遊戯王GX-賽を振るのは神に非ず (RIGHT@)
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1話:入学試験─ギャンブルデッキ

とりあえずお試し投稿です。
よろしくお願いします


 目の前で繰り広げられる決闘(デュエル)──エスパーを自称する少年に対して金髪の青年は不利な状況ながらも運任せのサイコロカードを使ってその状況を覆し、1/2の確率を引き当て、最終的にルーレットカードで勝利をもぎ取った。

 決して戦略的とは言えず、己の運命に身を任せたその戦い方は幼心を魅了した。

 

「城之内……克也……」

 

 少年はその決闘者の名前を呟くと共に心に刻み、いつしか彼のようにデュエルで人を魅了するデュエリストになりたいと夢に描いた。

 

 

──────────────────────

 

「デュエルアカデミア……はやく高校生になりたいな……」

 

 とあるプロのデュエルトーナメント中継の昼時間で孤島の学園が映し出され、紹介がされた。

 少年はその名前自体は既に知っていた。自身をデュエルモンスターズに誘った翌年から設立されたプロデュエリストの卵たちを養成する学園──だがそれは当時小学一年の少年にはあまりに遠いものだ。

 彼自身、中学三年生になるまでは無関係なものだと思っていた。いや、四年生の現在でも遠く、無関係なものだと思っていた。

 

『来年度より中等部設立! 現在中学二年生の君も編入可能! 優秀な成績を残した者は進学時オベリスク・ブルー確定!』

 

 ────その知らせを聞く瞬間までは。

 

「……中学生で入学できるってこと? あのアカデミアに?」

 

 それから少年はテレビの前から動かず、その紹介を脳に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──それから二年と少し、小学六年生の冬に少年は海馬ランドのドームに訪れた。目的はもちろん、アカデミアの受験のため。

 筆記試験は一月前に既に終わって、この日は実技試験だ。過去のデータでは筆記が下位でも試験官を1ターンキルしたり、無傷で勝ったりすれば合格したというものがあり……逆に筆記が上位でも試験官に完敗だと不合格だという情報もある。尤もそんな前例は1件だけだったらしいが。

 

「受験番号が5番ってことは筆記は運がよかったみたいだけど、合格確定じゃないから気合い入れないと……デッキよし、デュエルディスクよし、コインよし、サイコロ……よし、そして……」

 

 少年はサイコロをモチーフにした首飾りを握ってどうにか緊張を鎮め、ドームの中に足を踏み入れた。

 ドームは数百人の、彼と同い年の小学六年生の少年少女でいっぱいだった。試験自体は既に筆記試験下位から始まっていて現在30番が呼ばれたところだ。

 5つのデュエルフィールドを使い、案外サクサクと試験が終わっていく。少年が観戦をしていると

 

「受験番号5番! 第三フィールドへ!」

 

 自身の番を示された番号が呼ばれた。彼は反射的に返事をして、言われた通りのフィールドに向かった。

 

 

「君が受験番号5番の幸上(こうがみ) 遊導(ゆうどう)くんでいいかい?」

 

 試験官─黒服で俳優のようなイケメン─が確認する。

 

「はい、俺が幸上 遊導です。本日はよろしくお願いします」

「うん、よろしく。ちなみに私は九重(ここのえ)という。では早速──」

 

 試験官──九重がデッキをセットしてデュエルディスクを構える。

 

「はい」

 

 それに習い、遊導もデッキをシャッフルしてデュエルディスクにセットしてそれを構える。

 お互いに五枚引いて準備は万端────

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

LP 双方4000

 

「先攻は受験生からだ」

 

 さぁ、力を見せてみろと言わんばかりとジェスチャーと雰囲気で九重がそう言う。デュエルモンスターズでは基本有利になる先攻を譲ることで全力を見定める目的があるためだ。

 

「はい。俺のターン、ドロー!」

 

遊導 手札5→6

 

 手札が六枚に増え、遊導は流し目で確認する。当然だが先攻は攻撃はできない。だが──

 

「俺は《暴れ牛鬼》を守備表示で召喚!」

 

《暴れ牛鬼》

効果モンスター 星4/地属性/獣戦士族/攻1200/守1200

コイントスで裏表を当てる。 当たった場合、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。 ハズレの場合、自分は1000ポイントダメージを受ける。 この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 紅の身体に獰猛なオーラを纏った『モンスター』が彼の目の前に出現する。

 

「暴れ牛鬼のモンスター効果発動! コイントスをして表か裏かを当て、当たった場合相手に1000ダメージ、外れた場合自分に1000ダメージ! 俺は裏と予想する! コイントス!!」

 

 デュエルディスクからコインが弾き飛ばされる。それはクルクルと宙を舞い──デュエルディスクに落ちる。ソリッドビジョンにコイントスの結果『裏』が表示された。

 

「予想的中! 九重さんに1000ダメージ!」

「確率50%を当ててきたか……!」

 

九重試験官 ライフ 4000→3000

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

遊導 手札:3枚 フィールド:暴れ牛鬼(守備表示)/伏せカード2枚

 

 裏側表示のカードが二枚、地面すれすれに表示される。

 

「まさか先攻の君にいきなりダメージを貰うとはね……私のターン、ドロー」

 

 九重は手札を確認し、微笑んだ。

 

「私は《強欲な壺》を発動。二枚ドローする」

 

 それはデュエルモンスターズでの筆頭ドローソースだった。デッキに一枚しか入れられない制限カードだが、その効果はデッキから二枚ドローするというシンプルで強力なカードだ。

 

《強欲な壺》

通常魔法

デッキからカードを2枚ドローする。

 

「そして……《聖騎士アルトリウス》を攻撃表示で召喚」

 

《聖騎士アルトリウス》

通常モンスター 星4/光属性/戦士族/攻1800/守1800

 

 大剣を携え、鎧に身を包んだ屈強な男が姿を現した。その姿はまるで、あの有名なアーサー王のようだ。

 

「このモンスターは通常モンスターだが、攻撃力は暴れ牛鬼を倒すのに十分な1800。そして私は手札から《サイクロン》を発動する。右の伏せカードを選択」

 

《サイクロン》

速攻魔法

フィールドの魔法・罠カードを1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

 そう宣言をした瞬間、暴風が遊導に迫り、伏せカードの一枚を狙って突撃する。遊導の手札、フィールドにはその瞬間に発動できるカードは存在せず、やむを得ずそれを受けた。

 

「《モンスターBOX》が……」

 

 コイントスが表裏を当てれば相手の攻撃力を0にできる優秀な罠が墓地へ送られた。

 返り討ちにしようと思っていたらしく、残念で仕方がない表情だ。

 

「当たりを引いたみたいだね……それにしても、君は博打カードが好きなのかい?」

 

 嫌味ではなく、純粋な疑問として九重が遊導に聞いてくる。

 

「そうですね、デュエルを始めたきっかけがギャンブルカードを多用した人だったので。それを目指したくて形だけでも……」

「そうか……だが、運だけで乗り切れるほどデュエルは甘くないぞ。バトルだ、アルトリウスで暴れ牛鬼を攻撃!」

 

 ──分かっている。それでも俺はあの戦い方に憧れた。どうせなら極めてやるって決めたからにはそれを捨てるつもりなんてない。

 遊導は心の中でそう呟いてもう一枚の伏せカードを発動させた。

 

「罠カードオープン!《悪魔のサイコロ》!」

「やはり、伏せていたか……」

 

《悪魔のサイコロ》

通常罠

(1):サイコロを1回振る。 相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、ターン終了時まで出た目の数×100ダウンする

 

 九重はそれに対して驚いた様子は無く、言葉の通り遊導が悪魔のサイコロを使うのは予想通りだったようだ。

 

「6が出れば引き分けになる! ダイスロール!」

 

 デュエルディスクから今度は赤色のサイコロ─悪魔のサイコロのイラストと同じもの─が出現する。数秒回転したサイコロは──6の面を上にして止まった。

 この結果に九重は先程とは違って驚き、目を見開いた。

 

「ここで6を当てた……だと……!?」

「よっし! アルトリウスの攻撃は1200にダウン! 攻撃表示モンスターと守備表示モンスターのバトルは同値だと破壊もダメージもない!」

 

 六匹に増えた悪魔がアルトリウスに付きまとい、邪魔をする。それにより暴れ牛鬼は大剣の攻撃を耐えてなんとか終わった。

 

「驚いたよ、だが……私はメインフェイズ2で魔法カード《死者への手向け》を発動、手札を一枚捨てて暴れ牛鬼を破壊する」

 

《死者への手向け》

通常魔法

手札を1枚捨て、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターを破壊する。

 

 暴れ牛鬼の真下から無数の手が伸びてきて押し付けられる。抵抗虚しく、牛鬼は押し潰されて破壊されてしまった。

 

「ありがとな」

 

 墓地に送られていく暴れ牛鬼に遊導はそう声をかけて見送る。

 

「私はカードを2枚伏せて、ターンエンド。君のターンだ」

 

九重 手札一枚 フィールド:聖騎士アルトリウス(攻撃表示)/伏せカード二枚

 

「はい。俺のターン、ドロー」

 

 このままメインフェイズ1──というところで遊導は引いたカードを確認せず、口を開いた。

 

「九重さん、質問いいですか?」

「時間は限られているし、後続もいる……と言いたいところだけど、幸い私の担当は君で終わりのようだ。少しならいいだろう」

 

 遊導はありがとうございます、と礼を言ってから疑問を口にした。

 

「何故、さっきのターンのメインで死者への手向けを使わなかったんですか? サイクロン使った後なら直接攻撃で俺のライフは2200……悪魔のサイコロを使って6を出しても2800まで減らせたのに」

「そうだね。私は君のデッキを甘く見ていた……というのが答えだ。

サイクロンで破壊したモンスターBOX、それから君への質問で君のデッキがギャンブルカードで構成されたと分かった。伏せカードは予想するに悪魔のサイコロ……83%で暴れ牛鬼は倒せる。

それに死者への手向けはコストとして手札を捨てなければいけない。2枚使うのなら上級モンスターに使おうと思っていたが……君は6を出した。下手すれば次のターンに暴れ牛鬼で1000ダメージ、更にそれを生け贄にして上級モンスターを召喚したり、アルトリウスを破壊して一気に追い詰められる可能性があったから苦渋の決断として死者への手向けを使った。この答えじゃ不満かい?」

 

 丁寧な答えにある意味驚きの表情になった遊導だったが、満足する答えのようで少年らしい笑顔を浮かべた。

 

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

「そうか、ならデュエルを続けよう」

 

 九重がそう言った瞬間、一気に会場が喧騒に包まれた。その正体は遊導の両サイドのデュエルフィールドを見れば明らかだった。

 

「すげぇ! 流石はあの『双璧』の吹雪の妹だ!! しかもめっちゃ可愛い!」

「ジュニアチャンピオンの万丈目も凄いぞ! 無傷で余裕の勝利だ!」

 

 右には金髪ロングの勝ち気な美少女(同い年だけど)が優雅な立ち振舞いでお辞儀をして、左を見ればツンツン黒髪の美少年(こちらも同い年のだが)が堂々とした振る舞いで、二人ともデュエルフィールドから去って──遊導のデュエルを見物し始めた。

 それにビクッと驚いた遊導が周囲を見渡せば他はもう試験を終え、残るのは彼だけだった。

 

「す、すみません……早く進めますね」

「ああ、全員から注目されては君も息苦しいだろう」

 

 遊導はドローカードを確認する。それはやや事故っていた彼の手札でもすぐに使える優秀なカードだった。

 

「俺は手札から《カップ・オブ・エース》を使用! コイントスをして表なら俺が、裏なら九重さんが2枚ドロー!」

「ドローソースまで拘っているのか……!」

 

《カップ・オブ・エース》

通常魔法

コイントスを1回行う。 表が出た場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。 裏が出た場合、相手はデッキからカードを2枚ドローする。

 

 デュエルディスクから本日二回目のコインが弾かれる。ソリッドビジョンに映されたのは──

 

「表! 二枚ドロー!」

 

 この時点で他の受験者の反応は失笑が大半だった。

 それもそうだろう。二枚ドローなら《強欲な壺》他にも《天使の施し》や《天よりの宝札》があるのに運任せのカップ・オブ・エース、受験番号一桁台がこんなのなら笑われても仕方ない。

 それを意識の外に追いやった遊導はドローカードを確認してこれからの行動を確定した。

 

「……行きます! 手札から魔法カード《サモン・ダイス》! 1000ポイントライフを払い、サイコロを振り、出目に応じた効果を発動! ダイスロール!」

 

《サモン・ダイス》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。 (1):1000LPを払って発動できる。 サイコロを1回振り、出た目の効果を適用する。

●1,2:モンスター1体を召喚できる。

●3,4:自分の墓地からモンスター1体を選んで特殊召喚できる。

●5,6手札からレベル5以上のモンスター1体を特殊召喚できる。

 

遊導 LP 4000→3000

 

 本日二度目のサイコロが示した出目は──5だった。

 

「出目が5か6の場合、手札からレベル5以上のモンスターを特殊召喚できる! 来い! ギャンブルデッキ最強の鎧戦士《ゴッドオーガス》!」

 

《ゴッドオーガス》

効果モンスター 星7/地属性/戦士族/攻2500/守2450

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。 サイコロを3回振る。 このカードの攻撃力・守備力は相手ターン終了時まで、出た目の合計×100アップする。 その後、出た目の2つが同じ場合、その同じ目によって以下の効果を適用する。 出た目の全てが同じ場合、以下の効果を全て適用する。

●1,2:このカードは相手ターン終了時まで戦闘・効果では破壊されない。

●3,4:自分はデッキから2枚ドローする。

●5,6このターン、このカードは直接攻撃できる。

 巨大なサイコロの中から鎧に身を包み剣を携えた戦士が出現した。

 

「いきなり最上級モンスターか……恐ろしいな……しかもゴッドオーガスときた……」

「まだまだ! ゴッドオーガスの効果発動! サイコロを3回振って出た目の合計×100ポイント分攻撃力が上がる! 更に同じ出目が二回以上出ることにより追加効果を得る!」

 

 サイコロが三つ出現して回転し始める。

 この時点でギャラリーは呆れたような雰囲気になっていた。だが、数人─両サイドでデュエルをやっていた二人も含めて─は静かに彼のデュエルを見ていた。

 

「一つ目は……1!」

 

 ドッと笑いが起こる。

 

「二つ目……1!!」

 

 更に笑い声が大きくなる。

 

「ラスト……1!!!」

 

 もう会場は大爆笑の渦で包まれていた。スタッフが注意するがそんなのは焼け石に水状態だ。

 攻撃力がたったの300しか上がらない、なんだ受験番号が5でもこんなもんかと他の受験者たちは口々に言っている。

 ──蛇足だが筆記5位と言っても、筆記試験はオールマーク問題。そして選択肢は全て六択問題だった。遊導は4割ほど鉛筆サイコロで決めていた。

 だが──

 

「1を三回……!」

 

 ゴッドオーガスの事を知っている九重はその出目を信じられないという表情で見つめていた。

 

「ゴッドオーガスの特殊能力! 300ポイントの攻撃力上昇!」

 

 ゴッドオーガスの纏うオーラの量が微量ながらも増えた。

 

「二つ目の効果! 同じ目を2回以上出したことによりゴッドオーガスはその出目に応じた効果を得る! 1か2の場合は相手ターン終了まで戦闘、効果による破壊の無効化! ゴッドオーガス不可侵領域展開!」

 

 周囲にゴッドオーガスを守る球体の防御壁が出現。

 この時点でさっきまでは爆笑していたギャラリーの声が驚きに変貌してきたがゴッドオーガスの効果はまだ終わらない。

 

「三つ目の効果! サイコロを振って出た目が全て同じだった場合、3か4、5か6が2回以上出た時に得られる能力も発動できる! 3,4の効果が適用されて2枚ドロー! そして──5,6の効果でゴッドオーガスは直接攻撃が可能になる!」

 

「──! だが、ゴッドオーガスは攻撃力2800……攻撃力2000のモンスターを召喚しない限り、まだ私を倒すには──」

「速攻魔法! 《天使のサイコロ》!!」

「!!」

 

《天使のサイコロ》

速攻魔法

(1):サイコロを1回振る。 自分フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、ターン終了時まで出た目の数×100アップする。

 

 本日六回目サイコロが示した出目は──2、これでゴッドオーガスの攻撃力はピッタリ3000になった。

 

「更に更に速攻魔法! 《サイコロン》!」

 

《サイコロン》

速攻魔法

(1):サイコロを1回振り、出た目の効果を適用する。

●2,3,4:フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破壊する。

●5:フィールドの魔法・罠カード2枚を選んで破壊する。

●1,6:自分は1000ダメージを受ける。

 

「魔法破壊までサイコロか……」

「当然! ダイスロール!」

 

 本日七回目──最後のサイコロが示したのは5の出目。

 

「伏せカード二枚を破壊する!」

「なんだと!?」

 

 大量のサイコロの嵐により伏せられていた《魔法の筒》と《ダメージ・コンデンサー》が破壊された。サイクロンの意趣返しに満足した遊導は勢いよく拳を突き出した。

 

 

「ゴッドオーガスの攻撃! 金剛剣!!」

 

 遊導の声に反応した鎧戦士が跳躍、アルトリウスを軽々と越して九重を肉薄し──九重を一刀の下に斬りつけた。

 

九重 ライフ 3000→0

 

 九重はそれを受けて後方に少し吹き飛ばされたものの上手く受身を取って直ぐに起き上がった。

 

「おめでとう、君の勝利だ」

 

 柔らかい笑顔で細やかな拍手をしながら九重は遊導の勝利を告げた。

 

「合格通知は後日郵送される──まぁ、筆記の結果とこのデュエルなら君は合格確実だろう。もし上がギャンブルデッキに難色を示しても私が全力で推すよ。

試験用デッキとはいえ私を無傷で倒したのだからな」

「はい! ありがとうございました!」

 

 遊導は一礼してデュエルフィールドを後にする。あの状況から決めた彼を褒め称え、嫉妬する者はいても先程のように嘲笑う者はいなかった。

 

「途中から見てたけどいいデュエルだったわ。貴方面白いわね」

 

 ささっと立ち去ろうとした遊導に一人の少女が話しかける。それは先程まで彼の右側で試験を受けていた少女だった。

 

「あ、ありがとう。自分の運に身を任せただけだけど……」

 

 異性、しかも美少女に話しかけられて遊導はキョドる。

 

「でもカップ・オブ・エースからは貴方の思い描いていた流れだった。そうでしょ?」

「まぁ……うん。あの展開はいつもやってるから」

「いつもだと……?」

 

 そう会話に割り込んできたのは左側でデュエルしていた少年。ギャラリーもとい他受験者からは「万丈目」と呼ばれていた。

 

「貴様、あの展開をいつもやってると言ったのか? 見え透いた嘘はやめろ」

 

 馬鹿にしたような口調で遊導はそう言われる。

 

「嘘じゃないよ。あー……でも今日みたいにスマートに行くのは稀で、いつもは《出たら目》とか《リバースダイス》を使ってるな……」

「……なるほど、確かにその二つを併用すればサモン・ダイスもゴッドオーガスも上手く使える……認めてやろう」

「ど、どうもありがとう?」

 

 認めた、と言うことはとりあえずはこれ以上万丈目に絡まれることはないだろう。と遊導は内心ほっとした。

 

「えっと……俺は幸上 遊導。よかったら二人の名前も教えてくれないかな」

「私は天上院 明日香よ。よろしく、幸上くん」

「俺は万丈目 準だ」

 

 遊導は二人と自己紹介して一緒に海馬ランドから退出する。

 

「じゃあ、次は入学式で」

 

 かっこつけてそう言ったものの、遊導は「あ、これってなんか自信満々で恥ずかしいな」と思い前言撤回しようとしたが二人とも特に嗤うこともなく、当然といった様子で別れの挨拶をして各々の帰路についた。

 

 

 

 

「天上院明日香に万丈目準……明日香はアカデミア中等部二年の次席で『双璧』の片割れ『天上院吹雪』の妹で更に女子大会で優勝経験有り。万丈目は去年と今年の12歳以下の全日本ジュニア大会で優勝って……凄いのと知り合いになったなぁ」

 

 まだ試験を受けただけというのに、遊導の頭にはアカデミア中等部への期待が更に膨らんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の名字は「こうがみ」ですが鴻上博士とはなんら関係のない人畜無害な少年です。
早速1話から勘違いしてるというポカをやらかしました。現在修正済みですが、これからも多々あるのでその度に指摘してくださると嬉しいです。


また、あらすじが長いとスクロールが面倒だとおもうので注意書きを今話後書きに記します。

本作は《遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX》の二次創作となります。本編開始の時系列の関係で原作とは別のルートを辿っていく可能性があります。また、GXの知識がにわかレベルなので騙し騙しやっていきます。
 オリジナルカードは無し、オリジナル設定はあり(ましまし)です。
 禁止・制限は当時(2005~2008)と現在を比較し、制限が軽い方を適用します。なので強欲な壺などは制限カード扱いです(便利なので)。マキュラや烏などは終身刑です。サンダー・ボルトは許された。
追記:たまに脱獄するカードが出てくるかもしれません。

 チューナーはある時点まで出ないか『効果モンスター』として出す予定です。エクシーズ、ペンデュラム、リンクに関する表記があるものはその表記を消したモノが作中に出る可能性があります。
例:伝説の白石は『チューナー』だが、本作で何もイベントが起きずに突発的に出た場合は『効果モンスター』
例:銀河眼の光子龍のテキストにある『除外したモンスターがXモンスターだった場合~』の表記が元々ないカードという風に出す予定です。
 シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンクの各種イベントが起きれば謎の力で『効果』だった表記だったモノが『チューナー』に変化したり、追加テキストが現れたりするものだと思ってください。
 カードプールは時期関係なく出たらその時点で発売されてるカードだと思ってください。ガガガマジシャンが出たら「発売されてるんやな」で、ゴゴゴゴーレムが出てこなかったら「発売されてないんやな」という風にお考えください。
 OCG効果とアニメ効果が入り交じってます。ラーはヲーではない。天よりの宝札は優秀なドローカード。狂戦士の魂で王様ごっこができる。
 遊戯王OCGはほぼ素人で、ルールなどデュエル構築などお粗末にも程があります。気になったり、改善点があればお願いします。


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2話:入寮─万丈目 準

一日も経たずにお気に入り10件オーバー……嬉しい限りです。期待に応えられるようにがんばります。

今回はデュエルはありません、基本的に2話に1話デュエル(連戦や平行している場合は別)にして、もう1話は日常や箸休め程度のものにしようと考えています。


 デュエルアカデミアの中等部入試をしてから半月、遊導の元に書留ハガキが届いた。差出所はデュエルアカデミアだ。

 まず届いた時に遊導はハねあがり、緊張した面持ちで自室に行き、深呼吸して結果を確認する。

 彼の目に入ったのは『合格』の二文字、補欠でも不が付く合格でもなく紛れもない『合格』だった。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ガッツポーズしながら自室で荒れ狂い、疲れたところでハガキに再度目を通す。

 

「えっと……総合成績三位で、特待生で学費諸々免除。クラスは特別クラスの1-B……その他は後日発送か……」

 

 三位に特待生、これは学費(アカデミアは他の私立よりも数倍金がかかる)の事を心配していた両親に報告しなければと遊導はハガキを持って胸を張って報告しに行った。

 証拠ハガキを持って報告を遊導が報告をすると、両親はこれまで無かったレベルで彼を褒め、知り合いに報告もとい自慢をしまくった。

 夕飯は高級焼肉で、その帰り道にデュエルモンスターズの最新パックを遊導が別にいいと言ってるのにも関わらず、5箱ほど買い与えるほど浮かれていた。

 

 

 

 そして「後日」

 

「これがアカデミア中等部用のデュエルディスクってうおかっけぇ! 書類は……後で見るとして、まさかあっちからもカードが送られてくるとは……」

 

 遊導の視線の先にはアカデミアからの『合格祝い』である一ヶ月先に発売される予定の超最新パックが3箱。ここ数日で彼の所有カードは一気に数倍へと増えていった。

 

「……まぁ、このデッキ以外は作らないだろうけど」

 

 手に持っている『ギャンブルデッキ』を確かめながら遊導はそう呟く。彼はあの日から細かいところは違えど、本質は同じデッキを使っていたため今更サブデッキを用意したり鞍替えするつもりはないようだ。

 次に確認したのはクラスメイト。五十音順ではなく、入試の順位がそのまま出席番号に反映されている。

 

「一番が万丈目、二番が明日香、それで俺。四番が──」

 

 1-Bは男子20人、女子10人の30人だとクラス表から、学年は男子180人の女子60人で合計240人だと付属書類から判明した。

 ──ちなみに何故特待生クラスがB組なのかというと、アカデミアの創始者である海馬瀬人のエースカード《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)》の頭文字Bから準えている。他のクラスは1-1とかの英数字でアルファベットのクラスはB組のみ。

 

「四月五日までに入寮を完了するように……色々と準備しなきゃなぁ。寮までどうやって行こうか……無難に電車とか新幹線かなぁ。あんまり好きじゃないんだけど……」

 

 と遊導が独り言を言いながら目を落とすと『特待生には指定した日にアカデミアから迎えが行く』と書かれていた。

 

「特待生ってすげぇ!」

 

 

 

 

 ──四月四日、遊導は小学校の友人らと別れの挨拶を済ませ、都心にある大型マンション風の中等部男子寮を訪れた。

 

「部屋は702……ラッキーセブンがあるのは嬉しいなぁ」

 

 そう呟きながら寮の玄関ロックを外して─指紋認証と色彩認証─入る。そして遊導は寮の中を見て完全に固まった。

 既に広い玄関ホールにスタッフらしい大人が十人、建設から数年しか建っていないがそれを加味しても汚れ一つすら無いのは遊導にとって異常に思えた。

 

「これ、ホテルでしょ。俺知ってるよ、一泊何万円とかするんでしょ。寮ってのはもっとボロ汚いって漫画で見たことあるし、来るところ間違えたんださっさと寮に向かおう。パンフで見たのは多分ここだけどここが寮なわけないきっとそうだ」

「貴様は何バカな事を言っているんだ。さっさと進め」

 

 遊導の独り言に反応したのはいつの間にかいた万丈目だ。背中をやや強めに押して二人とも完全に寮に入った。

 

「あ、万丈目。久しぶり」

「万丈目"さん"だ」

「……準、久しぶり!」

「貴様ぁ……!」

 

 万丈目は遊導の反応に青筋をヒクヒクさせてたが「まぁいい、着いてこい」と言うとさっさと進んでいった。言われた通り、遊導は万丈目の後ろをまるで上京してきた田舎人のようにキョロキョロしながら着いていった。

 

「貴様は男子ではオレの次に優秀だからどうせ部屋も隣だろう、案内してやる」

「……ということは一回来たことあるの?」

「一週間前に荷物整理と下見をしにな」

「真面目だ。ツンツン黒髪なのに真面目だ。しかも優しい、それでいて主席だ」

「灰色巻き貝のような髪をしている貴様にだけは言われたくない。……褒めるのか馬鹿にするのかどっちかにしろ」

 

 そんな感じで仲良く談笑をしていた二人はいつの間にか部屋の付近にいた。

 

「オレは隣の701だ。何かあれば訪ねてもいいぞ、遊導」

「ありがとう、準。じゃあまた後で」

「だから……いいだろう、その呼び方も特別に許してやる」

 

 遊導は万丈目と別れ(隣同士だが)自室に入った─今度のロックは学生証と指紋認証と色彩認証の三重─中は小学生(七割中学生)に与えていいのかというモノばかりが揃っていた。

 

「テレビでかっ!ベッドでかっ!しかもフカフカ!めっちゃ綺麗!噂に聞くIH!風呂でかっ!トイレいい匂い!これがあのPDA!ノートパソコンまである!アカデミアオリジナルのカード辞典!?

パンフにはここまでの設備があるなんて書いてなかったぞ……これが噂に聞く特待生措置……!」

 

 一つ一つに感動しながら遊導はとりあえずPDAをいじり始めた。名前と所属は既に入力されていてロックのためにお馴染みの指紋と色彩のデータを取られた。

 

「電話機能にネットも使えてメールや中等部専用SNS、それに寮とアカデミアの地図も見れる……文明の利器ってすげー!」

 

 次に目をつけたのはカード辞典。そこには生産されたカードの全てが記されており、有名なコンボも掲載されている。

 

「青眼のコンボ集10ページ以外は本当に有用そう……あ、これにPDAを合わせたら……おっリンクした! 隠し機能か!」

 

 いいえ、説明書に載ってます。

 

「さて、これからどうしようかな……とりあえず寮の構造を把握しておくか」

 

 よっこらせと腰を上げ、遊導は軽装に着替えて部屋を出る。デッキとデュエルディスクはもちろん持っている。

 

「8,9階は上級生の特待生フロアだから原則立ち入り禁止……10階はパーティーフロアで普段は開放してないか。5,6階は上級生普通クラスのフロアでこれも立ち入り禁止。とりあえず1階から何があるか調べていこうか」

 

 そう呟いて万丈目の部屋の前を過ぎ、エレベーターを目指して歩いていると遊導の背後からやや大きな音が聞こえ、遊導の肩を強い力で掴んだ。

 

「待て貴様、どこに行くつもりだ」

「いて……って準か。どこって寮の使いそうなところを見ておこうかなって」

「何故一人で行こうとした。オレが案内してやるのに」

「頼りきりも悪いし、地図あったからいいかなって」

 

 言葉を重ねていくにつれて万丈目の目つきが険しくなり、遊導の肩を掴んでいる手の力もどんどん増していった。

 

「……よかったら案内してくれないかな。一回来たことあるなら重要度低い順から案内してくれると嬉しいなぁ……」

 

 遊導がそう言ってチラッと見ると万丈目は嬉しそうな顔をして肩から手を離した。

 

「仕方ないな……行くぞ。大方貴様は一階から行こうとしたみたいだが彼処は広い上に重要な施設が多い。三階から行くぞ」

「助かるよ、準」

 

 二人は特待生専用エレベーターで三階まで降りる。

 

「三階は学業関連のフロアだ。一年用はこっちだ」

 

 少し歩くと一年用自習室と書かれた部屋に到着する。遊導は使い方を万丈目に教わってとりあえず試しにと中に入る。

 

「デュエルアカデミアっていっても大手私立だから勉強関連の設備も充実して……して……?」

 

 自習室の机や眠気覚ましコーヒーの供給スペースなど見ていた遊導だったが、とある場所を見ると少し困惑し始めた。

 

「どうかしたか」

「ここって勉強関連だよね?」

「そう言っただろ」

「なんで参考書の殆どがデュエルモンスターズ関連なのさ」

 

 遊導の視線の先にはデュエル本でいっぱいだった。数冊出すと『デュエルモンスターズ問題集:禁止カード編』や『これで君もオベリスク・ブルー確定! 魔法・罠編』『オシリス・レッドでも解ける! デュエル基礎編』などなど。数学やら国語やらはあるにはあるが各教科三冊ずつしかない。

 

「筆記の七割がデュエルモンスターズの問題だからだ。他教科なぞ授業と課題で十二分にカバーできる」

「……ここって偏差値高くなかった?」

「つまりそういうことだ」

 

 さっさと自習室を退席して、集団で勉強するスペースや休憩室に訪れた。三階はそれで終わり。

 エレベーターに乗り、今度は1階分だけ下に降りる。

 

「二階はデュエル関連のスペースと売店だ」

「待ってました!」

 

 エレベーターを降りればすぐに数十のデュエルフィールドが遊導の視界いっぱいにあった。

 

「総数は25で一人用の設備もある」

「金かけてるな……」

 

 デュエルフィールドは費用抑えめのモノ。一人用の設備というのは自身のデッキをスキャンしたコンピュータが出す問題を答えるという詰将棋のようなモノだった。

 

「売店は朝6時から夜9時までだ。パックも普通の店より早く届く上に入荷量が桁違いだな」

「へー。お姉さん、5パックください!」

「人の話を聞け! ええい、オレも5パックだ!」

 

 遊導は現時点ではほぼ必要ないのについついパックを記念として買った。なお選んだのはバトルシティ決勝進出者たちが使っていたカードとそれのサポートを詰め込んだパックだ。

 

「えっと……墓守に千年竜!! あとは……ユニオン系に──時の魔術師だ!! やっほーい!!!」

 

 最後の1枚があの城之内克也が愛用していたギャンブルカード《時の魔術師》で遊導は大きくガッツポーズをした。ギャンブルを愛する彼は時の魔術師とあと数種がどうしても手に入らず、やや田舎である地元カードショップを転々としていたのだ。

 

「当たりを引いたようだな。オレは……儀式モンスターが多いな。デッキに合わん」

 

 そんな事を万丈目はぶつぶつ言いつつも買ったカードをしっかりとカードケースにしまった。

 

「話が逸れたな。ここの売店はもう一つ特徴がある。それはアカデミア名物ドローパンだ」

「ドローパン?」

 

 聞きなれない単語に遊導はおうむ返しして首を傾ける。

 

「この無数のパン、これがドローパンだ」

「えっと、中が見えないのには理由が?」

 

 遊導は数個手に取ってみて360度から見回す。

 

「このパンはドロー訓練の一種として販売されている。中の具は開けるまで不明、そして当たりがある。要は『引きのよさ』を鍛える為のパンだ」

「へー……当たりって?」

「ああ、高等部の購買では一日一つ限定の『黄金の卵パン』だが、中等部は一日六つ限定の『金色のクリームパン』だ。

実際には女子寮と本校の購買で分けるからこの中に全部があったとしても二つだな。

……話をしていたら小腹が空いたな。一つ買うか」

 

 そう言って万丈目は無造作に一つ選んで売店のお姉さんに金を渡す。

 

「それじゃあ俺も」

 

 それに倣い、遊導も手に持ってた三つのパンを買った。二人は同時に開け、中を確認する。遊導は初めて見たが万丈目のを見ると基本的な形や色は同じだということがわかった。

 

「そういえば種類はどんだけあるの?」

「50だ」

「そんなに!?」

 

 とりあえずパクっと遊導は一口食べてみる。

 

「あれ? なんかいやにビニールっぽい……」

 

 見てみると、ドローパンにはカード(スリーブに入っている)が挟まっていた。

 

「え? ねぇ、準。異物ならぬカード混入なんだけど」

「仕様だ。だが、カード入りとは珍しいな」

 

 遊導はカードを取り出して中を見てみる。

 

「えっと……《エンド・オブ・ザ・ワールド》が二枚……終焉の王デミス専用の儀式魔法か」

 

 レアリティはN(ノーマル)、デッキに入らず、なによりデミスを持っていない彼にとってはカード入りが珍しくても外れの部類である。

 カードをしまって万丈目の方を見ると、彼は何とも言い難い苦々しい顔でドローパンと対面していた。

 

「まさか……レタスとは……」

「もしかして準って野菜嫌いなの?」

「き、嫌いではない。食べられるぞ……」

 

