なくなってるな。

 

「天族側は加護を与えるだけでなにもアピールしないのは良くない事だ。例えば週に1度天響術を使ったパフォーマンスをする、それだけでいい」

 

「……そういう事をすれば怪しい大道芸人と思われてしまう」

 

「だったら加護を与えるだけのノンコミュニケーションスタイルを取り続けるのか?対話をすることが出来ないからと自分の物差しだけで全てを決断する。それが自分の生きる道ならば構わない。でも、それで誰かを助けるのはただのエゴだ。逆に聞くけども、大道芸人は世界を救うヒーローになったらダメな決まりでもあるのか……俺の国では色々な手を使って信仰を集めてる。まぁ、そのせいで宗教ごった煮でなんでもありなくせにおかしな倫理観を持ってる謎の民族言われてるけど」

 

 別に大道芸人と思われても構わねえじゃん。

 ほんの少しだけでも祈る気持ちがあればそれはそれで構わん。それとも導師みたいな存在じゃないとダメなのか?んなこたねえよ。欲望の色が白でなければ祈りにならないっていうのならばそれは求めている側が悪いよ。純粋な祈りなんて無い。見返りを求めることを悪だというならば、それはこの世界の理を間違いだと否定しているも同然だ。

 

「仮にオレ達が今の災厄の世の中をどうにかしようと考えていて災厄の時代を突破する為には天族への祈りから生まれる加護云々の力を求めるとして、お前はなにが出来る?ここに居るザビーダやアイゼンは人生の先輩として色々と教えてくれる。意見をハッキリと言ってくれる。先駆者と同じことをやるだけで終わらせるつもりか?言っておくが世の中で大事な事は賢者が悟りを開き賢者同士で議論をぶつけるんじゃなくて、賢者とは程遠い馬鹿でも出来る分かる事を作ることだからな。最初は世界の限定的な人間だけでいいかもしれねえけど、そこからは大抵の人が出来る様にしなきゃなんにも意味はねえ。特定の人物にだけしか作れないものは1%、残り99%はシンプルで加工しやすい物、それが大事だ」

 

 特定の人物にだけしか出来ない系はあんまり良くない。ある程度は努力でカバーする事が出来る系じゃねえと意味はねえ。

 でもまぁ、政治関係は話は別なんだよな。新しい世代が政治家になれるかと言われれば無理で政府の役人は一族で回してるに近い。それこそお笑い芸人になって知名度を高めてから政府の役人にならなきゃ0から政治家になれねえ。宮崎県知事は芸人パワーもあって当選した。きよし師匠もだ。

 

「……では、お前達はなにを目的としている?」

 

「オレは世の中が平穏ならば別に構わねえし、自分と関係無いならば犠牲があっても仕方がねえと思ってる……アリーシャにもベルベットにも人として女性としての幸せを掴んで欲しいとは思っている。ただその過程で災禍の顕主が邪魔になっている。奴は人類全員憑魔化なんていう間抜けな事を考えている。世の中は理不尽だ。だから正すんじゃない。だから面白い。無い物ねだりをするぐらいならばあるもので最善最高最強を探す……少なくともお前達天族側は戦う力を持ってるんだから考えろよ」

 

 オレの求めているのは平穏な日々だ、人並みの幸せだ。

 とある転生者やブッキーはオレならばもっともっと上の地位や幸福を掴み取ることが出来るなんて言うけれど、オレは人並みの幸せを掴みたいんだ。ベルベットやアリーシャという絶世の美女を嫁にして楽しい職場で家に帰ったらベルベット達におかえりと出迎えてもらう。

 世界一の剣豪や金持ち、一国一城の主なんていう野望は無い……オレにはそっち系の感情が欠けているからな。

 

「でも、どうにかしようと思っててもどうにか出来ねえのが現状だ………そもそもでアリーシャが1番のミスを犯しているからな」

 

「私のせいなのか!?」

 

 いきなり話を振られて困惑するアリーシャ。

 

「アリーシャはハイランドの人達の幸福を願っている……人間が誰かを助けたい等を思うのは構わない。でも、アリーシャの思いはアリーシャが顔を全く知らないアリーシャの顔も知らない人にも関わっている。自分が見たことも関わったこともない人間を助けたいだなんて傲慢にも程がある。自分が赤の他人を助けるのはこの手で届くだけ」

 

「だが、それだと手が届かない人が……」

 

「ああ、居るな。それを諦めろなんては言わない。その人に手が届く様にしろとも言わない。他の人に頼れ。片手で己の幸せを掴み、もう片方の手で誰かを助けて、助けた誰かに手を伸ばさせる。命とこころのバトンを繋ぐんだ」

 

「!!」

 

 アリーシャが驚いた顔をする。オーズの名言を使いまわしているのだが、心に来るものがあったんだろう。

 1人だけでなんでも出来るほどに世の中は上手く回らねえよ。バトンを繋ぐことがなんだかんだで1番大事なんだよ。

 

「ぶっちゃけ、オレの領土だけだったらどうにでもなるし極端な話、ローランス皆殺し出来るし……アリーシャが嫌だって言うしヘルダルフの策略に嵌まるの癪に障るし…………と、色々と言ったけども自分から導師になってくれそうな人間を探したり天族と人間の関係性を考えたりしたか?」

 

「…………」

 

「今までと同じことを繰り返しても意味はねえ、それがオレの考えだ……でも、新しい方法が浮かばねえ」

 

 暴力で物事を解決していいんだったら、それを使うがそれが出来ねえ。

 オレはその世界の技術を用いてなにか新しい技術の開発は出来ねえ。そういう事が出来る転生者だったら今頃はSHAMAN KINGのオーバーソウルを開発する事が出来てるだろう。

 

「少なくとも人間が天族を認識させる技術を、あの時と似たような状況の再現は大事だ」

 

「でも、カノヌシはいないしカノヌシの代わりになったフィーは……」

 

「だからヘルダルフを殺る……ただ、あいつはマジで何処に居るのか分からねえ」

 

 寿命勝ちやられたら負ける。対峙さえすれば二度と逃げることができない地獄の底まで追いかけ回す事が出来るんだがな。

 

「お前は導師に頼りに来た天族なのは分かった、どういう認識なのかも……次は実技をしてもらう。実技の課題は簡単だ、寿司一人前用意しろ」

 

 質問に対してあんまり答えない、無言を貫く事が多かった。

 あんまり考えてねえのがよく分かる。アイゼンやザビーダの様に災厄の時代を何度も何度も渡り歩いたり始まりの時代を見届けたのとは異なる。

 数百年生きてる筈なのに人間性があんまり変わらない、それはいいことなのか悪いことなのか。人との関わりを持ってねえと人間的に成長できねえのか?

 

「……寿司?」

 

「え、寿司ってマイナー料理な感じか?」

 

「いや、メジャーな料理だ……だが、何故寿司を握れなんだ?」

 

「……この試験は問題者の望んでいる答えを出してもらう為の問題じゃねえ…………う〜ん……」

 

 答えを言ってしまうのは簡単だけども、それを言ってしまうと意味はない。

 奇抜な発想をすればいい人と違うことをすればそれが評価に加わるのは違うことだ。アイゼンに問題の意味について教えるべきかと考える。

 この問題は色々と見る事が出来る問題だからな……

 

「ヒントや課題だけは与えてやる。自分達の住んでいる国が寿司が郷土料理、伝統食だ。自分は学校で経営学や経済学等を学び老舗の名店である寿司屋で一人前と呼ばれるレベルの寿司を握れる様になった。寿司は伝統食で自分達の国に来たらとりあえず寿司は食べなきゃいけないぐらいの認識が持たれており、自分が職人としての修行を終えた頃にはそこかしこに寿司屋が並んでいる……というシチュエーションだったらどんな寿司を握ればいいのか?……寿司を1人前用意しろ。最終的には自分で食う物だから妥協はするなよ」

 

 この課題は地獄の転生者養成所でも実際に出された事がある課題だ。

 寿司というカテゴリーをどういう風に捉えているか?寿司とはそもそもでなんなのか?色々と概念について考えなきゃいけない。考える力を養う為にやらされた課題……オレは寿司を食うことが出来ねえけども色々と厄介だった。

 

「ふっ、この課題はオレが圧倒的なまでに有利だな!」

 

「なんでそう言い切れるの?」

 

「エドナ、忘れたのか?オレはかつてアイフリード海賊団副長だった男、つまりは海の男だ!寿司は極めたと言っても構わない!!」

 

「お兄ちゃん、そういう事を言ってると後で痛い目に遭うわよ」

 

 課題で寿司握れは自分にとって圧倒的なまでに有利な分野だとアイゼンは笑みを浮かべている。

 こういう時に限って死神の呪いが発揮するんだとエドナは呆れている。

 

「なぁ、コレはベルベットとアイゼンに有利じゃねえか?俺はともかくアリーシャちゃんとエドナちゃんが……特にエドナちゃんが……」

 

 料理上手のベルベットと寿司は問題無いアイゼンにとって有利な課題だと言うザビーダ。

 他のテーマに変えてくれとは言わねえけども、アリーシャとエドナに分が悪い……確かにそう見えるが、オレが見たいのは寿司職人としての腕じゃねえ。

 

「オレは寿司を1人前用意しろと言っただけだ……後はなんでもいいんだ。もし不平等、料理の腕云々があるって言うならば考えろ。お前達は考える事が出来るはずだ」




 活動報告に質問コーナーあるので待ってます

Q ゴンベエが自分を悪人とか言ってる割に悪どい事してないけど悪人な転生者とか居るんですか?

A まず、皆さんが二次小説よく出る踏み台転生者とか悲劇のヒロイン救済しようぜ!的な転生者は絶滅してます。
  人を助ける上で大事なのは思いやりでも優しさでも愛情でもなく金である事を地獄の転生者養成所で教えられています。人を助ける事の難しさはめちゃくちゃ厳しく教えられてて安易に力を貸すのは良くないことだと認識してます。
  ゴンベエは自身を悪人と言っていますが、ゴンベエは秩序を持った悪人であり快楽の為の悪行はしません。人間の闇の部分を嫌になるほどに知っているので余程の事が無ければ絶望しません。
  ゴンベエが悪人らしさを見せてないのはアリーシャというブレーキが強いのとシンプルに世界観が合ってないとかもあります。
  テイルズオブゼスティリアのヘルダルフみたいな一般人をも巻き込む明確に分かる悪役が存在している世界観ならばあんまり輝かないですけども、ワールドトリガーの世界ならば悪属性は増します。
  具体的に言えば、近界民との間に完全なる鎖国が出来ないのとトリガー工学でエネルギー問題等を解決出来る以上は何処かの段階で日本と言う国が近界民の国の何処かと貿易する関係性を築き上げなくちゃいけないけども嘗ての幕末の様に近界民が武力による圧政をしてくる可能性もあるし、日本を襲わせない為に向こうの国を和平はしたいけども、スポーツ漫画でよくある日本人を見下す外人みたいな感覚で接してくる国も普通にあるわけで話し合いは無理だなと判断を下して近界の何処かの国を傘下に置くことを考えています。その時に武力を行使してその国の重役を躊躇いなく一族含めて皆殺しにしたりし、世間には向こうの世界の善良な近界民と貿易することに成功したと言い切ります。国を助ける為に国を滅ぼす事を平然とし、何処かの段階で武力行使しなきゃいけない場合は一族全員を皆殺しにするぐらいはします。
 ゼスティリアでやってないのはシンプルにアリーシャというブレーキが大きいのとベルベットの喧嘩で過去の出来事だからと一線を敷いてるからであり、そういうのを無視していいならば最初のアルトリウスとの会合の段階で聖寮は全滅してます。
 悪人の転生者が居るか居ないかで言えば居ます。
 ただし世界征服をしよう!と企んで鷹の爪団の様に世界平和の為に世界を征服すると企んだりはしません。
 世界征服する事が出来る力を持っていないからとか正義の味方と戦いたいではなくそれを実際に成し遂げて地球で1番偉い人間になった場合、そこから政治活動と言うか地球の領土をどうするかなんかの問題が発生して武力よりも知力が必要になるからで人は裏切る時は裏切るのを教えられているので世界征服は効率が悪いと認識してます。しかし快楽の為の悪行をする転生者は普通に存在しています。
 ただし快楽の殺人とか死んだ人間の魂を拷問して弄ぶのでなく他人の不幸を嘲笑ったりするタイプだったりします。書いてないだけでその手のキャラの話は一応は存在していますを考えてます。
 転生する度に櫻井孝宏キャラになる男(クズ)が日本中の人に涙を流させ「プリキュア、全員死んでくれ」と日本中で言わせたり、新生帝国華撃団花組の好感度を高めつつ原作とも全く関係無い女性と結婚して笑顔を曇らせたりする事に快楽を得ている。殆どの話が書けば確実に低評価の嵐になり、感想欄が荒れるのも見えてるので書いてないだけです。


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本音を言えば将太の寿司名物の「あ!」を言わせたかった

 

「…………」

 

「もしかして寿司を知らないのですか?」

 

「寿司ぐらい、知っている……だが何故寿司なんだ?奴は寿司が好物なのか?」

 

「いや、アイツは生魚は苦手よ」

 

 ゴンベエがサイモンを試す為に寿司を握れと言った。私達は屋敷から外に出て市場に足を運ぶ。

 サイモンは無言になってるから、アリーシャがもしかしたら寿司を知らないのかもしれないと言い出すけど寿司は知っている。だからこそ、どうして寿司を課題に出したのか?

 

「まぁ、サイモンを試す為の実技試験って事は心理テストとかだろう」

 

 作った寿司は自分で食えってハッキリと言い切った。

 味を審査するつもりは一切無い、サイモンだけじゃなくて私達も試す事で……ザビーダはコレを心理テストだと捉える。

 

「コレは算数みたいに正しい答えがあるわけじゃねえ」

 

「それってアレよね?出題者の意図を読み取れとか自分の意見と答えを極力合わせろって感じの文章問題よね……でも、アイツ、寿司嫌いって言ってるし」

 

「ゴンベエが望む寿司を作る、というのが答えじゃないんでしょ…………」

 

 味を試すテストとはまた違うテスト、心理テストなのは間違いないと思う。

 ザビーダやエドナもゴンベエが心理テストを出している事を自覚している。コレは100点がある問題じゃなくてゴンベエは色々と緩いところがある。ホントに越えたらいけない一線を越えない限りは緩い。

 ゴンベエの望むものじゃない……読み切れないわね。ゴンベエがなにを望んでるのか?何を見たいのか?多分だけども私達なりの寿司を出せと言う意味でしょう。

 

「でもコレやっぱり私とアリーシャが不利じゃない。お兄ちゃんとベルベットが強いわ!」

 

 寿司を握れという課題に対してエドナは不満を言う。

 

「寿司で失敗する人間なんて見たことが無いわよ……流石にアリーシャも失敗……しないわよね?」

 

「私はアイスキャンディーを炭に変えた事があるから」

 

「……アイスキャンディーは冷やす物であって火を通すものではないのでは?」

 

「うっ」

 

 サイモンがツッコミを入れればアリーシャは視線を逸らす。

 アイスキャンディーで失敗するなんて相当な料理下手、火を使わない関係の料理で失敗はないでしょう。

 

「コレだ、この鮪だ!」

 

「コレね……コレください」

 

 魚の目利きをしていたアイゼンがやっと動いてくれたわ。寿司の主役とも言える鮪を見抜いて選んだ。

 アイゼンが目に見えてないから市場の人に私が代理で買う。鮪だけじゃなくて色々と購入する。

 

「コレってズルにならないのかしら?」

 

 アイゼンが目利きした魚介類、伊達に海の男やってたわけじゃないから審美眼は確かでちゃんとした物を選んでる。

 だけどコレってズルにならないのかしら?アイゼンが目利きして選んだ物で、私達が自力で手に入れたわけじゃないわ。

 

「大丈夫だ。ゴンベエは寿司職人としての修業を終えた奴が寿司を握る場合どんな寿司を握ればいいのか?そう課題を決めている。飲食店に中には生産者に直接買い付けるわけでなく目利きに特化したり流通を操ったりして儲けている業者を挟むケースが多々ある。無論、本物の一流と呼ばれる料理人ならば自力で素材を調達するだろうが……1人前の寿司を作るためだけに部位を購入するのは難しいからな。ゴンベエもその辺は寛容だし、何よりも勿体無いと言うだろう」

 

 キロ単位で鮪を購入する。私、アリーシャ、サイモン、エドナ、ザビーダ、アイゼン、この6人で寿司を握ると言われても確実に部位を余らせる。そんな事をすればアイツが怒るのは目に見えている。だからセーフだとアイゼンは主張する。

 

「それにオレも人のことを言える義理じゃない……シャリに関しては全員がある程度は一緒だ」

 

「まぁ、そう言われるとそうなんだけど」

 

 素材を一通り買い終えた。後は調理の段階に入るだけだけど、ここで一番大事なシャリがある。

 全員が1人前だけシャリ用のお米を炊くわけにもいかないから私が纏めて、余った材料を孤児達が食べる分を含めてお米を炊く。だから、素材の部分は色々と平等……つまりは調理の段階で色々と分かれるわ。

 

「言っておくが穴子に関しては力を貸さんぞ」

 

「穴子?」

 

「穴子は煮汁が絶対的なまでに物を言うネタだ!その煮汁は何度も何度もできる使い回すことでゆっくりと染み出る穴子の旨味を吸収し、さらなる高みへ向かう!ベルベット、幾らお前が料理上手と言えども穴子の煮汁の様に時間を必要とする物にはどうしようもない!オレには自分で作った穴子の煮汁がある!」

 

「あんたそれ、腐ってないでしょうね?」

 

 穴子に関しては自分自身でどうにかしろと言い切るアイゼン。

 寿司に対する拘りが強いと思いつつ帰路についてお米を炊いて容器に分ける。此処から先は各自で好きなように調理する。酢飯もネタの大きさも種類も全て自由で1人前の寿司を作らないといけない。穴子は煮汁関係の問題で作らない方がいいから他でどうにかする……けど

 

「コレでいいのかしら?」

 

 アイゼンが見抜いた素材で自分が炊いた米で酢飯を作って寿司を用意する。

 自分好みの酢飯が出来て後はネタを切るだけなんだけども手が止まる。コレでホントにいいのか?……料理の腕に自信があるけど、極端な話年季で言えばアイゼンやザビーダの方が遥かに上よ。寿司は火加減とか水の量とか味付けとか隠し味とかをあんまり気にしない、綺麗に切った生魚を握った酢飯の上に乗せた物が寿司。ものは試しにと鮪を一貫握って自分で食べる。文句無しに美味しいけども、アイゼンが握った方が美味しい可能性が高い……ていうかそもそもで味は評価するところじゃないわよね?食べないって言ってるし。

 

「っぐ……」

 

「エドナちゃん、それじゃあおにぎりだぜ?」

 

 エドナが苛立ってる。自分で料理しないと言い切ってるだけあって料理が出来ない。

 握った酢飯の上にネタを乗せるだけのシンプルな工程だけなのにエドナは苦戦してる。酢飯が多くてネタも大きくてそれは寿司じゃないとザビーダは言い切る。

 

「別に一緒じゃない、お腹に入れば」

 

「それは極論だって……それとも自分には寿司を握ることが出来ねえから無理って言いに行く?」

 

「それは負けた気がするから嫌よ……」

 

「見えっ張りなんだから…………アリーシャちゃんみたいに挑戦しようぜ!」

 

「あ、いえ……私は人のことを言える立ち位置ではないので」

 

 だからなんでおにぎりみたいな大きさになるのよ?

 手の上じゃなくて指の上に乗せるレベルの量で酢飯を取るけどアリーシャもエドナもおにぎりの大きさじゃない。

 

「…………コレでいいのだろうか………」

 

「審査基準は味じゃないわよ?」

 

「……自分達の住んでいる国が寿司が郷土料理、伝統食だ。自分は学校で経営学や経済学等を学び老舗の名店である寿司屋で一人前と呼ばれるレベルの寿司を握れる様になった。寿司は伝統食で自分達の国に来たらとりあえず寿司は食べなきゃいけないぐらいの認識が持たれており、自分が職人としての修行を終えた頃にはそこかしこに寿司屋が並んでいる……というシチュエーションだったらどんな寿司を握ればいいのか?という設定をゴンベエは出してきた。この設定になにかしらの意味がある筈だ」

 

 上手に理想的な寿司が握れないせいか俯いてるアリーシャ。

 味は審査基準でもなんでもない事を言えばゴンベエが出したヒントや課題を言う……

 

「無理!もう無理!!」

 

 一方でエドナは寿司が握れないことの苛立ちが限界に達した。

 無理だと言ってる…………なにかしら……後もう少しで答えが出そうな気がするわ。

 

「……そうだわ、あの手があったわ!」

 

 エドナは何かを閃いたのか巻き寿司の用意をする。

 カッパ巻き?鉄火巻?なにを作るのかしらって……

 

「それはルール上ありなの?」

 

「ゴンベエは寿司を1人前用意しろって言ってたけど、ネタは指定してこなかったわ!」

 

「……そうか!そういうことだったのね!!」

 

 アイツが見たい部分はなんとなく読めたわ!

 エドナが鉄火巻でもカッパ巻きでもなく具材が数種類入った太巻きを用意しているのを見て、なにを言いたかったのかをなんとなく見えた。

 アイツがコレはいい答えだと頷くのに必要なのは高度な技術じゃなくて鮪1つあれば出来ることなのよ!私は自分が作るべき寿司が見えたから鮪を手に取り寿司を用意する。

 

「お前等、そろそろ出来たか?」

 

「ああ、渾身の寿司が完成だ!!」

 

「お〜……じゃ、口で言ってみろ」

 

「先ずはわさび巻き、市場に上物のわさびがあったかわネタでなくわさびを巻いた巻き寿司、次に炙り雲丹の寿司だが通常の雲丹は軍艦巻きだがコレは軍艦巻きではない、海苔を使わない雲丹の寿司、玉子焼きは山芋を擦り下ろした物、トロロを用いてふんわりと」

 

 寿司の用意が出来たかどうかの確認に来ればアイゼンは出来たと渾身の寿司を見せる。口で説明させる。

 いい素材を腕のいい職人が作り上げた寿司……職人としての技量が高いから生まれた寿司。

 

「以上に加えてブレンドした緑茶がオレの渾身の1人前だ、どうだ?」

 

「流石はアイゼン、いい腕をしているし徹底的に拘り抜いている……酢飯も普通の酢飯じゃなくて赤酢を使ったりした徹底ぶりに加えて茶もか」

 

「ああ」

 

 アイゼンからの説明を受けて流石はアイゼンと頷くゴンベエ。

 自慢げに語っているけども食べる素振りは見せない、けどアイゼンの作った寿司は認めている。

 

「……アイゼンの後にでは霞んでしまうな」

 

 鮪、玉子焼き、カッパ巻き、イクラ、鮑、雲丹なんかが置かれている綺麗な1人前の寿司を出すサイモン。

 アイゼンの完成度が高い拘りの寿司を見た後じゃ誰だって霞んじゃうけども、ゴンベエが見たいのはそこだと思う。

 

「エドナは?」

 

「コレ」

 

「ほぉ……」

 

 アイゼンに寿司の内容の説明を聞いた様に説明を求める事はせずに今度はエドナの寿司を見る。

 エドナの寿司は太巻き。鮪、鯛、胡瓜、イクラ、干瓢の5つの具材を巻いた太巻きだけでゴンベエは意外そうにする。

 

「文句あるの?」

 

「いや、逆だ……お前の事だから寿司を握る事が出来ねえから太巻きになったんだろうがありかなしかで言えばありの寿司を握ったな。オレは寿司を1人前握れと言ったがネタは指定してない。太巻き1つで1人前とカウントする事も出来る……ただまぁ、気付いてないか」

 

「?」

 

「……あんたが見たいのは固定概念から何処まで出来るか?でしょ」

 

 エドナは腕が無いから色々と誤魔化しが効く太巻きで妥協したから気付いてないけども、見たかったのは固定概念から何処まで出来るかの発想力や想像力。

 

「まぁ、そこを見ている見ていないかで言えば見ているな。サイモンは予想以上に予想通りの事しかしてきてねえよ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「サイモン、こんな質問をするのは元も子もないかもしれねえが…………寿司とはなんだ?」

 

「それは酢飯の上にネタを乗せた物だ」

 

 寿司とはなんだ?

 その問い掛けに関してサイモンは寿司という料理について言ってくる。酢飯の上にネタを乗せた物が寿司だとサイモンは答える。

 

「なら、鮪じゃなくて野菜ベースのタレで焼いた豚肉を乗せた物は寿司と言えるか?」

 

「それは……」

 

「それは寿司として邪道じゃねえんじゃねえか?」

 

「じゃあ、牛肉のタタキの寿司は?」

 

「それは……ありだろ?」

 

「豚肉を焼いたネタの寿司がダメでなんで牛肉のタタキの寿司はOKなんだ?豚肉が牛肉よりもランクが低いからか?それとも豚肉が半ナマで食べられないから?だったら豚肉をちゃんと焼けばいいだけだろ。薄切りのロースならばちゃんと火が通るんだ」

 

 豚肉の寿司は寿司として邪道だとザビーダが言うけど、牛肉のタタキの寿司はありだという。

 牛肉のタタキの寿司……物凄く高いお店には置いてあるって聞くけれども豚肉や鶏肉の寿司なんて聞いたことが無いわね。

 

「寿司、と言う1つの概念に対してお前達がどういう答えを出すのか?それが見たかった……アイゼンはまだいいとしてサイモンは普通の寿司を握った。自分達の住んでいる国が寿司が郷土料理、伝統食だ。自分は学校で経営学や経済学等を学び老舗の名店である寿司屋で一人前と呼ばれるレベルの寿司を握れる様になった。寿司は伝統食で自分達の国に来たらとりあえず寿司は食べなきゃいけないぐらいの認識が持たれており、自分が職人としての修行を終えた頃にはそこかしこに寿司屋が並んでいる……というシチュエーションだったらどんな寿司を握ればいいのか?と言う設定でだ」

 

「それは……他にはない奇抜な発想をしろって事なの?」

 

「それは違う……アイゼンみたいに皆の中にある寿司の王道を極めるのもありなんだ。素材を選びに選び抜いて職人が魂を込めて作り出す、至高の一品の寿司はある。料理を極めた結果の1つだ」

 

 他にはない奇抜な発想を求めているのかとエドナは聞くけどゴンベエは首を横に振る。

 アイゼンの作り出した拘りの寿司もありなこと、悪いことじゃない。けども、他にも色々とあると言いたげね。でも、それこそが求めてるもの。

 

「1つの固定概念に対してどういう答えを出すのかを見たいんだ……奇抜な発想も大事だが、例えばマシュマロの上にフォアグラを乗せて海苔で巻いた物を寿司と言えるか?」

 

「流石にそれは言えないな……」

 

「じゃあ、なにを持って寿司とする?」

 

「それは……」

 

 アリーシャは言葉が出ない。寿司という皆が知っている物の筈なのにコレだという物差しが何処にも無い。

 自分の中に物差しはあるけれども、それを全て基準にしていいわけじゃないのをよく知っているからコレこそが寿司なんて言えない。

 

「上手く、説明が出来ない…………でも、フォアグラとマシュマロの寿司は絶対に寿司じゃないと言える」

 

「その曖昧な境界線上を上手く行き来するのが、コレから求められるものなんだ……肉の寿司があるが寿司として王道か邪道かと聞かれれば絶妙なまでに微妙なラインの立ってる。牛肉の炙り寿司はお高い寿司屋で取り扱ってるのをそれなりに見る。だが豚肉を焼いた寿司を扱っている寿司屋は見ない。鶏肉を握っている寿司屋も見ない……だからこそ、作る。豚肉を焼いた寿司を作ったら成功した。鶏の唐揚げを使った寿司を作ったら成功した。王道を真っ直ぐ行くのもありだし奇抜な発想をするのもありだ。どっちもありなんだ。問題は動かねえ事だ」

 

 サイモンが作った寿司を、アリーシャが作った寿司を、ザビーダが作った寿司をゴンベエは見る。

 ネタに少しの違いがあれども普通の寿司屋に置いてそうなお寿司で代わり映えがない。別にそれが悪いことかと聞かれれば別だけれども、アイゼンの作った拘りの寿司を作り上げるのが理想的な答えね。

 

「1つのあやふやな様で固定している概念に対して、どういう答えを出すのか?奇抜過ぎる発想をすればそれは違うと否定される。だったら王道を極めるのが1番だろうが皆が同じ事をしようとする。その結果や最終目的地がアイゼンの寿司だ……だが、奇抜に見えるが王道を行く物もある。ベルベットの1人前がそれだ」

 

 ゴンベエがそう言えば私の寿司に視線が向いた。

 私が作ったのは赤身、漬けマグロ、鉄火巻、中トロ、大トロの炙り、ネギトロ、ツナマヨ軍艦の鮪だけの寿司。奇抜な発想に見えるけども、ツナマヨ以外の鮪の寿司はどんな寿司屋に置いてあるわ。

 

「鮪だけの1人前の寿司、太巻き1本だけの寿司……奇抜だが受け入れる事が出来る王道だろう……因みにだがツナマヨ軍艦ありなし議論も大事だ。ツナマヨに必要なのは鮪、卵、酢、油だ。素材は寿司を作るのに必要不可欠な物だが、寿司じゃない邪道だと認識するかしないか?調理法がやり方が違うだけで殆どが一緒の筈だ……天族の信仰による加護領域展開の形は変えられない。でも、やり方は幾らでもある。王道を行くやり方じゃないだけで今まで色々と試していない方法は幾らでもあるはずだ。奇抜に見えて柔軟な発想だと思えること受け入れる事が出来る納得させれることを考えることが出来るのかも見ている」

 

「……そんな物があるのか……」

 

「サンドイッチの店があるんだが、その店はたまごサンドとかBLTとかのサンドイッチを注文するだけじゃなくてサンドイッチの中に入れる具を選ぶ事が出来る店なんだ。中の具材を自分の好みで選ぶ事が出来る店で、割と好評でヒットしている。コレを応用すればそうだな、中に入れるネタを決める事が出来る持ち帰り専門の太巻きの店も作れるかもしれない」

 

「奇抜……いや、奇抜じゃない……」

 

 中の具材を自分で決める事が出来るサンドイッチの店。言われてみれば見たことがない、けどその店が存在していたら利用する人は多い筈よ。

 ゴンベエが例にあげた店なんかを言えばありなしで言えばありな方向で今まで見たことがないけども奇抜過ぎる発想じゃない。かと言って王道を行くわけでもない絶妙なまでのラインにあるわ。

 

「新しい柔軟な発想をするのか、王道のど真ん中を走る事が出来るのか、それともコレだと固定概念に囚われてしまって同じ事しか出来ないのか……王道のど真ん中を走る事が出来るのと固定概念に囚われてしまって同じ事しか出来ないのは大きく異なる。少なくともオレが出したシチュエーションでは周りにそこかしこに寿司屋がある。不味い寿司屋なんて流行らない。味にのみ拘る完全予約制や一見さんお断りや家に出張する寿司屋もある。街に馴染みやすい寿司屋としてお客が釣ってきた魚を安値で買い取ってその場で捌いて寿司にする寿司屋も存在している……同じ事を繰り返したいんだったら人間や天族は不要だ。最適解や同じことの繰り返しなんてAIなんかにでも任せりゃいいんだよ」

 

「エーアイ?…………」

 

 サイモンは無言になっている。

 寿司を作れと言われて普通の寿司しか作らなかった。他にも色々とあったのに普通の寿司しか作らなかった。

 アリーシャもザビーダも自分で作った寿司を見ている。普通の寿司を作ってしまった……それは間違いじゃないけども最高ではないある意味妥協の一品よね。

 

「んじゃまぁ、とりあえず評価するけど…………お前、結局のところはオレ達依存だな……」

 

「…………私にも出来ることはある」

 

「夢見せるだけの加護だろ?吉兆を知らせるのはいいことだが実際に福が訪れるわけじゃねんだ、歓楽街でしか使い道はねえぞ」

 

「いや、例えばお前を殺すことが出来る……こんな風にな」

 

「あ?」

 

「っ!?」

 

「ストップ!ストップ!それはほんとに洒落にならない!!!」

 

「落ち着きなさい!!それはやったらマズイわ!!」

 

 サイモンが軽く威圧してなにかをしようとしたと思えば濃密な殺気が純粋な殺意がサイモンに降り注ぐ。

 ホントに少しだけだけど私とアリーシャがゴンベエがサイモンに対して向けた殺気を感じ取って止める。ゴンベエが殺気だけで、威圧だけでサイモンを気絶させそうになる。そのイメージをすることが出来るぐらいに恐ろしい殺気を感じた。

 私達は手を出すんじゃないとゴンベエを抑える。

 

「安心しろ、殺らねえよ……オレは殺す事が決まれば躊躇いは無いが殺すことに決まるまでは躊躇うタイプだから……お前、なにしようとしたんだ?飯を作ってる場で炎を出すのか?水を出すのか?風を吹かせるのか?地面を割るのか?」

 

「ぁ……ぃ……」

 

「落ち着いてください……その、ゴンベエが色々と言い過ぎた部分というか酷いのは今に始まった事じゃないと言いますか……」

 

「ほら、立てる?」

 

 尻餅をついて怯えているサイモンに手を差し伸べる。

 どんだけ純粋な殺気を送ったのかしら?私の差し伸べた手を握る手は血の気が引いているのがよく分かるわ。

 

「コイツは災禍の顕主クラスの相手を片手間で倒すことが出来る強さを秘めている、なにをしようとしたかは知らないがくだらない所で命を無駄にすんな」

 

 ゴンベエの恐ろしさを知っているザビーダもフォローに入る。

 ゆっくりと深呼吸させてサイモンの呼吸を整えさせているとアイゼンが険しい表情をしていた。

 

「どうしたの?あんたの寿司、やられたの?」

 

「……サイモン、お前もしかしてメルキオルのジジイと同じで幻術使いか?」

 

「は、ぃ……」

 

「……マジで?」

 

 サイモンがメルキオルと同じで幻を見せる事が出来ることにアイゼンが気付いた。

 コクリと頷くサイモン。それを聞いて驚くゴンベエ

 

「アレってメルキオルの老害特有の術とかじゃねえの?」

 

「いや、正確に言えばメルキオルだけの術じゃない。オレの死神の呪いの様に変わった能力を持った天族が稀に生まれる、メルキオルのジジイはそいつを使役して幻術を使っていた」

 

「……………………メルキオルのジジイって、確か五感にも作用する系の幻術使えてたよな?」

 

「ええ……プティングの味で幻術だって分かったけどアレが無ければ、幻術だって理解しなかったわ」

 

「……………それ使って天族を見えるようにできねえの?」

 

 …………え?



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語り合いの心

テイルズオブザレイズ編を書きたいんだが、姫騎士アリーシャと導かれし愚者達を終わらせねえと書けねえんだよな。


 

「メルキオルのクソジジイと同じで質量を持った幻術を掛ける事が出来るならば、それを応用して天族を認知させられる筈だ」

 

「成る程……その手を考えたことが無かったな」

 

 サイモンが使い物にならねえポンコツかと思ったがメルキオルのクソジジイと同じ幻術使いだった。

 メルキオルのクソジジイの幻術の恐ろしさはオレ達が嫌でも分かっている。オレもアリーシャの幻を見せられたし、アイゼン達も何度も何度も騙されている。メルキオルのクソジジイの幻術がメルキオルのクソジジイ特有の術でなくそれ専用の天族による幻術だったのははじめて知った。

 それを応用して幻術によって認知させる方法はあるんじゃねえかと考えればアイゼンはその手があったかと考える。

 

「メルキオルの幻術は俺達にだけ幻を見せたり幻覚を起こさせるわけじゃねえ、地脈の大地の記憶の様に全員が見れる幻だ……例えば術者自身が知らない奴でも知ってる奴の記憶から擬似的に再現して作り上げる……」

 

「確か、エドナ様を再現されましたね」

 

「そうなの?」

 

「ええ……アイゼンの隙を作る為にね……今思い返せばあんた達も動揺してたわね」

 

 メルキオルのクソジジイの幻術を思い出す。黛さんの影が薄いとはまた方向性が異なる力で幻術、質量を持った幻術。

 メルキオルのクソジジイはベルベットの故郷すらも擬似的に再現した。メルキオルのクソジジイは四聖主やカノヌシの力を使ってねえ。サイモンの様に幻術が使える天族を使役しての術、ジャンルで言えばビエンフー?……いや、マギルゥはなんだかんだで自力でやってるっていビエンフー言ってたな。

 

「とりあえず、孤児達でザビーダが見えるように実験してみるか」

 

「お、俺でいいのか?」

 

「エドナとアイゼンだぞ?」

 

「……俺じゃねえとダメだな」

 

「あんたもあんたでダメでしょう。もう誰もツッコミを入れないから言うけどもなんで上半身裸なのよ?」

 

「色々とあったんだよ」

 

 エドナとアイゼンが認知されればどうなるのか?

