Summer Pockets 小説集 (京四郎)
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紬の結婚式


原作中に紬と羽依里がしていなくて、させてあげたかった事を形にしました。
拙い文章で申し訳ありませんが、読んで楽しんで頂けたら幸いです。

(以下本文、未クリアの方閲覧注意)


それはとある八月後半の夜……

わたしとハイリさんが、灯台で一緒に暮らし始めて、何日か目のことでした。

 

「なぁ、紬……そういえば、一つ忘れてた事があるんだけどさ」

「はい、なんでしょう?」

「一生分のイベントをするだろ?だからさ……」

「むぎゅ~?」

ハイリさんは、なんだかとっても話しにくそうにしています。

時々口をぱくぱくさせて話そうとするのですが、言葉が出てこないみたいです。

「ええと……これは70年分とかじゃないんだけどな?その、結婚式、とかもあるよなぁって……」

「むぎゅ!?そ、そうですよ!70年も毎年結婚式をしてたら大変です!」

「そ、そうだよな、一回でいいよな?」

「もちろんです、それに毎年結婚式って誰と挙げるんですか」

「え、そりゃ紬と……」

「むぎゅ~……それは、うれしいですけど……でも、70回もするものじゃないとおもいますよ?」

 

ハイリさんの言葉にものすごく動揺してしまって、照れ隠しもあって、あわててしまいました。

目の前に居るハイリさんは、顔を真っ赤にしてます。

きっとわたしも真っ赤になっちゃってます……むぎゅ~……

 

「で……紬はどうしたい?俺はしたいと思ってるけど、こればかりは紬の気持ちもね」

「えと、ですね……結婚式はちょっと……」

「恥ずかしい?」

「それもあります、けど、でもそれ以外もあります……えと……」

「……うん、無理しなくて大丈夫だよ、紬」

「はい……」

困っているわたしを見ていたハイリさんが、苦笑いしながらわたしの頭を撫でてくれました。

それがうれしくて、でも申し訳なくて、わたしは短く返事だけして撫でられ続けます。

 

本当は、わたしも、ハイリさんと結婚式を挙げたいです。

でも、わたしは、夏が終わったら、かえらなければいけません。

 

それに、ツムギちゃんが帰ってきた時に、わたしがハイリさんと結婚してしまっていたら、ツムギちゃんにも、周りのみなさんにも、ハイリさんにも……みんなに迷惑がかかってしまいます。

ツムギちゃんは灯台守さんの事が大好きでしたから、ハイリさんと一緒に居なければならなくなったら、困ってしまうと思います。

あと……もしツムギちゃんとハイリさんが、そのまま一緒に過ごしていたら……たぶん、きっと、わたしは嫉妬してしまいます。

 

だけど、そう言ってくれた事は、思ってくれた事は、すごくすごくうれしかったので。

 

「あの、ハイリさん……」

「ん?」

「ありがとうございます……だ、大好きです」

「あぁ……俺もだよ」

うれしかったので、わたしは笑顔でお礼を言います。

きっと、ちょっとまだ顔は赤かったでしょうけど。

ハイリさんも笑顔で返事をしてくれました。

 

 

……

…………

………………

 

 

わたしは、読んでいた日記を閉じます。

懐かしくて温かくて大切な……あの夏の思い出。

ずっとツムギちゃんを探して、夏を繰り返して、ハイリさんとシズク、二人も大切な人と出会って、ハイリさんと恋人になって……一緒に過ごして。

ツムギちゃんの代わりではなくて、自分のやりたいことを見つけて、いっぱいかなえて、わたしとして過ごしたあの夏。

 

「紬ー!準備できたかしら?」

「あ……はい!」

返事をすると、灯台の下の方からシズクが上がってきました、青い色のドレスを着てとっても綺麗です。

「シズク、すごくきれいですー!」

「あらあら、ありがとう。でも今日の主役さんの方が、綺麗で可愛いと思うわよ?」

「あ、ありがとうございます……むぎゅ……」

そう言ってシズクがわたしの服装を見てすごく嬉しそうに笑います。

きれいとか可愛いって言われるのは、やっぱりちょっと、はずかしいですね……

「やっぱり、羽依里君にはもったいないわねぇ。私がもらっちゃおうかしらー?」

「わっ……だ、だめですよぉー!」

シズクがものすごい勢いで抱きついてきて、思わず大きな声を上げてしまいました。

そのすぐ後に、階段の下から急いで駆け上がってくる足音が聞こえます。

「おい、なにかあったの……か……え?」

上がってきたのは……ハイリさんでした。

わたしとシズクがぎゅっとしているのを見て目を丸くしてます。

「こらこら、女性の部屋に入る時はノックしないとね、羽依里君?」

「……」

「……む、むぎゅー?」

「……あら?」

シズクの冗談を聞いても、目を丸くしたまま固まってしまっています。

こ、これはどうしたんでしょうか……

「……紬」

「むぎゅ?」

「……綺麗だ」

「むぎゅぅぅぅー!?」

「あらあら、紬のドレス姿に見とれちゃってた訳ね……ふふふ」

笑顔でシズクがわたしを放してくれました。

でもむしろぎゅっとしていてくれた方が良かったです、今はハイリさんに見られるのが何故だかとっても恥ずかしいです……

「そ、そういうハイリさんこそ、格好いいですよ!」

「そ……うか?」

「そうです、いつもの十倍増しくらいです!紬も思わず見とれちゃいます!」

「あらー、本当に羽依里君の事が大好きなのねぇ、紬は」

「そ、そうです!大好きですよ!」

「あ、ありがとうな、紬」

お返しに褒めるつもりがなんだか余計にはずかしい事言ってしまった気がします……むぎゅぅぅ~……

でも、ハイリさんのタキシード姿は本当に格好よくて……どきどきします。

「さぁ、二人とも。そろそろ時間よ。皆外で待ってるわ」

「そうだな……行こうか、紬?」

「はい……ハイリさん」

ハイリさんが笑顔で差し出してくれた手を、わたしも笑顔で手を伸ばして掴みます。

ハイリさんの手は、ハイリさんの優しさが伝わってくるようでとっても暖かいです。

二人で手をつないだまま、ゆっくりと階段を下りて、灯台の入り口のドアを開けました。

 

 

「「結婚おめでとう!」」

 

 

皆さんの祝福してくれる声が重なりました。

今日は、わたしとハイリさんの結婚式……あの夏にやれなかった、一番やりたかった事。

 

『おめでとう、紬……幸せになってね?』

 

一瞬遅れて、懐かしい声が聞こえた気がしました。

なんとなく、その声が誰なのかわかって……わたしは小さく、はい、と答えて、空を見上げました。

今日も、お日様はきらきら輝いていて、わたし達の時間を照らしてくれています。

 

 



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ヴェンダース・オリジナル

つい出来心で書いてしまいました。
いや、この名前ネタは初プレイ時から想っていたんだけど、まさかこういう形になるとは自分でも想わなかった。





あの70年分の夏の次の年の夏。

わたしとハイリさんとシズクは今年も灯台で一緒に過ごしていました。

 