 だがそれ以上食べる気がないのか完全に睨み合っている。

 

「準、交換しよう。こっちに未開封があるからそれと交換」

「いいのか? いや、しかしオレは……」

「あーレタスが食べたいなー」

「いいだろう。貴様がどうしてもというのならこのレタスパンと交換してやろう」

「はい、トレード成立ってことで」

 

 遊導は野菜類は嫌いではない。特にレタスは食感により好きな部類にさえ入る。パクパクと数口で食べる。

 流石にレタス入りでも口の水分が無くなったらしく、遊導は牛乳を買う。すると隣にいる万丈目は今度は嬉しそうな顔でドローパンを見つめていた。

 

「ス、ステーキだと!?」

「準は肉が好きなのか。交換した甲斐があってよかった」

「今回は礼を言うぞ。貴様の買ったドローパンから出たのだからな」

 

 遊導はカード入りだった方をペロリと食べ、最後の一つを開ける。

 

「こういう運任せってのはやっぱりいいな。明日からも買おっと」

 

 パクっと食べると、口の中が甘い幸福感で満たされた。それはカスタードのようなものだが、今まで食べたモノと大分違った。

 

「……ねぇ、準。これってもしかして……」

「貴様……三つ買ったとはいえ、いきなり当てたな……!」

 

 それはここの購買では一日に二つしか出回らない、『金色のクリームパン』だった。




おい、サイコロ振れよ
まだこの時期の万丈目(サンダー)はあの性格じゃないと思いました。取り巻きは置いてきた、ハッキリ言ってこの二次創作についてこれそうもない


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3話:首席と三位─地獄デッキ

お気に入り30件オーバー……!? 評価も感想も励みになります。
万丈目の性格が違うのは許してください。



「あれが金色のクリームパン……満足感が半端ない……また食べたい……」

「その満足感はドローパン三つを食べたからだろ。次行くぞ」

 

 幸せそうな表情の遊導を万丈目は引っ張りながら一階へと降りる。

 

「一階はフロント、食堂、大浴場などの日常生活でよく利用するのが主だ。ここは上級生も頻繁に利用して顔を会わせるからルールは必ず守れ……と言われた」

「えっと……食事と大浴場の時間に上級生への対応……」

「ふん、礼儀を守れと言われても『双璧』ならまだしも他の有象無象に何故オレが下手に出なければならんのだ」

 

 万丈目が不満そうに言うと遊導は一枚のコインをホルダーから取り出した。

 

「じゃあ、これで決めれば?」

「どういう意味だ?」

「礼儀を守るか守らないか。表で守る、裏で守らない。自分の運命に身を委ねた方がいい方向に行くよ。ホイ」

 

 遊導は慣れた指さばきでコインを万丈目の掌に弾く。

 

「まったく、普段ならば一蹴しているが、ギャンブルデッキ使いの貴様の言うことだ。参考にする」

 

 そうニヒルな笑いを浮かべながら万丈目はコインを弾く。コインは上手い具合に手の甲に収まり、示したのは表。

 

「波風立てるなって事だ」

「フン、まぁいい……行くぞ」

「何処に?」

「デュエルがしたくなった。不満か?」

「いや、大歓迎だよ。準の戦い方は知らないから」

 

 再度二階に上がり、近くのデュエルフィールドに入る。自動扉が閉まると『使用中』のランプが灯り、セットした学生証から二人のフィールドとライフがギャラリーにも一瞬で分かるようになった。

 尤も、この場所にはデュエルする二人以外誰もいないが。

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 デュエルディスクが示した先攻は──万丈目だ。

 

「オレのターン、ドロー! オレは《地獄戦士(ヘルソルジャー)》を攻撃表示で召喚! カードを1枚伏せてターンエンドだ。見せてみろ! お前の実力を!」

 

《地獄戦士》

効果モンスター 星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1400

このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、 この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手ライフにも与える。

 

 万丈目は順調な滑り出しを終え、不敵な笑みを浮かべている。

 

万丈目 ライフ 4000

フィールド 地獄戦士/伏せカード1枚

手札4枚

 

「言われなくても! 俺のターン、ドロー! 魔法カード《カップ・オブ・エース》発動!」

「いきなり運任せか!」

「そういうカードしか入れてないからね! コイントス!」

 

 遊導の声に反応してコインが宙を舞う。示したのは──

 

「表! 二枚ドロー! モンスターをセット、永続魔法《デンジャラスマシンTYEP-6》を発動してカードを一枚伏せてターンエンド」

 

《デンジャラスマシンTYEP-6》

永続魔法

自分のスタンバイフェイズ毎にサイコロを1回振る。 出た目の効果を適用する。

1:自分は手札を1枚捨てる。

2:相手は手札を1枚捨てる。

3:自分はカードを1枚ドローする。

4:相手はカードを1枚ドローする。

5:相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

6:このカードを破壊する。

 

遊導 ライフ 4000

フィールド 裏守備1体/デンジャラスマシンTYEP-6,伏せカード1枚

手札4枚

 

「随分消極的だな! オレのターン、ドロー! ククッ強欲な壺を発動!」

 

 追加ドローを完了し、万丈目の顔が更に綻ぶ。

 

「《ヘル・ドラゴン》を召喚! コイツに勝る守備力の低級モンスターなぞ存在せん! バトルだ、ヘルドラゴンで攻撃!」

「伏せカードあるのに迷わず突撃してきた!?」

 

《ヘル・ドラゴン》

効果モンスター 星4/闇属性/ドラゴン族/攻2000/守0

(1):このカードが攻撃したターンのエンドフェイズに発動する。 このカードを破壊する。

(2):フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた時、 自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。 このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 万丈目の考えなしに見える突撃を遊導は驚きながら迎え撃った。

 

「悪魔のサイコロや天使のサイコロは使わないのか!」

「いや……必要ないかなって」

 

 裏守備モンスターが反転、現れたのは《ルーレット・ボマー》戦車とルーレットが合わさった戦闘機がドラゴンの突撃に威嚇として一発放つ。それだけでヘル・ドラゴンは離れていった。

 

《ルーレット・ボマー》

効果モンスター 星4/光属性/機械族/攻1000/守2000

自分のメインフェイズに2回サイコロを振る事ができる。 出た目を1つ選択し、その数と同じレベルのフィールド上の表側表示モンスター1体を破壊する。

 

「攻防が同じだから双方無傷。よかったよかった」

「チッ、ならばオレは魔法カード《二重召喚(デュアルサモン)》を使うぞ! そして二体を生贄にして《ヘルフレイムエンペラー》を召喚!! フハハハハハハハ!!」

 

《二重召喚》

通常魔法

(1):このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

《ヘルフレイムエンペラー》

効果モンスター 星9/炎属性/炎族/攻2700/守1600

このカードは特殊召喚できない。 このカードがアドバンス召喚に成功した時、 自分の墓地に存在する炎属性モンスターを5体までゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターの数だけ、 フィールド上に存在する魔法・罠カードを破壊する。

 

 地獄戦士とヘル・ドラゴンを踏み潰し、炎の巨人が姿を現した。

 万丈目がメイン1で使わなかった理由はダメージを優先したため。しかしセットモンスターの防御力が高く、彼にとっては予定通りだが想定外の召喚をした。

 

「うげっ、ルーレット・ボマーの効果範囲外だ……」

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

万丈目 ライフ 4000

フィールド ヘルフレイムエンペラー/伏せカード2枚

手札3枚

 

「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズにデンジャラスマシンTYEP-6の効果発動! ダイスロール!」

 

 遊導の背後の機械からサイコロが飛び出す。出目は4だ。

 

「うわハズレ……準、1枚ドローして」

「貴様の運もこのオレには敵わないということだな」

 

「ならメインステップ! リバースカードオープン《レベル変換実験室》!

手札のモンスターを1枚見せてサイコロを振って、1以外なら出た目のレベルに、1なら墓地に送る」

 

《レベル変換実験室》

通常罠

自分の手札のモンスターカードを1枚選択して相手に見せ、 サイコロを1回振る。

1の目が出た場合、選択したモンスターを墓地へ送る。

2~6の目が出た場合、このターンのエンドフェイズ時までこのモンスターは出た目のレベルになる。

 

 遊導が見せたのは《巨大戦艦カバード・コア》レベル7の最上級モンスターだ。

 

「ダイスロール!」

 

 勢いよく跳ね、回転するサイコロが示したのは──3の目。

 

「カバード・コアはレベル3に変更! 来い! カバード・コア!!」

 

《巨大戦艦カバード・コア》

効果モンスター星7/地属性/機械族/攻2500/守 800

このカードの召喚時にカウンターを2つ置く。

このカードは戦闘によっては破壊されない。

戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時にコイントスで裏表を当てる。

ハズレの場合、カードのカウンターを1つ取り除く。

カウンターのない状態で戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時にこのカードを破壊する。

 

 遊導の掛け声に反応し、上空から円形の機械が降りてくる。その圧力は凄まじいものだ。

 

「最上級モンスターを生け贄無しで召喚だと!?」

「あ、守備表示ね」

「……守備力800のモンスターを守備表示……貴様、舐めているのか……!?」

「いやいや、攻撃表示のままならヘルフレイムエンペラーに勝てないから仕方なくだよ。更にもう一枚伏せてターンエンド」

 

遊導 ライフ4000

フィールド ルーレット・ボマー、カバード・コア/デンジャラスマシンTYEP-6、伏せカード1枚

手札3枚

 

「オレのターン、ドロー! ならお望み通りそのガラクタを吹き飛ばしてやろう! オレは魔法カード《天使の施し》を使い……《死者蘇生》を発動! 蘇れ地獄戦士!!」

 

 墓地という地獄から戦士が蘇ってきた。そして、地獄戦士の攻撃力でもカバード・コアは倒せる。

 

「だがオレはこの程度では満足せん! 速攻魔法《地獄の暴走召喚》だ! デッキから二体の地獄戦士を召喚! 代わりに貴様もカバード・コアかルーレット・ボマーを召喚できるが──」

「できないよ」

「なに?」

「俺のデッキ、カップ・オブ・エース以外は全部ピン差しだから召喚できないよ」

「………………」

 

《地獄の暴走召喚》

速攻魔法

(1):相手フィールドに表側表示モンスターが存在し、 自分フィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚された時に発動できる。

その特殊召喚したモンスターの同名モンスターを 自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚し、 相手は自身のフィールドの表側表示モンスター1体を選び、 そのモンスターの同名モンスターを自身の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する。

 

 万丈目は遊導の衝撃の告白に呆然とし、心なしかフィールドにいる四体のモンスターも揃って呆然しているような雰囲気だ。

 

「ええい、更に! 装備魔法《ヘル・アライアンス》を地獄戦士に装備! これで攻撃力が2800に上昇した!」

「このままだと全滅コースだ……」

「全滅では済まさん! ライフも貰うぞ!! 先ずはヘル・アライアンスを装備した地獄戦士でルーレット・ボマーを攻撃!」

 

《ヘル・アライアンス》

装備魔法

フィールド上に表側表示で存在する装備モンスターと同名のモンスター1体につき、 装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

 

 ルーレット・ボマーは迎撃体勢を取るが、地獄戦士は仲間との連携で撹乱して戦車を滅多切りにして爆散させた。

 

「次だ! 行けぃ!地獄戦士! 破壊したら他で直接攻撃をして一気に──」

「カバード・コアの効果発動! 戦闘では破壊されない!」

「なに!?」

 

 万丈目が驚きの声をあげるが、それにはまだ続きがある。

 

「まぁ、元々2つのカウンターが乗ってて、コイントスを外したらカウンターを取り除く。それか0になったら無条件でカバード・コアは破壊されるって効果」

「……当たった場合はどうなる?」

「もちろん、カウンターは取り除かないよ。さぁ、ダメージステップ終了時にコイントスだ!」

 

 コインが弾かれる直前、遊導はコインの示す結果を予想する。

 

「裏!」

 その直後、コインは弾かれ、そして表を示した。カバード・コアに灯っていた2つのシンボルのうち1つが消失した。

 

「外れたかぁ……まだ攻撃する?」

「勿論だ! 行け! 地獄戦士、ヘルフレイムエンペラー!」

 

 地獄戦士の攻撃によるコイントス。遊導は表を予想──ハズレ。カバード・コアのカウンターが0に。

 

「どうやらクリームパンで貴様の運は尽きたようだな! やれ!ヘルフレイムエンペラー!!」

 

 ヘルフレイムエンペラーの攻撃──カウンター0につき無条件破壊。

 

「どうだ! これでオレのフィールドは磐石! ターンエンドだ!」

 

万丈目 ライフ 4000

フィールド 地獄戦士×3(内一体ヘル・アライアンス装備)ヘルフレイムエンペラー/伏せカード2枚

手札3枚

 

「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズに移行して、ここでデンジャラスマシンの効果発動。サイコロを振る……出目は5! ヘルフレイムエンペラーを破壊!」

 

 遊導の後ろに配置されていた機械がバチバチと嫌な音を出してヘルフレイムエンペラーを襲う。一瞬の閃光が視界を塗りつぶすと、炎の巨人は跡形もなく消え去っていた。

 

「クッ! だが、オレの場にはまだ地獄戦士達がいる!」

「そうなんだよね……うん、やってみようか」

 

 そう言いながら、遊導は一枚の──逆転の可能性を秘めたカードを場に出した。

 

「《時の魔術師》を召喚!!」

 

《時の魔術師》

効果モンスター 星2/光属性/魔法使い族/攻 500/守 400

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。 コイントスを1回行い、裏表を当てる。

当たった場合、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

ハズレの場合、自分フィールドのモンスターを全て破壊し、 自分は表側表示で破壊されたモンスターの攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。

 

 つい先ほど当てたそのカードを遊導は召喚した。あの城之内克也が愛用していた1枚でもある。

 

「さぁ、コイントスの時間だ! 俺の予想は表!! タイム・ルーレット!」

 

 今日は的中率が良くないコイントスを再度する。

「あードキドキする……これだからコイントスとダイスロールはやめられない!」

 

 コインが示したのは──表だった。

 

「いよぉし! これにより地獄戦士は全て破壊される! タイム・マジック!!」

「オレの地獄戦士軍団が!?」

 

 恐らく数千年の時が経ったのだろう。地獄戦士達は全員骨となり、消え去った。

 

「でも、俺にはこれ以上どうすることもできないんだよなぁ……時の魔術師、直接攻撃!!」

 

 その命令を受けた時の魔術師は杖で万丈目をポカッと殴った。「いたっ」と漏らしたことからそこそこ威力はあったらしい。

 

万丈目 ライフ 4000→3500

 

「やっぱりゴッドオーガスがいないと決められないなぁ……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

遊導 ライフ4000

フィールド 時の魔術師/デンジャラスマシンTYEP-6、伏せカード2枚

手札2枚

 

「オレのターン、ドロー! 《ヘルウェイ・パトロール》を召喚! そのまま攻撃!」

 

《ヘルウェイ・パトロール》

効果モンスター 星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1200

(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。 そのモンスターの元々のレベル×100ダメージを相手に与える。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。 手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスター1体を特殊召喚する。

 

 バイクに乗った暴走族風の男が時の魔術師を轢き倒し、余波が遊導を襲った。

 

「更に! ヘルウェイ・パトロールのモンスター効果! 破壊した時の魔術師のレベル×100ダメージを受けろ!」

遊導 ライフ 4000→2900→2700

 

「うっ……キツイなぁ……!」

「オレはこれでターンエンドだ……!」

 

万丈目 ライフ 3500

フィールド ヘルウェイ・パトロール/伏せカード2枚

手札3枚

 

「お互いにちょっと事故ってるなぁ……俺のターン。ドロー! スタンバイフェイズでデンジャラスマシンTYEP-6の効果を発動! ダイスロール!」

 

 巨大な機械は耳が壊れるような音を出しながら、サイコロが止まるのを待つ。サイコロが示したのは2の出目。

 

「手札を一枚捨ててもらうよ」

「チッ、《ヘル・ポリマー》を捨てるしかないな。融合デッキ0枚のお前には無駄なものだからな」

 

 これで万丈目の手札は2枚。手札誘発が残っている可能性はまだまだ捨てきれない。

 

「このターンで決めさせてもらうよ!」

「引いたか……!」

「サモン・ダイス! ダイスロール! ──6! 来い、ゴッドオーガス!!」

 

 巨大なサイコロの中から鎧に身を包んだ戦士が登場する。

 

「三回サイコロを振る!」

 

 これで全て同じ目が出るか、5か6が2つ以上揃えば勝てる──と遊導は考えてしまった。

 

「5,5,1! 1100上昇して……3600!! 直接攻撃が可能になる!! 裏守備でモンスターをセットして──

「リバースカード! 速攻魔法の《ご隠居の猛毒薬》だ! ライフを1200回復させるぞ!」

 

《ご隠居の猛毒薬》

速攻魔法

(1):以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分は1200LP回復する。

●相手に800ダメージを与える。

 

万丈目 ライフ 3500→4700

 

「ならこっちもリバースカードオープン!《ファイアーダーツ》! サイコロ三回の出目×100ダメージを与える!」

 

《ファイアーダーツ》

通常罠

自分の手札が0枚の時に発動する事ができる。 サイコロを3回振る。 その合計の数×100ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 出た目は4,4,3で合計11──1100ポイントのダメージだ。そして、これならゴッドオーガスの直接攻撃でピッタリ削りきれる。

 

万丈目 ライフ 4700→3600

 

 これで遊導の勝ちは決まった……かに思えた。

 

「クッ……仕方ない……オレは《破壊輪》を発動するぞ!! 対象はゴッドオーガスだ!」

 

《破壊輪》

通常罠 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊し、 お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。 ※エラッタ前

 

「なっ!? 今のゴッドオーガスに破壊耐性は……ない……でもこれじゃあ相討ちになるけど!?」

「フン……苦渋の決断だが負けるよりはマシだ……!」

 

 ゴッドオーガスに手榴弾付きの首輪が巻き付く。刹那──大爆発が発生して二人のライフを0にした。

 

「あー! 結局相討ちかぁ……勝負を急ぎすぎたなぁ……攻撃待ってれば……」

「貴様なにをセットした……《ダイス・ポット》だと!? どこまでも読めん……」

 

 二人で伏せカードやら戦術やらあれやこれやスペースで話していると、やはりデッキ構築に行き着く。

 

「準ってさ『地獄』とか『ヘル』とか好きなの?」

「ああ、オレには地獄が似合っているからな!」

「でも偏りすぎじゃない?」

「……………………」

 

 遊導の容赦ない一言に万丈目は黙る。

 

「ヘルフレイムエンペラーを十分に使うなら炎属性増やした方がいいし……」

「ええい!! 貴様に言われたくない! なんだ全てコイントスかサイコロとは! しかもほぼ全てが1枚構成とはどういうことだ! あそこでカバード・コアを出せてたら貴様の圧勝だっただろ!! オレを見くびったのか!」

 

 だが黙っているだけの万丈目ではない。しっかりと遊導に反論をする。

 

「いや……このデッキってカップ・オブ・エース以外を2枚以上入れたら漏れなく事故るんだよ……」

「はぁ? そんなバカな話が……」

「なら準、俺の部屋でこれをちょっと改良してみて。そのデッキでまたデュエルしようよ。流石にソリッドビジョンは疲れるから卓上でだけど」

「ああ、なら行くぞ」

 

 二人は七階の自室があるフロアへと向かっていった。

 

 

 ──一時間後

 

「貴様……本気でやっているのか!? オレ達はデュエルモンスターズをやっているんだぞ!」

「本気だって! 毎回毎回手札がゴッドオーガスとカバード・コアのフルハウスなんだよ! 俺だってやりたくてポーカーしてないわ!」

 

 十分ほどで改良─もとい遊導にとっては改悪──されたデッキを使い、10戦ほどした二人だったが、結果は遊導は何もできずに全敗。しかしそれに納得のいかない万丈目の怒りが爆発したのだった。

 

「貴様の言っていた事がわかった。元のほぼハイランダーデッキが合っていたとな」

「そうだね。んじゃ準、デッキ見せてよ」

「いいだろう、参考にしろ」

「いや、俺はこれ以上いじる気も作る気もないからね? 参考にしたくてもできないよ?」

 

 遊導が万丈目のデッキに目を通していくと、次第にカードを捲る手が遅くなっていった。

 

「地獄系以外はサイクロン、防御輪、破壊輪、ミラフォ、二重召喚、優秀ドローソース三枚、死者蘇生……なんで魔法と罠はこんなにガチガチなのにモンスターが地獄染めなのさ! せめてテーマ統一とか考えなかったの!?」

「うるさい! 地獄統一だ!!それに貴様に言われたくない!」

「うっそれを言われると何も反論できない……というか、調べたんだけど準ってジュニア時代は『最上級ドラゴン』使ってたらしいじゃん? 確かキーカードはラ──」

「やめろ!!」

 

 その声は、いままでのどの声よりも大きく、確かな拒絶の意志がこもっていた。

 

「あのデッキは使わん。それだけだ」

「……うん、わかった。ごめん、深く入り込みすぎた」

「気にするな。オレの方こそ柄にもなく怒った事を謝ろう」

「あ、ああ……うん」

 

 そこで会話が途切れ、二人の間を微妙な空気が支配する。

 

「……ふん、地獄以外にもそろそろ新しいデッキを作ろうと思っていたところだ、協力しろ」

 

 万丈目は気を利かせて、そう遊導を誘った。

 

「うん、じゃあなにをコンセプトにしようか」

「そうだな、最近出てきたユニオンをベースにしようと考えて──」

 

 二人の間には確かな友情が育まれていった。

 こうして幸上遊導と万丈目準は友人へとなったのだった。




本作の万丈目は漫画版も少し合わせたような万丈目になる予定です。
また、万丈目がさっさと破壊輪を使わなかった理由は保険として伏せていただけで、それで勝っても満足できない!という裏思考がありました。決してデュエル構成がガバガバだったわけではありません、ええ。
そして投稿用と修正用を間違えるというバカをやらかしました。

感想欄での質問がありましたのでこの場で補足いたします。
ルールに関してはアニメ準拠、アニメでやっていたことは基本的にできるという措置にします。今回のカバード・コアを表側守備表示で出すような感じです。


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4話:入学─天上院 明日香

今回はコロコロと場面が飛びます。書きたいことを小出ししすぎました。
あと数行程度のデュエルがあります(お粗末)


 遊導の入寮から数日後、デュエルアカデミア中等部は入学式を迎えていた。

 式は円滑に進み、生徒会長──『丸藤 亮』の祝いの言葉と新入生代表、万丈目 準の言葉も終わり一同は教室へと向かっていった。

 

「準って人前で喋るの慣れてるんだね」

「当然だ、オレは万丈目さんだぞ。あの程度の舞台でミスは犯さん」

 

 広い体育館兼デュエルスペースを抜け、校舎へと足を踏み入れた。一年生は六階に教室がある。

 

「エレベーター完備、しかも特待生用もあるときた」

「本当にすごい待遇ね」

 

 遊導の独り言に反応したのは金髪の美少女──天上院 明日香だった。

 

「明日香、久しぶり」

「ええ。久しぶりね、幸上くん」

 

 あの日、試験会場で出会ったうちの一人である明日香とはこの瞬間まで会わなかった。それもそのはず、男女では寮が違う上に、入学式はクラス別ではなく男女別(出席番号順)でこの特待生用のエレベーター待機まで会う機会が無かったのだ。

 

「今度貴方のデッキを見せてくれない?」

「俺のデッキなんか見たって面白くないよ」

 

 それに参考にすらならないとも付け加えたが遊導は後頭部に衝撃を受けた。

 

「何が面白くないだ。貴様のデッキは参考にはならんが十分に腹をかかえるほど笑えるだろう」

「痛っ……て準か。地獄染めマン丈目に言われたくないよ」 

「万丈目"さん"だ!!」

 

 そこから二人はヒートアップし、エレベーターに乗ってもあーだこーだ言い合っていると

 

「ふふっ、二人とも数日でそこまで仲よくなったのね」

 

 明日香が可愛らしい笑顔でクスクスと笑っていた。

 

「会って数日だけど部屋も隣だし、デュエルも一日に一回はするから仲はいいかな……ってどしたの準」

 

 遊導が見ると万丈目は明日香に釘付けになっており、頬を赤くしている。

 

「おーい、準? 準くーん? 万丈目!」

「万丈目"さん"だ!」

 

 現世に戻ってきたようでようやくいつもの万丈目に戻った。

 

「万丈目くん、大丈夫? 顔が赤いけど」

「い、いえ! ボクはなんともないよ天上院くん!」

「ならいいけど」

 

 話しているうちにエレベーターは六階に着き、特待生組のB組はすぐ近くにある教室に入っていった。

 席は決まっておらず、遊導らは特に選ぶことなく適当に座った。 それから数分すると教室に二人の若い男女の先生が入ってきた。

 まず教卓に着いたのは男性の方、かなり筋肉質だがそれよりも目を引くのは『青眼に白髪』だった。

 

「よし、全員いるな。これからこの1-B──特待生クラスの担任をする白青(はくせい)(りゅう)だ。担当科目は『デュエル実技』これからよろしく」

 

 次に教卓の前に着いたのは女性。スタイルがよく美人に見えるが彼女もまた『青眼に白髪』だった。

 

「副担任及び『デュエル学』担当の白青(はくせい)(かんなぎ)よ。みなさん、これからよろしくね」

 

 遊導は冷たい雰囲気を感じ取ったがそれは一瞬で、その直後にはなくなっており『優しそうな先生だ』という印象が焼き付いた。

 

「それじゃあ、次は君達の番だ。出席番号順で名前とデッキ、あとはデュエル以外の趣味や尊敬する人とかを教えてくれ」

 

 それから遊導たちも自己紹介を始め、万丈目と明日香は事前評判の通り歓声や拍手が大きかったのだが──

 

「出席番号三番、幸上遊導です。使用デッキは『ギャンブルデッキ』で趣味はサイコロ集め、尊敬する人物は城之内克也さんです。これからよろしくお願いします」

 

 キョドらず、噛まず、声も震えず特に問題ない自己紹介であったが──やはりそのデッキの性質からだろうかそれとも早くも首席と次席と交友関係を築いているからだろうか先程の二人に比べてそこまで歓迎されている雰囲気はなかった。

 

 ──まぁ、無名で上級生とコネがあるわけでもないどこの馬の骨か分からないヤツが学年三位というのが気に入らないんだろうなぁ……悲しいなぁ。

 

 と内心ため息をつきながらも外面ではニコッと微笑んで一礼をして座った遊導は後続の自己紹介に耳を向けた。

 

 

 

 

 

「カリキュラムは平日は六時間、土曜日は三時間の三十三時間だ。そのうち実技は平日一時間、土曜日二時間。デュエル学は毎日一時間ずつ割り振られる。

他の時間は学生の本分である学業だ。進級及びアカデミア高等部進学では基礎学力も必要になるからデュエルだけに没頭しないように。

あとデュエルディスクを使ってのデュエル可能エリアはPDAを確認して周囲をよく見てからするように、以上」

 

 竜先生の連絡事項を聞き、入学式兼顔合わせの一日目は恙無く終了した。

 

「さて、昼飯は確か購買でも近くの店でも寮でもいいって言ってたかな。せっかくだし近くを探索してみようか……準はどうする?」

「オレは学園を見て回る。昼飯は寮でとるから別行動だ」

「わかった。じゃあね」

 

 万丈目と別れの挨拶を済ませてそれぞれ別の方へ向かった。遊導はエレベーターで1階まで降り、外に出ようとしたところで勢いよく肩を掴まれた。

 

「おい! お前、幸上遊導だろ!」

「え、あ……そうだけど……」

 

 いきなりの剣幕と不意打ちに驚いて混乱した遊導だったがなんとか相手の問いに返答することはできた。

 目の前の男子は態度、体型共にとても高圧的、ネクタイの色からして彼は一年生であると遊導は理解した。

 

「デュエルしろ」

「……え? これから昼飯を……」

「デュエルなんて5分で終わるだろ!」

「せめて理由を……俺は君の名前も知らないから……」

 

 この会話中にも遊導は必死で目の前の人物を脳内検索していたが、残念ながらいまの彼が知っているのはクラスメイトと直接話したことはない中等部トップツーの『双璧』のみだ。彼はその誰にも当てはまらない。

 

「俺は1-1首席の和泉(いずみ) 清二郎(せいじろう)くんだ! お前に勝てば俺が特待生になれるんだろ! 知ってるぞ!」

「いや、その理屈はおかしいんじゃない?」

「うるさあい! デュエルディスクを構えろ! 俺は運任せが大嫌いなんだよ! お前なんかが特待生なんて間違ってるんだ!」

 

 これ以上抗議しても無駄だと遊導は判断してデュエルディスクを構えた。

 

「仕方ない……腹が減ってるから早くやろう」

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 二分後──

 

「セットモンスターは《ダイス・ポット》リバース効果でお互いダイスロール! 3!」

「5だ! なんだよなんだよ、運にも見放されたか! アッハハハハハハハハ」

 

《ダイス・ポット》

効果モンスター

星3/光属性/岩石族/攻200/守300

リバース:お互いにサイコロを一回ずつ振る。

相手より小さい目が出たプレイヤーは、相手の出た目によって以下のダメージを受ける。

相手の出た目が2~5だった場合、相手の出た目×500ポイントダメージを受ける。

相手の出た目が6だった場合、6000ポイントダメージを受ける。

お互いの出た目が同じだった場合はサイコロを振り直す。

 

 妙に子供っぽくはしゃぎ、高笑いする和泉に遊導は無慈悲に宣告する。

 

「さっき発動した《出たら目》の効果で俺は3の出目を6として扱う。ダイス・ポットは6を出せば相手に6000ダメージを与える! ダイス・カタストロフ!!」

「ハハハハハ……は? うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

《出たら目》

永続罠

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、

自分または相手がサイコロを振った場合、

その内1つの目を以下の目として適用できる。

●1・3・5が出た場合:6として扱う。

●2・4・6が出た場合:1として扱う。

 

 腹が減ってご機嫌斜めだった遊導は普段は使わない出たら目とダイス・ポットの効果でワンショットキルをした。

 

「それじゃあね。とりあえずサイクロンは制限があるからサイコロン三枚差しを薦めるよ。あれはいいカードだから」

 

 そうギャンブルカードの宣伝ともとれるアドバイスをして遊導はその場を後にした。

 

 

 

 

「いやー美味しかった。パスタならあそこで決定かな」

 

 昼飯を終えた遊導は満足そうな笑みを浮かべながら遊導はアカデミア中等部周辺を散策する。

 特に目立った施設はなく、強いて挙げるとすれば飲食店が多いというのが遊導の感想だった。

 

「カードショップはないのかな。パックなら確かに寮でも校舎でも売ってるけど……っとごめんなさい」

 

 遊導がキョロキョロと周囲の建物を見ていると通行人に肩が当たってしまった。

 

「いえ、こちらこそ前を見ないで……って幸上くん?」

 

 その通行人に自分の名字を呼ばれて遊導は顔を確認する。

 

「あ、明日香だったのか」

「ちょうどいいわ、いま暇? ちょっと話したいことがあるんだけど」

「暇……カードショップを探してたところだけど、別にいいよ」

「カードショップ? それなら近くに知ってるところがあるわ。そこに行きましょう、案内するわ」

「じゃあ頼むよ」

 

 数分歩き、着いたのは結構大規模なカードショップ『エクゾディア』外の宣伝のぼりにはDM専門店と掲げられている。

 

「地元じゃこんな大きなのなかったっぺー」

「ふふっ、なにその語尾。入りましょう?」

「うん」

 

 入店するとそこはまさしく『デュエリストの聖地』と言っても過言ではない場所だった。ショーケースに入れられたレアカードにストラクチャーデッキを更に改造したショップオリジナルデッキ、福袋じみた商品まである。

 

「すっげ……ってアレ《人造人間─サイコ・ショッカー》!? 城之内さんが使ってたカードだ! って2万円!? それにこのカード達全部……ここの一角『城之内克也』コーナーなのか!」

 

 隣にいた明日香のことを秒で忘れて遊導は大はしゃぎ。カードを見ては喜び、金額を見ては驚きと忙しい挙動を何度も繰り返していた。

 

「時の魔術師9万5000円!? もし前当てなかったら買おうとか思ってたけどこれじゃ無理だー! ……ってごめん、明日香。はしゃぎすぎた……」

「いいわよ。兄さんも貴方みたいにここで大騒ぎしていたのを思い出したわ。城之内選手を尊敬してるって言ってただけあるわね」

 

 クスクスと笑う明日香に少し見惚れながらも遊導は彼女の言葉のとある単語が気になった。

 

「兄さんって……確か『双璧』の天上院吹雪、だっけ? エースカードは《真紅眼の黒竜》の……」

「ええ。兄さんも城之内選手の大ファンでDVDなんて一緒に何度見たことか……」

「明日香のお兄さんとは話が弾みそうだ」

「なんなら今度取り次ぐわよ? 『クラスメイトに城之内選手を尊敬しているギャンブルデッキ使いがいる』なんて言ったら兄さんもきっと会いたいって言うわ」

「明日香の気が向いたら是非頼むよ」

「ええ」

 

 一通り遊導は城之内コーナーを見終え─ちなみに真紅眼の黒竜が最高値の38万円─明日香と共に卓上デュエル兼雑談スペースに移動した。

 

「それで、話って?」

「デッキを見せてほしいの」

「ああ、言ってたね。はいどうぞ」

 

 デッキケースから取りだし、使わないサイドデッキの15枚ごと明日香に手渡した。

 

「ありがとう……カップ・オブ・エースは三枚……」

 

 明日香が見ている間に遊導はバックからコーヒーを取り出して飲む。

 ──それにしても、中学生っぽい可愛さじゃないというか大人びた美人だよなぁ。

 真剣に自身のデッキを見ている明日香に遊導が抱いた印象はそれだ。同級生の女子に抱く感想としてはおかしいが、それでも明日香は美しい。

 

「……なにかしら?」

「ん? いや、なんでもないよ。それより、どう?」

「正直言って、私には回せる気がしないわ。ドローにおいても確実性のあるカードが何一つないもの」

「あはは……ドローはカップ・オブ・エースと《ラッキー・チャンス!》任せだよ。一応他にもドローできるのはあるけど、流石に確率が低いからね」

「その言い方だとカップ・オブ・エースを外したことがないみたいよ?」

「うん、外したことないよ」

 

 それは言われても信じることが難しい言葉だった。

 

「それは……毎回コイントスで表が出るってこと?」

「うん。あ、信じてないでしょ」

「当たり前よ……まぁ、でも一応信じておくわ」

「いつか証明するよ。俺のカップ・オブ・エースに『裏』はないって」

「楽しみにしてるわ」

 

 更に明日香はデッキを見ていく。

 

「こんなに運任せなのに、それでもカードがハマり合ってる……ねぇ、勝率は?」

「そのデッキが完成してからは日が浅いけど8割だよ」

 