 そもそもでエドナはワガママだし、アイゼンは……子供に手出しする奴じゃねえけども属性で言えば悪属性に近いんだよな。

 

「ザビーダを見れるようにしてくれ」

 

「っ……」

 

「……ゴンベエ、やりすぎだ」

 

 色々とあるかもしれねえけども、とりあえず実験してみるしかない。

 机上の空論並べても意味はねえんだからとサイモンにザビーダを見る事が出来る様にしてもらおうとするのだがサイモンが怯えて動かない。こっちに対してなにかしらの術を、大方幻術を使ってこようとしたから純粋な殺気で飲み込んだ。アリーシャは流石にやりすぎだと言うがあのままだと俺は幻術……仕掛けられても気力一つで跳ね除けるか。

 

「落ち着かせましょう……相手が悪かったわ。相手は災禍の顕主ボコボコに出来るヤバイ奴なのよ」

 

 エドナがエドナなりにフォローを入れる。

 ベルベットやアリーシャも気持ちを落ち着かせようとするのでここに居るのは良くないことだなと厨房を後にするのだがアイゼンがついてくる。

 

「少しいいか?」

 

「いいもなにも、サイモンを落ち着かせねえと話は進まねえよ」

 

「……そのサイモンだが、今の災禍の顕主の下僕かもしれない」

 

「根拠は?」

 

「お前を殺そうとしたところだ……確かに寿司から色々と否定された。だが、殺す必要は無い……ゴンベエ、お前は災禍の顕主を倒したんだろ」

 

「かなりどころか物凄い余裕でな……俺に勝てないと判断して、内側から潰すってか?」

 

「ただ暴れ回るだけの奴やロクロウの様に斬ることが全てのタイプの憑魔じゃない、内側から潰す事もしてくる。現にアリーシャの師匠は手先だった。本気で災禍の顕主が全人類憑魔化を狙っているのならば、確実に何処かの段階でお前が邪魔になる」

 

「普通、導師(スレイ)だろ……」

 

「お前は災禍とはいえ勇者だろう」

 

 おっと、それもそうか。ヘルダルフが確実に何処かの段階でオレが邪魔になる。障害になる。だから、倒さなきゃいけねえ。

 メルキオルのクソジジイやアルトリウスも何処かの段階で邪魔になるからオレを封印しようかと考えてたみてえだが、あの手の術でオレを封じ込めるなんて夢を見過ぎにも程がある。

 

「内側から潰すって言うけども、彼奴自身の戦闘能力……アリーシャが余裕でシバき倒せるぞ?ベルベットでもいけるぞ?」

 

「戦闘以外で潰す…………コレはあくまでも一種の仮説だ。オレの死神の呪い、コレは天族の持つ加護の一種で不幸を呼び寄せる。もし仮にオレに信仰が集まり祈りの力で加護の力が強化された場合、災厄に会う可能性が増える」

 

「バンエルティア号に住み着いたら色々と不幸が起きてたって話ならベンウィック達からも聞いてるけど……彼奴自身の加護は夢を見せる、吉兆そのものを運ぶのでなく吉兆が現れると言う事を教えてくれる加護の筈だ」

 

「……その都合の良い夢の中があまりにも居心地がいいならば?」

 

「あ〜ドラえもんのび太の夢幻三騎士か……」

 

「なんだそれは?」

 

「夢の世界の方が楽し過ぎて夢と現実を入れ替えて夢の世界で大冒険したりする話だ……夢の中ならなんでもあり……無限月読かぁ……無限月読かぁ……いや、ありっちゃ、ありなんだけどな」

 

 サイモンの最終目的はオレ達に味方だと思わせて加護領域を展開させる。

 そんでもって領域内の人間に都合の良い夢を見させる。現実よりも夢のほうがいいと思わせる。夢の中ならなんでもあり、幻術の世界に閉じ込める。無限月読的なのを狙いに来た……無限月読そのものはありかなしかで言えばありなんだけどもな。

 

「ヘルダルフ、オレが寿命で死んでオレの事を語り継ぐ世代も死んでオレの事を情報でしか知らないぐらいにまで生き抜けばいいものを……流石にその時代までめんどう見きれねえからな」

 

 アリーシャ達も色々と頭を悩ませてるけども、永続的な平和なんて不可能なんだ。

 それこそカノヌシみたいに感情を上から抑えつける形を取らなきゃいけねえ……全知全能の原初の神が絶対の指揮を取る、なんて事をしても無駄。ルシファーなんか天使から悪魔になった代表格で感情を活かしつつの平和は難しい。

 

「まぁ、オレやザビーダならばその時代まで生きているだろう……もし仮に天族を認知させるシステムや浄化の力を持った人間がそこかしこに出来た場合、災禍の顕主にとって動きにくい情勢になる。ただ純粋に感情のままに暴れまわるのでなく考えて動くことが出来ると言うのならば今の災禍の時代と呼ばれている時代で一気に持っていくしかない。それこそ全人類憑魔化なんて馬鹿げた考えを持っているのならばな」

 

 平和な時代から災厄の時代に持っていくことは難しい。

 天族を殺せば大体が終わる気もしなくねえが、今がヘルダルフの野望の中で1番のチャンス……オレと言う転生者が居なければスレイが解決する事で……う〜ん……。

 

「ぶっちゃけ詰んでるかどうか聞かれれば詰んでる……アリーシャ1人をパワーアップさせるのも一苦労だ。肝心の導師がアレだったし……さっきの寿司の問題の様に惰性に生きるか王道を行くか1芸を極めるのか奇抜な発想をするのか?少なくとも王道を行ったり惰性に生きてきた結果が今の世の中だ。受け入れる側が許容範囲内で納得の行く落とし所を見つけなきゃならねえ……残念だが、オレには不可能な事だ」

 

「お前でもか?」

 

「逆だよ、オレだからだ……例えばザビーダのジークフリートはパワーアップアイテムだ。アレを応用して霊力をパワーアップさせる方法や術を開発する事が出来るかもしれねえ。でも、オレはそっち系に関する技能は無いに等しい」

 

 転生者にも色々とタイプがある。

 戦闘特化、殴り合いや体を動かす系以外の戦い特化、その世界の技術等を解析して新しい物を作り上げる物作りの転生者。

 オレは戦闘特化の中でもかなり戦闘特化なタイプだからジークフリートを量産しろとか言われても普通に無理だ。メルキオルのクソジジイみたいにジークフリートの術式を読み取って神依を作り上げるとかも出来ねえんだ。

 オレが電気関係が出来ているのは純粋に転生特典として知りたいことを知れる知識を貰っているからであって素の学力はな……。

 

「サイモンの力でオレ達を見ることに成功すれば、それは大きな1歩だ。メルキオルのジジイと同じで実際に触る事が出来るのならば尚更だ……だが」

 

「サイモンはヘルダルフの手下の可能性が高い……アイゼンが死神の呪いで絶望したみてえに、自分が通常の天族と異なってる事に絶望した感じか?」

 

「その線もなくはないだろう……エレノアが裏切った様にサイモンにも裏切ってもらうか」

 

「お前、サラッと言うな…………あの手のタイプは自分自身の能力が使い物にならないとかの絶望系のタイプだから、力の正しい使い方を教える。世の中にとっていい方向に向かう方法を教えるのがベストだろうが、先ずはヘルダルフに対する思いを壊さねえとな」

 

 あ〜……オレはこういうのホントに苦手なんだけどな。

 サイモンをこちら側に誘導する、所謂光堕ちをさせなきゃいけねえ……闇堕ち系女子のベルベット、闇堕ち系男子のアイゼン、ザビーダ……まともなのはエドナだけ。アリーシャは徐々に徐々に頭のネジが狂っている。そうなる原因作ったのはオレだけども。

 

「少しずつ落ち着いてきたみたいよ」

 

 アイゼンとサイモンをどうするか話し合っているとエドナが厨房からやって来た。

 サイモンが少しずつ落ち着いてきたみたいで厨房に戻ればサイモンがいたのだがビクッとしている。視線を合わせないようにしてる。

 

「ゴンベエのマジの殺気、どんだけなんだよ」

 

「言っとくけどな、まだマシな方だからな。殺気や威圧感をぶつけて威嚇するだけで殺せる奴も世の中には居るんだぞ……なんなら受けてみるか?今ならば、あ、死ぬわと言う死のイメージを与えるアルティメットルーティーン付きだ」

 

「いらねえよ!」

 

「そうか……ん?」

 

「ご飯、まだなの?」

 

 オレの殺気に関して気にするザビーダ。試しに受けてみるかと聞けば嫌がる。

 ここから先はサイモンとゆっくりじっくりと対話をしていこうかと考えていると孤児達が入ってきた。

 

「そう言えば、飯にしてねえな」

 

「ちょっと待ってなさい。寿司の材料ならあるから、ちらし寿司を作るわ」

 

「……ストップ」

 

 飯がまだかと聞いてくる孤児達。

 寿司の材料ならあるからとちらし寿司を作る準備をしようとするのでベルベットに待ったをかける。

 

「大丈夫よ、普通のご飯もあるからおにぎり、アイゼンが作った肉寿司の肉のあまりで肉巻きおにぎりが出来るわ」

 

「いや、それは嬉しいんだが……サイモン、幻術を使ってザビーダを見えるようにしてみろ」

 

「……はい」

 

 此処から先はトライ・アンド・エラーの世界だ。

 視線を合わせようとしないサイモンに対してザビーダを見れるように指示すれば手を翳すサイモン。オレ達が既に見ることが出来るので具体的にどういう感じに変化が起きているのか分からねえけども、孤児達は驚いている。

 

「お兄さん、誰なの!?」

 

「何処から現れたんだ!?」

 

「コレは成功している、でいいのか?」

 

「いや、まだだ。今見えているザビーダはサイモンが幻術で作り出したザビーダだ、本物のザビーダじゃねえ。此処から先、リアルタイムで寸分違わずにザビーダの動きと連動させる……と言う事でザビーダ、子供たちに寿司握ってやれ」

 

「結局のところ、そこに落ち着くのかよ…………お前等、今からザビーダお兄さんが最高に美味え寿司を握ってやるぜ」

 

「サイモン、オレも見えるようにしてくれ……寿司としての最高点は、オレの寿司が1番だ!」

 

 お前、こんな所で張り合うなよ。アイゼンも見えるようにしてもらえば孤児達はまた驚くのだが説明はしねえ。

 オレ達視点ではなんも変わってねえけども、孤児達の視点からではザビーダとアイゼンを認知することに成功している。

 アイゼンとザビーダは張り合って寿司を握る。寿司のネタを熱く解説するアイゼンに子供たちは早く食べさせろという眼差しを向けている。子供にコース形式の寿司は厳しいってば。

 

「気取らねえのが寿司なんだよ」

 

「……あの2人は仲が悪いのか?」

 

「えっと……喧嘩するほどが仲が良いと言うものです!」

 

 気取った寿司に対して気楽な寿司を握るザビーダはバチバチにアイゼンと睨み合う。

 サイモンがあの2人の関係性について聞いてくるので同族嫌悪の仲の悪さ、喧嘩するほど仲が良い関係性だとアリーシャは説明をする。

 

「アイゼンとザビーダを見ることには成功している。アイゼンとザビーダが握った寿司は本物の寿司、材料が実際に動いている、か……」

 

 まことのメガネを通してアイゼンとザビーダを見る。

 特になにか変わったことがねえ、アイゼンとザビーダは確かにそこに存在している。アイゼンとザビーダが霊力の低い人間目線ではどういう風に見えているのか?……周りが見えて当たり前……そういや、憑魔化したら天族認識出来るようになるのか?霊力がカノヌシに高められたベルベットはともかく、ヘルダルフとか過去の災禍の顕主……マルトランのババアや司祭のオバハンもそうだが、サラリと認識している。

 憑魔になる事で力の増幅が可能なのか?人間という種族から憑魔と言う種族に変わることによってパワーアップしている……ベルベットは人間の頃にはどうあがいても敵わない業魔もとい憑魔と戦えるようになったと言ってた事もある……う〜ん……オレにゃどうにも出来ねえ世界だな。

 浦原さんとかならば霊力を高める装置をジークフリートをベースに量産したり色々と出来る……て言うかなんで見えない人達に見えるようにする術を作らねえんだ?……まぁ、信仰の対象がエレノアみたいな真面目な善人ならば大丈夫だがマギルゥみたいなタイプだったら色々と困るか。

 

「……しかしまぁ、災禍の顕主は人類全員を憑魔化なんて考えてるけどもこういうのはどうするつもりなんだろうな?」

 

「……どういう意味だ?」

 

「あいつ、全人類憑魔化って言ってたけども飯とかはどうするんだ?天族ですら嗜好品で飯食ってるのに、ロクロウみたいに酒を嗜む憑魔も居るのに」

 

 モグモグとベルベットの作ったおにぎりを食べつつもサイモンを揺さぶる。

 ヘルダルフが全員人類憑魔化なんて馬鹿げた事を考えてるけども、飯関係について聞いてない。

 

「……」

 

「あいつがなんで災禍の顕主になったかは知らねえし興味もねえし知ったとしても同情するつもりもねえし……死ぬほどどうでもいい事なんだけどな……」

 

 いや、ホントにな。あいつがベルベット並の重いものがあったとしてもオレはあいつの理解者にも共感者にも反感者にもなるつもりはねえんだ。

 人間がゴキブリを見たら殺そうとするのと同じぐらいの感覚でヘルダルフを殺る。背負っているストーリーなんてどうでもいいんだよ。背負っているストーリーが重い、だから勝てるなんて理論は聞き飽きた。

 なんだっけか、感情によってパワーアップする系の武器を持っている主人公に興奮を抑える香水とかアロマとかフェロモンとかを撒き散らせて感情によるパワーアップを防いで完封した転生者も居たな。

 

「…………もし」

 

「ん?」

 

「もし、己の力で加護を与えて不幸を招くとしてどうすればいい?」

 

「あ〜………………………誰かに助けてって言おうぜ」

 

「……?」

 

「人は気付いているか気付いてないかは分からないが見えない所で支え合って生きている……だったらお前達天族も力を合わせろ。寄り添え……オレは自分で無理だと判断したら素直に助けてとは言える」

 

 ただし、実際に助ける能力を持ち合わせている人にしか言わねえけども。

 

「お前が不幸を招くとして、それはお前の物差しでの不幸だろう。一般的な目線で不幸を招くならば幸福を招く存在と寄り添えばいい。ただそれだけの話だ……まぁ、何処かの誰かは不幸を招くのを受け入れている。幸福を招く存在と共存すれば愛する妹と共に生きれる道があったが拒んでるがな」

 

 意地を貫いているが、それさえ無ければ幸せになれている。

 もっとも、今こうしているのはある意味2人にとってなんだかんだで幸せなのかもしれねえ。一緒に悩んで一緒に笑って一緒にと……

 

「自分が不幸だなんだと思うのならば、世界中の人間を幸福にしてみろ。自分が幸福な人間だと思うのならば世界中の人間を不幸にしろ。そうすれば世界一幸福な人間に不幸な人間になれる」

 

「……お前、大分滅茶苦茶な事を言っている自覚はあるのか?」

 

「それはヘルダルフにだって言えることだろ。今言った事は世界中の人間を憑魔化して苦しみから開放するなんて言う馬鹿げた考えをしている阿呆だ…………苦しむから楽しい。悩むから楽しい。理不尽はそこかしこにある。それを正すのも面白いし、それを利用するのも面白い」

 

 黛さんなんかその辺を特に思っている。

 FGOの世界でデメテルに「その、妊娠したみたい」とか言われたり遊戯王GXの世界でブラック・マジシャン・ガールのカードをカツアゲされたり上条当麻を実弾入りの拳銃で脳天ぶちまけて抹殺したり色々とあるのに転生者をやっているのは面白いとハッキリと言えるスゲえ人だからな。

 

「天族と人間の間に足りねえ物があると言うのならば語り合いの精神だ。お前はオレの何倍も生きているんだろう。だったら色々見てきた筈だ、変わりゆく人間の社会を。その人間の社会に対して天族側がどう対応するのか?……今のままじゃダメなんだ……」

 

「だから、寿司か」

 

 オレが寿司を1人前用意しろという問題を少しずつだが納得がいくサイモン。

 仮にだが、科学技術が発展した時代でイエス・キリストが現れればブッダが現れれば人は受け入れる事が出来るだろうか?多様化を認められ神権政治から民主主義に変わってしまった時代、娯楽にも溢れている。歴史の中で多くの成功と失敗を繰り返している。そんな中で彼等の様な存在は必要なのか?過去の時代ならまだしも、現代社会じゃ不要だ……物事のキッカケになる基盤を作り上げた事に関してはいいことなんだがな。




スキット 人生のフルコース

エドナ「で、誰が1番なの?」

ゴンベエ「え?」

エドナ「え?じゃないわよ。寿司を1人前用意しろって言ったのは貴方でしょう。誰の寿司が1番なの?」

ゴンベエ「いや、そもそもで1番決める為のもんじゃなくてお前達の思考能力を試す為の問題だからな。味とか重要視してねえからな……そもそもでオレ、寿司苦手だし…………アレだぞ、味云々の話になればややこしいぞ。オレの好みの味が1番美味いってオチがあるし」

エドナ「それって料理勝負の根底がひっくり返らない?」

ゴンベエ「ひっくり返るだろうな…………例えばよ、究極のメニューを作る!って言われても、オレはそれにはあんまり乗れねえよ」

エドナ「なんで?面白そうじゃない」

ゴンベエ「料理は人間と切っても切れない関係性にあるものだ。味云々じゃなくて思い出のメニューの1つは大抵の人間にはある。その中で1番のメニューを決める、愚かだろ?……大衆が美味いって認める物が美味しくないって思う時もある。現にオレは生魚や酢飯が苦手で寿司が大嫌いだ」

エドナ「…………まぁ、確かに思い出のメニューがあるかないかで言えばあるわ。それよりもこっちの方が美味しいって否定されるのは癪に障るわね」

ゴンベエ「人によってメニューは変わる…………だからこそ、人生のフルコースを作るんだ」

エドナ「人生のフルコース?」

ゴンベエ「オードブル、スープ、肉料理、魚料理、メイン、サラダ、デザート、ドリンク……時にはそれを飯ではなく思い出に当て嵌める時もある」

エドナ「思い出ね……お兄ちゃんとの繋がりを感じた日、お兄ちゃんが居なくなった日、お兄ちゃんが覚えたパルミエの味…………貴方にもそういうのが」

ゴンベエ「さてな、今が色々と苦しい時だから分からねえ。でもまぁ、とある人物には始まりであり黄金であり漆黒である時があった。オレもそいつのその思い出を、黄金の時を穢すならばなんの迷いもなく命を奪う」

エドナ「……黄金の時ね……それは最高だったのね」

ゴンベエ「黄金であり漆黒である時だ…………涙を流して自分が地獄に落ちて構わないと言っても無駄だった絶望、はじめて人間として生きれた才能を開花する時が出来た希望…………っと、あんまりそこは触れるな。黄金の時は心の中で閉まっておくものだから」

エドナ「言い出したのは貴方じゃない」



Q 仲良い転生者と仲悪い転生者が居るけどもどんな感じ?


A 転生者同士は基本的には仲良くしましょうねと言われてて同期同士は基本的には仲が良いです。赤司と天王寺とかは普段は仲悪いですが明確に見える敵が居れば余裕でフュージョンとかポタラ使いますし協力します。それはそれ、これはこれで割り切ってます。
  同期以外で仲良い組み合わせは諏訪部ニキと千樹扉間、蛇喰深雪と高遠耀一、蛭魔妖壱と黛千裕、ロイド安堂と海馬瀬戸とかです。
  逆に仲が悪いのは秋山雀と松代研、市原優子と墨村守美狐、磯野勝利と八木俊憲

質問待ってます。感想待ってます。


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力は色々と

 サイモンが現れて3日が経過した。

 アイゼン、ザビーダ、エドナ、そしてサイモン自身を視れるようにしてみたらあっさりと見ることが出来た。

 だがまぁ、あくまでも見ることが出来たのであってオレ達みてえに物理的な接触が可能かと聞かれれば話は別だ。

 

「コレを売りにすりゃあ1度は訪れてみようかとなると思ったんだがな」

 

「…………作為を感じるな」

 

「意図的にここに来ない様にしてるってか?んなのが出来るのは導師ぐれえだろ?」

 

 天族を認識することが出来ると言っても声を聞くことが出来るのと姿を見ることが出来るの2つだ。

 だが、ザビーダやアイゼンからしてみればそれだけでもう充分なぐらいにお得な事であり真っ当な天族ならば1度は立ち寄ってみるかと考えるだろう……だが……ただの1人も天族は訪れていない。

 実際に天族を視ることが出来るようになる、デメリットが無いといえば嘘になるが損得勘定でものを言えば圧倒的なまでにお得だ。特に長く生きていて人間と接する事が出来ていた期間があったザビーダやアイゼンからすればこの上なく嬉しいことだ。

 

「マギルゥが居たら、スゲえ楽なんだけどな」

 

「漫才は2度とお断りよ」

 

「オレ達はウケが悪かったからな」

 

「2人はそれ以前の問題ではなかったか?」

 

 色々と考えた結果、天響術を芸として見せている。

 戦いのための技を普通に芸事として魅せている。こんな時にマギルゥが居てくれれば演目内容を色々と決めてくれるだろうが生憎な事にマギルゥもエレノアもロクロウもあの世だ……死霊術を使えたとしてもロクロウ達を呼び出す触媒も無ければロクロウ達を入れる器も無い。キョンシー作る術はややこしいんだ。まず大前提に元気な遺体が必要なんだよ。

 漫才は2度とゴメンだとベルベットやアイゼンは言うが、アリーシャはネタ以外の部分に問題があったんじゃないのかと思い出す。ベルベットは恥ずかしくて、アイゼンは聞こえるレベルの舌打ちして笑ってはいけない状況を作り出した。お笑いは笑われてナンボだぞ。

 

「やはり……エドナ、アイドル化計画を始動するしかないのか……っく……」

 

「おい、なに言ってるんだ?」

 

「全員がエドナの声をエドナの姿を見ることが出来るようになった。ならば知ってしまう、エドナの可愛さを……エドナを崇拝したいと強く思うだろう。それは間違いじゃない……エドナをアイドルに……だが、だが、そうなれば……」

 

 お前はマジでなに言ってんだ……

 エドナは領内の人達にエドナの可愛さを知ってしまえば争いの火種になってしまうことを危惧しアイゼンはアイドル化計画を考える。

 おニャン子全盛期ならばまだしも今はもう親衛隊みたいなガチアイドルのガチファンはいない……いやでも、推しを祀る位牌を作ろうと仏壇業界が地味に儲かってるんだよな。

 

「しかしまぁ、あんたもよくこんな事を思いつくわね……」

 

「力の使い方はごまんとある。今ある物を極めてしまってそれ以上が無いのならば更に精進したいならば新しく発想を取り入れるのが大事だ…………メルキオルのクソジジイは想像力が足りない、とは言わねえ」

 

「……この村が限界、か……」

 

 オレの屋敷の直ぐ側にある村までがサイモンの幻術の範囲内だ。

 サイモンを中心に10kmぐらいまでしか幻術は使えない……サイモンが言うには天族自身に幻術を仕掛けて、天族が語ろうとしていることを限りなく誤差を無くして幻覚として見せている……が、サイモン1人に限界がある。

 村1つを包むぐらいがサイモンの幻術の範囲内、その事をアリーシャは残念そうにする。メルキオルのクソジジイはベルベットの故郷の村どころか領土1つをまるまると幻術世界に入れた。サイモンも出来るかと思っていたのだが、サイモンは出来なかった。

 

「メルキオルは曲がりなりにも特等対魔士だ。対魔士の使う術の殆どがあいつの物だ」

 

「ああ……導師が使っている神依ももとを正せばメルキオルが開発した術の1つだ……」

 

「この時代にああいう術者的なのは生き残ってねえのか?」

 

 サイモンが悪いんじゃなくて、メルキオルのクソジジイが異常なだけだ。

 アイゼンは改めてメルキオルのクソジジイの異常さを言えばアリーシャは納得する……だからこそ、疑問に思う。天族を視ることが出来る人間は物凄く少ない、少ないが0ではない。そういう奴等は異端の目を向けられるのがベタな事で、イズチみたいに集い暮らしている可能性がある。その辺の事をザビーダに聞いてみればザビーダは黙る。

 

「そういうのは確かに居た……導師じゃないが術を使える、導師じゃないが従士じゃないが天族を視ることが出来る……その手の人間は厄介な存在だと忌み嫌われていた。だからこそ協力していたが、居ないと言う事は滅んだんだろう」

 

「自分で自分の首を締めるなんて……バカみたい、なんて言えないわね」

 

 ただのベルベット・クラウだった頃は天族の存在云々を否定していたらしいベルベット。

 アルトリウスもなんだかんだで余所者邪魔者異端な存在の扱いを受けて最終的には闇堕ちしているので他人事じゃねえ。アイゼンは居ないなら諦めろという。

 

「……………いや、流石にそれは…………無いな、うん」

 

「なにかまた思い浮かんだなら自己完結せずに伝えてくれ……ゴンベエ、大凡の予想は当たっていることが多いのだから」

 

「…………ここ以外を狙ってる」

 

「と言うと?」

 

「オレはヘルダルフを海の底に沈めた。ヘルダルフが死ねば連鎖的に捕まってるマオテラスも死んでこの大陸に異変を及ぼすだろうがなんの影響も起きてない…………異大陸の方に流れ着いた。ハイランドとローランス以外を攻め落としてから攻め落とすとか」

 

 転生する度に櫻井孝宏キャラになる男(クズ)がプリキュアが居ないところを侵略して、プリキュアの首を差し出せば侵攻は止めると言って一般市民達に「プリキュア、死んでくれ」と言わせた事を思い出すがその線は薄い。

 サイモンはヘルダルフのスパイの可能性が大きく、ヘルダルフは封印解除の後にサイモンに指示を出してサイモンはやってきた……その割には直接術をぶっぱしてきてるわけじゃねえ。

 

「そういえば、裏の天遺見聞録があるとか言ってたがそれにメルキオルのクソジジイの術の記録とかねえのか?」

 

「マギルゥが書いた一冊で誰かが持ってる……お前とアリーシャ以外の事を書いてあるが……いや、確かに大陸を探せば記録の1つや2つ見つかる時もあるが……」

 

 まだまだ八方塞がり、要の天族が居ないのが1番の問題だ。

 折角、天族を認識させることが出来るシステムの基礎的な部分を作り上げようとしても肝心の天族が居なければ意味はねえ。

 

「なら、パワーアップするしかないでしょ?」

 

「エドナ様」

 

「疲れたから、コーヒー牛乳持ってきて」

 

「は、はい」

 

 天響術で色々とやってたエドナが戻ってきた。疲れているからとアリーシャをパシってコーヒー牛乳を取りに行かせる。

 

「パワーアップって言うけどよ、エドナちゃん。こっちにはゴンベエにベルベットが居るんだぞ?聞いた話じゃゴンベエ、ボコボコにしたらしいじゃねえか」

 

「そういうパワーアップじゃないわ、サイモン自身をパワーアップさせるのよ……忘れてないかしら?まだ導師の秘力を授ける場所が残っているのを」

 

「忘れてないけど、彼処って人間的な意味合いで成長させる場所でしょ?私達はもう色々と嫌な物を見てきてそれでも色々と必死になって頑張りながら前に進んでるから今更なにを言われても意味は無いわよ?」

 

「エドナ、残っているのは地の神殿と風の神殿だ。サイモンはどちらにも当てはまらないし、サイモン自身をパワーアップさせる場所じゃない。オレやザビーダならパワーアップ出来るが」

 

「お兄ちゃん、大事な事を忘れてるわよ……サイモンはまだ器を持ってないわ」

 

 あ…………そう言われればそうだな。

 サイモンは普通に幻術を使っているから深く考えてなかったが、サイモンは何かを器にしていたりしていない。

 

「なるほどな…………」

 

「オレは無理だぞ」

 

「あたしも無理よ」

 

「お前等2人は最初から当てにしない…………アリーシャが鍵を握るのか」

 

 サイモンの器になって幻術を会得する、少なくともありかなしかで言えばありだ。

 アイゼンはオレとベルベットに視線を向けるが、オレはそういうのしないしベルベットは自分自身が穢れを産む存在なのを理解している。清浄かどうかは別として器になれるのはアリーシャだ。

 

「エドナ様、コーヒー牛乳です」

 

「アリーシャ、パワーアップしに行くわよ」

 

「……え?」

 

「だから、導師の秘力を授かりにいくわ……お兄ちゃん、場所を知ってるんでしょ?」

 

「知ってるには知ってるが」

 

「だったら行くわ。何度も何度も議論を重ねる暇があるならパパっと動いて解決した方がスッキリするわ」

 

 バッサリと行くエドナ。

 仕方がねえなとフォーソードの力を使って4人に分身し、サイモンを呼び出しアリーシャがサイモンのパワーアップやサイモンの力を使える様にする事が出来るように事情を説明する。

 

「サイモン様の力をより高める為に分け合う為にもどうぞ力をお貸しください」

 

「……正気か?災禍の顕主にすら打ち勝つ力を既に手にしているのに、まだ力を求めるのか?」

 

「ん〜…………お前、なんか勘違いしてねえか?」

 

「なにがだ?」

 

「力は色々とある。心の力もありゃ筋力も色々とある……確かにこの面々ならばヘルダルフの討伐は容易い事だ。だが、それだけなんだ。世の中をいい方向に、今までの既存のシステムを根底から覆すのでなく強みをある程度は活かしたシステムを作らなくちゃならねえ。その為にオレの力なんてカスも同然だ」

 

 人をボコボコに叩きのめす事ならば、余裕で出来る。けど、その力を今は求めていない。

 オレの力なんて基本的にはカスも同然なんだ……他の転生者ならばもっと上手い方法を見つけることが出来ていたかもしれないし。

 だからこそ、求める。どうにかすることが出来る力を。

 

「オレを凄まじい人間とか導師とか高尚な偉い人だと思ったら大間違いだ……確かに男爵なんてやってるけども、その実態は普通の人だ。だからこそ、イカれているがな」

 

「お前が普通の人だと?一度辞書を引いて、普通の意味を調べてみろ」

 

「その見る方向がおかしいんだよ…………とある本の物語にはこういう話がある。世界を恐怖に陥れる魔王を倒したと言うことはその魔王よりも強い存在が生まれたのだと。よく言われるよ、それだけの力があるならば力を行使して酒池肉林なり平穏な世の中を築き上げる先導者に救世主になれる素質はあるって……………でも、めんどくせえし興味ねえんだ」

 

「…………目の前で無垢な民が傷ついてもか?」

 

「自分を愛せる様になれ、自分を労れる様になれ、自分を大事にする人間になれ……自分で自分を救うことが出来ねえのに、他人に手を差し伸べてそれは果たしてホントに救いの手か?」

 

 かわいそうだ、助けてあげようの精神は否定しねえ。けど、人をホントの意味で救うためには自分自身が救える立ち位置の人間じゃないといけねえんだ。場合によっては独りよがりになっているからな。

 サイモンは色々と思うところがあるのか考える。考えることは大事だ

 

「…………お前はホントに変わった人間だな」

 

「サイモン……お前は見るものを見たのか?」

 

「なに?」

 

「どうも天族は人間を知ったかの様に見せているけども、天族は人間とは異なる種族だ。だから、理解する事が出来ない部分もある。例えばお腹を痛めながら生んだ自分の子供、鍬を手にして開拓した土地……天族は便利な力を持っているから自覚するのは難しいかもしれねえけど、そういう尊い(エモい)ものに関して見てきたか?」

 

「それは…………無いな…………その壁があるから、天族と人間は分かり合えない」

 

「だろうな」

 

「!?」

 

 エモいものがなんなのか、見ることが出来ても体験することが出来ない。

 だから、天族との溝は深まる一方で共感者になることは不可能だ。その辺の事を否定するのかと思っていたサイモンは驚いた。

 オレは種族が違っても分かり合えるなんて高潔な事を言うほどに偉くないし偉くもなりたくねえ。

 

「自分のことを知っているのは誰でもない、自分だけだ。だから理解してもらいたいって思うこと自体が間違いなんだ」

 

「それでは理解しようとする思いも無駄だと?」

 

「ああ、無駄だ」

 

「姫の考えを否定するのだな」

 

「当たり前だ……オレにはオレの持論がある。アリーシャにはアリーシャの持論がある……だからこそ意味がある。何処ぞの災禍の顕主は人類憑魔化なんて言うけども、世の中は不公平に出来ているからいいんだよ。平等な世の中は平等と謳っているだけのただのディストピアだ。お前の中で平等がおかしいと思えばお前は理不尽や不平等を受け入れる…………お前の理不尽や不平等、持論はあるか?」

 

「……………幸福になりたい、そう言うのは傲慢だろうか?」

 

 サイモンの心が少しだけ開いたのか、サイモンは幸福を求めている。

 誰もが不幸になる世界を求めている奴の配下なのに幸福を求めている……それはきっと、絶望を知ってしまったからだろう。

 絶望の内容についてはどうでもいい、ただそれが原因で他所様に迷惑をかけていい道理は何処にも存在していない。

 

「お前にとっての幸福はなんだ?」

 

「なら、お前にとっての幸福はなんだ?お前は異大陸の人間だ、異大陸の技術をここで伝えているが異大陸の方が心地が良い、この地を故郷と同じ様に変えたいと望んでいるのでは?ならば、我が術でお前の望む世界を再現してやる」

 

「質問を質問で返すなよ…………ベルベットやアリーシャみたいな絶世の美女を嫁にして、マイペースに生きていたい」

 

「曖昧で……ちっぽけだな」

 

「それをちっぽけと言えるほどにお前は偉いのか?それを笑えるほどの幸福をお前は掴んだのか?オレなんかが殴り合いで手も足も出ねえ化け物共が望んでるのは1つの食卓を囲むこと……黄金の刻を刻んだ事はあるか?」

 

「…………分からない…………私にとっての幸福がなにかが、人間というものがなんなのかも……お前は逸脱し過ぎていてイカれているから基準にならない」

 

 コレは……アレだな、ヘルダルフについていたけども人間がなんなのかが分からなくなってきている状態だな。

 勝手に絶望して勝手に破壊をしようとしているという認識になっている。だから……裏切るキッカケにはちょうどいい。

 

「準備出来たわよ」

 

 サイモンと話し合いをしている間にベルベット達が出掛ける準備をしてくれた。

 内政関係に関しては2ヶ月分を終わらせているから、問題となるのは子供達だが分身のオレがなんとかしてくれるだろう。

 

「ここが地の試練神殿がある場所だ」

 

 アイゼンは地図を持ってきて印をつけた場所を見せる。

 アイフリードが捕まったとか言われている場所からそこまで距離はねえな。印を2つつけているという事はもう1つは風の試練神殿か。

 

「ここなら行けるわね……大地の汽笛を呼んでちょうだい」

 

 行ったことがあるなとベルベットは大地の汽笛を呼び出すように言う。

 パンフルートを取り出して大地の汽笛を呼び出すのだが大地の汽笛をはじめてみたサイモンは驚いている……あ、そうだ。

 

「お前の幻術で大地の汽笛とオレ達を見えなく出来るか?」

 

「可能だが……こんな物で移動するからだぞ」

 

「しゃあねえだろう……ちんたら時間かけてる暇は何処にもねえんだから……」

 

 大地の汽笛を走らせれば嫌でも噂になるから、こういう時はサイモンの幻術だ。

 メルキオルのクソジジイは自分自身の姿を見せないように出来ていたから理論上は可能だろう。サイモンはやれやれといった感じで術式的なのを展開したが、オレ達には見えているから例によって分からねえな。




スキット 閉心術

サイモン「…………1つ、聞いても構わないか?」

ゴンベエ「なんだ?」

サイモン「なにも考えていないのか?」

ベルベット「ゴンベエは悪ふざけしてるだけで、色々と考えてるわよ?」

サイモン「私の幻術は私の知らない事でも相手の頭の中を読み取って作り出す事が可能だが…………お前からなにも出来ない」

ゴンベエ「お前さぁ、サラリと人の頭の中身を読むのはやめろや……」

サイモン「何故だ?お前が知っているが作っていない便利な物も作れるぞ」

ゴンベエ「高度な有幻覚は便利だが、そういうのはいいんだよ……お前はアレか?ジグゾーパズルを自力で解くのを楽しめねえタイプか?」

ベルベット「それと少し違うんじゃ……なんで読めないの?」

ゴンベエ「お前、そりゃあ他人の頭の中を読み取る技術があるならばその逆で相手に心を読み取らせない技術の1つや2つ存在してるだろ?」

サイモン「……そんな便利な技術があるのか?」

ゴンベエ「閉心術って言って頭の中を読めないようにする技術だよ…………神通力って言う技の中で相手の心を読む技があるが、それの逆で意外と簡単に会得出来る」

ベルベット「あんたの簡単は信頼ならないわ……どうするの?」

ゴンベエ「頭の中がキャベツやレタスみたいに葉っぱに包まれてるってイメージを持っとく」

ベルベット「……なんか出来そうな気がするわね……」

ゴンベエ「やめとけ、この手の術は実際に相手の頭の中を読み取る術を使って対抗できているか確認しなきゃならねえ……なにかの手違いでお前の中にある大事な記憶や触れちゃいけない部分も見られるし、高度な読心術なら閉心術を突破出来る」

サイモン「……サラリとやっていて言っているという事は読まれたのか?」

ゴンベエ「まぁ、色々とな」


スキット 本当は

アイゼン「なにを話していたんだ?」

ゴンベエ「ん〜……サイモンは悩んでるみたいだった、そうとしか言えないな」

アイゼン「悩んでいる?アイツがか?」

ゴンベエ「自分の中の凝り固まった考えとは異なる考えを知って戸惑っている……多分、サイモンは自分の力をいい方向に使えなかったんだろう。自分自身の加護がいい夢を見せるだけだと言っていた、それはつまり過去に加護を与えていた事になる……そこで失敗したんだろう」

アイゼン「……そうか…………昔のオレに近いのか」

ゴンベエ「先輩としてなにか教授するか?」

アイゼン「それもありかもしれない……オレはオレである事を受け入れている。奴も災厄を撒き散らす存在だと受け入れろと言っても激情するだけだろう。考えて思って悩んで、そうして1歩ずつ前に進むことで見えるものがある……だが」

ゴンベエ「だが?」

アイゼン「お前ならば、何かしらの答えはあるだろう……仮にアイフリードでなくお前に先に出逢えばどうなってたか」

ゴンベエ「タラレバは無しだろう……でも、そうだな。オレはお前は怒る事や試練を与える加護だと思ってるぞ」

アイゼン「……そうか……」

ゴンベエ「正の側面と負の側面がある、相反する存在に見えて根底は同じだ。アイゼンの死神の呪いの正体は怠け者を怒ったり、障害、試練を与える加護だと思っている……」

アイゼン「……アイフリードじゃなくてお前に出会っても死神の呪いは受け入れていたか」

ゴンベエ「コレはあくまでもオレの勝手な考えだけど、サイモンは本当は助けてほしいんじゃねえのか……お前とエドナが変わってるだけで、天族に家族がいるかどうかは微妙だ。数が少なくて本音を言い合える相手もいねえしどいつもこいつもいい子ぶってる。だからイレギュラーな存在の自分に戸惑い心の何処かで助けてほしいって……まぁ、それをするのはオレじゃねえけど。オレはもうベルベットとアリーシャを助けるのに精一杯だ」

アイゼン「アリーシャならば、どうにかなるだろうな……」


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親ガチャ

 

「ついたな」

 

「着いたわね……はぁ」

 

「どうした?」

 

 地の試練神殿に辿り着いた。やっぱり知識は大事だなと思っているとエドナがため息を吐いた。

 なんか嫌な事でもあったのだろうかと聞いてみる。

 

「めんどくさい」

 

「……?」

 

「貴方達は火の試練神殿でなにも見てないけど、ここって導師としての覚悟とかを試す場所でもあるのよ」

 

「それはわかってる……ただまぁ、その事に関しては物凄くどうでもいいと思っているんだ」

 

「なんで?」

 

「決まってる。水の試練神殿で見た感じなのを毎回問うのならば愚かとしか言えない……曲がりなりにも導師、導く人間だ。そういう立ち位置に居る人間は重圧に掛かる……それでも前を歩かないといけないんだ」

 

「……狂ってるわね」

 

「エドナ……やりすぎるから正義なんだよ……自分自身と戦うなんて言うけど、この世で最も信頼する事が出来るのは他人じゃない、自分自身だ。自分自身が競争相手なのはまだ分かるが敵になればこの世で最も信頼と信用が出来る人間が裏切ったも同然なんだ。だから自分を愛するんだ」

 

 オレの価値観を狂っているの一言で済ませるが、オレからすればお前達が狂っている。

 文句の1つでも言う暇があるならば自分からなにかアクションを起こさなきゃいけねえ、上条当麻は基本的には事件が発生してからそげぶするけども、それじゃあダメだ。自分から探す、自分から動くのが大事なんだ。

 

「とりあえず、前みたいにここを担当している天族探すか」

 

 地の試練神殿に足を踏み入れる。

 前と同じで試練を与えるのを仕事にしている天族がいるだろうと思えば、無駄にデカい憑魔がいた。

 

「アレは……ミノタウロスか……」

 

「とりあえず浄化しておくか、デラボン」

 

「ああ!!」

 

「ん?」

 

 アイゼンが憑魔名を言うのでとりあえず通路を塞いでいるので邪魔だとデラボンで倒す。

 おそらくだがこの神殿で1番強い憑魔だろうが関係無いとデラボンをぶつければ浄化される……が

 

『助けて』

 

『おとうさん、おかあさん』

 

『痛い、やめて』

 

『ぼくがなにをしたの?』

 

『生まれてきてごめんなさい』

 

『おなかすいた』

 

「…………………胸糞悪い事をしてくれるじゃねえか」

 

 怨念が聞こえた。幻聴かと思ったがオレだけでなくアリーシャ達にもハッキリと聞こえていたみたいで困惑している。

 どうしたもんかと思っていると天族の格好をしている奴が現れる。

 

「お、おおぅ、ミノタウロスを力技で倒したのか……それじゃいかんぞ……」

 

「……テメエがこの地の試練神殿担当の天族か?」

 

「如何にも!ワシがこの神殿の護法天族、パワンドじゃ……して、そこのお嬢ちゃん達が導師かのぅ!そっちの黒髪の姉ちゃんはバリボー」

 

「人の嫁達に手を出すな!!」

 

 ベルベットがエロい、アリーシャの絶対領域が最高だと興奮するパワンド。

 人の嫁に手を出そうとするので拳骨を叩き込めばパワンドは地面に減り込む。

 

「……私を嫁として認知してくれるのね!」

 

「まぁ…………あんま口にしたくねえけど………」

 

 嫁として認知していることを言ったので喜ぶベルベット。

 アリーシャもモジモジとして嬉しそうにしているのだが、エドナが傘の先端部分で突いてきた。

 

「イチャつくな、バカップル」

 

「エドナ様、違います!カップルではありません!私達は既婚者です!」

 

「そういう事を言ってるんじゃないわよ!……なんで私がツッコミをしなきゃならないの」

 

 愚っさんと似たような運命にあるな。

 地面にめり込ませたパワンドはゆっくりと起き上がる。拳骨を叩き込んだとはいえ軽めだったから余裕で起き上がるか。

 

「いたた…………人妻はいかん、人妻は……お主達がここに来てワシが見えているということは力を求めに来たのだろう……しかし、ミノタウロスを一撃で消化する事が出来るのに今更パワーアップは必要かの?」

 

「オレじゃねえ、アリーシャ達のパワーアップだ」

 

 ミノタウロスを簡単に浄化した事でここに来た意味が無いと言いたげなパワンド。

 オレじゃなくてアリーシャ達がパワーアップをしに来たことを伝えれば興奮するのだが、越えてはならない線を越えるならば躊躇いなく殺すぞ。

 

「エドナにちょうだい♡おじたまの♡は〜や〜く〜♡」

 

「エドナ……」

 

 堂々とぶりっこな姿を見せてなんとも言えなくなるアイゼン。ザビーダは笑いを堪らえようと必死になっている。

 日頃の行いというのは割と大事なんだな。

 

「力を与えるのは試練を終えて祭壇に向かわなければ」

 

「っち、使えないわね……今更この私に試練だなんて何様のつもりよ?」

 

「……それで試練の内容はなんなの?」

 

 力を与えるには手順がいるとの事でそれが分かればエドナは舌打ちをした。

 めんどくさいというのは分かっているが、一応はなんなのかベルベットが聞くのだがパワンドは困ったような素振りを見せる。

 

「あのミノタウロスを鎮めるのが試練じゃったが……」

 

「大体わかった…………お前、大分胸糞悪い事をしてるな」

 

「……もう分かったのか?私にはなにがなにやら分からぬが」

 

「親に恵まれなかった子供とかのオチだろ…………実にくだらねえし胸糞悪い」

 

 パワンドがミノタウロスを鎮めろというのが試練内容だと言えば大体が分かった。

 ミノタウロスから聞こえた怨念は子供の助けての悲鳴だ。大方、導師は穢れの根底を知らなければならないとかそんなオチだろう。

 

「……ザビーダ……アルトリウスがくたばって以降に導師は生まれたか?」

 

「まぁ、そりゃそれなりには生まれたけど……どうしたんだ?」

 

「そいつ等は政治に関してはどうなっている?」

 

「……深く関わるな、そう言われてるしそういう政策をとってたな。アルトリウスの一件もあったし、導師が力を貸す=その国の勝利も同然になっちまう」

 

「…………ライラがスレイにハイランドに深入りして力を貸してはいけないって言ってたわよ」

 

 ああ、そうか。

 

ピタロック(ポーズ)

 

 ザビーダから聞きたいことは聞けた、エドナからもポロリと言葉が落ちた。

 怒りの沸点が徐々に徐々に高くなっていくのが分かっている。オレらしくないのも分かっているがそれでもシンプルにムカつくのだとピタロックでパワンドの時間を止めてマスターソードを抜いて一閃する。

 

「冥道残月破」

 