「ハイリさん、実は面白いものをみつけたんです」

シズクが買い物に出かけて、二人きりで過ごしていた時のことです。

わたしは少しドキドキしながら、あるお菓子の袋をハイリさんに見せました。

「えっと……なんか紬の名前に似てる名前のお菓子だな。これは、飴?」

「はい、とっても美味しいんですよ。ハイリさんもおひとつどうぞ」

そう言ってわたしは袋の中にはいっている飴をひとつ、ハイリさんに手渡します。

まるで夏の日差しのような……そして、わたしの髪の色のような、金色の包装紙を開けるハイリさんを見ていると、よりドキドキが大きくなります。

「うん。美味しいな、これ」

「そーなんです、甘くて美味しいんですよ!」

この飴をハイリさんにあげた意味を伏せているのが、少し心苦しく思ってしまいますが、美味しいと喜んで笑顔を浮かべてくれたハイリさんの顔を見ていると、まるで自分の事のように嬉しくなります。

「あら、二人だけで何をしてるのかしら?」

「むぎゅっ!?」

「あ、静久。この飴を紬がくれてさ」

突然のシズクの出現にびっくりしてしまいました。

当のシズクは、わたしが持っている飴のお菓子の袋をじっと見て何かを考え込んでいます。

「……そっかぁ、そういう事なのね。紬ったら、奥ゆかしいんだから」

「むぎゅーっ!?」

これはいけません、シズクにはばれてしまったようです。

大変です、シズクがとても良い笑顔をしてわたしを見ています。

これはわたしにとって、とんでもなく恥ずかしくなるようなからかわれ方をされる時の前触れです、きっとそうです、何回もこの笑顔を見てます。

「どういうことだ?静久」

よく解らないといった顔でハイリさんがシズクに聞いてしまいました。

「あのね、パイリ君。このお菓子のキャッチフレーズはね、『こんな素晴らしいキャンディーを貰えるのは、貴方が特別な存在だからです』なのよ……ね、紬?」

先程より良い笑顔を浮かべてシズクが答えます。

やっぱりシズクは知っていました。

そしてこういう時のシズクはやっぱりちょっと意地悪です……むぎゅぅぅぅ……

「え?あ、つまり……紬さん?」

ようやく意味がわかった……わかってしまったハイリさんは、わたしを見ながら顔を少しずつ真っ赤にしていきます。

わたしも、もうすでに、ハイリさんに負けないくらい、きっと真っ赤になってしまっています。

「それも、ねぇ?私が居ない時にこっそりパイリ君にだけなんて……仲が良いのは良い事だけど、寂しいわぁ。でも、それだけパイリ君の事が特別な存在だって」

「むぎゅぅぅぅぅー!」

わたしはいたたまれなくなってしまって、思わずお菓子の袋を落としながら、シズクの話の途中でその場から逃げ去ってしまいました。

 

 

 

「あっ、紬!?」

「あらあら……ふふふ」

「えっと……この反応って事は、紬も意味を知ってた、んだよな?」

「そういう事になるわねぇ」

「特別な存在、か……」

「まぁ。パイリ君も浸っちゃって……妬けちゃうわねぇ?」

「あ、いや……うん、そんなんじゃなくて」

「ふふふ。あぁ、そういえばそのお菓子……昔は別の名前だったらしいわよ。今通ってる大学のドイツの留学生が、あのお菓子が好きで、前に貰った事あるの。その時聞いたんだけどね……」

 

 

 

どれくらい走ったでしょうか。

灯台からはそこまで離れていないはずですが、なんだかとても気恥ずかしくて疲れてしまいました。

わたしは近くにあった少し大きな木の下で座って一休みする事にしました。

 

ちょっと冷静になって考えてみます。

すでにハイリさんとわたしは、特別な存在……なんですから、恥ずかしがる必要なんてないはずです。

ただ、少しだけ、ハイリさんに、特別な存在ですよって伝える事になるのかなって考えたら、恥ずかしくなってしまっただけです。

そもそも、それはシズクの言っていた通り、ただのキャッチコピーなので、深く考える必要もなかったのではないでしょうか?

味が美味しかったから、ハイリさんにもあげたいと思ったのもあります。

「……紬?」

きっとそれで押し通せば、シズクの意地悪にも胸を張って反論できたはずです。

……いいえ、シズクが意地悪だったのではなくて、わたしが考えすぎてしまったのが良くなかったんです。

シズクは悪くありません。

「……紬さーん?」

そうです、すでにハイリさんとわたしは、恋人なんですから、これくらいで恥ずかしがっていてはいけません。

堂々と、「そうです、特別な存在なんですよ!」と胸を張って言えば良かったんだと思います。

いえ、これからは胸を張ってそう言います。

「……つーむーぎー?」

「むぎゅっ!?」

自分を呼ぶ声に気付いて顔を上げると、そこにはハイリさんが心配そうな顔をして立っていました。

「ハ、ハイリさん!いつの間に!」

「いや、だいぶ前から居たんだけど。ずっと呼んでたし」

「そ、そですか。それはもうしわけないです……」

もう、今日は恥ずかしい事記念日です、今決めました。

「えっとな。はい、これ」

「むぎゅ?」

ハイリさんがわたしの手を取って何かを手渡しました。

これは……私がさっきハイリさんにあげた飴です。

「あ……これって……」

「そういう事だよ。俺にとっても紬は特別な存在だからさ」

ハイリさんはずるいです。

時々、すごい事をさらっと口にしてしまいます。

ものすごく真剣な目で、わたしを見つめながら。

「は、はい…ありがとございます、ですよ?」

きっとさっきより真っ赤になりながら、そして恥ずかしさに一瞬だけ目をそらしてしまいましたが、ちゃんとハイリさんの目を見つめ返して答えます。

恥ずかしいけど、すごく、すごく、うれしいです。

「それと、さっき静久から聞いたんだけど、この飴って昔は、オリジナルの部分が……え、えひと?……とか言う名前だったんだってさ」

「えひと、ですか?」

「うん」

首をかしげるわたしにハイリさんは微笑んで答えます。

「意味はドイツ語で、『本物の』……って感じらしい。だからさ、これをあげた紬は、俺にとって特別な存在で、『本物の』、紬・ヴェンダースなんだよ。改めてそれを伝えたくて、さ」

「あ……」

やっぱりハイリさんはずるいです。

わたしの事を知ってる上で、大好きな恋人にこんな事言われたら、もっともっと好きになっちゃうに決まってるじゃないですか……

「って訳で、今日からこのお菓子の名前は、俺達の間ではヴェンダース・オリジナルって事にしよう」

「な、なんですかそれ……わたしは飴じゃないですよぉー?」

思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまいます。

「紬ー!パイリくーん!」

「あ、静久も来たな……行こうか?紬」

「はい!」

ハイリさんが差し出した手を掴んで立ち上がります。

そしてそのまま、手をつないだままで、ハイリさんとわたしは静久の方へ走っていきました。

 

 

 

 



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赤と緑の祭り

鳴瀬しろは誕生日記念のSSです。
ネタはあるけれど割と即興で書いてるので粗が多いかもしれませんが、お楽しみいただければ幸いです。


「しろは、誕生日おめでとう」

「ありがとう、おじいちゃん」

そんな挨拶を交わす朝。

今日は六月八日、私鳴瀬しろはの誕生日だ。

とは言っても誕生日でもやる事は変わらない。

学校に行き、帰ってきたらいつもの釣り場に出かけて釣りをして、ほどよく釣れたら帰る、そんな普通の日常……今日もそんな日になるはず。

 

「……」

私は釣り場で釣り糸をたらして海をじっと見つめる。

こうしてると去年の夏の事が思い出されてくる。

鷹原羽依里、去年知り合ってなんだかんだ一緒に遊んで、仲良く……なって、好き……になった、恋び……と?