 尤も、遊導のデッキが完成したのは八ヶ月前。それ以前は勝てても3割ほどという散々な勝率だったが。

 

「そんなに……! すごいわね……」

「ありがとう。でも明日香の方がすごいんじゃないの? 大会で何回か優勝してるんでしょ? よかったらデッキ見せてくれない?」

「ええ、いいわよ。実は貴方にデッキのアドバイスをもらいたかったの」

 

 渡されたデッキを遊導は丁寧に見ていく。だが、カードを捲る手が段々と遅くなり、表情も万丈目のデッキを見たときと同じようなものに変化していった。

 

「これって……高打点を集めて装備魔法で殴り倒す感じでいいの?」

「ええ、強いカードを集めて形にしてみたんだけど……」

「…………ゴキボールは流石にやめておいた方がいいんじゃない!? シャインブラックもアレだし……もしかしてゴキブリ好きな」

「そんなわけないでしょ!? 攻撃力が高いから入れてるだけよ!」

「だよね……というかこのデッキで大会優勝したの?」

「いいえ、大会は兄さんと一緒に作ったデッキで出たわ。でも、自分で作ってみたくて……兄さんに教えてもらおうとしたけれど丁度アカデミアの受験と被っちゃったから中々教えてもらえなくて。

それで自分でなんとか作ってみて、勝てるには勝てるけど、なにか違ってて……」

 

 なるほど……と遊導はデッキを再度見る。デッキ構築自体は小学校の同級生がしていたものに少しだけマジックコンボのような戦略性を混ぜたようなモノという印象を受けた。

 

「ギャンブルデッキ使ってる俺が言えたことじゃないと思うけど、コンボとか考えてみたらどうかな? それがロマンでも確実性がなくてもしてみたいってやつ」

「コンボ……」

「あとは一番好きなカードを軸にしてみるとか。海馬社長みたいに。

あの人すごい青眼好きでしょ? デッキも青眼を絶対不動のエースにしてて、それを参考にしてみようよ。明日香はどれが好きなカード?」

 

 遊導が返したデッキを受け取り、明日香は数枚のカードを取り出す。

 

「《エトワール・サイバー》と《サイバー・チュチュ》《サイバー・ブレイダー》これが私にとって外せない……大好きなカード……あと使いたいカードはこの《機械天使の儀式》……かしら」

「《サイバー・ガール》系列と《サイバー・エンジェル》かな。よし、ならそれをテーマにして作ってみようよ。俺ならいくらでも付き合うから」

「ありがとう……やっぱり貴方に相談してよかったわ」

 

 そこから数時間、遊導と明日香はデッキ作成に没頭した。

 少し暗くなってきたので遊導は明日香を女子寮の付近まで送りに着いていくことにした。

 

「それじゃあ、明日にでも必要そうなカード持ってくるよ」

「本当にいいの? そこまでされても私はなにも……」

「強い相手が増えるだけでいいよ。それに俺にとって必要なカードはもう無いから」

 

 遊導は既に全てのギャンブルカードを1枚は所持しており、それこそ『真紅眼の黒竜』くらいしか欲しいカードがない。

 

「でも……」

「うーん……ならさ、吹雪さんとの仲介を頼むよ。気が向いたらとかじゃなくてさ」

「……本当にありがとう」

「うん、どういたしまして。また明日」

「ええ、また明日」

 

 別れの挨拶を済ませて遊導は少し急ぎめに男子寮を目指す。連日誰かのデッキ構築を手伝ったからか、彼も作る気はなかった新デッキのアイデアが浮かんできたのだ。

 

 

 

 遊導は晩飯を摂り、風呂にも入ってあとは寝るだけの状態でカードストレージを漁っていた。

 

「えっとサイバー・ガール系とついでにサイバー・エンジェル系のモンスターはこんなものかな……あとはサポートカードだけど……」

 

 ガサゴソとカードを探していく遊導だが、元々カードを多く所持していない上にある程度のレアカードは親に頼んで売却していたのが祟ってそこまで有用そうなカードがない。

 そんな中、遊導は一枚の魔法カードを見つけた。

 

「ん? 《プリマの光》……サイバー・チュチュを墓地に送って《サイバー・プリマ》を特殊召喚か……速攻魔法だから結構使えそうだな。《融合》は俺にとって不要だし、足りなさそうならあげるか。そんで儀式魔法に……罠カードは……いいかな」

 

 そんなこんなで二十枚近くのカードを取り出し、そろそろ新デッキでも作ろうかというところでチャイムが鳴った。

 

「はーい? どちら様?」

『遊導、オレだ』

 

 この時点で遊導は訪問者が万丈目だと分かっているのだが毎度恒例のおちょくりタイムに入る。

 

「オレオレ詐欺なら間に合ってますよ」

『万丈目さんだ! ええい、開けろ!』

「あ、準か。そうカッカしないでよ。野菜食べなさい」

 

 適当にそんな事を言ってから遊導は扉を開ける。そこには黒色のやや大きめな箱を持った万丈目が立っていた。

 遊導にはその大きな箱がなにかは分かっていた。

 

「今日も構築に付き合え」

「はいはい、俺も丁度カードを出して新デッキを作ろうとしてたところだよ」

 

 万丈目を部屋に入れると、彼はいつも通りソファに座る。それもちょっと偉そうに。

 

「ちょっと散らかってるけどね。飲み物はなに? ブラックコーヒーね、OK」

「砂糖とミルクをつけろ」

「はいはい」

 

 遊導がコーヒーを出すためにキッチンの方に行く。一方で万丈目は黒色の箱──カードボックスの鍵を解錠し、中のカードを取り出す。その途中で彼は遊導がストレージと分けていた数十枚のカードが気になった。

 

「サイバー・ガールにサイバー・エンジェル? 新デッキを作る気と言っていたが……これでは枚数が全く足りないな」

 

 そう呟きながら見ている途中で遊導がトレーを持ってキッチンから戻ってきた。 

 

「はいどうぞって、そのカード達気になるの?」

「違う。貴様の新デッキらしいから見ていただけだ。だがなんだこれは。枚数が半分足らない上に罠なんて一枚も入ってないぞ」

 

 いきなりデッキ?にダメ出しされて驚いた遊導だったが、トレーをテーブルに置くと笑いながら「違う違う」と否定した。

 

「それはあげる用だよ。確かに新デッキは作るって言ったけどまだ何を使うかすら迷ってて決まってないよ」

「あげる用だと? 誰にだ?」

「明日香にだよ」

 

 その名前を伝えた瞬間、万丈目の様子が激変して遊導に掴みかかるように迫る。

 

「明日香さんに!? 詳しく教えろ!」

「うお、なにその反応こわっ!」

「ええい、いいから教えろ! 何があった!」

 

 半ば押し倒してくる万丈目に遊導はなんとか説明を終えると取り敢えず離れた。

 

「なるほどな、つまり明日香さんのデッキ構築の手助けをしようとしていたわけか」

「そういうこと。でも俺の持ってるカードじゃこんだけが精一杯なんだよね」

 

 遊導が苦笑いしながらカードをケースにしまう。

 

「いいだろう、このオレが力を貸してやろう」

「流石万丈目さんだ!」

「万丈目"さん"だ!」

「だからそう言ったじゃん」

「………………」

「無言で殴るのやめて、いたいから」

 

 そうして万丈目は部屋に戻り、黒箱とは別の大型カードケースを遊導の部屋に持ち込んで二人は使えそうなカードを根刮ぎ取り出した。

 

「……というか、準はカードを譲っていいの? 結構カード持ちよさそうな感じに見えるけど」

「ふん、オレはどうせ使わんからな。それに明日香さんのためだ」

「随分入れ込んでるね、知り合いだったっけ?」

「いや、貴様と同じだ」

「ますます準の思考回路というか行動原理が分からなくなってきた……」

 

 雑談をしながらカードをかき集めるとその数は遊導が用意した倍のカードが揃った。

 

「ほとんど三枚ずつ譲渡って……明日香逆に引いたり受け取ってくれないんじゃないかな……」

「む……そうだな、せめて2枚ずつにでもするか」

 

 デッキ圧縮ならぬ譲渡カード圧縮をして、なんとか許容範囲に収まった。

 

「ふぅ……ってもうこんな時間か。流石にデッキ構築する時間はないかな」

「仕方ないな。ならオレは部屋に戻るとするか」

「ああ、準。ちょっと待って」

 

 万丈目が大きな二つのカードボックスを運ぼうとするが、それを遊導が止める。

 

「なんだ?」

「それ結構重いでしょ? ここに置いてっていいよ。どうせ鍵かけるなら俺に盗まれる心配もないし」

「確かに少し重いからな……なら置いていくぞ」

「OK、それじゃおやすみ。また明日」

「ああ」

 

 部屋から出ていったことを確認した遊導は即座に眠りについた。




万丈目が最初から友人ポジだからってオリキャラを噛ませにするのやめない?(自問自答)
がんばれ和泉くん。

遊導の新デッキ作成フラグがありましたが、二年生後半まではギャンブル一筋で多分がんばります


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5話:二度目─セイクリッド?

数年前まで別のサイトで別原作の二次創作を投稿してましたがその時とは比較にならない程の伸びでとても嬉しい限りです。


「午後の時間はデュエル尽くし……まずは腹ごなしに早速デュエルだ! と言いたいところだが、今日はガイダンスだ。

 一年生のみんなは第五と第六デュエルフィールドホールでデュエルをしてもらう。

 持ち物はデュエルディスクとデッキ、それとサイドデッキや入れるかどうか迷っているカードも持ってきていいぞ。

 基本的に1日5戦。勝率重視で、学年全員が相手だ。デュエルディスクに相手と場所が指定されるからそれに従うように。

 そして今年から上の指示で実技優秀者上位五名には特典が用意されることとなった。

 半年間での勝率を生徒一人一人で競う。特待生の君達には是非とも上位独占を目指してもらいたい。いいかい?」

『『『はい!!』』』

「よし、じゃあ次はデュエル学だ。巫先生、よろしく」

 

 実技担当の竜が教卓から離れ、座学担当の巫が黒板になにやら文を書き始めた。

 

「この問題が解けた人からなんでもいいので答えを書いた紙を私に提出してください。制限時間は十分です」

 

『問1.魔法カード種類とその例を1つずつ挙げて答えなさい。効果は書かなくてよい』

 

 突然の問題に少し驚いていた生徒一同だったが、万丈目らを始めとした入試トップ組が書き始めるとそれに続くように書き始めた。

 ──通常魔法はカップ・オブ・エース、速攻魔法のサイコロン、永続魔法のデンジャラスマシンTYEP-6、フィールド魔法は《ダーク・サンクチュアリ》装備魔法にギャンブルカードは無いからヘル・アライアンスでいいか。儀式魔法は前にドローパンで当てた《エンド・オブ・ザ・ワールド》と。

 遊導はササッと書き終え、巫に提出した。

 

「早いですね。勤勉なのはいいことですよ、幸上君。席に戻ってデッキチェックでもしていてください」

「わかりました」

 

 言われた通り席に着き、遊導は少し巫の方に目を向けるとあまり早くはないが丁寧な採点をしていた。

 その後、デッキを確認し始めると数十秒ほど遅れて万丈目と明日香、続いて紫色の美しい髪をツインテールにした美少女─藤原雪乃─が提出。そこからは少し間が空いて少しずつ提出され、時間終了間際に十人ほどが提出していった。

 

「……なんとか時間通りに提出し終えましたね。三分いえ二分だけ待ってください」

 

 そう巫が言うと、遊導が提出したときとは違った凄まじい速度で採点を進めていった。

 

「……ジャスト二分。満点は八名、そのうち幸上君、万丈目君、天上院さん、藤原さんの四名は提出も早く素晴らしかったです。

 さて、それでは解答解説に移ります。

 魔法カードは通常、速攻、装備、永続、フィールド、儀式の六種類です。儀式魔法が抜けている生徒が数名いました。儀式召喚に繋がるので覚えましょう。

 例として────」

 

 そこから数分の解説は遊導達にとっては退屈なものだった。

 

「このように、デュエル学では最初の十数分で基礎テストを毎時間行います。範囲は私の気まぐれなので基礎がしっかりできているか確かめる、よい機会になると思います。

 その後は基礎の上……基本項目の授業をします。これは教科書通り進めるので予習をやるようにしましょう。

 また、座学も成績優秀者には賞品が渡されます。それでは本日の授業は基本ルール説明から」

 

 

 

 

 一時間と少しに及ぶ座学が終わり、遊導は帰る仕度を終えたところで左後ろの席に座っている明日香に声をかけた。

 

「あ、そうだ。明日香、あのカードショップでいい?」

「ええ、いいわよ」

「あ、あと準も「天上院くん、このボクも一緒に行っていいかい?」……いい?」

「え、ええ。もちろん」

 

 若干明日香が引きぎみだったが、了承を得た。

 

「そういえば二人はさっきの解答になんて書いたの?」

 

 明日香の質問に真っ先に反応したのは万丈目だった。

 

「ボクは二重召喚、地獄の暴走召喚、ヘル・アライアンス、強欲なカケラ、ユニオン格納庫、破滅の儀式を」

「俺は──」

 

 と、遊導が答案の内容を言うと万丈目と明日香は呆れたような顔をしていた。

 

「お前はまたギャンブルカードばかり……それにヘル・アライアンスはオレのカードだ!」

「装備魔法にギャンブルカードが無かったんだよ。だから準がよく使うのが思い浮かんだから書いただけ、ついでにカタカナだったし」

「だから幸上くんは早かったのね」

 

 明日香が納得して声を洩らす。

 そう、遊導が選んだのはどれもカタカナばかり。当然『地獄の暴走召喚』などより書きあがるのが早い。

 あのテストは特にスピードは競っていないのだが、『一番』というのは少年にとっては憧れるのだ。

 

「そういうこと。準、今回は俺の方が総合的に見て優秀だったみたいだね」

「そこまで考えていたか……フン、お前はやはり侮れん」

 

 そこで担任の竜が入ってくる。話をしていた生徒たちはみんな着席し、遊導達の会話もそこで終わった。

 

「全員いるな。明日、クラス委員を始めとした委員会の所属先を決めるからある程度候補を絞ること。

 授業に関してだが教材を寮に忘れたらPDAを使えば届けてもらえるから忘れ物の心配はしなくていいぞ。その代わり課題をやったけど忘れましたが通じなくなるがな。ま、君達はそんなことしないと信じているからな!」

 

 はっはっはっと笑いながら「やってこいよ!」と竜が言う。気のいい先生になろうと努力しているのか、元来こういう性格なのかはまだ分からない。

 

「そんな俺から課題を一つ、各自明日からの実技に備えてデッキ構築をするように! それでは解散!」

 

 遊導ら三人はカードショップを目指そうとするが──

 

「幸上遊導! 俺とデュエルをしろ!!」

 

 突然の大声に遊導は呼び止められ、声のした方へと振り返った。隣を歩いていた万丈目と明日香もほぼ同じ反応をした。

 そこに立っていたのは昨日ダイス・ポットにより一瞬でライフを失った和泉清二郎だった。

 

「おい遊導、誰だこの偉そうなツルプルンみたいなのは」

「1-1首席の和泉くんだよ。……偉そうって準もそうでしょ、あとツルプルンは酷すぎ」

「オレは偉そうじゃない、偉いんだ。万丈目さんだぞ」

「はいはい万丈目さんだーキャー」

「ちょっと幸上くんに万丈目くん、和泉くん?が凄い顔で睨んでるわよ」

 

 明日香に言われて遊導が和泉の方を見ると《逆ギレパンダ》のような顔で睨まれていた。

 

「えっと、デュエルだっけ。これから用事があるんだけど……」

「そんなの関係ない! 昨日のはイカサマだ!」

「出たら目を使ったのにイカサマ!?」

「うるさぁぁぁぁい!!! ハァ、ハァ……お前を倒そうと思ったけど、万丈目! 俺をツルプルンだとバカにしたことを後悔させてやる! デュエルだ!」

 

 遊導と明日香はコロコロと標的が変わり、ずっと怒っている和泉に苦笑いするしかなかった。一方、万丈目はというと

 

「万丈目"さん"だ。バカにしていない、貴様の体型に見合ったモンスターがそれしかいなかっただけだ」

「うぅぅぅぅああああ! デュエルだ!!!」

 

 更に煽っていた。もう和泉の顔は真っ赤で少し涙目になってしまっている。その間に万丈目がデッキを取り出したところで遊導は彼のデッキに注目した。

 

 ──やけにデッキが厚いような……あれだと50はいってるんじゃないかな……もしかしてあのデッキを使うつもりかな?

 

 万丈目は滑らかな動きで、和泉は怒りに任せた激しい動きでデッキをセットしてデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!!」」

 

 双方 LP4000

 

 先攻は──和泉だ。

 

「俺のターン! ドロー! 《セイクリッド・グレディ》を召喚! 効果発動! 《セイクリッド・ソンブレス》を特殊召喚する!」

 

 《セイクリッド・グレディ》

 効果モンスター/星4/光属性/魔法使い族/攻1600/防1400

(1):このカードが召喚に成功したときに発動できる。手札からレベル4の「セイクリッド」モンスター1体を特殊召喚する。

 《セイクリッド・ソンブレス》

 効果モンスター 星4/光属性/天使族/攻1550/守1600

「セイクリッド・ソンブレス」の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地の「セイクリッド」モンスター1体を除外し、 自分の墓地の「セイクリッド」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

(2):このカードの(1)の効果を適用したターンのメインフェイズに発動できる。「セイクリッド」モンスター1体を召喚する。

  (3):このカードが墓地へ送られたターン、 「セイクリッド」モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくできる。

 

 白い人型ロボットのような魔法少女風モンスターが現れ、手に持っていた杖を振ると今度は同じ人型だが天使のようなモンスターが出現した。

 

「ふふふ、これが可愛いこだけを集めて勝ち上がってきたアイドルデッキだ!」

 

 その言葉にソリッドビジョンのモンスター二体が少し引いていたように見えた遊導だった。隣では明日香の顔が引きつっている。

 

「《二重召喚》を使って……いやだけど《リバース・バスター》を召喚!」

 

 《リバース・バスター》

 効果モンスター 星4/光属性/悪魔族/攻1500/守 0

 このカードは裏側守備表示のモンスターにのみ攻撃できる。 このカードが攻撃する場合、 相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

 このカードが裏側守備表示のモンスターを攻撃した場合、 ダメージ計算を行わず裏側守備表示のままそのモンスターを破壊できる。

 

 次に現れたのは黒衣に身を包んだ大鎌を携えた悪魔が出てきた。

 

「貴様にとってはソレが可愛い子か」

「ち、違う! コイツは仕方なく入れただけだ!」

 

 万丈目の言葉に反論した和泉はまた遊導の方を睨んだ。

 

「……ダイス・ポット対策かな。でもなんで先攻で出したんだろ? それに準は地獄デッキだとしてもリバースは使わないし」

「見たところ冷静じゃないから、プレイミスかしら? それだけ貴方のダイス・ポットがトラウマになったのよ」

 

 だが和泉は見るからに自信満々だ。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド! 来い! 万丈目!!」

 

 和泉 LP4000

 フィールド:セイクリッド・グレディ、セイクリッド・ソンブレス、リバース・バスター/伏せカード1枚

 手札:1枚

 

「万丈目"さん"だ。オレのターン、ドロー……おい遊導」

 

 ドローカードを確認した万丈目は遊導の名前を呼んだ。

 

「どうした? 手札事故った?」

「そんなわけない。貴様、昨日コイツを倒したターンと時間を教えろ」

「一応、2ターンなのかな。先攻でダイス・ポットと出たら目伏せて、和泉のターンで両方発動。それで終わり。時間は2分とかだったよ」

 

 まだ記憶に残っている先日のデュエルを思い出しながら遊導が質問に答えると万丈目は「そうか」と言って少し考え始めた。

 

「時間はもう過ぎているが……ならこのターンで終わらせてやろう」

「なんっ!? あんまり俺をバカにするなよぉ!!」

 

 もう和泉の顔はゆでダコ状態と言っても過言ではないくらい真っ赤だ。しかもその声で注目を集めていつのまにか数十人のギャラリーがこのデュエルを見に来ていた。

 

「ふん、見ていろ……遊導、天上院くん、その他大勢!

 オレは強欲な壺を使い二枚ドロー。天使の施しで三枚ドローして二枚墓地へ送る」

 

 いきなりのドローソース二枚。これで万丈目の手札は七枚に増え、墓地を二枚肥やすことができた。

 

「手札からフィールド魔法《ユニオン格納庫》を発動する。効果でオレはデッキから《Y-ドラゴン・ヘッド》を手札に加える」

 

 《ユニオン格納庫》

 フィールド魔法

「ユニオン格納庫」は1ターンに1枚しか発動できない。

  (1):このカードの発動時の効果処理として、 デッキから機械族・光属性のユニオンモンスター1体を手札に加える事ができる。

(2):1ターンに1度、自分フィールドに機械族・光属性のユニオンモンスターが召喚・特殊召喚された場合、そのモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターに装備可能で、カード名が異なる機械族・光属性の ユニオンモンスター1体をデッキから選び、そのモンスターに装備する。 この効果で装備したユニオンモンスターは、このターン特殊召喚できない。

 

 《Y-ドラゴン・ヘッド》

 ユニオン・効果モンスター 星4/光属性/機械族/攻1500/守1600

(1):1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●自分フィールドの「X-ヘッド・キャノン」1体を対象とし、 このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。 装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。

  ●装備されているこのカードを特殊召喚する。

(2):装備モンスターの攻撃力・守備力は400アップする。

 

 万丈目の背後に巨大な施設が出現、夥しい程のマシンが行ったり来たりを繰り返している。

 

「まさかとは思ったけどユニオンか……準、そのデッキってまだ調整中でしょ?」

「フン、コイツにはこれで十分だ!」

 

 万丈目は更に煽る。だがギャラリーはもっと言えだのいいぞいいぞなど特に気にしておらず逆に促すほどだった。

 三人は知らないが、和泉はその性格からあまり好まれていない。尤も、成績がいいからそこからくる嫉妬などもあるが。

 

「永続魔法《前線基地》発動! 手札からY-ドラゴン・ヘッドを特殊召喚だ。速攻魔法《地獄の暴走召喚》を使ってデッキからもう一体のY-ドラゴン・ヘッドを特殊召喚!」

 《前線基地》

 永続魔法

 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札からレベル4以下のユニオンモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 流れるような召喚で万丈目は二体のモンスターを揃えたが、地獄の暴走召喚はデメリットがある。

 

「バカじゃないの! 俺はデッキからセイクリッド・グレディを二体特殊召喚だ!」

 

 それを利用されて和泉のフィールドには五体のモンスターが揃った。

 

「《死者蘇生》だ。墓地の《Z-メタル・キャタピラー》を特殊召喚してもう一度地獄の暴走召喚だ! 来い!Z-メタル・キャタピラー!」

 

 《Z-メタル・キャタピラー》

 ユニオン・効果モンスター 星4/光属性/機械族/攻1500/守1300

(1)1:ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●自分フィールドの「X-ヘッド・キャノン」または「Y-ドラゴン・ヘッド」1体を対象とし、 このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。 装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。

 ●装備されているこのカードを特殊召喚する。

(2):装備モンスターの攻撃力・守備力は600アップする。

 

 これで万丈目の場には4体のモンスターが出現、対する和泉はこれ以上特殊召喚はできない状態だ。

 

「オレはまだ通常召喚をしていない。《X-ヘッド・キャノン》を通常召喚だ!」

 

 《X-ヘッド・キャノン》

 通常モンスター 星4/光属性/機械族/攻1800/守1500

 

 ここで万丈目のフィールドが五体のモンスターで埋め尽くされた。

 

「そっちも五体並べたようだけどXなんたら以外は攻撃力じゃ俺のモンスターには敵わないね!! 手札一枚じゃ何もできないだろ! カッコつけてこのターンで俺を倒すなんて言ったけど無理だね! リバースカードだってあるんだから!!」

「《天よりの宝札》を発動だ!」

「っ! ここで手札を増やすつもりか! 汚いぞ!」

 

 《天よりの宝札》

 通常魔法

 互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにドローする。

 

 そんなことを言いながらも和泉も5枚きっちりドローし、見るからに笑顔になる。どうやら相当いいカードが来たようだ。

 対する万丈目は手札を確認するとニヒルな笑みを浮かべ、そして──

 

「オレはX-ヘッド・キャノンとZ-メタル・キャタピラーを除外! XZ合体だ!!」

 

 万丈目の声に合わせて二体のマシンが──合体した。

 

「ソリッドビジョンの合体かっけぇ!!」

「あれって、乗っただけじゃ……」

 

 遊導を始めとした男子は興奮し、明日香を始めとした女子は微妙な顔をしている。だが合体は男のロマンなのだ。

 

「融合合体召喚! 《XZ-キャタピラー・キャノン》!!」

 

 《XZ-キャタピラー・キャノン》

 

 融合・効果モンスター 星6/光属性/機械族/攻2400/守2100

「X-ヘッド・キャノン」+「Z-メタル・キャタピラー」

 自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ、 エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない) このカードは墓地からの特殊召喚はできない。

(1):手札を1枚捨て、相手フィールドの裏側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。その相手の裏側表示の魔法・罠カードを破壊する。

 

 万丈目が拳を振り上げると背後から演出的な爆発が起こる。そして出現した合体マシンへ男子一同の熱い声援が上がった。

 

「そ、それでも攻撃力は2400だ! 俺は負けないんだ!」

「キャタピラー・キャノンの効果! 手札を一枚墓地に捨てることで裏側表示の魔法・罠カードを破壊する!」

「ガードブロックが!!」

「一回限りの防御罠か。まぁいい」

 

 更に万丈目の追撃は終わらない。

 

「速攻魔法《リミッター・解除》だ。ターン終了まで全ての機械族モンスターの攻撃力が倍になる」

「……え? ば、倍? 全て?」

 

 《リミッター・解除》

 速攻魔法

  (1):自分フィールドの全ての機械族モンスターの攻撃力は、ターン終了時まで倍になる。

 この効果が適用されているモンスターはこのターンのエンドフェイズに破壊される。

 

 二体のY-ドラゴン・ヘッド、一体のZ-メタル・キャタピラーの攻撃力が3000に、XZ-キャタピラー・キャノンの攻撃力は4800まで上昇した。

 

「貴様の敗けだ! 行け! ユニオン全攻撃(フルアタック)!!」

「て、手札から《速攻の──」

「速攻のかかしは直接攻撃宣言時だ! モンスター同士のバトルでは使えない!」

「ひっ! う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 和泉 LP4000→-3500

 

 和泉は勢いよく吹き飛ばされ、何回かバウンドしてやっと止まった。起き上がる気配はないが、モゾモゾと動いているため一応大丈夫だろう。

 

「えげつない……」

「ええ……」

 

 二人がそんな感想をもらしているとポケットに手を突っ込んだ万丈目がドヤ顔をしながら戻ってきた。

 

「どうだ、これがオレのユニオンデッキだ! オレは凄いだろ!」

「純粋にあれだけ回すのは凄いと思うよ。そのデッキ枚数でよく回ったね」

「伏せカードもしっかり破壊してそれでいて1ターンキル……流石首席ね」

 

 二人の嫌味も嘘もない評価に万丈目は満足げに頷き、デッキをしまった。

 

「よし、じゃあカードショップ『エクゾディア』に行こうか」

 

 三人はその場を後にして目的地へ向かった。

 

 

 

 

 ──アカデミア中等部のとある匿名チャット

 

『名無し:合体召喚かっけー! ちょっとパック買ってくるわ!』

『名無し:ちゃんと海馬瀬人関係のパックを買うんだぞー』

『名無し:和泉の野郎セイクリッド寄越せ』

『名無し:あーあ、デブがまた喚く……五月蝿いからやめてほしいんだよなぁ』

『名無し:てか必死すぎなんだけど。野良でどんだけガチってんだよ』

『名無し:キモデブざまぁ』

『名無し:地獄の暴走召喚アホみたいな展開できるな』

『名無し:前はアレからヘル・アライアンスやってたよな、万丈目って』

『名無し:ドロソ引きすぎ、積み込みかよ』

『名無し:万丈目くんカッコいい……!』

『名無し:万丈目が調子に乗るからリミッター解除禁止にしろ』

『名無し:おいまて『双璧』の亮先輩も使ってんだぞ』

『名無し:アイツまーたデッキ変えたの? どんだけデッキに愛着ないんだよ』

 

 

 

 

 

 

「……おい、万丈目と天上院さんは知ってるけどあの灰色頭誰だよ」

「幸上だよ。ほら、入試三位でイカサマ疑惑がある」

「おれ100番代でさっさと帰ったから知らないんだけど、イカサマって?」

「ああ、アイツってギャンブルデッキを使ってるんだが、入学試験デュエルで全部アイツに有利な効果が出たんだ。出目が三つ揃えばアホみたいな効果が付与されるモンスターでその時の出目が全部1だったんだよ」

「なんだよそれ、ありえねー」

「でもサイコロとかってデュエルディスクがやってるんじゃないの……?」

「デュエルディスクを改造してイカサマしてんだよ。ほら、最近街の不良が禁止カードを使えるような改造してるって噂になってるだろ」

「うわぁじゃあアイツって不良と繋がってるのかよ」

「つかギャンブルデッキなんてネタデッキで勝てるわけないだろ」

「筆記五位で総合三位って筆記三位と四位どうしたんだよ」

「筆記三位は確か藤原雪乃さんだよ。あのめっちゃ可愛い」

「ふーん……なぁ、ちょっといいか? お前ら」

 

 ──三人はまだ、何も知らない。




不穏……不穏なだけで本作はただの明るい遊戯王GX二次創作です。原作のように。
不憫な和泉くんですが噛ませでは留まらせるつもりはありません。先ずはダイエットしようね

P.S.
もしかしなくてもクロノス先生パック買い占め事件なくなりますね


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6話:デッキを作ろう!─肉まん

令和もよろしくお願いします


 三人はカードショップ『エクゾディア』に着くと、雑談スペースに入り早速本題に入った。

 

「これが「天上院くん、ボクから君へプレゼントだ」……俺と準のストレージで眠ってたサイバー・ガールとサイバー・エンジェルのカード。大体2枚ずつで50枚くらいかな」

「こんなに……!? 本当にいいの……?」

「もち「勿論だよ。ボクは君の力になりたいからさ。それに君に使って貰った方がカード達も喜ぶよ」……うん、後半は俺も同じ意見だよ」

 

 何度も割り込む万丈目をなんとか退かして遊導も言い切る。

 

「それで、デッキはいまから作る? それとも明日香一人でやってみる?」

「……手伝ってもらっても、いいかしら?」

「勿論だよ天上院くん!」

「準はどうしたの。もしかして二重人格?」

「オレは元々こういう性格だ!」

「嘘だ!!」

 

 という風に漫才を終えて、明日香のデッキ作りに勤しむ。

 

「融合はとりあえず3積み確定でしょ? あとエトワールとスケーターも最低でも二枚かな?」

「ああ、あと機械天使は儀式重視だから魔法は機械天使の儀式を始めとして4枚ほど入れるといいか?」

 

 そう言って二人は10枚近くのカード群を分ける。

 

「でもそれだけだと手札に来るか心配になるわね……」

「そこでコレ、上手く行けば1ターン目から儀式モンスター召喚できるよ」

 

 遊導が見せたのは《マンジュ・ゴッド》と《センジュ・ゴッド》の二枚、儀式デッキには必要不可欠のパーツだ。

 

「だがそれを積みすぎるとサイバー・ガール系がただのコスト用になりそうだな。いくら儀式が優秀でもそれでは機械天使デッキになりそうだぞ」

 

 それに異を唱えたのは万丈目。サイバー・ガールへの思い入れを聞いたからこそ、それが腐るのを懸念した意見だ。

 

「いえ、二本柱としてやっていくよりもカードの種類が少ないサイバー・ガールは意識の外を突く使い方の方がいいかもしれないわね」

 

 それに対して意見を出したのは明日香。その二つのテーマを理解しているだけあって遊導が伝えたい使い方を理解したようだ。

 

「そうそう。例えば《ヘル・アライアンス》とか《一族の結束》とか《平和の使者》みたいなカードって厄介だけど、チュチュはそれをすり抜けられる。それが終わったら速攻魔法の《プリマの光》を使って魔法カードを全部吹き飛ばして《ヘル・アライアンス》を装備していたモンスターを攻撃──とかできるから奇襲に便利だよ」

「成る程。天上院くんも納得しているならオレが口を出すことはないな」

 

 例を見せた遊導に万丈目も納得し、恙無くデッキ構築は進んでいく。

 そうして43枚(融合デッキ3枚)の明日香専用デッキが完成した。

 

「結構、サイバー・エンジェルの種類が多かったのは予想外だったね。パワーカードも多いし」

「そうだな。しかもサポート魔法も軒並いいカードが揃っている」

「幸上くん、万丈目くん、手伝ってくれてどうもありがとう」

 

 明日香の礼の言葉に遊導は気にしないでと笑顔で応じ、万丈目はとても嬉しそうな顔で「役に立ててなによりだ」と反応していた。

 

「そういえば、二人の外せないカードはどれなの? モンスターでも、魔法でも、罠でも」

 

 その質問に、遊導は迷わずに一枚のカードを選んだ。

「俺は《カップ・オブ・エース》だよ。このカードはきっとこれから他のデッキを作っても外さないと思う」

「貴方らしいわね。でも、昨日の話を聞いたら分かるわ。万丈目くんは?」

 

 そう振られた万丈目は何か迷ったような、葛藤したような表情をした後、デッキから1枚のカードを抜き出した。

 

「《地獄の暴走召喚》だ。この一枚でオレはいつも乗り越えてこれた」

「確かに……さっきも二連続で使ってたよね」

「二人ともテストでもそれぞれのカード書いていたからよっぽど好きなのね」

 

 あえて、二人は万丈目のその行動に触れることはなかった。強気の彼が見せたその面に手を伸ばすにはまだ早すぎると、何処かで思ったからだ。

 

「あー、でも使ったことないうえによく分かんないけど気になるカードならあるよ」

「どんなのだ?」

「コレ、一応『女神』ってついてるからお守り程度に持ってる」

 

 そう言って遊導が取り出したカードは二重のスリーブに入った『■■■女神ルイン』というカードなのだが、それが三枚。

 

「見たことも聞いたこともないカードだな……しかもカード名が一部わからんな」

「私もよ。でもこの色は儀式モンスター、よね? テキストもあまり読めないけど……」

「多分そうなんだけど……対応する儀式魔法が見つからないんだよね。そもそもこのカード自体あの辞書にも載ってなかった」

 

 遊導が見せた『女神ルイン』のカードテキストは以下の通り。

 

《■■■女神ルイン》

■■・効果 星■/■属性/■■族/攻■■00/守■■00

「■■■■■■■■■■■■■」により降臨。

(■):この■■■の■■■相■モンスターを■■した■に発動できる。

この■■■は■■■■■■■■■■■■■

 