 真円の冥道残月破をパワンドにくらわせる……いや、この技はくらわせるという技じゃないだろう。

 冥道残月破により黄泉の国の門が開き、パワンドは冥道の中に引きずり込まれて最終的には冥道は閉じて無くなった。

 

「ゴンベエ、なにを……なにをしているんだ!?」

 

「そうだな…………オレからの問題だ、どうしてオレはこんな事をしたのか?それを考えてみろ」

 

 パワンドを殺した事にアリーシャは戸惑う。アリーシャだけでなく、ベルベット達もいきなりのことで動揺している。

 どうしてオレがこんな事をしたのか?それを知りたければ、先ずは考えてみろよ。

 

「……怒っているのか?」

 

「え?」

 

「導師の試練内容について、怒っている……静かだが確かな怒りが分かる」

 

「……探索するぞ」

 

 サイモンがオレが怒っている事に関して気付く。

 怒っているから、オレはパワンドに冥道残月破をくらわせた。新しく転生させない為に冥界に直接叩き落とした。何故に怒っているのか分からないアリーシャ達は一緒に神殿を探索する。

 

「……ゴンベエが怒っている理由は子供の魂を利用したからかしら?」

 

「モアナの時もあまり表に出さなかったがキレていた……だが、今回は違う。モアナは聖寮が無理矢理利用したのであって、ミノタウロスから聞こえたのは助けてと悲しい悲鳴だ。ミノタウロスは子供の魂から成り立つ憑魔だ……パワンドは曲がりなりにも護法天族だ。勝手に憑魔化することはしない……筈だ……」

 

 神殿を探索しながら、ベルベットはアイゼンに怒っている理由を聞く。

 モアナの時と似ているが異なる事でパワンドがそれを利用した事について怒っているかと考える。神殿内を探索してみれば子供の道具が色々と見つかり、さっきのミノタウロスは報われない親に愛されない子供達の魂が集合して出来た怨念の憑魔なのが判明する。

 

「……親に愛されない子供……メディサは子を愛さない親が居ないと言っていたが、その真逆が」

 

「……………アリーシャ」

 

「なんだ?」

 

「それは押し付けだぞ」

 

 かつてメディサが子を愛さない親なんていないだなんだと言っていた。

 この神殿から出てくるものは親に愛されていなかった子供達の遺品でそんな真逆な事が起きているのかとアリーシャには受け入れ難い事だった。流石にそれは良くない事だと分かっているがコレばかりは言っておかなきゃ気が済まねえ。

 

「親だから愛する、子供だから愛される。それはお前達の勝手なイメージに過ぎない」

 

「………私とお兄ちゃんは同じ地脈から生まれた。他にも色々と天族が居るのに、私はお兄ちゃんとの心の繋がりを感じているわよ」

 

「だろうな……でも、望まれず祝福されずに生まれる子供は世の中には沢山いる。そして望まれて祝福されて生まれた子供もこういう、親ガチャにハズレたと」

 

「……親ガチャ?」

 

 なんだそれは?と首を傾げるサイモン。

 意味を理解していない……あんまり言いたくない事だけども言っておかなくちゃいけないことだ。

 

「ガチャガチャと言うおもちゃが300円ぐらいで手に入るくじ引きみたいな道具がある……子供は親を選べない。親は子を選べないが子を作る作らないを選ぶことが出来る。だから、親はガチャガチャと同じで運に身を委ねなければならない。それが当たりかハズレかによって人生を大きく作用する」

 

「……子供側が文句を言うのか?」

 

「ああ、言うよ……無責任に産むなと…………仮に、天族と人間の間に子供が生まれたとして、生まれた親は祝福するかもしれないが周りが祝福してくれるか?時と場合によっては種族や一族を越えたハーフは差別の対象になる……親同士が愛するならば勝手だ。だがな、無責任に産むな。子供の環境を整えてから、生まれても問題無く育てる事が出来るようにしてからだ……種族を越えた禁断の愛は文句は言わねえが新しい命を無責任に産むな……オレは大人の無責任な事を、子供にとって一生の重荷になる事を沢山見てきた。オレ自身もそれの被害者だ。親が子を愛していたとしてもその思いが伝わらなかったり歪んだ愛で子供にとっては不幸でしかない事だってあるんだ」

 

「例えば?」

 

「お前達天族が大事にしている真名、アレをもし親に変な名前にされたらどうする?少なくとも世の中にはキラキラネームと呼ばれる痛々しい名前がある。それを親が付けた大事な名前を罰当たりなと言うバカな大人も大勢いる……子供にとって時には親は足枷だ。親だから見捨てる事は出来ない。親だから逆らうことが出来ない。親だから文句を言うに言えない。親だからきっと自分のことを思ってくれる。親の前だから我慢をしている……世の中には助けてと言っても親が邪魔で助けてくれる大人が声が聞こえない」

 

 親だから、子供だから、それは勝手な押し付けに過ぎない。親の心子知らずなんて言うけども子の心親知らずなんだよ。

 世の中には改心しないどうしようもねえクズは普通に存在している。自分が地獄に堕ちる事が確定しても構わないから相手を地獄に突き落とす権利を使う人間も居る。と言うか深雪はそれだった。

 

「人間はもともと善なる心を持っている。しかしそれが環境によって悪に変わる。人間の本性は悪であり弛まぬ努力によって善の状態に達することができるとする……どちらが正しいのか?答えはどちらも正しい……大事なのは環境、才能、血筋だ」

 

「努力を真っ向から否定するのだな」

 

「その考えを否定するな。努力はうんこと同じだ。毎日する、ふんばる、水に流す、人には見せない…………オレも色々と見てきたが、生まれてから1度も努力のどの字もしていない人間なんて何処にも居なかった。努力はして当たり前だし、報われない時が多々ある」

 

 綺麗な言葉でなく残酷な事ばかりを言うオレに言葉がでないサイモン。

 

「嫌なものを沢山見続けている。嫌なものを沢山知っている。だからこそちゃんとしなきゃいけねえ……大方、ここは穢れの根底を知らなければならないと言うだろうが違うだろ?穢れの根底を知った上でそれを改善する方法を考え続けなければならないだろう?それなのに導師は関わったらいけない…………導師は天族の信仰を得るための道具か?今の世の中を良くするのは導師以外の人間に任せよう!なんて無責任な考えか?」

 

「その答えを考えるのがここではないのか?」

 

「その結果が災厄の時代だろ……既存のシステムが時代に合わず老害化していっている。オレ達がやらなければいけないのは新しい世代として開花し更に新しい世代に託せるようにすることだ」

 

 最初の頃はそれで問題が無かったかもしれない。だが、今の時代に合わない。

 何時までも伝統だなんだと言ってなにも変わらない事を教えている。それは頑固とも言える、何時しか老害になってしまう。

 歌舞伎の世界ですら徐々に徐々に考えが変わっている。歌舞伎でNARUTOやONE PIECE、ルパン三世なんかをやるのが良い一例だ。

 

「オレを非難したいなら非難しろ。罵倒したいならば罵倒しろ……ただ、自らで見て学ぶ姿勢を忘れる事は受け身な姿勢はあんまり好みじゃない。ここで孤児が、飢えに苦しむ人間が多くいると言われても意味は無い……理解させた上で浄化し供養しても意味はねえ……もっと根本的な部分を解決する。そこに導師云々の壁は不要……導師でなければならないというのならばそんな世界は滅びればいい」

 

 オレはそう言うと時のオカリナを取り出した。魂のレクイエムを吹く。

 すると辺り一帯に穢れが溢れ出る。オレは黙々と魂のレクイエムを吹き続ける。

 

『助けて』

 

『ごめんなさい!ごめんなさい!』

 

『もう欲しいなんて言わないから!許して!』

 

「っ……ゴンベエ……」

 

 予想通りと言うべきか、この土地にまだまだ子どもの怨念が報われない魂が存在している。

 仮にスレイが来た後に次の他の導師が来て孤児云々を伝える為にそういう子供達の魂が居るのだと思っていたが居たか。魂のレクイエムを吹き続ければ怨念の塊が1つに集約していきミノタウロスになりアリーシャの前に現れる。

 

「……………………すまなかった………………私は、恵まれている人間だ。持っていないと思っていたが逆だった。持っている人間だった…………皆を生き返らせる事は出来ない」

 

 アリーシャはミノタウロスに対して戦うことはしない。

 何時暴れてもおかしくないのでザビーダやアイゼンは警戒しているがミノタウロスは攻撃をしてこない。

 

「許してくれとは言わない……知ろうとしなかった罪と知ってから後で色々と文句を言う怠惰な罪と言われるまでなにもしなかった罪を背負って生きる……もうゆっくりと休んで……天国があるかどうかは分からない。ゴンベエが言うには命は生まれ変わるらしい……私が出来るのは君達が生まれ変わった時に楽しいと笑顔になれる世の中を作ることだ……おやすみなさい」

 

『……おや、すみ…………』

 

「ミノタウロスが消えた……コレは……」

 

「元となってる子供達の魂が消えた……ゴンベエが吹いてる曲も影響があるだろうが、アリーシャちゃんが浄化したんだ。殴り合いでなく語り合いで」

 

 ミノタウロスは消えた。アリーシャが浄化の力を振るったわけでなくミノタウロスが自らの意思で消えた。

 ザビーダがどういう原理なのかを考察してサイモンに語ればアリーシャは何故かエドナとの神依を発動してヘソの辺りが光る。

 

「……ゴンベエが護法天族を殺したが、秘力は……四聖主は眠ってやがる……この大地がアリーシャを認めたのか?」

 

「……こういう負の側面を教える為にここがあるって言うなら気に食わないわね……」

 

 アイゼンがアリーシャが秘力を得たことに気付く。

 パワンドを殺したのに秘力を授かった、四聖主の力かこの星がアリーシャの行いを認めたから力を授けたのかと考察をしている。

 

「フィーは、人間の心の強さや生きる力を見たけど人間のホントの悪や負の側面を見ていなかったわね……それを伝えてどういう答えを出すのかを試しているのだろうけど、コレじゃ意味は無いわ。知るのと経験するのは異なるんだから」

 

「10歳の子供に無茶を言うな……とは言えないな……親だから子供だからはあんまり好きな言葉じゃねえ」

 

 人の醜さをマオテラスは知らない。人が持っている神や悪魔すら悍ましいと思える汚い部分をマオテラスは知らない。

 きっと過去にここを訪れた導師は色々と考えたんだろう。災厄の時代をどうやって乗り切るか……だが、その結果が今の時代だ。もっと色々と考えないといけない。もっと色々と備えないといけない。出した答えは間違いとは言わねえ、でも正しいとも言えない。

 

「子供の魂は……無くなったか」

 

 アリーシャがミノタウロスを浄化した後も魂のレクイエムを吹き続けたが、穢れは出てこなかった。

 子供の魂をなんであれ利用している、例えそれが聖人の為の試練だとしても許されることではない……オレで良かったな。オレ以外の転生者だったら、特にアイツだったら逆鱗に触れていた。魂を直接煉獄に叩き込んでただろう。

 

「………………」

 

「批判や批難があるならば好きなだけ言え……そうやって意見をぶつけてぶつかることが大事だ」

 

「…………お前は狂っている……だが、我等天族も狂っている。祀られるべき存在だと言われてもなに1つ疑問を抱かなかった……」

 

「そこが天族の限界だ……だからこそ、変わる価値がある。向き合い方を変えなければならない……変わらないものは何処にもない、変わるからこそ意味がある……もうこんな場所は不要だ」

 

 サイモンは向き合うことを忘れていたと呟く。

 向き合うことを、やり方を変えなければならない。アリーシャがパワーアップしたっぽいので遺跡を出てオレは遺跡に向かって拳骨を叩き込めば遺跡が一瞬にして崩壊した。それを見たサイモンは引きつった笑みを浮かび上げた。

 

「化け物が……今までを壊す1つ間違えれば闇の道を歩んでいるぞ。その事に後悔は無いのか?」

 

「後悔だらけに決まってるだろう」

 

 自分の行いの悔いが無いと思ってたら大間違いだぞ、オレは色々と後悔だらけだよ。

 

「ならば何故この様な真似を……お前ならば日の目を見る事は幾らでも可能だろう、自ら暗く深い闇に堕ちる?」

 

「……暗い闇の中に居るからこそ見えてくるものがある……オレは夜明けじゃなくて暗いところの方が好みだ。暗い闇は冷たくて残酷だ……だからこそ闇の中にある温かい本物の光を見つけ出したい。闇の中にある輝きは何時か夜明けの光に変わる。少なくとも、アリーシャやベルベットは闇の中にある夜明けの光だった」




DLCスキット 精神的な問題です

エドナ「ゴミみたいな魔法しか使えないわね、貴方」

吹雪「おっと、それはどうかな?確かに僕の魔法は使えないように見えて使える魔法が沢山ある……くらえ、スイーツ」

エドナ「ちょっとやめなさいよ……無性に甘いものが食べたくなるじゃない!」

ベルベット「それは普段からじゃない……あんた、少しは使える魔法を持ってないの?」

吹雪「急に無性に甘いものを食べたくなる、相手の集中力を乱す最強クラスの精神干渉系の魔法を使えないとは……そうだね〜……僕の世界もティル・ナ・ノーグの影響でね、紅き界賊団の団長が現れたんだ」

アイゼン「海賊だと?」

ゴンベエ「海の賊の海賊じゃなくて世界の賊の界賊だよ……アカレッドのおっさんか」

ライフィセット「その人からなにか教わったの?」

吹雪「ある魔法を教わったんだ……その名もジー・ジー・ジジル」

ザビーダ「ジジイになるとかそんなオチじゃねえだろうな?」

吹雪「まさか、そんなしょうもない効果なわけがないだろう……ジー・ジー・ジジルはバフ、つまりはパワーアップをさせる魔法……でもこれ1人じゃ使えないんだよな……ベルベットの姉御とアリーシャが協力してくれるなら、あ、エドナとエレノアもいいよ。マギルゥとサイモンは心がいたたまれない気持ちになるから無しで」

マギルゥ「お主、ワシとサイモンだけハブるのか!!」

ロクロウ「まぁ、落ち着け。ものは試しだ。実際にその魔法を使ってみてくれ」

吹雪「エドナ、アリーシャ、エレノア、ベルベット……ジー・ジー・ジジル!!」

ベルベット「ちょ、なに勝手に…………………なにこれ?」

ザビーダ「…………チアリーダーだな……」

エレノア「チアの格好ですね……え、コレだけですか?」

吹雪「ミニスカのチアだよ……アイゼン、カメラあるけど使う?」

アイゼン「いや、この目に焼き付ける!」

アリーシャ「この衣装になにか特別な」

吹雪「無いよ」

ベルベット「それじゃあ私達、ミニスカのチアの格好をさせられてるだけなわけ!?もとに戻しなさい!」

ライフィセット「べ、ベルベット、激しく動いちゃダメだよ!その、中が」

吹雪「ほら、頑張れって応援するんだよ!そうすることでパワーアップする!」

エドナ「ほんっと、ゴミみたいな魔法じゃない!!」

アイゼン「いや、エドナが頑張れと言ってくれるならばオレは頑張れる」

ザビーダ「いや〜良いものが見れたし、やる気が出る」

サイモン「…………クズが……」

アリーシャ「その……ゴンベエ、頑張れ!頑張れ!」

吹雪「救国の姫君が恥じらいを捨てたんだ!君達もやるんだ!!」

ベルベット「っぐ…………が、がん……………って、出来るかぁ!!」

ゴンベエ「コレ、現地調達するチアーズの下位互換の魔法じゃね?」

吹雪「博打要素が強い魔法だけど僕は彼女のミニスカの応援でパワーアップできた……エロは世界を救うよ」


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いとエモし

 

「次行くぞ、次」

 

 地の試練神殿があんまりいいものじゃなかった。いや、かなり胸糞悪いところだった。

 残すところは風の試練神殿、ザビーダが何処にあるのかを知っているので地図に書き記して貰っている。大地の汽笛で行くことが可能な場所なので向かうことにする。

 

「こんな速度で試練神殿突破してくのは居ねえだろうな」

 

「それ以前に遺跡を破壊してやがる」

 

 サイモンに幻術で見えなくしてもらった大地の汽笛で走り出す。

 ザビーダが歴代最速の記録だと言うのだがアイゼンは呆れている。

 

「その、ゴンベエ……今更こういう事を言うのはアレかもしれないが壊すのはやりすぎじゃないだろうか?」

 

「あんな胸糞悪いのを毎回やるほうがおかしい……第一、それでどん詰まりなんだぞ」

 

「それはそうなんだが」

 

 ホントに今更ながら神殿破壊について言ってくるアリーシャ。

 人として為政者として賢者として知っておかなければならない当然な事を言っているだけに過ぎないのがなんともまぁ、絶妙なまでにムカつく。始まりを知る旅をしてきた側からすればロクでもない場所だ。その辺を言えばアリーシャはなにも言い返せない。アリーシャ自身もあんまりいい場所だとは思っていないからだろう。

 

「……お前は人として完成されている、皆が強いわけではないのだぞ」

 

「ならば、言ってやる。強くなれと。強くならなければなにも始まらないんだ」

 

 強くならなければなにも始まらない。オレは地獄でそれを学んだ。

 どうしようもない理不尽が世の中にはごまんとある。団塊の世代がそれを食い物にして甘い汁を啜っている。ロクでもねえ世界だ。

 

「…………強くならなくても苦しみから解放される方法があると言えば?」

 

「…………とある性悪女曰くエモい物があるから苦しみは楽しい」

 

 強くなることに関して言えばサイモンは苦しみから解放される方法を言ってくる。

 大方、ヘルダルフの言う全人類憑魔化計画だろうが、世の中にはエモい物が沢山あるんだ。

 

「エモい……とは?」

 

「尊い事だよ……そりゃさ、世の中クソな事だらけだ。苦しいことも多いし逃げ出したい事も沢山ある。正直言えばオレもなんでわざわざ聖人目指してる人間の試練を挑まなきゃならねえんだって疑問を抱いてるよ……でもまぁ、最後にベルベットとアリーシャがおかえりって笑顔で迎えてくれるだけで救われた気分になる」

 

「……………当人が目の前に居るのに言ってて恥ずかしくないのか?」

 

「…………………アリーシャとベルベットが大好きだって思いを言うことになにを恥じる必要がある?」

 

 アリーシャとベルベットが大好きだって思いを言うことは別に恥ずかしくない。

 2人はオレを選んでくれた。なにをとち狂ったか理解出来ないがオレなんかを選んでくれたんだ。だったらその思いに応えるのが筋だろう。アリーシャとベルベットはオレ達に視線を一切合わせようとせずに窓の外を眺めていたが顔をトマトの様に真っ赤にしているのがわかる。

 

「ブラックコーヒー!お兄ちゃん、ブラックコーヒーよ!!」

 

「エドナ、諦めろ……尊いものか……確かに苦しいことはその尊いものがあるから、頑張ることが出来る。人間は自分の為にも頑張れるし、誰かの為にも頑張ることが出来る。誰かの為に頑張りその誰かが笑顔になった時に頑張った奴は報われる……」

 

 アイゼンはエドナの肖像画が入ってあるペンダントを見つめる。

 アイゼンにとってエモいものはエドナだった、ただそれだけだった……サイモンはエモい物を持っていないんだろう。

 

「エモい……よくわからない」

 

「ん〜……冴えない系の彼氏に対して挑発的行為を行ってブチギレられて別れて新しい彼氏に同じことをしたら理不尽なぐらいにそれこそ殴られたりもして今まで自分が彼氏に対してどれだけ甘えていたのか理解して反省して謝罪しに行くけども既に前の彼氏はそいつと違って素直な女の子とイチャイチャしていて土下座しても後戻りが出来ない……と言うシチュエーションを第三者視点で見ることとか?」

 

「…………っぷ」

 

 深雪が大好きなシチュエーションを言えばサイモンはクスリと笑う。

 コイツも笑うことが出来るのだと思ったが、直ぐにコレは笑っていいことなのかと悩む。

 

「これは……笑っていいことなのか?他人の不幸を嘲笑う事は」

 

「ならば、問おう。悲劇や感動の物語で感情を移入してはいけないのか?喜怒哀楽の感情の中で出ている感情が違うだけで、演劇や小説等の物語は不幸な主人公、悲しい過去、ややこしい世界観、そんな中二病的な設定が盛りに盛られている。それに対して見ている側は面白いとロマンを感じる者も居れば可哀想だ助けてあげたいと思う者も居る。他人の不幸を嘲笑う事は決して悪いことじゃない、それを悪だと言うのならば世の中の悲劇な物語や感動の物語の為に作られた悲しい設定を作り上げた作者は全て最低な悪の存在、しかし物語には悲劇があるからこそ意味がある……時として死や不幸は明日への希望になる」

 

「……狂っているな」

 

「いやいや、オレもコレに関しては納得してる側だけども言われた側だから」

 

 転生者が物語の悲劇のヒロイン救済しようぜと思わないのは色々とあるけども、悲劇のヒロインがあるからこそ物語はエモくなる。

 もしそれでも最低最悪だなんて言い出すのならば物語を作り上げた作者に全ての罪が存在している。最初からそんな物を書くなと……でも、皆は口にしないがそんな物語を求めている。そして生まれるのが二次小説や薄い本……アレは時と場合によっては作者のやり方に文句を言っているという考えだと深雪は言っていたな。

 

「愉悦やエモいものは大事な事だ……アイゼンなんか絶望から乗り越えて生き甲斐ややり甲斐を見つけてたハツラツと生きてるぞ」

 

「ロクでもねえ事が多い世界だが、案外この世界も悪くはない」

 

 人生の先輩としてアイゼンはアドバイスを送った。狂っていると思うならばその通りかもしれないが、狂っていなければ最初からアリーシャの様に正そうとする正しい道を模索する人間は生まれない。狂気こそが正論であり普通の道、正論こそが場合によっては狂気になりうる。アルトリウスのやろうとしたことは一種の正論だった。だが、狂気を感じた。最後は意志と意思のぶつかり合い。

 

「っと、ついたな」

 

 そんなこんなで風の試練神殿に辿り着いた。

 大地の汽笛から降りて風の試練神殿を見上げる……縦に長い試練神殿、コレを昇らなきゃならねえのか。

 

「ベルベット、お姫様抱っことおんぶどっちがいい?」

 

「どうしたのよ急に」

 

「いや、こういうのは高確率で内部がダンジョンになっているパターンだ。アリーシャは風属性の神依を使えば空を飛べるから、オレがお前を背負ってジャンプすれば屋上に届くだろうと思って」

 

「どっちにしようかしら……ん?」

 

 ベルベットにお姫様抱っこかおんぶのどっちにするか聞けば悩むのだがなにかに気付く。

 

「見なさい、アレを!」

 

「アレはデュラハン!……あ、ここの試練担当の憑魔ですね!」

 

「そっちじゃないわよ!!誰か落ちてくるわ!!」

 

「アリーシャちゃん、神依やるぜ!」

 

 エドナもなにかに気づいたと思えば首無しの騎士の憑魔、監獄島の居たのと似た種類のデュラハンがいた。

 何故ここにと驚くアリーシャだが今までのパターンからしてアレを浄化すれば秘力を得られる系の感じだと察するがそこじゃないとエドナはデュラハンと一緒に落ちてくる人に気付く。

 

「「『フィルクー=ザデヤ(約束のザビーダ)!!』」」

 

 アリーシャは風属性の神依になれば竜巻を巻き起こす。

 デュラハンは消え去り、竜巻に飲み込まれた人はゆっくりと落ちていった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……ここは……ああ、そんな……そんな!!」

 

「なにがそんななのよ。あんた、頭から落ちてきて……あのままじゃ死んでたのよ?」

 

 アリーシャが怪我が無い事を確認するのだが、墜落してきた男性は嘆く。

 なにに対して嘆いているのか分からないのでベルベットは困惑をしているのだが、男性は続きを語る。

 

「私は……地霊の供物にすらなれないのか…………」

 

「あ〜……この辺って人身供養の伝承でも残ってんの?」

 

 自分自身が死ぬことが出来なかった事を悔やんでいる男性。

 アイゼンはこの試練神殿について色々と知っているみたいだから、一応は聞いてみる。

 

「ああ……この付近に生贄の伝承は残っている。この神殿は生贄の場所として使われる事は多い」

 

「使われる事は多いって、四聖主を叩き起こせるの?」

 

 生贄の場所として使われる事が多いことが語れば、ベルベットはここで四聖主の誰かを叩き起こせるのかを聞く。

 アイゼンは首を横に振った。四聖主とは関係は無い……まぁ、マオテラスの神殿を四聖主の神殿使ってたら色々と問題があるからな。宗派違うって厄介だから。

 

「……生贄の考えについて否定しないのね」

 

「ベルベットやアリーシャちゃんは特等対魔士を生贄に四聖主叩き起こしてた連中だからな」

 

 生贄の考えそのものが間違いだ!と言わない事に関してエドナは気にする。

 ベルベット達災禍の顕主一行は対魔士の純粋な魂を捧げる事で四聖主を叩き起こしたから生贄の事に関してはああだこうだと言わない。

 

「生贄とは愚かな……我等はその様なものは不必要だと言うのに」

 

「サイモン様、四聖主……いえ、マオテラス以外の五大神は信仰の祈りを捧げなければ眠りについてしまいます。眠りについてしまった五大神を起こすのには純粋な魂を捧げなければならないのです」

 

 誰かが望んでいるわけでもないのに身投げしている事に関して呆れているサイモン。

 生贄は不要だと言うのだが天族の頂点とは言わねえが五大神と呼ばれている存在に関しては純粋な魂を捧げなければ目を覚まさない。勿論、この時代でもだ。

 

「色々な国の神話や伝承や宗教には人身供養みたいな生贄の概念は常に存在している。オレの故郷にも荒れる川の流れを止める為に人柱を建てたという伝承は叩けばかなり出てくる。雉も鳴かずば撃たれまいの諺の語源も人身供養の生贄で生まれたとかで高潔な僧侶や神秘的な力を持った人間の生き肝を喰らえば妖怪は不老不死や超越した存在にになれるという伝承も残っている……無論、それを回避する手立ても残っている」

 

「……あるの?」

 

「あるぞ」

 

 生贄なんて間違ってる!とかを一切言わない事を気にしてるエドナは意外そうにする。

 そりゃあるよ。長い間の人身供養の歴史があるんだから、それを嫌だとかコレで代わりになるとかそういうのはよくあるぞ。

 

「清らかな心と体を持った人間を捧げるのならばその一部を捧げる……髪の毛が定番な物だな。髪は神とも呼べるから神秘的な力を持ってるだけでなくDNAの塊でもあるから強い力が籠っているパターンが多い。それでも無理ならば饅頭を捧げる……昔、スゴい軍師が饅頭を人間の頭に見立てて生贄の代わりにしたという逸話がある。漢字と言う文字で饅頭と書いた場合、2文字だがその内の1文字は頭と読むことが出来る。人間の頭の代わりにしたという逸話からくる名残だとかどうとか」

 

 人身供養が間違いだったと言われるようになってからは、色々な方法で人身供養の代わりを探してきた。

 髪の毛や饅頭は良い一例だ……ただまぁ、言えることは日本の神様は人身供養は望んでる奴も居れば望んでない奴も居る。

 

「人身供養は……結局のところ、悪いことなの?いいことなの?」

 

「…………分からん…………世の中には自分が地獄に堕ちる事が確定しても構わないから相手を地獄に突き落としたいという負の側面が強いが純粋に他人の不幸を願う奴をオレは知っている。そいつは結果的に地獄に堕ちたが、地獄に突き落としたいという願いは叶っている」

 

 人身供養について善悪は無い、意思の力だ。

 オレは蛇喰深雪と言う性悪女について知っている。あいつは過度なイジメの報復の為に死んだと言っている。遺書を残してイジメの記録を日本中にバラまいて2度と再起する事が出来ないようにと全力を出した……結果的に報復は成功したらしい。

 

「……自分の命を捨てても投げ出しても何かを成し遂げてみせる、そういう意思があってその意思が本当ならば生贄の1つや2つ文句は言わねえ筈だ……だがまぁ、自己犠牲精神は弱者の自己満足に過ぎない。皆が幸せならば自分は犠牲になりますじゃねえ。自分も救い皆も救う、それこそが1番の答えだ」

 

「また、メチャクチャな」

 

「あ、あの……貴女様のその姿は……も、もしや!?」

 

「え!?」

 

「……あ〜……知らね」

 

 アリーシャの神依の姿が見えているのか驚く男性。

 アリーシャも神依状態の自分が見えていることに関して理解していなかった……オレが基本的にはワンパンで終わらせるから神依使う機会が早々にねえんだよな。人前で使うのはじめてか?……う〜ん、知らねえな。

 

「導師様、私をどうして地霊の生贄に捧げてくださらないのですか!?私では、私では生贄に不足な存在でしょうか!!」

 

「それは……」

 

 生贄になるために身を落とした男はアリーシャを導師だと勘違いをして叫ぶ。

 生贄になろうとしている事に関してなにを言えばいいのか分からないのでオレ達に視線を向けてくるのだがオレ達はなにも言わない。少なくとも生贄のシステムが間違っているのならばそれよりも良いシステムを作る、文句があるならばテメエで行動する。消費者はある程度は便利な物を求めるから選んでくれる。極々普通な事だ。

 

「……何故、身を投げ捨てようとしたのですか?」

 

 アリーシャは先ずは理由を聞こうとする。

 男から語られたのは自分が罪を犯したから、残すところは生贄になるしかないのだと語る……実にくだらないな。罪を犯したから、生贄になるのはただの逃げ道だ。仮に純粋な魂を捧げなければならないのならばこの男は絶対に無理だろう。

 死ななければならない、そういう考えに至っている男に対して色々と言いたげなベルベットやアイゼンだったが今聞いているのはアリーシャだ。アリーシャがどういう答えを出すのか。

 

「ふん!!」

 

「へゔぉ!?」

 

 アリーシャがやったのは男の鳩尾に対して拳を叩き込んだ。

 どうして自分が殴られたのかと男は分かっていない様子でアリーシャはゆっくりと呼吸を整えている。

 

「死んでどうするのですか、死んでしまえば確かにそこで終わりです……でも、生きていれば未来が明日が続く……だから、生きてください。良い事が起きると保証する事は出来ないです。でも、死んでしまえば明日は来ない。今日で終わります。今日がダメならば明日が明日がダメならば明後日が、未来を掴み取ってください!」

 

「………私は………」

 

「死にたいと本当に思っているのですか?貴方の中に心残りは、まだやりたいことや成し遂げたい事はありませんか?貴方の中にあるちっぽけかもしれない。細やかかもしれない。それでも何にも変える事が出来ないものは無いですか?」

 

「……だが、私は罪を犯した……」

 

「ならばその罪を背負って生きてください……どれだけ清らかになろうとも罪は一切消えない。罪の重さが軽くなる事も絶対に無い……でも、それを背負う貴方自身が変わる事は出来ます」

 

「!!」

 

「貴方が罪を犯したと言うのならばそれを私は、私達は受け入れます。ゆっくりでいい。でも、歩く事は諦めないで…………最後をそんな悲しい顔でなく笑顔で迎えてください」

 

「あ………ぁあ…………」

 

 アリーシャの言葉に男は泣き崩れる。

 何処までも中身の無い綺麗事ばかり、だがそれで構わない。そんな言葉で救われる人間は確かに、目の前に存在している。

 

「そこで少しだけお待ちください……私達はこの場所に用事があって参りました」

 

「はい……ありがとうございます……ありがとうございます……導師様!」

 

「…………スレイ、要らないわね」

 

「最初から不要よ、あんな奴は」

 

 ありがたいお言葉などを使って心を転身させるアリーシャ。

 それを見たエドナはスレイを思い出す、導師として無責任な事を言わない……導師だったら、何かしらのありがたい言葉の1つや2つで改心させる……そもそもで相手を殴り倒す時点で色々と間違っている。話し合いの方が大事だ。

 

「と言うかアリーシャ、そいつ……」

 

「領地に連れて帰る……ダメか?」

 

「はぁ……まぁ、言い出したし任せた以上は他力本願は良くねえからな……」

 

 オレの領地で引き取ると言い出すアリーシャ。

 一応はオレの嫁で権力的な意味合いではアリーシャに逆らうに逆らえないし、再興の道が無いのも良くない事だ……

 

「おっさん……ホントにいい奴は最初から悪いことはしねえ。越えちゃいけない一線を越えない……でも、世の中はクソだ。ホントにいい奴は報われない……チャンスは1度だけやる。それを不意にしたり無碍にしたりするのならば……腹は括っとけよ」

 

 人間は堕落する生き物であり勤勉な生き物でもある。腹だけは括っておけと言っておき塔を見つめる。

 幸いにもアリーシャは風の神依状態だから空を飛ぶことが出来る。エドナとサイモンはアリーシャの中に、アイゼンはコインの中に入れば神殿の屋上に向かうことが出来る

 

「で、どっちにする?」

 

「……こっちの方よ」

 

 ベルベットはそう言うとオレの背中にしがみついた。

 ベルベットのおっぱいの感触は絶妙なまでに最高だなと感じつつも空を見上げる。

 

「ねぇ、生贄を強要したりする事についてどう思う云々を試してるならどうするつもり?」

 

「なにを言い出すかと思えば……ここは破壊する、そう決めている。生贄の伝承が伝わって身投げの場所になっているならば潰す……愚かと言われても別に構わない」

 

 ここも何かしらを試しているのだろうが、自殺の名所になっているのならば潰す。

 神様的な存在だからともてはやされて天狗になっている。力を持っているが故に力を持っていない弱者の気持ちを理解していない……心残り無く討つことが出来るな。




スキット 妙な違和感

ゴンベエ「ん〜…………ん〜…………ん〜……………う〜ん……………」

エドナ「なによ、さっきからうんうん言って。トイレなら早いところ行きなさい」

ゴンベエ「ちげえよ……どうにも視られてる感覚がするんだ」

エドナ「…………サイモンが情報でも漏らしてるんじゃないの?」

ゴンベエ「ああ、気付いてたのか」

エドナ「天族が全然現れないのにサイモンだけ現れたのも。違和感の1つぐらい覚えるわ……もしかしたらまだサイモン以外にもスパイが」

ゴンベエ「いや、ちげえんだ……なんか魂に干渉されてる感じがするんだ」

エドナ「…………どういう意味?」

ゴンベエ「オレにも説明がし辛いんだが、どうも魂に干渉してくる系のなにかをしてきている…………過去の時代でも何度か感じた事なんだ」

エドナ「気のせいじゃないの?」

ゴンベエ「その気の所為が何度も何度も続いてるって事はなんかが起きてるんだ……でもなぁ…………」

エドナ「なによ、勿体振らずに言いなさい」

ゴンベエ「オレは魂が不安定な存在だから干渉したとしても意味ねえんだよな…………けど、どうもアイゼンにも干渉してる。今のところは害意を感じてねえんだけど」

エドナ「…………なにも感じないわよ?」

ゴンベエ「いや、気の所為じゃない。確実になにかがある……なんだろうな……異世界から干渉されてるのか?」


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最後の不要な犠牲

クソみたいな話が出来たよ


 

「なんか裏口から入るの禁止的なのあるのか?」

 

「今、それを言うの!?」

 

 風の試練神殿の中は確実にダンジョンになっているので、外壁から登ろうとしている。

 その事に関して反則技、裏ワザとかいうレベルじゃない裏ワザを使っており、こう……不正防止的なのが起きねえか?

 ベルベットを背負ったまま神殿の外壁の凹凸部分を蹴ってはジャンプしてを繰り返しながらも不正防止的なのが発動しねえのかを気にする…………気にする…………

 

「おい、まだ居るのかよ」

 

「貴女も身投げをしにここに来たのですか!?」

 

「え?え?え!?」

 

 気にしてても結局のところはなにも起きなかった。

 頂上に辿り着くんだが……なんか普通の人が居た。ついさっき身投げをしている奴が居たってのにまだ身投げをしようとしている奴が居た。ここは富士山レベルの自殺の名所なのか?

 

「人が空を飛んでいる……ま、まさか……導師様!?」

 

「そんなゴミみたいな存在じゃないわ……あんた、なんで身投げをしようとしてるのよ」

 

 屋上の如何にも飛び降り台みたいなところに居る女性にベルベットは身投げをする理由を聞く。

 アリーシャも神殿の上に立ち神依を解除した後にザビーダ達を体の中から出せば身投げをしようとしている女は驚いた顔をする。

 

「私は……私は……罪を犯しました……家族を蔑ろにし食い物にしている男を殺した。その男から助ける為に殺した。救った筈なのに私達は人殺しだとなじられてしまい石を投げられた!私は、私はただ家族を助けたかっただけなのに………もう、もう地霊の供物になるしかない!!」

 

「…………はぁ……………めんどくせえ」

 

「……貴女はホントにそう思っているのですか?」

 

 また厄介なのが塔に登っているなと呆れつつアリーシャは話を聞く。

 地霊の供物になる、そうなることで救われる……殺すことで死ぬことで救われる……そういう考えはなくもない……アイツも今にして思えば親を殺し救いを求めれば良かったと激しく後悔していたな。

 

「もう、もう、私は死ぬしかない!死ぬことで私は救われる!」

 

「…………じゃあ、飛び降りてください。私達は見守ります」

 

「っ……」

 

「どうしました?貴女は地霊に魂を捧げる為にこの地に来ているのですよね?」

 

 どういう風に説得するのかと思えば飛び降りろと言い出すアリーシャ。

 女は驚いた顔をしている。どうしてそんな事を言うの?そう思っているだろう。アリーシャもそれには気付いている。だからこそ、心の底の声を聞こえたい。

 

「伝説を壊して、次の伝説になるのは1人

 

 この世は自分次第 自ら勝ち取るだけ 邪悪な闇が意識支配する 戦いは残酷で嘘がない

 

 未来を信じてるなど甘えだ 終わりの前には今しかないんだ 地獄の底から這い上がる者が真実

 

 絶望の歌よ!叫べ、魂!生きたいと響いた声、美しい。ぬるいこの世界で刻みつけてやる勝利者は1人

 

 傷口慰めあい群れて争い合う場所に恐怖の黒い影が舞い降りる 試されていることに気付けるか?

 

 救いを求めて逃げ込む友情 絆という名の儚い戯れ 己を犠牲に出来ない多くの現実!