「でも……」

羽依里は島から離れた場所に住んでいる。

前に少年団の代表として手紙を送ってから、時々手紙でのやり取りや、電話もたまにしたりするけど、会うのは……

「寂しいな……」

「どうかしたのか、しろは?」

「ひゃぁ!?……の、のみき……驚かせないで」

「す、すまない……そんなに釣りに集中していたとは思わなくてな」

「あ……ううん、違うよ。大丈夫」

……そ、そんなに私、羽依里の事、集中して考えてたかな?

「なら、いいんだが……それより今日、これから少し時間が空いてないか?」

「え?……うん、特に予定はない、けど」

なんだろう、悪い事じゃないとは思うんだけど、幼馴染と言っても去年まではかなり疎遠になってたからちょっとまだ身構えてしまう。

おじいちゃんに知られたら、まだぼっちが……とか言われちゃうんだろうなぁ。

「そうか、それなら良かった。じゃあ、これから一緒に秘密基地に来てくれないか」

「うん。解った」

 

 

秘密基地に来たのもだいぶ懐かしい気がする。

去年の夏休みから先は、あんまりここには来てなかったからかな?

「あ、来たわね」

「主役の登場だな」

「よぉ、しろは」

「こんにちは、しろぱさん」

秘密基地には、蒼に天善君に良一君に、何故か水織先輩も居た。

それだけじゃない、他にも二人。

「お久しぶり、鴎だよー!」

「わたしも久しぶりです、シロハさん」

「な、なんで久島さんとワタアメさんも?」

びっくりして目を丸くする私の肩を、後ろにいたのみきがポンっと叩いて笑った。うぅ?

「それだけじゃないぞ……おーい」

「もう出ていいのか?……あ、えっと……こ、こんにちは」

「えっ……は……はは……は、羽依里ぃ!?何で居る!」

な、なにこれ……なに?

まって、何がどうなってるの?

なんであなたがここに居るの!?

「なんて声出すんだよ、しろは」

「だ、だって羽依里……え、本物?」

「俺が他に何人も居てたまるか。いや、その……しろはに会いにな?」

「そ、それはうれしい、けど……」

「へぇ、やっぱり嬉しいのね、しろは?」

「う、うぅ……うれしく、ない」

蒼がにやけてこっち見てる!

蒼だけじゃない、みんななんか必要以上に笑顔がやさしいよ!?

「あー……俺はすっごく嬉しい」

「わ、私はうれしくない……」

ううん、本当は嬉しい。

「そっか……でも俺は嬉しいんだ」

私も嬉しいよ、羽依里。

「そ、それは羽依里の勝手……うれしく、なんて……」

なのになんか素直に上手く言えない。

「じゃあ、俺が勝手に喜んどく、嬉しいから」

「うぅぅ……どーすーこーいーっ!」

久々にどすこいって言った気がする。

でも、みんなその言葉が結構きつい言葉だって解ってるのに、みんな笑顔のまま私達を見てる。

羽依里も笑ってる……うぅぅ、きっと本当は嬉しいってばれちゃってるよ。

「……ごめん、きつく言い過ぎた」

「大丈夫、しろはから言われるのは慣れてるから」

色々頭の中がぐるぐる回ってもう謝るしかなくなった私をフォローしてくれる羽依里。

……でも、フォローになってるのかな?これ。

「二人はやっぱり仲が良いんだねぇ」

「はい、タカハラさんは灯台の掃除も時々手伝ってくれたりした良い人ですから。シロハさんは、改めて言わなくてもです!」

「そうね、離れてる月日を感じさせない見事の夫婦漫才だったわ」

「う、うるさいな!あと、夫婦じゃない!」

「え、蝶番の儀式したじゃない?」

「あ、ぅ……そ、それは……」

あれは仮初だったから……仮初、うん。

「おい、お前達。それ以上主役をいじめるな。話をすすめるぞ?」

「……話?」

笑いながら私達の仲をはやし立てるみんなを制してのみきが奥にいって何かを持ってきた。

これは……ケーキ?

「せーの……」

「「「誕生日、おめでとう!」」」

いきなりな展開にぽかんとしてる私を笑顔と拍手でみんなが祝福してくれる。

そっか、みんな覚えててくれたんだ。

「あ、えっと、その……あ、ありがと」

こんなの照れる!すっごく照れる!……でも、それと同じくらい嬉しい。

「さて、じゃあ次はあれだな、誕生日と言えば」

「プレゼントだな」

「そですね」

「まずはもちろん羽依里からね?」

「俺からかよ!?」

蒼に背中を押されて羽依里が私の方へ二・三歩前へ出てきた。

一瞬、去年の夏の終わりの事が思い出されて私の心臓が少し早く脈打ってるのが自分でも解る。

「え、ええと……誕生日おめでとう、しろは」

「うん……ありがと、羽依里」

羽依里がくれたのは、綺麗に透き通る石が連なって出来たブレスレットだった。

 

その後はみんな、かわるがわる、思い思いのプレゼントをしてくれた。

ワタアメさんは可愛いぬいぐるみを。久島さんは外国の綺麗なキーホルダー。

のみきと水織先輩からは、ビーチサンダルと日焼け止め、釣りの時使えって事かな?

すごく実用的だった。

良一君と天善君のは……うん、どっちかっていうと自分達の趣味に走った感じかな?

蒼からは蝶をモチーフにした髪留め、これも可愛かった。

こんなにいっぱい人に誕生日を祝われたのはいつ以来だろう……とても嬉しい。

 

「それとさ、しろは。実はもう一つあってさ」

「え、な、なに!?」

身構える私にみんながちょっと困ったような笑顔で並んで一斉に何かを差し出した

「これ、は……スイカバー!?しかもこんなに沢山!?」

「うん、さっき渡したプレゼントとは別に、やっぱしろはが喜ぶのはこれかなと思ってさ」

「あたしも、そう思って持ってきたんだけどね?」

「皆、考える事は同じだったようだな」

「スイカお姉さんでしたから、シロハさんは」

「こう重なってしまって思わず笑ってしまったがな」

「まぁ、俺らがしろはのスイカバー好きを知ってるのはともかく、まさか水織先輩や久島が知ってるのは意外だったがな」

「あら、私は紬に聞いたのよ」

「私も羽依里にスイカバーが好きな子が居るって前に聞いてたからね。まさか恋人さんだったとは思わなかったけど」

「私のスイカバー好きどれだけ広がってるの!」

思わず言った私を見てみんな笑った。

なんかちょっと恥ずかしいけど、悪い気はしない、かな?

だから、私もみんなと一緒に笑ってしまった。

 

「ふふふ……みんな、ありがとう」

 

今年の誕生日は、とっても素敵な、眩いくらいに素敵な誕生日だった。



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とある後日談~ヤキモチを妬くヒロイン達~

何となく友人二名と会話している間に想いついたSS。
題して「各ヒロインがヤキモチを妬いたらどうなるか?」。
短編四編の連作のような感じになりますが、よろしければお付き合いください。

なお、各ヒロインとも、ルート後の恋人となった後と言う設定で描かれています。




~しろはの場合~

 

それはある日、羽依里とデートに街に遊びに来ていた時の事だった。

「しろは、待って」

後ろから羽依里の声が聞こえるけど、私は立ち止まる気は無い。

きっかけはささいな事だったけど、私は今すごく怒ってる。

……ううん、怒ってるのとは、ちょっと違う。

なんていうか、モヤモヤ?イライラ?