 そのカードはテキストはほぼ読めなくても、そのイラストに描かれている女神ルインはとても美しく、高潔であり見る者を釘付けにする魅力を持っていた。

 

「インダストリアル・イリュージョン社にお問い合わせしたけど『そんなカードは知らない』って返ってきたし」

「そんなカードを何処で手に入れたんだ?」

「渡されたんだよ。小三の時に道に迷ってる神父さんがいてさ、色んな話をしながら教会まで案内したら

『我が神の御加護を少年に……少年、この神を手離さずに持ちたまえ。さすれば君を破滅と終焉から救うだろう』

って感じで三枚一気にくれてさ。その時はカードなんて数えるほどしか持ってなかったし、純粋だったから『うん!』って言って素直に貰ったんだよね」

 

 そこで一度言葉を切って遊導は懐かしげにカードを見つめる。

 

「その神父さんに会ったのはその一度だけでさ。結構嬉しかったからお礼も言おうと思ったんだけど、教会なんて無くなっててさ。だからせめてこのカードはずっと大切にしていようかなって思ってね。っと話がズレたかな?」

 

 アハハと笑う彼だったが、その神父とまた会いたいというような表情をしている。

 

「使ったことはあるのか?」

「一回だけデュエルディスクにセットしたんだけど……」

「だけど?」

 

 明日香が気になる様子でそう返す。

 

「煙出して壊れた」

「……分かったぞそのカードの正体が!」

 

 それを聞いた瞬間、万丈目は目を輝かせて「謎は全て解けた!」とでも言いそうな顔になった。

 

「ズバリ、違法カードだ!」

「ハッハッハッ、うん。俺もそう思ってた」

 

 それまでの経緯を聞けば行き着くであろう一つの結論を万丈目は自信満々に言うが、それは遊導も考えたことがあった。

 

「なに?」

「だから一度見せたんだよ。イベントで来ていたペガサス会長に」

「「えっ!? ペガサス会長!?」」

 

 突然のビッグネームに二人が驚く。無理もない、ペガサス会長──ペガサス・J・クロフォードはデュエルモンスターズの生みの親であり、インダストリアル・イリュージョン社名誉会長、そして世界有数の実力を持つデュエリスト。彼に会える機会なんてそれこそ「万丈目グループ」という有名財閥の御曹司である万丈目準も会ったことはない。

 

「どうしてかは言わなかったけど、突然地元に来てさ俺ら子どもたちに合ったカードを1枚ずつくれだんだ。あ、その時の1枚が《ゴッドオーガス》ね。

それでこのカードを見せて

『このカードを使ったらデュエルディスクが壊れました。もし違法なカードなら引き取ってください』

って言ったんだよ」

「よく言えたな」

「子どもは怖いもの知らずだからね」

「いや、何歳の頃かは知らんがそんな事言う子どもはいない」

 

 そんな万丈目のツッコミも笑いながら適当にあしらって遊導は続ける。

 

「そしたらさ

『オーウ、これは私も知らないカードデース。デュエルディスクが壊れた? アンビリーバボォー! でもそのカードとてつもない力を秘めているようにも見えマース。それに違法なカードにも思えまセーン。どうか大切にしておいてくだサーイ!』だって」

 

 成る程……と二人は納得し、遊導もこれ以上ルインについての話もないため元のカードケースに大切そうにしまった。

 

「次は準のユニオンデッキを調整する? 昨日だってその為に部屋に来たんでしょ? しなかったけど」

 

 遊導がそう提案するが、意外にも万丈目は首を横に振った。

 

「いや、オレは一人でデッキを調整してみたくなった。代わりにお前だ遊導」

「俺?」

「そうだ、オレは新デッキを作った。そしてお前も新デッキを作ろうとはしているみたいだが、全く進んでいないな!」

「ギクッ」

 

 万丈目の指摘に遊導はわざとらしく、しかし図星のような反応をする。

 

「ただでさえカードを持っていない上に、いままでギャンブルデッキしか作ったことがないから他人のを手伝うのとは違って何からしていいのか分からないな!」

「……ハイソウデス。アスカにエラソウなコト、イッタケドマッタクデキマセン」

 

 どんどん遊導が小さくなっていく。そんな彼に明日香が質問をする。

 

「なにか気になるテーマとかないの?」

「特に無いんだよね……あ、そうだ。ちょっと待ってて」

 

 と、急に席を立ちそう言って遊導は雑談スペースから離れていった。数分で遊導は1パックだけ買って戻ってきた。

 

「まさかキーカードまで運任せとはな」

「迷って決められないよりは委ねた方がマシだよ」

 

 万丈目の呆れたような言葉に苦笑いしながら返して遊導はパックを開ける。ちなみに種類は遊導がよく買う『バトルシティ決勝進出者パック』だ。

 

「王家の神殿、ハーピィ・レディ三姉妹、ウィジャ盤、鎖付きブーメラン……そして……──!」

 

 最後の一枚を見たとき、遊導は思わずフリーズした。万丈目と明日香が覗くと、二人もまたそのカードを見て固まった。

 そのカードはパラレルレア、名前は──

 

 

「《バスター・ブレイダー》……」

「キング・オブ・デュエリストが愛用していた一枚……」

「……それにするの?」

「うん、パラレルレアで来たし……これをキーカードにして作ってみるよ」

 

 遊導が満足そうに頷いてそう決める。

 

「なら決まりだ。……だが今はカードがないんだろ?」

「そうだね。ストレージの中かな」

「次に持ち越しね」

 

 これで一段落、と三人は時間も考えて店を後にした。

 

「コンビニ寄ってくから二人は先に帰っといて。準、最近不良が出没してるらしいから明日香をちゃんと送ってね。それじゃ」

 

 と、帰り道で遊導は一人別行動をとった。

 ──まぁ、お節介って訳じゃないけど準的には二人になった方が嬉しいでしょ。……勘違いだったら恥ずかしいなコレ。

 

 そんな事を考えながら遊導はコンビニの商品を一通り見る。だがこれらは殆ど寮の購買にある上にかかる金額も少し高い。

 

「でもなんか買っておきたいな……って思ったらやっぱりコレに行き着くんだよなぁ」

 

 そう言いながらデュエルモンスターズコーナーで売っているパックを触る。遊導はこれが流行っている現代、実物を出していたら盗まれるんじゃないかとも考えた。

 だが万引き現場に遭遇して、犯人が一瞬で捕まったのを目撃してそれは杞憂だったとわかったのはつい最近。

 

「金はあるんだよなぁ……でも今日は買ったし……やめとくか。なんか菓子でも買おっと」

 

 そうしてデュエルモンスターズコーナーを後にして遊導は適当に芋けんぴを二袋取ってレジに並び、財布から金を出してふとフライヤーの方を見る。

 

「あーあと肉まん2つお願いします」

「袋は分けますかー?」

「お願いします」

 

 そう言って袋を二つ受け取り、外に出ようとしたところで背後の会話が聞こえてきた。

 

「肉まんあるだけ全部寄越しなさい」

「すみません、先程売り切れまして……」

「そう……仕方ないわね」

 

 遊導は気になって後ろを振り向くと、その人物は同級生の藤原雪乃だった。一瞬だけだったが、見るからに残念そうな顔をしている。

 店を出た遊導は少し迷い、コイントス──出たのは表だった。

 少し遅れて紫髪ツインテールの美少女──雪乃がコンビニから手ぶらで出てくる。

 

「藤原さん」

「……あら? ボウヤ……幸上遊導だったかしら。どうしたの?」

 

 その艶かしい声と「ボウヤ」呼びに一瞬戸惑った遊導だったが、二つ持っていた袋のうち一つを雪乃に差し出した。

 

「はい、肉まん。まぁ、二つしかないけど」

「あら? プレゼントにしては的確に私の好みを突いてくるのね。もしかして私のファンだったの?」

 

 口では余裕そうに言っているが、顔は見るからに嬉しそうだ。

 

「残念ながら違うよ。肉まん欲しかったんでしょ、買い占めようとするぐらい。俺は適当に買っただけだからあげる」

「えっと……それだけ? 他に理由とかないの?」

「コイントスで表が出たから『あげる』って決めた」

 

 至極『遊導らしい』理由。コイントス──自分の運が、運命がそうしろと言ったからそうしたという他人からは鼻で嗤われるような決め方だ。

 

「ふふっ、ならありがたく受け取るわ。ありがとう」

「どういたしまして。というかあるだけ全部買い占めようとしてたけど、20とかあったらどうしたの?」

 

 袋を渡してふと疑問に思ったことを遊導は尋ねる。

 

「言葉の通りよ。あるだけ全部買ったわ」

「……どれだけ肉まん好きなんだ……」

 

 苦笑いして遊導はもう一つの袋をバッグへとしまう。

 

「そういえば、女子寮近くまで送ろうか?」

「あら、外見に似合わず肉食系なのね」

「最近物騒だから。もう暗いし同級生の女の子くらいは送っていこうって思っただけだよ」

「ならお願いするわ、ボウヤ」

「仰せのままに、御嬢様?」

 

 そろそろボウヤと呼ばれる違和感に慣れてきそうだった遊導はなんとか冗談返しで執事のような振る舞いをして返す。すると雪乃は目を大きく見開いて驚いたように遊導の方を見ていた。

 

「どうしたの?」

「……いえ、ボウヤの行動が予想外だっただけよ」

「にしても驚きすぎじゃないかなぁ……」

 

 そんな風に談笑しながら少し暗くなった道を二人は歩いていった。

 

 

 

 ──後ろから着けてくる人影には全く気づかずに。

 

 

 とあるチャット

『名無し:【速報】特待生クラスの幸上、入試でのイカサマバレる!!』

『名無し:草』

『名無し:どうやってイカサマするんだよ。確かにあの的中率はおかしいけど』

『名無し:デュエルディスク 改造で調べろ。サイコロとコイントスなんて使うのが限定的でKCが適当に調整してるから改造しやすいんだよ』

『名無し:嘘乙』

『名無し:そういえばアイツ、今日天上院さんと一緒に居たと思ったら今度はゆきのんと歩いてたわ』

『名無し:これは男と女敵に回したわ』

『名無し:は?処刑だろこれ』

 

 悪意の種は程無く芽吹く。そこに運などという幻は介入せず──




デッキ構築が微妙なのは自分が素人なのでどうか許してください……

それはそうとルインさんは女神なので重要な位置付けになります。彼女好きなんですよ。

先程更新された7話は明日用のを誤って投稿したものです。削除しましたのでまた明日の10時に投稿いたします。読んでしまった方誠に申し訳ありません。出来る限り加筆修正して投稿します。


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7話:視線─終焉の王

お気に入り100件オーバーありがとうございます!
遊戯王の人気とハーメルンの活気のスゴさを両方とも日々実感しています。


 ──昨日、寮に帰った辺りから嫌な違和感に包まれた。違和感の正体はすぐにわかった。異常なくらいの視線だ。しかもそれがいい方の視線じゃないと分かると、とても居心地が悪くなった。

 

「はぁ、俺なんかしたっけ……」

「フン、分からん理由なんて気にするだけ無駄だ」

 

 遊導はその事を万丈目にも話したが、ジュニアチャンピオン時代から『そういう視線』に晒され続けていた彼にとっては道端の石ころのようなものらしい。

 

「ギャンブルデッキ使い始めたときも小学校の友達に陰口とかされたことはあったからデュエルで解決してたけど……視線は慣れないよ……」

「なら慣れろ。オレは慣れた」

「無茶言わないで……俺はナイーブなんだから」

「どこがだ」

 

 だが、遊導にとってはそんな会話をしているだけで周囲からの視線が気にならなくなってきた。それほど万丈目との会話は彼にとって安らげるのだ。

 

「……そうだ。おい遊導、受け取れ」

 万丈目が出したのはカードケース。見るに十枚ほど揃っている。

 

「え? 受け取れって……」

「オレの持っていた『バスター・ブレイダー』関連カードだ」

「いやいやいや、悪いって」

「人には渡して自分だけは貰わないつもりか? このオレが好意で貴様にカードを渡すんだ。素直に受け取れ」

「いや、でもそんな俺が渡したのはA,B,Cと融合モンスターだけだし」

 

 人にあげることは慣れていても貰うことは慣れていないのか遊導は頑なに拒否するがそれが万丈目に火を付けた。

 

「トレードだ。オレが貰ったモノはこの『バスター・ブレイダー』でやっと対等ということだ。それともお前はこのオレにずっとお前に対して負い目を感じていろというのか?」

「うっ……わかった。ありがとう」

「これで貸し借りは0──トレード成立だ」

 『情けは人の為ならず』『無料より高いものはない』その二つの言葉が遊導の頭のなかで飛び交っていた。

 朝食を摂り終え、遊導は一人購買に訪れていた。

 

「……4、お姉さん。この4つのドローパンください」

「毎度あり~。君、毎日そうやってサイコロ振って出だし分だけ買ってるけどお金大丈夫なの?」

 

 袋とレシートを貰うと購買のお姉さん──早山(はやま) 藍梨(あいり)がそう聞いてきた。幸い、他に購買に客はいない。これならば遊導も視線を気にせずに会話できる。

 

「生活費として親から結構な金額もらってますから。あ、もし金欠になったら準あたりに泣きついて恵んでもらいます」

「彼も大変ね~。あ、そうそうキミ気をつけておいた方がいいわよ~?」

 

 突然の忠告に遊導が首を傾げると藍梨は先程までのほんわかとした笑顔ではなく、真剣な顔で

 

「一年生の男の子達がキミを陥れるような話をしていてね。冗談にも思えなかったのよ、カードを破るだとか連れ出してボコすとか」

「……よくその人達も購買の近くでそんな話をしてましたね」

「盗み聞きしたのよ~」

「……お姉さんは敵に回したくないですね」

 

 遊導は苦笑いをして忠告に対して礼を言うと

 

「今度からは名前で呼んでね~」

「考えておきます」

 

 からかわれていると感じながらも適当に流して遊導は購買を後にした。

 ──それにしても、狙われてるって分かると視線も無視できないな……準達には迷惑をかけないようにしようと。

 

「ほんとう、原石はいつ見ても飽きないし贔屓したくなるのよね」

 

 藍梨の独り言は遊導にはもちろん、人が入り始めた購買の誰にも届かなかった。

 

─────────────────────────

 

「今日一個目のドローパンはーショコラ! 朝食後に嬉しい菓子パン!」

「おい、道端で歩きながら食うな行儀が悪い」

 

 ドローパンを頬張る遊導に万丈目が注意する。

 

「ほへんほへん。……もう食い終わったから許して」

「全く……常識人かと思えば度々おかしな事をしでかす……」

「校則には載ってないのでセーフ!!」

「マナーで考えたらアウトだ!!!」

 

 微妙に青筋を立てながら叱る万丈目に遊導は素直に謝り、残りをバッグにしまった。

 

「それで、バスター・ブレイダーについては調べたか?」

「PDAを使ってある程度はね。まぁ……高いね! 融合体の《竜破壊の剣士─バスター・ブレイダー》なんて数十万はするし、そもそもあと二枚欲しいバスター・ブレイダー自体も五万はするっていうね」

「有名カードのサガだな。サポートカードはどうだ?」

「そこら辺は安いよ。準から貰ったカードで事足りるけどね」

 

 遊導のバスター・ブレイダーデッキ(仮)はエースのバスター・ブレイダー、万丈目からのバスター・ブレイダー用魔法・罠が7枚とモンスターカードが3枚の計11枚、これに汎用魔法と罠を入れると20枚強になる。

 

「ネックはモンスターカードなんだよね。共存できるブラック・マジシャンは百万近くの大台だし、種族もバラバラだから……」

「ならばバスター・ブレイダーを完全に使いきるに限るな。だが一枚だけしかないとなると……少し、試す価値はあるか」

 

 そう呟いて万丈目はなにか思いついたような口振りで口角を上げる。まだ中学一年生の可愛げのある顔なのにその表情は敵キャラのするモノだ。

 

「デュエルで人を抹殺する方法でも思いついたような顔してるよ?」

「どんな顔だ! バスター・ブレイダーデッキを完成に近づけるぞ!」

「おー!」

 

 そうしているうちに二人は教室に到着した。遊導への視線は少し弱まったもののそれでもキツイには変わりない。しかし当の本人は万丈目と会話しててまったくそれを気にしていないように見える。

 

「おはよう、ボウヤたち」

「おはよう、二人とも」

「ボウ……!? オレは万丈目さんだ! て、天上院くん!お、おはよう!いい天気d「おはよう、藤原さん、明日香」被せるな!」

 

 次にそこに加わったのは雪乃と明日香だ。万丈目は突然のボウヤ呼びに噛みついていたが明日香がいると分かるとそっちに釘付け。

 尤も彼の言葉は雪乃の耳には届いていないだろう。

 

「あら? もう御嬢様とは呼んでくれないのね? 遊導のボウヤ」

「御嬢様……!?」

「クラス内でその発言をするのは止めてほしかったかなぁ!?」

 

 その発言により男子陣からの遊導への視線が一気に険しくなる。また隣で聞いていた明日香も驚いて遊導の方を見ている。

 

「ふふ、カワイイ反応ね」

「勘弁して……ただでさえ視線がキツイのに」

 

 艶かしく、悦しむように遊導の反応を見て満足した雪乃と明日香はそれぞれの席に座って会話に入る。

 

「それで、何の話をしていたの?」

「適当な世間話……というか、俺に対する視線の話かなぁ」

「あら、それなら原因は分かりやすいわよ?」

「え?」

 

 雪乃のその発言に遊導は食いつく。

 

「分かりやすいって、というと?」

「ヒ・ミ・ツと言いたいけれど……そうね、私とデュエルしたら教えてア・ゲ・ル」

「……じゃあ昼休みによろしく」

 

 そして昼休み────

 

「それじゃ、よろしくね」

「優しくシテね?」

「それはむりかなー」

 

 そんな軽口を叩きながら二人はデュエルディスクにデッキをセットする。

 

「「デュエル!」」

 

双方 LP 4000

 

 すると何処から聞き付けたのか十数人の生徒達が遊導達のデュエルを見物し始める。なお万丈目と明日香はすぐ近くにいる。

 

「私の先攻よ。ドロー……ふふ、《手札抹殺》を使用するわ」

「ウゲッ……いきなりか……」

 

《手札抹殺》

通常魔法

(1):手札があるプレイヤーは手札を全部捨てる。その後、それぞれが捨てた枚数分デッキからドローする。

 

 

 遊導の手札から墓地に送られた5枚には出たら目やダイス・ポット、カバード・コアなどの耐えたり逆転を可能にするカードが混ざっていた。

 

「あら……手札が悪いわね。モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドよ」

 

雪乃 LP 4000

フィールド:セットモンスター1体/伏せカード1枚

手札 3枚

 

「俺のターン、ドロー。手札から永続魔法《デンジャラスマシンTYEP-6》を発動。そして《一撃必殺侍》を通常召喚」

 

《一撃必殺侍》

効果/星4/風属性/戦士族/攻1200/防1200

このカードが戦闘を行う場合、ダメージ計算の前にコイントスで裏表を当てる。当たった場合、相手モンスターを効果で破壊する。

 

 これがデュエルディスクを介して可愛らしい武士が出てくる。遊導のギャンブルデッキのマスコット候補No.1だ。

 

「一撃必殺侍でセットモンスターを攻撃! 効果でコイントスをして裏表を当てたら効果により破壊する!俺は表を予想!」

 

 デュエルディスクから弾かれるソレをギャラリー達は食い入るように見つめる。雪乃もその方向を見ているが、あくまでも遊導の眼を見ているようだ。

 

「……表!セットモンスターを裏側のまま破壊する!」

「あら、イヤらしい効果ね」

「ギャンブルカードはそういうのばかりだからね。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

遊導 LP 4000

フィールド:一撃必殺侍/デンジャラスマシンTYEP-6、伏せカード1枚

手札 3枚

 

「私のターン、ドロー。私は魔法カード《強欲な壺》を発動。二枚ドローして……《儀式の供物》を通常召喚」

 

《儀式の供物》

効果モンスター 星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 300

闇属性の儀式モンスターを特殊召喚する場合、 このカード1枚で儀式召喚のための生け贄として使用する事ができる。

 

「闇属性の儀式モンスター素材……何が来る……?」

「ふふっ、伏せカードにしておいた儀式魔法《エンド・オブ・ザ・ワールド》を発動して《儀式の供物》をリリース、これにより《終焉の王デミス》は降臨するわ」

「デミス!?」

 

《エンド・オブ・ザ・ワールド》

儀式魔法

「終焉の王デミス」の降臨に使用する事ができる。

フィールドか手札から、儀式召喚するモンスターと同じレベルになるように 生け贄を捧げなければならない。

 

《終焉の王デミス》

儀式・効果モンスター 星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。

(1):2000LPを払って発動できる。 フィールドの他のカードを全て破壊する。

 

 終焉の王デミス──その効果はまさに名前負けしない圧倒的制圧力を誇る儀式モンスターだ。

 漆黒の身体でその体躯は数メートルあるだろう。そして持っている斧を大振りに構え────

 

「ライフを2000払ってフィールドの全てを破壊するわ」

「伏せカードだった《銃砲撃》も破壊か……キツイなぁ」

 

 大地に叩きつけ、文字通り全てを破壊した。

 

「激しいでしょう? デミスで直接攻撃!」

「グッ!」

 

 その直後爆風が遊導を襲ってそのライフをゴッソリと削っていく。

 

遊導 LP 4000→1600

 

「カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

雪乃 LP 4000→2000

フィールド 終焉の王デミス/伏せカード2枚

手札 3枚

 

「俺のターン、ドロー。手札からカップ・オブ・エースを使用してコイントス──表だから2枚ドロー」

 

 この時、ギャラリーが何かしら騒ぎ始めていたが追い詰められている遊導はそこに回せる気はなかった。

 

「来た!《スナイプストーカー》を守備表示で召喚! 手札を1枚捨て、デミスを選択して効果発動。ダイスロール!」

 

《スナイプストーカー》

効果モンスター 星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守 600

手札を1枚捨て、フィールド上のカード4枚を選択して発動できる。 サイコロを1回振り、1,6以外が出た場合、 選択したカードを破壊する。

 

 イカサマ防止用にデュエルディスクに付いているサイコロオプションの一つ、回転数増幅で回転数を上げる──出目は4だ。

 小さな悪魔がケタケタと笑ってデミスに照準を合わせる──

 

「デミスを破壊!」

「あら、早いわね……」

 

 遊導の号令と共に引き金を引き、終焉をもたらす王は呆気なく散った。

 

「そして手札から1000LPのコストを払って《サモン・ダイス》! ダイスロール!出目は6だから手札から《ゴッドオーガス》を特殊召喚!」

 

 ここで入試の時に魅せた遊導の必勝パターン。モンスターが居ない今、雪乃の伏せカードが先程と同じブラフで手札誘発がなければ勝利だ。

 

「ゴッドオーガスの効果! 3,3,2で800ポイント攻撃力が上昇!して2枚ドロー! 行け、ゴッドオーガス! 3300のダメージだ!」

「罠カード《ガード・ブロック》よ。戦闘ダメージを無効にして1枚ドロー」

「ブラフじゃなかったか……カードを1枚伏せてターンエンド」

 

《ガード・ブロック》

通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、 自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

遊導 LP 1600→600

フィールド スナイプ・ストーカー、ゴッドオーガス/伏せカード1枚

手札 3枚

 

「私のターン、ドロー。それにしてもボウヤ、あれだけ展開やって手札切れないわね?」

「ゴッドオーガスとカップ・オブ・エースのおかげだよ」

「すごい運命力ね……でも、その力を利用させてもらうわ。手札から《イリュージョンの儀式》を発動するわ。手札の儀式の供物を墓地へ送って《サクリファイス》が降臨するわ」

「ゲッ! ヤッバ……」

 

《イリュージョンの儀式》

儀式魔法

「サクリファイス」の降臨に必要。

(1):自分の手札・フィールドから、 レベルの合計が1以上になるようにモンスターをリリースし、 手札から「サクリファイス」を儀式召喚する。

 

《サクリファイス》

儀式・効果モンスター 星1/闇属性/魔法使い族/攻0/守0

「イリュージョンの儀式」により降臨。

(1):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。 その相手モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する(1体のみ装備可能)

(2):このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備したモンスターのそれぞれの数値になり、 このカードが戦闘で破壊される場合、代わりに装備したそのモンスターを破壊する。

(3):このカードの効果でモンスターを装備したこのカードの戦闘で 自分が戦闘ダメージを受けた時、相手も同じ数値分の効果ダメージを受ける。

 

 思わず遊導がそう洩らしてしまうほど、《サクリファイス》というモンスターは恐ろしい。それはこの場にいるデュエリストなら誰もが知っているあのペガサス会長の使っていたカードの一枚──

 

「サクリファイスの効果でゴッドオーガスを吸収……そして攻撃力はソレの元々の値と同じ2500になるわ。サクリファイスでスナイプ・ストーカーを攻撃!」

「ここは流すかな」

「カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

雪乃 ライフ 2000

フィールド サクリファイス(ゴッドオーガス装備)/伏せカード2枚

手札 2枚

 

「俺のターン、ドロー……俺の手札にサクリファイスを倒すようなカードは無い……」

「あら? 諦めるのかしら。ちょっと残念ね」

 

 遊導の弱気とも取れる発言に雪乃は分かりやすく残念がる。

 

「だったら……《暴れ牛鬼》を守備表示で召喚。コイントスで裏表を当てる」

「……それはハイリスクじゃないかしら?」

「リスクとリターンを勘定する頭があったらギャンブルデッキなんて使わないよ。俺は裏を選択!コイントス!」

 

 遊導に弾かれたコインはまるでその意思を尊重するかのように裏を示した。これで雪乃のライフは1000ポイント削れる。

 やっと遊導の一太刀が届いたのだ。

 

「残り1000ポイント……俺はフィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》を発動してターンエンド」

 

 周囲がおどろおどろしい風景に変わる。ギャラリーの殆どは引いているが遊導は構いやしない。

 

遊導 LP600

フィールド 暴れ牛鬼/伏せカード1枚

フィールド魔法ダーク・サンクチュアリ

手札 2枚

 

 

「……ダーク・サンクチュアリにギャンブル要素なんてあったかしら? ……でも、あれだけ言ってもすることがなかったのね。

なら私のターン、ドロー。手札を1枚捨てて《死者への手向け》を発動するわ」

「うわぁ……なんかすごいデジャヴ……暴れ牛鬼は死者への手向けに呪われてるのかな……」

 

 そうブツクサ言っているが、気づけば遊導のフィールドはガラ空きになる。だが伏せカードはどんなギャンブルカードが分からない以上、雪乃は警戒を怠らない。

 

「念のために伏せカードの《王宮のお触れ》を発動するわね。バトルよ、サクリファイスで直接攻撃!」

 

《王宮のお触れ》

永続罠

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、 このカード以外のフィールドの全ての罠カードの効果は無効化される。

 

 罠まで封じられた今、遊導に防ぐ手立ては──

 

「ありがとう、誘いに乗ってくれて」

「えっ?」

 

 それまで項垂れていた遊導は突然笑顔になり、デュエルディスクのとある場所を指す。

 

「フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》の効果発動! 相手の攻撃宣言時にコイントスをする!」

「────!?」

 

《ダーク・サンクチュアリ》

フィールド魔法

(1):自分の「ウィジャ盤」の効果で「死のメッセージ」カードを出す場合、 そのカードを通常モンスター(悪魔族・闇・星1・攻/守0)として特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚したカードは「ウィジャ盤」以外のカードの効果を受けず、 攻撃対象にされない(この効果が適用されたモンスターしか 自分フィールドに存在しない状態での相手の攻撃は自分への直接攻撃になる)

(2):相手モンスターの攻撃宣言時に発動する。 コイントスを1回行う。 表だった場合、その攻撃を無効にし、その相手モンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

 

「よし、今日は絶好調のコイントスだ! 表が出れば攻撃無効で半分のダメージを雪乃に与えるよ! コイントス!!」

 

 そして、遊導はコインを弾く。雪乃にとってそれはとても長い一瞬であり──

 

「表だよ。1250のダメージを雪乃に与える!」

「勉強不足だったわね……」

 

 瘴気の壁により防がれたサクリファイスの一撃は威力が分散されながらも雪乃を貫き、そのライフを0にした。

 

雪乃 LP1000→-250

 

「ふー……なんとか勝てた」

「優しくシテって言ったのに……激しくやられたわ……」

「いや、本当にギリギリだったからね? それになにその反応、デュエルってそんなんになるの?」

 

 何故か座り込み、顔を紅潮させている雪乃に遊導がツッコミを入れる。

 

「ハァ……伏せカードはなんだったの?」

「…………速攻魔法の《ルーレット・スパイダー》だよ」

「チャンスをもう一度残してた時点で私の敗けね。どうせ罠だとたかを括ったのが間違いだったわね……」

 

 雪乃が立ち上がり、デュエルディスクを外す。

 

「それで報酬のアレだけど……人が多いからあの場所で放課後に教えてア・ゲ・ル」

「それじゃあそれで。現に視線がめっちゃ痛いくてこんなんで聞けないから」

 

 そう約束した二人は教室へと戻った。

 

「そうそう、これからもデュエルの最後みたく『雪乃』って呼んでいいわよ、遊導?」

「考えておきます……」

 

 本日二度目の「名前呼び」の誘いに定型文を返して遊導は実技の準備を進める。

 

 その時間が悪意に満ちているとは知らずに。

 

 

 




雪乃さんはこんなのでいいのか、デュエル構築下手じゃないか、チョロすぎじゃないか……でもこれしか書けなかった……非力な私を許してください……
一昨日から不穏ですがまだ不穏は続きます。


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8話:疑い─サイバー流

本作のデュエルでは初出のカードテキストを記すようにしているのですが、今回の話で少しテンポが悪いかな?と疑問に思いました。
なのでアンケートを設置します。アンケート内容は『初出のカードテキストをどうするか』です。
1.このまま初出のカードテキストは出たその直後に記す。
2.本編最後(若しくは後書き)に記す。
3.使用者が説明するので記す必要はない(アニメのような扱い)
この三つでどれがより読みやすいか投票お願いします。


 午後の最初の時間は実技から始まる。学年の生徒がランダムで(基本的に同じクラスとはぶつからない方針)選ばれた対戦相手とデュエルをするのを五回繰り返す。彼らがいるデュエルホールは観戦用のモノではなく純粋に効率だけを求めたモノだ。それにより一時間で全デュエルが終わるようになっている。

 尤も、それを可能にしているのは────

 

「行け! XZ-キャタピラー・キャノン!!」

「サイバー・チュチュで直接攻撃!!」

「ふふっ、終焉の王デミスの直接攻撃よ」

「切り裂け! ゴッドオーガス!」

 

 毎年、特待生のトップ集団が凄まじいスピードでデュエルを終える為だ。この前の年は一人、その前の年は二人─これは双璧の亮と吹雪─が凄まじい効率で戦うので一時間に収められるという、なんともトップに依存しているものだ。

 今年は万丈目がそれと同じスピードを出していて他のトップ集団が少し遅れるという状況だ。

 

「俺のブリザード・プリンセスは最強なんだ!!」

 

 和泉も頑張っている。

 これまで四戦を終えた遊導と万丈目はやっとできた隙間時間にお互いの戦績を確認しあった。

 

「おい遊導、貴様まさか敗けてはいないな?」

「準こそ、うっかりして地獄デッキなんて使ってないよね?」

「フン、本来はそれで十分だが貴様とスピードを争うにはユニオンでなければ拮抗できないからな!」

「……ありがとう」

 

 なおこれまでの遊導は危なげなく勝利している。要所要所で出目がよくないところもあったがそれを踏まえても異常なほど彼に傾いている。

 この結果からイカサマとデュエルの度に言われている。彼の立ち振舞いも踏まえると仕方ないのだが、本人はそんなことには気がついていない。

 

「お前はそのデッキでよくオレと同程度のスピードを維持できるな」

「俺のカップ・オブ・エースは最高なんだ!」

「フッ……さて、最後だ。行くぞ」

「うん。勝率100%はすぐそこだ」

 

 遊導と万丈目はそれぞれのフィールドに向かう。その際に拳を合わせて分かれた。

 

「つい一週間前に知り合ったように思えないわね……」

「ふふっ、面白いわね」

 

────────────────────────

 

「オイ、イカサマ野郎。テメェそんなにあからさまにやってバレてないと思ってんのか?」

 

 フィールドに入って早々、遊導は対戦相手──1-2の三番─今回の対戦相手で最も実力が近い─川鳥(かわどり)風木(ふうき)にそんな事を言われた。

 

「イカサマ? 確かにコイントスとサイコロは何回も使ってるけどしたことはないよ」

「ハッ! よくそんな事を言えるな。ならどうしてテメェは毎回毎回コイントスやサイコロを外さねぇんだよ!」

 

 身に覚えの無い事で責められ、遊導は自分のこれまでのコイントスやダイスロールを思い返すがやはりそんな事をした覚えはないという結論に至る。

 

「……さあ? そんな事を言われても俺には分からないよ」

「証明できないんだな!」

 

 ここまで来たらもう弁明は不可能と言ってもいい。だから遊導はとある一つの方法を思いついた。

 

「……それなら……君が俺のコイントスとサイコロをやってよ 」

「いいのかぁ? イカサマ出来なくなるぞぉ?」

「どうぞ。後があるからデュエルを始めようよ」

「チッ! 余裕そうな演技しやがって……後悔すんなよ!」

 

 二人はデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!」」

 

双方 LP 4000

 

 先攻は遊導からだ。

 

「俺のターン、ドロー。一撃必殺侍を守備表示で召喚、デンジャラスマシンTYEP-6を発動。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

遊導 LP4000

フィールド 一撃必殺侍/デンジャラスマシンTYEP-6、伏せカード1枚

手札 3枚

 

「おれのターン! ドロー! テメェの場にしかモンスターが存在しない場合、手札から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」

「サイバー・ドラゴン……!?」

 

《サイバー・ドラゴン》

効果モンスター 星5/光属性/機械族/攻2100/守1600

(1):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、 このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 機械でできた大蛇のようなモンスターが姿を現す。このモンスターを使う者、それは──

 

「驚いたかぁ? おれはサイバー流初段! あの『双璧』亮の弟弟子なんだよぉ!」

「まさか同学年にいるとは……」

 

 サイバー流──何人ものプロデュエリストを輩出し、絶大なる人気を誇る『リスペクトデュエル』を掲げた数あるデュエルモンスターズの流派の中でも最強と呼び声が高い流派だ。

 

「バトルだ! 行け! サイバー・ドラゴン!!」

「一撃必殺侍の効果! コイントスをして裏表を当てる、裏を選択!」

「チッ、ホラよ……残念だったな、表だ」

 

 一撃必殺侍がサイバー・ドラゴンに噛みきられてしまった。

 