 

 信じているなら証明してみろ 命賭けて愛する覚悟を 伝説を壊して次の伝説になるのは本物の強さ

 

 破壊からもう一度始めよう震えて眠れ 人間の旋律を聞かせてくれ

 

 喉元に凍りつく戦慄に我を忘れてひざまづくのだろう

 

 絶望の歌よ叫べ魂 生きたいと響いた声 美しい ぬるいこの世界で刻みつけてやる勝利者は

 

 信じているなら証明してみろ 命賭けて愛する覚悟を 伝説を壊して次の伝説になるのは本物の強さ」

 

「っ、穢れが!?」

 

 戦慄と旋律の歌を歌った結果、穢れが溢れ出る。

 ただ単に歌を歌っただけなのに穢れが溢れ出る事にサイモンは驚くのだが、オレがこういう事をするという事は何かしらの影響を及ぼすと分かっている。

 

「悪くない歌だな」

 

「ああ……来るぞ」

 

 歌詞の内容についてアイゼンは心地良いと感じている。絶賛、天族を蝕む穢れを放っているのだから毒気しか感じねえだろう。

 この歌を歌って穢れを放っているから起きることは大体は予想がつく。馬に乗ったデュラハンが走ってきて突風が吹き荒れ……女性が吹き飛ばされた。

 

「っ、ザビーダ様!」

 

「構わねえが、いいのか……あいつは死ぬことを望んでるぜ?」

 

「それでも……いえ、だからこそ向かいたいのです」

 

「ベルベット、エドナ、アイゼン、サイモン、あのデュラハンを任せていいか?」

 

「構わないけど、あんたはどうするつもりなの?」

 

「最後を聞いてくる」

 

 アリーシャは風属性の神依を発動し、オレはなんの迷いもなく神殿を飛び降りた。

 

「ゴンベエ、追いかけているのは構わないがゴンベエは落下しているから追いかける事が」

 

「なんの!重い物を装備していればこちらが早くに落ちる!ヘビィブーツ!」

 

 ゆで理論?知ったことじゃねえよ!ヘビィブーツを装備する事でオレの重さが追加されて落下する速度が強まる。

 女性と同じ速度になり追いかける事に成功しアリーシャも追いかけてきた。

 

「あぁ……私は……私は……」

 

「コレが、コレが貴女のホントに望んだ事でしょうか……貴女の最後の言葉を聞かせてください」

 

「っ…………きたい…………生きたい!!」

 

「ゴンベエ!」

 

「はいよ!」

 

 女は生きたいと叫んだ。

 その心の声の響きを聞かせて貰えれば異論はなにもないのだとフックショットを取り出して、女を掴んでフックショットを飛ばす。

 フックショットは神殿の外壁に引っかかりオレ達は急停止した。

 

「アリーシャ、コイツを抱えてくれ」

 

「……降ろすのでいいのだな?」

 

「ああ」

 

 左腕に脇で抱えた状態の女をアリーシャに託す。

 アリーシャはゆっくりと降下していき、女性を地面におろした。

 

「まだ、人が……」

 

「私は……私は死にたくない!でも、この罪は一生消えない!!こうすることでしか許しを」

 

 さっき飛び降りた人はまだこの場に居てくれた。

 まだ人が居たのかと驚くのだが、女は気にすることはせずに死にたくないと言うが死ぬしか道が無いと言えばアリーシャはビンタをした。

 

「道が無いのなら、新しく道を作ればいいだけの筈だ……貴女は罪から逃れたいのか?罪を許してほしいのか?それとも救われたと思いたいのか?……貴女が死んでも罪からは逃げられない。貴女が死んでも誰も貴女の罪を許さない。貴女が救われたと思うのならば、歩くことを止めないで!生きて!胸をはって!」

 

「でもっ……でもっ……」

 

「確かに私の言っている事は信頼も信用も出来ない、言っている事も無茶苦茶かもしれない……でも、心の底から笑顔になってほしい!それがマオクス=アメッカ……貴女の罪は誰にも背負うことが出来ない。でも、貴女の歩くべき新しい道を作ることが出来る……貴女の罪は許しません。罪とは貴女が向き合ってください……家族を食い物にしている男を殺すことが出来る行動力を持つ貴方なら生き抜く事が出来る……」

 

「導師、様……」

 

 だから導師じゃねえってば。最後まで生き抜くことを言うアリーシャの言葉に女は涙を流した。

 女の目に生気が宿っている。生き抜くと言う意思を感じる。コレでもう大丈夫だとアリーシャは安堵して空を見上げる。

 

「少し、待っててください……伝説を壊して新しい伝説を作ります」

 

 アリーシャは頂上に向かった。

 オレもヘビィブーツを脱ぎ捨てて普通の靴に切り替えた後に神殿の外壁を蹴って頂上に向かえばベルベット達がデュラハンを倒してた。

 

「遅かったわね、もう終わったわよ」

 

「そりゃ殴って解決すればいいことと話し合いじゃ難易度が異なるよ…………」

 

 エドナが倒したと傘を開く。殴って解決すればいいだけの事だったら物凄く気分が楽だよ。

 

「どうだったの?」

 

「生きたいと叫んだ…………こういう事を言うのは不謹慎だが、その声は心の底からの叫びで美しかった……助けることが出来て、よかった」

 

 助けることが出来たかどうかをベルベットは聞いてくる。

 アリーシャは助けることが出来たと最後の最後で聞こえた生きたいと言う叫びがなんともまた人間らしい叫び方だと感じている。

 

「……きゃ!?」

 

「ギリギリだ……ギリギリのやり方だな。導師が褒められるべき行いとは真逆の行為をするとは」

 

 ポワァっとアリーシャのヘソ辺りが光る。

 コレはもしかしてと思っていると何時もの天族の格好をしている天族が現れた。

 

「……心の底からの魂の響きは死ななければ聞こえない……絶望と希望は密接に繋がっているんだ」

 

「だから落としたと……褒められるべき行為ではないな」

 

「死にたいと思っている奴を否定するつもりはねえ。救いのヒーローなんて何処にも存在しねえ。絶望して絶望して絶望して、どん底に堕ちて首を吊った人間を何人も知っている。未来に希望が持てない子供を多く見てきた……それもコレも、団塊の世代が老害共が居るせいだ」

 

 頑張っても報われない1番の原因は頑張れば報われる状況だった時と異なる時代なのに頑張れば報われると信じてる老害のせいだ。

 そのせいで多くの命が死んだ。オレはそれに関しては憎悪を抱いている。昔の世代は今の世代をなにも知らない、だからそんな事を言えるんだ。

 

「……だが、それでも君は君達は…………………絆を感じるな」

 

「なにを言い出すかと思えば……あんたが友情を試練として提示したのならば、仲間のおかげという言葉を使う友情や絆は生温い!」

 

「なに?」

 

「オレは別に落ちた女が死のうが生きようがどうでもよかった。ベルベットは死ぬしか無いという考えに呆れていた……ここにいる面々は真っ当な存在じゃない。歪な存在だ。だが、そんな歪な存在だからこそピースが噛み合う時もある。歪な存在同士が噛み合い手を取り合い円を作り出す。その時こそ友情ごっこではない真の友情が生まれる!仲間が居るから信頼できるから等は時としてヌルい考えだ」

 

 友情は一歩間違えればただの馴れ合いになる可能性が高い。

 仲間のおかげという言葉はなんて特にそうだ。歪な誇りが流儀があるからこそ、噛み合った時に強固な円となる。オレは友情を信じているし知っているが属性が異なる者が多い。オレ自身も秩序を持った悪人だ。それでも他者を否定せずに己の意思を尊重し生きている……まさに、真・友情パワーだ。

 

「そんな絆が……」

 

「お前は元が導師だったかどうかは知らないだろうが人として生きていないのだろう。人の恐ろしさを、人が持つ地獄を見ていない……もっとも全員が全員強いわけではないが……」

 

 真・友情パワーについて語ればそんな絆があるのかと驚いている。

 ただの絆は馴れ合いだ。真の仲間だと言うのならば己の意思を尊重し他者の意思も尊重しなければならない……もっとも、それをするのは物凄くめんどくせえことだけどな。

 

「貴様達は何時までも井の中の蛙になっているつもりならば喜んで蛇となって蛙を食らう……アリーシャに秘力は授けたのだろう?」

 

「ああ……ハチャメチャだったが彼女ならば」

 

「ならばここは永久に不要だ」

 

 オレはベルベットを抱えて、塔を飛び降りた。

 アリーシャも風属性の神依になってアイゼン達を器に入れてからゆっくりと降りていき、地上に戻る。

 

「ちょっと真面目にやる……防御系の術が使えるならば、使っておけ……メテオラ」

 

 メテオラを作り出し、神殿に向けて放った。

 神殿にメテオラがぶつかるとメテオラは爆発を起こすのだが今までの適当なメテオラと違って真面目なメテオラを使った。自殺の名所になっているのに絆だなんだと曰わすくだらない場所は不要だ。メテオラは一撃で風の試練神殿を破壊した。

 

「負の遺産は負の連鎖はここで断ち切る…………新しい世代に託す時が来た。過ぎ去りし過去など不要だ」

 

「コレでもう地属性と風属性の秘力は得られなくなる……後戻りは出来ない……いや、違うか。オレ達は最初から戻るつもりなんてないか」

 

 後戻りする事が出来ない所に来ていることを呟くアイゼンだが最初から戻るつもりなんてない。

 オレ達は基本的には前を進んでいる。生き物とは前に進むように出来ている……過去をしがらみに縛ると言うのであれば迷いなく過去を断ち切るまでだ。

 

「さて……………アリーシャのパワーアップも果たしたし、帰るとするか」

 

「そうね……この人達の今後も決めないと」

 

「おい、なんだ今物凄い音が響いたぞ!!」

 

「なに?いったい、なにが起きてるの!?」

 

 やることをやり終えたとこの場所から去ろうとすると…………ロゼとデゼルが現れた。

 何故ここにこいつ等がいやがるんだとスレイ達が居るかどうかの確認を行うのだがスレイ達はこの場には居なかった。

 流石に殴られたからロゼを従士にするのをやめただろうが、デゼルは何故かついてきている。どういう事だと思っているとオレ達に気付いた。

 

「あんた達は……なんで、ここに」

 

「それはこっちの台詞だ……テメエ……テメエんところの暗殺者がオレ達を殺しに来やがった……覚悟は出来て」

 

「ウィンドランス!!」

 

「っちぃ!!テメエ、この野郎!」

 

「ちょ、ちょっとデゼル!?コイツがなにを言ってるか分かんない。私、暗殺してって依頼を受けてないし勝手な真似はしてないよ!」

 

「ふざけないで!!ゴンベエやアリーシャが邪魔だから殺しに来たんでしょう!」

 

「そうだ!前にレディレイクでアリーシャを殺しに来たキツネ野郎が来たぞ!」

 

 話を一切せず、殺しにかかるデゼル。

 殺したいのはこっちもだ。アリーシャを前に殺そうとした奴がまたやって来た。それはなにをどうしても隠すことが出来ねえ証拠だ。

 

「探したぞ……俺のダチを殺したテメエは許さない」

 

「あ?」

 

 デゼルが攻撃してきたと思ったら、その原因は……サイモンにあった。

 災禍の顕主の手下だから何かしらの事があるだろうと思っていたが、デゼルは物凄く怒っている。殺意を高めている。

 

「風の傭兵団を風の骨に変えたテメエだけは……テメエだけは絶対に許さねえ!!」

 

「……どういうこと、デゼル?……あんた、セキレイの羽が風の骨だって噂を消す為の力が必要だから風の試練神殿を探しにって、うぉぁ!?」

 

 光の玉になったデゼルはロゼの中に入ったと思えばロゼは風属性の神依になった。

 向こうはやる気満々で一切の話をしてこないと思っているとサイモンはアリーシャの中に入った。コイツ……いや、落ち着け……。

 アリーシャの中に逃げたサイモンはアリーシャの体を動かして手を翳した……その瞬間、幻に包まれた。この世界を撃ち破る事は可能だが、なにかを見せたいのだろうと一先ずは見守ることにした。

 

「……」

 

 デゼルと過去にザビーダが着ていた衣装と同じ衣装を着ている男がロゼ達を見守っていた。

 ロゼ達はローランス帝国にスカウトされた結果、ロゼは王子と結婚することが決まったのだがその王子が憑魔化した……その原因はサイモン、そう思っていたのだが違う。幻のサイモンが現れる

 

「人聞きの悪いことを言うな……何故憑魔化していたのか、それは……お前自身が原因だ」

 

「っ!」

 

「オレの死神の呪いと同種……いや、それならば気付く筈だ…………加護の力が働き過ぎた……」

 

 幻になっているサイモンに攻撃するが幻なので一切意味がねえ。

 サイモンはどうして結婚相手の王子が憑魔化していたのか、その原因は全てデゼルに当たると言えばアイゼンは考察する。

 天族の加護が強く働きすぎた……いい旅に恵まれる加護だから旅が絶対に終わることはない様になってしまった、そんなところか?

 

「何処だ!テメエだけは絶対に」

 

「どうするゴンベエ……アイツの怒りは分かるが…………」

 

「ったくよぉ…………ホントによぉ……………」

 

 サイモンがなにかをしたわけじゃない。デゼルの加護が強くなった、加護を与えすぎた。

 どいつもこいつも自分の持っている能力について理解をしてねえ………………………………

 

「コレはやりたくねえんだがな…………ホントにやりたくねえが仕方がねえ」

 

 怪しい光を人差し指に集約する。

 冥道残月破が使えた以上は魂の概念がある以上はこの技は使える……使いたくねえんだけど仕方がねえ。

 

「積尸気冥界波」

 

 ロゼに向かって積尸気冥界波をぶつけた。ロゼの体は糸が切れた様にプツリと倒れた。

 何事も無かったかのように糸が切れたかの様にロゼは倒れた。

 

「どういう思惑があったかなんてどうでもいいが一応は言っておいてやる……テメエんところの部下が災禍の顕主との繋がりがあった。もし仮にその事を知らないなら知らない罪がある……デゼル、テメエの加護も人と天族の間に生まれた負の遺産だ…………だからこそ、言おう…………最後の不要な犠牲になってくれと」

 

「ゴンベエ……まさか!?」

 

「この技は、積尸気冥界波は相手の魂を直接あの世の叩き込む技だ……」

 

「ロゼを……殺したのか……っ…………」

 

 アリーシャはロゼを殺した事について悲しい顔をする。

 やりすぎだと言いたいのだろうが、コレもある意味負の遺産が積み上がった結果に生まれたことだ……ロゼが神依でデゼルと一体化していなければデゼルだけを追い出す事が出来ていたがな。

 

「さて……問おう、厄災を振り撒く天族に未来はあるのか?生きててもいいのか?我等は疫病神……もっとも、貴様は殺すという手段を用いたがな」

 

「ふ〜……言っただろう、最後の不要な犠牲だと……」

 

「ほぉ、殺さないと?この身に利用価値があるからと活かすと……なんともまた業が深いワガママな存在だ」

 

「ああ、そうだ……オレは秩序を持った悪人だ……テメエが悩んで失敗してグレたんだろう……立ち上がる気力をどいつもこいつも持っていない。それを持っているかどうかが大事なのに……」

 

 オレは背中のマスターソードを抜いた。

 まさかホントに殺すつもりなのかと一歩引いたがオレはマジでやるつもりだ。

 

ビタロック(ポーズ)

 

「待て、ゴンベエ!サイモンは殺すな!そいつはまだ使える!」

 

「安心しろ、屈辱を味合わせるだけだ」

 

 オレはそういいサイモンを目にも止まらぬ速さで切った。

 アイゼンは殺すなと言っているのだが、殺しはしねえ……死ぬことよりも酷い屈辱を味合わせるだけだ。

 

「リスタート」

 

 オレがそう言えばサイモンの髪の毛がまつ毛が眉毛が全て落ちた。

 突然の事でサイモンは驚いている。オレのマジの殺気に恐怖心を抱いていたが殺しはしねえ。

 

「か、髪が!?」

 

「感謝しろよ。テメエには利用価値があるから生き残らせてる…………キツネ男のボスのロゼにはケジメをとってもらう……ロゼは最後の不要な犠牲だ……コイツの屍を最後に不要な犠牲は出さない…………文句があるならばそれ以上の結果を示せ……気炎万浄」

 

 浄化の炎でロゼの肉体を焼いた。 ロゼの肉体は一瞬にして灰になった。

 

「…………」

 

「言いたいことがあるなら言えばいい……だが、オレはコイツを殺すつもりだった。仮にコイツ自身がヘルダルフと繋がりが無くても、サイモンにヘルダルフとの繋がりがあったとしても、オレは利用する……オレは秩序を持った悪人だ。悪事は平然とした顔で出来る」

 

 なんともまぁ後味の悪い形で2つの秘力を得た。

 アリーシャ自身がパワーアップを果たすことが出来ていたのならばそれで問題は無い。アリーシャは不満そうな顔をしているがなにかを言ってこない。言っても無駄だと理解しているしそれよりも最善の道を示すことが出来なかった弱い自分が悪いんだ。




スキット 未来へのロード

アリーシャ「コレしか……道はなかったのか……」

??「ふん、奴と貴様は相反する存在で何れはぶつかり合わなければならない……ただそれをあの男が肩代わりしたに過ぎん」

アリーシャ「なにかを選ぶために犠牲にする物を選ぶ権利を手にしている、これじゃあ全くと言って前に進めていない。前となにも変わらない」

??「くだらんな」

アリーシャ「なっ!?……ロゼの死は必要な犠牲だとでも言うのか!私は、私は!」

??「貴様が憎いのは災禍の顕主でも風の骨でも無い!貴様が憎いのはこの世界のルールそのものだ!貴様は守るべき力を手にするのではない!破壊する為の力を求めろ」

アリーシャ「破壊……」

??「問おう!貴様にとっての闘いとはなんだ!己の敵は肉親か!己の敵は他のものか!己の敵は他の国か!我々は守る者の為に闘う!我々は思想の異なる者と闘う!ならば全てを越えろ!国境!人種!思想!言語!あらゆる物を越えて超越しろ!貴様が何を悩もうと貴様自身で歩いた道こそが未来へのロードになる!!」

アリーシャ「っ…………」

??「次回、超融合!時空(とき)を越えた出会い()!」

ゴンベエ「違う違う違う!お前、なに嘘ついてるんだ……次回、サブイベント!姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL!」

??「このサブイベントの果てに、1つの答えに至る!」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL(Part1)

レイズのガチャでアリーシャ当たったぜ!

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。
そして忘れちゃいけない。ゼスティリアはサブイベントを全て攻略しなきゃ本編進まないのを


 

 ゴンベエがロゼを殺し、あれから1週間、1週間が経過した。

 私との間に溝が生まれた……ゴンベエは殺すことに対してなんの躊躇いもない。頭では知っていることだが、ロゼを殺すことに対してなんの迷いもなかった。サイモン様が居なければならないから迷いなく殺した。

 

「…………」

 

「……意図せず暗殺者になってしまった、そんな事実を知らなかった……私達の背負う業は本当に厄介なものね」

 

 気持ちを整えようと、瞑想する。エドナ様がロゼの一件に対して言ってくる。

 天族の加護が変な風に変な方向に作用し、風の傭兵団が風の骨になってしまった。天族を信仰するものとして、平穏を望むものとして、そして真実と始まりを知る者としてそれを見過ごす事は出来ない。

 アイゼンの様に加護を呪いとして受け入れろと言うことは出来ない。ゴンベエの様に使い方を考えなければならない。デゼル様の加護がいい旅を送れる事で、その加護が旅を終わらせない様にした結果、憑魔が生まれた。

 

「…………特定の誰かに手を貸したら、ダメか……」

 

 私とゴンベエを人質にした時にライラ様は導師が国に加担してはいけないと言っていたらしい。

 もし加護がマイナスな方向に作用した場合、天族と接する人として最後を見届けなければならない。例えそれが残酷な結末であろうとも……天族は私達と共にあり共存している存在では……でも、特定の誰かに加担してはいけない。その結果が風の骨が生まれてしまった。

 

「我等が背負いし業は、人には重すぎる……苦しみから解放されればいい。そうすれば全てが終わり、そしてはじまる」

 

 どうすればいいのかを悩んでいるとサイモン様は悪魔の囁きをする。

 サイモン様がゴンベエがヘルダルフからの使者だと言ってから逃げるかと思ったが逃げなかった……ヘルダルフが何をしているのかは分からない。だが、純粋な殴り合いでゴンベエに負けた。ゴンベエが大差をつけて叩きのめした。情勢を悪化させようとしているが少しずつだがいい方向に向かっている。

 

「潔く諦めろ……あの男とてそうだ。最初から理解者や共感者になるつもりなど無い」

 

「……サイモン様、何故私を殺さないのですか……ゴンベエの心を折るならば、私を殺せばそれでいいのです……」

 

 私の心を折ろうと必死になっているサイモン様。

 貴女の特殊な天響術の1つや2つを用いれば私を殺すのは簡単だ。それなのにサイモン様は心を折ろうとしている。私が死ねばゴンベエは折れる筈なのに。

 

「……貴女もやらかした側なんでしょ」

 

「……」

 

「あの時に我等って言ってたわ。貴女は自分の加護がなんなのか分かっている、言い方を変えれば加護を与える事が出来ていた。加護を与えていた時があった……そしてデゼルみたいにやらかした」

 

「…………」

 

「なにも言わないのは返事になるわよ……別にそれは驚かないわ。天族の加護がいい方向に働かない、その結果苦しんだ。苦しんで苦しんで悩んでた。それでもある人にそれを含めて自分だって言って受け入れる様に言われたわ」

 

「厄災を撒き散らす業を受け入れろと?ふざけるな!!」

 

 サイモン様は幻のアイゼンを作る。

 それが幻なのはハッキリと分かっているのでエドナ様は幻のアイゼンの金的に向かって傘で突いて撃墜する。

 

「誰がこの様な力を求めた!何もしていないのに、ただ生きているだけで厄災を撒き散らす業を何故背負わなければならない!」

 

「……サイモン様」

 

「どれだけの綺麗事を並べようともこの事実だけは業だけは消えない!」

 

「どうしてその様な事が言えるのですか?」

 

「それは私が」

 

「そうじゃない、そうではないのです……貴女は苦しんでいる。どうしようもないと諦めている。だから苦しみから解放されたいと思っている」

 

「なにを今更な事を!」

 

「でも……もとを辿れば力を使ってしまった事に悩んでる。いい方向に使いたかったと悔やんでいる。どうして悪い方向になってしまったのかと……」

 

「っ……」

 

「貴女はその力をいい方向に使いたかったと思っている……ならば、正しい使い方を一緒に考えましょう。少なくとも貴女の使う術のおかげでエドナ様やアイゼン、ザビーダ様は民に認知されています。ゴンベエはどうにかしていい方向に使えないのか……与えるだけが加護ではない、時としては突き放す事も大事なのかもしれません」

 

 ゴンベエが言うには怒る役割を担っている神様も居れば許す事を担っている神様も居る。

 天族に加護を与えられて生きていると考えていたが、それだけでは今までとなにも変わりは無い。与えられれば人は堕落する。堕落した存在は他を道連れにする。ゴンベエが書いた物語ではそれは腐ったミカン、腐ったミカンから発するガスが他のミカンを腐らせると言う表現をしていた。

 

「…………お前は…………お前は何故折れない?敬愛する師がお前の不幸を願っていた、お前を裏切り続けていた。お前が愛しお前を愛した男は命の儚さや業を知りながらもなんの迷いもなく人の命を奪える。お前にとっては不条理、理不尽でしかない……折れたとして、誰も文句は言わん。責めはしない。お前はむしろなにも無いから折れて当然だと思う……」

 

「……なにも無いからだと思います」

 

「なに?」

 

「本音を言えば投げ出したい、逃げ出したい……私はもう疲れた。逃げたい……もう苛められるのなにも出来ないのはコリゴリ、良いことは……彼と出会えたことだ。そんな彼はノブレス・オブリージュの精神を否定している側だ」

 

「ならば……何故……何故折れない!折れる心すら持っていないと言うつもりか!貴様には信念があった筈だ!民の平穏と笑顔を、穢れなきハイランドを見たいと願っている!それを常に否定されている!」

 

 サイモン様は私が本音を語れば分からないと焦りを見せる。

 コレだけ否定されたとしても、私は折れずに立ち向かっている。なにも無いただの人間だと否定されたとしても、それでも歩く。

 サイモン様は分からないと言う……私も分からないところがあるがと右手に闇を纏わせる…………

 

「きっと明日にはいいことがある。無いからこそ作る。それが人が持つ、なにもない人だけが持てる強さです……持っていないから、立ち上がれるのだと思います……持っていなくて暗くて辛くて深い闇の中に堕ちた……でも、その中に小さな希望の光があった。冷たい筈なのに……温かみがあった……」

 

 闇の存在を否定せずに受け入れた。

 かつてマーリンドで護衛の為に傭兵を雇う事に対して、私は否定的だった。潔癖すぎるところもあった。だが、ベルベット達との旅で暗い部分を沢山知った。白が正しいわけじゃない。黒が正しいわけじゃない。色々な色が混ざり合う事が正しいわけじゃない。でも、色々な色が混ざり見たことが無い世界が見える。そんな景色が美しいと思った。

 

「なにも無いからこそ、持つことが出来る気付くことが出来る力。全てを投げ出すのとは異なる、本来そこに道が無いところに持っていない人間が持っている人間になるべく新しい道を切り開く…………1つ間違えれば醜い物ですがコレこそが私が背負う業、無いようである力……コレを折るには私を純粋な暴力で殺すしかないです。私を折るには私に明日を迎えさせない、ただそれだけです」

 

「……生き方ってそれぞれなのよ。天族に生まれたから加護を与えるって考えだけが、天族じゃない。ホントに死ぬのが怖くないなら辛いかもしれないけど現実と向き合う……貴女はホントはどう生きたいの?……ゴンベエやお兄ちゃんは貴女の知らない生き方を知ってるわ……真実と現実と向き合い立ち向かうホントの強さを見たいなら、折れて諦めた奴なんかとつるまずに見届けてみなさい」

 

 エドナ様がフォローを入れてくれた。サイモン様はそれに対して狂っているとは言わない。

 狂っているのでなく道が無いところから道を作り出す、そんな開拓する心を前に進む力をサイモン様は見ていない……ゴンベエももとを正せば最初は持っていない側の住人だったらしい。だからこそ見える世界を沢山知っている……でも、ゴンベエは強すぎる。強すぎるのがゴンベエの欠点だ。ゴンベエの覚悟を決めた強さは時として人を傷つける……そしてゴンベエはめんどくさがり屋だ。そこを正せば聖人にだってなれる……当人は災禍の勇者である事を望んでいるが。

 

「アリーシャ、ここに居たのね」

 

「今は瞑想中だ……気持ちを落ち着かせないといけない」

 

「そうしたいのは山々なんだけど、こんなのが届いたわ」

 

「コレは……陛下からの呼出状!?」

 

 これからどうするのかと気持ちを落ち着かせているとベルベットがやって来た。

 今は気持ちを整理したい、その思いがあるのだがベルベットが陛下からの呼出状を持って来た。いきなりの事で驚くのだが、直ぐに呼出状を確認する。

 

「【コレを受取し時、如何なる理由があれども我がもとへ】……」

 

「要するに早く来いってわけね…………陛下からの呼び出しなんてロクな事じゃ無いでしょうし、私はパスするわ」

 

「ああ……ゴンベエに伝えなければ」

 

 陛下からの呼び出しがあったとゴンベエに直ぐに報告をする。

 今回は向かわないでおくのだとアイゼンとベルベットは領地に残るようにし、私達は大地の汽笛に乗る。

 

「……ゴンベエ」

 

「なんだ?」

 

「風の骨は…………」

 

 大地の汽笛を操縦しているゴンベエのもとに向かう。

 風の骨は本当は救わなければならない存在、そんな存在だった。ロゼは好きでこんな事をしているんじゃないのだと怒っていた……今にして思えば傲慢過ぎる考えだった。

 

「……殺す以外の道があった。デゼルが加護を強め過ぎた結果だと真実を伝えて……やり直す時間を機会や時間を与える事が正しいと言いたいのか?」

 

「……ああ……ゴンベエは殺した事に後悔は無いのだな?」

 

「ねえよ……お前を殺そうとした奴だしお前を殺そうとした奴を送り付けただけでなく気付かない内に部下が勝手に動いてたっぽい奴だしスレイに間違った価値観を与えた奴でもある……オレは死刑には賛成、安楽死にも賛成、負の連鎖を断ち切る為の殺しは大いに賛成な人間だ。間違っているから正すんじゃなくて裁く、殺るんだ……オレは悪人だぞ」

 

「…………ゴンベエのそんなところ大嫌いだよ。ゴンベエはもっと真面目にやればいいのにね」

 

「めんどくせえからしゃあねえよ……言っとくがな、めんどくさがらずにやる方が狂ってるからな……正しさの物差しを押し付けることを考えてるその部分は嫌いだよ……良くも悪くも変わる、変わらない退化も進化もしない完璧なんて何時かは堕ちる」

 

 ゴンベエの大嫌いな部分をハッキリと言った。ゴンベエも私の大嫌いな部分を言った。

 すると私は笑みを浮かべていた。ゴンベエも笑みを浮かべていた。好きの反対は嫌いじゃない、嫌いという心はそうすればいいのにと思っている部分だ。私にも欠点がある。ゴンベエにも欠点がある。それを歪な形だがお互いに補っている。

 

「嫌よ嫌よも好きの内ってか……人間らしいね、若人よ!」

 

「ジジ臭い事を言ってるんじゃないわよ」

 

 ザビーダ様が私達の関係性について笑っている。

 ここ数日ギスギスとした空気が続いていたから、ハッキリと言うことが出来て気分がスッキリとした。ゴンベエの嫌いな部分を言えて、ゴンベエの事が改めて大好きだと自覚できたよ。

 

「と言うことで留守番頼む……サイモンの見張りも頼んだぞ」

 

「お土産はロイヤルミルクティーでいいわよ」

 

「仕事で来てんだよ」

 

 前回、盗みに入られていたのでザビーダ様とエドナ様がサイモン様の監視をしつつも大地の汽笛に残る。

 衛兵に大地の汽笛を見ておくように言いつつ、陛下の城に向かった。

 

「言っておくが、オレはアリーシャがいるからここに居る……そこを履き違えるなよ」

 

 何時もならば、城の入口の門番に止められるがゴンベエは先に釘を刺す。

 一瞬だけ動く素振りを見せていたが直ぐにゴンベエの威圧感に気付き門を通した。

 

「で、屁、以下なんのようだ?」

 

「……この度ローランスのライトと対談をする事になった」

 

「…………ライトって誰だ?」

 

「ゴンベエ………ローランスの皇帝だ」

 

 分かっていた、分かっていた事だ。

 ゴンベエがその辺に関しては全くと言って興味を持っていないことを。ライト皇帝と対談をすることになった……………

 

「ライト皇帝と対談することになったのですか!?」

 

「ああ……こちら何処かでとは思っていたのだが向こう側から対談をと……向こう側が望んでいるのは、休戦からの和平だ……コレに応じようと思う」

 

「…………戦争推進派の意見は?」

 

「プツリと止んだ……それもこれもマルトランの証拠を掴んだから……肝心のマルトランは……」

 

「さて……心が死んでるんじゃねえか……それでオレに対してどうしてほしいんだ?オレを側近にして意見を求めるならば、テメエがとっとと王権政治制度を終えて四民平等に改革しデモクラシーの制度を取り入れる様にしろと、王権政治から政治の方向を切り替えろとしか言えねえぞ」

 

 師匠(先生)の事を気にする陛下だがゴンベエは殺しはしなかった。

 心が折れている可能性が高いが今もあの島と呼べない岩の様な場所にポツリと取り残されている。ゴンベエはなにか意見を求めるならばと王権政治そのものを辞めるように言うのだが陛下は軽く躱す。

 

「主導者が居なければ意味が無い…………ナナシノ・ゴンベエ、そなたにはローランスがハイランドよりも優れていると証明をしてもらいたい」

 

「……ったく、結局バチバチじゃねえか」

 

「国の為だ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「ローランスとハイランドの間に和平を保つ。でも、ローランスとまたおっ始めない様にハイランドがローランスよりも優れている国だと証明する。文明レベルで優れている、国が豊かだと証明する……相手に喧嘩を売れば勝てないと思わせる。兵器的なのを作るのでなく文明国で戦争をしてはいけない国だと認知させて泡よくば向こう側から頭を下げる。技術を独占し確立した後に誰にも使えないからと安値で素材を買い込み、円安云々を理由にローランス側に企業として進出して働かせて……………もう説明したくねえ……」

 

「つまり…………ハイランドがローランスより優れている文明国にしろと言うことですか?…………それは今領地で」

 

「なに冷蔵庫や電話の様な物で構わない……いや、むしろそちらの方が好都合だ」

 

「屁、以下よぉ…………それはちょっと難しい話だぞ」

 

「何故だ?冷蔵庫や電話等は優れた道具だ。作るのに苦労したようだが決して稀少な素材を使っているというわけではないのだろう?」

 

「……文明の発展は文明の衰退でもある……この国を豊かにすると言うことはなにを切り捨てるつもりだ?」

 

「……そこまで考えているか……」

 

「当たり前だろう……オレは見てきたんだ。◯◯出来て凄いが◯◯出来て、◯◯を持ってて当たり前になる時代を、技術の発展と共に多くの文明が衰退した……」

 

 ゴンベエはとても嫌そうにしている。

 やりたくないと言うのがハッキリと伝わるのだが陛下はハッキリと言う。

 

「国を成長させる……国が生きなければ活力を与えなければ意味が無い、国こそが要だ」

 

「…………………っち……………………そうだな………」

 

 ゴンベエはハッキリと聞こえるレベルの舌打ちをした。

 国が発展したから衰退した部分がある……ゴンベエの話が確かならば大地の汽笛と似たような物は量産する事が出来る。特別なそれこそオリハルコンの様な素材は不要で……そうなれば馬車が馬が不要な時代が生まれる。

 ゴンベエからハッキリと聞いているわけではないが、ゴンベエは文明が豊かになったが故に衰退した何かが原因で負債を背負わされている。時折、金があれば生まれた土地がもっと良ければ、親ガチャ等色々と不謹慎だが言い返せない事を言っているのがその証拠だろう。

 嫌そうにしながらもゴンベエはなにかを考える。文明を発展させて国を豊かにしなければ救うことが出来ない命も沢山あるのを知っているから。

 

「……あんたん所はどうかは知らねえが、家には服を洗濯してくれる機械がある。それの量産も容易い事だ……だが、そうなると服を洗うことで金を稼いでいる給仕をクビにしなきゃいけねえ……それをどうする?」

 

「ならばその装置を作る業者になればいいだけだ……路頭に迷う人が溢れ出るがそれと同時に新しい仕事が多く増える。それに割り当てる事が出来るように情勢を整える」

 

「…………それが出来ねえのが現実なんだよ………」

 

 洗濯機を量産するつもりだろうか?確かにあれがあるならば、服を洗うことで金を稼いでいる給仕の仕事を奪ってしまう。

 陛下の言うように洗濯機を作る業者になればいい、洗濯機を売る業者になればいい、洗濯機を運んで設置する業者になればいい……そう思うのだが、ゴンベエはハッキリと言い切る。そんな事が出来ないのが現実だと。

 

「まぁ、いい……国を発展させて豊かにしろと言うのは曖昧だ……もっと具体的な案を寄越せ……」

 

「ならばお前にとっての当たり前を当たり前にしろ……まだ出していないだけであるのだろう?」

 

「そうしてえのは山々なんだけど、あんたが僻地を与えたせいで鉱山的なのが無くて常に微妙な財政でしてね……」

 

「ならば命を担保に利息無しで投資しよう」

 

「あ〜……もう嫌だ……」

 

 なんだかんだ言いつつもゴンベエは縛り付けられている。

 陛下の方が何枚も上手なのが分かるのだとゴンベエに命を担保にした利息無しの金融を勧められて城を後にした。

 

「クソッ……欲張りやがって。農耕の方で成果を出すことが出来るのには2,3年ぐらいかかるんだぞ……」

 

「大丈夫か?」

 

「電球の量産を出す、街1つに対して発電所を提示する。蝋燭も使わない夜も明るく安全な街を作り上げるし電気というインフラを整える……蝋燭が不要、それだけで回せる財政は増えるだろうし街が物理的に明るくて治安が少しは良くなる」

 

「大地の汽笛を簡略化した物を量産しないのか?確かに量産すれば馬の需要等は無くなるだろう、だが……」

 

「……ん〜屁、以下の前だったから言わなかったけど……無いんだよ……」

 

「なにがだ?」

 

「最後に必要と言うか1番大事な大量に確保して安定して供給することが出来ないといけねえ素材……石油がねえ!」

 

「前に私のウンコから乗り物を作れると言ってなかったか?」

 

「バイオ燃料だけじゃダメだ……とにもかくにも石油が必要なんだよ、街を整備する配管作ったりするのにも」

 

「……そもそもでその石油とはなんなのだ?石炭の液体化した物なのか?」

 

「カメラの材料にも薬の材料にも服の材料にもなる神秘的な液体」

 

「そんな物が…………」

 

「本気でモノ作り云々で日本レベルにまで文明を発展させてえなら確実に何処かの段階で石油が必要になる……大地の汽笛を簡略化した物を、特に車を作るならば石油が確実に必要になる。電気で動くEV車にしても天然ゴムじゃなくて合成ゴムのタイヤが必要になる……ハイランドが安定した供給が可能な石油を手にしねえと…………うぉっ!?」

 

「キャッ!?」

 

 ゴンベエが頭を悩ませていると突如として地震が巻き起こる。

 思わず声を上げてしまうのだが大きな揺れがほんの数秒巻き起こっただけでいきなりピタリと止まった。

 

「ったく……四聖主眠ってるが故に地殻変動起きてる……ん?」

 

「誰か溺れてるわ!」

 

「なっ!?行ってくる!」

 

 レディレイクの水路に誰かが溺れていると叫んでいる人達が居た。

 先程の地震で誰かが落ちてしまったのかと急いで水路に向かい溺れている人を助け出した。

 

「またこのパターンか……」

 

「貴方は……チヒロさん!?」

 

 助け出した人がチヒロさんだった。

 何故ここにいるのか、もしやまたティル・ナ・ノーグなる世界がこの世界に干渉したが為に他の世界に影響を及ぼしたのだろうか?

 分からない事が多いのだが一先ずはチヒロさんを水路から出した。

 

「ゴンベエ、大変だ!またティル・ナ・ノーグが!チヒロさんが……ゴンベエ?」

 

 ゴンベエにまたティル・ナ・ノーグが干渉した事を伝えに行くのだがゴンベエは空を見上げている。

 なんだと思っていると……空でなにかが通過した。ほんの一瞬だったがファァンと音が鳴り響いて消え去った。

 

「……なんだ、今のは?」

 

「……ジェット機だな……」

 

「ジェット機?」

 

「空を音速で飛んで移動することが出来る乗り物だ。基本的には石油と呼ばれる化石燃料をベースに作り上げた燃料で動いている」

 

「また石油!?」

 

 チヒロさんが飛んでいたものが何なのかを言い当てる。

 また石油……いったいどれだけ石油に価値があるのだ?……いや、それよりも……

 

「乗り物ということは誰かが操縦している、迷い人なのか?」

 

「今までから考えてそうだろうな……何処まで飛んでった?」

 

 迷い人がまたやって来たのだが、居なくなってしまった。

 何処に居るのかが分からない、何処かに墜落していた場合はどうすればいいのかと思っているとゴンベエは遠くを見ていた。

 

「あっちの方角って、領地あるよな……もしもーし」

 

『ゴンベエ、大変だ!お前が工事していた新居にドラゴンが突っ込んできた!!」

 

 領地がある方向に飛んでいったとゴンベエは通信する事が出来るお守りを取り出してベルベットに連絡を取ろうとすればアイゼンが出た。ドラゴン!?ドラゴンだと!?

 

「ドラゴン……ジェット機……」

 

「おい、何処かは知らねえがお前の家がヤバいんだろ?行かなくていいのか?」

 

「あ、そうだった……黛さん、大地の汽笛に」

 

 私達はチヒロさんを連れて大地の汽笛に戻る。

 

「地震が起きたけど大丈夫だった?」

 

「大丈夫だけど大丈夫じゃねえ。アイゼンが言うには新居にドラゴンが突っ込んできたとよ」

 

「んだと……」

 

 エドナ様が無事かどうかの確認を行った後にゴンベエがドラゴンが出た事について語ればザビーダ様はサイモン様を見る。

 サイモン様が刺客として放った…………いや、今は考えている場合じゃない。

 

「ゴンベエ、急いで戻れ!ドラゴンならマジでヤベえ!」

 

「ちょっと待ってろ、大翼の歌で帰る!!」

 

 ゴンベエはオカリナを取り出して吹いた。

 大地の汽笛に白い翼が生えて白い翼が包まれると屋敷に戻ったのでゴンベエが色々と工事していた新居に向かって走り出した。

 

「ベルベット!」

 

「来たわね……ドラゴンがあそこに」

 

「…………ん?…………」

 

 新居に向かえば倒壊している新居があったのだがそこにドラゴンが居た……のだがここで違和感に気付く。

 今まで何度もドラゴンと会っているのだがその時に重い穢れの領域を感じたのだが一切感じない。

 

「アレは…………ブルーアイズ型のジェット機だな……」

 

「え?」

 

 ドラゴンの正体に気付いたチヒロさん。

 ジェット機、ということはドラゴン型の乗り物?……迷い人がここに落ちたということか!?