「ついてこないで」

ちょっと自分が言われたら心が痛くなるくらいの強い口調で言ってしまう。

なんだろう、これ……すごく嫌だ。

「なんで急に怒ったんだよ」

「怒ってない」

「いや、怒ってなかったらそんな風に」

「どすこいっ!」

思った以上の声に、羽依里もだけど、言った私もびくっとなってしまう。

「……羽依里は、あそこでずっと、私より可愛い子達でも見ていたら良いよ」

一瞬の沈黙の後で私が言った言葉は、私自身も予想していなかった言葉だった。

言った後で、その裏にある気持ちに気付いて思わずはっとした。

私、羽依里が他の女の子見てたのに妬いてる……!?

「そっか。ごめん、しろは……」

「謝らなくていい」

胸の中に、恥ずかしさと、行き場の無い気持ちがあって、ついそっぽを向いてそう答えてしまう。

「あのさっき見てた女の子がつけてた髪飾り、しろはに似合いそうだなぁって思って見てたんだ」

「ほら、やっぱり見とれて……え?」

「だから、女の子じゃなくて、髪飾りがさ」

「え、えぇぇぇ!?」

「しろは、あんまりそういうアクセサリーつけてるところを見たこと無いからさ、ああいうのつけたら可愛いかなって」

「な、なんで唐突に可愛いとか言う!」

「え……だってしろはなら似合いそうだし、可愛いだろうなって」

「なんで二回も!」

な、なんか……えっと……えぇ!?

思ってもない話の流れになってどう答えて良いかわからないよぉ。

「……なぁ、しろは?」

「え!?……は、はい」

「さっきの子がつけてたのと同じのは無いかもだけどさ。これから一緒に、しろはに一番似合いそうなのを探しにいかないか?」

「う……う、ん」

真っ赤になっちゃって、うつむいてそう答えるのがやっとだった。

そっか、羽依里は他の子見てても私のこと考えてくれてたんだね……嬉しい。

「羽依里」

「ん?どうした、しろは?」

「……ありがと」

ちょっとだけ顔を上げて、それだけ言って、私は羽依里の手をそっと握った。

 

 

‐終‐

 

 

 

~蒼の場合~

 

ある夏の日。

あたしは羽依里と藍と三人で海に遊びに来てたんだけど……

「くぉぉらぁぁぁ!藍の方ばっかり見ない!」

く、屈辱だわ……あたしも多少はプロポーションには自信はあったけど、やっぱり藍の身体って綺麗だわ。

それに、いくらあたしでもあんな藍みたいなきわどい水着は……む、無理だわ!

「そうですよ。蒼ちゃんがこんな素晴らしい格好をしているのに、蒼ちゃんを見ないなんて罪深すぎます」

「わ、解ったから藍はもう少し身体を隠してくれ……男子校卒の俺には、刺激が強すぎるんだって」

「羽依里さん、あなたの蒼ちゃんへの愛情はそんなものなのですか?私がこの程度の姿で居るだけで目移りしてしまうようでは蒼ちゃんは渡せませんね」

なんかあたしを抜きにしてあたし争奪戦が始まってる!?

いやいや、突っ込むべきはそこじゃなくて!

「そ、そうよ羽依里!あたしも……その、見てよ」

「蒼……」

勢い任せでちょっとだけ胸を強調したポーズをとったところに、言われて顔をこっちに向けた羽依里の視線が突き刺さってくる。

こ、これはこれで恥ずかしいわ!?

「……あたしじゃ、やっぱり藍より物足りない?」

「い、いや……そうじゃなく、て……ぶはぁ!」

「羽依里ー!?」

 

……

………

 

「……あ、あれ?」

「あ……気がついた?」

「うん」

近くにあった海の家の座敷で、あたしの膝の上に頭を乗せた羽依里が目を覚ました。

ま、まさかあれで鼻血を出してぶっ倒れるとは思わなかったわ……男子高卒恐るべし、ね。

「……」

「羽依里?どうしたの?」

「また鼻血でそう」

「うぇぇ!?なんで!?」

「いや、ほら……俺の目の前に二つ、素晴らしいのが」

目の前って言うと、羽依里は仰向けであたしの膝の上に頭を乗っけてて、だから……

「きゃぁぁぁぁ!」

「ぐわぁ!?」

思わず叫んで取り乱しちゃって羽依里の頭を下に落としてしまった。

あぁ、痛そう……ご、ごめん羽依里。

「ご、ごめん!大丈夫!?」

「あ、あぁ……」

羽依里がよろよろと起き上がってそのまま座敷に座り込む。

ちょうど真正面で向き合うみたいな感じになって、なんかいたたまれない。

「えっ、と……さ、羽依里?」

「うん?」

「なんか、変に張り合って鼻血まで出させちゃってごめんね」

藍に目が行ってたのが、なんか悔しくて、それがやきもちなんだってのも解ってたから、あたしは素直に謝った。

「いや、謝る事ないぞ?」

「え?」

「だって、蒼は俺の恋人なんだからさ。むしろ俺の方がごめん」

羽依里から返ってきたのは予想外の答え。

「だ、だけど、あたしなんか変に対抗意識燃やしちゃって……羽依里をこんな目に合わせちゃったし」

「俺としては、それは嬉しいけどな?妬いてくれたって事だし、良い物見れたし」

「良い物?」

「可愛い恋人の悩殺姿」

「う……うあぁぁぁ!忘れて!今すぐ忘れて!」

「いや、絶対忘れない」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

羽依里に笑われながら、真っ赤になったあたしの絶叫が夏の海辺に響いた。

 

 

‐終‐

 

 

 

~鴎の場合~

 

「羽依里のばかぁ!」

ちょっと用事で出てくるって羽依里が一人で出かけたのが気になって、街で見かけた羽依里の様子を見て、そう言って一人で宿の部屋に戻って……そんなこんなで布団に丸まってからもう小一時間。

私はまるでだんご虫みたいになって過ごしてた。

「せっかく一緒に旅行に来てるのに、ひどいよ羽依里……ふみゅぅ」

文句は言うけど元気は無い、それが今の私。

そりゃ、外国の街だし、私よりスタイル良い子や、綺麗で可愛い子も一杯居るけどちょっと話しかけられただけでデレデレしちゃってさ。

羽依里はエロい!もう羽依里じゃなくてエロ里に改名しちゃえば良いんだよ!

「鴎ー……ここくらいしか無い、よな?行き先なんて」

きた!エロ里が帰ってきた!

でも返事なんかしてあげないもん。

「やっぱり。鴎ー?鴎さーん?」

ふーんだ。

「……なぁ、出てきてくれよ。せっかくの旅行なんだから楽しもうぜ?」

「ふぎー!ふぎー!」

「えっと、確かこれは求愛?」

「違う!これは威嚇!……あっ」

思わず答えちゃった!