「カードを二枚伏せてターンエンドだ。やっぱイカサマだったんじゃねぇのかぁ?」

 

 余裕の表情で遊導を煽る風木、だが遊導は気にせずに自分のターンですることを考える。

 

風木 LP4000

フィールド サイバー・ドラゴン/伏せカード2枚

手札 3枚

 

 

「俺のターン、ドロー。デンジャラスマシンTYEP-6の効果を発動。ダイスロール!」

「……2だ」

「なら手札を一枚捨ててね」

「チッ、融合解除を捨てるぜ」

 

 捨てられたカードを確認し、遊導は少しホッとする。サイバー流と言えば超火力の融合モンスターが主流で、そこから融合解除をするというセオリーがある。いまの遊導ではそれをやられると厳しいからだ。

 

「手札から《カップ・オブ・エース》を発動、コイントス!」

「またかよ……チッ、表だ」

 

 コイントスとダイスロールの多さにフラストレーションが溜まり、舌打ちを繰り返している。

 

「二枚ドロー! 《ツインバレル・ドラゴン》を通常召喚! 効果でサイバー・ドラゴンを選択して二回コイントス、全て表だったら選択したカードを破壊する!」

「あ!? またかよ! 二回とも表だ!」

 

《ツインバレル・ドラゴン》

効果モンスター 星4/闇属性/機械族/攻1700/守 200

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、 相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。 コイントスを2回行い、2回とも表だった場合、選択したカードを破壊する。

 

 すると、機械仕掛けの銃竜の頭にある二つの銃口からそれぞれ一発ずつ銃弾が放たれて機械大蛇の命を絶った。

「行け! ツインバレル・ドラゴン! 直接攻撃だ!」

「《くず鉄のかかし》だ! 無効にする!」

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

《くず鉄のかかし》

通常罠

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に、 その攻撃モンスター1体を対象として発動できる。

その攻撃を無効にする。発動後このカードは墓地へ送らず、そのままセットする。

 

遊導 LP 4000

フィールド ツインバレル・ドラゴン/デンジャラスマシンTYEP-6,伏せカード2枚

手札 4枚

 

「俺のターン、ドロー! 天使の施し! そして墓地に送った《サイバー・ドラゴン・コア》を除外!その効果でサイバー・ドラゴンを特殊召喚!!」

「やっぱりサイバー・ドラゴンが来るか……」

「ソレだけじゃねぇ! 手札から融合を使って手札のサイバー・ドラゴンと融合だ! 来い!《サイバー・ツイン・ドラゴン》!! 更に《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を通常召喚!」

 

《サイバー・ドラゴン・コア》

効果モンスター 星2/光属性/機械族/攻 400/守1500

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

(2):このカードが召喚に成功した場合に発動する。 デッキから「サイバー」魔法・罠カードまたは「サイバネティック」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(3):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。 デッキから「サイバー・ドラゴン」モンスター1体を特殊召喚する。

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》

融合・効果モンスター 星8/光属性/機械族/攻2800/守2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

 

《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》

効果モンスター 星4/光属性/機械族/攻1500/守1000

このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を相手に見せて発動できる。 このカードのカード名はエンドフェイズ時まで 「サイバー・ドラゴン」として扱う。

また、このカードのカード名は墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 今度はサイバー・ドラゴンが二体合体した巨大な怪物が出現した。それを見た風木は高笑いをしてその紹介をし始めた。

 

「コイツは初段から許されたサイバー・ドラゴンの融合体! 2800の高打点に加えて二回攻撃だ! 死ねぇ!!」

「グッ!」

 

 一発目の攻撃はツインバレル・ドラゴンを易々と飲み込み、その余波が遊導を襲った。

 

「まだまだ「手札の《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》の効果発動! 機械族・闇属性のモンスターが破壊されたことにより手札から特殊召喚!」なに!?」

 

《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》

効果モンスター 星8/闇属性/機械族/攻2800/守2200

(1):自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。 このカードを手札から特殊召喚する。

(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。 コイントスを3回行う。 表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。 この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。 コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える。

 

 煙の中から新たに両腕、頭に銃身を取り付けたドラゴンが現れた。その攻撃力は──

 

「2800……!?」

「そして効果発動! バトルフェイズ時にコイントスを3回して表が出た数までフィールド上のモンスターを破壊する!」

「クソッ! カカッ、0回だ! だが倒せねぇな……おれはこれでターンエンドだ」

 

風木 LP 4000

フィールド サイバー・ツイン・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ/伏せカード2枚(一枚はくず鉄のかかし)

手札 0枚

 

「俺のターン、ドロー! デンジャラスマシンTYEP-6!」

 

 出目は──4、これにより風木は一枚ドロー。

 

「《サイコロン》を発動! ダイスロール!」

「発動にチェーンして《威嚇する咆哮》を発動させる! サイコロは3だ!」

「ならくず鉄のかかしを破壊!」

 

《威嚇する咆哮》

通常罠

(1):このターン相手は攻撃宣言できない。

 

 それはプレイヤーに効果を与える最強クラスの攻撃妨害罠──これでこのターン、遊導は攻撃宣言ができない。

 

「……更にリバースカード《レベル変換実験室》を発動してカードを見せる」

 

 遊導が見せたのは《ブローバック・ドラゴン》だ。

 

「それからサイコロを振って1以外なら出た目と同じ数値のレベルになり、1なら墓地に送る」

「4、だと!? クソが! なんだよこのクソ!!」

「《ブローバック・ドラゴン》を通常召喚! そしてブローバック・ドラゴンの効果を発動! コイントスを3回して2回以上表だったらカードを1枚破壊する!」

 

《ブローバック・ドラゴン》

効果モンスター 星6/闇属性/機械族/攻2300/守1200

(1):1ターンに1度、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、 その相手のカードを破壊する。

 

 そして風木が三回コイントスをして──2回、表が出た。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊!」

「クソッタレ……!」

 

 だが、このターンでは決着はつかない。風木は手札にある最後の希望を見ながら笑うが──

 

「バトルフェイズに入る!」

「なっ!? 攻撃宣言はできねぇぞ!!」

「デスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果発動! コイントス三回だ!!」

「そういう、ことかよ……!」

 

 デスペラード・リボルバー・ドラゴンはバトルフェイズ時にコイントスをする。そしてその効果を発動したバトルフェイズでは攻撃ができない。

 

「威嚇する咆哮のおかげで俺のターンでも躊躇わずに効果発動できるよ、ありがとう」

 

 そしてコイントスは──表が1回。それによってサイバー・ドラゴン・ツヴァイが破壊された。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

遊導 LP 2900

フィールド デスペラード・リボルバー・ドラゴン、ブローバック・ドラゴン/デンジャラスマシンTYEP-6、伏せカード2枚

 

「おれのターン!ドロー! 手札から強欲な壺を発動!そして《死者蘇生》だ! 戻ってこい!《サイバー・ツイン・ドラゴン》!!」

 

 再び、サイバー・ツイン・ドラゴンが姿を現し、威嚇する。

 

「手札から《リミッター解除》だ! バトルフェイズに突入!」

「デスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果発動!」

「賭けだが……おれは諦めねぇ! イカサマ野郎なんかに、負けられるかよぉ!!」

 

 そして三回のコイントスが示した結果は──

 

「全部裏だ!! 行け! サイバー・ツイン・ドラゴン!!」

「速攻魔法発動!!《ルーレット・スパイダー》!」

「それは……バトルシティの……!」

「ああ! ダイスロール!」

 

《ルーレット・スパイダー》

速攻魔法

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。 サイコロを1回振り、出た目の効果を適用する。

1,自分のLPを半分にする。

2,その攻撃を自分への直接攻撃にする。

3,自分フィールドのモンスター1体を選び、 そのモンスターに攻撃対象を移し替えてダメージ計算を行う。

4,攻撃モンスター以外の相手フィールドのモンスター1体を選び、 そのモンスターに攻撃対象を移し替えてダメージ計算を行う。

5,その攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

6,その相手モンスターを破壊する。

 

 風木がデュエルディスクを操作してサイコロを振る。

 

「他人にコイントスやダイスロールの結果を任せるのって初めてだけどこれもコレでスリルあるなぁ……あー楽しい!」

「なんなんだよ、テメェ……なんでそんなに笑ってられんだよ……」

 

 出目は5、それは遊導にとって最上の結果であり、風木にとっては最悪の結果だった。

 

「5の場合はその攻撃を無効にしてその攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「サイバー・ツイン・ドラゴンが……! このイカサマやろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 風木の方を向いたルーレット・スパイダーにとりつかれた双頭の機械大蛇が狙いを定め──一撃を放つ。それだけで全快だった風木のライフは0になった。

 

風木 LP 4000→-1600

 

 ソリッドビジョンが消え、遊導の反対側には四つん這いになりフィールドを力任せに叩いている風木がいた。

 

「クソが!認めねぇ……絶対にイカサマだ。おれが、サイバー流があんなリスペクトの欠片もねぇギャンブルデッキなんかに負けるはずが……おれはサイバー流だぞ……」

 

 それに対して遊導は何か言わなければと思ったが、コイントスをして『裏』つまりなにもしない方がいいと結論付けてその場を去った。

 

「お前にしては手こずったようだな」

「うん、強かったよ。一つずつ潰していかなきゃ勝てなかったと思う」

 

 遊導はデュエルを思い返しながら言う。今回はコイントスもダイスロールも相手依存だったため、比較的施行回数の多いモンスターを多用していた。それは何れも相手の場を制圧する為のモノだ。

 

「運任せのクセによく言う」

「いつもの事だよ。それに、大体は予想通りだったかな」

「これで貴様の運が異常なのと、イカサマ疑惑は晴れただろうな」

「そうなら嬉しいねぇ……あ、準はどうだった? 勝った?」

「もちろん1ターンキルだ。つまらんデュエルだった」

 

 そうして五戦を終えた遊導らは事前に指定された集合場所へと向かっていった。

 数十分後、全てのデュエルが終了して全員が集合場所に集まったのを確認すると実技最高責任者──青倉 己龍が戦績を記した書類を持って話を始める。

 

「デュエル実技初日、ご苦労だった。全勝は万丈目、天上院、幸上、藤原、茂木────以上20名だ。今後も励むように。個人個人で反省をするように、解散」

 

 あっさりと、必要な事項だけを述べてその場は解散となった。

 

────────────────────────

 

 デュエル学、委員会決め等─万丈目と明日香がクラス委員、遊導と雪乃は科目担当─を終え、遊導は帰る準備をしていた。

 

「幸上、挨拶が終わったら生徒指導室に荷物を持って来てくれ」

「指導室……? 分かりました」

 

 そう担任の竜に言われ、不思議に思いながらも遊導は返事をした。それを聞いた教室にいるおよそ半数の生徒は「ザマァみろ」といった様子で遊導の方をニヤニヤしながら見ていた。

 挨拶が終わったあと、遊導が生徒指導室に行こうとすると万丈目と雪乃がついてきた。明日香は用事があって別行動だ。

 

「おい遊導、何かしたのか」

「デュエルする度にイカサマって言われてたからそのことかな……」

「フン、負け犬の遠吠えというモノで呼ばれるとは敵を作りすぎたな」

「ちょっと態度を改めないとなぁ……」 

「コレの事ね」

 

 呼ばれたことについて万丈目と会話していると雪乃が後ろからPDAを見せてきた。

 

「うおっ、えっと……『幸上遊導の入試イカサマ発覚』『一日に二人の女子生徒と歩く男』『男と女とオカマの敵』……なぁにこれぇ」

「朝に言っていた遊導のボウヤの視線の正体よ。アナタこの数日で敵がとても多いのよ?」

「…………ちょっと泣きそう」

 

 肩を落としながらそう呟く遊導は今までの事を思い返してみる。

 

「……あれ?視線の正体っていっても今日からなんだけど」

「昨日、ボウヤと私が会ったのを誰かが見ててその前に明日香とも会っていたという情報も集まって一気に炎上したらしいわよ?」

「明日香ともって、準がいたんだけどなぁ」

 

 本来はさらにその前日に明日香と二人で会っていたのだが、その事を咄嗟に思い出せない遊導はため息をつきながらそう言う。

 すると雪乃が何を言ってるの?という風な顔で説明する。

 

「そんなの、アナタを恨んでいる人にとっては都合が悪いから外すに決まっているわ」

「なんか妙に説得力がある……っと生徒指導室だ。二人とも先に帰ってていいけど?」

「待っていてやるからさっさと行ってこい」

「私は帰るわね。また明日」

「うん、また明日」

 

 二人と別れた遊導は生徒指導室のドアに三回ノックをする。

 

「幸上です」

「入りなさい」

 

 中から聞こえてきたのは担任の竜のモノではないが、遊導は「失礼します」と言い、その中へ入っていった。

 中には竜がいたが、その他に壮年の女性、このアカデミア中等部一年の学年主任の相河(あいかわ)がいた。

 

「そこに座りなさい」

「はい……」

 

 そう促されて遊導はパイプ椅子に座る。相河の眼は鋭く、まるで蛇のように彼を逃がさないように睨んでいる。

 

「幸上、どうして呼ばれたか分かっているか?」

 

 それを聞いてきたのは担任の竜だ。

 

「俺がデュエルでイカサマしている、という件ですか?」

「ああ、正確には恒常的にイカサマ──デュエルディスクに改造を施しているという疑惑がある」

 

 身に覚えのない疑惑だが、なんとか平静を保ち続けて目の前にいる二人の大人の話を聞こうとする。

 

「……先生はどう考えていますか」

「悪いが半々だ。いまの証拠がない状況だと明らかにお前の的中率はあやしい……今日の実技の四戦で確率的に少しお前に偏りすぎているとも思った。五戦目のお前が川鳥にコイントス等を委ねたことで少しは薄れた。というのが俺の考えだ」

 

 それを聞いて遊導は安心する。完全に黒だと断定されていない今、なんとかしていないことを証明すれば自分の無実を証明できる。だが、それは次の相河の言葉によって砕かれた。

 

「私達が君に要求するのは二つ、そのデュエルディスクとできれば入試に使ったデュエルディスクを預けること。そしてそのデッキを今後使わないことです」

 

 その要求──二つ目は遊導にとっては重大すぎるものだった。

 

「……え、あの……使わないことって……」

「言葉通りです。そのギャンブル統一デッキの使用を禁じます」

 

 突然の命令に遊導は困惑し、言葉が詰まる。それでなくても大人の圧力で緊張しているというのに。

 

「……禁じるって……やっぱり、イカサマ疑惑が大きくなったからですか?」

「そうです。そして、『運』はエリートになるために邪魔なモノです。勘や運に全てを任せるなど三流がやることです」

「三流って……デュエルモンスターズに、あるカードを使っているだけなのに、ですか」

「ええ。それでもその中には禁止カードも制限カードもあり、世間から忌避されているカウンター罠などもある。貴方がしているギャンブル統一デッキで勝ち続けるということは、それらで統一したデッキを使うことと似ているのです」

 

 遊導は一瞬だけ納得してしまいそうになる。そんな圧力が遊導の周囲を支配していた。

 

「……問題はイカサマかどうかでデュエルディスクを出せば問題ないんじゃ……」

「その疑惑の起こった元はそのデッキでしょう。ならばソレを絶つのが今後の貴方の為ですよ」

「………………」

 

 遊導は視線を担任の竜に移すが彼はただ立っているだけだ。だがその顔は悲痛で、申し訳なさそうな表情だ。

 

「どうしてもそのデッキを捨てる気はないのですね」

「……はい。別のデッキと交互で使えとかなら、今作っているデッキを使おうと思っていましたけど……」

「………………」

「………………」

 

 沈黙が訪れる。すると相河はため息を一つついて先程とは違い柔和な笑みを浮かべる。

 

「やはり意志が固いのですね」

「え?」

「去年も一昨年も時期と状況、そして規模は違えどトップに立つ者は積込やヤラセなどと言われて少し問題になったのですよ。それで貴方と同じようにデッキを変えるように勧告を出しても全員同じようにデッキを使い続けると宣言したのです」

「そんな毎年……」

 

 民度大丈夫なのかと思いながら遊導はプレッシャーが無くなっていることに気づく。

「そして、全員それを黙らせるほどの圧倒的な強さを見せた。積込を疑われるのなら相手の気が済むまでデッキをシャッフルさせてその上で1ターンキル、制圧などどをして声を小さくさせ、デュエルで頂点に君臨することにより絶対的な正しさを証明しました」

「なら、俺は──」

「ですが、貴方の場合は『イカサマ』や『完全な運任せ』というモノがつきまとっています。なので先に言ったとおり二つのデュエルディスクを学園に出し、イカサマの疑惑を晴らした上で、戦術面でも最も優れていることを証明しなさい」

「つまり、二つ目のデッキを作って、それを使って首席になれ……ということですか?」

「ええ。勿論、『イカサマ』が晴れた後はギャンブルカードもサポートとしても使って構いません。検査したあとなら何か言う声もいまの一割程度になるでしょう。

しかし、ギャンブル統一デッキは少なくとも一年生の間は無断で使うのは貴方と仲のいい万丈目君を始めとした気の許せる友人だけに留めておいてください。

断りを入れたり、相手が要求すればその動画を撮るという条件で使うことをアカデミアは認めます」

 

 すると相河は書類を取り出して遊導に手渡す。

 

「コレが今後一年間、貴方に課す縛りです」

 

 遊導は書類に目を通す。

 ギャンブルデッキの使用制限はあるもののそれは軽度のもの、しかもサポート目的ならば使ってもいいという。

 新たなデッキを明日までに作り、そして実技ではそれを使うこと──これは作成中のバスター・ブレイダーデッキで事足りる。

 そして、『認めさせるための』首席──これに関しては万丈目との、明日香との直接対決に勝たなければ決して果たせない。

 

「分かりました、デュエルディスクはここに置いていきます。明日、受験で使ったモノも持ってきます」

「代替器はコレです。点検の結果は一年生全体に知らせますが構いませんね?」

「はい、大丈夫です」

「貴方はまだ中等部に入ったばかりなんです。敵を作るということが何れ程辛く、友人に迷惑をかける可能性を孕んでいるか考えてくださいね」

「分かりました。すぐに新デッキを用意します」

「期待していますよ」

「はい。失礼しました……ありがとうございました」

 

 替えのデュエルディスクを受け取り、遊導は生徒指導室を後にし、友人の元へ早足で向かっていった。




 サイバー流にこんなのがいていいのだろうか、いやいてはいけない。
 先生が介入する案件に……ギャンブルデッキで1年編はやっていくつもりだったんですが、バスター・ブレイダーデッキの出番が早まりそうですね。
 また、今回のデュエルでデスペラード・リボルバー・ドラゴンの処理がとても不安なので指摘する点がありましたらよろしくお願いします。

ラストの展開を修正しました。相河先生はいいひと


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9話:ダイジェスト─藤原雪乃

1時間遅れましたね。いえ特に毎日定時更新を掲げているわけではありませんが。


 PDAに学年の生徒へ向けたメールが一斉送信された。内容は『特定の生徒に対する批判や罵倒がSNSで散見される為、SNSを使用不可にする処置を行う』といった内容のモノで十中八九、自分のことだと遊導は理解した。

 それを確認した遊導は微妙な心境ながらも、自分の知らない所で悪口や悪巧みをされる事が減るならいいかとPDAを閉じ、カードに向き合った。

 

「……しかし、ギャンブルカード入れない構築っての難しいなぁ……みんなこんなのやってたの?」

「オレと明日香さんの手伝いをしていたヤツが何を言う。おい遊導、コレはどうだ。コレなら融合が可能になるぞ」

 

 そう言って万丈目が差し出したのは《逆転の女神》のカードだ。

 

「あー……でも竜破壊の剣士も超魔導剣士もいないから関係ないかな」

「ならコレはどうだ。最大で攻撃力が2500上昇するぞ」

 

 次に差し出したのは《DNA改造手術》だ。万丈目は相手がモンスターを並べた上でソレを使ってドラゴン族を指定した場合の事を指している。

 

「この前の準みたいに大量展開するなら使いやすいかも。対準用にデッキに入れておこうかな」

「そうか。フン、オレ用か」

 

 それを聞いた万丈目はどことなく嬉しそうに、カードを漁る。

 

「やっぱりバスター・ブレイダーが一枚ってのがキツいか……それに最上級だから……」

「強欲な壺、天使の施し、天よりの宝札は入れたか?」

「あ……うん、入れたよ」

「『今』な」

 

 現在二人は寮の702──つまり遊導の部屋でデッキ構築をしている。

 あの話の後、遊導は万丈目にかかる迷惑を考えて一人で作成しようとしたが結局は事情を話すと

 

『オレもどうせ敵が多い。気を遣うな』

 

 その言葉が遊導にとっては嬉しく、つい甘えてしまった。

 

「遊導、最上級は何枚入れている?」

「バスター・ブレイダーだけ」

「火力不足だな……朝に思い付いたヤツだが装備魔法を入れるのはどうだ? 下級でも使いようによっては火力が出る」

「あ、いいかも。それなら……コレとコレ?」

 

 万丈目の案を受け、遊導は二枚の装備魔法を取り出す。

 

「コイツも使えるぞ。なによりバスター・ブレイダーとの相性もいい」

「これで……37枚か。魔法カードが圧倒的だからモンスターにしたいけど……なにかいたかな」

 

 そこで遊導は所持カードの最上級を集めてみてそれぞれを確認する。

 

「単体では強いのが多いけど…………ん? 攻撃力0……?」

 

 そのカードをよく確認した遊導は先程入れた数枚の装備魔法を確認して、二枚デッキに入れた。

 

「あと一枚……あ、こんなところに未開封パックの束が」

「さっさと開けろ。貴様は何故そうもズボラなんだ……」

「なんでだろ……えーっと……レアカードが結構入ってるな。なんのパックだっけこれ……」

 

 一枚一枚確認していくが、いまの遊導が欲しいと思えるカードはない。そうして最後の1パックが残った。

 

「ここに戦士族があることを祈って……いざ」

 

 その願いが通じたのか、五枚目は遊導が願っていた戦士族最上級のカードだった。

 

「《ギルフォード・ザ・レジェンド》!!」

「装備魔法とも相性が抜群のカードだな」

「これで40枚目! よし、試運転だ!」

「いいだろう、かかってこい」

 

 そうして二人のデッキ作成は一先ず終わりを迎え、実戦に入った。

 そして、翌日。二人は寝そうになりながらも午前の授業を終えて昼休みに入る。そこで二人はバスター・ブレイダーデッキの最終調整に入った。

 

「三十戦で勝率四割ちょい……回ってはいるんだけどなぁ……」

「ギルフォード・ザ・レジェンドを使うタイミングが分りやすい。それに罠が少ないな」

「うーん……《戦士の生還》と《竜破壊の証》がちょっと腐ってるから抜いて……《デモンズチェーン》と《ガード・ブロック》かなぁ」

「《くず鉄のかかし》も二枚は流石に邪魔になっているぞ。あと手札が少なくなりやすいな」

「なら《便乗》かな。あとは……《増殖するG》とか?」

「オレからするとGの方が出されると困るな」

 

 そうしてデッキが調整をして二人はデュエルフィールドホールに到着して開始を待つ。程なくしてデュエルディスクに対戦フィールドと相手が表示された。

 

「遊導、お前の力を弱者に見せてみろ」

「弱者って……でも、うん『イカサマ野郎』の底力を見せてくるよ」

 

 そして──

 

「行け! バスター・ブレイダー!」

「ギルフォード・ザ・レジェンド!!」

「蹴散らせ!!」

「聖なるバリア─ミラーフォース!!」

 

 遊導はライフポイントを削られず全てを完勝で終えた。今度は運がほぼ介入しないデッキでのデュエルだった。だが──

 

「卑怯だ!」

「なんでそこで強欲な壺が引けるんだよ!」

「イカサマだ!」

「なんでデッキを変えたんだよ!」

 

 それでも、遊導に対する声は変わらなかった。否、少し大きくなっていたと言っても過言ではない。

 

「ま、まぁまだデッキを変えて初日だから……はぁ……」

 

 放課後、帰り道に自販機で買ったコーヒーを飲みながら遊導はため息をつく。

 

「あーやっぱりコーヒーは甘いのがちょうどいいー」

「あら奇遇ね。私もあまーいミルク入りコーヒーが好みよ」

「藤原さん……あっ!」

 

 マズイ、といった表情で遊導は周囲をキョロキョロと確認する。あまり人のいないような所で一息ついていたが、雪乃がいるとなると他にも誰かがいて、更にこの場を見られると──

 

「大丈夫よ。少なくともアカデミアの一年生はいないわ」

「なら安心……なのかな」

 

 それでも通りがかったらまた陰口を言われるんじゃないかと遊導は人の気配がないかと不安になる。

 

「それで……何か用? 肉まんならないけど」

「肉まんならもう買ったわ。お礼を渡しに来たのよ」

 

 手ぶらを表現した遊導に対して雪乃はどこに持っていたのかコンビニの袋を取り出して見せる。

 

「お礼? なんかしたっけ? 迷惑はかけたけど」

「熱い熱いプレゼントをくれたじゃない……忘れたの?」

「肉まんのことをなんでそんな表現してんの……?」

 

 確かに遊導はつい先日、肉まんを渡したがたった二個でそんなお礼をされるとは思っていなかった。

 

「はい、お礼よ。受け取って。あ、中は寮に帰るまで見ちゃダメよ?」

「え?あ、うん。ありがとう」

 

 手渡されたのは二枚のカード。見るなと言われたから遊導は素直に受け取ってカードケースにしまう。

 

「ふふっ、それじゃあまた明日ね」

「また明日」

 

 そう言ってさっさと去っていった雪乃を見送った遊導はまたコーヒーを一口飲み、その場を後にした。

 男子寮に戻った遊導はパックを買おうと購買へ向かう。

 

「お姉さん、コレ7パックください」

「は~い。あら、これは戦士族関係しか入ってないパックよ~?」

「ちょっと新しいデッキを作ってて、欲しいカードが戦士族なんですよ」

 

 遊導は財布から代金を取り出して渡し、カードパックの束を受け取る。

 

「そうなの~どんなデッキ~? なんのカードが欲しいの~?」

「バスター・ブレイダー軸です。融合体と二枚目のバスター・ブレイダーとかが欲しくて……ショップだと数万しますから」

「出るといいわね~。あ、そうそう。コレ、三年生の子からキミ宛よ~。是非会いたいって言ってたわ~」

「三年生から……?ありがとうございます」

 

 藍梨に差し出された手紙を受けとり、遊導は購買を離れようとする。

 

「藍梨お姉さん♡って呼んでくれるの待ってるわよ~」

「アハハ……考えておきます」

 

 遊導にとっては三度目ともなる誘いをまた濁して今度こそ自室へと向かった。

 自室でまず遊導は渡された手紙を見る。差出人らしき名前のところにはサインのように10JOINと書かれていた。

 

「えっと……10JOIN? あ、小さく吹雪って書いてある。……ああ、明日香が繋いでくれたのかな」

 

 最初は分からなかったが、名前を確認して再度そのサインを見ると誰からの手紙か判明した。

 内容は明日香から紹介されたけど、色々と巻き込まれていて大変そうだから日曜日に寮近くのカフェでお話をしよう。というもので、丁寧に返事用にPDAのアドレスまで書いてあった。

 

「とりあえず返事をしておこうかな。あと明日香にお礼も言おう」

 

 PDAを操作して二人にメッセージを送信し、遊導はカレンダーの日曜日に丸を付ける。

 これまで遊導は城之内のファンという人にあまり会ったことはない。いや、いたにはいたが自分のように彼を憧れとして同じくらいの感情を抱いている人物と会ったことはなかった。

 

「楽しみだなぁ……」

 

 数日後の邂逅を待ちわびて遊導はカードパックに手を伸ばす。次々と開けていくもののお目当てのカードは掠りもせず、レアカードはあったものの入りにくいカードだ。

 

「まぁ、そう簡単に当たったら苦労はしないよね。っと確か藤原さんからカードを貰ったのは──」

 

 カードケースから受け取った二枚のカードを取り出して遊導は確認しようとするが、黒塗りのスリーブに二重に入っているためかそのままでは中が見えない。

 

「ほんと、色んなことをしてくるなぁ……さて……」

 

 その内容を見て遊導はアカデミア中等部に来てもく何度目かのフリーズをした。

 

「………………バスター・ブレイダーと《破壊剣の使い手─バスター・ブレイダー》……さすがに返そう。言いくるめられそうだけど」

 

 もらったカードを自室で確認した遊導は元のスリーブに戻してそう呟いた。いくら喉から手が出るほど欲しいカードでもいきなりポンと二枚渡されるのは気が引けたようだ。しかも、対価が肉まん二つという合計で五百円にも満たないモノならなおさら。

 

 翌日、遊導は交換してあったPDAアドレスで雪乃をあまり人通りのないところに呼び出した。

 

「こんなところに呼び出してどうしたの? もしかして告白? それとも……大胆ねぇ」

 

 雪乃はまるで女優のような演技で顔を赤らめる。

 

「違うからね? この二枚のカードは受け取れないから返そうと思っただけだから……」

「あら、女の子からのプレゼントを返すだなんて酷いわねぇ……」

「《モリンフェン》や《シーホース》ならまだ笑って貰ったけど流石にこの二枚で十万はするカードは貰えないよ」

 

 遊導は取り出した二枚のカードを雪乃に手渡そうとするが、彼女は受け取ろうとはしない。

 

「もう受け取ったからアナタのモノよ」

「いやいや、本当に肉まん二つなんかじゃ釣り合いとれないから……」

「あら、肉まんは二つで五百円よね?」

「うん、まああの店のはそうだったね」

 

 そうやって値段のことを確認してくる雪乃に遊導は素直に頷く。

 

「カードパックって1つ何枚入りでいくらかしら?」

「……五枚入りの百五十円だけど」

「一枚あたりは?」

「…………単純に計算すると三十円だね……」

「ならそのカードはパックで計算すると二枚で六十円ね。あら、釣り合いが取れてないのは私の方だったわね。ごめんなさい」

「いやちょっと待って! その、理屈は、おかしい! なんか違うから!」

「あら、まだ言いくるめられないのね。それなら──」

 

 結局『半年間は使ってみて扱いきれないようなら返す』という条件で遊導は『借りる』という名目でその二枚を手元においた。

 

「解せぬ……解せぬ……」

「言い合いで負けたのはアナタよ?」

 

 こうして、遊導は計らずとも二枚のバスター・ブレイダーカードを手に入れることができた。




五階堂くんごめんね、君のモンスターは遊導が先に使うよ。
中継ぎの話なので短めです。ちょっと設定に無理が生じてきたり考えなきゃいけない所が多々あるので毎日更新は難しいです


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10話:城之内同盟─真紅眼デッキ

アンケートでテキスト表記なしが優勢なので今回はそちらに準じて書きました。


 遊導が新デッキに替えてから数日、彼に対する評判は相変わらずだったがあっさりと過ぎ去った。

 彼にとって濃密だった一週間が終わりアカデミア中等部は新学期初めての日曜日を迎えていた。

 

「えっと……どこだ?」

 

 現在遊導は明日香の兄──天上院吹雪と会うためにPDAに表示された地図を確認して指定されたカフェを探していた。

 だが、一向にその場所は見つからない。座標では近くにあるはずなのにカフェらしき場所は全く見当たらない。

 

「一時間前に出ておいてよかった……ここはいったん寮に戻って……というか近くのはずなのになんで……」

 

 ブツブツと呟きながら遊導はその場からでも見える高層の寮を目指した。

 なんとか寮に戻ってきた遊導は再度地図を確認する。

 

「あら~。遊導くんじゃない~どうしたの~?」

 

 その最中に遊導は後ろから声をかけられた。その声の主は一日に一度は必ず出会う人だった。

 

「あ……購買のお姉さん。今から近くにあるカフェに行こうとしたんですけど、見つからなくて……」

「カフェ? ちょーっと見せてね~」

 

 いつもの購買の制服とは違っていま寮に着いたと思われるライダースーツ姿の藍梨がバイクから降りて遊導のPDAを覗いてくる。

 年上でしかも美人の女性が結構な距離に来て、遊導は一般中学生男子並にドキリとしながらもPDAを見せる。

 

「ここね~。カードショップの中に入ってるし、上の階にあってカフェのカの字もないからわからないのよ~」

「ああ、あそこのカードショップの中だったんですね。ありがとうございます」

「どういたしまして~。いってらっしゃ~い」

 

 遊導は藍梨にもう一度お礼の言葉を述べてカフェへ向かった。

 

「さーて、私も向かうとしましょうか」

 

 藍梨は再度バイクに乗って遊導が目指した場所と同じ方向へとバイクを走らせていった。

 

 

 カードショップ『エヴォルト』に入り、遊導が中を確認すると五階に目的地のカフェ『レッドアイ』があると分かった。

 

「時間まであと三十分はあるのか……ちょっと見ててみようかな」

 

 バスター・ブレイダー系……主に融合体の二体の価格がこの店ではどうなのかと探し始めた。

 

「値段はそこまで変わっていない……のかな? あ、この店だとオークションぽいのとかトレードもしてるのか……」

 

 『エクゾディア』とはまた違ったシステムに目を輝かせながらも、お目当ての二体はやはり途方もない金額やトレード内容で肩を落とす。

 

「《ブラック・マジシャン・ガール》って……実質無理なトレードじゃん……」

 

 武藤遊戯の使っていたモンスターカードはレアカードなら最低でも数万円、ブラック・マジシャンは百万越え、何故それほどまでに高騰しているかは彼自身の人気や性能もあるが、一番の理由はその封入率の低さにある。

 専用パックやバトルシティ関連パックからそれらは出てくるのだが、十や二十の箱買いでは出てこない程渋い。一説では『遊戯』カードの封入率は1箱5%、更にモンスターカードになると0.001%などとも言われている。

 その代わり、バトルシティ系列パックでは城之内克也や海馬瀬人、孔雀舞などの他の参加者のカードが圧倒的に多く封入されている。

 そしてブラック・マジシャン・ガールはその中でも特別。カードイラスト、ソリッドビジョンの完成度がとても高く、たとえ効果が使えないにしてもコレクションとして欲しいという人が多く存在し一億の大台に乗ったオークションも存在した程である。つい最近ではそれに便乗した詐欺もあったとニュースに取り上げられる程だ。

 

「……と、もう十分前か。そろそろカフェに行かなきゃ」

 

 遊導はカードコーナーを後にし、エレベーターを使って五階のカフェに到着した。カードショップの建物にあるからか卓上デュエルが許可されている。

 

「いらっしゃいませ。ご自由にお座りください」

「は、はい」

 

 パッと見ヤのつきそうな職業の人のような風貌のスタッフに言われ、遊導は吹雪から事前に指定されていた二人席に座る。客は誰もおらず、店内は先程のスタッフとカウンターにいるマスターらしき人だけだ。

 まだ吹雪は到着していないようで、遊導はデッキを触って暇潰しをする。

 

「やあ、幸上遊導くん」

 

 数分経って爽やかな声が遊導の耳に届いた。その方を向くと、何処と無く明日香に似た雰囲気を持った優しそうなイケメンがニコっと笑顔で立っていた。すぐに遊導も立ち上がりお辞儀をする。

 

「初めまして、吹雪さん。幸上遊導です」

「そんな固くならなくていいよ。座って座って」

「は、はい」

 

 そうは言われても二歳年上、しかも圧倒的な実力を持つ人物を前にして畏まるなと言われても無理だと遊導は思いながら再度席に座る。

 ─天上院吹雪、アカデミア中等部三年生で『サイバー流正統後継者』の丸藤亮と共に頂点に君臨する『双璧』の片割れ。《真紅眼の黒竜》を主力としたドラゴン族を駆使して小学生時代には全国大会で華々しい戦績をあげ、中等部でも大会に出ては賞を貰うという実力の持ち主だ。

 

「とりあえずは何か注文しようか。なにがいいかな? 僕のオススメは『レッドアイズ・マウンテン』……は高すぎるから『黒鋼珈琲』かな」

「あ、ならそれでお願いします」

 

 店の名前に恥じない商品名を聞いて遊導は薦められた珈琲を頼む。よくよく見るとそれぞれカードの名前を冠した商品はそのカードの攻撃力がそのまま金額になっているようだ。

 

「いやぁ会えて嬉しいよ。城之内さんのファンってあまり見かけないんだよね」

「俺もです。吹雪さんはいつ城之内さんを知ったんですか?」

「『ペガサス島』のDVDを見て、彼のどんな逆境でも諦めない姿と三幻神を持っていないのにバトルシティの決勝まで進んで食らい付いた姿に釘付けにされてね。君は?」

「俺は『バトルシティ』のエスパー絽場戦でのギャンブルですね。不利な状況なのに逆転を運に任せる……それで本当に勝って……それからギャンブルのロマンに魅了されました」

「ああ! あのデュエルは僕も見ていて手に汗握ったよ!」

 

 そこからお互いに城之内克也の話に花が咲き、彼のデータになっている全てのデュエルについて、持っているカードについてなど話していくうちに数時間が過ぎていた。

 美味しいと感じた珈琲もいつのまにか無くなっており、それに気づかずにまた飲もうとするほど熱中していた。

 

「いやぁ、こんなに話せるとは思っていなかったよ。幸上くん、デュエルしないかい?」

「いきなりですね。でも喜んで!」

 

 そう言って遊導は何かを感じてギャンブルデッキを取り出そうとする。しかし、取り出す直前に躊躇って吹雪に尋ねる。

 

「あ、俺ギャンブルデッキとバスター・ブレイダーデッキを持っているんですけど、どっちが……」

「もちろんギャンブルデッキで頼むよ。そのデッキと戦えるのを楽しみにしていたんだ。あ、卓上でいいかな」

「わかりました!」

 

 するとそれを聞いていたらしい途中から来たウェイトレスがプレイシートを二つ持ってきた。

 

「ありがとうございます」

「ありがとうございますって……あれ?」

 

 遊導はそのウェイトレスを見るとなにか既視感を覚えたが特に思い出せそうにないと感じると吹雪の方を向き直った。

 

「準備はいいかい?」

「はい、お願いします」

 

「「デュエル!!」」

 

双方 LP4000

 

「俺は後攻の方が好きなので吹雪さんどうぞ」

「ならありがたく先攻を貰うよ。僕のターン、ドロー!」

 

 遊導はそう言って吹雪に先攻を譲った。

 

「僕はモンスターを1体セット、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

吹雪 LP4000

フィールド セットモンスター1体/伏せカード1枚

手札4枚

 

 先攻としてはごく普通の立ち上がりだ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は魔法カード《カップ・オブ・エース》を使用します! コイントス!」

 

 遊導が弾いたコインは数秒後、手の甲に収まった。

 

「表なので2枚ドローします!」

「明日香の言ってた通りだね。カップ・オブ・エースは絶対に外さないって」

「はい。俺の持ってるギャンブルカードでもこのカードだけは何回やっても外したことはありません」

 

 二枚ドローして遊導は場を見る。

 

「メタモルポッドではないから……壁かサーチ系か……なら《サイコロプス》を通常召喚!