 

「あんなのに乗るのは全世界で1人しか居ねえ!てんめえ、ゴラァ!!なに人様の家を破壊してくれとんや!!」

 

 額に青筋を浮かびあげて怒るゴンベエ。

 大声で叫び一歩ずつドラゴンの頭部にあたる部分に向かっていけば頭部がウィーンと開いた。中には人が入っており私達は身構えるがゴンベエは一切気にせずに中に居た人に向かった。

 

「貴様ァ!人が作った永久機関(モーメント)でのブルーアイズジェット機の試運転の邪魔をしてくれたな!!」

 

「オレに文句を言うな!悪趣味なもん作るなや!」

 

「なにを言う!この上ないふつくしい極上のこのボディが目に入らんのか!!」

 

「うるせえぞ!ブルーアイズ型のギターとか痛々しいんだよ!」

 

「骨のギターを使っているお前が言うか…………まぁいい。機体の損傷はない、ギリギリのところで魔術を使って正解だったな」

 

「……ザビーダと声が似てるわね」

 

 互いに罵り合うと一息ついた……敵ではないのだがベルベットがここでドラゴン型のジェット機に乗っていた男がザビーダに声が似ている事に気付く。

 

「……知り合い、なのか?」

 

「ふぅん…………中々に面白い事をしているな二宮」

 

「ニノミヤ言うな。ナナシノ・ゴンベエだ…………はぁ……よりによってお前がこっちに来るとはな……」

 

 ニノミヤ……いや、今は気にしている場合じゃない。ザビーダ様が聞いたら私達を男性は見つめた後にふと笑う。

 ゴンベエは物凄く困った素振りを見せた後にフーと一息ついた……。

 

「はじめましてだ。オレは海馬瀬戸、KC(海馬コーポレーション)の社長をしている」




スキット 向き合い方

アリーシャ「少しずつですが天族を認識する事が出来ている。コレもサイモン様のおかげです」

サイモン「この程度で感謝をするのか……呆れたものだ。天族の実体を知り失望する者が増えることを考慮していないのか?」

アイゼン「確かにサイモンの言うことにも一理あるな……一応は天族は祀らわれる存在だ。イメージ戦略が崩れてしまう」

ベルベット「それ、大事なことなの?海賊の衣装の時も似たような事を言ってたわよね?」

アイゼン「なにを言い出すかと思えば、そういうものだという認識を受けているのが割と大事なんだぞ」

ベルベット「そういう上からな事をしてるから今に繋がってるんでしょ……天族の信仰は人間にとって一種の枷になってるわ」

ザビーダ「まぁ、どういう風に向き合うのが正しいのか?それに関しては未だに曖昧だな……アリーシャちゃんみたいなのが正しいのか、ベルベットみたいなのが正しいのか」

ゴンベエ「そこは……人によって異なるだろうな」

エドナ「あら、意外ね。偉そうにしてるんじゃねえ!の一言ぐらい言いそうなのに」

ゴンベエ「実際問題偉い事をしているから文句を言うに言えない……けど、それをすれば調子に乗る。人に調子に乗るなと言うのに自分が調子に乗ってしまう」

サイモン「天族は決して全知全能の神ではない……そこまでの期待を抱いている人が愚かだ」

ゴンベエ「そうなるとフレンドリーに接するのが正しい……オレの国は神様は偉いけども友達、隣人みたいな関係性で絶対的な存在じゃない」

エドナ「人間は愚かでどうしようもない時に限って神頼みする……よくそれで人として成り立つわね」

ゴンベエ「神様を祀る宗教は普通にある……開祖の考えに従う事は大事かもしれねえ。でも、開祖が今の時代に生きていたら果たして同じ考えに至っていたのか?少なくとも、現代にどっぷり浸かっている古代の存在を知っている。物が豊かになり人が栄える事は多様性の時代に移り変わる、選択肢が増えるって意味合いだ。先人の教えが間違っている、そんな時だってある……アリとキリギリスは今の時代では通用しない、真面目に頑張っても報われないのが現実だ」

サイモン「ならば、我が幻の世界に入るか?」

ゴンベエ「幻ぐらい作らなくても視えてる」

アリーシャ「それは世に言うイッちゃってる人ではないのか!?」

ベルベット「ちょっと、少しは休みなさい!」

ゴンベエ「ホンっと向いてねえ事をするもんじゃねえよ」


スキット 幻術使い

エドナ「貴方にも出来ない事があるのね」

ゴンベエ「なにが?」

エドナ「アリーシャは神依で空を飛べるようになったけれども、貴方はジャンプするのが限界でしょ……なんでも出来るように見えてそこまでなのね」

ゴンベエ「別に空を飛ばなくても空中を蹴れば空を歩くことが出来るから問題ねえよ。その気になりゃ水の上も走れる」

エドナ「どうあがいても貴方がおかしいわね…………幻術は使えないの?」

ゴンベエ「出来るけど……出来るけど……なぁ……」

サイモン「別にこちらを気遣いしなくても構わぬのだが……使えるのならば何故使わない?」

ゴンベエ「相手だけが目に視えないものを見えるようにする世に言う催眠術とオレのイメージしている事を相手に見せる系の2つが使える。他人の頭を覗き込んで再現は出来なくもねえけどやりたくねえ……催眠術は心理学に詳しけりゃ解けるし、イメージ押し付ける系の幻術は疲れる……相手に常にイメージを押し付けなきゃいけねえから幻だって認識されてアイゼンやベルベットみたいに肝が座ってたらその時点で効果は0だ」

エドナ「意外と弱点が多いのね」

ゴンベエ「そもそも幻術の使い方は幾らでもある。体術と幻術を組み合わせた技もあるし、幻術によって威嚇する事も出来る……使い手次第で化ける技だ。オレの場合はイメージを押し付けることでそれをホントに巻き起こせるんじゃないのかと思わせる幻術が得意だな」

サイモン「その様な幻術が……どうするのだ?」

ゴンベエ「別に難しくもなんともねえ。ただただ思い込むだけだ。どうやって相手を倒すのかを。思い込みの力によってイメージした動きによって技の練度が増す…………だがまぁ、恐ろしく心のスタミナも体のスタミナも使う技だからあんまりオススメはしねえな。と言うかサイモンに1回浴びせたし」

サイモン「あれが……そうだったのか……」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL(Part2)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。
そして忘れちゃいけない。ゼスティリアはサブイベントを全て攻略しなきゃ本編進まないのを


 

 地獄の転生者運営Sideがなんかやらかしたっぽい事案で別の世界に転生している転生者が飛ばされてきた。

 過去の時代で一括りしたと思っていたのだが、まさかまさかの続いていた。例によって黛さんが飛ばされてきたと思ったら、まさか社長が呼び出されてくるとは思いもしなかった。

 

「なにこれ?」

 

「なにを言い出すかと思えば、名刺に決まっているだろう」

 

 ベルベットに名刺を渡せば名刺がなんなのか分かっていないので困惑している。

 KC総帥とか代表取締役社長とか書かれているが日本語で書かれているからなに書いてあるか読むことが出来ねえ。

 

「……お前、色々とやらかしたな……」

 

「あ〜……まぁ……色々とです…………」

 

 この世界の道筋を知っている黛さんはベルベットを見ている。

 本来ならばこの時間には存在してねえ存在を実在させてしまっている。色々と滅茶苦茶な事をやってしまったのだという感覚はあるが後悔は無い。

 

「貴女達、何者なの?」

 

「そうよ、人様の作ってる新居を崩壊させて……どう責任を取ってくれるのよ!」

 

「……え?」

 

 エドナが何者なのかを聞き、ベルベットは家を破壊されたことに関して怒る。

 怒るのだがアリーシャはここで違和感を感じる……まぁ、やっぱりそうなるよな……ABCが生まれてるよな。

 

『仏ビーム!』

 

「あ、仏!」

 

 ABCに関して言うべきかなと悩んでいると空中に仏が写し出される。

 仏は額の白毫からビームを放ちベルベット達に当てるとベルベット達は急に黙った。

 

「あんたは……チヒロ?……ティル・ナ・ノーグとか言う世界がまた干渉して来たから、ここに飛んできたのね」

 

「…………お前も迷い人か」

 

 急に黙った後に黛さんの事を認知するベルベット。

 数秒間なにかを考えた素振りを見せたアイゼンは社長に向かって迷い人かどうかを尋ねる。社長は仏をジッと見ている。

 

「窶れたな……」

 

 社長はボソッと呟いた。

 仏4号は窶れていた。顔色も普通に悪い状態であり、大丈夫なのかと疑問を抱く。

 

『いやぁ、ホントねホントにね。大変だったの。仏もう大変だったの……悟ってない疑惑が浮上したりとか色々とあったの……文殊の野郎が色々とやってて……ああ、でも安心してねぇゴンちゃん、まゆゆん、今回で最後だから。あの其処の色々とヤベえので最後だから』

 

「あの、チヒロさん……見えないです』

 

「コレを使え」

 

 例によって仏が見えないというアリーシャ。

 黛さんはコロッケ!に出てくる装備するだけでブサイクになれる覆面を取り出し、アリーシャに渡す。アリーシャはなんの躊躇いもなく装備した……中身が美女のブサイクとはなんとも言えねえな。

 

『皆の者、心して聞くがいい。ティル・ナ・ノーグなる異世界よりこの世界が干渉を受けてしまった。そのせいで異界の住人が紛れ込んだ』

 

「仏、その言い訳を貫くのはそろそろ厳しいぞ。前回の記者会見でお前がやらかしたって知ってんだから」

 

『るっせ馬鹿野郎!AとBとCをくっつけてDにしてやったんだから文句言うな。つーか、マジでティル・ナ・ノーグは存在してるんだってば……アレだぞ、ティル・ナ・ノーグが干渉している云々はマジなのよ。お前、時折なんか変なの感じただろう。アレはティル・ナ・ノーグからの干渉だからな』

 

「…………あ〜…………」

 

 旅をしている道中に何度か変な感覚があった。

 アレがホントにティル・ナ・ノーグとか言う世界から干渉を受けていると言うのならば、一応の納得はいく。

 

『あの〜アレだよ。横の時間軸?ていうか同機できねえ日本じゃマイナーな何処かの国のバカ神がなんかやらかしてるっぽいんだ……』

 

「ハンターはどうした、ハンターは」

 

『色々と時空がややこしくて干渉しづらくて今手探りなところなんだよ……はい、じゃあ迷い人がそこに偶然にも居合わせましたね。今回は日を跨ぐ事になるから。はい、そういうことね。仏はねコレからシエスタの時間なのよ』

 

「お前、曲がりなりにも仏だろう!なんでEU方面なんだよ!」

 

『喧しい!こっちは数日間、眠ってないんじゃボケェ!!』

 

 うわ、逆ギレしたよ。

 

『そうそう、今回の一件の詫びと言うかコレを渡しとくから……ポケットに入れてるから……じゃ、おやすみ』

 

 仏はアイマスクと耳栓をつけた後に消え去った。あの野郎、マジで昼寝をしやがったよ。

 なんでこんな事になるんだと仏が詫びの品として渡してきた物を確認する……コレは……色々とヤベえものだな……。

 

「まったく、あのクソ仏が……毎回毎回飛ばされてくる身にもなれよ……」

 

「ふぅん、色々ややこしいことになっているのは事実だろう………このブルーアイズジェットをしまうか」

 

 黛さんがゲンナリしていると社長が横でブルーアイズジェットを消した。

 いや、違うな。別空間になおしている。エレノアが槍を出したり消したりしてたあの技術に近い技術だろう。

 

「つまり、お前は漂流者か……」

 

「………………」

 

「なんかまた厄介な事が増えたわね……ま、ゴンベエがどうにかするから。とりあえず瓦礫をどうにかしなさい」

 

「……………そこに、誰かが居るのか?アイゼンか?」

 

「……見えてないのですか?」

 

 ザビーダとエドナの言葉に反応を示さない黛さん。

 まさかまさかの見えていない……冷静に考えればこの人のスペックってメンタル以外は一般人に毛が生えた程度なんだよな。

 

「待て、術は使っているぞ?」

 

「精神干渉系の術は効かん……色々と心が狂っているから霊力そのものを底上げしなければならん……まさか伝説の男とこんな所で会えるとは……」

 

 サイモンは幻術は発動していると言い切るが、社長がズバッと言う。

 黛さんは伊達に地獄のFGOでサーヴァントの性奴隷を勤めていたわけじゃない。婚約首輪をつけられていたわけじゃない……精神面だけは色々と狂ってる。

 

「ゴンベエ、まことのメガネだ」

 

「ああ……それ外せよ」

 

 久しぶりのまことのメガネだとメガネを取り出して黛さんに装備させる。

 そしてアリーシャにプリンプリンのブサイクマスクを外すようにだけは言っておく。マジで似合わないからな。

 

「…………………」

 

「お前がジェット機で突っ込んできたからぶっ壊れたぞ……どうしてくれんだよ……」

 

「恨むならば仏に言え…………それよりも貴様、こんな古臭い家を作ってどうするつもりだ?耐震補強もなにも出来ていない……」

 

「……………」

 

「はぁ……相変わらずだな」

 

「……相変わらず?」

 

「そいつは事殴り合いで解決する場合は右に出る者は数えるほどしか居ない。だが、それ以外に関しては能力が低い……修行時代となんら変わらん脳筋ゴリラだ」

 

 社長は家の内容について文句を言ってくる。

 相変わらずのオレについて呆れている。相変わらずの意味がエドナは分かっていないので社長は意味を伝える。

 

「オレにはこういう政は向いてねえんだよ、根本的に……色々と誤魔化してるけども色々とやらかしたし」

 

「大地の汽笛を見せた結果、あれよあれよと僻地の男爵になってしまったものね」

 

「僻地言うな」

 

 僻地と言っていいのはオレかアリーシャかベルベットだけだ。

 どうしたものかと思っていると社長はゆっくりと何処か出来る場所は無いのかと聞いてくるので屋敷に案内をしお茶を入れて一息つく。

 

「それで陛下から呼び出しがあったけどなんだったの?」

 

「ライト皇帝と対談をすることになった……陛下はハイランドがローランス以上の豊かな文明国だと見せつける物を用意しろと」

 

「…………今それを領地で少しずつやろうとしてるじゃない……」

 

「今すぐに成果をご所望だとよ」

 

 呼び出した理由を聞いてくるベルベット。

 アリーシャは陛下が未来設計図を今すぐに出せと言ってくる事を伝えれば、今からゆっくりじっくりとやろうとしていることなのに呆れている。

 

「ふぅん、農耕の方で食料自給率を上げようとしているのだろうが……そうすると何処かの段階で機械化(オートメーション)が必要になる。1日2日で成果を上げるならばカメラを利用した戸籍標本登録のシステム等を使えばいいだろう……何処に誰が居て何があるのか、それを事細かく詳細に記していない。記すだけで統率は取れる」

 

「それはやって当たり前な事だ……情報記録云々を正確にする事を言うのならば……文明基準を上げろと大地の汽笛の量産とか色々と言ってきている……」

 

「となると何処かの段階で石油が必要か」

 

「…………あんた、サラリと入ってくるのね」

 

「いくら遭難者と言えどもタダ飯を喰らう程に愚かではない、意見の1つや2つ貸してやっても構わんぞ?」

 

 会話の中にサラリと入ってくる社長。

 力を貸してくれと言うのはありがたいにはありがたい……だが……

 

「抱えている問題は未来への布石、文明開化……全く実にややこしい……だがそれならば構わん、その程度の案件ならば簡単に処理する事が出来る……とは言え意見を貸すだけだがな」

 

「あら、貴方にこの問題を解決する事が出来るのかしら?人間が信仰を忘れているのよ?それを復活させては終わらせるの繰り返し、どうするの?」

 

「前提が違うな」

 

「どういう意味だよ?」

 

「祈りの力を捧げなければならないというのならば、祈りの力を祈る以外で作り上げればいい……そうすれば最初から信仰等は不要だ」

 

「…………いや、言いたいことは分からなくもねえけどもそいつは無理だろう……人間の祈りの力を作り上げるって」

 

「不可能などと言うのは低レベルな文明に身を置いている原始人の考えだ」

 

「んだと?」

 

「落ち着いてくださいザビーダ様……そんな事が出来るのか?」

 

「出来ると言うかその手のシステムは既に作り上げている」

 

 あ〜……あ〜…………ホントさ…………ホントさぁ!

 海馬の奴が色々と転生者としてチート過ぎるのは前々から知ってたよ。でもそれをハッキリと言われれば見せつけられれば流石のオレも凹むぞ!

 

「祈りの力とは心の状態から発せられるエネルギーだ、エネルギーを発している状態を解析した……健全なる魂は健全なる心と健全なる身体に宿る等と古臭い考えがあるならば健全なる魂を持った人間の意識をデータ化し、祈りを捧げている状態の思考パターンの脳波を発信すれば電気により祈りの力を得ることが可能だ。既に信仰を失いかけていた土地神で実験し、中身は無いが純粋な祈りの力として捧げてある程度は力を取り戻す事に成功している」

 

「お前……お前、ホンマに勘弁してくれや……」

 

 モーメント云々言ってたし遊星粒子か?心に反応するエネルギー見つけたのか?

 

「おい、こいつ何処だ?」

 

「ぬらりひょんの孫なのでマジですよ」

 

 今までの苦労が何だったのかと思うかの様にサラリととんでもない事を言い張る海馬。

 黛さんもマジかよと何処の世界に転生してるのかと聞いてくる。前に赤司のところに飛ばされてUSJで遊んでた時に聞いた話が確かならばコイツはぬらりひょんの孫の世界に転生してるからマジだ。

 

「ちょっと待て……人の意識をデータ化だと?そんな事が可能なのか」

 

「貴様等が見えていないだけで知らないだけで、人間は脳波と呼ばれる電気信号を出している……そこから脳に対して電気信号を送り込み脳を操ることにより魂を移さず意識の電子化に……VRMMOの実現を成功した!我が海馬コーポレーション目玉商品、VRMMO!特許は申請している。おかげさまで毎日が目まぐるしい日々だ」

 

「また息を吐くようにとんでもねえ事を……軽くオカルトの領域に踏み込んでやがるし……」

 

「優れた科学技術は時として魔法となんら変わりはない……オレはオカルトを科学で解き明かしているだけに過ぎん!」

 

 そんな話を聞いたことも無いと言いたいアイゼンだが海馬にとってはその程度は簡単な事だろう。

 VRMMOを単独で作れるのは阿雅佐博士と浦原のおっさんぐらいしか居ないと思ったがこの領域にまで足を踏み入れているか。

 

「……霊的存在に対して祈りが欲しいというのならば、先ずは認知させろ……人は目に見えない物を疑う生き物だ。だがそれは決して悪ではない。イメージがあるかないかで言えばあった方が楽だ。偶像崇拝も場合によってはそういう考えを見れる」

 

「それが……今のところはサイモン様の幻術で実体のある幻覚を作り出すのが精一杯で」

 

「依存しすぎているな……霊力その物を増加させる手立てはないのか?」

 

「昔はあったけど……今はザビーダのジークフリートぐらいよ」

 

 サイモンの力に依存しすぎている事に呆れている。

 力を増幅させる物は無いのかと聞けばザビーダのジークフリートを出すベルベット。海馬はジークフリートを手に取る。

 

「なるほどな……この銃に刻まれている術式を大陸の地脈に刻みこみ1つの円にして循環させろ、星の力を動力源にしておけば星が死なない限りは霊力を増加させ高い状態での維持が出来る。霊力を増加させている期間の間に文明を開花させ宇宙コロニー的なのを作って新しく移住する星の探索も出来るようにしておけ」

 

「海馬は……性能が壊れてるから……殴り合いだけならば勝てるけど、それ以外なら先ず負ける……恥ずい……なんか恥ずい……」

 

 今までの苦労がなんだったんだと思えるぐらいにはスムーズに話が進む。

 恥ずかしい、なんかホントに恥ずかしい!今まで自分がどれだけ愚か者だったのか嫌でも思い知らされるよ!怠惰にしてたなって思うけども、万能過ぎると言うか技術開発に特化している転生者がこの世界に居たのならばこんなにも噛み合うな!仏ぇ!やっぱりオレはこの世界が向いてねえよ!ぬらりひょんの孫なら安倍晴明殴り倒せばいいだけだからそれにしてくれよぉ!!

 

「ついでに言えばこの術式ならば霊的存在が物と融合しさらなる力を使えるOS(オーバーソウル)と言う技術も編み出せる」

 

「人と1つになるんじゃなくて物と融合する神依ってことか…………」

 

「とは言え、お前達に使いこなせるかどうか……そもそもで霊力を無理矢理高める技術がいかんな。先天性の物はある程度はあるだろうが努力で補えるシステムを作らなければ……そういう時代は無かったのか?」

 

「敵だったから聖寮の対魔士の修行のデータ云々は知らねえ……極限状態になれば人は一時的だが霊力が増加するっぽい」

 

「要するに魂のランクアップか……地獄を生き抜かなければ魂は鍛えられないからな……重りをつけて筋トレをするのと同じ要領で鍛える。霊力を抑える手立ては?」

 

「……ムルジムが知ってる……」

 

 今までのがホントになんなんだろう……いや、ホントになんなんだよ……凹むわぁ……。

 ポンポンとアイデアを出してくる海馬に踊り食いかと思えるぐらいに食いつく……修行時代に1番優秀でオレの次に才能が開花した。一時期は危ない考えを持っていたが……今は……少しだけ、マシになっている。

 

「そう凹むな……」

 

「オレが無能なのは自覚していたけども、優秀過ぎるところを見せつけられれば心に来ますよ……」

 

 海馬は他にも色々と言った。

 ドラゴン化は天族の誓約ならば誓約その物を初期化すればいいとか言う破戒すべき全ての符的なのを言い出す。コイツならばマジで天界の扉を……いや、会いたくねえからいいんだけども。

 自分自身が無能なのは自覚していたし海馬が優秀過ぎるぐらい優秀なのは知っていたし理解していたが大差をつけられて別室で凹んでいると黛さんに励まされる。

 

「しかし……意外と話す奴だったな……あの見た目からして傲慢なところがあるにはあるが、それ以上のカリスマ性がある」

 

「そりゃあアイツはマジの天才だから……知識方面だけなら赤司以上で他が赤司よりちょい下のスペック……ただなぁ……」

 

「……どうした?」

 

「最後の欠片を失ってる……そこがな……」

 

 一歩間違えれば世界征服とか言い出すバイオレンスな海馬。

 抑止力と言うか最後に必要な欠片が欠けてしまっている。欠片がなにを意味しているのか分かったのか黛さんは深くは聞かない。

 

「分かっていた事だが事態は深刻、詰みの1手に近い状態だったな」

 

「ん……ああ、まぁ……ありがとう」

 

 海馬が……社長が部屋にやって来た。

 色々と改善点やどうすればいいのか等の課題を教えた。具体的には自分から何かをやるとは言わない、文字通り意見を述べているだけだが実際にやろうと思えば社長はやり遂げる事が出来る……今までの停滞がホントにゴミみたいなものだったなと思いながらもお礼を言った。

 人に発想力や想像力が足りないと言いながらもオレも思考力が足りない……モノ作り技術開発関係じゃなくて戦闘特化系の転生者の悲しい運命だよ。

 

「気にするな、オレとお前の間だ」

 

「そうか…………」

 

「しかし、来る時代を間違えてしまったな……幼き頃のマオテラスと出会いたかった」

 

 ああ、コイツも原作を知ってるんだな。

 なんか原作知らねえオレが恥ずかしい。テイルズオブゼスティリアってそんなに有名なのか?

 

「……そういえばお前の方はどうなんだ?」

 

「ふん。安倍晴明をホルアクティで消し去った……地上においてオレに不可能な事はない!森羅万象我が手中にあり!安倍晴明撃墜の報酬として無尽俵と小早鍋を要求してこの前手に入れた」

 

 社長はぬらりひょんの孫の世界に転生しているが、安倍晴明をホルアクティでシェゼッたらしい。

 なんというかホントにブレーキが壊れていると言うか………………。

 

「…………無理に元気を出すなよ……お前にはブレーキが無いんだから」

 

「……余計なお世話だ」

 

「そのお世話が無きゃテロリストにでもなってそうなバカは何処だ」

 

「世界が合わないからと怠惰にしてた無能がなにを言う」

 

 互いに罵り合いながらも認めている、コレこそが真の友情パワー。

 

「……仏は言っていた。ティル・ナ・ノーグはこの世界に干渉しているのはマジって……殴り合いで解決する事が出来る案件ならばそれに越した事はねえが……」

 

「さて、ハンターが動いている……とは言え既にこの世界線が干渉を受けてしまっている……」

 

「万が一にオレになにかあって偶然にもその場に居合わせてたら頼むわ」

 

「ああ、任せておけ」

 

 ティル・ナ・ノーグとか言う世界がなにをしているかは不明だが、存在をしているのだけは確かだ。

 社長に託すことが出来たから心残りはあんまり無い。

 

「黛さんからはアドバイスないのか?」

 

「無いな……オレがそんなありがたい言葉を言うタイプの人間に見えるか?」

 

「「見えないな」」

 

「ハモるな……どいつもこいつもオレを伝説だヤバい人だ言うが、オレはエドナが拳で殴り倒せるぐらいには弱いんだ」

 

 戦闘不向きな転生者も中には居るけども、そこまで極端なのあんただけだよ。

 

「だがまぁ、そうだな……海馬が言うようにタダ飯を食うわけにはいかないからな、今回は真面目に力を貸してやる」

 

「ふぅん、貸せるほどの力を持っているのか?」

 

「言っとくが、オレが力を貸してなきゃコイツは今頃は人間の遺伝子を持ったバグスターウイルスに転生してたからな」




スキット 世界A世界B世界C

アイゼン「…………」

ベルベット「どうしたの?」

アイゼン「チヒロの事だ……オレはアイツに会ったことが無い」

ベルベット「会ったことが無いって、ゴンベエが異世界の病気で殺されかけたこと、お酒の出る島が現れて4日も遊んでた、深雪が裏でちょっかいをかけてきたこと、吹雪にコークスクリューを叩き込んだこと、歌いたくもないのにアイドルの格好をさせられたこと……全部忘れてたってことなの?」

アイゼン「いや、違う……そもそもでそんな事をオレはしていない……オレじゃない誰かの記憶がオレに植え付けられた……」

アリーシャ「その……私達が悪いんだ……そうなってしまったのは……」

ベルベット「どういう意味?」

アリーシャ「その……歴史を変えてしまった世界と最初の世界が生まれてしまったんだ……一番最初の私とゴンベエはどうしてこんな世界に繋がるのかと始まりを気にして過去に飛んだ……何もしなければ歴史はそのままだったがゴンベエが最後の最後でワガママを言ってベルベットを……そのせいで歴史が変わってしまった世界が生まれて歴史が変わってしまった世界線の私とゴンベエは最初の私達が歴史を知るために過去に遡ったのだと推察して過去に遡った……ゴンベエが歴史を変えなかった世界、ゴンベエが歴史を変えてしまった世界、ゴンベエが歴史を変えてしまった事を知った上で変えてしまった世界……この3つの世界が存在している。チヒロさんは3つ目の世界で出会った人で私達がいる世界は2番目の世界、ゴンベエが最初に歴史を変えてしまった世界だ」

アイゼン「つまり……別世界の自分の記憶を宿した、か……記憶だけではなんとも言えんな……」

アリーシャ「ベルベット、ゴンベエを責めるならば私を責めてくれ!過去を遡る最初の原因は私にある……」

ベルベット「関係無いわよ」

アリーシャ「え?」

ベルベット「ゴンベエが最後の最後で裏切った事実だけは消えないわ、むしろ良かったぐらい……ゴンベエに会うことが出来ないゴンベエの存在その者を知らない世界も存在している。その世界の自分じゃなかっただけマシよ」

アリーシャ「そうか」

ベルベット「でも、時間を移動するのは金輪際禁止よ……目の前にいるあんたとゴンベエが同じだけど別の人間なら……私は耐えきれないから」

アリーシャ「……すまない……」

ゴンベエ「……仏はその3つの世界を統合したっぽかった……並行世界と同期したから3つの世界線が合わさって第4の世界線に生まれ変わった……時間逆行の罪として2つの世界を知ってしまうか……最初のオレはその事に気付いててベルベットを探していないか……最低だな、オレ」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL(Part3)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。
そして忘れちゃいけない。ゼスティリアはサブイベントを全て攻略しなきゃ本編進まないのを


 

「……はぁ……」

 

 目を覚ますとゴンベエのため息が聞こえた。

 昨日、現れた迷い人のチヒロさんとカイバが色々と言ってきた。今まで色々と悩んでいたのが何だったのかと思えるぐらいには嘘かの様に話がスムーズに進んでいた……ジークフリートの術式を大陸に刻んで霊力を増幅させると言う奇想天外と言うかとんでもない発想に至るどころか祈りの力を人工的に作り上げるというとんでもない事を言い出している。

 

「凹んでいるのか?」

 

「いやまぁ…………あいつ居れば大体の案件を終わりに出来そうなぐらいにチートだからある程度は受け入れれるが心が折れそう」

 

「……ゴンベエも充分に賢いが」

 

「オレは色々とイカサマをして賢い、社長は正真正銘の天才だ…………多分、アイツだったら天界の門を開くことが出来るし、ドラゴンの呪いを解除する事も可能だろう」

 

「ゴンベエも出来たじゃないか。落ち込まず……いや、違うか」

 

 私はゴンベエに抱き着いた。

 頑張れという言葉は人を傷つけてしまう。だから、気持ちを落ち着かせる。何時になく凹んでいるゴンベエになにか言葉を送るよりもこうしていた方が嬉しい。

 

「ゴンベエ……ゴンベエが何処から来たかなんて関係無いし、私が出会えたのはゴンベエで良かったと思っている。それは私だけでなくベルベットも」

 

「そうか……」

 

「多分、カイバだと何処かで狂ってしまう」

 

 カイバが悪いというわけではないのだが、カイバとゴンベエは似ているが異なる。

 ゴンベエは人として欠けている部分がある。カイバには欠けていない部分がある。それが無いゴンベエだからこそ、私はここに居る。私だけでなくベルベットもここにいる。ベルベットがここに居る1番の理由はゴンベエのワガママなんだ。

 ゴンベエの気持ちが落ち着いてきたのかゴンベエは手を離す。そのぐらいからベルベットも起きた。日が昇り始めているのでと意識をゆっくりとだが起こし朝を迎える。

 

「あの2人が入ってきたから、楽になったわね」

 

 風の試練神殿で身投げをした2人は最終的に孤児達の世話係として雇った。

 孤児達の事をあれこれしなければならなかったがあの2人に任せることにした……と言っても住んでいる家は同じなので、ご飯の用意をする時は一緒だったりする。

 

「シュッシュッシュッ!赤の野菜!」

 

「トマト!シュッシュ!白い飲み物!」

 

「牛乳!シュッシュ!白い食べ物」

 

「豆腐!シュッシュ!緑の野菜!」

 

「ほうれん草!シュッシュ!黄色い飲み物!」

 

「ビール!シュッシュ!黒い飲み物!」

 

「黒烏龍茶!シュッシュ!緑の光弾!」

 

「シュリケンジャー!シュッシュ!赤い魚!」

 

「鯛!シュッシュ!青い魚!」

 

「サバ!シュッシュ!青い魚!」

 

「サバ!シュッシュ!青い魚!」

 

「サバ!シュッシュ!青い魚!」

 

「サバ!シュッシュ!青い魚!」

 

「サバ!シュッシュ!金色の魚!」

 

「…………金色の魚なんているの?」

 

「ふぅん、アウトだ」

 

「…………なにをやっているんだ?」

 

「色とり忍者という遊びだ」

 

 朝ご飯の用意が出来たと孤児達とカイバ達を呼びに行くとカイバ達が孤児達と遊んでいた。

 コレは連想ゲームか?出されているお題を答えるだけのシンプルな遊びだが、意外に難易度が高そうだ。エドナ様が金色の魚と言われて答えることが出来ずにゲームが終わった。

 

「タダ飯を喰らうわけにはいかんと言っただろう、こうして交流を取っている……お前達がオレ達の方に来たのならばブルーアイズランドに無料招待してやったのだがな……」

 

「ブルーアイズランド?」

 

「我が社の技術を注ぎ込み作り上げたテーマパークだ、正義の味方カイバーマンショー等のイベントやブルーアイズコースター等のアトラクションがある……日本で3番目のテーマパークとして名を挙げている」

 

「そこは1番ではないのか?」

 

「夢の国とUSJが強すぎる……だがしかし、抜くのは時間の問題だ。デートの定番にもなりつつある」

 

「デートか……」

 

 冷静になって考えてみれば、ゴンベエと1番長くいるのだがデートをしていないな。

 ベルベットはサラリとデートをしていたのだが、ゴンベエとデートをしていない…………もし仮に、私達がブルーアイズランドとやらに行くことが出来たのならばゴンベエとデートをしてみたいな。

 

「ザビーダ、よくも裏切ってくれたわね」

 

「凝り固まった考えになっちまったらダメだし、こうした方が面白いだろ?」

 

 ザビーダ様が金色の魚と言って、エドナ様が詰んだ。

 青い魚で続いていた所で言ったのでザビーダ様を睨むエドナ様が。確かにゲーム性としては面白い。

 

「大体、答えはスゲえ簡単だぜ?金色の魚は金魚だ……即座に返すぐらいにはならねえと」

 

「……このゲームは反射神経と頭の処理能力が物を言う……というか海馬、お前どさくさ紛れにシュリケンジャーを出すな」

 

「伝説の男ならば答えることが出来る、そう判断したまでだ……」

 

 やはり……カイバはザビーダ様と声が被っているな。

 ザビーダ様はゲームを面白くしていると笑みを浮かべており、チヒロさんは頭の処理能力等を言いながらもカイバに文句を言う。緑の光弾がどうしてシュリケンジャーなのか気になるな。

 

「アリーシャがここに来たって事は朝ご飯が出来たのでしょう。遊びはおしまいよ」

 

「待て……遊ぶ際に説明をしただろう。罰ゲームが待っていると」

 

 私が来たことで大凡を察したエドナ様。食事をとる為に部屋を出ようとするのだがカイバが待ったをかけた。

 罰ゲーム……変顔だろうか?なにをするのかと思えばカイバはコップを取り出した。

 

「海馬汁はあるが1番のオススメは海馬特性野菜汁……今回はイワシ水だがな」

 

「海馬、中の人は一緒だし色々と同時期だったがキャラが違うぞ」

 

「なにを言い出すのかと思えばオレはゲームを主とするアミューズメント産業の社長だぞ?罰ゲームドリンクの開発の1つや2つしていてもなにもおかしくはない!!」

 

「野菜ジュース?…………………石清水が1番マシね」

 

「イワシ水だ……飲むがいい」

 

 なんで私がと言う顔をしながらも罰ゲームドリンクを手に持つエドナ様。

 石清水が罰ゲームドリンク……石清水?

 

「ぎょええええええ!?あゔぁごゔぉ、ゔぉおほぉ!?」

 

「え、エドナちゃん!?」

 

「エドナ様!?」

 

「……まぁ、そうなるよな……」

 

 エドナ様が石清水を飲むと顔が劇画の様に切り替わる暴れまわった。あまりの事で驚く私とザビーダ様。

 叫び声が聞こえたのでアイゼンが直ぐに駆け付けて床に倒れたエドナ様の頭を抱える。

 

「大丈夫か、エドナ!?」

 

「サレトーマ以上に酷い、わ……ガクシ」

 

「エドナァアアアアアアアア!!」

 

「おい、お前ホントに石清水を飲ませたんだろうな?毒を盛ってねえだろうな?」

 

「貴様、なにか勘違いしていないか?コレは岩の隙間から湧き出る石清水でなくイワシを絞る事で出来たイワシ水……罰ゲームドリンクなのだから、こういうのが定番だろう!」

 

 意識を失ったエドナ様を見て叫ぶアイゼン。

 ザビーダ様が毒を盛ったかと疑うのだがカイバはそもそもで前提が違うと、イワシ水は岩から出ている水でなく鰯で出来た飲み物だと言う。

 

「カイバ汁………なんて恐ろしいんだ……」

 

「レクリエーション大会の罰ゲームとして開発していて……他にもペナル(ティー)、青酢、かまいた血、甲羅、シンジャエール、粉悪胃悪(コーヒー)、エクスタ(ティー)、三津谷サイダー……なに、味はアレだが体に有害な物は入ってない。このイワシ水もイワシの成分たっぷりだ」

 

「まさか……XXX(ピー)料理人枠か!?」

 

「いや、あえて不味く作っているだけだ。味音痴の料理下手ではない……」

 

 イワシ水の恐ろしさを見せつければ顔を青くするアイゼン。

 素でコレを作ることが出来るというのならば昔の私よりも酷いのだが、カイバはわざと不味く作っているだけだという。

 気絶しているエドナ様をゆっくりと眠らせて朝食を頂く。後片付けは孤児やめんどうを見る2人に任せつつ一室に集まる。

 

「昨日アリーシャから説明があったが屁、以下がハイランドがローランスよりも豊かな文明国である事を証を見せつけろと言ってきた。オレが貰った領地に鉱山はねえがハイランドを上げてのプロジェクトにするから鉱山を持っている領地から鉱石を買う金は出すと言っている…………が、が……………モノ作りの何処かの段階で石油が必要になる」

 

「昨日は聞けなかったけど、その石油って結局なんなの?」

 

 昨日のおさらいをすれば早速だがベルベットから質問があった。

 石油、それがなんなのかと聞かれれば私にもよくわからない物でゴンベエもどういう風に答えればいいのか悩んでいる。

 

「温泉があるだろ?アレには地下に眠っている色々な成分が混ざっている、それの油バージョンだと思えばいい……オレの着ている服も下着ももとを正せば石油で出来ている」

 

「油が服に変わるの?…………信じ難いわね」

 

「でも、ねえと詰むんだ……」

 

 チヒロさんが石油について説明をした。液体の筈の油が服に変わると言われてもイマイチでベルベットも理解が出来ていない。

 しかしゴンベエ達は石油は絶対に必要不可欠なものである事を知っているのか、それを探さなければ話にならないという。

 

「温泉の様に様々な成分が入っている地中に眠っている油……オイルランタンや香油の材料になってた事もあるアレのことか?」

 

「なんだ知ってるのか?」

 

「……死神の呪いをどうにかしようと色々と歩き回っていた時代にみたことがある」

 

「ホントか!?だったら、そこに急いで」

 

「いや、無理だ……地殻変動でそこは既に海になっている」

 

「俺もそれだったら何度か見た覚えはあるな。地殻変動で土地が変わっちまったからもう出てこねえけど」

 

 アイゼンが石油を見たことがあると言う。アイゼンだけでなくザビーダ様も見たことがあるという。

 だが、この時代では手に入れる事が出来ない。眠っている場所そのものが海の中に沈んでしまっている。

 

「ふぅん、淡い期待など抱かせるな……ただ石油を見つけなければならないというわけではない。最低でも大油田を掘らなければならない」

 

「まぁ、そうなるだろうな…………ただの油田じゃ意味がねえ。EV方面メインにしたとしても普通の油田じゃあな」

 

「あ〜……そもそもでどれぐらい必要なんだ?」

 

 カイバとチヒロさんは普通の油田じゃダメだと言う。

 ゴンベエは石油が必要なのは理解しているがどれぐらい必要なのか分かっておらず、カイバが板を取り出した……

 

「日本の年間石油消費量は約2億3000万リットル、ハイランドがどれぐらいの広さかは知らんが日本と同じとして2億リットルを毎年安定して手に入れなければならない……1バレルが大体160リットルとして1437500バレルを引き出さなければならず、更に海外の貿易を考慮すれば3000000バレル、最低でも48000000リットルを安定して取り出せる油田が必要だ」

 

 板をタッチして計算しているカイバ。

 毎年48000000リットル取ることが出来る油田……イメージが出来ない。

 

「……そんなに取って、なにかコレが出来るって物とか具体的なのあるの?」

 

 エドナ様は数値を言ってもイマイチ分からないのでなにか具体的な物は無いのかカイバに聞いた。

 

「今、使っているだろう」

 

「それ、なんなの?」

 

「スマホだ」

 

 カイバが触っている板、スマホを見せてくる。

 コレは……なんだろう……なんといえばいいんだ?スマホだと見せつけられてもどういう反応を示せばいいのかがわからない。

 パシャッとスマホから音がする。何処かで聞いたことがある音だと思えば板の上に私達の顔が写し出されている。

 

「写し絵の箱の小型バージョン?」

 

「そんな低レベルな物なわけないだろう。電卓、アラーム、メモ、カメラ、電話、インターネット、音楽プレイヤー、ゲーム、クレジットカード、他にも色々と使用用途は存在しており日本では10代ぐらいから1人1台の割合で、海馬コーポレーションではプライベートとは別に仕事専用のスマホを支給している」

 

 写し絵の箱を小型化させた物かと思えば違っていた。

 どれだけの物なのか分かっていない私達にはピンと来ていないがチヒロさんとゴンベエは理解している。

 

「コレを作る上で代用素材を見つけたとしても必ず何処かで石油が必要になる……もっとも半導体等も必要だがな」

 

「半導体は後々だ、とにもかくにも3000000バレル以上の……大油田クラスの油田見つけて独占しなきゃならねえ」

 

「アイゼンとザビーダが見たってことは何処かにはあるから既に見つかってるところから購入するのはダメなわけ?」

 

「……それをやれば大変な事になるぞ」

 

「?」

 

「国が金を持っているのでなく会社が金を持っている事になる。国が経済を動かすのでなく会社が経済を動かす……国が主導して石油を掘っているのでなく会社が石油を掘り売っていることになれば1つ間違えれば国の財政が破綻し金のインフレ・デフレが発生して激しい貧富の差が生まれる」

 

 ベルベットが既に見つかっている土地から石油を買えないのかと提案をする。

 チヒロさんはそれをした場合のデメリットについて語る。国が経済を回すのでなく会社が経済を動かす……国よりも会社の方がお金を持っていると言う事態が巻き起こる。お金で困ったことがない私にはよくわからない世界だ。

 

「それは俺達で石油を手に入れてもだろう?」

 

「大金を産む油を買うのでなく手に入れる方がいいだろう……実際問題、石油を手に入れて必要な鉱石を手に入れて人材を手に入れた場合は最終的にどうなるんだ?お前達は理解しているが、具体的に目に見えん以上はなんとも言えんぞ」

 

 石油を誰が手に入れてもその辺は変わりはないのだとザビーダ様は言うが、金を生み出す資源を手に入れる方がなにかと便利だとアイゼンは言うのだが最終的にどうなるのか?そこが私達には分からない。

 

「……サイモン、確か人の頭の中を読み取って幻術を作り出す事が出来たよな?」

 

「可能だが……汝は心を閉ざしている」

 

「オレじゃ意味ねえ。社長は未来的すぎるし、黛さんの頭の中を読み取ってくれ……黛さん、閉心術は解いてくれ」

 

「ったく……早くしろ」

 

 具体的なイメージが分からない私達に対して、サイモン様の幻術を使う。

 サイモン様はチヒロさんの頭の中を読み取り幻術空間を作り出して私達を取り込む。

 

「…………文明国なのは分かっていた事だが、ここまでとはな」

 

「日本の町並みを再現しているだけに過ぎない」

 

 先程まで屋敷内部に居たのだが外にいる。

 ここが幻術空間なのだと頭が訴えかけているのだが、それよりも圧巻としか言いようがない。アイゼンはこんなにも凄まじいのかと言葉を失っている。アイゼンだけでない、私達もどういう風に言えばいいのかが分からない。チヒロさんが言うには町並みを再現しているだけだが

 

「オレの頭の中を読み取ってるって事はGoogleの地図みたいにスライドすれば動かせるな……」

 

「ちょ、酔うわ」

 

「諦めろ」

 

 チヒロさんが空中に浮かんでいる矢印をタッチすれば矢印の方向に向かって空間が移動した。

 エドナ様が急に歪んでしまう空間に酔うと言うのだが、チヒロさんは諦めろと突き放しつつも空間を眺めている。

 

「地面からして違うな……コレは石畳ですか?」

 

「アスファルトだ……砂利を石油で出来た接着剤で固めた物だ……その地下に色々と水道管等がある」

 

 コンコンと地面を突いてみる。

 今まで色々と塗装されている道を見てきたのだが、大きく異なる。石畳かどうかを聞けば聞いたことがない物を教えてくれる。

 

「おい、アレは?」

 

「コンビニエンスストアだ……お菓子や酒等色々な物をちょっと割高だが大体揃っていて24時間営業している」

 

「24時間だと!?閉店して売上管理なんかはしてないのか!?」

 

「売上関係はパソコンにデータ化して纏めてあるから数十分で終わる……」

 

「じゃあ、アレは大地の汽笛か?」

 

「アレは電車だ、電気つまりは雷の力を用いて走る……基本的には社会人ならば朝イチに電車に乗って会社や現場に働きに行く。最近は若者が車を持たない時代になっていてゴールド免許のペーパードライバーが3割以上居るから必要不可欠だ」

 

 幻術空間で再現された町並みに興味津々のアイゼンはチヒロさんから説明を受ける。

 24時間フルに営業をしている色々な事が出来るお店、大地の汽笛を簡略化して電気で動くようにした乗り物、他にも色々とある。ゴンベエが昔乗っていた自転車、空を見上げれば空を飛んでいる乗り物がある。車が沢山走っている。信号で走っていい時とそうではない時を作る。

 

「…………コレを作るのに石油が必要なのね……」

 

 石油が必要だと言われてもイマイチ理解できなかったエドナ様は理解した。

 ここまで文明を発展させる為には、石油が絶対なまでに必要な物だと言うのならばなにが何でも手に入れなければならない。

 

「文明開化でインフラ整備云々をする上で必要なのは2つ……1つは石油の確保だ……もう1つは……まぁ、そこの2人が頑張るだろう」

 

「……私とアリーシャが頑張る?」

 

「あ〜……社長、そういう下世話な話は良くねえよ」

 

 私とベルベットが頑張る意味を理解しているゴンベエは注意をする……どういう意味だ?

