このボッチな少女に友達を! (紅魔族随一のボッチ)
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このぼっちの少女に友達を!

ゆんゆんが好きだー(挨拶)

軽い感じで書いたので、軽い感じで楽しんでください。


 

 

「もう……悪魔が友達でもいいかなぁ」

 

そう呟きながら目を腐らせた黒髪の少女は、黙々と魔方陣を地面に掘り進めていく。

彼女の名前はゆんゆん。アークウィザードという上級職に付き、さらにかわいく性格も温厚(時たまに人につかみかかるが)で慈悲深く努力家で料理もできる。と、コミュ障で友達がいないところを除けば、とても優秀な女の子である。

コミュ障で友達がいないところを除けば、だ。

そう彼女は友達がいない。いわゆるボッチである。

どのくらいボッチなのかと言えば、人間の友達など皆無。魔物には哀れまれ、植物には逃げられる。これ以上は涙なしには語れない。それくらいである。

しかし、彼女は諦めきれなかった。友達が欲しい。そう願った彼女は、とあることを思い付いた。

 

ーー友達ができないなら、召喚してしまえばいい。

 

病んでいる。

その発想を聞いて九分九厘同じ言葉を思い浮かべるだろう。

そんなヤバイ少女であろうと、能力高い魔法使いには代わりなく、ゆんゆんは本を片手に持ちながらついに魔方陣を完成させた。

広場一帯に広がる巨大な魔方陣。ゆんゆんの友達への渇望が現れているようだった。

ゆんゆんは腰に付けていた短剣を使い、魔方陣に血を数滴垂らした。

すると魔方陣はまばゆい光を帯び始め、次の瞬間噴水のような光が上空に噴き出した。

光が散る。

魔方陣の上に人影が見えた。

見慣れないだほっとした甚平色の服、右手は胸元に入れ左手には扇子を持っていた。そして何より特徴的だったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……小生を呼び出したのはお主か?」

 

特徴的な声に、呆然としていたゆんゆんは我に返る。

 

「はははははは、はい! そうです! 私が呼び出しました!」

「そう緊張するでない娘よ。小生を呼び出したということはお主はたぐいまれなる才を持った者。もっと堂々としておればよいのだ」

「す、すいません」

 

背中を丸めてしまったゆんゆんに、悪魔は呆れたのか視線を外した。

嫌われたと思ったゆんゆんは涙目になった。

悪魔はふうと息を吐き。

 

「申し遅れた。小生の名はアーケルドという。娘よ、お主の名は?」

「あうっ!? ……な、名乗らないと駄目ですか?」

「当たり前だろう。名を共有しなければ、契約を結ぶことはできん。お主が小生を呼び出したのは、小生と契約を結ぶためであろう?」

「ですよね……あうう」

 

名前を言うだけなのに渋るゆんゆんに、アーケルドは不思議そうに首を傾げた。

少しして覚悟を決めたゆんゆんは「行きます!」と目を紅く光らせた。

 

「わ、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、やがては紅魔族の長となるもの!」

 

照れているのか、どこかぎこちなさそうなポーズを取りながら名乗った。

これは紅魔族ならばしなければならない、いわば通過儀礼のようなものである。独特なセンスを持った紅魔族にとってしてみればとてもカッコいい自己表現なのだが、一般人には理解できず大体……

 

「お、おう」

 

こんな反応をする。

アーケルドの表情は伺えないが、困惑しているのはありありと見えた。

(絶対引かれた……穴があったら入りたい)

絶望の未来に飲み込まれたゆんゆんは、顔を赤くしながら、この風習を作った同族を呪った。

「……なるほど紅魔族か。たしか100年ほど前に小生を呼び出したのと紅魔族だったな。あのときの衝撃は相当なものであったが、やはり改めて聞くと理解できんセンスだな。さすがは産まれながらのネタ種族」

「うう……死にたい」

「いや死なれると困る。お主らは小生らにとってしてみれば、エネルギー源である悪感情を生み出す存在。いわば家畜なのだから」

「家畜はちょっと……せめて共存関係とか」

「奴隷か?」

「何でそうなるの!?」

「……まあ、呼び方など正直どうでもいい。娘よ、契約交渉に入ろうではないか」

 

面倒になったのか話を打ち切り、扇子でゆんゆんを指す。

 

「先程も言った通りお主ら人間は、小生にしてみれば食糧だ。そのため契約の対価は、小生の食事。いわば悪感情である。それを払えば、お主の願いを叶えてみせよう。……さぁ、何を願う。力か? 金か? それとも権力か?」

「友達になってください」

「は? 何だって?」

 

つい聞き返した。

しかし、ゆんゆんはさらに力強く。

 

「私と友達になってください! それが私のお願いです!」

「はああああああ!?」

 

今日一番の困惑した絶叫だった。

 

 

 

 

 

「バカなのか? バカなのかお主は!? それとも頭がおかしいのか……そうか紅魔族だったな」

「そ、それで納得されると色々複雑なんですけど!?」

 