サイコロプスの効果発動! 1ターンに1度サイコロを振ります。ちなみに1以外は俺の手札を捨てる効果です」

「リスキーなギャンブルカードも使うんだね」

「大好きですから、出目は……1です! 吹雪さんの手札を確認して1枚選んで捨てます」

「凄いね……はい、これが僕の手札だよ」

 

 遊導が確認した手札四枚は《黒炎弾》《死者蘇生》《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》《融合》だった。

 

「吹雪さんもスゴい手札ですね……雛がいなくてよかったです。死者蘇生を捨ててください」

「うん、そうくるよね」

「それでサイコロプスで攻撃! 攻撃力は1800です」

 

 様子見で突撃するがそれに対して吹雪はニコッと笑った。

 

「セットモンスターは《真紅眼の幼竜(レッドアイズ・ベビードラゴン)》だよ。守備力は700で破壊されるけど効果発動!」

「しまった……」

「デッキからレベル7以下の「レッドアイズ」モンスターを特殊召喚するから僕は《真紅眼の黒竜》を特殊召喚!幼竜の効果で自身を300ポイントの装備カードにして真紅眼の黒竜に装備!」

 

 様子見で攻撃したはずだったが、その不用意な攻撃で簡単に最上級モンスターである《真紅眼の黒竜》は攻撃力が2400だが効果で2700まで上昇してしまった。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドです」

 

遊導 LP4000

フィールド サイコロプス/伏せカード2枚

手札 4枚

 

「僕のターン、ドロー! 強欲な壺で二枚ドローして、手札から《黒竜の雛》を召喚!効果でリリースして《真紅眼の黒竜》を特殊召喚! 最後に手札から──」

「リバースカードオープン!《無差別崩壊》!」

「そのカードは……!」

 

 遊導はホルダーから二つのサイコロを取り出す。

 

「効果はサイコロを二つ振って、出目の合計以下のレベルを持つ表側表示モンスターを全て破壊します」

「やられたね……」

 

 二つのサイコロを振って出た目は4,3──丁度《真紅眼の黒竜》を破壊できる値だ。

 

「手札から《一時休戦》を発動して1枚ずつドロー、《紅玉の宝札》を使って手札から真紅眼を墓地に送って2枚ドロー。ターンエンドだよ」

 

吹雪 LP4000

フィールド モンスターなし/伏せカード1枚

手札 5枚 (そのうち二枚は融合、黒炎弾)

 

 なんとか一気にLPを0にされることを防いだ遊導だったが、あまり状況はよくない上に手札も渋い。

 

「俺のターン、ドロー! モンスターをセット、カードを4枚伏せてターンエンドです」

 

遊導 LP4000

フィールド セットモンスター/伏せカード5枚

手札 1枚

 

 一気にカードを伏せた遊導に吹雪は警戒しながらも自分のターンを宣言する。

 

「僕のターン、ドロー!」

「スタンバイフェイズに罠オープン!《ギャンブル》!」

「いい名前のカードだね。君にピッタリだ」

「俺もそう思います。効果は自分の手札が2枚以下、相手の手札が6枚以上の時に発動できて、コイントスで裏表を当てたら手札が5枚になるまで補充。外れたら次の俺のターンはスキップされます。俺は裏を予想します」

 

 遊導がコインを弾き、楽しそうな顔で手の甲にコインを収める。

 

「──裏! 俺はデッキから四枚ドロー!」

「本当、凄い運命力だ。でも、僕も負けてられないね!手札から魔法カード《復活の福音》を二枚発動! 効果でレベル7の《真紅眼の黒竜》を二体特殊召喚!

魔法カード《魔法石の採掘》を発動!手札を二枚捨てて《死者蘇生》を回収してそのまま使用!蘇れ!《真紅眼の黒竜》!!」

「三体のレッドアイズ……!」

「そして伏せておいた魔法カード《天よりの宝札》で僕は5枚ドロー。遊導くんもドローできるよ」

「1枚だけですけどね……!」

 

 そして手札補充を完了した吹雪はさて、と一呼吸置いて一番左の真紅眼に手を置く。

 

「バトルフェイズだよ。《真紅眼の黒竜》でセットモンスターを攻撃!」

「攻撃宣言時に罠オープン!《モンスターBOX》! コイントスをして裏表を当てたら攻撃モンスターの攻撃力は0になります! 表!」

「そのカードは城之内さんが使っていた……!」

 

 三度、遊導はコイントスをする。しかし、今回出たのは裏──つまり不発だ。

 

「……っ! セットモンスターは《クルーエル》!このモンスターが戦闘破壊で墓地に送られたときに効果発動!モンスター1体を選択した後にコイントスをして裏表を当てたらそのモンスターを破壊する! 俺が選ぶのは真ん中の真紅眼の黒竜です! 表!」

「そんなモンスターをセットしていたのか……!」

 

 四回目──コインは宙を舞い、遊導の手の甲に収まる。表だ。

 

「《真紅眼の黒竜》破壊!」

「だけどあと1回残っているよ! 真紅眼の黒竜で直接攻撃だ!」

「モンスターBOXの効果!裏!──表なのでダメージを受けます……!」

「耐えきられたね……僕はカードを3枚伏せてターンエンド」

 

遊導 LP4000→1600

 

吹雪 LP4000

フィールド 真紅眼の黒竜×2/伏せカード3枚

手札 3枚

 

「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズに永続罠《ニードル・ウォール》を発動します。サイコロを振り、出た目に対応する相手モンスターを破壊します。俺から見て右から1~5になるので、2,4が出れば破壊です」

「城之内さんのも見てて思ったけどギャンブルカードは恐ろしいね」

「はい。まぁ外れたときは何も無かったりデメリットばかりなんですけどね……出目は4です!《真紅眼の黒竜》を破壊!」

「こう簡単に真紅眼がやられるのは亮と彼以来かな」

「その数少ない中に数えられて嬉しいです。そしてモンスターBOXの維持コスト500を払って俺のライフは1100になります。

ここで決めないとヤバい……メインフェイズに永続罠《出たら目》を発動します。それからライフを1000払って魔法カード《サモン・ダイス》を発動!ダイスロール!」

 

遊導LP 1600→1100→100

 

 出目は1──本来なら『モンスターを1体召喚できる』という二重召喚に似た効果だが

 

「出たら目の効果で6として扱います。それにより手札から《巨大戦艦カバード・コア》を特殊召喚!そして手札から《ツインバレル・ドラゴン》を通常召喚!召喚時に相手フィールドのカードを選び、コイントスを2回して2回とも表ならそのカードを破壊する! 俺は真紅眼の黒竜を選択! ──よし!二回とも表! 真紅眼の黒竜を破壊!」

「結局、君のターンで破壊されたね……本当に凄い運だよ」

「バトルフェイズです! カバード・コアの直接攻撃!」

 

 コレとツインバレル・ドラゴンの攻撃が通れば遊導の勝利──だが、それを通すほど『双璧』の異名を持つ天上院吹雪は甘くない。

 

「罠カードオープン!《ドレインシールド》攻撃は無効になってその攻撃力分LPを回復するよ」

 

吹雪 LP 4000→6500

 

「うっ……次はツインバレル・ドラゴン!」

「罠カードオープン!《くず鉄のかかし》直接攻撃を無効にして再セットするよ!」

「ダメージを与えるどころか回復……フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》を発動。カードを1枚伏せてターンエンドです……!」

 

遊導 LP100

フィールド 巨大戦艦カバード・コア、ツインバレル・ドラゴン/モンスターBOX,出たら目,ニードルウォール,伏せカード2枚

フィールド魔法 ダーク・サンクチュアリ

手札 1枚

 

お互いが笑顔になり、「楽しかった」と口にする。吹雪は手札を見て、遊導はその反応からこのターンでデュエルが終わると悟った。

 

「僕は伏せていた魔法カード《死者転生》を発動、手札を1枚捨てて《真紅眼の黒竜》を手札に。そして《大嵐》を発動するよ、フィールドの魔法、罠は全て破壊するよ」

「何も発動できませんね……」

 

 ダーク・サンクチュアリも、モンスターBOXも、出たら目も、ニードル・ウォールも、悪魔のサイコロも、天使のサイコロも墓地に送られた。

 

「手札から《融合》を発動! 手札の《真紅眼の黒竜》と《魔晶龍ジルドラス》を素材にしてレベル8の《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》を融合召喚!!」

「召喚時効果で負けですね」

「でも、ここまで来たから最後はやっぱりモンスター同士のバトルにしよう。①の効果は使わずにカバード・コアに攻撃!」

 

 二体のモンスターの攻撃力の差は1000──カバード・コアも自身の効果で破壊され、遊導のLPは0を示した。

 

遊導 LP 100→-900

 

「吹雪さん、ありがとうございました。楽しいデュエルでした」

「うん。楽しいデュエルだったね」

 

 二人は笑顔で握手をしてお互いを讃えた。するといつの間にかできていた十人ほどのギャラリーから拍手が起こった。

 

「いいデュエルだったよ!」

「真紅眼すげぇ!」

「ギャンブルカードってあそこまで戦えるんだ!」

「兄ちゃんもスゴかったがボウズもよく頑張ったぞ!!」

「フン、遊導でも流石に吹雪さんのライフを削れずに敗けたか」

「ツンツン頭のお兄ちゃんくやしそー」

 

 その歓声に遊導の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

 

「ど、どうしたんだい!?」

「あ……いえ、ギャンブルデッキを使っててこんなに大勢の人から褒めてもらう事が無かったから……あと、自業自得ですけど最近ずっと貶されたり罵倒されてばかりだったからつい嬉しくて……」

「辛かったね。でも、ここにいる人達はみんな認めてくれたみたいだよ」

「はい……!」

 

 吹雪からの言葉を受けた遊導は涙を拭い、とびきりの笑顔になった。

 

 

 その後、吹雪とその場で別れた遊導の後ろからポンと肩に手を置かれた。

 

「いいデュエルだったぞ。遊導」

「あれ、準。もしかして見てたの?」

 

 それは万丈目だった。デュエルを見ていたようで遊導に労いの言葉をかける。

 

「ああ。貴様が双璧の吹雪のライフを削られなかったデュエルを見届けたぞ」

「いやぁ……強かったよ」

「バスター・ブレイダーデッキは何故使わなかった? 吹雪さんがドラゴン族を使うのは知っていただろ?」

「吹雪さんからの頼みが一番の理由だけど……デッキが出たいって言ってたようなそんな変な感じ?がして……」

「そうか。……だが泣くのはないだろ」

「なっ……流れ出たものは仕方ないでしょ!」

 

 そんな会話をしながら、二人は昼下がりの道を歩いていく。

 




終わりかたが分からなくなってクソザコムーヴかましました。
吹雪さんのキャラがなぁ……うーん……これでいいのかなぁ……「吹雪様はこんな口調じゃない!」ってご指摘ありましたらお願いします。

いろいろとご指摘されて修正したら復活の福音二枚とかいう暴挙に出ました本当に申し訳ありません。自分ではこれが精一杯です……しかも復活の福音の第二の効果を使わない舐めプに……
そして黒炎弾の効果を間違えるというガバを修正しました。黒炎弾なんて無かったんや。


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11話:GWカップ前─茂木もけ夫

なんとかGW毎日投稿達成?


 遊導らがアカデミア中等部に入学して一ヶ月が過ぎた。最初の方こそ色々なことがあり、問題が多発したもののそれらは最初の一週間に比べれば静かなものになっていた。

 彼が預けたデュエルディスク二つは改造の痕跡がないこと、小学生の時に使っていたものは最低でも一月に一回は調整などに出していたことを一年生全員に情報が行き渡ったことで遊導のイカサマ疑惑は晴れた。また、イカサマ防止のために試作ではあるもののKCから『改造、イカサマ不可能』の専用コイントス、ダイスロール装置が彼に渡された。そうして遊導のギャンブルカードは解禁された。

 余程の恨み(1キルされたり明日香や雪乃関係)がない人達からは普通に友達付き合いができている。特に特待生クラスの中には彼を睨むような者は誰一人としていない。

 

「おい、デュエルしろよ」

「デュエルディスクという盾を構えてカードという剣を抜けぃ!」

 

 遊導は実技でのバスター・ブレイダーデッキが勝率100%で、血気盛んな特待生ボーイズからは隙有らばデュエルを仕掛けられている。

 

「あー……終わったぁ……勝ったぁ……43連勝!!」

 

 昼休みにそれらを片付けて遊導は机に突っ伏す。挑戦するメンバーが固定化されてきているがそれでも多い。

 

「全く貴様はデュエルを申し込まれたらホイホイと受けて」

「楽しいことって断れないじゃん。ギャンブルデッキも楽しかったけどこのデッキもたーのしー!」

 

 そんな会話をしながらグデーっとなる遊導を万丈目はヤレヤレといったような感じで話を進める。

 

「遊導、お前は大会の出願はしたか?」

「したよー。発表今日だっけ? 通るか不安だけど」

「そろそろ発表される。……貴様が不安を感じるのは珍しいな」

「いやーだって全員出願したと考えても単純計算で倍率40倍でしょ? アカデミア受験の10倍以上じゃん。しかも実技で危ない場面何回かあったし……」

 

 現在は四月の第四週、その翌週とは世の大多数が待ちわびた一年に一度の大型連休──つまりGWだ。そこでKCがデュエルモンスターズを更に広めようと中学生限定大会を開催すると先週、大々的に発表した。

 アカデミア中等部からは出場希望者をKCが書類審査をして各学年六人ずつ選び、更にデュエルによって半分にする。

 ──ちなみに一年生が240人いるので遊導は40倍と言ったが、最近ではやる気を失った生徒が退学したり、アカデミアの分校へ転校しているため実際の倍率は38倍らへんだが。

 

 そしてこの大会──通称GWカップは年齢毎でトーナメントを組むため、平行して三つの大会が同時開催される形となる。

 

「フン、実技勝率100%のオレ達が通らないわけない」

「でも今のところ勝率100%って十人いなかったっけ?」

「それを踏まえてもだ。現にオレはこれまで他の勝率100%の数人に野良デュエルを挑まれているが、負けたことはない。そのオレと対等なお前が落ちるはずがない」

「……なんで特待生って変な理屈展開して正論みたいに言うんだろ……」

 

 だがその万丈目の理屈は自身を安心させるものだと理解している遊導は「ありがとう」と礼を言う。

 その直後、凄まじいスピードで駆けつけた女子生徒が息を大きく吸い──

 

「そくほー! GWカップの六人に万丈目くん、明日香さん、幸上くん、ゆきのん、茂木くん、ツルプルン和泉が書類通過ー!」

 

 GWカップの書類通過を知らせた。和泉以外は全員特待生クラスのトップ集団だ。

 

「マジで!ほぼうちのトップ集団じゃん!」

「グァー!和泉に負けたぁ!」

「おめでとー!頑張ってねー!」

「あーでも三人しか出られないのかー」

 

 それを聞いてクラスの活気が一気に最高潮にまで達する。教室内にいた二人はクラスメイトから囲まれていた。

 

「オレの言った通りだったな」

「……杞憂だったねぇ」

 

 つい最近までは考えられなかったクラスメイトからの祝いの言葉に遊導は顔が若干ひきつるも、不安だった書類審査を通過してこうやって祝福されるのは心地がよかった。

 そして放課後になるとそれらはアカデミアからも正式に発表され、出場権の奪い合い──つまり翌週頭にあるデュエルの組み合わせも発表された。

 

「俺は……明日香とか……!」

「よろしく、幸上くん。手加減はしないから」

「こっちこそ。……まさか明日香との初めてのデュエルがまさか出場権を賭けたデュエルになるとは思わなかったけど」

「そういえばデッキ構築を手伝ってもらったりするばかりでデュエルしたことはなかったわね」

「まぁ、お互いの手の内は分かってるけどね」

 

 そう話していると万丈目が睨みながら、雪乃が面白がりながら二人に合流した。

 

「オレはどっちを……クッ!」

「あら、万丈目のボウヤは友情を取るか愛情を取るかで迷ってるみたいね」

「万丈目"さん"だ!ええい!遊導、明日香さん、二人とも頑張ってくれ!」

 

 中等部に入った頃からの友人と一目惚れした相手がデュエルすることになり万丈目はどちらを応援するべきか戸惑いの表情を見せたが結局二人とも応援することを決めたようだ。

 

「うん、頑張るよ。準は藤原さんとか」

「そうよ。私もボウヤとは初めてだから楽しみにしてるわね」

「そうやって余裕なのも今のうちだ。オレは負けないからな」

 

 ということはと遊導は再度組み合わせ表に目をやると、茂木VS和泉を確認できた。他にも圧倒的実力で二年生でトップに君臨する人物の名前や吹雪や丸藤亮といった中等部の有名人が軒並参加することがわかった。

 

 

 夜、遊導が翌週の代表選出のためにデッキを確認していると吹雪から連絡があった。

 

「もしもし……あ、吹雪さん、書類通過おめでとうございます!」

『ありがとう。遊導くんもおめでとう。お互い頑張ろうね』

「はい!ところで今日はどんな用件で?」

『ああ、君とアスリンがデュエルするって聞いてね。それで応援の電話をしようと思ってね』

「明日香じゃなくていいんですか?」

『勿論電話したよ! そしたらすこーし冷たくあしらわれたけどね……』

「なんかクラスの明日香からはあんまり想像できませんね」

『それはともかく……遊導くん、僕は君もアスリンも応援してるからね。熱くなるデュエルを期待してるよ』

「はい!吹雪さんも頑張ってくださいね!」

『うん、それじゃあまたね』

 

 そう言葉を交わして通話は終わる。ちなみに吹雪と遊導はあの日からよくデュエルをするようになり、三日に一度はカフェで卓上デュエルをしている。戦績は0勝9敗でバスター・ブレイダーデッキでも全く敵わないのが現状だが。

 

「それにしても明日香のデュエルは何回も見たけど、このデッキで対策らしい対策ってとれたっけかな……」

 

 再度遊導はデッキを見返してみる。明日香が使うのはサイバーガールと機械天使だ。これまでは格下相手が多いことから明日香はサイバーガールで押しきる事が多く、機械天使を使ったところを少なくとも遊導は実技では見たことがない。

 しかし、デッキ構築で彼女の手伝いをしていた彼にとってはやってきそうな戦術は予想できるが彼女がそのままデッキを弄らずに使っているとは考えにくい。

 

「……いつも通りやるか!」

 

 考えるのをやめた遊導はベッドにダイブして眠りについた。

 

 

 

 当日……四月二十八日。この日は通常授業をとりやめて全校生徒が最も大きな第一デュエルフィールドホールで出場権争奪デュエルを見るため、参加するために集まっていた。

 

「午前中は二年生と茂木VS和泉で、午後イチに俺と明日香、その後に準と藤原さんか」

 

 遊導はその時間を確認してメモを取る。別に後からPDAに送られてくるが、それでもいち早く確認したいと思っての行動だ。

 メモをした中で、遊導は午前中の第三試合──二年生首席が出るデュエルと第四試合にマークをつけて出場選手用の見物スペースへ向かう。

 

「俺達は四人とも午後からだよ」

「あら、そうなの。焦らすわね……」

 

 その報告に反応したのは唯一その見物スペースにいた雪乃。わざとらしく残念がる表情に笑いながら、万丈目と明日香の所在を聞くと二人とも飲み物を買いに行っているらしい。

 

「万丈目のボウヤ、明日香を誘おうと必死に頑張ってたわよ。ほんとウブな感じだったわ」

「そりゃ中学生だからそうでしょ。そうかぁ準も頑張ってるんだなぁ」

「あら、アナタは手慣れている感じだったけれど?」

「……なんかしたっけ?」

「さぁ? でも、あの熱い熱い一時は忘れられないわ……」

「それ絶対肉まんのヤツでしょ? 肉まんの時の事だよね?」

「あと私を大胆にも呼び出してきたあの日のコトも……そして私にアレを押しつけようと……」

「確かに呼び出したけども! 押しつけるってカードでしょ!?」

 

 面白がって変に表現する雪乃の言葉に遊導がギャーギャー喚いているとスペースに入る扉が開いた。

 

「……なにを騒いでいるんだ遊導。静かにしろ」

 

 入ってきた万丈目はそう言って遊導にミルクコーヒーを投げる。それをキャッチした遊導は礼を言って一口飲む。

 

「一番言われたくないのに注意された……」

「なんだと!? オレがいつ騒いだ!」

「いまげんざいしんこーけー」

「ええい、おちょくるな!」

 

 今度は遊導が万丈目をからかい始め、それを明日香がまた始まったと言いたげな表情をしながら雪乃にコーヒーを渡す。

 

「ありがとう、明日香。デッキの方はどう?」

「色々と考えてみたけど、変に変えない方がいいと思ったから手をつけてないわ。その方が幸上くんを攻略しやすいと思ったから」

「あら、そうなの。てっきり私はまたゴキボールを入れるんじゃないかと心配してたのよ」

「……アレは思い出したくないから言わないで……」

 

 そうしているうちに茂木と和泉もやって来た。和泉は相変わらず遊導と万丈目の方を睨んでいる。対して茂木は早速横になって寝てしまった。

 

「そろそろ始まるね、二年生の先輩達はどんなデュエルをするんだろ」

「実質二年トップの実力が分かるからな。この先を考えても見る価値は十二分にあるな」

 

 そうして、第一試合の幕が切って落とされた。

 一方は二年生三位、もう一方は二年生五位と格付けされている生徒で、一年生はともかく二、三年は三位の選手が勝つと大半が予想していた。

 そして予想通り三位の生徒が勝利を納めた。歓声でその場は包まれ、勝利した生徒──賢海(けんかい)闘士(とうし)はそれに手を振って応えながらその場を後にした。

 

 続く第二試合も二位と四位のデュエルも二位の生徒が圧勝、そしてその直後会場内の意識は既に次の試合──否、二年生首席へと向けられていた。

 

「次は二年生首席、火銀(ひがね)神門(みかど)先輩か……」

「野良でも公式でも同学年の生徒には負けなし。三年生でも『双璧』以外には負けたことが無いという噂もあるな」

 

 遊導と万丈目がそう話していると会場が一気に沸いた。

 

「すっごい熱気……二年生首席でこんなんになるのか……」

「有名人だからな。あの人もジュニア大会で優勝している」

「準と同じってこと?」

「……一応、そうなるな」

 

 微妙な反応をした万丈目に遊導は首をかしげるが、デュエル開始の合図によりそれを聞いたりする間もなく二人はデュエルに意識を向けた。

 

 

 ──そして、デュエルはあっけなく終わってしまった。

 

「あれが『帝』デッキ……恐ろしいなぁ……」

 

 遊導の言葉に万丈目は無言で同意した。

 午前最後になる第四試合、ここからは一年生の争いになる。

 一人は特待生であり一部からは最近デュエルした相手の闘争心を高確率で削ぎ落とし、退学や転校に追い込んだ事から『魂狩り』とも呼ばれている茂木もけ夫。

 一人は普通クラスの頂点に君臨する『天才に最も近い秀才』和泉清二郎。

 闘争心剥き出しの和泉に対して茂木はそんなのどこ吹く風とデッキをシャッフルしてデュエルディスクにセットした。

 

『お前に勝って、おれは特待生クラスに行けるって……証明するんだ!』

『それじゃ、始めよー』

 

 真逆に見える二人のデュエルが今、始まった。




デュエルない回がgdgdなのはいつものこと。え?デュエル回もgdgdだって?
二年生首席さんのデッキは全盛期征竜にでもしようかと思っていましたが抑止力が働いて帝になりました。名前しか出てませんが


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12話:超新星─もけもけ

茂木くんの設定とかがよくわからないですが、オリジナル設定&改変ってことで……

アンケートでテキスト派が優勢なので(これがペンデュラムか


 茂木VS和泉のデュエルの開始が宣言され、先攻は和泉だ。

 

「おれのターン、ドロー! 天使の施し!三枚ドロー二枚捨てる。おれは変わったんだ……! 来い!《セイクリッド・ポルクス》を召喚!」

 

《セイクリッド・ポルクス》

効果モンスター 星4/光属性/戦士族/攻1700/守 600

(1):このカードが召喚に成功したターン、 自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに「セイクリッド」モンスター1体を召喚できる。

 

 白銀の鎧に身を包んだ騎士が大剣を携えて登場した。それだけで一年生が騒ぐ。ここ一ヶ月のかれは女性型モンスターしか使っていなかったからだ。

 

「効果発動!セイクリッドモンスターを1体召喚できる! ポルクスを生贄にして《セイクリッド・スピカ》を召喚!」

 

《セイクリッド・スピカ》

効果モンスター 星5/光属性/天使族/攻2300/守1600

このカードが召喚に成功した時、 手札からレベル5の「セイクリッド」と名のついた モンスター1体を表側守備表示で特殊召喚できる。

 

 するとポルクスが見上げると光の粒子となり、代わりに翼を持った女性型ロボットのような美しいモンスターが降臨した。

 ここで再度一年生達が「ああ、やっぱり和泉は和泉か」みたいな反応をする。

 

「スピカの効果! 召喚に成功したから手札からレベル5のセイクリッドを守備表示で特殊召喚! 《セイクリッド・エスカ》!!」

 

《セイクリッド・エスカ》

効果モンスター 星5/光属性/機械族/攻2100/守1400

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、 デッキから「セイクリッド」と名のついた モンスター1体を手札に加える事ができる。

 

 スピカに導かれ、和泉の手札からこれまでのセイクリッドとは違った奇妙な型のモンスターが防御を固めるかのようにしゃがみ、召喚された。

 三度、一年生の反応が変わる。これまでならば確実にエスカを召喚していた場面で『ビジュアル重視』の和泉が奇怪な型のモンスターを召喚したことに多くの生徒は驚きを隠せなかった。

 

「エスカの効果! 特殊召喚に成功したとき、デッキからセイクリッドモンスターを1体手札に加える! ソンブレスを手札に!