 

「事実だろう……物が豊かになる事により飢餓が減り生活水準が上昇し既婚者が増えて人口が一気に増加する……インフラ整備云々をする為にはベビーラッシュも必要な事だ!!」

 

「っちょ…………いきなりの要求にも程があるでしょう!!」

 

「その……何れはそうなるのだろうが、それは……ゴンベエが1度も……キスしかしてくれないから……」

 

「貴様……ハーレム作り上げたのに手を出さない系のクズ主人公か!」

 

「人聞きの悪いことを言わないでくれませんかねぇ!既に籍を入れてて既婚者だからな!ハーレムは黛さんで」

 

「お前、オレが好き好んでその状況を作り上げてると思ってるのか……オレの身にもなれよ……」

 

 そういう関係性であることは事実だし、何れはそういう事をしなければならない。

 いや、ゴンベエとそういう事をしたいかしたくないかで言えば……ゴンベエが望むなら丸一日ずっとシていたい。

 ベビーラッシュを話題に出せばキレるゴンベエとチヒロさん……そう、私達は既婚者……いきなりの段階を飛ばし過ぎていると思う事もあるが既婚者だ。

 

「サイモン、幻術解除」

 

「む……この空間を維持しておくことは可能だぞ?」

 

「それを今から作り上げるからいいんだよ」

 

 ゴンベエはサイモン様に幻術を解除するように言う。

 サイモン様が幻術を解除したことで現実空間に戻った。

 

「……………この幻術を対談で見せればいいんじゃないの?」

 

「ふぅん、絵に描いた餅を本当に作り上げてどうするつもりだ?コレを実際に実現をする上で石油の存在は必要不可欠、隣の国でなくこの国独自のルートで高品質の油田の確保だ……この国が豊かな文明国だと見せつけるならば尚更だ」

 

 ローランスより優れている国だと見せつけるには今の幻術を使えばいいのだとエドナ様が言うのだがカイバは石油が無いので意味が無い事を言う。ハイランド独自での石油の確保……。

 

「地殻変動で大地が出てきたり沈んだりがコロコロとあった。石油が地下の様々な成分を含んだ地上に湧き出る油だと言うなら仮に確保出来ても地殻変動で取れなくなる可能性がある……だが、アレを見せられた以上は石油が無しとは言えん」

 

「最悪の場合はハイランドの何処かにある場所から買い取るけども、ホントに安定して高品質の石油を手に入れなきゃならねえ…………アイゼン達が過去に石油を見た場所に向かうか?」

 

「地殻変動で既に埋まっている……何処にあるのか……」

 

「あんた、鉱石を探知する探知機を作ることが出来たわよね……石油を探知する機械を作ることが出来ないの?」

 

「無理……そもそもで石油が地下のどの辺に眠ってるのか知ってるのか?最低でも地下100m、深いところだと地下7kmのところもある…………掘ることは簡単なんだがな……」

 

 鉱石を見つけ出す機械を作れるならばとベルベットはゴンベエに聞くのだがゴンベエは無理だと断言をする。

 私達がやろうとしていることは天然の温泉を見つけるのと似ている……いや、それ以上に困難なことか。

 

「とりあえず領地にあるかどうか……ここでああだこうだ言ってても仕方がねえし掘るか」

 

「100m以上もあるのを掘るのって大分時間がかかるぞ?」

 

「そこは問題ねえ」

 

 議論を交わしていても意味は無いのだとゴンベエは行動に移った。




スキット 名無しの権兵衛が何者でも

エドナ「…………」

ベルベット「どうしたの?」

エドナ「チヒロとカイバは別の世界の住人なのよね」

ベルベット「ええ……あんたは出会った事がないだけで他にも色々と濃いのが来たわよ」

エドナ「それとゴンベエが知り合い……ゴンベエは……」

ベルベット「……どうでもいいわ……あいつは口にしないだけで苦しいことや辛いことは沢山あった、それを受け入れて乗り越えて今を生きようとしている。何処から来たのかなんて関係無いし、この世界に根付こうとしてる……だから聞くつもりは無いわ」

エドナ「……アリーシャも?」

アリーシャ「はい……ゴンベエに何があったかは知りませんし本人は聞いてほしいわけでも恨みを晴らすわけでもない……ゴンベエが強くなったのは幸福になるために……幸福になる為にここに居るんです……だったら私はゴンベエに幸せになってほしい……」

エドナ「そう……じゃあ、聞かないでおくわ」

スキット 伝説のサマーレジャー

アイゼン「あのブルーアイズジェットと言うのは……」

海馬「オレのプライベートジェットだ」

「プライベートジェットと戦闘機は異なるだろう…………というかお前は仕事はどうした仕事は」

海馬「オレのプライベートに文句を言うな……言っておくが乗っていいのはオレだけだ。アレは特注品で100億以上かかったぞ」

ザビーダ「マジか!?あんなのに100億も掛かってるのかよ!?」

海馬「搭載されているエンジンの力で世界一周を可能としている……」

アリーシャ「ゴンベエ、作れるか?」

ゴンベエ「作れるか作れないかで言えば作れるが……そもそもでお前、乗れる年齢なのか?」

海馬「色々と厄介だからな、国を跨いでいる……ハワイで飛んでる」

アリーシャ「ハワイ……ハワイと言うとあのハワイなのか?」

ザビーダ「知ってるのか?」

アリーシャ「ゴンベエから聞いたことがある。この世のありとあらゆる事を教えてくれるというそこに行くだけで万能になれる場所があると。そこがハワイだと」

「お前、なに軽く嘘こいてんだ」

海馬「ふぅん、その認識は間違いではない。現にオレはジェット機の操縦の仕方をロイドに教わった」

アリーシャ「船の操縦方法は?」

海馬「ハワイでロイドに教わった」

ゴンベエ「銃の使い方は?」

海馬「ハワイでロイドに教わった」

ザビーダ「馬の乗り方は?」

海馬「ハワイでロイドに教わった」

アイゼン「爆弾の解体方法は?」

海馬「ハワイでロイドに教わった」

エドナ「……ハワイがスゴいって言うよりも、そのロイドって人がすごいんじゃないの?」

海馬「起業する上でもロイドからは大事な事を教わったからな……」


スキット どっちも喧嘩は売ってはいけない

ベルベット「アミューズメントってなに?」

ゴンベエ「娯楽の事だ……アミューズメント産業って言うのは一言で言えば玩具を作ったりイベントを開催したりする業種だ」

ベルベット「要するにカイバは玩具会社の社長ってことね」

海馬「その認識は少しだけ異なるが、まぁ、大凡その通りだ……我が社はゲーム関係を主とするアミューズメント産業だが他にも色々な物に手を出している。ゲームの技術を応用して目が見えない人間に景色を見えるように、音が聞こえない人間に音が聞こえるようにしたり医療方面等でも活動している……後はオカルト案件も対応している」

ベルベット「オカルト案件って……胡散臭い、って言える立ち位置じゃないわね」

ゴンベエ「霊的存在とどう向き合うのか云々をしてるからな」

海馬「なにせこっちの世界は妖魔共が徒党を組んで極道をやっていたりするからな。人間を襲うのは当然の事でめんどうなオカルトグッズ等もあり挙句の果てには1000年前の人間が転生して理想郷を作るだなんだとほざいていた」

アリーシャ「……それはどうしたのだ?」

海馬「転生するのは魂があるからだ、魂そのものを消滅させて輪廻の中に入らないようにした……地獄に落としてもあの手のタイプは這い上がるからな」

アリーシャ「……スケールが壮大すぎるな……」

ゴンベエ「まぁ、社長だからな……ベルベット、アリーシャ、間違っても社長に喧嘩を売るなよ。殴り殺す事ならどうにかなるがそれ以外ならば絶対に勝つことが出来ない……」

「逆に殺すことならば可能なお前の方が恐ろしい……」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL(Part4)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。
そして忘れちゃいけない。ゼスティリアはサブイベントを全て攻略しなきゃ本編進まないのを


 

「どうやるの?」

 

「ダウジング」

 

「アレは……作り話よ。持っている人の意識の深い所が勝手に動かしてるものよ」

 

 屋敷を出て市街地にやって来た。エドナがどうやって石油を掘る以前にどうやって見つけるのかを聞いてくる。

 石油を探知する事が出来る石油探知機を石油無しで作れるほどにオレは万能ではない、石油を探知する方法はダウジングだ。その事を言えばエドナは呆れる。エドナだけでなくアイゼンやザビーダも呆れている。そういえば過去の時代でザビーダのペンデュラムは鉱石云々の話でダウジングが眉唾物だなんだと言っていた事もあったか。

 

「まぁ、話を最後まで聞けよ……オレは氣の探知が出来るんだ」

 

「氣って言うと人の呼吸とか視線とかなんとなくの気配、だったかしら?」

 

「その認識で間違いは無い……無機物にも氣は存在している……マナとかオドとか色々と細かなのがあるけども」

 

「お前、そんな事が出来るならどうしてマオテラスが喰魔を集める時に手伝わなかった」

 

「いや、地脈が発する大地のエネルギーは感じ取れないから……分かりやすく言えば蝙蝠が音で探知してる、蛇は舌を使って熱で探知してる。探知という意味合いでは一緒だが異なるんだ」

 

 氣と言われてアレだったかと聞いてくるエドナ。

 その認識で概ね間違いはないのだが、それならば何故マオテラスの喰魔探しの時に言わなかったとアイゼンは言うが地脈のエネルギーじゃなくて地脈の氣を感じ取るから地脈点の詳細とか細々したのは分からねえんだよ。

 

「あんた、他人の頭の中がなんとなくで読めるからやりたくないんじゃないの?」

 

「文句を言ってる暇はねえ……やりたいかやりたくないかで言えばやりたくない、けどマジで石油は大事なんだ」

 

 前に頭の中がなんとなくで分かるから使いたくない云々を言っていた事を思い出すベルベット。

 文句を言っている場合はねえ。石油が見つけられねえとなにも進まねえ。最悪の場合はハイランド国内で既に見つかっている油田から買い取るが……石油の価値を知られれば厄介だ。

 

「ダウジングは確実性は無いからな……社長、なんかいい案はねえのか?」

 

「大地に流れる液体を掘り当てる技はあっても確実確定は保証できない……流石に探知能力に特化している者でも地下に液体が流れているのが分かっても油なのか水なのかは分からん……高品質の石油を用いて追跡の術を使ったとして地下の何処に繋がるのか?地層に眠っている岩盤が邪魔をしてしまい石油を掘り出せん」

 

「……霊的存在であるお前等も無理なのか?」

 

 社長に他にいい案がないかと聞くが、ピンポイントで石油を掘り当てる技は無いと断言する。

 黛さんは天族4名に対して石油を掘り当てる事が出来ないのかと聞く。

 

「そんな事が出来るなら最初からこんなに頭を悩まさないわよ。ちょっとは考えて聞きなさい」

 

「いや、この大地そのものを器にすれば……こう、体から膿を取り出す感じで」

 

「気持ち悪い例えはやめなさい……私達でも不可能よ……地下に眠る液体を意図的に掘り当てる事が出来るなら温泉を出し放題でしょ」

 

 エドナが無理と言えば無理だろう。アイゼン達も同じ意見なのかなにも言ってこない。

 そんな事が出来るならば……四聖主を叩き起こした方がいい……いや、あいつ等を叩き起こせば天変地異が起きる。大地の形が変な風になってしまうから逆に起きていたら迷惑か。

 

「ダウジングで探すんだろ?だったらペンデュラムを使いな……昔、使ってたのをやるよ」

 

「いや、オレはL字ロッド派だから」

 

 ダウジングで探すことになり、ザビーダがお古のペンデュラムを貸してくれるが断る。

 オレはL字ロッドでダウジングをする……Y字ロッドとかもあるけどもL字ロッドが1番ダウジング感がある。

 

「……深いところだと7kmとかあるから真面目にやる……ふぅ……」

 

 呼吸を整えて意識をゆっくりと鎮めて沈める。

 氣を探知する上では自身の感情が邪魔をする時もある。氣とはなんとなくの生体エネルギーの1種であり……マナとかオドとかそういう話になると色々ややこしい

 

「っ!?」

 

「相変わらず、化け物じみた力は健在か」

 

「お前等、やめとけ……狂うぞ」

 

 氣を感じ取る様に思考回路を切り替えればアリーシャ達は背筋が凍った。

 氣を感じ取る為に自らの気配を消した……いや、正確に言えば力が流れている方向に向けている。今まで色々と鍛え上げてきたアリーシャ達はそれがハッキリと異常だと認識する。社長は相変わらず人のことを化け物扱いをし、黛さんはオレの氣と言うか纏っている雰囲気等を感じ取ろうとするアリーシャ達に注意をしておく。

 

「なんだこれは……温かいわけでも冷たいわけでもない……」

 

「液体から流れ出る純粋な氣を感じ取ろうとしている、そこに善悪は無い」

 

 サイモンは意識を集中しているオレについて色々言っている。社長がそれに関して説明をする。

 ぶっちゃけた話、気配探知能力なら上がいる……最強の術者が墨村守美狐……アレでもピンポイントで石油は見つけられないらしいからな。

 

「ロッドが動いた!」

 

 液体が流れる力を感じ取った。方向は何処だろうと微調整をしながらロッドを指でミリ単位で動かし……歩く。

 この市街地付近の大地に眠っている液体……何処から掘り当てればいいのか?ゆっくりと歩いていきベルベット達もついてきて……最終的に街の井戸に辿り着いた。

 

「この流れじゃないか」

 

 感じている無数の流れの1つは既に井戸水として掘られていた。

 

「…………ホントに大丈夫なの?」

 

「一応は地面に流れている液体を見つけてるから問題ねえだろ」

 

 エドナが心配するが黛さんが問題無いと言う。

 今感じている水脈とは異なる水脈を見つけなければならねえ……意識をゆっくりと静かに鎮めて沈める。感覚を一点に研ぎ澄ますのでなく時間を止めているかの様にする。

 

「市街地の外か……なんか出てきたら頼む」

 

「黛、戦えるだろう?」

 

「めんどくせえ」

 

 市街地の外に液体の流れを感じる。

 黛さんは敵が居たのならばベルベット達に倒すように言うのだが、社長が戦えるのに気付いている。気付いているが本人はめんどくせえと言う…………この人が持ってる力は、多分……いや、使わないならそれに越したことはねえか。

 

「この辺だな」

 

 街を出てちょっと歩いたところに液体の氣を感じる。

 街に流れていた井戸水とは異なる流れだから掘り当てたとしても問題はない筈だろう。

 

「この辺って……液体らしい物すらないわ。ここから自力で100m以上掘り進むなんて肉体労働、絶対に嫌よ」

 

「言っただろう、掘ることは簡単だって」

 

 右を見ても左を見ても液体らしい物が見当たらない。

 地下に眠っているのだから当然なのだがエドナはここから肉体労働で自力で掘り当てる事は絶対にしたくないと言うが最初に言ったように掘ること自体は簡単なんだ。

 

「コレを使え」

 

「……腕輪?」

 

「数珠だ……仏の力を感じたり加護を与えたりする宗教の道具、十字架みたいな物……っておい、お前まさかボーリングをアレで解決するつもりか?」

 

 社長が数珠を渡してきた。

 数珠を見るのははじめてなので首を傾げるエドナに黛さんは説明を入れるのと同時にどうやって掘り当てるのかを気付く。

 

「流石に100m以上を掘り進むのは時間かかり過ぎるから……ボーリングよりもこっちの方が凄く便利なんですよ」

 

「……お前、出来るのか?」

 

「得意か不得意かで言われれば不得意な技ですよ……」

 

 この手の術は愚っさんが得意だ。

 全部の属性の術を使いこなせて不得意な術が無いのが社長、高度難易度の術が得意なのが愚っさん、ヤバい禁術や攻撃系の術を得意なのがオレ、精神とか魂に干渉する系の術が得意なのが深雪、ブッキーは可も不可もなく使えない術はあったりする平均的な術者だ。

 

「……術で石油を掘り当てるつもりか……幾らこの下に流れているとは言えオレ達天族でも出来ないぞ」

 

「それが出来る人間が過去に実在していた……温泉を掘り当てた伝承を幾つも残している僧侶がいる。それに似たような事をするつもりだ」

 

 ヤバい術とかは割と得意だから問題はねえ。

 黛さんがアイゼンに説明をした……そう、オレ達転生者は曲がりなりにも仏に色々と教わってるからな……

 

「歸命毘盧遮那佛 無染無着眞理趣 生生値遇無相敎 世世持誦不忘念 弘法大師 增法樂 大樂金剛  不空眞實 三摩耶經 般若波羅蜜多理趣品 大興善寺三藏沙門大廣智不空奉詔譯 如是我聞 一時薄伽梵 成就殊勝 一切如來 金剛加持 三摩耶智 已得一切 如來灌頂 寶冠爲 三界主 已證一切 如來一切 智智 瑜伽自在 能作一切 如來一切 印平等種種 事業 於無盡 無餘一切 衆生界一切 意願作業 皆悉圓滿 常恆三世一切 時身語意業 金剛大毘盧遮那如來 在於欲界他化 自在天王宮中 一切如來 常所遊處 吉祥稱歎 大摩尼殿 種種閒錯 鈴鐸繒幡 微風搖撃 珠鬘瓔珞 半滿月等 而爲莊嚴」

 

「……長くない?」

 

「最低でも10分ぐらいは掛かる……それより気をつけておけよ」

 

「なにが?」

 

「この手のお経を唱えれば……出る」

 

 黛さんはオレがなにを唱えているのかを理解しているのでベルベットにアドバイスを入れる。

 このお経は……唱えれば怨念とか霊的存在が出てくるタイプのお経だ……と言うかこの手の力って色々寄せ付ける物なんだよな。

 黛さんが危惧していると予想通りと言うべきか、怨念とか欲望らしき物が集まってきて形を作り出して憑魔になる。ベルベット達は武器を構えた。

 

「ふぅん……幾つかお経を唱えるつもりだ20分ぐらい耐久しておけ、お経を読み終えるまで時間がかかる」

 

「もっと楽なのないわけ……やるわよ、アリーシャ」

 

「はい!」

 

 お経を読み終えるまでかなりの時間がかかる社長は戦うように言う。

 エドナは楽な方法はないのかと不満を流すもののやる気は満ちているのかアリーシャの中に入った。

 

「「『ハクディム=ユーバ!』」」

 

 アリーシャは地属性の神依を発動した。

 怨念とか欲望が集まって生まれた憑魔に対して岩の拳で殴る。

 

「お前、波ァ!とか出来ないのか?」

 

「可能だが、ここはオレの管轄外の世界だ……コイツラにある程度はやってもらわなければならない」

 

 社長はこの手の怨念とかを一撃で滅する事が出来るがあくまでも自分の世界ではないので深くは力を貸さない様にしている。

 黛さんと自分に邪気が通じない膜みたいなのを纏わせておりベルベット達がオレのお経の邪魔にならない為に持久戦をしてくれる。

 

「南無大師遍照尊 南無大師遍照尊 南無大師遍照尊……準備完了だ!」

 

「コレも使え!」

 

 唱えなければならないお経をキッチリ3回回った。

 20分以上は使っているがお経は長いのが定番だ……コレ1回で済むと考えれば色々とお得だろう。後は地面を突くだけだと思っていると社長は千年ロッドを投げてきた……いや、エジプト関係の物に仏教の技って……神と仏は異なる存在なんだが……まぁ、いいか!

 

「南無三!」

 

 千年ロッドで地面を突いた。この手の術を使うのは久々だが腕は鈍っていない筈だ。

 ゴゴゴと地響きが起きるのかと思ったが……プシャーと熱気を纏った湯が放出された……

 

「デラックスボンバー!」

 

 とりあえずは今の段階で居る悪霊を滅する。お経を読まなくなったし無理矢理に滅するから増えることは無い。

 オレがデラックスボンバーを撃つという事は終わったんだとベルベット達はホッとするのだが直ぐに視線は熱湯に向かった。

 

「……お湯ね…………」

 

「……体感的に42℃で、味からして炭酸水の美肌の湯だな……」

 

「それって肌に良いお湯ってこと?」

 

 アリーシャとの神依を解除したエドナは湯を見つめる。

 掘り当てるには掘り当てたけどもなんだこれ?状態になっており黛さんがお湯に手を入れて舐めて確かめれば炭酸水素の美肌の湯だと言う。

 

「石油とやらでなく温泉を掘り当てるとは……先程までの時間が無駄になったではないか」

 

 サイモンが掘り当てた温泉に関して文句を言う。

 

「だから石油をピンポイントで掘れねえんだって。地下に流れている液体を掘り起こしてる……温泉を掘り当てた人の真似をしたんだから温泉を掘り当ててもなんらおかしくはねえ……源泉かけ流し出来るなら1回5ガルドの銭湯でも作るか」

 

「炭酸温泉だ……ここから炭酸水やベーキングパウダーを量産出来るぞ」

 

 おぉ、流石は社長だ。中々に良いアドバイスをくれた。

 サイモンは先程までの苦労というか時間稼ぎはなんだったのかとガッカリしている。ピンポイントで石油を掘り当てるなんて事は不可能なんだから仕方がねえだろう。

 

「温泉を掘り当てる事が出来てよかったんじゃないか?風呂に使う清潔な水も水をお湯に変える為に燃やす薪もこの温泉があるならば不要になる」

 

「確かに、この温泉を市民に無料で提供すれば衛生面で……毎日お風呂に入ることが出来るようになって私達の領地の発展する」

 

 黛さんがフォローを入れればアリーシャは温泉を掘り当てる事に成功したんだと喜ぶ。

 1番の目当てである石油を掘り当てる事が出来ていない、水という資源を求めてコレだったら喜ぶべき事だが今回は石油を求めて大地から引きずり出した。

 

「この温泉は俺達で管理するとして、目当ての物が見つかってねえ……次行くか」

 

「他に水脈は感じないのか?」

 

「あるにはあるけども、掘り過ぎたら地中の中で混ざるし地盤沈下とかややこしいことが起きる……幸いにもうちの領地は僻地で村が8つだ、この温泉の水脈を領地から感じ取れるから村の近くで掘れるだろう」

 

 ザビーダとサイモンが次を言うのだが、あんまり掘りすぎると厄介な事になる。

 ここに温泉を掘り当てる事が出来た、それだけで充分な成果が出ているのだが……目当ての物は石油だ。

 

「社長、地脈経由で見つけられないか?」

 

「無理だと言っているだろう、大地そのものを器にしている者でも…………ん?」

 

「どうした?」

 

「この大地から力を得ている存在が6つある」

 

 社長に地脈を感じ取ってもらえば、社長は違和感を感じ取った。それを聞いたオレ達も違和感と言うかおかしな点に気付く。

 

「6つ?5つじゃないの?」

 

「いや、6つだ。6つこの世界と繋がっている存在が居る」

 

「フィーに四聖主……ラフィは人間になって死んだからカノヌシはもう居ない筈よ……」

 

「地脈に干渉する事が出来るのならば誰かが地脈を使っているのだろう……今は関係無い話だ」

 

「……………」

 

 地脈に繋がっている6つ目がなんなのか?

 今は全く関係が無い話、サイモンはなにか心当たりがあるのか素知らぬ顔をしている……この大陸で地脈云々をどうにかできそうなの……ヘルダルフか?アイツだったらマオテラスを手中に納めているから地脈に干渉する事が出来るが……まさか四聖主を殺す……いや、それならば最初からしているし四聖主が祀られている神殿そのものは残っている筈だからそこを経由すれば殺れる筈だ。

 

「この温泉をこのまま放置するわけにもいかねえから、一旦街に戻って温泉整備云々の業者を呼ぶぞ」

 

「そうだな…………あ!」

 

「アレは……狼」

 

 業者を呼ぶことを決めて戻ろうとするのだがアリーシャが狼に気付く。

 

「1000年ぶり……いや、ゴンベエ達と同じ時間が流れているのか」

 

「お兄ちゃん、知ってるの?」

 

「必殺技を授けてくれる狼だ……ゴンベエ」

 

 必殺技を授けてくれる狼がやって来た。

 狼になれとアイゼンが言うので狼の姿になって遠吠えをすればなにもない真っ白な空間にいた。ここは何処だとエドナとサイモンがキョロキョロしているのだがオレ達にとっては何時もの事だ。

 

「ったく、必殺技を授けてくれるのはありがてえが1000年も待たせるか?俺の気が長い方でよかったと思ってくれよ」

 

 前回予告してから1000年以上が経過していることに文句を言うザビーダ。

 骸骨騎士が現れたのでとりあえず見守る。

 

「汝、力を求めるか?」

 

「求めるぜ……少なくともあんたから貰える技は信頼が出来る……」

 

「汝に技を授けよう」

 

 そう言うと突風が吹き荒れる。

 突風が1つの球になる。風遁螺旋手裏剣でも教えるのかと思えば、1つの球になった空気の塊は光を屈折したりしており……いや、おい、その技は……まさか!?

 

「ふん!!」

 

「光が屈折するぐらいの爆裂した疾風をぶつける…………」

 

「おい、本人目の前にしてその技か?と言うかアレは風属性の技なのか?」

 

 黛さんも骸骨騎士がなにを教えているのか気付いた。

 本人がすぐ近くに居るのにその技を教えると言うか風属性の技である事について疑問を抱く。

 

「漢字表記は爆裂疾風弾ですから…………危ないライン通ってるのか?」

 

 色々な意味で危ないラインを通っている……ザビーダは風属性だし、技名称も風だし……間違いじゃねえのか?

 ザビーダは試行錯誤を繰り返した結果、技を会得することが出来た。

 

「この技の名は爆裂疾風弾」

 

「その様な低俗な名前ではない!その技には相応しき名前が存在している!!」

 

 骸骨騎士が技の名称を教えるのだが社長が違うのだと否定する。

 

「この技を知ってるのか?」

 

「ふぅん、本来ならばお前ごときに使える技ではないが教えてやろう。その技の名前は滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)だ!」

 

「……滅びの爆裂疾風弾!!」

 

「違う!!滅びの爆裂疾風弾(バァアストストリィイイイム)!!」

 

 ノリノリだなぁ……社長はザビーダに滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)のイントネーションを教える。

 何度も何度もリテイクを繰り返している。

 

「ザビーダと社長があんな感じだけども一応は会得してるからアリーシャに」

 

「風と1つになれ」

 

 イントネーション云々を言っているが技自体は習得することが出来ている。

 次はアリーシャに術技を教えてくれと言うのだが風と1つになれと言っている。

 

「風と1つ……神依のことか」

 

「滅びの爆裂疾風弾(バァアストストリィイイイム)!!」

 

「ふぅん……まぁ、それぐらいだろう。その後ろに強靭!無敵!最強!と粉砕!玉砕!大喝采!をつけておけ」

 

「そこまでの技か?」

 

「そこまでの技だ」

 

 風と1つになるのがどういう意味合いなのか分かったのでザビーダを見るアリーシャ。

 滅びの爆裂疾風弾のイントネーションをなんとか覚えさせる事が出来たっぽい。

 

「ザビーダ様、神依を用いた技を授けてくれるそうです」

 

 ザビーダに神依の技を教えてくれることを伝えればザビーダはアリーシャの中に入る。

 

「「『フィルクー=ザデヤ(約束のザビーダ)!!』」」

 

 風属性の神依になった……今度はなにを教えるのかと思えば………おい………おい

 

「旋風のヘルダイブスラッシャーって……」

 

「アレはお前が生み出したものだろう」

 

 アリーシャは旋風のヘルダイブスラッシャーを覚えた。ザビーダは滅びの爆裂疾風弾を覚えた。

 

「次は汝だ」

 

「あら、私に技を授けるだなんて……そりゃもうゴージャスな技に決まってるわよね?」

 

「時が来れば授ける……我が使命は何れは果たされる」

 

 ザビーダの次はエドナだと言う骸骨騎士。

 エドナは自分に教える術ならばと言うのだが今すぐに教えてもらえるわけではない。眩い光が包んだかと思えば元の場所に戻った。

 時間は大して経過してねえっぽいし敵が居るわけでもない。今は温泉を整備する業者でも呼ぶべきだと市街地に向かうのだが

 

「あら、探したわよ」

 

「お久しぶりでフ〜」

 

「グリモワールさんにビエンフー……どうしてここに!?」

 

 グリモワールとビエンフーが現れた。




ザビーダの術技

滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)

説明

光が屈折するほどの強力な爆裂する疾風の弾をぶつける技

アリーシャの術技

旋風のヘルダイブスラッシャー

説明

風属性神依時のみ使用可能な技。
空を飛ぶことが出来る風属性の神依で高速で突撃し翼の部分で相手を切り裂く


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL(Part5)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。
そして忘れちゃいけない。ゼスティリアはサブイベントを全て攻略しなきゃ本編進まないのを


 

「あんた達…………生きてたのね」

 

「バッド!久しぶりに会ってそれでフか!?」

 

「いや……あんた達にとっては物凄く久しぶりだけど私の体感じゃ半年にも満たないのよ」

 

 グリモワールとビエンフーが現れた。

 私の口から最初に出たのは生きてたの?と言う疑問。2人にとっては1000年の時を越えてだけど、私にとってはそんなによ。

 

「グリモワール、ビエンフー……再会を喜びたいところだが何故ここに?」

 

「導師の試練神殿を破壊しているバカが居るって噂を聞いてね……あそこを破壊する事が出来る人間なんてホントに居るのかと神殿の跡地を見に行ってたら昨日、妙な記憶が流れ込んできたのよ……貴方が原因でしょ、ゴンベエ」

 

「ABCが統一した」

 

 私達がチヒロと出会った記憶が無かったようにグリモワールにも無かったみたいね。

 ゴンベエの事を見つめるグリモワール。ゴンベエは妙な記憶の正体について知っているのか変な風に答える。

 

「あんた達と過ごした時間は短かったけども私の中では濃密な時間よ……だからハッキリと記憶しているのだけれど、存在していない、いえ、ここに居る私が経験していない記憶が流れ込んだわ」

 

「…………どういう意味だ?」

 

「ふぅん、時のオカリナで時間を越えた事で並行世界が生まれた……タイムスリップ物は4パターンあるのを知らんのか?」

 

「そういうタイプの本は全然読まねえから分からねえ」

 

 グリモワールが言っている事をよくわかっていないザビーダ。私達もあんまり理解してないけども私達が出会ったゴンベエと目の前に居るゴンベエは同じだけど異なる存在、それぐらいしか分かってないわ

 

「時間を越えて過去の歴史を改変した。その場合、世界にどの様な影響を及ぼすのか……タイムパラドックスと呼ばれる現象がある」

 

「1つは未来に大きく影響を及ぼす。1つは自分自身が居た未来とは異なる未来が生まれる。1つは既に自分達が居る世界線は過去を色々と改変した世界線、世界の意思とも言うべきものが過程は異なるけれども結果が同じようにする、そして最後は世界そのものがリセットされる」

 

「リセットされるってどういうこと?」

 

「過去に行く理由があった……例えばそうね、昨日誰かに知り合いが殺されたと今日の自分が知り、その過去を変える。そうすることで今日の自分がその人を助けに行く理由が無くなった。だから、過去の時代に居る自分は存在しない存在になってしまう。だから今日の自分が居た世界が消滅もしくは統合される」

 

「時のオカリナによる時間移動は歴史のターニングポイントに深く関与した場合のみ並行世界を生み出す……が、未来を変える事は出来る。時の勇者は7年の時を行き来し魔王を倒す為に6人の賢者を目覚めさせ退魔の剣で魔王を討ち取った。そして本来の時間軸に戻るが、本来の時間軸で魔王が魔王として行動する前に退治した事により別の世界線が生まれた。時の勇者が魔王が魔王だった時に倒した世界と時の勇者が魔王が魔王になる前に倒した世界、そして時の勇者が敗れた3つの並行世界が存在している」

 

「…………つまり俺が過去に出会ったゴンベエは目の前に居るゴンベエじゃなくて並行世界のゴンベエって事か?」

 

「平たく言えばそうなるが世界によっては歴史改変の影響で世界をリセットする……とある世界では過去を改変し失った魔術の力を蘇らせ未来に繋げた。とある世界では神を名乗るバカが神秘的な力を行使して人々を幸福になる様に導く一種の理想郷に見えるディストピアを作り上げたがその過程で人類史のターニングポイントであるとある歴史を改変した。歴史改変を改変された時間軸の人間が阻止した結果、歴史が改変されない本来の世界線に世界が修復される時もある…………仏がお前達に世界の修復する力で目の前に居るそいつが行った世界線の記憶を受け継いだ……世界そのものも、歴史改変後の世界線に変わっているだろう」

 

「……ごめん、わけわかんない」

 

 カイバはなにを言っているのかよくわかっていないエドナ。

 要するに別世界の私の記憶と融合したって事でしょ……目の前にいるゴンベエがゴンベエなのは変わりはないわ。

 

「私が色々と説明しようと思ったのに…………あんた、詳しいわね」

 

「ふぅん、この手のオカルト関係は油断していると痛い目に遭うからな……色々と対策はしている」

 

「えっと、グリモさんとビエンフーはどうしてここに?」

 

「遺跡の跡地を見てたら妙な記憶が流れ込んだって言ったでしょ?ビエンフーが心当たりがあるからシメたら貴女とゴンベエが時を越えて未来からやって来た事を吐いたのよ」

 

「おい、ビエンフー。ゴンベエ達の事に関してはマギルゥ、ロクロウ、オレ、マオテラス、エレノア、そしてお前だけの秘密事項だろう」

 

「ご、ごめんなさいでフ」

 

「もう隠しきれねえからいいよ……オレとアリーシャは時のオカリナを使ってマオテラスが生まれた時代に行った。そこで迎える筈だったベルベットの眠りに異議を唱え……本来ならば存在しないベルベットがここに居る」

 

 アイゼンがビエンフーが喋った事に関して言うけど、ゴンベエは隠す必要性は無いのだと素直に言う

 

「…………時間を越えていたのか?私や湖の乙女ですら誓約を使うことでやっと特殊な力を用いる事が出来ると言うのに、その様な事が可能なのか?」

 

「オレの力はその気になれば理に干渉する事が出来るから、時間を移動する事ならば出来る」

 

 唯一話の輪に入っていくことが出来ないサイモンは疑問を抱く。

 そんな術は存在しないと言いたいんだろうけども、ゴンベエなら出来てもおかしくないわ……出来なきゃ私がここに居るのがおかしいことだし。

 

「オレ達の事に気付いて……なにをしに?」

 

「コレを渡しに来たのよ」

 

「コレは…………天遺見聞録?」

 

「なんだあんたが持ってたのか」

 

 アリーシャがグリモワールから本を受け取った。

 パラッとページを捲ったアリーシャはこの本がなんなのか分かりザビーダもなんなのか気付く。

 

「天遺見聞録って言うと天族云々が書かれてた本か……それならアリーシャは持ってるだろ?」

 

「いや、違う……コレはベルベット達の事が書かれている!前にザビーダ様が言っていた裏の天遺見聞録だ!」

 

「ええ……世界に広まっている天遺見聞録じゃない刻衣の語り部が書いた本」

 

「マギルゥ姐さんが書き記した本でフ!ぼく達の冒険やアルトリウスの事なども書かれてます」

 

「………………コレを貰ったとしてもオレ達は当事者だから本以上に色々と知ってるんだが…………」

 

「この領地に導師が居るって噂を聞いたのよ…………デマなの?」

 

「ここで天族を認知する事は出来るが、導師は居ねえ…………導師になるって決めた奴が殺すことで負の連鎖を断ち切り救うことが出来るって考えを受け入れて殺し屋を従士にしていた……殺すことで救われるって考えは否定はしない。でも、今はそういう時代じゃない筈だ。浄化の力とかあるし、対話をすることで改心させる事も出来る…………従士になってた殺し屋は殺したがな」

 

「あら……殺すのね」

 

「あんたはオレがあんまり動いていないように見えていたけども、あくまでも過去の時代だからと一線を敷いていたからだ。ここはオレが生きる時代で生きる世界でもある。アリーシャと言うブレーキが大きいが殺す時は殺す…………オレは対話をする事で改心させる聖人君子じゃねえんだ」

 

 導師の従士を殺した……アリーシャはその能力を活かして情報捜査の部隊にならないかと言っていたけれども、それが出来なかった。

 殺す必要はあったか……少なくとも風の骨が私達に襲撃を仕掛けてきた事実は変わりはない。風の骨の正体を噂で流しているけれども、捕まったって噂が無い……カメラみたいに顔を記録する道具が無いから誰が風の骨の人間なのか分からないし、ああいう存在は重宝されるから匿われてる可能性が高いわね。

 

「今は殺さない時代よ……人間、痛い目に遭わなきゃ改心しない、痛い目に遭ったからこそ心が変わってしまう……良くも悪くもね」

 

 殺さない時代に切り替わったのに殺したゴンベエに物申すグリモワール。

 ゴンベエは殺すことが得意、誰かを暴力で傷つける事が得意……だから色々と覚悟は出来ている。責めたいならば責めればいいのだと割り切ってる。

 

「アメッカ、コレを」

 

「まだあるのですか?」

 

「エレノアが渡せって言ってたのよ」

 

 裏の天遺見聞録とは異なる本を渡すグリモワール。

 アリーシャは本を受け取って内容を確認する。

 

「コレは……術が書かれている…………攻撃系の術でなく補助系の術やメルキオルがかつてザビーダ様のジークフリートの術式を読み取る術、霊力を抑える術、霊力を鍛え上げる訓練方法も……」

 

「お二人があまりよろしくない未来からやって来たみたいなのでエレノア様や姐さんが術等を記録していたんでフ……ただ、ジークフリートの様な物の作り方までは」

 

「いや、コレは今の私にはありがたいものだ…………ビエンフー少し試してみたい術があるのだが構わないか?」

 

「ビエ?なんでフか?」

 

 本を片手に試してみたい術をビエンフーに使う。術式みたいなのが展開されるけどもなにも起きない。

 

「よかった……使役はされていないのだな」

 

「バッド!?もしかして疑ってたんでフか!?」

 

「まぁ……あんた前科があるから一応はね」

 

 今の災禍の顕主に使役されたりしていないか等を確認する術を使ってなにもなかった。

 過去にメルキオルに使役されていた前例があるから万が一を想定してアリーシャは確認した……前科があるから一応はしておかないと。

 

「そこに居るサイモンもどっちかと言えば今の災禍の顕主側の天族だし……こう、都合良く天族が現れれば少しは疑う」

 

「……1回やってしまった事実だけは消えないものね…………で、貴方達は今はなにをしているの?」

 

 サイモンの存在をすんなりと受け入れるグリモワールは今なにをしているのかを聞いてくる。

 ここで私達は掘り当てた温泉の事を思い出して温泉の整備云々を建築業者に依頼しに向かった。街の人ならば5ガルドで入れる風呂屋を作るつもりみたいね。

 

「色々とあって男爵になってハイランドと言う国がローランスよりも優れた文明を持った国だと証明しろと……目に見える成果を作り上げろと言ってきた……蒸気機関やモーターは簡単に作れる。でもそれの動力源である石油が見つからねえんだ」

 

「石油…………ああ、地面から出てる糞みたいな臭いがする水のことね。何度か見たことがあるわ……地殻変動でもう出てこなかったりしたけども」

 

「石油の方に関してはまだいいのですが、他にも……天族と人間はどう向き合えばいいのか?それが分からないのです。天族側は信仰されて当たり前ですが認知されていない、認識する事が出来ていない。私達人間は油断すれば信仰を忘れてしまう。それだけでなく加護の影響のせいで幸福でなく不幸を呼び寄せてしまう」

 

「……その認識自体が間違いだろうが」

 

「え?」

 

「加護を与える=幸福になる、プラス方面に与えるはお前達の認識違い、勝手な考えだ……宗教は違うが聖人と呼ばれる存在が与える加護の中には病魔も関係している」

 

 アリーシャは天族問題をどうすればいいのかが分からないというがチヒロがその考え自体が間違いだと否定する。

 

「呪いだって言い方を変えれば加護だ……なんの力の影響も受けていないのが加護が無いんだ……」

 

「…………他者を不幸にする業を受け入れろと?」

 

「…………お前達は意識して加護領域を広めれたり切ることは出来るのか?」

 

「出来る……だが」

 

「だったら怒る役目を担えばいい、嫌われ者の役割を担えばいい……この世に物質的0は存在しない。プラスとマイナスは切っても切れない縁だ……お前は正の側面を担当する存在でなく負の側面を担当する側の住人だった……最初からそこの認識が違っているんだ」