「……やっぱり、なんか勘違いしてないか?街に出てた俺の姿見た後、急に走り出して居なくなっちゃったし」

「ど、どーせ羽依里はナンパとかしてたんでしょ?あんな楽しそうに女の子達と話して……もう羽依里はエロ里だよ!」

「な、なんだその良く解らないけど不名誉なあだ名は」

「だって羽依里がエロイから!」

「あぁ、もう……ほら、これだよ!」

そう言って羽依里は布団から顔だけ出した私に何枚かの用紙を手渡した。

……え、これって。

「ほら、鴎のスーツケース……あれに更にもっと一緒に行ったとこの記念になるものつけてったらって思ってさ。この街らしいシールとか売ってる店が無いかって聞いてたんだよ」

「え。じゃ、じゃああの女の子達と楽しそうに話してたのは!?」

「あー……それは、これ」

羽依里が懐から出したのは一冊の手帳のような本。

「俺、この国の言葉解らないから、身振り手振りで、このミニ辞典で翻訳して片言で話しながら説明してさ。それがあの子達には面白かったみたいで」

そ、そうだったんだ……確かに羽依里がくれたのは、どれもこの街や国に関係あるシールばっかり。

「……ごめんね、羽依里」

布団から出て素直に謝ると、なんでか羽依里は笑ってた。

「俺がもう鴎を一人ぼっちにするわけないだろ?」

「あ……う、ん……えへへ」

そうだよね。

あの島での時も、最後まで付き合ってくれた。

その後だって、私を諦めずにいてくれて、出会えた。

どうかしてた、そんな羽依里を疑っちゃうなんて。

「羽依里」

「うん?」

「ごめんね、やっぱり羽依里は羽依里だったよ」

なんだかんだ言っても私の事をちゃんと考えて大事にしてくれる。

そんな羽依里の事が……

「好きだよ、羽依里」

 

 

‐終‐

 

 

 

~紬の場合~

 

わたしは灯台の中に置いてある姿見の前で自分の身体を見ました。

そして、去年の夏に仲良くなった女の子のみなさんの身体を思い返してみます。

「……むぎゅぅ」

やっぱり、足りません。

ハッテントジョーなのは仕方ありませんが、身体は女の武器という話も、昔聞いたことがあります。

「ハイリさんも、やっぱりみなさんのような方が好きなのでしょうか……」

そもそも、わたしは成長するんでしょうか?

今までそんな事を思った事はありませんでしたが、わたしはこの身体になってからずっとツムギちゃんと同じままです。

ずっとこのままで、そのうちハイリさんにとってもっと魅力的な身体の女性が現れて、ハイリさんをとられそうになったら……

「ちみどろになってでも、あらそいます……むぎぎぎっ」

だめです、ハイリさんは誰にも渡したくありません。

シズクは……百歩譲って三人で一緒ならおーけーです。

でも、それ以外の人には……やっぱりだめです。

「むぎぎぎぎっ」

「紬、どうしたんだ?」

「むぎゅっ!?」

後ろからかけられた声に思わず身体がびくっとなってしまいます。

そこには心配そうに見ているハイリさんが居ました。

「え、えとですね……な、なんでもありません」

「何でもない事無いだろ。更に言えば、何か変にヤキモチ妬いてたんじゃないか?」

「むぎゅぅっ!?な、なんでわかるんですか!……あっ」

「ほら、やっぱり……前に嫉妬してた時の顔だったし」

やっぱり嘘と隠し事は出来ないようになっているものです。

ばれてしまったので仕方なく、わたしはハイリさんに全てを話しました。

「そっか……だけど、俺は紬の事が全部好きだから、さ」

「……でも、ハイリさんは時々静久の胸をものすごく見つめてる気がします。この前聞いた、ガン見というやつです」

「うっ……そ、それは静久相手だからだよ、うん」

なんで目をそらすんですか、ハイリさん。

じーっと見つめていると、急にハイリさんが真面目な表情で私の方に振り返りました。

「なぁ、紬」

「は、はい」

「俺はもう紬と70年分のイベントをして……最後まで一緒に過ごす約束したんだからさ。何処にも、誰にも行かないよ」

「……ハイリさん」

そうでした、ハイリさんはシズクと一緒にわたしと70年分のイベントを一緒にしてくれました。

そしてその次の夏にわたしが戻ってきてからも、今までと同じように、いいえ、それ以上に、楽しい事をいっぱいして過ごしてくれています。

「そ……です、ね。そうでした。ごめんなさい……」

「いいんだよ。それだけ、心配になっちゃうくらい、俺の事が好きだって解ったしさ」

「そ、そうですよ!わたしはハイリさんの事が大好きです!すごくすごく大好きです!」

「……あらぁ?改めて紬の方から告白してるのかしら。とっても可愛い告白ねぇ」

「むぎゅっ!?シ、シズク、いつから居たんですか!?」

「えっとぉ……パイリ君の『俺はもう紬と』の辺りだったかしら」

「俺のも聞いてたのかよ!」

ハイリさんがそう言った後、誰からともなく三人一緒にしばらく笑い合ってしまいました。

わたし自身の成長の事とか、やっぱり……発育の事以外でも……不安は、あります。

けど、三人で……シズクと、そして何よりハイリさんと、一緒に笑い合える今を大切にしていきたいと思いました。

 

 

‐終‐

 

 



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星に願いを ~紬の七夕~

今回は、公式の浴衣姿の紬を見てからずっと考えていた夏祭りネタと、七夕と、色々な要素が重なって出来た作品です。

相変わらず、今回も執筆時間が計3時間と少々と言う事で、書き上げた後に見直し・確認もしましたが、粗さの残る文章かもしれません。

それでも良ければ、是非読んでいただければ幸いです。


俺は今年も鳥白島に来ていた。

そして去年同様に鏡子さんの所でお世話になっている。

一年経っても蔵の整理が終わっていないから、その手伝いも兼ねてだ。

 