手札から魔法カード《セイクリッドの超新星》を発動! ポルクスと天使の施しで墓地に送った《セイクリッド・レスカ》を手札に加える! 代わりにこのターンおれはバトルフェイズができないけど先攻だから関係ない。

カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

《セイクリッドの超新星》

通常魔法

自分の墓地の「セイクリッド」と名のついた モンスター2体を選択して手札に加える。 このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

 

和泉 LP4000

フィールド セイクリッド・エスカ、セイクリッド・スピカ(守備)/伏せカード1枚

手札 4枚(内3枚ソンブレス、レスカ、ポルクス)

 

 手札を大幅に明かしているが、それでも先攻で上級モンスターを2体並べた和泉に見ている生徒達は感嘆の声をあげる。それに対して茂木は──

 

「僕のターン、ドロー。すごいねー。いきなり上級モンスターを二体も並べるなんて」

 

 茂木は手札を確認して頷く。

 

「僕も頑張らないと。天使の施しを発動して三枚ドロー、二枚捨てるよ。魔法カード《予想GUY》で通常モンスターでレベル4以下の《もけもけ》を特殊召喚。 手札からモンスターをセット、永続魔法《怒れるもけもけ》を発動。カードを二枚伏せてターンエンドだよ」

《予想GUY》

通常魔法

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。 デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚する。

 

《もけもけ》

通常モンスター 星1/光属性/天使族/攻 300/守 100

 

茂木LP4000

フィールド もけもけ、セットモンスター/怒れるもけもけ、伏せカード2枚

手札 1枚

 

 和泉に対して茂木は静かな立ち上がりだった。弱小の通常モンスターであるもけもけは攻撃表示で展開する気がまるで見えない。

 一方で観客席の皆さんはもけもけを見て「かわいい~」と大合唱。

 明日香も例外ではなく「もけもけちゃん……!」と言っている。雪乃はあら、可愛いわねといった感じだ。

 

「確かにかわいいけど……なにこのみんなの反応……」

「知らん。だが明日香さんがあれだけ可愛いと言うならそれほど可愛いんだ」

「確かに明日香があんなになるのは一度も見たことないなぁ」

 

 遊導と万丈目の二人は特にもけもけに見惚れるということは無く雑談していた。

 

 

 

「おれのターン、ドロー! なんでこんなのが特待生に……エスカを攻撃表示! 手札抹殺!おれは四枚捨てて四枚ドロー!」

「僕は二枚捨てて二枚ドローするよ。罠カード《同姓同名同盟》を発動してもけもけをデッキから2体特殊召喚するよ」

 

《同姓同名同盟》

通常罠

自分フィールド上に表側表示で存在するレベル2以下の通常モンスター1体を選択して発動する。

自分のデッキから選択したカードと同名のカードを 可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 手札抹殺をした和泉のカードは全てモンスターカード。先のターンで回収したはいいが少し腐っていたようだ。

 その直後にもけもけが三体に増えた。その愛らしいフォルムに観客は魅了され、もけもけコールがずっと響いていた。

 

「くっ……セイクリッド・グレディを通常召喚! 効果で手札から《セイクリッド・アクベス》を特殊召喚する! アクベスの効果でセイクリッドモンスターは全て500ずつ攻撃力が上昇する!」

 

《セイクリッド・アクベス》

効果モンスター 星4/光属性/機械族/攻 800/守2000

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、 自分フィールド上の全ての「セイクリッド」と名のついた モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

 

 これにより攻撃力はスピカが2800,エスカが2600,グレディが2100,アクベスが1300となった。

 

「バトルだ!グレディ! セットモンスターに攻撃!」

 

 グレディが勢いよく飛び上がり、攻撃を叩き込む。それを受けたのは《キーメイス》だ。抗うことができず、破壊されてしまった。

 

「次!行け!スピ──」

「永続魔法《怒れるもけもけ》の効果で天使族が破壊されたことでもけもけは攻撃力3000に上昇するよ」

 

《怒れるもけもけ》

永続魔法

「もけもけ」が自分フィールド上に表側表示で存在している時、 自分フィールド上の天使族モンスターが破壊された場合、 このターンのエンドフェイズまで自分フィールド上の 「もけもけ」の攻撃力は3000になる。

 

 その声に合わせて、もけもけ三体は真っ赤になった。その圧力は小さいながらも攻撃力と共に《青眼の白龍》レベルとなった。

 

「なっ!? ……カードを1枚伏せて、ターンエンド! 次のターンで終わらせてやる!」

 

和泉 LP4000

フィールド エスカ、スピカ、グレディ、アクベス/伏せカード2枚

手札 1枚

 

「僕のターン、ドロー。もけもけは元の攻撃力に戻るよ。罠カード《同姓同名同盟条約》を発動。もけもけが三体いるから魔法、罠カード全部破壊してね」

 

《同姓同名同盟条約》

通常罠

自分フィールド上にトークン以外の同名モンスターが 表側表示で2体以上存在する場合に発動する事ができる。 その同名モンスターの数によって以下の効果を適用する。

●2体:相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を破壊する。

●3体:相手フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 和泉の場にセットされていたミラーフォースと攻撃の無敵化が破壊されて墓地へ行く。

 

「《デュナミス・ヴァルキリア》を通常召喚するよ。それでバトルフェイズ」

《デュナミス・ヴァルキリア》

通常モンスター 星4/光属性/天使族/攻1800/守1050

 

 デュナミス・ヴァルキリアはアクベスの攻撃力を越えてくる──なんて事を和泉は考えない。

 

「デュナミス・ヴァルキリアでグレディに攻撃するよ。行って!」

 

 デュナミス・ヴァルキリアが頷き、グレディに向かうがそれを返り討ちにされて余波を受ける。

 

茂木 LP 4000→3700

 

 初ダメージというにはあまりにもお粗末で仕組まれた自爆。和泉はそれを見て少しずつやる気を失うような感覚に陥った。

 

「天使族が破壊されたから怒れるもけもけの効果でもけもけたちは攻撃力が3000になるよ。エスカ、スピカ、グレディにもけもけ達で攻撃」

「うあぁぁぁぁ!!?」

 

和泉 LP4000→2500

 

 小さな小さな愛らしいモンスターが容易く鎧に身を包んだ騎士やロボットのようなモンスターを破壊する。

 

「僕はターンエンド」

 

茂木LP4000

フィールド もけもけ×3/怒れるもけもけ

手札 1枚

 

「負けない……アイツらよりは……大丈夫……まだやれる…………

おれの……ターン!ドロー! よし!《サイクロン》発動! その魔法カードを破壊!アクベスを生贄にして《セイクリッド・アンタレス》を召喚! 召喚時効果でアクベスを手札に加える!」

 

《セイクリッド・アンタレス》

効果モンスター 星6/光属性/機械族/攻2400/守 900

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、 自分の墓地の「セイクリッド」と名のついた モンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

 

 蠍座をモチーフにしたようなロボットが空から出現──そして着地。その攻撃力は2400だ。

 

「バトルだ! アンタレス!もけもけに攻撃!!」

「うっ!」

 

茂木LP3700→1600

 

 一矢報いた。このままならば和泉は物量で押せる──前ターンとはうってかわり、和泉を応援する生徒の声が大きくなってきていた。

 

「ターンエンド!!」

 

和泉LP2500

フィールド セイクリッド・アンタレス/伏せカードなし

手札 1枚(アクベス)

 

 先程までは辛そうだった和泉も笑顔になり、茂木のターンを待つ。

 だが、茂木は表情を崩さず、手札を見て少しだけ微笑んだ。

 

「僕のターン、ドロー。手札から《融合》を発動するよ」

 

 もけもけで融合──そこから考えられるのは《キングもけもけ》だが、一体は墓地にいるためソレは融合召喚できない。しかし──

 

「フィールドの通常モンスター……もけもけ二体を融合して《始祖竜ワイアーム》を融合召喚するよ……!」

「わ、ワイアーム!?」

 

《始祖竜ワイアーム》

融合・効果モンスター 星9/闇属性/ドラゴン族/攻2700/守2000 通常モンスター×2

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):「始祖竜ワイアーム」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、 通常モンスター以外のモンスターとの戦闘では破壊されず、 このカード以外のモンスターの効果を受けない。

 

 もけもけ二体が天に昇り、渦に吸い込まれたかと思うとそこから巨大な銀色の獰猛な竜が降臨した。これの素材がもけもけ二体とは誰も信じられないだろうが──真実である。

 

「攻撃力は2700だよ。ワイアームでアンタレスに攻撃」

「なにも、できない……!」

 

 竜の噛みつきにより鎧戦士は呆気なく砕け散り、その余波が和泉を襲った。

 

和泉 LP2500→2200

 

「ターンエンド」

 

茂木LP1600

フィールド 始祖竜ワイアーム/伏せカードなし

手札 1枚

 

 たった一枚で有利だった状況を覆され、和泉の手が震える。それでも、彼はデッキトップからカードを一枚ドローしようと手をかける。

 惨めだと、恥さらしだと、そんなのは彼にとっては些細なことでこの一ヶ月で何度も晒されてきた当たり前のこと。ならば、惨めでもと彼は最後まで足掻くと決めた。

 

「おれのターン!!ドロー!!! 魔法カード《天よりの宝札》でお互い手札が六枚になるようにドロー!」

 

 和泉はここにきて最強クラスのドローソースを引き当て、五枚ドローする。しかし、それは茂木も同じで五枚補充した。

 

「《セイクリッド・ハワー》を通常召喚! 魔法カード《財宝への隠し通路》を発動! ハワーを指定してこのターン、ハワーは直接攻撃ができる!」

 

《セイクリッド・ハワー》

効果モンスター 星2/光属性/魔法使い族/攻 900/守 100

このカードをリリースして発動できる。 自分の手札・墓地から「セイクリッド・ハワー」以外の 「セイクリッド」と名のついたモンスター1体を選んで表側守備表示で特殊召喚する。

 

《財宝への隠し通路》

通常魔法

表側表示で自分フィールド上に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択する。 このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。

 

 茂木の残りライフは1600──ハワーは900の攻撃力があるため、半分以下にまで追い詰められる。

 

「行け!ハワー!!」

「うぐ……!」

 

茂木LP1600→700

 

「メインフェイズ2でハワーを自分の効果で生贄にしてレオニスを守備表示で特殊召喚! カードを1枚伏せてターンエンド!!」

 

和泉 LP 2200

フィールド レオニス(守備)/伏せカード1枚

手札 3枚

 

 あと少し、あと少しで届くと和泉は茂木を見据える。だが、茂木は全く動じておらずターンの開始を宣言する。

 

「僕のターン、ドロー。手札から魔法カード《トライワイトゾーン》を発動してもけもけを三体墓地から特殊召喚するよ」

 

《トライワイトゾーン》

通常魔法

自分の墓地に存在するレベル2以下の通常モンスター3体を選択して発動する。 選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。

 

「……! でももし手札に怒れるもけもけがあってもレオニスは守備表示だから破壊はない! それにダメージも合計で900しか……!」

「うん、だから僕は永続魔法《一族の結束》を発動して、墓地に天使族しかいないからもけもけの攻撃力は1100になるよ」

「そんな、わ、ワイアームは……あっ!」

 

《一族の結束》

永続魔法

(1):自分の墓地の全てのモンスターの元々の種族が同じ場合、 自分フィールドのその種族のモンスターの攻撃力は800アップする。

 

 《一族の結束》は墓地のモンスターの種族が統一されている場合に効果が発動する。ワイアームはドラゴン族だがフィールドに存在するため恩恵は受けられないが一族の結束を邪魔することはない。

 

「最後に魔法カード《ナイト・ショット》を発動して伏せカードを破壊するよ」

 

《ナイト・ショット》

通常魔法

(1)1相手フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

セットされたそのカードを破壊する。このカードの発動に対して相手は対象のカードを発動できない。

 

 破壊されたのは《業炎のバリア─ファイヤー・フォース》──攻撃宣言時に攻撃表示モンスター全てを破壊してその元々の数値の半分をダメージとして受けたあと、同じ数値を相手に与える罠カード──破壊されなければ和泉の勝ちだったかもしれない。

 

「ワイアームでレオニスを攻撃、そしてもけもけで直接攻撃!」

 

 ワイアームがレオニスに突撃すると、それに乗っていたもけもけ達が和泉に襲いかかる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

和泉 LP2200→-1100

 

 もけもけ一体分はオーバーキルだったが、勝敗は決した。勝者は特待生クラスの茂木もけ夫、それを観戦していた生徒達は拍手をして讃える。

 

「クッソォ! 負けた……どうして勝てないんだ……!」

 

 和泉は床を叩き、そう吐露する。その眼には涙が滲み出ていた。

 それに近づいてきたのは対戦相手だった茂木、ニコニコして手を差し伸べた。

 

「あと少しで負けちゃうところだったよ。それに君は久し振りに途中でやる気を失くさない人とデュエルできて楽しかったよ」

「…………次は、絶対に勝つからな! 和泉清二郎の名前を覚えておけ!」

「うん、またやろうねー」

 

 差し伸べられた手を素直に握り、和泉は立ち上がった。彼を馬鹿にする者は誰も、いなかった。

 

 

 

 

 個室でデュエルを見ていた相河はそれを見てただただ驚愕していた。茂木が勝ったことではない。和泉があそこまで足掻き、追い詰め、そして負けても闘志を失わなかったことに対してだ。

 

「……無条件では、ないのですか…………」

 

 『魂狩り』と囁かれている茂木、最近彼と実技で対戦した相手はもけもけに魅了されて次第に戦意喪失……それは一時的なものではなく長期的なもので退学や転校をしていく生徒達を引き留められない程であった。

 そしてGWカップ、その選考に茂木が残ってしまった。下手をしたらトップに位置する万丈目達を退学に追い込む可能性があった為『最も潰れてもいい生徒』である和泉を茂木と当てさせたのだが……その結果がこれだ。

 

「茂木もけ夫、貴方は一体何者なのですか。和泉清二郎、貴方は何故戦意喪失しなかったのですか……」

 

 彼女以外存在しないこの個室でその問いに答えられる者など存在するはずもなかった。手元にある『茂木もけ夫の処分について』という書類の出番はまだ、無いようだ。

 




デュナミス・ヴァルキリアを最初はシャインエンジェルにしてたけど初心者な私はコンマイ語に混乱したので通常モンスターのデュナミスにしました(白目)

日間ランキング18位入りしていました。ありがとうございます。拙い文章ですがこれからもよろしくお願いいたします。


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13話:竜殺し─初陣─機械天使

9000文字近くありますが3000文字は効果テキストです。俺は悪くねぇ!アンケートだ!アンケートが悪い!!


 ──思い返してみれば、入学試験のあの日から今日まで彼とは話をして、連絡を取り合って、デッキの事を相談し合っても『決闘(デュエル)』をしようとは一度もならなかった。

 タイミングが無かったと言えばそうかもしれないけれど、実際のところ私は彼に勝てる気があまりしなかったから逃げていたのかもしれない。

 あれだけ楽しそうにデュエルを──ギャンブルカードを使って、コイントスもサイコロもワクワクしながら結果を待って当たり前に見えるギャンブル成功も心の底から嬉しがっていると分かるくらいに笑顔になる。

 ……もし、『カードの精霊』なんて子どもでも信じないようなモノが存在するのなら、きっと彼の笑顔が見たいからいい結果を出そうとして結果を操っているかもしれない。それほど、彼の笑顔は見ていて心地がいい。

 

「私と一緒に戦って」

 

 試合直前の控室で少女──天上院明日香はデッキを優しく握り、そう呟く。戦う準備はできた。あとは決闘の舞台へ進み、開始の合図を待つのみ。

 

 

 

 ──記憶を辿っていくと、明日香とは入学試験の時に知り合って少し話した所から「縁」ができた。入学式で再開して、その後にデッキ構築の相談。そして準と一緒に明日香のデッキ作成を出来る限りの考えを出して協力した。

 でも、それとは一度も対戦したことはない。お互いにデッキの内容を全部知っているからしなかったのかもしれない。それか『デュエルする相手』として見えていなかったのかもしれない。

 機械天使デッキ─ちゃんと言うと機械天使とサイバー・ガールの混合─にしてからの明日香は実技を見ていると隙が無い圧倒的な実力者に見えた。その彼女に今、完成した魂の(ギャンブル)デッキではなく、進化を続ける最強の(バスター・ブレイダー)デッキで挑む。

 

「全力で行こう」

 

 試合直前の控室で少年──幸上遊導は最後の最後にデッキを調整する。彼にとっての『全力』の答えがそうさせた。デュエルディスクを装着する。融合デッキは不要、デッキをケースに入れて最後にダイスを象ったネックレスを触り、遊導は歩みを進めた。

 

 

 

 

『GWカップ出場権争奪デュエル第五試合!』

 

 アカデミア中等部放送委員の声で会場は一気に沸く。

 

『一年B組二番! 天上院明日香ぁぁ!!!』

 

 その声と共に明日香が先にデュエルフィールドへ向かう。歓声は大きく、半ば叫び声や怒号になっている生徒もいる。

 

『一年B組三番! 幸上遊導ぉぉ!!!』

 

 その声を聞いた遊導もデュエルフィールドへ向かう。一部からはブーイングに似たような声もあるが歓声自体は明日香に劣らないモノだ。

 

「デッキシャッフル!」

 

 審判を担当している竜の声に二人は頷き、お互いのデッキをシャッフルする。

 

 ──あら? デッキ枚数が多い……?

 

 遊導のデッキシャッフルしている最中、明日香はそんな違和感を抱いて念入りにデッキをシャッフルする。

 

「よろしく、明日香。勝ちに行くのもそうだけど、楽しいデュエルにしよう」

「ええ。もちろんよ。でも貴方はギャンブルデッキじゃなくて楽しめるの?」

「ああ、その心配はしなくていいよ」

「そう。なら……全力でやりましょう」

「うん。全力でやろう」

 

 お互いのデッキを渡す間にそう短い会話を交わして規定の位置に立つ。

 

「二人とも、準備はいいか?」

「「はい!」」

 

 竜の確認に二人はデッキをセットして返事をする。

 

「デュエル開始!!」

 

 そして、竜が開始を告げる合図を出した。

 

「「デュエル!!」」

 

 先攻は────明日香だ。

 

「私のターン、ドロー! 《サイバー・エッグ・エンジェル》を通常召喚! 召喚時効果でデッキからフィールド魔法《祝福の教会─リチューアル・チャーチ》を手札に加えて発動! ①の効果で手札の魔法カードを1枚捨てて《サイバー・エンジェル─那沙帝弥─》を手札に加えるわ」

 

《サイバー・エッグ・エンジェル》

効果モンスター 星2/光属性/天使族/攻 200/守 300

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。 デッキから「機械天使」魔法カードまたは 「祝福の教会-リチューアル・チャーチ」1枚を手札に加える。

 

《祝福の教会─リチューアル・チャーチ》

フィールド魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。 デッキから光属性の儀式モンスター1体または儀式魔法カード1枚を手札に加える。

(2):自分の墓地の魔法カードを任意の数だけデッキに戻し、 デッキに戻した数と同じレベルを持つ、自分の墓地の天使族・光属性モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターを特殊召喚する。

 割れた卵に翼が生えたマスコットのようなモンスターが何かしらの音を発するとデュエルフィールドはその風景を一変させて美しい教会へと変えた。

 

「エッグ・エンジェルを生贄にして《サイバー・チュチュボン》を特殊召喚! そして手札から儀式魔法《機械天使の儀式》を使ってチュチュボンを生贄に捧げて《サイバー・エンジェル─那沙帝弥─》を儀式召喚!!」

 

《サイバー・チュチュボン》

効果モンスター 星5/地属性/戦士族/攻1800/守1600

(1):このカードは自分の手札・フィールドから 戦士族または天使族モンスター1体をリリースして手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが儀式召喚のためにリリースされた場合、 自分の墓地の儀式魔法カード1枚を対象として発動できる。 そのカードを手札に加える。

 

《機械天使の儀式》

儀式魔法

「サイバー・エンジェル」儀式モンスターの降臨に必要。

(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、 自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、 手札から「サイバー・エンジェル」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

(2):自分フィールドの光属性モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、 代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

《サイバー・エンジェル─那沙帝弥─》

儀式・効果モンスター 星5/光属性/天使族/攻1000/守1000

「機械天使の儀式」により降臨。

(1):1ターンに1度、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターの攻撃力の半分だけ自分のLPを回復する。

(2):自分の儀式モンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。 その攻撃を無効にする。

(3):このカードが墓地に存在する場合、 自分の墓地からこのカード以外の「サイバー・エンジェル」モンスター1体を除外し、 相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、対象のモンスターのコントロールを得る。

 

 可憐な女性型モンスターが光の粒子となり、ケンタウロスをモチーフにしたような機械天使が出現した。

 儀式召喚に対して感嘆の声が観客席から響く。儀式召喚とはそれほど珍しく、使いこなすのが中等部の彼らとしては難しいからだ。

 

「チュチュボンの効果で墓地の《機械天使の絶対儀式》を手札に加えるわ」

「リチューアル・チャーチの時に捨てたやつかな」

「ええ、そうよ。那沙帝弥の効果で私は1ターンに1度、表側表示モンスターの攻撃力の半分の値ライフを回復するわ。私は那沙帝弥の攻撃力の半分500の回復して、最後にカードを一枚伏せてターンエンドよ」

 

明日香 LP4500

フィールド 那沙帝弥/伏せカード一枚

フィールド魔法 リチューアル・チャーチ

手札二枚(うち一枚は機械天使の絶対儀式)

 

「俺のターン、ドロー! 那沙帝弥か……最初から厄介なモンスターを……俺は《ゴブリンドバーグ》を通常召喚、効果で手札から《熟練の白魔導師》を守備表示で特殊召喚! ゴブリンドバーグは自身の効果で守備表示になる。

更に手札の《トラブル・ダイバー》の効果で自身を特殊召喚!」

 

《ゴブリンドバーグ》

効果モンスター 星4/地属性/戦士族/攻1400/守 0

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。 手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。この効果を発動した場合、このカードは守備表示になる。

 

《熟練の白魔導師》

効果モンスター 星4/光属性/魔法使い族/攻1700/守1900

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、 自分または相手が魔法カードを発動する度に、 このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。 また、魔力カウンターが3つ乗っているこのカードをリリースして発動できる。 自分の手札・デッキ・墓地から「バスター・ブレイダー」1体を選んで特殊召喚する。

 

《トラブル・ダイバー》

効果モンスター 星4/闇属性/戦士族/攻1000/守1000

相手フィールド上にモンスターが存在し、 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが レベル4モンスターのみの場合、 このカードは手札から特殊召喚できる。 この方法による「トラブル・ダイバー」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

 

 遊導も負けじと一気に三体ものモンスターを召喚する。

 

「速攻魔法《手札断札》を発動! お互いに手札を二枚捨てて二枚ドロー! 熟練の白魔導師の効果で魔力カウンターを1つ乗せるよ。

続いて《強欲な壺》で俺は二枚ドロー、魔力カウンター追加!

バトルフェイズ!トラブル・ダイバーで那沙帝弥に攻撃ぃ!」

 

 遊導の攻撃宣言に明日香は驚き、すぐ呆れたような顔をして効果発動の宣言をする。

 

「那沙帝弥の効果! 儀式モンスターが攻撃対象になったとき、その攻撃を無効にするわ!この効果はターン制限無しよ!」

「だよね。カードを三枚伏せて、ターンエンド」

 

遊導 LP4000

フィールド ゴブリンドバーグ(守備表示)、トラブル・ダイバー、熟練の白魔導師(守備表示、カウンター2)/伏せカード3枚

手札0枚

 

 ここで観客席から「おおー!」という声が所々から聞こえてくる。

 

「幸上くん、いまのはふざけたの?」

「違うよ。明日香が効果ド忘れして攻撃通らないかなって思ったのと効果の確認をしただけ」

 

 飄々と、にこやかに返答する遊導を怪しく思いながらも明日香はため息を一つつく。

 

「……そういうことにしておくわ。私のターン、ドロー。手札から《強欲な壺》を発動して二枚ドロー! 手札から《機械天使の儀式》を発動して《サイバー・エンジェル─韋駄天─》を墓地へ、そして《サイバー・エンジェル─弁天─》を特殊召喚!」

 

《サイバー・エンジェル─弁天─》

儀式・効果モンスター 星6/光属性/天使族/攻1800/守1500

「機械天使の儀式」により降臨。

(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。 そのモンスターの元々の守備力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。 デッキから天使族・光属性モンスター1体を手札に加える。

 

 今度もまた女性型モンスターが出現。仮面を着け、鉄扇のような武器を携えている。

 

「弁天も来たか……魔力カウンターを追加。三つ溜まったからもう追加はないよ」

「そして……魔法カード《壺の中の魔術書》を発動! お互いに三枚ドロー!」

「そういえば入れてたね。ありがたいよ」

 

《壺の中の魔術書》

通常魔法

お互いのプレイヤーはデッキから3枚ドローする

 

 お互いに手札が一気に補充されてお互いにできることが増えた。

 

「手札から速攻魔法《荘厳なる機械天使》を発動! 手札の弁天を捨てて、フィールドの弁天を選択! 捨てたモンスターのレベル×200ポイント……つまり1200ポイント攻撃力と守備力を上昇!」

 

《荘厳なる機械天使》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・フィールドの「サイバー・エンジェル」儀式モンスター1体をリリースし、 自分フィールドの天使族・光属性モンスター1体を対象として発動できる。 対象のモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで、 リリースしたモンスターのレベル×200アップする。

このターン、対象のモンスターが、EXデッキから特殊召喚された相手モンスターと戦闘を行う場合、 バトルフェイズの間だけその相手モンスターの効果は無効化される。

 

 これで弁天の攻撃力は3000にまで上昇し、遊導の全てのモンスターを倒せるようになった。

 

「バトル! 弁天で熟練の白魔導師を──」

「罠オープン!《威嚇する咆哮》! 攻撃宣言できないよ。さらに二枚目のリバースカードオープン! 永続罠《デモンズ・チェーン》!那沙帝弥を指定して攻撃と効果を封じる!」

 

《デモンズ・チェーン》

永続罠

フィールドの効果モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、 その表側表示モンスターは攻撃できず、効果は無効化される。 そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

「徹底的に封じるつもりね……那沙帝弥を守備表示に、リチューアル・チャーチ②の効果で《強欲な壺》《壺の中の魔術書》《機械天使の儀式》《機械天使の絶対儀式》《荘厳なる機械天使》をデッキに戻して墓地から《サイバー・チュチュボン》を特殊召喚するわ。

最後にカードを一枚伏せてターンエンドよ」

 

明日香 LP4500

フィールド 那沙帝弥、弁天/伏せカード二枚

フィールド魔法 リチューアル・チャーチ

手札0枚

 

「俺のターン、ドロー! 手札から二体目のトラブル・ダイバーを守備表示で特殊召喚! 次に熟練の白魔導師を生贄にしてデッキから《バスター・ブレイダー》を特殊召喚する! 来い!このデッキのエースモンスター!」

 

《バスター・ブレイダー》

効果モンスター 星7/地属性/戦士族/攻2600/守2300

(1):このカードの攻撃力は、相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×500アップする。

 

 白魔導師が何やら呪文を唱えた瞬間、その姿が掻き消えて漆黒の鎧に身を包んだ戦士が出現する。

 

「一体目のトラブル・ダイバーを生贄にして《テーヴァ》を召喚! 効果で次のターン明日香は攻撃宣言ができないよ」

「また攻撃不可能……!?」

 

《テーヴァ》

効果モンスター 星5/光属性/戦士族/攻2000/守1500

(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動する。 次の相手ターン、相手は攻撃宣言できない。

 

 驚き、うんざりしたように明日香はそう呟く。

 

「最後に手札から装備魔法《最強の盾》をバスター・ブレイダーに装備! これでバスター・ブレイダーの攻撃力は4900に上昇する!!」

 

《最強の盾》

装備魔法

戦士族モンスターにのみ装備可能。

(1):装備モンスターの表示形式によって以下の効果を適用する。

●攻撃表示:装備モンスターの攻撃力は、その元々の守備力分アップする。

●守備表示:装備モンスターの守備力は、その元々の攻撃力分アップする。

 

 装備魔法一枚で、先程の明日香の弁天のソレを軽く凌駕する攻撃力をバスター・ブレイダーは得た。フィールドには三体のモンスター、ゴブリンドバーグでさえバニラになっている那沙帝弥を破壊するのは容易い。

 

「バトル! バスター・ブレイダーで弁天を攻撃!」

「トラップ発動!《攻撃の無敵化》! このバトルフェイズ中私が受ける戦闘ダメージは0よ!」

「でもモンスターは破壊される!!」

 

《攻撃の無敵化》 

通常罠 バトルフェイズ時にのみ、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。 選択したモンスターはこのバトルフェイズ中、 戦闘及びカードの効果では破壊されない。

●このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる。

 

バスター・ブレイダーか弁天を一刀両断し、その余波が明日香を襲うものの障壁が彼女を守り依然としてライフは変動しない。

 

「那沙帝弥は破壊すると面倒だからまだ放置……かな。カードを一枚伏せてターンエンド」

 

遊導 LP4000

フィールド バスター・ブレイダー、ゴブリンドバーグ、テーヴァ、トラブル・ダイバー(守備表示)/デモンズ・チェーン(那沙帝弥)伏せカード一枚

手札0枚

 

「私のターン……ドロー! そうね……攻撃ができないなら……全て破壊すればいいわ」

「……なんか恐ろしいことを……」

「魔法カード《ブラックホール》を発動! フィールド上の全てのモンスターを破壊するわ!」

「うわっ!? えーと那沙帝弥が破壊されたからデモンズ・チェーンも墓地へ……」

「ターンエンドよ」

 

明日香 LP4500

フィールド モンスターなし/伏せカード1枚

フィールド魔法 リチューアル・チャーチ

手札0枚

 

 遊導としては彼処の場面ではブラックホールが一番嫌なカードだった。まだサンダー・ボルトの方が嬉しいと思えるほどだ。

 

「俺のターン、ドロー! あー……うん、仕方ないな。お互いにコレを待ってたんだし」

「引いたのね、あの魔法カードを」

「うん。魔法カード《天よりの宝札》を発動してお互いに手札が六枚になるまでドロー……二人とも六枚だね」

 

 双方、手札消費が激しいことを知っていてあえてこれまでターンの最後をほぼ手札0に努めてきた。それはどっちが天よりの宝札を発動しても、その恩恵を十分に受けるためだ。

 

「《手札抹殺》でお互いに手札を全て墓地に送ってその分ドロー!」

「いいの? 私の方もそれを十分に受けられるけれど」

「必要経費ってことで諦めるしかないねぇ……カードを四枚伏せてターンエンド」

 

遊導 LP4000

フィールド モンスターなし/伏せカード五枚

手札一枚

 

 あまり積極的ではない遊導の行動に明日香は更に怪しむが、それについては自身の墓地に眠る那沙帝弥の効果を恐れての事だろうと結論付けた。

 

「私のターン、ドロー! 守りを堅めたようだけど……私は手札から《ハーピィの羽根箒》を発動!」

「なんでさっきからそんな雑に破壊するカードばっかり!?」

 

 遊導の伏せてあったカード全てが墓地へ行く。ミラーフォース、攻撃の無敵化、くず鉄のかかし、奇跡の復活、そして破壊剣一閃が破壊された。

 口ではいつも通りの飄々としたものだがその顔は辛そうだ。

 

「これで貴方のフィールドはがら空きね! 手札から《機械天使の儀式》を発動! 手札から韋駄天とサイバー・エッグ・エンジェルを捨てて《サイバー・エンジェル─伊舎那─》を儀式召喚!!」

 

儀式・効果モンスター 星8/光属性/天使族/攻2500/守2600

「機械天使の儀式」により降臨。

(1):このカードが儀式召喚に成功した場合に発動できる。 相手は自身のフィールドの魔法・罠カード1枚を墓地へ送らなければならない。

(2):このカードの攻撃で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。 このカードはもう1度だけ続けて相手モンスターに攻撃できる。

(3):1ターンに1度、自分フィールドの「サイバー・エンジェル」儀式モンスターを対象とする相手の効果が発動した時に発動できる。 自分の墓地の儀式モンスター1体を選んでデッキに戻し、 相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

 

 レベル8、最上級の儀式モンスターが降臨──だが、明日香の手はまだ止まらなかった。

 

「《ブレード・スケーター》を通常召喚! バトル!二体のモンスターで直接攻撃よ!」

「──! 通す……!」

 

《ブレード・スケーター》

通常モンスター 星4/地属性/戦士族/攻1400/守1500

 

 そして、今試合初にして最大級の3900ものダメージが遊導に与えられた。

遊導LP4000→100

 

「うぁぁぁぁ!?」

 

 一気に大ダメージを喰らったため悲鳴をあげるも遊導はまだ諦めた表情ではない。次のカードに賭ける意志が対面している明日香には伝わってきた。

 

「カードを一枚伏せてターンエンドよ」

 

明日香LP4500

フィールド 伊舎那、ブレード・スケーター/伏せカード二枚

フィールド魔法 リチューアル・チャーチ

手札 0枚

 

 相変わらず明日香の手札は残らないが、それでも磐石の布陣だ。

 

「俺の……ターン!!ドロー!!」

 

 遊導が視線をドローカードに送る。そして勢いよくデュエルディスクの魔法・罠ゾーンへ送った。

 

「魔法カード《天使の施し》! デッキから三枚ドローして二枚墓地へ!」

 

 墓地へ送られたのは何れも魔法カードだ。

 

「……カードを一枚伏せて、ターンエンド……!!」

 

 しかし、遊導はたった一枚のカードをセットするだけでそれ以上の動きを見せなかった。それどころか手札を見ながら項垂れて最期を待つようにも思える動きをした。

 

遊導 LP100

フィールド モンスターなし/伏せカード一枚

手札一枚

 

 ここまでくればもう勝負はほぼ決した。デュエルを見ている生徒達の大半は明日香コールをし、遊導への声は未だにイカサマを信じている生徒達の声が大きくなってきていた。

 ──だが、彼らは知らない。遊導の眼にはまだ光が灯っていることを。まだ諦めていないことを気づいているのはほんの一握りの生徒であろう。

 

「私のターン、ドロー! ……幸上くん、これで終わりよ。ブレード・スケーターで直接攻撃!!」

 

 メインを飛ばして明日香の直接攻撃宣言──彼女は二枚目の威嚇する咆哮を疑っていたがそれはなかったようだ。そして、遊導は魔法・罠カードゾーンの効果を発動させようとする素振りは見せなかった。

 

「これで────」

「手札から《速攻のかかし》を捨てて直接攻撃の無効とバトルフェイズを終了させる!!」

 

《速攻のかかし》

効果モンスター 星1/地属性/機械族/攻 0/守 0

(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時にこのカードを手札から捨てて発動できる。その攻撃を無効にし、その後バトルフェイズを終了する。

 

 機械仕掛けのかかしが遊導の前に現れ、ブレード・スケーターに粉々にされる。しかし、かかしの最期の悪足掻きで後ろで備える伊舎那を拘束した。

 

「!? まだ、防御カードを残していたのね……ターンエンドよ」

「そりゃね……いや、来てくれて助かったよ」

 

明日香 LP4500

フィールド ブレード・スケーター、伊舎那/伏せカード二枚

手札 一枚

 

 誰もがこのターンの明日香の勝利を確信していたが、それでも遊導は耐えて見せた。そして遊導はデッキトップに賭ける。

 

「俺の……ターン!ドロー!!」

 

 そして、引いたカードを見た遊導は待ちわびた相棒を見るかのような笑顔になった。

 

「俺の魂を見せる──いまここで!!」




連日日間ランクインしてるからか伸びがえげつない程になっていて嬉しい限りです。これからもよろしくお願いします。
あと今回のデュエルも多分間違いあるんでご指摘お願いしまーす!!ほんとガバガバで申し訳ない!!