 

「与えるだけが加護じゃない、時には奪うのも加護……そんなところかしら?」

 

「ああ……プラスとマイナスを理解する……と言うかだ、お前等は自分の持つ力を理解しているのか?」

 

 チヒロはザビーダ達天族に問いかける。

 

「……都合の良い夢を見せる事が出来る……だが、見せるだけだ。幸福そのものは訪れない」

 

「それは吉兆の兆しか……領域を無理に広めずに宿屋や宿場町にのみ集中すればいい…………」

 

「オレのは死神の呪い、幸福でなく不幸を呼び寄せる」

 

「だったらお前が裁定して悪人に不幸を与える役割を担えばいい」

 

「…………そういう使い方があるか……」

 

 サイモンとアイゼンの加護の使い道についてチヒロは考える。

 確かに宿屋で良い夢が見れるならばそれでいいし、悪人に不幸を訪れさせる役割を担えばいい……物は考えようね。

 

「自分がどういう加護を与えるのか、それを自覚しなきゃならねえ……その為にはまず天族側も加護を与えるだけの役割じゃなくて人間の政治に関わってもらわなきゃ困る…………天族側の代表を用意してその代表が加護を管理、今度の対談に天族側の代表にも出てもらう……」

 

「そうなると…………ゼンライの爺さんが1番か?」

 

「前回あれだけボコボコにしたのによく頼めるわね」

 

 天族側も加護云々を厳重に管理しなきゃいけない発想に至った。

 ゴンベエは今度の対談に天族側の代表に出てもらうことを考えザビーダはあのスケベジジイを思い浮かべるけどもエドナが前にゴンベエがボロボロに言いまくったことを出す……事実を述べたまでだから仕方がないわよ。

 

「それにしても、加護領域を展開していないのね……加護領域は大事なものよ」

 

「…………あんたとビエンフーとサイモン以外は来てねえんだよ……………導師が誕生したという事実は本当だ。デマとは言えここに導師が居ると噂が流れている。それなのに天族が全くと言って来ねえ……導師の噂を聞いたのならば、アクションの1つでも起こすのかと思ったが全くと言って来ねえ」

 

「憑魔化してる……いえ、本当に導師が居るのならば浄化の力でもとに戻してる筈ね……意図的に来ていない?」

 

 領地に加護領域が展開されていない事について言ってくるグリモワール。

 ゴンベエ的には来て欲しいものだけれども天族が見当たらない。意図的に来ていないのかとグリモワールは疑いを持つ。

 

「流石にねえと思うが死んだとかは……聞いた話だと200年ぐらい前に人類が3割ぐらい激減したらしいし」

 

「デスエイジと呼ばれた時代ね……私達は食事は不要だし病気とは無縁だから殆ど死んでる説は薄いわ」

 

「…………サイモン、お前なら心当たりがあるんじゃないのか?」

 

 天族が現れない問題にぶつかり、殆どが死んだかと考えるゴンベエだけどグリモワールがその線は薄いとする。

 意図を感じる、その意図がなんなのか分からない。アイゼンはサイモンならばなにかを知っているかもしれないから聞いてみる。

 

「……災禍の顕主は海の底より生還しナナシノ・ゴンベエを殺すと誓った。だが、マオテラスの力を用いてもナナシノ・ゴンベエを殺すことは出来ないとわかった。故にナナシノ・ゴンベエを確実に殺す方法を模索している」

 

「ふぅん、この男を暴力で殺そうとするとは……まだ霊的存在を絶滅させた方が可能性はある。阿呆だな」

 

「マオテラスの力を借りても殺せないんじゃもう無理じゃないの?アリーシャでも人質に取る?」

 

 ゴンベエを殺す方法を探してるみたいだけど、カイバは呆れている。戦いでゴンベエが負けるってイメージがつかないわね。

 

「大丈夫です、エドナ様……私が人質になれば私はゴンベエの為に喜んで死にますから!ゴンベエ、気にすることなく攻撃するんだ」

 

「……アリーシャ、重いわよ!!」

 

「……天族は無闇に加護を展開するんじゃなくて自身がなんの加護を宿していて何処になんの加護を与えればいいのかを管理する。その管理者の代表としてゼンライの爺さんに……ん?」

 

「……ん?」

 

「……?」

 

 あのスケベジジイに代表者になってもらう事に話が纏まろうとしているとゴンベエとアリーシャがなにかに気付く。

 それに遅れてだけど私も違和感というかなにかに気付く……こういう時は意識を集中させる……………

 

「助けてくれ?」

 

「助けてくれって……なにも感じないぞ?」

 

「いや、誰かが助けてくれと言っている!誰だか分からないが、助けてくれと……」

 

「…………あ!アレか!!」

 

 助けてくれと言う意思を感じ取る私達。アイゼンはなにも感じないけど私達は感じ取る。

 ゴンベエがなんなのかと考えると心当たりがあるのかオカリナを取り出した。

 

「お前等、戦いの準備は出来てるよな……最悪の場合はオレでどうにかなるか」

 

 ゴンベエが私達に戦えるか聞いた後にオカリナを吹いた。

 オカリナを吹いたって事は何かしらがある事だと意識を切り替えれば…………イズチにいた。

 

「ここはイズチ……」

 

「ゼンライの爺さんが光のメダル経由してSOSを頼んでるんだよ!いくぞ!」

 

 ゴンベエが走り出すと私達も追いかける。

 追いかけていくと胸の中がドヨンとした。ドラゴンだった時のアイゼンと対峙した際に感じた穢れの領域内に入った……アイゼンの時よりは物凄く軽いけども穢れの領域を感じる。

 

「お前等、大丈夫か!!」

 

「ゴンベエ、何故ここに!?」

 

「言うとる場合か……無事じゃなさそうだな」

 

 イズチの建物がある場所に向かえばボロボロのゼンライのスケベジジイがいた。

 

「憑魔の群れが襲ってきたんじゃ……何体かは撃墜する事が出来たが、まだ」

 

「アレか……ゴーレムだな。鉱石を含んだ泥人形が憑魔化したものだ」

 

 ゴーレムが暴れまわっていた。

 

「おいおい爺さんどうなってんだ。信仰無しで領域展開してこの土地清浄な土地だろ」

 

「ワシの領域外から侵入してきたんじゃ!」

 

 スケベジジイの加護内なのに憑魔が出てきた事を聞くザビーダ

 内側からじゃなくて外側から来た……

 

「とりあえず、倒せばいいのね」

 

「ふぅん、乗りかかった船だ……コレを使うか」

 

 何体かはゴーレムが居るから手分けして倒す。

 一緒になってついてきたカイバは神秘的な力を感じれる牛の角を取り出した。

 

「なんで牛の角なの?」

 

「ギリシャという国のゼウスという神が外国人観光客をナンパしている現場を抑えてな……浮気の証拠を妻に提示されたくなければ牛の姿になった際の角を寄越せと要求してやった」

 

「流石浮気神(ゼウス)、安定の浮気……社長、また中の人ネタを」

 

 カイバは神秘的な力を感じる角を頭につけた。

 

「ジジイ、オレに雷を落とせ」

 

「なに!?雷をじゃと!?その様なことをしたら」

 

「出来ないのならば自力で落とす……貴様が無能で雷と言う権威を示せないだけだ」

 

 雷を自分に落とすように言うカイバ。

 スケベジジイを煽ればゴロゴロと音が鳴る。

 

「どうなっても知らんぞ!」

 

「答えは決まっている………サンダーセット」

 

「っ!?」

 

 スケベジジイがカイバに向かって雷を落とした。

 雷はカイバに命中したと思えばカイバが装備している2本の角に雷光が留まっている。

 

「くらえ、電撃角(エレットリコ・コロナータ)!!」

 

「ちょっとあの技……角に当たらなきゃ意味が無いじゃない!」

 

 激しい雷光が留まる角を装備しゴーレムに突撃していくカイバ。

 エドナが角に当てなければ攻撃が当たらない事を言うけどゴンベエ達は慌てない。

 

「ふぅん、そんな事ぐらい解決済みだ!」

 

「雷が伸びた!?」

 

 雷を集約し一本の角の様に伸ばして突撃する。

 ゴーレムはあっさりと貫かれる。1体2体と貫かれていき、全てをカイバが倒した。




スキット ランクチェック

アイゼン「ぐっ……」

ザビーダ「ゔぇえ……」

ゴンベエ「……お前、なにやったんだよ?屍が出来てるぞ!」

海馬「ふぅん、レクリエーション大会の罰ゲームドリンク……海馬汁を飲ませただけだ」

エドナ「貴方1回辞書で罰ゲームって引きなさい。罰ゲームじゃないわ、コレはもう罰よ!」

ゴンベエ「社長、声的には一緒だが色々と違う」

アイゼン「いったいこんな罰が待ち構えているレクリエーションはなんなんだ……」

海馬「格付けチェックだ」

ゴンベエ「お前……よりによってそれをするか?」

海馬「一流を知らなければ意味は無いだろう」

エドナ「格付けチェックって……なに?」

ゴンベエ「高級品や一流シェフが作った物を当てるゲームの事だ……修行時代に審美眼を鍛える為にやらされてたよ」

エドナ「どんな修行よ……」

アイゼン「審美眼が優れているかどうかを競い合うか……オレの審美眼を見せてやる!」

海馬「道具が無いからここではやらん」

エドナ「お兄ちゃんの審美眼はあんまりアテにならないわ。送ってくる骨董品が贋作だった事が何度もあったもの」

アイゼン「っぐ……」

ザビーダ「まぁ、今までの積み重ねってやつだな。ここはいっちょザビーダお兄さんが格の違いってのを見せてやるよ」

海馬「まったく……仕方がない……今からミネラルウォーターを作る、天然のミネラルウォーターか当ててみろ!」

ゴンベエ「待て!待て!水はダメだ、こんな世界じゃ水の違いを判別するのは難しい!」

海馬「ならばどうする?今は手元に小早鍋や無尽俵が無いから米の違いを当てるなどは出来んぞ」

ゴンベエ「いや、するな……お前それ失敗したら確実に海馬汁を飲ませるつもりだろ」

海馬「当たり前だ、本物や一流を理解する事が出来ていない無能には罰を与える!」

エドナ「失敗したらアレを飲まなくちゃいけないの…………パスするわ」

「イワシ水は割とイケるぞ」

エドナ「なんで普通に飲めるのよ!?」

ゴンベエ「黛さんはくさやがイケる口だからな……」

「ゲテモノ系は大体いける」

ゴンベエ「格付けチェックはスゲえ難しい…………愚っさんとか全問ハズしたから疫病神扱いだったし」

海馬「お前は勘で当てに行くからゲームバランスが保てない」

ゴンベエ「お前もお前で全問正解しすぎるせいでガ◯ト状態になっただろう」

海馬「なにかの拍子で海馬コーポレーションにやって来たのならば、格付けチェックをしてやる……貴様達は恥を晒すのか格の違いを見せつけるか見ものだな」

スキット スーパーヒーローの資格

海馬「……まさか男爵になるとはな……他の面々ならばまだ受け入れることが出来るが、お前だけは絶対にありえん」

ゴンベエ「それは言わないでくれよ…………オレが無能なのは事実だけど凹むぞ」

ベルベット「無能って……そこまでかしら?領地の人達からは評判はいいし、土壌回復とか色々とやってるわ」

海馬「有能か無能かで言えば無能だ……この男は暴力関係ならば頼りになれるがそれ以外が凡骨だ……なによりもやる気が無い!」

アリーシャ「言いたいことは分かる……だが、ゴンベエのめんどくさいにはホントに意味があるんだ。しっかりと真剣に向き合いエゴを押し付けない」

海馬「それが分かっていると言うのにコイツはなにもしていない!無能以下の存在だ!ギリギリにまで追い詰められない限りはやる気を出さん…………そこだけが唯一気に食わん」

ゴンベエ「オレに真面目にやれってか……だったらここにベルベットやアリーシャは存在しない……過去のシステムが弊害化されてるのは薄々分かっていた事だ。過去に行くつもりも無かったし、アリーシャは使い物にならないと切り捨てる」

ベルベット アリーシャ「っ……」

海馬「だが好まないだけで決して出来ないわけではない……危ない手段もありその手を用いれば可能になる事も多数ある。無論そうでないからこそ見えたものがあるが……オレの様に自発的に動かないだろう」

ゴンベエ「……」

アリーシャ「カイバは……自発的に動いているのか?」

海馬「当然だ、オレがロードを刻むのは誰にも止められん」

ベルベット「それって環境の問題じゃないの?ゴンベエは知識はあるけどもそれ以外は無かったわよ」

海馬「その条件下でならばオレは孤児だ、財閥の跡取り等ではない……ゲームのアイデアを作り上げてゲームのコンテストで受賞しそのアイデアを買い取ってもらい資金を作り上げて外国の学校で飛び級しながら起業するのに必要な資格を手に入れKCを自力で立ち上げた……我が社は街を支配下に置いてある。宇宙エレベーター等も開発している」

ゴンベエ「オレにそこまでやれと?無理だってば……」

海馬「貴様が持っている力は理に干渉する力だ……宝の持ち腐れにも程がある」

アリーシャ「…………私は、ゴンベエが良い!確かにカイバは有能かもしれない。ゴンベエは無能なのかもしれない。でも、それでも私が救われた、知らない世界を教えてくれたんだ!」

海馬「ふぅん、救われたのならばオレも同じだ」

ベルベット「そうなの?」

ゴンベエ「まぁ、色々とあってな…………結局のところ、憎悪の念は消えてないが」

海馬「当たり前だ…………オレはただ破壊し作り直す……おかげで浮世絵町を支配下に置くことが出来て都市開発にも動いている。厄介なのはあの妖怪の極道どもだ、仮に滅しても第2第3の妖怪が生まれる人類が滅びない限り存命する迷惑な存在だ」

ベルベット「……あんた、アミューズメント産業の社長よね?」

海馬「ただゲームを作るだけならばインディーズゲームで充分だ……ゲーム開発以外にも中の人を扱ったりイラストレーターを雇ったり一口にアミューズメント産業と言っても色々とある。KCは世界を塗り替えるアミューズメント産業…………そう、ゲームは世界を変える」

ゴンベエ「…………相変わらずだなぁ…………真面目にか……肩苦しいから嫌なんだよな……」

ベルベット「無理に肩苦しくせずに自分らしくしなさい……あんたがおかしくなったら誰も止める事が出来ないんだから」

海馬「少なくともオレならばもう少しまともにしている……貴様では不可能な事だ」

ゴンベエ「分かってるけど腹立つな……お前もお前で欠けてる部分があるだろ、ヒーローの資格が無い」

アリーシャ「カイバは欠点が無さそうに見えるが……」

海馬「欠点はある……冗談が通じないと思われがちだ……なによりも心に愛が無い。オレの原動力は憎しみだ。心に愛が無ければスーパーヒーローにはなれん。それだけはゴンベエ以上にいや、誰よりも劣っていると自覚している」


Q ゴンベエが真面目にやった場合はどうなったの?

A アリーシャは足手まといで切り捨てられて既存のシステムを潰さなければならないと過去に行く理由が無くなりベルベットに会わない。ロゼと同じで殺すことを躊躇いなく行い罪なのは自覚しているが殺す事で正しくなるのだと時には暗殺をしたりする。スレイの様に素の状態で天族を見ることが出来る人間を人柱にして世界中の人間の霊力を底上げし、石油の独占をして文明開化しハイランドとローランスを武力により1つの国にして王権政治を終わらせて民主政治にする。

 海馬の術技

 電撃角(エレットリコ・コロナータ)

 ゼウスが化けた牛の角を避雷針にし角に雷を留めて突撃する。


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL(Part6)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。
そして忘れちゃいけない。ゼスティリアはサブイベントを全て攻略しなきゃ本編進まないのを


 

「社長、問題無いから言わなかったけども下手に攻撃するなよ」

 

「ふぅん、邪気を退ける浄化の力ぐらいは持っている……もっとも今回は殺しても問題は無い相手だったがな」

 

 社長が電撃角でゴーレムを全て蹴散らした。

 本人は全くと言って力を行使していない。呼吸をするのと同じ感覚で討伐したんだろう。ただ、今回は運が良かったと言うべきか……社長が攻撃したのは鉱石が憑魔化したものだ。人間や天族が憑魔になったもんじゃねえ。

 一応は釘を刺しておくが流石と言うべきか浄化の力は当然の様に持ち合わせている。

 

「いやはや……助かった……」

 

「ジジイ殿、無事でなにより……とは言い難いですね……私達は救援を求める声が聞こえたので来ましたので」

 

「むっ、このメダルのおかげか」

 

 助かった事にお礼を言うゼンライの爺さん。

 アリーシャは救援要請を受けてきた事を教えればゼンライの爺さんは光のメダルを取り出した。光のメダルを持っていたから救援に答える事が出来た……無かったら危なかった。

 

「前回、あれだけボコボコに言われたのによく立ち直れるわね」

 

 若干ボケが入っていたことに関して色々とエドナは気にする。

 

「今でもお前さん達は怖い存在じゃ、特にゴンベエはの……しかし前とは顔触れが増えておるの」

 

「ただの通りすがりの正義の味方カイバーマンとでも言っておくか」

 

「オレとコイツは色々と別件だから省いてくれ」

 

 社長と黛さんとサイモンに視線を向けるゼンライの爺さん。

 この2人に関しては完全なまでに別件なので気にしないどころか省いてもらわなきゃ困る。

 

「お主にボロボロに言われた後……スレイが帰ってきおった」

 

「……言っとくがオレはスレイに関しては最初からどうでもいいと思ってるしスレイ自身も無責任なところがあるからな」

 

 あの後にスレイが帰ってきた事を教えてくれるがオレはスレイに関してなんも思ってねえ。

 何処で野垂れ死のうが悲しい過去があろうがそれがどうした?どうでもいいことだと簡単に切り捨てる。最初からあいつに関してはなんの感情も抱いていない。

 

「最初は……雷を落とそうと思った。勝手にイズチを出ていった事でなく殺すことで救われる人達がおり、穢れを発さないとはいえ殺しを認めている事に関して従士にした事に関して色々と問い詰めるつもりじゃった」

 

「……その従士はゴンベエが殺したわ。なにかの拍子で天族に転生出来ないように魂を直接あの世に叩き込んだわ……アリーシャはその事に関して色々と異議を唱えたいみたいだけど、少なくとも今は殺しは不要の時代な筈なんでしょ?……その存在は不要な筈よ」

 

 爺さん基準でも殺し屋を改心させずに暗殺家業をやり続けての従士化は認められない事だった。

 ロゼの事に関しては殺したとベルベットはハッキリと言い切る。今は殺しば不要な時代だけども殺した。アリーシャはその事に関して異議を唱えたいだろうが、少なくともオレは殺った事に関しては後悔してない。

 

「マオテラスが降臨してから浄化の力を、やり直す機会を手に入れた……憑魔化した者を殺す理由は無くなった。だが、人間の世の中では……形はどうあれ殺しは必要じゃ」

 

「……あんた達とは異なるからな。便利な力を持っているわけじゃないし、飯を食わなきゃいけねえし……生きる為に他の生物の命を喰らう、それが人間と言うか生き物の業だ」

 

 生きる為に殺す……それは悪い人間を殺すという意味合いだけではない。

 肉の原材料の動物を魚を植物を喰らう。命を奪うことで命を活かす……それが出来ない生き物の方がおかしいんだ。

 

「スレイ達はイズチに帰ってきた……ワシは雷を落とそうと思ったが先ずはスレイの言葉を聞こうとした。殺すことで負の連鎖を止めて救うというやり方は決して全てが間違いではない。少なくともワシはそういう時代を見てきたんじゃ」

 

「まぁ……あんたはスタートから見てるからな」

 

 天界から降りてきた天族であるゼンライの爺さん。

 殺すことで負の連鎖を止めると言う考えが100%間違いだと言い切る事は出来ない、少なくともマオテラスが降臨する前、エレノア達対魔士は憑魔を殺していた。殺す以外に道が無いのだとエレノアもエレノアなりに覚悟を決めていたんだろう。

 

「スレイは……なにを語ったのですか?」

 

「真っ先にスレイが出した言葉は……人間と言うものが分からない、じゃった。殺すことで負の連鎖を食い止めて救うという考えもあれば殺さずに対話をする事で改心させて救う道もある。世界中の人間がワシ達を認識する事が出来ぬ……導師として天族の加護領域を広めて信仰を取り戻せばいいのかと言われればそれは否だ……」

 

「ふぅん、無能が自分が無能である事に気付いたのだろう……少しは進歩しているだけマシだ」

 

 スレイは色々と歩いて人間の世の中を見て回った。そして人間の世の中がよくわからないと感じた。

 明確に見える魔王、つまりは災禍の顕主が悪政をしていたり何処かで軍事侵攻してたりするわけじゃない。人間の持つ悪意に漬け込んで色々と行動している。

 

「スレイが無能じゃと……」

 

「事実だろうな…………あいつはなんも分かってない。なんも分かってないんだよ……導師に、皆が求める救いのヒーローになるって意味を」

 

 社長がスレイを無能だと煽れば少しだけ怒りを発する爺さん。

 スレイが無能かと言われれば無能で1番大事なものが欠けている。

 

「世間は導師じゃなくてヒーローを求めてるんだ、絶望的な状況下で何時大きな戦争になってもおかしくはない……だからこそ、救いを求めている。それをどうにかするには出来るのは導師だけだ……でも、スレイは最初の段階で色々とミスしてる」

 

「スレイのミス…………ロゼ、いや、風の骨の存在を認めてなにも言わない事でなく最初の段階とは?」

 

「……アリーシャ、ヒーローに必要なのは環境?才能?血筋?特別な力?」

 

「それは……そもそもでヒーローとは特別な存在ではないのか?」

 

「確かに成功しているヒーローは特別な存在で皆、どれかを持っている。才能は無いが環境は優れている。血筋に恵まれているが特別な力は持っていない……だが、全てのヒーローが絶対に持っている物がある」

 

「それは?」

 

「誰かを助けたい、守りたい、笑顔になってほしいって思いだよ……スレイが導師になったのは人と天族が共存して互いに認識しあって幸せに暮らす遥か昔みたいになればいい……スレイは若干だけど捻れてる」

 

「心に純粋な愛が無ければ意味は無い……オレは人のことを言える義理ではないがな」

 

 誰かを助けたい、誰かを守りたい、誰かを笑顔にしたい……その思いが、かわいそうだ助けないと!と言う思いが大事だ。

 残念ながら社長はその部分が欠けている。オレもその部分が若干だけど欠けている。黛さんは……そもそもで力を持ってない側の人間だ。

 

「過去の栄光を振り返るなとは言わねえ。だが、今日と明日以降に繋がらない……果てしなき未来へのロードを突き進む為には時として過去の栄光を取り戻すなんて考えは甘い」

 

「……お主は、それだけ分かっておりながらもスレイを導く事が出来んのか?」

 

「出来るか出来ないかで言えば出来る……ただしスレイ達に掛かる負担は大きい。だが、そこは考慮しない……オレがそういう事をしないのはシンプルにめんどくせえからだ」

 

「め、めんどくさいじゃと!?」

 

「この男は力も知恵も知識も勇気も恐怖も備えている……ただやる気が無い、それが欠点だ」

 

 オレがなにもしないのは至ってシンプルにめんどくさいからだ。

 社長がオレの中で唯一嫌悪している部分はこのやる気の無さだ。それが気に食わないと思っている……それ以外に関しては割と好印象だったりする。ただまぁ、こればかりは譲れない。オレが真面目にやった場合は色々とオレに掛かる負荷が大きくて多いしいる人間として生きることが出来ない。オレは、いや、転生者(オレ達)は人間として幸せを掴み取れと言われている。

 

「オレからすればこの男がここまで動いている方が奇跡に近い……自分の関係無ければこの男は本当になにもしない」

 

「ゴンベエ、どんだけやる気無いのよ」

 

「いやだってめんどくせえじゃん……助けるってのは1から10までするんじゃなくて1から10までした後に11に踏み出す事が出来るようにするって事だからさ」

 

 オレの事をボロクソに言う社長に対してエドナはツッコミを入れる。

 10に持ってくんじゃなくて11になれるようにするのが人助けってもんだよ。

 

「お前、めんどくせえ言う割には動いているな……逃げることは簡単だろ?」

 

「ん〜……まぁ、頑張ってるアリーシャが大好きだから応援したいって思ってるだけなんで」

 

「なんだ、ただの惚気か…………シンプルだが強い理由だな」

 

 黛さんは逃げないオレに問い掛けるが、オレの今のところの原動力はアリーシャへの愛だよ。

 アリーシャの事が大好きだしベルベットの事も好きになろうと頑張っている。好感度的な度合いで言えばどっこいどっこいだが愛で動いているからな。

 

「……仮に導師がこれからの世の中には導師が不要と言ったとするならばどうするつもりだ?」

 

「む…………今現在、世界を救う存在が必要なんじゃが……今の災禍の顕主は裏で戦争を手引きしていると聞いているが」

 

「ジイさん、あんたじゃねえ……お前に聞いてるんだ」

 

「……導師って言う称号はともかくとして先導者は大事だろう、文明を開花させる技術を発明したり、それを簡略化し小型化し効率を突き詰めた物を作り量産する………………黛さん、もしかして……」

 

「なに、ただ気になるから聞いただけだ」

 

 オレはこの物語の終わりを知らないが今まで出会った転生者達は知っている。

 スレイはこれからの世の中には導師が不要な時代になると導師……スレイが人柱になって世界中の人間の霊力を上げるとかならばオレはアホかと無責任に導師になるなとしか言えない。少なくとも人間が憑魔を認知出来るようになったり天族を使役する事が出来るようになれば色々と厄介な時代になる。神権政治と王権政治が混ざればクソややこしい理不尽が生まれるだけだ……。

 

「ジジイ殿、実は頼みがあるのですが」

 

「なんじゃ?……スレイの行方に関してはワシも知らんぞ?」

 

「実は今度ローランスの王とハイランドの王が対談をするのです……ジジイ殿に天族の代表として出ていただきたいのです」

 

「む…………」

 

 アリーシャは天族の代表として対談に出てほしいと言えば爺さんは少し困った素振りを見せる。

 

「見えない問題なら一応はどうにかする方法はあるわ」

 

「霊力の低い人間に見える方法は幾つか心当たりがある……じゃが……ワシにハイランド側から出ろと言うのじゃろ?」

 

「まぁ…………そうなるわな」

 

「それ以外に道はないし、天界から舞い降りてきた天族に心当たりが無いからな」

 

 自分が天族の代表として出ることに対して1つだけ気になる点を聞いてきた。

 ザビーダとアイゼンは結果だけを見れば結論だけを見ればゼンライの爺さんがハイランド側の住民として天族の代表として出ることになる。

 

「あの……ダメなのですか?……私達なりに色々と考えた結果、天族の代表者が必要となりました。天族の代表としてジジイ殿以外に心当たりはありません。天族側もある程度は加護を管理しなければなりません……そこに居るサイモン様やアイゼンも自身の持っている加護が色々と厄介な為に苦しんでいます」

 

「ふむ……確かに合格祈願、子宝、良縁など加護にも色々と種類がある。その加護が強すぎるが故に不幸を招くという一例は幾度とあった。マオテラスが降臨し天族の呼び名を聖隷から天族に呼びかけていた頃に、聖隷が見えているのが当たり前だった時代の住人が死んだ後に天族は人と関わり合いを持たない時代もあった。それぐらいの時期にいや、それ以降の時期に生まれた天族の中には自身が持っている加護がなんなのか理解しておらん。現にミクリオやこのイズチの天族達の中には自身がどういう加護を与えるか等を理解していない者もおる」

 

「でしたら尚更、ジジイ殿には天族の代表として参加してもらいたいのです……ジジイ殿が天族の代表となり天族の持っている加護を管理する。いい旅に恵まれる加護を与えるならば、子宝に恵まれる加護を与えるならば、家内安全の加護ならば……」

 

「それは管理しなければならんのは分かっておる…………じゃがの……国に対して加担するわけにはいかんのじゃ」

 

 加護を厳重に管理して何処に配布するかなどを決める管理者として代表として爺さんに出てほしいという。

 爺さん自身もその辺を正しく管理しておかなければならないとも認識はしてある……だからこそ、国に対して加担するわけにはいかない。

 

「マオテラスが降臨するほんの少し前の時代、まだ天族の事を聖隷と呼んでいた時代は……人は認知しておった。対魔士でなく導師と言う称号が生まれた時代じゃった」

 

「それは知ってるわ……嫌になるぐらいに……その時代を繰り返したくない、特定の誰かにのみ加担したらアルトリウスの二の舞になるって言いたいんでしょ…………じゃあ、どうしろって言うのよ?このままじゃ永遠に天界の扉が開かないわよ」

 

 天族の力を行使していた。天族を無理矢理使役していた。全てはカノヌシのせいだが、そういう事をやろうと思えば出来る。

 アルトリウスの存在は歴史の闇に葬り去られている。カノヌシの存在もベルベットの存在もグリモワールが持っていたマギルゥが書いた裏の天遺見聞録にのみ載っている。

 

「少なくともあんたはこの土地に対して加護を広めてる……形はどうあれハイランドと言う国に対して加担している」

 

「そう言われればそうなんじゃが……天族を信仰する文明を復活させなければならんのも事実、アメノチ達はまた眠りについており純粋な穢れなき魂をアルトリウスの玉座に捧げれば奴等は目覚めるが……………」

 

「ふぅん、結局のところ貴様はどうしたいのだ?人類を善なる存在のみを残して中庸や悪を殺して間引くつもりか?」

 

「…………カノヌシが居なくなった以上はそれは出来ん」

 

「居るなら殺るつもりかよ……なにも言わず白になれってか?白だけが色じゃねえんだよ。赤があって青があって黄色があって……黒に成り代わる色もある……皆がバラバラだけど、だからいいんだ。白は目指さねえ」

 

「っぷ」

 

「ふっ……」

 

 白を目指さないと言い切れば、黛さんと社長は笑う。

 なにも言わずに白になれなんて嫌だし白を目指せなんて無理だろう。確かに白色は色として清らかかもしれねえが1つの考えにだけしか至ってないのは愚かだ。

 

「世の中はこれから多様性の時代だ……天族側が今まで通りの態度を貫くならば人類諸共滅びる、白以外の色を認めろ。自分達も色を変える時代だ……それでも流儀を貫きたいと思う奴は居るのならば、それよりも正しい道を教えてやる。少なくともそこに居るアリーシャと言う女は間違っていることを間違っているとハッキリと言える……始まりを見届けたからある程度の事も寛容的に受け入れるがそれでも間違っているとハッキリと言える人間だ」

 

「ゴンベエ……」

 

「…………ワシ達も変わらなければならんか…………………」

 

「ゼンライ様!」

 

「おい、今話し合いの場だぞ」

 

 自分達も変わらなければならない、やり直す機会はまだあるんだと考えを変えようとするゼンライの爺さんだったが天族が現れる。

 アイゼンが大事な場所なのに急に割って入ってきた事に関して言うのだが、ゼンライの爺さんに対して耳打ちをすればゼンライの爺さんが落ち込んだ。

 

「なにかあったの?」

 

「先程の憑魔がイズチの者を拐った……」

 

「……あ〜それで思い出した。大陸の天族を全くと言って見ねえんだ……どうなってんだ?」

 

「時代が時代だから憑魔化しておる可能性がある」

 

「いや、スレイが色々と放浪してるっぽいから浄化はするだろう」

 

 天族を全然見ない事に関して聞いてみる。

 時代が時代だけに憑魔化している可能性がある。現に今まで出会った連中は憑魔化しているパターンが多かった。だが、ライラやザビーダ、サイモンの様に生き残っている天族は居てもおかしくはない。

 スレイが放浪して見聞を広めている。ライラとまだ繋がっているならば浄化の力を持っている可能性は大きい。流石に見捨てることはしねえだろう。

 

「今回、憑魔がイズチに襲撃した……更には大陸で天族が見当たらん……災禍の顕主が裏で手引きしておる可能性が高いの……」

 

「……ゴンベエがヘルダルフを封印じゃなくて倒してればこんな事にならなかったわね」

 

「いや……そもそもでこんな事になるとは思ってなかったからな」

 

 オレがヘルダルフを討伐しなかった事に関しては若干だけど嫌味を言うエドナ。

 そもそもでこんな事になるとは思ってなかった……ヘルダルフをオレが倒しても構わないかの問答でライラに邪魔とハッキリと言われている。ライラの意思を無視したらダメだろうと思ってた……スレイがあんなオチを迎えるとは思いもしなかった。マオテラスと繋がりがあるから殺さなくて正解だけども……もっといい方法があったんだよな。

 

「…………ワシ達も変わらなければならん……その対談に出よう」

 

 今までやっててダメだったから変わることを決意する爺さん。

 コレで一応はハイランド側に天族が味方をしてくれるという権威を示すことが出来るようになった。ローランスにも天族信仰の文明があるからコレで少しはハイランドを良くする事が出来る……一時的だが誤魔化す事が出来る。屁以下の無茶な注文を熟している……とは言えないが言い訳には使える。

 

「ゴンベエ、石油についても聞いてみないか?」

 

「爺さん、地面から湧き出る油を見たことがないか?」

 

「なんじゃ、あの糞みたいな匂いのする油の事か?アレならばワシの神殿に出ていた事もあったぞ」

 

「あったぞか……」

 

 石油について心当たりがないかを聞いてみれば神殿で湧き出ていたと教えてくれる。

 事もあったぞということは既に産出する事が出来ないと言うことだ。一応はとゼンライの爺さんに遺跡を案内をしてもらえば……石油は無かった。

 

「お主、アレは香油かオイルランタンに使うぐらいしか使い道は無いぞ。普通に使ったら匂いが酷いから加工せねばならない……ココナッツやオリーブ、胡麻から精製される油の方が香油としては」

 

「ちげえよ……石油は最強の資源なんだよ……」

 

 オイルランタンか香油にしか使えないと言うのだが、石油は最強の資源なんだよ。

 過去に石油が出ていた場所に触れる。氣による探知をしてみるが遺跡の下に液体が流れてるのは分かるが、イズチの方に繋がっているから石油じゃねえ。

 

「アレをどう使うかは知らんが、地面から出てくる物となれば地脈点を探すのがオススメじゃぞ。地脈の影響で温泉が湧き出る等もある」

 

「地脈点ね……なんか感じるな」

 

「一応はここも地脈点なんじゃよ」

 

 なんか感じると足を運ぶ。石油は無いのが分かったのでそこを見ればイズチに居る理由は無くなる。

 地脈点がどんなものなのかと一先ずは見に行くことにし

 

「ぬぅおあ!?」

 

「っちぃ!」

 

 沼に嵌った。

 こんなところに沼があったのかと思ったのだが直ぐにゼンライの爺さんが答えを教えてくれる。と言うか知っている。

 

「お主等、コレは地脈の中に」

 

「知ってるわよ!っ……」

 

「落ち着け!死ぬことはないはずだ!」

 

 地脈の中に引きずり込まれる。

 ゼンライの爺さんが説明をしている間にも膝ぐらいに嵌ってしまい抜け出すのが無理だとベルベットは判断し、アイゼンは慌てているザビーダやエドナに対して死ぬことだけは無いのだと言い切り……ゼンライの爺さんを残して地脈の中に取り込まれた。




DLCスキット 別だった場合

ヒナコ「アレよね……世界が異なってたら、どうなってたのかしら?」

ゴンベエ「タラレバの話はよくねえよ、愚っさん」

ヒナコ「愚っさん言うな……気になるでしょう。この力を他で活かすことが出来た場合はどうなるのかって!」

吹雪「もぉ、俗っぽい事を言って……でも気になるのは僕も同じかな」

深雪「そうですね……あまり良い結果になるとは限りませんよ?」

海馬「先ずは無彩限のファントム・ワールド」

ゴンベエ「ファントムぶっ倒して金稼ぐ」

深雪「ファントム倒して己の心身を鍛えます」

ヒナコ「なんで私が戦わなきゃいけないのよ。ゴッドマキシマムマイティXで大人にも戦える力を与えるわ」

海馬「また確実に揉めそうな事を……オレは何処の世界でも起業する。両津勘兵衛の様にゲームのアイデアを売って金にして起業する」

吹雪「無彩限のファントム・ワールドはアンチ要素無いからね……深雪は?」

深雪「さーて、私はいったい何処の世界に居るのでしょうか……ヒナコさんは青の祓魔師でしたよね」

ヒナコ「敵キャラや主要人物の殆どを普通の人間に書き換えた後に……奥村燐に告白されたけどあんただけは嫌って断ったわ……」

吹雪「愚っさん、モテるよね。見た目虞美人だからモテるよね、内面はちょっと残念だけど」

ヒナコ「もっと残念なあんたが言う?……青の祓魔師も同じでしょう……やっぱりテイルズオブゼスティリアの世界?」

吹雪「真面目に導師やるよ。多分だけどもライラとエロい事をしてる」

深雪「人工的に災禍の顕主を生み出して明確に見える悪を倒す為に共闘しよう!と定期的に出てくる悪者を作るシステムを作ります」

海馬「霊力を上げる技術やジークフリートの術式をベースにオーバーソウル等を開発し、天族を認識しやすくするシステムの基盤を作る。それと同時進行でアリーシャ辺りを導師にして祀り上げつつも王権政治を無くす」

ヒナコ「ゴッドマキシマムマイティXで全員の霊力底上げする」

ゴンベエ「……オレがこの世界でよかったのか……皆なんだかんだで自分の世界に適合してるんだな……」

「世界を滅ぼす魔王と世界を救う女を嫁にしたお前はこの世界に合ってるぞ」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL(Part7)


※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。
そして忘れちゃいけない。ゼスティリアはサブイベントを全て攻略しなきゃ本編進まないのを


 

「ここは……地脈の中か」

 

 石油が出ていた場所にジジイ殿に案内をされれば突如として地脈の中に引きずり込まれた。

 意識を失っていたみたいで起き上がればベルベット達も倒れている……私よりも先に起きているのはグリモさんとビエンフーとカイバだけだ。

 

「起きたわね……大丈夫みたいね」

 

「ええ、大丈夫です……ただ何故こんな事に」

 

 突如として地脈の中に飲み込まれた。

 過去の時代で何度か飲み込まれたりしたがその時は次元を歪ませたり、カノヌシが飲み込んできたりだ。マオテラスを除く五大神は眠りについていてマオテラスはヘルダルフの手中にある。誰かが引き寄せたと考えるのは難しいことだ。

 

「そうね……地脈に何かしらの干渉をしたとか?」

 

「…………………」

 

 グリモさんが原因を推察すれば物凄く心当たりがある。

 ゴンベエが石油を掘り起こす為に大地に流れる液体を引きずり出した。結果的にそれは石油と呼ばれる物でなく温泉だった。

 地脈に引きずり込まれたのはゴンベエが石油を掘り起こす為に大地を刺激してしまったから……

 

「ここは……地脈の中ね……」

 

 ゴンベエが石油を掘り起こそうとした結果、私達が地脈の中に引きずり込まれた。

 頭を抱えたい事だが抱えている場合ではないのだと気持ちの整理をしていればベルベットが目覚める。ベルベットだけでなく、アイゼン達も目を覚ました。

 

「地脈を刺激した結果、引きずり込まれたみたいだ」

 

「ったく……肝心の目当ての物を掘り当てれなくて踏んだり蹴ったりね」

 

「コレは流石に予想外だ……すまなかった」

 

 地脈の中に引きずり込まれた原因を語れば呆れるベルベット。

 ゴンベエもこの事に関しては予想外の様ですまないと頭を下げる。ゴンベエが問題行動を起こすのは今に始まったことではないのでベルベットは直ぐに自己完結させれば辺りをキョロキョロとする。

 

「なにをしてるの?」

 

「前に何度か地脈の中に飲み込まれたのよ……大抵は何処かに出口があるんだけど見当たらないわね」

 

 地脈の外に、地上に繋がる出口を探しているベルベット。

 ここにいては意味は無いのだと私達も周りを見渡す。何処かに出口がないのかと探すのだが見当たらない……コレは本格的に探索しなければならないな。

 

「ゴンベエ、あんた前に次元に穴を開けて入ってきたわよね?同じ要領で出口を作れるでしょ」

 

「作れるには作れるが、死ぬ可能性が高いぞ」

 

「どういうことだ?」

 

 前にゴンベエが自力で地脈の中に入ってきたことを思い出したベルベットは出口を作るように言うのだがゴンベエは乗り気ではない。

 アイゼンがどういう意味なのかを聞けばゴンベエは死ぬ意味を教えてくれる。

 

「仮にここで次元に穴を開けたとして、出る場所はさっきのイズチじゃない可能性が高い……オリハルコンを手に入れた時みたいに地脈が海の中ならばオレとアリーシャ以外水圧で死ぬぞ」

 

「……確かに地脈点はそこかしこにあり世界の半分以上は海で出来ている。海中の方が地脈点が多い……前にベルベットの氣を読み取って次元を越えて斬撃を飛ばしただろう。アレの要領でゼンライの爺さんのもとに」

 

「それが出来てるならばとっくにやってるだろ……あの爺さん、オレ達が地脈に飲み込まれたから危険だと遺跡から逃げたな」

 

「ったく…………どうするつもりだゴンベエ?」

 

 どうやってここを出ていくのか?下手に出れば海の中という事がある。

 アイゼンが居る以上は運に頼るという事は期待できない。ゴンベエにどうやってここを出ていくのかとザビーダ様が問い掛けるとゴンベエは南を見ている。

 

「あっちから強い氣を感じる」

 