何かを悟ったように冷静になったアーケルドに、ゆんゆんは悲痛に叫んだ。

そんな叫びは無視して、アーケルドは乱暴に扇子を開くと口元に被せた。鋭い瞳がゆんゆんを貫く。

 

「いいか! 悪魔の召喚とは本来は非常に危険なことだ! 言葉が通じない野獣のような輩もいれば、言葉巧みに相手を騙して魂を盗ろうと考えている悪魔もいる! 特に上位悪魔となればみな化け物じみた強さを誇り知能も高……高いかなぁ? まあいい。お主が呼び出したのが小生で助かったな! 小生は悪魔の中でも人間に友好的だと有名なのだ。もしこれが、頭が割れたとち狂った悪魔だったら、お主今ごろ地獄に連れていかれてご飯製造機にされているぞ! 分かってるのか!」

「すいません、すいません」

「ついでに言わせてもらうが、お主ら紅魔族はおかしいぞ! 使い魔っていう響きがカッコいいとか、悪魔に興味があった特に願いはないとかくだらん理由で、ポンポンポンポン呼び出しおって、今度は友達になれだと!? 本当にろくでもないな!」

「すいません! うちの一族が本当にすいません!」

 

相手の意見が正論過ぎて、ゆんゆんはただ頭を下げるしかできなかった。

いきりたって発散したおかげで多少スッキリしたのか、アーケルドは前のめりになっていた背筋を伸ばした。バッタのように頭を下げ続けるゆんゆんを手で制止する。

 

「いやもういい。小生も少々熱くなっていたようだ。交渉に戻ろう」

「え、でも」

 

ああも怒られた相手にもう一度同じことをお願いできるほど、ゆんゆんは図太くなかった。そもそもそんな図々しさがあれば友達などとっくにできている。

そんなゆんゆんの心情を察してか、アーケルドはにやり(口元が隠れて分かりにくいが)と笑みを浮かべる。

 

「何、ああは言ったが、契約の形になっていれば基本的に小生は文句ない。悪魔を召喚したのだから、もっとそれっぽいこと願えよとは思うが、ようはお主が悪感情を提供しさえすれば、小生はお主の願いを叶えよう」

「その悪感情ってどうあげればいいんでしょうか? 指でも切り落とせばでるんですか?」

「こわいわ! なぜ最初にそんな痛々しい発想にたどり着く!? やめろ! 短剣で指を切ろうとするな!?」

 

真顔で躊躇なく指を切り落とそうとしているゆんゆんを、アーケルドは必死に押さえた。

何とかやめさせることに成功したアーケルドの顔には、若干の疲労が見えた。

 

「たしかにそういった痛みが悪感情になることもある。だがな、そう言った悪感情は、小生の好みの味ではないのだ」

「悪感情って味が違うんですか?」

「例えば変な仮面を付けた大悪魔は羞恥の悪感情を好んでいたりする。他にも絶望の悪感情が好きなど様々だな。小生は、突飛な敵意の感情が大好物だ」

「突飛な敵意……って、よくわからないんですが?」

「簡単に言えば、お前何やってるんだよ!? とつい掴みかかるような感情だ」

「はぁ……」

 

生返事をするゆんゆん。今一ピンときていないようだ。

「ふむ。見せた方が早いか」

「っ!?」

 

そう呟いたアーケルドは、右手を懐から取り出して碧色のエネルギー体を出現させた。

何かの魔法だと直感したゆんゆんは、とっさに臨戦態勢に入る。

 

『ーーー。ーーー』

 

光に何かを語りかけている。詠唱かと勘繰った。

が、しかし、特に何も起こることなくアーケルドは光を収めた。何かしら現象が起こると予想していたゆんゆんは、肩透かしを受けたような表情を浮かべた。

ゆんゆんの間抜けた表情を見て、アーケルドはにやりと笑った。

 

「今使った術は小生の固有の力だ。その名は『吹聴』。噂を流す能力だ」

「吹聴……」

(上位悪魔を自称するわりには、地味な能力だなぁ)

「娘よ、失礼なことを考えているな」

「そ、そんなことないですよ!」

「背中が透けておるぞ。……まあいい。地味だのは言われ慣れているからな」

 

トーンが少し下がった。表情には出さないが傷ついているのかもしれない。

 

「今流した噂は『ゆんゆんが悪魔を呼び出して友達になった』というものだ」

「そ、そんな!」

「ナハハハ! お主はこれから、知り合いや親に悪魔を友達にしてしまう痛いやつだと認識されるのだ! さあ、怒れ! そして小生に敵意を向けてこい! それこそ小生にとって極上の悪感情と……どういうことだ? 喜びの感情しか感じないのだが……」

「友達……ついに私にも友達ができた……」

 

恍惚に顔を崩しながら上の空になっているゆんゆんを見て、アーケルドは思った。

 

(……ヤバイやつに召喚されたかもしれん)

 

 

 

 






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