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14話:運命─決着

短いです


 明日香は遊導の言葉に動揺していた。魂、そんな事を言っていたが遊導のバスター・ブレイダーデッキにたった一枚でこの状況を覆らせるようなカードはないはずだ。

 それは彼のデッキ作成を最後まで手伝った万丈目でさえそう結論付けるほどだ。

 

「……遊導はデッキに《大嵐》は入れていたが、それ以外に除去カードは入れていなかったはず……ギルフォード・ザ・レジェンドは手札一枚と伏せカード一枚で展開できるモンスターじゃない……だがあの表情は……」

「たとえ《死者蘇生》を引いたとしても遊導のボウヤが蘇生できる最高のモンスターはバスター・ブレイダー系列……それに、ボウヤは手札補充のカードを全て引き尽くしたわ」

 

 万丈目の呟きに少し離れていた雪乃が付け加える。次に対戦する二人だがそれでもこの展開は誰かと話さずにはいられない。

 

「そうだな……いや、もしかしたら遊導は────」

 

 その万丈目が行き着いた引いたであろうカードを聞いて雪乃はそんな馬鹿なと、だが可能性は十二分にあるという顔をした。その直後────

 

「俺の魂……それは──魔法カード《カップ・オブ・エース》発動!!」

 

 遊導の発動したカードを見て驚かなかった者はこの瞬間、誰もいなかった。

 ホール全体が驚愕の声で包まれる。最近すっかり鳴りを潜めていたからそのカードの事が、ギャンブルカードが入る可能性なんて誰も思わなかった。

 

「ドローカードは他にもあるはずなのにカップ・オブ・エース!? もしかして、そのデッキ枚数……!」

 

 驚いているのは対戦相手の明日香も例外ではない。だが、何かを思い出したように遊導のデッキを見る。

 

「俺は全力で行くって決めた……だから十枚くらい俺が信じる上でバスター・ブレイダーデッキの邪魔にならないギャンブルカードを入れたんだ。

……まぁ、レベル変換実験室とかサモン・ダイスとかは墓地に行ったり底で眠ってるけどね。

さて、大舞台でのコイントスだ! 効果は表が出れば俺が二枚ドロー、裏が出れば明日香が二枚ドロー! コイントス!!」

 

 デュエルディスクに付けられた専用装置から専用コインが弾かれる。イカサマではないと学校側から証明され、この試合が始まる前にも点検されたその装置はしっかりと1/2の結果を映し出す。

 

「表!!二枚ドロー! 更に!いま引いた《カップ・オブ・エース》を発動!!」

「二枚目!? それに今引いたって……!」

 

 無茶苦茶なドロー力だ。だが、明日香の目の前で実際にそれは起こっている。

 

「二回目の……コイントス!! ──表!二枚、ドロー!!」

 

 終始笑顔でコイントスをして結果に喜び、カードを引く。そのカードを見た遊導は更にもう一枚を明日香に見せて発動を制限する。

 

「そして……三枚目のカップ・オブ・エース発動!!」 

「三枚目!?」

 

 二枚までならまだ分かる、許容できる。しかし、三枚目となるともう積み込みを疑うレベルにまで昇華するがデッキシャッフルで明日香もシャッフルし、それをデュエルディスクに入れるまでしっかりと彼女は目視した。審判の竜も積み込みや仕込みカードをしないように見張っているが何も言わないということはしっかりとした彼自身の運命力がそうさせたのだろう。

 

「ラスト……コイントス!! 表だ!! 二枚ドロー!!!」

 

 当然かのようにその装置は表を示した。専用コインに仕掛けがしてあるんじゃないかとも思えるほど、だがそんな誰もが思い付きそうな細工の確認は既にアカデミアは行っている。

 一年生、二年生、三年生、教師問わず誰もが信じられないといった風にその結果──遊導の四枚に増えた手札を見ていた。

 

「1/8……そんなに表が出るの貴方ぐらいしかいないわよ……」

「『俺のカップ・オブ・エースに裏はない』って証明できたね」

「まさか実体験するとは思わなかったわ……」

 

 ただ、明日香はそれを見て凄いと思った。まるでカップ・オブ・エースが自らの意思で遊導を勝利に導くような──

 

「よし、手札から《死者蘇生》! 俺が蘇らせるのは《破壊剣の使い手─バスター・ブレイダー》だ! 特殊召喚!!」

 

《破壊剣の使い手─バスター・ブレイダー》

効果モンスター 星7/地属性/戦士族/攻2600/守2300

(1):このカードのカード名は、 フィールド・墓地に存在する限り「バスター・ブレイダー」として扱う。

(2):相手フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、 破壊されたそのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(3):1ターンに1度、このカードが装備している モンスターカード1枚を墓地へ送って発動できる。 墓地へ送ったそのモンスターカードと 同じ種族の相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 再び、竜殺しの名前を持つ鎧戦士が戦場に立ち上がった。

 

「それくらいは想定内よ!トラップ発動!《サンダー・ブレイク》!! 手札を一枚捨てて竜破壊の剣士バスター・ブレイダーを破壊!!」

 

《サンダー・ブレイク》

通常罠

(1):手札を1枚捨て、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 そのカードを破壊する。

 

 それを明日香は返す。手札を一枚捨てて──稲妻がいま蘇えったばかりの竜殺しを仕留めようと迫る。

 

「墓地から罠カード《破壊剣一閃》の効果を発動! このカードを除外して『バスター・ブレイダー』を対象にしたモンスター効果、魔法、罠の効果を無効にして破壊する!!」

「そんな、墓地から罠カード!?」

 

《破壊剣一閃》

通常罠

(1):自分フィールドに「バスター・ブレイダー」を融合素材とする 融合モンスターが存在する場合に発動できる。 相手フィールドのモンスターを全て除外する。

(2):自分フィールドの「バスター・ブレイダー」モンスターを対象とする 魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、 墓地のこのカードを除外して発動できる。 その効果を無効にし破壊する。

 

 防いだのは羽根箒で破壊されたうちの一枚──融合デッキが0枚の遊導の現状のデッキではこの利用方法こそが彼の思い描いていた一つの道。

 

「手札から装備魔法《巨大化》《アサルト・アーマー》《聖剣アロンダイト》を破壊剣の使い手─バスター・ブレイダーに装備! 効果で《アサルト・アーマー》を破壊して2回攻撃が可能になる!」

 

《巨大化》

装備魔法

(1):自分のLPが相手より少ない場合、 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる。

自分のLPが相手より多い場合、 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の半分になる。

 

《アサルト・アーマー》

装備魔法

自分フィールド上に存在するモンスターが戦士族モンスター1体のみの場合、 そのモンスターに装備する事ができる。 装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。 装備されているこのカードを墓地へ送る事で、このターン装備モンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

《聖剣アロンダイト》

装備魔法

戦士族モンスターにのみ装備可能。 1ターンに1度、装備モンスターの攻撃力を500ポイントダウンし、 相手フィールド上にセットされたカード1枚を選択して破壊できる。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、 自分フィールド上の「聖騎士」と名のついた 戦士族モンスター1体を選択してこのカードを装備できる。「聖剣アロンダイト」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。 また、「聖剣アロンダイト」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 これで5200の攻撃が二回──二回の攻撃が成功すれば遊導の勝ちだ。

 

「アロンダイトの効果! 攻撃力を500ポイント下げてセットカードを破壊!!」

 

 バスター・ブレイダーの攻撃力が4700に落ちる。

 斬撃により破壊されたカードは《ガード・ブロック》──アロンダイトが無ければ削りきれなかった。 

 

「バトル! 破壊剣の使い手─バスター・ブレイダーでブレード・スケーターを攻撃! 破壊剣一閃!!」

「くぅ!?」

 

明日香 LP4500→1200

 

 竜殺しは再び、二本の剣を構える。あと一度だけの攻撃を許された彼は静かに機械仕掛けの天使へと向かう。

 

「これで最後だ!! 伊舎那に攻撃!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

明日香 LP1200→-1000

 

 そして、決着────勝者はそのLPを100にまで削られながらも『魂』と呼んだリスキーなカードで勝利を呼び込んだ幸上 遊導だ。

 

「楽しかった。またデュエルしようね、明日香」

「ええ、次は負けないわよ」

 

 握手をして再戦の約束を交わす。教師、生徒問わず拍手をして二人のデュエルを称賛した。

 

「ところで、ギャンブルカードを使ってもよかったの?」

「学校側からはギャンブルカードをサポート目的での使用はOKって言われてる。

他にはギャンブル統一デッキの使用をある程度仲のいい人以外とのデュエルで制限するっていうのと、公式戦でギャンブル主体デッキの使用は禁止を言い渡されているんだ。十枚くらいならサポートカードとして問題ない……かなぁ」

「断言できないところを聞くと不安になるわね。でも、この歓声ならきっと誰も文句は言わないでしょうね」

 

 そんな会話をして遊導と明日香は後ろを向き、フィールドを歓声の中去っていく。明日香の言うとおり、ギャンブルカードを使って勝利を掴むきっかけを作った彼を批判する声は無かった。

 

 

 

 

 控室に荷物を取り、観戦席まで戻ろうとしたところで遊導は万丈目と出会した。

 

「とりあえず……おめでとうと言ってやる」

 

 それまで言ったことが無かったのか、万丈目は少し恥ずかしそうに遊導の勝利を祝福する。

 

「ありがとう。準、先に待ってるから」

 

 本当は、あまりこういうことを言わない方がいいのかもしれないと思いながらも遊導は万丈目の勝利を願った。

 

「フン、オレは必ず勝つ。しっかり見ていろ」

 

 いつものニヒルな笑みを浮かべながらそう返した万丈目は控室へ、遊導は観戦席へと向かっていく。

 

 

 幸上遊導、GWカップ出場決定──そして、一年生の枠は残り一つ。

 アカデミア中等部で彼に勝利したのは唯一人、しかもそれは公式デュエルではないモノばかりであり学校側が持っているデータでは『無敗』の一年生で首席──万丈目準。

 また、彼女も実技では負けなし、しかもどこか余力を感じさせて底を見せない上で毎回勝利しているためその実力をしっかりと測ることはアカデミアでもできていない。中等部一年生四位──藤原雪乃。

 

 二人のデュエルが始まるまで、あと少し──

 

 

 




結局カップ・オブ・エース使うのかよとか期待はずれだとか思われるかもしれませんが俺にはこのくらいしか思いつきませんでした……ちなみに遊導の伏せカードはDNA改造手術でもうちょいなんか企もうと思っていましたが無理でした。

全く先の事を考えていない本作ですがこれからもお願いします。


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15話:VW─XYZ

タイトルがおもいつかなかったので雑に


 遊導が用を足して飲み物を買って観戦席に戻ったときには既に、万丈目と雪乃はデッキシャッフルをしているところだった。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

 そう聞いてきたのは先程まで遊導とデュエルをしていた明日香だった。

 

「藤原さん六割、準が四割……かなぁ」

「あら、意外ね。万丈目くんの方を贔屓すると思っていたわ」

「贔屓したいけど相性が悪いかな。もし先攻が準だったら藤原さんの手札によっては1ターンキルがあり得る上に底が見えない。……そこは準もそうだけど」

 

 遊導は万丈目とデュエルを毎日数戦しているが、彼が使う融合モンスターはXZ-キャタピラー・キャノンともう一体のみ。少なくともあと二体は所有しているがそれを彼が使っているところを遊導が見たことはない。

 雪乃に関してもそうだ。彼女ともデュエルを数回してデッキの見せ合いもしたが、彼女のデッキから考えられるコンボを遊導はまだ見ていない。

 

「あのカードが入っていて、手札に来れば準は確実に1ターンは耐えられるけど……どうなるか……」

 

 その直後、審判の竜がデュエル開始の宣言をした。

 

 

「「デュエル!!」」

 

 先攻は万丈目となり、雪乃がどことなく嬉しそうな顔をする。

 

「オレのターン、ドロー! 《天使の施し》を発動して三枚ドロー、二枚捨てる。モンスターをセット、フィールド魔法《ユニオン格納庫》を発動して《Y─ドラゴン・ヘッド》を手札に加える。カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 フィールドが夥しいほどのマシンに埋め尽くされたモノに変化する。そしてそこから出てきた一体が万丈目の手札に加わる。

 

万丈目 LP4000

フィールド セットモンスター/伏せカード一枚

フィールド魔法 ユニオン格納庫

手札四枚

 

 先攻としては無難な立ち上がり。しかし先程の明日香に比べたら大人しいため観客が少しざわつく。

 

「あら、私の手の内を知っているのに三枚もカードをフィールドに置いていいのかしら?」

「無駄話はいい、さっさとターンを始めろ」

 

 万丈目は短く返して雪乃を見据える。その眼はただ勝利を獲ることを目的とした眼だ。

 

「そう急かさないの。私のターン、ドロー。あら、ポーカーだったら面白い手札ね。手札から《トレード・イン》を発動して《鉄鋼装甲虫》を捨てて二枚ドローするわ。もう一度同じ手順をするわね」

 

《トレード・イン》

通常魔法

(1):手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。 自分はデッキから2枚ドローする。

 

 一気に墓地に二体のモンスター、そして手札に四枚のカードが新たに追加された。

 

「《儀式の供物》を通常召喚するわ。そして儀式魔法《エンド・オブ・ザ・ワールド》発動して供物を生贄に捧げ──現れなさい、全てを終焉に導く《終焉の王デミス》!」

 

 万丈目とは対照的に──先程と明日香と同じように雪乃は巨大な武器を携えた『王』という称号が相応しい儀式モンスターを召喚する。そして

 

「2000LPを払ってフィールドにある全てのカードを破壊するわ!」

「……チッ、やはり来たか」

 

 舌打ちをして万丈目の墓地に三枚のカードが送られた。フィールドは元の殺風景なモノに戻った。

 遊導の時にもやった雪乃の得意戦術、ここで直接攻撃をすれば雪乃が優位に立つ。

 

「まだ終わらないわよ? 遊導のボウヤも使った装備魔法《巨大化》をデミスに装備! これでデミスの攻撃力は4800になるわ」

 

 デミスがその巨大な体躯を更に大きくさせる。優位に立つなんてモノではない、完全に1ターンキルを決めるつもりだ。

 

「バトルよ、デミスでボウヤに──」

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外してその攻撃は無効だ!」

「破壊したときは予想外だったけれどそうなるわよね、一枚伏せてターンエンドよ。ボウヤに倒せるかしら?」

 

《ネクロ・ガードナー》

効果モンスター 星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300

(1):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。 このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 

雪乃 LP2000

フィールド デミス/巨大化(デミス)、伏せカード一枚

手札一枚

 

 遊導が恐れていた1ターンキルの手順を踏まれながらも、万丈目はそれをたった一枚のモンスターカードで凌ぎきった。伏せカードもデミスによる破壊を誘ったブラフでもあり、見事に雪乃は彼の作戦により攻撃を防がれた。

 

「オレのターン、ドロー。二枚目のフィールド魔法《ユニオン格納庫》を発動!」

 

 再度、フィールドが夥しいほどのマシンに埋め尽くされたモノに変化する。

 

「効果で《Z─メタル・キャタピラー》を手札に加える。永続魔法《前線基地》を発動! 最初のターンで手札に加えたドラゴン・ヘッドを特殊召喚! そしてユニオン格納庫の効果でメタル・キャタピラーをデッキから直接装備させる!」

 

 機械仕掛けの翼竜が出現したと同時に今度は戦車の下半部分が出現して翼竜に装着された。

 

「まだオレは通常召喚をしていない! 《X─ヘッド・キャノン》を通常召喚!」

 

 三体目の機械族モンスターが出現すると、万丈目は遊導がいる観戦席の方に一瞬だけ目をやった。

 

「アイツ用に使わないでおこうと思ったが……三体を除外して、XYZ合体だ!!」

 

 その掛け声に観客が一斉に沸く。特に男子生徒の歓声が大きく、それと同時に三体の機械族モンスターが合体し、一体の巨大なロボットへと変化した。

 万丈目は右手を突き上げ、その名前を口にする。

 

「初陣だ! 融合合体召喚!!《XYZ-ドラゴン・キャノン》!!」

 

《XYZ-ドラゴン・キャノン》

融合・効果モンスター 星8/光属性/機械族/攻2800/守2600

「X-ヘッド・キャノン」+「Y-ドラゴン・ヘッド」+「Z-メタル・キャタピラー」

自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ、 エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)

このカードは墓地からの特殊召喚はできない。

(1):手札を1枚捨て、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 その相手のカードを破壊する。

 

 先程の万丈目のターンとはうって変わり、一気に会場は熱気に包まれた。ロボット好きにはたまらないその合体で男たちの野太い声援が支配した。

 なお女性陣で歓声をあげる者はいるものの、大半はその男子の反応や「乗っただけ」合体に苦笑いをしている。

 対戦相手の雪乃は感心しているように見ている。

 

「おおおぉ!!アレが実物のXYZ!! 海馬社長もやってたけどやっぱカックイー!」

「……やっぱり、乗っただけに見えるわね……」

 

 観戦席の遊導と明日香がそんな反応をしていると万丈目は「さらに!」とまだ続けるような宣言をした。

 

「ドラゴン・キャノンの効果でオレは手札を一枚捨てて相手フィールドのカードを一枚破壊できる! 対象は当然デミスだ!」

 

 そしているだけで威圧感を放つ、恐ろしき王は合体ロボの一斉砲撃によりまた1ターンで消滅した。

 

「デミスは毎回1ターンで破壊されちゃうわね、残念ね」

 こうして雪乃のフィールドには伏せカードがたった一枚のみ。そして、万丈目の手札は一枚。

 

「そしてオレはもう一枚手札を捨てて効果発動! その伏せカードを破壊する!」

「させないわ。罠カード《威嚇する咆哮》発動よ。ふふ、ザンネンだったわね?」

 

 流石にそれを許すほど、雪乃は何の対策もしていないわけでは無かった。万丈目は悔しそうに雪乃の方を睨み、ため息をついた。

 

「ターンエンドだ」

 

万丈目LP4000

フィールド XYZ-ドラゴン・キャノン/前線基地、伏せカードなし

フィールド魔法 ユニオン格納庫

手札0枚

 

 あと一歩のところで掴める勝利が離れていったのを自覚した万丈目は歯噛みする。このターンでXYZをお披露目、そして倒さなければ手札が枯渇する寸前だった自分が次のターンで敗北は無いとしても圧倒的に不利な立場に立たされると分かっていたからだ。

 また次のターンデミスが来るかもしれない、サクリファイスが来るのかもしれない──そう儀式モンスターの心配をしていた万丈目の意表を突くように雪乃は動き始める。

 

「私のターン、ドロー。墓地の《鉄鋼装甲虫》を二体除外して《デビルドーザー》を特殊召喚するわ!」

 

《デビルドーザー》

効果モンスター 星8/地属性/昆虫族/攻2800/守2600

このカードは通常召喚できない。 自分の墓地の昆虫族モンスター2体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、 相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 

 出現した最上級モンスターに万丈目は一瞬だけ怯みそうになるが、その攻撃力は2800──XYZドラゴン・キャノンと同じ値だ。相討ち狙いか? と万丈目は眉を上げる。

 

「あら、これで終わりじゃないわよ? デビルドーザーを生贄に捧げて《偉大(グレート)魔獣ガーゼット》を召喚よ!」

 

偉大(グレート)魔獣ガーゼット》

効果モンスター 星6/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げた モンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。

 

 モンスターを一体だけ生贄──つまりレベル5か6の上級モンスターである魔獣が出現した。その攻撃力はゼロだ。

 

「……最上級モンスターを生贄にして出したモンスターが攻撃力ゼロだと?」

「勿論、効果があるわよ。ガーゼットは生贄にしたモンスターの攻撃力を二倍した数値が攻撃力になるわ!」

「なっ……つまり、5600だと……!?」

 

 万丈目が驚き、目を剥く。遊導は装備魔法により5000付近を二回出したが雪乃は下準備はあれどたった一体の効果だけで今回の出場権デュエル最高峰の攻撃力を弾き出した。

 

「ガーゼットでドラゴン・キャノンに攻撃よ!」

「チィ……!」

 

万丈目LP4000→2200

 

 デミスを1ターンで破壊された意趣返しのように、今度は雪乃がドラゴン・キャノンを1ターンで片付けた。

 

「カードを一枚伏せてターンエンドよ。さぁ、ボウヤは

コレを乗りきることができるかしら?」

 

雪乃LP2000

フィールド 偉大魔獣ガーゼット/伏せカードなし

手札一枚

 

「……フン、オレのターン、ドロー!」

 

 危惧した通り、万丈目は圧倒的なまでに不利な立場に立たされてしまった。これを手札たった一枚で挽回することはほぼ不可能だろう。だが、ドローカードを見た万丈目の闘志はまだ燃え尽きていない。

 

「手札から……《壺の中の魔術書》を発動! お互いにカードを三枚ドローする! 更に《強欲な壺》だ!」

 

 ここで一発逆転の可能性を秘めた手札補充カードを引き当てた。勢いよく万丈目はカードをドローし、四枚に増えた手札を見て口角を上げる。

 

「オレは手札から《W-ウイング・カタパルト》を前線基地の効果で特殊召喚! 更に《V-タイガー・ジェット》を通常召喚だ! この二体を除外してVW合体!」

 

《W-ウイング・カタパルト》

ユニオン・効果モンスター 星4/光属性/機械族/攻1300/守1500

(1):1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分フィールドの「V-タイガー・ジェット」1体を対象とし、 このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。 装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。

●装備されているこのカードを特殊召喚する。

(2):装備モンスターの攻撃力・守備力は400アップする。

 

《V-タイガー・ジェット》

通常モンスター 星4/光属性/機械族/攻1600/守1800

 

 

 お得意の融合なしの融合合体召喚の掛け声を再度、万丈目はかける。

 

「融合合体召喚!!《VW-タイガー・カタパルト》!」

 

《VW-タイガー・カタパルト》

融合・効果モンスター 星6/光属性/機械族/攻2000/守2100

「V-タイガー・ジェット」+「W-ウィング・カタパルト」

自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ、 エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)

(1):手札を1枚捨て、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。 その相手モンスターの表示形式を変更する。 この時、リバースモンスターの効果は発動しない。

 

 XYZよりは小さく、更に攻撃力も2000と目の前のガーゼットに比べれば貧弱──だが、万丈目はカードを一枚、墓地に捨てた。

 

「タイガー・カタパルトの効果! 手札を捨てることでガーゼットの表示形式を変更させる!」

「なんですって……!?」

 

 偉大魔獣ガーゼットは生贄したモンスターの攻撃力の倍の攻撃力を得る。だが、守備力は変化がなく──ゼロだ。

 

「最後の一枚だ! 手札から装備魔法《エアークラック・ストーム》をタイガー・カタパルトに装備! バトルだ!魔獣を倒せ!!」

 

《エアークラック・ストーム》

装備魔法

機械族モンスターにのみ装備可能。

(1):装備モンスターの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。 このバトルフェイズ中、装備モンスターはもう1度だけ攻撃できる。 この効果を発動するターン、装備モンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。

 

 防御体勢に入ったガーゼットをタイガー・カタパルトが蜂の巣にして撃破する。

 

「エアークラック・ストームの効果発動だ! モンスターを破壊したターン、もう一度攻撃ができる! 直接攻撃だ!」

「アサルト・アーマーと同じ二回攻撃……!?」

 

 万丈目が拳を突き出し、雪乃への直接攻撃を宣言する。

 雪乃は手札からカードを────取る素振りは見せず、その敗北を受け入れるかのようにため息を一つついてその攻撃を受けた。

 

雪乃 LP2000→0

 

 遊導と明日香のデュエルのおよそ半分、だが目まぐるしく変わる高い攻撃力を持つモンスターの出し合いを制したのはユニオン使いの万丈目準だった。

 万丈目は勝利ポーズとして拳を遊導がいる観客席に向けて突き出した。

 

「……負けたわ。1ターンキルを重点的に狙うデッキにしたから手札が無くなったのが敗因かしら……」

「デミスは分かりやすいからな。結局最後はライフコストのせいで負けたようなものだ」

「そうね……勉強になったわ」

 

 観客席に戻る途中、デュエルしていた二人はそう反省点を振り返る。

 

「……でも、今回は心で負けたわね」

「心だと?」

「ええ、ボウヤからは遊導のボウヤと一緒にGWカップに参加したいって思いがスゴい伝わってきたわ。絶対に負けられないって」

「……フン、オレはただ勝利するのが当然なだけだ。そんな事をデュエルの途中に思っていない」

「あらあら、素直じゃないのね」

 観客席についた二人を遊導と明日香が出迎える。

 

「準、おめでとう。藤原さんは惜しかったね」

 

 勝者と敗者、同級生が同時に入ってきて遊導は言葉選びに迷うがそれでも万丈目を祝福して雪乃にも声をかけた。

 

「そうね。ボウヤの熱い熱い想いに負けちゃったわ」

「ええい、さっきからボウヤボウヤと……オレは万丈目"さん"だ! それになんだ熱い想いとは!オレは常に冷静だ!」

「結局うちのクラスの男子がGWカップ出場ね。おめでとう」

「あ、明日香さん! ありがとう……!」

 

 コロコロと表情を変える万丈目を面白がっていじりながら、四人は三年生の試合を待つ。

 

 ──そして、改めてアカデミア中等部の頂点に立つ二人の強さを知ることになった。




明日香VS遊導で燃え尽きたなとか思わないでください。ドローソース引きすぎとか言わないでください。
こうでもしないと……書けないんです……
次回、ようやくあの人が出る……かも


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16話:真紅眼─伝説─サイバー

今回はデュエル描写豪華三本立て!ミスもいつもの三倍!

問題の八話ラストを修正し、それに伴って他の話も修正しました。


「《鎧蜥蜴》じゃあと50足らない!? なら生贄にして《モリンフェン》様を召喚だぁ!! 行け!直接攻撃! 伝説のモリンフェン・バースト!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!?」

「終わりのないモリンフェン様連続生成召喚……それが『アンリミテッド・モリンフェン・ワークス・レクイエム』……」

 

 中等部三年生の第一戦目はパッと見接戦だったものの結局下馬評で三位と呼ばれていた人物がモリンフェンで直接攻撃を決めて勝利した。

 

「モリンフェン使ってる人初めて見たかも……」

「途切れないモリンフェン……ある意味悪夢だな」

 

 遊導の印象は物好きな人、といったモノ。そして勝者──佐芽戯(さがぎ) 十也(じゅうや)は本気を出しているようには見えなかった。

 

「次の試合は……吹雪さんか!」

「凄い嬉しそうね?」

「そりゃもちろん!」

「この短い間でよくそれだけ慕えるような仲になったわね」

 

 遊導が笑顔になり、今か今かと吹雪を待ちわびている。数分経つと黄色い歓声と共に吹雪が入場してきた。

 

「吹雪様ぁぁぁ!!!」

「こっちを見て下さぁぁぁぁい!!!」

「きゃぁぁぁあああ! 吹雪様が此方を!!!」

 

 吹雪はその爆発的な歓声に動じたりはせず逆に観客たちの方を向き、茶目っ気に微笑み悪戯っぽく投げキッスをした。大切なデュエルを前にして凄まじいファンサービス精神である。

 

「応援ありがとう! 君達の熱い思い受け取ったよ!」

 

 ファンである女子生徒たちの興奮は最高潮を軽々と越え、一部は余りの興奮でそのまま失神してしまった。

 しかし声援を送っているのは何も女子生徒(と女性教師)だけではない。遊導のように彼を慕い、信頼している友人や後輩達も熱い声援を送っている。

 

「あ! アスリーン! 遊導くーん!」

 

 そんな吹雪は愛しの妹と数週間前に知り合った後輩の名前を呼びながら手を振る。

 それに明日香は苦笑いをしながら手を振り返し、遊導は嬉しそうに、まるで犬かのようにブンブンと手を振って「吹雪さーん!!」とそれに応じている。

 そうしてフィールドに着いた吹雪は対戦相手である生徒と握手をして何かを話した後、自身の立ち位置へと戻る。

 

「観客のみんな! 君達の瞳にはなにが見えるかな?」

 

 吹雪が真っ直ぐ指を差すのは上、つまり天井──その答えを誰か女子生徒がポツリと、しかし確かな声量で呟く。

 

「……天井?」

「ん~、もうすこし縮めてみると?」

「? それじゃあ……天?」

「ん~~~~~JOIN!!」

『『『 吹雪様ぁぁぁああああああああああ!!』』』

 

 天上院を二つにわけると天と上院。上院だからJOINで合わせて天JOIN。彼が好んで使う二つのうちの一つ、ちなみにもう一つは遊導への手紙に使った10JOINだ。

 彼はくるくると舞いながら拍手に応え、少し経つと対戦相手の方をしっかりと見据えていた。

 

「さぁ! 始めようか!」

「ハッ! いいぜ!」

 

 二人がデュエルディスクを構え、審判がデュエル開始の合図をする。

 

「「デュエル!!」」

 

 先攻は──吹雪の対戦相手である少年だ。

 

「オレのターン、ドロー! カードを四枚伏せて速攻魔法《非常食》! ライフを4000回復させるぜ! 更に《天よりの宝札》でお互いに手札が六枚になるようにドロー! 《手札抹殺》!」

 

《非常食》

速攻魔法

(1):このカード以外の自分フィールドの 魔法・罠カードを任意の数だけ墓地へ送って発動できる。 自分はこのカードを発動するために墓地へ送ったカードの数×1000LP回復する。

 

 流石三年生の上位、吹雪の《黒炎弾》を警戒してLPを大幅に増やして、先攻で使うにして最強のドローソースで手札を補充した。

 お互いの手札六枚が墓地へ直行する。吹雪の六枚には黒竜の雛、真紅眼の黒竜、黒炎弾、魔法石の採掘、伝説の黒石、真紅眼の幼竜といったもう後攻1キルをするのに十分すぎるカードが落ちてしまった。

 

「ヒャー! お前と亮はやっぱりドロー力もバケモンだな。モンスターをセット、カードを三枚伏せてターンエンドだ」

 

 意気揚々と少年が宣言する。LPは倍の8000でセットモンスターは《ダンディライオン》で伏せカードは《ミラーフォース》《魔法の筒》《攻撃の無敵化》だ。更に手札には《速攻のかかし》があり戦闘では敗けが見えない。そして墓地にはバーンダメージ用の《ダメージ・ダイエット》がある。

 そう簡単に突破できる布陣ではない──はずだ。

 そして、余裕の表情を崩さない吹雪にターンが回ってきた。

 

「僕のターン、ドロー。手札から《ハーピィの羽根箒》を発動して君の伏せカードを全て破壊。次に《真紅眼融合》を発動してデッキから《真紅眼の黒竜》と《マテリアルドラゴン》を墓地へ送って融合召喚! 《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》召喚!」

「おっと墓地の《ダメージ・ダイエット》を除外してこのターン、効果ダメージを半減するぜ!」

 

真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、 このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外ではモンスターを召喚・特殊召喚できない。

(1)::自分の手札・デッキ・フィールドから、 融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、「レッドアイズ」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターのカード名は「真紅眼の黒竜」として扱う。

 

《ダメージ・ダイエット》

通常罠

このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。 また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、そのターン自分が受ける効果ダメージは半分になる。

 

「メテオ・ブラック・ドラゴンの召喚時効果で《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》を墓地に送ってその攻撃力の半分のダメージを与えるよ」

「更に半分だから700! 痛くねぇぞ!」

 

 まだライフが九割以上残っているからか煽るように吼える。罠が全て破壊されたのは彼にとっては痛手だがまだなんとかなる。

 

「カードを一枚伏せて手札から《黒炎弾》を発動!」

「オイオイオイオイ! 真紅眼の黒竜はお前の墓地にしか──」

「真紅眼融合の効果でメテオ・ブラック・ドラゴンは《真紅眼の黒竜》として扱うんだ。元々の攻撃力だから3500ダメージを与えるよ」

「なん……だと!? だがダメージは半減だ!」

 

 更に1750のダメージが彼を襲う。本来ならば既に消し炭になるはずのLPはまだ5000以上残っている。

 

「二枚目の《黒炎弾》を発動!」

「なっ! どんだけ引いてんだよ!?」

 

 残りLPは3800、非常食回復分がなくなってしまった。

 

「速攻魔法《連続魔法》を発動! 手札を全て捨てて《黒炎弾》の効果になる!」

「クソッ伏せてたのはそのため……ってお前の手札魔法ばっかだなおい!?」

 

《連続魔法》

速攻魔法

自分の通常魔法発動時に発動する事ができる。 手札を全て墓地に捨てる。 このカードの効果は、その通常魔法の効果と同じになる。

 

 更にLPは減って残りは2050──あと一発だけ黒炎弾が耐えられる値。そう、耐えられる。

 

「伏せていた《天よりの宝札》でお互いに手札が六枚になるまでドローして、手札から《魔法石の採掘》を発動して手札を二枚捨てる。そして《黒炎弾》を回収して、発動!」

「うぉぉぉ!?」

 

 残りLPはギリギリ300──

 

「最後に……速攻魔法《連続魔法》! 手札を全て捨てて《黒炎弾》!!」

「だからお前のデッキとドロー運どうなってんだよぉぉぉぉぁぁぁ!!?」

 

 ──こうして、対策を練っていたにも関わらず有り得ないほどの魔法カードによって吹雪は後攻1ターンキルを終えた。

 そして大歓声、吹雪と少年が握手をし、肩を組んで退場するまで……いやしてからも少しの間「吹雪」コールは止むことがなかった。

 

「吹雪さんえげつない……俺はされたことないけどあそこまでできるのか……」

「そういえば兄さんの1ターンキル率は先攻だと一位で後攻では二位だったわね……それでもあの布陣を突破できるなんて……」

 

 遊導と明日香が先のデュエルを振り返るが、最早次元が違うとしか言いようがない。

 

「吹雪さんが後攻1ターンキル二位ってことは、一位は……」

「ええ……三年生首席の丸藤亮がそうよ」

 

 ────そして、大歓声が場内を再び支配した。

 

 遊導が所持している『丸藤亮』の情報はあまり多くない。三年生首席、『双璧』の片割れ、ジュニア大会優勝者、サイバー流正当後継者であり九歳で免許皆伝、後攻1ターンキル率一位とかその程度だ。ただ、知る機会があまりなかった頂点が目の前で今、そのデュエルを始める。

 

 丸藤亮は吹雪とはまた違った歓声を受け、それに対して特に反応はせずに真面目にフィールドに立つ姿もまた吹雪とは対照的だ。

 淡々とデッキシャッフルと挨拶を終え、デュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!」」

 

 先攻は──否、後攻が亮に渡ってしまった。

 

「あっ、くっ……俺のターン!ドロォー! よし、俺は魔法カード《フォトン・サンクチュアリ》を二枚発動! フォトン・トークンを四体召喚! 更に《トークン収穫祭》で全てのトークンを破壊して3200のライフを回復! 速攻魔法《ご隠居の猛毒薬》を二枚使って2400回復!! 自分フィールドにモンスターが存在しない場合このカードが特殊召喚できる! 《フォトン・スラッシャー》召喚! ターンエンド!!」

 

《フォトン・サンクチュアリ》

通常魔法

このカードを発動するターン、自分は光属性モンスターしか召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

(1):自分フィールドに「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。 このトークンは攻撃できない。

 

《トークン収穫祭》

通常魔法

フィールド上のトークンを全て破壊する。 破壊したトークンの数×800ライフポイントを回復する。

 

《ご隠居の猛毒薬》

速攻魔法

(1):以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分は1200LP回復する。

●相手に800ダメージを与える。

 

《フォトン・スラッシャー》

特殊召喚・効果モンスター 星4/光属性/戦士族/攻2100/守 0

このカードは通常召喚できない。 自分フィールドにモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。

(1):自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在する場合、 このカードは攻撃できない。

 

 彼は先の吹雪とデュエルした少年と同じく、ライフを大幅に増やす作戦に出た。手札を全て使ったもののこれでおよそ11500までのダメージならなんとか耐えられるとターンを終了する。彼にはそれしかできなかった。

 そして──────

 

「俺のターン、ドロー! 手札から《パワー・ボンド》を発動! 手札の《サイバー・ドラゴン》三体を墓地へ送り、融合デッキから《サイバー・エンド・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 

《パワー・ボンド》

通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから機械族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、 その融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。

このカードを発動したターンのエンドフェイズに自分は この効果でアップした数値分のダメージを受ける。

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》

融合・効果モンスター 星10/光属性/機械族/攻4000/守2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、 その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

 いきなり、レベル10の超大型融合モンスターが登場する。三つの首を持った機械仕掛けの龍が吼える。それだけでもう会場内は更にヒートアップした。

 

 

 

「いやいやいや! え? 手札にサイバー・ドラゴン三体と融合代わりのカード? えぇ……」

「それが丸藤亮だ。実力もそうだが何よりドロー力がイカれている」

 

 遊導の感想に何度かデュエルを見たことがある万丈目が冷静に答える。信じがたい光景が目の前で繰り広げられているが、事実だ。

 

 

 

「パワー・ボンドの効果でサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は8000だ!」

「それでも5900しか出ない! それにこのターンで俺を倒さなきゃお前は……」

 

 対戦相手の少年が自信満々に言う。狙いは『自分』がサイバー・エンド・ドラゴンを倒すことではない。

 

「そうだ、エンドフェイズにパワー・ボンドの効果でサイバー・エンドの上昇した攻撃力──つまり4000ダメージを受けることになる」

 

 つまり、このターンで亮は少年を倒さなければ自滅してしまうということだ。これが少年の考えた一つの『狙い』なのだが──

 

「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンでフォトン・スラッシャーを攻撃!」

 

 お構い無しに亮は攻撃を宣言する。この時点で少年の手札とフィールドに発動できるようなカードは一枚もない。

 

「速攻魔法《リミッター解除》を発動! サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は二倍ダァ!」

「なっ!? 持っていたのか……てことはつまり、い、16000!?」

 

 後攻1ターンで出すには過ぎたその値に驚愕し、少年は後ずさる。

 

「行け! サイバー・エンド・ドラゴン!! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!」

 

 亮の声と共に三つ首の機械龍が一斉に攻撃を放つ。それはフォトン・スラッシャーを軽々と飲み込み、そのプレイヤーを襲った。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 こうして、GWカップ出場権をかけたデュエルは終わった。今回の最大ダメージは勿論、最後のサイバー・エンド・ドラゴンの放った16000という値だ。

 

「すっご……! アレがこの学園の頂点!!」

 

 初めて見た『頂点』のデュエルに遊導は瞳を輝かしてその余韻に浸った。

 




天上院兄妹と未来のカイザーは自重してください。
やっぱりライフ回復なんて考えるだけ無駄ですね。ワンフーとサクリファイスロータスとエンシェントクリムゾンウェイプを見せないでください。


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