「……………確かに色々と複雑な力が混じっているのを感じれるな……強い邪気も感じるな」

 

 ゴンベエが指差した方向をカイバが探知する。

 探知する事が出来ない私達には分からない、というよりはここが大地のエネルギーが流れている場所そのものなので力の流れを感じることが難しい。2人が色々とスゴいから出来ることなのだと2人が歩き出したので私達も歩き出す。

 

「泡?」

 

「エドナ様、それは大地の記憶で……ライラ様!?」

 

 ゴンベエ達を先頭に歩いていると地面から泡が出てきた。

 エドナ様はなにか分かっていないので首を傾げているので大地の記憶そのもので記憶していた記録を幻にして見せるものだと教えようとすればライラ様が映し出されていた。

 

「スレイじゃない、この人は」

 

「アリーシャ、さっさと行くぞ」

 

「待ってくれ!ゴンベエ、ここはライラ様が語ることが出来ないことを知ることが出来る!」

 

「…………どうでもいい」

 

 ライラ様と一緒に居る女性、ライラ様と一緒に居ると言うことは過去の導師の可能性が高い。

 ここならば過去の出来事を見れる。先代の導師の姿などを見ることが出来るのだがゴンベエは立ち止まろうとしない。ゴンベエの肩を掴んでなんとか止めるのだがゴンベエは物凄くどうでもよさそうに、いや、最初から興味すら抱いておらず無関心だ。

 

「あのなアリーシャ、オレは……最初から興味ねえ!コレがスレイの前の導師だとしてもコレがスレイの出生に関わっていてもミクリオの誕生に関わっていようがどうでもいいんだよ!仮にヘルダルフがベルベットレベルの重いものを背負っていようが既にオレが殺る対象と定めた以上はなにを背負っていようがなにを思っていようが死ぬほどどうでもいいことだ!!興味ねえ!過去に導師が居たのはアイゼンもエドナもザビーダも知っている。スレイの前の導師がライラと一緒に活動しててもなんもおかしくねえ。知名度が物凄く低いのはなんかあるんだろうが、それに関しては全く興味ねえ!関心する点は一切無い!」

 

「そ……そんなに興味が無いのか?」

 

「無い!」

 

 ライラ様が語ることが出来ないなにかが待ち構えているのだろうがゴンベエはハッキリと興味が無いと言い切り歩き出す。

 

「あそこまで興味を抱いていないのか……気にはならぬのか?先代の導師や災禍の顕主が何故災禍の顕主になったのかを」

 

「……あんまり言いたくねえけど、割とどうでもいいことだろう?」

 

 あまりにもドライ過ぎる為に何故と疑問を抱くサイモン様。

 チヒロさんも興味を全くと言って抱いておらず、どうでもいい事だと言い切る。

 

「なにを企んでいるかは知らねえし辛い過去があろうが道を踏み外した事実には変わりはねえ。それとも悲しい過去を背負っているからである程度の免罪符が付くとでも?それじゃあ性善説を認めるも同然だ……外道になりたくてなったのかそれとも元々が外道でくだらない考えに至ったのか?それを知ったとしてどちらにせよ外道に、世間一般が言う明確に見える悪になった事実は変わりはない」

 

「……その理論でいけば、私も変わりない悪って事になるわよ」

 

「敵として会えばそうなるな、既にアイツの中じゃヘルダルフとやらは敵認定になっている」

 

「貴様達は勘違いをしているが敵と認定した以上は倒すだけだ……奴の中に分かり合う為に命懸けの戦いをすると言う考えは無い。ルールに基づいた試合であるならば奴は正々堂々とする。しかし命懸けの殺し合いならば迷いなく裏技やルールの書き換え何でもありで殺る……既に殺し合う戦いの狼煙は上げているのだろう?ならば殺るだけだ」

 

 相手がなにを思おうがどんな信念や哲学を抱こうが、敵対して殺し合いをする関係性になった以上は殺るだけ。

 チヒロさんもカイバも敵の過去について全くと言って興味を抱いていない。

 

「アリーシャ、仮にベルベット並になにかがあった場合……お前はヘルダルフを敵として見れるか?」

 

「それは…………」

 

 ヘルダルフは災禍の顕主で戦争を裏で手引きしていて師匠達に戦争推進派を議会を煽られていた。

 もし仮にヘルダルフがベルベットの様になにかがあったとして、それを知ったとして私はヘルダルフを敵として見ることが出来るか?アイゼンに問われて私は答える事が出来なかった。少なくともエレノアはもともとは聖寮側の人間だが真実を知った後は自分の意志で……。

 

「安心しな、アリーシャちゃん……今の災禍の顕主はベルベットとは違え……災禍の顕主って呼ばれる奴は大抵は勝手に絶望して私利私欲で動くやつだ」

 

「……私も最終的には自分の為に勝手に戦ったから、気にしない方がいいわよ」

 

 ザビーダ様がフォローしてくれてベルベットは気にしないことを言う。

 ライラ様と一緒に居るのは先代の導師の可能性が高い……だが、ライラ様は現在はスレイと一緒に居る。その先代の導師は死んでしまった可能性が高い。ライラ様が誓約の都合上語ることが出来ないことならそう認識しておくしかない。

 

「敵が敵ならば、話を聞く必要性は無いって…………」

 

「感動的だ。だが無意味だ……そんな言葉があるぞ」

 

 話を一切聞くつもりが無いゴンベエに呆れているエドナ様にチヒロさんは嫌な言葉を教える。

 なにがあろうが興味を抱かない。好きの反対は嫌いでなく最初からなにも興味を抱いていない。例えヘルダルフに悲しい過去があろうともゴンベエはヘルダルフとマオテラスを切り離す。

 

「……この辺だな……」

 

「……なにかしら……物凄く力を感じるわ」

 

「ベルベット、お前だけじゃない……全員感じているみたいだな」

 

 ゴンベエが見るつもりは無くて進んでいくので追いかけていくと強い力を感じる。

 ゴンベエだけでなくベルベットやアイゼン達も感じている。

 

「大きな地脈点に辿り着いたみたい……ん?」

 

「どうかしたの?」

 

「……ここ、1回通った場所に近い?」

 

 ゴンベエが背中の剣を抜いたと思えば闇を纏わせるのだが直ぐに動きがピタリと止まった。

 以前の様に次元に穴を開けて地上に出るだけなのだが、ゴンベエはこの場所を知っているというが……正直な話だが地脈の中は右を見ても左を見ても同じ光景なので違いがわからない。

 

「過去に通ったとなれば海の底ってことはねえわけだ」

 

「遺跡に繋がってる可能性が高いな……零次元斬!!」

 

 一先ずはゴンベエが次元に穴を開ける。

 無事に穴を開ける事が出来たので飛び込もうとするのだがピシリとゴンベエが攻撃していない空間に亀裂が入り穴が開いた。

 

「お前、雑に次元弄くるなよ……」

 

 ゴンベエが無理矢理次元に穴を開けたから生まれた穴を見てチヒロさんは呆れる。

 これ以外に脱出する方法は無いので私達はゴンベエが開けた次元の裂け目に入り地上に出た。

 

「……っ」

 

「なにこれ……重い、物凄く重いわ……」

 

 地上に出ると凄まじくどんよりとした空気が、重い穢れの領域を感じ取った。

 まだ未熟だった頃に、はじめてエドナ様に出会った時に現れたアイゼンが発していた穢れの領域よりも遥かに重い穢れの領域。

 ベルベットも直ぐに気付きエドナ様は苦しそうな顔をしている。

 

「ここは……………天族実験場、いや、カノヌシを眠らせない為にする場所だったか?」

 

 何処かで見覚えがある場所だと記憶の中を探ればメルキオルがカノヌシに眠りにつかせない為に穢れを送り込む場所だった。

 名前はカースランド、だったか?確かに過去に来たことがあるのだが、こんなにも重い穢れを感じる場所では無かった筈だ。

 

「アイゼン、ザビーダ……まさかだとは思うがアレから放置してたのか?」

 

「……オレの知る限りでは手を付けていない」

 

「ここにはドラゴンパピーじゃなくてドラゴンが居るからな、穢れの領域も半端じゃねえしドラゴンはマオテラスの浄化の炎じゃ浄化出来なかった…………そもそもでここは孤島だ。1000年前からな」

 

 カノヌシに穢れを送り込む場所でアレ以降になにかをしたのか聞くゴンベエ。

 2人はなにかをした記憶は無いと言う……だが、前に来たときよりも遥かにどんよりとした穢れの領域を感じる。今まで感じた穢れの領域の中では最も強い。

 

「このままオカリナを使えば家に帰る事は可能だが…………ドラゴンか……」

 

「このまま放置するわけにはいかない。ここには何時でも来ることが出来る場所ではないんだ」

 

 ゴンベエがオカリナを取り出すが、今すぐに帰るわけにはいかない。

 あの時と同じならばドラゴンになっている天族の方々が居るはずだ。昔の私達ならば助けることが出来なかったが、今の私達ならばドラゴンになってしまった天族の方達を助けることが出来る。

 私が行くと言えばゴンベエ達は特に異論を唱えずに一緒に来てくれる。穢れの領域が予想以上に重い……ヘルダルフと対峙した時ですらこんな重さを感じなかったのに……。

 

「ふぅん……どうやら凡骨が愚かな事をやっているようだな」

 

「……どういうことだ?」

 

「この土地から力を吸い取っているのを感じれる」

 

「それは……元々そういう場所だからでしょ?」

 

 カイバがなにかに気付いた。この地から力を吸い取っていると教えてくれた。

 過去にここに来た際にカノヌシが眠りにつかないように穢れを送り込む為にドラゴン化された天族を閉じ込めていた。穢れも力の1つと考えたとしてもなんらおかしくはない。元々はそういう場所だから力を吸い取っていると言われても違和感をベルベットは感じない。

 

「そういう場所だからじゃねえ。いったい誰がだ?」

 

「それは、カノヌシ……………は、もうこの世界に居ない……」

 

 穢れを送り込むの反対の吸い取るを行っていてもなにもおかしくはない。

 そう考えると呆れるカイバとチヒロさん。そういう場所だからという認識でなくいったい誰が?という話になった場合は、カノヌシが眠らないように穢れを求めている。しかし肝心のカノヌシはゴンベエの力によって人間になってしまいベルベットの弟であるライフィセットとして人生を謳歌した。

 

「五大神?」

 

「あの子以外はまた眠っちゃってるわよ」

 

 マオテラスとカノヌシを除いた五大神の誰かが穢れを求めているのかと考えるがグリモさんがまた寝ていると言う

 

「……ヘルダルフか?」

 

 今の時代で穢れを求めている者が居るのならば地脈の力を求めている者が居るのならば災禍の顕主か導師ぐらいだ。

 ここは孤島で船を使わなければならない、スレイがここに来ているのならばこれほどまでに重い穢れの領域を発しているのはおかしい。となるとロクロウや師匠の様に人としての自我が残っているタイプの憑魔で師匠はゴンベエが岩に置いてきた。ヘルダルフがここにいるのかもしれないのだと考えに至る。

 

『貴様等、何故ここに!!』

 

「お〜お〜言うてたら出てきてくれよったか」

 

 穢れの領域内部で姿は現していないが声だけはハッキリと聞こえる。

 間違いない、コレはヘルダルフの声だ……姿が見当たらないのだがヘルダルフはこの島に潜んでいる。

 

「……聞こえるか、悪の根源たる凡骨よ…………特別だ、今回は貴様を見逃してやる!」

 

「なっ、なにを言っているんだ!?」

 

「……ここで一戦始めるという事はそこの名無しの権兵衛以外にもこのオレや伝説の男と戦わなければならん。貴様が何処ぞの誰かは知らんし興味も抱かん!だが、オレがロードを刻む事を邪魔するのであればやるのみだ。言っておくがかなりの温情なのだぞ?貴様がこの土地から力を得て蓄えているが、その程度では全くと言って名無しの権兵衛やこのオレには及ばん。貴様が残りの寿命を1時間にしたとしても絶対に勝つことが出来ぬ圧倒的なまでの力を奴は備えている」

 

 特別だとカイバがヘルダルフを見逃そうとする。

 ここで戦えば全てが終わることが出来る、それなのにカイバは見逃そうとする……例えなにをしようがゴンベエに絶対に勝つことが出来ないことを知っているから。ゴンベエと敵対した場合、どういう道筋を辿るのか……少なくともなにもしていない状態ではゴンベエはヘルダルフを余裕を持って倒せている。

 

『貴様、我を舐めるのも大概にしろ!』

 

「舐めてはいない、事実を言ったまでだ!このオレを相手にして勝てる人間など数える程度だ」

 

「いや、居るのかよ……秋山亮とかか……あ〜悪の根源、今回は見逃してやる。コイツだけじゃなくてオレ達を相手にすれば絶対に負ける」

 

 チヒロさんも今回は見逃すという。絶対に勝つことが出来るからと余裕を持っている。

 確かにゴンベエが居れば勝てる……チヒロさんはカイバが居るからだけでなく自分も居るから絶対に勝つことが出来ると言う揺るぎない自信を抱いている。

 

『その自信、虚勢に変わるだろう……サイモン』

 

「…………」

 

『サイモン、奴等の側に居たのだろう。だったら見てきた筈だ、奴等の絶望や恐怖を!お前の幻術で囚えてしまえ!!』

 

 サイモン様に私達に攻撃をしろと言った。ゴンベエ達が危惧していた通り、サイモン様はヘルダルフからの刺客だった。

 ゴンベエの圧倒的な力を前に殴り倒すことが出来ないのだと私達を内側から崩壊させる為に送り込んできた……だが、なにもしない。ずっと無言になっていると思えば頭に手を翳して……鬘を外した。

 

「……ヅラだったのか?」

 

「ゴンベエが罰としてツルッパゲにしたのよ……幻術でヅラを作ってたわ」

 

 鬘だった事に気付いていなかったチヒロさん。エドナ様が説明をしていると視線がサイモン様に向いた。

 サイモン様がヘルダルフからの使者で私達を内側から崩壊させる為に来た。だったら私達を内側から崩壊させる幻術を知っている。

 

「アリーシャ、お前の師は憑魔だった。お前を裏で嘲笑い、戦争を手引きしていた……」

 

「……師匠(先生)は……私の事が嫌いだった。好かれる為に都合の良い言葉を使っていたかもしれない。でも……私にとって師匠であることには変わらない……確かに嫌いと言われて苦しかった。常に酷い目に遭わされて辛かった。師匠を裁かなければならないのは今でも心苦しい……現実は辛いことだらけ、お先真っ暗と言われればその通りかもしれません」

 

「では何故前に進む?」

 

「穢れがない世界を見たい、困っている人を見捨てることが出来ないから……私は辛い真実や現実を受け止めて自分の物差しを杖にしながらも例え闇の中であろうとも光に向かって歩いていきます」

 

「……それが生きると言う意味なのか……」

 

「貴様が何処の誰で過去になにをしていたのかはどうでもいいが……人間には前を歩く力を持っている。人間は歩みを止めぬ限りは無限の可能性を秘めている……貴様にとって100年程度瞬きをするのと同じだろう。ならばその力を見るぐらいには時間がある筈だ……」

 

「…………見てみたい…………」

 

『なに?』

 

「人間が例え残酷だと分かっていても前に進む力がどの様な未来を及ぼすのか、天族の様に力が無くとも歩めるのかを」

 

「馬鹿、根底が違う」

 

「なに?」

 

「無いから人は求めるんだ……火を起こす道具も水をいれる容器も服もなにもかも無いから求めたから生まれたんだ。お前が自覚していないだけで、人が前に進もうとする力で生まれたものは無数にある」

 

 人が前に進もうとする力は気付かないだけでそこかしこにある。

 ゴンベエがそう言えばサイモン様は鬘を被った。

 

『サイモン、貴様!!』

 

「もう1度だけチャンスをやろう、ここでお前を見逃してやる……なにを企んでいるかは知らないがお前ごときがこの男に勝てる筈が無い」

 

『人を舐めるのも大概にしろ!!』

 

「っ、カイバ、煽らないでよ!!」

 

 ヘルダルフが激昂すれば穢れの領域が強まった。

 エドナ様が穢れが苦しいのかカイバに煽らないように言うのだがカイバは全くと言って意見を聞こうとしない。

 

『我がなにもしていないと思えば大間違いだ!』




スキット ◯◯から人に

アリーシャ「カイバは……魔法使いなのか?」

海馬「いや、オレは決闘者(デュエリスト)だ……魔術師や魔法使いではない。あくまでも術を使えるだけに過ぎん……オカルト関連に安易に手を出せば痛い目に遭うからな」

ベルベット「何処の世界も同じなのね……」

海馬「オレの使っている物のもとが生きた人間を錬金術で金属に変えた物だ」

アリーシャ ベルベット「っ!!」

海馬「そう睨むな。オレが作ったものではない。生贄が当たり前の時代で古代のオカルト関連の道具は純粋な魂を素材にしている……実に厄介なものだ」

ゴンベエ「と言うか転生者(オレ達)自体がオカルトみたいな存在だろう」

ベルベット「あんた…………危ない事をしてるの?」

海馬「妖魔と戦う為に色々と研究はしているが魔女の様に魔導を生きていない。オレはアミューズメント産業の社長、子供の笑顔を求めている」

アリーシャ「研究って……具体的にはなにを……まさか生贄を」

海馬「人間化だな」

ゴンベエ「また難易度が洒落にならないぐらい高い分野を……」

ベルベット「人間化って……意味がよくわからないんだけど」

海馬「我等が国の歴史を辿れば人が化け物になった。神殿を作られて祀られて死後に神格化された。そういう伝承が幾つも残っている。だが、その逆は無いに等しい。純粋な妖怪が人になった。純粋な神様が人になった。純粋な精霊が人間になった。そういう話を聞かない…………故に人間にする……貴様も人から別の種族になったのだろう?人間にする実験をしていたかもしれんな」

ベルベット「私は……今のままでいいわ……もし純粋な人間に戻ったら今までの罪を忘れそうになるから」

ゴンベエ「……人間にするって……なに目当てだよ」

海馬「ふぅん、神への信仰が不要になる装置を作り上げた、それでもまだ神の権威を振るおうと威光を取り戻そうとする愚か者が多い。既に時代は神の時代ではない、人間の時代だ。まだ神の権威だ威光だなんだとほざくのであるのならば神を人に堕とす。人を馬鹿だ愚かだと言うのならば人の恐ろしさを思い知らせる……現状に満足して前に進もうとしない神など愚かだ」

ゴンベエ「お前……相変わらずだな……」

アリーシャ「カイバは危険な思想を……」

ゴンベエ「それはちげえよ……時代は変わるんだ。進歩するんだ。◯◯出来るのがスゴい!を当たり前にする事で文明が大きく進歩する。経済や文明が大きく進歩すれば◯◯出来るのがスゴい!じゃなくて◯◯出来て当たり前になる。オレが小さい頃には外国語の塾なんて無かったのに高校生の頃には塾は当然で英会話やプログラミングなんかの塾が当たり前にある……社長が危険な思想を持ってるんじゃない、社長が危険な思想を持ってるんだと思ってしまってるだけだ。社長自身は時代は移り変わるのを知っている、それに合わせて動いている。ただそれだけだ」

ベルベット「……他にはなにかやってるの?」

海馬「それ以上は企業秘密で深くは言えん。時と場合によっては実験しなければならない……なに、人の命を救う実験だ。気にするな」

ゴンベエ「会社の人工衛星とか作ってる奴がなにを言う」


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サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達FINAL(Part8)

※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。
そして忘れちゃいけない。ゼスティリアはサブイベントを全て攻略しなきゃ本編進まないのを。


オーバーキルって言葉を知ってるかい?


 

「……アレは……ドラゴンパピーか!!」

 

 ヘルダルフが姿を見せない。憑魔を使役してくるのかと思えばドラゴンパピーをはじめとする憑魔が現れる。

 1体2体3体……………

 

「ちょ、ちょっと待てよ!何体居るんだ!?」

 

 数え切れない程のドラゴンパピーや憑魔が出現した。ザビーダ様は数を数えようとするがあまりにも多すぎる。

 

「おい、こんだけのドラゴンパピーどうやって用意しやがった!!」

 

「ザビーダ様?」

 

「ドラゴンパピーはドラゴン化一歩手前の憑魔化した天族だ!ここには確かにドラゴンが居たが、ドラゴンパピーは居なかった!」

 

『ふっ……貴様等は疑問を抱かなかったか?大陸に居る天族の数の少なさを。天族の社を除けば憑魔化している天族以外を見なかった事を』

 

「まさか……大陸に居た天族を!」

 

『既に憑魔化して見分けがつかない者以外は全て集めドラゴンパピーへと変えた!!』

 

 大陸に全くと言って見当たらない天族達。

 イズチにも襲撃があったからなにかあると思えば……まさかヘルダルフが捕えていただなんて。

 

「どうするのよ、この数……1体を倒すだけなら簡単だけどこの数は多すぎるわよ!!」

 

 あまりにも多すぎるドラゴンパピーの群れ。

 ベルベットは籠手から剣を抜いて神依の様な姿に切り替わるが……

 

「待て、ベルベット!!」

 

 私が待ったをかける。

 

「私達とゴンベエ以外が攻撃したら死んでしまう」

 

 憑魔に、ドラゴンパピーになった天族の方々を攻撃したら普通に死んでしまう。

 ドラゴンをもとに戻すのは命懸けだがドラゴンパピーならば普通の浄化の力だけでもとに戻す事が出来る。私を器にしているエドナ様、ザビーダ様、サイモン様ならば攻撃しても問題は無い。ベルベットが攻撃したら穢れを喰らう事が出来るが、命まで奪ってしまう。

 ベルベットにその事を言えば聞こえるレベルで舌打ちをする。

 

「ふぅん、オレに喧嘩を挑むとはいい度胸だ……貴様が配下を使役すると言うのならばオレも最強の部下を、ビッグ5を呼び出すだけだ!!」

 

「社長、時系列云々が関係ねえ、よその世界に移動するの基本的にはNGだろう」

 

「最初にやらかしたのはあの仏4号だ!なによりも奴が詫びの品として渡してきたコレがある!!」

 

 カイバは1枚の黄金に輝くカードを見せた。

 

「それは……親友テレカ!不滅の友情を築き上げた者のみが持てるアイテム、1枚でも膨大なエネルギーを持ってて様々な奇跡をなんの代価もなく起こせる最強アイテムの内の1つ……なんで持ってやがる?」

 

「仏の奴が詫びの品として渡してきたんですよ……オレにもあります」

 

 チヒロさんがカイバの持っているカードについて語る。

 不滅の友情を持っている者のみが持てる奇跡のカード、ゴンベエの手にも握られておりカイバは天高く掲げる。

 

「見せてやろう!我が最強の部下!ビッグ5!八木俊憲!足立ミミ!ロイド安堂!墨村守美狐!高倉分多!!」

 

「またスゲえの部下にしてんな!!」

 

 カードが眩い光を放ち天を貫く。

 光の影響か、ドラゴンパピーがこちらに向かって襲ってくる事はしない……が、どんよりとした穢れの領域内部に居ると言う感覚は続いている。カイバが呼んだビッグ5と呼ばれる人達を待つのだが……1枚の紙がヒラリと舞い降りる。

 なにも現れないのでゴンベエが紙を手に取った。

 

「え〜っと……社長、あんたが急に居なくなったせいかあたち達が会社を回すのに忙しいのよ。妖魔退治ならホルアクティでも召喚して終わらせて!……申し訳ありません、今妖魔討伐部隊オベリスク・フォース育成中でして………………5人ともお前が居なくなったから色々とややこしくなったみたいでお前の呼び出しを拒んでるぞ」

 

「っぐ、あの凡骨どもがぁああああああああああ!!!」

 

『フハハハッハ!!頼みの部下に拒まれるとは情けない!』

 

「お前が言えた義理じゃねえだろう…………ん?」

 

 自慢のビッグ5が現れない事にカイバは激怒しヘルダルフは嘲笑う。

 ゴンベエはサイモン様に裏切られた身が言える義理では無いのだとツッコミを入れていると持っている親友テレカが光る。

 

「仕方があるまい……アイゼン、天国や地獄は存在しているか!」

 

「ものの例えで天国だ地獄だは聞いたことがあるが実際に行ったことはない!だが、過去に怨念が成仏した光景を何度も見たことがある。おそらくは天国や地獄は実在している!」

 

「ゴンベエ、冥道残月破は使えるか?」

 

「使えるには使えるけども、彼奴等は殺すのNGで浄化しなきゃなんねえよ!」

 

「あのドラゴンを冥界に叩き落とすのではない!冥界への道を切り開け!」

 

 アイゼンにあの世があるかどうかを、ゴンベエに冥道残月破を使えるかを問い質すカイバ。

 あの世はあるかもしれない、いや、以前にゴンベエがロゼを直接あの世に叩き起こした事を考えればあの世は実在している。

 

「貴様達は大きな冒険をしてきた筈だ!違いないな!」

 

「確かにしてきたけども、それがどうしたのよ!?」

 

「真の仲間との繋がりを触媒にする!殺しても問題は無い命はどれだ!!」

 

 殺しても問題は無い命がどれかとカイバは聞いてくる。

 天族がベースになっているドラゴンパピーは絶対にダメでどれがいいのかが分からない。

 

「あのゴースト系は怨念とかが集まって生まれたものだ!殺しても問題は無い!」

 

「社長、なにするつもりだ!?キョンシーでも作るつもりか?」

 

「説明は後だ。とにかく捕まえろ……3体で構わん」

 

 アイゼンが殺しても問題は無い憑魔を教えるのだがカイバの狙いが分からない。

 ゴンベエがカイバになにをするつもりか聞くがカイバは説明をしない。ゴンベエは鉤爪が付いたロープを取り出して怨念が集まり生まれた憑魔を3体捕まえてアイゼンが拘束系の術で束縛する。

 

「ベルベット、アイゼン、アリーシャ、思い浮かべろ!お前達が旅で共に戦った仲間を!貴様達との繋がりを触媒に召喚する!」

 

「召喚って……」

 

「こちらの世界に迷い人が現れた様にオレの世界でも迷い人が現れた。その時にこの術を教わった……少々改良したが使うときが来ようとはな」

 

 なにをするのかゴンベエは徐々に徐々にだがわかってきて冷たい目線をカイバに向ける。

 ゴンベエは背中の剣を抜いて怪しげな光を纏わせて拘束している怨念が集まって生まれた憑魔とは別のなにもないところに振るった

 

「冥道残月破」

 

 ゴンベエ曰く相手を直接あの世に叩き込む為にあの世への道を作り出し技をゴンベエは使った。

 その時だった、なにかは分からない。だが誰かが呼んでいる気がするのだと私とベルベットとアイゼンとビエンフーは冥道残月破で開いた冥道に手を伸ばす。

 

「ちょっと、アレってあの世への入口なんでしょ!?なに向かってるのよ!死ぬわよ!」

 

「決まっている、口寄せの術を使うためだ」

 

 冥道残月破で開いた冥道に向かう私達に慌てるエドナ様。

 チヒロさんがなにをするのか分かったのか見守ってくれており、私達は冥道の中に手を入れた。

 

「こんな時に…………こんな時に居てくれたら嬉しいのは……マギルゥ姐さんでフ!」

 

「こんな時に居てくれたら頼もしいのはロクロウだ!」

 

「こんな時に居てくれたら助かるのはエレノアよ!」

 

 ビエンフー叫び私が、アイゼンが、ベルベットがなにかを掴んだ。

 言葉で説明をするのは難しいがとにかくなにかを掴んだので放すことをせずに引っ張り上げればゴンベエが開いた冥道は閉じる。

 

「コレは……まさか」

 

 私の手に、ベルベットの手に、アイゼンの手に光が握られていた。

 いったいなんなのか、今までの事を振り返ればまさかと思っていると光は勝手に動き出して怨念が集まって生まれた憑魔に向かった。

 

「この術は人として最低な術だが効率の話をすれば最も効率がいい」

 

 カイバはそう言うと印を結ぶ。それと同時に術式の様なものが足元に展開された。

 

「ゆくぞ!口寄せ!卑遁・穢土転生の術!!」

 

 両手を合わせて地面に手をつける。すると光が怨念が集まって生まれた憑魔の中に入り、塵紙が集まる。

 まさかと思っていると塵紙が人の形を形成し……マギルゥが、ロクロウが、エレノアが出来た。

 

「む……なんじゃここは?」

 

「マ、マギルゥ姐さん!!」

 

「ビエンフー?……何故貴方がここに……いえ、それよりも私、若返ってませんか!?」

 

「いやいや、それ以前に俺達全員死んでる身だろう」

 

 塵紙が集い出来たマギルゥ達が声を発する。

 どうして自分がここにいるのか、どうして自分が若いままなのか、どうして死んでいる筈なのにこの世に居るのかを驚いている。

 

「貴様達をベルベット達との繋がりを触媒に肉体を全盛期としてあの世から口寄せの術で呼び出した…………理由は言わなくても分かるだろう?」

 

「まぁ、ピンチであるという事はわかるのぅ」

 

 目の前に大量のドラゴンパピーや憑魔達が存在している。

 戦う為に呼び出したのだとマギルゥは分かってくれる。しかしここでエレノアが待ったをかける。

 

「待ってください、マギルゥ達には穢れを焼き払う浄化の力がありませんよ!」

 

「騒ぐな……まだまだ手は沢山ある」

 

 浄化の力を持っていない、持っていなければ憑魔は殺さなければならない。

 そうなってしまっては本末転倒だと言うのだがカイバはまだまだやれると言い出すと左腕を掲げると左腕に装備している機械が光る。

 

「ヘルダルフよ!貴様がなにを企んでいるかは知らないが貴様には1つだけ誤算が、いや、不幸があった」

 

『不幸だと?』

 

「偶然にもこの世界に迷い込んだ最強の決闘者(デュエリスト)であるオレと言う存在に出くわしてしまった事だ!この穢れの領域が貴様の領域というのであればオレが土足で踏み荒らしてやる!!見せてやろう!」

 

 カイバはそう言うと右手に光を収束させる。

 

「全ての勝利よ、我が右腕に宿れ!最強決闘者(デュエリスト)のデュエルは全てが必然!ドローカードすら己の手により創造する!シャイニングドロー!!」

 

 眩い光を纏った右手で左腕の機械から出されるカードを引いた。

 カードの絵柄が見えないと思っていると眩い光がカードに向かってカードが出来上がる。

 

「先ずは1枚目!ティマイオスの眼!ティマイオスの眼よ、魔女と融合せよ!!」

 

「っな!?ドラゴンだと!?」

 

 カイバはカードからドラゴンを出現させた。

 出現したドラゴンはマギルゥに向かって飛んでいき、マギルゥを中心に渦が発生した。

 

「融合召喚!現われろ!呪符竜(アミュレット・ドラゴン)!!」

 

「乗っただけじゃない」

 

「融合名物乗っただけ融合だ」

 

 呪文の様なものが沢山書かれたドラゴンの頭の上に乗っているマギルゥ。

 周りには無数の呪符が浮かんでおり、エドナ様がただ乗っているだけだと言うとチヒロさんが問題無いと言い切る。

 

「シャイニングドロー!!2枚目!ヘルモスの爪!真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)と融合!可能性の黒き竜を伝説の力と共に一筋の剣となれ!現われろ!真紅眼の黒竜剣(レッドアイズ・ブラックドラゴン・ソード)!!」

 

「おお!今度は武器になった……なんだ……スゲえ力が出てくる」

 

「その剣はドラゴンの数だけ力が増していく……今まで死んだドラゴンの数も含めてな」

 

 2枚目のシャイニングドローでカイバは剣を作り出し、ロクロウに与える。

 

「貴様にはコレを貸し与えてやる」

 

 最後のエレノアになにをするのかと思えばカイバの右腕が光る。

 ドラゴンの頭の様なものが光っており赤き竜が出現してエレノアを貫いた……が、エレノアは死んでいない。エレノアの右腕に龍の尻尾の様な痣が浮かび上がる。

 

「ビエンフー、契約できますか?」

 

「勿論でフ!久しぶりにエレノア様の力になるでフよ!」

 

 マギルゥが既に戦える状態になっているので、ビエンフーの力を借りようとするエレノア。

 一瞬で契約を済ませるのだがゴンベエとカイバの懐が光っており、物凄い力を感じてしまう。

 

「中々にじゃじゃ馬な力だ……まだなにか戦士を呼び出すのに必要な触媒を持っているだろう!それを出せ!」

 

 ゴンベエとカイバの持つ親友テレカと呼ばれるアイテムがまだなにか出来ると訴えかけている。

 カイバが私達に戦士を呼び出すのに必要な触媒を持っているから出せと言うのだが心当たりが少ない。

 

「マスク・ド・美人から貰ったこのトロフィー?」

 

 ベルベットが野球をしてゴンベエの命を助けた際に貰った記念品を取り出す。

 

「人の酒を飲み干して酒の島に連れてってくれたジジイがゴンベエにお土産で残した酒が入った容器か?」

 

 アイゼンがお酒を飲み干された際に出会ったお爺さんの逸品が入っていた容器を取り出す。

 

「ミユキが渡した青色の薔薇か?」

 

 私はミユキに貰っていた世にも珍しい青色の薔薇を取り出す。

 

「ブッキーがお土産としてくれたサッカーボールか?」

 

 ゴンベエがフブキと本気でぶつかり合った時に託されたサッカーボールを取り出す。

 

「天王寺の奴が渡した妖聖剣のキーホルダーだな」

 

 チヒロさんがテンノウジさんが渡したキーホルダーのレプリカを取り出す。

 ゴンベエとカイバの持つ親友テレカが一筋の光を示したと思えば今まで出会った記念とも言うべき品が勝手に動き出して1つに纏まる。ゴンベエの親友テレカとカイバの親友テレカが更に強くに光ったと思えば空からも3つの光が流れ出る。2人の持っている親友テレカと同じ奇跡を起こす光だ。

 

「現われろ!導かれし愚者達よ!!」

 

 カイバがそう叫ぶと光の玉が降臨する。

 

「ったく、仕方がないわね」

 

 1つの光の玉はマスク・ド・美人になった。

 

「お久しぶりです…………っち」

 

 1つの光の玉はミユキになったのだが何故かベルベットを見て舌打ちする。

 

「いや〜……いいのかな?」

 

 1つの光の玉はフブキになった。

 

「ハッハッハ、なんやオモロい状況やな」

 

 1つの光の玉がテンノウジさんになった。

 

「……来ねえな……まぁ、いい。見ての通り絶体絶命の状況だ……突破するのに力を貸してくれ」

 

 ゴンベエは親友テレカを見せるとミユキとマスク・ド・美人とフブキも親友テレカを取り出す。

 

「確かにこの人達ならばドラゴンパピーとも渡り合えますが肝心の浄化の力を」

 

「俺、浄化の力やったら持っとるで?」

 

 彼等がここに来てくれた事はとても頼もしい。しかし肝心の浄化の力を持っていない。

 ここで殺してしまえば本末転倒だとエレノアが言おうとするのだがテンノウジさんが腕になにかを装備したと思えばお土産にくれた剣のキーホルダーを装備した物に刺した。

 

「憑依!剣武魔神!不動明王!我に力を!」

 

『雷・轟・電・撃!フドウ雷鳴剣!!』

 

「姿が変わった?」

 

「アレは不動明王、煩悩即ち邪気を断ち切る仏様です……浄化の力と光、つまりは雷の力を携えております」

 

 テンノウジさんが姿を変えたと驚けばミユキが説明をしてくれる。

 あらゆる属性に強い光属性、雷の力を携えており浄化の力を持っている……そもそもでテンノウジさん自身が穢れを浄化する事が出来る。

 

「で、肝心の僕達はどうする?殺しても問題は無いタイプだけは厳しいよ」

 

「はぁ…………まぁ、呼び掛けに応じて来た以上は力は貸すわ」

 

『ゴッドマキシマムマイティX!』

 

 ミユキ達がまだ浄化の力を持っていない。

 フブキが浄化の力無しならば殺しても問題は無いタイプの憑魔を倒すべきかと考えておりマスク・ド・美人は道具を……いや、ゴッドマキシマムマイティXを握っていた。

 

「なんか出てきたぞ!」

 

「気をつけろザビーダ。そいつはパナシーアボトルはおろかオメガエリクシールでも治療することが出来ない病原菌を持ってやがる!」

 

「違う!アイゼン、アレは……ゴッドマキシマムマイティ!ダンクロト神の力だ!」

 

 出てきたものを見て驚くザビーダ様。

 マスク・ド・美人は危険極まりない病原菌を持っているのでアイゼンが注意を促すが違う。アレはダンクロト神の力だ。

 

「知っているの?」

 

「まだゴンベエが紙芝居やコーラ売りで生計を立てていた頃にゴンベエが紙芝居に出てきた神様です……能力を作る能力を持っていて自分の足の速さやジャンプ力を自由に設定する事が出来るのです!」

 

「はぁ!?そんなのありなの!?」

 

 ゴンベエが書いていた紙芝居に出てくるダンクロト神のゲンムと呼ばれる力の最上級、ゴッドマキシマムマイティ。

 あまりにも無法が過ぎるがゴッドと名のついているだけの反則的な能力を持っている。

 

「能力を作る能力って言うのは正確にはちょっと違うわね。ゴッドマキシマムマイティXは世界のあらゆる概念を変え、どんなゲームも自在に生み出せるゲーム……グレードビリオン」

 

『マキシマムガシャット!ガッチャト!ふーめーつー!最上級の神の才能!クロトダーン!クロトダーン!最上級の神の才能!クロトダーン!クロトダーン!』

 

「変身」

 

『ゴッドマキシマ〜ム!エ〜ックス!!』

 

「今回コイツに喧嘩を売った何処ぞの馬鹿……あんたが仮に人生を鍛えるのに注ぎ込めばレベル200は行けるわ……………そして私の今のレベルは1000000000よ!!」

 

 ゴッドマキシマムマイティXでダンクロト神の力を纏いゲンムに変身した。

 ヘルダルフに対して挑発的な行為を行いながらもフブキ達に浄化の力を与えたと思えば私達にも力を与える。

 

「邪気を吸い取る力を与えたわ。浄化出来ないって思ったら邪気を吸い取って自分の中で浄化しなさい」

 

「ちょっ、ザ・クロス版の浄化のシステム」

 

「別にいいじゃありませんか!!」

 

 浄化しきれない時を対策して私達にも特別な力を与えた。

 フブキがなにかを言っているが、ミユキがそれを遮った。ザ・クロスがなんなのかは分からないが浄化の力の助けになるのは心強い。

 

「黛さん……今ここが力の出し時ですよ……力を貸してくれるって言ったの嘘なんですか?」

 

 ここまでなにもしていないとチヒロさんに力を貸すようにゴンベエが言う。

 

「……ま、そういう約束だからな……」

 

 チヒロさんがそういうと無数の時計が出現してチヒロさんに集まっていく。

 

「それ、ズルいにも限度がありますよ」

 

「そんなんありなん?」

 

「やっぱりそれ持ってたわね!」

 

「リュウソウケンとか使えたのはそういう事か」

 

「オレ達の持つ親友テレカ以上の奇跡を起こすか」

 

 コレが最後だからかチヒロさんは力を貸すことを決めれば腰にベルトが巻かれた。

 

 そのベルトを見たミユキがテンノウジさんがマスク・ド・美人がフブキがカイバが何なのかに気付いた。

 

 

「変身」

 

 

 

 チヒロさんが腰に装填されたベルトに触れた。

 

 

 

 

『祝福の刻!』

 

 

 

 

 

 

『最高!』

 

 

 

 

 

『最善!』

 

 

 

 

 

『最大!』

 

 

 

 

 

『最強王!!』

 

 

 

 

逢魔時王!(オーマジオウ)

 

 

 

 

 

「…………黛さん……薄々そうなんだとは分かってたけども、マジすか……」

 

「祝え」

 

「え?」

 

「ニノミヤ、祝えと言っているんだ」

 

「はぁ……祝え!時空と次元(世界)を超え、過去と未来と現在()をしらしめす絶対にして究極の時の王者!その名もオーマジオウ(逢魔時王)!新たなる歴史が今、この世界に刻まれる!」

 

 オーマジオウに変身したチヒロさんをゴンベエは祝福した。




エドナ「やめて!穢土転生で現世に戻ったエレノア達や今まで集めた触媒によって集まった愚者達にドラゴンパピー達が浄化されたら貴方の野望が潰えちゃう!お願い!死なないでヘルダルフ!あんたが今倒れたら人類憑魔化計画はどうなっちゃうの?まだ奥の手は残ってる5つの首の竜を見せつけるのよ!ここを乗り切ればゴンベエ相手に寿命で乗り切れるわ!次回、ヘルダルフ死す!」

海馬「デュエルスタンバイ!!!」

海馬の術技

口寄せ 卑遁・穢土転生の術

説明

海馬のいる世界(ぬらりひょんの孫)に迷い込んだとある卑劣な迷い人から教わった卑劣な口寄せの術。
本来であれば口寄せしなければならない人のDNAが必要だがゴンベエに冥道を開かせてベルベット達が紡いだ縁を触媒にしてエレノア達をあの世から呼び寄せた。

シャイニングドロー

説明

最強の決闘者のみが使えるその時に応じて必要な物を創造するドロー。
今回作り上げたのはティマイオスの眼とヘルモスの爪でティマイオスの眼でマギルゥに戦える力と浄化の力を、ヘルモスの爪でロクロウに武器と浄化の力を与えた。ボツ案としてティマイオスの眼でアリーシャが融合して竜騎士アリーシャになる予定だった。


後2話でこのサブイベント終わることが出来る……


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