「あらあら」

「どうしたんですか、鏡子さん」

一緒に蔵の整理をしていた鏡子さんの声に、俺は顔を上げる。

「こんなものが出てきたの」

「これは浴衣ですか?」

「えぇ、でも大きさ的には大人が着るには小さいって感じの浴衣ね。柄も、華とお魚の可愛らしい物だし」

そんな浴衣がなんでここに……と考えていた俺の目の前に、一枚の紙切れが落ちる。

「これ、何か書いてあるな」

紙切れを拾って、書いてある文字を読んでみた。

「これって……」

その内容に思い当たる事があって、俺は鏡子さんに一つ頼み事をしてみた。

「鏡子さん、もし良かったらその浴衣、俺にもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

わたしは灯台の中で掃除をしながら、今日も二人を待ちます。

ハイリさんとシズク……去年の夏、一緒に遊んで、大好きになった大事な二人です。

今年もわたしと遊びに、この島へ来てくれています。

「~~♪」

去年で最後だと思っていた、たのしい夏。その夏をまたむかえられる事がうれしくて、わたしは自然と鼻歌を歌ってしまいます。

ただの掃除も、二人をむかえる為のお掃除だと考えると、自然と顔がにやけてしまったりもします。

「あら……ご機嫌ね、紬。」

「むぎゅっ!?シズク、いつの間に……」

おどろいて振り返ると、そこには笑顔でわたしの方を見ているシズクが立っていました。

「一応ノックして入り口から入ってきたんだけどなぁ。お掃除に夢中で気付かなかったのかしら?」

「す、すみません、気付きませんでした……ハイリさんとシズクが来る事を考えてて」

「それでにやけちゃってたのね……もう、嬉しい事言ってくれちゃって」

「むぎゅっ?」

そう言ってシズクはわたしをむぎゅっと抱きしめました。

すごくうれしいですけど、ぎゅっとされるのはやっぱりちょっと照れます……むぎゅぅ。

「シ、シズク……いきなりは、ちょっと照れます」

「えー?その照れてるのがいいんじゃない?ふふふ」

あ、この笑顔は意地悪なシズクの顔です。

時々シズクは意地悪になります。でも、シズクの意地悪はあんまり嫌じゃありません。わたしの事が大好きだからするんだと、解っていますから。

「そうね……シズクは本当は私よりもパイリ君にぎゅっとされたいわよねぇ?」

「むぎゅぅっ!?そ、そんな事はありま……」

にこにこ笑顔でシズクがわたしの顔を見つめています。

「……ハイリさんにも、シズクにも……ぎゅっとされるのは、好きですよ?」

「はい、素直で結構」

嘘はいけません。観念して正直に言うとクスクスと笑ってまた優しく抱きしめてくれます。

なんだかちょっと、負けた気分です……むぎぎぎぎ……

でも、シズクに抱きしめられるのは本当に好きです。ツムギちゃんにむぎゅっと抱きしめられていた時の事を思い出して、なんだか心まであたたかくなります。

「……ずるい、俺も紬をぎゅっとする」

「むぎゅ!?ハ、ハイリさん!?」

「あらあら、ヤキモチ妬かせちゃったわねぇ、ふふ」

いつの間にかハイリさんまで来ていました。二人ともまるで忍者か何かみたいです、気配を感じさせません。

「灯台の入り口が開いていたから、もう静久が来てると思ってたけど、こんな事になってるとは」

「ふふふ、今日の紬は私が一番乗りよ?」

「負けるものか、俺も!」

「むぎゅぅぅぅ!?」

シズクと逆方向から、今度はハイリさんまでわたしをむぎゅっとしてくれます。

こ、これはシズクとは別の意味で恥ずかしいです!後ろからハイリさんにぎゅっとされちゃってます!むぎゅぅぅぅ!

「あらあら、やっぱり紬はパイリ君の方がいいのねぇ。私の時より顔が真っ赤でタコさんみたいよ?妬けちゃうわぁ……」

そう言いながら、さっきよりも楽しそうな笑顔でシズクがわたしを離します。

そうなると後ろから抱きしめてくれているハイリさんの存在がものすごく感じられて……むぎゅぅぅぅぅ……

「パイリ君、そろそろ紬、限界みたいよ?」

「え?……あ、うん」

シズクに言われてハイリさんがそっと離れます。

よかったです……あのままではわたしは本当にシズクの言うようにタコさんみたいになって、ふにゃふにゃになってしまうところでした。

「それで、今日は何をしようかしら?」

「あ、それなんだけどさ。ちょっと俺の家の方へ来てくれないかな?」

「まぁ、俺の家って……御両親に挨拶と言うやつかしら」

「ち、違う!今年もお世話になってる鏡子さんのところだよ」

「あら残念。本当に挨拶に行くなら、私は仲人よねってはりきってたのに」

「おいおい……って、紬?」

「むぎゅっ!?……す、すみません、ぼーっとしてました」

い、いけません。うれしいのと恥ずかしいのとがいっぱいいっぺんに来て、ぼーっとしてしまっていました。

「えっと……今から鏡子さんのところに一緒に行きたいんだけど、良いかな?」

「はい、ダイジョブです!」

まだちょっと頬が熱くて、自分でも真っ赤になってると解ります。

でも内心の動揺をさとられるわけにはいきません。なので少し気持ちを落ち着けて、笑顔で答えます。

そんなわたしをハイリさんとシズクがじーっと見つめてきます。

「「やっぱり可愛い」」

「むぎゅぅぅぅぅぅ!?」

またしても二人で、同時にわたしを抱きしめてきました!

うれしくて、幸せですけど、とてもとても恥ずかしいです!

 

 

 

 

俺は、紬と静久と一緒に蔵の中へ来ていた。

勿論鏡子さんには許可を取ってある。

「これだ」

「これは……浴衣、ね」

「そですね。とっても可愛い柄です」

箱から取り出した浴衣をまじまじと見つめる二人。

「なぁ、紬。これ、着てみてくれないか?」

「むぎゅぅ?わたし、ですか?」

手にしていた浴衣を紬に差し出して聞く俺に小首をかしげて答える紬。

「そうね、この大きさなら、紬なら着れるんじゃないかしら?」

「……確かに、シズクは無理そうですね」

紬の視線が静久のある一点に注がれている気がしないでも無いが、そこは敢えて気付かなかったふりをする。

「鏡子さんには、着れるなら紬にあげても良いって言われてるんだ」

「そ、そうなんですか……じゃあ、お言葉に甘えて着てみますね」

「あぁ。頼むよ」

手にした浴衣を紬に手渡し、俺は一旦蔵から出る。

中からは紬と静久の話し声が聞こえてくる。

俺の予想が合ってるなら、あの浴衣は多分……

「パイリ君ー!入っていいわよー!」

蔵の中から静久の声が聞こえて、俺は先程閉めた蔵の戸をもう一度開ける。

「……紬」

「ど、どうでしょうか……ハイリさん」

そこには、浴衣を着た紬が立っていた。まるで誂えたかのように良く似合ってる姿。そしてそんな紬の後ろから、明かり取り用の窓から光が差し込んで、まるで後光のように金色の髪をきらきらと輝かせて。

「女神みたいだ」

「!……む、むぎゅぅぅ……」

思わず口から出た言葉。それを聞いて頬を赤らめて目を泳がせる紬。そんな紬を見て俺も何だか恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。

「あら、目を逸らしちゃダメよ?恋人さんが可愛い彼女の綺麗な姿を見ないで、どうするのかしら?」

「あ、あぁ。そうだな、うん」

そんな俺達の様子が面白かったのか、からかいながら静久がクスクスと笑ってる。

……あぁ、でも、そうか。やっぱりこれは……

「……なぁ、静久。もうすぐ何処かで祭りがなかったっけ?」

「んー……そういえば、七夕のお祭りが街の方であったような気がするわ」

「お祭り!楽しそうですね!」

「よし、それだ」

「え?」

「紬、その浴衣を着てお祭りに行こう」

「え、あ……いいんですか?」

「あぁ。勿論静久も一緒にな?」

「えぇ、そういう御誘いなら大歓迎よ?」

「三人でお祭り……いいですね!行きましょう、ハイリさん!シズク!」

「決まりだな。楽しい七夕にしようぜ」

そう言って、三人で顔を見合わせて笑顔で頷いた。

 

 

 

 

七夕当日、わたしはハイリさんにもらった浴衣を着て、三人でお祭りに出かけました。

お祭りは屋台がいっぱいあったり、人も多くて賑やかで、途中はぐれそうになってしまって、でもハイリさんとシズクが片方ずつ手を握ってくれて……無事に三人一緒に回れました。

 

金魚をすくおうとして、何故かザリガニをすくい上げてしまったハイリさんがとても面白かったです。

射的をするのに銃をおっぱいの上に乗せて抱えて撃っていたシズクが、百発百中で景品を落とすのを見ていると、良い事のはずなのに何だかモヤモヤしました。

わたしは色とりどりのワタアメがあるのに夢中で、ちょっと一人では食べきれないくらい買ってしまって、結局三人で分け合って一緒に食べました。

 

「……面白かったなぁ」

「えぇ、とっても」

「ですね」

一通り見て回ったわたし達は、お祭りの会場となっている神社の境内で座って夜空を眺めていました。

「そろそろかしらね」

「……あ。ハイリさん!シズク!あれ!」

小さな光が地上から夜空に向かって上がっていきます。そして……花火が、夜空に、とてもきれいな華を咲かせました。

「すごいです!カンドーです!」

「あぁ、すごいな!」

「ふふ、まだまだこれからよ?」

夜空にどんどん花火が上がっていきます。赤、青、緑、黄色……様々な色がまたたいています。

「紬、あのさ」

「むぎゅ?」

三人で花火を見ていると、急に、ハイリさんがわたしの方へ向き直って、ちょっと真剣な顔をして話しかけてきました。

「その浴衣さ、すごく丁寧に蔵にしまってあったんだ。このメモと一緒に」

そう言ってハイリさんは、わたしに一枚の紙を手渡しました。

そこにはこう書いてありました。

 

『あなたはあなた。あなたの幸せを願ってこれを。いつか、これを着て、楽しい夏を過ごしなさいね』

 

「多分、ばあちゃんが紬の為に用意してたんだと思う。サイズもぴったりだし、柄も、紬によく似合う可愛いやつだしさ」

「カトーさんが……」

たぶん、ハイリさんの言っている事は間違いないと思います。

この紙と書かれていた文章からは、あの日に感じた懐かしい気持ちと、暖かさを感じましたから。

「だからさ、その浴衣は、元々紬の物なんだよ……って、俺は思ってる」

「そ、ですか……すごく、うれしい、です、ね」

気付いたら、わたしは、泣いていました。

悲しくはありません、実際今ものすごく笑顔です。

でも、カトーさんの気持ちと、ハイリさんの気持ちがものすごくうれしくて……どんどん涙があふれてきます。

「……紬、よかったわね」

「はい……」

いつの間にかすぐ横に座っていたシズクが、わたしを横から抱きしめて、頭を撫でてくれました。

ハイリさんも横に座って、ずっとわたしの手を握ってそばに居て笑ってくれていました。

 

 

 

「……そうだ。これ、配ってたからもらってきたのよ。七夕なんだし、せっかくだから皆で願い事を書いて一緒に吊るしましょう?」

たくさん泣いてしまって、ようやく落ちついたわたしと、ハイリさんに、シズクが短冊をくれました。

「はい、ペンも……もらえたのはこれ一枚だけだから、慎重に書いてね?」

「そういえば、去年も灯台で竹持ってきて七夕したよな」

「そうだったわね。竹でやる七夕も面白かったわよね」

「あぁ、そうだっ……」

「出来ました!」

願い事を書くのなら、今のわたしには一つしかありません。

すらすらと書けてしまいました。

「え?」

「早いわね、なんて書いたのかしら?」

「これです!」

わたしが二人に見せた短冊に書かれていたのは……

「『毎年楽しい夏を三人で過ごしたい』ね……あら……ふふふ、うん、いいんじゃないかしら、紬」

「そ、それは良いんだけどさ。その下のそれ」

「そこはあんまり見ちゃダメです!……む、むぎゅぅ……」

照れながらも笑顔で自信満々に書いた短冊を見せるわたしと、それを見て同じように照れ笑いを浮かべるハイリさんと、短冊とわたし達の様子を見て笑っているシズク。

そこには夜空の花火に負けない笑顔の花が、いっぱいに咲いていました。

 

 

『毎年楽しい夏を三人で過ごしたい   鷹原 紬』

 

 

 



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誕生日の夜に ~星に願いを~

 

今日、8月31日は、わたしの誕生日です。

でも、去年までは、わたしには誕生日はありませんでした。

去年の夏……ハイリさんとシズクが決めて、みんなで祝ってくれました。

 

そして今年、再び灯台に、この島に戻ってくることが出来たわたしを、みなさんは受け入れてくれて、誕生日も盛大に祝ってくれました。

いっぱいのワタアメや、シズクが用意してくれたケーキをみんなで分けて食べたり、ノムラさんとミタニさんの漫才や、カノウさんの卓球講座なんかもありました。

シロハさんは得意料理のチャーハンを作って持ってきてくれたり、アオさんも、カキ氷機を駄菓子屋さんから借りてきて、みんなでいっしょに頭がキーンとなるまで、食べたりしました。

 

更にはなんと、プレゼントまでみなさんで用意してくれました。

プレゼントは二つのぬいぐるみで、青い恐竜のぬいぐるみと、顔のかかれた丸い団子のぬいぐるみでした。

二つともとても可愛くて、すぐに仲良くなれそうな感じです。

そうして夕方まで、わたしのお誕生日会は続きました。

 

 

 

 

「それじゃあ、あたし達は帰るわね。あんた達はまだ居るんでしょ?」

「あぁ、せっかくだから今日は俺と静久は泊まっていこうかと思ってる」

ハイリさんの言葉を聴いたアオさんがみるみる顔を真っ赤にしていきます。

「と、泊まるって……恋人とは言え男女二人で一緒に寝泊りするってだけでもアレなのに、まさかの三人!?ダメよ、さすがにダメよそんなの!いくら仲良しだからって三人でなんて常識的にかんが」

「じゃあ、私達は帰るね」

「いくぞ、蒼」

何だかとても興奮して上の空でぶつぶつと何かを言っているアオさんを、シロハさんとノムラさんがひきずって行ってしまいました。

 

 

 

 

「星が綺麗ね」

「だな」

「はい」

わたし達は、空が見えるところで布団を並べて、一緒に星を見ながら横になっています。

今日は雲が無くてとても晴れていて、星がいっぱい空に輝いていました。

「あ、あの星……紬に似てない?」

「あれですか?そんなに似てるんでしょうか?」

「うんうん、嫉妬してちょっと目を怒らせてむぎぎぎぎぎぎぎって言ってる時の紬にそっくりじゃない?」

「あー、確かに似てるかも」

「……むぎぎぎぎぎぎぎ……二人とも、ヒドイです!」

もちろん、本気で怒ってはいません。

それは二人も解っているみたいで、わたしが言うのを笑って見ています。

そんな風に他愛の無い、でも大切な瞬間を過ごしながら、時間は過ぎていきました。

 

 

 

 

二人が寝てしまった頃、わたしは起こさないようにそっと布団を抜け出して、灯台の屋上へ出ました。

そこから見える景色は、屋内で見上げるよりも、とてもきれいで、広くて、周りの世界がすべて星の海にのまれてしまったみたいです。

 

わたしはそんな星空を見上げながら、胸の前で両手を組んで、そっと星に願います。

どうか……

 

「……紬?」

「むぎゅっ!?ハ、ハイリさん!?」

 

突然後ろからした声にびっくりして振り返ると、屋上の入り口にハイリさんが立っていました。

「す、すみません。起こしちゃいましたか?」

「いや、目が覚めたら紬が居なくなっていたから……探してたんだ」

月明かりに照らされたハイリさんの顔は、とても真剣でした。

そうでした、去年の今日は、ハイリさんとシズク……二人とお別れした日でした。

「すみません、ハイリさん……ダイジョブです、わたしはもう、居なくなりませんよ?」

心配をかけないようにと、出来るだけ笑顔で答えました。

するとハイリさんは、黙って近づいてきて、そのままわたしをぎゅっと抱きしめました。

「むぎゅ!?ハイリ……さん?」

「うん……ずっと一緒にいてくれ。な、紬?」

少しだけ、ハイリさんは震えていました。

それに気づいて、わたしも急に色々な想いがこみ上げてきて、思わずハイリさんを抱きしめ返していました。

「……はい、もう、消えません。ずっと一緒ですよ?」

自然と、ぽろぽろと涙があふれてきます。

ハイリさんの暖かさにふれて。

そして、一緒にいてほしいと言ってくれる事がうれしくて。

気づいたら、ハイリさんも、同じように泣いていました。

わたし達は、そのまましばらくの間、ぎゅっと抱きしめ合っていました。

 

 

 

 

「……そう言えば、なんで紬はこんな夜中に屋上に?」

二人で並んで屋上に座って、星をながめながら、ハイリさんが聞いてきます。

「えとですね……お星様にお願いをしようかと思いまして」

わたしはそう答えて、笑顔を浮かべて、続けました。

「ずっとずっと、一緒にいられますように……です」

「三人で、か……そうだな」

「あ、えと……それはもちろんですけど……」

「ん?」

ハイリさんが、わたしの方を見つめてきます。

こ、これを言うのはちょっと……いえ、かなり恥ずかしいのですが……

「ハイリさんと、です。ハイリさんと、ずっとずっと、一緒にいられますように……と、お願いしよう……かと……」

ダメです!ハイリさんの顔が見れません!

最後の方はうつむきながらになってしまい、思わずハイリさんから視線をそらしてしまいました……むぎゅぅぅぅ……

「……紬」

「な、なんでしょうか?」

「ちょっと、こっち向いて?」

うぅ、きっとわたしは今、顔中真っ赤です。

それでも、ハイリさんの方へゆっくりと向きました。

「んっ!?」

ハイリさんの方へ向いたわたしの顔に、ハイリさんの顔が近づいて……

「……ありがとうな、すごく嬉しい。俺もずっと紬と一緒に居たいよ」

「……ハ、イリ……さん?」

頭の中が真っ白になりながら、わたしはハイリさんの名前を呼びます。

後になって考えてみれば、この時のわたしは、まるで自分が自分じゃないみたいでした。

だからきっと、こんな大胆なことが言えたんだと思います。

「ん?」

「もういっかい……してくれます、か?」

「え!?あ、あぁ……うん……」

目の前のハイリさんの顔が、ものすごく真っ赤です。

いえ、きっとわたしの顔も真っ赤です、きっと負けてません。

でも、真っ赤になりながら、ハイリさんは、顔を近づけて……わたしのお願いを聞いてくれました。

 

 

この日の夜の事は、ハイリさんとわたし……それと、二人を見守ってくれていた、星達だけの、秘密です。

 

 

 



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眩しさを抱きしめて~Happy Birthday~

私の周りには、とても青い景色が広がっていました。

まるで海のような、空のような、綺麗でどこまでも続く青です。

その景色の中を、私はゆっくりと進んでいます。

 

『これでよかったんだよ、ね』

 

もう何度目になるか解らない言葉を、口癖の様に呟きながら。

自分に言い聞かせる様に、誰かに問いかける様に。

何度も……何度も……

 

『……さみしいな』

 

そして、何回かその呟きを繰り返した後には、必ずその言葉が出てきてしまいます。

お母さんを助ける為に、頑張った事は、悔いはありません。

 

でも、やっぱり……寂しいです。

あの夏は、あの繰り返し続けた夏の日々は、とても楽しくて、嬉しくて、眩しくて。

今でも私の心に、色褪せる事無く、輝きを残しています。

 

……だけど、それを憶えているのは、私だけ。

あの夏の日々は、もう誰の記憶にも、心にも、残っていません。

 

『……おかーさん……おとーさん……』

 

涙が出てくるのも、もう、何度目でしょうか。

お母さんも、そしてお父さんも……今度はきっと幸せな未来が待っているはずです。

けれども、そこには私は居ません。

お母さんとお父さんも、きっと出会う事は無いのではないかと思います。

だとしても、それでお母さんとお父さんを悲しませる事が無くなるのであれば……

 

私は涙を拭って、再び果てのない青い世界を進んでいきます。

誰も覚えていない、けれど私は覚えています。

 

お母さんやお父さんだけじゃなくて、色々な人と出会って、仲良くなって、毎朝体操をして、蚊にもいっぱい刺されました。

鏡子さんの手料理を最初に食べた時は、目の前が真っ暗になったのを覚えています。

蒼さんには何度も夏を巡る間、駄菓子屋に通ったりしている時に沢山お世話になりました。

久嶋さんがメイド服姿で家に来た時は、とっても驚きました。

紬さんには歌を教えてもらいました、お母さんと一緒に歌うのは楽しかったです。

野村さんには、相談をしたりした夏もありました、とても頼りになる人です。

三谷さんと加納さんは、最初は苦手でしたけど、二人とも良い人なのが解ってからは、そんなに怖くなくなりました。

すぐに脱ぐのと、特訓をしだすのは、最後まで慣れませんでしたけど。

お爺ちゃんとも、楽しい夏を過ごせた事が何度かあります、見た目は怖いけど、優しいお爺ちゃんでした。

 

大丈夫です、私にはあの夏の日々があります。

私だけは、覚えています……あの、キラキラ輝いていた夏休みの日々を。

 

ふっと顔を上げた私の目の前に、小さな光が見えました。

この世界に辿り着いてから、見た事が無い、初めての現象です。

じっとその光を見つめていると、だんだんと大きくなっていき、目の前がまばゆい光でいっぱいになってしまいました。

思わず私は目を閉じます。

 

……少しして目を開くと、そこには見慣れた男の人が立っていました。

男の人もまぶしかった様で、目をくらませています。

 

『おと……』

 

言いかけて、私は止めました。

もしここで私が話しかけてしまったら……お父さんと、お母さんは、どうなってしまうのか。

それを考えてしまいました。

 

でも……でも……自然と笑みがこぼれます。

きっとこれは、寂しがり屋な私への、最後の奇跡なんだなと思ったのです。

本当にこれが最後だったとしても、お父さんにまた会えたのが嬉しかったから……私は自然と微笑んでいました。

 

「うみ!!!」

 

突然、お父さんが私の名前を叫びます。

そんな……覚えてるはずは……

 

「帰って来いよ!!」

 

……お父さん……忘れてなかったんだ……覚えててくれたんだ……

私は泣きそうになりながら、でもお父さんの言葉に応えたくて、めいっぱいの笑顔を浮かべました。

それを見て、お父さんも微笑んでくれた様な気がします。

 

次の瞬間……また周りが強い光に包まれ、その光が収まった時には、もうお父さんの姿は消えていました。

そして、お父さんが立っていた場所には、いつかの虹色の紙飛行機が、落ちていました。

 

『……うん、また会おうね……お父さん、お母さん……』

 

そっと紙飛行機を拾い上げて、それを抱きしめた瞬間、私の目から一筋の涙がこぼれました。

何故か、必ずまたお父さんとお母さんに会える……そんな予感がしていました。

 

 

 

 

「羽依里、あの……」

「どうしたんだ、しろは?」

「えっと、ね。私、お腹の子の名前……考えたんだけど」

「あぁ、うん。実は俺も考えたんだ」

「そうなんだ。……ねぇ、羽依里……せーので一緒に言ってみない?」

「考えた名前をか?」

「うん」

「そうだな……意外と一緒だったりしてな」

「……実は、そんな気がする」

「そっか……実は俺もそんな気がするんだ。じゃあいくぞ、せーの……」

 

 

『ありがとう。お母さん、お父さん』

 

 

 



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